2度目の人生はワンピースで (恋音)
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ドーン島編
第1話 狭間に落ちた元人間


実は記念すべき事でも無かった第1話投稿。

初めまして恋音(かのん)と言います。この作品は『いぎだい』系の言語その他諸々残念主人公が他人に振り回され振り回す作品です。
注意(絶対初見は分からないので頭の片隅行き)
*多くのキャラ崩壊あり
*主人公は言語不自由
*流石にオリキャラあり
長いです。無駄に長いです。
話数も文字数も、長いです。


 よぉし。オーケー落ち着こう、よしよしとりあえず落ち着いて現状確認だ。しかし何故だろう。

 

 ……とても泣きたくなってきた。

 

「おぎゃー!おぎゃー!」

 

 いや実際泣いてる。確かに泣いてる。赤ん坊の声で。間違い無い。

 ただし、喉が焼けそうな感覚があるので私の声だった。

 

 とりあえずクソジジイはぶっ飛ばす。

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 時を遡ること1時間前。

 

 

 

「ん?」

 

 私は真っ黒い空間にいた。

 

「え、なに、なにこれ」

 

 発した声は闇に消えていくだけで誰も反応しない。

 

「だ、誰かいませんかー…」

 

 何処が上で下で右で左なのか分からない。身体がフワフワ浮いている感覚に不思議に思い手足をバタバタさせてみた、けど何も起こらなかった。

 

「えー…ひょっとしてこれ私死にましたとかそういうパターン?よくありがちな転生だとかそういうパターン?おいおい勘弁してください私はまだまだ人生の途中ですよ、花のJKですよ、彼氏欲しい人生ですよ!彼氏いない歴=年齢で何が悪い!!」

『うるさいわ!』

 

 後頭部に鈍い痛み。何かに叩かれたみたいだ。

 誰かがいた事に安堵するべきか叩かれた事に怒りを覚えるべきか分からないけど説明聞いたら殴ろうと思います。

 

 声のする方向に目を向けるとうっすらと細い人影のようなものが見える。霧がかかった様な状態で顔までは判別出来ないけど位置が分かれば上等。拳ィ用ォォォオオッ意!

 

 

『お前、器用な奴じゃな。普通死んだら天国か地獄に進む筈なのに何故、何故ワシのマイホーム時空の狭間に落ちるんじゃ。普通案内についていけば常識的に考えて狭間になんぞ来ること無かろう!!』

 

 いきなり挨拶なしで常識語られても困るんですけど。

 

 しかしまぁやっぱり私死んだのか、どうにも実感がわかない……。

 ん?実感どころか死因も私の存在も名前ですら思い出せない

 

『おーおー、混乱しておるのぉ…機密じゃが死んだら記憶は失う。死後の世界であーだこーだ言われてもたまったもんじゃないからの。そこは神の野郎がゲートをくぐる時に細工をしておるんじゃよ。ま、大体死して自我を持ちうるお前さんがおかしいのもあるが。

 死した人間は記憶も自我もなく天国と地獄行きのベルトコンベアに乗せられる状態で振り分けられるんじゃ、だからベルトコンベアから外れる事がおかしい。混乱したいのはこっちじゃというのにから』

「私的にはあなたがトップシークレットをペラペラ喋ってる事に混乱を隠せないんですけど」

 

 死んだ後の人間の生きざま?いや、死んでるから死にざまか。

 その存在を知ることになるとは…。人生何が起こるのか分かんねぇな。

 

「ん?でも天国も地獄も自我が無いんじゃ罰にも何もならない様な気がするんですけど…」

『ほぉ、目のつけ所が上の天使共と違うのぉ…。天国と地獄というのは転生先の区別じゃ。人は生まれてくる環境によって幸と不幸に別れるからの、その最初の分かれ道が天国と地獄になるだけじゃ。お前ら人間が決めた地獄やら天国やらとは認識が違うんじゃよ』

「じゃあ魂か何かを使い回ししてるわけですか?」

『そういうことでもあるな。記憶も何もかも初期化され次の体にその魂を植え付けるんじゃ

 最も、ギリギリまで身体は動かす為に死んだ時に一番近い状態に戻しておるんじゃがな、ほれ、お前さんの身体を見てみ………れるわけないのぉ、暗闇で人間の目は殆ど動かんであろう』

「ふーん………」

 

 興味本位で聞いてみたけど何かに役に立つかって言われたら否だよな。

 

「それで、ここって時空の狭間って言いましたよね?どういう所なんですか?」

『ベルトコンベアからはぐれたお前さんみたいな阿呆が落ちてくる場所じゃ、堕天使の住処でもある』

 

 堕天使?ということはこの人は堕天使ってことになる、のか?って、阿呆とは失礼な。少しはオブラートに包め馬鹿

 

 

 疑問とついでに怒りも浮かんで来るけど、これからどうするべきなのか分からないので聞いてみた。

 

『狭間に落ちた魂はもう2度と空は拝めん』

 

 

 とんだ爆弾が投下された。

 

 

「ちょっとぉお!?何とかしてくださいよ!生き返るだとかどうでもいいですけど何もないこんなつまらない空間にずっといるのは嫌です!」

『狭間に落ちて約16億年の堕天使を前によく言うわい!』

「…ごめんなさい」

 

 私にはきっと耐えられない。この堕天使も苦労したんだろうな。

 

 思わず同情の眼差しを向ける。

 

『まぁそれを何とかする為に堕天使が居るのじゃがの』

「私の同情を返せクソジジイ!」

『ジジイとは何じゃ!天使に性別も年齢も関係ないわ!』

「うるさいよー…もう口調からジジくさいんだよー…早くなんとかしてよー…」

『この………元人間風情で儂にそんな口叩くとは。天使時代では考えられなんだ。かー!昨今の若者とくれば嘆かわしいのぉ!』

「で。どうしたらいいんですか堕天使様」

『様付けされておるのに苛立ちが止まらん』

 

 苛立つのは恥じることでは無いよ!人にとって当たり前の感情だからね!

 ……果たしてそれが堕天使に当てはまるのか知らないけど。

 

『〝リインカーネーション〟』

「ん?」

 

 堕天使が何かを呟くと私の身体が光だした。

 

「え?ナニコレナニコレ。待ってストップ。何事。説明!切実に説明を所望する!!」

『なぁに〝転生〟じゃよ、て、ん、せ、い。但し先ほど言った初期化では無くお前さんの不思議でおかしな記憶付きという特典が付いておるけどな』

「ひょえ!?こ、心の準備は!?」

『クソジジイなんじゃろぉ?そんな生意気な口をきく小娘には説明なしのぶっつけ本番で充分じゃ』

「ごめんなさいおじい様!!堕天使様ぁぁあ!!」

『ふむ、失敗しなければ良いがの……なんせ16億年ぶりの転生作業じゃ』

 

 

 爆弾二個目投下されました。

 

 

『せいぜい〝集中力〟を高めて〝想像力〟と〝思い込み〟で何とかせい。人生それで上手くいくわい』 

 

 

「おいこらテメェえええ!!かかってこいぶん殴ってやるううううー!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私の声が届いたのかどうか分からないけど、絶対殴る。

 




ノリと勢い中心に文章力ぶん投げて投稿して行きます。一応処女作なので優しい目で見てください。

Twitter始めました @kanon_rein

改めまして恋音です。1話読破おめでとうございます!とりあえずこの章は無茶苦茶な部分多いので読破頑張ろ……?(遠い目)


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第2話 人生何とかなるもんです

 

 

 こんにちは、名も無い死人です。仕方ないじゃないですか名前まだ分かんないんですから。

 

 とりあえず状況を整理しようじゃないか。

 

 自称堕天使のクソジジイ様が死んだ後狭間に迷い込んだ私をレッツ転生させたぜ。まぁ、転生自体に問題は無い。だって死んだらみんな転生するらしいから。

 ただ、転生作業が随分と昔の記憶のようで私不安でたまらない。約16億年ですって!!!

 

 私にどうしろと。泣いちゃうぞー泣き喚いちゃうぞー。大声を出しちゃうぞー?

 

「おぎゃー!おぎゃー!」

 

 実際泣いちゃったよ、畜生。

 なんと私今プニプニ赤ん坊になってる様子……。わぁ若返りー………。

 

 って素直に喜べるかボケ!

 

 やめてよほんとー…歳が幾つか覚えてないけども自我は持ち合わせてるんだけどー…羞恥ぷれいですか?そうなんですね?殺したい、この世を。まあ無力な子供なのでその前に死ぬけどねゴラァ。

 

 私の現状は分からないことだらけ。土地や環境は勿論の事ながら、言葉も名前も何も分からない。

 必死に頭動かすといきなり眠気が襲って来て意識飛ぶし、排泄も空腹も訴える事は全て泣き声。

 

 世の中のお母様方って大変なんだな、って遠い目をしたよ……。私ならきっとノイローゼになりそう。いや、絶対なる自信しかない。

 

 がんばれ名も知らないお母さん。

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 そんな私の暇を持て余してるある日の多分昼下がり。私はこちらに来て1年ほどの年月を重ねた。この1年は何もやることが無くてずーっとだらだらして過ごす日々で、何も無いことは幸せなんだけど赤ん坊の私にとって暇で暇でたまらない。

 少しずつ言葉を覚えて単語単語だけど意味がわかり始めた事以外さして変化は無い。

 

 もう少ししたら転生とかにありがちな魔法とか試してみたいなーって思ってるんだけどいい機会無いかな。

 そういえばアイテムボックスとかあるのかな?今まで考えなかったけど転生って言うくらいだからあるよね?

 大丈夫私は堕天使様を信じてる!!あ、クソジジイとか言ってたろってツッコミは受け付けません。

 

 

 私は誰に話してるんだ、涙が出てくるぜ。まあ仕方ないけどね、自分以外コミュニケーションとる空いていないんだし。

 

 ……そういえば、このお母さん(推定)どこかで見たことある気が──。

 

──ドォン!

 

「んにゃ!?」

 

 考え事という名のひとり遊びをしてたら、耳が裂ける様なとても大きな音がした。音に驚いて身体が数センチ飛び上がった様な気がする。

 

 な、何事!?

 

 まるで砲弾のように聞こえる音は何度も何度も響き止まらない、肌がビリビリと震えた。

 扉がいきなり開き、女性が私をぎゅっと抱きしめる。いや、それはいいんだけど痛い痛い痛い痛いー!力込めすぎじゃないですか!?

 

 数秒とまたずに大男が現れ何かを叫んでいるけど耳がキーンとして上手く聞き取れないやい。

 だれだ、そしてなんだこの音の原因は。

 

「………っは、………して………か!!」

「…が…い……ン………す……て」

「……ぬ………っ!」

「う………でしょ…!!」

 

 すいません随分と真剣な雰囲気の所邪魔して悪いんですけど人の頭の上で叫ぶのやめてくれませんか?

 

「っ…な……よ…!」

「………か……い…………ィ……!!」

 

 おいこらいい加減にしろ耳が痛い。

 

「う…あ、たた…にっ!!」

 

 舌っ足らずの口では訴えたい事を上手く伝えられず余計にイライラする。静かにってどう言うんだっけ?

 

「だ…ぬぁ……んむぅ!!」

 

 母親と思わしき女性がこちらをじっと見てるけど相手の男は叫び続けるばかりで埒が明かない

 

 出来るかわかんないけど黙らす!!赤ん坊だから多少の無礼は許してよねって可愛く言いたい。言えないけど。

 

 

 

 

 集中集中。羞恥プレイに比べりゃ恥ずかしくもなんともない!

 

 ふと思い出した。最後の言葉。

 

  『せいぜい〝集中力〟を高めて〝想像力〟と〝思い込み〟で何とかせい。人生それで上手くいくわい』

 

 

 これだなクソジジイ。初めて感謝するよ。

 

 集中力を限界まで高めると眠気が襲って来るけど構うものか。

 身体の中にある血が巡る。身体がオーバーヒートしそうなくらいドクンドクン波打ってる。

 

 

 けど、いけそうな気がする。たぶんきっとこれが魔力なんだ。多分きっとメイビー!

 

 そう信じたいだけかもしれないけどこのまま騒がれるのもとてつもなく不快。

 

 私は持ちうる全ての集中力を使って魔力(仮)を手にかき集めた。ありったけの魔力かき集めレッツゴー!

 

 多分いける!いや絶対やる!

 

「……ふぁいあ!」

 

 ぐぅぅっ、上手く喋れないけど後は想像力で何とかなるなる!

 

「っ!!」

 

 男が何かを感じとってその場から飛び退いた。

 

──ボッ

 

 想像してたのとは少し違う気がするけどとりあえず成功!

 小さな火種が飛び退いた男の場所に作られその場の誰もが押し黙った

 

 ふふふふ…はははは!!

 

 一言言おう。眠い!

 

 

 せっかく静かになったのに酷いリターンだ……まぁ魔法らしきものが使える事に安堵するべきだろう。

 

 

 

 

 

 

 明日起きたら何しようかな。

 

 とりあえずおやすみなさい御二方。




どこに向かっているのか私にすら分からない。


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第3話 犬のお巡りさん

 

 

 海賊王ゴールド・ロジャー。

 

 今この時代、大海賊時代を作った男。

 

 

 儂は海軍本部のモンキー・D・ガープ。

 

 ロジャーとは拳を幾度となく交わし、奴をずっと追ってきた。

 奴が死んだ今でも、奴の仲間はまだ生きておる。

 

 その1人を今日見つけた。その女は〝戦神〟と呼ばれた凶暴……とは少々言い難いがおかしな女であった。再会すると大事そうに腕の中の幼いガキを抱きしめている。

 

 戦神は子を殺されまいと必死ににらみつけて来るが子供が何か口を開くと覇気が少し緩んだ。

 

「お前さんみたいな阿呆が海にのさばっておいてはいかんのじゃ!お前さんの言う通り餓鬼に罪は無いのは分かる!しかしお前さんは大人しくインペルダ…!」

 

 その餓鬼から禍々しい気配を感じ思わずその場飛び退く。

 

──ボッ

 

 すると、小さい上に威力も無いであろうが、何も無い所から火種が発生した。

 

 普通は有り得ないがこの餓鬼に違いない。まさかこの歳で悪魔の実を食しているのか…!?

 

「リィン!」

 

 戦神が意識を失った餓鬼に声を掛ける。力を振り絞ったのだろう。

 

 なんという力じゃ、幼子が攻撃するという意識を持ちうるとは。さすがは戦神の娘と言うべきか。いや、関心しとる場合ではない、この子を鍛えればきっと素晴らしい海兵になるに違いない!ガープ、期待するぞ?

 

「ガープのじっちゃん……」

「誰がじっちゃんだそう変わらんだろ大馬鹿」

「あたしはインペルダウンに行くよ。でもさ、この子はガープのじっちゃんが見てくんないかな…」

「お前さんの子を…?」

「───船長の息子みたいに」

「!!」

 

 あまり知られん事実だと思っておったがやはりクルーは情報を掴んでいたか 。

 ロジャーの息子であるエースを引き取った事に後悔は無いが、果たして戦神の娘と引き合わせて良いのか迷うが…。

 

「これも、お前さんの運命というわけか」

 

 丁度いい機会。この子の運命を見てみたいとも思った。結局どちらに向けて言ったのか自分でも分からんが自然と口から言葉が零れた。

 戦神はただ微笑んでその娘の額に唇を当てると泣きそうな声で〝ごめんね〟と呟き儂に渡してくる。何故、こいつらはわしに預ける。何故、海賊という存在はこうも潔く意地汚い。

 

「ガープのじっちゃん。あたしは、どうせ死ぬんじゃない?インペルダウン?今の海軍があたしを、いやロジャー海賊団の存在を残しておくとは思えない。良くて幽閉。悪くて処刑」

 

 戦神は経験則ではね、と呟いてさらに言葉を続けた。

 

「もう、悪魔の実の影響で私自身寿命も短いし、私は出来るならこのまま海賊王のクルーとして死ぬ。その子、リィンにはこの血を継がせたくない。任せてもいい?」

 

 訴えるその目は海賊の目でもなく我が子の将来を想う母の目、のように見えた。母にしてはギャンブルをするような、預けるだけでは不安と言いたげな目に見えたが。失敬な。

 ひとまず儂は一つ頷いた。

 

 

 この子はルフィの妹として育てる。

 

 

 その気持ちを込めて。

 戦神はそれに満足したのか儂の腕で眠る娘を撫でて光を与えた。

 

「これが幸と出るか不幸と出るかは、この子次第。じっちゃん。ありがとう」

 

 手から注がれる優しい光が消えた途端、戦神は身体の力がすべて抜けたように倒れ込んだ。まるで能力者が海に浸かった時の様に。

 

「っ!」

 

 思わず手を伸ばそうとしたがその手を止める。儂は甘い、と。ただそう思った。戦神の目は『さっさとしろ』と言いたげに睨みつけてきた。

 

「……っ、センゴク!居るか!子供を拾った!戦神は虫の息じゃ!さっさと錠を持ってこい!」

「ガープ!貴様と言う奴は……少しは自分で持って行かんか!」

「断る!!」

「それに子供を拾ったなど……………は?」

 

 バタバタと音がしたと思ったら慌てた顔したセンゴクが飛び込んで来た。おぉ、息が切れておるわい

 

「………」

 

 状況を確認してある程度察したのだろう、深々とため息を吐くと頭を押さえた

 

「何故、こうも厄介事ばかり………っ!」

「この子は儂の孫にすると今決めた!決めたからの!」

「ガープ…………いい加減にせんか…ただでさえお前はドラゴンの子という厄介者を抱えておるというのに海賊王のクルーの子にまで手を出すか!」

「決めたことじゃ仕方ない」

「戦神…選択肢を間違えたようだな」

 

 そう聞くと戦神はカクンと意識を手放した。

 ホントに失敬な奴らじゃな!!!

 

 腕の中で気持ちよさそうに眠る幼子を見て、センゴクも苦笑いを浮かべる。

 

 

 

 

 

 

 

 立派な海兵に育てんといかんなぁ。




ガープさんがモノローグ的なのをつらつら喋るイメージがまっっっったくと言っていいほど思い浮かばなかったので吐血する勢いで短めにしました。いやぁ、壁は高い

そして母親の口調少し変えました。


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第4話 迷子と言われると微妙な子猫さん

 

 あー、寝た寝た。

 結局寝れたんなら別に魔法っぽいの使わなくてもよかったんじゃね?とか思ったけどまぁ使えると分かっただけでも進展進展。

 

 

 身体に異常なし。ちゃんと動きます。首もある模様。

 

 ただ、先程の室内とは雰囲気が違います

 

 

 Q問題です、ここはどこでしょう

 Aわかりません

 

 寝てる間にどうやら移動した様子。でも変わらない叫び声は聞こえる。

 

 はぁー。辛い。静かにしてほしい。なんだ、もう一回マッチの灯火(ともしび)みたいな魔法しておきますか?

 やめておこう、あんな弱々しいとは思わなかった。

 

 別に強くなって世界征服だぜー、とか勇者になるぜー、とか思ってないけどセオリーじゃない?魔法と剣の異世界生活のセオリーじゃない?

 

 この世界で非常識だったら出会い頭に非常識と罵ってきた堕天使様に日常返せとぶん殴りに行くと誓います。生まれて何十回目かの誓い。

 

 はぁ、ただ座ることが我の運命。時と流れに任せて悠々と過ごしてみたいものです。

 だから騒がないでいただこう。

 

「だからガープぅ!てめぇは何度言ったらわかんだい!ここは託児所でも保育園でもないんだよ!」

「お前さんらを捕まえんだけええじゃろうが!」

 

 ゴッツイ爺さんにガラの悪そうなおばさんよ。私の睡眠を邪魔して面白いか、楽しいか。

 

 私どんだけ睡眠に拘るんだっていう話ですよね、わかります。仕方ないじゃないですか、私まだ1歳くらいですよぉ?睡眠欲が滞ることを知りません。

 

 ん?私冷静?悪い人だったらどうする気だ?

 大丈夫、流れに任せるしかないと思うんだこの場合。よく考えてみて、喋ることもままならない赤ん坊の私がどう考えても体格のいい大人相手に逃げただのあーだこーだ出来ると?

 

 ムリムリムリムリ、自然が一番。

 

「……」

 

 流れに任せるとは言ったけど不満はある訳ですよ。

 

 そう、いつの間にか真横で私を見ている君は私の首根っこを掴んでどうする気だ。

 人質に取っても役に立たない自信しかないぞ舐めるなよ。

 仕方なく目線をそちらに向けるとそこに居たのは幼い子供でどう育てたらこんな目付きになるんだっていう感じに眉が寄っていた。

 

 なんだか良くわかりませんが苦労したんでしょうね。

 

 何だよ私誰目線だよ。

 

 そしてこんな次々と疑問しか湧いてこなくて自問自答を繰り返して奴誰だよ、私だよ!!悪いか!!

 じゃあその原因は誰だよ!!

 

 あのクソジジイだよ(真顔)

 

 

 興奮とか通り越して冷静になって言ってる気がする。

 

 日を重ねる毎に貴方への想い(憎悪)が止まりません。貴方の姿を思い浮かべるだけで私の胸はドッキドキ(高血圧)して思わず束縛よろしく首まできゅってや(殺)っちゃいそう

 

「おい、お前」

「にっ」

 

 『なに』って言おうとしました。努力は認めてください。

 

「こっち来い、巻き添えくらうぞ」

 

 巻き添えって何。いや、意味は分かりますよ?何で巻き添えくらわないといけないの?

 

 その子は私をつまみあげると人の合間をぬって外に飛び出した

 つまみあげんなせめて抱えろ。

 

「話は大方聞いたけど……はぁ…あのジジイも本気かよ…こんなちびっこい奴を普通山賊に預けるかぁ?ちっ、めんどくせぇことしやがるぜ、海兵に仕立てあげたいんならテメェで何とかすればいいものを」

 

 おぅ…なんですかこの卓越した判断力を持つ比較的常識人であろうお坊ちゃんは。

 こんなに考えをつらつらと言えるとは驚き桃の木なんとかの木ってやつですよ。

 

 うんうんと思わず頷く。

 

 

 

 

 つらつらと〝言える〟?

 

「ほぎゃん!?」

 

 言えるって事はあれですよね?たった2、3日前まで単語すらも聞き取れなかった耳が進化したってことですか!?それとも脳みその突然な進化!?いや、嬉しいんだけどね〝言葉がわかる〟って!

 は…、まさか私に眠れる才能が開花したとか……。

 

 

 とにかく違和感の正体に気付くの遅すぎやろ私という奴は。

 

「ん?どうした?」

 

 その少年は人の頭をグリグリと押さえつける様に撫でて来る。

 

 いたたたたっ。

 いくら子供とは言えども手加減無しで撫でられるのは痛い。手加減して!お願いします!

 

 いやそれ以前にこの子なんと言いました!?海兵!?山賊!?私の知らない間に何があった!?

 

 いや、むしろ知ってる間に何かあったのかもしれないけど私の眠れる才能がまだ開花してなかった時だからクリーナーどこぉおおおお!!!!

 

 

 

 こんにちは、私リィン。今冷静な頭を探してるの。

 

 

 思わず肩を落としてため息を吐きそうになるけどそれを静止させたのは新たな登場人物だった。

 

「エース!さっき海賊貯金を増やして…………ん?その子は誰だ?」

「見りゃわかんだろ…、餓鬼だ」

「いや、それはわかるけど何でこんな森に連れてきたんだ?何処の子供?」

「ダダンの所に置いてあった」

「へ?」

 

 間抜けな声を出した子を無視してこちらに目線を合わせると自己紹介を律儀にしてきた。

 

「あぁそうだ、俺はエースって言うんだ。よろしくな!お前の面倒、ダダンが見れれるわけねぇから俺が代わりに見てやるよ」 

「あ、お、俺はサボ!エースが面倒見るんなら俺も面倒見るよ!よろしく!」

 

 

 こいつらは普通赤ん坊と言われてもおかしくない子供に普通の挨拶…いや言葉が分かるとでも思ったのだろうか。

 別に世話する人が誰であろうが問題ないけどおもちゃじゃないんだぞガキンチョ共。

 

 

「リー!リィんぅ」

 

 金髪の男の子がサボで黒髪の男の子がエースね、OK覚えた。

 髪色は。

 

 慣れてないせいか顔の判別が付きにくくて困る、まぁ髪色が違うしほかの人と体格が違うからそれで判断出来るだろう。

 

 ほらあれだよ、アイドルを見ても全部同じ顔に見えちゃうスペシャルマジック。年寄かよ。

 ちょっと凹んだ。

 

「リー?へぇ、お前リーって言うのか」

「リィじゃないのか?」

「だって最初にリーって言っただろ」

「絶対違うって。リィだよ」

 

 お前ら両方違う。

 

 言葉が分からなくても何度も呼ばれていたら『あ、これが私の名前か』って思って使ってるけど実際合ってるのか分からない。

 まぁいいさ細かいことだ。

 

「分かったよ、じゃあリーだね」

「おう!改めてよろしくな、リー!」

「ぶも!」

「変な返事」

「はにょ?」

 

 聞くのと喋るのとじゃ難易度の差が激しすぎるEASYからHARDにくら替わり。イジメかな。イジメだろ。

 クソジジイ、少しは配慮して。ちゃんと喋れる様にして。

 

 余談だけどこうやって聞き取れる様になったのはあのクソジジイの力だと思ってる。

 本当はどうか分からないけど80%くらの確率で『まさか特典!?』みたいに思ってますだから眠れる才能は忘れろあれは悪ふざけだちくしょう

 

「俺たちよりちっさいな…」

「うん、だから連れ出してきた。踏み潰されたら一発だぞ」

「可愛いな」

「それはどうかは分かんねぇだろ」

 

 おい。

 

 いや別に可愛さに拘ってるわけじゃないけどお世辞でも使えこのたれ目無神経クソガキ。

 

「あ、ジジイが帰っていく……」

「じゃあ俺も今日はここまでかな。明日からその子連れてくるのか?」

「うーん、海賊貯金貯めにくくなるよな。でも家に残すと心配だし…」

「ぽぎゃ」

 

 声を大にして言います。家に残してください。

 

 ここは森ですね、異世界ですね。よぉぉぉく考えてみて、魔物いそうじゃない?もし魔物がいなくてもイノシシとか出てきそうじゃない?小さい子がいるってことはある程度安全性は確保されてると思うけど心配なものは心配なんです。

 

 誰だ流れに任せるとか言った奴

 いーんだよ!身の安全第一!話を聞いてもらえる相手だから自分の意思はなるべく言います!

 

「一緒に来たい…のか?」

「ぺも!?」

「そっか、分かった。サボ、明日からリーも連れていく」

「分かった。落とさないような紐探しておくよ。ダダンさんだっけ?用意してるとは限らないし」

「おう!じゃあまた明日な!」

 

 

 

 あれぇ?

 

 



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第5話 私のお家はここですよ

 

 

「リー、挨拶」

「ぶるぅーん!んだ!」

 

 ペコリと頭を下げて山賊に目を向ける。

 エースから教えてもらったと言うか一方的に話しかけられたんだが、この家は山賊のものらしい。そして私たちは居候としているのだとか。

 

「か、かわ……」

 

 川?洗濯物じゃぶじゃぶして桃拾って来いってことですか?

 そうなると生まれた子供に立場を取られて私は寝床を無くすのでは!?

 それは困る!断固拒否!川には近ずかない!どうぞ海まで流れてどんぶらこどんぶらこしてください!

 あ、キジは美味しく頂きます。

 

 まあ冗談はさておき、みんな私のベビートラップでメロメロになったようだ。前世持ち舐めるなよ。

 

「ふん、随分と懐いてるようだねエース、あんたがそいつの面倒見な。あたしらは餓鬼の世話するほど暇じゃないんだ」

「毎日酒飲んでる奴がよく言うよな…」

 

 ぼそっと呟かれた言葉を捉えたのは一番近くにいる私だけだった。

 

 立つこともままならない私は軽々とつまみあげられる。 だから抱えろ。抱けとは言わないから。

 首がしまる。

 

「リー、外行こう」

「んぶぅ!」

 

 嫌です。夜の森は危ないです。

 

「やんちゃな子になりそうだね、まためんどくさい…エース!その子寄越しな!風呂に入れてやったりしないといけないだろ!」

「さっき面倒みなっつったのだれだよ!!」

「いいから寄越しな糞ガキ!」

 

 

 ひったくられる身体。おまえら人の身体をなんだと思ってるんだちくしょう。

 

「ぶーー!!あだ!だだだ!んゆっ!」

 

 くそ、欠陥だらけの微妙なスキルどうにかして下さい!喋らせろ!意思疎通ってとっても大事ね!

 聞き取り出来て話せないって面倒くさすぎる…せめて聞き取りもできないとか喋ることもできるとか、ちゃんと統一して欲しかった。贅沢言うなってか?

 

 

「餓鬼はさっさと食って寝る!ほら、どっかいきな」

 

 しっしっと厄介者を払うように手を動かす女の…たしかそう、ダダン。

 

 ダダンは湯の張ったタライを取り出して優しい手つきで私の頭を撫でるとお風呂に入れてくれた。

 子供だからいいけど結構恥ずかしい気もしなくもないっていうか女の身体ジロジロみるなよテメェら。

 

 ある種の羞恥ぷれいかな、堕天使を殺そう計画始めます。

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

 湯冷ましついでに魔法らしきものの練習をしようとエースと並んで玄関前の岩に座る。森に入らないだけマシ。良かった、ホント良かった。

 と言うかエースくん悪い子ね、寝なかったのね。夜更かしは美容と成長の大敵ですよ。

 

 ふと頬をつねってみる。

 

 痛い…じゃなくてすっごいプニプニ…。

 この肌をどこまで維持できるかが女の見せどころ、と言いたいけどとてつもなく面倒。ほっといてもいいかな…まだ子供だし。ほら、小じわが目立てばすりゃいいんですよ。多分。

 

 今日半日周りや人やらを観察してみて魔法らしきものが登場しなかった。

 もしかしてイレギュラー要素?私の目標目指せ平凡人生!なんですけど。

 田舎でゆったりのんびりダラダラライフは今現状一番近いんじゃないですか?

 

 ただ田舎すぎて森の中だけど。海兵にさせるとか言う厄介なおじいさんいるけど。

 私あの人に攫われたんだよ、ね?多分?お母さんみたいな人抵抗してたし。

 意識失った後の事は分からないけど状況的にその可能性が高いかも。

 

 待てよじゃあもしかしてこの山賊の人達って人攫いとか!?

 うおう……頼むそんなことありませんように。

 

 

 信じよう。そんなイレギュラーな能力と常識外れの設定で無いこと、信じようあのクソジジイを…………あ、ごめんやっぱ無理。

 信じれないな、あんな初っ端から胡散臭いじいさんなんて。

 初めの頃は信じていたが今となってはもう………。

 

 冷たい風がゆっくり頬を撫でるよう吹く。

 

 もしも仮に魔法らしきものがイレギュラーだった場合、知られるのはとても危険。だって利用し放題だもんね。

 となると練習はストップ?

 でもそれはそれで勿体ない気がする。せっかくだから使いたいし。

 

「…!」

 

 いいこと思いついた。風だ。

 

 風なら多少不自然にふいても見えないから分からない。練習の仕様がある。ただ、私も見えないっていうデメリットがあるけど、幸いここは森の中。狙った葉っぱや草に向かって風を起こせば目で確認できる。

 

 ははーん、我ながらいいアイディア。

 

「……」

 

 手に力を込めて全身の血液を循環させるみたいにぐわーって、ぐわーー!!

 

 目指すはあの木の葉。1メートル先の葉を捉え、目を向ける。

 

「リー?」

 

 不思議そうに声をかけるエースがいるけど集中力が大事だからガン無視。

 怪訝そうな顔を見せるけど私は知ったこっちゃない。

 

 ぐんぐん血液が廻って身体が少し熱くなる。風が涼しくて良かった。

 

 それじゃあいってみようリィン選手!

 

 ぐっと手に力を入れ、葉に向かって力を放射するように手を開いた。

 

 動け、葉っぱ!

 

 

 

 

 

──プツン

 

 

 

 

 

 

 ==========

 

 

 目が覚めると朝でした。

 

 

 

 

 

 意識を失っちゃったのかな。

 結果わかんねぇじゃん!!!馬鹿!! 

 

 

 

 




誤字酷いのはご愛嬌(はーと)

頑張って誤字減らします


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第6話 ある日森の中

 

 おはようございます!今日もいい天気ですね!

 朝、お粥っぽいのをダダンさんに食べさせられてお腹を膨らました私は自分で走れる程度になるために筋力を付けたいと思いハイハイしてつかまり立ちしようとしてた所をエースくんに捕まっちゃいました!

 

 

 

「びにゃぁぁぁぁあ!!!」

 

 

 そして紐で固く結ばれた私は今森の中でダッシュしているエースくんの背中。

 

 お前何歳児だよってほどのスピードで体感速度が早いのなんの。

 

 

 なんで岩を飛び越えたの!?

 平坦な道を走りましょう!?

 なんで橋をダッシュするの!?

 ギシギシするでしょう!?

 そしてなんで私を背負ったんだよ!

 落ちたら危ないでしょぉぉ!?

 

 と言うか、危ない以前の問題だよね!これ!

 

「ふぎゅぁぁぁぁあ!!」

 

 

 

 

 ……誰でもいいから助けて。

 

 

 ==========

 

 

 

「よぉし!やるか、サボ!」

「夕飯探しと海賊貯金だな!」

「ふひゅ………………」

 

 自分走ってないのに、何でこんなに疲れてるんだよちくしょう。

 

「リー、大丈夫か?」

 

 サボが心配そうにこっちを見て優しく頭を撫でてくれる。

 こいつ、絶対将来モテる(確信)

 

「んぶぁ!」

 

 大丈夫じゃない、休ませろって言いたいのに!!なんでこのポンコツスキルは!

 

 

──ガサ

 

 自分の左から音がして無意識にそっちを向く。

 

「…」

 

 スラリと長い身体、細い顔、美しい肌の色、艶やかな肌質、パチリとした丸い瞳。

 

 

 そして、長い舌。

 

 

「びぃぃぃぃぃぃぃっっっっ!?!?」

 

 

 

 ヘビぃぃぃぃぃぃっっ!?!?

 

「はは、リーは元気だな」

 

 何が元気だな、だ!

 逃げ、逃げよう!?逃げましょう!?ヘビってきみどんなのか知ってますか!?噛まれたらアウトだよ!?痛いよ!?下手したら毒持ってるんですよぉ!?

 

 危ない。危険。

 私の脳内裁判では1秒も経たないうちに満場一致で逃亡の判決になりました。

 

 だからね?お願いします鉄パイプを持ち出して君たちは何をするつもりだい?

 

「この程度の雑魚に手間取るかよ!」

「エースに任せていいのか?」

「任せろ!」

 

 

 あ、私多分死ぬわ。

 

 

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

 

「ふぎゅぁぁぁぁあ!!」

 

 今度はなんで叫んでるかだって?

 

 じゃあ聞くが

 

「やるぞ!熊肉!」

「美味いんだよなぁ」

 

 森の中でクマさんに出会ったらどうしますか?

 

 お嬢さんは落とし物はしてません!!森におかえりくださいーー!!

 

「いくぞ!」

「おう!」

「んぎぃぃぃい!!」

 

 無理にきまってんだろぉおおお!!何倒そうとしちゃってんの!?君たちあれでしょ?小学校一、二年程度の年齢だよね!?普通尻込みするから!お姉さんの精神年齢的に君たちより年上だと思うけどお姉さん叫んでるからね!?

 

「おりゃ!」

「まだまだぁ!!」

 

 鉄パイプでめっためったにクマさんをいじめてる子供。あなたはどう思いますか?……私誰に話しかけてるんだろうね。

 

 異世界の常識恐ろしい。こんな子供でもクマさんは敵じゃないってか。

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

 

「んだばぁぁぁぁぁあ!!」

 

 次はなんで叫んでるかって?

 

 

「ニぃぃい!」

 

 エースくんは私を背負ってワニに挑むの。

 

 

 

 

 

 

「ワニ肉と熊肉ってどっちが美味いと思う?」

「俺は熊肉かな…」

「へぇ、エースは熊肉の方がいいのか」

 

 狩り終わったこの2人はクマとワニを担いで森をゆったりと歩いている。

 

 と言うかクマもワニもいる森に子供を放置ってどうなの。1回ダダンさんに抗議する必要があると思うんだ。

 

「んび…」

 

 走ってる時にギャーギャー騒いでた自分に叱咜したい。この程度で騒ぐなよ、って。

 

 なんていうか馬に乗るだけで疲れるって聞くが多分感覚あんな感じなんだと思う。全力でヘビクマワニと挑んでいくエースの背中にずーーーっとがっくんがっくん浮遊感に揺られながら一生懸命しがみついてたらそりゃ疲れるわ…。

 私、多分将来ワニ嫌いになる。むしろ今から嫌い。

 

 すると眠りにつきそうなくらいの疲労感が襲ってきた。

 

「リー、眠そうだな」

「あい……」

「眠いなら寝てていいぞ」

「あだ……」

 

 力なく返事をして、私は重たい瞼を──

 

 

 

 

 

「ガルルルルルルルッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 ──閉じさせてくれなかった。

 

 

「びぃ!?!?」

 

 

 目の前にいるのは虎でした。

 

「お、おいおい…」

「やばいぞエース…」

「2人で殺れるか?」

 

 疲れてんだよクソ野郎っっ、これ以上私に反応求めても「んば」としか言えないぞ。

 「あ、これ死んだ」って言いたいけどな。はっ。

 

 半分自暴自棄になってる自分を無視してエースが戦闘態勢に入ってる。

 

「んびょ!?」

 

 やばいぞとかって危機感感じてる癖に戦おうとしてるの!?馬鹿なの!?阿呆なの!?

 

「お、おいエース!さすがにまずいって!逃げるぞ!」

「何でだよ、俺は逃げねぇぞ。1度向かい合ったからには」

「エース!!」

 

 命あっての人生でしょーが!親の顔が見てみたい!

 

 やばい、やばいぞ。サボが危機感持ってるしエースも分かってる筈なのに逃げない。そもそも虎は出会ったら即逃げるが常識でしょうて。

 日本でお目にかかれるのは檻の中の虎だったけど。

 

「っ、分かったよ!エース1人だけ戦わせれるかよ!」

 

 サボぉおぉ、君なら止めてくれると思ってたのになんでそっち側についちゃったのぉぉぉ!?

 何とかしなきゃ。とりあえずこの2人止めよう。

 

 じりじりと1匹と2人+足でまといが睨み合って隙を狙っている。

 

 やばいやばいやばい。

 私は2人の服をガシッと掴んで引っ張った。逃げようと合図したかった。

 

 

「ガァァァァァア!!」

 

 それを隙って言うんですね。

 

 虎がわたしたち目掛けて右手を振りかぶった。

 

──ドゴッ!

 

 エースとサボは後ろに飛びその攻撃を回避したけど私達の丁度後ろにあった岩をいとも簡単に粉々に砕いた。

 

 

 

 ………わぁ。

 

 

 アレが私達だと想像すると血の気がサーーっと引いていくのが分かる。

 もう1回死んだら天国に行けるかな。どうか狭間に落ちません様に。

 

 ネガティブ思考にしかならない自分を叱咜して何かないかと探る。

 地形 能力 気候。

 なんでもいい、なんでもいいから使えるものを探す。けど私は身動きすら取れない。だから頼れるものはただ一つ。

 

「っ!」

 

 魔法。

 

 私の弱々しいマッチの火では虎を倒す事に使えない。風も一体どれだけ使えるのか分からない。

 弱いと過程するととてもじゃないけど倒せない。

 

 もし失敗して相手が余計怒ったら?間違いなく標的に向かって猛ダッシュ。

 一か八か、1回限りの賭け。

 成功すれば生き残り失敗すればパクパクムシャムシャ。

 

 私が絶対嫌だ。

 

 地形を利用するのが有効だけどここに目立ったものは無くて少し開けた場所。でも、でも。

 

 

「ぎゃけ!きゃわ!ひゃし!!」

 

 崖と川と橋がある!

 

「えーふ!ぎゃけ!ぎゃーーーーーけ!!」

 

 あっちに行くように訴えかけるけど伝わるかどうか不安。

 

「ぎゃけ?」

「あだ!だだだ!」

 

 バシバシ背中を叩き橋のかかる崖を指指すとようやく分かった様で疑問に思いながらもサボに呼びかけた。

 

「サボ!崖の方に向かうぞ!」

「なんでだ!?」

「いいから!」

 

 ひゅ、と喉からおかしな音が出たけど気にしない。

 

 私の作戦はこうだ。崖の傍に虎を近ずけて風や火で体勢を崩してどぼん!

 名付けて〝殺人事件でありがちな自殺に見せかけて他殺作戦〟

 

 これは風や火の威力と賭けをした。おどかせる程度の火や体勢を崩せる程度の風を起こせれば私の勝ち。起こせなかったら私の負け。くっそつまらない作戦!もっと頭使えよ私ぃ!

 

「くっ!リー、大丈夫か?」

「んぶ!」

 

 大丈夫じゃないです。

 

「そっか大丈夫か、心強いな」

 

 サボ、君は私の心を反対にして読む天才かな。

 

「んむぅぅぅ……」

 

 唸り声をあげながら力を溜める。3回目の魔法は比較的早く血がぐんぐん巡っていつでもいける状態になった。

 

 後はタイミングを合わせれば完璧なのだが。そこは意思疎通出来ないけど2人に任せるしかない。

 

 

 

 

 

「グルルルルルル……」

 

 

 

 

 今だ!

 

 



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第7話 不思議なガキ

 

 

 そのガキはある日突然やって来た。

 

「ガープさん勘弁してくれよ…ただでさえエースに手を焼いているのにその上あんたの孫だって?無茶に決まってるだろ」

「なんじゃ、一生ブタ箱で過ごしてもいいんじゃぞ?」

「それだけは…!でも、まぁ、そりゃ、時々ブタ箱の方がいいんじゃないかって思うけどさ……」

「とにかく儂は決めたんじゃ!」

「とにかく無理は無理だっていってんだ!!」

「なんじゃと!!」

 

 ダダンの家に帰ると叫び声が聞こえてガッカリした。ジジイが来てるということと、新しく居候が増えるのかということだ。

 山道往復修行を初めて数ヶ月。もう山道に慣れたからいっそサボと森で暮らそうかと思いながら扉を開け、思わず目を見開いた。

 

「……」

 

 そいつはガキだった。俺もガキだと思うけど俺よりずっとずっと小さくて首をこてんと傾げるだけで何の変哲もない、ただのガキだ。

 

「だからガープぅ!…───」

 

 2人の言い争いがヒートアップしてこのままじゃあのガキは踏み潰されてしまうんじゃ無いかと思ってしまい思わず連れ出そうとして声をかける。

 

「おいお前」

 

 言ってはみてもガキだ。きっとただのガキが返事なんか何もしないと思っていた。

 

「にっ」

 

 でも不思議な事にそのガキは返事をした。反射的なものかもしれないがくりくりした目をこっちに向けた。

 

「こっちに来い、巻き添えくらうぞ」

 

 可愛い。

 そうとしか思えなかった。

 

 ガキの扱いなんか全然知らないし何をすればいいのか全く分かんねぇから不安だけど、ここに来たからには俺の妹分だ。

 

 外に出てふと考えてみる。

 

 ──あのジジイも本気かよ…こんなちびっこい奴を普通山賊に預けるかぁ?

 

 ──めんどくせぇことしやがるぜ、海兵に仕立てあげたいんならテメェで何とかすればいいものを。

 

「ほぎゃん!?」

 

 不思議な声がして声の主を見るとあのガキだ。目を思いっきり開けてこっちをじーっと見た後、首を傾げると何か考える様に唸っている。

 

「どうした?」

 

 なんというか、その様子を見るだけでおかしくて。サボ以外には滅多に見せない笑顔を無意識に浮かべていた。

 ガシガシと頭を撫でると目を細めて可愛い。

 撫でる毎に身体が左右に動いて、それもまた面白い。

 

 サボ以外にこんなに興味を引かれる奴は初めてで、一緒にいたいと思ったのも初めてだった。

 

 サボに見せると可愛いなって言った。俺もそう思うけど、何だか素直に言うのも照れくさくて誤魔化したけどサボの表情を見る限りバレてると思う。

 厄介な親友だな。

 

 そう思ったけど不快感は全く無くて。これからこのガキ、リーと過ごす日々に期待と楽しみが湧いてた。

 

 

 

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

 

「んだぁぁぁぁぁぁあぁあ!!」

 

 虎に追われて、リーが示す方向に逃げて数分後、体力も限界が近付いてサボも息が上がってこのままじゃやられてしまうと思ったその時、リーが叫んだ。

 凄い声で思わず後ろを向くとカクンと眠りに落ちたみたいで思わず心配になるけど今現在隙を見せるのはやばいと思って虎に向き直すと

 

「ガルルルル!?」

 

──ドコォ!

 

 岩を砕いた虎の腕力にも負けないほどの力が虎に降りかかって、そのまま崖の下の川に落ちていった。

 

 

「え………」

 

 何が起こったのか分からなくてサボを向くけど多分俺と同じ顔をしてたんだと思う。

 

「どういう…」

「サボ、お前何かしたのか?」

「いや、俺は逃げるのに精一杯で何も……エースは?」

「してねぇ……」

「だよな…」

 

 逃げる、という行動の大変さ。敵に気を配りながら逃げ道を探して攻撃を避けていく大変さをサボは知っている。だからこそ俺たち〝2人〟じゃないってすぐに分かった。

 

 だから必然的に残るのはただ1人。

 

「リーか……?」

「でも…リーみたいなちっさいガキが出来るのか?」

「分かんねぇ…分かんねぇ!!」

 

 叫んでみてもなにも分かんねぇ。けどサボがふと何か思いついた顔をした。

 

「──悪魔の実」

「え?」

 

 悪魔の実って、なんだったか……。

 記憶を探って見るけど喉で引っかかっていつまでたっても出てこない。

 

「食べたら特別な能力と引き換えに海に嫌われるっていう悪魔の実だよ。売れば大金が手に入るとか」

「能力?」

「リーは何かしらの実を食べたんじゃないかな。

 いや、そうとしか考えられない。だって普通に考えて身体縛られてる歩けもしない子供が虎を崖の下まで落とせると思う?」

「………無理だ…」

 

 じゃあリーに守られた?

 

 俺たちが?

 

 本当は俺たちが守らないといけないのに?

 

 俺よりずっと小さいガキに?

 

 情けない。自分が情けなさすぎる。何が守るだ、守らないといけないだ。なんで俺は守られてんだ。妹分に!?俺が?兄貴が!?

 

「サボ…俺は自分が情ねぇ…」

「エース……」

「サボ、俺は強くなる。ちゃんとリーを守れるくらいに…守られるのは嫌だ…っ!」

「俺も、俺もだエース!考えてたんだ。リーを守らないといけないなって…でも俺守られた……俺よりずっと年下の子に…」

 

 思わず口を開いた。サボも同じこと考えてたんだって、悔しいのに嬉しい。

 

「俺はリーに感謝しなくちゃならねぇ…俺が強くなる為の後押しをしてくれた。絶対強くなるっ!」

「絶対負けない…俺も、強くなりたい…!こんなんじゃ俺は海賊になんかなれない!目の前のこんなちっぽけな子供を守れなくて、守られて……」

 

 

 

 俺たちは新たに強くなる決心をした。もっともっと力を付ける為に。

 

 

「あ……、そうだ。思い出した。

 悪魔の実を食べた人間はカナヅチになるって聞いたことがある」

「カナヅチ?」

「うん、海とか水に浸かると力が抜けて溺れちゃうんだって」

「っ!ほ、本当か!?」

「うん…それとさエース。一つ提案があるんだけど…──」

 

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

「俺、サボって言うんだ!よろしくなダダン!」

「ちょっと待ちなエース!この子どこの子供だ!」

「いーじゃねぇか、ガキの1匹や2匹や3匹…別に変わんねぇだろ」

「変わるさ!このクソガキ!」

 

 

 

 

『俺もリーの傍にいたいからお前の所に居候してもいいか?』

『はぁ?俺達がそっち行ったらいいんじゃねぇのか?』

『リーはまだちっさいだろ、ある程度経つまでちゃんとした所にいるのがいいと思うよ』

『果たしてちゃんとした所なのかな…』

『それは……』

 

 

 サボの居候が決定した。

 




お気に入りも評価もコメントもとても嬉しいです!ありがとうございます!


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第8話 二度あっても三度目は拒否したい

 こんにちは毎度お馴染み転生者リィンです。

 

 目が覚めて驚くことが幾つかあったので今回はそれをご紹介したいと思いまーーす。

 

 パーンっとBGMか頭の中で再生されるけど関係なし。

 

「んぶ…」

 

 まず一つは私の首が繋がっていること。

 

 どうやら腕も足も四肢無事なご様子……。良かったね!私!

 

 途中で意識プッツーンって切れたと思ったら悪夢に魘されてたね。

 なんというかもう思い出したくない悪夢ばかりだったよ。

 例えるなら全身に切り傷擦り傷付けられた状態で熱い塩水の中に放り込まれた感じ?

 

 やだ何それ痛い。

 

 自分で例えているクセに痛がるとか私なんなの…。

 あぁ臆病ですよ!!それがどうしたちくしょう!!

 

 というか虎さんはどうしたんだろう。逃げれたってことですよね?

 でも果たしてそれが私の想像通りになったのかが疑問でございます。

 

 次の課題はこのすこーし使うと切れてしまう意識だな。

 1回でもいいから私の思い込みがどれほどのものか見てみたい。

 

 我ながらイタいわぁ…

 もう諦め入ってるんじゃない?

 

 

 

 それともう一つ。

 なんと朝起きたらダダンさんの家にサボが居るんだぞ!

 あれ、そういやサボってどこの人だっけ?って思ってたけどどうやら〝ぐれいたーみなる〟っていう所の出身者だとか。

 もしや都会人ですか?サボの暮らしてたぐれいたーみなる行ってみたいなぁ。

 よく見りゃ服もボロボロだけど質のいい服を来てるからやっぱり山賊暮しとは違うんだなーって思うね。

 

 

 さらにもう一つ。

 

「うりゃ!」

「まだまだぁっ!」

 

 サボとエースが戦ってるんです。

 何でこうなった…って思ったけど1勝、また1勝、と続けていく事に「あ、これ訓練か…」という結論になった。

 今のところエースが38勝でサボが35勝らしい。全部で100戦するとか。やりすぎだろ

 木盤に何か書き込んでるけど文字が分からないからふと呟かれた言葉でこう判断した。

 あ、でも文字は二種類あるみたいで私も読める日本語とあともう一つは…ローマ字に似てるな…ちゃんと時期が来たら教えて貰おう。

 

 サボはぐれいたーみなる出身だからある程度教養があるのかな。エースはところどころって感じだし。そもそも山賊が文字なんか教えてくれるわけないか。

 

 いや、どうかと思うよ。山賊。

 栄養面とかどうよ、3日目にして私にはお粥しか回って来ないんだぜ?いや、エース達が狩った獲物も焼くか煮るかしかしてないしむしろそれしか食べてない。

 

 野菜摂れよ野菜。もうそろそろ味気のある食事が恋しい………。お母さんと思う人と一緒にいた時はもっとまともな食事だった。

 

「よし、また1勝!」

「くそ〜っ、エース強いなぁ…」

 

 強いも何も普通君たちの年齢の子供はそんな戦闘能力は発揮しません。

 素人目で見てもどうかしてると思うレベル。

 

 異世界標準レベル怖い。

 

 

 

 

 話は変わるが今日は何をしよう。一応子供と言えども寝るのは時間が勿体ない。

 何故寝るかを前提に考えるかと言うと、まぁ睡眠が好きだからって言うのもあるけど魔法だよ、ま、ほ、う!

 使うと意識プッツーンだから使うのは様子みながら夜かなーって思うね。

 

 まぁ試してみんことにはどうにもならない。

 

 この後2人は海賊貯金をするとか言ってたし、「リーは危ないから連れていけない」だってよ。

 別に仲間はずれとか良いけどね!いじける歳でも無いけどね!

 

 つまるところ日中暇になったわけです。

 

 こんな身体じゃやることも限られて………。

 

 

 

 

 いいこと思い出した。

 そうだよ昨日邪魔された筋トレ!早く走れる様になる為に筋トレしなくちゃならないんだ!

 うっわ、面倒臭い…。でも人間誰しも通る道だし文句言ってても仕方ない。

 

 でも身動き取れないまんまあの虎事件みたいになったら怖いし良心痛むけど2人を囮にしてでも逃げたいし。

 わぁ、私屑だなー…ごめんなさい反省はしてません。

 

「リー?」

「あい?」

「海賊貯金に行ってくるから大人しくして待っててな?」

「んだぶ!」

「よし、いい子だ」

 

 

 考え事してた私に気付いてサボが心配そうに声を掛けてきた。

 くそぅ、さっきまで囮にするとか思ってたから罪悪感がハンパ無いぜ。

 ちゃんと行ってらっしゃいくらいの声は掛けたい

  

「じゃあ行ってくるぞリー!」

「ぶるんちょ!」

 

 だからこのへっぽこスキルもどうにかしないと。

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 ふむ、今の私の課題をまとめてみよう。

 上から重要順に

 

 ・走れるようになる為の筋トレ

 ・へっぽこコミュニケーションスキルの強化

 ・アイテムボックス的なのが使えるかの確認

 ・魔法の威力確認と練習

 ・栄養面の強化

 ・この世界の知識

 

 栄養…もっと上でも良くないか?

 

 ま、まぁいいや。

 

 筋トレはとりあえずつかまり立ちしたりバランス取るのはきっと前世の感覚で大丈夫だろう思うから歩くところから始めよう。

 

 へっぽこスキルね。これも重要。危機的状況に陥った時に喋れないのはとても困る。「逃げる」と「嫌だ」と「助けて」位は言えるようになりたいな…。ちなみに私はこれをスキルだと信じてる。私の学習能力が無いだとかそんなことは頭の隅っこに追いやってやりました。

 

 えーと、アイテムボックス的なの。これね、半分くらい存在忘れてたとかそんなの、な、な、ななないからね?ほら、魔法の方が瞬時的な重要度が高いから…うん。

 

 はい!次!お待ちかねの魔法!やって来ましたーー!!まだ何も来てないけど。

 これはもう寝る前にドパーンってやっちゃったらいいかな?1度火の種は出したことあるけどそれだけじゃ不安だよね。練習も必要だし、それに虎を追い払えた威力が果たして出るのかその真実も追求しないと。

 

 栄養面の強化はかなり後になりそう。だってこれよく考えたら台所を預かるのと同じじゃないかなー…。そうなると1・2歳で台所を持たせないと思う。前世の常識では。

 異世界常識がどんなモンか知らないからそこは困るよな。下手な常識は身を滅ぼすと思ってる。6・7歳くらいの男の子がクマとか普通に狩ってる時に身にしみた。

 何度でも言おう。異世界常識怖い。

 

 そう、その常識を付ける為に!知識が必要!一般家庭に必要な知識が!常識が!

 もしこの世界にサンタクロースがいるのなら私は迷わずに一般常識っていうモノを欲する。切実に。

 

 

 何が悲しくて転生なんぞしなくちゃならないんだ……っ!環境が変わると常識も変化してくる!こんなちびっこい身体じゃ出来ることに限りが出てくるし!

 

 あれ、世の中全員が転生するんだっけ。

 あれ、確か記憶をもって転生してしまったのって私が狭間に落ちたからじゃなかったっけ。

 

 

「……」

 

 気付きたく…いや、自覚したくなかった現実を突きつけられた。

 突きつけたのはもれなく自分であるが。

 

 えぇい、ままよ!気にするな!

 

「あだぶ!」

 

 ひょっとして1人でこうやって悶々と考えてるからいつまで経っても喋れないのか?まて、新たな事実を作ろうとするな。現実から目を背けろ!得意だろ!私!

 

 ひとまず独り言をブツブツ言いながら筋トレしよう。

 

 

 

 

 よし!そうと決まれば岩から降りてつかまり立ちの練習から…………………………………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〝岩から降りて?〟

 

 

 

 

 

 

 

 

「……おっふ………」

 

 筋トレは明日に持ち越しになりましたとさ。

 

 

 ==========

 

 

 

 

 

 立ち直りますよえぇ!!いつまでグジグジウジウジしてたって仕方ないもの!

 ダダンさんに頼めばいいんじゃないかって思って大声出したけど誰1人として出てこな…いや、1人だけ出てきた。

 背が低い変な発音する男の人が。名前なんて言ったっけ……

 ドラッグ?

 

 いやいやいやいやそんな危ない名前じゃなかったはずだ。

 

『随分元気で二ーか』って言ったら笑いながら中入ってったよ!ドアホ!

 

 

 いいさ、過ぎたことは過ぎたこと。2人が帰ってきたら中に入れてもらおう。

 

 

 

 さて、空間をイメージしてアイテムボックス的なのを使える訓練しましょう。コミュニケーションスキルは長丁場になりそうだしね。

 

 アイテムボックスにアイテムをしまう…………物は?

 

 物、は…どこ?あるかないかの証明するための物は?物が無いとしまえない、よね?

 あ、そこら辺の小石とかでも良いのか。

 

「……」

 

 と、れ、な、い。

 

 

 

 

 そこらに落ちてる小枝の様に私の心もポッキリ折れたのであった。

 



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第9話 子供の成長期程凄いものは無い

 

 

「あーーー」

 

 あれから約半年後。

 

 そう、半年経った。

 

「にゃん……でじゃ…」

 

 目が覚めてガックリと肩を落とした。

 何故なら──。

 

「まひょ…つかえにゃ…」

 

 口に出してみても現実は変わらないどころか思いっきり現実が突きつけられる気がするけど。

 

 ──リィンさん、実は魔法が上手く使えてません。

 

 使うって意識すると体の血の巡りが変わってるのを自覚するんだけどドバーッて力を出そうとすると意識が途切れる。

 どうにもこうにもならない…多分使えてるんだと思うんだけど!半年間ずっとチャレンジし続けて半年間ずっと成功しない!

 

 うわー…私ってば才能の無駄遣い…。

 

「しっぱいにょ、しゃいのーだけどにゃ!」

 

 そうそう、あれからこんな感じだけどきちんと喋れる(?)様になったんだぜー!進歩だろー!

 

「リー、朝飯」

「しょくす!」

「食すじゃなくて食べる」

「た…たぶ!」

「た、べ、る!」

「た、び、う!」

 

 何故かおかしな発言になって、エースとサボに毎回直されるけど。

 

「たびゅー!」

「たべる!!」

 

 上手くいかないものだ。

 

 

 

 ==========

 

 

 

「リーの成長は著し過ぎやしないか?あたしの経験ではこんなにコミュニケーション取れるガキは見たこと無いね」

 

 ダダンさんが食べながら隣でぶつくさ言う。

 皆さん聞きました!?コミュニケーション取れてるって!嬉しい限り!

 

 涙の訓練──主にブツブツ言ってるせいで周りから変な目で見られる所──の甲斐があったってもんだよ。

 努力って素晴らしい。

 

 滅多にやりたく無いけどね!

 

「そりゃリーは俺の妹だからな!」

 

 へへーんと胸を張るエース。図体が小さいからか可愛いな、ちくしょう。

 

「サボ…きょーはてめぇらなにごとしゅる?」

「ぶふっ!…ゴホッゲホッ!」

 

 米が舞った。空を。

 あれ?なんか変なこと言ったっけ?

 

「リー……いや、俺たちが悪かった。相手を呼ぶ時〝お前〟とか〝てめぇ〟とか呼んでた俺たちが。いいかリー。てめぇらじゃなくて2人とかにぃに…とかにしなさい」

「サボ……あんたどさくさに紛れて洗脳するんじゃ無いよ…」

「兄馬鹿ばかりで二ーか」

 

 口の中に入ってしまったご飯を片付けて反復してみる。

 

「ふ…ぁい」

「ふた…」

「にぃに。」

 

 エースが私の「2人」らしき発言を直そうとする言葉を遮る様にサボが声を被せて来た。

 にぃに?それが常識か?

 

「サボ…じょーしき?」

「ん?あぁ常識だ。だから俺たち2人の事は〝にぃに〟って呼ぶんだぞ?」

 

 サボが言うなら間違いないか。何だかんだと言って2人は世話をしてくれたから信頼してる。

 

 我が身第一自己保身マンだけど。

 

「にーに」

「うん。偉い偉い」

 

 サボが頭を優しく撫でる。

 余談だけどエースはガシガシ撫でるから頭ぐわんぐわんするけどサボの撫で方は何だかくすぐったい。

 

 微笑ましい目で見ていてやろうではないか。年上の余裕ってやつ…だといいな。

 

 なんせ前世の記憶は無いのだから自分の精神年齢が幾つか知らない。

 もう気にしない事に決めた。

 

 日本自体は覚えてるのに不思議なものだ。

 

 そして私では無く周りからの目線が微笑ましい目で見ていてやろうという意識の気がするのはきっと私の気の所為だ。

 

「きょーはなにごとしゅる?」

「何をするのか、だけどな」

「なにをしゅるのかだけどぬぁ?」

「だーー!!違う違う!何をするの?だ!」

「なにをしゅるのだ!」

「もう…それでいい」

 

 エースに諦めた目を向けられた。クスン。リィン、大声で泣いちゃうぞ。

 しかしまぁ、改めて実感させられるけど言葉の壁って大きいな。早く喋れるようになりたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日は俺とエースは中心街に行ってワニ皮を売ってくるよ。森じゃ無いからリーはお留守番出来る?」

 

 森じゃないからお留守番って私の中の常識ではおかしいよな。普通逆だよ逆。

 

「るすびゃん!」

 

 でも留守番ってなんて素敵な響きなんだろう。

 

 森でトコトコ歩くのもいいけど手加減なしのこの2人の速度について行けるわけも無く時々迷って食われそうになって死ぬ気で戻って来ること5回。

 まぁお陰で体力と筋力は付いたと思うけど、味わいたくないね!血の味なんて!

 

「る、す、ば、ん」

「る、ひゅ、ば、んー」

「す!」

「す!」

「はいもう1回」

「るすびゃん!」

「ば!」

「ぶぁ!」

「る、す、ば、ん」

「る、す、びょーん」

「なんで伸ばした………」

 

 言葉って難しいね!!

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

 実はまだ入れる物がないから入れてないんだけどアイテムボックス的なのは成功したんだな!小枝で挑戦してみたらこれが上手くいってすっごい嬉しかったぁ。

 

 

 

 私は今この暇の状態を何をして過ごしているかと言うとダダンさんに新聞を読んでもらっているのです。

 迷惑かけてるだろうけど本人は別に嫌そうにも無いしまぁいいだろうということで気にしないでいる。

 

「……──…──で─…──」

 

 何やら難しい言葉が続き過ぎて私の頭がオーバーヒートするのが先で1部丸々読みきれた(ダダンが)事が無いのだ。

 

「リー、もうギブアップかい?」

「あい…」

「情けないねぇ」

「めんじょくない…」

「面目ないじゃ二ーのか?」

「めんぼくちゃい…」

「原型はいったいどこに消えたん…だ」

 

 きっと胃袋の中です。

 

 ダダン一家とは比較的良好な関係を築けていると思う!

 人攫いだけど優しい人なんだなーと思ってる。暴力振るわれた事も無いし、呼べば来てくれるし、嫌そうな顔はするけどエースとサボがいない間はこうやって見てくれてる。

 

 放任主義の方が好きだけど放任過ぎるとさすがに死ぬから助かってる。

 

「かいぐ、とはなにゅ?」

「かいぐ?」

「かいぎゅん?」

「あぁ、海軍か」

 

 海軍とは前世の知識と似たり寄ったりの所で海の面積と島が多いこの世界では海賊を主とする犯罪者を捕まえてるそうだ。

 警察と同じかな。よぉし、犯罪者になんかならないぞ。

 

 あれ?エースとサボって何貯めてたっけ。

 

 〝海賊〟貯金?

 

 ……気にしない方向で行ってみようでは無いか。どうせ将来は別の道を(多分)進んでいく筈だ。決して(私の)死亡フラグでは無いと信じてる。 

 

 

「リーは大人しくて助かるよ…ガープの阿呆の孫だって聞いた時は鳥肌たったけどねえ」

「がぁーぷ?」

「あぁ、あんたの爺さんだよ。ジジイ」

「じじー?」

「そうそう」

 

 ガープって人…どっかで聞いたことあるような…無いような……。

 

「あ…」

 

 あの人だ。私をここに連れてきた人だ。確かダダンさんが呼んでた気がする。

 そう言えばあの人海兵にさせたがってたよな。

 痛いのはやだなー。しんどいのもやだなー。めんどくさいのもやだなー。

 

 もう働きたくねえ。危険な目に会いたくねぇ!……立派なニートの完成であった。

 

 

「どうした?」

「なにごともそんざいしにゃーよ」

「……何も無いよ、じゃないか?」

「それでしゅた」

 

「なんでこの子は簡単な言葉は喋れないのに小難しい変な言い回しだけ覚えてるんだい…………」

 

 そんな心から呆れた声を出さないでよ。ため息も禁止だ。

 

「がくもんにおーどーなひ…」

「なんか意味が違うんじゃないのか?」

 

 あれ?

 学問に王道なしって学ぶ道は一つだけじゃなくて沢山あるって意味じゃなかったっけ。

 

 

【学問に王道なし:

  いずれかのことを知って、知識を得るためには、基礎から一つずつ学び、積み重ねて 努力しなければならない。たとえ、王様であっても、簡単に知識を得る方法などは、ないという教え】

 

 

 うーん、違ったかな…?まぁいいか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま………」

「…た、だいま…」

 

「おきゃ…………にょぉお!?!?」

 

 エースとサボの声が聞こえてそっちを向くと全体的に傷だらけだった。

 

「にょ!?」

「あ、アンタら2人どこに行ってたんだぃ!?」

 

「ちょっとな…」

「別に関係無いだろ……」

 

 サボが愛想笑いで誤魔化すけどエースは見るからに不機嫌で何かあったことは丸わかりだ。

 

「えーす…」

 

 心配になって思わずクイッと袖を引っ張ってみる。

 

「っ、どっか行け!」

 

 ばんっ、とその手を振り払われ私の軽い身体は簡単に転がってしまう。

 リィン選手、見事な一回転です。

 

「おいエース!」

「…あ………───っ!!」

 

 私を見て凄く辛そうな顔をした後すぐに駆け出してしまった。夕飯までには帰ってきてねー…って、そんな雰囲気じゃないか。

 

「リー…ごめんな、エースに悪気はないんだ…分かってやってくれないかな…」

「んむ!」

 

 大丈夫、と言うように親指を立ててドヤ顔してみたら何故か呆れられた目で見られた。どうも阿呆の子です。いや、孫か。

 

 解せぬ。

 

「ダダン、今日は俺たち外に居るよ。外に野牛置いておいたからそれ食べてくれ」

「あんた達は─」

「エースがあの調子だから心配なんだ」

 

 そう言うと有無を言わさずエースの後を追って外に出た。

 

「………」

 

 仲間外れだ。随分な疎外感。

 ずるいぞ

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日の夜、海賊貯金の付近の洞穴で二人の少年が月を眺めながら話していた。

 その表情に喜びの笑みは全くない。

 

「エース…お前リーに」

「分かってる…」

 

 

 エースはとても悲しそうに目を伏せた。その顔には後悔が見て取れる。

 

「なぁ…サボ、俺、生きてていいのかな……」

 

 ポツリと呟かれた歳に似合わない言葉。

 サボは昼に起こった出来事を思い出した。

 

 海賊王の息子、エースは隠されたその事実に苦しめられている。

 支えれるのは自分だけだ。

 

「当たり前だろ」

 

 サボは迷わずそう言った。

 エースは〝そうか〟と、ただ一言だけ呟くと切れた糸人形の様にパタリと倒れた。

 

 サボは思わず慌てたがスースーと寝息が聞こえるとホッと安堵のため息をついて再び月を眺めた。

 

「親って…何なんだろうな……」

 

 

 長く暗い夜は静かに2人の声を飲み込んでいった。

 




これから段々文字数を伸ばしていきたいと思います

リィンの喋り方は個人的に好きです( ˙-˙ )


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第10話 逃げるのは価値

 

 

「あ…、リー……」

 

 いつもと違うエースの様子。玄関で待ってたら朝に帰ってきました。夜遊びとはいけませんねぇ…この野郎。

 

「……」

 

 エースはふいっと私を無視して部屋に入ろうとする。待てぇい!逃がすか!

 私はすかさずズボンを掴んで捕らえた。

 

「な、なんだよ…」

 

 帰ってきたらまず、言うことがあるだろう。

 

「たじゃいまは?」

「は?」

「たーいま、は?」

「へ?」

「おきゃりなさい!!!」

「「た、ただいま!」」

 

 よろしい。

 私は満足そうに頷くと2人は驚いた顔で互いを見ると思わずといった様子で吹き出した。

 

「ハハッ、そこらの猛獣倒せるクソガキもリーには敵わないってことか」

 

 ダダンさんは笑って私の頭を撫でた。

 家の中が和やかな雰囲気に包まれる。いつもは大人びて見えるエースとサボも年相応の笑みを浮かべていて、なんだか嬉しくて私も一緒になって笑う。

 うんうん、多少のぎこちなさは残ってるけど肩の力が抜けたみたい。平和だなぁ。

 

「確かに、リーには敵わないな」

「あのジジイにも勝てたりし………っ!?」

 

 突然エースとサボは何を思ったのか分からないがわたしをダダンさんから奪い取り辺りを警戒しだした。どうしたんだろ、別に食われたりしないのに……ヒィィィ!?

 

 凄まじい勢いで背筋がゾクゾクとする。なんだろうこの嫌な気配は。

 私のシックスかセブン辺りのセンスが叫んでる気がする!気がするだけかもしれない!!

 

「……エース。俺、今、猛烈に逃げたい」

「サボ……外に出ろ!」

 

 ダッ!と奥の部屋に入り込み隠れる2人。まぁ私も連れられてるから3人だけど。

 

『邪魔するぞー』

『げぇ!?が、ガープさん!?』

『なんじゃげぇ、とは。儂は可愛い孫に会いに来たと言うのに……』

 

「チッ…ジジイが来やがったか…」

「エース、あれがガープって奴か?」

「あぁ、隙を見て脱出するぞ」

「おう…!」

 

 逃げ込んだ部屋で耳をすませばダダンさんが誰かと話している。この声聞き覚えがある、と思えば2人はすっごい小声で会話してる。

 なになに、ガープって爺さんそんなに怖いの?私を拾ったか攫ったかどっちか知ら無いけどその爺さんそんなにやばいの?

 

 それにしても凄まじい危機管理能力ですね…声が聞こえる前に気付くってもう人やめてるよね。

 私のは寒気だけだからちょっと違うんだろうな。

 

 そんな呑気な事を考えるていると会話が聞こえてきた。

 

『リィンは何処じゃ?』

『見つけてどうする気なんだアンタは』

『稽古を付けてやろうと思っての』

『あれはまだ1歳のガキだよ!無理に決まってんだろうが!』

 

 あ、うん。やばい爺さんだった。

 っていうか殺す気か!あのジジイ!

 

 世の中のジジイという分類はまともな奴はいないのか…今のところ海軍の爺さんと堕天使の爺さんの2人しか会って無いけど。

 

「やべぇ……リーが殺される…」

「お前の話を鵜呑みにすると殺されるな」

 

 納得するのは良いけど逃げませんか。

 

『そこかぁ!!』

 

 ってうをぃ!!バレた!?バレたよね!?

 

「っ、リーは殺らせるかよっ!行くぞサボ!」

「あ、あぁ!」

 

 あの…それ、死亡フラグじゃないですか?

 

 そこからの2人の行動は早かった。

 サボが窓を開けたと思ったらエースは私を抱えたまま身を翻して飛び出た。

 待たんかぁ!!って言う声が後ろから聞こえたけどその言葉、逃げてる奴は素直に聞かないからな。絶対待たないからな。

 

 私は抱き抱えられてるから辺りは見えないけどなんか野生の本能的なのがヤバイと告げてる。

 本能抜きに普通に考えたら分かるよばぁぁかぁぁ!!なんで後ろから岩を砕くようなドコォッで音が聞こえるんだよ!! 泣きたい!

 

「んびぃぃ!?おにィ!?」

「鬼ってお前……」

「お?なんじゃ鬼ごっこか?」

 

 ひぃっ!いつの間にかすっごい近くから声が聞こえてる!嘘だよね!あんだけ森を超人並で走り抜けるエースとサボが追い付かれる速さはなかなか居ないと思うんだけど!

 

「くそ、撒けねぇ…っ、サボ!撃退するぞ!」

「正気かエース!?」

「逃げるのは…嫌だ」

 

 その嫌だで私の命が危機に晒されることを忘れないでいただきたい。

 つーがやだよ!何でこんな歩く人間兵器みたいな人と対峙しなきゃいけないんだよ!

 

 この空気から一刻も早く逃げ出したい。

 

「リー…隙を見てなんか攻撃しろ、なんでもいい。お前に気を逸らせれば俺とサボで一気にかかる」

 

 ボソリとエースくんが恐ろしい事を呟きやがりました。私に、あの、怪物を、相手しろと?たった、少しでも、意識を、こちらに、向けろと?

 

 そうこうしている内にエースは私を地面に置くと追ってくるガープの爺さんを睨みつけ隠してあった鉄パイプで殴りにかかった。

 暴力反対とか言ってられませんね。

 

「まだまだじゃの…お前らはまとめて強い海兵になる為に訓練してやらんといけんわい」

「ぜってぇなるものか!」

 

 うーん、なんであの爺さんは鉄製のパイプ相手に怯みもせずに素手で受けてるわけ?筋肉自慢かこの野郎。

 

 気を逸らすってどうすれば良いんだろう。

 ていうかその気を逸らすこと自体を私に任せたってことはエースは少なくともその力を持ってると理解しているので間違い無いのかな。

 となると…やっぱり魔法バレてるか。1番思い当たるのは半年前の虎事件だけど、あぁぁあ!めんどくさい考える事を全力で放棄したいけどガープの爺さんは虐待の行為も恐れずに遠慮なくエースとサボに攻撃を──あ、殴られた。痛そー。

 

 

 って、そうじゃなくて私はこの状況を打破出来る術を探さないと。

 エースは2人で一気にかかるって言ってたけどどうにもこうにも難しいと思う。今だって軽くあしらわれてるし攻撃も全然効いてない。

 

 ただ攻撃を受け止め、ただ殴る。

 ただそれだけの行為を繰り返してるガープの爺さん。ただそれだけ、ただそれだけなのに全く歯がたたない。

 

 私の一か八かの魔法も効くかどうか分からない。そもそも1度も成功してない。しかもすぐに意識を失うから1回限り。

 

 うん、どう考えても危険過ぎる。

 成功の確率は物凄く低くて失敗の確率は凄まじく高い。世の中はこれを無理ゲーと言う。

 

 私は頭の中で算盤を弾く。

 1%でも良いから助かる術を……。聞く人によっちゃ大袈裟だろ、とか思うかもしれない。かくいう私も逃げる前まで思ってたよ、殺されるとか流石にやり過ぎーってさ。

 

 なにこの爺さん遠慮を知らないの?

 

「くっ…」

「化け物かよ…」

「まだまだ現役じゃ、舐めるなよ?」

「だぁぁあ!!!」

「むん!」

 

 やべぇこの爺さん怖ぇ。多分手加減なしだと思うけどエース達を思いっきり潰しにかかってる。2人が攻撃を受ける避けると地面にクレーターが出来るとかもはや人じゃない。

 

「さて、少しは本気でいくか…」

 

 手加減しとったんかーい。

 ってというかもうそろそろいい案を思いつかないと2人の生命の危機を感じる。

 考えろ私自分に意識を集める代わりにあの2人から意識を逸らすやり方を。うん、私見捨てて逃げてもいいかな?

 

「ちっ…!」

「ほれほれ、はよこんか」

「リー…、早くッ」

 

 エースは私の思考を知ってか知らずか、小さく声を漏らす。

 

 だめだ…全く浮かばない……。どうしよう…。私の幼稚な頭、もっと頑張れ!

 

「だぁぁあ!!!」

 

 叫んだ。意味もなくとりあえず叫んだ。

 くぅ…こうなったらあんまり得意じゃないけどやるしかない!魔法以外の方法、たった一つ、効くか効かないかはガープの爺さん本人次第だけど。

 少なくとも魔法の確率にかけるよりは遥かに可能性が高い筈だ!

 

「どぉーー!!──」

 

 私は攻撃を加えるべく走った。まだ足元がおぼつかないけどガープの爺さんに向かって走って

 

「──どべっ!」

 

 コケた。結構派手に。

 

「リィン!?」

 

 ガープの爺さんは心配してかどうなのか知らないけど派手にコケた私を心配して駆け寄って来た。エースとサボはその後ろでオロオロしてるのを感じる。

 

 よし、もしかしたらいける気がする

 

 私はニヤリと笑うと地面を見たまま必死に辛いことを思い浮かべた。狭間に落ちたこと、堕天使に出会ったこと、虎に追いかけられたこと、1人で猛獣から逃げたこと。

 

 めちゃくちゃ泣きてぇ………。

 あれ?必死にならなくても自然と涙が出てくるな……ぐすん。

 

 普通なら我慢するべき所だけど今回は涙を必死に溜める。

 

 鬼が笑うか泣くかは私の腕次第。──勝負の時間だ。

 

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

「どべっ!」

 

 リィンが、転んだ。サボは心の中で簡潔に結論をだした。足元の小石に引っかかったんだろうと思う、それはもう派手に転んだ。1m程滑った、絶対痛いと思う。

 ……だってここは森の中だから。絶対痛いだろう。

 

 サボは痛そうに眉を顰めて、近寄ろうとしたがガープの方が先に動く。

 ガープ自身、一瞬狼狽えたが慌てて駆け寄った。しかしその手がリィンに触れる所で、ガバッと勢いを付けてリィンが体を起こし手が引っ込んだ。

 

「(ほ……良かった)」

 

 サボはとりあえず安心した、と息を吐く。

 額に擦り傷を作ってその瞳に涙を沢山溜めて、誰が見ても泣き出す寸前だった。その様子にエースが駆け寄ろうとしたが、サボは動かない。

 

「(ん?)」

 

 理由は違和感を覚えたから。

 

 泣くのを我慢しているけどその目には何処か普通の子供には有り得ない光が灯っていた。ゾクリと悪寒を感じるほど、獰猛な気配。毛穴という毛穴が広がる感じ。思いすぎ、の可能性だってあるけどどうしても思えなかった。

 

「(あ、俺に似てるんだ。何か企んでる俺に)」

 

 エースを引き止めて様子を伺う。

 

「お、おいサボ…」

「しっ…!」

 

「じじ……」

「お!?」

 

 自分が呼ばれたのだと思ってガープの声の高さと表情が変化する。

 

「────じじなんかだいっきりゃい」

 

 その時のリィンの顔は真顔、無表情、とにかく敵のはずなのにガープがちょっとかわいそうになるくらいの攻撃に出た。

 

「………」

 

 さっきまでドタバタと駆け回っていたガープが1ミリも動かないくらい、その攻撃はショックだったんだろう。ガープの顔がこの世の地獄を見た様な顔になっている。

 

 おじいちゃんの孫愛ってここまで効果あるのか…。サボは遠い目をする。

 

 それと同時に疑問も。そこまでショックを受けるものなのか、想像上で再現してみた。

 

『サボなんてだいっきりゃい!』

 

 自分に置き換えて見たらマジで泣きそうだ……。試してみた数秒前の自分を殴りたいくらいに。

 

「リー、エース、行くぞっ!」

「え?ぁ、あぁ…」

 

 サボと同じこと考えたであろうエース。…彼も顔面蒼白になっている。

 その様子に察したサボはリィンを抱きかかえて直ぐにその場を離れた。森は庭も同然、精神的ダメージを負ったガープから逃げるのは簡単に思える。

 

 ──なんというか、えげつない作戦だな。

 

 サボはドヤ顔をしてる自分の妹の将来が不安になった。小悪魔になんかなるなよ…──

 

 

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 ふーー!逃げれたー!!怖かった!超怖かった!

 様子見に来るガープの爺さんってひょっとして子供好きなんじゃないかなって思ったから多分子供に言われて嫌な言葉TOP10の中のどこかから抜粋しました!

 まだ心臓がドッドッドッドって高速で動いて痛い。

 

「……」

 

 2人がこっちを責めるような目で見ているのは納得いきません。

 



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第11話 我慢なりません

 

 私は2歳に、エースとサボは8歳になり、運動量も増え、食事量も増えた。

 

 山賊の家での生活1年目、私は我慢の限界を迎えていた。

 

 

 それは───

 

「───おいしきごはんがたべちゃい!」

「ど、どうしたんだよいきなり…」

 

 ガープさん突撃の時から私は危機感を感じてせめて森の中で安定して走れる様に、と3人でえっさほいさ走っていた。ちなみに私と2人の間には数メートルの空間があり、私の足が遅いことを物語っている。第一、2歳と8歳の差っていうのはどう足掻いても埋められねぇよちくしょう。

 

 先行するエースが私の声を聞いて振り返り声をかけた。

 

 私は我慢ならなかった、毎日毎日焼いたお肉、脂っこくベトベトするあの悲しすぎる食生活!バリエーションが欲しい!甘い物が欲しい!カレーが食べたい!コロッケが食べたい!サラダでも良いから食べたい!

 

 とにかく不満で堪らなかった。

 

「もっと、もっとおいしいごは──ゲホッ!ゴホッ…はぁ…はぁ」

「バカ、体力無いくせに喋りながら走るなよ…」

「リー大丈夫か〜?」

「サボ、休憩にするか」

「あぁそうだな」

 

 走り始めて10分後の出来事であった。

 

 

 

 ==========

 

 

 

「で?おいしいご飯、だっけ?」

 

 なんだかんだと要望を聞こうとするツンデレエース、大好きです。

 

「うん、色んなものがたべちゃい!」

「色んなものなぁ…でも俺ら料理作れねぇもん」

 

 そんなもの百も千も承知だよ、むしろ作れないから悩んでんだろ。

 

「しょくもつをあいしゅるよりもせいじつなあいはない!」

「なんだそれ」

 

「人はしょくにこだわるからこそ!あいぞうまれる!いまこのげんじょーはどうだ!ただにくをやくだけ!それはあいじゃにゃーい!ひとをあいするにはまずしょくじから!」

「わ、分かった、分かったから落ち着け」

 

「そうは言うけどどうするんだ?」

 

 川から水を汲んでサボがやって来た。ちゃんと会話が聞こえていたようで何より。

 

「ちょーみょー」

「調味料、な」

「チョーミリョー、がひっす!」

「必要」

「ひちゅよー!」

「つ」

「ひつゆーよー!」

「違う」

 

 難しい。

 

「それって塩とか胡椒とか?」

「そちら、そんざいしゅるん?」

 

 調味料一つで料理にバリエーションが増えるから凄く欲しい。無かったら探す!私は死にものぐるいでも探してやる!

 

「ダダンの家には……………無いな」

「あぁ、無いな」

 

「おーまいごっと……」

 

 思わず落胆してしまう。こんにちは地面さん。今日も可愛いね、口説いちゃうゾ。

 

「グレイ・ターミナルにも無いだろうな」

「にゃいの!?」

 

 もしかして調味料って貴族とか王族とかそれ系のお金持ちの人しか手に入らないのか!?

 

 いや、それでも諦めないぞ…諦めてたまるか!日本人の食に対する追求心と執着舐めるなよー!

 

 

「にぃに!きょうりょくようせい!」

 

 

 

 

「普通に協力してっ言えよ言語不自由娘」

 

 そこには触れないで下さいツンデレ。

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

「よし、これで大丈夫か?」

 

 2人がワニ肉と木の枝を探しに行って貰ってる間。私は料理に使えそうな薬草や果実など色々集めてアイテムボックスに入れて、集合する場所に散りばめいかにも頑張って集めました、という感じに置いてある作業をして待っていた。

 

 肉が比較的柔らかいワニ肉が今日の夕食だ。

 ダダンさんは台所に入らせてくれないから今日はこっそり外でレッツクッキング、だけど…。

 

 果たして私に出来るのか否か。

 なんてったってサバイバル。そんな知識なんてありません。

 

 

 だがしかーし!私には奥の手というものがある!

 

 フフフフフ…半年間頑張りましたよ、えぇ。

 

「リー、この木の枝どこに置く?」

「ここ!ここだじょ!」

「じょ?」

「おさわりきんし」

「どこで覚えたそんな言葉!」

 

 あり?核心を突かないでって意味これじゃ通じない?

 まぁいい、私はとりあえず魔法(仮)を操作して岩を削った。お鍋の形に。

 

 ある作業とはズバリ鍋作り!私、ついにやっと使えるようになったんだよ!これぞ奥の手!……集中し過ぎて頭痛くなるけど。

 2人は驚いた顔をしてたけどもう知ってるのか深く追求せずに作業に移った。

 

 長かった。一年かけてやっと今まで使えなかった謎が解明したんだ。

 

 まぁその理由は1回に全力を使い過ぎてオーバーヒートしたってだけだったんだけど…。『あれ、これって威力抑えたら出来るんじゃね?』とか思って意識して抑えたらすぐにちょっとした魔法(仮)が使えるようになった。私の1年間を返してください切実に。

 マラソンの距離を走ろうとしてるのに50メートル走のスピードで走って倒れてしまう現象を飽きもせず毎日続けてたらそりゃ出来ませんわな。泣きたい。

 

 でもなんで一番最初に使えたんだろう。ちゃんと使える事を確認できたくらいには少ない火種だった。きちんと力をセーブ出来てたんだと思う。

 まぁ過ぎた事は過ぎた事。何とも不思議な力ですよなぁ…。

 

 日本で暮らしていた時はこんな力は夢のまた夢の力で本や漫画やアニメの世界だった、はず。

 記憶が混乱してるのか、本当にあったかどうかちょっと不安だけど確かあったはず。

 

 残ってる記憶ってのも微妙なものばかりだ。私の名前も容姿も家族も好きな物も全く覚えてない。景色もぼんやりとしたものばかりだし、私を特定できる記憶ってのが無い。というか段々薄れる。こっちの世界が濃すぎて。

 まぁそれでいいけどね。変に記憶残ってたらホームシックになりそう。

 今の家族はこの2人でいいや。

 

「ん?どうしたリー」

「何でも二ーよ〜」

「何でもない、だろう」

「それでしゅた」

 

 ヘラッと笑えば笑い返してくれる2人。大変な事もあるけど幸せだな。

 

 そこらで拾った野菜モドキを用意しておく。ちなみに毒味…もとい、味見は2人にしてもらったから大丈夫だと思う。後で企みが露見して怒られたけど。

 

 トマトの味がする野菜は風を使ってゴロゴロした形に切っていく、ちなみに包丁はエースとサボが肉の解体に使っているので使えません。

 こんなんだったらあらかじめ三つ用意しておくんだった。

 

 枝に火をつけ水と薬草とトマトモドキを煮込むといい香りがしてきた。薬草は多分ハーブとかミントだと思う。ちゃんと味見は済んでるよ、2人が。

 

「リー、ワニ肉こんな感じか?」

「うん!ここにとうにゅーして!」

「おう!」

 

 後はただひたすら待つだけの簡単なお仕事。はぁ、お腹空いた。

 

「リーの能力って万能だな」

「だね〜!」

「俺たちも欲しいな…」

「だね〜!──…ん?ほしい?」

 

「当たり前だろ、便利なんだからよ」

「にぃにはもってない?」

「そんな簡単に能力者がいてたまるか」

「なん…だと…」

 

 ここに来て衝撃の事実。当たり前だと思ってた異世界常識が実は非常識だったとは……。定石(セオリー)でしょうよ魔法っつーのは!

 判断ミスだ…言うんじゃなかった、っていうか使うんじゃ無かった。

 

「ないみつに!ないみつにするがさいりょう!」

「内緒、な?」

「うん!ないしょー!」

 

「ん?さい、りょう?」

 

 レッツ口封じ。私は目立つつもりはサラサラ無いのでな、バレたら狙われる可能性だってある。

 

 異質の価値が高いっていうのは多分世の中全てそうだと思う。

 絶対隠さないといけない。

 

グツグツと音が耳に残る。不快な感じは無く気分が高まり、出来上がりをまだかまだかと楽しみにしてたら〝危ないぞ〟とサボが言い、私はエースに引っ張られるまま膝の上に座らされた。

 子供扱い解せぬがそんな事でキレる程ガキじゃないさ。

 

「そう言えば、リーってリィンって言うんだな」

「いま!?いまにゃの!?」

「いや、半年前ジジイが言ってたの聞いて…」

「おしょくなき!?」

 

 てっきり愛称で呼んでいるとばかり…あ、そういえばそうだったか…ちゃんと喋れなくて名前曖昧なまま流してたな。

 

「なぁサボ、もうそろそろ頃合じゃねぇかな?」

「ごはん?」

 

「ちげぇよリー。グレイ・ターミナルの事だ」

「あー、まぁ…。でも早くないか?せめて4…いや、3歳くらいになる迄待った方が…」

「コイツだって充分走れるぜ?」

「だけど…もし危険な目にあったら─」

「─俺たちがカバーすればいいだけの話だろ」

 

 話の流れがよく分からないけど2人は私の居ない間に何かの話を進めていたみたいで真剣な顔で言い争ってる。

 ぐれいたーみなる?に行くか行かないかってことかな?

 

 

 にしても危険だとか単語が飛び交ってるけど…そこって危険な場所なの?

 危険な場所なら行きたくありません。

 

「じゃあせめてリーがもっと早く走れる様になってからにしろよ!」

「っ…で、でも」

「エース、お前何を焦ってるんだよ。あと10年もないから焦ってるのか?」

「ち、違っ」

 

 何で喧嘩になってる。

 

「お前こそなんでリーの実力を認めようとしねぇんだよ!」

 

 私の実力は狼に出会うと一目散に逃げ出す実力です、狼だけじゃなくて蛇レベルでもだけど。

 

「そりゃ認めてるさ!でもガキには変わりねぇ!」

 

 いやお前もガキだろ、とかツッコんじゃダメだろうな…よし、空気になろう。

 触らぬ神に祟りなし、だっけ?

 

「じゃあどうしろってんだ!リーが空でも飛べりゃ満足かよ!」

「無理を言うなよ!とにかくまだ早いに決まってるだろ!」

 

 

「…それだ」

 

「「は?」」

 

「それだ!いいことおもいちゅきた!」

「リー?」

「そらににげればさいきょー!」

「あの、リー…ィンさん?」

「そーぞ、わざわざもうじゅーあいてにはしるなくてもいいのそ!うむ!べうのほーほーでにげればいいんじゃにゃきか!」

 

 なんで思い浮かばなかったんだろう!私には魔法(仮)があるんだから!今のところ私が想像することは大体実行出来てる。

 

 『せいぜい〝集中力〟を高めて〝想像力〟と〝思い込み〟で何とかせい。人生それで上手くいくわい』

 

 実行は集中。

 策は想像。

 思わず忘れかけてた唯一のアドバイスらしきもの!あ、ごめんね堕天使様。あなたを怨むあまり忘却の彼方に飛んでいってたわ。

 

 とにかく想像力さえあれば上手くいく!猛獣相手に見つかった時は上から攻撃をバンバンしてったらいいんだ!んでいざとなったら逃げる!

 自分の身も守れて役立たずも回避。素晴らしい!私は自分の発想力に恐れおののくよ。私流石。

 

 

「「…」」

 

 シリアス破壊の空気を察してか、喧嘩してた2人は遠い目をする。喧嘩するのも馬鹿らしくなったんだろう、おずおずと頭を下げた。

 

「悪ぃ……」

「いや、俺こそ……」

 

「あ、ごはん」

 

 空気の読まない発言にも関わらず用意してくれる2人。大好きだ馬鹿野郎。

 

「「「いただきます」」」

 

 パクリと口に含む。

 

 ふむふむこのドロドロとした舌触りにお肉の柔らかい食感が合わさり苦味を伴った味付けが何とも言えなず押し寄せて来る吐き気に身を任せて。

 

「ぐぼはぁっ!!!」

 

 一言で片付けると『不味い』だ。

 

「こ、個性…的な味だな……」

「お、おうそうだな」

 

「へたなはげましはポイして」

 

 

 

 料理の道は険しい。

 

 




とりあえずリィンはトマトが嫌いになった。


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番外編1〜桜〜

番外編は小話です。
リクエストや誕生日中心に書きたいと思ってます。
本編と関わりの無い話の場合はあらかじめ(※本編と関係ありません)と書くつもりです。


 

「んぎゃぁぁぁあぁあ!!!」

 

 ポカポカ陽気のこの季節。

 そして喉も痛めそうな程リィンさんは叫びあげてございます。

 きっつい、何がきついかって、エースの攻撃避けてる所が一番きつい。むしろそれしか原因はないけど。

 

 そもそも小学校高学年の拳を幼稚園児が受けるって事だよ。考えられる?普通避けれる?無理でしょ?

 だが、私はただのガキじゃない。

 

 ある日天国にも地獄にも行くことを失敗してしまった私は時空の狭間という所に落ちてしまったらしく、そこで堕天使様(笑)と出会った。

 ちょっとした裏事情を聞きながら相槌打ってたんだけどなんとあの堕天使様は私を記憶を持った状態で転生させると言うではありませんか。

 

 記憶と言っても前世の名前など覚えてすらいない。家族も友人も何もかも覚えてはいない。ただ漠然とした知識と思考能力と精神年齢と狭間でのやり取り、その程度だ。

 

 

 目覚めた私は赤ん坊になっており、季節が1回りする頃母親から離れた。

 それが向こう、前世の世界でいう警察、海軍の中将である英雄ガープに引き取られたからだ。私は2年間スクスクとエースとサボという頼りになる兄と一緒に生活を幸せに送っていた──

 

 

 ──筈だった。

 

 そこまででもタダのガキじゃないと思うけれども私には想像力と集中力で生み出される魔法(仮)というとても厨二臭い能力を使えるのだ。

 特別何かしたわけでもない。一度死んで堕天使様に会っただけの私は常識外れだと思う。自分で言ってて悲しくなるよね。

 

 

「リー、よそ見してたらやられるぞ」

「ほへ?──っぷぎゃ!」

「おぉ、ナイス回避……リー頑張れ!エースをボコボコにしてみろ!」

「サボはわたしに死ねと!?」

 

 こうなれば奥の手を使うしかあるまい…

 

「とうぼうはしょうり!」

 

 猛ダッシュでこの場からにげる事だ!

 

 

「逃げるが勝ち、だろ」

 

 背後の声には聞こえないフリをして培った体力で走り去った。

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

 

 

 

「……わぁ…」

 

 感嘆の声が自然と口から零れた。冒頭でも一人語りしたが私には前世がある。日本と言う所に住んでいた。

 

 目の前に映るその景色に涙を一筋流した。

 

「さくら……───」

 

──ザァ…

 

 強い風が吹いて花吹雪がヒラヒラと舞い上がる。

 私は詩人でも何でもないからこの感動をどう表現すれば良いのか分からないけど、とても綺麗。ただその一言にしかまとめられなかった

 

 桜の大樹が1本。周りの緑に侵食されず悠々と咲き誇ってる。命とも言える花弁を撒き散らしながら美しく、凛と。

 

 日本人はきっと桜に弱いんだと思う。懐かしい、懐かしい。

 

 

 

「あ、リー………ィ"!?」

 

 振り返るとエースとサボが駆け寄って来たが私の顔を見てぎょっとした顔をした。

 なんだそんなに醜い顔をしてるのか私は。

 

「ご、ごめんな?にぃちゃんが悪かったから…」

「?」

 

 何がだ?

 ………。

 

 あ、そっか、私今泣いてたっけ。これは悪いことしちゃったな。

 

「ひてい!さきゅらかんどうしてなみだポロりした!」

「テンパるな言葉がおかしくなってるから」

「ちがうぜ、さきゅらかんどうしてなみだドボンしたぜ」

「……………この、阿呆が…」

 

 もう諦めろ。

 

「だんこたべちゃい………」

「リーは飯しか頭に無いのか」

「ひてい!───……は、しにゃぃ」

「しろよ…」

 

 最近エースのテンションの浮き沈みが激しい気がする。

 どう考えても原因は私ですね!

 

「じゃ、帰って飯にするか?」

 

 サボが手を差し出して首をかしげた。

 あ、手か…恥ずかしいけどまぁいいや。

 

「かえりましょー!ごはんにしましょー!」

「ご機嫌だな」

「さくらはいけんありがたやしたからね〜!」

「よぉし分かった。帰ったら飯の前に勉強だ。その理解に苦しむ単語を直すぞ」

「べんきょーはメッ!」

 

「メッ、じゃねぇだろ」

「リー、直すんだ」

「ぁぃ……」

 

 

 エースがサボの反対の手を取る。二ヘラと笑えば頭のおかしな子を見る目で見られたがちゃんと笑い返してくれる。

 

 

 

 

 

 

 

 拝啓 名前も知らないお母様 お父様───

 

 

 ──私は幸せです。

 

 

 多分と一応が付くけど。



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第12話 死に目負い目遠い目

 

 

「やっぱりほうきだと思う!」

 

「何がだ」

 

 そんな言葉で始まった1日。

 生憎の空模様だがノープロブレム。森の中を走り続けます。

 

 

 私はノープロブレムじゃないんですけど……。

 

 まぁいいさ。一番の問題はそこじゃない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「グォオオオオオ!!!」

 

 後ろから追っかけてくる熊が一番の問題でした!こんな愛されは望んで無い!

 

「くそ!こうなったら!」

 

 丈夫そうな枝を拾って全身に力を巡らせる。魔法(仮)を使うみたいに枝に向かって力を込めて…──

 

「……」

 

 ───不発!!

 

 こんにゃろ!上手くいかない!うんともすんとも言ってくれない!なんて意地悪な!

 

「ガァァアアアア!!」

「うにょ!」

 

 ヘンテコリンな悲鳴を上げながら避けるが間に合わない。走馬灯さんこんにちは。何度目かのご挨拶。

 

「おりゃ!!!」

 

──ガインッ!

 

 エースが身を翻して熊に攻撃する。私がピンチになったからだろう。

 

 強くしてくれようという心意気は感謝してますけど私はそんな強くなりたいわけでもないんですが……。

 今更どうこう言ったって無駄だと思うから心の中で盛大にぶつくさ言わせてもらいますよー!!ちくしょう!

 

 

 ==========

 

 

「まだまだだなぁ…」

 

 サボはよしよしと言いながら息を切らしてヒューヒュー言ってる私の頭を撫でる。

 く、苦しい。全力疾走苦しい。ドッドッドッドッって心臓がうるさいくらいに動いてる。

 

 魔法(仮)使う時と似てるなぁ…。体力付けたら使える威力も上がるとか?

 いやいや、それは無意味だと思う。自分で考えておいてなんだけど集中するかしないかで出来る出来ないが分かれたんだ、きっと体力付けるよりも集中力付けた方が私の殺り方に合ってる。きっと、いや、絶対そうだ。

 

 と、まぁ理由付けてサボりたい私は今日も元気な模様です。

 

 

 病気になりたい…。

 

 こういう時こそ便利な道具に頼りたくなってくるよね、タケコプターとかどこでもドアとか。どこでもドアあれば遠くにすぐ逃げれるじゃん。タケコプターあればすぐ飛べるじゃん。

 

「今度は何を思い付いたんだ?」

「きゅうえんもとむー!!!ド〇えもーーん」

「誰だおい」

 

「みんなのせいぎのひーろー…はアンパ〇マンだった…。べんりや?えーっと、ぱひぃり?」

「俺はそのド〇えもんが可哀想に思えて来た」

「かれはそういううんめいらそ」

 

 頑張れ僕らの…って、また話が逸れてる。脱線事故脱線事故。きちんと本線に戻ってくれないと困るよ。

 

「じゃなくて、そらをぴゅーってとべるなれば、きっとにげるかのう!」

 

 熊に鰐に虎は私の中の常識では猛獣に入ります、やめてください。

 そんな猛獣相手に2歳児を単身で放り投げる君たちの常識は、おかしいとしか思えない。異世界怖い、どこの戦闘民族だ。やめてください。

 

 とにかく、それが常識であろうが無かろうが、私は『命を大事に』精神です。『ガンガン行こうぜ』は誰も命令してない。『呪文を使うな』もピンチだけどそれは訪れてないから良しとしよう……いや良くねーよ。

 

 良いか私は所詮モブキャラなんですよ!おてんば姫みたいにガンガン行かないんですぅ!馬車で待機したいんですぅ!更に望むのなら行ってらっしゃいとかって勇者達見送ったり頑張れーとかって応援してる下町の娘Cとかがいいんですぅ!

 

 

 

 ……閑話休題(それはさておき)

 

 

「出来るのか?」

「うたがうくらいならしでかせ!」

「仕出かすな、実行しろ」

「じっきょうする!」

「俺らがやるわけじゃないんだからお前が実況するんじゃねぇよ……」

「リーの言葉は面白いな」

「ぎぇせにゅ…」

 

 実行と実況が似てんだよ馬鹿野郎…。きっと言葉の違いのせいだ、絶対私は悪くない。

 

「れんしゅーあるにょみ」

「あるのみ」

「あるにょに」

 

 私は諦めない。

 へっぽこスキルを完璧にするのを…─

 

「なんでこいつは訂正する程おかしくなるんだ…」

 

 ──あ、諦めない!悔しそうに呟くエースの言葉なんか聞こえない!

 

 突如耳が遠くなるのは自己防衛だと信じてやまないリィンさんです。

 

 

 

「リー立てるか?」

「あい!」

 

 言われた通り立ち上がると首根っこ捕まえられ木の上に登らされる。

 ちなみに私が自主的に登るんじゃなくて下から登れって威圧感かけられてるのね。私の年上のプライドって…──あ、今は私が年下か。

 

「よっと」

 

 私が重い体を持ち上げてうんしょうんしょと登った後でストンと軽々サボが登ってきた。もう何も言うまい。

 

「………!」

 

 そして目の前に見える景色に驚きの表情を隠せないで目を見開かせた

 

「あれが───グレイ・ターミナルだ」

 

「俺たちが良く行ってる所だよ」

 

 

 やはり私はこの世界の常識が間違っていると思う。普通の子供がこんな場所に来ていい筈がない。

 確かに地球にもこんな場所があると思う。子供やお年寄りがこんな場所にいると思う。でも、それは外国の話で、日本には絶対こんな光景見れる訳がない。

 

 

 グレイ・ターミナルが都会?こんなのが都会だったら私は言葉を習い直さないとならないと思う。

 

 

「………」

 

 空いた口が閉まらない。まさかと思うけどこんな場所がうじゃうじゃあるの?それともここが別なだけ?どうしてこんな場所が存在するの?

 

 

 ───グレイ・ターミナルはただのゴミの塊だった。

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

「エース…サボ…」

 

 グレイ・ターミナルで私達は散策していた。子供がこんな場所にいていいはずがないんだ。帰ろう。ねぇ帰ろう?

 

「……──…」

 

 ジロジロと辺りからの視線が痛い。ガヤガヤと耳障りな音だけが耳に残る。エースとサボの背中だけが見える。ヤダー!怖いんですけどー!……テンション上げても無理なものは無理。

 

 ここにいる人は確かに人間。何かしらの事があってこんな生活をしてるんだと思う。

 頭の中では理解しているのに心が同じ人間だと認めたくないみたいにブルブルと小刻みに震えていて、鼻につく腐った臭いが吐き気を誘う。

 

 私、最低だ。私よりずっと必死で生きてる人を軽蔑してる自分がいる。汚い臭い気持ち悪い怖い。そんな場所での生活なんて私には耐えられない。

 

 

 前世の知識だけどこういう所は有害物質があるからなるべく長い間空気を吸わない方がいいってテレビが言ってた気がする。

 危険以外なにものでもない。

 

「はぁ…早めに帰るか」

「そうだな」

 

 ふとエースが声をもらした。その声に便乗してサボも呟くと私を抱き上げ、不安そうに聞いた

 

 

「リーごめんな?怖かっただろ。森とは違う何かが学べるかと思って来たけど、怖いなら仕方ないよな」

「サボ……」

 

「リー、俺達は少し用があるんだけど…ここからダダンの所まで一人で帰れるか?」

「むぼう!」

「だよな」

 

 知ってた、と言うようにエースが頷く。

 

 無理に決まってるじゃないですか。

 

 

 過去に熊さんに追われて喰われそうになったの覚えてないんですか。虎に突進されて骨折れた経験覚えてないんですか。牛に踏まれたの覚えてないんですか。

 

 

 

 

 今、事実に気がついた。

 ……あれ、ひょっとして私ここの人より命の危機にあってない?必死に生きてない?ここよりずっと怖くない?

 数分前まで震えていたけど思い返すともっと震えた。

 

 なんだ、なんだ、そっか、なぁにビビってんだか。

 

「ここヘーキ!」

「強いなリー」

 

 私は強くなりたくない。どっちかと言うとヘタレでビビりで引きこもりたい私は弱い方がいい。無条件で守られやすくなるから。

 力はあって役に立たないことはないけど力を見せびらかして無駄な危険を引き寄せるのは大っ嫌いなんです。

 

 戦闘に参加させられる女勇者と城で守られるお姫様、どっちがいいですか?私は命の危機などないお姫様の方がずっといいです。心の平穏の為にも。

 

 

「なにようぞ?」 

「あぁ、ここに住んでる爺さんに用事があってな」

「俺たちは食料を、爺さんがここで拾った便利そうなものをお互い交換してるんだ。」

 

 サボはいつもエースの言葉に説明を付け足す。私でも理解出来るようにしてくれてるんだろう。ありがたや……。

 

「なんでリーは拝んでるんだ?」

「サボ、俺に聞くな。分かると思うか?」

「ごめん」

 

 ちょっとそこになおれ。

 

「あ、リー。ここだよ」

 

 家とは到底言えない住処に着くとサボはスグに声をかけて扉を開けた。

 

「おじゃまします」

「邪魔するぞ爺さん」

「おじゃしまましゅるぞ」

 

 言うまでもなく、妙ちくりんな言葉は私だ。




お気に入りが着々と増えてて何の差金か気になっています恋音ですどうもこんにちは。


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第13話 歯車

 

 ギギッと木の古い音が響く。部屋に入るとこのゴミ山であるグレイ・ターミナルに似合わない。和服に似た白がベースの上着に薄茶色のズボン、そして下駄という『普通』の格好をした男の人が椅子に座って刀を研いでいた。

 

「なんだお前らか……」

 

ㅤ栗色の髪の間から除く紺碧の瞳がエースを捉える。

 

「爺さんなぁ…折角兎取っ捕まえて来てやったのにその物言いはあんまりじゃ無いのか?」

「ほら、そこら辺に転がしてあるのが今回の収穫だ。役に立つもんがあれば持ってけ」

 

 エースが手に持った兎を渡すと爺さんは部屋の片隅にあるガラクタを指差して言った。

 よく分からんが刀あるくらいなら自分で狩った方が早くないですか?

 

 そんなことを考えながら私はそろーっとそのガラクタの山に近寄って眺める。色々あるんだな…──楽器にナイフに食器?

 汚れもあるけど洗えば使えない事も無い。前世の道具と比べてボロボロだけれども。

 

 

「サボ……これ」

 

 私は目に入った今1番欲しい物を手に取る。

 少し汚れが目立つが趣のある物だ。

 

「リーこれ欲しいのか?でもこれくらいならダダンに言えば貰えるんじゃ…」

「こりぇがいい」

 

 間髪入れずに返事をするとサボは「仕方ないな」と言いながら兎を受け取っているフェヒ爺に視線を向けた。

 

「………分かったよ、……フェヒ爺!これいいか?」

「なんだそんなゴミか?」

「ふぇふぃじー………」

「どうした小娘」

 

「ふぇひぃじー、ちょーだい?」

「…分かったから、さっさと持っていけ」

 

 随分と若い爺さんなんだな。見た目的にお父さんで通してもいける気がするけど…何歳なんだ。

 

「本当に…〝箒〟なんか何の役に立つのやら…」

 

 箒でする事はただ一つ。空を飛べる様になるためさ!

 思い込みで干渉できるこの能力。集中力も必要だが私の中で『空を飛べる箒』と『掃除をする箒』は全く別の物だ、そのせいで想像力が欠けてしまってるのかもしれない。ならばより想像しやすい箒を。やらずに後悔するよりやって後悔しろ、だ。何事も色々なパターンを想像し無ければ。

 

「きびゅんのもんだぃ、だから」

「きぶん、だろ?」

「きびゅん」

「ぶ」

「ぶ」

「はい復唱」

「きびゅん!」

 

「だめだコイツ……」

「なぬぃをいましゃらな!」

「開き直るな!」

「あ、フェヒ爺、いつもこんな感じだから気にすんなよ」

 

「お前らも苦労してんだな…」

 

「もぉ?」

 

 ふと気になって聞き返すとフェヒ爺はフッと頬に皺を作って笑う。

 

「なぁに、少々昔の事だ。俺も海賊やっててな…エースとサボは知ってるが」

 

 コクリと2人が私の両側で傾いた。

 

「そこにいた変な女が時々意味不明な行動と言動を起こして、まぁ一緒に騒いでたけどよ。とりあえず面倒な女には気をつけるこったな」

 

「フェヒ爺、俺らその話知らないぞ?」

「そりゃ言ってないからな」

 

 フェヒ爺が歯を見せて笑うとエースは知らなかった事実に不機嫌そうに頬を膨らませた。

 

「今頃何をしてるのか知らないがどーせ馬鹿やってんだろうよ」

「………………しゅき?」

「…………は?」

 

 唐突に声を掛けると間の抜けた声がけ帰ってきた。

 不自然な間があったぞ爺さん。

 

「おいおい何を言ってんだ小娘。誰が、あの、馬鹿を、好き、だって?」

「ふぇひぃじーが、へんに、おんにゃを、しゅき?」

「変に、じゃなくて変な。だからなリー」

 

 相変わらずエースの訂正が飛んでくる。

 わ、わざとだもん!わざと間違えたんだもん!

 

「ガキが色気づいてんじゃねーよっ!ほらさっさとどっか行け!」

「ひきとめちゃのはふぇひぃじー!」

 

 会話を持ち出して来たのはそちらなので私は悪くありません。

 

「こ…っの、クソガキ…」

 

 額に青筋立てて見て取れる様な怒りを背中に背負っている。

 おお怖い怖い。

 

「こうけつあつはからだにあくいでしゅよー」

「悪意じゃなくて悪いだろうが!っつーかお前がその高血圧にさせてんだろ!」

「まーまーおもちつきましょー?」

「よぉし、ぶん殴る。このガキぶん殴る」

 

「フェヒ爺!ストップ!リーまだ2歳!2歳だから!」

 

 拳を握ったフェヒ爺にサボが止めようと必死にしがみつく。

 あら〜、大変でございますわねー。

 

 呑気に構えてる私を睨みつけるフェヒ爺。不思議と恐怖は感じないからそのまんまでいることにした。

 

 人をおちょくったりする時の顔の歪みは誰であろうと面白いものだ。もっと見たい(ただし時と場合と人による。ある意味怖い)

 

「この程…殺気に反応…な……なら」

 

 ゾクリとした寒気、よく分からんが回避!!

 

「………チッ」

 

 横に飛び退いたら前に居たはずのフェヒ爺が後ろで刀を振り下ろして舌打ちしている。やだなに怖い。え、お爺さん何してくれちゃってんの?殺人未遂?やだ怖い。

 

「ほぉ…これを避けるか…───コイツは…─…───…」

 

 ブツブツと何か言ってる。どうやら頭がおかしくなった模様だ。病院行きますか?精神科。

 

「おい子娘。今すっげえ失礼な事考えたろ」

「エースぅサボぉ、ふぇふぃじーこわいぞりー」

「このガキ………っ」

 

 背を向けて逃げ出そうとすると首根っこを掴まれる。

 勘の鋭い奴め…まさかエスパーか!?

 

「エスパーじゃねぇよ」

「なにゆえこころよめりゅ!?」

「うっせぇ!!顔に出てんだよテメェは!」

 

「サボ、これ止めた方がいいのか?」

「俺面白そうだから見てる」

「……お前なぁ…」

 

 さり気なくサボが傍観の体勢に入った。エースは呆れ顔。どっちの反応が一体正しいんだ。

 

「はものはひとにむけちゃ、いけましぇん!」

「人を斬るために刀持ってんだよ!」

「さつじんじけんきんひ!」

「俺の自由を禁止すんじゃねぇ!」

「てをあげてとーこーしろ!さもなくばうちゅぞ!」

「拳銃でも持ってんのかテメェは!」

 

 あーいえばこーいう。なんと大人気の無い大人。こんな大人見たのは3人目だ、全く……

 よく分かった、この世界にろくな大人居やしない。

 もうそろそろ私の常識にピッタリ当てはまる人居ないですか?

 

「とりあえじゅ!これとこれはいただきてまいる!」

 

 箒と手頃なナイフを掴んでベッ、と舌を出すとフェヒ爺は私の頭…というか顔面を掴んで止めた。方向転換させてくれなかった……。

 

「子娘、お前時々ここに来い。修行くらいつけてやる雑魚」

 

 持っていくのダメなのかと心配したけどどうやら違ったみたいだ。

 なんのお誘いか分からないが断るに決まってる。

 

 ここまで来るのにどれだけの体力とメンタルを減らしたとおもってる!帰るの億劫になるくらいには減らしてるさ!

 

「あ、ていちょーにおことわりいたしゅ」

「なんでだ!」

「めんどーだから!」

 

「良いから来い!」

「きゃーっか!」

 

「ほぉ…ならお前の秘密をバラしてもいいんだな……?」

 

 ニヤリという効果音がこれ以上にないくらい似合う。あれ、ひょっとして効果音どっかで鳴ってませんかー?

 

「ひみきゅ、とは……」

 

 思わずその笑みに後ずさりして頬が引き攣る。悪党の笑み。悪党だ、悪党!本物だ!お爺さんがそんな笑顔しちゃいけませんよ、ってか秘密って何!?まさか転生の事!?魔法の事!?なんの事!?

 まさか堕天使の差し向けた刺客!?

 

 秘密の多い私は何の秘密を握られているのか皆目検討もつかない。

 

「へぇ、こんな所で言っても良いってことか…そ〜かそ〜か……───いいんだよ、なぁ?」

「ダメ!のう!きゃっか!」

「なら来るよな?」

「あい!」

 

 何を企んでいるのか知らないが、どす黒いオーラと嫌な雰囲気をかもしだしていらっしゃるので、下手に地雷を踏まない様に提案に乗った。乗らざるを得なかった。何これ胃が痛い。

 

 これが年の功ってやつか……。

 

 精神的に敵を追い詰めるそのやり方、嫌いじゃない。むしろ肉体的労働より頭脳的労働の方が楽だから推奨するが……。

 

 やられる側はたまったもんじゃない。

 私を捕らえてなんの特になる!

 

「じゃあ話まとまった事だし俺たちは帰るよ。遅くなったらきっとダダンに怒られちゃうや」

 

 サボの言葉に同意するよう頷く。

 

 あぁ見えて実は情に熱いんだよなダダンって。なんだかんだと私の世話してくれてる。

 ……精神年齢が肉体年齢より年上な場合余計なお世話だと言わざるを得ないけど。まぁ、感謝。

 

「それじゃぁね、ふぇふぃじー」

「バックレるなよ子娘」

「あっかんべー!」

 

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

「なぁ、リィン」

「なーに、エース」

 

 帰り道。珍しい事に山道を走らずにエースが隣で歩いて、サボは辛うじて私達の声が聞こえる程度離れて周りを警戒してくれている。

 警戒するのは一応強いと言えども怪獣を相手するだけあるもんだね。個人的には会いたくないです!とても!

 

 

「お前は、さ。海賊王に息子がいたらどうする?」

 

 海賊王、ってのがよく分からない。海賊の頂点…だと予想はできるけれども。

 そもそもの話 海賊王ってのが人間なのか、それとも伝説なのか、すらも分からない。

 

 

「わかんにーぞ…」

 

 

「そっか………」

 

 

 ため息と一緒に言葉が漏れた。そのため息は安堵にも取れる

 

「さて、飯食って風呂入って寝るぞー!」

 

 これ以上話す事は無いのかいつもの調子で走り出したから〝海賊王〟が何か聞きそびれた。酷く耳に残るけど話題を切り上げたってことは触れない方が良いって事だろう。

 

 それにしても海賊王の息子、か。

 

 ──なんでそれをエースが話題に上げる?

 

 疑問が頭の隅に残る。

 聞いた理由としていくつか考えられる、が……。

 

 例えば『その子供とエースが友達』とか。ただエースはその友達というのが少ない。むしろサボしか居ない。

 私も居なかった。ごめんなさい。

 これで私達お友達居ない同盟作れるね!

 

 まぁ、他の理由として考えられる理由は『エース自身が海賊王の息子』か。

 私達3人は日々共に過ごしているものもお互いの出生は全然知らない。私だって言ってはいない。私自身も親が誰なのか知らないくらいなのだから。

 

 いや、まぁ、顔は覚えてるけど。

 

 とにかく考えても埒が明かない話題だって事はよく分かった。

 情報が欲しいなぁ……。

 

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

 リィン達が帰路についたその後フェヒ爺ことフェヒターは研ぎ終えた刀を椅子の横に置き人心地ついた。

 

「(心配ばっかりかけさせやがって………──)」

 

 考えるのは昔。

 

「(あの小娘、面影がある。それに名前が〝リィン〟か。──やっぱアレの娘だよな)」

 

 そして今。

 

「クソッタレ共…俺にばっかり尻拭いさせやがって…。分かったよ……どーせあの子娘巻き込まれる運命なんだろう?」

 

 自分達の冒険の歯車に巻き込まれる彼女の娘の姿。そしてエース、彼の息子の姿。

 

 

 

 再び遠い思い出に思考が染まる。

 仲間の笑顔は色褪せる事を知らない。

 

「(次の時代に託す、か────)」

 

 バラバラになってしまった仲間の笑顔は次々と浮かんでくる。

 

 フェヒターの紺碧の瞳には知らずに涙が光っていた。まだ終わりたくない、終えたくない、戻りたい、時を戻したい。そんな望みがグルグルと渦巻く。

 楽しかったあの日々はもう戻って来ない事は分かっている。分かっているが諦めきれずにはいられない。

 

 だが、彼が死んでしまった今ではもうどうしようもない。

 仲間に会ってしまうとその望みが大きくなってしまう。なのに彼らの面影を残す子供が近くにいる。

 

「恨むぞ…神よ───」

 

 不思議な騎士が記憶から飛び出すが〝お前じゃない〟と切り捨てる。

 

 

 

 

 

 

 過去の歯車は新たな歯車へと絡み合って行く。結構面倒臭い方向に。

 

 

 その歯車のせいでリィンが発狂しそうになるのは未来の話だ。

 



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第14話 上げて落とすのは結構残酷

 

 

『──…───…………─…───』

『…─……───…─…─………』

『………───…──っ─……』

『────て…───』

『─!!…───…─────!!』

 

 

 

 誰かが叫んでる。──誰だったっけ。

 

 見覚えのある顔。遠い昔に見た顔。

 

 なんで泣いてるの?何か悲しい事があったの?悔しいの?痛いの?辛いの?

 

 

 少年達は泣くばかりで何も答えない。

 

 参ったなぁ…

 

 目線を追うと誰か知らないが大きな人が大勢見える。

 あれは誰?何をしてるの?

 

 

 すると突然辺りが火の海へと変わった。大事なものが燃やされていく。

 

 

 ──やめて…やめてよ………──

 

 

 

 なんで逃げないの。逃げれないの。動いて、ねぇ。動いてよお願いだから。

 

 

『助けてくれ!』

 

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

「っ!!」

 

 ガバッ、と布団から飛び起きる。兄たちの姿はもう無く、2人用の布団が畳まれていた。きっとサボが畳んだんだろう。

 にしても頭痛い……。

 

 何かの夢を見てた気がするけど所詮は夢だ。起きるとすぐに忘れる。

 

 窓の外を見ると日がもう高く昇っていた。あぁ、なるほど、寝すぎて頭痛いだけか。

 

 

 

 

 

 フェヒ爺に会ってあれから約1年。私は未だあの問いに答えられずに日々を過ごしていた。

 

 『海賊王の息子』 

 

 一体何なのやら。ダダンに聞いても口を濁すだけで結果何の情報も手に入れる事が出来なかった。

 

「んんんっ…」

 

 ググッ、と身体を伸ばすとボキボキ言ってる。ババアかな。

 まだまだ可愛いお年頃よ。つーかさ、この1年フェヒ爺にしごかれてしごかれて。フェヒ爺に会うたびに筋肉痛だよ。

 逃げよう、というかむしろ行かない様にしてるんだけど特にサボが逃がしてくれない。腕捕まえて軽々と持ち上げるとグレイ・ターミナルに連れていってくれる。

 

 

 ありがた迷惑だコンチクショー!

 

 枕元の箒を手に取って跨ると魔力みたいな気合いを循環させる。これは飛ぶ練習でもあるし、能力を使う訓練でもあるけど、もはや毎日の日課になっていた。

 果たして効果があるのかって言われたら首を傾げる以外出来ないけど使って練習じゃい。何もやらないよりはずっとマシだろ。

 

 きちんと飛べる様になってフェヒ爺やサボから逃げ出してやる。

 

 

 今の私の箒での飛行時間は限りなく少ない。集中力が切れると一気に落ちちゃうから正直走る方が逃亡確率が高いんだよね………。

 いずれは息を吸う様に乗りこなしてみせる!絶対逃げる!

 

 

 フェヒ爺との訓練はそりゃ大変で身体作りだとかでどぎつい筋トレさせられるし素振りが基本だとかでひたすら手に豆出来ても振り続けるし。

 

 正直そんなガチでやるつもり無いのですが。

 だって痛いじゃん!?豆すっごい痛いよ!?私自分を痛めつける趣味は無いんだけど!!

 

「リー!!起きてるかー!?」

 

 バン!と部屋に入って来たエースとサボ。あ、おはようございます。

 

 するとニヤニヤと何か悪いことを企んでる様な顔をした2人が私の両腕を捕まえた。

 え、何。まさか今日もフェヒ爺との訓練?待ってくれ、ちょーっと待ってもらおうか。ほんとに一分くらいだけだから。一分くれたら全力ダッシュするから。

 

「おはようリー、いい天気だな」

「リーおはよう!さぁ、行くぞ」

 

「おはようございます…とりあえず両腕の救済を希望ぞ」

「救済拒否。発進致しマース」

 

「エースさぁぁん!?」

 

 グイグイ押されながら部屋を出される。

 この世に神は居ないのか…。

 ええーい!神様じゃなくてもいいから堕天使様助けてー!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「お誕生日おめでとう!」」」」」

 

 

 

 

「へ?」

 

 思わず間の抜けた声が出てきた。

 お誕生日おめでとう……?あれ?今日私の誕生日なのか?そして私の目の前にはダダン達がケーキを持ってるので間違いないですか?ねぇ、甘い物!?甘い物ですか!?それは!

 

「リーは自分の誕生日知ら二ーんだろ?ジジイに聞いても分からないって言ってたんで、ここに来た日をリーの誕生日にしたんだ」

「お誕生日おめでとうさんリー。これはこいつらが金貯めて買ったケーキだ」

「っ!!っ!!」

 

 ドグラとダダンの発言に驚き思わず横にいる2人を交互に見上げると、2人はイタズラが成功したかの様にしたり顔でお互い見合った。

 

「驚いたか?リー甘い物食べたいって言ってただろ?だから用意したんだ」

「無難にケーキが一番かな、って。お誕生日おめでとう」

 

「あり゛がとう二人共!甘い物…───甘い物ぞぉぉおおお!!!あぁ、長期に渡り長らく食べたかった!甘い物!いついかなる時でも恋焦がれていたか!あのまろやかな舌触り。口の中で溶けるクリーム。鼻から抜ける甘い香り。目を癒す美しいフォルム。ひとつ失えば保てない絶妙のハーモニー!定期的に取らないとしんでしまうんじゃないかと心配して今日この頃、やっとこさ邂逅ぞ!私の愛しい甘い物!」

 

「な、なぁ。リーはこれ病気で二ーのか?」

「流石にここまで暴走したのは初めて見るな…」

「大丈夫なんだろうね?」

「多分………」

 

 なんか失礼な事言ってるけど今日の私の心は寛大だ。許してあげましょう。

 

 何はともあれいただきます!

 

 

 

 

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

 幸せだ。これ以上無いくらい幸せだ。念願の甘い物を食べれて、森に行くことも無くて。命の危機もない。

 なんて幸せな日なんだ。

 

 毎日これが続けばいいのになぁ……。

 

「リー美味かったか?」

「うん!」

「良かったな」

「うん!」

「じゃあ行くか」

「うん!…──────ぅん?」

 

 あの、どこに?どちらに?

 

「知ってるか?こういうの言質って言うんだ、リー。さぁ、行こう」

 

 サボが笑う。

 

「こうでもしないと絶対行かないからな」

 

 エースが笑う。

 

「………ハハハ…随分と賢くなりやがりまして…」

 

 私が笑う。

 

 

 

 どうやら笑顔の誕生日はまだ終わらない模様です。

 

 

 いやぁぁぁぁあ!!1分プリーズぅぅう!!

 

 

 

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

「よぉ、小娘。久しぶりだな」

「久しぶりも何もあなたとはつい先日かいこーしておるぞ」

「その妙ちくりんな喋り方直せよいい加減」

「なんかフェヒ爺に言われると意地でも直す気概消沈なるぞ……」

「お前は出会い頭に喧嘩売らねぇと生きていけねぇのかよ…」

 

 残念ながらエースとサボには決して喧嘩売りません。敵のみですぅ。

 

「ほらよ」

 

 ひょいと刀を投げられて慌てて落とさないように受け取った。危ねぇなコンチクショー。

 

「俺が現役の時使ってた相棒だ。大事に使えよ?」

「何故私なるに……はっ!これは修行卒業ですか!?」

「アホか。まだまだ続くわ!」

「期待外れ!」

 

「その刀はな。天邪鬼だぞ、扱いには気をつけろ」

「まさかのではございますが妖刀!?」

「ほぉ、知ってんのか?」

「全く。これっぽっちも」

 

 

──キィィィィン……

 

 

 刀を抜くと耳を覆う様な音が出てきた。何これ耳痛い。

 

 

「喜んでんのか?鬼徹」

 

 うわ、フェヒ爺刀に語りかけてる。頭おかしい人かな。

 

「なぁ、俺聞いたことあるんだ。妖刀には何かしらの厄が付いてくるって。この刀はなんで妖刀って呼ばれてんだ?」

 

 サボが刀を見ながらフェヒ爺に質問した。うん、確かに何かないと妖刀だなんて危そうな名前でなんか呼ばれないよね。

 

「確か使い手が消えていく刀だとか……」

 

 おいまて、そんな厄介者を私に押し付けるんじゃありません。

 

「小娘。サボに押し付けようとするな」

「このような危険物幼き子供に所持は禁止ぞ!」

「それ一応高価だぞ…業物だし」

「業物とは何!」

「業物を知らねぇのか。簡単に言えば刀のランクで最上大業物が一番高ぇ。ただ12工しかねぇから入手が困難だがな」

「その次なるが業物?」

「いや、その次は大業物だ」

「その次?」

「……………その次は良業物だな」

 

 

「──結論、そこまでレアじゃなき」

「失礼なこと言うな!鬼徹一派はその3代目まで全部妖刀と言われて!そもそも持てる人間が少ねぇんだ!その鬼徹に選ばれたことくらい誇りに思え!」

 

 思いたくない。いや、正直すごい迷惑。なんでこの刀ちょっと震えてるの?なんで?まってホラー?いやいやいやいや、私こういうの無理なんですけど。死んだ人間でもホラーは無理です。

 鬼徹に呪い殺された人が夜な夜な怨みに枕元に居そうで怖いんですけど。もう一度言います。死んだ人間でも!

 

 1度堕天使に会う時が会ったら幽霊がなんなのか聞いておこう。うん。そうしよう。

 

「分かったらさっさと持っていけ」

「拒否不可?」

「不可だ、不可!」

「一つ進言。フェヒ爺…───」

「なんだ」

 

「───重い」

 

 

 

 

「はぁ………。筋トレ増量な」

「何故!?」

「ほら、今日だけは免除してやるから帰れ。日が暮れるぞ」

「夜の森は危険!急遽帰還!お疲れ様でした!」

「……本当に小娘の相手は疲れる」

 

「じゃあなフェヒ爺、また今度」

「おう、また来い。小娘引きずってな」

 

 サボとフェヒ爺が危険な取引をしてるな。一応な…サボの心情分からなくもないんだ。こんな危険な森周辺で過ごしてるんだから子供のうちから少しでも力をつける方が良いだろう。命を考えて。

 

 でもですね。正直キツイのでまた逃げ出しますよ?良いですか?いいですね?聞きません。

 

 

 

「小娘」

 

「にょ?」

 

 家から出ようとすると声がかけられた。

 

「誕生日…おめでとう」

「にひひっ、ありがとう!」

 

 素直じゃ無いフェヒ爺からの贈り物は業物:三代鬼徹という不思議な贈り物でした。

 

 

 

───正直、もうちょっとまともな物が欲しかったな。と思っています。

 

 




三代鬼徹はあれです。
ローグタウンでゾロが手に入れる業物ですね。どうしてここにあるのかという謎はおいおい説明しますので触れないで下さい…。



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第15話 突撃!隣─じゃないけどフーシャ村!

 

 

 コソコソと隠れる様に村を見る。

 こんにちは。何故こんな盗人みたいなことをしているのか理由があります。

 

 

 誰に向かって話してんだろうね私というやつは。

 

 

 

 ==========

 

 

 時を遡ること数日前

 

 

「リィン!元気か!」

「うぉわぁ!ど、どこから出現したぞジジ!」

「ん?顔を見に来たじいちゃんに叫び声をあげるとは何事じゃ!」

「よりにもよって二人が存在しないこのビックリ驚きミラクルタイミングで出現……私、神様に嫌われてるのかな…」

 

 リィンが運悪く一人でいる時に義理──リィンが勝手にそう思ってる──の祖父であるガープが久しぶりに顔を覗かせにやってきた。海軍の仕事はどうした中将と叫びたい所だが、下手に絡むと厄介なのを知っている為触れないようにした。

 人は誰しも成長するものだ。

 

「一つ伝えておこうと思っての。お前さんには兄が居るんじゃ」

「エースとサボ?うん、ご存知ぞ」

 

「それとは違う。今確か6程のルフィと言う奴じゃ。じいちゃんいつ来れるか分からんからお互い力を付けておくんじゃぞ、と伝えたかったんでの」

「るふぃー?何処に?」

 

 

 

「フーシャ村、じゃ」

 

 

 

 

 

 ===========

 

 

 

 あれ。短いね。

 

 そりゃそうだ、だって簡単に説明すると時間だとかですぐ帰っちゃうもん。………いや、有難いですけどね。

 

 手に持つ箒を握りしめるとそれらしい男の子を探す為目を凝らす。

 

 ちなみに鬼徹くんはアイテムボックスでおねんね中だ。なんか泣いてる気がするけど信じません。刀が泣いてることなんかあってたまるか。

 

 

「とりあえず情報を集めない事にはどうにもならないか!よし!」

 

「何がだ?」

 

「それぞルフィなる人物を探す為に──え?」

 

 振り返ると私より少し背の高い男の子がニカッとした顔で笑っている。あぁ間違いない。

 この男の子が〝ルフィ〟だ。

 

「俺になにか用か?」

 

 まるで遊び道具を見つけた様に白い歯をみせて笑ってきます。

 可愛いけど、可愛いんだけど。ガープのジジを思い出す。面影とかあんまり分からないけど雰囲気が思いっきり似てる。

 

 良くいえば純粋 悪くいえば無知

 

 悪いこと、って言うか人の感情に鈍感で迷惑。当然それは避けられる。

 見方とり方によって愛させるっていう強みになるけれども騙されるって弱みにもなりうる。

 

 話がズレたな。うん。とりあえず私は何がしたかったのかっていうと

 

 ジジイの血縁者は面倒だと思うからなるべく関わらずに過ごしたかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ルフィ……?」

「おう!お前誰だ?」

「私なる呼び名はリィンと申すぞ!ガープのジジが言うにはルフィの妹ぞ言ってたの!」

「???」

 

「ぐっ…言語苦手理解してるけど慣れが直らない故に訂正不可じょ…………」

 

 エースやサボ以外の人と話してこの言葉の伝わらなさを痛感してしまった。やばい泣きそう。エース!サボ!良く私の言葉を理解してくれた!ありがとう大好き!でもフェヒ爺の所連れていくから嫌い!

 

「よく分かんねぇけど…。あ、なぁなぁ!今から海賊見に行かねぇか!?」

「海賊!?危険な仕事ぞ!近寄ると危険ぞ!」

「大丈夫だって!危なくなったら俺がギッタンギッタンに倒してやるからさ!」

 

 ヤベェ不安でしかない。箒で逃げれる準備はいつでもしなければ……。家飛び越えて反対の道からダッシュすれば逃げれるかな。ルフィくんを置いて行けば。

 あ、兄…だっけ?精神的に何だか子供っぽいって言うか子供らしいからどうしても年上目線で見てしまう。

 

 うん。兄ってより弟だな。

 

 

 ガープの実の孫と義理の孫…って事かぁ。めんどくさい関係だな。

 義理の兄妹ってことでしょう?エースとサボじゃダメですか?ダメ?ちょっとこの子苦手です。自分の力を過大評価し過ぎて危険度がハンパないんですけど。や、ごめんね、なんかごめんね。嫌いじゃないけど苦手です。もっとしっかりしてください。

 

 だからとりあえず私の腕を引っ張らないで欲しいんですけど。

 

「ルフィ!止まる!止まれ!コケ、コケる!こけこけこけぇえええ!!!」

「ほら!あれだよアレ!」

 

 ルフィの指差す先には黒字の旗にガイコツマーク。あぁ…海賊船だ。ジョリー・ロジャーのマークが目にしみる。目が痛い。胃が痛い。

 残忍な海賊だったらどうするつもりなんだよ、むしろ私の知識では危険な人しかいない気がするんだけど!!

 

「とまれぇえええ!!」

 

 

 

 ==========

 

 

 

「なぁ!海賊ってホントか!?」

 

 ルフィが元気に挨拶をします。挨拶する事はとてもいい事ですけど時と場合を考えませんか?

 

「なんだ何だガキ共。俺たちに何か用か?悪いことしてると食っちまうぞ?」

「ルウ、子供相手に脅すな。拠点にしにくくなるだろ」

 

「悪いことって…海賊のあなた達に発言許可する気皆無ぞ」

 

 あ、しまった。思わず口を滑らした。

 元海賊のフェヒ爺じゃないんだ…現役の海賊。どれほど怖いものなのか…。

 

「ギャハハハハッ!ルウ!お前言われてやがんの!」

「こりゃ1本取られたな!」

 

「ひょ?」

 

 あれ?あんまり怖くない。

 

「お嬢さんに坊ちゃん。勇敢なのはいい事だがあまり危険を省みずに飛び込む癖は直した方がいいな。俺たちが誰彼構わ切り倒すような残忍な奴だったらどうするつもりだったんだ?」

 

 麦わら帽子を被った赤髪の男が頭に手を置きながら目線を合わせて微笑んで来る。

 

「麦わら帽子…──」

 

 なんでこの季節に麦わら帽子なんだろう。日差しはそんなに強くない。ちょっと肌寒く感じてきたこの季節に。

 

「いーんだ!だって俺強いもんね!」

「ほう、言うなガキンチョ」

「ガ、ガキンチョじゃねぇ!ルフィだ!」

 

「えーと、私祖父なる人が海軍中将なりて、並大抵の海賊は驚きビビるとぞ思ったじょ…です」

「──中将?」

 

 ピリッと空気が変わった。いま確実に変わった。ちょっと怖い。

 

「ガ、ガープなる名ぞ……」

 

「うわぁ………」

 

 すると麦わら帽子の男は心底嫌そうな顔をした。どうやら知っている模様だ。

 あ、今更考えたがジジ様を恨んでる海賊だったら殺される可能性あったな。反省反省。それを発言して次どうなるかの予測をしなければ。学ぼう。

 

「ガープって砲弾投げる爺さんだろ?」

「ひょ!?」

 

 怪物!?怪物なの!?

 砲弾ってそんなに軽かったっけ?

 

「質疑応答許可求む、砲弾たるものはいくらの重量を持ちうるか?」

「さっきっから思ってたけどなんだ?その喋り方?…───あぁ、えーっと、大の男がギリギリ一つ持てるくらいか」

 

「ジジは化け物!確定!」

「何でじいちゃんの事知ってんだ?リーは」

 

「先ほど申したぞよ!私ルフィの妹!」

「ええええええええ!?!?」

「やだ!何この子!聞くてなき!?泣きそう!」

 

 

「あ〜、えっと。よく分かんねぇけど暫くここに厄介になる赤髪の海賊団船長、シャンクスだ。危害は加えない事を約束しよう。よろしくな」

「おう!よろしくなシャンクス!」

「よ、よろしくおねぎゃいしますぞ!」

 

 ルフィの柔軟性というか無神経な精神がちょっと羨ましいです。

 

 

 

 

 

 

 

「あ!そうぞ!質疑ぞ!シャンクスさん!」

「ん?どうした?えっと……──」

「リィン!我が名はリィンとぞ言うのぞ!」

「そっか、リィンか。で、なんの質問があるんだ?」

 

「世界はどれほど広いか!」

「ん〜、そうだな。世界は東の海(イーストブルー)北の海(ノースブルー)南の海(サウスブルー)西の海(ウエストブルー)…そして偉大なる航路(グランドライン)の五つに別れていて。偉大なる航路を真横に切って遮るように赤い大地(レッドライン)が連なっているんだ」

「ぐらんどらいん?」

「磁場が狂う普通の海じゃない所だな。その海を制したのは海賊王ゴールド・ロジャーただ1人と言われている」

 

 悲哀に満ちた顔で説明をしてくれるシャンクスさん。なんで悲しそうなんだ?

 

「そーだ!海賊王となる者は何者!!」

 

 ずっと疑問に思ってた。ずっと答えたい質問があった。情報が欲しかった。

 

「さっき言った通り偉大なる航路(グランドライン)を制覇し、世界の秘宝を手に入れた海賊。ゴールド・ロジャー。約12年程前、彼の生まれた地である東の海、ローグタウンで死刑が行われたんだ。彼の死に際に放った言葉は世界中を震え上がらせた…『俺の財宝か?欲しけりゃくれてやる。探せ!この世の全てをそこに置いてきた』そして今の時代、大海賊時代が生まれた………ってとこだな」

 

 はい、説明ありがとうございます。つまり海賊が増加した原因を作った張本人という事でもあるんですね。

 でもなんでシャンクスさんの説明の口調がナレーション口調なんだろう………。

 

「ロジャー海賊団は解散して今やその一味はバラバラだけどな」

「誰ぞ一味に所属してあった?」

 

 ありがたい事に私の疑問に気分を悪くする事無くシャンクスさんは答えてくれる。

 

「んー…そうだなぁ。冥王 シルバーズ・レイリーは知らない人は居ないほど有名だ。ロジャーの相棒であり海賊団の副船長でもあった」

「他はご存知皆無?」

「ま、まぁ、二つ名だけだが……〝剣帝〟や〝戦神〟に〝奇跡の───」

「─せん…じん。戦神!」

 

 

 耳の奥にずっと残る単語。知りたかった事がここで聞けれる。

 

 来てよかった…心残りを残すのは好きじゃないから。

 

 

 

 

「──戦神を教えて……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────それはきっと母のことだから。 

 

 




遅くなった様な気がしますがルフィが出てきたところでリィンの外見をある程度……

髪色:金色
目の色:黒色


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第16話 真実はいつも一つとは限らない

 

 

「───戦神を教えて……」

 

 

 赤ん坊の頃。ガープ、そうだ、あのジジに連れていかれる時。

 今だから分かる。確かに彼は自分の母親を『戦神』と呼んだ。

 

 

 顔は思い出せないが漆黒の澄んだ、まるで黒曜石みたいに綺麗な目をいつも私に向けてくれていた。

 喋れもしないし意思疎通も出来ないただの赤ん坊だったけど。私を愛してくれていた。たった1年だけど、それが母親なんだって。今ならすごく理解できた。

 私は彼女の事が知りたいんだ。

 

 彼女、私の母親は自分の身より私の身を優先してくれた。

 私には到底出来っこないことだけは確かだった、だって我が身が一番可愛いんだから。

 

 そんな思想を持ってる私にとって、自分の自由や命を犠牲に私を生かしてくれる心優しい海賊の彼女を知りたくて、お礼を言いたくて…───会いたい、のかもしれない。

 

 会うこと自体に問題はないがやはり怖い。

 

 戦神=母親

 なのならば彼女は海賊王のクルーと言う事になり、私の命も危機だ。だって海軍が残党兵を捕まえようと躍起になっているんだから。

 巻き込まれる事もある、ひょっとしたら忌み嫌われる血筋だって殺される事もあるかもしれな────…忌み嫌われる…?

 

「ん?」

 

 ちょっと待てよ…忌み嫌われる?例えばもしも海賊王の息子って言うのがエースだとしたら?質問を誰彼構わずしていてその息子を殺すと言われたら?かつて怪我をして帰って来た時、それを言われていたら?

 

「……」

 

 あぁなるほど理解した。

 エースは海賊王の息子の可能性が高い。そして〝エース〟ではなく〝海賊王の子供〟の存在がどう思うか周囲の人間に聞いていたんだ。

 だからダダンも口を濁した。サボも分かってたから怪我をして帰ってきた幼いあの日、朝帰りだったんだ。

 

 これは随分とナイーブな案件ですな。間違ってる可能性無くも無いけどそれを前提として考えておいた方がいいだろう。果たして、どう反応すれば正解なのか……。

 

 

「………──ィン、おい、リィン?」

「は!聞き漏らすてた!」

「ぼーっとしてたから眠いのかと思った」

「その可能性は否定ぞ。それで戦神の情報たるものはどれほど持ち合わせて?」

 

「戦神はワノ国出身と噂される一人の謎多きクルー、だ。これくらいでいいか?」

 

 ん?情報が思ったより少ない。海賊王を語らせた時よりずっと。

 本当に情報を持ってないのか。それとも意図的に隠しているか。

 

 まぁいいや、いずれ私が成長して調べればいい。それこそ海軍に入って知りたいことをとことんまで調べてやる。

 海賊も素敵だけど怖ぇもの。うん。

 あ、でもやっぱり普通の生活を希望します。海軍中将の孫で海賊志望の兄と山賊の家族がいる時点で普通の生活を歩めない気がするのは私の気の所為じゃないと思うんだ。

 

「あら?ルフィそこにいたの……っと、お客様かしら…」

「あ!マキノ!!」

 

 ルフィが突然現れた女の人を見て手を振った。わぁ!お姉さんだお姉さん!可愛いお姉さんだ!年上のお姉さんだ!

 男しか相手してなかったから新鮮だ!何年ぶりだろう女性に会うのは!

 すごい!私のテンション久しぶりに上がってる!お姉さんだ!

 

 え?ダダン?ダダンは女性とは言いません。女性の皮を被ったモンスターです。

 

「初めまして、マキノと言います。あら、可愛らしいお嬢さんね。ルフィいつの間にガールフレンドを作ったの?」

「さっき!」

「がーるふれんど??否定よ、私はリィンなるがルフィの妹ぞ」

 

「妹さん…?リィンちゃんと言うの……よろしくね?」

「よろしくもうしまひゅ!」

 

「えっと、そちらの方々は……」

「あ、俺はシャンクスという者で、ちょっとここを拠点にして活動するつもりなんだ。ここの村長さんか長は居ないか?」

「あら、海賊さん?……そうね、村長に判断は任せましょうか…。では案内します、どうぞこちらへ」

「おう、ありがとな。ルフィ、リィン、また後で会えたら会おうな」

 

「シャンクスさん!待つべしよ!最後に米粒ほど!もう1粒のみ!」

「んぁ?どうした?」

 

 あくまでも参考として聞いておきたい。

 

「もしも、…───海賊王なる人物に子供ぞいたのなら何を言う?」

 

「……………海賊王に子供?」

 

 エースに聞かれた時は『息子』と言われたけれどもそれは居ると確定させてるも同然。もしもの話をするなら輪郭はボヤけさせないと。

 今度それとなく注意しなければ。

 

「だっはっはっはっ!いる訳ねぇだろ。海賊王に息子?馬鹿言っちゃいけねぇよ…海賊王の血筋が残ってちゃならねぇから、海軍がそれっぽい年齢の子供は殺して言ったっつー話があるくらいだぞ?」

「………海軍、何奴……。怖っ」

 

「まぁもしも居るとしたなら───」

 

 シャンクスさんは立ち上がり上から見下ろす様に呟いた

 

「───『生きろ』かな」

 

「生きろ?」

 

 復唱するとシャンクスさんは頷き肯定の行動を取った。

 

「あぁ、親の罪は子の罪じゃねぇ、親の分まで生きろ…ってな」

 

「シャンクスさんは良き人ぞなりね。ありがとうごじゃりまひゅ」

 

 そう言うと私の頭をくしゃりと撫で、マキノさんについて行った。

 

 

 残りの海賊の人達は村の人を怖がらせない為なのか分からないが船を出るだけで村に入ろうとしてない。

 うん、この人達は海賊と言ってもいい人なんだな…。自由を求める海賊って所かな?どう考えてもまともな生活送ってる方が海軍に追われるっていう縛りがないから自由だと思うけど。

 

 

「嬢ちゃん」

 

 ちょいちょいと手を動かして海賊の一人が呼ぶ。まぁ、無視する事も可能だけど船長がアレなんだ。比較的安全なんだろうと思うが一応念の為箒を持って近寄った。

 

「何用でじょーましょ?」

 

「じょ、じょーましょ?ま、まぁいいや。もしも俺たちがここに滞在してもいいことになったら飯奢ってやるよ。母さんに言っときな」

「っ!真実!?」

「えーっと、ホントか?って聞きてぇのか?」

「肯定ぞ!」

 

 そういうと「ホントだよ」と苦笑いしながら私に向けて言ってくれた。

 

「なーなー、おれはー?」

 

 ルフィが近寄ってきて催促をする。

 

「野郎には奢らねぇよ!自分で払えガキ」

「なんだと!!ケチケチすんなよ!」

 

「ヘッ、欲しけりゃ宝払いでもするんだな」

「宝払い?」

 

「字面から察知致すに…後払い?」

「……夢も希望も無いこと言うなよ。───事実だけど」

「事実確認完了ぞ、なれば私も宝払いぞ利用」

 

 

「その珍妙な喋り方どうにもなんねぇのか…理解するのに一拍必要だからな、な?」

 

「無理無茶無謀」

「お、おう…そうか…」

 

「次いでに進言。私に母たるものは存在皆無よ。きっと遠い箱ぞ」

「よし。分かんねぇ事は分かった!」

 

 

 触れちゃならない話題でも無いのでお気になさらず。でも私は疑問に答えられないからな。

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

 彼──ヤソップさんという名前らしい人──は先ほど言った通りにご飯を奢ってくれた。

 久しぶりと言うか生まれ変わって初めてのまともな食事に感動してると可哀想な子を見る目で見られた。失礼な。

 

 私は死んだ時から可哀想だぞ!

 

 

 

『ヨホホホ〜、ヨ〜ホホ〜ホ〜♪……───……─…──』

 

 海賊達はなにが面白いのか。下品に笑いながら酒を浴びるように飲んでる。手にかかろうが服にかかろうが、笑い歌い騒ぎ、どこの忘年会だ、とツッコミたくなる程騒いでいた。

 ほんとになにが面白いんだ。

 

『ありったけの〜!夢を〜!かき集め〜!!──…──………』

 

 あ、曲が変わったな。リズムが軽快になり、海賊達は肩を組み歌っている。

 

 ムンムンと酒臭い空気が辺りに漂っていて、思わず風を使って払う程には臭いがきつい。私は酒を飲んで無いのに、程よく酔っぱらってるみたいに顔がほんのりと赤く染まってるのが自覚できた。

 

「男の人はいつまで経っても男の子なのね……」

 

 マキノさんが空いたお皿を片付けて私が座るカウンターの前に立った。この酒場はこのお姉さんが仕切っていてこんなにバカ騒ぎが出来ている。

 

「そうぞでしょーじょーぞろん。しかし、楽しそうじょ…」

 

 さてともうそろそろ帰らないといけないな。暗い森は危険。

 宴が始まってまだ1時間程度しか経って無いけど夕暮れだ。急いで帰らないとみんなに心配される。あ、でももうひと品だけでもご飯食べたい。

 

「リィン、帰るのか?」

 

 シャンクスさんが隣に座って酒を1口含んだ。

 

「う…はい!ぞ!森故危険物多き!」

「そっかそっか…────」

 

 そして納得する。

 さぁて、帰り支度でもして。

 

 

 

 

 

 

「────ん?」

 

 帰ろうとした瞬間シャンクスさんが首を傾げた。盛大に間を置いて。

 

「シャンクス…さん?」

 

「ちょっとまて、俺の理解力が足りなかったのかもしれない…。もう一度別の言い回しで言ってくれないか?」

 

 頭を抑え手のひらで私を制するとブツブツ呟くと、すぐにこちらを見て言った。

 まぁ復唱するくらいなら楽勝ってもんだ。そこ、復唱で間違えてただろとか言わない。

 

「住処はこるぼ山故に闇夜は危険ぞ。危険物多大に存在す、急速に帰還すべしぞ」

 

「よし、よし、信じ難いが理解した。……お前、ここの子供じゃないのか」

「肯定ぞ、私は森、だ、ぞ、よ?」

 

「語尾が不安だからって動詞を抜かすな……。よし、うん、────野郎共!俺はリィンを家まで送ってくるから寂しくて泣くんじゃねぇぞ!」

「ギャハハっ、誰が泣くかよ!」

「ヤソップ!!!少しは悲しめ!!」

「うわーん、さびしーよーかーしらーーーー」

「…─…」

 

 『こいつ殺すとか』こっそり耳に聞こえました。物騒だなぁ。どこの組織にも苦労人というものは居るのだろうか。船長さんご苦労様です。

 個人的には漫才を見てる気分だけど。

 

「さてと、行くか。道はどっちだ?」

「上ぞ」

「…、…見─…色…っかうか…………」

 

 ん?今度は何を言ってるのか聞こえなかった。

 

「─…っ、なんだ?…………いや、気の所為か…。リィン、手ぇ出せ」

「握手?」

 

 シャンクスさんがゴツゴツした手を広げる。何したいんだと首を傾げると、叫ぶ様に答えが降ってきた。

 

「迷子防止!!」

 

 暗い森だから仕方ないか。

 

「あぁ、納得──」

「分かってくれたか…」

「──シャンクスさんぞ迷子か」

「チゲぇよ!?お前のだからな!?」

 

 解せぬ。

 

 



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第17話 勘違いと伝言と説教と

 

「……」

 

 何故か遠い目をするシャンクスさん。

 

「なぁリィン。お前、本当にこの道歩いて来たのか?」

「事実と思われるぞ」

 

「………これ子供の足じゃ1晩かかるぞ……………」

 

 ボソリと呟かれた言葉に思わず手に持ってたエースとサボへのお土産を落としてしまった──ちなみにお金はヤソップさん持ち──。

 

「じ、事実!?」

 

「あぁ、事実だ事実」

「私は騙すされて…!?」

 

 誰も騙した覚えはないと思うが私は騙された感じなんだ、黙っていてくれたまえ。

 

「そういや、ルフィとリィンは兄妹なのにどうして別に暮らしてるんだ?」

「えっと、ガープのジジぞ、私およそ拾われるしたぞり。よって、私山賊に成長促され、別の兄とぞ過ごすしてるぞ」

 

「え……、っと、……──つまり、ルフィとリィンは義理の兄妹で、ガープに拾われたお前は同じ境遇の兄と山賊に育てられてる……、で合ってるか?」

「大まか正解ぞろり。しかしながらその事実、ルフィはご存知ないぞ。黙秘ぞ黙秘!」

「黙認じゃ…いや、それ以前に内緒って言えばいいじゃないか」

 

 私の落とした荷物を拾うと私に預け、今度は私を拾い上げた。え、私を?落し物なの!?私って落し物!?

 

「リィン………逃げるぞ!!」

「──グオオオオオ!!!」

 

「ぴぎゃぁぁあああああああああ!!!」

 

 

 虎が追いかけてきた。

 

 こんばんはいつかの虎さん!崖から落としてごめんね!?どんだけ恨んでるの!?私食べてもお肉少ないから美味しく無いよ!?

 

「シ、シャンク!シャンクヒュしゃぁーん!!」

「舌噛むぞ!黙ってろ!」

「あい!!」

 

 黙ってろと言われたのですぐさま黙るといきなりスピードが早くなる。速っ、速いっ!ちょ、ちょっと待って貴方ほんとに人間!?

 

「だぁあ!しつこい!!リィンお前絶対この虎になんかしただろ!」

 

 正解です!お見事!

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

「ゼェ…ゼェ…」

「あの、シャンクスさん…大丈夫、ぞろ?」

「あ、ああ……ぁぁ……」

 

 何とか逃げ延びた私とシャンクスさん。シャンクスさんは体力を使い息切れをしている。分かります。大変ですよね。特に慣れない山道だと。

 

「しかしながらこれで距離稼ぎれたじょりん!」

「鬼か…っ!」

 

 鬼と言うのはこんなにも優しいもの何でしょうか。リィンとっても不思議。

 

「あと残り少しなる距離とぞ思考中なるじょりんぞ、ご迷惑面倒脳みそにぶっかけるぞ」

「お前の言葉はどこまで暴走すれば気が済むんだ!?」

「推定宇宙ぞ」

 

 私の中では標準語なんです。あんまり気にしないでやって下さい。

 

「つまり訂正は不可能に近いんだな………」

 

 うるせえやい。

 

 もうそろそろ直さないといけないのは分かっちゃいるんだけど、ギリギリ伝わるし。エースとサボはちゃんと会話してくれるし時々訂正飛んでくるけど、なんか半分諦めが見えるし。なので現状維持の状態を保っているのです。

 

 もうここまでくれば単語で話すとか?

「足 疲労 休憩」とか。うん、こっちの方がきっとわかりやすい。寡黙キャラ貫こうかなぁ。無理かなぁ…、無理だな。

 

「お前は走ってないだろ!?」

「………今口漏れるぞするした?」

「あぁ。したぞ。あと微妙に違うからな、その言い方」

 

 考えてるだけだと思ってたが、どうやら口に出してしまった模様。別に私は足が疲れてるわけじゃ無いんだよなー……心は疲弊してるけども。

 

「ほれ、お前の家行くぞ」

 

 再び担ぎ挙げられ肩に乗る。

 楽だけど、楽なんだけどっ、これお尻痛い!伝わる振動が全てお尻にっ!痛いんですよ!?

 

 

 

 

 

「──エース、か?」

「!?」

 

 唐突にシャンクスさんが呟いたのを聞いて、思わず目を見開いた。

 はい?今なんと?

 

「お前の言っていた『海賊王の子供』はエースか?」

 

「な、に……ゆえ」

 

 そう言うとこちらに視線だけを向け、シャンクスさんの発した言葉が正解なのだと察した様だ。

 

「……当たりか…。ゴール・D・エースって所か?」

「ごーる、でぃー?」

「ん?知らないのか。まぁいいさ」

 

 いや、良くないです。あの、ひょっとしてエースのストーカーか何かですか??ツンデレ(エース)に毒されてしまった可哀想な人なんですか??

 お願い目を覚まして。エースは男の子(ショタ)だ。せめて女の人(レディ)にしてください。

 

 ねぇ神様堕天使様!この世界に未成年保護法的なものはございますか!?

 

「おい。今凄い失礼な勘違いしてないか?」

「無い」

「ふーん………。まぁとにかくそのエースに会わせてくれないか?」

 

 エース、逃げろ。

 

「知り合いから伝言があるんだ」

 

 やっぱり逃げんでよろしい。

 

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

 

「遅い」

「うん遅いね」

「もう夜だぞ」

「うん夜だね」

「リーは何してる」

「馬鹿だけど無知ではないから大丈夫だと思うけど…」

 

「「心配だ……」」

 

 リィンがシャンクスに荷物よろしく運ばれている最中、このシスコン共(エースとサボ)はいつまで経っても帰って来ない(リィン)にシビレを切らしているところだった。

 

 ──いつものことではあるが家に残ると言っていたリィンを置いて森に行ったのが悪かったのか…。

 

 今度は無理やりにでも連れていくべきか、とリィンが聞いたら発狂する様な事を考えているエースを尻目に、サボはやはり心配なのか外に出ようとした。

 

「サボ?」

「やっぱり探した方がいいと思うんだ。猛獣が出た時リーが1人で対処できるとは思えない」

 

「でもリーは悪魔の実が……」

「それでも、だ」

 

 サボは妹と過ごして他人の実力や現状などを客観的に見る目を養う事が出来た。

 リーは確かに強いかもしれない。でも根性は正直皆無。本当に強いのなら共に森に行く事くらい容易だろう。

 

 ──猛獣を避けてるんだ……あの子は。だから今日は何かあったに違いない。

 

 ここでリィンがいたらツッコムに違いない『お前ほんとに9歳か!?』と。

 もっと珍妙な言い方になるに決まっているが。

 

 

 

 

 

 

「リー!何処だー!」

「リー!出ておいでー!」

 

 森に出ると、獣に気づかれる事など恐れずに2人はリィンを呼ぶ。

 今日は不幸な事に月が欠けていて周りが一段と暗い。コケないよう、リィンを見逃さないように注意しながら歩き回る。夜の森は危険だ、エースとサボの2人も分かっているらしく、離れて探す真似をしようとしなかった。

 

「チッ、どこに行ったんだよ…」

 

 エースの苛立った声がサボの耳に届く。冬の近いこの季節では空気が住んでいて届きやすかった。それが幸と不幸、どちらに傾くのかは知らないが。

 

「……──とかぞ…───んだ…」

 

 聞き覚えのある声が聞こえた。2人は顔を見合わせるとその声が聞こえた方向に向かって走った。

 

「リー……っ!?」

 

 1人じゃない。

 瞬時に気付いた。

 

 リィンが誰かに抱えられている。

 

「リーを離せ!!」

「…っ!人攫いか!リー!逃げろ!」

 

「はれ?」

 

 リィンが脳天気な声をあげると、エースとサボの2人はリィンを抱えてる男に向かって攻撃を仕掛けた。

 

「ちょ、ま、っおい!」

 

「くっ!しぶとい!」

「エース気をつけろ!手強いぞ!」

「分かってる!」

 

「ふぎゃぁぁあ!!あぶっ、あぶなっ!まっ!」

 

 担がれているリィンは突然の動きに付いてこれず叫び声をあげる。

 

「お、おいお前ら!話を!きっ、けっての!」

「人攫いの話なんか聞いてられるか…っ!!」

 

「……っ、人攫いじゃねぇっての!」

 

 リィンを抱えた男、シャンクスは思ったよりしぶとくウザイ攻撃にどうするかと悩んでいた。

 

「(下手に傷つけることも出来ねぇし何よりリィンに衝撃がいく……っ、どうするか…)」

 

 相手より体の小ささを生かしてちょこまかと飛び回る2人に手も足も出ない状況になっていた。

 

「さっさとリーを離せ…っ!おれの、俺たちの妹だぞ!!離せぇぇえええ!!」

 

──ドクンッ

 

「っ!」

「!?」

「?」

 

 エースが叫ぶと──風が動いた。

 

「(まさか…開花しやがったのか!?)」

 

「(なんだ、今の風…………!?)」

 

「(寒気?クラクラする…)」

 

 三者三様、シャンクス以外は気付いていまいが覇王色の覇気が今顔を覗かせた。

 今にも飛びかかろうと気迫を増すエース。

 

 さてどうするべきか、覇王色で対抗してもいいがそれだと〝伝言〟を伝えることが困難になる。

 

「エース…」

「っ!リー!」

 

 

 

 

 

 

 

「ひとまず停止ぞ」

 

 肩から降りたリィンはエースの胸ぐらを掴むとフェヒター直伝の背負い投げを炸裂させた。

 

「「え?」」

 

 エースとサボのやる気を削がれた声が闇夜に響く。その後沈黙が辺りを支配し、梟の鳴き声だけが聴こえた。

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

「わ、悪かったよ………いきなり疑いなんかしちまって……」

「いや、こっちこそ紛らわしい真似をしててすまなかった…」

 

 そもそも最初に私が誤解を解けば良かったのか、と3人が頭を下げ合ってる姿を見て思った。

 

「───さて、話を変えさせてもらう。俺はシャンクス、しがない海賊だ。お前さんがエースだな?」

「あぁ、そうだ」

「伝言があってお前に伝えに来た」

 

 

「………伝言だァ?」

 

 エースの目が鋭く光った。確か聞いた話ではエースは私がここに来た時よりずっと幼い頃にコルボ山に預けられたらしい。

 

 そうなると伝言というのはガープのジジか、それとも親辺りか。

 

「安心しろ、ガープ中将でも無ェしお前の両親に関係する事でも無ェよ」

 両手の平を見せて、まぁお手上げ状態のポーズを取ると一安心したのか警戒した空気が四散した。

 そんなに地雷なのか。君の両親の話は。それよりも自分の両親にどんな繋がりがあるのか疑問に思おうね。

 

「俺の尊敬する人が言ったんだよ。……どうして俺に託したのかわからないがな」

「で、その伝言とぞなるものは?」

 

「……『ティーチに注意しろ、特に悪魔の実が奴の身近に現れた時に』だ、そうだ。ちなみに俺からも言っておく。奴は危険だ、注意しとけよ」

 

 目の傷が気になるのかシャンクスさんは1度摩ると、エースは何か察したようにコクリと頷いた。

 

「その伝言誰からなんだ?」

 

 サボがもっともな疑問を口に出した。確かに私も気になる所ではあるな。

 

「あ〜〜…ん〜、と、そうだな……。ま、内緒だ」

「教えてくんねぇのか」

「時期が来たら教えてやる。いつか海へ出たら俺のところに来たらいいさ……」

 

 悪い大人だなあ。

 

「シャンクスさん、悪魔の実とぞなるものは何じょーましょ?」

「海に嫌われる…まぁ、カナヅチだな。それになる代わりに人間とは思えない力を手に入れる事ができる実のことだ。それを食べると能力者になるんだよ」

 

 私の疑問に答えてくれる。なにそれとっても面倒くさそう。

 そう思っているとサボから爆弾が落とされた。しかも核爆弾並の威力。

 

「だからリーは水辺に近寄らない様にな?」

「は!?お前能力者だったのか!?」

「そちら事実!?」

 

 能力者!?能力者なの!?私!?ええ!?……でも実かぁ、そんなもの食べた覚えも何も無いぞ?まぁ嫌われるってのがカナヅチになって泳げない以上水辺に近づくのは止めておこう。うん。懸命な判断だ。

 

「驚きの新事実…」

「お前どんだけ異質なんだよ…───ま、俺の用事は終了だ」

 

 

 そういうとシャンクスさんは立ち上がり私達3人を見下ろした。

 

「またな、ガキ共」

 

 そう言って踵を返しフーシャ村に戻ろうとした、が何かを思いついてこちらを振り返った。

 

「──そうだ、リィン。お前誰に剣を習ったんだ……?」

「っ!?な、にゆえその事実を!?」

「ガキにしちゃ手にコブ付けすぎなんだよ。強くなるのは構わないがお前は女なんだ、気ぃつけろよ」

 

 私出来ればサボりたいんですけど。

 

「それじゃあな」

 

 今度こそ踵を返して去っていた。その背中を見送るとサボに肩を掴まれた。

 

 

「さてリー……。遅くなった理由を説明してもらおうか」

「サボ…さん?目ぞ笑み皆無ぞ…?」

 

 目が笑ってないんですけど。口角上がってるのに目がまったく笑ってないんですけど。え、サボ怖い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とりあえず初めて村に行き、もう一度常識という項目について深く考えないといけない気がしました。

 



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第18話 叫び声は耳と喉が痛い

 

 

 

 半年以上も前、初めてシャンクスさんと会った日。遅くなった理由を2人に説明した私は今日もまた性懲りも無くフーシャ村に来ていた。目的はマキノさんの手料理だ。

 

 美味しいんだよな、マジで。とにかく甘い物食べられるし宝払いで食べられるしで大好きです。

 

 

 まぁそんな理由でやっと着いたぞ酒場!

 

 やっぱり山道は長いよ……時々心折れそうにならほど長い。疲れたらスピード減速と引き換えに箒に乗って体力温存してるから倒れるって程じゃ無い。精神的に疲れるだけでだいぶ楽になった方だ。食べ物とは誠に恐ろしいものだとしみじみ思────。

 

 

「「「「「ああああああああ!?!?」」」」」

 

「っ!?!?」

 

 なんか、叫び声聞こえた。どう考えてもこの中からですよね?

 

 

 

 厄 介 事 の 予 感 し か し な い 。

 

 

「ルフィー、シャンクスさん、海賊さん。本日は一体何事ぞ……」

 

 酒場の扉を開けるとほぼ全員が視線をこちらに向けた。

 その騒ぎの中心にいる彼らを見て今度はこちらが驚く番だった。

 

 

 

 

 

 

「はぁぁぁぁぁぁぁああああ!?!?!?」

 

 

 

 

  ルフィの腕が伸びていた。

 

 

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

 

 

「悪魔の実ぞ誤って食した、と」

「……」

「その実はこちらに連行していた、と」

「……」

「無断で人の食料を食した、と」

「……」

「入ってた箱ぞ鍵皆無、と」

「……」

「更に目の下傷ぞ作成するした、と」

「……」

「その理由も海賊への決意表明だ、と」

 

 

 

「発言したきことは」

「「ごめんなさい」」

 

 シャンクスさんとルフィが揃って謝る。

 私は椅子に座り2人は正座だ。『厄介事招くぞ禁止!正座!』と言えばルフィがブツブツ文句を言ったのでドンと足踏みすると素直に正座した。

 

 大事なものならば鍵を掛けておくか厳重に保管しておくのが私にとって当たり前。適当に子供の手が届くところに置いてあったのはシャンクスさんとこの赤髪の海賊団の不備。しかし勝手に何も考えずに人のものを取るルフィもルフィ、自業自得だ。

 

 

 

「海にぞ嫌われる意味、ご存知?ルフィ、お前海ぞ投入不可能よろカナヅチぞ!カ ナ ヅ チ !」

「で…、でもよぉ……」

「言い訳不可!!」

「はいっ!」

 

「リィン、ルフィもこう言ってるんだ。許してやっちゃくれねぇか?」

「管理責任問題!!」

「うっ………」

 

 なにさり気なくルフィにだけ罪があるように見せかけているんだ。

 

「………………シャンクスさん、ご存知?そちらの髪型、実年齢より少々年老いて閲覧出来るとぞ思われるぞ」

 

「老け顔に見えるってか!お前実は俺のこと嫌いだろう!なんだ!なんの恨みだ!本気で泣かす気満々だろ!」

 

「ルフィ、ゴムゴムの実、とやら。弱そう…」

 

「なんだよ!俺のパンチはピストルみたいに強いんだぞ!」

 

 

「私なる人物は岩ぞ砕く拳をご存知ぞり」

 

「「「「「「あぁ……」」」」」」

 

 

 私の発した言葉で事情と姿を想定出来た海賊の人達がとても納得した声をあげた。それと同時に呆れた声が混じってる気がするのは気のせいだろうか。

 とにかくピストルの如き拳はひょっとしたら可能かもしれないが今更驚きもし無い。鬼ごっこと称した本気の逃走劇で痛感した岩を砕く人間の拳の威力の片鱗を見てしまってる以上そちらの方が恐怖というものだ。

 

 結果的に現役中将怖いって言うことだな。

 

 

 

「そもそも!山賊とぞトラブル発生させる事態とは何事じょーしょ!」

「いーじゃん別に……」

「否定最良!!トラブルぞ出現回避が基礎ぞり!何事も穏便ぞ最適と!!」

 

「もう知らん!俺は帰る!」

 

 ルフィに限界が来たのか帰ろうと立ち上がった。

 

「あ!ルフィ!───」

「知らん!」

 

「───長らくの正座により足より痺れ存在ぞ」

 

「ぐぁっ!し、痺れて………っ!!」

「ぐぉぉおぉ……お、俺も足が……っ!」

 

「「「「「………」」」」」

 

 足の痺れに立っていられなくなったルフィは思わず尻をついて悶えた。ついでにシャンクスさんも唸りながらぴくぴくしている。ビリビリくるもんね、あれ。私も大嫌い。海賊の人達は同情の眼差しを向けているだけで自分達の船長を助けようとしないのが印象的だ。

 

「あ…、お肉が切れた…」

「マキノさん、私お使い活動致す?」

「えっと……」

 

「お使いしようか?だってよ」

 

 ヤソップさんが私の言葉を訂正してマキノさんに伝えてくれた。

 

「翻訳機感謝!」

「お前とことん失礼!」

「謝罪!」

「お、おぉ……」

 

「そうね…じゃあお願いできるかしら?」

「美味しいご飯のお礼ぞ!任される!」

 

「お、俺も行くぞ!!」

 

 ルフィが痺れながら手を上げてお使いの助力を願い出た。正直な話邪魔。

 

 

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

 お肉、とついでに味醂……それとカレールー!カレー早く食べたいなぁ…とりあえず食べ物は間違い無し。あとはトラブルを起こす前に帰るのみ!

 

 まぁそうそう簡単にトラブルなんて起こってたまるか!

 あ、箒忘れた…さっそくトラブルですか?こんちくしょう。

 

「リィン帰るのか?」

「帰還するぞ!マキノさんの手料理ぞろーーー!!」

「しっしっしっ!リィンはマキノの料理大好きだな!」

「肯定ぞ!」

 

 どうやらルフィの機嫌もお肉によって直った様で怒られた事もなんのその。上機嫌に笑みを浮かべている。

 

 

 

 

 

 

「あ………、──っ!さっきの山賊……っ!!」

 

 つい数秒前の気配と打って変わって、ルフィがいきなり警戒心を露わにして目の前にいる山賊を睨みつけた。お酒を探しているのかマキノさんが良く酒を仕入れてる店から出てきた。

 

「チッ、ここにも無ェのか…これだから田舎ってやつは」

 

 

 

「面倒回避ぞ…すぐさま立ち去る事オスス…──」

「おいお前!」

「──ルフィさんんん!?!?」

 

 止めようとした私の言葉を遮りルフィがいかにもガラの悪い山賊に声を掛けた。

 

 トラブル回避不可能ですか!?トラブルの回避はしないくせにフラグの回収はするんですか!?

 

 ダダンとは違うんだからさ!いや、ルフィはダダン知らなかったね!むしろ知らないならもっと注意しようよ己の行動の意味を!

 

「あぁ?なんだぁこのガキ共……おっと…そっちの黒髪の坊主はあの腰抜け海賊共と一緒にいたガキじゃねぇか…──金髪の嬢ちゃんは知らねぇがな」

 

 どうでも良いけど記憶力いいんですね。あなた。

 

 それよりもこの状況どうするよぉぉ…トラブルを起こす賊にいい賊は居ないと思うんですけどぉぉ……。

 そもそも賊にいい賊もへったくへもないやい!

 

 

 

 やっぱり私ルフィ苦手だ。鉄砲玉みたいにすっ飛んで迷惑ばかりかけてくる…。うん、情はあるが未練は無い。見捨てよう。

 安心して、君の事は忘れないから。

 

 

  ──多分…1時間くらいは。

 

 

「おっと…どこ行くつもりだ嬢ちゃん…」

 

 ▼ リィン は 逃亡 に 失敗 した 。

 

 チィィッ!

 肩をつかむな!私を逃がせ!

 残念なことに私は少女。相手は大の大人だ。力で敵う筈も無く簡単に逃げ出す事は不可能なのは目に見えて分かりきった事だ。

 

「ほぉ…こいつは上玉だな。金になりそうだ………売るか」

「リィンを離せ!」

 

 売ると!?私の人権はガン無視ですか!?

 

「おいおい……まさか…、俺様に楯突くつもりか?もう1度言おうか糞ガキ……俺は56人を殺した。俺の首には800万ベリーの賞金がかかってるんだ……舐めるなよ?」

「そんなの知るか!俺のパンチはピストルみたいに強いんだぞ!」

「ほぉ…─」

 

──ゲシッ!

 

「─そんなに強いのか…」

 

「ぐわっ!」

 

「よし、お前1度死ぬか。57人目にしてやるさ」

 

 あ、ルフィが蹴飛ばされた。

 

「そう睨みつけるな…人間1度くらい死んでみたら案外面白い体験できるかもしれないぞ?」

 

 うん!ほんとに!面白いくらいふざけてる体験が出来るよ!

 もう体験したくないので私は死ぬこと無く生き抜いてやりたい。あの地味に腹が立つおじいちゃんに会いたく無いもので…。いや、うん、まぁ、狭間に落ちなければ良いだけなんですけどね…。

 

 

 そして山賊は剣を抜いて切りかかろうとした。

 

 

 

 800万ベリーがどれくらいのお金か分からないが確実にご飯と甘い物沢山食べれる!私はまだマキノさんのご飯をお腹いっぱい食べてないんだー!!

 

 まだ売られるわけにはいかないんだ!

 まだ死んでたまるか!

「誰が死んでたまるか!」

 

 ルフィと偶然言葉が被る。何としてでも生き残ってやる。そして世界中の美味しいご飯を食べるんだ!…なんだか悲しくなる目標ね!

 

「ふふっ…ふふふふっ……。あーっはっはっはっは!!」

「どうした…恐怖で頭がおかしくなったか?」

 

 山賊達がいきなり笑い出した私に動きを止め可哀想にと目を向けて来た。

 ふっ…悪いな。生まれる前からずっと可哀想に決まってんだろ。泣きたい。

 

「それで………納得」

「は?」

 

「そちらの56体なる人魂……お主にぞ怨み持つ者か………」

 

「何が言いたい…」

 

「ふふふふふふ……くくくくく………哀れ…哀れぞ!!」

 

 下を向いて狂った様に笑う。さり気なくこのタイミングで山賊達から距離を取るのを忘れない。近くにいて剣を振り回されたらひとたまりもありませんからね。

 

「お、おいこのガキ本気で頭おかしくなったんじゃないか?」

「大丈夫か?」

「それに喋り方変だ…」

 

 うるさいぞ山賊ABC

 

「山賊共…背後……………霊体 存在 確認…」

 

 ゆっくりと山賊達の背後を指差すとその先で地面がパキン、と凍る。よし、成功。

 

「ひっ!!」

「な、なんだこれ!」

 

「おいガキ…お前何した…」

 

「私?何事も?……ふっ、只霊体ぞ拝見可能のみぞ……」

 

 嘘です霊体なんか見えるわけがありません。むしろ怖いです。見えたら私が発狂しますから。

 

 

「お、おい…まさかこいつ死霊使いか!?」

「それって偉大なる航路にいるとかって言う幽霊と対話できる能力を持ってる奴って噂の!?」

「確か幽霊と会話ばかりするから人と会話が難しい奴だって……や、ヤベェって…この氷も絶対そうだって…っ!」

 

 そんな記憶は一切無いがその言葉で周りが青ざめたからナイスだ、山賊ABC。グッジョブ。

 

「そんなのまやかしに決まってんだろ!!腑抜け共が!」

 

「ふっ…」

 

「何がおかしい糞ガキ!──頭にきた……お前も殺してやる…────っ!?」

 

 山賊の顔のすぐ横の髪を指差すとパキン、と山賊の髪の毛が1部凍った。よし、細かい対象だけど脅すのには充分。

 

「海賊王…くらいご存知?」

 

「………それがどうした…」

 

「そこ。存在してるぞ」

 

──ボオンッ!

 

 

 指の先。山賊のトップのすぐ後ろで小規模な爆発が起こり山賊全体に動揺が走った。

 

 ちなみに私は指差し確認の要領で細かい調節をしているだけだ。集中力が必要なので1点しか見ません。山賊が怖いとか…い、一切有りませんからね??

 

「海賊に喧嘩ぞ売ったその意味…理解可能か?」

 

 

 

 

「まさか…海賊王の幽霊が海賊に喧嘩売ったから怨みでここに来てるのか!?」

「手を出しちゃならねぇ奴らだったんだ!こいつは海賊王の加護でもあるのか!?」

「恐ろしい…殺されちまう!に、逃げようぜ!俺はまだ死にたくない!!」

 

 山賊ABC…お前ら何?私の手先だったりするの?ねぇ……君たちのお陰でなんかそんな感じの雰囲気になってるけど私君たちにしろとは言ってないよね?ありがたいけど。

 

「雰囲気って大事ぞりね…」

 

 思わずボソリと呟いた言葉は運のいいことに誰にも拾われずに済んだ。

 

 

 

 

 

 

 

「────使いが遅いと思ったら…お前らこんな所で一体何をしてるんだ?」

 

「え…しゃ、シャンクスさん!?」

 

「やぁ、先ほどぶりだな山賊。うちのガキ共がどうかしたか?」

 

 

「へっ、こいつらが俺に喧嘩を売ったんだ。よって、殺すことにした」

 

 まて私は喧嘩を売ったりなんかしていないぞ。

 

「そりゃ悪かった…謝るよ。けどな…そこにいる死霊使いがそれを許すとでも思っているのか?」

「!?!?」

 

 シャンクスさん!?まてまて何ノッて来てんの!?

 もうそろそろ終わらせようかと思っていたんだけど!?

 

「ソの通りぞ。さっさと失せよ。我を怒らすことなかれ」

 

 ちょっと動揺して声上ずった。

 

「お、俺は腑抜けじゃねぇんだ!舐めるなよ!!」

 

「ならばお相手願うぞ。────こちらの海賊が」

「いや俺らかよ」

 

 ヤソップさんが素晴らしいタイミングでツッコミを入れてくれる。最近彼で遊ぶのが好きなようだ。

 

「ん?ご不満?────億超え賞金首」

「……!!」

 

 ハッタリ以外のなにものでも無いだが…一応シャンクスさん達がノッてくれるとありがたい。

 

「そういう事だ。さて、山賊。ルフィ達から手を引いてもらおう……」

 

 いえーい!ノッてきてくれましたぁぁ!死霊使い(笑)を出した時点でちょっと期待してたけどぉぉ!テンション高いね私!

 

「お、億超えだって!?か、敵うはず無ェよ!」

「くっ、無理だ!引こう!」

「こんなの聞いてねぇ!!嫌だ!」

 

 山賊ABCよ……お前らほんとに何なんだ。

 

「どうした?逃げろ、と言ってるんだ……逃げてはどうだ?」

 

「チッ…」

 

 

 山賊達は恨みを込めた視線を向けてくるけど私と億超えを相手するのは嫌のようで去っていった。

 

「ルフィ…お前のパンチはピストルみたいに強いんじゃ無かったのか?」

「うるせぇ!シャンクスのバカ野郎!」

 

 

 んー……一件落着…なのか?

 

 

 

 

 とどめを刺してない山賊が不安だがひとまずマキノさんの手料理だ!

 



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第19話 嘘から出たまこと

「ひーーーっ!ひっひっひっっ!!!」

「何時まで笑うぞ!!」

 

 

 海賊が集う酒場には赤い髪の男の笑い声が響いた。

 

 

「だって、ヤソップがこっそりつけてたらっ!お前…っ!死霊っ、死霊使い…っ!ひぃーっ!!」

 

「おい老け顔、停止ぞ」

 

 パキンッ、とシャンクスさんの髪の毛の先が凍る。

 

「っ!お、お前の能力なんなんだよ!」

「さっぱりぞ……」

 

「おい…」

 

 赤い髪の毛の老け顔だけじゃない。周りの男共全員が全員ゲラゲラと笑っている。失礼な話だとは思わないかこの野郎。

 

「ほんとにお前何者なんだぁ?」

「リィンぞ?」

「知ってるよ今更そんな事!」

「ヤソップさん…カッカしてるとハゲるぞ?」

「泣くぞ!?」

 

「なぁ死霊使い」

「否定ぞ…」

「どうして俺達が億超え賞金首だって分かったんだ?」

 

「は?」

 

 え、今なんと?

 

 〝俺達が億超え賞金首だって分かった?〟

 

「億超え賞金首……?」

「ん?あぁ」

 

「え…」

 

 いま信じ難い言葉が聞こえたぞ。

 

 

「ま、誠に億超え賞金首ぃぃ!?!?」

「は!?知ってたんじゃ無かったのかぁあ!?」

「えええぇぇぇ!?」

「はああぁぁぁ!?」

 

 ヤソップさんと私がお互いの顔を見ながら驚く。

 や、ヤベェ……億超えの賞金首に私すっごい舐めたこと言ってる。むしろそれしか言ってないよね?

 

「まてまてまてまて…リィン、お前ほんとに知らなかったのか!?」

「否定ぞろんぱ!只なるものの嘘から出た誠にじょろろんぴー!」

 

「おい。テンパり過ぎていつも以上に言葉おかしくなってんぞ」

 

 ちょっと動揺し過ぎました。私の標準語は相変わらず不思議語になっている模様です。

 

「とととととととととと」

 

「いや落ち着けよ」

 

 

 

「はっ!食われる!?」

「誰が食うかボケ」

「あうっ!」

 

 ヤソップさんの拳が私の頭に落ちてきた。このやろうっ!脳細胞が死滅しちゃったらどうするつもりだっっ!

 

「混乱してんなぁ……俺にとってはお前の機転に混乱してるっつーのによ…」

「俺からも言わせてもらおう……お前本当に死霊使いでは無いのか?」

 

 シャンクスさんだけならともかく海賊さん達の副船長のベン・ベックマンさんまで言い始めた。

 

「クマさんまで!否定ぞ!私なる人物死霊使い否定!」

「だからそこで区切るのを止めろと言っただろう……」

「しかしながら〝マン〟ではただの〝男〟のみぞ…」

「だからといってクマは違うだろうクマは……」

 

「あ、ちなみに進言するならばクマは嫌いぞ」

「………………それは俺も嫌いだと言いたいのか…っ!」

「クマさんは好きぞ?しかしながらクマは嫌いぞ」

「紛らわしい!止めろ!」

 我慢の限界らしく必死に止めようとしてくる。そうは言ってもことあるごとに「クマさん」「クマさん」言ってたから変えにくいしフルネームを発音出来ない私の舌は欠陥品だし……。

 それに面白いんだからいいじゃないか。

 

「………で、お前は何時まで拗ねてるんだ?───ルフィ」

「───なんで戦わねぇんだよ……」

「戦う?どうしてだ?」

 

「だっておかしいじゃないか!酒かけられてヘラヘラ笑って!あいつらよりずっと強いのに戦いすらしねぇ!バカにされたんだぞ!悔しくねぇのかよ!」

 

 ルフィは思わず立ち上がり拳を握り絞めた。唇を噛んで下を向いて、その小さな肩は震えている。

 きっと、自分じゃ太刀打ち出来なかった悔しさと、シャンクスさん達の行動の怒り、だろう。

 

 シャンクスさんは困り笑いを浮かべルフィの目線に腰を屈めて肩に手を置いた。

 

「悔しくは無いさ…。ただそこで笑うだけで危険が回避出来るのならそれに越した事は無い。いいかルフィ、覚えておけ。強い相手とお前1人が対立するだけで大事な仲間が傷付くんだ………それなら戦わない方がいい」

「でも…情けねえ……」

 

「それにな、実力差が目に見えて分かってる相手に喧嘩をしてどうする………無意味だろう?名を売るわけでも、強敵と戦い力をつけるわけでも無い…。喧嘩っていうのは買うだけじゃ無いんだ。買ってばかりいると何時か財布がスッカラカンになっちまう」

「……」

 

 難しい話にみえるが実際これは「無意味なトラブルは避けろ」って言う事でしょう?自分より遥かにレベルの高い敵と対峙するのならそれは周りの命の危機になる。自分よりレベルが遥かに低いのなら変な誤解を生む上になんのメリットも無い。

 

 

 ま、喧嘩とかに関わらなければいいだけだ。

 

「シャンクスはおっきいな」

「あ?そりゃ大人だからデカイに決まってんだろ」

「お頭のなんか意味が違う……」

 

「バカばかり、だな」

「クマさんそれ親父ギャグぞ?」

「ち、が、う」

「ぶぁいぶぁぶぁびぃまびぃば!(はい分かりました!)」

 

 ほっぺたつままれてヒリヒリする。子供相手に大人げないぞ海賊共……。

 

「私ぞ引っ張るよりルフィ引っ張るが良いぞ!最良ぞ!ギネスぞ!」

「ぎねす?なんだそれ」

「世界記録ぞ……」

 

 ギネスはこの世界に無いのか…!?

 

「なぁリィン。お前も悪魔の実の能力者なのか?」

 

 おずおずとルフィがこちらを向いて呟いた。

 

「多分…そう。だとぞ、思われるじょ」

 

「何の実だ?」

「だからご不明ぞ………」

「幽霊と話せるのか?」

「否定ぞぉぉ……」

 

 話を聞いてないのか話を!

 そりゃまだまだ小さい子供だから話が1から10まで聞けれないとは思うけれども基本的な事くらい聞いておこう!?

 

 なんだか一気に疲れた気がする…。

 

 ルフィには相手を疲労させる能力者じゃないのかなっ、ゴムゴムの実なんかじゃなくてヘロヘロの実。

 ちょっと強そう……。

 

 

 いやいやいやいや、私が求めるのは強さでなくて平穏!海賊とは無縁無縁!

 

「あ、大分日が落ちてきたな…」

「私ぞ帰還致すぞりりーー!!」

 

 夜の森は大変危険です。

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

 

「帰ったか……」

 

 その酒場にはつい数刻まで騒ぎ続けた海賊の姿は居なかった。

 

 リィンが帰ると騒ぎはお開きとなり、その場に居るのは船長のシャンクスを含め古株であるヤソップら数人がいるだけだ。

 

 その顔つきは明らかに酔っ払いの顔や愉快だと騒ぐ海賊の顔では無く、偉大なる航路で超新星として名を馳せる海賊の顔つきだった。

 

「ここ半年程ルフィやリィンを見て、今日程驚いた日は無い…」

 

「あぁ…──」

 

 その言葉に同意するのは副船長ベン・ベックマン。客観的に物事を捉える事に長け、赤髪の海賊団の頭脳と言っても過言では無いだろう。

 

「まさか〝海賊王〟の存在を使うとはな………。それに刀を突きつけられても竦み上がらず冷静な判断でその場を切り抜けた度胸…。恐れ入ったさ、あの歳でソレを成し遂げるんだ」

 

 内心ビビりまくりだったリィンはただ恐怖でしばらく動けなかったなどと彼らが知ったらどうなる事か。

 

「見てる限りじゃあ…氷に爆発…ありゃ何の実だ?」

 

 最初から見ていたヤソップは頭を捻らせ考える。氷と爆発の能力は全く別物…一体何が影響しているのか不明だった。 

 

「リィンは不思議な点が多いが……ルフィ、アイツはきっと将来名をあげる。船長…ロジャー船長と同じ事言いやがったんだ」

 

 海賊王ゴール・D・ロジャー。ここにいるシャンクスは見習い時代彼らの背中を追って成長した。麦わら帽子が良く似合うあの大きな背中を…────。

 

「〝自由を求める海賊〟ロジャー船長達がよく言ってたな……。副船長も姐さんも…俺はあの人達が大好きだった……。だから賭けたい───船長達の意思を受け継ぐあのガキに」

 

「シャンクス、お前──まさかその帽子を…!」

「あぁ、そのつもりだ……」

 

『海賊王じゃなくてもいい。シャンクス…あんたさ、四皇にでもなっちゃいなよ!それで素質があるガキを待つの……そういうのも面白そうじゃない?』

『おいカナエ……いい加減な事言うんじゃない』

『いーじゃないっ!きっと現れるって!……ロジャーと同じ事言う子供がさ…。それでその帽子でもなんでも渡してやんなさい!海賊の冒険は止まらないんだから………絶対止めてやんない……』

 

 嘘だと思ってた。姐さんが言っていた事はいっつも奇想天外で意味がわからなくて。だからロジャー船長が処刑されたあの日、あの人の面影を思い出したくて言ったんだとその時はただそう思ってた。

 

 

 

 嗚咽混じりの言葉はシャンクスの記憶に深く根付いていた。

 

 確か唇を噛んで血が滲んでるのに必死に笑顔振りまいてたな…それでバギーが、心配そうにオロオロするんだ……。

 

 

 

「───嘘から出たまこと、か」

「ん?」

「いや、人生ってのは分かんねぇもんだな」

 

 何を今更な。

 分からない事があるからこそ人生は面白い。

 

 赤髪の海賊団はまだ見ぬ冒険へと旅立つ決意を心に決めた。

 

 

「俺の目標は……四皇だ。そこでロジャー船長の意思を待つ」

 

 航路は新世界、王者の前に居座る四皇。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第20話 別れ 絶望

 

 

 ある日の昼下がり、赤髪の海賊団が長らく拠点にしていたフーシャ村の港で慌ただしく人が動いていた。

 

「なぁシャンクス…ほんとに行くのか?」

「あぁ…ここも長いこと拠点にしてきたが…もうそろそろ先へ進もうと思う」

 

 別れは唐突にやってくる。シャンクス達海賊がついに出航する。戻ってくるにはかなりの年月が伴うようだ。

 ルフィは不服そうに顔を顰めた。

 

「変な顔をするなよルフィ……そう言えば、一緒に行きたいとは言わないんだな」

「あぁ!いいんだ!俺は、この海賊よりずっと強い仲間を手に入れて海賊王になってやるんだ!シャンクスなんかギッタンギッタンに倒してやるからな!」

「そうか、それは楽しみだ……」

 

 シャンクスはそう呟くと下を向いてしまったルフィに自身の麦わら帽子を深く被せた。ルフィは男、そしてプライドだってある。男の涙を見ないようにしたんだろう。

 その証拠にルフィの足元に黒い影がポツリポツリと増えていっている。

 

「その麦わら帽子はな、俺の恩人から受け取った大切な帽子だ…来いよルフィ…海賊の高みへ!!」

「ゔん!!!」

 

 嗚咽混じりだが、力強く返事をした。

 

 

「ところで───そこの物影に隠れてる死霊使い!出てこい!」

「っ!死霊使い否定ぞ!!」

 

 リィンだ。思わずツッコミを入れてしまったのが運の尽き、ヤソップは自分のお気に入りの玩具を見つけニヤリと笑った。

 

「よぉリィン!なんだぁ?寂しくて来ちゃったのか?そりゃそーだよなぁーだってわざと出発の日にち俺がポロッと口から滑べらしちまったからよ〜」

「寂しい否定喜んで!」

 

「……この可愛げのねぇ糞ガキめが!」

「いだだだだだだだだ」

 

 ヤソップの頭グリグリ攻撃はリィンに確実にきいた。

 

「(やはり自然系(ロギア)ではない、と……)」

 

 ヤソップはこう見えても策士家である。調子乗りな所がたまに傷だが一味の安全を一番大切にしてる仲間想いの男だ。

 リィンの力を気にしないわけがない。

 

 本人は静かに暮らすと言っていたが何故かトラブルに巻き込まれる彼女の事だ、何らかの原因で海へ出るだろうと予想がつく。

 

「リィンさんよぉ…お前俺ん所の娘になんねぇか〜?丁度ルフィと同じくらいのガキがいてよ〜…」

「耳タコじょりり。却下ぞ」

「チッ」

 

「リィン、一つ剣を合わせたい。構わないか?」 

 

 舌打ちをしたヤソップと入れ替わる様にシャンクスが近寄ると真剣な顔で言った。リィンはやる気が起きないが空気は読める。いやいや頷いた。

 

 

「………初心のみぞ」

「あぁ構わない。誰か、リィンに刀を…──」

「所持済みぞ?」

「!!……そうか、もう愛剣があるんだな……」

 

 シャンクスは笑った。リィンが少しその場を離れ、死角に入るとアイテムボックスから業物〝3代鬼徹〟を取り出した。

 

「(真剣での戦いか…やった事ないな……。はっ!まさかこれは「お前に懸賞金を知られたからには殺すしかない」とか思われて試合と見せかけ殺されるパターン!?なんてベタな!?)」

 

 シャンクスはただ単にリィンの腕が気になるだけだがこの心配症(アホ)はそうそう治らない。例えどんな名医でも100%無理だろう。

 

 

「お待たせ致すとぞ!」

「お待たせしました、な」

 

 不服そうにベッ、と舌を出してヤソップに反抗した。

 

「そう肩に力を入れるな…怪我はさせん──多分」

「多分!?」

 

 

 そうしてシャンクスは向かい合いリィンの持つ愛剣──本人は愛もへったくれもない──に目を向け思わず叫んだ。

 

「き、鬼徹!?!?」

「え?ご存知?」

 

「知ってるも何もそれはフェ……っ!!」

 

 そこまで言えばシャンクスはふと気付いた。そして笑った。

 

「なるほどな!!っく、くくくっ!!そりゃ剣を合わせる迄も無い…っ!!はははっ、リィン、お前その鬼徹は師に貰ったのか?」

「肯定ぞ…」

 

「その師の教え、大事にしろよ?」

 

 そう言えば最早剣を合わせる気が無いのか刀身を鞘に納めた。

 

「(フェヒターさんに教えてもらっているのか…それならば安心か)」

 

「(ん?なんか知らんがラッキー)」

 シャンクスはリィンが持つ鬼徹の元の持ち主をよく知っていた。

 自分にも人にも厳しいとても優しい尊敬する彼を。

 

「(そうか、やはりあの時見聞色にひっかかった強い声は貴方だったんですね…。どうしてこの島にいるのか知りませんがこのガキ共よろしくお願いします)───さぁ!野郎共!!出航だ!!」

「「「「「おおおぉぉぉおおお!!」」」」」

 

 大きな雄叫びのような声が船から聞こえた。

 

 

 

 

 シャンクス率いる赤髪の海賊団は麦わら帽子を少年に託し 今 大海原に消えていった。

 

 

 

 

「シャンクス……俺、絶対行くからな…偉大なる航路(グランドライン)…海賊に」

 

 別に海軍でもいいんじゃないかと思ったリィンはどうでもいいとばかりに欠伸をした。マイペースも考えものである。

 

 

 

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

 シャンクスさん達を送り届けて山道をやっっっっと抜けた。

 疲れた……マキノさんのご飯はそれだけ価値があるということで。

 

 ただいまーー!!

 

 

「あ、リーおかえり」

「よぉ小娘邪魔してるぞ」

 

 

 悪魔(フェヒ爺)が居座っていた。

 

 

「フェ、フェヒ爺!?な、何故にこちらにおいでませー!?!?」

 

 噂をすればなんとやら。いや、来て欲しくなかったです。

 

「小僧は出たのか?」

「こぞー?」

 

「シャンクスの事だよ……」

 

 

「!!フェヒ爺……ご存知?」

「俺がこの島に入った声を判別できないとでも思ったか」

「…声?」

「ったく、テメェはホントに厄介事持ってくる塊だな」

 

 それはどうもありがとうフェヒ爺も私の中で厄介事の一つです。

 それもそうだが声ってなんだ?耳がいいのか?

 

「…俺の決意を不意にしやがって…」

「私ぞご存知皆無な。で、御用は何ぞり」

 

「この野郎…っ───まあいい、俺は心が寛大だからな」

「ミジンコ如き心の広さぞ。広さ?否、狭さ。ミジンコ如き心の狭さぞ」

「絶対ケンカ売ってるだろ………小娘」

 

 そんなそんなHAHAHA

 

 勘の鋭い爺さんだなこの野郎。

 

「一つ、どんな手を使ってでも生き延びろ」

「?」

「一つ、知識と経験は力」

「フェヒ爺?」

「一つ、使えるものはなんでも使え」

「はぁ…」

 

「───よって、明日からの稽古を厳しくする事とする」

「ひょ!?なななななななっ!?」

 

 地獄の通達どころか閻魔大王様がやって来た。

 

「剣を失った時、人質を取られた時、手を封じられた時、足を封じられた時、そして様々な敵のタイプの見極め、対処法………俺が学んだもの全てをそのちっこい脳みそに詰め込んでやる」

「不要ぞ」

「諦めろ」

「ひどい!」

 

 酷い!酷すぎる!私が貴方に何をしたと!?

 

「リー、嫌だとは思うけど必要な事なんだ…」

「不要ぞ!」

「どうしてだ?お前は将来俺の船に乗るんだろ?」

 

 エ ー ス 今 な ん と 言 っ た 。

 

「拒否!拒否ぞ!」

「はぁ!?何でだよ!!」

「危険故に!!」

「安心しろ、俺は強い。お前くらい守ってやるさ」

「私如き人物に背負い投げ食らわれている様子なればゆるゆるぞ」

 

「うっ……」

 

 図星をつかれたのか思わずエースが唸った。甘いな、考えが。

 いいか私はニートになるんだ!引きこもり万歳!

 

「ま、どうやろうが厳しくするのに変わりがあるわけじゃねぇから安心しろ」

「不可能ぞりーーー!」

 

 絶対に逃げ出してやる。シャンクスさんが言っていた(師の教えを大切にする)ことなんざ関係あるか!!

 

って、こんな人師なんて認めない!!!

 

 

 

 

 

 



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第21話 出会い

 

「……」

 

 リィンは金色の髪をボサボサにして不機嫌そうに森の中を歩いていた。

 隣にいる義兄のエースとサボは呆れた眼差しを向けている。

 

「(あのくそじじい絶対殺す…)」

 

 訓練を厳しくすると言われはや1週間。3日4日に1度だった訓練も2日に1度は行われた。有言実行、中身もよりハードな訓練になった。

 

「筋トレが増加しただけだろ…」

「あれくらいなら俺たちだって出来るぞリー」

 

 正直人間離れした兄と比べないで欲しいリィンだった。

 

「素振り腹筋腕立て背筋ランニング!!多いぞ!」

「全部そんなに多い量じゃないと…」

「解せぬ…」

 

「(何が剣も持てないひよっこだ。こちとら持つ気は一切無いんじゃ阿呆…腕立ても飽きるし、まずそもそもの話小学校に通ってない歳の女の子に刀をブンブン振り回せる力があるかっての!侍か!私の中での常識が壊れていく気がする!そして刀と剣の違いって何ですか!)」

 

 心の中でグチグチ言うのはもはや口に出す気力が無いのを物語っている。

 

 自分、何でこんな目にあってんだろ…。

 

 思わず遠い目をした。

 

 

 ==========

 

 

 

 ところ変わって森の中、もう1組、不機嫌そうに引きずられる少年がいた。

 

「じいちゃんヤだよ!!離せぇえ!!」

「うるさいわ!!さっさと歩かんか!」

「誰が山賊の所になんか行くか!俺はマキノの所で海賊にな…いだだだだだだ!」 

 

 頬を引っ張られ首を持たれ、傍から見たら虐待だがそれを気にしないのがリィンの祖父であるガープだ。

 実孫であるルフィを引きずり目的の場所へ目指す。

 

「フーシャ村なんぞ生ぬるい所に置いておくのが間違いじゃったわい。お前は海兵になるんじゃ!」

 

 海軍将校がこんな辺境の地に何度も来ていいのか最近疑問に思ってくるリィンだが今現在不貞腐れて別の道を歩いているのでその疑問が解消される事は無いだろう。

 もっとも、〝孫に会いたい〟ただその理由で職権乱用してるとはいくら孫である彼女であっても予想つかないだろうが。

 

「嫌だ嫌だ!!俺は海賊になるんだ!山賊の所になんか絶対行くか!俺は海賊王になるんだ!」

「何が海賊王じゃ!悪魔の実なんぞ食うてしもうた上にそんな巫山戯た口をぬかすか!」

 

 口元を引っ張られ引きずられる。嫌だ嫌だとルフィは拒否してるが敵う筈もなくずるずると森の奥へ進んでいった。

 

「いででででで、なんで俺ゴムなのになんで痛てぇんだ…」

「お前もエースも巫山戯(ふざけ)たことを…よりによって赤髪と馴れ合うとは何事じゃ!」

「俺は海賊になるんだぁぁああ!!」

 

 

 山の奥に古びた小屋を見つけた。目的の場所だ。

 ガープはその扉を乱雑にドンドンと空いている右手で叩くと叫んだ。

 

 

「ダダン!おるか!開けんか!」

「あぁ!?ここをダダン一家の根城だと理解しての狼藉とはいい度胸じゃないかい!一体誰だい!」

「儂じゃ」

 

 中から出てきたダダンは思わぬ来客にめを見開き一瞬フリーズしてしまった。

 

「………………………ガ、ガープさんんんん!?!?」

 

 

 

 

 

 ──2人の厄介者が出会うまで後少し──

 

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

 フェヒ爺の訓練という名のイジメを受けているリィンです。もう、動きたくない。箒…そうだ箒に乗れば少しは楽になるんじゃ無いでしょうか。

 

「ダダンに見つかるのが嫌なら箒は使うなよリー」

「隠すの勿体ねぇのになんで隠すんだお前は……」

 

 何故私の行動が読めたんだ、サボ。

 理解が良くて何よりと言いたいが逃走経路まで読まれてるんじゃ世話ない。何故だ。

 

「ほら、乗れ」

 

 箒を杖代わりにして歩こうかと思ったらエースがしゃがんで背を向けてくれた。

 こ、これはおんぶですか!?エース、キミは私が歩けるようになってから抱っこどころか手も繋いでくれなかったというのに!?

 

 いや、やっぱり手を繋ぐとかは要らん。

 そこまでガキじゃない。

 

 けどおんぶはさせていただきます、足がもうそろそろ限界でした。

 

 なんて言ったっけ、5キロ?5キロも走れるかバーロー。そんなのランニングと言わないよ。マラソンだよ。

 

 

「……」

 

 無言で乗るとまた歩き出した。あー、おんぶっていつぶりだったかなー…とりあえず第1回虎に遭遇事件のおんぶは思い出したくないなー……怖かった。

 もう二度と会いたくない人ナンバーワンに見事取得していらっしゃるからね、あの虎さん。

 

 

 

「眠いのか?」

「ん…」

「……寝ていいぞ」

「ん……」

 

 私の頭を撫でるのはサボ。揺りかご形式って凄く眠たくなるよね…。あー、疲れた。眠い。

 

 橋を渡ると家まであと少しなんだがもう限界です。

 

 お言葉に甘えて寝ようとしたその時──

 

 

 

「あーーー!!リィンー!!!」

 

 なんか馬鹿(ルフィ)の声を聞いた気がする。

 

「リー……知り合いか?」

 

 いいえ知りません。

 

「お前もここに居たんだな!」

 

 寝させてください。

 

「そいつら誰だ?」

 

 キミと違って良識のある人達です。

 

「いや〜!元気してたか?」

 

 今現状死にそうなくらいヘトヘトです。

 

「探険してたらここまで来たんだ!なぁなぁリィン──」

 

 崖をよじ登って私達の元へ来ようとする厄介者(ルフィ)

 私は無言でエースの背を降りた。

 

「ルフィ…」

「なんだ?」

 

 私はキミと違って疲れてるんだ。

 

「ん?なんで掴むんだ?そっちは橋だぞ?家とは逆方こ…」

 

 1度くらい黙れ。

 

「ぎゃぁぁぁああああああ!!!」

 

 私はルフィを掴んで丁度渡ってきた橋の下に落とした。

 

「…」

 

 そしてその上から集中して崖の側面を大きな岩サイズで削りそのまま下に落とした。満足。

 

「うわ、おま、えげつな……」

「い、生きてるかアレ!?」

 

 ふふふ、私の睡眠を邪魔するものは赤ん坊の時から鉄槌を下してたんだ。

 いくら顔見知りであろうとも許さん。

 

「えーしゅ、ねむ…い…」

 

 あ、電源切れる。私はロボットか。

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

「リーの本性を垣間見た気がする」

「あぁ」

 

 布団でスヤスヤと眠るリーを見て俺はサボと話してた。

 

「そう言えば眠るの邪魔するとすっごい不機嫌だよな…コイツ」

「うん。あの麦わら帽子の奴も可哀想だ…」

 

 流石にあれは同情する。あの下には狼が住んでいて生身の人間が落ちるとただでは済まないんだが……。いや、そもそも転落死するよな。

 

「大丈夫かな……」

「サボ、お前随分優しいんだな」

「ん?そうか?……ただ、リーと過ごしてて他人も良いなって思ったんだ。お前ら以外の人にも興味くらい湧くさ」

 

「そっか」

 

 リーといると不思議な気持ちになる。もっと希望を持ってもいい様な気にさせられる。鬼の血を引く俺を、ただ1人の人間として見てくれるから。

 嬉しいんだな。きっと。

 

「こいつみたいな奴が世界中の人間だったら良いのに……」

「まぁ、年上の男を投げ飛ばせるっていうのを除けばな」

「あの麦わら帽子の?」

「お前もだろ」

 

 確かに投げ飛ばされた経験はあるがあれはノーカウントだ。意識をシャンクスさんに向けていたせいだ。

 

「あの麦わら、誰なんだろうな……」

「シャンクスさんの帽子だったから関係者だと思うけど」

 

 え、シャンクスさんの帽子?

 

「!?!?!?」

 

「エース…ひょっとして気付いて無かったのか?」

「ゔ……」

 

 帽子よりあの赤い髪の方が印象深かったからあんまり覚えてなかったや……。

 

「リーに害をなすようなら俺は始末する。例えシャンクスさんやリーに関わりがあろうともな…」

「うん……勿論だ…」

 

 

 

「でも始末ってどうやってだ?殺すのか?」

「した事ねぇ」

「だよな」

 

 

「ぷぎゃふっ!!」

 

 何だか不思議な声が聞こえた。

 

「……今の声ってリーだよな…?」 

「俺にはそうとしか思えなかったけど…」

「どんな夢見てんだよ…」

 

 俺たちは眠っているリーを尻目に笑いあった。

 



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第22話 3度目でも4度目でもやはり前途多難

 

「さてと……金のありかを教えてもらおうかお嬢ちゃん」

「こちらも殺されたくないんでね…返してもらうぞ」

 

 

 えー、こちらリィンでございます。

 ルフィをキレた拍子に狼の谷へ吹き飛ばしてはや1週間。彼は帰らぬものとなりました。いや、生存確認出来てないだけですけど。

 

 正直ルフィより私の方がピンチかもしれない。

 

 さてそれでは私の状況を十文字以内で説明しましょう!

 

 海 賊 に 捕 ま っ て い ま す

 

 

 

 

 ……………どうしてこうなった。

 

 

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 凶暴な狼が巣食う谷に落とされたルフィはやっとの思いで這い上がった。

 

『お嬢ちゃん…ちょっといいかな』

『は…むぐっ!!んーー!!』

『兄貴!こいつあのクソガキと一緒にいた奴で間違いありません!拷問しましょう!』

『あぁ…船長に殺されるのは勘弁だ……吐いてもらうぞ。金のありか。海賊の金に手を出したあいつらを恨め』

 

 

 

 見慣れた金色の髪が目に入り思わず声をかけようとすると彼女は攫われた。ルフィは一瞬の出来事でどうすることも出来ずただ突っ立ったままだったが意識が覚醒して思わず叫んだ。

 

「リィン!」

 

 何も考えずに叫びながらリィンが消えていった方向へひたすら走って追った。

 

「リィン!!っ、リィン!!!」 

 

 嫌いな山賊の家、頼れるのは妹のみ。

 

「おい、そこの麦わら帽子」

「あ、エース…とサボ…?」

 

 声をかけられてふと我に返ったルフィは声の方を向くとリィンと一緒にいた2人の少年が目に入る。

 エースとサボだ。

 

「さっきリーの事言ってたよな。何があった」

 

 話しかけるのは不服だ、と言わんばかりに眉を顰めるが流石はシスコン。きちんと聞いた。

 

「リー?」

「チッ…リィンの事だよ!」

 

「あ!そ、そうだ!大変なんだ!」

「「?」」

 

 エースとサボは思わず首を傾げる。そしてルフィの発した言葉に思わず手に持っていた獲物を落とした。

 

 

「リィンが海賊に攫われたんだよ!」

 

 今空気が一瞬にして変わった。警戒から殺気へと。

 

「俺達の妹に手を出すとは…いい度胸じゃねぇか…」

「それ、嘘じゃないよなぁ?えっと…ルフィ」

 

「こんなつまらねぇ嘘なんかつくか!リィンを助けてくれ!頼む!リィンを助けたい」

「麦わら帽子…お前に言われなくとも俺たちは動く。リーを助ける」

「リーはどこへ消えた」

 

 エースの言葉に続きサボが質問を重ねた。真剣な2人の視線にルフィはゴクリと息をのみ釣られて真剣な目に変わった。

 

「あっち…」

 

 そっと指でリィンが連れ去られた先を示す。

 

不確かな物の終着駅(グレイ・ターミナル)か……」

「行くぞ、サボ」

 

「ま、待ってくれ!俺も行くぞ!!」

「足でまといだ!」

「それでも行くんだ!今行かなきゃ後悔する!」

 

 思わず涙が零れそうになるのを必死で我慢して、エースを睨む。サボはこのままでは時間が勿体ないと考え一つ提案した。

 

「エースルフィ。2人はリーを追ってくれ」

「サボ…お前は?」

 

「ルフィ、相手は確実に海賊だったんだな?」

「うんっ、刀持っていっぱいいた!」

「なら、俺の行く所は決まった。2人とも…リーを頼んだ」

 

 そう言うとサボは一直線で別の道を走った。

 

「(フェヒ爺……っ)」

 

 あの強い彼ならきっと助けてくれる。エースの力を疑うわけじゃない、でも念には念を入れておいた方が確実だ。フェヒ爺本人は大した海賊じゃないとは言っていたけど絶対違う……。

 

「(頼む、居てくれっ!!)」

 

 過去見せたことのないスピードで慣れた山道を行く。

 

 

 

 

「麦わら帽子、行くぞ」

「…!!」

 

 エースのその言葉にルフィは嬉しそうに顔を上げた。それを確認すればエースはサボと同様、森をかけた。

 

「(うわっ、早いっ!)」

 

 ルフィは足をもたつかせながら必死にエースの後ろをついて行った。後ろなどお構い無しにグングンスピードを上げて走るエースに少し距離を離されているが一生懸命足を動かした。

 

 

「………リーっ!」

 

 

 ==========

 

 

「ご不明ぞます!」

 

 縄にくくられぶら下がっているからもうそろそろお腹当たりがきついです…。太ったかな…マキノさんのごはん食べ過ぎか。

 

「ぞます?」

 

「ご存命行方不明ぞりでます!」

「??」

 

 何故分かってくれない。私は知らないんだ。エースとサボがお金を持ってることは知ってるけどその隠し場所までは知らないんだ。

 癪に障る事したくないので敬語にしようとしてるのがいけないのか?ですます、つければ敬語になるんじゃないのか?

 

「兄貴…俺には解読出来ません…」

「俺もだ、安心しろ」

「良かった…読めないからって殺されるんじゃないかと心配しました…」

「バカ野郎。こんな言葉理解しろって言う方が無茶難題だろうが」

「ポルシェーミさん……っ!」

「兄貴心広ぇ!」

「ポルシェーミさんっ!」

 

「おいおいよせ、照れるじゃねぇか」

 

 感動している所悪いんですけどお前ら全員ぶち殺してやろうか。誰の言葉が無茶難題だバカ野郎。

 

「じゃあどうしやすか…」

「仕方ねぇ、こいつを囮にエースとサボをおびき寄せるか」

「そうッスね…例え拷問しても言葉が分からないんじゃ話にならねぇ……」

 

 やばい。生まれて初めてこのへっぽこスキルに感謝しそうだ。

 

「ぺぴちっ」

 

 あー、この空気ホントに嫌い。くしゃみが止まらなくなるんだよな…。

 

「…?」

 

 どうでもいいけどエースとサボをおびき寄せるんなら何処かで情報を漏らさないといけないんじゃないですかね。なんでこちらを見たまま誰も動かないんでしょうか…。

 グレイ・ターミナルの他人への無頓着さ舐めるなよ。噂が広がるとかホント無いからな。

 

「金にはなりそうなのにな…」

「変態に売りつければ高値で売れますね」

「「「「残念語さえ無ければ…」」」」

 

 よぉし、覚悟は決まったかお前ら。現世とのお別れの時間だ。

 アイテムボックスからナイフと鬼徹くんぶん投げてやろうか。ちゃんと手入れしてるからスッパリいくぞこの海賊共。

 

 なんで私の人生賊に関わりがあるだろう…。悲しくなりそうだ。

 

「リーー!!」

 

──ドカァ!

 

 馴染みある声が聞こえたと思ったら壁が破壊された。

 

 扉から入りましょうよ……。

 

 

「リー!無事か!」

「リィンっ!助けに来たぞ!」

 

 エースとルフィ?なんでこの2人が来たんだ?サボは?それにこの場所はどうやって判明した?なんで壁を破壊した?

 

「ふふふ、囮作戦成功か…」

 

 いや、成功してないです。

 

「んー…」

 

 アイテムボックスからナイフを取り出して後ろ手に縄を切ってみる。あ、難しい。結構難しい。

 

「お前ら…俺の金をどこにやった。海賊の金だぞ」

「俺が奪った金だ!俺達の方が有効に使える…!」

 

 待てよ…これってどう考えても悪役エースじゃない?金奪ったのもエースですよね?元々持ってたのはこの人らなんだし。

 

「……」

「なんでリーは死んだ目をしてるんだ…」

 

「何事も存在しにーぞり」

「何でもない、だろうが」

 

 あ、縄切れた…あぁ!?

 

「どべふっ!」

 

 いきなり落ちたからバランス取れずに顔面から地面にキスしちゃった。ジャリジャリする。鼻痛い。

 

「このガキっ!殺してやる!生かすのはエースお前1人でいいんだ!」

「そうはさせるか!」

 

 エースは向けられた剣を鉄パイプで防ごうと必死になる。

 エースが相手するのはこのグループのボス、ポルシェーミだけで精一杯だ。

 

 つまり、残りの海賊らはと言うと…

 

「ぴぎゃぁぁあ!!」

「うわぁぁぁあ!!」

 

 足でまとい2人に当たるわけですよね

 

「リ、リィン!」

「ふぎゃぁぁあ!!」

 

 ルフィが私の手を引いて上から降り注ぐ刃を避けている。辛うじて、だけど。

 

「うぎゃ!」

「ひぃ!」

 

 まともに戦ってるエースが羨ましい。

 起死回生起死回生!この前山賊に使った死霊使い説を使わないと

 

「ゆ、幽霊ぞそちらに存在するしてるぞ!」

 

 ピキンと地面の一部が凍る。よし、上手くいった。

 

「なんて言ったか分かるか?」

「いや、知らない」

 

 なんだと!?

 

 まさかの理解力低すぎてこの手が使えないとかなんだよ!もっと言語勉強しておけよ海賊共!

 私もしろってか…うるせいやい。

 

「リー!さっさと逃げろ!」

「む、無茶無理無謀ぞ!」

 

 三、四人相手に逃げれるわけが無い。しかも箒はエース達が蹴破った壁の真反対。飛べもしない。

 

 エースの体に少しづつ赤い線が 傷が増えていく。どうしよう。

 サボはどこ、助けて。

 

「エースぞ助けて!」

 

 

 

 

 

 

「冷静な態度を保てと何度も言っただろうが…小娘」

 

 こっちに迫ってくる刀を素手で受け止めた。

 その後ろ姿はあまりにも頼もしく見えた。

 

 

 

 ん?素手で受け止めた?何で?

 

 

「フェヒ爺!?」

「よぉバカ共。頼もしい助っ人参上だ」

 

 とりあえず今土下座して今までの無礼を詫びたい気分だ。でもなんで腕そんなに黒いんですか?

 

「エース!リー!ルフィ!大丈夫か!?」

 

「サボ!お前が呼んできたのか!」

「あぁ!念には念をってな!」

 

「舐め腐りやがって………っ!」

 

「おいおい、最弱の海でのさばってる雑魚が俺に敵うと思ってるのか?引退したとは言えど……俺は強いぞ?」

「フェヒ爺!鬼徹くん…」

「要らないな。素手で充分だ。むしろ鬼徹を持つと血が騒ぐ……この島がただじゃ済まない」

 

 え、厨二病なの?その年で厨二病はイタイよ?

 

「絶対失礼な事考えたろ小娘」

「気のせいぞ」

 

 ホントに勘が鋭すぎるぞこのじいさん。

 

「死ねやぁぁあ!!」

 

 海賊が刀をブンブン振り回す、がフェヒ爺はそれを予測しているかのように避けていく。傷はもちろん一つも付いていない。

 

「す、すげぇ……」

「う、うん……」

 

 流れた血を拭いながらエースが感嘆の声を漏らす。

 

「ぐわぁっ!」

「げふっ!」

「ぎゃあっ!」

 

 刀を拳で砕くとフェヒ爺はそのまま跳躍し、手下を沈めた。

 

「造作もない………」

 

「このまま死んでたまるか…っ!船長に殺される前に1人でもガキを殺すっ!」

 

 懐から液体を取り出しその手にもつ刀に振りかけた。

 

「っ!毒!」

 

 毒ぅ!?待て待てそれって一発当たるとそくアウトの奴じゃ無いですか!

 

──ガシッ

 

「…!!」

 

 フェヒ爺の足が沈んだと思った手下に掴まれ、一瞬行動を止める。

 

「死ねぇえええ!!」

 

 ポルシェーミが刀を振りかぶる先にはルフィがいる。ルフィはゴムで打撃は効かないけど斬撃は効いてしまう。

 

「くっ!」

 

 エースとサボは間に合わない。私の能力で…!

 相手に爆発を生む!!!

 

──ポシュ…

 

「っ!?」

 

 なんで使えない!?どうして!?いつもと変わらないやり方できちんと集中したのに!どうして!?

 

「うわぁぁぁあ!!」

「間に…あえっ!」

 

「小娘ェっ!」

 

 

──ザシュッ

 

 

 肩から腰にかけて今まで感じたことのない激痛が走った。

 

「リィイイイ!!!」

「リィン!!!」

 

 

 なんで庇っちゃったのかな…いつもの私なら犠牲にしてでも逃げるのに……。

 

 

 

 ──あぁ、ほんとに人生なんてクソッタレ──

 

 

 

 ==========

 

 

 

「覚悟、出来てんだろうな……カナエの娘に手ぇだしてんじゃねぇよ…外道が」

「ひっ!」

 

 ビリビリと殺気を纏った視線が海賊につきささる。海賊達が放っていた殺気と比べ物にならないくらいの殺気だ。

 

「剣帝の名………舐めるなよ。刀無くてもお前らくらい一捻りで殺せるんだよ……!」

「フェヒ爺!」

「あ?」

 

「頼む!急いでくれ!何だか分からないけど段々リーの気配が小さくなってるんだ!」

「……声が聞こえやがんのか?」

「急いでくれ!ここから出る!少しでも空気の良くて薬がある所に行かないと!」

 

 サボが必死に叫ぶとフェヒターはリィンを背負いサボに叫んだ。

 

「お前はその海賊縄でぐるぐる巻にしてろ!エース!お前はお前らの家まで案内しろ!」

 

「「わかった!」」

 

 今はただ…死ぬなと願うばかり。

 




エースが原作と違いルフィの話を聞いたのはリィンの性格や考えに触れたから少しだけ変わりました。
フェヒ爺は皆さんご存知の覇気を使えることが出来るのでサボに呼ばれ見聞色で声を探りやって来ました。ハイスペックって素晴らしいですよね!


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第23話 眠りの最中

 

「なんでお前は俺たちにひっついて来るんだ」

 リィンが海賊に背を毒付きの刀で斬られ眠っている最中、現在…ダダンの家ではうなされているリィンの隣でエースとルフィが正面に座り話していた。

 

「俺は、山賊が嫌いだ!それにリィンは俺の妹だ!一緒にいたいと思うのは当たり前だろ!」

「……その理由に俺たちは必要無いんじゃないか?」

 

「ある!友達になりてぇ!リィンがいつも言ってたんだ『頼りになって やさしくて かっこよくて 強くて ツンデレのエース』と『賢くて 理解があって 自分の事ちゃんと考えてくれる サボ』が大好きだって、俺もそれを聞いて、知り合いたいと思った!友達になりたいと思ったんだ!」

 

 エースとサボは無表情を保っているが口元がピクピクしている。シスコンもシスコンで大概だがブラコンもブラコンである。

 

 実際ルフィが喋ったような流暢な言葉では無かったのだが、素直でないリィンからの褒め言葉を聞いて思わずルフィへの警戒心が揺らいでしまった。

 

 

 かつての2人ならばそう簡単に心を許したりはしないだろう。それは良くも悪くもリィンの影響と言える。

 

 

「分かった…なぁお前。お前は俺に生きてて欲しいか?」

 

 エースがそう言えばルフィはポカンとして我に返ると呆れた目をして鼻をほじった。

 

「何当たり前な事言ってんだ?」

 

「当たり前……だと?」

「そうだ!当たり前だ!友達になりたいのに死んだらそこまでじゃないか!当たり前に決まってんだろ!」

「…………そうか」

 

 エースがそう呟けば下を向いた。

 

「生きてて欲しいか……」

 

「俺も生きてて欲しいぞ、エース。リーも絶対そうだ…」

 

「ふぎゅう………」

 

 リィンが鳴いた。まるで返事をしたように見えたエースは笑った。サボはエースの目尻にある涙は気付かないフリをして笑い合う。

 

 リィンの夢の中では何があったのか、知らないが…エースは希望を見つけた。

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

 ルフィは考えていた。

 

「弱い……」

 

 それは自分の事でもあり、リィンの事でもあった。

 

「(守られた。弱いリィンに。守るべき者に、守られた)」

 

 それはかつてエースやサボが抱いた感情と似たようなものだった。

 

「(しかも…2回も………)」

 

「よぉ小僧」

「あ…」

 

 悩めるルフィの隣に座ったのは1人の老人。ルフィの記憶にある、サボが連れてきてくれたあの強い人だ。

 

 フェヒターは持ってきた酒をあびる様に呑むと一つため息をつき、独り言を言う様に聞いた。

 

「強く…なりたいか?」

 

「…!強く、なりたい」

 

 約束したんだ、帽子を返しに行くと。

 目標なんだ、海賊王になると。

 決めたんだ、リィンを守ると。

 

「おれ゛は……弱いから…リィンにだって敵わないんだ…っ!海賊王になるって決めたんだっ!」

「ほぉ…海賊王にか」

「ゔん!」

 

 思わず悔しそうに顔を歪め、目からボロボロと涙が零れる。

 

 フェヒターは海賊王を目指す少年を横目で見ると表情を真剣な眼差しに変えた。

 

「いいか小僧。俺は小娘を守る目的がある…。誰にもあいつの娘を殺させねぇ…。だからな、小僧──」

 

ㅤ黒曜石の様な瞳に自分の姿が見える。フェヒターは向かい合ってハッキリ言い放った。

 

 

 

 

 

 

 

「──お前が強くなれ。いや、お前ら全員が強くなるんだ。小娘を守れ」

 

「……強くなるっ!」

 

「明日から俺が直々に稽古を付けてやる。それぞれの力量に合った戦闘方法も探し出せ。覇気だって全て教えてやる。阿呆には賭け事を教えれねぇが…戦闘ならいくらでも相手してやる……覚悟はいいな?その言葉に嘘偽りはねぇな?」

「無い!」

 

 真っ直ぐな言葉を受け、フェヒターは笑った。

 

 この眼を知っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──よぉ、お前俺の仲間になんねぇか?

 

 ──ふむ、彼なら戦闘の力になりそうだ。

 

 ──へぇ、面白そう。よろしく!

 

 

 

 

 

 ──お前ら勝手に決めんじゃねぇ!!

 

 

 

 

「ほんとに、お前らと関わるとろくな事ねぇな……」

 

「ん?なんだ?」

 

 

 

 

「………何でもねぇよ〝麦わら〟」

 

 

 遠くでもいい、これからこいつらを見ていこう。シャンクスが〝希望〟を託した少年の物語を。

 それが、人生を変えた大馬鹿者共に出来る唯一の仕返しだ。子供臭い、世界をひっくり返す2代目を見守る仕返しを───

 

 




フェヒターはルフィの帽子をシャンクスから受け取った、と気付いてる様ですね。
ルフィは実は結構後悔を考えるタイプだと思うので歳に似合わないかと思いますが色々考えてもらいました。


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番外編2〜インペルダウンの囚人〜

ちょっとだけ過去編です。


「へぇ……感慨だなぁ…センゴク直々に連れてきてもらえるとはさぁ」

 

 今より約三年前の話

 凪の帯(カームベルト)に存在する大監獄、インペルダウンに連行される1人の囚人がいた。

 

「カナエ…なんでお主はそうお気楽なんだ……」

 

「んー…秘密、かな」

 

 不知火(しらぬい) 叶夢(かなえ)

 

 海賊王ゴール・D・ロジャーの海賊船で〝戦神〟と呼ばれ恐れられてきた存在だ。

 

 〝戦の神に愛された女〟だとか〝戦場に舞い降りた女神〟だとか色々言われているが彼女をよく知る人間の評価としては〝戦場を引っ掻き回す神〟として印象付けられてきた。

 

「(黙っておれば貴族に嫁げる顔つきをしておるのに……)」

 

 その容姿は絶世の美女とまではいかないが整った顔つきをしている。

 

「未練はそりゃあるけどさぁ…ロジャー死んでからなんか心にポッカリ穴開いちゃって……何もする気が起きなかったんだよね」

 

 この女が海賊王の事をロジャーと言う時は相手が信用に足りる実物の目の前でないと言わない。嬉しくもあるが不安でもあった。

 

「(これでも敵だぞ………)」

 

 そんなセンゴクの考えを知らずに、それに、とカナエは言葉を付け加えトンと胸を指した。

 

「びょーき……かかっちゃったし♡」

 

「待て…今物凄いカミングアウトをしなんだか!?病気!?」

「あ、うん。私の能力知ってるでしょ?夜這い紛れに使ってたらロジャーのかかっちゃった…えへっ」

 

「…………歳を考えろ。お前さん幾つだ」

「えーっとぉ…20…かなぁっ!」

 

「嘘つくな年齢詐欺師」

 

 珍しいその能力で若さを保っている事は旧い付き合いの人間全員が知っている。

 

「えーっと、入った当時18で………まぁ、細かい事は気にしないの!センゴクったらハゲるよ?」

「ハゲる要因はガープのみで充分だ!」

 

「じゃあ生え際後退するよ?」

「変わらんわ!」

 

 昔から、お調子者の所は変わらない。周りを明るく照らす笑顔も変わらない。

 この先はただ退屈が持て余す地獄だと言うのに……。

 

 いや、カナエならば退屈な監獄も面白く愉快に過ごすのだろうか。

 

「そう簡単にくたばるでないぞ……」

「あらっ、センゴクちゃん素直じゃん。…───まぁ、努力はさせてもらうわ」

「………そうか」

 

「あ、そうだ。インペルダウンには秘密の洞穴が合ったっけ。退屈しなさそ〜」

 

「待てぇい!!カナエお前と言う奴は何を一体どういった経路でそのおかしな情報を手に入れた!」

「私情報通だもん……諦めな!私に関わったのが運の尽きってね!」

 

 ケラケラと笑う姿は先ほどまで力を使い疲弊した姿とは雲泥の差。

 

「何故、ガープに預けた」

「……リィンの事?」

 

「リィンというのか……」

 

「簡単だよ。ガープのじっちゃんだから無下にしないと思った」

 

 その言葉を聞いて思わずセンゴクは己の立場を忘れ怒鳴りあげた。

 

「おれとておるだろう!それに剣帝だってカナエの傍に……!」

「センゴクうるさい。……フェヒターは居ないよ。今どこでやってるのか全く情報が掴めない」

 

 仲間大好きなツンデレ男がカナエの傍に居ない。それはセンゴクを冷静にさせるには充分だった。

 

「……」

「それに…こういうのは、決まってんだ。ずっと昔から決めてた」

 

「昔から……?」

 

 無言でコクリと頷けばセンゴクはため息をつく。

 

「お前は昔からよく分からん」

「言われる言われる」

 

「言われるなら少しは変わらんか」

「変わらないのが私の長所」

「…短所だろ」

 

 しばらく会話が途切れる。タイムリミットがだんだんと近づく事に気付いているが触れたくなかった。

 

 

 

「…………………変わったね、センゴクは」

「歳は取る。カナエと違ってな」

「……………老けたね」

「カナエには言われたくない言葉だな」

 

「頑張ってね、海兵さん」

「言われんでもやるわ、元海賊」

 

「元じゃない!現役海賊!」

「嘘吐くでない!引退して実力が落ちておるクセに!─────」

 

「───……いいの!センゴク、ありがとう。私はまだ現役でいたいだけだから…あんたの気遣いくらい分からないと思った?」

 

 

 

「普段は鈍い癖にどうしてこういう所で鋭い…………」

 

 カナエは気付いていた。現役ではなく元という事で罪を少しでも軽くしてくれようとした気遣いに。

 

「ねぇセンゴク。友達になってくれない?」

「……」

「ダメ?」

 

 センゴクはこの言葉を聞く度に毎度苦虫を潰したような顔になる。

 それを見てカナエは素直じゃないと思いながら海楼石の錠を持ち上げた。

 

「もう、着くよね」

「……あぁ」

「じゃあ、行くね」

「……うむ」

 

「風邪、引かないでよ」

「……カナエもな」

「怠けてていいからね」

「……アホか」

 

 

 

 

 

 

 

「囚人〝戦神〟の叶夢。到着致しました〜!うむ!お務めご苦労様!

 あ、熱いの嫌だから熱湯は入りたくないなぁ〜」

 

 そんなことを迎えにはいった海兵にボヤきながらカナエはセンゴク一人を船室に残し巨大な門を見上げた。

 

「(インペルダウン…脱走不可能と言われる監獄……。さて、どう過ごそうかな…手始めに囚人の皆さんと仲良くしなければ……)」

 

 level6にまた、1人の囚人が増えた。

 

 その事実は海軍上層部と護送海兵とインペルダウン勤務の者しか知らない───

 

 

 

 



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第24話 ビンクスの酒

日本語、と言うかワンピースの世界の言葉以外の言葉を喋る場合括弧を『』で表示する事にしました。アドバイスありがとうございます!


 

『ん?』

 

 私は真っ黒い空間にいた。

 

『え、なに、なにこれ』

 

 発した声は闇に消えていくだけで誰も反応しない。

 

『だ、誰かいませんかー…』

 

 何処が上で下で右で左なのか分からない。身体がフワフワ浮いている感覚に不思議に思い手足をバタバタさせてみた、けど何も起こらない。

 

『…───って!二度もやるか!ここの記憶めっちゃくちゃあるわ!なんだ!また狭間か!狭間なのかバカ野郎!喧嘩売ってんのか!まだ人生途中だよ!なんで二度もここに来ないといけないんだよ!あぁ!?まだJKどころか小学校も入学してないわ!ふざけんな!出てきやがれぇえええ!』

 

「ヨホホホ〜、ヨ〜ホホ〜ホ〜…ビンクスの酒を届けに行くよ、海風気まかせ波まかせ〜 潮の向こうで 夕日も騒ぐ 空にゃ 輪をかく鳥の唄〜……」

 

 歌?確かシャンクスさん達が歌ってた歌に似ているような…というか同じか。

 

「おやおや、お嬢さんの声が聞こえますね…そちらにいらっしゃるんですか?」

『あ、はい。誰かいるんですか?』

「言葉、違いますね…どうやら私には理解できない様で。ヨホホホー!困りましたー!」

 

 言葉が違う?あ、そうか。私日本語喋ってたのか……。この場所だと自然と口から出るのは日本語なのかな。

 

「えっと、そちらにぞ滞在している方誰ぞり」

「…!おやおや天使さん。言葉が使えるようで何よりです」

「天使、否定。リィンぞ」

「そうでしたか。それは失礼しましたリィンさん。私はブルックと申します……ところで──」

「?」

「──パンツ見せていただいても宜しいでしょうか」

 

「却下っ!!」

 何を言っておるんだこの変態は!

 

「ジョークですジョーク。ヨホホホ〜」

 

 うん。ジョークだと言っているが私はジョークに思えなかった。そもそも真っ暗で見えないだろうが。

 

「ところでこちらが何処なのかご存知でしょうか」

「えっとな、恐らく時空の狭間たる所だとぞ思考中ぞりん」

 

 そう言うと相手は復唱した。

 

「時空の狭間…………」

「…」

「……ぞりん?」

 

 そっちは復唱するな。

 

「私言語不安定、理解注意ぞ……」

「あぁそうだったんですね。あの、質問何ですけど時空の狭間、とは…」

 

 その言葉に私は説明を続けた。

 

「人死してのみ通行可能な場所ぞよ。天国も地獄も行けぬ彷徨い人ぞ行き着く場ぞり」

「それでは、私は成功したのでしょうか…」

「成功?」

「えぇ、私、実は悪魔の実の能力者なのです。あ、ご存知ですか?悪魔の実という者は」

「肯定ぞ」

 

 ルフィもそうだし私も多分そうだし。

 

「私、そのヨミヨミの実を食べたのです。どのような能力かあまり実感出来て無かったのですが、意識がある状態ではどうやら成功でしょう……どうやって現世に戻るのか分かりませんが!ヨホホホホ〜!」

「それなれば簡単ぞ。堕天使(クソジジイ)ぞ探索」

 

「堕天使!そのような方がいるのですね!…詳しいのですね、ここの事に」

 

 そりゃ1度来たことあるんだ。多少なりとも知識はある。

 

「私ぞ死亡したのか……」

「リィンさんはどう言った理由でこちらに?」

 

「兄ぞ庇った愚かなる行為のせいぞ…」

「愚かではありません。立派です」

 

 いや、愚かだ。もっとうまい方法もあったはずだしあの時どうして魔法が使えなかったのか。山賊の時は使えたし、直前脅しに使った氷をはる力も普段と何ら変わりなく使えた。

 使えていたらきっと死なずに終わったし、それに庇わなければ良かった。

 

 なんで私は庇った?なんで魔法が使えなかった?

 

 グダグダ考えてても埒が明かない事に気付いたしブルックさんほっておくのも悪いと思うので質問した。

 

「ブルックさんは?」

 

「私は海賊に襲われ殺されました。毒が武器に含まれていたようです」

「私とぞ同意…刀ぞ毒がかかって背を斬られたぞり……」

 

「そうでしたか…痛かったでしょうに……」

 

 そりゃ死にそうなくらい痛かった。

 あ、死んでるから死んでるくらい痛い、なのかな?あ、ダメだ、痛みがフラッシュバックしそう。話題転換転換。

 

「ブルックさんぞ、海賊ですか?」

「ええ!ルンバー海賊団の副船長をしています!いや、していた、と言った方が正しいでしょうか……」

 

 

「少しだけ昔話に付き合っていただいて構いませんか?」

「大丈夫ぞ」

 

 そういえば気配を隣に感じた。相変わらず寝てるのか起きてるのか分からないくらい真っ暗だけどな。今回ブルックさんは輪郭すら見えない。

 

「ありがとうございます……。

 実はですね、私の所属している海賊団にはクジラがいたんです。名前はラブーン…偉大なる航路(グランドライン)に入る前、入口である双子岬に置いてきたんです。ラブーンはまだ小さく、偉大なる航路(グランドライン)には厳しいと思ったんです……。私たちは誓いました。〝ここを一周して戻ってくる〟と」

 

「クジラぞ仲間…珍しいぞ」

 

「ええそうなんです。ラブーンは音楽が好きで私によく懐いてくれました……。ですが、現実は厳しい。夢半ばに私たちは倒れました。私たちは死ぬ時ビンクスの酒(最期の歌)を歌い録音したのです。それをラブーンに届ける。……それが次の命での目標です」

 

「応援してるぞ……」

 

「ありがとうございます。……リィンさんのお話を聞いても?」

「つまらぬぞ?」

「構いません」

 

「私にぞ3人の兄が存在しておるぞり。親はお互い不明ぞしかしながら…大好きぞ。1人無茶苦茶ぞ兄存在するがな。海賊貯金たるものを貯蓄しており、その金を狙われるが故に私ぞ捕えられヘルプぞ致した兄庇ったぞ」

 

「リィンさんの親も知らないのですか?」

「んー……確定は否定ぞ。恐らく〝戦───」

 

『ストップ、そこまでにしておくんじゃ。そいつはお前さんのいる時代とは違う』

 

「……………堕天使(クソジジイ)ィッ………」

 

 今世紀1番会いたくない相手ナンバーワンの声を聞いた気がする。意味が重複しているがそれだけ会いたくなかったんだと察してくれ。ふざけた世界に転生させやがったクソジジイめ。

 

『なんじゃその不服そうな声』

『うるせぇわ!あなたの与えてくれたへっぽこ(言語不自由)スキルのせいで私は苦労してんだ!それくらい気を使って直せ!』

『へっぽこスキルだぁ?ワシはそんな事しておらぬぞ』

 

 知らぬ?それはへっぽこスキルを与えてないということでございましょうか?

 

『ひょえ?』

 

『まぁ恐らく自業自得、じゃ』

 

 聞こえない。私は何も聞こえない。

 へっぽこスキルじゃなくて自分の実力だとか知らない。

 

『お前さんには災厄吸収能力しか付けれてないわい』

 

 今聞き捨てならない言葉が聞こえた。

 

『!?!?!?』

 

『ん?最悪だったか?災厄だったか?どっちじゃ?それと儂自身が故意に付けたんじゃないぞ?勝手に付いたんじゃからな』

『どっちみち変わらんわ!!』

 

「あの…リィンさんが何を言っているのか分かりませんが堕天使さん一つよろしいでしょうか。時代が違う、とは一体……」

 

『ん?簡単な話じゃ、そもそも死後や狭間には時間という概念が存在せん。時間の縦軸横軸は一定では無く個人差があるんじゃよ。儂とてこのへっぽこヘム太郎に会うのはこちらの時間で換算すると1億年ぶりじゃ』

『はーはーさよですかー。こっちは1億年と2千年前から消えて頂きたく思っておりますぅー』

『………お主見ぬ間に冷たくなっては居らぬか』

「滅相もごさいまぬぞ」

 

 要するに私とブルックさんでは死んだ時間が同時期で無いってわけですね。

 

『じゃ、先にそっちのアフロを現世に送るか…』

『あ、やっぱり堕天使〝様〟のお仕事でしたか』

『お前死んどけ』

『残念でしたーその言葉無意味ですぅー』

 

『は?何も言っておるんじゃ?お前さん死んではおらぬぞ』

『は?』

「あの…一体何を話してらっしゃるのでしょうか…」

 

『アフロが混乱しておるぞ。向こうの言葉で喋ってはどうじゃ』

「…………くっ、死して無きとはいかような理由ぞ!」

『ヘタクソめ』

「滅っ!」

 

 

『ただ死にかけてるだけじゃよ、上の天使共が面倒だからワシに押し付けたんじゃ…全く、神の野郎の躾はどうなっておるんじゃ。全ての天使の躾はあやつの仕事じゃぞ』

 

「……そちらブーメランぞ。堕天使の躾も同じく皆無ぞり」

 

 そう言えば…思い出した。一つ聞きたいことがあったんだっけ。

 

「そうぞ。堕落天使(役立たず)殿」

『おい』

「幽霊たるものはいかようにも存在してるぞ?」

 

『幽霊はいるのかって聞きたいのか……?』

「肯定ぞ」

 

『──いるに決まっておるじゃろ。死の門をくぐる前に怨みでUターンしてしもうた魂は大量におる。まあ儂の担当で無いからよう分からぬが……天使でも幾分か死天が出たはずじゃと…………』

「ひぃいいいい!!なななはな何ゆーえ!なにゆえゆゆゆゆゆうれれれれいぞ存在しておけるが正解とぞなりゆきているぞ!?!?却下ぞ!レレレ霊体滅ぶがざざざばざばざばばばば!!」

 

五月蝿(うるさ)いわい!お前さんから先に痛みの地獄へ送ってやる………』

 

「あ、リィンさん現世で会えたら会いましょうね」

 

 

 ブルックさんの良くも悪くもマイペースな言葉が聞こえた時、私の意識がプツリと途切れた。

 

 どうか幽霊とは会いませんように、と祈りながら。

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 ゆっくりと意識が浮上する。目が重くて開けられな……いだぁぁ!!

 え!なにこれ何これ背中めっちゃ痛い。死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!絶対死ぬってこれ!

 

「う、あ……っ!」

 

 痛い痛い痛い痛い痛い痛い!意識が飛ぶ!グラグラして吐き気もしていっそ殺してくれと言いたい気分だ!

 

 普通に辛い!辛いよ!

 いやマジで!マジで!これは普通に死ねる!

 

 

「リー!」

 

 

 手に温かい感触が伝わった。誰?

 

「リー!大丈夫か!?いや、大丈夫じゃないよな……。しんどいか!いや、しんどいよな……。えっと、痛いの痛いの飛んでいけー!」

 

 サボは何をしてるの?

 なんかアホなサボ見てると痛みが吹き飛んだ。

 

 

「リー、ただいまは?」

「ふ、ひょ?」

「た だ い ま は ?」

 

 エース実はキミが傷だらけで帰ってきた時の私の真似でもしてるのか?この野郎……。

 

「た、ただいま……」

 

「「「おかえり!!」」」

 

 

 

 あ、やっぱり痛いものは痛いです。

 




久しぶりの堕天使様との感動の再会()
とまさかのブルックさん蘇り途中との出会いです。リィンさんオバケダメなので会ったときが楽しみですね!(超笑顔)


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第25話 暑いの熱いのどっかいけ!

 

「兄妹盃?」

「あぁ、知ってるか?盃を交わすと兄妹になれるんだ」

 

 ダダンの愛用のお酒を開けながらエースはニヤリと笑った。

 

 

 

 ==========

 

 

 

 あ、おはようございます。リィンさん目が覚めて2日経ちました、が。傷のせいなのか熱がずーっとあります。

 

 ちなみに今私はサボの背中の上。家で盃を交わすのはダダンにバレるらしいので森の中に行くらしいです。

 正直森のちょっとした高低差で体が揺れる度ピキーンと凄まじい痛みが走りますので正直引きこもりたい。

 

「大丈夫か?」

「うう…ん……」

 

 頭がものすごくクラクラします。

 

 どうやら私は2週間ほどぶっ倒れてたらしく。筋肉が家出をしました。カムバーク!私の筋肉ー!!

 

「着いた!ここでいいだろ!」

 

 エースの後ろをルフィで、その後ろをサボ+私が付いていくと少し開けた場所に出た。

 

 傷が無ければ野原に寝っ転がってお昼寝したい。

 

──キュポン

 

 エースが器用にコルクを開けるとルフィが持ってきたおちょこみたいなやつに注ぐ。

 あれ、ひょっとしなくてもお酒ですよね?

 

 未成年…呑んでいいの?

 

「リー、降ろすぞ」

「直ちに了解したぞり」

 

「辛くないか?帰りは俺が背負ってやるからな」

「う、うん」

「エースずるいぞ。俺が背負うんだよな?」

「う、うん?」

 

 なんだろう…2人の様子がおかしい。

 起きてから異様に絡むというか、なんというか、例えばツンデレにデレ期が現れた感じ……。

 何があった?

 

 いや、何をしたルフィ?

 

 様子が変わらないのはルフィだけで私が寝てる間に何かをしたに違いない。

 ルフィの破天荒さに当てられたかな?

 

 そういえば、私はエース達とルフィが会った状態を知らないけど仲良くしてるみたいでお姉さん一安心だよ。エースとサボも友達欲しかったのかな?いや、でも今から兄妹盃を交わすんなら弟になるのかな?

 

 まぁいいや。特にエースの人見知りが発動しなくてよかった。あの子グレイ・ターミナルの人と関わる時眉間に凄いしわ寄せて話すんだもん。フェヒ爺は除くけど。

 

 

 

 

 まぁ何にせよルフィパワー凄いな。

 

 

 

「「で、どっちがいいんだリー!」」

 

「お腹空いたなぁ………ん?何事か申したか?」

 

「「………何でもない」」

 

 はぁ、そうですか。心なしかガッカリして見えるけど。

 

「…!…!…っ!!」

「「笑うなルフィ!!」」

 

 声に出さない声で笑い転げるルフィをエースとサボが同時に叱る。

 ほんとに仲良くなったなちくしょう。ちょっと羨ましいぞこの野郎。

 

「良きものじょ…私にはブルックさんぞ存在するもん……」

 

 ボソリと狭間で手に入れた友人の名を呟く。堕天使の言う事にはあの人アフロなのかな…。時代が違うっていつくらいの人だろう……。

 

「「「誰だそいつ?」」」

 

 わざわざ声揃えんでも。っていうか聞こえてたのか。

 

「眠ってる時にぞ手に入れた友人ぞり」

 

 そういえばエース達は顔を見合わせた後、私の肩に手を置いた。

 

「そっか…安心しろ。兄ちゃん達はお前が頭おかしくなっても兄ちゃんで居てやるからな…」

 

 まて、エース、サボ、ルフィ、お前らなんだその目は。あれか?妄想だとでも思っているのか?ねぇちょっと?

 

「………」

 

 じとりと睨めば不自然に目をそらす奴ら。おい待てコラ。

 

「さぁーて盃盃〜」

「俺初めてだ」

「いやー今日は暑いなぁー」

 

「不自然ぞ馬鹿兄共!」

 

 それを言えばサボは心底悲しそうな顔をした。

 

「にぃにって呼んでくれないのか?」

 

「デマぞ。常識外ぞ!」

 

 あの思い出が蘇る。

 

『にぃにぞ心配申し上げたぞ』

『にぃに?』

『エースとサボとぞ名前じょり』

『ぎゃはははっ!おま、可愛いところあるじゃねェか!にぃにだってよ!』

『おいヤソップそこまでにしておけ──』

『おい止めんなよ頭ァ』

『──リィンが憤慨してるぞ』

『は?』

 

『滅亡いたせぇええええ!!』

 

 

 クマさんに後々聞いたらあまり言わないそうだ。騙しやがってこの野郎。サボこの野郎。

 

「すっげェ殺気を感じる……虎に睨まれた時みたいだ…」

「きのせーじょ」

 

「「「……」」」

 

 じんじんしてきたな…早いこと終わらせたい。

 

 よく考えたら兄妹盃って私必要かな?元々エースとサボは兄としての関係だしルフィは多分義理だけど兄だし。

 バックれても良くない?

 

「やらぬのか?」

 

「やらないの?だけどな」

「やらにぃのだけどな…?」

「お前ドグラの口調地味に影響されてないか…?」

 

 それは嫌だなぁ。あ、ちなみにドグラとはダダンとよくいるちっさいおチビちゃんの背が低い人だ。

 

「え!やらないのか!?」

「ルフィ騙されるな。そして早く慣れてくれリィン語に」

 

「失敬ぞ!」

 

 まるで私が悪いみたいじゃないか!

 

「ほら、リー」

 

 エースが盃を渡してくれる。

 

「いいかお前ら、俺たちはどこで何をしようとどんな立場だろうと〝兄妹の絆〟は切れねぇ」

 

「俺達は今日から兄妹だっ!」

 

――カンッ

 

 酒が零れる勢いで四つの盃が今繋がった。

 

 兄妹。

 

 正直に口に出すのは気に食わないから心の中で言わせてもらいます。

 

 

 

 ────大好きだよ。私の頼りになるお兄さん達。

 

 言葉を飲み込むように口にお酒を含んで呑み込んだ。

 

「ゲホッ!」

 

 身体が一気に暑くなって…暑くて熱い。暑い……。

 

 

──ドサッ

 

 

 やっぱり嫌いだ。絶対度がきついお酒用意しただろ…。

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

「……」

 

 布団の上で顔を赤くして汗をかくリィン。それを見守るのはエースサボルフィの馬鹿兄貴共だ。

 

「参ったな…また寝ちまった」

「いや、仕方ないよ。流石にお酒を呑んだんだから」

 

 こっそりダダンの酒を呑んだことはリィンがこの調子で匂いもしたのですぐにバレた。頭には3人仲良くたんこぶが出来てしまった。

 

「水…かければ熱引くかな?」

「「アホかァ!」」

 

 ルフィのアホな発言に2人は思わずツッコむ。

 

「ひまだなァ…やる事も終わったし、フェヒ爺との約束まで時間あるし…どうする?」

「…リーには悪いけど美味しい物食べに行くか?」

 

 サボが提案するとルフィが怒られしょげていた顔をバッ、と上げた。食欲は無敵らしい。

 

「んぎゅう……………」

 

 リィンが唸った。食欲は無敵だ。

 

「…美味しい物って……?」

 

 ゴクリと喉がなる。

 

「ま、食い逃げだ…リーが付いて来出して暫くの間は行かなかったけど…久しぶりにな」

「行く!おれも行くぞ!」

 

 ルフィは嬉しそうに笑顔を見せた。

 

「うーん…うーん…さんにんのばかァ……」

 

 熱で(うな)されてるリィンの声は届かなかった。

 

 




この時期まだルフィがダダンのあじとにやって来て1ヶ月しか経っていません。
リィンに影響されて、そして同じ状況になったルフィに共感して、リィンを共に助けたという名のシスコンを同類(言い方)とみなし原作よりも自然と受け入れられた、と解釈してください。


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第26話 火のないところに煙は立たぬ

 

 不確かな物の終着駅(グレイ・ターミナル)、通称〝ゴミ山〟の北には強固な石壁と不確かな物の終着駅(グレイ・ターミナル)から端町へ行く唯一通行可能な大門がある。大門からは1日に2度国中のガラクタが運ばれて来、ゴミ山に暮らす人々は〝宝探し〟として金目のものを探した。

 

 

 

「食い逃げだー!!子供3人が入り込んだ!誰か捕まえてくれぇええ!!」

 

 ここはゴア王国中心街。飲食店などが立ち並ぶ通りで怒り狂った声が行き交う人々の耳に入り込んだ。

 

「ケッ、たかが26杯程度で騒ぐなよ…」

 

 そうボヤきながら逃げるのはエースに続きルフィとサボ。コルボ山の悪ガキ共だ。

 

 リィンがいたら思わず叫んだだろう『何故そのような大量の食料を胃に収納出来るぞ!?』、と。

 

「ルフィ急げ!」

「むごもごむんむい、ぴょんぽい…!(2人とも走るの速ェよ、待ってくれ!)」

 

「うん!ごめん何言ってるか分かんねェ!」

 

 リィン語を比較的理解できる2人だがルフィの台詞にはギブアップした。まず物を飲み込んでから喋れ。

 

「こっちだ……!」

 

 追ってくる気配が無い。サボは辺りを見回し建物と建物の間に入り込んだ。

 

「ふぅ…案外しつこかったなぁ」

 

 安堵のため息を一つ。知らぬ間に汗をかいていたのかサボは額の汗を拭った。

 

「にしてもよく貴族の紋章手に入れたよな…」

「え、あ、うん。この前町で見つけたんだ」

「前?1年くらい?」

「う、うん……」

 

 サボの様子が違う。気付いたエースは後で問いただすことにして、今は目的のものを手に入れようと2人に話した。

 

「甘い物買っていかないか?」 

 

 ルフィを庇って怪我をした留守番をしている心優しき妹の為に。

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

「ありがとうございましたー!」

 

 海賊貯金から少しだけ使い美味しそうなクッキーを買った3人は急ぎ足で家に戻ろうとしていた。大門が閉まる時間もある。早く帰らなければ。

 

「しっしっしっ!リィン喜ぶかな?」

「そりゃ喜ぶだろ…リーは甘い物大好きだからな」

「サボルフィ………走れ!」

 

 エースの視線の先には警備隊。目が合った。

 

「いたぞ!ラーメン屋で食い逃げした子供3人だ!」

「追えッ!」

 

「しくったな…まだいやがるとは…」

 

 文句を言っても自業自得。仕方の無い事としか言いようがない。

 被害は高級飲食店のラーメン26杯に脱走経路として壊した窓ガラス1枚。いくら子供と言えども許せる額なわけがなかった。

 

 最も、ルフィは宝払いと紙を置いてきたのだが。

 

「ルフィ!食べ物の匂いに釣られるな!早く行くぞ!」

「ま、待ってくれよサボ!」

 

 サボはルフィがわき道にそれようとするのを止める。

 

「サボ……?」

「っ!?」

「今サボと言ったかい!?サボ、サボじゃないか!帰ってくるんだ!」

 

 でっぷりとした体型に質のいい服装。ルフィは気付かないがフェヒターの元で位のいい人間の見分け方を教えてもらったエースにはすぐ分かった。2人とも同じ授業を受けているのだが、それはルフィだから仕方ない。

 

「(こいつ………貴族か!)」

 

「サボ知り合いか?」

「…知らねェよ」

 

 エースもだがルフィは状況を掴めず問いかけたが肝心のサボは一言だけ言えばすぐさま駆け出した。

 

「サボ!待ちなさい!サボォ!」

 

 自分の名を呼ぶ男には目もくれず一目散に。

 

 エースとルフィは背後の男に後ろ髪を引かれながらもサボのあとを追った。

 

 

 

 

「サボ………」

 

 まるで恨むように睨む姿は彼らの目に止まらなかった。

 

 

 ==========

 

 

 

「どういう事なんだ?」

 

 エースはサボに詰め寄った。あの声をかけた男とサボが無関係とは思えない。きっとサボは自分達に何か隠し事をしている、と。

 エースと並んで詰め寄るルフィだが本人はよく分からずうんうんと頷くだけだった。

 

「で、どうなんだ?」

「……」

「俺達に隠し事するのか?」

「……」

「そんなに信用ならねェ…か?」

 

「そ、そんなわけないだろ!!」

 

 思わず立ち上がって反論してしまった。それを見たエースはニヤリとあくどい笑みを浮かべ言葉を綴る。

 

「じゃ、言えるよな?あいぼー?」

 

「…………ずるいぞエース」

 

 サボが観念した時だった。

 

「実は…あの貴族の奴は俺の父親なんだ。お前達には悪いけど俺は両親が居ても1人だった。俺を自分たちの便利な道具だとしか思ってない…俺はあの屋敷にいたら絶対に自由になれないと思った……」

 

 観念した様にポツリポツリと自分の事を喋っていく。こぼれ落ちる言葉を追いかける様に視線は下を向いた。

 ぎゅっと拳を握りしめて思い出す窮屈な生活。

 

 ───サボお前は王族と結婚するんだ!

 ───勉強だ勉強!

 ───航海術?そんなもの要らん!

 

 

 夢を否定される。心をくじかれる。向けられる言葉は愛などでは無くただの憎。出来損ないに向ける言葉だった。

 

 あいつらが必要なのは〝(おれ)〟じゃない。出世に必要な〝(おれ)〟だ。

 

 そんな生活が嫌になり、逃げ出したくて、いつの間にか佇んでいたのは大門の前だった。

 この先を行けば自由になれる。親に捕らわれることも無い。けれど生きていけるか分からない。それでも────自由が欲しかった。

 そうすれば未知への恐怖は未知への好奇心に変わった。胸がドキドキして血流が煩く耳に入り込む。けど、嫌な感じはしないしむしろいいぞもっとやれと言いたいくらいの気分だった。

 

 そこで出会ったのはエースだった。お互い第一印象は最悪だったと思う。気になって声をかけてみれば口論。そして大乱闘へ。武術など心得は身を守るためと多少身につけていたので対抗は出来たがその年から猛獣相手に戦うエースには遠く及ばなかった。

 

『……お前は、海賊王に子供がいたら…どうする』

『海賊王に子供ォ?』

『あァそうだ。鬼の血を引く子供だ』

『鬼…ねェ……。別にどーもしねェだろ。親がどうであろうと、子供は自由なんだからさ……』

 

 今考えると自分に向けて言ったのかもしれない。親にコンプレックスを抱く者。いつの間にかエースがそばに居るのは当たり前になった。

 

「だからエース。俺を見つけてくれてありがとう」

「はァ!?見つけたのはお前だろ」

「いや、違うさ」

 

「(迷子だったんだ、俺はずっと………。一人ぼっちで…………)」

 

「……………………まぁ親の事で悩むのは分かる…」

「エースの父ちゃんと母ちゃんは誰なんだ?」

 

 ルフィには言ってなかったか、と記憶を探る。サボに隠し事は無しだと言った手前隠し事をしてるのもしのびなく、ため息を吐いてポツリと呟いた。眉間にはシワが濃く刻まれる。

 

「うん、言ってなかったな。俺の両親は死んでるよ。母親はポートガス・D・ルージュ。……父親は海賊王だ」

「そっか!海賊王か!そうかそうか!………………。

 

 

 っ!?!?!?海賊王ォォ!?」

 

 ぶわりと黒い目を開いてあんぐりと口を開ける。

 

「…………うるせェよ…」

 

「エース凄い奴の子供なんだな…」

 

 

 

「……っ!誰かいる…!」

 

 サボが自身の後方、森の辺りに気配を感じた。

 

「よく気付いたな…サボ」

「「「フェヒ爺!?」」」

 

 森から出てきたのは自分達の師であるフェヒターだった。どうやら気分が良いように思えた。

 

「さっきそこで懐かしい奴に会ったもんで…、な。それと、1つ助言だ。ロジャーを馬鹿にするのはロジャーを知らない人間だ。ロジャーを知っている人間からは賞賛の言葉しか貰えないだろうよ……」

 

 気付いてる。エースが海賊王の息子だということを、この爺さんは。

 別にフェヒ爺なら気付かれても構わない、けどこの言い方…。生前の海賊王を知っているのか?

 

 頭の中で勝手に考察して、彼を見る。

 

「……お前らに覇気を教える。特にサボ、お前は見聞色の覇気が見え隠れしてあるな…才能が開花している。覚える気はあるか?」

「覇気……?」

「なんだそれ?」

「疑わない事、それによって皮膚を硬化させたり気配や行動をよんだり相手を威圧したり…三種類ある。それで、そいつを覚える気はあるか?」

 

「「「ある!!」」」

 

 フェヒターは予想通りの反応にニヤリと笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「皆遅いぞ……」

 

 主人公(リィン)置いてけぼりである。




今回は男三人組の出番でしたのでリィンおやすみです!

私はなるべく原作の言葉をそのまま代用したくないので言葉を少しづつ変えたりしています。お気に召さなくてもそこは我慢していただきましょう(自分勝手)


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第27話 フェヒ爺の覇気講座

 

 分からない。傷が治らない。

 盃を交わして兄妹になって酒に酔って早2ヶ月。あまりにも遅すぎる傷の治りに嫌気がさしていた。

 

 まあ前世では経験することの無い傷だから仕方ないし毒もかかってたからそれもまた仕方ないとは思うんだ。

 けどさ、傷が痛んで仕方ないんだ。この際痛みに顔を顰めた途端ルフィの顔がサッと青くなるのはいいんだ。きっと罪悪感が疼くんだろうがいいんだ。私の事じゃないから。

 

 でもダダンのアジトから出させてくれないってどうよ。

 傷の治りが遅いから安静にしてろって。確かに正直動くと痛いしフェヒ爺の修行はサボれるし危険な猛獣相手にすることもないしで万々歳だよ。

 

「聞いてるのか小娘」

「皆無!」

「………ほぉ」

「ひ、否定ぞ!聞きて無きが否定ぞ!」

「誰が騙されるか!」

 

 フェヒ爺のトーンが一段階低くなったので自己防衛。

 最近厄介な事にフェヒ爺は私の根城まで来て下さるので感謝感激。

 

 く、こうなれば背中の痛みなど気にせずに窓から脱走を…。

 

「窓には裏から棒立てて開かない様にしてるから無駄足だぞ」

 

 な ん で 読 め た 。

 

「さっさと海軍上層部のメンツ暗記せんか」

「鬼畜ー!!鬼ー!!」

「なんとでも言ってろ小娘が」

 

 渡された紙を渋々見る。

 

 コング総帥。後ろに部下がいる場合気配をそちらに配る為隙が出来る、タイマンは避けるように…──。

 

 センゴク元帥。海賊嫌い。キレると遠慮なく能力を使ってくる。ウザイ。ヒトヒトの実モデル大仏くそ人間ハゲろ…──。

 

 サカズキ大将。海賊を倒す>市民の安全なイカレポンチ野郎。マグマ人間。部下は武闘派が多いが本人は後方で策をねるのも得意…──。

 

 ガープ中将。ロジャーと何度も戦ったただの阿呆。煎餅好き。適当な奴。巫山戯ているから逃げるのは意外と簡単。買収もある程度…──。

 つる中将。参謀で頭いいので舐めてかかると痛い目を見る。洗濯人間。悪行を改心した人間多数。女子供に弱い…──。

 

 

 

 

 って、なんだよこれ。総帥元帥大将中将クラスほぼ全員掴んでるんじゃないのか?え、なに、フェヒ爺何者?怖いんだけど。あと地味に細かい。なんの恨みがあるの?特にセンゴク元帥。

 

 海賊時代に何があった。

 

「使えるだろ…?」

 

 ニヤリと笑い目線を向けてくるフェヒ爺に呆れながらも私は同じような笑みを浮かべた。

 

「………とても」

 

 海軍に用がある時なんてこの山で過ごしてる限り無いとは思うが備えあれば憂いなし。情報はあればあるだけ安心出来る。

 

「(こういう所はカナエに似てねぇんだよな……)」

「…?フェヒ爺死んだ?」

「誰が死ぬか糞ガキ」

「いだだだだだだ!フェヒ爺!怪我人!一の応怪我人だぞりんちょぉおーー!!」

 

 反応無くぼーっとしてたから声をかけたというのに顔面掴まれた。パキュッと割れたらどうするんだ、こんちくしょう。

 

 

 

「時にエースら3人は如何していると?」

 

 顔面崩壊の危機から脱した私は今は居ない兄達の様子が気になり聞いた。

 ここ2ヶ月やけに張り切って──特にルフィが──フェヒ爺の所に行くから私は嬉しい様な悲しい様な。

 

「覇気の訓練」

「はき?吐き気所有済みと?トイレゆく?」

嘔吐(おうと)しねェよ阿呆。

 覇気っつーのはな、武装色見聞色覇王色の三つの種類があって、普通全員が持っている力なんだが大方の人間は気付かずに一生を終えるもんなんだ。

 簡単に言えば……覚えると戦闘にすこぶる役に立つ」

 

 すっごい簡単にまとめたな。

 

「戦闘する気はさらさら無いのでごじゃりますがとりあえず置いておいて、まずながらぶしょうしょくと仰られるのは?」

「武装な、武装色。んー…そうだな、見えない鎧を着てる感じで攻撃力も防御力も上がるし…何より───ルフィを殴る事が出来る」

「何それ多大に欲する」

「欲しいか?」

「欲しい。ん?ルフィにぞ打撃が効くという事なればそれすなわち悪魔の実の能力を持ちうる人物に対抗しえるという事では無きか?」

 

「ほぉ……」

 

 フェヒ爺が感嘆の声をあげる。どうやら正解したみたいだ。やったね。この調子でドンドン感心してくれたまえ。私の被害数が減るから。

 

「悪魔の実の種類は教えてたよな?」

「肯定ぞ。ルフィなど超人(パラミシア)系、人形獣型人獣型の3つに別れる動物(ゾオン)系、それとチートな自然(ロギア)系。の3つであった筈ぞり」

「そうだ。そのチートな自然(ロギア)系に対抗出来るのが武装色。色々と便利だから海軍上層部はほぼ全員身につけていると思え」

 

 思え、と言われても私一生ダダンの家で暮らすからな……。この知識を使わない事を祈るよ。

 

「では、けんびんしょくとやらは?」

「見聞色、な。こいつは簡単に言えば〝心の声が聞こえる〟って事だ」

「ほほうエスパーか」

「違ェ」

 

 正直さっき正解したからと調子乗った。

 

「行動を先回りして読んだりこの色が強い奴は人の思いを理解する事が出来るんだ」

「………つまりなれば攻撃を受けること無く回避行動会得する事可能という事か」

「ま、そういう事だ」

 

 便利!便利だわ!これがマスター出来ればフェヒ爺から逃げたい放題!

 

「…………………無断な抵抗は止せ」

「チィィッツ!」

 

 なるほど心を読むとはこういうことに使っていたのか。

 

「ちなみに言っておくが俺は見聞色使ってないぞ。小娘がわかり易すぎるだけだからな」

 

 理不尽!

 

「…で、はおるしょくとは?」

「覇王色、だからな。………これは数百万人に一人しかその素質をもたない〝王の素質〟を持つ者が使える覇気だ。相手を威圧したりする事が出来る」

「フェヒ爺は使用可能?」

 

「……いや、素質が無かった。小娘の知ってる人間でそれを使える素質があるのは…───」

 

 数百万人に一人ならそんな身近にいてたまるか。

 

 

 

「──シャンクスにエースにルフィ」

「ぽぎゃん!?」

 

 高確率過ぎやしないか?

 

「あと、お前」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………ぱ ー ど ぅ ん ?」

 

「お前も覇王色の覇気の素質がある」

「……ぱ ー ど ぅ ん ?」

 

 何故私がそんなめんどくさい覇気の持ち主だと?それとなぜ持っていると分かる?それ本当?希少価値の高い人間は狙われやすいって知ってます!?

 

「(強い覇王色持ちのカナエと奴の娘…小娘が持ってない筈が無い。開花はまだ先か…?)」

 

「聞きてなき事にぞ参ろう」

「おい」

 

「しかしながら…覇気たるものは如何様に会得致すぞ?大方の人間ぞ気付かぬという事は何か無ければならぬのでござりまぞりん?」

「…普通の人間は気付かないということは習得するのに何かあるんじゃないか、と言いたいのか?」

「肯定ぞ」

「……………」

 

 そんな出来損ないを見る目でこちらを見ないでいただきたい。

 

「疑わない事」

「?」

「それが覇気を引き出す上で最も重要な事、だ」

 

 疑わない事?自分は出来るって信じ込むってこと?自己暗示?それとも──

 

「〝思い込み〟」

 

「ん?あー…まァそうとも言うな」

 

 集中力と想像力と思い込み。

 堕天使の癖に良くもまァ的確なアドバイスをしてくれる…。感謝はしないが口だけのお礼なら言ってあげよう。ありがとう。

 

 口も何も心の中だけど。

 

「私にも………会得可能ぞり?」

「努力次第だな」

「不可能」

「諦めるの早すぎんだよ小娘ェ!」

 

 努力という言葉は私一番苦手何です。使えるって分かってから私不思議能力の訓練とかしたっけ?箒にきちんと乗れる様になる訓練は今もしてるけど。

 

 やらないといけないのかな…。念のためとか思ってたら足元すくわれる?

 

 やりたくないし努力なんて嫌いなのにジリジリと胸を焼き尽くす様に嫌な予感がしてならない。なんで。私は海に出たくない。ずっとここで暮らしていたい。

 危険も無くて平和に。

 

「…っは…は…」

 

 〝何か〟が胸を締め付ける。

 

「……傷、熱持ってる。今日はここまで、休め」

「………へ?あ、はいぞ」

 

 フェヒ爺はスクっと立ち上がり扉に向かった。

 

「……………小娘。お前は今目標が無くて自分を見失ってる、何か見つけろ。

 ───自分の本心からの目標を」

 

──バタン

 

 扉が閉まる。部屋に残されたのは私だけ。

 

「本心からの目標………?」

 

 私の目標は〝自分が無事生きること〟

 

 それ以外に何があるの?

 

「……寝よ」

 

 布団に潜り込んだ。背中の痛みより胸を締め付ける何かが傷んで仕方ないけど。

 とりあえず目標も何も今を生きることに精一杯です。主にフェヒ爺のせいでなぁ!

 

 

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

 

『───……─っ!』

『ま…───!』

 

 また、夢?

 

『言う…───ぃっ!』

 

 背中を向けているのは誰?

 何か懐かしい。大事なもの。

 

『───…さ、…い!』

 

 必死に声をかけるのは誰?

 遠くから見ているだけで分からない。なのに何故。胸が苦しい。やめて

 

『………ぉ!』

 

 「っ!」

 

 あたりが火の海に変わる。

 夜なのに明るい。嫌だ。見たくない。

 

 

 

 帰ってきて。

 

 戻ってきて。

 

 連れていかないで。

 

 泣かないで。

 

 

 

 

 

 何故私は叫んだの?

 

 何を叫んだ?

 

 

 

 「行くな……」

 

 彼らを置いていく君はどうしてそんなにも苦しそうな顔をするの?

 「行ったらダメ……」

 

──コポッ

 

 水?いや、青?海?

 

 綺麗な青じゃない。黒く冷たい青。

 

 暗く苦しい青。

 

 

 

 

 

 

 

 ねぇ、何を伝えたいの?

 こんな夢見たくない。

 

 夢なんでしょ?現実じゃないんでしょ?

 

 こんな悪夢見たくない。

 

 

 『たす……けて…………』

 

 

 誰でも良いから。〝彼〟を助けて。

 

 ───────大事な……キョウダイなんです。

 

 キョウダイ

 

 キョウダイ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁぁぁぁああ!!!」

 

──ゴツンッ

 

 痛っ!何、頭に凄まじい衝撃!

 

「あ!リーやっと起きた!」

「大丈夫か!?(うな)されてたぞ!?」

「酷い汗だ…何か夢を見てたのか?」

 

「…はぁっ…はぁっ…にぃ、に…」

 

 あ、なんだこれなんだこれ。手が震える。何か怖い。

 

「俺たちはいるから安心しろ」

「っ、ん」

 

 いつの間に私は孤独が嫌いになったんだろう。

 失ってしまうのが怖い私の中の何かが。

 

「死ぬ…な……」

 

 

 

 私の手を握る体温はほどよくて気持ちよかった。けど子供に有るまじき豆の硬さは異常だわ。平穏でよろしく。









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第28話 青いリボン

 ここに来てどれ位たったかな。

 私ももうすぐ5歳です。

 

 そんな私は今。

 

「ごめん…ね…………。私、夢を見られない…皆の夢……先行くね………」

 

「ありが……とう…─────」

 

 

 

 

 

 

 

「たかが風邪如きで何死にゼリフ言ってんだい、そんな事いう暇あったらさっさと寝な糞ガキ」

「ダダン〜〜〜っ!」

 

 風邪を引いてグダってます。

 

 原因はあいつだ。ルフィだ。

 

 傷も大分良くなったし家出した筋肉を取り戻そうという名のイジメをフェヒ爺より受けている時。なんと言いますか。

 

 飛んできた腕が私をはじき飛ばした。

 

 まさか兄に殺されかけるとは思わなかったよ。飛んできた拳は私の傷付きの背中にクリティカルヒット。意識を失った私はそのままどんぶらこどんぶらこと川に流された模様です。腕飛んできた辺りから記憶無いや。

 

 私はエースとサボがさっさと救出してくれたみたいです。

 フェヒ爺には悪魔の実の能力(仮)を使える──私自身食べた記憶ないから疑ってるけど──事を教えて無いから水に濡れてアウトだって事を知ってたエースが飛び込んだんだって。あ、そう言えばルフィにも言ってなかったな。

 

 どっちにせよ助かった。

 

「ズビッ……」

 

 風邪は引いたけど。

 

「熱もうそろそろ測れたんじゃ二ーのか?」

「んー……」

 

 モゾモゾと脇に挟んである体温計を取り出す。

 

「なっ!……38.9!?」

 

 辛いはずだよちくしょう。

 

「リーーーーッ!し、し、死ぬなぁァァ!」

「ル゛、フィ。ゔるざぃ……」

 

 最近ルフィは私を「リー」と呼んでくる。

 自分だけ「リィン」って呼ぶのは仲間はずれみたいで嫌だったんだろうね。どうでもいいけど。

 

「おでの…せいで傷、傷作っ、おれ゛…っ!熱!リーーーッ!!」

 

 まだ過去にポルシェーミのせいで傷を付けたこと根に持ってるのか。

 

 まあ深く付いちゃったのか半年くらい経ったけど傷跡がずっと残ってるんだよなぁ。

 参ったなぁ、めんどくさいなぁ、お嫁に行けねぇ。あ、別に行かなくていいや。

 

 独り身万歳!孤独万歳!

 

 あー…私すっごいダレてる。

 

「ルフィ、リーが休めないから行くぞ」

「でもっ、でもぉ!!」

「いい加減にしろよテメェ!うるせぇ!泣きやめ!」

 

 エース、キミの声も煩い。

 

「リーーーッ!死ぬなぁぁぁあ!」

 

 ルフィ、やっぱりキミ絶対休ませる気ないだろ。

 

「ゔ、るざいっ!!」

 

 休ませろ!!

 

 

「ほら行くぞ」

 

 ズルズル引きずって連れ去られるルフィ。『リーーーーッ!』って声が遠くから聞こえるけど気にしない気にしない。

 

 アレでも責任感じるんだな。失礼。

 

 

「ゔーー…ゔー……」

 

 優しさが半分で出来ている薬ください。

 

 私の風邪はどこから?

 私悪運から

 そんな私にはトイレのベンザ

 

 なんか違うね。うん。

 

「じぬ…………」

「そう簡単に死にゃしないからさっさと寝な。…あの3人が薬買ってきてくれてるからさ」

「にーにが…」

「…フッ、あんたがその言葉使うたァ相当弱ってんだね。安心しておやすみ」

 

 やだ、ダダンかっこいい。

 

「…………………お腹空いた」

「あんたこの状況でも食欲あんのかい…。普段あのバカ3人程食わないのに」

「…あれは獣ぞ。私とは違う胃袋ぞり。私なるは1人前ぞ」

「うん、正論だね。マグラ!飯作ってやんな!粥!」

 

 額に冷たい何かが乗った。

 

「気持ちイーか?熱高いから無茶すんじゃ二ーぞ」

 

 ドグラマグラがナイス過ぎる。

 

「感謝感激荒らされる…」

「ちょっとどころかだいぶ違うね」

 

「あり、がど…う」

「そうそう、お礼は〝感謝〟じゃなくて〝ありがとう〟な」

「めんぼくちゃい……」

「面目ない、じゃ二ーのか?」

「それでごぞりた」

「うん、もうリー黙ってろ」

 

 

 それからご飯食べて寝た。多分。

 途中で薬も飲んだんだと思う。多分。

 

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

「………サボ…」

「あ、おはよう」

 

 翌朝、私の隣に座るサボと目が合った。

 

「熱は…っと、38.2……まだ下がらないなァ…」

 

 よしよしと私の頭に手を乗せて撫でる。サボの手冷たいから気持いい。

 

「あ、そうだ」

 

 私の額から手をのけてポケットをこぞこぞ探り始めた。

 

「これ、やるよ。リーは綺麗な金色の髪をしてるからきっと似合うと思って」

 

 サボが手にしたものは。青いリボンが2つ。

 

「り、ぼ……」

「うん。リボン」

 

「サボとお揃いの………」

 

 サボも金色の髪に青い服を着ている。似合ってるなってずっと思ってた。

 

「え、あ、ホントだ。俺とお揃い」

 

 ニカッて笑う顔。照れてるのか少し顔を赤くして私に笑いかけてくる。

 心が軽くなった。その笑顔好きだなァ。

 

「にぃ…に、ありが、とう……」

 

 私の好きなお兄ちゃん。何もわからないのに、一生懸命育ててくれた。気にかけてくれた。大事な私の家族。

 

 

 

 

 ストンと何かが収まった。

 

 

 ああ。私は家族が好きなんだ。

 大事にしたい。死んで欲しくない。離れたくないって思うくらいには情が湧いてたんだね。

 

 

 

 私の目標は────。

 

 

 

 

「まだ、わかん、無いけど…死なせ、無い………」

「何が?」

 

 

 私が一番大切だけど、家族もそのくらい大切だ。

 

「えへ」

 

 守りたい、って思う程の事じゃないかもしれない。どうせ3人の方が強いから。あ、いや、ルフィは除く。あの子自滅するから。

 この笑顔は失いたくないな。

 

 

 

「なにごとも、そんざいしにーぞ」

 

「何でもない、だろ」

 

 そう言って笑うサボは陽だまりみたいに暖かかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ああ堕天使様。私の運命はどうしてこうも呪われてるのですか。

 私の家族を返して下さい。歯を食いしばって正座しやがれテメェこの野郎馬鹿野郎。



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第29話 サボ

 

 リィンが寝静まった。まさか朝起きるとは思ってなかったけどプレゼントを直接渡せれたサボは満足気にフェヒ爺の元へ向かった。

 

「サボ!」

 

「エース!ルフィ!待たせたな…」

 

 途中の脇道で声をかけられ振り返ると2人が手を振っていた。

 

「いーって、リーに昨日のやつやって来たんだろ?」

「途中まで忘れてたとか本人に言えないけどな…」

「サボはバカだな〜」

「「お前に/ルフィに言われたくない」」

 

 熱を出してる妹が気になり後ろ髪を引かれつつもフェヒ爺との約束の為に森の中を駆け出した。

 今ではルフィも自分たちの速度についてきている。

 

「今日こそは絶対覇気使える様になってやる!」

「よく考えたらフェヒ爺が教えてくれるようになったのってリーのおかげだよな…」

「おれ、あんなに強いとは思わなかった!」

 

「ポルシェーミをこてんぱんにした時避けてたのって見聞色の覇気だったんだな」

 

「サボ、見聞色使えてずるいぞ」

「お前らは覇王色の素質持ちじゃないか……僻むなよ…」

 

 いつも通り覇気についての話をしながら走る。

 ただ、今日はこれだけじゃなかった。

 

 もっと、気付けば良かったんだ。

 

 

 

 

 

 

 あの時すれ違ったサボの父親の事を。

 サボの価値を。

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

「サボ!逃げろ!俺たちは大丈夫だから!お前だって分かってるんだろ!?」

「……っ、あぁ!」

 

 フェヒ爺との訓練は海岸。そこに行く途中の不確かな物の終着駅(グレイ・ターミナル)でエース達は海賊に囲まれた。逃げ出すことくらい簡単だと思ってたが突如サボの父親が現れて動揺してその拍子に捕まってしまったのだ。

 情けない。けど、フェヒ爺に鍛えてもらってるんだ。まだ逃げ出せるチャンスはある。…自己暗示する様に頭で繰り返す。しかし相手は一枚上手だった。

 

「おおっと…いいのかい?」

「……………何がだ」

 

 ニヤニヤと、下衆な表情という表現が似合う似合う笑顔で聞いてくるサボの父親を睨みつける。エースはエースで嫌悪感に吐き気を催して居たが、サボに比べると楽に決まっている、と歯を食いばる。

 

「……熱で寝込んでる彼女に傷がついても」

「「「っ!?」」」

 

 リィンの存在がバレている所か、アジトまで特定されていることに焦った。これではサボを連れて逃げたとしても何度だって変わらない。

 

「どこまで腐ってるんだ…テメェ。人質にでもするつもりなのか…っ!?」

「交渉材料、と言ってもらいたいな?」

 

エースはギリギリお歯を鳴らす。覇気を意図して使えたことなど無いが、今はそれに縋りたかった。

 

「返せ!サボを返せ!」

「返す?元々キミ達の物じゃ無いだろ!?それに家に帰る方がサボの為になるんだ」

「うるせぇ!サボは俺たちの兄妹だ!渡してたまるか!もちろんリーにも手を出させない!」

 

 

「っ、もういい!エース、ルフィ!もういいんだ」

 

 

 苦しいと叫んでいる様だった。サボにとって自分の確定された将来よりも…──兄妹の方が大切だから。何よりも捨て難い宝だから。

 

「やめろ!言うな!」

 

 その先を言うなと懇願する。何となく読めていた。長年の付き合いだ、分からない筈が無い。

 

「と、うさん……」

 

 ──そんな苦しそうな顔をするくらいなら言うな。お願いだから諦めんな。皆で生きて、皆で海へ出るんだ。

 

「なんでも言う事聞きます。だから手を出さないでください……」

 

 そんな泣きそうな顔をする位なら力を振り絞って逃げてほしい。

 

「サボォォ!!」

 

 

「大切な…兄妹なんだ……」

 

 

 

 絞り出した言葉に、アウトルック3世は笑みを深めた。

 

「それでいいんだ…後は任せたぞ。海賊」

 

「へぇ、おまかせ下さい。大事な坊ちゃんに関わらないように始末を付けておきます」

「離せぇ!離せよ!っく、サボ!振り切ってこっちに来いよ!」

 

 エースは考える。こんな時頼りになるフェヒターや、賢いリィンならどうするか。

 

「──サボ!」

 

「邪魔だよ!どけよ!」

 

 ルフィも必死にサボを引き止めようとする。

 

「どけブルージャム海賊団!!」

 

 覇王色は結局出来ない。肝心な時に使えない。

 

「サボおおおお!!」

 

 なんで遠ざかる背に手を伸ばすことすら出来ないんだ、と叫びながらゴミ山の向こうを睨み続けていた。

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

 

「で、仕事ってのは……」

 

 エースがブルージャムと対峙してルフィを背にかばう。

 

「何、簡単な話さ。この地図のバツ印の所にこの箱を持っていく、なんとも簡単な仕事……だろう?」

 

 ニヤリと笑うブルージャムにルフィは寒気を覚えた。この仕事は決して受けてはならないと、本能と理性の両方が告げる。

 

「分かった」

「エース……?」

 

 エースは悩むまもなく簡単に答えた。

 その回答に満足したブルージャムは仕事以外の話をし始めようとする。しかしそれはエース自身によって止められた。

 

「仕事早く始めよう。無駄なおしゃべりは無しだ。興味無い」

「可愛げの無い糞ガキだな…だが、いいだろう……。どうだ?ポルシェーミの事はお互い水に流そうじゃないか…お前ら俺の船に乗」

「──無駄なおしゃべりは無しだと言っただろう」

 

「…ふん。仕事だお前ら!」

 

 縄を解かれてその代わりに箱を渡される。旗のついた重い箱だ。ルフィはその重さに首を傾げるながら持ち上げた。

 

「エースぅ、どうするんだ?」

「さっさとリーの元に帰る。ただそれだけだ」

 

 ルフィはブルージャムのアジトを先に出たエースに付いていく。

 早く仕事を終わらせるって事かと思っていた。

 

「ほら、こっちだ」

 

 一緒に付いてくる海賊に挟まれながら歩いて一つ目の場所に付くとエースの顔にグッと力が入ったのが分かる。幼いながら必死に下の子を守ろうとする兄の顔だ。不謹慎だがルフィにはそれが嬉しくてたまらなかった

 

「お前はこっちでお前はあっちだ」

「ああ…」

「うん」

 

 指定された場所に箱を置くとエースが素早くルフィの元へ向かって手を繋いだ。

 

「ルフィ……ヅラかるぞ!」

「…!っおう!」

 

 箱を置く作業をしていた海賊達を尻目にコルボ山に向かって一直線に走る。

 

「お、おい待て!」

「知るかバーカ!」

「バーカ!」

 

 エースに続いて暴言を吐くとエースのスピードがグンと上がった。

 

「今フェヒ爺の海岸に行くのはマズイ…ここは俺たちだけで何とかするぞ……」

「何でだ?」

「あいつらは本物の海賊だぞ!?海岸に船を止めているだろ」

「あ、そっか」

 

 

 

 

 弟扱いも好き。だけど自分は兄なんだ。情けない兄だけどそれを誇りに思っている。尊敬するエースとサボという兄の背中を見ながら妹に背中を見せる真ん中が愛しくて堪らない。

 

 

 

 それが一番望む現実。ルフィは今の現実に不満を抱いて、足の回転を早めた。

 

 

 ==========

 

 

 あんなに来たくなかった実家の広いベットに、サボは身を投げ出すようにごろりと寝転んだ。高いベットはとても柔らかく寝心地は良さそうだ。

 

「また此処に……」

 

 だけど。硬い木で出来たアジトの床に薄っぺらいボロボロの布を敷いて、4人並んで寝る方がずっと眠れそうだった。朝になると誰も彼もが寝相で変な方向を向いたり蹴っていたりする暖かい場所の方が。

 

──コンコン

 

「?」

「おいお兄様」

 

 開かれた扉を律儀にノックする辺りは教養が見える。そこに現れたのはサボの義弟のステリー。アウトルック3世がサボの代わりにと養子にした子供だった。

 

 ──ルフィの方が絶対可愛いな。うん、贔屓目無しにしてもなしに絶対可愛いにきまってる。

 

「お前、あのゴミ山に住んでたんだってな」

「……それがどうした」

「天竜人が来るのを知ってるか?」

「あの世界貴族が?」

 

「お前、あのままあそこにいたら燃やされる所だったぞ」

「……………どういう事だ」

 

 考えたくないが嫌な予感が思い浮かぶ。ステリーは子供とは思えない臭った笑顔で笑いかけた。

 

「今夜、夜中に燃えるんだよ……あのゴミ山が」

 

 それはあまりにも衝撃的な勢いでサボの中を掻き乱した。

 

「そ、れ…本当、なのかよ…」

「ホントだよ。高町の人間全員が知ってる。この国の汚点は全て焼き尽くす………」

 

 ゾクリとした。狂ってる。

 そんなのおかしい。

 

 不確かな物の終着駅(グレイ・ターミナル)に住む人間に伝えなければならないという使命感に駆られる。恐らくこれを知っているあちら側の人間は自分だけだ。

 自分の兄妹に伝えなければいけない。

 

──バリンっ

 

「おいお兄様!?ここ何階だと思ってるんだ!?お兄様!?…───しーらねぇ」

 

 サボはいつの間にか窓を突き破って飛び出していた。

 ステリー目を背けて部屋に戻る。別名現実逃避だ。

 

 

「貴族なんて………っ!」

 

 

 悔しい。悔しい!なんで俺は貴族なんかに生まれたんだ!何が東の海一番綺麗な国だ!汚れる!俺には全然綺麗に見えねぇ!

 不確かな物の終着駅(グレイ・ターミナル)よりずっと汚れて見える!

 

 

「エース、ルフィ、リー……っ!」

 

 酷い程綺麗な夜空がサボを見下ろしていた。

 

 

 ==========

 

 

 

 

「もう1度、説明お願い致した」

「だから、サボが貴族に連れていかれた!」

「…………何故貴族に?」

「サボが貴族だからだ!」

「………私知らぬなり」

 

「教えるの忘れてた!」

 

 何真顔でとんでもないことをぬかしてるんだこのバカは。

 

「サボの為…?ハッ、滑稽(こっけい)な。何故?何故そのような事を言葉にすること可能?どうぞ思考してもぞ虐待ぞ?幼児虐待…充分な犯罪になりうるのぞ。海軍にぞ訴える?無意味。あちらは貴族簡単に捻る。何故私達のサボぞ取る?目的たるものは予測済み。恐らく教育。それに世界貴族ぞ参る。このタイミング?計算したようなタイミング…。何故後にぞ参らなかった?」

「あの…リー……ィン?さん?」

 

 青白い顔で冷や汗を流しながら突如雰囲気の変わった私に声をかけるエース。

 

「………何事ぞ?」

「いや、殺気が、な。それに表情筋機能してるか…?」

 

 つまり表情死んでると言うことか。

 

「…………納得、いかない」

 

 貴族がなんだ。こっちは立場もクソもない糞ガキだ。十二分に立ち回りできる。

 迎えに行く。

 

「誘拐ぞして参る」

「……は?」

 

 説得してサボを取り返す。アジトの場所がバレたとしてもこちらにはフェヒ爺がいるんだ。

 それと、盃を交わした兄妹舐めるなよ。

 



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第30話 黒い夜空と赤い空気

 

 

「今から行くのか!?」

 

 エースが仰天した声をあげた。

 

「勿論ぞ」

 

「お前、熱がまだ引いてないのに!?」

「今動かなければ手遅れになるぞ」

 

 世界貴族の訪問が明日。サボが連れ去られたのが今日。

 やっぱり何が何でもタイミングがピッタリ過ぎる。

 

 これ以上引き延ばせることが出来ない何かがあるんだ。

 こんなんなら今日もアジトにいてもらうんだった。昨日はサボがアジトの周りにいてくれてたから誘拐(仮)されなかったんだろう。

 

 

「でも、大門はもう閉まってるぞ?」

 

 ルフィが首を傾げる。

 ああそうだった。ルフィには教えてなかったか。

 

「黒いマント…闇夜に紛れること可能のマント……」

 

 アイテムボックスから黒いマントを取り出す。エースとルフィが見てるけど気にするものか。今はそんな事考えれる脳みそと意識が無い。

 

 もっとちゃんとした策ができるかと思ってたけど熱がある以上考えるとズキズキする。

 

「……………ふぅ…」

 

 集中だ、集中。いつも以上に集中しよう。

 

「……俺たちは石壁の向こうに入る手段を持っていない。お前に頼る事しか出来ない。──だけど、ギリギリまで背負ってやれる。リー…頼む。サボの意思を聞いてくれ」

「うん」

 

 石壁を飛んで越えてサボの家を探す。

 

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

「なあリー、どうやってこの壁越えるんだ?」

「簡単………」

 

 飛べばいいだけ。

 箒を取り出して跨る。

 

「リー……?」

「そのリボン…」

「うん、サボにぞ貰った。行ってくるぞ」

 

「無事に帰れよ…」

「勿論ぞ」

 

 集中、集中。今回は前じゃない。上へ。上へ。

 

「っ!?リーが、飛んでる!」

 

 焦燥感に駆られる。焦ったってまともに飛べやしないんだから落ち着け、落ち着け。

 

──ゴオッ!

 

「くっ!」

 

 突如熱風が襲って空中でバランスを失いかけてしまった。あ、ぶないなちくしょう。落ちたらどうするんだ。

 

「──って、炎!?」

 

『…………子供の声?』

 

「リー!早く行け!」

「わ………っか、てるぞ…りぃ!」

 

『おい!さっきの声エースだ!船長!』

 

 エースの事を知っている存在、まさかこの声の奴らはブルージャム海賊団か。

 

「エースっ」

「良いから早くいけ!俺たちは自分で逃げれる!」

 

「う、ん…っ!」

 

 

 集中してゆっくりと浮上する。もう少し。もう少しで天辺。早く早くサボの元へ

 

「ぎょえ!」

 

 簡単に言えばバランスを崩した。

 

「っ!」

 

──ドンッ!

 

「うっ、あ…!」

 

 痛っ、石壁の天辺(てっぺん)から思いっきり落ちた。しかも背中から。

 

「……っ、はぁ、はぁ」

 

 クラクラする。熱、上がっちゃったかな。

 

『リー!大丈夫か!?』

 

 石壁の向こう側から微かにルフィの声が聞こえる。うん、大丈夫、なんとか生きてるから大丈夫だよ。

 

「だい、じょー、ぶと、存在」

 

 軽く呟いたけど聞こえてるか分からない。

 箒を手繰り寄せて杖代わりに立ち上がる。辛い。熱でクラクラするし背中痛いし多分また傷が開いた。

 『毒がかけられてたんだから少しでも無茶すれば傷なんか簡単に開くぞ!きちんとした医療機関に頼れない今大人しくしておけ!少し前より平気になったからと言っても強い衝撃当てるな!』って口を酸っぱく何度もフェヒ爺に言われてたのに。

 

 そういえばルフィのせいで思いっきり強い衝撃食らったな。

 

「……はぁ…はぁ」

 

 しんどい。しんどいなぁ。

 サボは少なくともお金のある家にいるんだし命の危機があることなんて無いはず。なんで私こんなに無茶してるんだ?なんで提案した?大事だから?そんな程度で?自己保身マンが?貴族に見つかれば下手すれば殺されてしまうかもしれないのに?私が?人のために動くの?頼まれたからと?

 

 私が無茶する必要なんかある?

 

「私、諦め…る?」

 

 ひらりと目の前に青い物が落ちる。2つの青いリボンが。

 

――ギュッ

 

「違う」

 

 落ちたリボンを握りしめる。

 

 他人の為にだとかサボの為に動くだとかエースとルフィへの罪悪感だとか引き受けたからとかそんなんじゃない。

 綺麗事だらけの人間じゃ無いことは自分が一番わかっている。

 

「違うんだ。そんな人間と違う…」

 

 あぁ、私は結局自分本位だ。

 

 

 

 ──エースとルフィとサボと4人で笑いたい。4人で居る時が〝私〟にとっての幸せだから。

 

 

 

 これは自分の望みだ。他人がどうであろうと関係ない…。

 

 〝私〟は今まで通り自分の為に動く。

 

 

 ここで引いたら自分が終わる。自分本位だって言う、欲望に忠実な自分が。

 

 私のこの世界に来て一番大切な家族をバラバラになんかしたくない。させてたまるか。

 

 

 

「待ってろよ…サボ。勝手に消失した怨みただ今晴らして頂くぞ………」

 

 自分第一自己保身マンの自分の為に精神舐めるなよ。私の我が儘に付き合ってもらうからなクソ兄貴。

 

 1歩ずつ足を進めた。

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

 

 

「行ったか…?」

「リー!大丈夫かー!?」

 

 エースが疑問に思うとルフィがすぐさま安否確認をした。相変わらずへんてこな叫び声が聞こえたから何かあったに違いないが。

 

「ルフィ……来るぞ」

「……おうっ!」

 

 燃え盛る炎の奥から自分たちより大きな大人が何人も現れる。今はこっちの方が大事だ──!エースは握り拳を固めた。

 

「なんでここに居るんだよブルージャム!」

「誰かと思えば仕事を投げ出したエース君じゃないか……お前らこそこんな所で何をしている」

 

「答える義理は無ェ!」

 

「連れないぜ…お宅の所の〝リーちゃん〟が痛い目にあっても知らねェぞ?」

「……っ、リーは弱くねェ」

 

 吐き気がするほど下衆(げす)な野郎共に飛びかかりたいのをぐっと抑えて石壁からリィンが離れるのを待つ2人。

 

「身の程知らずが…こうなりゃ道連れだ。殺れ」

「…くっ!道連れェ!?何言ってんだお前らは!」

「聞いてくれるかい?──貴族だよ、あいつらに騙されたんだ。この仕事が出来れば貴族にしてくれると約束をしていたと言うのに…っ」

 

 ブン、と掠める銀色の刀を避けながら手下に蹴りを入れていく。

 一瞬真顔になった。そして思った。

 

「(こいつらバカなんじゃねぇの……)」

 

 口約束か何だか知らないけど消されればその件は無しになる。

 それを考慮しなかったのか。

 

 ここまでバカだと思わず同情も湧いてきそうになったエースだ。

 

「…、待てよ…まさかこの火事はお前らが…っ!」

「……………頭のいいガキだ」

 

 その一言が全てを物語っていた。

 

「…チッ、自業自得じゃねェかよ」

 

 火の手が強まってきている。このままじゃ自分もだがルフィまで危険だと判断したエースは言った。

 

「ルフィ…先に行け」

「!?」

 

 仰天したルフィは思わずエースに詰め寄った。

 

「何でだよ!俺も戦うぞ!フェヒ爺に鍛えてもらってるんだ、こいつらなんかけちょんけちょんに…」

「ルフィ!!」

「っ!──なんでだよエース!」

「行ってくれ、頼む…。俺は、逃げない」

 ルフィは頑固者だと叫びたくなった。

 

 だが、

 

「俺だって逃げない。海賊王になる男がこいつらなんかに負けてたまるか!」

 

 自分だって頑固者でバカなオトコだった。

 

「ルフィ……………。っ、ハッ、それならまず俺を倒してから言うんだな!───後ろは任せたぞ」

「おう!」

 

 小さな子供達は鉄パイプを構え飛び上がった。

 

「どけ!お前らとは覚悟が違う!

 

 俺たちは知らないふりで過ごすつもりは無いんだ!」

 

 動揺はもう無い。迷いももう無い。

 決意は彼らを一段階強くさせた。

 

 

 

 

「でりゃぁあ!」

 

 執拗に金的を狙う事が子供の有効な対抗手段だったのだろうが、絵面的によろしく無かった。男達は今日も金的を狙って戦い続ける。

 ふと我に返って、自分は一体何をしているんだと遠い目をしたエースが居た。フェヒ爺の教育の賜物だろう。

 







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第31話 らしくない

 

 

「っはぁ、はぁ、はぁ」

 

 夜風が身体を冷やしながら家々の名前を確認してサボの家を探す。あぁくそっ!サボの名字を知らない!

 でも何もしないよりずっといい!

 

 仕方ないので窓から確認して、誰かの姿が無いか見て、いなかったら諦める。

 今は深夜、人々は寝静まっている。こんな夜中に子供がウロウロしてるのを見つかると警備の人達が怪しんでしまうかもしれない。

 

 人に見つかればゲームオーバー。

 家を探せれなければゲームオーバー。

 朝が来たら多分ゲームオーバー。

 サボを見つけれればゲームクリア。

 ただし説得出来なかったらゲームオーバー。

 

「難易度…高き……」

 

 しかもこちらは高町の広さを子供の足1人で回る。時間と手が圧倒的に足りない。そして痛む背中と高熱の身体。

 

 サボならどう行動する?何をする?奴らは何を企んでる?

 

 無理ゲーじゃん。

 

「……っ!」

 

──ゴォッ!

 

 突風が吹く。今日は風が強いから身体が冷えて体力削られるし火の手はきっと大きくなる。

 エースとルフィ、逃げ出せると良いんだけど。

 

 今は人のこと心配してる暇は無い。サボを探さないと。

 

「サボ……」

 

 大声を出すことも不可能。そもそもその元気が無い、か。

 

 明日の朝になれば世界貴族、天竜人がやって来る。やっぱりその時間までには見つけ出したい。

 

 

──クラッ……、ドンッ!!

 

 

 バランスが崩れそうになったので足で地面を大きく踏む。

 

 ええい!倒れるのは後にしてくれ!

 

 

 

 生まれて初めてこんなに無茶する気がする。何かいい案を。サボの行動を予想したい。しかし私の熱に侵された頭は正常に動いてくれないようだった。

 

「くそっ!」

 

 悔しいとしか言いようがない。でもまだ大丈夫、見つけれるから、この胸の嫌な予感は黙ってて。何かの警報なのか、酷くズキズキと痛む。

 いや、背中の痛み?それとも頭の痛み?胸の痛み?もう分かんないし吐きそうだし。

 

「諦めて、たまるか…」

 

──ズキン… ズキン… ズキン… ズキン…

 

 得体の知れない不吉な塊が胸いっぱいに広がり、目の前を真っ暗に染め上げる。

 

 

 

 

『……──…っ!』

『言うな…!』

『サボォォ!!』

 

 あ、あの時の夢…。

 去りゆく背に向けて叫ぶ子供──

 

 

 叫んでいるのはもしかしてエース?背を向けるのはサボ?泣いてるのはルフィ?

 

 ──そして燃え盛る炎の海

 

 待って、やめて、止まって、この夢、嫌だ、何が起こるの、この夢の続きは、

 

「はぁ、はぁ、はぁっ!」

 

 連れていかないで。

 

 やめて。

 

「っ、ゔ、あ、っ…ゲホッゲホッ!」

 

 吐き気がする。頭が痛い。痛い。止まるな足。見つけろサボを。

 

 

 

 

 

「……大丈夫か…?」

 

 悲鳴を上げなかった自分を心から褒めたい。

 

 

 

 

 

「ゔぁ、だ…れ……」

 

 誰か知らない声が耳に入った。マズイ、見つかった。

 

「旅人だ。何があった」

 

 旅人、旅人か。この町の、国の人間じゃ無いのか。良かった。旅人さん、助けて、サボを見つけて。

 

 視線をそちらに向けるとマントを被った刺青(いれずみ)の男の人とその後ろにでかい顔の女…男?の人?人?え、人なの?

 

「サ……──っ、ゲホゲホッ!」

 

「お、おい……」

 

「ダメ……だ……」

 

 サボと言って分かる人はきっと居ない、旅人なら尚更。意味の無い。それに知っていたらどうせ向こう側。貴族の手下。喋る気力があるくらいなら足を動かして自分で探す。ごめんなさい、気にかけてくれたのに。私は話すどころか挨拶する気力も無いみたい。今度お礼はします、気にかけてくれてありがとう。

 

「……っはぁ、はぁ」

 

 足がしっかりしないけど再び歩き出す。乗ってもきっとすぐ落ちる。集中なんか出来ない。

 

「……」

 

──ズキッ!

 

「っ、う…」

 

 背中に激痛が走る。

 

「……………お前…、背中に傷があるな?船に来い、手当をしてやる」

「ふよ、ぅ…」

 

「ヴァナータ!そんな無茶をしてどこに行くっチャブル!?」

 

 手当をする暇があれば私は歩くから。見つけるから。探すから。

 無茶をしてでもサボをの元に行くから。今世紀最大の努力をする。

 

 

あの女の人?男の人?性別不明の人の喋り方も顔も存在も今世紀最大に気になるけど。

 

 もう、ほんとになんでこんなに無茶してるんだっけ、思考能力落ちた。絶対に。

 

「来い………このままだと危険だ」

「不要、と!申して!るぞ!………っ、邪魔、する、なかれ!」

 

 しつこく心配してくれる刺青さんの様子に思わず叫んでしまう。ごめんなさい。せっかく心配しているのに、酷い事言ってしまって。

 

──ボンッ!

 

「能力者か…!」

 

 ああ爆発が起こってしまったのか。ごめんなさい。ごめんなさい。当たってしまったんですね。痛いですよね。相手の腕のマントが所々焦げてそこから見える皮膚(ひふ)から血が出ている。でもごめんなさい。

 

「っ!」

 

 私はその隙に駆け出した。

 

「待て!危険だ!」

「…く、ぅ…ふっ!」

 

 箒に飛び乗り高く飛ぶ。どうか向こう側の道まででいいから飛んで。

 

「謝罪、刺青の人……」

 

 ああ、もう、運が悪い。

 

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ…」

 

 視界がグラグラするんだよ。足元だっておぼつかないんだよ。

 

 

 

 でも、ギリギリまで……っ!

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

「何だったんだあの娘は…………」

 

 血の(にじ)んだ服。真っ赤な顔。乱れた呼吸音。タンの絡まる咳。もたつく足元。

 

 健康な人間では無いことはひと目でわかった。

 

 

 あの少年もだが、この国は気になる人物が多い。

 

 

 あの2人の子供のまっすぐ先を見据(みす)える目は気に入った。子供だからこそ、(ゆが)みのない目で世の中を見れる。欲しいな、革命軍に。

 

 特に少年の思想は我々と似ている。

 

 ──この町はゴミ山よりもイヤな臭いがする…!!

 ──人間の腐ったイヤな臭いが…!!

 

 

 ──俺は貴族に生まれて恥ずかしい!!

 

 悔しいだろうな。辛いだろうな。この国は必ず我等がなんとかして見せないといけない。

 

 

 

──プルプルプル……ガチャ

 

「…なんだ」

『ドラゴンさん!あなた達今どこにいるんですか!』

「高町だ。そっちの様子はどうだ」

『───ちょっと変われ。…あー…ドラゴンさん…聞こえますか?』

「聞こえている」

『そちらに船をギリギリまで寄せているので急いできてください。風が思ったより強いです…』

「了解した。イワンコフ、先に行って火を消しておけ。すぐに向かう」

「人使いが荒いのよヴァナータは!」

「すまないな」

 

──ブツっ

 

 イワンコフの説教は長引く。早々に電伝虫を切り船に向かう。

 

 海軍が来ぬ内に終わらせなければならない。

 

「まだ、力が足りない……」

 

 

「あの少女…一体何をするつもりなブル…」

「分からん。──だが、ただならぬ信念は感じた」

「ええ…」

 

 今はまだ(なげ)くだけしか出来ないが、力をつけた日には必ず革命してみせる。この腐りきったゴア王国を。

 

 

 

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

 もう無理もう無理限界歩けない。動けない。

 

「はっ、はっ、ふっ、はっ……」

 

 へたりこんでその場に(うずくま)る。

 

 もう、昼も近いんだ。日が昇った。照りつける太陽が恨めしい。逃げも隠れもしてくれない太陽がじっとこっちを見ているみたいで…悔しい。すべて知ってるぜ、みたいな顔をしてさ。やかましい、お前はさっさと雲に隠れていろ。

 

「サボォ………」

 

 なんで会えないんだようー…。あんなに探し回ったのに。

 

「ごめん、なさ、い。エース…ルフィ…」

 

 ごめんなさい、サボに会えなかった。もう動けない。何度も何度転んでも立ち上がっても飛んでもどうにもならなかった。

 

──ポタポタッ

 

「み、ず…」

 

 違う、涙か。

 

 エース達は火事から逃げれたかな、サボは今何をしてるのかな、熱が下がったらもう1度探そう。うん。そうしよう。このまま諦める事は絶対にしてやらない。

 

 だからもう今日は倒れてもいいかな。

 

「リー……?」

「っ、サ、ボ!」

 

「オメーどうしてこんな所にいるんだ?アジトにいるんじゃ二ーのか?」

 

 サボをだと思って顔を上げたけど、ドグラだった。ドグラはどうしてここにいるの?アジトにいるんじゃ無かったの?

 なんでサボじゃないの……。

 

「そ、それよりも…!!リー…っ、聞けっ、…サボが……」

 

 サボ?サボがどうしたの?

 見つけたの?ドグラナイス。

 

 でもどうしてそんな辛そうな顔をしているの?

 

「───殺された……」

 

 

 

 

 

 

 

「………え」

 

 聞こえない。耳が受け付けない。

 心臓の音だけがうるさく耳に届く。

 

 ドグラは今なんて言った?

 

「だから、サボは殺されたんだっ!」

 

「ダレ、ニ……サボ、を、……え、サ、ボがしん、だ…?」

 

 壊れたレコードみたいに繰り返すしか出来ない。

 

「天竜人が乗る船を、サボが乗る船が横切った時に。ッたれたんだ!」

「サボが…………」

 

 死んだ?

 

「落ち着くだよリー!オメーフラフラじゃ二ーか!どこに行くつもりだ!?」

「サボは、死んで無き……」

 

「この目で見たんだ!サボは──」

 

 もう、それ以上言わないで。

 

「──死んだんだ!」

 

 無情にも聞きたくない言葉はすんなりと自分の中に侵入しきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「嫌ぁあぁあぁああっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 ねぇ堕天使。あなたの付けてしまった〝災厄吸収〟って何?私に災厄が降り注ぐの?もしかして、さ。サボが居ないのはこのせいなの?私の〝幸せ〟は〝災厄〟に塗りつぶされてしまうの?

 

 要らないよ、魔法も要らないから、お願いだからサボを返して…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これが私の運命ならばとりあえず鼻フック背負い投げをテメェに食らわせるからな、覚悟しとけよ畜生。タンスに小指をぶつけて悶え死ね!

 

 




ドラゴンさんの流れとしてはサボに会った後にリィンに会ったという流れでした。
そしてリィンは結局サボに会えずじまい
そうそう簡単にあの規模で見つけれるなんて言う幸運は持ち合わせておりませんでした。少しでも体調が良ければ、少しでもドラゴンさんに協力を要請していたら、そう考えるとキリが無いですがこれも彼女の災厄です。


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第32話 誰だ昨日の敵は今日の友とか言った奴

 

 サボが私達の元から居なくなった。

 

 

 海賊旗を掲げて海に出たところを天竜人が銃で撃ったらしく、船は海に沈んだ。勿論、サボも。

 

その失ったものは私達兄妹にはあまりにも大きすぎて、それぞれが色々とショックを受けていた。

 

 

 まず私はと言うとあの時の熱がぶり返してドグラに運ばれ未だ布団から出られずにいる。熱だけならまだしも傷が開いてしまって、情けない。

 

 ルフィは一日中泣き続けていた。風邪っぴきにとって辛い所業だよ。頭がガンガンする。

 

 エースは『サボの仇を取りに行く!』って暴れるものだから少し前まで木に縛られていた。

 

 

 

 そんな中届いたのは手紙。

 

 サボが出航前に出した手紙だった。

 

 

 

 ==========

 

 

 俺の兄妹へ

 

 お前ら火事で怪我してないか?リーは体調大丈夫か?

 心配だけど無事だと信じてる

 

 お前達には悪いけど3人が手紙を読む頃にはもう俺は海に出てる──

 

 

 色々あって一足先に旅立つ事にした

 

 行先はこの国じゃないどこか

 俺は強くなって強くなって海賊になる

 

 誰よりも自由な海賊になって、また兄妹海で会おう!

 広くて自由な海で必ず!!

 

 

 ──それからエース

 

 俺たちはどっちが兄貴かな

 

 長男2人弟1人妹1人

 

 変だけどこの絆はおれたちの宝だ

 

 ルフィはまだまだ弱虫で泣き虫で

 リィンはまだまだ弱くてヘタレだけど

 

 俺たちの大事な弟妹だ

 よろしく頼む!

 

 

 ==========

 

 

 所々シワになってる。きっとエースも泣いたんだろうな…。孤独を救ってくれた最初の兄妹だから。

 あとヘタレは余計だ。

 

 

 

「小娘、生きてるか〜」

「生きてるぞ」

 

 フェヒ爺が心配して来てくれた。流石に風邪っぴきに訓練を強制して来ないので願ったり叶ったりってところだけど。

 

「安否確認ご苦労ぞり…」

「昨日よりはだいぶ楽そうになったな……」

「エースとルフィは…」

「あいつらはもう少しで帰ってくるさ」

 

「………放置して来るぞ致したのか」

 

 フェヒ爺の動きが止まった。

 2人を置いて先にこっちに来たパターンか。

 

「ま、まぁそこは置いて、だな…お前これからどうするんだ」

「……!」

 

 どうすると言われても。私が今まで通り、と思っているとは考えて無いんだろう。

 

「ちなみに、俺はまだお前らの修行途中だが、旅に出る。お前らを見てて昔の仲間に会ってみたいと思った……お前らの成長を見るのも良いがな」

 

 フッと笑ったフェヒ爺。意地悪な笑みじゃなくて優しい笑み。

 四六時中この笑顔だったらいいのに。

 

「私は、兄の助けとなるぞ」

「助けに?」

 

 私、実は結構兄共の事が大好きみたいだ。今回の一件でよく分かった。ブラコン?言いたきゃ言え。

 海賊となる兄を少しでもいいから助けたい。

 

 だから───

 

「──海軍に入るぞ」

 

「ほぉ、またあいつらの海賊とは全くと言っていい程正反対だな」

「だ か ら 、ぞ。表の道にて援護をする、いざとなるならばその地位捨てる覚悟ぞ」

 

 同じ海賊に入るのはリアルタイムで助けれるかもしれないけどここは海軍だ。

 

 海軍に入るにあたって利点がいくつかある。

 

 まず海賊行為のもみ消し。それなりの地位を手に入れれば情報が巡ってくる。だからなんとかなるはず。何もしないよりましだ。

 そして討伐。海賊を討伐しそこねた、と言える。裏からこっそり逃亡ルートを用意していればな。

 あとは探索。サボを探す。情報の巡る場所に居ればもしかしたらサボ生存の確率として証拠になるかもしれない。

 

 サボだって大事な兄だ。彼の生存を信じる。藁をも掴むなんとやらだとかそんなのだけど。

 

 

 そして最後。海賊と違い、海軍に四六時中狙われること無く安定した収入を稼げて安全。いや安全かどうか分からないけどこのまま追われるよりはいいと思ってる。万々歳。

 

「この国には海軍の支部が無ェぞ。どうやって入るつもりだ?つっても…お前の事だから何か考えてあるんだろう?」

 

 フェヒ爺、フェヒ爺、知ってる?私まだギリギリ4歳。赤ん坊と言っても過言ではないと思うんだけど。

 赤ん坊にどれだけ頭脳があると思ってるの?期待しすぎ。

 

「──ある」

 

 でもその期待に答えるのが弟子、だから。

 

「そうか、それならいい……」

「あの、よ。お前の母親の事なんだが……」

「?」

「どこに居るか知ってるか…?いや、お前も会えてないことくらい分かるんだ。でも今その情報を一番持ってるのはお前くらいしか居ないんだ。まさか死んでたりはしないよな…?」

「生存は、するしてるとぞ思考」

「そ、そうか……」

 

 ん?フェヒ爺は私のお母さん(仮)と何か関係があるのか?戦神は海賊王のクルー。じゃあフェヒ爺は…?

 

「っ、」

 

 するといきなりフェヒ爺がその場から飛び去って入り口を睨みつけた。何?何事?

 

「リィン!じいちゃんが遊びに来…──」

 

「───なんでここにいやがるんだ拳骨野郎っ!」

「……それはこっちのセリフじゃフェヒターっ!」

 

 ジジこと海軍中将ガープ。私の義理の祖父。まあ本人は『儂が本当にじいちゃんだぞー!』っていう感じで本当の孫のように接してくてるから養子だと思ってていいのかな。

 

「知り合い…?」

「「敵じゃ/だ!」」

 

 あ、海軍中将と元海賊ですもんね。どこかで出会ってる可能性だってあった訳か。

 

「くそ拳骨!お前はどうしてここにいる!」

「なんじゃ!孫の顔を見に来たらいかんのか!」

「孫……?モンキー・D・ガープ。猿、猿、まさかルフィか!?」

 

 その連想の仕方はちょっと可哀想な気がする。

 

「リィンもじゃ!」

 

「はぁ!?んなわけが……っ、まてよ、お前、エースも引き取ってるよな、ロジャーの子を!───まさか、こいつの母親は、あいつはインペルダウンに……っ!!」

「…っ、それがどうした!儂は海兵じゃ!当たり前じゃろう!」

「くそが……っ!!テメェ…!」

 

 

 あの、風邪っぴきの前でドタバタ騒ぐのやめてもらえません?

 

「丁度いい!お前さんもインペルダウン送りにしてやるわい!」

「あぁ!?俺を殺れるとでも思ってんのか能無し!」

「なんじゃと!?」

 

──ドンッ!

 

「煩い」

「「………はい」」

 

 足で地面を1度思いっきり踏んで音を鳴らせば2人のジジイは固まった。

 

「……リー、表情消えてる」

 

 おかえりエースルフィ。

 

「げ、じ、じいちゃん!?」

 

 ニッコリ出迎えをすればエースには視線を逸らされるし、ルフィはジジの存在に目を見開いた。

 

「エース、ルフィ、2人とも席をどっこいしょするぞが正解」

「席を外せ、な。了解了解」

 

 エースは何も言わず、いや、細かに私の言葉を訂正して去っていった。余計なお世話だバーーカ!!

 

「ジジ!私 海軍 入る!」

「リ、リィン……」

 

 あ、なんか凄いうるうるしてる気がする。

 

「フッ…」

 

 感動したと思ったら隣にいるフェヒ爺にドヤ顔しだした。

 

「…海賊なんかよりも海軍の方が良いに決まっておるじゃろう?」

「…………………」

 

 なんか入る理由が海賊になる兄の為にとか思ってるからジジがなんか可哀想に見えてしまう。なんかごめんね?

 

「……お、おう、そうか」

 

 フェヒ爺もどうやら私の同じ思考回路をお持ちのようで。

 

「よし!じゃあ早速行くぞ!」

「え?」

 

 ガシッと小脇に抱えられるとそのままズンズンアジトを出る。

 ってちょっとぉ!?まだエースにもルフィにも言ってないんですけど!!

 

「あ!テメェ拳骨っ!」

「フェヒ、フェ、フェヒ爺!エースら、に海にぞお出かけ参る、と、伝言お、お、お頼み申…うぎゃぁぁ!!」

 

 いきなり走り出さないで下さい私を抱えたままで!

 

「1時間だけじゃと言われておるのにもう結構経ってしもうた…ボガードに叱られる!」

 

 しっかりしろよ英雄。

 そんなことを考えてたら木より高く飛び上がった。え、飛び上がれるの?人間が?

 

 ジジって悪魔の実の能力者だったりするの?飛行系の。超人系(パラミシア)

 

「さァ急ぐぞリィン!」

「無理だのぉおおお!!!た、たか、たかい、高いいいい!!」

 

 

 生まれて初めて到達した高さは私に恐怖を与えるだけだった。周りの景色?見る余裕はありませんでした。

 ……これがまさかトラウマになるとは。いや、当然だな。

 

 



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番外編3〜置き去りの者達〜

 

「は?」

 

 素っ頓狂な声が山奥のアジトにこだました。

 

「だーかーらー、テメェらの妹はくそ拳骨野郎(ガープ)に連れていかれたんだよ!」

 

 フェヒターは何度目かの説明をした。

 

「もう1回説明頼む」

 

 エースは何度目かの説明を要求した。

 

「だから!(リィンが)海軍に入る(と言った)から拳骨野郎が(傍から見たら)誘拐(するように連行)したんだよ!」

「じゃあ(将来海賊になる)リィンは(ジジイに無理やり連れられて入る事は無いけど)海軍に行ったって事なのかよ…!」

 

「そうだよ!!」

 

 説明が面倒になったフェヒターは言葉足らずだが説明をもう一度した。そして幸か不幸か、エースは面倒くささがピークに達した説明を聞き入れてしまい、リィンの意思でなくガープの意思で連れ去られたと勘違いしてしまった。

 

 果たしてこの勘違いが将来どうなるか分からないが。

 

「クソジジイ………っ!」

 

 恨みが募る。

 ルフィはよく理解してないようで首を傾げるだけだった。

 

「リーはどこだ?」

 

「…聞いてなかったのかよ」

「テメェもな」

 

 エースがルフィに呆れると人の事言えねェぞとばかりにフェヒターが口を挟んだ。

 

「リーはジジイに連れていかれたんだよ。ここには居ない」

 

「……え?」

 

「だぁぁ!テメェらウゼェ!」

「うっせーよフェヒ爺!」

 

 

 

「ちなみに!ここを去るのは小娘だけじゃ無い!俺も海に出る!」

 

「「どうぞどうぞ」」

 

「──殺すぞ……」

 

 シスコンは(フェヒター)に冷たかった。

 

「俺たちの修行はどうするんだ?」

「勝手にやってろ、覇気のやり方は教えたはずだ。出来るようになれ」

 

 ルフィの問いに不機嫌そうに答えた。もっとも、教えたと言うが『ああやってこうだ!』とか『ぐーんとやってぐっ、とする』とか、口が裂けても上手いと言えない教え方だったが。

 

「ひっくり返された世界を見て回るってのもいいかも知れねぇからな……」

 

「「?」」

 

 立ち上がりホコリを払うとエースとルフィを見下ろした。

 

「いいかエース、海賊王はスゲェ男だ。なんと言ったって俺が惚れ込んだ男だ。鬼の子だなんて忌み嫌われるかも知れねぇが…誇りに思え」

「……っ!?」

「俺はロジャーやレイリーや、小娘の母親のカナエと旧い付き合いだから良く知ってる。あいつら程、付き合ってて気持ちのいい奴らは居なかった……───忘れるな、お前は偉大なる航路(グランドライン)を制覇した偉大なる男(かいぞくおう)の血を引いてる事を。ロジャーを知らねェ奴等の言葉なんか気にするな」

 

 エースは目を丸くした。

 

「フェヒ爺…って、一体何者なんだ…よ……」

 

 

「───ロジャー海賊団戦闘員〝剣帝〟カトラス・フェヒター」

 

 フルネームで名乗るのは初めてか、と思いながら口にした。

 自分で捨てた嫌いな名前ではなく、自分の大切な名前を。

 

「海賊王の……!!」

 

 2人が仰天した顔をするものだからフェヒターはドッキリが成功した、と笑った。

 

「じゃ、俺は行くな。また海で()おう」

 

「おう!」

「…ん!」

 

 ビブルカードは捨てた、偉大なる航路(グランドライン)の島々を1から回らないとかつての仲間に会えない…。それでも、再会したいと思った。

 

「(カナエの事も伝えねェとならねェな…小娘の父親(ライバル)に)」

 

 面倒かける女だ、昔も今も変わらず。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

 

「行ったな……エース」

「………3人とも勝手に置いていきやがって…」

「おれ…寂しい……」

 

「馬鹿か、俺がいるだろ」

「うん…」

 

「また海で()うんだ、その間に強くなってびっくりさせてやろうぜ、フェヒ爺もリーもサボにも」

「でもサボは………──いや!びっくりさせる!3人に!」

「おう!」

 

 

 海岸を眺めながら拳を掲げた。遠い海の向こうにいる師と兄弟に見えるようにと願いながら。

 

「待ってろよ……17になったら絶対追いついてやる…っ!」

 

 




原作で1年半かかったルフィが半年、ましてや幼少期で覇気を覚えれるはずも無く、覇気というものがある。という認識だけで師と別れを告げました。

フェヒ爺はここで一旦離脱。


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海軍編上
第33話 上が駄目だと下は優秀


第2章開始


 

「ガープ中将! あんた、勝手に動くなら少しは自分の行動結果を考えて…──!」

 

 軍艦(ぐんかん)の中、堕天使の住む時空の狭間に落ちて一般とは違う経験をした転生者リィンこと私は結ぶには少々短めの金髪を青いリボンで結び毛先を揺らしながら自分の義理の祖父である海軍中将ガープにぶら下げられていた。片手で。

 ひとつ言わせろ、私は猫か。

 

「聞いておられるんですか!?」

「聞いてはおらん!」

「……………」

 

 誰だか分からないけど部下の人。こんなジジを相手にしてて大変ですね…ご愁傷様(しゅうしょうさま)です。あと貴方、フェヒ爺が時々放つ背中がぞくりとする空気…別名殺気が放出されてますよ。

 

 パチリと目が合ったジジの部下の大佐らしい人に思わず同情の目を向けると自然と眉が下がった。ご苦労様です。本当に。

 

 部下の人は自分の上司にぶら下げられて大人しくしている私の眉が下がったので泣きそうになっているのかと勘違いしたのかギョッとしてしまった。

 

「ガープ中将! とにかくこの子をどうするつもりなんですか!」

「どう、って海兵じゃ! 海兵にすると決めたんじゃ!」

「あんたのその言い分で、いきなり少年を風船に括りつけてジャングルに飛ばし! 泣きながら別の隊の兵に保護されたその少年を私が村に届けた後、元帥にしこたま怒られた経験をもう忘れてるんですか!」

 

 絶対十中八九ルフィの事だよな。何やってんだ海軍の英雄。いや、海軍さん、この人が英雄でいいの?

 

「あ、の。少しながらドドンパさん望み宜しいでごぞりでしょうか?」

「あ、はい?え、私ですか?私はドーパンです」

 

「肯定、ドードンさん」

「ドーパンです」

 

 私の不思議語に大佐さんが首を傾げると意を決して口を開く。

 

「背中の傷……限界お迎え致した……」

「背中の、傷?」

 

 さっきっから服が擦れてじんじんしてすっごい痛いんですけど…。

 

──ポタッ

 

 何か雫らしきものが地面に落ちた音がした。そこはかとなく嫌な予感がする。

 

「「「「「血?」」」」」

 

 周囲でジジと大佐さんと私を遠巻きに見ていた海兵さんたちが同時に呟いた。

 

 圧倒的やっちまった感……。

 

「───っ中将!さっさとその子を渡して下さい!!」

 

 大佐さんの声が甲板に響いた。

 別に私悪くなかったわ。

 

 

 ==========

 

 

 

「背中に大きな切り傷、おまけに高熱──」

「──色々ござりますたです!」 

 

 医療室で船医さんがため息を吐く。

 

「眠気は?」

「杉の木の高さよりの恐怖のおかげで皆無ぞ!」

 

 未だにあの高さを思い出すだけで足がガクガクします。やばい、トラウマを作ってしまった気がする。

 高いところ率はそんな無いと思うんだけど。あ、石壁の天辺(てっぺん)から落ちたのも原因なのかな。うーん、でもやっぱりそこでは怖くなかったなぁ。

 

「えーっと、お嬢さん…」

「……はい?」

「ベッドに居るのなら本を読んでもいいから、ゆっくりしてなさい」

 

 ポンと私の頭に手を置いて船医さんは甲板に向かった。

 

「ありがとうごじゃります……」

 

 本か。そういえば新聞を読むだけで本はなかなか読む機会無かったな……。チラリと本棚らしい所を見てみる。

 

『医学書〜人体の構造〜』

『薬学調合』

『治療 上級編』

『免疫生物学』

『外傷専門診療ガイド』

 

 完璧読む気失せた。

 

 

 

「はぁ……」

 

 眠くは無いんだよな、じんじんして眠気が削り取られる。熱は可燃ごみの日よりずっと楽だから比較的平気かな。

 

 ゴロンと寝転がってみると面白そうなタイトルが目に入った。

 

『悪魔の実大百科』

 

 へぇ…こんなのも置いてあるんだ。私の悪魔の実(仮)は一体何なのか調べるのもいいかもしれない。

 

 座り直して本を手に取ってみる。厚みのある本は辞書サイズ。流石は図鑑だ。鈍器としても使えそうなサイズだ。

 

 超人系(パラミシア)を中心に調べていくのが妥当か。

 

 ペラペラとページを捲りながら目を通していく。ゴムゴムの実しか知らないから案外勉強になる。

 

 

 えーっと私の能力の特徴は今のところ

 

 ・風を操れる

 ・火の発生と操作

 ・氷の発生

 ・真水の発生と操作

 ・大地の隆起(りゅうき)沈降(ちんこう)

 ・無機物の操作

 

 ・アイテムボックス

 

 これくらいだっけ?

 

ㅤ相変わらず馬鹿でしょと言いたいくらいの集中力が必要になってくるけど、やろうと思えばそれなりに使える、と信じている。集中する事に気を使いすぎて怪我をしたり、背中の傷の様に間に合わないと変な受け止め方をしてしまう。リスクとリターンが合わない場合は完璧邪魔。

 

 落ち着ける環境で試してみないと分からないこと沢山だ。

 

 比較的使い易いアイテムボックスの中身は劣化するし。……時が止まるのは定石(セオリー)じゃなかったんですか。

 

 そして魔法(仮)は人に向けて使える時と使えない時がある。

 

 ブルージャム海賊達相手には使えなかった、集中はしてたはず。でもあの刺青の人には無意識で使ってしまっていた。

 

「分からぬ……」

 

 海賊には使えませんとか? もしかしたら熱がある時は使えますとか? 毒がかかったから使えるように? それとも大怪我したから? それとも狭間に飛ばされたから?

 

「うん……」 

 

 考えても意味がない。やはり実験するべきか。

 いざと言う時使えないと困る。

 

「あれ?」

 

 ページが終わった…。火単体だとか氷単体だとかそんな能力はあったけど元素の違う物を同じ人間が使える事例が殆ど無い。

 

 超人系(パラミシア)だけじゃなくて自然系(ロギア)動物系(ゾオン)も全部調べた。でも、無い。

 

 もしかしてまだ発見されてない悪魔の実?

 

「まさか……」

 

 そもそも悪魔の実の能力者じゃない?

 

 

 いやいや流石にそれは無い………と、言いきれないのが怪しいんだよね。

 生まれてきた時から自我はあるし記憶もあるから分かるけど、ルフィの言っていた『すんげェマジィ果物(悪魔の実の特徴)』を食べた経験が無い。

 

「特徴………」

 

 悪魔の実の能力者は海に浸かると力が抜けて動けなくなる。真水もほぼ同様。

 

 この特徴を試せばいいんだ。川に入る機会はあったけど意識を刈り取られた状態で浸かっちゃったから意味が無い。

 でも、もしも、いや、ほぼ確実に悪魔の実の能力者だった場合は力が抜ける、つまり死んじゃうという事でございますよね…?

 

 そんな危険な賭けをやってたまるか。

 

「埒があかぬ……」

「何がじゃ?」

「あ、ジジ」

 

 項垂れて呟いた声に反応があった。扉を開けて入ってきたのは先ほどまでドーパンさんと言い争いをしていたジジだった。

 

「悪魔の実について調べておるのか……?」

 

 私の持ってる本を見て不機嫌そうに眉をひそめる。

 

「こ、肯定! 海賊には能力者多いと聞くので対処法を考えておったのでごぞりんす!」

「ほぉ! 偉いのリィンは!」

 

 不機嫌な表情から一変、嬉しそうに笑うとガシガシ頭を撫でた。痛いんですけど。

 どうやら悪魔の実の能力者や海賊に対していいイメージ無いらしい。まぁ海軍中将なら仕方ないか。

 

「悪魔の実の能力者には拳じゃ!」

 

 いや、悪魔の実の能力者じゃなくても死ぬから、絶対死ぬから。岩を砕けるおじいさんの拳。そもそも普通の人間にそんなこと出来ませんから。

 

「それでは駄目でしょう…」

「えっと…ドダードさん……?」

「ボガードだ。──まず悪魔の実の能力者は海に浸かると力が抜けて無力化出来る。それ以外だと武装色の覇気で攻撃出来たりなどだ。ただこちらは能力の無力化は出来ないので注意しろ」

 

 覇気は知ってるんだ。覇気じゃなくて能力者かどうか判断したいだけであって…説明しづらい。

 

「後は海楼石くらいか……」

「かい、ろー、せき……」

「あぁ、海の成分で出来た石。海と同様の効力を持つので無力化出来る、というわけだ」

 

 海楼石…なんだか名前から物騒だし、高そう。触れることの出来る機会が来るだろうか。

 

「ちなみにこれが海楼石の錠だ」

 

 ボガードさんが懐から取り出した青みがかった石の手錠を取り出した。

 すぐそこに機会がありました!!

 

「お触り、許可願い……」

「ん?構わん。ほら」

 

 海楼石の錠を手のひらに乗せてくれるので持ってみる。

 ひんやりしてて、固くて……────普通の石と変わらない。

 

 

「……」

 

 嘘だろう。私は非能力者なのか?

 

 いやいやいやいやこれが偽物だって事は…。無いか。優秀そうだもんボガードさん。

 

 え、待って、ただでさえイレギュラー(能力者)がいる世界なのにまたその上のイレギュラー(非能力者)なのか? ちょっと、いや少しだけ待とう?

 人体改造だとか解剖だとかそんな事無い? 断定は出来無いけど多分あるよね?

 

「娘…?どうした…?」

 

「…………は、い」

 

「まさかとは思うが……能力者なのか!?」

「え!? まさ────」

 

 〝まさか〟と言おうとした言葉を飲み込んだ。

 よく考えてみようリィン。ここで有効な選択肢はなんだ。

 

 悪魔の実の能力者という異能性(あふ)れる海賊と対峙する可能性がある海軍。

 

 

 悪魔の実の能力者じゃないと言って一般的な力を手に入れるだけで出世と自分の命の無事の確率を下げるか、

 

 悪魔の実の能力者だと言ってイレギュラー要素の力を使い出世と命の無事の確率を上げるか。

 

 

 

 答えは決まった。

 

「──にその通りでございですます!」

 

 この間0.2秒。

 私は悪魔の実の能力者として生活する。

 

 

「「「「「「ええええ!?」」」」」」

 

 医務室の扉の前辺りから男の人の仰天した声が沢山聞こえた。わぁ綺麗なハミング……。嘘吐きました、全然綺麗じゃない。

 

「お主ら邪魔じゃ! どかんか!」

 

「ガープ中将の孫が能力者!?」

「一体何の!?」

「可愛い! お嫁にしたい!」

「どうなっているんだその家族は!」

 

 背中がぞくりとするような怪しい気がするけど多分気の所為だろうと信じてる。

 

「何の実か、は不明…ぞり……」

 

「一体どんな能力を!?」

「能力者の出世はほぼ確実だ! 大物になるぞ!」

「喋り方可愛い! 愛でたい!」

「この子が次の世代を背負っていく子なのか……」

 

 やっぱり気の所為じゃない気がしてきた。

 

「貴様らいい加減にしないか! この娘はまだ体調不良者だぞ!」

 

 ボガードさんが怒鳴ると蜘蛛の子を散らす様に海兵さん達は避けて行った。

 

「流石ボガード少将です」

 

「本当ならば中将がすべきなのだがな……ドーパン大佐…これからも本当によろしく頼む」

「いえ、こちらこそ本当によろしくお願いします少将」

 

 上がちゃらんぽらんだと下がしっかりするってどこに行っても同じなんだな…。ほら、エースやルフィがダメダメだから私がしっかりしているみたいに。

 全くもー仕方の無い兄どもだなー!

 

「ところで娘、なんの能力だ?」

「え…と、風」

 

 能力は隠す。だって私は海賊側の海兵になりたいんだから隠すよ。勿論(もちろん)

 もしも敵になった時不意をつけるからね。

 

「風か………」

「ぶわっはっはっ!細かい事を気にするで無いわ!リィンが海軍に入ってくれると言うんじゃからな!」

 

 能力者だと聞いて眉間に(しわ)をよせていたが能天気に大笑いしたジジ。

 

「いいですかリィンちゃん。君はあの人の様になってはいけませんからね!?」

 

 ドーパンさんが真剣な目でこっちを見てくる。なりたくともなれないよ、あんなの。

 というかあの性格で海軍やっていけるのかどうか不安。ついでに私の口調も不安。

 

「治療する故が最良か……」

「治療?」

「口調の治療ます……」

 

「リィンちゃん…君は先に背中の傷と風邪を治すべきだよ」

 

 ドーパンさんが優しすぎて辛い。

 

 




ここまで読んでくださってありがとうございます。2度目の人生、ここから始まる感じが強いです!

ツッコミが出来る将校が欲しかったのでドーパン大佐を作りました。名前被っていたら教えてください、被ってないことを祈ります……。ボガードさんは本編で何も地位を書かれていなかったので勝手に少将にしました。英雄の右腕(とまではいかなくても直属の部下でガープを理解してる人間)が大佐だとちょっと格好がつかないでしょう…。

あくまで私の解釈であるのでよろしくお願いします(?)


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第34話 砂の国と子供達

 

「ゔ……ぎもぢわるき………」

 

 絶賛船酔い中のリィンです。

 

「リィンちゃん大丈夫かい?休息所に着いたよ?」

 

 ドーパンさんが背中を擦りながら心配してくれる。それに心から感謝した。

 

「ありがとう……ごじょりま…す……」

「礼儀が良くておじさんちょっと感動してるよ………」

 

 横目に見たドーパンの目に涙が光った。見なかったふりをしよう。きっと、多分、いや絶対ジジがここに着いた途端どこか行ったからとしか思えない。

 

「それにしても暑いですね大佐…あ、リィンちゃん大丈夫?水いる?」

「不要……ぞりりん…」

 

 ここに来るまでに色んな海兵さんや雑用さんが時折気にかけてくれる。珍しさもあるんだろうけど…それでも嬉しいね。ジジは気にもしないのになんて優しいんだ。

 

「暑い………」

 

 額にじわりとまとわりつく汗を拭う。

 

 ここは偉大なる航路(グランドライン)のアラバスタ王国という砂漠の国らしく、空気中の水分がとても少ない。干からびる。

 

 エース、ルフィ、サボ!ごめん!先に偉大なる航路(グランドライン)に入っちゃった!

 

「さてお嬢さん。きちんとした治療を受けに行け」

「せ、船医、さ、ん?」

 

 後ろから声をかけられて振り返ると私の寝床を提供してくれる船医さんの怖い顔。

 

「そのあまりにも酷い背中の傷……港の医者に見せて来い。ドーパン、任せたぞ」

 

 船医さんがキレかかってる。そ、そんなに酷かったんですか?背中。

 

 知ってる?ドーパンさん一応大佐らしいですよ?…………医者とか特定の役職ついてる人は地位は無くても立場と力は大きいんだろうな。

 

 

「リィンちゃん行きましょうか」

「はいです……」

 

 差し出された手を握って町に入った。経験した事無い子供扱いだ…。私、泣いてない。

 

 

 

 ==========

 

 

 

「そこまで珍しい奴じゃないけど、無いんだけど!致死量の毒が付着した切り傷……何故これを放置していたんだ!」

「本当に申し訳ございませんです…」

 

 解せぬ…………。

 

「一体どうしてこんな背中になった!」 

「いだだだだだだ!!も、申し訳ございませんです!か、海賊にぞスパーンいかれてですます!」

「海賊…?一体誰に?」

「えっと、リンゴジャム海賊……?」

 

 ドーパンさんが首を傾げるので答えるが、リンゴだったかブルーベリーだったか、ジャム海賊団は無名だったようでドーパンさんは「怖かったですね」と言うだけだった。

 怖かった、怖かったのか?大きな刃物を向けられるなんて経験したこと無いし。怖い……?

 いや、違う。怖いんじゃなくてびっくりしたんだ。恐怖心はそんなに無かったはずだ。

 エースやサボやルフィ、頼りになるお兄ちゃんが居たからかな…。

 

 私本当に3人が大好きになっちゃってるんだな、しみじみと感じるよ。

 

「この傷は残るよ……女の子なのに可哀想に……」

「構わぬ件、私のくんせいぞ!」

「勲章、ね。物は言いようだけど──」

 

「──いだだだだだだだだだ!!」

 

「死んでもおかしくない傷なんだからもう二度と開かすな!」

「ぅ、はい!」

 

 包帯グルグル巻きにされて固定される。巻いてる最中傷が()れて痛い、絶対わざとだろ!

 

「よし、これで治療完了…本当は入院でもさせてゆっくり休ませたいんだがあんたら海軍だろ?少なくとも2ヶ月は絶対安静、分かったな?」

「は、はい!」

 

 ドーパンさんがお医者さんの気迫に押されて敬礼した。お医者さんって強いな…。

 

「リィンちゃん…、必要物資を積み込まないといけないから半日時間を潰しててくれないかな?」

 

 厄介者ですか私は。

 

「お詫びにお小遣いあげるから」

 

 ドーパンさんが袋にお金を入れて渡してくれる。

 

 あ、せっかくここに来たんだから見て回っておいでって事か。私が海軍に入ると言った以上兵士と同じ様な扱いにしないといけないけど私はまだ子供だから考慮してくれたってわけですか。優しい!ドーパンさんが優しすぎる!

 

「ありがとうごじょります!」

 

「うむ!元気でよろしい!傷が開かない程度に市場調査に行ってくれたまえ!」

了承(りょうしょう)なります!」

「うん、承りました?いや、分かりましたの方が正しいかな」

 

 気にするでない。

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

 半日自由行動…、だけど。

 知らない土地で子供1人がする事なんてたかが知れてる。

 

「いかがいたそう…」

 

「ねぇねぇ、あなた1人?」

「ほへ?」

 

 後ろから声がかかって振り返ると綺麗な空色の髪を馬の尻尾の様に跳ねさせながら女の子が首を傾げた。

 

「は、はいです……」

「この国の子じゃないよね?旅人?」

「肯定…」

 

「良かったら一緒に砂砂団に来ない?一緒に遊ぼうよ!」

 

 砂砂団?

 

「ほら!こっち!」

「わっ…!」

 

 ぐいっと手を引っ張られたと思ったらその女の子は走り出した。

 

「私ビビ!6歳だよ!あなたは?」

「リ、リィン4歳ぞ!」

 

「リィンちゃんか!素敵な名前だね!」

 

 インドア派に喋りながら走るのは難しいということを実感させられた。

 

 箒乗りたい。

 

 ここの所船内で力の訓練が出来ないから箒を単独で浮かせる訓練をひたすら繰り返しているんだ。だいぶ上達したんじゃないかな?

 ただいきなりノックも無しにジジが入ってきた時はびっくりして『風で操り掃除中!』って誤魔化したけど、風で誤魔化せない相手と状況が来たらどうしよう。

 

 いくら風を操れてもわざわざ箒を使う事に疑問を持たないジジを見るとルフィのおじいちゃんだなって血をしみじみと感じる。ルフィのお父さんもあんな感じなのかな。改めて考えるとモンキー家怖い。不安でたまらない。

 

 

「リーダー!!」

「ビビ!……って、そいつは?」

 

「リィンちゃんだよ!お友達なの!」

「おう!そうか!初めまして、俺はこの砂砂団のリーダー、コーザだ!よろしくな!」

 

 ちっちゃい子の縁に入り込む術って驚かされる。いつの間にか知り合いが出来てる…でもごめんね、多分顔の見分けつかないや。

 

「……コーダ!」

「コーザ、だ!」

 

「………リーダー、こんにちは」

 

「こいつ絶対諦めたな…」

 

 人の名前は発音と記憶がしにくいんです。諦めて、私も諦めるから。

 

 適当に1通り自己紹介を終えたら私は首を傾げた。

 

 

「一つ、気になる事ぞお聞きしても宜しいか?」

「んー?どうしたの?」

 

 さっきっからずっと気になっていたのですが。

 

「そちら物陰に隠れていらっしゃる人物どちら?」

 

 柱の影を指すと気配が歪んだ。

 ふっふっふ、獣と追いかけっこをする子供の常識舐めるなよ?前世では考えられない常識だぞ?

 ちなみにこの世界の常識でもありませんでした。砂砂団の反応見たら悟ったね。

 

「バレちゃしょうがねェ……」

 

 柱の影に隠れてるのは砂砂団を名乗る彼らの保護者…───

 

「ビビ王女を渡して貰おうか……」

 

 ───って、期待していたんですけど違ったね!うん!ドンマイ!

 

「っ、人攫い!?砂砂団、ビビを守れ!」

「「「「「おう!」」」」」

 

 一気にビビちゃんの周りに子供が集まる。背にかばうよう、人攫いと思われる男14人と対峙した。

 

 大人の人呼ぼうよ……、ねェ。

 

「ま、待ってよリーダー!今度は私も戦う!」

「うるせェ!ビビはさっさとチャカさんかペルさんを呼んでこい!」

 

 あれ?さっきこの大人の人達ビビちゃんの事なんて言った?

 

 〝ビビ王女〟?

 

「王女ー!?」

「あ、うん。そうなの」

 

 王女ってあれですよね、要はこの国の王様の娘さんってことですよね!?なんでそんなとんでもない位のお人がこんな港町で遊んでいるの!?兵士はー!?

 

「停止!あ、えっと、待つがいいぞ!テメェら達!」

 

 このままだと自分まで危険だと判断した私は事が起きる前に急いで砂砂団の子供たちの前に出た。

 

「あぁ?」

「こ、この場で騒ぎを起こすつまり良くない!えっと、この町にぞ海軍到着し、必要物資の癒着(ゆちゃく)に取り組んでいる!」

 

「ゆちゃく?」

「か、確保!必要物資の確保!」

 

 1人の大男が前に出てきて私を睨んだ。

 

「証拠は?」

「わ、私ぞ!海軍将校中将モンキー・D・ガープ並びにしょうしょーボガートさん及び大佐ドーパミンさん到着を目の当たりにし、共に降りた!」

「なら……お嬢ちゃんは海軍の人質になりうる、という訳だな?」

 

 

 

「そ、そちらは否定………一介の兵士故に人質所望致さぬ…」

 

 

「まあどうでもいいさ。海軍の話が本当だとすると答えは簡単。見つかる前に誘拐すればいいんだからよ…っ!」

 

 その男が飛びかかって来る。って、ちょっと、話聞いてるぅ!?今暴れたら牢屋行きですよ!?

 チクって捕まえてもらうつもりだったけど!

 

「っ、でぇい!」

 

 伸ばされた手を掴んで背負い投げ。

 熊相手に背負い投げって言われた時は本気でフェヒ爺を殺しそうになったけどフェヒ爺みたいにバランスを崩されないように組手されるよりはずっと背負い投げが決まる!

 

──ドンッ!

 

「カハッ……!」

 

「あれ?想像より幾分(いくぶん)か楽?」

 

 いや、もっとKOするまで攻撃入れないと逃げきれないかと思ったけど…楽勝なの?

 え、君たちそんな強さで人攫いしてるの?まだエースの方がスピードあるよ?まだルフィの方が予想外の動きするよ?フェヒ爺の方が厄介だぞ?

 

「いや、まあフェヒ爺以外とは組手ぞ致したこと皆無だが……」 

 

「っ、マグレだ!かかれぇ!」

 

 あ、気を付けてね。

 

──ズボッ

 

 そこら辺の土地は陥没(かんぼつ)するから。

 

 最初に倒れた1人と落とし穴にハマった人が6人。

 残り半分って所か?いや、でも背負い投げしただけだからすぐに立ち上がるか。

 

 油断大敵、油断大敵。自分に暗示をかけるように心の中で繰り返す。

 私1人だけでも逃げたいけど…、今逃げたら海軍入れない気がする。

 

 さっそく選択肢(海軍に入るの)間違えたかな……。

 

「ぐ、偶然だ!気を付けろ!行くぞ!」

 

 どうでも良いけど人攫いがそんなに顔だしてたり叫んだりしていいもんなの?

 

「おりゃぁ!」

 

 大振りに剣が振り下ろされる。いや、サーベル?ま、どっちでもいいや。

 

 トン、と後ろに飛び回避する。砂砂団の子と距離が近くなるからこれ以上は下がれないか。

 

「…!」

 

 そうか、今試せばいい。力が人に向かって使えるか使えないか!

 

 相手を指さして場所を決める。目標補足するんだ。

 

「……」

「な、何をする気だ!全員気を付けろ!」

 

 周りがザワザワとし始めた。

 

 爆発を体に当てる様に。当てるんだよ。

 私なら出来るから。大丈夫。

 

 

──ポスッ

 

 

「………………」

 

「「「「………」」」」

 

 

 

 

「────なんでじゃぁぁあああ!!!」

 

 意味がわからない!!!なんだ、心配して声をかけてくれた人には攻撃出来るくせに害をなす人物には攻撃加えれないのか!

 悪役!?私は根っからの悪役なの!?

 

「へ、へへ…ただの脅しかよ」

 

 違うんです。脅しとか見掛け倒しとかするつもりは無かったんです。

 とりあえず下がって回避──出来なかった!これ以上下がるとぶつかる。

 

「くっ…!」

 

 鬼徹を取り出して受け流す。フェヒ爺曰く『自分よりも確実に力がある相手と対峙する時にはまともに受けると──折れるぞ』

 

 何が折れるのか、フェヒ爺、教えてくれなくてもすごい分かったよ。骨でしょ、骨。あと心と鬼徹くん。

 

 『受け流せ、相手の力を利用して受け流すんだ』

 

──キィンッ

 

「どこから……!」

 

 『そしてそのまま…───』

 

『「──鳩尾に1発!」』

 

──ドッ!

 

 (つか)鳩尾(みぞおち)を抉るように叩くと男はそのまま気を失い倒れて地面と仲良しになった。

 

「…リィン………ちゃん………」

「スゲェ……」

 

 あと残りは6?7?

 大人数相手にする時はどうするっけ…、確か『スピードを大事に足元を狙う』のと『人と人の中間に入り立ち回ると相手が事故を起こす確率が高くなる』だったかな。

 

 あと他に───

 

「ウチの娘に何やっとんのじゃクソ共ぉおおおーーー!!」

 

 なんか人っぽいのが飛んできた。

 

「げっ、て、撤退だ!!」

「待たんかゴルァぁあー!!!」

「パ、パパ!イガラムにペルも!?」

「ビビ様っ!ご無事でしたか!?」

 

 え、誰。この3人誰。

 

「あ、君ですね、ビビ様をお守りいただきありがとうございます。私はアラバスタ王国守護神のペルと申します」

「あ、はぁ……」

 

 守護神と言う位なら最初から王女様を見守ってたらどうなんでしょうか。

 

「砂砂団の方ですね?お礼をさせていただきます。あなたが時間を稼いでいてくれた事で助けが間に合いました」

 

 私は砂砂団に入ってていいのか?

 あと残念ながら時間を稼いでいたつもりは全く無いな。どうやら砂砂団の1人が呼びに行ったみたいだけど。

 

「ん………?パパ?娘…?ビビちゃん、いやビビ様王女…─────っ!国王!?」

「おや?ご存知無かったのですか?あちらでチンピラを脅してるお方は我らがアラバスタ王国の国王、ネフェルタリ・コブラ様になります」

「ネルネルネーリコブラ様……」

「ネフェルタリ、です」

 

「わ、私これにて御用存在致すのでサラバしますです!」

 

「え、ちょ、ま……っ!」

 

 国なんかの厄介事に関わってたまるか!保護者来たんだから大丈夫だろう!

 アデュー!もう二度と会うことがありませんように!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、リィンちゃん。キミはどうしてその歳で複数人の大人を相手できる程の力を持っていたのかな?」

 

 ドーパンさんが見ていたという事を知ったのは船酔いが再来した時だった。

 




リィンの弱点の一つとして船にものすごい弱いという事です。全ての乗り物が苦手です。ただ、自分の意思で操作する箒は集中するので酔いません。


そしてごめんなさいアラバスタ王家の方々!!思いっきり名前間違えてました!頭の中では分かってたんですよ!?分かっていましたとも!!何故間違えた私はぁぁ!!(言い訳)


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第35話 振り回されっぱなしは辛い

「…………」

 

 目の前に書いてある言葉をよむ

 

 

 ──マリンフォード──

 

 

 ふふふ、ここ、こここそが海軍本部。1週間程の長旅を経て、やっと到着しました。

 

「………リィンちゃん、無理しない」

「はい………」

 

 ゲロ酔い状態で。

 

「さあリィン!センゴクの元へ行くぞ!」

 

「中将!あんたは無理させない!!!」

 

 

「ドーバンさんが優しき…………」

「ドーパンです」

「ドードパ……──パンさん」

「諦めたんですね」

 

「あの、センゴク、とおっしゃるお方は私の記憶の奥底より目覚めし言葉に元帥なる立場と同調と予感するぞ………いかがぞり??」

 

 

 

 

「────その予感、的中です」

 

「運命は私ぞ殺害する気大振りでござんすた」

 

 なんでセンゴク元帥に会わないといけないの!?え、新兵全員が会えるような人じゃないんだよね!?なんで!?

 フェヒ爺の海兵上層部人員把握用紙には海軍トップは元帥って書いてあったよ!?

 

 くそ、用紙を見直しておくんだった。ジジに襟首(えりくび)つかまれる前に。

 

「後は任せたぞドーパン!」

「少しは後処理手伝ってくれたっていいでしょうに!!」

 

 私も不憫(ふびん)だと思うけどドーパンさんも不憫(ふびん)だと思うんだ。

 

 

 

 ==========

 

 

 

「邪魔するぞ!」

「ガープ…貴様はまたどこをほっつき歩いていた!」

 

 大仰(おおぎょう)な扉にビビっている私を尻目に大きな音を立ててジジは入っていった。あの、私の心の準備期間は無いんでしょうか。

 

「………その子は?」

 

 部屋の中には3人の人間がいて、真ん中の椅子で座って書類を手にしてる人がギロリとこちらを睨みつけた。

 その視線の鋭さに思わずすくみ上がる。

 

「リ、リィン、とぞ、申され、ました!」

「─────リィン…?」

 

 (いぶか)しげに眉を寄せるかもめの人

 え、何、挨拶間違えた?挨拶どころか言葉も怪しさ満点だけど。

 

「センゴク、こいつを海軍に入れたてやってくれんか」

「っ、何故!」

「本人の希望じゃ」

 

 センゴク元帥と思われる人が再び視線をジジから私に移したので震えながら答えた。

 

「はいですぞ!海軍にぞ入りて大事な物を保護したいぞと思考した故に希望致されますたです!」

「お前さんは…───」

 

「また随分と可愛らしいお嬢さんじゃないのよ…」

 

 仮にも上司──元帥であるセンゴクさんが海軍トップだからそれ以上は居ない──の話を中断する勇気ある無謀(むぼう)な声が室内にいる人間に聞こえた。

 

「……クザン…、珍しくここに居る(仕事をしてる)と思えばそれか」

「いいじゃないのセンゴクさん…──お嬢さん、覚悟は出来ているのかい?」

 

 青を基調としたスーツを着る大男がのらりくらりと立ち上がり私の目の前にやって来た。

 覚悟…それはもちろん。

 

「完了済みぞです」

 

「不思議な喋り方をするねぇ〜…誰に教えてもらったんだい?」

 

 黄色を基調としたスーツを着たまるでヤのつく職業の様なデカイ人が視線を合わせる。

 

「さんぞ──」

「ボルサリーノとクザンはちょっと黙っちょれ!のおセンゴク!!いいじゃろ!?」

 

 私の言葉を遮るようにジジが大声をあげた。

 

「ガープさん質問の邪魔をしないでくれますかぃ〜?で、誰に教えてもらったんだい?」

 

「え、と、幼き兄に、ぞ」

「さんぞ……、って言いかけてなかったかい?」

「………3ぞ年上の兄…と6年上の兄、とぞ申すと思考するしたぞり」

 

 本当は山賊って言いかけたんだけどジジの反応からするに言っちゃ駄目っぽそう。横目で見ると安堵(あんど)したように息を吐いてた。

 

「へぇ…そうかね〜……?」

 

──コンコン

 

「失礼するよセンゴク、──ほらあんたも早く入らないかサカズキ」

 

「じゃがおつるさん。他の奴らがはいっちょるでは無いですか」

 

「丁度いい2人とも、聞いてはくれないか」

 

「…?失礼します」

 

 

 

 

 会話を聞く限りこの場にいる人間って、

 

 元帥センゴク

 中将ガープ

 

 それと

 大将サカズキ

 大将クザン

 大将ボルサリーノ

 

 中将つる

 

 で、合ってますか?なんで私到着直後にフェヒ爺のメモに書いてあった最重要海兵の大部分と鉢合わせないといけないんでしょうか。あとどうでもいいけど平均身長高いね。見上げるこちらは首が痛いよ。

 

「このガキは…」

 

「海軍入隊希望者、じゃ」

「まだ若いのに目標がしっかりしてて偉いねぇ…」

「ガープ中将が連れてきたからもっと破天荒(はてんこう)かと思ったけど、案外まともな子供じゃないのよ…」

「クザン!儂に喧嘩を売ってるつもりか!」

「ガープあんたはちょっと黙ってな!」

 

 そしてなんでこんなに仲悪いの?

 

「それで、どうしてセンゴクさんは反対な顔をしてるんですかい〜?」

 

「貴様らは知らんから胃が痛くならんのだろうな!この子はな、この子の親はな…───」

 

「よせセンゴク!……リィンの前じゃ」

 

「───…、はぁ…。黒髪の年齢詐欺師の娘だ」

 

「「「「ああ……」」」」

 

 ねぇ一体私のお母さんは何をしたの?戦神って人で合ってるんですよね?

 

「まぁいいじゃないか、この子はここに入ろうって言うんだ……罪じゃならないだろう?」

「いや、それは分かっているんだが………」

 

 

「それともなんだい…あんたがカ──」

「──分かった!これ以上言うな!………リィン、1つ聞こう」

「はいです!」

 

「リィン、お前さんの目標はどこだ」

 

 目標?なんだ、じゃなくてどこ?地位って事?

 

 よく分からないから誤魔化しますよ、うん。

 

「目標は守り抜くだけの地位を得る事のみ、様々なる力から守るだけの!目指すは上、中途半端なる地位は守るどころか傷つける故に!」

 

 下からも上からも圧力かけられてたんじゃ守れない。下だとツテを作るだけ作ってすぐに地位を捨てれる、つまり逃げれる。

 上だと責任を伴う反面自由が効く。権力に守られるんだ。

 

「……………合格だ」

「へ?」

「入隊を許可しよう…」

 

「あ、ありがとうごじょります!」

 

「子供に戦闘はまだ望まないから雑用として動いてくれ、ドーパン大佐に案内と説明を頼んでおくから従うように」

 

 雑用バンザイ!安全バンザイ!ありがとう!!

 

「はいっ!!」

 

 元気に挨拶したのに何故か微妙な顔をする海軍上層部面々、何故だ。

 

「元気、うん…元気だな……」

「げ、元気なのはいいことだよぉ〜……」

「…うるそうて堪らんわい…」

「は、ははは……」

 

 解せぬ。

 

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

「………」

 

 リィンが部屋から出た後、残った面々は真剣な顔をしていた。

 

「五老星に報告するべきか…?」

 

「確かカナエさ…戦神とは繋がりがあっとったはずじゃ…、それが妥当(だとう)じゃろう」

「敵ならばどれほど楽だった事か…」

「いや、それでもあんたは揺れたねセンゴク。何だかんだとあんたは甘いんだ」

「……」

 

 各々、ロジャー海賊団と関わりのある者ばかり、特に戦神 不知火叶夢には。

 

「……謎に包まれた女の娘、か」

 

「すまんが儂は高い地位につかせ、武力はまだしもせめて権力で守るべきじゃと思うちょる、恩があるもんでな…………」

「珍しいんじゃねェかサカズキ…。俺は逆だ、いくら〝あの人〟の娘でも本人次第………、見極めるべきじゃねェの?」

 

 相変わらずこの2人は対立する。それはこの場の誰もが思った、能力もそうだが根本的な性格からして馬が合わないんだろう。

 

「ちょっと落ち着きなあんたら、全く、だらしないねェ…一人の女に大の男がこうも振り回されるとは………」

「あ、リィンは悪魔の実の能力者じゃぞ」

 

「「「「っ!?」」」」

 

「ガープ……大事な情報をどうしてこう黙っている……!」

「儂とて最近気付いたんじゃ!──…実の内容は不明らしいが風を操ると言っておった………。先日も箒を操り掃除しておる所を目撃したわい……」

「箒…単独行動も可能かもしれんな……。クザンの様に」

 

 センゴクがじろりとクザンを向けば後ろめたい事があるのか肩がはねた。

 

「ちょ、ここでそれはやめましょうよ……」

 

 ヒエヒエの実の能力者である彼は自転車で偉大なる航路を往復出来る程の能力を持っている。その能力は彼のサボり癖故に脱走の手伝いをしているが。

 

「使える能力か……」

 

 今の大海賊時代必要な正義の要である海軍。戦力はあるに越したことは無いがまだ幼き少女、身を守る術を身につけるも他者を傷つける術を身につけるも本人の希望次第だが、幼いあまり正しい判断が出来るか不明……。問題点は多数ある。

 

「……はぁ………」

 

 先を思う元帥は深いため息を吐いた。

 

「まあ、これで少なくとも成人までに将校につくってことかねぇ……」

 

 つるがセンゴク同様、ため息と同時に呟いた。能力者は戦力確保の為に入隊から5年以上10年未満の間、または成人までに将校につくという決まりがある。

 

 立場を保護して能力者を守ると言えば聞こえは良いが実際は手のひらを返されて海賊に堕ちない様に立場に縛り付けるだけだが。

 

「火種……」

 

 ぽつりとガープが思い出す。

 

「火種?」

「リィンと始めて会うた時…リィンが火種を発生させたんじゃ………。(カナエ)にそんな事は出来んことは儂ら十分に承知しておるはずじゃろう……、あの場に居たのは戦神(カナエ)と儂と赤ん坊のリィンだけ」

「風だけじゃないってわけかい…?」

 

「恐らくのぅ…」

 

 これはまた更に厄介。

 

 

 センゴクは密かに胃を痛めた。

 




海軍の人達の口調がわからないマン…(ダメなやつ)

海軍の悪魔の実の能力者保護のルールは私が勝手に決めました。捏造万歳!


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第36話 七武海なら7を守れ

 

「リィンちゃんこっちの掃除もよろしく!」

「了承願い承りますたー!!」

 

 雑用を始めてはや1週間、2ヶ月絶対安静を無視してリィンは動いていた。

 

「(じっとしてるのは性にあわないんだよね。働かざる者食うべからずって思想なのかな。それとも社畜精神……やだなぁ、それはそれで)」

「お疲れ様リィンちゃん」

「えっと…」

「リックだよ」

「リュックさんでごぞりましたですますか! お疲れ様です!」

 

 ですます、を使えば敬語になると思っているリィンは特徴の無い兵に挨拶をした。失礼なヤツである。

 

 

 特徴が無いと覚えられないというのは周囲にとっくに知れ渡り、今では幼いながらも頑張っている子供として上手く周囲に馴染んでいた。仕事をこなすが子供っぽさを忘れずに接していればうまくいく、と思って行動したリィン。

 

「へぇ…いつ見ても仕事をしているのね、ヒナ感心」

「ヒナさん!」

 

 そんな中何人か友人と呼べる人物ができた。

 リィンの知り合いの中で見分けのつく友人の1人、自分より上の立場である少佐だが、ヒナ本人曰く『友達でいい』らしい。最初は恐れ(おのの)いたもののすぐに慣れて友人として接する様になった。

 

「リィン貴女何をやらかしたの?」

「ほへ?」

「ボルサリーノ大将がお呼びよ……」

 

 その名に聞き覚えはあるが呼ばれる覚えはない。

 

「本気でごじょりましょーじょか…」

「本気よ」

 

 ヒナの真剣な眼差しにリィンはがくんと落胆した。平和よ戻ってこい、と。

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

「おーかしちぶかい?」

 

 リィンは先ほど言われた言葉を繰り返した。

 

「そうだよ〜…その七武海の奴らが来るからちょっとだけ顔見せたらどうだい〜?」

 

 飄々とした態度を崩さないボルサリーノにリィンは失礼にならない程度に睨み質問をした。

 

「…………本音ぞは」

「茶を出す雑用が七武海相手など出来ないと逃げ出した」

 

 なるほど、子供ならどれほど怖くても無知故にうまく立ち回れる可能性があると、そして無礼を働いても子供だから、と逃げられる……。それで私が選ばれたわけか。

 

「後もう少しで来るから急ぐよぉ〜」

 

 のびのびとした口調で急かす大将。

 

「え、と、ボルザンザルクさん!」

「………まさかと思うがあっしの事を言ってるのかい?」

「げ、言語不得意、謝罪」

 

「……この際愛称でも良いから間違えないでよぉ〜?ボルサリーノ、だからねぇ〜」

「ボルザン…リリン…ド……?」

「それわざとじゃないよね……?」

 

 空気が凍った。あれ、この人ピカピカ光る能力者じゃなかったっけ、と思ったリィンは冷や汗をかいた。

 

「(マズイ、このペッポコスキルを何とかしなければ……!)」

 

 リィンは心から危機を感じた。

 

「あっしの名前は長いからねぇ…〝ボルサリーノ〟からなんか適当に文字取りなさいよぉ」

 

「え、と……なればリノ大将」

「なんで敢えてそこを取ったのか気になる所だけど…まぁいいんじゃないかねぇ〜…リノさんでいいよ〜」

 

 リィンワールドに迷い込んだボルサリーノは苦虫を飲み込んだような顔をしたが子供の戯言だと思って流した。まさか年単位で呼ばれ続けるとは、彼も思っていなかった。

 

「リノさん! あ、七武海たる人物は全員いらしてなるぞりですか?」

「いや、6人中5人だけだよ…」

「七……武海、7人…、6人中…5…?」

「一つ空席だよ〜」

 

 ボルサリーノは口を開き、世に名を連ねる者共を教えた。

 

 鷹の目のミホーク、砂人間サー・クロコダイル、海賊女帝ボア・ハンコック、暴君バーソロミュー・くま、悪魔の片腕グラッジ、吸血鬼フリッツ・へイヴ。

 

 今回はボア・ハンコック以外のメンバーが集合しているらしい。

 

「(あれ、おかしいな…名前を聞くだけで胃がキリキリしてきた……ってかくまさんって実在するんだ…ごめんねクマさん!)」

 

 到着してすらいないのに逃げ出す術を探し出す処刑者(リィン)執行者(ボルサリーノ)によって断頭台(せいち)へ連れ出された。

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

 室内は異様な雰囲気に包まれていた。

 

「……」

 

 七武海の中でも優等生、クロコダイルと呼ばれる男はひとり静かに周りを観察していた。

 

「へぇ、珍しい奴らがいるんじゃねェか……!」

 

 そう呟いたグラッジは七武海の内の2人に目を向けていた。

 

「それは自分の事を言っているのか……?」

「テメェら以外に誰がいるってんだよ」

 

 その言葉に反応したのはへイヴ。敵対心を(あら)わにしてグラッジが絡むもその様子は興味の無い物を見る目だった。

 

「今日は曇だ。太陽がない…………」

「吸血鬼、は大変……かーー!弱っちィなァテメェは…同じ七武海として情けねェ」

 

 やれやれとわざとらしく発言しながらイキる。一筋縄ではいかない七武海。平穏に会話をすること自体が不可能である。

 

「そういう台詞は、己が強くなって言うものだな……弱き者よ」

「ミホークゥ、テメェ舐めてんのか? 非能力者だからって言っても俺の能力は人間に効くぞ…?」

 

 行儀悪く机に足を置いて鷹のような鋭い目を向ければ同意する人間が1人。

 

「言い過ぎだ鷹の目……、だが、的を射ている」

 

 その男は聖書のような本を閉じ、少しも変わらぬ表情で呟いた。

 

「チッ、むさくるしい野郎ばっかじゃねェかよ…! 少しは女海兵連れてこ…───」

「──失礼ぞ致しです」

 

「「「「「!!」」」」」

 

 女、しかも子供の声……。やっとこのつまらない集会に終わりが近づくのかと思った。

 

「ガキか」

 

 クロコダイルは小さく呟く。未来ある若者が大嫌いなこの男は世の中クソッタレだと言いたげな目を細めて能力を発動させた。砂に変化した体は人の原型を保たず、まるで隠れるように宙へ舞う。

 

 悪魔の実シリーズの中で最強と呼ばれる自然系(ロギア)の能力だった。

 

「お茶ぞお持ち参りましたです…、……よに、ん?」

 

 少女は机にお茶のセットを載せると五つ用意した湯のみと人数の数が合わないことに気付く。

 

「おい娘……」

 

 覇気を使える事の出来るへイヴが砂になって気配を消したクロコダイルのことを言おうとした。

 

「っりゃぁあ!!」

 

 しかしどうだろうか。その言葉を阻止するように少女がいきなり、手に持つ〝何か〟を下から上へ切り上げる様に払った。

 

「「「なっ…!」」」

 

 最早誰が驚愕の声を出したのか分からない。その瞬間に入ってきたセンゴクすらも驚いた表情を隠せずにいた。

 

 驚いた理由、それは気配を消した七武海(もさ)を特定した事でも少女がいきなり叫んだ事でも無い。

 

 その手に持つ突如現れた()()がその場にいる面子にはあまりにも覚えがありすぎたからだ。

 

 

「俺の存在を感じ取ったか。覇気、いや、野生の勘か」

 

 砂が突如人間に変わった。見上げると自分の2、3倍はある背丈の男が少女の前に立っていた。蹴られそうだ。

 

「え…え!?え…、ひ、人?んん!?」

 

 予期せぬ5人目の登場に雑用の少女が驚く。

 

「……………テメェは…っ!」

 

 怒気を孕ませた声。濃い茶色の髪が少女の視界に入り込む。

 

 少女…いや、リィンはその声の方向を向いた。

 

「お茶でする?」

「……は?」

 

 リィン手に持っていた鬼徹を窓の外に投げた。躊躇(ちゅうちょ)無く、遠慮(えんりょ)なく。

 

「「「「(なんだこのガキ……)」」」」

 

 恐らくこの場にいる全員が思っただろう。

 

「あ、驚き桃の木山椒の木失礼致すぞりんです。邪魔故……」

「「「「(邪魔ってだけでアレを投げるのか)」」」」

 

 海兵と海賊の心が今、一つになった。

 

「(流石に目の前でアイテムボックス使うのはまずいか…)」

 

 もちろんリィンは投げ飛ばしたあと死角でアイテムボックスにしまい込んだ。遠く離れた所でもしまう事が出来るか一か八かの賭けだったがまあ失敗して落ちたとしても気にしないだろう。どうせいじめっ子か(フェヒター)らのプレゼントだ。

 一連の行動にもちろん理由はある。空気をぶち壊す為に、だ。そしてどこからどこまでがセーフなのか見極める必要もあった。

 

「そこの雑用……」

「はいぞ、何者でござりです?」

 

「……ジュラキュール・ミホーク」

 

「(なるほど、この人が鷹の目……、随分とまともそうな人だ…。身なりもしっかりしてるし、本当に海賊?)──どのようなる御用で?」

「時々打ち合いをしたい。名を教えよ」

「訂正!全くまともと正反対であった!!」

 

 ド畜生! と心の中で自分の第一印象をぶち壊した存在を殴り飛ばす。脳内でだ。現実でしたら死んでしまう。

 

「それよりあの刀、一体どこで?」

 

 淡々と要件だけを聞き出すミホークにリィンは項垂れながら答える。

 

「………………師より頂きて、故に…」

「なるほど、奴が師か…期待出来そうだ」

 

 どうやらこの男、会話が出来ないらしい。ペースを崩される。非常に不愉快だ。

 

「(フェヒ爺、キミは一体何をしたんだ)」

「……あ、…っの、クソ海賊が……っ!!」

 

 後ろ(センゴク)から凄まじい殺気が解き放たれており、正直ここにいるのしんどい。

 

「よォ雑用女、お前の将来が楽しみだな…」

 

 出会い頭で殺されかけたリィンは恨みも込めて睨みつける。傷の入った顔は愉快そうに笑っている。

 

「私ぞなる人物は1粒たりとも楽しみは皆無ぞです」

「クッ、ハッハッハ…ッ!!なんだその喋り方は…気に入った。海軍なぞやめて俺の所に来るか?」

 

「クロコダイル!ウチに入った雑用をからかう癖をやめんか!」

「からかっちゃいねェよ。俺ァこいつが欲しいな」

 

 若者嫌いは若者の悔しそうな顔が大好きである。リィンはそのやり取りを見てひとつの可能性に思い至った。

 

 

 

 

「……………………あ、納得ロリコン」

 

 自分のどこを見ても足でまといという印象しか貼られないのになぜ欲しがると考えていたらやっと結論が出た。なるほどそれなら仕方ない。

 ポン、とリィンは自分の手を叩いた。

 

「……そうか、サーはロリコンだったのか…」

「なるほど、的を射ている」

 

 へイヴが勘違いを起こせばその言葉に同調する様くまは呟く。

 

「誤解に決まってんだろ吸血鬼。あとテメエは何でもかんでも〝的を射ている〟って使えばいいと思ってんじゃねェぞ……」

 

「七武海とは仲良しですぞなーー……」

 

「誰がこいつらと……っ、殺すぞ!?」

「不服だ、認められないな」

「それは的を射ていない」

「ミイラにするぞ………?」

「………心から否定させてもらう。このような野蛮なヤツらと同類にされたくは無いのでな」

 

 全員から自分の思考を片っ端から否定されたリィンは頬を膨らませた。解せぬ。




悪魔の片腕 グラッジと、吸血鬼フリッツ・へイヴは私の想像上勝手に作り上げた人物です。
グラッジは短気でへイヴはマイペースな傍観者。


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第37話 仏の葛藤

センゴク寄りの第三者目線


 

 海軍を統べる元帥、センゴクは日頃から胃を痛めていた。

 

(カナエ)の娘か…………」

 

 胃の痛みに関して頭の片隅に置き、じわりと滲む汗を拭えず目の前にいる5人の人間をじっと見る。

 

 ────五老星、国際統治機関、世界政府の最高権力をもつ男達だ。

 

 最高権力と言ってももっと上は居る、世界貴族と称される天竜人、そしてとある人物がいい例だ。

 

「…処遇(しょぐう)をどうしましょうか」

 

 話題は戦神と呼ばれるシラヌイ・カナエの娘、リィンの事である。ただの海賊の子であれば意見を仰がなくても良いのだが『海賊王に深く関わった者は死刑』という法がある。リィンは直接関わってはいないが、古参カナエの子だとすると話は違う。

 

 ここで処罰、等と言われては自分の面目が潰れる。入隊を許可した身なのだから。しかしカナエは世界政府にとって敵。

 

 果たして結果がどう出るか……。

 

 固唾を飲んで結論が出るのを待つ中、五老星の1人が口を開いた。

 

「高い地位を与えてはどうだ?」

「…………………は?」

 

 思わず立場も忘れ、間抜けた声を出した。

 

「そうだな、いっその事大将の地位に付かせるのがいいんじゃないか」

「なるほど〝権力〟か。納得した」

「だが、実力が伴わない子供だ。公言するのは全く良くない」

「実力がきちんと付くまで秘密裏に進めてはどうだ…………?」

「……理にかなっているな、舐められる事も無く、海賊に影にある膨大(ぼうだい)な力をそそのかす事で牽制(けんせい)にもなりうる」

 

 何やら話がトントン拍子に進んでいく気がする。思わずセンゴクは声を荒らげた。

 

「か、海賊の、カナエの娘ですよ!?」

 

 こんなの自分で考えを改めろと言うも同然だ。いや、実際改めて欲しい。

 

「センゴク……だからこそ、だ」

「だ、だからこそ……?」

 

 長い白髪の髪と髭を蓄えた五老星の一人がニヤリと笑った。威圧感を感じる。

 

「利用価値がある。それに、敵ならば容赦なく殺していたところだが自分からこちら側に付くというのだ。なら、最大限守れ………これは命令だ」

 

 五老星全員が何故か嬉しそうに笑った。

 

「(一体(カナエ)は五老星に何をしたんだ……っ!!)」

 

 謎の多い女は未だに謎だらけだった。

 

 

 

 ==========

 

 

 

──コンコン…

 

「お呼び出しで、ございますですか?」

 

 海軍本部に似合わない幼い声が扉の前で発生した。センゴクは目的の人物が来た、と一言声をかけた。

 

「入れ」

「失礼、ぞ致しますです」

 

 ここに来た時から変わらぬ妙な喋り方で入ってきたのは先ほどまで胃を痛めつけながら五老星に報告した子供、リィンだ。

 

「五老星からの判断だ……リィン、お前を海軍本部大将の任に付かせる事とする」

「………ひょ…?」

 

 こいつ今なんと言った、と言いたげに視線を向けて来る。目は口ほどに物を言うとはこの事、正直な話センゴク自身も混乱しているのだ。前代未聞、まだ5つ程の少女を海軍本部の最高戦力に数えられる地位につかせるのだから。

 

「えー、えぇ? えっ?」

 

 その反応は正しい。センゴクはキリリと痛む胃を抑えて強めにもう一度言った。

 

「海軍大将に、なれ」

「……か、かしこまるまりますた」

「かしこまりました、だからな…」

 

 心配だった。とても。

 

「表向きには雑用として変わらず動いて欲しい、名ばかりの大将だ」

 

 そう言えばリィンは心無しかほっとした表情を見せた。

 

「(プレッシャーと思う事がある、という事は大将という地位がどれほど責任重大かと分かっている、という事か……なるほど、普通の子供より頭は回るようで何よりだ)」

「ありがとうごじゃります」

 

 ホッ、と息を吐いたリィンを見て、センゴクは少し安心した。

 

「海軍中将には知られても構わない、が。他はあまり知られるな…いつどこに海賊のスパイがいるか分からん」

「然しながら、私の如く子供申せばただの戯言(ざれごと)ぞです」

「MC 04444 、このコードを海軍将校には伝えておこう。それが大将のMCだ。──このコードを言えば大将としての権限と権力が使える、ただしなるべく使わない方向で済ませろ」

 

「(不吉────)」

 

 リィンが数字の羅列(られつ)を聞き、思った。でも、これなら影で恐れられる存在になれるかもしれない、と。

 

「大将就任によってある程度伝えなければならない事がある」

「……、…はい!」

「まず、雑用として会議に参加する事」

 

 雑用として、つまり先月七武海と顔を合わせた様に茶くみ係として自然に居てもらう事だ。この子の注ぐお茶は上手い、となれば居ても不自然に見えないだろう。もし居るのがバレていたとしても子供だから内容も覚えてない理解出来ない筈だ。本人も、周りの普通の海兵も。

 会議に参加するのは決まって中将以上、信頼のおける人間を主に置いている。

 

 中で何者かバレてしまっても問題はあるまい。

 

 

「なるほど……、説得されしたです」

 

「…」

 

 恐らく納得したと言いたかったのだろうが、コミュニケーションが苦手なのもまた利点になるやもしれん。

 

「少しは重要問題を把握可能と予測……」

「……!理解出来るのか、この事に対して…」

「はいぞです。会議とぞ、しかも上の方集合するとは重要な案件が多き、ご安心、私ぞ口を割る事はあれど理解する前に向こうが諦め入るぞ」

「口を割ることはせめて否定してくれ……」

「理解のできぬ言語を使用するが故に、大丈夫ぞです」

「理解の、出来ぬ言葉……?」

『んー、まあ、日本語使えばきっと理解出来ないでしょ…、んん、我ながらグッドアイディア!こっちの言葉はすぐに理解出来なかったんだもん(※日本語)』

「……なるほど、適当に言葉を作りそれが自分の当たり前の言葉とする、か……いい案だな…」

 

 リィンは適当に作っているわけじゃないがセンゴクは納得した。

 

「後は…CP(サイファーポール)の事だ」

「さいふぁいあーぽーる?」

「サファイアでは無い、サイファーだ。これは世界政府の諜報機関(ちょうほうきかん)で一般的には1〜8の組織が世界8ヶ所に存在する」

 

 センゴクはここで言葉を止めた。まだ子供、これ以上先は言わなくていいだろう。嘘はついてはいない。

 一般的には、その言葉に隠されたCP9とCP-0の存在は。

 

諜報機関(ちょうほうきかん)、には大将の存在はほのめかす事予測ですか?」

「伝えておく、ただしコードのみだ。あくまでもこれは海軍本部での裏だからな…」

 

 センゴクは多少大人びた子供に対して、餌を撒いていた。

 

「……そちらは一般的要素皆無の諜報機関(ちょうほうきかん)にも…?」

「……ほう、気付くか」

 

 鋭い目を向けるリィン、これは当てずっぽうなどでも予想でも無く確信。

 

「(こんな簡単な罠、大人でも気付けない者は確かに居る。そういった経験を踏ませれば『言葉遊び』が出来るかもしれんな)」

「知らねば安心やも知れませんですが、知らぬままでこの立場、あまりにも危機ぞです」

 

 もしこの場に誰が居ようと思わずため息をついたセンゴクを責める事は1人も居ないだろう。これから口を開く話題はドロドロとした醜い正義だ。

 流石に子供の純粋さはもう少しあって欲しかった。

 

「CP-0、サイファーポール〝イージス〟ゼロ。世界最強の諜報機関(ちょうほうきかん)で世界政府である天竜人の直属の組織と──」

 

 こちらは天竜人の為の組織とも言える。だが問題はこちらだ。

 

CP9(シーピーナイン)、サイファーポールNo.9。世界政府直下暗躍(あんやく)諜報機関(ちょうほうきかん)が存在する。司法の塔エニエス・ロビーに拠点を置いて非協力的な一般市民への殺しを許可されている部隊だ……」

「殺しの許可…!? いや、然しながら納得。一般的でない理由としては充分過ぎるぞです…」

「………世界政府は光だけでは無いのだ…」

 

 案の定リィンは驚きの声をあげた。

 幻滅(げんめつ)してしまっただろうか。海軍に希望を持って入隊してくれた彼女にとって、それらを守る立場にいなければならない事が辛いだろうか。

 

「当たり前ぞり……です。光があれば闇があるのは必然、正義だけで物事ぞ丸々ぷっくりおさむる事など不可能に等しき、です。認識を誤りなど致しませんぞです故」

「まァ他の組織と変わらない。コードのみだ。……しかし驚いた、そこまで言える事が出来るとは………、少し安心した。大将としての雑用としてこれから励んでくれ…」

「……はい!」

 

 もうこれ以上は言えない、背負うにはあまりに重すぎる。1回りも2回りも幼い彼女には。だが、少なくとも大人に紛れる事の出来る少女なのだろう。

 

「ところでどうして全身切り傷だらけなんだ…?」

「ミホさんにぞ訓練(いじめ)られましたぞです…」

 

 鷹の目か…。奴が力をこの子に付けてくれるなら武力面では一安心だ。

 

「まぁ、今回はこれだけだ。もう少しで正式発表がある。それまで大将であろうと口を開くな」

「分かるました。あと……利用はしてもよろしきですよね?」

「……。では、仕事に戻れ」

「はーい!」

 

 リィンが返事をすると扉が閉まった。

 

「……利用、なぁ?」

 

 選択肢を誤ったかもしれない、だがあの聡明(そうめい)な少女に海軍の、世界政府の、世界の中枢で変えていって欲しいと願った。

 

「なかなか面白そうだ。ふむ」

 

 無言は肯定とはよく言ったものだとセンゴクは密かに笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(トップシークレットが聞けたのは幸いだけど秘密を知りすぎたーとかって殺されないかな……)」

 

 リィンはセンゴクの心など知らず人知れず頭と胃を痛め後悔した。胃薬を欲っしながら



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第38話 赤犬の怒り

 

 大将赤犬ことサカズキ。

 徹底的な正義を掲げ、海賊は絶対悪。

 

 

 

 そんな彼にも1人、心を許す海賊が居た。

 

 ——大丈夫だって少年!

 

 子供の頃に出会った人を思い返す。リィンを見てどことなく既視感を覚えるのは、やはり血縁関係だからだろう。

 この大海賊時代を作り上げた海賊王ゴールド・ロジャーのロジャー海賊団結成初期から居た古参メンバーの1人が、サカズキにとっての恩人であった。

 

「リィン、か……」

 

 リィンが2,3ヶ月程前に海軍に入った。偶然その場に居合わせたのは幸運だっただろう。

 なんせ自分のルーツを作り出した恩人の、娘。海軍に入るきっかけをくれた者だ。

 

 後ほど海賊だと知って仰天したし、絶対捕まえると誓ったが。

 

 だからこそ、リィンを身近に置ける地位に上がってきた事を幸運だと思ったのだ。今更ながら生きる理由の一つが作り出された。

 

「…っ……あ……」

「…───…………─」

 

「(あれは…雑用か……?)」

 

 物思いに(ふけ)っていると前を歩く2人組の男の雰囲気が何やらおかしいことに気付く。こっそり気配を消し、聞き耳を立てた。

 

「……よな…──の…」

「……に…──…よ」

 

 何かある。長年の勘によりそう睨んだサカズキは耳を澄ませる。

 

「──…あのリィンって奴………─」

 

 先程まで頭に浮かべていたカナエの娘の話だ。

 嫌な予感に襲われ、雑用の会話に集中する。

 

「…──あいつ同じ雑用の癖に生意気だよな」

「あぁ…俺らより後に入隊した癖にお偉いさん方に何度も呼ばれて……」

「だよなー。ムカつく…」

 

 ただの嫉妬か。情けないと思うのと同時にやはり仕方の無い事だとも思える。

 ここまで目をつけられたのも英雄ガープに連れてこられ、そしてあの剣帝フェヒターを師に持ち、その上奴の愛刀である3代鬼徹を譲り受け、更には王下七武海の1部に気に入られ、親の影響で大将まで一気に上り詰めた。

 

 人に恵まれすぎた幸運とも言える。

 

 

 リィン本人は悪運としか思って無いが、そんなことサカズキが知る由もない。

 

 イタズラをするかもしれない程度の嫉妬ならば問題は無いだろう。そう思いその場を立ち去ろうとした時、サカズキの耳に衝撃的な言葉が入った。

 

「───今回は何を盛ったんだ?」

 

 

 ──盛った……?

 

 耳を疑った。思わず足を止める。

 

「聞いて驚け…トリカブトに含まれるアコニチンだ………。取引先の海賊から買い取ったんだ」

 

 アコニチンは量を誤ると死に至る程の毒性を持っている……。もっと強い毒も勿論あるが人に使って良いものでは無い。

 

「(取引先の海賊…?)」

 

 そして海賊を悪として正義を掲げてきたサカズキにとって、海賊と関わり、しかも悪意のある関わりを持っていることが許せなかった。しかも相手は子供だ。

 自分は少なくとも恩人であるカナエにも刃を向けた。それ程にまで海賊と言う物を敵として認識していたのだったのだ。

 

 彼が行動を起こすには充分過ぎる程の理由だった。

 

「───その話詳しく聞かせてくれんかのォ…雑用共」

 

 雑用の2人は怒りを含ませた声にビクリと肩を揺らせば声の主を見る。

 

「だ、誰だ……」

「儂が分からんとは……随分とふざけちょる奴がおるもんじゃ………」

 

「お、おい!こいつ…───この人大将赤犬だ!」

 

 雑用の2人の声は震え、顔は青い顔を通り越して真っ白い。次第に声のみでなく全身が震えだした。

 

「アコニチンをどうした……」

「な、何のことでしょう…!!」

 

 無駄な問答は不要とばかりに殺意が、殺気が漏れる。

 

「言わんかァァァッ!」 

 

──ボコボコッ…!

 

 しらばっくれる2人に痺れを切らし右腕からマグマの能力が発動された。その熱気に思わず雑用の海兵は腰を抜かすと声を裏返し震わせながら質問に答えた。

 

「め、飯に盛りました!」

 

「……………そうかい、なら──貴様らの様な海兵に興味は無いわい」

 

──ジュッ!

 

「ギィヤァァァァァアア!!!」

「ひっ…!」

 

 肉の焦げた音、一人マグマによってこの世から存在を失った。

 

「ご、ごめんなさいごめんなさい……!た、たす、助け…っ!」

「消え失せろ…!」

 

「ぎゃあぁあああああ!!」

 

──バタバタッ!

 

「──ッ、一体何が……!」

 

 叫び声を聞き監督と思われる海兵がやって来ると、その現状に思わず目を見開いた。

 

「大将!?雑用が一体何を……!」

「どうでも良い!子供で雑用のリィンの居場所は何処じゃ!」

「は?え、えっと、確か10分前に休憩で食堂に……」

「……っ!」

 

 遅かったか…!間に合え、と願いながら走り食堂の方に向かった。

 

 

 まだ食べてなければ間に合うかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが、現実はそう簡単では無かった。

 

 

 

「リィンは居るか!!!」

「は、はいぃぃいいっ!」

 

 食堂の入口でサカズキは大声をあげて呼び出した。

 反射的に返事をしたリィンを向けば食事には手をつけているではないか。

 

「(医務室に連れて行かんと…)──来い!」

「か、かしこまるまりましたです!」

 

 急いで来ようとするもいきなり訪れた大将に動揺して人の波が出来た。このままでは辿り着くまで時間がかかる。

 

「(これだから雑用は…!)…っ、リィン!許可する!能力を使え!」

「……っ!はい!」

 

 席に近い所にかけて合った箒を手に取ると跨り、人の上を飛んでサカズキの元にやって来た。

 目をつけられる可能性を考えて能力を隠しておけ、という様に命令していたが今回は急を要する。

 

「なっ…!」

「…リィンちゃん!?」

 

 辺りの雑用はより一層ザワザワと騒ぎ立てる。

 

「早うせい!」

「サ、サカズキさ、つか、掴まな…うぎゃあ!箒!箒落下!」

 

 サカズキは箒が落ちたのも気にせずリィンを小脇に抱え急いで走った。

 

「サカズキさ、ん、何かご用でぇええっ!」

「舌噛みとう無ければちょっと黙っちょれ!」

「ぅはい!」

 

 これ以上に無いくらい焦った。何故こんなにも焦る。

 

「…っ!」

 

──バァンッ

 

「こいつを診てくれんか!」

 

 

 

 ==========

 

 

 

「……異常無し……………?」

 

 予想外過ぎる医師の判断にサカズキは素っ頓狂な声をあげた。

 

「ああ、確かにアコニチンの反応、それに加えて他の毒物の反応もあったが……身体に異常が無い」

「一体どういう事だ……」

 

 医師は目を閉じてため息を吐いた。

 

「彼女に、毒が効かない」

 

 なんとも奇妙な診断結果だ。サカズキは簡単に受け入れられる内容ではなかった。

 

「なんだと……?本当か…?」

「医師を疑うな…サカズキよ…。本当の事を言わんで何のためになる」

 

「……。リィン、心当たりはあるか」

 

──シャッ…

 

「あー、えっと、一応存在把握です。心ぞ当たり」

 

 盗み聞きがバレていたと気まずい表情を浮かべながらリィンがカーテンを開けた。医師は毒物反応が出た試験管を置き、軽い様子で質問をした。

 

「ああリィンちゃん。身体の調子に不自由は無いかい?」

「皆無ぞです」

 

 ちらりと壁に備え付けられた時計を目にした。

 

「あの、時間訪問故におさらば致して許可願いぞり」

「えっと…、時間だから行ってもいいかって事かな…?」

「それですた」

「構わないよ……。説明はこちらでするから頑張りなさい」

「はいぞです!」

 

 ベットから降りるとリィンはその場にいる2人にペコリとお辞儀をし、パタパタと駆けて行った。

 

「………ここに来てすぐ、あの子は背中に大きな傷があったんだ…」

「傷がァ……?」

「刀傷だよ。そしてそこから致死量の毒が検出された」

「………それが、毒が効かなくなった理由と言うわけかい?」

「その可能性が高いだろう……。全く、無茶をする」

 

 一度死に目に合う程の毒に蝕まれると抗体ができてその毒は効かなくなる、と医師は話す。

 

「サカズキィ〜、ここか〜?」

「なんじゃクザンか……おどれは仕事もせんで何遊び呆けちょる」

「おわっ、ひでぇな…顔合わせて早々ンな事言うわけ〜?はァ嫌われたモンだね〜…」

「要件はなんじゃい…」

 

「何、って…そりゃ雑用2名が死んだ理由とリィンちゃんを抱えて此処に来た理由でしょうよ、察してたんじゃないの…?」

 

 クザンが片眉を上げるとサカズキはフンと鼻を鳴らした。

 

「リィンに毒が盛られた」

 

 その一言だけで状況を察した。それ位出来なければ大将とも言えない。

 武力面だけでなく頭を働かなければ最高戦力としてあまりにも力不足。

 

「ヘェ……」

 

 返事に一言だけそう言えば周囲の温度が数度下がった。

 

「……執着は無いもんじゃと思っちょったわい」

「失礼な話じゃねェの? 判断は個人としてするとは言ったが、執着するしないは別でしょうよ。……後将来絶対いい女になる奴に期待しなくてどうするよ」

 

「……そうかい」

 

 呆れた。相変わらずこいつはふざけておるとサカズキは思い睨みつける。クザンは何食わぬ顔をして後頭部をボリボリかいた。

 

「あれだけ健気に頑張っているんだ、評価するのが上として当たり前でしょ」

「結果が伴ってなければ評価は無しじゃと思っちょるがな」

「でも実際結果は出てるんじゃねェか?」

 

「何にせよ、流石カナエさんの娘といった所じゃわい……」

 

 戦場を引っ掻き回す事に関しては神がかった才能を持っている女の娘だと、リィンに心の中を引っ掻き回されたサカズキはそう思った。

 




サカズキは親(の罪)=子(の罪)として考える人ならば叶夢(の恩)=リィン(に恩返し)と考えてもおかしくは無いかな、と思いました。その逆にクザンを、クザンは個人として判断をするタイプと勝手に考えました。苦情は受け付けません、多分。どうしてこんなに恩を感じているとかリィンに甘いとかはまだ内緒です。かなり未来でじゃないと判明されない……。
あまりにも叶夢さんが原作に関わりすぎているんじゃ無いかとお思いの貴方、大丈夫です。私も思っています。この謎も解決する、と思います。

まぁ、彼女じゃないんですけどね。


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第39話 黄猿の評価

今回も文章グッダグダです。


 

「リノさん……、到着致すぞです」

 

 遠慮がちに部屋にやって来たリィンはサカズキと並び海軍本部最高戦力となる大将黄猿、ボルサリーノに声をかけた。

 

「ん〜、随分早かったねェ〜…」

「リノさん書類お仕事ぞお疲れ様です。真面目で最良ぞろろんです」

 

 リィンが眉の形を変える。恐らく真面目と正反対の彼女の祖父とクザンが脱走するのを何度も止めようとしているからだろう、と推測された。

 

「あーうん、まあ普通だからね……」

 

 ボルサリーノはポンとリィンの頭に手を乗せる。今の大将の面子に苦労をかけされる仲同士、自然と互いの苦労は知っていた。

 

 衝突するサカズキとクザンの間に入るのはいつもこの2人のうちどちらかだ。

 

「リノさぁぁん……」

 

 何故か目を潤ませる。

 

「(これはあっしが頑張らないといけなくなるアレでしょうが……)」

 

 同情したらしっぺ返しがやって来た。

 

「(このまま私の海軍本部将校逃亡者追跡係引き継いでくれないかな……)」

 

 ここに来てもうすぐ1年、リィンは脱走兵(ガープとクザン)の追跡回収係としてある意味有名になっていた。縄の扱いもお手の物だ。

 それをボルサリーノが知らないはずは無い。

 

「とりあえず今は目先の事に集中するかねェ〜…」

 

 船の揺れが止まった。目的地に辿り着いたんだろう。

 リィンは箒から降りボルサリーノの斜め後ろにたった。箒に乗っていた理由は船酔いが酷いから。船だと酔うが箒だと酔わないのである。

「海峡のジンベエの七武海加入と引き換えにアーロンの釈放…ねェ……」

 

 ジンベエとアーロンは天竜人の奴隷解放を成したタイヨウの海賊団のフィッシャー・タイガーの弟分。

 

「何故アローンぞ人物の釈放ぞ認める不可能ぞりん…です……」

「アーロンね。でもそれもそうだよねェ〜…、加入だけ認めりゃ良いのに政府も何を考えているのやら…」

 

 加入はまだしも何故釈放まで認める必要があるのか。

 

「魚人……」

「怖いかい〜?」

「こ、肯定。どのような人物か不明故魚人の海賊は不安多大に存在するぞです」

 

──コンコンッ

 

「大将!インペルダウン内部には誰が同行しましょうか!」

「ん〜、そうだねぇ。リィンちゃんだけ連れていくよォ、一つの社会見学っつー事で」

「は…、はっ!」

 

「私のみ………?」

 

 動揺する海兵と不安げにボルサリーノを見上げるリィン。

 

「何かあっても対処出来るでしょ〜?最悪MC(マリンコード)を使ったらいいよ」

「はい………」

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

「大将黄猿殿!我がインペルダウンへようこそ…!あァ間違えました。〝我が〟って野心出ちゃった。私は()()副署長のハンニャバルです!」

「(ああ、こういう人扱いやすそうで好きだな……)」

 

 インペルダウン副署長ハンニャバル。

 彼が出迎えてくれた事に少しの疑問を覚える。

 

「(監獄署長は…?)」

 

「それではアーロンの前に署長の元へ案内スマッシュ!」

「署長は…トイレかい〜?」

「そうです!」

「…?」

 

 不思議そうに首を傾げるリィンにボルサリーノが丁寧に説明した。

 

「ここの署長はドクドクの実の能力者。毒の影響で1日約10時間はトイレに(こも)ってるって聞いたことがあるねぇ〜…」

 

 なるほど、とリィンは署長に同情した。あまりにも悪魔の実の性質が悪意ありすぎる。

 

「実質ここのぞ取締役(とりしまりやく)はハンニバルさんぞ取締ってるですか?署長に成るぞしてもご安心ですね」

「私この子供大好きになりました」

 

 ハンニャバルがあっさりとリィンの手中に落ちた。

 

「副署長、署長が出てきました」

「サディちゃんご苦労様」

 

「おお、ようこそいらっしゃいました。しかしアーロンの釈放ですか……はァ……何故奴を野に放たなければ……」

「署長ストップ!あんたのため息は毒ガスだから!……ウグッ!」

 

 署長のマゼランが現れるとこれから行う事が不満の様でため息を吐いた。そしてそれは毒ガス。

 自然系であるボルサリーノと毒に耐性のあるリィン以外は苦しみ始めた。

 

「あー……、お身体大丈夫、ですか?」

「ごふっ…私の命は……もう終わりマッシュ……お嬢さん……、お元、気、で………ガクッ…」

「ぎゃー、ハンニャーンブルさーーーーん」

 

 息も絶え絶えにハンニャバルが頭を垂れるとリィンが慌てて近寄った。完璧棒読みだ。

 

「「「(茶番………)」」」

 

「あれ?急に身体が楽に……」

 

 ハンニャバルがいきなり楽になった身体を不思議に思い何度も自分の手を見た。

 

「どうしたんだい〜?」

「あ、いえ!なんでもありません!ささ、アーロンの元へ署長の私が案内を……あ、間違えちゃった、私まだ副署長でしたね!」

「いい、ハンニャバル。私が案内しよう」

「ガーーーン……」

 

 

 

「ケホッ……」

 

 騒ぎ出すインペルダウン職員を前方に捉えながら咳き込んだリィンは先ほど起こった現実に頭を悩ませていた。

 

「(堕天使ぃぃぃ…!災厄吸収能力ってまさか他人の毒まで吸収するのかぁぁぁぁ!?)」

 

 完璧に。グン、と何かが流れ込んできた。手のひらから異物が侵入してきたのだ。

 

「(………参ったなァ)」

 

 吸収する=自分を犠牲にして助ける

 の方程式が成り立ってしまった今、ものすごく迷惑な能力となった。

 

 

「ハンニャルバンさん…、もし冥王などの海賊ぞ現れた場合どの監獄にぞ収容するされるですか?」

「そこら辺の大物はlevel6になりマッシュね……それがどうしました?」

 

「あの、level6の囚人リストの様なる物は存在致すかです…」

「…?ありマッシュ…」

 

 リィンは後ろからこっそりとハンニャバルに声をかける。ハンニャバルは疑問に思いながらもリストを手渡した。

 

「ありがとうごじゃりますハンニャンコバルルンさん」

「いやいや、なんてこと無いですよ」

 

 2人は雑談混じりに自分の上司を追うように下へと向かった。

 

「(……戦神の名前は確か シラヌイ・カナエ。おかしい…4、5年くらい前に収容された人間リストの中に名前はあるのに横線マークで消されてる。まさか死んだ?)」

 

 一人疑問を残しながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「level6────」

 

 地下6階にある無間地獄。

 政府にとって不都合な事件で揉み消された人間や終身囚や死刑囚が無限の退屈を味わう場所だ。

 

 ここにアーロンがいる。

 

 

 

 ボルサリーノやリィンは気を引き締め面会した。

 

「あんたがアーロンかい?」

「それがどうした…、下等種族…………っ!」

 

 敵対心を隠すこと無く睨みつけるサメの魚人アーロン。そこから放出される鋭い本物の殺気。

 

「釈放だよ……ほら、出てきなよォ」

「チッ……」

 

 不服そうだがその言葉に従い檻から出てきた。

 

「(ふーん…この殺気に怯まない、か。果たして鈍いだけか、それともセンゴクさんの言ってた鬼徹の持ち主──剣帝に鍛えられて慣れたか)」

 

 横目に見たリィンについてボルサリーノが真面目に考えている中。

 

「(常識的に有り得ん色をしてるよな…)」

 

 リィンは斜め上の思考回路をしていた。ただ鈍いだけかもしれない。

 

 アーロンをじっと見つめるリィン。それに気付いたアーロンがニヤリと口元を歪ませた。

 

「こんな所に子供がいるとはなァ…」

「……私とて立派な海兵ぞ」

 

 雑用として来てはいるが地位は最高戦力。流石にムッとしたリィンはにらみ返した。

 

「こんな子供に海軍に入らせるとはテメェの親はなんつー躾をしてんだろうなぁ」

「……親の顔は知らぬ、兄のみぞ。残念ですたね」

「じゃあテメェのおにいちゃまはさぞかしアホみてェだなァ…?シャーッハッハッハッ!」

 

 解放時から気分が良い。高笑いをしたアーロンだったが、底冷えするような冷たい声が聞こえた。

 

「……おい、魚野郎」

 

 ビリッと肌が震える。

 

「…っ!!」

 

 リィンの箒の柄がアーロンの喉元に突き付けられていた。一瞬の出来事で人より身体能力の高いアーロンでも反応する事は出来ず、呆然としているだけだった。

 

「海にぞ出現し、人様に迷惑ぞぶっかける様なれば…私が飛んで行くからな……っ!?」

 

 グッと更に箒を押し付けている。

 

「(ったく、本当に末恐ろしい子だねェ。こうまで頭も働き体も動けると逆に薄気味悪い)……はいはいストップ。ま、そういう事よォアーロン」

 

 仮にも釈放する魚人、危害が加えられない内にボルサリーノが止めた。ただリィン本人に危害を加える気が無いのはボルサリーノもその場にいる人間全てが勘づいていたが。

 

「……ごめんなさいです」

 

 家族(あに)を馬鹿にされ、我を失ったリィン(ブラコン)はスグに正気を取り戻した。そして震える。

 

「(何危ない事してんの私ィ!!)」

「(ふぅん…海賊が許せないと取るべきかねェ……)」

 

 ただヘタレが後悔しているのを根っからの海兵向きの性格、とボルサリーノに誤解されたリィンは今後を期待され自分のハードルが高まって首を絞めると知らない。自業自得だった。

 

 




今回はアーロンの釈放のお話です。自然系に毒は効くのか効かないのか。それは私には分かりませんので適当です!ごめんね!!!(大声)


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第40話 青雉の発見

 

  海軍はここの所起こる〝海兵殺し〟の事件に悩まされていた。

 

 様々な所、と言っても主に偉大なる航路(グランドライン)の中だが海兵の死体が見るも無惨(むざん)な姿で発見される。首と胴体が綺麗に斬られていた。犯人も手段も目的も分からない、現状は最悪だった。

 ───ただし、それは昨日までの話。

 

 

 

 犯人が判明し、討伐せよとの命令が下った。

 

 

 

 よりにもよって、

 

「リィンちゃん…確か船酔い凄いんだっけ…」

「う……ぎもぢわるい……クザンさ、舵、舵取っ……うぇええ……」

 

 大将青雉と大将女狐(めぎつね)の2人に。

 

 

 

 

 最近ようやく海軍全体に4人目の大将の名前が広まり始め、噂されている。『海賊女帝にも負けぬ絶世の美女』だとか『妖艶(ようえん)な美女』だとか。…………正体が偉大なる航路(グランドライン)後半の海(新世界)を小舟で航海しゲロ酔いしてるただの雑魚(ガキ)とは誰も思わないだろう。ここまで噂と正反対だと期待に胸を膨らませる海兵に同情してしまう。

 クザンは親に似て残念な噂が流れる奴だと思った。

 

「グラッジは確か能力者だったよなぁ…面倒くせェな………」

 

 今回の事件の犯人は王下七武海の1人、悪魔の片腕 グラッジ。

 

 海兵殺しの犯人が政府が保護してる七武海の1人とは政府にとって面目丸潰れだろう。

 

「リィンちゃん、酔ってるとこ悪いけどその横の袋に入ってる錠を……あー……2つ、いや3つ出して持ってきてくんねェ?」

「………………はい……」

 

 酔ってる自分を動かすか、と思いながらも小舟の室内に入りゴソゴソと漁るリィン。その後ろ姿を見送ったクザンは二日前の会話を思い出した。

 

 

 

 

『奴にはリィンに対処してもらう』

『…っ!?お、おいおいマジかよ……無茶じゃ…』

『大将として力をつける為に実戦経験も必要だろう……。あくまでもクザン、おまえはフォローに尽くせ』

『いや、そりゃしますけど……』

『まぁそう嫌そうな顔をするな。どこからどこまでが今のリィンに出来るのかの実験も兼ねている』

 

 思い出される会話。実験とは言い得て妙だと思った。

 

『そして分かってると思うが、捕縛より抹殺を選べ。政府の駒である七武海が海兵殺しをしているなど知られれば面目丸潰れ、と言うわけだ。』

偉大なる航路(グランドライン)に海難事故は付き物ってか? はぁ…グラッジも可哀想な事に……』

『…………本当に可哀想と思ってる人間はそんな死んだ目をしてはおらん』

『あらら…』

 

 

 

 センゴクさんは一体何を考えているのか…、彼女は、まぁ自分もだが能力者。しかもまだまだ子供だ。

 ミズミズの実の能力者という能力者にとって厄介な人物のグラッジとは相性が悪過ぎる。

 

「(氷人間の俺なら何とか能力に引けを取らないけど……)」

 

 リィンの能力が何なのか不明であり、確実に把握している能力は風のみ。

 水に対抗できるのか不安だった。

 

「クザンさん…こちらで……よろし、きです?」

「ああ、ありがとさ……──」

 

 絶句。

 小首を傾けるリィンが持ってきた錠はほとんどが海楼石の錠。

 

「どうしましたですか?」

 

 つまり能力者は素手で触れないという事だった。なぜ触れるのかという疑問にクザンは面倒くさがりながらも把握しておかねばと危機感を抱く。

 

「……あー…、それサイズ合わせたいからリィンちゃんちょっと付けてくんねェ?」

「あ、ハイ…」

 

 リィンはクザンの言葉に何一つ疑う事無く左手に錠をはめた。

 

「私には一粒程大き────」 

 

──ガッ

 

「リィン…お前能力者じゃねェのか……っ!?」

 

 クザンは思わずリィンの手首を掴み詰め寄った。ガラン、と音を立てて残りの手錠が落ちる。

 

「……っ」

 

 リィンの言葉を聞くまでも無く、青白くなった表情が答えを物語っていた。

 能力者じゃ無い、と。

 

「マジか。一体何者なんだよ」

「……」

 

 まるで叱られた子犬の様に小さくなるリィンの横目に見ながらクザンは考えた。

 

「(クソ…こんなの上に見つかったら普通に人体実験の的だぞ…!?)」

 

 ただでさえ話は出ているのだ。『毒物及び劇物の抗体実験』という物が。

 

「私…は、悪魔の実ぞ、食した記憶は皆無です……。でも、何故(なにゆえ)か、おかしな力を使用可能……」

 

 ポツリと(こぼ)した言葉にクザンはため息で返事をした。

 

「しかしながら、私は思考…──思う、です。コレが発見されれば、悪目立ちし、身の危険が多くなる。世界政府にとって脅威(きょうい)。いくら海軍とは言えども、消される可能性も考慮(こうりょ)済みぞです……。故に、内密にしておりますです」

「……そりゃそうだろうな…、政府の奴らはそういう事に厳しいからな……」

 

 他人から同じ様な意見を聞き不安になったのだろう。リィンは苦虫を潰した様な顔に変わる。

 

「…………」

 

「一つ可能性を考えると…覇気だな」

「……?覇気?」

「知らねェか?…説明めんどくせェな……」

「いや、ご存知ぞ、です。使用は出来ませぬが………」

 

「ああ、それなら話は早ェ。アレって元々人間に潜在能力を引き出して使うんだけど、まあそれの1種なんじゃねェの?多分」

「命名、不思議色の覇気」

「…………。思ったけどリィンちゃんって思ったよりセンス無いよな」

「しょ、衝撃的な新事実!認めるなかれです!」

 

 相変わらずの不思議語をブツブツと愚痴に使う。

 あれ、絶対使いづらくねェか?

 そう思うが口に出さずに考えた。

 

「(上に報告すべきか…?せめてセンゴクさんくらいには…、まあいいや、面倒な事この上ない。多分そうなれば被害被るのはこっちも同じ、と)」

 

 どうせ自分は〝ダラけきった正義〟を掲げてるんだ。どうでもいいだろう。

 

「…! そういやリィンちゃんは何の正義を掲げてんだ?」

 

 ふと気になって1人百面相をしてる少女に声をかけた。話題を変えるためにも丁度いい。

 

 悪を敵とするサカズキの〝徹底的な正義〟

 比較的柔軟性があるボルサリーノの〝どっちつかずの正義〟

 そして自分の〝ダラけきった正義〟

 

「私の、正義?」

「うん…まあ無けりゃ良いけど」

 

「………………〝守り抜く正義〟」

 

 また随分3人の大将と違った正義を掲げているものだ。

 

「元より、海軍は海賊討伐より市民保護に重点を置く仕事と思考…思うです。忘れぬように、掲げるです」

「……!ヘェー…」

 

 クザンは納得した。確かにそれもそうだ。

 物事の本質を捉える事が出来るのも才能かねェ。この子は本当に海兵に向いた性格をしている。

 

「(ってのは建前で本当は、自分>(越えられない壁)>兄>>知り合い>市民>海賊>屑 の順番で守ると思ってるだけだけどね。自ら死地に向かってたまるか!)」

 

 彼女は気づかない。他者を犠牲にしてでも自分が生き残ろうと言う精神で 自分=屑の方程式が成り立っている事を。

 

「ま、リィンちゃんの力の事は言わないでいてあげるから安心しなさいよ」

 

「は、はい!………、……ゔ…ぎもぢわ…る……」

「え、ちょ、吐くなら外!海に吐いてよ!?」

「うぇえええ………」

 

 

「守り抜く正義、か……」

 

 クザンは独り言の様に呟いた。

 

「俺の昼寝のサボりは守ってくれねェってわけですか?」

 

 昼寝を邪魔される恨みを少し込めて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほら、あそこに奴らがいるよ…気を引き締めな、グラッジと対峙(たいじ)するのはリィンちゃんなんだからよ。頑張れ女狐ちゃん」

「……………、…え?」

 

 

 守り抜く正義、早くも崩壊の危機であった。

 

 

 

 




悪魔の片腕 グラッジ
濃い茶色の髪色に赤の釣り目 年齢は不明 決定的(リィンが見分けをつけれる)特徴は片腕。マジで。生えてこないかな。詳細は未来で。


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第41話 ハードルは越えるものでなくくぐるもの

 

「で、あの時の雑用ちゃんと青雉さんが…何の用でここに来た?」

 

 偉大なる航路(グランドライン)を小舟で渡るという不本意極まりない偉業(いぎょう)を成し遂げた私は王下七武海のグラッジさんと睨み合っていた。

 

「王下七武海、悪魔の片腕 グラッジ。海兵殺し、の、容疑によりて、七武海ぞ称号剥奪及び討伐に参りますです」

「…ヘェ、そこにいる青雉さんがァ?」

「否定、私が」

 

 やりたくないけど、とてつもなく。

 

 そう言えばグラッジさんは度肝を抜かれた表情をしてフリーズすると大声で笑い始めた。

 

「ギャッハッハッハ!おいおい嬢ちゃん…海賊舐めてんのか?」

 

 声を大にして言おう。

 私じゃなくて本部が絶対舐めてる!初めて(level1)の討伐が七武海(level99)ってそりゃ無いですよ!

 

「生憎、と、私ぞは、大将女狐……覚悟を済ませるが最良……」

 

 そう言うと周りの空気がピリッと変わった。

 

「テメェが……は、海軍も頭どうかしてる……お前みたいなガキに俺が負けたら海賊やめてやるよ」

 

 確かにどうかしてるよね。分かる。

 

「こちらは剥奪と討伐にこちらにぞ向かいしたぞ?………負けて海賊やめるは普通ぞり、言語不自由?私となる者より不自由?」

 

 とりあえず反論してみた。負ける=七武海剥奪と討伐→つまりは海賊やめないといけない事になるじゃないですか……。あ、バカの子なのかな…。

 

「………あ゛?」

「そして、青雉のクザンさんに勝利する自信を所持しておるぞか?」

 

 そして問題はこれだよ。私は弱いけど、少なくとも不正無しでのし上がった現役の大将に七武海が敵うのか?それなら四皇にでもなってろよ。

 

「……んっ、とにテメェは腹の立つ存在だなァ……!」

 

 そう言って我慢の限界とばかりに立ち上がる七武海。本気は出さないでくれると有難いです死んでしまいます。

 

「バーカバーカ」

 

 私の語彙力に限界が現れた。

 

 あーーー! 怖いよー! もうここから海に向かってダイブして泳いで逃げちゃおうかなっ…、ダメだ泳いで偉大なる航路渡るとか絶対死ぬ。そんなの出来る人なんか絶対いない。

 

 私がこの場から生き残る道は、

 1、討伐(七武海なんか怖くない!)

 2、説得(お願いクザンさん変わって)

 3、雲隠れ(死んだ事にして消えちゃおう)

 

 あれ……どの道も死亡確率高くね?

 

「よし、お前死んどけ」

 

 あ、この人逆上させやすい。

 

「……」

 私は選択肢1を選んだ。どうせ逃げたって海賊王のクルーの血筋って事で殺されちゃう確率しか無いんだからこうなったら「私使えますよだから権力下さいね」アピールするしかないじゃ無い!

 

 もうこの場にいる事で戦闘嫌々言うのはあまりにも勿体無い!

 

 本当なら事務処理的な能力で発言力手に入れてツテを作るつもりだったのに。くすん。

 

「食らえ…っ!〝水素爆弾(ハイドロボム)〟!」

 

──バキィンッ

──ドゴォォンッ!

 

「………………ウワァオ」

 

「ちょっとちょっとリィンちゃん…油断しないでくれよ…」

 

 水が爆発した。

 正直に言うと舐めてました。クザンさんが真正面に氷で壁を作ってくれなかったら体無事じゃ無かったと思う。

 

「周りは片付けといてあげるから集中しな」

「…………っ、……………はい……」

 

 周りだけじゃなくて七武海の方も片付けてくれるとすごーく助かるんですけど。

 

「なんで落胆してるのよ、何、雑魚も自分が片付けたかった? ちょっと流石にお兄さんにも仕事回してくれないと困るよ」

「…」

 

 いつも仕事サボって私が捕獲してるのを忘れてるのかこの人は。

 泣くぞ? 泣いていいか?

 

「もういっちょ、〝水素爆弾(ハイドロボム)〟!」

「空気ぞ読めぇええええ!!」

 

 全力で横に跳んで水の塊を避ける。

 

──ボゴォォンッ!

 

 チートだよ!能力なんてチートだ!ルフィみたいにボロボロの残念(ゴムゴム)能力だったら良いのに!

 

「チッ、ちょこまかと……」

「やーい!私の如く雑魚に当てられないとなると七武海ぞも名ばかりぞね!」

「……殺すっ」

 

 湾曲した刀の鞘を投げ捨てるとグラッジさんは飛ぶように跳躍した。

 

「ざーこざーこ!」

 

──ブォンッ!

 

 真横に斬撃が飛ぶ。

 

 え、斬撃って飛ぶもんなの?

 

 ちょっと、私をいじめてくる大剣豪さん。斬撃って飛ぶもんなの?

 

「………で、誰が雑魚だってェ…?」

 

 あ、判断ミスったかも。この人私の想像以上に実力者だ。そして前世の常識にとらわれすぎた。

 (あお)って冷静な判断力を失わさせる私のちんけな作戦がぁぁぁあ!

 

「〝水弾丸(ウォーターバレット)〟」

 

──スピュンッ

 

 スピード重視の攻撃なのか指先から凄まじい水圧の水が襲ってくる。

 

──ピュンッ ピュンッ ピュンッ!

 

 連続で。

 

「ほんばじょぉぉぉおお!」

 

 目で追えないから水に捕まらない様に全力で避けていく。もちろん、勘だ。

 

「チッ……〝水大砲(ウォーターキャノン)〟っ!」

「ぃ……よいしょお!」

 

──ドパァンッ

 

 グラッジさんが思わず目を見開いてこちらを見た。何とかいけた。

 

 ここで少し復習をしよう。

 私は水を操る事が出来る。

 

 だから

 

「弾いた……?」

 

「フンッ」

 

 ドヤ顔で見てやる。

 集中して飛んできた大きめの水の塊を四散させたのだ。

 

 やるだけやってみるもんだね。

 

「能力者か……厄介だなテメェ」

 

 ミズミズの実は確か自然系(ロギア)という厄介極まりない能力。

 体が水と同化する、という特徴がある。

 

「………っ!」

 

 操れるか?ミズミズの実の体を。

 

 

 ……。

 

 ……。

 

「だぁぁあ! 出来ぬぅう!」

「オラァ! 喰らいやがれ! 〝水素爆弾(ハイドロボム)〟!」

 

 集中してやってみるけど出来ない、とにかく回避行動に移った。

 すっごいどうでも良いけどなんで技名叫ぶんですかね。手の内バレるし何より恥ずかしく無いの?

 

「またちょこまかと……!」

 

 ミズを操れなかった…。でも水は操れる。

 

 違う所、と言えば能力者の身体の水か能力者が放った水か。

 人間などの有機物、と言うより生命体。それらは動かす事が不可能なのは変わりない。ならば〝ルフィ〟では無く〝ゴム〟として扱ってみれば動かせれるんじゃないかと思った事もあった。つい先程船に酔ってる時に。

 

 だが残念ながら結果としてグラッジさんの発生させた水は操れる事が出来なかった。グラッジさんが発生させ終わった水、なら操れる事が出来る。

 体についているかいないか、かな。

 

 何とも微妙な線引きだ。

 

 だがまぁとりあえず理由も分からずパニックになる事は無いだろう。判明するのが七武海との戦いで判明ってのも中々、いや、かなりハードだと思うけど…───って今戦闘の真っ最ちゅ…

 

「オラァァァ!〝水素爆弾(ハイドロボム)〟っ!」

「うぎゃうっ!」

 

 考え事をして油断してたら水の爆弾に当たり身体が数メートルほど吹き飛ぶ。

 

「ゲホッ、ゲホッ!」

 

「どうだ女狐…!能力者に水は効くだろぅ?」

 

 グラッジさんがニヤリと笑う。

 

 くそ、集中するの得意になってきたけど周りが見えないくらい集中するんじゃそれは完璧弱点じゃないか。

 

「そう、だ、ぞね」

 

 能力者に水が効くのは確かだ。海水同様の力を発揮するんだから。でも私には普通に爆発の威力の方に堪える。

 

「っ、」

 

 やばい足が痛い。むしろ打撲後が痛い。

 歩けない事も走れない事もないけど痛むな。

 

「…次だァ!喰らいやがれ!〝水弾(ウォーター…)──」

「させるかァァ!」

 

──ボンッ ボンッ!

 

 足元の方に爆発を生み出して攻撃を阻止する。何の工夫もしてない小規模な爆発ならすぐに使える。

 

「チッ……爆発系の能…──って、なんで空飛べんだよ!」

 

 足代わりに箒に乗り上空を飛ぶと後ろに回った。

 

「行けぇっ!」

 

 箒から降りてそのままぶん投げる。

 

「なっ!」

 

 思い込みだよ思い込み、私は出来る。出来るのが当たり前、大丈夫私はきっと出来る、いや絶対出来る!

 

「っりゃあ!」

 

 箒に続いて走ると拳を握りしめ鳩尾に向かって殴りかかった。

 

「ぐっ…!───テメェ、武装色を…!」

 

 殴れた。実体を捕えれた。

 

 やったァ…。

 

「だがな…テメェの拳なんざ障害でも何でもねェんだよォォォォオ!」

 

──ボコッ!

 

「…っが、はっ!………っ」

 

 腹、腹痛っ、めちゃくちゃ本気で殴られまた吹き飛ばされた。武装色、で出来る黒い色は付いてなかったから覇気は使えないのかもしれないけど普通にめちゃくちゃ痛い。

 

 幼児虐待だよ…戦えない子供を戦える大人と対峙させる方針がもう分かんないよ…。うっかり政府に喧嘩売りそうで怖い。

 

「い……っつぅ……」

 

 現実逃避してもどうしようも無い。

 経験の差が、実力の差が激しい。

 

「っ!とりゃぁあ!」

 

 鬼徹を取り出し武装色を纏った。思い込み、思い込み。

 

───ブンッ

 

 実体を捉えた──ことは無かった。武装色が途切れてしまったんだ。

 

「は、雑魚は黙ってろ!」

「しまっ…!」

 

 振りかぶられたサーベルに絶望を感じたその時。

 

 

 

「お片付け完了」

 

 希望の声が聞こえた。

 

「そんで、リィンちゃん。これからどうすんのよ?」

「チッ、青雉……」

「因みに、俺は手伝わねェからな」

「……え…………」

 

 待って、今なんて?

 

「いいか、捕縛じゃ無い。そして俺たちは小舟でここにやって来た、牢屋が無い。────意味、分かるか?」

 

 つまり、殺す。

 

「…………」

 

 死という言葉が重みとして乗っかってくる。グラッジさんに親兄弟は?愛する人は?恩人は?師匠は?弟子は?

 そんな事考えると殺すだなんて到底出来っこない。

 

 

 

 この世界、ハードルは高いけど命の価値は低いんですか?

 

「殺されてたまるかよォ!〝水の剣(ウォーターソード)〟!

 テメェらも俺が殺した海兵みたいにしてやろうじゃねェか!」

 

 普通のサーベルだったのに水が高速で回転するようにまとわりつく。あれ、当たったら痛いどころじゃすまないよね。

 殺したくない。自己防衛か…罪悪感に押し潰されるのが嫌なのか。

 

 

 そうだ、分かった。私は自分が大事、自分の手を汚すのが嫌なんだ。

 

「………リィンちゃぁーん?聞こえてる?マズイよー…?」

 

 だから人に対して力を使えないんだ。ほんの些細な事でも人は死ぬって事を前から理解していたから。

 本能的に、少しの攻撃でも与えれなかった。いや、与えなかったんだ。

 

「テメェらまとめて死ね!」

陥没(かんぼつ)致せ……」

 

──ボコッ

 

 グラッジさんの真下の地面に穴が開き、思わぬ攻撃に抵抗する間も無く落ちた。

 

「なっ、うわっ!」

 

 殺したくない手を汚したくない。

 

 でも

 

「死にたくは無き」

 

 やっぱり自分が1番だから。

 

──ドバッ

 

 水が空気中から発生してグラッジさんが(はま)った穴に注がれる。

 

「能力者に水は効く……ぞりん?」

「テ、テメェ…………っ!」

 

 自分が生み出してない水は操れない、というのは悪魔の実大百科で確認している。

 

「グラッジさん、お疲れ様ですた」

 

 鬼徹くんを取り出す。

 

「腹立つんだよォ…テメェも…、()()もォォッ!」

 

 そしてそれをそのまま大きく掲げ振り下ろし─────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私の記憶はそこで途切れた。




えー、叶夢さん(リィンの母親)の事ですが、細かく突っ込まれるとネタバレが激しいのでご勘弁。

また、ネタバレになりますが叶夢さん達ロックス世代、というかロジャーかいぞの話も書く予定なので設定が地味に色々激しい理由も分かるはず、です。いつになるか分かりませんけど……。


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第42話 正義と悪が行方不明

 

 七武海とは何割かの収穫を政府に納める代わりに海賊からの略奪を許された公認の海賊だ。

 彼等は政府と協力体制にあるものも、定期招集に応じないメンバーが多い。むしろ来る者の方が珍しいもので正直3人来ただけでも奇跡に等しい。

 

 

「本当に七武海はどうなっておるんじゃ……」

「テメェも物好きだな…海峡のジンベエ」

「そういうお前さんこそどうなんじゃ。クロコダイル」

「ハッ、違いねェな」

 

 七武海の縄張りの把握を目的とした定期招集に応じたのは今回も砂人間サー・クロコダイルと新しく七武海入りをした海峡のジンベエの2人だった。

 

「それにしても悪魔の片腕グラッジが海難事故、か。どーせ政府が揉み消したんだろうよ」

「否定しかねるのォ…」

 

 ジンベエが賛同すると気分を良くしたのかクロコダイルが薄ら笑いを浮かべた。

 

──コンコン

 

「お、お邪魔ぞ致するぞです」

 

 扉を開け、お茶を持ってきたのは見慣れた雑用──リィンだ。

 

「おお、リィン。1杯お代わり頼めるか?」

「よォリィン、どうだ?海賊になる決心はついたか?」

「お前さんはまだ言いよるか……」

「ジンさんどーぞです。クロノダイルさんは滅べ」

「ク ロ コ ダ イ ル 、だ」

 

 やる事を早々に終わらせた七武海の2人はこの少女との会話を楽しんでいた。

 最近は余った時間等を雑談として利用している。まあ対立して険悪な状態になるよりは幾分かマシだろう。

 

「そうだ雑用お前知ってるか?」

 

 クロコダイルがお茶を受け取ると同時に話し始めるとリィンは首を傾げた。

 

「何事ぞ?」

「──グラッジが死んだのは知ってるか?」

 

「……!」

 

 リィンの顔が一瞬にして変わった事を見て確信した。何かを知っていると。

 

 クロコダイルはエゴイストかつ現実主義者の策略家であった。故に、周囲の変化等に敏感だ。

 

「…………成程な」

 

 クロコダイルは答え合わせをするように口を開いた。

 

「お前の知ってる奴が殺したのか」

 

 抹殺の線が強くなった。

 

「く、クロキダイルさん葉巻とは美味(びみ)?」

「おい、露骨に話を変えるな、そういうのは連想ゲームみてェに微妙に変えていくモンだろうが」

「ふむふむ、具体的にどのように?」

「ん?あー…例には出せねェな、その会話の流れにもよるからなァ…」

「無理矢理強制的に変更は可能?」

「弱点を突けば可能だろうな」

 

「成程、納得。この様に会話の内容ぞ変更するのか」

 

 あ、と気付けばリィンは窓。

 

「ぐへへへへ!ジジとクザンさんのお陰様で脱出経路等は把握済みぞ!アデューお2人様!」

 

 何処からか取り出した箒を片手に飛び出そうとした時。

 

「50点。逃走するなら変な言葉使ってねェでさっさと逃げるべきだったな」

 

 砂人間となったクロコダイルがきちんとリィンの腰を掴んでいた。

 

「うぎゃあ!化物!」

「テメェもその化物と同類になれる実を食ってんだろうが。ほら、知ってる事さっさと吐け」

「わ、私ぞ雑用たる任務が存在する為故に!おさらばごめん!」

「さっさと吐けばいい事だろうがよ」

 

 ズルズルと引きずられながらクロコダイルの膝の間に座らされる。

 万全な警備だなこんちくしょう。

 

 リィンがそう怨みに染まっているとジンベエは呆れた表情を見せた。

 

「親猫と子猫ではあるまいし……」

 

 ただじゃれてるとしか思えなかった。

 

「で、どうなんだ?何を知ってるんだ?一体誰が殺した?」

「黙秘」

「ミイラにするぞ?」

「そういえばクロノダイルさんの右手は水分吸収可能であった、怖っ」

「よく覚えてんな」

「知らぬより知るが最良…、クロイダイルさんは他に何の力が使用可──」

「──で?誰が殺した?」

 

 普段仏頂面をしてるクロコダイルが気持ち悪いくらい爽やかな笑顔になった所でリィンは察した。

 

「(限界か………)」

「リィン…?」

 

 観念したのかリィンは口を開いた。

 

 

「私、ぞ……」

「「……は?」」

 

 七武海の声が揃った。

 クロコダイルは驚愕(きょうがく)の表情を浮かべ、ジンベエは理解しきれないのか「何言ってんだコイツ」みたいな表情を浮かべている。

 

「嘘じゃねェだろうな」

「ま、誠…ぞ……」

 

 殺した数日は吐き気が酷く、食べた物を全て戻していた。

 更に数日経つと自分良く生き残ったな、と恐怖を覚えた。

 1週間も経つとあー助かったと安堵した。

 

 流石に殺すのは躊躇(ためら)われるし未だに怖い為人に向けて(魔法)を使う事は不可能だがトラウマになる事は無かった様だ。

 

「…………マジかよ」

 

 しかし最も危惧(きぐ)していた事が起こってしまった。手を下したのが自分だということがバレた。テンパっていた彼女には白状する以外の選択肢が浮かばなかったのだ。アドリブに弱かった。

 

「…………上の命令か?」

「肯定」

 

 クロコダイルは馬鹿では無い。むしろ七武海の中で一番の聡明さを持っている。

 この会話でリィンが何かしらの力を持ち、それを任されたという事は察せられた。だがそれ以上に思う所があった。

 

「……政府は…海軍は一体何を考えてやがんだ…っ!」

「クロ、さん?」

「こいつは……まだ5の糞ガキだぞ…!?」

 

 純粋な怒り。

 

「…? 空気中の水分が減っておるな」

 

 ジンベエがふと気付き呟いた。

 水分を減らす、つまり水を吸収する事が出来るのはただ1人。

 

「クロさん…? 怒って…?」

「当たり前だろ。俺が七武海でなければ、俺の計画が無ければ……センゴクをぶち殺したいくらいにな…っ!」

「…っ」

 

 本物の殺気に当てられ、リィンはビクリと肩を震わせた。

 

「……まさかこんな子供にそんな重い業を背負わせるとは、な……」

「……………辛かっただろ」

「(あれーー、正義と悪ってなんだっけー……)」

 

 うっかり七武海の方に入ろうかなとか思ってしまったリィンだった。

 

 

「わしゃてっきりそういった事は裏で動くと噂される女狐がやると思っとったわい…」

「あァ確かにな…。流石にこのガキが女狐って訳じゃねェだろうし…お前女狐について何か知ってねェのか?」

「(しまったぁぁぁあ!(雑用)じゃなくて(大将)にしておけば良かったぁぁぁあ!私のアホー!!!)何事も」

「………………わかったよ」

 

 今更ながら痛恨過ぎる判断ミスをした。後悔したって時は戻らない。

 

  人はそれを後の祭りと言う。




七武海のこの2人は比較的常識人だと思っています。→(訂正)全然常識人じゃなかったんやで。


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第43話 類は友を呼ぶ?

 

「ちょ、待ってリィンちゃん。俺緊縛(きんばく)プレイはやられるよりやりたいと言うか…」

「知るか。クザンさん、ややこしい事申してなきて仕事をするしてろ!です」

「最近リィンちゃん厳しくない?ねェ、絶対俺に対して厳しいよね!?」

 

 騒ぐクザンさんに逃げられないように海楼石の塊が所々ある縄をぐるぐる巻いて拘束し、引きずりセンゴクさんの部屋に来た。

 

「お邪魔しますです」

 

 私ももう6歳。いや、常識的に考えてまだ6歳だけど。

 それなりに言葉も治していくことにした。油断すると不思議語が出てくるけど何でもあと2年のうちに治せと言われてしまった。何故だ。

 

「リィン来たか…っと、……………手土産まであるとはな」

逃亡兵(クザンさん)を捕獲するしたです」

 

 うん、微妙に間違えてる気がするけどノー問題!私は私だ!

 

「今回飛んで欲しい所があるんだ、が」

 

 区切られた言葉の続きを待つが苦々しい顔をして

 

「……少々……いや、かなり厄介な相手でな」

「………お断りの許可願い」

「却下」

 

 ですよね。

 

「七武海の海賊女帝ボア・ハンコックの所に行って最近の縄張りの増減確認をして来て欲しい…」

「それ、電伝虫では不可…でござりますか?」

 

 私の記憶が確かなら海賊女帝はいつもでんでん虫でやり取りをしてた筈。どうして今更になって私に言い渡す?

 

「それがな…向こうの指名なんだ」

「…………女狐に来い、と?」

 

 海賊女帝とは関わった記憶が全く無い。そして私がわざわざ呼び出される可能性はただ一つ、海軍大将女狐だ。

 

「いや。それが雑用に来いと言う事だ」

「…………………へ?」

 

 ちょっと予想外れすぎて頭痛くなってきた。

 なんで!? 雑用の私は七武海と言う組織自体にはなんの関係も無いはず! なぜ!?

 

「七武海の面々から聞いたリィンという少女。と、いう事だ」

 

 原因は他の七武海だったのかーー。

 ……誰だそんな厄介事を引き受けざるを得なくなった原因を作り出した奴は!

 

「何しろクロコダイルやジンベエのみならず鷹の目からの評判もあると…」

「次回、邂逅すれば、コロス………」

 

 お前らかァァ!

 何、七武海仲良いの!? そんな下らないお茶くみ係の名前のやり取りするくらい仲良いの?

 海軍本部の上層部の皆さん見習って欲しい切実に。特に赤と青。仏と英雄。

 

「女ヶ島 アマゾン・リリー。海図は必要無いだろうが永久指針(エターナルポース)は渡しておくからなるべくすぐ向かってくれ」

「すぐ?」

「めんどくさいんだ」

 

 七武海1人に振り回されて大丈夫なのか海軍本部、って思ったけど私も面倒臭いので反抗するのはやめておいた。

 私1人くらい政府は消せれるだろうしね! 自分で言ってて泣きたくなってきた!

 

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

 許可証を提示するとすんなり通してくれ、私はそこ人に付いて海賊女帝の元に案内されている。

 正直さっきまで5時間かけて飛んできたんだから休ませて欲しい。船だともうちょっと時間かかるけど私は単独で自由自在にスピードを調節出来る。ブンブン飛ばしてると目が乾燥してすっごい痛いからゴーグルを着けるようにしたけど。

 

 なんとこのゴーグル私のお友達であるヒナさんとスモさんに買ってもらったのだ!いや〜、いい友人を持ったね!ホントに、常識人が有難い……。

 

 

 ここは海賊女帝ボア・ハンコックが根城とする国、彼女はここで皇帝として君臨(くんりん)するらしい。歳は幾つだっけ、たしか20くらいだった筈。

 

「ついたぞ。ここに蛇姫様が居られる。決して失礼の無いように」

「はい」

 

 心の中で独り言をブツブツ言っているとどうにも蛇姫──海賊女帝が居るだろう部屋についた。

 案内してくれた戦士に無難に返事をしてノックするとゆっくり扉を開けた。

 

「失礼しますぞ…じゃなくて、失礼しますです」

「主、名は」

 

 ビリッと重みがかかるような空気を(まと)いこっちに視線を向けたのは黒髪のナイスボディの人。ああこの人が海賊女帝か。

 

 私に胸くれや。

 

「海軍本部雑用、リィンです」

「ほぉ…主があの鷹の目や砂男を(とりこ)にしたと言う………」

 

 いや、して無いです。どちらかと言うといじめられてます。

 

「わらわは九蛇海賊団船長であり、このアマゾン・リリーの皇帝 ボア・ハンコックじゃ……ではリィンとやら。ひとまず…───わらわの為に死んではくれぬか?」

「……………は?」

「〝メロメロ甘風(メロウ)〟」

 

 手をハートの形にしてビームの様な何かを放ってきた。

 

「うわぁっ!………あれ?」

 

 当たった筈なのになんとも無い?一体なんの攻撃なの?

 

「そんな…姉様の攻撃が効かない!?そんな、そんな人間初めて見たわ!」

「どういう事!? あの子人間じゃないの!?」

 

 なんかよく分からんが人間じゃないとは失礼極まりないぞこの野郎!野郎じゃなかったけど。

 あと出会い頭に死んでくれとは一体キミの常識はどこに捨ててきたの?凪の帯(カームベルト)で海王類の餌にでもしたのかな?

 

「な、なぜじゃ…わらわに魅了されないとでも言うのか!? ……おのれ、おのれ雑用め……っ!」

「魅了?」

「この世の全ての人間はわらわに魅了される……なのになぜじゃ、全く意味が分からぬ」

「ね、姉様! 多分きっとこいつは死の恐怖の方が打ち勝ってるのよ! だから効かないんだわ!」

「そ、そうじゃな…わらわに魅了されぬなど……」

 

 

「意味が分からぬのはこちらぞだが、私は魅了ぞするしてるされてないぞ?」

 

 人が黙って聞いてれば私が人間じゃないとか。

 魅了されないとか。

 

 自己中か。

 

「悪魔の実? 私は何故殺すぞ申されねばならぬぞ!」

「気に入らぬからじゃ。妾が気に入らぬものは何であろうと排除するのが世の理であろう」

「自己中の上更に自意識過剰で妄想癖!」

「な、なななななっ、なんじゃと!? 妾を愚弄するか!」

「第一、私は人の顔の判別ぞ効かぬ! そんな私に魅了されろなど……不可能に等しいぞりんちょ!」

 

 グッ、と握り拳を作りドヤ顔してみせれば可哀想な子を見る目をされた。

 

「その歳でわらわの美しさが分からぬとは…………その、すまぬ…」

「「姉様が謝った!?」」

 

 海賊女帝の隣にいる2人──多分妹──が驚愕の表情を浮かべた。

 おい、海賊女帝。お前今まで何してた。

 

「ええい!気に入らぬわ!さっさと妾の前から消えよ!」

「呼びつけておいて失せろとはいいご身分!」

「当たり前じゃ……何をしても妾は許される……───なぜなら妾は美しいから!」

「私は許さぬぅ!私の苦労ぞ返せバカ!」

「だ、誰がバカじゃ!」

 

 なんだこのワガママ感。ルフィかよ。

 私とは馬が合わないな、確信。

 

 私はこれ以上居たら殺される可能性を考えてゾッとなり、身を(ひるがえ)した。

 

「あ、……縄張りに変更は!」

「無いわ!」

「なれば結構!失礼しましたです!海賊女帝さん!」

 

──バタン

 

 重い扉がしまった。

 

「早く帰ろ」

 

 ベットでゴロゴロしたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ==========

 

 重い扉の中、ハンコックはぼそりと呟いた。

 

「……なんじゃあの小娘は」

「ね、姉様」

 

 焦りからか妹達はハンコックを持ち上げる発言を繰り返す。その言葉に見向きもせず、ハンコックは考え込んだ。

 

「(妾は、間違いなく普通以外の感情をあの小娘に抱いておる。必然と、それが当然であると言わんばかりに。本能で、求めておる)」

 

 まるで覇気により威圧される者の様に。だが覇気による威圧は無かった。

 

「理由が分かれば良いのだが」

 

 その謎を解くまでしつこく絡んでみるのも暇つぶしには丁度いいだろうと、リィンが後に苦労をしまくることを決めた。




ハンコックツンデレ説。(ただし対リィンがツンで対ルフィがデレ)
海軍編=親の七光りを利用してツテを作り出す編


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第44話 人生は不安定で後悔

 

 女ヶ島からの帰途(きと)、硬っ苦しい海軍の制服を脱いでダラダラと飛んでいた。

 

「あー……疲れたぞ」

 

 口調も、態度も、何もかも。

 今更考えると七武海相手に何やってんだか。もう関わりたくない。まあ今後の課題だな…感情的になりやすいのは。

 

 しかしあの海賊女帝、自分勝手過ぎやしないか…。なぜ私が殺されなければならない……。でも七武海招集にも応じない不良七武海だから本部で遭うことは無いだろう、こっちからも関わりたくないし。

 

 とりあえずマリンフォードまでなんの苦労も無く辿り着く事が出来れば上等。

 

 

 

 

 

 

 

 そして私は忘れていた。

 

 私の災厄吸収能力と、ここが偉大なる航路だという事を。

 

──ゴォオオオ!

 

 空を飛んでても関係なしのこの気候(巨大トルネード)を。

 

 

 

 誰だったかな、数キロも飛ばすことが出来るトルネードが稀に起こるって教えてくれたのは…………。

 打ち付ける風に思わず意識を手放した。

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

 夢を見ていた。

 

 楽しそうな夢を。

 

 

 私は居なくて、知らない人が沢山。

 大海原に麦わら帽子が映える。

 

 あァ、海賊になったんだね。

 

 夢だったもんね。

 

 

 

 私もそこに混じっちゃダメかな?

 

 

 

 

 ==========

 

 

「……い、おい…大丈──……──よ…起きろ…おいっ!」

 

 うっるさいなァ…私の眠りを妨げる奴には容赦しないぞ…あともう五分。海賊女帝と会う為に往復で乗った箒のお陰で疲れてるんだから……ただ行きならまだしも帰りに巨大トルネードに会──

 

 巨大トルネード?

 

 うっすら目を開けると誰かがそれに気付いたのか声をかけた。

 

「…! おいお前大丈夫かよい! 意識はハッキリしてるか!? 名前は言えるかよい!」

「………………ぱいなっぷる…」

 

「誰がパイナップルだ糞ガキ」

 

 ぶにっ、と頬を(ひね)られる。

 

「いだだだだだだ! 放す! 放すが最良!」

「んよし、こんだけ元気なら大丈夫だろうよい」

 

 頬を捻っていた手を離して頭を撫でてくれる。

 あ、パイナップルじゃなくて人間だった。

 

「マルコー!手を出してないよねー?」

「サッチじゃあるめェし誰がするかよい」

「酷っ!それ俺の事絶対侮辱してるよな!?」

 

 あー、状況把握出来てきた。女ヶ島からの帰りに巨大トルネードに遭って意識失って、それでここの人に助けられた、と。人間色々と限界を迎えると意識飛ぶんだな………現実逃避?

 

 

「この度は助けるぞして頂きありがとうござりました、です。私ぞ名はリィンと申しますです……」

「ん。偉い偉い」

 

 挨拶にお褒めの言葉を頂いたので嬉しく思いながら

 

「あの、失礼ながら、こちらは何処にぞ…………」

「不思議な喋り方するなァ。リィンちゃん、ご飯食べる?」

「サッチは黙ってろ…っよい!」

「ぐはっ!」

 

 パイナップル頭の人がリーゼントの男の人に肘打ちを食らわした。おお、凄い。

 

「どうして遭難したか覚えてるか?」

 

 着物を着た女の人が目線を合わせて聞いてきた。

 

「んと、巨大トルネードに遭って、飛ばされましたぞ……」

「よく生きてたな…」

 

 パイナップルが…──パイナップル頭の人が感心半分同情半分と言った感じに発言した。いや、ほんとに、全く、悪運強いね、私。

 

「帰り道…分かんねェよな…。どこの島だ?」

 

 え、まさかとは思うけど送ってくれると言うんですか?え、見ず知らずの私を?

 何だ凄いいい人じゃないか。

 

永久指針(エターナルポース)ぞ持ちてるぞ…」

「どこに?」

「アイテ──────」

 

 まて、アイテムボックスの事を気軽に喋ってもいいのか?いや良くない。よく分からん内に手の内晒すのは怖い。

 

「─ポケット」

 

「あいて、なんちゃらってのが気になるけど……ほら、渡しな。オヤジに許可もらってくるよい……──あ、やっぱり病み上がりで悪いが付いてきてくれよい、オヤジに会ってくれ」

 

 ポケットでアイテムボックスを開きながらマリンフォードへの永久指針を取り出しそのままパイナップル頭の人に渡した。

 

「あ、俺も付いて行く〜」

「じゃあ僕も〜、イゾウもね〜」

「は?……いいのかマルコ」

 

「しょうがねェな…勝手に付い…──え」

 

 会話をしながら永久指針(エターナルポース)を見たパイナップル頭の人が動きを止めた。

 

「マリンフォード…………?」

 

「「「前半の海ィィ!?」」」

 

 パイナップル頭の人が一言呟けばこの場にいる残りの3人が驚きの声をあげた。

 

「ま、まままま、待つぞしてくださいです。ここ、どちらで…そしてどこでござりますですか?」

「………偉大なる航路(グランドライン)後半の海、ここは──白ひげの船だよい」

 

 

 

 神は私を見捨てた。

 なんでこんな居るだけで胃の壁をすり減らす様な船に拾われる。

 

 制服着てなくて本当によかったけど…本当にどうしよう。

 知ってるよ、白ひげって四皇だよね。後半の海を支配する4つの海賊団のことを四皇って言うんだよね。海賊王と渡り歩いた最強の海賊なんだよね。

 

「マジカヨ……」

 

 その一言しか出てこなかった。

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

「グラララ…マリンフォードに連れて行きてェ、か」

 

 私の目の前には大男、白ひげエドワード・ニューゲート。

 

「場所が場所だが俺が拾っちまったんだよい…責任もって届けてェ」

 

 横にはパイナップル頭の人もとい1番隊隊長マルコさん。そして後方に他の隊長が数名。

 

 これ、正体バレたらガチで死ぬよね。

 

「あの、無理無謀であれば1人で……」

「この海舐めてるのかよい!ガキは黙ってろ!」

 

 なんで怒られた。解せぬぞ。

 私クザンさんと共に小舟で航海した経験あるぞ?……まぁゲロ酔いだったしヒエヒエの実っていう便利なものがあったけど。

 

「第一さぁ、どうやって巨大トルネードに遭うんだよ…。何、船に乗ってたりしたの?」

「ハルタ、ちょっと黙ってろ……」

 

 カエルの王子様を模した様な人を抑える着物の女の人。彼らも隊長だったのか。

 

 泣いていい?逃げられないじゃないか。

 

「あの、箒さえあれば…」

「だからガキは黙ってろい!…っ、あ、すまねェ…ビビらしちまったよな…」

 

 え、なにこの人凄い良い人(本日2回目)

 

 うわー、海賊に裏切りそうー!やだもー!七武海と直接対決させる様な鬼畜&キチガイ海軍より絶対海賊の方がいいー!

 

「まァ…近くまでなら送れるだろうよ…グララララ…。そこからはテメェの仕事だ、マルコ」

「あいよオヤジ」

 

 〝父親〟と〝息子〟っていう立場は白ひげ海賊団の中では常識。そして何より私がここにいて私は海軍で、何が言いたいかと言うと素晴らしく胃が痛い……。

 

「ところで娘っ子、オメェ名前は」

「リ、リィンとぞ申すぞです……」

「リィンか。いい名前だな」

 

 

「じゃあよ、オヤジィ!宴か!?」

「おォ、開いてやんなァ」

 

「いよっしゃぁぁあ!腕によりをかけて作ってやんぜ!リィンちゃん好きな食べ物は!?」

「あ、甘い物……」

「任せろ!」

 

 えーと、リーゼントの人名前なんて言うんだっけ…、あ、サッチさんだったな。

 サッチさんが慌てて外に出てバタバタしだした。

 

「リィン、ほら、甲板まで連れてってやるよい」

 

 片手を出してくれるマルコさん。うわ、優しさで涙が止まらない。

 

「その…怖がらせたみてェでホントに悪かったよい……」

「気にすると老けるぞ、です」

「助けるんじゃなかったよい」

「ごめんなさいでしたよい」

「真似するンじゃねェよい」

「よーい!」

「返事みたいに使うンじゃねェ!」

 

 

 

 そしてそこからの白ひげ海賊団の皆の行動は早かった。私に1回り絡んだ後急いで宴の準備を始めるんだから。

 海賊の宴に対する執念怖ェ。

 

 

 

 

 

「あ、えっと…マ、ルコさん」

「ん?どうした?」

「電伝虫ぞ貸し出し願い……」

「電伝虫? 貸して欲しいのか? 待ってろよい」

 

 1日や2日で帰れそうも無いからセンゴクさんに連絡入れておかなければ。アイテムボックスには入ってるけど今出すと怪しすぎる。

 

「ほら」

「ありがとうござりましたです」

 

 私の不思議語に苦笑いを浮かべれば送り出してくれた。

 ちょっと席を離れて電話をかける。

 

──ぷるぷるぷるぷる……ガチャ

 

『もしもし』

「あ、セ…───────パパ」

『パパァ!?』

「リィンだぞりんちょ」

『うん、そんな不思議語喋るのお前しか居らん』

「お使いの最中に巨大トルネードに遭遇、のち拾われた故に戻るのにしばらく時間ぞかかりそうです」

『は!?巨大トルネード!?なんでそんなレア物に引っかかる!?どこまで飛ばされた!』

「んぁー……後半の海?」

『は!?』

「とにかくぞ、大丈夫です!」

『まさか海賊に拾われた等と──』

「──以上生存報告ですた!」

 

──ガチャ

 

 これ、どっちにバレても私やばくないですか?

 

 いざとなったら海軍おさらばして七武海ところに逃げ込もう。うんそうしよう。

 

 

 

 

 

 なんで私浮気した夫の気分になってるのかな……災厄なんてくそくらえ。

 

 

 

「リィンちゃーん!呑んでるかー!」

「まだ子供(ゆえ)に呑むぞ禁止ー!」

 

 そして思ってたより海賊がいい人多すぎて泣きそう。

 

 

「サッチさーん!そちらの手にある物は如何なものぞー!?」

「ふっふっふっ、聞いて驚け……チョコケーキ」

「いや、サッチお前そんな驚く事じゃ…」

「私はサッチさんぞ大好きー!」

 

 美味しい物くれる人はいい人です。

 

 今なら美味しい物くれる人について行っちゃうぞ〜!いかのおすしは「()くぜ!()()()菓子は()っごい素敵なので()んでも食べたい!」の略だからな!(※テンション上がってます)

 

 

 早速手に入った甘い物を口に頬張る。あ、これすっごい美味い……、何これ美味い。今までで一番美味い。

 

「こ、これサッチさんが?」

「おうよ!」

 

「私切実にサッチさんお嫁に欲するぞ…………」

 

 いや、これマジで美味しいです。

 

 一応給料もそれなりに貰ってるし貰えなくなっても不思議色あるから何とか養えるし……。

 

 ねェお嫁さんに来ませんか?

 

「ギャハハッ!良かったなサッチ!初めてモテたんじゃねェのか?」

「やめろそれを言うな悲しくなる!」

「リィン…正気に戻れ」

 

「あ、マルコさん虫さんありがとうござりましたです」

「どーいたしましてよい」

 

 サッチさん達と騒いでいるとマルコさんがやって来た。

 私の横に居た電伝虫を手渡せばマルコさんは私の頭を撫でる。私の頭無でるのそんなに好きか。

 

「そうだリィン、空中散歩してみるか?」

「くーちゅーさんぽ。空。あ、箒!私の箒はどこぞ!?」

 

 思い出した、アレがないと私は飛べない。

 いや、他のでも飛べなくは無いけど飛ぶっていうイメージがあの箒にぴったりでそれ以外だと上手く操作出来ない…。あの箒は出会った時から〝空を飛べる箒〟だから、ただの〝掃除の為の箒〟じゃない。全く別物だよ。

 

「箒?あ、ジョズー!海で箒拾わなかったかよい!」

「ん?あァ…でもあれ真っ二つだぞ?」

「!?」

 

 真っ二つ!?え、私の可愛いエリザベス(箒)が真っ二つ!?

 

 比較的大きな体格の男の人が持ってきたのは確実に私の箒だった。

 

「あァ……私の箒……………」

 

 どうしよう。色んな街巡って箒を手に入れるか?いや、でもそこに行くまでどうする?私は風が使える能力として認識されてるから一々箒が必要だとセンゴクさん達に言えるわけも無い…。そうなるとクザンさんに放浪途中に頼むか?いやいやあの人の脱走は今私が阻止してるんだ。 ど、どうしよう。

 

 

 私が落胆しているとマルコさんが横脇から手を突っ込んで持ち上げた。

 

「ひょわっ!」

「──飛ぶよい」

 

 飛ぶ?私考えてた事口に出てうわっ!

 

「と、とととと鳥、青き鳥!」

 

 マルコさんが鳥に変わった。

 蒼い炎を(まと)った翼、黄色い尾。触れてるのに不思議と熱くない。攻撃に転じる炎じゃなくて癒しの、綺麗な復活の炎。

 

「驚いたかよい。悪魔の実──」

「──動物(ゾオン)幻獣種(げんじゅうしゅ) トリトリの実モデル不死鳥!?」

「……! 知ってたのかよい」

 

 そのまま飛び跳ねる様に高く舞い上がるとぐるっと空中を旋回し始めた。

 

「ご、ご存知。悪魔の実の特徴は主に、頭に詰め込むぞ致したです」

 

 自分の力の代わりになりそうな能力を調べていた時覚えたんだけど。

 

「マ、マルコさんマルコさん!高、高い、たかたかたかたかたかー!!」

「分かったから落ち着けよい……」

 

 マルコさんが少し高度を下げようと周りを見る。私も釣られて周りを見るとふと遠目に船が見えた。

 

 あ の 旗 は マ ズ イ 。

 

「……………マルコさん」

「ん?」

「船にぞ急ぎ戻る!早く!」

「え、ちょ、どうし…」

「お先に失礼!」

 

 マルコさんの背から飛び降り船に標準を合わせた。

 

 正確にはサッチさんに向かって、だけど。

 

──ドゴンッ!

 

「うぎゃ!」

「どわっ!」

 

 自分の服を浮かせれるかな、と思ったけどなかなか難しいね。

 

「ちょ、リィンちゃん一体……」

「白ひげさん!」

 

 マズイ、

 

 私は知っている。

 四皇の衝突が戦争と呼ばれるほど大変な事に。

 私は知っている。

 あやつが四皇だと言うことに。

 私は知った。

 

「赤髪ぞ現れたぞ!」

 

 あの人は四皇でシャンクスだという事に。

 

「「「「「!?!?」」」」」

 

 丁度降りてきたマルコさんが白ひげさんに向かって頷く。多分本当だと言うことを伝えたんだろう。

 

「マルコさん!サッチさん!匿って!」

「「は?」」

 

 厄介事は無いに越した事は無い。もしも私が此処に居ることがバレて立場が芋づる式でバレる確率はある。

 素っ頓狂な声を上げた2人を無視して私は背中に隠れ潜んだ。

 

 

 

 

 

 私は必死できちんと頭が回ってなかった。

 



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第45話 災厄は押し付けたいと心から思う

 

 ピリピリとした空気が肌に伝わる。

 

「覇王色に当てられて倒れんなよい…」

 

 ボソリとマルコさんが独り言の様に呟いた。

 

「っ!」

 

 バタバタと誰かが倒れる音。

 

「………何してくれてんだよい…」

 

 本当は突っかかりたいのか抑え気味の声で小さく呟いた、私がいる事を危惧(きぐ)しているんだろう。

 やっぱりマルコさん達良い人過ぎません?

 

「おっ。お前は一番隊隊長のマルコか!どうだ、俺の所来るか?」

「誰が行くかよい」

「冷てェなァ」

 顔は見えてないけどこの声間違いない。シャンクスさんだよ……。あァくそぅっ、災厄もここまでくればむしろ感謝したくなるよ。

 

「久しぶりだなァ白ひげさん。今日は酒を持ってきたんだ」

「鼻ったれがいっちょ前に覇王色全開で乗り込みやがって……」

「敵船につき、失礼」

 

 白ひげさんとシャンクスさんの会話を早く終われと念じながら時を待つ。

 

「───ところで」

「……」

「白ひげ海賊団はいつの間に俺の覇気にぶっ倒れないガキを乗せたんだ?」

 

 覇気って覇王色?ガキ、ガキってこの船に──────、私しか居ない…?

 

「っ!」

 

 見聞色か!なるほど凄まじい見聞色の使い手だったのね。

 く、女は度胸!他人として乗り切ってやる!

 

「見つけた」

「うぎゃお!」

 

 いきなり声をかけるのは禁止です。

 

「パ、パピー…このおじちゃん怖い……」

 

 サッチさんの腕にしがみついて睨みつける。頼むバレないでくれ。

 

「お前サッチだったよな……いつの間にガキを…」

「え、あ、いや、お──いでっ、……そーだよ。ちょっとミスっちまった」

 

「「「「……」」」」

 

 周りから冷たい目がサッチさんに注がれる。ごめん。

 

「お嬢さん…名前はなんて言うんだ?」

「おい赤髪…ウチの所のガキに手ェ出すんじゃねェよい」

 マルコさんがサッと壁になってくれる。

 

「マルコ…まさか少女趣味(ロリコン)が」

「ンなわけあるかよい!」

 

「おいリ…──」

 

──ドゴッ

 

 名前を呟きかけたサッチさんの横腹を肘打ちの刑に処す。

 

「ん?お嬢さんの名前は〝リ〟なんて言うんだ?」

「リ、リアン……」

「そうかそうかリアンちゃんか」

 

 誤魔化せれた、のか?

 そう言ってシャンクスさんは私の頭を撫でようと手を伸ばし──そのまま頭を鷲掴(わしづか)みにした。

 

 ヤベェこれ絶対バレてる。

 

「確かにな、海賊の高みへと言ったさ、でもそれはあくまでもルフィに言ったつもりだ…。しかも大人になってからだとばかり思っていた。

 さて、どうして高みどころかこんな四皇の、大物の、白ひげ海賊団の船に乗っているんだ死霊使い!」

「だ、誰が死霊使いぞ!黒歴史を掘り起こすは禁止!…───いだだだだだだ頭、頭痛い!いだだだだだだ!」

 

 両手でグリグリと頭を締め付けられた。グーで。

 

「放すぞ!ハゲェェェ!」

「まだハゲてねェよ!」

 

「お、おい……お前ら何やってんだよい」

 

 横の方でマルコさんが呆然としている。見てないでたすけて。

 

「よォリィン!久しぶりだな!2年ぶりか!?」

「ヤソ、ヤソップさ、ヘルプ!シャンクスさんぞ止め、停止!」

 

 聞き慣れた声を聞いてヘルプを求めたけど笑って傍観体制に入りやがった。裏切り者め。

 

「マルマルマルマル…!」

「言いたい事は分かった。後で説明しろよいっ!」

 

 ゴンッと強い音がして頭の圧迫感から解放された。マルコさんがシャンクスさんの頭をぶっ叩いたんだ。いや、確かに助けて欲しかったけど一応彼アレでも四皇ですよ?まァ私には関係ないからいいけど。

 

「パピー!」

「お、おう。凄まじく複雑な気分」

 

 サッチさんを盾…もとい頼りに赤髪海賊団を警戒する。

 

「はい確保」

 

 しかし盾も後ろまでは防御出来なかった!ぐいっと首あたりの服を掴まれ視界が一気に高くなる。

 

「く、クマさん……」

 

 この低い声は聞き覚えしかない。顔で判別出来ないから声で判別してるだけだけど、この人は赤髪海賊団の副船長だ。

 

「だからその呼び方をやめろと…。元気だったか?」

「一応何度か死にかけましたぞりです」

 

「なんだお前らそのガキと知り合いか?」

 

 白ひげさんが不思議そうにこの光景を見る。いや、助けてくれませんかね。これ結構首締まるんです。

 私何度助けてって思ったかな。現実逃避したい。

 いや、現実逃避じゃなくてこの場から全力で逃げ出したい。

 

「東の海で2.3年くらい前に会ってな。そっちはどうしてコイツと?」

「さっきマルコが拾ってきた」

「よい……」

 

 するとシャンクスさんは私の方を睨みつける。

 

「なんで拾われる事になってんだ死霊使い」

 

 いつまでそのネタ引っ張るつもりだ老け顔。

 

「巨大トルネードに遭遇…」

「じゃあついでに聞こうか。何故トルネードに会う海に出た?」

 

 クマさんが背後から射撃を加えてきた。おい、私の味方はどこですか。

 マズイ、ジリ貧だ。ジリ貧だぞ。どうする、どうやって逃げる。

 

「お、お使い……」

「誰に何を頼まれてどこにどう行った船で?」

 

 船!?船になど乗れば酔うでは無いか!ってあれ?私ここに来て酔った?

 んー、船が大きいからか。確か大きいと揺れが少なかった筈。それのお陰かな。

 

「あ、えっと、保護者に頼まれ…会いたい人がいるらしく会いに…、にょ、女ヶ島まで……」

「「「「女ヶ島!?」」」」

 

「くそ!羨ましい!」

「なんで俺は男に生まれたんだ!」

「女ヶ島…!死んでも行きたい!」

 

 なんか凄まじい威力を発揮してるな。

 

「女ヶ島の、誰に?あァ、ちなみに嘘をついたら……すぐバレるぞ?」

 

 後ろからの威圧が凄い。あれ、クマさんって覇王色使えるっけ。

 

「海賊女帝…………」

 

「「「「「羨ましいぃいい!」」」」」

 

 海賊の心からの叫びと思われるものが鼓膜を破る勢いで発せられた。うるさい。

 

「海賊女帝って絶世の美女のだろ!?」

「そ、その様に感じる事は不可能でしたぞ…」

「行きたい行きたい行きたい行きたいオヤジッ行こう!」

「アホンダラがァ……」

 

 なんか、大変そうね。このまま逃げ出せれば。

 

「で、保護者は?」

「えーーーっと…んー……………さらば!」

 

 ビュンっとナイフで後ろのクマさんの顔目掛けて突き刺す。

 びっくりして力が緩んだ隙に腕から抜け出すとそのまま箒を掴──めなかった!折れてた!

 

「リィン逃げんなよ?久しぶりの友人だろう?」

 

 目の前で赤い髪がなびいた。

 そもそもこのキャラの濃い凄まじい面子から逃げ出そうとした私が馬鹿だったね。

 

「……うっ…………か、海軍元帥センゴクさんぞ…」

 

「「「「「はぁぁああ!?」」」」」

 

「ど、どういう事だリィン…フェ、フェヒターさんは」

「ジジに誘拐され入隊させられ殺されかけお使いして遭難したのが今現在の説明ぞ………」

 

 ごめんなさいジジ、ちょっと責任押し付けました。

 

「なんだ………じゃあお前さんは敵なのかよい」

 

 私が心の中で謝罪しているとマルコさんから鋭い視線が飛んでくる。フッ、その程度の睨みじゃ私はビビらないぜ。

 

「あ!そうだ!」

 

 ジジで思い出した。シャンクスさんの嘘を。

 

「シャンクス老け顔さん!おま、絶対戦神の事ご存知ろ!」

「げっ…」

「センゴクさん達よりお聞きしたぞ!シャンクスさん昔海賊王の見習いだったらしき!」

「いや、悪かったよ…カナエさんの事はなるべく漏らさない方がいいと思って」

 

 私が指さすと数歩下がった。

 

「………こんなガキに敵対心向けてた自分がちょっと恥ずかしいよい…」

 

 (すみ)で膝を抱えてるマルコさんの肩をヤソップさんが叩いた。

 

「アレはアホだから仕方ねェって」

「そこにぞなおれぇぇえ!!」

 

 ビシッと指をヤソップさんに向けなおすと退散した。失礼な奴だ。

 

「マルコさん…やはり私1人で帰還するぞ…。雑用であろうとも私はそちらから拝見したなら敵…、ごめんなさいじょ」

「言いてェ事はある程度分かるが、とりあえず俺が拾っちまったんだ。ガキが立場だとかそんな細かい事を気にするんじゃねェよい」

 

 立ち上がるとマルコさんは私の頭を撫でた。やだ、良い人すぎる。

 

「しかしながら…私は海軍で届けるのも敵地…」

「そんなモン変装してりゃ平気だろい。心配すんな」

「マルコさん好き…!優しき!」

「ありがとさん」

 

 おぉ!これが大人の余裕ってやつですか。スゲェカッコイイ、大人になったらこんなカッコイイ人になりたいものだ。

 

「あー…盛り上がってる所悪ィが俺達が連れていくさ…。一応そいつがちっこい頃からの付き合いだからきっと良いだろう」

「赤髪、それは俺達が信用ならねェって言いたいのかよい……」

「いや、そうじゃねェ、師匠の弟子を気にかけるのは兄弟子として当然だろ?」

 

 シャンクスさんが片眉を上げると視線が一気にこちらに向いた。え、怖っ。

 

 シャンクスさんの言う師匠というのは間違い無くフェヒ爺の事だ。私と同じ師を持たないと兄弟子なんて言葉は出てこない、そしてフェヒ爺が海賊王のクルー初期メンバーというふざけた立場の剣帝 カトラス・フェヒターだから。

 それを知った時は思わず倒れかけたけど。

 

「……アレの弟子なのか」

「はいぞり」

「適当だろ、あの人…。何度戦闘中に落胆した事か…………」

 

 思わず否定しかねてしまった。

 確かに教え方も適当だった。文面で説明するのは得意な癖に言葉で説明するのはもう別人かよ、と疑いたくなるくらい適当だった。

 懐かしいなぁー…正直剣や刀に関しては剣帝(フェヒ爺)より鷹の目(ミホさん)に指南する方がずっと分かりやすい。……その分傷跡が増えていくんだけどね!

 

「あの人を虐める事が趣味の如き鬼畜で変態のジジイが…──」

「フェヒターさんにチクるぞ」

「──と、ヤソップさんが申してありますた」

「おい」

 

 さり気なく罪を擦り付けたら冷静なツッコミが返ってきた。打てば響く人間は面白いですね。

 

「自然と責任を押し付けるなよリィン!」

 

 

「さて、マリンフォードだったか…」

「あ、赤髪。届けるんなら永久指針(エターナルポース)持って行きなよい」

「お、悪ィなパイン」

「……………………………あんたが四皇じゃなきゃ殺してた」

「おぉ、そりゃご苦労なこって」

 

 ぶわりとパインさん…マルコさんから殺気が溢れ出る。毛穴が、毛穴が肥大化する!鳥肌だぜ……!

 

 

「1人百面相してねェで行くぞ」

「あー…リィン、海兵でもまァいい。いつでも来い……歓迎するよい」

「マルコさんデレた!まさかのツンデレでござりますか!?」

 

「やっぱり来るなよい」

 

 冗談じゃないか。酷いなぁ。

 

 

 

 口には出せないけどこんな胃の壁をすり減らす様な船に2度と来たくないな。

 

「またねーリィンちゃーん!今度来たときはフルーツケーキ用意してあげるからなー!」

「……!?はい!」

 

 また来ようかと揺れ動いた。

 

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

「さてと…、行くかマリンフォード」

「……………酔いそう」

 

 小さく呟くとシャンクスさんがこっちを見た。なんだ。

 

「お前酔いやすいのか?」

「肯定…軍艦で酔いた」

 

「で、お前階級は?」

「雑用……」

「──じゃ、ねェ事くらい簡単に予想付くに決まってろ。どこだ?」

 

 なんで予想付く。まァ実際雑用じゃない事は当たってるからこの人の実力は図りきれないな。流石、四皇赤髪のシャンクス。海賊王の船に乗ってた見習いなだけある。知った時には開いた口が塞がらない状態が暫く続いたけど。

 

「……大将女狐」

 

 ドヤ顔をして見せればシャンクスさんは一瞬呆気に取られたがワシワシと頭を撫でて「上出来」と一言言った。

 

 むぅ、いつもと調子が違うとこっちも調子狂うぜ。

 

「へぇ、お前っていつの間にそんなに出世してんだ?」

「ヤソップさんには到底叶わぬスピード出世ぞ…」

「喧嘩売ってるのか」

「そんなまさか」

 

 相変わらずの反応に何故かホッとした。私が海に出て半年経つ頃には新聞には一気に縄張りを増量して四皇とまで呼ばれてる赤髪海賊団を見た時は正直ゾッとしたから。身近にいた人が遠い雲の上の人になったみたいで、あれ、実際そんなに変わってたか…え、変わってた?

 変わらないくらい阿呆だった。

 

「あ、そうだリィン。前半と後半の間に赤い土の大陸(レッドライン)があるのは知ってるよな?」

「ご存知…」

 

 やばいちょっと酔ってきた。まだ五分も経ってないのに……。

 

「なら上と下どっちがいい」

 

 上と下?なんだそれ。とりあえず気持ち悪いし上って嫌な予感しかしないので下で。

 

「し…た………」

「ん、なら魚人島だな」

 

 魚人島?まてまて凄い聞いた事あるぞ?

 ジンさんの出身地で魚人が沢山居る島だよね?………海底1万メートルに存在するって言う。

 

「シャボンコーティングしねェと……」

 

 まさかとは思うがシャボン玉をこれに包んでで海潜るの?潜水艦は?馬鹿なの?死ぬの?

 

 

 

 

 

 察した。

 こ い つ 私 を 殺 す 気 だ 、と。




活動報告欄のアンケート?よろしくお願いしまーす!

同票がトップだと無しになりますのでー!
追伸……クロコダイルとハンコック人気あってビックリ何ですけど……。


さて、四皇の船を降りまして別の四皇の船に乗った訳ですが…。実際此処はもっと違う展開でさっさとおさらばする予定だったんですよねー。はてさて、リィンは一体どうしましょう!
評価ありがとうございます!嬉しいです!


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第46話 どこへ行っても災厄

 

 

 

 

「し、死ぬかと……思えた……おえっ…」

「死ぬのはいいが頼むから俺のいないところで死ねよ」

 

 私の兄弟子(仮)が酷い。

 

「たかが魚人島への航海如きで騒ぎやがって……」

 

 いや、普通シャボン玉で潜ろうとは誰も考えませんから。普通の、一般的な、軍艦サイズの船だからこそ海獣達に狙われまくった。なんかおっさんみたいな顔した深海生物とか。

 

 

 私達はシャボンという物体に包まれた船で、指針も無い中海流を航海したりシャンクスさんが鬼徹で船ごと食べようとした深海生物ぶった斬ったり、酔いまくってゲロゲロ状態の私は食べられたくない死にたくない一心で水、つまり海流をコッソリ操って深海の島、魚人島ヘやって来た。

 

 

 一言言いたい言葉は疲れた。

 そして一目見た印象としては、ここなんてディズ○ー?

 

 未知の場所で人じゃない生物が訳の分からないシャボン玉に乗ってプカプカしてる。

 幻想的だよ、幻想的なんだが…ちょっと考えてくれよ。怖くない?

 ジンさん──七武海ジンベエ──本人なら知ってるから大丈夫だけど魚人や人魚特有の文化があったらどうするの?もしもその文化とか規則にひっかかって処刑って事になったらどうする………。

 

「リィン、どうする?少し此処に滞在して戻るか?」

「今すぐに去るが望み」

「よしブラブラするか」

 

 人の話を聞いてくれヤソップさんよ。

 

「箒いるんだろ?」

「神様!…あ、お代はそちらぞ?」

「おまっ、貰うもん貰ってんだろうが女狐さんよォー…」

「少なくともヤソップさんの如き海賊よりぞ定期的な安定した収入源は所持してる、ま、子供料金?1人前など頂けぬぞ」

 

 これは本当に。

 私はどうやらクザンさん達1人前の大人が貰える給料の半分も貰って無いらしい。

 確かに海賊討伐には出させてもらえないし(雑用だから)

 大将としての仕事と言えばほとんどが私の名前をツラツラ書いていくだけの仕事ばっかりだし(確認は他の人がしてくれる)

 時折今回みたいに遠征行く時特別手当が付いたりするけど割に合わないし(理不尽)

 

 子供って利点も欠点もあるね。

 

 利点の例としては「子供だから」「ガキだから」という理由で失敗を許されたり甘い目で見られたりする事、だな。私はそういった判断に甘さを加えてくれる人大好きです。

 欠点としては「子供だから」「ガキだから」と意見が通用しなかったり1人前として扱われなかったり。でも欠点は全然カバー出来る範囲だ。

 

 

 まァ今現在子供なんだからあーだこーだ言っても仕方ないってのもあるけどね。

 

「リーィーンー!ほら、この箒どうだ?」

「無理…飛べぬぞ……」

「…? そう言えばなんで箒にこだわるんだ?掃除用の箒じゃダメなのか?」

 

「飛行用の箒を所望するぞ……」

 

 ヤソップさんの質問に答えれば彼は更に首を捻り「絵本に出てくる魔女みたいにか?」と呟いた。

 

「そうぞ…、私はイメージしやすい箒が必要……」

「そっかそっか、ほんとにお前の能力はなんだろうな」

「……不明ぞぉ……」

 

 はぁ、とため息を吐くようにつぶやけばシャンクスさんもヤソップさんも箒探しを再開した。

 

 ごめん、ホントは能力なんてありません。

 いやー、ほんとにこの力は何とかしたいものだよ。小規模な爆発とか無機物、つまり箒を操作しての飛行とかは慣れたものだけど他に慣れてないものはかなりの集中力が必要になってくる。

 ミホさん相手に爆発は使えないから風を使って牽制(けんせい)しようと思ったんだけど…その隙にミホさんが跳んできて1本切り傷付けられる、みたいに。寸止めじゃ無い所もまた彼の鬼畜さと非常識さが伺えるよね!

 

 

 閑話休題(それはさておき)

 

 

「ほ、う、きー!私のほ、う、きー!」

 

 疲れたからシャンクスさんの背中に捕まり高い所を物色していく。

 

「どうだ?見つかりそうかー?」

「ふーむ…やはり前に使用して居た箒が1番利用しやすき……。しっくりくるのが居らぬぞ……」

 

 毛を思いっきり掴んでバランスを取りながら視線をあちらこちらへと移す。はー…見つかんないなァしっくり来るの。

 

「いででででで、はげる禿げるからリィン!いででで、お前、なんの怨みがある!」

 

 いっぱい。

 

「アーーバランスガー」

「いだだだだだだ!ブチッて、ブチッて言ったから!なァリィンちゃん!?」

 

「私どうやら一気に歳を取った模様…」

 

 はて、聞こえないな、とばかりに片耳に手を当てると何処かから女の人の大声が聞こえた。

 

「何事?」

 

 

 

 ==========

 

 

 

「へ〜、地上への移住の為の署名活動か…」

 

 シャンクスさんがふと呟く。

 視線の先には黄色い髪の人魚が大きな箱の後ろに立って色々呼びかけて 、住民は何かしら一言声をかけると離れていく。

 

「オトヒメ様もやるな…」

「オ、トヒメさま?」

「この国の王妃さん」

「…!?」

 

「頭、クルーを全員連れて来たぞ。それでどうしたんだ」

「ん?いや、ちょっとあの署名に協力してくんねェか?」

 

 私がシャンクスさんの言葉に動揺しているとクマさんが赤髪海賊団のほとんど全員を引き連れてやって来た。なるほど、さっきでんでん虫で電話してた理由はアレか。

 なんだかんだと良い人なんだな。

 

「頭ァ〜…あんなに集まってるのに俺達の署名まで必要かァ?」

 

 クルーの人がそう質問するとシャンクスさんが頭を捻った。

 

「んー…それもそうか?でもよォ…」

 

「意味はあるぞ?」

 

「「「へ?」」」

 

「あァ…リィンはこう言いたいんだろ?──ただの海賊の署名ならまだしも四皇の署名なら大きな力を発する、と」

 

 クマさんが私の言葉に追加した。

 

 ごめんなさいそんなに深い意味は無かったです。

 私は、まァ人間が署名するんだから心意気くらいは感じ取ってくれるだろう程度しか考えてなかったです。

 

 私が心の中で否定している間にもクマさんの説明は続いていく。

 

「四皇が後押しするという事はそれに否定するものは四皇の意見に逆らうという事、賛同しないならまだしも否定した場合大袈裟にすればそれは四皇に喧嘩を売ってる事と同類になるわけだ」

「なるほど…さすがベン!よく考えたな!」

「お前は何も考えずに言ったのか……、元々リィンがそれを言ったんだ。あんたより随分賢いさ」

 

 罪悪感に押し潰されそうだが……そういった事にしておこう。自分の価値を落とすより高める方が良いだろう。

 

「分かったって…分かったからベン。ほら、書くぞ書くぞ」

 

 ペンを取り出して名前を書き始めた。

 じゃあついでに私も。海軍上層部…もしくは五老星が見ることがあればそれは海軍本部の大将の後押しになる。多分、クマさんの言う通りなら。

 

「リィン、届けに行くか?」

「………行く!」

 

 シャンクスさんが3分の2を持って残りは私が持ち列に並ぶ。

 何人かで1枚だから数はそんなに多くないから助かる。

 

「魚人島は白ひげさんの縄張りなんだ…、あの人で本当に良かったよ」

「同意、迫害差別の多き種族には強い後ろ盾が必須。四皇はそれに十分ぞ」

 

「オトヒメ様…、これどうぞ!」

「オトヒメ様〜!頑張って下さい!」

 

 魚人や人魚は署名を渡すのと同時に感謝や応援をしている。オトヒメ様って王妃様なんだよね?いいの?こんな所に居て。

 見てる限り国民は『オトヒメ様大好きー!』って雰囲気だけど果たして全員が全員そう思って無いのかもしれない。

 

 ジンさんに話を聞いたことがあるけど迫害されてたんだよね?いやむしろ迫害されてるんだよね?

 

 人間、本当に怨んでないの?

 

「お。俺たちの番か…──オトヒメさん、ほら、俺たちの署名だ。頑張ってくれよ」

「…!貴方は確か赤髪…ふふっまさか人間が手伝ってくれるとは……ええ、頑張るわ。そちらのお嬢さんもありがとう」

「わ、私も応援致しますです…」

 

 なんだろう、応援しているのにこのモヤモヤした感じは。

 

 何かゾクゾクと寒気がするんだ。

 

「………!オトヒメさん!伏せろ!」

 

 シャンクスさんが慌てて私とオトヒメ様を抑え込む。

 

「何をする気だ人間…!そのお方は──」

 

 事は護衛さんの停止の声が言い終わる前に突然起こった。

 

──ゴオオッ!

 

「署名箱が突然燃え始めた!た、大変だ!」

「俺たちの署名が!」

 

「あぁ!署名が!」

「オトヒメさん!あんたは俺の体に隠れててくれ!頼むから!」

 

 シャンクスさんが私を巻き込んで抜け出そうとするオトヒメ様を庇う。とりあえず私抜けていい?結構苦しいんだけど。

 

「水を!あとお前はオトヒメ様を解放しろ海賊!」

 

──ジュワッ……

 

「水ならば私が消火可能!」

 

 色んな目がシャンクスさんの体から抜け出した私に注がれる。

 とりあえず落ち着け心臓、頼むから落ち着いてくれ。集中してくれ!

 

「火をつけた犯人を探せ!」

 

「頭ァ!」

「リィン!」

 

 クマさんやヤソップさんが遠目で叫んでるのを確認出来た。そう、偶然にも…──サンゴの上で銃がオトヒメ様の方に向いているのも。

 

「ッ!オトヒメ様ァ!」

 

 運悪く、火事場の馬鹿力を発揮しているオトヒメ様がシャンクスさんの拘束から抜け出しかけた時に。

 

──パァンッ!

 

「ッあ!」

「「「「「リィン!?」」」」」

 

 私は急いで駆け出して、何故か庇ってしまった。また。

 痛いなクソ野郎……、せめて毒で来いよ。

 

「リィン、お前なんで…!ベン!船医連れて来い!腕からの出血がある!」

 

 鋭い痛みに思わず座り込んでしまう。痛みで集中力が完璧欠けてしまった、まだ敵は銃を構えて居るのに。

 

──パァンッパァンッ

 

 再び発砲音が鳴り響いた。

 

 クソ、庇わなければまだ生きられたのに……なんで。

 

──キィンッ…!

 

 覚悟は決まってないけど目をつぶった、のに追加の痛みが来ないし左腕痛いしで再び目を開けると──救世主が居た。

 

「危ねェな……」

 

 シャンクスさんが刀を振り下ろした姿だった。

 

「…………………え?」

 

 まさかとは思うがこの人弾丸を刀で弾いた?何?この人、人間じゃ無かったの?

 

「兵士!オトヒメ様の殺害未遂の下手人を探し出せ!」

 

 なんかタツノオトシゴっぽい人が騒いでるけどすっごい痛い。何これ痛い。貧血かな、目がクラクラしてきた。

 

 

 

 もしかして此処でオトヒメ様が狙われるのって私の災厄のせいだったりします?

 

「に、人間がオトヒメ様を庇った……」

「なんだあの少女と海賊は…!」

「人間は怖い人じゃなかったの?」

 

「赤髪の男がオトヒメ様を押し倒したのもまさか庇う為!?」

「何がしたいんだよ人間は!」

 

 

 そこらから動揺と混乱が見え隠れ…いや隠れて無いわ。普通に丸見えだ。

 

「誰か!この子に手当てを!」

「オトヒメ様も早くお逃げ下さい!」

 

 

 辺りは完璧大混乱。どの行動が最優先なのか分かって無い。

 

 あぁくそぅっ、元々私が庇って無ければ楽なのに。いやそれを言うなら白ひげさんの船に乗った所から災厄の始まりでそこに行く原因となったのは海賊女帝が呼び出したからで呼び出されないといけなくなったのは女帝と仲良し(笑)の七武海の影響で七武海と会わないといけなくなった原因は…根本が分かった、堕天使様(あのクソジジイ)だな。

 よぉし次会ったら助走つけて全力でぶん殴ってやる。

 

「落ち着かんかお前さんら!兵士は下手人の捜索と王族の保護!救護班はさっさと怪我人を治療!国民は自分の家に避難せんか!!」

 

 大きな声が辺りをまとめる。すると一瞬呆然とした後すぐ様周りは行動し始めた。

 

「お前さんらは…!赤髪!?」

「お前…!白ひげん所の…」

 

「あれ〜…幻…ジンさんが見える」

 

 青い海の様な体をした七武海常識人、海峡のジンベエさんが幻で見えた。

 

「リィン!?な、何故!?っ、お前さんがオトヒメ様を庇ってくれたんじゃな…!」

「ジンベエさん、お知り合いで?」

「そうじゃ、急いでくれ!この子は、まだ失いとうない人間じゃ!」

 

 ジンさんの声が聞こえたけど、私は襲ってくる睡魔に身を任せ眠りについた。

 

 

 

 

 

 次起きた時は夢オチだと期待したいものだ。

 

 




リィン→自分が居るせいで嫌な出来事が起こってしまう。
実際→嫌な出来事が起こる最中に運が悪い事に遭遇してしまう。

これはリィン本人には分からないので本人にとって悩む原因の一つになるんでしょうね。


アンケートの事で一つ。間違えて無いですよね?これクロコダイルとハンコックの最終決戦じゃないですからね?ちょっとあんまりにも予想外過ぎて笑いが止まりませんでした。


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第47話 関わるろくな事無い人間って居るよね

「おお、起きたか」

 

 目を覚ませば目の前にジンベエザメの魚人。

 

 どうやら夢オチじゃなかった。

 

「おはようござりますジンさん…お茶ですか」

「まだ寝惚けておるんかお前さんは……」

 

 いえ、おめめパッチリです。ただ現実逃避したいだけですから気にしないで下さい。

 

 オトヒメ様に向けられた銃を庇った私は完璧気絶した、そして目が覚めたら目の前に七武海のジンベエさんがいる。そして奥にはシャンクスさんやクマさんやヤソップさんやルウさん。後残りのクルー諸々。

 全体的な人数から見るに全員じゃないみたいだけど。

 

「ここは?」

「竜宮城じゃよ」

 

 どうやら私は浦島太郎になった模様。

 

「まだ老けたく無いぞ」

「…? お前突然突拍子も無い事言い出すなよ、理解に苦しむ」

「そのまま苦しめもじゃもじゃ」

「口悪いぞリィン!」

 

 ズキリと痛む左手には意識しないようにしてヤソップさんをからかう。正直意識したら痛みで死ぬ、めっちゃ痛い。いや痛くない、痛くないから気にするな、痛くない痛くない。あれ?そこまで痛くない?いや、やっぱ痛い。

 

「にしてもリィンとジンベエ知り合いだったの…」

「うむ、良くお茶を入れてくれるんじゃよ」

「てっきり関わりないと思ってたけど案外あるもんだなァ……」

 

「それはこっちのセリフじゃのォ、何故四皇と関わりがあったんじゃ?」

「ん?二年前くらいに拠点にしてた村にひょっこりこいつが現れたんだよ」

 

 まるで私が放浪しているかのように言うのは止めてくれ。

 

「お茶くみなァ…まるで雑用だな」

「…? リィンは雑用じゃろう?」

「へ?大将じゃねェのか?」

 

 

 今トップシークレットが放たれた。

 

 本物の悪魔は実は優しそうな外見をしているのかもしれない。

 

「面白い冗談を言うもんじゃなァ…」

 

 あ、察した。ジンさんって結構現実逃避多めな人だ。うんうん、そういえばグラッジさんが死んだとかのお話の時最初疑いの目を向けてたもんね。

 

「いやいや冗談じゃ…」

「冗談に決定ぞ〜!シャンクスさんはお茶目ぞな〜!あはは〜!」

「わざとらしっ」

 

 うるさい老け顔。

 

「そうじゃな〜!全くいい歳の癖に少しは落ち着きというものを持たんか……」

「持てー!持てー!」

 

 

「ハッハッハッハー………────本当に冗談じゃろうな?」

 

「ほ、本当ぞ?第一こんな子供大将にするのならばそれなりに利点が無ければ出来ぬぞ。更には弱点となりうるのに出来るわけ無きぞ、です」

「ふむ、それもそうじゃな」

 

 マジトーンに変わったからちょっとびっくりしたけどジンさんは納得した様に頷いた。セーフ。

 

『何故入れてくれないのです!』

 

 すると扉の外から声が聞こえた。

 

『おどきなさい!彼女は私を庇ってくれたのですよ!?』

『然しオトヒメ様!あの人間は海賊です!もし何か有ったらどうするんですか!ジンベエ親分が尋問してくれているんですから少々お待ちください!』

『尋問!?そんな事をすれば人間と魚人の溝は深まるばかりです!早くおどきなさい!』

『ですが…──!』

『ならワシも入るんじゃもん。構わぬか?』

『ね、ネプチューン王!?わ、分かりました……』

 

 思わずジンさんに視線を向けた。

 

 

「……ジンさん私尋問中?」

「……………………なんか、すまぬの」

 

 ジンさんは私の言葉を聞くと視線を逸らした。

 

 ジンさんに尋問する気が無いのは見てわかるしそもそも尋問しなくても私が海軍の雑用だってことは知ってるから意味無いよね。うん。

 さっき悪魔(シャンクスさん)のせいでバレかけたけど。

 

「入るんじゃもん」

 

 扉を開けて入ってきたのは大きい人魚。ネプチューン王、って…扉の前で言ってたよね?まさかとは思うが国王?王妃も王妃なら国王も国王か。似たもの夫婦なんだな。

 普通素性の知れない者がたくさん居る部屋に入ってこないから。

 

「おおジンベエ、久しぶりじゃもん」

「国王様、お元気そうで何よりです」

「ジンベエ…七武海に入ってくれてありがとう……国の事考えてくれてたのよね……」

「いやいや、儂は儂の尊敬する人の尻拭いを喜んでやっておるだけじゃわい!それに七武海になって嬉しい事に友人も出来た事じゃしのぉ」

 

 嬉しそうに国王と王妃と会話する七武海。やだ、この海に不敬罪とかないの?絶対あるよね?

 

「まあ!お嬢さん…怪我の具合は?」

 

 オトヒメ様がこちらに近寄って私の両手を握る。

 

「大丈夫ぞです…えっと傷の塩梅(あんばい)は…」

「安心してくれオトヒメさん。悪運強い事にこいつは掠っただけだよ」

「…ホントに………良かった……………」

 

 私が今現在どういう怪我なのか分からないからちらっとシャンクスさんに目を向けたらきちんと察してくれた。

 そしてシャンクスさんの言葉にホッと安堵するオトヒメ様を見て私は思った。なんていい人だ。

 いや、前世の常識からすると怪我したら心配するのが当たり前でしたけど、この世界に来てから心配どころかまだまだ甘いわ、と怪我を追加してくる様な人間が傍に 居すぎたせいで何故か感動する。

 本当にこの人が無事で良かった。

 

 非常識人は死んで常識人が生き残ればいいと思う。

 

「リィンさん…よね?貴女の勇敢さに私は…いえ、私()()は救われたわ」

「たち?」

「えぇ…。これでも私はこの国の王妃、そして地上への移住の為の要でもあり支え……自意識過剰かしら?…でもそれは事実なのよね、人は…誰しも前を向けないから。私が先へゆく背中になって守らなければならないの…この国の人を。

 もしもわたしがあの時死んでしまったら、しらほしは()を制御できずに暴走して…そして今回の犯人であった〝人間〟を怨み、署名なんて集まらなかったでしょう……」

 

 オトヒメ様はポツリポツリと言葉をこぼした。国王のネプチューン様がそっと肩を抱く。

 

「でも、貴女が私を守ってくれたから!……この国は救われたわ、色々な意味で。ありがとうリィンさん……、これでこの国の人々は人間見る目がきっと変わる。人間を怨む方もいるかもしれない、でもその中でもあなたという人間が救いになってくれたから」

 

 もう1度オトヒメ様は私の目を見て笑顔で言った。〝ありがとう〟と。

 

「…………私 自分本位な人間 …です。ただ、王族に恩を売ろうとしたのみぞです…───」

「……」

「──故に、気にするな!です!

 オトヒメ様が私の事で気に病む必要など皆無等しきです!」

 

「…! ふふ、貴女は…とても優しいのですね」

 

 確かにオトヒメ様は魚人島にとって必要不可欠な人間だろう。そして私は自分勝手に動いてしまっただけ。どうあれそれは変わらないし結果的に恩を売るようになってしまっただけだよ。

 オトヒメ様が気に病む必要なんて全く無い。むしろ一瞬でも生贄として捧げてやろうかて思ったこっちが謝りたい!

 

 というかこの人は自分の価値っていうものをちゃんと理解してるんだな。自意識過剰とかそんなんじゃ無くて、正しく自分を理解出来る人間が正しく人を引っ張っていける。

 

「儂からも礼を言わせて欲しいんじゃもん。感謝する…ありがとう」

「私の如き雑魚で一般人にお礼など勿体なきです!」

 

 いや、正直な話王族にありがとうありがとう言われても胃がキリキリする以外何ものでもないからな!?

 

「そんな事言わないで、貴女は私達魚人島の救世主なんだから」

 

 

 あの…話、飛躍(ひやく)し過ぎてません?

 

「いやいやそれなればシャンクスさんの方が」

「いや、俺は最終的に守りきれなかったからな…、お手柄だぞリィン」

「………」

 

 

 

 

「なんでリィンはお頭の事親の(かたき)の様な目で見てるんだ?」

「さァ…………」

 

 四皇じゃなければ、四皇じゃなければ軍艦引き連れて総攻撃仕掛けてた…!

 

「リィンさん、良ければ私の娘や息子と仲良くしてくださらない?」

 

 嫌です。

 

 とも言えるわけが無い。

 

「も、ちろん…」

 

 何と言っても王族、しかも王妃様というやんごとなき立場の方からの提案は断る方が無礼というものだ。

 

 ヘヘッ、と自分でもわかる引き()り笑いを浮かべてしまったのに人魚王族は気付かず喜んでいる模様。天然か、魚と言われる種族だから天然だってか。

 上手くないよ畜生!

 

 ほら見て、証拠に赤髪海賊(ルウさん除く)メンバーが私の心境に気付いて苦笑い浮かべてるから。

 

「私の可愛い子供たちは王子と王女ですからなかなかお友達が出来ませんの……」

 

 知ってるよ、色々利用されたりと面倒臭いからね!

 ん?砂の国のビビ様?あれは人類の例外だ。

 

「だからなんの見返りも考えずに私を庇ってくれた貴女ならきっといいお友達になれると思うの!」

 

 見返り、は思い浮かんで無かったけど今思い浮かんだな。王族のツテ。

 子供だからと油断しちゃダメですよ〜?王族様〜?

 

「は、はぁ……」 

「────あの、お父様、お母様…」

 

 扉の陰からぴょこりと淡いピンクの髪をしたおっきい人魚の子供が現れた。

 後ろには3人の人魚も連なっている。

 

「どうしたんじゃもん?しらほし」

「リィンさん紹介するわね!この子達が私の可愛い天使達!」

「あ、お母様!ご無事で何よりです…私っ、お母様が撃たれたら、私っ…ふぇえええんっ!」

「し、しらほし泣くな!ほらアッカマンーボ!」

 

 突然泣き出したしらほし姫様?をあやす人魚。いやー…まさかもくそも無いと思いますが王子様?王族大集合ですか畜生。

 

「悲しくなきですよ〜?あなた様のお母様はきちんと心の臓が活動中ぞです〜」

「あ、あなた様は…あの、お、おお母様も守っていただき、あり…あ、あの、ありが…とう、ございました……」

 

 プルプルと震えながら目に涙を溜めてお礼を言うしらほし姫様。参ったなぁ、不敬罪ですか?これって泣かせちゃったから不敬罪ですか?もう胃が痛い、そもそも王族との会話に私がベッドの上にいてもいいの?

 

「きちんとお礼ぞ申すが可能で偉いですね〜…勿体なきお言葉、私もこの通り無事にありますからお気になさらずです」

「あの、お名前は…」

「申し遅れごめんなさいです。リィンと申しますぞです」

「リィン様ですね…私しらほしと言います」

「しらほし姫様、ご無礼お許し下さいぞりです」

 

 するとキョトンとした顔をしてこっちを見てきた。なんだ、私の顔がそんなにおかしいか。

 

「リィン様はどうしてその様な口調なのでございますか?」

 

「「ぶフッ!」」

「シャンクスさんヤソップさん笑うなぞー!!」

 

 私が横で見ている海賊に向けて怒鳴るとオトヒメ様まで参戦した。

 

「確かに普通と違った話し方をするのね……ふふっ可愛らしいわ」

 

 思わぬ援護射撃に私は〝は、はぁ…〟とテンパる事しか出来なかった。何かもう精神的に限界超えてるよね。この喋り方不敬罪ですか。

 

「まぁ…!照れていられるのかしら?本当に可愛らしい救世主ですのね」

「と、ところでしらほし姫様は如何(いかが)な御用で!」

「いえ、リィン様にご挨拶がしたかったので来ました…あの、ごごめいわく、で、でしたか…っ!」

 

「まさか!その様な事はございませんぞ!私如き人物に興味を持っていただけるとは、ありがとうござります」

 

 私が営業スマイルを貼り付けてしらほし姫様の言葉を否定する。こういう時私日本人で良かったって思っちゃうよね。不敬罪じゃないよね?私さっきっからずっと不敬罪の事気にしてるな。

 

「あ、あの!」

 

 いつも通り頭の中で脱線事故を起こしているとしらほし姫様が大きな声を出した。

 

「はい?」

 

「わ、私と…」

「しらほし姫様と?」

「あの……その……ふっ、う、ぇ……」

 

「落ち着きが大事ぞ。私は待ちますからゆっくりで無事なのでしらほし姫様のペースでお話ぞ下さい」

「リィン様…………。っ、…あの!わ、私と───」

「はい…?」

 

 目に涙をいっぱい溜め込んだしらほし姫様が一生懸命と言った様子で叫んだ。

 

「───わ、私とお友達になってくれませんか…っ?」

 

 

 

 

 

 

 

 答えは決まってる───盛大に嫌だ。

 

「あの。私、人間様はずっと怖いとどこかで思っていました!

 で、でもリィン様は全然怖くなくて…優しくて、泣いてしまう私を責めること無くおしゃべりしてくださいました…で、ですから、お、お友達になり…たいと……思って…だ、ダメですか…?」

 

 王族とお友達、なんて不敬罪で訴えられそうだし海軍本部に知られたら私の立場が危ない。絶対怒られる。

 嫌だ、嫌だよ。

 

 だって考えてみて。仏と言われるセンゴクさんが青筋立てて怒る姿を、サカズキさんが面倒を起こしたと熱いマグマ人間なのに周囲も凍る様な冷たい目で見る姿を。

 

「や、やっぱりダメですよね…ご、ごめんなさい」

「そ、そんな事無きです!お友達嬉しきな!わ、わーい!」

 

 でも絶対これ断ると面倒臭い。王族の頼み事面倒臭い。断れない頼み事程面倒臭いものは無い。

 

「ほ、ホントでございますか!?嬉しいです!お父様お母様!私お友達が出来ました!」

「まぁ!リィンさんなら勿論大歓迎よ!」

 

 そうすると空気になっていた王子がしらほし姫様の隣に来た。

 

「リィンさん。是非私とも友になって欲しい。長男のフカボシだ、ダメだろうか?」

「おれ達もー!リィンと友達になりたいラシドー!」

「いいか?なぁなぁいいよな!」

 

「も、もちろんー…」

 

 

 わー、お友達たくさん出来たー…やったぜー………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「どんまい」と言いたげに手を合わせてる赤髪海賊団の姿がやけに気になった。




魚人島後半のお話です。
犯人は原作と変わらず『人間』、ホーディがそれを言うシーンは省きましたが原作とほぼほぼ変わりないと思って下さい。そしてオトヒメ様が殺されるという混乱は避けたのでしらほし姫様はバンダー・デッケンに触れられるというイベントが回避されました。
魚人島編でどう変わっていくか、輪郭程度しか決まってませんが末永くお待ちください。

そしてこの後非常識人魚王族に1週間捕まってしまったリィンでした。


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番外編4〜海軍の雑用達〜

主人公 及び 原作キャラ
一切出ません。


「おっす!俺はリック!リュックじゃないぞ?リックだ!」

 

「いきなりどうしたリックイタイぞ」

 

「そんな事言うなよ我が友マイケル」

 

「俺はマイケルじゃなくてグレンだ」

 

 

 雑用が雑魚寝をする第1雑用部屋。

 別名〝癒しの休息所〟

 

 そんな別名が付いてる割に癒しも何も居なかった。

 

「聞いてくれよジョニー」

「うん、お前が話を聞けリック(脳内花畑野郎)

「今ものすごく馬鹿にした呼び方をされた気がするけどノー問題」

 

 最近苛立ちがピークに来ている雑用達はため息をついた。こいつアホだ、という空気が漂っている。

 

「我らが天使でありこの部屋に住む癒しでもあるリィンちゃんが1週間も姿を見せていないんだ!」

 

「「「「「そんなモンとっくに知ってるわぁぁぁぁ!」」」」」

 

 限界突破。心からの叫びが部屋に響き渡る。

 

「おま、リック!言うなって約束だろうが!」

「思い出すと辛くなるだろ!?」

「リィンちゃぁぁぁあん!」

 

 まさに阿鼻叫喚(あびきょうかん)

 ムサイ雑用ばかりのこの部屋に癒しを与えてくれる幼女(リィン)は、海軍本部雑用にとって欠かせない欠片となっていた。

 

 そんな彼女が居ないというだけで空気が淀む。心()しか視界まで暗くなった気がする。気がするだけだが。

 

「ええい!黙れ会員番号15!」

「リック!会長だからって偉そうにするんじゃねェ!俺たちは…っ、俺たちは同士だろ!?今、この悲しみを分かち合うべきじゃ無いか!?決して、当たり散らす事じゃ無いんだ!」

「…! 目が、覚めたよ……。ありがとうロベスピエール」

「うん。俺はオレゴな」

 

 〝天使愛好会〟

 

 それは本人の知らぬ間に雑用全体に広まり、今やその会員──もとい同士は3桁に行く。

 彼らは高いカメラを買い、こっそり売り買いしているのだ。天使(リィン)の写真を。

 

「我ら第1雑用部屋の誇りであり自慢である〝寝顔コレクション〟や〝休息の天使コレクション〟また〝天使なんでもコレクション〟………。最近更新が出来ていない」

 

「「「「「うんうん」」」」」

 

 部屋の中に居る殆どが頷く。

 

「俺なんかこの前軍曹に会って『月と太陽』って呟かれた時はゾッとしたぞ」

「あ、俺も一応大佐に」

「おいおい……そんなに広がってんのか…」

 

 合言葉『月と太陽』

 

 太陽(リィン)が無ければ()は輝けないという意味であり、天使愛好会幹部への写真要求としても使われていた。勿論幹部は第1雑用部屋の面々だ。

 写真は価値によるが1枚大体100ベリー。安価だがその量は多い、(ゆえ)に全て揃える事の出来ない人間は沢山いるのだ。そしてその利益は半分ほどリィンの荷物にこっそり入れられ、残りはより画質のいいカメラに変えられ、また時には上等な写真を買い取る為に利用する。

 

 この世界のカメラは高いのだ、海軍写真部部長のアタッチ…〝炎のアタッちゃん〟のカメラでも経費から出せるギリギリだった。

 

 

「なァリック。今天使愛好会の会員はどれ位の地位の人間が居るんだ?」

「任せてくれニーア」

「うん、俺はクレスだけど」

「そうだな……下は勿論我ら雑用。上は……広まり具合にもよるが、それぞれの階級片手で数えられる程度だな」

「待て、最高がどこだ」

 

「…………確か中将」

 

 全員ぎょっとした。

 そこまで広がっているのにお(とが)めが無いのも不気味だが、バレたらマズイ。特に赤犬であるサカズキ大将にバレたらなんかきっとヤバイ。

 

「まさかガープ中将にバレて…」

 

「バレている」

 

 天使の保護者まで入っているのか……。

 

「ちなみに伝説者(レジェンド)だ」

「「「「「何ィ!?」」」」」

 

 再び絶叫が響く。

 伝説者(レジェンド)、それは同士達の憧れであり天敵。天使(リィン)の発行写真を全て持ちうる変態(HENTAI)の事だった。

 

伝説者(レジェンド)!?さ、流石中将…コンプリートしているとは……!」

「なんて親バカ…。いや、祖父バカなんだ…!」

 

「あ、ごめんクザン大将も伝説者だった」

「「「「「大将もかよ!!」」」」」

 

 いつもより叫んだ雑用達。

 

 正直厳しい視線を向けてくる女海兵やむさくるしい男共に囲まれているといつもニコニコと笑顔でいる少女は癒し以外の何者でも無い。少年(ショタ)もいいがやはり少女(ロリ)はいい。なんかもういるだけで癒される。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………変態ばっかりかよ…」

 

 グレンは部屋の中で盛り上がってる馬鹿共を尻目に一人眠りについた。




ちょっと馬鹿のお話を書きたかった

ロリコ…クロコダイルさんが多い状況ですがまだまだオチ決めアンケート実施中です!よろしくお願いします!


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第48話 海兵のお仕事ってなんだっけ

 海軍本部、マリンフォード。

 

 とある男が煙をふかしながら部屋で(くつろ)いでいると突然訪問者が現れた。

 

「スモーカー君暇そうね」

「ヒナ、テメェか。そういうお前も暇そうに見えるが?」

「さっき仕事が終わったの。どうせ部屋に居ても何もすること無いんだから別にいいでしょ?ヒナ退屈」

 

 なんでこいつは俺の部屋に、とスモーカーがため息を吐く。

 海軍本部少佐ヒナと同じく少佐スモーカーは海軍養成所からの同期で協調性に欠けるスモーカーの数少ない友人の1人だった。

 

 優等生と言われるヒナと不良と言われるスモーカーだがくされ縁という事もあり。ヒナを女として、スモーカーを男として見ない互いにどこか心地よいものを感じていた。

 その優等生がこの真昼間に酒瓶を片手に持って入ってきた。

 

「相変わらず勝手だな」

「貴方に言われたくないわ、海軍の不良海兵。不満よ不満、ヒナ大不満」

「ケッ……」

 

 すると思い出した様に2人の共通の友人が頭に浮かんだ。

 

「そういや最近あいつ見てないな」

「リィンが最近姿を見せないの」

 

 同時。

 

 お互い驚いた顔をすると情報を交換し出した。

 

「1週間くらい見てねェな」

「そうね、わたくしもそれくらいよ。そういえば昨日は鷹の目が来てたけどさっさと帰って行ったわね、ヒナ驚愕(きょうがく)

「あァ、リィンに絡んでる海賊か。つまりは本部の中の方にも居ないっつー事か、何つったっけ?──しかし、どーにも信用ならねェな海賊ってのは…」

「お茶くみ係の事かしら?それと、七武海は別に信用する必要は無いんじゃないの?わたくしだって海賊は信じたく無いわ。ヒナ拒否」

 

「お前のその語尾に自分の感情を付ける癖をやめろって何度も言っただろ」

「スモーカー君、貴方はこの世界が滅べと言うの?ヒナ驚愕(きょうがく)

「無理ってことだな…」

 

 この女のペースは疲れると思いもう1本葉巻を咥えた。

 

「貴方のその何本も葉巻を咥える癖をやめなさいって何度も言ったでしょ?ヒナ落胆」

「……………お前はこの世界が滅べと?」

 

 2人は暫く睨み合いフッと笑みをこぼした。

 

「そういえば貴方の所のたしぎちゃんいい子ね、ヒナに頂戴」

「無理だ。お前こそ部下のスパークさっさと寄越せ」

「無理ね。ヒナ拒否」

 

 

 普段なら此処(ここ)で友が『分かりましたですじゃあお2人の部下は私が貰いましょうぞ』とか言って和ますんだろうな、と思いため息をついた。

 立場は違えど友人な事に変わりは無い。

 

「静かだな……」

「そうね……」

 

 放浪癖というかひょっこり姿を表さない事は少なくは無かったが…むしろ多いがもう1週間。自ら来ないとなると別だが、わざわざ探して居るのに姿が見当たらないとなると流石に心配になる。

 

──ドタドタドタドタ…バンッ!

 

「はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…………」

 

 荒々しく開かれた扉、そこに息を切らして入ってきたのは金色の髪。

 

「リィン!」

「…!」

 

 ヒナが名前を呼び掛け、スモーカーは姿を見るとホッと安堵のため息を吐く。

 無事だった、が。様子がおかしい。

 

「スモさん……………部屋、部屋の貸し出し、後で所望……」

 

「…? 別にいいがどうした」

 

 雑用は時々雑魚寝の第1〜第9まである雑用部屋では無く、将校の個室を利用することが出来る。上に申請を出せば泊まれる事があるのだが、そうそう出るものでは無い。

 しかしリィンは良く出るのだ。

 

 まぁ自分たちにも見られたくないのか押入れなどの個室とも言えない密室空間で何かの作業をしていた。何も持ち入れて無いし持ち出して無いので謎だが2人は特に追求しなかった。ただ面倒臭いだけだったが。

 

 

「まだセンゴクさんには報告ぞ致して無きが……………

 七武海に会いに行って巨大トルネードに遭遇したと思考したならば白ひげ海賊団に拾われその上赤髪海賊団に魚人島に連れていかれ1週間竜宮城に閉じ込められ王族に囲まれながらお話ぞして時間が無いからとシャボンディで休息も取らずにマリンフォードに放り投げるがされた私の気持ち理解可能!?!?」

 

 

 

 

 無言。

 

 

 

 

 

「悪ィ、気持ち云々(うんぬん)の前に状況が理解出来ん」

「………………わたくしも、スモーカー君に同意するわ」

 

 どうやら腐れ縁は気持ちまでリンクする様だ。

 

「お腹、痛い………」

 

 その場に(うずくま)るリィンを見てスモーカーは思った。

 

「(やっぱこいつ居たら居たでめんどくせェ……)」

 

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

 その頃センゴクは不安で堪らなかった。

 

「(でんでん虫での通話の陰に聞こえた宴の音…タダでさえトルネードに遭ったと言うのにまさか海賊の船に…………もしもそうだったら私の胃が悲鳴をあげる!)」

 

 苦労性の元帥は机の上の書類に目を通した。

 

「ただでさえコレの後始末に追われておるのに………」

 

 

 

──コンコン

 

「…誰だ」

「スモーカー少佐とヒナ少佐になりますセンゴク元帥。届け物があるのですが」

「入れ」

 

 一瞬で雰囲気を仕事モードに切り替え2人を招いたが、一気に落胆した。

 

「た、ただいまご帰還(きかん)ですぞ………」

「……………届け物はそれか」

()() 繋がりがあるのか知りませんが本人がそう言い訳をしておりましたので連れて来たまでです……失礼致しました」

「…あー…どうでもいいけどソイツ、疲労してるんで叱るとかそんなんは適当にしてやって下さい」

「スモーカー君っ!無礼よ、ヒナ驚愕!」

 

「(優等生と不良のコンビがリィンと繋がっていたとはな…不思議な組み合わせの2人だが…まァ2人ともそれなりに実力がある、ただ武力のみの人間では無さそうだな…)」

 

 リィンが「スモーカー マジ 天使」とか思ってる中センゴクはそれぞれを観察していた。

 

「それでは失礼しました!──ほら貴方も」

「へいへい…失礼しました」

 

 そう言って扉を閉めた2人が離れるのを確認するとセンゴクはリィンに問いかけた。

 

「どこに居た」

「びゃっ!…………………後半の海に」

「それは聞いた。どういった手段で帰ってきた」

「空を……飛行………」

 

 それが出来るのも知っている、問題は誰に拾われたか、だ。

 だが、知ってしまったら胃を痛める気がしてならないのでセンゴクはその尋問に静かに幕を下ろした。

 

 次の話題に進まなければならない。

 

 

「フリッツ・へイヴが倒された」

「…!きゅ、吸血鬼?でした?」

「そうか、そんなに関わりは無かったな…確か会ったのは2年ほど前だったか……」

 

「一体誰に?」

 

 リィンが一言言えばセンゴクはより一層色濃く疲労を顔に出す。

 

「新たな七武海、ドンキホーテ・ドフラミンゴだ」

「ドン、クホーテ、ドフィラムンゴ」

 

 繰り返すがうまく発音が出来ず首を傾げている姿を見てセンゴクはまた更にため息をついた。

 

「(随分と呑気(のんき)な………)……奴は天竜人に納める金(上納金)に手をかけ、七武海…しかも覇気使いを殺し、政府に脅しをかけて七武海に無理やり入った」

「……目的は安全?」

「色々な意味でな………」

 

 センゴクの様子がおかしい。リィンは気付きこれからが本番なのだと気を引き締めた。

 

「ドンキホーテ・ドフラミンゴは元天竜人だ。そして、偉大なる航路(グランドライン)後半の海のドレスローザの国王に成り代わった。()()() 暴動が起きてな」

「……は?何、え、ハイスペック?」

 

 高学歴ならず高地位 そして高収入 そして強いと。イケメンかは知らないが人類の例外ってのはめちゃくちゃだな。少しは運よこせや。

 

 リィンがブツブツ言っているのを見てセンゴクはため息を再びついた。

 

「なるべく逆撫でせんでくれよ、天竜人の大きな秘密を握っている」

「(あぁ、脅されてんのか)…把握ぞです」

 

「……本当は奴は七武海になど入れたくは無かったのだがな。もし接触する機会があれば弱点の一つや二つ握ってきてくれて構わん」

「何の怨みぞ存在するしてるです。無茶ぞり」

 

 

 仮にも少女にそんな難問をプレゼントするか。

 特に用事も無し、なんかもう色々疲れたのでそろそろリィンが退出しようとする。

 

 

 

「あァ、リィン」

「はい?」

「……おかえり」

 

「………センゴクさんフェヒ爺そっくり」

 

「奴の名は出すなぁぁぁ………!」

 

 少し素直になったのに胃を痛める思いをしてちょっと泣きそうになったセンゴクだった。

 

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

 

 リィンは部屋を出た後考え込んだ。

 

「(元天竜人に七武海で国王!?なんだそれ!チートじゃないか!)」

 

 はぁ、と思わずため息が零れる。

 

「(危険人物の情報はありがたいと思うけどそんなトップシークレットを簡単に漏らしていいのか?あれか?海軍の脳みそは穴だらけなのか?)」

 

 実際は想像以上に大将という立場が名ばかりであろうと強いという事だけなのだが、どうにもリィンは信用出来なかった。

 

「(それにセンゴクさんの異常な表情の変化。あれはきっと何かある。絶対なんかある。そして地雷な気がする!)」

 

 胃が痛くなる予感がしてこの話題に付いて考えるのはやめようと思った時

 

──プルプルプルプル…

 

「でんでん虫…何奴…」

 

──……ガチャッ…

 

「……………どなたですか」

『わらわを待たせるとは何ご…──』

「間に合ってます」

 

──ガチャッ

 

 気の所為だ。番号を教えてもいない人物から電話がかかってくる等有り得ない、気のせいだ。

 

──プルプルプルプルプルプル!

 

「ふぅ…箒ぞ直さなければ」

 

 新たなる箒を手に入れる事を諦めもういっその事集中力全開で直してやろうと思った、なるべく早めに取り掛かる方がいいだろう。

 その為にもスモーカーの部屋に行って…──

 

──プルプルプルプルプルプルッ!!

 

 早く行きたい。

 

──ガチャッ!

 

「うるさきそしてしつこき!」

『そなたが切ってしもうたのが悪いのであろう!』

何故(なにゆえ)番号ご存知!?何!?ストーカー!?」

『な、わらわを変態扱いするじゃと…!?』

「残念扱うするのは変態では無く非常識人ですた、で、ご要件は」

 

 要件をさっさと言ってもらおう、と催促するも電話の相手はそんな事関係無しにグチグチと文句を言ってくる。なんだ私の休息の時間をとってそんなに面白いか。楽しいか。

 もうそろそろ疲れた、と思い切りかけた時。

 

「フッフッフッ……」

 

 不気味な笑い声が耳に入りリィンが振り返った。

 

「こんにちは…秘密を握るお嬢ちゃん、かな?」

 

 なんかすっごい頭悪そうな服装したピンクのもふもふが居た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ。もしもしセンゴクさんぞ?」

『……………今度はなんだ』

「私何やら誘拐された模様ぞりです」

『は!?』

 

 本部の雑用なのにこんなに本部に居ない雑用は史上初何じゃないか、と現実逃避をし出した雑魚は半泣きであった。

 

「(なんで私がこんな目に…………)」

 

 




ハンコック「……」
マリーゴールド「姉様どうし…──」
ハ「おのれ…っ、あの声は間違いなくドフラミンゴ…!わらわの至福の時を奪いおって…、許さないっ、末代まで呪い殺してくれるわ…!」
サンダーソニア「触らぬ神に祟なし、よね…」
マ「姉様。病気かしら……」

本編で載せるには微妙なのでツンデレハンコックをこっそりこちらに載せておきます。

リィンの密室空間での作業は書類に名前をちょろちょろ書いていくだけです。リィンの個室はありません。バレる可能性を考えての考慮です。


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第49話 親しい友では無く親しくみえる友

「もふもふさん高き、高きは禁止」

 

 ただ今誘拐中のリィンです。こんにちは。

 

「なんだ、高いところが苦手なのか?フッフッフッ、可愛いところがあるじゃねェか」

「降ろすが最良ぞ奇抜ファッションマン」

「………もっと高い所がお好きな様だな」

「ごめんなさい」

 

 王下七武海 ドンキホーテ・ドフラミンゴに。

 

「じゃあ逆に海に落とすか?」

「この高さよりは死ぬぞ、あ、ドフィラムンゴさんが事?それなれば私も我慢可能と…さよなら、短き間ですたが楽しいぞですた」

「……殺されたいか」

「ごめんなさい」

 

 モフモフ男の背中に乗って空を飛行中です。

 自分以外で空って飛べれるのか。そういえばこの人は何の能力なんだろう。まず能力無しで空を飛べるのって私以外居ないと思う、うん。

 

「…どちらに向かうぞ致す?」

「俺の国だ」

「何故か暴動が起こったぞ、と言われる国…?」

「…………あァ、ドレスローザだ」

「ドレスローバ」

「 ロ ー ザ 」

「ローダ」

「………………。」

 

 シカトしやがった。

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

「ねェねェ見て!可愛いでしょ?」

「うん、あはは、わー、綺麗ぞねー」

 

 ドレスローザ。

 何故か動く人形がチラホラと見えるんだが、正直気持ち悪い。

 

 そして今、ベビー5と言う私より少し大人の女の子と街で楽しくお買い物中。

 

「これとか絶対リィンに似合うわ!」

「そ、そうかなー…」

 

 なんかノリに付いていけなくて正直泣きそう。

 

「びびーふぁうぶさん。そろそろ戻りませぬか?」

「ベビー5!…ん〜、でももうちょっとお買い物したいなァ……」

 

 

 私が誘拐された理由は大部分がベビー5の話し相手、らしい。曰く『年頃の女友達をやりたいが海賊。一般的な人間相手ではそうなれるものでも無いだろう』だそうだ。

 私は一般的な人間では無いってか。そうか、そんなに私に喧嘩を売りたいか。

 

 まぁ個人的には大部分以外、の所が怖い所だけどね。でも予想つくだけいい方だ。

 恐らく〝元天竜人〟の情報を私が持っているって言う事だろう。

 

 本部の情報部でドンキホーテ家の情報を手に入れておくんだった。海賊女帝からでんでん虫のウザイよコールがかかってこなければ……!

 

「へびーふぁおぶ」

「ベ ビ ー フ ァ イ ブ っ!もう!何回訂正したのかしら……。ねェ、じゃあリィンが呼びやすい名前を付けてよ!」

「私が?」

「うん!」

 

 ありがたい提案に喜んで賛同する。無駄に長く面倒臭いコードネームを呼ぶのはイタい上に喋りにくい。

 

 ベビー5、ベビー5、ベビーファイブ、ねぇ…うーん…。短めに、短めに。ビー、(はち)かな?

 

「……………イブ」

「イブ?」

「ど、うぞり?」

 

 ファイブの名前から取ってきた。これなら短いし二文字だし簡単だし二文字だし。

 

「どうしてそこからとったのかな…ううん、でも気に入った!ありがとうリィン!」

「こちらこそありがとぞり」

「じゃあおしゃべりしましょう!楽しいわよ!」

 

 やっとショッピングが終わる、そう思って安堵の息を吐いた。

 

「あとスイーツボンボンとメロディ喫茶でお菓子買ったら!」

 

 どうやら女の子の戦いはまだまだこれかららしい。スイーツですか?食べ物ですか?任せて、甘い物は大好物です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それでね、ブァッファローがね…──」

「はぁ…さいでございすか…」

「そしたらデリンジャーまで…──」

「ヘェ、おっしゃる通りぞで」

「あ、でもディアマンテは…──」

 

 激しい銃撃戦(マシンガントーク)に私は心が折れそうだった。ファミリー自慢が止まらない。食に走りたい。

 

「イ、イブ!ファミリーの話はお腹いっぱいぞ…、魅力は多大に伝わるぞ致した」

「ん〜、でも……」

「他なる話題は無きか?ファミリーの自…、と、弱て…んー……他の話題を欲する」

 

 無理やり話を変えようとする、この子真っ直ぐ過ぎて〝さり気なく〟とか〝こっそり操作〟とか効かない。絶対効いてくれない。

 

 でも2時間の銃撃戦で得た事もある。

 

「私イブの事頼りぞ…他のお話聞かせるぞ致して?」

「う、うん!!任せて!」

 

 小声で「私必要とされてる…っ」て呟くとさっそく話題が変わった。美味しいご飯とか甘い物の作り方とか。なるほど家庭的だな。料理失敗者には遠い存在……、ってそうじゃなくて、

 頼りや必要とされる事にとことん弱い。きっと何かあったんだろうが私にとっては大歓迎。

 センゴクさんに油断して誘拐された事への謝罪として幹部の弱点の一つや二つを手に入れてやるぜ…!

 

 ファミリーの話は欲しいけど欲しいのは自慢じゃないんです。

 

「イブやバッホローやデリンダー以外に子供の存在は無しぞ?」

「あたし達以外に?……んー、昔は居たけど」

「え、意外ぞり。死した?」

「死んだってこと?さァどうだろう。海軍に保護されたって聞いたけど……」

 

 え、保護?ん?海軍に?

 絶対死んだと思ってた。

 

「ど。どういう……」

「……、ローは裏切った。若様を裏切ったの」

「うら、ぎり。」

「コラさんと一緒に…」

 

 イブは悔しそうに顔を歪めた。

 

「何ぞ存在した?」

 

 弱点な気がして、私は身を乗り出した。

 

「わ!え、えっと…フレバンスの生き残りで名前がローって言うんだけど。若様の本当の弟のコラさんと逃げ出して手に入れるはずだったオペオペの実を奪っちゃったの」

「兄弟、喧嘩?」

「そうかもしれないわ……でも、でもコラさんは海軍のスパイだった!若様を裏切ったの!」

「ぶフッ!か、海軍の!?」

「うん!…あ、リィンの事責めてる訳じゃ無いのよ?ひ、必要としてくれたし……。──やっぱり若様を裏切った事は絶対に許せない」

 

 私が海軍の雑用だと言うことはイブは勿論幹部には知れ渡っている。

 私の事をフォローした後表情に憎しみを込めたイブを見て思わず思ってしまった。

 

 この世界家族関係強すぎませんか……。

 

 

「イブ!もし、もしもぞ?もしコラさんとやらが生存致していた場合私イブに協力ぞしたい!

 ──故に、コラさんの特徴や、ロー?の事や、ファミリーの()()や、()()()()()()()()()()()()()()の事、教えてくれぞ致して欲しいぞり…!」

 

「リィン……あたしの為に……あたしがそんなにひ、必要なのね!?」

「必要必要!情報もイブも必要ぞ!」

「あたし協力してもらうために沢山話す!…話したら、し、親友だよね?」

 

 良かった流されたーー!さり気なくとか絶対無理だから仲間意識や協力体制をとって色々聞き出してみようじゃないか!

 前半は意外とどうでもいいから後半を教えてくれたら親友としては嬉しいかな!

 

 しかし親友?私親友どころか仲間でも裏切れる自信があるぞ?兄妹でも自分の身が危なかったら裏切れる自信があるぞ?いいのか?

 

 私はイイけどな!!

 

「あのね…これはローに聞いたんだけどローの本名ってね…────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──…そしたら撃たれてコラさんは死んじゃったの」

 

「はぁ……た、大変だったぞりですな」

 

 1時間ぶっ通しで話されてもコラさんとローの事しか聞けれなかった。

 

 正直本番はこれからなのだが……。タイムアップ。

 

「フッフッフ…、随分と仲良くなったじゃねェか……」

 

 おかしい格好のピンクの鳥さんが現れたから。

 

「…! 若様!」

「リィンはどうだった?」

「とっても素敵な友人になれたわ!あ、違う…し、親友…で、いいのよね!?」

 

 若様ことドフラミンゴさんに報告しているイブがこっちをチラリと向いて確認した。私はグッと親指を立てて上げるとイブは嬉しそうな顔をしてもう1度ドフラミンゴを見上げた。

 

 若様は大分好かれてるんだね。

 

 

 

 にしてもコラさん…ドフラミンゴの実弟であり海軍のスパイ。凄まじい程のドジっ子、か。

 銃で撃たれて死亡。ここら辺は悪魔の実の能力者で無ければどうにもこうにもならないだろう。本部で確認すれば本当に死んだかどうかは確認できる。

 

 でも一番の問題は七武海ドフラミンゴが欲しがった実を保持してしまったロー、いや。

 トラファルガー・D・ワーテル・ロー。

 

 恐らく彼が本当に食べちゃったんだろう。

 確か大百科でオペオペの実は放出するドーム状のエリア内での外科手術が使用できる、と。でも、欲しがったくらいだ。キレて弟まで殺したくらい欲しがった物だ。きっとそれだけじゃないんだろう。

 きっと、それ以上の何かが………。

 

「リィン?どうしたの?」

「ひょえ?あ、イブ。ごめんぞ、考えごとぞして参った」

 

「一体何を考えてた…?」

「ドフィラムンゴさんのファンションセンスを」

「そんな物考える暇があったら自分の身を案じろ…………!」

「びゃ!固定、糸で固定は禁止!」

 

 必死に頭フル回転させて爆弾から回避したら避けた先に地雷が埋まってた。

 

 

「若様!リィンを虐めたらダメ!」

「…随分好かれたなァ、リ ィ ン ちゃん?」

「ドフィラムンゴさん…吐き気ぞ」

 

「なるほど、命をそんなに無下にしたいか……気が利かなくて悪かったな…」

 

「イブ!ヘルプ!へループ!」

 

 がっちり捕まえられた肘がギリギリ言ってる。

 

「若様ーっ!」

 

「わ、若、若様、た、大変ぞ、腕、先感覚皆無、皆無ぅぅぅ!」

 

 私なんでこんなのばっかりなんだろう。

 

 

 

 

 腕の拘束が解かれたのは指先がだいぶ冷たくなった後だった。自業自得とか言わないで。

 

 

「もう王宮に戻るの?」

「あァ……行くぞ」

「若様のお迎え嬉しいわ!」

 

「ド、フィラムンゴさん、この手は何ぞ」

 

 でも今度は逆の腕…と言うか手が拘束されている。つまり──

 

「──?手を繋いでいるだけだが?」

「逃亡不可能か…」

 

 この男は私の逃亡まで全て読んで離してくれない。私が呟けば正解とばかりに口元を歪ませる辺り性格の悪さが滲み出るよね。

 

「ベビー、反対の手を繋いでやれ、親友…なんだろう?」

「はーい!」

 

 反対側の自由も失った!

 

 さっきまでもげるギリギリだったから手加減してくれる、よね?イブはそんな厳しい子じゃ無いよね?

 

「そうだ…リィン、後で誰かに案内してもらって夕食が終わったら俺の部屋に来い」

「…………回避可能?」

「ダメだ」

 

 嫌な予感しかしなくて私は楽しそうに会話をするイブと話を合わせながらこっそりため息をついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここの夕飯最高に美味しい。

 




ベビー5ちゃんとデート(笑)のお話でした。
リィンは友情とか美味しくないのでそんなに重要視してません。はい。

そしてこちらオチ決めアンケート途中経過

エース→1
サボ→2
百合ルート→1
レイジュ→1
シャンクス→1
ロリ…クロコダイル→8
ハンコック→5
ロー→3

圧倒的七武海の強さ( ˙-˙ )
恐らく、こちらで合ってると思います。
まだまだアンケート受け取りますよー!


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第50話 知るのと知らないのはどちらが正解?

 

「フッフッフ……、やっと来たか……」

 

 ソファに偉そうに座る姿を見てやっぱりもう少し逃げたかった(など)と思ってしまう。

 ええい!女は度胸!いざ出陣!

 

 私は逃げ道となる扉を開けたままドフラミンゴさんの部屋に入った。

 

「随分ベビーと仲良くなったんだな」

 

 この人どんだけ家族好きなんだよ。

 

「イブはとてもいい子ぞ。仲良くが嬉しき」

 

 ドフラミンゴさんは奴の目の前にあるソファに腰かけろ、と催促してきだした。

 勿論、座らない。

 

 逃げるためにすぐ走れる様にしておきたいから。

 

「…………」

 

 あれれーなんだろー…身体が勝手に動く。

 ドフラミンゴさんを見ると指先をクイッと動かしている。それに合わせて私の身体が勝手に動く。

 なるほどこいつの能力か。

 

「…イトイトの……」

「よーくご存知じゃねェか」

「知る事は大事と思ってる故に」

 

──グイッ

 

「じゃあ俺も知らねェとなァ……」

 

 身体が動き、ドフラミンゴさんの目の前に来たかと思うと腕を引っ張られ距離が一気に縮まった。サングラスの奥にある目は、こちらからは見えないけど私の目をがっちり捉えている様な気がしてならない。

 聞いたことがある、人は嘘をつく時目に様子が表れると。

 

「何故、お前が俺の秘密を知れる…?」

 

 薄ら笑いではなく無表情。

 思わず恐怖を覚えた。

 

「……………私にも、よく分からぬぞ…何故センゴクさんが私の如き子供に情報を託すのか、は」

 

 事実と何ら変わりない言葉を放つと眉をひそめた。

 

「………そりゃァ、少しも分からないのか?」

「いや、否定。理由、私の把握できる理由としては…母親ぞ」

「…!」

 

 ピクリとドフラミンゴさんが動くのを確認して私は続きを再開した。

 

「私の母親、大物らしく、センゴクさんとも縁が深いらしいぞです」

「…………一体誰だ?」

 

「シ、シラヌイ……」

 

 その言葉だけでドフラミンゴさんの口が開いた。

 

「なるほどな…伝説の海賊、ロジャー海賊団のメンバーか。……()()()()()()()()()()()が、そりゃ確かに大物だ」

 

 ()()()()()()()()()()()

 

 ドフラミンゴより行動範囲の狭いミホさんでもクルーを知っていたのに?有名でないとなれない七武海で、色々な所に拠点のある海賊が?

 

「俺はこう見えてもお前を高評価してるんだぞ?歳のわりに賢い糞ガキだとな」

「…恐悦至極(きょうえつしごく)にごぞります」

 

 嘘くせぇ…。

 そんな態度が現れていたのか、ドフラミンゴは片眉を上げて口元に笑みを浮かべる。

 

「おいおい疑ってんのか?本当だぞ?…──ベビーの性格を把握し手玉にとってファミリーの情報を聞き出す事を企てられる、くらいには、な?」

「な、な…ななな、に、ゆえ…!」

 

 私がキョドっているとドフラミンゴさんは懐から電伝虫を取り出し、私に見せる様に目の前に持ってきた。

 

「ベビー相手にしては80点。詰めが甘かったな、俺が海軍の人間を警戒しないと思ったか?」

 

 小さなでんでん虫を撫でるように動かす。この形状、まさか盗聴用の電伝虫か!?

 

「悪趣味……」

「何とでも言え」

「鬼畜 変態 もふもふ 」

「殺すか?」

 

 何とでも言えと言ったのはキミだろうが。

 

「……それなんだよ」

 

 電伝虫を机に置くと目の数センチ前まで人差し指を持ってきた。

 

「俺が歳の割に賢いと思うガキが、なんで俺を挑発する様な真似をする?お前になんのメリットがある……何故だ?」

「メリット…………」

 

 あれ、そう言えば無いな。ただムカつくから口がぽろりとしちゃったけど。

 なんでだ?

 

「メリットは無き…。でも、おかしきが、信頼は致したぞです」

「信頼?」

「傷付けない信頼。最初手に触れた時、暖かく感じるぞした……害をなす人物の手はびっくりするほど冷たかったぞ…」

 

「…………信頼におけない理由だな」

 

 ええ本当に信頼におけない。手の暖かい冷たいで害をなす人間かそうでないかを判別してたまるか。

 

 嘘ですから。めちゃくちゃ。

 

 なんかいい感じの言葉言って流してやろうって魂胆ですから。

 

「私の経験則……、どうぞ?」

 

 挑発するように笑うと、ドフラミンゴは驚いた顔をしたがスグに破顔した。

 

「フッ…フッフッ……悪かねェ判断だな」

 

 しばらく喉の奥で笑っているが、突然真剣な顔である提案をしてきた。

 

「……海軍の雑用のバックに七武海を付ける気はあるか?」

「……どのような意味で?」

「ファミリーに入るか、と聞いているんだ」

 

 なんで!?

 

 え、なんで。私嫌ですよ?

 なんでメリットも無いのに入らないといけないの?確かに七武海は海軍に狙われる可能性は無い。けどだからって安定した立場が保てる海軍の地位を蔑ろにするつもりは全く無い。

 

 

「私にその力は不要」

「賢くない判断だな」

「確かに、立場を上げる為、そして同期や海賊からの安全の為必要と推測するぞ…」

「そこまで分かってるのなら何故…」

「…不要だから、ぞ。()()は」

 

 含みを持たせた言葉にドフラミンゴさんは表情を変えた。

 

「雑用の私に確かにメリットは存在す、しかしながら必要無いのぞー……」

「七武海を背後につけるメリットを理解していながら何故話を受けない」

 

 確かに、メリットはある。まずここは一つの国だし逃げ込める場所となる事も可能。無法者が後ろについている事で相手の予測出来ない事をしでかすかもしれないと言う恐怖や不安感が私に手を出す事への躊躇(ためら)いになる。

 でも、それがどうした。

 殺されるわけでも無い。危害はあるかも知れないが所詮は将校未満の成すこと、そしてそれがもし将校以上ならば、MC(マリンコード)を使えばいいだけ。

 MC(マリンコード)と海軍証(大将バージョン)を見せれば抑止力になるんだから。私は不安定(海賊での安全)より安定(海軍での安全)を選びたい。

 

「……それは」

 

 まァ御託(ごたく)を並べてもめんどくさいからという一言で済むんだけど!

 

「………………それは?」

「私自身の地位とバックが最早そのメリットをカバー可能だからぞ」

 

 未だに掴まれている腕にギリギリと力が加わる。折れる。折れるから。馬鹿力おい。

 

「俺の納得できる理由なんだろうな?」

 

 なんでキミが納得しないといけないのが前提なんだろう。

 あれか?天竜人の時の名残か?自分一番だってか?…全く、(なげ)かわしい。実に(なげ)かわしい。もう少し相手の立場でものを考える事を学びましょうよ。親に教わらなかったの?はー!全くもー!

 

「私の地位は最高戦力、それぞ、力不足?バックは秘密、ぞり」

「…! テメェ一体(いく)つだよ」

「バリバリの6ぞ」

 

 本当の事を述べているのに疑いの目を向けてくる。失礼な話だ。

 

「2年より前に加入致した、ドフィラムンゴさんより先輩ぞ」

 

 ドヤ顔したらぐいっと引っ張られて顔面が近付いて。

 

──ゴッ!

 

 頭突き………。

 

 待って、痛い。めちゃくちゃ痛い。頭突きめちゃくちゃ痛いんですけど。待って、顔が近づいたらちゅーとかじゃ無いんですか?そうなったら全力で燃やすけど。

 

 私がその場で(うずくま)りおでこを抑えて激しい痛みに身を(もだ)えさせているとドフラミンゴさんが口を開いた。

 

「腹が立った」

 

 それだけで頭突きをくらわせるな。

 

「最高戦力っつー事は女狐か?」

「肯定…痛い……」

 

「お前は狐ってより鳥だろ、アホウドリ」

 

 頭突きをくらってこの扱いは解せぬものがあるわ。

 

「それ、なんで俺に教えた?」

「イブの保護者故、そして私の一方的な信頼故」

 

 まァもちろんこれも表面上だけ、センゴクさんが言っていたが国王などの重鎮には言わなければならないとか。だから遅かれ早かれって判断だ。

 

「本当にそうか…?」

「………。」

「おい」

 

 反応にちょっと遅れてしまった。

 

 私だってこの人が馬鹿だとは思ってない。むしろずる賢い。普通海賊は国王になれっこない、元天竜人で脅し道具を持っていたとしても。そもそも私が政府側なら秘密を握っているのなら口封じ、消す。権力の幅が広がる国王だなんて絶対につかせない。

 つまり、民衆に海賊でも国王になって欲しいと言う強い意思(民衆の支持)を持たせる事が出来た、って事でしょう?

 

 例えば──

 

  暴動を起こした王から民衆を守る とか。

 

 さっき私の体を動かしたみたいに操ったのなら、それを悪役に自分がヒーローになれる。

 

 というか、私の頭の回転が同年代より優れていたとしても、年上や目上の人に敵うわけがない。ドフラミンゴの能力を知った程度の知識でここまで予想が出来たんだ。……上が気付いてない筈がない。

 

 どんだけ重大な秘密と自分の身を守れる強さを持っているんだこの人は。

 

「………おい、聞いてるか?」

「ん………聞いてるぞ…」

 

「絶対聞いてないだろ」

 

 ドフラミンゴさんがため息を吐くと私の体はふわりと浮き上がった。

 

「よく考えたらもう夜中だもんなァ糞ガキ。ねんねの時間か〜?」

(たわら)はよせ、何故(なにゆえ)私は俵担(たわらかつ)ぎが多きか」

 

 俵担(たわらかつ)ぎだと腹が締まる。締まるんです。

 

「ほら、さっさと寝やがれ」

 

 ボスンと音がなる。ベットに放り投げるのはちょっとどうかと思います。

 

「ドフィラムンゴさんのベット?」

「あァ…」

「私、取る?」

「…? 別に気にする事ァねェぞ?変わりにファミリーの為に海軍の情報ちょろまかして来てくれるンならな」

 

 恩を作ろうってか。

 そう簡単に恩を作ってたまりますか!

 

──ぎゅ…

 

「ドフィラムンゴさんが手、暖かいぞ…」

「そんなにか?」

「そんなにぞ……」

 

 ベットから去ろうとするドフラミンゴさんの手を遠い方の手で掴んで握る。

 驚いた顔をしたがベットに腰掛けた。

 

「……ドフィだ」

「ドフー」

「ドフィ」

「ラムンゴが消え失せた事件」

「その呼び方一々地味に腹が立つから変えろ」

 

 ケチ臭い。男がそんな一々気にしてたらハゲるぞ。

 

「……」

「いたっ、何故無言で脳みそチョップするぞ」

「腹が立った」

「高血圧は体に悪き、飲酒は控えろむしろやめようそうぞそうするしようぞ」

「さっさと寝ろ」

「ケチ」

 

 意識を途切れさせない様に会話を間髪入れずに続ける。大丈夫私ならきっと出来る。

 

「ドフィさんはジョーカー?」

「……っ!? 何を知ってる…!」

「へ?だって、ダイヤのでぃまあんてさんクラブのとれーぼうるさんスペードのぴーかさんハートのコラさん、残りはどれにも属す無いジョーカーぞ?」

「……あァそうだな、だが、半分違う。俺ァキング、王だ」

 

 一瞬凄い動揺が目に見えたけど、ドフィさんは直ぐに落ち着きを取り戻し口角を上げて話した。

 というか最高幹部をトランプにするって結構お洒落だな。自分の服にセンスはないのに……。ちょっと可哀想になってきた、優しくしてあげよ。

 

「…その同情を込めた目が気に入らないんだが、その目消してもいいのか?」

「いますぐとじーゆ!」

 

 自己防衛の為に目を閉じると手の温もりが消えた。

 

「そのまま寝ろ……おやすみ」

「はーい」

 

 ガチャ、とドアノブに手をかける音がする。

 

「───服にくっつけた電伝虫は外しておくから早く寝ろよ?リ、ィ、ン、ち、ゃ、ん?」

 

 バレてたーーーーー!

 

 会話をすると見せかけてこっそり空いてる方の手でアイテムボックスから盗聴用でんでん虫をモフモフにくっつけたんだが、流石にバレてたか。

 正直会話の内容はどうでもよかった。とりあえず電伝虫さえ付けれればどうとでも良かったのに。せっかく私が自分の手を犠牲にしてくっつけたのに……!

 

 流石海賊、亀の甲より年の功ってやつか?

 それなら仕方ないなー!だって私まだお肌プルプルの子供ですもん!はーっはっはっはー!

 

──ゴンッ

 

 糸の塊が顔面に飛んできた。能力乱用反対です。痛い。

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

「どうした若…機嫌良さそうだな」

「グラディウスか…。丁度良い人材を見つけてな…フフフフフ……」

 

 愉快だ、と笑う姿にドンキホーテファミリーの幹部であるグラディウスは席を立った。

 

「酒か?」

「あァそうだな………、いや、紅茶だ」

「珍しい…」

 

 上機嫌になると度のキツイ喉が焼ける様な酒を飲むのがドフラミンゴ。その様子にもの珍しさを感じながらもお茶の用意をし始めた。

 

「(………引き入れてェな、海軍に入れておくには勿体なさすぎる)」

 

 本物の海賊というのをきちんと理解してないのか知らないのか、それとも知っている上であの(嫌悪感の無い)態度なのか。

 

 奸計(かんけい)を潜らせ計画を企てる思考回路と手玉に取ろうとする貪欲さ。

 

 海賊や立場を恐れること無く会話や挑発やターゲットにする度胸。

 

 そして何より自然と相手の懐に入っていく自然さ。

 

 女の術を磨かせれば少女趣味(ロリコン)の人間や子供を舐めている相手には効率が良いし臨機応変(りんきおうへん)に対応出来るだろう。

 

 あれほど有能で便利で伸び代のあるガキなど居ない。

 あれさえ手に入れば今現状の海軍の中枢にツテが出来る。

 

「(ヴェルゴは今確か大佐だったか……)」

 

 欲しい、益々欲しくなる。

 

 アレを洗脳(教育)するのは骨が折れそうだが直ぐにでも欲しいものだ。

 

 

「フフフフフ………」

 

 楽しそうに笑う姿にはどこか恐怖を覚える。

 

「手玉にしてェなァ………フッ…フッ…フフフフ……」

 

 

 

 

 

 雑魚はどうやら変人ホイホイの様だ。

 




書き足していけばいくほどドフラミンゴがHENTAにI


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第51話 心の平穏の為にも

 

 

 「……」

 

 キョロキョロと気配を消しあたりを見回す者が居た。

 

「(右よし左よーし前方オッケー!視界クリア!リィン、いっきまーす!)」

 

 ただの阿呆だった。

 

「(センゴクさんは怖い、時々厄介事の気配を感じさせると仏の仮面を被った閻魔大王(えんまだいおう)が見える)」

 

 まァ閻魔大王(えんまだいおう)の仮面を被った閻魔大王(フェヒ爺)も居るけどな!と、鼻で笑ってしまう。

 

 とにかくここまで(意図せずとも)サボっている状態だとマズイ。非常に焦っていた。

 

 

 雲の上の怒りより目の前の怒りの方が怖く感じる。

 

 ちょっと想像してみようじゃないか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『七武海の元に行ったと思えば七武海に攫われる?職務怠慢(しょくむたいまん)この上ないな…』

 『し、しかしながらどうしょうもない理由ぞ存在するしまして…』

 

 リィンはため息をつく上司に焦ります。何事もヒエラルキーは怖いのです。

 

 『理由?言い訳だろう?』

 『はい…ごもっともです……』

 

 もう土下座でもしてやろうかと考えます。プライドは美味しくありません。

 

 『言語不自由な上に仕事もまともに出来ない、更に油断もする。そして阿呆。これ以上海軍に置いて置けぬな…秘密を知ったからには』

 『おーけー待つぞするか』

 

 予想以上に責められ心が折れそうになりますが寸前で耐えます。

 

 『インペルダウン?生温い、処刑だ』

 『情は無きですか!?』

 『お前の母親が誰だと思っている』

 

 生まれた環境をこの時以上後悔した日はありません。

 

 『さらばだリィン、次生まれた時は無能を卒業出来るといいな』

 

 いくら不思議色の覇気(仮)を使えたとしても伝説の海兵達に捕えられてはどうする事も出来ません。リィンは静かに処刑台に連れていかれました。

 

 『この娘は戦神の娘!よって処刑する!』

 

 今、黒い刃が振り下ろされます。覇気付きとはなんと卑怯な。

 

 『お前がそこまで無能だったとはな…』

 『わらわの敵はこれでおらんなった!はーっはっはっは』

 『的を得ている』

 『リィン…しらほし姫様にはきちんと伝えておこう』

 『健やかに眠れ弱き者よ』

 『俺の秘密を知ってる奴が1人でも死ぬのを見るのは気持ちいいな…』

 

 敵なのか味方なのか分からぬ6人しか居ない七武海はその姿を傍観(ぼうかん)するだけで何処かの誰かに似た自分勝手ばかりです。おい何とかしろよロリコン。

 かろうじて雑用の皆は悲しがってくれますが所詮(しょせん)はリィンと同等の雑魚、何もできません。

 

 『エース、ルフィ、ごめんぞ…』

 

 遠い東の海に居る兄に謝罪を述べます。

 悟りました。

 

 『じいちゃんが伝えておくからの!リィンは死んだと!ぶわっはっはっ!』

 

 脳天気なクソジジイが隣で笑います。そして激しい痛みも来ること無くリィンは静かに目を閉じました。その生涯は何ともちっぽけなものでした。

 

 

 

 『堕天使様の根城へようこそ』

 

 目の開けると憎き敵の声が聞こえました。

 

 『ちくしょう』

 

 頑張れリィン、次の人生は報われるといいね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(洒落(シャレ)になんねェ………)」

 

 生まれたての子鹿の様にリィンはガクガクと震えた。マズイ、絶対まずい。

 言われた通り弱点の一つや二つ手に入れなければ非常にマズイ!

 

「(その為にも今夜弱点を握る!もしも本人や幹部に見つかったら「迷っちゃった♡」で乗り切ろう。多分いけるはずだ)」

 

──グイッ………

 

「へ…?」

 

──バタンッ…!

 

 何者かがリィンの腕を引っ張り部屋の中に入れ、扉はそのまま閉じられた。

 廊下に残った物は何も無い───。

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

 

 

「海軍の女の子、あなたはドフィの何を知っているの?」

 

 私の喉元に突きつけられたナイフ。

 

「ど、どなた……」

「ファミリーの幹部、ヴァイオレット」

 

 

 ヴァイオレット…だめだイブの自慢の中に話題が無かった人だ

 

「それで………あなたは()()敵?味方?」

 

 グッ、と力が込められる。

 

 ちょっと自分の置かれている状況が分からなくなってきた。

 

 

 ───私の?───

 

 ドンキホーテファミリーの幹部以上は家族の様な関係。私の嫌いな仲間意識がとても強い。

 

 その発言にふと違和感を感じる。

 

 

 考えろ、考えろ。今の状況を打破できる方法を考えろ。

 早く考えろ。

 

 海軍の女の子、これを知ってるのは幹部以上。これに間違いは無いだろう。

 私の部屋に入れた、これはこうやって聞き出すため、他の幹部が部屋の中に居ないことを考えると単独行動なんだろう。

 私の敵か味方か。ドフラミンゴの敵でも自分の味方という可能性がある。

 

 そしてそれは海軍に関係があるのかもしれない。

 

 とりあえず情報を手に入れない事には現状どうする事も出来ない。

 ドレスローザの事もドフィさんの事も幹部の事も圧倒的に事情情報不足。

 

「何を、焦る?」

「……!」

「味方ぞ……」

 

 そう言うと首からナイフが離れた。良かった良かった。

 

「本当に?私は見たわ、仲良さそうにしている所を…!」

 

 ………嫉妬?

 

 いや、違うか。そもそもドフィさんは覇気の使い手、覗き見をしてたら気配で分かる。思いっきり気配を消さない限り。

 私はこう見えても気配を消すのが大得意だ。影が薄いとか言わない。

 不思議色の力を使う時、集中力が必要だから気配を消すことに集中するのは得意なんだ。時たまにクロさんやミホさんを後ろから現れて驚かせれるくらいには。

 

 気配を感じるのはからっきしだけどな。

 

 そうなると、それを見れるという事は。

 

「悪魔の実?」

「………ギロギロの実…」

 

 警戒しているのか正面に来ても睨みつけながら会話をする。

 ギロギロの実、は確か覗き見ができる能力。そして記憶も。

 

 マズイ…立場がバレる……!

 

「………………………何を隠してるの?」

「っ!」

 

 このままじゃヤバイと思った私は水を作り出し蒸発させた。

 水蒸気で視界が塞がれる。

 

 大丈夫、大丈夫。視界を奪われれば記憶は探れないから。

 きっと大丈夫。

 

「目くらまし…っ!」

 

 そのまま比較的近い窓をぶち破って外へ飛び出た。

 

「弱点、聞き出すんだったぞかな…………」

 

 飛び降りながらそんな事を考える。

 

 王宮が思っていたより高くて現実逃避をしたかったんです。

 箒が折れてるのを完璧忘れてた……。

 

 

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

 

 

「……ドンキホーテ・ドフラミンゴ…っ!」

 

 遡ること数分前、ドレスローザに1人の訪問者が居た。

 奴がこの国の王の座についたと知って急いでやって来た。

 

「……!」

 

 王宮の側に居ると人が降ってきた。ちょっと理解が追い付かない。

 

「……………は?」

 

 素っ頓狂な声を出すが周りにいる人間は自分ひとり、見捨てるのも罪悪感がするので慌てて受け止めた。

 

──ポスッ

 

「……だい、じょうぶ…か?」

「…!っ!こ、怖かっ、怖っ!」

 

 この少女は一体何をして何をされたんだろう。その男は考え出したがキリがない。

 

「ありがとうござりますた。感謝」

 

 ペコリとお辞儀をして王宮に向かおうとする少女はふと立ち止まり男の方を振り返った。

 

「名前、私リィンですぞ…そちらは?」

「──………─」

 

 

 月明かりが男の顔を照らした。

 

「………………何故…、生きてる」

「…………分からない、何が起こったのか。殺されてしまった以上、もうあそこには居られない」

 

 少女はその見覚えのある顔を見て、一つボソリと呟いた。

 

「…誠に吸血鬼の如き野郎ぞ……」

 

 

「……そうだな」

 

 

 今度こそ少女は去ろうとした。

 

「………………俺を見た事は誰にも言うなよ」

「……了解致したです。何があったか知らぬるが、早まるは禁止」

 

「……あァ」

 

 

「……あ」

 

 何度目か、振り返り聞いた。

 

「ドフィさんの弱点ご存知無き?」

「じゃ、弱点…?

 

 

 

 

 ………………………バーベキュー?」

 

「…………ありがとうござりますた…」

 

 凄く要らない情報を手に入れたのだった。




これにて誘拐ドレスローザのお話しは終わりです。
この後箒をコツコツ直して逃亡しました。バーベキューが嫌いという弱点を掴んで。
ヴァイオレット事ヴィオラ様が本編より厳しめなのは「敵を信じぬいたサンジ」が居ないのと「ドレスローザを奪われたばかり」で刺々しく状況がきちんと理解出来てないから、です。美人がキツイのは…きますね((

最後に登場した謎の男はこれから多分かなーーーり後にならないと再登場しないので「ほーーふーーんはーーー」くらいに捉えていただいて結構です!まァ控えめに言えば『触れるなよ、触れるなよ』です。出川のフラグじゃないですからね


そしてアンケート。

相変わらず七武海大人気。
他のキャラがあまり関わって無いことも影響してるでしょうけど。
あ、票入れたい人間が変わった場合は自分のコメントを消して変更してくださいね!これからまだ出て心変わりとかあると予想する上での配慮となります!


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番外編5〜夏祭り〜

海軍本部ほのぼの夏祭り小話


「「「「「夏祭りィ?」」」」」

 

 会議室にいる海賊が同時に声を上げた。

 

「おいおい、普通こういうのは海軍だけでやるだろうが……何故俺たちに言う?」

 

 相変わらず煙をふかしながら砂人間のクロコダイルが呆れ声を出した。

 

「なんだ?何の理由がある?」

 

 天夜叉と呼ばれるドフラミンゴも同じように声を出した。

 

 

 

 海軍はマリンフォードに住む、又は訪れる市民のためにワノ国で行われるという〝夏祭り〟をしよう、と計画した。

 計画をしたのはいいが問題点がいくつか出てきた。

 

「…………人員不足、だ」

 

「……。」

 

 流石の参謀のつるさんもどうにも出来なかった。部屋の端で頭を押さえている。

 

「なにぶん、〝夏祭り〟の勝手が分からない人間が海軍には多い。そこでこの海を冒険している無法者達(七武海)の出番なのだよ」

 

 センゴクがそういうとガタッと席を立ち上がった人物が1人。

 

「つまらぬ。その様な用ならば帰らせてもらおう」

 

 鷹の目のミホーク。

 数年前まで全く本部に来なかったが近年面白い人間(アホ)を捕まえ浮上率が高くなったのだが協力性は皆無。そんな彼がやろうとしないのも目に見えていた。

 

「まァまァ待つぞですミホさん」

 

 海軍本部が処置した物は一人の少女(アホ)だった。

 

「祭りを行う事でメリットがいくつか存在するしてるです」

 

 ピクリと眉を上げた。

 

「どういう事だ?」

 

 

「(かかった……!)」

 

 ニヤリとリィンはほくそ笑むと指を1本ずつ立てていく。

 

「まず一つ。市民に協力ぞする姿閲覧し、七武海の怖いイメージの払拭…──ですが、ここに居る人間はその様な事気にすること皆無ですぞりねぇ」

 

 海賊──七武海のイメージを良くしようというメリット。一言余計だが。

 

 

「二つ目。それは利益、海賊家業も稼げるものとは皆無。今回の祭りでセンゴクさん達は利益の何割かをそれぞれに働き次第で与えると言うしてるですた」

 

「……その程度ならば俺は参加しないぞ」

 

「最後までお聞きしろです。

 三つ目。様々な人間に出会う事可能なところです。宣伝している以上、どんな島からどんな猛者がやって来るか…──」

 

「……」

 

 するとミホークは黙って席についた。

 

 恐らく『参加してやる』という無言のアピールなんだろう。

 

「フフフ…リィン。それだと俺には用無い。……収入源もある、猛者に出会う必要も無い。さて、お前は俺にとってどんな利益をもたらしてくれる?」

 

「勘違い禁止!」

 

 ズバリ、とリィンがドフラミンゴに言い放った。

 

「ドフィさんは…私にイブの相手をさせたという〝貸し〟ぞ存在するしてるです、…………さて、ドフィさんはどんな〝私が求める返し〟をしてくれるです?」

 

「…………。いいだろう、参加しよう」

 

 不機嫌そうでは無く、実力に満足しているのかニヤニヤと笑いながら足を組み替えた。リィンはこっそり息を吐く。

 

「(任されてしまった以上この厄介者共を納得させなければならない…!夏祭りの出店の為にも!)」

 

 七武海の会議に参加しないリィンにとって珍しい参加は何とも不純な動機だった。食べ物は偉大だ。

 

「クロさんは、無条件に協力するとぞ信じているです」

 

 ニッ、と笑ってみせれば仕方ないとばかりに頭をかく。

 どうやら『あなたは特別扱い作戦』が効いた様だ。

 これで上手くいかなかったら『嫌いになって海賊になる可能性が無くなるぞ作戦』に切り替わっていたが、言う必要は無い。

 

「あ、ジンさんとくまさんは参加するです〜?」

「わしはいくらでも協力しよう。リィンの為じゃからな」

「不利益になる事はあるまい。協力させてもらう」

「あぁ…なんとも苦労の無き説得……。楽で好き……」

 

 ちょっぴり泣きそうになったのは秘密だ。

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

『行かぬと言うたら行かぬ!』

「何故ワガママぞー!」

『嫌と言ったら嫌なのじゃ!わらわは(がん)として行かぬぞ!』

 

 まだ1番の問題児が残っていた。

 

『わらわはマリージョアに近寄りとう無───ッ!もう良い!わらわに関わるな!』

 

 

──ガチャ…

 

 

 

 

「無理の様子です」

 

 祭りの手配などを計画している頭の良い方々( クロコダイル ドフラミンゴ おつるさん )の邪魔にならない様にリィンはハンコックに電伝虫をかけたが珍しく声を全力で荒げ切られた。

 いつも切るのはリィンの方なので珍しい。これ以上関わるのは野暮かもしれない、センゴクに視線を送った。

 

「…はァ、仕方ない。女帝は不参加だ」

 

 元より期待してないのかリィンの想像よりも随分あっさりとしていた。まァ個人的にありがたい事この上ないが。

 

「リィン!」

「ほへ?」

「テメェが考えうるローリスクハイリターンの出店の内容を考えろ」

「…ドフィさんは私が脳細胞ぞ死滅するが予定か」

 

 ある程度案が無くなってしまったのかドフラミンゴが背もたれに体重を預け糸を操った。〝寄生糸(パラサイト)〟意外に糸とは考えれば強いものだなと1人リィンは納得する。

 

「ドフラミンゴ…いい子だからおやめ」

「フッフッフッ…おつるさんには敵わねェなァ……」

 

 糸で逃げられない様に腕を捕まえる。操る事は無くなったが自由が効かない。

 

「はぁ……束縛は苦手ぞりんちょ……」

 

 一言文句を言うと案を出すために口を開いた。

 

「バーベキューはどうぞ?」

「………………。」

「ドフィさん、痛い、腕、解放、願い」

 

 横でクロコダイルがため息をついた所を見ると自業自得っぷりが目に見えてわかる。

 

「私が考えるぞに、出店の内容は…────」

 

 

 

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

 

 

 

 

 ガヤガヤと騒ぐ音が聞こえる。

 

 リィンは1人マリンフォードをブラブラ歩いていた。

 

 気分は祭り一色、どこか浮かれた気分の人間が多かった。

 

「(一応平和や正義の象徴なんだけど腑抜けていいのかな……)」

 

 考え事をしていると。

 

──ドスッ

 

「っぎゃう!」

 

「よォリィンちゃん」

「……出会い頭に脳天に攻撃加えるは禁止ぞ…ドフィさん」

 

 頭を抑えながら振り返るとチョップしたであろう片手をあげてニヤリと笑うピンクの鳥。

 

「リィンちょっと来い」

「っ、うわっ!」

 

 リィンの身体が浮いたと思ったらクロコダイルが抱え上げていた。

 

鳥野郎(ドフラミンゴ)、準備は出来てるんだろうな?」

鰐野郎(クロコダイル)、テメェに言われなくても完璧だ」

 

 いつの間にか(ストーカー)(ロリコン)が仲良くなってる。

 

「ちょ、変態が編隊組んで何をしでか……──うぎゃぁあ!ジィィィンさァァアーーー!ヘルプ!私誘拐され、ミホオオオオ!!」

 

 叫び声も虚しく変態2人に部屋に連れ去られた。その場を通りかかったジンベエとミホークはお互い顔を見合わせると同時に合掌したのだった。

 

 

 

 結論:七武海は仲良し

 

 

 

 

 

 

 『待って、停止、服離せ!』

 『あ?テメェがこれの着方分かんのかよ』

 『ワノ国の民族衣装をこいつが知るわけ無いだろ(わに)。さっさと剥くぞ』

 『分かる!分かるぞりぃぃぃ!っ、さっさと───出ろーーー!』

 

 

 

 ──10分後──

 

 

 

「はぁ………一気に疲れる」

 

 鳥と鰐を追い出して10分、部屋から出てきたリィンの服が変わっていた。

 見慣れない者もいるだろうが海賊の彼らには見覚えのある物だった。そして、前世を日本という国で過ごした彼女にとっても。

 

「……似合うじゃねェか」

 

「そりゃどーもです」

 

 浴衣。

 夏祭りと言えばこれに限る、とドフラミンゴが用意したらしい、が。

 

「(何でサイズぴったりなんだろう……)」

 

 1人首をかしげた。

 

「で、コレを着るぞするメリットは?」

「面白いから」

「……………っ、この、クソ海賊…!」

「まァ鳥野郎の冗談は置いておいて。ちょっと来い、アレを見ろ」

 

 リィンの手を引いて人混みを案内するとある屋台の前に来た。

 

 

「さ、〝3大将のかき氷〟……?」

 

 ネーミングセンスからして嫌な予感しかし無い。

 

「あらら、リィンちゃん随分可愛い衣装着てるじゃ無いの」

「クザンさん…売り子?」

「俺だけじゃ無くってボルサリーノとサカズキもいるよ」

 

 リィンの背が低いのとクザンの背が高いのもあって奥が見えない。背伸びをするが見えないので諦めていると一気に視界が高くなった。

 

「何じゃい、何をしに来た」

「……サカズキさん、それ私以外なる子にやるは禁止ぞです」

 

 目の前に厳ついおっさんの顔が現れた瞬間声を上げそうになった。よく我慢したものだ。

 

「──と、言うわけだ」

「どういう事ぞ」

 

 クロコダイルは視線が1周ぐるりと回ると長いため息と共に問題点を口に出した。

 

「………怖すぎて誰も近寄らない」

「あー……」

 

 確かに、と納得してしまう。

 まず大将という肩書き。市民に紛れている兵士はもちろん普通の市民でも怖くて近寄れないだろう。顔もいかつい事だし。

 

「クロさん、かき氷」

「は?」

「買ってぞ」

 

「………。」

 

 睨みつけたがどこ吹く風のリィンを見て諦めたのかクロコダイルは素直に買った。

 

「何味がいいんだい〜?」

「いちごとレモンとはわいあんぶるー?……なんというか、わかりやすいというか…───いちごさん!」

 

 小声でボソリと呟くと、顔を上げて二ィッと笑いながらイチゴ味を注文した。

 

「はいどうぞ」

「ありがとうですおじちゃんっ!思ってたより優しいです!──っ!美味しぃ〜…!」

 

 至福、とばかりにニコニコするリィンを見てその場にいる大将と鰐は思った。

 

「「「「(だれだこいつ……)」」」」

 

 少なくともこんな素直でニコニコとガキ相応の顔をする様な奴じゃなかった。

 

「お、おじさん!ぼ、僕にも一つください……」

 

 するとリィンに影響されてか、怖いというイメージが無くなったのか。子供たちがベリーを握りしめながら近寄って注文した。

 

「……。」

 

 リィンはかき氷を食べながらニヤリと笑う。人間誰か1人目が行動しなければ何かの行動を起こしにくい。

 要はリィンがその1人目になっただけなのだ。

 

 売り子の手伝いをしてもいいがそれだと〝3大将のかき氷〟にはならないだと思うリィンの気遣いだった。

 

「さ〜てと、クロさんたこ焼き行くぞでーす!」

「あ?俺もか?」

「期待してるですぞお財布さん!」

「……。」

「ぎゃあ!かき氷半分も食すするなぞ!」

 

 

 自分が久しぶりの祭りと浴衣を楽しみたかった…理由では無い、と思う。




まず感情を…ネタ提供ありがとうございます!

ハンコックさんの不参加は『天竜人をぶん殴ったルフィ』の為に本部に来たのであって『興味のある雑用の少女』の為にあの綺麗なおみ足は運びません!これは私のぽりしーです。

今現状でロリ…クロコダイルさんとリィンの認識は『手間のかかる勧誘対象のガキ』と『便利なお財布さん』という認識ですので!


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海軍編下
第52話 王家に関わる気など皆無


 

 この世界には4年に1度世界会議というものがある。

 世界の中心である〝聖地マリージョア〟にて行われる世界最高峰の会議。

 

 そこに参加する国は170国以上の加盟国の中から50カ国のみ。

 

 

 

 

 我々海軍は各国に一つ軍艦が付けられる。

 

 今現在、護衛は中将及び大将を護衛兵として軍艦を連れていくというルールなのだが、まァもちろん全員じゃない。

 そっちに力を入れすぎていて他の支部や本部を狙われては元も子もないだろう。

 

 

「先の説明の通り、本来ならば〝守り〟を掲げる大将女狐にも参加してもらいたい」

 

 うん、守る対象は自分だけどね。

 

「ただ、大将就任より4年経ったとしても、いくら何でもまだ8歳、部下にそれを説明するわけにもいかない……。今回の世界会議で各国王や護衛の重鎮達には伝えなければならないが今下手にバレるとマズイ」

「それは理解してるです…」

「よってマリージョアには単独でこっそりと移動して貰いたかった……──」

 

 

 たかった?

 どうして過去形?

 

 センゴクさんが頭を悩める姿を見て首をかしげる。なんだろう、厄介事の予感。

 

「──のに!………リィンにある国から護衛メンバーへのリクエストがあった」

 

「ま、まことです?」

 

「…………こんなめんどくさい嘘を付くわけがなかろう」

 

 心から絞り出した様な声が聞こえる。そりゃそうだ。

 しかし私を指名するってどこの国だ?

 

 竜宮王国?……いや、あそこには私が海軍に所属していると言う事は言って無い。

 ドレスローザ?……確か4年前は参加してる国だった。王が変わって参加できるのかどうか分からないが可能性としては凄く有り得る。やっぱりここが可能性高いな。

 

「…アラバスタ王国だ」

何故(なにゆえ)!?」

 

 確かに、関わりが無いことは無い。

 初めての航海でゲロ酔い状態の私は確かにアラバスタ王国に降りた。そして王女ビビ様と自己紹介をして人攫いから助けた。

 でも1日にも、むしろ1時間にも満たないたったそれだけの事。

 

 私を指名する理由にもならないし私はあの時海兵になるとは言ってなかった、はず。言ったっけ?言ってなかったっけ?

 まァ例え4年前の私の語彙力(ごいりょく)じゃ子供には伝わらないだろう。自分で言ってて泣きたくなるけど。

 

「……厄介な事に王女であるビビ様も付いて来るらしい…ほんっとに、頼むぞ!?」

「は、はァ…」

「国王直々の指名だからな?頼むぞ!?」

「そ、その様に念を押すしなくても…」

 

「あともう少し自然に喋れんか」

「無理です」

 

 これでも成長したんだぞ!?ここ最近おつるさんの口調指導が厳しいのもあるけど。

 

「………それでここからが1番問題なんだが」

「……はい」

 

「人員不足だ」

 

 え、人員不足?それでいいのか海軍。

 

「正確に言うと中将以上の人員不足だ。実は…予定していたオニグモ中将が今回参加出来なくなった…」

「え、オニグモ中将が?」

「ちょっと、な…重大な任務につかせていて、南の海に居る。思ったより時間がかかりそうなのだよ………。私が護衛に付くわけにもいかぬしボルサリーノはここの守りに入ってもらうし……、手の空いた中将以上の兵が全く居らぬ」

 

 中将の人は私がお茶くみ係として会議に参加しているお陰で私=女狐だ、という事を知ってる人が多い。しかし大佐以上の階級、もちろんその中に中将は存在しているがそういった人はそれぞれの海で支部を設けられるので知らない人も案外居る。

 オニグモ中将は本部に勤務しているので前者だ。『相変わらずちっちゃいなァ』と言って抱え上げて来るから毎回子供扱いするなと髪を引きちぎってやりそうになってしまう……。年上相手にそんな事やる勇気は無いけど。

 

 しかし、それはかなりまずいな。もういっその事誰か少将を階級上げして中将にするか、いや、それだと経験や対応能力に差ができる。

 少将と中将は階級として一つしか違わないが壁に凄く差がある。

 

 世界会議に参加する程重要な国の護衛に力不足の兵を下手に中心に置かない方が良いだろう。

 

「とりあえず1国、リィンにはアラバスタでの護衛担当責任者を裏で行ってほしい」

「責任者………何故(なにゆえ)私が」

「位が大将という事で後で世界会議で言ったとしても不満は湧かないだろうしそれがアラバスタ王国なら、あの国の王は寛大(かんだい)だ。本来このような事があってはならないが被害は少ないだろう」

「は、はぁ……」

「そして悪魔の実の能力者というのはかなり重要視される。そしてお前の箒などを風で動かす事が出来るということはある程度大体のトラブルは何とか回避できるやもしれん」

 

 要するに、『後で雑な護衛でも説明出来るしお前なら何とかなるだろ』って事だな。

 確かに、ビビ様に泣きつけば何とかなりそうな気がするけどそんな重大な任に私をつかせていいわけ?

 

「では、表は…」

「……ボガード少将なら、お前が大将という正体がバレてもと思ったんだが、アレを護衛につかせるには性格に少々難がある」

「確かに………」

 

 ボガードさんは良くも悪くも平等主義。ヒエラルキーをあまり気にしない性格でもある。確かに難ありだ。

 

「リィンの知り合いに信頼出来る奴は居ないか?階級はなるべく大佐以上がいいが……」

 

 信頼出来るって事は私の正体に目をつぶってくれて私が船に乗ることに抵抗の無い人間という事でしょう?

 

 参った、大佐以上となると私は主にジジの直属部下と中将にしか知り合いが居ない。ドーパンさんでは自由が効かないだろう。

 

「無茶を承知で申すですが、少佐でも可能です?」

 

 私が聞くとセンゴクさんはふむと(あご)に手を添えた。

 

「ヒナ少佐とスモーカー少佐か?」

「はい。地位も低いし、実力は確かに劣るです。しかし私の信用可能な将校は彼等です、2人揃えば力不足も補えるが可能かと」

「なるほど…少佐2名に若手大将1名の護衛責任者か……、悪くない案だ」

 

 ……。まァ力不足が何人集まろうと力不足だけどね。私が胃を傷めずに平穏に過ごせれるメンバーだとしたらこれ以上いい人選は無いだろう。

 

「私もあの2人には目をかけているしこの際だ、とりあえず大佐にまで昇格させダブル護衛に付いてもらうとしよう」

「今直ぐ伝える方が最良ですか?」

「必要無い、言い方は悪いがコレは実力などでは無く不正だからな……。今あの2人に大佐の階級は手に余るだろう」

 

 中佐ならまだしも大佐だからそれだけ一気に責任やら何やら襲って来るだろう。…襲って来るかな?スモさんとか責任に押し潰される様な軟弱な人じゃないと思う。アレ、不良だし。ヒナさんは元々責任感の塊だから今更変わらないだろうし。彼女なら完璧に仕事をこなすだろう。

 

「細かい時程などは追って連絡する。本日から世界会議まで何があるか分からないから本部で待機しておいてくれ」

 

 私待機する気満々なのに放浪癖がある様な言い方やめてくれません?私じゃなくて他の海賊が悪いんじゃないか。ちゃんとお詫びとしてドフィさんの時も弱点調べたでしょう?…バーベキューだけど。

 

 

──プルプルプルプル

 

「─……」

 

 このタイミングで鳴るでんでん虫は嫌な予感しかし無い。居留守の使用は可能ですか?

 肩につけた通常より1回り大きめのでんでん虫を横目で見る。

 

 でんでん虫の受信には個体差があって、私は各地を物理的に飛び回っているから大きめのが支給された。アイテムボックスに入れてしまうと音事聞こえなくなってしまうから基本外に出してる。ただ大きくて頭か肩という不格好な位置に付いてるんだよね。

 

「出ないのか?」

 

 私のつまらない現実逃避を止めたのは我が上司でした。

 

「………………出ても宜しくてですか?」

「あァ構わない」

 

 否定するのを期待してたんだけど質問された状態では望みが薄いのは分かってた!分かってたもん!

 

──ガチャ…

 

「もしもし、こちら海軍本部。事件ですか事故ですか」

『おいおい寂しい事を言うんじゃねェか…リィンちゃん』

「………生憎と1日1回以上でんでん虫をかけてくる海賊(ドフィさん)程暇の存在は皆無ですので、では」

『国王として用があるんだが?』

「お断り致すです」

 

 チラリとセンゴクさんに目を向けると額を抑えた。後で胃薬差し入れしよう。

 

『世界会議の護衛に海軍大将女狐を指名し…──』

「手遅れです」

『チッ……遅れたか…』

 

 こいつ絶対今日こういう会話がある事を知っていたな。

 

 やだこのストーカーっ!どこにスパイがいる!

 

 

 閑話休題

 

 

 

「そもそも強いです、護衛など、不要!」

『それは俺の実力を認めてくれてる事か?フッフッフ、可愛いじゃねェか』

「情緒不安定お疲れ様です。私は純粋に強いと思ってるですよ?性格の残念さがマイナス要素に存在してるのみで」

『雑用部屋はどこだったかな…』

 

 今日はヒナさんの所に泊まろう。うん。

 このストーカー、相手に出来ない。

 

「用が無いなら失礼致すです」

『おい待て、──マリージョアに隠されている秘密をバラしても良いのか?』

 

 ピクリとセンゴクさんが動いた。

 

「はァ……そうですか」

 

 センゴクさんの口が動く。なになに?

 

 『 う け ろ 』

 

 どんな秘密を握ってるのか少し気になり始めた。でもこれだけはマズイ。知ったら厄介事に絡まれる予感しかしない。

 仕方ない。

 

「受けません」

 

 受けない事にしようじゃないか。

 

「…!?」

『おいおい大胆だな……良いのか?』

「だって私8歳だ……ぞ、私に関係が無い事は脅しに効かぬ!」

 

 センゴクさんもドフィさんも冷静さを失っているのか、脅しというのは自分自身に関係のある事でしか使われない。利用出来ないんだ。

 いくら私が政府側の人間であったとしても政治など何も分からない〝子供〟なのだから。

 

 つまり『私を動かしたいなら私にメリットがある事を持ってこい』って事だ。

 

「そしてそれが発覚する前に私は切る!」

 

──がちゃ…

 

 いくら糸巻き巻き人間でも電話は操作できない。

 

「何故そんなに喧嘩っぽい……」

「だって、私、ドフィさん嫌いです」

「………………それには同意するが」

 

「コラさん殺すが原因となった政府も嫌いですが」

 

 バッ、とセンゴクさんの顔が上がった。

 

「いつ…、コラソンの事を…!」

「2年前に。帰った時言うのはセンゴクさんの胃に負担と思った故にです」

「………………そう、か…」

 

「コラさんの本名は、ドンキホーテ・ロシナンテで合致ですか?」

 

 私がそう言えばセンゴクさんがコクリと頷いた。

 ロシナンテさん。ね。

 

 

 

「………………」

 

 

「どうした?」

「兄弟喧嘩とは悲しき物ですぞね…」

 

 うぅっ、エースとサボとルフィに会いたい…。もうそろそろホームシックだ。むしろ引きこもりたい。

 

 もうそろそろサボの手がかり掴めないかなって思ってるけど…。ひょっとしたら名前を変えてるかもしれない。

 

 しかし!こっちは世界各地四つの海から前半後半まで飛び回っているんだ。サボに貰った青いリボンを付けて。

 

 私が分からなくてもサボが気付いてくれる可能性がある。から。

 お願いだからもうそろそろ見つかってよ………。情報部に暇さえあれば出入りしてるのにっ!

 もちろんあーだこーだ言われないように許可は取ってますが?

 

「失礼致しますた」

 

「う、うむ…」

 

 カモメが今日も可愛らしい。

 




原作で少将ヒナがアラバスタの護衛についていましたが今現在は中将以上、です。
これは特に深い意味はありませんが後々。



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第53話 胃の痛みは無限大

 

 アラバスタ王国へ向かう船旅の最中、私はスモさんの個室で箒に乗ってプカプカ浮いていた。理由は簡単そして単純明解、酔うからだ。

 

 

「おいリィン、着いたぞ」

「まこと!?部屋の貸し出しをありがとう!」

 

 この前二段飛ばしという異例の昇格をした大佐のスモさんにお礼を言うと個室で飛んでいた箒をしまった。

 船に酔いやすいとはまことに不便。

 

 もうそろそろお尻が痛くなってきてるんですよね。自分で飛んでいった方が船の速度に合わせて船内で飛ぶよりずっと楽だし。

 酔い止め薬、もうそろそろ強いヤツ開発してくれないかな世界政府科学班。

 

 というか異例の昇格って言ってるけど私何歳でどこの階級から大将になったと思ってる?4歳で雑用から大将だぜ?どんな非常識だ、もっと段階踏んでください。

 

「リィン?どうしたの?行かないの?」

「行くです!ヒナさん待って!」

 

 考え事をしていたら次はヒナさんが顔を覗かせた。やばいやばい。

 私は急いであとを追った。

 

 再会まであと少し、胃がちょっとどころかかなりキリキリしてきた。

 

 

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

 

「リィンちゃん!」

 

 オーケー、ちょっと待とうかお姫さん。

 

「私ずっとあなたに会いたかったの!久しぶりだね!」

 

 私がいる場所まだ上陸しても無いところ何ですけどどうして下から声をかけるんですか?私の様な雑魚に何のようでしょう。

 

「リィンちゃん……?」

「なんでしょうビビ様…?お久しぶりです。お元気そうで何より、と、です」

「わぁ!リィンちゃん言葉上手になったね!」

 

 だってこうやって王族やお偉いさん相手にする時の為につるさんに扱かれたんですもん!

 

「そりゃあ…私も成長は致すです……。ビビ様可愛くなるしたですね」

「そ、そんな…ありがとうリィンちゃん」

 

 エヘヘ、と笑う空色の髪の少女。アラバスタ国王女ネフェルタリ・ビビ様。

 彼女とはあまり関わりたくなかったのだが、仕方ない。

 

「キミが4年前娘を助けてくれた子供かな?」

「へ?」

 

 ビビ様に向けていた視線を声のする方に変える。

 

 娘?

 

「勇敢な少女にお礼を言えなくてすまなかった。私はアラバスタ国王ネフェルタリ・コブラだ」

 

 大ボスがやって来た。

 

「は、はっ!私は雑用のリィンと申しますです!コブラ様、まことにありがとうございますです!」

「ハハハッ、そんなに固くならなくていい。私の娘の友達で命の恩人なのだからな…」

「は、はぁ…お、お言葉に甘えるです」

 

 固くなるに決まってるだろうがって叫びたくなるのよく我慢したな私。

 

「あの…気になるですが…」

「どうかしたか?」

「っ……、えっと、何故(なにゆえ)私が海軍に所属しているとご存知ですか?」

 

 ちょっと気にはなってた事を聞く。失敗だったかな、王様怖い。ヒエラルキー怖いなぁ。

 

「確かドーパンという大佐に教えてもらったな」

 

 貴様か。

 

「「………。」」

 

 横でスモさんとヒナさんが仰天してるのが見えてしまうのがなんとも悲しくなる。言わなくてごめん。

 

「おい…テメェなんで言わなかった…(ボソッ)」

「王族と知り合いだったの?ヒナ驚愕(きょうがく)(ボソッ)」

 

 スモさんは仏頂面で、ヒナさんは笑顔のまま隣に並ぶと表情はそのままに小声で呟いた。

 随分大胆な事しますわね。

 

 私は2人に王様相手にするバトンを渡せば私を引っ張ってどこかへ連れていこうとするビビ様に素直に従った。

 

「本日はわたくしヒナ大佐とスモーカー大佐が護衛を務めさせていただきます」

「あぁよろしく頼むよ御二方。そしてリィンちゃんも」

「は、はい……」

 

 もう2人の傍に居ないのにわざわざ方向転換して挨拶してくれる王様マジ神。出来れば記憶に残して欲しくないかな。

 

「かい゛、マ〜マ〜マ゛〜、海軍は何を考えているのですか!?護衛は必ず中将以上の方が付くと決まってるのでは!?」

 

 髪の毛をぐるぐる巻きにして今まで出会った中で1番2番を争える格好(髪型のみ)の人が規則について触れてきた。

 痛い所を付くね、え、センゴクさんあらかじめ説明してくれて無かったの?

 

 他の電波を傍受(ぼうじゅ)出来る黒電伝虫を誰かに使用されるのを恐れたのか?

 でも盗聴妨害用の白電伝虫は海軍本部にあるはず。凄く希少種だけど。

 

 余談だが盗聴用の電伝虫は二種類あって、電伝虫同士の電波を盗聴する黒電伝虫と半径5m内の小さな音を盗聴する超小型電伝虫がある。

 

 電伝虫を盗聴するか人間を盗聴するかの違いだけど。

 

 

 閑話休題

 

 

 

「それには色々と理由がありまして……」

「理由!?そちらの都合でこちらの王を(ないがし)ろにするつもりなのですか!?」

「いえ、決してそういう事ではありません…」

 

 ヒナさんが話して良いのか悪いのか分からなくてアタフタしている。ここら辺は経験の浅さと判断力の甘さが他の中将さん達と違う所だね。

 私は意識が全員そちらに向いている事を確認すると人差し指を口元に持っていってヒナさん達に手話と呼ばれる指文字で指示を出した

 

『ナイミツ ニ ツタエル』

 

 それを伝えるとヒナさんより先にスモさんが頷いて他の海兵に聞こえないように伝えた。

 

「内密事項だがこの船に海軍大将が乗っている、のです」

 

「…!……それは本当か?」

 

 コブラ様が驚く顔を作るとスモさんもヒナさんも微妙な表情になり目が泳いだ。

 おい、何が不満だ。私の何が不満だ。

 

「そりゃあ、まぁ、本当だが……」

「と、とにかく今回はわたくし達が主に護衛に務めさせていただきます。大将は秘密裏にお守りしますのでご安心を…」

 

 スモさんが言葉を濁すとヒナさんがカバーをした。

 嘘がつけないし無礼だが判断力があるスモさんと、規律を主としてる故に堅いが気遣いの出来るヒナさんは結構いいコンビだと思う。

 

「リィンちゃん?どうしたの?」

「……何事も存在しないです」

 

 ビビ様が手を引っ張って王族の船に乗せようとしてるのがとても気になってワンテンポ返事が遅れてしまった。……私もまだまだ…か。

 

「ねぇねぇリィンちゃんも私と一緒に行こう?」

「私は海兵故に船は別となるです、が…」

「いいじゃない!海兵さんは私たちを守るために来ているんでしょ?なら傍に居てくれた方が安心だわ!」

「…………承知です」

 

 さり気なく教養を見せつけてくる辺り成長したなと思ってしまう。確かに反論出来ない意見だ。

 

「スモさーーん!ヒナさーーん!ごめんぞー!私こちらの船に乗るでーーす!」

 

 もう距離の離れている2人に声をかけるとギョッとされた。

 

「お、おい!テメェ…!………雑用が乗るのかよ!」

「雑用故にそちらの船での存在意義はほぼなしですぅぅー!」

 

 ぐいっと引っ張られコケそうになり、慌ててバランスを立て直した。

 コケる拍子にビビ様まで巻き込んで転んでしまったら洒落にならない。首が飛ぶ、物理的に。

 

「あ、あの…ビビ様…一つお願いがあるです」

「どうしたの?」

「私、船に酔いやすく、箒に乗る許可をいただきたいです……」

 

 個室に入れないという事は能力がバレる事と引き換えに酔い防止をする必要がある。

 後々正体がバレた時酔いまくりだと知られたら「大将が乗ってる意味無くね?」となるのを恐れたからだ。恐ろしい、仰天して青筋たててるセンゴクさんを想像するだけで恐ろしい。

 世界政府も王族も上司も恐ろしい。

 

「ほう、き…?」

「はい。よろしいです?」

「…? よく分からないけど良いよ!同じ砂砂団の一員だもの!」

 

 あ、私まだ砂砂団に属しているんですか?

 とにかくこれで言質は取った。誰が文句を言おうと「王女の許可あり」と言えば国王以外の口は閉じられるだろう。

 権力とは凄まじいものよのぉ!フハハハ!海軍大将の権力も使う事が出来るのもこれまた楽!万歳不正!万歳七光り!万歳!

 

「おーい、リィンちゃーん?大丈夫〜?顔が面白い事になってるよ?」

「は…! 申し訳ありませんです。少々考え事をしてるですた」

「考え事してたの?本当に言葉上手になったね〜」

 

 聞きましたおつるさん!あなたの指導と私の努力の賜物(たまもの)ですよ!ありがとうございます教えてくれて!

 

「嬉しいです。ありがとうございます」

「ふふ、私のお部屋に招待するね!2人だと小さいかも知れないけど…1週間のふなたびなんだよね?」

「そうです、長旅になるですから何か不満などあれば申し付けてくれです。可能な範囲のみ対応するですから」

 

 にこりと営業スマイルで笑ってみせればビビ様は不満そうに顔を歪めた。なんでだ。

 

「お友達じゃないの…? 何だか王宮で大人の人が使ってる態度みたいで嫌だよ…」

 

 なんだ、一応仮にもこちらとしては海軍の兵士(雑用)として来ているんだ。王族と相手に「ハローお元気ー?」とか言った日には太陽と別れを告げなければならない。それだけは絶対嫌だ。

 

公私混同(こうしこんどう)、はダメです。私は今〝(こう)〟として来てるです。あ、でも…〝()〟ではお友達です、砂砂団の一員故……ダメですか?」

 

 おずおずと申し立てればビビ様の顔は一気に輝いた。どうやら納得してくれた模様で私はこっそり安堵の息を吐く。

 ちなみに私に〝私〟が来ることは無いけど。だって海軍やめるつもりも無いし個人的に王族と関わる機会なんて絶対無い。

 

 え、無いですよね?

 

「ビビ様、出航しますよ?」

 

 乗り込んできた人が言うとビビ様は「ペル!」と声を上げて抱きついた。

 はて、聞いたことがある様な無い様な……。

 

「あ、……あなたは4年前の時の少女…。あの時はビビ様や砂砂団の皆を守ってくださりありがとうございます」

「あ、いえいえ。当たり前の事をしたまでです」

 

 思い出した。人攫いの時に出てきた人の1人じゃないか。懐かしい、お久しぶりです。

 一介の兵士相手なら気が楽だ。

 

「キミはこの船に乗るのかな?」

「は、はい!ビビ様に頼まれたです!」

「そうか、それは心強い」

 

 爽やかスマイルを向けるとそのままコブラ様達の元へ向かって行った。なんだあの運動部のエースを務めてそうな人間は…!あの人種が苦手、教室の隅っこ系女子に気軽に話しかけに行けるヤツ。むり、関わらないで…!私は漫画を読んでいたいの…!

 

「ま、いっか…」

 

 小さくボソリと呟く。

 とにかく船が動いてしばらくしたらさっそく箒に乗らないと…。マスト辺りの高さまでいくと視覚的に死ぬから低空飛行だけどね。マストの上げ下げくらい手伝わないといけないですよね、絶対。

 

「リィンちゃん、行こう?私見張り台登ってみたいなぁ…船に乗るの初めてなの!」

 

 無邪気に笑う王女様を相手にしながらヒナさんとジョブチェンジしたくて堪らなかった。

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

 

 ──時を遡る事数日前──

 

 

「お邪魔するでーすスモさんヒナさん!」

「あ、リィン…。丁度良かった、伝えないといけない事があったの」

 

「…?」

 

「わたくし達何故か今度大佐になるの…そしてね、今度の世界会議(レヴェリー)の護衛に付くみたい」

 

 ヒナさんが盛大にため息を吐く。私はその時思った。

 

「(大変だなぁ……私のせいで振り回されるなんて。私にはゴメンだ)」

 

 他人事だった。

 

「面倒くせェな…チッ」

「まぁまぁ、お2人とも階級おめでとうございます。アラバスタのネリフェタリ家ですた?」

「アラバスタの〝ネフェルタリ〟よ」

「おお、そうですた。流石ヒナさん心強いです」

「わたしくは不安でしか無いわ。ヒナ不あ………───どうしてアラバスタ国だと知っているの…?ヒナ、疑問」

 

 ヒナさんが会話の不自然さに気付き書類を見ていた顔を私の方に向けた。それに釣られスモさんまで見ている。

 

「そりゃあ私も共に行くからです」

 

「は?お前雑用だろ?」

「しかしながら私別の階級存在してるです」

 

 あっけらかんとトップシークレットを漏らせば2人の動作が完璧に止まった。そっくりか。仲良しか。そんなに私に仲良しアピールしたいのか。

 

「………は?」

 

「今回の階級と2人の護衛は大袈裟に言うなら私のイレギュラーを隠す為でもあるです」

「どういう事だ………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「私、女狐だもんです」

 

 

 

 

 

 

 

「「はぁぁぁぁあ/えぇぇぇぇえ!?」」

 

 シンクロ率はびっくりする程高かったと記憶している。

 

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

 

 そんな事もあったな、と物思いにふける。本当はふける余裕なんてないですけど、現実逃避です。

 

 

 何故なら、

 

 

「わぁ!すごい!空を飛んでる〜!」

 

 

 

 箒の後ろにお姫様が乗っているから。

 

「ビビ様〜!お気を付けてください〜!」

「うん!ペルの背中に乗ってるみたいで気持ち……あっ」

「あ……ひ、秘密じゃないですか〜!」

 

 ビビ様が何かボロを洩らした様だ。現実逃避もここまでにしてきちんと集中しよう。新しい箒はまだちょっと慣れてないんだから。

 

 つい半年程前、クロさんが持ってきてくれた箒が〝飛べる箒〟のイメージと同じで、私の電伝虫の番号交換と引き換えに譲ってもらった。

 折れた箒は直して1年くらい使ってたけど接合部分から脆くなってもうそろそろポッキリいきそうだったのですぐにもらったのだよ。

 でも正直番号は要らなかった様だ。何も言わずに去ってしまったからな。……もちろんその次の会議でお茶をくんだ時こっそりお菓子渡しておいたけど。機嫌なおせよ砂人間。

 

 

「リィンちゃん凄いね!」

「え、えへへ〜………はぁ…」

 

 

 

 これ、責任問題とかになりませんかね?

 




チャカが出てきてくれないwww
空を飛ぶ事に抵抗が無いビビ様はペルの背中に乗って飛行経験があるから怖いとかのイメージ無しに乗れたんでしょうねー。
クロさんと電伝虫の番号交換、と言ってもリィンが一方的に渡したのみなので一度向こう側から掛けて来ない限りクロコダイルの電伝虫番号はリィンは知りません!何も言わずに去ってしまった心情は想像にお任せしますよ


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第54話 初めての世界会議

 

 姫様を落としてしまわないかという胃痛に悩まされながら1週間。

 今度は別の胃痛に悩まされていた。

 

「………」

「……で、箒に乗せてここまで連れてきたと」

「は、はい………」

 

 お説教タイムである。

 

「何故王族をお前の箒に乗せる…っ!」

「お、王命ぞ……」

「ぞを使うな。…王命だからといって従うな」

「!?」

 

 え、従わなくていいの!?王命だよ!?

 目の前の仏は仏じゃなくなった。

 

「……………お前は今何歳だ」

「8さ……、あ」

「そういう事だ。お前はまだ子供、で、その扱いが可能な国はアラバスタ王国なのだからな」

 

 確かにアラバスタ国王のコブラ様は私の事子供扱いしてくれたし甘い王様なのかな。

 そう考えてみれば断っても良かったわけか。「規則」だとか「能力に重さの制限がある」とか使えば良かったのか。

 

 いや、コブラ様が無礼だとかそういった事に関して甘ちゃん王様だとしてもそれを言っちゃうって大丈夫なのか海軍元帥。

 

「……まぁ何にせよ無事に送り届けた事は褒めよう」

「…ありがとうございます」

 

 褒められて浮かれた気分になっていると爆弾が投下された。

 

「今から会議の前に挨拶に向かうからな」

「え、私も出るとダメです?」

「出ないとだめですか?だ。

 答えはもちろんだめだ」

 

 ちょっと、いやかなり胃が痛くなってきた。

 

「ほら早く来ないか」

「練習は無しです!?」

 

 挨拶なにも考えて無いですよ!?

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

「─………───」

「…────…………─」

 

 目の前で行われる会話に脳みそがついて行かない。

 一瞬にして大勢の人間の前に立ってるんですもん。怖いに決まってるじゃないですか。しかも王族ばかりですよ!?

 

 とん、と背中が押される。犯人は横に立ってるセンゴクさんという名前の鬼上司。雰囲気が語ってる。『さっさと挨拶せんか』って。

 

「──さ、先ほど紹介お預かりしました。大将女狐リィンです。就任してまだ年月はほかの方に比べ短きですが、私の持つ力最大限で任を果たすつもりでありますです」

 

 兵士の礼を取ると沢山の視線が注がれる。うん、私頑張った。だからもう倒れていい?

 

 周りに向かってニコリと営業スマイルを貼り付ける。

 

 驚いてる各国王。

 納得した表情の者、不満げな表情の者、興味無さげな表情の者、驚いた顔の人魚。

 

 ぎょぎょぉおお!

 

 

 いや、ホントごめんなさいネプチューン王様。黙っててごめんなさい。

 

「フフフフ……」

 

 聞き覚えのある声を聞いて視線を向けると足を机に置くドフィさんの姿。

 

 とりあえず足下ろせ。

 

 

 

 しかし王様もそれぞれ特徴がある人間が多いな。覚えやすくてありがたいがなんでこんなに特徴的なんだろう…。

 ブリキの玩具みたいな王様とかお髭のすごい王様とか魚とか巨体とか。

 

「まだ務めて短いこともありこの子には外で待機してもらう事にしております…」

 

 すると1人の巨体王様が立ち上がり私の目の前にやって来た。

 そして間髪入れずにその拳を振り下ろした。

 

 え?

 

「……」

 

 ピタッと目の前でその拳は止まる。

 

「なるほど、決して避ける事はしないのか。噂通り、守りの大将なだけある」

「……お褒めお預かり光栄、です」

「少しも動かないのを考えると度胸もそれなりにある様だ……期待しているぞ」

 

 

 そう言うとその人は席に戻って行った。

 一つ、訂正をしておこう。

 動かなくて度胸がある、じゃない。

 動けない程ビビった、が正解だ。

 

 怖いよもー!好印象になった事は嬉しいけど怖いですよもー!帰りたいー!やだやだ帰してー!

 

「それでは私はこれで失礼致します」

 

 スカートの端をつまんでお辞儀をすると何か質問されない内に外に出た。

 正直これ以上あの空気を味わいたく無かったからだ。

 

 

「これが4年に1回か……オリンピック?」

 

 あれ?オリンピックって何年に1回だったっけ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし、こっそり会議を覗いてみよう!」

「却下ぁ!」

 

 会議の間一緒に行動しているビビ様が特大爆弾をぶん投げて来た。

 

「ダメ?」

「ダメです!一応世界の重大なる会議…私たちの如き子供が気軽に覗き見する様な会議では無しです!」

 

 そう言うとブーブーと頬を膨らませた。おい、この子本当に王族か?いやいや、仕方ない仕方ないだってまだ10歳だとかそこら辺だったはずだから…。うん、仕方ないんだよ……大丈夫キレるな私。大概お姫様って言うのは我が儘が多いんだから(前世の本調べ) この子はまだ聞いてくれるだけ素晴らしい、素晴らしいんですよ。

 

「あ、パパだ」

「のぉぉぉお!」

 

 私が考え事してる間に窓から覗き込んでる。

 あぁもう!行動的なお姫様だこと!

 

「ねぇリィンちゃん。人じゃない方がいるよ…?」

「人じゃない…────見た目人で無い方は沢山いるですがどれです」

「え、一方しかいないよ?」

「え……?」

 

 だってほら、コブラ様の前にいる王様なんてオモチャの王様だよ?なんか(あご)とか全身がブリキだし。

 

「あのオレンジ色の…ほら、今立った!」

「あ…リュウグウ王国のネプチューン王族です。えーと…何かの人魚だと記憶しているです」

「リュウグウ王国?」

「はい、海底1万mに存在する国で、魚人や人魚が沢山いるです……とても綺麗な国ですよ」

 

 外はちらっと通ったくらいだけど竜宮城は綺麗だったよ。魚人料理美味しかったし。あそこのお菓子は超絶品でキラキラしてて綺麗で美味しかった。地上に取り寄せたい。

 

『……───…─我ら魚人島の住民は地上への移住を希望する…──……─』

 

 この前聞いた話だと移住の希望の署名が燃えたとか。珍しい人間の署名は保管してたから無事だが、今回の世界会議(レヴェリー)には間に合わないらしい…。

 あんなに集まってたのに紙代が勿体ないよね。

 

 わりと冗談抜きで。

 

 元々魚人島は他の国に比べて国土が少ない。どうしても地上からの輸入に頼って生活必需品を補給してるのだがなんせ偉大なる航路(グランドライン)。輸入船が魚人島に確実に届くという事は有り得ないのだから。

 水に濡れるとアウトな紙類は自然と高くなってくる。

 

「行ってみたいなァ……」

「ビビ様が大きくなれば行けると思うです」

 

 何かしらの機会があるかもしれない。本当に機会があれば。

 お姫様を生存確率の低い所に国が行かせるわけないと思うが。

 

「……戻るです。私達が居る必要無いですから」

 

 私が手を引くとビビ様は大人しく付いてきてくれる。素直で宜しい。

 

 

 

「………………国って大変なんだね…」

「そうですぞね……、国土や産業や、繋がりや企み、そういった事が渦巻くが国という物です…、もちろんそれ以外にも存在するですが」

「私、もっとちゃんと世界をみたいな…、リィンちゃんみたいにきちんと世界を見れるように…。アラバスタ国の王女として。1人の人間として」

 

 外に出るとビビ様はストンと座り立派な事を言った、言ったよ。言ったけど、私もちゃんと見てないよ?現実逃避も多くて前世の常識に囚われてぜんぜん見れてない。

 

「頑張ってくださいです」

 

「………。ねぇ、リィンちゃんはどうしてそんなに強いの?」

 

 ちょっと理解の追いつかない質問が飛んできた。私が強い?いやいやないない、だって現実からすっごい逃げるしヘタレだしビビりだし。

 そりゃ一般の子供よりは動けると思うけど…、一応常識外人間が指南役をしてくれているから。でもエースやサボの方がずっと強いしルフィの方が厄介な強みを持ってる。

 

「………信念?」

 

 でも、私が思う理由としてはこれかな。

 死んでたまるか!っていう信念。

 

「…あと、出会い」

 

 非常に強い人と権力者と大物との出会いと。

 

「……………守りたいと思う物、です」

 

 私にとって1番守りたいのは自分の命。だからこそ前七武海のグラッジさんに勝てたといっても過言じゃない。

 

「…守りたい…物………」

 

 ボソリとビビ様が何か呟けば何故かスッキリした顔をしていた。

 

「頑張ってくださいです……?」

 

 二度目となる言葉をかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数日後の世界会議最終日、その日の井戸端会議子供バージョンはある人物の登場によって終了した。

 

「……女狐殿」

「は、はい!何事です?」

 

 出会い頭ぶん殴ろうとした王様だった。

 

「そう緊張しなくとも良い…我が国()()()()に招待しようと思うのだがこれから時間はあるか?」

 

 今ちょっと聞き捨てならない言葉が聞こえた。

 

「え、あ、えっとです…。これよりアラバスタ国の方々の護衛を務める任が存在するです、故に少なくとも1週間がかかると思われるですが…」

「ああ、それで構わない。我が国の科学力を是非ご覧にいれよう…私の息子達も強い者と出会える。こちらとしては時間がかかっても来て欲しいものだ」

「あ、ありがとうございますです…」

 

 ジェルマ王国で科学力?

 よく分からないが船で調べておく必要があるかもしれない。

 

「それと」

「…はい?」

「ドラム王国のワポルがアラバスタ王国にちょっかいをかける可能性があるから気をつけてくれ。この様な所で国際問題は洒落(シャレ)にならん」

「それは同意です…貴重なる情報ありがとうございますですた」

「では」

 

 ジェルマ王国の王様は意外にカッコイイ人の様だ。気を付けておこう。

 きっと会議で何かしらの問題があったんだなと思いつつ私はビビ様と共にコブラ様を出迎えて船に乗った。

 

 

 

 とりあえず思わぬ事件とかトラブルとかあったけど何とかなってよかったと思ってる。天竜人の方も何も問題起こさなかった様だし。

 

 リュウグウ王国への謝罪とジェルマ国への訪問が残ってるのが頭の痛い所だが。

 

 

 

 




薄い内容です。とても。
結局ワポルとのグダグダは大将が張り付いているということで起こりませんでした。やったね。
ジェルマへの訪問イベントという負けイベをこなさないとならないリィン。



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第55話 喜怒哀楽

「………………はぁ」

「何ため息吐いてんだ糞ガキ」

「アラバスタ到着そうそうロリコン(クロさん)遭遇(そうぐう)とは、私運が無きかな………」

「………お前今すっごく失礼な物言いをしなかったか?」

 

 目の前にいらっしゃるオールバックの髪型に葉巻、流石に本部で何度も顔を合わせてりゃ誰かの判別くらいつく。

 王下七武海 砂人間 サー・ロリコダイル先輩だ。

 

 ここ最近拠点の一つとしてアラバスタに居るらしい。どこから私がこの国に来てると情報を得た。

 

「鳥野郎が言ってた情報は確かの様だな……」

 

 貴様かキチガイストーカー(天夜叉ドンキホーテドフラミンゴ)

 

「ん?どうしたリィン、そんな死んだ目をしやがって。わざわざ俺が出迎えてやったと言うのに……」

 

 やっぱり絶対七武海って仲良しだよね!?何でそんなしょうもない事で連絡取り合うの!?

 

「テメエは七武海の……!」

 

 スモさんが警戒心MAXと言った様子でクロさんと睨み合う。クロさんはこれまた面白いといった様子で(あお)るように笑ってるからタチが悪いよね、ほんとに。

 

──ボフンッ

 

 スモさんの身体が煙に変わったのを見てクロさんが対抗して身体を砂に変える。

 

 自然(ロギア)系って能力が本当にチートだよね、ほんとに。

 どんだけ攻撃くらってもダメージ無いんだから、もちろん武装色使えば意味が無いけど能力を消す事が出来ないんだし。

 

 あれ?今何が起こった?煙?

 

「……」

 

 もう1度見てみても煙に変化は無い。

 

「煙ぃぃぃい!?」

 

 スモさんいつの間に悪夢の実食べたの!?あれ!?私の友情ってこんなんだったっけ!?私も人の事言えないけど隠し事はダメだよ!?

 

「え、い、いい、いつの、ま、スモさん!?」

「あ?コレをいつ手に入れたか?テメェが放浪してる時だ」

「心当たりが多すぎて……」

 

 スモさんが私を無視してクロさんと対峙する。

 

「海軍本部で少女愛好家(ロリコン)と噂の七武海様がリィンに何のようだ」

 

 ピキリとクロさんの額に青筋が浮かぶ。あ、スモさんも知ってたんだ。

 

「人を変態みたいに扱いやがって……!」

「………え?」

「リィン!その意外そうな顔をやめろっ!」

 

 今日もツッコミが冴えてますね旦那ァ。

 いや、正直クロさんはヤソップさんに負けず劣らず打てば響くから私の中でからかいがいのある人物ナンバーワンに輝いているよ。いずれ額も輝くだろうけど、抜け毛で。

 

「クロさん、私の顔を解放願い」

「何となく腹が立った」

「そっくりですね!(わに)と鳥!」

 

 何でそんな雰囲気だけで苛立てるのか私には理解出来ないや。掴まれてる顔面が潰れない内に解放してくれて助かったけど。

 

「これから本部に戻るのか?」

「実はジェルマ王国に飛ぶ必要が存在して……」

「ジェルマっつーと北の海(ノースブルー)か?」

「肯定」

 

「……チッ」

 

 王様直々のご命令だ。なるべく早めに行く方がいいだろう。

 

 あれ、今思いついたけど行方不明になってもいいかな?

 

「…はぁ、ダメだろな…」

 

 海賊王の子供探す為に色んな妊婦さんや子供をこっそり殺していった程なんだから。私が逃げられるはず無い。子供1人では生きていけるのにあまりにも無茶すぎる。

 

「…?」

「じゃあクロさん、私はこれにて」

「お、…う?四肢満足(ししまんぞく)で帰ってこいよ、海賊やれなくなるからな…?」

「………海賊にならない上に不安掻き立てる言葉は使用禁止です」

 

 

 心と胃が痛くなった。

 

 

 

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

「やぁ海軍大将殿」

「あの…一応最重要機密事項なので出来れば」

「あぁすまないリィン殿でいいか?」

 

 北の海(ノースブルー)にいるジェルマ王国に到着してまずリィンが驚いた事は国が巨大電伝虫が連結して出来ているという事だった。

 なるほど、確かに噂通り〝国土を持たない国〟だ。と、感心する。

 

「王様に呼ばれるの感激です…それでも?」

「こちらとしては問題ない」

 

 玉座などでは無くまず訓練場の案内されジェルマ国王様と挨拶を交わす。内心呼び方に恐れ慄いていると突然喧騒がリィンの耳に入った。

 リィンより5か6か歳上の13くらいだろうか、と考える。

 

「紹介、といってもアレらは訓練してるから気付くか分からないが…我が子だ」

 

 向かって右で体格のいい大人と戦闘している赤い髪でぐるぐる眉毛が長男のイチジ。続いて青い髪がニジで緑髪がヨンジでピンクの髪の子供が3人より3歳歳上の長女レイジュだ、と紹介された。

 

「(覚えやすい!今まで出会った中で1番覚えやすい!)」

 

 めんどくさい名前が多いこの世界で少し感動を覚えた。

 

「(1,2,4…3が無いな……)」

 

 呑気な事を考えていられる位には余裕が出てきたんだろう。荒療治が効いたと本人は知らない。

 

「お父様…その子は?」

 

 ピンクの髪、レイジュが3人よりいち早く父とそして子供の存在に気付いて声をかけると兄弟達も訓練を中止する。

 

「は、初めましてリィンと申すです。言葉が苦手故、拙いと思うですがご容赦くださいです…」

 

 兵士としての礼をしてみせれば国王であるジャッジは満足したのか口を開いた。

 

「色々と話すといい、歳も近い。これからの時代、お互い大切になっていくだろう……。分かったな?」

「「「「はいっ!」」」」

 

 4人が元気に声を揃えるとリィンは笑った。

 

「(よく教育されてるなァ………ハハハ…)」

 

 ただの苦笑いというやつだった。

 

「リィン…来て、私はレイジュ。お話をしましょう?」

「は、はいです…」

 

 ふわりと微笑む少女はアラバスタの王女とは違う大人びた雰囲気を感じた。

 

「え、えへへ…」

 

 つられて笑う。

 少女趣味の人が見たらきっと鼻を抑えていただろう。

 

 しかし少女趣味で無く同年代としてリィンを見る少年の心の中は自分達の姉以外の異性の存在に少々どころかかなり動揺していた。

 

「あ、お、おおい!」

 

 ヨンジが続き、ニジがそれを追いかけると長男のイチジは頭をかきながらゆっくり歩いて近寄った。

 

 

 

 

 

 

「リィン、あなたはどこから来たの?」

偉大なる航路(グランドライン)、です」

「そうなの…私達はまだ1人で旅をしたり出来ないから羨ましいわ」

 

 レイジュが笑う。まるで新しい姉妹が出来たかのように。

 

「それで、誰と婚約するの?」

「婚約!?」

「「「…は!?」」」

 

 レイジュを除く4人が驚きの声を上げた。その様子を見てレイジュは首を傾げた。

 

「…? 違うの…?」

 

 どうやら王族の女の子というのは頭が天然で出来ているのかもしれない。どこかの人魚の王女しかりどこかの砂の王女しかり。

 

「違うです…!普通にお呼び出しされたです」

「あら…残念ね…。ねェ3人とも?」

 

「それは無い」

「そ、そんなわけが無いだろう!」

「そっちがその気なら王族になるか?」

 

 3者3様だが、目に見えてあきらかに肩を落としてる様にしか見えない。

 

「(ちゃんと愛は知っているのに……)」

 

 姉は弟の様子を見てこっそりため息をついた。彼らは喜怒哀楽の哀が抜け落ちている。

 

「レイジュ様…?どうしたです?」

「……リィン聞いて。ずっと、誰かに聞いて欲しかった事があるの」

 

 レイジュは口喧嘩をし始めた三兄弟を観察するように座るとリィンを隣に座る様指示する。

 そしてずっと言いたかった事を口にした。本来こうすぐに話すことはダメだと思ったが年下で自分の父の紹介ということで気が緩んだのだろう。

 

「私達は生まれてからずっと兵器なの」

「へい、き?」

「えェそう……───」

 

 

 血統因子の改造の影響で感情が欠けている事や自らの父の厳しい訓練内容。そしてもう1人の死んだ出来損ないで優しい王子、サンジ。ジェルマ66と呼ばれる軍隊、母親のソラの決死の判断と行動。子供を想う心。

 

 全て──サンジを逃がした事も含め語った。

 

「(…胃が、胃がぁぁぁ…!)」

 

 表情に出さずに胃を痛める事が出来た成長は日頃胃痛が絶えないからだろう。

 ……成長をこんなところで感じたくは無かったが。

 

「2人して何話してるんだ?」

 

 イチジがリィンの目の前に座り2人を見た。

 

「私達ヴィンスモーク姉兄弟のお話よ」

「………話したのか?」

「えぇ…」

 

「それで?お前はどう思ったんだ?」

 

 イチジはサングラスの奥でリィン1人を見た。

 

 2人は予想した。『可哀想』だとか『酷い』など、言われる事を。馴れていると言えば嘘になる、だって自分達以外の子供に会ったことが無いのだから。

 いつの間にか喧嘩をしていたニジとヨンジもイチジの後ろに立ち聞いていた。

 

「……羨ましい………です」

「…羨ましい?」

「はい、私、自分が1番大事です。

 だから、自分を、大切な物や守るべき任務の時、敵に〝可哀想〟とか心配をすれば危なくなるのは私です……だから羨ましい。哀の悲しみが無いのは──大事な人が死んでも、無駄に悲しむなくて済むのは」

 

 少しだけ、唇を噛み締めた。

 色んな記憶が蘇る。──サボの、自分の兄の太陽の様な笑顔を。──初めて手にかけたグラッジの怨んだ顔を。

 こんな気持ちになるくらいなら、喜怒哀楽なんて欲しく無かった。

 

 失った物に囚われすぎるこの感情が、心から要らなかった。

 

「おれは、お前が羨ましい」

 

 ニジがイチジを押しのけて座った。

 

「あれだけサンジを虐めても悲しまない自分が、悲しいという感情がどういうものなのか知らない自分が、モヤモヤした」

 

「……もやもや?」

 

「目の前が夜に変わったみたいに。何故か怒りは湧いてくるのに…悲しいという事が分からないんだ…教えてくれ、命とはなんだ?」

「……儚い物?失ったら後悔する物…?」

「後悔……分からないな。後悔とは、なんだ?」

「……ん〜…自分の体が、足りない様な気持ちになる、です」

 

 首をかしげながら答えるリィンを見て今度はヨンジが言葉を紡いだ。

 

「足りない……それは、分かる気がする。体がうまく動かせないような……」

 

 

 

 

 

「…、皆さん。感情が無いのでは無く、感情に疎いのでは?」

 

「「「「…え?」」」」

 

「だって、哀は無くても愛はあるですよね?」

 

 レイジュを除いて、3人が顔を見合わせると何故か納得した顔になり、コクリと頷く。ならもしかしたらあるんじゃないか、全ての感情が。

 

「ソラ様が飲んだその改造を阻止する激薬、1人にだけ効くとは思えぬです。だって四つ子だからです。きっと、なんらかの影響を与えてると思うたです……」

 

 ただの憶測に過ぎない。果たして本当に感情に疎いのか分からない。でも感情は表裏一体だから、きっとあると信じた。何故なら──

 

「(あれ?喜怒哀楽の哀が無ければ無礼働いても恩赦とか情に流されるとか無いのでは無いですかね?)」

 

 ──人間冷静になってみれば思考回路はびっくりするほど変わるものである。

 

「(喜怒哀楽万歳、哀によって私は生かされてる。万歳!)」

 

 羨ましいという気持ちはさらさら無くなった。早急に喜怒哀楽全てフル活用して欲しい。

 

「……リィン、私たちに感情を教えてくれ」

「へ?」

 

「……頼む」

 

 

 イチジが、王子が頭を下げた。

 

「え、や、ま、まって、です。頭を、あ、あげ、上げて」

「私にも好き嫌いはある。好みの女を目の前にしたら妃に欲しいと想う感情くらいは」

「は、はぁ…」

「だから、サンジが死んだ時、嫌だった。虐める対象が無くなったからかもしれない、でもそれが本当か分からないんだ…──私は、きっと、サンジが、弟達が好きだから。血を分けた兄弟だから」

 

 

 きっと彼らは完璧な人間じゃない、でも人間らしいところはある。

 

「承知したです、友として、力になりたいです」

 

 少しでもいい、哀しみは分からなくても自分を必要と思う感情だけでも手に入れてくれれば自分の生存確認は上がるんじゃ無いかと期待して、リィンは勝手に友達枠に入り込んだ。

 

 

 

 お前が先に友情を学べ。



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第56話 世界規模荷物情報配達雑務用員

略して雑用です((


 

 

 『ワンピースぅ?あるわけないだろそんな物!』

 『夢見すぎてんだよ!下民の癖に!』

 『ギャハハハハッ!』

 

「クソッタレが……夢も見ねェ様な腑抜(ふぬ)け共に、俺の夢を笑われてたまるかよ…!」

 

 一人の青年が拳を握りしめる。

 握った拳にはべトリとする赤黒く生ぬるい液体が付着していた。

 

「ゔ……っ、ゴホッゴホッ…!」

 

 足元に倒れているのは血を吐く人間が多数。その様子はどう考えても喧嘩をしたであろう打撲痕などが目立つ。──否、喧嘩では無く一方的な暴力かもしれない。

 何故なら立ち尽くす男には怪我の一つもないからだ。

 

「ゆるじ…て、ぐ……っぁあ!」

「ッるせーな…! この俺に喧嘩を売ったんだろ…っ!?」

 

 喧嘩っ早い男は更に苛立ち、地面に倒れ込む男を踏みつけた。

 このまま殺してしまえば腹の立つ事も無い。何発殴れば息絶えるだろうか。

 

 男はその拳を振り上げると──。

 

 

「お取り込み中失礼するです。南の海(サウスブルー)第七支部がどの方角かご存知です?」

 

 

 ──どこからとも無く現れた異質な女が混入した。

 

「どちら様ですか?」

「ただの美少女ですっ!」

 

 当然無視を決め込んだ。

 

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 ──時を遡る事十数時間前──

 

 

 

「…───もしもし」

 

 北の海(ノースブルー)にて感情指導(自己保身)をしていた少女が海の上で突然なり始めた電伝虫に苛立ちながらも受話器を取った。

 

 

『何でそんなに機嫌が悪そうなんだ』

「無事に帰ること可能な事態に喜びと、厄介事が現れるであろう電伝虫に絶望と、感情を教える事が大変に疲労と、想像以上に寒い…───だけです故」

『……思っていたより文句があるじゃないか』

 

 電伝虫から呆れた声が聞こえてくる。

 

『リィン、仕事だ』

 

 嫌です、と言いたくなった言葉を飲み込んだ。

 

「…せめて私が所有している永久指針(エターナルポース)の所を所望です」

 

 その代わりに出てきた言葉はなんとも難しい注文で、電伝虫の奥で少女の上司のセンゴクがため息をついたのが分かってしまう。

 

『場所は南の海(サウスブルー)第七支部、通称S(エス)-7(セブン)。そこの支部を治めるテッド大佐から書類を受け取って欲しい。MC(マリンコード)は使え、門兵とテッド大佐への合言葉は「お父さんにラーメンを届けに来た」だからな』

「何故ラーメン……。しかし南の海(サウスブルー)……遠いです。私を今どこだと」

『近くにリゾートがある。そこで少しゆっくりしても構わないから我慢してくれ』

「分かってるです…その書類はどれほど大事です?」

『お前の存在くらいには』

「…………うわお……………」

 

 己の海軍での機密な立場と出生=書類の貴重さにプレッシャーを感じて、胃が痛くなると上司は更に追い討ちをかけてくる。

 

『どこか街か人に聞いて場所は探せ』

 

──ガチャ…

 

 電伝虫が切られた事に寄って逃げ道も塞がれた。

 

「コミュ症辛い…、くすん」

 

 コンパスを片手に進路を南へ変えた。目指すは適当な島の適当な性格の人。

 

 

 

 

 

 

 

 ──現在──

 

 

 

 戯言に無視を決め込んだ男は、決して視線を合わせずに耳だけ動かした。

 

「(なんだコイツ……)」

「赤髪さん。ご存知です?」

 

 しかも自分に問いかけて来る、という。

 分からない、分からないがとても面倒くさそうな気はした。

 

「…その赤髪ってのヤメロ。四皇の名じゃねェか」

「あァ…………ショタンクスさん…」

「は?ショ、タンク…ス?」

 

 少し頭が足りてないんだろう、と思うだけで関わる気などさらさら無かった。

 

「で、ご存知です?」

「知らねェ……」

「そうです…、残念。じゃあ赤毛さん人通りの多い島をごぞ───」

 

「毛から離れろ!俺はユースタス・キッドだ!」

 

 キッドという男は頭をガシガシとかきながら怒鳴った。

 

「キッドさん、こんにちは。私リィンです」

「あーはいはい……チッ…めんどくせェ」

「酷い!そういう事は普通本人が居ない時に言うが正しきですよ!?」

 

 心底めんどくさいのかキッドは殴る気も失せた人間を放り投げるとスタスタと潮の香りがする方向へ歩いていく。

 

「え、ちょ…!」

 

 慌てて駆け出した少女は放り投げられた人間は無視する。どっちも酷かった。

 一応仮にも海軍所属している人間が無視をしていいのか。

 

「キッドさーん…おーい。無視は悲しいですよー?」

「バテリラ」

「ほへ?」

「そこがこっから近いリゾートだって言ってんだよ……糞ガキ」

 

 不機嫌そうに答えればついでにと方向を指さす。正直さっさと居なくなって欲しいのが本音だった。

 

「ありがとうございますです!」

 リィンが(きびす)を返しその方向に向かって行こうとした時、船の方向とはまた違うのを考えもう1度口を開いた。

 

「…チッ……、テメェはさっきの見て何も思わねェのかよ」

「へ?あの人達の事です?」

「そうだよ…!」

 

 自然と眉間にシワがよる。

 あの血塗れになった奴らは男の自分の海賊王になるという夢をバカにされ叶う筈ないと笑った、キッドにとって最高に相性の悪い相手だったのだから。しかし、その存在を無視されるのは正直思ってもみなかった事なので純粋に気になった。

 

「私に関係ぞ無いので」

 

 気にするんじゃ無かったと思えるくらいどうでもいい回答だった。

 

「どう考えるしてもあの人達モブです。故に、無視です。知らぬ存ぜぬ、これ大事。スルースキルはパワーアップ」

 

 目の前にボロボロの人間が転がっていようと表情変えずにスルーできるスキルを持ってるのは彼女くらいだと思う。

 

「っ……、なら、テメェは……」

 

 キッドは1歩ずつ距離を詰めてリィンの背にある岩に片手をついた。自分と岩の間にリィンがいる。

 いつでもぶん殴れるように、逃げられないように。

 

「……テメェは俺が海賊王になると言ったら笑うか?」

 

 双方の表情が動いた。

 

 キッドは眉間のシワはそのままに、リィンの目から見ると泣くのを我慢している子供の様に見えた。

 リィンは目を見開いた、キッドの目から見ると思わずビックリしている様に見えた。

 

「笑えない……です」

 

 リィンはすぐに表情を真顔に戻すとハッキリと言い放った。

 

「………そうか」

 

 ポツリと呟けば距離を置いた。

 

「(こいつは…他の奴らとは違ェのか……?)」

 

 彼は思ったよりずっと真っ直ぐ(バカ)なのかもしれない。

 

 

 リィンは笑っているが心の中で怯えていた。

 

「(笑えない…本気で笑えないよ海賊王とか…!)」

 

 本気で笑えなかった。海賊王の息子で更には海賊王を目指している子供()が身近に居たリィンとしては馬鹿にする云々(うんぬん)の前に「何でこんなあほぅばっかり…」とマジトーンで小言を言うくらいに呆れ果てていた。

 

 確かに偉大なる航路(グランドライン)を航海していけばひとつなぎの大秘宝(ワンピース)とやらも手に入るかもしれない。実際リィンはこの歳で偉大なる航路(グランドライン)を渡り飛んでいるのだから。

 

「(ひとつなぎの大悲報(ワンデッド)が沢山あるのになんで目指すの!?)」

 

 元よりこんな風に各地を飛び回る事など予想もつかなかった。いや、ついていたとしてもある訳が無いだろうとタカをくくっていた。うん、こちらは不可抗力だ。

 

 故に、自ら危険に飛び込むそのスタイルは全く共感が出来ず、笑えないのだ。

 

 やはり自分の周りは海賊王などの災厄がうごめいている。堕天使この野郎。

 

 

「キッドさん……?」

「支部まで送ってやる。ついて来い」

「え、嫌です」

 

「………は?」

 

 当然だとばかりに告げるとキッドは狼狽(うろた)える事しか出来なかった。迷ってるこどもに人が親切で送ってやると言われて断られる事例はそう多くは無いだろう。空気読まずな事から考えると他人が苦手というわけでは無いだろうに。

 

「あー…でも夜故にバテリラで1泊する事必要……?」

 

 

 ふと考えてみる。

 

「(私外泊は基本城だとか特殊な所で宿とかに泊まった事無いな………。六.七割は日帰りだし……。子供だけの入店って無理なんだろうか)」

 

 リィンの前世では確実にダメだ。家出娘だと思われて通報ものだ。

 この世界で通報しても繋がる先は 海軍という自分の所属している職場なのだが。

 

「…………。…やっぱり案内するしてです」

 

 控えめに〝キッドさんがいいなら〟と付け足すとキッドは林の中を歩いていく。

 

「船着場まではこっちの方が速い」

「……バテリラの方角はどちら?」

「…方角? さっき指さしただろ。そっちだ」

 

 再び指さす方向はキッドが向かう方向と逆。

 リィンは正直疲れたし宿で寝たかったのでため息を吐いた。

 

「…なんだよ」

「キッドさん、来てです」

 

 指をさした方向に向かってスタスタと歩き出すリィンを不思議に思う。

 海岸に向かって何をする気なのか。

 

「よっ、こいしょ」

 

 リィンは箒を取り出した。

 

「え…?」

 

 混乱する。それは混乱するに決まっている。何も持っていなかった彼女の手にいきなり箒が握られたのだから。

 

「乗って、です」

 

 あろう事かその箒に跨って後ろに乗れという。

 

「(あれか…?絵本とかにある魔法使いの真似か……?)」

 

 これだからガキは嫌いだ、有り得もしない出来事に夢見て、あほらしい。

 

「(でも、きっと俺も同じなんだろうな……)」

 

 有り得もしない伝説(海賊王やワンピース)に夢見ている自分。

 

「少しだけだぞ」

「少し…で可能かは距離とキッドさん次第です」

 

 意味のわからない事を言う。

 

「(俺次第…?)」

 

 疑問に思いながらも後ろに跨るキッドを確認すればリィンはゴーグルを装着した。

 

 風で目を傷めないように。

 

「う、ぉおっ!?」

「しっかり捕まるてです!」

 

 

 風を切る音が耳に入った。

 自分たちのいる島からグングン離れていく。

 

「いでぇ!っ、ちょ。テメェ少しスピード落とせ!おい!これテメェが操ってんだろ!?」

「え?なんと?」

「降ろせぇぇぇぇぇえ!」

 

 

 キッドは流石に予想出来無かった事態に、顔を真っ青にしたのだった。

 




初登場チューリッ…キッドさんです。
察しのいい人はこれから向かうリゾート地に原作で何があった所か分かりますよね!南の海バテリラですよ!
ちなみにリゾート地というのは原作で一切触れておりませんので私の想像上です!木を隠すのは森とか言いますしね!私の頭脳じゃこれが限界です!いやー!流石私!昔テストで学年最下位を取った経験が生かされていますねーーゴホッ、急に体調が……。

お騒がせしました。
これはアレです。深夜テンションというやつなんです。だって後書き書いてるの今3時だもん!夜の!


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第57話 お泊まり会

副題『セクハラ会』


 

 

 北の海(ノースブルー)から南の海(サウスブルー)へ出張という過去最大距離を約半日かけて飛んだ私。

 正直私の職場ブラック過ぎやしませんかね。

 

 途中適当な島に降りてキッドさんという人に出会ってとりあえずバテリラというリゾート地に来たのだが、辺りはもう既に薄暗く、リゾート地で楽しんでる時間なんてものは無い。

 

 さっさと宿を探して朝に海軍支部に向かうのが妥当案なのだが。

 

「………。」

 

 保護者代わりに連れて来たキッドさんが空中飛行で大分生気を持っていかれたみたいなのです。さて、どうしよう。

 

「あの……キッドさん…大丈夫です……?」

「説明…くらい………しろよ……」

 

 喧嘩してた時の覇気は全く無いね。どちらかと言うと吐きがあるかな。

 

「……ごめんです」

 

 初めて速く飛ぶとどうなるのか、私は彼の実験を得て資料が取れた。まァMAXスピードじゃないけど。

 私はゆっくりスピードから段々速く出来る様に練習したからもう慣れたものだよ。歩く速度より飛ぶ速度の方が遅かった私が5.6年でよくここまで成長したものだ。いやー、私ったら天才。

 

 正直風は肌を切るから痛いよ。目に風が入り込んで眼球カッサカサになるから痛いよ。

 その為にマント羽織ってゴーグルを装備してるんだけど。

 

 でもその装備だって完璧じゃないし武装色も見聞色もあまり使えないから我慢しかない。

 

 私の武装色は自然系の人に触れる程度。ガープ中将の様に黒くなることはない。

 見聞色はどうなんだろう。私自身では上手く使えてるのか分からないけど…サカズキさんが怒った時の気配は良く読める。私は巻き込まれない様にすぐに逃げる。

 

 

 

「……悪魔の実か?」

「そうです、実の内容は不明です」

 

 だいぶ復活したキッドさんがポツリと呟いたので答える。もちろん悪魔の実などでは無いから嘘だけれども。

 

「………これからどうするつもりだ」

「宿で1晩泊まる後、支部に向けて行く予定です」

「…そうか」

 

 本当にこの人予定も何も立てて無いのになんで付いて来たの?

 

「目の前がクラクラする…あと10分待て………」

 

 本当になんで付いて来たんだろう。

 

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

 

「こっちは宿無し」

「こっちも宿の空き無しです」

 

 2人で手分けして泊まる場所を探しているのだが流石観光地。宿は満室。

 つまり、私達がいきなり来て予約無しで泊まれる宿など無いという事だ。

 

「ヤベェ店なら空いてるけどお前みたいな糞ガキ連れて入れる訳がねェな…」

「やべーみせ?」

「………。うるせェ」

 

 ボソッと呟いたキッドさんの言葉に反応してみたけれど頭を殴られるお返事が返ってきた。解せぬ。

 

「空きがあるならば行くです。正直寝たい」

「は、入れるかよ!っ、お、お前アレに…!」

「はい…?」

「…くっ、アレはアレだ。……だァァ!説明が難しいなクソが!」

 

 顔をぼっぼっぼっぼっと赤くさせながらあーだこーだと叫んでる。

 

「……お、男と女がアレコレする宿だ………!」

 

 ほほぉ。つまりあれか。

 

「その店はつまるところセッ…──」

「うぉおおおい!テメェ何口走ろうとしてんだよ!」

 

「何故、そこに泊まる事が出来るなら、泊まるですよ」

「なんでだよッ!テメェ意味理解出来てる癖になんでそういう判断になるんだよッ!──ってかなんで意味理解出来んだよ!」

「……社会勉強?」

「その勉強だけは頼むからやめてくれ………ッ!」

 

 いや、私見た目通りの歳じゃないから。一応前世の基礎知識みたいなのがあるからある程度察せれるよ?卑猥(ひわい)なお店でしょ?××(チョメチョメ)する所。

 別にそこでいいじゃない、眠いんだし。

 

 ヤる事が目的じゃなくて休息が目的なんだからそんなに慌てなくても……。

 

 

 

 

 私は一つの仮説にたどり着いた。

 

「さてはキッドさん(どう)て───」

「やめろぉぉぉぉぉお!」

 

 肩を掴まれて揺すられる。

 首、首がもげる!取れるから…!

 

「ゼェ…ゼェ…」

「はぁ…はぁ…」

 

 五分経つとそこには叫び疲れて息を切らしている2人が居た。周囲に人間は……居ない。おかしいな観光地なのに。

 避けられたな(確信)

 

「何故拒否するです!ヤらないならばいいじゃ無きですか!?」

「誰が入るか!ッそもそもテメェみたいな子供連れて入れるか!」

「この世には合法ロリというものが存在するです!」

「ンなもん存在してたまるか!あとテメェはどう考えても成人未満だろうが!」

「この、頑固チューリップ!」

「ンだとこの糞ガキ!」

 

 いつまで経っても平行線の言い合いが続く。

 正直埒が明かない。

 

 

 

「チッ…どこか空き家探すぞ」

「えー…空き巣です?」

「ちょっと拝借するだけだ…!つーかなんで空き家に泊まるのに抵抗あるのにアレな店に抵抗無ェんだよ……」

 

 だってラブホはお金払うから正規だけど空き家に泊まるのは無断使用だから下手すれば犯罪じゃん。怖いよ。

 

 ゆっくり適当に移動しながらも言い争い続ける。

 

 だって、私海兵ですもん。警察が不祥事起こしたら叩かれるみたいに私も首が飛ぶの怖いんです。

 

「聞き忘れてだけどなんで支部に用事があるんだ?」

「ち、父に会いに……」

「ふーん、誰だ?」

「支部の、将校、です」

 

「それ結構大物じゃねェかよ…海賊志望の奴と一緒に居ていいのかァ?」

「志望ならばまだ一般人です〜…。いや、でも一般人ってどういう基準ぞ?」

 

 っていうかそんな結構大物(海軍支部の将校)以上の立場であるリィン(大将女狐)と関わっていいのかな…海賊志望の人が…。

 

「あ?何ブツブツ言ってんだ?」

「童貞さんの頭残念そう故理解出来ないですぞ、哲学です故」

「喧嘩売ってんのか、つーか喧嘩売ってるな。よし、戦争だ…!」

「まさかーー!」

 

 キッドさんはイライラするのか自分の頭を()(むし)ると再び口を開いた。

 

「…お前って少し変わった喋り方するよな」

「……」

「え、おい、なんで泣くんだよ」

 

 ちょっと、かなり感動した。

 一時前まで『凄い変わった喋り方』って言われてきたから。私頑張った。凄く頑張ったよ。

 まず『ぞ』『ぞり』が封印された事が1番難しかった!なんで最初の関門なのに最終関門レベルの高さをぶっ込んで来るんだろう鬼教官(おつるさん)は!………まだ時々日常会話でも出てくるけれど。

 

「お、あれ見てみろ。あの家空き家じゃねェか?」

「どこです…?」

「海岸沿いの崖の上」

 

 目を凝らすと赤い屋根の一軒家が見える。ガーデンは雑草が生えてるから人は居ないみたいだけど……。

 

「なァそこのオバチャン」

 

 そこのチューリップはナンパしてどうする。

 

「あそこの家空き家か?」

「え?あァルーちゃんの所だったわねェ……」

「だった?」

「確か14.5年前だったかしら…いい子だったんだけど亡くなっちゃってね…」

 

 確定、別のところを探しましょう。

 

「良し、ガキあそこに泊まるぞ」

「嫌ぁぁぁあ!」

 

「あそこの近くの森に猛獣が出るから地元の人は近付かないから気を付けてねェ…」

 

 ズルズルと引きずられる。男の年上の人の腕力に敵うはず無いんだよ。くすん。

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

 

「ヘェ…案外広いじゃねェか」

 

 渋々入るとキッドさんがドカッと椅子に座った。

 一部屋に浴室が一つ。流石に水は止まってるなァ…。

 

「風呂は川か………」

「お前本当に女かよ」

 

 コルボ山に居た時は血で汚れたエース達はよく川で体を洗い流していた。私とルフィは能力者という事もあって入らせてくれなかったけれど。

 

「……まァいいや、俺は先に入らせてもらうぞ」

「どうぞです」

 

 キッドさんが先に向かってくれたので安全確認出来るかな。帰ってこなければ喰われたと見て私は見捨てて逃げようと思う。

 

「本多いですな…」

 

 見渡すとやはり私物であろう本棚。

 航海術、天候、海、気象、この家主は航海士だったのかな……。

 

 私は一つ表紙に航海日記と書かれてある本を手に取った。

 

 

 でも本全体を水に濡らした様に文字がぼやけていて読めない。

 

「〝……魚の…──な─…石……───史─…〟」

 

 だめだ。全くと言っていいほど読めない。

 するとパサッと何かが本の間から抜け落ちた。

 

 二つの便箋(びんせん)と一つの写真。

 

 私は慌てて写真を凝視した。

 

「なんで写るしてる…ショタンクスさん…!」

 

 見慣れた麦わら帽子を被った赤い髪の少年がご飯を食べながらニッと笑っている。

 

 なんだか次に出会う時ぶん殴りたくなってくる。相手四皇だけど。

 写真に写っていたのはシャンクスさんだけじゃない。宴の最中なのか、美味しそうな食べ物と一緒に真っ赤な鼻の男や…。

 

「ゴールド・ロジャー……!」

 

 海賊王とそのクルー。

 ロジャー海賊団だった。

 

「ハ、ハハハ…………」

 

 なんだこれ、頭痛くなってくる。戦神シラヌイ・カナエもフェヒ爺もシャンクスさんも写ってる。何これ。呪いの心霊写真ですか?

 

『愛する子供へ』

『これを拾う人へ』

 

 便箋(びんせん)に書かれた文字が目に入る。

 私は恐る恐る『これを拾う人へ』と書かれた呪いの手紙の封を開けた。

 

 

 

 ==========

 

 

 可能性は限りなく低い事を最初に言っておきます

 

 これを拾う方がどんな人物か知りません

 

 でも一つだけ、願いを聞いてください

 

 

 私には今お腹に赤ちゃんがいます。私の大切な子供が

 この子の運命は私達親のせいで嫌われるかも知れません

 

 この子はきっと私達を怨むと思います、だからこそ、私の言葉を遺して伝えたかった

 でも私はきっと死ぬ。だから託させてください

 

 私の子供がもし誰か分かるのなら……届けてくれませんか。もう一つの手紙を

 

 でもきっと、私の子供が誰か分からないでしょう……。その時はそっと、この手紙ともう一つの手紙を燃やしてください。この世に遺しちゃだめな手紙だから…。お願いします

 

 

 

  ポートガス・D・ルージュ

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

 え、待って、ポートガス?

 

 ちょっと待ってもらおう。

 

 

 

 ・ここにある写真はどう見てもロジャー海賊団

 ・ポートガスという名前

 ・忌み嫌われる子供

 

 

 

 

 これどう考えてもエースの事じゃない?

 

 待って待って待ってお腹痛い。

 

 

「ガキ、次はテメェが入って……何固まってんだ?」

 

 これ可能性かなり低いよね。

 だって子供の名前も書いてないし父親の性を名乗ってる可能性だってあるんだから。それにエースってジジが拾って匿ってるんだからどこに居るかの検討つかないだろうしこれを見つけたのがもし海軍だったら怪しまれる。

 

 エースがコルボ山に来たのはどう考えてもジジが連れて来た可能性が高い。ルフィや私みたいに。

 だからジジ、つまり海兵に見られたくなかったって事ですよね。

 

 海軍はルージュさんが海賊王のお嫁さんだと知らないから確かに自分の名前でひょっとしたらいけるかも知れないけどすっごい危険な賭けだよね……。ほんとに、エースを知ってる私が拾う可能性なんて限りなく低……。

 

──ズン…

 

 なんだか体に重みが加わった。

 

「あー…子供体温ってあったけェな…」

「………キッドさん、ホールド禁止」

 

 キッドさんの胡座(あぐら)の上に乗せられ私の頭の上に(あご)を置かれ体温を奪ってくる。冷たい!水もちゃんと拭いてないのに抱くな!冷たい!

 

「離すしろぉぉ!」

「暴れるなよ……ッたく。肌寒ィんだよ、暖取らせろ」

「火の中へと放り込むぞ!?」

 

 寒いに決まってるだろそんなに濡れてるんなら。

 

 手足もがっちり押さえつけらて身動き取れないから飽きるまでずっとこの体制か。きつい。

 

「あったけ……………」

 

 もういいや、このまま考え事してやれ。

 とりあえず手紙をどうするか。このまま燃やしても良いけど絶対に見つからない便利収納(アイテムボックス)があるしエースとは兄妹だから渡せない事も無いかな。このまま東の海(イーストブルー)に飛ぶ元気は無いからエースが船出をしたら渡すとかにしよう。なかなか休み取れないし。

 

 天候によって進行出来る速度が変わってくるからな。

 

 

「……ぐぅぅう…ぐぅぅぅ…」

 

 耳元で寝息が聞こえる。

 

「キッドさん?キッドさん眠るです?」

「ぐぅぅ………」

 

 寝たのか。

 まァ初体験であろう飛行を経験したんだから仕方ないと言えば仕方ない。きっと疲れたんだろう。

 

 私はキッドさんの腕を掴んで体に体重をかけ押し倒し「ぐぇ…!」ホールドから逃れると川に向かった。

 

 

 

「どーなるんだろ………」

 

 世界中が探し求めてる機密を手に入れてしまった私は川の水の冷たさに涙を流した。

 

 決して現実の厳しさとプレッシャーでは無い。




セクハラです(カリファ風)

逃走中とワンピースコラボですね!!全裸待機です!


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第58話 トラブル回避はお手の物?

「ほうき!」

「船!」

 

 朝から言い争いの声が船着場で発生する。

 

「だからー!ほうきが速いです!そしてお金を使う事無いです!」

「馬鹿か!あんなモンに2度と乗れるか!船一択だ!」

「スピード緩めるですからー!」

「ハッ!信用ならねェな…!」

 

 キッドとリィンが第七支部に行く方法で言い争ってる。

 キッドは腕を引っ張って船の方へ、リィンは箒を片手に海岸に向かって引っ張り合い状態。腕がもげそうだ。

 

「チッ、面倒くせェなァ!」

 

 キッドはリィンの腰あたりを掴まみ、俵担ぎ状態にした。

 

「2人な」

「離せぇえええ!」

 

 呆気に取られていたチケット配布の係員にベリーを渡すとスタスタと騒ぐガキンチョを無視して船内に入っていった。

 

 

「(ついて来なくて良かったのに)」

 

 

 今更後悔しても後の祭りだ。

 

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

 

「ほれ、水」

「ありが、とう、です……」

 

 船酔いで瀕死状態になってるリィンに水を届けるとキッドはため息を吐いた。

 

「どんだけ酔いやすいんだよ」

「うるさいです……うっぷ…」

 

「あァ、ほら無茶して喋んな。俺に吐いたらぶん殴るからな」

 体調不良者にこの扱いは何とも解せぬものがある。

 

「能力者で良かったなァ…つーかお前陸からもう出んな」

 

「(酷い扱いだけど心配してくれてるのかな……?)」

 

「ったく、拾ってやったのが俺で感謝しろよォ?」

 

 正直な話1ミリも感謝したくなかった。

 リィンだって馬鹿ではない、方角を教えさえしてくれれば後は自分でどうにかなったのだから。キッドはリィンにとってお荷物以外何物でも無い。

 

「(災厄ッ……)」

 

 未来で再びこの災厄に見舞われる事の無いように願った。つまるところもう二度と会いたくない。

 

 

 キッドは体調不良のリィンを横目で確認しながら海を眺めて居た。

 遠くに何隻が船が見える。

 

 何が大航海時代だ、海は今日もこんなにも平和────。

 

 

──ドォンッ…!

 

 

 1隻の船が自分たちの乗る客船に突っ込んできたのが確認できる。

 船が傾く、悪酔いする。バランスを崩してリィンは転倒しかけた。

 

「っと、大丈夫か?」

 

 キッドがいち早く転倒に気付き抱き抱える様に庇ってくれなければ。

 

「大丈夫……じゃ、な……うっ…」

 

 

「…! 屑が…っ!」

 

 キッドの視線の先には刃物を持った人間が数人。如何にも(わる)ですという雰囲気を醸し出していた。

 

「はいどーも、そこの兄妹かな〜?海賊でーす金目のもんはさっさとお兄さん達に寄付してね〜」

 

 海賊と言った男達はニタニタと笑いながら近付いてくる。

 キッドはリィンを背中に庇った。いくらなんでも戦闘は出来ないだろうとふんで。もし出来たとしても今の船酔い状態なら動けないだろうと思い。

 

「……船に旗が無かったが?」

「あ?ンなもん客船襲う時にわざわざ付けるわけねーだろ!馬鹿かよ!」

 

 ギャハハ、と笑い出す男達を見てキッドは怒りを覚えた。

 

「掲げる旗もねェ…略奪しか脳のねェ奴らが海賊名乗んじゃねェよォォ!」

 

 拳を握りしめ無謀にも獲物なしで飛びかかった。

 

「(キッドさんは…弱くない……)」

 

 リィンは見聞色程正確では無いが自分だっていつも人外かと思えるくらい強い人を見ている。相手がどれくらいの強さかどうかくらい筋肉の付き方などで分かる。

 

 …赤髪海賊団のルウさん程不思議な(脂肪なのに動ける)体をしている人は見た事ないが。

 

 

「オラァ!」

 

 油断していた海賊に殴る蹴るの暴行を加えるキッド。

 少しの時間経過しか無いが仲間であろう男達と野次馬である客船の人間が甲板での喧嘩を目撃していた。

 

 

「ヒッ!」

「オイ、まだこんなモンじゃねェだろ海賊」

「わ、悪かった!悪かったから許してくれ!」

「悪ィな…俺はいい人じゃねェんだ、…っ!」

 

「死ねェ!」

 

 背後から刀を持った海賊がキッドに襲いかかる。

 

「ホーーー、ムランッ!」

 

 それを阻止したのはリィンだ。

 刀を野球ボールに見立て箒をバット代わりにして打った。狙い通り、刀はいきなりの予想しない衝撃に手から離れ海に落ちた。

 

「え…」

 

「おい船酔い女!テメェなんで大人しくしてられねェ!」

「こっちにも事情が存在するです!黙って背中預けるしてです!」

 

 よくよく考えればこれは海軍支部に向かう船。ひょっとしたら海兵の1人や2人乗っていてもおかしくは無い。

 キッドがさっさと戦闘態勢に入ったせいで出遅れているという可能性もあるんだ。

 

「(このまま傍観すれば立場がバレた時に責められる……!首が、首が…!)」

 

 自分の親が政府にどれだけ影響力のある人間だと分かってしまった以上。そして自分が不本意にせよ中枢の情報を掴んでしまった以上。海軍を辞めれば物理的に首が飛ぶことは間違いない…。

 

「足引っ張んなよ!怪我しても助けちゃやんねェからな!」

「笑止!それはこっちのセリフです!私の師達の意味不明さに比べればこんな海賊……あ、胃が…胃が痛く……」

「良くわかんねェがドンマイッ!」

 

 リィンは血反吐を吐きそうな訓練を思い出して胃を勝手に痛める。

 その姿になんだか知らないが同情したキッドだった。

 

 

 

 ──30分後──

 

 

 

「ゼィ…ゼィ…」

「ゲホッ……はァ…はァ…」

 

「なんつーか…しつこかったな」

「生命力がゴキブリと同類ぞ………」

 

 息を切らした2人が倒れた海賊達の中心で背中合わせに座り込んでいる。

 

 

 わぁ!と歓声が沸き起こる。

 いくら倒れたと言えども海賊がいる所には来たくないのか離れた所で客員が口々にお礼を言っている。

 

「ウゼェ……」

「ハ、ハハハ……」

「お前なんで能力使わなかったんだ…?」

「ヘェ?そりゃ人がいっぱい故に…」

「ふーん…」

 

 すると2人に近付く人影が一つ。

 

「……誰だテメェ」

「こんにちは、自分はこの先の第七支部の大佐でございます」

 

 キッドはイラッとした。

 

「遅いお出ましじゃねェか?」

「それは謝罪します。……ところでお礼がしたいので是非支部にお立ち寄り頂きたいと願います」

「オイ、ガキ…どうするつもりだ?」

 

 コツンと肘でリィンをつつくとリィンは口を開いた。

 

「リィンです!『お父さんにラーメンを届けに来た』です!」

 

 表情が一変した。

 

「……。おやそうでしたか!リィンよく来ましたね、お友達と一緒にお父さんの仕事場に来てくれるかい?」

「もちろんです!」

 

 正直、キッドは会話についていけなかった。

 

「は?お、おいガキ、こいつが会う予定だった父親か?」

「…はいです!」

「将校って大佐かよ……!つーかラーメンってなんだラーメンって!お前そんな物何も持ってねェだろ!」

「ラーメンは私の面倒見てくれてる髭のおじさんが持たせてくれた伝言の事ですー!」

「紛らわしい!」

 

 

 なんだかリィンと会って振り回されっぱなしだと思った。

 

 

 ==========

 

 

 

 ──南の海(サウスブルー)第七支部──

 

「遠い所からよく来てくれましたね」

「お父さんに会う為なら、大丈夫ですた!それに加えキッドさんが助けてくれたです!」

「そうですか!キッドくんありがとうございました」

「は、はァ………」

 

 ニコニコと表面上は父と娘の会話をするリィンと、この支部長であるテッド大佐。

 

「お父さん!おじさんからのお使いで来たです!お手紙あるですか?」

「あぁ、内緒の赤いお手紙の事ですね?」

「はい!04444のお手紙です!」

「…っ!そうでしたね、ちょっと待っててください」

 

 リィンが他人に分からない様にMC(マリンコード)を出せば表情が一瞬固まった。

 しかしすぐに表情を元の笑みに戻すと机に向かって行く。

 

「(流石、人の流通が多い第七支部の大佐……優秀な人を使ってるんだな…)」

 

「な、04444!?」

 

 その代わりにテッドの右に待機していた男が反応した。

 

「(部下は躾がなってないな……)」

 

「どうしたです?将校さん」

「っ、な、何でもありません……気の所為でした……リィンさん。どうぞ私の事など気にせずお父様とお話下さい」

 

 敢えて将校と呼ぶことによってMC(マリンコード)を知っているのが将校だと言う事を伝え、本物だから黙ってろ、と雰囲気を醸し出していた。どうやらきちんと伝わった様でリィンはこっそりため息をつく。

 

「リィン、ほら、これがおじさんへのお手紙だよ」

「わァおっきいねェ…!ラーメンの伝言はね。偶には帰るして店のお手伝い、って言うしてたです!」

「ハハハ…ちょっとそれは難しそうだな……。どうだ、久しぶりの父さんだ。少し話をしようじゃないか」

「はいです!」

 

 ここで会話を止めればあまりにも不自然。少なくともテッドは何年も娘と会ってない事になる。少しは久しぶりの再会を楽しまなければ怪しまれ、もしこの場に裏切り者がいる場合リィンが何かしらターゲットになる可能性があるから。それは何としてでも避けたかった。

 テッドは大将と情報の安全を

 リィンは自分の安全を

 

「おじさんは元気ですか?」

「髭のおじさんはとても元気です!いつも隣に住む犬の帽子のおじさんに怒鳴り散らすするですよ『物を壊すなー!』と」

「ハハハ、元気そうで何よりです。リィンは最近どうですか?」

「大変ですた…。赤いおじさんに怒られそうになったり青いおじさんに絡まれたり……」

「モテモテですねェ…」

「こんな事でモテるは嫌です」

 

 はぁーー、と深いため息をついたのを見て、少し可哀想だと感じたテッドはお菓子をすすめた。もちろんリィンは食いつく。

 

「お父さん流石です…私が甘い物好きを覚えていたですね」

「そりゃあ愛娘(まなむすめ)の事ですから」

 

 キッドが横でイライラし始めたのを確認したリィンは視線をキッドに変えた。

 

「キッドさんキッドさん、お菓子が美味しいですよ?」

「そりゃ良かったな」

 

「そういえばリィン。キッドくんはどこで知り合ったのかな?一人で来るとおじさんから連絡があったのだが…」

「──初めましてお義父さん娘さんを俺に下さい」

「ぶふうっ!」

 

 キッドの奇襲に思わず吹いた。

 

「何言ってくれてるですキッドさん!?(ボソッ)」

「仕返しに決まってんだろ糞ガキ(ボソッ)」

 

 きっと泊まる所でからかった(セクハラした)仕返しに違いない。

 

「(頭痛くなってきた………)」

 

「もちろんどうぞどうぞ」

「お父さんの裏切り者ー!」

 

「でもその代わり、キッドくんを海軍にくれませんか?」

「「は/へ?」」

 

 腕を組み替えるとテッドはハッキリ言った。

 

「その強さは逸材です。是非とも海軍の力になって欲しいと思っています」

 

「ヘェ…?海賊を海軍に誘うのか?」

 

──ガチャッ!

 

 ピリッと空気が変わると周囲に居た海兵が銃を構えた。

 

「……殺りてェようだな」

「(マズイマズイマズイマズイ……!何を抜かしてくれてんだよこのアホが…!つーかそんな戯言一つで即座に反応出来るここの海兵怖い!)」

 

 ふといいアイディアがリィンに舞い降りた。

 

──パンッ!

 

 その場で手を叩くと視線が一気にリィンに集中した。

 

「合格です」

 

 

 何言ってんだコイツみたいな視線が集中する。

 

「(うおーー…心臓バクバクする)──戯言(ざれごと)一つでも反応出来るならば父を任せれるです。父をこれからよろしくお願いします海兵さん。それでは」

 

 キッドを無理やり立たせ引っ張る様に外に出る。

 

 

 

 

 

 部屋に残されたテッドは深くため息を吐いた。

 

「(大将直々にお出ましとは聞いてないですよセンゴクさん……、こちらの胃袋潰す気ですか……にしても、あの少女が大将か……。船での戦闘に戦いなれしている様子は見られたがそれでもやはり自分の方が強い……、いや、怪しまれない為に力をセーブしたのか?そこまで計算出来る子供がいるとは……恐ろしい)」

 

 実際普通に船酔いで満足に動けなかっただけなのだがその場で訂正する人間は誰1人としていなかった。

 

 S(エス)-7(セブン)では娘に愛される大佐として印象深い話が広がったと言う。

 ……この噂が消えない限りテッド大佐に嫁は来ないだろう、アーメン。

 

 

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

「あ、危な…かた……」

「おい糞ガキ。手ェ離せ」

「あ、ごめんぞ……です」

 

 リィンは腕を解放すると箒を取り出した。

 

「思ったんだがお前それどこから取り出して…」

「これ!帰りの船代!私帰るです!」

「はァ!?え、おい!」

 

 赤い封筒をアイテムボックスにしまうと急いで飛び立った。

 

「(リゾート地でゆっくりしたいけど……これ以上、これ以上トラブルにあってたまるかーーー!)」

「(っ、ガキの金なんて使えるかよ!)」

 

 

 もう二度と合わない様に祈るリィンと今度あったら虐めてやると誓ったキッド。運命の女神はどちらに微笑むのか。

 

 

 災厄吸収のリィンの願いが叶う事など奇跡に等しいが。

 

 




言葉、リィンさん勉強中なので読みやすくなってればいいな……。


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第59話 ヘイ!トラブルブロック!

 

 リィンの届けた書類の話をしよう。

 

 リィンが南の海(サウスブルー)から持ち帰った最重要書類は1度センゴクの手を渡り、1度も開かれる事なく、総帥であるコングへと送られた。

 

 海軍のトップ元帥を無視して、だ。

 

 

 赤い封筒は『世界を揺るがす可能性のある封筒』

 新米のリィンは知らずともその受け渡しを目にしてしまったボルサリーノや受け渡し張本人であるセンゴクはコング総帥からの通達があるまでピリピリとした雰囲気へと変貌(へんぼう)した。

 

 

 

 

 コング総帥は、その封筒を開き。一つの可能性、いや、ほぼ確定した証拠に悩まされた。

 

「ポートガス・D・ルージュ、コイツは……間違いない…。隠れ家だ」

 

 バテリラの、ある空き家に今頃になって目撃情報が入った。証拠は未だ見つからないが、家探しの許可を求めて来たのだ。

 

 

 そして。もしかしたらポートガスに…。

 

「……こちら本部、S(エス)-7(セブン)聞こえるか」

『…──聞こえます』

「……………家探しを許可する。危惧しているアレが確実と判明した場合連絡を寄越せ」

『……はい!』

 

 電伝虫で指示を飛ばせば静かに椅子に倒れ込んだ。

 

「ロジャー………!」

 

 死んでからも自分を悩ますのか、と。

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

 コング総帥というセンゴクさんより偉い人から呼び出しがかかった。

 心強い事は私だけじゃ無くて同位の3人と上司センゴクさん。そして中将からおつるさんとジジという濃いメンバー。

 

 私がいる必要あるかな。

 

「コングさん…いきなりこんな濃い面子集めてどうしたってのよォ」

 

 眠っていた所を大人では無く私が起こして無理やり引っ張って連れて来たクザンさんが欠伸を噛み締めながら険しい顔をするコングさんに視線を送った。

 

「単刀直入に言おう…───海賊王の子供が生きている可能性が出た」

 

「「「「!?」」」」

「「「っ!」」」

 

 口から出た言葉に思わずギョッとする。

 なんで、バレた!?

 

 ジジを見るとあからさまに動揺してる。センゴクさんは一瞬で元に戻ったが青くなった。他の人達は未だに驚いた顔をしているから、ひょっとしてセンゴクさんはエースの存在を知っているのか?

 人の顔色を伺うことが得意なので私だけが周囲の様子の変化に気付けたのかも知れない、コング総帥はどうか分からないけど。

 

「あの、可能性、とは?」

「リィンが届けてくれた封筒、アレにポートガスの情報が入っていた。まさか敢えて人の多い所に隠れるとはな…。まァそれでだな、リィンが帰ってきた後家探しを行った。するとこれと言って重要な情報はなかなか手に入れれなかったが、生活していたであろう形跡と死亡したという情報を手に入れたんだ……」

 

 私が運んだあの封筒がエースの痕跡になった…?嘘でしょう?

 と言うか家探しの前に手紙回収出来て良かった!これがあったら察しのいい人は海賊王に子供がいるという証拠になるでしょう!?こわっ、何これ怖っ。

 

 私が一人動揺しているとおつるさんが追加で声をかけた。

 

「つまり、今になるまで情報が発見出来なかった事を見ると子供がいて、それを逃がしてる可能性が高いって事かね?」

「あァそうだ。君たちも──リィン以外だが──、勿論知っての通りあのお転婆娘はロジャーと随分仲が良かった。つまり…可能性が高い」

 

 ロジャーの子を生した可能性が、と付け足すと部屋に沈黙が起こった。

 

 まだエースの事は知られていない。可能性だけだ。大丈夫、大丈夫。

 

「もしも、生まれた子供を取り上げた助産師が居れば…時期を確認する」

 

 ……ずっと不思議に思っていた事がある。海賊王が捕まった日とエースが生まれた日がおかしいんだ。

 下品な言い方だけどヤった時期と産まれた時期のタイムラグがどう考えてもおかしい。なんで間が一般的な妊娠期間の10ヵ月以上も空いてる?

 

 可能性として考えられるのは、エースは海賊王の息子では無く別人の息子。もう一つとしては…胎内に居る期間が長かった。

 

「…──ィン─…リィン!聞いているか!?」

「あ………、ごめんなさいです。聞いてませんですた……」

「顔色が悪いぞ……どうした」

 

 コング総帥が訝しげに眉を歪める。

 

「わ、私…えっと………──」

「どうした」

「──あ、戦神の娘だから……気になって」

 

 咄嗟(とっさ)の言い訳に似ている境遇(きょうぐう)の私を例題に出した。私がコレを言っても()は立場に守られているから大丈夫なはず。

 

「っ!?じいちゃんはそんな事一言も教えて無いぞ!?」

「……自白ですよ?ガープ中将」

 

 これで確信した。

 私の母親が戦神だと言う事を。

 

「じいちゃんと呼ばんかぁぁぁぁ……!」

 

 え、気にする所はそこなの?

 

「ガープ中将うるさいです」

「センゴク!お主の影響か!リィンが反抗期じゃ!」

「私には反抗期では無いとは思うんだがの……」

 

 ゴホン、とコング総帥が2人の漫才が始まる前に咳き込んで止めた。

 

「とにかく、ポートガス・D・ルージュに関連する人物や情報を発見した場合最重要事項として…そうだな、センゴクに任せる」

「はっ…!」

「………頼んだぞ」

 

「「「「「はいっ!」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 部屋を出ると張り詰めた空気が四散した。誰が付いたのか分からないがため息の音も聞こえる。

 

「……私はこの面子と揃うは危ない故に雑用部屋に戻るです、ありがとうございますた」

「あァ、ちょっと待てリィン」

「………? 何用ですセンゴクさん」

「別件で話がある。ガープ貴様も来い」

 

「嫌じゃ!」

 

「………ガープ中将、仕事ちゃんとしないは嫌いです」

 

「それも嫌じゃ……」

 

 とぼとぼとセンゴクさんの後ろをついて行くジジを見て、これなら大丈夫だと安心する。

 

「そういやリィンちゃんは雑用から移動しないのかね〜?」

「リノさんの言うもイイと思うたですが、雑用の方が自由が効くです」

「う〜ん…それでも後6年だからねェ……少しでも上げておいた方がいいと思うけど…」

 

 あと6年?一体なんの事だ?

 

「まァあっしの事は気にしないで、引き止めて悪かったねェ」

「あ、いえ、ありがとうございますです!」

 

 リノさんが遠回しに「早く行け」と言ったので素直に従ってダッシュする。

 別件とか言ったけど、今この状態だとエースの事だとしか思えない。

 

「はァ…」

 

 

 

 ==========

 

 

「一つ質問だリィン──知っているな?」

 

 〝何を〟

 とは決して言わない、多分私を試しているのと周囲に聞かれた時のための保身だろう。

 

「はい、知ってるです。察するのもあるのと、ショタが………」

「ショタ?」

「あ、シャンクスさんの事です。我が兄の可愛さに殺られたショタンクスさんです」

「………………奴は一体何をした」

 

 勿論誤解だと信じているが、彼には戦神の情報を黙っていた事と黒歴史を掘り出した事と魚人島に連れていかれた事と休息なしの船旅に付き合わされた事とお菓子を食べられた怨みが存在する。

 

 誤解されればいいと思う。

 

 

「……私は正直、胃が痛い」

「………………私もです。黙っていた事が知れれば首が…首と首が……」

「そうか?なんとかなるじゃろ!」

 

「ガープは黙っていろ!」

「中将は黙るしろです!」

 

 やっぱりセンゴクさんは私と同じタイプなのかもしれない。今度お給料入ったら胃痛薬プレゼントしよう、うん。

 

「どうするです…」

「現状は黙っていよう。……もし露見すれば立場により対応を変える」

「それは、海賊の場合は…───」

「容赦せん」

 

 私がもし海賊の道を選んでいた時の恐怖が目に見える……。良かった、自己保身の為に海軍に入って。

 と言うか私はコレをなんとかする為に入ったんじゃないか!頑張ってもみ消すぞ、せめて、名乗る名前が「エース」のみであれるように、なんとか頑張ろう。

 

「あの、提案です」

「なんだ?」

「もし海賊になった場合。空くがしてる席の七武海に勧誘してです」

「強さ、にもよるが……。構わないか」

「あと、担当は女狐がいいです」

 

「お前がか?」

 

「容赦はするないです!お願いです…!」

 

 本当は容赦しまくるんだけど。

 

 私の願いが通じたのかセンゴクさんはふぅっとため息を吐いた。

 

「良いだろう」

 

 正体がバレてはいけない私が対応する事によって必然的に1人だけの対応になってくるからある程度態度を崩しても大丈夫なはず。もちろんそれはその場からエース逃がしやすくなるな。

 私初めてこの地位に感謝するわ……。最重要機密に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「話はまとまったか?」

 

 ニコニコとどこからか取り出した煎餅をボリボリ食べるジジを見て無性に腹が立ってくる。

 

「……。センゴクさん、何故(なにゆえ)この人伝説です?」

「私にも分からない……。……お互い苦労するな」

「私よりセンゴクさんの方が苦労するです。頑張るしてです上司さん」

「胃が……胃が…………!」

 

 

 ジジってアイテムボックス使えるのかな、とか思い始めるくらいには疲れた。

 




前の喋り方がいいと思う方が……!ガクブル……。

Twitter @kanon_rein
にちょっと気になった喋り方のアンケートするのでチラッと覗いてやってください。

活動報告でのアンケートはまだまだ募集しています!ちなみにこのままだと同数なのでオチなしです…!


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番外編6〜七武海と一緒〜

 ある人間は言った。

 

 「彼らは怖い」

 

 ある人間は言った。

 

 「彼らは腑抜けた奴ら」

 

 ある人間は言った。

 

 「彼らは政府につこうが所詮海賊」

 

 ある少女は言った。

 

 「彼らは一部を除くが関わる事全力回避が最良」

 

 

 

 これはそんな彼らと1人の少女の物語。

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 ある日の昼下がり。マリンフォードに大量の荷物が届いた。

 

「(なんだこれ…………)」

 

 リィンは自分宛に届いた荷物に頭を悩ませていた。

 もしかしたら新手(あらて)のいじめかもしれない。

 

──ぷるぷる…

 

 肩に乗る電伝虫が鳴いた。このタイミングは嫌な予感しかしないので正直無視したいが電伝虫1日出なければ不機嫌になるドフラミンゴだと厄介なのでリィンは渋々出ることにした。

 

「もしもし……」

 

『遅い、わらわの電伝虫は常にワンコールで出よとあれほど』

「間に合ってるです」

 

──ガチャ…

 

 

 海賊女帝 ボア・ハンコックだった。

 どうしよう、凄く無視したいけどストーカー(ドフラミンゴ)並にしつこいんだこの人。

 

──ぷるぷるぷるぷる…!…ガチャ…

 

「何事ぞ!うざい!」

『な、うざいじゃと!?毎日の様に電伝虫をかけるドフラミンゴよりは良いであろう!』

「だから、何故(なにゆえ)七武海は仲のいいです〜ッ!」

 

 ハンコックが言えばリィンは頭を抱えた。仲が良くなる反動でこちらに被害がくるのなら険悪になれ!と。

 

『ところで菓子は届いたか?』

「お ま え の し わ ざ か 」

『さ、最近菓子作りにハマっておるだけで甘い物好きのそなたの為に作ったわけでは無いから勘違いするでないぞ!』

「待つして、あれまさか海賊女帝の手作りです?」

『それがどうした』

 

「スモさんとヒナさんに全部あげるです」

『な、な、なななな、何故!』

「怪しい故に」

 

 電伝虫から焦った声を聞きリィンはある可能性に気付いた。

 

『わ、わらわの…わらわの想い……』

「──冗談です。全部私が食すです」

 

 毒が入っているかもしれない。そうなると常識人という貴重な彼らに毒入り菓子を渡すのはあまりにも勿体無い。

 

「(1口食べて美味しかったら全部食べよう。食べ物に恨みはない)」

 

 毒に強い自分なら食べれるかもしれないという甘い考えで完結した。

 食べ物に目がくらんだ雑魚は自分にも効く毒の可能性を頭から全力でぶん投げたのだ。食べ物に対する執念はもはや呪いレベルである。

 

『そ、そうか…!わらわに感謝するが──』

「失礼されますた」

 

 リィンはさっさと話を切った。今日は忙しくなりそうな予感がする。

 

「(よーし、今日も空元気に頑張るぞー!)」

 

 

 

 七武海と関わるとろくな事が無いのは経験則だ。

 

 

 ==========

 

 

 

「おお、リィン。元気そうじゃな」

「ジンさんくまさんこんにちはです。今日はどのような御用です?」

「魚人島への交易船の手配じゃよ」

 

 七武海海峡のジンベエは天然と現実逃避が入っているが常識人。七武海全員が彼の様な人だったらどれだけ有難いだろうかと毎回思ってしまう。

 

 見習ってくれ(ロリコン)(ストーカー)そして(バーサーカー)

 

「くまさんは……あァ。交渉です?」

「的を得ている、俺の交渉相手は元帥じゃないがな」

「理解するしたですぞ」

「また『ぞ』を使っておる。おつるさんに怒られてしまうぞ?」

「う、ぐ……しかしながらジンさんも使ってるです」

 

「わしはいいんじゃよ」

 

「理不尽!」

 

 大人は汚いと唸っていれば手袋越しだが肉球の様な感触がリィンの頭に添えられた。

 

「安心しろ…お前も十分汚い人間だ」

「1番心にくる……………」

 

 安心出来ない言葉を貰った。

 

「次はいつ魚人島に来るんじゃ?」

 

 ジンベエは持ち前の天然で胃に追い討ちをかけてくる。

 

「は、ははは………」

 

 電伝虫がかかってこないのをいい事にリィンは未だ海軍大将を黙っていた。

 キリキリと胃が雑巾絞りされてしまう。

 

「……いいのか雑用」

「はい?」

「クロコダイルとドフラミンゴが会議室でたむろしてたぞ」

「帰るです」

 

 くまも負けじとリィンの胃を痛めつけに来る。悪意が無いから恨めないだろう。

 

「(この野郎っっっっ!)」

 

 

 思いっきり恨んでいた…。

 

「あ……海賊女帝から大量のお菓子が届くしたので貰うしてです」

 

 かるったリュックの中に手を突っ込みアイテムボックスを開くとお菓子の箱を2つ取り出した。

 

「仲が良いんじゃなァ…」

「何故仲良く見えるです……」

 

 毒が入ってますようにと願いながらリィンは2人にお菓子を渡した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「わらわの扱いが酷い気がする……」

 

 女ヵ島で何やら嫌な予感を感じ取ったハンコックだった。

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

 

 

 会議室には変態(ロリコン)変態(ストーカー)が居た(※リィン調べ)

 

 七武海サー・クロコダイルと同じく七武海ドンキホーテ・ドフラミンゴだ。

 

 

「さて……今日もやるか…」

「いい度胸じゃねェか鰐野郎」

 

 テーブルの上に置いたのはトランプ。

 

「フッフッフ……運も実力の内。今日はドーナツでどうだ?」

 

 ドフラミンゴがニヤリと口をゆがめるとクロコダイルの顔を見た。

 

「ガキクセェが106勝105敗のテメェにはいい選択じゃねェか」

「………………鰐野郎覚悟しろ」

「上等だ鳥野郎。約束は覚えてんだろうな」

「当たり前だ。16までに決着をつける」

 

 ドフラミンゴが七武海に就任して数年。この2人は良く勝負をしている。何年もかかる賭け事を。

 賭けは…『リィンを自分の所に引き入れる権利』

 

 もちろんリィンは知らない。

 

 勝負締切はリィンが16になった時、勝利の多かった者がその権利を得る。

 

 

 もちろんリィンがどちらかに入りたいと言えば本人の意思を優先させるのだが何度も何度も断られている2人はこうやって勝負を始めた。

 

「さァ………始めるか」

 

 パラパラ、とトランプが円をえがく。

 

「次は俺が勝つ」

「次も俺が勝つ」

 

 ほぼ同時に呟けば口元に怪しげな笑みを浮かべトランプを手に取った。

 

──バンッ!

 

 するとトランプが爆発したようにビリビリに破ける。

 

「ゼェ………ゼェ………ゼェ…………、なんという事ぞ賭けに利用するしてるぞテメェ達は!です!」

 

 嫌な賭け事の噂を他の七武海から聞き飛び込んできたリィンの能力だ。なるほど、風を使う能力だと聞いていたが飛行以外に爆発も出来るのかと感心する。

 

 

「頼むから俺達の理解出来る言葉で喋れ、口調戻ってるぞ。あと張本人だろうが邪魔するな」

 

「張本人故に邪魔するぞ!?」

 

 クロコダイルがギロリと睨めば何故睨まれなければならないと反論に移った。理不尽だ。

 

「はぁ…今日は止めだな。鰐、今度お前の所に行って決着をつけるからせいぜい覚悟決めておけよ」

「なんで毎度毎度俺の所だ!勝っても負けても酒を大量に飲むだろうが!」

「俺が移動した方が早ェだろ……。わーったよ、次は酒持ってくるさ。フフフ…」

 

「(こいつら仲良しかよ)」

 

 頭がいい2人だからこそ馬の合う所があるんだろう。ただ、絡む原因や話題を自分にしないで欲しいと心から願った。

 

 

 

「私これにて帰るです、約束が存在するですから」

「雑用はもう無いだろ……?何の用だ?」

「…………自然と私の仕事内容の把握を言うは気持ち悪いです」

「自然とスケジュール把握するな糞鳥野郎死ね、だとよ」

「クロさん!?私その様なこと………思うして無きぞ!?」

「間があったぞ?リ ィ ン ち ゃ ん ?」

「クハハハ…!焦ると元の言葉が出るんだな…面白れェ」

「……………………はげろ…………」

「おい今随分流暢な言葉でディスっただろ」

「私 言語不自由 謝罪」

「こいつ…ッ!」

 

 やはり変態共を相手にするのは精神的に凄く疲れる。

 

「私ボーイフレンドと約束存在する故に失礼するです」

「「え…………」」

 

 リィン曰く、『まるで娘に彼氏がいると伝えられた父親の様だった』らしい。

 

 実際男友達(ボーイフレンド)だったのだが、仕返しには十分だろう。

 

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

 

「丁度いい所で会ったなリィン、手合わせするぞ」

「ま、私取引…ミホさぁぁ──ん!?」

 

 鷹の目に引きずられ訓練場へと連れていかれる姿は本部の海兵にとって日常となり、生傷絶えないが五体満足で帰ってくると知っている為か止める者は誰も居なかった。

 

「(次会うまでに頑張って見聞色身につけて逃亡してやる……!)」

 

 フェヒ爺より行動的なもう1人の師に対して斜め上の決意を固めた。

 

 




キリがいいので番外編を挟みました!


オチアンケートの締切は第70話の投稿した日がラスト、という事にさせていただきます!


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第60話 歯車は再び動き出す

 

 

「おはようございまーす!」

 

 (世界規模の)届け物の雑用をこなす私は大分成長した。今は10歳の冬、正しい誕生日が分からないけどあと少しで11歳になる。

 

「リィンちゃんおはよう、元気だね」

「情報部、今日も作業お手伝いするですね〜!」

 

 冬といえど島によって季節が決まっているから少し肌寒くなるだけなので普段より本部では作業がしやすくなっていた。

 

 情報部に出入りする私はいつも通り書類の整理をし始める。

 

「今日はまた情報多いぞですね」

「あ、やっぱりそう思う?賞金首が一気に増えたからその情報もあるし北の海(ノースブルー)でまた国が落とされたんだよ」

「国が?怖いですね……」

「まァセントヘレナは元々民衆を敵に回してる様な国だったからね…仕方ないといや仕方ないよ」

 

 トントンと書類を整えると箱に分けていく。

 こっちが賞金首の出生やら能力の情報、こっちが世界情勢の情報……。それとこっちが商業施設の情報に…、こっちは届けないといけない方か。

 

「ヘェ、そんなにも不安定な国ですたか……」

「革命軍が動くのも無理も無いよ……俺たち海軍にとって敵だけど個人的に応援したくなるなァ…おおっと反逆罪反逆罪」

 

 お調子者ジャンさんが時々こう言った発言をすると自然と暗くなってしまう情報部に笑いが生まれる。ムードメーカーとして情報部に欠かせない存在だろう。

 

「そう言えば革命軍の新戦力が目立った活躍してんなァ……怖い怖い」

「新戦力ゥ?」

「年代的にリィンちゃんが兵士になる時には対峙しなきゃいけなくなるんじゃねェかァ?」

 

 ニヤニヤとからかう笑みを浮かべるジャンさんの頭を反射的に引っぱたく。

 全く───。

 

「怖い事言うは禁止です!」

 

 私は雑用にいるもん。そうしたら表立って討伐隊に行く事も無いだろうし!

 

「こっちも怖かった…」

「ジャンさん酷いです!」

 

 泣き真似をするとジャンさんが書類を渡して来た。

 

「ほい、とりあえず元帥に届けるやつね」

「はーい」

 

 例のセントヘレナとか言う国の書類か。革命軍って未だに不明な所があるんだよね。

 革命軍のトップは世界最悪の犯罪者と呼ばれるドラゴン…──名前だけしか知らない、顔も出生も何も知らない人間。

 

 でも私は一つだけ知ってる事がある。それは彼が──。

 

「だってよ〜、このサボって新戦力まだ子供だろ?」

 

 

 

 

 

 

 

「サ…ボ………?」

 

 書類に目を落とす。

 

『新戦力の一つとしてサボと呼ばれる少年が一人。恐らく見聞色と共に武装色の使い手で───』

 

 別人の可能性だってあるけど…。

 

 サボって、私の…────。

 

──ガタッ

 

「リィンちゃんどうし…」

「私これそ早急にセンゴク元帥にお届けするです!」

 

 他の書類に目もくれず、私は走り出した。情報部は比較的元帥室と距離が近いから、全力ダッシュしても体力は持つ。

 

 

 

「はァ…はァ…!」

 

 息切れからの動悸(どうき)なのか、分からないけど心臓がうるさい。耳に入るのは心臓の音だけ。

 不思議と周りの音が入らなかった。

 

 

 この感覚、とても懐かしい。

 味わいたく無かったこの感覚。

 サボが死んだとドグラの口から聞いた時のこの感覚。

 

 期待するな、期待するな。期待が外れた時に辛い思いをするのは自分だから。

 でも期待する、期待してしまう。ずっと探し求めていた情報だから。

 

「サボっ…!」

 

──バンッ!

 

「元帥ッ!」

「なっ!……いきなりどうしたんだリィン」

「革命軍が北の海(ノースブルー)で一つ国が落とすされたです」

「………またか…、最近活発になっておるな…」

 

 センゴクさんは作業の手を止めて私から書類を受け取る。

 1通り目を通すと今度は視線を私に向けた。

 

「それで?リィンはどうしたいんだ?」

「セントヘレナに行く経験がするたきですぞ…!それなる話は昨晩の話、今から行けば革命軍を一目でも見る可能性があるです!考えれば私は革命軍との情報が少ないです、故に行きたいと思うたです!」

 

 練習した口調を放り投げてでも理由を一息で説明するとセンゴクさんは驚いた顔をした。

 

「いつもこう言った事は不満げなのにな」

「革命軍は市民の味方、私は市民になりすます事可能性だからです」

 

 簡潔で単純だがこれは私がまだ子供だから使える技でもある。

 もしバレたとしても回避行動の一つとして考えはあるけど。

 

 

「…分かった、但し危険な事は無──」

「行ってくるです!」

「──早いなオイ!」

 

 最後まで聞くこと無く元帥室から飛び出した。手には箒。

 

 

「あ、おいリィン。どっか行くのか?」

「はいです!スモさんおはよう!」

「お、おう…?」

 

 窓から飛び降りるのは怖いので階段で降りて箒に跨る。

 

 そして私は──飛び立った。特別手当はこれの場合出るのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

 

 時刻は夜、場所は北の海(ノースブルー)元セントヘレ王国。偉大なる航路(グランドライン)で天候が悪く進む速度が普段より遅くなってしまった。

 セントヘレナの革命からもう1日、革命軍が居ない可能性が圧倒的に高い。

 

「あ、あのっ!革命軍がどこか知ってるですか?」

 

 白い息を吐きながら通り行く人に聞いていく。革命された国の国民にとって英雄にも等しい、だからもしかしたら隠れている船や基地を知っているかも知れない。

 

 大丈夫、今度は頭が回る。

 

 もう二度とあんな思いはしたくないから。ゴア王国と同じ様に歩き回る。

 違う所は私の頭が寒さのおかげでクリアな事と人に聞ける事。

 大丈夫、きっと見つかるから………。

 

「待ってろよ…革命軍……!」

 

 ザクザクと雪を踏む音をBGMに手当り次第革命軍の情報を集めていく。

 もちろんなかなか集まらない事は覚悟済みだ。

 

 

 

 

 私は少しの可能性に賭けた。

 

 革命軍に私がどれくらいの時間を掛けられるか分からないけれど、夜中になっても諦められない。

 それにもし会えるのならドラゴンさんにも会ってみたいし…。

 

 

「すいません革命軍知ってるですか?」

 

「いや…知らねぇな…」

 

「ありがとうございますた…」

 

 

 本当に思えば思う程可燃ごみの日と類似する。夜中始めた探索、1人のサボを探す探索。炎の熱で暑くは無いけど、雪の冷気で寒い。風はあの時の同じ、強い風が吹く。

 

 

 大丈夫、今度は見つけるから。

 例え別人でも、少しでも可能性があるから。

 

「へくしゅっ!」

 

 でも流石に寒すぎやしませんか北の海(ノースブルー)

 

「革命軍知ってるですか?」

 

 繰り返される言葉、知らない、数えるの億劫(おっくう)になってくるくらいには聞いてる。

 

 

 

 

 

 

 時間はもう夜中と言っても過言では無い。年が開けた冬場の北の海(ノースブルー)の夜中はやはり寒くてもうそろそろ体力的にもやばい。

 

「あの…革命軍知ってるですか?」

 

「…。革命軍に何の用があるんだ?」

 

 質問に質問で返されたので私は少し考えて答えた。

 

「入りたい……」

 

 もしもこの人が革命軍で無かった場合、知人に会いに、と言えば簡単だろう。でももし革命軍だった場合、知人だとすぐに確認が取れてしまう。サボが別人だったら…マズイだろう。

 

 

「そういうのは港を探すべきじゃないか?」

 

 ここは裏路地に近い。港で探すという選択肢は早めに外した。

 理由はいくつか考えたけど、

 

「一般常識に囚われるは無いと」

 

 この世界の移動手段は船だ、だからと言って港に必ずあるとは思えない。

 そもそも革命軍は海軍の敵で港に海軍が来る可能性が高いから。

 

 それにこの世界は悪魔の実という一般常識からかけ離れた能力があるからどうとでもなりそう。

 

「……付いてきなさい」

「……………………へ?」

「私は革命軍の1員だ。話は通すからついて来い」

 

 

 

 

 思わずポロポロ涙がこぼれ落ちる。

 

 当たった……。当たったよ。

 

 

「やった…やっと、手がかりが………!」

 

「え、ど、どうして泣くんだ!?」

「う、嬉しく……て…」

 

 とりあえず第一段階がクリアしただけだ。

 後は軍の中でサボに会うことが大事になってくる。その為にも少しでも良い、ドラゴンさんに近付ければ。一つだけ…なんとかなる。

 

「カラスに乗って革命軍の船に行くから覚悟を決めるように」

 

 今聞き捨てならない言葉が聞こえ、涙は全部引っ込んだ。

 

「…え?カラス?」

「カラスだ」

「……………自分で飛ぶしても良いです?」

 

 流石にカラスに乗って飛ぶ勇気は無かった。仕方ないと思う。

 

 

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

 箒に乗ることに驚かれたが革命軍の人はカラスに、私は箒に乗ってセントヘレナから離れた所に留めてある船に降りた。

 

「寒いだろうから船内に。ちょっと上に掛け合ってくるから待っててくれるか?」

「はい…!」

 

 しばらく1人で待っているとさっきのカラスの男の人が戻ってきた。

 

「こっちだ。──そう言えばキミはなんの能力者だ?」

「実の内容は不明ですが、風関連だと思うです」

「……え? 風だって?」

「…? はいです」

 

 目がギョッと見開かれて驚かれる。なんだろう、ムズムズする。

 

「…………まァいい。この部屋だよ、私は入れないから入って来るといい」

 

 焦げたような色の扉をノックすると「入れ」と低い言葉が聞こえた。

 カラスの人を見るとコクリと頷く。多分「さっさと行け」って事だろうと思った。

 

「失礼するです……」

 

 扉を開けて中に入ると目の前の椅子に座っている男の人が1人、その両脇に女の人と魚人が1人ずつ。そして少し離れた壁際に1人いた。

 カラスの人は部屋の中に入らなかったけど扉の前に待機してる。足音が聞こえないからきっとそうだ。

 

 なるほど、もしもの襲撃に備えられる様な配置か。

 

 

 にしても魚人が革命軍の中枢にいるとは…。私魚人に縁があるのかな。

 

「魚人を見るのは初めてかな?」

「…!?」

 

 じっと見ていたのがいけなかったのか、話しかけられて肩がはねた。

 

「い、いえ……魚人にお友達居るです……」

「そうか…!是非とも紹介して欲しいな!」

 

 口角を少し上げる魚人。

 嘘は言ってないよ。ただお友達が七武海のジンさんだとか、竜宮城の王女王子だとかの常識外の面子なだけで。多分紹介は出来ないかな。

 

北の海(ノースブルー)で魚人を知ってるとは珍しいな」

「……そう、ですか」

 

 椅子に座った人が警戒を紛れさせる。

 緑に近い色のマントを被っているから顔までは分からないけど。

 

「…あの、失礼ですが名前は聞いて良いです?」

「……………ドラゴンだ」

 

 わ、わーお。まさか北の海(ノースブルー)に革命軍トップがお越しでしたか。じゃあこの部屋にいる人達の立場ってかなり高いんじゃ……。運は良いかも知れないけどワンクッション挟むつもりでいたからちょっと胃が痛い。

 

「……キミが革命軍に入りたい子か?」

 

 ドラゴンさんが再び口を開く。

 

「私は革命軍に入るしないです」

 

 ガタリ、周囲の人間がいつでも戦闘に入れる状態に変わった。

 やっぱり10歳相手でも警戒はするよね。最近革命軍の戦力が一気に上がって色々と狙われる可能性が高くなってるんだから。

 

「では、なぜ来た」

「サボという人に会いに、です」

「…………サボに?目的はなんだ?」

 

 張り詰めた空気は緩まる事が無い。もうそろそろ胃痛が酷くなって来るんですけど、もう少し警戒心解いてくれませんかね。私はこれを言わないとどうにもならないんですけど。

 

 そもそも潜入捜査の許可は取ってないのに入っちゃったら立場が危うい。

 

 

 でも、立場云々の前に一つだけ言いたい事があって。首が飛ぶ覚悟で言ってやった。

 

「────安否確認です育児放棄(ドラゴン)さん」

「ちょっと待て」

 

 ドラゴンさんは額に手を当ててふぅーっと大きく息を吐いた。

 

「ジジイの手の者か?」

「……肯定と言えば肯定ですが否定です」

 

 魚人さんや女の人は会話の意味が分からなくて首を傾げている。

 

「私、興味本位で聞いたです。『ルフィの両親は誰か』と」

「ルフィとは、どういう関係だ」

「盃の、兄妹です」

 

「ちょっと待てドラゴンさんにキミ!は、話の流れが分からないんだけど……」

 

 女の人が静止の声をかける。私は、容赦しないぞ育児放棄。

 

 

「ドラゴンさんはモンキー・D・ガープ中将の息子で私はドラゴンさんの息子の義理の兄妹です」

 

 

「「はぁぁぁああ!?」」

 

「第一!ドラゴンさんが育児放棄などしないならば!ルフィは風船に括りつけられジャングルに飛ばされる事も!赤髪のショタンクスさんに目をつけられる事も!目下に怪我する事も!無きですよ!?」

「わかった、わかった………」

「それに───────」

 

 ちょっとした違和感に気付く。何か、何か。

 

 ふと壁際で黙っている男の人に視線を向けた。シルクハットを被っている姿が──被る。

 

 

「サボ………?」

 

「「「!?」」」

 

 周囲の人達の様子で確信する。彼が革命軍新戦力のサボ……。そして顔を見て、確信した。

 

 左目に大きな焼け跡、金色の髪、あどけなさが残る顔。

 

 彼が兄妹のサボだ。

 

 

「サボ………っサボ!ずっと、探しすた、6年以上、ずっと、サボ…サボ……!」

 

 黒い目が開かれる。

 

「私、私………」

 

 

 

 

 

「お前は誰だ?」

 

 

 

 

 

「…………………………え?」

 

 

 ガンッとハンマーで殴られた様な衝撃が頭に走る。

 

「私リィンです。サボ、嘘ぞ……?ずっと青いリボン、私着けて………」

 

 言ってもずっと首を傾げている。眉間によった皺はそのままで──敵を見る目。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ─────サボ…

 

 

「冗談、言って……。嫌、嫌だ。いやぁぁぁぁぁぁあ!」

 

 私の意識はそこでまた途切れた。




記憶喪失サボとの再会。
サボは三兄弟の中で頭が1番いいと思っているので革命軍に現れた『入る気のない謎の少女』を全力で警戒しています。
今この時ではサボは誕生日がまだの16歳なので革命軍の参謀総長になるのには早いかなと思い参謀総長候補の戦力としての立ち位置になります。

ドラゴンさんはサボと逆で警戒心が薄いと勝手に解釈しているので話がトントンとスムーズ…では無いかも知れませんが門前払いはされない事にしました。だって警戒心ナニソレオイシイノ、のルフィ君とガープ中将の血縁関係ですしグレイターミナルの助けた人間を問答無用で船に乗せてくれる人ですから根は凄く優しすぎる人じゃないですかね(あくまで自己解釈)


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第61話 ミッション!革命軍を味方に引き入れろ!

「リー!おはよう!」

「おはようごじょりまひゅ……ぐぅ…」

「あ!おい寝るなよ!エース!ちょっと起こすの手伝ってくれ!」

「フェヒ爺の所無理やり連れていくか?」

「フェヒ爺は断固回避!おはようごぞりました2度邂逅(かいこう)は皆無ぞ!」

「あっはっはっ!リーはフェヒ爺苦手なんだなー!」

「ルフィはあの様なる鬼をご存知無き故に戯言ぞ申すが可能ぞりん……!」

「じいちゃんの方がこえーぞ?」

「否定…不可能……!」

 

 昔はこんな普通とかけ離れた生活なんて嫌だと思っていた。

 怖い爺さんに虐待紛れの修行をつけられ、一生懸命人外じみた兄について行き、ご飯はいつも肉の丸焼き。

 

 

 

 私は井の中の蛙なだけだった。

 

 

 海に出てもっと非常識な事を知り、胃の壁をすり減らして、色んな出会いがあった。

 

 

 

「リー…、おはよう」

「んむぅぅおはようぞ」

 

 頭を優しく撫でられる手もガシガシともみくちゃにされる手も飛びついてくる衝撃も。同じ布団で寝る温もりも無くなって、涙が零れた。

 

「今日は鹿肉だな」

「あれ硬ェんだよなァ…」

「文句言うなら食わせないぞ」

 

 喧嘩の騒音も、何も無くなって。

 

 

 

 

 最初無くなったのは──。

 

『リー!早くいけ!』

 

 可燃ごみの日。

 

 

『嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!』

 あの時の後悔は忘れた事は無い。夜になれば、炎の海を見てしまえば。震えが止まらなくなる。

 

 私は、居ないのに……エースが味わった炎の景色が頭の中に流れる。

 

『俺の大切な兄弟なんです───ッ!』

 

 私は居ないのに。誰かの記憶が流れる。

 

 

 

 

 

 

 わたしは只の傍観者だ。

 

 

 

 でも、それはもう止めたい……。

 ()()()()、望む未来を作りたくて。

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

「っ!ドラゴンさん!ガキが目を覚ました!」

 

「あ…おは………ようご…ざいま……ぐぅ…」

 

「って寝るのかよ!コアラー!ちょっと起こすの手伝ってくれ!」

「はいはい」

 

 起きると目の前にはいつもサボが居た。怪我した時も熱を出した時も。

 

 

「…っ! サボォ!?」

 

 意識が一気に覚醒して体を起こす。

 

 部屋は倒れた部屋と変わっていて、倒れて運ばれたのか私はベットの上だ。女の人とサボと思われる人が部屋の中に居た。

 

「あァ、起きたか……」

 

 扉を開けて入ってきたのはドラゴンさんと魚人。

 

「…ご迷惑ごめんなさいです」

 

「……ゴア王国」

 

 聞きなれた言葉が聞こえて音の方向を向く、それはドラゴンさんだった。

 マントから覗く顔が少し見えて、そこには赤い刺青が顔の左に書かれている。

 

「……やはりお前はあの時の……!」

「あぁぁぁあ!い、刺青の人!」

 

 思い出した!サボを探していた時に会った人だ!

 

「怪我、怪我!ご、ごめんなさいです!」

 

 無意識に爆発を生み出してしまって手を怪我させてしまった人。

 

「んー、待って、また話がついていけれないんだけど……」

「6.7年前に少し会ったことがあるだけだ」

 

 女の人がストップをかけるとドラゴンさんは説明した。

 忘れもできない可燃ごみの日。

 

 

 なんだか、頭痛くなってきた。

 

「ちなみにキミは2日寝たまんまだったからね」

「2日ァ!?」

 

 衝撃の事実に驚きが止まらない。大丈夫かな、海軍。

 

 すると魚人の人がじっと私を見てくる。なんだろう居心地が悪い。魚人さんはゆっくり口を開いた。

 

「……ずっと気になって居たんだが、救世主か?」

 

 なんだか凄いどこかの人魚の王妃様に言われたセリフと被る。なんだろう、凄い嫌。

 

「……げ」

 

 喉の奥から絞り出された声は女の子の声じゃ無い。

 

「やはり!私はオトヒメ様暗殺未遂事件を見ていたのだよ!魚人島の救世主殿にまさかこうして会えるとは…!」

「な、なに、ゆえにその呼び方を……」

「オトヒメ様直々にお呼びされていたので民衆は皆そう呼んでいるが?」

「っ、あの、天然人魚……!」

 

 私はなるべく目立った事無く過ごしたいのに…!

 

「ハックが昔言っていたアレか……」

 

 ドラゴンさんが顎に手を当てて何故か納得すると今度は女の人が声を上げた。

 

「あーーー!」

「え。今度は何です」

「……………ごめん。私だけなんの接点も無いと悲しいなァって」

 

 テヘッと頬を染めながら頭をかく姿を見て人騒がせな、と肩に入った力を抜く。

 

「いや、そんな事無いぞ?」

 

 ハックと呼ばれた魚人さんが女の人の頭を押さえた。

 

「タイヨウの海賊団」

「…タイヨウの海賊団?」

 

 聞いたことある単語に思わず反応する。

 

「ジンさんとアーロンの……?」

「…!ジンベエさんを知ってるの!?」

「ぎょわっ!ご、ご存知故に頭、もげ、もげるぅぅ!」

 

 乗り出して来た女の人が私の肩を思いっきり揺さぶる。待って…!それ以上やられると首が取れる…!

 

「コアラ少し待て、なァ答えろ。お前は一体誰だ…?」

 

 サボが眉を寄せながら私の目をじっと見る。きっと嘘をつかないかどうかの判断。

 

 

「私の名前はリィン!職業は海軍本部雑用と大将女狐で入隊理由は海賊を目指す兄の支援と行方不明の兄を探す為で義理の祖父はガープ中将で実の母親は戦神シラヌイ・カナエぞ!以後よろしく!」

「ちょっと待てェ!情報が処理しきれない!」

「……サボ、さん。実は頭悪いです?」

「比較的いい方だと思ってるんだが……」

 

 情報を処理しきれ無いように言ったのは私だけど。

 

「……………すまないリィン」

 

 ドラゴンさんが頭を下げた。

 え、何。何が起こった。

 

「俺の仮定が全て合っているのならば…君や君の兄妹達にひどい事をしてしまった……!すまない!」

 

 ドラゴンさんが私やルフィとエースに謝る必要がある事。

 よく考えろ。私達にとってひどい出来事と言えば…この人に関係ある事と言えば──サボ。じゃあもしかして可燃ごみの日、ドラゴンさんはサボと出会って、殺されたと思ったのに革命軍に拾われていた可能性がグッと高くなる。

 そして目の前にいる人物がサボだという可能性も。

 

 もっと考えろ。

 

 マグラがサボの殺された瞬間を目撃したという事はどうやってもゴア王国付近でサボとドラゴンさんは会っている事になる。つまりサボがどこの出身なのか分かる可能性が高いんだ。

 

 

 サボは何らかの理由でコルボ山に帰れなかった。

 

 それはドラゴンさんが引き止めたという様な理由か、サボの別人の様な様子を見ると記憶喪失か。

 漫画かよ…………。

 

「私達は、正直辛いですた。それは今も同じです」

「自分勝手な判断で引き離してしまったのを今日、初めて理解した。判断材料は十分にあった、そして調べる時間もきちんとあった」

「そうです。もっとちゃんと私達を調べてくれれば…私は海軍に入る必要はほぼ皆無ですた」

 

 それでも、親の重大さを知ったら迷うこと無く入っただろうけどね。

 ここは責任を押し付けますよ。返される恩の為に。

 

「…………すまない…」

 

「ドラゴンさん…?何を……」

 

 

 私モンキー三世代に振り回され過ぎだと思う。

 

「私個人が求める事は3つ!」

「出来る限りなら応えよう」

 

「一つ!海軍としてで無く、私個人として革命軍と協力体制を取ること許可するしてです!」

 

 このままサボとの繋がりを切れさせる事だけはダメだ。せっかく掴んだチャンスを逃してたまるか。

 

「………それは我々の情報を海軍に漏らさない、という事も含まれるな?」

「もちろんです。女狐が居る場合はマズイですが私は個人的に繋がりを保つしたいです」

「それなら構わない」

 

 ドラゴンさんは個人じゃ無い。個人として取引をするのでは無く革命軍のトップとして取引をしているから危険地帯を踏む事は無いようにしよう。

 

「というかむしろ逆に協力するしたいです」

 

「……それが二つ目か?」

「はい!二つ目はある国の革命です!」

 

 革命して欲しい国は2つある。

 

「一つはゴア王国。理由は───理解可能?」

「あァ、俺もあそこの出身だから分かる。あの表面だけの国の愚かさを」

 

 これは問題無いだろう。

 お互い共通している所だろうから。そうじゃないと可燃ごみの日にドラゴンさんが居た理由が読めない。

 

 私もただ頼むだけじゃなくてゴア王国の世界会議での発言力を削ぐことに手を回していたりする。ゴア王国より上に、ツテはあるんだ……。あんまり使いたくないツテだけど。

 

 

「もう一つはえっと…ドレスローバー…」

「…ドレスローザじゃないか?」

「それですた」

 

 ちょっと記憶があやふやだったから。

 別に私の発音が危ういとかそんな事は無いから。……そんな事無いからね!?信じてよ!?

 

「その国は革命候補に入っている」

 

 私の思考を知ってか知らずか、ドラゴンさんは話を勧めていく。

 

「だが、不思議な事に人を送り込んだ形跡があるのに記憶が無いんだ……!」

「……それ、幹部の悪魔の実の能力ですよ?」

「………………は?」

 

 ドラゴンさんが素っ頓狂な声を出すと固まった。

 

「ドンキホーテファミリーのクローバー、とれー、とれぼーる、とれ、…特殊能力チームの幹部にシュガーという女の子が居るして。ホビホビの実を食すたです」

「待て、なんでそんな事知っている……」

「ドフィさんの部下のイブが…───あ!ドフィさん忘れるした!」

 

 慌ててマントの下に手を入れてアイテムボックスから電伝虫を取り出す。音が聞こえないから忘れてたけどあの人1日電伝虫に出なかっただけで機嫌がすこぶる悪くなるのに!

 

──ぷるぷるぷるぷる…

 

「ひいっ!」

 

 かかってきた電伝虫に怯えれば、革命軍の人達は何か遊びなどでは無い事を察した様で静かになった。アイテムボックスから出した事はとりあえず黙っていてくれるらしい。

 

「………っ」

 

──ガチャ…

 

「も、もしもし」

『……………』

「あ、の………」

『リィン…一体何日出なかった?』

「ふ、2日………です…」

『…………………3日だ』

「ごめんなさいです…」

 

 電伝虫は相手の表情を示す。電伝虫がする表情は──怒り。

 

『この謝罪としてファミリーに入ると言え。一体何年待たせる』

「嫌です!何度言うと良いです!?」

『お前がよく泊まるスモーカーの部屋の引き出しの二重底に隠してあるいつでも食べれる用の菓子を燃やしてもいいんだぞ?』

何故(なにゆえ)知ってる変態(ストーカー)死ね」

 

 ヒナさんとスモさんが部屋に集まる時に食べる用のお菓子を奪われてたまるか!絶対にバレない隠し場所を見つけてやる。

 

「とにかく!入るしないです!それと任務中故にかけてくるなです!」

 

──ガチャッ

 

 受話器を急いで電伝虫に取り付ける。そのままブリキのおもちゃの様に革命軍の人達を振り向くと、彼らは何とも言えない表情をしていた。

 

「──同情するならば早くドフィさんの失脚をお願いするです」

「何年かかるか分からないが必ず革命しよう、ホビホビの実という有益な情報を手に入れたんだ」

 

 

 どうしてもドフィさんの奇行には耐えられない。正直ノイローゼになる。

 

「なァ女狐、お前はどうしてそんなに繋がりがある?不自然な程に」

 

 サボが私がもっとも気にすることを聞いた。確かに気になるよね。だが残念だったな…それは私が一番知りたい!!声を大にして言おう!何故だー!

 

「災厄、です…………」

「ふーん…」

 

 必要な事を聞いて興味が無くなったのか冷たい視線に戻った。胸がズキリと痛む。

 はー、結構くるなァ……。

 

 この4人の中で記憶喪失(仮)のサボだけ繋がりがない事になる。警戒心が他の3人より強くなるのは必然と言えば必然だけど、こういう時って兄妹パワー、とかなんとかで記憶が戻ったりしないの?

 

 『その青いリボン……リー…リーなのか?』

 『サボ…思い出したんだね!そうだよ!あなたの妹のリーだよ』

 

 とか何とか。

 

「三つ目は、なんだ?」

「あ……それは、ですね……ちょっと情報が欲しいと…」

「裏切るのか……!」

 

 サボが慌てて拳を握りしめる。

 

「ちが、違うです!……ここに来るの結構無理したです…、だからドラゴンさんの嫌いな食べ物とかの簡単な物でいいので弱点になりそうな情報を下さい…です…」

「要は形だけでも報告できるものが欲しい、と言う事か?」

「はい………」

 

 サボがドラゴンさんに視線を移すとドラゴンさんは軽い調子で答えた。

 

「なら写真撮っておくか?」

「え………?」

 

「どうせ俺が表立って出る事は少ない。近々参謀総長という人間が出来そうだしな……」

 

 この人は本当にルフィのお父さんでジジの息子なんだろうか…。

 

「どうせいずれあの口の軽いクソジジイから素性は割れるんだ、遅かれ早かれ変わらない」

「え…でも……」

「カメラは持っているか…?」

「あ、はい…」

 

 マントの下から取り出すとやはり不思議な顔をされた。

 

「そのマントは異次元か何かに繋がっているのか?」

「不明です…」

 

「……」

 

 じっとサボに睨まれながらもドラゴンさんの撮影会が始まった。

 

「やり直し」

「これじゃダメだな…」

「もっと影が差す様に」

 

 この我が儘さ、ルフィを彷彿(ほうふつ)させる……!

 

「はい、チーム!」

「そこはチーズじゃ…」

「サボ!さん、うるさいです!」

 

 時々ダメ出しをくらいながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当にこんな貴重な情報くれてもいいですか?」

「あァ、構わない……。その代わり──」

 

 ゾクリと嫌な予感がする。

 

「──キミには少しドジっ子になって欲しいなァ…」

 

 それって意訳すると「うっかり海軍の情報漏らしてね」って事、ですよね。

 

 

 

 

 教訓、人の優しさに騙されるな!疑え!常に裏があると思え!

 

「うぅ……分かったです」

偉大なる航路(グランドライン)の途中まで送ろう。聞いたが箒で飛行出来るんだってな?」

「あ、そうです。ありがとうございますです」

 

 この親切にも裏があるんじゃないかと思ってしまう。でもとりあえず大きすぎる情報を手に入れたし労働くらいしても良いかな。

 とりあえず船に乗ることがわかったから世界政府科学班がやっと作ってくれた超強力酔い止め飲んでおこう。高いけど。

 

「あ、ドラゴンさん。ちょっと寄りたい所があるんだけど……」

「どうしたサ…──あァ、近くだったな」

 

「?」

 

 私が首を傾げると女の人が教えてくれた。

 

「近くに革命に失敗と言うか、とっても可哀想な国だった所があってね、サボ君はそこに行きたいって言ってたの───あ、ちなみに私はコアラね、ジンベエさんによろしくっ!」

「そうですか……コアラさん、ありがとうです。ちなみにどこです?」

 

「フレバンス、だ」

 

 コアラさんの代わりにサボが答えた。

 どこかで聞いたことがある。どこだっけ……。白ひげ?赤髪?クザンさん?いや違うな…。ミホさん?女帝?ドフィさん?なんだか乗り物酔いしそうなメンツが頭に浮かんで来るね。

 

 

「あ!白い町!」

「なんだ女狐、知ってるのか?」

「女狐呼びは嫌です…。っじゃなく、私もそこに行きたいです!箒に乗せるですからついて行かせてです!」

 

 

 思い出した。

 フレバンスって珀鉛病が流行ったドフィさんの所に居た子供の出身地!

 

「箒に…?()()()乗ってみたかったんだよな……」

 

 

 

「え?」

「あ、れ…?俺今なんか言ったか?」

 

 サボが無意識だろうがおかしな言葉を口に出した。

 

 記憶が、完璧に失われてるわけじゃない?

 

 

「行こうです!白い町!」

 

 ちょっとだけ、元気が出た。




まだ少しだけシリアス引きずってるぅぅぅぅ!

私が目指す路線はギャグです。そこ、出来てないとか言わない。


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第62話 トラファルガー・D・ワーテル・ロー

 

 北の海(ノースブルー)のフレバンス王国…通称白い町

 

 珀鉛という鉛の生産地でその国はまるで童話に出てくる雪国の様だと言われていた。

 

 珀鉛は一大産業として国を潤して来たがそれも終わりを迎えた…。

 

 

 『珀鉛病』

 

 100年以上も前に国の地質調査でその事実を知りながらも利益に目がくらみ見て見ぬふりをしていたツケが回ってきた。

 珀鉛に含まれる毒素は身体に溜まり、生まれる子供へも悪影響を及ぼした。

 

 体に含まれる毒素の量で体が白く石化するような症状が現れるタイミングが三世代同じだった為、珀鉛病は伝染病だと思い込まれ…国と政府は、フレバンスの民を見捨て、他国へ通じる通路を八方から封鎖し隔離処置(かくりしょち)を取った。

 

 国民は憤怒(ふんど)した。

 皮肉(ひにく)にも鉛玉ならば沢山ある。

 

 彼らは攻撃に転じたのだ。

 

 なんの抵抗も無い人間相手、流石に手を出せれなかった世界政府も珀鉛病の患者に手を出せれる口実が出来た。

 悲劇は、再び起こる。

 

 そうしてフレバンスという国は滅んだのだった。

 

 

 

 

 

「……よく調べてるな」

「ドフィさんの部下に聞いたです」

 

 私はサボと共に白い町に来ていた。

 

 と言っても周囲は策やバリケードに覆われ、政府が立ち入り禁止の札を立てている為に人影も全く無い。ただ白の世界が広がっているだけだった。

 

「どうして、サボはここに用が?」

「……この国、革命軍が救えなかった国だろ?だから政府や人の闇をこうやって見て……やる気を作るんだ」

 

 下を向いて雪を踏むと地面から焦げた木の素材が見え隠れする。

 

「時々、酷く不安になるから…俺のしてる事が正しいのかどうか……」

 

 サボが空を見上げる。吐息が白く染まる。

 

「……俺、記憶喪失でさ。ドラゴンさんに拾われて流れるまま革命軍に入ったけど──本当はもっと別のやり方があるんじゃ無いかって、な」

 

 そっと目を閉じて雪を浴びるサボを見て思った。

 

 

 寒い。

 

 

 シリアス展開は分かりますよ!?でもそれで寒さを感じるか感じないかと言われたらすっごい感じるわけでして。

 

「だからといってお前ら政府のやり方には納得いかねェけど」

 

 目が開いて視線が注がれる。

 そうだよね。今ここにいる私はサボの妹の私じゃなくて世界政府の手先の私だから、その言い方は仕方ない。

 

──ズキンッ…

 

 私だってこのやり方が合ってるのか分からないけど…。私はサボと敵対する為に海軍に入ったわけじゃない。

 海賊の娘である自分を守れる力が無くて、兄を助ける力が無くて、弱っちい私は権力やツテに頼る他無かったのが現実だ。けど、本当にそれで合ってた?

 

 ルフィみたいにただ自分の夢に向かって真っ直ぐ進んでいけば、何か真実に辿り着いたかもしれない。どこかでサボと再会したかもしれないし、私じゃ呼び戻せない記憶の蓋をエースかルフィがこじ開けてくれるかもしれない。

 

 

「私は…海軍に入った事、後悔してないです」

 

 自分が1番で不平等主義者だけど、あのままコルボ山でメソメソしていたってなんの情報も掴めなかった。

 

 船の操作も人との対話の仕方も、言葉も、体の動かし方も、人の動かし方も、脅しの方法も、守り方も、人の目論見も、変態のしつこさも、全部海に出て知った事だ。

 

「自分さえ守れればいいと思うしてた──でも、今は違う。せめて、目の前の人の笑顔くらいは見ていたい……。大切な人を失う悲しみはもう味わいたくないから…、と思うです」

「…それ、結局自分の為になってないか?」

「………そうですね」

 

 私の目標は守ること──それはずっと変わらない。

 ただ、自分だけじゃなくなってしまったのは……海のせいかな。

 と言うか自分の心の安心安全第1なのは変わらない。

 

「大将女狐は変わりモンだよ…」

「そのような大将とお話する革命軍も変わり者と思うです」

「違いねェなァ…」

 

 薄らと口角を上げる姿は──月。

 

 夜の暗さ照らす月の様だった。

 

「……! 女狐、気を付けておけ。この島に俺たち以外の誰かがいる…」

 

 ピリリと空気が変わり、張り詰めた空気が肌につきささる。

 

「1人、か…?俺より弱いと思うが警戒するに越した事はねェか……」

「わ、私も付いて行くです…」

「弱い癖に。自分の身くらい自分で守れよ、俺は敵を助ける気は無い」

「………分かってるぞ」

 

 怖さからなのか敵と言われる事になのか分からないが泣きそうになる自分を励ましながらサボの後ろにくっついて行く。目の前の人の笑顔くらい守りたいとか言ったやつは誰だって?私だよ。でも盾にするくらいの躊躇(ちゅうちょ)は要らないぜ、だって私の中では。

 

 私>>>(越えられない壁)>>>他人

 

 に変わってしまったんですから。成長?もはや自分の為になら知人を盾にするなんて事どうでもない。どんな犠牲も悲しくない程度には成長したいな!

 

 

 

 

 ギュッと雪を踏みしめる音が止まると1人、男が見えた。

 

「お前は誰だ…? 何の為にこの島に来た?」

 

 白い帽子に黒い服、耳にはピアスが付けられていて不良みたいだ。

 サボが声をかけると男は町を見る視線をそのままに立ち止まった。

 

「人に物を聞く時は自分から…って知らねぇか?」

「……………………俺、達は革命軍だ」

 

 

 少し悩んだ後に正直に答えれば男はやっとこちらを見た。いや、私は革命軍じゃないんですけどね……一々言ったって拗らせるだけか。

 

「俺はただの墓参りだ」

 

 花束をそこに放り投げながら答えた。

 

「墓参り…?」

 

 サボが違和感に気付いたのか考え込む。

 少し遅れて私も違和感を感じた。

 

 世界政府が住民を一人残らず殺したこの町の知り合いか?いや、この町はお金持ちだからとても珍しい人でないとこの町から出ない。

 伝染病として言われていたけれど政府は中毒だと知っていたからきっと一族郎党滅ぼされたと言っても過言じゃない。

 生き残りは無し、ただし、ドフィさんの所に居たフレバンスの生き残りの少年以外は……。

 

「俺の名前はトラファルガー・ロー」

 

「とら、たいがー・ロー?」

「トラファルガーだ!」

 

 また間違えたかと息を吐くとトラファルガーさんと目が合った。

 

「お前ら兄妹か…?」

 

「………あァそうだが」

 

 サボが平然と言い放つ。

 少し間が空いたのは悩んだんだろう…私は敵だから。

 

「船に来い…なんかの縁だ、茶くらい出す」

 

 サボと顔を見合わせれば先々行くトラファルガーさんの後ろをついて行った。

 

 個人的には願っても無い提案だ。敵が味方か分からないが船に乗るという恐怖はあるけど。

 

「サボさん…トラフルガーさんのスタイルに殺意が生まれるです」

「トラブルダー、だろ。め…──リィン」

「そうですたか…」

 

「お前ら兄妹何なんだ!名前を間違えるな!俺はトラファルガーだ!」

 

 

 トラファルガーさん、誤解だ。私はちゃんと理解してる!口が言うことを聞かないだけなんだ!

 

 

 ==========

 

 

 

「革命軍はドレスローザの事についてどれくらい知っている?」

 

 船に詳しくは無いけどトラファルガーさんの船であろう小型帆船に案内された私達は船長室に招かれ、お茶を出された。

 そして、コレだ。

 

 ドフィさんと関わりがあるだろうから国と関連強い革命軍にこの手の話が来るのは予想してたけど。

 

「……何故、お前に話さないといけない」

 

「………それは関係無いだろう、とりあえずドレスローザの情報が欲しいんだ」

 

「っ、年下だからって舐めるなよ…?」

 

 見た目トラファルガーさんが歳食ってるよね。背もサボより高いし…目の下のクマは気になる所だけど。

 

「まーまー…落ち着くしてです」

 

 私ってよく仲介役に入るよね、しかも結構強制的に。いつまでたってもお互い平行線のままでいそうだから寒いしさっさと話を進めたかった。

 

「おいお前!止めるな!」

「うるさい、です!喧嘩腰は聞くも出来ないです!」

「大体お前が口を挟むなよ!」

「挟むしなければいつまで続くです!」

 

 サボの怒りの矛先がトラファルガーさんから私に向かって来た。なんで!?サボって怒りっぽくない!?こんな短気だったっけ!?

 

「……顔は全然似てないのに他は似てるんだな」

 

「根本的に違うと思うですトラタイガーさん!」

「絶対似てないからなとらのすけ!」

 

「似てないのは俺の名前だ!」

 

 トラタイガーだかトラのルガーだかよく分からなくなった…。どれが正解だよ。

 

「とにかく、ドレスローバーですたら至って平和です!」

「………ドレスローザ」

「……………………意味が通じるならばそれで良しです」

 

 ダメだ、言い間違えで話が進まない。

 

「トラフルガーさんは七武海を倒すしたいです?」

「ドフラミンゴの事か」

 

 ドレスローザ=ドフラミンゴという方程式は普通の人でも分かるからそんな大した反応は得られない。

 さて、どうするかな。

 

「殺したい」

 

 わーお………思ったより過激。

 

「と言うか情報なら青い鳥(ブルーバード)に言えよ」

「そういうのが居るってのは知ってるが尻尾どころか羽すら不明だ、どこから手をつけていいのかも分からない」

「ぶ、ぶるーばーど?」

 

 サボの言葉に反応して繰り返すと二人の視線が注がれた。

 

「知らないか?」

「知ってるです」

 

 海軍や世界政府の情報をとあるルートで安価──大体300万ベリー──流している革命軍や海賊に便利な組織、情報屋青い鳥(ブルーバード)。トップレベルまで機密を知っているが渡す情報は人や時期によって選り好みする謎過ぎる組織、と言われている。

 

 情報屋は他にもいるけれどなかなか予約の取れないレストランみたいな情報屋だ。

 

 

「構成人数も不明、連絡手段も不明、連絡がついても気に入らなければ依頼は受けない………。ったく、本当に面倒臭い情報屋だよな」

「革命軍も関わりないのか?」

「まぁ…1人だけ繋がりがあるんだが最近なかなか連絡が取れない……」

 

「まァ青い鳥(ブルーバード)に頼るしなくとも情報なら私が渡すです………と言っても、元ドンキホーテファミリーさんには敵わないかも知らないですが」

「………なるほど、テメェは知ってんのか」

 

 トラファルガーさんの口角が上がる。サボは隣で首を傾げた。

 

「Dの人」

「チッ……ベビー5か」

「ちょろいですね〜、彼女。あァ、私が渡す情報は一つです」

 

 人差し指を立てるとトラファルガーさんの前に持っていった。

 

「ドンキホーテ家は元天竜人です」

「なっ……!?──その情報確かだろうな」

「本人と海軍元帥が口にしたを目撃したです」

 

 サボは私の地位とドフィさん本人との関係を知っているから納得したような顔をした。

 

「じゃあ革命軍との交流はいい。だが妹の方、お前は個人でドフラミンゴと関わりがあるのなら俺と同盟を組まないか?」

「ど、どうめい……」

 

 嫌な事に巻き込まれる気しかしないので断りたいけれども、実際革命軍に革命して欲しいと願った以上同じような目的のトラファルガーさんの行動は掴んでおいた方がいいのかも知れない…。断りたい。

 

「流石にガキ相手に囮にしようだとかは考えちゃいねェ」

「でも……」

「ドフラミンゴに恨みは?」

「多大に」

 

 形もへったくれもないけど同盟は結ぶ事になった。

 私達が同盟を結ぼうが結ぶまいが良くも悪くも自分の道を行くサボは興味無さげに口を開いた。

 

「大方理解した。とりあえずドレスローザの革命は予定に入ってるんだ。ドフラミンゴも自然と失脚する、殺すならその時勝手に殺せ」

 

 サボは残ったお茶を飲みほせば席を立って扉に向かう。

 

「お前の兄っていつもこうなのか?」

「さ、さぁ……」

 

──ガチャ…

 

「「「うわぁぁぁあ!」」」

 

 サボが扉を開くとなんか人間とクマがなだれ込んできた。

 

「………シャチ、イッカク。バラされる覚悟は出来てるんだろうな」

 

 トラファルガーさんは刀をスラリと抜くと男の人と女の人が怯えて抱き合ってる方に切っ先を向けた。

 

「船長一応言っときますけど俺は止めようとした側の人間ですからね、ベポも」

「あァ……、だろうと思った」

「ペンギンテメェ裏切るのかァァァ!」

「裏切るも何もお前はバラされる側の人間だろ」

「〝ROOM(ルーム)〟」

「ご、ごめんなさいいいいい!」

「ちょ、シャチ!あたしを置いて逃げるな!」

「ベポ。捕まえておけ」

「アイアイキャプテン」

 

 コントみたいな出来事がたった10秒くらいの間に起こった気がする。

 多分気のせいじゃない。

 

「リィン帰るぞ」

 

 コントを気にせずそう言えるサボは凄いと思う。自分の興味の無い事は無視する人ですか。

 

「はーい…お兄さまーー!」

「やめろアホ」

「酷いです」

 

「ラミ…ッ!」

 

 ふざけていたら体がグイッと引っ張られ、気が付けば目の前にトラファルガーさんの顔があった。

 ラミ………?一体誰の事だ?

 

「……」

「トラフルガーさん?」

「…………」

「おーい、もしもしー?」

 

「…! あ、悪ィな革命屋……」

「うん、流石にその呼ばれる仕方は初耳です」

 

 なんだ革命屋って。え、さてはトラファルガーさんセンス可哀想な人?

 

「引き止めて悪かった…兄貴に睨まれない内に帰れ……」

「トラタイガーさん」

「………あのな、何度間違えれば気が済む。俺はトラファルガーだ。トラファルガー・ロー」

「と、トラ…トラブルダー…と、トラフルガー…──ローさん」

「諦めただろ」

 

 諦めました。

 

 

 ==========

 

 

 故郷であるフレバンスに寄った。

 自分はあと数年で偉大なる航路(グランドライン)に入り、コラさんの仇であるドフラミンゴを討つ。

 

 

 そこで出会ったのは金髪の革命軍だと言う兄妹。

 

 

 どうしても……ここがフレバンスという事もありどうしてもラミに…──死んでしまった妹と自分に当てはめてしまった。

 

「船に来い…なんかの縁だ、茶くらい出す」

 

 なんの予定も無い、革命軍に用もない、ただ少しだけラミの面影を感じたかった。

 

 全く似てないのに。

 

 

 

 船での会話は主にドレスローザの事、元天竜人という有益な情報を手に入れたが妹の方を知れば知るほどラミへの面影が薄れた。ラミの様に騒ぐ姿はとても微笑ましいがこいつの様に聡くは無い。

 正直ホッとした、あァこいつはラミの生き写しじゃないんだと。

 

 ただラミと同じように兄がいるだけだと。

 

 

「(俺の場合、構ってもやれない情けない兄貴だったがな………)」

 

 

 自分の事を知っている事に驚きはしたが不思議と嫌悪感は無かった。

 

「リィン帰るぞ」

「はーいお兄さまー!」

 

 どくんと心臓が跳ねた。

 仕草が、声が、嬉しそうなその顔が、ラミとシンクロする。

 

 

 ──ラミ帰るぞ

 ──はーい、お兄さまッ!

 

 

 自分の父親も母親も妹も生きていたあの頃と。

 背を向けて去ろうとする革命屋達を見て、どろりと──まるでメスでくり抜かれた心臓の跡から気持ち悪い()()が溢れてくる。

 

「(やめろ、俺の前から居なくなるな…!俺は、情けない兄だけど……ッ、父様!母様!───)…ラミ…ッ!」

 

 咄嗟に手を伸ばした。

 

 革命屋は驚いた顔をしているのが分かるが会話よりもまず先に気持ちを落ち着かせたかった。

 

「(消えろ…消えろ……!消えろ……!!)」

 

「……引き止めて悪かった…兄貴に睨まれない内に帰れ………」

「トラタイガーさん」

「………あのな、何度間違えれば気が済む。俺はトラファルガーだ。トラファルガー・ロー」

「と、トラ…トラブルダー…と、トラフルガー…──ローさん」

「諦めただろ」

 

 どうでもいい話を口先だけで生む。とにかく、落ち着きたかった。

 

「お兄様と呼んでくれても……──ッ!」

 

 考えずに喋っていたせいでおかしな言葉が口から出た。革命屋は案の定ポカンとした顔で見上げる。

 

「おにーさまー…?」

「っ!」

「じょ、冗談です……睨むしないでです…」

 

 背中がゾクリとした。

 

「うん、そう呼べ」

「え…嫌です」

 

 この世に神がいるなら言いたい、「昔散々な目にあったんだから少し我が儘を言っても良いだろう?」と。

 




サブタイトルでほぼネタバレッスよね。

青い鳥は捏造です。
海軍本部世界政府の情報を流す気まぐれ情報屋、安価300万ベリーは賞金首1人とっ捕まえりゃ払えるので比較的安価かなと思いました。下手したら1億超える情報屋いそうですし…。

ちなみに名前の由来は皆さんほとんど知ってるであろうTwitterのアイコンです。安直ですね!!


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第63話 七転び八転び

「ただいまご帰還でごぞりますー!」

 

 サボ様のお通りだー、と時代劇風に食べ物の香りがする方へ向かうと後ろからゴンと鈍い音がした。

 

「恥ずかしいからやめろ女狐」

 

 音の正体はサボの拳と私の頭から。

 なんで皆私の頭叩いたり殴ったりと痛め付けるのが好きなんだろう。

 

「おかえりサボ君リィンちゃん」

 

 私にも声をかけてくれた人を向くと女の人。

 

「えっと、ただいまです……コアラ…さん?」

「…! 覚えてくれたの!?」

 

 名前は覚えてるけど顔は覚えれてません。

 

 コアラさんが夕食の席に案内してくれたのでそこに座ると目の前にコアラさん隣にサボが座った。

 流石にこの2人には警戒されているよね。

 

 

「いただきまーす!」

「いただくです」

 

 海軍の料理も美味しいけど革命軍の料理も美味しいな…。でも一番美味しかったのは白ひげ海賊団の4番隊隊長のサッチさんが私の好みドンピシャだ、結婚しよ。

 

「サボさんこの子どうしたんですか?」

「ん?……拾ったから送り届ける最中だ」

「へ〜、そうなんですか。どこまで?」

偉大なる航路(グランドライン)!さっさと飯を食え」

「は、はい!」

 

 革命軍の一員が私の事をサボに聞きに行った。まァドラゴンさんの隣にいれるような人たちに挟まれてるんだから気になるわな。

 

「サボさん、無愛想は嫌うされるですよ?」

「余計なお世話だ」

「お世話係になるです」

「年下の奴に世話されてたまるかよ…ほら、口。ソース付いてる」

 

 サボが口元を拭ってくれるとニヤリと笑った。

 

「誰がお世話係になるんだろうなァ〜?」

「ぅぐ…!」

 

 お世話対象にお世話されるんじゃお世話係になれない!

 

「なんだか兄妹みたいだね。2人は」

 

 コアラさんがニコニコ笑いながら声をかけるとサボは一瞬で表情を変えた。

 

「やめろ、こいつはあくまでも敵だ…」

「ですと、コアラさん」

「え〜?でもサボ君ってリィンちゃんと居ると全然雰囲気違うんだけどなァ〜…」

 

 違う。兄妹じゃない。

 少しだけその言葉に浮かれたけどサボにとって違うんだよな。

 

「きっついなァ…………」

 

 ボソリと呟くと頭を振る。

 大丈夫、サボが記憶を戻すまでが勝負だから。

 

「サボさんサボさん。電伝虫の番号交換したいです」

「は?俺と?女狐が?」

「ダメですか?」

「ダメというより無理だろ、お前が誰だと思ってんだ」

可憐(かれん)なる少女ぞ」

「どこがだ…ッ!」

 

 再び脳天に鈍い音と痛みが伝わる。痛い。待って痛い。この野郎私の脳細胞が死滅したら責任とって脳細胞増やしてもらうからな…!

 

「………………ほらよ」

「へ?」

 

 目の前に千切られた紙が放り投げられた。

 

「……交換したいっつったのはお前だろ」

「サボさん優しきぞ、私嬉しきぞ〜!」

「うるせえ女狐」

 

 イライラしながら座るサボとニコニコしながら座るコアラさんとご飯を食べていると1人の男の人が新聞を持ってやって来た。

 

「あの、サボさんこれ」

「ん?──新しい手配書か…指名手配当初に8000万は高いな。こいつがどうした?」

「どうやら指名手配当日に海軍本部に七武海のスカウトがあった様で」

「ブフッ!?」

 

 七武海のスカウト!?なんで!?空きの席は残り一つ、そこはエースがもしも海賊になった場合の為に開けておいてくれると…。

 

 よーし落ち着こう。

 まず日付けと年齢の確認だ。

 

 私とエースの歳の差は4歳と10歳だから6歳差。私は今10歳で+6歳だから6歳差だと16。但し、エースは正月が誕生日で私は春が誕生日(仮)。

 今の日付は?………1月20日。

 

 つまり1月1日に誕生日を迎えたエースは17歳になって───。

 

「……………………サボ、さん…。それ、誰です…?」

「は?えっと、〝火拳〟ポートガス・D・エース……」

「…………………フルネーム…ッ」

 

 

 

 ==========

 

 

 

 処刑台に一人の男が居た。

 その男は泣きそうな顔で叫んだ。

 

「なんで来たんだよ…!親父!ルフィ…!」

 

 彼の周りには屈強な海兵が居て、近付く事すらままならない。

 

「センゴク…俺の愛する息子は無事なんだろうなァ……!グララ…──ちょっと待ってなエース…!」

 

 

 

 

 

 

 画面越しで見ている様な、そんな気持ちになる。

「(どうして……エースは白ひげさんをオヤジと呼ぶの…?)」

 

 

 

 

 

「俺はエースの弟だ──ッ!」

 

 麦わら帽子を被った男は恐れる事無く駆け抜けて行く。

 鷹の様な目をした男、煙に変わる男、敵わない敵を一人で駆け抜けた。

 

「助けに来たぞ!」

「ルフィ…ッ!」

 

 まるで台風の目。

 

 味方とも言えない海賊達と共にエースが繋がれた処刑台に真っ直ぐに向かって行く。

 

 

 

 

 

「(これ、なんの夢だろ……。早く覚めてくれないかな)」

 

 

 

 

 

 夢は次々と情景を変えた。

 

 炎のトンネルが爆炎の中現れる。

 

「エース───ッ!」

 

 歓喜が起こった。エースはルフィの服を掴み、ルフィは誰かを掴んでいる。

 

「お前は昔からそうさルフィ──無茶ばっかりしやがって!」

「エース〜〜〜ッ!」

 

 

 

「(エースは、何故炎を噴出している……これじゃまるで悪魔の実の──)」

 

 

 

 

 

 

「ごめんな…ルフィ。ちゃんと助けて貰えなくてよ……すまなかった!」

「お前絶対死なねェって言ったじゃねェかよ!エース!」

「そうだな…サボの件と……お前みたいな世話のかかる弟がいなきゃ、おれは生きていようとも…思わなかった…。誰もそれを望まねェんだ、仕方ねェ…!」

 

 胸にポッカリと黒い穴が開いたエースは喧騒の中ルフィにもたれ掛かり弱々しい声で呟くように言葉を紡ぐ。

 命を、意思を、伝える様に。

 

「──そうだ…。お前いつか…ダダンに会ったらよろしく言っといてくれよ……死ぬとわかったらあんな奴らでも懐かしい」

 

 震える体でエースの傷口から流れる血を止めようと手を添えたルフィ。顔は青く、血塗(ちまみ)れだった。

 

「心残りは……一つある。お前の〝夢の果て〟を見れねェ事だ」

 

 命が終わる。

 それは誰の目から見ても明らかで─エースは最後の力を振り絞る様に声を出した。

 

「オヤジ…みんな…!そして、ルフィ……。今日までこんなどうしようもねェおれを…ハァ…ッ、鬼の血を引くこの俺を…!」

 

 ポロポロ、涙が零れながら。

 

「愛してくれて……ありがとう!」

 

 

 

 

 

 

 

「(なんだよこれ……こんな悪夢見たくない、なんでエースが死ななきゃならない?)」

 

 

 

 ジュッ…、と音を立ててビブルカードが燃えた。

 

 

 

 

「(訳が分からない、何もかもが…全て…──)」

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

「目が覚めたか女狐」

「サ、ボ………」

「さて、少し聞かないといけない事がある」

 

 体を起こせば再びベットの上。

 私ここに来て倒れすぎじゃないですかね…。

 

「海軍が指名手配当日に七武海勧誘とは異例過ぎてる、こいつはなんだ?」

 

 ぺラッと手配書を片手にベットに腰掛けたサボが睨んだ。

 

 さっきの夢の整理はさせてくれないわけですか。

 

「この部屋に、は……」

「俺とドラゴンさんしか居ねェ」

 

 部屋を確認すると確かに2人しか居なかった。ドラゴンさんはベットの側で椅子に座っている。

 

「エースは……あー……うーん……」

 

 どう答えよう。海賊王の子供だと素直に言ってもこの2人なら言ってもいいと思うけど、エースに怒られないかな。

 

「……私の兄故に、七武海推薦を私から…」

「…お前兄貴が居たのか」

「はいです」

 

 ふーんとつまらない物を聞くようにサボが相槌をうつ。

 

「本当にそれだけか?」

「へ?」

「七武海は影響力のある海賊。海軍大将の兄という肩書きは確かに影響するかも知れないが手配してすぐ勧誘されるとは思えない」

「ハハハ……サボは頭いいぞりね」

 

 かわいた笑いがこみ上げてくる。

 何この人頭良すぎて怖い。

 

「で?」

「か…」

「か?」

「か……海賊王の…息子」

 

 ポツリと呟けばこいつ何言ってんだという様な顔をされた。

 

「お前何言ってんだ?」

 

 はいドンピシャー!思ってた事当てられたー!うーれしーいーー!(※嬉しくない)

 

「生まれ、てきて………」

「サボ?今何を申した?」

「え?は?いや、何も」

 

 

「大将リィンがこんな所でこの異常事態に本部に連絡せずに居てもいいのか?」

 

 ドラゴンさんが致死量の攻撃を胃に与えた。グサーッて来るね!ホント!

 

「良く無きですぞりんちょ……………」

 

 涙ながらに電伝虫を取り出すともう何度目だろうか慣れた番号にかけた。

 何故だか涙が止まらない…。

 

『こちら元帥、MC(マリンコード)と名前と階級を述べよ』

MC(マリンコード)04444リィン大将ぞ、です」

『……口調はどうした。なぜ戻ってる』

「泣きそうなる事態により口調にまで頭が回転せずです」

『気持ちは分かる、安心しろ。──今奴は七武海のジンベエと戦って丸二日目だ』

「私、もう1度倒れる許可願い………」

『だめだ』

 

 制止の言葉を聞かずに頭と目の前が黒く染まりぷつりと意識を失った。

 なんだよ…くそ兄貴。常識人のジンベエさんにまで迷惑かけやがって…!

 

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

 ──海軍本部マリンフォード──

 

「海軍は出動無しィ?」

 

 サボとドラゴンさんにさっさと別れを告げて急いで海軍本部に戻れば予想外の命令が下された。

 

「何故です」

「お前の連絡を貰って──きっとお前の事だから倒れたんだろうが、一大事が起こった」

「………一大事」

 

 聞きたくない聞きたくない。聞きたくないですお願いします。

 名前もモロバレしてしまったし手配書も出てしまった今もうめんどくさいので聞きたくないですやめてください。

 

「……スペード海賊団船長ポートガス・D・エース及び船員は白ひげ海賊団に入った」

「………傘下、では、無く?」

「白ひげ海賊団に入った」

 

 なんだろう。目の前がぐるぐる回る。

 それって火拳を捕まえれば白ひげさんところを敵に回すって事になりますよね?

 

 戦争?

 

「過去最大級に混乱…」

「ジンベエは魚人島外れの魚人街で怪我の療養中、そして…奴が海賊王の息子だと言う可能性が(五老星)でじわじわと広がっている」

「ですたら捕縛を致すべきです?」

「まァ…まずは敵情視察だな。火拳の強さなどは未だ未知数だからな……」

 

 ため息を吐きながら一つ、提案する。と言うかごり押す。

 

「ほとぼり覚めるしたなれば私白ひげ海賊団に訪問して火拳の捕縛しても良きです?捕縛ならずとも敵対意識をぶん投げるしても?」

「……お前は火拳に何か怨みでもあるのか」

 

 とりあえず2年くらい前に手に入れたルージュさんの手紙も渡さないといけないし、サッチさんのケーキ食べたいし。好み過ぎるし。あ、あとエースの顔も見たいし。

 

「…………それなりに働いてくれたら構わない、元々担当は女狐だと決めていた事だしな」

 

 ただ、他の大将さん達が納得してくれるかが問題。その為に手柄を持たなければ。

 

「働くしたです」

 

 1枚の写真を取り出した。

 

「……誰だこれは」

「革命軍トップのドラゴンさん」

「そうか……。…え?は?ドラゴン?革命軍?」

「いかがです?私ちゃんと働くしたですぞ?」

 

 どえらい情報を手に入れてしまったと胃を痛めてる姿が印象に残った。

 もちろん私はドヤ顔。

 

「あ…1つ疑問」

「なんだ」

「マリンフォード湾に、そう、例えば()()()()()()(まさ)る程の防護璧の様なる物は存在するですか?」

 

 夢の中で巨大な怪物…確かオーズと呼ばれていたかな。彼が倒れて壁が出てなかったのを覚えてる。

 そしてその壁がグラグラの能力でも敵わなかったのを。

 

 白ひげがグラグラの実の能力者なのは知っていたから。

 

 

 

 嫌な予感がしてあの夢に起こった事を調べようと思ったのはつい数時間前。

 やっぱりあの夢は非現実的だが当てはまる所が多い。

 

「なぜ知っている?教えてなかったはずだが…」

 

「偶然ですぞ…」

 

 とても嫌な予感がした。

 

 




次回は番外編挟みます。


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番外編7〜イルくん〜

リクエスト番外編


 1人の厄介な海兵に出会った。

 

 このままじゃマズイ…、拠点にも帰れねェし海兵に見つかるのも海賊に見つかるのもどちらもマズイ。

 

 腹をくくって俺は1人の女の所へ向かった。

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

「ひま…」

 

 海軍本部の窓拭き掃除をしてる今暇では無いのだが、エースが指名手配されても待機って何か動いてないと不安でたまらない。あ、エースがじゃない。わたしの身の安全が、不安。

 

 何か気分転換でも出来ればいいんだがなァ……。

 

「おい」

「…へ?」

「お前雑用のリィンだろ、上に目ェ掛けられてるっつー生意気な糞ガキ」

「気の所為です」

 

 こんな気分転換は欲しく無かった。

 

「いやいやいやいや気の所為じゃねェだろ!?」

「私をこれ以上悲しき気分にするな、です!……マジで…ッ!」

「お、おう…なんかすまんかった……」

 

 私の必死の訴えに大人しく引き下がってくれた。良識のある人で良かった。

 

──サァ…

 

「ぐぇっ」

 

 腰に何かが巻きついたかと思えばそのまま引っ張られる。腹がしまる!

 

「す、砂…ッ!?」

 

 砂と言えばただ1人七武海のクロコダイル先輩としか思えな…待って!待ってこの砂私をどこに連れていくつもりなんですかぁぁぁぁ!

 

「こけるこけるこけるぅぅ!」

 

 

 そのままどこかの部屋に連れていかれるとその部屋は真っ暗。

 なんで真っ暗なんだよ。

 

「ク、クロさん?いるです?」

「あァ………少し、助けろ」

 

 いつもより高い声が聞こえる。

 え…あの自己中でプライドの高い推定クロさんが頼み事!?しかも〝助けろ〟とはっきり明確にした!?お、おいおい一体何があった。

 とりあえず明かりを付けないと明かりを。暗くて見えない。

 躓いて転けたら痛いもんね。

 

「助けるしろ?」

 

 炎を発生させるのも良いけどクロさんにはまだバレてないからこのまま隠し通したい。

 

「あ、点いた……。クロさん御用(ごよう)け──」

 

 明かりが点いた事を確認して振り返ると思わず言葉を失った。

 私は人の見分けがつかない。慣れれば分かるけれど大体同じ様な顔に見えてしまうから。でも今回は顔の判別だとかそんな程度のレベルじゃない。

 

 クロさんは確かに目の前に居た。

 ただ、服だけ。

 

 

「………なんだよ」

 

 クロコダイルという人間はそこにいなくて代わりに6歳くらい男の子が1人居た。

 本部に男の子が紛れ込んでいる?え、ここの警備大丈夫なの?

 

「………………………」

「おい止まんな」

「…………ま、まさかとは思うぞですがそちらなる口の悪き物言いは七武海のロリコダイル先輩ではごじょりませぬか」

「口調!それとなんだロリコダイルって!ふざけるな」

 

 ふざけてるのはあなたの格好だと思います。

 

 

 それにしてもこの子供がクロさんね、なんでちっさくなってるのか…、ちっさく、これが七武海…、これが…──。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁ!?」

「バ、バカうるせェ…!」

 

 衝撃の事実に驚き大声を出すとチビクロさん(仮)は慌てて私の口を(ふさ)いだ。

 

「黙らねェとテメェの体が無くなると思え…」

 

 あ、この人クロさんだ。

 

 無言で何度も頷くと納得してくれた様で距離をとった。

 

「何故そのような事に…?」

「あ゛ァ?そんな事分かってりゃテメェに頼りゃしねェよ」

「確かにですぞ〜!さて…ドフィさんの所へ…」

「悪魔の実の能力は健在だが?」

「ごめんなさい」

 

 弱点を握ったと思ったのに暴力には勝てなかった。くすん。

 

「青髪の女海兵に触られた。多分奴だ」

 

 チビクロさんがため息を吐きながら呟く。触れて体を若くする…確実に悪魔の実の能力だよな。

 トシトシの実かモドモドの実が最有力候補だけど…。海兵にそんな能力者居たかな、全員把握してるわけじゃないから確定じゃないし戻すには本人の意思が必要。

 

「面倒…」

 

 思わず本音がポロッと零れるとチビクロさんは舌打ちをした。

 

「頼れるのがテメェしかいねェんだ……、不服な事に」

「何故…?クロさんになれば部下も存在し──あァ…情けない、と」

「事実でもはっきり言うんじゃねェよ」

 

 クロコダイルという人間は七武海の古株であり海賊団の船長。いや、彼の場合会社として成り立ったトップ。

 

「油断して能力食らって子供になるなど愚の骨……あ」

「…ほォー、随分殺されたい様だな」

「ご、ごめんなさいぃぃぃぃい!」

 

 彼の右手が砂に変わったのを見ると誠心誠意土下座する。

 思ってた事が口から飛び出た!私の口にチャックは付いてないのかな!?

 

「まず服が欲しいな…」

「用意はするですが文句は、その…」

「流石に言わねェよ、俺の服じゃこの通り歩くことすりゃままならねェ」

 

 ブカブカな服からちまっと手を出すチビクロさん。確かに過ごしにくい。

 だが、言ったな?文句は言わないと言ったな?言質とったぞ?普段ストーカーとタッグ組んでる自分を恨めよ?

 

「じゃあ私の古着で」

 

 は?と素っ頓狂な声を出すチビクロさん。

 

「とりあえず能力の解き方ぞ判明するまで私が面倒見るです……。私しか居ないですよね?」

「いや、そうだが、古着って事は、なんだ、お前の使った後を着るって事だよな…?」

「はいです。保存するしてるです故」

「……お前の性別はなんだ」

「ゴア王国フーシャ村の市民登録上は女です」

 

 市民登録というのは前世でいう戸籍。村長又は海軍支部があればそこで住民の数などを紙に記して結婚の有無や子供の有無などを保存している。

 私はフーシャ村出身じゃ無いけどルフィと揃えられてフーシャ村に市民登録があるらしい。

 

 海軍に入ったりする時住民登録してあると働きやすいんだよね、素性だとか調べるの便利だから。

 

 ちなみに海賊になると住民登録は意味をなさなくなる。無戸籍無戸籍、前世だと大問題だね。

 まァ今は治安が悪いせいで住民登録して無い人がいるから日本みたいに必須事項じゃないからそんな大問題じゃないけど。

 

「男の俺に女のガキの服を着ろと」

「私ご存知と思うですが女らしさの服より機能性を重視するた服が多きです……まぁ雑用服が主ですが」

「他にねェのかよ ほ か に !」

「んーーー…数着、着るが嫌で新品が存在するですが…」

 

 ホッとした表情に変わるチビクロさんに爽やかな笑みを向ける。

 

「お前の笑い方気味悪いぞ…?」

 

 酷い。どこからどう見ても爽やかな笑顔じゃないか。

 

「で、その服は?」

「蛇姫と言う方がお揃いで贈りつけ…──」

「古着寄越せ」

 

 即答だった。

 

 

 

 フッフッフッ……。某鳥さんみたいな笑い方になっちゃったけど「新しく服を買ってこい」なんて言われないで良かった。

 いいかい皆の衆、自分にとって最善案を相手に選ばせるには『自分と相手が嫌な事』をもう一つの選択肢に入れて最善案を無理やりもぎ取れ!逃げ道?そうならないように言質は取っておけよ?

 

 ……私の誰に話してるんだろう。

 

「変な顔してねェでさっさと服よこせ」

 

 幼女の着た服を欲しがるだなんてやはりクロさんはロリコ…───木箱が枯れた模様なので大人しく従いましょう。うん。

 

 

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 ぽてぽてと付いてくるチビクロさんに少し萌えながらとりあえず本部から場所を移そうという事になりお散歩中。

 一応私の荷物を置いてこないといけないから雑用部屋に向かってるけど、この人どうしようかな。

 

「クロさんこれからどうするですか?」

「仕留める」

「いや、能力を解く方法ぞ訳では無きですてね…」

 

 と言うか仕留めるってと言葉が出た時点で異常だわ。誰とも知らぬ海兵さん逃げて。

 

「それをなんとかする為にテメェに助けを()()()()()()借りたんだろうが」

「不本意強調禁止………」

 

 この人は他人にこうなった事をバレたくないんだよね、どうしようかな…。私個人じゃ捜索も限られるし誰かに協力を押し付…頼むのも難しそう。

 

「拠点にはまず戻れ無いだろうな……」

「ひとまずの寝床確保が最優先ですか?」

「1人でも野宿くらい出来るがマリンフォードだと難しいそうだな」

 

 マリンフォードは海軍本部がある分治安が良い。だから孤児だとかホームレスだとかの人間は他の島に比べて圧倒的に少ないから浮いているのは火を見るより明らかだろう。

 

「雑用部屋ならこっそり寝泊まりは可能と………」

 

 宿に行くとお金がかかるしきっと私持ちになるだろうしいざ戻ってしまった時に対処出来ないし何より嫌そうな顔してるクロさんの為になら雑用の皆に頼み込める気がする。

 まァ大人の時用の服は私がリュックに入れると見せかけてアイテムボックスにしまいこんでるから離れるのは本人にとってもきつい、折角若返ったんだから屈辱…じゃなくて男の人に可愛がられるハーレムを楽しませてやろう。

 

「クロさん呼ぶだとバレるですね」

「は?バレないだろ?」

「バレるです」

 

 リックさんは情報に関してめざといから私が七武海のお茶くみしてるのも知ってるしバレる可能性がある。

 バレても面白いけどギリギリまでスリルを楽しみた…楽しんでもらいたいです。決して私の娯楽じゃありません。

 

「チッ」

 

 クロさんの舌打ちは『不服だけど従う』という無言の表れだと言う事くらい知ってる。

 呼び方を変えるのとバレる可能性を上げるの、どちらが良いか考えた結果だろう。一体何年の付き合いだと思ってるんだよクロさんは……、キミをからかう為の努力は惜しまない。やだ私ったら努力家♡

 

「ロコ、クロコ、ダイ、クロノダイル、ノ?コーダ、コーダはどうぞ?」

「ネズミだろ。却下」

「は…!イルくんは!?」

「なんで〝君〟付けだ!却下に決まってるだろ!」

「あれぞ嫌これぞ嫌…キミに、そんな、権利が。頼るする、私に、文句を言う、権利は、存在可能───です?」

「……」

 

 突かれたくない所をつかれて押し黙ってしまった。

 

「とりあえず雑用部屋にこっそり匿う記憶喪失の少年イルくん」

「記憶喪失居るかァ?」

「細かき質問を今から打ち合わせ可能と?第1雑用部屋の面子に少しなる説明が必要故に面倒。説明の逃亡が可能。ほら、アレです。〝逃亡は勝利〟と」

「〝逃げるが勝ち〟」

「それですた」

 

 落ち込んでるのか呆れているのか分からん。でも私の言葉を一々直してくるのは微妙に腹が立つ!

 

「もう日暮れ故に雑用部屋戻るが最良と………」

「……。」

 

 見るからに嫌そうな顔をするイルくん。

 仕方ないじゃないですかお金使わずにクロさんの要望を通したらそれ以外嫌がらせに有効な手段は思い浮かばなかったんですから。

 

「イルくんイルくん」

「………なんだ」

「女の子みたくに可愛い」

「消すぞ」

 

 冗談抜きで可愛いんだけどなァ。

 

「おいリィンそのガキどうした?」

 

 背後から嫌な声が聞こえた。

 チビクロさんと目を合わせるとすっごい顔が語ってる。

 

『 に げ ろ 』

 

 ははーん。嫌がる顔を見るのは至福だが……同意する。

 

「ど、どうしたぞ───」

 

 振り返りチビクロさんを背中にかばうように声をかけた人間の名前を呼んだ。

 

「──ドフィさん」

 

「質問してるのはこっちだが?」

 

 三メートルというもはや人間の成長期の根源を覆すピンクのモフモフ野郎が気味悪い笑いを浮かべて見下ろしている。

 

「イルくん…保護対象です。よって関わる事禁止」

「つれねェなァ……」

 

 そう言うと私の頭に手を置いて空いてる手を背中に回した。

 おい待て!

 

「フフフ……捕まえた、イルくん?」

「は、離せ!」

「おーおーこりゃ威勢のいいガキだな」

 

 自分の顔に近付けて猫を摘むように観察する。

 

「おい鳥野郎!離せ!」

「鳥野郎ね…フッフッフ……!鰐みたいに生意気じゃねェか。どーだ、俺が保護してやろうか?」

「却下、写真撮影終了故にイルくん離せです」

「お、お前!写真撮ってたのかよ!」

「………。」

「顔背けるな!」

 

 キミ達七武海の面白写真は何度もこっそり撮り溜めてますが?初任給の3分の2くらいのお金使いましたが?

 

「はいはいイルくん帰るぞね〜……さようなら天夜叉殿!そして死ね!」

 

 地面に下ろされたチビクロさんの手を引っ張って一刻も早く変態から離れる。

 

「おまえ…なんであいつそんなに嫌ってんだよ」

「外見と内面以外に判断不可能」

「……なら俺のところに来りゃいいじゃねェか。それならあいつも手は出さないと思うが?」

「うん、口説き文句は体が戻るしてから言うしなければ笑うぞ」

「枯らす…ッ!」

 

 私より背の低いクロさんが勧誘してる姿はなんとも笑える。

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

「は、初めまして…イルだ」

 

 ピクピクと怒りを堪えながら挨拶をするクロさんもといイルくん。

 

「おー、暫くよろしくな〜」

「うわっ、わっわ…!」

 

 大人の人の腕力に敵う筈もなくもみくちゃにされる姿をニヤニヤしながら観察する私。

 

「お、おいリィン!助けろ!」

 

 普段の威厳もクソもない様子で叫んでる七武海もとい記憶喪失のイルくん。

 

「そう言えば今日は七武海居るって聞いたけどなんかあったかい?」

 

 それを無視して他の雑用の人と話をし始める私。

 

「……服を脱がせて服を手に入れるした!」

「テメェに恥じらいというモンはねェのかぁぁぁぁ!」

 

 顔を真っ赤にしながら叫ぶクロさんを無視してピースをすると質問してきた海兵は首を傾げた。

 

「クロコダイルさんか?」

「なんで分かんだよぉぉぉぉーー!」

「イルくん黙る」

 

 そのセリフだけでイルくん=クロさんの方程式と、分かる=否定出来ない=事実という方程式になるのが分からないのか?あれか、焦ると思考回路がタイムスリップするのか?

 

「おい………もうそろそろ寝かせろよ…」

「悪ぃなジャイアン!」

「…………俺はグレンだと何度言ったら理解すんだよ…ッ!」

 

 名前間違いしてるって事はリックさんか。人のこと言えないけど。

 

「常識人グレイさん!」

「リィン、リックと同類になりたいのか」

「ぐ、れ…い」

「グ レ ン」

「ク……イルくんはどこで寝るするです?」

「は?………あー……リィンの布団でいいんじゃねェか?」

「あ……」

 

 そう言われて気付いた。

 第一雑用部屋は寝相が悪いんだったか。

 

「イルくんおいで」

「………………………………。」

 

 ムスッとした表情でぽてぽて近寄るクロさん。可愛いなぁー。ちっさいのは無条件で可愛い。

 

「いだ」

「フンッ」

 

 無言で蹴られた。

 この扱いは解せぬものがあるぞこんちくしょう。

 

「おーおーごめんぞ。撫で撫でする?」

「いるかクソが」

「酷い」

 

 雑用のみんなにもみくちゃにされて跳ねた髪。クシどこやったかな……。

 クロさんオールバックで固めてるから普段わからないけどすっごい綺麗な髪してるんだよな。私より。

 

 もう性別入れ替えてもいいと思う。

 

 腕を引っ張って背中から抱きしめる様な体制にして髪にクシを通す。はー、サラサラ。羨ましいからぶち抜いてやろうかな、数束。

 

「お、おい。抱くな」

「うわっ、そのセリフエロき。マセガキ」

「……元に戻ったら覚えてろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しこたま脳天に拳が降り注いだのは後日の話。

 恩を仇で返すとはこの事だ。

 




ネタ提供ありがとうございました!
初登場(笑)イルくんです!この後数日して自然に戻りましたよ!
もちろん数日間はからかい放題です。


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第64話 新たな仲間、新たな敵

 白ひげ海賊団に数人、家族が新たに加わった。

 

 最初の頃は白ひげを殺そうと何度も挑んだが少しも敵わない。

 そんな彼もようやく家族に慣れ、向かうところ敵なしと意気込み、平和な日々を送っていた。

 

「マルコ〜?」

「なんだエースかよい」

「海の方なんか見てどうしたんだよ」

「いや…ちょっと嫌な気配を感じただけだよい……。何か2つ程…」

「えーっと、見聞色………。だっけ?」

「エースお前覇気知ってんのか?」

「サッチ…!ま、まぁな!昔口うるせェクソジジイに教えられたんだ!つ、使えはしねェけど……」

 

 オレンジのテンガロンハットを被ったエースと呼ばれた男は1番隊と4番隊の隊長に鼻を高くして自慢する。

 

「強かったのか、そのクソジジイって奴は」

「おう!」

 

 上機嫌に(うなず)けば帽子を深くかぶり直しニッ、と笑った。

 その時──。

 

 

「うわぁぁぁぁ───ッ!」

 

 高い声が聞こえ空から白い物体が落ちてきたのは。

 

「い、いきなり投げるは禁止!」

 

 慌てた様子で海に向かって叫ぶ姿は意味が分からない。

 

「こいつ…海兵……ッ!」

 

 白い物体は海軍の制服、しかも将校の制服を着ていた。帽子を深く被っているせいで顔ははっきり確認出来ないが間違い無く敵だ。

 

──トスン

 

 新たに敵が現れた。

 

 

 

「青雉ッ!?」

 

 流石に1番隊の隊長マルコはその知った姿に驚きの声を上げる。

 青雉はあららと一言呟くとその場に座った。

 

「あ、俺ァお前らに興味無いから見逃して」

「「「「「お前海兵だろォ!?」」」」」

 

 見逃してとは随分とふざけた事を言う。普通追われる側である海賊がいうセリフだろ、と誰もが心の中で思ったが大将の名前は伊達じゃない。警戒はもちろんした。

 

「えーっと、私は海軍本部大将女狐です」

「「「「「ふざけんな!」」」」」

 

 自己紹介を始めた海兵に再び驚きの声を上げる。ほんとにふざけんな大将2人が乗り込んで来るなど洒落にならない。

 

「おいおい言っちゃっていいのォ?」

「まァ……、良きかなと」

「「「「「良くねェわ!」」」」」

 

 どうやら白ひげ海賊団の皆さんはツッコミの経験者が多い様だ。何かコントでもやってるんだろうか。

 

「警戒してるのが馬鹿らしくなってくるよい……」

 

 流石の長男もマイページ大将達に参っていた。

 

「私の目的はポートガス・D・エースの捕縛又は討伐です!」

「俺、が………?」

「エース下がってろよい…」

 

 一応念の為、と呟けば大人しくマルコの後ろに行くエース。女狐──リィンは一声かけた。

 

 

 

 ==========

 

 

 

「───()()()?」

 

 その言葉(地雷)にエースはピクッと反応した。

 エース1人ならば何とかなるかも知れないと考え、数人の隊長よりエース個人を標的にした。

 リィンは苦い思い出を振り返る。

 

 

 ──お、おいエース!さすがにまずいって!()()()ぞ!

 ──何でだよ、俺は逃げねぇぞ。1度向かい合ったからには

 ──エース!!

 

 そう、コルボ山に来てすぐ全く動けない自分を背負った状態で危機感も感じているのに逃げなかった虎遭遇事件を……。

 

「(泣きそう)」

 

 こっそり涙を拭った。

 

「誰が逃げるって…?俺は、逃げねェ」

「能力者、です?」

「良く分かったな…〝火拳(おれ)〟の名は体を表すぜ?俺はメラメラの実の能りょ──」

「確保」

 

 リィンはどこからか取り出した網をツラツラと語っているエースにかけるとエースはまるで()()()()()()()()にヘナヘナと倒れ込んだ。

 

「え…あれ…力が…」

 

 青雉は自分が何度も捕まった経験がある網にどうしても苦い顔を隠せずにエースに同情する。

 あれは海楼石のビーズを網の所々に通して対能力者専用にリィンが作った物だった。

 

 いつまでたっても捕まえることが出来ない氷相手に夜なべして頑張って作ったかいがあった様だ。

 

「(メラメラの実…──夢でエースが発生させていた能力と同じ…益々嫌な予感がする。あれは予知夢だとかなんだろうか)」

 

 堕天使がふざけた転生を行ったんだ。そんな非常識な(正夢)があってもおかしくはない。

 

「はい、手を出すしてぞー」

 

 ガチャンと海楼石の錠がその手に()められた。

 これには思わず白ひげ海賊団の面々は顔を青白く変えた。折角新しく出来た家族なのに。

 

「エースッ!」

「近付く、な…マルコ……これ海楼石で…」

「バカ言ってんじゃねェよい!」

「なァマルコ…俺、生まれてきても良かった…のかな……」

「何言ってんだよい!良いに決まってんだろい!」

 

 マルコやサッチが一生懸命網と錠を外そうと苦戦している中リィンは他の隊長達から剣や銃を向けられていた。当たり前の対応だろうが泣きそうなものは泣きそうだし結局胃は痛くなるのかとため息を吐いた。

 

「はァ……おーっとーー。私ドジっ子残念の子、うっかり錠の鍵を落とすたー、あー、海賊達に拾うするしない内に回収するはずなのにー、どこに落すたー」

 

 完全な棒読み。うっかり鍵を落とせば周囲はポカンと間抜けヅラをした。

 

 

「あれ?いいの?彼捕まえなくて?」

「いや、命令は捕縛又は敵情視察。どちらを優先しても私の勝手ぞ、です」

「普通捕縛を優先でしょうよ…あ、俺帰ってもいい?」

「センゴクさんに良いように言うするなれば」

 

 青雉はじゃあ帰ろうと海に置いた自転車に向かおうとした。

 

「お前は帰らないのかよい…」

「少々用事存在するぞ」

 

 手首を擦りながら縄と錠から解放されたエースとため息をはいたリィンの視線が交差する。

 

「なァ…。お前名前なんて言うんだ?」

 

 エースの質問にリィンは考えた。

 一応1度来たことがある海賊団、覚えられていたら殺される確率は低くなるだろうと。

 

 その代わりエースに、自分の兄に歯向かったとバレてしまうが。

 

「……………………リ、リィン」

 

「「「「「はぁぁぁぁ!?」」」」」

 

 リィンの存在を知っている隊員が叫んだ。そりゃもう大声で。

 

「パピー、約束のフルーツケーキプリーズぞ。そして結婚して」

「ちょっと待て状況を整理させろあと結婚はしません」

 

 サッチに催促するとエースが真剣な目でリィンに近付いた。

 

「(流石にバレちゃったかなー…元々いつかは言うつもりではあったけど怒られたりとか……)」

「リィン、か……」

 

 ポツリ呟くとエースはしっかりとリィンの手を掴み目を見てわかりやすくはっきり自分の言葉を伝えた。

 

「いい名前だな!俺と結婚して子供作ってくれねェか!?」

 

 

 

 船に静寂(せいじゃく)が訪れた。まるで北の海(ノースブルー)に点在する雪に覆われた無人島の様に…、生き物は過酷な環境に耐えられず滅びゆく、冷たい冷気が肌につきささる様な。あれ、ていうかまじで周囲の空気何度か下がってる気がする。

 他の船員は海賊から敵である海軍しかも大将+どう考えてもガキにプロポーズするエースを冷めた目で見る者と頭がついていかない者に分かれる。当たり前の反応だろう。

 対してリィンはかなり混乱していた。

 

「(え、私リィンって言ったよね??マルコさんやサッチさんは分かってくれたんだよ?もしかしてこいつ───妹だと気付いて無い?もしくは子供の約束だと忘れてしまった?何?幼少期過ごした3年間は私の夢だったわけ?なんだ、まじで忘れてるのか?あれか?記憶喪失?サボと同じで?は?ふざけてるの?この調子じゃルフィまで忘れてる?え、何これ、なんだこの気持ち)」

 

 心臓がドクンドクンとうるさく音を立てる。

 

 ──これが…恋?

 

 

 

「(いや、違うね…これは純粋な)」

 

 ──怒り。

 

「……………………盛大に遠慮するです、土に還れェェェェ!」

 

 リィンは心配そうに様子を見ているサッチの手から錠と鍵を受け取るとエースの手につけ──鍵を海に向かってぶん投げた。

 

「「「「「鍵ィィィィィィッ!」」」」」

 

「あれ…リィンちゃんいいの?あれ、予備って持ってきて無いよね?」

 

 先程の行動と矛盾するリィンにクザンは思わずツッコんでしまった、いや、仕事としては捕まえる事だけども。

 

「マルコさん…。白ひげさんの存在する所にぞ案内願う……」

 

 

 クザンを無視した言葉に長男はオヤジ逃げてと思ったが信頼するオヤジなら大丈夫だろう。ほんのちょっぴり心配になった。

 

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

「随分と大きくなって出世したんだなァ…剣帝の弟子」

「その肩書きは嫌いです…久しぶりです白ひげさん」

 

 元々最初にここに来た時も大将だったんだけどな!と黙っていた事にリィンは胃を痛めながら大物海賊と対峙した。

 

「エースがすまなかったな」

「大丈夫です…奇想天外予想外の常識外は慣れが存在です」

「リィンはエースを捕まえる気は無かったんだろい?」

 

 なんだか泣きそうになっていると数少ない常識人がリィンの肩を叩いた。

 

「はいです…、今の錠は…普通にお腹が直立を」

「腹が立ったんだな…グラララ……」

 

 本題に移ろう、空気が変わったのを感じて白ひげとマルコは口を噤んだ。

 

「私、一つ夢を見たです。それはエースが処刑台に居て白ひげさんが助けるくる夢です」

「……」

「その夢を見るしたのは──エースがここに入ると知る前、おかしきと思いませぬか?()()()()()()()()()か」

 

 少し長いが夢を全て話した。

 エースが悪魔の実を食べた事が当たっていた事も、デカイ顔の人──ゴア王国で見た事があるからきっと革命軍の1人の事も、海軍本部の作戦も、スクアードだったか蜘蛛が顔にかかれた人の謀反も、麦わらの男の奮闘も、七武海の面子が変わっていた事も。

 そして2人の死亡が赤犬や黒ひげと呼ばれる男だった事も。

 

「黒ひげ…?」

 

 マルコはその名を聞いたことが無く不思議な顔をした。年をとったとは言えども自分達のオヤジは世界最強、夢とは言えど信憑性(しんぴょうせい)のありすぎるその話にそんな人物が出れば疑問に思うのは最もだった。

 

「たしか…能力は…………ヤミヤミ」

 

 実の図鑑には詳しく載って無かったが実在する実の名前だと言う。

 

「頭には入れておく、すまねェな…完璧に信じてやれなくてよ」

「仕方なきですぞ、私自身が海軍の作戦と疑うが最良です」

 

 夢の中センゴクが言っていた『死ぬ意味』

 海賊王の息子だと言う事は言っていない、これはきっとエースの口から言うべきだと思った。

 

「白ひげさん、マルコさん。エースを助けるしてです!お願いします!」

 

 2人は腰を折ったリィンに思わず目を見開いた。てっきりエースの事を嫌っているか苦手意識を持っていると思っていたから。

 

「エースは〝父親〟に否定的と思うです、だから白ひげさんが〝オヤジ〟になるしてくれて、安心したです。ありがとうございますた!」

「エースの()()()父親か……。どうやら知ってるのは海兵だからっつーわけじゃねェみてェだな」

「………内緒です」

 

 ヘラッと笑えばリィンの頭に大きな温かい手が被さった。

 

「任せろ、息子は守ってやる」

「……お願いするです」

 

「(やばいやっぱり海軍より海賊の方が優しいのかもしれない。優しさを海軍に分けてください)」

 

 海賊に寝返るのも時間の問題かもしれない。

 

「お前、一体何者なんだよい」

「エースが、海軍や世界政府を嫌いする故に…、傍より見れば完璧敵対状況の私は言う不可能です」

 

 マルコの目には悲しそうに笑う少女が見えた。何か深刻な悩みでも抱えてるのでは無いか、とても心配だった。

 

「(サボにもエースにも忘れられてる私って…………クソ、お腹空いた)」

 

 完璧後半の方が重要視されているリィンには気付かない方が無駄な幻想を抱いていれるだろう。

 

「なァリィン。その夢の事なんだけどよい、不自然な所は無かったか?」

「んー……マルコさんがハゲ…ては無き、白ひげさんの病気ぞ進行もやむを得ず……」

 

 少しずつ、体を(むしば)み始めている寿命という敵は。いくら最強と言われる男でも太刀打ち出来ないだろうと判断し不自然な事には含められなかった。

 

「あ……」

 

 一つだけ思いつく。

 あくまでも夢であり、記憶が混濁(こんだく)してるのかもしれないが数えやすい彼らが欠けていた。

 

「隊長が揃うして無き」

「……隊長が?」

「2人…存在が皆無ぞ」

 

 隊長すべてを覚えてはいないが夢を思い出して特徴のある2人が居ないことに気付く。

 

 ──2番隊のルーリエさんと4番隊のサッチさん

 

 前に1度訪れた時オカマの様な風貌をしたルーリエは結構印象に残っていた。そして結婚したいと7割本気で思ってるリーゼントの彼も。

 

「ルーリエは死んだよい」

「…!?」

 

 エースが入る数ヶ月前、2番隊の隊長であるルーリエは四皇である白ひげに喧嘩を吹っ掛けてしまった愚かな海賊にスキをついて殺られてしまったとマルコは語る。

 もちろん、家族を失って怒る白ひげを誰1人止められる筈もなく、敵船は沈められたという。

 

「益々信憑性(しんぴょうせい)が高くなるばかりだよい…、でもサッチは生きてる。多分──負傷とかで出られなかったんじゃないか?」

 

 そうだと良い。

 そう思いながら自然と震える手を庇って笑った。

 

「(あいつ(親友)が死ぬなんて俺が許さねェよい……)」

 

 落ち込んだ時おちゃらけた調子に、空腹を満たすあの腕に、海に落ちた時助けてくれるあの手に、何度救われた事か。

 決してそんな事にはさせないときつく誓った。

 

 

「オヤジ!マルコ!リィン!」

 

 バンッとその場の空気を変えるように飛び込んで来たのは白ひげ海賊団の末っ子、エースだ。

 

「サッチが宴しようって!あ、後青雉だっけ?あいつは帰った!それとリィン!いい加減こいつ外してくれ!」

 

 矢継ぎ早しに要件を伝えるエースはまるで子供。3人が笑うとエースはキョトンとした顔になった。と言うか海楼石つけてるくせにそんなに元気とかいいのかよ。もっと働いてくれ海の石。

 

「え?え?」

 

「リィン、宴は参加するかい?」

「するです、ついでに1泊」

「グラララ…!図太い小娘じゃねェか…!」

 

 マルコは未だに帽子を被ったままの頭を撫でるとエースを向いた。

 

「エース、この船の管理は俺がやってるのは知ってるよな?」

「え?あァ……」

「今隊長に一人欠員がいる。ちょっと前からオヤジとも話しててな……──エース。2番隊の隊長にならないかよい?」

「え…お、俺がぁぁ!?」

 

 海楼石を付けながらも仰天するエースに感心しながらも考え込む。

 

「(あの夢、2番隊の欠員を無くせば(わら)にもすがる思いだけど変わるかもしれない。エースを処刑台から引きずり下ろすし4番隊の嫌な欠員も防げるかもしれない。……たかが夢に振り回されるだなんて情けねェよい)」

 

 

 マルコも、リィンも、白ひげも

 

 気付く事は無かった。

 

 

 

 

 

 ──その夢の欠員である2番隊隊長がエースであると言う事に。




現在のリィンの心境「(兄に恋愛感情??そんな物の前に怒りの感情しか現れぬわ!フルネームで暴れやがって私の計画がつーか忘れんなぁァ!)」ですね。
もはやエースくんはリィンにとって計画破壊神です。画面の中の破壊神よりずっと恐ろしい破壊神です。

エースが惹かれた理由はほんっとにアホで単純なので次のお話で触れたいと思います。投票次第ですがシリアスよりギャグと捉えて下さいませ。そして気付かないのはエースの周り(ダダンやルフィ)そして自分も「リー」と呼んでいたのでリー=リィンという方程式が成り立たなかった事が原因ですね。

ルーリエは空想上のキャラクターです。深く掘り下げる気もありません。


そして皆さんにお礼を言いたいと思います!!
評価数が100を超えてました!!わー!ほんっとにありがとうございます!次は目指せ200ですね!


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第65話 告白祭り

 

 その男は、幼い頃『愛』を知らなかった。

 

 

 

 自分が『鬼の子』だからと他人と壁を作って、自分の殻に閉じこもった。

 

 

「はァ………」

 

 海楼石の錠が付いた手で自分の髪をくしゃりと握る。

 

 

 『いい名前だな!俺と結婚して子供作ってくれねェか!?』

 

 

「(ガキ相手に何言ってんだ…、俺は鬼の子で、あいつは俺の嫌いな海兵で……)」

 

 ただ自分の勘 これといった理由も無いけど。ただ傍に居た…そんな気がして。感覚だけで口に出した。

 

「(変態か)」

 

 後悔と呆れが混じったため息をもう1度吐く。折角の宴だと言うのに瓶を片手に海を眺めながら酒を飲む。

 

「(…あ、この酒………似てる)」

 

 ふと思い出した4人で交わした盃、あの時の酒の味は忘れられない。そばに居たのはルフィしか居ないけれど、この酒の味は辛くて辛くて幼い頃の自分には1杯が限界だったのを覚えてる。

 

「今じゃ瓶一つ楽々飲めちまうんだな……」

 

 一人呟いた言葉は誰にも聞かれる事無く波の音にかき消される──

 

「エース?」

 

 ──筈だった。

 

「女海兵…」

「隣座る許可願い」

「ハハッ、ンなのわざわざ許可取るのかよ」

 

 ポンポンと隣を叩けばおずおずと座る。

 

「お酒、1口頂戴」

「ん?ほら」

「……。っ、辛っ!…あー、やはり酒は飲む不可能……」

 

 独り言なのかブツブツ言いながら瓶を返すと海兵帽を深くかぶり直した。

 

「酒…飲めねェのか?」

「海兵の少女が飲むこと可能と?」

「……無理だろな」

 

──ガチャン

 

 ふと手についた違和感が無くなる。視線を落とせば錠が外れて海から解放されていた。

 

「え、鍵は……」

「ピッキング」

 

 針金片手に歯を見せて笑う姿が自分の弟のルフィに似ていていつもルフィを撫でていた様にぐちゃぐちゃともみくちゃに撫でる。

 

「なァ、リィン」

「……?」

「もしもさ、海賊王に子供がいたら()()はどうする?」

 

 海兵にじゃなくて個人に聞きたい。

 ずっと昔から探していた答えを。

 

「………手をとる」

 

「は?」

 

 返ってきた言葉は突拍子も無い言葉で理解が出来ず聞き返してしまった。

 

「どういう……」

「私!……ある海賊の娘です。海賊王の子供という子と同じく」

「…!」

 

 自分の方は見ずに海だけを見て語る姿を見る。

 

「(海賊の娘……?)」

 

「怖いです、いつ処刑されるか不明で。そのせいで厄介な人間に目をつけるされ、原因をぶち殺すしたくなる程に」

「お、おう…穏便にな」

「アハハ……。とにかく、私は手をとるして言う『大丈夫、私がいる』と」

 

 やっと自分の方を見て笑った。

 

「『生きる許可も意味も私が与える』って」

 

 手に暖かい温もりが伝わる。

 じんわりとした温もりが心地よくて、理解した。

 

「……生きてて、良い……のか?」

 

 声が震える。

 視界がぼやける。

 握りしめる手に力が加わる。

 

「当たり前」

 

 誰かに必要とされたかった。

 生きる意味が欲しかった。

 自分の存在を認めて欲しかった。

 

「おふくろの…、命を、食らってでも……生きてていいのか…ッ!?」

「それは──」

 

 ぺしっ、と額に便箋(びんせん)らしきものが当てられる。

 

「──本人に聞くしろ」

 

 慌てて受け取るとリィンは金色の髪を月で照らしながら降りていった。

 

「本人に聞けって……死んでんのにどうやって…──」

 

『愛する子供へ』

 

 便箋の表にそう書いてあって心臓がうるさく騒ぐ。

 

「(なんだこれ……)」

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 私の愛する子供へ

 

 この手紙が届く時、あなたは何歳でしょうか。まだ子供?好きな人はいるの?それとも誰かの親になったかしら?もしかしたらおじさんかもしれないわね

 

 今私のお腹にいる私の愛する子供

 

 

 まずあなたの名前からお話しましょうか

 

 あなたの名前は私の愛する人が、つまりあなたのお父さんが付けてくれました

 誰にも負けない1番の子になって欲しいと願いを込めて。男の子だったら、トランプの名を。女の子だったら、他の国の言葉を

 貴方のお父さんの大切にしている、貴方の名前です。素敵でしょう?気に入ってくれてるかしら

 

 自分はセンスが無いからと仲間の力を借りてたらしいわ

 

 

 あなたのお父さんは偉大な人です

 

 私と彼の出会いはとても良いと言えるではありませんでした。お互い印象最悪、口喧嘩は多い、意見の衝突ばかり

 私は航海士として乗ったけれど『行くな』が効かない死にたがりでほんっっとに馬鹿

 でも真っ直ぐで皆の心を掴んで離さない。ずっと心に残るの

 彼は不思議な人だった。昔を知る人はヘタレだって言ってたわ

 

 彼が夢を叶えて命がもうすぐ終わると分かって、彼が自首すると言った時…とても悲しかった

 でも彼らしいから、私は止めたけど……私が先に折れた

 

 

 ねェ聞いて。私と彼の愛する子供

 

 あなたは私達の事で悩み苦しみ辛い思いをするかもしれない

 でも一人でもいいから大切な人や仲間を、私達の事なんか気にしない人を作って、愛を持って、自由になって。誰よりも自由な人間に

 

 

 

 幸せに 生きて

 

 

 愛しているわ

 

  ポートガス・D・ルージュ

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

 思わず手紙を握りしめた。

 

 隣に人影は無い。だから1人だけど、弱くて脆い自分を晒せた。

 

「いる……大事な家族が…ッ、オヤジもダダンも…クソジジイも…兄妹も…!白ひげ海賊団でちゃんと生きてる…ッ、おふくろ……ありがとうございます……!」

 

 暫く涙が止まらなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

「ガラにも無く綺麗事言ったぞ……」

 

 自分のイタさ加減に羞恥心が生まれてくる。つらっ。

 

「お嬢、どこ行ってたんだ?迷子か?」

 

 この船には唯一、黒髪の着物を着た女の人がお酒を片手にやって来た。

 

「エースの所、錠を外すた!です!」

「あれ?青雉が予備は無いって言ってたのを聞いたんだが……」

「ピッキング」

「お嬢は鍵要らずか。便利だな」

 

 頭を撫でられて思わず目を閉じる。

 女の人なのにカッコイイとかずるいと思う。イケメンだとか美人だとかの判別は分からないけど性格イケメンは羨ましい。

 

「イゾウさん、サッチさんは?」

「お前……サッチはやめておけよ?あれは獣だ獣」

「目に見えた獣より隠れんぼした獣の方が危うき」

「…………よく分かってるな」

 

 斜めを向いて呟くイゾウさんはどうやら納得する所がある様だ。

 

「優しさを疑うしろ、外面に騙すされるな」

「お嬢の将来にホッとしたらいいのかその歳でそれに気付いた事に同情すればいいのか……」

 

「リィンちゃんとイゾウどうしたよそんな所で宴に似合わない雰囲気出しちゃってさ」

「おー!サッチさん!」

「おォ、(サッチ)

「おい待てイゾウ。リィンちゃんに何か吹き込んでは無いだろうな」

「吹き込む要素が無かったから安心してくれ」

 

 その場に現れたサッチさんに向かって突撃すると抱き上げられた。

 

「結婚すて下さい」

「お断りします」

 

 渾身のプロポーズが振られてしまった。

 

「お嬢、どうしてサッチだ?ほら…エ、エースとかマルコとかオヤジとか色々いるだろ」

 

 結婚相手の選択肢に四皇が交じるとか怖い。

 

「サッチさんの料理が好み故に」

「やっべえ俺ちょっと揺らぎそうになった、落ち着け俺、相手は幼女だ」

「あー…料理人には嬉しい言葉だろうな。お嬢、ロリコンには気ィ付けろよ」

「手遅れ」

「そうか手遅れか………手遅れ!?」

 

 自覚なしロリコンがクロコダイルさんでもう色々アウトなロリコンがドフラミンゴさんだと思ってる。恋愛感情だとか本人達が持ってる持ってないは無視にして第三者から見るともう手遅れだろ。

 

「そういやエースどこいったんだよい?」

「よォマルコー!」

 

 サッチさんが器用に私を抱えながらマルコさんの肩に手を回す。

 

「エースになんか用があるのか?」

「2番隊隊長の事について相談がな」

「え?は?あいつ2番隊隊長になんの??」

「オヤジと前に話してたけど今日決めたんだよい」

 

 驚くサッチさんを軽く流すとさっきまで私がいた所からエースが降りてきた。と言うか就任についてマルコさん何も言ってないのに察せれるサッチさん便利。

 

「あれ?錠が外れてる」

「お嬢がピッキングで外したんだとよ」

「…………便利だな」

 

 サッチさんまで同じ事を言うとは。

 

「エース!」

 

 マルコさんが手を振って名前を呼ぶとエースはこっちに向かってやって来た。あー、ちょっと目元が()れてるな……。手紙渡すタイミング間違えただろうか。

 

「マルコ……」

 

 エースがいきなりマルコさんに抱きついた。

 

 

 え……?我が兄にそんな趣味があったの?

 

「!?」

 

「イゾウ……」

 

 マルコさんに抱きついたかと思ったらイゾウさんに抱きついた。

 

 待って怖い。一体手紙に何が書いてあったわけですか。

 

「サッチ……」

 

 今度はサッチさんに抱きつこうとしたからサッチさんに抱えられてる私はさっさと避難した。あ…「ぐぇ…」サッチさん苦しそう。

 

「リィン……」

「私!?」

 

 今度は私に来たかと思うと抱きつくんじゃ無くて手を握って来た。

 

「知ってたのか?」

「………」

 

 拾った人、つまり私宛の手紙には多分ルージュさんの名前が載ってたから多分エースに渡した手紙にも名前が載ってたんだと思う。

 ……、海賊王の子供の事か。

 

「うん」

 

 頷くとエースはキッと表情を変えた。

 

「もし。さっき言った子供が俺でも、意見は変わるか?」

「変わる事は無い」

 

 お互い立ってると当たり前だけどエースの方が背が高いから見上げる形になるからちょっと怖い。

 

「俺、白ひげ海賊団に入って良かった。お前が、来てくれて良かった」

 

 うん、私白ひげ海賊団に入ってないけどそれは関係無いのかな?

 

「……あの、えー、す?」

「俺お前の子が欲しい」

 

 私の中で何かが切れた。

 

「……………………………………何故(なにゆえ)

「おふくろはクソ親父と幸せだったんだろうなって手紙見て思ったんだ、命懸けて俺を産んでくれて。ちょっとだけどクソ親父が羨ましくなった」

 

 どーにもシリアスそうな真剣な顔で語ってるけど。要はそれでその生贄(いけにえ)に私が選ばれてしまったと?

 

「…………ほォー」

「だから孕んでくれ!」

 

 私さ、もうそろそろ爆発してもいいですか?お前が話してる相手何歳だと思ってる?

 あれだよ、学生服来た人がランドセル背負った少女に孕めってどこの犯罪者だ。あ、海賊って犯罪者か。

 

「言うはしないと決めるた…………」

「ん?」

「…………エース、1度サカズキさんに胸突くされて死ね!もう1度生まれ変わって来るしろ!」

「…ッな!」

 

 冷めた目で見てやるとエースは肩をビクッと震わせた。

 

「お前は」

 

 足をかけて転がす。

 

「誰を」

 

 地面に押し付ける。

 

「相手にすると?」

 

 足で顔の横の甲板を踏みつける。

 

 

「そりゃ、海軍大将で………」

「否定」

 

 はっきり言ってやると目がブワッと見開かれる。

 

「…………そのように薄情とは思う無かった」

「え?は?」

 

 

「リィンちゃん?エース?ど、どうし…」

「サッチさん黙る」

「はい!」

 

 

 やってられるか。やってられるか。

 サボならまだ許す。まだ許せた。1度目だから。

 2度目だぞ!?なんで私を忘れてる!?

 

「………………皆にチクるぞ」

「へ?皆?」

「エースはー!5歳の頃ー!おねしょをすたー!」

「おい待てぇぇぇぇ!」

「エースはー!6歳の頃ー!怖くて眠る不可能とー!泣きていたー!」

「なんで知ってるぅぅぅ!ちょっと頼むから黙ってくれ!」

「ある時はー!虎に追われー!」

「お前ほんと黙れ!」

「ある時はー!フェヒ爺にコテンパンにやられるしたー!」

「なんでフェヒ爺知ってんだよ!?」

 

 まだ気付かないのかこのアホが。

 何が火拳だ、犬じゃ無くて鳥だろ鳥頭。

 

──ザクッ

 

 鬼徹を取り出して足と逆の甲板に突き刺す。

 

「……………この刀に、見覚え………あるぞりね?」

 

 

 

「………」

 

 私がそう言うとエースは面白いくらいに顔面蒼白になった。

 

「ま、さか………」

 

「サッチさーん、お腹空きたぞです」

「え、あれ…あの、エース放ったらかしで良いのか?」

「良いです。鳥頭は放ったらかしするです」

 

 私が大声を出したせいでいつの間にか周囲には他の隊長と思われる人が来ている。あ、カエルの王子様…たしかハルタさん?

 

「ちょ、マルコこれ一体どういう状況?」

「こっちもさっぱりだよい……」

 

 踵を返して食堂の方に向かおうとする。

 あーあ、エースの嫌いな海兵になった妹ってのは悪役かな。いや、悪役に抵抗は無いけど流石にキレる。白ひげさんとマルコさんの前で格好付けなければ良かった。

 

「…ッ、リー!」

「…!」

 

 背中に圧迫感と重量間が加わって普通の人より高い体温がじんわりと伝染する。

 

「悪かった…、俺、お前」

「……エース」

 

 声からちゃんと伝わってくる。

 

「久しぶり」

 

 振り返れば泣きそうな顔してるエースと目が合う。

 

「リーーーー!お前っ、ジジイに誘拐されたとかフェヒ爺が言って、まさか、女狐とか思ってなくて…ッ!馬鹿野郎、何で連絡一つ寄越さねェんだ!」

「……素直に忘却(ぼうきゃく)彼方(かなた)にぶん投げるぞ行動に移すた」

「言えたことじゃないけど忘れんな…!」

「ほ、本来なればエースは私の名前出す時にぞ察する事が可能ぞ!?何故!?私の何が悪きと!?私はリー以外にきちんと名前存在すてるぞ!?」

「変わりすぎてるお前が悪い!俺は悪くないだろ!普通、普通そう思うだろ!?」

「な、第一!自分の出生の一大事さ理解するしてる癖して隠す努力を何故せぬ!?私がセンゴクさんに掛け合うしなければここに乗り込むするは他の大将ぞ!?ルフィの父親の写真と引換に頑張るすた私を褒めるすて!?」

「あァ褒めてやる!褒めてやるけど叱ってやる!つーか兄に向かって手錠かけんなよ!鬼徹ぶっ刺すなよ!」

「ンだと!?」

「やんのか!?」

 

「お前ら落ち着けよい…ッ!」

 

 マルコさんにひっぺかざれて私はサッチさんに、エースはイゾウさんに捕まえられる。

 

「サッチさん離すて!私は武装のみで1度鈍器でエースを殴るという使命ぞ存在すてるぞりんちょー!」

「何言ってんのかわかんねェけどやめろ!」

 

「イゾウ離せ!放浪家出娘に1度教育をだな!」

「ロリコンも大概にしろよエース!」

 

 

「エースのぶわぁぁぁか!」

「リーのあぁぁぁほ!」

 

「ガキかよい……」

 

 

 

 その後正座で説明させられました。

 

 

 

 

 




シリアス?私がシリアスで終わらせれるとでも?

後半に行くに連れてリィンの口調が昔の口調に戻っていってるのは口調に意識を回す努力を忘れているからです。そうなると正確に意図を理解できるのはエースとサボ(幼少期)しか分からないでしょうね!


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第66話 兄と妹の大捜査線

「我が妹よ」

「何事ぞ我が兄よ」

 

 久しぶりの再会に浮かれる事無く、プロポーズ→乱闘 というおかしな結末を迎えた兄と向かい合ってベッドの上に座っていた。エースは悟りでも開くつもりなんだろうか。

 

「この状況を5文字以内で説明せよ」

「 と も に ね る 」

「正直出来ないと思ってた!」

 

 カッ!と真顔で叫ぶように言うエースを見てこいつ何してるんだろうという目になる。私も随分可愛げが無くなったものだ。

 

「我が兄よ」

「なんだい我が妹よ」

 

「ティーチの名を聞きたぞ」

「やはり気付いておったか……」

「boss、いかがしやしょう」

「むふ…現状維持としか言いようが無いな……」

 

 おかしなテンションで繰り広げられているコルボ山最年長最年少コンビでございます。正直設定は分かりません。

 

「……エース現状維持という言葉ご存知か」

「お前自分の兄ちゃんどんだけアホだと思ってんだ」

「少なくとも私の本名を忘れる程には」

「その説については大変申し訳無いと思っております」

 

 スッ…と綺麗に土下座を決めるエース。さてはマルコさん辺りに土下座しまくってるな?

 

「シャンクスさんには会うした?」

「〝会った〟が正解な。答えは会ってない」

()()の件。伝えるべきかと」

 

 

 『マーシャル・D・ティーチに注意しろ、特に悪魔の実が奴の身近に現れた時に』

 

 

 一体何の事を言っているのか分からなかった。

 ティーチ、という人間を見る事は叶わなかったが、伝言をエースに伝えた人間が()()エースが白ひげ海賊団に入る事を知っていたのか。

 

 まずそもそも伝言をシャンクスさんに伝えた時点でシャンクスさんがエースに会えるかどうかも分からなかったんじゃ無いか。謎、謎すぎる。警戒しておくに越した事は無いな。でもとりあえず

 

 

「寝る」

「ええーー!兄ちゃんと話さねェのか〜?久しぶりの兄ちゃんだぞ〜?……と言うか本気でお前の隣で寝れる気がしないので起きてお兄ちゃんとの会話に付き合って」

 

 後半やけにマジトーンだったが妹と気付かずに幼女に手を出す様な人間を兄とは認めたくない。

 おっきくなろう。エースを変態にしない為にも。

 

「リー!」

 

 先に布団に潜り込んだ私を無理やり引っぺがそうとする人間は兄じゃない──。

 

「なァリー……ィ゛」

 

 ──敵だ。

 

「エース………私がこの6.7年ただ平和を送ると望んで叶わぬ日々が昔のままの私で生き残れると思考可能ぞり?」

 

 私がちょっとでも力を使える様にならないと七武海という頭のおかしな動物さん相手に出来るとでも?

 

「………忘れてた、こいつ眠りを邪魔されるのが1番嫌いだった…」

「死ねェェェェ!」

 

 

 甲板に2番隊隊長候補が降ってきた時は敵襲かと驚いたらしい(※不眠番談)

 

 いや私一応敵だよ!?

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

「おはようお嬢」

 

 廊下に出ると和服美人が現れた。

 和服着たいなー!ワノ国に行ってみたいけど世界政府非加盟国だから(政府の人間)は行きにくいんだよなー!

 

「イゾウさんおはようです」

「昨日は大丈夫だったか?襲われなかったか?」

「おいイゾウ人の妹に変な事吹き込むな!」

「……俺は子供に変な事吹き込む奴だと思われてるのか。……エースといいサッチといい…」

 

「(私が物理的に)襲うした」

「エース………」

「誤解だ」

 

 言葉足らず?大丈夫自覚済み。私の眠りを妨げる者には徹底的な排除を実行するぞ?

 やだ、なんだか厨二臭い……。この世界は厨二に疎いようでわざわざ技名を叫んだりしてるけど私は騙されないからな!すっごいイタいよ!いやほんとなんで技名叫ぶの。

 

「あ。マルコォォォ!」

 

 エースが猪の様にパイナッ…マルコさんに突進して行った。猪か(2回目)

 

「ぐふぅ…ッ!…っ、の、なにしやがんだよい!」

「ちょっとさ〜、挨拶しに行きてェ人がいるから小舟貸してくれねェ?」

「小舟で…?お前能力者なの知ってるのかよい」

「リーも行くからイザとなったら大丈夫」

「子供を海難事故に巻き込むな!」

「事故するのは前提なのか」

 

 この2人癒される。

 

 おたくらその行動私が子供の時に見たルフィとエースそっくり何ですけど。暴走癖(トラブルメーカー)のルフィと阻止役(ストッパー)のエースみたいに。

 なんというか…エースって。

 

「若返るした」

 

 ガキっぽくなったと言うか。

 

「それはリィンに近付いたって事か?」

「何故そうなるぞ難聴、逆ぞ逆」

「リィンが俺に近付いた?」

「遠ざかる道一直線」

 

 昔は人を寄せ付けない印象の方が強かったのに。第一印象とかジジを睨み殺さんばかりで警戒心MAXの猫だったと言うのにさ。

 その代わりサボはニコニコしてて親しみやすい印象が強かったな。赤ん坊に向かって自己紹介するのはどうだろうと思ったけど実際私は把握でしたし。

 

 

 そこで私は気付いた。

 

 

 …………エースとサボって根本的な部分が入れ替わったりしてないよね??

 

「……」

「なんだよリー、そんなに見とれて」

「マルコさん鳥肌ーー!私鳥肌ぞー!マルコさんとお揃いー!」

「俺を巻き込むなァァ!」

 

 それでも逃げないキミが素敵。

 

 

 

 

 

 

 

「で。そういやエースは一体誰に会いに行くんだよい」

「シャンクス」

「…………………イゾウ。ナースを呼んできてくれ」

「どれを診てもらうのか分からないがとりあえず落ち着けマルコ」

 

 頭を掻きながらマルコさんがエースに聞くとエースの即答に動きを止めた。

 

「……リィン、こいつは一体誰に会いに行くんだよい?」

「四皇赤髪のシャンクスさん」

「……イゾウ。こいつら誰って言った」

「現実逃避したい気持ちは分からんでも無いがそろそろ現実を見てくれ頼むマルコ」

 

 どんな組織にも苦労人はいるんだなって察した瞬間だった。

 

「なーぁー!小舟貸してくれたっていいだろー?」

「だめだ」

「あー…じゃあ私が連行というのはどうぞです?ほら、シャンクスさんは私の兄弟子らしきですし…」

「赤髪自体には心配してない。同じ四皇同士だし手は出さないだろうよい。俺は手段を言ってるんだ手段を!」

 

 私箒あるから飛べることは知ってるよね?

 前回来た時は…巨大トルネードで飛ばされてきて…帰りはシャンクスさんの船で…空中散歩はマルコさんの能力で…箒は真っ二つ……。

 

 …………言ってない?

 

「あの、私単独飛行可能……」

「はァ?お前はガキで………、いや待てよい。海軍大将にガキが非能力者で務めれるか…?ひょっとしたら特別な悪魔の実だとか……──」

「リーは箒で飛べるんだぜ〜?凄いだろー!()()妹凄いだろ!?」

 

 ぎゅーぎゅーくっついて来るエースの手をひっぱたきながら箒を取り出す。

 

「うわっ!……お嬢それどこから出した?」

「女の子の ひ・む・つ」

「リー。〝ひみつ〟だからな」

「……意図的なる間違いぞ」

 

 まァ聞きたいことあるしエースの許可が取れなくても私は単独で行くけどね。

 となると私の服って目立つから着替えた方がいい?どう考えても隊服を(私のサイズに合うように)リメイクした服だし。

 

「着替える」

 

 ガバッ、と服を脱いでタンクトップとショートパンツになる。この服じゃだらしないか。仕方ない、アイテムボックスに数着入ってあった筈だからリュックの中で開くか。

 

「っておいおいおいおい!おい!何こんな所(廊下)で着替えてんだアホか!」

 

 別に真っ裸になる訳じゃないし最低限の服は隊服の下に着てるからいいでしょ。むしろ前を全開にするキミ達の服装を先にどうかして欲しい。

 

「……?」

「何言ってんのかわかんねェみたいな顔するな!兄ちゃんしまいにゃ怒るぞ!?」

「お嬢。襲われても知らないぞ?」

「その場合社会的抹殺を実行するです」

「そんな実行力の前に恥じらいをもて!」

 

 イゾウさんに叱られるのはまァ同性のよしみで許すがエースに怒られるのは意味がわからん。1度海に落ちろ。

 

「行くするです」

 

 箒に(またが)って飛び立とうとすると腰あたりにガシッと何か掴まった。この体温の高さは誰だか分かるな、エースだ。

 

「あ、じゃあマルコ行ってくる!」

「お前ら兄妹の自由人めぇぇぇ!」

 

 私海賊じゃないから海賊の指示に従う義理は無いぞ。

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

「速ェ!リー速ェな!」

 

 キッドさんがビビったスピードにビビらない、だと!?

 我が兄恐るべし……。そう言えばサボもビビらなかったな。

 

「サボやルフィより先に乗ったな!」

「…………。」

 

 ごめん、サボ先に乗ってる。

 

「そう言えばルフィの父親と引き換えに…とかどうとか言ってたけどルフィの父親ってどんな奴なんだ?」

「ん?革命軍のトップぞ?」

「……すっげえ聞いた事ある」

 

 飛行中に会話が出来るって凄いな。ほんとに。慣れてる私でも難しかったってのに一瞬で慣れるとかほんとに怖い。

 

「……私の兄は凄い…」

 

 ポツリと呟いたのに聞こえる地獄耳のエースは最強なんじゃ無いかと思っています。血筋的にも個人的にも。抱き締められて首が死ぬ。

 

 

 

 =========

 

 

 

「お頭?いきなり酒の手を止めてどうした?」

「んー…なんか2つ縄張りに入り込んでるな…。近いぞ」

 

 思わぬ来客に宴だと騒いでいる最中、酒の手を止めて戦闘態勢に入ったシャンクスは周囲に気を配った。

 

「酒の飲み過ぎで見聞色が使えないとかになるなよ」

「うるせぇ」

 

 いつもブレーキを踏むベン・ベックマンも警戒心を緩めない。

 

「……────っ、上だ」

 

 誰かがポツリと零せば一斉に視線が上に向いた。

 

「──ゃぁぁああああ!」

 

──ボウンッ!

 

 降ってきたオレンジ色の塊はどうやら人間の様で熱い空気が蔓延する。

 

「…ッ、の野郎」

 

 熱の塊から男の声が聞こえた。

 

「炎…?」

 

 それぞれが武器を構えたその時、上から更に人の声が。

 

「生きるしてる?」

「自分の兄貴を空中から落とすな!」

 

 炎は男に、空から少女が。

 その変化に頭が追いついて来なかったがシャンクスがまず声を上げた。

 

「リィン!?エース!?」

「シャンクス!」

「シャンクスさん!」

 

 ビビって損したとシャンクスが座るとエースに見覚えの無い面々は納得出来ない表情で首を傾げた。

 

「お頭…?そいつ白ひげの所に入った火拳じゃ……」

「ん?おお!リィンの兄貴だ!」

「ンン!?」

 

 エースの親の事がある、普段口の軽いシャンクスであってもクルーには伝えてない様だった。

 

「はじめまして!俺はポートガス・D・エース!リィンの兄貴だがルフィの兄貴でもあるんだ!よろしく赤髪海賊団!」

 

 こうもポロポロ個人情報が露見(ろけん)すると立場的に辛いのはリィンなのだがここに居るのは赤髪の船員ばかり。仕方ないと腹を括った。

 

 ただ、彼女の災厄がこんな程度で終わらない事は知らなかったが。

 

「───ホォ…。火拳が兄とは…面白い兄妹だなァ、リィン?」

 

 ギギギギギ、とまるで機械のように首を動かすとそこには海兵のリィンとして知られたくない人間が居た。

 

「………………た、鷹さぁん…」

 

 立ち直るまで1時間の時間を要した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「リィン」

「…………はい」

「あの男、誰だ」

「………………鷹の目」

「お前にとって。誰でどんな関係だ」

「…?」

「兄ちゃんはあんな男認めません!」

「何故父親ぶるこのバカ兄貴はぁぁあ!」

 

 絡まれるだけだと説得するのに更に1時間の時間を要したことをここに記しておく。

 

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

「ほいで、その兄妹さんは俺に何の用だ?」

 

 私たち2人が勝手に行った騒ぎがある程度収まったタイミングを見計らってシャンクスさんがお酒を飲みながら話しかけてきた。

 流石に2時間ほどの時間が経てば周りはすっかり宴モード。ミホさんも気を使ってか少々離れた位置にいる。

 

()()についてだ」

「…!」

 

 エースは疑問点をあげた。

 

 まずシャンクスがエースに会うこと。

 エースが白ひげ海賊団に会うこと。

 

 まるでそれを()()したかの様に伝えられた伝言。

 

(海賊王の息子)に伝言を伝えたのは誰だ?」

 

 ただ純粋に予想するとエースの母親のルージュさんで無いことは確かだ。じゃないとあんな可能性の低い賭け(遺書)を家に残したりなんかしないから。

 

「…………知りたいか?」

「おう」

 

「〝戦神〟…俺の憧れの姐さんだよ」

 

 思わぬ名前に目を見開く。

 

「せんじん?どっかで聞いた事ある様な…無いような…」

「大方お前らの爺さん(海軍本部ガープ)師匠さん(フェヒターさん)じゃねェか?」

「そうだった気が………」

 

 

「そ、れ………私の母親ぞ…」

 

 言ってなかったか、現実逃避したくなった。てっきり言ったもんだとばかり思っていたが…あれ?

 

 

「「………………は?」」

「事実ぞ?ジジに確認済み」

「な、ななな、ね、姐さんのこ、ここここ!?」

「私とて予想した上でシャンクスさんにぞ質疑応答すた故に…」

「ち、父親は!?」

「フェヒ爺以外なれば最良」

 

 いや、まあフェヒ爺ずっと片思いしてる()()()ってのがいるらしいから大丈夫だと思うけど。

 

「……多分あの人だと……いや、でもリィンが海軍に入ったら…うーん………いや、やっぱりあの人だよな…はァ…」

 

 勝手に自己完結してないで教えてくれてもいいじゃないかだからその遠い目をやめてくれ。

「いずれ会うだろ」

「その根拠は」

「カナエさんの娘だから」

 

 本当に私のお母さん何者なの。

 

「あの人の()()()()はなかなか外れないんだ」

「……それが伝言の謎だと?」

「幸運を引き寄せる吸収体質なのも悪魔の実の能力も影響してるだろうな……」

 

 ほほお。

 娘の私は堕天使様のせいで災厄吸収体質なのに母娘でここまで扱いに差があると時空の狭間に向かって殴り込みに行きたくなる。私ちょっと仮死状態になってきていい?私多分今なら行ける気がする。

 

「なァシャンクス。リィンのお袋さんはどんな事を予知したんだ?」

「あー…例えば一番だとやっぱり〝ロジャー船長が世界をひっくり返す〟って事かァ?」

「…っ!そうか…」

「後レイリーさんに聞いた話じゃ…〝白ひげ海賊団が現れる〟だとか〝金獅子の脱獄〟とか。あ、後俺の四皇になる事とか……いや、ちょっと違うか。俺があの人の言葉で四皇になろうと思ったんだ」

 

「なんか…つまんねェな」

 

 エースの口から出たのは周りを驚かせるには十分だった。

 

 私は抗議したい。どこがつまらないだ危険な事から回避できる予知だぞおいコラ。私がどれくらい欲しがってると思ってんだおい。

 

「……それな。船長も姐さんも言ってたんだよな」

「………え?」

「『先の分かる冒険ほどつまらない物は無い』って」

「海賊王が?」

「姐さんだって『細かい事が分からないのは救いだったかな』って笑ってた」

 

 また随分と豪快なことを。ある意味尊敬。

 

「それで中途半端に強い姐さんが戦闘引っ掻き回して二次災害生むのは得意だったけど」

 

 訂正。随分どころじゃなくてかなりだった。

 

「ま、細かい事は本人か副船長が知ってるから気になるなら聞けよ?あくまで俺は見習い(途中参戦)だからよ」

「あの、ちなみに戦神はいつから船に?」

「最初らしい。船長と副船長と3人で初期メンバー」

「………フ、フェヒ爺は…」

「結成数年後らしい」

「じゃあ俺のお袋は?」

「確か俺より2年くらい前で途中離脱、だっけな?」

 

 海賊王と冥王とトリオ組んでる人が私の母親何ですか?戦場のみならず貴方は私の思考回路と平穏な日々までグッチャグチャに二次災害を発生させるつもりですか?

 ちょっと、頭クラクラしてきました。

 

 安心してください私のお母様。私は只今よりあなたの偉大さを確認しましたので再会した(あかつき)にはあなたを1発ぶん殴ろうと思います。先に謝っておきますねゴメンナサイ。

 

 

 

 

 

 




母親の謎が深まるだけ。予想されても答えませんからね!?叶夢さんのお話はまだ先ですけど少しずつ書いています。まァそんな大した秘密は無いですけど。
そして未だに誤解するイゾウ=女の人。多分本人が口にするまで誤解は解けないでしょうね。

オチ決めアンケートは70話の投稿日が締め切りですが恋愛要素は私の中で添え物です。甘ったるいの難しい。


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第67話 再びに向けて

 私の母親は謎の伝言をエースに残してインペルダウンへ消えていったロジャー海賊団の旗揚げ初期メンバーで予知的中率は90%幸運吸収体質で能力者の戦神シラヌイ・カナエでした。

 

 

 どこのチートだこの野郎。

 

「………私は恵まれて無き」

 

 と思っていた時期もありました。

 ですがシャンクスさんの一言で目が覚める。

 

「でもガープさんやセンゴクさん、白ひげさんやシキが全盛期の時よりはずっといいだろ?」

 

 ごもっとも。

 

 

 

 

 

「リィン、来い」

「ミホさん?」

 

 ポンポンと膝を叩いてるミホさんに呼ばれました。なんだ、そこに座れってか。もしも何かあった時に逃げ出さない様にするのは君ら珍獣バ海賊(鰐鳥鷹)のお得意技だもんなちくしょう。

 

「何事ですか?」

 

 見て見ぬふりをして目の前に正座する。子供相手にゃ口に出さないと伝わらねーぜベイベー。そして私は自ら逃げ道を塞ぐ事はしないぜベイベー。

 

「……剣帝とどの様に過ごしていた?」

「フェヒ爺?」

 

 口に出す言葉を少し悩んだのか少し間が空いて質問が投げかけられた。

 

 フェヒ爺とどの様に、ね…。

 

 脳裏に栗色の髪の憎たらしい顔が浮かぶ。あ、殴りたくなってきた。

 

「初期段階は…、狩りた得物と拾うした物を交換するのみですた。1回限りの初期段階のみ、後は誘拐のごとく兄に連れ去られランニングや筋トレ。結果は血とともに流水ぞです」

 

 ブルージャム海賊団のあれ、雑魚、そうミスター雑魚くんに背中ぶった斬られて私の筋肉が血とともに消えていった。ついでに記憶も消えてくれるととてもありがたかったのに。

 

「拾った、物?リィン、まさか孤児の出か?貧困層やスラム街など…」

「あ、およそ想像と逆ぞ。私…正確なればエース達が獲物を狩りて、フェヒ爺が拾うた物の交換ぞ」

「……剣帝が物を拾って?……ますます想像つかないな」

 

 まァたしかに不確かな物の終着駅(グレイターミナル)の誰よりも真っ直ぐで強くて野心に塗れた雰囲気を醸し出す人間はフェヒ爺だったし、海賊王の船員(クルー)だと知った今不自然でしか無い。

 

「……昔いた七武海のグラッジが言うには……いや、やめておこう」

 

 昔の七武海?グラッジ?凄く聞き覚えのある水人間ですねこの野郎。

 

「……何故そんな事をしていたか、知っているか?」

「んえ…?んー…」

 

 結構前の事だから覚えてないな…。不必要な記憶は自然と削除されていくから正直記憶に無い。なんでだろう。

 片思いの人、と、離れる?いや、もしかしたら海賊王と離れる?

 

 まァ人の気持ちなんか分からないや。自分の気持ち一番なんですもの。

 

「不明!」

「流石に分からないか……」

 

「逆に質疑応答」

「…?」

「何故海軍本部やミホさんはフェヒ爺の刀に異常反応?」

 

 あァ…、と少し呟くと言葉を選んでいるのか考える素振りを見せた。

 

「五老星は知っているか?」

「肯定」

「鬼徹、それは3代目だったはず。実はな、元々五老星の1人が私的に管理していたのだが一つは行方不明。一つは強奪されたんだ」

「……何故か私嫌な予感がムンムン」

「強奪された方は3代鬼徹で剣帝カトラス・フェヒターが所持していたんだ」

 

 最高権力者に何やってんだクソジジイ。

 

「何度か手を合わせた事はあるが剣帝の剣はあまりにもデタラメで予測不可能勝つ為には手段を選ばない邪魔する奴は全てたたっ切る精神の持ち主故苦戦を強いられ…」

 

 ホントに何やってんだ。

 

「お前と戦闘スタイルがよく似てる」

「不名誉極まりない」

「…殺し合いじゃない普通剣の訓練や試合において砂利で目潰しは無いだろ」

「生きればよし」

 

 どうやら悔しい事に〝生きる為の剣〟を扱うフェヒ爺と真髄(しんずい)はお揃いの様で軽くショックを受ける。

 

「ミホさんは、何故私を〝強き者〟と呼ぶ?」

 

 時々思う事がある。私より強い人なんてこの世の中、いやむしろ海軍の将校ならほとんどが強い。

 私は武装色の覇気は自然系の人を捕まえられる程度だし、見聞色だってその存在自体私はどうにも分からないし、素質があると言われた覇王色はうんともすんとも言ってくれない。それに空中を飛ぶだとか皮膚を鉄のように固めるだとかの海軍武術の〝六式〟は知識だけで鍛錬が足りない為か全く出来ない。

 

 どうしてそんな私がミホさんにとって〝強き者〟の部類に含まれるのか不思議であった。

 

「…………そうだな、正直な話自分でも分からん」

 

 おい。

 

「最初は剣帝の弟子という事ではあったが今では俺の弟子でもある。ただ弟子が強いと思うのは親バカに近いものであるんだろうな」

 

 お話にならなかったわこのバ海賊。

 

 

 

 

「リー?もう話終わったか?」

「およそ」

 

 後ろから顔を覗かせたエースと目が合う。

 

「やっぱこの海賊団いいな!船長はショタコンだけど!」

「さり気なく俺をディスるなシスコン!」

「事実ぞショタンクスさん。昔エースに会いたいと進言すた時私はてっきりツンデレに毒されてしまった変態かと…」

 

「毒されてねーよ!」

「ツンデレじゃねーよ!」

 

 遠くでシャンクスさん、近くでエースが同時に叫ぶとヤソップさん達が大爆笑した。

 

「ショ、ショタ、ショタンク…ッ!」

「ヤソップ〜〜〜ッ!」

 

 ぎゃあーっ、と逃げ回る声とザクザク何かを斬る音が聞こえる。

 

「……帰るか」

「……賛成」

 

 立てかけてある箒を取れば跨り、エースも後ろに乗る。

 

「…………くっつきすぎじゃないか?」

「…そう?」

「クロコダイルが最近忙しく本部に来れないから悪い虫が付かないようにと忠告されているんだ……正直めんどくさい」

「仲良しか。父親か」

 

 なんでほんとに七武海って仕事の多忙度の連絡だとかするの!?仲良し!?ねェ本当に見習ってよ海軍!仕事の報告書きちんと提出しないで喧嘩する元帥と中将は特に!

 

「悪い虫否定私の兄」

「……」

「火拳、助けを求める目をするな」

「さよならミホさんまた今度が来ませぬ様に」

「可愛くない」

「べーッ!」

 

 舌を出して反抗してそのまま箒を浮かび上がらせる。うん、この箒の扱いにも大分慣れてきた。

 刀より軽くて振り回しやすいから棍術でも勉強してみようかな。ちょっとした自衛手段に。

 

「バイバイショタンクスさーん」

「ふざけた名前で呼ぶな死霊使いィィィ!」

「そちらこそふざけるするー!」

 

 

 

 ==========

 

 

 

「よォ…随分と長い空旅だったみてェだなバカ兄妹」

「マルコ…もしかしなくても怒ってるよ、な?」

「………怒ってないよい」

「ダウト!」

「逃亡は勝利!」

「賛成だけど〝逃げるが勝ち〟な!」

「惜しい!」

 

 甲板で陣取ってた白ひげ海賊団長男さんに追いかけ回される未来は予想して無かった。あれれ〜?私一応海軍大将なんだけどな〜。おっかしいな〜?

 

「気を抜くなリー!見聞色で先回りされるぞ!」

「ふぎゅわぁぁぁあ!鬼ぃぃぃい!」

 

 比喩表現じゃ無くてまじで鬼だと思った瞬間でした。

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

「2泊もお世話をぶっかけますた!」

「お世話になりました」

「なりますた!」

 

 甲板に立って隊長さん達や白ひげさんに頭を下げる。

 ホント、元々1泊の予定だったのに良く敵のお泊まりを許してくれたよね。むしろ予定より延びた帰りで怒りの雷を降り注ぐセンゴクさんの方が海賊より怖くて帰れないや。

 

「おう!また来いよリィンちゃん!」

「次会う時はクッキーを所望ぞですサッチさん!」

「お嬢、元気でな」

「イゾウさんも元気百倍お願いです」

「……リィン」

「マルコさん。夢のこと、頼むました」

「任せろよい」

「グラララ…心配症も程々にな」

「私の心配は自分の身のみです」

 

 中でも親しくなった人達と挨拶を交わす。

 いや本当にまじでよろしくお願いしますマルコさん。

 

「──リー」

 

 最後に1歩前に出てエースと顔を合わせる。

 

「お前は、これからどうするんだ?」

「どう……んー……。私の目的は半分程達成すたし…」

 

 兄どもの援助が主な目的だったんだけど、エースは身バレしたけど白ひげさんの保護で何とかやっていけるし、サボは探し出せれたしドラゴンさんって人がいるし。正直不安なのが一番のトラブルメーカールフィなんだよね。

 

「潜入、する」

「潜入?まさか危ない所に…!」

「まさか」

 

 むしろ本部の方が危ないって言ったらどんな反応するだろう、例えば七武海とか。………あと海軍大将だからと上の権力フル活用されて毒の耐性実験を行ってくる科学班だとか。殺す気か。

 

「望むのならばルフィの船?」

「…! ハハッ、それなら安心だな」

 

 わしわしと頭を撫でる手を止めるとエースは青いリボンに触れた。

 

「……。まだ、付けてるんだな」

「うん」

「……はーー…妬けるなァ」

「うん?」

「サボ、どっかで生きててくんねェかな」

「うッ。うーん…」

「やっぱり結婚しねェか?」

「……殴る」

「ゴメンナサイ」

 

 分かってる筈なのになぜ諦めないこんちくしょう。手軽な位置にあるからか。冗談行き過ぎてる。

 私は兄の将来が不安だよ。これから先出会う女の人に色々手を出しそうで怖いよ。

 

「手、出せ」

「…?」

 

 手を出す出さないの話してたからちょっとびっくりしたけど素直に手のひらをエースに向ける。

 

「……」

 

 手のひらに柔らかな唇の感触とチクリとした痛みが伝わる。

 ……こいつ何してんだ。

 

「今はこれで勘弁しといてやる」

「か、感謝…?」

「今度はこっちから会いに行くからな」

「頼む、本部にだけは来るするな」

 

 エースはニカッと笑うともう1度頭を撫でた。うむ、私の兄貴はイケメン。

 手のひらにキスとか外国人かよ。あれ?外国人じゃなくて異世界人?いやでも私はこの世界に住んでるし…。ま、いっか。

 

「エース」

「ん?」

「死ぬ事は禁止」

「……ん、ありがとな」

 

 私はその言葉を聞いて箒に飛び乗って空に向かった。

 

 

 

 

 

「リー!愛してるぜー!」

 

 

 海に落ちかけた。

 

 私は手を振っている自分の兄の将来が怖い。小悪魔になんかならないでくれよ……。




フェヒ爺の謎がふかまる話。
そしてミホークさんと初めてまともな絡み。
これでルフィ出航の時間軸でのリィンの動きが決定しました!オチが誰になろうととりあえず麦わらの一味に入る事になりましたよ!

余談ですが本編の一番最後は昔サボがリィンに思った事と一緒でした。

ワンピースエピソードオブイーストブルーとても綺麗でもう号泣ものでした。頑張ってちょびっとの原作改変がんばるぞー!おー!


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第68話 お願いします仏様!

 エースに言った潜入の話を帰って早速怒られながらセンゴクさんに提案した。『仕事の幅を広げるために潜入を経験したいです!(意訳)』と。もちろんそりゃ最初は猛反対。子供が出来るわけない、とか 潜入するまでの経験が足りない、とこ。

 もちろん粘った。私の心の平穏とルフィのトラブルに胃を痛めるのを阻止するために。

 

 結論として(最弱)の海の無名海賊に入るのなら2年間の労働で許可すると。

 

 勝ち取りました。

 

 

 つまりルフィが名をあげる前に潜入して2年間時間を潰せば良いんだな。

 

 条件として。

 ・雑用のリィンは海軍脱退

 ・指名手配

 ・定期的な連絡

 

 の三つが提示された。

 

 海軍に属していた、という事実自体スパイじゃないかという疑いがかけられるから辞めろというわけか。

 さっきと同じ理由だとは思うけど。指名手配されるのは不服だ、でもそこは顔が見えない様に手を回しておくし金額も下げる。NO問題NO問題。

 定期的な連絡。これは『おかき』と『あられ』が合言葉で潜入してる海賊の様子だとか安否確認をするらしいけどそんなにおかき好きか。どうしてその言葉にこだわる。

 

 

 随分と甘い対応だな。

 表面上厳しいけど私にはもう一つの切り札(海軍大将)があるからむしろ動きやすくて楽。指名手配は本当に不服だけど無名のままでいたらきっと大丈夫。

 

 

 あとは七武海と関わらなければきっと大丈夫でしょ、関係禁止禁止。

 拠点に近寄らなければきっと会わない。フラグとか信じない。

 

「おいリィン…」

 

 女狐が私だと話してあるので隠れてする必要も無く、スモさんの部屋で悠々と(引き継ぎとか、ガープ中将の損害の後片付けとか、階級が変わる人の移動とか、その他諸々の)書類仕事を行っていた。

 

「…? スモさん任務終了?」

「まあな。とりあえず荷物置いてこれから新米兵の訓練で……ッじゃなくて、元帥がお呼びだ」

「げ……仕事増量予定…」

 

 どうやらお呼び出しがかかったようで向かわなければならないらしい。デスクワークの後の出張はかなりキツイので出張じゃありませんように。

 

「お前ここんとこ仕事増えすぎてねェか?手伝って欲しい事あったら俺やヒナに言えよ。力になってやるから」

「スモさんマジ天使愛すてる」

 

 残念ながら大将女狐の名前が必要な書類が多いから手伝って欲しいのに出来ないけど身近な常識人の言葉って癒される。

 ……顔や体格は癒し系じゃないけど。

 

「アホな事言ってねぇでさっさと行け」

「はぁーい」

 

 さてと、2年後の平穏の為に頑張りますか。

 

 

 

 ==========

 

 

 

 元帥室。

 

「嫌、です!」

 

 NOと言える日本人。私は受け渡された任務にハッキリと拒絶した。

 

「確かにお前は七武海を相手にする程の実力はあるし同年代では間違いなく強いだろう」

 

 いや、それはどう考えても違うと思う。

 よく考えてみて、私ミホさん相手にする時どんなことしてると思ってる?砂利で目潰ししたりアイテムボックスにいれた石で遠距離攻撃して逃げまくってるだけだよ。

 

「だが実戦を知らなすぎる」

 

 出来れば一生知りたくありませんでした!

 

「潜入を行いたいと言うのならせめて大将としてきちんと実力を蓄え経験をするべきだ」

 

「……ごもっともな正論です。ですが!」

 

 クシャッと手にある()()()()()を握り潰す。

 

「シャボンディ諸島にて海賊撲滅運動は無いです!」

 

 渡された司令は『最近シャボンディ諸島で海賊が増えて困ってるから実戦経験を兼ねて適当に潰してくれないかなッ☆』という死の世界と今の世界の間を綱渡りする様な司令だった。

 

 はっきり言って子供にコレはキツすぎる。

 

「何故天竜人が時々現れ無法者ウロウロする様な場所に私が行く強要…!」

 

「これをしなければ潜入は許可できん」

 

「いってきますぅぅぅぅぅうう!ド畜生ぉぉぉぉおお!」

 

 半やけくそ状態で叫びながら元帥室を出る。ちくしょう!それを出されると泣きそうになる。

 

 でも潜入して任務任務任務の仕事三昧七武海からの絡まれ三昧の日々を卒業したいし海軍辞めると私の血筋的に殺されちまうしぁぁぁぁぁああああああーーー!こんな世の中くそだぁぁぁあああーーー!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……何故、潜入にこだわる…!私は、潜入して欲しくなど……!」

 

 

 ==========

 

 

 

 

「はぁ………」

 

 何度目かの上陸シャボンディ諸島。こうなったら適当にブラブラして潰そう。『実戦経験少ないから手こずっちゃった!テヘッ』って誤魔化そうと思っていました。

 

 あ、でもそうなると『ほら見ろそんなんじゃ潜入なんて出来ないだろう』とか返されそう。

 

 

 

 

 でもとりあえず目先の問題をなんとかしなければならない。

 

 簡単に言えば30分程前人攫いと思われる人間達に捕まった。

 

 

 

 はぁー…これどうしよう。私はどんな鍵でも外せるから戦える人がいるであろう今ここで逃げ出すより一旦店まで連れていかれた方が逃げやすいかな?

 よし、(センゴクさんに)バレない様に頑張ろう。

 

 

「………にしても。なーにゆえ、潜入を認めてくれぬぞり…」

 

 私が子供だからか?でも潜入した方が圧倒的に安全だと思う。むしろ白ひげ海賊団とか赤髪海賊団とか絶対楽って知ってるでしょうに。

 

「まぁ、東の海(イーストブルー)は都合よし」

 

 どうでもいいか。とりあえず首に金がかかる前に…出来ればルフィが出航するであろう5月5日(誕生日)に間に合えばいいんだ。

 

 

 

 

 すると急に視界が開けた。眩しい。

 

「あぁ、確かに上玉だ。毎度毎度よく連れてくるな」

 

 急いで周囲を確認する。1番GR(グローブ)だから七武海ドンキホーテ・ドフラミンゴが経営する人間屋(ヒューマンショップ)か。ということはどうしようも無くなったらドフィさんになんとか言えば逃げれるな。あの人の手を借りるのは嫌だから最終手段だけど。

 

「おい嬢ちゃん名前は?」

「あー…んー…。リ、リ、リリリ……リン?」

「リンちゃんね。この子今から売られるって理解してるのか〜?随分と大人しいな」

「理解可能!あの、私が売却される場合何割が経営元に渡すされるぞ?」

「は?そんな事気にして何になる。えーっと首輪首輪…このサイズか」

 

 ガサガサと私の首のサイズに合う首輪を用意して付けられる。

 

「じゃあ後で金は取りに来るぜ」

「はいよ」

「…残念、受け渡す不可能」

「…? ほら付いてこい」

「はーい」

 

 ここで抵抗するのはマズイからセリが始まった時に逃げるのが良いかな。警備も手薄になるだろうし。売られそうになったらその場でドフィさんに電伝虫かければいいし。

 

「入れ」

 

 ドンッと背中を押されて檻の中に入れられる。扱いが酷い。

 まぁ人間屋(ヒューマンショップ)なんてこんなモンだよね。

 

「いててて、盛大に転げる…」

 

 でも痛いもんは痛い。

 

「お嬢さん大丈夫か?」

「はへ?」

 

 檻の中は若干暗いから相手の顔は見えないけれど、親切な人が声をかけてくれた。人の心配するより我が身を心配したらどうですか売り物。

 

「この状況が大丈夫に見るなればそれはとても節穴です」

「…! ハハハッ、それもそうだな。()()なら絶望もいい所だ」

「運、悪いですからね……。保険のある状態の危機なれば大分慣れという物が存在するぞです…不本意ながら」

「と、いうことはお嬢さんはここを脱出出来る保険があるという事かね?」

「……ひ・む・つ」

「ひみつ、じゃないか?」

 

 …………。

 

「お爺さん?は何故こちらに?」

「ん?あァ、酒代が無くなってしまったから売られるついでに買い手と店からお金をスってやろうと思ってね」

 

 常識人かとおもったお爺さんは思ったより常識人じゃ無かった!

 

「パワフル……」

「よく言われるよ」

 

 このお爺さんは逃げ出す手段があるという事でしょう?私もついて行って良いかな…。作戦的にまだ強行突破くらいしか思いついてないんだよね。

 あ、でも買い手からも盗むって事は1度売られる予定なんだろう。仕方ない、どっちみち道ずれ無しか。

 

「ま、ここ(ヒューマンショップ)の命もあと数年」

「どういう事だ?」

「………今口に出るすたです?」

「あぁ。思いっきりな」

 

 どうやら私の口にチャックというものは無いらしい。

 

「ドフィラムンゴさんが失脚すたならばこの店も運営不可能かと思考です」

「ほぉ、つまりキミにはそのドフラミンゴがあと数年で失脚すると?」

 

 あ、この人普通に海賊に詳しいし頭いい部類の人だ。

 

「まァ、革命軍が予想通り動くすたなれば」

 

 正直彼らの大きな動きによって変わってくる。

 失脚っていっても私政治だとか詳しくないし計画性も皆無だからなかなか考えられないんだよな…。ローさんは倒そう倒そうとしてたけど元七武海のグラッジさんとか比にならないくらい強いんだよな、現七武海って。

 シャンクスさんや白ひげさん四皇とぶつけたりとか出来たら自分の手を汚さずに片付けれるのに。なーんか日本(前世)の歴史に無かったかなー…。だめだ思い出せない。

 

「お嬢さんはどうやら…見た目通りの人間と見ると痛い目を見そうだ」

「………正解です」

 

 少なくともツテは不本意ながら沢山手に入れたしね。物理的な痛みは少ないと思うけど。

 

『……──……─!………──!』

 

 扉の奥で盛り上がる雄叫びみたいな声が聞こえ出した。きっと始まったんだ。

 

「よし、逃亡開始」

 

 首と手に付いてある錠を外そう。

 一応針金を出してピッキングの()()をする。私は無機物を操れる事が出来るんだからもしもこうやって捕まってしまった時用に鍵を外す練習をしていた。鍵をコピーして生成出来れば良いんだけど私にはこれが手っ取り早い。

 

──ガチャンッ

 

「これは驚いた。そんな針金で外してしまうとは」

 

 そもそもの話、普通一般人は針金で鍵を外すやり方なんて知らないからね。私は前世では一般人だったはず!いや一般人に決まってる!お願いします一般人にさせて。

 

「外すは可能ですが付けるは不可能です」

 

 とことんまでへっぽこだよね私って!

 

「それでは!」

「あぁ、お嬢さん名前は?」

「………………………一般人A」

「…! また随分と面白いお嬢さんだ」

 

 出来れば関わりたくないので名前は言わないし聞きません。出来れば永遠とさようなら。

 

 

 私はお得意の気配を消して建物の外へと向かった。

 

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 あー、空気が美味しい。

 あの中ジメジメしてて気分が悪いぜベイベー。

 

「手配書を見ても顔の判別不可能ぞベイベー………」

 

 ホントにへっぽこ過ぎて辛い。

 

 

「……」

 

 実戦経験は積まないといけないみたいですね。チラチラと建物や木の影からこっちを見てる人が数人見える。隠れんぼ下手くそかな。

 

「はぁ……」

 

 とりあえず人間屋(ヒューマンショップ)が見えない所まで移動すると待ちきれないのかゾロゾロと武器を片手に行く手を(ふさ)がれた。

 

「オニーサン、なーに?」

「ん〜?それはお嬢ちゃんが1人だからお兄さん達が守ってあげようと思ってね〜」

 

 むしろ逆だろうが。

「そっか〜。ありがとう」

 

 集中して狙いを定める。狙うはガラの悪い人とボスが固まってる足元。陥没陥没………。

 あれ、出来ない。

 

「…! ここ諸島!」

 

 そうだ、ここは大きな木、ヤルキムンムングローブだとかなんだとかの根っこが島みたいに群集してるんだったか!あー、しまった。植物を操るのは苦手なんだよ…イメージが付きにくいから。

 

 仕方ない、習い始めたばかりだけど棍術を使ってみるか。もしもピンチだったら秘密道具使って箒で逃げよう。

 

「っりゃあ!」

 

──ゴンッ

 

「〜〜〜〜〜っ!」

 

 近付いて来た人間の股間を思いっきり箒でぶっ叩く。悶絶。フハハハ、人間弱点は恥とかそんなの関係なく無理やり狙うんですよ。弱点つかずになにをつく。

 

「き、汚ェ!」

「よりにもよって股間を狙うだなんて…!」

「悪魔だ、悪魔の所業だ!」

「貴様に情けというものは無いのか!」

 

 普通海兵に向かって言われる言葉じゃないと思う。普通逆だよね、セリフ。

 

「おーい嬢ちゃん。俺が誰かしらねェのか?」

「知らないです」

「そーかそーかそりゃ仕方ねェ…懸賞金8000万ベリーの──」

「──どぉぉぉぉおりゃぁぁあ!」

 

 話してる間に脳天に向かって箒を振り下ろした。聞こえない聞こえない懸賞金なんて聞こえない!あれ、グラッジさんって元どれくらいの懸賞金だったんだろう。やめて、私の実力はそうあるもんじゃ無いから絶対8000万とか無理ぃぃぃい!

 

「テメェ…!船長に何しやがる!」

「会話をわざわざ待つとは言うして無き!」

 

 船長、と呼ばれた男はゆっくりと起き上がった。チィィッ!流石に1発で仕留められないか!

 

「覚悟は…出来てるんだろうな糞ガ…」

「出来てませぬぅぅぅう!」

 

 私はすぐさま船長さんの別方向に向かって走り出した。最後までセリフなど聞いてられるか!

 

「「「「「待てやゴルァ!」」」」」

「待てと言われて待つ人間の存在は皆無ぅぅう!見逃せぇぇぇええ!」

 

 ちょっと離れたら箒に乗って隠れよう。そうだそうしよう。賞金首に真正面から立ち向かう方が馬鹿なのだから!もっとスキを狙って影から仕留めるべきだ!

 

──ゴォオ…ッ!

 

「ぐ…!」

「…!」

 

 ドクンと心臓が握りつぶされるくらいに強い威圧と風圧が周囲にかかる。何度か味わったことのあるこの嫌〜な感じ。

 

「はおう、しょく」

 

 後ろを振り返ると追いかけて来た海賊は既に倒れていて、その屍の中をゆったりと酒を飲みながら歩く人間が居た。

 

 

「ふむ、やはり覇気については知っていたか……なぁ、不思議なお嬢さん──一般人A、かな。先ほどぶりじゃないか」

「ハ、ハハハ…先ほどぶりですぞ」

 

 

 この天然パーマの爺さん何者だよ。

 

 

 

 




名前は言ってないけどきっと誰かわかるよね。
ご都合主義万歳


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第69話 子供っていうのは最強の武器

 

「ふむ、やはり覇気については知っていたか……なぁ、不思議なお嬢さん──一般人A、かな。先ほどぶりじゃないか」

「ハ、ハハハ…先ほどぶりですぞ」

 

 

 人間屋(ヒューマンショップ)にいた白髪のお爺さんをよく観察する。ここにいるって事は売られること無く逃げ出せる実力があるという事、そして筋肉が付いてるからそれなりに戦えるという事。

 何より、覇王色の覇気というレア物が使える事。

 

 覇王色の覇気は間違いなくこの人から出たんだろう。

 

 この状況で私が取るべき行動は──

 

「──逃げる」

「いや待て待て待て待て。何故そうなる」

「見知らぬ 怪しくて 強い お爺さん、と

 幼く 狙われやすい 不運体質の 少女(プリティガール)

 

 どの行動かは明々白々だと……」

「そう言われると反論出来んな…!」

 

 大袈裟に笑うお爺さんに敵意は見られない、と思う。

 

「何、こう出会ったのも何かの縁。私の奢りだ、何か食べに行かないか?」

 

 よく考えれば朝食べてお昼を抜かしていたんだったな…。

 

 それを自覚した瞬間お腹がぐぅ〜っと鳴った。

 

「ハハハハッ、随分元気だ。海賊に襲われ怯えてるとばかり思ったが平気そうで安心したよ」

 

 あ、そうか、普通は海賊に襲われたらビビって半泣きになるのか。

 なんかもう慣れって怖い。

 

「……………私に一般人は務める不可能の様です」

 

 ガクッと肩を落としたのは仕方ないと思う。カムバーク!一般常識ー!ていうかこの世界の一般人常識なんだかんだ言って知らないよーーーー!カモーン!一般常識ー!

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

「シャッキー’s ぼったくりBAR?」

 

 聞いたことも無い不思議なネーミングセンスに首をかしげながら不思議お爺さんの後ろに続く。あら、中は結構普通。

 すると黒髪ショートのお姉さんがタバコをふかしながら顔を出した。

 

「おかえりレイさん…っと、後ろの女の子は?まぁた引っ掛けたの?」

「あァ引っ掛けてきたさ」

「どちらかと言うと釣られたです。ご飯のお誘いに」

「随分とおませさんなのね」

 

 精神年齢が肉体年齢を追い越してますから。多分。

 

「ちょっと待っていてね、何か作るから」

「ありがとうございますです」

「レイさん、犯罪はダメよ」

「犯罪者が犯罪者に向かって言う言葉では無いな」

 

 ククク、と堪えるように笑う姿を横目で見ながらカウンターに座る。

 ん?〝犯罪者が犯罪者に?〟

 

「………………………海賊?」

「おや、バレてしまったか」

「自分でバラしたんじゃない」

 

 海賊とは思えないくらい穏やかな会話をする店主さんとレイさんと呼ばれた人。

 

「ねェキミ、名前は?」

「一般人A……以外の回答が欲しいな」

 

「あー…じゃあリーで」

 

 シャボンディ諸島は海軍本部と近いから名前バレ怖い。海賊()と分かった以上なるべく個人情報の漏洩(ろうえい)は防いでおこう。

 

「レイさん、は普段何を?」

「〝じゃあ〟というのはスルーした方がいいのか。……私は普段コーティングをしてるよ、コーティング屋のレイさんで通ってる。腕は一流だからコーティングが必要な時は頼ってくれ」

 

 海賊がコーティングを?怖いなぁ。実に怖い。

 

「リーちゃんは普段何してるの?」

「えっと…、書類仕事(お手紙を書く事)脱走兵捕縛(鬼ごっこ)とか七武海から逃亡(隠れんぼ)、それに世界規模配達(お散歩)です」

「あら、随分アクティブなのね」

「えへへ………………はァ」

「随分深いため息だな」

 

 辛い現実。どうしようもう本気で泣きたくなってくるよ。

 

「レイさんは海賊現役?時はどのような船に?」

「船?……そうだな、アホでバカでヘタレな船長と」

 

 よく分からないが船長さん可哀想に。

 

「愉快な仲間をまとめて調きょ…指導しながら楽しい日々を送っていたさ」

「今凄く悲しい言葉が」

「世の中には知らない方が幸せな事があるんだよ」

「は、はぁ……」

「特に私の事を何度も『腹黒』だと言ってきた盲目野郎には念入りに調教してやったさ」

「隠す気皆無」

 

 何度も言って何度も調教されるくらいなら学ぼうよ盲目野郎さん。

 

「あァ…思い出すだけでぶん殴りたくなってくる」

既視感(デジャヴ)

「私はね、人の嫌がる顔や悔しそうにする顔が大好きなんだよ」

「うわー…どっかで考えるすた感じー」

「人をおちょくったりした時の相手の顔の歪み具合を見るのは楽しいだろう?」

「常識的に考えて私の如く幼き相手に聞くはダメだが悔しながら全力で同意」

 

 ダメだ……この爺さんと私の思想が被る……!

 

 だが油断したらダメだろうな。調教したのが『船長と愉快な仲間』なら『副船長』はどこに行ったのか。愉快な仲間の方に含まれてある可能性もあるが船長にそんな事が出来るのはレイさんが『副船長』である可能性が高い。大体70%の確率で。

 

「リーちゃんこれどうぞ、有り合わせで悪いけどね」

「ありがとうございます!」

 

 店主さん──多分名前はシャッキーさん──が炒飯を作って私の前に置いた。すっごい美味しそう。

 

「いただきます!」

 

 スプーンで掬って1口食べてみる。

 ふかふかのお米に卵がまとわりつきてて塩が卵の甘さを引き立ててる…ご飯に絡むお肉の風味、焼豚だろうか。……はァ、し・あ・わ・せ♡

 

 海軍本部のご飯みたいに量産式でも無い、サッチさんみたいに有り合わせを活用する様なご飯でも無い。これは、これは!

 

「家庭料理の味…!」

「美味しいの?美味しくないの?」

「美味しい一択!」

「フフ、それは良かった」

 

 惚れる。

 

「お嬢さんは不思議な喋り方をするんだね」

「へ?あー…はい、これでも良くなったですよ?山奥で暮らすてた故に言語不自由で」

 

 原因は決してコルボ山のせいじゃないけど説明の仕様が無いよね。うん。

 

「ふむ、山奥で」

「はい!エースとサボとルフィと…──」

「──エースだと!?」

 

 ガタッと立ち上がったレイさんに凝視される。え…まさか、ツンデレに毒されたパターンの人第二号?

 

「まさかポートガス・D・エースの事か!?」

 

 あぁ…毒されたパターンの人だ。逃げてエース。出来れば一生ここに寄らないで。

 

「エースと何の関係……」

 

「…ポートガス・D・エースで間違いない様だな」

 

 っな!この人上手だった!

 

「……ッ」

 

 落ち着いた様でレイさんは座った。

 マズイ、マズイマズイマズイ。

 もしもこの人がエースの正体を知っていて、親の復讐もしくはエース本人への復讐を企んでいたのだとしたら…、私の身が危険!人質危険!

 

「落ち着け」

 

 とにかく距離を取ろうと立ち上がればシャンクスさんの覇王色なんか比にならないくらいビリビリとした重い空気に当てられる。

 

「…ッは、…は……っ!」

「…! 覇王色に耐性があるのか!?」

 

 ンなものあってたまるか!

 

「耐性があろうが無かろうがいい。こっちは情報を欲しているんだ」

「…ッ、し、るか…!」

「ポートガス・D・エースとの関係はなんだ」

「うる、さ…い…っ!」

 

 すごい威圧に呼吸が浅くなる。

 なるほど、これが覇王色。シャンクスさんが使ったのも、エースがシャンクスさんを人攫いだと勘違いした時に使ったのも全部まだまだの段階の覇気だったのか!

 

「答えてくれないともっと覇気をぶつける事になる」

「……ッ」

 

 細い目からギロッと光が突き刺さる。怖い。いや結構まじで怖いですから子供相手にそれは無いと思います。

 

「早く言え」

「──じゃあとっととその威圧を解けこの腹黒」

 

 新たな登場人物が現れ、呑気な声が場違いに店の中に落ちる。

 げしっ、て音がしたからレイさんをその人が蹴ったんだろう。

 

「ハッ、ハッ、ハッ…!」

 

 緩まった覇気に安心して呼吸を正す。苦しいなド畜生。意識を飛ばす気満々だっただろこの野郎。

 

「おい腹黒。こっちを見ねぇまんま止まるな気色悪い」

 

 会話を察するにレイさんを腹黒と呼ぶのは海賊自体に調教した『盲目野郎』だと。

 

「………」

 

 その男を見た瞬間私は箒を構えて

 

「「死ねぇぇぇえ!」」

 

 顔面に向かってぶん殴った。どうやらレイさんと同時の様でお互いの顔を見てびっくりする。

 

「…ッ、テメェら…!折角止めてやった俺に向かって……!」

 

 殴られた()()()()()()は鼻を押さえながらゆっくり起き上がって私とレイさんを紺碧の目で睨みつけた。

 

「ッの腹黒野郎…!」

「ホォー…私を目の前にして()()を言うとは随分と命知らずらしい……」

 

「まさか………盲目野郎?」

 

「おいゴルァ小娘!黙り腐りやがれ!」

 

「まだ殴っても心を痛まない程度に元気はある様で安心したよフェヒター…」

「テメェも相変わらずムカつく顔してんな腹黒」

 

 目の前にいる男はどう考えても私をめんどくさい人生にした原因の1人。フェヒ爺だった。

 

「………………まてよ」

 

 盲目野郎=フェヒ爺=海賊王の船員

 

 なら

 

 盲目野郎が愉快な仲間だったレイさんの所属する船は……?

 

「………………………海賊王の船員?」

「チッ……バレたか。おいどうしてくれるフェヒター」

「俺のせいかよ!つーか人の話を頼むから聞けよ!何で小娘脅しかけてんだよテメェは!俺は助けた筈なのにどうしてぶん殴られる必要があるんだよ糞が!」

「「フェヒ爺/フェヒターのせい」」

「殺す…まとめてぶち殺す…!」

 

 フェヒ爺がそう宣言した瞬間レイさんが関節技をキメにかかった。

 

「いででででででででで!ぎぶ!ギブ!」

「それでお嬢さん。エースとどういった関係だ?」

「あ、海賊王の船員なれば…兄妹ぞ、義理の兄妹。私エースの妹」

「あぁなるほど…「おい聞いてんのか白髪(しらが)っでぇぇえ!」…すまないな脅してしまって。ロジャーの事はどうでもいいんだがロジャー海賊団の船員の情報が少しでも欲しかったんだよ」

 

 表情をピクリとも変えずに笑顔を貼り付けてフェヒ爺の関節をやっていくレイさんがカッコイイ。いくら頑張ってもフェヒ爺には敵わないと思ってるのにそんな彼を一瞬でこんな状態にするとは…!

 

「……尊敬」

「そりゃありがたい話だ」

 

「ふざけんなよ小娘!」

 

 正直さっさと落ちればいいと思う。

 

「それじゃあ改めて…でも無いな。自己紹介といこうか。私はロジャー海賊団副船長 シルバーズ・レイリー。お嬢さんは?」

「私はえーっと、モンキー・D・リィン……かっこかり?ガープ中将の義理の孫でエースの妹です。えと、親は──」

「──絶対言うな小娘!絶対に!こいつにだけはいでぇぇえ!糞が!」

「続きをどうぞ」

 

 私の自己紹介を中断しようとしたフェヒ爺が更に関節技をキメられて叫んだ。この状態で表情を崩さないレイさんが素晴らしい。

 

 

「あ、はい…。親は戦神シラヌイ・カナエ、ガープ中将より確認は取るしたです」

 

 

 レイさんはその言葉にカッ!と目を見開いて私を見た後フェヒ爺を見た。

 

「まてレイリー。誤解だから、頼むから殺気をガンガン当てるな…!」

「お前がカナエを………?」

「アホな事言うんじゃねェよ!っ、だから余計な誤解を生む前に言うなっつって…!」

「お前がカナエを………?」

「おいおいおいおい…壊れてんじゃねェよ…くそが…もう泣きてェ…」

 

 よく分からないがレイさんが何かを誤解してその八つ当たりというか被害者にフェヒ爺が選ばれたのが分かった。

 

「私のお母さん…可哀想に…ぐすん」

「ぐぇえッ!ギブ!無言で攻撃を加え…っておいい!覇気まで使うんじゃねェ!」

 

 今までフェヒ爺には散々やられたんだから間接的にでも無茶苦茶されてるとスカッとするじゃん?

 

 私はシャッキーさんの料理を味わう為に席に戻った。

 

「リーちゃん…随分と小悪魔ね」

「…………さァ?」

 

 私子供だから分かんなーい。

 

 




リィン<<フェヒ爺<<(越えられない壁)<<レイリー
昔の仲間と絡むとフェヒ爺の雑魚感が増幅する不思議現象

レイリーさんはロジャー海賊団で帝王的な存在だと個人的に嬉しい。ドSキャラだと凄く嬉しい。


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第70話 上り坂 下り坂 ま坂

 

「で。質問に答えてもらおうかフェヒター」

 

 王様のように椅子に座り正座をしているフェヒ爺を見下ろすレイさん。

 今まで私に散々してきたからとても気分が良いよフェヒ爺!

 

「小娘…そのムカつく顔をやめろ…」

 

「 フ ェ ヒ タ ー ?」

「…はい、何でしょうか副船長様」

 

 おお!写真に収めておこう!ルフィやエースに会ったら絶対にみせよう!絶対に!ついでにレイさんもセットで。

 

「まず質問だ。お前が姿を眩ませた後どこに居た」

「……国に帰るのもアレだし…麦わらも居ねェし仕方ねェからゴア王国に…」

「よりにもよってそこか」

「っぐ、ガープの野郎が居たのは予定外だったけど1人で大人しく静かに海賊稼業と離れて清々してました!」

 

 なんだ、フェヒ爺はゴア王国出身じゃないのか。

 にしても麦わらって誰だ?シャンクスさん?いや、でもシャンクスさんの事は小僧って言ってた様な…。

 

「お前の事は正直どうでもいい」

「質問したのはテメェだろ!?」

 

 私の中でフェヒ爺のイメージがガラガラ崩れてるのが分かる。そして覇王色の覇気ぶつけられたのにレイさんを尊敬してる自分がいる。世の中何が起こるか分からないものだ…。

 

「リーちゃんジュースお代わりあるけどいる?」

「あ、お願いするです」

 

「じゃあ次。お前が知ってるカナエの情報を全て話せ」

「いや、俺は娘がいるって事と今インペルダウンに入れられてるって事しか知らねェって」

「………役立たずめ」

「テメェは小娘がいる事すら知らなかっただろう!?」

 

「父親はお前じゃないだろうな」

「どう考えても違ェよ!全く覚えが無い!…まァ誰か、は察してるが…」

 

「私以外居ないだろ」

 

「……お前のその自分を全く疑わない所が長所だと思うさナルシスト」

 

 レイさんがハッキリ言ってフェヒ爺が否定しない、となると。まさか、まさかまさかまさか!え、待って、まさか!

 

「あ、れ?──小娘は父親が誰か知らなかったり……」

「…………知らぬ。だった」

 

「リィン、私がキミの父親だよ」

 

 

 世に言う〝海賊王の右腕〟〝冥王〟などと恐れられる大犯罪者が私の父親ぁ!?母親が戦神な時点でまともな人間じゃないだろうと思ってたしフェヒ爺じゃなければ別にいいかとか思ってたけどまさかの副船長!?え、こんなあっさり分かっていいの!?

 

 助けてエース。

 

「おーい、リィン?」

「…は!な、内密に!内密にお頼み申すぞろろんぴー!」

「あー…口調戻ってやがる」

 

 口調が戻るのは危険だ、私は一応王族相手にする事があるから口調には気を付けないと。

 

「く……!フェヒター如きに出し抜かれるとは…!」

 

「レイさんって壊れる?」

「まァ時々ね」

 

 シャッキーさんにこっそり聞けば否定されなかった。私の中での冥王という伝説はフェヒ爺同様ガラガラと音を立てて崩れてる気がする。いや、確実に崩れてる。

 

「安心しろ、性格面はとーーってもそっくりだよ、テメェらは」

 

「…………」

「微妙な顔をするな助けを求めるな。喜んでる顔をしてくれなきゃお前の横で殺気振り撒いてる野郎に殺される」

「別に殺すされても私は…」

 

「お前自分の師匠の対応酷くねぇか?」

 

 久しぶりなのにとブツブツ言ってる人をガン無視する。キミが渡した鬼徹のせいで私が目をつけられる事になったと言うのに。

 

「私師匠と認める否定」

「フェヒターくん…いい加減私の嫁と娘に手を出すのをやめてくれないか」

「嫁じゃねェだろ…!結婚してねェだろ!」

「私には敵が多すぎて困る…どっかの大仏然りテメェ然り」

「 一 緒 に す る な !」

 

 大仏?大仏って私1人しか思い浮かばないんですけど大仏ってあの仏?仏様?

 

「セ、センゴクさん…?」

「あ、知っていたのか。そうかお前海兵だもんな」

 

「……。」

 

 レイさんが固まった。びっくりするくらい固まった。

 

「私の可愛い娘がセンゴクの…下に…?………私の娘とのラブラブライフを邪魔するのかセンゴクッ!」

「シャッキーさぁぁーん……」

「あらあら、こんなお父さん嫌ね。無駄に束縛力がある分タチが悪いわ」

 

 シャッキーさんの好感度が私の中でうなぎ登り。レイさんの好感度はダダ下がりだけど。

 

「リーちゃんは?海軍のどこで働いているの?」

「本部の雑用です。それと大将!」

 

「「「………え?」」」

 

「本当ですぞ?MC(マリンコード)04444海軍本部リィン大将でござります」

 

 

「……お前どんだけ出世してんだよ」

「流石私の娘だ!」

「海軍本部は何を考えているのかしら…」

 

 上からフェヒ爺レイさんシャッキーさんの反応。

 シャッキーさんの反応が一番好き。

 

「私が手に入れられなかった情報の一つとして大将女狐…。まさか、こんな所に居ただなんてね」

「シャッキーさんは情報通です?」

「えぇ、情報は時に自分の命を左右するからね…、話の流れから察するに……あなたは表向きは雑用として過ごしているのかしら」

「はい、その通りです。部屋も無ければ(大将女狐)が出る出番も出撃も無きです故に情報が圧倒的に少ないと思うです」

 

 納得したらしくニコニコとした表情を浮かべている。カッコイイ女の人本当にカッコイイ。頭悪いな私、うん。

 

青い鳥(ブルーバード)って情報屋知ってる?」

「まァ、それなりに」

「不思議よね。海軍本部の情報を売るだなんて…貴女(女狐)の正体はバレているのかしら」

「あ、バレるも何も青い鳥(ブルーバード)所属です」

 

 ちゅーっとジュースを飲むと周囲の時が止まった。まァ多分バレても大丈夫でしょ。

 

「アッハッハッ…!レイさん、貴方の娘最高だわ!本部も思わないでしょうね、大将が情報屋として周囲と通じてるだなんて…!」

「お褒めにレンタル恐悦至極でごぞりますた」

「〝レンタル〟じゃなくて〝あずかり〟だからな」

「アッハッハッハッハッ!」

 

 シャッキーさんは結構笑い上戸らしい。腹筋大丈夫だろうか。

 

「リーちゃん1人の存在に世界がどれほど影響を受けているか…!」

 

 確かにかなりの影響力がある筈。

 三大勢力の一つ、海軍本部の最高戦力と数えられる大将の地位につき。三大勢力の一つ、七武海の殆どに()()()ながら気に入られ繋がりを持ち。三大勢力の一つ、四皇の2人と繋がり。革命軍の新勢力やそのトップの息子や海賊王の息子と義理の兄妹で。母親と父親はロジャー海賊団初期メンバーで。王族にもツテはあり。青い鳥(ブルーバード)として働き支持を得ている。

 

 (ほとん)どが成り行きで作られた影響力だけれども、これ私魔王にでもなんでもなれるんじゃね?お前に世界の半分をくれてやろうってか。

 

「末恐ろしいわ……」

 

 一呼吸置いてシャッキーさんが呟く。私はきっとシャッキーさんが思ってる以上に影響力があると思う。

 

「私の存在の奥底が知れたならば、きっと政府は秘密裏に私を処分する、でしょう?」

「自分の置かれた状況をハッキリ分かっている様で一安心したわ」

「残念ながら私は素直に従う気は皆無です。その様自体にならぬ様、私はツテを作るした。四皇七武海王族()()()、世界で()が存在する人間に」

 

 ギョッと目を見開かれても私の口は止まらない。

 

「私、他人より自分が大切故になんでも利用するですから」

 

 生憎世界の為に死んでやるだとか迷惑掛けるからこの身を差し出すとか微塵たりとも考えれない、他人を犠牲にしてでも生き延びてやるって精神ですからね。

 

「それに、最強のパパが私には付くですから」

 

 ニッ、とレイさんに向けて笑ったら四皇でも七武海でもセンゴクでも斬ってやるという頼もしい反応が得られました。シャッキーさんと目を合わせ一言呟く。

 

「ね?」

 

 利用出来るでしょ?と。

 

「女って怖ェ………」

 

 そこら辺で呟いてる剣帝殿はガン無視します。

 母親もチートだと思ったが私も大概チートだなー…。とりあえず海楼石の錠が使えないっていうのは強いと思う。うん、大丈夫きっと生き残れるから。

 

「心配は、しなくて良いみたいね」

 

 私とエースの血筋のせいで他人が怖いと思う気持ちは似ているけれど。結構違ってたりする。

 きっとカナエさんも生きているしレイさんだってこんなに元気、無条件に守ってくれる存在がいるっていうのは心の平穏本当に。

 

「あ…」

 

「どうしたの?」

 

「忘れるすた…」

 

「何がだ?」

 

 ルージュさんの家に泊まった時手に入れた写真、別にしてアイテムボックスに入れておいたから渡すの忘れてた。

 

「これです」

 

「あら」

「うわ」

「…フッ」

 

 取り出して3人に見せればシャッキーさんは驚いた顔、フェヒ爺は苦笑い、レイさんは嬉しそうに目を細めた。

 

「ルージュの撮った写真か……また随分と懐かしい……」

「シャンクスさんとカナエさんくらいしか顔の判断不可能ですがロジャー海賊団ですよね?」

「リィン、この盲目野郎もきちんといるよ」

「言うなよそれを…、ったく、こりゃ結構珍しいな──麦わらに腹黒にバカにアホに岬野郎に小僧に赤っ鼻に大食いに引きこもりにイカサマ野郎に……」

 

 フェヒ爺は人を名前で呼ぶという頭は無いんだろうか。

 

「あの、戦神は何の能力者ですたか?」

「カナエがか?超人系(パラミシア)チュウチュウの実の吸収人間、なんでもかんでも吸引してしまうんだよ」

 

 

 …私の災厄吸収能力ってこの人から来てるんじゃないだろうか。確か幸運体質だったよね、え、私が反動で不運体質になった?ちょっと酷くない?

 

「良く若さと運を吸引していたんだがそれに負けないくらい厄介事に飛び込む性格でね、尻拭いはもう慣れたものだ」

 

 最早自業自得。

 

「パ、パワフルなお人です、ね」

「リィンは何かの能力者だったりするのか?」

「うーん…」

 

 一応表面上は能力者だけど能力者じゃ無いんですよね…説明が難しい。どうしたもんか。

 

「小娘?」

 

 手のひらをフェヒ爺に向けて集中してイメージする、相手が吹き飛ぶ様な風を──起こす!

 

──ブワッ!

 

「うわ…ッ!」

 

「……………大体この様なる感じです」

「彼を実験相手に使ったのは正解だな」

 

「俺ァお前ら親子が嫌い……」

 

 昔の威厳もチリに等しいフェヒ爺が唸ってる。頑丈なんだね、様は。

 

「フェヒ爺…3代鬼徹はどの様に手に入れるした?」

「ん?……………………どうだったか」

「リィンこいつは本気で忘れてるから期待しない方が身の為だ、無駄だからな」

「ほんとに俺の事嫌いだよな」

 

 ギャーギャー騒ぎ出した男2人をシャッキーさんと共に眺める。

 

「男ってバカね…」

「………同意」

 

 私とシャッキーさんの仲が深まった瞬間だった。

 

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

「お世話をかけますた、私は仕事ある故にもうそろそろ戻るです」

「あら、何のお仕事?」

「……ゴミ掃除?」

「一人で平気?レイさんとフェヒターくんを味方に付けたら百人力どころじゃないわよ…?」

 

 どうやらゴミ掃除の意味をきちんと理解している様だ。

 

「…………………まぜるな危険」

「よーくお分かりで」

 

 フェヒ爺とレイさんは合わせちゃダメだ。かと言ってそれぞれどちらかと私が1人対応するとはとてもめんどくさい気がする。

 

「それでは失礼しますた……──2年後、再び」

「あら」

「今度は、ルフィ…兄と共に!」

「そうなったらご馳走するわね」

 

 ペコリとお辞儀をしてシャッキーさんと別れの挨拶をする。

 

 絶対にまた来ます。私は頑張ります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──そして時は過ぎる…、波乱な日々がリィンに襲いかかる事は

 予想は簡単だったかもしれない。



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東の海編
第71話 冒険の夜明け


 あの日から10年。

 この場所で麦わら帽子を受け取り、返すと誓い、もう10年の月日が流れた。

 

 麦わら帽子を被った少年は小舟に乗って村の人達を見回した。

 

「しししっ、いってくるな!」

「無事に帰ってくるのよルフィ」

 

 ルフィ──そう呼ばれた少年はまだ見ぬ海の向こうに期待を込め、出航した。

 

「見てろよシャンクス…!俺は海賊になるんだ!」

 

 先に海を出た兄妹、彼らに再び海で出会える事を祈って。

 

 

「やー…」

 

 ドテッ、と小舟に座り上を見ると太陽が顔に当たった。麦わら帽子で隠れて見えなかった左目の下に付いた傷が照らされる。

 

「今日は船出日よりだな〜」

 

 呑気な言葉が出た。

 カモメが悠々と空を泳ぎ、雲は大きく膨らむ。

 パンみたいだと思ってしまった、食欲は偉大なのだから。

 

 

 

 

 

 

 ルフィが出航した港の側の店に数人の人影、今日この日までルフィ達を放任主義ながらも育ててくれた山賊だった。

 

「やーっと行ったかい、清々するね」

「でもでもお頭〜、涙目じゃ二ーですか?」

「うるさいよバカタレ!」

 

 背の低い男がお頭のダダンにツッコめば拳が頭に返ってくる。痛みで目に涙を溜めながらも仲間達と笑い、先行く素直になれないお頭の後ろをついて、アジトに戻るのだった。

 

 彼らは今頃海の上にいる子供の事を思い浮かべた、うるさいのがいなくなるが少し寂しいと思いながら。

 

 

 

 

「海賊王に、俺はなる!!」

 

 その誓いは誰にも聞こえなかったが、誰もが知っている誓いだった。

 

 

 

 ==========

 

 

 

「ふんふんふふーんふんふふーん」

 

 おっす!オラリィン!

 やっと海軍本部を抜ける事が出来たのがルフィの出航予定日、いやー、間に合ってよかった。

 

 高すぎたら視界的に自分が死ぬのでガサガサと森の木々を避けながら低空飛行する。しばらく来ていなかったけどコルボ山の地形は何となく覚えていてもう少しで懐かしい山賊のアジトが見えてくるはず。

 

 

 最近海軍本部はスモさんが東の海(イーストブルー)のローグタウンに行ってしまったし七武海皆忙しそうで嬉しい事に暇だったんだよね。スモさんが居なくなったのは本当に悲しい。今度会いに行こう絶対。

 

 

 

──プルプルプルプル…

 

 頭に乗った電伝虫が誰かからの連絡をキャッチした。

 今度は誰だ。

 

「もしもし」

『……………リィン、海軍辞めたって本当か』

「あら、クロさん。誠の事実ですぞ」

『俺の所に来る気になったか?』

「クロさんちなみにそのセリフ本日6回目」

 

 ちなみに1番はドフィさんで2番がミホさん、3番海賊女帝に4番ジンさんで5番がくまさんだ。

 ジンさんやミホさんには驚いたけど断ったよ。条件に合わないし。海賊女帝に至っては命の危機しか感じられないから全力で拒否させていただいた。

 

 

 『私、本日海兵辞めるです!』って雑用部屋の人達に言ったらガチで泣かれた。私ったらモテモテ……。はぁ…。

 

 

『お前が海軍本部に来てもう10年か』

「長いですねー」

 

 話に集中しそうだから仕方なく箒を降りる。徒歩かー、後もう少しだし頑張ろう。

 

『将校に付く前で良かったな。そもそも能力者は入隊10年でどこか将校にならなきゃならなかった筈だ』

「うげ、何ですその束縛法」

 

 ここに来て衝撃の事実。

 昔『海賊王の子供がいるかもしれないから気を付けとけよ』的なのを総帥に言われた日黄猿であるリノさんに言われた『後もう少し』ってのはこの事だったのかな。

 

 余談だけど私がまだ海軍本部に属している事を知ってるのはセンゴクさんと大将中将さんとスモさんヒナさんくらいだ。後は王様とか以外知らないと思う。……必然的に七武海の中で唯一世界会議(レヴェリー)に参加出来るドフィさんは知ってるんだけどね、正体。

 

『…? 今森か?』

「はい、里帰りです〜」

『……襲われないように気を付けろよ』

「妙なるフラグ建設禁止」

 

 コルボ山タダでさえ猛獣多いのにこの人は。

 

「クロさん最近忙しい?」

『寂しいか』

「全く」

『……テメェ…!』

 

 ハッキリ言ったのに怒られた。いやハッキリ言うから怒るのか。

 

「ここ1年ほど会うして無きですよ?」

『お前も忙しかったらしいじゃねェか』

「……ドフィ(ストーカー)さん情報ですか」

 

 七武海嫌い。

 

 グチグチいいながら進んでいくと久しぶりに見るアジトが見えた。

 多少違いはあるが基本変わらない姿に懐かしさを覚える。

 

「クロさん私目的地到着故に切るです」

『……あァ。俺ァ今アラバスタに居るから暇があれば寄ってけ、ご馳走する』

「素敵愛すてる」

『………………お前本当に大丈夫か?』

「ご飯をくれる人は素敵です」

『究極に心配になるから知らない奴にほいほい付いて行くなよ』

 

 クロさんは心配症ですね。そんなに優しくて海賊稼業やっていけるんだろうか……。口に出したら絶対殺される。

 

「それではまた」

『あァ』

 

──がちゃ…

 

 電伝虫の受話器を本体に取り付けると電伝虫をアイテムボックスにしまう。()()()()()を深く被り、扉の前に立つと咳払いして声を大きく張り上げた。

 

「こちら海軍本部の大将である!ここで海賊王の息子を内密に育てる重罪を犯したという事実は裏付けられている!無駄な抵抗をやめ速やかに投降しろ!」

 

 私がそう言えばアジトの中でドタバタと慌てた声と足音が聞こえ、扉がそっと開いた。

 

「………あ、あたしらはガープの奴に言われて無理やり…!」

 

 自分より背の高い、記憶にある姿より老けた彼女を見て思わず笑みが零れる。

 あの頃と違う。

 

「………あんた、まさか……リー?」

 

 でも変わらない金髪を揺らしながら笑った。変わらないおかしな言葉で。

 

「ただいまご帰還ぞり、ダダン!」

「脅かすんじゃ無いよ糞ガキ!」

 

 

 

 ==========

 

 

 

「じゃあリーは本部で働いてたのか」

「うん!センゴクさんからの頼みで(世界各地)色々な場所へと配達すたぞ!」

「……海兵もやるじゃ二ーか、リーのおかしな言い方をここまで直せるとは」

 

「……。本日は大変とお日柄よく皆々様お元気な様子で安心いたすました」

 

 嫌味ったらしく(私が)王族に使うセリフを考えて喋れば、おおー!と感嘆の声が漏れた。私だって考えればちゃんと喋れるんだぞ!?ただ考えてない時に「ぞ」とかおかしな言葉が出てくるだけで…、慣れって怖い。

 ちなみに正しい喋り方だとは一言も言ってない。

 

「ったく、大将だなんて驚かすから寿命が1年減ったね」

 

 会話に参加しなかったダダンがむくれて呟く、私は即座に一つのカードを取り出して提示した。

 

 

『海兵証 リィン

 MC04444 階級 大将』

 

「本物ですが?」

 

「「「「「な、何ィィィ!?」」」」」

 

「ところでルフィは?」

 

 驚く声を無視して本題に入ると数拍置いてダダンが答えた。

 

「もう出たよ」

「何ィィ!?」

 

 どうやら今度は私が驚く番の様だ。

 

 ていうかいつの間に!?私海から飛んできたけど船の陰とか全く無かったよ!?どうして!?え、まさか反対側だった!?

 でもフーシャ村には港は一つしか無いし海に接してる面は一つしか無かったし…。なにあの子雲隠れの術とか使えるの?忍者かよ。

 

「止める無ければ…」

 

 奴が暴走する前に止めなければ。

 

 ルフィは10年前とても弱かった。弱いけど暴走癖があるんだよ!奴を一人にしてたまるか!

 

「ルフィの目的地は!?」

「そんなの誰も分からないさ」

「そうですた!彼はそういう人ですた!」

 

 停止の言葉を無視し、休憩なしの連続飛行に泣きながら箒に飛び乗った。

 

 

「くたばるなヨー」

「誰だあんな汚い言葉使い教えたのは…って飛んでる!?」

 

 とりあえず権力という武器を最大限に使って『麦わら帽子を被った目の下に傷のある青年』の情報を集めよう。この近くの支部ってどこだったかな…。流石に海賊志望の人間が支部のある島に訪れる可能性は低いけど(わら)にでも(すが)る。

 と言うかルフィは常識に当てはめたらダメな存在だと思う。

 

「さらばぞダダン一家!また逢う日まで無病息災ヒャッホーで!」

「色々おかしい!」

 

 私はどうやら久しぶりに会えた人達のせいでテンションが上がってる様だ。

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

 同時刻、リィンの探し人である青年は早速問題を起こした後だった。

 

「ルフィさん、ルフィさん」

 

 ピンクの短い髪がルフィの視界に入る。

 

「どうしたんだコビー?」

「改めて、ありがとうございます。ルフィさんのおかげで勇気が出せましたから」

 

 短く返事をすれば小舟の上でコビーと呼ばれた少年がヘラっと笑い感謝を述べた。

 

 つい先ほどまでコビーは海賊の船に居た、2年ほど前に自らのドジで海賊船に誤って乗り込んでしまった事からずっと航海士兼雑用として。

 自分の夢である海兵になるということも諦めかけていたその時、渦に巻き込まれたという麦わら帽子を被った青年が自分の人生をひっくり返した。

 

「気にすんな!」

 

 そもそもルフィ自身は出航のすぐ後、大渦に巻き込まれ、樽で流された先で偶然助けただけに過ぎない。

 

「俺も助けてもらったしな」

 

 ししっ、と歯を見せて笑う姿にコビーは更に好感を高める。

 

 本当にこの人は自分にとってヒーローだ。

 

 ルフィも又、コビーに好感を持っていた。

 きちんと自分の夢を語り、本人が怖いと思った船長…ただのいかついおばさんだったが、喧嘩を売った。『──1番イカついクソばばあです!』

 その瞬間からルフィはコビーに対する認識を改めていたのだ。

 

 海賊王を目指す男と海軍大将を目指す男、敵対関係であるのに友人という不思議な関係を生み出したのは自由奔放なルフィだからこそ出来たのかもしれない。

 

「そう言えば今から行くとこどこだっけ?」

「シェルズタウンですよ、そこに海軍支部があるのでそこでお別れです」

「そっかー…頑張れよー?」

「はい!もちろんです!」

 

 コビーはふと思った事を口に出した。

 

「……ルフィさんもしかして弟さんか妹さんがいるんですか?」

「ん〜?いるぞ〜?よく分かったな!」

「なんとなく、そう思っただけです」

 

 頭をかきながら照れたように笑う。ルフィはそんなコビーを見ながら自分の兄妹を思い出した。

 

「妹だけじゃなくて兄ちゃんだっているさ。エースにな〜良く言われてたんだよ…『ルフィお前は兄ちゃんなんだろ!?泣き虫は卒業しろッ!』…って」

「ルフィさんが、泣き虫ィ…?」

 

 コビーが信じられないという目をしてルフィを見ればあっけらかんと言葉を続ける。

 

「まぁな!皆先に海に出たから俺も頑張らないとな〜…、元気にしてるかな〜」

「ルフィさんのご兄妹ならきっと元気で──」

 

 コビーは再び思考を巡らせる。

 さっきルフィさんは自分の兄の事をなんと言った?

 

 とても聞き覚えのある名前にブワッと目を見開く、震えながらもその名の正体を聞いた。

 

「ままままままさか…え、エースって白ひげの2番隊隊長の火拳のエースじゃ……」

「白ひげ…?火拳…?」

 

 残念な事にルフィは海に詳しく無い。新聞だって好んで見る事が無いのだから、白ひげや火拳の名前に覚えなど無かった。

 

「さァ?わかんねェや!」

 

 能天気、お気楽。そんな言葉がコビーの頭を掠めたが口に出さずグッと我慢した。

 

「……この人これから先、生きていけるんだろうか…」

 

 色んな意味で心配になった心優しき少年は代わりにこっそり呟く。

 

 どうかこれからルフィさんがいい仲間に出逢えます様に……。

 

 

 

 

 敵を応援する彼はどうも根っからこの性分なんだろう。

 




原作開始です。ここまで長かった!皆さんお付き合いありがとうございます…!
またこれからもよろしくお願いします!

アンケート結果(最終)
1位ロリコ…クロコダイル

しかしタグにもあるように恋愛要素は所詮薄味です。あまり甘々なのを期待しないでくださいませぇぇえー!
たくさんのご協力ありがとうございました!


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第72話 お得意の交渉術

 シェルズタウン海軍第153支部。省略名称E-15。支部長はモーガン大佐、以下将校は無し。

 

 聞く所によればモーガン大佐は住民に対して重い税を掛けている、らしい。そして彼の一人息子であるヘルメットは虎の威を借る狐状態。

 

 

 

 

 

 お昼ご飯を食べるついでに店員さんに聞いてみればボソボソと恐れるように『気を付けて』と話してくれた。

 人員不足は分かってますが人選何とかならなかったんですかね……。

 

 ま、私には関係無いからいいか。

 

 

 しかし気を付けてね、か。全く…、むしろ私が権力という力を使えば気を付けなければならないのは向こう(モーガン大佐側)なのに。

 

 

 とりあえず難しい性格をしてそうなのは分かったから盛大にMC(マリンコード)を使わせて貰おうか。

 眼には眼を歯には歯を権力には権力を。

 

「…──…──」

「──…─………」

 

 街の人達の話し声に耳を傾けながら麦わら帽子の情報を探す。

 

「流石に、居らぬか……」

 

 やっぱり支部があるような島には寄らないかな…?

 

 会話の中で『ロロノア』とか『海賊狩り』とか聞こえて来た。どうやら例のヘルメットという七光りに賞金稼ぎが捕まってるらしい、が。

 賞金稼ぎが捕まるのはおかしい。

 犯罪を起こした場合は捕まるけど話を聞く限りそんな事件の可能性とかは浮かんでこない。

 

 ちょっと話聞いてみるかな。もしいい人そうなら海軍に引き入れて私の部下にして書類押し付けよう。潜入捜査って後始末とか書類仕事がどんどん増えていくらしいからな。釈放という恩を着せて馬車馬の如く働かせよう。

 

「レッツゴー!」

 

 海賊狩り、ロロノア・ゾロがいるという噂の磔場に向かった。捕まえるぞ私の為の生け贄ー!

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

 

「誰だ、お前」

 

 磔場に堂々と潜入した私は1人ポツンと佇む(縛り付けられる?)男と対面した。

 多少の殺気を見せれば私が怯むと思ったんだろうが…甘い。グラブジャムンより甘い!私はもっと怖い殺気に触れてきたから子猫が逆毛立ててる位にしか思えない。

 

「私はリィン」

「何しに来たんだ…、ここにいると七光りのバカ息子に殺されるぞ」

 

 ふいっ、とそっぽを向いて呟く言葉に私は思わず驚いてしまう。要するに『危ないから近づかない方がいい』って事ですよね。賞金稼ぎという部類に初めて関わったが思ったより優しい人間の様で一安心。

 

「人探し、の為の情報交渉と…スカウト?」

「……は?」

 

 意味がわからないと言う雰囲気が見て取れる。心做しか呆れた表情を浮かべてるのは気の所為だと思いたいです。

 

「ロロロアさんは何故ここに居るです?」

「 ロ ロ ノ ア ッ!──別にお前には関係無いだろ」

「モーガン大佐に用が存在する」

「……!」

「ろろろの…ロロさんをはりつけたがモーガン大佐の息子なれば、プライドの高い小動物がテリトリーに部外者が入るなれば、自然と出てくる」

「ロロノア、…しかしなるほどな、直接『会わせろ』つったって門前払いされるのがオチってわけか。なら自分が出向くより相手から来させようって魂胆(こんたん)だな」

「正解!」

 

 二ィッと笑えばロロノアさんは堪えきれない様にクツクツと喉から笑い出した。

 

「ハハッ、お前…ッ、変わった奴だな…!この街の連中は関わらねェ様にしてるのに…、お前は関わらないどころか呼び出すンだからよ…!」

 

「私は至って普通の真っ当な人間です」

「普通の人間は自分で普通と言わない」

 

 急に真顔で答えられると傷つく。真顔で反論は怖い、心が痛い。

 

「気が変わった」

「?」

「お前の質問に答えてやる」

 

 はて、……………私なんの質問したっけ。

 

「『私なんの質問したかな』みたいな顔をするな」

 

 バレた。

 

「七光りのバカ息子の飼ってるらしい狼を斬ったんだよ、それで捕まった」

「バカですたか」

「斬るぞテメェ!?」

 

 目的の人間が現れるまで他愛の無い話を2人でした。

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

「いい奴かなー、その海賊狩りって奴」

 

 相変わらず能天気な姿にコビーは思わずため息を付く。それが彼のいい所ではあるのだがどうしても不安が残った。

 

「そもそも賞金稼ぎが捕まる事自体おかしいんですよ…本当にいい人なんですかね…」

「んんっ、ままよ!なんとかなる!」

「……その自信は一体どこから来るんですか…」

 

 みょんみょん伸びながら磔場への塀を登る準備運動をするルフィを見て再びため息が出てくる。

 心配症なのだから仕方がないが、ここの支部もいい噂を聞かない。どうしょうもなく嫌な予感がするのは気の所為だろうか。

 

「おいコビーコビー!アレがロロノア・ゾロか!?2人いるぞ!?どっちだ!?」

「……2人?」

 

 おかしい、どうして2人いるんだ?

 

 もしかしたら海兵の誰かかもしれない。コビーはルフィに続きこっそり塀の中を覗いた。

 

 そこで見たものははりつけにされている男とキャスケットを被った自分より年下の少女が話しているのが見えた。

 どちらかなんて明白。名前は男名だろうに、どうしてそこに疑問を持つのか不思議だ。

 

「おおおお、お、男の人は間違いないです。か、かか、か海賊狩りのゾロですよ!」

「ふーん…」

 

 興味無さげに見えるが視線は外さないルフィの言葉を待った。

 

「入るか」

「なんでですか!?ちょ、どうして不法侵入の方向になるのか不思議でたまらないんですけど!?」

「え〜〜?でもよ〜、いつまでも進まねぇじゃん」

 

 子供のようにブーブー言う姿を見て頭を抱えたくなってくる。

 どうしてロロノア・ゾロという人間が危険だと分かっていながら近付こうとするのか…!

 

──カタン

 

 コビーの横から音が聞こえて2人は同時に音の方を向いた。

 

「しー…!」

 

「「?」」

 

 そこには少女が『内緒』とジェスチャーをしながら梯子を登っていた。

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

 会話の音が途切れロロノアさんが塀を見る。つられてそちらを見ると3つの人影が見えた。

 

「……」

 

 塀の中に乗り込んで来た女の子、塀から覗くピンクの頭、麦わら帽子。

 

 …………麦わら帽子?

 

「……わーお……」

 

 見覚えのある帽子に確信する。探し人見つかったじゃありませんか。もっと時間かかるかと思ってた。

 

「あ、あの!お兄ちゃん!」

 

 ズイ、と女の子が笑顔を浮かべながらおにぎりをロロノアさんに差し出す。

 

「おにぎり、作って来たの!食べて?」

「いらねェ、さっさと失せろ」

「でもお兄ちゃんずっとご飯食べてなくて……」

「良いからさっさと失せろ!ここに居たらバカ息子に…!」

 

「でもお姉ちゃんはここに居るよ?」

 

 純粋な疑問にロロノアさんは言葉を一瞬失う。

 

「アレは野垂れ死にしようが気にしねェ」

「え、酷い」

 

 予想してたより私の扱いがずっと酷かった。

 

「可愛らしさを失ったいい性格の持ち主にかける心配程無駄な物はねェ」

「ここまでの扱いは史上初」

「分かったら失せろ」

「個人的に分かって欲しく無き件について」

 

「むしろかけるなら迷惑をぶっかけるべきだと思ってる」

「やっぱり私の扱い酷く無きですか!?」

 

 く…これでも海軍ではチヤホヤされ運悪かったけど比較的好印象を保てていたと言うのに…!この人は本性を分かるのか!?獣!?獣ですか!?そうですか動物(ゾオン)系の方ですか!

 

「おいおいおいおいロロノアく〜ん…いじめはダメだよいじめは〜」

 

 後ろに海兵を引き連れた男が磔場に入って来て空気が変わった。こう見えても私は人の顔色伺う事が希望ですから空気の変化に敏感何ですよこんちくしょう!

 

「…あれは?」

 

 七光りの人だとは思うけど念のため聞くと予想通りの返事が返ってくる。

 

「……七光りのバカ息子だ」

 

 確か名前はヘルメット、名は体を表すとかこの事か…。ヘルメットヘアーお似合いですよ!

 

 するとヘルメットさんは女の子のおにぎりを地面に投げ捨てた。

 

 

「あ…!リカのおにぎり…!」

「こんな物要らんのだよ…罪人には!」

「頑張って作ったのに…ッ!」

 

 私の中で制限(リミッター)が解除された。

 

 

 

 

 ご飯を無駄にする貴様は私の敵だ。

 

 

 

 

「ねェ…」

「ん?」

「ご飯、食べる事不可能の経験は持ち合わせている?」

「……はァ?」

 

 大佐の息子程度にツテは要らん。

 

「貴方、偉い?」

「…? え、偉いに決まってる!俺はあのモーガン大佐の1人息子だぞ!?」

「ふーん……その程度」

「……なんだと!?」

 

 虎の威を借る狐っての素敵だと思いますよ。でも、この世界中を探して私の虎の威より強い人って正直いないと思うんだ。

 

「私、本部のガープ中将の孫ですが?」

「…………………はァ?」

「ガープのジジ、海軍に連なる者なら理解可能ぞり?」

「ガ、ガガガガガープ中将ォ!?」

 

 ボソッと呟けばわかりやすく動揺し始めた。

 義理の、だけどね。

 実際の親出したらきっと泡を吹くだろうな…。あ、その前に信じてもらえないか。

 

「消える、すたら?」

「嘘に決まってる!お、お前なんか親父にけちょんけちょんにされたらいいんだ!待ってろ…!」

 

 待ってろって言われて待つ人はいないと思うけど撃退には成功したよね。

 ヘルメットさんは尻尾巻いて逃げていきました。

 

 今の時間の間にこの2人を避難させなければ。

 

「おい」

「…?」

「う、あー、んー…」

 

 涙目の女の子を見ながら何かうなり出すロロノアさん。私は少し不思議に思いながらも言葉を待った。

 

「………そのおにぎり、食わせろ」

「…! お兄ちゃん…!」

「了解、あーんを希望と」

「普通に食わせろ!?」

 

 ロロノアさんは噂よりずっと優しい人みたいで女の子は嬉しそうに私達を交互に見た。

 

「はい、あーん」

「…ッの野郎…!」

 

 血管を浮かび上がらせながらも素直に口を開けるロロノアさんを見て私は察した。

 これ自由になったら私殺されるかな。

 

「…ッ、…!ッ…」

 

 ジャリジャリとした音がするけど涙目になりながら完食する。不安そうに見ている女の子が時折チラチラとこっちを見て来るのでヘラっと笑ってあげた。

 ……身近にいる人間が大人ばかりだから(背はさほど変わらないけど)年下の子見ると嬉しくなるよね!

 

「美味かった、ご馳走さん」

「…!」

 

 ぱぁっと嬉しそうに笑う女の子を見ているとずっと塀の外にいた2人組が…正確に言うとルフィが声をかけた。

 

「お前らいい奴だな!俺の仲間になんねェか!?」

 

 キミは相変わらずのマイペースで何故か涙が止まらないよ……。(※感動では無い)

 

「……うぜェ…」

「あ、さっきのお兄ちゃん!」

「よ…!」

 

 ルフィはポスッと女の子の頭に手を置いて笑うともう1度こちらを見た。

 

「俺ルフィ!海賊王になる男だ!今よ〜海賊の仲間探してんだ!しししっ、い〜奴らだな〜!」

「俺はならねェ!()()がある、俺の名を世界中に広げるって…!悪行なんかに付き合ってる暇はねェ」

「断る!俺はお前が断るのを断るぞ!」

「ふざけんな!」

 

 1歩たりとも引かない会話についていけなくなる。はー…ロロノアさんは部下に欲しかったんだけどなァ。ルフィが求めるなら、協力しようか。私はルフィの船に乗ってなるべく名前が広まらない様にするってロロノアさんと逆の野望があるけど。

 

「ロロさん、こうするが最良」

 

 ルフィとロロノアさんの間に立ってロロノアさんと交渉をする。

 

「なんだァ?つーかお前はアイツに用があるんじゃ無かったのかよ」

「正確にはモーガン大佐。でももう必要無しで──じゃなく、私はロロロアさんと交渉するです」

「ロロノア。で、交渉ってのは?」

「ロロロノアさんは剣士とお聞きすました」

「ロロノア」

「で、提案」

「…こいつ聞かねェ気か」

「恐らくヘルメットさんが保持している剣、それを私が奪う」

「………で?」

「私言う『返して欲しくば海賊に入るしろ!』と」

 

 私がはっきり言うと数拍置いて返事が返ってきた。

 

「鬼かテメェは!?」

 

 どちらかと言うと『鬼の子』かな。

 

「………………取り返せんのか」

「ルフィが頑張る」

「お前じゃないのかよ」

 

 私はぐるっと逆方向、ルフィのほうを向いた。

 

「私を仲間にしてです」

「おう、いいぞ」

 

「軽すぎですよルフィさん…彼女が悪い人だったらどうするんですか………」

 

 ピンクの髪の人が呆れながらもツッコミを入れる。はて、彼はルフィの仲間だろうか。

 

「あ、僕コビーです。ルフィさんのお、お友達、です」

 

 仲間と言わない辺り彼は一般人の様でちょっとホッとする。

 (たぐい)まれなる一般人!素敵な響き。

 

「お前ら勝手に話進めてるけどな…俺は一ヶ月はここから動かねェぞ、バカ息子と()()したんだ」

「それ、嘘です」

「…………なんだと」

「彼はそんな気1ミリの持ち合わせも皆無ぞです」

 

 いや、正直知らないけど。ハッタリかましますよ。

 出来れば海軍敵に回す前にここから出たいから時短時短。

 

()()だ。俺はお前を仲間にしてえんだ!剣は絶対取り返す、だからお前の力を貸してくれ」

()()だ。俺は世界一の大剣豪になる。俺を失望させてみろ…その時には俺はお前の船を降りる!」

 

 ニッ、と笑いながら約束を交わす2人を見てこっそり胃を痛める。

 

 有名にさせてたまるか。

 

「いよーし!剣を取り返すぞー!」

「ここで死ぬしたなれば私は逃げるぞ〜?」

「死なねェよ、俺は絶対に!」

 

 びよーーん、と腕を窓に向かって伸ばすルフィを見て不安が広がる。こいつ、強行突破しようとしてないか?

 

「ゴムゴムの〜……ロケット!」

 

──ビュンッ!

 

 腕が伸びるという不思議現象に私とコビーくん以外の2人は驚きを隠せず呆然とした。

 

「……あのアホ…」

「ルフィさん………」

 

 同時の呟き、お互い視線が合うとペコリと頭を下げた。

 

「どうも」

「あ、いえ、どうも」

 

 同じ雰囲気を感じる…泣きそう。

 

「コビーくん、は何故ルフィと共に行動を?」

「えっと、僕本当は海兵になりたくて…、なのにアルビダという海賊に雑用として働かされてて…そこでルフィさんに出会って支部のあるこの島まで来たんです!」

 

 この人も又随分と運の悪い人生を辿ってるんだな。

 

「ですからここでお別れかもしれませんが、共に行動してるんです」

「…………………コビーくん雑用経験があると」

「…? はい、一応」

「他に何の能力が?」

「得意なこと、って意味ですか?」

 

 頷けば航海術を少々(かじ)っていると答えてくれた。

 

 フフフフ、見つけた、見つけたぞ。私の雑用くん!ルフィと行動出来る精神力、目指すは海兵、雑用も出来、航海術もある、そして何より常識人!

 

 

「……私の救世主(メシア)

「はい?」

 

 スモさんに後釜を任せようとしたのにいなくなるしヒナさんはおつるさんに取られるし…、引き継ぎがまだ中途半端だったんだよー!

 

「生まれるて来てくださりまことに感謝感激ありがとうごぞります…」

「え?ええ?な、何ですか?」

 

 目に見えてわかる動揺。あァ!反応までもが一般人!

 

 ちなみにこれを各方々にやると

 調子に乗り始めたり(どこかの鳥)

 冷たい目で見たり(どこかの鰐)

 はいはいと流したり(どこかの煙)

 医務室に連行したり(どこかの檻)

 

 うん、絶対そうに決まってる。

 

「あ、あの、キミは…。どういった経緯でここに?」

「リィンです。私実はルフィを探すしていて情報を求めに海軍に来たです、そこでロロロロさんとお話したと」

「お前絶対俺の名前わざと間違えてないか!?」

 

 はりつけにされながらも元気にツッコミを入れるロロノアさん、その体力が羨ましい。

 

「でもどうしてルフィさんを?」

 

 支部の中から騒ぎの声が大きくなる。私はナイフを取り出してロロノアさんを縛り付けている縄を切った。

 

「それは私がルフィの妹故に、です」

「「妹ォ!?」」

「血の繋がりは無しですよ?」

 

 そう言えば納得した様な顔をする2人。ロロノアさん背が高いなこんちくしょう、視線の近くにいる女の子が私の癒しです。そういえばルフィも背が高くなってたな、昔は身長に違いはさほど無かったのに私は肩にも届かない。

 

 しっかしまぁ私とルフィって似てないでしょうね、ダダンにも言われたけどどちらかと言うと髪色もあってサボと血の繋がりがある様に感じるらしい。10年位前の情報だけど。

 

「アイツ、それに気付いてるのか?」

「…………正直不安、です。他の兄が完璧気付かなかったですから」

「…それって『エース』って人ですか?」

 

 驚いた、コビーくんはエースという兄がいる事を知ってるのか。

 

「肯定」

「あ、やっぱりそうでしたか。ルフィさんがちょっとだけ話してくれてたんです……まさかと思いますがあの有名な〝火拳〟じゃ無いですよね?」

 

 指名手配当初から高額、そして七武海の勧誘、白ひげ海賊団の2番隊隊長。

 世間から見るとこの程度だろうけど有名な海賊だというのは変わりないか。

 

「さァ?」

「う…気、気になる返事をしないでくださいよ!」

 

 知ったらコビーくんきっと倒れるから。

 

 

 

「ロケット!」

 

──ズザザザ…

 

 ロロノアさんの後ろに隠れていた女の子を除く3人の間に麦わら帽子が降ってきた。

 

「悪ィお前ら──」

 

「待てぇぇ!」

「親父!あいつらだ!」

「俺の基地で騒ぐとはいい度胸だな…ッ!」

 

「──いっぱいくっついて来ちまった!」

 

 軽い様子で笑う姿に頭を抱えた。

 

「ゾロ!3本あったんだけどどれがお前のだ?」

「3本共だ…、俺は三刀流だからな」

 

 ロロノアさんは刀を受け取ると抜刀し、ルフィは服についた砂を払った。

 

「初陣が海軍相手とはな」

「しししっ!」

 

「戦闘態勢かちくしょう!」

 

 どうにもこうにも避けられない事態の様なのでコビーくんと女の子を連れて端の方に移動させる。

 

「ルフィ、ロロさん、ふぁいとー!」

「「戦えよ!」」

 

 海軍は敵に回しずらいんです。

 

 

 

 ──5分後──

 

 

 

 結果:多勢に無双

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

 

「ちなみに、お前が俺に向かってやった〝交渉〟は間違いだ」

「今更何を……」

 

 お礼に、ということでおにぎりの女の子の家でご馳走になっている中ロロノアさんが話しかけた。

 

「あれは〝交渉〟なんて可愛いモンじゃねェ…〝脅し〟だ」

「か弱き乙女に向かいなんと酷い」

 

 誰が乙女だ、と脳天にチョップされる。

 痛い…。

 

「よし、改めて自己紹介といくか」

 

 ロロノアさんはクイッ、とコビーくんを見る。僕からですか!?と焦った声が聞こえるけど数秒して落ち着きを取り戻し口を開いた。

 

「ぼ、僕はコビーです。夢はか、かかか、か海軍大将になる事です…ッ!」

 

 …………………頑張れ(遠い目)

 

「海軍大将ね、厄介な敵が現れたモンだ」

「ずっと小さい頃からの夢何です、女狐さんが目標で………」

「ぶふぅッ!?」

「え、だ、大丈夫ですか!?」

「つ、続きをどうぞ」

 

 飲んでいたお茶を思わず吹き出す。まさかこんな所で自分の話題が出るとは思わなかった。

 

「あ、はい…。女狐さんは凄い人なんですよ、有名なので知ってるかも知れませんが偉大なる航路(グランドライン)のどこかにある魚人島の保護を積極的に行ったり、あ、あとここ最近ではシャボンディ諸島という所で海賊の撲滅をしたり…!僕そんな人になりたくて…」

 

 一つ言い訳をさせろ、魚人島の保護はどちらかと言うとお菓子作りの発展と保護の為でシャボンディ諸島の海賊撲滅運動はここに来る為のお仕事(イヤイヤ)ですからね。頼む、憧れないでくれ。

 2年前から撲滅運動していたけどラスト半年でセンゴクさんの指示で女狐の格好したのがまずかったか。

 

「んんっ、次は俺だな!俺はモンキー・D・ルフィ、海賊王になる男だ!好きな食べ物は肉!宜しくな!」

「コビーの聞いた後だとすっげえ薄っぺらく感じるな……」

「ルフィさんの夢はとても凄いんですけどね……」

 

 同意。

 

「俺はロロノア・ゾロ、世界一の剣豪と言われる鷹の目を倒す事と死の国まで届くくらいの名声を集める事が目標だ」

「ふぐうっ!?」

「ど、どうした」

 

 喉にご飯が詰まった…!まさかここでミホさんの名前が出てくるとは…!

 

「何故、ロロノアさんは鷹の目に…」

「ゾロでいい、言い難いんだろ。…──まァ死んだ幼馴染みと約束したんだ。どちらかが世界一になるって」

 

 頑張って、本気で。誰でもいいからアイツの興味を私から他に移して欲しかった。

 

「あ、次私ですたか。私はリィン、()海軍本部雑用。夢は静かに目立たずひっそり暮らす事と心と胃の平穏。好きな物はトマトを除く食べ物全て、嫌いな物は七武海と非常識人。よろしくです」

 

「リィンさん元海兵何ですか!?」

「ツテがありますたし…ちょっとだけ」

「先輩だ……」

 

 すると私の帽子が取られた。

 視線を向けると机に顎を付けてクルクル帽子を弄りながらこっちをじっと見てくるルフィ。

 

「やっぱり、お前『リー』だろ?」

 

 

 

 

 今、この子はなんと言った?

 

 

「俺の事、覚えてるか?」

「ルフィ………私、私、感動で涙がどぼりんこ…!」

 

 見たかサボ!エース!ウチの兄ちゃん偉い!可愛い!

 

「お話中失礼する」

 

 わたしの感動を遮ったのは海兵だった。

 

「…キミ達が実質この街を救ってくれた事については感謝している、ただ、聞く話によれば海賊だと言うじゃないか…」

 

 ピクッと反応する。ただ、誰1人として一言も喋らない。

 

「せめてもの恩返し、として本部へのキミ達の連絡は避ける……。ただ、やはりこの街に居られると困るのだ、早めに出ていってくれないか?」

 

 海兵がそう言うとコビーくんは不安そうな顔をしながらルフィを見た。

 対するルフィは大して困った様子も無くそのまま席を立った。

 

「ゾロ、リー、行こう」

「あー…先に出航準備をお願いする」

「…?」

「コビーくんの事で海軍に用事が存在」

「そっか!じゃあそっちは任せた!」

 

 私を信頼してくれているのかゾロさんは何も言わず、ルフィも振り返る事無く港に向かった。

 

「キミ達は、彼らの仲間じゃないのか?」

「半々、ですね」

 

 アイテムボックスから一つの紙を取り出し、内容を書いていく。

 

 

「…………シェルズタウン第153支部に命令を下す。こちらにいるコビーくんを雑用として迎える事、そしてモーガン元大佐の身柄を拘束し本部の船に乗せる事」

 

 全員が驚いた顔をする。そりゃ当然、こんな小娘が海軍に命令を下すだなんて名誉に関わる。

 

「モーガンの身柄の受け渡しも詳細はこちらに」

 

 紙──紹介書──を丸めて筒に入れる。大体見られたくない場合などは筒にいれると一度開けた形跡が分かるからね。

 

 受け取った海兵は驚く顔をしているが何となく察してる様子だった。

 まさか海軍大将だとは思ってないだろうけど。

 

「あなたは、一体……?」

「…雑用ですよ、人に恵まれ過ぎた」

 

 ペコッと頭を下げるとルフィ達を追って外に出た。

 

 これ以上は質問に答える事が出来ないから、この支部にモーガン大佐以外に将校はいない。

 

 

 

 紹介書にはコビーくんを私、海軍大将の直属にする事が義務付けされている。面倒はガープ中将が見てくれるから表向きにはガープ中将の部下になるだろうけど。

 

 

 頑張ってね、特に書類。

 大変だぞ〜?表立って海賊討伐に行けないんだからその分書類が回ってくるくる。

 

 

 

「リー!」

「ルフィ!」

 

 手を振るルフィが見えたので飛びつくとバランスを崩しながらも受け止めてくれた。

 

「んん〜、くっつくの久しぶりだな〜!」

「な〜!」

「よし、出るか」

 

 ドタドタと走る音が港の方に向かってやって来る。

 

「ル、ルフィさん!」

「コビー…!」

「僕達、次会う時は敵ですけど…友達ですよね!?」

「当たり前だ!」

 

 コビーくんはゴシゴシ目元を拭って敬礼をした。

 

「ありがとうございました!」

 

 その言葉は風の様に船を押す。

 

 

 コビーくんは姿が見えなくなるギリギリまで敬礼をし続けた。

 

「出航ッ!」

 

 船長の言葉で、一つ海賊団が新たに生まれた。

 この海賊が世界にどんな影響を表すのか、台風の目になるのか。

 

 ──今はまだ誰も知らない

 

 

 




クラブジャムンは世界1甘いお菓子です(※私調べ)

ルフィと再会 ゾロはアホの扱いを理解 コビー憧れの女狐に生贄にされる モーガンはただの雑魚
になりました。ごめんモーガンヘルメッポ。

大将女狐には部下が数人しかいません。片手で数えられる程度。ですから表向きは他の将校の部下なのです。適当な設定すいません。

折角の初陣ですけどなんの捻りも無く省略しました。戦闘中に特にこれと言ったイザコザやゴタゴタはありません。


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番外編8〜お誕生日〜

 これはリィンがまだ海軍の雑用として本部に居た時の話。

 

 

「待ってジンさん!それはまだぁぁぁあ!」

「そうか、すまん」

「ふむ…魚人島も女ヶ島もどちらも美味いな」

「あ!鷹の目!まだ食うな!」

「ドフラミンゴ、お前も食うか?」

「アホだろこいつ……まだ食うなって言ってんだろうが」

 

 日にちは9月5日

 場所は海軍本部第5会議室

 

「早く準備しねェと鰐野郎来ちまうぞ?」

 

 七武海サー・クロコダイルの誕生日会である。

 

「俺は甘い物を食べに来ただけだが」

「お前は黙ってろ甘味バカ」

 

 ドフラミンゴがミホークを叱咤しながら背の高さを活かして高い場所の飾り付けをする。

 

「意外です。くまさんやジンさんは心優しきですし同士(甘い物好き)のミホさんが来るは予想可能ですたがドフィさんがノリノリとは」

「リィン…お前俺をなんだと思ってる」

 

「クロさんがチヤホヤされて照れるなり面白そうな格好するを写真にしながら冷やかす物だと」

 

「フッフッフッ…正解だ。良く分かってるじゃねェか俺の事…そんなに好きか」

 

「私が特別に医務室にご案内するです」

 

 いつも通りのやり取りにジンベエは呆れながら食事の準備をする、と言っても並べるだけだが。

 

「しかし突然呼び出すので何事かと思ったわい…」

「親に内緒でサプライズを企画する子供の様だな」

「そうじゃのぉ〜」

 

 くまとの談笑にドフラミンゴが悪ふざけを提案した。

 

「フフフフ!親子か、いいじゃねェか…!リィン試しに『パパ』って呼んでやれよ」

「採用」

 

 ここでクロコダイル弄る同盟が組まれた。世界で1番(クロコダイルにとって)最悪な同盟かもしれない。

 

「で、俺はダーリンで」

「不採用」

「おいおい酷いぜハニー」

「ミホさん呼ばれてるですよ」

 

「………………何の用だダーリン」

「トイレ行って吐いてくる」

 

 ミホークは甘味によって機嫌がいいらしく随分珍しい物を見たとリィンは笑い出した。

 

「ふひひひぃっ!お腹つる!ヒィッヒッヒッヒッ!」

 

 女子がする笑い方じゃない。

 

「良くこの部屋が借りれたのォ」

「センゴクさんに頼みますた」

「リィンの頼みならセンゴクらも無下には扱わんだろう。あれだけ長距離任務を頼まれていたらな」

「ハハハ……」

 

 最近はシャボンディ諸島ばかりだが確かに常識で考えれば半日程の時間をかけ長距離飛行など考えた事もない。

 

「じゃあ私もうそろそろ下に行きてクロさん出迎えするです」

「頼んだぞリィン。部屋に入る時はくれぐれもノックを頼む」

「はいです!」

 

 ビシッと敬礼してリィンは普段クロコダイルが来る門へと向かった。

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

 待つこと20分。

 見慣れたオールバックがリィンの目に入った。

 

「クロさん!」

「…! 珍しいな、出迎えがあるとは」

「先ほどの仕事がこちらの掃除ですた!よって出迎えた所存にござります!肩に乗せて!」

「楽しようって魂胆丸見えなんだよ!歩け若者!」

「ケチ〜」

 

 リィンはブツブツ言いながらもクロコダイルの斜め後ろをテコテコついて行く。

 微妙に会話が無い空気に耐えられずクロコダイルが話題を提供した。

 

「あー…最近どうだ」

「なんですその思春期の娘に話しかけようと頑張るすた父親の如き台詞は。何事ぞパパ」

「例が具体的過ぎる…っ、パパァ!?」

 

目を見開いたのを無視してリィンは会話を続ける。

 

「最近は絶好調です〜、長距離任務も無きなのでシャボンディ諸島の任務に当たるてます」

「……何してんだ?」

「ゴミ掃除」

「ふーん………」

 

 ゴミと言っても人間のゴミだが。

 行くたびにどこからか現れる自分の父親が鬱陶しくてならない。かれこれ半年、シャッキーに2年後と言ってしまった自分としては凄く恥ずかしいのだ。

 

「父親で思い出したが…」

「…?」

「お前両親は?」

 

 長い付き合いになるがお互いの事をあまり聞いたりしない仲で素性はほぼ不明だった。生まれも育ちも家族も。

 

「母は…いるですが幼き頃より会えて無きです」

「ここに入る前か?」

「肯定」

 

 インペルダウンにいるって聞いたけど生存不明だしね!

 

「父は…最近知りますた。最近は喋るしてるです」

「死んでないのか」

「勝手に殺すなかれ…と言うか殺しても死なぬ様な気が…………」

 

 アレは異常な人物だからな、と遠い目をしてしまう。クロコダイルは少々不機嫌ながらも話の続きを催促した。

 

「その父親と何の話をしてる?」

「えーっと『嫁に出すなら相手は私より強い人にしろ!』と」

「クッハッハ…!鳥野郎辺りからなら余裕で大丈夫じゃねェか?」

「まさか!フェヒ爺……剣帝でもきっと勝てぬ、絶対勝てぬです!」

 

 クロコダイルはお前の父親何者だよ、とツッコミたかったが知ったら知ったで後悔しそうな気がしたので黙った。

 

「……」

「………」

 

 それを機に会話が途切れて無言で歩く。よく考えればこうして話しているのも不思議だと考えた。

 七武海と海兵。相容れない存在だがこうして親しくなれたのも貴重だ。

 

「(それでも…俺は計画は止めない。アラバスタと七武海。どちらを味方にするか分からないが──願うなら…)」

「…?」

「俺の所に来るか?」

「クロ、さん?」

「(お前が来たら、間違い無く味方。もしも敵対する事を考えると恐ろしいと思うのと同時に悔しい……まさかこの俺がこんなに情を抱くとは思わなかったが)」

 

 自分の部下に対して、こんな事は思わない。それはきっと8年以上も時間を共有した友人だからこそ思う事だ。

 

「何度も言うしますたが海賊稼業は危ないです。よって私の保身故にお断りします」

「………お前は国に関わりたいと思うか?例えば友人がいる国に」

「まっっっっったく!」

 

 ハッキリ言ったリィンに安堵を覚える。

 良かった敵になれば自分の手で殺す、それが出来ない事が何よりも安心した。

 

「例えばドフラミンゴとか」

「あれはもはや友人と認めませぬ」

「クッ…ハッハッ、それでこそリィンだ」

「その反応こそイルくんです」

 

 ぴらっと一つの紙を取り出したリィンを見てクロコダイルはギョッとする。

 そこには寝ているリィンと手を繋いで寝る自分──正しくは変な海兵の能力で幼くなってしまった自分だった。

 

「雑用部屋の人が撮るしてくれてますた」

「…………………ホォ」

「クロさんが気配に気付かぬとは驚き桃の木山椒の木ですた…可愛いですね〜」

 

「その写真を寄越せぇええ!塵にする!」

「だ、ダメですぅぅう!」

 

 砂に変わり勢いを付けたクロコダイルに追いつかれないようにリィンは箒に飛び乗った。クロコダイルが贈った箒に。

 

「ぴぎゃぁぁぁあああ!」

 

 急いで第5会議室に向かう。

 距離を離せ。

 距離を取れ、と。

 

 

 

 

──ドンドンドンドンッ!

 

「く、来るです!急ぎて!」

 

 中でバタバタする音が聞こえそして背後からクロコダイルが追ってくる。

 

「おいリィン!」

 

──キィィッ… パァンッ!

 

 扉が開いて中からクラッカーの破片と火薬の臭いが広がる。

 

「お誕生日おめでとうクロさん」

「同じく」

「同じくだ」

「同じくおめでとう、クロコダイルよ」

 

「……………は?」

 

 呆気に取られフリーズした。

 

「あれ?ドフィさんは?」

「まだトイレで吐いている」

「長っ」

 

 リィンとミホークの会話も聞こえない。状況整理がつかなかった。

 

「え…は、ど、な……?」

 

 恐らく「え?はァ?どうなってんだ?」と聞きたいのだろうが呂律が回らない。

 

「サプライズですクロさん」

「俺、の誕生日……?」

 

 するとクロコダイルの後ろからピンクのもふもふが突っ込んで来た。

 

「入口で突っ立ってんな主役糞野郎」

「その主役に対しての扱いを考えろ鳥野郎!」

 

 どうやら意識が覚醒した様でいつも通りの喧嘩腰でドフラミンゴと騒ぎ始めた。

 

「パーティぞ!クロさん!食べ物沢山食すて!」

「それにお前の手料理が入ってるのか?」

「……入ると想像すれば皆苦笑い」

「人に出せない程じゃねェだろ、まぁ要は料理が苦手なんだな」

 

 昔コルボ山で作ったトラウマがあり以来一切料理をしてないリィンにとってご馳走など作れるはずもなく女ヶ島から大量に送られてきた食べ物や魚人島から持ってきた食べ物が主に机に並べられていた。

 料理と言う名の女子力ともう既に離縁済みだ。

 

 決して他の女子力があるとは思わないが。

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

「フフフフ……これで貴様も終わりだ!」

「さて…どうですかね……、追加して返すぞ!」

 

 先ほどの雰囲気とは打って変わって、殺伐とした雰囲気が部屋に充満する。

 原因はドフラミンゴ、リィン。そしてクロコダイルだ。

 

「っ、おい!これ俺が6枚取るハメになるだろうが!」

「「計画通り」」

 

 三つ巴だが実質2対1の『クロコダイルを虐めようUNOの会』が開催されている。

 七武海の中で参謀の役割に近いドフラミンゴとクロコダイル、歳に似合わないがそれなりに頭が回るリィン。手元にあるカードや相手の表情を観察しながらの一瞬足りとも気を抜けないガチンコ勝負だった。

 

 正直混ざりたくなかった残りの面々は個々で食事を楽しんでいる。

 

「っだぁぁあ!お前ら絶対赤を回さないように調節してんだろ!」

「……?」

「『なんの事?』って顔をするなクソガキ」

 

 こんなに必死になっているには理由がある。

 

 それは罰ゲームとして用意された『ビリが残りの2人の言うことを一つ聞く』という地獄にも等しい出来事が用意されているのだ。正直こいつらに命令されてたまるかというのが3人の本音だ。ゲームを楽しむ気など1ミリたりとも持ち合わせていなかった。

 

「鳥野郎が裏切るせいで……!」

 

 最初、利害が一致してるであろうドフラミンゴと手を組んだクロコダイルだったのだが、時既に遅し。彼が現れる前に組んだ同盟を知らない為に自爆して行った。

 ドフラミンゴはとりあえず鰐を虐めることに決めたのだ。

 

「るんるんるる〜」

「………ご機嫌だな、そんなに罰ゲームが楽しみか」

「楽しみです!女装です故!」

 

「……………絶対に負けられない戦いがここにある…! 威厳以前に人として色々失う…!」

 

 ギュッとカードを握りしめて震えだしたクロコダイルを2人が大爆笑する。

 嫌い嫌いと言っていても利害一致をしてるとここまで仲良くなれるのか、と革命軍の幹部であるくまがポツリと呟いた。

 

 詐欺だ。

 

 

 ──30分後──

 

「上がり!」

「私もあがり!」

 

「クソがぁぁぁあ!」

 

 ガンガン頭を机にぶつけ出した。末期かもしれない。

 

「無効に決まってるだろ!無効!」

「フフフフ…往生際が悪いぜクロコちゃん」

「気持ち悪ィ」

 

 一刀両断。

 しかしドフラミンゴには大したダメージを与える事は出来ない様でギリッと歯ぎしりした。

 

「女装ですよ〜!メイド服とかどうです!?蛇から沢山贈るされます、嫌がらせですかね!?」

「じゃあ俺からの命令は写真撮影で」

 

「それをするくらいなら命懸けで今すぐテメェらをミイラに変えてやる…!」

 

 一気に戦闘態勢に入ったクロコダイルを見て同盟2人は予想していたと言わんくらい余裕の態度で視線を交わした。

 

「リィン、分かってるな」

「ドフィさんこそ」

 

「「散れ!」」

 

 バッ!

 

 クロコダイルはばらけた2人を追いかけた。ここで逃げるのなら逃がしてあやふやにしようという考えが浮かばないのは怒りと焦りのせいだろう。

 

「先にテメェからだ鳥野郎ッ!」

 

 砂に変化すると待ってましたと言わんばかりにリィンが指を鳴らした。

 

──バサッ!

 

「!?」

 

 あらかじめ用意されていた網が天井から砂に向かって被さった。

 ……海楼石のビーズ入りの網だ。

 

「ん、な……!く、海楼…石……ッ!」

「フフフフフ…ひっかかったなクロコちゃん」

「ごめんぞクロさん…個人的に脅しネタを増やしておきたく思うしたです。大人しく海楼石に酔うしてです」

「野郎を脱がすのに抵抗はあるが娯楽のためだ、着替えは任せろ」

「小道具とカメラ及びメイクは私に任せろです」

 

 最強で最恐の同盟は七武海内で恐れられた。

 

 

 

 

 

 本日の主役は本日1番の被害者だ。

 




その後クロコダイルの話は誰も語ろうとはしなかった。

クロコダイルさん誕生日おめでとう!誕生日なのに何故か1番の被害者になっちゃった!ごめんね!(反省ZERO) リィンとドフラミンゴは組ませちゃいけないコンビだと改めて思いました。


この作品を作った当初はクロコダイルさんがこんなにキーキャラになると思ってなかったんですが偶然にも私とクロコダイルさんのお誕生日が一緒になってしまうと言う奇跡。何かの企みを感じます。クロコダイルさんの女装姿を想像しながら楽しい1日を過ごすとしましょう!もう1度言う、ごめんなさいクロコダイル!おめでとう誕生日!


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第73話 可もなく不可もなく

 

 

 

 

 ポカポカ程よい陽気の中のんびりと小舟は海を進んでいた。

 

「腹減った〜〜…」

「酒が飲みてェな……」

 

 天候に合わない私のこの気持ちは飲食にルーズな全員に対して苛立ちを募らせていくばかり。

 

 

 食料0、ましてや酒などあるわけが無い。

 

「早く島につかね〜かな〜」

 

  ルフィが呑気に呟いた。

 あやつはこの状態の危険さというものを把握していない!雨風を防げないこの船に、欠片も残って無い食料、そして目的地に向かう術を持ってない3人!

 航海術、習っておくんだった………。

 

 箒には必要無いから優先順位が低かったんだよ〜…。うう、まさか海賊になるのに航海術持ってないとは思わないじゃん!?海を渡る賞金稼ぎがただ放浪してその資金の為に海賊狩ってただけとは思わないじゃん!?

 

「そういえば…聞きそびれてたんだが」

 

 ゾロさんが思い出した様につぶやいてルフィを見た。ルフィは視線に気付くと首を傾げるだけで終わった。

 

「なんで腕が伸びるんだ?」

「今更!?」

 

 思わず叫んでしまった為視線がこっちにも向く。

 ゾロさんはワンテンポ遅れて理解する人なのかな?

 

「俺はゴムゴムの実を食べたゴム人間なんだ!しししっ!」

「悪魔の実なァ…初めて見た」

「やはり悪魔の実は珍しいから仕方ないぞです……」

 

「ん?じゃあお前は悪魔の実の能力者を知ってるのか?」

 

 ゾロさんの疑問に記憶にある能力者を片っ端から思い浮かべる。仏マグマ氷光砂糸メロメロ肉球煙檻火水不死鳥…あ、もう面倒くさいくらいいっぱいいた。

 

「とりあえず両手を凌駕すたですね」

 

 ルフィは純粋に凄いと思っているのかキラキラと見ている。……きっとルフィに生まれたら人生楽しいんだろうなー。

 

「あー、ダメだ!腹減った!」

「こいつ口を開くとそれしか言わないのかよ……乗る船完璧間違えた」

「え!?これお前の船じゃないのか!?」

「そういう意味じゃねェ!アホか!?」

 

 天然ルフィと真面目に相手してると疲れるというのにゾロさんは丁寧に付き合ってる。えらいわァ。

 

「あ…、リーって悪魔の実食ったんじゃないのか?」

「へ?え、あー」

 

 ……そういえばルフィには飛行は一回しか見せて無いから認識は薄いんだったかな。

 私のチート不思議色の覇気(仮)は万能の様で万能じゃないから能力者としていくべきか非能力者として過ごすか迷うところではあるよなー…。

 昔は力に頼らないと絶対にすぐに死ぬ自信があったけど今は別にそこら辺の賞金首程度なら遅れは取らない、と、思うけど…。1000万以上は流石に自信ないな、東の海の平均は300万くらいだったからここでは安心出来るし…。

 

 うーん…。でも絶対偉大なる航路(グランドライン)目指すよね、ルフィは。

 

「一応能力者、です」

「へー、何の実だ?」

 

 純粋な疑問なのかゾロさんが聞いてくる。

 

「それが不明…です。あ、でもある程度は」

 

 例えば、と口に出して海を操るイメージを持つ。万全の状態なら集中力はさほど要らないからイメージだけで充分

 

──グラッ

 

「わ!」

「っ!」

 

「おっ、………とぉー…───」

 

 上手く海流を生み出すことが出来たのだが、そこでバランスを取れなくなった船の上の人間にトラブルが起こった。

 

 

 私はタイミングが掴めているのでバランスは取れたが、隣に座るルフィとその前に座るゾロさんがぶつかった。

 

 

 

 正確に言うと口と口が。

 

 

 

「「………」」

 

「正直本気で悪いと思うしてるです」

 

 止まらない海流に乗って船は沈黙のまま海を進んだ。

 

 ……………ごめんなさい。

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

 変なトラブルがあったが呑気に海を進む中、シェルズタウンには本部より派遣された軍艦が一つやって来た。

 

「ガープ中将、ご苦労様です!」

 

 本来ならばこういった場に出向く筈の無い地位。そして迎える筈の無い軍曹、しかし彼はこの支部で1番上の地位故仕方ないのだが緊張はどうしようも無かった。

 何せ相手は普通の中将では無く、あの海賊王ゴールド・ロジャーと何度も対峙した〝英雄〟と言われる伝説の海兵。

 

 ただ佇む姿でさえも圧倒的な威厳を感じる。

 

「あァ、その書類なら私が受け取ろう」

 

 ガープの隣に待機するボガード少将が前に出て筒を受け取ると早速開いて中身を見始めた。

 

「(すごい…伝説の海兵が此処に…!)」

 

 あの事件の後、早速雑用になれた彼は友人となったヘルメッポが心配そうに見るのも気にせず目の前の光景に感動していた。

 

「(リィンさんの言っていたことの意味は分からないけど海軍に入れたのは彼女のおかげだ…ありがとう)」

 

「…。理解した。コビー、という少年はどこにいる!」

「うぇっ!?え、は、はい!」

 

 自分が呼ばれるとは思ってもおらず、声が裏返りながらも返事をし敬礼する。

 

「それとモーガンの息子…ヘルメッポもこちらに」

「…は?え、はい!」

 

 お互い顔を見合わせ首を傾げた。

 どうして雑用の自分達が呼ばれたのか、疑問しか出てこなかった。

 

「なるほどの〜、リィンが言っておったのはこいつらの事か。任せろ儂の天使!──あ、それとモーガンというアホもこっちに連れてこんか」

 

 コビー達2人はガープの言葉に処理能力が追い付かず、ボガードに大人しくついて船室へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの娘の…──海軍大将女狐殿より指名だ。キミ達2人を女狐の所属にし、この船で色々学ぶ様にとの計らいだ」

 

「えぇええ!?た、たたた、大将女狐ェ!?」

 

 憧れの海兵が自分を部下にと指名してくれた、これ以上嬉しい事はあるのだろうか。

 

「どういう事だ、ですか」

「ん?知らないのか?……まァいい。

 お前達が会った金髪の娘がいるだろう?」

「リィンさん…ですか?」

 

 当てはまる人物が1人しかいないので聞くとボガードは素直に頷いた。

 彼女は元々海軍本部の雑用、ひょっとしたら知っているのかもしれない。

 

「まさかガープ中将の孫ってのは本当だったのか!ですか!?」

「…ん? 事実だが?」

「んな…ッ!」

 

 ヘルメッポが驚く、数拍遅れてコビーも理解すれば叫んだ。

 

「ええええ〜〜〜ッ!?」

「……話を戻す。あの娘はキミ達にどう名乗ったのか知らないが海軍本部の大将女狐だ。実際、彼女が本部に居ないお陰で仕事が溜まっている」

「んな、か、かかか、か海軍大将!?」

「彼女が、女狐……ッ!?」

 

 おかしい、彼女は確か元雑用と言ったのに、それに海賊となってしまったんだ。

 

「コビーは滞った仕事の片付けも手伝ってもらいヘルメッポにはビシバシ虐める様にと連絡が入った」

 

 隣で絶叫するヘルメッポを無視してコビーは思考を巡らす。不自然な点はいくつもあった。

 自分と同じような性格なのに臆せず海軍基地に入って、敵に回す余裕。自分が女狐と言った瞬間の動揺。何より支部、海兵に命令をするあの姿。

 

 考えれば考えるだけおかしな人なのにその考えを打ち消すのはあの不思議な喋り方と警戒心を薄れさす笑顔だ──流石は大将、海軍の最大戦力と言われるだけある。

 

 

 コビーの思考は本来のリィンの姿とはズレているのだがリィンをよく知る人物相手に言わない限り誤解が解かれる事は無いだろう。

 

「光栄過ぎる……」

「慣れない書類に潰されるかもしれないが……それと同時にこの船での仕事も訓練もしてもらう。寝る暇はほとんど無いと思え」

「はいっ!」

 

 より一層女狐に対する尊敬が増した。自分より年下の少女が英雄と言われる中将を身内とは言えど使えるのだから。

 

「(守る正義…僕が1番好きな正義……。リィンさん見ててください、僕は絶対頑張ってあなたの隣を歩ける様になります!ルフィさん、あなたを捕まえるのはこの僕です!)」

 

 女狐にスカウトされたという事実は自信の無いコビーにとって自慢であり誇れる部分となった。

 

 

 

 

 

 数日後書類に潰される2人の雑用を見たとか見てないとか。

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

「あ…」

 

 最初沈黙を破ったのはルフィ。

 元々私とゾロさんの雰囲気的に喋りたいけど黙っていたルフィだったから予想した通りとも言える。

 

「あそこにある小舟、人がぐったりして倒れてる!た、大変だ!」

 

 ただ内容には普通にびっくりしたけど。

 

 その言葉にゾロさんも私も進行方向を睨む様に見ると確かに一つの小舟が見える。

 ん……?

 

「おいリィン、あそこに付けろ」

「えー…、その判断まことですか?」

「人が倒れてるんだぞ!?」

 

 ルフィも横で早く早くと催促をするので仕方なく海を操る方向を変える。

 

 

 

 

 助ける必要無いと思うけどな。

 

 私は目がいい方だから見えるんだが、小舟の上にあるのは宝箱と思わしき箱のみで後は女の人。

 

 まず水やら食糧やらを乗せておく為のスペースとかが無い。港から釣りに出て沖に流されたって可能性もすぐに捨てた。竿も網も何も無い。

 

 

 舟で旅をするのにはあまりにも不自然だし、()()()()為の舟としか思えない。

 

 例えば、弱ってるフリをして。

 

「おいお前!大丈夫か!?」

「あ……。人、良かった…遭難して困っていたんです」

 

 報酬として宝箱で注目させて。

 

「宝なら、いくらでも差し上げます……ですから1杯の水でもいいんです……」

 

 注目している内に相手の舟を盗む、みたいな。

 

「宝とかどうでもいい!リー!どうしよう、水〜〜っ!」

「え、あ、え…?」

「はいはい……分かるしますた」

 

 水を簡易に入れておける皮袋を取り出してルフィに渡すと遭難した女の人に押し付ける様に渡した。

 

「あ、ありがとう………」

 

 女の人は動揺しているのか差し出された水を飲みながら周囲を観察するように見だした。

 

「たぶん」

「……?」

 

 アイテムボックスから世界規模で配達する私に良く海軍で支給される保存食を女の人に渡しながら呟くように話しかけた。

 

「ルフィはお人好し故に、あなたの思うした通りは不可能」

「…え?」

 

 最初は訳が分からないという顔をして首を捻って私を見ていたが視線を外さない私を見て顔を(しか)めた。

 

「………はァ…どうやらそう見たいね」

 

 髪をくしゃりとかきあげて先程の衰弱ぶりから一変、睨みつける様に私達を見た。

 

「お?気分はどうだ?」

 

 ルフィは雰囲気の違いに気付かずニコニコと笑って女の人に話しかけた。

 ゾロさんは何かおかしいと思ったのかどうか分からないが眉間にシワがよっている。

 

「最悪よ、折角考えたのに上手くいかない……。何よあんた達、普通宝があるって聞いたらそっちを優先させるでしょ!?」

「ん?どういう事だ?」

「……あんたバカなの…?」

 

 女の人って怖いなー…。

 

「読めた、要はお前は弱ったフリをして襲おうと思った悪党なんだな?」

 

 ゾロさんが言う言葉に女の人はキッと睨みつける、どうやら図星らしい。

 

「…刀……。あんた達もしかして戦える?」

 

 突拍子も無い言葉に一同同意の言葉を口に出しながらも意味がわからないのか私を見た。いや、私見られても……。

 

「じゃあ協力しなさいよ、私の計画をぶっ壊したんだから当たり前よね?」

「従う義理は無き」

 

 さり気なくゾロさんやルフィの前に移動すると女の人は子供相手だからと舐めているのか鼻で笑った。

 油断バンザイ。ありがとう。

 

「何?当たり前でしょ?」

「まず質問、その協力というのは何ですか?」

 

「…。……この先の島に『道化のバギー』って言う海賊がいるの、そいつ宝を溜め込んでるし偉大なる航路(グランドライン)の海図を持ってるらしいの」

「海図を?」

「そ…、私はそれを手に入れたいから陽動役が欲しかったのよ。戦えるなら陽動役してくれない?報酬は勿論用意するわ、手に入れた宝5:5でどう?」

「却下。まずそもそも陽動役というのは言い方を変えるなれば囮、盗みを働くより圧倒的に危険な目に合う確率が高きです。せめて7:3、こちらが7をいただくが最良と思うです」

 

 お金になる話なら協力しないと、船旅はどうしてもお金がかかってくる。

 

「待って!?私が盗むのよ!?そしてこの話を持ち出したのも私!」

「関係なしです!その海賊がどの様なる危険度か知りませぬがもしもの事態が起こりうるは陽動役です!これは譲る不可能です!」

「く…! じゃあそっちが6でこっちは4でどう!?」

 

「……譲る不可能、そもそも盗む事なれば私でも可能。それを譲るしたは私です」

 

 交渉に必要なのはハッタリと度胸。

 私ははっきり言うと女の人は唸り始めた、がしばらくすると諦めたのか「それでいい」と小さく呟いて保存食を食べた。

 私勝利。

 

 

「と、言う事ですがルフィは手を組むて良きと思う?」

「ん〜?リーが言うなら大丈夫だろ!俺頭悪いからな〜、リーに任せるよ」

「ありがとう!」

 

 ルフィが丸め込……聞き分けのいい人で良かったと心から思った。

 

「あ、リー!なんで飯があるんだ!?一つも残って無かっただろ!?なーなー!」

「私個人用。死ぬは嫌故!」

 

 保存食、これから沢山買ってアイテムボックスにしまっておこう。

 

「ねェ……」

 

 女の人は俯いたまま呟く。はて、誰に話しかけているのやら。

 

「これ…私凄く食べた事ある……」

 

 手に持っているのは海軍保存食。安い素材で量産出来るから結構配られるんだよね〜…これを食べた事があるって事は海軍と関わりがあるのか?

 

「ねェ、これ何?」

「何……、海軍の保存食です」

「海軍…………?」

 

 じっ…と保存食を見ながら呟く。

 

 うーん、反応的に海軍自体には関係無いのかな?それなら助かる様な……。

 

「私元海軍雑用です故に、支給品を持ち合わせていたです」

「そ、…うなの……。じゃあ()()()なの?」

「元、ですが……大体?」

 

 今も女海兵です、とは言えない。

 

「分かった。私はナミ、海賊専門の泥棒よ。好きな物はお金とミカン、嫌いな物は海賊…! よろしく」

「俺はルフィ!海賊王になる男だ、よろしくな!」

「………あんたには聞いてな──海賊?」

 

 自己紹介をしてくれたナミさんの嫌いな物を言っちゃダメでしょうがルフィこの野郎……!アホでしょ!?1回限りの共闘なんだからトラブル無しで乗り切りたいのに!

 

「…どういう事よ」

「俺たち海賊だぞ?」

「ええ!?だってこの子元海兵だって…!」

 

 なるほど、どうやら私が『元海兵』という事で民間人の船とか賞金稼ぎとかの船と間違えられたわけか…。まァ、普通考えてみれば海軍と正反対の海賊とは思わないよね。

 

「ま、まァ手を組むした後ですし、問題無きですよ!」

「問題大ありよ!…えっと」

「リィン、です。こっちの緑の芝生はゾリさん」

「ゾロ!」

 

 間違えた。

 

「リィン…あなた海賊がどんな奴らか分かってるの!?」

「一般常識並には」

「人の大事な物を平気で奪っていく様な海賊よ!私の大事な、…お母さんだって奪っていく…!」

 

「そっか〜、それで海賊嫌いなのか、そりゃ仕方ねェ」

 

 軽い調子で言ったルフィにナミさんは睨みつける。

 

「そうよ、だから私は海賊が大嫌いッ!海賊王を目指してる様なバカもね…!」

 

 人の好き嫌いは人それぞれだけど『海賊王の子供』やどうしようも無い理不尽な生まれについて責めるのなら怒るよ。

 好きで海賊の子供に生まれたわけじゃ無いんだから…。私も、エースも。

 だーって!そのせいで私は面倒くさい地位に…っ!バ海賊に目をつけられる事に…!

 

「私だって……私だって海賊大嫌い…っ!まことに大嫌いぃぃぃい!あのバ海賊共…ッ!あ奴らのせいで、私は、私の平穏な人生が…!」

 

 まじで本気で海賊をこの世界から消し去ってやろうか。厄介な海賊と海賊をぶつけ合って消耗した所をまとめてぶっ潰してやろうかちくしょう。

 

「…あ、あんたも海賊嫌いなの…?」

「あ、口に出すた…」

 

 まずいな、海賊のルフィ相手にこの台詞はまずい。例え気付かなかったとしても意外に鋭そうなゾロさんに『海賊嫌いが海賊船に入る理由』を捏造されては困る。

 

「やっぱりリーは海賊嫌いか?」

「ほ、へ?」

「だって、……子供の頃に、俺を庇ったせいで……」

 

 ………ありましたなそんな事。

 

 確か美味しそうな名前の海賊に捕まって不思議語通じなくて困ってたらエースとルフィが飛び込んで来てフェヒ爺がマヌケしてる内にルフィ庇って背中ぶった斬られたやつ。だったはず。あれ、サボどこ行った。シャンクスさんだったっけ?

 もうその程度の怖さなんて両手で数え切れないくらい味わったから忘れかけてたな(主にミホさんのせいで)

 

 こりゃ参った、ルフィはまだ覚えてるのか。

 

「「?」」

 

「マー、良いです。ナミさん、ここは一つ面倒な故にその海賊の宝奪うまで私達が海賊とは忘れ手を組むしませぬか?」

「………。いいわ、あんた達のトップは誰?」

「船長はルフィぞです」

「おう!俺だぞ!」

「……」

 

 『こいつなのかよ』みたいな目をしないで。……同意出来るけど。

 

「〝仲間〟だなんて勘違いは起こさないでよ。私は自分の目的の為にあんた達を利用するんだから」

「細かい事はどうでもいい!ナミ、よろしくな!」

「あんたが船長だから建前はあんたとだけど私が協力するのは元女海兵の方だから、勘違いしないでよね」

 

 ………女海兵、と何かあるのか?

 

「ありがとうござります…?」

「それと、1回限りだか──」

 

 するとふとナミさんは空を見上げた。

 

「…くる……。ルフィ、今すぐ船を動かして!こんなの珍しすぎる…!嵐が到達する前にここから動くの!」

 

 何かを呟いた後ナミさんはルフィを見て指示を飛ばした。嵐!?東の海(イーストブルー)で唐突の嵐は結構珍しいよ!?

 てかこんな腹が立つくらいに太陽サンサンなのに……。

 

「船なら私が、どの方角?」

「南に移動して」

「はいです!」

 

 嵐怖い、と言うか自然災害怖い。何度被害に遭った事か…!

 うおーら!動け波こんちくしょう!

 

「きゃ…っ!」

「うわっ、とと、大丈夫か?」

「ど、どういう事よ!この海流不自然!」

「あ、私が無理やり動くさせてるです」

「あんた何者よ!」

 

 バランスを崩したナミさんをルフィが支えるけどそれを無視して海を凝視する。

 

「おい!後ろ見ろ!本当に嵐だ!」

 

 どこからか現れた黒雲が大雨を振りまく。雨風凌げる船じゃないから冗談じゃない!

 

「規模が大きくなくて良かったわ………」

 

 嵐が現れたって事はナミさんは天候を預言したって事だよね?能力者?

 

「お前……スッゲェな!仲間になれよ!俺達の船の航海士!」

「お断りよ!」

「断る!」

「ンもう!いい加減にしなさいよ!私は海賊が嫌いだって言ってんの!」

 

 差し出された手をバンと払い除け私達の小舟に座り頬をついた。

 ………………この人使える。

 

「私も賛成です。ナミさん、一つのみ進言致すです。──この船に航海術の存在は皆無」

「あんた達本当に海賊ゥ…?」

「一応」

 

 真顔で返すとため息をつかれた。

 

「あのさ、少なくとも偉大なる航路(グランドライン)を旅する気があるんなら…と言うかそもそもどんな海でも航海術は必要なのよ?絶対に!」

「……」

「なんで顔背けたか弱い乙女さんよ」

「ゾロさん海へゴー」

「死ねってか」

 

 絶対喧嘩売ってるでしょ。買わないぞ、無駄な買い物はしないぞ。

 

 ちなみに航海術無くても偉大なる航路(グランドライン)渡れる。

 

「迷子になるしろ」

「誰がなるか!」

 

 するとルフィが腕をグルングルン回し始めた。視線の先には鳥。

 

「ルフィ?」

「腹減ったからあれ捕まえてくる。ゴムゴムの〜〜……ロケットぉぉー!」

「な!腕が伸びた!?」

 

 ナミさんが驚きゾロさんが見上げるとルフィは鳥に到達した様で。

 

「あ」

「「「え」」」

 

 食われた。

 

「あ゛ぁぁぁああああ!」

「「何してんだアホぉお!」」

 

 両親であるカナエさんレイさん見てますか……どうやらアレが私の兄らしいです。

 

 私はこっそりため息をついた。

 

 

 

 ==========

 

 

 

 とても静かな町並み。

 人の気配を感じさせない。

 

 この島がなんという名前なのか知らないが奇跡的にルフィが鳥に連れ去られた方向とナミさんとの共闘の目的である『道化のバギー』が居座る島方向が一緒だった為、船長抜きで作戦が開始された。

 

「ルフィ、いるといいがな」

「流石に島が見えたらどうにでもするでしょ…鳥が方角を変えなければね」

 

 ゾロさんがキョロキョロ辺りを見回しながら先頭を行く。

 ナミさんは嫌なフラグを建てるよねェ…。お願いします、どうかルフィが面倒事を起こさない内に見つかって下さい。

 

 神様は私にもう少し優しい世界を作って欲しい。なんでルフィと再会してからこんなに心臓が破裂するくらいな出来事に遭遇するんだろう。

 

「ナミさん…宝がどこらにあるか予測可能ですか?」

「へ?んー…、そうね。大概手元に置いておくのが定石だけどバギーは大量に持っていると思うわ、きっとどこかの小屋にあると思う」

「町の人、避難している様ですからきっと安全ですね…宝」

「そう、そうなのよ。だからきっと見張りが付いた小屋を探せば……!」

 

 こういう時見聞色の覇気があれば楽なんだけどな。

 

「そう言えばルフィが鳥に連れ去られた時どうやってあんな所までぶっ飛んで行ったわけ?」

「ゴム、です」

「ゴムが武器なの?変わってるのね…」

「それとは少々違う気がするですが…間違いは無き様な……」

 

「あれ…?ゾロは?」

「へ?」

 

 さっきまで周囲を確認していたゾロさんが消えた。何かを見つけた、とか?もしくは攫われたとか…。

 隣のナミさんを見れば考え事をしているのか口元に手を置いてブツブツ言っている。そしてようやく口を開いた。

 

「……あんたは強いの?」

「私?まさか!最弱ですぞ!」

「ふーん……」

 

 強いと誤解されて危険な目に合うか尻尾巻いて逃げられるかの割合を言えば9:1です。

 

 本当に弱いんだよ!?大将クラスだと間違いなく秒殺の自信があるしそもそも将校に敵うかどうかすら不安です。私が強いのは権力とツテ、相手の特徴だとか戦闘スタイルだとかを知ってるか知らないかで勝敗が変わってくるし。

 

 流石に懸賞金が無しの雑魚海賊には負けないけど。

 

 

 

 

 

「なら、作戦変更ね」

 

 どこかから縄を取り出したナミさんがあっという間に私を簀巻きにした。

 くさ!縄臭っ!海水の染み込んだ臭いがする!磯臭いいいい!これ絶対そこら辺に置いてある縄ですよね!?

 

「ナ、ナミさん!ナミさんこれ何ぞです!?」

「いいから黙って運ばれてなさいよ。ん、思ったより軽いから私でもいけるわね」

 

 ズルズルと引き摺られてどこかに運び出される。ねえこれどこに行くの!?そして臭い!

 臭いが気になって集中出来ないからアイテムボックス開けないし最悪。

 

「作戦変更とは何ぞりりーーー!」

「変な言葉喋らないでうるさい!」

「生まれて14年喋り方は通常にならぬですた!」

 

 とりあえず引き()られる度にバランスが取れなくてコケそうです。

 

 

 

「あそこの酒場にバギーがいるはず」

 

 小さく零した言葉を聞き漏らさない様に黙る。

 ナミさんの進行方向には確かに酒場がある。

 

「あんたはただ黙って縛られてて、悪いようにはしないから」

 

 そんな事言われて信用する人間がいるとでも?作戦の一つくらい伝えてくれてもいいと思うんですけど。

 

「嫌、と言うなれば」

「私はこのままあんたを見捨てる」

「酷い」

「…流石に見殺しにする様な事はしないわ、あんた弱いんだったら1人で陽動役なんて務めれないでしょ」

 

 なるほど、仮にも船長のルフィと武器を持つゾロさんは最低限戦えたとしても自分から弱いと言い武器も持たない私の戦力は宛にしないって事か。

 戦力にならないって素敵だけどこの状態は何かと辛いです。

 

 

「作戦内容はぁぁぁあ…」

「子供には教えたくない」

「口が軽く見る様ってか!正解!」

「そこは否定しなさいよ!」

 

 ドスドスと怒りながら歩くナミさんに繋がれた私は付いていくしか出来ない、臭い。

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

「よ、お前ら!」

 

 辿り着いた酒場には檻に入れられたルフィが居た。

 なんで!?

 

 




口頭説明をせずにとりあえず見せれば早い、っていう面倒くさがりな性格が悲劇を起こしました。
ゾロは半分くらい記憶を消します。「……………覚えがないな…チッ」みたいな。

船で進むスピードが原作より速くなった為、ナミと鉢合わせたのはバギー一味より麦わらの一味の方が先でした。よって成り行きで戦うってよりは計画的に戦う、という感じになりましたが計画ブレイカー(ルフィと運命)があるのでどうでしょうね!


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第74話 鑑賞と干渉は似てるけど違う

 

「よ、お前ら!」

 

 海水の染み込んだ縄で縛られた私はナミさんに連れられバギーという海賊のもとに行くと檻に入れられたルフィと再会しました。

 

「どうしてこんな所にいるんだ?」

「それはこちらのセリフぞぉぉぉー!?」

 

 何がどうなったか誰でもいいから説明して欲しい。

 

「…いいリィン、ただ黙って怯えてなさい(ボソッ)」

 

「………そこの女、何の用だァ?」

 

 奥のテントらしき物の中から現れた男がナミさんを睨む。

 オレンジの帽子から生える青い髪、赤い唇、おでこに骨マーク

 そしてピエロの様な赤く丸い鼻。

 

「えっと、この子やそこにいる麦わら帽子の男がバギー船長の首を狙っていまして──」

「赤っ鼻〜〜〜〜〜ッ!?」

 

 見覚えのある身体的特徴に思わず叫んでしまった。

 

「な…ッ!」

 

 ガビーン、口を開けて居たバギーさん。

 まずい……最高にまずい、しくった。

 

「アホか小娘ェ!船長は自前の鼻に触れる事が1番…!」

「誰が〝自慢の赤っ鼻〟だと……?」

「ぐ…ぇ!バ、バギー船長…くる、苦し…」

 

 プルプル震えていたバギーが口を滑らしたバギーさんが手首を分裂させて部下の首を絞めた。

 え、分裂!?なんで分裂出来るの!?

 

「何あれ…!」

 

 よし、今の内に逃げるか。

 

「ぴぎゃ!」

 

 思わずもたついた足にひっかかって転んだ。手も使えないこんなに震えていたらアイテムボックスも開けないし能力も使えない。どうしよう。

 

「おいそこの金髪ゥ…、今さっき俺様の事をなんと言った〜?」

「あ、あははー…若年性認知症故に記憶が混濁中ですて……」

 

 アイテムボックスさえ開ければ!何とかなるのに!

 

「バギー玉を用意しろッ!」

「「「「はいっ!」」」」

 

 嫌なセリフと奥からガラガラと荷台を転がす様な音が聞こえてきた。

 

「ナミさん…全力で逃げるですよ。もしくは縄を外すして…!」

「……嫌よ、私には宝が必要なの…!」

「っくぅ!」

 

「バギー玉セット完了しました!」

 

 視線をバギーさんに戻すと横には大砲。

 あ、これ死ぬ。

 

「デカっ鼻〜〜〜〜!」

「カチーン…!おい…麦わらァ…!今の状況分かってんのかァ゛?」

「知るか!いいか!お前は俺が絶対倒す!」

 

「まとめて派手に死ねぇぇえ!」

「私はひっそり静かに死ぬたい〜〜!!」

 

 逃げようとせず恐怖で固まってるナミさんの体を全力で蹴り、私もその場に急いで伏せると丁度真上を砲弾が通過した。

 

──ドォン! バキバキ…!

 

 私達の後ろにあった建物が建物では無くなっている。

 ひいいいっ!コレ死ぬ!絶対死ぬぅぅう!

 

 ルフィが居なくならなければ、ゾロさんがどこかに行かなければ、ナミさんが焦って勝手な行動取らなければこんな事にはならなかったのに!

 

「リー!俺を逃がせ!」

 

 ルフィは無茶な注文をしてくるし、ナミさんは砲弾の威力に呆気に取られてるし、ゾロさんは相変わらずどこにいるか分からないし!バギーさんは激おこ状態(自業自得)だし!

 

「泣きたい」

 

 次の玉をセットしだすバギーさん。

 

「しぶといなテメェら!」

「ちょっと待ってください!何もそこまでしなくても!」

 

「じゃあ選べ女。お前は俺様の味方をしてこの2人を殺すか、こいつらの味方をして共に殺されるか」

 

 ヒュッ、とナミさんが息を吸った。

 自分の手を汚すか自分が死ぬかどちらかの選択。私なら確実に前者を選ぶからそろそろ本格的に命が危ない。

 

 それにこの赤っ鼻のバギーさんは単体でも間違いなく強い、きっと砲弾なんか目じゃないくらい…。正直こんな大物が東の海(イーストブルー)にいるとは思わなかったけどきっと息をひそめてたんだ。

 

 アイテムボックスからアレさえ出せれば…!

 

「おいテメェら…うちの船の連中に何してやがる」

 

 ザッ、と現れたのは頼りになりすぎる緑の芝生頭。

 

「ゾロさん……!結婚して!」

「頭イカれたか…?あ、悪ィ、元からイカれてたな」

「本当に酷い扱い!」

 

 余裕のある姿に希望が湧いてくる。

 よく来てくれたシールドもといゾロさん!

 

 いざって時は私の生け贄になってください。

 

「ゾロ〜〜!お前も来たのか!」

「なんでテメェはそんな所にいるんだよ!?」

 

「くぉらぁぁあ!テメェら俺様を空気にして話を続けんなァ!」

 

 心に余裕が出てきたのか私はアイテムボックスを使えるようになった。まずナイフを取り出して縄を切って。

 

──ブチッ

 

「よし」

 

 バラバラと外れる縄を見てゾロさんとナミさんがギョッとする。変な事はしてないぞ?

 

「ルフィ!今すぐ檻から抜けるです!」

「でも俺捕まっちまってよ〜!」

「貴様はゴムだろ」

「ん?おお!そっか!ゾロー!引っ張ってくれ〜!」

 

 私が指摘するとゾロさんも察した様でルフィの元に向かった。

 檻に入れられたとしてもゴムだから変形は自由。檻の僅かな人間も通れない隙間から逃げ出せれるんだよ。

 

「なにをする気だ!?それを黙って俺様が見逃すとでも思っているのかァ!?」

 

──バチィンッ!

 

「時間稼ぎする故に早く逃げるしてです」

「大丈夫なのか…?」

 

 アイテムボックスから取り出した()を振るう。コレだよ。コレさえあれば何とかなる、かもしれない。

 

「正直対抗策が()()しか有りませぬが」

「鞭?」

 

「んな!そ、そそそ、そ、()()はまさか!?」

 

 ガクガクと震えだしたバギーさんを見て確信する。

 これなら逃げれる自信がある!

 

 

 

 

 バギーさんは間違いなく海賊王の船員(クルー)だ!

 

 

 

 

「ど、どこでその悪魔の鞭を手に入れた…!」

「……フッ」

 

 とりあえず素性を素直にナミさんやバギーさんに話す気はないのでドヤ顔をしておく。

 

 実はこの鞭は私の過保護なお父様にいただきまして、曰く『この鞭を見せれば海賊王の船員とか言われてるアホどもは協力なりなんなりしてくれるよ』だそうだ。隣で頭を抱えるフェヒ爺がとても印象的でした。

 この鞭で現役時代に調教したのかな……。

 

 勿論ありがたく使わせていただきます。

 

「お前…何者だ…!」

 

 ゴクリと息を飲み込んで聞いてくる姿が妙に滑稽(こっけい)だが私は震える手で鞭を持って言う。

 

「………娘、ですが何か?」

「んなにぃぃぃいい!?」

 

「お、抜けた抜けた」

「お前は本当にトラブルばっか起こすな!」

「もう!とにかく逃げるわよ!?」

 

 ハッタリ…では無いが流石に海賊王の船員(クルー)相手に対峙し続ける程私の胃の壁は厚くない。背後で呑気な声が聞こえたので時間稼ぎはさっさと終了。

 

 ゾロさんがルフィを連れて飛び降りるので私は冷や汗かいてるバギーさんを無視してナミさんの手を引く。

 

「箒乗るしてです」

「え、ちょ…!」

「早く」

 

 飛び降りるのに躊躇したのか戸惑いながらも私が乗った箒の後ろに跨った。

 

「それではご機嫌よー」

 

 ゾロさんに追いかける様に飛ぶとギャー!とナミさんが叫び声をあげた。耳が痛いです。

 

「お、お主ら大丈夫だったか!?」

「おう爺さん、ちょっと匿ってくれ」

 

 ゾロさんが話しかけたお爺さんが慌てて移動する。

 

 

 

 

 本当に誰か説明してください。

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 バギーは1人この状況に怯えていた。

 

「なんであの鞭が…!」

 

 アレにはトラウマしか無い。機嫌を損ねた時、修行だとか言っていた時、戦闘の最中。自分の乗る船の副船長であるレイリーに何度も痛い目を見さされた。

 

「娘だとォ…!?クソッ、副船長の娘っつー事は母親は確実に姐さんか…!」

 

 金髪の小娘に手を出すと自分は間違いなく死ぬかもしれない。

 

 リィン本人が流石にそこまでは無いだろうと思っていても1度ならず何度もレイリー副船長の逆鱗に触れたロジャー船長の成れの果てを思い出して冗談じゃ無いと身震いをした。

 

「(そもそもなんで俺の事を知ってやがるゥ!?海軍の奴らも気付いて無いってのに…!)」

 

 どうするどうすると焦りまくっていた所に部下が話しかけた。

 

「船長」

「………なんだ」

 

 キリッと表情を引き締め直す。部下の前で情けない姿を見せるのはプライドに関わるのだろう。

 

「あの緑髪の男、覚えがあります」

「なんだと…?」

「確かあいつは魔獣と呼ばれる男『海賊狩りのゾロ』です」

「…ロロノア・ゾロか。つー事は俺様の首を狙いに来た賞金稼ぎ共か!?」

 

 もはや逃げ道が無くなった。

 賞金稼ぎは追いかけてくる。そしてそれを止めるためには殺すなり戦闘不能にするなりしなければならないがレイリーの娘、リィンに手を出すともっと恐ろしい敵が現れてしまう…。でもインペルダウンも勘弁。

 

「あの麦わら…」

 

 よくよく見ればあの麦わらも見覚えのある。自分と兄弟分である赤い髪を思い出した。

 

「(シャンクスも関わりあるのか?副船長繋がりだと間違いないかもしれねェな……!)」

 

 油断してると痛い目を見るのはこちらだ。あの檻から出る方法は分からないが麦わらの男も又厄介な敵だろう。

 

 待っても死、反撃しても死。

 

 バギーは心の底から思った。

 

 

  絶 体 絶 命

 

 

 

 ==========

 

 

 

 先ほどのお爺さんに案内され一つの家に着いた。

 

「まず状況から確認しましょう」

 

 バン!と机を叩いてナミさんが睨みつける。

 

「ルフィ、あんた鳥に食べられてどうなったって言うの!?」

「確か……落とされてんまそうな匂いがしたから行ったんだよ」

「まずそこからツッコミたいけど話が進まない気がするから無視するわ、それでどうして捕まる事になったの?」

「良く分かんねェんだよな〜…いきなり怒り出してよ〜」

 

 アッハッハと笑いながら説明する姿に軽く殺意を覚えるのは私だけじゃないと信じてる。無意味だけど殴りたい。

 

「『ぶっ倒しに来た』って言っただけなんだけどな…」

「目覚めよ私の武装色ぅぅう!」

「うわっ!い、いきなり殴ろうとすんなよ!」

 

 チッ、外したか。手は、黒くなってないから結局意味無いな。

 ルフィを殴る為にも武装色を身につけなければ。

 

「ゾロ、斬りなさい」

 

 ナミさんは私と同じ精神的ダメージを受けている様で安心した。

 

「ゾロさんは一体何を?」

「あ?お前らが勝手に迷子になったんだろうが。俺は真っ直ぐ進んでたろ」

「真っ直ぐ………?」

 

 私達だって真っ直ぐ進んでたし、目の前に人影なんて無かった。

 

「…まさかあんた…こんな短距離で迷子に…?」

 

 ナミさんが恐る恐る聞くとゾロさんは「は?」と首を傾げた。

 くっ、無自覚方向音痴か!?

 

「途中でこの爺さんに会ったんだよ」

「いかにも、わしはこの港町の町長ブードル!話は聞いた!お主らはバギーを倒してくれるそうじゃな!」

 

 さっき会った武装したお爺さんを向くと険しい顔で言った。

 

「……なんでそんな事になってるの?」

「普通『宝を奪う為に暴れに来ました』って言えるか?」

「はぁ……これでバギーと戦わないといけなくなっちゃったじゃない…」

 

 何!?

 

「ま、待つしてです!アレはダメです!」

「どうして?リィンがあんなに優勢だったじゃない!」

「アレは私の武器が特別な鞭ですた故……」

 

 私は鞭を使う事なんてできないし!本当に逃げないとまずいんだよぉぉ!伝説の海賊の仲間だよぉぉぉ!?

 

「うぉぉぉおぅぅ……」

 

「バギーの懸賞金は1500万ベリー…ここ周辺じゃ確かに群を抜いて強いが…」

 

 ほぉぉらぁあ!4桁ぁぁぁ!もう無理嫌だお家帰るぅぅぅ!

 

「リー?どこ行くんだ?」

「帰るぅぅぅ…!ダダンのお家に帰るするぞぉぉ…お腹痛いよぅぅう!」

「気持ちとっっっっっっても分かるけどお宝の為に今戦力を失うには惜しいから落ち着いて!」

 

 腰をナミさんに掴まれて阻止される。私を帰してください!

 

「ルフィ!ゾロ!あんた達どれ位の賞金首倒した!?」

 

「「記憶にございません」」

 

「役立たず!!リィンは最高どれくらい!?」

「私が賞金首を倒す可能でも!?」

 

 一応最高は元七武海のグラッジさんだけどある意味1億越えてるエースには勝利しました!

 

「って、そうでなく!バギーさんの懸賞金はアテにするダメです!」

「ど、どうしてよ!あんた何か知ってるの!?」

 

「っ、バギーさんは海賊王の船員(クルー)です!」

 

「「「!?」」」

 

 ルフィを除いた全員が驚愕(きょうがく)の表情に変わる。分かりましたかこの重大な事実!

 

「なァリー、どういう事だ?」

 

 ガシッと肩を掴んで部屋の隅に移動させる。分かってた、分かってたよ1回の説明で理解出来ない事くらい!

 

「…シャンクスさんと肩を並べて戦うした人です」

「シャンクスと?」

「エースのお父さん…海賊王と一緒に旅すた人ぞ」

「マジか!」

「マジぞ」

「シャンクスの話聞けるかな〜〜」

「呑気か!」

 

 頭痛くなってきた。

 

「面白ェ…海賊になって早々伝説の海賊の奴と戦えるたァ…腕試しにはもってこいだ」

 

 後ろで芝生頭がイカれた事言ってるし、なんでそうなるの!?危険性を理解したなら諦めようよ!

 

「そういえばどうしてリィンがそんな事知ってるの?バギーって名前聞かないし懸賞金が低いから政府には見つかって無いって事でしょ?」

「まァ…知り合いが…………。ルフィもバギーさんと兄弟分のシャンクスさんと知り合いですし」

 

「シャンクスって四皇!?何それ凄い人と知り合いじゃない!」

「ん?シャンクスってそんなに凄いのか?」

 

「凄いショタコンと有名です」

「そんな噂聞いた事無いから」

 

 私のシャンクスさんショタコン説(偽装)を広める作戦を邪魔しないでいただきたい。

 

 ルフィに四皇や七武海やらを教えるのは骨が折れる所か骨が腐る。風化する。

 フェヒ爺教えてくれてなかったのかな…。役立たずめ。

 

「難しい事は考えずとりあえずバギーをぶっ飛ばせばいいんだな!」

「「良くない/き!」」

 

 バチッとナミさんと目が合った。分かってくれるかナミさん。

 

「この港町は…、わしの宝をどこの馬の骨とも分からん奴に譲るつもりは微塵も無い!バギーが危険な人物なのは理解したがそれでもわしは行く!これ以上他所のモンに迷惑はかけられん!」

「無茶よ!」

「無茶も承知!絶対に負けられんのだ!」

 

 ドン!と胸を叩いて意気込むプードルさん。言っておきますが懸賞金なしと懸賞金ありでは差がかなりあると思いますが。

あれ、ブードル?犬?どっちだったかな…。ま、町長さんでいいや。

 

「しししっ!おっさんはこの町が〝宝〟なんだな!」

「…! もちろんだ!」

「待ってろ。ちょっとぶっ飛ばせばして宝奪い返して来るからよ!」

「本当か!?」

「あァ!」

 

 こいつ…!勝手に話進めて…!

 

「リー」

「…?」

「〝船長命令〟だ。バギーぶっ飛ばすぞ」

 

「〜〜〜っ!わかるますたよこんちくしょう!私の力最大限利用してサポートするぞり〜ッ!」

 

 海賊になった以上船長命令は絶対なんですね!?ルフィのくせに!ルフィのくせにぃぃい!

 

「弱点聞きて来るです!」

「ど、どこに!?」

「私のお父さんぞ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 町には4つの人影。

 

「じゃあ私は予定通り宝を狙うわ」

「場所は?」

「完璧っ」

「リー、ゾロ、行くぞ」

「私はサポートをするぞ?戦闘は苦手故」

「分かってるって」

 

 ルフィを先頭にゾロさんと私が続き、ナミさんが別に向かう。

 

「ルフィ!」

「なんだナミ」

 

「あんた達は普通の海賊と違った。この戦いが無事に終わったらまた手を組みましょう!」

 

 死亡フラグを建設しながら。

 

「おう!」

 

 

 うう、胃が痛い。

 海賊履歴が一般的な海賊と違う…。海軍支部落とした次は賞金首、しかも海賊王の船員とかどんだけぶっ飛んでるのよ、あれか、あんたも災厄吸収能力が付いてるのかよちくしょう。

 

 吸収っていうかむしろ生み出してるな。

 

 

 今の内に作戦のおさらいをしておこう。バギーさんの情報は出来る限り集めた。シャンクスさんより圧倒的に弱い事も分かったし悪魔の実の能力──バラバラの実──というのも理解した。ただレイさんの弱いはアテにならない。あれ(冥王)より弱い人間ってどれだけいると思ってるんだ。

 とりあえずルフィが主体でバギーさんを攻撃して私がサポートに徹する。ゾロさんは雑魚退治。シンプルだけど私とバギーさんの相性は最高に悪いはずだから多分これでいけると思う。

 

 酒場は周囲に隔てる物陰が少ないから奇襲も無理だし何よりルフィが却下した。このクソガキめ。

 

 町長さんはシュシュという犬が酒場の近くに居て不安だからそこにいるらしい。なるべく近付けない様にしないと。

 

「…………はァ」

 

 ため息が思わず漏れる。

 大体こういうのは海軍に頼ればいいでしょうにどうして町の人はそんな常識的な事を考えなかったんだろうか…。これに関しては私が提案するとまだ海軍と繋がってる事が知られてしまうから諦めたけど…。まだ近くにガープ中将がいるのにさ。

 

「いた…」

 

 ルフィが小さく呟いた。

 

「来ると思ってたぜ麦わらァ」

「よォバギー、お前をぶっ飛ばしに来た!しっしっしっ。覚悟しろよ!」

 

 酒場の上から眺めるバギーさんと両隣に人影。ちょっと私隠れて見ていてもいいですかね。

 

「モージ!絶対殺さない様にあの小娘を捕らえろ!」

「は!…え、殺さない様に?」

「殺してしまったら俺らの命が全員ないと思え……」

 

 後半が聞こえなかったが変な耳を付けた人が()()()()()()()()酒場から降りてきた。

 つまり、なんですか。私がアレを相手しろと?ライオンを?百獣の王と言われる獣を?

 

「ルフィ!」

 

 助けて!

 

「おう!まかせた!」

 

 違う。

 

「ゾロさ「安心しろ、お前の獲物は誰も取らねェよ…!」…」

 

お願いだからさ!助けてください!

 

 

 

「船長」

「どうしたカバジ」

「ロロノア・ゾロは私が取ってもいいでしょうか…同じ剣士として──相手をしたい」

 

 猛獣の隣にいた人物が一輪車で手すりに乗っかった。

 

「良いだろう───麦わらァ!お前の相手はこの俺様だ!」

「上等だ!シャンクスの知り合いだろうが俺は負けねェからな!」

「ばァァァか言え!この俺様がお前になんか負けるわけねェだろうが!」

 

「お嬢ちゃん怪我したくなかったら大人しく降参しな」

「降参」

「早いわ!こういうのは売り言葉に買い言葉だろ!」

 

「ロロノア 有名な賞金稼ぎがバギー船長の首を狙うとはいい度胸だな」

「賞金稼ぎだァ?俺たちは──海賊だ!」

 

 

 1体1が3つ。予定と狂った戦いが始まった。

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

   ──ゾロVSカバジ──

 

 最初に動いたのはカバジだった。

 

「はァッ!」

 

 大袈裟に刀を振り上げればゾロは反応する。

 

「〝火事おやじ〟!」

「っ!」

 

 フェイク。カバジは口から火を吹き出した。

 曲芸のカバジ、それは数多の攻撃法を用いて曲芸師の様に剣技を振るう剣士だ。自称バギーの右腕であり沈着冷静な態度でゾロを観察する。

 

「(めんどくせェ…!)」

 

 炎に焼かれてしまっては肌がつり剣技に微妙なラグが発生してしまう為、すかさず距離をとった。

 

「流石に簡単に焼かれちゃくれねェか」

「ハッ、弱ェな」

 

 白い刀…既に亡くなってしまった幼馴染みから受け継いだ大業物 和道一文字。それを咥え両手に残りの刀を持った。

 三刀流の名は伊達じゃない。

 

「曲技!〝山登ろー〟!」

「は!?」

 

 カバジは相手の剣技を見てみたい気持ちも合ったが船長に早々にケリをつけろと何度も言われている為、大技を使う事に決める。

 

 一輪車で壁を登り始めた。そこは山じゃない、壁だ。

 

 

「〝納涼打ち上げ花火〟!」

 

 その勢いで建物の2倍もの高さに跳躍して狙いを定めた。

 確かに当たればかなりのダメージを負うことになるが空中では身動きは取れない、避けるのは容易に出来る。

 

「高けりゃいいってもんじゃ…っ!」

 

 ゾロはその場から離れようとするも足に違和感を感じ動けない。

 

「殺れ、カバジ」

「はい船長…ッ!」

 

 バギーの飛んできた腕がゾロを固定していた。

 

「この野郎!俺と勝負だろ!ゾロの戦いに手を出すな!」

 

「(マズイ…!)」

 

「〝一輪刺──」

「うぎゃぁぁ!」

 

──ドンッ!バキッ! ガラガラ…

 

 突然悲鳴と共に飛んできた金色の塊がゾロの体に勢いよくぶつかり、建物を突き抜けて反対の通りに飛ばされた。

 幸か不幸か、カバジの刀に触れる事も無く拘束が一瞬で解かれた。

 

「う…いででで……」

「痛いのはこっちだ!いい具合にクッションにつかいやがって!」

「あ、ごめんぞりゾロさん。ちなみにその筋肉の硬さでクッションとはおこがましき!クッションに謝罪するしろ!」

「お前はクッションに何のこだわりがあるんだ!」

 

 リィンが自分の背中を擦りながらゾロの上を退くとその姿にギョッとした。

 

「お前頭から血が…!」

「あ…さっき蹴るされた時…」

 

 比較的少量ではあるがゾロからすると子供相手、手を貸そうか迷った。

 

「見つけたぜロロノア、やっぱりこの程度じゃ死なねェよな」

「小娘!さっさとリッチーの餌食になれ!」

 

 お互いが対峙している相手が現れ、気持ちを切り替えた。ゾロは早く倒してリィンを手助けに行く事に。リィンは……その場からさっさと逃げ出した。

 

「待たんかぁぁあ!」

「誰が待つぞするかばぁぁあかぁぁぁあ!」

 

 あの調子なら暫く持ちそうだ。

 

「ケリを付ける、テメェのつまらねェ曲技に付き合ってる暇は──無い!」

 

 刀を構え直し両腕を交差させる。

 

「〝鬼──」

 

 そのまま突進して左右と上の逃げ道を塞ぐように斜め十字に斬りつけた。

 

「──斬り〟!」

「カハ…ッ!」

 

 一撃、カバジは血を流しながら果てた。

 

「お前に怨みは無いんだがな、こんな所で立ち止まってる訳にはいかねェ」

 

 鞘に納めればリィンが駆けて行った()の方向へと向かう。

 

「(助けにでも行くか……)」

 

 もう1度言う、逆だ。

 

 

   ────ゾロ勝利

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

 

 

   ──リィンVSモージ──

 

 

「さて、どうしてやろうか」

 

 猛獣使いのモージはライオンに怯えるリィンを見て味気ないと思いながらも獲物を追い詰める事に楽しみを感じていた。

 

「あー!あんな所にお肉ぞー!」

「誰が釣られるか!」

「ガウゥ?」

「釣られるなリッチー!」

 

 ライオン、リッチーが釣られた瞬間リィンは急いで箒を取り出した。

 

「リッチー!踏み潰せ!」

「ガルルルルッ!」

 

「やっぱり無理ぃい!」

 

 ここで背を見せれば一瞬にしてライオンの餌食、涙で視界を奪われても同様。リィンは必死に自分より倍ほどあるリッチーと震える足で対峙した。

 

 振り下ろされる前足を見て間合いの内側に転がり込んだ。リッチーの股を抜け、背後に咄嗟に回り何か対抗策を考える。

 

「(こんな奴居るなんて知らない…!あの時酒場にはいなかったのに…!)」

 

「リッチー!後ろ足で蹴りつけろ!」

「ガルルルル!」

「っ!?」

 

 ギョッとした時には目の前に鋭利な爪と肉球が迫っていた。

 ろくに避ける事も出来ず当たる覚悟をした。

 

「(う、後ろに飛んでダメージを軽減……!)」

 

 ただ少し動きが遅く、まともに当たってしまい吹き飛ばされてしまった。

 

「うぎゃぁぁ!」

「ッグぇっ!」

 

 何かを巻き込んで。

 

──ドンッ!バキッ! ガラガラ…

 

 建物にぶち当たり一瞬呼吸が止まる。肌に木が擦れて痛みが走った。

 

「う…いででで……」

「痛いのはこっちだ!いい具合にクッションにつかいやがって!」

「あ、ごめんぞりゾロさん。ちなみにその筋肉の硬さでクッションとはおこがましき!クッションに謝罪するしろ!」

「お前はクッションに何のこだわりがあるんだ!」

 

 背中へのダメージが少ない理由はこれか、と納得してゾロから降りた。

 血を指摘されたが気にする間もなく追撃はやって来る。

 

「見つけたぜロロノア、やっぱりこの程度じゃ死なねェよな」

「小娘!さっさとリッチーの餌食になれ!」

 

 2対2であったとしても変わらない。それくらいなら1人を集中して倒す。

 そう決めた瞬間リィンは走り出していた。全力で。

 

「待たんかぁぁあ!」

 

 待つと言われて待つ人は居ない。

 

 

「ゼェ…ゼェ…」

 

 吹き飛ばされた拍子に箒を落としてしまった様で飛ぶイメージが取れない。モージは未だ余裕の表情でリィンをニタニタと追いかけた。

 

「(タチが悪い……!)」

 

「小娘!」

「…!?町長さん!?(マズイ、この人が居る方向に逃げてしまったか!)」

 

 焦るほど思考回路は狭くなる。

 突然出くわしてしまった町長を庇いながらの戦闘はかなりキツイ。守りの大将と言えど守る対象は自分なのだ。

 

「一瞬で、終わるする」

 

 現れたモージとリッチーを睨みつけ、後ろに居るブードルと犬を庇い一瞬で決着をつける方法。

 

「(これしか無い……!)」

 

 アイテムボックスから次々と大量の色んな武器を取り出した。

 刀、剣、銃、槍、鈍器、様々な物を。

 

「な!」

「舞え…!」

 

 突然動き出した武器がモージやリッチーの周囲でピタッと止まる。

 

「(イメージ、イメージ。集中。前世でこんなアニメを見た気がする、大丈夫!これなら大丈夫!)」

 

 最近一瞬だけだが思い出す前世の記憶の技をイメージして無機物を動かす。想像出来るのならこちらの物だ。

 

「動くすれば、攻撃する」

「は、はい……!」

 

 しかし攻撃しないと言ったが背中を狙われる可能性がある為、モージとリッチーの両者を鈍器で叩きつける様に動かした。

 

──バリンっ!ドゴォッ!

 

 容赦ない攻撃が降り注ぐ。命を直接的に奪う武器を攻撃手段として使う事は自分が無意識の内に恐怖し使えないと理解しているので最初から即死性の無い攻撃ばかりだ。

 

 

 ピクピク動いてはいるがどうやら意識は飛んでいる様で、リィンはヘナヘナと力が抜け座り込んだ。

 

「(後ろ盾も無い状態での戦闘…やっぱり経験しておいた方が良かったかも知れないですセンゴクさん…)」

 

 ペロッと流れた血を舐めて心配するように鳴く犬にクスリと笑いながら精神的疲労を感じた。泣きたい。

 

 

 

   ────リィン勝利

 




秘密アイテム『レイリー副船長愛用調教用悪魔の鞭(安物)』
ナミは箒で飛んだ(ゆっくり下降した?)リィンの姿と檻から抜け出した体の歪み具合を見て悪魔の実の能力者だと悟りました。よって戦闘強制参加です。

残る所ルフィVSバギー

評価等よろしくお願いします。そして最近見る度に感想が増えている(しかも批評無し)のでとても嬉しいです。そして見慣れた名前の方の扱いが雑かつ言葉を選ばなく……わ、悪気は無いんですよ?


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第75話 我らが船長

 

 

   ──ルフィVSバギー──

 

 両者睨み合う。

 

「賞金稼ぎの一派共がこの俺様に喧嘩を売るとはいい度胸じゃねェか!麦わらァァァァァ!」

「賞金稼ぎじゃねェ!海賊だ!」

 

 ルフィはいつでも殴れる様に拳を握りしめた。

 

「…」

 

 バギーは周囲を見る。

 

 名の知れた賞金稼ぎ、レイリー副船長とカナエ姐さんの娘、シャンクスの帽子を被った男。

 

「(旗揚げ以来最大のピンチじゃねェかぁぁぁあ!ぐすん!)」

 

 たった3人とは言えどこれ程までに自分に害のある海賊は居ない。

 相性は最悪だった。

 

「(とりあえずこの麦わらは残りの2人より弱い…いや金髪より強いとは思うが最も警戒するべき相手じゃねェ!さっさと終わらせてさっさとトンズラこいてやる!)」

 

 心のうちを知っている者が居れば最初から逃げろと言っていただろう。

 

「〝バラバラフェスティバル〟!」

 

 出惜しみなしだ!

 そうと決まれば自身の能力、バラバラの実の能力をフル活用し身体の様々な所を分裂させた。

 

「っわ!」

 

 突然の行動に思わず目を見開く。ルフィは考える前にとにかく空飛ぶ体を撃ち落とすために拳を飛ばした。

 

「このッ!このッ!!」

 

 何年も実戦経験を詰んだ賞金首と旗揚げしたばかりの無名海賊。例え実力が上であっても経験で上をゆくバギーはスイスイ避けていった。

 その隙にはやく終わらせたいバギーは下の戦闘に加担した。飛ばしたパーツの1部、両手が地面をはいカバジと戦うゾロの足を捕らえたのだ。

 

「…!」

 

「殺れ、カバジ」

「はい船長…ッ!」

 

「この野郎!俺と勝負だろ!ゾロの戦いに手を出すな!」

 

 気付いたルフィは慌ててパーツの大きい顔面に向かって拳を握りしめた。

 

「……っ!」

 

 〝ただのピストル〟!

 

「が…ッ!──テメェ…何しやがんだこのクソッタレがァァ!」

「殴った」

「見りゃわからァ!いてこますぞコラァ!」

「い、いてこ…??」

 

 口を結び首を傾げる姿はバギーの眉間に更に皺を増やす。

 冷静さを失う点は欠点だが騙し討ちや奸計をめぐらす戦いはルフィに効く、ナイフを手に持ち分裂した特性をいかして回転しだした。

 

「うわっ!」

「避けるな!」

「っ!」

 

 ルフィはゴム。その特性を利用して空中に逃げた。周囲の建物が方向転換の助けとなって致命傷は避けられたが頬に赤い1本の線、そしてちょっとした痛みが走る。

 

「ちょこまかと…!」

 

 バラバラの状態から普通に戻る。

 お互い進まない戦いに緊張感がピリピリ肌に突き刺さった。

 

「(腹減ったな…………)」

 

 ……緊張感を持っているのはどうやらバギーだけの様だ。

 

 

 

「凄い…何あの戦い…!」

 

 偉大なる航路(グランドライン)でないとなかなかお目にかかる事ができない能力者。しかも2人。

 ナミは物陰からこっそり覗いていた、彼が協力するに値する実力者かどうか。

 

 魚人という人外生物は目にした事があるが超人系(パラミシア)の規格外の体は勿論初めてであんぐりと口を開けたままで固まっていた。

 

「…! いけない、私のお宝と海図…!」

 

 ぶんっ!とルフィが殴りかかった拍子に自分のすべき行動を思い出す。

 タッ、と身を翻した。

 

 

「〝ゴムゴムの銃乱打(ガトリング)〟!」

「なっ!…〝バラバラ緊急脱出〟!」

 

 腕が増殖したかの様に見えるほどの高速パンチがルフィから繰り広げられる。

 

 バギーは本来ならば首のみの分裂だが思ったより広範囲の攻撃になす術なく地面に叩きのめされた。

 

「ぎゅあ…ッ!」

「お、やりィ!」

 

 上手くいったとガッツポーズするルフィ。

 

「俺はな!まだまだまだまだまだ!負けられねェんだ!にっしっしっ!大技いくぞバギー!」

「黙れ麦わらァ!俺様だってテメェみたいなルーキーに負けたとありゃ姐さんや船長に顔向け出来ねェんだよ!俺様の肩書きは…──!」

 

「肩書きだとか、どうでもいい事にこだわるな!海賊なら拳で自分を示せ!」

 

 ぐいーーーーん…

 

 ルフィは走りながら両腕を伸ばした。

 

「しゃらくせェ!ゴムは斬撃に弱いだろ!」

 

 バギーは小型ナイフを装備しルフィに向けて突き出した。

 きっと、怯むだろう、諦めるだろうとおもって。

 

「〝ゴムゴムの〜……」

 

 ルフィはそれに全く怯む事無く飛び込んでいった。

 

「…ッ!」

「───バズーカ〟!!」

 

 伸びた勢いに任せ強い打撃、掌底を打ち込んだ。

 バギーのぎゃぁぁぁぁぁ…………!という声がどんどん遠くなる。

 

「おお!飛んだ飛んだ!」

 

 星のように消えていくバギーを見てルフィは満足げに笑った。

 

 

 

 

   ────ルフィ勝利

 

 

 

 

 ==========

 

 

 世間で『守りの大将』等と言われるが実際女狐大将は年齢の事もあり存在を元帥達によって隠されていた。

 故に王族の護衛等もってのほか、『守る』経験はほぼ皆無。

 

 実際本人が掲げる『守り』というのは『他人』では無く『自分』と『身内』のみだ。

 

 

 

 『人を守る神経を使いながら戦う』意識は想像以上にリィンの精神に負担をかけていて、彼女はモージの戦闘後すぐに倒れていた。

 外傷はそれほど酷いものは無いがぐーすか眠り続けている。

 

「……」

「おいルフィ、寝てるのに触んな」

「だってよ〜すんげえプニプニしてんだぞ?」

「自分でも触ってろゴム人間」

 

 ブードルは自分を助けてくれた少女を見た。

 

「(突然現れた武器の数々…、やはり悪魔の実の能力者か?船長もそうだと言っておったし……、東の海(イーストブルー)におる海賊とは思えん…!)」

 

 戦闘の一部を見ていたが自分では理解できない人外な事ばかり。

 

「んん?なんだこれ」

 

 首筋から見えるチェーンを引っ張ると出てきた物にルフィは首を傾げた。

 

「ゾロ〜これなんだ?」

「おまっ!人の物を勝手にいじくんな!…──ん?指輪?」

 

 大きめで青みがかった黒い石が付いた指輪。が、2つ。

 

「ふむ、指輪と考えて思い浮かぶのは──婚約指輪」

「こん??」

 

 ブードルの言葉にゾロはバッ、とリィンを見た。ルフィは更に首を傾げるばかり。

 

「……はァ、要するにリィンに結婚する相手がいるって事だろ」

「…………………」

「泣きそうな顔するな兄バカ」

 

「ダメだぞリー!リーが結婚するのは俺たち兄弟だろ!?」

「どんな結婚相手だ」

 

 ゾロはドスッと脳天にチョップする。

 

一夫多妻(いっぷたさい)どころか一妻多夫(いっさいたふ)だな……。しかも身内か」

 

「エースと、エースと約束したんだ……」

 

 真剣な表情をして呟く様にルフィは言葉を紡いだ。

 

「兄妹盃を交わした時…──」

 

 

 ==========

 

 

 ──十年前 コルボ山──

 

 

「よっ…と」

 

 お酒のせいか怪我のせいか兄妹盃を交わした後、リィンは倒れてしまった。

 ジャンケンで勝ったエースが背負うことになっているんだがサボはニヤニヤと、ルフィはしししと笑いながら帰途についている。

 

 ルフィの『リィンがお兄ちゃん大好きか』を語られて以来3人は『リィンが大事』という共通認識…同類判定により随分仲良くなっていた。

 

「かっわいいなぁ〜」

「サボ何回目だ」

 

 俺も思うっちゃ思うけど…と呟くエースもエースだがそれなりに幸せだった。

 

「今日から兄妹か…俺たちが大きくなっても、ずっと……」

 

 例え離れ離れになっても。

 

「リーが嫁に行って…も……」

 

 サボは自分で言ったのに顔の血の気が引いた。嫁!?嫁って、それはリーの優先は俺たち兄じゃなくて旦那になるのか!?と。

 

「よ…め……夜目?」

「………認めたくないけど嫁に行けるんだよな…リーは…」

「嫁に行くとどうなるんだ?」

「……俺たちのリーじゃ無くなる」

 

 エースが現実逃避している中、疑問をもったルフィにサボが説明をする。

 

「そ、それはダメだ!リィンは俺たちのリィンだ!」

 

 

「サボ、ルフィ…」

 

 エースが低い声を出してまだ見ぬリィンの夫に向けて睨む。

 

「──リーの結婚だけは絶対阻止しろ」

 

「「もちろんだ!」」

 

 こうしてシスコン共の暗黙のルールが貼られた。

 

「でも、リィンが結婚したいーって言ったらどうするんだ?」

「「俺たちの誰かが結婚する」」

「そっか!それならいっか!」

 

 良くないしリィンにとって結婚相手がたった三つに縛られる苦行以外何ものでも無いのだが本人が聞いてない今誰もツッコまない。

 

「約束だからな────」

 

 ヨイショと体勢を直してアジト目掛け足を運んだ。

 

 

 

 ==========

 

 

 あの日の記憶を思い出したルフィは言った。

 

「──嫁に行かせるな、結婚するなら俺たち兄弟の内誰かだ、って」

 

「「……。」」

 

 エースというのは誰か分からないがあまりにもリィンが不憫。

 

「真剣そうにしてるがよ…リィンがお前のいう兄弟以外と結婚したいって言ったらどうすんだ」

「俺は負けねェ!」

「……つまりルフィを倒したら認めるって事か?」

「おう!でもエースは強いからな〜、俺なんか1回も勝てなかったんだぞ〜?」

 

「(こいつ(ゴム人間)より強い兄貴か…絶対結婚出来ねェだろこいつ)」

 

 ゾロが思わず哀れみの視線を送ってしまった。

 

しかし彼らは知らない。その強いセコム(兄バカ共)よりも更に強力なセコム(お父さん)がついているという事に。

 

「この指輪、えーっと、婚約指輪じゃないと──」

 

──ガバッ!

 

「ルフィ!触る禁止!」

 

 リィンは唐突に起き上がりルフィの手から指輪を奪い取った。

 

「石、触るした!?」

「し、してねェ!」

「……よかった………」

 

 ホッと息を吐きながら大事そうに指輪を握りしめるリィンを見て婚約指輪でほぼ確定だとゾロは思う。

 

「誰だか知らねェが頑張れ……」

 

 そもそもこの年齢だとロリコン確定だけどな。

 

 後半の言葉は飲み込んで。

 

 

「よかった…誠に………」

 

 

 リィンはチェーンに繋がれた指輪を大事にしまいベットから起き上がる。

 

「ルフィ、今後の予定は」

「ん!偉大なる航路(グランドライン)はいるぞ!」

「………死ね」

 

 小舟で偉大なる航路(グランドライン)渡れるか、とツッコミたかったが実際渡ってしまえる人物を知っているので強く反論が出来なかった。

 

「リィン、お前その指輪って……」

「…ひむつです」

「……おう(やっぱり婚約指輪、か…)」

 

「(()()()()()()を私が身に付けてると知ったら悪魔の実の能力者じゃない事1発でバレる…)」

 

 予想と大ハズレ。

 彼女の持っている指輪は婚約指輪等という年頃の少女が持つものではなく、海楼石の指輪という夢も何もない物だった。

 

 ゾロは誤解し、ルフィは疑念を抱いたまま今後の動きを話し合うこととなる。

 

「…ナミさんは?」

「わかんねェ!」

「………眠るしてしまった私も悪いとは思うですが全体を把握お願いです船長」

「任せろ!」

 

 これ程にまで頼りない断言を見たことが無いゾロとリィンは同時にため息を吐いた。

 

「ゾロさん…私まずは船必要と思うです」

「同感だな、あと酒」

「………。」

 

 どうやらゾロもルフィと同類の様でリィンは密かに胃痛を生み出した。

 

 

 ==========

 

 

 リィンこと私が立ち上がると先ほどの非常識人と認定したゾロさんが声をかけてくる。

 

「どこ行くんだ?」

 

「食糧調達。バギーさんの倉庫に少しは残るしてると思う故に向かうです、幹部でなく雑魚程度なれば私でも余裕です」

「あー…なるほど、でも今出ない方がいいと思うけどな」

「は?」

 

 わけがわからない…ゾロさんが言っている事も気になったが話によればバギーさんの脅威は無くなったはず。

 しかし扉を開ければギョッとした。目の前に町の人と思われる人間が大量に。

 

「あ!救世主が来たよ!」

「お嬢ちゃんも私達のために戦ってくれてたんだってね!ありがとさん!」

「おお!バギーをぶっ飛ばしたという男も奥にいるぞ!」

「海賊って本当か!?どうして助けてくれたんだ!?」

 

──バタン…

 

 扉をして数拍置くと背後にいる3人に話しかけた。

 

「……何あれ」

 

「お礼をしたいと言っておった町のモンじゃ、少々過激の様で……」

「過激というより熱烈ぞ」

「そうとも言う」

 

 ほとぼりが冷めるまでブードルさん宅で身体を休ませて貰うことにした。

 

「ひとまずナミさんと合流して報酬確認するが最良です」

「その本人がどこにいるのか皆目検討つかねぇんだよ…裏切ったか?」

「俺はナミを信じるぞ!」

 

 ゾロさんの意見には同意したく無いけれど可能性として十分に有り得る。

 合流場所を決めておかないのは迂闊(うかつ)だった………、参ったな。誰かと共闘張る経験なんてそう無いから初歩的すぎるミスだ。

 

「この島に長期航海可能な大きめの船は存在するですか?」

 

 先程まで襲われていると知っているから強請るのもどうかとは思うがこれだけ感謝されてる様なら船の1隻や2隻譲ってくれないだろうか…。どうせここの修繕費は海軍が請け負うし。

 いや本当にここら辺の管理はしっかりしておいた方がいいと思うよ海軍さん!この人聞くところによれば昔海賊に村を滅ぼされたらしいじゃないですか!開拓手伝えよ!

 

「いや、無いな……」

「そうぞりですか………」

 

 くそ、やっぱり無いか。港にそれらしい船の陰が見えなかったから少しは覚悟していたが悔しい。海賊がここまで恩を売れるのってレアケースじゃない?

 

「この付近の島で調達か…」

「ひとまず屋根を欲する」

 

 夜は海風が結構辛いです。

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

 ──1時間後 港──

 

 

「うわ………港に小舟1隻足りとも無いじゃねェかよ」

「何故!?!?」

「不思議現象だな!」

 

 私達が停めたはずの舟まで無い!ないないないないない!なんで!?

 

「こりゃ…盗られたか」

「──失礼な事言わないでくれるかしら?」

 

 ゾロさんの発言に咄嗟に否定した声に聞き覚えがあり声の方向を向くとみかんの様なオレンジの髪が目に入った。

 

 

 

 

 私にオレンジ髪の知り合いは1人しか居ないから多分ナミさんだ。

 

「…………ナミさん?」

「どうしてそこで疑問形なのよ!」

「ご、ごめんです……」

 

 他人の顔と名前は覚えにくいんだよちくしょう。

 

「なんか町の人があんた達の小舟に荷物置いていってたから重さで沈む前に避難させた私に労う言葉は無いの?」

「ナミありがとな!」

「…!……………ん」

 

 ナミさんは素直にお礼を言われるのは慣れて無いのかビックリした顔をして小さく頷いた。何この可愛い生き物。

 同じ人類として泣きたくなるじゃないですか。

 

 私を産んだお母さんは私の性格を女子とか可愛げとかの遺伝子を1ミリでもいれてくれなかったんだろうか…。あれ、私ギリギリ前世っぽいの記憶あるから人格形成って現世の親からなんだろうか…。

 とりあえず鞭で仲間しばく副船長の血は確実に引き継いでるよね!泣きそう!

 

「ほら、さっさと出るわよ…!換金しないと!」

「常識人ってまことに万歳」

 

 一生は流石に無理だけどついて行きますナミ姐さん!

 

「でも海賊にはならないから」

 

 ナミさんは絶対にだから、と牽制してスタスタ歩くと物陰に隠れたように置かれた屋根付きの小舟──恐らくバギー一味の小舟──に乗り込んだ。私もあっち乗っていいかな。

 

「仲間にするって決めたんだ!俺はナミを仲間にする!」

「ふん…!」

 

 ここぞとばかりに主張するルフィくん。少しは遠慮を覚えようか?彼女きっと海軍関係者だよ?本人が海兵ってわけでは無さそうだけど。

 

「…………私は海賊が、大っ嫌いなんだから」

 

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

 

 

 私は本当の母親を知らない。

 

 血の繋がってない姉と母と幼い頃過ごしていた。

 

 

 

『──ベルメールさん!』

『なァに、ノジコ、ナミ』

 

 

 血こそ繋がってなけれども、幸せだった。例え…貧乏でも、ベルメールさんとノジコが居れば。

 私にはそれだけで十分だったのに、それに気付いた時は──もう私の大切なものは奪われていた。

 

 

 

『シャーッハッハッハ!』

 

 

「ッ!」

 

 嫌な声が頭をちらつく。

 

 ──私の大切な人を奪ったのは海賊。

 

 

 

 小舟の中、膝を抱えて蹲る。情けないな……こんな私に1億ベリー稼げるのかな…。

 

 

「苦しいよ…ベルメールさん……!」

 

 あいつらは…ルフィ達は他の海賊、アーロン達とどこか違っていた。

 でもやっぱり海賊は海賊!あいつらだって人畜無害そうな顔しててもいずれ何でもかんでも奪っていくに決まってる。

 

 でもベルメールさんが元々海兵な事もあるのか、リィンって言う海賊の異質がいるせいか他の海賊と同じ様に考えれない……!

 

 私は海賊専門の泥棒。

 

 情を抱けば、絆されれば、1億ベリーへの道が遠のく。あいつら(海賊)は利用するだけ利用する。

 

 

「ふ…、う……ッ!」

 

 涙はおしまい、私は泥棒猫なんだから。

 

 

 ───ノジコ!ナミ!

 

 

 止まってよ…。どうしてベルメールさんの顔が浮かんでくるの…!

 

 

 ───大好き…ッ

 

 

「ベルメールさん……!」

 

 

 




ベルメールさん(元女海兵)とリィン(元女海兵)を重ねてしまって揺れ動くナミさん。絆されてしまうと自覚してしまった分麦わら3人に対して原作より少し冷たい反応です。

ちなみに海楼石の指輪は──やっぱりまだ秘密で。


お気に入り数2000越え!ありがとうございます!


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第76話 正直な嘘つき者

 

 

「海賊が来たぞ〜〜〜ッ!」

 

 その村には1人の青年が居た。

 

「皆逃げろ〜〜!海賊だ〜!海賊が、来たぞ〜〜!」

 

 騒ぐ言葉を聞けば一大事だと慌てて逃げ出すが村の人はその声を聞いて微笑ましく思うだけだった。

 

 

「またやってるよ…ウソップの奴」

「お、こんな時間か…!さて、仕事にするかな」

「毎日毎日良くやるなぁ」

 

 そこまで広く無い村、青年──ウソップは広場まで行くとわーはっはっはっ!と笑い出した。

 

「うそだーー!」

 

──ゴンッ!

 

「ふげっ!」

 

「ウソップ……、毎日毎日ほら吹きやがって………!」

「今日という今日は許さねェぞ…!」

 

 村の中でも血気盛んな男達はフライパンやら手頃な武器を手に取りウソップと対峙する。そんな様子をみてウソップは──脱兎の如く逃げ出した。

 

「だ〜れが捕まるかよ〜!さらば!」

 

「「「待てやゴルァぁ!」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「キャ〜プテ〜ン!」

 

 ウソップが木の上で優越感に浸っていると彼の子分とも言える子供たちがやって来た。

 

「よォ!お前ら!」

「おはようございます!キャプテンウソップ!ウソップ海賊団参上しました!」

 

 ピーマン、にんじん。

 彼らは偽物の剣を掲げて挨拶をする。

 

 すると数分遅れて海岸の方からもう1人の子分、たまねぎがやって来た。叫びながら。

 

「大変だ────ッ!か、かかか!海賊が来たァァァ!キャプテェェェン!」

「「「嘘だろ」」」

「ううう、嘘じゃ無いですって!あの旗見たことがあります!バギー一味の舟ですって!」

 

「さ〜て俺様はおやつを食べないと死んでしまう病だから家に戻ると──」

 

 ウソップがワッハッハと笑いながら帰途につきかけてると子分達にガシッと服を掴まれた。心から逃げ出したい気持ちに駆られる。

 

「たった4人ですよ!?」

「キャプテン!キャプテンの腕の見せどころです!」

「キャプテン!」

 

 4人、多いのか少ないのか。ウソップ1人で倒せる相手では無いが子分の前で情けない姿を晒すのも沽券に関わるので渋々海岸に向かって行くのであった。

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

「よーっこいせ」

「リィンジジくさいわよ」

「ナミさん………私未だ14の若人です」

 

 船の操作など少したりとも分からない私は適当に波を動かしてればいいだろうと判断したけどナミさんが却下した。

 曰く『(自然発生じゃない波だと)天候が読めないから緊急時以外使用禁止』だそうだ。個人的に海の上に居たくない、酔いそう。今の所(政府の科学班が毒に耐性のある私の人体実験のお礼)酔い止めが効いてるから平気だしまだ個数はあるから大丈夫だけど泣きそう。

 

「ナミの言う通り進んだら本当に島が見えたな!」

「久しぶりの島だ…酒を補充しよう」

「あ!肉も!」

 

 食糧の事しか考えてないのかこのアホ共は。

 

 町長さんの村(名前忘れた)の人が善意で食糧を積んでてくれてたからアイテムボックスに入れた保存食以外は少し残ってる。頑張って守りましたとも。

 料理出来ないから調理方法に困りましたけどね!料理人じたいも、船自体も!

 

 ルフィや私はもちろんゾロさんも料理に至っては出来なくてナミさんは法外な値段を吹っ掛け、なおかつキッチンなんて物は無いから火も使えない。干し肉があって良かった!

 

「ところで」

 舟を固定したナミさんが手を払いながら私たちを一瞥すると村へと続く坂道を見た。正確に言うと坂道の脇にある森。

 

「あそこに見える四つの頭、何かしら」

 

 ビクゥ、と肩を揺らしたのが把握出来る。ガサガサと木々が揺れる音がしたと思ったら1人の男が立ち上がった。

 

 誰だあの長鼻モジャ毛。

 

「俺はこの村に君臨する大海賊団を率いるキャプテン・ウソップ!人々は俺を──」

「──ここに海賊団は存在しないです」

「なぬぃ!?バレた!?」

 

 あ、当たった。

 

「バレたって言ってるから嘘じゃない…何あれ」

「おのれ策士め…!」

「にっしっしっ!お前バカでマヌケなんだな!」

「うるせえ麦わらこの野郎ッ!」

 

 涙を流しながら地面を叩く彼をみて思わず同情する。

 こいつ(ルフィ)にバカとか言われたく無いよな。

 

「俺、ルフィ!海賊王になる男だ!」

「……。俺はウソップ!勇敢なる海の男で俺には8000万人の部下がいる」

「ええええ!?!?すんげぇええ!?」

「ダウト」

「やかましい金髪!」

 

 流石にそんな嘘には騙されないぞ。

 

 ありがとう『嘘つきは誰だゲーム』を開催してくれた七武海のみんな!表情の僅かな変化で嘘かどうか決めるってもはや人間やめてるよ!

 ちなみに結果は私がビリでした…、ちくしょう。

 

 

 そもそも七武海の皆さんが無表情かつ観察眼がありすぎるのがいけないと思う。これは私のレベルが低いんじゃなくて周囲のレベルが高すぎる。おかしい、たかが10やそこらの小娘が七武海というエリート軍団に敵うとでも思ってんのか脳内異端児野郎共は。同じ土俵に立つこと自体おかしいだろ普通。

 なんだ、そんなに私を虐めたいか?そんなに私を虐めたいのか?ん?お?喧嘩なら買ってやるぞ?海軍が。

 

 あ、だめ、イライラしてきたあの動物共。

 まず何で今の七武海って動物だらけなんだよ。仕組んでんのか?

 

 鰐、鳥、鷹、蛇、鮫、熊、あと1人なんだよ。彼とは会ったことないんですよなんだっけ月光モリア?ゲッコー?モリアさんってだれだよ!あれ?鮫って動物!?哺乳類だったかな?ンン??もういいや!

 

「…──…───ィン!リィン!」

「は…!ルフィ何事!?」

「ずーっと話しかけてんのに反応しねェから寝てるのかと思った!起きててよかった!」

「うん、起きるしてた。で、何事!?」

「特になんもねェ!」

「うん!死ね!」

 

 心配してくれたのは分かるが何かあったのかヒヤヒヤした。なんと言っても君はトラブルメーカーだからね!

 私?私はちなみにシリアスブレイカー。

 

「おう小娘!俺が飯を奢ってやるよ!」

「素敵結婚すて」

「断る!」

 

「この子の異常なまでの食に対する信念はなんなの………」

 

 ボヤくナミさんは無視します。

 

「あ〜、えっと。名前……」

「あ、リィンですぞ、緑の芝生がゾロさんでオレンジのナイススタイルがナミさんです」

「ナイススタイルって所で顔が歪んだ気がするんだが気の所為か?」

 

 気の所為。

 

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

「ヘェ〜、船と仲間探しね…」

「そうなんだよ〜偉大なる航路(グランドライン)に入りたいけどリーがまだダメって」

「リィンのせいにしない!普通考えて分かるはずよ?」

 

 あー、飯うま。お肉美味しい……。

 

「大体、あんた達は能力も思考も常識外れなのよ」

「そうか?」

「まぁまぁ…、この村にある大きな家があるんだがその家の持ち主くらいしか船は持ってないだろうな…」

「よし、じゃあ貰いに行こう!」

 

 ん、この魚もなかなかに美味でござる。

 

「その家の人ってどんな人なの?」

「その家主は数年前に両親を亡くしてだな……、本人も病弱でなかなか布団から出られないんだ」

「……」

「やめやめ、船は他で調達しましょう」

「でもなぁ…」

 

 おお?このスープ私好み!ラッキー。

 

「そんなお前らに朗報だ!今ならこの俺、キャプテン・ウソップを船長に」

「「「ごめんなさい」」」

「早いなオイ!」

 

 ルフィがいるから食糧問題は大きいだろうな…。さっさと料理出来る人と船が欲しい。

 

「──お前はいつまで食べてんだよ!」

「…?……」

「おいリィン!おまえだ!今自分ッて分かった癖に何事もなかったかのように食事を再開するな!」

 

 チッ…、もう少し食事に集中したかったがウソップさんがバンバンと机を叩くので仕方なく中断する。

 

「奢る、とぞ言うされた以上言質は取得済み。よって遠慮するは無礼と判断したので食すのみです」

「そのおかしな喋り方やめてくれませんか理解するのに1拍必要なんですけど」

「むしろ初対面で私の不思議語を1拍で理解可能な人間はごく微量」

 

 今は言葉考えずに自分の慣れた言い方してるから余計に理解しにくいと思うよー?センゴクさん達に話す時は少し考えないといけないから神経減る。

 考えずに話しかけてさっさと理解出来るのは長い間私と一緒に居たスモさんや雑用の人や七武海達だもん、それに比べたら1拍程度で理解する人はホントにレアだよ。

 

「俺でも時々わかんねェもんな!」

「せめて分からしてくれ船長」

 

 お前は私の兄だろうが。

 私の語彙力最低の時に1.2年一緒に居たんだから。

 

「あ、やべ…こんな時間。ちょっと俺行ってくる」

「何しに行くんだ?」

 

「病で伏せったお嬢様に嘘を吐きに。俺は嘘つきだからな…!」

 

 そう一言言うとウソップさんは店の外へ出た。

 嘘を吐きに行くって凄い理由だな。何か交渉しにでも行くんだろうか、この平穏な村で。

 

 

「あいつ面白ェな!」

 

「あの店員さん、ウソップさんというのはどのような方ですか?」

 

「ウソップ、ですか?……あいつは子供の時に母親を亡くして、以来ずっと『海賊が来たぞー』って言いふらしてんですよ」

「何故海賊…?」

「……父親が海賊で、母親が死ぬ少し前に海に出たっきり帰ってこないんです」

 

 死んだか。

 

「ふーん…あいつ海賊の息子なのか……」

 

 どこか思うところがあるのか小さく呟いた。エースの事もあるもんな…成長してるようでお姉さん涙が溢れてきそうだよ。

 ……妹だけど。

 

「なァ、ウソップの父ちゃんってどんな奴だったんだ?」

「んー?お調子者…つったら良いんですかね。『海賊旗が俺を呼んでるー』って病気で伏せ気味の奥さんほっぽって海に出るんですから薄情者でも合ってますか」

 

 たどたどしい言葉遣いで説明をしてくれた店員さんにお礼を言うと私とルフィはゾロさん達の元に戻る。

 

「アホそう」

「言うと思ってたけど言わないで」

 

 海賊旗は呼びません。そんな非科学的な事があってたまるか。

 

「あいつの父ちゃんも面白ぇのな…!」

 

 小さーくつぶやくルフィに嫌な予感が止められません。なんというか、私の食費と言うか甘い物費が減りそうでこの島での胃痛の種が増えそうで同じ境遇(海賊の子供)だからこそ出来れば距離を取りたいと言うかなんというかそんな望みは叶わないのは分かってるんですけど、ね。

 

 あれ、私って見聞色使えるんじゃね?ってこの時ばかりは思いました。

 

「にっしっしっ、きーめた」

 

 傍から見たら無邪気に笑う姿なのに私には悪魔の笑みにしか見えなかった。

 

 どうか気の所為であってくれ。

 

 

 

 ==========

 

 

 その後現れたウソップ海賊団の子供たちと(何故かウソップさんが食べられた事になり)

 やけに上機嫌なルフィに 無 理 矢 理 連れられて(首しまるかと思った)

 この村1番の屋敷にやって来た。

 

 こんな平和な村故か警備兵も少ないみたいだし豪邸とは思えないな。

 

「ごめんください船くださーい」

「「やめんか!」」

 

 ガチャガチャ門を乗り越えて中に入るルフィを見ながらふと考える。

 ウソップさんの父親が海賊といっても海賊自体に嫌悪感が少ないのはきっと『日頃のウソップさんが吐く嘘』と『本物の海賊を見たことが無い』からだろう。

 

 地形としてもどうやら高い崖の中に坂道、しかも島で2つだけ。中は質素な村。

 海賊が攻めるのに躊躇う要素が多い。

 

 ハイリスクローリターンだもんな。

 

「って不法侵入!」

「「遅いわ!」」

 

 ツッコミしたらツッコミで返された。ツッコミしてる暇ないと思う。あの歩く犯罪者を誰か止めて。

 

「っ!え、お前ら何でここに…!」

 

 木に持たれて女の子と逢引してる野郎を発見しました。

 

 ひき肉になれ!

 

「海賊の話聞きに来た!お前の父ちゃんって海賊なんだろ?やっぱりスゲェのか?」

 

 いい笑顔で片手をあげながら話しかけるルフィをみてウソップさんはポカンと口を開けた。

 

「お、おおう!俺の親父は凄いんだ!撃った弾は百発百中!アリの眉間にだってぶち込めんだ!」

 

「「ん?」」

 

 待てよ、ものすごく聞いたことあるセリフだ。

 

「アリの眉間?」

「……嘘じゃねェからな!」

「真実?」

「あァ!絶対にだ!」

 

 嘘だと願っていたが初っ端からこんなに嘘がバレやすい人が私の目をかいくぐって嘘を吐けるはずが無い。つまりそれは本物と言うことで……、思い出せ私のチンケな脳みそ!今思い出さないと後悔するぞ!

 

「えっと…皆さんは?」

「こいつら海賊、船が欲しくって、ね。あとこっちのウソップ。理由は…ちょっと理解できないわ」

「ウソップさんのお友達なんですね…!ふふっ、楽しそうな人達」

 

 どっかで聞いたことある、んだ。多分!

 

 私とルフィが聞いたことある共通の人間なんて限られてる。コルボ山…、フェヒ爺?いやいやあの人はそんな事言った記憶無いし……。やっぱりフーシャ村?でもあそこは平凡で平穏で。

 

「…あなた方誰ですか!?お嬢様から離れなさい!」

 

「「う〜ん……」」

 

「クラハドール!」

「げ…執事!」

 

「ウソップ君…あなたですか。何が目的ですか?地位?財産?やはり金ですかね、あなたの父親はどうやら海賊らしいですから!野蛮な血が流れてる事でしょう!」

「なん…だと……!ッ、親父の事を馬鹿にするな!」

「やめてクラハドール!」

 

 海賊でルフィと共通の知り合いで息子がいる……。

 

 

 出てきた。

 

「「ヤソップ!」」

 

 どうやら思い出したのはルフィと同時の様でお互いの手を叩いた。やったね!

 

「へ…?どうして俺の親父の名前…」

 

「………、なるほど。執事さんが侮辱した海賊とやらはどうやら()()()()の男ですたか…はー、世の中狭きものですなー」

 

 わざと強調して言えば全員が驚いた顔をする。

 

「よ、四皇の……幹部……?」

「リー、ヤソップってそんなに有名なのか?」

 

 この世界情勢に疎いバカを除いて。

 

「ヤソップさんは少なくとも同じく四皇の白ひげさんの船に乗り込む事もしばしば。……あァ、彼らは確か王族とも関わりぞ存在しますたか」

「お、王族!?」

 

 魚人島だけど。ちょっとだけ。

 

 執事さんが仰天した顔になる。流石に田舎でも四皇の脅威と王族のレベルは理解出来るか。でもさ、どうして殺気をガンガン私にぶつけて来るのかな。

 

 これでも殺気を当てられるのには慣れてるんだ。やっぱり自分に都合の悪い事を言われて怒ってるのかな?

 

 

 見下してた人間が実はかなりの実力者の子供だったんだ。親と子を混同するマヌケには効くだろ。

 

「ルフィ、私船に戻る」

「ん?おう?」

 

 でも流石に()()()()()()()な殺気を喰らっても嫌な予感しかしないから積極的に関わらないことにしまーす!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──数時間後──

 

 

 私は見事フラグ回収してしまった様だ。




恋愛フラグは折るもの。災厄フラグは回収するもの。


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第77話 策士策に溺れる

 

 

 

 さて、船に戻ったは良いが特にやることが無いリィンさんです。

 別にログ無いんだからさっさとこの島からおさらばしたい。

 

「前回のVSバギー一味戦での欠点は……っと……ふーむ。やはり『アイテムボックス』か」

 

 フェヒ爺に教えてもらった腕や足が封じられた場合の戦い方を忘れてるってのも原因だな…。1.2年前なのに。

 いや、でもアレは女子としてやりたくないな…うん。

 

 とりあえずちょっとでも集中力が切れる要因があるとアイテムボックスは使えない。

 

「アイテムボックスに頼るしすぎ…難しいぞ」

 

 アイテムボックスって今更だけど言い難い上に言葉だけでバレそう。

 隔離空間?劣化ボックス?四次元ポケット?

 

 変える方がめんどくさい事に気づいた。

 

 

 

 とりあえずアイテムボックスに頼りすぎ無い様にしないとな…、手持ちの荷物が圧倒的に少ないんだよね!アイテムボックスに入れる方が安全だし!

 

 いざって緊急用に外に持ち出して起きたいものをまとめよう。ピンチ、ピンチの場合使えるものー……うーん……。

 

 ・小型ナイフ

 ・牽制用の武器

 ・逃亡手段(箒など)

 ・海楼石関連

 ・一対多数用武器

 ・(念のため)鞭

 

 物騒!なんかもう全体的に物騒だよ!14歳の乙女が身につける物じゃない!

 

 

 とりあえず縄を切れるようにマントの袖口にナイフ仕込める場所だけでも作っておこう。裁縫大嫌いだけど。

 

 帽子のつばにピッキング用針金を…まぁ飾りみたいに付けてればいざって時使えるはず。実際には針金使わないけど。

 

 

 あれ?私、縄や鍵に捕まる予定なの?

 

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

「──…おーい…リー…」

「はれ…?ルフィ………」

 

 いつの間にかルフィがやって来ていた。まじでいつの間に。

 

「お前寝てたぞ?」

 

 なんだと。

 

「じゃあルフィ出航を………」

 

 周囲が薄暗い事から夜だと分かるが関係ない。嫌な予感が当たらぬ内にこの島から出なければならない。

 繋いだ縄を外そうとすると脇から手を突っ込まれそのまま立たされた。

 

 どうしよう、ものすごい勢いで嫌な予感がする。警報ガンガン鳴ってる。

 

「リー!悪執事ぶっ飛ばすぞ!」

「は?」

 

 悪執事をぶっ飛ばす?

 

 ちょっと考えさせて欲しい。

 彼はまずその説明だけで私が理解出来るとでも思ってるんだろうか。

 

 まず『悪執事』と言ったな、という事はあの執事さんは何かしらルフィの怒りに触れたんだろう。そしてそいつを懲らしめる為に殴り込みに行く、と。

 

「させるかバカ」

「な、なんでだよ!」

 

「ルフィ………あんたね、説明不足過ぎるのよ」

 

 狼狽えたルフィに代わりナミさんが説明役を引き受けてくれた。

 

 

 要約すると『執事がお嬢様の財産狙った元海賊で2日後の朝村に攻め込むからその前に俺たちだけでなんとかしようぜ☆』という事らしい。ハッ、そんなモン全力で却下だ。

 

 なんで部外者が自ら首突っ込まないといけない。話によれば忠告はしたんでしょ?ならそれでも逃げない人間は自業自得。

 シェルズタウンもこの前の村もこちらには目的があって動いた。それ以外なら例え冷たいと言われようが自分やルフィの身が第一。さっさと出航するのが吉だろう。

 

 デメリットがあるとしたらヤソップさんに怨まれる程度だろう。………うん、結構大事かもしれない。ルフィはシャンクスさんにいずれ会いに行くんだとしたら仲良かったヤソップさんには関わりに行くよね…。

 

「………なんとかするです」

「よっしゃ!」

 

 うん、大丈夫、きっと。

 ほぉぉらポジティブが大事でしょ私ィィ!雑魚とは言えどシャボンディ諸島にいた偉大なる航路(グランドライン)の海賊団いくつか潰したんでしょ!大丈夫!セコムがそばにいてさり気なく攻撃してたとかあるけどぉぉ!私生き残れるぅぅ!大丈夫ーー!

 

「それでだなリィン」

 

 ウソップさんが軽くパニックになった私の目の前で説明し始めた。

 

「2日猶予があるからその間に準備するモンあったらしてくれよ、それで朝襲ってくる所を──迎え撃つ!」

 

 迎え撃つ?

 

「笑止!」

「……なんだよ」

 

 ムッとしたウソップさんに私はその考えの愚かさを説明する。

 

「一つ、わざわざ相手の体制が整うを待つ必要が存在するですか?」

「ん?………まぁ、確かに」

「二つ、朝まで待つその間に誰かが殺されても良きと?」

「だ、ダメだ!絶対に!…──そうか、例え殺されても数日後に海賊が襲ってくるんなら罪を押し付けれるから簡単に殺せるのか」

 

 本当は他にも理由はあるがその二つで充分納得出来る理由になっただろう。

 

「じゃあどうすれば……」

「簡単です!」

 

 爽やかな笑みを向ければ全員顔を引き攣らせた、酷い。

 

「相手の嫌がる事をすれば良きです!」

 

 ほら、道徳でも習うでしょ?『人の気持ちや立場を考えろ』って。

 まァ私が考えてるのと道徳では真逆だけど。

 

「ねェ、具体的にはどうするの?」

「そうですね…、お嬢様にバラすましょう!」

 

「でも俺言ったけど聞いてくれなかったんだぞ!?」

「狼少年の言葉を素直に受け取れる可能と?それこそ笑止千万!執事さんがウソップさんを見逃した理由はそこです」

「そん、な……」

 

「ま、そこは私に任せるしてです」

 

 執事さんの今回の作戦のキモは『お嬢様に遺書を書かせる事』

 ならばまずそこから断ち切れば良い。お嬢様が逃げ出せば、知っていて拒否すれば、残酷だが別の遺書を用意して死んでくれれば。その時点でゲームセットだ。

 

 お嬢様を守ろうとしてるウソップさんに言えば絶対激怒するに決まってるから言わないけど。

 

「何か秘策があるの?」

「もちろん」

 

 ルフィとゾロさんがぼーっと聞いてる中、比較的常識人とも取れるナミさんが疑いの目を向けてきた。

 

 身内だからこそ信じられない。ならば部外者であり尚且つ自分の味方から真実を告げれば良いじゃないか。

 

 

 例えば()()とかね。

 

 

「そして催眠術師の撃破」

 

「それは、確かに執事にとって嫌がる事よね……。彼1人しか催眠術を使えないのなら」

「そいつ船長代理とか言ってたし居ない方がいいな」

 

 うんうんと納得している中ふとウソップさんが何かを思いついた。

 

「そいつだけ倒したら別にカヤに言わなくていいんじゃないのか?」

 

 ふむ、確かにいい観点だ……だがしかし!その考え甘い!綿菓子より甘いわ馬鹿者!

 

「この島は平和です」

「お、おう」

 

 今から説明するからその『いきなり何言ってんだコイツ』みたいな目をやめなさい。

 

「恐らく海賊を見た経験は無いです」

「そうだな」

 

「おいリー!俺たち海賊だぞ!?」

 

 話がややこしくなるから黙ってろ。

 

「武器で脅すされた経験の無いお嬢様が脅すされる。下手なれば村の人の命を人質に遺書を書くするかも知れませんです」

 

 それを言えば顔色は一瞬にして青くなった。慣れてる人でさえ怖いもんは怖いってのに初めて見る海賊に武器突きつけられて大切な物人質に脅されりゃ遺書くらい書くわ。それが執事さんなら尚更。今までお世話してくれた人が実は敵で真実を伝えてくれたウソップさんは自分が拒絶した。

 絶望半分で正しい思考回路してくれるかどうか怪しい。

 

 不安要素はほぼ全て消すに限る。

 

「そして最後の嫌がらせ」

「こやつ嫌がらせと言いおった…」

「やかましいウソップさん──最後はもちろん。海賊団の滅亡」

 

 執事さんが何を企んでいるのか分からないがお嬢様の殺害方法が『海賊に攻め込まれ殺される』事。

 

 なんでその方法を選んだか。

 

 殺すならもっと確実に、薬を盛るとか、自ら殺して罪をなすりつけるとか、方法はあるはずなのに何故こんなにも大規模且つ大胆な方法にしたのかが分からない。

 ただ思考は読めなくても警戒すればこれは欠かせないだろう。

 

 

 

 あとルフィが暴れたいとウズウズしてる。

 

 

 後半が主な理由かもしれないな……どうしてだろう、ルフィって私と同じ弱虫仲間だったよね?ンン、まァ確かに私と違って猛獣に突進していく行動力と無謀さはあったけど。この10年で彼の身に一体何があった、おいこら火拳。

 

「でもよォ…そいつらが襲ってくるのは2日後で、お前待ってやらないって言ってただろ?どうすんだ?」

 

 迎え撃つのは嫌なんだろ、とブツブツ言ってる姿を見てあァこの村はなんて平和な村なんだろう、この人は平穏な日々を過ごしていたんだな、と羨ましく思った。

 誰も私の思考回路と同じにはならないのかちくしょう。

 

「相手の体制が整う前に殴り込む」

 

 つまり、『準備が出来るまで誰が待ってやるか、寝込みを襲ってテメエら滅ぼしてやんよ』って事です。

 

「男3人が」

「お前はどうした」

 

「今回は狭き船に乗り込みです。つまりその分戦力が集合してる中、ナミさん単独行動は危険故控えるべきと思うしたです」

「リィン……あんたそんな事まで考えて…」

 

 ま、私が戦いたくないってのが本音だけど。

 

「なァリー、俺は悪執事ぶっ飛ばしたいんだ。絶対ぶん殴るんだ」

「分かってるぞルフィ──キミの危険回避が効かぬは」

「しっしっしっ!俺はどこに行っても俺だからな!」

「絶対この人キャッチボール出来ぬ人───っっ!」

 

「じゃあリィン早めにカヤに伝えて来てくれ」

「お嬢様大好きかチェリーボーイ」

「〝火薬星〟…ッ!」

「うぎゃあぁあ!」

 

 

 

「自業自得よね」

「アホだな」

「リーは頭悪いなぁ〜」

 

 解せぬ。

 

 

 ==========

 

 

 

 満月が近いからか月明かりだけですんなり屋敷に潜入出来た。

 窓を見てもノックする必要は無い。

 

───カチャ…

 

 無機物を動かせる私にとって鍵はあっても無いに等しい。お嬢様の部屋にこっそり入っていった。

 気配消すのが得意で本当に良かったよ。

 

「……お嬢様…起きるして」

 

 ぺちぺちと頬を軽く叩いて体を揺さぶるとお嬢様はうっすら目を開ける。

 

「あな…たは………昼間の…──ッ!」

「おはようございます、まだ夜中ですが。聞くしてほしい事があるです」

「は、はい…!」

 

 不法侵入した相手に警戒せず話を聞こうとする精神はちょっと理解出来ないかなー!

 

「お、嬢様…?」

 

 カタン、と扉が動く音がして視線を向けるとこの屋敷の執事の1人がいた…と言うかまんま羊だな。なんだその髪。もぎもぎしてやろうか。

 

「メリー…!」

 

 メリーさんは執事……か……(遠い目)

 

「これは一体…」

「静かに。来てください、説明しなければならぬ事が存在するです」

「……説明…?」

 

 ロウソクの灯を持ったままメリーさんの執事が警戒しながら入ってきた。

 

「まず信憑性を上げるため私の立場をお話するです」

「……立場?貴女、は、ウソップさんのお友達よね?」

 

「私は、海軍本部の大将女狐という者です」

「「…!?」」

 

 辛うじて声をあげなかったが2人は驚いた顔をした。信じられない、といった所だろうか。

 

 仕方ないから海軍証を渡せば半信半疑だろうが〝信じる〟と言ってくれた。

 

「とある理由で海賊と行動を共にしてるですが私は基本一般人の味方、今から言う事は信じてほしいです」

 

 コクリ、と頷いたのを確認すると私は悪執事さんの事を話した。

 

「実は────……」

 

 

 ==========

 

 

 

「船長〜〜〜!北の入口、つまりここから東に向かうして海岸沿い約500m先の岩陰にて海賊船発見するしたぞ〜〜!」

「んん!よぉし!殴り込むぞー!」

「おーー!──じゃねぇよ!なんで分かるんだよ!カヤは!?」

 

 クロネコ海賊団だっけ?折角見つけてきた私に向かって酷いじゃないか。

 

「お嬢様は白執事と共に避難中。たまたま巡り会うした子供に護衛任せるしたです」

「起こしたのか!今夜中だぞ!?」

「伝令役を欲した故…」

 

 ちなみに彼らの庭だという東の森に居てもらってる。停めてある海賊船と近いけど。

 

「で、とりあえず岩陰のそばまで小舟を付けるして男3人が正面から乗り込むが最良かと」

 

「女2人は」

「私達は戦闘が始まる前に裏からこっそり入るしてお宝ゲットだぜ」

 

 グッ、と拳を握りしめれば絶妙な顔をされる。何が不満だ。

 視界の端でガクガク震えてるウソップさんが印象的です。

 

「……常人の何倍も食す胃袋拡張野郎がいる限り資金はいくつあれども足りぬぞ、です」

「宝は任せた」

「へっへっへ、ついでに財布の中身も空にすてやるぜベイベー」

 

「この子の親の顔が見てみたい…どうしてこんな風に育ったの……」

 

 ナミさんが天を仰ぐように呟くけど…私両親に育てられた覚えないぞ?

 育てられたと言えばこの世界の正義だからそれはそれで大問題だな。

 

「私の親を見るして気を失わぬなれば紹介するですよ…偉大なる航路(グランドライン)ですけど」

「嫌な予感するから遠慮しとく」

 

 いい判断だ。

 

「と、ととと、とにかく早いとこ行くぞ!い、今なら寝てるやつ多いんだろ!?」

「ウソップさん」

「な、なんだよ。びびびびびってるわけじゃ無いからな!?」

「ちなみに戦闘技術は」

「……は?えっと、遠距離攻撃のパチンコ」

 

 ふむ、拳や刀での接近戦闘のルフィとゾロさん。棍棒での中距離戦闘かつ銭闘(せんとう)のナミさんにパチンコでの遠距離戦闘のウソップさん、で支援型の私。

 

 戦闘面に関しては大分バランスいいな。

 生活面ではグダグダだけど。

 

「そういうお前らは何するんだよ」

 

「俺は斬る」

「剣士か」

「私は盗む」

「まァ話の流れ的にな」

「俺は伸びる」

「ちょっと待て」

「説明不可能」

「ツッコミどころ多いな後半2人!」

 

 なんだ伸びるって、一体何をするんだ、とかブツブツ言ってるけど時間もったいないのでガン無視します。

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 忍び足で船内を進む。

 

「……」

 

──コンコン

 

 部屋をノックすると隣にいるナミさんが慌てた顔をしたがノーセンキュー。

 この部屋には多分1人しかいない。

 

「は…い……ったく、夜中に何のよ──」

「おやすみ」

 

──ドッ…!

 

 

 鳩尾を深く抉るように殴ればハイ終了!

 

 マントの下で展開したアイテムボックスから縄を取り出して部屋の中の柱に括りつければ身動きは取れないだろう。ついでに口塞いどけ。

 

──バタン…

 

「何危ない事してるのよ!そして何でこんな犯罪行為に慣れてるの!?」

「うぇ!?ですが一旦部屋に入るしてみなければ…」

 

 部屋に入って扉を閉めた瞬間頭にダメージが与えられた。殴ったな。

 犯罪行為とか言われてるけど一応これでも警察です!世も末よね!

 

 

 

 ルフィ達が乗り込むのは約30分後、それまでに少しでも宝の情報を手に入れておきたいのと船内での拠点が欲しかったから部屋に1人しか居なさそうな所を狙ったのに。

 ぶっちゃけほぼ勘だけどな。

 

「…あんた今何考えてる?」

「明日の朝ごはんを」

「どんだけ食い意地張ってるのよ」

 

 私の胃袋は常人サイズだ。

 

「父が住むしてるバーの炒飯食すしたい…サッチさんのご飯食すしたい……」

「…待ちなさい、アンタのお父さん自分の子供放り出してバーに住んでんの?」

「………近年まで(子供)の存在知らぬですたが?」

「1度殴ってやろうかしら女の敵」

 

 絶対殴れないと思うよ?だって冥王だもん。

 

──ドゴォン…!

 

 …(甲板)の方で破壊音が聞こえた。

 

「…………ナミさん、ここに来るしてどれくらい経つした?」

「……10分も経ってないわ」

 

 30分ってなんだっけー。

 

「しばらく身を潜めるわよ」

「敵が向こうに行くまでッスね、把握」

 

 この状態で動くのはまずいな。早めに海賊達がルフィ達の元に行ってくれれば助かるが。

 

「ねェ」

「はい?」

「なんで海賊になったの?」

 

 なんで、か。

 一応潜入として来てはいるが理由は問題行動起こさない様にするためだしな…。もう手遅れとか言わない。海軍支部を敵に回して一戦やったとか言わない。一応本部には内緒にしてくれるらしいし。

 

 話が逸れたな。

 

「ルフィは、大事です。彼の夢は敵が多い。私はルフィを死ぬさせたくなきです」

「それが…海賊になった理由?」

「はい、歩く爆弾を放置するも危険と思うした故」

「……まァ、否定は出来ないわね」

 

 私の目標は平穏な人生。でもそれよりも先に好きな人間を死なせて()()()悲しみたくないのがあるから…最大限努力する事にしてるんだよ。

 

「好きなる人は死ぬさせたくなき…」

「ふぅ〜ん」

 

 その為に地位も力も手に入れたんだから。

 

 ちなみに私の中で保護枠に入ってるのは、エースサボルフィは勿論、一応スモさんとかヒナさんとか…あと七武海の1部、まァ癪だがドフィさんもクロさんも入ってる。

 まァ、絆されたとでも何でも言え。少しでも気に入ってしまったら目の前で見殺しにする事が出来ないんだ。

 流石に寝覚め悪いしね、あいにく私は見殺しにしてグースカ寝られる程肝は座って無いし何より一般人だから!

 

「一般人万歳…!」

「どうしてそんな思考回路になるのかしら…、ちなみに一般人は悪魔の実の能力使って海賊を敵に回したりしないから」

「………常識人万歳」

「常識持ってたらまず海賊にならない」

 

 どうしよう私常識人じゃないの??一般人は百歩譲って違うとしても私は常識人諦めないよ?

 

「……。あのさ」

「?」

「海賊になるのに色々理由はあると思うけど、私はやっぱり海賊が許せない」

「は、はァ…」

「っ、実は、私のね。私の村は───」

 

「おい下っ端!敵しゅ…──」

 

 扉を開けて入ってきた男と目が合う。

 しまった…!バレた!

 

「おい!ここにも敵が」

「そぉおおい!」

 

 顔が廊下に向いた瞬間鳩尾を狙う。

 意識飛ばすにはここが1番!ちなみに痛みを与える場合や先手をとる場合は股間ね!人間体の中心線は弱く出来てんだよ!

 

「いたぞ!あそこだ!」

 

 くそ、テンプレの台詞を吐きやがって雑魚どもが…!お願いします私も雑魚なので見逃してください!

 

「リィン…!」

「…」

「無言で首振らないで」

 

 やめて、ここは任せたみたいな顔しないで。

 

──トスッ…

 

「子猫ちゃん達、何をしてるのかな〜?」

 

「シャムさん!ブチさん!」

「ニャーバンブラザーズだ!この船の戦闘力トップ!」

「お二人共任せました!甲板に行ってきます!」

 

 戦闘力トップ、だと?わざわざ雑魚君が説明してくれたのは有難いけど…………ひょっとして人選間違えたパターンですか?

 

 

 

 戦闘力トップのコンビVS女2人

 その他クルー+催眠術師の副船長VS男3人

 

 

 

 やっぱり間違えてる!

 

「ジョブチェンジゾロさん!!」

 

 心からの叫びは誰にも届かない様だ。




原作と違う所。
翌日の朝に攻め込まれる→2日後の朝攻め込まれる(理由:海上生活が耐えきれなくて夜中こっそり船を進めてた方のせい)
坂道で迎え撃つ→船に乗り込む(理由:相手が疲れて眠ってる所を攻めるのが奇襲でしょうが負けたくないなら卑怯になりやがれ精神の方のせい)
細々とした所(理由:考えてか考えていまいかよく分からない雑魚の無駄なあがきのせい)


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第78話 嘘つきと泥棒の始まり始まり

「(おかしい)」

 

 この屋敷の主であるカヤと1人の執事が消えた屋敷では手のひらで眼鏡を上げる癖のある男が気付いてしまった。

 

 カヤお嬢様が居ない事に。

 

「(何故だ…、昼間のウソップくんの話はお嬢様を含め誰1人信じていなかった…。なのになぜ消えた…!)」

 

 カヤを見つけなければ自分の計画した暗殺計画はご破綻、この気に消すつもりだった自分(C.クロ)とクロネコ海賊団も消せなくなってしまう。

 

「(一体誰が……ッ!)」

 

 どの道探さなければならない。

 使用人全員が消える2日後で無いとタイミングが悪いというのに。

 

「(選択肢を全て失う様な奇妙な感覚…、どうやら相当出来る様だな、向こうの詰み手は───)」

 

 どうにも嫌な汗が止まらない。

 このまま現状維持などしていたら取り返しのつかない事になるだろう。

 

「おや、クラハドールさん?おやすみですか?」

「いえ、月を見ながら少し散歩でもしてみようかと……ついでに()を浴びたい気分なので」

「この時期は少し暑いですからねェ…おやすみなさいませ」

「………えぇ…」

 

 腹が煮えくり返りそうな程怒っている筈なのに、頭が冷えている。

 男は〝猫の手〟という愛用の武器を肩に下げると北の坂道に向かって音もなく歩いていった。

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

 ルフィ達3人はリィン達2人とはまた違った意味で苦戦していた。

 

「ちくしょう……やるな麦わら」

「くっ…お前こそ!」

 

「苦戦した台詞吐いてるけどお互い寝ただけだからな、お前ら」

 

 クロネコ海賊団のジャンゴの手によってルフィジャンゴの2人は寝てしまっていたのだった。

 

 

 お互いマヌケ故の結果だろう。ウソップは怒りたいのか呆れたいのか泣きたいのか分からなくなった。自分の意思に協力してくれるのは感謝してるが自分は頼る相手を間違えたのかもしれない、と。

 

「おい恐らく常識人ゾロくんや」

「恐らくも何もこのアホに比べりゃ俺だって充分すぎるほど常識人だ」

「俺たちでこの人数を相手して、ルフィの手網を握れると思うか、俺超逃げたいんで逃げてもいいか?」

「アホか」

 

 ゾロは一呼吸置いて自分の後方に居るウソップを見た。

 その手には刀が握られており一応敵を斬り伏せていく。

 

「テメェは何のために戦ってると思ってんだ…俺1人でも充分だが、手伝え」

「うるせーよ!お前そんな化け物じみた戦闘力持ってんなら手柄はくれてやるからソロプレイしててくれ!」

「もう一つ。ルフィの手網は恐らく誰にも握れねェ……………でなけりゃ苦労はしない」

「〝鉛星〟!──全部の元凶はクラハドールだ。くそぅ…!」

 

 このマイペースな船長と化け物をまともに相手するのを早々に諦めたウソップは鉛玉を物陰から撃っていく事にした。きっとクラハドールもこいつらが倒してくれるだろうと期待して。

 

「(震えが止まらねェ……!)」

 

 会話により解れた緊張も完璧に、とはいかず足を叩きながら必死に恐怖を押し殺した。

 村の人間が海賊を見るのが初めて?ならばこのウソップたる男も初めてだ。

 

「(とにかく、少しでもいいから敵を倒す…!)」

 

 しかし彼の凄い所、震えながらも未だ撃ち漏らした敵が居ないのだ。

 それは敵が自分に近寄る事を恐れるが故の産物か天性の才能か分からないが、少なくともルフィもゾロもウソップも無傷。 ラスボス(クラハドール)との戦いまでに敵戦力を潰したいのは山々だった。

 

「ゾロ!ウソップ!」

 

 ルフィがパンパンと服を叩くと拳を固め忠告する。

 

「──下がってろ!」

 

 シュッ…、空気を切る様な音が聞こえる。ゾロは何やら巻き込まれそうな気がして慌ててウソップの所まで下がった。

 

「〝ゴムゴムの乱射銃(ガトリング)〟!」

 

 手が増えた!?ってか伸びた!?

 

 所々でそんな声が聞こえ、ゾロは思わず叫んだ。

 

「最初から真面目にやれ!」

 

 この場でこの現象を理解しているのはルフィを除き、ゾロ1人。

 

「お、おい、アレなんだ!?」

 

 指をさしながら説明を求めるウソップにゾロは頭をかきながらも彼の持つ悪魔の実の能力に付いて簡単に説いた。

 

「化け物の船長はもっと化け物か…、どーりで崖から落ちてもピンピンしてる訳だ」

 

 クラハドールの作戦を盗み聞きしていた時、ルフィは十数メートルの高さから落ちてもいつの間にかケロッと復活していたのだ。ゴム人間と分かり納得する、人間辞めてるな、と。

 

「ちなみにリィンも悪魔の実の能力者らしい」

「あいつは何人間なんだ?」

「俺は分からねェ、本人に聞け」

 

 ただ空は飛んでたな、と付け足せば思わず遠い目をした。

 

「(流石に同情してしまうぜクラハドール………。うん、どんまい)」

 

 ウソップ1人ならともかく偶然にもルフィ達4人がいるこのタイミングで計画がバレてしまったクラハドール、運が悪いとしか言いようが無い。

 

「よ〜しっ!ゾロ、ウソップ、これ終わったけどどうすりゃいいんだ?」

 

 船長代理もルフィ相手では風の前の塵に同じ。早々に着いた決着を見てウソップは思わず深く息を吐き出す。

 

「リィンの奴に指示を仰げりゃいいがあいつら船内にいるからな…。とりあえずここで待っときゃいいだろ」

「こいつら牛耳ってんのはリィンか…」

 

「まだ、暴れたりねェ!ちょっとリーに聞いてくる!」

 

 ズンズンと船内に入っていく後ろ姿を見ながら2人は腰を下ろした。

 

 

 近づく気配は未だ気付かない。

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

 ──クロネコ海賊船船内──

 

 

「お二人共お願いします!」

 

 海賊Aがクロネコ海賊団船の番人、ニャーバンブラザーズと呼ばれるシャムとブチにその場を譲る。

 

「(……いい歳した大人が猫耳って恥ずかしく無いのかな…)」

 

 ポリシーなのかもしれないが正直言ってクソダサい、リィンは雑魚海賊やニャーバン兄弟(ブラザーズ)を見て思った。

 いわゆる一種の現実逃避だ。

 

「(しかも構え方、構えが猫…、恥ずかしい!絶対恥ずかしい!)」

 

「鼠が入り込んで何をしてたのかな〜?」

 

「かニャー?…ん゛んッ、関係の無い事ぞ!」

 

 目が合えば鳴いた。

 

「……。えっと、リ、リィン…?」

「…………」

 

 思考が猫に変わっていた為漏らしてしまったリィンは気まずい雰囲気に耐えられずナミの後ろに隠れた。痛恨のミスだ。

 

「(相手は女2人、しかもまだ子供。()()()()必要は無いな)──ブチ!」

「おおともよ!船内だから威力半減、〝キャット・ザ・フンジャッタ〟!」

 

 騙し討ちや相手の武器を盗むのを得意とする策略家であるシャムと、パワーやジャンプ力を生かした戦いを得意とする武闘家であるブチのコンビが2人をおそう。

 

「きゃあッ!」

 

 戦闘面に関してはナミより経験の上なリィンが服を引っ張り場所を移動させると2人の居た場所にヘコミが出来る。

 

「(相手は全力が出せないからこの程度…、大丈夫、この程度、この程度……でもやっぱり怖!)」

 

 流石に世界最高峰(王下七武海)と比べれば赤子同然だが怖いものは怖い。ナミを盾にしながら必死に策を練る。

 

「あ、ありがとうリィン…、ほら!さっさとやっちゃいなさい!」

「 無 理 」

「諦めるの早いっての!」

 

 慌てるナミと様子を伺うニャーバン兄弟(ブラザーズ)に1割の意識を裂き、残りの9割で数人の海賊相手に一瞬で片を付ける結果を考え出す。

 

「お、お姉ちゃん…リー、怖い、です…(巨体の方に攻撃を任せるという事は油断している証拠、なら、もっと油断させて…)」

 

 誰も虫けら相手に全力など出さない。ならば…、リィンはある物体をアイテムボックスから取り出した。

 勿論、相手に見つからない様にナミの後ろでだ。

 

 

「───お姉ちゃん…お姉ちゃん…お姉ちゃん…お姉ちゃん……」

 

 若干トリップしているナミの後ろで。

 

「くらえ!」

「ひぎゃあッ!」

 

 ブチの爪の生えた手から繰り出される攻撃をナミを盾にしながら必死に避け、タイミングを伺う。

 時に引っ張り、時に押し、時に転ばせ。

 

「お姉ちゃん…お姉ちゃん…うん、お姉ちゃんに任せて…リィン!」

 

 不安ではあるがナミが戦闘態勢に戻った、キッと睨みつけ棍棒を握りしめる。

 

「…ッ!」

 

 海賊達の視線や意識がナミに向いた瞬間、リィンのターンだ。

 

「(眠れ…!)」

 

 取り出した物体──エーテルを霧状にすると急いで風を生み出す。

 

「ぐ…!」

「なん…ッ、だ…」

「意識が…!」

 

 一瞬にして海賊達の意識が飛ぶのを確認するとほくそ笑む、ナミの後ろに隠れ怯えていた表情とは雲泥の差だ。

 

「ハーッハッハッハ!甘い、甘いわ!実力を思い知るしたか!ミホさんから逃げる為に用意すた物がここまで効くとは思う無かったがな!」

 

 ちなみにミホークはこの薬品が使われても剣圧で吹き飛ばしていた。

 その時は思わず泣いたものだ、としみじみ思う。滅べ平穏をぶち壊す七武海。

 

「ナミさん、(盾になってくれて)ありがとうございますた」

「気にしないで……!もっと頼りにしていいのよ!さァ!お姉ちゃんの胸に飛び込んで来なさい!」

 

 ウェルカム、と両手を広げるナミ。

 

 戦闘前後のナミの態度の変化に気付かない程鈍いわけではない、ただ事実に蓋をして更に固定して偉大なる航路(グランドライン)にぶん投げた。

 

「さァ!金品を回収し得てルフィぞ元へ!」

 

 その豊満な胸に飛び込むくらいなら筋肉質のルフィやゾロに飛び込む方が無駄な絶望を味わう事が無いと判断したリィンはさっさとUターンする。

 

 

 

 

 

「……。」

 

──ペタン…

 

 手を己の胸に当てても感じられない弾力にそっと目を閉じる。

 

「(爆ぜろメロン)」

 

 目尻に光る何かが流れた。

 

 

 ==========

 

 

 

──キィンッ!

 

 金属がぶつかる音。

 

 手に付けられた猫の手と3本の刀が鍔迫り合いをする。

 

「まさか計画を一から十まで全て潰してくれるとはな…!」

「ハッ、怨むならテメェのそのお粗末な脳みそを怨め」

 

 ひと心地ついたゾロとウソップを襲ったのは怒髪衝天したクラハドールことC(キャプテン).クロ。

 腹を少々斬り裂かれたがすぐさま応戦しこの状態を作り出した。

 

「うおらァ!」

「遅い!」

 

──ギィンッ…!

 

 力に関してはゾロが上だがスピードに関してはクロの方が1枚上手、かろうじて防いでいるだけで一向に攻撃を当てられない。

 

「(クソッ、こんな奴に苦戦してる程度なのかよ…俺は!)」

 

 剣の頂点を目指す男にして見れば屈辱な事この上ないだろう。

 

「(速ェ…!)」

 

 ウソップから見れば凄いことに変わりない。

 村を守る為なのにただ傍観しているだけの自分が歯痒く、拳を握りしめた。

 

「(狙撃は援護の花道…!ここで助けないで何が狙撃手だ!)──ゾロ!そいつの動きを止めてくれ!」

「…! ……分かった!」

 

 少し迷ったが頷き刀を構え直す。

 

「止める、だと?この速さに付いていけぬお前が出来るとでも思ってるのか…!〝杓死〟!」

 

 クロはダランと脱力したと思えば先ほどのスピードとは違いならないレベルの速さで動き回り出した。

 

「(追い付かねェ…!)」

 

 姿が消える程のスピード。ただ本人は何を斬っているのか分からないので地面に倒れた味方や船にも傷を作っていく。勿論ゾロにも。

 

「…クッ!」

 

 己の身一つで守るのでは無く3本の刀で守っているので薄皮数枚斬れる程度だがそれ以上にプライドに傷が付く。

 

「(気配を捉えろ……瞬間移動してるわけじゃねェんだ…、心を鎮めて、気配を探れ…!)」

 

 ゾロは深呼吸を繰り返し目を閉じた。

 

 こんな所(最弱と言われる海)こんな奴(隠退した海賊)に負けてやるつもりは──一切無い!

 

「そこだ!」

 

──ギュインッ!

 

 近づく気配に向かって刀を振るえば確かな手応え、再び猫の手と刀が交じりあった。

 

「やれ!ウソップ!」

「必殺!〝火薬星〟!!!」

 

 ウソップの放った玉がボウンッ!と派手な音を発し爆発した。

 

「…ッ!」

 

 予想外の攻撃にクロはダメージを受ける。

 その隙を見逃す程、ゾロも甘くは無い。

 

「〝虎──狩り〟!」

 

 ついにクロは決定的なダメージをその身に受け、甲板に倒れた。

 

「はァ…、ッ、ブランク3年のこいつに苦戦するとは……」

「お膳立てされて命中…ハハッ、何が援護だ。ダメだな、俺は」

 

 純粋に勝利を喜べず2人は苦い顔をしたその時、呑気な声が耳に入る。

 

「あーーーー!悪執事!俺がぶん殴りたかったのに!」

「いや…ルフィがこちらに来るが悪いぞ…」

「フフフッ、お宝と現金大量大量ッ!」

 

 どうやら暴走ルフィとリィン達が合流したようだ。怪我が無い事を確認して張り詰めた空気が四散する。

 

「俺の獲物〜…うう〜…」

 

 早速甲板の敵の亡骸(まだ死んでない)を漁りに行ったナミとクロを見て苦い顔をするリィンと暴れ足りず拗ねくるルフィ。

 

 そんな5人を島の上からこっそり見守る人間がいた。

 

 

 

 

「クラハドール…ッ」

「お嬢様…」

「カヤさん……」

 

 カヤとメリーと3人の子供達だ。

 

「本当に…彼は海賊なの…?」

 

 彼女にとって3年間の記憶は偽りと思えず、ポロポロとただ涙を流し続けていた。

 

「ウッ…ッ!…!…ゔ……ッ、ふ…!」

 

 

 

 

「ウソップさんこの人なんという名前ですたっけ?」

「んァ?えーっと、確か()()だったか?」

 

「そう…クロ…クロさんと申すか……」

 

 何となくリィンの胃が小さく悲鳴をあげる。

 

「(オールバックにクロとか何、イジメ?死ぬの?胃が痛いよ?泣いていい?)」

 

 その瞬間ピクリとクロの体が動いた。

 

「ッ、の…私が……負け、るなど!有り得ない!負けてない…!」

「うわぁぁあ!まだ生きてる!?!?」

 

 ゆっくりだが起き上がり、目の前にいたウソップは思わず尻餅を付く。どうやらクロは無意識の状態で未だに戦おうとしているらしい。

 

「負け、無い…!計画が…!一体何、の為に!3年も、あの小娘に…ヘコヘコしたと…ッ!思ってるんだぁぁああ!」

 

──キュポンッ

 

 緊迫した雰囲気に似合わ無い音がリィンから発せられた。

 その手に持つのは油。

 

 そこらから何やってんだと言いたい視線が飛ぶが本人は知らぬ顔。頭の中では某3分で出来る料理BGMが流れていた。

 

「じょ、う、は、つ〜〜!」

 

 ブワッと油特有と臭いが広がればリィンは数歩ずつウソップを連れて下がっていく。

 

「ウソップさん、火薬、ボーンっと」

「は?え?火薬?……えっと、か、〝火薬星〟……!」

 

 

 

 

 

 

 きっちりしたオールバックがアフロになっていた、と(のち)にウソップは語った。

 

 




原作と違う展開。
姉はいるけど妹がいないナミの変化。
哀れクラハドールの髪の毛。


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第79話 ゴーイングメリー号

 

「ふぁ〜〜…」

 

 思わず欠伸が出る。

 

「あ、おはようリィン」

「あ……おはようございます…」

 

 悪執事をアフロヘアーにした後、その情景を見ていたカヤお嬢様が納得してくれてとりあえず一段落つくとすぐに眠気が襲ってきた。

 脅威も無いことだしとりあえず睡魔に任せてかくーん、と。そりゃまた見事に意識を飛ばしました。

 

「ここまでゾロが運んでくれたのよ…私が運びたかったけど」

「流石ゾロ剣士…」

 

 後半のセリフに何故か寒気が走ったがとりあえず無視する。『知らなければいい事もある』成長途中では気付かなかったが今では良くわかる。現実逃避大事。

 たとえば親が伝説の海賊だったり巨大トルネードに飛ばされた先が四皇だったりシャンクスさんが四皇だったりetc…

 

 勿論知った方がいい事もあるがこの警報音は無視する案件だと信じてる。

 

「所でここは?」

 

 宿にしてはお粗末で見慣れない部屋。

 

「そうね…どこから説明するべきか…」

 

 

 説明された事を簡単にまとめると、

 1.とりあえずお礼にと言うことでキャラメルだとか美味しそうなお菓子の船『GM(ゴーイングメリー)号』を貰う

 2.いつでも出航出来るように食糧を買い込む

 3.ウソップが仲間に加わる

 

 私寝すぎな。

 

 

 てかいつの間にウソップさん仲間になっちゃったの?え、大丈夫なの?彼。

 なんかウソップ海賊団だとか言ってたよね?そう言えばカヤお嬢様は?ハニー置いてけぼりでいいの?え、いいの?

 

「うほー!すっんげ〜〜!」

 

 外でルフィとウソップさんの賑やかな声が聞こえて来た。

 

「何事?」

「あ!リーおはよう!」

「太陽考えるするともう昼ですたか、おはようルフィ」

 

「いようリィン!お疲れさん!」

「大方の説明は聞くますた、ウソップさんよろしくです」

「おう!」

 

 様子を見る限り大砲を撃ってたみたいで砲煙が上がってる。視界の先には崩れた岩山があるし遠距離攻撃が得意な狙撃手の名前は伊達じゃないだろう。

 

「はァ…久しぶりの船…やはりパーソナルスペースは落ち着くぞ…」

 

 海軍の軍艦と比べるとやはり見劣りしてしまうが見張り台も部屋もあるし船首は…羊?うん、なかなか上等。古い型なのかもしれないが小さいと海軍から逃げる時有利になったりするんだよね〜!そこは航海士の腕の見せどころか。任せたナミさん私は船に関してはからっきしだ。

 

「電伝虫使うしてくる。邪魔するなかれ」

 

 今まで海賊になってからなかなかタイミング掴めなくて生存報告出来なかったからもうそろそろしてもいいだろう。

 

「……リー」

「…?」

「お前友達いたんだな」

「まて、私ボッチと思うされてたか!?え!?少なくともコルボ山にて引きこもるしてたルフィよりは存在するぞり!?」

 

 え!私友達いなかった!?少なくともスモヒナコンビは友達だと思ってるし、私は思いたくないけどビビ様やしらほし姫様レイジュ様だって友達だと言ってくれてたよ?恐れ多くて言えないけど!マジで!

 

「てっきりマキノくらいかと」

「彼女はもはや保護者説」

 

 私ら兄妹は服を大量に貰ってただろ。

 

「疲れるた…怖いが見張り台行く…」

 

 そこそこの大きさしかないし見張り台登っても下見なければ怖くないだろう。

 私は箒に跨ってマストの上に向かった。

 

 

 

 

 

 

『おかき』

「あられ」

 

 初めて交わすスパイの挨拶。

 

 何故この言葉なのか私は知らないがセンゴクさんに電伝虫を繋げた。

 

『数日ぶりだな、どうだ』

「海賊になりますた。賞金首は居らぬですし名も売れてない、先ほど航海用の船ゲットした所です。正直小舟は辛いですた」

『約束は守れてる様で何よりだ』

 

 問題行動は起こしてます。ごめんなさい。私が無力でした。

 

『ローグタウンには向かうか?』

「確定は無いですが恐らく」

『ふむ、とりあえずスモーカーと協力体制を取り捕縛をした方がいいな──と言っても、彼はお前がソレ(潜入)してると知らなかったか。説明は任せた』

 

 ……来たか。私が回避すべき最大の難所『海軍と協力して海賊一網打尽』

 これを上手く回避しなければ。

 

「知る知らぬ云々は置いておき、バレる可能性は怖い故とりあえず『海賊側』としての参加でも宜しきですか?」

『………。そう、だな…。許可しよう』

「ありがとうございますた」

 

 ホッと息を吐く。

 センゴクさんには潜入を1番止められてしまったから何かと思うところがあるのかもしれない。

 とりあえずスモさんと会うの楽しみだなー!

 

「あ…そう言えば」

『どうした?』

東の海(イーストブルー)にバギー海賊団が居ると思うですが」

『…あまり、聞かないな』

「逃げられますたが彼の一味と一戦交えますて」

『ごフッ』

 

 なんか吹き出した音が聞こえた。

 

「だ、大丈夫です?」

『続けてくれ』

 

「えっと、船長のバギーさん1人ですがどうやら海賊王の船の見習いでシャンクスさんの兄弟分と推測され──」

『懸賞金を上げてくる』

 

 ごめんなさいバギーさん。どうやら私の一言でキミは世界中の賞金稼ぎ及び海軍から狙われるみたいです。いや、うん、まじでごめん。確信犯だけど。

 

「それとー、シェルズタウンだかシェリズタウンだかの支部のモーガン大佐の件…は恐らく情報が回るしてると推測」

『あァとりあえずはな。──関わっている、よな?』

「ゔぐ…わ、()()()は…関わりますた」

 

 彼の息子やそこで会ったコビー君がガープ中将をクッションに女狐の部下になるというのだからそりゃまぁすぐに足は付くと思ってた。

 支部をぶっ潰したのが『モンキー・D・ルフィ』だとバレない様に手回しを考えとかないと…あ、だめ、胃が…!

 

「手続きよろしくお願いするです。追加書類があれば私の伝書バットを」

『あー…あの無駄にでかい伝書バットか。わかった手配しておこう』

 

 アレが居ないと副業(情報屋ブルーバード)も出来ない。お金の引渡しはバットマン使ってるからね。

 一応バレるバレないの危険性があったから本部に置いてきたけどルフィがそんな事気付く脳みそを作成してなかったし一味の何人かには『海軍に所属していた』という事実は知ってるから大丈夫だろう。呼び寄せよう。

 

『アラバスタ王国で怪しげな動きがあるから気を付けておく様に』

「ビビ様の所です〜?はァ、クロさんが拠点に活動する上で世界会議(レヴェリー)にも参加可能な国が情緒不安定とは世も末ですな」

『そう言うな…気持ちは分かるがな』

 

 ふぅーっと息を吐き出す音が聞こえて思わず同情する。

 胃を痛めやすいのに暴走海兵に振り回され苦労が絶えない元帥に合掌。

 

『今どこにいる?』

「いや。眠るしていた故少々現在地不明更に目的地も不明です──あ、賞金稼ぎに喧嘩売るされますたね」

 

 ふと下を見れば刀か何かで傷を付けられた船と吐血している男、相棒っぽい男。

 目を離した隙に何してんだあいつら。

 

『まぁいい、死なない程度に頑張ってくれ。ガープやクザンや七武海に振り回され無いから休暇とでも思ってゆっくりしてくれて構わん──危なすぎる休暇だが』

「もはや休暇とは言うしないですよね、お気遣い感謝するです」

 

『所で船長の名前は──』

「おおーっと流れ弾ー!」

 

──ガチャ…

 

 

 ひぇぇ、危ない危ない。

 ルフィの名前出してふとした拍子にガープ中将に聞かれたら…非常にやばい。

 モンキー家の血筋怖いって言うのは共通認識だからね!ガープドラゴンルフィ!

 

 とりあえず情報屋のお金を受け渡せる伝書バットが手元に戻ってくるのはありがたい。

 

「リー!」

「うわっほぉい!?」

 

 グンッ、とルフィの顔がいきなり現れて女子じゃない驚き方をしてしまった。誰か女子力プリーズ。

 

「な、ななな、何事です」

「海のコック探しに行こう!な!」

 

 そして誰か説明プリーズ。

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

「はァ…まァ健康面に対して不安は多大に存在するですが、その『バライティエ』は何処に存在するのかご存知で?」

「「「知らん」」」

 

 どうやら食糧問題に付いてヨサクとジョニーという賞金稼ぎに教えられたようでコックを探すとの話ですが。ちょっと待て。

 

 お前ら目的地分からないのに海さ迷うつもりか。

 

「リィン、『バライティエ』じゃなくて『バラティエ』よ。間違う所も可愛いけど…」

「ありがとうございますた」

 

 ナミさんの視線に寒気を感じるんですけど。

 

「とにかく、この残りの食糧で場所も分からぬ船を探すなど愚の骨頂」

「でも俺行きたい!」

「ルフィの言い分はとても理解可能…私だって行きたい!」

 

 美味しいご飯が食べたい!

 

「ルフィ船長が行くと言うなれば従うは船員の役目、しかしながら考えるして欲しいです。──餓死したいか?」

 

 胃袋拡張男と心許ない食糧で何日かかるか分からない船探しをしたいか?

 

 私はハッキリ言ってしたくない!

 

「じゃあお前どうするつもりなんだよ…」

 

 要領の掴まない会話に少し不機嫌そうなウソップさんが聞いてくる。

 

「今、この一味の目標地点は偉大なる航路(グランドライン)。そうなれば偉大なる航路(グランドライン)に入る前のローグタウンに行くべきです」

「んー?まァ場所的にそうか」

 

 地図を広げて見れば偉大なる航路(グランドライン)の入り口とローグタウンの場所はそれほど距離は無い。

 ただ、今の現在地とローグタウンとの距離は長い。シロップ村のあるゲッコー諸島からローグタウンのあるボルスター諸島まで行くにはサンバス海域を抜けないといけないし1週間程度で付くとも思えない。

 その上で船を探すとなるとザッと計算しておよそ2週間。

 

「つまり2週間分食糧が持つとは思えぬのです」

 

 きちんと説明すればルフィ除く人達は理解出来た様で納得してくれたようだ。

 私は餓死で死にたくない。1番嫌だ。

 

「じゃあよ…どっかで食糧補充して探すのがいいのか?」

「それが最良と思うです」

 

 幸いな事にここの近くは諸島が固まってるから赤い土の大陸(レッドライン)に沿って進むようにすれば村には着く。

 諸島の群生の中でローグタウンに1番近い所はコノミ諸島ココヤシ村。

 

「ここが妥当ですね」

 

 地図上の村を指さすと突然反対の声が上から降った。

 

「だめよ…」

「ナミさん…?」

 

「ココヤシ村だけはダメ!絶対に!」

 

 手を握って強く否定する姿に少し違和感を覚える。何か怯えてる様な…

 

「おいおいナミ…どうしたってんだ?俺も飯が無くなるのは嫌だぜ?」

「それでもダメ!」

「おい。テメェがそう主張しようがそれなりに理由が無いと認められねェ。ここは海賊船で船長はルフィ…理解してんだろ?」

 

 ゾロさんがキツめの口調で説くとナミさんは狼狽えた。

 まァ、彼女今の状態は全員じゃなくてどちらかと言うと手を組む同盟だからあまり当てはまらないんだよなー…。立場的にルフィと同等。

 

「か、海軍支部がその近くにあるからよ…。海賊なら避けて通るべきだわ」

 

 ナミさんは自分の左肩を抱きながら反論した。

 

「支部程度なら裏技ぞ存在…」

「え?」

 

「この場には賞金稼ぎと名の知れた人物が3名存在するです。『海賊船を奪うした』『船が壊れるした故使用中』などと言う理由が出来るです」

「おおー!すげえなお前!悪巧みさせれば世界転覆出来るんじゃねェのか!?」

 

 ウソップさんが冗談混じりに言うけど実際出来そうで怖い。知名度バックツテ全てに置いて世界最高峰だからね。自分が怖い。

 

「で、でも…ッ」

「腹ァ括れ。俺とルフィとリィンは既に支部1個潰してんだ。大船に乗ったつもりでいろよ」

「………。あんた達何してんのよ」

 

 不可抗力です。

 

「……」

 

 私はこっそり別の地図を取り出した。海軍第16支部…、支部長は──。

 

 

「っ、なら!船を停める所なんだけど…停めてほしい場所があるの」

「ほへ?」

 

 




素直にバラティエ行くと思いました?残念、これから先の矛盾点を無くす為に順番入れ替えます。


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第80話 裏切りを裏切る

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 コノミ諸島ココヤシ村。

 

 ルフィとゾロさんは分け前である三割分の宝をナミさんの指示に従って運び、その後ろを私とウソップさん、ヨサクジョニー賞金稼ぎコンビが付いて行く。

 

「ナミさん…ここが故郷ですかね?」

「さァ…でも多分そうなんじゃねェのか?」

 

 何故かピリピリとした空気に耐えられずウソップさんに話しかけるが彼は思ったより楽観視している。

 

「みかん畑…お腹空いたです」

「美味そうだな」

「はァ〜…ウソップさんつまらぬです」

「喧嘩売ってんのか?」

「ハッハッハッハッー」

 

 どうにもテンションが上がらない。つまらない。お腹空いた。

 

「リィンの姐さん」

「ぶフッ!…ゲホッゴホッ、ッ姐さん!?」

「はい、姐さんです。姐さんはその、見るからに幼いですけど親御さんは海賊になること認めてくれたんですか?」

 

 賞金稼ぎコンビ片割れ(どっちがどっちか分からない)が聞いてくるけど『姐さん』ってどうにかならなかったんでしょうかね。

 どう考えても私年下なんですが。

 

「親、です?ふぅーむ」

「確かに気になる所ではあるよな。お前の過去」

「私に興味あるのですかウソップさん…気をつけてです、ロリコン」

「お前ほんとにシバキ倒してやろうか?お?流石にウソップ海賊団の3人と同じくらいのガキンチョに負ける気は無いぞ?んん?」

 

「私14ですが」

 

 ウソップ海賊団の炒飯3人組って私より年下だったはず。

 

「ん何ィ!?チビ過ぎるだろ!あと貧にゅ…」

 

──ドゴッ

 

「うわ…ウソップの兄貴の鳩尾に、えぐい…」

「息してますか?」

 

「お、っ、う…なん、とか………な…」

 

 私の地雷でタップダンスを踊るな。潰すぞ。

 

「えーっと、話逸れるましたが親ですたっけ?」

 

 視線を賞金稼ぎコンビに向けるとビクッと肩を震わせながら頷いた。失礼な。

 

「そもそも私の両親海賊ですたからね…反対も何も無きと思います」

 

「お前の親も?」

 

 あらウソップさん復活の早いこと。

 ………もっと強く攻撃するべきだったか。

 

「…落ち着け」

 

 ウソップさんは何かを感じ取ったのか数歩下がって防御ポーズをした。チッ、勘のいいやつめ。

 

「多分……ここにいる人間の誰かはご存知ですよ」

「え…まさか有名人だとか言わないよな?」

 

「さァ」

 

「やーめーろーよーッ!そのなんか含みのありそうな薄ら笑いッ!」

「ハハハー!」

 

 

 

「アンタら少しは空気読みなさいよ!」

 

 先頭を行くナミさんに怒られた。

 解せぬ。

 

 

 

 

「───ナミ?」

 

 みかん畑から声が聞こえてそちらを向くと紫色の髪の女の人が見えた。

 

「……、ノジコ」

 

「ナミさん知り合いです?」

 

「…っ………。お宝、運んでくれてありがと」

 

 その言葉を合図に運搬係の2人は肩から宝を地面に降ろした。

 

「気にすんな!仲間だろ!」

「仲間…?ふざけないで?」

 

 ──私は仲間になった覚えはない

 

 地を這うような声が全員の意識を冷やす。

 

「あんた達との協力関係はこれでおしまい……。正直もうそろそろうんざりしてたのよね──生緩い空気」

 

 嘲笑う様な表情で、ナミさんはペラペラと言葉を紡いだ。

 つまりナミさんはここで船を降りるって事?え、私達の中でメリー号操作できる人間居ないよ?ここ大事。

 

「…なんだかよく分かんないけどあんた達帰った方がいい」

 

 ノジコと呼ばれた人がみかん籠を下ろして腰に手を当てた。うわー、スタイルいいなー!羨ましい。姉妹かな?美人姉妹ってか?はぁ、神様…私顔の認識苦手だけど周りの評価を見るに容姿はイケると思うんですがこのスタイルだけはどうにかならなかったんですかね!ペッタンコスタイル!ふざけんな!

 

「この島はアーロン一味の縄張りでもあるんだ、被害に遭わない内に消えな」

 

 ──────アーロン?

 

「…どういう事ですか、ナミさんノジコさん」

「………リィンには少しも関係無い。消えて」

「なれば泣きそうな顔は引っ込めるしてです」

「…!」

 

 指摘すればナミさんは慌てて私達から視線を逸らした。とりあえず私にも関係あるから黙っててくれますかボイン姉さん。

 するとノジコさんは困った子を見るように腰を屈めて私と視線を合わせた。

 

 そもそも関係あるか無いかは私が決めることだ。

 

「あのねお嬢ちゃん…この海には魚人って言う怖い種族がいるの。この島はもう何年も前から──」

「──ノジコやめて!」

 

 聞かせたくない、そんな感じの叫び声。

 

「ホゥ……………?」

 

 私が気になった事。

 

 ()()()()()()…支配されていた?

 

「聞いたことがあります」

 

 賞金稼ぎコンビ片割れAが独り言の様に呟いた。

 

偉大なる航路(グランドライン)には三大勢力の一つ七武海というのがありまして」

「シチブカイ?」

 

 そんな事も知らないのか船長。

 

「まァ簡単に言えば政府公認の7人の海賊です。とにかく奴らは強い」

 

 うんうんと思わず頷いてしまう。あいつらは強い、怖い、鬱陶しい。

 

「その中にジンベエってのが居て。彼が七武海に入る代わりにアーロンを東の海(イーストブルー)に解き放ったって」

 

 

 確かに9年前ジンさん加入と引き換えにアーロンの釈放をしましたよ。

 黄猿であるリノさんと私が本部から派遣されて実際その光景は目の当たりにした。

 

 そしてだな、私は言っちゃったんだよなー…。『問題行動起こせばぶっ飛ばしに行く(意訳)』って。

 現大将のリノさんと監獄署長の前で、私が。

 

 

 責任問題、ですかね……。

 

 

「ホントにッ…何故釈放するされたアーロン……ッ、あの、クソ魚人野郎……!」

 

「よくわかんねェけど、そのアーロンって奴ぶっ飛ばせばいいのか?」

 

 ルフィがあっけらかんと言うとナミさんは一気に青ざめた。

 

「ホントに関わるのやめてよ!後少しなの…!後少しで」

 

 後少しで私の堪忍袋の緒が切れる。

 

 だってアーロンは私の兄を馬鹿にしたんだよ?過去で。

 当時の私が許せるわけ無いよねー…。いや、今更そんな事気にはしてないけど。…問題は(海軍大将)が言った発言を実行しなければならない事実。今現在に対してキレそう。

 過去に戻って発言してしまった自分を助走つけてぶん殴りたい。

 

「──とにかく、そういう事だからさっさとここから去りなさ」

「殺す」

 

 まずそもそも存在しなければ良かったんだ。うん、ジンさんの面汚しも兼ねて支配してやりますってか?お?流石にキレるぞ?んん?

 

 海軍大将女狐って言うのは他の大将に比べて他種族との関わりが強い設定ですから?一応現地に居合わせてしまった場合?対処しなくちゃならないんですよね?

 

 

「リ、リィン?」

「………は?何ですか?」

「話、聞いてた?」

 

 先ほどの空気は一体どこへ行ったのやら、恐る恐るナミさんが聞いてきた。

 フッ、話?そんなモン

 

「元から聞いて無き」

「聞きなさいよ。あのね、魚人って言うのは…」

 

 多分キミ達より魚人は知ってるから。

 

「理由経緯がどうであれ、行動すればそれは一緒。つまり、アーロンをぶっ飛ばしに行く理由が『仇討』や『魚人が嫌い』や『正義』、または『お腹空いた』であれども、結果として変わらぬです」

 

 

「お前の本音絶対『腹減った』だろ。お前の戦う理由それでいいのかオイ」

 

 

 例えばの話だけど。

 

 『お菓子が美味しいから』という理由でも『種族格差を無くそう』という理由でも行き着く先はどちらも『魚人島を保護』

 前者が理由として掲げていても思い込みが強い世の中は後者で取られることが多い。

 

 つまり理由から結果へはほぼ一方通行だけど、結果から理由を推測する場合には沢山の可能性が生まれるのだ。

 

 だから正直理由はどうでもいいんだ、結果から推測される理由があれば。

 

 どんなに下らぬ動機も、ご立派な動機も、やってしまえばみな同じこと。

 

「アーロンぶっ飛ばせば、ナミが悲しまなくて済む。よなッ!」

 

 ルフィがニッ、と笑いながら私の言葉を簡単にまとめる。私の理由が『お腹空いた』や『発言に対しての責任問題』だろうとルフィの理由は耳障りがいい。

 

「俺は仲間の為に戦う」

 

 理屈で動く私と違ってルフィは感情で動くからカッコイイんだねー…。うちの兄ちゃんマジ天使。可愛い。

 

 ルフィは自分の帽子をナミさんに被せると腕をグングン回しながら道を進んだ。

 

「おぉ…マジで理由が違うのに結果が同じになった…」

 

 とりあえずウソップさんシャラップ。

 

 

「え、ちょ…!なんで!」

 

 ナミさんがこの船を離れるという結果に到たった理由は本人にしかわからないけど、ご丁寧にお店で食糧買い込むよりアーロンの根城で食糧ちょろまかした方が絶対節約。うん、確定。

 

 

 どーせジンさん(海峡のジンベエ)より弱いんだ、イザとなったら召喚してやる。

 

 

 

 

 

 

 

「私はあんた達に死んで欲しく無いのに…ッ!」

 

 狼狽えた声が聞こえた気がした。

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

 

 

 ココヤシ村を守る駐在に『ゲンゾウ』という男がいる。

 全身に縫合の跡が残り、帽子には風車を刺した、見るからに怪しい風貌だ。しかし彼は孤児であるナミやノジコを幼い頃から見守っていた、言わば父親がわりだ。

 

 アーロンに支配され、その上ナミが『一味に入り海図を描く代わりに1億ベリーで村を買い取る』という契約をした事をノジコの口から聞き出し、自分の無力さに嘆いてからもうすぐ10年経つ。

 

 そんな親バカな彼は混乱していた。

 それはアーロンが現れた時以上に混乱していた。

 

 

「何だこれは」

 

 

 村の海岸沿いにそびえ立つアーロンパークの前でゲンゾウは頭を痛めた。

 目の前で起こる事が現実かちょっと…大分…かなり分からない。理解出来ない。と言うか認めたら負けた気がする。

 

「ゲン、さん…」

 

 どうやらアーロンパークの門の前にいる娘の2人も自分同様混乱してるようだ。

 

 ナミがアーロンパークを向くとそれにつられて視線を動かす。

 

 

 視線の先には不思議な光景が生まれていた。

 

 

 笑顔で魚人を縛っていく少女。

 袋に入れた大荷物を置き酒を呑む男。

 その男の影に隠れて怯えている男。

 そしてアーロンの歯で遊んでいる男。

 

 

 

「…………何だこれは」

 

 全てを理解した上で再び言葉を絞り出した。

 

 

 

 

「あー…、ゲンさんがそういうのも分かる。悪いのは化け物を凌駕する化け物な奴らが悪い」

「ナミ、すまん。説明を頼む」

「えっと…」

 

 自分が理解する様にナミは説き出す。

 

 ルフィ率いる4人がアーロンパークに到着した時、やる気満々のルフィがアーロンに喧嘩を売った。

 

『アーロンってのはどいつだ』

『……俺だが』

『お前をぶっ飛ばしに来た!あと怒られるのが嫌だから!』

 

「ちょっと待て」

 

 始まったばかりの会話を途切れさせゲンゾウはストップを告げる。

 

「怒られるとはなんだ」

「それは、あのちっこい可愛い女の子のせいよ」

「……あの少女の?」

 

 思わず見てしまう。──魚人を縄で縛っていく笑顔の少女を。

 

「……。」

 

 

 確かに怒られるのはちょっと怖いかもしれない、という言葉はこっそり飲み込んだ。

 

 娘であるナミの困惑の視線の中に、慈愛というか慈しみというか。……触れてはいけない何かが混じってる気がする。

 

「(そうか…やはりナミに村の重みは耐えられなかったか…。すまない)」

 

 余程辛かったのだろう、プレッシャーになりストレスで少し頭が可哀想になったのだろうと現実逃…思い込み、ほろりと涙が零れた。

 

「あの子は可愛いの」

「……そうか」

「そして強いの」

「……そうか、それでどうして怒ら」

「とっても可愛いの」

「………」

 

「ゲンさん…あたしが説明するよ」

「頼む」

 

 切実な願いに、思わずノジコの頬が引き攣る。

 

「『お腹空いたからさっさと片付けろ、さもなければ説教+夕飯抜き』だって」

「私にはもうあの少女が分からない…ッ!」

 

 思わず顔を両手で覆った。

 我が娘を毒牙にかけ、船長と言われた男を言いくるめ、魚人を恐れず絶対関節痛いだろう縛り方をする少女が、実は人間じゃないと言われても違和感が無い様な気がしてきた。

 ……むしろそちらの方が正解な気がする。

 

「つ、続きを話すよ」

 

 

 戦闘が始まりまず最初に動いたのはゾロと言われる剣士だ。魚人の中で剣士であるタコの魚人のはっちゃんだった。ちなみに『ハチ』と呼ばれるが一応『はっちゃん』が本名らしい。

 

「ちなみに瞬殺だった……」

「魚人だぞ!?」

「その後緑頭は雑魚退治に勤しんだわ」

「……我々が恐れていた魚人とは、一体」

 

 こうも簡単に片付けられると、逆になんか悔しい。

 

 

 ノジコはゲンゾウの様子を見て同意出来るのか肩に手を置いた。

 

「でもあの長鼻の男の子は最初変顔してたんだ…魚人のチュウ相手に」

「なんでだ!?」

 

 ツッコミどころが満載過ぎてどこから捌けばいいのか全くわからなかった。

 

「意図は分かんないけど…結果は魚人が大激怒」

「だろうな」

「驚いた長っ鼻くんは転んで」

「怖いだろうな」

「その頭が偶然チュウの…弱点にごつーん、って…すっごい痛そうに悶えてた」

 

 遠い目をして語るノジコ。弱点、ということはやはりあそこだろうか。それは絶対痛い。

 

「転機と見たのかハンマーで滅多打ちしてたわ」

「随分鬼の所業だな!?」

 

 思ったより辛い対応に同情心が芽生え始める。積年の恨みも塵の如く飛び去ってしまいそうだ。

 

 

「その変顔を見てしまった女の子はツボに入ったみたいでね」

「……魚人がキレる変顔がツボに入るのか」

「その隙にクロオビに殴られちまってさ」

「なんと!?」

 

 

 アーロンに正面切って喧嘩を売られた事。はっちゃんが瞬殺された事。そして変顔という始まりにも関わらずチュウが負けた事。全ての出来事が連続して起こり、忠誠心の強い格闘家のクロオビは我慢の限界だったらしい。

 そして一番近くにいた少女を殴るというのだからそれはまさに鬼の所業。

 

 ゲンゾウは少女がうすら怖いなどと思ってしまった事を少し反省した。

 いくら何でも少女は少女。自分より一回りも二回りも幼い少女が人間より何倍もの力を持つ魚人相手に魚人空手などという攻撃を喰らえば流石にただでは済まないだろうと…──

 

 ふと気付く。

 

「(じゃあ何故今ピンピンして魚人を縛っているんだ?)」

 

 おかしい、これは自分の常識がおかしいのか?

 

「…………咄嗟に腕で防いだっぽいんだけど」

 

 ノジコの続く言葉にゲンゾウは思考を変える。やはり普通の少女では無いか。

 

 咄嗟にガード出来る反射神経には目をつぶり。

 

 

「そ、それでどうなった」

 

 

 ノジコは語る。

 

 

 

『防いだか……よく反応したと褒めておこう』

『いだい…いだだだだだ…ッ!』

『だがモロに喰らえば腕は使い物にならない。そこにいる剣士と殺り合いたいのでな、さっさと潰させて貰おう〝魚人空手──』

『なれば無視して行くしろよ!』

 

 ──ゴッ!

 

『ぶフッ…!』

 

 

 腕が使え無い少女は咄嗟に頭突きを御見舞したらしい。

 

 

 

 

 

「まて」

 

 ゲンゾウは何度目かのストップをかける。

 

「ん?」

「え?待ってくれ、頭突き?今頭突きと言ったか?魚人空手の使い手相手に頭突きで勝利を収めたとでも言うのか?」

「あれは本当に驚いた…」

「驚いたで済むノジコも大概だな!そんな所は親に似んでもいい!」

 

 しみじみと語る娘はどこか彼女の親であるベルメールを彷彿させる。みかんを育てれば誰しもがこうなるのだろうか、と思う。……もしそうならみかんの名産地であるこの島は終わりだ。

 

 

「ま、その後はこの通り。剣士くんは雑魚退治した後、アーロンパークの中入っていって食糧らしき物が入った袋と酒を持ってくるし。長っ鼻くんは見た目通り鼻高々としてたけど、我に返って怯え出すし。女の子は暴れないように渡しやすい様にって縛っていくし………渡すって引導かね」

 

「(常識的には『海軍』だと思うが『引導』の可能性が否定出来ないから黙っておこう)」

 

 もはや普通の少女であるという思考はバッサリと切り捨てた。

 この4人は異常過ぎて理解するのに困る。

 

 

 

 

「あとはアーロンを残す所なんだけど…」

 

 未だに歯で遊んでいる男を見て、不安からかため息が漏れる。

 

「ルフィは、バギーを相手に出来るくらい強いけど…やっぱり東の海(イーストブルー)最高金額であるアーロンには敵わないと思ってた」

 

 今まで黙っていたナミが視線をアーロン達から逸らさずに呟いた。

 

「ちょっと、アーロン達が可哀想になるくらい一方的だから信じてみようと思う。彼女が──リィンが信じるルフィを」

 

 

 

 まず基準が少女なのか、という言葉はグッと飲み込んだ。

 ココヤシ村の将来は明るい(確信)

 




戦闘簡略化制作。

ゾロ「とりあえず食糧手に入れてやったぜ」
ウソップ「く、ウソップ七不思議フェイス(変顔)で笑わせようと思ったのに失敗…その代わりハンマーでめちゃくちゃ殴った、怖い」
リィン「ウソップさんのせいで笑った…防いだ手がビリビリするから頭突きを御見舞してやったぜベイベー」


ゲンゾウ「なんだあいつら」


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第81話 実は強い可愛い優しいイケメン

 

 私はこの世界に生まれて悪魔の実という物に触れたのはルフィのゴムゴムの実。

 

 正直に言う、ゴミゴミの実だと思ってた。

 打撃関連は通用しないとはいえども海賊王を目指す彼にとって戦闘は圧倒的に不向き。

 

 その後私は海に出て色々な種類の悪魔の実を知った。

 マグマや氷や光は勿論、友人も檻や煙など使い勝手の良さそうな能力を持っていた。

 

 だからこそやはりゴムゴムの実では強さを求める点に置いて海軍や他の海賊(ライバル)より不利だと、思っていたんだ。そして私は潜入という手で戦闘を避け手助けしようとした。

 

 

 

 

 だが現実はどうだろう。

 

 シェルズタウンでは一撃だった為戦闘は見れず、バギー戦でも悪執事戦でもルフィと私は場所の違い故、彼の実力を目にしたことが無かった。

 

 見聞色を使えない私には目で見た結果しか分からないんだから。

 

 

 

 

 

「うおりゃぁあ!」

 

 

 ルフィの雄叫びをBGMに一言いわせて。

 

 

 

 普 通 に 強 い じ ゃ な い で す か

 

 

「……。」

 

 欠点は勿論ある。ただその欠点をカバーする生命力と根性、そしてゴムの性質を最大限利用する技。

 

 最後の1匹を縛り終えた私は段々集まってくる観客(村の人)を無視して叫んだ。

 

「早く終わらせねば飯抜き!」

 

「それはダメだ!」

 

 ぐ〜っと元気な音がなる。

 

 

 

 

 恐らくルフィはアーロンに勝てるだろう。昔七武海にいた水人間さんが使った水弾丸(ウォーターバレット)みたいに水をぴゅんぴゅん飛ばしているのはよけられないけど。

 ちなみに私でも避けるのは無理。速すぎな、銃弾を意図して避ける人間はもはや人間じゃないと思ってる。

 

 

「なぁリー!グンってビュンってズドーンってやるにはどうしたらいいと思う!?」

「え?あァ………気合い?」

「よしっ!分かった!」

 

 単純ッ!

 

「適当な事教えるな」

「いやいやー…すいませんですた」

 

 ゾロさんの言葉に素直に謝る。

 

「おかえりリィン!聞け、俺が、俺が幹部の1人を倒したんだぞ!」

「よく出来ますた〜偉いですね〜」

「……お前実は腹減りすぎてイライラしてるだろ」

 

 バレた。

 

 朝から何も食べてない上にもう余裕で昼過ぎてるんですよね!ちなみに原因はルフィの暴食。今朝実は(食糧)切れました。

 『金の切れ目が縁の切れ目』とは言いますが私の場合『食の切れ目が袋の切れ目』

 多分1食ならまだしも2食抜いたら切れる、堪忍袋が。1日丸々食べれないとか考えられない。無理、保存食ボリボリする。

 

 一応言っておくが!何度でも言うが!私の胃袋は常人サイズだからな!ルフィが異常なんだからね!

 

 

 

 閑話休題(それはさておき)

 

 

 「シャーッハッハッハ!何をする気か知らねェが、所詮種族の前にひれ伏すんだよ下等種族共が!」

 

 高笑いを上げるアーロン。あの、9年前その下等種族に捕えられたのは誰だったかな。

 

 

 

「んッ、キタキタ…!」

 

──シュゥゥゥ…

 

「おいおいルフィの奴何する気だよ…」

 

 ウソップさんが脅えるのも仕方ない、ルフィの体から煙というか蒸気が出てる。

 あれは何。真っ赤っかなんだけどなんで?

 

「これで俺の技は一段階進化する…、さっさと終わらせる!俺もはらへった!」

「無駄な事を…ッ!」

「〝ギア2(セカンド)〟」

 

「だからなんで戦う理由が飯なんだよ、もっとあるだろ他に」

 

 ウソップさんの冷静なツッコミが炸裂するけど興味ないのでだいたいスルー。

 

「このまま海に叩き落としてやる!」

 

 アーロンの叫びに気づいた。海岸を目の前に鎮座するアーロンパークでの戦闘、つまり海が近い。

 2人の立ち位置は海ルフィアーロン建物と言った順番であるからアーロンがつき飛ばせば能力者であるルフィは一瞬にして魚人のテリトリーで無力化するだろう。

 

「〝鮫・ON・歯車(シャーク・オン・トゥース)〟!」

 

 ガバッと開いた口、そしてアーロンが回転しながらルフィに突撃していく。

 待って、どうして空中で突進しながら横回転が出来る。常識と重力を考えてくれ頼む。

 

「〝ゴムゴムのJET銃乱打(ジェットガトリング)〟!」

 

 普段のピストルの何倍もの数、スピードでアーロンを技を相殺する。

 いや、相殺どころかルフィの方が何倍も威力が上だ。ふぅー!兄ちゃんかっこいい〜!

 

「ウオオオオオオオオッ!」

 

 吐血したアーロンには目もくれず建物を破壊していく拳。

 

 

 

 

 どこまで破壊するんだよオイ。

 

──ドゴォンッ!

 

 

 盛大な音を立ててアーロンパークが割れた。

 

 うん、なんで人力で建造物が割れるの?

 

「ウチの船長人間辞めてた………」

「今更だろ」

「うん、今更」

 

 思わず遠い目をしてしまった私と違って適応能力高い人達で羨ましい。

 

 

──ボチャン…

 

 ボチャン?

 

「落ちたぁぁぁあ!?」

「落ちるた!?ウソップさんダッシュ!」

「俺かよ!」

 

 それでも素直に従って海に飛び込んだ。私は設定上能力者だから動けません。

 

「オイリィン」

「何事ですゾロさん」

「ヨサクとジョニーは?」

「彼らなれば入り口辺りにいるです」

「ホントだ」

 ぐびぐび酒を呑んだくるゾロさんはまるでお父さんだよ。酒くさくなるので近付かないで、苦手なの。お酒。てかマイペースだな!酔っ払いか!?

 

「ぷはっ!」

「ゲホッ…たずかっだウソップ…力入んねェ……」

 

 2人が浮上して来たのでゾロさんが引き上げた。肩を貸された状態でぐたっとしている。

 

「ルフィ…!」

 

 ナミさんがルフィの帽子を被ったまま駆け寄って来た。

 彼女に気付いた様でルフィはふらつきながらも1人で立ってナミさんの頭にポンと手を置く。やだイケメン、多分顔もいいはず。だってこんなイケメンな行動出来る人間が不細工なわけがない。

 

「ナミ…勝ったぞ!」

 

 にしし、と笑うとナミさんは困った様に笑った。

 

「ホントに勝っちゃうなんて……バカね、()()

「…!」

「ルフィ、私をあんたの船の航海士にして……私はあんた達と海を行く!世界地図をこの手で作りたいの!」

 

「当たり前だ!」

 

 

 

 その顔は数時間前とは違いお互い穏やかな顔だった。

 

 とりあえずお腹空いたな……。

 

 

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

「にしてもあんた達デタラメな戦い方したわよね…」

 

 戸惑い半分ながらもアーロンが敗れた事が村中に知れ渡り現在は月も登り宴。

 夕飯に丁度いい時間帯だ。

 

 そんな中ノジコさんが呆れた声を出す。

 

「魚人瞬殺、は良いとして。ハンマーで滅多打ちだとか頭突きで昏倒させるとか…」

「…俺と頭突き比べしてみるか?」

「嫌ですゾロさん」

 

 好き好んで頭突きなどするか。

 防いだ時に手の神経が一時的に使えなくなってしまったから仕方なくフェヒ爺直伝(手足が使えなくなった時の戦闘方)頭突きという手段を用いただけで正直自分も痛い。

 幸いな事にどうやら石頭の様で。

 

「アーロン達をあそこに置いてきても良かったのか?」

「今夜私が様子見るに行くですよ、それに……絶対外れぬ様結びますたから」

「どこで習ったそんな事」

 

 主に経験から。

 

 何せ相手は魚人程度ではなく身体を氷に変えれる人だとか腕力がゴリラオブゴリラの人相手に縛ってたからね、ほんと、今更魚人程度が解ける程ヤワな縛り方じゃない。

 

「ヨサク、ジョニー」

「へい?」

「どうしました?ゾロの兄貴」

 

「お前らこれからどうするつもりなんだ?海のレストランまで来るのか?」

 

「あー、それこいつと話し合ってたんですけど」

「実は…」

 

 ハゲ頭の方がゾロさんの耳に近付くのを見て私も自然と耳を立てる。

 

「ジョニーの奴がノジコ姐さんに惚れまして」

「……ほぉう?」

 

 ニヤニヤとゾロさんが口元を歪める。

 恋はいつでもバリケードだったかな、恋を理由に行動が決まるとはまた滑稽。

 

 個人的には愛だの恋だのを理由とした慈善行動程信じられない物は無いけど、他人の恋路を見守り時に茶化し立てるのは面白いと心から思ってる。

 

「つー事であっし達はここに残ります。ナミの姉貴の村を復興させるのに男手は必要でしょう」

「そうか、俺が言うのもおかしいが………任せた」

「「もちろんです!」」

 

 私はその様子を少し微笑ましく思いながら席を立った。

 

 

 

 もちろん、アーロンとお話(物理)をしに。

 

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

 

 人影一つ無いアーロンパークの中央に群生する魚人のかたまり。

 

「早いな……」

 

 アーロンはその中央で不機嫌そうに縛られていた、甲羅縛りだが。

 

「くそガキ…、この俺を見下ろすとは吐き気がする」

「生憎と、侮辱されるした我が兄にボコボコにされた魚人〝様〟を見下すして気分が良き」

「下等種族は誰であろうと下等種族だろ」

 

 静かに怒る表現が似合う。

 睨みつける眼光は鋭さをました。

 

「その下等種族に負けた気分は?」

「最悪だ」

 

 吐き捨てる様に呟いた声と被って聞こえたのはにゅ〜、という間抜けた声。

 

「アーロンさんは悪くないんだ!俺たちはタイヨウの海賊団で人間に酷い裏切りを知った、元からこんなに怨んでた訳じゃないんだ…。実際船には人間の子供だって居て皆と仲良かったし」

「そんなものご存知ぞ」

 

 タコの魚人が語る過去には私も聞き覚えがある。

 

『わしら魚人達が心酔していた──』

 

「──フィッシャー・タイガー」

 

ㅤこの魚なのか虎なのか分からない名前は。

 

「ッ!テメェら人間に何が分かる!大兄貴はテメェらに裏切られた…ッ!俺は復讐するんだ、この海の王者となり!敵を討つ!」

 

「ジンベエさんだって七武海として種族格差を埋めるため尽力し、オトヒメ様は未だに妨害されながらも世界会議(レヴェリー)の為署名を集め、昔タイヨウの海賊団に居たコアラさんは革命軍に入るして根本から変えようとする」

 

 あまりにもお粗末過ぎる。

 支配するなら、もっと伝手を使えばいいしアメとムチを使い分ければ簡単に済む。

 

 それに何より、彼の行動は。

 

「タイガーさんの意思に反する」

 

「黙れ!黙れ黙れ黙れ黙れ!下等種族如きに分かってたまるか!俺たちの悔しさを、タイの大アニキの偉大さを!怨みを!憎しみを!」

 

 憎しみは何も生まないとか言うけど負の連鎖を引き起こす。巻き込まれると面倒臭いし何よりしんどい。

 まァここまでは触りだし私には関係ないんだけど、私の大事な事はこれからどう虐めてストレス発散するかにかかってる。精神グッダグダにしてやりたい。こんちくしょう。憎しみを生んでいくスタイル入ります。

 

「分からぬぞ…ただな──これを知ればジンさんは怒り狂うでしょうなー…。なァ?」

「………ジンベエアニキが」

 

 

 

 実は過去に起こった事はほとんど知らない。ジンさんがタイガーさんやコアラさんの何を知っているのか分からないが、私は大雑把なことを知っているだけだ。本当に聞き覚えがある程度。

 細かい事とお説教はジンさんに押し付、任せよう。

 

 アニキなんだろうジンベエアニキ。略してジンニキでいいやジンニキ、一瞬頭の中で誰か別の人が黒い車に乗ってたけど浮かんだけど気にする事は無いだろう、この世界に『車』なんて便利な物は存在しないのだから。

 

 

「インペルダウンに、送る。再び」

「………思い出したぜ…、テメェインペルダウンで黄猿と居た糞ガキだろ…ッ!」

「思い出さぬとも良き事を…」

 

 思わずため息を吐いた。

 

 とりあえず明日の朝になれば海軍に連絡を入れて取りに来てもらおう。

 この件の原因の一端である()1()6()()()の尻拭いも含めて。

 

「ひとまず船長の居ぬ内に私が制裁ぞ─」

 

「──する必要は無い」

 

 聞きなれない他人の声がして心臓がはねる。慌ててフードを被り振り返った。

 

「そいつらは私が預かろうでは無いか」

 

 そこにいるのは海兵だった。なんだその髪の毛は…ッ!

 

「私は海軍第77支部、プリンプリン准将。大人しく海賊を引渡し……貴様も縄についてもらおう」

「…断る」

「ふむ、それもそうだろうな。だが我々も名の通った精鋭部隊。抵抗すると無事ではすまないぞ?」

 

 よりにもよって支部の准将か…。本部の准将なら信用出来るが支部に至っては信用出来ない、本部にとって少佐と同じくらいだからね。

 とりあえずどうするかな…というか来るの早すぎ。なんだ…なんの縁があって来やがった!仕事早すぎなんだよ!くそう!

 

 

「チッ、アタッチャンが居たですか…」

「……その通り、貴様の船長の写真はもはや入手済みだ」

「交渉しましょう」

 

「…。海賊風情が交渉だと?」

 

 ひとまず写真を手に入れなければ…、あれ、これ結構無理ゲー?諦めてMC(マリンコード)言った方が楽?

 

  とりあえず使わない事に越した事は無い。

 

「海軍には、私達に借りぞ存在する」

「……話を聞く限りネズミ大佐が横領を受け取り村には大変辛い思いをさせていたようだな」

「はい、それを解決したのは…──海軍ではなく私達海賊」

「その点に関しては感謝している」

 

 プリンプリン准将名前の割に食えない。

 

「そこで提案。手柄を譲る代わりに逃亡を翌朝まで見逃すてくれませぬか?」

「ホォー?名を上げるつもりが無いのか?」

「もちろん。私達は『人を助ける』という慈善行動の元動きており海賊というのは自由に航海する為のいわば偽りの身……どうでしょう?」

「…ハハッ!なるほど、そういう逃れ方もあるのか…──海賊風情が、乗るとでも思ったか」

「……」

 

 いくら何を言おうとこの人は『海賊』としか見てない。

 相手が悪すぎる…、バカ真面目なのか。

 

「交渉はお互い対等の場合のみ可能だ……まさか海軍と海賊が対等だとでも夢見たか?」

「…………。はァ、この相手は嫌いぞ…。負けです」

 

 交渉すらさせてもらえない。

 仕方ない、海賊の私はこの件から手をひこう。

 

「ですがこの場にいる私はキミ達と対等以上の立場を──」

「さァ魚人共を捕らえろ!」

 

「聞いて」

 

 言葉をぶった切られて調子を狂わされる。お願いこれからだから聞いて。

 

「よく聞け海賊の小娘」

「うん、私の話も聞きて」

「私は特例としてキミ達を見逃そう」

 

「へ?」

 

 フードの隙間からこっそり相手の顔を見る。

 

「だが、今の時間の内にキミの写真まで撮れたようだ」

「…っ、やばい」

「しっかり指名手配させてもらおう。キミ達の船長と海軍相手に交渉をした無謀な少女を(たた)えて」

 

「〜〜〜っ!待つして!聞いて!」

 

「さらばだ!」

 

 カッコつけてる所悪いけど聞いて!本当にまじで聞いて!

 今私胃がはち切れそうなの我慢してるから先っちょだけでもいいから聞いて!

 

「私は海軍の大──」

「ハーッハッハッ!滅べ海賊!貴様らの未来は暗い!」

「聞いてぇええ!?」

 

 元々目の前に真っ黒だからとりあえず聞いて!?

 

 しかし無情にも准将は背を向けて去っていった。

 

 センゴクさんが働く間もなく指名手配犯になったりしたら絶対怒る…怖い…。

 

 

「……殺す」

 

 プリンプリン准将の減給は手回ししておこうと思う。

 

 

 私は無表情で言い訳の為の手紙を書き始めた。

 

 

 

 

 ……私も減給かな。

 

 

 

 




アーロン海賊団不憫な話。過剰戦力というか…うん、まぁいいや。彼らだもん。
サンジの魚人戦デビューは先延ばしになりましたね!
そしてルフィの強さとイケメンを再認識。さすが公式主人公!D関係あろうがなかろうがイケメンで可愛いのに変わりはない!(どーん)
原作より軽い名言『当たり前だ!』。泣き顔と叫び声と違いお互い笑顔。しかしその様子を見守るゲンゾウさんは微妙な感じでした。
そして八つ当たりをしに行くリィン(鬼の所業)


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第82話 初頭手配の喜劇悲劇

 

 こっそり暖かな朝日が差し込む海岸、そこには一つの墓があった。

 墓の下には誰も眠っていない。だがそこは確かにナミとノジコの母──ベルメールが眠っていた。

 

 そこに人影が3人。

 

 

「ナミ」

 

 呼び掛けられた声に振り返ればナミは顔を綻ばせた。

 

「ノジコ、ゲンさん」

 

 家族、そう呼ぶに相応しい2人がナミの元へやって来たのだ。

 

「どーお?アーロン一味から解放された感想は」

「感想?…なんだか現実味が無くて」

 

 苦笑いを浮かべて答えるとオレンジの髪が風になびいた。その髪は朝日を浴びキラキラと輝く。

 

「それは確かに…」

 

 ノジコは同意するとナミの隣に腰を下ろした。

 

「ナミ、今までありがとね。村のために頑張ってくれて」

「……ううん、いいの。ベルメールさんが死んじゃった事でアーロンを凄く怨んだけど…不思議な縁で結ばれて、私はリィン達と海賊になれた」

「あの金髪の」

「そう!」

 

 ブレない妹の様子に若干引きながらそっと目を閉じて亡き母を思い浮かべる。

 

「ナミが海賊になるって、ベルメールさん止めなかったかな……」

「さァ?止められても私は言う事聞かないもん」

「そうね、あんたならそうだわ」

「海兵の子供が海賊になるとは思っても見なかったなぁ…」

 

 ナミ達が眺める墓に酒をかけるとゲンゾウはしみじみと呟いた。その声色からは優しさが感じ取れる。

 

「ナミ…お前は自由だ。海賊になるのも止めはしない」

 

 不安が無いと言えば嘘にはなるが自分で決めた道を進むナミのために言葉を続けた。ゆっくり、聞きやすいように、最悪の可能性──死をも見据えて。

 

「だがな、笑顔だけは失わないでくれ」

 

 例え夢のために命を落としても、何かの犠牲が出たとしても、世界中を敵に回す事になるとしても。

 後悔のない道を。

 

 そう願いを込めて。

 

「うん」

 

 たった一言、その返事で満足したのかゲンゾウは穏やかな笑みを浮かべた。

 

「もう自分の為に生きていいんだ……。幸せになりなさい…」

 

 安心する後押しもあり、ナミは迷っていた心を決めることになる。

 

 

 

 

「(───リィンともっと仲良くなり(愛し合い)ましょう)」

 

 

 

 

 今ここに存在してはいけない何かが生まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──ゾクッ

 

 

「(なんだろう…私の野生の勘が『ナミさんから全力で逃げろ』と言ってる気がする……一体何が起こった…!)」

 

 指名手配の恐怖にも勝る何かを察知した心配症(アホ)はこっそり目標を掲げた。

 

「(とりあえずそっと距離を置こう、手遅れな気がするけど)」

 

 

 確実に手遅れだ。

 

 

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

 

 

『言いたい事は分かっているな?』

「申しわけござりませぬ!」

 

 戦いの傷も癒えぬ内に…というか元々そんなに怪我は無いんだけどなるべく早めに出航する事になった。

 なんとなーく、潜入中にはしまっている電伝虫をなんとなーく取り出した瞬間。仏の皮を被った閻魔大王から呼び出し。

 

 情報が渡るのが早すぎるんだよちくしょう。

 

東の海(イーストブルー)最高額の敵を倒したんだぞ!?分かってるのか!?』

「理解可能です!ですが船長が仲間にしたいと申した方が脅されそちらに入るた故にこのような結果になりますた!」

『それを止めるなりなんなりするのがお前の仕事だろう!』

 

 当たらずも遠からずだと思う!

 

「リー!」

「うぎゃぁぁあ!?」

 

 見張り台で電伝虫を使っていたのにルフィがいきなり顔を出した。

 

『……』

「な、何事ですか?」

「おう、ちょっと船出すらしいからよ。手伝えるか?」

「無理です」

「そっか!まァいいや、海のコック探すからそっちやってくれよ!」

「……え。待つして私が探すですか!?」

 

「出航するぞーーー!」

 

 混乱した私を放置して着々と出航準備が整えられていく。

 

『……。まァ、モンキー・D・ルフィの事も含めお説教はこれくらいにしておこう』

「……ガープ中将今度は何したですか」

 

 呆れ声、と言うより同情が混じった声。なんとなく何かがあった事を察した。私的にはラッキーだけどルフィのフルネームを知られてた事以上にジジがセンゴクさんに何をやらかしたのか気になった。

 

『軍艦一つ』

「お疲れ様です」

 

 たった一言、その返事で察した。

 また壊されたな………。

 

 

 

 下では人を避けながら船に乗り移ったナミさんがお財布(大量)を地面に落とし笑顔で「いってきます!」と叫んでいた。

 

 

 

「ねェセンゴクさん」

『なんだ?』

「9、いや十数年以上前に本部にいたらしき〝ベルメール〟という名の女性海兵はご存知ですか?」

『ベルメール?ベルメール少佐の事か?』

 

 ざっとだけど食事中にナミさんに(一方的に)説明された過去。

 驚いたことにナミさんの義理のお母さんは海兵だった様で、ゲンゾウさんという人曰く本部に所属していたと。

 

 ひょっとしたらと思ったが知ってたのか。

 

『よく世話係というかストッパーとしてロシナンテと組ませていたから覚えている』

 

 ……ローさんを逃がしたドフィさんの弟か。

 

「人生どこでどう繋がるしているか不明ですな………」

『その不明の代表格が何を言う』

「………凄まじき因縁ですな」

『本当にな……お前だけは敵に回したくない』

 

 そこまで実力を認めて…とか思わない。ずっと前から私は特殊過ぎる縁が絡みついてるのは知ってるし不本意であれ意図的であれその縁は年を重ねる事にますます太く複雑に絡みつくから。

 

「こうしなければ生きて居られぬですよ」

『……。』

「知らぬまま、を許さぬ出生。ならば権力者を味方につけ力の味方をすれば良いのみ──私は自分の出生がどうにかならぬ限り正義という闇に身を隠すだけです」

『はァ……これがたった14の小娘が語るのだから頭が痛い』

 

 何度でも確かめた。自分のこれからを、過去を、繋がりを。

 生まれが重要視される世界なら、生まれ以上の名前を持てばいいだけの話。

 

 『四皇の知り合い』『国の救世主』『海軍本部の雑用』『謎の大将』『七武海のお気に入り』『スパイ』『青い鳥(ブルーバード)

 (リィン)が作り上げてきた名前。決して(戦神と冥王の子)という名前に負けない様に。

 

 政治を前にすれば人間1人ちっぽけな物だから。

 

「センゴクさん」

『なんだ?』

「後悔は沢山あります」

 

 無駄な事実を知った事。フェヒ爺の刀を見せた事。そもそもの話…堕天使が災厄吸収なんて物を付けることになってしまった事。

 

「でもですね」

 

 海風が鼻につく。頬を撫でる。髪を踊らせる。

 

「楽しいです」

 

 この世界に生まれ、引き取られ、兄を持ち、恐怖を知り、師を持ち、死を知り、無力を知り、価値を知り、出会い、終わりを告げ、笑い、怒り、温もりを感じ、幸せを感じ。

 世界を知った。

 

 コルボ山で一生を過ごすと決めた時には思わなかった。

 

 例えそれが一時的な幸せだろうと。

 

()()()()

 

 心の底から、大切な人を守りたい。

 

 

「そう思える様になりました」

 

 私の正義は、ずっと心を写してた。

 

 自分を守りたい──失いたくない──

 自分の命が惜しい──離れたくない──

 

「だから、そんな機会をくれたセンゴクさんに感謝してるです」

 

 

『ハハッ、何を…一体どんな変化だ?』

 

 苦笑混じりの声が電伝虫から聞こえる。

 

「んー……。やはり家族ですかね」

 

 私がこれまで触れてきた家族はどれも歪な形をしていた。

 ナミさんやノジコさん、ゲンゾウさん。彼女達が墓の前で話す暖かな風景見て。羨ましいと思った。

 

 でもそれ以上に素敵だ、なんて。

 

「私にとって、母と父は()()でした」

『顔も合わせた事が無いだろうからな』

 

「私にとって父はセンゴクさんですよ」

 

 大将になって沢山の仕事をする事になったり人と知り合ったのも、心配してくれたのも、全部、全部センゴクさんからだ。

 

「感謝してるです」

 

 

 ルフィがシャンクスさんに、

 エースが白ひげさんに、

 サボがドラゴンさんに、恩を感じるのなら。

 

 私はセンゴクさんに。

 

『………そうか』

 

 だから。

 

 

 

 だから伝えたい。

 

 

 

 

 

「大目に見て下さい!!」

『シリアスを返せ大馬鹿者!』

 

──ガチャッ!

 

 

「解せぬわァ……」

 

 感謝して罵られるとは理不尽だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「リィン、話終わったの?」

「はいです!」

「なんだか随時スッキリした顔してんな」

「まァルフィを隠す必要性を感じぬようになりますたから重荷が降りた感じですね」

「なんだよそれ…」

 

「リー!」

 

 ぐるんっと体がゴムで包まれる。

 

「海のコック仲間にするぞ!」

 

 今はこの船で楽しもう。

 

 ───いずれ降りるその時まで。

 

「分かりますたよ、ルフィ」

「頼りにしてるからな!」

「……可愛い!大好き!愛すてるぞ!」

「俺も愛してるぞ!」

 

 麦わら帽子を被った笑顔の似合う大好きな兄と共に。

 

 

「そこー、ラブラブしないー」

「………ウチの船長は天然人たらしの才能があるかもしれねェな」

「リィン私は!?私はァ!?」

 

 頼りになる仲間と。未だ見ぬ仲間と。

 

 友と。家族の様な人達と。

 

「怖い」

「ん?」

「失うが、怖いぞ」

 

 大事な物を作ったが為に生まれる恐怖と。

 

 

 

 

 私が大将だって、この人たちが知ればどうなるだろうか。

 私が自分の為なら他人を蹴落とせると、大事な他人(ひと)が知ればどうなるだろうか。

 

「大丈夫だ!──俺が代わりに守るから!」

 

 他人を信じるなんて不確かな事はしたくない。

 

「リー…安心しろ!お前が、皆が俺を助けてくれる代わりに。俺がお前らの全部を守ってやる」

 

 根拠の無い自信が1番嫌いで。

 

 

 

 ──それは絶対無理

 

「うん」

 

 なのにそう思わせてくれるから。

 

「一緒に守って。助ける」

 

 安心する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──パサッ

 

 

 何かが落ちる音がした。

 

 

「あ…手配書」

「誰の?」

「………………ルフィとリィンの」

「「「何!?」」」

 

 慌ててウソップさんからひったくると思わず目を見張る。

 

 

 

 カメラ目線で笑顔のルフィの姿。

 

 DEAD OR ALAVE(デッド オア アライブ) 〝麦わら〟モンキー・D・ルフィ 懸賞金3000万ベリー

 

 

 よーし、これはいい。いや良くない。

 ちょっと思わぬ金額にホワホワした頭が一瞬にして冷えたけどとりあえずまぁいいいいだろう。

 初頭手配書で1000万を越えるか!そこまで危険視するかモンキー一家を!

 

 

 

 

 

 

 夜、黒いマントとフードを纏った怪しげな姿。

 

 

 DEAD OR ALAVE(デッド オア アライブ) 〝堕天使〟リィン 懸賞金2000万ベリー

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なんでだ─────ッッ!!」

 

 

 

 

 拝啓 インペルダウンで生きているかどうか分からないお母様。

 

 

 

 ──やっぱりこの世界って糞だと思います。

 

 

 

 

 胃が痛いです、助けて。

 

 

 

 

 




あ、シリアスと思いました?残念実は内容はとっても薄っぺらいです。
大事な伏線か?改心か?
と思わせておいて実際ほぼほぼ何も変わりません。

手配書配布、頑張れっ!(スッキリ)


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第83話 〝3〟

 

 

 海のレストラン〝バラティエ〟

 

 

 ファンキーな見た目に態度の悪い接客。だけども質は超一流。

 

 従業員は全て男。

 

 

 そして船のコック長はかつて偉大なる航路(グランドライン)で名を上げた〝赫足のゼフ〟

 

 

「うん、うまい」

 

 そんな情報はとりあえずガン無視して私は目の前のご飯を口に頬張った。やばいなこれ美味すぎるなこれ。

 

「……ハムスターかよ」

 

 隣では頬袋を作ったルフィが美味い美味いと何度も繰り返して食器の山を作っていく。

 お金、足りるかな。まァ多少はあるし資金調達もローグタウンで考えてる所あるからまだ大丈夫だけど。あ、うま。

 

「ふふ、そんなに急いで食べなくてもご飯は逃げないわよ?」

「隣に暴食魔が存在するですが?」

「お金はまだあるから心配しない!」

 

 ルフィの反対、私の隣に座ったお金の魔人ナミさんがニコニコと隣でじっと見てくるのが気になりますが。

 

「あ…」

 

 ピラフを食べて小さく「これ好き」と呟くとナミさんがガタッと立ち上がった。

 

「このピラフ作った人誰!?」

「やめるです恥ずかしいぞ!?」

 

 慌てて止めるも手遅れ。周りの他のお客さんが迷惑そうに顔を顰めた。ナミさんは常識人と信じてたのに。

 

「んはぁ〜〜い♡ お呼びでございましょうか」

 

 シュバッと現れた黄色い髪の人物がナミさんの手を取る。目がハートになってる様な気がするけど多分私の思い違いだろう、リアルで怖いわ。

 

「この船の副料理長 あなたのナイト、サンジです」

 

 道理で美味いわけだ。副料理長の名は伊達じゃ無いな。

 

 サンジさんか…、おやつ食べたくなってくる名前だな。

 今何時?サンジ!

 

 ハハッ、それならイチジとかニジとか居てそうで──ん?

 

「3?」

 

「ねェこのピラフの作り方教えてくれない?」

「もちろん喜んでマドモアゼ──ぶフッ!」

 

 なぜナミさんが突然ピラフを作りたいと言い出したのかとりあえず出来れば一生考えない事にして。

 サンジさんがいきなり飛んだ。

 

「アホナス…仕事をしろ!」

「いってェなクソジジイ!」

 

 片足が義足のお爺さんがサンジさんを蹴り飛ばしたんだと思う。

 親子だと信じてる。むしろ親子だと言って。

 

「ち…なんでも無きです」

 

 『父親ですか?』って聞こうと思ったけど止めた。これで違うとか言われたら私のSAN値が削られる。

 

「その人は?」

「この船のクソオーナーですよ」

「……父親?」

「……………こんなクソジジイが父親とは思いたくない、です」

 

 あぁ…、私の心がゴリゴリ言ってる。やめて嘘って言ってください。

 

 

 ていうか嫌な予感が止められない…。名前は偽名ですよね!

 イチジとかニジとかサンジとかヨンジとか。

 

 どっかの国土を持たない国の王子様と連想するんだけど…。

 

 

 よっし、違うところを探すんだ。

 

 探しちゃ逃げられないとか野生の勘が言ってるけど探さないと気が済まない。

 

 

 まずレイジュ様が言ってた亡命したサンジ様の特徴と比べて見なければ。

 

 その1、黄色の髪…──うん、黄色いよね。

 

 その2、姉弟共通のぐる眉…──回ってるね。

 

 その3、亡命した海は…──うん、東の海(イーストブルー)

 

 その4、料理を作るのが好き…───副料理長!

 

 

 

 だめだ、共通点を認識して胃が痛くなるだけで終わる。

 

 

 

 え、ほんとにどうしよう。

 

 私はガン無視してもいいの?これはいいの?

 なんか家出した理由が『兄弟イジメ』と『料理人になるため』だったっけ?

 どうやら感情を少し学んで優しく改心?したご姉弟はきっと問題無いと思うよ?時々訪問してるけど『サンジ生きてるかなー』とか『楽しい事ないかなー』とか仰ってましたよ。

 

 その楽しい事に訓練とか戦闘とか含まれる辺りは昔と変わらず異常性MAXだけど。

 

 

 

 

 あァ…もう嫌だ。国の名のつく全てが嫌だ…。

 

「おいリィン大丈夫か?」

「ウソップさん………私気絶許可願い」

「気絶してもいいか、って事か?オイオイ何でだよ。あのサンジとか言うコックが好みだったのか?」

「あ、全く」

 

「おい」

 

 ウソップさん(癒し要因)にすがれば恐ろしい事を言いやがった。

 思わずと言った様子でサンジさんがツッコム。

 

「こちらのお嬢さんもまた随分可愛らしい方だ」

「そりゃどーも……あ、サンジさんの料理大好きです」

「お褒めにお預かり恐悦至極にございますプリンセス」

 

 手を取ってそっとキスをするけどどうしよう、プリンセス(王女)とか今出して欲しくない。それとギリギリ歯を食いしばるナミさんの視線がすごく怖くてもう何がなんだかキャパオーバーなんだけど。

 泣きそう。

 

「でも、私が1番好きなる料理人は別人です…」

 

 だから関わらないでください。

 

「……………ヘェ」

 

 

 やばい…口に出してた……。サンジさんから殺気に似たような気配を感じる。

 

「是非とも会って見てェ…」

 

 なるほど、王族(仮)だろうと料理人は料理人って事か。めんどくさい!

 

 とにかく私の中の混乱と意味のわからない苛立ちをどこかにぶつけたい!

 

 

「おいそこのコック!」

 

 私達の席とは離れた場所で男がサンジさんに向かって叫んだ。

 このお方を誰と心得る、かの有名国ジェルマ王国の王位継承者サンジ様(仮)だぞ。

 

「この虫はなんだ?この店はこんなものを客に提供するって言うのか?」

 

 スープを指差してニヤニヤする客だがサンジさんの対応は慣れたもの。『すいません、虫には詳しくないもので…』って、種類を聞かれたわけじゃない。

 

 

「あれってさっきの船の人よね」

「やだやだ海軍も堕ちたわね……」

 

 隣のテーブルでヒソヒソと話してるおば様達からいい情報を聞いた。

 

「失礼しますです、おねーさん、あの人知ってるですか?」

 

「え、えぇ…。確か彼自身がフルボディ大尉と言っていたと……」

 

「ありがとうござります…」

 

 

 混乱しながらも答えてくれた人にお礼を言ってゆっくり足を進める。

 

 王族(仮)相手に無礼を働かないか心配で?身内の恥だから説教をしに?偽善行動?いやいや……

 

 

 

 ──ストレス発散相手(サンドバッグ)みーつけた。

 

 ただ、これだけだった。

 

 

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

 

 

 フルボディ大尉は運が悪いとしか言い様が無かった。

 

 デートに誘った日に突然上からの命令でシロップ村という田舎に行かないと行けなくなったし、そこで催眠術にハマってしまうし、これでやっと帰れる──と思えばボロボロで餓死寸前の海賊に襲われるし散々だった。

 

 やっと彼女の都合が良いタイミングで休暇が取れたので有名なバラティエに予約をして軍艦で来て見ればどうだ。

 堂々と海賊旗を掲げる船が停泊している。

 更には注文していた筈のワインは違うし赤っ恥もいい所だった。

 

ㅤ気分は最悪だった。

 

「すいません…虫には詳しくないもので」

 

 虫を入れてクレームをしても意味の無いばかり。

 

「俺を舐めるなよ…こんな店俺の権限ですぐに消すことだって出来るんだぞ…ッ!」

 

 

「ねェ、海兵さん」

 

 その時は信じていた。

 これ以上最悪な事にはなるまいと。

 

「…ん?どうしたんだ小娘」

 

 彼女の手前『子供にも優しい男』の仮面を被り返事をした子供が、自分と同等以上の怒りと悪運の持ち主なのに気付かなかった。

 

 

「おにーさん、フルボディ大尉さんですよね?」

「あァそうだが?」

 

「プリンセス…? どうして…」

 

「今日はお仕事じゃなくて綺麗なおねーさんとデートですか?」

「あァ、美しいだろ?」

 

 不自然だが名誉挽回の為に彼女を褒める。何故そんな事を聞くのか、その疑問すら浮かばずに素直に答えたのがいけなかった。

 

「ならおにーさんこの船消すこと不可能ですね!」

 

 ニコー、と笑う少女に寒気を覚える。

 

「何故だ?俺は大尉。こんな船はスグに消すことが出来る地位にいる。意味わかるか?」

「そうです…大尉という地位は、ですね」

 すぅ…と表情が消える。

 少女は一つ指を出した。

 

「まずその1、営業妨害」

「は?」

「威力業務妨害。そして信用毀損(しんようきそん)。少なくとも海兵が行ってよき事では無きです」

「何を言って…」

「それに、何らかの形であれども食事を提供する店及び人物に対しての阻害は固く禁じるされている筈ですよ」

 

 海賊には関係ない、市民にもその対応は緩いが、海兵となると話が違う。

 

 あくまでもこの船にいる人間は市民。例え生意気な店員であろうと守るべき市民に危害を加える事は一切許可されていないのだ。

 

 それを思い出し顔を青くする。

 

 こんな事が本部に知れれば減給所の話ではない、降格問題だ。ヘタをすれば首が飛ぶかもしれない。

 

「その2、軍艦の個人的利用」

「……ッ」

「それはどんな権限を持つするしても…ダメですよね?」

 

 目の前の少女が考えている事が私はわからないがとにかく相手をするのは拙いと考える。

 

「(まァ、海軍の英雄様は個人で使ってるけど……)」

 

 考えている事はわからない。

 

「それがどうした…海軍に連絡でもするか?」

 

「まさか!」

 

 パッと笑顔に戻ったのに、フルボディの顔は険しいままだ。

 海軍に連絡はしない?ならば何故そんな事を言い出した?この少女は一体何者で何を知っている?

 

「質問ですが…、フルボディ大尉は自分より上の方の顔ぞ全て覚えているですか?」

「………もちろんだ」

 

 虚偽の申告をする。

 確かに覚えている事は覚えている。自分の担当する支部の近くにいる上官や地位の人間はもちろん、本部に居る方も数人。

 だが全てでは──無い。

 

「仮に、大尉の頭が良く、本部でも支部でもすべての方の顔を覚えるしてるとするです」

 

 クルクルと周りながらまるで演説をするように、友人に話しかける様に楽しげな声で語るのだから奇妙。

 どうしても嫌な雰囲気で逃げ出したいがそんな情けない事などプライドもへったくれも無い。

 

「──でも、確実に1人知らぬですよね?」

 

──ゾクッ…

 

 笑顔が怖いなど初めての感覚。

 

「何を言って………」

「知らぬはずです…」

 

 フルボディは気付く。

 

「(()()()()()()()()()()()?)」

 

 まるで料理される魚の気分だ。

 

 決して自分は優位に立てない…一方的な処刑。生簀(数時間前)の環境の方がずっと幸福だった。

 

「もしもその人間がここにいるなら──どうするですか?大尉程度の地位…どうとでも無きに等しきですよ?」

 

 確実に1人知らない。

 

 1番謎が多い海兵を思い浮かべる。

 

「(何故こんな子供が知っている!?関係者なのか!?子供や部下だとでも言うのか!?)」

 

 ────大将女狐

 

 未知であるからこそ恐怖は倍増する。

 

「や…やめろ……」

「はて、耳ぞ遠くなりますたね」

「やめろ……」

 

「ふむ…。表面上のみ見られぬ無能に、果たして未来ぞ存在するかどうか……」

 

 

「やめてくれ!!黙れ!」

 

 

「……『守る』名を持つする人物が。『守る』対象の市民を傷付くさせる海兵を…どうすると思うです?」

 

 間違い無い言葉だった。

 

 女狐は『守り抜く正義』を掲げる少し変わった大将。

 殺られる。確実に自分の人生が終わる。

 

 

 目の前の少女は手で拳銃の形を作り、自らの頭に突きつけた。

 

「ばぁー…んッ」

「ひッ!」

 

 大尉が大将に敵うはずも無い。

 

 喉の奥から乾いた悲鳴を小さくあげるとフルボディは椅子から転げ落ちた。

 

 

「消えるしろ。不愉快」

 

 フルボディは一目散に船へと駆け込んだ。

 

 残ったスープの波紋に金髪の少女の顔が揺れる。

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

 

「ま、ハッタリですけど」

 

 張り詰めた空気を四散させる様に明るく言えば周囲はポカンとした。

 

 いや〜、スッキリした!

 

「プリンセス…一体何をしましたか?」

「海兵に効く脅しをしたですよ」

 

 自分の地位を大仰に出すとサンジさんにひょっとしたら警戒されるかもしれないのでこうするほか無かったが、これはこれでまた面白いではないか。

 

 私は人の笑顔も好きだがそれと同様に嫌がる顔や悔しそうにする顔が実に大好きだ!おちょくったりする時の顔の歪み具合などホントに大爆笑!

 ………こんなんだからフェヒ爺に性格歪んでる親子って言われるんだな…。

 

「お客様!なんてことをしてくれるんだ!」

「はぁ…」

「お金を払ってくれるお客様を追い払うなど言語道断!どうしてくれる!」

 

「良いですか店員さん」

 

 慌ててホールに入ってきたコックさんに諭すように伝える。

 

「相手の名前の階級と仕事場は分かるしてるです……んなモン請求してしまえば簡単です」

「……。あァそうか」

「ついでに色を付けるして請求するなれば彼の財布からお金ぞがっぽり消え失せそちらの懐に収まるですよ?」

「それもそうだな。ありがとさん!」

 

 それで納得していいのかコックよ。まァ楽だから良いけど。

 

「さすが元海兵ね」

 

 何故かサンジさんと共に席に戻る、するとナミさんが呟いた。

 

「なァ…ッ海兵!?初耳だぞ!?」

「そう、元女海兵。ベルメールさんと同じなの」

 

 自分の様に自慢されると居心地が悪いです。

 

「まァ…本部の雑用だったのみです」

「いいのかよ海賊になって」

「良きです良きです」

 

 むしろ公認です、とは言えないけど。

 

 王族相手に下手な事は出来ないけど自分より確実に格下相手にはどうとでも対応可能だからな。

 しかもこちらは大将という立場であったとしても『海賊(しかも手配書あり)』

 法など通用しない無法者なんだよお坊ちゃん。

 

「お前ほど敵に回して恐ろしいと思う相手はいないかもな…」

 

 ウソップさん最高の褒め言葉をありがとう。

 

 

「嗚呼麗しきプリンセス!貴女のその強さに含まれた儚さ…俺が守りたい!」

「やめて下さい」

「サンジ君…だったわよね、貴方いいセンスしてるわ」

「うおおおお!俺は愛に生きる!」

 

 どこをどうナミさんに認められたのか知らないが私を巻き込まないで下さい。

 

「んナミさんも最高に美しい!」

 

 どっかのオーナーから蹴りが飛んでくる前に一旦黙った方がいいと思う。

 

 

「ハハッ儚げとか1番似合わないよな、お前。つーかしぶといだな。Gだ、G」

「誰が1匹いたら30匹はいると言うされる害虫だ」

「害虫っちゃあ害虫だけどどっちかと言うとゴリラだな」

「1度死の淵さまようしろ鼻」

 

 

 ところで、私はそこまで愚かじゃない事は自称出来る。比較対象を麦わらの一味に限ればだけど。

 

 サンジさんが果たして王族なのかどうかは未だに判明出来てないのだ。

 

 つまり胃が痛い。

 

 …………こうなったら判明してやる。どちらか分からない状態で放置しておくと取り扱いにくいことこの上ない。

 

 

 まァ例え無礼を働いたとしても私個人の心のうちに秘めておけば『知りませんでした』って理由が使えるわけですよ。

 『(亡命した)王子』に気付かないなら不敬罪もへったくれも無い!この世界でその屁理屈が通用するのか分からないけど決まりが緩いことを願う。まじで。

 

 

「ここまで前途多難とは………」

「ん?どうしたの?」

 

 ボソリと呟いた独り言だったが、目敏いナミさんに拾われた。答えないといけないか。

 

「これから偉大なる航路(グランドライン)に入りて航海する上での必要物資やら悪天候やら考えねばならぬ事。それと此処でコックを見つけるが可能か、という不安です」

 

「……コックを探してるのかテメェら」

「おう!海賊だけどな!」

 

 ルフィがサンジさんに元気よく答える。

 個人的にサンジさんはNOでお願いします。

 

「そーだサンジ!お前俺の仲間になれよ!」

「ま…ッ!」

「……俺は無理だ。この船で恩を返さないとならねェ……諦めろ」

 

 麗しのレディ達との航海は興味あるけど、とおちゃらけた態度でフォローを加える。

 

 ホッとしたような残念だったような…。

 

「…恩?」

「ん?あァ…昔クソジジイと遭難してな、色々合ったんだよ」

 

「あの!サンジさんいくつですか!」

「へ?」

 

 いきなり逆ナンの様に聞き出した私に質問の意図が分からないとばかりに首をかしげた。

 

「成人してるのかな、と思うしたのみです……いくつです?」

「あー…19ですよプリンセス」

 

 指を折って数えると絶望的な言葉を投げかけられた。

 

 今年イチジ様達19になったばかりなんですよね…。此の前誕生日呼ばれたくらいだから。

 ちなみに今彼らは偉大なる航路(グランドライン)に居るから移動は簡単だった。

 

「……………誕生日は3月2日です?」

「…!? ど、どうしてそれを…?」

 

 はい確定ーー!ヴィンスモーク・サンジ様で決定ー!あー!泣きそう!

 

「女の勘…──というのは嘘で、実は噂話を聞くが好きなのです。此処(バラティエ)は有名です故にここの副料理長の話は何度か聞いたですよ」

 

「もはやそれを知るとかストー…グフッ!」

 

 私をストーカー(ドフラミンゴ)と同類にするな。

 

 と言うか亡命したなら誕生日くらい偽ろうよ!名前も外見も年齢も偽ってみろよ!頼むから!

 

「リー?」

 

 表情は変えてない筈なのにルフィが心配そうに顔を覗いて来た。野生の勘かな。

 

「どうかし──」

 

「た、大変です!我々海軍が捕らえていた東の海(イーストブルー)最強の海賊団クリーク海賊団の下っ端が逃げ出しました!皆さん急いで逃げ出───」

 

──バァンッ…!

 

 

 船の入り口から飛び込んできた海兵は、慌てて要件を伝えようとするも、言葉の途中で銃声音と共に赤い血を撒きながら倒れた。

 

 うん、汚点を隠すよりも先に安全をとったその行動は褒めよう。

 だがな、恐らくフルボディお前はだめだ。海賊捕まえた段階で寄り道するな、真っ直ぐ牢屋に向かいやがれコノヤローバカヤロー。

 

「…ッ!」

「に、逃げろ…!」

 

 ザワッと動揺した後、我に返った誰かの呟き声が確に聞こえた。

 

「もうずっと食べてない……残飯でもいい、飯を恵んでくれ……ッ!」

 

 

 これ以上災厄を持ち込んでくんなと思いっきり殴り飛ばしたいが、拳銃持ってる時点で私は正面切りません。錯乱されたら怖いことこの上ない。

 

 

 

「本気でこれ以上災厄は要りません」

 

 数十分後、これがフラグだと理解する。

 

 




悟りました。察しました。直接聞かないリィンは空気の読めるいい子です。

評価等お願いしまーす!


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第84話 彼は甘党で戦闘狂でコミュ症

 

「裏でサンジがあの海賊に飯やってたんだよ」

 

 餌付け?

 

「だから俺はアイツ仲間にする!決めた!」

 

 やめて?

 

 

 

 ==========

 

 

 

 血気盛んなコック達に追い払われた餓死寸前の海賊さんはルフィの簡単かつ要点がすり変わるという摩訶不思議報告によってとりあえず生きてるという事が判明した。

 ルフィが仲間にしたい アイツ の部分が餓死海賊の方なら救いはあったけどどうやらぐる眉王族の方だそうで……。泣く。

 

 サンジ様は喜怒哀楽きちんと最初からフル装備どころか他の方々の感情吸収したんじゃねレベルで哀をご存知らしいから問答無用は無いだろうけど。

 

「うん、美味しい」

 

 仲間にした際のメリットは美味しいご飯だけど下手したら国際問題というデメリットが金魚の糞のようにくっついて来るから釣り合い取れないよね。

 

「うまし」

 

 話は少しズレるが王族への誕生日プレゼントって難しいよな…。この前ジェルマン(ジェルマの男達(man)の略)のプレゼントは本人達の強い要望により『試合』と『お泊まり』だったが…ありゃ試合じゃないわ、死合だわ。身体能力化け物共め……。

 

「うん、これも美味しい」

 

 お泊まりは4人+私で仲良く雑談しながら寝ましたよ。私は王族4人にとって『友人兼感情指導』らしいが私的にはそれだけじゃなくて護衛も含めてるから寝れなかったけど。

 最近計画してるのは父親に一泡吹かせる事らしい…。遅めの反抗期かな、合掌。

 

「んまー……」

 

 そう言えばレイジュ様は体質的に毒を食べれるし好物らしい。今度(強制的に)会う時は手土産に毒でも献上しようか…。

 時々電伝虫とかでも毒談義してくる。私が毒が効かないと知ってから同類だと思ってません?残念毒は大っ嫌いだ。

 

「おぉ…美味しい」

 

 私の好物は基本的に食べれる物だがやはり1番と言えば甘い物だろう。

 女の子らしい? ええ、昔はそう思ってました…。悪魔の実の能力と偽ってるこの不思議色の覇気(仮)を使うために盛大にカロリーを消費するから必要なんだと知るまでは。

 あれだね、体が自然と必要なものを欲してただけなんだね。

 

 

「お前はこの非常時にいつまで食べてんだよ!いってらっしゃい!」

「……その鼻折るぞ」

 

「さて…この船を頂こうか」

 

 実はあの下っ端の親分であるクリークさんという海賊が乗っ取りに来ました。

 

 現実逃避させてくれよ。

 

「要求は船員の食料と水とふざけるした外観の船。こちらのメリットは……命程度?」

「程度ォ?」

 

 命という物を軽く見てるのか、とウソップさんに眉を顰められた。

 

「程度ですよ、この世界命がとーーっても軽い故に」

 

 私の殺害人数は未だ1人だけ─多分上司の計らい─、でも犯罪は犯してるという事よ。私より立場が低い人でも殺す人は殺してる。大将格になれば3桁は余裕。

 

 ホンット嫌になるよね。

 

「この世界って…、お前は他にどんな世界を知ってるって言うんだよ」

「さァ」

 

「テメェらゴチャゴチャ言ってんじゃねェ!」

 

 銃口をカチャッと向けられて思わず体が竦む。打撃又銃が効かないルフィが慌てて私達の前に出て庇った、感動。

 

 

 正直剣や刀と対峙する度胸はあってもほぼノータイムで─しかも一撃で死ぬ─銃は怖い。

 ついでに言うと使えない。

 刀を振るう筋力があっても技が無いから脅し程度だしどっちかと言うと鈍器扱い。平和な世界での常識が刷り込みされてる分刃物とかで人を傷付ける事が最高に怖いんです。

 銃も同様、たった1度の引き金で命を簡単に奪うから。簡単だからこそ、自分の手を汚して人の人生を背負う覚悟と度胸が無い私には使えない。

 

 

 でも自分他人の命を使ってでも最終的には逃げ延びるつもりですから、出来るだけ『殺したくない(慈愛とか無しで)』『傷付けたくない(物理的に)』

 

 ………個人的に殺すくらいなら死んだ方がマシと思える位の生き恥晒させる方が気分的にスッキリする。『生かさず殺さず』これ大事。

 

「つーか仕事しろフルボディ…」

 

 思わず声が漏れ出たのも仕方ない。

 実は下っ端─確か名前はギン─が逃げ出した時から1時間も経ってない。海軍の船の中でギンとクリークが何らかのコンタクトを取り、タイミングを見計らい船をギリギリまで近付けて狙ったとしか思えないタイミングだ。

 餓死寸前のギン1人を捕らえる力くらいあったんだろ?更に時間が経った状態で捕らえることは容易な筈だし、そもそも出来なきゃ兵士として失格。完璧八つ当たりだろ。この船狙われても俺知らないみたいな。

 

 ガキの喧嘩か。

 

「おうおう海賊さんよ…戦えるコック舐めるんじゃねェぞ」

「こっちこそ本職舐めるなよ?コック如きが…!」

 

 するとオーナーのゼフさんが袋に食料を詰めてクリークの前に置いた。

 

「持ってけ」

 

 

 どうやらコック側も揉めてる様だ。

 

 コックの主張『海賊だから餓死しても構わねェ。騙されるくらいなら消してやる』

 ゼフ達の主張『餓死を体験した事あんのかテメェら、だから食糧を提供する。だけど略奪は許さん』

 

 私の意見含め多数決でコックさんの勝利で。

 

 

 ちなみに我ら麦わらの一味は傍観中。逃げはしないが干渉する理由が無い。

 これはあくまでクリーク海賊団とバラティエの問題だからだ。

 

 本能的にか、理解せずとも察してるルフィでさえ鉛玉の警戒に回っているだけだ。ルフィが仲間思いの子に育ってくれて嬉しいよ。贅沢を言うならもう少し人格形成して欲しいかな。

 

「ふぅ…」

 

 少なくとも今回に限り命の危機は無さそうだ、と思う。

 関わらなければ部外者だし、ご飯を食べたとは言えど餓死状態だった海賊がそこまで強いわけではない。空腹感が無くなっただけで栄養分はまだ消化途中だろうし、数日間飲まず食わずということはふらつく事だってあるだろう。

 

「〝赫足のゼフ〟だな…。俺が望む物はもう一つ…、お前が偉大なる航路(グランドライン)から生還した事は知っている。さぁ、渡してもらおうか!丸1年分の航海日誌を!」

「……」

 

 なるほど、それなりの航海士が仲間に居たようで。

 あー…そう言えば聞き流してたけどクリーク海賊団は偉大なる航路(グランドライン)から逃げ出した奴らだったか。

 

「そもそもあの様に大きな船なれば敗北確定ぞ」

「……。なんか言ったか小娘」

偉大なる航路(グランドライン)の入り口如きで騒ぐする海賊があの海渡るは不可能、と申したぞ」

「なんだと…?」

 

 イラッとしたのかクリークが鋭い視線を向けてきた。

 

「もう一度偉大なる航路(グランドライン)へ?正直不可能。舐めてるですか?」

「ハッ、ガキがあの海の何を知ってやがる」

 

 鼻で笑うとクリークは海で起こったことを言い始める。意図せず煽ってしまったか。まぁ、弱い者だと認識してくれてる方が有難い。

 

「分かるか?コンパスが狂う、方角も分からねェ、渦巻く海に、巨大な嵐──そして俺の大海賊団を潰したのはたった1人の剣士!」

「無知とはすなわち死のみ。

 コンパスが狂う?島々が特殊なる磁気を帯びてるから。海がおかしき?非常識が常識の海に何を求むる。潰すた1人の剣士?戦力不足」

 

 つーか船割れる人間何てザラにいるし。

 

前半の海(らくえん)如きで逃げ出す海賊が、怖い怖いと弱音を吐く海賊が、もう一度行くなど正気を疑うですよ。医者を紹介しましょうぞ。

 せめて巨大トルネードに吹き飛ばすされてみろ、前半から後半へ一気に飛ぶぞ?風のせいで全身血まみれになる経験をしてみろ、めちゃくちゃ痛きぞ?拉致監禁されてみよ、それなりに度胸はつくぞ?」

 

「全てお前の経験だったら流石に引くぞ」

 

 残念、全て事実だ。

 

「そんな経験程度に遭うしてない雑魚が…怖いなど戯言を抜かすするな!怨むぞ!?その程度か、と!」

 

 論点がすり変わってる気がするけどとりあえず常識人だろう人々は絶句。

 

「……四皇の幹部に囲まれる度胸を付けるすてから行くしろ」

「誰だって無理だわ!」

「じゃあせめて七武海1発殴って死ね」

「死ぬこと前提かよ」

「むしろ殺れ。推奨するぞ」

「お前ホント七武海嫌いなんだな」

 

 ほとんどのツッコミはウソップさんだが最後はゾロさんだ。

 七武海嫌いな事はゾロさんとルフィには言ってるもんね。

 

「お前は七武海の恐怖を知らないガキだから言えるんだ」

 

 ごめん結構知ってる。

 

「目を見るだけで竦み上がる…あの鷹の様な目に…ッ!」

「あァ………〝鷹の目〟ジュララララ・ミホーク」

「──絶対違う」

 

 良いんだよニュアンスが合っていれば。

 

「鷹の目……ッ!」

 

 正面の席に座るゾロさんが獲物を狙う目になった。いいぞ私が許可する、遠慮せずに殺れ。ただここには居ないから暴れないでね。

 

 要するに『お前私の十分の一の恐怖も体験してないのに怖い怖い言うとはなんだ?てめぇそれでも海賊か?嘆いてる暇あるんなら七武海に喧嘩売ってこい』って事だ。別名八つ当たりとも言う。

 

──ズバァンッ!

 

 途端、何かが斬られたような鋭い音がし一瞬呆気に取られる。

 

 え……何事?

 

「っな!船が真っ二つだと!?」

 

 外に近いクリークが慌てた声を上げる。

 アハハハー…なんだろう、嫌な予感がする。

 ここまで嫌な災厄が連続で来ると色んな意味で『堕天使』のせいに思えてきた。

 

 つーかなんだよ真っ二つって!誰だよ!そんな常識を常識と思わない変人は!少なくともクリークが驚くって事はこいつ程度の海賊でも有り得ない事なんだよね!?ちょっと周りに常識人居なかったせいで常識に自信が無いけど!

 

「お前──どうして俺たちを狙う!なんの怨みがあるんだ!」

 

 ドタバタと外へ駆け出したクリーク。東でもっとも強い海賊団(あくまで団が強い)の首領がビビる程の敵?

 東の海(イーストブルー)最高額クラスがここに3人いる状態で?(センゴクさん曰く最高額がアーロン()()()

 

 他所の海からの敵対。怨まれる自覚は全く不明。そして──つい最近クリーク海賊団を滅亡寸前に追い込んだのは…。

 

 

 ダメだ、絶望的な想像しかつかない。

 

 

 すると、ザワつく声の中で不思議と通る()()()()()声。死にます。

 

「……暇つぶし」

 

「ふざけるんじゃねェぞ…ッ、()()()ェ!」

 

 クリークに全力で同意したい。お前は甘味でも漁ってろ戦闘狂(バーサーカー)

 

「ッ!あいつが…!」

 

 鷹の目、という言葉にゾロさんが反応して窓から外を見た。

 ニヤリという効果音が付きそう。悪人面ですよゾロさん。

 

「お、おい…なんかアイツこっちに向かって来てないか!?」

 

 ウソップさんの言葉にギョッとする。

 

 なん…だと……動くなよ戦闘狂!

 私と七武海の関係は個人的にものすごーーーーくバレたくないんだ!狙われるとか疑われるとか以前に面倒臭いんだよ!お前ら!

 

「邪魔をする」

 

 もちろん、悪魔のささやき声が聞こえる前に慌てて机の下に隠れたよ。地震レベルの災厄だ。

 

「……お前が鷹の目か」

「…それがどうした、弱き剣士よ」

 

 様子は見えないがゾロさんがミホさんに立ち向かったらしい。いいぞもっとやれ。

 

「そこの海賊にも、貴様にも興味は無い」

 

 もっと興味を持てや変人剣士。

 

 

 

 

──ズリュン…ッ! ギャリッ!

 

「………ほう」

 

 ……ちょっと状況を説明しよっか。

 

 飛ぶ斬撃、とやらが私の隠れていた机の中心(つまり私の元)に飛んできたんですよね。

 それに対して私はゾワッと嫌な寒気がしたので咄嗟に鬼徹くんを構えましたとさ。

 

 殺 す 気 か こ の 鷹 野 郎 。

 

「やはりお前は面白い…いい暇つぶしになりそうだ。木についた果実を狙うより、逃げ回る小狐を狙う方が狩りがいがあるという物だ」

 

 これ以上口を開くなドS!

 

「リィン…お前まさか鷹の目と知り合いか?」

「…!?」

 

 慌ててぶんぶん首を振る。認めるか、認めてやるものか!赤の他人、知らない人のフリをしますよ!例え手遅れだろうと!

 

「あくまでもその姿勢を貫くか…、それもまた良いだろう強き者よ」

「……」

「だがコチラとしてもこの姿勢は変えなどしない」

「……」

「……。師に対して無視とはいい度胸だと思」

「誰が師だ!認めぬぞ!?」

 

 反射的にツッコんでしまった。時既に遅し。

 ミホさんは面白いとばかりに目を細めて笑う、さながら愛玩動物を愛でる様に。うん、知ってる、キミ達から見て私って『玩具』とか『小動物』とかあるいは『娘』とかそんな感じだよね。

 

「久しぶりだな、我が同志よ」

「紛らわしき言い方をするなかれ、甘い物好き同士と言え鷹野郎が…!」

 

 周囲はハッキリ言って絶句。

 知り合いという事にも、ミホさんが笑顔を見せた事にも、私が対等に話してる事にも、甘い物好きという事にも。絶句する要素は充分わかる。その気持ちはとてもわかる。

 

「ミホさん、周囲の目が厳しきです」

「気にする事は無いだろう?十年来の付き合いじゃないか」

「わ、た、し、が!気にするのです!」

「……。気にしないで周りは適当に進めてくれ」

 

「「「「アンタらが原因だよ!」」」」

 

 最もな意見だと思うけど私を巻き込むな。喧嘩売って追いかけ回した本人が気にすんなつったって気にするわな、そりゃ。

 

「お、おーいリィンさんや…」

「…何事?赤髪海賊団狙撃手ヤソップさんの1人息子ウソップさん」

「…何?」

 

 ご丁寧に説明せんでいい!と叫び声が聞こえてきたがミホさんが一気に興味を示しましたよ。やったね!(確信犯)

 

「ととととと、とりあえず話を進めてくれないか…?」

 

 うん、ウソップさんの言い分は全く的外れじゃない。

 

「…まぁ、そうですよね。さァ逝くですミホさん、責任の所在はキミの元にあるぞ!」

「断る」

「無理ですた」

 

 我が道を突っ走るどころか暴走してる相手に説得なんて出来ないよね。

 

「鷹の目!俺と1度勝負をしてくれ!」

「………」

「『何のために』って顔してるですね」

 

「……己の野望を叶えるために」

「………」

「『面倒臭いけどちょっとだけなら』って顔してるですね」

 

「お前は翻訳機か」

 

 この人って基本他人と会話しないもん。

 

「……」

 

 今度は私に視線を向けた。『付いて来やがれ』って言いたげな目だな。顎をクイって上げるな、私は見ないぞ。絶対見ないからな…!

 

「仕方ない、ピンクの鳥に今から連絡を──」「──さァ!大剣豪ミホークさんと我らが剣士ゾロさんの決闘は危なき故外で行いますですよー!はりきっていこー!」

 

「お前はどんな弱みを握られてんだ……」

 

 やけに落ち着いたウソップさんの声が酷く残酷に突き刺さった。

 

 

 

 

 




日頃の不運により身についた危機回避能力。見聞色とにているが『声』を聞くのではなく『感覚』で察知する。ある意味勘。
本日のハイライト
リィン:海賊なんてろくでなしばかりだちくしょう
ゼフ:見せ場も出番も無い空気
サンジ:ゼフ以上の空気。回想レベル
ジェルマン:フレンドリー且つデッドリー。着々と洗脳が続けられる(リィン無自覚)
ミホーク:さり気なく追い詰める天然系ドS。見聞色使えるから面白いのが見つかった☆
ゾロ:リィンに何も言われなかったしミホークには興味を持たれない可哀想

クリーク海賊団:未だ食糧にありつけず瀕死。本日の1番の被害者

お気に入り評価等よろしくお願いします!目指せ日間ランキング第1位!感想は毎度毎度ありがとうございます!


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第85話 シールドもとい大剣豪

 

 

 弱々しい海賊を視界に入れても眉一つ動かさないミホさんとゾロさんを見てやっぱりいくら優しくても海賊なんだなってしみじみと思いました。

 

 今の内にオーナーゼフさんが用意した食料回収しておこう。餓死状態から復活させてたまるか雑魚共よ。

 

 

「ふー、頑張れマリモヘッドゾロさん!」

「余計な茶々入れんな!」

 

 応援したら本人に怒られた。

 

 両者共に睨み合うとゾロさんは愛刀を、ミホさんはナイフを取り出した。

 

 

 曰く「兎程度の獲物を狩るのに全力は出さないだろう」

 

 自分の仲間をコケにされたと分かったルフィは割り込みはしないものの拳を固めた。

 

 

 ……言い方が悪いんだよなー、ミホさんって。

 

 彼はその気は無くても平気で敵を作っていく無自覚コミュ症。良くいえば『素直』悪く言えば『愚直』敵意に対しては鋭く敏感であるからこそ無自覚に作った敵には距離を置くし会話も成立しない。

 ミホさん本人は結構おしゃべりなタイプだし天然だし巫山戯たり笑ったりするのに。あの性格も悩みどころだよな。

 

 

 そう言えばミホさんはドフィさんが七武海に加入した辺りで随分印象が変わった。『寡黙な仕事人』から『コミュ症のお茶目さん』に。

 

 ……沈黙は金って言ったりするけど寡黙も過ぎれば普通にコミュ症だ。

 ちなみにこの認識は七武海定例会議に応じる方全員知ってます。つーかあいつらが言い出した。私は悪くない。

 

「嘘だろ…!ゾロの剣が全てあんなちっさいナイフで躱されてる…!」

 

 驚愕の表情を浮かべながら呟くウソップさん。実況とツッコミ忙しそうね。ごめん。

 

「あれはどちらかと言うなれば()()()ですよ」

「いーナス?」

「いなす。…相手の力と勢いを利用して方向を変えるするという方法です。ミホさん曰く『柔の剣』らしきです」

 

 柔な技とか意味わからんから私は剣を普通に諦めました。

 

「ゾロ…ッ!!」

 

 ザク、とナイフがゾロさんの胸に突き刺さった。じわじわと深紅の染みが増えていく。

 洗濯するの大変なんだぞコノヤロー!

 

「何故、引かない」

「引いたらそこで全部終わる気が、するからだ…!」

「………。命より誇りを取る、と」

「あァ…!」

 

 私には無理だわ、と言うか勝負になった瞬間目くらましなり隙を付いたりして敵前逃亡図るな。

 

「ゾロ!逃げなさいよ!死んだらそこで終わりなのよ!?」

 

 ナミさんが慌てて声を上げる。

 

「ナミ!ッ絶対手を出すなよ…!」

「出したくとも出せれないわよあんな奴に」

 

 超わかる。

 多分ゾロさんは私と違う人種なんだろうな、私は『何が何でも生き延びる』タイプだけどゾロさんは『誇りを失うくらいなら死ぬ』タイプなんだろう。

 

「名を名乗れ、強き者よ」

「俺の名は…ロロノア・ゾロ…!」

 

 ミホさんが愛剣の黒い剣(名前は知らん)を抜くとゾロさんは向かっていった。

 

「イケイケゾロさん!ぶち殺せ!」

「物騒な事言うな!」

 

 殺し合いしてる方々に言う言葉には最適じゃないッスかウソップさん?

 

 結果は残念、ゾロさんは斬られて海に落ちた。最後斬られる時何か呟きながら正面を向いたけど何言ったんだろう。

 

「意味が分からねェ…、何でそんなモンに命懸けるんだ…。死んだら、死んだら誇りもクソもねェだろ!?」

 

 サンジ様が海から上がってきたゾロさんを見て小さく声を上げた。とりあえずウソップさんご苦労。

 

「分からぬわぁ…」

 

 サンジ様は私と同じ思想の様で少し安心しました。そりゃ虐待まがいの扱いで命の危機感じて無事逃げれた方だもん、命大事よな。

 ん?

 

 危機管理能力は平凡。

 料理の腕は最高。

 賞金無し。

 女性には優しい。

 

 最高の嫁なんじゃね?

 

「サンジさんけ──」

 

 ダメだ、彼は亡命したと言えど王族。一介の兵士とは身分の釣り合いが取れないし何より〝国〟の名のつく物の最高値。

 

「……ごめんぞ…私達には壁がありすぎです…、価値観が違うです…」

「待ってくれ、どうして俺はフラれた感じになってるんだ?」

 

 私の中での自己完結。

 彼には冗談でも結婚しようとは言うまい。あー!結婚相手欲しー!『優しく』て『常識人』で『高収入』で『一般人』な結婚相手!

 多分一番最後が簡単そうで難しいと思う!私の周囲に一般人居たか?

 

「申し訳ございませんです」

「この謝られた筈なのに謝られた気がしないのは何でだろう」

 

「サンジ…お前はこっち側の人間だな」

 

 ウソップさんよ、何サンジ様と肩に手を置き遠い目をしてる。私の何が悪い。

 

「リィン、来い」

「やだ」

 

 剣を収めた奴に呼ばれるけどガン無視です。

 

「というかテメェら1人くらいは斬られた俺の心配をしろよ!!」

 

「「「…あ」」」

 

「あ、じゃねェだろ!」

 

 血をダラダラ流しながらも叫ぶ元気があるのなら良し。

 

「と、とりあえず俺が適当に治療しとくけど外傷は齧った程度だからな?期待するなよ?」

「よろしくウソップさん、私達からっきしですので」

 

 私は自分が第1だから身を守る術を持っていても他人を癒す術は持ってない。特に瀕死の重症ならね。私がその状態になった時点で他人の手を借りないとどうしようもならないじゃないか。

 まぁカヤお嬢様の部屋に医療関係の本があったのは確認してるから口頭だけでも齧ったって事だろう。

 

「くそ…次は絶対負けねェ…!俺は絶対負けねェ!」

「向上心があって良き事、ルフィも良く耐えるしたですな」

「ん…!」

 

 するとルフィはゴキゴキと手を鳴らして呆然と様子を見ていたクリークを睨みつけた。

 

「俺さ、この船に気に入った奴がいるんだ。バカみてぇな夢を見てるコックがよ」

「…ッ」

 

 諭すようなルフィの声に私のすぐ後ろにいるサンジ様が息を呑む。

 

「とりあえずさ…お前らぶっ潰す」

「お前らみたいなガキに負けるか!」

「ガキがなんだ!俺は海賊王になるバカな男だぞ!」

 

 自分でバカ言ってるんじゃ世話ないわ。

 

「交渉ですバラティエの皆さん!」

 

 ルフィの言葉に続けてゼフさん含む傍観してるコック達に声をかける。

 

「あなた方の代わりにこいつらを倒すです!その代わり、コックを私達麦わらの一味という海賊に下さい!」

「………この船にいるコック共は俺の子供も同然…、そう易易やる訳にはいかん」

「もちろん、本人の意思が最優先です!そのための交渉の許可をいただきたく思うです」

 

 ルフィが狙うのは多分サンジ様。でもサンジ様はゼフさんに大恩があるらしいから自らは望まない…多分誰かの後押しがない限り。

 ならさっさと別のコック手に入れた方が楽だ。

 

「…………良いだろう、交渉成立だ」

 

 バラティエの最高権力、親と言う言質は取ったのだ。異論を唱えるやつは居ないだろう。

 

「ねェリィン」

 

 ナミさんが耳に口を寄せてボソッと呟く。

 

「あの船の中…まともに戦える人間いると思う?」

「……否定」

 

 あの船、というのは恐らくクリーク海賊団の船だろう。お宝史上主義の彼女が獲物を逃すとも思えん。存分に漁れ。

 

「さァ!クリーク海賊団?我らが船長率いる麦わらの一味と遊びましょう?」

 

 逃がしゃしねェぞ、私には今回確実に報告の義務があるんだ。

 

 フルボディというアホのことを何とかしなければならないしここに『政府の狗』と呼ばれる七武海の1角がいる限りはな!

 しかも今回は麦わらの一味に非は無いから私が叱られることもないだろう!

 

 

 最善策として海賊団の鎮圧を務めるべきでしょうよ!

 

「……お前いつになく強気だな」

「やだウソップさんったら! ………この場に最強のシール…──もとい剣士がいる限り私の安全は保証されるですよ」

「お前ほんっっっと狡いな!」

 

 彼は私と同じで自己中心的思考をお持ちなのだよ!

 だから満足すればその場を去るだろう、だが未だに棺桶みたいな厨二チックな船に乗ってる限りそれなりにここに居るという利点があるんだろう。

 

 多分十中八九私関連だ。

 

「んじゃちょっと行ってくる」

「はーい!」

 

 気を利かせてか、ゼフさんが船の1部を展開させた。即席の床が出来たんだ、能力者であるルフィに少し有利に傾いた。

 

 敵は首領クリークと下っ端のギン。アーロン単独を蹴散らしたルフィにとって敗北は無いだろう。

 

「ぐぇ」

 

 ルフィを見送ると服が引っ張られた。待て、首が締まる。

 

「来い、と言っていただろ」

「や、やァミホさん……」

 

 少し不機嫌そうに顔を歪めるミホさんと目が合った。

 

「俺を動かすなどお前くらいしか出来ん」

 

 呆れ声と共に呟いた言葉に首をかしげた。

 

「甘味は?」

「俺を動かすなどお前と甘味くらいしか出来ん」

 

 丁 寧 に 直 し や が っ た !

 

「何用ですか?」

「少々ネタが欲しいだけだ」

 

 ネタ?

 

「…『わけが分からない』という顔をしてるな」

 

 分かりません。

 

「これから赤髪の所へ行こうと思ってる」

「なるほど、それで話のネタが必要と」

 

 そうだ、この人何の用もないのに人に会えない人だった。

 ……だからと言って私と会う口実に『鍛錬』とか付けないで欲しい。

 

 

 ルフィがクリークと口喧嘩の状態になって争ってるのを尻目にミホさんは私を抱え込む。

 

「………脱走禁止ですか」

「ここで離すと空へ逃げるだろう」

 

 副音声で『聞きたいこともあるんだが?』と言ってるようにしか思えない。つーか話のネタとかはついででこっちが本音のような気がする。

 

「はいはい…それで?」

「まず一つ、曖昧なままで終わった『海軍脱退』についてだ」

「……ミホさんそんなに頭良きでしたっけ?」

「そんなに回らん」

 

 ルフィはクリークに近づきたくとも様々な武器に翻弄されているせいか苦戦を強いられてる。

 

「自負するですか」

「だがお前達を知っていれば簡単だぞ?」

 

 私()

 

 サンジ様が興味深げに両方の様子見ている状態で話を聞くのは拙いけどミホさんは頑固だから正直『待て』が出来ん。

 

「あの2人と、少なからず渡り合えるお前が。生まれと育ちが犯罪者だらけの状態に危機感を持ってるお前が」

 

 あの2人は多分クロさんとドフィさんだろう。仲良くはないが良く絡まれる。特に鳥、鬱陶しい。

 

「わざわざ自分の守りを緩めるとも思えん」

 

 ……多分この結論は七武海の彼だからこそ辿り着けたんだろう。私の性格を知っていて、実力もそれなりに知っている。

 愚直なバカが気付いているのならミホさんより賢いクロさんとドフィさんとくまさんが気付かないわけがない。

 

 くまさんは青い鳥(ブルーバード)としても革命軍関連で情報交渉が出来るくらいだから、尚更な。

 革命軍には疑われてるだろう。

 

「はー………。嫌になる」

 

 謎は分かっても意図は分からない、と言った事だろうか。

 私が雑用だと思ってるから重要な役割の『潜入』が繋がらないんだろう。多分ドフィさんは確実に気付く、女狐が消えたという噂が流れない限り。

 

「『生まれ』はどうしようも無いです。問題はそれにどう『立ち向かう』か」

「…?」

「より『自分の望む最高の結果』に繋ぐ事が何より大事なのですよ」

 

 サンジ様が聞いているならこの言い方で良い。

 

 私は海賊討伐という形で『立ち向かい』海軍に敵は海賊という印象をこの10年で築いた。殺しは、出来なかったからサカズキさんに良く怒られたがね。ノープロブレムキミは私の上官じゃない。

 

 とにかく私は『信頼と実績と立場という望む結果』に繋ぎあげた。

 

 

 女狐という名前は私を知らない人間に。

 私という存在は女狐の皮を知る人間に。

 

 要約すると『よっしゃこれで処刑フラグはある程度免れたぜ!』って事ですわ。

 貢献の実績持ちの大将、又はみんなの天使(笑)を簡単に処刑出来るか、抑止の声普通にかかるわ!って感じ。

 

 もっとも恐れるは命令と称し政府の影でこっそり消される事だけど五老星が大将に推してくれた事も潜入して呼び寄せれないという事もプラス要因として働くだろ。

 

「……話すつもりは無い、と」

「ご名答」

 

 シリアスに悩むミホさんだがすまん、ぶっちゃけるとルフィのストッパーが主な役割だ。ストッパーが役割を果たして無いことは気にすんな、どうせ細かい事だ。

 

「なァプリンセス」

「……?」

 

 サンジ様が視線を合わせて屈んだ。

 

「あいつは何の為にあんなに戦うんだ?」

「何のため?」

 

 ……多分考えてないと思う。

 

「沢山の武器を持った賞金首に何度も向かって行くのは正気とは思えない」

「…それを何故私に聞くのですか?」

「キミが理解者であると思ったからだ。見た目の割に聡明な事も踏まえて」

「……まァ、何となくは分かりますた。答えは簡単です『馬鹿だから』」

 

 あやつの馬鹿さ加減を舐めるなよ、己の進む道に障害が有ったら全力で物理破壊していく馬鹿だぞ。正直無邪気さも含め一番自己中心的思考の人だと思う。

 

「馬鹿?」

「そうです。己の利を考えず、感情論のみで行動する馬鹿」

 

「…それなのにキミ達は付いて行くのか?」

 

「はい、ルフィだからこそ」

 

 主に暴走関連でなァ!

 ホントにいい加減大人しくしてほしいモンキー三世代!

 マジで!被害被るの私じゃねーかよ!

 

「馬鹿、か……」

 

「あいつはホントに馬鹿だけどよ、その分人の内側に入り込むのが得意なんだよ」

 

 応急処置を終えたウソップさんが会話に参加してくる。ミホさん見てビクッてなったのはスルーしてやる。気持ちは分かるから。

 

「裏表が無いからな、それに勝手だから信じざるを得ないんだよ。俺が船に乗る時あいつなんて言ったと思う?『俺たちもう仲間だろ?』だってよ!ハハッ…勝手に内側に入り込むどころかあいつの内側に入り込まざるを得なかったんだ」

 

 クリーク相手に善戦しているルフィを思わず遠い目で見る。自己中を好印象として見るなら最適だな。

 後で胃薬飲んどこ。

 

「ゾロとリィンがどういった経緯で入ったか知らねェけどナミだって所属してた魚人海賊団ぶっ壊して仲間に引き入れたんだぜ?」

 

 あれは腹減ってたのもあったから利用させてもらった。8割ほど本気だけど。

 

「だから腹くくれよ、サンジ」

 

 ……なんで?

 

「物事諦める方が楽だぜ〜?」

 

「俺の生きざま…、どう『立ち向かう』か」

 

 ポツリと呟いた言葉に嫌な予感を感じた。

 

 あれか?『王族』という物の正反対である『海賊』にでもなるとか言い出したりしないよ、ね?嘘だよね?

 私のせいか?私のせいなのか?私は素直に自分を案じただけだしそれを選択するなら『コック』だろ?なんで少し希望を込めたような瞳でルフィを見るのかな?

 

「胃が痛い………」

 

「あァそうだ、ホントに恐ろしいのはこいつだからな」

「は?」

「実力もきちんと備わってるし何より相手の嫌がる事を道徳と捉えて逃げ道を塞いでいくコイツは誰がどう見てもただの鬼畜だ」

「誰が鬼畜ぞ」

「状況によっては敵に同情するから」

 

 例えば魚人を頭突きで倒すとか…、と言葉を続ける。

 あれは悪かった、歴戦の兵士相手には侮辱もいい所よ。

 

「おいおいコイツは戦いにすらならない、と相手に精神的な屈辱を与えるのかってな」

「ほぉ、面白い勝敗のつき方がしたものだなやはりお前は強き者だと納得する」

 

 外堀を埋めるな!私は強き者とか要らない!出来れば弱くて守ってもらえるか弱い乙女ヒロインポジションがいい!

 と主張すればサンジ様とウソップさんから驚愕の表情をいただきました。

 

 ……なんだその『お前がか弱いヒロイン?無理だろ?』みたいな顔は。

 ほーほーそうですか第3者の目線が入るとそんな評価になるんですかサンジ様。プリンセス扱いどこいった。

 

「あ、あの…たたた、鷹の目…さん」

「………なんだ」

「ッ、貴方の言う強き者ってなんでございましょうか……」

 

 ウソップさんが恐る恐る聞いた。

 

「………。生きてるだろう?それが強き者の証拠だ」

 

 おや?シャンクスさんの所でエースと聞いた時と少し違うな。

 生きてる?

 

 

「M・H・5!」

 

 突如毒の霧が発生した。

 

「っ!?」

 

 もちろん毒の耐性なんて付いてる奴も居ず、下っ端ギンはガスマスクを付けている。

 

「しゃらくせぇえええ!消え去れド畜生!」

 

 霧を散らすと毒で血を吐いているルフィと何が起こったのか分からない敵さんが見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───生きているだろう? (大剣豪)の全力を受けてもなお。




心の中でサンジ様呼び確定。
サンジの意識がクリーク海賊団じゃなくてどっちかと言うとミホークたの方に向いているのでギン裏切らず!
心の中と周囲の温度差。


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第86話 調子に乗るヤツに女神は微笑まない

代わりに堕天使が微笑む


 

 

 毒の霧を晴らしても、ルフィは毒という脅威に蝕まれたまま。

 

「ルフィ…!」

 

 駆け寄って体を支えると触れた所からグン、と何か異物が流れ込んでくる。

 

 ん、流石にこの程度の毒如きで私はやられん。政府の人体実験でさえ耐えきった私の毒に対する耐性はハッキリ言って学者もビックリだった。

 ……軽い調子で言ってるけど実際そこまで重要な事じゃなかったんだ。シーザーという科学者は『なんで効かないんだァ!?』とか驚いてたしね。最後は如何に毒を効かせ殺すかというお前実験関係ねーだろレベルにまで突入してた。

 

「リー…ッ、よし!大丈夫だ!」

「ん!それでこそルフィぞ!」

 

 仕方ないから下っ端くんは私がやろう。今更シャボンディ諸島に辿り着けなかった下っ端雑魚くんに負けるわけが無い。

 

 使える武器は刀と拳と箒。ミホさんの前だから風。

 

「っ、わ!」

 

 ゾワッとしてしゃがんだら頭上を何かが通り抜けた。

 

「…チッ、外したか」

 

 し、下っ端くんんんん!?

 

「な、な、ななな!?」

「俺は〝鬼人〟…クリーク海賊団の戦闘総隊長」

「雑魚じゃなきとですか!?」

 

 堕天使よ、私が調子に乗ったからこれか。ちょっとそこに直れ。

 

「うぎゃぁぁぁ!」

 

 ブンブンブンブン鋼鉄ついたトンファーを振り回さないでほしい!

 

「ミ、ミミミ!ミホさんパスぅぅー!」

「……断る」

「意地悪!」

 

 答えなかった事への報復か!?器が小さいぞこんのド畜生!

 

 

──ドカッ

 

 

「レディに手を上げる奴は男じゃねェな」

 

 下っ端くん(偽)を蹴り飛ばしたサンジ様。

 ……出てくんな引っ込んで下さい!

 

 

 不味い、この場で一番出てきちゃいけない奴が出てきた…。亡命してようが王族に怪我させたら…ッセンゴクさん怖い!つーか政府が怖い!

 

「頼むぞ!何も言うせず倒れるしてです!」

「素直に従う奴はいないと思うが」

「んのぉおおおーー!」

 

 パンッ、と手を叩いて箒を取り出す。何らかのモーションがフェイクになってくれれば良いけど。

 

「なっ…!?」

「私とて悪魔の実の能力者!一撃で絶対沈むさせる…!」

 

 箒にぶら下がり飛ぶ力を使って普通より3倍程高くジャンプする。

 

「喰らうしろ!重力と速さの総合結晶!」

 

──ドゴォッ!!

 

「速さつまるところ力!」

 

 ギンは床をぶち破って海に落ちた。

 

「怖い!」

 

 泣く!

 

 

「ヘヘッ、これでおしまいだ!〝ゴムゴムのバズーカ〟!」

 

 火傷を負いながらもルフィも決着がついたみたいで空中でクリークを撃破していた。

 

「手間取りすぎだ、それと刀を使わなかった事は不服だ。もっと早くケリを付けるべきだ」

「…甘い物好きだがミホさんが辛辣で辛き」

 

 私にこれ以上を求めるな。

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

 あの後ミホさんはすぐに帰っていった。凪の帯(カームベルト)突っ切ってシャンクスさんに会いに行くはず。……多分あの船下に海楼石ひいてあるよな。

 

 ウソップさんがゾロさんを担いでメリー号にしまい込んで今は療養中。素人が応急処置で縫って包帯巻いただけだから偉大なる航路(グランドライン)入った後できちんと治療してくれる人探そう。

 きっとスモさんの管轄では治療は望めないだろ。

 

 ウソップさんは治療後武器の開発に勤しんでるみたいだ。何、あの人働き者?楽できるわー、任せた雑用くん。

 

 ナミさんは漁ってきたお宝を帳簿につけている。『これで可愛い服を買うのよ!』って言ってたからローグタウンで買うのかもしれない、副音声で『リィンもね』って言われてる気がしたから全力で逃げよう。着飾るの嫌いじゃないが獲物を狙うナミさんの目が最近本気で怖い。

 

 クリーク海賊団は全部縛り上げて廃船の1部に積み込んだ。私達が出航した後に海軍を呼んでくれるらしいから対応としては最善だと信じてる。……多分来るのは場所的にフルボディなんじゃないだろうか。手柄にされるのは不服だ。

 

 それで問題のルフィとサンジ様だが…随分頭が痛くなった。

 

『あ…、ル、ルフィ。……ッ俺をお前の船に乗せてくれ』

 

 お前様の心境に何があったんだコラ。

 

 サンジ様じゃ無かったら助走つけてでもぶん殴ってたね。お前最初めちゃくちゃ否定的だっただろ!って。

 

 

 つまり今はお別れの最中。

 船長決定と本人の意思という言質(どう見ても悪案だった)のせいで一船員の私が逆らえる訳ない。

 ………辛い。

 

 

 

「はァ……」

 

 人の別れだとかに興味無いのでキッチンで書類作成に勤しみます。

 

 報告書にちょっとした遊び心を。題して『ドキドキ☆狙われたレストラン〜守れ食事と平穏〜』

 ……ふざけましたよエェ。ですが今この場はキッチン(2回目)いつ人が来るのか分からないのだから覗かれても巫山戯てるとしか見えぬよう!書き崩す必要があるのですよ…。決して!絶対!八つ当たりなんてことはありません!

 

「お…リィンちゃん」

「サンジさん?」

 

 サンジ様がキッチンに入ってきた。そっかコックさんだもんね。

 

「あ…私自己紹介しますたっけ?」

「あー…別にいいよ、ナミさんが教えてくれた」

「……お疲れ様です」

 

 労うと苦笑いが返ってきた。

 多分ナミさんの本性に触れたんだと思う。

 

「いいって、そんなナミさんも美しいし」

「ブレぬですね」

 

 うん、ご兄弟とそっくりですね。彼らも女の人には弱かったよ。……全て、では無かったけど。

 

「リィンちゃんは何を書いてるんだ?」

「ひむつでーす!」

 

 言えません報告書だなんて。

 

「お別れは済みますた?」

「ん、終わったよ。もう出航するって」

「かしこまるまりますた!」

「ハハッ…!」

 

 ぐしゃぐしゃと私の頭を撫で回すと調理台に立った。多分夕飯の準備だと信じてる。

 

「あ…そうだ」

 

 何かを思い出したのか、ポケットに手を入れて袋を取り出した。

 

「リィンちゃんアーン」

「あー…?」

 

 言われるがままに口を開けるとヒョイっと甘い何かが口の中に入ってきた。

 

「ほへなにへふ…?(これなにです?)」

「マカロン、美味いか?」

 

「うまし!」

 

 マカロンを飲み込んでグッ、と親指を立てるとサンジ様は何が面白かったのかもう1度楽しそうに笑った。

 

「…?」

 

 ま、楽しそうならいっか。美味かったし。もうけもうけ!

 

 私は箒を取り出しながらキッチンを出た。

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

 

 

 『『生まれ』はどうしようも無いです。問題はそれにどう『立ち向かう』か』

 

 

 サンジはキッチンで1人考え込んでいた。

 

「立ち向かう、か……」

 

 彼の生まれは王族、どうしても抗えない運命。兵器として生まれた自分。

 

「(コックとして自由に…檻に囲まれた海じゃなくて自由な海を)」

 

 

 『より『自分の望む最高の結果』に繋ぐ事が何より大事なのですよ」』

 

 

「(自分の望む最高の結果…オールブルーを見つける望み)」

 

 

 命をかけてまで自分の命を繋ぎ止めてくれたゼフに恩を感じてないわけでは無い。むしろ恩しか感じてない。

 

 だからこそサンジはバラティエを命懸けで守ると決めたのだから。

 

 

 だが───

 

『お前が何を思って何に戸惑ってるのか分からないが』

『…は?』

『負ける気と死ぬ気が無いなら成長の為に海に出るのも一興』

『お、おい…何言って』

『自分の檻を勝手に作って閉じこもるだけでは成長などせん。弱き者よ…弱き者ならばそれなりに足掻け』

 

 別れ際、鷹の目が告げて言った言葉には心当たりがあり過ぎた。

 それと同時にドクリと自分が嫌う血が騒いだ。

 

「(負ける気も死ぬ気も無い…!)」

 

 いっちょ、料理の腕を上げてゼフの肝を抜くのも良いだろう。

 そして未だ見ぬライバルのコックに向けて修行を。(リィンが言っていた1番の料理人)

 

 

「魚以外の料理は限られる…船上では新鮮な食べ物も…人数と航海日数の計算も…健康管理や好みの把握…──思ったより力になりそうだ」

 

 やってやろう、海賊のコック!

 

 

 

『うまし!』

 

 あの笑顔を思い出してふと思う。

 

 

「(…………うん、餌付けしてみるか。)」

 

 感覚的には愛玩動物だ。

 

 

 

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

 

 バラティエでは先ほど別れを告げた男達がぐずぐず涙を流しながらホールに座っていた。

 

「……お前らいつまで泣いてんだ、さっさと仕事に戻れ」

「うおおおおん!寂しいよぉおおお!」

「あいつが…あいつが自らこの船を離れるだなんて…!くぅぅ…っ!」

「はァ…こりゃ店仕舞いだな」

 

 ゼフはため息を吐いて店の中を見して、まともに動けるのは自分しか居ないと悟った。だから海軍への連絡はゼフがする事にした。

 弟の様に可愛がっていたサンジが抜けた穴は店的にも精神的にも大きいのかもしれない。

 

『……はい、こちら海軍です。何かありましたか』

「あァ…海賊がウチの店ェ襲ってきたんだ。場所はサンバス海域、レストランバラティエだ」

『状況は』

「丁度居合わせた別の海賊に助けられたから()()()()()()()は団子になって縛られてるよ」

 

 不思議な結び方で、とは言わなかったが1度見ただけでは一体どういう結びをしてるのか分からなかった。ただ関節は痛いだろう。

 

『わ、分かりました!』

「おう、それとよ…フルボディ大尉っつークソガキが食い逃げしたんでね…修繕費含めて要求させてもらうからな」

 

『な…ッ!フ、フルボディ大尉が!?いつか何らかのトラブルは持ってくると思いましたが畏まりました!』

 

 海軍内での評価はそれなりに低い様でひとまず安心した。

 

──ガチャ…

 

 電伝虫を切って、後は待つばかり…。この調子じゃ客も寄り付かないだろうから踏んだり蹴ったりだ。

 

「ちなみに、請求書に不思議な5桁の数字を書き込むする事で請求額は莫大に上がると思うですよ」

「不思議な5桁の数字だァ?」

「はい、04444を使うなれば海軍関連では非常に優遇処置されると思うですから」

「ほおー…04444ね」

「そうですそうです」

 

 

「ん?」

 ゼフは首を傾げた。

 聞いたことある声に自然と答えてしまったが店に女は置かない主義。女の声が聞こえるわけない。

 

「「「「あ!」」」」

「どうも」

 

 裏から入ってきた姿に思わず目を見開いた。周りのコックだって涙を引っ込ませ驚いた顔をしている。

 

「……おい嬢ちゃん…。なんでここにいるんだ?」

「単独行動です」

「確か悪魔の実の能力者だって自分で言ってたな……」

 

 どんな能力か知らないがまァ納得した。

 

「ところであの数字は?」

「さァ?バレると拙いので教えるませぬぞ………まさか、恩人の弱点を探ろうなどとは思わぬですよね〜!」

 

 ニコニコと笑われてどこからか引き攣った様な声が聞こえた。仕方ない…ちょっと迫力があった。

 

「私、親切な恩人ですので一つ忠告ぞしようと思いますてね」

 

 親切な恩人は口に出さない。そして脅したりなんかしない(アレは絶対脅しだろう)

 

「サンジ様の事についてです」

 

 なぜ様を付けるのか、と言う疑問を口にしようと思ったが全員少女の真剣な表情に思わず口を噤んだ。

 

「その数字を伝えたのもそれに関係する故ですよ──私は振り回すされたくないもので」

 

「……一体、どういう事だ」

 

 全員の心を代表してゼフが聞く。

 

 

「サンジ様の正体の根源は、間違い無くあなた方の邪魔をするです、きっと」

「だからどういう事だ!」

 

「…サンジ様は王族です」

 

 思わず日付を確認した。エイプリールフールとは違う様だな。

 

「………お嬢ちゃん、きっと疲れてるんだ。お菓子居るか?甘い物は癒されるぞ?」

「その余計な優しさを渡すくらいなれば胃に優しさを下され」

 

 絞り出された言葉に事態は飲み込めないものの嘘を言ってるつもりは無いことが分かった。

 少女は眉間を揉むと一呼吸置いて続きを話し始める。

 

「ジェルマ王国ヴィンスモーク家第3男王位継承者ヴィンスモーク・サンジ様。細かく話すと巻き込むれるのでこれはあくまで私の推測です、と言う事に」

「だが確信は持ってるんだろう?」

 

 呟かれた疑問に答えたのは表情。その笑顔が肯定を示していた。

 

「つまり…彼の立場や価値を狙う以上ここは人質となる…………」

 

 現実とかけ離れた言葉にゴクリと唾を飲んだ。

 しかし次に紡ぎ出された言葉と少女の表情は明るいものだった。

 

「なーーんてね!やだもー!絵本を辿ったのみですよー!だって私はいくらでも冗談が言う事可能な()()ですから!」

 

 それじゃあお邪魔しました!と元気な声で店を去った時には店内は異様な雰囲気に包まれていた。

 

 冗談ですめば冗談で終わる。その為の布石を残してくれたんだ。

 

「あァ…冗談だな」

 

 知らない事は巨大な力に対する最大の逃亡手段。知って力にする事は膨大な力に対する最大の防御。

 その逃亡手段を残してくれたんだ。

 

「感謝しよう…」

 

 その心遣いに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これを伝えることに寄ってリィンは自分への欠点を考えていた。

 もしも狙われたのなら、もしも大将だとバレたのなら、関係がバレたら、責められるのはリィン。だがバレなければ守秘義務を破る事になる。

 

「(ルフィや正体を知ってる人。どうバレることになるのか分からないから()()()()の布石を打っておかないと…!)」

 

 政府に消されることになれば逃亡生活、…などと言う可能性は視野に入れている。

 

 そのための一つとして布石を打ったのだ。

 

 

 

「所詮この世は私優先」

「私の安全が他人の安全を凌駕して何が悪い」

 

 

 今日も今日とてリィン(アホ)の自己中心思考は平常運転である。

 




全ては自分の為。その他大勢はあくまでその他。


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第87話 始まり終わり海賊の夢

 

「海賊王が処刑された町ローグタウン」

 

「別名始まりと終わりの町」

 

「……行くでしょ?ルフィ」

 

 

 

 ==========

 

 

 

「俺が留守番か?」

「そーです」

 

 町に行く準備をしながらそれぞれの役割を指示していく。本来こういう仕事はルフィだと思うのだけど、交渉兼参謀役に近い役割の私が代わりにしないといけない雰囲気。地味に困る。

 本業も副業もしたいからなるべく必要ポジションは避けてたのに…、まァ目的である『私やルフィの安全確保』としてはやりやすいから迷いどころだけど。

 

「ここは支部が存在するです、だから海賊船がプカプカ浮く事自体非常に拙いのですよ」

「でもここ偉大なる航路(グランドライン)に入る海賊にとって必要不可欠の町だろ?準備とか、色々とさ。支部があるんじゃやりにくいんじゃないか?」

「そこですよウソップさん。実はここ数ヶ月支部長が変更すたから海賊の出航率が0%に落ちるしてるのです」

「……俺はもうお前がどんな情報も持ってても驚かない自信があるぞ」

 

「つまり、()は海賊にとって最も脅威な島って事ね」

 

 ウソップさんが荷物をまとめ、ナミさんも身支度をしながら私の言葉に追加させていく。

 脅威を認識してくれるのは有難いけど一言言いたい。スモさん働きすぎじゃない?何がキミをそこまでさせてるの?

 

「米ももう切れるな…野菜と肉は絶対必要か…。ところでお金はどうするんだ?」

「一味共有資産からお願いすます」

「それって俺の武器にも使えるか?」

 

 ゾロさんがマストに背をもたれて口にする。あー…そうか、ゾロさんはミホさんにボコボコにされて白い刀以外使えなく…というかバラバラにされたんだったな。ボコボコでバラバラとか踏んだり蹴ったり過ぎ。

 うーん…武器は結構バカにならないし…。こんなんだったらクリーク海賊団から二本ふんだくるんだった。

 

「そうですね…、私が所持してる物でも構いませぬか?」

「……お前の?」

「無駄に多いのです。それに私自身、刀は使用不可能です故に」

 

 真剣って重いから1分でギブアップ。

 

「剣士の魂を他人に預けるなよ」

「私は剣士じゃ無きですのでそれは通用しませぬ、要はアレです、ししょーが弟子にプレゼントすると思えば宜しきですよ」

「お前を師匠にした覚えは無い!」

 

 叫んで傷が傷んだのか一瞬表情が強ばった。はしゃぐからこうなるんだよ全くもう。

 

「要りませぬか?1本はかの有名な剣帝の愛刀ですよ?」

「………剣帝の?」

 

 キラ、と目が輝いた。

 これは多分剣帝の持ち物と言うよりどうしてお前がそんな物を持っているのか、って感じの方だな、あわよくば倒してやろうと?いいぞドンドンやれ。

 

「三代鬼徹君です、妖刀故に使いにくいとは思うですが切れ味抜群の反抗期真っ盛りの子供ですよ」

「お前の言い方聞いたら刀が泣くぞ」

 

 気の所為、アイテムボックスの中で何か悲鳴みたいにカタカタなってるのは気の所為。剣刀が意思を持ってるとか絶対有り得ない事なのです!幽霊とか魂とか死ねコノヤロー!

 

「はいどーぞ」

 

 パン、と手を叩けば瞬時に出てくる鬼徹と同じくらいの長さと太さの無銘の刀、ゾロさんは一瞬驚いた顔をしたが、どこかから取り出すという事はもう知ってるの様で、すぐ表情を戻して2本を受け取った。

 

「感謝する、やっぱり3本無いと落ち着かねェからな」

 

 手に合わせているのか新しい玩具を手に入れた子供の様に鬼徹を握るゾロさん。

 私の心の中は やったー鬼徹くん(トラブルの原因の一つ)が消えてくれたー!と大喝采中です。

 

「俺処刑台行くからな」

「ロジャーさんの?分かりますたよ」

「リーは?俺と一緒か?」

「ちょっと寄るところあるです」

「よるとこ?」

 

 スモさんの所。とは言えないから別の理由をでっち上げる。

 ついて行くとか言われない様にしないとな。

 

「ここは海賊王スポット。いくら支部あろうともマニアやファンの間では有名な場所です。処刑当日には今現在、様々な海で名をあげるしてる海賊が沢山来てますた」

「そうなのか?」

「そうぞ、だからファン専用の店があっても不思議では無い!だからそこで私は売りつけるぞ…ある有名な人物の土下座写真を…」

「リー!人の嫌がる事はするなよ!」

「無理です」

 

 正確に言うとレイさんに土下座してるフェヒ爺inぼったくりBARの写真。

 

「それに偉大なる航路(グランドライン)で必要な物もありますし」

 

 今まで私は必要としなかったから、個人の物なんて持って無いし、買わないとならない。

 

「じゃあリィン!私と…お姉ちゃんと一緒に服を買いに」

「さらば!」

 

 着飾るのはそこまで嫌いじゃないがナミさんに恐怖を抱くので箒に乗ってさっさと逃げ出した私は悪くないと思う。

 

 

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

 

 裏路地に入ると周囲を確認してマントを被る。黒いマント=賞金首の堕天使になるから町では被らないが裏路地で姿を見られるくらいなら被っておいた方が良いだろう。

 

 今の内にスモさんとコンタクトを取るか連絡を入れなければ……。

 

──ザッ…

 

「…!」

 背後で足音が聞こえ思わず硬直する。足元が砂利だからこそ助かった、が。

 …………どうしよう。逃げれるか?

 

 

 

「………女狐?」

「え……」

 

 どうして私をその名で呼ぶのか、疑問が浮かんだ。私の名を知ってる人間は限られる。

 

 振り返ると緑がかったマントの隙間から金色の髪が零れていた。

 

「…、サボ!さん?」

「………チッ、こんな所で海軍大将に会うとは俺も大分悪運に好かれてるらしい」

 

 嫌そうに顔を歪めて近寄って来た。ほほう、嫌われてるのは分かっていたが絡まれるくらいには関係向上していたか………──

 

「久しぶりだな、北の海(ノースブルー)以来か」

「お久しぶりです。ところでなんの情報が必要なのですか?……参謀総長さん」

 

 ──……なんては思って居ない。

 記憶喪失のサボは自分に必要の無い事に興味を持たない要件人間。嫌われている私にわざわざ絡むほど参謀総長という仕事が暇では無いだろう。

 

「クソ、情報は回ってたか。やっぱり参謀総長になった事は知られていたみたいだな」

「1年ほど前ですよね。というか初めて会うした時から察してますた」

 

 実はドラゴンさんが顔写真を撮っていいと言った時『近々参謀総長という人間が出来そうだし云々』と言う様に自分を隠す必要の無い事を言っていた。

 新戦力であったサボが(記憶喪失の兄妹とか関係無しに)私の側に居た事は、私の監視を含め参謀総長を任すと決めたサボへのテスト代わりだったのかもしれない。

 

 それを伝えると、サボは隠す気が全く無い舌打ちをした。

 

「たった少しのやり取りでそこまで至るか…最高戦力の名は伊達じゃないか」

 

 いいえ伊達です。5歳くらいの時上からの命令で無理矢理なりました。

 

「私は知るしてるですからね、ドラゴンさんがトップである実力もサボさんの性格の1部も。そこに至るのは当然です」

「……」

「それに情報を選別出来ねば守りの大将として示されぬです」

「…その守りの対象は一体なんだろうな。どう考えてもお前の立場で考えると、俺たち革命軍と繋がりを持つのは不利になるだろう」

「私は自分の決めた物を守るのみです」

 

 しばらく睨み合うとサボの張り詰めた空気が少し緩んだ。……気がするだけかもしれないが。

 

「アラバスタの情報を分けて欲しい」

「…………アラバスタのォ?」

「あァ…少し、気になってな」

 

 恐らくだが革命軍は動いてると思う。ただ確実性を求める革命軍らしい。きっと多方面から情報を集めるんだろう。

 

「私は基礎的な情報しか持ちて無きぞ?」

「構わない、見返りは……。そうだな……」

「では情報で。この町にある情報屋の居場所と攻略法」

「……手を打とう」

 

 随分と向こうに不利だが自分に利益があるのなら気にすまい。

 

 

 アラバスタ王国は上下関係が随分温い国であり王家の人物も少ない。私が持ってる全ての情報は受け渡した。

 

「……七武海クロコダイル、か。やはりコイツを中心に調べていく方がいいか…」

「クロさんは現実主義者ですから敵に回ると厄介ですね、まァ覇気は昔のトラウマにより使用不可能ですが」

 

 そういうとサボはこっちがビックリするくらい目を見開いた。

 え、何、何に驚いた?

 

「お前クロコダイルと知り合いか!?」

「そっち!?」

 

 覇気が使えないとかそんなのをガン無視して知り合いという観点に驚くか?

 

「ドフラミンゴに目をつけられクロコダイルとも知り合い…お前どうかしてるぞ」

「あー……否定不可能」

 

 そう言えば一般的な認識では七武海は仲悪いんだったかな。だからドフラミンゴと繋がる=クロコダイルとも繋がるって流れにいかなかったわけか。……実際仲悪いどころか定期的に連絡を取り合うくらい仲良いんですけどね!

 

「くまさんから何も聞いて無きです?」

「は?どうしてお前がくまを知ってるんだ?」

「え…だって七武海定例会議では…」

「……俺たちが聞いてる話だとくまとやり取りしてる海軍側の奴は青い鳥(ブルーバード)としか聞いてな」

「さらば!」

「まて」

 

 即座に逃げようとしたが流石は革命軍幹部、腕を掴まれドンッと壁に追いやられた。あ、これ壁ドンってやつだ。リィン知ってる。

 

 勘違いするなかれこの世の乙女達よ…壁に追いやられて顔が近いって普通に恐怖だ。腕が触れてドキドキ?ギリギリ言ってるだけの間違いだろ?

 壁ドンとは逃亡手段を封じ、脅迫するだけの簡単な方法に過ぎない。

 

「はいかyesで答えろ女狐」

「サボさんそれ確実に質問では無き」

青い鳥(ブルーバード)だな?」

 

 ここで素直に答えたら白い町(フレバンス)でローさんと話した時なんで言わなかったんだこの野郎って言われる気しかしない!

 だからといって、ここで嘘ついたら実力行使な気がする!

 

「……」

 

 やばい、まずい、どうしよう。緊急性が伝わる三段拍子でお伝えしました。

 

「知ってるか女狐…人間の頭蓋骨くらい卵みてェに握り潰せるんだぜ?」

「分かるした、イエス、はいです、だから大人しく私の頭から手を離すしてくださいです」

 

 ………人間やっぱり素直が1番だよね!

 

「最初から言えばいいものを…報告はさせてもらうぞ」

「どーぞ、元より革命軍には協力すてるので協力者が増えるわけでは御座いませぬが」

 

「お前はどうして革命軍に肩入れする?海軍大将ともあろう人間が」

「気まぐれ☆」

「…………」

「ごめんなさいですだからその右手は納めるして下され!」

 

 そんなに私が嫌いかちくしょう!

 

「ところで革命軍はどうしてこちらに?」

「あ?俺が知るか」

「何故知らぬぞ参謀総長!」

「……ドラゴンさんの独断だ」

 

 渋々呟いた言葉に私は少し納得してしまった。流石モンキー一家、その周りを振り回す姿勢は素晴らしい。

 

「多分…だが。お前の船長の事だろ」

「…………せん、ちょ、う」

 

 思わずギクッとなる。ルフィの父親=ドラゴンさんで、ルフィの兄妹=リィンだという方程式を忘れてないのは流石ですが、ルフィが船長=リィンはだーれだ。

 

「お前堕天使だろ?」

 

「あぁぁぁぁあ!堕天使殺す!絶対ぶち殺す!」

 

 サボ達革命軍の中で女狐(又は子供の)リィン=堕天使リィンは成立してるようです。

 

 堕天使お前ほんとにまじでふざけんなよ!?狭間で待ってろいずれ使者を送り込んでやる!!

 私は行かんがな!

 

「お前その通り名になんの怨みがある…」

「魚人島より更に深きに渡る怨み!」

「付き合いきれねェ……」

 

 そう言って呆れたサボは私に情報を渡して去っていった。

 お兄ちゃん…昔の優しさカムバック。

 

 

 切実に記憶を取り戻してほしい。

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

「あれ?リィンちゃん?」

 

 通りに出ると黄色の頭のぐる眉さんに声をかけられた。あ、この人サンジ様か。

 

「どうされましたサンジさん」

「いや、普通に可愛い姿を見かけたから声かけたんだ…用事は?」

「これから」

 

 しまった…スモさん完璧忘れてた。

 失敗だと思いながら撒けますようにと歩くが、サンジ様は確実に横をキープする。

 

「荷物持ちますよ」

「流石にプリンセスに持たせれないよ…渡すなら野郎共だ」

 

 どうやら私の行くところまで付いてくるっぽいな。仕方ない、情報屋から先に回るか。

 

 

 

 少し黒くなってきた空が行先を曇らしていた。

 

 

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

「腹が減ったな…少しくらいなら船離れても大丈夫だろ」

 

 今、迷子の魔獣が放たれた。

 

 




ローグタウンにドラゴンさんいるならサボもいるだろって事で楽しく(?)おしゃべりです。
ロロノア君は今日も楽しく思考も口調も行先も迷子。


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第88話 アホに振り回されるのは常識人

「今日は()()()と一緒じゃないんだな」

「……邪魔です、退いてください」

「分かってねェなー、こっちは怨みを果たしに来たってのに」

 

 真昼間の人通りのある往来で1人の女に絡む男2人をゾロが見かけた。

 

「(…仕方ねぇな)」

 

 助っ人に、と思い腰の刀に手をかけるが女は予想外にも一瞬にして男達を斬ってみせた。

 

 

「(へぇ…なかなかやるな)」

 

「わ、と、と、お!」

 

 ガシャン、と音を立てて刀と共に女は転げて驚いたがゾロは足元に転がってきたメガネを拾い女に向かって差し出す。

 

「ほらよ」

「あ、ありがとうございます!」

 

 カッコイイぞ姉ちゃんー!やるじゃねぇか!と言った歓声をバックに聞きながらゾロは雷に打たれた衝撃を体験した。

 

「…?どうしました?」

 

 見上げる女に重なる。

 死んだ幼なじみと瓜二つだったのだ。

 

「あー!」

 

 すると女はいきなりゾロの腰に目をやった。

 

「これ、和道一文字と三代鬼徹ですよね!」

「は?」

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ私はこちらですので」

 

 用があるのは処刑台の広場の近くの道の隅に鎮座する人気のなさそうなさびれたラーメン屋。

 

「飯なら俺が作るのに」

「ご飯期待してるですよ、サンジさんの。幼少期不健康な食事事情ですたので幸せです。私は店長さん自身に用が存在するので」

 

 昼時も近いからお腹は空くけど偽物の食事処で食べるくらいならサンジ様の料理がたべたい。ただ申し訳ない気持ちになるけど。

 

「分かった」

 

 サンジ様に別れを告げて店に入ると中は外観と合っていて違和感なくラーメン屋だった。

 

「ほぉ、お客さんか。珍しい…いらっしゃい」

「こんにちは!五つの塩ラーメンを一つお願いすます」

「五つの塩ね、あいよ。こちらにお掛け下さい」

 

 合言葉『五つの塩ラーメン』

 ちょっとかっこ悪いけどよくよく考えて見れば北西南東の海と偉大なる航路(グランドライン)を合わせれば五つ。

 ……世界政府に相対すると思っても過言じゃないだろう。

 

「店長のバンだ」

「……リィンです」

 

 どう名乗ろうか迷ったが無難に名前だけでも良いだろう。

 

「へぇ」

 

 バンさんは私を見てニヤリと笑い黒い髪に白いタオルを頭に巻いた。

 

「さて、と。ご要件は」

 

 注文はしたのに、と不思議な感覚になるが今のバンさんはラーメン屋の店長じゃない。情報屋の顔だ。

 

 サボに教えられた情報屋、得られる物を得られるだろ。随分実力もあるみたいだ、筋肉質め。

 

「情報を売りに」

 

 一言言うとバンさんは一瞬ポカンとなると大笑いをしだした。

 

「ギャハハハッ!ま、まさか情報屋に情報を売りに来やがるとは…!フ、ハハハッ!……気に入ったぜ、嬢ちゃん」

 

 先程のピリピリした警戒心が一気に四散して陽気な雰囲気に変わった。

 あ〜ら、こっちが素なのね。

 

「やだなー、これでも世界相手に根を張り巡るさせる幸せの小鳥ですのにー!」

「……!ふぅ〜ん…その歳で随分やるな。悪魔の実か?」

「とりあえず歳は止まってなきと言うですか」

 

 悪魔の実の能力者でも実によって成長が止まったりするもんねー…、ドフィさん所のホビホビちゃんみたいに。

 

「今日は面白い客が連続で来るもんだ」

「…あァ革命軍ですか」

「ヘェ〜、知ってんのか」

 

 バンさんはそれで?と視線で訴えて来た。

 

「こちらで情報の価値を決めよう」

「その革命軍のトップについての情報」

「……なるほどなァ」

 

 つまらない腹の探り合いは話が進まないだけだからさっさと進めちまおう。

 

「ドラゴンさんの親は英雄」

「んなぁ!?あのボケカスか!?」

「……………ジジイ何しやがった」

 

 思わず世界中の胃痛の種を怨めしく思う。

 

「そ〜かそれで革命軍か…ドラゴンも大変だな………」

 

 良かったね革命軍。何か知らんが同情を集めてバンさんは親身になってくれるよ。あと勝手に情報売ってごめんね、私、自分の為なら口はいくらでも軽く出来るんだ。仁義?知らんな。

 

「後、ほかに、は……子供?」

「ホー、アイツ子供いるのか」

「モンキー・D・ルフィです」

「…………………ヘェ」

 

 バンさんの目が怪しげに細められた。

 

「おたくの船長か」

「…やはりご存知ですたか」

 

 名前で聞いて反応した辺り気付いてるとは思ったがその通りだったか。

 

「じゃあ俺の望む情報をくれりゃお嬢ちゃんの望む全てに対応しよう。金額も言い値で買う」

「……随分と欲する情報ですね」

「まーな…お前の船長が海賊王関連で関わる情報を全て喋れ」

 

 殺気に似た威圧感と共に言葉が発せられた。

 

「なるほど、その結果に至るたのは帽子ですか」

「当たりか…」

 

 ポツリと零れた言葉は、敢えて聞こえていない振りをする。

 

「シャンクスさんですよ、見習いだったというシャンクスさんから受け取るました。それと剣帝にお世話になった」

「他は?」

「…………信頼出来ぬので無理です」

 

 流石にエースの事は言えない。隠された存在だから。

 もしも『海賊王関連の子供』の情報を言うなら、政府にもバレてる私の存在を伝えた方がリスクが少ない。

 

「そうかよ……」

 

 うーん…バンさんの対応にどっか既視感を覚える。……あァ、私の父親冥王レイさんか。

 

「一か八か。ルフィには兄妹が居るですよ」

「兄妹だァ?」

「革命軍の幹部と」

「……他にもいるんだな」

 

 興味が無いのか、軽く流される様に呟かれる。

 

「海賊王の子供と冥王の子供」

 

「っはぁぁぁぁぁあ!?」

「しー!しー!」

 

 慌てたがバンさんは一瞬で正気を取り戻した。怖い、この人の感情の浮き沈みが子供並で怖い!

 

「くそ…、やっぱり火拳か…!あーー、ちくしょう。こっちに寄った時一目見とくんだった…」

 

 海賊王に子供がいるという事でポートガスまで辿り着くか…。大体察してたって所だろう。

 ……なるほどこの人海賊王ファンか。

 

「にしても冥王の子供って?」

「知らぬですか?ここ2年ほどで存在が確定されますたよ。冥王本人にも海軍上層部にも」

「マジかよ……戦神か」

 

 ドカッ、と座り込んでバンさんは頭を押さえた。分かる、頭痛くなるよね、この組み合わせ。

 

「革命軍の幹部も大物とか言わないよな?」

「先程会ったであろう癖に」

「………参謀総長か…ッ!なんだそれ…!」

 

「そういえば…先程()()()はどのような事を聞いたのですか?」

 

「ん?アラバスタの事と海軍の女狐の情報を……───待てよ、今何つった?」

 

 顧客情報を簡単に漏らすバンさん楽勝。精神的にやられてる状況だからこそ聞かれても気付かなかったんだろう。

 それに追加してトドメを刺す。

 

「私、の兄?」

 

 『革命軍の幹部と兄妹の冥王の子供』と『革命軍の幹部を兄に持つ』が一致したのか、サーッと顔を青くするバンさん。ちなみに私はもちろんドヤ顔。

 

「お、お前かぁぁああ!」

「ハーッハッハー! さぁて、そちらの求む情報は提示すたですよ、私が欲する物を叶えて貰いますか」

「おう、だけどちょっと待て事態が追いつかん。そうか、ありがちな名前だが『リィン』か……嫌な予感って当たるんだな。ちょっと頼む待ってくれ」

「無理です嫌ですこれから海軍にも用があるですから時間無きです。私が求むは貴方の持つ永久指針(エターナルポース)1式と記録指針(ログポース)ください」

「……まさか永久指針(エターナルポース)は俺が持ってる全種か?」

「全種」

「一つしか無くても?」

「全種」

 

 間髪入れずに望みを言えばバンさんはガクリと肩を落としつつも袋に指針を入れ始めた。

 

 

 

 

 

「それではご馳走様でした」

 

 『とてもいい貰い物をありがとう』という意味を込めて言うとその意味を正しく理解したのかバンさんは顔をひきつらせた。

 

「おう、まいどあり…」

 

 流石にちょっと可哀想なので写真を置いて行こう。

 

 

──カラン…

 

 外に出ると空気を思いっきり吸い込んだ。

 

『ギャーッハッハッハッハ!おま、これ…く…!ハハハハッ!』

 

 『剣帝、冥王に土下座するinぼったくりBAR』の写真を見てるであろうバンさんの笑い声を聞きながら。うん、自分良くやった。

 

「おかえりリィンちゃん」

「!?」

 

 正面を向くと反対の柱でサンジ様がもたれていた。

 ま、マジか……まだ居たの?王族待たせたとか辛い。先に行っててくれた方がありがたいのに。

 

「荷物持つよ」

「……疑問に思わぬのですか?」

「んー?食べるための店で取り出してきた物?」

「まァそうですね」

「疑問には思うけど『最高の結果』を求めるリィンちゃんが俺たちの不利になることはしないと思ってるから」

 

 荷物を持たせる事は絶対にしたくないので無理矢理話題を変える。変えたはいいがサンジ様の答えに唸りそうになったが、とりあえず押さえた。うーん…勘違いしてる様ですけど私が望む『最高の結果』は自分の安全なので仲間優先じゃないんですよね、それに私仲間(仮)(スパイ)だし。

 

「さてと、もうそろそろルフィ回収しとくか」

「処刑台この近くですたよね…賞金首の自覚あるのですかねアレ」

「無いだろ」

「……」

 

 否定できずに思わず口を閉じてしまった。

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

 

「もぉおおお!嫌だぁぁぁあ!」

 

 思わず頭を抱え込む。

 

「お、落ち着いてリィン!」

 

 広場でたまたま偶然合流したナミさんウソップさんつまり我ら一味のクルー。…何故ゾロさんまでいるのかは置いておき。

 

「あァァァァア!ルフィ何故、何故処刑されかけですか!?何故目立つのですぞ!?ここ誰の管轄かご存知でぇぇ──っっっ!?」

 

 な、ぜ、か、バギーさんに処刑されかけているルフィがいる。

 周りは気付かれない程度かもしれないが海兵に囲まれてるっぽいし、なんかアルビノだかアルヒダだか分からんがナイスバディの女の人も同盟組んでるみたいだし。もうマジで!本気で!やめてください!

 

「きいてリィン!もう少しで嵐が来る。結構大きいから私とウソップとゾロは船に戻るわね」

「それで私達がルフィを回収しろと!?」

「任せたわ!」

 

 いざって時は私を盾にするナミさんの心意気が潔すぎて泣きそう。まァ適材適所なのかも知れないけどさ!

 

「俺も残る、戦力はあった方がいいだ」

「「黙ってろ怪我人!」」

「な…っ!」

 

 ゾロさんがウソップさんとナミさんの同時反撃に表情を歪める。

 

「じゃあ言っとくがこいつらだけでアレをどうにか出来ると思ってんのか!」

「あぁもう分かりますたから!ナミさんウソップさん先に戻るして下さい!」

 

 ゾロさんはイザとなったら囮に使おう。

 

 私が言うとウソップさん達は慌てて船に戻って走った。

 ゴロゴロと雷鳴が響く。ピリピリと空気が張り詰める。叫び声が所々で生み出される。

 

「──ふざけるするなバギーさんよォ」

 

 私の声は思ったより低かった。

 

 

 バンバンバンバン拳銃打ち鳴らしてスモさんとの再会も楽しめずにさぁ。あーもう計画をごちゃごちゃしてくれるじゃないか…!

 

「う、おぉ?」

「リィンちゃん?」

 

 私に怨まれれば冥王からの報復が待ってると分かってでの采配か……?ほほういい度胸だな。

 

「バギーさん…いやバギー…!」

 

 バリバリと空気が震える。

 

 私は処刑台に向かってゆっくり歩き出した。お前如きの為に飛んでやる気は無い…!

 

「……赤っ鼻────っっっ!」

 

 大声で叫べば全員の注目を集めた。

 

「なァ…ッ!おまえ…お前名前なんだ!」

「そこからかよ!そこからかよ!」

 

 大事な事なので二回言いました。

 

「覚悟はお済みで………?」

「……何するつもりだ」

「降下し、」

 

 とりあえずそこから降りてこいと言うつもりだった。

 

───バリィィィイイイッ!

 

「………ろ?」

 

 言い切る前に雷がバギーとルフィの所に落ちてこなければ。

 

「「何やってんだァァァ!」」

 

 驚いてちょっとチビりかけたけど勘違いしないでほしい。私まだ何もやって無い。

 

「なははっ、生きてた」

「あ、そうかゴムか」

「リーサンキューな!」

「うん、何もして無き」

 

 よっ、と駆け出して来たルフィがお礼を言うけど私何もしてない。

 

「謙遜するなよリィンちゃん」

「私雷は詳しく無きで…」

「良くやった」

「ゾロさん信じて私何もしてな…」

「待てや麦わらぁぁぁ!」

「ひいいっ!生きるしてた!?」

 

 バギー執拗い!アレだ、黒くて口に出すのも躊躇われる台所に生息する奴らみたい!その生命力は褒めるよ!

 

「よし、逃げるぞお前ら!」

 

 ルフィの一言で3人は走り出した。私?もちろん船まで全力で走る=男3人に付いて行く体力無いから飛んでる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ロロノア・ゾロ!」

 

 雨の中佇む1人の女剣士がゾロさんの名を呼んだ。

 

「あなたが海賊狩りだったのですね…!」

「パクリ女…お前海兵だったのか!」

「な…!誰がパクリ女ですか!」

 

 すると女の人は刀を抜いてゾロに向かって走り出した。

 

「銘刀和道一文字及び三代鬼徹、回収致します」

 

 ………どうでもいいけど鬼徹って銘刀だったのね。そこまでレアじゃないと思ってたのに!

 

「おいマリモお前怪我人だろ!」

「怪我人だろうが売られた喧嘩は買うのが主義だ!」

「ンの喧嘩馬鹿…!」

 

 サンジ様が思わず呟く。そうか普段のゾロさんなら任せてもいいけどあれだけの大怪我、普通動けない。つーか動いたら悪化する。

 

「わ、私が残るです!2人とも早く!」

 

 ゾロさん1人で置いて行ったらきっと迷子。いや、絶対迷子になるな、こいつ。

 

「貴方も海賊の仲間ですか…」

「否定」

「否定すんなこのアホ!」

 

 チッ、ゾロさんを売って生き延びようという手は使えないか。というかこの先にスモさんがいる気しかしないから正直ちょっと怖い。あからさまな海賊視点で色々やった後だから頭に1発きそう。……全てはバギーのせいだ。今度会ったら絶対9分の8殺してやる。

 

「っく!」

 

 打ち合ってるゾロさんの胸から血が溢れる。

 2日3日程度で完璧に塞がるわけ無いよね。

 

 それでもゾロさんは力任せに刀を弾くと女の人の顔の横に刀を突き刺した。

 

「……なぜ殺さない…ッ!」

「………」

「私が女だからですか!いつもそうです、私だって一人の剣士…、男の人にそんな気持ち分かりませんよね!女だからと戦力に扱われないこの悔しさが!」

 

 ごめん女である私にも分かんない。

 

「お前のすべてが気に食わん!」

「はぁ!?」

「しまいにゃアイツと同じ事ばっかり言いやがって…!」

 

「 ラ ブ 、 コ メ 、 反 、対 ! 」

 

 ゾロさんの後ろ襟を掴んで思いっきり引っ張った。

 こっちは雨で寒いんじゃい、長々とラブコメのフラグを建設すんなちくしょう。

 

「海兵さん名前は?」

「……………たしぎ、です」

「………わァ…」

 

 思わず遠い目になる。

 この人スモさんの懐刀じゃん…。

 

「女だから。その気持ちはギリギリ分かるます。骨格からすて筋力も何もかも違う故、様々な所で不利です。しかしながら、最高戦力には女の人がいるですよね?」

「…っ!」

「女だからと自分を貶す貴方を必要とする人は上司はいますよね?」

 

 昔はヒナさんがたしぎさん欲しいっ言ってたしスモさんも反抗してやらんって言ってたし。

 自分の価値を過小評価し過ぎじゃない?

 

「さて、ゾロさん行くですよ」

 

 そのまま箒に服を引っ掛けて飛んでやった。ぎゃあぎゃあ騒いでたけど私は聞こえん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その場に行くと正直かなり混乱した。

 

 ルフィを踏みつけるスモさん。そんな彼を蹴り飛ばそうとしたはいいが片足掴まれるサンジ様。そんなスモさんの後ろにいる緑がかったマントの刺青マン。

 

 ………おい何海兵の前に出てきてんだ革命軍のトップ。そしてルフィの父親のドラゴンさん。

 

「……チッ、ドラゴンに引き続き…。次はテメェか、お前、堕天使だな?」

「く、ううぅっ!否定したき!堕天使は嫌だぁぁぁあ!」

 

 初対面のフリをしてくれてるのか、そんな事をガン無視して思わず膝をついて肩を落とした私を責めないでほしい。何が好きでこんな名前!

 

「いい加減にしろぞくそ野郎共!」

 

 

 

 

 心からの叫び声を発した。

 人の夢って儚いんだな……………。




ローグタウンに隠れて1人くらい記録指針売ってる人いるだろって事で『バン』さん登場です。…ちなみにオリキャラではございませんが、特に深く関わる事は無いので気付かなければそれでいいと思っています。

ちなみに雷が落ちた瞬間は周囲に『雷を操った…だと…!? 世界の災害をも操る奴なのか…!?』ってザワザワされてます。後に誤解を正しく広めますがとりあえず追記というか形で。


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第89話 やる時期って大事

 

 

 思わず頭を抱えたがそれも数秒。

 とりあえず現状をどうにかする事にした。つーかまともに動けるの私しか居ない。

 

 ここでスモさんに対抗して一味を逃がすのは造作も無いだろう。だが本業を忘れるなかれ、私はスパイ。一味が滅ぶ機会ならすぐさま協力すべき。

 

 状況は至ってシンプル。劣勢な麦わらの一味に悪魔の実のスモさん、そして大ボスドラゴンさん。1対1だと平和的に解決出来るが…無理だな。

 

「ほぉ…リィンか」

「うん、刺青さん。ちょっとお前黙ろうか」

「なぜだ?」

 

 ド天然なドラゴンさんに頭を痛めながらどうするか考える。………ドラゴンさんに責任転嫁してもいいかな。

 

「………だから嫌いぞこの家系…!」

 

 この人相手にイラッとしたのも仕方ない。絶対仕方ない。

 

「さて白猟のスモーカー、海へ出る男の邪魔をしないでもらおうか」

 

 するとドラゴンさんは驚いた事にスモさんを攻撃してルフィ達を解放した。

 

「おっさん、ありがとな!」

「ふふ、海賊か…。それもまたいい……行け!お前が決めた信念を貫くのだ!」

 

 ドヤ顔で言ってるけど多分本人『息子を陰ながら応援する俺カッコイイ』とか思ってるからな、騙されるなよ。

 

「ルフィ、ゾロさん任すた。先出航頼む」

「リーはどうやって…!」

「私は飛ぶ」

 

「ん、分かった」

 

 小声でルフィに話しかけるとゾロさんを託した。そして後ろを振り返る。

 

殿(しんがり)勤むです!偉大なる航路(グランドライン)入る前に海兵で実力試しといくましょうか!」

 

 グッ、と拳を握りしめてスモさんに向かって突進していった。

 後ろの気配が消えてなくなるまで。

 

 

 

「……テメェ、邪魔すんな堕天使!」

「何をォ!」

 

 慌てて私と組手をし始めたスモさん。

 だけどドラゴンさんが見てるだけだから別にもうしなくてもいいよね。

 

「よし!終了!はー…無駄に疲れるた」

 

「じゃあリィン、ちょっと革命軍トップ討伐付き合え」

「無理、集中力かなり切れるした。参謀総長と腹の探り合いすた後情報屋相手に精神すり減るさした私の集中力に余力は無き、無理、能力使用不可能」

「テメェさっき風使って飛んでたろ」

「あれは慣れ」

 

「何だ、お前達は敵対関係じゃなかったのか。なら俺が残ってる必要無いな」

 

 フッ、と笑ってドラゴンさんが背を向けた。

 

「育児放棄と言うされたから無理やり東の海(イーストブルー)まで来た、と言うつもりは無きですよね?」

 

 私がそう呟くとドラゴンさんはポカンとした表情で暫く見ると口を開いた。

 

「……………………お前さてはエスパーか」

「逝ってよし!」

 

 私が本格的にモンキー一家を嫌いになる前に。

 

「というかサボと会ったんだな、どうだウチの子偉いだろ」

「親バカか!」

「どっちのだ?」

「頼むです…さっさと消えるしてください!」

「ほう…俺に向かって言うか」

「今更威厳を出すても無駄です消えろ」

 

 そう言うとやっと渋々消えていってくれた。無駄に疲れる。

 

 

「やだもうあの自由奔放具合!ジジの血を色濃く受け継ぐしてるから本格的に嫌だ!」

「何がどうなってんのか分かんねェが苦労してんだな」

 

 そっと置かれた手が泣きそう。

 

「わーん!スモさん天使!私の天使!そして癒し!好き!愛すてる…!」

「あー、はいはい」

 

 抱きついたら否定されることなく受け止めてくれる人ってかなりレアだと思う。

 クロさんだったら多分ぶん投げるな。私一応女の子なのに。

 

「というか私を捕まえるしようとしない限り…」

「察してるよ、大将(お前)がそう簡単に抜けれるわけ無いだろ…スパイか」

「正解です!スモさん天才!」

 

 偉いですねー、と頭を撫でたら流石に叩かれた。脳細胞死滅する。

 

「スモーカーさん!」

 

 追いかけて来たであろう海兵がこの状態に少し仰天した後報告していった。

 バギー一味を壊滅寸前まで追い込んだが突風のせいで取り逃がしたこと。革命軍の船を見かけたがそれも同じく取り逃がしたこと。

 

 何、スモさんの部下統率力ありすぎない?何、ちょっと敵対関係にあるこっちとしては恐怖なんだけど。

 

「……スゲェって顔してるが俺の所の部下はお前の同期がほとんどだぞ」

「何!?」

 

 ヤベェ、私の同期スゲェ怖ぇ。

 つーか私が消える時まで雑用だったよね!?

 

「あー!リィンちゃん!」

 

 するとワラワラと寄ってきた声に聞き覚えがある事に気付いた。

 

「皆!」

 

 思わず駆け寄ると最初に報告して来た海兵に襟首を捕まえられ引っこ抜かれた。

 私は猫か。

 

「お前結構危ないからあの変態共に近づくな」

「まさかその声はグレンさんです!?我ら第1雑用部屋の唯一のストッパー!」

「お、おお…不本意だがストッパーの立場を理解してるとは」

 

 こう考えると第1雑用部屋の皆が一つの部隊にいる事は少し疑問だ。

 

「あの、何故皆はスモさんの所に?」

 

 グレンさんに振り向き聞くと目を一周回して口を開いた。

 おい、待て、なんで回った。

 

「……正直俺が所属してるのも本格的に嫌だが、曰く『スモーカーさんの所に居れば天使と会えるかもしれない』って、な…」

「……………エスパー?」

「俺は素直にスモーカーさんに申請出してたからだけどこいつらお前が居なくなった途端何かを察知してだな……それでこの結果だ。もちろん主犯は」

「リックさん」

「……………大当たり」

 

 ため息混じりに説明されたが10年程の年月の絆はそう容易く無い様です。

 これはまとめて突っぱねる事も出来なかったなセンゴクさん…。ホントにあの人苦労してる。

 

「流石天使愛好会」

「…?お前知ってたか」

「ご存知ぞ?流石に定期的に所持金が増えるていれば気付くです」

 

 見ざる聞かざる言わざる、全ては自分の為に黙っていましたよ。

 

「スモーカーさん…!」

 

 するとたしぎさんも合流して来た。多分他の階級の人も寄って来そうだな。

 

「グレン!やりましたか、その子も海賊です!」

「すんませんたしぎ先輩、俺にはコイツ捕まえるの無理っぽいです」

「やっほーたしぎさん!そうぞスモさん彼女貰うしても」

「ダメだ」

「はー、ダメですかー」

 

 グレンさんが解放してくれたのでたしぎさんに近づく。

 

「な、なんですか」

 

「あの鬼徹くん、元々持ち主私のですた」

「は、はぁ……海賊ならば益々回収しなければなりませんね」

「で、私の前は剣帝カトラス・フェヒターの物です」

「…な!そ、それは本当ですか!?」

「でももう1本の無銘は実は海軍で配るされた物です」

「は?」

 

 たしぎさんは表情コロコロ変わって面白いな。

 

「私が持ってても宝の持ち腐れ。必要とされることは多分刀も幸せです」

「……それは、そう、ですかね」

 

 ざぁー…と雨が振る中随分変わった会話をしてると思う。

 

「女のたしぎさんも必要とされてるぞです」

「私、が?」

 

「知りませぬよね、実はヒナ…少佐?はたしぎさんを欲すていたのですよ」

「ヒナ少佐が…? で、でもそんな話私には…っ、と言うよりなぜ海賊の貴方が知ってるんですか!?」

「話が来ぬのも仕方のなきこと。スモさんが全力で阻止すてましたから」

「リィン!」

 

 暴露すると私の頭に拳が飛んできた。

 随分痛いじゃないですか…スモさん。

 

「へ?え?」

 

「たしぎさんは必要とされる側の人間ですよ」

 

 真っ赤になったレアスモさんも見れたしたしぎさんに言えたし。うむ、我は満足でござる。

 

「ハハー!流石我らの天使!堕ちてもなお太陽だな!」

「それでリックさん達は月とでも?」

「その通りだ!」

「スモーカーさんたしぎ先輩こいつがアホでホントすいません…ッ!」

 

 グレンさんは今年もリックさんの手綱を握ってるのか、大変だな。

 

「たしぎ先輩は知らないですけどリィンとスモーカーさんとヒナさんは古くから友人ですよ」

「え?古くから、古く?」

 

 だよね、私まだ子供だもん。

 

「私の方が後輩です」

「……」

 

 『お前平気な顔して嘘ついてんじゃねーぞ女狐』的な目をしてスモさんが睨んでくる。実際入隊時期的にも表の地位的にも後輩じゃーん。

 

「俺たちはお前が何のために海賊に入ったのか知らないが全てを捨てて堕ちていくとは微塵も思ってない、俺たちは味方だよ」

「はー、グレンさん常識人過ぎて辛い」

「……苦労してんだな」

 

 スモさんとスモさん部隊下っ端は味方と見たり!

 ありがたやー……。拝んどこ。

 

「行ってこい、俺の親友。すぐ追いつく」

「親友…親友!?スモさんデレた!?親友!?」

「お前うるさいからさっさと消えろ」

「そんな所も好き!結婚しよ!」

「誰がするかアホ!俺をロリコンにすんな!」

 

 下手くそな応援をされながらも私はルフィ達の元へ飛んでいった。

 

 

 

 ………よくよく考えたら追いつくって偉大なる航路(グランドライン)までやって来るって事だよね?いいの?支部は?

 

 

 

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 たしぎ先輩は嵐の様なリィンを呆然と見送る。

 ……あの人処理能力がまだ甘いよな。

 

 上から目線かも知れないが俺だってもう30過ぎ。はー、歳をとるって嫌だわ、嫁さんほしい。

 

 

「あの…スモーカーさん……」

「………なんだ」

「あの子が親友って、どういう…」

「掘り返すな。言葉通りだろ」

 

 言葉通りに取れないって、流石に。

 

「まァたしぎ先輩。気にしたら負けです」

「は、はァ…」

「例え時々リィンがスモーカーさんの部屋に泊まりに行こうが休みの日に一緒に遊びに行こうが一緒に七武海に絡まれようがスルーして来た俺の過去を知ればきっとそんな些細な事」

「テメェなんで知ってやがるグレン」

「おおーっと、これはうっかり」

 

 スモーカーさんはからかうのも面白いと思うけどやっぱり1番カッコイイのは何かを決めた時。それがこの人について行こうと思ったきっかけだ。

 

 

偉大なる航路(グランドライン)に入る」

「…はい」

 

 麦わらを討つ?本当にそんな彼事の為?

 

 

 違うでしょう。貴方は大事なモン取り返す為に躍起になってる子供でしょうに。

 

「……ついて行きますよ」

 

 例えば階級も何も無いただの海兵だろうと、あなたの親友の友として、あなたの部下として。

 

 んでついでにリックのお世話係として。

 

 スモーカーさん、貴方は例え死んだとしてもついて行きたいと思える人物なのですから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺の名前はグレン。

 死霊使いの最後の末裔。

 

 

 

 

 

「やるか…」

 

 歪な形で馴染みの無い魂に憑かれた少女と暖かな沢山の魂に好かれた男の友情物語を見届ける者。

 

 

「あーあ、嫁さんほしい」

 

 雨の中ポツリと呟いた言葉は人知れず消えた。

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

「お、きたきた!」

 

 びしょ濡れの状態で船に戻ると何故か全員甲板に集まっていた。

 樽を中心に何やってんだお前ら。

 

「何事ですか?嵐の中持ち場を離れるは危険と思うですが……」

「おかえりリー!あのな、今から進水式やろうと思ってよ」

 

 進水式って新造の船舶が水に触れる時にするモンだよね?私達この船で結構航海してると思ったんだが…。

 

「細かい事考えてるでしょう?」

「ナミさん…」

「いいのいいの、こんなのは気持ちなんだから」

 

 バン、と背中を叩かれて円に入る。

 

「俺はオールブルーを見つけるために」

 

 コト…とサンジ様が足を置く

 

「俺は海賊王!!」

 

 むん、とルフィが足を置く。

 

「おれァ大剣豪に」

 

 笑いながらゾロさんが置いて。

 

「私は世界地図を描くため!」

 

 ナミさんは雨なんて気にせず。

 

「お、俺は勇敢なる海の戦士になるためだ!」

 

 焦りながら足を置くウソップさん。

 

 

 

 すると全員の視線が私に向いた。

 

 

「私…は……」

 

 私の夢ってなんだろう。

 平穏に生きる?生き延びる?

 

 生きるは必要条件だからそれは違うだろう。

 夢は生という料理の言わば調味料でしょ?

 

 

「私は……」

 

 

 ──リー

 

 ずっとずっと、昔に聞いてきた幼い声が聞こえた気がしてバッ、と顔を上げる。

 

 ルフィはニッて歯を見せていつも通りに笑ってた。『お前の味方はここにいるぞ』って言ってくれてるみたいで。

 気の所為だけどそう思いたかった。

 

「私は、家族……もう1回家族と笑い合う為に!」

 

 リアル過ぎる予知夢で死ぬエース

 記憶喪失のサボ

 海賊王を目指すルフィ

 

 3人の兄は将来バラバラ。

 

 それに家族は彼らだけじゃない。本当の父親や母親も、見守ってくれた父親も、何だかんだと構ってくれる兄貴分達も。

 全部、全部だ。

 

 同時じゃなくていい。

 せめてルフィ達3人はもう1回揃ってお酒を酌み交わしたい。

 

 

 

 まだサボが生きてること言えなくてごめんねルフィ。

 

 

「いくぞ!偉大なる航路(グランドライン)!」

 

 荒れ狂う海を背景に、私達は思いっきり酒樽を割った。

 

 

 

 




スモーカーさん(というかクザン以外の海兵)は風使って飛んでると思っている(ようにした)
グレンまさかの死霊使い。結構前から決めてましたがキーキャラじゃないです
ちなみに馴染みの無い魂=前世の記憶です。


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番外編9〜ハロウィン〜

時間軸的にズレているんですが(例 ゾロが怪我してない)細かいところは気にしないで平行世界として軽めの気持ちで見てください


 

 ハロウィン。

 それは1年に1度お菓子を大量ゲットする最高の日。

 

 ハロウィンなる者が存在すると知ったのは8年前の6歳…大体私の繁忙期だ。

 海賊女帝に呼ばれたと思ったら四皇ダブルパンチで城に上がってやっと戻ったと思ったら新しく入ったドフィさんに誘拐されて、と。よく頑張ったな私。

 

 

 この世界のハロウィンは前世のハロウィンと少し違う模様で、仮装をして『トリックオアトリート』と言ってお菓子を貰うところまでは合ってるがその後お菓子をくれた相手に1回お礼の一貫としてキスを送るそうだ(場所はどこでもいいらしい)

 

 

 海兵の皆さんは忙しいからハロウィンを出来なかったけどドフィさんが来てからは毎年会議の後にお菓子を持参してハロウィンを開いてくれる。私がお菓子好きだからか、そうだろう。

 

 

 今年は麦わらの一味での開催、気合を入れてお菓子を貰わなければ…!

 

 

 

 

 

 

「いや、違うけど」

「…なん……だと………ッ!?」

 

 

 ちょっとした被り物をしたウソップさんから無情にも伝えられた言葉に唖然とする。

 

 

「8年間ずっとこうだとばかり…!」

「騙されたな」

 

 ポン、と肩を叩く姿に少し苛立ちを覚える。

 

「ハハッ…リィンちゃん。ハロウィンは普通に『トリックオアトリート』って言ってお菓子を貰う、それで基本終わりだよ」

 

 サンジ様が苦笑いを焼いたお菓子を並べる。くそう、いい匂いじゃないか。

 

「オメー一体誰に騙されたんだ?」

 

 ふと昔を思い浮かべる。

 

 

鳥『お菓子貰ったらキスが常識だぜ?』

鰐『おー…確かにそうだったな』

リ『へ?そうなのですか?ふーむ、文化が少しばかり違うぞですなぁ。どこでも宜しき?』

鰐『キスする場所に意味があるからな』

リ『ほう…──と言うよりそれは誠に事実ぞです?』

鳥『もちろんだ…なァ鷹の目?』

鷹『ん?何の話だ?』

鳥『ハロウィンでお菓子を貰ったら女子供はキスを贈るのが定番だろ?』

鷹『あァ…そうだったな……男同士でやっても気色悪いだけだ』

リ『男色とやらですね』

鰐鳥『『なんで知ってんだよ』』

 

 

 

 

「……奇抜ファッションと将来ハゲ男…と甘党」

 

「は?誰だそりゃ」

 

 落ち込んで居ると隣に座ってボリボリお菓子を食べだした。私にも寄越せや。

 

「……………今年は、離れ離れ」

 

 そう、私の隣には愉快な動物の海賊じゃなくて仲間。あのバ海賊とは別々。

 

 つまり──

 

「…───お菓子が貰えぬ代わりにイタズラが可能、と」

「いや何怖い事言ってんだよ」

 

 

 ハハハー!そうかそうか、その手が合ったか!

 ………今日から私がジャックだ…、悪魔(の実の能力者)を手に取って(私が)地獄に落ちないように契約させてやろうじゃないか…!貰うは火の(たましい)…!と言うより(かたまり)

 

 大丈夫…この数年で何に使えるか分からない脅迫材料はたっくさんあるんだから…。たとえバレたとしても大丈夫。

 

 お前ら痛い目見せてやんよ。

 

 

「ルフィ…、少し、席を外す……」

「ん??おう!」

 

「いや待て待てどこ行くつもりだ!?お前は一体その3人に何をしようとするつもりだ!?」

 

「いってきまーす」

「行くな行くな行くな!逃げろ誰かわからないけど奇抜ファッションと将来ハゲ男と甘党!」

 

 ハーッハッハッハ!……覚悟しろよ野郎共。

 

 

 今あなたのもとに堕天使が向かいます…私を混乱の日々へ追い込んだタチの悪い人物と同じ名前の私が…!

 

 ついでにセンゴクさんに奢ってもらおう。

 

 

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

 ハロウィン当日という事は毎年定例会議…。その終了を狙う…!

 私は気配を断つのが大得意ですから見聞色にも引っかからないはずさ…!!

 

『……──……』

『──…─……………』

『…………─………』

 

 ふむ、会議室(ここ数年で本部からマリージョアでの回数が多くなった)にいるのはセンゴクさんに大将からはクザンさん、中将で毎度変わらずおつるさんか……。まずまずといった所だ。

 問題の王下七武海の面子はクロコダイルドフラミンゴミホークジンベエ……ターゲット発見。

 

 

 会議をしている間に下準備はさせてもらう。

 私の甘い物センサー発動!

 

【甘い物センサー:それはシックスセンスを全て活用し未知を越えた探知能力(甘味限定)である】

 

 ふむ、流石にミホさんは甘党なだけあって服の下に隠してあるか…。だがどうやらクロさんとドフィさんは持ってない模様。

 しめた、遠距離型アイテムボックスを使えば楽勝じゃないか。(普通に使うだけ)

 

 今は気配を断つ方に集中してるから会議が終わった後に一人ずつ命れ…ゴホン、お願いをしないとな。

 

 

 

 

 さて、罠でも仕掛けますか!

 

 

 

 ==========

 

 

 

 会議が終わればミホークはすぐに帰る。リィンが海軍を抜ければ毎度の事だった。

 七武海同士のコミュニケーションは取るものも残る利点などありはしない。

 

 

 

 そこを狙う小狐が1匹。

 

「(ミホさんへの目的は嫌がらせ程度でいい…ハッハッハ、定番中の定番だろうが喰らえ!)」

 

 リィンは元々無機物を操作出来る。

 彼女が動かした物とは……。

 

 『トリックオアトリート』

 

 そう書かれた紙だった。

 

「ハロウィンか?と言うより誰がこんな事を……」

『ちなみにさっさとくれないと強制イタズラだゾ☆』

「どうしてそうなる…!誰かわからんがとりあえずこれでも………ん?」

『残ねーん!イタズラ決定でーす!』

 

 懐を探しても何も見当たらない事に気付いたその時。紙が全てミホークの元へ飛んで顔面を塞いだ。

 

「な!」

 

 慌てて剥がすがそれだけでは終わらない。

 

「っ!?」

 

──ブワッ

 

 上から降ってきたのは胡椒。

 

「(その名も胡椒爆弾ファースト)」

 

「ゲホッ!な、一体どこか…」

 

 

 

──べチョッ

 

「…!」

 

 そして顔面にぶつかったのはパイだ。パイ投げというよりパイ飛ばしだが胡椒に気を取られてしまったミホークは簡単に引っ掛かった。

 

 

「(うわ…ミホさんって戦闘以外で処理能力を超えるとフリーズするんだ…)」

 

 殺気や悪意のある気配を人より何倍も察知出来るのが剣士という者だがそれ以外…例えば殺気の無いイタズラなどは気付きにくい。ミホークもその内の一人だった。

 

「っ、え、た、鷹の???」

 

 その場を偶然通りかかった海兵に驚かれてるが本人は気付かず呆然としたまま。

 

「…プッ」

 

──ズバンッ!

 

「っ!」

 

「外したか……。次は仕留める」

 

 どうやら何かが企んでいるという事は察せれたのであろう。ミホークは愛剣を抜いて斬撃を飛ばした。

 

「(やばい殺される!ガチだ!)」

 

 

 物陰に隠れていてもコンクリート打ち抜いて飛ばされてきた殺気と斬撃にリィンはヒヤリと汗を流しこれ以上は無理だと判断し脱兎の如く逃げ出した。油断は禁物、心に強く刻み込み次の獲物(ターゲット)を探しに再び気配を殺す。

 

 ここまでの学習能力の無さに同情は不要だろう。

 

 

 

 ==========

 

 

 

「なーぁー鰐くんよぉー」

「……」

「うわ…お前その『メンドクセェ話しかけんな』って目やめてくんない?」

「メンドクセェ話しかけんな奇抜ファッションマン」

「口でも語るなよ!」

 

「(こいつら本当に嫌いだ海の屑共!)」

 

 傍から見れば仲良しとも思えなくない鰐と鳥のやり取りにその場に居た仏は苛立ちを募らせた。

 

「つーかテメェはとっとと消えろよ563敗野郎」

「カチーン…ンだと白ひげに突っかかって行ったはいいがコテンパンに負けて覇気まで使えなくなった雑魚くんヨォ?」

「あ゛ァ?よほどその口開けなくして欲しいみてぇだな」

 

「(小学生男子か…!)」

 

 そっと頭を抱えたのも仕方無い。

 

「2人とも早く帰らんか…!お前らが帰らんと私も戻れないんだぞ…?」

 

 仏の仮面を被り殺気を隠さずに伝えた。『さっさと消え失せろゴミ屑共お前らが居ると主に破壊的な意味で不安なんだよコラ』と。

 

「まぁまぁ落ち着けよお義父さん」

「誰がお前の様な堕ちた海賊の義父なものかそんなに殺されたいか」

 

 センゴクの殺気が膨れ上がり思わず2人は怯んだ。何がここまでさせているんだ、と。

 

「…どっちかというとおとんだろ」

「…あ、そうだったな」

 

「そういう問題では無い…!」

 

 何だかんだと面倒味のいいセンゴクは仏の異名も掛け合わされ影で彼を良く知る人物からは『おとん』と不名誉な名でこっそり言われていた。もちろんセンゴク自身はクザンの報告により知っているがどうにも納得出来なかった。もっとも、クザンも呼んでいる事は知らないが。

 

「(リィンが賞金首になって胃を痛めてると言うのにこいつらは…!)」

 

 これ以上穴を開けるな!と叫びたい。心から叫びたい。

 

 

 最近また医務室に世話になったばかりだというのに上がポンポン胃痛で倒れてたら世話ないというもの。こんな上司だと知られたら下は付いてこない…!

 

「いい加減に…」

 

 しないか。そう言葉を続けようとした瞬間顔の横を何かが驚く程のスピードで通過した。

 

「っ!」

「ギャ…ッ!」

 

 悲鳴を上げた七武海の2人を向くと思わず固まった。いやいやいやいや、どうしてここに泥団子が飛んでくる必要がある??

 どう考えても子供の遊び場とは違うぞ?と。

 

「クソッ、目に入りやがった…!」

「どこの誰だァ…こんな事しやがったのは」

 

 サングラスをかけているドフラミンゴだけは目が潰されて無いだろう。サングラスを外し周囲に目を向けようとしたその瞬間。

 

──ゴッ…!

 

「…」

 

 サングラスが割れた、正確に言うと顔面に向かって石が飛んできて見事的中したのだ。

 

「(えげつない………)」

 

 追撃、とばかりに泥は目に向かって飛んでくる。

 

「殺してやる…!」

 

 クロコダイルがそう呟いた途端視界が一瞬にして変わった。真っ赤な霧に囲まれる。

 

 その時白いコートを着た誰かがセンゴクの腕を引っ張った。

 

「だ…」

「…!」

 

 誰なのか聞こうとした瞬間口を塞がれる。これでは質問することも出来ないが振り向いた()()の仮面で質問する意味が無くなった。

 その仮面は狐の面であったからだ。

 

「(なんでお前がここにいる!リィン!)」

 

 ある種胃が助かったのは事実だがお前仕事はどうした。

 

「「ぎゃぁぁぁッ!」」

「!?」

 

 赤い霧に包まれた2人の悲鳴に思わず振り返る。本当に何をしたこの小娘は。

 

 

 

 

 

 

 

 

「まずあの霧はなんだ」

 

 少し離れればセンゴクは狐面のリィンに命令とも取れる質問をした。

 

「トウガラシの3倍の辛さ……トウガラカラシを煮詰めて濃くなるした液体を霧状にしてばら蒔いたのみです」

 

 嗚呼…石が当たった程度でえげつないとは自分は随分緩い脳みそをしているものだ。……本当にえげつないのはこの子供本人だ。

 

「何故そのように遠い目をしてるです」

「(多分どこかで教育を間違えた、七武海討伐か?それがいけなかったのか?それとも遠距離配達か?)」

 

 一難去ってまた一難。とはちょっと違うが結局身の回りには自分の胃痛の種しか無いのだな、とセンゴク悟ってしまった。

 

 

 こえを大にして叫びたい、本物の悪魔はここにいるぞ!と。

 

 

 ジャックどころか魂を取りに来る悪魔となった少女はにこやかに言葉を紡いだ。

 

「イタズラとお菓子どちらが宜しき?」

「お菓子で」

 

 お強請り?それはもはや脅迫だ。

 海賊思考に染まってしまった娘を憂いて今日も元帥は胃を痛める。

 

 




細かいところは気にしない(2回目)


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閑話
第90話 手配書 その1


 ──偉大なる航路(グランドライン)後半 とある島──

 

「よぉ〝鷹の目〟」

 

 密林とも取れる森の中一人の男が鎮座していた。その男は赤い髪に左目の三本傷。

 

「俺ァ今気分が悪いんだが…。何の用だ?勝負でもしに来たか?」

 

 鷹の目、ミホークは辺りを取り囲む人影にため息を吐きながら答えた。

 

「──このやり取りは毎回しないとダメか」

 

「んな!なんだよノリ悪いなァ〜!」

「いや、もうそろそろ飽きた」

 

 毎回ほぼ内容の変わらないやり取りはミホークにとってつまらなかった。

 そんな彼を気にせずにシャンクスは笑い飛ばす。

 

「んで?今日はどうしたんだよ」

 

 古い付き合い故かミホークという生態をよく分かってるシャンクス。手短に用を済ませ下らないやり取りが出来る宴へと持ち込もうとしたのだろう。

 ……どうせこいつに大した用は無いと踏んで。

 

「今度はなんだ?七武海の面白話か?それとも行った島で興味深いモンでもあったか?」

「いや、一つの海賊団にあった」

「ヘェ!強いヤツでも居たのか」

 

 こいつが興味を持つとは珍しい。シャンクスは内心口笛を吹きながら続けられる言葉を待った。

 

「いや…まだまだ弱いな。だがとても強い」

 

「!」

 

 優しげな…まるで父親の様な笑みに思わず目を見開く。周りのクルーも同様だった。

 

「昔から話していただろう?会ってきたさ」

「昔………、おい、そりゃ一体どこの」

 

 ミホークはシャンクスが言い切る前に懐から2枚の手配書を取り出した。

 

「〝麦わら〟のルフィ」

「それと〝堕天使〟リィン」

 

「な…ッ!」

 

 慌てて手配書を受け取ると写る笑顔のルフィと顔は見えないが元気そうなリィンの姿を確認し、ニヤリと笑みを深めた。

 

「来たか…ルフィ!」

 

 親子分でも弟分でも無い何とも曖昧な関係──いや、いずれ越えると誓われた敵の誕生に心底嬉しく思った。

 

「よぉーし!宴だ宴!鷹の目!飲むぞ!」

「お頭お前昨日飲みすぎて今日二日酔いじゃ…」

「ンな細かい事気にすんな!」

 

 急告したルウの言葉も蹴飛ばしミホークの肩を組むとその本人から呆れ果てたため息が返ってきた。

 

「相変わらずだなお前は……」

 

 ついこの間まで殺し合いをしていた仲とは思えないが最大の敵であり最高のライバルをミホークは少し羨ましく思う所があった。

 リィンという共通の話題があった故か、ここまで関係が軟化するとは思わなかったが。

 

「にしてもなんでリィンまで手配書に?お前何か理由聞いてないか…? こいつ()()だろ?」

 

 一応リィンの立場を気遣ってか耳元でシャンクスは呟いたが、聞く言葉を間違えた。

 

「大将?」

 

 ミホークは思わぬ認識に眉を顰める。

 

「女狐だろ?だってリィンが言ってたからな!秘密にしなくても知ってるから遠慮しなくてもいいぞ?」

 

 ミホークの目は『何を言ってる』と疑問を語るばかり。

 至近距離でそれを見たシャンクスはしばらく考える素振りを見せた後一瞬で青くなった。まさか自分は選択を間違えたか、と。

 

「…………タチの悪い冗談、では無さそうだな。シャン?」

「ハ、ハハハ…………………………ミホ、忘れてくんねェ?」

「無理だな」

 

 即答したミホークにシャンクスは冷や汗をかいた。

 

「っだぁぁぁぁああ!なんっっっっで!なんでお前は知ってないんだよ!」

「いや、そんな文句を言われても俺自身かなり驚いているんだが」

「ウルセェ!顔に出せ!」

 

 そこらに置いてあった瓶を持ち酒を飲むと発狂しているシャンクスに向かって笑みを浮かべた。

 

「馬鹿だな」

「お前に言われたかねェんだよ!こんっのやろう!」

 

 事情を察したヤソップは仮にも自分の船長である男の醜態を大爆笑している。そんな彼を見てミホークはある一つの出来事を思い出した。

 

「アァ…そういえば狙撃手。お前名前たしかヤソップだったよな」

 

 ざわ…と辺りが騒いだ。

 普段のミホークは絡むといってもシャンクスのみ。後は受け答えが主だったから初めての出来事に赤髪海賊団は動揺した。

 

「お、おおおう」

「その海賊団にお前の息子がいたぞ」

 

 顎を上げて視線を手配書に向けた事からルフィ達の船だと言う事が察せられた。

 

「ま、マジか!?」

「大マジだ。リィンが言っていたから確実だろう」

「………マジか……!」

 

 ヤソップのノリに乗っかって来る辺り随分機嫌が良いのだろう。

 シャンクスが未だに頭を抱えてる中ミホークはフッと笑った。

 

 

 

「(何故知らなかった、か)」

 

 もう10年の付き合いとなるのに知らない理由などただ一つ。

 

「(奴は海兵で俺が海賊という事のみ)

 

 七武海とリィンは元々必要最低限しか関わって居なかった。過去を詮索する事も無くただ表面上のやり取りを繰り返していただけ。

 それが悲しいとも思わない、それが当たり前だと全員割り切っていた。

 

「(海侠だけは違っていたみたいだが)」

 

 何故海軍に入った?どこ出身だ?親は?家庭環境は?剣帝との関係は?

 

 聞きたい事など多数あっただろうに誰も触れない。

 

「(奴らが我慢しているのに俺が我慢しないわけにいくまい……。それにリィン本人は内に入られるのを拒否する傾向があるしな)」

 

 

 酒を1口飲みながらミホークはポツリと呟いた。

 

「────何が恐れられる七武海だろうな。ただ嫌われるのを恐れる臆病者ばかりだ…」

 

 

 ──自分も含め、全員。

 

 

 シャンクスは聞こえた言葉に微かな信頼が混じっている事に安堵の息をもらした。

 

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

 

 ──偉大なる航路(グランドライン) シャボンディ諸島──

 

 

「あら」

 

 ジャッキー’S ぼったくりBARの店主であるシャッキーことシャクヤクはニュースクーが運んで来た手配書に目を細めた。

 

「海軍を辞めた情報が入ってきたからもうそろそろ、とは思っていたけど……ふふ、本当に海賊になったのね」

 

 独り言を呟いていたら店の奥から喧騒が聞こえてくる。変わらないいつものパターン。

 

「だ〜か〜ら〜!お前はそれ以上酒を飲むんじゃねェ!」

「フェヒター…そんなに私を怒らせたいか」

「少しはセーブしろセーブをよ!」

 

「(まぁ〜たやってる…毎日毎日喧嘩と、飽きないわねェ〜…)」

 

 ため息を吐きながらシャクヤクは2人の男に声をかけた。

 

「これ、見ないのかしら?」

 

 ピラッと手配書を見せてみれば興味は引けた様で〝冥王〟と〝剣帝〟は手配書を受け取る。

 

 

 

 

「……ヘェ。ガキンチョと小娘か」

「なるほど…、引き伸ばさなければな」

 

 シャクヤクはこの2人の単純さにほとほと呆れた。頭はいいはずなのにどこか馬鹿に分類される昔からの友人に。

 

「数々のライバルがいる中で3000万と2000万の金額はデカイわよ」

 

 煙草をふかしながら言えば頷く2人。満足そうに大きな幼子を眺めるとシャクヤクはふと違和感に気付いた。

 

「ん?どうしたんだ?」

「……ねェ、この子達。どうして()()()()()()()()なのかしらね」

 

 それを聞いてフェヒターは確かにと口を開いた。

 

「ガキンチョは日が昇っている状態。小娘は真夜中。同時に手配されたのに撮られた時間が違うたァ確かにおかしいな」

「恐らくアーロン撃破以外の要因で恐れられたのでは?流石私の娘じゃないか」

 

 ついでにレイリーも意見を口にすればシャクヤクは満足そうに微笑んだ。

 

「あ……思い出した」

 

 レイリーが顔を上げる。

 

「この子達バギーも倒していたなァ」

 

 〝道化〟のバギー。いや、今は手配書が更新して〝千両道化〟のバギーとなっていた事を思い出す。

 確か更新された懸賞金は1億2000万。

 

「バギーも随分出世したものねぇ」

 

 ふざけた調子で言えばフェヒターが苦笑いを零した。

 

「大方海軍に経歴がバレたんだろうよ」

「十中八九それだろう。この前娘がバギーの弱点を聞きに来た。センゴクへの報告ついでにチクったとすればこの対応も頷ける」

「うぇ!?聞きに来たのか?」

「……すまん、随分語弊があったな。電伝虫だ」

 

 普通の人間ならば電伝虫と取れるが単独で長距離飛行が出来るリィンならではの誤解だ。不可能と言いきれないからこそだろう。

 

「(誰かの話をする時は仲良しなのに……お互いの話になると90%で喧嘩になるのよね…)」

 

 困った子達だわ、とシャクヤクは頬に手を置いてそっとため息を吐いた。

 

 

「この子達。名を上げそうね」

 

 手にした手配書は合計8個。

 経歴、金額共にまだまだ(ひよっこ)だが今回麦わらの一味の登場と共に追加された物が何人かいた。まだ追加されるかもしれないが目立った人物はこのくらいだろう。

 

「待ってるわよ、リーちゃん」

 

 ──2年後再び

 ──兄と共に

 

 約束が果たされるのを。

 

 自分だって可愛がっているのだから。

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

 

 ──偉大なる航路(グランドライン) 魚人島──

 

「ジンベエ、随分気分が悪そうね…いえ。機嫌、と言うべきかしら」

「ハハハ…オトヒメ様には分かってしもうたですか」

 

 とある事件の報告で王宮に立ち寄った七武海海侠のジンベエは謁見の間にて国王と王妃の前で胡座をかいていた。きっとリィンが見たらいくら七武海と言えどもぶん殴るであろう。

 

「……。アーロンが東の海(イーストブルー)で暴れとったらしいんですわい」

「なんと…!」

 

 思わず沈痛な面持ちになるネプチューン王。だがそんな空気を払拭する様にジンベエは明るめの声で言葉を続けた。

 

「ですが安心してください!どうやらこの海賊の子達がアーロンの野望を潰してくれたようですから!」

「それは…ひとまず安心したんじゃもん」

 

 懐から手配書を取り出し近くの兵に渡すと彼を通してネプチューン王まで届けられた。

 

「ほぅ、麦わらのルフィ君とな」

「ええ。随分、恩が出来てしもうたと思いますわい」

 

 苦笑いをしながら、ジンベエは続ける。

 

「それに、二枚目の子にも」

 

 その言葉でネプチューン王は二枚目を目にした。するとニヤリと口角が上がる。

 

「(ジンベエから海軍を辞めたと聞いた時はどういう事かと思ったが……これは恐らくスパイ)」

 

 女狐が早々辞めるとも思え無い。そもそも魚人島を進んで保護している女狐が海軍を辞めた、等という連絡が魚人島に来ていない事が何よりの証拠。保護は未だに続いている。

 ならば答えは簡単に導き出された。

 

「複雑じゃもん………」

 

 遠い海で魚人の暴走を食い止めてくれた恩人と王妃を救ってくれた恩人。彼らのどちらか一方を応援する事が出来ない。

 

「まァ、魚人島の救世主が恩人の船に乗っているのね…!」

 

 オトヒメ王妃は嬉しそうに声を上げる。

 

 ネプチューン王は妻が喜ぶ度に余計複雑な心境に追い詰められた。

 

「……ふむぅ」

 

 実はネプチューン王は未だに彼女が女狐であると言う事を国の誰にも伝えていない。もちろん王妃にも。

 この反応からしてジンベエも知らないだろうと簡単に予想出来た。

 

「お父様?お母様?お客様ですか?──あ、ジンベエ親分様!」

 

 美しく育ったネプチューン王の娘、シラホシ姫がひょっこり顔を覗かせた。幼さが残る顔立ちでにこりと笑う姿は保護欲を駆られる。

 

「おおシラホシ姫様!お久しぶりですな」

「は、はい!お久しぶりですッ!」

 

 ペコッと頭を下げてオトヒメ王妃の傍に寄ると首を傾げた。

 

「それは海賊様の手配書ではございませんか?」

「でも私達の恩人よ…──それと貴女のお友達」

「…!リィン様!」

 

 顔が写って無いがこの場にいる兵を含め『リィン』という名の共通認識はただ1人。肩書きは違えどたった1人を指していた。

 

「お元気そうで何よりです…あれからまだ1度しか会えて無いのですから…」

「海賊の船に乗っているという事はいずれこちらに来る可能性があるわね、その時には胸を張って移住が決定したと言える様再び署名を集めなければ…!」

 

 何度対策をしても世界会議(レヴェリー)の前に()()の邪魔が入る。

 だがオトヒメ王妃は少し足りとも諦めて居なかった。むしろ希望すら湧いていたのだから。

 

「1度、救われた命ですもの……。粉骨砕身!皆さんの為に私は体を張ります!」

「……その心意気は誇らしく思いますがこの前罪を犯した者にビンタして腕を複雑骨折する様ではコチラとしては不安が拭えません母上」

 

 王子であり兵士の立場である子供達は苦笑いを浮かべた。

 

「まァ…申し訳ありませんわ私の可愛い息子達」

「母上〜!口先だけの謝罪は受け付けないラシド〜!」

「アッカマンボー!俺も同じ意見だぞー!」

「……と、言うわけです」

「あら」

 

 茶目っ気たっぷりにクスクスと笑う姿を見て、ジンベエもネプチューン王も生きていてくれて良かったと心から思った。

 

 

「(…麦わらの彼にも子供達の友人の彼女にも死んで欲しくないんじゃもん……)」

 

 2人が騙し合う関係ならば可能性が低いと思うが、心優しい王は願わずにはいられなかった。




赤髪のシャンクス痛恨のミス。鷹の目ミホークに女狐の正体をバラしてしまった!
千両道化のバギー1億2000万ベリーに大出世。
ネプチューン王は密かに胸を痛めます。雑魚が「兄ちゃん助けるぜへっへー、でもそこまで必要とは思わなかったぜへっへー」とか思ってると知らないのでどっちを応援すればいいのか多分ずっと悩む。
ちなみにその1で察せれると思いますがその2もあります。


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第91話 手配書 その2

 ──偉大なる航路(グランドライン)後半 ドレスローザ王宮──

 

 

 1人の大男が椅子に座り一つの記事を眺めていた。

 

「フフフ…ついに賞金首になったか」

 

 辞めた雑用が海賊になるとは随分面子の立たない。そしてそんな人物に初頭手配から2000万ベリーとは世界的に異例。

 ただ。例外中の例外もいる様でこの大男、七武海のドフラミンゴは生まれた環境が政府に伝えられていたせいか初頭手配は4000万からであった。

 

「だがまァ。一般的に見れば、な」

 

 ドンキホーテファミリー。

 彼らのトップのドンキホーテ・ドフラミンゴは手配されたリィンが海軍本部の大将女狐だと知る数少ない人物の1人だった。

 

 それを知っているか知っていないかでその額が多いのか少ないのか変わってくる。

 贔屓目で見ずとも少ないだろう。

 

「若様……」

「モネか、どうした」

「シーザーが、殺し屋を雇いたいって」

 

 〝また負けちゃったみたい〟と、クスクスと笑いながらモネと呼ばれた女が出てきた。どうやら海軍に追われる立場のシーザーは身の安全の為か良く殺し屋を雇う。

 

「好きにさせろ」

「えぇ、そうだと思ったわ」

「……?」

「あら、若様ったら自覚無いのかしら?」

 

 はたまた面白いのかクスクスと笑い出した姿を見てもドフラミンゴが怒ることは無かった。

 

「無ェな」

「フフフ…ッ」

 

 モネさらに笑うと新聞に目を移し口を開いた。

 

「その子、女狐ちゃん。彼女が関わると若様は他がどうでも良くなるのよ?」

「ヘェ、そりゃ面白い事を聞いた」

「信じてないみたいね」

「フフフッ…信じてるぜ?」

 

 ドフラミンゴはファミリーを大事に思う男。いずれ手に入れるとしても今は敵の彼女の正体をファミリーに伝えないわけが無かった。

 最高幹部と潜入中のヴェルゴ、別任務でシーザーという科学者に付いているモネには。ファミリー全体に伝えない辺りそれが嫌がる行為だと言う自覚はあるのだろう。

 

「(そういやシーザーとリィンは関わりを持っていたらしいな…今度聞いてみるか)」

 

「若様どうぞ」

「あァ」

 

 ドフラミンゴが1人思考にふけっているとモネは紅茶を注いだのか差し出した。

 ファミリーの1部はドフラミンゴが王位に付いた辺りから飲酒を減らしているのを疑問に思っていた。だがドフラミンゴを想ってか誰も口に出さなかったが。

 

 モネはそっと新聞を眺め呟いた。

 

「きっと、牙を向くわよ」

「いつもの事だ」

「敵になることも視野にいれてる、のね」

「勿論、未だに俺の手の中に入らねェんだからな…フッフッフッ…!面白ぇじゃねぇか!牙を向ければ、その牙折るだけの話!」

「怖いわね」

 

 懐からドフラミンゴはもう一つの手配書を取り出すとモネに命令を下す。

 

「ファミリーに伝えておけ『殺すな』と」

「…! 何故殺さないの?()()()()を」

「簡単な話だ。躾は必要だろ?」

 

 モネは()()の手配書を受け取ると納得したのか頭を下げた。

 

「了解、若様」

 

 オペオペの実の能力者が暴れだした、と伝える為に。

 殺さない方が利点はある。オペオペの実を欲するドフラミンゴとしては所在が明らかになっている方が良いのだ。

 殺せば実はどこかへ転じる。それは避けたいことだ。

 

「何、殺さなくても使える…記憶を消すことも洗脳する事も脅すことも…!フフフ…、悪魔の実を見つけることよりずっと楽で簡単な話じゃねェか」

 

 上機嫌に喉を鳴らし紅茶を手に取った。

 

「未だにハートの席を開けているのは本当に躾の為?──ジョーカー」

 

 ただそう言い残すとモネは後ろを向けて去っていった。

 

「フフフフ…察しのいい女は嫌いじゃねェぜ…」

 

 コクリと紅茶を喉に通すと口角を上げ、物陰に隠れている女の名を呼ぶ。

 

「ベビー」

「っ!」

「肩が見えてるぜ?」

 

 ビクリと揺らした肩を見るとしばらくしてひょこっとベビー5が顔を出した。

 

「ご、ごめんなさい若様ッ!」

「別に構わ無ェ…、気になってたんだろ?」

 

 そう言って新聞を見せるとベビー5は笑顔になり駆け寄る。友人が自分と同じく海賊になった事が余程嬉しいのだろう、元々コラソンの事もあり海軍自体嫌ってる節がある。そんな姿を微笑ましく見ながらドフラミンゴは彼女に任せている案件を聞いた。

 

「例の件どうなってる?」

「えっと…また増えたって」

「そうか」

 

 ドフラミンゴはモネの後釜を任せるつもりでベビー5に任せていた。麻薬取引の橋渡し役を。

 

「今度鰐の所に行く予定を勝手に入れた…、丁度いい、その国に下ろしてやる」

「本当?」

 

 ベビー5は嬉しそうに笑うと〝 そうだ…〟と言葉を続けた。

 

「あ。若様、私今度結婚するの。今度紹介するわね!」

 

──ガシャン…

 

 ベビー5はドフラミンゴの手からすり落ちた紅茶のカップに思わず驚き何故か動揺している彼へ目を向けた。

 

「べ、ベビー?どういう事だ?うん、ちょっと若様とお話しような?」

「わ、若様?どういう事も何も私を必要としてくれる殿方が見つかったから婚約を受けて…」

「…………ちょっと待ってろ」

「え?は、はい!」

 

 

 

 

 翌日、一つの町が滅ぼされたと聞いてセンゴクが胃を痛めた。

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

 ──偉大なる航路(グランドライン)前半 アラバスタ王国──

 

 

 クロコダイルは読み終わった新聞を投げ捨てて髪をかきあげた。

 

「チッ……」

 

 小さく、小さく舌打ちをすると荒々しく立ち上がる。

 

「ミス・オールサンデー…いるんだろう?」

「…えぇ、いるわ。ボス」

 

 コツコツとヒールを鳴らしながら出てきた女を一睨みすればクロコダイルは仕事を言い渡した。

 

「Mr.5ペアに王女暗殺の任務を入れておけ」

「あら、Mr.9達には今クジラ討伐の任務を任せてあるけれど…いいの?」

「構わねェ…俺の言うことが不服か?ニコ・ロビン」

 

 ニコ・ロビンと呼ばれた女はイラつくクロコダイルの目を見て首を振った。

 

「いいえ…」

 

 何をそんなに焦る必要があるのか、何にイラついているのか、例えコンビであったとしても聞いて機嫌を損ねるなら待っているのは死、のみ。

 7900万ベリーの賞金首である彼女も、無駄な行動はする事は無かった。それほどにまで七武海という存在は別格なのである。

 

「……一応、様子を見ても?」

「あァ?」

「任務を遂行出来るか、もし出来ないのなら私が代わりに始末する…。それを見てくる時間くらいはくれるかしら?」

「…………いいだろう」

「感謝するわ」

 

 何を企むんでいるのか、という視線が交差するがしばらく考えてクロコダイルは許可を出した。

 

「じゃあ、行ってくるわね」

「……計画まであと少しだ。しくじるなと釘を指しておけ───もう近々集める」

 

 BW(バロックワークス)。彼が数年前から作る秘密犯罪組織は今まで政府にバレないよう水面下で動いていたがもうフィナーレへと近付いていた。

 

「(リィンがここに入らなかった、か。国をひっくり返す準備などとうに出来ていたが……もう()()()()は無い)」

 

 かろうじて彼女と繋がりのある王女を生かしていたのも、もうおしまいだ。

 手に入らないなら大事な物も壊してしまえばいい。

 

 

 

 リィンが潜入として入ったと知らないクロコダイルはまるで絶望に叩き落とされた感覚に陥っていたのだ。

 

 

「(ずっと、ずっと、あいつは海賊になるなら俺か(ドフラミンゴ)の所だと──妥協しても七武海だとばかり思っていたが)」

 

 クロコダイルは椅子に触れると水分を吸収し、砂に変えた。

 

「(どこの馬とも知れねェ小僧に付くか……。よりによって、ルーキーに!)」

 

 乾きの真髄である能力はたちまち砂に変える。

 左手では不可能だが右手でも充分すぎる威力を発揮する。

 

「(覚えたぞ、麦わらのルフィ…!)」

 

 手配書の脳天気な笑みはクロコダイルにとって不愉快この上ないものだった。

 

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

「あァ…嫌な予感がする」

 

 そんな中リィンは荒れ狂う海を眺めながら遠い目をしていた。

 

「働けアホか」

「うるさきぞウソップさん…」

 

 軽口に軽口を返すがいつもの覇気が無い事に気付くとウソップは様子を伺った。

 

「どうかしたのか?」

 

 リィンが振り返りウソップの顔を見るとグッ、と喉を鳴らした。

 

「じ、実は……部屋に電伝虫を置きっぱなしにすておりますて」

「お、おう?」

 

「……鳴り止まぬです」

「はよ出てやれ」

 

 悔しそうに嘆くリィンを見てズバッとツッコミを入れた。

 出ないから鳴るんだろうが、と思いながら縄を引くとリィンは未だに目が虚ろ状態になっている。

 

「………?」

「鳴るした瞬間思わず条件反射で距離を取ったが悪しき行為でごぞりますたね…。仕舞うも不可能、私は日々あの方からの電伝虫は避けるていたと言うのに」

「あ、あの方?」

 

「……………ピンクのファッションセンス最悪な堕ちた神様ちなみに苦手な食べ物ぞバーベキューのキチガイストーカーです」

「誰だよ」

 

 口調が辛辣になるがリィンはそれを気にしないくらい落ち込んでいた。

 

「しばらくかけて来るなと言うしたのが悪しき判断ですたか…!?怖い、この上なき程に恐怖ぞ…!嫌ぞ、出たく無きですぞ…!!」

「もう面倒くさいから出てこいよ」

「…!? ウソップさんは私に死ねと!?」

「どうして電伝虫に出る事で死に至るんだよ!?」

「メンタル的な問題!」

「縁切れ!」

「それが不可能なストーカーゆえに困るてるんですよ!?」

 

 それなりに戦闘が出来る彼女が追われてる(?)という事は相手は強いという事か。

 彼女が昔海軍に居たという所から考えて海賊では無いだろうと勝手に推測する。

 

 こいつに一体何があったのか、と後日改めて聞く必要があるかもしれない。

 

「(あれ?でも海賊の父ちゃんとは知り合い…?)」

 

「あぁぁぁぁあ!!!本当に早く革命すてくれ無きかな!」

 

 頼むぅぅう!と叫ぶ少女の姿にそっと手を合わせたウソップ。

 

「生きろ」

 

 それだけしか言えなかった。

 

 

 

 

 

 ──数分後

 

 

 

 

 

「ど、どうだった?」

「『妹が婚約するって言う出すた場合どうすればいいか』と聞くされますた」

 

 思ったよりも普通の話題にウソップは混乱した。

 リィンの表情が死んだ目をしていたからだ。

 

「お前はどうやって答えたんだ?」

「面倒くさき故に『滅ぼせ』と」

「投げ捨てたな」

 

 流石に電伝虫の相手もそんな事は不可能だろうと思いウソップはそのまま船の操作に戻った。

 

 

 

 

 

 ──まさかその言葉を実行するとは誰も知らない。




上機嫌なドフラミンゴと不機嫌なクロコダイル。

ベビー5の婚約者が街ごと滅ぼされるのはこいつのせい


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第92話 とある鯨の船の上 その1

 ──偉大なる航路(グランドライン)後半 海上──

 

 

 

 クー、と飛ぶニュースクーを見て男は手を広げた。

 その行動を見てかニュースクーはそっと降り立つ。

 

「1部くれよい」

 

 男はクスリと笑みを零しながら新聞の金額に似合うベリーを胸元のボックスに入れてやったがニュースクーはさっさと受け取れと言うように低い声で一鳴きすると新聞を押し付けた。

 

「ハハ、随分荒い性格のニュースクーだ。白ひげの船と分かっての行動なら評価に値するよい」

 

 微笑みから苦笑いにかわり、男は新聞を受け取るとそのまま飛び立ったニュースクーをしばらく眺めた後新聞を広げた。

 

「ヘェ、随分色々動いてるねい…。ん?」

 

 2つ新しい手配書が挟まっているのを見て首を傾げる。

 〝 堕天使〟リィン?

 

 極秘情報なだけあって隊長又は副隊長辺りしか知らないがリィンという名の少女は大将である。

 流石にこの手配書のリィンは自分達の知るリィンでは無いだろうと思ったが男は不安に思い電伝虫をかけることにした。

 

 

 

 ──ぷるぷる…ガチャ

 

『何事!?誰!?こちらただ今海のレストラン探し中ぞ!?』

「う、え?マルコだよい」

『ひぎゃあ!?マルコさん!?』

『……おー…れだ?…かえり』

『はいただいま!少し黙るしてて!頼むです!──それでご要件は』

「あー…忙しい所に悪かったよい。手配書って」

『あー!あー!私ですぅ!二つ名は嫌い故に言うなですー!』

「………忙しい所悪かったよい」

 

 二回言ってしまったが電伝虫の声に混じって聞こえた誰かが騒ぐ音と何か指示を出してる声が聞こえてしまった。

 

「………マジか」

 

 マルコ、苦労性の長男は何が何だか分からなくなりそっと額に手を置いた。

 

「エース…お前の妹大変な事になってるよい」

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

 

「あ、リーとルフィ」

 

 マルコが見せに行けばリィンの兄であるエースは飯を食べながら見知った様子で名を口に出した。

 

「何だ、この船長知ってるのかよい」

「知ってるも何も弟だからな」

 

 急いで飯をかき込みながら受け答えする姿にマルコはため息をついた。

 

「マジか…………」

「オヤジに報告してくれば?」

「俺が行く!」

 

 二度目となる言葉を呟いているマルコにサッチが提案したがエースが手を上げ立候補した。

 シスコンは健在の様だと何故かホッとする。

 

「ルフィ可愛いなぁ〜!リィンも顔見えねェの残念だけど元気そうだなぁ〜……あー…俺の弟妹ホンット可愛い」

 

「(あ、これダメだ)」

 

 シスコンもブラコンも重度過ぎる反応にサッチもマルコも思わず目を閉じた。

 

「ここでは末っ子でも向こうでは長男なんだから不思議だよい…。これで兄ちゃん出来るのか」

「それは確かに不思議だな」

 

「よし、オヤジの所行ってくる!」

 

 

 

 

 その後ある事件が起こるまでエースの自慢は止まらなかった。

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

 

「敵船だ!」

 

 誰かのそんな声で各々自分のしている事を中断した。武器の手入れも料理の仕込みも書類作成も喧騒も自慢も。

 

「マルコ!今回はどこだ!?」

「4番隊と10番隊!行ってこいよい!」

 

 総指揮官としてマルコが空から指示を出すと隊長サッチ率いる4番隊と隊長クリエル率いる10番隊が意気込む。

 選ばれなかった船員は不服そうにしながらもヤジを飛ばした。

 

「おら負けてこい!」

「物騒だなちくしょう!」

「サッチー!やられてこーい!」

「お前ら俺にだけ強く当たりすぎじゃねぇか!?」

 

 もちろん本気では無いがいつものやり取り。そもそも四皇の乗る船に喧嘩を売ろうなどという馬鹿は見かけないので鬱憤は溜まる、らしい。

 襲ってくる船が居ないということは略奪としての収入源が減るという事。白ひげ本人の意向により一般人からの略奪を良しとしない為収入は限られていた。

 

「思う存分ふんだくってこい」

 

 マルコは親友サッチに向けて頼んだぞ、と言葉を伝えた。

 

「分かってるっての」

 

 収入が無くて1番困るのはこの大きな海賊の大きな胃袋を持つ男達の胃袋を満足させる料理人、つまり4番隊だ。食糧不足で四皇が倒れたのであれば情けない事この上ないだろう。

 傘下から定期的に略奪の1部を譲渡して貰ってはいるが宴好きな海賊の前ではあった方がずっといい。

 

「4番隊!出るぞ!」

「10番隊も俺に続け!」

 

 意気揚々と出撃する2つの隊を見ながらマルコはどうか今日も無事で居てくれと願うばかりだ。

 

『隊長が揃うして無き』

『……隊長が?』

『2人…存在が皆無ぞ』

 

『2番隊のルーリエさんと4番隊のサッチさん』

 

 エースが処刑(ころ)され白ひげ(オヤジ)が死ぬという悪夢。いや、予知夢かもしれないと常々思っているが。

 マルコは語られた内容を少しも忘れていなかった。

 

 疑問点はいくつかある。

 

 何故2番隊隊長(元々ルーリエ)と4番隊隊長(サッチ)が戦場に居なかったのか。その戦争にある欠員はまさかとは思うが死んだのではないか(ルーリエは実際死んでしまった)

 

 その流れでいくとどうしてもサッチが死んでしまうという未来を想像してしまうのだ。

 

 

 サッチは強い。それは古参以外の人も勿論知っていた。

 料理人だがそれ以前に海賊船に乗る隊長なのだ、そう簡単に死んでしまう筈が無いが。

 

「(念には念を…、か)」

 

 あれからマルコは白ひげ(オヤジ)が死ぬ原因の一つらしい黒ひげという人物を探していた。他の海賊、傘下──そして身内も。ヤミヤミの実の能力者は未だに見ないがずっと警戒していた。

 誰かに伝えて情報が漏れるリスクを避けたかったので1人でずっと。

 

 

 戦争の時期はエースが捕まる時期、といっても具体的な時期は分からない。

 強いて言うならエースを取り返す…海賊側に砂人間であるサー・クロコダイルと海峡のジンベエが居たという事か。

 

「(とは言ってもジンベエはウチのところの傘下ではあるし…もしかしたらエースが捕まった事で処刑に反対して味方に付いた、とも考えられるか)」

 

 クロコダイルの事は怨みがある筈なのに味方に付くはずも無い。とりあえず考えない事にして。

 

「(問題は………ルフィ(エースの弟)ってのが海に出てる、ことか)」

 

 ゾクッと嫌な気持ちになる。

 

 ただの夢にしておくにはどうしても一致点が多すぎた。

 

「(それにオーズもスクアードもリィンは知るはずの無い傘下)」

 

 何故スクアードが白ひげを刺す事になったのか、理由は何故か彼女は教えてくれなかったが赤犬の策略とは教えてくれた。

 

 グルグルと思考の渦にハマる。

 生来の性格もあってかマルコという男は考えを止めることは無かった。

 

「本当に…なんで……」

「あァ。本当になんでさっきっから呼びかけてるのに気付かないかなマルコってパイナップルは」

 

「ん?」

 

 マルコは思考を止めて顔を上げると目の前には先程まで考えていたサッチの顔があった。

 

「何してるんだよい?敵船は?」

「もう終わったつーの」

 

 そんなに時間が経ってしまっていたのか、と反省しながらマルコは立ち上がり指示を飛ばした。

 

「そう言えば悪魔の実が手に入ったんだよ」

 

 ピクリ、と何人かが反応する。

 

「何の実だ?」

「分からん。一応調べておくが……食べるかどうかはな〜」

 

 懐から取り出したのは間違いなく悪魔の実。するとエースがすっ飛んでやって来た。

 

「サッチ!それ、本当に悪魔の実か!?」

「エース…お前毎回悪魔の実に過剰反応するよな…。大丈夫だって、食わない限り体は爆発しないって」

「俺はそういう心配をしてるわけじゃねーって!」

 

 巷では悪魔の実の能力者が近づくと実から悪魔が飛び出して体の中の悪魔と喧嘩をし始め体が吹き飛ぶとか噂されている。

 エースも流石にそこまで馬鹿では無いのだろう。否定をした。

 

「でも本当に毎回どうして過剰反応するんだよい?」

「だ、だってリーのお袋が…」

 

 ブツブツと呟きながら言い訳をする。

 

 エースは守っているのだ。予知と情報を得意とするリィンの母親の伝言『ティーチに注意しろ、特に悪魔の実が奴の身近に現れた時に』を。

 

「どうにも、嫌な予感がするよい…。何の悪魔の実か判明したらとりあえず俺に教えてくれるか?」

「おう、分かった!んじゃちょっと飯作ってくるな」

「楽しみにしてるよーい」

 

 去っていく背を見送るとマルコは隣にいるエースに声をかけた。

 

「毎回毎回、ティーチを見てたら誰だって何かあるんじゃ無いかって思うけどねい」

「…ッ!」

 

 息を呑む音が聞こえてマルコは顔をしかめる。

 

「お前一体何が……」

「マルコは、俺を信じねぇよ。俺の方が新参者なんだから」

「お、おいエース!?」

 

 エースが何を抱えているのか知らないがマルコはいつのも仔犬のような様子とは違う末っ子に不安感を覚えた。

 またエースも、いつもと違うティーチのギラギラとした様子に警戒心を強めた。

 

 

 

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

「ふぅーん…」

 

 サッチは夜中、厨房で手に入れた悪魔の実が何なのか調べていた。

 

「ヤミヤミの実、か」

 

 中身はよく分かって無い様だがとりあえず判明した。マルコに伝えに行こうとした時、厨房の入口に1人の男が立っている事に気付いた。

 

「ん?どうしたよ、()()()()

「ゼハハハ…何、大した用は無いさ」

 

 笑いながらいつもの様子で近づく彼に良くも悪くも警戒心の欠片も無く屈託の無い笑みをサッチは浮かべた。

 

「なんだ〜?相談か〜?」

「そんな所だ…単刀直入に言わせてもらうが」

 

 ティーチは葛藤する様に数秒時間を開けた後、言葉を続けた。

 

「悪魔の実を譲ってくれ無ェか?」

 

 サッチは訝しげに表情を歪ませた。

 

「悪魔の実を?」

「分かっちゃいるさ、それの所有権はサッチ隊長にある事くらい…でも譲って欲しいんだ」

「……そこまで言われると譲りたくもなるが…断らせてくれ」

 

 ティーチは返事を聞くとあからさまに鎮痛な面持ちに変わった。仕方ない、と諦めた様に。

 その様子を優しいサッチは見ていられず背を向けた。

 

「悪ぃ、な。悪魔の実も売れば1億はくだらない…」

 

 サッチは理由を話す。

 

 ティーチから背を向けた《ティーチがナイフを持っているのに気付かない》まま。

 

「残念だ、サッチ隊長………!」

「ん、悪かっ……ッ!ティー…!」

 

 ティーチがナイフを振り上げ心臓を狙ったその時、サッチは振り返った。

 防ぐには時間が足りない、動揺して武装色も使えない。

 

 見えたのは狂気に歪むティーチの表情だけ。

 

 

 ──仕方ない、殺して奪うしか無い。

 

 

 

 

 

 

 

「───サッチッ…!」

 

 ゴオオッ!と炎の熱と末っ子の叫び声を聞いた。

 

「ク、グアッ!」

 

 ティーチのナイフを持っていた片腕からジュッ…っと音を鳴らし肉の焼け焦げた臭いがした。

 

「エー…、ス」

「…!サッチ、手!」

 

 エースがティーチを押し退けサッチの様子を見ると彼の右手から止まることなく血が流れている。

 エースは慌てて服を破り腕を圧迫させ止血するとティーチを睨みつけた。

 

「ティーチ…!お前何したか分かってるのか!?」

「ゼハハハ…………。エース隊長、何故俺が悪魔の実を狙ってると分かった?何故だ?()()()()以外には言ったこと無い…」

 

 俺の仲間。それは白ひげ海賊団では無い事はサッチもエースもすぐに察せられ、まだ呆然としているサッチを背にかばいエースは睨みつける。

 

「なのに何故だ!この船に入った時から悪魔の実が現れる度!いつも!いつもいつもいつも!最初は物珍しさからかと思ったが必ず俺の行動を監視する!」

 

 なぜだ!と叫び続けるティーチにエースは答えた。

 

 

「俺が知るか!」

 

 

 叫んでいたティーチもこの答えには思わず目を丸くする。

 聞いたのに知らないの答えられればどうしょうもない。

 

「俺だってどうして俺に言われたのか分かんねぇから困ってんだろ!?」

「エース、多分怒るとこそこじゃ無い」

 

 思わずといった様子でサッチがツッコミを入れるとエースに睨まれた。

 やだ、ウチの末っ子怒ると怖い。

 

「とにかくなァ!お前は仲間殺しをしようとしたんだぞ!?分かってんのか!」

 

 エースの言葉にサッチは思わず震える。ティーチは更に笑みを深めた。

 

「それがどうした」

「……、お前、ふざけてるのか…!?」

 

 ビリビリと震える空気に気付く。

 

「覇王色…!まさか持っていたとは!」

「持っていたら悪いか…、昔っから使えてた」

「(あ、なんかシリアスに戻った。良かった良かった)」

 

 未だ夢心地なサッチは的外れな事を考えながら行方を見守っていた。

 

「何事だよい!今の覇王しょ…く………──説明しろ、ティーチ。これはどういう事だ」

「……分が悪いな、マルコ隊長までお越しとは。ここは引かせてもらおう………悪魔の実も手に入った事だし」

 

「ッ、いつの間に!」

「多分止血してる時かな」

 

 覇王色の気配を感じ、見聞色を使い飛び込んで来たマルコは状況に目を疑うとティーチは去ろうとした。

 

「待てティーチ!」

「ゼハハハ…ここで隊長の1人くらい殺れてたら良かったがな」

 

 懐から一つの玉を取り出すとソレは明るく光り、3人の目を潰した。閃光玉だ。

 

「ティーチ…ッ!」

 

 エースは悔しそうに名前を呟きながら緊張が解かれたのか気を失った。



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第93話 とある鯨の船の上 その2

 医務室では頭を下げるエースの姿があった。

 

 部屋には隊長クラスがほぼ全員揃っている。そして己が病の身ながらも息子を心配してやって来た白ひげも。

 

「悪かったサッチ!」

「だから、謝んなってエース…。お前に責任は無いだろ」

 

 ベットの上で笑いながらエースを和ませようとするも血を流しすぎた故かサッチの顔は青白く、怪我も痛むのか時々表情を歪めるので周囲は余計過保護になるばかりだ。

 

「エースがティーチの腕を攻撃しなかったらあいつの右手は確実に俺の心臓を貫いてた…ホントにありがとな」

 

 泣きそうなエースを左手で撫でるとエースは更に落ち込んだ。

 これはダメだと苦笑いしながらサッチは白ひげに目を向けた。

 

「オヤジ、エースに責任は無ェ」

「グララララ…ンなことは分かってるさ。よく助けたな、エース」

「………悪ぃ」

 

 今は下手な慰めをしない方がいいだろう。そう察したのか未だに状況が上手く掴めて無いハルタが疑問を口にした。

 

「えーっと?つまりティーチはサッチを殺そうとしちゃったって事?」

「んー、正確に言うと悪魔の実を奪おうとしたって所だな〜…。アイツ、最初は交渉してきたんだ。だから最終手段だったんだろうよ」

 

 サッチの変わらない優しさに隊長達は苦笑いしながらも続きを話し始める。

 

「隙を突かれて奪われちまった。そんなに欲しかったのかな〜…今まで悪魔の実に興味持たなかったのによ」

「そこは分からないけどな」

 

 サッチは考えながら悪魔の実の名前を口に出す。

 

「──()()()()()()ってそんなにレアなのかね」

「「…ッ!」」

 

 その言葉にいち早く反応したのはマルコ、そして白ひげだ。

 思わずマルコは顔を青くする。

 

「あ、アレがヤミヤミの実!?ッくそ…!気付かなかったなんて、不甲斐ないよい…!」

「待てマルコ……仕方ねェんだ。一旦落ち着け」

「えーっと、オヤジにマルコ。一体どうしたんだ?」

 

 もっともな疑問をサッチが口にするとマルコは少し考えながら口を開いた。

 

「……リィンが前に来た時予知夢を見たって教えてくれたんだよい」

 

 予知夢?

 その言葉に反応したのはエースが1番だった。

 

「予知?それって戦神みてーなの、かな?」

 

「おいおいエース…お前どうしてその事知ってんだ」

「へ?……シャンクスに聞いて、よ。実際俺にも予知されたし…」

「「「は?」」」

 

 状況がゴタゴタになってる気がするのは気の所為じゃないだろう。

 

「お、俺。ずーっと昔…10歳になる前くらいだったかな。そん時にシャンクスに会ってよ」

「お前の出身東の海(イーストブルー)だったか、それならまァ納得か」

 

 シャンクス自身は違うが東はロジャー達の出身地。シャンクスがわざわざ寄りたまたま会うのも頷ける。

 

「そんで伝言頼まれたんだ『悪魔の実が来た時ティーチに気ィつけろ』って戦神に」

「ハ、ハハ、流石戦神。まさかティーチが乗ってるウチの船に入るって分かってたみてーな言い方だよい」

「それは俺もびっくりした」

 

 過去を思い返しているのかうんうんと頷くエース。

 

「そもそもシャンクスってたまたま俺の所に寄っただけで会うとも思ってなかったらしくてよ〜」

「そこまで予知済みか」

「森に来た時びっくりしたんだ、リー肩に乗せてるから人攫いだとばかり…」

「四皇を人攫い扱いか、ある意味すごいな」

「そん時は四皇じゃ無かったって…。で、最初伝言って言われて親父関連でやって来たとばかり思ってたから警戒してたけどな」

 

 そこまで話してイゾウが疑問の声を上げた。

 

「お前の親父って?」

「あー……あぁ……あ〜〜〜…はァ」

「それなりに警戒してたんだろ?それに森の中って事は隔離されて生活してた。お前がその親父って言うのに何かしら怨みがあるのは知ってるけど……」

 

 きっとイゾウが言う怨みはエースがこの船に来たばかりの事だろう。オヤジオヤジと慕われる白ひげに何度も奇襲をかけ殺そうとしたのは今となってはいい思い出だ。

 

「………ロジャーだよ」

「は?」

「海賊王! ッ、だから嫌なんだ!」

 

 リィンと再会して手紙を受け取り心持ちに余裕が出来たのだろう。エースは渋々と爆弾を落としていった。

 思わぬ暴露に一部を除き鳩が豆鉄砲食らった様な顔になる。

 

「グララララ、俺ァ知ってたぞ」

「「「「「いやいやいやいや!」」」」」

 

 ほぼ全員が首を振った。

 

「お前なんつータイミングでカミングアウトしてくれてんだよ!」

「は!?あのロジャーの!?嘘だろ!?」

「母親似で良かったな」

「多分イゾウの発言が1番酷い」

 

「まァそんなのどうでもいいだろ」

「「「「「適当に済ますな!」」」」」

 

 エースはあまりの狼狽えっぷりにため息を吐いて軌道修正を図った。

 

「つまりだな!リーのお袋が予知使えるならリーも遺伝として使えんじゃねーのかって事だよ!」

「なるほどねい親子の遺伝なら1番可能性が…───は?親子?」

「おう!……ってアレ?これ言ってなかったか?」

 

 

「「「「「まてまてまてまて!」」」」」

 

 すると古参連中は全員口を揃えストップを掛けた。

 

「つーとあれか!?お嬢はカナエの子だから…父親はまさか冥王か!?」

「冥王?……冥王って聞いたことが……。ッ、副船長!?な、親父の副船長!?どうしてだ!?」

「どうしてもこうしてもあるか!お前ら兄妹血は繋がってないと思ってたけどなんだその両親の異常さ!」

「その上剣帝が指南してたんだろい?」

 

「うっっわ……俺よく考えたらスゲェ」

「「「「「スゲェで済ますな!」」」」」

 

 軌道修正も働かず当初の質疑と全くかけ離れた所に収まっているが全員それどころじゃないのだろう。白ひげでさえも驚いた顔をしてるのだから。

 

「なるほど、顔付きと好みは母親に似ちゃいるが髪と性格は父親譲りってわけか」

「うわっ、質悪ぃ」

 

 白ひげの冷静な判断にサッチが思わず言葉をこぼした。それほど最悪なコンビだったのだ。…まァ主に恐れられているのは父親である冥王の方だが。

 

「俺はちょっとリーとお揃いみたいでワクワクしてきた。広げてぇ」

「頼むから広げるなよい」

 

 ソワソワとしてきたエースの肩をガシッと掴み過去何度か被害にあってきたマルコは必死に止める。

 

「グララララ…!最高だな」

 

 家族を想う白ひげとしては面白い事この上なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──て訳で。つまり、その予知でエースは動き。俺は予知夢で警戒してた。んで、予知夢ではヤミヤミの実の能力者が黒ひげと名乗ってオヤジを殺した。って事だよい」

 

 なんだかんだと一悶着あったが予知夢の大方の流れを聞いて室内は静かになった。

 

 ここには白ひげloveなファザコンしか居ないのだ、当然こうなるだろうとマルコは分かっていた。

 

「お嬢の事疑いたくねェけど」

「まるで裏付ける様な事実があるんだよい」

「『もし俺が死んでたら』欠員だったろうな、4番隊は」

 

 隊長と名の付く者。彼らは決して頭が悪いわけでは無い。

 

「「「「は〜〜〜…」」」」

 

 何人か同時にため息を吐く。気持ちを落ち着かせる様に。混乱を治める様に。

 

「今日は解散だよい、それぞれ隊員には広めない様に注意しといてくれ」

「ティーチの裏切りは?」

「……言った方がいい。むしろ広めろ」

 

 サッチがマルコの代わりに伝えた。

 

「俺の恥を云々ーってマルコは思ってるんだと思うけどな、流石に予知夢であろうとオヤジが危険に晒される可能性は1個でも潰しておきたいんだ」

 

 その言葉に全員が頷く。

 白ひげは微笑ましく見守るが誰も気付かないくらい殺気に溢れていた。

 

「………それじゃあ俺は寝る。ほら、さっさと出てった出てった」

 

 サッチはそう急かし徐々にいなくなる家族の背をじっと見つめていた。

 未だ感覚が取り戻せない右手に歯痒さを感じながら。

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 マルコは月が照らす中体の一部を不死鳥に変え思考にふけっていた。

 

「(気付く要素はいくらでもあった筈だ………)」

 

 いくらでもヒントはあった。

 

 もしかしたらサッチは殺され、ティーチは無傷で逃げ出していたのかもしれないと考えると思わずゾッとする。

 

「ティーチ…一体何を企んでるんだよい…」

 

 しかしどうしても夢での不安が確定する。他の隊長には説明が難しいのもあり細かい所を喋ってない。

 欠員の2番隊と4番隊を考えればどうしても今のエースとサッチを表している様な気がしてならないのだ。

 

 決められた指針にそってゆっくり目的地に近付く様に。

 

 

 もしもエースが捕まれば2番隊に

 サッチが復帰出来なければ4番隊。

 

 欠員が出るのは必然。ただこの船にいる限り捕まる事はほぼ皆無。

 少しの安心と先の分からぬ不安感がせめぎあってる。

 

 仲間殺しは御法度。

 たったそれだけのルールを破り実を手に入れたティーチの目的がなんなのか。

 恐らく夢でグラグラの実が奪われるのも計画の1部なのではないか。

 

 

「はぁー…」

 

 考えても拉致のあかない案件だが心配症の長男はただひたすら考えていた。

 

 

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

 

 翌日、日が昇ってからの出来事だ。

 まだ少し肌寒く感じる空気にマルコは息を吐いて4番隊の代理も含め今日の仕事に取り組もうと思ったその時だ。2番隊の隊員──確か元々スペード海賊団──が部屋に飛び込んで来たのは。

 

「マッ、マルコ、た、いちょ…!」

 

 ゼェゼェと息を切らしながら話す隊員に訝しげに眉をひそめる。何があったのかは一目瞭然。

 

「助け、ッて下さい!とめ、て…」

「落ち着けよい…何があった」

 

「───エース隊長が…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なにしてるんだよい」

 

 不機嫌な表情のマルコは小型船『ストライカー』に荷物を乗せるエースを見た。

 ストライカーとは元々スペード海賊団の副船長だったデュースが悪魔の実を食べたエースとたまたま出会い無人島から脱出する為に作られた命の恩人……恩物の様な物だ。今となればその操作は手足を動かすような物だろう。

 

「ケリを付けに行く」

「……なんで」

 

「俺は他の奴らと違って()()()()んだ!それなのに止められなかった!」

 

 癇癪を起こす様に叫ぶエースにマルコはポツっと呟く。

 

「…まだ気にしてたのかよい」

 

 どうやらその言葉はエースにも聞こえていた様でムッとする。

 マルコは心のどこかでこんな仕草が子供だと言われる原因になるんだな、と考えている自分が居ることにほとほと呆れていたが。

 

「お前の責任じゃないって皆言ってるだろうよ」

 

 それなら俺も知っていたも同然だ。と心で叫びながら。

 

 今度は諭すように。

 周りの船員は心配そうに見てはいるがマルコに任せるのが得策だと理解してるのだろう、誰も口を挟まなかった。

 

「俺は予知でずっと知って、警戒して、ティーチがいる2番隊の隊長だ。皆がどう言おうが責任あると思ってるし」

 

 なにより…、とエースは言葉を紡ぐ。

 

「家族傷付けられて黙ってられねェ」

 

 

 

 『お前らなんで()()()の事〝オヤジ〟って呼んでんだ……?』

 『……。あの人が──……〝息子〟と呼んでくれるからだ』

 『家族なのか…?』

 『あァ…。大切な家族だよい』

 

 

「だから行くって…?俺がそれを許すと思ってる訳ねェだろい」

 

 

 『なんで親父が嫌いなんだよい』

 『………。ろくな思い出が無ェ』

 『ヘェ』

 『あいつがいるせいで俺は怨みを買う。いや、居ないから俺に怨みが出てくるんだ』

 『……』

 『〝鬼の子〟だとか〝生まれちゃいけねぇ〟とか、直接()にじゃ無いが散々言われてきた』

 

 

「許されなくてもいい、俺はティーチから逃げる気は無い!」

 

 

 『父親?マルコにだけ教えるけど海賊王なんだよ、ハハッ、笑っちまうだろ?』

 

 

 

「(あの海賊王と、そっくりだ)」

 

 『愛する者』を守る為なら絶対に逃げない所はそっくりだった。

 

「「……」」

 

 マルコはエースと睨み合う。

 

「はー…わかった」

 

 そっくりなら、ここで折れないのは知っている。それに家族思いの長男(マルコ)末っ子(エース)の性格を知らないわけが無かった。

 

「…!」

「マルコ隊長!?」

 

 船員の焦った声が聞こえた。

 

「(エースの中ではティーチも充分家族なんだねい)」

 

 マルコは〝ただし〟と言葉を続ける。

 

「俺も連れてけよい」

 

 

 その言葉には険しい顔をしていたエースも驚いた顔になった。

 

 白ひげ海賊団の青い炎とオレンジの炎。長男と末っ子。

 なんとも歪なコンビが結成された。




「まァついでにリーに会えればなーと」
「お前それが絶対理由の大部分占めてるだろうよい」

そんな感じの会話が航海中に繰り広げられるであろう。


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番外編10〜嘘つきは誰だゲーム〜

円卓を囲み席順としてはクザン→くま→クロコダイル→ジンベエ→ドフラミンゴ→ミホーク→リィン
この順番は名前順名だけであって特に意味は無い。

予想を立てたセリフもその人物の次(つまり左隣の人)から始まる。


 その日、聖地と呼ばれるマリージョアに異様な雰囲気に包まれた会議室が一つあった。

 

 

 

 

「第1回!嘘つきは誰だゲーム!〜ドキッ♡七武海だらけの貶め合い〜を開催する!」

 

 バサァァッ、とピンクの毛のコートを広げて高笑いする〝天夜叉〟ドンキホーテ・ドフラミンゴ。

 

「どれ…勝たせてもらおうかの」

 

 やる気を出して腕を組む〝海峡〟ジンベエ。

 

「クハハ…策略もクソもねェ。タダの見極め合いだがなかなか面白い」

 

 経験者であるのか上機嫌に葉巻を咥える〝砂人間〟サー・クロコダイル。

 

「暇つぶしに寄ってみれば良くそんな遊戯が思いつくもんだな」

 

 何故か自信満々の〝鷹の目〟ジュラキュール・ミホーク。

 

「それなりに興味深い…」

 

 聖書の様な本をパタンと閉じて足を組み直す〝暴君〟バーソロミュー・くま。

 

「はー…逃げたき」

 

 悔しそうにほかのメンツを睨みつける〝お茶くみ雑用〟リィン。

 

「……────なんで俺が巻き込まれた」

 

 すぅ…っと目を細めて仁王立ちするのは〝巻き込まれた(此度の生け贄となった)可哀想な海兵〟スモーカー。

 

「案外ゲームマスターも楽しいかもよ〜?スモーカー君頑張れー」

 

 アイマスクを上げ〝海軍大将青雉〟クザンはだるそうに応援をした。

 

 

 

 

「おっっっかしいだろこの面子!俺を巻き込むな!」

 

 

 

 

 会議終わりのただの暇つぶしである。

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 GM(ゲームマスター)…スモーカー

 参加者…クザン くま クロコダイル ジンベエ ドフラミンゴ ミホーク リィン

 

「ルールは至ってシンプル。手札は4枚」

 

 ドフラミンゴが配られたトランプを誰にも見られぬよう隠し持ちルールを把握しているクロコダイル以外に説明していく。

 

「黒のカードは真実を、赤のカードは虚偽を何かしら語るんだ」

「虚実だな」

 

 不服ながらもルールを理解しようとしているスモーカーにニヤリと笑ってドフラミンゴは説明を続けた。

 

「一つ、虚実を語れば捨てれるカードはそのカードと手持ちのカードをもう一つ。(真実)を捨てるか()を捨てるかは自分次第だ」

 

 なるほど、とスモーカーは納得する。捨てるカードを考えれば(真実)を捨てればいくらでも語れるし()を付くことも出来る。だが、その分嘘の確率が高くなる(=負ける可能性が)が。

 

「俺達はカードを捨てる(道連れ)と呼んでるがな」

「ハッ、それで続きはどうなんだ」

「少しは待てが出来ねェか白猟…──続きとしてはだな。その言葉を周り全員が見分けるんだ。信じる(ビリーブ)or疑う(ダウト)

 

 よく見ればスモーカーの口角は上がっている。何となくだが面白いと思ったのだろうと友人であるリィンやクザンは推測した。

 

GM(ゲームマスター)は提示されたカードをひっくり返し(真実)(虚偽)か告げる」

「考えたよね〜、真っ赤な嘘ってわけか」

 

 クザンが横やりを入れる。

 上機嫌なドフラミンゴは気にしてはいないし海軍側でこの様な遊びに参加する人間など少ない。──己の弱点を晒す場に。

 

 七武海もそこを考慮してか口の軽い人間や利用する人間は敢えて使わない。

 

「間違えりゃ手持ちは増えるが正解した奴は手持ちのカードが1枚減る。運と観察眼が良けりゃ自分が何も語らずに終われるって事だ」

 

 一旦説明を区切って周囲を確認するとリィンが手を上げた。

 

「なんだァ?」

「あの…例えば語るして判定(ジャッジ)と異なる回答が当たれば語り手に何かのぺなるてーは存在するです?」

「ん〜?」

 

 自分が語り手としての場合を考えたのだろう。例えば(虚偽)を語り信じる(ビリーブ)or疑う(ダウト)疑う(ダウト)と言われた場合。

 

「当てられた人数分手札が増える」

「なるほど。どれだけ嘘のような真実を言うし、どれだけ事実のような嘘を付くが可能かが命運を分けるですね」

 

「でもさぁ〜、それって枚数凄い増えない〜?」

 

 今度はクザンが。

 

「フッフッフ…、当てれば減るだけの話…。まァ確かに()()()()だと増えていくなァ」

「カチーン…随分自信があるじゃないのよ……。最高戦力の能力甘く見てんじゃないの?」

「まさかまさか…!」

 

「(やめろぉおおお!最高戦力じゃなくて青雉オンリーにしてくれ!私まで巻き込むな!)」

 

 クザンとドフラミンゴからチラリと視線を向けられたリィンが焦ってるとも思わずに2人は続ける。

 

「ならこうしようじゃねェか。ババ抜きと同じで数字が被れば捨てる(廃棄)という事にしようか」

「テメェら海賊には向いてるルールじゃないの」

「他は追随説明しようか。さぁスモーカー君頼むぜ?クハハ…ッ!」

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

 

 

【語り手:クザン】

 

「はい、じゃあこのカードね」

 

 クザンはスモーカーにカードを伏せて渡す。スモーカーは表情に出るとマズイので中は見ずに受け取った。

 

「この前の話なんだけど…放浪中に寄った島で」

「あ?」

 

 ブワッと怒りがクザンの右隣から発せられた。逃亡兵捕獲係のリィンさんだ。

 

「………おい、とりあえず抑えろ」

 

 リィンの正面に座っているクロコダイルが言うと渋々抑えたが。

 

「…。ま、まァそこで誘った女の子が残念な事にイゾウ君でさ、ちょっと殺されかけた」

 

 イゾウと言えば白ひげ海賊団の隊長。それが事実だとすればよく生きてたものだと舌をまく。

 

「どちらにする」

 

 スモーカーの言葉にクザンの左席から順番に答えられた。

 

疑う(ダウト)にしよう。そちらの方が的を得ている」

「クハハ…あんな奴をナンパとは…。俺は信じる(ビリーブ)だ」

「儂は疑う(ダウト)。多少の願望も混じっておるがな」

「テメェは白ひげの所贔屓だからな…フフフ…俺ァ信じる(ビリーブ)にするぜェ?」

「ふむ、あの器用な奴か。……疑う(ダウト)だ」

「(()? まァイゾウさんは和服美人だからナンパするのも頷ける)…信じる(ビリーブ)

 

「「「「「判定(ジャッジ)は」」」」」

 

 ほぼ全員がスモーカーに視線を向けるとスモーカーは提示されていたカードを見た。そして嫌な顔をする。

 

「─……(真実)

 

信じる(ビリーブ)の手札は減り疑う(ダウト)が増える。フフフ…幸先いいじゃねぇか」

 

 

 

【手札 】

 クザン:4→5

 くま:4→5

 クロコダイル:4→3

 ジンベエ:4→5

 ドフラミンゴ:4→3

 ミホーク:4→5

 リィン:4→3

 

 

「なるほど、大体分かってきた」

 

 

 

 

 

 

【語り手:くま】

 

「……俺の懸賞金は元々2億9600万ベリーだった」

 

「(え、覚えてねぇ)…疑う(ダウト)

「(覚えておらんな)ダ、疑う(ダウト)

「(七武海の懸賞金なんて覚えてるか)疑う(ダウト)

信じる(ビリーブ)

疑う(ダウト)!(…だと信じてる!ンな高く無いはず!)」

「え、どうだったかなー…とりあえず信じる(ビリーブ)で」

 

 虚偽を見極める事を忘れているのか、それともくまの表情が分かりずらい故か記憶と願望を頼りに答えた。

 

判定(ジャッジ)は!?」

 

 リィンが慌てた声でスモーカーに伝えればスモーカーは置かれたカードを手にする。

 

「ンなの見なくても分かるだろ、(事実)だ」

 

「そん…な…ッ!」

 

 肩を落としたリィンを隣に左隣に座るミホークがポンポンと撫でる。

 

「語りのカードと1枚カードを捨てる(道連れ)で5から3に。だが2人的を射て居たから2枚増える。ふむ結局変わらずか…」

 

 

【手札】

 クザン:5 →4

 くま:5

 クロコダイル:3→4

 ジンベエ:5→6→4

 ドフラミンゴ:3→4

 ミホーク:5→4

 リィン:3→4

 

「あ?なんでジンベエ減ったんだ?」

「数字が被ったんじゃい…捨てる(廃棄)

「くまだけ5枚で他は4、か。なかなかに接戦じゃない」

「チッ…記憶に頼るべきじゃ無かったか」

「普通覚えているだろう」

「フフフ…お前とスモーカー君くらいしか覚えてねぇよ。黙れ戦闘狂(バーサーカー)

「(これビリだと何か有るんだろうか…不安)」

 

 

 

 

【語り手:クロコダイル】

 

「俺の左手は諸事情でフックだが、左手が無くなったのには理由があってな」

「気になってた事ピンポイントで突いてくるか鰐君」

「黙ってろ鳥。まァ理由だが──食われた」

 

 一瞬の沈黙を破ったのは左隣に座るジンベエが答えてからだ。

 

「少々抜けておるからの、有り得る。信じる(ビリーブ)

「おい喧嘩売ってるだろ鮫」

「10やるとなると9で終わる奴だからな。詰めが甘いんだよ…信じる(ビリーブ)

「お前は確実だな鳥」

「鰐にでも食われたか?飼ってるだろ、共食いか……信じる(ビリーブ)

「無自覚か!?それとも意図的にか!?」

「(まァ普通に過ごしてたら腕が無くなる事なんて無いわな)うん、信じる(ビリーブ)

「ふはっ、何それマヌケじゃないの!信じる(ビリーブ)!」

「海軍組後で覚えておけ」

「………的を射ていると信じよう」

「お前ホント昔から口癖それだな…治せよ」

 

「「「「「判定(ジャッジ)は!?黒だろ/でしょ!?」」」」」

 

「…………真っ赤な嘘だな」

 

「「「「何!?」」」」

「お前らの俺に対する認識はよーーーく分かった…。──枯らす」

 

 クロコダイルの左手が砂に変わり始めた瞬間リィンが慌てて声をかけた。

 

「ど、どうして食われた以外の答えぞ!?」

「は?あー…(まさか自分で削ぎ落とした、とか言えねぇよな…)…想像に任せる」

 

「「「マヌケか」」」

「殺す」

 

 自覚ありかなしか、ドタバタとドフラミンゴやミホークを追い回してしばらく時間がかかった。

 

 

【手札】

 クザン:4→5

 くま:5→6

 クロコダイル:4→2

 ジンベエ:4→5

 ドフラミンゴ:4→5

 ミホーク:4→5

 リィン:4→5

 

「出し抜いた筈なのに無性に腹立つな」

 

 

 

 

 

【語り手:ジンベエ】

 

「次は儂か…そうじゃの。魚人島は皆知っておるだろうが、あそこには占い師がおるんじゃ」

「絶対当たるって噂の鮫の人魚だったか」

「彼女に占いをしてもらった時に言われたんじゃ。『将来儂が居る海賊団が四皇に喧嘩売る』、と」

 

「「「「「絶対疑う(ダウト)!」」」」」

「俺は信じる(ビリーブ)だ」

 

 むしろ絶対に信じる(ビリーブ)であって欲しく無い。くまとドフラミンゴ以外が心を込めてそう叫んだ。

 

 ジンベエは元々温厚な船長であるし白ひげに恩のある彼が四皇などに手を出して騒ぎを起こすはずがない。

 

「…お前らそれ完璧願望入ってるだろ。えーっと判定(ジャッジ)は…、……。(真実)

 

「ごめんよ海峡のジンベエ…今あんたを殺しておけば無駄な勢力争いが無くなるから…」

「ククククザンさん落ち着きてー!」

 

 思わず氷の剣を作り出したクザンを羽交い締めにするリィンの姿が誕生した。

 

「安心せい、予定も思想も全くないわ。…外れた事が無いから不安だがの」

 

【手札】

 クザン:5→6

 くま:6→5

 クロコダイル:2→3

 ジンベエ:5→4

 ドフラミンゴ:5→4

 ミホーク:5→6

 リィン:5→6

 

「くまはどうして信じる(ビリーブ)だと?」

「あの占い師は的を射ている事しか言わないと思っただけだ。例え嘘であろうとお前は大それたことを言わんだろう」

「ドフラミンゴは」

「直感」

 

 

 

 

 

【語り手:ドフラミンゴ】

 

「実は1ヶ月程前悪魔の実が覚醒した」

 

 空気が一瞬にして張り詰められた。

 

「この男の狂気具合と自信満々な態度からして有り得そうだ。信じる(ビリーブ)

「え、まず覚醒とは何です!?と、とりあえず勘で信じる(ビリーブ)!」

「(ヘェ、口角が怪しげに上がったな…)疑う(ダウト)

「(鷹の目の言う通り有り得そうだ)……信じる(ビリーブ)

疑う(ダウト)!お前が俺より先に行ってたまるか」

「(有り得そうじゃな……)信じる(ビリーブ)

 

「フッフッフ…さァ、判定(ジャッジ)といこうか」

 

 

 重々しい空気の中スモーカーがカードをめくる。

 

(虚偽)

 

「「「ホッ…」」」

 

 1部が安堵の息を洩らした。

 

「嘘だぜ〜?1ヶ月前じゃなくて1年前だからよォ」

「「「「「……。」」」」」

 

 安堵したのも束の間。全員が絶句した。

 

「ある意味全員裏切られたな」

 

 くまがポソっと呟いたが当たりなのか誰も反論はしなかった。

 

 

【手札】

 クザン:6→5

 くま:5→6

 クロコダイル:3 →4

 ジンベエ:4→5

 ドフラミンゴ:4

 ミホーク:6→7→5

 リィン:6→7

 

「む、被ったな。廃棄だ」

 

 

 

 

 

 

【語り手:ミホーク】

 

「そうだな…。昔…もう10年ほど前のか、赤髪の所に行ったんだが」

 

「(赤髪ってシャンクスさんだよな…)ほほう」

 

「そこで掘られかけた」

 

 ──ごフッ…!

 

 ほぼ全員が口から変な音を発生させた。

 

「(あの人ショタンクスさんだからな)び、びゆーぶ?」

「(表情が全くかわんないね…)願望をあって疑う(ダウト)

「(自分の事は言えないが表情筋はこの男にあるのか?)疑う(ダウト)

「(掘られかけた…おいおいマジかよ。いやでもこいつら仲良いらしいし…くそ、表情分かんねェ)ッ信じる(ビリーブ)

「(掘られるとは何だったか……儂は意味を間違えたか?多分儂が思ってる意味とは違うだろう)信じる(ビリーブ)

「(結構どぎつい事言ってる筈なのに表情が変わらない…だと!?)フフフ…信じる(ビリーブ)だ」

 

 

「……俺は今以上に緊迫した雰囲気のカードゲームを見た事が無い」

「「早く判定(ジャッジ)してこの緊張感から解放しろ!」」

 

 クザンとクロコダイルが思わず叫んだ。

 

「お、う…。あ、(虚偽)だ」

 

「う、嘘か……、異様な雰囲気だな…」

 

 ホッとクザンが呟く。

 周囲もほぼ全員が頷く辺り相当精神的なダメージが来るのだろう。

 

「まァ掘られ()()()ではなく掘られ()であればその安堵は無意味となるですがね」

「「「「「リィン黙れ/らんか!」」」」」

 

 くま以外男達は同時に叫んで思わずミホークを見た。

 

「……?あぁ。フッ」

 

 どうして見てくるのか首を傾げた後事実確認かとミホークは納得して鼻で笑った。そのせいで全員サッ、と顔を青くするが本人は全く気にしてなかった。

 

 

 ミホークとは精神攻撃を仕掛け表情が全く読めないこのゲームのダークホースだったのだ。

 

【手札】

 クザン:5→4

 くま:6→5

 クロコダイル:4→5

 ジンベエ:5→6→4

 ドフラミンゴ:4→5

 ミホーク:5

 リィン:7→8

 

「あ、また被ったの、廃棄じゃな」

「またか。運が良いな」

 

 

 

 

 

 

 

【語り手:リィン】

 

「あ、スモさんこれお願いです。えっと、昔にあるした出来事。私実は川で溺れるまして──」

「「「「「「疑う(ダウト)」」」」」」

「──早すぎぞ!?」

 

 全員がすぐさま判定(ジャッジ)した。

 

「何故!?何故疑う(ダウト)ぞ!?」

「──結局答えは?」

「赤の虚偽ぞちくしょう!はげろ砂男ーッッ!」

「その呪いじみた叫びはやめろ!」

 

【手札】

 クザン:4→3

 くま:5→4

 クロコダイル:5→4

 ジンベエ:4→3

 ドフラミンゴ:5→4

 ミホーク:5→4

 リィン:8→12

 

「1枚捨て、更に1枚道連れし…。当てるされた6人分を頂くと…。な、びっっっくりする程被らぬ!」

「お前悪霊に取り憑かれてんじゃねぇのか?」

「う、ぐ…。まァ……災厄に」

 

 

 

 

 

 

 

 

「まァ圧倒的ビリを除き全員が接戦だが」

「ドフィさんは殺す」

 

 殺気を振り撒く雑魚を気にせずドフラミンゴが言葉を続ける。

 

「二周目三周目とやるべきだが続きをやる気はあるか?」

 

「儂はあるが」

「俺もだな」

 

 そういった返事が全員から得られ満足げに頷く。

 

「ちなみにビリは全員との組手だからな。1位から順にやっていく」

「なるほど、負けて鬱憤が溜まるから褒美を逆にやるという事か。そして1位はその者の全力と殺り合えるという訳だな。合理的だな」

「合理的だじゃ無きぞ!?むしろ罰ゲームぞ!?」

「羨ましい」

「譲れるが可能なれば譲るわ!」

「まだまだ逆転のチャンスがあるのに何故喚く…」

「はげろちくしょう!」

 

 

 

 

 

 結果、ビリはリィンとなって満身創痍な彼女が雑用部屋の前で倒れていた。




間違えてたら怖いですがとりあえず『嘘つきは誰だゲーム』作りました。
是非暇な時やってみて感想聞かせてください!

ちなみにリィン(雑用)が海軍にいる間第15回目まで開催されました。結果?もちろん雑魚が1番ビリで。


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偉大なる航路突入編
第94話 仲間外れ


 

 

「どうしてこうなった」

 

 やァ、みんなのアイドルリィンちゃんだよ☆

 

 ………。

 

 くっ、ツッコミ役が居ないと辛い…ッ!

 

 

 

 

 実はつい1時間ほど前にやっと偉大なる航路(グランドライン)に入ることが出来ました。

 

 ……途中で凪の帯(カームベルト)に乗り込んでしまったり船で山登りしたりとなかなかに規格外な経験をしたけど。船頭って1人でも山に登るんだなって思いましたよ。

 

 

 とにかく、山登りした後は下らないといけないんですが。目の前に現れたのはでっかい、そりゃもうクソでっかい鯨。

 何で!?って思ったけどとりあえず避ける事にしたんだが、聞いて、私ローグタウンで色々やらかしてすっごい疲れてんの。精神的に。

 

 海流なんて操る精神力なんて無いわな!

 ハーッハッハッハー!…はァ。

 

 

 ルフィが大砲打つわなんとか回避したけど船首折れかけるわ…しかし私とルフィ以外船ごと鯨に飲み込まれるってどうよ。

 

 でもまぁそれは仕方ないとしよう。

 だがな、鯨。お前の背中にあった金属製の扉はなんだ。お前は機械だとでも言うのか畜生。

 ルフィは入るって言うし鯨は海に潜ろうとするし私は言いました。

 

 『外で周囲を警戒すてるぞ!』

 

 

 

 現在、ここまで連続で災厄が起こると怖くなってくるので藁にもすがる思いで外用の机と椅子を勝手に拝借し無心にミサンガ編んでます。

 

 ・海賊に絡まれませんように

 ・上司に怒られませんように

 ・災厄よ消えてなくなれ

 

 まだまだあるけどもうそろそろ7本目に突入する。

 

「どうしてこうなった…」

 

 私はそっとため息を吐いた。

 

 

 

 ==========

 

 

 

「───と、言うわけです」

 

 今が好奇。

 バラティエから現在に至るまでの経緯をセンゴクさんに()()に報告していた。(嘘は付いてない。嘘は)

 

『全く意味がわからん』

「ですよね、自分でも不明です」

『今から追っても革命軍は間に合わんだろうな…』

「流石に数時間所有するなれば逃げますな」

『ひとまずバラティエの件では感謝するしかないな………』

 

 請求書にMC(マリンコード)書いてあったらごめんね、勝手に胃を痛めて。

 

「ミホさんなにすてるんですかねー、こんな海にぞ来るとは」

『知らんな』

「……誠に海賊嫌いですな」

 

 ミホさんは基本善良なタイプだと思うよ?あの人元々海賊とかじゃないんでしょ?直接聞いたことは無いが記録も無いし。

 

『鯨に食べられた?今、奴らは居ないという事でいいんだよな』

「はい…情報をお願いするです」

 

 するとセンゴクさんは少しづつ情報を渡してくれた。目立った海兵の功績や私の部下(コビーさんやヘルメットさん)、海賊の損害やジジの損害。 国の動きやら物流やら。

 

 うん、特に注目すべき点は無いかな。スモさんが立場放棄しかけてる事以外は。

 

『と、いう訳だ分かったか元凶一味』

「………っわかります、た」

 

 ちょっと動揺したけど現れるのは分かっていた事に近いんだ。私は無理やり落ち着かせた。

 

「ところでセンゴクさん」

『なんだ』

「普通鯨に食うされたなれば死ぬますよね?」

『だろうか』

「そこは人間として〝か〟でなくて〝な〟って言うして下さい」

 

 忘れかけていたがセンゴクさんもこの海を渡る非常識な人間相手に非常識な人間引き連れて戦う非常識な組織のトップだったな。センゴクさんも化物だ。

 

『………───ガープが来た』

「切るます」

『邪魔するぞセンゴ──』

 

 

──ガチャ…

 

 多分この後2人は喧嘩するんだろうなって思います。

 

 とりあえず今はルフィ達の事を考えよう。鯨に食べられた後に見つけたあの扉は一体何だったのか。あんな風に入れるのなら出口はあるんじゃないかって思ってるけど……。

 人の手が加えられている(改造でも人造でも)鯨は果たして安全なんだろうか。敵はいないのだろうか。

 ……まァ経験則からして?これから安全な可能性は限りなーーーーーく!低いと思う。例え無事であっても何か厄介事引き連れてきそうな気がしてならん。それだけはやめて欲しい。

 

「はぁ……お腹空きた」

「だよな」

「ローグタウンでは寛ぐ不可能。その後嵐。結局お昼食べ逃すてる故に流石に空腹ぞー…」

「ならすぐ作ってくるから待っててくれよ」

 

 

 

 …………ん?

 

 

 独り言に何か返事が返ってきたみたいで振り返ると麦わら帽子の男とその他大勢。

 

「何故…貴様ら生きるして…!」

「お前それ仲間に言うセリフじゃねェからな」

 

 ウソップさんが戯言を抜かしているが気にしない。

 

「リィン!」

「回避!」

 

 椅子からすぐさま飛び降りると何故かそこにはナミさんが居た。

 …この人瞬間移動でも使えるんですか?今さっきまで料理作りに行くって言ってたサンジ様より遠くに居ましたよね?

 

「流石の反射神経ね…」

「私はナミさんが人間を辞めぬか心配です」

「私の心配をしてくれるだなんて…、優しい子!」

「医者を、医者を呼ぶして!」

 

 早急にまともな船医を探さなければ…!(使命感)

 

「医者なら花のおっさんがそうだぞ?」

 

 ルフィがにーっと笑って言う。

 私は周囲を確認してひとり多いことに気付いた。ほほう、なんだその頭は。

 

「……私はクロッカスだ。キミが残りの1人だな?」

「何となく察すました。そうです私が最後の1人、リィンです」

 

 多分どっかで自己紹介して1人足りない事を言ったんだろう。

 うーん、なんかモヤモヤ。クロッカスさん堅気じゃないな。

 

「ウソップさん、説明願うです」

「は?なんで俺だ?」

「あのですね」

 

 私はゆっくり周囲を確認する。

 

 脳天気なルフィ。どこかズレたゾロさん。最近暴走気味のナミさん。料理作りに行ってしまったサンジ様。そして部外者のクロッカスさん。

 

「───いますか?」

「俺が悪かった」

 

 説明出来る人がいますか?と伝えればきちんと意味と言葉と理由が伝わったよう。やったねウソップさん、キミは私と同じ側の人間だ。……苦労する側のな!

 

「お前今呪いかけたか?」

「失敬ぞ」

 

 ウソップさんもしかしたら相手の頭の中まで見える見聞色の覇気(そんなものは無い)が使えるのかもしれない。

 

 

 

 

 ウソップさんに説明されて状況を把握する。状況は至ってシンプルなお話。

 鯨─名前はラブーン─は暴走するから医者のクロッカスさんが改造して治そうとしてるらしい。そこにウソップさん達やルフィ、それと謎の2人組が来たと。

 

「………偉大なる航路(グランドライン)は不思議がいっぱいぞ…満腹ぞり…」

 

 

 ということはそれなりの腕の医者という事が判明した。

 

「ゾロさんの怪我治せませぬか?」

「ん?あァ、あの剣士君か。すまない、縫いは出来るんだが外科に関する知識は浅いんだ」

「あらー…つまり痛み止めや治りやすい薬をご存知無きと」

「基本内科しかしなかったからな。昔乗っていた船でも外科と内科で協力して船医をしていた」

 

 まァほっときゃ治るとは思うけどいつまでも私の仲間(シールド)が怪我で前線に居れないってのはキツいな。

 

 私は幼少期毒付きでバッサリいったときは完治に何ヶ月もかかったけど(これは絶対普通と信じてる)

 怪我に耐性のある男性なら2週間くらいで変わるだろう。

 

「ならゾロさん2週間は安静で」

「………素振り」

「なし」

「……腕立て」

「なし」

「ヘボコックを茶化す」

「もっとなし」

 

 立て続けに却下すればムスッと口を尖らせた。

 

「キミは船医か?」

「いいえー、否定ですー。……ちょーっと経験則から判断すたのみです」

 

 ルフィに聞こえない様に後半は呟くように口にする。

 

 昔は死ぬかと思ったね。あれくらいの怪我はしてないけどあれくらいの恐怖なら何回でも経験したから今は笑い話で済ませれる。お陰で毒にも耐性ついたし。

 とりあえず見つけてくれたフェヒ爺に感謝はしておく。ありがとよー!

 

「………あ。」

 

 そこで私は重大な事を思い出した。

 

「み」

 

 フェヒ爺…剣帝カトラス・フェヒター。海賊王の船員。

 ロジャー海賊団で判断できるのはあの写真と(フェヒ爺)父親(レイさん)の言葉のみ。

 

「みみみみみみ───っっ!」

「お前は蝉か」

 

 未だ不機嫌なゾロさんの大剣豪もビックリな切れ味抜群のツッコミをスルーしてクロッカスさんの顔を見る。

 

 

 なんで、なんですぐに思い出さなかった!こんなに特徴的な人なのに!

 

「岬───っ!」

「うん?ここは双子岬だが?」

 

 クロッカスさんは精神異常患者を見るように目を合わせた。失礼な。

 

「み、な、え、ま、きいいい!?」

「落ち着いて喋ってくれ」

 

 私が時たまに暴走するのは仲間達はご存知の様で耳を傾けるだけ、心配はしてくれないらしい。

 

()()()さん!?」

「……ッ!」

 

 口走ればギョッと目を見開くクロッカスさん。

 

 

 この人は海賊王の船に乗っていた岬野郎─命名フェヒ爺─だ!

 なんでこんな所に!?

 

「何故その呼び方を知っている!?」

「あ、すみませんぞ。二つ名は〝奇跡の手〟ですたか。ごめんなさいです」

 

 スーハースーハーと息を吸ったり吐いたりしていて落ち着いたから訂正を告げる。

 クロッカスさんは肩を落とすだけで何も言わなかった。

 

「……何者だ…」

「コレの娘です…一応」

 

 黒いコートの中で隠れているムチを取り出してクロッカスさんに渡すと更にギョッとして数歩距離を取られた。

 

「あー……その、なんと言えばいいか…。苦労してるな」

「ありがとう!!!」

 

 思わず感動して近付くと更に数歩距離を取られた。泣ける。

 

 

 

 

 

「そう言えばどうしてあの鯨は頭ぶつける事になったんだ?」

 

 空気を払拭するようにウソップさんが首を傾げる。

 

「…! あまりの衝撃に忘れかけていたが」

 

 忘れないで。

 ツテを使う張本人このムチ使う事に精神面ゴリゴリ削られていくんだからな。

 

「もう50年前も前になるか…」

 

 クロッカスさんはそう言うと過去を語り始めた。

 

 私は彼が思い出しながら語る内容に少し違和感を覚える。

 

 ……どっかで聞いたことがあるんだよな、うーん…どこだったかなー。

 

 多分絵本か何かになってたのかな?まァ嫌な予感はしないから無視してても良いけど、偉大なる航路(グランドライン)一周するご主人様を50年も待ち続けるとは、凄いな。

 

 

 

「ラブーン…キミ…」

 

 私はゴクリと息を呑む。

 

「アホですか!?」

「何を抜かしておるんだ馬鹿者!」

 

 素直な感想を述べればクロッカスさんに叩かれた。

 

「男の覚悟が分からないお子ちゃまは黙ってろ!」

「そーだそーだ!リー黙ってろ!」

 

「ルフィとウソップさんまで!?」

 

 私の中の良心が3分の2裏切った!ちなみに残りの3分の1はサンジ様です!ジェルマンの癖に常識人とかありがたすぎ!

 って言うか50年もずっと自傷行為を続けてる自殺願望者(鯨?)に向かっていう言葉はこれしかないだろ!?

 

「うし、喧嘩してくるか」

 

 ボソッとルフィが不吉な事を言った。今絶対言った。

 

「待つして、停止!停止ルフィ!」

「……男の覚悟を馬鹿にする様な子に止められません」

「拗ねるしてるの!?可愛いなちくしょう!そうでなくて!何するつもりぞ!?」

「喧嘩」

「方法は!?」

 

 肩を掴んで揺するとルフィは恐ろしい事を言う。

 

「マストを怪我のところにぶっ刺す」

「船壊す気か!?」

 

 なんつー思考回路してんだこのバカ。

 

「だって、あんなデカイのに攻撃加えれなかったの知ってるだろ!?」

「肯定!しかし、弱点をその方法で突くはダメです!」

「じゃあどうやったら喧嘩出来ると思うんだよ!」

「知るか!縮むさせよ!もしくは肥大化せよ!」

 

「ウソップ、あれ止めてきて」

「ナミが止めてこいよ」

「リィンは可愛いけどとばっちり食うと心が折れるから嫌よ」

 

 何度かルフィと言い争いをしてたらルフィが真顔に変わった。

 

「んじゃでかくする」

「は?」

 

 でかく、って。どう?

 

「〝ゴムゴムの風船〟!───じゃだめだ」

 

 1度空気を吸い込んで体を大きくしたけどすぐに吐き出した。

 

「ルフィ?」

 

 ナミさん達も何をするのか分からなくて首を傾げる。

 

 

 

「〝ギア3(サード)〟」

 

 ギア、って、あのギア?

 アーロンと戦う時に蒸気上げてスピード強化したあのチート?

 ん?でもあれはセカンドだった気が…。

 

 

 

「ふぅぅ───っっっ!」

 

 ルフィが親指を噛んで息を吹き込んだら腕が膨らんだ。なるほど、確かに大きいが……。

 

 

「でかいでかいでかいでかい」

 

 巨人かよ、ってくらい膨らますか普通。

 

「ラブーン!俺と勝負しろ!」

 

 キミが相手するのは歴戦の戦士じゃなくて50年壁に頭ぶつけ続けたただの鯨なんだけど。

 

 

 

 

 

 ……なんか叫びながら飛んでいったし。

 

 

「………。私…どうして(弱いと思ってた)ルフィの為などで海賊になるしたのでしょう…」

「───リィン、それはきっと私と出会う運命の為に入ったのよ……」

 

 とりあえずキメ顔のナミさん黙って下さい。

 

 

 

 




段々雑になってくるナミさんの扱いとポジション。ナミさんファンの皆様ごめんなさーーーいっっっ!


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第95話 伝説の海賊

 

 

 

 その後ルフィが『ライバルだから一周してくるまでちょっと待ってろ!そしたらまた喧嘩するぜヒャッハー!』みたいな捨て台詞吐いてラブーンの頭に落書きした。傍から見りゃ喧嘩じゃ無くてイジメだよ。

 ペンキって海水で溶けたりしないのかね、水に強かったっけ。

 

 

 単細胞で脳筋な兄を持つと超しっかり者でキレ者スペシャルプリティな妹は心配します。……サンジさんのご飯を食べながら。

 

 とても美味しゅうございました。余は満足である。

 

 

「でもなんであんなにちっこくなったんだろうなー」

 

 ルフィがでっかくなって暴れたものの数秒くらいで体力切れてちっさくなった時は本気で心配した。でっかくなったりちっさくなったり情緒不安定か。

 

「実戦で無くて良かったですな」

「それは本当にな。お前が戦えなくなったら誰が戦うと思ってんだ」

「リーだろ?」

「は?」

 

 ウソップさんが私の意見に同意するとルフィの口から予想もしなかった言葉が飛び出て思わず首を傾げる。こいつ何言ってんだ?

 

「だってリーはこの中で一番付き合い長いじゃねーか」

「んん?普通は戦力で考えませぬ?」

「じゃあリーだな」

「え?じゃあ、でなくて普通ゾロさんぞ?」

「リーも強いぞ?」

「船長の全幅の信頼が過去最大級に辛きッ!」

 

 無垢な目で見るな、頼むから。

 

「それにリーは俺のいも──」

「あぁぁぁぁ──ッッ!?」

 

 ルフィが何かを言いかけた時、ナミさんが叫び声を上げた。

 

「なんだ?どうしたんだ?」

 

 にゅ、と私を飛び越えてルフィがナミさんの元へ行く。

 

「コ、コンパスが壊れちゃったの!」

 

 私も近寄って見てみればコンパスはグルグル回ってる。なんで!?と言いながらナミさんがパニクってるけどまさかここまで予備知識無しとは。

 

「なんだ、記録指針(ログポーズ)を知らんのか」

 

 クロッカスさんが苦笑いをしながら近寄ると全員首を傾げる。

 

「この偉大なる航路(グランドライン)の島には特殊な磁気を帯びていてな。磁気を記録する記録指針(ログポーズ)が必要なんだよ」

「そ、それってどんなの?」

「丸い球体が付いた変わったコンパスだ」

「こんなやつか?」

「そうぞそれ………ってどうして持つしてる?」

 

 ルフィがポケットから記録指針(ログポーズ)を取り出した。

 あれ?本当になんで持ってるの?

 

「あの2人組から奪った」

「なるほど、ナイスよルフィ!」

 

 これは買った意味無かったな。うん。

 

「この海は常識を疑うのが常識だ。この海に多少知識がある者はいるかな?」

「あ、はい。多分私が1番長いです」

 

「そう言えばお前は出身東の海(イーストブルー)なのにどうやって海軍本部で働いて東の海(イーストブルー)まで戻って来たんだ?」

「海軍本部!?」

 

 ゾロさんの言葉を聞いてクロッカスさんが目を見開く。

 

「んあー…本部までは酔いながら船で。本部からは箒で飛ぶしたです」

 

 それを言うと『あぁそれか…』みたいな雰囲気で終わらされた。

 一応飛んでるものね。例えば海のレストラン探す時とか!

 

「ねェリィン。偉大なる航路(グランドライン)ってどんな気象があるの?」

 

「…えっと、嵐は日常茶飯事。波は多分無茶苦茶。海は突き上げるし海は割れる地震は起こるし空は割れる海賊はうじゃうじゃゴキブリかと言う程発生正直もう滅ぼすてやろうかと思う程に。海賊王志望の青年は存在するは革命軍や国の衝突は良く存在し七武海は先のミホさんの如く不良ばかりかと思えば七武海より厄介な海軍のクソ将校、あ、これはネズミ大佐やフルボディ大尉が良き例ですねそれに気候は無茶苦茶寒きですたり熱きですたり」

「まてまてまてまて長い!長すぎるわ!」

「……まだまだこれからですぞ?」

「途中から気候関係なかったよな!?」

 

 むしろ七武海とかは危険災害だから。自然に発生する嵐くらい理不尽で無茶苦茶だから。

 

 

「ハッ…理不尽が服着て歩きてる存在が災害以外なんだとでも」

「戻ってこい!目が死んでるぞ!」

 

 思わず遠い目をしたら肩を掴まれた。

 

 

 鯨に遭遇なんてイベントが可愛く思えてきたね。

 

「所でクロッカスさん、記録指針(ログポーズ)の使い方は?」

 

 無駄なものに首を突っ込まないのか かろうじて1線引いてあるのか 意図的に避けたのか分からないがナミさんが私を無視しててクロッカスさんに記録指針(ログポーズ)の使い方を教えてもらいに行った。

 

「ナミさん勉強熱心ですなー」

「お前は使い方知ってんのか?」

「当たり前ぞ、ウソップさん。記録指針(ログポーズ)偉大なる航路(グランドライン)では常識」

 

 ピースするとため息をつかれた。

 

「ならあらかじめ説明しとけよ」

「……」

 

 ごもっとも。

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

 説明も終わり遅めの昼食も取るとそろそろ出航しようかと腰を上げる。

 

「あ、あの!」

 

 聞きなれない声が聞こえて振り返ると青い髪を高く上げた女の人。とりあえず服のセンスは最悪だね、なんだそのグルグル模様。

 

「はて?誰です?」

「…! うん、分かった」

 

 いや、こっちは分からないから説明下さい。

 

「私達実は船と記録指針(ログポーズ)を失ってしまって!そ、それでもしも大丈夫なら仕事の拠点にしてる島まで送ってくれませんか?」

 

 うん、だから誰?

 

「ル、ルフィーー!ヘルプ!」

「んぁ〜?あ!お前らラブーンを食べようとしてた奴!何しに来たんだ?」

 

 あの巨体を食うってどんだけ大食いですか。

 

「あの…えっと……」

「船長は彼、です。聞くならば彼に許可を」

 

 女の人は男の人を連れてルフィに聞きに行った。多分あのラブーンに居た謎の2人組だと思うけど、随分オドオドしい感じがしたな。

 まァルフィもアホじゃないから不審な相手を乗せるわけ──

 

「何だ、そういうことか。いいぞ」

 

 

 ……彼はアホだった。

 

 これからはルフィに許可求めるの最低限にしよ、私で対処出来るなら私でする。

 

「最初の航路で航海が変わってくるんだぞ?いいのか…?」

 

 クロッカスさんも不安そうにルフィを見る。

 

「いいんだ!気に入らなかったらもう1回一周すれば!」

「…そうか」

 

 ルフィの必ず一周回る自信。ハッキリとした返事にクロッカスさんは苦笑いをして説得を諦めた。

 

「航路、どこですか?」

「ウイスキーピークですって」

「んー…行った事なきですがとりあえず海軍支部は無きと思うです」

 

 ナミさんの言う街に聞き覚えがない。

 

 偉大なる航路(グランドライン)の入り口には海賊対策として支部が2個ほど置かれてるけど…、支部が無い街って事はそこまで治安良くないと思うんだけどなー。

 意気揚々と乗り込んできた海賊の最初の島だから。

 

 

 ……あの2人組の言う会社が怪しい。

 しかも本名名乗れないってどう考えてもブラックじゃん。なんだよMr.9ってもはやイジメじゃん。名前で読んでやれよ。

 

 

「よーし!野郎共!出航するぞ!」

 

「…カナエの娘」

 

 クロッカスさんが突然私に声をかけた。手招き?OK私も一味と距離が取れるのは有難い。

 

 

「何ですか?」

「いや。お前の母親の事なんだが」

「あー…インペルダウンです、一応」

「なるほど、捕まったのか」

 

 顎に手を当ててしばらく考えた後クロッカスさんは再び口を開いた。

 

「キミの父親と母親はね、ロジャーの事を愛していたんだ」

「……はァ、そうですか」

 

 それを私に伝えられてもレイさんがツンデレにしかならないんだけど。

 

「それと同時に嫌っていた」

「ほー…」

「何故か分かるか?」

「さァ」

 

「彼がお人好しで海賊らしからぬ海賊だからだよ」

「まるでウチの船長みたいですなー」

 

 海賊王がどんな人間だったかは知らないし興味も無いけど、ほんとにそれを私に話してどうなる。

 

「それなんだ」

「?」

「いずれ背負うものに耐えきれず潰れてしまうのだけは気をつけてくれ」

「……」

 

 気にしないと思うけどなー…。

 

 私の沈黙をどう取ったのか分からないがクロッカスさんは満足げに頷く。

 

「キミがカナエのお腹に居た時、実はカナエがここに来たんだ」

「ヘェ」

 

 見事に興味無いや。

 

「不思議なことを言っていたよ」

 

 

 

 

 

 

 

「『ここで生きてこれて良かった』『いつ消えるか分からないのに居場所が出来て嬉しい』……キミに尋ねるのもおかしいと思うが、彼女は一体何を抱えていると思う?インペルダウンで何がある?」

 

「………ん?」

 

 何だか言い方に違和感があるな。

 ここで生きて、これはまァいいとしよう。自分の母親の過去は知らないが『ここ』が示すものはきっと『海賊船』とかそんな感じだと思う。

 問題は『いつ消えるか』そして『インペルダウン』

 

 消えるってなんだ?死ぬとかじゃ無くて?

 

「何故、インペルダウンで何があると思うしたか推測を聞くしても?」

 

「……。『level5.5』と呟いたんだ」

「5.5?そんな場所はあらぬですよ!?」

「だからこそだ、また予知か。とにかく何か掴んでいるのなら」

「その時の様子細かく教えるしてください!」

 

 何か関係があるのかもしれない。

 あの夢の戦争で乱入したインペルダウンの囚人達と。

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

 ──およそ15年前──

 

 

「やあやあクロッカス君」

 

 飄々と突然現れたのは昔と変わらない姿の叶夢、懐かしい仲間の姿にクロッカスは微笑んだ。

 

「久しぶりだな」

「お互い無事で何よりだよ」

 

 黒い髪を尻尾のように振りながら歩く様は昔と少しも変わらず変わっているのは何故か大きい彼女の腹だった。

 

「…………レイリーか」

「だいせいかーい、あの人シャボンディにいるから今までそこで遊んでたんだ。大体半年前に出たからご懐妊ご存知無いよー?」

「いつまで経っても遊園地大好きか!適当すぎるだろうお前は!」

 

 見た目は充分父親と娘だが同年代。ケラケラと笑う叶夢にクロッカスは苦笑いした。

 

「しがない岬だが泊まっていくか?」

「んー?いや、このまま凪の帯(カームベルト)横切って東の海(イーストブルー)に行くよ」

「……お前の小舟なら可能だが、わざわざ此処による意味はあるのか?」

「クロッカス君に会うためー」

「は?」

 

 ピリッと空気が変わる。覇王色の様な覇気を叶夢は纏った。

 

「私、ここで生きて良かった」

「お、おい…どうしたんだ……一体」

「いつ消えるか分からないのに、こんな不安定な存在の私に居場所が出来てとっても嬉しかった」

「カナエ?」

「………ありがとうクロッカス君、私しばらく身を消す」

「待て!本当にどうした!おかしいぞ!いつものアホみたいなお前はどうした!」

 

 思わず肩をつかみ揺さぶると叶夢は泣いた様に笑っている。

 

「ひっどいなークロッカス君。アホって」

 

 もう随分と大きくなったラブーンに1度目を向けると叶夢が一歩下がる。

 

「私には今夢があってね」

「……。」

「ロジャーの子供を守ること」

「……お前の、子供はどうするんだ」

「んー…イレギュラーな子だからなー。なんとかなるでしょ、私には予知出来ないな」

 

 1度お腹を擦り目を閉じる。

 

「いやー、ここに来る前にシャンクスの所寄ったけどアイツ絶対私が妊娠してること知らないだろうなー」

「空気をぶち壊すなアホ」

「アッハッハー!いいのいいの、お気楽なのが私でしょー?」

 

 思わずクロッカスはため息をついた。そうだ、こいつは天性のアホだった、と。

 

「昔っから決めててね!うんうん、どこまで変えられるか分かんないけどいい影響になれば良し!」

「は?」

「そもそももう何十年も前だから細かく覚えてなくってさー…大海賊時代とか言われてる動乱の時代だけど下手に首突っ込んで変えちゃったら困るところあるし」

「お前は私に話す気があるのか無いのかハッキリしろ」

 

「うん、やっぱり変わんない。私この子を産んだらインペルダウンに行く。どーせどっちみち先は短いんだ」

「どうしてそうなる!?お前まで自首するつもりか!?」

「ううん、普通に捕まってみる」

「もっと意味がわからん!」

「level5.5だったはず、うん、多分生きていけれる、まァその後戦闘力の低い私が生き残れるかわっかんないけど」

 

 ボソボソブツブツと言っている思考は全読めない。何故自ら捕まるような事にしたのか、そこに至った経緯が分からない。

 

「フェヒターとかバンは見つかんなかったけど入り口であり始まりのクロッカス君に会えてとりあえず一安心」

「入り口で始まり?なんだそれは………。それにしてもギャバンか、あいつも東にいるらしいが居場所は到底わからん」

「お?ホント?じゃあトラジディー王国にもいなかったフェヒターだけだなー、あの失踪男…」

 

「それで、どうしてインペルダウンになんか入るつもりだ」

 

 

 

「……。だから、ロジャーの子供を守る為」

「お前は予知で何を見た」

「…………私が1番大っ嫌いな予知だよ。命を懸けてでも変えたい未来、()()()()()()だからじゃ無くて()()()()()()として」

 

 叶夢はそのまま後ろを向き、船に向かった。

 

「あ、そうだ。麦わら帽子の()()が羊に乗ってきたら協力してあげてねー、念の為言っておく」

 

「お前は!何を企んでいるんだ!」

 

「聖地巡礼!そして原作改変!かな!」

「まっっっったく意味が分からん!他人に理解出来るように喋れと何度も言ってるだろ!」

「ハーッハッハッハー!」

 

 崖から飛び降りながら高笑いする声がクロッカスの耳に残った。

 

 

 

 ==========

 

 

 

「と、いう訳で出てきた時には1度くらいぶん殴ろうと思ってな」

「………私のお母さんって…ッ!なんだろう伝説って…ッ!」

 

 伝説の海賊団は私の中でカッコイイイメージはもう無い。

 

「麦わら帽子の少年と羊はキミ達だろう?」

「でしょうな、あの帽子はシャンクスさんからですから」

 

 それにしても…バン、東にいるバン、ギャバン、か…。

 つい数時間前に会った気がするのは気の所為だと信じたい。

 

 ……バンさん、か。ラーメン屋兼情報…。

 

「無理!同一人物としか思えぬぅううッ!」

「と、突然なんだ!」

「あぁ…フェヒ爺に殺すされる、あんな写真渡すで無かった」

「フェヒ爺?」

「本名フェヒター」

「………。」

「ちなみにルフィもご存知、10年ほど前より」

 

 クロッカスさんの深いため息にとても共感できた。

 私も知った時驚いたけど同時にため息吐いたもん。仕方ない。

 

「リー!早く行くぞー!」

「あいあいサー!」

 

 

 クルッ、と振り返りクロッカスさんに礼をする。

 

「参考になりますた、ありがとうですクロッカスさん」

「キミ達の道が、恵まれてることを願う」

「経験則それは不可能に等しいですね!」

 

 災厄舐めんな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 鯨の影が小さくなった頃に思い出す。

 

「ラブーンって…ブルックさんでは無きですか……!」

 

 遅かった。だがとりあえずヨミヨミの実で蘇ったとしても50歳+α歳食ってる事になるから流石に死んでるか。

 肉体は滅ぶものだもん、0歳からやり直し、とか肉体が老化しない、でなければ。

 

 




「誰?」という言葉で、『ここは初対面として乗り切ろうよ!』と深読みしてしまった空色の髪の女の人。知り合いがいるからウェンズデーじゃ無くて素対応。ある意味良かったが後からかかる胃の負担を考えると酷い。
だいたい8割型戦神の素性暴露。細かい事は頂上戦争当たりで。出しゃばりすぎという意見は分かってます、とても。


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第96話 教訓善意を疑え行為を使え

 

 

「うぅ…寒いいい…」

 

 メリー号は冷暖房が設備されてない。

 偉大なる航路(グランドライン)の航海ではそれはかなり致命的で。

 

「喰らえ!雪だるパンチ!」

「テメッ、何しやがるルフィ!」

「んナミすわぁん!恋の雪かき如何程に?」

「止むまで続けて」

「ぐー…ぐー…」

 

 ち、致命的?

 私の目には凍える仲間の姿は見えなかった。

 

「寒いな…ここには暖房は付いてないのか」

 

 王冠を被ったお客様Mr.9の反応が多分一番正しい。

 

「あ、あの、ナミさん?私もお手伝いしましょうか?」

「本当?でも女の子が体冷やしたらダメだから男共に任せてなさいよ、リィンもね」

「はーい喜んでー」

 

 謙虚なミス・ウェンズデーはナミさんに気に入られてるみたいで敵としての対応は無い。まァ表面は確かに素直でいい人そうだから敵対すると心痛めるよね、私余裕で切り捨てる自信あるわ。

 

「……、えっと、リィン…ちゃん」

「はい?」

「……あ、やっぱりなんでも無い、わ」

 

 さっきっからこんな感じのやり取り繰り返してるけど。

 

「と、ところでナミさん!もうそろそろ記録指針(ログポーズ)を確認した方がいいんじゃないかしら」

「ミス・ウェンズデーの言う通りだ」

「でもさっき確認したの……に………」

 

 腕につけた記録指針(ログポーズ)を確認した瞬間ナミさんは動きが止まった。

 

「ふ、船を180°旋回!」

 

「なんだ?忘れ物か?」

「向きが逆になってたのよ!」

「旋回いたすデース」

 

 波を動かして無理やり回転させるとナミさんがズンズンこっちに来て私の頭を叩いた。

 

「無理やり波を動かさないって言ってるでしょ!」

「解せぬです!」

 

 ナミさん航海術に関しては逆らえない。余計な手出し出来ないや。

 

「リィンちゃん大丈夫?」

「残念な事に叩くされるは慣れてるです…」

 

 主に七武海がな!遠慮なく私の頭をばっこんばっこん叩きやがって!絶対本気だろ!私の頭はピンポンですか?叩いて逃げてってピンポンダッシュかちくしょう!

 

「風が変わったぞ!」

「ヤベェ、氷の山!?」

「風が強すぎる!リィン調節できる!?」

「可能です!」

 

 一気に船内が慌ただしくなった。

 

 個人的にもうそろそろ酔い止め切れるから飲みたいけど無理か。

 

「ぼーっとしないで!ほら動いて!ゾロ、あんたは邪魔だから船内に居なさい!」

「Mr.9!手伝うわよ!」

「え、わ、分かったよミス・ウェンズデー!」

 

 思ったより謎の2人組が働いてくれるからちょっと感動。

 

「お2人はうぃすてーぺーくから」

「ウイスキーピーク」

「……街から岬まで来たと言う事はそれなりに航海出来るですよね!?ナミさんの指示にアドバイス頼むです」

「で、でもリィンちゃんの方がいいんじゃ…」

「残念な事に船はからっきしです!単独で避けるは可能ですが他は無理!」

「大声で宣言できるほどご立派な理由じゃないわよ!恥じらいなさい!…ところで恥じらいと言ったら思い出したんだけどローグタウンでリィンに合いそうな服を何枚か買ってきたから満面の笑みもいいけど恥じらいながら着てくれるとお姉さんの性癖的にとても嬉しくて──」

「「「「ナミ/ナミさん!指示!」」」」

「ッ、30°ズレた、取り舵!」

 

 

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

「つ、疲れるした……」

 

 なんかもう無駄に精神力使った。

 氷山ぶち壊したり海王類撃退したり嵐から逃げたりクルクル変わる天候に嫌気がさした段階でやっと、やっとウィスキーピークの気候海域に突入したようで気候が安定しだした。

 

 そう言えば最初の航海で大体海賊の3分の2は心折られるか死ぬって言ってたな。

 

「お疲れ様」

 

 ミス・ウェンズデーさんが疲労した顔で隣に座ってきた。

 ちなみに私は後方担当。サンジ様は料理とか裏方担当でナミさんは女子部屋の前やミカンの前で全体を見てる。

 

「お疲れ様です…ウェンズデーさん」

「……。リィンちゃんはどうしてこの船に乗っているの?」

「はへ?」

「えっと、ルフィさんにウソップさんにナミさんにサンジさんにゾロさん、だったかな?海賊でしょ?」

「あー…。元々居た場所を辞めるしてこちらに来たです、成り行きですよ」

 

 潜入してます、だなんて言えるか。

 

「え、辞めちゃったの!?」

「へ?あ、はい」

「そっか……ちょっと、残念だな」

 

 キミが残念がる理由が分かりません。

 

「私の事、聞かなくていいの?例えば仕事とか」

「聞きたくないです」

 

 そっと目を伏せて呟いた。

 私は巻き込まれたくないんだ。

 

「そっか、ありがとう」

「?」

「聞かないでくれて、ありがとう。これは私の問題だから……リィンちゃんに聞かれたら答えて巻き込んじゃう」

「は、はァ」

「私、貴女にはなるべく嘘つきたくないから。聞かないでくれて、ありがとう」

 

 そ、そりゃどうも?

 

 何だか話が微妙に噛み合ってないけど…まァ巻き込まれないならいっか。

 

「私サンジさんに何か貰ってくるね」

 

 ウェンズデーさんが階段を降りて行くのを見送ると私はドテッと寝っ転がった。

 

「今日は散々ぞ……」

 

 ローグタウンから逃走してロジャー海賊団の人に会ったかと思えば怪しげな会社員。

 

 知ってるか、これたった1日で起こってるんだぜ。

 

 

 

 

 ………もうこれ以上が無いことを願う。

 精神力を半端なく使う魔法…みたいな不思議色の覇気(仮)使えないから。

 いつまで(仮)が付くのかな、もうぶっちゃけ覇気で良くない?悪魔の実って言う必要性を感じなくなったんだが……。いや、海楼石を対処される利点があるからそのままでいいか。

 

 

 

「つかれたー……」

 

 沈みかけた太陽が嘲笑ってる気がした。「てめえの災厄がこの程度で終わるわけねーだろバーカバーカ」って。うるさい黙ってろあーほ。

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

 正直私の災厄って五臓六腑全てに呪いかかってる。

 嫌な予感しかしないよあの島。

 

 サボテンの島、とりあえず私はゾロさんと一緒に室内にいるけどもうね『歓迎の町』とか可笑しすぎるでしょ。リィンさん大爆笑だよ。

 

 意気揚々と名乗りをあげる為にやって来た海賊を厄介だと思わずに英雄扱いするってなんだよ。

 

 しかもウェンズデーさんに分かれる前、 『島では命に気をつけて』ってこっそり耳元で呟かれてふざけんな。

 

 

「……お前は出なくていいのか?」

「嫌です、ゾロさんと一緒に居るですから」

 

 私は男部屋のベットに腰掛けてゾロさんの頭をもふもふした。

 君が心配なんだよ無自覚方向音痴。

 

 今日の昼キミ勝手に船でてたしぎちゃんに喧嘩売られたの覚えてる?

 

「じゃあ一緒に船番だな…眠い、寝る」

「さっきまでグースカ寝るしていた癖に…。一緒にとか言うした癖に実質1人とかイジメですかね」

 

 とにかく今日は疲労がやばいから何事も起こらないでくれ。

 

 

 一応心配だから覗き見しておこう。

 

──キィ…

 

「んん゛、マーマ〜マ〜。いらっしゃい、私の名前はイガラッポイ」

 

 …………。あれれ〜、おかしいぞ〜?あの人私の過去No.1の格好(髪型のみ)に似てる気がするー、どっかの国の護衛隊隊長そっくり(な髪型)だ〜!

 

 幻覚だ幻覚。きっと夢見てんだ、私。疲れてるもんね今日。

 

 

 どうやら酒の席を設けるとか言い始めたけど怪しいよなー。

 

 

「宴だって、参加するの?」

「「「勿論!」」」

 

 甲板の男3人が肩を組んではしゃぎ出した。

 

 あ、これダメだ。こっちも放っておけないけどあっちはもっとダメだ。

 

「仕方ないわね…えっと、イガラッポイさん?船に怪我人が1()()残ってるけど気にしないで」

「それは心配だ、誰か1人くらい看病に…」

「いいのよあんな奴、勝手に放って置いて頂戴。野垂れ死にしたらその時よ」

 

 ナミさんが強くいうとイガラッポイさんは渋々引き下がった。

 

 …ナミさんは怪しいと思ってるのね。

 

 あの男3人が余計な事を口走らなかったらこの船には怪我人が1人居ることになるのか、不意をつけるし私1人見捨てて逃げれるだなんてとても素敵ね。

 

「それではご案内しましょう」

 

 

「………行ってらっしゃーい」

「…!」

 

 小声で見送るとナミさんがグルンと振り返った。え、まさかこの距離と声で気付いたとでも!?あの人人間辞めてるの!?

 

 ナミさんの恐怖はドフィさんのストーカーの恐怖と同等。

 

 

 

 

 

 

「……気の所為よね、お見送りの声が聞こえたなんてきっと気の所為…いえ、もしかしたら私とリィンは以心伝心で思ってることが幻聴として私の元に…!」

「ナミ!何言ってんだ?早く行くぞー!」

「あ、うん!」

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

 

「……い、おい…」

「ん…う………びゃい」

「起き、ろ!」

「んぎっ!」

 

 ゴツンッ!と激しい痛みが脳天に響いた。

 

「はい……起きてる……」

「寝てんだろ、ほら、さっさと隠れろ」

「んほぉー?」

 

「外に敵の気配がす…──早いな」

 

 ゾロさんの言葉に意識が覚醒する。

 慌ててゾロさんの布団に入り込んだ。ここ、多分安全。

 

「……ッ!」

「……痛むですか?」

「どーってことねェ、よ。心配すんな」

 

 心配しますよ、戦力(ゾロさん)

 貴方が居ないと戦闘員の優先として私やサンジ様が選ばれるんですー。早く回復して戦力になってください。

 

 

 

──キィ…

 

「「!」」

 

 扉の開く音が聞こえて声を止める。

 

「貴方が、〝堕天使〟ですか」

 

 確信した様な呟き。

 ……認めたくないけど堕天使って私だよな?敵さんから見えてるのってゾロさんだけでしょ?

 

「もっと小柄だと思っていたが剣士…あの懸賞金も頷ける」

 

 

 

「……おいどういう事だ説明しろ堕天使(※小声)」

「……多分、写真では顔が特定不可能故だと(※小声)」

 

 ふむ、使える。

 

「頑張るて堕天使のリィンさ…いでっ(※超小声)」

 

 応援したら蹴られた。痛い。

 

「さて、死んでもらおうッ!」

 

──ガキンッ!

 

「ハッ、随分と俺が好きみたいだなァ。どうした、そんなに夜這いがしたかったか?」

 

 そのセリフはどうかと思う。

 

「そうだな、貴様の首には興味があるからな…堕天使」

「チッ…めんどくさい」

「死んでもらう…!」

 

 布団の中だと外が見えないから声だけで判断するけど所々「ぐへっ」とか「うわあ!」とかが倒れる音と共に聞こえて来るから多分ゾロさん怪我人でも余裕で勝てる。

 ……メリー号がボロボロにならないか心配だけど。

 

「ぐ…ッ!」

 

 ゾロさんの唸り声が聞こえた。

 

「……怪我人、だったな。私以外やられてしまったが」

 

 そっと布団から覗くと護衛隊長に似た人とゾロさんしか居なかった。ゾロさんは膝をついている。

 

「へへ…思い出したぜ、ずっと引っかかっていたんだが。お前らBW(バロックワークス)だろう?」

「ッ!」

「社長の司令に黙って従う秘密結社…違うか?」

 

 悪の組織みたいに言わないで欲しい。実際そうかもしれないけどさ!

 

 

「そこまで知っているとなると生かしておく事は出来ん…私の為に死んでくれ」

 

 ヤンデレかよ…ッ!

 

「待つして護衛隊長さん…!」

 

 慌てて飛び出し銃を弾こうとしたが手元が狂って箒はゾロさんの脳天に直撃した。

 

「………ご、ごめんなさいぞ」

 

「な!何故キミがゴッ…マ〜マ〜マ〜。──何故キミがこんな所にいるんだリィン君」

「あれ?思うしたより素直に吐くしますたね、いいのですか?イガラッピーさん」

「イガラムだと何度言えば分か…ッッッッ!」

 

 ハッとなってしまえば私の勝利。

 護衛隊長(仮)は護衛隊長になりましたー!やったね!

 

「は?え?は?」

 

「………………待てよ」

 

 ちょーーーーっと、考えてみよう。

 ただいま現在内乱でゴタゴタしてるアラバスタ国の護衛隊長が自国を放って怪しげな会社しかも指令制の所に入るか?しかもこの人はアラバスタラブ。

 そうしなければならない理由が、あった。自国の為に会社に入らなければならない理由が。

 

「……………読めるした………」

 

 今、内乱を生み出せる元凶となり。資金があり。アラバスタにとってかなり不利に追い込める頭脳を持ち合わせて。強い部下を抑える強さがあり。意味深な事を呟いて私を引き入れようとしてた野心の多き人物は?

 

 

「キミの強さを見込んで頼みがあ──」

「いやいやいやいやいやいや!!!!ないないないないないいい!」

「は?」

「あ、ゴメンです。私を巻き込まぬ範囲で話をどうぞ」

「無理だ、諦めてくれアラバスタの為に」

「私だって無理ですその様に厄介な厄に首を突っ込むするは!」

「それでもビビ様の幼馴染みかあんたは!早くとっとと箒に乗るなりしてビビ様助けて来なさい!」

「黙るしろ貴様!貴様に私の何が理解可能ぞ!それにこちらの島はキミ達会社の島ですよね!?直接的な危機は無き筈です!」

 

 

「はいはい、とりあえずあんた達落ち着いて」

 

 イガラムさんと言い争いをしていると女の人の声が乱入してきた。

 

「ナミ、さん?」

「ええそうよ。リィン怖いのによく頑張ったわね」

「は、はァ」

 

 数歩下がって距離をとる。

 その行動に少し残念そうな顔をしながらもナミさんは事態収束を優先してイガラムさんに向き直った。

 

「話の流れはよく分からないけど立場は分かったわ。あんたはアラバスタって言う国の兵隊さん、それでリィンの顔見知り」

「あ、アァ……確かにそうだが」

「それで、あんたはリィンに助けて欲しいと言った。そうね?」

「事実だ」

 

「10億ベリーで手を打とうじゃない」

 

 そして怪しげな笑みで最悪の提案をしてきた。

 

「まてまてまてまて、ナミさん国家予算ほぼ全て引き抜くつもりですか!?」

「そうよ、()()リィンを困らせるんだからそれくらいは当然よね?」

「ジャイアニズム!」

 

 内乱中の国にそんなお金はありません。

 

 

 って言うかさ!仕事して革命軍!国と!市民と!平和の!危機ですよーー!私が巻き込まれない内に解決してサボ!

 

「と、とにかくビビ様を早く助けて欲し」

 

──ドォンッ!

 

 突如爆発音が町の中心から発せられた。

 

「ねェイガラムさん。ビビ様って言うの、ここにいるの?」

「もちろん、キミ達と一緒に来ただろう!?」

 

「………ウェンズデー、さん…」

 

 サーッと顔が青くなる。

 もっと待って、私まさか一国の王女に無礼を働いた?

 

「安心してリィン。あの子、助けるわよ」

「大変心苦しい。海軍を辞めたであろうキミに頼むことでは無いがビビ様やアラバスタの危機なのです。頼みました……」

 

 私の顔色の変化にナミさんやイガラムさんは何を勘違いしたのか。

 私ひとっこともオーケー出してないよ?

 

 でも、知ったからには引き返せないんですよね!これがまた!ええ知ってますよ、私大将ですもの!知らないままを突き通せないんだよね!

 

「……ルフィとウソップさんとサンジさんは?」

「怪しかったからサンジくん起こして一応警戒してもらってる」

「イガラムさん、今ビビ様は何処に?」

「麦わらのルフィ君を討伐しに向かったがあの爆発音は多分その性だろう。きっとキミ達の言うサンジ君が──」

 

 状況を確認して急いで箒に飛び乗る。もちろんどこで顔が割るか分からないのでフードを被って。

 

 

「絶対に恨むぞ…そしてロリコンの噂を全世界に広めるぞ鰐ィ…ッ!」

 

 ダブル王族に危害を加えようとするアホに向かって後ろから付いてくる大人達に聞こえない様、そっと呟いた。




色々とカオス。そして回転率の早い頭の性で察する黒幕。これから苦難ですね。

ちなみに戦神の設定は今の大海賊時代で捏造した設定を過去で原作とすり合わせてもらう為に作りました。


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第97話 怒りの限界突破

「だぁぁあ!邪魔じゃ糞共ぉお!」

 

 私の黒いコートのお陰様で私が堕天使だと判断が付くんだろう。剣士でよっぽど戦えそうなゾロさんより私に敵がうじゃうじゃ寄ってくる。邪魔だ賞金稼ぎ共、どっちかと言うと私はそちら側だぞ。

 

「進行速度を緩めない辺り流石だな」

 

 イガラムさんが後ろから納得した様に呟くの、聞こえてるからな。彼はまだ念のため会社の裏切り者だとバレない様に追いかけるフリをしている。

 

 でもね、多分バレてる。

 アラバスタの王女が行方不明になってから何年も何十年も経ってるわけじゃないんでしょう?確か。少なくとも2年前は一緒に世界会議(レヴェリー)に行ったし。(もちろん表の責任者はダブル大佐)

 

 あの鰐が王女の顔を知らないとデモ?まともな変装してた?してないよね?……ちなみに変装してないのに見破れなかった私は盛大にブーメランかな。

 

 まァつまり、下手すりゃ抹殺命令とか下っててもおかしくない。

 ハハッ……笑えるかボケ。

 

 

「リィンちゃん!」

 

 横から聞きなれた声がしてそっちを向くと箒の速度に合わせて走ってるサンジ様。

 

「無事か!?」

「こちらのセリフです!ルフィ達は?」

「あいつら全然起きないしリィンちゃんの声が聞こえたからちょっとこっち来たんだ」

「そうですか…」

 

 サンジ様は正直手の届く範囲にいて欲しいけどルフィ達が心配。

 かと言ってルフィを起こす時間を取られるともし追手がビビ様の元に向かったら…ゾッとする。彼女の生死が、とかじゃなくて私の責任が。

 戦える王子と戦えない王女。どっちを選ぶか………。

 

「サンジさんもこのままついて来るて下さい!」

 

 答えはどっちも。私、欲張りなんで。

 

「でもルフィは!?」

 

 私の解答と言うか判断にナミさんが難色を示す。そりゃそうだ、でも私は考えがある。

 

「金に困るしてる賞金稼ぎグループが殺すわけなき!」

「どういう事?」

「賞金首は生け捕りの方が正式な金を貰えるです。殺すなれば何割か削がれる。金欠ですよ!政府も!海軍も!」

「流石ねリィン!よしサンジ君私を守ってね!」

「んナミさんのためなら俺はやる!」

 

 ……多分。

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

 その場に行くと昔から変わらない箒に乗った彼女がいた。いや、初めて会った時は少し形違う形だったかな、なんて考えてみる。

 

「リィン、ちゃん」

 

 懐かしいな。苦笑いをしながらもその箒に乗せてくれたよね。

 

「…ッ、さま」

 

 嬉しいな。私のことを考えてくれて、バレない様に振舞ってくれて。

 

 

 『公私混同、はダメです。私は今〝公〟として来てるです。あ、でも…〝私〟ではお友達です、砂砂団の一員故……ダメですか?』

 

 昔言ってくれた言葉を守ってくれてる。

 今の私は王女じゃ無くて賞金稼ぎ、しかも犯罪組織の。だけど。

 

 確かに〝私〟として接してくれてた。

 拒絶する事も無く、私のことを優先的に考えてくれて。

 

 嗚呼、今は反乱軍にいるコーザもだけど。私の幼馴染みはなんて素敵なんだろう。

 

 

「リィンちゃん……ッ、私の、大事な国を」

 

 言っちゃダメ。巻き込んじゃダメ。

 イガラム、お願い、私の口を止めて。

 

「……ッ助けて!」

 

 涙はぐっと抑えてる。それはこの会社に入った時からずっと。

 

「…当然!」

 

 でもリィンちゃんのハッキリした言葉でそんな努力はあっという間に無駄になった。酷いなぁ。

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

 

 やばい。これはかなり不味い。

 

「リィンちゃん……ッ、私の、大事な国を──……ッ助けて!」

 

 

 

 ビビ様の言葉に逃げられない運命を感じた。

 

 って言うかこの子何やってくれちゃってんの!?キミの隣にパートナーがいるでしょ!?敵でしょ!?言っちゃダメじゃん!そこイガラムさん!何ちょっとホロッとしちゃってんの!?辛うじて敵対として立場を保ってきた努力水の泡だよね!?

 それに知ってますか!?普通王族の頼みは一般市民又は兵士には断れないんですよ?特に!大将たる!私には!いくら!プライベートだろうとー!…あれ、これ仕事中だ。

 

 とにかく、頼まれる事=了承or死という逃げられない状態に追い込まれるんですよ。

 

 

 

 私の人生詰んだよね。

 

 ※この間5秒

 

 

「……………当然!」

 

 声が裏返ったり覇気が無かったりは許してください。

 

「な、何を言ってるんだミス・ウェンズデー??一体何の話を…」

「Mr.8!これは一体!?」

 

 ビビ様のパートナーとイガラムさんのパートナーらしき人が慌てる。

 

「Mr.9……」

「…く、ミス・マンデー!」

 

 私はMr.9に。ゾロさんがミス・マンデーに武器を構えた。動揺してる彼らに武器を突きつけることくらい簡単な話だ。

 

「口を割られるとコチラとしても厄介…始末するですか?」

「それ完璧犯罪者のセリフだぞ!」

「何を今更、私は海賊です。世の中そんな物ですよ、それともそのような事を知らずに賞金稼ぎをすていたとでも?」

 

 まァ実際手を汚すの嫌だからしないけど。

 

「っ、ま、待ってくれ。私もMr.8と長くペアを組んでミス・ウェンズデーとはと、友達、だ。事情を聞かせてくれやしないか?」

 

 ふむ、と少し考えてみる。

 恐らく海賊を狩るのは任務。黒幕であろうクロコダイルは果たして任務を失敗する無能を自分の元に置いておくか?

 

 答えは否。

 長くペアを組んでいたという事は長く会社にいたこと。そんな事は理解してるだろう。ひょっとしたら味方に引き入れる事が出来るかもしれない。

 

「ビビ様」

「うん」

 

 レッツゴーを出したらビビ様は頷いた。

 

「二人共、実は私とイガラム──Mr.8はアラバスタの国の王女と兵士なの」

「「王女ォ?」」

 

 思わぬ単語に2人は首をかしげた。

 

「……抵抗する気もないからとりあえずそのデンジャラス箒とミス・マンデーに向けてる刀を下ろしてくれ」

 

 Mr.9が首をかしげた際に視界に入った武器にケチつけた。

 まァ仕方ない。渋々箒と刀を下ろした。

 

BW(バロックワークス)の目的はアラバスタ乗っ取り、陥れる事だからそれを止めるためにここに潜入したの…騙していてごめんなさい」

「「……」」

「Mr.0、ボスを敵に回す危険は分かってるけど。どうしても私は国を守りたくて」

「ミス・ウェンズデー」

 

 そこまで言うとMr.9が言葉を止めた。

 

「長くペアを組んだよしみだ。協力させてくれ」

「どうせこの一味討伐の任務失敗で消されることは確定だしね…最後まで抗ってやろうじゃないか」

 

「はい言質取りますた裏切り確定ー!さて、まずキミ達がご存知の情報を全て吐くして痛い!」

「感動のシーンに水を刺すな糞ガキ!」

 

 ゾロさんにぶっ叩かれた。

 

「……酷い。ぶっちゃけグダグダすてる時間は無いと思うですよ?」

「は?」

BW(バロックワークス)の方に聞くです。麦わらの一味又は堕天使について何かしらボスから情報は得てるですか?」

 

 ビクッ、と肩が跳ねた。

 図星だな。

 

「なんと?」

「……堕天使には最大限気を配れ、と」

「はい確定ー!全く嬉しく無きー!死ねクソー!」

 

 堕天使=私だと知ってる奴なんて限られてんだよクソが。向こうはこの島に寄る可能性は1/7だけどわざわざ警戒はしてたってわけですね!

 

「追手の可能性、高いです。とても」

「どういう…」

「ですから!ビビ様がウェンズデーさんとバレるていて泳がしているですよ、キミ達のボスは!」

「ど、どうしてそんな事が分かるの!?」

 

 多分だけど、私とビビ様が友人と知ってての処置だろう。クロさんは。

 私の能力を引き入れたかったから餌を振りまいてる。

 

「キャハハッ!大当たり!どうしてキミ達2人に重要な任務が回ってこなかったか、そしてそこまで強くないのにフロンティアエイジェントまで地位を作れたか教えてあげようかしら?」

「簡単な話。監視するのに丁度いいからだ。なァ、ビビ王女にイガラム隊長殿?」

 

 新たに現れた声に全員の意識がそちらに向く。

 

「あ、あなた達は……Mr.5とミス・バレンタイン…!」

 

 これ、数字の若い人の方が強い形式?

 

「その通り…ッぎゃう!」

 

 

 

 

 突然Mr.5が悲鳴を上げた。………何が起こったか、簡単に説明しよう。ゾロさんがさっさと斬りかかった。

 

「な、何をすウグッ!」

「女、テメェもやられてみるか?」

 

 倒れたMr.5とそれを踏みつけるゾロさん、そして無言で首を降るミス・バレンタイン。いや、そんな顔で睨まれたら怖いよね。

 

「うわ凶悪犯」

「しばき倒すぞテメェ」

 

 サンジ様の呟きにゾロさんが反発する。やめて、無礼禁止。

 

「ゾロ───ッッ!リー───ッ!」

 

 大声が聞こえた。ルフィの大声が。

 

「ルフ─」

「飯を食いっぱぐれたくらいで怒るな!」

「「「は?」」」

 

 意味のわからない言葉に全員首をかしげる。ごめんなさい全く意味が分からないので細かく設定してください。

 

「折角ご馳走してもらったのになんで町の人倒れてんだ!」

「いや、説明すますが一応彼らは」

「知るか!俺は怒ったぞ!リー!」

 

 ゾロさんが怪我人だと分かってかルフィは私に向かって殴りかかって来た。

 

「この単細胞!話を聞くしろ…!」

 

 慌てて避けるが避けた場所にはルフィの蹴りが飛んでくる。

 

「く、ぁっ!」

 

 痛い痛い痛い!痛いなちくしょう!

 かなり本気で蹴りやがったな。

 

「頭ぞ冷…」

「言い訳すんな!」

「理不尽!」

 

 また殴りかかって来るので私は急いで箒に飛び乗り空に逃げる。一応念のためナイフも構えて。

 

「〝ゴムゴムの…ロケット〟ッ!」

 

 ビュン、と飛んできたルフィを避けたが箒をつかまれる。

 このバカ、絶対1発ぶん殴る!

 

「うりゃぁあ!」

 

 ルフィの攻撃をギリギリで避けながら上下左右に逃げるが私は今日1日でかなり疲労しているからまともに不思議色の覇気を使えない。

 

「う、わ!」

 

 考えている隙に地面に叩き落とされる。

 これ、私骨折れてない?折れてないよね?信じてるよ?

 

「ルフィ止めて!」

「おいルフィ!」

「ルフィさん!」

 

 周囲の声なんて聞く耳持たず、まだ空中にいるルフィは骨を膨らませた。

 ラブーンと戦った時みたいに。

 

「〝ギア3(サード)〟」

「ひ!」

「リーは強いから本気でやらないと怒れない!」

「怒るのはこっちぞドアホ!」

「〝ゴムゴムの巨人(ギガント)ピストル〟!」

 

 私の何倍もの手が襲ってくる。

 これ、普通死ぬよね?

「一か八か…!」

 

 1回たりとも成功した事無いけど悪魔の実の能力を無効化させる!

 

 咄嗟にアイテムボックスから()()()の塊を取り出した。

 

「抜けるしろ!」

 

 投げつける様に石を操るとルフィの右手にぴったり当たった。自然と体は元のサイズに戻ってくる。

 

「は、れ?」

 

 その石を掴むとルフィに当てたまま組み敷く、よし、成功。そうすると小さくなる副作用も止まるのか…、なるほど。

 

「リー…?なんだこれ、力がでにゃ…ひ…」

 

 未だに冷や汗は流れ心臓はドクドクと嫌な音を立てて騒いでる。

 こわ、何この子怖。

 

「は、は、……この、ドアホ!」

 

 思いっきり殴るとルフィは痛てぇ!と悲鳴を上げた。

 その様子にルフィの能力を知ってる人は首をかしげる、アァ、そうか、海楼石の説明をしないといけないか。

 

「これ、海楼石と言うです。海と同様の力を持つ石、これを能力者に触れるさせるなればこの様に力が抜け能力を無効化可能です。加工がとても難しく、この様に石の状態だと安いですが手錠や檻にする場合はかなりお高くなるです」

「唐突に授業を始めるなよ」

 

 Mr.9がツッコミを入れる。

 

「リィンちゃん大丈夫!?」

「まァ、ちょっと足が痛むですが生きてるです、ありがとうございますビビ様」

 

 さて、ルフィに状況説明とMr.5ペアに脅しをかけなければいけないな。

 

「と、言うわけで一応この錠をその2人に付けるて下さいゾロさん」

「お、おう……なぁ、これって効く面と効かない面ってあるか?」

 

 効く面と効かない面?

 ゾロさんの言葉に首をかしげながら錠を渡す。そんな物は無かったと思うけど…、はて。

 

「無いですけど?」

「じゃあなんで()()()()()()がその海楼石に触れるんだ?」

 

 ルフィ見た限りじゃ触っただけでダメっぽそうだし…、と言葉を続けられてハッとする。

 

 

 盛 大 に し く じ り ま し た 。

 

「こ、コツがあるですよ!私は1粒程の大きさ能力の相性的に効きにくいのみですぞりんちょ!」

「……目に見えて分かるくらいには動揺してるな」

「……か、海軍の最重要機密事項に引っかかる故に言えぬです」

 

 嘘は言ってない。女狐(最重要機密事項)の1部だからね、これ知ってるのクザンさんくらいだが。

 

「ルフィー!ゾロー!リィンー!サンジー!おおおおい!これどういう状況だよ!」

 

 長い鼻、ウソップさんが駆けてきた。

 ナイス(話題転換)タイミングだろう。

 

 

 

 

 ──説明中──

 

 

「なんだそういうことか!悪かったな!」

「この腹立つ笑み、殴るしたい」

「あー…寝てて良かった」

 

 こっちは本気で兄に殺されるかと思ったのに本人この能天気。

 もう嫌だー。本気でいやー!

 

 

「あの、リィンちゃん」

「は!」

「…さっき、助けてって言っちゃったけどやっぱり取り消して…。その、黒幕はとっても強いからいくら貴方達が強くてもきっと……」

「まァちょっと待つしてください」

 

 ビビ様の会話を無礼だが中断させ、ある木箱にズカズカ近付き首根っこを引っ張ると2匹の動物が居た。

 

「とても困るですよー…その()を持つして行くされると…私うっかりてっきりポッキリ行くです、慌てるして。首を」

 

 手に持ってるイヤにリアルな絵(しかもMr.5ペア以外の面子)を持っていかれると困るので持っていかなかったら酷いことはしないよという意味を込めて安心させる様にニコーっと笑うがバイブみたいに震えだした。

 どいつもこいつも人の笑顔に怯えやがって、解せぬ。

 

「おい、笑顔で人を無意識に威圧する癖やめろ」

「まさかこれが覇王色の、覇気…! ついに私も開花したと!?」

「覇王色ってのが何なのか分かんねぇけどとりあえずその覇王色に謝れ愚弄するな、なんの色だ」

「んー、ゾロさん相変わらず辛辣」

「少しは話噛み合わせろよ」

「パラレルワールドですよ、きっと、そっちの私はどんな感じですか?」

「埋めた」

「待って、まさかの殺害後!殺意が留まるところをご存知無い!」

 

 

 

「「「ふざけてる時じゃないだろ!」」」

 

 私達にツッコミを入れたのはBW組の4人でした。

 

 




リィンの頭がイマイチ足りてないのは混乱+披露のおかげ。
アンラッキーズが原作と違い物陰に隠れていたのは大人数を書き写すためです。
ロリコダイルさんは手配書が配られた時から司令に『堕天使に最大限気を配れ』と追記してた模様。


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第98話 苦労も受難も続いてく…どこまでも…

 

「現状どうするのか考えましょう」

 

 ナミさんがカオスになっていた空気を変えるために手を一度叩いた。

 

「こいつらは賞金稼ぎ兼犯罪組織の社員の幹部って事よね」

 

 協力の許可が取れた2人と新たに追加されたMr.5ペア。そして縛られた謎の動物を指さすとビビ様は頷く。

 

「あんたはアラバスタの王女でこの会社にイガラムさんと一緒に潜入してた、と」

 

「はい…その通りです」

 

 

「そのBW(バロックワークス)っていう会社の目的はビビ、貴女の国の乗っ取りなのね?」

「ええ、恐らく」

「いや、違うと」

 

 ビビ様と私の言葉が被った。

 

「どういう事だ…?」

 

 ウソップさんが首を傾げる。恐らくこの場にいる全員が思った事だろう。

 

「あ、あいつの目的は確かに乗っ取ると言っていたわ!」

 

 ビビ様が言う。

 まァ目的をそれとして言っておかないと協力するも何も無いから、口実としては充分だろ。

 

「国を乗っ取るして、何が目的でしょうね」

「「「「「?」」」」」

 

 新旧BW組も首をかしげる。

 言葉が苦手だからきちんと伝わるかどうか分からないけど。

 

「目的が国、では無くて目的の為に国が居る。ってこと?」

「そう!それですナミさん!」

「でしょう、リィンの言いたい事なら何でも分かるわ。ご褒美としてお姉ちゃんと呼──」

「そもそも国を得るしても不利益ばかり。友好国は失うし、アラバスタとなれば水問題、そして七武海とあれば政府が絡むも必須な件」

 

 オレンジ髪のボンキュボンを華麗に無視しつつ話題を続ける。

 

 奴はドフィさんが動かしてる国事態に全く興味を示さない。支配欲も少ないだろう。野心の方向性が違う。

 ……そもそもドフィさんもなんで国王になったんだか。

 

「まァ考えると国を狙うは意味が分からん!という訳で、他に目的があるのではと思うです」

 

 私とクロさんの関係性を口に出す気は無いから細かい理由は述べないがある程度疑問点はある。

 

 

 

 まずビビ様を放置していた事。

 アラバスタに住むのなら、ましてや王族相手にドンパチやらかすクロさんが国の王女の顔を知らないと思うか?答えは否、あの周囲を固めていくあくどいやり方且つ脅しをフル活用する性悪男が調べないはずが無い。つまりビビ様の情報は偽物の可能性がいくつかある。そして、その偽物の情報が『国を乗っ取る事』かも。

 

 次、簡単に口を割る幹部。

 話によればBW(バロックワークス)社員はMr.5以上の幹部は特別扱いしてるらしい。が、あの人の基準でこのMr.5ペアを認めるとでも?私は絶対思わないね。しかも奴は誰も信じない面倒臭い人種だからな、先程と同様、最終目標(国を乗っ取る事)を簡単に割るわけ無い…建前の可能性がグッと高まる。

 

 更に、クロさんが優等生だという事。

 海軍及び政府の彼の評価(表面上)は〝優等生〟 そんな奴が国の上に立てばその評価もひっくり返りかねない。会社を立ちあげるためだけに評価を作ったとも思えないんだ。もしかしたらその評価を使って国より更に上の目的の可能性が出てくる。

 

 

 

 まァざっくり言えば。

 

 

 そ ん な 程 度 で 終 わ る わ け な い だ ろ あ の 砂 鰐 が !

 

 

 政府側の立場にいる海兵(=私)でも勧誘しないと達成しにくい作戦 目標があるって訳ですよね?

 

 

「あの…私達一言でも七武海って言ったかしら………?」

「……」

 

「固まった」

「固まったな」

「固まってるぞ」

「突かれたらまずい所突いたか」

 

 

「予想は簡単に付くです、よ。あの国に居て、変な事を企むそして実行する能力があるのは七武海くらいでしょう」

 

 声に覇気が無かったが仕方あるまい。

 私多分疲れてるんだな。(遠い目)

 乗っ取られるからアラバスタも革命候補に入れよ。(諦め)

 

「で、確認が終わるしたのでそちらのBW(バロックワークス)諸君に選択の余地を与えるでーす!」

「空元気か」

「黙るしてウソップさん」

 

 私が4人+2匹を向くと全員肩をビクッと揺らした。

 

「1、口封じで殺すされる」

「最初の選択肢から随分物騒だな!」

「2、任務失敗で殺すされる」

「結果変わらねぇ!」

「3、裏切る 4、協力する 5、捕まる」

「雑か」

「最後に6、軍に入る」

 

 ある程度の選択肢を与えるとサンジ様が疑問を持って声をかけた。

 

「軍って、どうやって?」

「あー…私元海兵ですよね、ですからツテはあるですよ。その方法も。例を言うなれば、コビー君」

「「あぁ…」」

 

 ルフィとゾロさんから納得の声が上がる。もちろんほかの人は首を傾げるだけだが。

 

「更なる追手の可能性も捨てきれぬので巻で行くです。まず1、2、の説明は飛ばすましょう。意味わかると思うですから」

 

 そう言うとBW組は頷く。

 

「『裏切る』はBW(バロックワークス)を、です。そのままトンズラをこぐすちゃおう!ってわけですぞ」

「一番平和だな」

「その代わりいつ組織から命を狙うされるか、口封じで第3者に殺すされるか分からぬ不安と戦うしながらですけどね」

「一番質が悪かった!」

 

 ウソップさんが律儀にツッコミを入れてくれる。会話の邪魔にならない程度なので脅し…もとい、説明には丁度いいだろう。実際それを想像したのか顔青くなってるし。

 

「『協力する』はその名の通り。ビビ様の手伝いです」

 

 ここで私達とは言わない。ビビ様の発言撤回もあり私はまだ()()()()巻き込まれちゃいないから押し付けてるだけだ。……この時点で巻き込まれてる気がするけど。

 

「ある種、スパイとも言うですね。全面的にBW(バロックワークス)と敵対行動です」

「うわ、俺ならやりたくねぇ」

 

「5、『捕まる』とは逃げです。答えは留置所またはインペルダウン送り。国家転覆を企む場合はインペルダウンでしょうね…」

 

 企む、くらいなら留置所だが。……決行したら間違いなくインペルダウン。

 ちなみに誇張して言うのには理由がある、選択肢を一つに絞る為だ。

 

「命狙われるわけじゃないから確かに逃げるのには最適だな」

 

 ウソップさんが同調したのでここから私の本気のターンだ。

 

「はーい!皆さんそれではここからインペルダウンの階による責め、と言うを学ぶしていくでましょー!」

「「「「は?」」」」

 

 全員が私のテンションの変わりっぷりに首をかしげるが、私はお構い無し。

 

 

「地上一階にござるは〝地獄のぬるま湯〟 殺菌消毒を兼ねた『洗礼』にございますでーす!なお、衣服を全て脱ぐした後100℃の熱湯にインです!」

「洗礼えげつねェなおい」

 

「さてさてここからは監獄タイム!一番軽い地下一階level1は通称〝紅蓮地獄〟いぇーがーにござるますです!懸賞金が低い囚人はその名の通り様々なる拷問道具及び植物でフロア全体血が溢れるです」

「それ一番軽いヤツなのか?ほんとに一番懸賞金が低い人間が行くところなのか?」

 

「地下二階は通称〝猛獣地獄〟 猛獣使いでサド助が暴れ回る言わば戦場。はてさて何人が死ぬでしょうか!」

「笑顔で怖い事言うな!トラウマだわ!」

 

「地下三階は〝飢餓地獄〟 5000万ベリー以上の懸賞金がかかれば間違いなくここからと噂の地獄に等しい適所だこの野郎。水も食料も無駄に使えるか馬鹿野郎的なやつですぞ、ちなみに環境は激アツ乾燥」

「お前だったら絶対1日で死ぬな」

 

「続いて呼吸するだけで肺を焼くされる地下四階〝焦熱地獄〟!煮えたぐる血、周りは火の海、生存確認は約10%!ここぞまさに地獄!」

「実は説明するの楽しんでるだろ」

 

「さて事実上ラストとなるは地下五階〝極寒地獄〟…指はポロポロ耳はボキボキ。もちろん防寒着などございませぬ!隣は死に、前も死に、次は自分かと怯えるして精神が病むと噂!寒さでいえば寒暖に強い電伝虫が素足で逃げるするレベル!」

「そういや電伝虫って真冬でも平気だもんな…どんだけ寒いんだよ」

 

 

 そこまで言うと私は改めて4人+2匹に向き直った。

 

「選択は?」

「「「「軍の方でお願いします!」」」」

 

 揃えられた返事が返ってきた。

 動物2匹も頷いているからインペルダウンの脅しは効いたことだろう。いやー…インペルダウンって偉大。

 

 つまり、自然と口封じと行動制限が取れるってわけだ。

 

「………私、リィンちゃんが敵じゃ無くて本当に良かった」

 

 

「BW組は理不尽が服着た奴に悩まされるしろちくしょう。私だけ振り回すされるは不公平だ」

「お前絶対それが本音だろ」

「私、モンキー一家の血筋大嫌い故に」

 

 ここでどうしてルフィの名前が出てくるのか分からない人が多いから全員首を傾げた。あぁそうさ、私しか知らないよ!

 

「ところでルフィさん」

 

 ビビ様はふと思い出した様にルフィに向き直った。

 

「とても、巻き込むのは辛いけど。私は守りたい物があるの、大切な大切な私の国。そのためには何でも利用するってずっと昔に誓ったわ」

 

 ルフィは何も言わずビビ様を見つめる。

 

「だからお願いルフィさん、貴方達を利用させて!……わたしの国を助けて下さい!」

「おう!存分に利用しろ!」

 

 ルフィは誰もが見惚れるような笑顔で笑った。………私には悪魔の笑みにしか見えない。

 

 

 

 

 パトラッシュ迎えに来ても大丈夫、ウェルカムだ。

 

 

 今なら余裕で死ねる。

 

 

 

 ==========

 

 

 

 発言撤回の見込みも少ない、一味ほぼ全員やる気の状態での開幕。私1人が難色を唱えても多数決で反論は塞ぎ込める上に王族の願いときた。

 ひじょーーーーに、不本意だが全力で世界最高峰の海賊と化かし合いしなければならない。

 

「これでビビ様への追手の可能性は減りました、が油断は出来ませんね」

 

 イガラムさんが言うと周りも頷いた。

 

「えぇそうでしょうね、敵は七武海の内の1人なんでしょう?怖いけれど…やりたくないけどリィンの知り合いなら協力するわ」

 

 ブレないナミさんが七武海より怖い件について。急募、ストッパー。

 

「ふふ、リィンちゃんとは幼馴染みなの。何年かに1回は会ってるわ」

 

 ビビ様は嬉しそうに私を後ろからぬいぐるみかの様に抱きしめる。やめて、その様子でナミさんの目の光が増す、でも振り払えない王族だから!

 

「ビビ様話が脱線してしまいます…。ひとまず私が囮になりましょう。奴にとって厄介なジョーカーとなりうるビビ様暗殺に二重の手を打っている可能性があります」

「イガラム……」

「覚えてますねビビ様、死なない約束ですよ」

「……ええ!」

 

 

 アラバスタ組が話を進めている内に、私はBW組のこれからについて話さないといけない。

 

「リィンちゃん!今から港までイガラムを送ってくるんだけど貴女は?」

「………。私はここにいるです、お別れをしていてです」

 

 ビビ様を囮の出航に立ち向かわせる事事態拙いけどBW組への説明には中途半端に私の地位(雑用だけど)を知ってる人がいるのは都合が悪い。

 渋々ながら頷き、残る事を進言する。

 

「…! ありがとう!」

 

 嬉しそうに笑いながら港の方へ駆けて行った。一味もそちらに向かう。

 

 

 

「さて」

 

 私が振り向くとBW組はビクッと肩を揺らした。

 

「軍にぞ入る、と言質は取りますた」

 

 つまり、私の雑用係又は仕事押し付け係となるわけです。

 

「これから言う事…他言無用でお願いするですね?」

 

 BW組は無言で首を縦に振った。




BW組(Mr.5ペア ミス・マンデー Mr.9 アンラッキーズ)はこれからが地獄。ちなみにサブタイトルの『苦労と受難』はリィンの事も含まれてますが具体的に言うとBW組です。


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第99話 1日の終わり

 

「実は私キミ達を駒にするしたいと思考中ですて」

 

「うわ、もう早速選択肢間違えた」

 

 Mr.9が青ざめてポツリと呟く。残念だったな手遅れだ。

 

「ある人物の部下になって貰うです」

「「「「部下?」」」」

 

 BW組の声が揃う。

 

「ある人物とは大将女狐、一番謎の多き最高戦力です」

「ま、まて!俺たちはそこで何をさせられるんだ!?」

「雑務?イビリ?まァ………色々と」

「その間が嫌だ!」

 

 Mr.5は大将という言葉にビクリと肩を震わせると続けられた言葉を聞いて現実逃避とばかりに顔を横に振る。

 

「ご安心願うです、彼女は表立った仕事も隊を組むして行う討伐も全くありませぬし正体不明を貫くしている故実際はとある中将のお預かりになると思うですが!」

 

 全員が少しホッとした顔に変えた。

 中将も大概だと思うが謎が多い大将と比べたら全然安心できるんでしょうね。解せぬわぁ。

 

「伝説と渡り歩くた英雄ガープですけどね」

「「上げて落とすな!」」

 

 Mr.9.5が同時にツッコミを入れてきた。

 

「個人的に落とすして上げるするより(締め)上げるして(意識を)落とす方が好きです」

「なんだろうこの得体の知れない恐怖……この人もうヤダ」

「ま、大将女狐って私ですがね」

「「「「お前かよ!」」」」

 

 BW組が意外に仲良く揃うので内心びっくりしてるリィンさんです。

 

「よって、私の秘密を守る事と命令に従うことは完全に命に関わるですからね、気をつけるしてです」

「今からでも牢屋に変更したい。多分こっちの方が地獄…だ」

「「「同意」」」

 

 動物2匹も首を縦に振る。人間の言葉は通じるんだよね、便利。

 いずれ伝書バットは海軍に返さないといけなくなるから情報屋の青い鳥(ブルーバード)も動物2匹に頼もうか。

 

 動物2匹はアンラッキーズって言うらしいけど『幸せを運ぶ青い鳥』が象徴の組織に全く似合わない不吉な名前の運び屋になるな。

 

「とにかく」

 

 アイテムボックスから書類を出し書きながらも話は続ける。

 

「私の悪魔の実、シャレになりませぬ故に反抗は無駄と思うしてください。てへぺろ」

「マンデーちゃんこの子怖い嫌だ助けて!」

「バレンタイン、諦めなよ……」

「ちょ…!Mr.5、マンデーちゃん目が遠い!どうしよう!」

 

「はい!そこのMr.5ペアの2人!」

 

 ビシッと指をさせば未だに腕に付いてる海楼石の錠を盾にしやがった。

 

「な、なに…?」

「なんだ……?」

「任務報告、ござりますよ、ね?」

 

 彼らにだけ託された特別任務。

 

「お、王女様暗殺任務?」

 

 大正解!どうせBW組はこの後海軍に行くから盛大に裏切り行為を行ったとしても支障は無い!

 ならいっそ動きやすいように死亡報告出しとくべきでしょうよ。死亡報告は穴だらけの作戦だけど無駄な足掻きくらいしてやるさ!

 

「ささ、電伝虫かけるですよ〜。私監視の元」

 

 2人は顔を見合わせ目を伏せた。

 なんだ、その空気は。私が諦めの境地に突入した時そっくりじゃないか。

 

「「………」」

 

 静まり返る。それはMr.5が電伝虫を取り出してかけだしたからだ。

 

──ぷるぷるぷるぷる…ガチャ……

 

 出た。

 

『………Mr.5か、報告待っていた』

 

 電伝虫で少し声が違って聞こえる。

 

 あぁ…このくぐもった無駄過ぎるイケメンボイス。間違いない、クロさんだ。

 

「ボス…王女暗殺の任務は成功しました。死体が見つからない様に海に沈めましたよ」

『……それならいい』

「もちろんMr.8共々です」

 

 Mr.5が少し震えた声を出して報告した。

 そんな彼にもう一つ私が紙で司令を出す。

 

 

  『 麦わら の 一味 の 賞金首 2人 は 海 に 落ちて しまった 』

 

 

 嫌そうな顔をするでないMr.5。

 

「それと別の、ウイスキーピークの任務も俺が代わりに報告させてもらいますが。どうやらボスが気にかけていたルーキー達は能力者の様で海に落ちてしまったらしいです」

『……〝堕天使〟と〝麦わら〟が、か』

「はい。他のクルーは落ちても溺れませんでした。負傷していたので能力者を助けに行く事が出来なかった様で今は念のため小屋に閉じ込めています」

『クハハ…! 所詮ルーキー! やはりこの程度だったか………。油断はするな、もしかしたらの可能性もある』

「イエスボス」

 

 Mr.5が思ったより有能だった。

 うん、この報告なら大丈夫だろう。

 

『………堕天使が本当に死んだか確認したか?』

「Mr.9曰く、落ちたのは数人が見た。と。その時にはMr.8も参戦していたので幹部以外は数名しか確認していませんでしたが」

 

 麦わらの一味ウイスキーピーク到着→能力者死亡仲間捕縛→Mr.5ペア到着→王女抹殺って設定か。

 ……ここで誰か1人でも雑魚が残ってると拙いな。口を割られるとこの報告が全て嘘になる。

 

 私は追加の指示を出した。

 

 黒幕が七武海(クロコダイル)なら信じる嘘を。

 

 

  『 ▼ 海軍 が 現れた 逃げろ 』

 

 

 ジト目で見てくるMr.5が少し怖いっす。

 

「ッ、ボス!大変だ、何故か海兵がいる!」

『誰だか分かるか!?』

「へ?え、あ」

 

 

  『 海軍 中将 ガープ 』

 

 

 果たしてそれで信じてくれるのか、という目が突き刺さる。

 

「あ、れは…恐らく英雄だと」

『チッ…嗅ぎつけたか。ウイスキーピーク全体にそこは撤退しろと伝えろ!』

「マジかよ……」

『どうしたMr.5』

「いえ!なんでも!」

 

 多分『マジ(でこれが通じるの)かよ……』だと思う。そりゃ天下で王下の七武海様がこんな簡単に騙せれるわけが無いよな、私がガープの孫だと知らない限りは。ハハッ…しかしこれ追手来たら本当に1発でバレるな…。まァ上手くいけばいいって所だろ。

 

「思うしたより綱渡りな嘘ですがまァ恐らく向こうの計画は最終段階に突入するですと予測、無駄足は不可能でしょう」

「どうしてそう思うんだ……?」

「アラバスタ内が荒れる故に」

 

 恐らく革命軍も何とか手を打ってる事だろうし、得た情報的に国家転覆ギリギリ数歩手前だろう。

 ここで目先に集中してしまうのがクロさんの長所であり短所。

 

「ぐへへへ……、これだから詰めが甘いと言われるですよ…」

「この子が本当に海兵なのか疑えてきた……あぁ…不安だよ」

 

 ミス・マンデーがため息を吐く。

 

「あなたがボスに勝っちゃったらあたし達どうなるの?」

「残党兵として処罰するされる、か。正体を隠し女狐の影に隠れるするか」

 

「あの…」

 

 Mr.9がそろっと手を上げたのを見てどうしますた?と聞いてみた。

 

「軍では一体どんな事を…するんだ?ですか?」

「あー……私がしていたことの引き継ぎが主だと思うです」

「ホッ…なら危険は少ないか」

「脱走兵…、まぁ青雉や英雄の手綱を握るして表では雑用として過ごしますた故にそちらの任務…。それと七武海へお茶出しや会議の参加、シャボンディ諸島での内緒のゴミ(海賊)掃除…ですかね!」

 

 笑顔でサムズアップすると青ざめられた。

 

 流石に信用の置けない大人を中枢に置いたりなんかしないさ、雑用とか七武海の相手が主立ってるんじゃないかな?

 癖さえ掴めれば中将だろうが七武海だろうが動かせる、頑張れ。

 

「私の独断ですがアラバスタへ行く前に一つ島には寄ろうと思うしてるです。ここで海軍を待つするかアラバスタで待つするかその島で待つするか決めるしてです。───ちょっと電伝虫かけてくるぞ」

 

 それだけ言うと少し距離を取った。

 海軍への連絡は……後で。

 

 

 

「──もしもし?私リィンさん。今貴方の後ろにいるのです」

『……ふざけてないでさっさと要件を言え女狐』

「ハッハッハー、サボさんキミは折角情報と万全なる協力体制を取ることが可能となりた私にその態度は如何程か!」

『数時間前の自分に戻ってお前をぶん殴りたいよ、一々腹立つな。で?』

 

 例え数時間ぶりでもその塩対応は堪える。酷いわお兄様。

 

「アラバスタ、やはり黒幕はクロコダイルで間違いが無きです。潜入していた王女と協力体制が取る出来ますた」

『は!?ちょ、王女だ!?お前どこからそんな事手に入れた!』

 

 電伝虫から狼狽えた声が聞こえ、その背後からか他の人の声も聞こえた。ざまぁみやがれ。

 

「Mr.8とミス・ウェンズデーはアラバスタ国側ですたからね! それと私の海賊の方もクロコダイルぶっ飛ばすに賛成らしきです。私の人徳に感謝せよ」

『アリガトウゴザイマスー。要件人間と言われる俺に雑談を求めるな、今テメェが持ってる情報全て吐け──こっちも言う』

「わぁお、それは私を信用してくれていると?2年でようやくこの関係…私泣けるぞ」

『分かった、アラバスタでお前と合流して頭蓋骨かちわる』

「……脅しが冗談抜きに実行可能でリィンさんガクブル」

 

『で?』

 

 一言だけだが圧力を感じる。素直に話そう。

 

「じゃあまず追加の協力の報告、幹部がこちら側に。それと頼みも、私の伝書バット…あー、いや、新たに大量の荷物配達可能なる動物を入手した故に向かわせるです。そこで譲って欲しい物ぞ存在し───………」

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

 電伝虫を2箇所にかけ終わって少し雑談混じりに錠を外している時だ。

 

──ドォンッ…!

 

 突如、巨大な爆発音が響いた。

 

「何事!?」

 

 まさかとは思うけど…──ルフィが何かやらかした?

 

「何の音だ…?スッゲェ嫌な予感がするんだが……」

「Mr.9に同意……、この海賊団ろくな人間いないと踏んだわ」

「ミス・バレンタイン…。これからどうする」

「Mr.5が決めてちょうだい」

「は!?なんで俺だよ!」

「この中で一番強いでしょう!?悪魔の実も攻撃的だし!」

「それとこれとは違うだろ!」

 

「ハイハイあんたら落ち着きなさいよ…。とりあえずこの子について行くでいいわね?身の安全は大体保証されるしこのままこの島に残っててもいい事無しよ」

 

「やだ…マンデーちゃんがお母さんしてる…」

「ガタイの割に母親してるな」

「ガタイの割に。」

「ミス・バレンタインは許すけど男の2人は許さない」

 

 BW組仲良しか。

 

 

「リー!」

 

 ルフィ(兄妹)独特の呼び方で呼ばれて振り返った。見送り組が慌てて走って来る。

 

「おっさんの船が爆発した!」

「……。追手が来て爆発させてしまったから囮の意味をなさなくなるした、逃げるしろ。という意味ですね」

「「「「「正解!」」」」」

 

 とりあえずさっさとこの船離れなければならない。Mr.5ペアを向かわせた後に追手だという事はこいつらより更に強い人間の可能性が高い。

 全員が揃って船に向かって走る中、箒で飛ぶ。

 

「それはずるい」

「ずるいな」

「ずるすぎ」

「流石私のリィンね!」

「それはちょっとずるいかな」

 

「へへーん!私の専売特許ですー!おっ先ー!」

 

「……麦わらの一味仲良しか。」

 

 

 

 ==========

 

 

 

 先に船に乗り込んだ私はさっさと出航の準備をする。無機物操れる私最強、いつもの数倍早い時間で終わった。

 

「ゼェ…ゼェ……こいつら体力化け物…」

「ナ、ナミさん大丈夫…?」

「おおーし!出航するぞー!」

 

 それぞれが思い思いの場所につく。

 

 空は段々白けて来てあぁ朝が来てしまったかとか悶々と考えてた。

 

「なんでお前らここにいるんだ?」

「「「「今更かよ!」」」」

「えーっと…Mr.9達は協力してくれるって言ってたけど…」

「ええーーー?」

「リィンちゃんがまとめてくれたんだと思うわ」

「そっか、ならいいや!」

 

 ルフィがBW組がいる事に首を捻るけどビビ様が説明してくれた。王族に説明させるとか……、いいのかな。まァ、しかし信頼されすぎると一応スパイしてるこちらとして心が痛いわ。

 

 

 

「ヘェ…堕天使さんはそこまで信頼されているのね」

 

 

 見知らぬ声が聞こえた。

 

「何故…あなたとあろう方がこんな所に…」

 

「久しぶりね、ミス・ウェンズデー、Mr.8なら先ほど会ったわ。それと…アンラッキーズにMr.9にミス・マンデー、Mr.5ペア…?」

 

「「「「「ミス・オールサンデー!」」」」」

 

 

 どう考えてもBW関係の人が来たことに私は全部日曜でも海軍というブラック企業に休みは関係ないよなー…とか現実逃避してた。

 

「どうして…!」

「王女さん、敵に聞けばなんでも返ってくるとでも思っているの?…──それと」

 

 ガチャッ、と音を立てて咄嗟に構えたであろうウソップさんのぱちんことサンジ様の銃が地面に落ちた。本人ごと。

 

「物騒な物、こちらに向けないでくれる?」

 

「……」

 

「…箒は確かに物騒じゃないけどそれも向けないでくれるかしら……」

 

 無言で箒を構えたけど叩き落とされた。

 

 今の、手だよね?

 手が生えた?

 私の腰から?

 

「……!おばけ…!」

「違うから」

「…? では何です?」

「そうね……悪魔の子供、かしら」

「「「「悪魔はこの子だから!」」」」

 

 BW組の声の揃いよう。喧嘩売ってんのか。

 

「これ、良ければ使って」

 

 ミス・オールサンデーは2階から飛び降りて甲板にいる私の所に来たと思ったら手のひらの上に記録指針(エターナルポーズ)を置いた。

 

「はて、これは何です?」

「アラバスタの一個手前の何も無い島。BWもそこは知らないわ」

「はー…ありがとうござります」

「いえいえ、私貴女に会ってみたくてね。どういう状況でこうなったのか予想はしてなかったけれど」

「ご迷惑ぶっかけるです……」

「ご迷惑お掛けします。ね?」

「ところでオールサンデーさんは誰さんとペアなのですか?」

「ボスよ、Mr.0」

 

 

 

「ねぇ…なんであの子あんなに平然と喋ってるの?」

「七武海のパートナーだよな!?」

「そういえば七武海って言っても誰かは教えてもらってない…ビビ、誰だか分かる?」

 

 

「なるほどー、砂鰐のパートナーですたかー…悪魔の子ともあろう方が七武海に取り入って何を企むですか?」

 

「「「「「「!?」」」」」」

 

 

 私以外ほぼ全員が驚いた。所々砂鰐って何、という言葉が聞こえるけど海賊なら三大勢力の名前とかくらいは覚えようね。あ、でもルフィは七武海自体知らなかったか!ダメだわ!

 

「砂鰐…、砂、砂鰐……フフッ、ふふふ…!アッハッハッ…! 堕天使さん面白いわね」

「はァ…ありがとうございますです」

 

「なァリー。その砂鰐って誰だ?」

 

 ルフィの能天気な声が横から生えた。

 

「クロさ…ノダイル…」

「え?誰って?クロサノダイル?」

「………クロコダイル、です」

 

 危ない。私が言語不自由設定で良かった。ホント良かった。クロさんだなんて言った時には疑われる事間違いなしと言うか面倒な事になること間違いなしだよ。

 

「ねぇ堕天使さん。私気に入っちゃった」

「私がその言葉を素直に信じるするとでも?」

「でしょうね」

 

 オールサンデーさんの笑顔が胡散臭い。仮にもあのクロさんとコンビを組むのなら頭が悪いわけが無いんだ。

 

「取り引き、しませぬか?」

「あら…敵相手に度胸があるのね」

「まさかまさか!私など生まれるしたての小鹿状態です」

「フフッ……それで取り引きは?聞くだけ聞いてあげる」

 

 後ろのメンバーも今ここで見つかったという事が不味い、と分かってるのだろう。緊迫した雰囲気に包まれる。

 

 ここで私が出す手札は2個。

 会話で判明した彼女の正体と関係する。

 

「〝悪魔の子〟」

「何かしら?」

「魚人島の石の閲覧許可、私なら簡単に出すが可能ですけど?見たい、ですか?」

「…! オハラの生き残りだと分かって言ってるみたいね……」

「ええ!」

 

 ニコッと笑うと警戒心を強められた。

 

「失礼な…。元、ですよ。元政府関係者!」

「え…」

「元海軍本部雑用となるです!雑用でも最重要捕縛対象者の命令は配るされるですよ、政府的賞金首さん」

 

「…。見せてくれる、という言葉を私が信用するとでも?」

「でしょうね!」

 

 私、キミが思ってるよりキミの事知ってるよ?クザンさんが嘘つきは誰だゲーム何度付き合ったと思ってるの?時々縛りも入れたよ?『今は亡くなってる人』とか『辞めた人』とかはもちろんだけど……『()()()()()()』とか。

 

「私に求めるものは何?」

「知らぬフリ、です。貴方はここで何も見なかった。麦わらの一味など見ておらぬ。あーゆーおーけー?」

「……いいわ、私には利点はあれど欠点は無いもの」

 

 するとオールサンデーさん…──悪魔の子、ニコ・ロビンさんはクスリと笑って私の頭を撫でた。

 

「さようなら、小さな勇敢なる天使さん」

 

 すぐに甲板から海に飛び降りて何か変な鰐に乗った。

 

──ドサッ…

 

「リィン!?」

 

 ロビンさんが消えていくのを見送ると私は力が抜けた様に倒れ込んだ。

 

 ナミさんが覗き込んで来るのを始め、他のメンツも大丈夫かと口々に心配する。

 

「は、はは……もうやだ……眠いし疲れるしたし精神的に病むです……交渉上手くいくして、まことに、よかった……」

 

 私は力なく笑った。

 ぺしぺしと私のほっぺたを叩いてるルフィさんキミは何を訴えたいんですか。

 

 

「なァリー。俺、あいつの言う通りになるのなんか嫌だ!」

 

 

 ……だよね。

 ルフィの言葉に納得する。彼は命令されることが大嫌いと言うか自分で決めなきゃ納得しないタイプなのは昔から知ってる。

 

「もちろん。というか私は敵が寄越すした情報を素直に信じるするバカと思うですか?」

「思わない!だってリーって性格悪いもんな!」

「………否定は、出来ぬ、ですが、ですがァァァァ…!不服!不服ぞルフィ!」

 

 予想外の攻撃に心が痛む。辛いわ。

 

「とにかく、敵の手には踊らぬ様最大限注意はするつもりです…が…………眠い………」

「寝る前にこれからどう行動するか決めて置かないといけないでしょ!?起きて小悪魔ちゃん!」

「黙るしてバレンタインさん!誰が小悪魔ぞ!」

「どう考えても貴女よ?」

「ミス・マンデーの言う通りだな」

「ちょっとそこのBW組黙るして正座」

 

 Mr.9が巻き添えかよ!って喚いてるけど仕方ない。セットじゃないか。

 

 私は上半身を起き上がらせてルフィにもたれた。だるい。不思議色も使いすぎたしローグタウン着いてからずっと頭使ってたからもう本当にだるい。

 

「私はアラバスタへの永久指針(エターナルポーズ)は持つしておりませぬ。残念ながら」

「ええ!?じゃあ地道にログを辿っていくしか無いの!?」

「流石にキツイわね…。アラバスタがどんな状況か私達には分からないけど時間をかけすぎるのは良くないと思うわ」

 

 私はアイテムボックスから3つの永久指針(エターナルポーズ)を取り出して置いた。

 

「選べる手段は今の所4つ」

 

 その前に、とサンジ様に視線を寄越す。

 

「人数が圧倒的に増えた今。食料はどれほど持つですか?」

 

 サンジ様はしばらく考えた後に大体1週間かそこらだな…、と呟いた。

 

「はっきり言いますが過去の経験より1週間以上かかるです。しかも軍艦で」

「食料調達もしないといけない…と?」

「はい。ですから一つ島に立ち寄る事はオススメするです」

「食料が無いのは困るな!!」

 

 私を膝に抱え直したルフィがドンッと言い張るが、主にキミのせいで食料ガンガン減るんだからね?そこ自覚して欲しいな?

 

「そこで出番はこの永久指針(エターナルポーズ)。そしてナミさんが持つする記録指針(ログポーズ)です」

「磁気を永久的に記録する指針、だったかしら?」

「正解です。そして私が出すした指針はそこまで離れることも無く。寄るに最適な島だと思うです」

 

「でもそこからアラバスタへはどうやって…」

「そこは任せるしてですビビ様……。安心を…」

 

 心配そうに呟いたビビ様をフォローして話を続ける。眠い。心底眠い。

 

「多分、この航路だと追手がもしあれど心配無いかと……。島は右、こちらより春島、秋島、冬島です。島の説明に、つきますて、は、BW組に…お聞きすてください………。それでは、おやす…ぬぅ…」

 

「え!?ちょっと!?春島とかって何!?リィン!?」

 

 普段通りの元気が羨ましい。ナミさんの声をバックに私は眠りについた。

 

 




一日で起こったこと。
午前ローグタウン
午後双子岬と最初の航海
夜ウイスキーピーク
夜明けロビン襲撃

最初の航海は原作で多分短いだろうなーと思っています。長時間(何日)もあのてんやわんやが続くとは思えません。


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第100話 平和な時間

 

 

 

 冬島ドラム王国。

 

 ルフィにより選択された航路はあのワポル国王(ブリキング)が丁度居ない島で、ある意味安全だった。

 

 

 ==========

 

 

 

 

 ドラム王国に向かっている船の中では比較的平和な時間が繰り広げられていた。

 

 

 2日経った今ではBW組も船に乗る緊張が解れたみたいで手伝いやら漫才やらもしている。

 BW組は根はいい人が多くて麦わらの一味やビビ様と良好な関係を築けているようで。

 マンデーさんがゾロさんに腕相撲勝負を挑まれたらしいが『怪我人がふざけてるんじゃないよ!大人しくしてなさい!』と叱ったり(まじオカン)。 バレンタインさんとMr.5が能力を教えてルフィとウソップさんと仲良くなったり(武器マニア(ウソップさん)が特に)。 Mr.9はツッコミキャラらしくそこらかしこで弄られてる(やんわり止めるのはオカンの仕事)。

 

 

 平和だなー…平和、なのに…。

 

「何故新聞はこの様に物騒ぞ…ッ!」

 

 ルフィの膝の上で日向ぼっこしながら新聞をくしゃりと握りしめる。

 

「リー?」

「何事も」

 

 頭を傾げるルフィに何でもないよと伝えるとふにゃりと笑った。くっ…、私の兄ちゃんとっても可愛い…!

 

「新聞見終わった?」

「はい、一応」

 

 くしゃくしゃになってしまった新聞の皺を伸ばしてナミさんに渡す。

 

「あ、手配書のみ後で下さい」

「どうして手配書が欲しいんだ?」

 

 ナミさんの後ろからウソップさんも顔を出して疑問を口にする。

 

「って、まぁたくっ付いてる…」

「まぁまぁ…いいじゃない。美味しいし」

「怖ぇよ。何が美味いんだよ」

 

 もっと言ってくださいウソップさん。

 

「で、手配書ですたっけ?」

「そーそー」

「ライバルの能力や戦力を把握してるのです」

「……おいおい、喧嘩でもおっぱじめようとしてんのか?やめてくれよ?」

「ハハッ、無知乙。愚かなり」

「お前なんで俺に対して口悪いんだよ」

 

 リア充一歩手前だから。

 まァとりあえずそこは除き。

 

偉大なる航路(グランドライン)前半から後半にゆくまで赤い土の大陸(レッドライン)があるのは理解可能ですよね?」

「そりゃ……ん?でもどうやって抜けるんだ?」

 

 3人が首を捻る姿を見て私は続きを喋る。

 

「魚人島。地下を通るして海を抜けるです」

「泳いでか?」

「まさか、船ごとですぞ。船ごとシャボンというコーティングをすて潜るのです。そしてシャボンをコーティングするが為に一つの島…と言うより諸島に寄るべき所がありますて」

「へ〜…おっもしろそうだな〜!早く行きてーなー」

 

「問題はこの島。最初航路が7つに別れるしますが前半の海で全ての航路が合流する魚人島、もしくは諸島で会う可能性が高きのです」

 

 そこまで言うとウソップさんとナミさんがガシッと私の手を握ってきた。

 

「そこまで、考えてくれるのはリィンだけよ…ッ!」

「是非とも弱点を考察して生き延びれるようにしてくれ!」

「は、はァ…。ひとまず、この2人は注意ですね」

 

 ナミさんの持ってる新聞に挟んである手配書2つを取り出す。

 

 DEAD OR ALAVE(デッド オア アライブ) 〝死の外科医〟トラファルガー・ロー 懸賞金6500万ベリー

 DEAD OR ALAVE(デッド オア アライブ) ユースタス・〝キャプテン〟キッド 懸賞金1億4000万ベリー

 

 とりあえずキッド君。キミその顔どうした?お化粧クッッソ似合わないよ?モテなくていいの童貞君。

 

「ルフィより…上…!」

「いち、おく…………よんせんまん…」

「ローさんは戦闘能力高いですよ、敵対するは凶悪海賊や海軍が主ですな。キッドさんはガキ大将の延長…みたいですね、敵対するはローさんと同じで、あ、市民被害見っけ。危険ですなー」

「「呑気か!」」

 

 根が優しいのは知ってるけど敵対する事になるから怖いよねー。こいつらガンガン懸賞金上げすぎなんだよ。このヤンデレ気味男に癇癪持ち童貞。

 会わない事を祈ろう。ローさんとは対ドフラミンゴ同盟を結んでるけど。

 

 

「他にも目星はありますが…ライバルに巨人族が居ないのは幸いです」

 

 その発言にウソップさんが巨人族?と首を捻る。

 

「誇り高き一族です。巨人族の中にはエルバフという1部の戦闘特化の方もいるですてねー…まァ

、エルバフだろうがなんだろうが巨人族の海賊は捕まっておりませぬです。一般的に船長クラスは」

「すっげー……」

 

 ため息の様に賞賛の言葉を述べるウソップさんの目が輝いて見える。そう言えばウソップさんの夢は『勇敢なる海の戦士』になる事だったかな。

 曖昧な目標だが動かしやすい。

 

 

「リィンちゃん、ルフィさん、ナミさんウソップさん。サンジさんがご飯だって言っていたわ」

「飯か!」

「ぐえっ…」

 

 ルフィの膝の上に座ってた私はルフィが突然立ち上がった勢いで甲板に転がることとなった。呼びに来たビビ様も苦笑いをしている。

 

「えっと…大丈夫?」

「………なんとか」

 

 立ち上がって服についた埃や土を払うとルフィに引っ張られながらお昼ご飯を食べに向かった。

 

「リー…ちょっとお願いがあるんだけどよ…──」

 

 

 

 ==========

 

 

「サンジさーん、私食器洗いお手伝いするぞです!」

 

 私はご飯後、毎回食器洗いをしてる。

 

「おう!リィンちゃんありがとな」

「いえいえー!私がしたくやるのみですぞ!」

 

 王族に飯を作らせる事自体怖いんだがコックも好きでやってるみたいだし、ならせめて後片付けでも。って事だ。

 でもサンジ様は優しいから後片付けさせる事にどうやら罪悪感が湧くらしい。

 

「リィンちゃん…毎回有難いけど量も多いし」

「サンジさん! 報酬、甘い物が嬉しきです」

 

 食器を洗いながらニィっと後ろにいるサンジ様に声をかけるとサンジ様は苦笑いしながらいつもの様にポケットからラッピングされたクッキーを取り出した。

 ヒャッホーイ!クッキーはココアが好きでーす!

 

「報酬と言わずに言ってくれたらいつでも作るのに、いい子だなァ」

 

 すいません、自己保身でしか動いてません。

 

「あいつらも見習えばいいのに………」

「多分、二度手間かと」

「そりゃそうだ」

 

 椅子に座ってクツクツと笑う。

 

「なァリィンちゃん」

「はぁいサンジさん」

「……キミは、どうして王族に会ったことがあるんだい?」

「恵まれるした、です。たまたま立ち寄るした島でビビ様と会うしたのみです」

「キミは王族についてどう思ってる?国のため、とか大口叩いて平気で人を虐げる様な王族を。人を兵器としか見ない王族を」

 

 うーん、と少し考えてみる。

 これ、選択肢間違えたらダメな奴ですよね。

 

「少なくとも」

 

 洗い終わった食器を片付けながら口を開く。

 

「自分に害があるなれば近づきませぬ。得があるなれば利用するです。無償で働くしようとは一切思いませんです」

「……、俺はキミが聖人君子な子だと思っていたよ。思っていたより現実主義な子だったんだな」

「幻滅しますた?私は元々自分に利益な事を優先する卑怯者ですよ」

「……俺だって卑怯者さ」

「そうですね、誰だってそうだと思うですよ」

 

 厳しい環境に逃げたんだから。

 

「俺さ、昔虐待…みたいな事されてたんだ」

 

 知ってます。

 

「厳しい訓練だった。俺だけ体が違って、泳ぎも走りも三四階くらいから飛び降りるのも、怖くてしんどくて辛くて。出来損ない呼ばわりされて、さ」

 

 知ってます。

 ……でも走るだとか泳ぐだとか、よく良く考えてみれば私よりマシだよな。うん、絶対そうだ。

 

「兄弟からは虐待されて」

 

 サンジラブなジェルマンの皆さん。キミらの評価最悪だぞ。大丈夫かメンタル的に。

 

「姉は、助けてくれたけど」

 

 良かったねレイジュ様!キミだけ高評価!

 

「母は亡くなって、どうしようも無く孤独だった」

 

 今帰ったら猫可愛がりされるからお帰り下さい。大丈夫、彼ら兄弟愛に目覚めてるから。いける。私よく頑張った。

 

「ハハッ…本当に情けない……」

 

 ジェルマン、最初から優しくしたらこれ絶対引かれるから気をつけて。

 

「私、子供の頃親と離れますた」

「え?」

「親はインペルダウン、監獄です」

「どういう……」

「連れ去られるした場所は幸せとは程遠い環境です。義理の兄弟は素敵ですたが猛獣はうろちょろすてます」

「なんつー環境で……」

「しかも私は4歳以下」

「嘘だろ!?」

 

 いやー、辛かった。

 背負われて虎やらなんやらに追いかけられて。

 

「挙句海賊王のクルーとか言われるクソジジイに剣を持つされられ筋トレ筋トレ筋トレ…私をムキムキにさせる気かと何度恨んだことか」

「は!?海賊王の!?」

「海賊に誘拐され大怪我すたり兄弟死ぬとか行方不明だしその後なんやかんやで海軍に入るし」

「なんやかんや………」

「鷹の目とガチ対戦やら変なストーカーに追い回すされるわ任務は厳しいわ、何度死ぬかと」

「随分ハードな人生だな…」

「親はふざけんな畜生な人だし。私も散々ですたよ」

 

 何度逃げようと思ったか。実際センゴクさんやサカズキさんから逃げ出したりはしてるけど。胃に穴が空いて医務室行きもあったな。毒もられたりファンクラブ的なの出来てたり人体実験更には5歳に七武海討伐、ふざけんな。

 

「何、というか……」

「1部抜粋」

「これで1部か!」

「どうですか?サンジさんは幸せですよ、私も幸せです。こう見えて」

「……まぁ、リィンちゃんの人生経験聞いたら」

 

 サンジ様の正面の椅子に座ってぐてんとする。

 

「私は今が幸せ故、過去を笑いものにするが可能なのです。サンジさんには出来るです?」

「………出来る」

「今のサンジさんには実は見えてないのみで味方は沢山いるですよ」

「…? 見えてない、だけ?」

「はい!」

 

 見えている仲間はバラティエや麦わらの一味、見えてない仲間はジェルマの王子や王女様。

 

「不幸な人間など、居らぬです」

 

 私も、幸せですよ。

 今は敵だけど、クロさん達のおかげで笑えた自信がある。

 親の血とか理不尽な恐怖に怯えるよりも先に物理的な恐怖があったりするから、ドフィさんも恐怖。

 だけど最終的に笑ってた。

 

「直接は無理ですが、感謝はすてるのです」

 

 だから決めた。

 

 

 

「クロコダイル倒そう」

「「「「どこからそんな流れになる!?」」」」

 

 外から声が聞こえてきた。

 

 

 

「BW組、盗み聞きですか」

「そこは謝るからツッコませろ!?」

「全く、お行儀悪いですね」

「堕天使ちゃん聞いてる!?」

「その堕天使呼びなんとかなりませぬか? 私ソレ嫌いなのです」

「聞いてなかった!」

 

「じゃあ飼い主で」

「「「「絶対却下!」」」」

 

 BW組の後ろにいたビビ様もサンジ様もクスクスと笑い出す。

 

「ビビもサンジも笑え!2人は笑顔が1番似合う!」

 

 みょん、と上からぶら下がってルフィが言った。

 

「リー、ナイスだ!」

「ルフィは頭使う不可能故仕方なしです」

 

 グッ、と親指を立て合う。

 BW組と私の胃を犠牲に王族組に笑顔が戻ったのなら良し。

 

「サンジ、何に悩んでるのか俺は分かんねぇけど。俺は絶対にお前の味方だからなー!」

「ビビ様、落ち込むも勝手ですが。同じ時間なら楽しむましょう?気楽に、ね?」

 

「この人たらし兄妹が…」

 

 ゾロさんがこっそり呟いたのを私は忘れない。

 これはルフィの策略だ。笑わしてくれって。

 

 

 

 

 

 

 

 感謝してるからクロさんを倒そう。

 少しでもいい、インペルダウンから出やすいように、夢のとおりなら、インペルダウンから出る事は容易いのかもしれない。だったら、インペルダウンから出て過ごしやすいように。

 決して、国の乗っ取りを企んだただの凶悪犯罪者じゃ無いように。

 

 

 ……これ、乗っ取り阻止するより難しそう。




リトルガーデンの代わりに巨人談義


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ドラム島編
第101話 寒さ続く中


 シンシンと雪が降る。

 冬島であるドラム王国の気候海域に入ったからか、とても寒い。

 

「暖房欲しいわね」

「それにしてもどうしてあの子達は外ではしゃげるの……?意味がわからないわ」

「マンデー。バレンタイン。あいつらは気にするだけ時間の無駄よ……」

「ナミ、目が遠いわ」

「クエー……」

 

 女子部屋で私やナミさんビビ様、それに加えてミス・マンデーやミス・バレンタイン、そしてカルーまで固まって暖をとってこれからの事と男共の元気について話していた。

 

「あー…これ以上の寒さの中あたし達は海軍を待つことになるのか?」

「ここにいてもいいでしょ〜…?」

「対BW戦に参加すたいのであれば」

「「やっぱりいい」」

 

 2人は声を揃えた。

 

「ドラム王国ってどんな所なの?」

「私もよく分かってないわ…リィンちゃんは?」

「あー…行くした経験は無し」

 

 つまりよくわからない。

 まじで国王とその取り巻きくらいしか分からないんだよな。

 

「ねぇ大将、あのゾロ君の怪我もそこで治るかい?」

「ミス・マンデー…その呼び方辞めてくださいです。元海兵としてはとても複雑」

 

 現大将そしてスパイ中としても。

 

「ちょうどいいと思ったんだけどね」

 

 確かに、雇い主としての呼び方にそれはあるだろうよ。大将女狐でいる時は名前や二つ名は呼ばれたくないしうっかり防止としては助かるけど。元々大将と呼ばれた経験が圧倒的に少なくて。

 

「違和感……」

「ならボスって呼ぼうか?」

「クロコダイルとお揃いとか嫌です」

「ほら」

 

 クスクスと微笑みながら膝の上の私を撫でる。私最近湯たんぽとして使われている気がする。

 

「マンデーちゃんそれ譲って、寒い」

 

 気の所為じゃ無かった。

 

「まって、リィンは私のよ」

「ナミさん黙る」

「……はい」

 

 昔のつんけんしたナミさんを返して。

 

「今アラバスタどんな風になってるのかしら」

「ビビ…。心配しないで、全部なんとかするわ。──大将が」

「私かよ」

「ミス・バレンタイン……ありがとう」

 

 BW組が馴染んでるのはいいが私には飛び火が…!まァ、国王軍の1部が反乱軍に寝返ったとか言われたら落ち込むよね。

 

「アラバスタの話を聞いたらただ素直にクロコダイルぶっ潰すだけじゃダメよね…」

「そうなのですよオカン、そこは私も頭を悩むさせてますてね…」

「まだオカンと呼ばれる年齢じゃな…──なんであなた達3人は『嘘でしょ!?』みたいな顔をしてるの?」

 

「嘘でしょ!?」

 

「バレンタイン…素直なのはいいけど」

 

 ミス・バレンタインが代表して驚きの声を上げる。

 クロさんは英雄として民衆を味方に付けてるからそれを引き剥がさないといけないんだよ。ただぶっ飛ばすだけじゃ逆にこちらが責め立てられてしまう。

 

 最低限王家の協力や海軍の協力、それと民衆の信頼してる何かを使うか何かして事実を認めさせなければならない。

 

 

 それを説明するとナミさんがそっと手を上げる。

 

「課題ばかりだけど1番の問題は海軍…?」

 

「「……」」

 

 ミス・マンデーとミス・バレンタインはそっと視線を斜めに逸らした。

 

「政府が認めねば国の信頼を取り返すは不可能ですからね、必要です。それは、まァ、考えるです」

 

 せめて中将が出て来てくれれば私としてはありがたいんだが麦わらの一味的にやばい。そもそも海軍はBWの事知らないと思う。でなければ私に情報巡ってるってーの。

 信頼の置ける人を派遣…、は無理でも丸め込める様にしよう。……これ本当に大問題。一応私の権力でなんとかなるっちゃァなるけど麦わらの一味に説明がつかない。

 

「……いざとなれば祖父を使うです」

「リィンのお爺さん?」

「正確に言うと違うですが、ほぼ同じですね」

 

 頼みましたガープ中将。

 

「細かな奪還作戦は伝を利用し考えるです。この船の外にも、アラバスタをどうにかしようとする馬鹿がいるのですよ」

「…! それって一体……」

「合流出来るかは不明ですが協力者はいるです」

 

 信じてるよ革命軍。

 

 はーー…課題がいっぱい過ぎて頭痛くなる。

 

「失礼、レディ」

 

 コンコン、とノックの音が聞こえ扉を向くと湯気のたった紅茶やコーヒーとケーキを携えたサンジ様が現れた。

 王族に奉仕させるとは何事…!

 

「お茶の時間です」

「ありがとうですサンジさん」

 

 受け取ろうとするとやんわり断られた。レディファーストがこれ程心苦しくなるとは…。

 

「コック君も此処にいなさいよ、外寒いでしょう?」

「や、片付けとかあるので」

「レディのお誘いを断るのはどうかと思うわよ?Mr.プリンス」

「……」

 

 ミス・バレンタインの言葉に聞こえないフリをしながら紅茶を飲む。どうして王子(プリンス)って言葉を本人使っちゃうかな(サンジ様が始まり)

 

「それじゃあお言葉に甘えて」

「サンジ君、外の奴らは何してた?」

「えーっと、部屋ん中で寝てるのがマリモ、外で雪遊びしてるのがルフィウソップMr.9だな」

「あっきれた、あいつら寒さとか感じないわけ?」

「Mr.9は最初寒そうにしてたのに…」

 

 ナミさんとサンジ様の会話にポツリとビビ様がため息混じりの言葉を漏らす。

 ハハッ、寒いの無理、やだ。

 

「彼はどうです?Mr.5」

「厨房で紅茶飲んでるよ」

「なるほど、彼に外ではしゃげる元気は無かったのね」

 

 Mr.5って全身起爆する爆弾人間だったよね?

 アレで寒さに弱いのか……意外だ。

 

──パァンッ!

 

「「「「!?」」」」

 

 外から発砲音が聞こえた。

 

「レディ達は中に居てくれ…!」

「あんたもですサンジさん!」

 

 外に出ようとするサンジ様を無礼覚悟で中に押し戻し外に出る。中では感じなかったひんやりとした外気に身を震わすとカチャッとした音と共に視界が開けた。

 ………普通こんな女の子に銃を向けますか?

 

「マーッハッハッハ! 4人、なんて事は無いだろうが一応聞こう。お前らドラム王国の指針を持ってはいないか」

 

 最悪だ、最悪のタイミングでこの方が現れるとか。流石私の災厄、今日も元気に取り憑いてるのね。

 

「お前なんかに渡すかバーカ!」

 

 =持ってますよ。

 

「あぁ?テメェ俺様が誰か分かってないみたいだな」

 

 知ってます。知ってるからちょっとルフィ黙って。この人、ドラム王国の国王、ワポル様だから。

 

 本当に最悪。

 

 

 

 

「私が交渉に出るです、まずそちらの船に乗りましょう。お戻りください」

「おいリィン!?」

 

 黒いフードを被ってワポル様の前に出る。

 

「ねぇ?ブリキング海賊団の船長さん?」

「いいだろう」

 

 ニヤリ、と笑われたので笑い返してみる。

 海賊に否定はしないのね。よっしゃーー!ナイスアホ!海賊団だったら無礼考えずにぶっ飛ばせるー!

 あ?その流れだとサンジ様もか?いやいやいや、彼のバックにいるのは何様俺様ジェルマ様だ。しかも亡命中ときた。国に戻る可能性は0じゃないから予防線張っといていいだろ。

 だがしかし!ワポル様は違う!発言力も少ない、友好国も無い、1度海賊に落ちたら這い上がる事は不可能でしょう!やったね!

 

 

 ……さて、ボコるか。

 

 

 ワポル様の後ろをついて行こうとするといつの間にか出てきたナミさんに手をぐいっと引っ張られた。

 

「リィン、聞いて…」

 

 小声で話しかけられ耳を寄せるとナミさんは呟くように私に忠告した。

 

「もう少しで嵐が来る。裏技使ってもいいからさっさと決着付けて逃げるわよ」

「大体何分です?」

「…二分くらい?」

 

 早い、思ったより早い。

 しかも偉大なる航路(グランドライン)って気候が読めない事に定評があるのでは。

 

 そんな事を思いながらブリキング海賊団の船に乗る。

 

「さて。さっさと渡して貰おうか」

「いやいや、交換条件ですよ。なんの為の交渉役だと思うしてるのですか? ま、さ、か、偉大なるブリキング海賊団の船長がその様に下衆で馬鹿な考えをお持ちとは思えませんがまァ場を和ませようとした海賊ジョークでしょうそうに決まるしてますそうですよねところでとても立派な船をお持ちすてるの様ですが食料はそれなりにござるでしょうか、私たちドラム王国で補給をと思うしてたのですがそれが不可能になりそう故にそちらを所望したいと思うしております貴方様であればその程度のはしたが…ゴホン、その程度の食料くらいお譲りする優しい心をお持ちでしょうありがとうござります」

 

 ノンブレス。周りはポカンとした表情をして隙だらけで、今がチャンスだろう。

 食料はとても悔しいけど。

 

「ではお時間ですのでさようなら!」

 

 トン、と後ろ…つまり海に向かって飛ぶとルフィの腕が巻き付いてメリー号に引き寄せられた。

 

「帆の準備ありがとうです。動かします」

 

 グンッと船の動きが急に代わり普段の倍以上のスピードを出してその場から離れる。

 

「「「「「騙したなぁぁあ!?」」」」」

 

 向こうの船から聞こえた気がする。

 

「騙される方が悪いだろこの場合…、油断し過ぎだな。アレで船の船長とは終わってる」

 

 Mr.5が厨房から出てきてサラリと毒を吐く。

 遠目で見るとどうやら嵐に襲われてる様だ。

 

「ナイスだな嵐」

「良くやった嵐」

「嵐っていうよりアレだな悪意ある攻撃」

「だからサイクロンだろ」

「よ、サイクロン」

「たまやー」

 

 キミら仲良くなりすぎでは?

 

「まァ、あの人海賊では無いですが」

「え……」

 

 Mr.5の呟きに答える様に言うと全員が驚いた顔をした。否、ビビ様以外。

 

「海賊だが、王です」

 

 は?という顔になる。

 そりゃ王様なのに海賊になる理由が分からんわな。その反応分かる。

 そんな中ルフィが首を傾げた。

 

「海賊の王様なのか?」

「まぁ、そうぞ。海賊ぞ王」

「海賊の王なのか……………じゃあアレがエースの父ちゃん!?」

「何故そうなる!?」

 

 海賊王は死んでるぞ!?

 ……ん?海賊の王様って斜め上に取っちゃったのか?

 

「あァ……こいつアホですた」

「なんだよ失敬な!」

「アホですアホ、バカとも言うですバーカ」

「バカって言った方がバカなんだぞ!」

「残念ながらその事実は覆す不可能!」

 

 ベーっと舌を出すとMr.9が呟いた。

 

「麦わらはバカで大将はアホ」

「「「「賛成!解散!」」」」

「集合!!!」

 

 誰がアホだ。

 

「覚悟はお出来でニセプリンス?略してニセプリ」

 

「大将に喧嘩売るニセプリンスカッコイイ!ん?どちらかと言うとキングじゃないか?」

「流石いじられキャラと定評のニセキング!」

「ニセキングドンマイ!」

「お前自分が賛成したの忘れてんのか!つーか俺だって後悔してらァ!大将!そこのMr.5ことボム男は昨日大将の事『あの人…嫁に行けるのかな……。外見に騙されて10人中9人にモテるけど中身を知った途端全員その場を立ち去る様な人だろ?』とか言ってました!」

「言うなエセキング!」

「エセだとかニセだとかうるせぇ!」

「私たち…ついさっきまで緊急事態だったわよね…………。ほんっっとに緊張感薄れる」

「麦わらの一味も大概だけどあたしらBW組も大概よね」

「でぇえい!BW組そこに正座!」

「「とばっちりだわ/だよ!」」

 

「ふ、ふふっ…あはははっ!ダメね、お腹痛い!」

「もう……やだこいつら………」

「おーい、小刻みに震えてるぞナミ」

「むしろ逆にウソップはどうしてそんなに平気なのよ」

「この前のルフィの呟き聞きたいか?『リーっていつでも嫁に行けそうで困るよな』だぞ?俺はもうこの船の船長と船員の間の認識の差にむしろ慄いてる最中だ」

 

 ほぼ全員から『それは無い』みたいな表情を向けられた。

 

 

 いい度胸だちくしょう。

 

「ビビ様とサンジさん以外全員正座ぁぁあ!」

 

「ビビは良しとしてなんでサンジだけ除外なんだよ!十文字以内で説明しろ!」

「おいしいごはん!」

「出来るのかよそして納得しちゃったよオイ、この食魔人」

 

 2人を除いた全員を正座させている時ゾロさんも巻き込まれてはてなマーク浮かべながら説教した。

 

 外は寒いけどポカポカした。……間違いなく苛立ちのせいだ。




BW組は仲良くさせたい。


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第102話 セットはお得感出るけどやだ

 

 

 ガチガチと歯を震わせながら服を何重にも羽織る。女子部屋から出ると顔に向かって風が吹いてきてひきこもりたい欲求に駆られた。寒すぎやしませんかヤダー。

 

 ……安易に選択肢の中に冬島を仕込むんじゃ無かった。

 

 くそー、セントヘレナや元フレバンスはあんまり寒く無かったのに。あー、でも元フレバンスはあんまり雪降らないところだったっけ。

 

 北の海(ノースブルー)偉大なる航路(グランドライン)の天候の差か。支部がある島って治安が元々悪い=(海賊も海軍も)活動しやすい気候の島が多かったから冬島慣れない。

 

「たいしょー雪だるま見たい」

「でも真っ黒よ」

「可愛くなくてスミマセンですたー」

 

 後ろから付いてくるミス・バレンタインとミス・マンデーに皮肉を言いながら船頭に腰掛けるルフィの元へ行く。

 

「元々可愛げは無いだろ」

「ゾロさんうるさい」

 

 元々キミの口は切れ味抜群でしたね。

 

「ルフィ〜〜〜…寒い」

「雪、こんなにいっぱい………幸せだ」

「あーはいはい……。本当にその格好ぞやめろ。見てるこちらが寒く感じるぞ」

 

 驚く事にルフィは袖なし半ズボンに草履、そしていつもの麦わら帽子だ。

 キチガイか。

 

「ん?おー…………………寒っ!?」

「「「「遅いわ!」」」」

 

 Mr.9やサンジ様、ウソップさんにミス・バレンタインのツッコミ得意組が声を揃える。

 

「ほら、これ着ときなさい」

「おう!ありがとうなオカン!」

「………麦わらまで言うか」

 

 服を持ってきたミス・マンデーがガクリと肩を落とす。オカンキャラが定着していってるね。

 

「ゾロの怪我治してもらえるかな〜」

「まだ治りきって無いのよね?」

「平気だろ、つば付けときゃ治…──おいリィン何してる」

「傷見るしてる」

 

 平気そうな顔をしたゾロさんの服を上半身ぬがして見てみる。塞がりかけてる状態だから包帯巻いてるけど少し熱持ってるな。これ、絶対しんどい。経験者が言うんだ間違いない。

 

「きちんと見てもらうしましょうね」

「俺は子供か」

「Mr.5ー!一応ゾロさん運ぶしてくれませぬか?」

BW組(俺たち)の中で1番力あるのオカンだ」

「つまり?」

「その筋肉質を運ぶのは嫌だ断る」

 

 見るからに重たそうだしね。

 

「オカン〜〜!」

「はいはい」

 

 自分の持ってる荷物をMr.9に持たせてゾロさんを俵担ぎにした。

 

「上陸か!?」

 

 ルフィが嬉しそうに言ったその時、カチャッと武器を構える音が聞こえた。

 

「そこまでだ海賊共」

 

 低い声が聞こえてそちらを向くと周囲に民間人であろう人達が銃を構えている。その中に声を出したであろう人も。

 

「キミ達を上陸させる訳にはいかないな」

「リィンさん交渉の時間でっせー」

「ウソップさんキミに任せるした」

「嫌に決まってんだろ」

「裏切り者!」

 

 ウソップさんに呼ばれたが断る。見るからに人の話聞かなそうな人相手はいやですもーん。仕方ないから渋々ルフィの前に立つ。

 

「分かりますた、上陸はしませぬ。その代わり仲間が怪我をしてる故医者を呼んでくれませぬか?後食料も底が見える状態です。購入したいです」

「………喋り方がおかしいな」

「黙るして!?お願いします黙るして!?」

 

 私泣いてもいい?

 

「海賊の要望など聞くか!」

「今すぐ帰れ!」

「……むぅ」

 

 予想通り過ぎる反応に私は振り返った。

 

「頑固が多いようで難しいです。多数決と言うは世界にとって1番厄介ですよ」

「言ってる場合か」

「どうしましょう…時間はあまり無いけれどゾロさんの怪我は治したいわ」

「うーん、ゾロさんは別の島で……。って事も可能ですが食料問題はやはり……」

 

 うーん、とビビ様と一緒に首をかしげてると男の人から声がかかった。

 

「ッ、キミ達!あのコンビか!」

「どのコンビだよ」

「「あ/げ……」」

 

 ウソップさんが男の人にツッコんだタイミングでビビ様と私の声が揃う。

 私達をコンビだとかセットで見る事が出来るのはアラバスタ関係者か──世界会議(レヴェリー)関係者。

 

「……上げてくれませぬか?」

「えぇ、構いません。──この人達は大丈夫です。私の信用している人でもあり素性もハッキリしています」

「…………何故家臣は賢いか…、この国、どうして今まで成り立つしてたのでしょう」

 

 悲哀感たっぷりの私の頭をそっと撫でたのは安定過ぎるナミさん。よく分からないって顔してますね。

 

「あぁぁぁぁ………。あ…あ………あぁ」

「お前はどこの怪物だよ」

「ウソップさんハウス」

 

 私が大将だとバレる前に口封じしなければ…今口に出してないところから見て少しは余裕ありそうだけど恐らくバレてる。ああぁぁぁぁぁぁあ!くそう!国王組が海にいるからって油断した!顔隠しておくんだったあぁああ!もう!なんでこの人ここにいるんだよ!

 

「ひとまず私の家に招待しましょう」

 

 男の人はチラッと船の上にいる人間を見回して苦笑いを浮かべた。

 

「少々、人が多いですがね」

 

 この人、食えなさそう。

 

 

 皆が錨を下ろして停泊の準備をしてる中ビビ様を箒に跨らせて陸に上げる。

 

「………どうも、海軍本部()()()リィンです」

「えっと、アラバスタ王国王女のネフェルタリ・ビビです……?」

「こうして面と向かって話すのは初めてですね、元ドラム王国守備隊長ドルトンと申します」

「ご協力ありがとうございます、とても助かりました……。ドルトンさんが居なければきっと上陸出来ませんでした」

 

 ビビ様が丁寧にお礼を言う中、私はドルトンさんへの警戒を強める。

 随分優しそうな人だけど馬鹿だと困る。それに国王不在の今、何とかしなければならないのは私。ハー、お仕事しんどい。

 

「お前ら早い!なぁリーぃ。後で俺も箒乗せてくれよぉ〜」

「いい子ですたらねー」

「よっし!」

 

 登ってきたルフィがガッツポーズをする。後ろから続々と人が登ってきて最後にゾロさん担いだミス・マンデー。お疲れ様です。

 

「案内させてくれ、寒いでしょうから我が家でお話しますよ」

「あ、聞きたい事沢山あるです。ワポル様の件、とか」

「………私はキミが苦手だよ、実力者という者はどうにも威圧感がある」

「む、どこをどう見るしてもか弱い普通の「ゴリラ」ですの…──おいゾロさん被せるするな」

 

 なんだ、担がれてるのが嫌なのか。屈辱なのかザマァ!!

 

「仕方ないさ、大将の笑顔は可愛いの比率より威圧感や恐怖の方が強い」

「Mr.5黙る」

「たい、しょう?」

「あだ名ですあだ名、気にするなかれですよ」

 

 やっぱり反応から私が大将なのバレてるか。

 海賊と一緒ってところで察してくれるかなー。

 

「医者、と言ったかな」

「ええ、あのバカ剣士が鷹の目にざっくりやられるしまして情けない」

「おい!仕返しかリィン!」

「言っておくが我が国には魔女と呼ばれる医者が1人いるだけだ」

 

 

 どうでもいいので暖かいところ入りませんか。

 

 

 ==========

 

 

 

 暖炉の前でニット帽と手袋を脱いで暖まる。ちなみに両隣に王族コンビ、無理やり座らせた。

 

「まァ医者が1人しか居ねぇのは分かった。でもその魔女って言うのは?」

 

 サンジ様が暖まりながらドルトンさんに疑問をぶつける。物騒な名前だよね、魔女って。

 

「窓の外に高い山が見えるだろう?」

「あぁ、確かに馬鹿みたいに高い山が…」

 

 視線を窓に向けると外には雪だるまさんがいらっしゃいました。

 

「………私ちょっと回収してくるわ」

 

 ミス・マンデーが自慢の怪力をブンブン回しながら外に向かって行った。

 頭にたんこぶつけた2人が部屋に現れるのはわずか1分後の話。

 

 

「──その高い山に城が見えるはずだ。魔女と言われる唯一の医者、Dr.くれはがそこにいる」

「うわ遠い。電伝虫ありまするか?」

「………あるが、無い」

 

 ドルトンさんが斜め上に視線を背けた。

 ほほう。つまり

 

「電伝虫はあるが番号不明故通信手段無し、と」

「くそ剣士の怪我治すのはまた次の島で決定」

「もしくは自然治癒力に任せるか」

 

 サンジ様とMr.5のゾロさん嫌いコンビがイキイキとしてる。

 

「じゃあどうやってこの国の患者を治して…」

「彼女は気まぐれに山を降りる。その際患者を探し処置を施せば法外な値段と欲しいものをありったけ奪っていくんだ」

「まるで海賊。ゾロ、諦めなさい」

「金とリィンが絡むとお前は人が変わるよな」

「私の優先事項は命>お金>リィン>(越えられない壁)>その他よ。勘違いしないで」

「勘違いする暇もねェわ」

 

 ま、国に医者が一人しかいないのがおかしいんだよな。とサンジ様が小さく呟いた。

 ドルトンさんは聞こえていたのか答える。

 

「昔はいたんだよ」

「医者独占政策が無ければ」

「……。知っていましたか」

「もちろん、ただ、昔の事ですたのでもう無くなってるとばかり」

「残念ながら…アレが国王ですから」

「ワポル国王。──海で出会いますたあのブリキング海賊団の船長ですね」

「「「「「!?」」」」」

 

 全員口をぱくぱく開閉せせる。

 

「アレが!?と言うよりリィンちゃん良く気付いたな……」

「まぁ、それなりに、注目する国王ですた故」

 

 言えないよなーーー、キミの父上に忠告されましたー、とかさーーー!!

 

「それは本当か大将殿!」

「やめるして!?そのあだ名やめるして!?」

「……! すまない」

 

 あっぶねぇ!BW組のあだ名付けに初めて感謝した。怖、怖い。ドヤ顔してるミス・バレンタイン丸見えです。

 

「何故ワポル様は海賊などに?」

「……国が滅びかけたのです」

「はへ?その様な情…ンン゛、その様な大逸れた事ぞ合ったのですか?」

 

 情報が回ってきてない、と言おうとしたけど普通の一般的な子供に情報なんて来ないわ。

 

「たった5人、その海賊にやられました。名は──黒ひげ」

「黒ひげ!?」

 

 思わず立ち上がる。

 

「何故黒ひげが、何故、夢だと、実在して…!嘘だ、嫌だ、白ひげ海賊団は!?黒ひげとは一体誰です!?」

「お、落ち着いてください…。黒ひげの正体は分かりません。無名の海賊団ですがとても強い、この国にとってはワポルが居なくなった事に喜びを覚えていますが」

 

 クソ、こんな所で予想外の名前を聞くとは…。黒ひげさえ現れなければあの夢はただの夢だと割り切れたって言うのに。

 

 最後に見た夢の記憶は白ひげさんにトドメを刺す姿。あの姿は狂気を覚える。

 

「……今は医者のお話ですたね、取り乱すました。山を降りるという事は何かしら交通手段はあるという事ですよね、なるべく時間をかけるしたく無い故教えてくれるとありがとうです」

「それが、私達にも分からないんだ」

 

 ドルトンさんは目を伏せて首を横に振った。

 

「ソリに乗って空を走る姿を何度も目撃されているが…」

「それは、なんというか」

「うん、その……なんつーか」

「あ、あはは…」

 

 全員が苦笑いを浮かべる。うんうん、分かる。分かってる、みんなの言葉私が代弁しましょう。

 

「空走るとか意味わからん」

「「「「「お前が言うな!」」」」」

 

 同時にツッコまれた。解せぬ。

 

「ハッキリ言わないのがいけなかったのよね、たいしょーそっくり」

「え……本気です?」

「箒に乗って空飛ぶ奴が何を言うか」

 

 Mr.5ペアの理不尽過ぎる罵倒が私に飛ぶ。

 そんな正体不明な人と同じ扱いして欲しくない。

 

「なぁリー。箒って何人乗る?」

 

 ルフィが唐突に聞いてくる。

 

「は?試した事は無きですが恐らく何人でも」

 

 イメージで浮かせてるから重い物が乗ることによって生じる負荷は無いと思う。認識の差だよね、『箒で人を浮かせる』じゃなくて『浮かせた箒の上に人が乗る』って感じだから。

 どうしてそんな事を聞くので───

 

「ゾロと俺、乗せてってくれ!」

 

 ───細かく聞きたくないです。

 

「………………………………いやです」

「あの山登るぞ」

「嫌!絶対嫌だ!私高い所無理!嫌です!」

 

 それに絶対痛い!雪って痛いんだぞ!?

 絶対他に方法があるはず!

 

「その魔女さんの特徴とは何です!?わずかでも宜しき故!」

「え…、あー。もう140いくらしいが」

「身長が?私と同じくらいでは…」

「いや、歳が」

「化け物かよ!」

「「「「「ちょっと黙ってろ!」」」」」

 

 お前が言うなって厳しい言葉を頂いた。

 

 この場に居たらヤバイ、絶対山登る事になる。

 よし、逃げよう。

 

 

 

 そ…っと扉を開けた。

 

「リィン!?どこに行くつも」

「ぎゃあ!バレるの早い!さようなら!」

 

 箒に乗って慌てて逃げた。

 ついでに食料買っとこう。

 

 

 

 隣町辺りで。この街だとバレる。



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第103話 雪やコンコン狐と狸

 

 

 あーーー、寒い。

 ザクザクと雪を踏みしめながら歩く。

 

 動かないと外では凍え死ぬな。

 

 ドルトンさんの家があるビックホーンから徒歩30分。隣町のココアウィードに辿り着いた。

 レンガ造りでとんがりボウシのビックホーンの町並みと変わってここはクリーム色の壁が立ち並び随分落ち着きのあるオシャレな町だ。

 

 よし、どこか店入ろう。

 ただ町をブラブラして時間を潰すのはあまりにも寒すぎる。

 

 

 聞いた話では次の国王決めは2日後の投票制。友好国の無いドラム王国には選挙王政が一番妥当だろう。

 ……昔いた日本みたいだな。

 世界会議(レヴェリー)に参加出来るかどうか分からないけどドルトンさんが国王になるのなら媚び売っとこう。

 

 しかし、マジで選挙王政は周辺国とのコンタクトが大変だぞ。血統にこだわるのが王族だがこれにはきちんと理由がある、いい例として『教育』だ。幼い頃から王族になる事を前提として勉強するのと一般就職目指して勉強するのとは全然違う(なお()()就職の仕方は不明の模様) そしてやはり『友好国との交流』だろう。家系が変わるだけでその国の在り方というのが随分変わってくる。たったそれだけでその国と同盟を破棄する可能性があるのだから。

 

 ……………本当になんでドフィさん国王になれたんだろう。そりゃ独自の交易手段もツテもたんまり持ってるかもしれないし元天竜人だから権力強いだろうし…でもなぁ。

 ん、待てよ?元天竜人?

 天竜人って民間人からしたら嫌われる対象だよね?元、になれば完璧権力からも政府からも捨てられるよね?どうして権力持ってるの?やっぱり弱点を何かしら握ってるのかしら……あー…ホント嫌い。七武海のドンキホーテ・ドフラミンゴ様大嫌い。

 

──ドッ!

 

「わ…!」

「ぐぎゃ…!」

 

 考え事をしながら歩いていたのがいけなかったのだろう。建物の死角から飛び出た何かにぶつかってしまった。

 ちなみに『ぐぎゃ』とかいう色気も女子力も無い悲鳴が私の方だ。

 

「い、てて……」

 

 パッ、と目が合ったのは獣だった。

 

「……青い鼻、の………………………タヌキ?」

「誰がタヌキだ!俺はトナカイだ!……ハッ!」

「え……」

 

 獣が喋った事に驚いてフリーズする。獣もフリーズする。なんだ、なんだこのコミュ障同士のお見合いみたいな雰囲気……!

 

 ………気まずい!

 

「あー…えっと? 私、リィンです。好きな食べ物は甘き物、嫌いは食べれぬ物……です」

「え!?あ、お、俺はトニー・トニー・チョッパー、デス…?」

 

 話題の選択肢間違えたかもしれない。

 

「……………………………………」

「……………………………………」

 

 再び重い沈黙が流れる。

 あー、これ確実に間違えてますね。

 

 チョッパー君はビクビクと怯えながら正座した。え、これ座らないとダメ?

 空気を読んで大人しく座る。

 

 うーん、この子なんだろう。しゃべる動物?トナカイだって言ってたよね…。確か後半の海に喋る動物居たような…、まぁ喋る魚がいるんだから居るだろうと思うけど。流石にしゃべる動物は初・邂・逅☆

 …………………これ本当にどうしよう。

 

「お、お前、俺が怖くない、の、か?」

「はい?」

 

「だって…俺トナカイなのに青っ鼻だし喋ってるし……普通は殺されかけてもおかしくないだろ……。でも、お前、えっと、リィンは普通に喋って…」

 

 はァ、とため息を吐く。

 怖い、怖いねェ…。

 動物がしゃべるくらいで怖がってたら私何百回もショック死する自信があるや。

 怖いって言うくらいなら黒い十字架みたいな剣をブンブン振り回す戦闘狂に追いかけ回されたり、空をバサバサ飛びながらストーカー行為をしてくる鳥だったり、予期せぬ突撃四皇の一角だったり……。どっかの王族に喧嘩売ろうとしてるバカワニだったり………。

 じわっと涙が出てきだした。

 

「え、泣いてんのか!?どっか痛いか!?」

 

 少なくとも泣いてるの見て心配するチョッパー君を怖がるわけ無いさ。

 

「怪我か!?大丈夫か!?い、医者〜〜〜ッ!──あ、俺だ」

「お前かよ!」

 

 思わずツッコミを入れる。

 

「とにかく、チョッパー君は怖くないですごめんなさい?」

「俺に謝られても…」

「所でチョッパー君は医者さんです?」

「お、おう!」

「今、医者を探すているのです。暇ですか?」

 

 医者は1人しか居ないと聞いていたがきっと彼だろう。患者…と言うか怪我人がいる事を伝えれば意気込んだ顔になった。

 しかしふと何かを思い浮かべたのかチョッパー君は帽子をギュッと握り深くかぶった。

 

「でも……おれ化け物だから」

 

 彼の上がったテンションが一気に下がった。

 

 そう言えば化け物にこだわるよな、この子。うん?ちょっとおかしくないか?

 

 『彼女は気まぐれに山を降りる。その際患者を探し処置を施せば法外な値段と欲しいものをありったけ奪っていくんだ』

 

 ドルトンさんは確実に彼女と言った。そして患者を探し出して治療する、と言う事が確認されている。それはつまりチョッパー君が『魔女』では無いということ。だって何度も治してる医者なら自分が化け物だとかで縮こまったりしない。

「………ひょっとして、もう1人医者が存在するです?」

「うん…ドクトリーヌがいるよ」

「お仲間?」

「俺の先生……」

「それが『魔女』?」

 

 私が聞けばコクリと頷く。

 

「ではそれを踏まえ依頼するです。チョッパー君、怪我人を治すしてくれませぬか?」

「……え?」

 

 予想外の反応だったのかチョッパー君はバッと顔を上げた。

 うんうん、明らか人間じゃない化け物か魔女と評判の高い医者だったら普通は後者を選びますよね。驚くのも無理は無い。

 

「な、なんで……」

 

 心底驚いた様子。

 何か企んでるんだって疑うくらいには睨まれてるんじゃないだろうか。

 

 

 ……だって、嫌じゃない?

 海賊みたいに欲しい物奪ってく医者とか。

 

「チョッパー君がいいです」

 

 むしろ怪しいボッタクリ医者より優しい子の方がずつといいに決まってる。

 つーか、これ位で驚かないでしょ。特にルフィは。

 

 

 なによりキミを連れて帰らなきゃ私がフライアウェイしなきゃならないんだよ!!!!!!!やだよあんな高い所飛ぶの!!

 

「お願いしますチョッパー先生」

「……お、おれ、ドクトリーヌに許可貰ってくる!」

 

 そう言ってチョッパー君はトナカイの姿に変わってどこかへ駆けて行った。

 あ、あれ悪魔の実だったのか。そういう種族かと思ってた。こんな島にも悪魔の実って生えてくるんだなぁ。

 

 …………………。

 

 

 ……もしかして私この寒い中放置?

 

「ッ、カムバックチョッパー君!!!!!」

 

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

「本当にごめんなさい!」

「気にしてな、気に、気にしてないで、す!」

 

 ガクンガクンと上下に揺られながら下にいるチョッパー君の謝罪を受け取る。

 謝ってくれるのは分かった、分かったからもっと安全運転して!

 

「ヒッヒッヒッ…! 変わりモンだねアンタ」

「ワタ、私は、至って、一般人!で、デス!」

「とりあえず一般人に謝った方がいいと思う!」

「チョッ、パー君!酷、い!」

 

 後ろにはマジモンの魔女Dr.くれは。

 下にはヒトヒトの実の能力者チョッパー君。

 

 私はチョッパー君の上に跨ってドナドナされてます。

 

「俺、初めての患者なんだ!嬉しいぞ!」

「そっか!そーか、だがね、ちょっと、スピ、スピード、ゆるゆる、ゆるぅううう!」

「早く行くからな!」

 

 とんでもないスピードに、酔い止め飲んでても酔いそうです。

 

「うっ、む、むり…」

 

 箒に乗れば良かった…………。




あけましたおめでとうございます。クリスマス予定だったチョッパーのお話があけました。
そして祝、携帯復活。
随分と長いことかかりましたね。
エースの誕生日…終わってしまった……うっ、とりあえずドラム島編が終われば番外編正月バージョン挟みます。


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第104話 医者は強い(確信)

 

 

 ドルトンさんの家に戻るとゾロさんを引きずってでも山に登ろうとする我らが愛すべきアホ船長がいましたので力技で解決しました。

 

 

 

 

「で、何故こうなるしたのですか?」

 

 とりあえずルフィを正座させて他の面子に聞くと酷く疲れた顔をしていた。

 

「あー、のね、タイショー」

「なんです?」

「タイショーがいなくなったから『じゃあ自力で登る』って言い出して……止めたのよ?止めたんだけど聞かなくて」

「……………心から馬鹿…!」

 

「ところで大将、後ろの人と膝の上のはなんだい?」

 

 思わずため息を吐くとオカンことミス・マンデーが私の後ろに待機してたDr.くれはと膝の上に乗せてるぬいぐるみ状態のチョッパー君に目をつけた。

 ぬいぐるみ状態、とはいっても動物系(ゾオン)独特の人獣型だけど。

 

「Dr.くれは。あ、さっき話すしてた魔女ですぞ。いやー、私の邂逅タイミングバッチリぞね」

「…!」

()()()! 今回の治療を担当してくれるチョッパー先生」

 

 ぬいぐるみの様に持ち上げて見せると全員首をかしげた。うん、だって蹄だもん。

 

「このたぬきのぬいぐるみが?」

「俺はたぬきじゃねぇ!トナカイだ!」

「喋ったぁぁ!?」

 

 サンジ様が青っ鼻を突っつくと条件反射でチョッパー君が反論する。

 ウソップさんが驚いて椅子から転がり落ちたのを除けばだいたい目を見開く人達ばかりだ。

 

「チョッパー君は悪魔の実の能力者なのです」

 

 混乱はその一言で解決した。

 うんうん、慣れるよね。だけどチョッパー君はその解決が理解出来なかった様でごねた。

 

「お、お前らおかしいぞ!悪魔の実の能力者は化け物って呼ばれるんだ!だ、だから…」

「あー…チョッパー君チョッパー君。一応言うですが」

「……?」

 

「こちら海賊の船長、ルフィ。ゴムゴムの実の能力者」

「おう、俺はゴム人間だ!」

 

 まずルフィを指差して言う。

 

「それで、この髪の毛ワカメがボムボムの実の爆弾人間」

「おいこら待て大将ワカメってなんだ」

「ならチリ毛」

 

 Mr.5を指差し。

 

「んで、レモンの人がキロキロの実、能力者」

「紹介が雑いわタイショー」

 

 ミス・バレンタインを指差し、そして最後に私を指差す。

 

「んで、私。実、不明の能力者、ちなみに能力者の知り合いぞ20人超えた時より数えるは禁止するしたです」

「お前…そん、そんなに居るのか」

「ハッ、白ひげの船に乗り込むした私が?キチガイ共に世の中の理不尽さを叩き込むされた私が?今更チョッパー君などで恐れる可能性皆無!──あ、ちなみにこれから七武海の能力者に喧嘩を売るするです」

「あの…分かってはいると思うんですが一応聞かせてください…………──リィンテメェ何者だ」

 

 ウソップさんにキレられた。解せぬ。

 

「つーかお前さっきなんてった!?白ひげ!?」

「yes白ひげnot黒ひげ」

「どっちみちろくなもんじゃねぇわ!」

「まぁ嘘ですけどと思うしておけぞこの野郎」

「結局どっちなんだよ!」

 

 めちゃくちゃ絡まれます。

 

「とりあえず気にすることなかれですぞチョッパー先生」

 

 ニッ、と笑えばチョッパー君は腕まくりをして(実際は捲れて無いのだが)ゾロさんの怪我を見始めた。

 

 

「バカ!こんな怪我なんで放置してたんだ!」

「筋トレ禁止だぞ!」

「いい加減にしろよこのやろう!」

 

 

 そんな罵倒を口に出しながら。

 

 医者って強ぉぃ……。

 

 

 

 ==========

 

 

 

「お前俺の船の船医になれよ!」

 

 ルフィのお眼鏡にかなった様で猛アタックされてるチョッパー(in私の膝の上)

 

「お、俺は化物だからいかねぇ!」

「いいじゃんかよぉ〜、仲間になろうよ〜、海賊ってたのしいぞ?」

 

 ふむ、軽さも丁度いいし温かい。イザ身の危険が迫った時にチョッパー君をぶん投げて盾にする事も可能、と。

 

「うちにぞ来るして下さい切実に」

「お前もかよ!」

 

 ハッハッハ!残念だったな!逃げ出そうとしても私は捕らえる!逃がさん!

 

「はぁぁ…リィンとチョッパーの組み合わせって癒しね。本当に可愛い………食べちゃいたいくらい」

「お願いするですチョッパー君助けて!」

「絶対に嫌だ!おれ寒気する!」

「後生ぞぉぉお!」

 

 こうなったら必殺土下座か。

 

「あ、ついでにナミさん(残念)ゾロさん(迷子)ルフィ(馬鹿)を治すして欲しいです」

「現代の医療技術では無理だ!」

「……そう、か……くっ…残念ぞ」

 

 思わずガクリと項垂れた時。

 ドタバタとした気配と共に一人の男が家の中に入り込んできた。寒い、扉は閉めなさい。

 

「ドル、トンさん!はぁっ…はぁっ!」

「どうした…一体何が」

「帰ってきたんだ…!あいつが、ワポルが!」

 

 その言葉を聞いた途端チョッパー君が走り出した。何も言わずにただ真っ直ぐ船が合った場所へ。

 

「チョッパー君??」

 

 あぁ、胃が痛い。

 ワポル様なんつー馬鹿なことを…。

 

「チョッパーが慌てるのも無理は無いさ」

 

 今まで傍観の姿勢を保っていたDr.くれはが口を開いた。

 

「あいつの親代わりの人間はワポルに殺されたと言っても過言じゃないしね」

「…………」

 

 ルフィはチョッパーを追いかける様に外へ飛び出した。あーあ、スイッチ入った。

 

「……。チョッパーはね、昔群れから嫌われてたんだ。あいつの青い鼻が気味悪くて、ね」

 

 Dr.くれはが瓶をあおりながら話してくれた。

 チョッパー君には恩人のヤブ医者がいて、彼が桜を咲かせるすべを研究し。病気に侵されてもなお誰かのために頑張っていた、と。

 そしてチョッパー君は誤って猛毒を薬だと勘違いして寿命を縮めてしまった。

 

 ヤブ医者の人はこの国をどうにかしようと城まで行き、自爆テロを起こした事まで。

 

 

「……この国は…なんて酷いの」

「ッ、ビビ」

 

 正直、興味は無い。

 だけど誰かの胸につきささる話だったら私には関係のあることになる。まぁ、巻き込まれるってだけだが。

 

「俺、チョッパー追いかけてくる」

「俺も行くぜ」

 

 ウソップさんとサンジ様がルフィのあとを追うように駆け出して、いても経ってもいられなくなったのかナミさんまで外へ向かった。サンジ様は行かせたくなかったんだけど……。

 私はその代わり外に行こうとするゾロさんやビビ様を止めつつ暖炉であったまる事に。

 

「………キミは」

「行きませぬよ、王の身を堕とすした男に微塵の興味も手助けも要りませぬ。彼はただの海賊、止める理由も守る理由も存在せぬです」

「そうか………ならば私は行ってこよう。奴の罪は私の罪でもある」

 

 私はDr.くれはからチョッパー君勧誘の許可を取りつつBW組とまったり待つことにした。

 

 

 

 ==========

 

 

 

 雪国での戦いは予想以上に体力を取られるものである。ワポルは喧嘩を売ってきた海賊などに負けるはずが無いと高を括っていた。

 

「〝ゴムゴムのロケット〟!」

 

 民家を食べ進めるワポルにルフィの拳が打ち込まれる。衝撃を受け止めきれずに地面をゴロゴロと転がるがさほどダメージは無いように見えた。だが体を覆う鉄板が剥がれかけている事に驚き思わず注意がそれる。

 

「(なんだこいつは…!)」

「ワポル!お前は、お前はなんでこの国の人に酷いことを出来るんだ!王様はもっとみんなの事を考える奴がなるべきなんだ!」

「うるせぇな動物が……!」

 

 お前も似たようなゲテモノだろう、とウソップはツッコミたかったが身の保身を考えて黙った。うん、恐らく正解の行動だっただろう。

 

「死刑だ死刑!王様に手を挙げた奴は死刑だ!」

「うるせぇ!邪魔口!なんかよくわかんねぇけど気に食わん!」

「テメェこそうるせぇ!」

 

 ギャーギャー口喧嘩をしながら殴り合う(ワポルは防戦1方)2人。緊張感は四散したかの様に思えた。

 

「ルフィ!」

 

 お供の2人がルフィの背後から攻撃しようとしているのに気付きナミが悲鳴にも似た声を上げる。

 

「にゃろ……!」

 

 一瞬ルフィの意識がお供であり配下のチェスとマーリモに向いた。即座にサンジが足技で割り込み攻撃の邪魔をする。

 憎たらしい、と睨みつけるマーリモを鼻で笑いながら攻撃を加えるサンジはルフィを見た。

 

「ルフィはアイツ止めとけ!何ならトドメは俺がやってもいいぜ…船長」

「俺がやる!」

 

「ぅっ……」

 

 その隙にだ。

 ほんの数秒のやり取りが致命的なミスを誘った。

 

 小さく耳に入った一瞬息を呑む音。

 

「マーッハッハッハ!お前ら、この女の命を消してやってもいいんだぞ?」

「「「ナミ!」」」

 

 ルフィやサンジは戦闘の手を止めて、ウソップは青ざめた顔で叫んだ。チョッパーは自分が一番近くに居たのにここまで接近を許してしまい、そして巻き込んだ事にギリッと歯ぎしりをした。自分の不甲斐なさが悔しかったのだろう。

 

「チェス、マーリモ…………殺れ」

「「はっ!」」

 

 麦わらの一味はなぶり殺しの過程を耐える他無い様だった。




約1ヶ月ぶりの投稿…遅くてすみませぬぅぅ…。
連載停止するつもりは無いのでご安心を??


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第105話 共闘大作戦

 

 

「かハッ…!」

 

 真っ白な雪に鮮血が飛ぶ。

 

「ルフィ!サンジ君!」

 

 ナミの悲痛な叫びが聞こえる。

 

「ワポル!ナミを離せ!」

 

 ウソップがパチンコを構えようとする。

 

 

「マーッハッハッハ!」

 

 勝利を確信した笑い声が、人々の恐怖を煽った。

 

 

 

 

 

「……おい、お前大丈夫か」

「おう…これくらいなんともねーよチョッパー」

「………巻き込んでごめん」

「バカ言うな。これはうちの船長が勝手に首突っ込んだ事だ。巻き込まれたのはこの国の奴らの方だよ」

 

 サンジは吹き飛ばされた隙にチョッパーと少しの会話をする。

 下手に動けない、動けられない状態。

 

 周りも、本人も。

 

「くそ……リィンちゃんが居てくれたら…」

 

 居ない少女を思い浮かべる。

 あの少女が居たのなら遠距離攻撃も目潰しも視線を逸らす事も様々な方法が思い浮かぶかもしれない。

 無い物ねだりだ。普段判断や作戦を頼りきってしまったが故に、自ら考える事を放棄してしまったが故に打開策が浮かばないのだろう。

 

「チッ……!」

 

 サンジは考える。必死に考える。

 このままでは愛しのナミさんが怪我をしてしまう、と。

 

「っ、協力してくれよ!」

 

 幼い男児の様な声で唐突に投げかけられた言葉にサンジは目を見開き、提案された作戦を聞いて不敵に笑った。

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

 ドルトンの家にて、BW組は話し合いをしていた。

 

 今後のこと?……ある意味では。

 海軍のこと?……それも同様。

 

 

「なんで緊急時にほのぼのしてるんだよ大将ぅぅぅうう!?」

 

 あまりにもマイペース過ぎるリィン大将についてだった。

 思わず叫んだMr.9。リィンはうるさいなぁと一睨みしただけで暖炉に向き直った。その様子に思わず首を項垂れる。

 

「ダメだ、この大将を数日見てきて悟った。絶対自由にしたらダメなタイプだ」

「なんでこんなのなのに海軍って言う組織でやっていけたの??」

 

 ミス・バレンタインが首を捻るが誰も答えは出さなかった。ついでに大将であると言う情報を一応伏せてはいるが4人の1番の疑問だっただろう。

 

「なぁ大将、なんでアンタそんなに微睡んでるんだ?この国のどこかでドシリアスが起こってる中?」

「あったけぇ……」

「聞けよ、物理的に爆発させるぞ」

「………………ほら、箸休め的な?皆がシリアスするのなれば私は癒し担当で」

「さっさとシリアスモードに突入してくれよ大将」

 

 ブツブツ文句を言うMr.5を恨めしく思いながらリィンは説明する。

 

「いいです?今私達に出来る事は少なきです」

「は、それがなんの関係に」

「ここはあくまで他国。自ら関わる町や地域では無きです。そして私は元海軍兵、海軍は元々国家に対するして不用意に踏み入るしてはならないのです」

「……」

 

 辞めたのなら関わってもいいじゃないか。

 そう言おうとしたがMr.5は口を噤む。

 

 彼女は今も大将だと伝えられた、それは敵である自分たちに対してだ。

 その信頼に応えるには麦わらの一味や王女、その他諸々に悟られてはいけない、と察するにはこの航海の間、充分過ぎる程時間があった。

 

 Mr.5。BW組の中で1番頭が回る男の様。

 

「キミ達は海軍に入るする身。同じ事が言う可能です」

「う……ま、それは」

「そしてアラバスタの王女が関わるも不味いです。それはもはや国家問題。内乱で揉めるしてるアラバスタにとってこれ以上に無き痛手とやらです」

「……大将、悪かった。アンタも色々考えてたんだな」

 

 納得できる理由を上げられて素直に頭を下げる。微睡んでるのはあくまでもビビや自分たちの責任感を忘れさせる為か、とも()()()して

 

「まぁ!私は海軍辞めるしてますし?キミらもまだ入る前ですし?ビビ様は亡命中ですし?別に関わるしてもよろしきですし?さらに言うなればワポルは海賊の旗を掲げるした時点で住民票から名前が削除されるが故、国王でも何でも無いから意味の無きですぞね!!!」

「おい」

 

 真剣そうな顔から一変、いつものドヤ顔で告げられ一瞬でも尊敬した自分をぶん殴りたいと心から思った。

 それと同時に目の前のドヤ顔も。

 

 耐えろ、仮にも上司となる人間。そして何より年下だ。と暗示のようにブツブツ呟く。

 

「寒き故に出たくないぞ〜〜」

「殴るぞ」

 

 しかし限界だったらしい。思わず口からぽろりと本音がこぼれ出た。

 

「カリカリするなぞ、お菓子食べる?」

「どこから出してきたんだ、おい。お前はどこでも貯蔵庫か」

「惜しい、ドアでは無きか!」

「意味が分からん!」

「まぁまぁMr.5…リィンちゃんって昔から突拍子も無い人だから言っても今更よ?」

「っくぅ!こいつは、大将は突拍子も無いことをしてていい立場じゃ……!(大将って立場なら突拍子も無い事はしてられないだろ!)」

 

 言いたいけど言えないジレンマがMr.5を苦しめる。その気持ち、ここにいる王女は察せれない。

 代わりにBW組は察しているので後で存分に慰めて貰え。

 

「優しきねぇ〜…」

「は?」

「Mr.5が味方になるしてくれて嬉しきぞ。ありがとう」

「…………お前は本当に突拍子も無いな」

 

「BW組」

 

 リィンはにこりと微笑んだ。

 

「いずれ本当に大将と認めてくれたのなら、その時に君達の本当の名を、教えて」

「「「「…………。」」」」

 

 BW組はお互いに顔を見合わせる。

 確かに無理やり部下になると言われて混乱したまま了承はした。そして呼び合う名はコードネームや渾名だ。

 

 きっと、その名を教える時が本当に部下になる時だろう。真っ直ぐに見つめる目は、元犯罪者としてむず痒くもあり、その信頼が小っ恥ずかしかった。

 

「は…!これぞまさに『君の名は。』ぞ!」

「ほんっっっとにいい加減にしてくれ!!!!」

 

 照れを怒りで誤魔化して、Mr.9が代表して叫ぶ。

 

 頑張れBW組、君達が1番の苦労人かもしれない。

 

「ところでアンタ達はなんで大将なんて面白い呼び方してんだい」

「「「「「ン゛ン゛ン゛ン゛ン゛ン゛」」」」」

 

 Dr.くれはの指摘に思わず態とらしい咳払いをした。

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 外で冷たい風を浴びながらシリアス真っ最中の彼らは作戦に移った。

 

 作戦は至ってシンプル。

 いかに視線を自分達に向けさせ、チョッパーを雪に紛れ込ませるか、だ。

 そしてその隙にチョッパーがランブルボールという物を使ってワポルに攻撃を仕掛けるらしい。そのランブルボールが何なのか分からないままだが時間が無いのも危機的状況なのも変わらないので従う事にした。

 

「〝ギア3(サード)〟」

 

 ルフィは出惜しみ無く、全力で目立った。

 

 しかし彼が作戦を理解など出来るはずが無い。そこはウソップの策があってこそだ。

 言葉はたった一言『威嚇してみろ』

 

 どこの野生動物だ、と叫びたくなったが結果は上々。

 周囲の人間は全てルフィの巨体に釘付けになった。

 

「っ!?」

 

 ……作戦の要であるチョッパーまでも。

 

「うおおおおおおおっっっ!!」

 ルフィは大声で叫ぶ。

 ピリピリと肌が震えた。

 

 ウソップは動けないでいるチョッパーの正気を戻す為に、敢えてルフィに向かって鉛玉を飛ばしたのだった。

 

「くそ……暴走シチマッタノカ…っ!」

「ぼ、暴走!?アイツ暴走するのか!?」

「あ、これもダメだ失敗した」

 

 暴走した、と言ってチョッパーの意識を逸らそうとしたのに更に引きつける事となって頭を抱えるウソップ。

 

 上手くいかない、世の中考えた通りにはなかなかいかないものだと悟る。

 

「ルフィ!そのままぶっ飛ばしちゃって!」

 

 次の作戦はどうしようか、と頭を捻らせるその時。高い女の声が耳に入ってきた。

 

「よし!分かった!〝ゴムゴムの……〟」

「うええええ!?なんでナミが人質に取られてねぇの!?!?」

「そんなのさっきの間に逃げ出したわよ!」

「俺たちの苦労は!?」

 

「〝巨人銃(ギガントピストル)〟!」

 

 あーだこーだと文句を言っている内にルフィは雪を抉るように攻撃を放った。

 あれれー、もしかして役立たずでした?

 

 サンジも、ウソップも、そしてチョッパーも。この規格外を前にして何も言えなくなった。

 

「うし!終わり!なんだ、予想以上に弱かったな!」

 

 ビタンっとゴム特有の縮む音がして、小さくなってしまった船長がどさどさと舞い落ちた雪の中から現れる。

 完璧に絶句。

 

 

 

 

 こうなった原因は?と、誰かに問われれば。麦わらの一味は口を揃えて言うだろう。

 

 『悪知恵仕込んだリィンのせい!』と。




ドシリアス君どこですか。


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番外編11〜バレンタイン〜

少しタイミングが遅れたのと時間軸が本編より少し先の話ですが。


 

 元ドラム王国の雪がシンシンと降り積もるある港、つい数刻前元国王ワポルが倒されて国中が浮かれる中。心躍るイベントがあった────。

 

 「ドキッ♡海賊だらけのバレンタイン〜気になるあの子のチョコはどれ〜を開催するぞ!」

 

 バッ!と黒いマントをはためかせて高笑いするのは麦わらの一味の賞金首〝堕天使〟リィン。どこかで見た光景だ。

 

「いきなり集めたと思ったらなんだよ」

「それ、面白いのか?」

 

 首を傾げる狙撃手ウソップと新しく仲間に入ったチョッパーが疑問を投げかける。

 

「スッゲェ逃げ出してえ」

「え?嫌です?バレンタインですぞ?」

「節分で豆を的確かつ急所にぶち当ててくるお前の企画程嫌なものはない!」

 

 

 ───バレンタイン。

 それは好きな人に女の人からはチョコ、男の人からはバラが贈られてくるリア充のイベント。

 

「興味ねぇ」

 

 チッ、と不機嫌そうな顔をするのは剣士のゾロ。そして隣でそれに同意する様に頷くのはBW組と呼ばれるMr.5だった。

 

「大将…あんた今度は何考えてるんだ?」

 

 呆れた目を向けるのは同じくBW組のMr.9。

 

 ゲームにノリノリだった七武海とは大違いだと内心思いながらリィンはルールを続けだした。

 

「私達女の人達でバレンタインのチョコを作成したです。どうぞ食べて下さいです」

「へぇ〜!麗しいレディ達の!」

 

 その説明に目を輝かせるのはキッチンから追い出されていたコック、サンジ。

 

 

 筆頭であるリィンに続き、オレンジの髪を纏うナイスバディのナミ。そして清楚ナンバーワンの王女ビビ。BW組からはミス・バレンタインとミス・マンデーが腕を振るっていた。

 

「ただき!」

「ただし、ね」

「ただし!当たり外れがござります!」

 

 ミス・バレンタインの訂正をさり気なく交わしながら爆弾発言を落とした。

 

「なんだ?ナミ、料理苦手なのか?」

「失礼よルフィ」

 

 船長〝麦わら〟のルフィの言葉に反論したのはナミだ。

 腰に手を当ててプリプリ怒っている。

 

「ちなみにハズレは?」

「私の料理」

「えっ」

 

 ウソップの言葉にいち早く答えたのはリィン。

 グッ、とサムズアップするとウソップは引きつった笑いを浮かべた。

 

「何入れた」

「至って普通を作るしていたですが……。自覚ある料理オンチです夜露死苦」

「ぐぇええ……」

「『見た目は普通なのに味が異様だった』ってカルーが言ってるぞ」

 

 動物は嘘をつかない。というフレーズが頭に浮かんだ。認めたくないが味が酷いらしい。

 

「幼き頃はもっとまともですた」

 

 しみじみと呟く。

 あの時は吹き出す程度だった、と小さく聞こえてしまったMr.5が青ざめる。

 ……なら今はどのレベルなんだ、と。

 

「オカン!例の物を」

「大将あんたクロコダイル戦前だからってテンション狂わせてんのかい?」

 

 ミス・マンデーがガラガラとカートを引きながら現れた。そのカートの上には艶やかなチョコが数々用意されている。

 見た目は普通。むしろ逆に良いと思う物ばかりだった。その分不安が大き過ぎるが。

 

 

「んっまそぉぉ〜!これ、食っていいのか?」

「えぇ、いいわルフィさん」

「ただし一つずつよ」

 

 ルフィは大きめのフォンダンショコラを選んでいく。この男、質や味より量を選ぶ男だった。

 

「んめぇえええ!」

「なんだと!?」

「くそ…これでハズレを引く確率が…!」

 

 残るチョコは七つ。六つが当たりで一つがハズレだろう。

 

「なんだよ、ハズレって言っても所詮チョコだろ」

 

 ヒョイっとゾロがトリュフを口に放り込む。

 

──バタン

 

 すると突然眠る様に倒れたのだった。

 

「「「「!?」」」」

 

 一同はギョッとする。

 あのゾロが?

 筋肉バカがチョコを食べて倒れただと!?

 

「あ、大ハズレ〜〜!」

 

 カランカランっ!と鐘を鳴らすリィン。

 

「お前何入れた!!!!」

「至って普通と申し給うたですぞ!」

「お前は魔法みたいなのを生み出せる代わりに劇物を生み出せる様になっちまったのか!?」

「きっとそうに違いなきですぞ!」

 

「作り方は…!おかしくないのに……ッ!」

 

 ミス・バレンタインが膝から崩れ落ちる様に座り込んだ。おかしい、何かがおかしい。こんなのがバレンタインと認めていいものか?いや、認めていいわけがない。

 

「ま、ロロノアが食ってくれたお陰で他は安全だろ。お、レモンチョコ。これはミス・バレンタインで───」

 

 レモンピールにチョコが掛かってあるのを手に取ったMr.5。シンプルだし特徴もあるので目敏く見つけ出したのだった。

 ホイッ、と口に入れると「ごブッ…」……何故か変な音を発生させて倒れ込んだ。口からは泡が出てる。嵌められた、だと……!?

 

「リ、リィンさぁぁ〜……ん」

 

 恐る恐るMr.9が女子勢を見ると祈るリィンと目を背ける4人がいる。

 

「大将、何を祈ってる」

「ん?どうかサンジさんに私のチョコが当たりませぬように、と」

「まだあるのか!?アレか!?四つ当たりで三つハズレだったのか!?」

 

 流石BW組のMr.ツッコミ。

 現実逃避をやめて叫ぶようにツッコミを入れた。

 

「お゛で…じぬ゛の゛がな゛!?」

「やめてやれよ堕天使ィィ! 悪魔ァァア! 新加入のチョッパーが可哀想だろォォ!?」

「……………私、可愛いとか、知らぬので」

「冷血女ぁぁあ!」

「私が恐れるは権力と武力とナミさんのみぞ!」

「最後で台無しだよ!」

 

 ウソップが泣き出すチョッパーを抱きしめる。

 なんとも演技がかった様に見える為、リィンが冷めた目をしていた。最も、チョッパーは本気で泣いていた様だが。

 

「…………俺が行こう」

「ッ、サンジ!?おま、お前死ぬ気か!?」

「レディの作った食べ物……全部食べるのが紳士であり、コックの役目、だ……!例え、例えこの身は滅ぼうとも───」

「お前……漢だぜ……輝いてるよ」

「───俺はレディを愛してる!いただきます!」

 

 摘んだチョコを見てリィンが『あっ』と口だけ動かした。

 

 

───バターンッ!

 

 

「「「………………」」」

 

「ニセキング」

「なんだウソップ」

「……残り物には福があるんだな」

「今生きてる幸せに、乾杯」

 

 

 

 

 

 バレンタイン。それは悪夢を見る日。

 この日、3人の男がチョコに襲われる夢を見た。

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

 

「ところでお前はなんでこんな事し始めた?」

「あぁ、私の家(と言うかガープ中将の部屋)にバラが大量に届くしたと連絡をいただきますて」

「え?お前はモテんの?」

「恐らく勧誘、毎年恒例。そしてですな、部屋が埋め尽くされるした様子ですたので今度チョコを贈ろうかと」

「分かった!要は大嫌いで迷惑で俺達は実験体だったんだな!?」

「ビビ様と人外(ナミさん)が自然と除外するイベントって素敵ですぞね」




ふ…誰がラブラブな番外編を書くとでも!?
yes非リアnoリア充!
身近な人間がバレンタインを期に付き合い始めたとか全然気にしてないもんね!!!


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第106話 押してダメなら更に押せ

 

「チョッパー仲間になってくれ!」

「……俺はトナカイだぞ!?」

「それがどうしたコノヤロウ!ウチの船にはカルーがいる。それにニセキングが乗ってるんだぞ!?」

「俺がオチか?俺がオチなのか?何でだ麦わら!」

 

 ルフィがドルトンさんの家でチョッパー君を勧誘しており、それにMr.9が巻き込まれる。

 ご愁傷様。

 

「その、ところで本当に新しい国の申請をしてもいいのか?私は国で無くても……」

「シッ…! ダメですよここが国じゃないと。黒ひげに1度滅ぼされた国は完璧に新たな国として生まれ変わるです。そうでなければ責任問題が生ずるですので従うして下さい」

「……ありがとう、ございます」

 

 ドルトンさんがこっそり頭を下げる。

 

 ワポルが島から逃げ出して海賊船に乗っている現状(どうやらルフィ達は殺しはしなかった様)で、その証拠に『下剋上した国』というのが必要になってくる。『ワポルの国民』は要らない。国民さえ居なければ国じゃない。

 『攻撃を仕掛けるなど言語道断!』なーんて言われる前にワポルを国王の分類から外しておきたい。

 

「こちらこそありがとうです。彼らを預かるしていただき」

 

 BW組の四人は海軍の船、迎えが来るまでドルトンさんの家に置いていける事となった。

 アンラッキーズは今飛ばしてるから居ないけどこの4人はBW戦や国関連に巻き込めれない。

 

 

 ……私が見た予知夢が正夢であれば。ボス(笑)とは戦場で会うことになる、かもしれない。

 

「あ、BW組ごめん配慮が足りぬですた。頑張って戦争前に実力付けるして、七武海に負けぬよう」

「タイショー?何か言った?」

「何事もー!」

 

 にーーっと笑って誤魔化そう作戦。訝しげな目を向けるでないわ!

 

 

「なぁチョッパー!仲間になってくれよぉ〜!」

「なんで俺にこだわるんだ!」

「だってチョッパーは医者だ!それに面白いからな!」

 

 にっしっし!と笑ってルフィが告げる。

 腕がグルングルンにチョッパー君に巻きついてる。不憫な……。

 

「ドクトリーヌぅぅぅ」

 

 助けてくれと懇願した目をDr.くれはに向けるが彼女は鬼だった。

 

「行っておいでよバカ息子」

「う、裏切ったな!」

「なぁに言ってんだ、テメェのケツくらいテメェで拭けるようになってから言いな!」

 

 豪快に笑う姿を見てどこかホッとする。

 よきかなよきかな、私の簡易盾ゲットだぜ。

 

「な、チョッパー!」

「う……わ、分かったよ」

「よっしゃぁあ!リー!宴だ!」

「嫌だぞ、ご飯なくなる」

「ケチ臭いこと言うなって!」

 

 でも船医が仲間になってくれて良かった。

 物理的な怪我だけじゃなくて海には変な病気とかいっぱいあるから管理栄養士(サンジ様)と協力して健康な体を保ってほしい。自分もだけど主に王族の。

 

「ところで…えっとドクトリーヌ」

「若さの秘訣かい?」

「聞いてないわ」

 

 締め付けられたらしい首元に包帯を巻き終わったナミさんがDr.くれはに声をかけた。

 

「あのワポルが住んでた城って──宝物庫、ある?」

「流石ナミさんがめつい目敏いそこに憧れぬ痺れぬ」

「リィン…そんなに私の事が好きなのね!」

「あ、ダメだ。この人最近まことにダメぞ」

 

 ナミさんの脳みそは多分都合のいい言葉しか入らない残念美人さんだ。

 嫌だわぁ、嫌いじゃないんだけど嫌だわぁ。

 

「確か武器庫くらいしか無かったよ」

「そんな……!」

 

 ブツブツと文句を言い始めた。

 

「鍵なら全部スったって言うのに…宝物庫がないなら意味が無いじゃない……!」

 

 おい。我が身ピンチの状態で貴様何しとんじゃい。

 

「本当かい?」

「何、疑う?本当よ。私、一番ワポルに近かったから。スったの」

 

 懐から取り出した鍵を見てつけるとドヤ顔した。私にもついでにチラチラ目を向けてくるのでガン無視する。

 

「レモンちゃん今日もいい天気ぞねー!」

「あの、タイショー?ナミがずっと見てるけど」

「いい天気ぞねー!」

「…………そうね」

 

 諦めた様だ。

 つーか大体鍵をスらなくても開ける限定で出来るんだけどな。私が。

 

「チョッパー、あんたは荷物取りに行きな。それとドルトン、野郎共適当に借りていくよ」

「一体何を?」

「ヒッヒッヒ…ロープウェイ直しと色々さね」

 

 怪しげに微笑むと出て行こうとするドクター。

 あんまり接点なかったしこれといって情は無いけど足であるチョッパー君を私たちに引き渡す事になった原因は私だよなぁー…。

 

「あ、良ければ海軍が来るまで男手ウチから使うしてください。多分役に立つです──オカンが特に」

「男じゃない、オカンは男手って、言わない」

「はっ!貴様ら如きが偉大なるオカンに敵うとでも思うしてか!?笑止!!」

「ぐぅ、正論……!じゃねぇだろ!力はあったとしてもオカンは女だ!」

 

 すかさずツッコミを入れたのはBW組のツッコミMr.9、ニセキングでもツッコミの腕はそれなりにあるってのか…!

 でもウソップさんには敵わないだろう。

 

 そうだ今度からウソップさんの事Mr.ツッコミ魂と呼ぼう!

 

「助かるねぇ、アンタの手足かい?」

「ん?違うですよ?計画的な作戦に敵側の生存者がいるなれば情報リークが怖いではありませぬか。要は監視させるぞー!という事です」

「随分怖い嬢ちゃんだね」

「ハハハー…自己保身能力が高いと言うしてください」

 

 Dr.くれはの視線が痛いでござる。

 流石に年の甲や経験には及ばないってことだな。

 

 そういうことにしておいてあげるよ、と言われて焦ったけどDr.くれはとチョッパー君は外へ出て行った。

 

「なんだ、俺たちはあんたの手足じゃムグッ!」

「お前ばかだろ」

「ムー!ムー!」

 

 やや不貞腐れた顔をしてMr.9が言おうとした言葉をMr.5が急いで塞ぐ。

 ふーむ…やはりMr.5は頭が良い。それに反して柔軟な発想は出来ないみたいだけど。

 

 建前として私がBW組を海軍に入れるのは『邪魔者を監視下に入れる』ということ。だから海軍の裏切り者である私が今後海軍に引き渡される4人と接点があると思われては私が海軍のスパイだとバレる。

 あくまで私=大将女狐だと知ってるのはBW組とドルトンさん。て言ってもBW組はドルトンさんが知ってるのは知らないと思うから4人の中だけの認識になってる、筈。

 

「つーかBW組の4人は海兵になるんだったな」

「おう、忘れてたな!海賊かと思ってた!」

 

 ウソップさんに続きルフィが疑問を投げると苦笑いをしながらBW組が答える。

 

「まぁ、一応約束だしな」

「仕方ないわよ、これでも犯罪組織の幹部よ?」

「敵同士になっちまうのか……うーん…」

 

「海賊だろうと賞金稼ぎだろうと海兵だろうと大将の隙あらばサボる癖と麦わらの一味の今後は心配するけどね」

「「「わかる」」」

 

 オカン…………。私泣くよ?

 

「私よりサボる癖ぞ多き人いるのですが、向こう」

「いいかい大将。あんたのは表立ってサボらない。さり気なくサボる真面目系クズの思考回路だよ」

「ぐ……的を射ているぞ」

 

 確かに凄くサボりたい。本来なら私は努力は大嫌いなんだ…でも、でも生き延びるためには逃げることに全力を出さないと……!

 うう…やはり七武海嫌いでござる。ついでに私に仕事を回してくるジジとクザンさんも嫌いでござる。

 後全体的に熱血漢のサカズキさんも苦手でござる。私の癒しはリノ様とおつる様だけよ。

 

 あ?センゴクさんはなんか別物。文句言うとかのレベルじゃない…無茶をたくさん申してすまぬ…すまぬ…。昔七武海を見習ってジジィと仲良くしてとか思ってすまぬ…。あれは無理だわ。もうセンゴクさんまじ仏。仏の名に相応しい…。こうやって自由に潜入してるのもセンゴクさんの計らいあってだもんな……。

 

 だがしかし!海賊大お掃除大会だけはいただけなかった…!もっと違う方法が嬉しかったな!

 

「チョッパーは戦えるのか?」

「知らぬ、本人に聞くが良き」

「まぁどっちでもいいさ!俺はあいつが気に入ったんだ!」

「一体どこを……?」

「怒りながら怪我治す所!ビクビクーってしてたのに怒るんだぞ?にっしっし!イイヤツだよな!」

 

 ルフィは本当に時々本質を見抜く。

 カッコイイのやらカッコ悪いのやら。

 

 新しい仲間という事で話に花が咲いた。サンジ様曰く戦える術は持ってるかもしれない、とか ゾロさん曰く治療中は見た目と違って思ったより怖い、とか。

 

「船医も手に入れたし後はビビの国だな〜!」

「えぇ…そうね。でも指針が無いからアラバスタまでどう行こうかしら…」

 

 ビビ様が不安げに呟く。

 

「その心配はもう少しで解決するです」

 

 私は窓の外を眺めながら笑いかけた。

 

「え、アンラッキーズ?」

 

 丁度いいタイミングでお使いに行っていたアンラッキーズが戻ってきた。ビブルカードを持たせていたから迷わずこの国まで来れたみたい。

 ドルトンさんに許可を得て窓を開け中に入れるとアンラッキーズはビクビクしながら首に下げている袋を差し出そうとした。

 

「ん、上出来」

「「…!」」

 

 言葉が喋れないからと言って意思疎通が出来ないわけじゃない。アンラッキーズは敬礼ポーズをした後すぐにMr.5の所に逃げた。全く、失礼じゃないか。

 

「それは…?」

 

 暗い緑の袋を開けようとすると横からビビ様、正面からルフィが覗き込む。

 

「──アラバスタへの永久指針(エターナルポース)

 

 見せつける様にコンパスを握るとポカンとした全員が顔になった。

 

「なんというか……便利ね」

「便利だな」

「すごく便利だ」

「言いたい気持ちは分かるけどもうちょっと言葉を選ぶべきだと思うわ。その……───ごめんなさい便利だわ」

 

 ビビ様がフォローに入ろうとしたけど無理そうで頭を皆に下げた。私はドラえもんかよ。

 

「皆さんはこれから一体何をするつもりなんですか…」

 

 今この場で唯一状況が分からないドルトンさんが思案顔をする。

 

「一人の男を、落とすです」

「はぁ…、そう、ですか」

「大将、その言い方に誤解が生まれるね」

「言語学習のみは勘弁、勘弁を…!」

 

 おつるさんのお勉強会(恐怖)はもうしたくない。

 

 

「も、戻ったぞ!」

 

 幼い男の子のような声が聞こえて視線を向けるとチョッパー君が居た。

 速いな、随分と。荷物が少なくて準備がすぐに終わったのかそれとも走る速度が速いのか。はたまた両方か。

 まぁ、どちらでも良いけど。

 

「ドクトリーヌは降りてこないって言ってた」

「そうですか……」

「んん!よし!なら出航だな」

 

 ルフィがそう判断を下すと全員が荷物をまとめ立ち上がる。ドルトンさんやBW組だけが不満そうな顔をした。

 

「今は夜中です。危険なのでは?」

「追手を撒くは充分です、そして結構時間がキチキチ故に。──クロコダイルは舐めるしてかかるとこちらが痛手を見る」

 

 あぁ、そうさ。いくらフレンドリーでもロリコンでも海賊サー・クロコダイルは海のヒエラルキーの頂点付近に立っている。海の強者だ。

 雑魚とかのレベルじゃない。どう考えてもルフィより強い。

 

 覇気が使えなくても、片手が無くても、アラバスタはあちらのホーム。敵地。

 

 

 胃が、痛くなってきた。

 

「裏の裏をかくせねば…恐らく負ける」

「キミ達は七武海を相手に…っ!」

「幼馴染みであり王族であり友人でもあるお方のお願いです故、全力ですよ」

 

 皮肉を込めて言う。

 私1人ならアラバスタくらい見捨てた。傍観しながら『わー、アラバスタ大変だなー』とか『ひゃー!クロさん王族になったのか!ドフィさんとお揃いだな!』とか思ってた。

 

 どっちみち胃を痛めるけど。

 

「リィンちゃん……私、貴女に会えて本当に良かった!手伝ってくれてありがとう!」

「………いえ、どう致すまして」

 

 忘れてたな、王族って天然が多いんだった。

 

「流石私のリィンね!」

「あ、私の所有者は私のみですのでお断りです」

「そんな…こんなに愛してるのに!?」

「愛でお腹が満杯になるとでも?」

「うぅ…でもそこが可愛いから許すわ!」

「アハハーアリガトウゴザイマスー」

 

 ナミさんってもうそろそろ寿命が無くてもおかしくないと思うんですけど神様どうにかなりませんかね。

 

「うっし、家、貸してくれてありがとな!」

「まことにありがとうござりました」

 

 ルフィが手を振りながらお礼を言い、私は頭を下げる。

 

「あ、そうだ!なぁお前!この国のウサギは食べ物を分けると色んな事手伝ってくれるぞ!」

 

 チョッパー君が何かの助言をして家を出る。

 

 村人の人達がわぁわぁと騒ぐ中船へ向かっているとチョッパー君はポツリと呟いた。

 

「俺の尊敬する人、海賊の旗には不可能を可能にするって言ってたんだ」

「あのドクロに、です?」

「うん。ドクターが死ぬ前に30年間の研究も完成させた。凄い人なんだ」

「へぇ〜…」

「でも、ちょっと思うんだ。本当はそう言わないまま死んだら俺が悲しむから嘘を言ったんじゃ…って」

 

 30年間の研究ねぇ。長いような短い様な。

 何を成し遂げる為に研究をしてたのか私の様な部外者には分からないけど努力家だったんだろうな。

 

 

 そんな時だった。

 

 

───ドゥンッ! ドォンッ!ドンッ!ドドゥン!

 

 聞きなれた、大砲の音。

 城があると言っていた直立の山からだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 光が灯るとそれは幻想的な1本の桜。

 

 ドクターの研究は完成していたんだ!

 大きな声で泣くチョッパー君を抱えながら私は前世からの記憶にも薄らと残っているその桜を見ていた。

 

 

 

 

 

 

 みんなが綺麗だと泣く中、場違いにも環境問題とか考えながら。

 

 

 ==========

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──数日前、ロベールの街

 

 

「なぁそこの兄ちゃん」

「ん?どうした…?」

「黒ひげがどこにいるか知んねぇか?」

「いや…海に出てからの行方は全く分かんねぇな……すまねぇ力になれなくて」

「あぁ、いや、いいんだ。どうせ本命はこっちだし」

「ん?手配書?」

「ここにこの2人が来たら伝言伝えてくんねぇか?おれはアラバスタで1ヶ月間待つって」

「長ェよい」

「いいじゃねぇか。会えるだけ会っとかないと──じゃ、よろしく頼むぜ」

「お、おい!あんたら名前は!」

「っと、そりゃそうだ!──俺の名は〝エース〟 2人にそう言ってくれたらわかるだろうよ」

「さっさと行くよい」

「おう、分かってるってマルコ」

 

 

 

 

 

「もう弟妹に会えたら黒ひげとかどうでもいい」

「ぶん殴られたいかエース」

 




ついにアラバスタへ向けて。


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第107話 緊急会議

 

 

永久指針(エターナルポース)ぞありがとう!」

『ビビ王女ってのはこちらにとっても力強いキーになる。決してお前の為じゃないって事は念頭に入れておけ』

「うっす!」

『そちらの情報。どうなってる』

「ひとまずMr.5.9とミス・バレンタインとマンデーの無力化。それとアンラッキーズ作幹部の似顔絵…。あ、そちらにも渡ると思うですが」

『あぁ、渡された。助かる。…また情報手に入れたら一応連絡してくれ』

「分かるますた」

 

 厨房で他の6人と2匹が雑談してる中見張り台でリィンはその雑談に敢えて参加せずに革命軍との連絡を取り合っていた。

 

 手にして見ているのは2枚の似顔絵。

 1枚目はオフィサーエージェント、2枚目はフロンティアエージェントの幹部の似顔絵だ。よく出来ているのだろう。

 

「(フロンティアエージェントは恐らく捨駒……国盗りのキーになるは、オフィサーエージェント)」

 

『これは確定だがアラバスタには確実にオフィサーエージェントが──』

「──集まる」

『あぁ』

 

 電伝虫から聞こえるサボの声に耳を傾けながらリィンは思考を止めることはしなかった。

 

「似顔絵の情報は信憑性や混乱も含めまだ渡すておりませぬ。アラバスタ上陸後に念のため見せるです」

『そうだな、そちらの方がボロが出なくてすむ。お前の言ってる通り、混乱は一番避けたい所だ』

「その分私は混乱するですが」

『テメェはどうでもいい』

「サボさん相変わらず辛辣」

 

 リィンはふぅ、とため息を吐く。

 予定通り航海が進めば残り2日程でアラバスタに辿り着くだろう、とナミが予測している。

 

「災厄、私にふりかかるすぎでは?」

『お前が今までどんな災厄に遭ってきたと思ってんだ。俺に話してきた回数より絶対多いだろ、テメェならなんとかなるに決まってる、大丈夫だ』

「どこが!?私の災厄回収解決への信頼度がカンストすてむしろ怖いですぞ!?何が起こるしたぁあ!」

 

 ぐぬぬと唸る声が電伝虫越しに聞こえて、サボはこっそり笑みを零す。

 それを見ていた革命軍の新入りが仰天していたらしいがリィンの知る所では無い。

 

『ほら、要件人間と名高い俺が珍しく雑談してやったんだ。計画練り直すぞ』

「あい……」

 

 疲れた声で渋々した返事だったが、その顔には笑みが浮かんでいた。それが何に対してだったか誰も知らないが作戦の練り直しに一時間の時を有したのをここに記しておく。

 

 

 

 ==========

 

 

 

「え〜〜?そうかぁ?」

「これで凄いと思えないルフィさんの神経を疑うわ」

「それは疑っとこうぜビビちゃん……──チョッパー!バカを治す薬って」

「出来てねぇぞ」

「………………………だよな」

 

 肝心の麦わらの一味はリィンを除いて厨房でワイワイ雑談をしながら夕食を食べていた。

 どうせ見張り番はリィン。彼女なら放って置いても基本大丈夫だ。つまり仲間外れだ。

 

 実際リィン自身そちらが有難いと思っているので拗ねはしない、ただあったかいご飯が食べれないとブツブツ言いながらウソップに一撃加えるだけだ。実害は無い。

 

「大体…ほとんど無傷で魚人海賊団滅ぼすって……化け物かよあぁそうだった常識が全く通じねぇ愛すべき馬鹿船長だったくそ!」

 

 彼らが酒の肴(と言うよりはご飯のお供)にしているのは過去のあれやこれ、麦わらの一味暴走航海記だ。

 

 本日の肴は『【頭突きも】種族の差などあってなきが如し【いけるな】』

 ナミの故郷で起こった決して笑えない筈のイベント情報なのだが何しろそこを支配していた魚人海賊団はあまりにも不憫、そして呆気なく解決されてしまったのだ。聞いた途端サンジは頭を抱えた。これ、乗る船間違えた、と。

 

 その感覚を共有したことがあるのかゾロが少しだけ優しくなったがそれに気付かないくらいにはショックを受けていた。

 

「ないわーーー。まず何より頭突きで倒すとか魚人が可哀想だ」

「その魚人…格闘家?みたいな魚だったんでしょう?なんというか、可哀想。BWにも数人いるって噂で聞いたことあるけれど不安が無くなってしまったわ」

「くぇっっ!」

「カルーも可哀想だーって抗議してるぞ」

 

 あの場に居なかったサンジ、ビビ、カルー、チョッパーが引き気味にコメントを残す。

 カルーに至ってはご自慢の羽をバッサバッサと広げて抗議していた。

 

「あれ見た時はスカッとしたわ!流石リィンよね!」

「……ナミさんってメンタル凄いよな」

 

 恋は盲目。恋はいつでもハリケーン。

 一体どちらの事を言ってるのか分からないがナミがタフな事は変わりない。

 

「でもよ、今までで一番肩書き的にスゲェ敵っつったらアイツしかいねぇだろ」

 

 ゾロが食べていた手を止めて語る。

 

「どいつだ?」

「バギーだよ」

「んん〜?アイツ強かったか?」

 

 ルフィが首を捻らす。確か細かい怪我はあろうどもほぼ無傷の勝利だったはずだ。

 

「だから、肩書きだっての。アイツ海賊王のクルーだったろ」

「おお!そんな事言ってたな!」

「「「はぁ!?」」」

 

 慌てて会話を止める。

 どういう事だと目でゾロに抗議すれば分かってるとばかりに頷かれた。新たな肴の登場だ。

 

「宝持ってるからって村ァ支配してた海賊討伐が最初の目標だったよな」

「正確には倒せなくても盗む。だったけどね、海賊は嫌いだったしどうでもよかったから」

「今は──」

「──リィンがいる海賊って最高よね!!ビバ!海賊ライフ!」

「お前がそれで幸せならいいけど、それはそれでどうなんだ………。当初メチャメチャ毛嫌いしてたじゃねぇか」

 

 ゾロは心底呆れた声を出す。

 

「リィンが海賊王のうんちゃらかんちゃら、って教えてくれたんだよな」

「そう言えばバギーって賞金上がってたわよ」

「ぇ、そうなのか?なんでだ?」

「さぁ……前に見せてもらったことがあるから……。えっと、確か1億2000万…」

「それ、中堅レベルじゃねーかよ」

 

 ウソップが戦慄した声を出すがルフィは気にしてなかった。

 

「ま、所詮肩書きだけだな」

 

 ほらほらおしまいだ、と飯に戻るゾロ。

 そんな時、ルフィが思い出したようにある事を呟いた。

 

「リィンの持ってた指輪の事なんだけどよ」

「──第1回!麦わらの一味緊急会議!!!!」

 

 ナミが大慌てで口を開く。

 

「おーっと、これは意外な話題が出てきたな」

「ワカメ曰く結婚出来ねぇ女、なのに」

「ワカメってMr.5って呼ばれてた奴のことだよな?」

 

 甚だ遺憾である、と本人が聞けば口を開いただろうが丁度居ないのだ。

 ルフィは食べる手を止めないまま真剣に話し出した。

 

「2つの指輪が、首にかかってたんだ……どういう事だと思う…。俺は絶対嫁には行かさん!」

「えぇ、エェそうよルフィその調子よ!嫁に行くなら私の所以外絶対に許さないわ!」

「このリィンちゃん溺愛隊はどうにかならないのか…チョッパー、この2人」

「──診れねぇし治せねぇ。俺は万能薬にはなれねぇぞ」

「…………おう、なんかすまんかった」

 

 船医チョッパー流石にお手上げ状態だ。

 

「とりあえずあいつが海軍にいた時に貰ったと考えていこう」

「あいつ自分の過去を全く語らねぇよな。海軍の雑用だった、鷹の目と知り合いだった、って事しか分からねぇ」

 

 ウソップの言葉に一味のほぼ全員がうんうんと頷く。

 

世界会議(レヴェリー)に行く時もこれと言って仲のいい海兵さんは見つけれなかったわ」

 

 唯一雑用時代を知っているビビも情報を追加する。

 

「レヴェリー?」

「選ばれた各国の王達が集まって四年に一回会議をするの。私の国もその一つでリィンちゃんは私の護衛を担当してたわ。私がお願いしてたの」

「それでか」

「10年くらい前に初めて会ったんだけど、だれだったかしら……大佐に面倒を見てもらってたわね」

「10年も前だろ〜?流石にお互い細かく覚えてないだろ。その時大佐って奴も昇格してるかもしれねぇ」

「そうね」

 

 意見が交錯する中コビーは違うもんなぁ、とルフィが呟いた。

 

「コビー?」

「ナミと会う前、丁度ゾロと会った島でドンパチやったんだよ、海軍と」

「ああ、コビーか。そんなに前じゃない筈なのに随分懐かしいな」

「あなた達一体何をしてるの……」

 

 思わず、と言った様子でビビが声を上げる。

 話によるとそこで海軍志望の男の子がいて、リィンがBW組の様に海軍に送り込んだ、と言う話だ。

 

「海賊になった今でもコンタクトを取れる海兵が居たりするって事か」

「あ〜…それは1人思い当たるんだけどよ。絶対指輪の相手じゃねぇ」

「ん?そんな人知ってるの?」

「おう、今どんな仕事してるのか知らねぇけど偉いらしいぞ。俺は海軍よく分かんねぇ!」

「絶対、絶対違うのよね!」

「おう!」

 

 ナミが疑いを確認をするとルフィは自信満々に答えた。衣食住の内食に熱意を注ぐルフィの祖父だ、絶対に血筋的に衣をこだわる、なんて事ないだろう。

 

「案外七武海だったり?」

「鷹の目と知り合いって言うのもあるから捨てきれない可能性ね……」

 

 いつにも増して真剣に考察するナミ。

 

「クエーーッ!」

 

 カルーが一鳴き意見を述べたが誰も分からないので翻訳機(チョッパー)に視線が注がれた。

 

「ふんふん、革命軍もいる!って言ってるぞ」

 

「そうだった…!変なくらいの繋がりがあるんだったわ…!」

「あいつ空を平気でビュンビュン飛んだりするから行動範囲が本部内だけじゃねぇな」

「リィンちゃんは一体何者だよ……」

 

 特定するには広過ぎる範囲に肩を落とす。

 ダメだ、考えるだけ無駄な気がしてきた、と。

 

「俺は同期説を推す!やっぱり親しくなきゃ渡せないしタイミングってのもあるだろ!」

 

 ウソップが考察を述べる。

 いやいや、とその考察を否定したのはサンジだった。

 

「俺は鷹の目説だ。バラティエで見た時異様なくらい好かれていた…それが愛情か親愛か家族愛かどうだか知らねぇが。元海兵だぜ?ありゃ異常だ」

 

 一理ある。だが、とそれに反論をしたのはゾロ。

 

「鷹の目は剣士だ、愛だの恋だの情だのに振り回されたりしねぇ!もし七武海って面子なら他の奴だろ」

 

 同じ剣士としてロリコンだと言うのは考えたくないらしい。それもそうだ、自分の目指しているものがロリコンとか洒落にならない。

 

「じゃあ私は将校で…世界会議の時に心配そうに見守る方がいたわ。その、恋とかは考えたくないから親愛の方で」

 

 控えめにビビが意見を述べた。

 

「おれは、革命軍説だ!だって海軍と革命軍や海賊って敵なんだろ?なのにこうやって助けてくれるのってやっぱり仲良しだからだと思う!」

 

 チョッパーがワタワタと手を動かしながら身振り手振りで結論を述べるとナミが唸った。

 

「どの説も有りそうね……でも私は敢えて自分で用意した説を推すわ!むしろそれ以外信じたくない!」

 

 その結論にゾロはやっぱりな、と言う視線を注ぐ。

 

「ルフィは?」

「そうだなぁ……」

 

 ナミの声にルフィが頭を悩ませる。

 

「……兄ちゃん説」

「リィンにお兄さん居たの?ちょっと意外」

「本人も居るって言ってたし間違いねぇだろ」

 

 そんな時、一声カルーが鳴いた。

 

「クエーーッッッ!」

 

「なんでリィンが2つ持ってるんだろうって」

「え…?カルー、一体どういう事?」

「クエッ、クエーー」

「普通のペアの指輪なら一つずつ持つ筈だ、って」

「そ、それもそうね!カルー凄いわ!」

 

 カルーの指摘にナミの説が一層強くなる。

 

「クエッ」

「でも」

「クエーー…クエックエッ」

「自分で用意したんなら一つだけだと思うって」

 

「「「「「「………」」」」」」

 

 カルーの鋭い考察が場をより一層混乱に陥れた。

 恐ろしやカルガモ。この場で一番賢いかもしれないぞこのカルガモ。

 

 

 

 

 

「はーー、お腹すきたー!ご飯くだ…───何事?」

 

 異様な雰囲気の室内に一人首を傾げる雑魚がいた。



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アラバスタ編
第108話 心友(仮)のオカマ


 

『最終目標は何か決定すてるですか?』

 

 私の問いにビビ様が苦笑いを浮かべた。

 

『BWを追い出せれば国は救われる。私はそれだけで充分、かな………』

『なら、事件解決の方法ぞ私が考えるしても宜しいです?』

『え、えぇ…』

『フッ…目に物見るさすぞクロコダイル…っ』

 

 

 ==========

 

 

 

 

 どうもこんにちは私海軍で天使又は堕天使と有名なリィンちゃん!ちなみに賞金首!どこかのつまみ食いが癖の大馬鹿船長とそして国に喧嘩を売りかけてるていうかもはや売ってる大馬鹿七武海の性で最近胃痛薬をチョッパー君に処方されたの!あはは、ヤになっちゃう!死ね!おーっと、女の子がこんな言葉使っちゃダメだった。てへっ、失敗失敗☆

 明日はアラバスタに着く予定、そして解決した際に胃痛で倒れる予定のリィンちゃんは食材が切れてひそかに激おこプンプンムカ着火爆発状態なの!困っちゃう!全くもうっ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───…これ以上食糧難が続く様であればいくら兄だろうと武装色を身につけて骨格整形レベルでその顔面ぶち殴る。絶対に、だ。

 

 

 

 振り切れたテンションをブンブンとどこかに飛ばす。

 私は味気の無い保存食をモグモグしながらキッチンで本を読んでいた。題名は『砂漠越えのマル秘テクニック』

 一応一味全体で動くからそれなりに準備は必要だ。

 

「ナミさん来て!正面に何かあるみたい!」

 

 キッチンでそれぞれの時間を楽しんでいた時、ビビ様が慌てて航海士のナミさんを呼んだ。

 

「あぁ大丈夫よ」

 

 この辺りには海底火山が群集してるから蒸気が出てるのだという。ついでに航路の確認、とナミさん。そしてチョッパー君も甲板に出る事になった。

 私はガン無視で読書に走る。今更珍しくも無いしあれ凄いクサイから外に出たくない引きこもる。

 

 砂漠越え、思ったより大変になりそうだ。

 一番の問題はやっぱり水。でも空気中の水蒸気を集めれば水は私が生み出せるし、なによりアイテムボックスに水は積める。予め多めに買い貯めするべきか。

 あと直射日光は避けるべきだな。

 砂漠のイチゴって言う毒グモには気をつけないといけないから拾い食いアウトだな。

 うーん…夜通しは危険だからなるべく早めに休める所を見つけるのと、少し高めの位置から周囲を確認するべきか。

 

 

 

「「オカマが釣れたァァァァア!!??」」

 

 ………一体どういう事だってばよ。

 

 

 

 

 時間が暫く経ち、ぎゃあ!溺れた!釣れた!スワンスワン!などの楽しそうな声が甲板から聞こえてくるのでこっそり覗く。

 甲板にはピンクのコートに白鳥を二匹背負って次々顔を変えてる人間が座ってお礼を言っていた。

 

 これ、噂のMr.2では?

 

 暫く観察する事にして様子を伺う。

 ルフィが吹き飛ばされたり顔が変わったりかと思えばナミさんの体格(チッ)が真似されたり。

 

「さて、残念だけどあちしの能力はこれ以上見せるわけには──」

「お前すげー!」

「もっとやれー!」

「──さ〜〜〜ら〜〜〜に〜〜〜!」

 

 随分ノリノリのオカマの様で子供3人(ルフィ ウソップ チョッパー)にモテモテだ。

 

「メモリー機能付きぃっ!」

「「「うおおおお!」」」

 

 コピコピの実……の、劣化版。マネマネの実か。

 これは厄介だ。真似をされたら色々面倒になる……。捏造、冤罪、色々と。

 

「どうする、か……」

 

 この場で始末、するには仲良くなってしまったルフィに止められる可能性がある。

 

 よし。作戦は君に決めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「親友!」

 

 バンッ!と私は扉を開けて感動の再会っぽく呼んだ。

 

「リ、リー?」

「あぁ友…。私の、私の心の友よ!」

「な、何事?」

 

 私の発言にザワザワする周囲。

 Mr.2自身も何が何だか分からなくて混乱している。

 

 いいぞその調子だ。もっと混乱してくれ。

 混乱すればするだけ判断能力が落ちる。

 

 トントンと階段を降りていきMr.2の前に立ち微笑む。涙を目に溜めて。

 

「久しぶりぞね…友よ……覚える、してる?」

「だ、誰よぅあんた。あちし知らな──」

「──うっ…、やっぱり、そうぞね。私はまだ幼き頃ですたし、貴方も子供……。覚えてる事なぞ、無きか」

 

 悲しそうに目を伏せると目に見えてわかる動揺を見せてくれた。

 

「私はずっと覚えるしてた…夕日が輝くするあの丘で共に目標を誓い親友と言うしたあの時を!一秒足りとも忘れる事ぞ無き!」

「いや全く記憶が無」

「──もう1度考えるして!きっと心のどちらかにて私の事ぞ覚えてる」

「そ、そんな……」

 

「心の友よ、貴方はオカマの道を真っ直ぐに進むと。私はその道を応援すると、約束を交わすした」

「なんですって…!あちし、そんな大事な記憶を無くして…!?」

「友、大丈夫。貴方が忘れるしても私は覚えてる」

 

 そっと手を取って笑顔を見せる。

 

「私達、心友、でしょ?」

 

 そう言うとMr.2はブワッと涙を流した。

 

「ごめんなさい!あちし、あちしったらこんなに大事な心友を忘れるだなんて…っ!謝っても謝りきれないわよぅっ!」

「いいの、いいのよ心友!泣いたりなんかするなぞ…」

 

 崩れ落ちるMr.2の背に手を回して抱きしめる。

 私の顔はこれでMr.2に見えない。

 

「嗚呼友よ。愛おしき友よ。大丈夫、私は友の心友…。安心するが良きぞ」

「あああぁぁ…っ!あちし、あちしは…!」

「相変わらず、泣き虫ぞ…」

 

 ポンポンと背を叩く。

 

「ごめんなさい、あちしは思い出せない!思い出したいのに思い出せない!」

 

 うん、知ってる。

 思い出せないんじゃなくてそもそもそんな記憶ないから。

 

「なれば、新たに交わそうぞ。友の誓を」

「……あちしでいいの?」

「友しか居らぬぞ」

 

 再び視線が交わる。

 

「私は、リィン。心の友ぞ」

「あちしは、ベンサム。リィン…あちしの心友」

「うん、友。ベンサムは私の心友」

「あちしは心友……」

 

 改めて自己紹介、という形にする。

 だって……私この人の名前知らないもん。

 

「うおおおッッッ、よか、良かったな!」

「泣けるぜ…ッ!」

 

 ウソップさんやチョッパー君が涙を流す。

 

 私は照れくさそうに笑ってMr.2を立たせる。

 

「友、私の願いを聞くしてくれますか」

「あちしの心友の為ならできうる限りするわ!」

「今、アラバスタが危機に陥るしてる」

「……っ!」

 

 笑顔に変わった表情が一気に暗くなる。

 さぁ、罪悪感を感じろ。

 

 しばらく葛藤のための時間を設ける。私は辛そうな顔をしながら話を切り出すんだ。

 

「私は、ベンサムがそんな所に居るして、捕まるなど嫌ぞ!」

「リィン……っ、そんな、に、あちしのことを心配して…!なんて優しい心友なの!あちしのばか!なんでこんないい子を忘れてしまうの!?あちしはマヌケ!?Mr.マヌケ!?それともミス・マヌケ!?」

「どっちかと言うとMr.マヌ──」

「ベンサムはマヌケで無き!」

「リィン…!」

 

 ゾロさんのツッコミを遮る様に大声を出すとMr.2は目を見開いて私を凝視した。

 

「約束するぞ、ベンサム。生きるして」

「リィン」

「そしてここで海賊は見なかったと約束して。そして作戦を私に流すして」

「どうしてリィンがそんなに」

「BWを潰して、助けたいからぞ。ベンサム、君を」

「リィィィンッ!」

 

 ひしっ、と抱きつかれる。

 

「勿論、約束するわよーうっ!」

 

 言質は取った。

 

「あちしたちの友情は永遠よーーーうっ!」

「ハハッ、友情サイコー…」

 

 多分私は死んだ目をしてる。

 

 

 

 ==========

 

 

 

「どういう事……?」

 

 Mr.2が去った後、ナミさんが私に違和感を感じて疑問を投げかけた。

 

「リィンちゃん…」

 

 Mr.2が去る時にメチャメチャMr.2・ボン・クレーって言ってたモンね。

 

「え……Mr.2だと気付き、一番の敵と判断した故こちらに引き込むしますたが」

「知り合いで良かったわね」

「まさか!」

 

 私が反論を口にすると全員が仰天した声を上げる。

 

「ベンサムとは、初対面です」

「「はぁ!?」」

 

「まてまてまてぇい!え、じゃあなんだ?お前は初対面であんなに友よ友よ言ってたわけか!?」

「ウソップさん正解!」

「正解!…─じゃねぇわ!Mr.2が可哀想だわ!」

「あんな嘘を堂々とつく、と思うです?思い込み大事。動揺混乱させるして判断能力を削るし、そして罪悪感を作るが完了すれば協力体制完璧です」

「失敗すると思わなかったのかよ!あんな方法!」

「何のために私が登場を遅くするしたと……性格に合うした方法くらい思い付くです。こういうの、絶対ゾロさんには向かぬです」

「そ、りゃそうなの、か?」

「猿も煽てりゃ木に登る、ですよ。そういう性格と見抜くますた」

 

 かるーく言うけど結構経験が大事だったりする。

 性格に合わせた口車って案外大変で観察眼が必要になってくるから。

 

 ドンキホーテファミリーのイブは失敗したけどね!

 

「あいつの見せた過去のメモリーの中に父の顔があった……リィンちゃんはそれに気付いて…」

 

 え!?そうだったの!?うそっ、まじで、やだー……。超困る。やっぱりもう入手済みだったってわけか。ひぃ、危機一髪。

 

「さて、革命軍に連絡入れるして来るです」

「お、おう……」

「クエ……」

 

 トントンッと軽い足取りで見張り台に向かう。

 本当に、運が良かった。

 

 

 

 

「もしもーーし革命軍さーん?Mr.2攻略!」

『はぁ!?ちょっと待てテメェ一体どういう──』

 

 

 

 

 

 

「俺はリィンちゃんが全くわからねぇ」

「同感」

「リィンって凄いのね!と考えておけばいいのよ。流石にそこは割り切りなさい」

「そ、それもそうね」

「でもよぉ、ビビの為に頑張って嘘ついて守ろうとしてるんだ!それくらい分かるぞ!」

「ルフィって時々意味がわからない位核心をつくよな。ほんと、馬鹿のくせに」

「失敬だな!」

 

 

 

 

 

『………………聞こえてる、よな』

「うん」

『………お前の本音は?』

「能力使うされて不利にならぬ様嘘をつきた」

『王女の為か?』

「ノウ。全ては私の自己保身と立場厳守」

『……お前の下心ハッキリする所、嫌いじゃねぇよ』

「……………………ありがとう」

 

 前からこの程度の誤解なら放っておけばいいかな、と考えてた。誤解くらい解いとけば良かった。期待が辛い。

 私の性格をよく分かっているサボ(記憶喪失)は流石私のお兄様です。心の支えかもしれない。




Mr.2が敵サイドだと誰が言いました?


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第109話 兄妹の再会

 

 私達麦わらの一味はアラバスタに到着した。

 

 まず補給地である港町の『ナノハナ』で食料と水、そして服の調達を他の人達にお願いした。ナノハナは香水で有名な所なので鼻のきくチョッパー君と私は船番。

 

 

 Mr.2が裏切らない可能性と言うのも捨てれないので腕にバツ印の確認マークを書いてその上から包帯を付けることにした。この案は意外にもゾロさん案。

 西の入江に船を泊めた瞬間暴走したどこかの船長がいて、みんな私にヘルプの視線を向けていたけど快くスルーさせてもらった。誰が手伝うか馬鹿野郎、私お腹空いたから体力使いたくない。

 

 

 

「なぁ、さっきから何してるんだ?」

 

 チョッパー君のご最もな疑問が飛ぶ。

 私は海水を汲み上げて水鉄砲を作っていたからだ。

 

「クロコダイル対策、ですかな」

「そうなのか?」

自然系(ロギア)は実に厄介。触れぬ殴れぬ切れぬの三拍子ぞ。故に、攻撃手段を作るのです」

「へぇ〜」

 

 一応三つくらいは作る予定。

 武装色の覇気が完璧じゃない私には海楼石と海水が大事になってくる。

 

 私の悪魔の実の能力(嘘)は誰1人として確実に捉えられていない。強いて言うなら兄妹くらいだ。

 だから能力(嘘)や覇気(仮)を使わない攻撃方法を作り出しておく。

 

「はぁ…心臓バクバク」

「……リィンも緊張くらいするんだな」

「私どんな鋼のメンタル所持と思うた。私の心ガラス製ぞ」

 

 ちなみに胃も弱いよ。

 

「クロコダイルがアラバスタで英雄、か。全く、海賊が英雄とはおかしいものですぞ」

「そうなのか?でもルフィは俺の国で英雄だぞ?」

「決定的な悪がいるから、ですな」

 

 この一味は根本的に海賊の意味を覆す気がする。

 絵本とか小説とかでは海賊って悪なんだけどなぁ…。

 

 

 

「リィン!船を出すわ!」

 

 慌てて走ってきたナミさんの言葉にやっぱり何か起こったか、とため息を吐くことになった。

 

「なんだなんだ?」

「この馬鹿が海軍に追われた!イカリを上げて出航するぞ!」

「分かった!」

 

 サンジ様がチョッパー君に指示を出し、ビビ様はカルーに伝言を頼む。

 

「麦わらの一味は死亡したという情報を流すした事ぞもう忘れるしたのか馬鹿!!!!」

 

 ただでさえバレやすい嘘がバレる事になるじゃないか!いい加減にしろよ作戦クラッシャー!

 

 

 ==========

 

 

 

「それで、ナノハナで何が起こるました?」

 

 イライラしながら話を聞く。

 

「それがよ、ケムリンが居たんだ」

「ケム、リン」

「海賊王が死んだ所であったあの煙」

 

 それってもしかして…スモーカー大佐こと私の親友?

 

 

「よっしゃ勝利!!!!!!」

 

 思わずガッツポーズを作る。

 見つかってしまったのは拙いけどアラバスタにいる海軍の方に根回しをしなくていいのは有難い!とても有難い!

 

「???」

「気にするなかれ、こちらの話。それで逃げるした、と?」

「あぁ!でもよ、俺逃げ切れなくて!そん時な!エースが助けてくれたんだ!」

「はい!?エースが!?」

 

 エースがこの国にいる、と!?なんで!?

 

「あの、そのエースって、誰?」

「兄ちゃんだ!」

「「「「兄ちゃん!?」」」」

 

 ソロっと手を上げたナミさんの疑問に答えるルフィ。だけど説明が足りない。

 

「この海を統べるは海賊王。そしてその椅子の前に陣取る四つの海賊、それが四皇。その四皇の内の一人が白ひげ、という海賊です」

「そんな大物がどうしたの?」

「その船には隊長が数人居るして、エースはそこの2番隊隊長に所属するです」

「た、隊長!?」

 

 皆がビックリする中平然とするのはルフィただ1人。あ、これ四皇知らないパターンだな。

 

「メラメラの実の能力者、〝火拳のエース〟は現段階で東の海(イーストブルー)一番の出世頭ですよ」

 

 まぁ、海賊的な意味でだけど。

 海軍的な意味では私が今の所一番だね。

 

「ふぅー…流石元海兵。そこら辺は詳しいな」

 

 ウソップさんが戦慄する。

 いきなり大物の名前が出て冷汗ダラダラだ。

 

「ま、敵では無いですよ。ご安心を」

 

「にしても悪魔の実を食ってるとはなぁ〜〜、びっくりした」

「そうなのか?」

 

 ルフィがははは、と笑うとチョッパー君が首を傾げる。あ、そうか。

 

「エースは海に出るしてから能力者になるましたからね、ルフィがびっくりするのも無理ぞない」

「おう、昔はなんも食ってなかったからな。それでも俺は1回も勝てなかった」

「え、あんたが生身の人間に敵わなかったの!?」

「そーさ!負け負けだったね!」

 

 だっはっは!と大笑いするルフィ。

 その様子に仰天する仲間。

 

「でも俺が今やったら勝つね」

「無理無理」

「なにおう?」

「ルフィは未だに勝てぬでしょうぞ。私程度の雑魚に敵わぬのなれば更に、ほら、サボテンの島にて」

「う…。でもエースには勝てれるかも知んねぇじゃん」

「無理無理無理、あの能力に触れる事すら不可能なルフィが出来るわけなき」

「やって見ないと分からないだろ?」

「それで負けたの誰ですた?」

「……オレデス」

 

 ぐぬぬ、と唸るルフィ。

 

「雑用なのに詳しすぎやしねぇか?」

 

 そんな中ウソップさんが疑問を持った。

 詳しすぎ、か?なるべく不自然じゃないレベルで情報提示してるんだけど。

 やっぱりルフィが知らない事を知ってる方がおかしいのか………でも、兄の事を海軍で調べるってのはおかしくないような…。

 

「あ、そうか」

 

 ゾロさんが何か思い当たった。

 

「リィンがルフィと兄妹なら兄も共通だろ」

 

 思ったより当たり前の事だった。ちくしょう、期待した私が馬鹿だっ──

 

 「「「「兄妹ぃぃっ!!??」」」」

 

 ───どういう事だ。

 

 

「あんたら、何の話してんだ?」

 

 海からポンッと飛んできたエースに更に場は混乱状態に陥った。

 

「「エース!」」

「よう、ルフィ、リー」

 

「あぁそうか!それでか!ルフィが知ってる俺の父さんをなんで海軍の雑用のリィンが知ってるんだと思ったら兄妹だったからか!」

「───言ってなかったか?」

「「「「聞いてない!!!!」」」」

 

 ハッキリ言ったのはゾロさんだけだったか。

 そりゃその結論になるわな。うん、正直すまんかった。

 

「エースはどうしてこの国にいるんだ?」

「ん?ドラムで伝言聞いてねぇのか」

「おう、聞いてねぇ」

「そっか、ならいいや」

 

 船の甲板に入ってルフィと私の頭を撫でる。

 やっぱり、黒ひげを追ってるのか?

 

「あ、そうだリー」

「ん?」

「やっぱり結婚するか?」

 

 エースの発言に場が凍りつく。

 どこからかルフィの説が有効?とか外したか、って声が聞こえてくるがよく分からないけど。

 

「チョッパー君鉄砲とるして」

 

 その場から動かないでチョッパー君に指示を出すとテトテト歩きながら取ってくれた。

 ありがとう、とお礼を言いながら引き金に指をかけるとエースは首をひねった。

 

「死に晒すしろポートガス・D・エース!!」

「うをっっ!お前、これ海水…ッ冷てっ、待て、能力者、アイ・アム・能力者ーーー!!!」

「ご存知済みぞボケェええ!」

 

 遠慮なく海水をぶちまける。

 散々海水で濡らしてぶん殴ってやる。

 

「ほい、うちの主戦力虐めてくれるなよい」

 

 突然現れた声に海水鉄砲を奪われてしまった。

 こんな独特な喋り方するのは1人しか居ない。

 

「ぱいなっ」

「ふんっ!」

「いだい…!!」

 

 ゴツン、と拳骨が脳天に直撃して頭を押える。

 わーい!常識人のマルコさんだー!

 

「マルコ!」

「エース…お前今度は何やらかしたんだよぃ…」

 

 呆れた顔でマルコさんがエースを見るとエースは引きつった顔をした。

 

「リィン、こいつ何した」

「求婚」

「お前は妹に求婚するなと何度言ったら分かんだよい!」

「まっ、マルコまて!落ち着け!一応ここでは俺的に兄の威厳がですね!?」

「ウチじゃ末っ子の癖に何を抜かすんだよいこの阿呆は!」

 

 お説教役はマルコさんに引き継いだ。

 するとサンジ様が私に聞く。

 

「あれは…?」

「白ひげ海賊団1番隊の隊長。頼れるストッパー兼苦労人長男マルコさん」

「ま、また白ひげの……」

 

 マルコさんはエースを絞め終わった後パンパンと手を払い口を開く。

 

「すまねぇな、喧しくて。ちょいと用があって来たんだよい…。アンタらに喧嘩売りに来たわけじゃないから安心してくれ」

「あ…っ、いえいえお構いなく」

「リィン」

「よい?」

「………返事みたいに使うんじゃねぇよい」

 

 非常に呆れ顔のマルコさん。

 こいつら兄妹本当にダメだなとか思ってる、絶対。

 

「あんた今どんな立場だ?」

「元雑用」

「ん。海賊だな」

 

 この会話には色々隠されてる。『この海賊団にはどういう設定で入ってるのか』という疑問に『元雑用という設定』で答えた。

 あとはカモフラージュだ。

 

「なんでリィンは白ひげ海賊と知り合いなんだ?」

「あー…特例で私がエースの担当をすていたのですよ、出生的に類似している故」

「そうなのか?」

「これ以上は()()プライバシーでーす。両親が色々ヤヴァイ故に知りたいなれば自力で調べよ、です」

「あぁ、お前の両親アレだもんねい……」

「ご存知?」

「エースに、ね」

 

 それを聞いて納得する。

 マルコさん達には教えてなかったからね。

 

「本題」

 

 私が切り出すと白ひげ2人は真剣な面持ちに変わった。サンジ様が空気を読んで去ろうかと聞いてくれたがマルコさんが断った。世界情勢くらい知ってて損は無いだろう、と。

 

「黒ひげ海賊団の事だ」

「おれの国を滅ぼした奴…!」

 

 チョッパー君が声を上げる。

 全員1度は聞いたことのある単語にそれぞれ反応を見せた。

 

「お前の予知とお前のお袋さんの予知が被った」

 

 と、エースの発言。

 被った…?

 

「危惧すべき相手が被った…って所だねい」

「……………………まさか」

 

 私が予知夢で警戒を促した相手は『黒ひげ』

 戦神が予知で警戒を促した相手は『ティーチ』

 

「黒ひげがティーチだったよい」

「っっ!」

 

 考えていた事が的中した。

 

「黒ひげは白ひげ海賊団のタブー。仲間殺し、未遂で追われてる。その追手が俺たちってワケだ」

「仲間殺し未遂!?一体」

「──サッチだよい」

 

「……………………………………ほぅ?」

 

 アハハハーーーー。黒ひげティーチ、貴様は私を怒らせた。サッチさんを殺しかけた、だと!?

 

「良くぞ助けるしたぞエース」

「え、なんで知ってるんだ?」

「夢の欠員は4番隊隊長=死(もしくは戦闘不能)。そしてエースが貰うした予知では忠告。なれば一番警戒するはエースぞ…。何故戦神がそう予知したかは不明ぞ、しかしながらエースが助けるした事は予測可能」

 

 例え私が予知を話して無かったとしても戦神の予知があれば助けれたかもしれない。どこがどう影響を及ぼしたのか分からないがこうやって追いかけてる以上助けきれなかったもしくは捕まれなかった、という責任感からだろうと予測できる。

 

 どんどん自分の目が座っていくのが分かる。柵にもたれて大きく息を吐くとマルコさんがボソリと呟いた。

 

「その顔はまさに女狐だねい……」

 

 少し嬉しそうな声だった。

 

「ん、サッチの為に怒ってくれてありがとよい」

 

 マルコさんはワシワシと私の頭を撫で繰り回す。

 

「どれも細かな仕事はして無きですが情報ぞ交錯する島にて在住する手足、10年間、行く島々にて関わるした才能を有する者に恩を売るしてここまで広げ、伝に関すては世界トップクラス」

「何がだよい?」

「私を使うしろ、白ひげ海賊団。青き鳥にぞ伝はある。世界各地に縁はある」

 

 私の好みの料理人を傷付けた。

 将来確実に脅かす存在。

 エースが死ぬ一因になるかもしれない。

 

 手は抜けれない、全力で情報を集める。

 黒ひげ海賊団の情報は最優先事項だ。

 

「でもここまで来たのは弟妹に会う為が殆どだったんだけどな」

「「エース!」」

 

 シリアスをぶち壊されたでござる。

 

「あ、その代わり国盗りの手伝いよろしくです」

「「へ?」」

 

 アラバスタの状況を説明したら手伝ってくれると約束してくれた。

 

 ま、正直兄やサッチさんの元凶より自分の保身優先だから情報の代わりに貴重な戦力借りますよ、っと。

 

 

──コツン

 

 頭に小石がぶつかった様で後頭部を擦る。

 地味に痛かった……。

 

「リー?どうした?」

「ん?小石がぶつかるしたのみで」

「どこから?」

 

 ルフィの最もな疑問に頭をひねる。

 あれ、私の後ろってどう考えても海水……。

 

 ギギギ…と首だけで海を見ると海面に小舟が浮いていた。そしてその上には三つの人影──。

 

「さっさと、指示を、出せや、()()使()

 

 ニッコリ笑顔のサボがコアラさんとハックさんを引き連れていらっしゃいました。

 

「まず、顔を、隠す、しろ」

「チッ…」

 

 3人は深緑のマントを深く被り直す。

 

「あー…今回の作戦の協力者がいる故に上げても?」

 

 船にいる人達に聞くと首を傾げられたがナミさんだけは察したみたいだ。

 

「革命軍?」

「正解」

「革命軍がなんで……アンタと?」

 

 マルコさんが私を驚いた顔で見る。

 

 だよね!!!!どう考えても海軍って海賊よりも世界情勢的に革命軍を敵対視してるもんね!知ってるよ!私センゴクさんが『色々な意味で正しいがこちらの顔が……市民と上の両板挟みになるこちらの事を…、滅べ革命軍…!』とかって胃を思いっきり押さえてたの知ってるよ!私名ばかり大将だからそんな責任ないんだ!良かった!

 

「せんちょーさーん?」

「うん。いいぞ」

 

 ここぞと言う決定的な判断は船長(ルフィ)に任せるのが一番だ。

 決定権がある、ということは責任者ということでもあるので何かあれば全部ルフィに行く。

 

 もちろん、決定出来るようにあらかじめここぞと言う嫌な選択肢は潰しておくけど。そう何度も使える手じゃ無いよな。

 

「どうぞ、ということです」

 

 下の3人に声をかけると一飛びジャンプした。

 ………人間やめてたりする?

 

「すまない、世話になる麦わらの一味………ってなんで白ひげの隊長が……」

「うひゃっ!前半にいるの!?え、なんで!?」

「ほぉ、これはこれは」

 

 予め説明しいたのもあってお互いピリピリしたムードはないから大丈夫だろうと思ってたけど私だって白ひげ部隊は予想外だったんだよーうっ!

 

「この根暗マントさんが──」

「殴るぞ」

「──こちらのイケメンは素晴らしき才能で革命軍の戦力となるしたとっても頼りになる参謀総長!あ、名前は触れる禁止!」

「は?でも参謀総長っていやぁ……有名で……」

「まぁまぁ」

 

 聞いてない、という視線をサボから向けられる。そしてマルコさんからはそれに意味があるのかと首を捻られる。

 

「こっちの女の人がコアラさん、魚人がハックさん!」

「え、あ、うそ!?Mr.6とミス・マザーズデー!?」

 

 ビビ様の驚きの声で衝撃の事実をうける。

 

 

 

「………いや、似顔絵似てなかったし黙ってようかなって思ってよ」

 

 サボが居心地悪そうに言葉を紡ぐ。

 

 革命軍がやっぱり一番だもんね、ハハハ、完璧に信用されてるとは思ってなかったしMr.5以下はほぼ戦力として計算してなかったし、そこは理解してる。

 

 でも理解は出来ても私は泣くよ!

 

「こんにちはビビ王女様!特例措置って奴ね」

「へぇ、魚人なんて初めて見た……」

「やっぱり強いでしょうね、リィンが頼りにするくらいなら……期待してるわ」

「えへへ…これでも魚人空手の使い手だからね、私もハック君も」

「「「「頭突きの!」」」」

「待つんだ、魚人空手でどうして頭突きが出てくる」

 

 勝手にワイワイし始めた。

 

 そんな中威嚇しながら近付くのはエース。

 

「リーに手を出すなよ革命軍」

「手を出すぅ?はぁ?こんなチンマイ糞ガキに誰が手を出すってぇ?」

「えっと、さんぼーそーちょー!リーは嫁にも革命軍にもやらないからな!」

「モンキーってのは随分とどこもかしこも自由人で決めつけが強いらしいな…!」

「オイ、ルフィの事悪く言うんじゃねぇ」

「事実だろ?」

 

 あ、れれ〜〜??こいつら本当に兄妹〜〜?

 記憶喪失仕方なしにしても随分喧嘩腰だな。

 

「いいか!リーは俺達白ひげ海賊団がもらう!」

「巻き込むな」

「バカ言うなよ!リーは麦わらの一味だ!」

「張り合うな」

「大金情報積まれても災厄は要らん!」

「優しさをプライレス」

 

 三つ巴(取り合ってはない模様)の3人。

 

 

 

 

「いい加減にしろよ馬鹿兄貴共……!」

 

 流石にこんな再会は望んでいなかった。




電伝虫でお互いの存在は知っていた革命軍と麦わらの一味。だがしかし両者とも白ひげ海賊団が参入するとは知らなかった。
Mr.2も脱落して麦わらの一味の過剰戦力。これ、勝ち目ないんじゃね?とか思うがぎりぎりまで分からないのが戦場。



手繰り寄せた未来に光はあるのか…‼「大丈夫…あなたなら」「そんな…、私には」「ジョーダンじゃないわよーう!友を見捨てるくらいならあちしは…!」「選べるはずが無い!私には!」

「フフフ…さぁ、結末だ」

次回、太陽の光が照らすものは
デュエルスタンバイ!(嘘)


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第110話 第一雑用部屋=月組

 

 

「馬鹿共のせいで時間が無駄になった…!」

 

 ナミさんがブツブツと文句を言ってその肩を慰めるように手を置く。

 

 黒髪コンビ(ルフィとエース)が盛大にやらかした。この地域には海水に生息するクンフージュゴンを倒してしまい弟子入りとかふざけた大所帯になりかけたので説得しましたよ、私が。

 

『他人に教えを乞うなかれ!己で武道の道を高めるべし!』とね。

 

 クオークオー言ってたしチョッパー君の翻訳では納得していたらしいから大丈夫だとは思うけど。

 ま、独学で強くなれるんだったらこの世界ぼっちが最強になってるから。他人に何かしら教えてもらわないと覇気とか知らないまんまだったし絶対自分だけで最強は無理だけど。

 

「黒いマントじゃないんだな、お前」

「BWには死亡、という情報を流すているのですから堕天使がいるを察する禁止」

「お前最近口調ボロッボロだな」

「癖」

 

 下の服は何故か踊り子の服だけどマントは違う。いつもの黒や女狐の白じゃなくて茶色のチョイスにしてる。

 理由はここが砂の国だから少しでも目立たないようにしたいなーって感じ。

 

 

 

「さて、ここから半日歩き通しか」

 

 エースが屈伸をしながら呟く。

 現在地エルマルから北西に半日、そこに反乱軍が拠点を置くユバがあるという。

 

「ついさっき反乱軍への潜入班に確認を取ったらユバにいるっつってたからそこで説得だな」

「これが一番大変ぞ、任せるしたサ…んぼうそーちょうさん」

「テメェが名前言うなって言っときながら何戸惑ってんだ阿呆狐」

「やめろ、やめろ……」

「堕天使」

「もっとやめるしろ」

 

 サボがドSで辛い。

 

「にしても〝緑の町〟ってより砂漠の町だよなぁ」

 

 サンジ様がキョロキョロと周囲を見渡しながら感想を述べるとビビ様が苦しそうに笑う。

 

「ここ3年首都のアルバーナを除いて1滴の雨さえ降らない大事件……それが今のアラバスタの現状よ」

 

 コアラさんがビビ様の代わりに説明を引き受けた。

 

「人々は〝王の奇跡〟と呼んだけれどあまりにも異様。そして2年前、反乱の種が蒔かれた──」

 

 港町のナノハナで積荷がばらまかれたという。

 そしてそれは人工的に雨を降らし風下の雨を奪う〝ダンスパウダー〟だという事も。

 運び屋は『アルバーナのコブラ王に』とハッキリ明言してしまった様で王に疑いの目が向けられている事も。

 

「世界政府はこれの所持と使用ぞ禁止です」

 

 私がそう言うとマルコさんが顎に手を置いて一般的な見解を述べた。

 

「……どう考えても国王が怪しまれるよねい」

「えぇ…、畳み掛ける様に運ばれる大量のダンスパウダー。今思えばこの時からクロコダイルの壮大な計画は始まっていたのかもしれないわ」

 

 ビビ様が返事をポツリと呟く。

 

「無実の国と反乱軍が戦い殺し合う、人々は疑心暗鬼に陥る、飢えて死んでいく───私は彼を許せない!この国を狂わせたクロコダイルを!!」

 

 泣き叫ぶ様に本音を零す。

 実際涙は流していなかったけど。

 

「クロコダイルは恐らく、この国に居座る時より計画すていたのです」

「え…」

「怪しまれた国にわざわざ居座るより、英雄として信頼された頃より、地位や評判が安定してしばらく…計画ぞ開始した。と推測するです」

「そん、な……前から」

 

 震えるビビ様の声。

 はー……気付かなかった国も身近にいた私も飼い主の政府も色々責任はあるけど。何を企んでいるのやら。

 

「誠に頭が痛い……この中で一番七武海と身近は私です。例え関わるが無くとも、七武海の習性はご存知済み」

 

 裏をかけ、言質を取られるな。

 

 彼らを相手にして10年間学んだ事だ。

 

「海賊は、どこまで行こうとも海賊!例え、ストーカーでも戦闘狂でもロリコンでも引きこもりでも所詮海賊」

「わー………流石被害者……」

 

 コアラさんの同情した小さな声が背中から聞こえる。よせやい、照れるじゃねぇ…か…………。

 

「うし……行くか」

 

 ルフィの声に再び歩き出した。

 

 

 

 ==========

 

 

 

「余計な真似をしやがってポートガス…!」

 

 イライラした声のスモーカーにそっと距離を置く周囲。その中で近付くのはリィンの同期であり同室でもあった元雑用、天使愛好会幹部達だった。

 

「まー…ストーカー大佐、落ち着いてくださいって」

「グレン!このお荷物野郎に名前をきちんと覚える様にしつけとけって言っただろう!」

「スモーカーさん無茶言わないでください…やっと10…いや11年目にこの脳内花畑野郎から解放されたと思った瞬間囚われた俺の絶望も考えてください」

「ようグリンピース」

「もはや人の名前じゃないだろって」

 

 色濃い疲労に思わずスモーカーでも同情してしまう。

 リック、恐ろしい。言語不自由なリィンでさえ短縮して呼ぶだとか頭を使うし慣れれば言えるしそもそも短いと間違えたりは(ほとんど)しないと言うのに。

 

「スモーカーさん!遅くなりました!麦わらの一味は…!」

「たしぎテメェリックのお世話係決定な」

「そんな…!ひ、酷いですよスモーカーさん!」

 

 たしぎはあまりの通達にショックを受ける。張本人のリックはスモーカーの目の前で座り込んでニコニコしているのが印象的だ。

 

「………お前らどう思う、奴らと一緒にビビが居たんだ」

「ビビ…!?ネフェルタリ・ビビ王女が!?」

 

 驚いた顔をするたしぎ。

 

「はぁ……やっぱりリィンの奴か?でもあの場には居ねぇし…。なんっか嫌な予感するな…書類を押し付けられる様な嫌な予感が」

「リィンって、海賊に堕ちた堕天使の事ですよね……。どうしてビビ王女と関連付けるんですか」

「んあ?言ってなかったか、つーかたしぎは護衛隊には入ってなかったもんな……。ビビとリィンは幼馴染みだ。世界会議への護衛も同行していた」

「ただの雑用がですか!?そんな重要機密に関わる事をどうして」

 

「リィンだからな」

「リィンちゃんだからですよ」

「天使なら仕方ない」

「リィンならしゃーないっす」

「あいつだからなぁ」

「予想外が売りだもんな」

 

 旧知の仲が全員ほぼ同じような事を呟く。

 

「たしぎ先輩の言い分は常識的に普通なんですよ、俺は分かります。俺は」

「おいおいジャーマンそれだとお前以外は常識が分からないみたいじゃないか」

「非常識人の代表クラスのお前が言うな名前を間違えるな俺はグレンだって…──まぁ続けますけどたしぎ先輩の理解はご最もです」

 

 むしろそれが正しい、と頷く。

 

「でもですね、アレは異常です。多分疫病神に好かれてます。じゃないと七武海にあんなに絡まれませんって」

 

 おかしいのは向こうの方だ、と言う。

 

「ま、それ云々にしろ……この国は臭う」

「へ?ストルイピン大佐の煙じゃなくて?」

「………グレン」

「お前もう本当に黙っててくれ」

 

 スモーカーの指示を察して、グレンはリックを締め上げた。

 スモーカーは額に手を当てて深いため息を吐くと考察を続けることにした。

 

「この国にはもう一つ懸念がある。七武海だ」

「スモーカーさんは七武海嫌いですもんね」

「ああ……大っ嫌いだな」

 

 吐き捨てるように言う。

 でも、とたしぎが反論に移った。

 

「七武海は立場的に言えば政府側です…」

「奴は昔から頭のキレる海賊だ。……大人しく誰かの下に付くようなタマじゃねぇんだよ」

 

 やけに心のこもった言葉にたしぎは更に首を傾げる事になってしまう。同じ状況なのは2年ほど前にスモーカーの元にやって来た軍曹もだ。

 

「あー…サー・クロコダイルは厄介ですよね」

「キレるっていうか…短気?」

「そこじゃないだろ」

 

 何故かたしぎや軍曹らよりスモーカーの事や七武海に対して詳しい元第一部屋勢。

 

「ん?アイツから聞いてるのか?」

 

「基本話さないッス」

「時々愚痴がポロッと出てくるくらいで」

「馬鹿やらかしてる時とかに爆発するよな、七武海爆ぜろって」

「お茶汲みという名の七武海押し付け係は初期から知ってますし付き合い長いと察しますよ」

 

 肩を竦めたり懐かしいと笑う彼らにたしぎがまた疑問を投げかける。

 

「その、堕天使は海賊ですよね……?」

「えぇ。でも俺ら月組は関係ないんです」

 

 やけにハッキリとグレンが言う。

 

 月組、とは元第一雑用部屋の殆どが幹部である『天使愛好会』の合言葉『月と太陽』から来てたりする。

 

「表面だけ見れば普通に好感は持てます。でも裏を知れば苦手な人も多いです、基本海兵に向かない性格してますから」

「海兵に向かない性格…?」

「隠し事が多かったり利益優先…と言って最終的に、ですけど。あと犠牲やむなし、それに自分優先です」

「そ、れは……確かに」

「でもきちんと中身を見れば好かれるんです。下心とか逆にさらけ出してる態度だと信頼されてるんだなって思いますよ。七武海のお茶汲み雑用してたんで守秘義務とかあると思うから隠し事が無いって訳じゃないですけど」

 

 たしぎは彼らの様子を見て思う。

 彼らはお互い『信頼』しているのだと、それは過去の事に対する『信用』とは違うな、と。

 

「『こいつらになら少し秘密を洩らしても言いふらさないだろうな』って信頼が目に見えて分かった時は本当に嬉しかったッス」

「あぁ、あれか。迷子のイル君お泊まり事件」

「ふははっ!アレは嬉しかった、頼りにしてくれてる事と信頼してる事がスグに分かって」

 

 この場にリィンが居たらなんというだろうか。照れるだろうか、それとも当たり前だと開き直るだろうか。

 

「………月組俺のとこじゃなくてホントどっか飛べよ……」

 

 具体的に言えば女狐辺りに、と言葉を飲み込む。

 

「ま、信頼してるんですよ。海賊でも」

 

 で無ければリィンがローグタウンで笑顔など見せない筈だ。嬉しそうに駆け寄ったりしない筈だ。

 

「イル君の正体に俺達が気付いてるって知らないだろうなぁ」

「ちょっと話せば埃みたいに出てくるのにな」

「やっぱりなんか隠してるよなぁ〜」

「馬鹿だと思われてるのか阿呆だと思われてるのか…これでも1回りも2回りも歳食ってるのに」

「俺もしもクロコダイルと会ったら笑う自信しかない」

「「「「「分かる」」」」」

 

「お前らは一体何を体験したんだ月組」

 

 よっ、とスモーカーが立ち上がる。

 

「覚えておけたしぎ。海賊はどこまで行こうと海賊」

 

 そして不敵に笑った。

 

「んで、海賊であろうと俺や月組はリィンの味方ってこった───船を出すぞ、麦わらの一味を追う。敵は敵だ、グレン、テメェは積荷だ!クレス、お前は武器の補助に入ってろ!あぁグレン積荷にはリックも入ってるからお()りだ!」

 

 テキパキと指示を出しながらスモーカーは状況が掴めてない部下を思う。

 

「(……許可が取れたら立場を話してやる。だから殺すような事は避けろよ)」

 

 頼りになる女剣士はどうにも頭が堅いようだ。

 

 

 

 




昔と少し認識が違ってきてる雑用同期組。
昔『天使、崇めよ、はぁ〜〜〜、尊い』
今『あ、天使。ハイハイ可愛い可愛い。ところで何があったんだアレは』

ちょっとした設定
リック→月組のトラブルメーカー。名前を覚える才能皆無のあんぽんたん。
グレン→月組1の苦労人。おかしな同期に振り回される死霊使い(真)
クレス→又の名をMr.平均値。平凡なのが最近の悩み。
オレゴ→武器はライフル銃、狙った獲物は百発十中の狙撃手(物理)
サム→目標は一攫千金。天使撮影係とはオレの事。賭け事が好きだけどとことん外す。
ポート→影と頭が最近薄い。でも気にしない、ただ家出してるだけだから。毛根が。


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第111話 熱中症には気を付けろ、本気で

 ジリジリと焼けるような太陽の光が砂漠に降り注ぎ、大小様々な砂丘が足元から身体を温める。

 

「あ゛ァ〜……」 

 

 ルフィが先程からアーアー言ってダレる。

 ナミさんはパタパタと手で仰ぎながら止めようとするけれど止まらない。

 チョッパー君は雪国育ちということもあってゾロさんに引き摺られている。

 

「俺らがこんなにバテバテなのに…その化物達は」

 

 ウソップさんがチラリ、と私側を見る。

 

「箒って最高!」

「乗せろよ!」

 

 いい笑顔でサムズアップすると怒られた。

 

 それぞれの手荷物は少なめにして1,2食分の食料と水を。残りのテントやら細々とした物や予備の水は私がアイテムボックスに放り込んだ。

 荷物を全部私が持たないのには理由がある。一つはいつでも手軽に水分補給が出来る事。そしてもしも遭難した場合1日は持つという事。そして第三者から見て不自然に見えない(アイテムボックスがバレない)という事だ。

 

 アイテムボックスは適当に流してもらってる。これも能力能力と言っているけど。

 

 だから荷物が少ないのでマルコさんは空を飛び回って警戒。助かる、流石長男。

 私も同じく飛ぶが高いところが無理なので皆の体調を確認したりする補助員的な感じ。

 

 やっぱり暑さにバテバテだな、と思う。私は水蒸気で周りを包むようにして熱気を防いでるから平気なんだけど本当の化け物は革命軍だと信じてる。

 

 マルコさんやエースは元が炎だったりするから除外するにしても(ただしマルコさんの炎は熱無し)生身の人間のサボとコアラさんが平気な顔して先頭と殿を務めている。

 意味がわからん。

 

 

「やー、暑いねぇ〜」

「暑そうに見えないんだけど」

「そう?ナミちゃん程じゃないにしろ暑いよ〜?」

 

 ケラケラと笑いながら先頭を進むコアラさん。

 

「ほら頑張れ」

「……さんぼーそーちょーに言われなくても頑張る」

「おお、そんな口叩けるなら上等」

 

 時々スピードが落ちるルフィや常に後ろにいるウソップさんに軽口を叩く殿サボ。

 

「まるで山登りみたいだな」

 

 エースの隣まで行くとそんな言葉が聞こえた。

 

「やー、砂漠って経験ないから面白いな」

「砂丘は300mくらいのものもあるからエースさんがそう思うのも仕方ないわ」

「へぇ、流石この国のお姫さんだけあるなぁ。っと、ルフィ、水飲みすぎだ、気をつけとけよ」

「…………あい」

 

 ちょっとした疑問に答えてくれるビビ様マジでビビペディア。心の中でだけ呼ばせてもらいます。

 

「ふふ…リィンちゃんが荷物の軽減と水の確保をしてくれるから砂漠越えがとても楽に感じるわ」

「どうも」

「リィンだもの」

 

 私の話題になると目敏く反応するナミさんはマジでナミさん。もはやナミさんが変態の代名詞。

 

 初期ナミさんの方がすきだなぁぁぁぁ…どこからこんなに残念になっちゃったの……ウソップさんの故郷か!?

 

「体力の消耗が激しいからなるべく休めるところで休んだ方がいいと思うけど。王女さん、あんたはどう思うよい?」

「……そうね。ルフィさん、次の岩場を見つけたら休憩しましょう?」

「よーし!岩場!岩場を探すぞ!リー頼んだ!」

「マルコさん頼むますた」

「堕天使…指名だよい」

「ぬぅぅわぁぁあ!私は二つ名が大っ嫌いですぞ!」

 

 やめてくれぇ!と叫ぶと大笑いされた。

 私の中で嫌悪度は女狐<(越えられない壁)<堕天使だ。冗談じゃない全ての元凶たるクソジジイめ。

 

「おい、岩場をみつけたよい。あと10キロくらい先」

「視界が悪きですが良くぞ見つけるますたね……マルコさんの視力何事?」

「見聞色の覇気、の方な」

 

 渋々とマルコさんが調べてくれる。

 覇気でも地理は分かるのか、便利だな。

 

「なぁリィン」

「はい?」

「時々出てくる〝はき〟ってのなんだ?」

 

 ゾロさんがチョッパー君を引っ張りながら聞いてきた。例え偉大なる航路(グランドライン)でも機会が無ければ知らなよね。

 

「ルフィ!覇気、説明可能?」

「え…っ」

 

 ルフィはいきなりの名指しにビクリと肩を震わせて視線をグルグルと回し始める。

 あ、覚えてないな、こいつ。

 

「おい………」

「だ、だってよ、もう10年くらい前の話だ!俺が覚えてられるわけねぇ!」

「威張るなかれ!」

 

 スパンッ、と音を立てルフィの頭を叩く。

 

「覇気には全部で三種類。一つは見聞色、こいつは敵の動きを予測したり人の大体の位置が分かったり、まぁ読む力だ」

 

 仕方なし、と頭を押さえながらサボが説明を始める。教えられていたのに覚えてないということを察してしまったのかとっても深いため息を吐いていた。

 わぁー、便利。

 

「もう一つは武装色。流動体、つまりクロコダイルみたいな自然系を掴むことが出来るし純粋に攻撃力が上がる。岩を砕けたり島を斬ったり、まぁ色々だ」

 

 ゾロさんは小さく感嘆の声を漏らした。

 

「最後、こいつは素質が無いと使えない覇王色。威圧したりすると雑魚ならぶっ倒れるし喰らうと少し動きが鈍くなってしまう」

 

 素質があったとしても使えない人はいるよ。多分沢山。

 

「他二つは人間やりゃ出来るが覇王色に関しては全くだ。使える人間や歴戦の名将達が見ればある程度素質があるか分かるらしいが……俺には無かった」

 

 サボは首を横に振りながら肩を竦める。

 ドラゴンさんが見抜いたか?

 

「ちなみにこの場には素質ありと確定するが3人」

 

 びしーっ、と指を3本出すと名前と共に一つずつ折っていく。

 

「一人目、エース」

「俺か、まぁ使ったことあるからなぁ…。たったの3回だけど」

「マジか、どこでぞ」

「リーのシャンクス人攫い事件。ルーキー時代のクソ海兵相手。んでティーチに向けて1回」

 

 やっぱり使うの難しかったのか。

 うんうん、仕方ない仕方ない。

 

「二人目、ルフィ」

「え?俺か?」

「血筋的にもこの2人は合っておかしく無き、うん」

「そっか〜!なんか教えられたことある気がするけどまぁいっか!もうけもうけ!」

「この楽天家……!」

 

 興味深げに聞いていたゾロさんやサンジ様は呆れた目で船長を見ていた。

 

「三人目、私」

「えっ、リィンちゃんが?」

「剣帝に言われるますた…そして父親に覇王色を浴びすられた時に使えると分かるした故、更に母親も使えると聞くしたのです」

「あぁ……使えるねい………」

 

 何故か遠い目をするマルコさん。

 でしょう?血筋的に絶対入ってるでしょ?使えたことないし前兆もないけどな!!!!

 

 エースが使えないんだから私も使えなくていいの!うんうん私出来損ないじゃないよー!とても優秀な海兵さんだよー!

 

「あとこの場以外では……白ひげさん、シャンクスさんは勿論……」

「おい、めちゃくちゃ四皇じゃねぇか」

 

 えーっと、ドフィさんは使えるって言ってたな。それと対抗してか海賊女帝も使えてた筈。それと海賊王とそのクルーの冥王と戦神で。

 

「5人ほどのみ…」

「「「十分すぎるだろう/よい!?」」」

 

 ………私多分一般とかけ離れすぎて常識が乖離したと思うんだ…。あれ、でも私生まれからずっと一般的なを味わってない…?よーし!まだセーフ!大丈夫大丈夫まだイケルイケル…イケ、いけねぇよ!!!!いけるわけないだろ!!!???

 プリィィイズゥゥ一般常識ぃいいい!

 

 

 

 ==========

 

 

 

 約3時間歩いて休憩出来る岩陰までやってきた。

 岩陰が見えた辺りから私とエースが先行して安全確認。一応王族が二人も居るからね、リィン責任問題チョー怖い。

 

「ゴァ…」

「鳥?」

 

 岩陰にはピクピクと倒れる鳥が居るだけだった。

 

「なぁ、妹よ」

「何事ぞ兄よ」

「……………食えると思う?」

「多分」

 

 

 

 

 

「エースぅ〜?あ、いたいた──なんだその鳥の山」

「捕まえた、これで腹ごなしだ」

「食料には限りあるですから現地調達大事ぞ。これ、食べる可能の様ですし」

 

 パラパラと本を捲りながら鳥の種類を調べる。エースと確認した結果砂漠には確実に居るワルサギって鳥だそう。

 (サギ)なら食べれる。

 

「荷物取られる心配が殆ど無いとは言えど良かった…ワルサギは旅人を騙して荷物を盗むの」

 

 ビビ様がホッと息を吐く。

 

「ルフィなら確実に騙されてたよな。リィンとエースのお陰で助かった」

 

 ドサッと腰を下ろしゾロさんが零す。

 うーーん、否定しきれない。

 

「ハック、大丈夫かな」

「アラバスタの河はそうそう危険は無い筈だ。魚人空手の使い手なら余裕だろ」

「結構危険なんだけど……心配するだけ損しそう」

 

 ゾロさんと同じく腰を下ろそうとするサボが心配するコアラさんに声をかけていた。

 革命軍2人のセリフにビビ様が思わず視線を背ける。うん、正解。心配するだけ損ですよ。君は自分の事を心配しようね。

 

「チョッパー君チョッパー君」

「なんらぁ…?」

「幻覚剤を作るメスカルサボテンの群生地、らしい。これ、液状に可能?」

「ん〜…どうだろう。でも数はかなり要ると思うぞ……。まだ足りない」

「そうか…」

 

 ぐでん、とダレてるチョッパー君に確認すると作れない事は無いみたい。よっしゃ貰った。

 

──ズドドドドド…

 

 遠くから地響きみたいな音が聞こえてきた。

 

「ちっ…何かいるな」

 

 サボが頭を抑えながらボソリと呟くと全員が警戒し、武器を手に持つ。見聞色の覇気はお手の物ってやつですか?そうですか凄いですね私覇気とそれなりに関わってきたのに未だにうんともすんとも言わないよ!

 

 全員の視線の先には紫のトカゲが土煙をあげながらラクダを追いかけていた。

 こっちに来るな!!

 

「サンドラ大トカゲ!」

「でけぇな」

 

 ビビ様が叫び声をあげると近付くトカゲの大きさに思わずと言った様子でサンジ様が言葉を漏らした。

 あー…こりゃ確かにデカイわぁ…。

 

「お、飯追加」

「エース俺が倒すから待ってろよ」

「バーカ、お前に負けてたまるかよ」

「ッルフィ!エース!」

 

 拳を握りしめて飛び出して行くのは我の兄ズ。

 呑気にエースが呟くと競走みたいに走り出していった。バラけて迷子になるのも厄介だし不安なのでサボが追いかけてくれたみたい。助かる。

 

「雑魚が…〝火拳〟!」

「〝ゴムゴムのムチ〟!」

「あぁもうこの2人は!〝竜爪拳〟」

 

 ………………怪物が可哀想。

 

 ズドォンと重たい音を立ててトカゲが倒れた。

 どうしようまさか人間以外に同情してしまうとは…。悲しい。

 

「何もそこまでしなくても…」

「こっちはまだ襲われてないのに…」

「うわぁ……瞬殺って結構引くかも」

「一味の化け物3人組より鬼畜だな」

 

 あ、よかった!私だけじゃなかった!

 安堵してると騒がしい声が耳に入ってきた。どうやらトドメが誰だか話してるみたいだ。アホか。さっさと肉をバラせ、時間がもったいない。

 

「俺がトドメだったな!」

「バカ言うな!俺だって!」

「リー、どっちがトドメだった?」

「は?知らぬぞ!?私にその様な判断が可能と!?」

「絶対俺だって」

「いーや、俺だね」

「お前ら少しは落ち着…──」

 

「「──()()はどっちだと思うんだ!?」」

 

 エースとルフィは今なんて言った?

 

 お互い口に出した言葉に気付いて口を閉じる。苦々しい顔をして私の視線から逃げた。まだサボの事は地雷なのか……。

 じゃあ、肝心のサボは?名前を教えてないのに名前を言われてしまったサボ。

 

「………ッ」

 

 近くに行って顔を見ようとした瞬間、サボの身体がグラリと大きく揺れた。

 

──トサッ

 

 私に覆いかぶさる様に倒れるサボ。支えきれずに私はそのまま巻き込まれた状態で尻餅を付いてしまう。

 成人男性めっちゃ重い、焼けた砂漠めっちゃ熱い、サボの身体も熱い。

 

 

 

「チョッパー君!!熱中症!!!!」

 

 

 

 

 時々頭を押さえていた。ぼうっとどこかを見ていた。何かを考え込んで深いため息を吐いていた。

 信用出来ない奴は絶対馴れ合わないマンが後ろにいた理由の一つに顔色を見られたくないってのがあったら?

 

「騙しやがるした…!」

 

 

 

 

 

 体調不良を黙ってやがったこの馬鹿な兄を運んで日陰で長めの休息に入ることになった。正直聞かれてなさそうでホッとしたけど。もしやこれが怪我の功名???




(違う)


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第112話 共有出来ない思い出

 

 

「うん、確実に熱中症だな」

 

 岩陰でサボの診察をしてくれたチョッパー君が迷いなく判断を下す。よかった…!ちゃんと人間だった!

 

「お前それ本人に聞かれたら殺されるぞ」

「口に出すしてた?」

「めちゃくちゃな」

 

 ゾロさんが私の頭を軽く叩く。

 

「残念だったなゾロさんや」

「あ?」

「私普段の態度で十分すぎる程殺すされる。今現在緊急事態と私に鍵があるという理由のみです生き残るしておりますピース」

「大丈夫じゃなかったな」

 

 ハハハー…この戦争が終わると私の命がどうなるか分からん。多分ボコられる。

 

「あー…リィンちゃん」

「コ、コアラさん何事?」

「聞きたいことはたっっっくさんあるの」

「は、はひッ」

「おう、俺も多分革命軍の姉ちゃんと同じこと考えてるよい…。聞かせてもらうが拒否権はねぇよい?だがな」

「でもね───」

 

「………………。」

「………………。」

 

「……それより前に、リィン。アイツら何とかしてくれよい」

「えー…」

「──お願いリィンちゃん、この空気は耐え難い!」

 

 マルコさんとコアラさんが手を合わせてお願いしてくる。ちらりと向けた視線の先には地面を見ているエースと体育座りで顔を隠してるルフィ。

 

「はぁ」

 

 仕方ない、黙ってる私にも非はあるし。

 

「エース…ルフィ……」

「サボって奴はな」

 

 話しかけるとエースが口を開いた。

 

「サボは、俺達のもう1人の兄妹だったんだ」

 

 後ろでコアラさんが息を呑んだ。

 この人だって頭が良い。今までの事や初対面でのやり取りと総合すれば簡単に察することが出来たのだろう。

 私は無言で首を振る。まだ、言っちゃダメ。

 

「天竜人ってのに殺されちまったけど」

「天竜、人」

「この世界で…一番の権力保有者です。人を人と思わぬ仕打ちをする事ぞ有名でマリージョアに住むです」

 

 海を知らない一味達に情報を追加する。

 ただビビ様は知っていたみたいで唇を噛んだ。

 

「10年前、までかな。一緒に暮らしてたんだ」

「そう言えばルフィ達全員家名が違うけど」

「義兄妹だ。本当の兄妹みたいに過ごしてた」

「本当の兄妹みたいと言うなれば私に孕めなど言うは禁──「黙ってろよい糞ガキ」」

 

 シリアス破壊の気配を察してかマルコさんが私の口を塞いだ。うん、利口な判断だけど個人的にはふざけるな案件かな。キミが四皇の懐刀じゃなかったら殴ってた。

 

「俺と同い年でしっかりしてる奴だった。強いし見聞色の覇気は子供ながら使えてたし。ただ、………俺たちを一番に考えて貴族の家戻ってったのは気に食わねぇけど」

「初耳だよい…そんな出来た兄妹がいたんだねい」

「おう、自慢の兄妹だ」

 

 力なくへにゃりと笑うエース。

 

 ジュワッと肉が焼ける音がしてルフィが顔を上げた。

 

「元気が無い時は飯を食べるが一番だ。ルフィ、お前の自慢のクルーの料理はどれほどいるんだ?」

 

 タバコの煙を吐きながらサンジ様がフライパン片手にニヤリと笑った。ナイス話題変換&機嫌回復!サンジ様が仲間で良かったと唯一思う所はその料理の腕前だね!!!他の要素は要らん。特に国とか国とか。

 

「もちろん沢山だ!」

 

 ルフィはその言葉に元気よく答える。

 三時のオヤツ代わりにサンジ様のお昼ご飯?遅めだから軽くセーブして食べないと。

 

「ん……ぅ……」

 

 倒れていたサボが小さめの唸り声を出した。咄嗟に声をかけたのはビビ様。そして医者のチョッパー君だ。

 

「参謀総長さん…大丈夫?」

「ん…悪いな姫さん、足止めて。すぐに出発しよう」

「お、おい、参謀総長。どこか痛むか?」

「平気だ」

 

 上半身を起こして軽くサボが言う。

 しかしチョッパー君はその返事に不機嫌になる。サボが不思議そうに見るとチョッパー君がポツリと呟いた。

 

「俺はこう見えても医者だ。丸め込まれないぞ」

「は…」

「ガマン出来るか出来ないかじゃない。痛むか痛まないか、だ」

「……………………少し、痛む」

 

 チョッパー君が睨むとサボは降参したように手を上げる。わぁ、医者って強いなぁ。

 

「タヌキ君凄い…あの仕事人間のサッ、んぼう総長君を黙らせるだなんて……革命軍に欲しいかも」

 

 その気持ちはとても分かる。でもあげないからな、私のいざって時の簡易盾兼非常食。

 

「革命軍のにーさんよ、丁度飯にするつもりではあるんだ。ルフィは化け物の胃袋を持ってるからな」

「ん、すまない。その間は全力で休む」

 

 サンジ様の気遣いに気付いて素直に休むことを宣言した。くそ、私には塩対応なのに何でこんなに優しいのかねこの人は。

 ちょいちょいっと手で私が呼ばれたので行ってみる。

 

「膝、借りる」

「重い、やだ」

「普通そこは従えよ」

 

 いい、と言ってないのに勝手に膝を使い始めた。

 んんー、仕方ない人選っちゃ人選か。

 

「リィンちゃんは信用されてるのね」

 

 ビビ様がそっと呟く。

 サボの顔や名前を知っているのは私とコアラさん。マルコさんは気付いてるだろうけど。

 膝枕=身動きが取れない。という状況で私かコアラさんの選択だとどう考えても敵の私だろう。

 私が革命軍を殺せないと判断して、身の危険は少ないから押さえられてる。そしてその間コアラさんは何かあった時に逃げれる様に。

 

 ヤダヤダ、素直に甘えてるって選択が出てこない辺り私も大分荒んでるよなぁ。

 

「信用してくれぞ、サボ」

 

 こっそり呟いたはずなのにマルコさんにだけは聞こえてたみたいだ。ギョッとして目を見開かれた。

 

「チッ、やっぱりな。嫌な事だけ当たるよい……」

「すまぬですマルコさん」

「なんかあるんだろい?」

「それなりに」

 

 私が翻弄される側に立つ様な頭の持ち主は嫌いだけどアウトとセーフを見極めれる頭のいい人は好きです。

 

「なぁリー」

 

 もぎゅもぎゅと肉を頬張りながらルフィが声をかける。なんだなんだ?

 

「なんでかくめーぐんって奴らと知り合いなんだ?」

「へ?」

「緊急会議でもちょっと出モガっ」

「ルフィストップ」

 

 ルフィの口をナミさんが慌てて塞ぐ。緊急会議ってなんぞや。私の知らん間に何が起こったんだ?

 

「まぁ、私もサボの1件で思う事が多々ありてね」

 

 ふぅーっとため息を吐く。

 私、超頑張った。まさかサボがいる所が革命軍だとは思わなくて吃驚したけど。

 

「サボを探すが為にコンタクトを」

「また雑用が危ない事を……………」

 

 マルコさんが冷ややかな目で見る。

 うん、そこは雑用じゃなくて大将がって言いたいんだね!分かってるよ!自分若かったんだ!2、3年前だけど!

 

「心配せずとも、最終手段は持ち合わす」

「まさか物理じゃないよな」

「残念ウソップさん外れ。正解は情報」

「なんのだ?」

 

 首を傾げるルフィに答える。

 

「ルフィの父親」

「え!?」

 

 使ったね、結構。

 そのお陰でコンタクト取れたんだから有難いけど。

 

「革命軍にいるよ、ルフィの父親」

「あ〜〜〜〜……あの時の…」

 

 コアラさんが遠い目をする。

 

「そっかそっか、キミだったか。うん、それもそうだね。家名が一緒」

「……知ってんのか?」

「うん、よーく知ってるよ」

 

 ルフィ、会ったことあるんだけどね!

 

「リーって昔から本当に無茶するよな」

「風評被害!」

 

 エースの言葉に思わず反論する。

 

「だって虎を追い払ったり」

「あれは命の危機!普通考えるして!?エースが背負うした私は何をする可能と!?」

「じじいに挑んだり」

「なんとかしろと言われたぞ!?嘘泣きせねば潰れるしたはエースとサボ!」

「あの料理は個性的だったけど」

「んぎゃぁあ!下手な励ましはポイ!」

 

 どんどん私の黒歴史が発掘されてる気がする。ルフィは自分がいなかった頃の話だと察してか興味津々でナミさんと話を聞いてる。

 

「怪我が治ってからも無茶して」

「お前らが連行した故ですよね!?」

「ワニ相手にルフィとお前だけで戦ってただろ」

「筋力家出の私とルフィを置いてけぼりしたはにいにぞ!?解せぬ!」

「あー!それ俺も覚えてる!途中で野鳥も襲ってきてあっぶなかったなぁー!」

「危ないのレベルでは無き!」

「エースとサボが間に合ってよかった!」

「ですな!私連れ去られる一歩前!」

 

 めちゃくちゃ怖かった。あれは怖かった。

 あの後サボが『お前との決着は今度つけてやる!』という有難くもないお言葉を野鳥(ハゲ)に言いつけてワニを倒したんだったか。

 

「そ、それでどうなったんだよ」

「2匹とも美味しく頂くました!」

 

 ウソップさんの言葉に嘆く。

 私、よく生きてた……褒めるよ。

 

「頑張ったね」

「当時4歳の私はろくに能力も使えず…サボ、サボだけが頼りですたのに…貴族、貴族の気まぐれ…天竜人……うううううう!まじ、ふざけるな!サボが消えねば私は海軍になぞ入ることには…ハハハーーー!!!王族嫌い!不利益になる権力者嫌い!」

 

「うん、全部繋がった。ごめんねリィンちゃん」

「謝罪、不要。早めの革命、依頼」

「おっし!任せて」

 

 コアラさんの元気な笑顔は癒される。

 握り拳を作って意気込んだ。

 

「おいこらリィン、お前何を依頼してんだよい。元海軍の、お前が、革命軍に、革命を、依頼?」

「どうどう…」

「馬かよい!」

 

 バコンッと頭を叩かれる。マルコさんはパイナップルでも、私の頭はクイズ番組の早押しボタンじゃないからな!?

 

「私がこの世で最も厄介と思う人種、それはストーカー………。私物にビブルカードが混ざるしてた時は恐怖を覚えるした、あいつ絶対楽しんでやがるぜ」

「あっ、なんか読めた。本部に居てもコンタクトが取れて国ってアイツしか居ねぇよい。察しのいい自分が嫌」

 

 マルコさんは胃を押さえだした。私、もはやドフィさんに関しては悟りの境地入ってるから。

 ……今会ったらストレスで禿げそう。吐血しそう。

 

「お前本当にどこを目指してるんだよい……」

「ハハハー…三大勢力攻略すてやらぁ!!」

「やけくそだねい!?」

 

 察しのいいマルコさん大好きー!

 

「つーかお前の場合父親居れば余裕だろい」

「せやな………」

 

 寿命が一番の敵、シルバーズ・レイリー。それが私の頭がおかしい父親です。

 

「うぎゃ」

 

 ガシッと顔面を掴まれた。膝の上に寝てる男に。

 

「────…知ってるか?」

「知ってる!知ってるぞ!人間の頭蓋骨はリンゴの如し!すまぬ!すまぬううう!」

 

 くっっっっそ低い声と頭を握る手に力が込められる。辞めてください死んでしまいます。

 

「ん、楽になった。出発しよう」

 

 足を止めされて済まなかった、とサボが頭を下げる。しかしふと気付いたのか視線をナミさんやビビ様の後ろに向けた。

 

「……そのラクダは?」

「「「「あ…」」」」

 

 サボが倒れたやらなんやらでバタバタしてて忘れてた。トカゲに追いかけられてたラクダ。

 

「…………非常食?」

「「「やめんかアホ!」」」

 

 なんでもかんでも食べ物を中心に考えるなと長男トリオ(マルコさん エース サボ)に怒られた。

 解せぬでござる。




ビブルカードは距離の掴めないGPS


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第113話 狐、その尾を濡らす

訳:リィンさんもうそろそろ疲れました


 

 

「うそ…だろ……」

 

 ユバに行けば反乱軍に会える。

 そう一番信じてたのは反乱軍にスパイを送っていた革命軍のサボだった。

 

「人が居ない……」

 

 想像と違う枯れ果てたオアシスの様子に、ビビ様も声を震わせた。

 

 

 

 

 夜中にやっとユバに着いた時、ユバは砂嵐に襲われていた。慌てて町を確認しても元から人が住んでいる様子は全く見られず、思わず皆呆然とした。

 

「どうしてだ…確かに、連絡は」

 

 信じられないとサボが首を振る。

 一度、確認していたのだ。反乱軍はユバに居ると。だからこそここまで歩いてここまでやって来たというのにこの有様。

 

「くっそ…計画が漏れた……一体どこからだ」

「ひとまず現状確認と休息場所確保優先!……参謀総長君もしっかりして、ほら動くよ」

 

 コアラさんが指示を出して皆で町を調べる事になった。

 正しい判断なので特に反論が出る事は無い。

 

「旅の人かね?」

 

 少しだけ歩くと誰かの声が聞こえた。

 

「この町は少々枯れている、だが宿は沢山あるのでな。ゆっくり休んでいくといい」

 

 話によれば三年前から砂嵐が頻繁に訪れる様になって物資の流通は途絶え、持久戦もままならなくなって反乱軍は場所を移したらしい。

 

「カトレア!?」

「カトレア…確かナノハナの隣だったな」

「あぁ〜〜っ!くそ、何の為にここまで歩いて」

 

 悔しそうな声が所々から聞こえる。

 

「あああああ!くやしい!クロコダイルに出し抜かれるは最っっっ高に悔しいぞ!」

 

 思わず頭を抱えると砂掘りをしていたおじさんは私の顔をじっと見始めた。

 

「ビビちゃんの幼馴染みの…海兵さんか?」

「ふぉうい!?」

「え…!?」

「あーいや、すまん。そうじゃ、知らんだろうな。私は世界会議に行く王族を見送ってたただの通行人だからな」

「……雑用さーん…その話聞いてねぇんだが?おい、こっちを向け駄狐どういう事だ世界会議(レヴェリー)って」

「………………人の事を言えぬのでは」

 

 つーか雑用参加で良かった。思ったより顔知られてんのか私。マジか、マジか。

 

「……もしかしてトトおじさん…!?」

 

 バサッとマントを脱いでビビ様が詰め寄る。

 

「なんと…!ビビちゃん、生きていたか!良かった、本当によかった!」

「こんなに痩せてしまって…」

「私はね、ビビちゃん。国王様を信じてるよ…!あの馬鹿共を止めてくれ!キミしか居ないんだ…!」

 

 泣き叫ぶトトさん。

 思わず黙る周囲。

 

 そんな中空気を読まなかった者…それはイッツミー!リィンチャン!なんだか中国人みたいな名前だな!『リィン・チャン』って。

 

「はい、ということで休憩!」

「空気を読めよ!」

「空気を読んで時間が早まるとでも?その間にBWの作戦は進む。こちらの、多分革命軍の存在ばバレるしてる以上対策は打たれるぞ」

「なんだよそれ」

 

 ウソップさんの狼狽える声に仕方ない、と説明をする。

 

 反乱軍に革命軍のスパイを入れた。そしてそのスパイの情報を頼りに革命軍はここまで来た。

 その情報が嘘だと言うならば、情報をリーク。そして改ざんされた。

 

「──よって、奴さんには革命軍が存在すてるのがバレてるですな、確実に」

 

 言語解読レベルが高いウソップさんなら私の言葉など簡単に読み取れるはず。

 

「や、ヤバイじゃねぇか…」

 

 だから作戦練り直すっつってんの。正直突っ立ってるだけじゃ時間も体力も削られるからな。

 私は疲れた。歩いちゃないが疲れてんだ。

 

「トトおじさん安心して…私には頼りになる仲間が付いてる。絶対止めるから!」

 

 ビビ様は安心されせる様にニコリと笑う。

 

 3年間も頻繁に訪れる砂嵐…絶対人為的に決まってる。どうしてもここからオアシスを消し去りたかったのかクロコダイル。それとも反乱軍をアルバーナに近づけたかったのか?

 将又両方か。

 

「はぁ……大変だ」

 

 こっそり愚痴をこぼした。

 

 

 

 ==========

 

 

 

「はい、じゃあ寝る前に作戦会議ー」

 

 おー!と握り拳を上げるコアラさん。つられてビビ様も小さく上げた。

 

「まず現状から確認出来る事を整理するです」

 

 私が作戦会議の幹事、らしい。

 まぁここにある縁は全て私を介して繋がっているようなものだし適材適所って所か。

 

 とりあえず会議内容を箇条書きにまとめる。

 ・スパイの偽情報

 ・今後の行動

 ・反乱軍をどうするか

 ・クロコダイルをどうするか

 ・海兵をどうするか

 ・BWの狙い

 

「まず革命軍の存在がバレたな」

 

 サボが最初に言う。

 

「そんなに不味いことなの?そりゃ無駄足を踏んじゃったけど……私にはちょっと理解出来ないわ」

「そうだなぁ、わかりやすく言うと……。元々BWにとって敵は国王軍くらいだった筈。なのに革命軍が味方に付いた、もしくは探ってると思われちゃうと警戒が強くなるの」

「なるほど…」

「──想い人のライバルは1人だけと思ってたのに何処の馬の骨とも分からない人が狙っていたらそばに居るとか警戒心を高めるでしょ?」

「あ、とってもわかりやすい」

 

 ナミさんが首を傾げるとコアラさんが嫌な顔せずに答えてくれた。わかりやすい例題付きで。

 頭良い人強い。

 

「しかしバレたなればバレた。麦わらの一味死亡説はほぼ無しと思うしても仕方なしです」

「じゃあミス・オールサンデーに口止めしたのって」

「無駄ですね」

 

 ここにきて交渉が無駄になった。まぁあの時戦闘になればどうなったか分からないしどっちもどっちだなぁ。

 

「オールサンデーにあったのか」

「うんニコ・ロビンですたよ」

 

 私がそう言えばサボは頭を押さえた。頭痛い?大丈夫?まだ辛いなら寝てる?

 

「お前…本当に何か引き寄せてんのか?革命の灯火じゃねぇかよ…」

 

 革命の灯火???

 コアラさんにヘルプを頼むと苦笑いで答えてくれた。

 

「ニコ・ロビンの生い立ちは革命軍にとって灯火なの。だから革命の灯火」

「あー…アレか」

「そう、アレ」

 

 当時中将のサカズキさんとクザンさんがバスターコールしたって奴ね。聞きましたよ、本人から。

 

「話が逸れてる。戻すぞ」

「うっす」

「とりあえず死亡説?ってのが使えない以上多少目立っても仕方ない。でも麦わらの一味だとバレてな…あー…絶対バレてるな」

「そうなのか?」

「えーっと、聞いた話によれば幹部脅して偽情報渡したんだろ。そのタイミングなら疑われるな」

 

 そして王女の幼馴染みのリィンがいる海賊、か。

 確実に疑われますわな!!

 

「でも違和感」

「ん?」

「革命軍は本当にクロコダイルにバレるした?」

「………どういう事だ?」

 

 おかしいんだ。詰めが甘いクロさんが第三勢力に気付くか?

 例えばMr.2や3辺りに化けて『麦わらの一味殺しましたよ』って言ったら信じそうなマヌケさんがだよ?

 私とドフィさん合作のホワイトデードッキリに気付かなくてスルーした鈍感な人だよ?

 たった1人の海兵に油断して小さくなっちゃったスキだらけの鰐さんだよ?

 

 気付くかなぁ…。作戦の大1番って時に作戦以外の事に頭が回るかなぁ。

 

「まぁクロコダイルでなくともニコ・ロビン辺りならば気付く可能性大。あれは同じ匂い、狐の匂い」

「同族嫌悪か」

「敵だと嫌ですなってくらいの嫌悪」

「かなりだろ、それ」

 

 本気の敵に回りたくない人だ。たった数分の会話だけで気力を全て持ってかれたからな。

 

 

「ま、こいつはただの確認事項として。本題はこっからだ」

「まず反乱軍の説得をどうするか」

 

 私が反乱軍の情報について分かってることを発表する。構成人数は大体100万、だけど革命軍側の情報であって信憑性は薄いからもっとあるだろう。率いるのはコーザ、そして幹部にファラフラ エリック ケビ おかめ ナットーって所か。

 

「砂砂団…」

「リーダーのコーザとは砂砂団のリーダー。ビビ様や私の幼馴染みですね、ですが私はほとんど関わりなし。知り合いレベルと予想」

 

 やはりここはビビ様の説得が必要不可欠という話になった。そして1刻1秒を争う。

 

「幸い、姫さんは国民に好かれてる」

「………私が、説得してみせるわ」

 

 ビビ様は強く意気込んだ。

 

「足が必要なら俺が運ぶよい?」

 

 ニヤリと笑ってマルコさんが申し出る。

 有難い、とても。

 

「あ、なら私も連れてって」

 

 便乗、とコアラさんが手を上げる。

 

「サボ…う総長君はハックと合流しないといけないしスパイの革命軍とコンタクトを取れる私が行った方が早く済む」

 

 海賊だけに任せるのはプライドも関わるし、と軽い調子で笑って見せた。

 

「麦わらの一味も誰か1人くらいついて行って欲しいが、こちらも革命軍としてコアラは譲れないから明日から姫さんと別行動して欲しい」

 

 ビビ様が若干不安そうだけどコアラさんのフレンドリーさがあれば多分大丈夫だろう。お互い信用しきるのは危険だけど程よい協力関係を結べる筈。

 

「次はクロコダイル」

「俺はぶっ飛ばすぞ?」

「分かるしてる、問題はその方法」

 

 ルフィがシャドーボクシングをしながら首を傾げる。思わず呆れるよ。その為の話し合いだってのに。

 

「大元叩かにゃ解決はしねぇな」

 

 ゾロさんは布団に寝転がりながら告げる。

 

「クロコダイルは現在レインベースのカジノの中、との情報。作戦決行によって場所は変わると思う故に確定は無きですが」

 

 この情報はビビ様や革命軍だけじゃない。市民による情報もあるから経営してるのは本当だろう。

 

「時間も無いんだろ?」

「ま、まぁ。そりゃ」

「ならよ、正面突破作戦でいこーぜ」

 

 エースの突拍子も無い言葉に流石に度肝を抜いた。

 正面突破か。狙うなら奇襲だろう、と思っていた所だし相手もそう思うかもしれないから案外いい案かも。

 

「クロコダイルの所に行くのは麦わらの一味と俺と参謀総長だろ?戦力的に正面からやり合っても大丈夫だと思うんだが」

 

「ごめんエース……もっとアホだと思うしてた」

「あん???」

「二番隊隊長は白ひげさんの思いつきでは無きですね…驚き。ビックリ」

「お前兄ちゃんの事どんだけアホだと思ってるんだ」

「私の本名忘れるくらいには」

「その件については大変申し訳ないと思っておりま──二回目だぞこのやり取り」

「そこは反省して」

「ゴメンなさい」

 

 すっ…と土下座をしかけて止まったが土下座しなおした。その件については何度でもネチネチ言うよ。

 

「白ひげの幹部を土下座…土下座………」

「権力怖いが身内はセーフの思考回路」

 

「幹事。ちゃんと仕事しろ」

「はい…じゃあ総戦力で殴り込み、決定」

 

 段々雑になっていくなぁ。

 

「次が海兵、ですか」

 

 マルコさんやサボから冷たい目が飛んでくる。

 

「ふ…ふふ……コレは大丈夫ぞ!」

「え、どうして?」

 

 マリオで言うとクッパ(クロコダイル)までの道のりを邪魔してくるキノコだけど今回に限り亀の甲羅になってくれる!はず!

 

「実は一等兵辺りが私の雑用時代の同期同室なのですよ、イッツフレンドリー」

 

 第一雑用部屋は仲良しです。と告げると苦い顔をされた。大丈夫なのか?って視線が飛ぶ。

 

「まぁ任せるしろ、口で丸め込むしてみせる」

「……本当に大丈夫?」

「大丈夫!あることないこと捏造してでも協力体制又は見逃すを目指すです!」

 

 私がこの国にいる海兵を率いてるスモさんと知り合いと知ってるのはビビ様だけだもんね。心配するのは分かる。でも味方宣言してくれたからー!最低でも私の命は保証されるんだー!やった!ぼっちじゃなくて本当によかった!

 

「大した障害にもならないだろうしまぁいいか」

「最後!BWの狙い」

 

 と、言っても絶対分からない議題。

 

「お前魚人海賊団相手の時言ったよな『理由が違ってもする行動は一緒』って」

 

 あー。『お腹空いた』のと『仲間のために戦う』理由の結果が『アーロン殴る』ってなったんだよな。よく覚えてるな。

 

「それってつまり結果から理由を探すのは大変って事だろ?議題にする必要あるのか?」

「まぁBWぶっ潰すすればオールオッケーですがね、多少は形だけでも考えるしなければ」

「そういうもんか」

「どんな危機的状況でも、頭を止めなければ抜け道は見つかるのです」

「確かに」

「99%無理の状態。考えを止めるすれば確実に100%になる。私は今までその1%を探しながら生き延びるしてきますた」

 

 へぇー、と声がいくつか漏れる。

 

「例えば、鷹の目に目をつけるされて無理やり訓練所に連れ込むされた時」

「例え話が物騒だな」

「砂利で目潰しを思い浮かび逃げますた」

「おい」

 

「例えば、災害のせいで白ひげ海賊団に飛ばすされた時」

「お、あの時か」

「え、待って俺知らないんだけどマルコぉ??」

「私は所属をバレぬ様にマルコさんを上手く味方にすべくか弱い子を演じ」

「思わぬ所で暴露するねい!?」

「褒める事によってもう1人の監視役サッチさんの警戒を緩くさせますた」

「…………監視役、バレてたのかよい」

 

 悔しそうにマルコさんが呟く。

 いや、自分の船で自由気ままにさせる程優しくないでしょうよ、海賊って。

 

「と、いうわけで考えるですよ」

 

 

 

 

 結局、国を乗っ取って交易する事くらいしか出てこなかった。

 

 アラバスタに縁がある私への当てつけ……とかは流石に無いですよねー……?

 もうやだ超疲れる。




ホワイトデーまでおやすみ。次回、番外編!


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番外編12〜ホワイトデー〜

ホワイトデー過ぎちゃったけど。

ホワイトデードッキリのお話です。色々伏線回収??


 

 

 時を遡ること数年前。

 

「ホワイトデーだな」

 

 それはドフラミンゴの一言で始まった。

 

 

 ==========

 

 

「バレるしたらどうするつもりぞ?」

「コスプレって言っとけよ」

 

 個室でこっそりとドフラミンゴと企むのは我らがリィン。その手に持つのは真っ白い何かの布。

 

「ドフィさんが海兵とか…流石にバレる気が」

「お前は実際女狐なんだ、なんら問題ないだろ?」

 

 その布、実は海兵の制服だ。

 リィンが持つのは自前の将校服…つまり女狐の正式な制服。なかなか着る機会が無い為袖を通すのは久しぶりだが未だに視界が狭くなる服にやる気は全く起きてない。

 対してドフラミンゴが持つのは一般的な一等兵の制服だ。敢えてこれをチョイスしたらしいが正直違和感しかないだろうというのがリィンの本音であった。

 

「と言うより制服何故何処にて入手すた?」

「スパイ」

「………我大将ぞ?我、大将、ぞ?」

「知ってる」

 

 思わぬカンミングアウトに頭を抱えた。胃も痛めた。

 

「今日の会議どこでだっけ?」

「マリージョアです。計画したはドフィさん、私関係無い巻き込まれるした可哀想な美少女。仕方なく、仕方なーーく付き合う」

「オーケーだ、フフフ…」

 

 七武海ドンキホーテ・ドフラミンゴは今日の会議に出席しない。出るのは女狐とその部下だけだ。

 

「キッツ!」

「ドフィさんがデカすぎるです!」

 

 リィンは筋肉に圧迫される制服が可哀想だなと思った。破れないことを願おう。

 

「安いお返しですね」

「ワニちゃんの驚いた顔をホワイトデーのプレゼントに選んだ。安上がりだろ、ビックリするくらい」

「まことに」

 

 フード付きの白いマントを被り仮面をつけながら言葉を交わす。丁度1ヶ月前のバレンタイン、リィンは七武海の野郎共に箱ごと手作りと見えるお菓子を贈った。

 

 ………それが海賊女帝ハンコックに押し付けられた事は黙っていようと心に決めたが。

 

「(ハハハー……私が作ったら吐くもんなぁ…。雑用部屋の皆には悪いことをした)」

 

 実験済みだったらしい。

 

 嫌がらせには最適だったのかもしれないと考えながら準備しているともうそろそろ出発の時間になってしまった。

 

「行き方は?」

「空」

「チッ………わかるました!」

 

 部屋の窓を開けてそれぞれが飛び立った。

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

 

 マリージョアにて二人の海兵(?)に呆れ果てていたのは元帥でもあるセンゴクだ。

 

「何をしているそこのアホ2人」

「「女狐/ドフィさんが」」

「「濡れ衣を被せるな/なかれ!」」

「よぉ〜く…分かった………」

 

 ニヤニヤと笑う髪を黒く染めたドフラミンゴを見て厄介事の気配を感じ取り、深くため息を吐いた。辛い。

 

「クロコダイルが癇癪起こさない程度なら許す」

「(わぁ、ターゲットがクロさんだってバレてーら)」

「(ま、バレるだろうな。この組み合わせじゃ)」

 

 それぞれが指定の席に付きおそよ10分後、ターゲットは現れる。……クロコダイルだ。

 

「おい鳥野郎!!!あれほど空き瓶片付けろっ……て……あ?居ねぇ」

 

 バン!と扉を蹴飛ばしながら入ってきて叫ぶが普段いる筈の席にピンクのもふもふが居ない事で怒りは急速に静まる。

 

「………クロコダイル。今日はドフラミンゴは来ない、と連絡があった」

 

 ミホーク(協力者)が告げるとクロコダイルは舌打ちをして席にドカッと座った。

 

「ちなみに…この会議が終わってもリィンは来ないらしい。お茶は無しだ」

「…は!?なんでだ!?」

「知らん」

 

『やべー、気付いてねぇ、気付いねぇですぞドフィさん。流石に海兵席にいるとバレないのですかね!?(アイコンタクト)』

『マーマー黙ってとりあえず待ってろ、絡まれたらアドリブでいくぜ?フフフ…』

『イエスマム!』

『誰がマムだ』

 

 チラチラと目だけで会話(ただしリィンは仮面を付けてる)出来る2人。傍から見れば仲良しかもしれないがつい数分前までお互いの足を引っ張って罪を押し付け合いをしていたのはこいつらですおまわりさん。

 

「見ねぇ顔だな……? おいセンゴクこいつらは?」

「………」

 

 見るからに『話題を振るな』と顔をしかめるセンゴクにドフラミンゴが思わず吹き出す。

 

「どうもお初にお目にかかります七武海クロコダイル様ァ? フフフ…最近海兵になりましたどうぞ宜しく」

 

 具体的には約三十分前だが嘘は言ってない。

 ドフラミンゴがわざとらしく会釈をするとクロコダイルはフンと鼻を鳴らした。

 

「新米海兵か…せいぜい励むこったな」

 

「え…」

「んだよ」

「な、んでもありません」

 

 ここでドフラミンゴの容姿をおさらいしよう。

 短髪は黒く染めてはいるが普通の倍はある身長の人間など早々いない。しかし誤魔化せるものでも無いためピチピチの制服を着た図体のでかい怪しい男へと変貌している。

 

「(バレてない、だと……!?)」

 

 リィンはバレずともドフラミンゴはバレる事を前提にこの場にいる。

 興味無さげに、あくまでも普通に過ごしているのだクロコダイルという男は!

 

「(ツッコめよ!ちょっと恥ずかしいだろ鰐野郎が!)」

「ブフッ」

「笑うなテメェ…」

 

 あくまでも死角で小刻みに震えるリィンに肘鉄を食らわせた。失礼な奴だと思いながら協力者を見る。

 

「ぐ、ブッ…ぐぅ……ッ」

 

 机に突っ伏して震えていた。

 

「(あの野郎絶対殺す)」

 

 この会議の終わりが命の終わりだと殺気を飛ばすがプルプル震えるだけで態度が変わらなかった。畜生。

 

「そっちの仮面は?」

 

 視線がリィンの方に向き、本人は少し焦る。

 

 

 

「(ヤベェ標準語喋れねぇええ!!)」

 

 盲点だった。

 

 確実に文を喋るとボロが出る。間違いない。仕方ない、と考えリィンはゆっくり喋った。

 

「……………女狐」

「…! ヘェ、お前がもう1人の大将って奴か」

「……………どーも」

 

「え、女狐ってそんなキャラなの?」

「黙って」

 

 ドコッと鳩尾辺りから容赦ない音が聞こえる。

 

 普段と180度違う態度にドフラミンゴが驚くとリィンが拳を握りしめて女狐らしく妖艶(物理)に口を塞いたのだ。

 

「……………仏、会議」

「……あぁ」

 

 何故かげっそりと疲れた表情のセンゴクにリィンが『質問から逃げたい』催促すると流石は賢い上司、察した様で会議を進行し始める。

 

「(よく考えれば七武海定例会議に参加するのは初めてだなぁ…ナワバリ以外に何話してるんだろ、ていうか私ここにいてもいいのか?)」

 

 今更な疑問が頭をよぎるがセンゴクが何も言わないので何ら支障はないだろう。

 せっかくの機会だ、と会議を見学することにした。

 

「議題その1:会議の出席数を上げるためには」

「(小学生かよ!!!!)」

 

 どう考えてもこの場に居ないハンコックやモリアの事を言っているに違いないと察する。そして低レベル過ぎる議題その1にため息を吐いた。

 

「リィンを当てようじゃないか」

 

 ほけほけと天然魚ジンベエが手を上げる。

 

「却下!」

「なぜじゃい女狐殿。現にここにいる殆どが…まぁ今回は()()()()()()()()()()()()リィンの影響を受けておるじゃろ」

「…………海峡、それ本気で言ってるのか?」

「うむ!」

 

 リィンならまだしもドフラミンゴの事を気付いて無い男その2が発掘した。思わぬ展開にミホークが机に頭をぶつけ始めたが小さい事だろう。

 

「……………奴は雑用」

「だからと言っても実際早い」

「……………迷惑。良くない」

「それは今更な話じゃろう?」

 

 そうかもしれないけど!負担は増えるんです! と叫びたかったがあくまでもリィンはバレない路線を突き通すつもりなので押し黙った。

 

「ならば女狐の名の通り魅了させちまえば解決だろ、リィンに頼りたく無いならお前がやれ」

「……………何故」

「あぁ? こっちはな、グラッジの件含めてテメェが手を汚してねぇのが腹立ってんだ。テメェは大将ってご偉い肩書きを持ってんだ……負担しろ」

「(んんんんん、私の負担が増えるんです!雑用のリィンを気遣ってくれてるのは分かるけど、なんかごめんね!?)」

「………どっちにしろ地獄だな、女狐ちゃん」

「本当に黙って?」

 

 ポロポロと軽い口に軽く恐怖を覚えながらも女狐(リィン)はクロコダイルに向き合う。

 

「……………悪魔の片腕、それは過去」

「分かってんのかよ、アイツが居なくなった理由」

「……………勿論」

 

 悪魔の片腕グラッジ。

 唯一リィンが直接手を汚し、その命を終わらせた男の名だ。

 クロコダイルとジンベエには一部始終を伝えているので、『秘密裏に片付けられるのにそれをせず、手を汚さなかった大将』に嫌悪感を抱いているのかもしれない。

 

 クロコダイルよ、それは御本人だ。

 

「胸糞悪い…」

「会議中はいつも機嫌が悪いなクロコダイル…少しは態度を改めたらどうだ」

「嫌な事ばかり思い出すんでね!悪かったなセンゴク様よ!」

 

 ニヤニヤと笑うクロコダイルばかり見てきたせいでどうにもイメージがピタリとハマらないがリィンは気にせず言葉を続けた。

 

「……………海の屑」

「はぁ?」

「……………藻屑」

「……何が言いたいんだ、テメェ」

「……………煽る」

 

「あー…、つまりリ──女狐。屑共を煽って来させればいい、と?」

 

 センゴクの改訂にコクリと頷けば言うことは無いとばかりに背もたれにもたれかかって腕を組んだ。

 女狐のキャラ付けも大変なものである。

 

「では議題その2:治安維持の為にどうすべきか」

「(中学生かよ!!!!)」

 

 微妙にフワフワと浮いた議題その2に机を叩きたくなる衝動に襲われたがグッと堪えた。

 ここは我慢だリィン、と己に言いつける。

 

「……………海賊壊滅」

「お前は時々とんでもない脳筋になるな」

「……………手始め、は、七武海」

「やめ、ろ!」

 

 バァンッ!とどこからか取り出したハリセンでドフラミンゴがリィンの頭を叩いた。

 思ったより痛かったのか頭を抱えている真っ白い塊を無視して今度はドフラミンゴが案を出す。

 

「リィンを使おう」

「お前は馬鹿か」

 

 センゴクが容赦なくその案を却下した。

 

「あー…なら女狐使っちまえば?」

 

 しかし似たような案を出したのはクロコダイル。

 どういう事だと視線が向かう。

 

()()()女狐さんなら()()の力を頼らずに()()()()出来るんだろう?」

 

 やけに刺々しい言い回しだったがセンゴクはふと考える。知らないことは恐怖じゃないか、と。

 

「いいかもしれんな。謎の膨大な力を海軍が保持してるとなると実力も伴ってない頭の緩い海賊程度なら牽制になる、雑魚対策だな」

「……………嫌」

「文句を言うな女狐」

「……………飛び火、恐怖」

「表立って出る事など無い癖に」

 

 本人らを知っている上層部では4人の大将の仕事にちょっとしたイメージが付いている。

 

 『海賊』を相手にする赤犬。

 『治安』を維持する青雉。

 『天竜人』の護衛が多い黄猿。

 『王族』と縁強い女狐。

 

 女狐は世界会議にてその姿を表しているので今している格好を進んでする必要性は無いのだ。

 

「……………はぁ」

「クッハッハッハ!せいぜい頑張るこったな」

「(禿げろクロさんこの恨みは忘れない)」

 

 ちょっとした呪詛を送りながら舌打ちをする。

 

 ここでミホークがまさかの発言をしてきた。

 

「ところで、だが。女狐とは誰なんだ?」

「「「「…………」」」」

 

 事前説明で『ドフラミンゴが化けるのは海兵』と『リィンは来ない』としか言わなかったのは悪い事をしたと考えている。

 だがしかし大将の二つ名を知らないとはどういう事だ、と全員の視線が注がれた。

 

「つーか普段って何してんだ?」

「(私が聞きたい)」

 

 女狐は正直仕事をしていない。

 するとしたなら部下(少数)の集めた資料に名前を書いたり雑用でも紛れるように備品の管理程度だ。

 特別な時を除いて功績が無い。

 

「……………仕事」

「だからその仕事ってのがなんなのか」

「……………交渉、拷問、首、潜入」

「……お前のどこが『平和を愛する(と噂の)守りの大将』だってんだ…。海賊でもドン引きだわ」

 

「(私もそう思う)」

 

 これもまた嘘は言っていない。

 革命軍の顔写真を手に入れたのは確かに交渉だ。エースに特攻を仕掛けて思い出させたのはある種拷問だ。グラッジを殺したのだって首を落とした。潜入はこれから予定だがそれっぽいのは何度か経験している。

 

「はぁ、萎えた。センゴク、俺ァ帰る」

「え、は、あ!?」

 

 ドフラミンゴが慌てて立ち上がった。

 ターゲットにネタバレもせぬ間に帰られては困ると思ったのだろう。

 

「なんで帰っちまんだ鰐野郎!」

「……お前新米海兵だったな。雑用と関わりあるな?」

 

 そう言うとクロコダイルは懐からガサガサと一つの箱を取り出した。

 

「第一雑用部屋のリィンに渡しとけ」

 

 会議が途中だがそのまま背を向けて去っていったのを全員見つめる。

 

 え、この空気をどうしろ…!?という雰囲気がありありと見えるが突如ドフラミンゴが崩れ落ちた。

 

「(バレンタインのは私が作ったやつじゃないんだけど。海賊女帝に押し付けられたやつだし。……心が痛い)」

 

「ブッ、ハハハ!!アイツ、最後まで気付かなかった!」

「びぃ…ッ、胸とお腹痛い」

 

 ホワイトデードッキリは仕掛けクラッシャークロコダイルの勝利に終わった様だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お返しは【どっかの誰かと結婚出来るならしてみやがれ幼児体型の貧乳】とメモが書かれたペアの指輪だったのでパイを御見舞し(ぶん投げ)てやった、と後に語る。




この時点ではミホークは女狐=リィンと知らない。
くまは『女狐』も『新米海兵』にも気付いてる。
ジンベエ?クロコダイル?知らない子ですね。

指輪プレゼント=婚約と考えない。あくまでもペアの指輪なので単なる嫌がらせですね。ほら、ぼっち諸君、分かるだろう?友達が「これお土産ね!」って渡した物が何故かピンクと青の二つセットのおそろいキーホルダー、とか。辛くない???(経験者)


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第114話 チベットスナギツネ

 チベットスナギツネ、という動物をご存知だろうか。この世界もキツネに色々種類はある様で、その中の1種にとても死んだ目をしたキツネがいるそうだ。毛は金色、目は黒、ハハッ何処かの海賊に潜入している地位詐欺の海兵さんと同じカラーリングじゃないですかヤダー。

 

 とにかく、一部では死んだ目をした誰かの様子を『お前の顔チベスナ顔だな』等と表したりするそうなのです。

 

 

 現在のリィンちゃん。牢屋の中です。

 

「捕まった」

「巧妙な罠だったな」

 

 チベスナ顔でござる。

 

 

 

 

 ユバで1泊した後のお昼、細かな打ち合わせを終わらせるとマルコさんに乗ってビビ様とコアラさんがカトレアに向けて出発した。

 『それじゃあ行ってくるよい』

 (身分を考えなければ)平和そうな組み合わせだなーっと思いながら見送った。

 

 丸1日歩き(飛び)通し、朝の6時くらいだろうか。やっとレインベースに辿り着いた時は眠い!しか思わなかったけど。

 

 

 さて、今回牢屋に入れられるという普通有り得ない展開になった発端は勿論ルフィとエース。

 奴らはお腹が空いたと言って暴走してしまったのだ。その時のサボの目と言ったら人を殺しそうでしたよ、何故か私に向けてたけど。多分『なんで手綱握らねぇんだよ妹だろ』的な訴えだったと思う。

 

「カジノの中で呼んだって出てくるわけないって言うのにあんた達は騒いで…!」

「だって顔わからねぇもん」

「でも罠は考えれば避けられる罠だったでしょ!?たとえ柵で囲まれたとしても、廊下全体が落とし穴だったとしても!」

「無茶言うなよナミ…」

 

「はぁ…」

 

 アホなやり取りに思わずため息を吐いた。

 

 この牢屋にいるのは私、ルフィ、ウソップさん、ナミさん、エース、サボ、そしてスモさん。

 チョッパー君は合流したハックさんと待機して貰ってる。正面突破作戦が上手くいかなった場合は人間じゃないチョッパー君の存在を秘密兵器として置いておきたいからだ。

 サンジ様は勿論王族だから除外。そしてその護衛としてゾロさんも一応。

 

 まぁそんな事バカ正直に言える筈も無いから『外で雑魚の警戒』を頼んで『いざと言う時の足』を探していて欲しいと言ったんだけど。

 

「チッ…」

 

 スモさんが小さく舌打ちをする。

 その直後にスモさんと合流してしまうとは誰が想像したでしょうか。まさかスモさん部隊がレインベースにいるとは思わなかった!

 

「情ねぇな、この有体」

 

 エースの身体の影で電伝虫をかけるサボ。

 いつでもハックさんに指示が出せれるようにしてるのかもしれない。

 

「それよりおれ…さっきから力が抜けて…」

「腹減ってんのか?」

「海楼石、説明したぞ」

「あ、あの時の」

「あー…後で聞いたけどそれヤバイじゃねぇかよ!」

 

 牢屋の檻に触れていたルフィがヘナヘナと言う。私がヒントを出すと後々の航海中に話を聞いたウソップさんが察して驚いた。

 いや、そこはやばくない。

 

「むしろ逆。これは盾にぞなる、と」

 

 どかっと座り込んでるスモさんを見る。

 

「この中で1番細くなるが可能の煙でさえ出ようとはせぬ。それはつまり、同じ自然系(ロギア)の砂も同じ事」

「んえ?」

「この中にいる限り即死は無い、ということです。見る限るして上から繋がる簡易的な牢屋ですし拷問器具も無いですから比較的安心安全」

「インペルダウンを語るだけあるわぁこのガキ」

 

 つまり外から能力での攻撃は出来ないって事。クロさんが怒り散らしてドシュッといかないことが保障される訳だ。海楼石便利。

 ウソップさんが思わず遠い目をした時、スモさんが私を睨みつけた。あー、はいはい、クロコダイルの事やビビ様についての説明ね、うんうん、するする。生きて出れたらね。

 

 牢屋の中に何故かある椅子に座ってるスモさんの隣に座ると全員から驚きの顔をいただいた。

 

「即海楼石を使用可能の私が自然系(ロギア)の海兵の傍にいるのはおかしき?ナミさん代わる?」

「遠慮するわね!!」

 

 建前上は『海兵に警戒してる仲間』を演じさせて下さいよ。私はスモさんがいるということに軽く恐怖を覚えてるんですから、これ絶対麦わらの一味討伐対象じゃん。やだよこんな修羅場。

 

「───共に死にゆく者同士、仲がいいじゃないか」

 

 この場に響く一つの声。

 

 豪華な1人がけソファに座ってクロさんがニヤリと笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………………………………いたのか。

 

「クロコダイル…!」

 

 スモさんが煙をふかしながら睨みつけるとクロさんは肩を竦めてみせた。

 

「オーオー、噂通りの野犬くんだったんだな、お前。いっつも不憫ないじられキャラで忘れかけてたさ子犬(パピー)君」

「あぁ???」

「パ、パピー……ぐ、ふっ…!」

 

 白猟のスモーカーと恐れられる男が子犬!

 笑っちまうぜ!

 

「俺をハナから疑ってくる海兵はテメェらしか居ねぇからなぁ。だがまぁ、正解だったな」

 

 わざとらしく拍手をしながらクロさんが嘲笑う。

 スモさんはこのまま牢屋の中で死んで海軍には『良くやった』と報告するとか、事故死予定らしい。

 

「うるせぇ、マヌケ野郎。その口閉じとけ」

「カチーン……テメェは俺を怒らせた」

「クロコダイル様は随分ケツの穴の小せぇ野郎だな」

「ケツは掘られてないんでね」

「……ミホさんは掘られてるかもしれない、と」

「「黙れ!!」」

 

 こっそり呟いた言葉はきちんと拾われていた様だ。おめーらが言い始めたくせに若干リアルな話だと拒否反応起こすのか。処女かよ。むしろ処女じゃ無かったら距離を取るけどなホモ野郎!

 

「おいお前!」

「麦わらのルフィに堕天使リィン、よくぞここまで辿り着いたな。だが…お前らの旅はここで終いだ」

「断る!」

「麦わらの一味は死んだ、と聞いたがどういう事か説明してもらおうか?」

 

 視線は確実に私に向いてる。

 マントを外して檻の前に立つとクロさんも近付いてきて睨み合う形になった。

 

「ビビ様が死んだ、Mr.5らのせいで!」

「ほぉ……?」

「仇討ちぞ、Mr.5を脅し偽情報を使うし、ここまで来た。アラバスタを乗っ取りなどさせるか」

「……………ク、ハハッ!威勢がいいなぁ?嘘を堂々と言い切るその態度は嫌いじゃねぇな」

 

 元々好感度はお互い低いだろうが。

 

「お前の考えてる事が分からねぇ程俺はうつけだと思ってたのか?」

 

 フックを撫でながらニヤニヤと笑うクロさん。

 

 考えてる事が…分かってたのか?

 

「大方、手下を自分の所に引き込んで偽情報を流した。もちろんMr.5達は死んじゃ居ねぇ……」

「………お見事」

「で?その上王女様だけ別行動させて反乱軍に対処に行かせる。お前自身がカモフラージュになるってわけか……」

 

 ぜ、全部読まれてるでござる。

 それ、BW完璧対応に回ってるよね……?

 

「お前が選んだ選択だ。充分にご自慢の仲間達と最後の時を楽しむがいいさ──」

「ッ」

「──なぁ、リィン?」

 

 ぶわりと殺気が飛んでくる。

 私は今までなんだかんだと浴びた事の無い勢いの殺気に思わず2,3歩下がるとその背をサボが支えてくれた。

 

「随分な態度だな、クロコダイル」

「リーに何するお前!」

 

 そして私の前に立つのはエースとルフィ。

 

「まるでお姫様じゃねぇか、羨ましい事だ」

「ハ、私の自慢の兄達ぞ。羨ましいだろ」

「………兄ィ?」

 

 クロさんは不機嫌そうにルフィを見た。

 

「まぁいいさ。俺は食事を楽しむとしよう」

「うわ、ぶん殴るしてぇ……」

 

 私がお腹空いてるのわかって言いやがる。

 

 クロさんが椅子に座ったのを確認して私も檻から離れる。サボがなるべく近くにいるのは私が知り合いだと知っているからの対応か。

 

 突如()()()()の笑い声が響いた。

 

「─────フフフフフフ…」

 

 なんだろう、殺気じゃないのに毛穴が全部開く。

 あ、どうしよう。胃が、胃がキリキリする。

 

「いい眺めだなぁ……、海兵が牢屋に入ってるのは」

 

「………終わった、アラバスタ終わった。さよなら私の平穏、こんにちは絶望の日々」

「ッッッ、テメェ!()()()()()()!」

「おはようスモーカー君」

 

 スモさんが睨みつけるとドフィさんは口角を釣り上げて笑った。ちらりと私にも視線がいく。

 

 

 

「…──突然始まる麦わらの一味主催モノマネ大会!」

 

 こういう時は現実逃避が一番だ。

 

「1番手はルフィ!」

「いやいやいやいや!突然過ぎるだろ!」

「私は現実逃避がしたい気分ぞ、心の底から」

「サンジの真似『肉食ったのお前かー!』」

「乗るのかよ!やだなこの兄妹!」

「2番手ポートガスいっきまーす!マルコの真似『パイナップルじゃねぇよい』」

「本気で嫌だなこの兄妹!」

 

「──少しは話を聞けよオイ」

「おかえりください!!!!!!!」

 

 真顔になったドフィさんに叫ぶとウソップさんが首をかしげて私に聞いてきた。

 

「つーかあいつ誰だ?」

「七武海、ドンクホーデ・ドフィラムンゴ。賞金は元3億越え…ですたはずです」

「ドンキホーテ・ドフラミンゴ、だ」

「それ」

 

 流石にこの人のフルネームは辛かった。

 ひぇ、この人は私の立場知ってる上にいつ口を漏らすか分からないから怖いよぉ。ま。教えたのは私からだし自業自得だけどなぁ………あの頃はまだまだ若かった。今なら急所を狙って隙を無理やり作る。そして関わらない。

 

 ドフィさん本人が直したのを指さすとふとある仮定が浮かんだ。そして思わず頭を抱えた。察してしまう自分の頭が憎い。

 

「参謀総長……………こいつだ」

 

 革命軍に手を出したのはクロさんじゃない。

 ドフィさんだ。

 

「……………オイ、ドフラミンゴ。革命軍に気付いて手を打ってやがったのはテメェだな?」

「オイ鳥野郎どういう事だ」

「そのまんまの意味だ。部下の把握はしとこうね、10やると9で終わっちゃう甘い男クロちゃん」

 

 クロさんは私が反乱軍や白ひげ海賊の2人と手を結んでいた事は予想できてなかったらしい。逆に私はクロさんがドフィさんと手を組む、と言うか手を貸した事も。クロさんの読めなかった部分をドフィさんがカバーしたのか……。何この七武海協力タッグ、怖い。

 

「殺されたいのか」

「そんな事言いながら酒を注ぐクロちゃん愛してる」

「クッハッハッ、知ってる」

 

 本日2度目のチベスナ顔。

 

「え…ホモなのか?ホモなのか?」

「はい、ちょっと牢屋側集合」

「あんたも来てくれスモーカー」

「唯一知り合いっぽいからなぁ……」

「ホモなの?」

「ホモとしか思えないんだが」

 

 コソコソと話す海賊+革命軍。

 

 私とスモさんはこれが通常運転だって分かってるから特に思う所は無いけど普通はそう思うよね。

 

「ンンンッ、いや、アレがアイツらにとって普通だ」

「「「「ホモかよ」」」」

「どっちかというとロリコンだな」

「「誰がロリコンだ!」」

 

 スモさんが海軍本部内での常識を言うと七武海から否定の言葉が飛んできた。

 

「あぁん、文句がありますぅ?最後の晩餐は楽しいですたかコノヤロウ!」

「あ、こいつ思ったより怒ってる。まてまてまて、相手は七武海!しーちーぶーかーいー!」

「黙るがいいぞ鼻!」

 

 ストレスマッハでSAN値マイナスに振り切れてるから、もはや痛覚遮断してる気がする。

 人間って…よく出来てるなぁ。

 

「お前もう寝てろよ」

 

 事情を知ってるサボが提案し思わずスモさんも目を閉じながら頷いた。これがぬくもりてぃ。

 

 

 

「それでリィンはともかくスモーカー。お前なんでアラバスタに居るんだよ」

「……麦わらの一味を追っていた、悪いか」

「悪い事しかねぇだろ。お前わかってる?今から事故死、オーケー?」

「ノー!ここから出せヘタレ鰐野郎」

「ちょ、ちょちょちょちょ、ちょっとまって!」

 

 スモさんとクロさんの言い合いに余裕でストップをかけれるナミさんは結構大物だと思う。

 

「クロコダイル、今『()()()()()()()()』って言ったわよね?まるで知り合いみたいに!」

「ひょえ!?」

 

 あれ!?ナミさんが鋭い!

 鋭い指摘をしてくるメンバーはここには居ないと思ってたのに!

 

 海賊側は私がクロさんと面識あるの教えてなかったよね、知っててせいぜいミホさん位。

 唯一色々と観察力のあるサンジ様はここにいないから安心してたのだが…!

 

 あ、もしかして私に関することにだけ鋭くなるとか?嬉しくねぇ!心から!

 

「威勢のいいお嬢ちゃんだな。質問に応えよう「わー!わー!わー!」──黙ってろ。10年来の付き合いだが?」

「10年!?」

 

 わぁ、海賊全員からのどういう事だ的な視線が私に突き刺さるーー…まるでガトリングガンやー…。

 

「私、あんな将来禿げる予定の人知らぬ」

「………………諦めろ、な?」

 

 スモさんが肩をぽんっと叩いてくれた。

 その優しさが辛いです。

 

「ま、まぁ……それなりに」

「なんで、言ってくれなかったの…?」

 

 ナミさんが責めるような声で言う。

 

 まぁ、勿論ここで言い訳が思い浮かばないようなら私はもう死んでるでしょうな!

 

「ビビ様の敵。唯一の幼馴染みが敵と馴れ合うして………どう思うですか?」

「……きっと、リィンを頼らなかったでしょうね。優しい子だから遠慮したわ」

 

 ナミさんは悲しそうにまゆを下げる。

 言わなかったのは自己保身と面倒臭い事を避けることとか言えないな。墓まで持っていこう。

 

「簡単に、どのくらいの仲かと言うますとー……─一緒に寝た仲?」

 

 ピシリ、と空気が固まった。

 発言前と雲泥の差だな!

 

「鰐野郎、まさか手を出してないよな…?」

「………流石にこいつが今海賊でもそれは認められねぇぞ七武海」

 

「リィン出てこいテメェを今すぐ殺してやる…」

 

 蔑んだ視線をその身に受けながらクロさんは最高に殺気立った。

 後悔はしてない!ごめんね!事実じゃん!

 

「否定はしないのか…クロコダイル」

「………俺は無実だ」

 

 ハッキリと否定の言葉を口にしないクロさん、素直でいい子。だが手遅れだね。

 

「そんなキミに朗報」

「あ?」

「あの時の私の同期、現在アラバスタ」

「………………………………は?」

 

 睨まれた。

 うんうん、実はこっそり寝顔取っててくれた優秀な理解者はスモさん部隊にいるんだよなぁ!!

 

「───ご馳走してくれるのでは無かったのですか?」

「普通俺が絶望してるこの流れでぶっ込んでくるか?」

 

 ずっと疑問に思ってた事を口に出したら今度はクロさんがチベスナ顔になった。

 

「お前はその口を閉じて死ね」

「結構酷いぞハニー」

「誰がハニーだ枯らすぞ」

「己の仕掛けた檻を越えるして触れる事可能ならな!」

 

 無駄に煽るな、とサボから拳骨が飛んできた。

 よく分かったな……痛いでござる。




全体的な構成のバランスを整えながら作ってるので更新が遅くなってしまうでござる。

絶望現る!お互いに読めなかった部分がお互いを貶め合う騙し合い合戦!
女狐の狐はチベットスナギツネだった。決して可愛い狐じゃなかった。

ちなみに今月の20日は連載1周年です…(コソッ


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第115話 回転を止めるな

「ボス、王女さんはこの町に居ないようよ」

 

 ニコ・ロビンが階段から降りてくるなりそう告げた。

 

「クロさん作戦教えるしてさーくーせーん」

 

「誰が教えるか、牢屋の中に入れててもどうせ連絡手段くらい持ってるだろ」

「うん!教えて!」

「外に根回しできる誰かがいるんだろ」

「クロさん私の事よくご存知で」

「少しは否定しろ!」

 

 にしてもこれからどうするか。

 ドフィさんも動いたとなると厄介極まりない。

 

 目的だけでも吐かせて去ってもらうか。水に囲まれた地下で七武海2人と正面衝突は辛い。

 

「なればクロさん、どうしてアラバスタを狙うした?」

「これから死ぬお前には関係ない」

「クロさん!!」

 

 冷たい言い方に少しムッとする。なんて言うか、懐いてた猫に引っかかれた感じ?まぁ、ふざけてる時間は無いだろうな。

 きっと、作戦はもうとっくに動いている。

 

「ボス。時間よ」

「分かっているさ……」

 

 ニコ・ロビンが懐中時計を手に取って時間を確認した。その言葉を聞くとクロさんもドフィさんも出口へと向かう。

 やっぱりはじまってるみたいだ。

 

 慌てて檻に駆け寄って叫ぶ。

 

「待って、クロさん!クロさん言うした、昔!『計画さえ無ければセンゴクを潰したい』と!そんな頃からずっと計画していた!何故、私を外交カードに使うしなかった!?」

「…………。」

 

 元七武海グラッジを倒した、正確に言うと殺したと告げた時クロさんは怒ってくれた。子供にそんなことをさせる政府やセンゴクさんに。

 

「ビビ様と幼馴染みの私と知っていながら、どうして引き込もうとすた!?」

「……黙れ」

 

 子供だからこそ絆される可能性があると、その可能性が高いと分かっていながらどうして勧誘し続けた。

 

「もしもそれがカードなれば、何故脅すしなかった!私が弱いのは、よくご存知!」

「黙れ」

 

 例え絆されることなどない、と思っていても私がアラバスタに対して有利なカードになることは間違いない。そして脅しに弱い事も知ってるのにどうして実力行使しなかったのか。

 

「ねぇクロさん!クロさんはッ、本当は何を企むしてる!?只の国盗りでは無いことくらい分かるぞ!」

「黙れ!!!!」

「説明くらい、するしろ!私の力がどうして必要ですた!!??」

 

「俺は、テメェの力なんざ必要無い!」

 

 私が思ってることをここぞとばかりに叫ぶとクロさんが怒鳴り返した。思わぬシリアス展開にリィンさん仰天なり。

 

「なら何故」

「簡単な話だ!アンラッキーズ代わりには丁度いいだろうが!」

「でもアンラッキーズはとっくに」

「あぁそうだ!アンラッキーズを手に入れた後もテメェを勧誘し続けた!」

 

 クロさんは憤怒で顔を赤く染めたままツカツカと近寄って檻に手を伸ばし、私の胸ぐらを掴んだ。

 わぁ、よく海楼石に触らずに手を伸ばせるな。

 

「分からないか!あぁ分からないだろうな!誰にも言ったことねぇからな!」

 

 強い口調で叩きつけるように言う。

 ごめんね!察し悪くてごめんね!でも言ったこと無いんだったら仕方ないと思うんだ!!

 

「お前のせいだ!」

「は!?」

 

 クロさんは唐突に私のせいにし始めた。

 

 

「お前のせいで俺は絆された!」

 

 

 んんん〜〜????この人なんて言った???

 

「誰も信じることなんか無かった、本来ならここにドフラミンゴが居ること自体おかしいだろ!」

「そうぞね!?おかしいぞ!?」

「〜〜〜っ、お前のせいで、俺はこのアホ鳥とバカやり出した!くそっ、楽しかったんだよ!誰かといるのが!」

「お、おう!??」

 

 あー、これもしかして照れて真っ赤にしてる??

 

「気に入ってたんだよ、この生活が!」

 

 耳まで赤く染めたクロさんは私の胸ぐらを掴む手に力が込めて更に言い放つ。

 

「圧倒的な武力を手に入れなくても、王者の椅子を手に入れなくても、俺は!情が移ってんだ!テメェに!」

「それはありがとう!なら助けて!?」

「──それは嫌だ」

 

 私の提案にスン、と顔が真顔になった。

 クロさんの顔面超忙しいね。

 

「お前が来てから間違いなく七武海の空気が変わった。前はミホークと会ってもお互い睨みつけあって牽制しあうばかりだった」

 

 私が本部に来たばかりの頃から居るのはクロさんとミホさんとくまさんと海賊女帝くらい。

 私は仲良しの七武海を見ていたからどうにも想像しにくいけど。

 

「誰も信じない俺でも、気を抜ける唯一の場所に変わっていたんだ。お前のせいで」

 

 でなければ海軍本部内で誕生日会しないだろうな。

 

「ほぼ全員癒されてたんだ、お前に」

 

 そりゃ可愛い可愛いリィンちゃんだもん。

 

「変なその言葉も、生意気な態度も、コロコロ変わる表情も」

 

 ………変な言葉は生まれつきだ、悪いか!

 

 クロさんは胸ぐらを掴む手の力を抜いてポツリと呟いた。

 

「問に答えようリィン。俺がお前を手に入れようとしてた理由」

「や、もう大体聞いたですぞ?」

「お前はこの世で1番馬鹿で阿呆でマヌケで妙ちくりんでガキで生意気で」

「待つして、私はブロークンハート」

「色気も無い、もはや怒りしか湧かない存在で」

「貴様私を泣かすつもりか!?」

「でも」

 

 クロさんが1歩ずつ距離を離す。

 

「俺たちにとって。───俺にとって唯一背を預けても構わないと思った相手で世界で一番大切な存在だから、だ」

「はぁ?」

 

 

 

「だからこそ」

 

 クロさんは私を睨みつけて言葉を紡ぐ。

 

「死んでくれ」

 

 ガコン、と床にいくつもの穴が空き水が流れ込んでくる。あ、これ、溺死パターン?

 

「クハハハハ……!───さようならだ…リィンッ」

 

 クロさんは背を向けて歩き始める。

 その後ろに続くようニコ・ロビンもドフィさんも付いていった。

 

 

 

 

 

 

「………ツンデレ怖い」

 

 私はそっと顔を手で覆った。

 

 

「あの、その、えっと………大丈夫?」

「……一応」

「あのロリコンめんどくせぇな」

「……まことに」

 

 ナミさんの心配した声と舌打ち混じりのスモさんの声が地面に顔を向けた私に降る。

 

 一番大切だからこそ死んでくれ??それはどうしてでしょうね、『無様な様子を晒したくないから』『弱みを見せたくないから、掴んでるから』『癒し要因のままいなくなって欲しいから』さぁてどれだろうね!自分勝手過ぎだろ!

 

「……お前、顔真っ赤だぞ」

 

 ルフィが覗き込んで言う。

 

「自分勝手など阿呆に怒り心頭、もう、意味がわからん。お前が死ね」

「お、おう。そうだな」

「私やっぱり七武海嫌いですぞ……」

「俺も嫌いだからお揃いだな」

 

 いつもよりずっと低いエースの声にヒェってなった。とりあえず癒し要因だったらしい私の話は置いとく。

 

「………。これからの行動考えるする」

 

 聞き取れた会話から推測しよう。それくらいなら出来るはずだ。

 

 『圧倒的な武力』

 これは一体なんだ。ただの強さとは違う気がする。どうにも言い回しに引っ掛かりを覚える。

 

「おい、その前にこのままだと死ぬぞ」

「あー、分かるしてる」

 

 サボの言葉を流す。

 次、人選だ。何故クロさんはニコ・ロビンをパートナーに選んだか。敢えて秘書やエージェントでは無く副社長という立場に。

 それは彼が求める人材だったから。

 

 多分悪魔の実じゃない、1番の要因は『オハラの考古学者』

 

「あ…」

 

 一つ、被る。

 歴史の石『歴史の本文(ポーネグリフ)』に記されてる三大古代兵器。

 

 でもこの国にポーネグリフがあるか?

 聞いたことも無い。そんな物があれば話を聞いたことがあるだろうしビビ様だってなんらかの情報を示す筈。

 

「ま、さか」

 

 慌てて電伝虫を取り出してコールする。

 

 もしもその石があることを国王と政府の一部しか知らなかったらどうなる?

 当然、クロさんは国王に聞きに行く。

 でも、例え拷問しても口を割らなかったら……。

 

──ガチャ…

 

「マルコさん!ビビ様が狙われる!」

 

 ビビ様(ひとじち)を使うかもしれない。

 

 

『────手遅れだよい』

 

 電伝虫から聞こえる声に胃が痛み出した。やめて、下さい。お願いします。

 

 

 

 ==========

 

 

 

 時間を巻き戻して数時間前、マルコら3人は昼に発ち、その日の夜中の内にはカトレアの反乱軍本部に辿り着いていた。

 

「さて、ここからが問題だよね」

 

 コアラが小さな声で言うと残りの2人も頷く。

 彼らに課せられた課題は『反乱軍の説得』

 

 しかしあの雑魚(リィン)は自分が担当しないからといってかなりの無茶な条件を押し付けていたのだ。

 

「『幹部以外にクロコダイルの事を伝えず、協力を取り付ける』だったかな。なかなかに難しいなぁ」

「リィンちゃんの事だから無駄な行為では無いと分かってるんだけど実際に行動に移すとなると……」

 

 朝まで待つ時間もないので夜中の内に説得をしなければならない。かなりの無茶難題にマルコは死んだ目で呟いた。

 

「………誘拐してくるか」

 

 残りの2人は無言で首を縦に振る。実力者がこの場にいてくれて良かったと思いながら。

 

 

 

 

 30分後、地面には一人の男がマルコの手によって転がっていた。

 

「───…そういう事か」

 

 見聞色の覇気を頼りに反乱軍のリーダーであるコーザに突撃し誘拐、そして大声を上げないことを約束させて事情説明をした。傍から見れば犯罪だが実際2/3は犯罪者だ、なんらおかしくはあるまい。

 

「ビビが居なくなってイガラムさんも同時期に消えて国は混乱して……味方だと思っていたクロコダイルは本当の黒幕、か」

「えぇリーダー。今リィンちゃん達がなんとかしようと動いてくれているの、お願い、反乱軍を説得して。出来れば時間を稼いで」

「理由は言っちゃならねぇんだろ…?反乱軍が信用出来るかよ、こんな事」

「……うん。分かってる」

 

 混乱状態から抜け出せないコーザに畳み掛ける様に言葉を繋げるビビ。

 

「クロコダイルには()()をしてもらうからそれまで時間を稼いでくれたら及第点、って教えてもらってる」

「自白ゥ?」

 

 まさかの言葉にコーザは思考を止める。

 

「説得でもするのかよ、あの女は」

「分からないわ、彼女の考える事は。でも信じてるから」

 

 お互いが目を見続ける。

 先に折れたのは当然コーザの方だった。

 

「分かった、賭けてみる」

「リーダー!」

「俺達の恩人だ、きっと助けになってくれる」

 

 コーザは手を差し出す。

 

「この国の為に、協力してくれ」

「えぇ!」

 

 ビビは嬉しそうに手を握りしめた。

 

「──でも流石に四皇と革命軍には引いた」

「……………否定は、しない」

 

 御本人二人もうんうんと頷くだけで否定は出来なかった。誰しも不可解なツテだったのだろう。

 

 幹部、砂砂団との再会。そして説得の為の話し合いで夜が開けて行く。

 

 

 

 

 

 

 

 ────時は朝の7時、ふとした油断のせいで問題が生じることとなった。

 

「姫さんの気配が消えた!」

 

 説得には欠かせないビビの気配がカトレアに無いとマルコが切羽詰まった様子で駆け込んできたのが始まりだった。

 

「姫さんが使ってた個室の鍵が全部開かなくなってる、くそ、2人にしたのが悪手だった…!」

 

 コーザはマルコの話を聞くこととなった。

 体力消耗は良くないと判断し部屋に入れて仮眠を取らせることにしたのだと言う。そして部屋にはビビと砂砂団の女性と泊まっていたそうだ。

 しかし呼びに行けばもぬけの殻。蝋が鍵穴に流し込まれており無理やり扉を蹴飛ばしたのだという。

 

「マルコくん、キミ見聞色使えたよね!?」

「アラバスタは広い。俺の見聞色は精々この町一つ分だよい……。少なくとも2人はカトレアには居ない」

「そんな…!」

 

 コアラもコアラで潜入していた革命軍の兵士を探していたのだが姿が見えないのだ。焦り、思考が狭まる。

 

「おいお前ら!リィンと連絡は取れないのか!?」

 

「「取れる!」」

 

 コーザの声に慌てて電伝虫をリュックから取り出す。もはや頼みの綱はあの少女しか居ない。

 

───プルプル…

 

 噂をすればなんとやら、電伝虫が鳴き始めた。

 

『マルコさん!ビビ様が狙われる!』

 

 焦った声に冷水をかけられた気分になった。

 

 狙われるという情報を掴んだのか、という期待。

 何故もっと早く気付かなかったのか、という不満。

 自分達だけ気付けなかったのか、という悔しさ。

 

「────手遅れだよい」

 

 マルコはそっと呟いた。

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

 どうしよう。ビビ様という駒が、最大の鍵が相手の手に渡ったかもしれない!

 クロさんはきっとビビ様が現れると知っていて、私の行動を読んでいて手を打ったんだ。

 

 死んだと報告させていたのに気付いていた。反乱軍の説得に応じさせるのがビビ様だと気付いていたんだ。

 

 私の居ない麦わらの一味ならここまで読んでたりなんかしないはず。お互いをよく知っているからこそ私の考えや計画が読めたのかもしれない。実力が私を上回るのはずっと知ってる、化かし合うと決めたが少しも七武海には敵う筈が無かったんだ。

 

「どう、しよう…」

 

 詰んだ。圧倒的に手が足りない。

 ビビ様探索も、幹部の捕縛も、全部。

 

「うをっ、膝まで水が!」

「リィンなんとかならねぇかこの現状!」

『リィン!なんかねぇかよい!?』

 

 胃がキリキリする。

 頼られるのがとてもプレッシャーで思い重圧に押し潰されそうだ。首突っ込む事になったのも自業自得だけど!

 

 分からないよ、全部。

 私の様な雑魚が七武海の脳みそ暴けるとでも思ってるのかよ。頭が回らない、ここずっと回しすぎててグラグラする。

 

「……おいコラリィン!!!」

 

 胸ぐらを掴み上げて壁に押し付けたのは私の天使スモさんだった。苦しいです。

 

「俺は誰だ!」

「親友スモさん!」

「お前は誰だ!」

「美少女戦士リィンちゃん!」

「俺の部下は誰だ!」

「私の理解者同期!」

 

 機嫌が悪そうに眉間にしわ寄せて怒鳴る。

 

「ローグタウンでグレンの言ったことを忘れたとは言わせねぇぞ…弱っちい親友さんよぉ」

 

 『俺たちはお前が何のために海賊に入ったのか知らないが全てを捨てて堕ちていくとは微塵も思ってない、俺たちは味方だよ』

 

 グレンさんの言葉が蘇る。

 

「見るからに麦わらはアホだ」

「知ってる」

「失敬だぞお前ら!」

 

「言え、お前が、俺達を使え」

 

 

 『どんな危機的状況でも、頭を止めなければ抜け道は見つかるのです』

 

 ウソップさんに言った言葉が頭を占める。

 回転を止めるな、私が出来ることはただひたすらに考えて考えて手足となってくれる人達を使う事だ。

 

「私、自分第一主義です……。使えるものは何でも使うして、自分の望む最良の結果を掴むです」

 

 

──パァンッ!!

 

 顔を思いっきり引っぱたく。

 

「上等………今世紀最大の化かし合いを始めようじゃないか…あのクソ七武海共と」

「戻ったな」

 

 ニッ、と笑うスモさんまじで癒し。

 七武海にとっての癒し要因が私なら私にとっての癒し要因はスモさんです。スモかわ。

 

「マルコさん、反乱軍幹部の協力体制は」

『とれてるよい!』

「上出来です!なにがなんでも抑えるしておいてください!私達はひとまず脱出する故に指示を待機!」

『了解、白ひげ海賊団をこき使うとは随分図太くなったんじゃねぇかよい』

「フッ、世界的に見るすれば合計権力値は私の勝ちぞ」

 

 ガチャリと音を立てて電伝虫をしまう。

 私はキャスケットに付いている針金を使って牢屋の鍵をピッキングするフリをしながら不思議色使って鍵を開けた。

 

「とりあえず外へ!」

 

 私の言葉で麦わらの一味は先に出る。

 エースは不服そうな顔をしながら私の隣にいるスモさんを睨み、その背中をサボが蹴り飛ばした。

 

「いてぇ!」

「止まるな、死にたがりかよお前は!」

 

「スモさんもとりあえず外へ!」

「あァ」

 

 

 私には力強い味方とツテがある。

 理不尽なこの世を生きるために私が身につけた一番の武器だと言う事を改めて思い返した。




1周年です!
1周年ですよみなさん!!
私が、1年も、持った、だと…!?

初期の方から長々この作品にお付き合いいただいてる方、コメントやメッセージで的確なアドバイスや指示をしていた方、感想にてぶっ飛んだ思考回路を繰り広げるキチガイフレンズの方、どんな数字であってもわざわざ評価をしていただいた方、ポチリとお気に入りや栞を挟んでくれる方、色々な方に支えられています。
これからも世の中をぶん殴る気持ちで書き殴って逝きます(誤字にあらず)
黒歴史?そんなの覚悟済みだぜ!って奴なので良ければまた1年とお付き合いいただけたら多分泣きます。

おまいらありがとな!!!!!!!!!!(シマラナイ)


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第116話 海賊と海軍と

 

 

 カジノから出るとハックさん、サンジ様、ゾロさん、チョッパー君と合流した。

 後ろの方からたしぎさんや同期達が追いかけているのが見える。外で待機してる内に見つかってたのか。

 

「よぉ船長。無事か」

「あぁ、クロコダイルぶっ飛ばしに行くぞ」

 

 ゾロさんが片手を上げて無事を確認するとルフィは真剣な顔で答えた。

 どうやらゾロさん達はクロコダイルらしき人物が首都アルバーナの方に向かっていくのを目撃したらしい。

 

「スモーカーさん!無事ですか!」

 

 たしぎさんは慌てて刀を構え直して私に警戒してきた。おいおい、私かよ。

 

「堕天使…あなたの経歴は聞きました!どうして海兵ともあろう者が海賊なんかになってしまうのですか!」

 

 なるほど、この一味で『元々海賊』より『元々海兵だけど海賊になってしまった』私の方がたしぎさんにとって許せない人物なのか。めんどくさいな。

 たしぎさんは多分私なんかより強いから不意をつかない限り負け戦だし…そもそもこんな事に時間取られてる暇は無いし、と思っているとスモさんが私の前に出る。

 

「たしぎ、とりあえず剣を下ろせ。緊急事態だ」

「は、え?」

「恐らく七武海が二人、今から相手になる」

「なんですって!?」

 

 スモさんがたしぎさんにそう声をかけると、同期、オレゴさんたちが後ろで息を整えていた。

 

「ス、モーカーさ、ンッ、アルバーナ方面にクロコダイルと、ドフラミ、ンゴが…ゲホッ」

 

 流石本部務め、七武海の姿はすぐに把握出来てる。第一雑用部屋は私がいる分関わりが合ったのかもしれない。

 

「チョッパー君、足は?」

「ラクダのまつげの友達がヒッコシクラブだったんだ!運んでくれるって!」

「ありがとうです!」

 

 足の確保が出来ている優秀な船員にお礼を言って海軍に向き直る。

 自然とどちらの視線も私の方に向く。

 

「スモさん、古い友人として、仕事仲間として。()()()()()

「…………お優しい事だな、命令たァ」

 

 私の言葉の端の意味を正確に読み取ってくれるスモさんは天使でした。知ってる。

 私の本来の立場を知っているからこそ『上司からの命令』で七武海討伐を優先させる。スモさんの独自の判断じゃなくて女狐の判断に従った事にするんだ。

 

「国盗りを目論むクロコダイルの部下、BWの幹部の目撃情報を集めるして私に寄越すしろ。1部は反乱軍の暴動を抑える様に。そして王族の保護を最優先。──まとめる為ならば何を使っても良し」

「……言ってもいいのか?」

 

 恐らくスモさんは女狐の名を使うことだろう。私は無言で頷くとスモさんがニヤリと笑って言い放った。

 

「任せろ」

 

 握り拳をぶつけ合い似顔絵を渡す。フロンティアもオフィサーも1枚ずつしか無くてすまない。

 

「クロコダイルとニコ・ロビンが組む時点で只の国盗りじゃねぇ。世界を揺るがす事になる。───いいか麦わらの一味共、俺がテメェらを見逃すのは今回だけだぜ…!」

「俺、お前のこと嫌いじゃねぇな!ししし!」

「黙ってろ麦わら!」

 

 十手を振り回してルフィから距離を取った。

 海賊だから馴れ合いはしないみたい。

 

「──リィン君!」

 

 大人特有の色っぽく低い声が上から聞こえて空を見上げるとファルコンが舞い降りてきた。

 

「ペルさん!?」

「ビビ様は…一体どこに!」

「別行動中です、協力してくださいです!」

 

 アラバスタの戦士、顔を合わせた回数はそう多くないが世界会議に行く中では雑用の私に良く気遣ってくれるナイスガイ!

 最速の足を見つけてちょっと嬉しいでござる。

 

「即戦力をアルバーナに投下するです」

「即戦力?リィン君ちょっと待ってください、クロコダイルはどうやって」

「マルコさん聞こえるですか!?」

『聞こえてるよい』

「河、一直線でアルバーナに向かうです。ビビ様も恐らくそこです。アルバーナより先にゾロさん達と合流お願いします」

『革命軍の嬢ちゃんは?』

「反乱軍の方を!なんとか!」

「よぉ、白ひげのマルコ」

 

 電伝虫で指示を飛ばしているとスモさんが割り込んできた。電伝虫の向こうで驚いたんだろう、電伝虫の表情が一瞬こわばった。

 

「今からグレンっていう海兵を反乱軍に当てる。海軍の手があった方が反乱軍抑えるためには丁度いいだろ」

『え!?は!?あ、リィンお前の仕業か!』

 

 スモさんはこれまでの状況である程度察してる様だから有難い。敵はあくまでも七武海、という認識だからこそこうやって協力してくれてるんだと思う。

 

「………マルコさんはゾロさんを迎えるして来て、頼むますた不死鳥」

『分かった』

「ペルさんは参謀総長とエースをアルバーナに連れていくしてください。恐らくそちらの方が早いです」

「あ、あぁ。分かったよ」

 

 恐らく幹部は最終舞台となるアルバーナに集結する。ゾロさんは幹部討伐の戦力、ルフィはクロコダイル討伐の戦力。エースとサボはドフラミンゴ対策として王宮に連れていく。実力がそこまで高くない面子はあとを追って貰うことにする。

 歩くとなるとアルバーナまでかなり時間がかかるから飛べる組で少人数ずつ運んで行かねば。

 

 1刻1秒争う、文句は言わせん。

 

「待ってくれリィンちゃん」

 

 でもサンジ様の文句は聞かないとなぁー!?聞くだけね、聞くだけ!

 

「俺もマルコについて行かせてくれ」

「何、故」

 

 思わぬ提案にリィンさんドキドキです。

 

「俺だってくそ剣士に負けない位の戦力は持ってるつもりだ。キミの前で戦った経験が少ないから信用出来ないかもしれないけど……頼む」

 

 王族のお願い=断れない。

 はぁぁ………断りてぇえええ……!

 

「分かるました………」

「…!」

「是非、力をお貸しください」

 

 頭を下げる時間すら勿体ないのでルフィに許可を貰う。これで構わないか、と。

 

「俺は自分の妹を信じてるからな、それでいいよ」

「ありがとう」

 

 船長の顔を立てる、とかしてないから若干辛い状況だろうに嫌な顔せずに受け入れてくれる船長まじ天使。

 私の周りが癒しに満ちている……その分災厄が降り掛かってくるけど!

 

「たしぎぃ!」

「は、はい!」

「本部に連絡を入れろ、現在アラバスタ周辺にいる軍の船を全部集めておけ」

「え、は、はい!」

「──事が終わっても、逃がすとは言ってねぇからなぁ?麦わらの一味」

「……にゃろ…。上等だ!」

 

 ニヤリとスモさんが笑うとルフィが対抗してニッと歯を見せて笑った。

 ははは…終わらす気満々だな。これは私も負けてられない。

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

「はい、こちらリックのお守りでナノハナ待機の可哀想なグレンです。スモーカーさんご要件は?」

『緊急事態だ、喜べ、お前に仕事が出来た』

 

 少しの人数がナノハナに残っていた。

 その代表グレンに電伝虫でスモーカーがあらましを伝える。

 

 グレンの周辺を固めるのは同期達。

 リックに続きそれなりに長い年月を共に過ごした仲間達だ、お互い視線だけである程度意思疎通が出来る。

 

 電伝虫がかかって来た時からグレンはリックに視線を寄越していた。するとリックが頷き全員が集められる事になった。

 

『──ってわけらしい』

「やっぱりやってましたかクロコダイル…」

 

 はぁ、とため息を付いたグレンの肩にポートがそっと手を置いた。頑張れ苦労人、私の代わりに。という気持ちを込めて。

 それに気付いてかグレンが睨むとすぐに退散したが。

 

『お前らなら文句言わずに従ってくれるとは思うがビッグネームからの命令だ』

「ビッグネーム、ですか?」

『大将女狐からの命令は反乱軍を止めろ、だとよ』

「うわ…そりゃ確かにビッグネームですね」

 

 女狐がこの件に関わっている事に少々謎を覚える。確かにあの方は国に関連する仕事を担う事が多いが。

 

 そしてふと一つの仮説が浮かぶ。

 

「スモーカーさん」

『…………なんだ』

「その命令を下した人の、名前、変えられません?やる気が起きないんですけど」

『………』

 

 グレンの言葉を始めに、ほぼ全員が同じ仮説を思い浮かべる。

 

 この島の現状を把握していて、海軍所属、スモーカーにわざわざ命令をさせた。秘密が多い女。

 

『…リィンからの命令だ!テメェら絶対反乱軍食い止めとけ!どんな手を使ってもアルバーナに近付けるなよ!』

「「「「はいっ!」」」」

 

 聞いていた全員が声を揃えた。

 

 

 

 ==========

 

 

 

「女狐からの命令…ってどういう事ですか」

 

 海賊や革命軍が巨大なカニに乗って去り、レインディナーには海軍が残されていた。

 先ほどの会話を横で聞いていたたしぎが混乱してる頭でスモーカーを見上げる。

 

「……オレゴ、聞いてたな」

「ハイッス…。やる気出ました」

「出発の準備しておけ!」

 

「ハイ!」

 

 月組の1人、オレゴが敬礼をすると周囲は呆然とした。女狐の名を言い直した時、リィンだと言ったスモーカーに驚いたままだった。

 そして下した命令は堕天使との会話と変わらない内容だったから尚更だ。

 

 断言されずとも、ここまで情報が揃っていればバカ以外察せれる。

 

 いち早く察した月組が先輩の背を叩きながら走り始める。

 

「(……やっぱり月組は使えるな、統率力が抜群に優れてる。流石リィンと最も長く共に過ごしてきた奴らだな)」

 

 正直一般兵で置いておくのは勿体ない程の能力。

 

「(奴らをフル発揮するには…)」

 

 少々厳しい判断かもしれないが将校以下の部下を月組で固めるのもいいかもしれない。

 だが現在の月組は総勢は26人程度。少ない、あまりにも。

 

「(まぁ後々考えるか…)たしぎ、俺がアイツに気を許してる理由が分かったか」

 

 会話が必要だと察したのか月組が他の部下を仕事につかせる。一応上の階級の者がいる筈なのだが良くやるな、と感心しつつスモーカーはたしぎに視線を移した。

 

「理由は、分かりました。が、理解は出来ません」

「ほぉ」

「彼女、悪魔の実で成長が止まってたり……」

「してないな」

「………もっと出来ません」

 

 潜入などは察したのだろうが最高戦力の地位に就いてる事は理解出来ない様だった。

 スモーカーはそれもそうだと1人で納得する。

 

 自分だっていきなり世界会議への護衛にとツーランクの地位を上げられカモフラージュだとカミングアウトされその驚きを共有する人物が居なければタダのおふざけとしか思わなかっただろう。

 

「たしぎ、よく見ておけ。国の乗っ取りなんてさせねぇが時代の節目にゃこういう事が絶対起こる。テメェはテメェの目で見てみろ」

「え、ちょ、スモーカーさん!」

 

「さてと、気合い入れ直すか…!」

 

 今出来るのは親友の手足となる事だ、と頭で考えながら一足早く愛用のバイクに跨って出発した。




容赦ない信頼がリィンを襲う…!!


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第117話 海軍と革命軍と

 

「コブラ様が居なくなった、だと!?」

 

 チャカは宮殿内を隈無く探した兵士の報告に仰天した。昨晩ビビのペットであるカルーがアラバスタに報告をしてクロコダイルが敵とわかったのに、だ。

 

 何を考えているのか、はたまた誘拐されてしまったのか。反乱軍に今のところ動きは無いがコブラ失踪が何かしらの一因になってしまったら。

 そう考えるとひやりと汗をかく。

 

「探し人はペルの得意分野だが…今はレインベースか。くそ、一体どうすれば…」

 

 一触即発の状態を保っているがいつまでも保てる訳では無い。昨晩出された指示、レインベースへ向うことも異常事態では決行して良いのか迷いどころだ。

 

 不安さを隠し必死に考える。

 少なくとも宮殿内には居ないのだろう。

 

 どうすればいい。どうしたら正解なのか。

 

 

「絶対に見つけ出すぞ」

「はっ…!」

 

 ひとまず動かないことには何も進展しない。

 事態の速やかな収束に励んだ。

 

 BWの手の内に、入ってないようにと願いながら。

 

 

 ==========

 

 

「(これからどうしましょうかねーい)」

 

【ナノハナで王に化け「ダンスパウダーを使ったのはわたしだ」と認める。その後街を燃やせ】

 

 そう指示されたが動けずに居たMr.2はアルバーナで人混みに紛れていた。

 

「(他の子達の指示は分からないし…あちしはどうしてたらいいってのよう)」

 

 マントを被りブラブラするとどう動けば最良か、将又悪手になるのか分からない。

 記憶を失って悲しい思いをさせた心友(笑)の為にボスの指令に従ってはいけないのは分かっていたが。

 

「はぁ…」

 

 このままだとタコパみたいにあやふやだわねい、とブツブツ言いながら周囲を見回すと見知った顔を見かけた。

 

「Mr.3じゃないのよう!」

「うわっ、オカマ野郎」

「アァン?」

 

 大きめの麻袋を担いだMr.3とそのペアミス・ゴールデンウィークがMr.2の存在に気付いた。

 

「何してるのよぅ。指令?」

「あ、あぁ。王女をちょっとな」

 

「(王女…?)」

 

 よくよく見ればその麻袋は人が1人分入る程の大きさがある。女性なら簡単に入るだろう。

 細身のMr.3であろうが麦わらの船の上でみた女性陣の1人なら軽々と運べるかもしれない。

 

「ふぅん……」

 

 てっきりビビ王女は心友(笑)と一緒に行動してると思っていたMr.2は顔に出さずとも驚いた。

 まさかこちら方面に残っていたとは思わなかったのだ。しかも、クロコダイルによれば麦わらの一味達はレインベースにいるというのに。

 

「(ゼロちゃん…まさかこうなることを読んでた?もう、あやふやだわねい!あちしあやふやにするのもしたのも好きだけどこうも思考が絡み合ってるとわからないわよう!)」

 

 ボスが七武海という事にも驚いたが頭の回り具合にも驚いた。部下には必要最低限の指示と情報しか渡さない行動にも。

 裏切り者がどこかで出てくると思っているのか、それともただ単に信じないだけか、一匹狼気質なだけか。

 

「お前はこれから何をするつもりガネ?」

「…あちしの任務は終わったわよ〜う!良ければついて行っても?」

「あ、あぁ…構わないガネ」

 

 にまっとした笑みを浮かべると了承を得たのでついて行く。出来れば誰かと合流する前に王女を助け出しておきたいがそうなると手の内がバレてしまう可能性がある。Mr.2は自分がこの計画の真髄を握っている事を理解していた。自分が動かなければ決定的な打撃を国王側に与えない。しかし自分が動かなければ事態が変わらないので裏切り者だとバレる可能性がある。

 新たな手を打たれてしまう可能性が。

 

「……」

 

「ん?どうしたの、ゴールデンウィークちゃん」

「…………」

「……な、なによぅ」

 

 じっと見つめるゴールデンウィークの存在に気付いて若干冷や汗をかく。

 

「……べつに」

「そ、そう」

「……あなたが嘘ついて様が、関係ないもの」

「へ…」

「その代わり。ボスが負けたらあなたの所にいかせて。死にたくはない」

 

 バレてる。

 裏切り者だと。

 

「ミス・ゴールデンウィーク?どうしたガネ?」

「………べつに」

 

 Mr.3は気付いて無いのが幸いか。

 Mr.2は警戒心を強めて彼らに付いていくことになった。場合によって、口封じの覚悟をしながら。

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

 

『リィンからの指示だ、サンドラ河にいる奴らをアルバーナに送り届けてBWの幹部を叩いてくる』

 

 窓から青い綺麗な不死鳥に変化して窓から飛びだったマルコを見送るとコアラは反乱軍の説得に力を入れ始めた。

 

「まだだ、まだアルバーナには行けない」

「何でだよコーザ!武器も揃った、もう待つ必要無いだろ!」

 

 マルコが飛び立つほんの少し前、カトレアの港に武器を積んだ交易船が何故か乗り上げた。

 船員は全員逃げ出し、反乱軍全員に武器が渡るには充分過ぎるほどの量が手に入ってしまった。

 

 コアラとて革命軍の幹部候補、これはクロコダイルの一手だとすぐに気付きコーザに忠告をした。しかし膨大な人数を抱える反乱軍だ、例えリーダーや幹部が止めようとしても上がりきった士気は落ちることなく反論へと繋がった。

 出発を遅らせたい少人数の幹部+部外者、そしてスグにでも攻めたい大勢。押し切られるのも時間の問題だ。

 

「(かろうじて…決定打が無いから抑えてられるけど…、やっぱり無茶だよリィンちゃん!)」

 

 クロコダイルの事を言わない、という条件がここで首を絞める。何故だ、という質問に正直に答えられずに押し問答を繰り返しているのだ。

 

 

「催眠にでもかかってるんじゃないのか、そこの女のせいで!」

 

 1人の男がコアラを指さした。

 この場に相応しくない唯一の部外者、革命軍に。いくら革命軍と言えどもアラバスタ国民では無いコアラが疑われるのは少し予想していた事だった。

 

「そんな事できません!」

 

 否定はしたが1度その意見が出てしまえば疑いはなかなか払拭できない。

 何度否定しても、いや、むしろ否定すればするだけ疑わしくなる。

 

「この…!」

 

 一人の男が抑えられず殴りかかろうとしたその時、パシリとその腕を捉えた人物に全員の視線が集まった。

 

「(海兵……!?)」

「……どうでもいいけど。女に手を上げるのは童貞の道まっしぐらだと思うよ、魔法使い目指してる?ごめんね邪魔して」

「ふざけるな!」

「うん、ふざけてる。本部務めに女なんて居ない、いるのはおっかねぇ鬼婆ばかりだ。安心しろ、俺も童貞だから。多分もう少しで魔法使いになれる気がする。嫁さん欲しい」

 

 え、こいつは本当に海兵か!?

 

 あまりの態度に全員が驚き止まる。

 

 海兵はゆったりとした口調で全体を見回した。

 

「とりあえず周りは海軍で固めてるから動けないよ、キミらを確保するつもりは全くないし結構私情で動いてるから。俺ら」

「キミが、グレンさん?」

「あれ?なんで知られてんだ…。白ひげのマルコは?」

「えっ、と……」

 

 お互いが知っていることに驚く。コアラはマルコがいた事に、グレンは名前を知られてる事に。

 

「いいや。リック、こいつ」

「お、おう?」

「ポート、お前のすぐ前」

「ん」

「ニコラスは右よりの緑マント」

「あいよ」

 

「とりあえずこいつら、敵です」

 

「「は!?」」

 

 同僚に指示を出したグレンは3人の男を眺めた。

 

「やっぱり黒い…」

「お、おい!お前ふざけてんのか!」

 

 怒鳴る男をスルーしてコーザやコアラに向き直る。状況に付いていけない反乱軍は見守ることしか出来ずにいた。

 

「あのさ、金髪の女の子に何か言われてない?」

「リ、ィンちゃん…になら反乱軍を止めてっ、て」

「あー…なるほど。条件は?」

「……本人が自白するまでクロコダイルの事を伝えずに、かな」

 

 コアラが小声で伝えるとグレンは納得した顔になった。だから状況がこんなにも混乱しているのか、と。

 

「キミ、一体」

 

「あー、俺の名前はグレン。見た通り海兵です。そこにいる海兵は俺の同期でリィン信者」

「バカ!バッカグレン!必要かよその情報!」

「必要だから言ってんの!」

 

 反乱軍全体を見回しながら告げる。

 

「この一連の事件には第3者、BWという組織が動いて影で操っています」

「ッ!」

「あぁ、そこに捕まえた3人はそのスパイね」

 

 どういう事だという視線が飛び交う。

 コアラは驚いた、リィンが手回ししたものか不明だがこの男が3人もスパイを当てた事に。そしてBWの事をすぐに告げた大胆さに。

 

「はい次、リアンはそいつ」

 

 更にスパイと思わしき人間は次々と引き抜かれてゆく。

 

「ヒッ…!」

「リック!頼んだ!」

「おう!」

 

 そんな中逃げ出す男が居た。予想していたかの様に近くの海兵に捕らえるよう指示を飛ばす。

 

「次々と当てられるスパイ。逃げるくらいやましい事が…あるんだよな?」

 

 逃げ出そうとした男に近付いてグレンはにこりと笑うと悪手に気付いたのか男は青い顔をした。

 

「……………すごい」

 

 コアラの口から零れ出たのは純粋な賞賛の気持ち。

 それに気付いてか、グレンは全員に向かって諭すように言葉を続けた。

 

「夢中に走るだけが最善策じゃ無い。話、聞く気になった?」

 

 その声に反対の言葉など出なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「助かった、海兵」

「これも上からの指示なんでね」

 

 クロコダイルや細かな構成人数を伝えずにBWのあらましの概要だけ伝えると反乱軍は一気に混乱に陥った、が決してアルバーナにはいこうとしなかった。

 それがBWにとって望むことだと教えたからだ。

 

 幹部が集まる小屋に何故かグレンなどの海兵がいる事にコアラは少し恐怖を感じたが確認しなければならない事もあるので向き合う。一応、見た限りコアラの方が強いだろうと感じ取ったからだ。

 

「さっき、次々とスパイを当てていったけど。どうして…そんな事が?」

 

 海軍はつい最近までBWの情報を掴んでいなかったし、構成員など誰もわかるはずが無い。

 

「簡単だよ、一目見れば魂が汚れてるのが分かる」

「いや、流石に分からないんだけど…」

「んー…、やっぱり俺が死霊使いだからかな。あ、なるべく漏らさないでくれよ?」

「え…し、死霊使い…! ──って、何?」

「………帰って親玉に聞いてみろよ」

 

 驚くも首を傾げるコアラにグレンは思わずため息を吐く。月組程とは言えないがそれなりにキャラの濃いお嬢さんだな、と思いながら。

 

「グ、グレンさん?ってもしかしてリィンちゃんと同期で同室だったって言う人?」

「あ…ひょっとしてちょっとは話聞いてる?俺は決して会員じゃないが、俺の同室…まぁこの場に派遣された海兵はリィンファンクラブ的な奴の幹部だよ。馬鹿げてるよな、本当に!」

 

 グレン自体は決して入ってないと否定するが後ろから飛びついた男が否定した。

 

「いやいやグレートバリアリーフだって幹部だ」

「重い!どけ阿保リック!あと俺の名前はグレンだっての!」

「サイノックレンだって会員ナンバー0のスペシャル幹部だ、いえーい!」

「おまっ、入らなかったからって意味のわからん地位につかせるな!どっちかと言うとスモーカーさんファンクラブだっつーの!」

「あの2人は親友だから別に同じじゃね?」

「俺をロリコンにしようとするな!!!」

 

「はいはい…喧嘩は外でやってよね」

 

 口喧嘩を初めたグレンとリックの代わりにニコラスと呼ばれた優しそうな男がここに至るまでの話をし始める。

 

「あー…ごめんなさい騒がしくって。とりあえずここにはリィンちゃんの指示って事になってますから」

「は、はぃ…」

「指示を出されてるのは反乱軍を止めること()()、革命軍や海賊をどうこうしようとは誰にも指示されてないってわけなんです」

「………、ありがとうございます」

「気にしないでください」

 

 『革命軍が居たとしても捕らえることは無い』と言われてコアラは素直に頭を下げる。

 マルコという抑止力が居なくなり、未熟な自分だけが残り、手に負えなかった状態で助けられ、更に見逃す事も伝えてくれる。ホッと一安心して、涙が自然と溢れてきた。

 

「あぁ泣かないで下さい…。大丈夫、よく頑張りましたね。僕らも手伝うので安心してください」

「う…ご、めんなさい」

「うーん、謝られるのは好きじゃないなぁ」

「……ありがとうございます」

 

 ハンカチを取り出してニコラスが涙を拭く。

 

「よっ、月組のママン」

「お母さん流石」

「娘の扱いは御手の物って感じだな」

「あんたらは働きなさい!グレンしか働いて無いでしょう!」

 

 茶々を入れる仲間を叱りながら月組のママンと呼ばれた男はコアラの背を撫でた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ニコラスは身長2mの筋肉質な海兵だが。

 




死霊使いはローグタウンでちらっと概要があった通り魂を見る体質、のような感じです。
『国の為に動く反乱軍』と『私利私欲の為に動くBW』では魂の質と言うか色が違って見える、という感じですね。月組は統率力と柔軟な判断が売りですが決して強くありません。


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第118話 革命軍と海賊と

 ハローエブリワン!私リィンちゃん、ただ今上空にいるの。

 

 

 カラッと晴れた空には二つの影が猛スピードでアルバーナに向けて飛行していた。

 

「リー、もっと速くならないのか?」

「これ以上早くすると装備がまともじゃないルフィが怪我をするぞ、そしてペルさんを置いてく事にぞなる!」

 

 先行するのは箒に乗った私とルフィ。

 

「く…速いですね」

「風キツっ…!」

「参謀総長、間違えて火だるまにしたらごめんな」

「そんな不吉な事を言わないでくれ!」

 

 並列するようにスピードを上げるのはアラバスタ兵士のペルさん。それに乗るのはエースとサボだ。

 

 最速だかなんだか知らんが10年以上乗り続けた私の飛行技術がそうそう敗れるとでも思うなよ…!ただし乗客がいるとセーブする!ひゃっはー!風になるぜぇええ!

 

 

「おい!め…堕天使!本当にあのスモーカーって奴に任せていいのか!」

「頼りにすてる!堕天使言うなかれ!」

 

 サボが風の音に負けないように大声で聞く。

 スモさん部隊には幹部探しと反乱軍の足止めという任務を任せてる。やり方は知らん。でもやってくれると信じてる。

 

 女狐(うえ)堕天使(しんゆう)からの命令には逆らわないと思うし、同期だっている。

 使えって言ったの向こうだしねぇー、何が何でもクリアしてもらいますよ。

 

 ただ、反乱軍に対しては難しいかもな。自分が考えなくて良いから無理難題押し付けたけど…最悪武力行使だな。

 

「風が気持ちいいな〜!」

「んんッ、可愛い」

 

 歪みが無い兄(エースは変態サボはツンツン)の可愛さに思わず悶えながら一気に飛ばす。

 

 正直居場所はサボ任せだ。見聞色が使えるのがサボしかいない。エースもギリギリ使えることには使えるけどどちらも弱いんだよなぁ、幼少期から後天的に使えてたサボの勝利って事で。

 

「もうちょい南!」

「アイアイサー!」

 

 風に紛れて聞こえた声に返事をして方角を調節する。どうやらクロさん達の気配が見聞色の範囲内に引っかかってきたようだ。

 

「ルフィ、多分1番視力が良きはルフィぞ。肉眼で確認出来たなれば教えて」

「見えてるぞ」

「そう…見えて、…んん!?見えてる!?」

 

 箒の後ろから身を乗り出すようにして発した言葉を聞き返す。見えてるなら見えてるって言えやぁぁあ!

 

「どちら!」

「砂漠!」

「んんんん、どこの!」

「広い方!」

「どこも広きぞぉ!」

 

 南の!砂漠は!広いです!

 低く飛んでるんだから蜃気楼で見えにくいのよ!

 

「ッ、居たァ!」

 

 視力No.2が声を上げる。

 

「リー!ここから2時の方向!」

「距離にして約3km」

 

 エースが方角を、サボが距離を私に教えてくれる。

 ハハハー…この超人兄弟って奴は…。

 

 ゴーグルに当たる微量の砂を鬱陶しく思いながら進むと次第に姿が見えてきた。

 1、2、3、よ……んん?もしや主戦力フルコンボ!?待って、待って。Mr.2しか味方が居ない中に突入するの?待って。少し考えさせて、幹部共をバラバラにする為にはどうしたらいい。

 王様もいる。何故か拘束されているビビ様も。七武海は2人。幹部は揃ってる。

 

 隠れたりなどしてない私達に気付いたのか、クロさんが右手を構えて…。

 

「ッ、来る!」

 

 スパァンッ!

 

 私の声に慌ててペルさんも避ける。

 スレスレの所をクロさんの砂が巨大な刀のように変化して襲ってきた。

 

 え、砂漠が割れた。

 

 

 

 ………マジで殺す気ですね。

 

「来るとは思ってたぜ…テメェがあの程度でくたばる様なら苦労してねェ」

 

 上空で停止するとクロさんの殺気と睨みが飛んでくる。それなりに距離があるはずなのに声が聞こえる。ヤベェ激おこじゃないですか。

 

「エースはドフィさんをなるべく無力化ぞお願い!」

 

 糸の能力には炎の能力を。

 あくまでもドフィさんはあくまでも〝お手伝い〟に徹する筈だし、クロさんが味方とハッキリ言えない人間に頼る様なプライドは持ってないと思うから1人でも時間は稼げる。多分!

 

「……ッリィン、君!」

 

 私が誰だか気付いたコブラ様が思わず声を上げる。

 

「長年お待たせしますた!コブラ様!」

「キミが介入するのは…!」

「海賊〝堕天使〟リィン、この戦争を終わらすです!」

 

 そう、例えエースやサボやコブラ様やドフィさんが名ばかり大将と知っていようとあくまでもこの場で見届けるのは海賊の私。

 海軍が国家問題に首を突っ込むのはアウトでも無法者ならギリギリセーフだ!

 スモさん?知らんな!ハッキリと女狐からだと言ってないから後でどうとでもなる!

 

 どうせセンゴクさんに怒られるのは分かってんだよ!だって1ミリも相談してないもん!事後報告万歳!ハーッハッハッハ!!!!

 

「やぁクロさんドフィさん。癒し担当リィンちゃんですよー」

「お前はすぐ調子に乗るな…殺してやる」

「フフフ…ガチバトルか。期待してるぜぇ、リィンちゃん?」

 

 試しに煽ってみてもいつものふざけた感じがクロさんから感じられなかったので結構ガチ怒みたいです、何でだ。私は一体何をして何がクロさんの地雷を踏み抜いた。よく分からない。

 

「ぐあっ!」

 

 ペルさんの悲鳴が突然聞こえる。

 

「ふふっ、弱いとでも思ったのかしら…。私に速さは通用しないわ」

 

 ニコ・ロビンがペルさんに関節技をキメたようだ。

 うそだろマミー。世界が広いよ。

 

 でも人を運べる足が潰れたのは辛い。

 鳥が運べるのはせいぜい2人。マルコさんがゾロさんとサンジ様を運んでくれるらしいけど河を渡ってる麦わらの一味の戦力的に考えて三往復しないと全員運べないのに。

 

「貴女には手を出さないわ、安心して」

 

 目が合ったニコ・ロビンがニコリと笑って腕を組んでらっしゃるけど私には安心出来る要素がございませーーーん!!ニッコニッコニー!

 

「ボスの邪魔はさせん…!」

「ッ!」

 

 肉を切り裂くザクッと言う音と同時に聞こえたのはサボの唸る声。心配で振り向こうとした瞬間目の前にクロさんが現れた。

 

「よそ見とは余裕だな」

「〝キャンドルロック〟!」

 

 幹部の誰か、男の声がした途端足が地面に固定される。フックのカバーを外したクロさんが私に攻撃をしようとして慌てて上半身を横に捻るけど避けきれなくて右腕にかすった。

 痛い…。しかもこれ猛毒かよ、子供になんてことを。

 

「毒は効かぬ!」

 

「〝スタンプ〟ッ!」

 

 かすった瞬間ルフィが横からクロさんを踏みつける様に技を出すとクロさんが小さな舌打ちをして距離を離す。

 

「待つしてこの足何、この足の何。乱戦にも程が存在するぞ!卑怯!」

「勝てば官軍負ければ賊軍──〝三日月形砂丘(バルハン)〟」

「なんっっ、ですと!もう!」

 

 足元の石みたいな塊ごと箒で飛んで攻撃を避ける。ルフィはしゃがんで、サボは範囲外だったけど先程の攻撃で血を流してた。その代わりにエースがクロさんに向かって攻撃を受けながら走って右手の拳を炎にかえた。

 

「〝火け──〟」

「一匹もらうぜェ鰐ちゃん」

 

 クロさんの前に飛び出たドフィさんが足に武装色を纏いエースを蹴飛ばす。

 避けきれずにエースは砂埃を上げながら威力を殺すと立ち上がって睨みつけた。

 

「Mr.3。リィンを固めとけ」

「分かったガネ」

「さ、せるか!」

 

 白い塊が再び襲うがそれを阻止したのはサボだ。

 手に覇気を纏って塊を割る。ついでに私の足に付いてる塊も砕いてくれた。

 

「こいつは蝋だ!これくらい自分で解決しろ!」

「突然の罵倒!ごめんね!?」

 

 サボの口が悪い。

 蝋って事はドルドルの実の能力者か!

 

「やりなよMr.4!」

「う〜〜〜〜〜ん〜〜〜〜〜」

 

 サボが私の足枷を壊したのと同時に随分と長い返事でMr.4がルフィに殴りかかった。

 

「効かないね、ゴムだから」

 

 平気な顔をしてルフィが腕を伸ばす。

 しかし視界の端に悪魔の実を食べたであろう銃がクシャミをして野球ボールを発射させた。

 

「あ、っぶないぞ!」

「うわっ…!」

 

 アレはやばい。

 そう思った瞬間箒の上からルフィを空へ引き上げると足元ですぐさま爆発が起こる。

 

「時限爆弾か…」

「悪魔の実を無機物に食べさせる技術さ」

「政府開発の…ぞ!」

 

 噂だけ聞いてたけど実際に実用化されてんのか!

 

 ここまできて動いてないのはビビ様を捕らえてるMr.2とちっさい女の子とセクシーお姉さんの3人。

 

「先に潰すか…」

 

「リー!」

 

 微かな声が聞こえてハッとすると砂に変化して移動したクロさんが目の前に再び現れた。

 大きな体格差に視界が狭くなる。

 

「寝てろ」

「〝超過鞭糸(オーバーヒート)〟」

 

 何も攻撃のモーションが無いと思った瞬間クロさんの体を突き抜けて鞭の様な糸の塊が体を吹き飛ばした。

 

「ゲホッ、ガッ、ゴホッ!」

「流石にタフだな」

「手加減しない方が良かったか?」

 

 肺が一気に圧迫されて骨が軋む。

 苦しいとか痛いとかのレベルじゃない、いっそ殺してくれと言いたくなるような痛みが襲ってきた。

 

 せこい、ずるい、何その合体技的なやつ!

 自然系(ロギア)のクロさんの体を視界の壁にして後ろからドフィさんがクロさんごと私を攻撃したのか…!ご丁寧に覇気は纏わずに仲がよろしくて私涙が出そう!

 自然系(ロギア)のチート本当に許さない。

 

「ガハ…ッ!」

 

 胃の中から喉を焼くような液体が溢れて思わず砂に吐き出すと砂は赤く染まる。

 …………内臓やられてる…。もうマジでなんなの…私悪いことした?

 

「ヤバ…!」

「参謀総長!」

 

 霞む視界の中でサボを庇うエースが見えた。

 ルフィは無茶苦茶にクロさんを殴ろうとしてるけど覇気を使えない身ではダメージを与えられてないみたいだ。

 

 ヒュー…っと喘息みたいな私の呼吸音。ここまで怪我したのは初めてかも。

 しかもこれで手加減…?そりゃ死んでないだけ普通より頑丈かもしれないけどあんまりにも高すぎて不安になってくる。数も戦力も状況も圧倒的に不利。

 

 

 

「……!」

 

 丁度南の方角に砂埃が見えた。

 まさか反乱軍…でも少ない。

 

「ざっと20…。反乱軍と、ありゃ海兵か?」

 

 グ、グレンさん!抑えてくれたのか!

 

「一体何をしたリィン」

 

 私は何もしてないからそんなに睨まないでください。どうしてこっちに向かってるのかよく分からないけど反乱じゃない事は確かだ!

 

「ゲ、ホ……」

 

 あ〜、やばい、意識飛びそう。夜通し飛んでただでさえ寝不足だったのにこの仕打ち……甚だ遺憾でござる。

 

 絶対アラバスタから報酬強請ってやるし!!

 

「─────……ビィイ!」

「クソ、コーザか。どうしてだ…ナノハナにはMr.2が既に化けて失望させたってのに!」

 

 遠くで叫ぶ声と拘束から逃げ出そうと奮闘する()()のビビ様。わざわざご丁寧にMr.2は片手で口を抑えて力が入りやすい形で両手を掴んでいる。

 

「火拳!避けろ!」

「…は!?」

 

 拳を構えたサボがエースに殴り掛かる。

 火になるとサボが怪我をするが実体化するとエースが怪我をする。エースは実体化を選んで殴られた。

 

「チッ…覇気使いをさっさと潰せりゃいいが」

 

 寄生糸(パラサイト)。ドフィさんの十八番(おはこ)だ。

 

 エースを操ってくれれば糸ごと燃やすのにめんどくさいチョイスだな…。

 

「くそ…」

 

 体が勝手に動く不快さにサボが眉を寄せる。

 パラサイトって結構やられると気持ち悪い感じがするよね、わかる、わかる。私の体、動けないから困る。

 

 海水鉄砲をアイテムボックスから取り出して中の水だけ動かそうとする。

 ふよふよと不安定な状態で空中をさ迷う水の塊、それに気付いたサボがエースに指示を飛ばした。

 

「火拳、俺をあの塊にぶん投げろ」

「っ、分かった……よっ!」

 

 殴る腕が伸ばされた瞬間を狙ってエースが身を翻す。そして襟首を掴んで思いっきりぶん投げた。

 集中、大事。水はそのままの位置で固定…痛い。

 

 痛みに耐えながら集中するとぶん投げられたサボが水を被って体に自由が戻った。そしてサボはそのまま直線上にいるMr.4を殴る。ストライク!バッターアウト!チェンジ!

 

 まぁデットボールだけど。

 

「ほん……と……能力卑怯…」

「「「「お前の能力が一番卑怯だろ!」」」」

 

 私をよく知る方々に怒られた。解せぬ。

 

 隣の芝生は青い、ならばいっそ燃えちまえ。ずっと疑問だったけど特別な転生を行った場合無双チートが定石じゃないの…?

 

「ビビッ!そのまま振り切ってこっちに来い!国王軍にいるスパイを取り押さえる!」

「っうん!」

 

 戦闘に巻き込まれないように少し距離を置いていたビビ様がMr.2の拘束を解いてリーダーの元へ駆け寄る。そのまま掴まりラクダの後ろに乗って宮殿の方に向かった。

 

「お前ら反乱軍を追え!絶対に逃がすな!」

 

 クロさんの指示で幹部全員が動く。

 ラクダの速度とそう変わらない速さで走るって何それバケモノかよ。

 

「サボ君!大丈夫!?」

 

「…え」

 

 ラクダに乗っていた内の1人はコアラさんだった。高い声が聞こえるとサボは声を上げた。

 

「Mr.1は斬撃を使う!生身で戦うな!姫さんを頼んだ!」

「任せて!」

 

 能力の特定がくそ早いな革命軍。

 

「「「イル君じゃーなーーー!!」」」

「そこにいる海兵は残らず殺せ!絶対だ!」

 

 聞き覚えのある声がいくつか揃って聞こえる。クロさんが怒り狂って指示を出すけど明らか動揺してるよな。

 

「ぐ…ははっ、……気付いて……ひっ、いたたたた…傷が痛む……フハハっ、最高」

 

 クロさんを動揺させた事は流石だが笑いを堪えられなくて倒れたまま痛みに悶えることになった。

 




戦闘シーンを一人称視点で書くんじゃなかったと思っています。


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第119話 BWと連合軍その1

「ここからどう動きましょうかねィ」

 

 ビビをわざと取り逃がしたMr.2は反乱軍を追うと見せかけて国王奪還のチャンスを待っていた。アルバーナの絶壁など恐るるに足りない、倒れている心友のためにも。

 幸いな事に彼女には素敵なナイトが3人も付いている。ならば影から助けるのが自分の役目だろう、と。

 

 南のゲート付近の崖に縛り付けられたコブラをどうやって取り戻そうか考えていたその時。

 

 

 

──ズダダンッ!

 

 二つの塊が空から降ってきた。

 

「な、っ──って、麦ちゃんの所の剣士ちゃん」

「お?あ、オカマ野郎」

「あ〜、こいつがか」

 

 急いでオカマ拳法の構えを解いた。セブラ柄のマントを来た緑髪の剣士ゾロと暑い中スーツをぴっちり来ている黄色い髪のコックサンジが砂漠を眺める。

 

「あれが例の七武海2人か……」

「リィンが倒れてるな、大丈夫かアレ」

「生きてはいるわよう…。それより王女さんが残りの幹部に追われて街中逃げ回ってるわよう、宮殿に届けないとねい」

「あんたは」

「あちしは国王奪還のチャンスを狙わせてもらうわ、あちし頑張る」

 

 味方と言いきれないが障害にはならない。意気込むMr.2にここは一旦任せて麦わらの一味2人はBWの残りの幹部を討伐しに駆け足になった。

 

 

 ==========

 

 

 

 

 ──北ブロックメディ議事堂表通り──

 

「絶対に0だけは逃がせ!」

「逃がすか…!」

 

 王女ビビとスパイを見抜く事が出来るグレンは最優先で王宮へと逃がされる。アルバーナに残る住民を巻き込まぬ様にしながら追手をバラけさせる為に、一足早く到着していた海軍、月組の約半数が数人の固まりになって囮をしていた。

 

「なぁ」

 

 Mr.1ペアに追われていたグループの中には運悪く、グレン(会員No.0)、そしてコアラが居たのだ。

 そこに現れたのは迷いに迷ったゾロだった。

 

「お前ら、BWだろ?」

「ゾロ君!」

「状況は良くわかんねぇが……倒せばいいんだな」

 

 そう言って刀を咥える。

 その様子を見た海兵たちはすぐさま次の行動に移った。

 

「よっしゃ生贄きたぁぁ!」

「任せた海賊の剣士さん!」

「おッらぁぁ!逃げるぜぇええ!」

 

 すなわち逃亡。

 

 潔くゾロを犠牲にしたのだ。

 

「あいつら本当に海兵か…?」

 

 良くも悪くも長年リィンの傍に居た海兵は一風変わった思考をしているようだった。

 

 Mr.1はその様子を見ても標的を変えないのは流石と言うべきか。彼らの真ん中で守られる様していた海兵に飛びかかる。

 

「ぐあっ…!」

 

 あまり状況の読めてないゾロにはどう動くのが正解か分からず止めることが出来ずに構えていた。

 

「お前が海軍のキーか…」

 

 ヒィッという悲鳴と共に仲間を見捨てる様に走り去る海兵に思わず眉を顰める。

 見捨てられた海兵は傷付いた手で懐から小型の銃を取り出しゼロ距離で放った。

 

「………効かんな」

 

 Mr.1の体は刃物。言わば鉄。

 弾丸程度の物で傷つく筈がない。

 

「………へへ、残念だったなBW」

 

 大分離れた海兵を見送るように男が笑った。

 

「俺じゃねぇよ」

 

 その場に残ったコアラが魚人空手の技を放ちMr.1が倒れた海兵から吹き飛ばされた。

 

「囮にしてごめんねデクス君」

「いや、丁度グレンが逃げれたしいいや……でもごめん俺弱いから離脱」

「うん、足止めは任せて」

 

 丁重に守られてる海兵は囮。

 鍵となるグレンは敢えて前線で守るように応戦していたのだ。

 

 そのやり取りにゾロはニヤリと口角を上げた。

 

「ヘェ…やるな」

「大局を見誤るな、犠牲やむなし、がウチに居てキミの所にいるお嬢さんの言葉だからな」

 

 デクスと呼ばれた海兵はヒラヒラと弱々しく手を振って笑った。これがリィンの同期か、とどこかで納得する。

 

「見た所お前は斬れる身体を持ってるみたいだな…。参った、俺は鉄が斬れねぇからお前を倒せねぇ」

「「おい」」

 

 思わずと言った様子でデクスとコアラが声を揃える。

 

「待ってた、この機会を……俺がレベルアップする為の窮地ってモンをよ…!」

「余裕な態度で居られるのも今の内だ…」

「イイじゃねぇか」

 

 そういった瞬間驚異的な脚力でゾロが地面を蹴って二つの技を放つ。

 

「〝鬼斬り〟………ッ〝虎狩り〟!」

 

 鬼斬りの衝撃に弾き飛ばされた身体を3本の刀で更に地面に打ち付けるように斬りつけたのだ。

 フー…っと息を吐くが相手が立ち上がってる姿を見て思わず口元に笑みがうかぶ。

 

 想像以上だ……面白い!

 

「アザ一つ無し、か。ここまで手応えがあるのに立ち上がられた経験は人生初だな」

「当たり前だ」

「ウオッ!」

 

 蹴り上げた足、刀に変化したそれを間一髪で避けるがMr.1は初手で終わる筈もなくそのまま足を振り下ろした。

 反りが変わる。刀というより峰の無い剣の様だ。

 

「〝発泡雛菊斬(スパークリングデイジー)〟」

 

 スパッとゾロの後ろの建物事斬られ、刀で受けたものもその勢いに弾き飛ばされた。

 瓦礫がゾロを容赦なく押し潰す。

 

「………避難完了済みの場所で良かった、本当良かった。まじで良かった」

 

 この建物の中に市民が入っていたらゾッとするがいなくて良かったとデクスが呟いた。ミス・ダブルフィンガーと対峙してるコアラも心做しかホッとしている。

 

「………ッりゃああ!」

 

 力を込めた叫び声と共に瓦礫が浮かび上がった。否、ゾロが投げたのだ。

 到底非能力者とは思えない腕力で。

 

 その後お互い傷を付けられない激しい打ち合いが数分続く。一瞬たりとも気を抜けない打ち合いが。

 

 気力体力共にガンガン削れていくが、身体を酷使すればするだけゾロの顔に笑みが浮かぶ。

 

「くそ…〝螺旋抜斬(スパイラルホロウ)〟」

 

 腕に現れたの螺旋状の刃は激しく回転し始める。ゾロは生来の勘で一撃も受けてはいけないと判断した。

 

「鉄を斬ることが何も斬らない……くそ、意味わかんねぇ!」

 

 過去、何でも斬れる様になるには、と師に聞いたことがあった。

 『いいかい、世の中にはね()()()()()()事が出来る剣士がいるんだ。だけどその剣士は鉄だって斬れる』

 幼い自分には全く分からなかった。そして今も。

 

 けど鷹の目には理解出来るのだろうか。

 

「ちょこまかと小賢しい!」

「しまっ───」

 

 慌てて刀で受け止めた攻撃だが、思わぬ回転速度に弾かれた。その隙を狙って丁度鳩尾辺りに抉るような痛みが一気に走り、血が流れた。

 

「ぐ……あっ!」

「剣士!」

 

 デクスが思わず悲鳴を上げる。

 

「一瞬の読み間違えで、勝敗は決する」

 

 ザクッと肉を斬り裂く音。

 

「〝滅裂斬(スーパーブレイク)〟!」

 

 背は向けない。

 しかしあまりにも大量の血を流して石に押し潰されてしまった。

 

「……………!」

 

 かの様に思えたがゾロは立っていた。

 

「(分かったんだ、どこにどう落ちるか)」

 

 死の境地に立たされたゾロは普段より何倍もの集中力を生み出し、そしてある力を開花させた。

 

「(呼吸──まさにそれだな)」

 

 見聞色の覇気。

 

 呼吸を読む事で物の持つ音を聞き、必要最低限の動きで傷をカバーした。

 

 見聞色の覇気は、本来相手の動きを読む言わば『守りに向く覇気』だ。

 攻撃的な武装色の覇気とは違う。

 

 しかし()()が使えば『攻撃に向く覇気』に変化する。声が緩むその微かなタイミングで……斬りつければいいだけだ。

 

「一刀流『居合』〝獅子歌歌〟」

 

──ズバァンッ

 

「礼を言う」

 

 まだまだ強くなれる事に。

 

「あーやべ、血を流しすぎた。後は任せた海兵」

「待て待て剣士あと少し歩けねぇか。俺凄い弱いの。弱いからこそ1発でやられちゃった雑魚なの。お前を運べると思うなよこの筋肉質」

 

 己を弱いと堂々と宣言する海兵の声を聞きながら意識を失った。

 

 

 ──勝者ゾロ──

 

 

 

 ==========

 

 

 

 ──南ブロック ポルカ通り──

 

 

「これは……やべぇな」

 

 口に咥えたタバコの煙を纏いながらサンジは打つ手の無い戦闘に汗をかいていた。

 

「無駄だガネ。この蝋の強度は鉄と同じ、貴様の蹴りなどではビクともしないガネ」

 

 Mr.3と対峙していたのだ。

 

 攻撃力の足りないMr.3と攻撃手段の無いサンジでは致命的な攻撃も出来ぬまま刻々と時が進んでいく。

 

「(捕まったら1発でアウト。攻撃も出来ない強度の蝋。鉄と違って蝋は溶けるが……炎とか言う都合のいいもんはライター程度。これは、大分詰んだな)」

 

 捕まえる手段のあるMr.3とそれを解く術が無いサンジではどちらが有利で不利かハッキリとしていた。

 それでも長時間決定的な隙を見せてないのはサンジの実力故だろう。

 

「よう、随分お困りのように見えるよい」

 

 ここ2日で聞きなれた声がサンジの耳に入った。

 

「マ、マルコ!」

「白ひげの一番隊隊長ガネ!?」

「特に役に立たない助っ人登場だよい」

「いや、助かった!他のみんなは」

「運び終えたよい」

「早いな…いや、思ってたより時間が経ってたのか」

 

 サンジはマルコの能力を思い出したのだ。

 

「こいつは蝋人間、炎か覇気が無いと決定的な攻撃を加えられない」

「あー…」

 

 マルコは納得した表情になるが斜めを向いていた。

 

「どうした」

「上げて落とす様だが、いいか?」

 

 そして決定的な言葉を口にした。

 

「俺の炎に熱は無い」

「なんてこったい!」

 

 思わずサンジは膝をついて頭を抱えた。

 

 頭からすっぽり抜けていたが鳥型で運んでくれた時確かに熱など無かった!

 

「俺がやるか?」

「……」

 

 その提案になけなしのプライドに火がつく。

 

 白ひげ海賊団の2人は元々この国と関わりも無く、たまたま居たから手伝って貰ってるだけでそこまでやる気は無いのだ。自分の船と関わりないのだから。

 薄情かも知れないが大海賊団の幹部。でしゃばる事は控えようと思っていたのだ、マルコは。エースは知らん。

 

「いや、俺がやるよ」

 

 サンジが決意を固める。

 

「この程度でよその船の力を借りてちゃ、未来の海賊王のクルーの名が廃る」

「四皇の腹心の部下を目の前にして豪語するとは天晴れだよい。コックって生き物はプライド高いな」

 

 ここで頼ればそこまでの男だと思っていたがマルコは認識を改める。

 

「これでも戦闘部隊として育てられてきたってのに…本当に出来損ないになっちまう」

 

 ポツリと呟かれた言葉には聞こえない振りをして。

 

「何を言ってるのか知らないが私の蝋は敗れないガネ!」

「摩擦って…熱だよな?」

「はい?」

 

 そういった途端サンジはその場で左足を軸に回転し始めた。独楽のようにクルクルと。

 その足が少しづつ熱を持つ。

 

 

「〝悪魔風脚(ディアブルジャンブ)〟」

 

 足がオレンジの炎に包まれた。

 

「な、なんだよいそれ!」

「摩擦熱」

「いや、普通それは考えないよい…」

 

 普通、それは偉大なる航路の前半に居る海賊の常識だが。

 

 マルコは内心、その柔軟性に感心していた。

 

「〝首肉(コリエ)シュート〟」

「〝キャンドル(ウォール)〟」

 

 即席で作られた壁はいとも簡単に溶けて破壊されてしまう。使える、とサンジはニヤリと笑った。

 

「み、ミス・ゴールデンウィーク!」

「なに……めんどくさい」

「手伝うガネ!?」

 

 どこからか取り出したお茶セットで一服するパートナーに思わずツッコミを入れる。

 

「…アンタ、俺の所来るか?」

「喜んでお断りさせてもらうさ、俺が下につくのは麦わら帽子被ったくそ船長なんでね」

「今コックが臨時休業入ってるんだよい、来てもらった方が助かるんだが……そうなると四番隊になるな」

「だから入らねぇって」

 

 四皇の誘いに揺るがないサンジに益々欲が出る。

 なるほど、面白い。

 

「ウチのコック程じゃないが料理の腕は確かだろう?」

「そちらのコック殿がどんな腕前か知らないが、断るに決まってるだろ?ここでホイホイ船長を変えるクルーを信用出来るのか?白ひげ海賊団(テメェら)は」

「………………なるほど」

 

 頭も回ると来た。

 麦わらの一味にこの男が居れば海軍に出し抜かれる事は早々ない、かもしれない。

 正直リィン(女狐)の実力が未知数なので比べれないが。

 

「だがまぁ。ウチのコックはそちらのお嬢さんのお気に入りだよい。良くプロポーズしてる」

「待て、俺というものがありながら…?」

「そこだけ切り取ると浮気された亭主みたいだからやめとけよい。後、リィンがウチに来たのはもう何年も前の話だ」

「俺が間男か!」

「一筋縄どころじゃないな麦わらの一味!」

 

 キャラの濃さに関しては四皇をも超える。

 噎せるほど濃い。

 

「冗談はまぁさておき…」

「後でそのコックの話詳しく聞かせろ」

「──さておき!!」

 

 コックとしてのプライドが許せないのかやけに食い気味なサンジの言葉に被せるように叫ぶと視線の先にいるMr.3が何やら準備を終えた様だった。

 

「お前らバカなのカネ!?」

「おー……ド派手になったな」

「バカだったガネ!」

 

 巨大ロボの様に全身を蝋でコーティングして塗装が施されている。随分とわかりやすいレベルアップだ。

 

「溶ける…か、溶けないか」

「溶けるに1票」

「溶ける1票オーダー入りました…〝粗砕(コンカッセ)〟!死ねコラァ!!」

「ぎゃあ!!と、溶けるガネ!」

 

「なんつーか……ガスバーナー?」

「蝋燭の火なんて可愛らしいモンじゃねぇのは確かだろい」

 

 予想以上の溶け具合──余程熱と相性が悪いらしい──に驚きつつ棒立ちでその様を見守る海賊2人。

 

「考えてみるもんだな」

「何するガネ!私の最高傑作を!」

「うるせぇ!」

「へぶっ!」

 

「最高傑作が出来損ないに負けるんじゃあ呆れた話だな」

 

 サンジはそのまま顔面にかかと落としを綺麗に入れるとMr.3はそのまま沈んでしまった。

 

「もう1人、残ってるよい」

「おれは死んでも女は蹴らん!」

「あ、そう……」

 

 標的が移ったと思ったゴールデンウィークは脱兎の如くその場から駆け出す。

 

「一応捕まえといた方がいいのか…?」

「どうでも良いけど俺来た意味無かったよい…」

 

 ──勝者サンジ&マルコ(付属)──




ふぇぇん、戦闘描写が難しいよぉ〜、恋音ゎ、戦ぃなんてぇ見たくなぃのに…もぅ、ぷんぷんだょ!

どうも戦闘描写に嫌気が指してる作者デース。もう少しで新学期ですかね、もう入ってる方いらっしゃるのでしょうか。
雪国で考えなかったサンジが考えるサンジに変わりましたー。これで元々原作である知的(仮)なサンジきゅんに戻りましたかね。リィンさんが便利なのは確かだけど人をダメにする人間だった…!


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第120話 BWと連合軍その2

 

 ──北ブロックメディ議事堂裏通り──

 

 

「相性悪いなぁ」

「ごめんなさいねお嬢さん」

 

 コアラがミス・ダブルフィンガーと対峙していた。

 

「うわっと、と」

 

 トゲトゲの実の能力に、素手の魚人空手は相性が悪い。弱い武装色しか使えないコアラには思ったように踏み込めないでいたのだ。

 

 とはいえども見聞色も多少は使える。攻撃は未だに当たって無い。

 

「(あたしよりゾロ君の方が心配だけどなぁ…)」

 

 自称雑魚のリィンの事に関しては心配してない。例え倒れていようとも。

 彼女なら『結果を出す(意訳)』をしてくれるだろうから。その持ち前の頭を使って。

 色々あった結果、縄張り意識の高い自分達革命軍と繋がれたのだから大丈夫だろう。

 

「サボ君の『人を貶める事に何の躊躇いも無い化け狐』って悪口が最近良くわかってきた気がするよ」

「何のお話?」

「んー…私達の参謀達、かな」

 

 ここまでくる下準備、そしてまだ何か企んでいる。

 偵察任務が得意なコアラにとって参謀型のサボやリィンの考えは読めないが思考は読める。

 『完膚無きまで叩き潰す』『生かさず殺さず地獄行き』『己の不利になる情報は例え味方だろうと渡さない』『他者をとことん利用する』

 恐らくこんな所だろう。

 

 似てない似てないと言うがどっから見ても似通っている。思考もだが見た目も多少。

 

「それは随分恐ろしい狐を飼ってるのね」

「飼い主の狐だけどね」

 

 思わず遠い目をするコアラにダブルフィンガーは首を捻った。それと同時に腕を棘だらけにする事も。

 

「その飼い主にMr.5達は懐いちゃったってわけ?」

「さぁ、どうだろう。詳細知らないからなんとも言えないなぁ…」

 

 ダブルフィンガーが棘でコアラを突き刺そうとするが余裕を持って避けきった。

 

「お、誰か来た。多分──」

「見つけた!コアラ!リィンとビビがどうなってるか知って…きゃぁあ!BW!?」

「ナミちゃんだ」

 

 コアラは予想通りの人物が来たことに笑顔になる。ナミの発言自体はスルーして。

 ナミは修羅場に突入してしまった事に青くなった。

 

「ヤッホーナミちゃん。ナミちゃんって武器持ってたよね?攻撃は任せた」

「え!私が!?無理無理無理!絶対む──」

「この戦い、愛しのリィンちゃんが全力を尽くして解決しようとしてるんだけど」

「──〝熱気泡(ヒートボール)〟〝冷気泡(クールボール)〟」

 

 単純の一言。その変わりように敵であるダブルフィンガーでさえ心配しだした。

 

「この子、頭大丈夫?」

「その…残念、な子って言ったらいいのかな…?頭は悪くないんだよ?決して、多分、恐らく」

 

 後半になるにつれ不安要素が勝っていくがとりあえずカバーをしておく。

 

「それにしてもお嬢さんの武器なぁに」

「この島に着く前に作ってもらってたの。試作品って言ってたけどかなり使えるわ。これでアンタを倒してリィンに褒めてもらうの!」

「欲望に忠実なのね」

「人間は欲深い生き物でしょ?〝電気泡(サンダーボール)〟」

 

 バリッ、と嫌な音がしてダブルフィンガーが振り返るとそこには雷雲が生まれていた。細かな静電気が発生している。

 

「〝サンダーボルト=テンポ〟!」

「あぁあぁあぁああぁあぁああぁ!」

「容赦ないなぁ……」

「リィンとビビを哀しませる原因に情け容赦は無用よ!」

 

──ザッ

 

 ダブルフィンガーは雷を受けてもなお踏ん張って立ち上がっていた。

 

「負けてあげられないのよ…!」

「ナミちゃんっ!──っあ!」

 

 コアラが狙われたナミを突き飛ばす。

 ナミは無事だったが丁度コアラの肩、そして横腹にダブルフィンガーの棘が突き刺さってしまった。服に血を滲ませながら、コアラは棘を掴み踏ん張る。

 

「ナミちゃん…!」

「海で怖いものをご存知かしら」

 

 痛みを耐えて、もう一人の名を呼ぶ。ナミはT字型に武器を組み替えてダブルフィンガーを狙っていた。

 コアラの手によって引くことも押すことも出来なくなったダブルフィンガーはナミの構えた天候棒(クリマ・タクト)を見るしか出来ない。

 

「トルネードにご注意ください」

「ッ、近付くとこのお嬢さんが串刺しになるわよ」

「〝トルネード=テンポ〟」

「っ!」

 

 ナミの技の発動と同時にコアラが痛みを無視して棘を抜く。ダブルフィンガーは体に自由が戻った事に気付くがすぐさまナミの技の鳩が体に絡み付いて再び自由を失ったのだ。

 ぐるぐると鳩が2匹、回転し絡みつく。

 

「な、なに……」

「うわぁあっ!」

 

 砲弾の様な空気圧が爆風と共に遠くへ吹き飛ばされた。

 支えきれずにナミも尻餅をつくがどうやら無事の様だった。

 

「お疲れナミちゃん」

「……鳩が出た時正直これ終わったって思ったわ」

「何その武器」

「ウソップが作ったの」

「……彼は発明家?」

「一応狙撃手、のはず」

 

 何だかんだと怪我をしてるコアラの傷の止血をしながら武器を作った長っ鼻の事を話す。

 最後の一手以外1通り試して居たがここまで威力が高いとは思ってもみなかった様だ。

 

「これからどうしよう」

「宮殿に行こう、王女様とグレン君はそっちに向かってる。海兵君達の合流場所はそこだから」

「グレン?」

「スパイを見つけ出すのに役立つ海兵君だよ」

 

 コアラは痛みに眉を顰めながら立ち上がった。

 

 

 ──勝者 ナミ&コアラ──

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 ──西ゲート前──

 

 

「ふむ、これはなんとも厄介」

「言ってる場合か!」

「また来るぞ!」

 

 Mr.4ペアを相手にウソップとチョッパー、そしてハックが戦っていた。

 

「走れ!」

 

 ──否、逃げ回っていた。

 

「四番バッタークソめんどくせぇ!」

「スピンは卑怯…──うがっ!」

「ウソップ!」

 

 打たれる時限式爆弾を逃げて逃げて、当たって狙われて逃げて。時々ハックやチョッパーが投げ返そうとするが人間以上の腕力を持つ彼らでもどうする事も出来なかった。

 

 BWと連合軍の相性が悪すぎ、予想以上の時間と体力が奪われていく。

 

「埒が明かないな」

「あのペンギンの穴がめんどくさい…」

「モグラだってんだ!このバッ!バッ!」

 

 

 ミス・メリークリスマスがひょっこり地面から顔を出して文句を垂れるその瞬間、ウソップが傷の痛みを無視してパチンコをひいた。

 

「火薬星!」

「ノロマだね!」

 

 しかしすぐに潜り避けてしまう。

 

「〝唐草瓦正拳〟!」

 

 ハックの放つ空気を殴るような衝撃波がBWの2人を襲った。

 多少のタイムラグの後、動きが思わず止まってしまう。

 

「〝ランブル〟」

 

 その隙に、とチョッパーが黄色い飴玉の様な玉をガリッと噛み飲み込んだ。

 

「〝腕力強化(アームポイント)〟!」

「なん、だそれ!」

 

 雪国で未披露だったチョッパーの劇薬。ランブルボール。

 ウソップは初めて見る盛り上がった腕の筋肉に思わず驚愕の言葉を漏らした。

 

「〝刻蹄(こくてい) (ロゼオ)〟」

 

 蹄が桜の様な跡を残し、Mr.4の皮膚を抉る。

 一番厄介なMr.4をこれで封じ込めることが出来た。

 

「す、すっげー…」

「ほ、褒められても嬉しくなんかねーぞコノヤローっっ!」

 

 キラキラと目を輝かせて見るウソップにチョッパーは照れくさそうに笑う。

 ハックはその光景にこっそり癒されながら構えをとった。

 

「後は…一人」

「っ!」

 

 危機感を覚え、ミス・メリークリスマスは地面に潜る。

 

「くそっ」

 

「ふははは!私がこの程度で負けるすると思うなぞー!」

「……ウソップ何してるんだ?」

 

 唐突にウソップがおかしな言葉で独り言を言い出した。チョッパーが訝しげに視線を向けると素に戻ったウソップは言う。

 

「いや、この状況で我が一味の残念美少女がどんな手を使うか想像してて……」

 

 どこかで『誰が残念ぞ!』と叫んでる様な気がするが気のせいったら気のせいだろう。そこであっと声が上がった。

 

「あいつなら追い討ちかけるよな。敵に同情は全く要らないって。そうなるとー……もぐら穴になにか劇物でも放り投げるか?」

 

 

 逃げろ、ミス・メリークリスマス逃げろ。

 

「そう言えばリィンに頼まれて一緒に作ってた薬あったな」

「おお!ナイスだチョッパー!」

「救世、……リィン殿は一体何を頼んだのだ?」

「玉ねぎの成分を嫡出したヤツ。リィンが調合の配分失敗してすっごいキツイけど」

「一体何に使うつもりだったんだか……」

 

 思わず遠い目をしたウソップ。

 チョッパーはいそいそとバックからペットボトルサイズの液体を取り出してウソップに渡した。

 

 ウソップは見るからに嫌そうな顔をして受け取る。そして自前の粉末スプレーにそれをセットした。

 

 

「ハック!どこにいるか分かるか?」

「ふむ……近付いてるな。相手は恐らくこちらを狙っているだろう」

「なら少し待つか」

 ウソップは近くの穴の側で待機する。

 

「今だ!」

「〝タマネギメテオ〟!」

 

 ハックのその掛け声と共にウソップは思いっきりスプレーを穴に向かって放射した。

 

「ぎ、ぎゃぁぁあああ!目が、目がぁあ!」

「「うぐ!染みる!」」

 

 割と近くで浴びたミス・メリークリスマスも、布で防いでいたが放射したウソップも、人より鼻が良いチョッパーも。それぞれが思ったよりも濃い成分に痛みを訴える。

 

「うええっ、やっぱり失敗だ!」

「まじでアイツはこれを何に使おうとしてたんだよ!チョッパー!これ絶対封印な!」

「お、おうっ!」

 

 微量だが目に染みたせいで涙を流した。

 恐怖などでは無い。絶対に違うと言い切りたい。

 

「か、海賊……恐ろしい奴らだ!このバッ!」

「馬鹿!こんなの俺達が普通に考えるか!世界の非常識代表を舐めるなよ!」

「あんたの所の船長か!」

「アレは人類の例外だァ!」

 

 痛みに悶えるミス・メリークリスマスをハックが狙う。

 

「〝五百枚瓦正拳〟」

 

 ろくに目を開けれなかったミス・メリークリスマスは真正面からその攻撃を受けてしまい悲鳴と共に吹き飛んだ。

 

「これは…きついな」

 

 ハックは穴の周辺に漂うタマネギエキスを微かに嗅ぎとってしまい、ポツリと呟いた。

 

 この世は無常なり。

 

 

 ──勝者 ウソップ&チョッパー&ハック──



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第121話 痛いの痛いの嫌いな奴に!

 

「むり…痛い……」

「そこは頑張れよ!」

「むり、むり。絶対骨いくしてる……いたい…」

「頑張れリー」

「かえる…おうちかえる……」

「古巣に帰った瞬間テメェは革命軍の敵とするからな、逃げんなよ、ある意味元凶」

「鬼ぞ存在する…。鬼、鬼畜が……」

 

 私の兄は鬼畜でした。

 

「あー…やった本人が言うのもなんだがリィンを無茶させるなよ。お前ら」

「まことにクロさんに言うされたく無きぞ…」

「口調ボロボロだとおつるさんに怒られるぜ〜?」

「宜しい、アホ鳥、殺す」

 

 心配してくれるのが敵のクロさんだけってあまりにも酷いと思うんだ。ドフィさんは反省しろ。

 

「頼むよリー。どびゅーんってやってくれ」

 

 クロさんを殴りたいけど殴れないルフィが何とかして欲しいと私に無茶を言ってくる。

 そう、これ、これを無茶だというんだ。

 

 痛みがあると集中出来ないから不思議色なんて使えないし。気絶しそう。

 なんだかんだと大怪我した事の無い私、実は痛み耐性がクッッソ弱いです。

 

「痛み止めくれです」

「そんな便利なもんあれば使ってる」

「ですよね!!!」

 

 ドフィさんと殴り合いしてるサボの冷たい声が聞こえる。いてて…叫んだら傷が痛む。

 

 起き上がって服をベロンとまくり上げればお腹は内出血でどす黒く変色していた。

 ………………見るんじゃなかった。

 

「枯れろ」

「あ…っ、あ…!」

 

 クロさんに捕まってしまったルフィが枯れる。段々ミイラになっていく。

 

「「「ルフィ!」」」

 

 慌てて空気中の水分から水を集めるイメージをして、ルフィにかけた。

 どんな体の構造をしてるのか分からないけどちゃんと元に戻ったみたいで一安心…。

 

「くそ…テメェの能力は風じゃなかったのかよ」

「ふ、ふん……。進化すた」

「そんな事があってたまるか…!」

 

 クロさんが飛ぶようにこちらへ向かって来る。

 復活したばかりのルフィも、ドフィさんと戦ってるエースやサボも反応し切れない。

 

 殺される。

 

 一気に怖くなった。

 親しい人間から殺意を抱かれる恐怖に。

 

「待ってくれ!」

「…!」

「……歴史の本文(ポーネグリフ)の元へ、案内しよう」

 

 コブラ様の一声で全員の動きが止まる。もちろんクロさんも。

 その言葉を聞いてニヤリと口角を上げた。

 

「なるほどなぁ…。娘だけじゃなくコイツも人質になるのか……、面白い事を知った」

「ぅ、あ!」

「離せ砂ワニ!」

「覇気を使えないテメェが自然系(ロギア)に敵うと思ってるのか」

 

 クロさんは私の首を掴む。思わず苦しくて嗚咽と生理的な涙が零れた。

 ルフィは阻止しようと蹴るが効かない。

 

 まぁ、ミイラになってないだけマシだよな。

 

「チッ…火拳、そっち任せ──」

「〝寄生糸(パラサイト)〟……フフフ、行かせねぇぞ、覇気使い」

 

 サボは能力者でも無いから寄生糸に捕まりやすい。体が上手く操れないみたいだ。

 

「ニコ・ロビン、先に解読してろ」

「……えぇ、分かってるわ」

「待て!」

 

「ああ!そうだ、俺とした事が忘れていた!」

 

 ギリッと私を掴む手に力を込めながら態とらしい演技をして、衝撃的な言葉を口にした。

 

「反乱がアルバーナで始まった時用に……広場に爆弾を仕掛けていたなぁ」

「…なん、だと……!」

「今アルバーナは、反乱が有らずとも。避難所に逃げた国民や家で震えている国民が居たなぁ?」

「この…外道…!」

「は、な…す……!グッ、ゲホッ」

 

 絞められた喉で必死に訴える。

 いい人でも所詮は海賊か。

 

「さぁ、案内してもらうわ」

「グッ…!」

 

 ニコ・ロビンがコブラ様を立たせ案内させる。

 私はアイテムボックスからこっそり海水鉄砲を取り出した。爆弾もあるけどこっちが先!

 

「リィン、テメェは人質だ。良かったな、殺されな──」

 

──ブシュウッ!

 

 力の入らない腕でなんとか引き金を引く。するとクロさんの顔からほぼ全身に海水がかかった。

 

「ル、フィ…!」

「〝バズーカ!〟」

 

 か細い声だが呼べば応えてくれる。

 ゴムの反動でクロさんが吹き飛ばされた。

 

「ゲホッ、ゲホッ」

「リー、平気か?」

「無理、私逃げる。遠くへ」

「諦めろ下さい」

「んぬぅ」

 

「く、そ……!」

「情ねぇな鰐ちゃん」

「黙ってろ鳥野郎!」

 

 口から零れた血を拭き取りながらクロさんは立ち上がった。コブラ様やニコ・ロビンはもう去ったみたい。

 

 するとベキっとした音と共にサボの低い声が聞こえた。

 

「安心しろよドフラミンゴ…。お前らとの決着は今度ちゃんとつけてやるから…な!」

「お前、何して…!」

「覇気使えない奴はそこの糸相手してろ」

「……こいつ頭狂ってんのかよ」

 

 サボのダランとした腕に目が行く。

 ドフィさんでさえ驚愕の表情を隠せないでいる。

 

「骨ごと寄生糸(パラサイト)を折るか…?」

 

 あ…それ痛い。

 

 どうやらサボは少しだけ自由になった腕の力で、無理やり、見聞色の覇気を使って、骨ごと、折った、らしいです。あの厄介な能力にそんな力技の対処法があるとは…。

 リィン、とっても怖い。

 

「避けてろルフィ」

「う、うん!」

「〝竜の──っ鉤爪〟」

 

 クロさんに早くダメージを与えようとサボがふらつきながらも覇気で一撃加える。

 

「ぐっ…あ!」

「もう、そろそろ………倒れろよ…!」

 

 サボがやばい。

 

 私は痛む体を引きずりながらサボの元へ行き、無理やり引っ張る。

 

「チェンジ」

「は?」

「血、流す過多」

 

 覇気使いだが能力者じゃないサボには怪我の頻度がやっぱり多くなる。最初Mr.1にも斬撃らしきものを喰らってたみたいだし。

 あとさ、おたく知ってる?一昨日熱中症にかかってからろくな休憩取れてないの知ってる?

 

「バカ、怪我してる雑魚は下がってろ」

「お互い様ぞ、バカ」

 

 息を大きくはいて痛みをごまかす。

 

 思い込み、思い込み。私は強い、強い。

 

 私は何のために海に出た。

 元は兄をフォローする為に出たんでしょうが!

 なら今がその時!いくら、長年、仲良くしようとも、私が倒す!

 

「私は所詮自分本意ぞ、だからお願い」

 

 下がってろ。

 

 私が絶対に守り抜きたいくらい大事だと思う物は極一部しかない。そこに麦わらの一味は残念ながら存在しない。

 でも、そこにはサボだってエースだってルフィだって入ってるんだ。盃を交わした時から初めての家族になったんだから。

 

 それを守るためなら私は頭を回す。力を出し切っても。

 それに関して心を痛めたり申し訳なく思わないで欲しいし時間がもったいない。

 

 …全部、私の為なんだからさ。

 

「水分…水分集まるして……」

 

 思い出すのは初めての殺し合い。

 首と胴体がちょん切れるって言う海兵殺しの犯人との殺し合い。濃い茶髪が思い出される。それと同時にあの時の刀であった鬼徹を睨む赤い血のような目も。

 

「〝水素爆弾(ハイドロボム)〟」

 

 水が爆発する、体が数メートル吹き飛ばされるのは経験済みだ!

 

「能力者に水は、効くだろぉー。推定?」

 

 この程度で死ぬことは無い、私だって生きてた。

 クロさんはふらつく足取りで起き上がった。

 

「……悪魔の片腕。懐かしいなぁリィン、お前が殺したんだったか」

「な、に…?」

 

 私の後ろで頭痛がするのかサボが頭を押さえながら声を漏らす。そうだよなー、確か海難事故だっけ。

 

「ッ、砂埃ぞ、とてもうざい!」

 

 クロさんが砂に紛れた。姿が見えなくなる。

 

「そう言えばこの国で会った事も会ったな」

「しまっ」

「〝砂嵐(サーブルス)〟」

「うぎゃう!」

 

 後ろに回ったクロさんに弾き飛ばされる。

 

「世界会議だったか?懐かしい、本当にな」

「ゲホッ」

 

 初めてビビ様と世界会議に行った時の帰りか。クロさんとスモさんの自然系が改めてチートだと思った日だった。

 その後ジェルマに行く予定だったから死ぬかもしれない事にヒヤヒヤしてたけど。

 

「〝水素爆弾(ハイドロボム)〟!〝水素爆弾(ハイドロボム)〟!」

「う、っぐ!」

 

 クロさんは攻撃を受けて血を吐いた。

 

「懐かしき、思い出ぞ。夏祭りも、お誕生日会も、なんだかんだと楽しむした」

「ク、ハハ……〝毒針〟──懐かしいな」

 

 笑いながら遠慮なく毒針を突きつけて来る。

 肩に、足に、腕に。体の内部に効く毒自体は効かないけれど、皮膚とかは流石に普通。溶けるような痛みが襲う。

 

「毒は、不味い故に嫌いですがね!」

「効かねぇのを忘れていた…、人体実験されてたんだったか?クハハハハ!やはりこの世など糞ばかりだ!」

 

 クロさんは笑う。

 なんか壊れた人形みたい…どうしよう熱中症?

 クロさん壊れた?休む?

 

「お前今すっげえイラッとする事考えただろ」

 

 エスパー???

 

「〝掌〟」

「うぎゃぁああ!」

 

 ミイラにされかけて慌てて避ける。

 ごめんって…。心の中でからかってごめんってイル君。キミが負けた暁にはイル君と女装の写真を報酬として白ひげ海賊団に渡すから許して?

 

 現実逃避じみた事を考えてる時。

 チリチリと焼けるような熱が吹いた。

 

「〝火拳〟!」

「はいい!?」

 

 アイエエエ!?エース!?なんでエース!?

 ドフィさんとバチバチやってたんじゃないの!?

 

「このッ、鳥野郎!テメェ飽きやがったな!?」

「いや…ほら……二日酔いだろ?」

「テメェだけだクソが!」

 

 思わぬ展開に力が抜ける。

 なんだよ……仲良しかよ……。

 

「俺は七武海の認識を改めた」

「俺も」

「なんかごめんぞ」

 

 エースが呟きサボが同意する。

 こうなってしまったの私のせいらしいです。

 

 よく考えたら連絡取り合い始めたのって私の観察日記(意訳)らしいからね!ちくしょう!こんな関係性を生むくらいの逆ハーレムならせめて敵対関係として取り合えよ!お互い潰れろよ!そこを狙うからさ!!なんで仲良くしちゃうかなこのバ海賊共は!

 

「……リー!」

「っわ、ビックリすた…いててて……」

「ちょっと…俺を斬ってくれねーか?」

「はい?」

 

 ルフィの提案に首を傾げる。

 斬る?斬るってザシュッとやるやつ?

 

 自殺願望…では無さそうだな。

 

「ナイフでも宜しい?」

「ちょっとそれ借りる」

 

 果物ナイフくらいの大きさのナイフを渡す。

 手入れとか難しいから切れ味鈍いけど。

 

──ブシュッ

 

 私からナイフを受け取るとルフィは躊躇なく手の甲に刃を当て切り裂いた。

 

「け、血管ンンンーー!」

「平気だって」

 

 両手をご丁寧に傷付けてルフィはドフィさんと口喧嘩してるクロさんに向かっていった。

 

 え………嘘だと言ってよ兄ちゃん。

 

「ワニーーーっっ!〝ゴムゴムのっ銃乱打(ガトリング)〟!」

「ぐ、っああ!」

 

 ルフィが、ルフィが水なしでクロさんを殴った!

 ルフィがやった!!!

 

 武装色を使ってもないのにどうし───

 

「血ぃいいい!?ゲホッ、いたい、傷とてもいたい…」

「無理するなツッコミ気質の社畜娘」

「頭痛い人は眠るして〜???無駄に喧嘩を売るする暇あるなれば寝るして???死に損ない黙るして???」

 

 2回も3回も死にかけて心配させてさぁぁあ!あぁもう生きてくれてありがとう!!??

 

 

 

 これ本格的に意識がやばいと思い始めた午後3時頃。

 そう言えば糖分取ってないなと思いました。




リィンの初めての技名が他人のパクリ。

忘れてませんか…リィンが入ったばかりの頃の七武海の一人 悪魔の片腕グラッジですよ(小声)


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第122話 男の意地と地位の維持

 

 

 引くわ。

 

 そんな言葉が頭を占める。

 いや、マジで、これはない。

 

「ぜー…ぜー……」

「ハァ…ッ、ウラァ!」

 

 ルフィ倒れる事約10回目。クロさん倒れる事20回以上。……まだ立ち上がってんのよ、こいつら。

 

「結構本気で引くぞ、戦闘狂共」

「頼むからそれをクロコダイルはいいがルフィの方に聞かせてくれるなよ」

 

 サボが胡座をかいて戦闘風景を見ながら呟いた。

 

「しつこいぞ砂ワニ!」

「だま……っ、れ!」

 

 体力もギリギリなのに頑張る2人に拍手。

 私には無理だわ。

 

 ドフィさんは適度な運動で眠くなったのか砂の上で横になりながら二人の戦闘を観戦している。

 時々『そこだアッパー!』『足かけろ足!』って野次を飛ばしているけど。

 

 動けよ、せめて動いてやろうよ。

 

 友達だろ!?

 

「無い、まじで無いな」

「……?何がだ?」

「ん、いや、別に。でもとりあえずさっきまで殺し合いしてたドフラミンゴがエースの隣で寛いでる余裕はとりあえず腹立つなって思って」

「あ、それはわかる」

 

 サボが頭を抱えて唸るとエースが反応する。

 危機感どこいったとか呟いてるけどドフィさんは聞こえないフリしてるっぽい。

 

 知ってるか?こいつらも胡座かいてるんだぜ?

 

「私1人だけ立つするの何故か理不尽!」

「「なら座れよ」」

「緊張感とは!!」

 

 あ…いたい……叫んだら痛い……。

 

 大分痛みが慣れたし動けるようになったけど1ミリも治ってないからな。アドレナリンガンガン出てるだけで普通重傷だからな。むしろ重体だわ。

 お誕生日プレゼントに常識を下さい。

 

 海軍の育成期間を作って常識取得科とか社会見学科とか作ればいいと思うんだ。

 私入り浸るから。

 

「リィンさんやい」

「なんだいサボさんやい」

「お前がいると多分話が進まないから王様追え」

「……我、怪我人ぞ?」

 

 私を呼ぶ時一瞬口をぱくぱくさせて悩んだの様なので多分呼び方をどうするか考えたかと思うんだ。

 女狐呼びしなかったのは褒めよう。

 未だにドンパチしてるは知らないんだけど。

 

「爆弾の事もある。さっさと行け」

「あい…」

「ちなみに時限爆弾のタイムリミットは4時半な」

「何故知ってるドフィさん」

 

 BW側なんだったら最後まで付き合ってやれよ!飽きっぽいなてめぇは!よく分かった、お前今度から二つ名は『天夜叉』とかカッコイイ奴じゃなくて『春夏冬(あきない)』な。願掛けでもしてやがれ!

 

「どーも行ってきますぅぅ〜!」

 

 嫌味ったらしく口に出すと慣れた箒に跨った。

 

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

 リィンが去った砂漠の上では歯を食いしばりながら戦い続ける2人。

 

 途中赤い垂直の煙がアルバーナから見えても拳をぶつけ、毒で切り裂き、体力も最早無い中動き続ける。

 

「長いな…」

「よせ、言うな」

 

 傍観に移ったエースが思わず呟いた。サボが戦いを見守りながら宥めるがエースの様子に悪びれた感じは見当たらない。

 

「〝ギア3(サード)〟」

 

 ルフィが親指を噛み、空気を吐く。

 するとその右手は巨人の腕の様に膨らんだ。

 

 偉大なる航路(グランドライン)に入った時に身につけた大技だ。発動後の隙が出来るのでここぞと言う時にしか使ってはいけないと言われていた。

 今がその時だと判断したのだろう。

 

「〝ゴムゴムの巨人銃(ギガントピストル)〟!」

 

 クロコダイルも対抗して砂の刃を作り出すがついに等々、雌雄を決する事となった。

 

 倒れ込んだクロコダイルは起き上がらない。

 ルフィは小さくなった姿で膝をついて睨んでいる。

 

 

 ルフィの勝利だ。

 

 

「やった!」

「はしゃぐなよ」

 

 長男2人が声を上げるとドフィは眉を寄せた。

 

「負けたか」

 

 残念そうに、どこか嬉しそうに。

 王位に就いてどうなるか、この男が1番分かっている。クロコダイルが負けた事でその行動が止められたと喜んでしまったのだろう。表情は少々暗い。

 

 

「……くそ、くそくそくそ!」

 

 空を見上げたままクロコダイルは掠れた声を上げる。

 

「負けるわけには、いかなかった…!ルーキーに、など…!この俺が…っ!」

「どうしてテメェが……奪う!」

「くそ、くそが…っ!」

 

 ルフィの頭の中には一つの疑問が浮かんだ。『奪うのはクロコダイル。ビビの為に取り返した。なのに何故か』

 

「…海軍を抜けたと聞いた時に正直浮かれた。手の届く範囲に降りてくるかと思った。BW(いま)の事もあって勧誘に出遅れたと思って焦ったがアイツは里帰りだと言った」

 

 ルフィは気付く。これはリィンの事だ。

 

「安心したってのに……ふと手配書を見ればどうだ!どこの馬の骨とも分からない様なルーキーの元にリィンがいる!今更後にも引けない先にも進めない状況で、自暴自棄になるしかねェだろ!麦わらのルフィっ、テメェが俺から奪った!」

「ご、ごめんなさい?」

「くそ…くそっ!完敗だ……!」

 

 クロコダイルは手で顔を覆った。

 それしか出来ない自分に悔しさを覚えた。

 

 手に入れたいものを手に入れる事が出来たなら…、財宝に勝る幸福を手に入れる事が出来るのに!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………知らないって損だな」

 

 ドフラミンゴはその様子に苦い顔をして顔を背けた。

 

 可哀想、何も知らないクロちゃん可哀想。

 

「なんだ、知ってたのかドフラミンゴ」

「……まぁ、うん、そうか、お前もか」

 

 頭を抱えたサボの声に同意する。

 

 クロコダイルの気持ちは『リィン取られた!出遅れた!悔しい!ヤケになっても手に入れれなかった!超悔しい!』と言う事だが、『リィン=女狐(未だに政府に属する者)』として認識してるドフラミンゴやサボにとって確実なすれ違いに思わず同情してしまう事だった。

 『リィン=女狐』という事実は『麦わらの一味に取られたんじゃなくて麦わらの一味を利用する側』という立場へと繋がり、それをきちんと認識している。

 

 『ルフィがリィンを奪う』?……『リィンがルフィから一味を奪う』の間違いだろう。

 哀れクロコダイル、無知とはそれ即ち罪である。

 

 実際『国家反逆罪』という罪になってしまったのだが。

 

 

 そうなるとここまでクロコダイルが国家乗っ取りというぶっ飛んだ行動に出た一因がリィンになってしまう。それは『海軍を辞めた雑用リィン』にとっては何とも無いが『海軍に残る女狐リィン』にとって痛手以外の何物でも無いだろう。

 

 まるでハリネズミ、双方に被害が行く。

 クロコダイルは『大犯罪者としての汚名』

 リィンは『知った上司からのお話(物理)』

 

 

 

「クロコダイル可哀想だな。…やっぱり堕天使がこっちに居ると意地でも倒れないと思ったが、当たりだった分辛い」

「あっ、あっ、お、お前ら知ってるのか!リィンの!」

「驚いた。……火拳も知ってたのか」

 

 頭を押さえながらサボが視線を寄越す。

 エースが遅れながら察するとこの場で真実を知った者の誰かからため息が漏れた。

 

 

「小悪魔とか可愛モンじゃなくてただの悪魔だったな」

 

 サボが思わず呟く。

 金色の少女のドヤ顔が脳裏に浮かび、更に頭を痛めるハメになった。

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

「いたぁああ!そして痛い!」

 

 見つけた!

 息を切らしながら走ってる海軍の制服を着た人をやっと発見した。葬祭殿に辿り着く前に見つかって良かった!

 

「天使!」

「あ、その声リックさんですたか。優秀保護者(グレンさん)は?」

「グランドラインはすぐそこにいるぞ!」

「むしろここがグランドラインだ花畑牧場野郎……で、どうしたリィン。今急いでるんだが」

「爆弾!爆弾ぞ仕掛けるられるてるてる!でる!」

「異様に"る"が多い。とりあえずそれは知ってる、今飛行組が空から探して俺達は地上を探してる最中だ」

「え…?何故…?」

「とりあえずまだ仕事あるんだろ、お互い急いでるんだ、さっさと離れよう」

「はい!」

「………どっちが上司だか」

 

 元気よく返事したら傷が傷んだ。辛っ。

 

「グレンさんーー!爆弾の時間制限ぞ、4時半ですぞー!」

「うわ、あと15分!?他の奴らにも伝えとく!」

「ありがとです!」

 

 リックさんを引っ張りながらグレンさんが去っていった。

 反乱軍の件はどうしたとか、国王軍のスパイの件は誰がどうしてどうなったとか、どうして爆弾が仕掛けられてるって分かったのか、色々と疑問はあるけどひとまず別れて飛ぶ。

 

 サボの示した方角は北西辺り、王宮の西には王家の墓と言われる葬祭殿がある。もしも歴史的文献を残すなら人通りも少なく、先へと残していく為にこう言った歴史的建造物に残すはずだ。

 そこしか無いだろう。

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 葬祭殿へ行くと地面に隠し扉があり、そこが開いていた。

 そこを降りていくと石でできた祭殿がかなりの広さで広がっていた。ここで戦っても十分なスペースを確保出来るだろうなぁ。

 ……戦わせないけどね!

 

 あっっ、でもよく考えたらニコ・ロビンと戦闘になったらどうしよう…。私激弱よ、激弱。

 ところ構わず体の一部をにょきにょき生えさせる能力者に対して怪我をしてる雑魚退治専門の私が敵うわけ無いんだけど。にょきにょき生やして関節技…とか来られたらやばい。そんな考えに至ってない事を祈るけどやばい。

 

 ふえぇんっ、行きたくないよぉ。

 でも報告の義務と王様の前という最悪コンボがあるから行かないといけないよぉ。

 

 おかしいなぁ!『守り(自分限定)の大将』って本当に守れてないよぉ!名ばかりの地位でもここまでは要らなかったかなぁぁあ!?

 くそ、どうしてこうなった…。戦神シラヌイ・カナエ(母)か?それとも五老星か?いや、やっぱり堕天使(クソジジイ)だな。

 

 

「……残念、この国の歴史しか書いてなかったわ」

 

 階段の奥から声が聞こえた。

 

「そう、では返してもらえませぬか?」

「あら、堕天使さん。遅かったわね」

 

 ニッコリ、と効果音が付きそう。表情が全然読めない笑顔でニコ・ロビンが言う。

 

「あの場にいた4人の中で貴女が来るとは思っていたけど、1人で来る様な無謀な子だとは思わなかったわ」

「無謀結構、私はビビ様…幼馴染みのお父さんを取り戻しに来たのみです故」

 

 そう、あくまでも取り返しに来ただけ。

 コブラ様の安全保護が優先の為、賞金首とは戦いません。建前大事、超重要。

 そしてニコ・ロビンに私が政府関係者だとバレない様にする為、『国王コブラ様』ではなく『幼馴染みのお父さん』と知り合いだと言う事をアピールする。

 

 国王と知り合いって、なんでやねーんっ!ってなるからね。絶対。

 七武海の影響力が無い犯罪者に教えるわけ有りません。

 クロさん、七武海離脱ほぼ確定だから。

 

 さて、問題はここからだ。

 何とか交渉してコブラ様を保護しないと。

 

 ここに連れてくる、って言う役目は終わったから用は無いはずなんだけど盾に使われるとめんどくさい。

 何より私が相手の立場ならコブラ様を盾にして思い通りに動かすつもりだから。

 

「そう……どうぞ連れて行って」

「はえ?」

 

 思わず変な声出た。

 

 自暴自棄にニコ・ロビンが呟いて歴史の本文(ポーネグリフ)にもたれ掛かる。

 

「ここがダメならもう諦める所だったの。長い旅の中…もう疲れてしまったわ」

「お疲れ様ですた」

「…………えぇ」

 

 ペコリと頭を下げるとニコ・ロビンはクスリと笑う。

 青い顔をしたコブラ様の元に駆け寄ると小声で耳打ちされる。

 

「あの女の、真意を聞き出してほしい」

 

 …………マジっすか、王様。

 

「ふぅ…──オハラは、歴史の本文(ポーネグリフ)の研究という危険行為によって()()()()が滅ぼすた、です」

 

 表向きにどうなってるのか知らないが、一名を残して全員が行方不明になっている。

 

「古代兵器の復活を目論むしたのか分かりませぬが」

「─オハラはそんなもの望んでいない!」

「…!」

 

 ニコ・ロビンは必死そうな様子で否定した。

 

 おっと、これはどういう事だ?

 オハラは古代兵器の復活を目論んだ事が一番の危険として滅ぼされた。それは世界政府によって伝えられて。

 

 でもオハラ出身の考古学者が否定した。

 古代兵器をそんなものと言って。

 

 

 

「空白の歴史は世界政府にとって知られると拙い事…?」

 

 独り言の様に口に呟くとコブラ様とニコ・ロビンの視線がより一層強くなる。

 世界政府関係者が言うのも拙いけどね。

 

 この世界には100年だけくり抜かれた歴史が存在する。それは空白の歴史。

 それがもしも意図的に誰かの手によってくり抜かれたのなら、先人達が意図的に別の言葉にして残していたのなら。

 

 『くり抜いた誰か』は歴史で隠したかった事を引き起こしたものなら。

 そしてオハラはそれを知ってしまい『世界政府』が消したのだとしたら……。

 

「私の夢には──敵が多すぎる」

 

 ニコ・ロビンから涙と共に言葉が零れた。

 

「お前が望むものは一体何なのだ…! 空白の歴史には一体何が隠されている…!」

「…。私の目的は歴史の本文(ポーネグリフ)の中で唯一〝真の歴史を語る石〟」

「貴女がそう思うしても、歴史の本文(ポーネグリフ)を読み解く可能の貴女が居る限り。危険性は0にならぬ。世界の意識は、0にならぬ限り決して諦めぬぞ」

「知ってるわ、だから、もう疲れたの」

 

 めんどくさいなぁ。

 

 要するに、『歴史を求めたい、古代兵器には興味ない』と言う考古学者側と『歴史を隠したい、古代兵器は興味ある』世界政府側がぶつかり合ってる。そして結局唯一の生き残りを血眼で探してる。

 ということでしょう。

 

 世界政府関係者に聞かせる話じゃないことは分かった。

 これ、勘づくだけで死刑レベルじゃ……?

 

 痛い、傷もだけど胃が。

 

「ちょっと泣いていいですか…」

 

「聞くがもしや…!語られぬ歴史は〝真の歴史の本文(リオ・ポーネグリフ)〟に記録されていると…!その歴史を紡ぐことが出来るのか!」

 

 ニコ・ロビンは黙った。

 無言は肯定、とはよく言ったものだな。

 

「上がりましょう」

「……だがっ」

「コブラ様には…聞く手段ぞ存在するです」

 

 国王ならではの権力と場が。

 

「ニコ・ロビンさん、最後に一つ」

「……何」

 

 心が痛くなる情報をくれたのでお返しをしたい。

 心が痛くなるお返しをね。

 

「笑顔とは、弱い自分を隠す為の仮面です」

「……」

 

「笑えばどうです?──デレシッ、てね」

「〜っ!?」

 

 盛大な爆弾を落とせばニコ・ロビンは思わずといった様子で立ち上がった。

 

 

 

 

 知らないだろうな。私がインペルダウンによく行くことも、インペルダウンには表に出せない犯罪者が集うlevel6があることも

 

 

 ───氷漬けになった軍の裏切り者が居ることも。




クロコダイルは原作と違い意地オンリーで立ち上がってきます。それを察したサボはリィンをどこかへ行かせた、と。
おかえりギャグパート!
シリアスの雰囲気をぶち壊すその一瞬が大好きです!


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第123話 雨、止みませんね

 

 

 葬祭殿を出て、少しでもコブラ様を早く王宮に届けようと箒に乗せて飛んだ。広場が見え、もう少しで王宮という所で彼女に出会った。

 

「リィンちゃん!…っパパ!」

「ビビ様!」

 

 大変なの!と言いながらビビ様が駆け寄る。

 

 

 話によるとMr.2が爆弾があることを聞いていたらしく、海軍や海賊やらに伝えて爆弾を探していたのだと。

 なんだと心友、お前ってやつは…!

 

 ビビ様は暫く探してみて思い浮かぶ所があったらしい。そこが時計台。ウソップさんが赤い煙で知らせて見ると続々集まった。BWも。しかしBWの雑魚はたしぎさん含め海軍が制圧してくれているらしい。

 おやおや、堅物代表どうした。

 

 丁度さっきマルコさんが時計台に向かって飛んでいった、という事だ。

 

 スゲェチームワーク(仮)

 これが私を中心に繋がってるのか……怖いな。

 

 

 私は残念ながら鈍感でもないからね、月組からは愛されてる自信あるし他の組織が私に協力してくれるメリットも持ち合わせている。

 自意識過剰と言うなかれ、全て客観的に見た結果だ。

 間違い無く事の発端は私が原因だ。

 

 そう、多分、色んな意味で。

 

 

 はぁぁぁ〜〜、お腹痛いよぉぉ〜。

 そもそもBWが居なければ私は総スルーで革命軍や白ひげ海賊団や海軍は協力しなかったのに!それぞれ別の組織として本来の立ち位置を守ってるはずなのにさぁ!

 敵の敵は協力者ってか!そしてその協力者を繋げるボンド役が私ってか!

 

 責任者ってことか!?辛っ、何それ辛っ。

 

 

──ドドンっ

 

「……親方、空から人間ぞ」

「Mr.7のペアだわ」

 

 ぽろっと零れた言葉は見事に無視された。

 

 言葉通り、2人の人間が空から降って地面にめり込んでる。これは絶対痛い。もはや痛いとかのレベルじゃないかもしれないけど。

 

「リィン!」

「チョッパー君!タイミング合致!コブラ様の怪我ぞ応急手当……あ、チョッパー君海賊。うむぅ…どう、す、れ…ぞ」

 

 チョッパー君が丁度現れたのでコブラ様の怪我を見てもらおうと思ったが王様を海賊に見せてもいいのか…?

 大将としてどの行動が正解か…。

 

「うわっ!その人血が止まってないだろ!リィン、手当するぞ手当!」

「お、お願いするです」

「た、頼む…」

 

 医者の剣幕に負けて箒から降ろすと若干引いたコブラ様の肩を支えた。

 血の匂い濃すぎて鼻が曲がる。

 お前らどれだけ怪我してるんだ……、私もだけどな!

 

「彼は…大丈夫、です。一般人に近い海賊ですが」

 

 チョッパー君はリュックから色々取り出して手当をし始める。コブラ様の横に座ってこっそり耳打ちした。もちろん苦笑いが返ってきましたがね。

 

「姫さん!」

「マルコさん…!爆弾は…!」

「時限式の爆弾だったよい…、あと5分位で爆発する」

 

 空から降りてきた不死鳥、マルコさんが伝える。

 

 あらら、狙撃手が死んでも爆発するバージョンだったか…。クロさんも残酷だね。

 

「リィンちゃんどうしよう…爆発しちゃう……」

「い…っ、大丈夫です」

 

 肩を掴まれて少し傷んだ。

 私の落ち着きぶりに冷静を取り戻したのかビビ様は首を傾げる。

 

「いい手が浮かんでるの…?」

()()出来る方法は三つ程」

 

 その言葉に希望を見出しビビ様は思わず笑顔になる。

 

 

 一つ目は大量の水を生み出して爆弾そのものを殺す方法。結局火薬は爆弾の中にある、爆弾の中身がどんなものか知らないかそれを湿らせてしまえば爆発はしないだろう。

 二つ目は爆弾を遠くへ運ぶ事。全神経を使って集中して箒みたいに砂漠まで浮かして運ぶ、しかし箒は空を浮かばせるイメージがしやすいから飛べるのであって爆弾が空を飛ぶイメージがうまく浮かばないから絶対疲れる。

 三つ目はアイテムボックスにしまう。私のアイテムボックスは時間が経過する亜空間収納、中に入れてしまえばきっと勝手に爆発するだろう。

 

「お願いリィンちゃん!」

 

 ビビ様のお願い、には逆らえない。

 

 でもねビビ様、あなたは言葉が足りないから逃げ道があるんだよ。

 

()()()()()()出来ますよね、お願いします」

 

 傷一つ付いてないマルコさんに視線を向けると分かっていたのかニヤリと笑った。

 ビビ様の頭をぽんと撫でるとマルコさんは言う。

 

「俺にも出番をくれよい」

 

 そのまま彼は飛び立った。

 

 

 不死鳥は決して死なない復活の炎を纏う。

 マルコさんが1人で爆弾を抱えて心中しようが勝手に生き残る。

 

 空を見上げるとマルコさんが爆弾を掴んで高く舞い上がる姿が見えた。

 

「まさか…っ!」

 

 ビビ様は驚愕の表情に変わる。

 あれ、もしかしてこの人マルコさんが不死鳥だって言うの知らない…???

 

「止めてリィンちゃん!マルコさんが死んでしまうわ!」

「あの…流石に白ひげの懐刀がそう簡単にくたばるとは思わぬでして…。あの人怪我をしませぬし」

「ど、どういう…事?」

 

「個人的には死んでよろしくですが無念死にませぬ」

 

──ドォオオオンッ!

 

 まるで音の爆弾、空でカッと光って爆発した。

 

 み、耳が痛いぜ……。それと思ったより熱い。

 

 

「え…雨?」

 

 ビビ様が呟くとポツリポツリと雨が降ってきた。

 誰もが空を見上げる。

 

「なるほど、それでか」

 

 雨の気配があったってわけね。

 水系を操る時予想していたより結構楽に集めれたのは空気中の水分量が多かったからか。

 

 

「おかえりマルコさん…生きてますたか」

「帰還を喜べ」

「いや…海の屑は死ぬすべきという保護者の教育方針の賜物ですぞな。私、多少は手柄を上げるしなければチョンパですぞり」

「…お前が言うと洒落になんねぇからやめろ」

 

 マルコさんは私にチョップをした。

 痛いでござる。

 

 1ミリも死ぬと思ってなかったしマルコさんには一応エースのストッパーって言う役目があるから死んで欲しくない。

 

 立場と個人的感情の両板挟みだ。

 私の首が物理的に切れるってなったら卑怯な手を使ってでも殺しますけどね。

 

「丁度良かったマルコっっ!」

「げ、コック」

「お前のところのコックの名前って!」

「ん、サッチさんが如何した?」

「サッチ、そうか、サッチって言うのか……ってリィンちゃん!?生きてた!?」

 

 人間とは思えない速度でサンジ様がマルコさんに突撃する。話題はサッチさんらしいけどマルコさん大分引いてる。

 もちろん生きてらァ。そう簡単にくたばってしまったら私のこれまでの努力が無駄になる。

 

「あ、マルコ」

「エース」

 

 エースに担がれたルフィと添え木をしたサボ、兄たちが合流した。クロさんはやっぱり負けたか。

 雨に濡れながらエースはクシャミをした。

 

 はぁ〜〜、ひとまず一件落着か。

 クロさんは心配だけどドフィさんがこの場に居ないから多分生きてる。

 

 すると手当を受けていたコブラ様が立ち上がった。

 

「ある程度の状況は黒幕から聞いていた。海軍、海賊、革命軍。それぞれすまなかった。そしてありがとう」

 

 応急手当が終わったコブラ様が頭を下げる。

 

「コブラ様、王宮へ。事情説明と事態収束という役目ぞあります…。手当も」

「あぁ、リィン君も助かった。是非君の一味を王宮に招待したい」

「え…、わ、分かりますた」

 

 頭を下げる行為をやんわり辞めさせるとコブラ様は周りを見回してサボに目をやった。

 サボのフードの下からほんの少し動揺が見える。

 

「君が革命軍か…。少し話がある、すまないが残っていてほしい」

「あ、あぁ……」

 

 そう言って合流した兵士と共に去っていった。

 国民への事情説明は明日か、国内放送使えばいいだろう。

 

「月組〜!BWの残党を船に運ぶぞ〜!」

「たしぎさんは早く休んで下さい」

「クロコダイルは南の砂漠だ、そこに倒れてる」

 

 どこからか月組の狙撃手(物理)オレゴさんの声が聞こえて周囲の月組がバラける。サボが月組の1人に伝えると頷いた。

 

 スモさんと一緒に居たオレゴさんがここにいるって事はスモさんも移動してるって事か。

 

「リィンさ…堕天使!」

 

 たしぎさんが前に出て私の名を呼んだ。

 やめて、二つ名だけはやめて。

 

「私は今満身創痍の麦わらの一味を捕らえることが出来ません!そうすることしか出来ない!」

「は、はぁ」

「私は弱い!女だからとはもう言いません…!」

 

 どこか体を痛めてるのか口から出る血を拭ってたしぎさんは誓うように言う。

 

「私は!必ず、必ず貴女より心も体も強くなって!麦わらの一味を捕ら──」

「───リ゛ィ゛ン゛い゛ぎ で る゛の゛ね゛い゛!」

「おゴフっ!」

 

 ……言いきる前に私が吹き飛ばされた。

 

「リィンあちしの心の友よ…!怪我はしてるわよねい!?無事、無事と言って死なないでぇええええ!」

「心友に殺すされそうです、痛い」

 

 ギリギリとバカ力で締め付けてくるMr.2。

 視界の端に見えるたしぎさんはペースを崩された事に驚きを通り越して真顔になっている。あ、リックさんがたしぎさんの肩を叩いて励ましてるみたいだけどグレンさんがブチ叩いて阻止した。きっと失礼な呼び方をしたんだな(確信)

 

「じゃ、じゃあリィン、俺たちお先に王宮に行ってるからな」

「逃げるなぞウソップさぁぁん!?」

 

 いつの間にかルフィを受け取ったサンジ様を連れて無情にもウソップさんが背を向けた。

 

「リィン死なないでよううう」

「いででででで!ベンサム、ベンサム私が死ぬ!」

「嫌ぃぁあああ!」

「嫌じゃ無きぞベンサムううう!とりあえず離すして!愛が物理的に重きぞ!」

 

「ハック、コアラ、俺たちも王宮行くか」

「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!革命軍っ!ヘルプぅ!」

「じゃあまた後でな、堕天使さん」

 

 目から流れるのは涙じゃありません。雨です。

 

 ……雨がしょっぱい。

 

「リーをかえ……せっ!」

 

 ベリっ、とエースがメソメソ涙で顔を濡らしたMr.2を私から剥ぎ取ってくれた。

 持つべきものは実力者!だね!

 

「あ、そうだ心友…。ミス・ゴールデンウィークがあちしの事裏切り者だと勘づいてたのよう」

「あらま鋭い」

「敢えて口を閉じててくれたわ…でも多分面倒くささが勝ったんだと思うけどねい」

 

 なるほど、それは助かった。

 クロさんに国王成り代わりの次手を打たせなかったのはかなり良い。

 

「心友!あなたぞ見込んで話と頼み!」 

「任せて!」

「内容聞くしてから頷くすて!麦わらの一味の船ぞエルマルの海岸線に停泊。サンドラ河上流の岩陰に移動要請」

「わかったわよう!あ、これあちしの電伝虫ねい」

「今晩電話かけるぞ。ミス・ゴールデンウィークと共に行動依頼です」

 

 『ゴールデンウィークと一緒に麦わらの一味の船を移動させておいてね!』と頼むとMr.2は頷いて駆けて行った。多分部下も一緒に。

 

 彼らも女狐隊に入れるかなー…、便利だし。

 

「ま、明日も働いてもらうですがね」

 

 まだやることがある。

 報告も事態収束も私の仕事だ。

 

 今晩は怪我を直してる暇無いかもしれないなぁ…。怪しまれない様に一味が寝静まったタイミングでスモさん所行くか。

 

 正直ここからが本番な気がする。

 

「リー、俺たちはここで別れるよ」

「え…まことに?」

「ティーチ追わないといけねぇしな」

 

 エースが濡れた頭をかきながらため息を吐く。

 うーん、引き止めちゃったなぁ。マルコさんは運搬に、エースはドフィさん対策に助かったけど。

 

「……マルコ、俺やっぱり弟妹の傍にいちゃダメか」

「ダメに決まってるだろい」

「………だよなぁ」

 

 マルコさんは真顔で提案するエースに容赦なく否定の言葉を口にする。

 

「なぁ、リー…」

 

 困ったように笑いながらエースが私の耳元に口を寄せ、どこか確信した声で疑問を口に出した。

 

 

 

「───────…」

 

 

 エースの顔は、雨に濡れていた。




ひとまず、一段落!
ルフィは戦闘中毒にかかったけど今はかかってません。大丈夫、設定を忘れたわけではござらん!


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第124話 雨音が響いてる

 

 

 雨が降り続くアラバスタ王国。

 エースはビブルカードをルフィと私宛に残してマルコさんと共に去っていった。

 

 私は王宮へ行くと麦わらの一味と革命軍の3人が泊まっている部屋へと案内され、応急手当だけ受けると兵士に国内放送の準備を頼んだ。多分、明日には設置されている筈だ。

 

「…堕天使、報酬だ」

「…………はい?」

 

 部屋に居たサボに麻袋を渡された。

 中にずっしりとした重みがあるので多分お金だと思うけど……。

 

「何故?」

「情報料やら協力料やら、だ」

「えぇ……?」

 

 室内でもマントを被っているサボの顔が少し見えた。眉を下げて少し笑っている。

 

「貰えぬ」

「……そう言うとは思った」

 

 そうだね、現金よりは伝とか居場所が欲しいかな。一応大将としての給金や月組が定期的に財布に追加してくれてた写真代の1部とか貯めてあるし。大将女狐の貯金額は9桁いってるからまだ余裕がある。

 質素な生活してれば一生暮らせるさ。

 

 それに、兄の為なら地位をも利用すると海軍に入る前にフェヒ爺に誓ったしね。

 

「それより国王に呼ばれてるんだがいつ行けばいいと思う…?」

「恐らく明日かと、私もまだ話ぞ存在する故に」

「一応…逃げ出す準備はしといた方がいいな」

「……そうぞね、スモさんが捕らえる気沢山故に」

 

 嗚呼、幻聴が…。周辺の軍艦集めてアラバスタ周辺を固める様に指示を出す幻聴が……。

 親友の本気が怖い。

 

「まぁ、とりあえずアラバスタ用の報酬は別の時期にお願いするぞ」

「ん、分かった」

 

 私のベットは麦わらの一味と革命軍の間のベットだった。やっぱりボンド役ですかな。

 

「お、リィンおかえり」

「傷の手当は明日でいいか?」

「内出血の血抜きは終了したです。後は内臓の傷と助骨の手当をしたいですが」

「内臓に傷!?」

「血、吐くした」

 

 痛みはまだあるけど耐えられないことも無い。

 それに助骨だと添え木とか出来ないからほぼ自然治癒に任せるしね。

 

 チョッパー君は疲れてる様でベットにぐったりだから今動かすのは酷だろう。

 

「時に……女狐」

「……はい?」

 

 ベットに座るとサボが私の耳元で名を呼ぶ。

 

「お前……大丈夫か?」

「………………………………否」

 

 私はお腹を押さえて蹲った。

 

 痛いよぉぉお、これからの報告を考えると胃がキリキリするよぉお。そんな、そんな哀れみを込めた目で見ないでくれ革命軍!

 

「仏は閻魔大王です」

「いや、それだけじゃなくてさ」

「はい?」

 

「今回のクロコダイルの暴挙、お前に責任の大半があるから事情聴取やらで気を付けとけ」

 

 比喩表現では無く血を吐くことになった。

 

 

 

 ==========

 

 

 

 軍艦の中はやけに静まり返っていた。

 

 コツコツと私の足音と降り続く雨の音が響く。

 

「………なんだ、来てたのか。女狐」

 

 白いマントを被り仮面で顔を隠す。

 月組が横を固めてスモさんの軍艦の牢屋の前に立っていた。なるほど、よく知る面子を横につけてくれたか。

 

「無様な姿を笑いにでも来たか?」

 

 牢屋の中で海楼石の錠をつけたクロさんが笑う。

 クロさんは『女狐』が大嫌いの様で敵視していた。まぁ、敵だけど。

 

「イル君落ち着きなって」

「雑用は黙ってろ」

「もう雑用じゃありませーん」

 

 クロさんの牢屋の牢番、(優位な立場限定で)煽るのが大好きなハッシュさんがクロさんをからかう。いい人選だな、誰の指示だろう。

 

「………………クロさん」

 

 リィン(いつも)の声で呼ぶとクロさんは目を見開いて口をポッカリ開けた。

 

「マジかよ」

「マジです」

 

 狐の面を外すとクロさんは苦々しい顔をして視線を逸らす。騙しててごめんなさい。

 

「ああ〜〜…くそ……無駄足になっただけか…」

「はぁ?無駄足?」

「テメェのクソ兄貴共に聞いてみ…──やっぱり聞くな。情けねェ…」

 

 クロさんは頭を抱えだした。

 

 この態度から見るにマジで私が原因になってるみたいだな…お腹痛くなってきた。

 

「出会った頃から女狐だったって訳か」

「うん、ごめんぞ」

「惨めになるから謝んな」

 

 クロさんは小さく息を吐くとちょいちょいと腕を動かした。近寄れって事かな。

 

「何事?」

 

 檻の傍に近寄るとクロさんは眉を顰める。

 

「遠い」

「これでも?」

「それでも、だ」

 

 月組の二人と顔を数秒見合わせる。

 

 もう1人の牢番、ゼクスさんが鍵を開けてくれた。

 殺される可能性は考えなかったんだろうか…まぁ海楼石付けてるから大丈夫だとは思うけど。

 

「来い」

「態度デカきぞ」

「知ってる」

 

 膝に座れる位まで近付くとクロさんは私の頭を撫で始めた。……情緒不安定??

 

「随分でかくなったな」

「親戚のオヤジか」

「……それでもいいかもな」

 

 頬をつついたりして私で遊ぶ。

 楽しいのか分からないがクロさんはずっと笑顔だ。

 

「クロさん」

「なんだ?」

 

 たぶん私の顔はブサイクになってるだろう。

 私の一言で、海兵と海賊の仲は終わる。

 

「王下七武海、海賊 サー・クロコダイル」

「ハイハイ」

「世界政府直下〝海軍本部〟の名の元に。敵船拿捕(てきせんだほ)許可状と、政府に置ける全ての称号と権利…───剥奪する、です」

「あぁ」

 

 スモさんは剥奪の任務を私に残していた。

 それは優しい心遣いであり厳しい罰だ。

 

 それでもクロさんは笑い続けている。

 

「指輪、やっただろ」

「くれますたな、嫌がらせが酷い」

「あれ、一個俺にくれるか?」

「……………………はい?」

 

 セットでくれた海楼石製の指輪。

 流動体の体をぶん殴る為に両手に使ってたけどアレ何から何まで海楼石で出来てるから知り合い(クザンさん以外)の前で使えなかった。

 なにげに不便。

 

「構いませぬが」

 

 あの指輪、MC(マリンコード)を掘ってるんだよね。

 正体バレた今となっては別に構わないけど。

 

「…ん」

 

 胸元に隠して持っていた指輪の片方─サイズが大きい方─を渡そうと手を伸ばすとその手を引き寄せられ、私はクロさんの腕の中にすっぽり収まった。

 

「父親でもいい。親戚のオヤジでもいい」

「はい?」

「敵でも、友人でも、なんでもいい」

「クロさん?」

 

 

 

「────リィンを愛してた」

 

 

 ………この世界の愛してるって言葉はどのくらいのレベルなんだろうか。前の世界と同じような意味なんだろうか。

 

「お前ならこの意味…分かるだろ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『それで、何か言い訳は』

「…今回の件は子供の盛大な癇癪と独占欲と私に原因が存在するという事がよぉおおおおく分かりますた。ごめんなさい」

 

 電伝虫の前で華麗なる土下座を披露する。

 これぞまさに土下座外交!!絶対意味違うけど!

 

「お前…一体なにがあった」

「追いかけ追われる立場も大変ね、ヒナ同情」

「スモさん、ヒナさん…」

『甘やかすな』

「「だがな/ですが」」

『甘やかすな!!』

「うぇっ、今日も親友は大天使でござった」

 

『……情緒不安定過ぎるだろ』

 

 違いますうううーー!胃の痛みに悶えてるだけですーー!!!くそぅ!お腹痛い!

 

「要は!私が原因で無く、政府が気付かぬも仕方無く、女狐のみ気付き、内密に、BW阻止をすた。そして、全てクロさんが悪き様に仕上げればよろしきですね!?」

『……まぁ、ハッキリ言えばそうだが。出来るのか?』

「やってみせますぞ!社畜舐めるなぞーー!!」

 

 激闘の後すぐに後処理に回る私って社畜の鏡だと思うんだ!おかしい…異世界怖い……。

 

『いいか、国王もまとめて丸め込め』

「王女の許可ならば頂くたです!口約束でもきちんとした約束ぞ、この件の決着方法は私に任せるする、と」

『……いつ取った』

「アラバスタ到着前」

『そんな前からか…』

 

 は〜…もう胃が痛すぎて。吐きそう。

 

『とりあえず帰ったら覚えておけ』

「ヒェッ…」

 

 

 

 ==========

 

 

 

「リィン…朝だぞ、起きろ」

「ちょっぴゃーぬん…まだねむぅ…」

 

 まだ眠いよ…寝させてくれ……。麦わらの一味討伐の打ち合わせをスモさんとヒナさんとしていたんだから眠いんだよ。

 しかもその後Mr.2やミス・ゴールデンウィークに今後の指示を与えて来たって言うのにさぁぁ。社畜、頑張ったんだよ。今回さ、本当に頑張ったんだよ。偉大なる航路(グランドライン)に入ってから私は働きすぎじゃない?

 

「起きろ!怪我の治療始めるぞ!もう他のみんなは終わってるぞ!」

「うぇっ…朝日が痛……くない。まだ雨ですか」

「ほら怪我したところ見せろ!」

「ばい…」

 

 寝惚け眼の状態で上を脱ぐ。

 

「バッ、俺達が退出してないのに脱ぐバカがどこにいる!」

「こちら…に……ぐぅ」

「あぁもう!起きろ!」

 

 サボが私の頭を叩く。

 いや、別に私の裸に欲情はせんでしょう…。だってお腹は血を抜いたと言えど未だに黒いぞ。

 アザだって切り傷だって沢山あるし背中には大きな古傷だってある。

 

「サンジ、ウソップ、参謀総長は特に早く出る!」

「ぬー…ゾロさんとハックさんは?」

「筋トレだって!」

「馬鹿ですたか」

「リィンに言われたくはないだろうなぁ」

 

 チョッパー先生は今日も強いなぁ。

 

 世間話みたいな事をしながら傷を見てもらう。コアラさんとナミさんは残ってるけど。

 

「なぁ、骨も折れてて傷も出来てるみたいだけど体内で何か治療出来るのか?」

「そんな器用な事は出来な……ああ!!!」

 

 ドフラミンゴあの野郎糸で応急処置しやがったなありがとうございますでも治してくれる位なら怪我させんなやテメェ!!

 

「……………七武海嫌い」

 

 吐いた言葉はノックの音でかき消された。

 

「コアラ、堕天使。王の私室に呼ばれてる」

「「王の私室……」」

 

 思わずコアラさんと目を見合わせた。

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

「失礼します」

 

 私が治療を終えて王の私室へ向かうと革命軍の3人は既に部屋に入室していた。王の傍を固めるのはチャカさんとペルさん。

 ………安定してんな。

 

 促されるままの場所、王の前にて膝をつく。

 

 私が女狐と知らないのはチャカさんとペルさんだけだった筈。ならば問題なし。

 

「シルバーズ・リィン、ただ今参上仕るました」

「そうか、リィン君の父親は冥王か」

「はい」

「顔を上げよ」

 

 指示通り顔を上げるとコブラ様以外は驚いた顔をしていた。なんだ、私が敬う事はそんなに驚く事か。

 

「この場に立場は不要だ」

「……お心遣い、痛み入るです」

 

 それは助かる。

 素直に感謝するとペルさんが口を開いた。

 

「な、何者……ですか」

「……可愛い可愛いリィンちゃんです」

「黙ってろ」

 

 サボが頭を叩いて止めた。

 一応国の兵士よりは立場上なんだけどなぁ。

 

「君たちを呼んだのは今回の件とは別のところにある」

「はぁ…王族が革命軍に、なぁ」

「サボさん、無礼ぞ」

「やかましい」

 

 王族相手でも態度を変えないサボが恐ろしい。

 

「アラバスタの友好国にヴィズネ王国という国があるのを知っているか?」

「あぁ…。国王エルネスト・リオだったか。今国内が不安定で貿易も一部としか取り扱って無かったな」

「実はな、その国の貴族がどうも臭い」

「…………闇取引でもしてるのか」

「……麻薬だ」

「チッ」

 

 面倒くさそうな単語にサボが舌打ちをする。やめてー!!王様の前でそんな態度を取らないでくださいーー!

 

 もう私の心のHPはゼロでござる。

 

「そこで君たちに頼みたい事が」

「革命軍は引き受けよう」

「早っ!え、サボ君早いよね」

「最高権力の王族が悪では無い上に国民が困っている事なら革命軍の仕事内だ」

「そうか、それは助かる」

 

 コブラ様はサボの返答に笑った。

 麦わらの一味がこの場に居ないから平気で名前を呼んでる。

 

 ……私も強制参加ですかね、これ。一応潜入中なんですけどーーー。

 

「お前はどうだ?抜け出せるか?」

「抜け出すこと自体は…まぁ可能ですが」

 

 ………………うん?

 ちょっとした違和感に気付く。

 

 後で問い詰めようか。

 

「お言葉ですがコブラ様、頼み事の細かい内容ぞ教えて頂きたく思うです」

「リオ殿の言う事には国と関わらない者を潜入させ、何とか親元を見つけ出してボロを出させたいと言っておったな」

「……恐れ入るです、まことに失礼ながら私の言葉使いでは向きませぬ、です」

 

 よっしゃ言語不自由設定の勝利!!!

 そんな面倒くさ…重大な事に関わらないですむー!!

 

 するとコブラ様は笑った。

 

「……標準語程度話せるだろう?」

「ヒェッ」

 

 ………コブラ様の目が笑って無い。

 

「…………大変申し訳ございません、細かい事情により結果的に騙すような形になってしまいました。話せます」

 

 そう、実は慣れてないだけできちんと話せる。でなければおつるさんのオーケーが出るわけない。

 バレてたか…くそう。

 

 王族怖いよぉ。

 

「気にはしてない。苦労に苦労を重ねるようだが受けてくれるか?その代わり報酬にプラスして何か個人的な事にのみ許可を与えよう」

 

 あ、待って、これは美味しい。

 この報酬は美味しいぞ。個人的な報復に超役立つ。

 

「引き受けさせて頂きます。では、アラバスタ国民へ此度の事情説明をさせて欲しいと……──お願いします!許可ください!」

「良かろう」

 

 国の次は国ですか。

 まぁ、最終目標が達成出来るから良しとするかぁ…。

 

「細かな話はこちらの書類にある。頼めるか」

 

 サボと私に紙が渡される。そしてヴェズネ王国への永久指針(エターナルポース)

 

 …………これは、また随分面倒臭い。

 はぁぁぁ…王族の任務は断れない。

 

 

 

「クロコダイルの野望を阻止してくれた君たちになら」

 

──パサッ、コトン

 

「……おい、二つ共落とし──」

 

 サボは私の顔を見て怪訝な顔をした。

 

「──何があった」

「はい?」

「鏡見てみろ。真っ赤だぞ」

 

 

 

 消え失せろ!邪念!!!!

 

 




さぁさぁ皆さんご一緒に!ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙クロコ…ロリコダイルウウウウウ!!!!
ホントは0時投稿の筈だったけど!早めに見て欲しかった!の!です!!!!!


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第125話 雨が降ったら嵐になった

今までで!一番の!出来です!


 

 

 アラバスタ王国に起こった反乱は今朝仕組まれた事だと発表されました。午後丁度に関係者から事情説明があると聞いて雨の中広場に沢山の人が集まっているッス。

 

 自分は日刊アラバスタ新聞社の新米記者!今回の件、一言たりとも逃してたまるか…!

 

『…──……─………──こんにちは』

 

 ジジっというノイズの後に1人の女の子の声が響いたッス。はて、女の子?

 

『私は、旅の作家です。第三者からの目線という事で説明役に抜擢されました……』

 

 なるほど、作家さんだったッスか。

 俺は早速メモを取った。

 

『今回、反乱が起こった原因。…──…それは一人の男の狂った愛が引き起こしました』

 

 ノイズの音に紛れて上ずった声が聞こえました。

 一人の男とは一体誰だろうか。気になるッス。

 

『その男の名は…クロコダイル。この国の英雄です』

 

 こ、これは大スクープ間違いないッスね、しかし俺達の英雄が何故反乱の原因になったのか不明ッス。

 周りを見渡せば動揺してる人たちが沢山いました。

 

 その動揺を読んでいたのか作家さんの声がしばらく止まりました。ふぅ、自分も動揺を落ち着かせる事が出来て話に集中出来ます。

 

『この国には、BWという内密な組織がいました。その組織は国の乗っ取りを企む組織で、国内へダンスパウダーを仕入れたりして国王コブラ様の信用を無くす手段に手をつけました』

 

 その言葉に更に動揺が走る。

 ど、どういうことッスか。じゃあ国王は無実でBWってのが捏造してたって事ッスかねー!?

 

『そのBWのボス……影で操っていたのは──クロコダイルさんだったのです』

 

 

 な、何だって〜〜〜ッッ!!!???

 

 

 こ、これは大大大大スクープじゃないッスか!

 

『しかし!ここからが皆さんに聞いていただきたい事なのです…! ここから先のお話は、クロコダイルさん本人と今回の件に関わった海兵さんに聞いたお話を元に考察しました。軍に関わる方にお話した所、否定の言葉は出なかったのです』

 

「どういう事だ…」「ク、クロコダイルさんが…!?」「国王は無実だった…!やった!」

 

 周囲からいろんな声が飛び交います。

 

 聞き漏らさない様に黙っていますが俺だって叫びたい、あのクロコダイルさんがどうして!!それに軍って海軍の事ッスかね、海軍公認の話って事じゃ無いッスか!

 

『クロコダイルさんは数年前からこの国に居ます。そしてこの国を乗っ取ると決めた事とそれは関係していたのです。何故そうなってしまったのか、私は考えました…』

 

 ザワザワとした声が聞こえなくなりました。恐らくここから先が本題だと皆気付いたのでしょう。

 英雄と言われたクロコダイルさんがどうして国を乗っ取る事になってしまったのか、皆その本意を聞きたいみたいッス。

 

『クロコダイルさんは、この国に来たその日。────なんと、ビビ王女に恋をしてしまったのです!!』

 

 

 な、何だって〜〜〜ッッ!!!???(2回目)

 

 

 ど、どどど、ど、どういう事ッスか、クロコダイルさんがビビ様に恋!?だって、クロコダイルさんがこの国に現れたのは数年も前の話でその当時はビビ様子供だったッスよね!?

 

 どこかで吹き出す音がしました。

 アレは……海兵さんッスかね。

 

「あの、海兵さん大丈夫ッスか?」

「ゲホッ、ゲホッ、だ、大丈夫だ。すまないな」

「い、いえ。その、ビックリするニュースだったので当たり前かなって思ったッス」

「あ、あー……うん…似てるけど……違うんだよなぁ……イル君不憫な奴め……」

 

 何故かブツブツ言い始めたので放って置いて大丈夫ッスかね、今はひとまずこの放送を聞き逃さない様にしないと!

 

『皆さんも察する事が出来たでしょう…──そう!ロリコダ、クロコダイルさんは!ロリコ…少女愛好家だったのです!』

 

「ゴぼフッ!!!」

「あの、大丈夫ッスか?今喉から出ちゃならない変な音が聞こえたッスけど……」

 

 思わず海兵さんの様子に心配してしまうッス。

 

「ごっ、めんっ、ゴホッゴホッ、ゲホッ、大丈夫、大丈夫だから心配しないで放って置いてくれ…ゲホッ」

 

『クロコダイルさんは恋をして以来、夢見たのでしょう。嗚呼、一緒になるにはどうしたら…と!!そして追い詰められた彼は思いついてしまったのです!国を乗っ取り、傍にいる事を!』

 

「何だってそんな事を…!」「クロコダイルさん……いや、兄貴と呼ばせてくれ…!」「そんなにこの国のお姫様を愛して……っ!」

 

 くぅ、辛い運命ッス。王族と海賊じゃ立場は圧倒的に違うッス……!そんな中悩み苦しんだんッスね!

 

『皆さんだって愛はあるでしょう……?その愛は真っ直ぐです。しかし彼の場合違ってしまった!お互いの障害物の性で歪んでしまったのです!』

 

 皆が持ってる愛。愛なら仕方ない、愛っていうのはそれは凶器にもなってしまうんッスね…学びました。しかし流石作家さんッスね、上手い言葉回しに皆うんうんと頷いていました。

 横にいた海兵さんを除いて。

 

「可哀想なクロコダイル……」

 

 あ、違ったッス。

 普通に同情してたッス。

 

 やっぱり海兵さんでもそう思うッスよね!!!うんうん、年の差や身分の差がフルセットで襲ってくるこんな愛は悲しすぎるッスから!!

 

『そしてクロコダイルの狂気に気付いてしまったビビ王女は海へ逃げ出しました、歪みを直すために…そして国を助けて貰う為に』

 

「ビビ様……」

 

 ビビ様はどうやらクロコダイルさんを正気に戻したかったみたいッスね、それで行方不明になってたんッスか。

 

『秘密裏に動いていた海軍と、そしてたまたま出会った気の良い海賊に頼み…』

 

 海軍の皆さんは気付いてたんッスか。

 でも海賊が出てくるとは思っても見なかったッスけどなんでッスかね。

 

『なんやかんやあってクロコダイルは倒されました。心の広い海兵。そしてある一味の力の元に!!私は問いました!何故気付いたのですか、と!この国に居合わせた最高なる戦力の女性に!』

 

「最高なる戦力…まさか大将か!?」

「ゲフッ!」

 

 しかも女性という事は大将女狐……!海軍、何とも恐ろしい情報収集能力…!でもそんな方々が自分達の為に!

 驚くとまた海兵さんが変な音を出したみたいッス。

 

『守りたい人がいるから。そう語って居たように思います』

 

「………無理やり過ぎるだろ…これ…」

 

 なんていったか聞こえづらいッスけどこれはしばらく話題に上がるッスね!記者の勘が告げているッス!

 

 

『そして雨が降りました。この空はまるで振られたクロコダイルの涙の様に!』

 

「あ、振られた」

 

 隣の海兵さんが何か言ってる様ッスが関係ない!俺は今猛烈に感動してるッス!

 報われてくださいクロコダイルさん!

 

 あ、でもうちのお姫様に手は出さないで下さいッス。

 

『私はこの雨を〝王女の奇跡〟と呼ぶ事にしました』

 

 なるほど、作られた王の奇跡に対抗した清らかな雨って事ッスね……。尊い!この雨が尊いッス!!

 

『一言だけ、クロコダイルの言葉があります』

 

 な、何!?クロコダイルさん御本人の登場ッスか!?

 

「は、え、おい……スモーカーさんは…。え、どうして、イル君が外に…?」

 

 なんか分かんないッスけどイル君ってどこかの迷子の名前ッスかね?海兵さんも大変そうッス……でも俺の黄金の右手が動くことを止めない!一文字一句逃してたまるか!

 

『…──…─…クロコダイルだ』

 

「お、俺クロコダイルさんの声聞いたことあるッス!間違いなくこの声クロコダイルさんッス!」

「な、本当にクロコダイルさんが…!」

 

 俺の声に周囲が動揺する。

 スゲェっ。ロリコ…少女愛好家と言われても尚人前に声だけでも出せるクロコダイルさんのメンタルが凄いッス…。

 

 どこからか兄貴!とか言ってる声が聞こえます。

 いえすろりしょたのーたっち、ってなんの呪文ッスかね…、滅びの呪文?

 

『今回、俺の無茶な行動に振り回してしまいすまなかった。許して欲しいとは言わない、ただ認めてほしい。俺が愛していたと』

『─ゲボッ…─!』

『─大丈…──か?─…──まぁ、そういう訳だ』

 

 作家さんのまるで動揺した様な不思議な声が聞こえた気がしたッスがなんでッスかね…?

 疑問ばかりが浮かびます。……後で海兵さんに聞いてみるッスか。

 

「こんな素直なイル君気持ち悪い…何をしたあの天使の皮かぶった悪魔……」

 

 天使の皮かぶった悪魔??誰のことッスかね…更にちょっとした疑問は湧きますが今はクロコダイルさんの事ッス!

 

『安心してほしい、踏ん切りは付いた』

 

 あ、そうッスか。

 

『……以上です。ご清聴ありがとうございました。なお、海兵の方々は皆さんが快適にこれからを過ごせるよう後始末に追われているので質問は勘弁してあげてください』

 

 その声を最後に放送はブツリと切れた。

 ぐぬぬ…忙しいのであれば仕方無いッスね、諦めるとしますか…。それでも充分過ぎるほどの情報と驚きッスから大丈夫でしょう!

 

 

 

 

 明日の見出しは【すれ違った愛 悲しき立場と奇跡の雨】に決まりッスね!!

 

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

「リィン…それは流石に酷いわ」

「それは無い」

「クロコダイルが可哀想」

「それはちょっと…」

「お前は男の尊厳を踏みにじった!」

「無い、無いわ」

「哀れだな」

「すまんな、否定出来ん」

 

 放送を終えてスッキリした私とMr.2の前に現れた協力者達が酷い目を向けていた。

 

 解せぬ。




これの恐ろしい所は一言たりとも嘘を言ってないって事。




解説

>作家
予定かもしれない
>軍に関わる方
海軍とは言ってない。革命軍かもしれないし反乱軍かもしれないし国王軍かもしれない。
>否定の言葉は出なかった
つまり肯定の言葉も出なかった
>ビビ様に恋を
『私は考えました』という個人の思考
>ロリコ…少女愛好家
嘘ではない
>恋をして以来、夢見た
(((誰をとは言ってない)))
>最高なる戦力
女狐と公言してないし『(がめつさが)最高なる(麦わらの一味の)戦力(ナミさん)』かも知れない。
>そう語って居たように
思うだけ。

声のクロコダイルはもしかしたらあくどい誰かに騙されて本人だと思い込んでるだけ、かもしれない。


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番外編13〜【IF】リィンはBW【夢オチ】〜

IFのお話です。
もしもリィンが原作の何年も前からBWの勧誘に応じていたなら。


「海軍、辞めて来るした!」

 

 いつだっただろうか。

 そう言ってアラバスタに転がり込んだのは。

 

 

 ==========

 

 

「計画は分かってるな?」

「分かるてますよ〜う、仕掛ける、ですよね」

「その通り」

 

 七武海サー・クロコダイルはソファに座りクツクツと喉を鳴らす。

 

 隣の椅子に座って黙々と作業を続けるのは何年か前…BW結成から少しして現れた元雑用だと言う少女リィン。ボス、クロコダイルのパートナーだ。

 

 目的の為にクロコダイルと手を組んだ協力者ニコ・ロビンはいつもの様子にクスリと笑みを零す。

 

「ゼロちゃ〜〜ん!」

「……うわ」

「なによう、その反応!ジョーダンじゃなーいわよーう!おシサシブリってのにィ!」

「やほ、Mr.2」

「あらァ?ハピバちゃんじゃなーい!」

 

 クロコダイルは突然現れたMr.2に嫌そうな顔をした。Mr.2はよく見るコンビを見てニッコリ笑い手を振る。

 

 ミス・バースデー。それがリィンのコードネーム。

 この国の王女と幼馴染みであり国王とも面識が有る貴重な人材である。が、ニコ・ロビンは正直分からなかった。

 

「(ボスは最後まで顔を隠すと思っていたのに…)」

 

 クロコダイルは顔を隠しコードネームのみで部下を管理していた。しかし3年ほど前だろうか、リィンの一言で3人の方針が変わった。

 

『では、一つ幹部ぞ呼びますか』

 

 無鉄砲?無知?

 何も予想がつかない。

 

「明日が計画だったァ?あちし達を信頼して姿を教えてくれたボスの為にも頑張るわねい!」

「つってもテメェの仕事は兵士に化けてるだけだぞ?」

「かまァないわよーう!」

 

「……!」

 

 ロビンは気付く。

 

 ──…信頼を、得るためだと言うの?

 

 ロビンは過去、クロコダイルに言った事があった。

 

『ボス…どうしてあの少女の言葉を鵜呑みにするの…。正体をバラしてなんのメリットが?それに王族と仲良くさせて…、いざという時情が移って出来ませんとなったら困るのは私達よ』

『そうだろうな』

『だったら何故!彼女は国盗りになんのメリットも感じていない、パートナーという立場にした事になんの理由があるの!?』

 

 歴史を求めるためには失敗できなかった。

 ここにしか、情報の希望は無い。

 

『クハハハ!いつか分かるさニコ・ロビン…、あいつは決して無能では無い』

 

「ボス…荷物を届けに来ましたが」

「あぁ、明日使う。容器に入れておいてくれMr.1」

「はい、どうぞご無事で」

 

 Mr.1が裏ルートで手に入れたブツを持って入室するとクロコダイルはさらに笑みを深めた。心底愉しそうに笑う。

 

 すると机で唸っていたリィンに一区切り付いた様で背伸びと共にボキボキという音が鳴った。正直若者が鳴らす音じゃない。

 

「事務処理はいつまで経つしても苦手ですな〜、作業が終わらぬ」

「なんの書類だ?」

「私の立場ご存知?狐さんぞ?我、小狐さんぞ?本業は臨時長期休業オーケー?アラバスタの内政の報告書ぞ」

「あぁ、あれか。大変だな、ビビ王女の幼馴染み兼親友って立場も」

「内密調査にネタ仕込む私の苦労ぞ思い知るしろ!」

「助かる」

「ぐうううう…素直気持ち悪い」

「枯らすぞテメェ」

 

 頭を掴まれたリィンが謝り倒す。その姿はいつも通りなのだが内密調査など今まで話に出たこと無かった。

 

「革命軍、探るしてますよ」

「知ってる」

「……あのですね、金髪の革命軍いるした」

 

 リィンが何故か遠い目をする。

 

「……兄です」

「マジかよ!?」

 

 クロコダイルの驚いた反応にあれは確かにサボだったとリィンが呟く。もう10年も経っていたのだ、サボが死んだと言われたその日から。

 

「馬鹿ですぞね、私。兄探しや兄優先思考ですたのに、それを忘れるして幼馴染みを嵌める為に犯罪組織にぞいる」

「……悪いな」

「ここが楽しいのが悪き、快適なのがニートの元。七武海め…このちきょうもの!」

「『卑怯者』だバーカ」

「クロさんのワーニ」

「ハピバちゃん、それは悪口じゃないと思うわよう…」

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

「コブラ様、リィンです。入るます」

「………あぁ」

 

 か弱い王の返事にリィンが静かに入室する。

 その後ろには保護者という名目のクロコダイル─アラバスタの英雄殿─も付いていた。

 

「体調は…如何です……?」

「……………リィン君とクロコダイル君の顔を見たせいかな、大分良くなったよ」

 

 クマのできた青い顔でコブラは笑う。

 もう長くないだろう事は全員が分かっていた。

 

 最近はビビもその衰弱ぶりに気を病んで塞ぎ込む事が多い。そんな家族の様子を心配して見に来てくれるのが2人だったのだ。

 

「コブラ王、酒でも呑むか?」

「クロさん馬鹿です…酒は体に毒ですぞ…」

「いいやリィン、こうも言う。『酒は百薬の長』ってな」

 

 瓶に入った酒を遠慮なく開ける。

 周りの護衛はいつもの事だと特に咎める事はしなかった。毒味も必要ない、と。

 

「先に頂こう」

「……キミの持ってきたものに疑いはしないんだがな」

 

 クロコダイルがグラスに注ぎ無礼にも王より先に飲む。これは、言わば毒味だ。グラスも同じ物を使い、飲む物も同じ。

 …クロコダイルがたまたま毒に強かったら?

 そう考える者は居ても次の行動でその考えは取り消される事になってしまう。

 

「クロさん次私」

 

 クロコダイルの手を握って催促する少女が居るからだ。

 

「はいはい…お前まで飲む必要あるか?」

「海賊は信用なりませぬ〜!…なんてね、ぞ」

 

 クロコダイルの右手がリィンによって拘束されているので器用にもフックを使って飲む手を止める。

 そのまま左でリィンの口にグラスを近付けた。リィンに酒を呑ませた、という表現が正しいかもしれない。色気もない様な組み合わせなので特に気にした様子が無い。

 

「っ!こ、これは…!…………苦ぃ」

「クハハ!ガキンチョには早ェよ」

 

 毒味二人目だ。酒に弱く体も王女と同じ程。

 ……ここまでの気遣いと対処に疑う余地は生まれない。

 

「ほらよ」

「あぁ、すまないな」

 

 コブラは上半身を起こし1杯の酒をあおる。

 久しぶりの酒が体に染み渡り、目を細めた。

 

「悪いな…コブラ王。アンタの病気を治せりゃいいんだが…俺には知識も無いしそのツテも無い」

「こうして来てくれる事が1番の薬だよ…気にしないでくれ」

「あ、あぁ…。そう言ってもらえると、助かる」

「クロさん…っ」

 

 リィンは心配そうにクロコダイルの手を握る。

 部屋にいた護衛からは、クロコダイルの歪めた顔がその手の温もりによって和らいだように見えた。

 

「……護衛の退出を、お願いします」

 

 リィンのその一言で緊張感が走った。

 その言葉は過去に何度も繰り返される。それは『ビビ様の幼馴染みの少女』から『名を伏せる何者か』に変わる瞬間だ。

 

「……分かった、下がってくれ」

 

 コブラは分かっていた。ここからは『女狐』の話なのだと。そして、それがこの国にとって不利益では無いことも。

 

 護衛は退出する。

 もしもこのタイミングで襲われたとしてもクロコダイルがいる。

 もしもこのタイミングで国王が死ぬことになったら犯人などスグに特定出来る。

 

 強さへの信頼関係がアラバスタで生まれていた。

 

「コブラ様」

「何があったのか、教えてくれるか?」

歴史の本文(ポーネグリフ)を所持すていますね」

 

──パリンッ

 

 コブラの持ったグラスが割れた音だった。

 

「国は関係ない、全ては王の罪だ」

「…勘違いさせるして申し訳あるません、捕らえるというお話では無いのです」

「……どういう事だ?」

「知りたいんだ、この国の抱える秘密を。コブラ王、正直に言うとアンタの命の残りは少ない…。アンタの代わりに守らせちゃくれねぇか、この国を」

 

 クロコダイルは真剣な表情でコブラを見る。

 

「キミは、この国に来た時からずっと守ってくれていた」

「砂の国では戦いやすいだけさ」

「ビビの事も娘の様に気にかけてくれている」

「こっちにも同じようなのがいるんでね、たまたまさ」

 

 

「……────────…──」

 

 

 

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

「……甘いな」

「……甘いですなぁ」

 

 カジノの地下で2人が息を吐いた。

 

「おかえりなさいボス、ミス・バースデー」

「ただいまご生還ですぞオールサンデーさ〜ん」

 

 子供はお眠のお時間だと言いながらリィンがソファにフラフラと寄れば、直ぐに丸まる。ロビンはその様子を見るとクロコダイルに問いかけた。

 

「作戦の細かな事は知らないけれど…成功したのよね」

「あぁ、一番の目的である歴史の本文(ポーネグリフ)の在り処はな。内容は教えちゃくれなかったが、問題無いだろう」

「ええそうね」

 

 クロコダイルはリィンが丸まったソファの空いたスペースにドカリと座り込む。

 

「本当に甘い王だと思ったさ」

 

 …長年かけて作り上げた信頼関係。

 

 報酬の要らない慈善活動─海賊討伐─をし印象を良くする事は元々リィンが入る前から始められていた。

 

 

 毒味…? もちろん毒は何年も前から入れてある。ジワジワと体に溜まり、もう手遅れだ。

 クロコダイルやリィンが先に呑んでるのにも関わらず毒にかからなかったのはリィンの特性の一つ、毒素を吸収してしまうという本人ですらも分からない力。

 クロコダイルの右手を握って催促…? ただ単に手を繋いでおく良い理由だ。リィンは触れた手から毒を奪い取ってくれる。

 

 リィンは言ったはずだ。『酒は体に毒だ』と。

 まさかその言葉通りとは思わなかったのだろう、コブラの愚かな信頼は相互関係では無かったのだ。

 

「(まぁ…──リィンが臨時休業中だとしても大将だと言う事前情報があるから、か)」

 

 ここまでくるとリィン様々だ。

 国に関わらない気まぐれで人を助けて居るという設定のクロコダイルには、自ら王と関わる機会など得られなかった。

 その機会も、信頼も、全てリィンの手によるものだ。

 

「(嗚呼…リィンは百薬の長だ。麻薬にも治療薬にも毒薬にも何にでも変わる)」

 

「ぷぴゅぴゅ……ふぎっ」

 

 クロコダイルはアホっ面で不思議な寝息を立てながら眠る『お気に入り』の髪を遊ぶように触った。

 

 

 

 

 

 アラバスタ王国の新しい王は、国民全員から祝福を受けた。亡き王の跡を継ぐに相応しい、強き王だと。

 その傍らで、何も無い笑みを貼り付けて少女は呟いた。

 

 

 

 

 ==========

 

 

「────夢オチかよ!!」

 

 少女がガバリと起き上がると隣に眠る金髪の兄から鉄拳が飛んでくる事になりかけた。

 外を見れば恵みの雨が降り続いている。

 

 

 少女は翌日、大暴露放送ではっちゃける事になった。




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アラバスタ編、次話で終わります!


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第126話 後悔は先に立たずとは言うけれど

 

 

 どうもこんばんは。主観的に見れば悲劇でも喜劇にするのが役目の皆の愛されアイドルリィンさんです。

 

「まー…護衛隊長さん生きてて良かったですな〜」

「気が抜ける」

「途中で存在忘れてますたよ」

「忘れんでくれ」

 

 イガラムさんが無事生きて再会。

 そして3日間眠り続けたルフィが目覚めて夕飯をご馳走になった。

 

「風呂か〜、いいな〜、でっかい風呂欲しいなぁ」

 

 ルフィが能天気に歩く。

 当然男湯と女湯に別れて入るのでビビ様とナミさんと一緒だ。ナミさんの視線が怖い。

 

 革命軍はコブラ様とヴェズネ王国のリオ様の間接的な依頼を受けて準備する為にこの国をさっさと去っていった。

 リオ様に2つ『お願い』と、サボに『下準備』を頼んでおいたから準備が出来次第、革命軍とチャカペルコンビと合流する事になるはずだ。概要の紙を見たけど面倒臭い事になってるから気合い入れないとなぁ。

 

「メリー号のお風呂は少し手狭だから広いお風呂って開放的ね!」

「そうね…ここは宮殿自慢の大浴場なの。本来は雨期にしか使わないんだけど……特別にね」

 

 浴室は広々とした空間に龍の口から温水が流れる大浴場だった。湯気で視界が悪いけど海軍の大浴場とは全然違うな。比べるのも失礼か。

 

「ッ、リィンその傷」

「あ、あぁ」

 

 背中を向けた瞬間にナミさんが声を上げた。

 

「昔の傷です」

「……よく見るとリィンの肌って傷だらけね」

「生傷絶えぬ人生ですたからね」

 

 治りきらない傷跡なんて幾つもあるし縫った事も何度だってある。生傷だって月1で必ず付ける。

 それでも私の傷の頻度は他の人に比べると少ない方だろう。顔に大きな縫い傷が無いのがいい例だ。

 

「リィンこっち来なさい、洗ってあげるから」

「あ、お断りします」

「なんでよ!」

 

 だってほら、ナミさんだから。

 

 

 

 

 

 

 

「ババンババンバンバ〜〜」

 

 何それ、とナミさんが笑う。

 

 いい湯だなと浸かりながら背中を洗いあいっこする2人を眺める。くそぅ、胸に脂肪がいかぬでござる。

 

「こんな広いお風呂が付いた船って無いかしら」

「どこかにはあると思うわ」

「そうね……世界は広いもの」

「ここの半分程なれば見た経験有りですがね」

「え!誰の船!?」

「四皇っ!」

 

 その言葉にナミさんは息を吐いた。

 そして壁に視線を向けるとナミさんは叫ぶ。

 

「あっ、ちょっと皆何してるの!?」

「あんた王様!!」

 

 立場も忘れて覗きをしてる男共にツッコミを入れる。

 壁には頭がいくつかにょきにょき生えていた。

 

「あいつら……幸せパンチ」

「「「ぐあっ!」」」

「──1人十万よ」

 

 えげつない。覗きにサービスしておいて金とるのか。

 

 そんな幸せパンチにも動じない野生児が1人、ルフィは壁に登ったままじっと私を凝視していた。

 

「背中の傷、痛むか?」

 

 oh......そうだった。

 そうでしたそうでしたこの傷ルフィを庇ってできた傷だったね。ルフィに見せちゃダメなやつ。

 

「痛まぬぞ、ルフィ」

「折角のリーの綺麗な肌に傷付けちまった」

「…………ルフィは天然タワシですた?」

「タワシ?タラシじゃない?」

「それですた」

 

 ナミさんの訂正に従う。

 今どきそんな口説き文句は使えないよ。

 

「ルフィ、背中より心が痛き」

「なんかあったのか?」

「心と胃…」

 

 主にキミの暴走癖のせいでなぁあ!

 

 ふえぇんっ、リー、怖いよう。

 

 このまま爆走してどこかの曲がり道でスリップしそう。

 いや、こいつなら絶対する。

 

「とりあえず」

「ん?」

「早く戻るしろ」

 

──ガコンっ!

 

「ゲブっ」

 

 タライを投げたら見事命中した。

 そしてそのまま男湯に沈んでいった。

 

「いい加減しつこき」

 

 溺れてようがなんだろうが関係ないからね。

 

「失礼っ」

 

 ナミさんとビビ様が私を挟むように湯船に浸かる。

 わざわざ隣に来なくても…って思うんだ。こんなに広いんだからさ。

 

「リィンは傷跡があったから勧める服を着なかったのね…納得したわ。普通に肌を見せたくないだけかと思った」

「若い頃は出すして幾らかです。出さねば損とは思うですが……。ま、ルフィに見るされるとダメです故」

「それを言うなら『出してなんぼ』でしょう?……話から察してたけど、やっぱりルフィが一因?」

「んー…どうでしょう」

 

 首を傾げる。

 元々は海賊に捕まった私が始まりだったし、保護者の立場に居た実力者フェヒ爺が動けなかったのも大きいし…。運が悪かった、としか言いようが無い。

 

 そのお陰で徐々に毒耐性が出来たからある意味あって正解の出来事だったかも。

 

 

 ……でも、なんで海賊王の船員ともあろうフェヒ爺が動けなかったんだろう。雑魚の拘束?いや、でもその程度なら拘束にもならないだろうしなぁ。

 

「あっ!そう、リィンちゃん!あの放送は一体何?」

「あ〜…勝手に名前使うしてごめんなさい」

「あ、やっぱり捏造だったんだ……良かった」

 

 そう言えば国内大暴露放送後から(後始末やら革命軍との打ち合わせやらで)忙しくて会ってなかったんだったか。逃げてたわけじゃない、決して。

 

「ちなみに聞くけど…あれは嘘よね?」

「一言たりとも嘘は言うして無き、しかしながら国民の方ぞどのような考えになるかは知りませぬ」

「最近どんどん面の皮が厚くなってきてるわね」

「Mr.2とは誰ですかね〜!!」

 

 ナミさんがため息を吐く。

 失礼な…私は全力で報復を楽しんだだけなのに…。

 

 私の胃の痛みはこの程度じゃ報われないけど!

 

 いいかい?誤解してほしい所には決定打を伝えず、伝わる度に誤解が酷くなっていくように仕向けるのが演説ってものでしょうよ!!!

 

「鬼畜ね…牢獄から出ない方が幸せかもしれないわ」

 

 今後の事を思うと涙が出てくるよ…笑いすぎて!

 精神的に来る方が質が悪いの知ってるからね。ドフィさんの精神攻撃とミホさんの物理攻撃、ドフィさんの方が圧倒的に嫌いです。

 

「女の子の可愛らしい悪戯です」

「その可愛らしい悪戯に関係者全員が絶句したのを忘れないで頂戴ね…? 可愛いけど!可愛いから私は許しちゃうけど!」

「ナミさんは今宵も安定した残念ですな〜…」

 

 少しは、ほんと少しだけでもまともになったと思った私が馬鹿でございました。

 

「そう言えば後から聞いたんだけどリィンちゃんってクロコダイルと知り合──」

「うわっ!」

 

──ボチャンッ…!

 

「え、ちょっとリィンちゃん!?大丈夫!?」

 

 ……堕天使の顔を再び見ることになるかと思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

「船はこちらに停泊すてるです」

 

 Mr.2に教えてもらった岩場に隠れてある船を指す。夜中、城を抜け出してサンドラ河に向かった。超カルガモ部隊に送ってもらったんだが1匹足りなくて…私だけ自腹です。箒に乗らせていただきました!

 箒だと酔わないからいいんだけど。

 最近酔い止め薬少なくなってきたからな…、節約したい。もう開発者─名前はシーザー─は居ないと言うか犯罪者だからね、現在の居場所すら分からない。

 

「これからの予定は…」

「ビビの返事を待つこと、ただそれだけよ」

 

 黒檻部隊という捕縛トップレベルの軍隊がいる中で時間をズラさず明日の12時、ぴったりに東の港に寄る。

 ビビ様が乗るなら1度きりのチャンス。そこで拾う、という話になっている。

 

 まぁ……私の予想だけど海賊にはならないだろうなぁ。彼女はアラバスタの為に海賊を相手にした愛国家。そして王女という立場は想像以上に重い。

 

 

 それにな、外聞的にも悪いんだよ。

 一度海賊になった王女は恐らく『傷物』扱い。嫁ぎ先を探すのも苦労し……無いかも、民間人だけどリーダーという人間が居た。

 

「……いい、リィン。もし海戦になったらリィンの能力が勝負を分けるからね」

「不参加ダメ?」

「ダメよ」

 

 ほんの少しの期待と願望を込めて聞けば即答で却下されてしまう。ヒナさん相手は辛いなぁ。

 ……ヒナさんだと多分黒槍っていう方法で来るだろうし、私が渡したこの船の情報と船員の戦闘方法に合わせて陣形も厄介なので来るだろうし。

 

「リー…、頼んだ」

「…うっ、分かるした」

 

 ルフィの信頼が1番怖いな……。

 

「そう言えばリィンちゃん、あのオカマ野郎はどうしたんだい?」

「口車に乗せるて軍艦放り込むました。今頃元同期に雑用としてコキ使うしてるのでは?」

 

 荷物を船に入れるサンジ様からの疑問にあらかじめ準備していた答えを言う。サンジ様は苦笑いをしてたけど。

 

『構わないわよーう!大将だろうがなんだろうがリィンは心友!ドゥーでもいいってモンよこのスットコドッコイ』って言ってたから多分大丈夫だとは思う。ミス・ゴールデンウィークは知らない、感情表現が乏しいけど読めないわけじゃないからまぁ何とかなるでしょ。

 先に本部に着いてるMr.5辺りに任せるよ、彼らの事は。雑用って楽しかったんだね…、お掃除したいよ、ただ窓を拭くだけの簡単なお仕事。

 

 

「いでっ、リィン!考え事しながら物を浮かせるな」

「ごめんぞハナップさん」

「色々違う!」

 

 重い荷物の運搬係は私です。

 色々考え事してたらウソップさんにぶつかってたみたいで謝罪する。

 

 この一味もだいぶ私の能力に慣れてきたなぁ。

 

 

 

 ==========

 

 

 

『少しだけ──冒険をしました』

 

 遠くでビビ様の声が聞こえる。

 

 あぁ、やっぱり彼女は国を選んだのか。

 

「うりゃぁ!」

 

 目立った行動は出来ないから軍艦の海流を少しずらして鉄の槍を減らしていたりするけどメリー号の船底にドスドスと槍が刺さる。

 

『──それは暗い海を渡る〝絶望〟を探す旅でした。国を離れて見る海はとても広く、そこにあるのは信じ難く力強い島々』

 

「リー!何とかできないか!?」

「ルフィとゾロさんは左右に別れるして…!それぞれ戦うフリぞしておいて下されです!」

「分かった…!」

「とても集中力入るますが…槍ぞ止める」

 

 8隻の船から放たれる槍は容赦ない。

 (スパイ)が居ても沈めることに容赦なし、か。まぁ私が空を飛べるという事を知ってる限り、船を沈めるのがノーリスク・ハイリターンだろう。

 とりあえず、(スパイ)は軍艦に手を出せない。出せれることは出せれるけど出さない方がいい。しかし、船長命令が下ったなら反抗せざるを得ない理由になる。

 

『暗い暗い嵐の中で1隻の小さな船に出会いました』

 

「次来るぞ!」

「……今、止まるしろ!」

 

 ルフィやチョッパー君の拳に、ゾロさんの刀に、サンジ様の足に、ナミさんの棍棒やウソップさんのパチンコに合わせて槍を空中で一時止める。すると槍は船に刺さること無く海へ落ちた。

 

「成功!」

「凄いわリィン!」

「リー!俺とゾロとサンジは1本くらいなら対応できる!」

「任すた……頭痛い……」

 

『船は私の背中を押してこう言います』

 

「勝機はある!ビビを迎えにいくんだ!」

 

 光を見ろとばかりのルフィの声に鼓舞される。

 頭痛いけどやるしかないかぁぁあ!

 

「ウソップ!東の方角を潰せるか!?」

「む、無茶言うなよゾロ!」

「リィン、潰れたら動かしてくれ」

 

『闇にあって決して進路を失わないその不思議な船は、踊るように大きな波を越えて行きます』

 

──ドォンッ!

 

 ウソップさんの狙撃が見事マストに当たる。

 

「ウソップ、船底を狙って!」

 

『──そして指を差します』

 

「行くます!どこかに掴まるして!」

 

 グンッと船が流れる。

 ごめんヒナさん!今回は私の勝ちでお願い!組織的には負けだけど!

 

「東の港はすぐだ!リー、急げ!」

「分かるっっっ!」

 

『「見ろ、光があった」──歴史はやがてこれを幻と言うけれど、私にはそれだけが真実』

 

 東の港タマリスク。

 目を凝らして見てみるが人影は無い。

 

「やっぱり…来ないのかな」

「いいや!来る!来るんだ!」

「どっちもちげぇよ…チョッパー、ルフィ」

 

 ゾロさんは港を見て一言言った。

 

「もう来てるんだ」

 

 

「───みんなァ!!」

 

 海岸で手を振っていたのはビビ様とカルーだった。

 

「来たァ!」

「なんで分かったんだ!?すげぇなゾロ!」

「何となく気配が…」

 

 ビビ様はカルーの背中に有る電伝虫を手に取る。

 

 

 ……麦わらの一味の別れは近い。

 

 

 

 

 

 

『私は、ずっとその小さな背中を見ていました』

 

 ……………はい?

 

『彼女は世界を見ていました。幼い私には、彼女はとても大きく見えて劣等感と、そして憧れが芽生えました』

 

 遠くで軍艦が見え始める。

 もう追いついたのか。

 

『私は問いました、「どうして強いの?」と』

 

 嫌な記憶がじわじわと蘇る。

 

 ──………。ねぇ、リィンちゃんはどうしてそんなに強いの?

 

 初めて行った世界会議で、緊張して殴られそうになって心が疲れた時。そんなことを聞かれた気がする。

 

 ハハハ、やだな、なんだか嫌な予感がスルヨ?

 

『彼女は言いました。「信念、出会い、そして守りたいと思うもの」だと──』

 

 死んでたまるかという信念、非常に強い権力者や実力者との出会い、それと自分の命を守りたいと思う事ね!

 

『私は、この国を守りたい!彼女みたいに強くなって、彼女みたいに大きくなって!……だって私は──この国を愛してるから!』

 

 ビビ様は大きく息を吸って、言葉を放った。

 それは私にとって砲弾の様な言葉を。

 

『だから行ってきます!もう一度この国に帰ってきた時…──アラバスタ王国が誇る王女になれるように!』

 

 

 

 

 

 

 嘘だと言ってよお姫様…。

 

 




これを避けることができないのは第3章『海軍編下』第54話初めての世界会議 から避けられない運命だった。

これにてアラバスタ編終了です!


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ジャヤ編
第127話 人のふり見て我がふり直せ


 

 絵本【ワニの王様と人間の王女様】

 著者【あめ】

 

 

 

 

 人間の国に1匹のワニが住んでいました

 ワニは他の動物から人間を守っていました

 ワニは人間が大好きでした

 

 しかし他の動物は人間もワニも嫌いでした

 なぜなら自分と違うからです

 なぜなら人間の味方をするからです

 

 他の動物はワニをいじめます

 でもワニは負けませんでした

 

 ワニはとても強かったのです

 

 

 

 ワニはワニの国の王様でした

 ワニは人間の王女様に恋をしていました

 

 ワニは言います 

 

「どうしてボクは人間じゃないんだろう」

 

 ワニと人間は一緒に生きれない

 ワニは王女様と恋人になりたくて

 ずっと悩んでいました

 

 

 

 そんなある日

 ワニの住んでる人間の国に

 お友達の鳥が遊びに来ました

 

 お友達の鳥は別の人間の国の王様だったのです

 

 ワニは閃きました

 

「ボクが人間の国の王様になる!」

 

 

 

 ワニは人間の王様に言います

 

「食べられたくなかったら、ボクを王様にするんだ!」

 

 人間の王様はワニに言います

 

「それは出来ない、キミはワニだから」

 

 ワニは怒りました。悩みました

 どうして?何故ワニだと王様になれないんだ?

 

 

 

 人間の王様は知っていました

 ワニが人間の王様になる事がどれほどしんどく辛いことか

 

 鳥の王様は知っていました

 鳥の様に、人間の王様になることの難しさと苦しさを

 

 

 

 ある日、人間の王女様は知りました

 怒ったワニが人間を食べようとしているのを

 

 人間の王女様は悩みました

 人間を守るにはどうしたらいいのだろう

 

 人間の王女様は答えを求めるために海に出ました

 

 

 

 王女様は海で猿の王様に出会いました

 

 猿の王様は動物の王様を目指す元気な小猿でした

 

 猿は言います

 

「おれが王女様の手になって、ワニを止めてみせるよ」

 

 

 

 猿はワニを必死で止めました

 一生懸命お話をして説得しました

 

「ボクは、王女様が好きなだけなのに」

 

 ワニは涙を流しました

 人間になりたかった、王女様に好きと言いたかった

 堂々と人間として生きたかった

 

「気持ちは正しくても、行動は間違ってるよ」

 

 猿はハッキリ言いました

 それがワニの為になればいいと思って

 

 間違えたことを間違えてると言える勇気がワニの心を変えました

 

「ごめんなさい」

 

 ワニは人間の王様に謝ります

 決して許される事では無いかもしれないけど

 ワニは一生懸命謝りました

 

 

 

 ワニの王様と人間の王女様はお別れをします

 

「ごめんね王女様、幸せになって欲しい」

 

 ワニの体は雨に濡れてしました

 

「ありがとうワニさん」

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

 

「──どっちみち酷いわ」

 

 一晩かけて考えた絵本の原稿を読み聞かせすると開口一発目でウソップさんにツッコまれた。

 

 むむ、力作だったと言うのに。

 

「リィンちゃん…一応聞くけど、これ何?」

「人種差別の悲しさを訴えるして王族の尊さを教えるし正直者の心を学ぶし謝ることを覚えるして人権ぞ育むための絵本です」

「堂々と嘘をつくなこの鬼畜堕天使!どう考えても放送に引き続き公開処刑用の材料だろ!」

「あ〜〜〜〜!!!き〜こ〜え〜ま〜せ〜ぬぅ〜!」

 

 耳を塞いでウソップさんの指摘を誤魔化す。

 これは史実を元にしたってだけの純粋な絵本なのに、子供たちに純粋な心と気持ちを持ってもらいたくて書いた絵本なのに!

 

「悪役もどうかと思っていたが美談の悲劇の主人公の方がずっとキツイ事が分かった」

 

 サンジ様が腕を組んで頷いている。

 

「取り敢えずもうやめてやれよ」

 

 ウソップさんの言葉を流しながら空を見上げる。

 空には黒い影。待ってました!

 

「…ん?あれって、アンラッキーズ?」

「そうです」

 

 ビビ様の言葉に同意する。

 バサバサと羽を広げて船に飛んできたのは私の運搬雑用係のアンラッキーズ。いやぁ、アラバスタで宮殿に戻ってから電伝虫で呼び寄せてたんだよね。私のビブルカードを辿ってもらってさ。

 

「アンラッキーズ、こちらの原稿を『シャボンディ諸島69番GR(グローブ) 出版社【毒の花】のノーラン』に持ちていくする。レッツゴー!」

 

 指示を出せば敬礼して再び飛び立って行った。

 

「あ、ナチュラルに流したけど出版会社に持ってくつもりかよ!カムバックアンラッキーズ!お前らの元ボスが死ぬぞ!」

「死ぬなればそれで良し」

「闇が深いぃい!」

 

 ウソップさんは癇癪を起こしたように地団駄を踏む。

 海賊も七武海も大っ嫌いだ!

 

「所で堕天使ちゃん。素朴な疑問なんだけれど貴女どうしてそこまでクロコダイルを嫌っているの?」

「七武海は全面的に嫌っ…げふん、それは勿論ビビ様の国を狙うからですよ!当たり前では無きですか!」

「あら…『素直』ね」

 

 全く、失礼な!幼馴染みのビビ様に害をなす人物など嫌うに決まっているじゃないか!決して、そう、決して!積年の恨みとかそんなんじゃないんだからね!例えば出会い頭に奇襲を掛けられた事なんて覚えても恨んでも怒っても無いし!

 

 軍艦の中で一泡吹かされた事なんて気にしてもないし!

 

「…え?」

「あ?」

「…!?」

「は?」

 

「こんにちは、無事出航出来たみたいで良かったわね」

 

 ニコリと笑顔の仮面を付けたニコ・ロビンが居た。

 

「「「「「あぁぁあっっ!!??」」」」」

 

 いつの間に居たの!?

 え、さっきまでどこにいた!?

 

「あぁ、この服あなたのでしょ?」

 

 借りてるわ、とナミさんに言いながらニコ・ロビンが椅子を取り出して座る。

 全員警戒して武器を手に取るが手出しはしない。

 

「あ、なんだお前か」

 

 ルフィが軽い調子で挨拶したからだ。

 

「船長さん、あれから調子はどう?」

「おう!なんとも無い!助かった!」

 

「…どういう事だ?」

 

 ゾロさんがフレンドリーな二人の態度に首を傾げるとルフィは歯を見せて笑みを浮かべる。

 

「命の恩人だ!」

 

 ……………何が起こったんだ。

 

 

 最近、私が一生懸命社畜よろしく働いてる最中にキミらコロコロ物事起こりすぎだと思うの。

 

 しかもそれを報告してくれないから!お前らってやつは!私には!報告任務が!あるのに!

 

「ワニのな、毒を治してくれたんだ」

「丁度薬を持っていたから…お兄さんの方も知っている筈よ?」

「エースにおんぶされてたからな〜」

「まこと?それはそれはありがとうござりますた」

 

 だからといって信用はしませんけど。

 

「それでミス・オールサンデー。貴女どうしてここに…」

「そんなに怖がらないでお姫様」

 

 2人を見守る周囲は騒がしい。1回も会ったこと無かったチョッパー君は首を傾げ、ウソップさんは海軍を呼ぶと忠告している。

 

 海兵、ここにいますよ。

 

「私を……仲間に入れて」

 

「なんだ、いいぞ」

「「「ルフィ!」」」

 

 すぐさま答えを出したルフィにナミさんとウソップさんと私が揃えて非難の声を上げた。それは、それだけは勘弁してください船長。私はもう胃痛の種を欲していないんだ…!

 ビビ様だけでも倒れそうなのにっ!その敵であり、世界政府の中で1番将来起こりうる最悪の事態に絡む人間NO.1と名高い(※推定)ニコ・ロビンが船に乗るって…同じ屋根の下って…私はどうしたらいいんですか。

 どうやってセンゴクさんを宥めろと!!

 

 オマイラが海賊やれてるのは私が裏でちょくちょくフォローしてるからなんだぞ!!!

 今の所凶悪犯罪者というレッテル貼られてないのは私のおかげなんだぞ!!??

 

 『将来的に面倒くさくなる海賊NO.1』には選ばれてるけど!流石モンキー一家!

 

「安心しろって、こいつは悪いヤツじゃないからよ!」

「あぁ、その点に関しては俺も同意見だな」

 

 珍しい事にゾロさんまでルフィに同意見を出した。

 

「気配に敵意が無い。それに、だな」

 

 ゾロさんは周囲を見渡して言った。

 

「敵であろう人物1人。俺らが勝てないとでも思ってるのか?俺達は麦わらの一味、未来の海賊王の船員だぜ?」

 

「──勝てぬ」

「空気を読めこの残念鬼畜娘」

 

 カッコつけてる所すいません。

 

 私がその立場だから絶対に口に出さないけど。組織において、内部崩壊程楽な壊滅方法はないからな。

 だからいくら危険でもスパイって言う存在があるんだよ。一人の人間によって滅ぶ海賊なんていくらでもある。

 

「ま、まぁ…。リィンが居れば」

「待つしてダントツ残念の人」

「ダントツって事は自分も残念だって認めてるのか」

「ゾロさんは黙る!!!」

 

 発言の切れ味が鋭くてリィン泣きそう!

 

「ニコ・ロビン、滅びるしたオハラ出身のハナハナの実の能力者。8歳にて考古学者と賞金首、罪状は軍艦を沈めるした事」

「おいおい詳しいな…」

「革命軍に聞くしたぞ。悪党に付き従う事にて生き延びた賢き裏の住民……。ハッキリ言うして、この船は向かぬと思うです。革命軍を紹介すますよ?」

「あら…貴女がそれを言うのかしら」

「………はい?」

 

 革命軍はニコ・ロビンを求めていて、ニコ・ロビンは隠れる場所を探している。これ以上にないくらい向いてると思うんだけど。

 世界政府や海軍を敵に回し………、回される。海軍敵に回される。ま、大丈夫、だよね?え、だよね?一応個人では協力関係だよね?

 

 ニコ・ロビンは私の心境に気付かず笑って言う。

 

「『取り引き』じゃなかったかしら?」

「うぐっ!」

 

 痛い所を付かれて変な声が出る。

 確かウィスキーピークから出航してすぐだったか。『見て見ぬ振りをする事』と『魚人島の歴史の本文(ポーネグリフ)閲覧許可』を交換として無事に逃げ出したのは。

 

「小さな勇敢なる天使さん。船長さんの許可は貰ったわ、乗せてくれるかしら?」

「いや、結局見て見ぬ振りは無意味に終わるした訳でしてその約束ぞ反故な」

「それを無しにしても、この船はもう既に出航しているわ。島に引き返す事も海軍が居て危険、私を海に沈める程ここの船長さんは無情でも無ければ恩知らずでも無いと思うけれど?」

 

 ニコニコと逃げ道を塞いでいかれる。

 この船に乗る以上船長という1番大事な所を抑えられると船の中での反逆者は私になる。船長の意思に反する行動は私だ。

 

「ゔ…うぅ……」

「何か反論でもあるかしら?」

「……………ありま、せぬ」

 

 負けた。私が口で負けた。

 自分の発言に首を絞められる。

 

 何故出航する前に船の中を確認しなかった。ビビ様も念を押して島にとどめておかなかった。勝手に大丈夫だと決めつけて続行したのは私の判断だ。

 

 ……………詰めが甘いのは私も同じって事ね。

 

「そう、宜しくね」

 

 敗北の言葉には充分だった。

 

 

 

 



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第128話 行きたいと精神的に生きたい

 

 

 私には夢がある。

 平和に、それはもう平穏に過ごす事。

 

 それは決して、決して。

 

「空島に行くことでは無き!」

「──頼むリー。諦めてくれ!」

 

 ニコ・ロビンが仲間に加わってすぐ、空から巨大なガレオン船が降ってくるという出来事が起こった。

 船が降って、空島の地図を見つけて、ナミさんがサルベージとか言いながら男3人に無茶さすし、人類のなり損ないみたいなサルが現れて船を引き上げるし、船の何倍もあるカメが現れるし、いきなり夜になるし、最後には巨人の何倍もの人影。

 

 ………絶対厄に好かれてる。

 

 それだけで終わればまだ幸せだった。

 ルフィが空島に行くと言わなければ、ニコ・ロビンがジャヤへの永久指針(エターナルポース)を手に入れなければ…!

 

 挙句ルフィは『リー、上舵!出来るだろ!?』と。

 

 出来るかもしれないけどやりたくないに決まってんだろ!!高い所苦手だと何度言ったらいいんだこの馬鹿野郎!!精神的に死んでしまいます!!

 

 とりあえず人類モドキが拠点にしてるらしいジャヤに来たけど空島の情報なんてそう簡単に得られる訳じゃない。

 記録(ログ)が上書きされないかな〜って期待してるよ。

 

 とりあえずサンジ様の『レディ限定未だかつて無いたこ焼き』は美味しゅうございました。

 ……生簀でタコ育てよ?

 

 

「おお〜、ちょっとリゾートっぽくないか?」

「ほんと!ちょっとゆっくりして行きたい気分!」

「で、でも港に並んでいる船が海賊船っぽいんだけど…」

「大丈夫よビビ!港に堂々と海賊船が並んでなんか──」

 

「殺しだァ!!」

 

 気弱トリオが涙を流した。

 私も泣きたい気分です。

 

「いろんな奴が居そうだな」

「楽しそうな町だ」

 

 そんな3人を放りルフィとゾロさんが船を楽しげに降りる。よく行く気になるなぁ。

 

 夢を見ない荒くれ者が集まる無法地帯に。

 

 

 この島は世界政府が介入しない春島。気候が安定してる分活動しやすいから治安が悪くなる。

 散り積もった悪党は厄介者が多い。

 

 私は海軍に入り配達雑用をしてる中で『近付いてはいけない島』というのを教えられたし学んだ。もちろん、この島は『教えられた島』だ。

 子供は標的になりやすいしね…。見た目も、裕福に見える服装も。条件が揃ってたから特にセンゴクさんに注意された。

 

 

 ジャヤは外観はとてもおしゃれな島で、白の石壁や木造の建物に薄めの赤で作られた屋根が立ち並んでるリゾート地。

 ウソップさんやナミさんの言う事も正しい、ここは確実に海賊専門のリゾート地。

 

「ルフィ、私も行くぞり」

「お?そっか?よーし行くぞ!」

 

 私の提案にルフィは拒否すること無く受け入れる。

 2人に続くように降りるとビビ様が呼びかけた。

 

「待ってルフィさんゾロさんリィンちゃん!」

「ん?なんだビビ」

「私も行くわ!」

 

 ……何ですと?

 

「ビビ様…恐らくここは危険ぞですが?」

「大丈夫、私だって自己防衛は出来るわ!」

 

「リィン、行くならなるべく面倒な事にならない様に手綱握って情報集めてきてね。リィンの用事は何か知らないけどそれだけは絶対よ!」

「ナミさん?私用事など存在せぬぞ?」

「……そうなの?ならよろしくね」

 

 ナミさんの鋭い発言に少し冷や冷やしながら返事をすると特に気にした様子も無い様で終わった。

 他の面子はついてくる気が無いようで4人だけで情報を集める事になった訳だが、これ、意味あるのか?

 

 

「とりあえずルフィ、ゾロさん。ケンカ、封印ぞね」

「「ええぇええ」」

 

 

 ==========

 

 

 

「流石敵の組織に潜入するだけあるな」

「度胸があるなぁ…、ビビちゃんが行くなら俺も…」

「まままま、待て待てサンジ!お、お前までいなくなったら…!こ、この船がもし襲われでもしたら……ヒィイッ!」

「いでぐれよぉお!」

「クェエエエー!」

「わ、分かったって」

 

 ビビの勇敢さに感心したウソップと、チョッパーとカルーは追いかけようとするサンジを必死で止める。ランブルという技が使えるならチョッパーが戦えるのじゃないか、と思ったがあまりの必死な形相に反論する間も無く留まることを決めたのだ。

 そしてもう1人のレディの様子に気付く。

 

「どうしたんだナミさん、不思議そうな顔をして」

 

 船に残るナミはルフィ達を見送ると顎に手を当てて考えていた。彼女はリィンを愛し、おかしな所で鋭さを増す危険人物。

 ナミは疑問を口に出した。

 

「あの子…これと言った用事もないのに自ら危険な島に入る子だったかしら」

 

 出会ってからを思い出す。

 見るからに平和な町、ウソップの故郷やサンジのレストランではその地に足を下ろした。用事のあったローグタウンや緑の町エルマルでも。

 しかしウイスキーピークやアラバスタのナノハナでは自ら船番を申し出て危険に首を突っ込む事も無かったのに。

 

「リィン…一体何を企んでるの…?」

 

 気紛れでは無いだろう、そう予想を立てながらナミは船室へと戻って行った。

 

 

 

 ==========

 

 

 

「トロピカルホテル…ここで聞き込みもあるですか」

 

 何より安全だしね、という言葉を隠してビビ様に同意する。殺人犯が根を張る治安の悪い町よりリゾートホテルの方が安全だ。

 一応、ビビ様居るし。

 

「カルーはお留守で良くたですね」

「流石にこういう所では目をつけられるわよね」

 

 苦笑いと共に正論が返ってくる。

 

 カルーがいなくとも目はつけられた。爆発するリンゴを配る病弱さんに殺されかけたし。しかし……チャンピョンとか言う男や処刑人ロシオ、町中を通り過ぎるだけでここらでは有名な賞金首らしい人物の名をいくつか聞いた。

 早くこの島から離れたいけど空島に行くのも嫌だ。

 

 どうにかして逃げ出す方法を探さなければ…!

 

 

 早く連絡よ来てくれと肩に乗せた電伝虫に視線を向けるも無視された。悲しい。

 

「おっ!お客様!お客様困ります勝手に入って頂いては…!」

「ん?誰だ?」

「と…当『トロピカルホテル』はただ今ベラミー御一行様の貸し切りとなっておりまして!見つかっては大変です、すぐにお引取りを!」

「よし、厄介者と把握。ルフィすぐに去るぞ」

「えぇ〜?」

 

 フェイントを入れた従業員の謎過ぎる行動に首を傾げながらも状況は把握した。ベラミーってのが誰かは知らないが下手に藪をつつかない方がいいだろう。

 

「オイ、どうした」

「ひえええっ!」

 

 引き返そうとした瞬間声が聞こえた。

 わぁ、バットタイミングぅ。

 

「どこの馬の骨だァ?」

「サ…サーキース様!おかえりなさいませ、いえ、これは」

「言い訳は良いから早く追い出して!いくら払ってここを貸し切ってると思ってんの?」

 

 頭悪そうな2人が戻ってきたみたい。

 

「そういう事だ……」

「なぁ、リー。こいつらぶっ飛ばしていいのか?」

「面倒な、ダメ。後始末誰がすると?」

「リーだな」

「ほら見ろぅ〜」

 

 キミらが起こした全ての出来事の後始末役は私がしてるんだから少しは感謝してほしい。

 我こそは麦わらの一味後始末役リィンなり!

 ……ヤベェかっこ悪い。

 

「ハハッ、生意気なガキだ。面白ぇ」

「ベラミー海賊団、ねぇ」

 

 その正体を見て少しため息を吐いた。

 サーキスと呼ばれた男の胸には一つの海賊団のマークが描かれていたからだ。

 

「…ふぅ、ルフィ。こいつらと関わるだけ無駄ぞ。気に食わぬなれば後々消すが可能」

「そうなのか?」

「オイ小娘、随分な口をきいてくれるなァ?」

「子供の妄言です、気にすると器の狭さが知れ渡るのみですよ!気の短い雑なお魚さん!」

 

 ニッコリ笑って毒を吐けば青筋をたてた。

 あぁ、やはり雑魚だ。煽り耐性が無ければ頭も弱い。

 

 これでドフラミンゴの傘下なのだから、きっと面倒くさがって名前貸してるだけだな。

 

「行くぞしよう?」

「ふはっ、そうだな。おら、行くぞルフィ」

「おーう!」

 

 手も口も出ない状態の男を置いてホテルを出る。

 ドフィさんがどれほど人に執着しないか知ってるとあれは名前を被って威張り散らしてるだけの子供だ。別名、同類とも言う。

 

 同族嫌悪って凄いなぁ。

 

「リィンちゃんに敵う人なんて早々居ないもの…。可哀想だわ、あの人」

 

 ビビ様の純粋な同情がトドメを刺したようだった。ちなみに盲目、清々しい程に私に期待値を高めるのはやめて下さい。死んでしまいます。

 

 

 

 

 

 

 

 

「モックタウンというですか、この町」

「海賊達が落とす金で成り立ってんのさ、ここは」

 

 酒場で情報収集というビビ様の提案で寄ってみたはいいが果たして情報を得られるかどうか定かではない。

 ここは前半の海の中間地点、これが後半の海の中間地点なら情報を得られたかもしれないけど。

 

「……まさに楽園」

「ん?何か言ったか?」

「何事も?」

 

 後半の海の過酷さや世界のレベルを知れば知るほど前半の海が可愛く思えてくる。四つの海ももちろんだ。

 まぁ、流石にバギーの1件は度肝を抜かれたけど。

 

「本当にこの町で過ごすのは大変そうだわ」

「いいやお嬢さん、案外いい稼ぎになる。海賊共は接待する住民をわざわざ手にかけたりしないからなぁ」

「あ、そうなんですか…」

「まともな考えをする人は少ないからなァ、生憎、ここを縄張りとして働いてる俺らの精神もまともじゃねェのさ」

 

 ビビ様の言葉に店長さんが答える。

 流石にそこまで馬鹿では無いってわけか。

 

 私やビビ様が話していると、突然ルフィとその隣の男が同時に声を荒らげた。

 

「このチェリーパイは死ぬほどマズイな!」

「このチェリーパイは死ぬほど美味いな!」

 

 バチバチと2人は睨み合う。

 どうでもいい事だったけど私は甘い物美味しいと思います。

 

「このドリンクは格別に美味いな!」

「このドリンクは格別にマズイな!」

 

 更に飲み物を飲んで睨み合う。

 どうでもいいけどほろ苦くてあまり好きじゃ無いです。

 

「「なんだとテメェ!」」

「もうルフィさん!」

 

 なんで喧嘩になるんだか……。

 ビビ様が止めようとしてるんだからやめて下さい。

 

 あれ…でも海賊になった時点で王族除名…?

 いや、でもアラバスタの対応がよく分からないからまだ王族だと考えとこう。

 

「店で乱闘はお断りだ、ほらチェリーパイ50。これ持って帰んな」

 

 店主がナイスプレーで宥める。

 するとルフィと喧嘩していた男は標的を私に移した。

 

()()()()()

「は、はぁ」

 

 やけにイントネーションが変だった気がする。

 

「妹の方の首は弱いだろうなァ」

「……は?」

 

 ルフィと兄妹だって分かってたのか?

 疑問が浮かんで消える。

 首が弱いって事は何かを狙ってる…?ではなんで3000万と言ったルフィが無視されたんだ?

 

 にしても、指名手配には顔が出てない筈なのにどうして私を狙うのか。

 

 警戒、しておいた方がいいかも。

 

「じゃあな」

 

 男はそう言って店を出ていった。

 なんか、怖いな。

 

「ん?」

 

 そんな中ゾロさんが外を気にする素振りを見せた。

 この男、実は見聞色の覇気を身につけている。便利なのに何年頑張っても手に入らない私に対していい度胸だな、よろしい貴様は避雷針係で。

 

「ココに、金髪で青いリボンの女がいるか?」

「あれぇ?私ぃ?」

 

 手配書あり(ルフィ)じゃなかった。いや、私も手配書は一応あるけど顔なしだし……。

 え、あれ誰。本当になんで私を探してるの?

 

「べ、ベラミーだ!」

「ベラミーってさっきのホテルを貸し切ってた人だわ…リィンちゃん…!」

「あの人が」

 

 ほほう、と納得する。

 あの変な男に比べたら素性がしっかりしてるベラミーという奴の方が楽だ。

 

「ウチのが世話になったみたいだなァ?気の強い女は嫌いじゃねェが、……若いな」

「うむ、私若いぞ」

「だよな」

 

 うんうんと頷き合う。

 ひょっとして勧誘目的だったのかな?もしもそうなら私は向かんでしょうよ、さっき言った通り若い。若すぎる。

 

「今の私、とっっても機嫌ぞ悪い故。絡むととばっちり食うぞ?」

「とばっちり、なァ」

 

 品定めする様に上から下まで見られる。

 

「将来性は有り、か。胸以外」

「──殺すなるぞテメェ」

「平均値と現実をキチンと見てみろ」

 

 ハイ決定この人は犠牲になりましたー!無駄に素直なお口はチャックしておきましょうね〜?

 じゃねぇと物理的に縫い付けるからな?針と糸の準備は出来ている。

 

 胸だって将来性はありますぅうう!人より成長期が遅いだけなんですぅうう!私まだ14歳ですからぁあ!

 それにだな、平均より小さいんじゃなくて平均がデカイんだよ!そこ!間違えない!

 

「リーを馬鹿にすんなよお前!リーは性格がめちゃくちゃ悪くて人の嫌がることを嬉しそうにやってくれるウチの大事な船員なんだからな!」

「「ルフィ/ルフィさん…」」

 

 兄にトドメをさされた。

 

「ルフィ酷いぞ……」

「あれ?俺間違ったか?」

「間違ってないからこそタチが悪いんだろ」

「ゾロさんも酷い」

「あ、えっと、……ごめんなさい」

 

 仲間(仮)が徹底的に私をいぢめてくる…。

 イジメ反対!仲良くしましょう!

 

「ところでぇ〜、ベラミーさぁん」

「うわきも」

「ゾロさんはいい加減私への塩対応を辞めるした方がいいと思うです。モテるませぬぞ、このマリモ頭が!海にぞ沈め!」

「テメェだって同じ穴のムジナじゃねーか!この極悪非道の外道悪知恵鬼畜娘!」

「長ぁい!悪口が長いぞりんちょ!」

 

「で、なんだ評判最悪小娘」

「黙るしてモブ顔の人!」

 

 世界は私に厳しいと思う!

 

「はぁ…、私大人、我慢可能」

「何戯言を」

「話が進まぬから黙る」

 

 ゾロさんを本気で黙らして本題に移る。

 そうだよ、私達一体何のためにジャヤに居るんだよ。

 

「空島への航路、知りませぬか?出来れば坂ぞ緩やかなる航路」

「………空島ァ?」

 

 ベラミーが首を傾げた瞬間、酒場には爆発的な笑いが起こった。

 

「だって…記録指針(ログポース)は空を向いて……」

「あめェな女。記録指針(ログポース)ってのはすぐにイカれるモンなんだよ!」

 

 ビビ様が笑われた事に顔を赤くしながら反論するが、どうやら無意味に終わってしまった様だ。

 

 やはり妄言扱いか。

 よろしい。汚名返上名誉挽回、私の言葉の威力を喰らえ。

 

「馬鹿が多くて困りますぞね〜」

 

 飄々(ひょうひょう)とした態度で言ってやれば、その場の空気がピシリと固まる。そこらから睨まれているみたいだね。ひゃ〜っ、怖い怖い。前半の海の腑抜けた人達怖いよぉー。

 私に沢山の視線が集まる。

 

 いいぞ、注目してよし。

 空島を絵空物語と勘違いしてる馬鹿共には少々お話が必要だ。

 

「まず、空島という存在。空島はそもそも海軍公認とも言えるです」

「え…そうなの!?」

「えぇ!海軍本部には空島出身者が数人いるます故!存在すると証明できぬ方がおかしきです」

 

 私は笑顔で告げる。

 

 空島が存在してる事も元々知ってる。

 話は残念ながら聞いた事ないけど。

 

「そして!後半の海にはご存知なる方が多数!…赤髪や白ひげはもちろん海賊王だって行くした、と当時の船員は語るますた!いやぁ〜、これが妄言だとおっしゃる方々は素晴らしい度胸ぞ持つした人々です!私、尊敬しますた!」

 

 言葉って怖いよ、『力のある者が認めたこと』を否定する事は『力のある者を否定する事』と同意義になるもの。

 『海軍は海賊を悪とする』って言ってるのに『海賊は正義だ!』って言い始める人間が居たらそいつは海軍の敵認定まっしぐらだ。

 

 ま、それが海賊とも言う。

 

「流石、偉大な方々……。私には恐れ多くて出来ませぬ。後半の海には航路自体存在する言うのに…!私、驚くますた!」

 

 わざとらしく肩を竦めて見せると周囲の顔は怒りで真っ赤に染まった。敵意や殺気がビシビシと突き刺さる。

 

「リ、リィンちゃん……」

「オイオイ」

「にししっ!リーはやっぱり性格悪いなぁ!」

 

 そこ、嬉しそうに言うんじゃありません。

 

「海賊が夢を見る時代は終わったんだよ!そんな妄言…」

「妄言かどうか、上に聞くしてみれば?」

「はァ?」

 

「そう!ドフィさん辺りに!」

 

 ドフィさんが空島を知ってるのかどうか分からないが少なくとも私が絡んでいるなら話が繋がりはする。

 ベラミー海賊団と私が接触した証拠になってくるんだ、私にとってキミは証人だよ。

 

「喧嘩売ってんのか…」

「まさか!……負けるしたら、終わりでしょう?」

 

 ニコーっと愛らしい笑顔で忠告するとベラミーは顔を青くさせた。これは一種の優しさですよ、や、さ、し、さ。

 私のことを覚えただろう?私が腹立つだろう?喧嘩を売ってはいないがキミが喧嘩を売れば私は正当な理由で反撃出来る。

 そして更にこの話が繋がるのはドフィさんだ、これだけ観客がいるのなら。

 

 恐らく、ドフィさんは負け犬以下には興味を示さない。負ければそこでおしまい、それは私や貴方みたいな雑魚でも知っているでしょう?

 

 現在恐れを抱いてる私達に負ける可能性あるなら、喧嘩、売れないよねぇ?

 

「特に情報無し。さ、ルフィ、戻るましょう!」

 

 

 ドンマイ、とルフィがベラミーの肩を叩いていたのが個人的に気に食わぬでござる。

 

 




矛盾だらけの行動。
行きたくないけど積極的に情報を集め注目を浴びる。さて、リィンは何を企んでいるのやら。


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第129話 絵本の語る言葉

 

 

「なんだか厄日ぞ」

 

 『人の夢はお笑いだァ!』だとか何とか言ったチェリーパイ男に絡まれ、ニコ・ロビンの持ってきた地図の場所へ行こうとすると人類のなり損ないみたいなオラウータンに絡まれて、船は壊れるわ急いで逃げるわてんやわんや。

 目的地に辿り着いてもハリボテの家しか無くて脱力している。

 

 ほんと、空島に行くためだけにどんだけ体力を浪費しているんだか…。諦めた方が早いと思う。

 

「見て、少し古いけど絵本が有ったわ」

 

 ビビ様が切り株に置いてある絵本を手に取った。

 

 【うそつきノーランド】?どこの絵本だ?

 

「ヘェ、懐かしい」

「サンジ君知ってるの?…──でもこれ北の海(ノースブルー)って書いてあるけど」

 

 ビビ様から絵本を受け取ったナミさんが後ろを見て言う。ヒィッ、ツッコマナイデ、ツッコマナイデください。

 

「まぁ、俺は(ノース)出身だからな」

「初耳だ、俺はてっきりお前も(イースト)かと」

「ハハハ…っ」

 

 サンジ様は苦笑いで吹き飛ばす。

 しかしそれに首を傾げるのはビビ様だった。

 

「でも東の海(イーストブルー)北の海(ノースブルー)赤い土の大陸(レッドライン)を越えなければ入れないわ、普通の引越しってそこまでするものなの?」

「……」

 

 思わぬ質問にサンジ様が固まってしまった。

 さすが腐っても王族、見解が鋭い。

 

「まぁ、私も良く越えますし」

「リィンちゃんのは越えると言うか…」

「五つの海ぞ練り飛ぶは私、小旅行気分ぞ?」

「お前は伝説を作り出してくからな」

「私、一般常識人。伝説良くなき」

「何をいまさら」

「ま、どうでもいいさ。とりあえずこの絵本は(ノース)で有名でな、童話っつっても実在した話だって噂が……。実在、したとか……」

 

 家の中に勝手に入っていったルフィすらも視線を私に向けてくる。おい、なんだその目は。

 

 男性陣全員が冷たい視線を向けてくる。いや、サンジ様は苦笑いだけど。女性陣は笑顔だったり面白そうなものを見る目だったりそっと視線をそらしたり。

 

「な、中身気になるぞ〜!ナミさん読み聞かせすて!」

「リィンったら仕方ないわね!お姉さんが読んであげるわ!膝の上に来なさい!」

「あ、それは勘弁すて」

「………【むかしむかしの物語】」

 

 

 ==========

 

 

 

 むかしむかしの物語

 それは今から400年も昔のお話

 

 北の海のある国に

 モンブラン・ノーランドという男がいました

 

 探検家のノーランドの話は

 いつも嘘の様な大冒険の話

 

 だけど村の人には

 嘘か本当かも分かりませんでした

 

 

 ある時ノーランドは旅から帰ってきて

 王様に報告しました

 

 「私は偉大なる海のある島で山のような黄金を見ました」

 

 勇気ある王様はそれを確かめるため

 2000人の兵士を連れて

 

 偉大なる海へと船を出しました

 

 大きな嵐や怪獣との戦いを乗り越えて

 

 

 その島にやっと辿り着いたのは

 王様とノーランド

 それとたった100人の兵士達

 

 しかしそこで王様が見たのは

ㅤ何も無いジャングル

 

 ノーランドはうそつきの罪で死刑になりました

 ノーランドの最後の言葉はこうです

 

 「そうだ!山のような黄金は海に沈んだんだ!」

 

 王様達は呆れてしまいました

 

 もう誰もノーランドを信じたりはしません

 ノーランドは死ぬ時まで

 嘘をつくことを止めなかったのです

 

 

 

 ==========

 

 

「さて、この絵本には何かしらの真実が隠されて…」

「ウソップさぁん?」

 

 読み終わった瞬間間髪入れずに発言したウソップさんにジトっとした視線を送る。

 

「これを史実だと鵜呑みに出来やしねぇさ」

「…だな」

「実在した話だとしても絶対歪められてるよな」

 

 うんうんと頷くそこ男3人!どういう意味ですかそこになおれやゴルァ!

 

「クエッ、クエー」

「なんで北の海の絵本がこんな所にあるんだろう…、だってさ。カルーはよく気付くなぁ」

「クエ〜…」

 

 獣コンビが仲いい。

 にしても本当にカルーが人間より鋭いってどういう事よ。

 

 最近キミ達が私の本性に気が付き始めて私は肩身が狭いですわ。……私は常識人になりたい。

 

「ぎゃああっ!!」

 

 バシャンっ!という音と共にルフィの姿が消える。

 ナミさんやビビ様が驚いた声を上げウソップさんは非難の声を上げた。そうすると海から人が上がってくる。

 お前らどんだけ上がりたいんだ。その気持ちがあれば空島へだって行けるさ…頑張っていってこい。

 

「──狙いは金だな、死ぬがいい」

 

 泥棒と勘違いされた様なので訂正をしよう。

 

「金で情報が手に入るのか馬鹿野郎!世の中にはなぁ!金でも動かされるすてくれぬ人種が沢山いるのぞ!?」

「あ、はい」

「第一!ウチの兄はどうぞ!現金よりも肉を欲し冒険を望む大馬鹿野郎が多いから困るのぞ!いい加減にすて!?」

「それは俺の関係する所ではないと思って…」

「黙る!!!」

 

 困らせるな、とゾロさんに叩かれると栗頭の人が倒れた。ま、まさか覇王色の覇気が開花したとでも──

 

「とりあえず家の中に!多分、潜水病だ!」

 

 ──チョッパー先生が今日も先生してた。

 

 

 

 ==========

 

 

 

「あ」

「どうしたぞゾロさ…──まさか誰か」

「多分あの2人だ」

 

 ゾロさんの声で全員が警戒する。

 見聞色の覇気ってやっぱり便利だよなぁぁあ!

 

「「おやっさん無事かぁ!」」

 

 膝の上に乗せたチョッパー君を盾に使う。ギャーギャー喚いているが知るか、簡易盾なんだ。

 

「行ってらっしゃい!!」

「ぎゃぁああぁああッ!」

 

 盾って、投げるものでしょう?

 

 友達はボール、その言葉通りチョッパー君は人類なり損ないコンビに向かって飛んでいった。

 

「「「鬼!」」」

 

 私、ちょっと耳だけ老朽化したみたい。

 

 

 

 

 場は混乱状態に陥ったものも、栗頭さんが起きてくれたので全員一旦落ち着いた。

 

「猿山連合軍、ね」

「迷惑かけたな、お前ら」

「潜水病はアンタが原因かもしれねぇが実際迷惑かけたのはこの金髪馬鹿の方だから気にするな」

「ゾロさんが辛辣ぅ」

 

 この人はこういう生物だって割り切ろう。

 

「で、空島に行きたい、だったか」

「私単独でなれば行く可能ですが、個人的に嫌ですので。いい方法が存在するなれば教えるて欲しいです」

 

 お願いするとルフィが驚いた顔をした。

 

「え、リー行けるのか!?」

「……………ルフィは馬鹿ですよね」

「バカデス、ゴメンナサイ」

 

 蔑む視線を送るとルフィは頭を下げる。

 上舵って言ったのはキミだよね?私空飛べるよね?むしろそれを前提として言ってないんだったら自分の妹がどんだけチートだと思ってんの?私はチートになり損なった偽物チートだよ?

 

 上っ面しか整えず姑息な手段しか用いれない様な雑魚に何を期待してるんですかね〜。……自分で言ってて悲しくなって来た。止めよう。

 

「ハッハッハッ!空島、信じてるのかお前ら」

「あるかないかは聞きませぬ。行けるか行けぬかの可能性を聞いてるです。私の船長は、行くと決めるした」

 

 私は行きたくないから行かないけど!

 その言葉を心の中で叫びつつ返答を待つと栗頭さんはルフィを一瞬見た後うっすら笑い言った。あると言っていた男を知っている、そいつは伝説的な大嘘つきとして一族を笑いものにした、と。

 

「うそつきノーランド」

 

 このジャヤが絵本の舞台らしく、栗頭さんは彼の子孫だそうだ。きょ、興味ねぇ〜〜!!

 

 地殻変動の海底沈没説を訴えたけど法螺(ほら)吹きだと言われ処刑されていき、その子孫は大笑い。

 

「見ず知らずの他人から罵声をあびる子供(ガキ)の気持ちがお前らに分かるか!」

 

 名誉の為に頑張っているのか、とビビ様が聞けばそう怒鳴る。王族、王族ですからやめて上げてください。

 

 するとウソップさんが真剣な顔で肩を叩いて私を呼んだ。

 

「──いいか、お前もうそつきノーランドの作者と同じような立場なんだぞ。クロコダイルの子孫は永遠と笑いものにされていくんだぞ!?」

「私のは美談ですー!むしろ永遠と崇めるされる立場になるのですー!これは、ぜ、ん、い!それに、名前は一言たりとも出すてませぬ!」

「……お前らなぁ。人が話してる最中にそっちの話題で盛り上がるんじゃねェよ!」

 

 栗頭さんが呆れた声を出す。

 おいウソップさんお前のせいだぞ。

 

「大体同じ事してるしコイツ」

「全く違うーー!」

「なんだ、嬢ちゃんは絵本作家かなんかか?」

 

 首を傾げながら聞かれる。

 答えてあげましょう私の正体を!

 

 そう、私は!

 

「美少女作──」

「只の悪魔」

「堕天使の名に相応しい」

「鬼」

「鬼畜」

「私の天使ね」

 

 ──麦わらの一味なんて大っ嫌いだ!!!

 

 とりあえず人類なり損ないコンビが絵本のファンだと言われたので私にもファンが出来るといいなぁ!!

 

 

 

 

 ……ところで、栗頭さんの名前って何?

 

 

 

 ==========

 

 

 

「まずお前らに知っている事を話す」

「はい先生!私諦めるした方がよろしくですか!」

「まず聞け」

 

 外でチョッパー君を膝に抱き正座をしながら話を聞く。

 ゾロさんは居眠り中でサンジ様とビビ様はご飯を作っている最中だ。呑気な。

 

「この辺りの海では真昼間だってのにいきなり〝夜〟に変わる現象が起こる」

「あ、あったぞ、それ!」

「おおう!あれはびっくりした…!巨人みてぇなでっかいのも現れてよ!巨人ってあんなにでかいのか?」

「俺たちに比べりゃデカイが、巨人はもっと小さい。まぁ、巨人の事は置いとけ。それよりもその雲の正体だ」

「何万年と変わらぬ姿で漂うぞ雲です?」

「答えを言うなよ答えをよ」

 

 ズバリと言ってみせると栗頭さんは肩を落とした。

 ルフィはキラキラした目で見てくる。

 

「そいつの名前は積帝雲。〝雲の化石〟と呼ばれる極度に組み重ねられた雲の影だ」

「クエーー!クエッ、クェ…?」

「空島は雲の海が広がってるって聞いた、もしかしてそれがそうなのか?だってさ」

「あるとしたならそこだろうな」

 

「スゲェっ!行くぞ空島!」

「行き方が分かんないって言ってんでしょうが!存在することはリィン情報で分かってんの!」

 

 ナミさんが盛り上がったルフィを殴り飛ばす。

 この人武装色身につけてんじゃねぇの?

 

 栗頭さんが呆れた目で一味を見つつここからが本題だと話し始めた。命をかけられるか?と。

 

「〝突き上げる海流(ノックアップストリーム)〟に乗り積帝雲まで向かう」

「なんて馬鹿な」

 

 簡潔に終わらせた言葉に遠い目をする。あの海流を利用する方法が一番確実なのかもしれないけど船が木っ端微塵になりますよ。

 

「残念無念また来世!ルフィ〜、記録(ログ)が貯まるしたら次の島へgo!」

「待って待って、突き上げる海流(ノックアップストリーム)って何?」

 

 その存在を知らないナミさんが手を上げ質問する。

 

「そうだな…簡単に言えば災害だ。おめェらの考えているような爽やかな空の旅とは行かんだろ。時間にして約1分間、天に突き上げる真っ直ぐで巨大な大爆発が起こるってわけだ」

 

 原理は調べられていないが多分空洞の中に海水が流れ込み、熱せられ爆発するとか。

 

「大渦の後、数秒の静かな波が存在するです。そこからドーンッと天国の旅。あれは海王類でも死ぬですね」

「え、見たことあるの?」

「近き名前を持つ海流なれば務めるすていた場所の傍にありますた故。ジャヤ産は見たことありませぬ、存在不明ぞ」

 

 海軍本部マリンフォードからシャボンディ諸島の直線上にその縮小版が存在している。あれは山なりに伸びる海流だったからそこまで危険じゃないが後半の海ドレスローザ付近であった10本位連続して起こる飛び回る海流(ジャンピングストリーム)は遠目で見た事ある。

 海坂という斜めの海とその波から垂直に飛び上がる突き上げる海流(ノックアップストリーム)が合わさった現象だそうだ。

 

 斜め45度に飛んでいったよ。それも雲を突き抜けて。

 

「とりあえず無理は無理ですね。あの海流に耐える可能の船が無い、そして積帝雲に重なるタイミング、はたして積帝雲ぞ上空にてまことに空島が存在するかも不明」

「だ、だよな…無理だよな!」

記録(ログ)の貯まる時間も存在するです。空島旅行はあまりにも無謀過ぎるた」

 

 勝った。

 思わず心の中でコロンビアポーズを取る。

 

 空島の決行は無理なのだ。探して、探して、死力を尽くした上で決行不可能だと言われてしまえばルフィだって諦めるさ。

 

「ルフィ、たった一度の無茶で仲間を失うつもりです?私は、まだ生きるたい。死にたく無い。ルフィ…生きるして」

 

 諭すように言う。

 ごめんねルフィ!超残念だけど!諦めてくれ!逃げ道は全て塞いだから!最終判断を下してくれ!(サムズアップ)

 

 

「──船の修理はマシラとショウジョウに任せておけば大丈夫だし積帝雲と海流が被るのは明日の昼だ。準備しとけよ」

 

 

「余計な真似を畜生ッッッ!!!!」

 

 

 ルフィの望みを叶える世界が憎い。

 




『人の夢は終わらねぇ』いつの間にか笑われる事になってた。空耳ってすぎょい。
ひし形のおっさん(モンブランクリケット)の自己紹介って実はないんですね。

次回 絶対に、許さない。(精神的な意味で)


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第130話 さようなら行ってらっしゃい

挿絵は後書きにあります


「大探索!真夜中の!鳥捕獲大作戦in麦わらの一味!うわぁい!パチパチ!」

「やけくそじゃねーか」

 

 辺りがやけに薄暗く、ジャングルの印象を受ける森の中。

 南の方角を示すためのサウスバードをゲットだぜ、する為に虫あみを片手に探索に来ていた。

 

「私怒る!何故真夜中!?」

「知るかよ!いや知ってる、どんちゃん騒ぎしてたせいだろ!」

「ご存知済みぞこの鼻!」

 

 宴の途中で船の強化とサウスバードの存在を思い出して現在、もう私眠たい。

 

「よーし、網は3つ!3班に別れて探すぞー!」

「じゃんけんで決めよう」

「えっ、出来るなればロビンさんとルフィは別の班がよろしくと思うですが」

「どうして…?」

 

 サンジ様の提案に異論を唱えるとビビ様が首をかしげて疑問を私にぶつけた。

 

「サウスバードは鳥です」

「ジョ〜〜〜〜」

「はいどーも」

 

 返事をする様に変な鳴き声が聞こえたが軽く流す。

 

「ルフィもロビンさんも能力者。しかも手を伸ばすと手を生やすて関節技(サブミッション)ぞ。鳥の捕獲には比較的最適なる能力。よって別の班が効率よしと」

「ふんふん、なるほどなるほど」

 

 ルフィが分かったかのように頷くけど絶対分かってないな…?苦渋の選択だけど、私が選ぶ選択肢はこうだ。

 

男子中学生チーム(ルフィはん)。ウソップさんとチョッパー君。チョッパー君の野生の勘とウソップさんの狙撃の腕なればルフィのサポートも完璧だと」

「よろしくなー!」

「お、おう!」

「任せろ!」

 

 本音は『うるさいやかましいだからとりあえず一つにまとめておけ、迷子になってもチョッパー君の鼻さえあれば帰ってこれるだろうチーム』だけど。

 

「次、博学チーム(ロビンはん)。ナミさんとゾロさん。女性の鋭さとゾロさんの見聞色の覇気を有効活用。ナミさんは2人に振り回すされても結局我が強き故に上手く立ち回る可能かと」

「ふふ…理にかなっているわ」

「リィンと一緒じゃないだなんて…っ!」

「航海士さん良ければ宝石でもどう?」

「いただくわロビンお姉様ぁんっ!」

「おい。これのどこが上手く立ち回れるって?」

 

 ゾロさんのツッコミは無視する。だって本音は『消えてくれても良心が痛まない出来れば消えて欲しい、心への切れ味抜群チーム』だからね。

 

「最後、重鎮チーム(リィンはん)。サンジさんとビビ様とカルー。私の能力がどれほど通用可能か不明ですがスラッシャーの使用可能のビビ様も居るですし彼女の護衛はカルーとサンジさんが……。まぁ、余り物ですね」

「俺は…このチームで心から良かった…っ!」

「よ、よろしくお願いします…」

 

 『いてもいなくても不安だったら自分の手の届く範囲にいてもらおう、責任問題生じてしまうので出来るだけ大人しくしてて下さい王族チーム』です。そういえば最近サンジ様がナミさんに好意をぶつけにいかない。何故だ。

 

 

 消えて欲しいチームには出来れば本気で消えて欲しい。特にナミさん、キミだよ。ニコ・ロビンより脅威的なんだよ…!私限定で鋭くなるスキルがレベルアップしたら私バレちゃう…!

 

 

「よし、じゃあ変な鳥をぶっ飛ばすぞ!」

「おー!…じゃねぇよ!捕獲だろ!」

 

 Mr.ツッコミ魂は流石です。

 

 

 

 

 ─short1 ルフィ班─

 

 

 暗い森の中、ルフィ班はサウスバードの探索を。

 

「見ろよルフィ!ミヤマだ!」

「うほぉっ!すんげぇえ!ここは宝の山かぁ!?」

「ミヤマ?ミヤマって凄いのか?」

 

 否、昆虫探しで盛り上がっていた。

 

「アトラスも見つけたし…!後はカブトムシだな!」

「世界中の憧れの昆虫なんだぜチョッパー!…──って違うだろ!俺達の探すのは鳥だ鳥!」

「でも見当たんねぇぞ…?」

 

 目的のモノと違うモノしか見つけられない野生な男共。ここで野生を働かせてくれと願う者が居ないのでキョロキョロ見渡すばかりだ。

 

「蜂?」

「蜂だな」

「そうだな」

 

 ボトリと何かが落ちる音。それに目を向けると全員同じ結論を出した。

 

「「「逃げろぉぉ〜〜〜っ!」」」

 

 繰り返す事何度目か。

 3人の顔は蜂に刺され赤くなっていた。

 

 

 

 

 ─shot2 ロビン班─

 

 

 

「きゃぁあっ!ムカデ!ゾロ!」

「うるせぇなっ!」

 

 気持ち悪い系の虫は無理。と申告したナミはゾロを盾にしながらロビンと共に鳥を探す。

 

「っ!」

 

 しかし突然ゾロが顔を上げると道の先へと走り出した。

 

「ゾロ?どこに行くの?」

「あら、剣士さん。険しい顔してどうしたの」

 

「戻る」

「バカ!サウスバードを捕まえなきゃならないのにあんたが居ないと私はどうやって守られればいいのよ!」

「テメェで守りやがれ!」

 

「でも剣士さん」

「あ?」

「そっちは森の奥よ?」

 

 

 

 ─shot3 リィン班─

 

 

「大丈夫!何があろうと2人は俺が守るぜ!」

「ありがとうサンジさん。でも、大丈夫。私だってやるわ。初めての冒険らしい冒険ですもの、やる気だけは誰にも負けないつもりよ!」

「ハハッ、頼りにしてるぜ」

 

 胸を張るビビとそれに応えるように笑うサンジ。

 班長のリィンは緊張で会話に加わるどころでは無かった。彼女の弱点の一つ、お化け。

 

「(出そうで怖いッス…無理……)」

 

 これならお留守番という手を使えばよかったと後悔したが仕方ない。後悔は基本後からやって来るものだ。

 

「じょ〜〜〜!」

「クエーーっ!」

「じょ〜〜…じょーーー…」

「クエ?くえぇ…!クエッ!」

 

「「「…………」」」

 

 鳥の鳴き声とカルーの鳴き声が会話をしているように思われる。

 

「……クエッ!」

「せ、説得しちゃったの…?」

 

 カルーのドヤ顔と共に黄金と同じ姿をしたサウスバードが現れ、人間3人は死んだような目をしたのだった。

 

 

 

 =========

 

 

 

 

 

 大捜索とても精神的に疲れた、と思いながら栗頭さんの所へ戻れば現場は無茶苦茶だった。

 

「ひし形のおっさん!」

 

 倒れた栗頭さんをルフィが介抱し、海に落とされたなり損ないその2をサンジ様とチョッパー君が拾い、なり損ないその1をビビ様が手当する。ウソップさんはボロボロになったメリー号に涙を流して憤慨してる様だ。

 

「……遠くに、船が見えるぞりん」

「カッコつけたかったのか分からねぇが語尾のせいでクソほどダサくなってるぜ」

「黙るしてゾロさん」

 

 目を細めて呟くと痛い所を指摘された。うるさいな。

 あ、島の影に隠れてしまった。

 

「船は判別出来たか?」

「出来ぬ。ピンクの船のみ把握ぞ…」

 

 誰だか分からないが良くやった。良くぞ、良くぞ空島への道を潰してくれた。

 私、今こそ襲撃を感謝した日は無い!

 

「ルフィ!──金塊が、奪られてる…!」

 

 家の中に入ったナミさんの声。しかし、栗頭さんは特に気にした様子は無い。

 

「そんなのはってなんだよ!オッサン体がイカレるまで海に潜り続けてやっと手に入った金塊だろ!」

「黙れ…いいんだ…とにかく聞け」

「その前に休むしろ」

「いいから聞け」

「休む」

「誰かこの糞ガキ黙らせろ…!」

 

 栗頭さんは青筋を立てて言い放った。

 だって、間に合わせるつもりでしょう?リィン分かるもん。だから嬉々として私を拘束しないでくださいナミさん。うわこの人力強い。

 

「猿山連合軍総出でかかりゃあ、あんな船の修繕強化は朝までに間に合わせられる。いいか、お前らは必ず俺達が空へ連れていってやる…!」

 

 あ、要りません。

 

「ルフィ」

「ん」

 

 ゾロさんが示した場所にはドフィさんのマークが描かれてあった。ほほう、よくやったベラミー海賊団、ルフィを馬鹿にした事も笑った事も許してはいないが褒めて遣わす。

 

「ってまてぇえい!何をするたもりぞルフィ!?」

「つもりじゃないのか?」

「そうだけど、そうでなく!!」

 

 なんで自ら危険に飛び込む様な真似をするのかな!

 

「海岸に沿っていけば昼間の町につくよなぁ?」

「えぇ、着くわ」

 

 ニコ・ロビンが頷くとルフィはパキッと指の音を鳴らす。

 

「朝までには戻る」

「ま、まつしてよぉお!」

 

 ど、どうする行動が一番いいんだ!?

 

──ぷるぷるぷるぷる……

 

 私の懐から電伝虫が鳴いた。

 

「……ルフィ、手は出さぬが私も行くぞ」

「おう」

 

 行動は決まった。

 目立つの上等、ひとまずボコろう。ごめんね。

 

 

 

 ==========

 

 

 

「た、大変だぁあっっ!」

 

 一人の男が酒場に飛び込んで来ると店の中の客は迷惑そうに片眉を上げたり、関係ないと酒を飲んだり、それぞれの反応を見せた。

 

「なんだァ夜中に」

「昼間笑った奴は今すぐ逃げ…っ、ベラミー!あんたまだ居たのか…!殺されるぜ!早く逃げた方がいい!」

「俺が…誰に殺されるって?」

 

 ベラミーは不機嫌に聞くと、男は息を飲み震える声で言葉を紡ぐ。嗚呼怖い、と。

 

「昼間の麦わら帽子の奴…!賞金首だったんだよ!」

「ヘェ…、幾らだ?300万あれば上等だろ」

 

 ベラミーの言葉に周囲は笑う。

 賞金首だということには驚いたが恐るるに足りない、なんと言ってもこの場には大型ルーキーと言われたベラミーがいる。余裕の表れだった。

 

 しかし男の言葉で衝撃を与えることになった。

 

「麦わらの男が1億ベリー…、だったんだ。緑髪の方は6000万…。あんたより高いんだよ、ベラミー……!青髪も金髪も全員が賞金首なんだ!」

 

 言葉を理解できない者達が思わず固まる。

 それは昼間にいた者達であり、1億の額を聞いたこと無い者達だった。

 

「ハハハッ、バカ言うな!オイオイオイ!当の本人らを見ただろう!空島へ行くとか存在してるとか腑抜けたことを抜かす平和ボケしてる様な奴らだぜ…!?」

 

 ベラミーは冷や汗を流しながら自分に言い聞かせる様にそう言い放つ。

 彼は1度畏怖していた、金髪の少女に。

 

「それに大体!1億なんて額なら新聞沙汰になっているはずさ!しかしどうだ!麦わらなんて名は聞いたことねェ!」

 

 そう言って男の持っている手配書の束を奪う。

 

 ──ああ、なんだ。一番恐れてしまった少女は高くないじゃないか…!

 

 その時だった。

 

──ボゴォンッ!

 

 酒場の壁の一部が破壊されたのは。

 

「どうも、1億の男がご指名ぞ。ベラミーさん?」

 

 少女が破壊したとは思えないが、壁のあった場所に拳を握りしめて微笑む金髪が確かに居た。

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 ルフィを追うように箒で飛び、目的の場所へと付いたルフィと私は、ひとまずベラミーを外へ呼び寄せる為に私だけで行くことにした。

 無機物を操る要領で酒場の壁を破壊し、それに合わせて拳を振るっただけで怪力リィン少女の出来上がり。

 ハッタリ、詐欺師、どうとでもいえ。恐れが勝利に繋がるからな。

 

 

 しかしまぁ、タイミングが心から良かった…!

 ルフィは1億になってるみたいだな…、そりゃ仕方ないけどね。センゴクさんもアラバスタ後の電伝虫で『賞金、上げるからな』って堂々と宣言してたし!でも1億にいくとか聞いてないよパパ!元々3000万から1億…振り幅凄っ!

 

「ひし形のおっさんの金塊、返せよ」

 

 ひゅー!ルフィカッコイイ!うちのお兄ちゃん最高ー!テンション爆上がりしますぜー!

 

「返すも何も、アレは俺が海賊として奪ったものだ」

 

 ベラミーは足をバネにして屋根の上へと跳躍し、ルフィと睨み合う形になった。

 

 バネバネの実か、なるほど。

 ルフィとよく似てる能力だな。

 

「本当に…手配書の……」

「おじさん、それ、私にも見せるして?」

「あ、あぁ」

 

 おじさんが手配書の束を持ってるみたいなので譲ってもらう。どうやらルフィは崩れる屋根から地面へと場所を移したみたいだ。

 

「え…?」

 

 DEAD(デッド) OR(オア) ALIVE(アライブ) 〝麦わら〟モンキー・D・ルフィ 懸賞金1億ベリー

 DEAD(デッド) OR(オア) ALIVE(アライブ) 〝海賊狩り〟ロロノア・ゾロ 懸賞金6000万ベリー

 

 変わらない写真のルフィ、そして血を流した険しい顔のゾロさん。ここまではおかしな所が無い。

 

 ONLY (オンリー) ALIVE(アライブ)〝砂姫〟ビビ 懸賞金9000万ベリー

 

 背景が分からない様にしてあるが雨の中笑っているビビ様。少し低い気もするが船長より高くして変に狙われるよりはいいだろう。これも問題ない。

 

 

「〝スプリング跳人(ホッパー)〟!」

 

 壁を足場に飛び回る音をBGMに最後の1枚を手に取る。

 

 

 問題は残りの1枚だ。

 

 

 ONLY (オンリー) ALIVE(アライブ) 〝堕天使〟リィン 懸賞金300万ベリー

 

 

 そこには空を背景に笑う金髪の──つまり、私の姿。

 

 

 

 あまりにもおかしい。

 私の初頭手配額は2000万。高くて嫌になって二つ名に叫んだ記憶がある。

 生け捕りのみに変わったのも、賞金額が下がったのも、おかしすぎる。こんな怪しまれる様なことセンゴクさんは絶対しない。

 

 

 考えろ…何かある筈だ…。

 こんな風に無理矢理額を変えることが出来て、私を生かしておくべきと判断し、海軍を使える…。

 

「あ、これは死ぬる」

「リー?終わったぞ?行こう!」

「誠に?」

 

 思い当たった人を思考の端に蹴り飛ばすとルフィが顔を覗かせていた。肩から下げてるのは麻袋、恐らく金塊入りだろう。

 

「あぁ、そうだ」

「どうしたんだ?」

「サーキスさん?」

「………サーキースだ」

 

 最初に絡んで来た、胸にドフィさんのマークを入れてある人に視線を向けると警戒心バリバリ状態で名前を指摘された。ごめん。わざとじゃないんだ。

 

「ドフィラム…えーっと、天夜叉に伝言」

「は?」

 

 かっこよく決めたいのに名前間違いのせいで決められない、超悔しい。

 

「『覚悟しとけファッションセンス最悪野郎、おまえ、わに肉でバーベキューの刑な』と」

「言えるかぁあ!?」

「あなたの可愛いダーリンよりっと、よろすくー!」

 

 いくら糸で応急処置されてようが、私はまだ未だに痛めてる内臓と助骨の事許してないからな。

 

 

 

 ==========

 

 

 

「予定よりも早く現れたぞ!」

「積帝雲!十時の方向!爆発の兆候だ、渦潮をとらえろ!ひくなよ!」

 

 慌ただしい三つの船。

 ぼんやりと眺めながら空旅へと向かう仲間を見ていた。

 

 予想より早く現れた積帝雲、しかし目標地点まで辿り着き十分な時間があったので余裕を持って海流に合わせられるそうだ。

 やる事、無いよね。

 

「うわぁっ!」

「波が急に高くなった!」

 

 自然災害だからか、船は大きく揺れる。

 船酔い防止の為私は箒に乗ってるから揺れようが割れようが関係ないけど。

 

「流れに乗れ!中心まで行けばなるようになる!」

 

 船の何百倍もの大きさの渦に向けて船は進む。

 海王類が波に喰われてしまおうとも。

 

 

 ………え、怖。自然災害怖っ。

 

「も、もう勘弁しでぐれぇええ!帰りでぇえ!」

「ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"!」

「詐欺よ詐欺…っ!」

「クェエエーーッ!」

 

 騒がしく叫ぶ二人と二匹。

 やけにワクワクしているルフィとビビ様が印象的です。

 

「凄い…夢のまた夢の島への冒険!」

「楽しみだな、ビビ!」

「えぇ!リィンちゃんもそう思わない?」

「………………そう、なのでは?」

 

 この姫様、ルフィと同じタイプだったみたい。

 

「えっ?」

 

 ナミさんの驚く声。そして大渦は姿を消した。

 

「なんだなんだ?」

「あんなにデカかったのに!?」

「違う…もう始まって───」

 

 ここからが本番なんだろう。

 その時、男の声が聞こえた。

 

「まてぇええ!ゼハハ!お前の1億の首、貰いに来た!」

「……どういう事だ?」

「ルフィ、1億。ゾロさん、6000万。ビビ様、9000万。これがこの船の賞金首。はい、ナミさんこれ手配書」

「え、あ、ありがと…う?」

「後ろで騒いでるピーチパイ男は無視しましょう!ひとまず、麦わらの一味は空島観光です!」

 

 トン、と私は一足早く空へ飛ぶ。

 

「行ってらっしゃい、麦わらの一味。帰ってくるしたら、電伝虫ください」

「リー!?」

 

 箒で空中に留まると海は盛り上がって、柱の様に積帝雲に向かって突き上げていった。

 

「…───視界が、死ぬ」

 

 アレに参加しなくて本当に良かった。

 サボから電伝虫がかかって来なければ高所に行くことになってた。

 

 

 

 さて、お仕事と行きますか。

 

 

 






【挿絵表示】


【挿絵表示】


話数をキリのいいところで切りたくて無理やり詰め込んだ感満載でしたね。とりあえず黒ひげの扱いが薄い…。
空島編は原作には無いイレギュラー要素(ビビ&カルー)が一緒に。
そしてリィンは一時離脱。

察しのいい人は察せると思いますがアラバスタ編第124話雨音が響いてるで少し出てきたヴェズネ王国のお話に入ります。つまり完全オリジナルストーリー。
全部で9か10話くらいですが空島と同時進行で物語は進みます。オリジナルストーリー苦手な人が居たらすみません!


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ヴェズネ編
第131話 挫けそうになった時は追い討ちが来る


 

 

「は〜〜〜〜〜っ!ここは何なんだ!冒険のにおいがプンプンすんぞ!!」

「んん〜っ!気持ち良いぞ!」

「ここなら海軍も追って来ないし羽を伸ばせる!ビーチなんて久しぶりっ」

 

 白い白い海の上。

 麦わらの一味は空島観光へとやって来ていた。

 

「リィンちゃん…何で来なかったのかしら」

「高い所が苦手だって言ってたし、それでじゃない?一緒に遊べないのは残念だけど…、やっぱり紐で括りつけて連れて来た方が良かったのかしら…悩みどころね」

「ナミさん……」

 

 グッ、と背伸びをし、大きく息をすう。

 ナミの安定した変態具合にやや呆れつつもビビは初めての冒険に心踊らせていた。

 

「入国料、ベリーが大丈夫で良かったな」

「えぇ。ここで『払ってなかった!この犯罪者め!』ってでっち上げられたら怖いもの」

「でっち上げって怖いよな」

「………本当にね」

 

ㅤ入国の際、ナミはかつて餓死しかけのクリーク海賊団から無情に盗み出した金で払った。持つべきものはツテと金とはよく言ったものだ。一味の金髪残念美少女の言葉だったが。

 ナミとウソップは遠い目をする。その、空には来なかったもう1人の仲間を思い浮かべながら。

 

「ミス・オールサンデー!これを見て!とても変わった植物!地上の図鑑では見たことないわ!」

「ふふ、お姫様ったら元気ね」

「細かい事で悩んでても進まないもの!」

 

 かつての敵とは一体なんだったのか、ビビの思い切りの良さに呆れれば良いのか笑えばいいのか分からないロビン。船から降りると自分の中にも冒険に心踊らされている事に気付いて口角を少し上げた。

 

──ポロン…ポロン……

 

 風に紛れる音。

 どこからか心地よい弦の音が聞こえてきた。

 恐らくハープだろう、ぼんやりとした優しい音色だ。

 

「へそ」

 

 にこりと笑った空島、スカイピアの住人が海賊に知識を与える事となる。

 

「な、なんだァ?」

 

 それが未来にどんな影響を及ぼすのか、誰も知らない。それは例え神であっても。

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

 ヴェズネ王国。

 偉大なる航路(グランドライン)に存在する王国の中で気候の安定さは上位を争う秋島だ。

 豊かだが国土の小さい国は戦争などで狙われやすい、しかしアラバスタという大きな国と友好国同盟を結んでおり、現在戦争は起きてない。

 国王エルネスト・リオ様は先代の早死という事でまだ30代という異例の若さで王位に就くことになった。国の背景にある問題とその若さでも戦争を起こすことのないその手腕は流石というべきだが、古くから国に席を置いてる古参の貴族は国王を牛耳ろうとしており味方が少ないらしい。

 

 つまり『狙われやすいから頑張ってるんだけど国の貴族が面倒臭い、ちょっとアラバスタさん助けてくれない?』って事ですか。

 

 そしてそのアラバスタから派遣されたのは『国に属していない』表海賊裏兵士である私、そして足のつかない革命軍。

 実行犯はあくまでその二つという事になった。例え後々露見しても『海賊や革命軍がやった事だから』と言う言い訳になる。両国共。

 

 

 この国の現状は『麻薬中毒の国民』と『ブローカーと取り引きをする貴族』

 それを何とかしてするきっかけを作って欲しい、という要望だが………。何とか出来るのだろうか、国が動く事に変わりは無い。

 

 

「さぁて…どちらに行くすたらよろしきか」

 

 ジャヤの突き上げる海流(ノックアップストリーム)から逃げ出してヴェズネ王国に来たはいいが、先にこちらに来ている革命軍とどう合流すれば良いのか分からず立ち往生する。

 

「うーん…」

 

 秋の過ごしやすい気候、一見すると治安の良い町中をブラブラと歩く。

 勝手に王宮に入っちゃダメだよな。まぁ、サボが見聞色使えるから見つけてくれるだろうとは思ってるけど。

 

──ガッ!

 

「……っ!?」

 

 後ろから現れた人間に口を押さえられる。

 気付かなかった…、人攫いか!?

 

 強い力でどこかの民家へと引き摺られる。

 

「シッ!……俺だ」

「ニョ!?」

 

 民家の中に入ると羽交い締めにしてた人がフードを取ると見慣れたサボの顔がそこにあった。

 

「サボかぁぁ……」

「悪いな、無理矢理引き摺って」

「いや、大丈夫ぞ」

 

 まさかこんな方法で合流するとは思わなかったが一安心した。人攫いにしては身のこなしレベルが高いなとか思ってたけどサボなら納得。

 

「それでこちらは?」

「王宮からの抜け道になってる隠れ家だ」

 

 サボが床板を外しながら教えてくれる。

 抜け道を知ってるって事は確実に国王とは合流したってわけね。にしても、抜け道を早々教えてもいいものなのか。

 

 抜け道は暗めの穴が続く。ライトを取り出してサボが行く道を照らした。

 サボに続いて抜け道に入ると土っぽさで少し噎せた。心配されたけどこの道は通るの辛い。

 仕方ないからマント被るけどね。

 

 

「──それで、()()()()()()()?」

「もちろん、完璧」

 

 歩きながらサボの質問に答える。

 ジャヤの酒場であれだけ暴れてきたんだ、目立たない方がおかしい。しかも裏に繋がるのはドンキホーテ・ドフラミンゴ。

 

「俺たちアラバスタ御一行は『数日前からヴェズネ王国に滞在している』。そして『社交界デビューするお前は体調不良で部屋に引きこもっている』だ」

「分かるすてますぞ〜」

 

 細かな作戦の確認は後で協力者:国王リオ様とするらしいが、その為の大前提としてこれだ。

 

 もしも国が裏で堕天使(かいぞく)と繋がってると知られた時の為の予防線として指摘されない様に理由を作った。

 『堕天使はジャヤで目撃証言がある』『時間を考えても間に合わない』という点を。

 

 もちろんバレてしまわない事が1番良いし、それでもバレてしまった場合は勝手に海賊がやらかした事だと言い訳する事になる。結局国は無事だ、国は。

 

 

 目立つのは嫌だったけど仕方ない、目立ちやすい場所だったから良しとしようじゃないか。

 イザとなったら仲間割れやら乱闘やら街行く人に喧嘩売るつもりでいたからまぁいいさ。

 

「国王、どの様な方ですた?」

「あぁ…まともだ。雰囲気はコブラ王に似ている」

「へぇ!」

 

 その言葉に少し嬉しく思う。

 ジェルマやドラムの王様みたいじゃなくて良かった。

 

「ただ……」

「ただ?」

 

「──庶民的思想の持ち主だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「今回は迷惑を掛けて本当にすまない!!!!」

 

 

 抜け道は宮殿にある一室の暖炉に繋がっていたので煤を払いながら部屋に入ると土下座している男の人がいた。

 

「うんんんん???」

「その気持ち、よく分かる」

 

 頭をこれ以上無いくらい傾げるとサボが遠い目をした。

 え、待ってください。

 

 これ、国王のリオ様?

 

「リ、リオン様ァ〜、もうやめてくださいって…」

「王が庶民に頭を下げるなよ…」

 

 コアラさんとサボの疲れた声。

 あ、まじで国王ッスか。

 にしてリオン様?リオ様じゃなくて?

 

「えっと……話が進まぬので頭あげるて貰うしても宜しいですか…?」

 

 標準語など殴り捨てて不思議語で喋ってしまった私は悪くないと思うんだ。

 

 

 

 ==========

 

 

 

「まず大前提としてキミらの正体には首を出さない。聞かない、察しても黙っているという事を約束しよう」

「それ、よろしきですか?」

「『知りませんでした』で済ませれるなら済ましておきたいだろう。一番楽だ」

 

 サボの庶民的思想というのが一目見た瞬間に分かった。この人ポンポン頭下げすぎ。

 これが公の場で無くて本当に良かった。

 

 しかしこの提案自体に頭の良さは見え隠れする。面倒くさがりなのか豪快なのか知らないが『知らない』という言葉により今から私は『兵士』ではなく『協力者』、つまりは対等な関係だ。

 上下関係はもちろん存在するけどね、多少の無礼は許されるって事になる。

 

「全員揃ったところで改めて自己紹介をしよう。俺の名前はエルネスト・リオ。公の場以外では面倒なので『リオン』と呼んでくれ」

「私達は変わらず『チャカ』と『ペル』で構いません」

 

 リオ様がリオン。アラバスタコンビはそのまま、と。

 

「私は『アラ』!一応キミ達の侍女だよ!」

「私が『ハク』になる。表立って出ることはまず無いと思っていてくれ」

「んで、俺が『サン』。つっても兄妹貴族設定だから『兄様』とかそんなのでいいと思う、適当に誤魔化せ」

 

 コアラさんが『アラ』でハックさんが『ハク』でサボが『サン』ね。簡単な名前で嬉しいよ、呼びやすい。

 

「えっと〜、私が『リアスティーン』……長い故に頑張って練習すたぞ。愛称は『リー』か『リア』でお願いするです」

 

 あくまでもこの場で本名は洩らさない。

 リオ様の言う『知りませんでした』を通用させる為にも。

 

 ここにいるのは少し記憶が曖昧なアラバスタの新米貴族リアスティーンだ。コアラさんが貴族でも良かったんだがアラバスタで肩に傷を作っているので外傷がほとんど無い私が選ばれた。

 

 あー、胃が痛い。

 勿論、ちゃちな雑魚に負ける気は1ベリーたりともありませんけど?W王族─しかも国王─からの頼み事だぞ?負けられるわけないよね?

 

 

 ちなみにコアラさんが付けたこの偽名には理由があるらしい。

 『リアス』とは複雑な海岸線、だと言う話。『ティーン』は私くらいの年齢層をある国で言うらしく、それらを組み合わせたとか。

 

 複雑な海岸線、ねェ。

 一体何を指しているのやら。

 

「あの、まずなんですけど。抜け道を教えるしても宜しかったのですか?」

「問題無い。この部屋の鍵は外からだけだ」

 

 それなら一安心だ。外から宮殿に侵入しても鍵がかかってるから廊下にも出られない。もしもこの部屋に押し込まれたとしても外には逃げられる。

 まぁ、客として居る以上不安だけど整備体制と警戒心の深さには安心。

 

 部外者にポンポン抜け道教えてたら信用出来ないもの。

 

「リーちゃん。最後に作戦確認しよっか」

「お願いします、アラさん」

 

 コアラさんの提案に頭を下げる。

 題して『ヴェズネ王国の黒幕を探せ〜アラバスタの貴族様は一体何を狙っている?〜』作戦。

 これに紙など存在しない。全て頭に叩き込む。

 

「この国に麻薬中毒が多発してるのは分かってるよね?」

 

 どこかの貴族が手を出している。

 それは近衛が調べあげたらしい。この国の内政が分かっておきながら交易がある一定間隔の間に起こっている、そんな事が出来るのは貴族以外居ないだろう。

 

「私達が求めるのは主に三つ。『黒幕の特定と捕縛』『顧客リストを手に入れる事』『ブローカーの特定又は捕縛』」

「ブローカーについては深くまで求めぬのですね?」

「とりあえずこの取り引きをぶち壊せれば文句無しだから把握だけはしておきたいかな」

 

 コアラさんの言うことに納得する。

 この少人数では求める物がデカすぎる。

 

「麻薬を売ってる売人(バイヤー)、コイツらは黒いマントに加え頬に逆三角の刺青をしている」

「夜会の間に売られるだろうからソイツを追跡して黒幕を突き止めるよ!」

 

 大体のやり方は改めて把握出来た。

 頭の中にメモしていくとリオ様が唸り声を上げると腕を組みながら問題点を口にする。

 

「しかもだな……厄介な事に麻薬は俺が流しているという噂まで流してやがるんだ。勝手に情報を作り上げられて、他の貴族からの信用はほぼ無い。お互いな」

 

 やられる立場だと捏造って大変。アラバスタで同じような事やらかしてる私には耳が痛い話だ。

 

「じゃあ次は役割確認だ」

 

 サボが次の話題に変える。

 

「リーと俺がアラバスタの『貴族兄妹』で、夜会担当になるのは覚えてるな?」

「もちろんぞ」

 

 そこで『目立って』『怪しい貴族に目をつけられる事』が大事。『被害者になる』のが手っ取り早いけど簡単に進まないだろうと予想している。

 

「お前は『デビュタント』で俺は『パートナー』だからな。本来はアラバスタ国王が参加すべきだが、とても忙しく代わりにと仰せつかった」

「はいさ」

 

 って言う設定だね。

 

 デビュタントとは社交界デビューの事。

 本来の年齢は18辺りからなんだがそこはコアラさんが化粧で何とかしてくれるらしい。

 

「いいか、お前が標的になりやすい。特にアラバスタは内乱後だ。金持ちでカモになりやすそうと思わせつつ決定的な言質を取られないように気を配りながら上流階級の貴族として標準語とマナーを守り優雅に目立て」

「かなりのハードモードぉ……」

 

 この国で麻薬を売ってる黒幕がヴェズネ貴族だと目星が付けられてるからこそ他人の目がある夜会で行われる。

 分かっていた事だけど負担大きいなぁ。

 

「私は主にストーカーを担当するよ。売人を泳がして今晩の夜会の間に黒幕、突き止めてみせるから」

 

 コアラさんが意気込む。

 その場で手を出さずに黒幕まで突き止めて証拠探しと顧客リストの盗み出しまで担当するとか。この人もかなりのハードだった。

 

「私はブローカーの方だな。船での交易、しかも取り引きが行われてるであろう場所辺りは水路が多い。魚人ならではの盗聴術というものが使えるさ」

「ハクさんすごぉい…」

 

 ハックさんみたいな魚人がウチの部隊にも麦わらの一味にも居たら楽なんだろうなぁ、絶対。

 

「それで無能貴族がリアスティーンに喧嘩を売ってくれれば背後の家ごと潰せるんだがなぁ」

「……まぁ、うん、まぁそうなのですが」

「潰せるんだがなぁ!!」

 

 それは、言外に潰せと?

 確かに設定としては『国の代表』として来てる貴族だから喧嘩を売れば『アラバスタという国に喧嘩を売る』事になり、国家問題。そして、それを謝るためにリオ様が家を潰せば解決だ。

 

 む、無茶をさせる。

 この国王、さては外見で人を判断しないタイプだな。

 

 普通はこんな雑魚っぽい子供に無茶な事を頼みません。それに関しては私が『コブラ様から派遣された身元不明の子供』だからそういう判断になったんだろう。『コブラ様への信頼』は『コブラ様が信じて寄越した私達』に繋がり『私達の能力を信頼する』事と同じ意味になる。

 ……正直気が重い。

 

「さっ、リーちゃんはお着替え、しよっか」

「へ?夜会までは時間が豊富ぞ存在するですが」

「甘ぁい!キミは一応顔が出てるんだよ!?コルセットして服着せて髪型を大人っぽくさせて化粧で化かしてキミをキミじゃないようにしなきゃならなんだから!」

「か、髪色変える?」

「折角兄妹設定で揃ってる髪色を変えるなんて勿体無いし手間だよ!水に濡れたらすぐに落ちちゃうんだって!」

 

 『海賊として顔が割れてるからなんとかする為に時間がいる』『サボ(あに)と一緒の色を変えたくないでしょリィンちゃん』って言う副音声がビシビシ伝わるんですけど。

 

「うえっ…もう逃げ出す事ぞ希望」

「「「「「ダメだ/よ/です!」」」」」

 

 お洒落は嫌いじゃない、むしろ好きな方だ。

 化粧も嫌いじゃない、油断させる事が出来るから。

 

 でも長時間誰かに監視されながら拘束されるのは苦手なんだ、海賊の血筋だね。

 

「本当に頼んだぞリアスティーン」

 

 事情があるのも分かったし第三者を巻き込まざるを得なかったのも分かったけど個人の感情は別のもの。

 私は藁で片手サイズの可愛い()お人形さんを作って五寸釘を打ち付けたい気分になった。主に全ての元凶に向けて。

 

 

 

 リィンちゃん心折れそうです。

 

 




オリジナルストーリー開始。

ヴェズネ王国(オリジナル)
国王エルネスト・リオ
秋島で豊かな小国だが狙われやすい。現在麻薬問題発生。

リオ「やべぇ!麻薬売ってる国の恥さらしがいやがる!どうしたらいい畜生!」
コブラ「任せろ友好国よ!いいのがいるから送るな!」
リィン「マジかよ私かよ」
サボ「神は死んだ」
コアラ「うわ、ハード」
ハック「怖がるな、私はそなたの味方だ」
チャカペル「(とりあえず貴族歴の偽造工作か)」

麦わらの一味「わぁ、空島楽しい!」


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第132話 笑ってあげるよそのザマを

 

 

「入ってはいけない島に冒険だァ!?」

「ダメよダメ…!あそこは絶対ダメだって!」

 

 

 彼ら、麦わらの一味は(ダイアル)という技術を教えて貰い、青海という普段彼らが過ごしている海で拾ったウェイバーの修理を頼むと観光へ向かった。そこはエンジェル島唯一の繁華街、ラブリー通り。島雲の特性を活かした町並みで店が宙に浮いていた。

 

 そんな彼らが観光中に沈んだ空気を出しているのには理由がある。それは麦わらの一味の船長、ルフィのせいだ。

 

 コニスという空島の住人に教えてもらった入ってはいけない島、神の島(アッパーヤード)(ゴッド)・エネルが住まう大地(ヴァース)の事だ。ルフィはそこに行きたい、否、行くんだと決めていた。

 

「諦めた方がいいと思うがな、ルフィはやる気だ」

 

 やる気なのはそう発言したゾロも同じ。ニヤリと悪人顔して笑っている姿を見てナミは思わず肩を落とした。

 

「リィン…リィンがお姉ちゃんって言ってくれれば頑張れるのに。面倒事を押し付けながら」

「お前はリィンが好きなのか嫌いなのかどっちかハッキリしろよ」

「何を言ってるのよウソップ、愛してるに決まってるじゃない。ただ、自分が少し優先なだけで」

「こいつダメだ」

「じゃあよ〜、夜に行こう!空島料理食おう!」

「お前はほんとに能天気だな!」

 

 ウソップがボケを捌いて行くとカルーが鳴いた。

 

「クエー!クエッ、クエッ」

「なんて言ってたんだ?」

 

 視線は自然とチョッパーへ移る。

 

「お土産買わなくていいのか、きっとその(ダイヤル)とか喜ぶぞって」

「「それだ!」」

 

 溺愛コンビが同じ言葉を漏らす。

 

「でも…彼女に(ダイヤル)の事を教えない方がいいと思うわ。私の勝手な意見だけど」

「何故?」

「……そうね、空島の旅行から逃げた仕返し、かしら」

 

 ロビンはクスリと笑みを零した。

 それは、闇の世界で生き延びた女の笑みだった。

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

 

 アラバスタの民族衣装をこの身に纏い、普段はしない様な髪型に違和感を覚え、化粧で粉っぽい顔を我慢しながら。

 

 傷物兄妹、いざ出陣でござる!

 

「──うるさい」

「傷つくた」

「誰が傷物だ」

 

 髪を結い上げて戦闘の傷跡を隠すように長袖の服に手を通したサボ、その女受けしそうと評判な顔を横から見あげる。

 

 ……口に出てたか。

 

 だって事実だし。私は背中に傷があるじゃん?サボは顔に火傷があるじゃん?お互い傷物、間違いないね。

 

「もう1度聞きたいか?」

「ごめんぞ!」

 

 さて、おふざけはここら辺りにして気を引き締め直す。

 

 私達2人は胸にバッチを付けている。これはあらかじめ私が頼んでいた『お願い』で男女と階級の差によって合計6つの分類に分けられている。『金:王族』『銀:国の代表貴族』『銅:貴族』というように。誰がどこの国のどんな階級か分からない仕掛け人の私やサボにとって有難い。

 私は『女用の銀バッチ』でサボは『男用の銀バッチ』だ。

 

 もう一つの『お願い』はあまり見ない『立食パーティー』で、二日目は何かしらの食品も持ち込み有り。

 

 夜会は2日にかけて行われる。

 その間になるべく決着を付けたい。

 

 空島に観光旅行中の麦わらの一味が戻ってくる前が最も理想的だけどね。

 

 

 

 ここからは私の出番。私の一言一句、全てが矛となり盾となるものだ。ドレスという武装色を纏い、笑顔の仮面で見聞色を塗り重ね、話術という覇王色を使ってこの社交界を制す。

 

 特例のデビュタントなので御手柔らかにお願いします、上流階級の皆様方。

 

「ふぅ……。行こうか、リー」

「はい、お兄様」

 

 本当だけど偽りの関係。そっと顔に笑顔の仮面を被ると護衛であるチャカさんとペルさんがその扉を開いた。

 

 

 

 

 

 

「………あら?」

「えっ」

 

 扉を開ければピンク髪にグルグル眉毛の女性と目が合いました。し、知り合いとエンカウントおおおお!?

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

 コアラは日の暮れた夜中、街中の屋根を飛び回る様に渡り歩いて目的の人物を探し回っていた。

 リィンがこの姿を見たら『お前はどこの忍びだよ!』と心からツッコミそうだが現在彼女は宮殿にて夜会の最中だ。関係ない。

 

「…! 見つけた」

 

 何度目かの路地、そこに二つの人影が見つかる。

 

 そっと近寄って物陰から聞き耳を立てた。

 

『…──…金が足─…─だ…』

『…と!?─…──お!な…─……っ!』

 

 言い争うをしている様だが上手く聞こえない。

 しかしその姿は確認できた。

 

 闇に紛れる黒いマントから覗く逆三角の刺青。

 

 目的の売人(バイヤー)だ。

 

『……チッ』

 

 金と丸い玉をお互い交換しているように見える。

 恐らく、あの玉が麻薬なのだろうと目星を付けた。

 

 暫く待っていると売人は路地の奥へと向かって行く、しかしコアラは動かなかった。

 

「よっ…!」

 

 拳を握りしめ、コアラは玉を受け取った男を沈める。

 

「ごめんね〜、後で回収してあげるから沈んでてよ」

 

 口だけの謝罪をし、丸い玉を奪い取る。

 まるで追い剥ぎ、これが公の場では無いとは言えど王命で動いているのだから世も末である。

 

「サボ君より範囲は狭いけど…、私も覇気使えるんだよね。さぁて、ストーカー開始っ!」

 

 再びその身を闇に紛れさせた。

 

 

 

 ==========

 

 

 

 やばい。最高に身バレの気配がする。

 夜会会場に入った瞬間固まった私の様子をサボが不審がる。すまん、すまんパートナー兼お兄様役。

 

「やっぱり…貴女」

「え、えっとぉ」

「──()()()()()()()、お知り合いか?」

 

 察したであろうサボがカバーする。リアスティーンという名前を呼んでくれたので本名が周囲にバレる事は無かった。

 

「……なるほどね」

 

 目の前の女性が小さく呟くとにっこり笑った。

 

()()()()()、リア」

「…お久しぶりです、レイジュ様」

 

 あ、逃げ道塞がれた。

 そう思ったが顔に出さずに挨拶を交わすことが出来た。よし、とりあえずレイジュ様は口を噤んでくれる。

 

 ジェルマは国の力が強いから私の件でちょっかい掛けられてもそれを退ける力は有る。

 

「お初にお目にかかります。アラバスタのファルシュ男爵家、嫡男サンです。どうぞお見知りおきを」

「リアの兄ね? 初めましてミスター。私はジェルマのヴィンスモーク家、第一王女レイジュと言いますわ。と言っても、改めて自己紹介するほどじゃないわね」

 

 サボとレイジュ様がお互いが笑顔で挨拶を交わす。

 周囲の注目が若干集まったように思える。何故、私みたいな小娘が王族の知り合いかって疑問に思ってるな?安心してくれ、私も思ってる。

 

「お互いヴェズネ王家と関わりがあるだなんて思わなかったわ。ふふ、今夜は楽しみましょう?」

「レイジュ様…」

 

 感動した様子に見えて心の中で思ってることは態度と真逆です。『何この王女楽しめないに決まってんでしょ怖い!』だ。ふぇっ、腹の中が見えない分怖いよぉ。

 

「今日は弟達も来ているの。後で連れて挨拶に向かうわね」

「こちらから向かうべきなのですが」

「気にしないで、私と貴女の仲じゃない。ここは友好を深める夜会よ。姉も同然なんですもの」

 

 つまり『逃がしゃしねぇぞ』って事ですかね!?

 くすくすと笑みを深める王女様が怖いよぉ。王女って本来はこんな生き物だったのを思い出した。

 ……感情がポロポロ外に漏れでる天然産の王女に囲まれてたせいで、他国に付け込まれない様に完璧な淑女の仮面を被る王女を初めて見た気がする。こっちが常識だよな、普通。

 

 ちなみにファルシュ家という存在はアラバスタに有った没落貴族。歴史は残ってます、しかし現在は噂すら聞きません。

 閉鎖的になってしまう偉大なる航路(グランドライン)だからこそ出来る情報操作だよね。

 

 空白の歴史に存在したであろう貴族様!お名前、超お借りししてまーす!

 

「それにしても……」

「?」

「成長した?」

「…………まぁ、そうでしょうか」

 

 レイジュ様は口を開いた。

 そう、主に胸を見ながら。

 

 うるさいですよ!これはコアラさんが『う〜ん、見た目16か17には仕上げるつもりだけどちょっと発達が足りないなぁ。ペルさん、ちょっとタオル持ってきて』とか言いながら頑張って肉を寄せて詰めて誤魔化して作られたニセ乳だよ畜生!

 身長はヒールである程度印象操作出来るけど谷間の露出が出てきてしまう胸は偽装に苦労したんだ!しんどかった!主に精神的な意味で!

 

 この世は地獄ばかりです。

 

 

 

 

 

 

 

 その後、チマチマと会場の人の挨拶を交わす。

 王の挨拶まで生贄に目をつけておこうと思ってな、もちろんネタを仕込む事も忘れない。

 

 サボとあらかじめ決めた合図を交わしながら生贄を煽っていきますよ〜。この程度で頬を引き攣らせてて大丈夫ですか上流階級の方々。

 

 

「──今宵は是非とも我が国自慢の料理でもてなそう、ゆるりと楽しまれよ」

 

 そんなリオ様の挨拶をバックに遠い目をする。

 

 ……あの方の面の皮、すげぇな。

 

 なんというか、犬が龍になった感が否めない。

 

「…厚いな」

「兄様」

「っと、すまない」

 

 ポツリと呟いた言葉を諌める。

 周囲には聞こえてなかったみたいだけど、同じ感想抱いてたんだね!さすがお兄様!ハッハッハ!笑えてくる!!

 

「挨拶に行くか」

「うん」

 

 王様に挨拶に行くのは当然。

 王族と王様では圧倒的に違いがある。王様絶対。

 

「アラバスタの、よく来られたな」

「本日はお招きありがとうございます」

「ありがとうございます」

 

 サボに倣って頭を下げる。

 王様ー、その笑顔怪しいですよー。その見るからに『期待してるから頑張ってくれ!』みたいな笑顔やめてくださーい!

 

「その方がリアスティーン嬢か」

「お初にお目にかかりますリオ陛下。ご機嫌麗しゅう」

「噂は聞いている。王家の者と大変仲が良く、復興の尽力に続き膨大な個人資産での復興支援……その若さで見事なものだ」

「大袈裟です、陛下」

 

 聞いてねぇぞお前ら。

 おい、この『リアスティーン』ってどういう設定なんだ!確かに、ビビ様とは仲良いけど!尽力って言うか女狐の名前を貸し出してるけど!ギリギリ、本当にギリギリ嘘はついてないけど!膨大な個人資産は持ってますよ!これでも名ばかりとは言えど大将ですから!支援しましたよ!一億にも満たないけど!

 

「それでは失礼致します」

 

 サボが会話を切り上げて会場に戻る。

 

 私もそれにぎこちなく付いていくと視線がかち合った。

 

「………お兄様?(どういう事だこら。なんの設定だ、聞いてない)」

「いや、折角の妹の出来を自慢したくてな(ちょっとした細工をな)」

「もう、恥ずかしいです(やめてください心臓に悪いです)」

 

 注目は集めたままなのであくまでも貴族の兄妹として喋る。自慢?私が来る前に事前情報としてこんな事言えばいいんじゃないかとか仕組んでたんだろうが!!!

 

「ご機嫌麗しゅう。サン殿、リアスティーン嬢」

 

 挨拶が終わったであろう貴族が声をかけた。

 

「エルバート殿」

 

 顔の判別が付かない私の代わりにサボが名前を呼ぶ。あぁ、挨拶してた中に居た人ね。

 

「少々お話よろしいですかな?」

「えぇ、構いません。なぁ、リー」

「もちろんです」

 

 この人はおそらく白。

 サボが私を愛称で名前を呼べばセーフ。略無しだと要注意人物だったり生贄だったり。

 見聞色使えるのはサボだもんね。クザンさん曰く『野生の勘でも備わってるんじゃね?』とか言われてたけどそんな不確定なものは信じません!

 

 とりあえず話さなきゃ何も進まないから話すけど、標準語間違える気満々なのでミスはカバーしてね。

 

「リアスティーン嬢はもしやデビュタントで?」

「えぇ!国の事情により王家の代わりに、と勧められました故、私達兄妹が!…と言えども、拙い私がこの場に馴染めるか心配でして…パートナーをお兄様にお願いしたのです」

 

 

 

 

 

 

 まず、大前提として話しておきたいことがある。

 

 この『貴族潜入』に当たって、私は断る事だって出来た。それは私が海賊に潜入している任務中だからだ。

 それが分かっていたからこそ、コブラ様は聞いた。

 

 私がこの話を引き受けたのは『公の場じゃないにしろ王命だから』、という理由じゃない。もちろん理由の一つだけど。

 

 私がこの話を引き受けることによって狙う最大のメリット。それは『アラバスタの者』として参加出来るから。

 

 

「──アラバスタで内乱があったと聞きますが…」

 

 

 『アラバスタの者』なら、『アラバスタで起こった事』を社交界(=情報交換の場)で喋っても、何ら不自然な所はないよね?

 

「実はですね…!」

 

 イキイキとした表情の私にサボの笑顔が思わず固まる。

 

 良かったね、美談(笑)は世界中に広がるよ!

 

 




内容が小難しいかなと思ったので『』でわかりやすい解説風味を。


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第133話 喧嘩は売るより売らせろ

 

 

 島に入ると誓った夜。忍ぶ様に神の土地(アッパーヤード)(ダイヤル)で周回する船。

 

「ヤハハ…黄金探しとは無駄な事を」

「どうされましたか、(ゴッド)・エネル」

「我々をお呼びとは何事でしょう」

 

「明日、数人の青海人が黄金探しをする」

「なんですと…!?」

 

 日の暮れた肌寒い空島。

 神の御前に4人の神官が集められた。

 

 そこでエネルの放った言葉は雷のような衝撃、神の住む島で何とも無謀な事をと呆れる者も居れば憤慨する者もいる。大地(ヴァース)は元々青海にあったもの、黄金を知っていることに不思議は無い。

 

「試練だよ、諸君」

 

 横になりエネルはニヤリと笑った。

 

神の島(アッパーヤード)全域をお前達に解放しよう。恐らく、シャンドラも攻めてくる」

 

 ゆらゆらと炎が揺れる。そこに映るエネルはシャリシャリと果実を食べながら4人の神官と目を合わせた。

 

「なぜ、急にそこまで」

 

 一人の問いに答える。

 

「もう、ほぼ完成している。『マクシム』が、な。さっさとこの島に決着を付けて旅立とうじゃないか──夢の世界へ」

 

 ──無駄な事をする、神の前で人など無力だというのに。

 

 エネルは心から嘲笑う様に口角を上げると、シャリッと果実を齧った。

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

「実はですね…──」

 

 そう言って語った真実(笑)に周囲は呆然とした様子で聞いていた。驚くだろう、驚くだろう。

 だって過剰表現してるし!!!

 

 『実はクロコダイル様がビビ様に恋焦がれていたご様子で…!』『なんと、愛で国を変えようと!』『私は感動致しました!』『その後クロコダイル様は国民に誠心誠意謝罪を…!』などなど。

 あくまでも私は『放送を聞いていたゴシップ好きの貴族様』だから放送より多少過大表現しても問題ない。

 

 誠心誠意謝罪?放送からはそう思えませんでしたけど?

 本音を言うと仕掛け人から見れば大爆笑以外何物でもないんだよね!!謝ってすらねぇよばぁぁか!!

 

 私の胃の痛みを思い知れ。個人的な報復があの位で終わると思うなよ?世界中どこにいても偏見の目で見られるがいい!

 お前が面倒を起こさなかったら麦わらの一味にビビ王女もニコ・ロビンも来なかったんだよ!!

 

「悪魔め…」

 

 聞こえてますよーお兄様ー?

 

「そ、そのような事が…」

「はい!そうなのです!」

 

 『愛に生きた英雄』を素敵に思うキラキラしいお嬢さまを演技する。凄いでしょう?我が国の英雄殿は!

 もう、涙が出るほどに!おかしくて!

 

 想像力は時に脅威となる。ひくりと引き攣る貴族様に笑顔を向けると去っていった。是非とも広げてくれたまえ諸君。

 

 

 

 にしてもなぁ。

 

「…………」

「…………」

「…………」

 

 若い女性がサボを狙ってる。

 アラバスタという大国の貴族で王族にも一目置かれてる家の継承者。しかも美形と来た。

 大きな傷がある事に加え、妹のデビュタントに付き合う様な男だ。婚約者などいないと踏んだのだろう。

 

 そりゃ、狙うよね。私のお兄様はカッコイイぞ。

 

 だがなぁ?妹の目が黒い内に嫁に出すと思うなよ??

 し、か、も。本性は敵だ。階級制度に真っ向から喧嘩を売る革命軍の参謀総長様だぞ。腹の中真っ黒で兄妹一性格悪い人だぞ?

 ……決してNO.1は私じゃない筈だ。

 

「あの…サン様」

「はい…、貴女は?」

「ワタクシ、はバーレイ・アイラと申します」

「ミス・バーレイ……()()()()()()()()()()?」

「どうぞ、アイラと」

 

 1人の貴族様がサボに声をかけた。お前の猫かぶりも凄いなと思いながら呆れてる。

 用事を聞くって、用事なけりゃ会話続かないじゃん。会話続ける気サラサラ無いね。

 

 他の貴族様も次々と名乗り出る。所々敵意というか殺気が漏れてますよ。私が気付くんだ、サボが気付かない訳が無い。

 

「サン様、婚約者はいらっしゃいますか…?」

「いえ、生憎国内が荒れていましたので」

「好みの女性などは」

「国を変え、守っていける人でしょうか」

 

 知ってるか?これ全部別の人が質問してんだぜ?

 

 まぁ、サボの言う好みは『守っていける(物理)』だと思う。貴族様には悪いけど期待するだけ無駄だと思うよ。

 

 質問攻めにあうも次々と捌いていく。

 よっ、モテモテ!

 

「リアスティーン様、貴女のお兄様は…──」

 

 おっとこっちにも飛び火。

 どこかのお嬢様に偽物の笑顔を貼り付けて対応する。

 

「お兄様がどうかなさいましたか?何か無礼でも?」

「いえっ、その……。な、仲を取り持って頂きたく…」

 

 顔を染めるお嬢様、視線がとてもギラギラしてますよ。こう見えても職業柄『無害な者』と『有害な者』の区別はそれなりに付きましてね、キミはどう考えても『有害な者』だ。敵意や色んな企みが渦巻いてる。

 ハッハッハー!『騙し化かし』の象徴たる女狐と不名誉な二つ名を頂いた以上、貴族の階級制度(ぬるいせかい)に染まった方くらいのレベル、普通に気付くわ。私が相手してたの誰だと思ってんだ?七武海ぞ?我、七武海のお茶汲みぞ?

 

「ご自分で頑張ってくださいまし!」

 

 ニッコリ笑って拒否する。

 だ〜れ〜が、取り持つかよ〜!

 

 そもそもこんな要件人間と名高いクーデレを紹介してもお嬢様に利点なんて顔面鑑賞程度しかな……──寒気がする。殺気が右からバシバシ飛んでくるよぉ。

 

「そ、そうですの…」

 

 どこかのご令嬢はぴくぴくと頬を引き攣らせながら私の前から消え、サボの元へ向かう。

 

 

 そんな時、ピンクのドレスを着たいかにも派手な銅バッチ貴族が私の地雷を土足で踏み抜く事になった。

 

「サン様ぁ」

「…──ッ、なんで、しょうか」

 

 ピンク(仮名)はサボの左腕に絡み付く。

 サボは痛そうに顔を歪めた。

 

 アラバスタで戦闘中、サボって自分で自分の骨折ったよね。

 

 生贄様、ご来店でーす!

 

「お兄様…、もうそろそろお戯れもお良しになるが良いと」

「リアスティーン」

「優しいですね、お兄様は」

 

 じろっとピンク()を見る。

 ケバい。美人かどうか分からないが私みたいに化粧で誤魔化してる感半端ないな。そんなにスッピンに自信が無いか、私は残念ながらあるぞ。

 

「ご自宅に鏡のない様な残念な方に、わざわざ付き合うのですゆぇ──んんっ、から」

 

 セーフ、標準語セーフ。

 少し怪しかった。ちょっとヒヤッとした。

 

 サボ、『それはアウトだろ』みたいな視線だけは止めて。

 

「な、なんですって!」

「様な、と申しました。あくまでも私の予想です。個人の思考の自由まで奪われるは窮屈でつまらないですよ?」

「生意気ですわ!」

 

 ピンク()は癇癪を起こし私に近付く。

 要は『鏡みてみろ、お前の顔面サボに釣り合わないから。あ、もしかして家に鏡ない人?それなら仕方ない…ごめんね?』って意味だからキレはするよな、うん。

 

 でもこれでサボの拘束は外れた、個人的な目的はこれで終わり。後は目立ってから、『賢い』が『少しマヌケな所があり』な所をアピールしなければ…何この面倒臭い面接。

 要は私に麻薬売買の話を持ちかけて貰えりゃいいんでしょう?大体この場に黒幕さんいるのかなぁ?

 

「貴女何様ですの? 社交界の右も左も分からない様な小むす…お嬢様が、随分な態度と思いませんの?」

「お、も、い、ま、せ、ん!」

 

 右も左も分からない小娘がハッキリ言った言葉に頬を引き攣らせる。だって、銅バッチと銀バッチじゃ男爵と言えどこの場の階級制度は私の方が上だよね?

 

「この…っ!」

 

 頭に血が上ったピンク()は近くにあったワインを手に取ってかけるようなモーションに入った。

 

 よっしゃこれで攻撃してきたのはそっちの方が先だ!私は、あくまでも、自己防衛!

 私、最近やる気多めです。

 

「なっ…!」

 

 ピンク()や周囲は驚いた顔をして固まる。

 それもそうだ。

 

「止まって…!」

 

 かけたはずのワインが空中で停止していたのだから。

 

「……の、化け物」

 

 堂々とした様子でピンク()に微笑む。

 実はこれアラバスタでやった海水を空中に留める方法と同じなんだよねー…。更に言うと気分は紐のない風船。

 イメージがしやすいからこそ即座に使えるって所だね。

 

 そう、かつて七武海に居たグラッジさんの技をアラバスタで真似した時に分かったこと。元々そういう現象が作り出された、って私が思い込んでイメージしてるから超人(パラミシア)系、動物(ゾオン)系みたいな人間を越えた奴ら以外なら簡単に再現出来る。

 つまり『私の不思議色で再現出来る範囲内なら他人の技を再現しやすいしたい放題』って事だ。

 

「化け物…そう、化け物ですか…」

「悪魔の実の能力者なんて化け物以外何者でも…!」

「はい、お疲れ様です!」

 

 とにかく、ここで言質は取れた。『悪魔の実の能力者は化け物』という。それは他国の貴族(=私)を貶める言葉でもあり、『能力者の他国の王族をも貶める』事になる。

 例えば、ドレスローザとか。ちなみに『アラバスタ代表貴族』として来ている私にも喧嘩を売ってるので最早これは個人のお話じゃない。『国家問題』なので貴女は『国家反逆罪』になります!おめでとう!

 

 そう言ってやればピンク()は自分の拙さを理解したのか顔を真っ青にした。

 

「貴族、王族とは国の為に生き延びることが大事です」

 

 血を守る為、ってのもある。だからこそ王族の血は尊い。ただ守られてるだけじゃ兵にも民にも迷惑をぶっかけるだけだよ。

 いや、結構マジで。守る側からすると自己防衛出来る王族がどれほど貴重か…。自己防衛出来ない代表が世界貴族だからこの世界終わってるけど。

 

「貴族としての任を果たすべく、努力するのは当たり前でしょう?私は、自己防衛程度出来る様に努力しただけです」

「こらリー。もうそろそろやめなさい」

「えへへ…ごめんなさいお兄様」

「危険な綱渡りはしないでくれ…心臓に悪い」

「あらやだ、少しの危機は人生に必要不可欠。私は冒険したい年頃です」

 

 サボに諌められ大人しくする。

 

 ミッションコンプリート。『目立つ』事。そして危険な事に興味がある『牛耳りやすい子』という印象も付けれたことだろう。悪巧みするヤツが目をつけないわけがない。『貴重なツテ』も復興に回せるほどの『財産』だって持ち合わせてる。

 

 さぁ、釣られて下さい?

 

 武力階級より貴族階級の方が向いてたりするんだよなぁ。もちろん、ダントツで嫌だけど。

 

「妹が失礼をしました。ですが、我々アラバスタが貴女の国を敵に回さないかどうか…分かりませんよ?」

 

 周囲の目がこの兄妹怖いとかって言ってる。目は口ほどに物を言うってこの事だよねぇ。

 

「ッ、お父様が何とかしてくださいますわ…!」

 

 負け惜しみの様に背中を向ける私に叫ぶ。

 

 

 一体貴女は何を言ってるの?家ごと潰すつもりでこの場にいるんだけど?殺気に気付かない程無能だと思ってるのかな、ピンクのお父上らしき貴族様?

 

 

 

 

「……───私、カモになりそう?」

「合格だろ」

 

 私のお兄様はくしゃりと私の頭を撫でた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──お前らマジで戦争起こす気かよ…恐ろしい」

 

 後々やって来たリオ様に怒られましたけどね!

 




ここまででとりあえずひと段落。起承転結の内、起か承辺りが終わった感じでしょうか。

この人たちの発想は『ん?貴族が取引してそうなんだろ?なら夜会で喧嘩売ればもしかして釣れるんじゃないか?よし、リーやってこいお仕事だ』『なんて馬鹿な!だが人前という事で即暗殺はないな!幸いかっこよくてつよーい人がパートナーとして隣にいるし!よっしゃ麻薬来いや!』

……お前らこそ脳筋だ。


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第134話 人間吹っ切れると怖い

 

 黄金を探す一行は現在、大蛇(うわばみ)のせいでバラバラに過ごしていた。ナミが望む黄金があるだろう場所、髑髏の右目を目指し。

 

「はぁ、まさかあんなに大きな蛇が現れるだなんて。これも空島特有の気候のせいかしら」

「お姫様、そこ、気をつけてね」

「えぇ、ありがとう」

 

 お互いの居場所が分からない中、そばにいた仲間と協力し目標地点まで進む。

 

「サンジさんとウソップさんとナミさんが船にいてくれてるのよね」

「えぇ。でも残りの船長さん達と離ればなれ、迷子になったみたい。私達がはぐれたのか、逆か、両方か」

「カルー…無事だと良いんだけど」

「ふふ、あの鳥さんは強いわ、安心して」

「……うん」

 

 ビビはロビンと進んでいた。

 そんな時。

 

「ほっほほう!へそ!」

 

 どこからとも無く声が聞こえたのは。

 

「だ、誰!?」

「ようこそ…───玉の試練へ」

 

 スカイピア神官 〝森のサトリ〟。

 突然彼女達に立ち塞がったのは──

 

「随分…ヘビーな体型ね…」

「やかましいぞ青海人!」

 

 ロビンの手によりデブとして認識された。

 

「分かるわ」

 

 何故かビビも同調していた。

 

「玉の試練、と言ったわね。この周りの白い雲、貴方の体型そっくりだわ……」

「続けて!緊張感を!」

 

 サトリは玉の上で地団駄を踏む。

 当の本人、ロビンはと言うと冷静に辺りを観察し、状況の整理に務めていた。

 

「どうやら、神の手下の様ね。しかも玉の試練…。ということは他の試練もあるってことよね。お姫様、気を付けて」

「うん…。でも、聞いてオールサンデー」

「どうしたの?」

「あの玉……固形物よね?」

 

 雲と言えどもサトリが乗っているのだ。

 ビビはそう判断し、地面にある小石を一番近い玉に向かって投げる。すると中から蛇が現れた。

 

「──どう?私も役に立つかしら」

「あの玉に無闇に触れればろくなこと無いって訳ね……。もちろんそれは、あの神官とやらも」

「サトリの話を聞いてほしいッッ!!!」

 

 再び地団駄を踏み始める。ビビの言いたい事が伝わったロビンが、その隙にびっくり雲と呼ばれる玉に手を生やす。

 

一輪咲き(ウノフルール)〝スラップ〟」

 

 言わば平手打ち。玉は弾かれ、サトリの方に飛んでいく。

 

「うわぁぁぁ………なんてな」

 

 ほほーう!と言いながらサトリが楽々避けるとロビンは珍しく嫌そうな顔をする。

 

「なんて………───動けるデブなの」

「そこかよ!!!!」

「貴方は分かってないわ。私がこのプロポーションを保つ為にどれだけ努力してきたか…、闇の世界で生きる私には動ける事が一番だった」

「あの…オールサンデー?」

 

 何やら雲行きが怪しい。

 それを察してなのかビビがロビンの様子を見た。

 

「私もその気持ち、分かるわ」

 

 違った。やはりただの天然産であった。

 

「やりましょうお姫様、今こそ女の意地を見せる時。──反省したって、許さない」

「もっと別の所で使って欲しかった!俺を巻き込まないで欲しかった!この青海人話聞かない!」

「オールサンデー!私も戦う!足でまといにだけはなりたくないの!」

「そのセリフも別の場所で聞きたかった!」

 

 

 

 

 心網(マントラ)を使っても、女の意地には勝てない。女性は怒らすと怖い。

 そう心に刻みながらサトリは意識を失ったという。

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

 

 深夜、夜会が終わり一段落ついた辺りで今日の報告と明日の行動予定を話し合うために協力者が一室に集まることになった。

 

 が、しかし。

 

「なんで…いるんですかね……」

「気にしないで」

「そうそう、私達の事は特に気にするな」

「娯ら…傍観者だ」

 

 ピンクと赤と青と緑の頭、ジェルマの王族が私の隣に連なるように座っていた。

 今傍観者じゃなくて娯楽って言いかけたな。ニジ様。

 

「どうも、ジェルマのヴィンスモーク。私は長女のレイジュよ、宜しくね?サン様、だったかしら?」

「同じく。長男、俺はイチジだ」

「ニジ、用があるのは先生だけだから気にするな」

「私はヨンジという。改めて挨拶を」

 

 このジェルマは自由が過ぎる気がする。

 

「1、2、……4、ジ?え、は、ま、え?いち、に、さん、よん…。ジ?ちょ、ちょっと、あ、は?」

「ぇ、ええぇ…?1…2……3…4…」

「ま、まさか」

 

 アラバスタ組も含め、リオ様除き協力者が私を凝視する。

 あ、名前の羅列で察しましたか?

 

 私はそっと目をそらした。

 

「俺はリオンだ。一応非公式の場なんでね、そう呼んでくれ。にしても…ジェルマの王族とリアスティーンが繋がっていたとは…。ああ、もちろん詮索は無しな」

「私、一言も言ってませぬが」

「流石に気付く。これ位は勘弁してくれ」

 

 そりゃそうだ。

 リオ様の言葉に思わず頷く。むしろ察せられなかったらそれはそれで無能過ぎるだろう。

 

「所で先生って…?」

 

 サボが首を傾げるとジェルマンが一斉に私に向かって指さした。どうも先生です、感情指導の。

 

「母さんでもいいんだがそれは却下された」

「そりゃあ…私は貴方達より歳ぞ下です故に」

「昔は恋愛感情に近いものを抱いていたんだがな…」

「ゴブフッ!」

 

 遠い目をしたニジ様の発言に思わず吹き出す。

 

「あ?気付いて無かったか」

「いえ…流石に。無礼ですけど気付くておりますたが」

 

 予想もしなかった展開に黙り込む周囲。私は思わず苦い顔をしながら答えた。

 

 閉鎖的な空間で過ごす中、歳の近い異性の他人。どうしても興味的な意味が強く反映される。

 思春期辺りだったか…顔見る度に赤くされてりゃ流石に気付く。だがな、うっそりと笑う姿がどんな状況下か考えてみろ。

 

 不敬罪で死ぬるわ。

 

 喜び?嬉しさ?そんな幸せな感情は首に対する恐怖を前に吹き飛んだわ畜生。

 

「好みも似ていたモンだから幼い俺たちにゃ頭を悩ませたなァ。うん、大変だった」

「しかし、現実はあまりにも無情だった。そう、哀を知らない俺たちの様に……」

「私達は夢を見ていただけなんだ」

 

 ジェルマンは口を揃えて言った。

 

「「「──成長しねぇんだから」」」

「どこの事ですぞどこの…ッ!」

 

 王族だって事を忘れて怒り狂うぞテメェら。

 いいか、貧乳はステータス何です!巨乳が多いこの世界、貧乳はレアモンなんだよ!

 私は!痩せ型!モデル体型なんです!

 ………でも最近サンジ様のご飯美味しくてお代わりしてたら腹にお肉がストーカーしてきた。ぷにって、ぷにって言ったんだ。頭は使ってもなんだかんだ体動かしてないからね、茶汲み時代みたいにミホさんに筋肉痛まで(しご)かれてないから。

 

 カムバック筋肉!脂肪は胸以外要りません!

 

 

 

 痩せよ。

 

「あー…じゃあ報告するな」

「敵が味方…。お兄様大好き」

「はいはい。──で、夜会の方だが」

 

 サボが気を引き締め直して口頭で何が起こったか粗方の流れと様子を説明する。

 

「最後にやらかした…つーか嵌めたご令嬢はモザブーコ家って名乗ってたな。よく知らないが退場の際血縁者らしき人から殺気が飛んできた」

「やはり気付くぞね…。娘が貶めるされるて怒り仰天限界突破ぞ致すたか」

「どうでもいいけどサンもリアスティーンも素と猫被りのキャラが驚く程違うな…驚いた」

「あんたが言うなリオン…さん」

「リオンでいいさ!どうせここには王など居ない!」

 

 ううーん、庶民的思考の王様って楽だなぁ。

 豪快に笑うリオ様を眺めるとコアラさんが真剣な顔で手を上げて発言した。

 

「でもモザブーコ家で間違いないと思うよ」

「コ…じゃなくて。アラは売人(バイヤー)の追跡だったな。その様子だと掴めたのか」

「うん、バッチリ。途中民家に入って地下を通ったみたいだけど見聞色の範囲内だったからストーカー出来た」

 

 コアラさんが笑顔で親指を立てた。

 見聞色が便利すぎて辛い…私も欲しい……。どうにもコツが掴めないんだよ。

 

「出入りしてた家はモザブーコ家だから、間違いないよ」

 

 よっしゃターゲット確定。諺でもミンクの子はミンクって言うもん。

 私の隣に座るリオ様は追跡の仕方や通路を納得したのか顎に手を置いて呟く。

 

「秘密通路か…。なるほどな」

「最初気配が地面から来てビックリしたんだけど、よ〜〜く考えれば地下から室内へ入り込むなんて方法どこにでも有るし」

 

 この部屋にも外に繋がる地下通路があるからね。その発言を濁したのは恐らくジェルマという部外者が居るからだろう。

 

「1回忍び込んだんだけどね…。夜中だからかな、人の数が多い気がするんだ。多分、敢えて昼間に堂々と入り込む方が安全だと思う」

 

 プロの台詞だ、それならコアラさんの判断に従った方がいいだろう。とはいえど入り込むのもコアラさんの仕事だけどさ。

 

「とりあえず、取引してた物は持って帰ってきたよ。はいこれ現物!」

「は!?」

「追い剥ぎしちゃった〜」

 

 あっけらかんとコアラさんが言い放ち丸い玉を取り出した。サボは思った以上の収穫と大胆な行動に、文字通り開いた口が塞がらない状態に陥っていた。

 

「これは…見るからに…」

「……飴玉?」

「だなぁ」

 

 リオ様、ハックさん、サボの順に言葉を漏らす。

 

「見せて」

 

 そこへレイジュ様が割り込んで奪い去った。

 

「あ、おい」

「うーん。甘い匂いの中に、毒の香り…」

 

 流石にこの行動にはペルさんが黙っていなかった。他国の王族を危ない目に合わせるわけにはいかないものね、アラバスタ兵士も。アラバスタコンビがここにいるのは私たちの『信憑性の協力』と『監視』まで含まれている。

 アラバスタの評判を落とさない為に彼らがいるんだ。

 

「危険です、おやめ下さい」

「アラちゃん、だったかな。いただいても?」

「だ、ダメですよ!それっ、麻薬!」

「聞き方を変えるわ。この飴玉が消えてしまっても計画に支障はある?」

「な、無いと思うけど…」

「そう」

 

 そう言うとペルさんの静止の声も虚しく、飴玉は半分ガリッと砕かれレイジュ様の胃の中へ消えていった。

 

「ッ、リィ…ー君、どうして止めない!」

「好物を食べる王族ぞ止めるのもなぁ、と」

「好物…?」

 

「ご馳走様。これ、凝ってるわね」

「あー…やはり食べるた事ありますたか。どれですた?」

「政府が海賊によく使う薬そっくり。禁断症状は酷いものよ?中毒はもちろん身の回りにあるもの全てが化け物に見える幻覚つき。恐らく大元はオカの葉が元のオカインね」

 

 ふむ、オカインか。前世に似たような名前の麻薬があった気がしたがオカは間違いなく植物性。政府施設で栽培されてたから毒薬実験の時食べさせられた事がある。

 あれの味は覚えてる。

 

「いただくても?」

「もちろん」

 

 レイジュ様から残りの飴玉をいただいて口に含む。ほんのりの甘さ。ハッピーターンの粉みたいな美味しい薬なのに毒なんだから世の中って怖いよねー。

 

「バカッ、吐け!」

「ぐぇっ!苦しい、苦しいぞ」

「まぁまぁお兄さん落ち着いて。私たちに毒は効かないから、もちろん麻薬にも耐性が出来てる」

「……は?」

 

 知らないよなぁ。毒薬実験なんて。

 元々東の海(イーストブルー)の毒薬を体に浴びてちょっとした耐性出来てたけど、徐々に投与される毒薬で耐性が更に出来てたんだよ。

 

 シーザーめ、サラダにするぞ。お蔭さまで毒には効かないので毒殺の心配がないからナイスガッツだよく頑張った。ただし『いずれテメェを毒殺してやるからなぁ!』なんて負けフラグを建設しないで欲しかった。だからか、私のおかしな体質の主治医だった癖に賞金首になりやがったのは。

 

 災厄って凄い。出来ればベガパンクに頼みたかった。

 

「後の祭りって怖いぞなぁ」

 

 まてよ……。政府のよく使う麻薬、だと…?

 

「では私の方も報告しておこう。結論はこちらもバッチリだ、取引場所と時間を手に入れた」

「アラさんもハクさんも働く過ぎるて凄い…」

「ハハッ…救世主に褒められるなら頑張ったかいがある」

 

 ハックさんの報告に拍手を送りたい。裏に潜む情報を取れたことはとてもありがたかった。

 

「ブローカーの、恐らく手下。彼女はアラくらいだと思われる。見た目は黒髪で何故かわからないがメイド服。次の取り引き場所は明日の夜12時、南の港の赤い屋根の小屋の中だ」

「女の子?」

「あぁ。銃声が聞こえたから恐らく武器を携帯しているだろう。気を付けておくべきだ」

「アラくらいの手下がいる闇のブローカー、か……。さて、割り出せないか…」

「あの…」

 

 サボが顎に手を当てて考える素振りをみせる。私は自信ないけど手をそっと上げた。

 

「闇のブローカー、私はご存知微量ながら。恐らく察するた」

「本当か!?」

「うむん…」

 

 本当に、情報屋らしく無いくらい少ないけど。記憶にある情報の中に一つ大きく重なる条件が有った。

 

「──ジョーカー」

「ッ、ドフラミンゴか!」

 

 シーザーの事を考えて思い出した。シーザーは元政府職員だしドフィさんと繋がりだってある。何らかの条件の代わりに薬を提供したとしてもおかしくない。

 もし、もしも酔い止めが切れたらドフィさんに土下座してでも頼むつもりではある。シーザーしか作れない。私は奴の居場所を知らない。助けてドフィえもん。

 

 そしてコアラさんくらいの女の人が銃を持つしかもメイド服という戦闘着…なんて限られる。ベビー5(イブ)はブキブキの実の能力者でドフィさんの手下だ。

 私の中では気持ち悪いくらいに条件が揃ってる。可能性の話では最有力候補だろう。

 

「参った、今この戦力じゃ手が出せない」

「でも。止めることなれば可能」

「……本当か?」

「私がここに存在する。手下は恐らくイブ、自称親友らしき。知らない相手よりやり易きぞ」

 

 イブには決定的な弱点もあるしね。

 

「じゃあ明日からの事だけど…──」

 

 コアラさんがある程度の予想と役割を振っていく。

 

 

 

 

 時計の針が12時を指す頃、ようやく報告会が終了し各部屋で休む事になった。もちろんお互いを信頼し切ってないので私もアラバスタコンビも革命トリオも別の部屋。

 

「リー君」

「はい、ペルさん?」

「私は、いや私達はもうキミの正体に勘づいている」

 

 部屋に向かう途中、ペルさんに呼び止められた。

 

「………ビビ様を、頼みました」

 

 なるほど。

 こう頼めば私は何が何でも守りきらないといけなくなるというわけか。畜生考えたな。しかも頼みはペルさんからと言う。国からという依頼にもなるし個人的な頼みにもなりうる。

 

 正直、チャカさんから言われても頷けない。彼らは普段から私に近付かないし話さないからね。

 ペルさんはアラバスタ王家に仕える兵士。けどチャカさんはコブラ王に仕える兵士。だからチャカさんは私に近寄らないし私も近寄らない。コブラ王が絆される心配をしていなくとも。

 

 2人は立派な守護者だねぇ。

 

「もちろんですよ、公私混同で頑張るます」

 

 決して守りきるとは言わない。それだけスパイという立場は大変だと向こうだって分かってるから。

 

 

「はぁーい、じゃあリアを借りてくわね〜」

「ほら用はあるって言っただろ、先生」

「久しぶりなんだ、絵本の解説をして欲しい」

 

 ヨンジ様は比較的大人しいけど上3人は強引さがある。引きずられる様に部屋を出ていくハメになった。

 

 あ、お願いだからそんな『やっぱり災厄に好かれてるんだな』みたいな視線はやめてくださいサボお兄様。

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

「……さて」

「はい…」

 

 ジェルマの部屋に連れてこられて、出版してないから原文しかないけどワニちゃんの絵本でも読み聞かせして解説でもするかと思ったが空気が予想してたより重たいです。い、一体なんのお話でしょう。

 

「リィン」

「何事でしょうレイジュ様…」

「貴女のお兄様達が弟の名前で反応した理由を教えてもらいたいんだけど」

 

 やっぱりか。と肩を落とす。

 あれだけの動揺があれば察する事くらい出来ますよね、何様俺様有能ジェルマ様だもん。

 

「私、ただいまある海賊団に潜入中です」

「えぇ。堕天使リィン…だったわよね」

「は、早いですなぁ」

 

 まだ手配書が配布されてから一月くらいしか経ってない様な気がするんですけど。しかも顔ありはほんの数日前。

 

「麦わらの一味、に。コックが居るます」

「………ヘェ」

 

「名前はサンジ。黄色い髪のフェミニスト、ヴィンスモーク・サンジ様。ジェルマの王子、です」

「「「良くやった先生!」」」

 

 ジェルマンが私の発言に万歳をし始めた。

 お、おう、喜んでもらえて何よりだ…。だがな、その改造人間が全力で肩を叩くと私が壊れる。

 ううーん…ほかの人間は自分達の作りと少々違うので手加減を覚えましょう、を入れておくべきだったか。

 

「定期的に、連絡を、頂戴」

「わ、わかるますてございますです…」

「さぁ、夜は長い。正直に言うと朝まで待ちきれないので今話してもらおうじゃないか。なぁ先生」

「もういっそ妃にして語り尽くしてもらったら?出来の悪い弟に結婚相手が出来て私も妹が出来る、得しかないけど」

「「「それはちょっと…」」」

「イチ、ニ、ヨンジ様!私泣くですぞ!?」

 

 サンジ様はデリケートな話題を回避するなりオブラートに包むなりしてくれるフェミニストなのに!同じ兄弟でも環境と出会いが違うと扱いにこうも違いが出るのか!ビックリする程違うな畜生!教育の仕方を間違えたのか!?私は保護者じゃないぞ!?

 

「先生、お願いする、です」

「ニジ様…慣れぬ敬語は使わぬ方がよろしくかと思うぞです」

「慣れない言葉は使わない方が身のためだと思うがな。先生」

「イチジ様はフォローすてないですからね、後これは癖です故に。標準語はバッチリですぞ」

「なら使った方がいいのでは?私達は一応王族だが」

 

 ヨンジ様が少し困惑気味に聞いてくる。

 ほう…?

 

「分かりました、貴公らがそう仰るのであれば私はその指示に従うことに致しましょう。数々のご無礼を平にご容赦下さいませ」

「やめて」

「やめてくれ」

「やめろ」

「やめて欲しい」

 

 ほらな、何度試そうと胃がキリキリする扱いは止めさせてくれないのがアンタらだろうが。

 

「そう言えば何故ジェルマの皆さんはヴェズネ王国に?私、てっきりこの様なことには参加せぬ国と思うしてますた故に」

「ついでよ、ついで。私達は戦争国だから、ある人のご依頼で武器を運んでいたの」

「…………………武器?」

 

 そう言えば、コアラさんが言ってたけどアラバスタで港に武器商船が突っ込んでしまい危うく反乱を起こさせる所だったと言っていたけど…。

 

「顧客情報は漏らせないけど、国くらいなら教えられる。もちろん、察してるだろうけどアラバスタ。先払いで良かったわ」

「oh.no!!」

 

 ジェルマの船だったんですね!!!胃が痛くなっちまうぜ!ビビ様の周囲に何国絡むんだよ!

 

「待つして、まさか私徹夜です…?」

「……」

 

 ニッコリ笑うイチジ様が王族じゃなかったらぶん殴ってた。畜生…畜生……。

 




長くなっちゃった…。
ビビとロビン玉の試練
リィンジェルマに捕まる
の二本立てでした。


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第135話 必殺技は〝DO☆GE☆ZA〟

 

 (ダイヤル)の動力を借り、神の島(アッパーヤード)をぐるりと回り黄金捜索班との合流を目指す脱出班。

 そこにはいくつかの血痕と焦げた臭いが船に漂っていた。

 

「空の騎士ィ!」

 

 ウソップの叫ぶ声。燃える槍と炎を吐く鳥に苦戦していたサンジを助けるために、ナミの吹いた笛でやって来た空の騎士も又傷を負っている。

 

 彼らは窮地に立たされていたのだ。

 

「フン、この程度かガン・フォール!」

 

 船の上は紐の試練。〝スカイライダー・シュラ〟の手によって。

 

「相変わらず生ぬるい男だ」

 

 1度は空の騎士が優位に立ったものも、体力の消耗に加え、細い紐のような雲で身動きがとれなくなっていた。

 

「ウソップ!ナミさんだけでも連れて逃げろ!」

「でも…お前ら!」

「ここで全滅すれば結果は同じだ!」

 

 サンジが2人を逃がそうとする。しかしシュラが見逃すはずも無くギロリと睨みつけた。

 

「あぁ…腹立たしき愚か者。神の土地に無断で入るからこうなる。死して詫びろ」

「燃える槍…ッ!」

 

 原理のわからない、しかし高熱により触れたものを全て燃やす槍がメリー号へと突き刺さる。

 

「やめろ!メリー号を燃やすなぁ!」

 

 その時ポツリと雨が降った。

 空島には珍しい雨が。それは船についた火を消し去るまるで神のような雨だ。

 

「間に合った……改良型〝レイン=テンポ〟」

「お前…!レイン=テンポは宴会に使うただの水芸じゃ無かったのか!?」

「アホかぁ!使えるわけないでしょあんなの!」

 

 ナミが天候棒(クリマタクト)を構えて叫ぶ。

 

「棒の仕組みさえ理解すれば天候を自由に生み出せる!悔しいほどいい武器作ったもんね、あんた」

「お、おう!そりゃ俺はキャプテンウソ…」

「時間がかかるのは難点だけど、私の雲さえ作れば私の勝ち。どうやら空島の気候って私に向いてるみたい」

「俺の話を無視しないでくださいー…」

 

 汗ばむ手をギュッと握りしめナミはシュラを見た。

 

「ここで死ぬわけには行かないの!地上に仲間を残して来てるから!〝サンダーボルト=テンポ〟!」

 

 雷雲が大きいほど嵐を呼び雷を降らす。

 それは神と同じ力を。

 

「ぐぁあぁあッ!」

「……私、天候と美貌に関しては天才だから」

 

 ドヤ顔である。

 助かったであろうウソップは一瞬殴りたくなったが、そうなるとフェミニストのサンジによって手痛い返しが飛んでくるので自重した。

 

「ゲボ…ッ、貴様…何故(ゴッド)・エネルと同じ…、力を……!」

「まだ生きてるの!?」

「殺してやるな…敵だけど」

「必ず貴様らは全能なる神の前に…死ぬ…ッ!」

 

「負け犬は、要らんのでな」

 

 バリバリッと光線が走る。

 先程のナミの攻撃と全く違う威力。まさに桁外れと言ったところだ。

 

 シュラはその()にやられ意識を消した。

 

「ヤハハハ。随分面白い力を持っているなぁ」

「だ、誰……」

 

 味方か、とほんの少しの期待を込めて呟くように聞いた。しかし相手の口から零れたのは全く望んでない答え。

 

「我は神なり」

 

 

 

 ==========

 

 

 

 快く晴れ渡る小春日和の朝。

 実りの秋、運動の秋とはよく言ったものだ。まるで美酒のように芳醇な朝の日差し、アラバスタとは違い緩やかで優しい風がサラリと優しく肌を撫でるように吹く中、私は走り出したい気持ちに駆られる。

 

 まだだ、まだ早い。

 

 そう我慢しヴェズネ王国の北に位置する山を眺める。

 北故に、か。木という木が色鮮やかに染まり、まるで木々の社交界。華やかな衣装を身に纏った山は紅葉の盛り時の様で、燃えるような美しさを演出している。

 

 太陽の光と合わさった山の様子は、手を替え品を替え観客を喜ばせるステージの様。

 

 

 そんな秋島の気候に心踊りそうだ、なのに私の心はどうして沈みこんで埋まっているのか。

 

 外へ飛び出したい、あの山を駆けてみたい、大空を堪能したい、今まで抱いたことの無い感情が渦巻く。

 秋の日は短い。刹那の時間だ。

 何故、何故私は。

 

 

 

 

 ──電伝虫の前で心構えをしているのか。

 

 

 答え、これからセンゴクさんに報告をするからです。

 

 嫌だよぉおおおー!電伝虫かけたくないよぉおお!ふぇえんっ、センゴクさんに絶対怒られるに決まってるじゃないですかー!絶対報告を待ってるに決まってるじゃないですかー!

 うっうっうっ…。昨夜、徹夜で『王族と楽しいお話(意訳)』をした所レイジュ様に痛い所を突かれましてねぇ!

 

 『所でリィンちゃん』

 『はい?』

 『報告、しなくていいの…?』

 『明日…しま、しゅ…。うっ、胃が…頭が…』

 

 しなくちゃいけないに決まってるよねッ!!

 

 覚悟を決めるんだリィン、大丈夫、彼は私の唯一の上司。可愛い娘みたいなもんだと信じてる。そんな、決して、酷いことなんて、言うわけない。

 大丈夫。とりあえずジェルマには出版したら絵本をプレゼントする約束したから大丈夫。

 

──ぷるぷるぷるぷる…

 

 覚悟して電伝虫をかけると数コールで電伝虫が鳴いた。

 

──ガチャ…

 

 優しい上司よ!いざ、参らん!

 

『おかき』

「あられ…です」

 

『あぁ、お前か──外道』

「上司が酷い!」

 

 思ったよりも極悪非道な扱いに頭を地面にぶつける。しまいにゃ頭かち割るわ。

 

『アラバスタでの放送は、スモーカーが気を利かせてくれて最初から聞いていた』

 

 わーぉ、最初からクライマックスぅ〜…。

 電伝虫の目が据わっているのが印象に残るよ。間違いない、夢に見る。もちろん悪夢。どうしよう、土下座する?軽率に頭を下げちゃう?

 

『頼むから、海の屑に同情させないでくれ』

「ごめんなさい」

『……分かりましたと言え分かりましたと!』

「申し訳ございません、です!」

 

 分かりました(=同情させない事を理解しました)という言質は取らせない。もしかしたらまだ続くかもしれないし。

 電伝虫の向こうで深〜〜いため息が聞こえた。

 

『それではまず報告から聞こうか。時間はどれほど取れる予定なんだ?』

「午前中は確実に自由です。お昼からの準備も存在するです故に1時間程度ですが」

『分かった。ではあの放送以降の話を聞こう』

 

 ふむ、それじゃあまずは出航だが…包囲網脱出に手を回していたことを知られると拙いのでビビ様か。

 

「お礼に、と招かれるすた宮殿。出航にはビビ様が付いてきますたとさ。私の人生ほぼおしまい。めでたくなしめでたくなし」

『何故だ、何故なんだ…!』

「曰く、強くなりたい(物理)ですね」

 

 私の事はかっ飛ばします。報告書回ってくるだろうが私の発言の方が事実として記録に残る。

 決して、私のせいじゃない。

 

『扱いはどうする。一応アラバスタからは誘拐という扱いとして軍に報告を受けているが』

「表向きは手配書通りで宜しきと思いますよ。下手に王女だとバラすと人質にされかねぬ、です。そして上には誘拐でもいいかと」

『お前が居ながら、という事になるがいいのか?』

「関係ありませぬ。評価よりも最終的なる結果優先思考故に個人的には気にせぬですよ」

 

 私の評価は大将以上が知ってればいい。

 それだけで首チョンパの可能性がグッと下がるんだから。

 

「ま、もしも女狐の評価が軍や他国の王や五老星に必要なれば。そうですねー…『女狐はクロコダイルをおとした。その評価を得て、ビビ様の社会勉強の一貫。守り抜く、と信じて王女を預けた』みたいな感じで誤魔化して下され」

『そういう捉え方もあるか…。なるほど、『危険な目に遭わせた』ではなく『女狐が居るから危険でないと判断し預けた』という王の潔い判断と海軍への信頼を見せつける方法があったか』

「実際そちらの意味合いが強い模様ですよー、守護者コンビは納得すていた様ですたし」

『そうか。一応聞いておくがその〝おとした〟というのは〝陥れた〟の間違いじゃないのか?』

「…………間違いであり正解だと思われる」

『はぁ…?』

 

 一言で片付けよう。

 めんどくさい事にこだわるな。

 

 次が胃を痛める原因になるんだ、心して聞け。

 

「次。アラバスタ出航後、ニコ・ロビンの仲間入りに空から200年ほど前の船ぞ落下。一行は空島を目指すし情報を得る為にジャヤに向か…──」

『──まてまてまてまてまて、まて』

「待つます。しかし質問は受け付けませぬ」

『受け付けろ!』

「解せぬ…」

『解せ!』

 

 あれだけ感動した美しき紅葉が、火をつけられて絶望していく様に見えてしまう。見方によって180度様子が変わってくる…。まるで私みたい。

 

『…今誰が入ったと言った』

「ニコ・ロビン」

『ニコ……ロビン…だと…?』

「革命軍を勧めたのですが入らず。出航済みでしたので海賊として引き返すことも不可能で」

『なんという…厄介者を……。いいか、全力で見張れ!今この世界に古代兵器を復活させる危険性があるのはその女だけだ!』

「本人やる気皆無ですが」

 

 どちらかと言うと歴史目当てなので恐れるべきは海軍ではなく世界政府の様な気がするけど、巻き込まれること間違いなしなので黙っておこう。

 

『…お前が口を割らせる立場としたらどうする』

「交渉。恩人の命を盾にする。脅す。拷問する。薬。絆す。他人にボロボロにされた状態で命からがら助け出し恩を捏造する。催眠や洗脳。記憶操作&捏造…──浅はかですたごめんなさい」

 

 考えれば考えるだけ方法がボロボロ出てくる。

 見張る必要大ありだわ。どこの手にも渡しちゃならない。古代兵器復活可能、なんて野心がない所に押しとどめて置くかインペルダウンに運ばれる方が危険性少ない。

 クロさんだってそれを理由に利用してたもんねー。アラバスタの歴史の本文(ポーネグリフ)は歴史しか書いてなかったらしいけど……。

 

 

 

 

 

 ……──本当に?

 

 

「あれ?」

 

 ちょっとした疑問に襲われる。

 コブラ様は恐らく歴史の本文(ポーネグリフ)の内容を知っていた。そしてニコ・ロビンもそれを読む事によって知っている事になる。そこまでは簡単に素人でも予測がつく。私が予想できるのならニコ・ロビンだって勿論。

 

 ならばなぜ、確認をする様に口に出したのか。

 

 独り言にしては大きい。もしかしてそれは『私に偽物の情報を聞かせる為』だったりするのか…?

 

『どうした、何があったか』

「……。センゴクさん、ニコ・ロビンは七武海より恐れても良いかも知れませぬね。私が口で負けますた、そこまでの逃げ道を防ぐされました。そして…信じ込ませるした。私に」

『……ふむ』

「恐れはするが世界の脅威とはならぬ。と確信しますが」

 

 私に、『海賊』に、『元雑用』に。古代兵器の情報を渡さない様嘘をついた可能性。それは何故か、興味無いから?

 いいや、もしかしたら『世界が滅ぶ危険のある可能性を排除したかった』のかもしれない。

 ………流石に楽観視し過ぎか。

 

 ニコ・ロビンはきっと『自己保身の為に動く』タイプの人間。つまり私と同じような性質だろう。だからこそ、同族嫌悪。自分の狙うものが相手を害しても構わないという信念だからこそ私も嫌だし相手も嫌。

 あぁ、闇に染まった世界で生きた先輩を相手にするのは気が重い。

 

『王女ビビに悪魔の子ニコ・ロビンか…』

「厄介者の多き一味ですよ」

 

 英雄の孫であり革命軍の頂点の息子、赤髪のお気に入りで剣帝の弟子である船長。

 あっという間に覇気を習得した才能溢れる鷹の目に強き者と認められた剣士。

 母親を海兵に持ち。測量士としての腕は勿論、常識外れの海の天候を詠める稀有な航海士。

 四皇赤髪の幹部であり腹心の男の息子、鷹の目に目をつけられた狙撃手。

 一味の中で隠された危険性が一番高く戦争を縄張りとして根を張るヴィンスモーク家の王子な料理人。

 王女の賞金首という過去に見ない記録を叩き出した異端児であり愛された姫とそのお供。

 見た目で騙され、しかも変装にも向いてる七段変形可能。その上優秀な医師。

 オハラの生き残りで古代兵器復活の可能性があり危険性ダントツの考古学者。

 

 そしてそれに加え、冥王と戦神の娘であり世界の中枢を担う者達のツテを持つ最高戦力の私、と。

 

「は、はは…。私、麦わらの一味が怖い」

 

 文字の羅列が恐ろしい。

 これは、見たくないレベルだ。

 

 何故だろう、目眩がして来たよ。

 

「胃痛が痛き…!」

『胃が痛い、が正解だ』

「胃が大爆発っ!」

『分かった、それほど痛いのは分かった』

 

 私、もうそろそろ胃薬と結婚出来る気がする。

 嫁入りしてきます。

 

「私改名…イグス・リィンになりまする」

『胃薬と結婚したいのも分かった。だが言わせろ…───私だってしたい!!』

 

 大の大人がはしゃぐんじゃないよ…。

 胃薬さんはあげないから。語呂的にも私と相性抜群だからあげません。

 

「とりあえずですなぁー…。ジャヤにて色々情報を集めるした後、突き上げる海流(ノックアップストリーム)で一行は空島へ行くますた。私のみ地上にお留守番です」

『また随分古典的な方法で行ったな…。死んでくれれば悩みなど一気に消えるというのに』

「ハハハ…」

 

 今回だけは干渉したくなかったからしなかったけどルフィを死なせない為に潜入してるんだ。

 ……頑張れ私。

 

『報告を聞く限りそれだけで終わらない様な気がしてならないんだがな、モンキー一家は』

 

 ……前言撤回、やっぱりくたばってていいよ。

 

「今の私の状況ですが、なんとヴェズネ王国にて貴族の成りすましをし、麻薬売人をとっちめちまおうぜ大作戦を行うしております〜!足のつかぬツテをレッツ有効活用!」

『何をしとるんだお前は…っ!』

「流石にリオ様…おっと間違えるした、リオンさんのお願いは聞かねばならぬと思うますてねー」

『エルネスト・リオか…またお前は面倒な…!』

 

 私ったらうっかり言い間違えたけどこれは国王のお願いじゃないですよー。リオンさんという謎の人からのお願いですよー。私に責任問題は生じないことにしてくださーい。

 

『はぁ…。分かった。もし解決した場合近くの支部に適当に書いたのでいいから書類提出と屑の搬送を頼んだ』

「わかるますたー!」

『ついでに念のため赤い封筒を手に入れておけ。言えば分かる、言えば』

「赤い封筒…。エース出生の書類を運ぶした時の封筒と同じですね」

 

 確か意味は『世界を揺るがす可能性のある封筒』だったはず。……私がその現状に立ち会う可能性が高いって事ですかね、よく分かってるな私の災厄吸収能力の威力を。

 

「ま、私からは以上ですね!」

 

 ニッコリ笑顔で告げる。

 捲し立てた報告と衝撃のおかげで、どうして『アラバスタ乗っ取り』や『ビビ様麦わらの一味に加入』が起こったのかという真実が()()()隠された。いずれバレる。

 

『ではこちらからの報告だ』

「七武海など、ですか?」

『そうだ』

 

 質問をして見ると案の定の答えが帰ってきた。クロコダイルという七武海の一角を無くしてしまった以上、新たな七武海候補を探し出さないといけない。

 

『会議に来たのは海侠、鷹の目、暴君、そして少し遅れて天夜叉。どうやらアラバスタに居たようだな』

「はい、居ますたよ。七武海同士の共闘は認めるされてますから特に問題ではありませんですたし、国盗り自体には……チッ、関わるすて無き故に」

『舌打ちをするな舌打ちを』

「それでどうなりますた?」

 

 私がそう聞くとセンゴクさんは電伝虫の奥で深くため息を吐いた。

 

『乱入者が出た』

「者共であえ〜ぞ」

『なんだそれは』

 

 マリージョアに乱入者って面倒な。

 

『名前はラフィット。そいつの細かいことは置いておき、推薦したい者がいるとか』

「名は?」

『無名だ、が。算段を立てているらしい』

「ヘェ…算段を、ねぇ」

 

 余程自信がおありらしい。

 そう言えば大参謀と呼ばれるおつるさんに敵うものなどいるのだろうか。私でも難しいのに。

 

『推薦者はティーチ。黒ひげ海賊団だそ──』

「却下」

『……早いな』

 

 予想もしてなかった人から恨み募った名前を聞いた。

 へぇ、黒ひげが。そうかそうか私は絶対許可などしない。

 

 七海決定は、海軍の上から数えた7人と七武海の人数、全員で13人の内半数以上の許可制だろう?

 その上五老星に許可も貰うんだろう?任せろ、半数なら抑え込める事が可能だ。中将枠からはおつるさんとガープ中将(ジジ)だったはず。

 

「白ひげ海賊団で仲間殺しの禁を犯しかけ、只今白ひげから睨まれるしてる海賊団が政府に入るなればどうするとでも?」

『………。』

「それに、アレはダメです」

『理由を聞いても?』

「その前に、戦神の予知の話はご存知です?」

『………知っている』

「警戒を促せ、とです」

 

 そこまで話せばセンゴクさんは静かになった。

 よし、あと一押し。

 

「アレを七武海に入れるなれば…大きな野望ぞ果たすでしょうし。悪魔の実は、恐らく大きな力ぞ発せる。それも海軍を貶める原因になるような…」

 

『そうか、だがとりあえず言わせてくれ』

 

 はい?

 

『──来ていた七武海4人と女帝は却下、そして私とお前の却下で7票。半数以上が却下した事になるんだが』

「良かったけど良くなきこの無駄なる心情!」

『中将2人も却下という判断になっているから正直に言うと聞くまでもなかったのだが』

「ジーザス!」

 

 

『そう言えばクザンがまた脱走した』

「私暇ない忙しき」

『麦わらの一味は空の上……さて女狐よ』

「さようなられた!!!!」

 

 

──ガチャ…

 

 

 逃げるから後で怒られるって分かってても、逃げる癖が付いてるから困るんだよね。

 

 

──ぷるぷるぷるぷる!

 

 もう1回かかってきたァァ!?

 

「ぅはい!?ごめんなさい!」

 

 手に取って反射的に謝るけど特に反応が無い。

 ……あれ?

 

『あー…リィンか』

「サ、サカズキさん!?」

 

 センゴクさんじゃなかった!

 でも嬉しく無いよ過激派筆頭!

 

『本当についさっきヴェズネ王国に居ると聞いた。そこの近くの支部はナバロン、通称ハリネズミと呼ばれる島だ……そこのジョナサン中将はわしの子飼いじゃけぇそこに行け』

「なにそれこわい」

『文句でもあるっちゅうんかのォ…?』

「ヒェッ、ごめんなさい!」

 

 とりあえず私は穏健派も過激派もどっちも怖いな、と思いました。

 




女性は強い。が保護者には弱い。

次回、事態が動く時(流石におじいちゃん引いてると思います、リィンさんよ)


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第136話 恩は着せるもの

 

 

 探索隊のチョッパー、そして同じくカルー。

 2匹は迷いながら森を抜けると、雲に隠れた遺跡を発見し、入っていった。

 

「クエー…」

「どこだろなー…ここ…」

 

「クエッ」

「で、誰だろな。こいつ」

 

 うんうん、と頷くカルーを尻目にチョッパーが遠い目をして腕をクロスさせる白目の男を見る。

 

「姿が…見えない!」

「見えるわけねぇだろ!白目なんだから!!」

「(ここは沼の試練…。そして俺の名は〝空番長・ゲダツ〟全能なる神に従える神官の一人)」

「ゲダツ様!声に出して喋らないと伝わりませんよ!」

 

「クエ……」

 

 なんだこのグダグダな男は、とカルーが呆れた声を上げるもゲダツは気にしなかった。むしろ聞こえやしないが。

 

「フン!せいぜいこのエリアは足元に注意しろ」

「クエ」

「親切だなって」

「……沼は全てを飲み込み自力での脱出は不可能」

「クエーッ、クエッ」

「そりゃ大変だ!捕まらないようにしなきゃ!って」

「ここは生存率50%」

「クエックエーーッ!」

「絶対うっかりのせいだろ!って」

 

 お付の部下らしい人物までもが黙ってしまった。辺りは静寂に包まれる。

 

「お前達は神を怒らせた…」

 

 取り繕う様に咳き込むとそう告げる。

 

「グェエエエエエ!!!」

 

 その瞬間、奇声を発しながら何かがゲダツに向けて突撃していった。獣のような塊が。

 

「クエックエックエックエックエックエッ」

「ちょ、な、たん、ま、ごふ、まっ」

 

 反撃される前に、と頭を執拗に狙う。何度も何度もその硬いクチバシで。喋れない程、何度も。

 

「え、えぇ〜……」

 

 その容赦の無さにチョッパーが引いたのは言うまでもない。

 このカルガモは一体誰に似たのだろうか。クチバシを赤く染めたカルーが『やったぞ!』と喜んでいても、遣る瀬無い気持ちになり、素直に喜べなかった。

 

 ──とりあえず、俺も強くなろう。一味の強いヤツらが頼れるくらい。カルーには負けられない……。

 

 

 

 ==========

 

 

 

 リィンの大変身!

 

 はい、と言うことで今回は町娘に化けよう!ました!過去形です!今回も協力者はコアラさん!

 お化粧、大事。顔の見分けがつかない私にとって第三者の目線って大事。

 

「服装はオッケー。あとは化粧だけど実年齢より幼く化ける場合頬に色つける位が丁度いいと思うんだけど…」

「プラスすて、ホクロ。口と目と頬にお願いするです。ホクロがあるだけで印象はかなり変える可能と思うです」

「あぁ!ナイスアイディア!」

 

 って感じに粉っぽい化粧を我慢して完成したのだ!

 

 

「お兄様見て〜!リアスティーンと印象違う〜?」

「んー…? あぁ、確かに。チャームポイントが違うだけで視線がそこに行くから印象違って見えるな」

「でしょ〜?」

「お下げ髪で髪色を黒く染めたのか」

「うむっ!濡れると一発アウトの安物だけどね」

 

 この世界、髪色を変える染め粉はお高い。安い品質はグッと落ちてしまう。色落ちしないように気を付けながら罠を仕掛けて来ますよー。

 

「でも黒髪に青いリボンは似合わないんじゃないか…?」

「着けたい」

「そのリボン、結構ボロボロだろ。そんなに欲しいなら買ってやろうか…?」

「私はこれがいいのです!」

 

 サボはお下げの先に付けたいつものリボンを見て、眉を下げながら言った。

 

 サボに貰った青いリボン。色褪せてたり解れてたりよれてたり、と結構ボロボロだったりする。でもリボンが切れるまで絶対に使ってやるんだ。『また4人で集まれますように』って願掛けしてるからね。

 

「そっか?」

 

 サボは乙女心分からねぇと呟きながら、この国の地図を書くというなかなかに高度な遊…作業に戻った。

 何が面白いんだか。文系脳の私にはさっぱりわからない。多分サボは理系脳だと思う。

 

 ……残り黒髪2人は間違いなく肉系脳だと確信を持って言えるけどね。脳筋的な。

 

「リーちゃん本当に1人で大丈夫?」

「まぁ…一人というのが不安ではありますけど。お兄様は勿論ハクさんはもってのほか、アラさんは屋敷に入るのでしょう?」

「一人で行くしか手段が無いね」

 

 計画的に誰かがバレると拙いので、今回は心細いけど一人で参るよ。

 

「行くすてくるです!」

「行ってきます、な…」

「行ってきますな!」

 

 サボさん。こいつダメだ、って声。聞こえてますよ。

 

 

 ==========

 

 

 

 先程の元気はどこにいったのやら。

 私は目の前に起こっている現状に呆然としていた。

 

「まさか…工事穴にハマる人ぞ大量に存在す、とは。驚きぞ」

 

 路地裏に有る地面の穴。

 そこに町の男だろう気絶した人間が数人ハマっていた。

 

「えぇ……」

 

 どうしたらいいんだろう。

 

 そう思っていると穴の付近に盲目のおじいちゃんが居ることに気付いた。和服を着て松葉杖っぽいの使ってるから、穴の近くに居たら危ないんじゃ…?

 

「おじいちゃん…そちら危なきですよ?」

「ヘェ…? ありゃ、こりゃ親切にどうも」

「危ない、こちらへ来るのが良きぞ!」

 

 そっと手を取って穴から離すとおじいちゃんは見えないであろう目をまん丸にして……笑い始めた。

 

「え?え?」

「お嬢さんはとてもいいお方だ…!」

 

 ひとしきり笑い終わればしみじみと言われた。

 んん〜…いい子って事だよね?なんだか…慣れない褒め言葉…。私の周囲の人間って鬼畜や外道が褒め言葉だと勘違いしている人が多いから。

 

 あれ、褒められてる、よね?

 ちょっと自信無くなってきた…。

 

「ぷくくっ、そう、お嬢さんがあっしに声をかけてくれなかったら…グフっ、あっしは穴に落っこちて…!」

「笑うのか褒めるのかどちらかにすてくだされ」

 

 本気で自信無くなってきた。

 

「おじいちゃんは、どちらに用です?」

「あっしは…──嗚呼、おじいちゃんは散歩してやした。小春日和でいい気候だァ…」

揶揄(やゆ)するは禁止」

「ハッハッハッハ!」

 

 なんだろう、正統派おじいちゃんって初めて見た気がする。年下の知り合い少なくてむしろ周囲に年上しか居ないのになんでこんな風にまともなおじいちゃんが身の回りに居ないの…?

 リィンはこの海が不思議でならないよ。

 

「おじいちゃん、口はカタキ?」

「仇…?」

「あー、訂正。堅き、鋼鉄、武装色…」

「あぁ、なるほど。あっしは堅い方だ、安心しなせぇ」

「うむ、ではお手伝い願うです!」

「………はい?」

 

 盲目のおじいちゃんとその孫程、怪しまれないものは無い。聞き返した言葉だろうが言質は取ったのでナンパ成功である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 やって来たのはモザブーコ家の屋敷。

 わーお。兵士がウロウロしてますねぇ。

 

『こちらエビスダイ。ターゲットは屋敷に向かった。返答願う、どうぞ』

「こちら小狐。目視完了。作戦を決行する。どうぞ」

『了解した、だがこのどうぞと言うのは一体なんの意味があるんだ?電伝虫が盗聴されなくなる合図だったら別にコードネームを使わなくても大丈夫の様な…』

「雰囲気、大事」

 

 電伝虫からの言葉に真顔で返事をする。

 私という存在は気分と想像と雰囲気次第で質が上がるので気にしないでください。でなければ自ら貴族に喧嘩売りに行こうとなんかしない。いくら立場が下であろうともな。

 

 下に見えて実はツテを沢山持ってたりすると酷い目に会うのは私だ。見た目、肩書きに騙されやしない。

 ……いい例が私だからね。見た目に騙されちゃいやん。

 

「また…奇っ怪な事を……」

 

 目的をぼんやり誤魔化して作戦を教えたおじいちゃん:仕掛け人が呟く。

 おじいちゃんには穏やかな老人として頑張って貰うからね。ごめんね!報酬は穴に落ちそうになった所を助けたって事でよろしく!!!

 

「んんっ、あーあー……。声質変化変化ー…んんー…。普段より少し高め……がぁー…あー……」

 

 喉の調子は整えた。ちなみに声の高さで言えば街娘>堕天使>リアスティーン>女狐って所。あと私はおかしな口調を変えるだけで雰囲気がガラリと変わるらしい。

 

 

 ガラガラと貴族を乗せる用の馬車が屋敷の前に止まる。よし、あの出てくるのがターゲットか。

 

 

 視線がおじいちゃんと交わる。

 巻き込んでごめん、でも後悔はしてない。

 

 

「……──あのね、おじいちゃん」

 

 高めの声で貴族様に聞こえるように話す。ちらりと視線を向けてみたが気付いて無いみたい。

 おお、不機嫌そうですな。

 

「アラバスタってどこか知ってる?」

「んん?アラバスタだって…? はて、どこだったか…」

「…………アラバスタ?」

 

 貴族の家を通り過ぎるながら国名を出すと面白い具合に反応した。やったァ入れ食いだァ!

 

「うん、あのね、アラバスタのお姫様みたいなキレーなお姉さんが飴ちゃんくれたの。だーいすきなんだって!」

 

 そのアラバスタのお姫様みたいなキレーなお姉さん、私です。自作自演だから私もうそろそろ女優になっても食べていけると思う。

 

「オホンッ、そこの下み…お嬢ちゃん。その話、私にも聞かせてもらっていいかな?」

 

 マジモンの入れ食いだった。

 えぇ…。もう釣れたの?私もう少しエサを用意してたんだけど…。手応え無さすぎ…。

 

 私の目的は『貴族様にある情報を渡す』事。それは『アラバスタの貴族リアスティーンが飴好き』だということ。

 

「貴族様?キレーなお姉さんのお話聞きたいの?」

「左様。私の知り合いかも知れなくてな、どんな姿であったか?」

「えっと…金色の長ーい髪の毛にね、背は私より大きい!」

「なるほど、服装はどうだったかね?」

「青いお洋服…?ヒラヒラしててサラサラしてたよ。刺繍がされてあってね、太陽みたいなマークだったんだ!」

 

「……一致するな…。それに太陽…間違いなくアラバスタか」

 

 そりゃそうだろ。罠に嵌めてるんだから。

 

「その人と何をしてたんだ?」

「飴ちゃん貰ったの。お姫様ね、一番大好きなんだって。だからいっつも持ち歩いてるって言ってたよ」

「だがアラバスタの姫さんは今行方不明じゃなかったかい?あっしはそう聞きやしたが…」

「いやいやご老人。この子の言ってることは間違いなくアラバスタの使者、喜んでたと伝えておこう」

 

 『しめしめ、アラバスタの貴族が飴好きなら丁度いい。良い情報を聞いた…。これで操り、娘の愚行を無しにするよう仕向ければ…!』みたいな顔してんなぁ。おじいちゃんが盲目で良かった。見えないから!

 でもおじいちゃんは少し眉を顰めてる。……流石に一般人をこれ以上拘束するのも悪いな。

 

「貴族様、行ってもいい?」

「あ、あぁ。良かったら私からも飴をあげよう」

「わぁ!いいの!?」

 

 しめしめ、これで証拠がゲット出来た。思ったより早かったなぁ。でも逃げられない状況にしておかないといつどう出るか分かったもんじゃない。まぁひとまず目的はクリアどころかお釣りが来る…!

 

「特別だ、2個あげよう」

「本当!後でお兄ちゃんにもあげる!ありがとう貴族様!」

 

 1個を口の中に放り込めばモザブーコ家当主はニヤリと笑った。終わったね、モザブーコ家。

 

 本当に、(油断して自滅してくれて)ありがとう。(潰す気満々で貴方にとって敵の)お兄ちゃんにも渡しておくね。

 

 無知を装って情報収集する事程楽なものはない!子供と侮ってくれるから実に楽しい。そしてチョロい。

 

 

 さようなら、と手を振りながら笑う。おじいちゃんの手を引いて角を曲がれば私の顔の笑みは悪い笑みへと変わっていた。

 レベルが低過ぎるぜ…!まぁ子供と老人に警戒しろって方が異常だけど。

 

「おじいちゃん今回は協力ありがとうございますた」

「いやァ、役に立てたのが微妙ですが良かった。お嬢さんの健闘を祈らせてもらいやす」

「体に気をつけるして下され、では私戻るます」

「あぁそうだお嬢さん、お名前は」

 

「秘密です。その方が素敵では無きです?」

 

 私は呆然とするおじいちゃんを尻目に宮殿と逆方向に駆けていく。まるで目的地はそこにあるかのように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……どこで正体バレるか分からないからせめて名前だけでも隠しておきたいんだよ!

 

 




※どうぞと言っても電伝虫に盗聴防止機能は付きません。こいつ純粋なハックさん騙してやがる

巻き込まれたおじいちゃん、嵌められたモブでザコの当主さん。

お仕事してるハックさんとコアラさんに、眉を下げたサボさん。


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第137話 ヒーローより悪役

 

 

 ゾロは傷付いたチョッパーの敵を討ち取り、神官は4人全員倒れた。生き残った一味は遂に合流する、途中現れた敵をなぎ倒しながら。

 

 舞台は〝神の社〟が存在する巨大豆蔓(ジャイアントジャック)、の中腹と、空。

 

「どういう事だ…」

 

 大地(ヴァース)の先住民、シャンドラ達は驚く。

 乱闘になっているその大地で無事生き残った、いや出遅れたが故に無事だった数人の戦士が。

 

「雷が効かない…?」

 

 白海には存在しないゴム。

 ルフィはその力でエネルを圧倒していた。

 

 雷の力に絶望を覚えたシャンドラの戦士達も微かな希望を抱いて。

 

「青海人!お前ッ、セコイだろ!」

「ぶー!ぶー!」

「雷効かないとか反則だー!」

 

 ──居なかった。どうやら抱いていたのは怒りらしい。

 

「戦士のプライドとかじゃ無くてそこなのか…」

 

 ウソップが遠い目をしてツッコミを入れるハメになった。麦わらの一味不動のツッコミ王、彼はどうやらボケから逃れられない運命の様だ。

 

「これ…終わるかな」

「ぶつくさ言ってる暇が有ったら!死にたくねぇなら!さっさとこのデカイ木を切り倒せ!」

「おいおいゾロ君勘弁してくれ〜!………お前みたいに化け物じゃねぇんだよ」

 

 数十分後、空にはきちんと鐘の音が響き渡った。

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

 

 着替える時コアラさんに聞かれたんだ。

 

 『どうして仕掛けてくるって分かってるの? それを前提として今晩出るんでしょ?』と。

 

 凄く不思議そうな顔で私に化粧をしながら。

 

 私は答えた。

 

 『娘との因縁があるのに、まだ謝るしてない。それはつまり、挽回のチャンスは翌日に持ち込むするという事でしょう?』

 

 食べ物の持ち込みが可能な二日目に。

 

 

 

 

「御機嫌ようファルシュ・リアスティーン嬢」

 

 さぁ、勝負の始まりだ。

 

「御機嫌よう、えっと、モザブーコ、殿?」

「ヴェズネ王国男爵モザブーコ・イディエットです。昨日は娘のフールが大変ご無礼を致しました」

「あぁ!あの方のお父上でしたか…お気になさらず」

 

 わざわざ生贄になりに来てくれてありがとう!非公式だけど国王の許可がある私の方が権力高いから気にせずボコれるね!自分より下の者に対して強気なの!ごめんね!

 

「ご迷惑をお掛けしましたので。ところで…リアスティーン嬢のお兄様はどちらに?」

「お兄様は…その…ご令嬢に捕まってしまい…」

「それはそれは!」

 

 気まずげに教えるとイディエットは笑顔になった。そうか、私の方が御しやすいと思っているのか、正解だ。

 サボにはわざと離れてもらった。警戒心の強い兄が居ては話にならない可能性もあるからね。

 

 

 

 天候悪くならない内に支部に連れていきたいんだよなぁ。私、空飛ぶからとっても天候に左右される。……盲目のおじいちゃんが『遠くで雷鳴が聞こえる』って呟いてたんだ、怖い。

 私はもちろん、聞こえてませんが、何か?

 

「こちら、我が家が贔屓させていただいている飴なのですよ。これがまだ美味でございまして、よろしければ…」

「貴方の家がお作りになっているのでは無いのですか。私、飴玉が大好物でして……貴族らしく無いので内緒にしているのですけど」

「おや、丁度よかった!お好きでしたらいくつかどうぞ。お察しの通り実はこれで経営を営んでおります」

 

 最初は危険性を考えて敢えて話さなかったのねぇ。ふふーん?怪しい臭いがプンプンしますなぁー!

 イディエットは持っていた袋から紫色の包装がされた飴玉を取り出して、私に渡した。

 

「今すぐいただいても?」

「えぇ!勿論!」

 

 大胆だなぁ、この人も。

 現行犯逮捕って言うのを考えなかったのだろうか。

 

 いや、害を加えられないと社交界では護衛が踏み込めない。例え毒殺しようしていても。命の重さがとっても軽いこの世界なんてそんなものか。

 それに麻薬って害を加えたか加えてないか分からないし。

 

「わぁ、美味しい」

 

 口の中に放り込み、勝利の笑みを浮かべる。利益に拘ったか知らないが、貴族に手を出して私は被害者になった。

 

「甘くて、何度も食べたくなる味ですね」

「そうでしょう」

 

 否定もしなかった。

 

 さぁて、チェックメイトだ。

 

「そう、昨日の娘の事なんですが…」

「──ところで!」

 

 ニッコリ笑顔で会話を遮る。

 

「私とっても()()()()()

 

 壁際にいるペルさんとチャカさんが動く。

 驚いた、のは攻撃開始の合図。

 

 頼んだよぉ…アラバスタのお二人さん。私は囮役がまだあるからね。

 

「は?どうされました?」

「貴方は非常に珍しい材料を使っているのですねぇ、飴玉にオカを使うとは!何度も食べること、したくなる味」

 

──チャキッ…

 

 動物(ゾオン)系2人が刀や剣を構えてイディエットの首元に近付けた。……充分動けるスペースを作って。

 

「そうだ、これご返却しますね」

 

 呆然としているイディエットに紙をプレゼントする。

 それを見て驚いた顔をした。

 

「これは我が家のリスト…!何故貴様が!窃盗だ!」

「ん?窃盗?私の手にはありませぬし、そちらにありますよね?どこをどう見て窃盗と?」

 

 おいこらニジ様。いけしゃあしゃあと…、ってその言葉が聞こえてないとでも思ってるのか。

 

「そして認めましたねぇ〜、それが貴方の物だと。飴玉には麻薬、リストの所有者は貴方」

「ッ!」

「あぁ!目撃情報もあるんですよ?今日の昼、貴方の手から直接受け取ったと証言する方がいますし!現に私も食べましたし!」

「……麻薬?なんの事を言っているのかわからないな、小娘が。侮辱するのも大概にしろよ」

 

 あくまでもシラを切るつもりか。

 

「……では何故護衛が動かないのでしょう」

 

 は?という顔になった。

 

「実際剣を向けられて主の命の危機だと言うのに、貴方の護衛は余計な事をすまいと動かない。それは、騒ぎを大きくしたくないから?いいや、違う」

「……………1からやり直しか」

「守る為の護衛では無く、殲滅する為の駒なのでしょう?」

 

 ペルさんとチャカさんがわざと開けた隙間、それが身動きできる事に繋がった。あぁ、目的はキミだけじゃなくてその護衛もだから。身動き出来て、自分の安全が確保されるなら、標的を私に差し向けるでしょうし。

 

「…───皆殺しだ!こいつから狙え!」

 

 イディエットの護衛、薄い紫のボサボサな髪と、上半身が大きい魚人体型の男の鋭いつり目が私睨む。そして殴り飛ばす為におおきく振りかぶって殴ろうとする。

 

「フンッ」

 

──ドゴォンッ!

 

 が、しかし。戦闘スタイルを特定されない様にしながらサボが蹴ると、敵は地面に埋まった。

 

 ……サボって、腕力がゴリラだけじゃなくて脚力もゴリラだったんだね。

 

「さすがお兄様」

「……リーの話を聞いてなかったのか?俺たちは『自己防衛程度出来る様に努力した』んだから。当たり前だよな?」

 

 クスッと口角を上げて腰を抜かした元貴族様に笑いかけるとリオ様と目が合った。『それは自己防衛の域じゃない』と遠い目をしてる国王に。

 

 それは私も思います。

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

 まだ仕事は終わってない。

 一番の大仕事、ベビー5(イブ)の説得が残ってる。

 

 

 イディエットと護衛は牢獄の中でキレながら、ただ時を待ってる様な気がした。見張りは居ない。物陰に隠れてる私と、革命軍くらいなものだ。

 

 捕まる時に何故か余裕ぶった様子だったので気になったんだ、そして思い出した。取り引きは今夜の0時。何かしらのトラブルが合ったとしても大丈夫なように打ち合わせ、例えば『捕まったとしても武力行使で助ける』とか約束してたんじゃないかって。

 

 にしてもあの護衛の輩、見た事あるような無いような…。

 

「ヘマをやらかしたのね」

「…っ! あんな化物がいるなんて聞いてなかった!」

「中で何があったのか分からないけど、ジョーカーの名を貶めるつもりなの?」

 

 記憶の蓋を開けている内にどうやらイブが現れた模様。

 ジョーカー確定、ならあの貴族様達は──

 

「まぁいい、ここから早く出してくれ」

「貴方達が情報を漏らさない、と考えられない」

 

 ──消される。

 

「おい!約束が違うッ!」

 

 人の口に戸は立てられない、ならば壊してしまおう。

 ドフィさん達ならそう考えるはず。

 

 私は絶対そうする。

 

 ……実際、BW組は海軍って言う牢獄に入れて口封じしてるし。『口に出せばキミらの前科も露見するよ?いいの?口、閉じてた方がお互いの為にならない?』ってね。

 

「ジョーカー…!裏切ったな!」

「裏切る?先に裏切ったのもバレたのも貴方」

「た、助けてくれよ!女ァ!このまま死ぬのはゴメンだ!俺はただ雇われただけだってのに…!」

 

 護衛まで命乞いをしだした。

 

「………私が、必要なのね」

 

 あれれ〜?おっかしいぞ〜?なんだかリィン、とっても嫌な予感がするのー!

 

「は?」

「私が、必要なのね!」

「ひ、必要だ!」

「この私がどうしても必要なのね!」

「どうしても必要なんだ!」

「分かったわ!今すぐ助けて…──」

 

──ドゴォンッ!

 

 地面が抉れた。

 ……何やってんスか。サボさん。

 

「我慢の限界だ。お前だけは俺の手で殺す」

 

 どうやら因縁がある模様で、護衛の方をギロリと睨んでそう言い放った。

 イブが腕を銃に変えて警戒している。

 

「ッ、邪魔をしないで!」

「イブ、ストップ!」

 

 私は咄嗟に腕を別の方向に逸らさせた。

 無鉄砲なのはサボも私も同じ。感情を昂らせて判断ミスするなんてらしくない。

 

「あのさ、何の為にぞ隠れるすてたと…!」

「悪ぃ。お前こいつら2人の身元分かるか?」

「ご存知ない」

「分かった。……約束通りこいつらはお前に渡す、けど少し時間くれ」

 

 あ、離れてろって事ですね。

 仕方ないから混乱してるイブを連れて牢獄の前を離れる。

 

「リ、リィン!え、私、何故」

「イブ、まず聞くして。私はイブの判断がとっても必要…。あの2人を見捨てるして」

「わかったわ」

 

 返事に一秒も無かったぞ。この人本当に大丈夫かな…。

 

「リィンはどうしてここに?」

「七武海の…あ、元七武海のクロさんと現七武海のドフィさんとが頭痛い事を引っ掻き回すしてくれたお陰で、ね」

「……? よく分からないけど分かったわ」

 

 あれ…?

 

「イブ、私が海軍でどの地位だったかご存知?」

「え?雑用、だよね?もしかして三等兵とかになってた?」

「………ううん、雑用ぞ」

 

 女狐の事教えてないなら教えてないって言えよクソミンゴ!!!!私はてっきり幹部全員にばらしてるものだとばかり思ってた!!!

 

 心の中で罵倒しながら遠い目をする。

 

「ひとまず、この国から手を引くように進言頼む。イブのみが頼り」

「…分かった、ジョーカーのクズ野郎を殺せばいいのね」

「個人的にはいいぞもっとやれ。しかしながら一体何が起こるした、とりあえず辞めるして」

 

 組織的に気になる。若様ラブのイブがどうしてドフィさんを罵倒する様なハメになったんだ。

 反抗期?かなり遅いけど反抗期?

 

「…………たの」

「え?」

「…ッ婚約者を殺されたの!町ごと!」

 

 マジかよ。それは反抗期入るわ。

 しかし婚約者を町ごと潰すって…どれだけシスコンなんだドフィさんは。この場合親バカとシスコンどっちだ?

 

「最初に若様に報告したら…突然立ち上がってどこかに連絡して…!ッ、う!こ、婚約者を…ッ!」

 

 ──何故だろう。凄く、とても凄く嫌な想像が生まれてしまった。

 

 

 そう言えばドフィさんから電伝虫掛かって来たなー…。内容何だったっけー。まさか!適当に返事した私の意見を…取り入れたとか……ない……よね?

 

 

 ……気にしないことにしておこう。心の平穏の為にも。

 

 

 

 

 

「リー、すまん、時間助かった」

「いえ、大丈夫ぞ。こちらも説得の時間をしようしたのみ故、に゛ィッ!?」

「どうした?」

 

 キラキラエフェクトがかかりそうな程笑顔のサボ。すいません、目が笑ってません。

 

「一つ疑問よろしき?」

「ん?」

「……サボの手袋は元々何色ですた?」

「どうだろうなぁ」

 

 少なくとも、貴族のフリしてる人の手袋が赤黒い筈無いんですけど。

 

「彼は?」

「…私、『リアスティーン』の心強きゴリッ………兄」

 

 イブの質問に答えかけて止め、別の答えにする。

 ゴリラとは言わないので無言で手をパキパキして力を入れるのやめてくださいゴリラさん。

 




……手袋は白でした。


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第138話 渡り鳥は…とりあえず焼き鳥食べたい

 

 

 ドフラミンゴは、正直言って暇をしていた。

 

「よし、クロちゃん所遊びに行ってくる」

「まって若様のクソ野郎!私も取り引きの島に行きたいから連れていって!」

「おーおー怖ぇ反抗期だな」

「当たり前だろっ!あんたは私の婚約者をっ、町ごとっ!」

「ベビー5は頼まれると断れないのがわるいだすやん。借金いくらだ?」

「うるさい!私の人生に4千800万ベリー!」

「あ、200万ベリー貸して」

「──私っ、必要とされてる…!」

 

 男の家はいつも賑やかだ。

 

 

 ==========

 

 

 

「遊びに来たぜ!この俺がな!」

「忙しいって言ってただろうが鳥野郎っ!」

 

 投げつけられた酒瓶を避け、友人と言えない微妙な関係の男の椅子に勝手に座る。

 

「ったく、これからが国盗りの本番だってのに…!」

「本当にやるつもりなのか」

「まぁな。引っ込みつかねぇだろ」

「…………手伝ってやろうか?」

「………信じられねぇ」

 

 ──計画が失敗する様に、な。

 

 本音を酒と共に飲み干して。

 

「ドフラミンゴ」

「あァ?」

「………楽しかった」

「おう…──って、え!?クロちゃん!?今なんて言った!?もしもし!?クロコちゃん!?」

「だァ!ウルセェ!」

 

 

 

 

 

 ドフラミンゴはクロコダイルを懐にこっそり入れていた。家族の他に、もう一つ。

 

「同じ道を歩けば…逃げられねェんだよ…鰐」

 

 

 ==========

 

 

「待って、クロさん!クロさん言うした、昔!『計画さえ無ければセンゴクを潰したい』と!そんな頃からずっと計画していた!何故、私を外交カードに使うしなかった!?」

「…………。」

 

 なぁクロコダイル。俺達の玩具は鋭いよなぁ。

  

「ビビ様と幼馴染みの私と知っていながら、どうして引き込もうとすた!?」

「……黙れ」

 

 何年お前らを観察して、何年つるんで来たと思ってるんだ。気付かない訳ないだろ。

 

「もしもそれがカードなれば、何故脅すしなかった!私が弱いのは、よくご存知!」

「黙れ」

 

 こいつは愚かな程賢く、痛い程優しい。

 

「ねぇクロさん!クロさんはッ、本当は何を企むしてる!?只の国盗りでは無いことくらい分かるぞ!」

「黙れ!!!!」

 

「説明くらい、するしろ!私の力がどうして必要ですた!!??」

 

 お前ら、泣きそうな顔をすんじゃねぇよ。

 こっちから丸見えだ。馬鹿共。

 

 

「俺は、テメェの力なんざ必要無い!」

 

 俺の望みを教えてやろうか?

 

 …──ずっと、友になりたかった。

 

 

 お前らは、どういうだろうな。

 気持ち悪いと言うか?それとも同じだと言うか?

 

 それとも、もう…───

 

 

 

 ==========

 

 

 

 雨の降る夜中。リィンが船から飛び出した姿を確認したドフラミンゴは、カツカツと音を鳴らし船内へと入っていく。

 

「…! ドフラミンゴ」

「よォスモーカー君。クロコダイルと話しても構わねぇか?」

「………お前もか」

 

 スモーカーは七武海のワガママに振り回されるが為か、頭を押さえた。

 

「月組を供に付ける事を妥協してくれるならな」

「フフフ…構わねぇぜ」

「グレン!」

「俺ですか…」

 

 指名を受けたグレンはため息を吐く。

 

「お? 会員No.0君」

「やめろ下さい!頼むから俺を巻き込むな自称キチガイ!」

「おい、なんだそれは」

「リィン情報だ!意訳するけど『ドフィさんってキチガイのフリしてるだけで()()大人しいよね』ってな!ちなみに俺も今猛烈に痛感してる!ウチのリックの方がキチガイだ!」

「そんな力説する事か…」

 

 ──やはり、良く分かってる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クロコダイルは牢獄の前に現れたドフラミンゴを見やった。

 

「お似合いだぜぇ?」

「近々お前も入る事になるさドフラミンゴ君」

「おーおー。元気そうだな」

 

 ヒラヒラと手を振りながら能天気に笑うドフラミンゴに殺意を抱きながら、クロコダイルは掻き消すようにため息を吐いた。

 

「……何かあったのか?」

「お前、は……ッ!」

 

 どこか鋭い疑問に再び殺意が生まれた。

 

「クロコダイル?」

 

 おかしな様子のクロコダイルにドフラミンゴは首を傾げる。隣で月組の2人がヒィヒィ言ってるのが印象的だ。

 こいつら何があった。

 

「…………絶対言うか」

 

 クロコダイルが視線を逸らすので、仕方ないとドフラミンゴは牢番2人を見る。

 

「ちなみに、俺ァここにリィンが来たことを知っている。海賊がここに来ちゃならねぇ事を知っている。クロコダイルの様子からして来ただろうと予想している」

「お、なら立場知ってるパターンだな」

「はァ!?おい鳥野郎!まさかお前知ってた…のか!?」

 

 『堕天使』ではなく『女狐』が来たこと。

 それを察したクロコダイルの殺気があっという間に膨れ上がった。

 

「……し、七武海就任したてから?」

「テメェ絶対腹の中で笑ってやがったな」

 

 図星なのか、ドフラミンゴの視線は月組に向く。話題を変えるのと同時に、生まれた疑問に答えてもらおうと。

 

「お前ら何があった…これ?」

「グレンに聞かれたんなら答えにゃならんな」

「なぁ〜?」

「気ィくらい使いやがれ雑用共ッ!」

 

 代わりにグレンが聞く。当たり前だがクロコダイルが阻止しようと睨んだ。

 

「実はなァ」

「おい!雑用!」

「あー、クロちゃんちょっと黙ってような」

 

 糸でクロコダイルの動きを封じ第三者の意見を聞くことにする。恨みがましい視線で見られても海楼石によって封じられてる彼は怖くなどない。

 なんだかんだと初対面である七武海に恐怖を抱かず話せる月組は、リィンの影響によるものが強いだろう。

 

「それが……イル君は哀れにも振られてしまったんだ」

「「ゲボフッ!」」

「おかしな音がしたけど大丈夫か2人とも…」

 

 恐ろしや月組…七武海に一撃加える事が出来るとは。

 …色んな意味で。

 ドフラミンゴは『イル君』の名に少し聞き覚えがあったが、とりあえず頭の端に置いておきクロコダイルに向き直った。

 

「……どうする鰐、月組に面白おかしく語られるくらいなら自分で説明するか?」

 

 自由になった頭がコクリと頷いた。

 げっそりしている、ような気がするだけだが。

 

「…『愛してた』と、言った」

「……え、誰が?」

「…俺が」

「……鰐、お前ガチだった?」

「…ちょっと黙っててくれませんかねェ鳥野郎」

 

 語られた言葉は衝撃以外何物でも無い。あのドフラミンゴでさえ引き気味なのだから。

 ギリギリと歯軋りの音に冷や汗をかく。

 

 あ、これガチだ。

 

「そ、それでどうなった」

 

 ドフラミンゴは引き攣りそうな頬を動かし、敢えて月組2人に視線を向けると逸らされた。

 

「どうなった…」

「ガッと立ち上がって全力でスモーカーさんの所に向かって走っていき…」

「それで息切らして報告してたのか、納得」

 

 まさかの逃げ。

 ドフラミンゴは天を仰いだ。

 

「空が綺麗だな…」

「アラバスタは全土に渡り土砂降りだ」

 

 やけに冷静なグレンのツッコミは要らないと心から思った。

 

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

「遅れたぁぁあ!」

 

 マリージョアの会議室、窓からいつもの様に単独行動の多いドフラミンゴが現れる。昔は船で来てたというのに、この気楽さはどうにかならないかとセンゴクが悩んでいる要因の一つだ。

 

「遅い!」

「ごめんな!センゴクおじいちゃん!」

「……殺されたいか海の屑野郎」

「うおっ、いつも以上に辛辣…。何、娘に裏切られる勢いで騙されてたから怒ってんの?フフフ…とっくに親離れしてるガキに執着してるようだったらいけねぇぜェ?」

 

 『どうせ何も相談連絡してもらってなかったんだろ?事後報告だけだったんだろ?ざまぁ』と煽るが、大参謀つるが止める。

 

「ドフラミンゴ、いい子だからおやめ」

「ごめんおばあちゃん!」

「……………ドフラミンゴ?」

「…申し訳ございません」

 

 その様子を見守っていた他の七武海は笑った。

 

『ドフラミンゴ、下らぬことを続けるで無い』

「おぉ、蛇姫。今日はリアルタイム中継か」

『フン、クロコダイルが敗れたと聞いて今回だけじゃ。ところでお主何故遅れた』

 

 蛇姫、ボア・ハンコックが電伝虫を通して首を傾げる仕草をすると、ドフラミンゴの口から衝撃的な言葉が漏れた。

 

「アラバスタで色々見てた」

「「「『詳しく』」」」

「勿論、その為に俺がいる!フフフ…良い仕事するだろう?」

 

「──では、私もお教え願いたい」

 

「何者だ!貴様!」

「願わくば、この集会、参加させて頂きたく……参上いたしました。クロコダイル氏称号剥奪に受けて、後継者をお探しでは無いかと」

 

 小刻みなステップをしながら、ラフィットと名乗る男が乱入してきた。青白く長い手足やスティックでコツコツと地面を叩く。

 

 彼曰く、ある男を推薦したいのだ、と。

 

「名は黒ひげ海賊団、ご記憶にございますよう」

「すまないがとっくに知っている」

 

 センゴクが首を傾げる中、ミホークが口を出した。

 

「おぉ、俺も知ってるぜ」

「同じくだ」

 

 他の海兵も、聞いたこと無いのか疑問符が浮かぶ。海賊特有の情報なのか、と誰かが呟いた。

 

「ドフラミンゴ、それがどういう事か教えてくれるかい?」

「おつるさんに言われたんじゃ教えるしかねェ」

『妾も知っておる、クロコダイル経由でな』

「知らないのは七武海では恐らくモリアくらいだろう。あの男は好かん、ノリが悪過ぎる」

「七武海にノリを求められても困ると思うんじゃがのぉ…」

 

 バッサリ切るミホークの辛辣な判断にジンベエが頭をかいた。ラフィットはと言うと噂と少々違う七武海の様子に混乱している。

 

「俺たちの玩ち…お姫様から情報あればくれと言われたんだ」

「七武海を手足に使う姫とか嫌だな、察した」

 

 ラフテルよりずっと遠い所を見ながらオニグモ中将が思わず言葉を漏らす。

 

「まぁ。誰にも何も言わず去ったし、敵前逃亡かました上に陥れる事に全力を出した小娘にゃ、教えねぇがな!」

「ガキか!連絡手段持ってるならせめて教えてやらんか!」

「フフフ…!フフフ!!」

 

 脳みその処理能力を超えてしまったラフィットは思わず元帥という立場の人間に聞いてしまった。

 

「仲が…良さそうですね……?」

「ギスギスしている方がありがたい」

 

 別名苦労人。本音を漏らす元帥も元帥だ。

 

『ラフィットとやら、お主黒ひげの写真などは持っているか? わらわに見せよ』

「えぇ持っていますが──…」

 

 

「…──あぁ、こいつはダメだな。もう顔面から信頼度のなさが見え隠れしてる」

「顔面から!?」

「これじゃゲームも暇つぶしも出来ん」

「ゲーム!?暇つぶし!?」

「誕生会も、の」

「誕生会!?」

『わらわもそれに参加してみたいが…そなたらが女装して、場所をマリージョアから離してくれれば、行くのじゃ』

「難易度高い!?」

「だが最近嘘つきは誰だゲームのネタが切れてきている。何かいい案が欲しい」

「待ってください、会議とは何でしょう!?」

 

 マイペースで仲の良い七武海に混乱させられるラフィットは、海兵から少々同情された。

 海軍の代わりにツッコミをしてくれてありがとう、と。

 

『女装が似合いそうに無いので却下じゃ』

「そこですか!」

『クロコダイルは随分似合っておったの…。はぁ、こんなムサイ男など七武海に入れるわけにはいかぬ』

「船長のムサさは何十年も前から変わらないので勘弁して頂きたく思います!……って、似合う!?似合うとは!?」

「大体、髭のある人間は信用ならない」

「そこにいる鷹の目は髭でしょう!七武海のツッコミ役はどこですか!」

「「「「『基本クロコダイル』」」」」

「何故クロコダイル氏は!愚かにも称号剥奪してしまったんでしょうかッ!」

 

 怒号のツッコミ祭りに肩で息をするラフィットに海兵は拍手する。呆れるしか無かった我々には新鮮な反応だ、と。

 当の本人、ラフィットはと言うと。……クロコダイルという人間を心から尊敬していた。

 

「おっしゃ〜、鬼ごっこする人この指止まれ!」

「参加する」

「わしも」

「同意しよう」

『妾もしたい』

「待って!待って!ここ一応聖地ですよね!?」

 

「乱入しとるお前さんが良く言えるな…」

 

 指を組んで顎を置いたセンゴクがボソリと呟く。七武海のツッコミを放棄し切れない男の微かな抵抗だった。

 

「ところで、アラバスタで何をしていたんだい」

 

 つるの一声とはまさにこの事、そこで意識が元の道に修正される。

 

「鰐がロリコンにされた…」

「「「『元々』」」」

「まぁ、ネタがな。うん、ネタが」

 

 ごフッ、とセンゴクが思わず血を吐く。電伝虫で放送を聞いていたが為、ストレスの限界だ。ラフィットが心配してくるので本気で黒ひげを七武海にしようかと迷う程だ。

 

「いやぁ、実に愉快。国盗り合戦を傍観して鰐と合体技して、俺ツエーしてたけど途中で飽きてよ…。そしたら鰐が麦わらに敗れちまってよぉ」

『麦わら…? リィンが居る麦わらの一味か!妾、知っておるぞ!』

「あぁ、俺も本人らに会った」

「マジかよ」

「剣士がなかなかに興味深い。弟子に欲しい」

「ミポリン今日饒舌だな」

「暇つぶし対象の海賊団の話題だ、仕方ない。センゴク、潰すなよ、頼んだ」

「海兵にそれを頼むか!」

 

「まぁた脱線しているよ、お前達。ほら、続きをお話し」

「腹筋覚悟しろよ…お前ら…──」

 

 数分後、そこには机や足を叩きながらヒィヒィ言う屍が幾つも作られていた。

 

 恐らく謎の作家がこの現状を知ったらガッツポーズをするだろう。予期せぬ所で美談が広がるのだから。

 クロコダイルの名誉の為に牢獄での話は避けたのだが、結論として変わらなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、黒ひげ海賊団の件はどうする」

 

 ラフィットが去った後、センゴクが真剣な顔で七武海らに聞いた。

 

「却下」

「加入は認められない」

「遠慮願おう」

「同じ意見だな」

『わらわは先に言った通りじゃ』

 

 先ほどのふざけた様子とは違い、馴れ合う様子は無い。

 出された結論は厳しいものだった。

 

「俺たちは黒ひげの『情報を受け取った』んだ。誰も、この中で誰も知らない情報をな。それはかなり貴重な物だと思わねぇか?」

「……奴は『情報を俺たちに教えてもらう様にした』だけでは無く、言外に『その情報に誰も知りえない危険性がある』と伝えた。自ら危険を招く行為はしない方が的を射ている」

「元々名が無い。未知数の敵をわざわざ懐に放り込む獣は居ないだろう」

「概ね同意じゃが、ティーチは親父さんの所に居った名じゃ。細かい事が分かるまで近付きとうも無い」

『全体的に胡散臭いから嫌なのじゃ!』

 

 それぞれの理由を告げるとセンゴクは頷いた。

 

「分かった、七武海5人は却下だな。ところで他に候補はあるか?」

「……ハートの海賊団」

「いや、ここは麦わらだろう」

「そう言えば最近超新星(ルーキー)が凄い勢いで力を付けておるなぁ」

 

「面倒な…。女狐に担当させるか」

 

 その言葉に思わず反応した、正体を知るミホークとドフラミンゴは動きを止めてゆっくり告げた。

 

「センゴク、お前…。〝仏〟の名が泣くぞ?」

「その前に胃が悲鳴を上げている、弔い合戦だ」

「まぁ、少しは灸を据えた方がいいけどよ…」

 

 くまは心の中で『名を捨てて実を取る』とはこの事か、と思いながら茶柱の立ったお茶を啜っていた。

 ついでに、とドフラミンゴも啜る。

 

 

 ──茶が不味い。

 

 

 ドフラミンゴは道化の仮面を被る。ニタリと笑う仮面の下に真実を隠して。

 




裏側のお話。
ドフラミンゴの楽しい日常。正しい意味で美談が七武海と海兵+αに伝わるというオプション付きで。


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第139話 兄妹の再開

 

 

「宝!盗って逃げるぞ!」

 

 大冒険の終わり、ルフィのそんな言葉でナミが特に目を輝かせる事になった。

 

「凄いわルフィ!いつの間にこんな所を!」

「なんだっけ…迷ってたら蛇に喰われちまったらしくてよ〜。出るとみんなボロボロだろ?いや〜、焦った焦った!」

「あぁ…ルフィさんの登場が遅かったのはそのせいだったのね…」

 

 空に住む大蛇(うわばみ)の胃の中には金銀財宝、つまりナミの天国がそこにあった。

 無いと思った黄金、それが存在しているのだから。

 

 

 

 ==========

 

 

 

「お前の手が有って良かった。助かった」

「リィンちゃんありがとね〜」

「また借りが出来てしまったな」

 

 アラバスタの2人やリオ様、ジェルマの方々とは別れを済ました。そして今回の協力者、革命軍とも別れの時間だ。

 

「どうでしょう、此度は私も助かりますたし…」

「礼は素直に受け取っておけ」

「……はいはい」

 

 悪党を箒に括りつけてあるのでいつでも出発できる。夜が開けきる前に辿り着きたい。

 ……本当はこちらで夜を明かしても良かったんだが、革命軍は早く去りたい様だし。長居する理由も無かったから早めに支部へ行こうと思う。

 

 サボが頭をワシワシともみくちゃにするので直しながら向き直る。

 

「……ありがとな。本当に」

 

 しみじみと言わないでくれるかな。

 

「これからは革命軍と無理に取り引きしなくてもいいか──」

「それ以上言うなかれ、お兄ちゃん」

 

 サボの『裏切り者をやめろ』という発言を阻止する。ちょっと組織舐めてませんかね、充分首飛ぶレベルなんだよ。首皮1枚で繋がってるから切れた場合のツテとして残しておきたいんだよ。

 それに、まだ離れたくない。

 

「おい、堕天使。兄妹設定はもういいって」

「──『お兄ちゃん』」

 

 今、私は『サンお兄様』に話しかけてる『リアスティーン』じゃないんだよ。

 

「にぃに」

 

 サボは目を見開いた後、視線を下に向けて大きく息を吐くことになった。

 

「………いつから気付いてた、()()

 

 取り繕う事を諦めたように呟く。思っていた通り、サボは記憶を思い出していた。

 キョロキョロと効果音が付きそうなくらいコアラさんが私とサボを交互に見る。

 

「私の予想では熱中症の段階で兆しがあったのでは?そして恐らく完璧に思い出すたはVSドフィさんの骨折り辺り」

 

 時期の予想をするとサボは両手をあげた。

 

「だいせーかい…」

「えっ、じゃあサボ君は記憶を…」

「あぁ、全部思い出していた」

 

 コアラさんの言葉にサボが頷く。

 

 酷く頭痛を訴えていたように感じる砂漠越え。4人が10年ぶりに集まったんだから、サボの記憶の蓋をこじ開けてもおかしくない。

 『サボ』と野生児コンビに呼ばれて倒れたんだ、タイミングが意地悪過ぎる。

 

「何で完璧に思い出したのが戦闘中だと?」

「鰐と鳥」

「はい?」

「エースが砂漠で思い出すした事」

「あ〜…それって、ルフィ君とリィンちゃんが鰐に襲われて、しかも野鳥に襲われたって話?」

「さよう。あの時のサボの言葉は『決着は今度着けてやるから覚えていろ』」

 

 どう考えても二つが同じような状況下。

 

 最初、『鰐に襲われたのはルフィとリィン』であり、今回は『クロコダイルと対峙したのはルフィとリィン』ってだけでも同じ。

 更に『ドフラミンゴ(やちょう)に敵わず、追い払ったのはエースとサボ』だ。

 

 ……しかも捨て台詞も同じときた。

 

「リーはなんなんだよ、人の心情心理でも読めるのか…。正解にも限度があるだろ」

 

 遠い目をしてらっしゃるサボ。

 

「後、『参謀総長』は仲間以外通り名で呼んでたんだ。決して名前を呼ばない」

「あ、あぁ。それは昔から……」

「戦闘中、エースやルフィと呼んでいるしたぞ?」

「…………混乱中は意識してなかった」

「戦闘ぞ終わり、少し理性を取り戻すしてから取り繕うしたのが不味かったですなぁ。どう考えるしてもわざとらしく思うぞ」

 

 合体技的なのにやられて、ルフィがミイラにされた時。ルフィの名前を呼んだのは、サボもだった。

 骨を折った後、サボは『避けてろルフィ』と言った。ルフィとクロさんのタイマンの時『さっきまで殺し合いしてたドフラミンゴがエースの隣で寛いでる余裕はとりあえず腹立つ』と言った。どう考えても違和感以外何物でも無い。

 

 麦わらや火拳と呼んでいたのに。

 それに悲しさを少し覚えたのに。

 

「そして何よりの決定打!」

「なんだッ、俺はどこで何をミスしてたッ!」

 

「──サボが優しい、これに尽きる!」

 

「「「……は?」」」

 

 革命トリオは何とも言えない顔になった。

 その気持ちは分かる。

 

「えっ、決定打が、優しい?」

「うん」

「優しいから、分かった?」

「うん」

「……心遣いや信頼度が上がったとは」

「思わぬぞ」

 

 壊れたレコードの様に何度も聞き返すサボ。

 

 うん、まぁ、何故かわからないけど隠そうとした事がバレた理由が『優しいから』って納得いかないだろうね。まさか態度の問題だったとは思わないだろう。

 

「俺、そんなに態度変わってたか?」

「かなり」

「……具体的には」

 

 若干ショックを受けているのか低い声で聞く。良かろう、答えて進ぜよう。

 

「その1、報酬」

「…やっぱりか」

 

 参謀総長が情報料やら依頼料やらを女狐に渡そうとしたりなんかしない。実際、私はアラバスタでこれと言った事はしてないんだから。

 

 項垂れるサボに指を立てる。

 

「その2、大丈夫かと心配すた」

「そこもか!」

 

 報酬の流れで言ってたはず。『今回のクロコダイルの暴挙、お前に責任の大半があるから事情聴取やらで気を付けとけ』と。参謀総長なら絶対そんな事言わない。多分用は無いと無視する。

 

「その3、コブラ様に依頼をされた時」

「……待てよ、本気で自覚無いんだが」

「サボは言うした。ヴェズネのこの件について『お前はどうだ、抜け出せるか』と」

「おかしいか?」

 

 純粋にわからないのか首を傾げる。

 

「──参謀総長なれば『一味抜け出して無理やり時間作れ女狐』と大暴露しながら命令する」

「ごめんなさい」

 

 参謀総長のキャラの酷さが分かったか。私、記憶喪失のサボ相手に良く何年もボロを出さずに、手玉に取られずに立ち回りした。この人怖い。

 

「他にもこの国に来てすぐ手荒な迎えを謝るした事、絶対せぬ。リアスティーンのキャラの設定が参謀総長にしては優しい。夜会でのフォローなど、参謀総長は絶対せぬ。カモになりそうかと問うした時の合格、判決が生温い。そして暴力暴言が圧倒的に少なき、意識して使っていると推定」

「リィンちゃん勘弁して上げて!サボ君これ以上にないくらいショックを受けてるから!」

 

 えぇ…まだまだあるんだけど。

 麻薬食べた時の慌てっぷりとか、『敵』には絶対しない。否定しない、理不尽な事をしない、八つ当たりしない、信頼している。

 

 おかしな事だらけだ。

 

「それとね、サボ」

 

 しゃがみこんで頭を抱えたサボと目を合わせる。

 もう一つ、気になった違和感がある。

 

「青いリボン。恨めしそうに悲しそうに見るしていたなれば、兵士は流石に分かるぞ」

「……鈍いと思ってた」

「まさか」

 

 私は他人の気持ちに鈍感な訳でも、天然な訳でも無い。万能じゃないから隠されると気付かない事だってあるけど、あからさまな思惑には気付く。

 気付いて、利用しているんだから。

 

「何故、言わなかったの?」

 

 隠そうとしていることも分かっていた。

 アラバスタでどうすべきか迷ったが、サボの判断に従うことにした。

 

 サボは大きく息を吐く。

 

「俺は言わば死人だ」

「そうぞね…」

「他人としてあいつらを見てしまった以上、死人が現れてどうこう口出す訳にはいかないだろ」

 

 ハリセン用意。

 

「言わない方が、あいつらにとって幸せだ」

 

 発射!

 

──スパァンッ!!

 

「いでぇ!おい、それ地味に痛いんだが!」

「エースは!」

 

 頭を思いっきり叩いた為、サボが涙目で頭を押さえる。私はそんなサボに聞こえるようにハッキリ言った。

 

「エースは気付いてる!」

 

 

 

 ==========

 

 

 

「なぁ、リー…」

 

 困った様に笑いながら、エースの顔が近付く。

 耳元に口を寄せて小さく呟いた言葉に、私は思わず身を固くする事になった。

 

「──サボは、生きてるんだろ…?」

「ッ!」

 

 やっぱり、と納得した様な顔。

 正解を与えてしまった事に苦い顔をする。

 

「知ってたんだよな、リー」

「………うん」

「いつから?」

「エースが、賞金首になる辺り」

「なら、俺と再会した時は知ってたって訳だよな」

「………うん」

 

 初めてだ、初めてエースの怒った顔を見た。

 しかも、怒りの対象は私だ。

 

「なんで、言ってくれなかったんだよッ!」

 

 ギリギリと力の込められた手で肩を握られ、痛みに顔を顰めると慌ててマルコさんが止めに入った。

 

「エース!なにやってんだよい!」

「お前だけ知ってたんだろ!?あぁ、お袋の手紙の事だって!俺の父親の事だって!…ッ、お前だけ知ってしまったことには怒らねぇよ! だけどな、兄妹の事だ!なんで、なんで!」

 

 雨が涙みたいに見えて、口を噤む。

 私に反論する事は出来ない。

 

 泣きそうなくらいの叫び声、だが雨の音や雨に喜ぶ声で、喧騒なんて有って無きが如し。

 麦わらの一味も革命軍もこの場には居ない。

 

「なんで俺にも言ってくれなかったんだよ…!」

 

 もはや弱々しく呟くエース。

 マルコさんはどうすべきか悩んでいる様だったけど、兄妹間の問題だから口を出せない。

 

「俺はお前やサボみたいに頭が良い訳じゃ無い…、すぐ忘れるし顔にも出やすい」

 

 

「でも、兄妹の事。知りたくないわけが、ないだろ…。そんなに信用ならねェのか……」

 

 ……信用、してる。

 

「兄貴なんだ、頼ってくれよ」

 

 この世界に生きて、手に入れた家族。

 

「サボが生きてた事。リーが頼ってくれない事が1番ショックだ…!」

 

 『私がなんとかしなくちゃ』『守らなければ』『仕方ない、フォローするよ』

 

 ……何様だ。

 それでエースの兄としてのプライドを傷付けた。

 

 サボが記憶喪失なのをいい事に黙っていたのは、どう考えても私の落ち度!

 私がサボを探して求めていた様に、エースやルフィも同じ気持ちだった。

 

 泣きたいはずなのに涙が出てこない。

 

「気を使わないでくれよ」

「……ごめんエース」

「赤の他人じゃないんだから…ッ」

 

 自分勝手で自己優先の妹でごめん。

 

「サボは…──」

 

 記憶喪失、と言おうとした。

 でも、正直記憶を取り戻してるんじゃないかという疑いを持ってるから言いきれない。

 

 あぁ、これではダメなんだ。

 

「──記憶喪失の恐れがある」

 

 ちゃんと話す。

 私の『兄を失いたくない気持ち』の為に。

 

 自分勝手で自己優先の情けない妹でごめんね。

 

「ただ、思い出すてるかどうかが分からぬ。だからお兄ちゃん、絶対生きるして」

「…っ!お、前は…ホントズルイよな」

「狡く賢く。…これから、頼りにすてもいい?」

「あぁ。兄貴だからな」

 

 細かい事云々抜きにして、初心に戻れ。私は何より兄を大切にしたいから海軍に入った。

 ただ、そんなシンプルな事だったろう。

 

「でもやっぱり旦那でもいいか…──」

「滅!」

自然(ロギア)系にも弱点があったか…ッ!目が、目が痛いいいいい!」

「水分って強いなぁー…」

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

「エースが…気付いてる?」

 

 私の言葉を、サボは繰り返す。

 

「アラバスタで決定的なミスが2つあるした。私と、コアラさんが、思わずサボの名前を呼ぶした。エースの中でサボの記憶は大きい、故に簡単に目を付けるしたぞ」

 

 頭の中のふざけた記憶を削除してシリアスを取り戻そうと顔に力を入れる。

 実際やっちまった感あった。違いない。

 

「うわー…マジかよ…」

「うわー…やっちゃった、ごめん」

 

 再び頭を抱えだした。

 コアラさんまで謝っている。

 

「だが、サボ。あの2人に言いたくなかったのは少々理解出来るが、救世主に対して隠す必要無かったんじゃないか…?」

「あぁ、確かに」

 

 比較的冷静なハックさんと共に視線を向けると気まずげに顔を逸らされてしまった。

 

「サボさぁ〜ん?」

「いや、だって、リーは『革命軍の俺』が触れ合ってきた唯一の兄妹だろ…? 今更態度が変わるとか、まず俺が精神的に死ぬ」

「サボ君それすっごくしょうもない」

「考えてみろコアラ!超絶塩対応のどう考えても敵扱いしてた俺が超絶砂糖対応のシスコンの兄バカになるんだぞ!?分かるか!?」

「流石に見たくないかな」

「それなら知らないフリしてた方がずっといいだろ…ッ!主に俺が得する!」

 

 心からどうでもいい理由だった。

 いや、まぁ。私も女狐やってる身としては、色々やらかした後に身バレをしたくない。

 

 要は『態度変えると小っ恥ずかしさが生じる』って事だろうね。

 

「子供か!」

「馬鹿!男はいつだって少年なんだよ!」

「兄でもまさかの罵倒!」

「俺は考えた…」

 

 さっきの一瞬で何かの解決策が浮かんだのか、サボは手を組んで真剣な顔をして呟く。

 

「黒髪2人は甘いから厳しくしておいた方が将来リーの為になるんじゃないかと…」

「充分厳しきぞ!」

「本音を言うと兄妹の中で軌道修正効くの俺しかいないと思ってる」

「否定…難関…ッだと…!?」

 

 一度思ったことあるから否定しづらい。

 サボさん勘弁してください、私は甘やかされて育ちたい、堕落人生を過ごしたい、引きこもり希望の平和平凡を愛するただの少女なんで。

 ……結構本気で。

 

 このまま世界から逃げ出したい…ッ!

 

「とりあえず、俺の事は他の兄弟には黙っててくれ」

「心の準備が、出来るしたなれば」

「絶対言う」

「死人に口は無くてもサボにはござります故。もしも逃げたなればあることないこと捏造し世界発信頑張るます」

「無駄な方向に努力をしないでくれよ…」

 

 無事に伝えてくれることを願ってるよ。

 

「本当に、生きてて良かったか?」

「その答えは今の現状と思うぞ」

「……そっか、ありがとな」

 

 優しく撫でてくれる。

 根本的な所は何も変わってない。4人揃うその時まで、私は青いリボンで記憶を繋ぐから。

 

「う…ぅぅ……」

「オラァ!」

「グハ…ッ!」

 

 だからどうか、目覚めかけた護衛の奴を一々物理で潰すのやめて。

 




ヴェズネ編はこれにて終了。
次、新章はいります


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ナバロン編
第140話 親方!空からお姫様方が!


 

 センゴクさん経由で知ったサカズキさんの指示の元、箒に悪党を括りつけて支部に向かうため空を飛んだ。

 サボが眠らせて(物理)くれてるから起きないと思うけどさっさと連れて行きたい。

 

 サボもサボで小難しい性格してるよなぁ。

 言わないのが幸せって…。

 

 私がどれだけ泣いたか、悔しかったか。見つけられた時どれだけ嬉しかったか、泣いたか。

 

 言う言わないどちらの選択肢が正解か。もう答えは出てるような物でしょう?私も、エースも、待ってる。

 

 風を体に集めながらどうでもいい事を考える。

 麦わらの一味から連絡は未だ来てない、つまりまだ私が自由にしている時間はあるという事だ。

 

 ────多分。

 

 

 

 

 

「やぁ、これは大将殿。まさか空から現れるとは思っていなかったよ」

 

 偉大なる航路(グランドライン)上の要塞、ナバロン。

 通称ハリネズミと言われるここG-8。

 

「……………釣り?」

 

 空から侵入して悪党を届けに来たはいいが、将校服の男が釣りをしていたので戸惑いながらも悪党を渡した。

 ほけほけと笑う髭の人。

 

「そうそう、どうだ、やってくかい?」

「……………ッ呑気か!」

 

 大将女狐の仮面も忘れて地団駄踏む。

 おい、おい。

 

「これがサカズキさんの子飼い!?嘘でしょ!?」

「おや、そちらが素か」

 

 ジョナサン中将、そう名乗った男はあまりにも赤犬と似ても似つかぬ呑気なおっちゃんだった。

 

 

 

 ==========

 

 

 

 拝啓、親愛なるサカズキさんへ。

 

 そちらの気候は如何程の模様でしょうか。草木が芽生え始める春?それとも照りつける太陽が身を焦がす夏?将又芳醇な香りを放つ秋、もしや空との距離が近くなる冬でしょうか。近頃、海賊の量も増え、質も悪い意味で良くなっている今、いかがお過ごしでしょう。

 私は最近五寸釘片手にお人形遊びをするのがいい暇つぶしになっております。

 そう言えば、サカズキさんは昔どのように過ごされていたのでしょう。名ばかりと言えども私とて同じ立場、先輩方の昔が気になる年頃です。

 昔から海賊に殲滅的だったのでしょうか、それともクザンさんの様にやる気が無かったのでしょうか。疑問に思います。

 

 センゴクさんと共に潜入に猛反対していた貴方には分からないでしょうが、最近の麦わらの一味の様子に大変な変化が起こっております。言うなればトラブル回収機。どんな星の元に生まれてきたらこんな風になるのか…。

 大変ですが、実に、実に充実した毎日(意味深)を送っております。

 

 ところで。貴方の子飼いとして有名なナバロンの中将ですが、どこかリノさんことボルサリーノさんを思い浮かべて仕方ありません。戦いという観点では些か頼りないという印象を受けました。

 どうして、どうして。

 

 

 どうして私、釣りなんかしてるんだろう…。

 

 

 

 

「いやー、星が綺麗だね〜」

「はぁ、そうですね」

 

 正直悪党を渡したらそこで用は終わりだ。しかし釣りに誘われズルズルと引き止められてしまった。

 

 ジョナサン中将はG-8と書かれたウキを浮かべて釣れるかな、とニコニコ笑っていらっしゃる。

 へ、平和だなぁ…。

 

「……………ナバロン、ここはあまりにも守り過ぎでは?」

「守りの大将殿にそう言われるか」

「まぁ、多少危機感が薄れる気がすて」

 

 物々しい外観ではあるがそれだと海賊は寄ってこない。最近まとめて捕縛する機会があったらしいがそれでも危機感が薄れてしまうらしい。

 完璧すぎるとつけ込みにくい。

 海賊を誘う何かが無ければ延々と針を突き出したままの動物になるだけだ。

 

 ここは要塞。市民が暮らす島じゃない。

 戦いの最前線で兵士が暮らし訓練し海賊を食い止めるための島だ。……やはり寄せ付けないだけでは足りない様な気がする。

 

 

「避難訓練の如く、捕縛訓練や襲撃訓練でも起こすなれば良きに。例えば海軍内の『影部隊』に頼むしたなれば…」

 

 海軍の『影部隊』とは世界政府で言うCP9の仕事に加え内部告発とか色々ある。抜き打ちテスト部隊みたいな感じだなって思ったことあるや。

 表立った組織じゃないので将の名のつく者以外は存在自体知らなかったり。そして影部隊の名前や姿は()()()()()大将以上が知っていたりする。

 

 私の立場がいいものか悪いものか判断し難い。

 

「あぁそうか、キミも大将なら知っていてもおかしくないな。キミは、声からして若いだろう?私の子供が居たらこんな感じなのかね〜」

 

 なんだか気が抜ける。

 

 でも、私知ってる。飄々とした人が2番目に怖いって。

 1番は仏や平和みたいに油断してしまいそうな名前を持つ人だけど。

 

「あの、サカズキさんの子飼、えっと、サカズキさんがよく面倒ぞ見るってまことです?」

「大将には良くしてもらったよ。彼の派閥の中で一番雰囲気が似ていると自信を持って言えるくらいにはね」

「えぇー……」

 

 全くもって正反対です。

 

 失礼極まりない反応を見せるとジョナサンさんが面白そうに口角を上げた。どうでもいいけどジョナサンさんって面倒臭いな。

 

「ジョナサンさん、ジョナサンさん…ジョナサン中将……。中将、子飼い、赤犬の子飼い…うむ…」

「何を唸っているのかな?」

「女狐の呼び方。普段は通り名ですが」

「無いね」

「そうですか…」

 

 とりあえず似てる似てないの話は遠ざけて別の話題にする。生憎時間はあるんだなこれが。

 死んだ殺した等の可能性は捨てきれないけど、麦わらの一味が現れるまでどこかに居ないといけないし。堕天使は麦わらの一味に居る設定だから女狐で居ないといけないし。

 

「じゃあジョナはどうだい、これをさん付けすればいい」

「女狐のお気に入りまで掻っ攫う気ですか」

「ばれたか」

 

 悪戯っ子の様にジョナさんが笑う。

 なるほど、この人は案外知将タイプか。サカズキさんの子飼いという先入観があるせいで武闘派だと思ってたけど想像より違うのかもしれない。

 

「まぁ、中将なればツテを作るも素を見せるも構いませぬかね…。一応私潜入中故、その船が帰るて来るまでここに滞在すても?」

「その船はどんな船でどこに行っているのかな?」

 

 星が振りそうな夜空の元。

 

「麦わらの一味、空島に観光旅行中ぞ」

 

──ドバシャアアンッ!

 

 星の代わりに空から船が降ってきた。

 

 

 

 

 

「これも貴様か災厄吸収能力!!」

 

 ドクロが被っていたのは麦わら帽子の様です。

 

 

 

 ==========

 

 

 

「誰だ貴様…」

「……………女狐」

 

 空から降ってきた船、メリー号を調べる為にジョナさんが乗り込み、私は基地内で待機しておく。

 すると帰ってきたドレイク少佐が訝しげな目を向けてきた。

 

「女狐…大将!? こ、これは失礼いたしました…!」

「麦わらの一味は彼女の部下の専門なんでね、たまたま立ち寄ってもらったから協力してもらってるんだ」

 

 ジョナさんが設定通りの説明をしてくれるのをありがたく思いながら中の様子を訪ねた。

 

「……………状況」

「幽霊船、だということにしておいたよ。部屋の中には黄金、まだ暑いコーヒー、医術書や歴史書、更にはサウスバード。これくらいが収穫だろうか」

「……………ふぅん」

 

 歩きながら報告を聞く。

 コーヒーの数は8個、私を除いた総員の数だ。

 

 ………空から降ってきた癖に良くコーヒー飲めたな。

 

「む、麦わらの一味の手配書数は現在4つ」

 

 4つ?5つじゃなくて?

 

「船長〝麦わら〟のルフィ、そして〝海賊狩り〟のゾロ。ONLY(オンリー) ALIVE(アライブ)の〝砂姫〟ビビと〝堕天使〟リィンです」

 

 なるほど、ニコ・ロビンの存在はまだ広がってない、と。それもそうだ。ニコ・ロビンが船に乗ってから海軍はそれを見かけてない。それなのに麦わらの一味入りしてたら内部に裏切り者がいるという事になってしまう。

 ……この件を踏み台にニコ・ロビンを麦わらの一味入りさせる報告もありかもしれないな。

 

「ジャヤから現れた、と考えるのが一番現実的だな」

「ジャヤ、ですか?」

「あのコーヒー、美味かっただろ。あれはジャヤ産の物だ。そしてここ付近のサウスバード生息地はジャヤしかいない」

「……………お見事」

 

 いわゆる『正解』を与えるとジョナさんは嬉しそうに笑顔を見せた。その代わりドレイク少佐は不満そうに顔を歪めている。ま、普通は警戒態勢を敷くのが当たり前なのに幽霊船だなんてふざけている以外考えられないよねぇ。

 

 幽霊船扱いにはこの生温い基地にはいいクッション剤だ。新米海兵、海兵じゃない者、老兵、色々な立場の人間が揃ってるここでは『海賊が攻めてきましたー!』って言われても混乱状態に陥る他無いだろう。個人的にこの扱いは有難いので全面支持しますよ!

 

 さて、これから私はどう動いていこうか。無闇に介入するわけにも行かないが麦わらの一味を逃がさないといけない。

 

「そうだ女狐大将殿」

 

 顎に手を当てて考えているとジョナさんが声をかけた。

 

「……………何、ジョナさん」

「釣りで言った言葉。いいかもしれないなぁ」

 

 釣り?

 釣りって言うと…。

 

 『避難訓練の如く、捕縛訓練や襲撃訓練でも起こすなれば良きに』

 

 まさか、麦わらの一味を襲撃訓練に当てるつもりか?

 

「……………許可する」

「ならば少し話を詰めなければならないな。少佐、基地内を調べておいて欲しい」

「は、ぃ?」

「麦わらの一味がもし軍服を着れば…、どうなるだろうか」

「ッ!分かりました!」

「そうだ…食堂ならいいかもしれないねぇ。朝になったら行ってみるといい、人間どんな状況下でもお腹は空くものだ」

 

 分かる、分かる。

 特に麦わらの一味船長とかはな。

 

「さて…手合わせ願うよ」

「……………御手柔らかに」

 

 こっそり呟かざるを得なかった。

 

 

 

 ==========

 

 

 

 マリージョアより来た船が嵐に遭い、混乱状態に陥ったナバロン。

 

 外部の人間が入り込んだという幸運に恵まれた麦わらの一味は各々の判断でナバロン内をさ迷っていた。

 

「長鼻くん、腹を括らないとね」

「括りたくねぇよ…」

 

 ロビンとウソップは麦わらの一味の船が幽霊船扱いを受けている情報を手に入れ、メリー号奪還へと。

 

 

 

「テメェっ俺の刀ッ!」

「は、ハイ親方!」

 

 ゾロはそのままの格好でさ迷っていた所をナミの手によって刀を崖に置かれ。ナミは清掃員として道場を掃除する指示を受けている。

 

 

 

「もっ、もうっ!どうなってるんだよぉぉ!」

 

 チョッパーやカルーは別々だが、ただひたすらに逃げ回り。

 

 

 

「アンタらがマーレ兄弟か」

 

 ナミが案内した2人が本物だと知らずに、サンジとルフィがコックに成りすまし厨房に潜入していた。

 

 

 

 そしてビビは…──

 

「……………無い」

「貴女、まさか…っ!」

 

 大将女狐とエンカウントを果たしていた。

 

 

 

 ==========

 

 

 

 オッスオラリィン!ハリネズミって言われる要塞ナバロンで探索をしている最中だったんだゾ!ジョナさんは海を小舟で優雅に遊ぶとかいって出ていったから手持ち無沙汰でブラブラしていたんだゾ!

 

 シェパード中佐が率いた本部の船がやって来てしまったらしいし、オラ、とても不運なんだ。ルフィ、どんだけ幸運なんだ。とか思っていたところだったんだゾ!

 

 それなのに、それなのに!

 

「まさか…女狐ッ!?」

 

 女狐の存在を噂だけとはいえ正確に把握しているビビ様とエンカウント!やだ…王族に囚われすぎ…。リィン困っちゃう…。

 

 いや、結構マジで。

 

「……………キミは」

 

 誰でもいいから助けてください。

 

 




アニメオリジナル、ナバロンの要塞。ナバロン編です。アニオリの中で一番好きなので!


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第141話 青と緑と、真っ白い狐

 

 

「……………キミは」

 

 はい詰んだ、詰みました。

 

 お先真っ暗、お空も真っ暗。異常事態を知らせるけたましい警告音。

 私、海軍本部の大将。通り名は女狐。今王女ビビ様とエンカウントを果たしちゃったの。誰だよ青き虫は青き草むらにいるから分かりずらいとか言ったヤツ!

 

 格好も様子もめちゃくちゃ分かりやすいじゃん!

 

 うぇ…お腹痛い…血ぃ吐きそう。キリキリするよ。もう、嫌だ、お姫様大人しくしてて下さい。

 

「なん、で…」

 

 狼狽えながら後退するビビ様。

 見るからに疑ってくださいって言う感じの態度に苦笑いすら出てこない。

 

 どうしよう。

 ビビ様1人だけだと傷付けられる可能性が有る。そうなると誰か一味と合流させるのが先決だと思うが他の一味がどこにいるのか分からない今、下手に動かすのも…。

 

 雑用服でも渡して変装してもらうか?

 『これを洗濯しておいて』みたいに言えば恐らく…大丈夫だろう。

 

 よしっ、と口を開こうとしたその時。

 

「大将…!」

「……………何?」

 

 ドレイク少佐がコツコツと床を鳴らしながらキリリとした顔で現れてしまった。

 

 願いは叶いませんでした、なんというタイミングでやって来た!ちくしょう!

 

「麦わらの一味の船はドックに収容、そしてロロノア・ゾロを捕らえました」

「……………そう」

 

 新たに得られた情報に口角が上がる。

 

 地獄に仏とはこの事か、一味の中で武闘派の戦力が捕えられているだと!?ビビ様の護衛はゾロさんに任せるべきだね!

 つまり、ビビ様は捕獲。

 

「……………海賊狩り、か」

 

 ポツリと呟けば背後でビビ様の驚いた気配がした。

 訝しげに見下ろすドレイク少佐。彼が口を開く前に私の手がビビ様の肩を掴んだ。

 

「え…」

「〝砂姫〟ですか…。その、なんというか、仕事がとても早い」

 

 ここに私服海兵なんて有ってはいけない。そうすると浮上する可能性は『侵入者』のみ。

 ドレイク少佐に姿を見られている以上、私が彼女と敵対するそぶりは見せておかないと。

 

 余談だが、私はこれでも女性にしてはかなりの筋力を有していると思っている。重い刀を持って世界一の剣豪相手に逃げ回ったり、脱走兵(私から見ると巨体)を引きずったりしてたんだ。

 慣れない頃は筋肉痛とか良くあった。

 

 だからこそ歳上のビビ様でも簡単に封じ込められるって理由だ。

 

「離して…っ!」

「……………無理」

 

 ジタバタもがくビビ様には悪いが、大人しくしてもらっておく。

 方法は至って普通、睡眠薬を飲ませるだけ。

 

「ッ!」

 

 ガクッと膝から崩れ落ちるビビ様を抱きとめて担ぐと、少しだけ遠い目になってしまった。なんだろう、この犯罪臭。私、犯罪とは真逆の立場なのに。……真逆なんだよね?

 

「…ONLY(オンリー) ALIVE(アライブ)ってその様な方法でも大丈夫なのですか?」

 

 不安そうに聞かないで下さい。多分、大丈夫。

 

「ところで女狐大将。一応ロロノア・ゾロに尋問をする予定なのですが」

「……………共に」

「はっ!」

 

 『一緒に行かせてもらうぜ』と伝えればビシリとした態度で敬礼をされた。

 

 そう、これが正しい部下の姿だと思う。少なくとも私の部下(古参)は態度からして間違ってる。上司(私)の頭をボールみたいにバンバン叩いてきたり、私の表立っての立場上仕方ないけど顎でこき使ったり、地味な嫌がらせをしてきたり。

 

 あの野郎、絶対覚えておけよ…。仕事ガンガン回すからな…。

 書類仕事しかしてくれない癖になんで私拾っちゃったんだろうなぁ…。

 

 実は女狐には数人部下がいる。少数精鋭だけど。いや、そんな精鋭じゃない人もいるな。

 ともかく、BW組の先輩が一癖も二癖もある人ばかりで、私が対応に頭を悩まされる。困ったところを助け助けられここまで来たはいいが、もうそろそろ一般人に戻してもいいと思うんだ。

 センゴクさんよ、私の部隊は厄介人匿い班じゃありません。まして牢獄でもありません。

 恩を捏造させて閉じ込めるのいい加減にして下さい…寝首かかれそうで怖いから。

 

 もうマジで。本気と書いてマジで。

 

 にしても、尋問ってどうすべきだ。何を聞くべきだ。

 堕天使の知っている事を女狐が確認して、海軍に報告すれば堕天使がスパイだとバレないだろう。

 

 はぁぁ〜〜〜、嫌だわ〜〜〜。スパイめんどくせぇ〜〜〜。自業自得だけど〜〜〜。

 私みたいな性格してる他人が居れば速攻縁切る。ヤダヤダ、可愛げ無い。

 誰かに押し付けてトンズラしたいけど多分放っとくと我が兄()は早死にしそう。それだけは避けたい所存。だいたいさぁ、本来の予定ではこんなに地位を高くする予定は無かったんだ。大体…大佐、中佐。いや、少将でもいいかな。

 上に立って指示するの苦手なんだよ、出来ないわけじゃ無いけれど。海軍内の暗躍部隊である通称『影部隊』の存在をもう少し早く知っていれば…、いや、絶対忙しい。無理。もはや生まれたことすら面倒臭い。

 

 隣を見るとドレイク少佐はこちらを見ずに真っ直ぐ歩いていた。声は似てるけど顎にバツ印付いてないし、毛深いし、知り合いじゃないだろう。

 

 確かあの真面目さんの名前は…──。

 

「女狐大将。こちらになります」

 

 呼ばれた言葉にフッと意識を現実に戻す。

 考えすぎて周りが見えなくなるのは昔からの弱点だなぁ。

 

「……………海賊狩り」

 

 地下の牢屋へ。

 薄暗く湿気の籠るそこに緑のマリモが居た。

 

 おっけぇ〜い、ゾロさんね。

 緑髪って結構珍しいから特定しやすい。

 

「あぁ?」

 

 怪しげな人物を見るような目で見られる。やっほー、怪しい人でーす!

 

 牢屋を開けてもらいビビ様を入れると、ゾロさんが慌てて膝に乗せる形で迎え入れてくれた。何事かと様子を見ていたが眠っているだけと分かったのだろう、ホッと息をついて視線を再び私に移す。

 

「……………麦わらの一味。何故、この基地に来た」

 

 質問されない内に会話の主導権を握っておきたい。だからこそ私から問いかけた。

 

「人になにか聞く前に名乗るべきじゃねェのかよ、女」

「この…ッ!」

 

 挑発的に、高圧的にが似合うゾロさん。カチンと来たのかドレイク少佐が飛び出そうとするが、それを止めて檻越しに睨み合う。

 

「……………海軍本部大将、女狐。民の味方」

「ヘェー…タイショー殿、ねぇ」

 

 他所の方向を向いて興味無さげに答えた。でもね、リィン知ってる、殺気ダダ漏れだって事。

 

「……………海賊狩り」

「ロロノア・ゾロだ」

「……………海賊狩り」

「…………。」

 

 あ、ゾロさん諦めた。

 正直言うと未だに『ロロノア』って言えないんだ。この世界四文字以上が多すぎ。せめて三文字で言いやすい名前にして欲しかった。『花子』とか『太郎』とか。

 

「……………一味の目的」

「目的も何もねェよ、空から落っこちたらたまたまここだった。そんだけだ」

「……………空島か」

「知ってんのか」

「……………肯定」

 

 首を傾げるドレイク少佐を尻目に質問を繰り返す。どうやら何も秘密にしてないようだ。

 

「……………一味の総数は」

「9、ただし今は8」

 

 隠す必要が無いと思っているのか、全員世に知られる事になるだろうと思っているのか。本当の事を喋らないだろうという前提で聞いてると思ったのか。

 ビックリする程事実だ。

 

「……………誰、居ない」

「1番賢くて阿呆で残念少女な超級の阿呆」

 

 おい。待てやマリモ頭。なんで2回も阿呆って言ってんだよ。…こいつ、後で、殺す。

 

「……………能力者の能力は」

 

 ピクリと反応したが口を閉ざした。

 

「言う気は無い、と。大将、拷問しますか。自分、頭グリグリが大得意ですが」

 

 ドレイク少佐の拷問が地味に痛いけど可愛い。

 

「……………必要無い」

 

 しゃがんで顔を見る。

 ゾロさんは絶対に顔を見ようとしない。

 

「……………覇気、使用可能者」

「俺だけ見聞色」

「……………なるほど」

 

 覇王色の素質は言わないわけか。だがな、これである程度絞れるんだな。

 

「……………覇気非習得者。魚人やバラバラやスナ。攻撃のリーチが長い。素早い」

「……ッ!?」

 

 こいつらと戦うのは船長だって決まっている。海軍が知っている敵でも特定可能だ。

 

「……………ヘェ、ゴムか」

「なんッで…!」

 

 残りの能力者は『女狐さん心読めるなんてマジパネェッス』作戦でいこうか。ネーミングセンスに関しては触れるな、私は気にしない。

 

「……………ヒトの動物。ハナの…悪魔の子まで居るのか」

「恐れ入ったぜ、タイショウさん? ……なんで分かったテメェ」

「……………一つだけ、海賊狩りも分からない。なるほど、こいつが堕天使か」

 

 あくまでも、あくまでもゾロさんが知っている記憶をたどる風に。女狐さんは有能、女狐さんはチート、女狐さんは最強。オウケィ、洗脳完了だ。

 

「心でも読めるのか、コイツ…!」

「……………フンッ」

 

 仮面の下でこっそりドヤ顔をする。カンニングって便利だ。チートのフリが出来る。

 

 しかしこれがフラグだった。

 

「……なぁタイショウさん。俺達が空島で何してたか分かるか?」

 

 はいカンニング無理ーー!!

 挑発するような笑みを浮かべてるゾロさんに本気で殺意沸く。消えてーー!!!空島の知識なんてないんだよちくしょう!

 

「……………」

 

 考えろ、考えろ。

 こいつら空島で何をしてきたか。

 

 別れる前と違う所を必死に探す。

 ゾロさんの皮膚が焦げている、火傷か。そう言えばこっそり確認した船も破損していた。甲板が焦げていた。

 

 焦げる。焦げること。間違えて事故ったか、能力者と喧嘩でもしたか。面倒臭い何かに巻き込まれたか。

 女狐さんは無口キャラ、単語オンリーでも被ってたら大丈夫。考えろ、考えろ。

 

「……………雷」

「ッ!マジかよ…!」

 

 よっしゃビンゴ!!!女狐さん勝利!!!

 

 確認されていない悪魔の実の中に雷がある。ただ、それだけじゃ危ない橋だ。空に浮かぶのは雲。大きければ大きいほど積乱雲が中で電流を生む。それが雷だ。1回くらいは鳴っただろう。

 そしてそんな環境下でナミさんが雷を使わないわけが無い。

 

 『遠くで雷鳴が聞こえやすねェ…天気が悪くならない内に島を出たいものだァ…』

 

 盲目のおじいちゃんのセリフが頭に残る。……まさか聞こえたわけじゃあるまいが、キーワードに至った一因だったりする。

 

「女狐ェ!」

「……………?」

 

 麦わらの一味の牢屋の目の前にあるもう一つの牢屋。そこから呼ばれた声に視線を向けると、一気にげんなりとした気分にさせられた。

 

 こんな所でまで絡まないでくれませんか。

 

「……………麻薬売人」

「モザブーコ・イディエットだ!」

 

 ヴェズネの雑魚貴族がどうしたよ。革命軍というチートの前に倒れた貴族様が何の用だよ。

 

「き、聞いてくれ!私は騙されただけなんだ!私は貴様が守るべき民だろう!」

「……………守るものを、貴様が決めるな」

 

 少なくともー、サボをー、無意識にー、痛めつけー、麻薬を食わそうとしてたー、テメェはー……敵に決まってるだろ。『守るべきものは自分』の私を舐めんなよ。これだから、これだからモブでザコのバカは…!

 

「全てはコイツが悪いんだ、コイツに騙されてアラバスタの貴族と結託して…!」

「ハァ!?テメェが俺を拾ったんだろうが!金になる仕事があるってよォ!」

 

 イディエットは護衛を指さして喚き、護衛は青筋を立てながら反論する。

 アラバスタの言葉にゾロさんが反応してしまったからやめて欲しい。切実に。

 

「チッ、ポルシェーミ!拾ってやった恩を忘れたか…!」

 

 お腹空いたんだが、朝ごはん行ってもいい?

 

「……………ドレイク少佐、残り任せた。海賊狩りから得られるもの、全て得た」

「は、はい!」

「……………ジョナさん、居場所」

「しょ、食堂に行かれた時間帯だと思われます。女狐大将もお食事ですか…?」

「肯定」

 

 仕事しろよ司令官ッ!

 




ヴェズネに出てきた護衛の名前=ポルシェーミ。
果たしてどんな因縁が…?(すっとぼけ)


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第142話 コサックダンスVSヒゲダンス

 

 こんにちは、私リィンという名の女狐さん。ん?女狐という名のリィンさん?どっちだ?

 ……まぁどっちでもいいか。

 

 私は結婚率の低いこの世界で珍しいリア充の司令官と一緒に朝ごはん食べているの。

 

「愛情たっぷり、健康第1のヘルシーメニューだ。残したらただじゃ置かないよ」

 

 この基地の料理長であり、司令官ジョナさんの奥様のジェシカさんがニヤリと笑った。ジョナさんはどうやらマリージョアから来たらしい料理人の料理を食べたいのだとブツブツ言っている。

 しかし夫に勝るのが妻という存在。ちょっと話すだけでジョナさんは苦手な食べ物を食べ出した。お前は子供か。

 

 ……どうやら人参とブロッコリーが苦手らしい。だからお前は子供か。

 でも私はトマトが嫌いでーーす!!!サンジ様に出されたら条件反射で食べてしまうけど。嫌いな食べ物より平穏無事だぁい!

 

「あんたが噂の大将さんかい?あんたも言っとくれよこの人に」

「……………飯を残すアホは軍に要らない、味わえこのリア充クソ野郎。いい奥さん羨ましい」

「圧倒的な私怨じゃないか」

「アッハッハッハ!」

 

 なかなかに美味しい料理を味わいながら仮面の下で考える。

 

 ひとまず情報を確認しておこう。

 麦わらの一味は現在バラバラ。ゾロさんとビビ様は牢獄、堕天使は居ない。船は88番ドッグ。それだけしか情報が確認されていない。他は不明だ。

 そしてここ、ナバロンにはマリージョアから特別監察官シェパード中佐の船が来ている。大嵐によって怪我人も多数。

 

 女狐の認識は『悪魔の実の能力の存在と堕天使の不在』のみ。

 

 私の取るべき行動、それは『女狐として、海軍にバレないように麦わらの一味を逃がすこと』だ。ジョナさんは堕天使が別行動をしていたと知っているので、堕天使として麦わらの一味の味方をする事は不可能。

 

 

 嗚呼…ヴェズネよりも難題。

 海軍を敵に回せないし、麦わらの一味逃がしたいし。

 

 

 ………いや、実は簡単な話。

 『元々海兵という立場は捨てる予定で兄の手助けをする』と子供の頃決めた。その信念の下動くのなら答えはすぐに出る。『海軍を欺き、堕天使の能力で逃せばいい』だけだ。

 つまり、海軍を裏切る。

 

 そう、簡単だ。

 今なら逃げる場所だってある。ニコ・ロビンの様に闇の組織を転々とする事だって出来る話だ、伝は充分過ぎるほどある。七武海の残りや、頼み込んで四皇のお膝元。革命軍には確実に入れてもらえるだろうし、父親の元を頼れば1発だ。

 

 なのに、何故かそれが出来ない。

 私の出生はもはや関係ないはず。出生による敵以上の味方と協力者を得たのだから。

 

「……女狐大将殿?」

「ッ、何」

「いや、随分考え事をしていた様でね」

「……………謝罪する」

 

 とにかくだ、いっそほぼ全員牢屋に入れて一味を集める方がいいな。うん、そうしよう。

 

「追加のお料理で〜す!」

 

 ジェシカさんが去って直ぐ、1人の雑用らしき料理人が肉団子を持ってきた。

 

「おぉ、美味そうだな。下がっていい」

「アイアイッサー!」

 

 元気良く返事をする料理人を尻目に、私とジョナさんは料理に手をつける。

 

 舌に広がる甘酸っぱいソースが絡まった肉団子。油で程良く揚げられた香ばしさがあるが、団子の中は驚く程フンワリとしていて脂がゆっくりと蕩けていく。蕩ける前に、と噛んでみる。咀嚼すればするだけ肉や玉ねぎの旨味という物が染み渡り。まるで、まるで……──脳内でコサックダンスを踊ってる様だ。

 私、この料理の癖、凄く、覚えが、あるぞ?

 

 なんだろう、この猛烈に嫌な予感。

 

 料理を求めて約10年、味に目覚めて早4年。数々の地域で特有の料理を味わい、尚且つ毒物の味まで判別出来る舌を持つ私が、ここ最近慣れ親しんだ胃の痛くなる料理人の味を間違えるとでも?

 

 顔を上げれば肉団子を取り合う料理人()とジョナさんが居た。……あ、これはビンゴだ。

 

 まさか顔でも帽子でも無く食い意地で自分の兄を特定する事になるとは。

 

「報告は彼女から聞いていたよ、麦わらのルフィ。まさかたまたま落っこちたのがハリネズミと称されるナバロンとは。君もなかなかに運が悪いらしい」

「運が悪いかどうかは俺が決めるさ、海賊ってのはワクワクウキウキするもんだ」

 

 にっしっしと笑うルフィ。口元にソースがついてなければなぁ。

 

「だが、ここからは絶対逃げられない」

「逃げたいと思う時に逃げるさ」

「キミの仲間はどうする気かな?」

「……仲間?」

 

 ジョナさんは挑発的に笑みを深めて、この島の真ん中にある牢獄に視線をチラリと向けた。あからさまな誘導してる所悪いけど、ルフィは気付かないんだよなぁ。

 

「海賊狩りと砂姫は我が手中にある」

「ゾロとビビ…!」

「いやはや、恐れ入ったよ。アラバスタの一件は聞いていたがまさか姫まで連れ出すとは。真実がどうであれ、キミは国家に手を出した」

「今更そんな事どうでもいい、要塞のおっさん、ゾロとビビはどこだ」

 

 憤怒しながら立ち上がり、ジョナさんを睨みつけるルフィ。私はそっと視線を逸らしてしまった。……やばい、ルフィの後ろに居る。危害を加えちゃ首が飛ぶ選手権1位が。アラバスタもまずいけどジェルマはもっとまずい。

 

「麦わら」

「誰だお前」

「……………王族は必ず守れ」

 

 そう言い終わった瞬間ルフィが扉から伸ばされた手に引っ張られ、厨房の方へと逃げていった。

 

「追わないのかい?」

「麦わらの一味に人海戦術は効かないから、無駄です故に」

「そうか、ならそれに従おう」

 

 出来てせいぜい足止めだ。

 1番向くのは罠だったり心理戦だったり。

 

「それにしても」

 

 ジョナさんは読めない表情で顎に手を置きながら私を見て呟く。

 

「……『王族は守れ』だなんて。随分と、不思議な言い方をしたねぇ」

 

 うわこわっ。

 

「あの一味に王族は2人。知られてはいないですが、知ると厄介ですぞ。大々的に言うされて無き故、知らぬ存ぜぬ当たり前。私の胃袋痛みます」

「今私は心から麦わらの一味担当で無くてホッとしているよ」

「……………もげろ」

「子供の居ない旦那さんに向かってそれは酷い…」

 

 ジョナさんはこっそり前屈みになって顔を青く染めた。ハーッハッハッハ!私は人の傷口を嬉々として抉っていくからな!

 

──ぷるぷるぷるぷる…

 

 ハーッハ…人を呪わば穴二つってこの事か。懐から鳴る電伝虫に冷や汗をかくことになった。

 

「どうしてかな、女狐大将」

「……………はい」

「嫌な予感がするんだ」

「……………奇遇、ですね」

 

 静かに、とジェスチャーをして電伝虫の受話器を取る。

 

『リィン助けて!空島から帰ってきたんだけど、どうやら海軍支部に落ちちゃったみたいなの!』

 

 私、オレンジのボン・キュッ・ボンは厄介な事を頼むその口切り落とせばいいと思うの。

 

「あー…はいはい…落ち着きて」

『落ち着けるわけないでしょ!今チョッパーと一緒にいるけど皆バラバラで!メリーもどこにいるか分からないから足すらないの!』

「分かりますた、とりあえずメリー号奪還とメンバーとの合流を目指すして下さい。場所は?」

『ナバロン!』

「…どこぉ」

『G8ってとこ!とりあえずよろしく!』

 

 そう言ってナミさんはガチャッと切ってしまった。

 

「これから堕天使はどうするつもりかね?」

「堕天使はここに来た経験ぞ無い、これは事実です。無駄に嘘をつくつもりもありませぬ」

「……」

 

 その『お前が何をぬかすか』って視線は止めていただきたい。

 

「しかし残念ながら永久指針(エターナルポース)は持つすてのです」

 

 東の海(イーストブルー)のローグタウンで情報屋のバンさんから強奪した袋の中にはナバロンの永久指針(エターナルポース)が入っていたんだ。……所持してる物全種類寄越せと言ったが、多分渡してないやつあるな。なんてったって、伝説の海賊。はーいやだ。伝説相手に私は対峙してたのか。

 海賊王の世代は怖い。その世代で英雄と呼ばれていたジジの凄さは理解の範疇を超える。

 

「あの…ジョナさん」

「なにかね?」

「……昔の世界ってどんな感じですたか?」

 

 私は今の動乱の時代を生きているけど、昔に生まれていたらどうなってたんだろう。

 

「そうだね…」

 

 ジョナさんは笑みを浮かべて話してくれた。

 

「あまり関わりがあった訳じゃ無いけど、海兵の私が、今のキミに言うとしたら『異常』だよ」

「いじょー…」

「大将なら自分で調べてみなさい。ヒントは『ロックス』だ」

「ジョナさん、それは──」

 

──コンコンッ

 

 質問を続けようとしたがノックの音が響いた。仕方ない、と向き直る。

 

 ロックス。レイさんに聞いてみるか。

 それが示しているのが人名なのか島なのか同盟なのか世代なのか分からない。そして何年前なのかも。ロジャーの時代に一体何があったのか。

 はたまた、ロックスというのはロジャーの時代より前の時代を指しているのか。

 

「入っていいよ」

「ハッ!失礼します!」

 

 今を生き延びる為には昔の地雷を踏まないようにしないと、絶対後々怖くなる。

 

 空白の歴史を含め、歴史関連について頭に入れておかないとならないな。その歴史を追求できるただ一人の人物が麦わらの一味の中に入っているのか。

 

「怪しげな男を発見しました。本人は海兵と言い張っていますが、状況証拠から麦わらの一味で間違いないと思います。」

 

 ……なんということでしょう。

 え、捕らえようとしてる側としては有難いけどポンポン捕まりすぎじゃない…?現在3人目でしょ?

 ダメだ、この一味ダメだ、頭が全力でヒゲダンスを踊っている。どう考えてもヒゲダンスの負けです。コサックダンスの美味しさには敵わなかった!……独特な現実逃避はとりあえずやめておこう。会話に集中集中。

 

「キミ、名前は」

「……ひみつ」

「所属は」

「……ひみつ」

「何故海賊船のあるドックにいった?」

「………ひみつ」

 

 どんな質問にも秘密と答える謎の海兵。

 ここでジョナさんが仕掛けた。

 

「いやいや、少佐。そういえば今朝入港したスタンマレー号に()()()()からやって来た特別監察官が居たという。その監察官なら内定のため、名も名乗らないのも道理だ」

「ですが!」

 

 ジョナさんが嘘をついてカマをかけたのだ。

 

「フフフ…良くぞ見破った」

 

 そう情報も漏らせば謎の海兵は捕えられた格好のまま笑い始めた。

 

「流石は司令官、その通り。私は海軍本部監察官……ウソップ大佐だァ!」

 

 あ、演技スイッチ入りましたね。ウソップさんは名前の通りウソが得意みたいだ。でも人を疑う事や罠も考えようね。監察官がやって来たのは本部じゃなくて正確に言えばマリージョアからだ。本部の海兵である事は変わりないけど。『その通り』と認めてしまえば偽者と断決出来るんだよ。

 

「バカを言うな海軍本部の特別監察官というのは支部の司令官より大きな権限を持つという。お前なわけあるか!」

「……お前?…お前ェ?なぁ〜にを言っとるんだドレイクとやら、たかが少佐の分際でェ?」

 

 あ、今度は煽りモードだ。スゲェ、月組の性格をミックスしたみたいな人だな。

 

 

 

「……………では私のMC(マリンコード)を述べよ」

「はい?」

 

 ウソップさんは私の言葉に目を白黒させた。

 

「確かに!将校なら彼女のMC(マリンコード)を知っている。特に監察官なら、ね」

 

「……………まず私が誰か分からない」

「それもそうだ、キミは表舞台に中々出てこない」

「……………本部で忙しい」

「分かっているさ」

 

 改めて、自己紹介をする。

 

「……………海軍本部最高戦力の1人女狐大将」

「大将…ってリィンの言ってた上から2番目…ッ!」

 

 おう、覚えてもらえて何よりだ。権力的には5番目だが地位は2番目、女狐ちゃんをよろしく。

 

「リィン…堕天使の名と一緒だねェ?」

「ど、同姓同名だ!さて、私はこの基地を見なければ…」

「……………停止」

「はぅっ!」

 

「……それは痛い」

 

 そのまま扉へ向かおうとしたウソップさん。手っ取り早く無力化出来る野郎特有の弱点を蹴りつけただけなんだが、周りの私を責める目は甚だ遺憾でござる。海賊に情けは無用。

 

「……………はぁ、ぶち込め」

「畏まりました」

 

 大将女狐のMC(マリンコード)は正直世に出回ってておかしくないと思う。多分、海軍にスパイを紛れさせてる海賊とか。だからこそ麦わらの一味に情報が回っていないのがある意味助かった。

 

「司令官殿!海軍本部より監察官のシェパード中佐がおつきになりました」

「どうやら本物が現れたようだな、ん?んん?」

 

 ウソップさんは下を向いてブツブツ呟き出した。…ごめんなさい?

 

「初めまして、ジョナサン司令官」

 

 ふと、例のシェパード中佐とウソップ大佐の目が合った。

 

「よお、中佐!お前もナバロンに来てたとはな!俺だよ俺、同じ観察部のウソップ大佐だ!」

「シェパード中佐、大佐をご存知かね?」

 

 ウソップさんが急に親しげに話し出した。

 …まさかこれニコ・ロビンでは?

 

「──知らないわ」

 

 あっっ、簡単に見捨てられた。

 

 まずこのシェパード中佐をニコ・ロビンと仮定しよう、そうするとどうなる?

 ハナハナの実は暗殺に向くすこぶる厄介な能力。そして要危険人物。女狐からどんな情報を引き出されるか分からないんだよなぁ。

 

 

 決定、封じよう。油断大敵、これ絶対。

 

「……………少佐、少し待機」

「はい!」

 

 うっすらと笑ってニコ・ロビンに近付く。

 

「……………女狐のMC(マリンコード)を述べよ」

「何故、大将がこちらに」

「……………どちらにも取れる反応、か」

「…ッ、随分と手荒じゃ無くて?」

 

 そしてニコ・ロビンの喉元に拳を近付けた。海楼石のナックルが付いた対能力者用の拳を。

 リィンが箒やら棍棒やらの長物使いなので戦闘スタイルが一致されないように拳を使っている。元々柔術の方が得意だ。背負い投げとか、関節技とか。フェヒ爺直伝の『体格や力量に差があれど使える柔術講座』は厳しかったけど確実に力になってた。実践経験は、ガープ中将だけど。

 

「……………ニコ・ロビン、こいつも」

 

 手に枷を付けてしまえば能力者を完璧に無力化出来る。

 紫のサングラスの下から視線が私を捉える。ごめんよニコ・ロビン、多分今回はすぐ出れる。

 

 私が捕らえる気全く無いし。

 

「……………ジョナさん、麦わらの一味捕縛、任せた」

「もちろんだとも」

 

 女狐はもう少しでフェードアウトするから、ときちんと伝わった様で安心した。

 後はボロを出さないように脱出の手助けをするだけだ。

 

 

 さて、ここからは頭の使い所だな。今すぐ1人で逃げ出したい。




次回は麦わらの一味よりの視点から見た物語。女狐大将の印象ですね。
女狐には名前が無いので『クザン大将』の様な呼び方では無く『女狐大将』になります。逆に『大将女狐』という呼び方は畏怖や尊敬を込めた通り名呼び、になりますね。


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第143話 抱いた感情

 

 

 麦わらの一味の賞金首。海賊狩りのロロノア・ゾロが見た海兵はあまりにも白かった。

 白い衣装。白い仮面。自分を見下ろす冷たい視線。全てが白かった。

 

「(カレーとか…食えそうに無い格好だな)」

 

 違う。そうじゃない。

 

「……………海賊狩り」

「あぁ?」

 

 思わず可哀想に、と同情的な視線を送ってしまったが、白い彼女は気にせずに牢屋へ入り仲間であるビビをゾロに預けた。

 

「(マジか…その仮面で周囲が見れるのか)」

 

 違う。それでもない。

 

 

 ゾロの本音をリィンが聞いていれば地団駄踏みそうだが、一応居ない事になっているし声にも出さなかったのでセーフだろう。ギリギリ。

 

「(とりあえずビビが無事だってわかった分動きやすいな。さて、ルフィとどう合流するか)」

 

 ゾロが呑気にこれからのことを考えようとすると『どうしてここに来たのか』と聞かれ、素直に答えるのもどうかと思ったのか質問に質問を返すことになった。

 

「人になにか聞く前に名乗るべきじゃねェのかよ、女」

「この…ッ!」

 

 部下はすれど女は少しも動揺せず、淡々と答えを貰い少し拍子抜ける。

 

「……………海軍本部大将、女狐。民の味方」

「ヘェー…タイショー殿、ねぇ」

 

 大将。

 その呼び方に聞き覚えがあったが、とりあえず置いておき、記憶を遡る。

 

『海軍の階級くらい覚えるしろ!とりあえず!元帥と大将と中将!おわかるした!?』

 

 あぁ、一味の阿呆が馬鹿に向かって教えてたな。

 思い出せば警戒心は自ずと生まれてくる。要は、今まで出会った海兵の中で1番強いという事。

 

 そしてそれは確信に変わる。

 

「……………ヘェ、ゴムか」

 

 ルフィの能力を当てた事。

 そして仲間の能力まで。ここまで筒抜けになると恐怖を通り越して笑いが浮かんでくる。

 

 ゾロが女狐に目を向けると、全てを嘲笑う笑みがそこにあった。初めて感情が表に出てきたのだ。余裕綽々な態度にこちらから話題をふる。

 出来れば、こいつがルフィの元に行く時間稼ぎになればいい、と。時間稼ぎのゾロ爆誕である。

 

「……なぁタイショウさん。俺達が空島で何してたか分かるか?」

 

 ゾロが今は居ない一味の頭脳をイメージして挑発すると、女狐はムッと口を噤んだ。

 

「(これもリィンの真似だとバレてるみてぇだな。なんでもお見通しって事か…?)」

 

 少し変わった様子の女狐は、全身から『付き合うのがアホくさい』『会話をしたくない』と言う態度が丸見えだった、様に見えた。

 実際は『何言ってんだちくしょう』『(ズルしてるのバレるから)会話したくない』と必死こいて頭を動かしていただけだが。

 

 当てられて焦ったのも事実だ。

 しかしゾロは肩透かしを食らった気分になる。確かに強いのだろう、おかしな力があるのだろう。しかし殺気も敵意も無いのだ。

 

「(実は弱い、とか?)」

 

 しかしその考察は無駄に終わる。

 

「き、聞いてくれ!私は騙されただけなんだ!私は貴様が守るべき民だろう!」

 

 麻薬売人らしい男が女狐に喧嘩を売った途端、殺気が牢獄を包み込む程膨れ上がったのだ。

 

 

「……………は?」

 

 

 小さく呟かれた言葉は驚く程低かった。

 

 たった一言だけだが、ゾロは思わず身震いをした。

 

「(こいつが弱いんじゃ無くて、俺たちが弱いんだ。敵として認識しない程…っ!)」

 

 本人は呟いた言葉に気付いて無いのだろう。だが、確実に地雷を踏み抜いた言葉。女狐の仮面に隠れた表情は火を見るより明らかだ。

 

 恐ろしい、恐ろしい海軍の怪物。文句を言ったイディエットも護衛のポルシェーミも喉をひくりと引き攣らせて顔を青く染めた。

 

 

 

 

 麦わらの一味は殺気をみせて威圧するほどでも無い。

 

 

 

 

 そう言われた気分だった。

 

「く…そが……」

 

 越えるべき敵は何人も居る。

 ゾロは胸に刻まれた傷を心にも刻んだ。

 

 

 

 ==========

 

 

 

「(マジかよ)」

 

 コックであるサンジは料理対決という勝負に勝ち、ジェシカ料理長の元で特別な一皿を作った。

 それがジェシカの旦那という幸せ者だった事はいい。しかし問題はその後だった。

 

「(ジェシカさんの旦那はここの司令官でしかも大将まで来てるぅ!?)」

 

 面拝んでくる、と言いながら慌ててルフィを追う。彼が持っていった先には海軍の怪物が2人もいるのだ。

 

 煙草の火をくしゃりと消して真剣な顔をするとサンジは扉に貼り付くように聞き耳を立てた。どうやらあちらさんにはバレている模様で誤魔化しなどきかない。

 

「(あのアホっ、バレたんなら早く逃げろ!)」

 

 勇敢にも、無謀にも。ルフィは悠々と話している。そこで白い格好をした女がルフィを呼んだ。

 

「(マズイ…っ!)」

 

「……………王族は必ず守れ」

 

 そんな言葉を耳にしながらルフィの襟元を掴み引きずる。厨房に行き、すぐさま逃げるのだ。

 

「あ〜〜っくそ、アレが噂の大将か」

「大将ぅ?リィンの事か?」

「ちげーわくそゴムッ!」

 

 相変わらず呑気な船長を罵倒しながらなんとか逃げ切る。呼吸を整え、これからの事を話し合う事にした。

 

「ゾロとビビが捕まってるんだ」

「あぁ、聞いてたぜ船長」

「迎えに行こう」

「だろうなぁ…。見つからねぇ様に行くか」

 

 ガシガシと頭をかいて再び煙草に火をつけた。

 

「でもなぁ…あれは怖いな」

「怖い?」

「うん、あの白いの」

 

 ルフィが怪訝な顔をして『恐怖』を訴えた。そんな感情があるのかと驚いたが口には出さず何故かを問う。

 

「得体の知れないって言うんだっけな。分からねぇんだ。考えている事も、気配も。そこにいるけどそこにいない、アレが本当の姿なのかすら分からねぇ」

 

 確かにそこに存在する。

 しかし、存在自体に仮面を被っている様な。

 

 ──違和感。

 

 そうだ。あの姿が違和感なのだ。

 

「うん、違うな。アレが本当じゃねぇ」

 

 何者か分からないけど、本当じゃない。

 

 ……ある意味、一番本質を捉える勘を持っていた。

 

「あの仮面の下に、どんな美貌が…!」

「相変わらずだなー!なっはっは!」

 

 流石にこれ以上はマズイと感じたのか、サンジは話題を変えることにした。サンジは恐怖を抱かなかったが、ひとまず警戒しようと心に決める。

 

 

 

 それは、当たりであり外れであった。

 

 

 

 

 

 

 

「はァ!?お前らもあの女狐に会ったのか!?」

 

 牢屋から無事脱出したゾロとビビ、そしていつの間にか捕まっていたウソップとロビンは苦々しい顔をしてサンジの驚いた声に応えた。

 

「私は普通に見つかったわ」

 

 ビビが走りながら言う言葉に先頭を走るゾロが納得する。

 

「だからお前女狐に抱えられて牢屋に連れてこられたのか」

「えっ、女狐って女の人、だよな?筋肉あるな…」

「確かに…」

 

 線は細かったかも、と考えながら走る。

 サンジはウソップとロビンの話を聞いた。

 

 どうやらスグに偽物だとバレた、だとか。

 

「あぁ、そりゃそうだろうな」

 

 そこに何故かゾロが同意した。

 

「なんで確信してんだよ。俺は兎も角ロビンは完璧だったし…。いや、MC(マリンコード)言えなかった時点で詰んでたか。将校は全員知ってるみたいだから……リィンが知ってっかな」

「流石に無いだろアホか」

「いや、そうじゃなくてだな」

 

 ウソップの考察にゾロが口を出す。

 

「あの女、心か記憶か分かんねぇけど、多分読める。俺と話した時能力者を全員当てやがったし、空島で何があったのかも分かってたみたいだ」

 

 

 

 足が、止まった。

 

「記憶…が…見えるのか」

 

 サンジは顔を真っ青にして震えた。手も足も震える。タバコはとっくに地面にあった。

 

「どうしたんだ?」

 

 彼女は言った。

 

 ───王族は守れ。

 

「ッ!」

 

 確実に自分の事も含まれている!間違いない!

 行き場の無い葛藤が心臓から溢れ出そうになる。焦りが体を支配する。

 

 汗がたらりと流れた。

 

「(俺を知ってる、見つけられた。やばい、どうする)」

 

 警戒はすれど恐怖を抱かなかった。

 しかし、今となっては警戒心が恐怖に覆い潰される。警戒する余地もない。ただ、捕食されるのを待つ野生動物…───。

 

「ゔ…ッ」

「サンジ!?おい、大丈夫か!?」

 

 吐きそうになるが必死に口を押さえて封じ込める。レディの前でそんな失態を犯すことができない。

 仲間は口々に大丈夫かと心配をしているが、サンジはひとまず逃げる事が先決だ、と無理にでも足を動かす様に言う。この大きな牢獄から逃げ出したかった。

 

「無理すんなよ、サンジ…。俺が絶対守ってやるからな」

「おう…悪ぃな船長」

「おいヘボコック」

「あ゛!?」

「テメェ以外の飯じゃウチのクルーの肥えた舌は満足しねえ、責任取って倒れんなよ」

「………おう」

 

 美しき友情。

 それを眺めているビビはそっと呟いた。

 

 

「え…3強尊っ…。待って、今なにかに目覚めた…。リバもありかもしれない、麦わらの一味に入ってよかった…」

 

 麦わらの一味は色々と手遅れかもしれない。

 

 




抱いた感情の名前とは。
とりあえず何も語らずニッコリ微笑んでおきますね。


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第144話 忘れ物は自分で気付けない

 

 

「う、うーん…何してるぞ…あの人たち」

 

 メリー号の陰からこんにちは。無事牢屋から脱出したゾロさん達を見送ると、私はマントを脱ぎ女狐から堕天使に変わって気配を消して陰に隠れていた。

 どうやらニコ・ロビンは海楼石の錠を外せてない様でゾロさんに担がれている。

 

 メリー号のある66番ドックに大量の海兵をあらかじめ配置しておいたのか、ジョナさんはなかなかに頭が回る。麦わらの一味はやや不利に陥った様だ。しかしドクターとナースを人質に取ったチョッパー君の機転で海軍側は手も足も出ない状態。…ナミさんはチョッパー君と一緒に行動していたらしいからあのオレンジ髪のナースがナミさんだろう。

 

「はぁ…」

 

 丁度海兵の目は全て麦わらの一味に向いている。つまり海兵の後ろにいる私の姿は、ルフィ達にしか見えない。

 

「(早く、来い)」

 

 甲板に立って『来い』とハンドサインを送ると全員がパッと顔を輝かせた。頼れる助っ人の登場です。

 

「……………道を、開けろ」

 

 ドレイク少佐が悔しそうに呟くのと同時に死角になる位置に隠れる。

 はぁ〜〜…本当に私って何してるんだろうなぁ。

 

「〝ゴムゴムの〜…ロケット〟!」

 

 ルフィの声と一緒に一味がボトボトと降ってきた。なんだか、大量収穫感が否めないけど。

 

 そして船をせき止めていた壁が動き出し、メリー号は無事海へと流れた。

 

「ってコラ!人質まで連れてくるしたの!?」

「リィンッッ!」

「回避…──不可避!?」

「あぁ…久しぶりのリィン…。会いたかったわぁぁ…もう、ほんと、大変で。ルフィを雲の更に上に届ける時何度リィンの力が必要だと思ったか」

「いだだだだだだだ!骨っ、骨折れるする!ナミさんストップ!あだだだだだだ!」

 

 ミシミシ言ってる!ミシミシ言ってるんだよ!お疲れ様なのは分かった!空島に行かない選択肢が当たってた事も分かった!だからとりあえず私の骨が使い物になる内に離れてほしいかな!

 

「サンジさん顔色悪き!大丈夫!?」

「俺は大丈夫だけどリィンちゃんの方が大丈夫か?」

「無理と推定……」

 

 なんでサンジ様はこんなに顔色悪いの!?私が居ない間にお前ら何をした!?

 

「リー!リー!ちょっとロビンの鍵外してくれよ!」

「鍵?あー…海楼石の錠ですか。お待ちくだされぞ、ナミさん邪魔」

 

 ひっつき虫は後ろに移動したので動けるようになったが拘束されている事に違いは無い。

 邪魔だけど一言も喋らず引っ付いているので無視しながら頭に被せたキャスケットのツバに付いている針金を外してニコ・ロビンに近付く。……チッ、言葉で牽制しようと思ったのにナミさんが居るから出来ないか。

 

「後ろ向いてもらうしてもよろしき?」

「えぇ、構わないわ」

 

 後ろ手に付けられている鍵をピッキングするフリして開けると、ガチャンという音と共に金属部分が壊れた感覚が有った。もう錠としては機能しないな。一応アイテムボックスにしまっておこう。

 

「はい、大丈夫ですよ〜」

「ボスの部屋にある牢屋から出れたのは堕天使ちゃんのおかげだったわけね」

「その通りです。ナミさん、指示」

 

 後ろから聞こえる船を動かす指示を流しながら、戸惑う人質を見る。

 

「あ、あの…私どうしたら……」

「私が責任を持つして基地まで送り届けるですよ、安心して人質していてくだされ」

「クソみたいなセリフだな、犯罪者」

ONLY(オンリー) ALIVE(アライブ)の最弱賞金首舐めないでくだされ」

「なんでリーの懸賞金だけあんなに下がっちまったんだろうな〜」

 

 その1件は私の中で解決しているんだ、目立たなければ良し。それでいいじゃない。

 ルフィの疑問を流しつつ深いため息を吐く。

 

「リィン!リィン!」

「何事ですかチョッパー君」

「絶対コバト先生を送り届けてくれよ!」

「拝命いたすましたよ〜」

 

 念を押すチョッパー君を抱えて返事をする。すると今度はビビ様が興奮した様子で私の肩をがっちり掴んだ。

 

「リィンちゃん!」

「はい!!!!」

「貴女の推しカップリングって何!?」

 

「………はい?」

 

 え、推しカップリングって、何?存在自体が何?お姫様の口がどうしたの??

 

「私は色々考えた結果ルフィさん総攻めがいいと思うの!」

「………まさか受けがナミさん?えっ、この後ろにおわす残念美形が受け??」

「受けはゾロさんやサンジさんよ」

 

 真顔でおっしゃるビビ様に、久しぶりにチベスナが出て来たでござる。べべん。

 私知ってる。これ腐ったパターン。

 

「それでね!よく考えたらクロコダイルも受けでいけるんじゃないかなって思っているの!」

「お、おう……せやな……」

「…! 分かってくれた!?それでね、お願いがあるんだけど、私未だに国乗っ取りを水に流せてないの!」

「……とりあえずカップリングと口調教える故に、小説書きましょうね。クロコダイル受けの、腐小説。私の名義で、ですが即販売可能ですよ」

「リィンちゃんが天使だった!」

「とりあえず…落ち着きましょう……」

 

 腐女子パワーがっょぃ。

 どうしよう、ペルさん。これは仕方がないと思うんだ。何が原因でこうなった。あ…だめ…吐血しそう……。

 

「それでね!さっきあったんだけどサンジさん受けも捨て難くて」

「リィン船どこに持っていこう!」

「あの…私本当にどうしたらいいのかしら」

「リィン、聞きたいことがある」

「リー!あのよぉ!」

 

「お前ら一旦口を閉じるしろッッ!私が大好きかッ!」

 

 今世紀最大のモテ期かと思った。

 

 

 

 

 

「さて、脱出の方法ですが」

 

 頭に(王族以外)1発ずつ拳を叩き入れて話を開始する。人質がいる以上撃ちたくとも撃てない様だ。『守り』を掲げる大将がナバロンに居るからとONLY(オンリー) ALIVE(アライブ)が2人も居るから、という事も原因だろう。うっかり殺って逆鱗に触れちゃ人生終わりだもんね。約10年間に渡る情報操作は都合のいい感じに広げられているようで何より。

 

「ナバロンの事、ろくに調べられないで捕まってしまったわ。出口が何処にあるか…」

「ロビンさんは闇で生きるしたわりに、あっさりと捕まるしたのですねぇ。まことに残念ですぞり。まぁ何があったのか分かりませぬが、置いておきましょう」

 

 ニコ・ロビンの発言に噛み付く。彼女に価値は与えてあげない。私がこの船での価値は全て消してみせる。

 ピリッとした空気が船を駆けた。ニコ・ロビンも私も黙ったまま視線を交える。

 

「あら、海賊の船から逃げ出す様な海賊モドキに言えるのかしら。捕まってしまう事は確かに(つたな)い事かもしれないけれど、基地内でその様になったと言うことは海賊らしいと言えるんじゃない?」

「冒険ですか?でも、捕まるすればそこでアウトです」

「実際は逃げ出している」

「本当に海賊モドキの力無しで、です??」

 

 女の冷戦が始まった。

 

「船長や船員を守る不可能、それが頼んで入るした下っ端の役目?」

「海賊の世界は懸賞金で上下関係が決まるんじゃないかしら?」

「上下関係はそうでも、価値は力ですよ?伝に関しては世界一と自負するが可能故に」

「果たしてその伝は本当に伝?ただの口約束なんて人間も居れば、約束は破るものと考える人間だっている」

「ご心配ありがとう丁重にお返ししますね!」

「返してくれてありがとう。それとあなたのしている事は権力という威を借りた狐よ?同じ女狐とは雲泥の差ね」

「その狐が船の上では役に立つが可能ですの。使えるものは全て使ってこそ、が海賊らしく無きですか?」

「ヘェ、海賊モドキは海賊らしくなる気があったのね。驚いたわ」

 

 あ、ウソップさんが倒れた。一旦終了だな。

 とりあえずため息を吐いて気分をリセットし、船長に向き直った。

 

「私は船を持ち運ぶ可能。扉の鍵を破壊する事も、海を動かす事も。さぁ、ルフィどうする?」

「喧嘩売りながら逃げる!」

 

 ポンコツ具合に思わず頭を叩いた。痛くない筈なのに絶対痛いと喚くルフィを無視して周囲を警戒すると、いつでも攻撃出来るように包囲されていた。

 窓辺のジョナさんと思われる目が合う。

 

「ん?」

 

 口の形に注目?

 

 ジョナさんはゆっくり、大きく、分かりやすい様に口を動かした。

 

 『き』『ん』『か』『い』

 

「……金塊?」

「ああああああああッッ!?」

 

 後ろでひっつき虫していたナミさんが耳元で奇声を発して何処かへ駆けていく。

 なるほど、空島で手に入れた金塊か。

 

「無い!無い無い無い!お宝が無いッ!」

 

 押収されてる筈だよなぁ、海軍基地のドッグに入れられていたんだから。

 

「全員注目!」

 

 焦ったナミさんはパンパンと手を叩いて、恐らくジョナさんの思惑通りと行動に移った。

 

「お宝は命の次に大事だからコバト先生を人質にしつつ回収!その後人質を解放して、ルフィの言う通りド派手に喧嘩売りながら逃げる!OK!?」

「…どこの赤っ鼻ですかね」

「おだまりなさい!」

 

 ナミさんは私の指摘にフーッと息を吐いて落ち着きを取り戻す。

 

「とにかくこれ以上バラバラにならない様に全員が…」

「アーーーッッッ!?」

 

 今度はビビ様が叫び声を上げた。

 

「カルーを忘れてたわ!」

「「「「アッッッ!」」」」

 

 聡いカルガモの存在を全員が頭から消し去っていた事に気付く。この流れで行くとまさかニコ・ロビンも叫ぶのか…?

 

「……堕天使ちゃん、期待しているところ悪いけど流石に私まで叫ぶ事は──アッ」

「なんだロビン、お前もか?」

「いえ、特に一味に関連する事じゃ無いんだけれど。そういえばこの支部に脱走した犯罪者が居た、と思ってね」

「ふーん。牢屋を屁で爆発させた時の」

 

 お前らどういう事だ。ちょっとお姉さんとお話しましょう?屁で爆発って言葉にしても文字にしても理解出来ないんだけど。

 

「確か、ポルシェーミ?」

 

 あ、護衛の名前。そうするとイディエットも逃げ出した可能性があるな。ゾロさん達が捕えられていた牢屋の前に捕まっていたんだから爆発した時巻き込まれる確率高いよなぁ。

 まぁ、捕まえるのはジョナさんに任せるか。私は知らん。報復は……本職に任せるさ。

 

「…は?」

 

──ゴオオッ…!

 

 思わずクラクラする程の威圧感と、ルフィを中心に吹き荒れる風に思わず後ずさる。何度か味わったぞこの感じ。リィン、知ってる。覇王色じゃないですかヤダー。

 

「ルフィ覇王色収めるして。人質が倒れるした」

「…悪ぃ、無理」

「なんで!?」

 

 途端ルフィはニッコリと笑みを深めた。

 

「ポルシェーミは……絶対俺がぶっ殺す」

 

 ルフィ総攻め尊い…とか、需要はここにあります…とか、国王が泣くセリフを呟いてる王女様はとりあえず無視させていただきますね。

 




ロビンとリィンの相性はクソみたいに最悪です。でも作者、考えて欲しい。デジャヴって言葉を。

第2のモンペがアップし始めました。


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番外編14〜囚われたのは砂鰐でした〜

「貴方はお茶汲み係の少女の事をどう思いましたか?

 

 

 ある1人の海兵が勇敢にも七武海という称号を手に入れた者達に近付いてそう聞いた。」

 

「……おい」

 

「そう不機嫌そうに声を洩らす男は何とも憐れな姿だった。ただ牢獄の中で勇敢な海兵を眺めるばかり。手を出す事も、口を塞ぐ事も出来ない。

 滲み出る後悔と哀れみの気配の中、男は本音を漏らす。彼の、本音を」

 

 

 

 

「そのモノローグ風の喋り方をやめろ!雑用!」

「残念、これが雑用じゃないんだな〜」

 

 弱いくせに煽るのが大好きなハッシュという男が牢屋にて睨みつけるクロコダイルに屈託のない笑み、もとい、誰が見ても爽やかに見える風の笑みを浮かべて手を振った。

 

 現在、スモーカーの指揮する軍艦の牢獄。

 月組と言われるリィンの同期がチラホラと交代で遊びに来ていた。

 

 もちろん、クロコダイル()遊ぶ為だ。

 

「んで?どうだったんだ?」

 

 珍しく、グレンが口を挟む。この男、ストッパーであるが故にスモーカーに派遣されたのだが想像を裏切った様だ。

 普段なら『うわっ、興味無い……。そのリィン好きもいい加減にしろよな』と月組の面子に注意をするだけだっただろう。他の月組もそこは予想外だったらしく、目を見開いていた。

 

「…なんだよ」

「いや、グレンって第一雑用部屋で唯一天使の存在を雑に扱ってた男だっただろ」

「あのなぁ…お前らが過激なだけであって、これでも普通の人間より執着してるからな。同期として誇らしいし、情もあるし。第一、敵対組織の人間に味方だって言い切らないだろうが」

「「「確かに」」」

 

 声を揃えて納得すると、グレンは深いため息を吐いてクロコダイルを睨む。

 

「ウチの大事な天使とやらに公開プロポーズした野郎を問い詰めないわけが無いだろ」

「ヒュー!グレンかっこいい〜!抱いて〜!」

「流石俺達のイケメン!」

「墓場のゴーストバスター時代で悟った、かっこいいは褒め言葉じゃない。嫁が出来ない俺への嫌味か!なんでかっこいいのに嫁が出来ない!」

 

 天使撮影係のサムはスパンッと叩かれ頭を押さえる。どうやら思っていたより痛かった模様だ。

 抱いてのスルースキルと墓場のゴーストバスター時代というパワーワードを生み出した事は流石だ、とクロコダイルが死んだ目で眺めていた。

 

「んで、じっくり語ってもらおうか。鰐野郎さん?」

「キャラ付けがえげつねェなオイ」

「影は薄いのにキャラが濃いのが月組の売りなんでねェ」

 

 青筋立てそうなグレンの形相にクロコダイルは思わず引いた。それはもう盛大に。しかし視界の端に点在する月組は拍手をしているのでチェンジだ。スリーアウトどころの話では無い。

 

 肺に篭る空気全てを吐き出すようにゆっくりため息をつくと、クロコダイルは胡座をかいて挑発するように笑みを深める。

 

 

「お前らが知らないリィンの話だったか?」

 

 

 煽りおる。こいつ煽りおる。全員が愛用の武器を取り出そうと手を動かした。

 

「さっさとゲロれ」

「よっしゃ海水ぶっかけるぞ〜!」

 

 その名は海水鉄砲。月組の中で武器改造に力を入れるアルスが作り上げた物だ。威力は殺してある物もあれば、水圧で岩が削れる物もある。

 

「ッ、の!お前らが悪影響を及ぼしたのか!」

「冤罪だ!」

「冤罪ハンターイ!」

「お前ヘンターイ!」

「絶対覚えておけよテメェら……!」

 

 クロコダイルは海水でベタベタになった髪を垂らして恨めしそうに呟く。月組は素知らぬ顔で話を促した。

 

「あー…最初な、最初。雑用が女、しかも子供だったから揶揄(からか)うついでに砂になって襲いかかったのが最初だな」

「恐ろしやイル君…顔も見てない内からロリコンだったとは………!」

「オイ、こいつ殺していいか」

 

 ハッシュの無駄な煽りに苛立ちながら、クロコダイルがグレンに殺害予告をする。少し迷ったみたいだが却下されてしまった。

 

 そこは、迷わないで欲しかった。

 

「まぁ、するとアレだろ。あの剣帝が使ってた鬼徹振り回して、俺の存在を察したし。鬼徹ぶん投げるし。インパクトだけはあった」

「剣帝っていうと…」

「海賊王の船員な。確か昔の通り名は〝悪魔の眷属〟だった筈だ」

「あっ、思い出した。アイツか。海賊王がどっかの国を滅ぼした原因だとか」

「ソイツ」

 

 話から若干逸れている気がしたのでクロコダイルが自ら軌道修正をした。

 

「茶は正直に言うと不味かった。濃くて渋くて当時は飲めたもんじゃ無かったな」

「えっ…お前どんだけ薄口なんだ?俺たちに振舞ってくれたお茶はそりゃ美味かったが」

「あぁ、後々ゲームで暴露されたが『子供だからという理由でどこまで行けるか実験をしてた』だとよ。茶が不味い位でキレてたら器が知れるとか言ってた」

 

 その実験を辞めるに辞められず5年間も出していたのだから味にも慣れる。

 

「あの癖が強い茶はたまに飲みたくなる」

 

「リィンちゃんみたいだ」

「癖が強い…」

「中毒だよな。もはや麻薬」

 

 失礼な評価を下す月組も酷いがそれで納得してしまうクロコダイルもなかなかに酷いだろう。素直に頷いた。

 

「ま、第一印象は『暇つぶしに最適』って所だ」

 

 そこから『お気に入り』にまで昇格するのだから人生というのは謎で仕方ない。

 

「第二波用意──発射!」

 

 思い出に浸っているクロコダイルを強制的にグレンが引っ張り上げた。海水で、強制的に。インペルダウン並の待遇に涙が出そうだった。

 

「冷てぇ…」

「俺達の心の中はブリザードだからまだ可愛いもんだ。泣き言を抜かすな」

「理解した、実は月組一の過保護がお前だな?」

 

 クロコダイルはグレンに視線を向けると、当の本人は首を傾げて呟いた。

 

「敬愛すべきスモーカーさんの親友で俺の同期だ、助力してやるのは当然だろ。どちらかと言うと過保護じゃなくてモンペだ。モンスターペアレント。俺が嫁さん欲しい原因だからな、アイツ」

 

 まさかの理由にその場に居た全員が空を見上げた。そこには染みを作った天井しか見えなかったが、上を向いた。

 

「アイツには父親と兄貴が多すぎると思う…」

「「「「禿同」」」」

 

 野郎ばかり。しかも面倒臭い連中限定でだ。クロコダイル自身も面倒臭い連中に含まれていると理解しているので口には出さなかった。

 

「いつから、そういう目で見てた」

 

 責めるようにグレンが口を開く。クロコダイルは少し悩んだそぶりを見せると一つ頷き、自分に確認する様に言葉にした。

 

「……グラッジが死んだ時から、か」

 

 海兵斬殺。首と胴体が完璧に離れてしまった結構絵面がえげつない事件。それを解決する為に派遣されたのはリィンだった。今考えるとおかしな事だ、雑用が何故そんな大役を仰せつかったのだろうか、と疑問は自然と湧いてくる。

 

 その頃には情を芽生えさせていたクロコダイルにとって、疑問は『なぜ雑用に』では無く『なぜリィン(ガキ)に』という物へ変わっていた。同じようで違う。確実に『暇つぶし』という目で見てはいなかった。

 

「怒り狂った、アイツに手を出させた判断を下した上に」

 

 今では可笑しくてたまらない。ジンベエが『女狐の事で何か知らないか』と聞いた時リィンの返事は遅かった。

 

 

 『…………………何事も』

 

 

 この沈黙に含まれていた言葉はなんだったのだろうか。きっと返事を間違えたと焦っていたに違いない。

 

「海賊の癖に……」

「オイオイ、俺は剥奪されたと言えども政府よりの海賊だぜ?」

「お前の罪を数えてから言え」

「それを海軍の敵対組織と協力する海軍本部の女狐大将相手に言えるのかよ」

「別物だろ」

「殺してやろうかテメェ」

「やんのか?受けて立つぞ?お前に罪を重ねさせてやろうか!」

「……独特な煽り文句だな」

 

「つーか、あの七武海が死んだのって女狐大将が殺ったのかと思ってたんだけどー」

「実際そうだっただろうな。でも口に出したのはリィンで、茶汲み雑用だった。先日まではな」

「『大将』じゃなくて『雑用』なぁ。そのミスのせいでロリコン生んじまったのか、アイツ」

「そのロリコンだけはやめろ」

 

 心底嫌そうな顔をするがどうやら聞く耳は持ってくれないようだ。

 

「グラッジなぁ……リィンちゃんも因縁があるというか……。どうしてあの子の周囲は疫病神が引っ付いて回るんだか」

 

 最年長─と言ってもクロコダイルより若い─のバンが困った様に眉を下げた。

 

「今考えるとグラッジの野郎許せねぇな」

「は?」

「リィンにトラウマを埋めつけた。アイツはあの件から死に関わっていない」

「なんでそんな事を言えるんだ…?」

「……殺される、殺す。そんな純粋で単純な殺気に慣れてなかったからな」

「ヘェ……大将がたった1人か。優秀だな」

 

 ハッシュの口からそんな言葉が零れる。

 本来戦い、殺し合いに置いて『無力化』というものは非常に難しい。相手は殺そうとして来ている、しかし殺さずに制圧しようとする。そんなのは只の綺麗事で終わる。

 

 圧倒的な武力差がない限りは。

 

「あぁ…やっぱり気に食わねェ…」

 

 クロコダイルは呪文を唱える様に呟く。

 子供と言えどもリィンと殺し合いをした男を?海兵に手を出した事を?

 

 月組の中に浮かんだ疑問は全て的外れな事だった。

 

「グラッジはリィンの中で根深く纏わり付いている…───あいつの思い出に残る赤い血は俺で充分だ」

 

 つまり、この男はこう宣ったのだ。

 『自分をリィンの手で殺してもらう』と。

 

「趣味悪ィ…」

「なかなかだと思わんかね? ……ずっと記憶に残るんだ、起きていても寝ていても、ずっと」

「医者に行け」

 

 うっそりと恍惚とした表情に、もはや狂気を感じる。

 

「残念ながらお前を殺すのは孤独であり、スモーカーさんであり、俺たちだ」

 

 グレンが睨み付け、クロコダイルは不服そうに口を閉ざす。

 

 

「弱いと自覚している真性の雑魚である俺たちに出来ない啖呵をやって見せるグレン!」

「そこに痺れる!憧れるゥウッ!」

 

「お前ら俺を煽って楽しいか、特にハッシュ」

 

 グレンはふざけた空気を作り出した元凶に向かってぶん殴ろうとするが、予想通りスルリと逃げられた。

 

 

 

「ナントカレン〜班、見張り交代〜」

 

 途端、場に呑気な声が響き渡る。

 やる気というか殺る気を削がれた見張り達はひとまず息を吐いた。

 

「まぁ、とりあえず俺の1番聞きたいことはだな」

 

 グレンが肩を落としてクロコダイルと視線を合わせる。グレンは月組の中でもリーダー格なので様々な情報が集まってくるのだ。彼らが体験したことは、恐らく全て把握している。

 ……恐らく、というのはど阿呆(リック)を除いているからだ。

 

「お前はリィンに『愛していた』と言った」

「あぁ、言ったな」

 

 今更隠す気も無いのか堂々と肯定する。

 

「それは本当に本音か…?」

 

 

 

 その疑問にクロコダイルは思わず固まった。そしてやはり月組はリィンの同期だと再認識する事になった。

 

「多分違うだろ、何が『愛して()()』だ」

「……これからインペルダウンに行く男の、唯一の優しさに触れるか」

「やっぱり、本音じゃ無いみたいだな」

 

 

 

 

「──ああ。俺の本音は『愛して()()』だ」

 

 そう告げる。苦しそうに称号の剥奪を下す少女に、『覚えていてほしい事』と『一泡吹かす事』、そして両板挟みになった『幸せになって欲しい』という願い。

 微かな抵抗に、と。唯一空いていた指にピッタリと収まる指輪。

 

「俺みたいな男は色々な意味で中途半端だからな……。幸い選出は本人がやるだろうし、周囲も黙っていねぇ」

 

 口に出したくない『愛する相手』はグッと飲み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「……………」」」」」

 

 月組はこれからインペルダウンに送られる男を心底哀れに思った。それはもう、月組が崇める天使をぶん殴りたいと思う程に。

 

 

 

「お前、本当に()()()()()()()()

 

 グレンの言葉は月組の総意だった。




回想のお話は『海軍編上 第42話 正義と悪が行方不明』からですね。
本日ワンピースの日。ですのでネタバレと共に愉快なお話を書き上げました〜。

ツッコミは感想欄で盛大にどうぞ。


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第145話 記憶の忘れ物

 

 

「よぉし!それじゃあ今から作戦を説明する!リィンが!」

「やっぱり私か…」

 

 夜中、湾内の入江に船を泊めてカルーを除いた全員が顔を突き合わせる。

 私達麦わらの一味はこれからの事を対策する為に、だ。

 

 昼間は隠れながら扉を破壊したり集合場所探したり色々したんだよ。ちなみに砲弾も火薬も無かったから私が全力で不思議色を使った、凄い頭痛い。そして、ビビ様と小説作りも。いやぁ、そこは楽しかった!!!とっても!!!誰かと誰かの絆を犠牲にビビ様との絆が深まったね!!!

 

「まずいくつかに班を分けるしようぞ」

 

 麦わらの一味から説明された事も踏まえて、指を3つ立てる。

 

「一つ、黄金奪還班。二つ、カルー捜索班。三つ、ウェイバー回収班。ちなみに、ルフィが含まれる班には、アルセーミ?ぶち殺し班が強制的にログインするです」

「ポルシェーミな、ポルシェーミ」

 

 ルフィの訂正を聞きながら全員の能力を考える。

 ウェイバーがなんなのか分からないが大事なものらしいので捨てられないとか。

 

「まず、チョッパー君は強制的にカルー捜索班へお願いするです」

「俺の鼻だな!任せろ!……でも強いヤツと一緒がいいです」

「それとナミさんがウェイバー回収。それ、操作可能なのがナミさんだけなのですよね?」

「えぇ!」

 

 あと残りをどうするか。

 ジョナさんの事だから罠は沢山用意してあるだろうし、頭を使える(意訳)の私かニコ・ロビンがルフィに付くのがいいんだろうけど。……正直あの護衛やイディエットとは『アラバスタ貴族のリアスティーン』と顔を合わせているからバレる危険性が無きにしも非ず。

 

「ううーん…」

「珍しく迷ってんな」

「まぁ、状況把握が微妙故に」

 

 地図は無い。私が上から描いた地形の見取り図くらいだ。だから黄金の保管場所が絞れないんだ。保管庫、とかを私たちが知っているんだったらそこに罠を仕掛けるって分かるんだけど。

 

「見聞色で宝の位置が分かるわけがありませぬし、それぞ使用して建物内で他人と合流と高度な技をゾロさんが使う可能なわけがありませぬ」

「さり気ない流れで喧嘩を売るな」

「残念なるが事実ぞ」

 

 スパンッと音を鳴らしてハリセンが頭に思いっきり叩き込まれた。

 いつの間にこの一味はハリセン常備になったんだ…?

 後ね、剣士がハリセンを持つと初動どころかハリセン自体見えなくなるからやめよ??

 

「では、ビビ様とサンジさんがカルー捜索班。ゾロさんはナミさんと一緒でお願いするです」

「その心は?」

「正直、ビビ様とチョッパー君ではこの基地内では不安。故にサンジさんを。サンジさんは足技使い故に──証拠が残らぬです」

「言い方」

「そしてお互い合流する為に、方角さえ理解するが可能なればナミさんがゾロさんを連れるしてくれるので」

 

 見聞色の覇気とチョッパー君の鼻を使って黄金奪還班に合流してもらえれば集合に関して問題が無くなる。

 

「探し物は器用貧乏の私とウソップさん、そして目を咲く可能なロビンさん。それと、戦力でルフィが妥当かと。反対意見が無い様なればこれでいいです?」

「ちょっと待って」

 

 そっとニコ・ロビンが手を上げる。

 

「はい?どうぞ」

「あなたの作戦には『メリー号の守り』が無いように思えるわ。そして足が動くという前提付き、どういう事?」

 

 純粋に分からないのか、彼女は首を傾げる。

 そう言えば一味にも彼女にも具体的に説明してなかったな。何となくで察してくれているであろうけど。ここまでくると隠す必要もないな。

 

「私、亜空間へ物質を収納可能な能力なのです。もちろん数、大きさに限りはあるですよ」

 

 せいぜいメリー号とちょっと位かな〜、と嘘を言えば一味からやっぱりという視線を頂いた。

 

「本当に何の能力なんだよお前は」

 

 驚く、もしくは納得する中ゾロさんだけは呆れていたけどね!本当に何の能力だろう!

 

「後は各班の行動か」

「具体的には黄金奪還班ですね、どこから手をつけるべきか…」

 

 やばい。頭が回らない。

 頭を抱えてうんうん唸るだけで何も出てこなくて焦る。そんな中、ルフィが呟いた。

 

「要塞のおっさんか白い奴に聞けば分かるかな…」

 

 何を言ってんだバカと非難の声が上がる中、私はルフィの手を思いっきりとった。

 

「採用!」

「「「「は?」」」」

 

 分からなければ、聞けばいい!

 

 

 

 ==========

 

 

 

「ふふふ…女狐大将と勝負か」

 

 チェスの駒を掴む。

 ジョナサンはニヤリと口を歪めた。

 

「あと足りないのは…1人、いや」

 

 バキリッ。

 

「──1匹か…」

 

 

 ==========

 

 

 

「で、私が変装するのね」

「女狐は神出鬼没と噂で聞きますた。そして皆さんの情報から身長はロビンさんほど。そして白い仮面とマント」

「まぁ…即席で作った物で、多分間違ってはないと思うけれど」

「私では身長も足りませぬし、何より口調が…」

「……それもそうね」

 

 白い衣装に身を包んだロビンさんが死んだ目をする。大丈夫、女狐本人とはエンカウントしないし!女狐はもう現れないから化け放題だよ!

 

 着々と準備をして完成したのはニコ・ロビンin女狐だ。

 

 服装は私が特徴を聞きながら縫って、ウソップさんが仮面を作った。ナンチャッテ女狐大将。

 

「何より私は女狐の事知りませぬ故に、口調諸々分からぬのです。頼みますた」

「はぁ……仕方ないわね」

 

 ため息混じりだが了承してくれたので私=女狐みたいな印象は抱かれないだろう。女狐大将に化けるだなんて元海兵として恐ろしいよぉ…リー出来ないもん…!!!!(力いっぱい)

 

「一番厄介はMC(マリンコード)ですねぇ。確認として求められるした場合…女狐は能力把握済み故…『ニコ・ロビンが聞くしているかも知れぬ、危険ぞ、言うなかれ』みたいに」

「そうね、『………悪魔の子の能力、危険。口を出すな』って感じかしら。どう、長鼻くん?」

「そんな感じじゃねぇかな〜?」

「いよーし!んじゃ黄金の行方を聞き込みしに行くぞ!」

「誰に?一番偉い人?」

「いや…御しやすそうな少佐だろ。ドレイク少佐だったな」

「へぇ〜」

 

 納得の声を出しながら心の中で謝罪する。ごめんねドレイク少佐、大人しく利用されてくれ。

 

「堂々と歩いている方がいいわね。長鼻くん…じゃなくて堕天使ちゃんの方がいいわね。捕まえた事にしておくからおいで」

「えっ、嫌ですけど?」

「貴女がここに居る唯一のONLY(オンリー) ALIVE(アライブ)だからよ」

 

 まぁ、海賊として納得せざるを得ないチョイス。命を取ってはダメ系の賞金首が居たら即殺は無いだろうし、そういう厄介な奴を捕まえてこそ大将だから疑われにくくなるだろうし、カルーが居ない─そもそもペット扱いになるかもしれない─から人数に誤魔化しは効くけど。

 

 

 ……ジョナさんには効かないんだよなぁ、その作戦。女狐=堕天使って分かっているから。

 

「いざとなるするなれば私の首が危ないって事ですね」

「よくご存知で。バレたら人質にするわ」

 

 生け捕りのみ、の私は政府か海軍で存在価値のある人間。殺してしまうのはアチラさん(せいふ)にとって痛手でもある。想像の上でだけど、特に私の存在はね。

 

「はぁ…分かりますたよ」

 

 ニコ・ロビン(女狐)に捕まっているフリをして、ウソップさんがルフィの首根っこ捕まえて隠れる。

 後はドレイク少佐の出番を待つだけだ。もしくは探す。

 

 でも、私は忘れていた。

 

 

 

 

 

 私に染み付いている『災厄』という存在を。

 

 

 

「ッ!?女狐!?」

 

 何よりも先に出会ったのは護衛とイディエット、『リアスティーン』と関わった2人でした。

 

 やばい以外出てこない。

 

「っクソ、ポルシェーミ!」

「無理に決まっているだろ!」

 

 ちょっと落ち着いて私。リアスティーンの知られているイメージを整理しよう。特徴は『貴族』『過剰な防衛論』『謎のプライド』『アラバスタ』だ。繋がりそうなキーワードは『飴玉』『麻薬』『ヴェズネ王国』辺り。

 

「堕天使ちゃん、少し震えているわよ」

 

 小声で忠告があった。

 私の手を後ろで固定してあるのはニコ・ロビン。彼女に警戒されないように、怪しまれない様に誤魔化すにはどうしたらいい。ヘタレっぷりを暴露する?敵でしか無い女に?

 どうしよう。

 

「ポルシェーミッッッ!」

 

 影から飛び出したルフィが護衛の方を殴り飛ばした。

 

「!?」

 

 能力を使わずにだが殴られた護衛は壁にぶつかって気絶をする。イディエットが目を白黒させているのが当たり前の反応。

 

「起きろよ…!」

 

 胸ぐらを掴んだルフィは空中にぶら下げてそのまま地面に落とす。どうやら護衛はその衝撃で目が覚めたらしい。

 ルフィが思った以上に過激な行動と見るからに怒りを抱いていて私のSAN値チェックは失敗です。コンティニューも不可の模様。

 

「ゲホッ、ゴホッ」

「忘れたとは言わせねェからな、お前ッ」

「だ、……れだ」

「ル、ルフィさーん…知り合いですかー…」

 

 ウソップさんが控えめに質問をすると、ルフィは瞳孔開いた視線を逸らさずに返答した。

 

「因縁の相手」

 

 ルフィさん、返答になってません。

 

「船長さんをあれだけ怒らすって…何者かしら」

 

 因縁って何があるのか。考えてみるが思い浮かばない。護衛の奴はサボの逆鱗にもルフィの逆鱗にも触れているって事だよね?

 

 麦わらの一味も知らない、ルフィとサボの因縁の相手。多分兄妹と過ごしている内に出会ったのが正解なんだと思うけど。私が知らない。恐らく、ゴア王国の高町とかそこら辺で会ったのが再有候補。

 貴族辺りなら腐った性根してても間違いは無いし、偉大なる航路(グランドライン)に行けるかもしれない。

 

「お前は…! 俺達の宝を傷付けた!」

 

 ……益々確信に近付いたな。

 ルフィ達は海賊貯金をしていた。それを奪われそうになっていた可能性だって。

 

 

 

 

 うん???宝は傷付かないよ???

 

 傷付く宝、と言ったら『麦わら帽子』とかだけど……それだったら所有者を『俺達』って言わないモンな。うん。

 

「お前に分かるか!?初めての友達、妹を目の前で連れ去られて!エース達に頼ることしか出来なかった俺の悔しさ!」

「……エー、ス?待て…その名前聞いた事が」

「結局ッ、俺何も出来なくて、挙げ句にリーに庇われて! 血があんなに怖いって思ったの初めてだった! 山賊に斬られそうになった時よりずっとずっと怖かった!」

「は…ははは…!思い出したぜェ…お前はあの時の麦わらの小僧か!」

 

 

 うんん??事態把握出来てないの私だけ???妹???ルフィの妹って他に居たっけ???あの時ってどの時??

 

「こんな所で会うとは思わなかったが…そっちの捕まっている小娘は残念語の」

「あ゛ぁ゛???喧嘩売るしてる??」

「あの時の傷は治ったかァ? 毒付きだったがまさか生きているとはなァ?」

 

 ニヤニヤと笑う護衛()と、怒るルフィ。

 

 思い出したよーー。ハイハイ、思い出したよ。うん。多分何かの逆怨みかうっかりかドジか人攫いか迷子か何かで捕まって売られかけてシャンクスさんに助けてもらってフェヒ爺に刀渡そうと思ったけど無理で…──絶対記憶が違う。シャンクスさんは多分出てきてなかった。そっち山賊。

 

 正直に言います。覚えていません。

 

 毒付きと傷って事は背中をやった本人なんだと思うけど…ごめんねポルシェーミ?さん。

 

 

 私の経歴舐めんなよ。約10年程前の記憶、そして東の海(イーストブルー)というイージー地区での雑魚海賊なんて私が覚えていると思うか。お前さんは海軍将校ですか?七武海ですか?四皇ですか?伝説の海賊ですか?シャボンディに生き残る賞金首ですか?

 ごめんなさいね、私の周囲がキャラ濃すぎて。

 

 因縁っぽくカッコつけている所、本っっ当にゴメンね!

 

 

「ありがとうございます」

 

 まぁ、利用させていただきますけど。

 

「リー…?」

「貴方には多大に感謝をするのですよ」

 

 ニッコリと笑って近付く。しゃがみ込んで視線を合わせるのを忘れずに。

 困惑気味のルフィを無視して、穏やかな声を意識しもう一度感謝した。

 

「貴方の毒のお陰様で私は毒殺という恐怖が無くなるしました。毒に勝利すたのですよ、えぇ、暗殺も防ぐしますた」

 

 本部の医者曰く逆恨みで殺されかけていたらしい。そして主治医の阿呆にも毒薬投与で殺される事はなかった。

 

「貴方の付けた傷のお陰様で私は強大な伝を入手すたのです。例えば七武海、そしてそれに関連して四皇も。実力をつけるしたエースが四皇の隊長故に」

 

 エースは七武海に欲しかったのだが、まぁ白ひげさんの所と繋がりが強くなった。

 

「友達も出来ますた、父親も見つけるしますた、懐かしき人と再会もしますた」

 

 お陰で、『毒傷』という災厄のお陰で伝を沢山作れたんだ。私という主人公の物語を始めさせたのは、確実に貴方だ。

 

「故に、親しき人に紹介すておきますね!生死の境をさ迷うして堕天使(クソジジイ)と再会して幽霊じみた人と知り合えた位程度の傷を負わせるしてくれた事!まことにありがとう!」

 

 ありがとう、と言葉と共に蹴りを鳩尾に入れる。たったそれだけでボロボロのポルシェーミは白目を向いた。ついでに、とイディエットに恨みをぶつけて気絶させる。お前が面倒を起こすから私は奔走したんだぞ泣いても許してやるかテメェが一番の敵だ畜生!!!

 

「はい、ロビンさん。コイツら私の代わりに持つして。捕まえるした事にすて下さい」

 

 平穏無事に生きられると思うなよ。全てはヴェズネ王国の1件口封じだ。イディエットと共に。

 

「辛くないの?」

「(コイツ居たなとかは覚えてないけど)辛いですよ(どこからとも無く湧いてきたゴキブリ処理は)。ですがさっき言った事は(伝や同情を誘うには役に立つから)事実ですし、何より海軍に入るし(て物理的にも精神的にも伝や繋がり的にも力を付け)た故にルフィの(船に潜入する)力になれる可能です」

 

 そう言うとニコ・ロビンは横を向いて呟いた。

 

「健気過ぎて直視できない……」

 

 

 なんでや。




黒い世界で育った悪魔の子は、表面上真っ白ピュアな堕天使を直視出来なかった。騙されるな、そいつは性格堕ちているぞ。


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第146話 地雷はピンピンしてる

「トニー君、どう!?」

 

 トナカイの状態のチョッパーにビビが跨り、後ろをサンジが警戒しながら走る。スンスンと鼻を鳴らしながらチョッパーはカルーの匂いを追う。

 カルー捜索班、彼らは要塞内を隠れながら、時に走りながら目的地を目指していた。チョッパーの鼻の精度が見聞色並みで怖いと思ったことはサンジとビビの胸のうちだけで留まらせておいた。追手の匂いがどこから来るか、とか効果は見聞色そっくりである。

 

「うん、やっぱり上が強いみたいだ!」

「じゃあ気を付けながら行きましょう…」

 

 そう気を引き締めた時、どこかからガタリと動く音がした。

 

「ッ…」

 

 思わず3人は止まる。周囲を警戒するがそこにあるのは放置された木箱、そして…────

 

「──不自然な程、海兵が居ねェな…」

 

 サンジが呟いた途端、窓から、扉から、木箱から。屋根からも前からも後ろからも屈強な海兵が次々の現れた。囲まれていた、と気付くのに時間はかからなかった。

 

 ……チョッパーの鼻に引っかからなかったのは囲まれる程多くいたからか。

 

 思わず引いてしまいそうな程暑苦しい熱気。と言うかやる気。どうやら海賊を野放しにしたりバカ正直に海を探したりするほど、海兵も頭が使えないわけでは無いらしい。

 サンジが舌打ちをし、チョッパーは怯える事を瞬時に止めて周りを見渡し、ビビは「攻め顔のサンジさんもいい…」と呟いていた。とりあえずサンジは最後を綺麗にスルーした。これ以上麦わらの一味から理想のレディ像と掛け離れた人間を生み出したくないらしい。……手遅れだが。

 

「我ら〜はナバロン、海兵隊ィ!熱風魂ッ見せてやる〜ッ!」

 

 ビックリするほど大きな声と、揃った動きで逃げ道を塞がれる。

 

 さて、どうするか…。そう考えているがそれなりに危険な状態には変わりない。

 すると熱風隊のリーダーらしい人物が勝利の笑みを浮かべて叫んだ。

 

「〝砂姫〟ビビ!そして残りのクルー共!お前達は我らが司令官と大将の前に敗れる運命にある!逃げるのは止めて大人しく投降しろォッ!」

「大将ぉ?」

 

 その言葉は彼にとって地雷だった。

 

 サンジは煙草の煙をふーっと吐き出すと眉を下げて男を見る。「モブ×サンジさん?サンジさん×モブ?どっちでも…──」などと高い女性の声で呟いている言葉は聞こえない、聞こえないったら聞こえないのだ。

 

「つまりこの作戦はそいつらの策略だった、と?あーこりゃ参ったな、全く理解出来ねぇ」

 

 激しく棒読みだったが、機嫌を良くした海兵はペラペラと話し始めてくれた。

 

「麦わらの一味は鼻の利く動物を仲間に入れている、と女狐大将のお言葉だ。その情報を元にジョナサン司令官は残るもう1匹の仲間を連れ戻しに来るだろうと踏んでルートを絞り込んだのだ!」

「あー…つまりなんだ、この先にカルーが捕まっているって事だな──喰らえやゴルァ!」

「……は!?」

 

 ボキッと骨の折れる音と共にサンジの上がった脚が地面に下ろされた。海兵が倒れるのを合図に一斉に様々な手段で攻撃される。

 

「〝孔雀一連(クジャッキーストリング)スラッシャー〟ッ!」

 

 懐から取り出したビビ愛用の武器、スラッシャー。色鮮やかな見た目と相反して確実に肉を抉る。実際切りつけられた海兵は少しであれど深い傷を利き手に負い、刀を取り零した。

 

「サンジ!乗ってくれ!」

 

 チョッパーが叫ぶとそれに従う様にビビの後ろへと飛び乗る。そして2人を乗せたチョッパーが目指す先は…──海面に面した窓。

 

「お、おいチョッパー…?」

「トニー君、そこ、海が…」

「口閉じてないと舌噛むぞッ!」

 

──バリンッ!

 

「きゃあっ!」

「うおっ」

 

 飛び出したチョッパー。海兵たちは気でも狂ったのか、と思わず見送ったが彼は器用に崖の断面を蹴る。まるで空中を走っている様な走行。崖の起伏を利用して上へ上へ、匂いの元へと向かって行った。

 仲間であるビビやサンジは小さく悲鳴を上げた後、関心と驚きで満たされていた。

 

「凄い…、このままカルーの所へ行ける…!」

「スゲェなチョッパー…。お前バランス力あるんだな」

「えっえっえっ、俺はトナカイだからな、崖位はへっちゃらだ」

 

 そのままの勢いで匂いの強い部屋へと突進して行った。

 

 

「は?」

「え…」

「お!?」

「なっ」

 

「──まさか、外からやって来るとは思わなかったよ」

 

 その場に居たのは黄金奪還班の4名と目的のカルー。そして要塞ナバロンの司令官、ジョナサンだった。

 

 

 

 ==========

 

 

 黄金奪還班。

 とりあえず私は人質という名の生贄を無事逃れることが出来、ルフィの機嫌取りをしながらニコ・ロビン(ニセ女狐)の後ろを尾行して行った。

 そして遂に邂逅したドレイク少佐。耳をすませて会話を聞き取る。

 

「女狐大将、その手に持っているのって…」

「……脱走した奴ら、とりあえず渡しておく」

「ハッ、簡易ですが牢屋に入れておきます」

 

 盛大に破壊してきたそうで牢獄はボロボロ。それでも分散されてあるだろうから他の所は無事なんだろう。と言うかどれだけ大規模破壊してきたのか、被害額考えるだけで頭痛くなりそう。

 

「あぁ、そう」

「はい?」

「麦わらの一味の黄金は何処だったか」

「し、司令官の部屋に有りますが…どうかされたのでしょうか」

「気になった、だけ」

 

 ちょろすぎるドレイク少佐は特に疑問を持たず去っていった。流石にちょろすぎるので個人的にもう少し頑張って欲しい所なんだが。

 

「行ったか?」

「行ったな」

「行きますたな」

 

 通気口からひょっこり顔を出してニコ・ロビンと合流する。ニコ・ロビンは緊張をため息で紛らわせている時だった。その気持ちはわかる、誰かを騙す時って集中力と展開を先読みする力が必要だから緊張するよな。

 

「お疲れ様です」

「一応受け取っておくわ。とりあえず、敵の懐に潜り込まなきゃならないようだけど」

「司令官の部屋ってのはどこにあるんだ」

「ここだぞ」

「そうね…私は分からないけどここらし…──えっ」

 

「「ここぉ!?」」

 

 場所は知っていたが、ウソップさんと共に驚いたフリをする。「おう、ここだ!」って上機嫌に戻ってニッコリ笑うルフィは心底可愛いけど無性に腹立ってくる。

 

「おじゃましマース」

「待てぇい!」

 

 ウソップさんの静止の声も虚しく、あっさりとルフィは中に入ってしまった。

 

「………麦わらの一味」

 

 中には呆気に取られたジョナさんの顔があった。んん?ここまでは計画していたんだろ?なんでそんなに驚いている?

 

「まさか普通に扉からやって来るとは思わなかったよ」

 

 まぁ、そうですよね。

 

「おい要塞のおっさん!宝どこだ!」

「まぁそこにあるけど」

「よっしゃ!」

 

 予想以上にサクサク動く。

 しかしルフィの上機嫌は宝のそばで網に入れられたカルーを見つけるまでだった。

 

 えっ、なんでカルーがここにいるの。

 

「まさか女狐大将に化けるとは思わなかったよ、麦わら。しかし、そう簡単に釣り糸から餌を食べれると思わないでくれよ?」

「船長の戦略の勝利ですぞ、司令官殿? 餌は丸々頂くし、私達はトンズラです。ごめんなさい」

「君が堕天使か、女狐の情報によると君は居なかったはずだが…どう入り込んだ?」

「また女狐……。企業秘密で〜す」

 

 なんでもかんでも女狐に押し付けないで欲しい。実際そうかもしれないけど元より決まっているのは『兄の味方』それ即ち『海賊麦わらの一味の味方』であって、いつか女狐大将の地位を捨てる時が来るかもしれない……。

 あまり隔たりを作るのは個人的にどうかと思う!自分の思い通りにならなければ全力で利用するつもりではあるが!……知ってる、これが後々になって牙を向くんだよね。私知ってる。

 

「まぁいいさ」

 

 その言葉を合図にバタバタと海兵が入ってき、銃口を侵入者へと向けた。

 

「君たちにはもう一度牢屋に入ってもらわないといけない」

 

 部隊を指揮するのは恐らく軍曹辺り、ドレイク少佐が麻薬コンビを連れて行っているからか。ルフィが黄金を背負って、ウソップさんがカルーを解放する。

 

──ガシャァァンッ!

 

 海に面しているベランダから、カルー捜索班の3人がやって来た。思わず驚きの声が零れる中、室内の様子に驚くサンジ様達に向かってジョナさんが呟いた。

 

「まさか、(君たちが)外からやって来るとは思わなかったよ」

 

 多分隠された言葉はこんな所だろう。普通破天荒な船長の役割だよね、王族ちょっと大人しくして欲しい。

 

「ぎゃぁぁぁあああっ!」

 

 野郎の野太い悲鳴と共にもう1組ベランダから侵入してきた。ナミさんとゾロさんだ。

 意図せず一味が揃ってしまった…敵本陣で。

 

「むしろ何で麦わらが常識的な方法で入って来たんだ?」

「それが海賊にとって非常識だからですよ」

「それもそうか…」

 

 非常に疲れた声を出してジョナさんは肩を落とした。

 海賊の常識に従うと、絶対におじゃまします、って言いながら支部の司令官の部屋になんか入らないから。

 

「ゴメンな、要塞のおっさん。俺たち次の島に行かねぇといけないんだ」

 

 にしし、と笑うルフィに続く。生け捕りのみの私とビビ様が居るから下手に銃撃戦は出来ない。

 するとジョナさんが時計を確認した。

 

「夜9時、それは君たちに牙を向く。もう9時は回っている」

 

 そして爽やかに笑って見せた。

 

「君たちは逃げられんよ」

「いいや、逃げれるさ」

 

 ジョナさんに対抗する様にルフィが口角を上げる。

 

「だって俺は、海賊王になる男だ」

 

 世界の運命に愛された男は私の肩を叩いて脱出を促す。その時、部屋に流れ込んで来たのは別の将校だった。

 

「待てぇい!麦わらの一味!」

「あら、あの人、監察官のシェパード中佐ね」

 

 ニコ・ロビンが化けてた相手か。

 息を荒くした中佐がビシイッと指さした。私達ではなく、ジョナさんを。

 

「ジョナサン司令官、わざわざ私室に入り込んだ海賊をみすみす逃すつもりですかぁ!? 貴様が赤犬の子飼いでも、そうなったらこのナバロンは即っ刻!潰れることになるでしょうなぁ!」

 

「リー、行くぞ」

「ごめんルフィちょっと待つして」

 

 拳を固めて、咄嗟に中佐を殴りつけた。

 

「ほげらッ!?」

「いいか、良く聞くしろ。先輩からのありがたき言葉ぞ」

「先輩ィ!?」

「海軍本部雑用歴10年、役割は主に七武海。現在麦わらの一味のまぁ雑多用──って雑用かよ!また雑用!?」

「良いからシリアス続けろよオメー…」

 

 思わぬ新事実に地団駄を踏むがウソップさんの呆れた声で機動を修正する。

 

「お前は分かるしてない!女狐大将という存在を!」

「は!?」

「雑用という存在は、様々な情報が寄ってくる。情報共有もしやすきですし、様々な時と場所で色々な人と関わるする!私は口調が残念故に七武海だけですたがな!」

「七武海可哀想」

「ウソップさんは黙る!」

 

 雑用としてなら世界規模配達だってしてたけど今言う必要が無いな。

 

「女狐の情報は色々回るしてくるが、中でも確実な情報は一つ! 『お気に入り』や『守るもの』に手を出すされるが逆鱗に触れるという事!」

「そ、それがどうしたって言うんだ!」

「そのお気に入りの分かりやすき方法は主に2つ!『名前を呼ぶこと』と『食事を共に取る』ということ!」

 

 ジョナさんは両方共当てはまる。状況は知らずも、それに気付いて中佐は顔を青く染めた。

 

「情報部のお手伝いの最中、実力は様々聞くしますた。支部でも潰すしたり」

 

 東のネズミ大佐は潰した。

 

「海賊船を幾つも沈めるしたり」

 

 バギー一味、アーロン一味、クリーク海賊団、後シャボンディでもか。

 

「平気で四皇にも喧嘩を売るした」

 

 エースとかシャンクスさんだけど。

 

「海兵殺しの七武海は殺すた」

 

 グラッジとかな。

 

「私は心底恐ろしく思うしたぞ、お前が女狐大将が共に食事をしたらしきジョナサン司令官に平気で手を出す事を!」

 

 丁寧に、じゃなくても仕事しているっぽいけど、個人的に仮面の下をバラしている実力者を海軍から離したく無いんだよなぁ。それにジョナさんを攻略できれば支部一つを簡単に動かせる。

 

「そしてこの支部に手を出す事は私も許さぬぞ…」

 

 実質女狐の言葉、にジョナさんが嬉しそうな表情をする。他の海兵は困惑した様子だ。

 

「私とて元海軍勤務者。不正など行わうせず真っ直ぐに海賊と立ち向かえる人達は尊敬に値する。私は仲間が世話になるした人達を路頭に迷わせる事などしたくなきです!」

 

「リィンが今日も安定してかわいいいいいい!」

「ナミさん黙る!」

 

 正直人質だったコバト先生を擁護しただけであって仲間とか結構どうでもいいです。ごめん。

 

「さようなら、首があると宜しきですね」

 

 多分あると思う。決定的なミス行動が無いから。……まぁ、過去に不正とか沢山してればどっちに転ぶかわからないけど。それこそ海軍本部暗躍部隊の『影部隊』におまかせだな。

 監察官がこの程度の頭じゃ不安でもあるが、コチラとしては利用しやすい。

 

「おまたせすますた船長!」

「よしっ、逃げるぞ〜!じゃーなー!要塞のおっさん!飯美味かった!」

 

 ベランダから逃げ出す。その先は海だけど、私がメリー号をアイテムボックスから取り出せば万事解決。

 

 高い所なので下を見ないようにゆっくり降りていく。バシャァンッ、と水飛沫を上げてメリー号が現れたので一味はそれに飛び乗った様だ。

 

「あー…これはあくまでも私の独り言だ」

「へ?」

「この支部を思ってくれてありがとう、夜9時の網は潮の満ち引きを利用し海水を消す。君の仮面の下を知れて良かったよ。良き出会いに感謝を」

「あー…こちらあくまでも独り言。潰させぬぞ、この支部。ここの団結力は、捨て難い。黄金が眠る元支部基地とすたなら、海賊が現れるするでしょうね」

 

 独り言を言い合うとジョナさんと目が合った。パチリ、とお茶目なウインクが飛んできたので…心の中で海の彼方へ投げ捨て船に乗り移った。

 

「帆を畳んで!リーが飛ばしてくれる!」

「ふぅ…技パクリと行きますか〜」

 

 イメージは海峡のジンベエ、ジンさんが生み出す波。海の隆起。じわじわと波が波紋を描いてくれる。うん、見た事ある技だと再現しやすい。そこまで集中力も必要なさそうだ。……人より使うことには変わりないけど。

 

「〝海流1本背負い〟!」

 

 海の勢いで船が盛り上がる。気分は突き上げる海流(ノックアップストリーム)の極小版だ。

 

「うひゃー!海で空飛んでる!」

「すげぇな!」

「魚人柔術の応用ですよ。あー…疲れるした…緊張すた…」

「クエェ…」

「このような事態を引き起こして大変申し訳ありません、今後このような事が無いように精進いたします、だって」

「今の少ない鳴き声に長ったらしい意味が込められてあったのか!?」

「まぁ気にすんな!大事な宝取り返しただけだ!」

「クエ!」

「おう、どういたしまして!」

「なんでルフィはナチュラルに会話出来てんだ?猿頭だと喋れるのか?」

 

 どれだけ疲れていてもツッコミを忘れないウソップさんはほんの少しだけ尊敬するよ。

 

「そんじゃ、次の島!行くぞ!」

「「「「おー!」」」」

 

 若干の不安を残しつつ、一味は海を進んだ。

 

 

 

 ==========

 

 

 

「あんた、良かったのかい?」

「ん〜?彼らを、取り逃がしたことかね?」

「あぁ」

 

 苦手なブロッコリーを渋々食べながらジョナサンはジェシカの疑問に答える。

 

「いいんだよ、襲撃訓練として堕天使と交渉していたんだ」

「は!?…っ、はは!いつの間にこの人は」

「ジェシカの食事が気に入ったらしいから、伝えても良いって話だ。現金なのか…情に深いのか…。我々には計り知れない存在だ」

「その堕天使、いつの間に食事を?今日特別にお出ししたのは大将だけで……───」

 

 そこまで言えばジェシカの表情は驚愕に染まっていく。

 

「いい経験だっただろう?」

 

 『赤犬の子飼い』で『女狐のお気に入り』を手に入れた運の良い中将は、何故か得意げな表情で妻を見た。

 

 ジェシカの脳裏には厨房で起こった様々な事が流れていた。海賊に書いてもらったレシピなんて、と捨てかけたメモはきちんと厨房の壁に貼り付けてある。

 

「……あぁ、いい経験だった」

 

 ──未来の海賊王達に会えるだなんてね。

 

 満足げに笑みを深めた彼女は、海軍将校の夫にバレないように心の中で呟いた。

 きっと彼らは世界の頂点を掴む。

 

 女狐大将がどうした。それで挫けるほどヤワな精神はしてないだろう。

 

 

 地雷を踏み抜かれてかなり動揺した一味が海風によって小さくくしゃみをした。




ナバロン編、これにて終了!
船上のクッション挟んでロングうんたら編に入ります!


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ロングリングロングランド編
第147話 影響力が一番かもしれない


 

「黄金で船の修理、ですか?」

 

 空島から奪ってきたという黄金。その山分けはナミさんの提案によって修繕後にしよう、という話になった。そしてその保管を任されたのだ。

 そう、癒し不足とかで私を膝に乗せているナミさんに。

 

 お願いナミさん、ひとまず落ち着いて。ニコ・ロビンが私を不憫な目で見ているから。

 

「よし、リィンの治療は完全に終わったな!」

「怪我治るの早すぎですよね…この世界」

「応急処置が的確だったんだ」

 

 チョッパー君がわざわざ女子部屋まで来てくれて検査をしてくれた。それにお礼を言っているとニコ・ロビンはナミさんに質問をした。

 

「その…航海士さんは…、いいえ、ハッキリ言うわ。──貴女はレズなの?」

「ブッ!」

 

 あまりに直接的な聞き方に思わず吹いた。チョッパー君がレズってなんだ?って首を傾げているから余計に辛い。後、目を背けまくっていた疑惑に触れないで欲しかった。

 

「それって女性を性的な目で見るって事よね?」

「えぇ」

 

 ナミさんは一応確認するけど、と前置きをして問う。

 そしてハッキリと言い放った。

 

「違うわよ」

「……嘘、でしょ………」

 

 え、違うの?ニコ・ロビンの心底驚いている様子に同意するよ?私てっきりその毛がある人だとばかり思っていたんだけど…。

 

「恋愛対象は異性だもの、それは間違いないわ」

「でも…」

 

 その言葉がなかなか信じられないのか、何度も首を傾げるニコ・ロビン。そして私もだ。ビビ様はこちらを全く気にしないで机に向かってガリガリ文字を書いている。……何を書いているかは今考えるとしんどいからやめておこう。

 

「私は、リィン至上主義なの」

「りぃんしじょうしゅぎ…」

「リィンが人類の中で一番なの」

「じんるい…」

「性的とか愛情とか、そんなのじゃなくて……──言うならそう、メシアよ」

「めしあ」

 

 ナミさんに相手になら死んだ目がデフォルトになりそうな気がする。虚ろな目をして単語を繰り返すニコ・ロビンが今だけは不憫です。私はお人形さんになってシャットダウンしておきますね。

 

(すさ)んだ心を癒して希望を与えてくれる天女にも似通った私だけのリィン」

「希望じゃなくて絶望の間違いだと思うけど」

「貴女はこの世界を作ったと言われるオーダ神を性的な目で見れる?そういう事よ」

「……そうだけど、どういう事なの」

「そして愛するのはリィン!他の人間よりリィン!常に身近に置いておきたいし愛で続けたいわ!日がな一日!」

 

「…──そうね、良かったわ」

「良くないぞ!?ねぇ、現在進行形で良くない人間1人居ますよね!?私の存在見えるしてる!?」

 

 思わずツッコミを入れた。

 堂々と古参の仲間を生贄に差し出す新入りが辛い。その前に古参の暴走癖持ちがキツイ。

 

 辛いキツイしんどいのトリプルコンボってなんなの?麦わらの一味の女性陣は性格が非常識なの?戦力は化け物じゃなくても思考回路が化け物なの?あ、なんかブーメラン刺さった。

 

「そう言えばリィン、私達が空島に行ってる最中何していたの?」

「何…」

 

 ヴェズネ王国で貴族として夜会に潜入して貴族潰した、とは言えないよな。行ったとは言えてもなんで海賊の堕天使が?という質問には答えられない。革命軍とそう接点なんて無いし。

 

「秋島でお散歩して、地元の人と美味しいもの食べますたね。後飴もらうますた」

 

 嘘は言ってない。夜会の料理は美味かった。

 

「あ、飴で思い出した!リィン、お前良く丸い薬飲んでるだろ」

「酔い止めの事ですね?」

「それ、成分解析したいからいくつか貰えるか?少ないんだろ?」

「……チョッパー先生…!すき!」

「そ、そんな事言われたって嬉しかねぇーぞこのやろっ!」

 

 クネクネしたチョッパー君に錠剤を3つ程渡す。心の底から有難い。

 

「ナミさん離すして?」

「嫌よ」

「離すしないと泣くですが?」

「秒で離したわ」

 

 もう30分は拘束されっぱなしだったので腰が痛い。

 

「私は男共の様子見てくるしまーす。もうそろそろ昼飯の準備に入るでしょうし」

「…私の一番の敵はサンジ君だと思うわ」

「張本人だと思うわ」

 

 チョッパー君を抱っこして扉を閉めると中でニコ・ロビンの呆れた声が聞こえてきた。なんか、私の気持ちを代弁できるのがあの人って凄く不愉快。

 

「リィンの顔が凄いことになってるぞ」

「女子部屋入りたく無きです…」

「男部屋来るか?俺、体小さく出来るから俺の布団入れるぞ?」

「チョッパー君好き…」

 

 チョッパー君を伴侶にするのが1番平和的解決だと思う。

 

 アニマルセラピーってこんな感じなのかなって思ったけど、どちらかと言うと常識セラピーだわ。又は親切セラピー。アニマル要素では癒されない。

 

「ああ、リィン」

「何事です?」

 

 甲板で腕立て伏せをしていたゾロさんが私の気配を感じて声だけかける。その背を踏みながら話を促した。

 

「軽すぎて重石にならねぇ…」

「褒める」

「でも出会った当初に比べて最近肉付いてきたよな。その調子で肥えて筋トレ付き合ってくれ」

「〝砂嵐(サーブルス)(ぺサード)」〟」

 

──ズンッ

 

「ッ、ぐ!お、……もっ…」

 

 砂がないけど全力で風の重圧掛けてやった。

 

「ハッハッハッハー…殺すぞ」

「この重さの中で平然としてるテメェが恐ろしいぜ」

「ゾロさんは腕。私は全身。その違いですな」

「やめろよお前ら!メリー号が壊れる!」

「ご安心をチョッパー君、そんなヘマはせぬ」

「そっかー、ならいいか」

「取り敢えず謝るから話を聞いてくれって!」

 

 デザートの譲渡で手を打つ。

 仕方ないから技を解いて正座する。

 

 ひとまず技の発動と同時にメリー号の甲板が痛まない様に箒で浮かぶ事や武装色をイメージして強制的に防御力を瞬時に高めた私は天才だと思う。怒りは世界を救う。

 

「いくつか聞きたいことがあるんだがよ」

「はい、どーぞ」

「武装色の身に付け方とか教えて欲しい。あと具体的にどんな感じなのか」

「すみませぬ、私師匠がチートなだけで覇気のはの字も使えぬのですが」

「教えることは出来るだろ?」

「すみませぬ!!私は!とっても普通の女の子なのですが!?」

 

 具体性を求めるな!私は出来ないんだって!

 普通?嘘だろ?とかブツブツ呟かないで欲しい。

 

「第一、見聞色だって具体的に教えるしたのがサボであって私は何も言ってませぬでしょうが」

「は?サボ?」

 

 ………ミスった。参謀総長だった。

 

「さ、参謀総長の略称でサボ…な、なんて誤魔化す可能な訳が無きぞね」

「だろうな」

「ですよな…」

 

 真顔で頷かれた。

 

 あーーー、どうしよう。いや、知り合いだから名前は知っているだろう、と察してくれてるだろうが、肝心の名前。砂漠での話を忘れていてくれれば良かったけど絶対反応的に覚えてるぅぅう!

 

「で、次の質問なんだが」

 

 素っ頓狂な顔していると思う。

 

「なんだよその顔」

「いや、聞かぬのかなって」

「聞かれたくない事は話してくれるまで聞かねぇよ。第一その反応がほぼ答えだろ」

「ゔ…」

 

 頭を小突かれて思わず言葉に詰まる。ド正論過ぎて反論出来ない。

 

 ……ていうかなんでこんなミスばかり。

 

「女狐って記憶を読めるのか?」

「あー、噂では聞いたことありますが…真偽は半々?」

「そうか…」

「あ、でも。気に入った、というか害のない海賊には寛容です。例えば赤髪海賊団など」

 

 そう、だから麦わらの一味は敵対しないでね〜…、敵じゃ無いよ〜…、正義の味方はルフィの味方だよ〜…。

 

「なるほどなぁ…。あるかもしれないって所か」

 

 ありがとな、と言いながら筋トレを再開しだしたのでゾロさんの用事は終わったのだろう。そこまで収穫が無くてすまない。

 でも、ゾロさんは私の手を借りずに強くなる様な人だと思っていた。強さを求める為に私に聞くとは思わなかった。

 

 いかんいかん。料理の手伝いに行かねば。

 

 

 チョッパー君と別れて私はキッチンに入る。中には下準備をしているサンジ様と椅子に大人しく座ったルフィが話をしていた。

 

「お手伝いでーす…。お邪魔ですた?」

「いや、丁度いいよ。聞きたいこともあったし」

「リーは偉いなぁ」

 

 ならお前も手伝え。

 あっ、ダメだ。手伝わせたら地獄を見る。

 

「なぁリィンちゃん」

「はい?」

 

 食器洗いをお手伝いしながらシンクに立つとサンジ様が真剣な声色で聞いてきた。

 

「非能力者って空を飛べると思う?」

 

 ……私が非能力者ってのバレた?試されてる?

 

「あー…やっぱり気にしないでくれ。流石に無茶だよな」

「……出来ますよ」

 

「マジで?」

 

 私に聞くのを諦めかけた顔に驚愕の色が浮かんだ。

 雑用にしては知り過ぎているかもしれないけど、存在を教えておいて損は無いだろう。

 

「海軍や政府の武闘派には六式使いという人間が居ます。極限まで躰を鍛えるし、使用可能な技」

 

 指銃・鉄塊・紙絵・剃・月歩・嵐脚

 

 全ての技に応用が効き、武装色と見聞色を習得する上で近道になるかもしれない。ただ、私は全て使えないのでやり方を聞かれても困るのだ。

 

「先程上げた中で空ぞ歩行可能が月歩。空気を蹴るらしきで、嵐脚は足技の斬撃です。ここら2つがサンジさんに向くしている物かと」

「月歩に嵐脚…。実物見れりゃ早いんだが」

「無理ですね」

 

 チラッと見られても仕方ない。一式でも使える人は中将辺りのレベルなので海賊が頼むのは心底難しいです。辞めた海兵ならワンチャンいけるが。

 

「どうして唐突にそれを?」

 

 純粋な疑問をぶつけるとサンジ様は苦笑いで返事を返した。

 

「キミに追い付く為だよ」

「私ぃ?」

「キミはなんでもかんでも抱え込んで、でもそれを俺達に悟らせない」

 

 悟らせたら情に訴えない限り死ぬからな。

 

「仲間の為に苦手な空で風を集めて一味を守る」

 

 どちらかと言うとルフィかな。

 

「たとえそれがキミの友人だったとしても、キミは海賊として海兵や七武海に牙を向けなければならない。それが、海賊としてのキミだから」

 

 ひぇえぇ…観察力怖いよぉ。

 

「チョッパーが山肌を駆け上がる時に、キミの見る世界を少しだけ感じれたんだ。だから自分の足で、キミに追い付きたい」

「私、激弱ですよ…?逆に置いてかれぬ様にすてるですが」

「ハハッ、そうかな」

 

 精神論の問題なら一味の誰よりも強いかもしれない。伝は確実に一番だけど。……サンジ様が明確な強さを求める様になったけどどうしたらいいんだ。私には知識を与えることしか出来ないぞ。

 知識を蓄える事で防衛方法を増やすことに損は無いけど、それを利用して最前線へ行かれたら私の胃が死ぬ。

 

「なぁリィンちゃん知ってるか?」

「…?」

 

 泡だらけの手首を握り締められる。

 

「キミが俺だけに明確な壁を作っているのを」

 

 サンジ様は悲しげに目を細めた。

 痛いのを我慢している様な、迷子の子供。

 

「ルフィ、ちょっと外に出るして」

「おう」

 

 ルフィは文句も言わず素直に外に出てくれた。キッチンに居るのは私とサンジ様だけだ。

 

「……怖い、ですか?」

「ッ」

 

 指摘に息を詰まらせる。ぶるり、と拘束された右手に震えが伝わってきた。

 

「怖いさ…キミが、いや、キミに認められてない様な気がして。ルフィは兄妹だから心の壁なんてないし、ウソップやゾロには遠慮をしない。チョッパーは1番一緒にいる時間が長い」

 

 よく見てるな、ていうのが最初の感想。

 出生がハッキリしている2人には遠慮をしていない。軽口や暴言や、無茶苦茶させる扱いが多いのは自覚している。チョッパー君は扱い易いのと運びやすさ、それと難しい言葉を知らない、人間歴が短い子供だから気を抜けれる。ルフィは、好きだから。私の中でルフィの存在が大きいから。

 

「ロビンちゃんを敵視しているのは何となく分かる、キミは仲間思いだからクロコダイルのパートナーだった彼女をよく見ている。ライバル関係みたいで正直羨ましい。ナミさんはああいう性格だからキミは盲目的な所を信じているんだと思う。ビビちゃんは最初の頃お姫様扱いしていたけど、なんつーか、公私混同みたいな態度に変わってて…。幼馴染みって言葉がピッタリになった」

 

 ニコ・ロビンは確かにその通りだ。同族嫌悪しているから理解しやすいのも関係してくる。ナミさんは初めて会った時は距離を保っていたけど、リィンだからという理由で細かい事を見逃してくれそうでなんだかんだと共にいる。ビビ様に関しては意識してなかったけどペルさんに宣言した事と本人の意向で吹っ切れた感じ。

 

 怖いくらい、当たってる。

 サンジ様は人を見るのが本当に上手い。

 

「後は俺だけなんだ…」

 

 そうだよ。サンジ様だけだよ。

 正直「サンジさん」って呼ぶのが嫌で、ジェルマという大きな武力が怖くて。古参の筈なのにいつまでも他人行儀なんだ。

 

「言えません。壁を作る理由など」

 

 私はそれを言った瞬間サンジ様を国に売る事になってしまう。ヴィンスモーク・ジャッジ様は、海軍に圧力を掛けれる程力(物理)を持っている。

 私は海軍という居場所を守る為にも言えない。

 

「でも、私はサンジさんの料理、好きですよ」

「………サッチって奴の次に?」

「次に」

 

 二ヘラ、と笑うと力なく笑い返される。誤魔化したって分かっただろうし、サンジ様もそれに乗っかった。

 私からは絶対言えないけど、ヒントを与えます。だから自衛してください。必要以上に私に関わらない方が、望み通りの未来です。あの方が強くなった3番目の王子を利用しない筈が無い。

 

「絶対に、サンジさんで居てください…」

「さ、飯だ。呼んできてくれるかい?」

「分かりますた!」

 

 空気を払拭する様に元気な声を出すと扉へ向かう。

 

「いつか、その壁を壊すから待ってて」

 

 踏み込むなっつってんだろうが畜生。

 

 甲板へ出ると壁にもたれかかってるルフィが居て吃驚した。いつになく真剣な顔なのでとても怖いです。

 

「なぁリー。女狐って、俺達に倒せると思う?」

「今は、戦うだけ無駄だと思います。女狐じゃなく、大将という地位は」

「……海賊王になるにはソイツら全員倒せるくらい強くならなきゃなんねぇ。リー、俺を助けろ」

「いつも思うが大物相手ばかり…」

 

 絶対は約束出来ないんだ。海軍の裏切り者になってしまうから…──違う、私はずっと兄弟の味方だ。海軍は利用して、力を付けて、情報を手に入れる為に使ってる。

 

「俺はフェヒ爺にリーを守る為に強くしてもらった。だからリーは俺を助けろ」

「横暴、独裁政治。ばーか」

「うん」

「……私は。ルフィの味方、味方ぞ。だけど、迷いがある。今まで兄妹の為にと利用してきたものを捨て切れぬ自分がいる。ごめん」

 

『リー…安心しろ!お前が、皆が俺を助けてくれる代わりに。俺がお前らの全部を守ってやる』

『一緒に守って。助ける』

 

 ちょっとだけ、自信が無い。

 

「いいんだ、それでも俺が全部を守るから」

 

 根拠の無い自信が大嫌い。

 だけどそう思わせてくれる。

 

「それが、敵でも?」

「敵でも、だ」

 

 海賊と海軍。

 選ばなくちゃならない時が来る。

 

 

 

 

 

 

 その時はその時で考えるとするか、私らしく。なので取り敢えず飯にしよう。飯。私はサンジ様のご飯を早く食べたいんだ。話してる時間が勿体ないと思わないのかこの野郎。




ウソップは出なかった。流れ的に消えた。
ちゃんと用意させてもらうよ…。



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第148話 お前はもう負けている

 

 波に襲われながら航海を続けると不思議な船に出会った。それはあまりにも常識とかけ離れていて、取り敢えず『頭の常識を手繰り寄せながら疑う事が常識』と言う面倒臭い偉大なる航路(グランドライン)ルールを使用した。

 出会ってしまったのなら情報源として利用すればいい。

 

 船長や航海士やメインマストがない海賊船なんてあるのだろうか、という疑問。個人的な答えとして、有ると思う。

 何かの交渉や騙し討ちが成功すれば、だけど。

 

 上陸するおバカ3人組と監視役の冒険王女に『頭使う系の敵が現れるかもしれないから気を付けて』と忠告して、新たな島に到着したが私は安定した船上待機だ。

 

「あ、そうだ。サンジさん!」

 

 3人を見送ったサンジ様を呼び止める。煙草を咥えてサンジ様が人の良い笑顔を浮かべて近付いてくれた。

 

「奪還した空島の食材が余り有りますたらしき故に心配してませんですたが、有って損は無きと思いますして」

 

 奪える物ならとことん奪う私がナバロンで何もしないわけない。たんまり食料や水、砲弾や火薬はくすねてきた。我ながら本職(ナミ)さんビックリの成果だろう。

 砲弾系はウソップさんが戻ってきてからでいいか。

 

「………リィンちゃん」

 

 思わずギョッと目を見開く。

 アイテムボックスから取り出した食料を渡すと、サンジ様はぶわりと言う表現が似合いそうなレベルで泣き出した。これにはリィンも流石にビックリ。

 

「助かる…っ、本当に、空島の入国料が掛かって食費を抑えないといけないんじゃないかとばかり…!」

 

 あー……うちの兄がすまん…。苦労掛けて本当にごめんなさい。

 

「私はサンジさんの料理好きですからそれは困るますね」

 

 サッチさんの次だけど、励ますようにニッコリ笑って告げる。しかしサンジ様は美少女の有難い微笑みを真顔で見詰めた。

 

「……リィンちゃんそれ意図的に誑かしてる?」

「サンジさん私の事分かるして来ますたよね…」

 

 あっ、バレてた。

 天然タラシがルフィなら計画タラシが私です。

 

 

 この前キッチンできっちり話したからか、私の中で割り切れたのか知らないがサンジ様と話しやすくなった。サンジ様がサンジ様であるから壁が無くなることは無いけれど、ボロを出さない程度と言う距離感が掴めてきた気がする。後、サンジ様のメンタルがくそ弱い事が分かったから。

 

 観察しているのか、ニコ・ロビンは私を凝視する。

 

「ニ…ロビンさん、何です?」

「取り敢えず貴女が心の中で私の事をフルネームで呼んでいる事は分かったわ」

「しくじるした」

「……まぁいいわ。ちょっと質問があるの」

 

 ニコ・ロビンが私に聞く??

 

「……笑うって。デレシと笑うって、何故貴女が知っているの?」

 

 あーー…答えづらい質問来ました。

 いや、言った事を忘れたとかそんなのじゃなくて、追及される場面を想定してなかっただけなんです。

 

「私は、元雑用です。監獄は、入るしたことあります」

「監獄…インペルダウンね」

「そこでまぁ色々と会いますよね。表沙汰に出来ぬ犯人とか、裏切り者とか」

「………そう」

 

 アラバスタで言った事を細かく覚えているニコ・ロビン怖い。そりゃ彼女にとって大事な人の話題なら絶対忘れないだろうけど、所々に見える闇の人間の顔に肝を冷やす。

 

「ねェ、堕天使ちゃん」

「はい」

「貴女の…──」

 

──ガララララッ ズオンッ…

 

 会話の途中で唐突に起こった波の揺れを耐える。昼寝をしていたゾロさんやカルーは勢い良く起きて、ナミさんは女部屋から何事かと出てきた。

 

 メリー号の船首と船尾には、動物の手をモチーフにした横型の碇が海と地面を繋いでいる。そして陸地の反対側にはメリー号の何倍もの海賊船が。

 

 

 まぁざっくり言うと、海の逃げ道塞がれた。

 

「我々の望むことは、ただのゲームだ」

 

 絶体絶命、そして怪しげな取引。それは第3者から見た目線でだろう。張本人達はそんな状況にも関わらず私の肩を叩いて『ゴー!』と元気よく告げていた。待って、私?私が行けと?

 

「……どちらを?」

「船を動かすのは後でもいい。今はルフィよ」

「………………ですよね」

 

 上陸組が不安なので私に飛んでこい、と。

 無駄に土地が広いから私の出番だ、と。

 

「っ、分かりますたよ!」

 

 渋々箒に跨る。

 

「見つからない様に高速でお願いね」

「ナミさんまことに私好き?」

「愛しているわ。でも」

「使える物は使うって魂胆ですね!!同意見だからこそ腹立つぞ畜生!!」

 

 空間を斬るようにトップスピードで飛んだ。

 

 

 

 

 

 数秒後、何かにぶつかった。

 

 

 

 敵さんの船から離れる為に方角とか考えないで飛ばしたんだ。10秒かからずに見えなくなるだろうとは思ってた。そこから探していこうと思っていたんだが、ぶつかったのはウソップさんでした。

 ビ、ビビ様じゃなくて良かったよ。

 

「船から大体2秒…。安全面的に不安ですね」

「うん!!そうだな!!!!」

 

 箒の柄の部分にぶつかった腰を押さえながらウソップさんはヨロヨロと立ち上がる。ただし声を張り上げながら、だ。突然の出来事にビビ様やチョッパー君は驚いているがルフィは大爆笑していた。

 

「いやんオヤビン落ち込まないで!無視されているからって落ち込まないで!」

「俺は影が薄くて無視される……」

「ぶっ、ぶぶぶっ!」

 

 なんか濃いキャラの奴らがいるなー…。

 

「ビビ様ぁ…どういう状況です?」

「えっと、あそこにいるシェリーが撃たれて」

 

 ビビ様の指さす先には普通の馬より足が長い白馬。そして酔っ払いが見るちっさい妖精みたいな姿をしたおじさんが馬に寄り添っている。

 

「それであの3人組が現れて」

 

 落ち込んでるボスっぽい割れ頭とつなぎ服の女と体格の大きい男。世界中探せばこんな感じの漫才コンビ居そうだ。

 

「ルフィさんが知らないって、言った途端に。……ウソップさんが吹き飛ばされて…」

「今に至る、と」

「まぁ…何も言質は取られてないわ」

「よっし!!」

 

 笑い転げているルフィに手を差し伸べると、ルフィはそれを遠慮なく掴んで起き上がる。ニッ、と白い歯を見せて私の後ろに回った。

 ……後ろに回った????

 

「リーのお得意の時間だと思う」

「ルフィが成長すた…!」

「スゲェ!直情型のルフィが理性で適任を割り当てた!」

 

 すぐに攻撃する気は無さそう。メリー号の行く手を阻む大きな船は『ゲームを望む』と言った。受け流す、受ける、条件を付けるのは私の仕事って事か。

 

「チョッパー、シェリーを治してやってくれよ」

「おう!」

 

 ルフィが珍しく的確な指示を出す。

 

 ……この人本格的に何があった?ナバロンで再会してから一皮剥けた感じがするんだけど。空島?空島で何があった?

 

 個人的な感想だけど、進化する前の嵐の静けさみたいな。何か巨大な敵が立ち塞がるって「俺達は強くなんなきゃいけねぇ!」みたいなバリバリ少年漫画展開に持ち込まれた主人公みたいな。

 あ〜〜〜この世界に漫画が欲しい〜〜〜!

 

「我々は〝フォクシー海賊団〟!〝麦わらの一味〟に対しオーソドックスルールによる〝スリーコイン〟『デービーバックファイト』を申し入れる!」

「あ、またの機会にどうぞ」

「受けろよ!!!」

 

 毎度お馴染みの心の声が煩いリィンです。(無駄な)葛藤を邪魔されておこでござる。

 

「いいですか?そちらの懸賞金がどの様か知りませぬが、武力行使では確実にこちらが上。上なのですよ、上! 一味に能力者は4人!全て戦闘向き!……それをぉ?こちらの土俵では無くそちらの土俵で行う意味が分かりませぬなぁ?」

 

 ハッタリも入れて脅す。一味の能力者は3人…まぁ特殊な私含め4人だけどどれも戦闘向きでは無い。それを本人が戦闘に使用してあるだけであってね。

 それに私個人の土俵は武力行使では無く。

 

「くっ…、ではいくつかハンデを付けようじゃないか!」

「ワァステキー!太っ腹ー!」

 

 人の弱みを握り利用する事が土俵なんだよね。

 

「問題がある…特にウソップさん」

「なんだ?」

「……デービーバックファイトが何たる物か知らぬのです」

「お前よくドヤ顔で交渉しようと思ったな」

 

 小声でぶっちゃけると呆れた目をされた。ここでルフィに言わないのはルフィも知らないと踏んでいるからだ。海賊の常識には疎いんだ、仕方ないだろ。海軍の常識しか知らない。……一般常識を一番に望んでいるんだけど。

 

「デービーバックファイトはだな、端的に言うと人取り合戦だ」

「大体理解した」

「早ェなオイ」

 

 この島に来る前に遭遇した、人の足りなかった船の謎が解けた。奪えるのは人。そして…海賊旗。

 

「ねェ、フォクシーの人。賭けるものは金品もあり?」

「金品、だとォ?」

「そう、金品。正直よその船からの仲間なんて信じる不可用、旗は一つ限り。では、他の望む物……それぞ、金品」

「量にもよるなぁ…」

「ワンゲームに付き全財産3分の1…、は取りすぎでしょうから6分の1。勿論そちらの額に合わせるして、こちらも支払い。それが第一条件ですかねぇ」

「6分の1、だと。どれ位だ?」

「ざっと1億じゃないかしらオヤビン」

 

「1億ぅ!?」

 

 ウソップさんが驚きの声を上げる。

 

「やめとけやめとけ頼むから…向こうの6分の1すらねぇんだぞウチは!」

「やだなぁウソップさん……──ゲームにイカサマは常識ですよ?こちらが優位に立つ可能な条件を付けぬ、とでも?」

「結局やる気満々かい!」

 

 ドアホ、声が大きい。

 

「受ける気になったみたいだなぁ??」

 

 ぶっちゃけ、めんどくさい仲間が多いからゲームで勝たない方がオススメだよフォクシー海賊団。絶対に精神が疲労する。言ってやらないけど。

 

「条件1に金品の奪取も有りとしよう。その代わり金が無くなれば体で払う事だな」

「具体的には?」

「仲間ではなく奴隷、って所だ」

「胸糞悪いですが理解」

 

 チョイスによってはそちらが潰れるよ、本気で。この一味(個人)のバックに誰がついていると思っているんだ。ビビ様だとアラバスタ、ルフィだと革命軍と白ひげ。サンジ様なら過保護ジェルマ。ニコ・ロビンなら政府と海軍、私なら冥王と微妙な判断だけど七武海。あれ、どれ選んでも死んでる。

 やだ…この人たち喧嘩売る相手間違え過ぎて不憫…。

 

「条件その2、海賊らしく、嘘は付かぬ事」

「………いいだろう。嘘をついたら行われているゲーム、合間であればその次が負けだ」

 

 条件1にも条件2にも突ける穴は作った。

 これ以上の条件を付けてしまうとリターンの条件で動ける行動範囲が狭くなってしまうから止めておこう。

 

「では、ルフィ、受諾を!」

 

 

──ドォンッ ドォンッ

 

 

 

 純粋な力比べではなくゲームの場合、不思議色を使う私が居るから絶対に負けないんだけどね。

 

 ==========

 

 

「負けねば良いんですよ!負けねば!」

 

 反対意見のナミさんに肩をゆすられながら、ゲーム会場─何故か祭り風─で作戦会議を開く。

 

 開会式で把握した宣誓は3つ。

 1.奪われた諸々はデービーバックファイトで無ければ奪還不可能

 2.引き渡された者は速やかに忠誠を誓う

 3.奪われたシンボルは2度と掲げない

 

 大方予想通りだったけどゲームでしか奪還出来ないのは想定外。負ける気が無いので考えてなかったとも言える。

 

「俺は今お前がルフィの妹だってしみじみ実感した」

 

 ウソップさんが腕を組んで言う。

 ……なんだか失礼だな。

 

「出場者は3:3:1ね…。この一味は10人居るから3人確実に出なくて言いけれど…」

「はい!出たくない!」

「俺も!」

「お、俺はレースに出てはいけない病で…」

「クエーーーーッ!」

 

 安定した4人(?)が名乗り上げる。勿論、却下させていただこう。

 

「レース、球技、戦闘。うん、決まるした」

「今回は随分早いみたいだな。ナバロンではチーム分けに時間かかってたが」

「ハッキリ言いまして、今回のゲームは私の力が鍵となります。なので他は専門分野を担当して頂こうと思いますね。ちなみに1戦たりとも負けません!お金が欲しい!合計3億!人数多き海賊団流石の貯蓄!」

「金塊あるじゃねぇかよ」

「金塊は無い!船には無い!……これは嘘ではありませぬね、ギリギリ」

「確かに…そうっちゃそうだが…」

 

 具体的に場所を言うとアイテムボックスの中にあります。だから現金は無い。

 

「いいですか、嘘はダメです。大事な所のみ意図的に隠すして本当の事を話す!これ、会話の基本です」

「いや違うだろ」

 

 ビシッ、とウソップさんがツッコミを炸裂させるが私はスルー。私にとっては基本なんだよ畜生。

 

「ねェ、もし負けちゃったら…?」

 

 ビビ様が不安げに聞いてくる。

 

「チョッパー君を売り出す」

「なんで俺!?」

「欲すした人物の欠点を上げるしていき、ゲームのメンバーを減らさぬ為です。チョッパー君は今回待機故に。そして後に取り返す」

「なんで俺…」

「押し売り可能な長所がある故に」

「おしうり…」

 

 ゲームに支障を出さないためにも不参加組の誰かを生贄にしないといけない。そうなると背後的要因でチョッパー君かカルーが一番向いているんだ。……なんだか詐欺師みたいだな、私って。

 

「私多分誰かに壺売る可能」

「リィンは一体どこを目指しているんだ?」

「平凡平穏」

「程遠いぞ?」

 

 泣いてないったら泣いてない。

 

 

 

 

 【第1回戦「ドーナツレース」】

 出場者

  ウソップ

  ナミ

  ニコ・ロビン

 

 【第2回戦「グロッキーリング」】

 出場者

  ロロノア・ゾロ

  サンジ

  リィン

 

 【第3回戦「コンバット」】

 出場者

 モンキー・D・ルフィ



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第149話 信じる心はフライアウェイ

 第1回戦「ドーナツレース」は島の外周をぐるりと回ってゴールまで辿り着く妨害ボートレース。

 参加者はウソップさんとナミさんとニコ・ロビンなのでストッパー役は要らない。ナミさんは私が絡まないと比較的良識派だから。比較的。

 

 妨害、と付く時点で海賊ルールはお察し。全力で妨害という名の手助けをする所存。ヌルゲーだね。

 

 

 海の上ということでナミさんの独擅場になる事間違い無しだし、いざとなれば海を動かせる私がいるから大丈夫。そして何かの密告としてニコ・ロビンを。トラブルが有って何か伝える時に彼女の能力はとても便利になる。口や耳や目を咲かすだけでいいのだから。

 

 問題、と言うか1番の不安点は樽三つで耐久性のある船が作れるかと言う所だ。

 

 この一味で唯一作れそうなウソップさん。

 彼に任せるしか出来ない。

 

「あ、魚人だ」

「んー?」

 

 対戦相手の魚人が居たので思わず声を出してしまう。

 

「初めまして、俺ァカポーティだ。直接対決はないが良い勝負にしような」

「あっ、ご丁寧にどうもありがとうござります…?? 麦わらの一味の雑用リィンです」

「ん〜、ん〜?」

「な、何ですか?」

「いや…。小骨が引っ掛かった感じが」

 

 話しかけてしまったが実は魚人になるべく関わりたくない。

 魚人島で救世主とかさぶいぼ立ちそうな事言われてたり、ネプチューン王に立場黙ってたり、アーロンやジンさんその他諸々、頭いてぇ…。魚人に因縁ありすぎて胃痛がががが。

 

「カボーテーさん…皆さん祭りの準備が手馴れるしてますがそれだけ何度もやるしたのですか?」

「カポーティ。まぁ、何度もやってる」

 

 何度も繰り返し勝利を収めてこの大人数になった、ということは必ず勝てる秘策があるという事。一味の古参の誰かは能力者だな。…睨むべきは船長であるフォクシー。

 

「あ、そうだ!魚人空手、やるだけ無駄ですよ」

 

 こちらを少しでも有利にする為に煽る。

 この煽りをすれば数発打ってくる筈、だけどそれを防がれたら諦めるだろう。今後魚人空手を無駄に使うことも無い。魚人の強みは一気に潰しておく。

 

「魚人対しそれなりの学がある様だな」

「友人が魚人でして」

「それでか」

 

 名前は絶対言えないけど。

 

「リー!お〜〜い!」

 

 焼きそばをモリモリ食べているルフィに呼ばれる。カポーティさんに別れを告げて一味の元へ駆け足で行った。

 

 ……あの人は女狐の部下には出来ないな。

 

 頭が弱いからすぐに利用されそうだ、と本人が聞けば憤慨しそうなレベルの評価を下しながらため息をつく。

 

 魚人の部下と仲間が欲しいです。アーロンを手玉に取って置くんだった。

 

「リィン!このボート海まで運んでくれない?」

「嫌です。手札はギリギリまで見せぬ」

 

 すぐに沈没しそうな樽ボートを見下ろしながらナミさんのお願いに反対する。全員が『あーっ』って顔になったので納得してくれたみたいだ。

 

「お前の能力が勝敗分けるもんな…」

「敵がどう出るか予想しておかないと」

「クエッ」

「偵察行ってきます、だってよ」

「とある人間より動物が賢い…だと…?」

「ハッ、誰だそのマヌケ」

「オメーだよ」

「ゾロさんですね」

「マリモだな」

「3人そこで腹を切れ」

 

 ……この緊張感で勝てるのだろうか。

 鍵は私の能力だけどそれ以前にキミらの動きが無いと出来ないんだよ???

 

「ナミさんの航海力が頼りデス!ガンバッテホシイナー!」

「愚問ね。リィンの指名で頑張らないわけないじゃない」

 

 意気込むナミさんを尻目にウソップさんが耳元で内緒話をした。

 

「コイツ、お前が好きなのに利用するとか頑張るとか情緒不安定過ぎないか?」

「………ごめん」

 

 私も結構使う。

 

 

 ==========

 

 

『さあさあお待ちかね!勝てば宴会負ければ深海の情け無用のデービーバック!第1回戦「ドーナツレース」始まるよ〜〜!』

 

 南の海(サウスブルー)のスズメに乗った実況者がルールを説明する。この島を1周せよ!そして凶器はなんでもありだ!と、言う事だった。…凶器などはなんでも有りなんだね?

 

 両組スタートラインでオールを構え、迷子防止の永久指針(エターナルポース)か配られる。

 

『位置について!レディ〜〜〜〜──』

 

 その声に合わせて手のひらを海に向ける。手のひらが有った方が感覚的にやりやすいんだよね。

 

『ドーナツ!』

 

──ドドドドドドドォンッ!

 

 両組一斉にスタートと同時にフォクシー海賊団の面子が砲弾を構えて海に撃つ。するとその勢いに麦わらチームは逆走したようだった。

 

「きゃあっ!」

 

 しかしそれはフォクシーチームも同じ。

 謎の海流に阻まれて、麦わらチームより数メートルも逆走してしまった。勿論、私のし・わ・ざ☆

 

「ナミさんとロビンちゃんになにしとんじゃゴルァ!」

 

 サンジ様の怒れる声をBGMに不敵に笑う。

 いや〜〜不思議色万歳!集中力を高めて想像力と思い込みでなんとかなるもんだ!

 

「今の、リィンか…」

「これは勝てるな、うん」

 

 ゾロさんとチョッパー君が海を見ながら腕を組んで頷く。純粋な力比べは無理だけどきちんと戦えるんだよ!小細工ありの勝負なら!

 

 フォクシーチームに居るさっき話した魚人が、魚人空手の構えを取った。

 

 こちとらミズミズの能力者と戦った時に水の攻撃を無効化させる経験は何回かしたんだよ!今更海を割るだけの魚人空手に負けるか畜生!

 

「〝海面割り〟!」

 

 ズドンっと大きな音を立てて麦わらチームの後ろから海が割れる。しかしその波は麦わらチームのタルタイガーの船体を傷付ける事無く途中で消滅した。波の波頭が崖にぶち当たり破裂する様な音と共に。

 過去での戦闘や観察は確実に力になっている。

 

 向こうの声が所々しか聞こえないのが非常に残念だが、ナミさんの航海の邪魔にならない様に敵の船を時々押し返す。フォクシー海賊団側のイライラが手に取る様に分かって気持ちいい。

 

「お前の顔、今酷いからな」

「具体的には?」

「ラスボス前の四天王」

「やだなぁゾロさん。海賊たるもの全て悪役、ボスにも成らず雑魚にも成らず、程よい立ち位置ですなぁ」

「それでいいのかよ元海兵」

 

 裏工作得意系の四天王でよろしく。

 

「おっ、爆発的にスピードが上がったな」

(ダイアル)かな」

 

 ゾロさんの感心した声にサンジ様が返す。

 おぉん?(ダイアル)

 

 私の理解出来てない雰囲気が伝わったのだろう。サンジ様が笑いながら(ダイアル)について教えてくれた。

 

「空島に流通してる生活必需品だよ、えーっと、効果は…」

「威力を貯める衝撃貝(インパクトダイアル)、風を貯める風貝(ブレスダイアル)。この子達は長鼻君が持っているわ。それと堕天使ちゃんにお土産で映像貝(ビジョンダイアル)2種類と音貝(トーンダイアル)灯貝(ランプダイアル)

「うわっ、びっくりした…」

 

 私の手の平にニコ・ロビンの口と耳が咲いた。

 

「あ、さっきは妨害ありがとう」

 

 次の難関に突入したアナウンスを聞くが、ナミさんの本領発揮場所なので心配する事は無い。

 

映像貝(ビジョンダイアル)2種類とは?」

「写真を排出する貝と立体映像を見せる貝よ、危険性は無いわ」

「お土産のチョイスが安全性優先で意図が丸わかりです」

「バレちゃった」

 

 手のひらの声にイラッとする。海に沈め、世界平和的にも。異世界転生主人公的な存在である私に試練降りかかり過ぎじゃない?主人公補正?そんなのは要らないからモブ補正寄越せ堕天使(クソジジイ)

 

「クエッ!」

「ただいま、だって!」

「カルー!」

 

 カルーが敵視察から帰ってきた。それと同時にフォクシー海賊団の船長、フォクシーが悪い事を考えたなどで海沿いを進む。仕方ない、付いて行くか。

 

「クエックエー…」

「アイツらの船には大きな鏡の塊が有ったって」

「クエーーー!」

「ひょっとしたらアレが武器かも!って」

 

 カルーが便利!!

 

「ありがとうカルー!鏡、ぞね!」

 

 ビビ様に撫でられるカルーにお礼を言ってフォクシーを追う。ただの鏡じゃなくて鏡の塊、絶対何かある。

 

『ついに出た悪魔の様な仕打ち!オヤビン、煙幕を使ってタルタイガーを号の視界を襲ったァ!』

「フェーッフェッフェッフェ!〝マッシロシロ大作戦〟!このサンゴ礁をくぐり抜けて見ろ!」

 

 フォクシーのせこい妨害。それを全く気にしないナミさんは渦潮の隙間を縫って抜ける。

 

「うわっ…無駄な存在」

『ここで雑用リィンがオヤビンに攻撃したー!? オヤビンのガラスのハートはブレイク寸前!』

「リィン!」

「ルフィ達が飯に釣られてます故に!私が近くにいるです!」

『妨害の妨害に気付かれたオヤビン又も沈む!』

 

 この人のメンタルは多分1番弱い。

 

 

 

 第3試合のコンバットまで心折れなければいいねェ?

 

『喜びも束の間!サンゴを抜ければロング(リング)が待っている!』

 

 落ち込むフォクシーを踏みつけて下に伸びる渦潮を凝視する。これくらいなら飛ばせるな。

 頼んだ、的な目線が3つ私に降りかかる。

 

「〝海流1本背負い〟」

 

 ぽそっと呟くとイメージ通り突き上げる海流が樽を押し、気持ちいいくらい空を飛ぶ。全員船体にしがみついているけど、この方法でやると分かっていたのか動揺はしてないみたいだ。

 

『な、なんだ今のはーッ!? タルタイガー号、空を飛んだァ!ロング(ケープ)も飛び越え大幅リード!なんなんだこの一味は!』

 

 その後も様々な妨害は続く。

 嘘の指示──はナミさんがぶん殴って阻止。

 倒れたお婆さん──は私が鳩尾踏み抜く。

 嘘のゴール──は私が石をぶん投げて破壊。

 

 石をただ投げるだけじゃ届きもしないので加速に不思議色を使ったら破壊力抜群だよね。

 

『この一味の柑橘系女子は血も涙もないのか!まさに外道!』

「あー…わかるわー…」

「ウソップさん聞こえますたぞ!?」

『ここで雑用少女に問いたい!〝信じる心〟って、なんですか?』

「腹の膨れぬ無駄な荷物」

『想像以上の外道!』

 

 純粋にうるせぇ。

 

「くそ…邪魔をするな!〝ノロノロビーム〟!」

 

 本物のゴールが見えてきた時、起き上がったフォクシーが狐の形をした手から何かの光線を出した。光線というより光子か。私にぶつかった光子は何も害が無いように見えるが、周辺の草も、私自身も動かない。いや、ゆっくり、本当にゆっくりだけど動いている。

 頭だけが通常通りに動いてて、飛ばしている脳の司令と体がリンクしないから思ったより気持ち悪い。

 

 フォクシーはノロノロの実の能力者か。

 

「フェーッフェッフェッフェ!後はあの3人に掛けるだけだ!」

 

 マズイな、それで勝利を収めてきたのか。

 とにかくフォクシーに言いたい。

 

 

 そ の 程 度 で 封 じ れ る と で も 思 っ た か 。

 

「ッ!」

 

 手に持っていた箒を掴んでいるのでトップスピードで飛ばす。本部から世界各国へ日帰りで荷物を届けていた私の最高速度は、ノロノロビームを受けて走る速度へと変化していた。普通の人より少し遅めの走行速度かもしれないが、能力を喰らった状態では圧倒的な速さだろう。

 

「ごフッ!」

 

 箒に引き摺られた私の体はフォクシーに当たり、ナミさん達に攻撃する事は無かった。

 

「な、なんで動け…ッ!?」

『オヤビンのノロノロビームを受けても尚、雑用リィンが動いたァ!?』

 

 だいたい感覚で30秒。

 途端に体に自由が戻り、ナミさん達がゴールしていた。

 

「残念、相性が悪いですたな、フォクシー海賊だ…──うえぇっ…まって…流石に酔いが回るしてきた…吐く…」

「リー!?」

「あっ、体当たりすた所激痛…。遅くなるした時のダメージは一気に来るですね…ゔっ…吐…」

 

 咄嗟に早くした為か、私の内臓と三半規管が悲鳴をあげた。




主人公にあるまじき外道。そして絶対に格好を付けられない主人公。果たしてコイツは本当に主人公なのか??


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第150話 最強の魔法

 

 第1回戦は麦わらの一味の勝利。

 私はノロノロビームとやらの影響で気分を崩したが、吐いてスッキリしたので取り敢えず勝利の言葉を述べる為にナミさん達の元へ行く。

 

「リィン!なんでフォクシーなんかに踏みつけるだなんてご褒美を…!」

 

 

 

 

 

「あ、ウソップさんロビンさんお疲れ様です」

「何事も無かったかの様に存在を無視するな」

「堕天使ちゃん、私凄く海賊辞めたくなって来るからどうにかして」

 

 嫌です。関わりたくありません。

 

「どこかの業界では絶対ご褒美になる仕打ちまで…!」

 

 さぁて第2回戦はまだかな!!!!私の出番が楽しみだなー!!!大声で叫んじゃうぞ!!

 

「リ、リィンちゃん…」

 

 サンジ様とゾロさんが私を呼ぶ。

 1回戦組から離れたかったので心底良かった。

 

「あのビームに当たって平気かい?」

「まぁ…反動で気持ち悪いだけです、でもなるべく食らうしたく無きですね…」

 

 私は酔いやすいし集中力が常人より高いから脳みそと体が一致しない状態は正直かなりキツイ。

 心配して眉を下げるサンジ様に心の中で拝みながら笑って返事をしておく。

 

「あのノロノロってやつなんだったんだ?」

「粒子を浴びるした物質が一定時間…──恐らく30秒程物理速度を殆ど失うもの、だと思います」

「正解だよド畜生!」

 

 フォクシーが落ち込んだ状態から復活してズカズカ大股で歩きながら近付いて来た。さり気なくゾロさんが私の前に出るから心配しているの分かります。

 

「あんまり近付かない方が身の為だぜ?メンタル的にも、コイツ色んな奴のメンタルぐちゃぐちゃにするから…」

 

 敵のな。

 

「私の味方は一味に居ない?」

「ルフィがいるだろ」

「本当だ」

 

 首を傾げると秒で答えられた。秒で納得した。

 

「さっきのコイツが食らったのなんだ?」

「この世に存在する未だ未知の物質、この光子に触れると他の全てのエネルギーを保ったまま一定の速度を失うものだ!それがノロノロの実」

「あ、ご存知ですたよ。悪魔の実は詳しい故」

「調子が狂う…ッ!」

 

 この世に存在するのは初めて知ったけど。

 

「第1回戦は私達の勝ち、ですね!」

 

 背の高い2人に挟まれながらドヤ顔をするとフォクシーは膝から崩れ落ちた。求めるものは金。とにかく金。食費が想像以上に酷いのと、個人資産の分け前が欲しい。情報屋として初期投資の費用が必要だから…ちょっと領収書が……。必要経費って便利な言葉を使い過ぎ。いや、うん、彼には情報を一旦集めてもらう仮オーナーとして居てもらっているけどォ!

 

 お前バッコンガッコン金稼いでいるじゃん!現役大将より!

 情報屋は実質仮オーナーがまとめてくれているからこうして自由に出来るんだけどね、稼ぎが無いのよ…。請求する額からして嫌がらせ以外何物でもない。なんで私の下につく人間って生意気というか上を馬鹿にするの???

 

「ぐ…ぅ……」

「差し出すして貰いますぞ〜? い、ち、お、く」

「ゔ……まさか負けるだなんて…!」

「男に二言は?」

「ねェよ馬鹿野郎!」

 

 人の悔しがる顔を見るのは大好きです。

 

 

 

 ==========

 

 

 

『さーさー!俄然盛り上がるデービーバックファイト!第2回戦は「グロッキーリング」!』

「でも困ったわ。リィンちゃんならまだしも他の人がノロノロビームに当たったら…」

 

 自分の海賊団が負けてもテンションの高い実況者をBGMに歩く。グロッキーリングとやらの会場に行く最中ビビ様が不安げに声を漏らした。

 

「カルーのお陰で攻略法は出てきますたよ」

「カルーの?」

 

 本当に役に立ってくれるよ。誰にでも出来る対処法を見つけちゃったしねェ。

 安心させる様にニッと笑ってコートの中に入っていた。

 

「リィンちゃん…、ゾロサンもサンゾロもどっちも素敵よね」

 

 私は何も聞こえない。

 

「リィンちゃん以外は男の人なんだけど」

 

 何のアピールだ。

 聞こえないったら聞こえない。

 

『ここで1発「グロッキーリング」のルールを説明するよっ!』

 

 実況者の高い声が響く。

 中身は至ってシンプルなルール。友達はボールよろしく、頭にボールを付けた人間を浮き輪みたいなゴールにぶち込むだけ。わぁ、暴力的!

 

「お前らボールは誰がやるんだ?」

「くそコックだろ」

「んだと!?」

「えっ、サンジさんに? ここはゾロさんでは?」

 

 遠くから「リィンちゃんはゾロサン派なの!?」って声が聞こえる違います。良いから黙っていてください。

 

「はぁ!?俺か!?」

「そーだそーだ、リィンちゃんの言う通りここはテメェだろマリモ」

「ならリィンがやれッ!」

 

 ズボッ、と頭に玉印が乗る。

 

「お前なら空に逃げれるだろ」

「まぁ…そうですが…」

 

 玉印を頭に固定しながら頬を膨らませる。これは私じゃなくてもいいんじゃないだろうか。

 

 するとコンダバダバダバとおかしな音楽と共に敵チームの3人が出てきた。

 

『そうだ!こいつらに敗北などありえない!心の無い雑用になんか負けるものか!』

「撃ち落とすぞ」

『その名も〝グロッキーモンスターズ〟!4足ダッシュの奇人ハンバーグ!続いて人呼んで〝タックルマシーン〟ピクルス!最後は魚人と巨人のハーフ、〝魚巨人(ウォータン)〟ビッグバン!』

 

 かなり体格のいい3人だ。

 私は真剣な声でサンジ様にお願いをする。

 

「ハンバーガー食べたいです」

「任せろ」

「デカイのな」

「マリモは黙ってろ」

 

 よっしゃやる気出てきた。

 

「ところでだな、リィンちゃん」

「はい?」

「巨人ってあんなに大きいのか?」

 

 視線の先にはハーフの魚人が居た。

 周囲を見回して色々な物と比べてみる。

 

「目測ですけど、もう少し大きいですかね…」

「巨人ってそんなにデカイのか…」

「私は小指位の大きさと推定、標準サイズで」

 

 巨人は海兵としか関わりが無いけど実際もう少し大きかった様な…。まぁ、目の前のは小さいサイズって事でいいか。

 

「お2人共、不足は?」

「「役不足」」

「強気ですね…」

 

 一番大きいのが玉だって言うのに、その余裕分けて欲しい。

 

『我らの最強軍団に対するのは1回戦で邪魔軍団を蹴散らした〝暴力コック〟サンジ!』

 

 とんでもない紹介の仕方だな。

 お前、私がジェルマにチクったら殺されるぞ?あっ、戦闘系王族だと暴力は褒め言葉か〜〜…。

 

『そして6000万の賞金首!〝海賊狩り〟ロロノア・ゾロ!麦わらチームのボールは外道雑用のリィンだ!堕天使って名前がお似合いだ!』

「撃ち落とす!!!!」

 

 武器ぶん投げるぞお前!そういう所だぞお前!

 タンスの角に小指ぶつけまくる呪いかけるわ。全力で。人間やれば出来る気がする、私なら出来る気がする。

 

「フィールドorボール?」

「ボール」

 

 敵(小)が審判の問いに答える。正直細かいルールは知らないからどっちでもいいけど太陽側のフィールドを取ることにする。逆光で目が眩んでくれないかなって思っているけど……。

 

「あーーーー…魚人めんどくせぇ」

「うおっ!?……お前、時々クッソ低い声出すのやめろよ。流石にギャップでビビる」

「気の所為では?」

「数秒前の自分を消し去るな」

 

 ガラの悪い側面を見られたので慌てて気を引き締める。

 七武海対決した身としては巨人は今更感が凄くてだな…。いや、もちろん脅威ではあるんだけど、私の戦闘スタイルってスピード重視だから動きの遅い巨人相手なら心境的に余裕があるんだ。

 

「ま、敵陣行ってくるです」

「気をつけてな」

「獲物は残してろよ」

 

 精神的余裕はあれど物理的余裕はありません。

 

「あ、剣士の武器は回収しますよ」

 

 審判にゾロさんの武器が回収されてしまった。

 ついでに、と箒まで。

 

「大丈夫か? お前何かしらする時あれ持ってただろ。空とか」

「ゾロさんこそ剣士が武器を手放してもよろしきですか?」

「余裕」

 

 箒で空を飛びやすいことは確かだし、不思議色(ファンタジー)を想像しやすいし雰囲気出るから持っているけど。より一層イメージしやすい方法(別名:パクリ)を手に入れたから特に問題は無い。

 

「よしっ」

 

 敵陣の真ん中のサークルに入る。私が敵サークルに行くと敵(小)でも大きく見えるな…。チョッパー君達動物組を除くと一味で一番小さいから。例え敵3人が勝手に楽しそうに笑いあっていても、上からの威圧感は怖い。

 

 わざと舌舐めずりをして睨みつける。

 恐怖を手に取らせるな、ビビってくれれば勝利の可能性が高くなる。

 

──ピ〜〜〜〜〜〜ッッ!

 

『試合開始!』

 

 甲高い笛の音とアナウンス。それと同時に敵(中)が私にタックルを仕掛けた。

 

「っぎゃ!」

 

 いくらスピード重視と言えども、怖い。

 ギリギリで避けるがその先に敵(小)が掴みかかろうとしていた。しかし炎を纏った白黒カラーのコックの足がスピード重視の私より素早く蹴りつけて阻止してくれたみたいだ。どういう事だ。

 

「リィンちゃんに何しとんじゃゴラァ!」

 

 あ…顔面でえげつない音鳴りましたね。

 どうしよう、ご愁傷さまとしか言えない。

 

「よいっ、しょお!」

 

 体を包んだマントを空へ飛ばす。感覚は箒と同じ。ただイメージはドフィさんだったりする。彼の使う〝空の道〟は糸を使うから一から十まで真似出来ないけど、生きている人間を動かせないのなら布を動かせばいい。

 あっ、高い。思ったより飛びすぎた。

 

「ごめんぞ、────さっさと沈め」

 

 邪魔されないように空に来て集中。と言っても残りの2人が他の敵を殴る蹴るの暴行加えているから大丈夫っぽいけど。

 

 ずきりと頭が痛んだが無視する。

 敵や外野が余計な真似をしない内にゴールに叩き込む!

 

 とにかく動かす無機物は敵(大)の頭のボール。放物線を描く様に想像するとそのまま倒れこもうとする。足が地面につかず滑る様に。

 そこまで来たら操作はしなくていい。後は自然に終わるはず。

 

『グロッキーモンスターズが封じられる!そして何故か空にいるリィン!そして魚巨人(ウォータン)の巨体が浮いたァ!?頭から倒れる!なんだ、なんなんだこれは!』

 

 そしてズドォンッと大きな音を立てて敵(大)の頭が入った。

 

『ゴ〜〜〜〜ルッ!なんと麦わらチーム、我らの誇るグロッキーモンスターズに一撃も喰らうこと無く最短勝利、成す術が無いとはまさにこの事!』

 

 ……着地を考えてなかった。

 

「ドベフッ!」

 

 身動き取れない空中では成す術が無かったけれど、ゾロさんがわざわざ移動させてくれたのか、敵(中)の仰向けに倒れているお腹に見事落ちていった。いいクッションでしたよ!!良かったね!!

 そんな意味を込めて敵(中)を蹴り飛ばしたらゾロさんに変な顔された。

 

「お前って死体蹴り得意だよな…」

「なんの事を言うしてる??死体蹴りは初ですぞ??」

「お前昨日まで書いてたのなんだった?」

「ビビ様と合作ドフ鰐小説」

 

 黙ってしまった。

 

「ん?おい、試合終了のホイッスルがならねェぞ」

「あ、まことですね」

「審判は何してんだ?」

『お〜〜っと!審判偶然にもブリッジの最中で試合を見ていない!』

 

 ……無理やりすぎる回避方法に目が死ぬ。

 

 早くしないと敵(大)は起きるだろうし、早めに試合終了してもらわないと都合悪いんだよねぇ。

 

「最終手段使うしますか…」

 

 ぼそっと呟けば隣に居たサンジ様が反応する。

 視線が合うのでへらりと笑っておいた。

 

「審判さ〜ん!」 

 

 ジャヤでも使ったハッタリ。

 

 拳を握りしめて、オプションで風も付けて地面を陥没させるタイミングと同時に地面を殴った。

 

 

──ボゴォンッ!!!

 

 傍から見ると殴って地割れ起こしたとしか見えないだろう。

 実際タイミングちょっとズレたけど流石に2回目だと慣れる。手も痛く無いし、土埃がいい感じ。凝るなら最後まで凝らないと。

 

 審判は腰を抜かして顔を青くしていく。固めた拳は相手に見やすいよう親切心で胸の近くに置いて、怯えない様に優しく笑う。口角上げて目尻を下げて。

 

「素直に負けを認めるするのと、男の象徴が潰れる魔法、どちらがよろしきですか?」

 

───ピィイイイイイイイイッッ!!!!

 

 被せ気味に力強いホイッスルが鳴り響いた。

 




2戦目終了。
サブタイトル『最強の魔法』とある様に現在リィンが使える最強の魔法が登場しました。未来は明るい(確信)


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第151話 お膳立て

 

 私が仲間の元に戻って一言目は「高いところ怖い!」だった。

 

「リー、お疲れさん!」

 

 ルフィの労いの言葉に何故かホッとした。何故かは分からない。分からないけど。

 少なくとも──

 

「リィン!最高に素敵だったわ!あの最後の笑みなんて性格の悪さがしみじみ感じられたし!」

「リィンちゃんっ!ゾロさんとサンジさんの戦い方みた!?すっごく興奮したわ!公式結婚してた!」

 

 コイツらよりはまともだからか。

 

「なんで、こうなったんだ…?」

「ウソップさん触れる禁止」

 

 というかこの女性2人と比べると世界中のどんな人間でもまともに見えてしまいそうだからこれ以上考えるのは止めておこう。この人達は、うん、ルフィ含めた人類の例外で。

 一般的に若干とはいえ広がっている趣味だとは思っているんだよ?特にビビ様のとか。日陰に隠れているだけで同類は居るんだよ?本部にも…一応居たし……。だけど王女様はちょっと勘弁して欲しい、私の胃的に。

 

 利用するけど。

 

 あ、オレンジの人は語ること無くアウトで。

 

「オ、オヤビンが落ち込み過ぎて頭が地面にメリ込んでる!」

 

 私の心は新たな収入に舞い上がっているので全くの正反対って所だ。オラ、ワクワクすっぞ。とんでもねぇ稼ぎ時だ!

 

「さぁてフォクシー海賊団。更にいただくましょうか、1億」

 

 ニッコリ美少女フェイスで笑ってあげるとフォクシーは更に項垂れる。おーおー、計画をとことんまで破壊されてショックか。そうかそうかそんなにショックか!

 

 でもギリギリまで私のストレス発散に付き合ってもらうからね?

 

「楽しくて仕方ねェって顔してんな」

「悪人顔だよな、アレ」

 

 ゾロさんが呟くとウソップさんがより酷い解釈で同意する。私は市民の味方で正義のお巡りさんなんだけどな。悪人と真逆の立場なんだけどな。

 

「外道とは褒め言葉ではありませぬよ?」

「でもよぉ、自分で外道って認めてんだろ?」

「……学問に王道なし、です」

「一応確認するがそれは『王様であろうと地道に積み重ねていかなきゃ知識は得られない』って意味だよな?」

「裏口入門がある様に『王道だけでなく様々な道が隠されている』という意味ですぞ」

「……………つまり?」

「世の中王道だけじゃなくて外道非道は存在しても良きかと思います」

 

 質問していたウソップさんは圧倒的解釈の違いにひくりと顔を引き攣らせた。

 

「世に解き放って良かったのか海軍」

「同情しますね!」

「自分で言うな」

 

 いやぁ…血筋のせいですな。仕方ない、これは仕方ない。

 いくら仲間の皆様に責められようが、育った環境と親の影響でこうなりました!だから私には一切責任がございません!

 

 

 私は弱いんだ。いざって時に何も出来ないで弱くてヘタレで。ヘタレだけどさ、ヘタレはヘタレなりに頑張ったんだ。外道や非道の仮面を被ることで敵に弱みを見せない様に、仲間も敵も自分も騙している。いつでも逃げ出したい中、不敵に笑って大切な何かの為にこの地面に踏ん張っているんだ。

 ……って設定でお願いします。

 

 怖いんだよー!怖いから逃げる時は何もかも捨てて逃げる気満々だよ!だけど我慢出来る範囲は我慢して、溜まった苛立ちやストレスを他人で発散しているだけなんだ!非人道的なやり方で!

 

「さて、3回戦はコンバットですたよね」

 

 ナミさんが1億の支払いを確認し終えたので次に進ませようとする。他人を貶める為に時間を掛けるのはいいが、その他は時間を掛けない。動揺、混乱などから立ち直らせない為に。そう、私はとってもスピード重視。

 

 実施出来ているかは置いておく。

 

『波乱のデービーバックファイト!未だ見たことない、というか予想もしなかった展開!しかしお互い仲間を失っていないのが不幸中の幸いだ!最後の鍵を握るのはデービーバックファイトの花形!「コンバット」だ!』

 

 相変わらずテンションの高い実況がマイクを持って叫ぶ。

 フィールドメイク、という戦う場所を決める為にフォクシーとルフィが大砲を回している。そして不自然に止まった方向はフォクシー海賊団の船の方角。

 

──ドウンッ

 

「ほいっ、と」

 

 ヒナさん自慢の黒槍を同時にいくつか止めた事に比べたら、砲弾の一つの軌道を変えることなど容易い。

 不自然に止まった方向に放たれたはずの砲弾は、不自然に逆向きに飛んでいった。その場所はこの島の広い土地。

 

『えっ!? フィ、フィールドポイントが決定!場所は何故かロングリングロングランド!』

 

 激しく動揺している敵を尻目にほくそ笑む。

 計画通り過ぎてほっぺが痛い。

 

「堕天使ちゃんの仕業ね」

「もちろん」

 

 ニコ・ロビンの言葉に頷くとルールが説明された。

 鉄球の落ちた所から半径50mの円内で戦う。空中海中では出た事にならないがそこから出たらアウト、至って簡単なルールだ。

 

「ミスしなければ良いけど」

「計画通りに進むかは皆さんの頑張り次第ですからねェ。私の読みが勝つか負けるするか」

「期待してるわ」

「……どーも」

 

 ここまでお膳立てしたから勝ってほしい。

 

 

 出ている屋台で何かを買う気にはなれないのでアイテムボックスの中にしまっておいたドライフルーツなどの食べ物を出しておく。試合観戦しながらポリポリするよ。甘い物を補給しないと頭痛い。まじで不思議色使い過ぎて頭痛いから少しでも糖分補給して休んでおく。

 

「リィン、あっちの奴らがルフィ探してたんだけど、どこに居ると思う?」

「ゲテモノ売り場」

「分かった、フォクシーバッジか何かの所ね」

 

 ナミさんの質問に答えると入れ替えるようにビビ様がやって来た。何この精神的ダメージが多いトップ2、連続はきつい。

 

「リィンちゃん、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」

「…?」

「よくよく考えて、女狐って私の国を保護してくれている事思い出したんだけど」

 

 あっ、腐ってない話題だ。

 

「それで…?」

「女狐の声結構低かったから、男の娘の可能性がワンチャン」

「無い…」

「えぇ!?無い?」

「あ、実物見たわけではござりませぬ故、不明ですが…。流石に違うのでは?ほら、通り名は〝女狐〟ですし」

 

 流石にキミの妄想に巻き込みたいとは思わない。頼む、私を腐った話(中身)に巻き込まないでくれ。どっちかと言うと作成者側として関わりたいから。

 

「それもそうね…」

 

 そんな心底ガッカリした声出さなくても。

 

「ところでリィンちゃん」

「えっ」

「貴女の推しカップリングは?」

 

 

 

 私今何聞かれた???

 

 

「リィンちゃんの推しは?」

「………………??」

「リィンちゃん、純粋な瞳で何も理解してない風に首傾げても無駄よ。この質問2回目だから」

「流石幼馴染みですね」

「いや、数日一緒に居れば結構分かるけど」

「流石幼馴染みと言う事ですね!!!!」

「仲間大事にするけど敵に容赦無い人だもの」

 

 よっしゃ、仲間()を大事にしない人だとはバレてない!セーフ!

 

「ではウソカヤで!」

「私の知らない人の名前だけど存在は知ってる、でも求めていた物と違うのは分かって──逃げないで!」

「おぐっ!?」

 

 黒いマントを引っ張られて立ち上がったけど体制をすぐ崩してしまった。

 

「で!?」

 

 このキラキラお目目が腐った話題じゃ無ければ!

 

「ビビ様、ハッキリ言います。ビビ様の立場上、腐女子になるのは大変マズイと思うです」

 

 肩を掴んで目を見て、誤解のないように伝えた。個人的にはいいんだ、でも王女としてはかなりアウトだ。その訴えが伝わったのかビビ様は真剣な表情をして「リィンちゃん」と私の名前を呼んだ。

 

「──納豆は大豆に戻れないの」

 

 これはお手上げですアラバスタ。

 

 

 

 ==========

 

 

 

『ライン設置完了お待たせしました!』

 

 凄く待ってた。

 

『本日のメインイベント!コンバット!両者フィールドの中へ足を踏み入れる!』

 

 紹介は懸賞金を言うくらいだった。

 でもとりあえずルフィがアフロなのはどれだけ考えても分からなかった。私の頭脳がいくら唸っても、だ。多分現代の科学では解明出来ない何かだと思う。

 

 まぁどうでもいいか、と傍観の姿勢を保つ。

 

 ノロノロビームにとやらに当たるか当たらないかはルフィ次第だけど……。なんとか勝ってほしいものだ。

 

 

 円形の数メートル離れた所に設置された観客席にはギャラリーが沢山いる。セコンド、らしいウソップさん以外は一味大集合だ。すぐにセコンドアウトで退場したけど。

 

「お金払ってくれるか不安…」

「怪我しないか不安ね」

「この一味が不安だわ」

 

 厄介女衆が口を揃えて言う。不安に思う対象が違うみたいだけど。

 チョッパー君とカルーとサンジ様は目を輝かせていた。

 

「勝てるかな、勝てるよな」

「どうでしょうね」

 

 チョッパー君の少し不安そうな声に生返事をすると、決戦のゴングが鳴り響いた。

 ルフィは殴ろうと手を伸ばす。しかし、フォクシーはフィールドを変えられたと言えど能力の使い方を良く分かっているのでルフィの拳にノロノロビームを当てることを成功してしまった。おかげでルフィはフィールドのギリギリまで反動で吹き飛ばされる。

 

「くっそー!あれ、スッゲェ厄介だ」

 

 悔しそうに呟くルフィの声がここまで聞こえてくる。

 恐らくマイクか何かを使っているんだろうな。

 

「フェーッフェッフェッフェ!フィールドが違おうとお前の負けは決定してるんだ麦わら!」

 

 ルフィの力強くてかっこよくて最高の声と比例して不快感の勝る声が会場に響く。船の上だとフォクシーは武器を変えたり使ったりしたんだろう、だけど場はシンプルな草原だ。武器は打撃武器、ルフィには効かない。

 

「〝ノロノロビーム〟ッ!」

 

 フェイントを入れた光子はルフィの体全体にぶつかった。

 ゆっくりとだが落下していく。

 

「〝九尾ラッシュ〟!」

 

 フォクシーはそう叫びながらルフィを何度も殴った。もう1度言うがルフィには打撃は効かない。効かないけど、30秒のツケは大きな勢いとして──ルフィをフィールド外に弾き出してしまった。

 

 ルールに則るとルフィの負け。

 

「うそ……」

「そんな…っ」

「ルフィが、負けた!?」

 

 戦闘とゲームは違う。

 その違いを感じ取って一味には動揺が走った。

 

 悔しそうに顔を歪めるルフィが視界に入るが、耳に入ってきたのはフォクシーの声。

 

「さァ!寄越して貰うぜ!フォクシー海賊団が求めるものは…───雑用〝堕天使〟リィンだ!」

 

 強く握った拳を開き目の間を揉む。

 なんというか、凄く疲れた。

 

「ルフィ」

「……リー」

 

「──待ってる」

 

 目から一筋の涙が零れた。

 




どっかの誰か達が変態の国を作ってしまい危うくち★こ(※直接的な表現は避けています)を書いてしまう所だった。その時間を仮にパイ★リタイム(※直接的な表現は避けています)だとすると、その時間にこの話を書いてた私はデービーバックファイトが後ろを狙うホモホモしい奴だと考えてしまってもうビビ様ぁってなってました。
賢者タイムです。


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第152話 だから負けと言ったはず

前回、感想を書いてくれたお前ら並びにTwitterにリプを送ったお前ら追加して心の中で同意文を考えていたお前ら。一言言わせてくれ。

リィンを心配してくれ!!!!!!


 

 ルフィの元を離れ、フォクシー海賊団に忠誠を誓う。

 1回戦2回戦、そして3回戦の初めもあれだけ目立つ事して妨害してたら目を付けられるのは当然だったので選ばれるのはなんとなく予感していた。趣味の悪い眼鏡の様な装備を付けると、麦わらの一味と目が合った。

 多分私の若干痛む目は少し赤いはず。

 

「おい割れ頭!」

 

 ルフィが全身で怒ってますという様子で、フォクシーを呼び止めた。

 

「ゲームしよう」

 

 もう1回。それを待っていたとフォクシーは笑みを深める。

 麦わらの一味は私が居なければ勝てない。

 

 おそらくそんな所だと思う。

 

「ではこうするしましょう麦わらの一味!」

 

 交渉は私の仕事でしょう?とフォクシー海賊団の1歩前に出て一つの提案をした。

 

「スリーゲームでは無く、ファイブ。5回勝負といくしましょう!」

「リー…!」

「私は船長に忠誠を誓うしたとは言えど、新参者故に寂しいのも事実。よって3人か5人は欲しいと思うしたのですよ〜!お金が足りねば、奪う可能のチャンスがいくつもある」

 

 いい?とフォクシーに首をかしげる、と大丈夫らしく頷かれた。

 私の提案にも魅力を感じる所があったのだろう。なんと言っても少数精鋭の一味、能力者はまだ居るし、私が搾取した金も取り戻しておきたいみたいだ。

 

「おう!」

 

 怒れるルフィの後ろで死んだ目をしているウソップさんには悪いなと思った。

 

 

 

 ===========

 

 

 

『だ、第1回戦「ドーナツレース」は麦わらの一味の勝利…』

 

 私を船に乗せるなんて愚の骨頂。

 第1回戦「ドーナツレース」でフォクシー海賊団の負けが決定した。

 

「なんっっっっっでだ!」

「いやぁ…気持ち悪い」

「負けたじゃねぇか!?」

「負けますたね」

 

 怒り狂うというよりは発狂するフォクシー。

 

 麦わらの一味が指名したのは当然私だった。

 

「リー!戻って来い!」

「もちろん」

 

 ただいま、と言うと1回戦に参加していたルフィに抱き着かれる。先程と同じく航海士として参加していたナミさんにも。

 

「リーが戻って来たァァァ!!」

「リィンんんんんっ!」

「重い重い重い重い!!」

 

 2人分の体重を支えれる筈が無く、案の定顔から地面に倒れる。コテッ、とか可愛い音じゃなくてズシャアアアッ、と痛そうな音を出しながら。

 いや普通に痛いな!?

 

「堕天使ちゃん、いつから何を企んでいたの?」

「ゲーム始める前の最初の交渉辺りですぞ、一味の総資産額が6億と言うしましたので…合計8回引く2回は6ですよね?」

「コイツ全部毟り取るつもりだったのかよ!」

「最初から2億、と言うと却下される予感が存在する。しかしながら、活躍すた私がフォクシー海賊団に入るすれば勝利を確信する故に5回戦可能と考えるしました」

「えげつねェ…」

「それに、私が向こうに行くすれば──ルフィとナミさんが本気を出す故に負けは無いかと」

 

 3回戦でフォクシー海賊団が勝てる様にお膳立てしたから、勝ってもらいたかった。障害物で阻まれてルフィが吹き飛ばされない船内よりは、何も無いフィールドの方が勝ちやすいでしょ。トリッキーな能力なんだし。

 

「で、でもリィン泣いてたぞ??」

 

 きょとん、とチョッパー君が可愛らしく首を傾げる。

 私はアイテムボックスから取り出したドライフルーツなどの食べ物の中からある一つの野菜を取り出した。

 

「たまねぎ…」

「そう、玉ねぎ。しかも生」

「まさか…」

「眉間を揉むフリをして泣きますた」

「玉ねぎエキスの開発は絶対禁止!禁止だからな!」

「…チッ、いつか演技で泣くが可能すて見せる」

 

 そういう事かよ!とかウソップさんがシャウトしてるけどコチラとしてはどういう事だよ。なんでチョッパー君と一緒に開発してた玉ねぎエキスの存在がバレているんだい?

 

「ぐへへへ…!残念ですたなフォクシー海賊団、私達と出会うした時から負けは決まるしていたのですよ」

「卑怯!外道!非道!卑劣!」

「ハーッハッハッハ!負け犬の遠吠えご苦労です!どんな気持ちです?希望が絶望に変わった気持ち、味わいますた?」

 

「これは後ろから刺されても文句言えねぇ」

「なんでコイツ海軍に居れたんだ?」

「ひょっとしたら追放って可能性も…」

「酷いことするわ…」

 

 上からゾロさんウソップさんサンジ様ニコ・ロビン。

 居たんだよきちんと海軍に!しかも大将だぞ!月組とめちゃくちゃ仲良しなんだぜ!なんだかんだと愛され孫娘的キャラポジションをキープしてたんだよ!

 

「むしろどうして入れた?」

「うるさいですウソップさん。ゾロウソ発売すて欲しいのですか?…あっ、ごめんなさい気が付かず。仲間失格デスネー、ビビ様ーー!」

「聞こえたわ!」

「「謝るから考えを改めろ!」」

 

 考えを改めろ、か。例え販売しても麦わらの一味が目立ちやすくなるだけ。金銭を手に入れても需要が無ければ売れない。

 ということは。

 

「ウソゾロですか」

「やめろ違う、そうじゃない」

 

 ウソップさんが私の肩に手を置いてそれはもう必死に抵抗する。

 更にその後ろではゾロさんが刀を手に狙ってるからおふざけするのやめますごめんなさい。刀だけはやめてください。

 

「クエーーっ!」

「おふざけはそこら辺にしておけ、だって!」

 

 カルーが鳴き、チョッパー君が翻訳する。

 

「クエッ、クエーッ!」

「ふんふん。リィンが無事に帰ってきて嬉しい、だってさ!」

 

 カルーが一番イケメンだと???

 人間しっかりして欲しい。

 

「ルフィとナミとビビとカルーとチョッパー、それとリィンの扱い歴が短いロビンは信じちまったみたいだが…。今更安っぽい涙で騙されると思うなよチビ」

「少女を心配すてください」

「お前初対面で交渉じゃなくて脅迫したのを忘れてんのか」

「アーンしておにぎり食べるさせた時ですね。覚えるしてます」

「そっちは忘れろ」

 

「クエーーーー!!!!」

「「ごめんなさい」」

 

 話が脱線すると腰を攻撃しながら指摘してくるカルガモに思わず謝る。まともかよ…マトモオブザイヤーかよ。

 

「ほら、ひとまず第2試合に集中しましょう? 堕天使ちゃんが戻ってきたけど、参加は出来ないんだから…」

 

 ため息混じりの催促。

 最初に登録した人間を変えれないから少し心配なのだろう。安心してくれ視界に入れば不思議色使える!

 

「では、勝負と行くしましょうか」

 

 

 

 

 

 結果は見事全勝したとだけ言っておこう。

 

 

 

 ==========

 

 

 

「くっそお!全部堕天使のせいだ!」

 

 全財産を奪われたフォクシーが悔しそうに近付く。払わない可能性を視野に入れていたから意外だったけど、素直に払ってくれた。物資自体を奪ってないから別の海賊団引っ掛けて手に入れるんだろう。それに対して我ら麦わらの一味は合計6億の勝利。ホクホクでござる。

 

「私が居なくとも勝てるしたと思いますがね…」

 

 玉の増えるドッジボールは厳しかったけど、多分勝てただろう。私は少し勝ちやすいように妨害しただけだから。

 

「おう、止まれ割れ頭」

「……………われあたま」

「今リィンちゃんに何しようとした?ルフィ相手なら止めねぇがレディなら別だ」

「私女扱いなかなか無い故に新鮮」

「………そ、そうか」

 

 サンジ様が微妙な顔をする。

 可愛がってくれる人はいるけど少なくとも性別の前に兵士が来る。もしくは子供とか孫。男女平等な軍出身なもので。

 

 と言うかよく気付いたな、サンジ様。私は嫌味程度だと思っていたが、攻撃しかけようとしていたのか。

 めちゃくちゃありがとうございます。

 

「大体嘘ついただろ堕天使!嘘泣き反対!」

「偶然持つしていた玉ねぎを興奮のあまり潰してしまい、観戦で疲れた目を解そうとしたなれば手に付くしたのを忘れるし、涙が出たのみです」

「ぐ…ぬ………!」

 

 嘘だと断定出来ないだろう。私の心の中まで読めないんだから。

 

「な〜な〜。シェリーの所戻っていいか?手当の仕方だけでも教えておきたいんだ」

 

 チョッパー君の言葉にあの馬を思い出す。

 フォクシー海賊団の一部が船を動かしてメリー号を開放してくれた為、勝負事に関しては絶対なんだろう。

 

 傷に効く薬が確か船内に置いてたよな。フォクシー海賊団の前にずっと居るのも何だか立場が微妙なのでチョッパー君の代わりに取ってくるか、と船に向かおうとする。

 

「チョッパー、傷薬取ってこいよ。それがあった方がいいだろ」

「おう!」

「………」

 

 そうか、私が動くよりも先にフォクシー海賊団が去ってくれればいいのか。流石に馴れ合うつもりは無い。言葉にショックを受けているフォクシーの襟首を掴もうと手を伸ばした。

 

「オラァ!テメェらはどっか行け!しっ、しっ」

「いでぇ!?」

「……………………」

 

 無礼を承知で行う。本当に申し訳ないが、私は手のひらで…いや、拳を握りしめて軽くサンジ様の頭を殴ろうとした。

 

「っと、リィンちゃんどうした?」

「……………………………」

 

 しかしサンジ様は私が見えてなかったのに簡単に避ける。

 

「………おいリィン」

「あ、やはりゾロさんも気付くしますた?」

「そりゃ、俺がそうだからな」

「……ですよね、やはりそうですよね」

 

 面白そうにゾロさんは口角を上げるが、私は顔を引き攣らせる。ビビ様が「これはゾロサン!やったわ!」って叫んでいるけど私は何も聞こえません。

 

「サンジ、さん」

「ど、どうした?なんか随分弱ってるけど何があった?気持ち悪い?吐く?」

 

 心配そうに肩をつかむサンジ様。ナミさんが「私の膝の上を枕にして休む!?」って叫んでいるけど同じく何も聞こえません。

 

「見聞色の覇気、使用してます……」

 

 ノロノロビームを浴びたんじゃないか、と思うほどサンジ様の動きが止まる。じわじわと状況判断が出来てきたのか口がゆっくり開いた。

 

「え…俺が……覇気を?」

「はい」

 

 この中で覇気使いを何度か見てきた私と唯一覇気が使えるゾロさんの判断が同じなら間違いないだろう。

 

「そっか…これが覇気…」

 

 手をグッパと握ったり開いたり、胸に手を当てて目を閉じたり、見聞色の覇気の感覚を確かめているんだろう。しかし余韻に浸るのはすぐに終わった。バッと顔を上げて馬たちがいる小屋の方を睨みつけだした。

 

「おいくそ剣士!」

「なんだよ…」

「テメェの見聞色で確認してみろ!」

「ッ、バケモノがいるな」

 

 ゾロさんもサンジ様も見聞色は掴んだ状態で使いこなせていない。常に見聞色を張り巡らせるだなんて無茶だ。だから意識して使ったサンジ様に感化されてゾロさんも使い、冷や汗を流していた。あ、ビビ様は少し黙ってて。今貴女の声は脳内シャットダウンしているから。

 そして2人の見聞色はまだまだ狭いけど、いや、狭いからこそ近くに『バケモノ』が居ると焦った。

 

「シェリーが不安だ、気を付けて行くぞ!」

 

 ルフィが意気込みながら船長命令に近しい指示を出す。

 

 テントの前では、1人の男がアイマスクを付けて立っていた。

 




まあ、心配するまでもなかったんだがな!!!(怒)


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第153話 一番怖い大将

(前話の展開に対して)やっぱり、やはり、分かってた。

感想欄!!!お前ら仲良しか!!!楽しそうでなによりです!訓練されたコメント欄って言葉を実感する日が来るとは思わなかった。


 

 

「ッ、はァッ!」

 

 テントに現れた背の高い男に、ニコ・ロビンが動揺して息を荒くした。

 

「あらら、いい女になったじゃないの。ニコ・ロビン」

 

 その姿はモッサリとした天然パーマの上に大分ボロくなったアイマスクを付けていて、きちんとノリのついた青いシャツの上に白いベスト。

 

「青雉…ッ!」

 

 海軍本部の最高戦力(真)大将青雉。

 私が捕獲用労力的な意味で関わりたくなかった海兵No.2。

 

 青くなった顔で彼女がそう告げると、皆が一斉に殺気立った。

 おお…女狐の風評被害と引き換えに大将の危険性を何度も説いた甲斐があった。と、内心ほくそ笑む。彼の実力は本物だ。女狐と違って偽物なんかじゃない。

 

「そう殺気立つなよ兄ちゃん達…」

 

 そんな事を言われても警戒するのが人という者。ある者は拳を構え、ある者は武器を手に取り、またある者は……最大限集中した。

 

「別に指令を受けたわけじゃないし天気が良いんで散歩がてら──ウオッ!?」

 

 ぼぉん!ぼぉん!と爆発する音と共に地面を爆発させる。摩擦熱で発生させた炎は空から次々クザンさんに降り掛かっていた。オラァ!なんで指令じゃないのにこんな辺境に放浪してるんだ脱走常習犯!!

 

 直接体に当てるのに抵抗があるのなら、足元の爆発で動きを誘導させ降る炎に向かわせばいい。

 しかしクザンさんは綺麗に全て避けていた。

 

「ちょっ、ちょっ、ちょっと待っ、おい、おい待て!は、おい絶対お前だろ!話、話せばわかる!分かるから無表情と無言で攻撃しかけるのはやめ…ぶつかるって!」

 

 〝火拳〟〝火拳〟〝火拳〟〝火拳〟そしてもう1回〝火拳〟

 軽々と避けられるのが悔しいから段々大きくなっている気がするが、まぁいいか。

 

 私は海軍で『風系の能力者』だと伝えてあるけどクザンさんには『不思議色の覇気(仮)使い』とバレてるから───手加減無用だな。

 

「待て待て待て待て!待て!ちょっと、そこのえーっと、ほら、なんだ」

「リーは堕天使だぞ?」

「そう、堕天使!堕天使ちょっとま──なんで威力上がったァ!?」

 

 〝大炎戒 炎帝〟

 

 エースが火の能力者で初めて感謝した。

 完璧にパクってやるぜ。

 

「わざわざ炎使っちゃって…!」

 

 そんな事を言いながらも避けるので若干イラッとする。

 大きな火球は物理的な重さがないので芝生を焼いただけで終わる。

 

「「「ビビ/ちゃん!止めろ/て!」」」

「リ、リィンちゃんストップ。……知り合い?」

 

 ゾロさんウソップさんサンジ様の指示によってビビ様が動き、私は渋々火で炙ろうとする考えを止めた。

 私が王族には逆らえないって何故分かってんだ一味の男達よ。人選がピッタリ過ぎて笑えない。

 

「知りませぬ。ですが、圧倒的に敵故」

 

 理由を述べ、箒を取り出して武器にする。

 さぁここで能力者の大将を潰す為の武器を作るよ!用意するものは媒体となる箒、そして加工されてない安い海楼石の塊が所々に付いている縄!縄を箒に巻き付けるだけで完成です!

 低コストでなかなかに使える武器になる。

 加工済みの石は高いし、加工しようと思ったけど海楼石使用申請書の記入事項が面倒臭かったし。だって、アレ、加工者とか書かないといけないんだもん。

 

 海楼石は実に有能。海だと能力者の力は削げるけど、完璧無効にはならない。水も同じく。しかし海楼石は海を凝縮させているから力は海より削げきれないけど無効出来る。

 

「げ…。か、海楼石…」

 

 クザンさんは何度も見た事のある武器に顔を引き攣らせた。

 

「クザン大将。私は雑用として海軍に務めるしていますたリィンと申します。ですが、今は海賊故に………沈め」

「ちょっとこの子の船長さん止めて!?」

 

 思わずといった様子でルフィに助けを求めた放浪海兵。私は箒をブンブン振り回しながら彼と広い土地を追いかけっこ(優しい表現)する。アハハー!おかしいなぁー!デービーバックファイトで疲れているのかなー!?何だかお腹がチクチクするんだ!!

 

「クソッ。ほんと海楼石って、厄介だな!」

 

 しかしルフィ達から10m離れた辺りでクザンさんが反撃に出る。

 氷の刃を武器にし、海楼石に触れないように私の動きを止めてきた。

 

「…………何怒ってんのよ、リィンちゃん」

 

 石と氷がぶつかるギャリギャリとした不快な音に紛れて、小さな声が耳に入った。何を怒っているか、だと?

 

 この氷の塊は何を抜かしてるの?脳みそ働いてる?ひょっとして氷みたいにツルツルなの?

 

「……仏の胃は死んだ」

「………いつの間に連絡回ってんの。胃痛親子の連携が怖い」

「ならサボるなかれ」

 

 胃痛親子などという不名誉な例えを出され思わず睨む。

 私が居なくなって放浪癖復活したよな、絶対。

 

 (つば)迫り合いの様な事をしている箒に力の限り押すと、怒り度合いを察したのかクザンさんは頬を引き攣らせた。

 

「ガチかよ」

 

 軽くあしらうつもりなのか足払いされる。

 ………この場に及んで悪足掻きか!食らってたまるか!

 

「…へあ!?」

 

 頑張って避けて反撃を加えようとするとクザンさんは素っ頓狂な声を出す、

 が、流石は現役大将。物凄い勢いでルフィ達の元へと吹き飛ばされた。

 

「ッ、いててて…」

「大丈夫かリー…!」

 

 抱きとめてくれたルフィの声を聞きながら噎せる。

 

「だから…こういう事やるために来たんじゃ無いっての」

 

 うるせぇ!私が海兵だとバレないように言っているかどうか知らないが、クザンさんはただサボってるだけだろ!私よぉおおおおく知ってるからな常習犯!さっさと仕事に戻れ!尻拭いするおつるさんやセンゴクさんや特に私の事を考えて欲しい!

 

「リィンちゃんどうしたんだい、今までこんな風に突っかかる事無かっただろ…」

「ゲホッ、サンジさん…」

 

 頭をかきながらクザンさんが近付く。

 それに対してゾロさんとサンジ様が最前線にいるルフィと私の前に立ち、他の一味は後ろでそれぞれ武器を手に取っていた。

 

 ただ、ゾロさんは武器を腰に差したままだしサンジ様はポケットに手を突っ込んだままで構えてない。警戒している、と言った様子だと思う。

 ルフィはいつでも戦えるようにしているけど2人だけ。

 

 正確に言うと見聞色を使える2人だけ、だ。

 

「青雉の言った通り今のところ敵対心は無さそうだ」

「アホ剣士と同じく」

「黙れ2番目」

「カッチーン…方向音痴の癖に一番最初に手に入れやがって」

「方向音痴関係無ェだろ!」

 

「ゾロとサンジが言うなら信じる!ほら、お前らも武器しまっておけよ。んで、リーも落ち着け」

 

 ル、ルフィに諭された、だと!?

 

「この一味しっかりしてんなぁ…。前の2人、見聞色を使ってるんじゃないの?」

 

 船長としての自覚と責任で成長してくれたのは喜ばないといけないんだけどなんだか謎のショックを受けて肩を落とす。

 初対面の時兄ってより弟だな、とか思ってたのに!精神年齢は確実に私の方が上だったのに!なんか悔しい!

 

「やりずれぇな…大将って奴は」

「これがあと2人いるんだろ…?」

「大丈夫だろ、生まれた頃は皆同じ赤ん坊だ!」

 

「んぐぅ…三強がすき……」

 

 ビビさまが萌えの過剰摂取で心臓を押さえたけどなんら問題あるまい。

 三強、の様子でクザンさんが眉を顰めた。

 

「後、2人? 俺以外のどの大将に会ったんだ…?」

 

 まぁそうなるよね!

 

「女狐だが…」

「げ…。なんでアイツと会ってんのこの一味。そんな気軽に会えてんの?俺でも数回しか会った事無いのに?」

 

 凄く嫌そうな顔をされた。

 対する麦わらの一味も苦笑いを浮かべる。

 

「ど、どんな感じだったのよ…」

「いや〜、怖かったな〜! 存在してんのに気配がしねぇもん! 戦わなくて良かったなんて初めて思ったな!」

「うわぁ…」

「青雉も会ったことあんのか?」

「…そりゃ、同じ大将だしィ? まー…あれだ…予想外の存在だからな…。ただ無口なイメージしか無かったけど…ガチモードはそんな感じなのか…」

 

 何故ルフィとクザンさんはそんなに女狐の悪口言ってて楽しんでいるのか?何馴れ合ってんだ海兵と海賊。何故ルフィは私を膝の上に乗せて「おーよしよし落ち着けー」ってお兄ちゃんしてるの?

 ゾロさんがクザンさんの発言に首を傾げた。

 

「ガチモード? いや、違うだろ」

「はい?」

「俺達が…と言うより俺が出会った時牢屋に別の犯罪者が居てよ。そいつが逆鱗に触れたのか知らねぇが、女狐の殺気が膨れ上がった。その時初めて気配を感じとったな」

「ひぇ…女狐ナニソレ」

 

 クザンさんが失礼な事を呟いたが、数秒たって疑問を叫んだ。

 

「は!?牢屋!?まって、女狐も疑問だけどお前ら一味も何してんの!?」

「冒険してた!」

「モンキー一家って奴は…!」

 

 そこだけは同意します。

 

「時に青雉さんよぉ、お前──」

 

 サンジ様が煙草の煙を吹き出して真剣な顔で質問する。

 

「──個人的に思う一番怖い大将誰だ」

「溜め込んで言う言葉がそれですたか!?」

 

 手で顔を隠して嘆く。

 自由過ぎる海兵と自由過ぎる海賊に精神がやられそうです。

 

「やっぱりサカズキ…あー…赤犬じゃね?」

 

 そんな嘆きをガン無視してクザンさんが答える。サカズキさんとクザンさんはタイプが真反対だもんね。馬が合わない、苦手意識、が畏怖に変わっても仕方ないと思う。恐怖じゃ無くて畏怖ね。偉大な人間に対して畏まって敬う事。

 本人が恐怖だって言っても認めてやるものか、テメェの怖いはただの畏怖だ!

 

「俺に突っかかってきた堕天使ちゃんは?同じ海軍関係者、思う所があるんじゃねーの?」

 

 怪しまれない範囲で聞いてくる。私は警戒している状態で数秒考え、答えた。

 

「黄猿大将」

 

 私が一番怖いと感じている将校はセンゴクさんだが、一番怖いと感じる大将は黄猿さんだ。

 その回答を意外だと思ったのかクザンさんは興味深げな表情をする。一味は若干不服そうだ。まぁ、一味の共通認識として初エンカウント大将が女狐だからイメージが強いんだろう。勘違いするな、私は怖がっているだけだ。

 

「サ、赤犬と青雉と女狐は決定的な特徴がある故に頑張るすれば抑え込むが可能に…。しかし黄猿は掴みづらく謎が多き」

「なんで自分がなんとかすること前提なんだよ…」

 

 いや、普通そうじゃない?

 

「一番謎が多いのは女狐じゃないの?」

 

 なんでそこで女狐の話に繋がるのか知らないがビビ様の疑問に答える。

 

「女狐は生態が謎のみで、目的はハッキリすているのですよ」

「せ、せいたい」

「彼女は守る大将でしょう?守るモノにさえ手を出さねば基本無害。ナバロン脱出で後半手を出さぬ事が答えでは無いですか?」

「あー…確かにそうね。リィンちゃんが来た辺りから姿を見てないわ」

 

 心の中で冷や汗をかきながら地面に頭を打ち付ける自分の分身が現れて思わず止める。その焦った気持ちはよく分かるから落ち着いてほしい。

 

「それは麦わらの一味が女狐の許容範囲内だったという事。関わりの無き私でも簡単に予想つくです。だから、怖くないのですよ」

 

 あくまでも私はね。

 無理に一味へ『女狐イメージアップ大作戦』を開催しても『なんでこいつこんなに庇うんだ?』ってなるだけだ。バラすバラさないを決めてない今相手側から察させるのは愚かな話。

 

「どうでもいいけどよ…俺の家の前で俺を除いた話をせんでくれ」

 

 あ…。という声が揃えられた。

 完璧家主を忘れていた。




それでは誰かさん。
S A N 値 チ ェ ッ ク の お 時 間 で す 。


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第154話 「やっぱり今死んどくか」

 

 クザンさんが海を氷に変え、家主のおじさんは村の人達を追いかけて海へ出た。結局彼らはなんだったのか分からないし説明されてないし、正直興味も湧かないのでまぁいいだろう。

 

「ヒエヒエの実の能力者…おっかねぇな」

 

 震えるニコ・ロビンと飄々としたクザンさんの間にさり気なく立ったゾロさんがポツリと呟く。

 初期の一味は『怖くないぜひゃっはー!』って感じだったけど今は『怖いものは怖い、上はいる』って感じの雰囲気を醸し出している。

 

 自分の弱さを認めたと取るのが正解だと思う。

 

 一体誰に?

 ジョナさんか、と考えるがすぐ否定する。彼は仕組んだ事とは言えど負けているから多分違う。

 空島で強敵と戦ったか。勝てずに急いで逃げてきた……は無さそうだな。

 

 一味の共通認識で、強敵で、弱さを認めてしまうような───

 

「………」

 

 考えていた選択肢にそっと蓋をする。

 

 

 知らん。めから始まってねで終わるような存在は知らん。

 

「なんというか、じいさんそっくりだと思ったんだがなぁ…モンキー・D・ルフィ」

「じ、じいちゃん!?」

「自由奔放ってのは似てるが、こっちの方が大分落ち着いてんな…。止めなきゃいけない相手がいるからか?」

 

 クザンさんが唐突に語る。ルフィはジジに押されまくってる記憶しか無いから苦手意識が残っているんだろう。ツボを押さえれば簡単に制圧出来るのに…。

 

「今はまだ政府が軽視している一味。だがな、ここに至る経緯や所業の数々、それに素性を辿れば俺は人生で一番お前らを末恐ろしく思う」

 

 これでも長いこと無法者を相手してたんだけどなぁ、とため息混じりに愚痴られる。

 お前が思っている以上に厄介極まりないわ!

 

「特に政府に危険視される原因はお前だよ、ニコ・ロビン」

 

 くそ政府に及ぼす危険度を示す数値、その意味合いが強いニコ・ロビンは8歳で賞金首になった。

 

「ただ…。それは政府だけ、だ」

 

 クザンさんが肩を竦める。

 その微妙なニュアンスに聡い人は首を傾げ、疑問を生んだ。その政府()()という発言に。

 

「8歳がなんだ。海軍(うち)には5つで将校になった兵器がいる。無論、実力を認められて今の地位に付いている」

 

 海軍にそんな化け物がい……たわ、私だわ。

 

「そんな子供の頃から…!一体誰なの!?」

「お前らもよーく知ってるよ…」

「リーか?」

「私は雑用!アイアム雑用!」

 

 私だったわ。

 ルフィが鋭くて怖い。いや、馬鹿なんだけど。

 

「まさか…女狐?」

 

 ビビ様が震える声で呟くとクザンさんはニヤリと笑う。それはもう正解のポーズだ。やめろ。これは『私=女狐』とバレたらややこしくなるパターンのヤツ。

 

「それに、海軍が危険視している原因は違う。アンタだ、堕天使リィン」

「えっ、私!?政府では無くて!?」

「おーおー。どうやら懸賞金の謎へ自力で辿り着いたみたいだが…お前さんの影響力は海軍に根深く築いてる」

 

 海軍への影響力…?

 清掃や七武海用の雑用+女狐だったから関わる海兵は少ないと思っているけど、潜入捜査を引いてまで危険視される理由ってなんだ?

 

「……??」

 

 首を傾げるが出てこない。

 何が原因だ?他人を誑しこんでいるから?

 

「ちなみに、俺の会員番号はなんと52。2桁だ」

 

『さすが天使愛好会』

『知ってたか』

 

「そいつかぁぁぁぁあ!!!と言うかお前もかぁぁあ!!??」

 

 定期的に所持金が増える謎。

 ファンクラブ『天使愛好会』であり合言葉は『月と太陽』。月組(幹部)の名前の由来で写真を販売してる程度しか知らないけどお前もか!幹部の最後が28番だからかなり凄いな!?

 

「なんの番号?」

 

 ナミさんが首を傾げる。無視した。

 キミがファンクラブ(これ)に関わると私の胃が大変だから。

 

「なんと2桁…?えっ、合計いくつ…?」

「……もう少しで5000」

 

 嘘だろ。

 せいぜい3桁くらいだと思っていたのに…!4桁の折り返し地点かよ!

 

「むしろコチラとしてはなんで本人が知ってるんだって話だけど。その数が影響を受けた海兵の数だ。ただそれが会員ってだけで本部から離れてもどこぞの基地で布教している奴が居るかもしれない。……お前は知らねぇんだ、オタク(ヤツら)の勢いを」

 

 それは怖い。するとクザンさんは頭を掻き毟りながら嘆く。

 

「普通100位の値段設定だが、10000ベリーの金額で限定10枚コピーのレアカードだって目をつけてたのに!ヤツら俺が大将だと分かっていながら奪い去っていきやがって…!お陰で俺も中将も伝説者(レジェンド)から外れちまってよ…!」

 

 よく分からないが購入方法は聞かないでおこう。私の知らぬ間に水面下で苛烈で頭のおかしい戦いが繰り広げられていたのとクザンさんもブーメランって事だけは分かった。

 

 私の周りには極端な人間しか居ない気がする。

 

「何の話なんだよ」

「海軍本部勤務者にしか分からぬあまりにも愚かで馬鹿な話ですぞ」

「お前さん見た目だけは良いの自覚してる!?」

「見た目だけってなによ!大将だからってそこは譲れないわ!見た目はたしかにこの世に舞い降りた天女辺りだと勘違いしそうなレベルで可愛いけど非道外道な思考も生み出す超常現象だって人を雑に扱う所も貶めるために余念が無いのも努力嫌いなのに変な所で努力家なのも全てリィンという天から墜ちこの世の全ての不幸を詰め込んだ様な堕天使を彩る為の…!」

「ナミさんいい加減黙る」

 

 見た目が良いの自覚しているから利用してるのは事実だけどナミさんは一生黙ってて欲しい。

 

「あの、質問いいかしら…」

 

 意外な事にニコ・ロビンがそっと手を上げた。うん?過去に因縁あるんだよね?あ、恩人生きてるって分かったから警戒心解いてるのか?

 

「私にとって政府と海軍は同じ扱いだったのだけど…。お互いどんな風な立場なの?」

 

 本当に深く政府や海軍に関わらないとほとんど同じ扱いになってしまうのはよくわかる。海軍本部の正式名称は『政府直下海上治安維持組織』だから。政府の物、みたいな扱い。

 

「……これを海賊に愚痴って良いのか判断出来ないけどなぁ」

 

 海軍と政府は相容れない存在。下っ端はそうじゃないかも知れないが上に行けば行くほどハッキリしてくる。分かるよ、その葛藤。でもお前は早く本部へ戻って書類しろ。溜まってるだろ絶対。

 

「海軍は政府直下ではあるんだが、俺達は政府を嫌ってる」

「……何故?」

「あいつらが俺達を道具としか見ていないから、だ。金はやるからいつでもアチラのタイミングで軍艦をいくつか寄越せ、危険になってもならなくても天竜人を守れ。テメェでやれって言うんだよあの古狸のジジイ共…」

 

 結構無茶な欲求をする癖に暗殺者仕組んできたり邪魔者は排除しようとしたりするよね。海賊の仕業と見せかけて政府が潰した海兵や海賊は島のようにいる。それこそオハラがいい例だ。

 暗殺者は厄介だぞ〜。指示したのが誰か口を割らない人間が多いもの。

 

 なんにしろ、海軍上層部は世界政府が気に入らない。奴らの思い通りに手足になって動く事は屈辱以外の何物でもない。やるならこちらが手の平の上で踊らせたい。

 ……将来的にそうしてみるのも一興。

 

 兵士の命を軽々しく見ていることだって気に入らないし、制圧するために多大な武力を手に入れようとする危うさも気に入らない。私は一般的な人間なので周りの無害な人間を巻き込むのも遠慮願いたい。もちろん、自分に対して無害だけど。

 聖人君子でやってられるか。自分に対しての利益は最優先!

 

「クエッ、クエー!」

「リィンは何か恨みがあるのか?って言ってるぞ。俺も同じ事考えてた」

 

 難しい顔をしながら視線はクザンさんへと注いでいたので獣2匹が疑問を持った。恨みは脱走だけどそんな事海賊の私には言えない。クザンさんと知り合いなのも面倒臭い。

 だから今作った理由を話す。

 

 ……悪い事を考えながら。

 

「私自身大将と初めて会うしたのですが。実は私、昔から色んな人に命を狙わるしてますて」

「「「は!?」」」

「あっ…」

 

 何故クザンさんが『あっ察した』みたいな顔をしているのか分からないが、今から死ぬのは貴様だからな放浪海兵。

 

「その中で青雉という存在に狙わるすた、とタレコミが…。幸い毒故効かぬですたが」

「「ヘェ…?」」

 

 毒不味いよーと追加すればルフィとナミさんの顔が見せちゃいけないレベルになる。

 

「モンペがアップし始めたぞー」

「ルフィとナミ、ひとまず落ち着け」

「ちょ、ちょっと待って!全く記憶が無いからな!?それ絶対誤解だし嘘に決まってるだろ!」

 

 思わず焦るクザンさん。

 これは全くの嘘だがここで終わると思うなよ。

 

「更には! 白ひげ海賊団の船員にも手を出すという軽さ!いくら海賊だろうと関係無きですたので圧倒的にびっくり仰天見境無し!」

「し、白ひげ海賊団って全員男らしいよな?」

「男も?と言うか男好き…?」

 

 全員男じゃないけど。ナースさんは女性だし、和服美人のイゾウさんも女性だし。

 と言うかイゾウさんをナンパしたのは嘘じゃ無い。ただ性別を言わなかっただけで大災害を起こすよね。うんうん。

 

 そこ、ビビ様。「クザサン来ますか!?サンジさんは総受け気味で…いえ、やっぱり愛のない物はダメよ!」とか叫ばない。クザンさん思わず死んだ目になっているから。キミが王女だって知ってる立場だから胃が痛むから。

 おかしいな…私も痛い。思わずお腹押さえた。

 

「私はこれでもそれなりに伝ぞありその噂を聞いて納得しますた!醜い嫉妬!私が青雉大将の好くした海兵や七武海にチヤホヤされるからと…」

「ちょっとリィンさぁん!? 白ひげの所は若干否定出来ないけど、どう考えても誤解だよな!?」

 

 そのまま殺されれば良かったのに。

 

「噂だけでこれです故…実際がどれだけ酷いかなんて考えるまでもなく」

「海兵最低よ!」

「サイテーだ!」

「誤解だっって言ってるでしょうが!」

 

 ナミさんとルフィの最低コールにクザンさんは肩を落とす。ゾロさんとウソップさんとサンジ様が死んだ目をしてこちらを見てくるので信頼の無さが見え隠れする。あっ、カルーまで冷たい目。もう少し騙されてくれてもいいと思うんだけど。

 まぁ本気は出してないけどさ。

 

 ルフィとナミさんが動かせれたら充分だよね。

 ついでにビビ様に影響を及ぼすと恐怖してくれたら。

 

 この3人は怖いぞぉ、色んな意味で。

 

「まじで止めてくれない?綺麗なおねーちゃんに厳しい目で見られんの趣味じゃ無いんだけど…」

 

 だったら早く仕事に戻れ。

 

「挙句先ほど…『この一味いい素材揃ってんな』と呟くしますたのでビビ様!」

「来たァ!?嘘、本当に!?ホモよ!ホモ!」

「嘘!全部この子の嘘!俺はー!べっぴんのおねーちゃんが好きなのー!」

「……そこでビビ様に手を出すしたらアラバスタが黙るしてませんからね」

「出さねぇよ!?本部にいるどっかの狐のせいで女性恐怖症になりかけてる憐れな俺に同情は無いの!?」

 

 するとニコ・ロビンが慈愛に満ちた目でクザンさんを見て呟いた。

 

「…クロコダイルも普段そんな感じだったからまだ大丈夫よ」

 

 嗚呼…ドフィさんに振り回されてたのかァ。

 

「やっぱり今死んどくか!俺が!」

 

 振り回されるのは辛いって事がよく分かったなら早く帰れそして怒られて仕事をしろ。ついでに溜まってる私の分まで。

 




未だにイゾウさんを女性と勘違いしているただひたすらに仕事をしてほしいマンの企み。SAN値ピンチなのは青雉さんでした。今 回 は 。
死んだ方が楽なんじゃないかって思わせる鬼畜はあくまでも主人公(何度目)
明日、ロリコダイルさんの誕生日だけど何も特別なお話用意してないんだ…。ごめんね。一年前にお祝いの話書いちゃったからネタががが。

だから代わりに明日ロングリング(略)編終わらせるネ☆


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第155話 氷漬け

仲良いね感想欄。さてはお前ら打ち合わせしてるな??(混乱)


 

 叫んで無駄な体力を消耗したクザンさんはギロリと私やニコ・ロビンを睨み付けた。

 

「麦わらの一味を末恐ろしく思う」

 

 さっきも言ったな。

 

「大概にしとかねぇとお前いつか殺されるぞ?」

「これだからぴっちりポロシャツ腹巻野郎は」

「あ?」

「ってウソップさんが言うしてました」

「おい。綺麗に責任転嫁してんじゃねェよ」

 

 さり気なく罪を押し付けるが失敗した。

 

「あのですね、ゾロさん」

 

 仕方ない、と説明する。

 

「私はONLY(オンリー) ALIVE(アライブ)。つまり──堕天使(しょうきんくび)と理解すてる海兵には殺されぬのです」

「タチ悪いな!?」

 

 クザンさんは私の発言に突っかかる。バレないようにしてくれているのは大分有難いが早く帰れ。居なくなれ。

 

 そんな私の無言の訴えが通じたのか分からないがクザンさんは1度大きく息を吐いて警告をした。

 

「これだけは言っておくぞ麦わらの一味。お前達は将来この女を…ニコ・ロビンを必ず持て余す。海軍に警戒されている者と政府に狙われている者とじゃベクトルが全く違う」

 

 随分と優しい警告だとは思う。

 これから先狙われますよ、と断言しているのだから。

 

 ……そうかそんなに政府が嫌いか。

 

「油断すると、あっという間に闇に呑み込まれるぞ…」

 

 クザンさんとパチリと目が合う。閉じかけた口が再び開いた瞬間、彼は私の目の前に居て抱きつく様に体を前に倒していた。

 

「──………こんな風にな!」

 

 白く氷結した体が私にぶつかる時、視界は白く氷に覆われた。

 

──パキン…ッ

 

『リー!!!』

『リィン!?』

『リィンちゃんッ!』

 

 くぐもった声が聞こえる。

 体の周りには氷が張ってあり、冷気にふるりと身体を震わせた。

 

『その持ち前の尻の軽さでニコ・ロビンは闇の世界を生き抜いてきた…!しかしだ、アンタらはどうだ?この一味がその闇相手に十分な立ち回りが出来ると思えねェ』

 

 クザンさんの諭す様な声。それに対して怒りを表すのはルフィ達。

 

『それがどうした!闇だろうが世界だろうが、仲間に手を出す敵は俺が全部叩き潰す!』

 

 あ、世界は流石に勘弁してください。

 

『なら守って見せろ…。こうやって、叩き割れない内に──…!』

『やめ…ッ!』

 

 目を刺すような冷気の中で氷越しに人影が動いた。クザンさんが殴りかかったのだと思う。

 

──バリンッ!

 

 私を覆っていた氷は、大きな音を立ててボロボロと割れた。

 

 

「リーッ!」

「───話はよぉ〜〜く分かりますた…」

 

 私が居た場所のギリギリで止められた拳。

 対して私はそれよりも低い位置でクザンさんを睨みつけている。

 

「えっ、嘘でしょ、なんで動けてんの。氷は?」

「まさか堂々と()に手を出すとは思いませんですたが…」

 

 麦わらの一味には『私』は『ONLY ALIVE』という認識。ただクザンさんに対して『私』は『同僚』だ。私を氷漬けにした張本人は混乱が抜けきらずに目を白黒させている。

 このチャンス逃してたまるか!

 

「(仕事に)殺すされる覚悟はお済みで?」

 

 咄嗟に取り出した海楼石の付属品付きの箒はクザンさんの死角…こちらを向いている頭の後頭部辺りで取り出した。そしてそのまま私の手元に戻ってくるように操作する。

 

「無いですッ!」

「………………チッ」

 

 完璧不意を付けたはずなのに避けられた。思わず出た舌打ち。

 氷結人間のクセにクザンさんは青い顔で恐る恐るこちらを見ていた。

 

「やはり噂はまことですたか。昔から私を狙うしていた人の内の1人は大将だったのですね」

「ま、まて、誤解、誤解だから」

「確実に殺そうとすてましたよね?」

ONLY(オンリー) ALIVE(アライブ)は流石に無理だって、今回は割るつもり無かったしギリギリで止め──」

「──今回()?では前回は?」

 

 焦れば焦るだけ私が突ける隙が出来る。言葉というジャンルでは負ける気がしないんだよ、クザンさんは意外と脳筋だから。

 物理的にも殺してやろうか、私のバックに憑いてる人達を使って。

 

「お、お前…なんで生きてんだ!?」

 

 ペン回しの様にただひたすら箒をグルグル手の上で回して脅していると、ウソップさんが物凄く誤解されそうな叫びを発する。警戒してますよアピールでクザンさんの方を見ながらその疑問に分かりやすく答えた。

 

「氷の能力者と理解すた故に簡単ぞです。まず体の周りに空気の層を作るし、その上から目視不可レベルの水を薄くはるのみです」

「のみじゃねぇよのみじゃ。お前のそれはのみってレベルじゃ無いからな」

 

 よく見たら凹凸がハッキリ出てないからバレると思ったんだが嬉しい誤算。案外バレなかった。全員があんぐりと口を開けているのが良い証拠だ。

 イメージが難しいと思うがシャボンディ諸島で船のコーティングを見た事あるのなら結構簡単にイメージ出来る。

 

 嘘だろ、マジかよ、これは反則だろ、能力ぅ、とかって小さな声でブツブツ文句を言っているクザンさん。

 

 い い か ら さ っ さ と 消 え 去 れ 。

 

「…まぁいいか。この一味を潰そうとすれば簡単に潰せる。勿論俺1人でも」

「さっきリーに負けてたじゃん」

「リィンちゃんが完全に勝ってたな」

「生け捕りのみはきちんと生け捕りで捕まえれますぅーー!さっきのは生死を分けた戦いじゃありませんーー!!」

 

 胃が痛くなるってこういう事なんだな!って叫びながら文句を続ける。

 

「大将の言うした事は事実です。先程は不意を付けたのみであり、能力を使わずとも私達のような超新星(ルーキー)程度。悲しきことに簡単に潰れるします」

 

 仕方ないからクザンさんのフォローを入れる。

 麦わらの一味に顔は見られてないから怪しい所はつつかれない筈だ。

 

 『大将青雉に一歩リードした私』が言ったからだろう、私の背後でゴクリと息を飲み込んだ音がした。効果てきめんのようでなにより。自分の力を過信して負けるなんて愚の骨頂、そんな事は出来るだけ避けたい。

 

「一つだけいい事を教えてやろう」

 

 クザンさんがニヤリと笑う。

 

「アンタら麦わらの一味の担当は──女狐だ」

 

 ッてちょっとォ!?これは本格的に『私=女狐』ってバレたらややこしいどころの話じゃなくなるパターンですよね!?

 私の心の叫びなんて気にせず続けるこの男が心底憎い。

 

「正確に言うとアンタらの同期もそうだが、覚えとけ。女狐は俺みたいに優しくはねェぞ?」

 

 うん!!優しくは無いね!!優しかったら脱走見逃しているかな!!だからちょっと黙ってようか!!

 

「うそ…なんで女狐が…」

「で、でもよ!俺たち1度会ったけど殺されなかったぜ!?」

 

 ビビ様が尻込みして、ウソップさんは悲痛な声で訴える。

 

「そりゃ動く価値無しとでも思ったんじゃねェの…? ま、女狐の深層心理なんて誰も読めねェよ、読めたらびっくりだ」

 

 前半の言葉に三強が殺気を高めた。

 

 やめて、やめて。クザンさんお願いだからちょっとだけでいいから黙って。

 私の泣きそうな顔見てるのキミしか居ないんだよ、確実に見えてるでしょ、やめろ。

 

 女狐()をこれ以上噂話に便利な存在にしないで。

 

「せいぜい気をつけるこったな」

 

 元々そういう存在にする予定だったの!?私が大将就任したてからそういう事計画してたの!?違うって言って!?

 

「ふーん…そっかぁ...」

 

 ルフィが怖い。

 ビビ様は「ルフィさんが超攻めで嬉しい!」とか叫ばない。知識が少ないから語彙力無くて腐知識がある私的に有難いけど、いやがらせでドフ鰐合作作るのに参考資料買うとか言ってたからもう何が言いたいかと言うと胃が痛くなる。

 

「ありがとな、青雉。気をつける」

「……嫌味が通じ無いのかよこの血筋」

 

 あ、通じません。

 

 死んだ目でじっと見てるとさり気なく目を逸らされた。

 

「あー…まあ…あれだ…そのなんだ…ガチでなんだっけ」

「知るかよ」

「正直お前らを捕縛するとかしないとか『だらけきった正義』を掲げる俺として結構どーでもいいわけよ」

「『ツッコミしまくる正義』とかじゃないんだな」

「そこの長っ鼻君実は意外と度胸あるな」

「ハッ…!ツッコミしまくる正義が移った…って何言わせてくれとんじゃ!ごめんなさい」

「彼は私の心の中でMr.ツッコミ魂として根深く生きるしております」

「やかましい」

 

 律儀にツッコミを入れるウソップさんはネガティブだけど度胸はある。それに対しては同意。大将相手にノリツッコミとか、私だったらその立場だと絶対出来ない。

 

「じゃあ、うん、俺、もう帰る……」

「さようなれ!!!」

「……見た目だけはなぁ。写真でいいよな、うん。むしろ写真が良い。現実に夢は見ない」

 

 ボソボソと文句を言うクザンさんの向こう脛を蹴る。ガスッという痛そうな音と小さな悲鳴を確認すると胸ぐらを掴んで長身の身体を近付けた。

 相手にしか聞こえないような小さな声で呟く。

 

「………………正直、自信は無い」

「………………この一味だとね、俺もちょっと危なかった」

 

 分かってくれるか、と少し安心する。

 恨み言を呟いているように、心から殺す気で雰囲気だけでもダメ押しで、そう、この私を差し置いてサボる放浪海兵を……あっ本気で殺したくなってきたから大丈夫。

 

「…殺気凄い」

「……私は、敵になりたくなき」

 

 警告に()()を出すとクザンさんはフッと笑う。

 私の体をトンと突き…と言うか結構思いっきり突き、思わず尻もちを付く。

 

「その口がきけるんなら上等でしょ」

 

 そしてそのままの流れで自転車に乗って海へ消えていった。

 

 

 

 

 

「見聞色の範囲内から出た」

 

 ゾロさんの言葉に張り詰めていた空気が四散する。

 サンジ様が手を差し伸べてくれるがそれを断って自身を抱きかかえた。

 

 

 

 私が凍る前、白く氷結した手が伸びて微かに聞こえた。凍てつく様な視線と低い声。

 

『絆されるなよ、女狐…』

 

 これも、優しい警告。

 ……今更になってガタガタと震えが来る。

 

 私が海賊に肩入れしているとバレた、私に迷いがある事がバレた。中途半端な立場を保っているから隠しきれなかった。私の嘘は、残る3人の大将の中ではクザンさんが一番見抜けるというのに。

 絆されてない自信なんて少しも無いのに。

 

「リー!?大丈夫か!?」

 

『……海賊王になるにはソイツら全員倒せるくらい強くならなきゃなんねぇ。リー、俺を助けろ』

 

 この島に着く前、ルフィに少しだけ迷いを打ち明けた。

 

 海賊と海軍。

 選ばなくちゃならない時はくる。

 

 そう考えていた。

 

「………へへ〜…頭使いすぎで頭痛いのみです。糖分ください」

 

 想像以上にタイムリミットは無かった。

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

 

 散歩がてらと嘘をついて島を訪れた。

 アラバスタに現れていたニコ・ロビンの行方が気になったから、ってのもある。

 

 一番の理由は本当の意味で海賊の恐ろしさを知らない同僚の様子を見に。

 

 何に好かれているのか知らないが、『腕ならし』の潜入をしている彼女はここ最近頭角を現し始めた超新星(ルーキー)の古参だ。挙句、七武海の1角を潰してしまうおかしな海賊。

 

 

 いくつかの島を巡ってようやく会えた時には本部で大人しく居場所を聞いてから動くもんだったなと後悔していた。

 そして同時に驚いた。

 

 彼女は潜入前に見た時よりも力が付いている。

 

 名ばかりの大将で、お飾りの大将。噂でコーティングして周囲を脅すハッタリの大将。海軍にとって都合の良い人形だった。……まぁ結構最初から人形にはなってくれなかったけど。

 そんな彼女は戦略でドーピングしたら大将とサシで殺り合える、と判断させてくる。厄介な炎が降り注ぐ時、いい加減鬱陶しくて足払いをかけた。

 

「フッ!」

 

 あの子は避けた。攻撃の手を緩めないで小さな攻撃を無意識下で受け流す。避け方に既視感があったが成長しているのは確かだ。

 

 その後鍔迫り合いも起こった。本部の少佐よりも軽い体を持っているくせに、力の入りにくい体勢を狙って体重を掛けてくるから中将の攻撃よりも重いと錯覚する。

 

 だから、状況を打破する為に再び強めの足払いをかけた。

 

「へあ!?」

 

 いつもより強い足払い。しかし驚く事にあの子は避けただけで無く反撃まで加えようとしていた。

 

 がめつい勝利への欲望などまさに海賊で、飛び上がった右膝が的確に首を狙う。

 最近まで子供だと思っていたお飾りちゃんが、最高戦力をビビらせる。

 

 油断もあったが、殺られると思ってしまった。

 咄嗟に身体を捻り蹴り飛ばす。偶然船長がクッションになった様だが軽く飛んでいった体にゾッとした。

 

 

 ──まさか俺…かなり本気出してなかった…?

 

 

 一瞬の出来事とはいえど海軍本部大将(じぶん)が慌てて本気を出さないといけない状況に追い込まれた。

 

 

 

「若さって怖いな…」

 

 チリンチリンと自転車の音を鳴らしながら、海の上で運転する。

 ぐんぐん成長する若い子供達。そしてよく知っているのに知らない女狐という存在に恐怖を感じ、心臓を氷漬けにされたようだった。




ロッロリコダイル〜〜〜誕生日オメデト〜〜〜〜おめでたいけどお前はまだ死ぬぞ〜〜〜!
そして一年前から見てる人知ってるかも知れませんが作者もこの日誕生日です。
物騒な話が誕生日!結構無茶苦茶な文な気がする…。最後の『絆され…──』は最初の氷漬け(物理)の時に言われて、それに対しての回答が「自信ない」「センゴ…─」ってわけです。分かったら読解力が高杉さん。

ウォーターセブン編はしばらく時間開けてからの投稿です。
そう言えば、一つだけ、リィンさんこの章で疑問を解説してないね。攻略法。


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グラン・テゾーロ編
第156話 寄り道は必要事項


沢山のおめでとうございます。
ロリコダイルさんがついでなのは笑った。


 いつもの髪型に、いつもの傷隠しに、いつもの酔い止め。

 金色の髪をリボンでほどけない様に結んだら毛先を更にクシでとかす。

 肌が見えるところに出来た傷はなるべくパウダーなどで隠す。

 瓶から少なくなった強力な酔い止めを取り出して水と共に胃に流す。

 

 よし、大丈夫。

 今日も完璧だ。

 

「おはようございまーす」

 

 部屋から出るとすぐに向かう場所は調理場。

 海軍の雑用だった私は朝が早い。身嗜みを整える事含めて活動開始時間は5時半だ。でもここには私より早い人がいる。

 

「おはようリィンちゃん」

 

 サンジ様に挨拶をして下準備のお手伝い。食器洗いは私の仕事なのでスポンジに泡を立てて昨晩呑んだであろうコップなどを洗う。美味しそうなスープの香りがお腹を刺激する。隣に立つ人物がどこ出身か考えなければ1番幸せで平和な時間だ。

 

 お手伝いの特権で味見をさせてもらい、完璧を求めるサンジ様に少しのアドバイス。

 

「個人的にですが、今日の気候は恐らく春ですからもう少し塩味を…──」

 

 そうしていると30分後ニコ・ロビンの起床時間がやって来る。朝食代わりの紅茶を飲みながら彼女も雑談に加わった。

 

 2人が話し始めるタイミングで見張り台に行くとニュースクーが新聞を持ってやって来る。そしてそれと同時に現在私の手足となってくれているアンラッキーズの2匹が書類を携えて。

 

 新聞の気になる事件をメモし、記憶し、新しい手配書のチェック。気になった手配書があれば履歴を海軍本部の情報部で調べてもらう為に手配番号を書いてアンラッキーズに渡す。こうすると心友ベンサムが調べて送ってくれる事になる。

 アンラッキーズの持ってきた書類は情報屋青い鳥(ブルーバード)の選出した情報。毎日情報は入れ替わる。その中でもピックアップしてくれたものを目に通し、私も手に入れた情報を夜の内にまとめてまたアンラッキーズに渡す。

 

「これは…ちょっと多きですね…」

 

 最近黒ひげの行動も気になる。今奴がどこで何をしているのか、あの後ジャヤで潰しておくんだったと後悔した。一度青い鳥(ブルーバード)の仮本拠地に行くべきかもしれない。

 

 書類や手紙をアンラッキーズに指示すると次に取り出したのは電伝虫。

 

 細かく決めてはいないが最低週に一度はセンゴクさんへ定期連絡。

 今日はクザンさんの件があるので連絡を入れる。

 

「もしもしポリスメン?」

『………………おかき』

「あられ、私です」

『元帥の個人用電伝虫に対してそんな事が言うのがお前以外居てたまるか』

「はーい、ごめんぞー。……では他のメンバーが起きるのが7時です故それまでに報告するです」

『あぁ』

「放浪海兵と出会いますて」

『……………胃が、死ぬ』

 

 手早く報告を済ませ、何食わぬ顔してマントなどの修繕をする。

 そうしていると現れたのはウソップさんだ。

 

「朝飯」

「ん」

 

 時刻は8時。少ない言葉で意思疎通をするとキッチンへと共に向かった。寝起きのウソップさんは微妙に頭が働いていない。

 キッチンの扉を開けると美味しそうなスープと色鮮やかなサンドイッチが沢山並べてある。

 

「いただきます」

 

 全員口をつけるわけでは無いが全員顔を揃えて朝食の時間。一味全員が顔を合わせる時間があるのが有難い。

 

 そこで私は一つの提案をした。

 

 

「カジノに、行きませぬか?」

「カジノですって?」

 

 分かっていたが最初に反応したのはナミさん。

 私はつい先ほど手に入れた情報を伝える。

 

「ある伝からの情報入手です。世界政府も認めるした移動型の独立国、それがこの近くにあるというらしいのです。前半の海に居る可能性はとても低い故に行って損は無いかと」

「それってまさか…グラン・テゾーロ!?」

 

 ガタン、と音を立ててナミさんが立ち上がる。まさか知っているとは思わなかったがそのまま話を続けた。

 

「正直金は現在腐るほど…とまでは行かずとも黄金含めて恐らく10億の総資産額を持つしています。海賊にしては多いです、とても」

「確かに…下手な国家予算レベルね」

「えぇ。ですが、皆さんに考えるしていただきたいのは食欲!」

「「「「ああ…」」」」

 

 ゲンナリとした表情で見つめる先にはサンドイッチを頬張る船長の姿。

 

「更に欲しい物はたくさんあるのです。大型の鍵付き冷蔵庫や真水の貯蔵、冷凍庫も新鮮な野菜などの為に必要ですし、医療品も足りません」

「真水はリィンちゃんが持てるんじゃ無いの?」

「私が居ない場合どうするですか?空島の様に私が拒否するやもしれませぬ。それにもしも私が死んだなれば取り出すは不可能で……何故泣くぞ」

「だって…!リィンちゃんが死んじゃうかもって…!」

「あくまでも過程の話です。大体私達より強い海賊や海兵は沢山居るですし、大将の一件で命の危機を記憶しますた」

「あぁ、女狐」

「女狐か…」

「女狐なら…」

「個人的に青雉なのですけど」

 

 一味の中で大将の認識が違う。

 体が頭痛を訴えてくるがそれを無視して机を叩く。

 

「何より、装備強化もしたいのです」

「装備強化?」

 

 ひとまず古参から順番に言っていく。

 

「ルフィは体を膨らます事で服にダメージがいくしてます。上もそうですが問題は下、ズボンの縫い目がピンチです。全体的に」

「ゾロさんは刀。私のあげるした支給品の方がボロボロですよね。配布物で安物ですので仕方ないですが剣士としてもう少しいい業物に手を出すしてもいいかと」

「ナミさんは武器の強化。確か雨雲などを作る際時間がかかると申してますたよね。多少高くつこうとも何とか材料を探して強化を」

「ウソップさんは多種多様の玉を。鉛や火薬の消費スピードが早いですが気にはしません。削減するより増加せよ、新たに作成するのも有りかと」

「サンジさんは靴!バレぬとお思いですたのか分かりませぬが靴底が擦れて減少傾向です。何やら摩擦熱で攻撃威力を上げるしているとか。武装色身につけるしていないので当たり前ですが新調」

「チョッパー君は特にありませんがランブルボールという物の材料は大丈夫でしょうか。そちらも考えるしておいてください」

「ロビンさんは関節技ですので武器はありません。ですが、関節技が効かぬ程強靭な肉体と遭遇した場合の攻撃手段が無いですので、作るのが良いかと」

「カルーは速さがウリです故に活かす可能の武器を探すしましょう」

「ビビ様の武器は威力もそれなりにありますし使い方も上手いです。ですが相手が手を犠牲にすると封じられる恐れがあるので攻撃手段増やすしましょう。主に中距離で」

 

 だからお金が必要なのだ、と言うと全員ポカンとした表情に変わっていた。

 あれ?私おかしい事言ったっけ?でしゃばりすぎた?

 

「あー、よく見てるな、と驚いてただけだよ」

「それとよく考えているわね、って」

 

 サンジ様とニコ・ロビンが代表して言う。

 

「そりゃ、大事な仲間の事ですし…」

 

 不備があって戦えないとか困るし何より武器点検などは雑用のお仕事だったから最早癖で。

 他人が生きようが死のうがどうでもいいが、少なくとも仲間内なのだから自分の身は守ってもらいたい。その最低限の手伝いくらいはする。一味の攻撃力防護力のアップは巡り巡って私や王族の盾となり矛となる。

 足手まといは要らない。

 

 と言うか、足手まといは作らない。

 

「でもカジノって当たるか外れるかの大博打よ…? 勝てる見込みが…──あったわね。ごめんなさい気にしないで」

 

 ニコ・ロビンの視線がどこか遠い所へ向かった。

 恐らくデービーバックファイトを思い出したのだろう。

 

「犯罪はバレるから犯罪。バレねばセーフ」

「お前なんで海軍入った!?」

 

 ウソップさん渾身のツッコミはガン無視した。

 誘拐まがいだったけど一応本人の立候補で入隊した未来ある海兵なのですけど。まぁ、辞めるか辞めないかの瀬戸際に立たされている様な気がしなくもないような。

 

「リィン、お前は何か欲しいのがあるのか?金が必要な何か」

「ありますよ〜?植物増産させるしたいのでプランター欲しいですし、化粧品も少ないですし」

 

 ゾロさんの質問に少し考えて答える。するとビビ様が驚いて声を大にした。

 

「ウッソ!?リィンちゃん化粧してたの!?」

「しーてーまーすー! 最低限の身嗜みは整えるしてますよ。水に強いタイプですので高い高い」

 

 正確に言うと傷を隠すだけだから醜い傷跡見せないようにする為の化粧だ。背中は流石に無理だけど。少なくともビビ様とナミさんはアラバスタの大浴場で細々とした傷跡は見ているはず。日頃見せるわけないじゃん、どこの虐待児だよ。

 本当に、見える範囲に縫い傷が無くて良かった。これアラバスタでも考えてたな。

 

 するとナミさんが真剣な表情で口に出す。

 

「行くのは賛成。だけどちょっと航海士として問題があるの」

「はい?」

「私もグラン・テゾーロの事は知っているけど、あそこは移動型の独立国よ?」

「なんの問題があるんだ?」

 

 ルフィが首を傾げるとナミさんは深くため息を吐く。

 

「指針が無いのよ」

「あー、そっか、島じゃねェって事だもんな」

 

 ウソップさんの納得した声をBGMにゴソゴソとポケットを漁るフリしてアイテムボックスを開く。慣れた空気の壁に手を突っ込んで一つの紙を取り出した。

 

「ん、これで解決」

「………なに、この、動く紙」

「ビブルカード。これの元となる紙の方角を示す物です。持ち主の生命線確認にも使うされます。まぁ目的にへの方角のみですが、優秀な航海士が居るので大丈夫でしょう」

 

 ですよね?とナミさんに笑いかけると自信満々元気いっぱいの返事が返ってきた。ので、スルーをしてルフィに視線を移す。

 

「堕天使ちゃんのスルースキルに磨きがかかっているわね」

 

 そこ、しみじみと呟かない。

 

「ルフィ」

「おう、そうだな!野郎共!目的地はグラン・テゾーロ!全速前進だ!」

「「「「「おー!」」」」」

「取り舵よッ!」

 

 メリー号は表立った大きな傷も無いし、早く船大工を探さなくても大丈夫だろう。ちょっとした寄り道の時間はある。

 恐らく半日もかからない。ゆっくりと進みながら装備強化の相談に乗りますか。

 

 

 

 

 

「ナミさんの装備強化必要無し?」

「おう。俺が(ダイアル)でやっとくから大丈夫だ」

「………貴殿らが持ち帰った(ダイアル)の中で攻撃として使用可能な種類は衝撃(インパクト)程度だった筈ですが。どういう事でしょうか詳しくご説明願えますか?」

「………………ヤベェこれ内緒だった」

「ウソップさーーーん!?」




ウォーターセブン編だと思いました?残念!グラン・テゾーロ編でした!お先にゴールド失礼します!
実は原作で『ルフィとロビンの体の安静の為4日停泊』とあるんです。ですがこの作品では4日停泊する必要も無いので空いた時間にギャンブルです。
あと登場人物と視点が多くなるのでテゾーロ編はほぼ全て三人称視点でいきます。逝きます…。

主人公はとーっても仲間思い!(強調)

傷跡はアラバスタのお風呂の一件
持ち帰った貝の認識はロング…編の第149話信じる心はフライアウェイに出てきました。
リィンの認識
・衝撃
・風
(下は所持)(別名お土産)
・映像二種類
・音
・灯

実際
攻撃系に使える奴も一般的に使える奴も持てるだけ持ってるに決まっているだろう原作の如く。


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第157話 全ては黄金に支配される

 

 前半の海を緩やかに進むゴーイングメリー号。

 一行は穏やかな面持ちで風を浴びながら雑談をしていた。

 

「やはり接近戦になると不利ね」

「あの3人以外は基本そうですよ。それでですね、やはりここは毒針かナイフでは無いかと」

「成程、ボスみたいに隠しておけばいいのね」

「えぇ。女性ならでは、太ももや胸の谷間…チッ…などにも隠す可能ですし、コートなど着用するなればいつでも取り出す可能です。まぁバレぬようにするには技術が必要ですが」

「…もしかして堕天使ちゃんのマントの中って」

「暗器沢山ですね!」

 

 話す内容は少々どころかかなり物騒だが。

 

「ひとまずオーソドックスなナイフを貸すしておきますよ。ロビンさん器用です故に使いこなせると思うです」

「使い方、教えてくれる?昔から関節技ばっかりだから武器という武器を使った事無いの」

「もちろん。関節技の知識あるならより一層威力倍増です。血管の位置など覚えるしてますよね」

「当然ね、オトすには血管をこう、キュッとするもの」

「ですよねー!」

 

 キュート系とセクシー系の代表が顔を見合わせて笑う。それはもう朝露の中で浴びる太陽の光のように爽やかな笑顔で。内容は効率的な制圧方法だが。その様子をウソップが瀕死状態の目で眺めて呟いた。

 

「なーゾロ君。アレって、仲悪かった、よな?」

「あぁ、今でも悪いな」

「なんだかこう…──生き生きしてるよな?」

「あぁ、似たもの同士だからだろうな…」

「結託するとヤベェって事か…」

「あぁ、ヤベェな」

 

 ゾロが筋トレしながら話に付き合う。

 元々死にかけていたウソップの目が会話をする毎に死んでいく。

 

 おかしい。一番海賊らしい思考回路を持つ人間が元海軍勤務者な辺り特におかしい。

 

「あいつらは少なくとも1日に1回は毒舌戦を繰り広げてるな」

「そんな頻繁に戦いが起こってんのか……」

「内容は粒あんやこしあん戦争」

「あれれー…? 仲悪いってなんだっけ…?」

 

 仮にも海兵ならもう少し遠慮してもらいたい。

 人を痛めつける話題は心の平穏的に避けてもらいたい。

 

 ウソップは深く、それはもう魚人島よりも深くため息を吐いた。

 

「ねェリィンちゃん…私の武器なんだけど」

「ビビ様は…そうですね。こちらどうですか?」

 

 リィンが取り出したのは鞭。

 

「……鞭?」

「面白い武器を持つしてないので残念ですが、ビビ様所持の武器に似るですから使いこなせやすいかと。あと個人的に使いこなして欲しいです」

「まぁ、やってみるわ」

 

 使ったことの無い武器に困惑しているとリィンはビビの肩に手を置いて真剣な表情をする。それに釣られてビビもゴクリと息を呑む。

 

「私はビビ様に戦いの前線に立つして欲しくありません」

「ど、どうして…!?」

 

 唐突な戦力外通告。彼女がなまじ一味の方向性や仕組みを手にしている以上、ビビにとって幼馴染みである以上、あまりにも(こく)な言葉だった。

 

「私が貴女の力を信じるしているからです」

 

 外道はどこに出しても恥ずかしい外道である。

 怪我だけでもかなりの責任問題だからその危険を回避したい。て言うか付いて来て欲しく無かった…などと仲間にあるまじき事を愚痴っている。そんなリィンの内心や落として上げるという方策に気付かない純粋な天然産ビビは信じるという言葉に瞳を輝かせた。

 

「軍ではなくここは海賊船。言わば一つの国家です。国家には様々な分野に分かれるした仕事が多数あります」

「う、うん。イガラムもチャカもペルもパパも、全員仕事は違うわ」

「海賊船も同じです。打撃のルフィ、斬撃のゾロさん、狙撃のウソップさん、これらがいい例でしょう。こちらは戦い面に関連すて。しかしながら料理は作れませぬし傷も治せませぬ」

 

 敏い王女はその説明で10を知る。

 

「役割分担って事ね…」

「(そうそう、だから戦いは控えようね〜)」

 

 実際は9程度だが。

 

「でも、それなら私は一体何かしら…。政治に疎いし、腹の探り合いも出来ない、基礎的な勉学は出来るけれど海賊としてそれが活かせると思えない。医学や栄養学は多少齧っているけど仲間には敵わないわ」

 

 客観的に自分を判断していくビビ。

 そのビビに悪魔は囁いた。

 

「ある国にはペンは剣よりも強し、という言葉が存在します」

「ペンが…?」

 

 なんだと、と剣士のゾロが腰を浮かせたのを見てウソップが慌てて止める。ステイそこの剣士。

 その扱いに不服そうにしながらもゾロは胡座をかいた。

 

「ビビ様。言葉や文字は時に精神ダメージとして有効な攻撃手段となります」

「ストップ!ストップ!!!」

 

 これ以上喋らせたらダメなやつだ。

 瞬時に察知したウソップは止めに入るがリィンとビビの世界は変わらず動いている。

 

「いくら刀が通らずとも攻撃にはなる。大体の野郎は腐耐性が無いです故…苦肉の策ですが…!」

「お前なんでそんな最終手段を使うみたいな台詞と顔をして平然と初手に使ってくるんだ?それ物凄くタチ悪いからな?もしもし聞こえてる?」

 

 リィンの側で「ペンって強いのかー」という人間歴の浅い声が聞こえたが今はそれどころじゃないので無視した。

 

「精神、攻撃。分かったわ、私、作家雨のBL担当として力をつけてその場で妄想を口に出せれるくらいの知識を身につけてみせる!」

「あ、そこまでは要りません」

 

 キラキラ瞳を輝かせるビビの肩を揺さぶるウソップ。一瞬で真顔に変わったリィン。全く気にしないでナイフを振り回すロビンと巻き込まれることを恐れゾッと顔を青くするゾロ。そんなカオスな場所を草履を穿いた足が空気など読まずに元気に通り過ぎて行った。

 

「野郎共!島じゃなくて船が見えたぞーーッ!」

 

 麦わら帽子のその先に、一つの建造物が見えた。

 真上に登った太陽の光に照らされて、黄金の塊が光を放っている。

 

 グラン・テゾーロ。

 島と言っても差し支え無い程の大きさの船。一攫千金が狙える、誰もが夢見る世界最大のエンターテインメントシティ。

 

 その圧倒的な存在に、一味は冒険前の高揚感を味わった。

 

 

 

 ==========

 

 

 

「うっほーー!すげぇーー!」

 

 一味の船長、ルフィの歓喜の声で周囲も顔を輝かせる。

 

 見渡す限り黄金。

 金粉の雨が降り注ぐ通路。

 

「凄い…これ、本物よ!」

 

 最も目利きが出来るナミがこの歓迎の仕方に感嘆の息を漏らした。

 なんとも派手、なんとも大胆。

 

 金粉とは言えど本物の黄金。際限なく降り注ぐ数多の光がいくらかかっているかなど、考えない方が幸せだろう。あわよくば手に入らないだろうかと泥棒の血が騒ぐ。

 

 どうやら船の進む水はいつの間にか海水では無くなっている。底が見えず生き物は住めない、現実と離れた作り物の世界。この世の欲望を全て溶かした様なあまりにも美しい残酷な金の水。

 

「クエ…」

 

 人には分からぬ言葉でカルーが呟く。まるで夢物語に出てくる三途の川の様だと。

 その運河は浮世へ向かうのか、それとも黄泉の国か。

 

 行く先が輝かしい未来ばかりとは限らない。この一味には災厄に好かれまくった奴がいるので断定など出来ない。むしろ輝かしい未来の方が珍しい。一味の経験則である。

 

 少しの恐れと、大きな冒険心。

 じわじわと近付く光源に彼らの心臓がバタバタと暴れた。

 

「ッ!?」

 

 トンネルを抜けた途端、目が眩むほどの光と甲高い金管楽器の音が客の耳を突き抜けて走る。

 楽器の踊るような演奏と共に心臓を掴むような低い歌声が空間を魅了した。

 

 その音に圧倒された麦わらの一味だったが、数秒後には周囲の景色に目を奪われていた。

 船の下にて輝きを放つ金の水が生き物の様に動き出すと視線はすべて黄金に支配された。

 

「綺麗…」

 

 誰の言葉か分からないが自然と口から零れ出す。

 

 歌と音楽と踊り。それらで客の視線を集める。

 その視線の先の、星型に展開した中央のステージで一人の男が歌っていた。

 

 白色と黄色で星モチーフのステージ衣装に身を包み、紫色の派手なサングラスをかけている。深い緑の髪が汗と共に舞う。

 その男は新たに登場した海賊船を一瞥すると、スタンドマイクの(かたわ)らでポーズを決めた。その途端サラサラとした金の水が水中花火の様に派手に弾ける。

 

「今、目が合わなかった?」

 

 男の名はギルド・テゾーロ。

 ここ、グラン・テゾーロの支配人であり。

 

「It's Show Time!」

 

 ──さぁ、ショーの始まりだ。

 

 カジノ王である。

 

 

 カッ、とライトが激しく光始める。

 赤や青や紫と色とりどりの光が注目するのは麦わらの一味の船。そこにはカジノという場に不釣り合いなゴーイングメリー号が居た。

 壊れそうな程ボロボロという訳では無い。帆も、船主も、甲板も、傷んでいる訳では無い。しかしどこか田舎臭さ…と言うより平和ボケを感じさせるデザインと船底を守るツギハギの鉄板。

 

 しかも総合賞金額(トータルパウンティ)はたかが3億3200万ベリー。新世界にはこれよりも高い数字の海賊はゴロゴロと居る。服装もどこか田舎臭い。

 

 客達はそれでも騒いだ。

 

 今日のショーの生贄は彼らだと。

 

「なにっ、なになに」

「どうやら…馬鹿にされているみたいね」

「はー…。田舎から来たお上りさんだと思われてるわけか。ま、事実だけどな」

「お、俺達来て早々狙われてんのか!?」

 

 どうして普通に過ごせないんだ災厄よ、と居もしない存在に向けてリィンが語りかける。もはや自暴自棄だ。チョッパーでもクロッカスでも、例え彼ら以上の医学知識を持っていても永遠とつきまとってくる胃痛にはお手上げだろう。

 

「お、おいあれ見ろ!」

 

 ウソップの慌てる声。彼はなんとも情けない事に足が震え立っていられない状態の様だ。……しかしそれも仕方ないことだろう。リズムと共に水中から現れたの黄金の竜だった。

 いくら生き物じゃないと言えど、それを認識してしまい腹の底からギャー!という雄叫びが重なる。偽物の化け物に攻撃しようとしたルフィ、ゾロ、サンジの3名を1人の少女が制して言った。

 

「……主戦力が出るまでもありませぬぞ」

 

 一味の認識的に古参という事もありリィンもギリギリ主戦力なのだが、物理で言えば外れるだろう。リィンはサラサラと垂れた前髪の隙間から竜を睨みつける。

 

「私はですねェ…他人に言いように使うされるのが…大っ嫌いなんですよ」

 

 彼女の地雷はそのレベルがあれど大体3つ。

 一つ、兄に対して肉体的にも名誉的にも危害を加えられる事。

 二つ、自分のモノを使われる事。

 三つ、自分が()()に利用される事。

 

「お前…実は短気だし、プライドは赤い土の大陸(レッドライン)級だよな」

「覚悟を決めるして利用されるのならば良いのです。結果の先に自分の利益がありますので」

「笑うな、怖い」

 

 リィンがニッコリと笑い箒を取り出すとウソップが戦慄した。

 

 ……メンタルケア大事かもしれないな。頼りすぎ良くない。もう少し優しくしてやろう、自分に被害が来ない為にも。

 

 そう考えて口を開こうとしたらゾゾっと寒気が走る。

 

「フッフッフッ…。アレ、悪魔の実ですたよね」

 

 どうしよう、リィンが壊れた。

 気配から真っ黒な何かを背負っている仲間を一味は黙って傍観する事にした。触らぬ神に祟りなし。アレはただの邪神だ。

 

「造形物を作成は、私も得意ですてね」

 

 リィンが作り出したのは自称アイテムボックスに入れてある海水で作った大きなドラゴンだ。絵本などにあるような見事なドラゴン。しかもここぞとばかりに海水のストック全てを使って大きなドラゴンを作っている。無駄な多才さと労力だ。

 リィンは心の中で「ここはファンタジー世界!異世界万歳!居て欲しくないけどこんなの居そう!」などと無理矢理思い込みをしていた。

 

 蛇の様な竜と翼の生えたドラゴン。どちらも空想上の生き物で雌雄を決する事が無い。

 しかし金の水の竜と海の水のドラゴンでは性能に違いが出る。

 

 牙と鍵爪がぶつかりあったその時、能力で作られた竜はそのまま派手に消滅していった。弾けた金の水は船にも降り注ぎ、体にぶつかり、しかしベタベタと付くことも無くサラサラと消えていった。

 

 一際大きい歓声が鳴り響く。予想外の結果。竜に飲まれる弱者では無く、竜を倒した強者だ…!興奮を抑えきれない様子で叫ぶ、叫ぶ。

 観客にとって生贄が誰であろうが負けようが勝とうが盛り上がればなんでもいいのだ。

 

 そうするとスピーカーから声が聞こえた。

 

『グラン・テゾォォオロへ…───ようこそ』

 

 サングラスに隠れた視線と、金髪に阻まれた視線が交わった気がした。

 




無駄に労力を注ぎ込んだ三人称視点。ストーリー作り終わったので誤字修正しながら投稿していきますよっと。
ところでこちらの麦わらの一味は()()()3億です。あーゆーおーけー?
VIP扱いなんて、無いですよねぇーー!!実力差、ありまくりですよねー!!
今後を考えると感想欄での反応が楽しみすぎてワクテカが止まらないッ!ちらっと教えておくと予想外の人物が登場します。絶対に、誰1人として予想出来ない。(って書いたら煽られた読者様が予想するんだろうなぁ…)

どうも、皆様の期待の斜め上を行く系作者です。


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第158話 神は堕天使を見捨てた

 

 金色の水の上を案内板(あんないばん)に沿って進んだ麦わらの一味は暫くすると大きく開けた空間に出た。

 

 そこは赤と金を基調とした豪華な外観となっており、メリー号の十倍以上の高さである。均等間隔に吊り下げられてあるシャンデリアが何もかもを照らしている。

 

 眩しい、物凄く。

 

 壁や天井、水にも反射されて物凄く眩しい。

 

「ここは港ですね」

 

 リィンが周囲を見回した後、光を遮る為にキャスケットを深く被る。でっけー!と叫ぶ声が聞こえたが正直他人のフリをしたかったので無視をした。彼女はどうやら顔つきの賞金首になった自覚が少ない様だ。無駄である。

 

 港だけでも分かる金の使い方、ギルド・テゾーロが黄金帝と称される理由がとても納得出来る雰囲気だ。自分達がネタとして使われた事で下がっていたテンションも現実離れした風景のお陰でいつの間にか上がっているもの。なんと言っても彼らは海賊、黄金に目がない。

 

「私、VIP専用コンシェルジュのバカラと申します…よろしくお願いしますわ」

 

 鮮やかなピンクに近い赤髪に褐色肌。耳元には大きなピアスが刺さっている。背中は大胆に空いており、背は一味の誰よりも高い。バカラと名乗ったその女性はニッコリと笑って案内を始めた。

 …──麦わらの一味の隣のブースで。

 

「バカラちゃんに案内して欲しかった…」

「案内は欲しいなぁ〜、どこに何あるかさっぱりだもんな、俺たち!」

 

 がっくりと肩を落とし悔し涙を流しながらサンジは役人らしき男と雑談を交わすバカラを眺める。それに続いた呑気なルフィの声をスルーしながらロビンが冷静に状況を判断する。

 

「VIP専属があるって事は何らかのランクに別れてそうね」

「…ギルド・テゾーロ。あのステージにて踊るした男が『新世界の怪物』と言うされてます故に麦わらの一味はVIPでもなんでも無いでしょう」

 

 ロビンの予想に対し追加する様にリィンが口を開く。さてカジノに向かって荒稼ぎするか、と意気込んだその時、声が聞こえた。

 

「えぇ、その通りです。貴方達はVIP対象外になりまーす」

 

 その声は一味の声では無い。

 一味の視線が声の主へ向くと、そこにはピエロの面を被った大男が酒とタバコの匂いを撒き散らしながら立っていた。

 

 ……ヤベェ、変なの来た。

 

 ウソップは死んだ目になり、リィンはそっと天を仰ぐ。

 唯一楽しそうなルフィはなんでもかんでもでかいんだな、と呑気な言葉を漏らしていた。

 

 余談だがグラン・テゾーロは巨人であったり魚人であったり様々な人種が訪れる為基本巨人サイズが主だったりする。そんな事を知らないルフィ達はただその大きさに圧巻されるだけだ。

 

「申し遅れました、私は名無しのピエロ。皆からは名無しだからシーナと呼ばれています〜」

「ピエロじゃダメなのかよ」

 

 シーナと名乗ったピエロは見た目からまさにピエロであった。頭、上半身、下半身と中心線を境に赤と金の2色で交互に染色された衣服。リィンの身長の2倍─大体3m─ある図体の大きさのせいで、ファンシーと言うよりホラーテイストだが。夢に出てきそうだ、もちろん悪夢として。

 

 彼は足を動かせる度ピコピコとなる靴に気にせず陽気にターンを回って見せる。

 が、滑って転んだので何とも情けない登場になった。 

 

「なんだこの酔っ払い…」

 

 一味の酒豪、酒好き、影でそう呼ばれているゾロがボソッと呟く。

 

「タバコに酒って、なんつーか典型的なダメ親父みたいな感じの雰囲気だよな」

「やだ…加齢臭とかしそう…船医さん、彼、どんな臭いがする?」

「あんまり嗅ぎたくない…」

「……………………ウルセェ青鼻狸」

「おい、こいつ口悪いぞ」

 

 常人より動物(ゾオン)系のチョッパーは五感が優れている。それ故に聞こえた台詞に思わずチクる。このピエロ、常に笑った仮面を付けているくせに感情豊かであった。

 

「そんでよピエロ」

「シーナです」

「うん、分かった。シーナ。お前、誰だ?」

 

 今更な事をルフィが聞く。

 シーナは口に手を当ててビックリという感情を全身で表現する。視界がうるさい。

 

「あ、ミスった。所属言うの忘れてた!私、特別対応コンシェルジュのシーナです」

「…おい大丈夫かこの酔っ払い」

 

 ゾロが呆れた様に呟くと若干千鳥足のシーナは近付く。

 

「失礼ですね!こう見えても戦闘面に関してはとーっても強いんですから。お尋ね者相手に良く回されるんですよ。全く、目が回ります」

「酔っ払ってんじゃねーかよ」

 

 典型的な酔っ払いの症状だとツッコミを入れる。

 体型はガッシリしている様だが頼りになるようには見えず、大丈夫かと心配した。後このキャラが作られたものだということがよく分かる。

 

 酒の臭いが移りそうな中でリィンが口を開いた。

 

「シーナ、それでまず衣服をそれなりに揃えるしたいのですが」

「お任せ下さい!…あー…道は…右だったか、左だったか」

「……シーナ!ダウンタウンエリアのC地区よ!」

「バカラありがとう助かりました!では、麦わらの一味御一行をダウンタウンエリアのB地区にご案内しま〜す」

「「「「Cだよ!!」」」」

 

 全員が声を揃えた。異様に疲れた様子だ。

 

「あのピコピコなる靴ってよぉ…」

「きっと迷子防止でしょうね」

「つーか絶対だ絶対」

「アイツがコンシェルジュって嘘だろ?嘘だと言ってくれ、あんな奴に案内されたかねーんだが」

 

 バカラがチラチラ不安そうな顔で振り返るのが良い証拠だった、心配で堪らない。

 

「リィンが名前に敬称付けないの珍しいな」

 

 リィンはウソップの単純な疑問に笑顔を見せた。その笑顔を見てウソップの心臓が高く鳴る。

 

 ……何でこんなにドキドキするんだ?

 

 ウソップがその理由を察して顔色を変える。

 

「敬う必要、あります?」

 

 その顔色はとても青かった。

 

「……一生ウソップさんって呼んでください」

「それは、ちょっと」

「おい」

 

 困った様な表情を見せても騙されないからな、と思いながらウソップは少女を睨みつける。大人気ないとは思いながらも、止められなかった。胸の高鳴りは、ただの嫌な予感だった。

 自分を疑わずにコイツを疑え。

 

 心にそんな目標を掲げると胃が痛くなった。

 

 それでは皆さん行っきますよー!と声を上げながらシーナが歩き出した。

 

「ところで皆さんはカジノにどう言ったご要件で?」

「金稼ぎ」

「荒稼ぎ」

「わぁー!碌でもない!」

 

 聞いた割には気にしてなかったのか適当に返した。その態度に呆れながら一行は彼の後ろを歩く。港を抜けるとすぐに石で出来た道があった。

 

「綺麗な舗装ね」

「車道と歩道に別れるしていて良いですよ。あの車速い故に」

 

 一味の横を凄まじい速度で鉄の物体が通り過ぎていく。

 亀車、マッスルガメを用いた車である。

 VIP専用の乗り物である為麦わらの一味は乗れないが、特に興味も関心もないリィンが解説。するとウソップは関心を通り越して呆れた表情で言う。

 

「車道とか、歩道とか、車とか、お前なんでも知ってるよな…もうツッコミするレベルじゃ無ェ」

 

 リィンはそれに対して曖昧な笑みを返す。

 グラン・テゾーロの情報を知ってておかしく無いので誰も疑問に思わなかった。

 

「(もう、記憶が薄れているな)」

 

 彼女には前世の記憶がある。しかしそれは生きていく上で関わっていく必要最低限の物ばかりだった。自分の名前も、家族も、友人も。好きなものや嫌いなものまで分からなかった。他にも覚えていたものはあったが、今では年齢も性別も少々曖昧だ。……濃すぎるこの世界が悪い。

 

「(関わりの無い前世より、波乱万丈の今世を生き抜く事が最重要だよなぁ。言葉は使えるけど)」

 

 そんな無駄な事を考えながら表情を戻す。

 

「私は()()()ですからね」

 

 彼女は転生したこの世界の住人だった。

 

「確かにお前ってだけで大体の説明つくな」

「ゾロさんそれ褒めるすてる?」

「褒めてる褒めてる」

 

 目立ったショーの影響かは不明だが、周囲からいくつか視線を感じながら一行は進む。

 

 そうして目的地であるダウンタウンエリアのC地区に到着したのは1時間歩いた後だった。

 

「やっと着いたぁ…」

 

 目の前の神々しい輝きよりもまず休憩が欲しかった。リィン以外のメンバーが同じ心境に至っている。何故彼女だけが疲れていないかと言うと単純な話、ずっと飛んでいたからである。

 

「体力無いですねー」

「オメーがずるいだけだよ」

 

 仕方ないとばかりに肩を竦めるリィンにイラつくウソップだが、その影でナミがこっそりリィンフォルダの充実を狙って記憶力と網膜をフル稼働させている。

 彼女はどこに出しても恥ずかしい変態へと変貌しているようだ。多分手遅れだろう。

 

「リー、これから何するんだ?」

「服を、買います。カジノにあった服」

「なんでだ?」

「なめられぬようにハッタリぞ。カモと思われるされてはダメ故に」

 

 ルフィの疑問にリィンは嫌な顔せずにハッタリという必要性を必死に説いていく。塵も積もればなんとやら、これで多少はルフィが自分のハッタリに関して理解を深めてくれないかという下心ありだ。無駄だろうが。

 

「それでは男性はコチラ、女性はアチラになります」

「………の、逆の様ですね」

「ま、間違えちゃいました」

 

 テヘッと誰よりも背の高くガタイのいいピエロがファンシーな動きをする。こいつダメだな、と死んだ表情のウソップがため息を吐いた。最近自分の目が死にすぎだと思っているらしい、より一層死んだ目になってしまった。

 ため息やツッコミをし過ぎて体の中から空気が全て抜けないか本気で悩んだ程だ。そのプロさ加減は半端じゃない。

 

「じゃあまた後でね」

 

 リィンを合法的に着飾れる機会を手に入れて一味の変態ナミさんがソワソワしながらターゲットを連れて部屋に入っていくのをみた。元同僚兼現仲間のロビンとビビは互いに目を合わせる。

 

『ちょっ、ナミさん勘弁すて!』

『どうして!?これとかとても似合うわよ!?』

『流石に精神年齢的に素面で耳は無理!無理ですって!』

『じゃあこっち…』

『肉体年齢的に際どい物は着る不可能!アンバランス!』

『こうなったら最高に似合う1着を決めるわよ!』

『タイムイズマネー!!!???』

 

「(…これはダメね)後にしましょうか」

「(これは救出不可能っぽいかも…)そうね、オールサンデーに全面賛成よ」

 

 微かな優しさや同情は、巻き込まれたくないという欲求の前に消えた。誰かを犠牲にこの世は成り立っているのだ。

 

 その判断に泣くのはリィンだが、その少女こそ犠牲を生み出す確率が異様に高いので盛大なブーメランを放つ事になる。自分本位な彼女は恐らく気付かないだろう。

 

 

 

 ==========

 

 

 

「白か…」

「白ね…」

「白だな」

「白…」

「(んんん?女狐に喧嘩売ってんのかな?)」

 

 基本白の色しかなかったのでそれを渋々着た一味は他のメンバーの服装を見るなりゲンナリとした表情になった。それに引き換えリィンの心は大噴火だ。赤犬サカズキもビックリの熱気だろう。

 

 麦わらの一味は嫌な記憶がある白の衣装に相変わらず嫌な顔だ。

 

「リィンは白くても可愛いわね…今度からひとつなぎの大秘宝(ワンピース)って呼ぶわね」

「ナミさんいい加減自重記憶願い」

 

 段々ナミの扱いが雑になっていくが誰も指摘しなかった。むしろリィンにナミを押し付けた。

 小声で解せぬと呟いているナミ、こちらの方が解せぬ事だと訴えたい。訴えないが。

 

「キャラくそ濃いな…酔いそう」

「酔ってんだよ酔っ払いピエロ」

「シーナですぅ〜〜!」

 

 ボソリと呟いたシーナの言葉にお前の事だろと鋭い指摘をするゾロ。シーナの片手にはどこからか取り出したアルコールの瓶があった。

 

「さてと、稼ぎますかな〜」

 

 軽い口調で言うが運要素の強いギャンブル。勝つには早々の運が必要だ。

 

「そこらには電伝虫が仕掛けられているので金を盗むことはおやめ下さいね〜。それではこちらが目的地のカジノホテル、THE REORO(ザ レオーロ)にございま〜す!」

 

 そんな映像を見ながら一人の男が笑みを深める。面白い玩具を見て一言も声を発せず笑った。

 

 

 

 全長10キロの巨大な船、ガメ・ギガントタートルで動く独立国では独自のルールが存在する。海軍が海賊を狙う事は出来ないがもう一つ知らねばならないルールがある。

 ──騙された方が負けだという事。

 

 

 

  ──2時間後──

 

 

 

「満足でござる」

 

 コの字のソファに体重を預けて脚を組むリィンと、その周囲に満足気な顔をした一味。

 ……まるで女王である。そこらの人間はだいぶ引いており遠巻きにしながら机に幾つも盛られたスーツケースを見ている。

 

「ふふふ…ルーレットは特に得意です故」

 

 巨人が回転する円盤に向けて球を投げ入れ落ちる場所を予想するゲーム。リィンはそれでぼろ勝ちしていた。もちろん彼女が称する不思議色の覇気を用いて。ロビンはポーカー、ゾロやサンジは見聞色を有効活用し闘技場。ナミはブラックジャック、そして意外な事にウソップはスロットで大当たりを連発していた。

 稼げる時にとことん稼ぐ。元泥棒と残念外道が金銭面を牛耳っているので他の一味もやや反則技を使うのに抵抗が無いようだ。本来賭け事に覇気を使うなど興ざめもいい所だが遠慮しなかった。

 

「えぇー………バカラ居ないのになんで荒稼ぎしてるんだコイツら……」

 

 案内人であるシーナでさえ引いた様子。

 

「あー…レインベースで稼ぐべきですたね、失敗」

「クロコダイル可哀想」

「哀れってこういう事を言うんだな」

 

 軍艦での出来事を知っている月組が居たなら涙を流しそうだが今は居ない。哀れむだけだった。

 

「ひー、ふー、みー、よー。うーん、総資産額6億中、3億初期投資でリターンが7億。少し予想外ですたね、少なめです」

「それで少ないのかよ!合計4億儲けてるんだぞ!?」

「4億って…どれくらいだ?」

「そうね…設備を揃えた軍艦が1隻は作れるわ」

 

 そんなにあるのか、とチョッパーが感心する。

 

「ちなみにルフィを含め一味全員の食費に換算すると1ヶ月以下ですね」

 

 …それだけしかないのか、とカルーが鳴いた。

 

「言い過ぎじゃない?」

「………コルボ山4兄妹の間ではその日得るした獲物はその日のうちに消費するが常識です」

「つまり貯めるという考えが無いのね」

 

 神妙な顔で2人が意見を交わす。

 この船の船長は1億あれば宴で殆どを使いそうだと予想を立てる。

 

「もっと稼ぐ所に案内願う。出来れば二択の…丁半などで」

「あるけど…。あ、ミスった。ありますけどVIPルームだし…ま、いいか」

 

 それではご案内しまーす!と足元でピコピコと音を鳴らしながら飛び跳ねるシーナ。

 

「おい、また転…───んだな、学べよ酔っ払い」

 

 後ろに向かって派手に滑り転んだ。麦わらの一味が見ただけでも5回目である。それを多いと取るか少ないと取るか微妙だが酒瓶を離せと言いたい。

 

「VIPルームで荒稼ぎpart2を楽しむし…」

 

──トンッ

 

 リィンがアイテムボックスにコインを全て仕舞い歩き出そうとすると、彼女に1人の男がぶつかった。体の軽いリィンは簡単にバランスを崩し尻餅を付いてしまう。

 

「す、すまん、無事か!?」

「あー…大丈夫ですぞ、体への実害は皆無」

「………………んん??」

 

 不思議な喋り方に疑問を覚えた男。起き上がらせようと伸ばした手は固まった。ついでに顔を上げてマントに隠れた男の顔を見たリィンも固まった。

 

「──なんでこんな所にいるんだ放浪雑用!」

「ド、ドレーク少将ッ! ご、ごめんです!…じゃなくて、私が自ら望み放浪すた様な言い方止めるしてください!」

「その喋り方を直せと一体何度言ったら分かるんだ!」

「ご、ごめんなさいぃ!」

 

 脱兎の如く逃げ出したリィンはすぐさまナミの後ろに隠れた。

 

「逃げるな!隠れるな!」

「無理無理無理無理!真面目さんどこか行くしてどうぞ!」

 

 困惑した一味は壁になった。

 

「………リィンさーん…お知り合いですかな?」

「…X(ディエス)・ドレーク少将。女性慣れせぬ堅物で爬虫類マニア。海軍本部にて私を見る度に口調を直すと怒鳴るしたクソ真面目な将校、ちなみに現在海賊」

「つまり常識人か」

「常識人は!海賊になどなりませぬ!!」

「お前それブーメランなの知ってるか?」

 

「出てこい雑用。海賊になったことを説明してもらおうか」

 

 仁王立ちをしてバツ印の傷が付いた顎が上がる。怒髪天を衝く、という言葉が何よりお似合いだ。リィンはキッと睨み付けて叫んだ。

 

「少将こそその発言矛盾点多しです!卵ぶつけるですぞこの野郎!」

「目上に向かってこの野郎とはどういう神経しているんだ!」

 

「いやなんで卵だよ」

 

 ウソップが虚しくツッコミをした。




文字数がえげつない。
映画見てない方が何人もいるので状況が分かりやすいように頑張りますね〜。でも時間もキャストも映画と全く違うのでオリジナルに近い感じとして見てもらったらと思います。


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第159話 災厄の使い方

 

 ヌケヌケの実という無機物をすり抜けるタナカさんの手によってVIPルームへと足を踏み入れた麦わらの一味一行。

 

 そこには案内人のシーナと、リィンの知り合いであるドレークが一緒に居た。

 

「ホントに、麦わらの一味にはこの馬鹿がとんでもなく迷惑をお掛けして…」

「んぎぎ、迷惑ぶちかけるされたは私の方です。何が嬉しいで七武海…伝説の海賊…ウッ、頭が」

「痛むその頭はさっさと下げろ雑用」

「くそ…成人ギリギリから育てるされた癖に育ての母親に似るしてやがってこの野郎バカ野郎」

「育ての父親に似たお前に言われたくない」

 

 胃が弱い所とか海賊嫌いとか、などと永遠と語るドレークにリィンは胃を痛める。この男、リィンに説教出来る数少ない人間だ。親友と言われるスモーカーはなんだかんだと寛容なので叱った事は一度も無い。

 母代わりである中将とそっくりなのでより一層胃の痛みが増す。

 

「(女狐だと知らない分いい方かな…いややっぱり無理、黒歴史発掘される)」

 

 VIPルームでは丁半博打が行われている。巨人が持っても大きいサイズのサイコロ。その出目を数人の人間が賭け合いをしていた。

 周囲は金の水。しかしその中には生き物の姿があった。生き物の住めない水にどう生息しているのか理解できないが、少なくとも欲望を煮詰めた水でも生きる生物が一部いるという事だ。限りなく一部の生き物こそ、勝者。

 

「大体お前は上下関係を軽く見すぎてい…──聞いているのか?」

「ぼろ儲けって占いでも可能なのですね」

 

 リィンの視線の先には1人の男がタロットカードで占いながら丁半を賭けていた。

 

「半で勝つ確率……12%。丁に1億」

 

 血色の悪い真っ白な肌とどこか細く弱く見える体、そして金に近い茶色の長い髪。それよりもまず先に目がいくのが眉に付いている独特な化粧。

 

「(黒魔術…)」

「(暗黒…)」

「(厨二病…)」

 

 誰かがそんな感想を抱いているのを知らないまま、男は藁で空中に固定されたタロットカードを畳んだ。

 

 丁半の博打には本来(ザル)のツボ皿に入れてサイコロを回す様だが此処ではサイズから違う。ツボ皿が鉄製の鐘であった。

 そこに現れたのはダイス。裏世界一危険と言われたデスマッチショーで無敗を誇ったチャンピオンだった。どうやらディーラーである様子。

 

「勝負!」

 

 鐘を頭で割った。頭がおかしい。強度のことでは無く脳みその事だ。

 出目は3と3。合計が偶数である。

 

「サンゾロの丁!」

「サ、サンゾロですって…!?」

 

 結果は丁。男の勝ちだ。

 ヨロヨロと興奮した様子でビビが口元を押さえているが、一味のコックと剣士はガン無視した。チラチラと視線を寄越してくるが無視をした。レディ大好きのサンジが、特に無視をしていた。

 

「お前すげーな」

「………そんな事は無い」

 

 いつの間にかルフィが男のそばで驚きの声を上げていた。男は変わらない表情と視線だったがルフィに対して返事を返す。

 

「お前らの船長のコミュ力ってどうなってんだ…?」

 

 思わずと言った様子でシーナが呟く。一味も、それはずっと不思議に思っていた。

 

「俺、モンキー・D・ルフィ。お前は?」

「……自己紹介が必要か?」

「バジル・ホーキンス、比較的覚えやすい名前ですたので記憶にあります。懸賞金は2億4900万」

「随分詳しいんだな」

「いつどこで誰が同期(ライバル)になるか不明故」

「俺もお前達を知っている。七武海の一角を潰したのはお前だろ、麦わらのルフィ」

「は!?クロコダイルの1件はスモーカーと大将女狐の仕業じゃないのか!?」

 

 その事実にドレークが慌てた声を出す。張本人のリィンはそういう事になっていたんだったか、と考えていた。別の言い方だと忘れていたのだ。

 

「あーのー…。賭け、しないんですか?」

 

 そろりとシーナが手を上げて指摘する。

 するとリィンがルフィに耳打ちをした。ルフィはキョトンとした表情だったがリィンは自信満々だ。ナミが1人で盛り上がる。リィン至上主義に拍車がかかっている様な気がした。

 

「いいのか?」

「いいのです」

 

 こいつまた何か企んでるな、とウソップだけでなく全員が考えていた。一味は学んだ。

 

「リィン頑張ってね!」

「頑張るものでは無いのですが、まぁ勝ちは狙いませぬよ」

「……ん?勝ちは、狙わない?どういう事?」

「私が狙うものは、儲けです」

 

 巨人がサイコロを回す。そのタイミングでホーキンスも占い始めた。

 

「半が勝つ可能性……ん?」

 

 その結果に首を傾げる。

 

「丁か半か」

 

「私は半に2億」

「じゃあ俺は丁に5億!」

「「「「はぁ!?」」」」

 

 コインとなった7億全てを賭ける2人。しかし2人の意見はバラバラだった。

 

「俺は…丁に1000万」

 

 困惑気味のホーキンスが賭け終わるとダイズが頭で鐘を割る。

 中のサイコロは…──偶数、丁であった。

 

「え、何、何が起こったの?」

 

 消えた2億よりも転がり込んできた10億に困惑するナミ。ホーキンスも勝ったは良いが驚いた目でルフィとリィンを見ていた。

 

「先程占った結果、半が勝つ確率が0%だった」

「あぁ、やはり」

 

 分かっていた、という様子でリィンがコインをアイテムボックスにしまいながら呟く。何が起こったのか分からない様子だが、彼女に1人の女性が近付いた。

 

「Wow!Amazing!素晴らしいですわ!」

 

 港でも見かけたVIP専属コンシェルジュのバカラだった。

 

「ステージショーでの素晴らしい活躍、それに続き大博打。流石超新星(ルーキー)の中で頭角を現しているだけありますわ。このバカラ、感心致しました…」

 

 長身のバカラが黒い手袋を外しリィンの頭に手を置いた。そのまま大人しく撫でられるリィン。目を細め、口角を上げて嬉しそうだ。

 

「こちらこそ、ありがとうございます。大体の能力は把握出来ますたから」

 

 リィンは本当に本当に嬉しそうに笑った。

 何故か背筋が寒くなるバカラ。服を開けすぎているだろうかと考えた。

 

「ルフィもう1度」

「おう」

 

「丁半どっちだ」

 

「丁に1ベリー。勝てやオラァ!」

「半に、んー、まぁいっか、10億!」

「勝負…──サニの半!」

 

 余りにも極端な賭けである。

 2回目にしてようやく分かってきた。

 

 コ イ ツ わ ざ と 負 け て い る 。

 

「なんで…私の能力が効かないなんて…!」

「素手でのみ発動、そして運任せのギャンブル。チュウチュウの実の能力者が死しているなればソレですが、恐らくそちらの下位変換、ラキラキの実ですね。相性が悪いですたな、心から」

 

 手に入れた20億のコインを盗られない様に仕舞ったリィンがドヤ顔でバカラを見る。そのドヤ顔だけは要らないと思う。

 

「堕天使、リィン………………さん」

「さん!?」

「解説を頼む」

 

 さん付けに動揺するウソップを無視してリィンが口を開く。

 

「私、災厄吸収する故に」

「それで理解出来たら天才だ」

「そうですね、簡単に言うすれば私は不運なのですよ。災厄とは不幸な出来事、災い、災難。と、不幸な感じの言葉ばかり……。私が望めばそれは逸れる、だからルフィには私の賭けた所の逆を賭けるして貰いますた」

 

 それに、と付け足す。

 

「幸運のルフィと不運な私が別々に賭けるしたなればもう100%の勝率ですぞり」

 

 恐らく世界で一番極端なコンビであろうと予想する。リィンの逆を賭ける相手がルフィ以外だったなら結果が100%とはならなかっただろう。しかも追い討ちをかけるように幸運を吸い取ったラキラキの実の能力。狙い通りにならない筈が無い。

 

 ラキラキの実、それは世界的にも反則じみた能力であり、触れた相手の運気を吸い取り、アンラッキー状態にすることができる。吸い取った運気を自分にプラスすることで、あらゆる出来事にいい結果をもたらす無敵状態となる。逆も可能だが、バカラやテゾーロはその実の力を使ってグラン・テゾーロを大きくさせて来た。

 

「私の能力は運よ、貴女が負ける事を望んだなら貴女は勝っている筈だった!」

 

 バカラが取り乱した様子で叫ぶ。

 彼女はここで負けさせる事が役目だった。しかし、成功などしなかった。

 

「簡単な話、私が勝つしようと望むしたなれば上手く行くのです」

 

 簡単な話じゃない。

 

「私は思い込みが得意なのですよ。勝つしよう、と思う事程度朝飯前の晩飯後ですぞ」

「それただの睡眠時間」

「鼻は黙る」

 

 そんなやり方で攻略されてはたまったもんじゃない。バカラはショックを受けて固まった。そんな彼女を気にしない男がリィンの頭を叩いた。

 

「口調!」

「そこですか!?」

 

 ドレークは昔からの癖が抜けない様だ。

 標準語を喋れるリィンだが『堕天使リィン』のイメージを強く持たせておきたいが為、口調を直したくとも直せないのだ。そんな事を知らないドレークは口を酸っぱくして何度も言っていた。

 

「えーっと、気になっていたんだがどうしてホーキンスがリィンにさん付けを…?」

 

 ウソップがそろっと気になる事をやっと聞く事が出来た。当の本人に視線が集まる。

 

「なんとなく逆らわない方が良いのと、取り入っておけば損は無いだろうと思った」

 

 ホーキンスは視線を逸らしながら言った。占いなどが得意だからだろうか。しかし藁で空中に固定したタロットカードは使ってなかったが。

 

「初対面で本性見抜かれてるぞお前」

「うーん…否定し切れぬ」

「下僕量産機にでもなるつもりかよ」

「なるほどに説得されたし。それも良い」

「『納得した』だ大馬鹿者」

 

 頭を叩かれたリィンはブスッとした表情で度々修正させてくるドレークを睨む。

 

「敵になるしたなればとことんまで搾取するが私の最近の方針」

「最近だとフォクシー海賊団か…」

「合計6億、絶対キツイよな」

「…………まさか金銭のみとお思いで?」

 

 ウソップが頭を抱えた。

 

「今度は何をやらかした」

「麦わらの一味を離脱しフォクシー所属になるした時にて、砲弾火薬や武器などなどをちょっと」

「ちょっとじゃねーだろ!!」

「仲間が備品使うしても問題無いですよねー!」

「お前の口から出る仲間って安っぽいな!?」

 

 頭を抱えながらもツッコミをサボらないウソップに素晴らしいと感想を送りたかった常識人達。立場以外だが。

 しかしそんな事をする間もなく、拍手の音がVIPルームの入口付近から聞こえた。

 

「あ、テゾーロさん」

 

 シーナの軽い声。

 その場に現れたのはピンクのスーツに身を包んだギルド・テゾーロだった。

 

「いやぁ、実に愉快なショーだったよ、麦わらの一味。それと2人の海賊」

「特に何もしていないんだが」

「謙遜する事は無い、何せタロットカードの占いで大分稼いでいただろう?」

 

 嘘くさい笑みを浮かべたテゾーロ。ホーキンスは嫌そうな顔をして、ドレークは腰に下げた武器を手に取る。勘は鋭くとも経験の浅い麦わらの一味は警戒に留めている様子だ。

 

「テゾーロさん、今回なんとミスの回数10回を切りました!」

「……普段何回ミスしてんだお前」

 

 思わずと言った様子でウソップが呟く。その隣でビビが思考を最大限働かせていた。

 

「(テゾーロは受けか攻めか…いいえ、おそらく略奪系。これを言葉で表現するには……)」

 

 碌でもない事は確かだ。

 

「シーナ様、オーナーに恥をかかせるような真似をしてはいけませんよ」

「タナカさんはホントオーナー好きだな。ちなみに俺、じゃなくて私はテゾーロさん嫌いです!」

「クエッ、クエックエッ」

「お前はキャラがブレブレだから演技やめた方がいいと思うってカルーが言ってるぞ」

 

 テゾーロの隣に立ったタナカさんは呆れた目でシーナを見る。シーナ本人は気にしてないのかピエロの仮面の下から器用に酒を飲んでいた。隣に立っているナミがシーナを見て眉を顰める。

 

 明らかにバカラは敵対の意思を見せた。しかし他の人間がどう出るか分からない以上、彼女の独断か全員の計画か分からない。

 

「あぁ、どうやら警戒されているようですが何も敵対しようと考えているわけではありませんよ。これはショー。バカラのショーを崩した人間は今まで居なかったもので」

 

 ゆっくり階段を降りてテゾーロはリィンの前に立った。リィンは嫌そうに身を下がらせている。

 

「素晴らしいショーだった、実に盛り上がったよ。まぁ私しか居なかったがね。どうだろう、是非握手だけでもしてはくれないだろうか」

 

 リィンは差し出された手を数秒じっと見た後、苦虫を潰した様な顔になった。彼女は迷った結果深くため息を吐いてその手を取る。

 

「待って堕天使ちゃんッ!」

「…え?」

 

 緊迫したロビンの名を呼ぶ声。

 青白い雷の様な光が目に入り思わず目を細めた。

 

 テゾーロの指にハメられていた金の指輪が形を変え、瞬きする程の速度でリィンを拘束する。

 そんな事をされても喜ぶのは変態さんだけである。若干1名の判断が難しい所だが。

 

「まさか…ッ!」

「ショーでもしようじゃないか、海賊達よ」

 

 首、腕、太もも、足首。それらを拘束された上に吊り上げられた高所恐怖症リィンは引き攣った笑みを浮かべて顔を青くさせた。

 

「これ、巻き込まれたな」

「これ以上にないくらい酷い巻き込み事故だ」

「お互い大変だな、バジル・ホーキンス」

「……占いの結果、逃れは出来ない様だな」

「確率は?」

「2%位。大体、自然災害に巻き込まれて遠く離れた四皇の船に乗ってたまたま生きて帰って来れる位の確率だな」

「なるほど、抵抗しても無駄なレベルか」

 

 しかし緊張感の無い声にリィンの目が死んだ。凄く経験した事のある2%だと思いながら。

 

「テゾーロッ、離すし…──ングッ!」

「ルールは簡単、明日の夜中0時までに金が用意できれば良いだけだ」

 

 叫ぶリィンの口は更に黄金で防がれた。鼻呼吸出来るだけ優しい方だが、手荒な方法にリィンは軽くキレている。短気は損気、とお得意の自己暗示しても無駄だった様だ。

 

「お金を用意したらリィンを解放してくれるのね!?」

「もちろん、ルールを破るのはナンセンスだ。金額は──31億」

「高……ッ、そんなのぼったくりよ!」

「いやいや、ショーを盛り上げる為には必要な金額だ。麦わらの一味の持っている金額に、3億3200万ベリーと2億2200万ベリーと2億4900万ベリー。しめて31億…だよなぁ?」

 

 面白そうに笑うテゾーロ、ドレークはそういう事(けんしょうきん)かと冷静に静観し、ホーキンスは気にせずタロットカードを用いて占っている。

 

「リィンちゃん早く逃げてッ!」

 

 ビビの叫びにリィンが泣きそうな顔をする。

 その様子を見ておやっと首を傾げた。……なんだかとても嫌な予感がする。

 

「昔説明されたがアイツの能力は万全の体制でないと集中出来ないらしい。あのパニック状態で発動出来るとは思えない」

 

 ゾロが鯉口をカチャリと切った。

 

「全員ッ、動く禁止!!!!」

「!?」

 

 口の拘束が外れた瞬間リィンは叫ぶ。

 

「能力はゴルゴルの実!私達は既に体に金を浴びるした故にいつでもその金を変化可能!ということはつまりゴルゴルの実、それは覚せ──」

「おっと、これ以上はヒントを与え過ぎだ。まぁ、この国に住む住民なら知っている常識だが」

 

 覚醒という概念が分からない麦わらの一味は更に混乱する。そしてリィンが操れない物─能力者の体の一部─を知らない彼らは頼みの綱であるリィンを真っ先に封じられ困り果てていた。

 

「さーさー、戻った戻った。頑張ってお金稼いでくださいねー」

 

 シーナが出て行くように催促する。

 ちょっと、とナミが文句を言いかけたその時、素の声でシーナが呟いた。

 

「…───力は最大限貸す」

「え…」

 

 それに続くドレークとホーキンス。ただホーキンスはフロアに戻る階段の上でテゾーロを見た。

 

「俺達に死相は見えないが、お前には見えるぞ。新世界の怪物」

 

 死相。

 その単語を聞いてテゾーロは笑みを消した。

 

「それこそ最高のエンターテインメント。俺はこの街に居るだけで、無敵だ。せいぜい足掻いてくれ給え…諸君」

 

 最後に()()のは、我らなのだから。

 




という訳で!最悪の世代(まだそうとは言われてない)ドレークとホーキンス、急遽麦わらの一味と合同作戦開始!
作者、騙し騙されを頑張って考えて書いてるから。頼んだ(何を)

文字数が増える事に増していく誤字の数。自分、これでも5回以上見直しているんですけどね…誤字報告非常に助かります。

ちなみに今回の話で一番書きたかったシーンはサンゾロの丁。

時に来年、2019年の夏にONE PIECE新作映画発表ですね。もちろん見に行きますとも。予想はエース、キミだ。

最近の悩みは後書きが長くなるのとマイナスイオン系読者様が感想欄にて毒されていくことです。


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第160話 うそつきの話

このテゾーロ編がほとんど三人称という事にしたのはリィンの出番が急に無くなるから、という理由。


 リィンを人質に取られ、3つの海賊団は共闘の為麦わらの一味の船に集合していた。

 

「今回力を貸すのは俺個人だけだ。ドレーク海賊団は使わない」

「同じく」

 

 ドレークの言葉にホーキンスも頷く。

 それに待ったをかけたのはウソップだった。

 

「不満か?」

「いやいやいや、不満じゃねぇ所か大助かりなんだけどよ。だってアンタら2人は2億を優に超えてるし……だからこそ疑問なんだ。これはどこから見てもウチの問題。そりゃ、あの場に居たことには変わらねェが人質はウチのリィンだ」

「あぁ…俺達が干渉して俺達自身にメリットがあるのか、ってことか」

「おう」

 

 腹ごしらえ、とキッチンに顔を合わせた状態だがホーキンスは未だに占いを続けている。しかしその口は開かれた。

 

「数分前に言った。取り入っておけば損は無いだろうと」

「あぁ……」

 

 ウソップが遠い目をした。まだ精神力の強いゾロが重ねて声をかける。

 

「確かに俺は海軍支部を潰すことになったが…まぁ、損はしなかったな」

「はい!私も損どころか得しかしてないわ!」

「あの馬鹿は何をやったんだッ!?」

 

 冷静沈着さとは、リィンという存在の前には塵に等しい。風どころか台風だが。

 

「お前は…」

 

 ホーキンスの視線の先にはドレーク。その視線を感じ取ってあっけらかんと理由を話した。

 

「妹分を見捨てるのは寝覚めが悪い」

「あ゛…?」

 

「(あー…)」

「(やるとは思った)」

「(相手は2億だから穏便に頼む…)」

「(地雷踏み抜いたわね…)」

「(やらかしたな…)」

「(予感はしてたわ)」

 

 ルフィの異様に低い声にドレークは警戒した表情で見下ろす。誰も気付いて居ないのが幸いだがホーキンスは一瞬ビクリと肩を震わせていた。

 

「妹分………?」

 

 どう考えても喧嘩腰。

 その疑問に答えようと思い口を開きかけたがそれより前にルフィが言葉を続ける。

 

「リーは、俺達3人の妹なんだけどなぁ」

「妹?」

「盃を交わした兄妹だ」

 

 ふむ、と顎に手を置いてドレークは考える素振りを見せた。

 

「随分失礼な事を言ってしまったな、謝ろう」

 

 素直に頭を下げた行動に毒気を抜かれたルフィはいいんだ!と笑って肩を叩いた。内心ヒヤヒヤしていた周囲はホッと息を吐く。

 

「あー、ドレークつったっけ。蒸し返すようで悪いがなんでリィンちゃんが妹分だって…?」

「育ての親が同じなんだ。俺は母親代わり、アイツは父親代わりに似たがな」

「普通逆じゃねーのか…?」

「へ〜。その父親と母親ってやっぱり海兵?」

 

 サンジが疑問を口に出し、ナミが更に質問を続ける。ナミとて育ての親が海兵だったのだ、気になるのだろう。

 

「海軍元帥と中将だな」

 

 吹いた。

 口から勢いよく飛び出た飲み物が半円を(えが)く。

 

 カルーが窓の外を見ながら「おそときれい」と鳴き始めたので、彼の中では敵に背中を向け綺麗なフォームで逃げ出したのだろう。

 多分そろそろ限界である。「キレーだなー」と事態を把握していない人間初心者も呟いた。

 

「ゲホッ、ゲホッ!か、海軍元帥と中将!?元帥ってそれ、大将よりも上じゃねェか!」

 

 噎せ返ったウソップがいち早く復活し事態の大きさを再認識する。

 昔故郷で『偉大なる航路(グランドライン)に居る親の顔を見たら気絶する』などと言われていた事を思い出した。これは気絶してもおかしくな…──

 

「アイツ一言も義理の親って言ってない…!」

 

 更に衝撃の事実に気付いて頭を押さえる。そう言えば実の親は海賊だった。

 

「アイツ、実の親が海賊で育ての親が海兵…?」

「海軍のトップが義理の親だったら実の親は海賊のトップだったりしてな」

「いやいやそれはねぇよ、だって海賊王はあいつが生まれる前に死んでるんだぜ?」

「だよな」

「なー」

「「ハッハッハ!……………はァ」」

 

 ウソップとゾロの目が同時に死んだ。

 

「へぇ、そりゃまたすごーい義理の親ですね〜」

 

 その場に聞こえた別の声。その高めのふざけた口調には聞き覚えがあった。

 

「シーナ、お前なんでここに…」

「頼りになる助っ人登場ッてねェ」

 

 キッチンの入り口に背を預けたシーナがピコピコ足音を鳴らしてルフィの隣の空いた椅子に座った。いくらシーナがリィンと同じ金色の髪を持っていても大きさが違うので視界がうるさい。

 

「いつの間に入ってきた…ッ!」

「子供に気取られる程耄碌(もうろく)してはいねェよ坊ちゃん。あぁ、ひょっとして見聞色使ってる?あー、でも多分習いたてっつーか触り部分だろうね〜」

 

 後ろで結んだ長い髪の毛先をいじくりながらゾロ、サンジ、ホーキンスを順番に見る。覇気の知識はあるようで何より、と笑いながら簡単に覇気習得者を当てて見せたのだ。

 なおドレークは見聞色を習得していない。彼は武装色のみだった。元海軍少将にしては実力の劣る部分が否めない。

 

「このショーの注意点と助けになる情報を落としていこうと思ったんだけど、要ります?」

「欲しいけれど、貴方、敵じゃないの?」

「ハッキリ言いますね〜お姉さん。もちろん敵ですよ敵。ただし、ギルド・テゾーロの、ね」

 

 ロビンの言葉にクスクスと笑いながらシーナが告げる。コロコロと変わる口調と声色に海賊は眩暈(めまい)がしそうだった。

 

「…………俺は、ギルド・テゾーロを討つ。その為にここまで奥深くに入り込んだ。規格外の超新星(ルーキー)がここまで揃う事はまず無い」

「それで協力しようって魂胆か。でも、お前はなんでそんなにテゾーロを恨んでいるんだ?」

 

 シーナはふと力を抜くとそのピエロの仮面を外した。外された仮面は手のひらでクルクルと愉快な動きで遊ばれている。しかし仮面の下に隠されていた目は前髪の隙間から悲しげに細められていた。

 

「────とある、男の話をしよう。これはあくまでもフィクション、作り物の話だ」

 

 その声は驚く程穏やかな声だった。

 

「男は極平凡で平和な家庭に生まれた。朝起きて、親の仕事を手伝って、夜に寝る。男はその村で一番腕が立った。だから貧しくても毎食食べれるかギリギリの生活だったけど健康的に育って居たんだ。──戦いが起こるまでは」

「戦い…?」

「いや、一方的な制圧作業だったのかもしれない。あっという間に空を覆う金の雲。そこから零れでる金粉は体に染み込んだ。最初はその男だって感動していたさ、なんと幻想的な気候だろうと」

 

 手の中で遊ばれていた陶器の仮面がバキリと割れる。

 

「だがその金粉はただの枷だった、体に染み込んだ金は次第に体を固める。男の村人は次々金の像に変えられていった」

 

 まさか、とビビが顔を青くする。

 

「金粉は私達全員が浴びて……──リィンちゃんが最後、私達に教えてくれた事はこの事…!?」

「この街にはいくつか金の像があるわ、それも精工な物が」

 

 そして残酷な事をロビンが告げると不自然な静寂が辺りを包んだ。聞こえてくるのはスープを煮詰める沸騰音だけ。

 嫌な予感はするし、いくつか疑問点もある。

 しかしシーナが懐から新しい仮面を取り出し続きを話し始めた。

 

「村で生き残ったのは男1人だけだった。そんな男の前に現れたのは……そうだな、将来ハゲと仮に置いておくか」

「それはやめろ」

「ハイハイ分かりましたよ、じゃあ神。神とします。その神は男にこう言いました」

 

 ケロッと軽い声を出す。しかし一瞬にして表情が消えてしまった。

 

「『どうだったかな、希望が絶望に変わる瞬間は』ってよ…」

「…ッ」

 

「神は村にある金鉱山が目当てだった。だがそれを手に入れるのに村人は邪魔だった、しかし神は採掘途中の山のどこに金が出るのか分からない。だから、だから男は生き残った…!家族も!友人も!仲間も何もかも犠牲にして1人生き残った!」

 

 握りしめた拳から赤く染まった液体が流れる。船医であるチョッパーが医療セットを慌てて持ってこようとするがシーナは無言で制した。

 

「そして男は憎き神に刃を突き立てる為、道化の仮面を被って深くまで潜りこんだ」

 

 話は終わりだと仮面を着ける。

 周囲はなんとも言い難い様子で微妙な表情をしていた。

 

「──それではこの船の仕組みを説明しま〜す」

 

 そんな海賊達を気にせずカラカラと笑いながらシーナはこの独立国の話に変えた。海賊達はジェットコースターに乗った挙句空までロケットで打ち上げられた感覚だったがこれ以上触れたくも無かったので無理矢理話題チェンジに付き合った。正直精神にキている。

 

「まずテゾーロの能力から話しましょうか。彼はゴルゴルの実の能力者、しかも覚醒です」

「覚醒…かくせい??」

「あっ、もしかして覚醒まで知らないパターンか。説明めんどくせぇ」

 

 ルフィが首を傾げる姿にあちゃーと天を仰ぐ。仕方ないと口を開いたのはドレークだ。

 

「悪魔の実には覚醒という上の世界(ステージ)が存在する。本当に稀だし、そんな存在を見たことは無いから噂だけだ。──と、言っても情報源はお前らの良く知る雑用からだが」

「信じた」

「疑う気力すら起きねえ」

「もう疑問は出てこない」

 

 主戦力、通称三強が『リィン』の存在に深く頷く。アレなら知っていてもおかしくない。

 

「自分以外にも影響を与えたり、回復力が格段に向上したり、と様々だ」

「確かリィンが言うにはテゾーロって…」

「覚醒してますよ〜」

 

 つまり、とシーナが言葉を続ける。

 

「この国の金全てがテゾーロに繋がってる。衝撃を与えればすぐにバレる…ってワケでーす」

「覚醒って怖いな」

「怖いですよ〜?まぁ、貴方達のどなたが覚醒するか見ているのも愉しそうですね〜」

「愉しそうって、お前なぁ……」

「ま、そういう事で。もしなにかやらかした場合お前らにくっついた金が動きを止める。やるなら一気に叩かねぇと無理だ、って事ですね」

 

 見えない枷にゾクリとする。ビビが自分を抱くようにするとカルーが鳴いた。

 

「クエーーッ」

「海水とかであの竜みたいに出来ないのか?ってカルーが」

「あ〜、ハイハイ麦わらの一味が入り込んだ時のね。出来るさ、結局は能力だからな。オーナーは普段から『海水と海楼石こそが最強の手段』って言ってます。だからこの船には海水が無い」

 

 その言葉に眉を顰めるドレークとホーキンス。しかし麦わらの一味は希望を見た。

 

「海楼石は一応能力でのイカサマ防止で椅子の1部にくっついてるけどそれを外すには金に衝撃を与え無いと無理。地下に牢獄があって、そこから通じる更に下に海水を真水に変換する所があるけど…仕組みは分からないだろ、誰も──ってなんでそんな顔してるんだ麦わらの一味」

「それって…………リィンを解放させればお金を払う必要無い上に枷を外せるんじゃない」

 

 ナミが勝利を確信した笑みを浮かべる。

 リィンの旧い付き合いであるドレークですら首を傾げている。アイテムボックスと呼んでいる亜空間収納は麦わらの一味しか細かく知らないのだ。至極当然の反応だろう。

 

「リィンは海水と海楼石を操れる。その最強の手段を、な」

 

 ゾロがニヤリと笑った。

 ふとシチューのいい香りが鼻腔をくすぐる。どうやらサンジが調理を終えたようだ。

 

「腹ごしらえしながら作戦を立てようぜ、毒は入れてない、シーナも食え」

「あーやー…俺飯食ってるから、じゃなくてミスった。私生憎ご飯食べちゃってるんですよ〜」

「いい加減演技やめろよ」

 

 ウソップがシチューを1口食べながらジトリとシーナを見た。シーナはその視線に耐えられなかったのか席を立つ。席を立った事で食べる気は無いのだろうと判断したサンジが注いだ皿をホーキンスの前に置いた。

 

「毒が入っている可能性──」

「なんつー占いしてやがる」

「──0%。いただきます」

「味わえよ」

 

 ホーキンスがタロットカードを仕舞うと口につける。それ見てドレークも席に座り食べ始めた。

 

「そういやお前ら2人も能力者なのか?」

「「………(ノース)出身か」」

 

 サンジが気になった疑問をぶつけるが2人はそれに答え無かった。しかし意図せず声が揃う。その言葉にサンジは目を輝かせた。

 

北の海(ノースブルー)出身!お前らも…!?」

「あぁ。懐かしいなこれ。父親も作っていた」

「原料が変わっているからすぐ分かる。まさか同じ出身とは思わなかった」

 

 故郷の味というものがあるのだろう、北の海(ノースブルー)出身の3人が盛り上がる。ホーキンス、ドレーク、そしてその隣にサンジが腰掛けた。

 

「うそつきノーランドって知ってるだろ…?」

 

 手を組み真剣な顔だ。

 

「愚問だな」

「常識だ」

 

「ノーランドが、嘘つきじゃなかった…!山のような黄金が実在したんだ!なんと空で!」

「何…!?」

「ノーランドが嘘つきじゃ無いだと!?」

 

 ……勝手に盛り上がっている。

 

「なぁにやってんだアイツら…」

「リィンが捕まっているってのに呑気ね…」

 

 長い髪を縛り直しながらシーナが口を出した。

 

「絵本の話でこんなに盛り上がれるとか最近の若いヤツスゲェな」

「酔っ払いの親父かよ」

「絵本って分かるのね、アンタも(ノース)?」

「いや、あれって(ノース)発行ってだけでここでも充分交易してるし…。最近俺は絵本だと【ワニの王様と人間の王女様】にお熱だからな、あれはシャボンディ発行だろ?今や世界中に広まるぜアレは」

「「「「ごぶフッ」」」」

 

 吹いた。

 あの金髪外道の影響その2である。




一番書きたかったのは絵本。

シーナの口調が定まらないのは独り言垢をフォローしてくれているフォロワーさんの独断と偏見(なお同数)
次回作戦って所ですかな。


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第161話 二重作戦

 

「あら?」

 

 北出身の3人が盛り上がる中、ナミが地面にキラリと光る何かを見つけた。

 

「鍵…?」

 

 手に取ればそれは鍵束。麦わらの一味にはあるはずの無い物だ。あっ、と声が上がる。その声の主はシーナだった。

 

「あーあーミスっちゃった〜。あーあー、落としちゃった〜。酔っ払って手元が狂ってミスしまくるシーナ痛恨のミス〜!」

 

 ピコピコと音を鳴らしながらシーナは扉へと向かった。声は少々所かかなり態とらしい。

 

「……換金の保管庫の鍵と海楼石で出来た特別な牢獄の鍵。落としちゃった〜!ミスったな〜!」

「特別な牢獄って、まさかリィンちゃんの!?」

「あーあー。ミスミス。でも仕方ないよねぇ、私ってよぉくミスしてしまいますもん。テゾーロさんだって分かっていますよね〜!報告するのを忘れてしまうミスを犯しても、仕方ないよね、シーナなら!うんうん!」

 

 ……こいつ普段から態とミスしてたのか?

 声にならない驚きが室内を駆ける。

 

 シーナは酔っ払いの様にフラフラしながら部屋を出る。しかし振り返って一言呟いた。

 

「──重要なのはどう騙されるか、そして希望を絶望に変えるか。ショーの主役はお前らだ」

 

 独特な鼓舞だな、などと思っていたらシーナの姿が一瞬にして消えてしまった。なるほど、新世界の怪物の首を狙っているだけある。

 

「騙されるか、ね」

「それってつまり…敵の思い通りに策が運んだと思わせて裏をかくか、って事だと思うわ」

「敵の思い通り……そこから難題じゃねーかよ」

「裏をかくってリィンの得意技だよな」

 

 ふとウソップが思い付く。

 

「テゾーロはエンターテイナーで、ショーを楽しむんだろ?それって俺達監視されないか?街の至る所にあるって言う電伝虫で」

「「「あー……」」」

 

 されるわね、されるな、されるだろう、などと同意の声が聞こえる。

 

「見られてるなら見られてるでいいじゃねーか」

 

 ルフィがあっけらかんと言い放つ。なんの問題があるんだと言いたげな態度だ。

 周囲から何言ってんだバカと非難の声が上がる。しかしその既視感にビビが呟いた。

 

「採用…」

「「「「え?」」」」

 

 そのやり取りに一味全員が思い出した。

 ナバロンにて、黄金を取り返す時にどうするかと悩んでいた時だ。ルフィは『聞けばいい』という簡単な作戦を提案しリィンが採用したのだ。

 

 あの時はほぼ全員が『は?』と声を揃えたが、この扱いの差は普段の評価だと思う。

 

「あ、採用って言っても私は何もいい案浮かんでないのよ?だけどリィンちゃんならちょっとした言葉から作戦を作りそうだなって…」

「ルフィは野生の勘で本質的な所当てるから馬鹿にならないな…」

「うん、いいかも」

「なら私が作戦を立ててもいいかしら…?」

「ロビンが?いける?」

「えぇ、そこの2人の船長さんに協力してもらったら恐らく。二重にしてみたらいけるわ」

「二重作戦、って事か」

 

 リィンが人質に取られ約2時間。

 彼女に考え方が似たロビンがニコリと笑った。

 

 

 ==========

 

 

 

 暗い部屋。

 驚く程に静かな部屋。

 

 音はただ一つ。

 

「(ダメだ、お腹空いた)」

 

 人質の腹の音だ。

 

「(逃げるか)」

 

 お腹が空きすぎてイライラしだしたリィンはついに脱出を決意する。彼女は逃げるのにタイミングが重要だと再三思っていた。

 

 黄金から逃げ出す方法は2つ。

 それは能力を無効化出来る海と似た性質を持つ海楼石。能力者ではないリィンはこの2つを集中すれば操る事が出来る。常人よりかなりある集中力でなせる技。それが彼女の誇れる物だ。

 

 海水は面積が多い。面積が多い分無力化という観点では少々だと効きにくかったり、海の中でも超人系(パラミシア)の能力を完璧無効化する事が出来ない。

 それに対して海楼石は少量で海水を圧縮させた効果を発揮する。しかし固体故に面積は狭く、此度の金粉を取り除くには向かないのだ。

 

 本来の彼女なら無機物を操れる事が出来る。何故無機物か、と問われれば潜在意識としか答えようが無いだろうが、そういうものなのだと思い込んでしまった今、リィンが1人で覆すのは不可能だ。何より思い込みが強く影響する。

 黄金を操る事だって可能だ。しかしそれは生きていないもの。覚醒し、体の一部となった黄金は無機物にカテゴリー分けされない。

 

「(面倒臭いなぁ)」

 

 敵の多い、テゾーロが目の前にいる状態で逃げ出すわけにはいかない、人知れず逃げるのが最適だろう。そう踏んだリィンは落ち着いた雰囲気で海楼石を取り出した。服の中にも仕込んでいるが体が固定されてあるので無駄だった。

 

 海楼石が黄金に触れた所からすぐにドロッと溶け出した。

 

「うわっ!」

 

 身長の3倍程高い所で固定されて居たのでリィンはバランスをあっという間に崩した。

 

「っと、とと」

 

 予感はしていたのかすぐに箒を取り出して空中に留まる。ホッ、と息を吐くと青白い光と音がリィンに襲いかかった。

 再び黄金に捕えられる。ガラの悪い舌打ちをするとガチャリという低い音と共に扉から光が入ってきた。その場に立っているのはギルド・テゾーロ。リィンはボソッと呟いた。

 

「……感覚が伝わりますたか」

「あぁ」

 

 テゾーロの秘書であるバカラも彼の後ろに控える。逆光のせいで彼らの表情が見えなかった。

 

「随分と、手荒では無きですかねぇ」

「いやぁすまないすまない」

 

 心にもない謝罪。

 リィンの機嫌は過去最高に悪くなる。

 

 なお、その態度にバカラがギャップで怯えたが特出すべきでは無い些細な事だろう。

 血は繋がらずとも兄妹は似るものだ。

 

「何の用」

 

 ピリッとした空気を感じ取りバカラが後ずさる。しかしテゾーロは顔に笑顔を浮かべたまま。

 

「取り引きをしないかと思いましてね」

「取り引きィ?」

「何、簡単な話だ。大人しくしてもらいたいだけだよ。海楼石なんかで逃げ出さずにね」

 

 黄金を操りテゾーロはリィンを引き寄せる。耳元に口を近付けて小さく1つの単語を呟いた。

 

「…………………女狐」

「……テゾーロ、まさかッ!」

 

 リィンが目を見開いて顔を上げるとようやくテゾーロの表情が確認出来た。とても楽しそうに、子供のように笑っているのだ。

 

「フ…ハハハ…、アーッハッハッハッハッ!!」

 

 すると腹を抱え盛大に笑い始める。

 

「最高だ、最高だ!知っているか、ここには色んなものが集まる!様々な人間も!種族も!物も!情報だって簡単に集まる!」

「理解しているぞ」

「キミは聡い。故に、言葉の意味が分かる筈だ」

 

 『女狐とバラされたく無いだろう?』

 

「これぞエンターテインメンツッ!ワクワクしないか!?えぇ!?」

 

 リィンは表情を消した。

 

「騙すのは得意なんだ。絶望に変えることも」

 

 笑い終えたテゾーロは再び近くまで寄る。そしてリィンの顎を上げ、視線を合わせた。

 

「(世の中の夢見るお嬢さん、聞こえますか。顎クイは胸きゅんなんかしません。普通に怖いです)」

 

 表情を消したリィンの心の内は悟られまい。

 

「今必死になって頑張っている麦わらの一味を騙したいんだ。素直に手の平の上で踊ってくれ」

「私が、テゾーロに、踊らされる? 冗談では無きぞ、貴様の、()が、高過ぎる」

「おお、こわいこわい。──なぁ、楽しもうじゃないか。彼らの希望が絶望に変わる瞬間を!そして絶対的な力の前に絶望する表情をッ!!」

 

 その言葉にリィンは思わずゾクリと背筋を震わせた。

 

「(テゾーロ様凄く楽しそう。だけど怖い)」

 

 バカラが数歩距離を取って遠い目をしていたが2人は気付かない。

 リィンは目を閉じて何も言わないままだった。

 

「そうか…」

 

 その様子にテゾーロは背を向けた。月や太陽の光なんて入らない窓も何も無い部屋、そこに敷かれた血を吸ったように赤い絨毯の上を歩く。

 

「この国は役者に白の服を着せる」

「その様ですね」

「白は何もかも映す、様々な色を目立たせる」

 

 振り返り再び視線が合わさった。

 

「赤いドレスと金のドレス……キミはどちらがお好みかな?」

「……赤は、嫌ですね」

「なるほど、では金で白のドレスを彩ろう。フィナーレに相応しい色だ」

 

 優しく希望を叶える。そんな言葉を交わしながらテゾーロは今度こそ去ろうと踵を返した。

 

 

「──最後に笑うのは、私達です」

 

 新世界の怪物の背後で、金が笑った。

 

 閉じられた扉の外で明るい光を浴びながら、怪物もまた笑っていた。




次回決着が着きますかね。恐らく明日か明後日に投稿します。予定では視点というか状況の場所がコロコロ変わるかも。
いやぁ、九月以内に終わりそうですね、グラン・テゾーロ編。
シーナのカッコイイセリフを考えるだけでオラワクワクすっぞ。

最近気になっていることは物理。化学関係もっと深くまで勉強しておくんだったと後悔中。
金って重いし軟らかいんですけど硬度は低いらしいですね。調べれば調べるだけネタが増える…ふへへへ…。金、金かぁ。あーー、漢委奴国王印しか出てこねーー!!クソー!日本史ッ!


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第162話 賭け金は4億7100万

次回決着が付くと言ったな。あれは嘘だ。


 リィンの首を31億で取り引きする。

 その期限である0時まで残り3時間を切った時、話し合いや準備を行っていた麦わらの一味の船メリー号にてトラブルが起こった。

 

 それは1人の男の発言だ。

 

「300万程度の小娘、捨て置けば被害は被らん」

 

 ドレークだった。

 

 

 

 

──ドガァンッ!

 

 港の壁にぶつかった音。乱闘の始まりに周囲の人々は混乱し、悲鳴を上げる。

 

「……もう1回言ってみろ」

「何度でも言ってやる麦わらの一味。あの雑用は放って置く方が賢い選択だ!」

 

 ルフィの怒り任せの拳を受けてドレークは痛みに眉を顰めた。しかし残酷な事をハッキリと言い放つ。その言葉にルフィがブチ切れた。

 

「ドレークッッ!!」

 

 怒りで血行が巡る。その熱で蒸気を発生させながらルフィはメリー号の甲板から跳躍した。

 咄嗟にドレークは体を変化させる。

 

 恐竜。世にも珍しい動物(ゾオン)系の能力だ。

 腕だけが濃い緑の鱗に囲われる。

 

「冷静になれ麦わら!あの少女は世に存在してはならない!その結果がONLY(オンリー) ALIVE(アライブ)!悪用される事だってある、それをお前達が守り抜けるか!」

「出来る出来ねぇじゃねぇ!するんだ!」

「だったら……何故テゾーロに負けているッ!海賊王になる!?ふざけたことを言うな…!なら何故お前達は仲間1人に執着して命を落とそうと進むんだ!見ただろ実力差を!」

「俺は……絶対に諦めねぇ!」

「だから…──ふざけるなと言っているんだ!」

 

 殴り合い、蹴り合い。怒りのままに突進するルフィをドレークはあしらう。反撃する間もない攻撃に叫んだ。

 

「お前は船の船長だろ!残りのクルーと1人のクルー!どちらの命が重たいか、どちらを捨てればいいか、命に終わりがあることを学べ!将たるもの冷静さを見失うな!」

 

 ドレークの重い一撃がルフィを襲う。

 しかしルフィは唸りながら頭で受け止めた。

 

「きかねぇ…───ゴムだから!」

「ッ、能力者だとは思っていたが打撃無効系か」

 

 ルフィはドレークを殴ろうと拳を固めた。しかも特大、ギア〝3(サード)〟だ。

 

「船長さん…!」

「ッ!(おい、このセリフは煽り過ぎだろ)」

 

 心の中で悪態をつきながらドレークは守りの体制に入る。しかし衝撃は来なかった。

 

「………いい加減にしろ」

 

 ドレークとルフィの間に立っていたのはホーキンス。

 

「お前、魔術師!なんで庇った!」

「勘違いをするなド…赤旗。庇ったのは俺じゃない──」

 

 ぎゃあああ!と悲鳴がどこからか上がる。

 

「多分あそこの男」

「何やってんだ阿呆か!?」

 

 ホーキンスの腕から藁人形が3個ボロボロと落ちた。その数にサッと顔色を青くするが元々顔色が悪いのもあって誰にも気付かれなかった。

 どうやらホーキンスは誰かを犠牲にしてルフィの攻撃を受け止めた様だ。

 

「………冗談は嫌いだ」

「麦わらの一味、俺達は勝算の低い勝負をするつもりは無い。降りさせてもらう」

 

 ロビンが腕を咲かせて止めるが反動で小さくなってもなおルフィは止まらない。しかし体格差というものがある。ルフィは背を向ける2人に向かって思いっきり叫んだ。

 

「俺は例え誰だろうと見捨てねぇ!見捨てたくないから、仲間だろ!命を賭けてでも助ける!」

 

 その言葉に、ロビンがグッと息を飲んだ。

 

 

 

 

 

 

「悪魔の子絶対許さん」

「……ガチだったアレはガチだった麦わら怖い」

「クッソ、ホーキンスが演技出来ないだろうからって俺に煽り担当任せやがって!」

「……3体、3体も一気にやられた」

「完璧防戦一方だったじゃないか…!」

「作戦成功率が1%という過去最低記録にも関わらずなんで決行するんだ頭がおかしい」

「腹が立つ…絶対にテゾーロぶん殴る」

「そうだ、テゾーロを呪えばいい。…আমি আমার ডেস্ক আমার সামান্য আঙ্গুল ছিটান এবং মারা」

「おい待てなんだそのガチっぽいの」

「机の角に小指をぶつけて死ぬ呪いを」

「地味に辛い」

 

 ──さて、堕天使奪還作戦を開始しようか。

 

 

 

 ==========

 

 

 

「いや、あれ嘘だからな」

 

 サンジの発した言葉にルフィがキョトンと首を傾げる。

 

「うそ、嘘、uso……っぷ?」

「いやなんで俺だよ」

 

 タワーの天辺にある金庫を目指して職員専用連絡通路を用いこれから大暴れするぞ、というタイミングでネタバラシをする。しかしルフィはその言葉では理解出来なかった様だ。

 見回して確認するも驚いているのは自分だけと分かったのか大人しくなった。

 

「よ、良かった〜〜〜…。リィンの友達が酷いやつだと思いたくなかったから良かった…」

「ドレークは特に元海兵らしいし、リィンちゃんの事見捨てないって」

 

 ここにリィンがいたら『海賊の方が優しいってアルンダヨ!海兵簡単にミステルヨ!』と訴えた所だろうが彼女はただ今金まみれだ。

 

「じゃあ、決行前に作戦のおさらいでもしましょうか」

 

 ロビンの言葉に全員耳を傾ける。

 

「ここは職員専用連絡通路。目的地はVIPルームの更に上の金庫。ここまでは大丈夫ね?」

「おう」

「この道ならタナカさんのチェックを使わずに上に行けるって事だよな…シーナには感謝だ」

「えぇ、彼が居てくれて良かったわ。そして私達一味は全力で目立ちながらお金を手に入れる」

「シンプルだな〜」

「とってもシンプルで分かりやすいでしょ?」

 

 柔らかく微笑みながらロビンは扉を見る。

 

「この先に、テゾーロの手下が何人もいるわ。ここから螺旋階段を登っていく方が目立つかも」

「んじゃ行くか」

「お金を手に入れれば解決するわね」

 

 とってもシンプルで分かりやすい。彼女の言った通り。ルフィはニンマリと笑みを浮かべて扉を開けた。

 

「野郎共!目標、金庫!」

「「「「おう!」」」」

 

 投げ飛ばすように暴れる一味。

 連絡を取る敵を無視しながら歯向かう敵のみ蹴散らす。

 

 

 

「──あぁ、(かね)の位置を隣に移動させる」

 

 

 

 麦わらの一味は螺旋階段を登る。

 自慢の技で金に衝撃を与えながら、『俺達はここにいる』と訴えながら。

 

 

 

「──さぁ出よう。ショーの最終演目だ」

 

 

 

 彼等は知らない。

 立ち向かう敵がどれほどの実力差を持っているのか。

 

 

 

「──これぞまさに、エンターテインメント…」

 

 

 

 敵が誰なのか。

 フィナーレで嗤うのが誰か。

 

 

 

「お金が無い…!」

「そんな、いつ」

「ようこそ麦わらの一味」

 

 扉を開けるとそこには、天空劇場というものが広がっていた。しかし劇場と言えども客の姿は無い。

 

 

「ギルド・テゾーロ…」

「お前ッ、リーを返せ!」

 

 劇場には幹部全員が揃っている。テゾーロ、タナカ、シーナ、バカラ、ダイズ。ロビンが心の中で勝利を確信する。

 

「(幹部が集められているという事は……地下の特別製の牢屋の警備はザルね)」

 

───ガラララララ…ガシャンッ!

 

「!?」

 

 上から金の檻が降り、麦わらの一味は全員簡単に捕えられた。

 

「残念だったな。あの2人と喧嘩別れをしたのは大間違いだった様だ」

 

 テゾーロは笑う。間違いなく勝利は我らの物だ、と。

 

「鍵も無いのに金庫を狙うとは思わなかったが、どうやらシーナの物が盗られていたか。言い訳を聞こうシーナ」

「いやー…素直に落としました」

「フン、お前とは相容れない。ミスが多すぎる」

「ごめんなさいねェ…」

 

 自己保身に逃げたか、それとも隙を伺うのか。

 細められた語尾にテゾーロは不機嫌そうに鼻を鳴らす。テゾーロが背を向けるとシーナはズボンの隠しポケットに手を突っ込んだ。

 

「ねェテゾーロさん。ギャンブルという定義を作るのに必要な事って何?」

 

 ナミが高い声で問いかける。

 

「……賭け、だろう。だからこそ人々は狂う」

「私もそう思うわ」

 

 要領を得ない語りにテゾーロは困惑した表情を見せる。時刻は0時少し前、そろそろだろう。

 

「私達も今回賭けをしたの。なんと言ってもここはギャンブルの国、当たり前よね」

 

 楽しいわ、と言ってロビンが笑う。

 

「賭けた金額は4億と7100万ベリー!」

 

 その言葉に動揺が走る。

 周辺を固めるテゾーロの部下は焦り顔を浮かべていた。

 

「上手く動いてくれたなぁ」

 

 シーナが仮面の下でコッソリ言葉を漏らす。隠れて見えない口角は上がっていた。

 

「まさか!」

 

 テゾーロはバッとシーナを見る。

 シーナは思いっきりピースを作っていた。

 

「悪いわね。私達の仲間にはもっとえげつない事を考える堕ちた天使ちゃんがいるの」

「そう!私の!天使!」

「航海士さん少しだけ黙ってもらえるかしら」

 

 声の大きい変態さんの叫びをなだめながらロビンが腕を組み笑った。

 

「金って、軟らかくて加工しやすいんだけど耐久性が無いから昔から俺の国では合金として医療器具を作っていたんだ」

「だから、俺でも簡単に──」

 

 チョッパーの言葉に続けたゾロが最前列で横一線に刀を抜いた。すると金の檻はそこから簡単に崩れる。

 

「──斬れるってわけだ」

 

 武装色を使っているわけでも無い。打撃に強い物質だということには変わりないが一点集中、刀のように当たる面積が小さいと壊れやすい。

 

 剣士を捕えなくて間違いだったな、とゾロは不敵に笑う。

 

「リィンさえ取り戻せば枷なんてほとんど無い!」

「悪かったなぁテゾーロ」

「──この勝負、俺達の勝ちだ!」

 

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 期限1時間前。

 電伝虫が睡眠を要する微かな時間を狙い2時間も掛け地下へと辿り着いた。入り組んだ建物の内部はホーキンスの占い任せだ。

 

「さて…あの扉の向こうか」

 

 頑丈そうな扉の前には見張りが2人。他には居ない模様だ。

 陽動兼囮の麦わらの一味と違ってこちらは目立つわけにもいかず、ドレークは顎に手を当てて考え込んでいた。重要なのはこの先、リィンの解放と海水を用いた枷の破壊だ。

 

「帰る」

「早い早い早い早い。諦めるのが早い」

「帰りたい」

 

 短気のホーキンスがムッとした表情で引き返そうとするのをドレークが必死に止める。

 

「……要はあの見張り2人を手を出さずに倒せばいいんだろ。よし、ドレーク、今から俺を2回くらい殺すつもりで攻撃しろ」

「は…!?」

「そしたらアイツら2人にダメージが行く。『攻撃』成功率…99%。大丈夫だ」

「その残り1%が俺に振りかからない様にしてくれればいいが」

「中には範囲が届かない筈だから多分いける。さぁ来い」

「お前って極端だな……」

 

 ドレークは斧でホーキンスを斬りつけた。

 

「「ぐあっ」」

 

 成功だ。

 

「……お前のそれグロい」

「5体も無駄にしたが、仕込みはまだある」

 

 腕から出る藁人形に引いた顔をしながらもドレークは見張りを踏み倒し扉の鍵を開けた。

 

 

 

「……暗っ」

「リィンさん居るか」

「雑用どこだ」

 

 扉から入り込んだ光に黄金が反射する。

 

「あ…御二方。何故こちらに」

「随分疲れているな、待ってろ、今解放する。というか自分では無理なのか?」

 

 リィンはドレークの質問に首を横に振る。

 ドレークは海楼石の部分を触らない様にしながら鍵で黄金を溶かそうとした。

 

「少しでも溶けるするとテゾーロに伝わるです。あー…何よりお腹空くですよ」

「なんで余裕があるんだ」

「ドライフルーツなれば食べますたから…喉渇くした…」

 

 呆れながらもドレークはリィンと目を合わせる。…よく見ると震えていた。

 ふう、とため息を吐いて武器を構えた。

 

「んん??ドレーク少将??何事??」

「ぶった斬る」

「脳筋ですたかね!?」

「がんばれがんばれ」

「ホーキンスさんは普通に助けるして!?」

 

 やれる事は無いと判断したホーキンスはそのまま近くで占いをし始める。

 

「えっ、これ私の胴体真っ二つしません?」

「大丈夫だ、問題(しか)ない」

「少将ぅ!?」

 

 あ、これ味方に殺されるパターンだ。

 リィンの目がただひたすらに死を迎えた。

 

 

 

 その時事態が動いた。

 

「「「ッ!?」」」

 

 地面が大きく揺れた。唐突な出来事にバランスを崩しかけ、目を見開く。そして光が差し込む上を見上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──────なんてな」

 

 怪物が笑った。

 

 




若干のネタバレ注意。
映画のゾロは金を斬れませんでした。

呪いの部分に付いてはグーグル先生に頼った。多分違う。

マイナスイオン系読者様よ!オラに力をわけてくれ!そして訓練された心配しないプラスイオン系読者様を倒すんだ!(ネーミングセンスなし)

活動報告欄でお知らせがありますぞ。


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第163話 最高のフィナーレ

 

「───なんてな」 

 

 怪物は笑った。この世の全てを笑う様に。

 

「……フハハハハッ!アーッハッハッハ!」

 

 大声を出して腹を抱える。ダイスもバカラもタナカも高笑いはせずとも口元に笑みを浮かべてテゾーロの傍らに居た。唯一、普段うるさいシーナだけが静かで、その足音すら無かった。

 その空間には異様という言葉がピッタリ。

 

 追い詰められて気が狂ったのか、とは思った。

 何が楽しいのか分からない。

 

「なんで笑ってるの…アイツ……」

 

 狂い咲きの桜の様に場違いな笑い声を発し続けるテゾーロの様子にナミが思わず数歩下がる。いつの間にか地面はカタカタと揺れていた。何が起こったんだと目を白黒させる。

 

「勝負? 勝負だと…? これはショー、一方的なショーだ!お前達は()()の手によって踊る!」

 

 低い声で疑問を口にし、パチンっとテゾーロが指を鳴らすと地面から金が現れた。その金の塊を見て一味は顔を青くする。

 

「リーッ!」

 

 黄金により自由を奪われたリィンと、別行動をしている筈の2人。3人が地下から天空劇場に姿を現したのだ。

 開かれた視界、周囲を見回してドレークは思いっきり舌打ちをする。

 

「なるほどな、上手くいくと騙されていたのは俺達の方か……」

「その通り!」

 

 両手を広げテゾーロは笑う。いや、嘲笑(あざわら)う。

 バレているなら仕方が無いとホーキンスはすぐさま能力を発動させた。

 

「〝降魔(ごうま)の相〟」

 

 体が(わら)に包まれ、指には五寸釘。魔術師の通り名に相応しい禍々しい格好だ。関節という関節は見つからない、故にしなる鞭の様に素早い速度でテゾーロを襲った。

 

「遅いな…──っ!」

 

 テゾーロは簡単に防いでしまうが、盾となった黄金の隙間からウソップの狙撃が通った。火薬星、それが爆発してテゾーロは流血する。なんてことは無い、ただの擦り傷だ。

 

 開戦の合図。

 こうなってしまったら真正面からやり合って勝つしかない。それが彼ら海賊のやり方だ。

 

「テゾーロ様、ここは私が」

「いや…───」

 

 最弱である自分でも倒せるだろうと申し出たバカラを制しテゾーロはニヤリと笑う。

 

「──俺だけで充分すぎる」

 

 その言葉を発すると飛びかかってきたゾロとドレークを黄金で受け止めた。先程は砕けていた筈の黄金の硬度の高さに驚き思考が停止する。

 

「少将!ゾロさん!」

 

 思わずと言った様子でリィンが叫ぶと重い金が2人を弾き飛ばした。それと入れ替わりルフィとサンジ、そして再びホーキンスがテゾーロを狙う。しかし怪物はそれすらも避けてしまう。

 シーナ以外の幹部は巻き込まれない様にと避難してしまった。

 

「シーナ、貴方も早く離れなさい」

「いえいえ私はこちらに残りますよ」

 

 シーナは手をヒラヒラと振りながら数歩下がるだけに留まる。彼はそこに勝機が見えたのか分からないが、一味にとっては心強かった。

 

「〝サンダーボルト=テンポ〟!」

 

 ナミが叫んだ。

 空には月をも隠す大きな黒い雷雲。

 

 それにいち早く気付いたルフィが避けてしまわぬようにとテゾーロを掴む。

 

 金は熱や電気を通しやすい。電気を通さない藁のホーキンスが咄嗟に非能力者を抱えた。

 発動者のナミや近くにいたビビ達、そしてリィンには伝導されなかった様で無事だ。

 

「ッぐ!」

「にっしっし、俺は雷効かないからな」

 

 ゴム、電気を通さない絶縁体。ルフィはわざと巻き込まれ、テゾーロが避けられないよう確実にダメージを蓄積させる事が出来る。…筈だった。

 

「俺にも効かない様だな…ッ!」

「うわっ!」

 

 ルフィだけで無く浴びた張本人も無事だった。

 果たして火力が足りなかったのか、それとも耐久性が高かったのか分からないが、この男が新世界の怪物だと言うことを再認識させてくれた。

 

 弾き飛ばされたルフィがゴロゴロと金の床の上を転がる。

 

「確実に遊ばれているな、これ」

 

 サンジがタバコの煙を吐きながら思案顔をする。視線の先には服のホコリを払う余裕の表情をしたテゾーロがいた。

 

「〝ランブル〟」

 

 ガリッと飴玉を噛む音。チョッパーの前足の筋肉が異様な程盛り上がっていた。物凄くアンバランスな体型だが攻撃力が高そうだ。

 

「カルー!私達も…!」

「クエッ!」

 

 チョッパーに習い、カルーに飛び乗ったビビは迷わず1連スラッシャーを右手に構える。アラバスタ最速の足を誇るカルーがビビを乗せたままテゾーロへ向かって行った。

 

「〝孔雀(クジャッキー)1連(ストリング)スラッシャー (レイン)〟!」

 

 ランダムにスラッシャーが雨のようにテゾーロを襲う。来ると思えば来ず、来ないと思えば来る。それでも傷一つ付けることは出来ない。

 

 その隙に飛び上がったサンジの足にチョッパーが飛び乗った。

 

「行くぜチョッパー」

「おう」

「〝(ロゼオ) シュート〟ッ!」

 

 サンジの脚力とチョッパーの腕力、そして重力まで加え空から突進して来た。ガゴォンッ、と(ひずめ)と金がぶつかる激しい音がして、金にやっと傷が付いた。ここまで来てやっとだ。

 

「サンジ、俺もそれやる」

「おいやめろドレーク。お前クソ重いんだよ」

 

 有効な手かもしれないとドレークはサンジを呼ぶがドレークは剣と斧の二刀流。しかも彼はなかなかに筋肉質である。サンジは拒否した。

 

「ドレーク!こっちだ!」

 

 代わりにルフィがギリギリとゴムを限界まで伸ばして待機していた。形はまるで人間パチンコ。

 

「乗れってか…!」

 

 ぶつかれば碌でもない事は承知の上でドレークはルフィの元へと走り飛び乗った。

 

「〝ゴムゴムの………人間ロケット〟ッ!」

 

 ルフィが持っていた支えは金、しかしテゾーロは敢えて操らない。そして避けもしなかった。

 凄まじい速度で武器を構えながらぶつかりに行くドレークを軽々と金で受け止めた。しかも怪我をしないようにと軟らかな金での対応(ぶじょく)

 

「こ…のッ」

「吹き飛べ」

 

 攻めあぐねるロビンの方向へと跳ね返された。

 

「〝スパイダーネット〟」

 

 すぐさまロビンは自分の手を網のように張り巡らせドレークの衝撃を軽減させる。

 

 攻撃を与えられない。攻撃されるわけでは無い。確実に遊ばれているし、まさしくショー。

 そんな焦りと緊迫した雰囲気が彼らを包む。

 

「……あーあ、決着つくのが遅いんだよ」

 

 緊張感が走る中呑気にもシーナが呟いた。

 

「早くしないとキレるぜ?ま、俺もお前らで遊ぶんだけどな」

「ッ!?」

「ミスったミスった。…──ドジった。俺、テゾーロの協力者って言ってなかったか」

 

 彼はクルリと周囲を見回して演説をする様に楽しげに言葉を続けた。

 

 

「なぁ、凪の帯(カームベルト)って知ってるか?」

 

 唐突な、しかも全く関係の無い話題。

 テゾーロはどうした、リィンはどうした。そんな疑問が次々浮かぶ中シーナは更に続ける。

 

偉大なる航路(グランドライン)を挟む無風の海域、うん、そんな所だろうな。あそこには嵐は存在しない、風で進むことは無いが漕げばいい話」

 

 シーナはテゾーロに軽く触れ押しのける。嫌そうな顔をしながらテゾーロは立ち退いた。

 

「だけど誰も近付かない。航海士、分かるか?」

「えっ、私?あ、えっと、超大型の海王類がいるから……というか私達も遭遇したし」

「そう!」

 

 突然指名され慌てるナミだったがふと首を傾げる。……どうして航海士だと分かった? ナミは腕に記録指針(ログポース)を着けているが航海士全員が着けているかと問われれば答えは否。

 むしろ操舵手が持っている方が多い。

 

 そんな疑問など気付かずシーナは決定的な一言を発した。

 

「───凪の中には怪物がいる」

 

「う、しろだお前らッ!」

 

 ドレークの叫び声にハッとして後ろを振り返るナミ達。黄金の竜がそこに存在していた。

 

「きゃあッ!?」

「クエッ!」

「ビビ、カルー!」

 

 避けきれなかった2人が捕らわれる。

 テゾーロを睨みつけるが謎に包まれていた。黄金を動かす時は必ず耳に貫くような高い音がなる筈だった。しかし何の音もしない。

 

「音が消えた…!」

「くっ…、離して!」

 

 皆が慌てる中、ロビンが冷静に状況を判断してほぼ正解であろう言葉を呟く。

 

「シーナ…貴方能力者ね」

 

 問われたシーナは仮面を外し、懐から銃を取り出す。

 

「だーいせーいかーい…」

 

 撃たれれば陶器の仮面はバリンと割れる筈だった。引き金を引いた段階で音が鳴る事は当たり前だった。しかし不思議な事に銃声は無く、仮面も静かに割れた。

 

「…──俺はナギナギの実の無音人間」

 

 自分や触れた相手の音を失う。

 ニンマリ笑いながら格好付けていると後ろからテゾーロが頭を叩いた。

 

「はいはい外すよ、っと」

 

 音を失っていたテゾーロが不服そうな顔でシーナを睨んだ。

 

「音とは空気の振動、震える風を動かない様に消すと音は無くなる。凪とは無風、動くと風が出来る。……なぁ、動きによって生じる風を凪の状態に無理矢理変えると、一体どうなると思う?」

 

 ブワン、と半径10mの薄い膜に覆われた空間が出来上がった。その空間は音を遮断する為の空間では無い。彼は何度でも笑う。口角を上げ笑う。

 

「この空間から離れ…ッ!」

「〝無風(ストップ)〟」

 

 ルフィやゾロやドレークは腕を、ロビンとナミとウソップとホーキンスは手を、サンジやチョッパーは足を。

 それぞれが得意とする部位が封じられてしまったのだ。どうやっても動かない体に全員が(もが)く。

 

「船の上で怖いって言っただろ?」

「……覚醒の能力者!」

(シーナ)の二つ名は臥竜(がりょう)()した竜だ。隠れるのは大得意なんだよ」

 

 でも、とビビが叫ぶ。

 

「シーナさん、貴方はテゾーロの敵って」

「甘いなお姫様、敵とは言ったが協力関係ではある。何事も上辺だけの言葉を読み取るのは(つたな)い事だと思わないか?」

「アンタの過去は嘘だったの!?」

「おいおい俺がいつ体験談だって言った?あくまでもフィクション、作り物の話だったよなぁ?」

 

 カラカラと歯を見せて笑う。

 外道だ。人が悩みまくって気を使って作戦を立てた姿をこうやって笑って見ていたのかと思うと怒りがフツフツと湧いてくる。

 

「俺は昔ある人に吸血鬼みたいだって言われた事がある。生と死の狭間にいる存在、はたまた蘇った存在。ま、凶悪な犯罪者って点に関してはあながち間違えでもないがな」

 

 そしてシーナはルフィに顔を近づけニッコリ笑った。彼は何度でも笑う。勝利の笑みを。

 

「どうだ?重要な事、出来たか?騙された気持ちはどんな感じだ?希望が絶望に変わった瞬間はどうだ?なぁ、ショーの主役(ヒーロー)?」

「ッ…お前はっ──…─…!!─………──」

「〝(カーム)〟……この空間の中では俺は凪にし放題。この空間の覇者だ、悪いな超新星(ルーキー)

 

 指を鳴らすとルフィの声が聞こえなくなる。その空間の外で、バカラが叫んだ。

 

「シーナ!貴方何故能力者であることを隠していたの!?」

「……こいつ仲間にも騙していたのか」

 

 周りを一度見てみればバカラとダイスのみがその能力に動揺していた。テゾーロとタナカは彼の実力を知っていたようだ。

 

「やだなバカラ。俺は臥竜だって言っただろ?」

 

 シーナはチラリとリィンに視線を移す。

 

「敵を騙すには味方から、ってね」

「……ッ」

 

 こんなに強い能力者だと言わなくても荒事を担当していた、という事は能力無しでの実力はテゾーロ並と判断してもおかしくない。

 

「これ以上はもういいだろうシーナ」

 

 いい所を取られた、とテゾーロが呟くと動きを封じられている者達名を呼び、問いかける。

 

「斬殺、撲殺、絞殺、刺殺、欧殺、溺殺、銃殺。どんな殺し方が一番絶望を覚えると思う?」

 

 ゆっくりと金が動いた。

 生き物の様にゆらゆらと揺れながら金はリィンに集まる。

 

 嗚呼、嫌な予感がする。

 むしろ嫌な予感しかしない。

 

「正解は窒息、息を吸えないことが一番苦しい」

 

 何度でも見たテゾーロの笑顔に恐怖しか出てこない。やめて、やめろ。そんな言葉は喉に引っかかって上手く出てこない。音を消し去られた訳じゃないのに。

 

 これが恐怖。

 海にある、恐ろしさ。

 

「……嫌だ、ヤダヤダヤダッ、リィンちゃん!待ってテゾーロ!リィンちゃんはONLY(オンリー) ALIVE(アライブ)!殺してはダメよ!」

「バカか砂姫!生け捕りのみでも海難事故はある!都合の悪い存在はそうして殺してきた!過去にも、どんな奴だって、例えそれが天竜人だろうと船ごと海難事故なんて当たり前の世界だ!」

「嫌だ!リィンちゃん!逃げてェッ!」

 

 金に吊るされた状態でビビが叫ぶ。目には涙が浮かんでおり、その様子にリィンが苦しそうな顔をする。ごめんと謝っている様な気がした。

 

「(そんな、最期みたいな顔しないでよ…!)」

 

 リィンはビビの憧れだ。世界一の強さだとか、世界一の才能だとか、そういう強さは持ってなくても、リィンはいつでもビビの前に居た。

 

 …──ビビ様!

 

 導いてくれる背中が好き。

 支えてくれる声が好き。

 

 大切な幼馴染み。

 

 国を助けてくれた、自分を助けてくれた。

 なのに自分が助けないとか、助けられないとか。

 

 永遠にサヨナラなんて。

 

 

「そんなの、絶対…──嫌だぁぁあッ!!!」

 

 

 

──トサッ

 

 ビビの叫び声にバカラが思わず腰を抜かした。クラクラと目を回しており焦点が合わない。

 シーナはヒクリと喉を鳴らしてビビを見上げた。その感覚には覚えがある。

 

「ハ、ハハハ…こう来たか。まさか兄上と同じ覇気をもってるなんて。流石天竜人となる事を蹴ったネフェルタリ家、王族ってとこか」

「………面白い、ここに来て目覚めるか!だが、もう遅い!」

 

「リィン!」

「リィンちゃん!」

「…──…─!!」

 

 次々と叫び声がリィンの耳に届く。

 ぞくり、ぞくり。

 

「これだよこれ…最っ高…」

 

 絶望に染まる最高の表情だ。

 

「グッバイ堕天使…」

「ッ、ルフィ…!」

 

 ついに黄金が、リィンを包み込んだ。

 

「ーーーーッッ!」

 

 声すら出ないルフィの視界は金色に塗り潰された。

 包み込まれる、だなんて随分優しい表現だ。

 

 呑み込まれたのだ、金色の絶望に。

 まるで彼女の髪色みたいだ、とどこがぼうっと考えていた。

 

「そんな…」

 

 カラン、とナミの天候棒(クリマタクト)が地面に落ちる。絶望に染まった表情でポツリと呟く。水のように涙が溢れて止まらなかった。

 

 動ける様になった。

 だが彼らにそんなに事考えていられる暇なんて無かった。大事な守りたい者を守れなかった。

 

「嘘って、言って…」

「リィン…なんとか言えよ…。お前ならそんな金の球体位なんとか出来るんだろ…?」

「………リィンちゃん。まだ、キミの壁を壊してないんだ。出てきてくれ」

「刀をこれ以上形見に使わせるな…」

 

 仲間は口々に言葉を漏らす。

 事態を飲み込めない、飲み込みたくないルフィは拳を固めてリィンを包み込んだ金の塊を殴り掛かろうとした。

 

「…………リーッ!」

 

 

 

 

 

「───…は…アッハッハッハッハ!」

 

 その場に、()()()()()()()()()()()()()

 

──パァンッ!

 

 リィンを包み込んでいた金が晴れる。

 

「…ふ…はは…!なんだかんだと楽しむした」

 

 中から現れたのは金の装飾が施されたドレスを纏ったリィン。その表情に欠片の怯えも無く、とても楽しそうに笑っている。

 

 否、(わら)っている。

 

 いつの間にか輝く金は少女の足元を支えるように段差を作っていた。

 

「だからこの御三方は…」

 

 タナカの呆れた声を流しながらテゾーロとシーナはエスコートすべくリィンに手を差し出した。リィンは想像していたのかその手を取った。

 

 その顔はとても笑顔だ。

 企みが全て成功した、爽やかな笑顔。

 

「さて、ショーを楽しむして頂けましたか?」

 

 リィンは言った。

 『最後に笑うのは()()』だと。

 

 

 

 

「「「「「このアホーーッッ!!」」」」」

 

 あ、これ仕組まれてた。

 そう察した者達が同時にツッコミを入れた。

 




テゾーロもリィンも『We』が誰とは言ってない。

はい!!!という事でぇ〜〜〜????
予想外の人物発表、そしてこの結果となりました〜!イエーイ!
シーナがオリジナルキャラクター?ノンノン、ドンキホーテ・ロシナンテさんで〜〜す!
ハッハッハ!残念だったな、テゾーロはドフラミンゴと取引をしているんだ!読者にもバレない様子じゃないと現実やっていけないさ!

うんうん、そうだねそうだね。
騙 さ れ た 方 が 敗 者 だ よ ね 。

一部騙されてくれない読者様がいらっしゃいましたが、リィンがテゾーロサイドじゃないとは言ってないッ!もちろん次回に解説など含めますが、今なら誰に質問されてもパーフェクトに答えられる。疑問があったら感想欄にゴーゴー!次回にする所は置いておくけどどんな質問でも答えちゃうぞ☆
今回は荒れるぞぉ〜〜??
…これでまたマイナスイオン系を失うのか(遠い目)

まずはサブタイトルだけでも解説しておきましょう。
『寄り道は必要事項』→次回へ
『全ては黄金に支配される』→テゾーロの思惑通り
『神は堕天使を見捨てた』→神(テゾーロ)は堕天使(リィン)を見捨てた(目立ちたくないでござるマン)
『うそつきの話』→シーナのお話
『二重作戦』→テゾーロ側は(ロビンの作戦に騙される事)と(それを絶望に変える事)

楽しかったんだよ、作者は。


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第164話 客観的だと事実で主観的だと真実

今日10/6はローの誕生日ということで、ローが出て


「このアホ!バカ!」

「リィンのバカーー!」

「ひぐっ、リ、リィンちゃんのバカぁあ」

「一発殴らせろ、いや斬らせろ!」

「リーのバーカ!バーカバーカ!」

 

 ──さて、ショーを楽しむして頂けましたか?

 

 私がドヤ顔で告げると察しのいい方々が弾丸の様にすっ飛んできた。王族は特にごめんなさい。

 

「手酷い罵倒な上になんつー語彙力の無さ、愛されてんなぁ…」

「シーナちょっと助けるして!?」

「ハイハイ」

 

 呆れた声のシーナに首根っこ掴まれて一気に引き抜かれる。スッポーンと気持ちいい位に解放され、シーナの腕の中に収まった。

 助けてとは言ったが拘束しろとは言ってない。

 

「シーナさんこれ何」

「えっ、だってアンタ野放しにしたらテゾーロを殺しに行くだろ??」

「……………よく分かるしたな」

 

 純粋な眼差しで首を傾げられて思わず目を別の方向に向けた。具体的に言うとテゾーロの方向。

 彼はビクッとして視線を逸らした。

 

「あの…どういう事か説明を…ください」

 

 ビビ様が混乱した表情で問う。

 

「はぁ……私は元々コイツらと関わりのある事を知るされたくは無きでした!!!と言うか!紹介すらしんどい!精神的な感じで!」

「「「酷い」」」

 

 テゾーロ、シーナ、タナカさんが声を揃えた。

 

「私はここの金を奪うし比較的穏便に去ると」

「それは穏便と言わない」

 

 ウソップさんのツッコミを華麗にスルーして説明を続けようとする。

 

「私はグラン・テゾーロに初めて来るとは言うしていませぬ。そして私は格下に使うされるが嫌いですので初回のショーで使うされた事に軽くキレるしてますた。ご存知通り」

 

 テゾーロの肩がビクッと更に跳ねた。

 死相、出てたんだったよねぇ?正直そんな不確かなものを信じているわけじゃないけど悪魔の実とか不思議色使っている時点であってもおかしくないのでとりあえず信じるよ。

 

 私に殺される運命か。

 

「なるほど、リィンさんに殺されるから死相が出ていたのか…」

 

 死相が出ていると判断した人物が私と同じ結論に至ったので間違いないだろう。

 

「シーナが現れる時点で思わず天を仰ぐしますた。私は知らぬ存ぜぬを貫く不可能と」

 

 それでも抵抗した。無駄だったけど。

 クザンさんの1件みたいに麦わらの一味サイドに居て、テゾーロ達と敵対しても良かったわけだし。無駄だったけど(2回目)

 

 確実に遊ぶんだなって思ったけどとりあえず稼ぐだけ稼いだ。

 

「えっと、じゃあいつからリィンちゃんは、その、裏切り?あれ?裏切りじゃない?えっと…」

「寝返るした事ですか?」

 

 正確に言えば、『女狐の事をバラす』という脅しをされた時だった。隣にバカラさん、という未知の存在が居る中でその事を知られるのは嫌だったから。

 私が女狐だと知っているのはここでは3人。テゾーロとシーナとタナカさんだけだ。

 

「そうですね…『なぁ、楽しもうじゃないか。彼らの希望が絶望に変わる瞬間を。そして絶対的な力の前に絶望する表情を』と言われるした時、ですかね。思わずゾクリと血が騒ぐしましたよ」

「お前のその隠されたドS感にツッコめば良いのか暗記能力にツッコめば良いのかその記憶力でも直らない口調にツッコめば良いのか分からない」

「鼻は黙る」

 

 ドレーク少将が静かに頷いているのが怖いので口調に関してはツッコミをしないでください。

 

「ま、後は即興ですね!密封はビビるしましたがテゾーロは金の支配権を離すしていたので私1人で何とか金を剥がすが可能、と」

 

 実は覚醒の能力者は不思議色で対処出来ないから困る。昔七武海のグラッジを相手にした時『ミズ』は操れなかったからね。能力には主導権がある、と認識してしまった。

 

「それと。本音を言えば……麦わらの一味が強いから敗北を学ぶさせた、ということですね」

 

 その発言に皆が首を傾げる。

 

「強い?」

「はい。自分で言うのもなんですが、私はとても便利な存在と思うです。故に『頼る』『任せる』のです。だから強い」

 

 自意識過剰と取られるかもしれない。でも『私がいなかったら』を考えると悲惨な事になる可能性はいくつもあった。

 バギーの巣食うオレンジ村。あそこで私が居なければ大怪我を負っていた事に変わりは無いだろう。たとえ倒せたとしても、傷はあった。それこそなかなか治らない傷が。

 ウソップさんの故郷でも同じ。私が夜中こっそりスピードアップしてたから間に合ったけどもしもルフィの到着が遅れて海賊の作戦後だったらカヤさんやウソップさんは死んでいた。

 ナミさんの故郷では戦力が非常に厳しい状態だったはずだ。私の提案で向かうことになったけど先にバラティエに向かってサンジ様の勧誘に時間がかかればゾロさんは大怪我を負っていた。

 サンジ様のバラティエでは毒がいい例。吸い込んだ毒をどうするつもりだったのか。

 

 覇気という存在も私が居なければ知り得なかった。ゾロさんとサンジ様は身につけていなかったと思う。

 

 他にももちろん色々ある。

 『もしも』を考えた沢山の可能性が出てくる。

 

「私は弱いです。いつ死ぬか分かりませぬ。もっと、『私が居なくなった場合』の可能性を視野に入れるして頂きたい。私を取り巻く縁は切りたくとも切りきれぬ、狙わるる物ですぞ」

 

 私は自分第一だ。

 だからキミ達を見捨てる可能性だって沢山ある。だって、キミ達が死のうが生きようが直接的な死には至らない。もしもという時は第一に自分の身を守るんだ。例え兄妹でも最終的に捨てる。

 

 居なくなるって事はね、私の中で『死ぬ事』とイコールで結ばれないんだよ。

 

「それで、私を使う不可能の状態で、格上相手の戦闘や冒険はどうですたか?」

 

 私が笑って問うと疲れた表情を見せた。

 

「策もうまく浮かばない」

「やっと浮かんだ策すら潰されると絶望するわね」

「歯が立たないってまさにこの事だ。結構味わった筈なんだがな…」

「リィンが居るって事で精神的な余裕があった事が分かった」

「えぇ、いざという時リィンちゃんが何とかしてくれるとって言う余裕ね」

「クエ…」

「俺もビビと同じだ。切羽詰まってた」

 

「なんか…俺は自分が強いって思ってたけど…」

 

 ルフィが静かに呟いた。

 

「女狐や青雉に続きテゾーロとシーナ。世界って広いなぁ…俺じゃ仲間を守れないって思っちまった。今まで運が良かったんだって」

 

 ルフィは簡単に勝ち過ぎた。覇気を使える仲間と策を考える仲間が居て、独りじゃ何も出来ないという意志が足りない。何よりも『危機感』と『安全性』が足りないんだ。

 そこに気付いて。世界というモノサシで見るとルフィは弱いんだよ。

 

 純粋な戦闘に限定すると私はルフィに勝てない、でも弱点を突けば確実に勝てる方法がある。策ってそういう事だ。戦略ってこういう事だ。

 私が恐れる世界の武器を見て欲しかった。

 

「学ぶ事は沢山あった。仲間の大切さももう1回理解した。なぁリー。俺はちゃんと船長になれると思うか?」

「何故船長かは置いておくぞ。ルフィには、付いて行くしたいと思うした」

「そっか。ありがとな、成長する時間を作ってくれて」

 

 

 ──まぁ、タダの言い訳なんですけどね!

 

 

 いやいやいや〜!学ばせようとか考えてないですわ〜!それなら最初からテゾーロ達と結託して中途半端な演技はしませんでしたよ〜!全力で貶めて全力で迎え撃ってましたが〜?今の絶望なんざ生ぬるい!って感じです〜!

 さっき思っていた事もあながち間違いではないけど、今回の件を起こした一番の気持ちは『絶望の表情を見たい』という欲望が出てきたからなのですよ。全くテゾーロは私をやる気にさせるのが上手い………一気に乗る気になった。

 

「ホント…どれだけ心配したか……」

「ご、ごめんなさいサンジさん」

「いやぁ、悪いな海賊達。タナカさんは違うけど俺ら3人かなり愉快犯と言うか…──人を嘲笑うの大好きなんだ」

「愉快犯では無きですが嘲笑うに関して否定はしませぬ」

「なんにせよシーナが敵じゃなくて良かったな」

 

 一安心したサンジ様に声をかけるとシーナがヘラヘラと笑う。それに同調したルフィが笑うと謎の脱力感に襲われる。

 

「シーナは実際かなりスレた性格してますから素に戻ると驚くと予想したのですが」

「驚きのキャパシティを越えきってんだろうが察しろ」

 

 ゾロさんが思いっきり頭を叩く。

 

「俺がスレたなぁ…。昔に比べりゃそうなるだろうな」

 

 シーナは私の頭の上で困ったように笑う。

 実の兄に殺されかけたら仕方ないよな。

 

「育ての親が元帥と大参謀、その上長年コレが家族代わり。スレない方がおかしいだろ?」

「「「お前もかよ!」」」

「シーナさんんんん!?」

 

 なんで言ってるの!?少なくとも親の部分はぼかそう!?ねぇ!?ここには同じ状況だったドレーク少将がいるんだよ!?ついでに私もだから黙ってようよ!

 

「リィンやドレークとお揃いか…」

「そりゃそうだな…」

「お前も俺達と一緒だったのか、いや、だったのですか?」

「そうだぜ、お前とコイツよりも先輩」

「んんん?あれ??私も含む??何故??」

 

 リィン混乱の極み。

 さり気なく私の親の認識がセンゴクさんとおつるさんになっているのはなぜだ?

 

 疑問符を浮かべているとドレーク少将がややあって口を開いた。

 

「バラした」

「少将うううっ!!」

 

 思わず胸ぐら掴んでガクガクと揺さぶった。私は潜入中なの!面倒臭い説明をしたくないの!

 

「な、なにゆ、何故えええ!!」

「もう辞めてるからいいだろ」

「それでもぉおおお!私、厄介事とても嫌いなのですけど!?ご存知ですよね!?」

「いやお前厄介事嫌ってる割には恨まれて毒とか暗殺者送り込まれて…──」

「シャラップ!!黙るしろ!」

「歳上に黙れとはどういう神経してる!それだからお前は人から恨まれるんだ!今回のことに関しても俺はまだしもホーキンスなんか巻き込んで…見ろ!結構落ち込んでるだろ!」

「今更!?と言うかホーキンスさんの心境は何故ドレーク少将が理解可能と!?」

 

 なんか本題と逸れている気がする。

 と言うか少将はホーキンスさんといつの間に仲良くなったんだ?そう言えばサンジ様の事も呼び捨てにしていた様な……。

 

「そういやお前らも北の海(ノースブルー)出身か」

「も?」

「まさかお前も!?」

「も??」

「テゾーロ一応言っとくけど死ぬなよ。──【うそつきノーランド】の件で聞きたい事があるんだけど…まじで正直者だったのか?」

 

 あ、拘束が解除された。

 シーナはサンジ様とドレーク少将とホーキンスさんと何故か盛り上がっている。

 

「くっ…シーナ貴様ァァア!」

「おー、勝手に喚いてろー」

 

 テゾーロは私と目が合うと周囲の金を集めていつでも防御出来るように身を固めていた。

 

「ほぉ…? 守るということは私の逆鱗に触れるした事は理解済みの様ですねェ?」

 

 あ、ナミさんはテゾーロそこ変わって!って叫ばない。あの人第一印象からどんどん離れてる。

 

「だ、だが楽しかったでしょう?」

「それなりに」

「では今回の事は水に流すという事で…」

「やっっっかましい!!!」

 

 グラン・テゾーロ全体に放送しなかった事は良かった、だがそもそもこんな話を提案するな!お前の部下のバカラさん見てみろ、どう考えても混乱している!私と同じくらい!

 ダイスって人は空見ながら遠い目をしてるから多分手遅れ!

 

「ハッ、貴女の弱点を握っていると言う事を忘れないでいただきたい!今ここで暴露…」

「したら、私は今すぐお前をドンキホーテに売」

「……するわけないですよねー!」

 

 お前のその変わり身の早さは凄いと思う。空気を読むスキルの高さだけは素直に感心するよ。見事な手のひら返しだ。

 

「私知りたいなー。昔から目立ちたくないとあれだけ念を押したのにネタに使われた挙句堂々身内と発表されて胃が痛くなるように仕向けたテゾーロの責任の取り方ー」

 

 まぁ許さないけど。

 ニッコリ笑いながら近付くとテゾーロはグルグル唸った。お前は犬か何かか。

 

「知りたいなー、どんな対価をくれるのかなー」

「…………ここで扱っている商品を安く売る」

「びっくりしたー!まさか………()()()()()()だなんて」

「分かりました費用はこちらで持ちますッ!」

「ヒュー!流石ァ!」

 

「……クソ、普段の仕返しか」

 

 こっそり呟いた言葉に無視をする。いやぁ、恨んでいるんだよね。これでも。

 必要経費を嫌がらせで求めてくるの。

 

「あ、そう言えば聞き忘れてたんだが。ホーキンスは何の用があってここに?」

「……今日はここに来ると良いと占いが。どうやら強力な伝を手に入れる事が出来るとか」

「事実だったな」

「みたいだ」

 

 テゾーロを「いだだだだだだ海楼石は卑怯…!」関節技で落としながら耳だけシーナ側に向ける。ドジってやらかす確率は奴の方が高い。

 

「ドレークは?」

「俺は…──人を探しに」

 

「……………ヘェ」

 

 カジノに居て目的が金稼ぎでは無い。その言葉にシーナは笑みを深める。

 

「情報屋を探している。知らないか?」

「じょーほーや?なんだそれ美味いのか?」

「…情報屋青い鳥(ブルーバード)。一つの情報にかかる金額は驚く程安いがその情報の質は正確性が高くほぼ100%正しい。裏界隈ではとても有名な情報屋だが、その代わり希少性が異様だ」

「えぇ、私も聞いたことがあるわ。そうね…本格的に活動を開始したのが5年くらい前だったかしら…。でもそれ以前から活動してると思うわ」

 

 裏の世界で生きてきたニコ・ロビンも知っていたのか。私の顔(じょうほうや)も大分有名になってきたな。

 

()()()()。取り引きは?」

「情報の選択は任せるが、してもいい」

 

 シーナが遠距離から能力を発動したのが分かった。私とテゾーロの声は外に聞こえないから堂々と話す。

 

「丁半の賭けで最初に賭けるした2億は必要経費代だって理解済むましたよね」

「もちろん」

 

「頼りにしてる」

 

 私は青い鳥(ブルーバード)のオーナー。

 初期メンバーは、金を動かし情報を手足の様に扱う仮オーナーであるテゾーロと、能力により様々な極秘情報を盗む事が出来るシーナだ。

 

 ここは私のもう一つの居場所。

 

「と言うか今回の作戦何?いつでも下克上出来ますよアピール?結構ガチで殺すされるかと思うしたんだけど」

「…………」

「おい」

 

ㅤこの世界で何度目かの命の危機に見舞われたがこれも平常だと思ってしまう。

 常識が凄く残念だった。




──来ませんでした!期待した人ごめんね!!わざとだけど!!わざとだけど!!!!

もう殆どバレてたけど更に暴露。テゾーロとシーナ、そしてついでにタナカさんは青い鳥のメンバーでしたわーい…………畜生。(バレてたのが若干悔しいの図)

ロシナンテはシーナになったけどコラさんでは無い(日本語の難しさ)
もしもローと再会したら大変な事になってればいいと思うの!!

最近の悩みは非公式リィンFC会員が増殖している事。なんでや。皆さんお気をつけて。あとマイナスイオン系は増えてほしい。


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第165話 それが真実

 8年前ようやく戻った海軍本部で1時間も経たないうちに初めて会ったドフラミンゴに誘拐された。そして幹部から逃げ出す為に箒が折れていたことを忘れドレスローザの王宮から飛び降りた。

 そんな理解のし難い状況でリィンが出会ったのは1人の男だった。

 

「名前、私リィンですぞ…そちらは?」

 

 男が答えた名前はリィンも記憶していた名前。

 

「フリッツ・へイヴ」

 

 ドフラミンゴが七武海に入る為に殺された元王下七武海の名前だった。なるほど、確かに見た目に見覚えがあった。

 リィンは冷静にそう判断をして話を続けた。何故生きているのか、見た事を言うな。そんな()()()()()やり取りをする。

 

 弱点がバーベキューだということも聞き出した。凄く要らない。

 

「───で、貴方は誰ですぞ?」

 

 リィンは同じ様な質問を遠慮なく聞いた。

 その事に驚いたのはもちろんその男。

 

「何を…」

「あぁ、答えはハイかイイエで懇願するぞです」

 

 リィンが死ぬ気で頭を動かして得た結論。

 

「元海兵でドフィさんの弟さん?」

 

 その問いに男が示した答えは──

 

「消えろ」

 

 ──口封じ。『ハイ』だった。

 

「消えませぬッ!」

 

 流石に最悪の場合を予想していたのかリィンはギリギリで避けた。ナイフが空を切る。

 男…ロシナンテはリィンに質問した。

 

「なぜ分かった、変装は完璧だった筈だ!」

「ちょ、まっ…ナイフ、停止停止…ッ!回答希望しかしながら現状ぞ不可能!」

「なんで避けきれるッ!」

 

 論点が変わっているが、刃物は小さかろうと間違いなく危険な物。しかし彼女が海軍に入る前の約2年間と入った後の2年間を考えれば剣術に特化してない男の小型ナイフ程度しっかり見ていれば避けきれる。剣帝と大剣豪のレベルは桁が違う。

 自覚してない──そもそもレベルが高過ぎる人間が多いせいで自覚させてくれない──がリィンにとってロシナンテの攻撃はかなり簡単に見切れる。それにロシナンテの本来の武器は銃と拳。

 

「殺す気が、皆無ぞですね!」

 

 元海兵という(さが)で幼子の殺害に迷いがあるのも見抜いていた。

 

「回答その1!におい!彼は獣ぞ血を好むしたのか不明ぞりが普段から血生臭きですぞ!」

 

 数歩距離を取るがあっという間に詰められる。戦闘経験に関しては比べるまでもない、ロシナンテの方が上だ。

 

「その2!彼は人付き合いぞ苦手の模様、弱点ぞバーベキューなど絶対知らぬぞ!」

 

 空振りの攻撃が続きロシナンテは思わず舌打ちをする。

 子供と舐めていた彼はナイフで足を狙う。足さえ傷を付ければ痛みで立てないだろうと思って。

 …流石に蹴り飛ばす事は控えた様だ。

 

「その3ッ!」

 

 リィンの背はロシナンテの半分も無い。6歳児などせいぜい膝丈だ。だがその背の低さを利用してリィンはロシナンテの足の間に潜り込み拳を握りしめ──狙った。

 

「〜〜〜〜ッ!」

 

 悶絶。あまりの痛さで声が出ない。

 子供の攻撃範囲など限定される。それならば一気に弱点を狙った方がいいと言う魂胆だ。

 

「……私が海兵故に機密と関係ぞ知ることが可能」

「海っ、兵…?」

 

 地面に倒れ込むレベルで痛みに耐えているロシナンテはリィンと同じ目線の高さだった。

 リィンはその顔を掴む。

 

「海軍大将女狐、最近噂が流水すた筈ですが」

「……めぎつね…えげつない…凄く納得した」

「えー…それで納得済ますか?」

 

 その後ロシナンテは箒を直す手伝いをし、リィンも予想してなかったことを提案した。

 

 

「なぁ、俺を手駒にしてみるか?」

「…………はい?」

 

 ポカンと呆気に取られた表情を見ながら笑うロシナンテの心情は誰にも分からない。ただ、懐かしそうに目を細めた。

 

 その日ドンキホーテ・ロシナンテはこの機会に本格的に消えた。しかし新たにシーナという男が世界に生まれたのだった。

 

 

 ==========

 

 

 リィンがテゾーロと出会ったのはずっとずっと昔。ドフラミンゴが七武海に就任するより前だった。

 

 彼女は世界規模配達中に当時非常に荒れていたテゾーロを1回沈めた。そしてお互い認識した、こういう人間がいるのだと。しかし行く先々でリィンとテゾーロは出会う。

 なんだこいつストーカーか?とか思っていたが向こうも同じ疑惑を抱いていた事を知ったので完全に偶然だと判断していた。

 

 4度目の時にリィンはテゾーロに助けられた。当時のリィンは当たり前だが今よりも体が小さくてカモには丁度いい。つまるところ絡まれたのだ、町の雑魚達に。正直な話彼女1人でもなんとか出来たが人目があり、助かった事に違いはない。

 

 本当に偶然の積み重ねだった。

 

「───ヘラヘラと笑うな…ッ!」

 

 今より7年前、偉大なる航路(グランドライン)で5度目の出会い。当時7歳だったリィンは1度殺されかけた。

 タナカさんと言う仲間を手に入れ、海賊として名を上げていたテゾーロの動きが非常に目立っており、仕方ないから様子見を命じられたとの事だった。偶然を装った必然の出会い、だが彼は目敏く『何かの命令を受けている』という事を嗅ぎとってしまった。

 

「ゲホッ」

 

 背中は地面、正面にはテゾーロ。その首を絞められて呼吸が出来なくなるギリギリだった。

 

 どこが事線に触れたのか分からない。

 この男のことを何も知らなかった。いや、知らない。いつまで経っても知らない。

 

「笑うな、笑うな!俺の前で…ッ」

「───なんでそいつに手を出している、ギルド・テゾーロ」

 

 リィンよりも苦痛の表情で首を絞めるテゾーロ。地面に押し付けられたリィンは抵抗が出来ずに意識を飛ばしかけた。

 その時聞こえたのは様々な感情を削ぎ落としたような男の声。その声にホッとしたのは今でも秘密だ。

 

「ドンキホーテ・ドフラミンゴ!」

 

 5度目の出会いの時にはリィンとドフラミンゴは知り合っていた。彼女は2人に因縁がある事は気付いていたが興味が無いので無視をしていた。

 

「答えろ」

 

 リィン曰く『顔面からしてやかましい男』がその時はビックリするほど静かで、言葉だってシンプルだった。

 

 テゾーロの手にしたゴルゴルの実は元々ドンキホーテ・ドフラミンゴの持ち物。テゾーロはオークションに出されていた実を意図した暴動に紛れ盗み出した。

 

「笑うからだ」

「……はァ?」

「コイツが、俺の前で、笑うから…ッ!」

 

 リィンはテゾーロの意識がドフラミンゴに向いている隙に逃げ出す。ゲホゲホと咳き込んでいた。

 

「ドフィさん…ッ!」

「リィン」

「───引きて」

 

 あまりにも予想外の言葉にいい歳をした大人2人が目を見開く。

 

「引く? なぜ俺が? ……お前を助けるように声をかけたからと言って何でも思い通りになると思うなよ。俺には俺の目的がある」

「それを承知の上で言うした!」

 

 その時のリィンの目的は2つあった。その為にテゾーロの力が必要だったのだ。『ある組織の本格結成』と『ドフラミンゴの敵にシーナを匿ってもらう』という2つの目的。

 だから『取り込むことに決めた』のだ。

 

 テゾーロとドフラミンゴの実力に差があると知ってこの状況を利用して恩を売ることに決めた。

 

「私は確かに怒るさせることをした、それは私の落ち度です。指摘された事は笑うし吹き飛ばすし、冗談にしようと模索すた」

「……」

「彼から手を引くする事、それの代価は『イブの相手をしたこと』と『ドンキホーテの機密』」

「…ッ、なぜ知った!」

「それが私の立場です!」

 

 空気がざわめく様な睨み合いが続く。

 正直な話をしよう、当時のリィンはドフラミンゴが天竜人だと言う事以外は何も知らない筈だった。勿論出会って1年間それなりに調べたが出てきやしなかった。

 

 ここから導き出される答えは『ハッタリ』だ。

 

 ドンキホーテ・ドフラミンゴが政府を脅して七武海になった事は知っている。そして悪知恵が働く事も、王家を失脚させた事も。

 

 何より彼女は機密と言っただけであって『なんの機密』かは言ってないのだ。

 今のなってはその程度の嘘など見抜けるドフラミンゴであるがその時ドフラミンゴはリィンの本質を理解していなかった。2人の交流も少ない。故にハッタリと気付かず言質を取られたのだ。

 昔リィンがフェヒ爺ことフェヒターにやられたように。

 

「…………分かった」

 

 ほくそ笑んだ。

 

「その代わりテゾーロはお前の監視下に置け、それが条件だ。説得は知らん」

 

 いつもの様に飄々とした笑みすら見せないドフラミンゴにリィンは流石に冷や汗をかいた。そうしてドフラミンゴの脅威からテゾーロは抜け出したのだ。

 ……リィンに毎日電伝虫が掛かってくる様になったのが丁度この時期からだったが素知らぬ顔をして。

 

「というわけで、私の手ぞ内に入るし組む事認めるしてくれませぬか?」

「…自分を殺そうとした相手をどうして助けるッ!?」

 

 その疑問はご最もだっただろう。

 

「助けるして、もらいましたから」

「……前の事か、そんな程度でなぜ」

「そもそも、私は本当の意味で孤立しやすい人間ですから」

 

 4度目の出会いの時助けた程度で。テゾーロだって子供を見捨てるほど腐ってない、そもそも自分でなんとか出来たであろう事は今回の事である程度分かっていた。

 だがリィンは笑う。

 

「ありがとうです。テゾーロが助けるしてくれた事が何よりも嬉しい。幸せなのです」

 

 もちろんそんなお綺麗な人間では無いことは長い付き合いで分かっていくのだが、そんな事を知らないテゾーロは目から鱗の話だった。

 

 ──ありがとう。あなたが私の為に一生懸命働いてくれた事が何よりも嬉しかった。私は世界で一番の幸せ者。

 ──私は心から幸せだった。

 

「…………………ステラ」

 

 テゾーロは膝から崩れ落ちた。

 ボソリと最愛の人の名前を呼んだがリィンは気付かず混乱するばかりだ。

 

 

 テゾーロの過去は悲惨な物だ。

 

 貧しい家に生まれた。歌を歌うことやエンターテイメントショーに憧れていたが、ギャンブル好きの『金』さえあれば手術の出来た父親を亡くし、歌を嫌う母親に暴言を吐かれ続けた(すえ)に家出を決意し裏社会を生きることになった。

 『金』で手に入れた仲間は『金』が無くなれば消えた。

 

 人買いに無理矢理連れられやって来たヒューマンショップでステラという少女と出会いをする。

 その後のテゾーロはひたすらに『金』を貯めた。ステラを解放するために、歌を褒めてくれた彼女の為に。

 

 テゾーロの生きる理由は『恋』に変わっていった。

 

 …──もう少しだった。希望が見えた。

 彼が真っ当な方法で貯めた『金』はもう少しで目標金額に達成する所だった。

 しかしステラは天竜人に売られてしまう。

 

 取り戻そうと必死になった。その結果『奴隷』堕ちなのだからテゾーロは悔しくて堪らなかった。焼かれた(ひずめ)の刻印よりも愛した女1人を守れない自分が不甲斐なかった。

 でも、ステラが生きてくれるなら。

 

 『ステラが死んだ?』

 

 聞こえてきた噂に絶望を覚えた。『許可なく笑ってはいけない』という呪い(めいれい)で笑顔を失っていたテゾーロはそれを期に壊れた。

 フィッシャー・タイガーの奴隷解放で再び自由を手にしたが、『金』への執着だけは忘れられなかったのだ。

 

 ──金さえあれば、金さえあれば!

 ──俺は!ステラを救えた!人生だって救えたんだ!

 

 テゾーロの気持ち、ただそれだけでステラが救われていた事など知らずに。

 

 

「えっ、テ、テゾーロ?大丈夫ぞ?もしもし?」

「……ッ」

「どわっ!?」

 

 テゾーロはステラと似た(きん)を放つリィンを引き寄せてその小さな体を抱きしめた。

 

「笑え」

「はい?」

「笑えよ」

「……え、えへへ?」

 

 その下手くそな笑い顔に、テゾーロは久しぶりに本当の笑顔を見せた。

 自分の為に何かをしてくれる事がこんなにも幸せなのだと、やっと気付いた瞬間だった。

 

「(これは、成功した、のか?)」

 

 そんな心境など知らずに外道初心者(おさない)リィンはこれからの事を考えていた。

 

 情報を集めるための布石は全部揃った。

 これが『情報屋青い鳥(ブルーバード)』の本格結成だった。

 

 

 

 ==========

 

 

「儲けもの儲けもの!」

 

 スキップしながら麦わらの一味の船に乗り込むリィンをテゾーロは笑顔で見届ける。リィンが背を向けているせいで本人に気付かれないが、あまりにもお粗末過ぎる作り笑顔だ。

 

「テゾーロ」

「チッ、分かってる」

 

 隣に並んだシーナがテゾーロを指摘すると嫌そうな顔をして舌打ちをした。

 

「子供かよ」

「黙ってろ」

「顔面からうるさい」

「喋るな存在からうるさい無音人間」

 

 バカラが離れた所で2人の仲の悪さに眩暈を覚えているが2人は気にしないタイプなので気にも止めず無視をしていた。

 

「タナカさん!2人をよろしくお願いするです!」

「俺、タナカさんだけ敬称付けてるのが謎」

「黙るして手駒」

 

 リィンが甲板の上から手を振る。

 出航だ、とルフィの声が聞こえていた。

 

「いやぁ、まさか武器などに続き宝樹(ほうじゅ)や海楼石がただで手に入るするとは」

「本当に今回だけですからね…ッ!」

「理解済みー!」

 

 リィンは一人上機嫌だ。仲間で遊び、様々な物がお金を掛けず手に入り、懐は潤った。放っておけば高笑いでもしそうな様子だ。

 

「じゃあね、シーナとテゾーロ!バカラさんも素のシーナは大変でしょうけど頑張るしてください!」

「えっ、い、嫌…」

「頑張るしてください!」

「有無を言わせない気ね……」

 

『黒ひげの情報を集めるしておいて』

『もしかしたら戦争の火種を作る原因になるかもしれない』

『戦争の事?あー、前に教えるしたけど兄の出生がね…ほら…』

『一刻を争うかもしれぬ故によろしく頼む』

 

 あぁ、任された。

 

「行ってらっしゃい」

「へぁ!?い、行ってきます…??」

 

 テゾーロの言葉にゆっくり動く船の上でリィンが戸惑いがちに慣れない言葉を紡いだ。

 

「リー!」

「はーい…!」

 

 その背を見えなくなるまで見送った。

 

 

 

 テゾーロにとってタナカは右腕だが、不本意ながらシーナやリィンは家族だ。それはシーナもまた同じ。

 兄や弟や親など明確な定義は無い。だが漠然と『家族』と認識していた。

 

 おそらくリィンも。

 

「俺たちって本当に性格悪いよな…」

「果たしてアイツが気付いているか否か」

 

 2人は声を揃えた。

 

「「否だな」」

 

 気付いていないだろう。

 ───意図的に情報を隠している、だなんて。

 

 リィンは信用し過ぎた。

 彼らは世界を相手に交易をするカジノ王と現王下七武海の元で潜入をしていた猛者。リィンはその歳ではなかなかに有能だ、大人とだって張り合える。

 しかし経験に差はある。テゾーロとシーナは紛れもなく強者であり、本来ならリィンに従う程度の能力では無い。

 

 それでも下にいるのは『家族』だから。

 

「白ひげ海賊団2番隊隊長、革命軍参謀総長、麦わらの一味船長。アイツは彼らを助ける事を目的としているが…俺達は全く逆だ」

「だよなぁ。革命軍の事、俺が掴んでないわけ無いってのに…。まさか1人で手に入れるとは思ってなかったけど」

「白ひげの所もそうだ、今どこでどうしているか、知らないわけないというのに……疑わない」

「それだけ信じてくれてるって事だろ」

「ハッ、俺達はその信頼を裏切っているな」

 

 知らないわけが無い。

 『家族』の大切な人の事を何よりも最優先で集めないわけが無いだろうに。

 

 リィンは気付かない。情報の入手が遅れている事に。

 革命軍のサボ──リィンが手にしなくてもとうの昔に掴んでいた。

 白ひげ海賊団のエース──彼が今現在、インペルダウンへと護送されている事もすぐに手に入った。

 

 麦わらのルフィをかなり本気で殺しかけた。

 

「…アイツに『盃を交わした家族』は要ら無い」

 

 『家族』という部類は、2枠だけでいい。

 

「世知辛いなぁ」

 

 シーナが思わず言葉を零した。

 彼の憎む実の兄と執着する物が同じ『リィン』で『家族(ファミリー)』とはなんと皮肉な事だろう。

 

「本当に煩わしいな元天竜人」

「人の傷口を簡単に抉るの楽しい?」

「かなり」

「お前の死相は俺が作る…!」

「それはつまり殺すって事じゃないか…ッ、お前の能力はシャレにならんだろう!」

「安心しろ、1割冗談だからよ」

「どこが安心出来るんだ、ど、こ、が!」

 

 2人は堂々と口喧嘩を出来るようになった。

 その事実はバカラの胃を痛めつけ、タナカのリィンに対する優しさが高まるだけだった。

 




はーいグラン・テゾーロ編これにて終了にございまーす!いつか『ゴールド編』も作ってみたいでござる…。
客観的に見れば事実。
しかし主観的に見れば真実。
前話とかけてみましたね。これがテゾーロ達の真実。

閑話休題!ひとまず青い鳥の概要をまとめておきました!(ドンッ)
情報屋青い鳥
目的[伝の拡大や居場所の確立]
副業[情報の販売]
情報を得る方法[リィン(国家機密や海軍機密を堂々と)テゾーロ(金を用いて手に入れるので幅広く)シーナ(海賊など内密に取り引きされている物や能力を用いた潜入)]
受け渡しの人選[リィンが認めた場合やメンバー個々のさじ加減]
なので物凄くレア度が高いです。知らない情報でも『知ってるがお前に情報は売らん』とハッタリかましているので実力が不明とされています。


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女狐隊編
第166話 徹夜は思考能力を掻っ攫う


もうそろそろウォーターセブンに入ると思いましたか?残念焦らしていました。
女狐(めぎつね)隊編(たいへん)スタートです。と言っても女狐隊と月組がワチャワチャするだけですが。

時間軸
アラバスタ
ジャヤ&七武海会議 ←ココら辺でのお話
ヴェズネ&空島
ナバロン
ロング
(火拳護送中)
グラン・テゾーロ


 女狐隊。

 幻なのでは無いかと(ささや)かれる大将女狐を証明する存在。

 

 彼らは白い衣装と赤の何かを身につけ、彼女の手足となり戦う。人々は女狐の直属の部下を畏怖を込めてそう呼んだ。

 

 海軍本部の再奥にある元帥室を守るかの如く存在する2つの向かい合った部屋。そこが彼らの住処であり仕事場。

 そこを覗いたものは始末される。

 流石に『女狐』という名前に喧嘩を売るほど海兵は愚かでも暇でも無いので、誰も中の様子など知らない。

 

 例え、中にいるのが生粋の海兵で無くとも。

 

「ボム!予算案の書類完成してる!?」

「それなら部屋向かい!大体まとめ終わってたからチェックに回した!後は先輩がしてくれる!」

「はッ!?おい、さっき行ったけど先輩達の部屋もぬけの殻だったぞ!?」

「ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙!また脱走した!」

「えーっと、今日誰が出勤だったっけ?」

「4人じゃ回しきれねぇ!レモンッ、取っ捕まえて来れるか!?」

「いや、あの人たち足速すぎて無理」

 

 発狂していても。

 

「武器申請書に海楼石使用書に最新版入隊一覧表まとめに被害額計算と請求に潜入報告書に派遣一覧作成……潜入報告書はまだいいとしてなんでウチらはこんなに重要雑務が回ってくるんだい」

「どう考えてもタイショー」

「どう足掻いても大将」

「どうやっても大将!」

「……だよね」

 

 死んだ顔をしながら書類を片付けていても。

 

──バァンッ!

 

「皆さん居ますか!?」

「こ、コビー!助かった!先輩が消えて人手が足りない!助けてくれ!」

「すみませんッ、クザン大将が行方不明です!」

「「「「あん…の脱走兵ーーッッ!」」」」

 

 仕事に追われていても。

 

「ひとまず俺が探してくる!オカンは提出締切を引き伸ばす交渉行ってくれ!元帥に!」

「今元帥は確かマリージョアで七武海達相手にしてたっけ。それ終わってから行ってくるよ…」

「あっ、ナイン!その被害額計算のやつ昨日更に追加されたって元帥が言ってたからちょっと待って!オカン貰ってきて〜ッ!」

「嘘だろ!?もう億越えてるんだが!?」

「叫べるならまだいける叫べるならまだいける叫べるならまだいける」

「もうあと2、3人手が欲しい。大将に提案してみるか、アンラッキーズ戻って来たら伝えよう」

 

 阿鼻叫喚であろうと。

 

「あっ、そう言えばクロコダイルが捕まりましたよ。皆さん気にされてましたよね」

「捕まったんだ…そっか…良いなぁ監獄」

「なんで俺達軍を選んだんだろう」

「命の危機とかもうどうでもいいや…」

「この選択肢はキツイ…」

「なんか、新聞では幼いビビ王女に恋をして国を乗っ取ろうと貶めたらしいです。なんと言ったらいいのか……凄い人ですね、クロコダイルって」

「「「「軍でよかった!」」」」

 

 これはリィンが船の上で手に入れたものにホクホクと満足をしている数週間前の出来事だった。

 

 

 ==========

 

 

「じゃあスモーカーさん、俺達噂の女狐隊がいるって部屋に行って送り届けてきます」

「聞く限り…元帥室の目の前だぞ?大丈夫か?」

「なら迷子にならねーな〜」

「いや、スモーカーさんが心配してるの絶対そこじゃないだろアホ。……コイツら移動届け提出する為に元帥室に特攻仕掛けた猛者ですよ?心配するだけ無駄だと思います」

「…………そうか」

 

 スモーカーは言いつけは守っても自由奔放過ぎる月組に思わず遠い目をする。暴走して走り出そうとしているリックをにこやかにグレンが絞め落とそうとしていた。

 

 アラバスタの件が終わりスモーカーは1年と持たず本部に戻る事となった。インペルダウン護送の任務とついでに異動となったのだ。

 

『女狐隊加入』

 

 此度の功績─クロコダイルの野望阻止─という事で名誉ある異動となった訳だが、実際はどうだろうか。女狐本人を知っているスモーカーにとって便利な存在に唾をつけておこうと考えているとしか思えない。

 

 押し付けられたBW(バロックワークス)の幹部2人とスモーカーを加入させれば月組は自然とついて回る。スモーカー、何とも便利な存在だ。

 

「名目だけだから俺は特に挨拶とか必要無いと思うし自由にしていいと思うが…あー…お前らは」

「分かってるわよう!あちし達が入るのは監視も含めてるのよねい?」

「……うん、きちんと理解はしてる。忙しいのは嫌だけど」

 

 (くだん)の2人が理解のある状態で良かった。船の上でリィンと関わりのあった月組と一緒に行動させていたのも効いたんだろう。

 

「さて、久しぶりに本部に戻ってきたわけだが」

「分かってる。言うな会長」

「1週間、多分寝れないな」

「は?」

 

 月組の不穏な会話に思わずスモーカーが首を突っ込む。本部に戻ってきただけで何故寝れないのか謎で堪らない様だ。それもそうだろう。

 

「あらら〜?月組じゃない」

「あ、クザン大将」

「なんでアンタがコイツらと面識持ってんだ?」

 

 スモーカーの言うアンタはもちろん突然現れたクザン。コイツらとは月組の事だ。元々雑用だった者達と大将とでは階級に圧倒的な差がある。その階級差で10年ほど同じ部屋で暮らしていたアホもいる訳だが、それは例外だろう。

 

「あー、あの子。名前なんつったっけ…。まぁいいや、792番君?あの子達が暴れてたよ」

「「「あぁ…過激派」」」

「なんだその不穏な会話」

 

 会話に付いていけないスモーカーが思わず首を傾げる。全く分からない。

 月組の中でも大人しめな性格をしているジョーダンがその様子を見て説明を始めた。

 

「月組の名前の由来って知ってますか?」

「いや、特には。お前らがそう呼ばれているのを聞いただけだが」

 

 ふむ、それもそうか。

 そんな副音声が聞こえそうな様子だった。

 

「リィンちゃんのファンクラブです」

「………は?あいつの?」

「リィンちゃんのファンクラブです」

「…あ、見た目か」

 

 『えー、アレにぃ?』と言って引き気味の様子だったが見た目がいい事を思い出してスモーカーはやっとこさ納得する。

 確かに月組の執着もそう考えれば普通…なのかどうか分からなくなってきたがまぁいい。

 

「現在正式なFC会員数は4995、+1です」

「おいちょっと待てジョーダン。お前が今入れた『+1』って俺の事だろ」

「うへぇ…もうそんなに居るのか。俺が前に聞いた時3000位だったんじゃないの?」

「増えれば布教速度は上がるんですよ」

 

 ギブギブと唸っているリックを無視して会員No.0のグレンがツッコミを入れた。しかしそれも呆気なく無視される事となったが。

 

「まぁ、それこそが僕達元第一雑用部屋『月と太陽』の幹部、通称『月組』って理由です」

「はァ…」

「ちなみに会長のリック曰く目標は一師団作れる人数に布教する事です」

 

 つまりあと2〜4倍という事。海軍本部を乗っ取る人数にはならないだろうが頭はおかしい。

 

「ヘェ〜、そんなものがあるのねい…」

 

 感心した声が呑気にも響く。その渦中にいる人間の部下になるというのにどこか他人事だ。

 

「生態には大体三種類ありまして」

「せいたい…」

「ほら、リィンちゃんって性格が…その…猫被ってて分かりにくいじゃないですか」

「あ、あァ、確かにそうだな」

「だから『見た目を知って性格まで夢見てる派』と『性格を知ってしまい見た目だけでも癒されたい派』って感じに分かれるんです」

「あ、ちなみに俺は後者」

「なるほど納得した。それでお前らは?」

「『見た目も性格も受け入れている派』です」

 

 キリッと真面目な顔をされたが内容が内容なので間抜けにしか見えない。とりあえずスモーカーは月組をこのまま部下として置くか真剣に考える事にした。

 

「まあ、過激派云々は大体分かった。各生態の中でもおかしなヤツらって事が」

「えぇ。禁断症状ですね」

「きんだんしょうじょう…」

 

 海軍はもうダメかもしれない。

 スモーカーは空を見上げて嘆いた。

 

 少なくとも、月組が将校─それこそ中将や大将辺り─になれば確実に終わる。もしも彼らがそこまで地位を上り詰めたのなら、その時の元帥は密やかに外道鬼畜と評価をくだされている潜入中の彼女だろう。

 まるで震源地に沢山地雷が埋まっている様な威力だ、世界が終わる。

 

「(アレは大分古参だが…果たして元帥になるつもりでいるのか?)」

 

 大将は次期元帥。

 海軍の中ではそれだけの地位という事だ。

 

 例え本人やセンゴク曰く名ばかりだろうと、女狐としての周囲の評価は名ばかりではない。実績と噂が付き纏う。

 

「(……辞表書いておこう。引退して平和な田舎で用心棒としてゆっくり暮らそう)」

 

 出された結論は極端だった。

 

「──居たぁぁあ! 青雉ぃいい!」

 

 つまらない現実逃避から一気に現実に引き戻された。少なくとも大将に向かって横暴な態度を取れる海兵が叫んでいる事だけは理解出来た。

 

「げ、早っ。んじゃそういう事で」

「どういう事だよ」

 

 なんだなんだと月組ですら首を傾げる。

 鬼の様な形相で一人の男が走ってくる姿を見てクザンは嫌そうな顔をした。

 

「そこ!そこの軍団!そこにいる脱走兵を確保してくれ!頼む!」

「じゃあなボム君!俺の書類は未完成のまま机の上に置いてあるからよろしく頼んだ!」

「てっめぇええええ!」

 

 スモーカー達が呆気に取られる間にクザンは逃げる。10年以上リィンから逃げているその逃げ足の速さとスキルは、新人の男に捕まる程レベルが低いわけが無い。

 

「我らの天使なら追い付いて縛ってるな」

「雑用仕事してたら誰かは週に一度見る光景」

「アレが引き継ぎかもな」

「平和だな…」

 

 常識が少し家出をしている月組の数名がチラホラ懐かしがるように呟く。すると追い掛けてきたチリ毛の海兵が諦めたのか減速した。

 

「追い掛ける時間があるなら書類さっさと終わらせて今日こそは寝る!」

 

 そして進行方向を本部の方に向けた。

 何とも情けない決意表明である。

 

「「「ちょっと待った!」」」

「ぐえッ!」

 

 リック、ニコラス、ハッシュ。その3名が慌てて海兵を引き止める。

 

 その理由は簡単な話。その海兵の隊服が見慣れた様子と違ったからだ。

 

 隊服というのは数種類存在するが、将校になるとかなり自由が効く。しかし背中に正義の文字を掲げなければならないのは基本だった。

 その海兵はベースは普通であり月組となんら違いは無い。腕まくりなど許容範囲内だ。

 

「なんで赤いスカーフなんだ?」

 

 将校以外は必ず付ける隊服の一部、スカーフが青ではなく赤だったのだ。

 

「あー…ひょっとして支部から異動してきた海兵達か?」

「戻ってきた、が正しいですが」

「なるほどな」

 

 赤いスカーフの海兵はほんの少し自慢げに笑いながら理由を言った。

 

「女狐大将が赤モチーフなモンで部下は揃って赤いの着けてんだ」

「お前、噂の女狐隊か」

「おう、そういう事だ。悪い、青雉の後始末付けないと業務回らないんでこれで……」

 

「「「まてまてまてまて」」」

 

 去ろうとするが再び3人に引き止められる。

 

「新しく女狐隊に入る人間が2人いるんだ!」

「それを届けに来たんです」

「仲良くしよーなー」

「「リックは口を開くな」」

 

 赤の海兵は目を白黒させる。その手の話が来たのは実はこれで10回目なのだから。

 少し部屋の外に出てブラつくとすぐ出てくる。

 

 ……それが引きこもって仕事に追われる理由の一つになるのだが。

 

「あちし達よーう、あちしはベンサム」

「…私は、パレット。ちなみに偽名」

「ちょっとパレットちゃん!?あ、あちしは本名だからねーい!?」

「いやそういう問題じゃない」

 

 赤の海兵とて偽名を使っている。彼らの先輩にも偽名の者はいる。

 だから問題はそこでは無いのだ。

 

「俺はボム。現在女狐隊の…雑用?」

「なんだ、お揃いか」

「おそろいだな」

「同じか〜…」

「地位は一等兵だからな!?」

「尚更お揃い。俺達も一等兵」

「おそろいだねぇ」

「よろしく頼むわ、俺達も女狐隊とは深く関わっておきたいし」

「違う!俺の言いたいことは馴れ合うとかそういうのじゃない!真偽だ!」

 

 こういう仕事はナインなのにとブツブツ愚痴りながらボムは2人を見た。スモーカーという将校が傍に居ながらも態度を変えない所は女狐直属の海兵、と言った所だろう。

 

「(くっそ…連絡が無いんだよ…。基本事後報告だから真偽が分からねェってのに…)」

 

 ボムこと元Mr.5。

 今日も今日とて上に振り回される。

 

 目の前の女狐隊加入予定者が元同僚だと気が付かず、どこまで話していいのか必死に頭を回転させていた。間違いなく苦労人だ。

 

「……俺が信用云々を口にするわけじゃ無い、誠意を見せろとかそういうのでも無い。問題はアンタ達が『大将の信頼を得ているか』と『大将を理解しているか』だ」

 

 落ち着かせれば出口は自然と見えてくる。

 ボムは自分の大将にとって敵か否かを見極めるだけだ。現在全てを把握してリィンと連絡を取れる元帥は居らず、アンラッキーズによる確認も取れない。

 

「(女狐隊に加入というのならコイツらは本人と会った筈だ。恐らく、中身と)」

 

 キッ、と睨みつけながらきいた。

 

「大将を一言で表すとどんな感じだ!ちなみに俺は真面目系クズだと思う!」

 

 アラバスタの内務処理に追われていたBW組は現在二徹目だった。

 

「……鬼畜外道?」

「……うん、鬼畜外道」

「よしっ!合格!アレは性格クッソやばいよな!とりあえず書類がやばいから手伝え!頼む!」

 

 月組で一番耳がいいグレンは後で殴られてしまえと思いながら口を(つぐ)んでいた。




次回は女狐隊のメンバーや内情などなど。

Mr.5→『海兵達(月組)に大将の正体バラすわけにはいかないしコイツら(ベンサム)が本当に加入予定者なのか見極めないといけない』
Mr.2→『この場の誰もが正体を知ってるから内緒話しなくても良いけど元七武海の部下だとバレない様にしないと』

お互い元BWだと知らない。知っているのはアンラッキーズとリィンだけ。
Mr.5達はガープ中将やコビメッポに、Mr.2達はスモーカー大佐や月組に送ってもらったのでまじですれ違う。

偽名
Mr.5→ボム
ミス・バレンタイン→レモン
Mr.9→ナイン
ミス・マンデー→ツキ(オカン)
Mr.2→ベンサム(本名)
ミス・ゴールデン→パレット


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第167話 狐と狸の化かし合い

「レモーーンッ!人手を手に入れた!」

「うそでしょ!?」

「その代わり青雉逃がして仕事が増えた」

「うそでしょ……」

「やるぞ、今日こそ睡眠時間を確保するんだ」

「う、うそでしょ…?」

 

 よく『うそでしょ』でこんなにも感情が表せるものだと新入りのMr.2(ベンサム)が感心する。

 

「そいつらが人手か?」

 

 Mr.9(ナイン)が視線だけを入り口に向けた。なお左手は算盤を弾いており、右手はペンで書類を仕上げている。器用さが売りのナインにしか出来ない技だろう。

 

 彼の正面で仕事をしているミス・マンデー(ツキ(オカン))は自慢の筋肉を使えずに凝り固まった肩を解していた。

 

「あちしはベンサム。能力者よう。女狐ちゃんが心友なの、だからコッチに連れてこられたって感じなのよぅ。……思ってたより死屍累々だけど」

「……パレット、よろしく」

「いい子だから安心してね〜ぃ」

 

 ミス・ゴールデンウィーク(パレット)は無愛想に挨拶をしたがベンサムがそれをカバーする。パートナーでは無かったものの、数日間の船旅で仲良くなっていた様だ。

 

「あたしはレモン、よろしく」

「私はツキって言うんだ。皆からオカンって呼ばれてるけどね…」

「俺はナインだ。ちなみに王様」

「「「ニセキング」」」

「随分仲良じゃなーい?」

 

 ベンサムが楽しそうに笑う。

 新しい職場の雰囲気が楽しそうだと思ったのだろう。彼らの元々の職場は失敗すれば即死亡の理不尽極まりない場所だったのだ、馴れ合いすら無かった。

 

「前の職場が大変だったから楽しみねい」

「俺達も前の職場は酷かったさ、まぁここは給料も働いた分きちんと入ってくるし上は打診してくれるしノルマこなせば待遇は良好だ」

 

 元職場が同じだと知らないが故にお互いに同情していた。

 

「女狐隊には2つ種類があるんだ」

「……それが向かいの部屋?」

「パレットは賢いな…」

 

 パレットは戦闘能力が低い。それはオフィサーエージェントの中ではもちろんだがそれより下のフロンティアエージェントよりも、だ。

 しかし、それでもMr.3のパートナーの地位に居たのは非能力者でも心理を操れる色彩感覚持ち主だけでは無い。勝利に執着するMr.3の真の頭脳となっていたからだ。

 

 自分の為にと集めた能力達が、今やリィンの元へとぶんどられているのだから不憫なものだ。

 

「こっちの部屋は『大将』が飼い主。向こうの部屋は『女狐』が飼い主だ」

「……つまり?」

「ハッキリ言っておく。俺たちは『リィン』って名前の人間の部下であり、向こうは『女狐』って名前の部下だ。女狐派って言って部屋に入らない部下もいるけどそこら辺は割愛する」

 

 女狐の部下、という物にはいくつか種類が存在する。

 

 ボム達にとって先輩─コビーやヘルメッポ─達はあくまでも女狐に従っている。つまり、直属の部下であっても手駒ではない。

 それに反してボム達はリィンという人間に従っている。それは、海軍を裏切ってでも手足になるという事だ。

 

 そこに明確な区別は無い。しかしお互い暗黙の線引きがされている。

 

 スモーカーの様な存在は、あくまでも所属や派閥というだけであってそれぞれが独立している。

 

 謎が多いからこそ、内部が複雑なのだ。

 他の大将と比べ、女狐リィン自体が海軍を裏切らない保証は無いのだから。

 

「ならあちしはこっちね」

「……私も」

 

 考える素振りも無く2人は結論を出す。

 説明をしていたボムはその結論の速さに思わず拍子抜けになっていた。

 

「あちしは心友よ、リィンの為に動くの。女狐なんで知ったこっちゃないわよーう!」

「……私は別にリィンって人間に執着してない」

 

 パレットは「でも…」と続けた。

 

「『女狐』より『リィン』の方が怖いから」

「「「「あーー…」」」」

 

 4人が思わず声を揃えた。

 ごもっともだ。噂よりも実害のある伝に関してはリィンの方があるので、どうしてもそちらの方が恐ろしく思うだろう。それを本能で感じ取れるのだ、この6人は。

 

 大将、とすると戦力に見劣りしてしまう。

 だがそれ以外の要因が働いていると察するのは簡単だった。

 

「ちなみに先輩達も俺のもお前達のも、過去についての詮索は一切無しだ」

「先輩って?」

「1桁しか居ないけど一部がサボる。するとコッチに仕事が回る。死ぬしかない」

「…頑張ってるのね、お疲れ様」

 

 流石に哀れんだ。目の下のクマは印象的だ。

 

「邪魔するぜ女狐隊!」

「お邪魔しまーす」

「おいこら!せめてノックはしろ!」

 

 ズカズカと流れ込む様に入り込んできた人間に流石に驚く。言わば裏切りの話をしていたのだ。

 

「あ、さっきの出戻り海兵」

「言い方」

 

 月組だ。

 彼らと顔を突き合わせていたボムが存在を思い出す。

 

「よぉ、アンタらがリ…──女狐の部下?」

「あ、デクス君。名前全員知ってるわよう」

「じゃあ遠慮なく。アンタらが噂の女狐隊でリィンちゃんの部下?」

 

 答えなど分かりきっている筈なのにデクスは聞いた。その笑みは楽しそうだ。

 

「僕達は月組。元第一雑用部屋のメンバーなのでそう呼ばれています」

「元第一雑用部屋は、リィンちゃんの表の住処」

「前まで表立って出なかった女狐隊が急に出てきたもんだから気になってきたんだ」

 

 口々に、だがわかりやすい様1人ずつ話す月組をリーダー格のグレンが一旦止める。

 

「俺達は一等兵って立場だけど海軍本部内じゃ一目置かれているんだ。…どっかの阿呆のせいで」

「ライザップさんもしかして俺の事?」

「俺は!グレン!」

「「「「そいつか」」」」

 

 頭痛がするのかグレンは頭を押さえる。

 

「幸い、スモーカーさんはリィンに関して寛容だったりする。で、だな」

 

 ニヤリと笑って告げた。

 

「仕事を手伝ってやろうかと」

「「「「神がいた!!!」」」」

 

 女狐隊の海兵達はちょくちょく月組と顔を突き合わせる事になる。

 振り回される立場で、同一人物の助けになりたいと思っている者同士仲良くなるのは極自然なことだった。

 

 

「……アンタ達は『堕天使』と『女狐』だとどっちの味方をする?その、将来的な話…」

「ん、あー、あぁ。簡単だな」

「「「「「両方」」」」」

「両方? もし、堕天使が海軍を裏切ったら女狐は…」

 

 月組は理解者だ。

 一番共にいた時間が長い。

 

 心を打ち明けた瞬間、秘密は守秘義務があるので理解できなかったが性格や考えに理解がある。

 

「お前らの心配する事にはならねぇよ」

 

 グレンは書類を渡しながら代表して言う。

 

「リィンは海軍を裏切らない。そりゃ、利用するかもしれないけど、前にアイツに言った事あるんだ。『全てを捨てて堕ちていくとは微塵も思ってない』ってさ」

「それ、キミが言っただけじゃない」

「そう、俺が言ったんだ。『リィンを理解した月組の中で最も冷静な俺』がな」

 

 ポツリと言葉をこぼす。

 

「暗殺者でも敵でも命は取らない。最後まで利用する。アイツは鬼畜外道な小心者だ、敵を遠慮なくやるが殺りは出来ない。最も、それが酷い結果に繋がってしまうんだがな」

「………うん、殺した方がマシな目か」

「敵でも殺せないから、今まで海軍の中で手に入れた物を裏切れる筈が無い」

 

 絶対にそうだ、と言いきれる自信がある。

 なぜなら月組は最大の理解者だから。

 

「その上欲張りだ。海軍本部内での立場を捨てないし、センゴクさんを敵に回す程愚かな事はしないと思うぜ?」

 

 リィンが海軍に留まることで手に出来るメリットは実は結構少ない。

 彼女には麦わらの一味という住処があるし世界を転々と巡ることが出来る手段と伝もある。その上彼らは知らないが『冥王レイリー(実の父親)』という絶対的な味方が付いている。

 

 情報が巡らなくても、手に出来る手段はある。

 10年という月日はそれだけの事を作れた。

 

 そのメリットの少ない海軍。

 裏切れないのはそこで手に入れた人間を捨てるほど冷酷になれないから。

 

「(絆す絆す言ってたけど、絆されてんのはアイツの方だよなぁ…)」

 

 月組は理解者。リィンが自分で気付けない事でさえ理解してしまう。

 

 上層部の人間を絆して利用していると思っているリィンだが、実際絆され利用されているのは彼女だ。『リィンが利用している』?全く逆、上はそれに気付いて『リィンを利用している』のだ。

 企みを手に取り、それを使いリィンを捉える。

 

 上に居座る古狸はさぞかし愉快だっただろう。

 自分を使おうと擦り寄る小さな狐を逆に化かして自分の手元に置くのだから。

 

「(狐は狸に敵わない)」

 

 狐七化け狸八化け、とはよく言う物だ。

 狐より狸の方が化かすのが得意。まさにその通りだとしみじみと思う。

 

「……ま、それを分かって黙ってるけどな」

 

 正義の組織にいてデメリットは無い。

 それだけで十分だ。

 

「──なんでそこまで理解出来るんだ」

 

 ナインが悔しそうに口を開く。

 

「リィンが性格を隠す事を辞めたからだ」

 

「大変だったな…」

「そうだな……第一雑用部屋最大の事件だった」

「アレは怖かった…」

 

 その時を思い返しているのか部屋の中にいる者達が口々に声を出す。

 

「アレ?」

「──第一雑用部屋襲撃事件」

 

 災厄吸収能力は昔から元気いっぱいだった。




DMとかメッセージボックスなどで展開予想されても大概はネタ潰しにならない様にネタを考えているから作者は結構平気。
ですが他作品に他作品ネタの感想は持ち込まないでくださーーーい。その作品にしか居ない読者様いるからね。人の地雷がどこに埋まっているか分からないのでほんっっと気を付けて。

あと運対気を付けてよ、まじで。感想書くスペースの下に青い文字で感想を投稿する際のガイドラインってあるからきちんと読む!分かったな!よっしゃ聞こえない!


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第168話 ご利用は計画的に

鼻「そう言えばお前ってゾロに対して辛辣だよな」
堕「初めはそうでも無いですたよ?」
3「なんでリィンちゃんはそんな態度に?」
堕「偉大なる航路入る前に実はお風呂場でエンカウントしたでして」
鼻「えっ」
3「えっ」
堕「あ…呼ばれるした。すぐ行くですぞー!」
鼻「えっ」
3「えっ、」


 

 女狐隊に入ったBW組。

 彼らには先輩が存在する。キャラも濃く面倒な人間が多い先輩がいる上に、BW組でも知らない先輩がいるらしい。

 

 コビーやヘルメッポなど可愛げしか無いレベルだ。振り回される側は流石に我慢ならない場合が多々ある。

 しかし、救いはある。先輩の中にもまともな人間は居る様だった。

 

「おはようございま……何事?」

 

 扉を開けて広がる世界に、女狐隊のまともな先輩(※BW組調べ)が驚きの声をあげた。

 部屋の中は普段の何倍もの人口密度と、死屍累々の後輩の姿。一応大将の仕事部屋、という事で広く設計されてあったので余裕はあるが、普段部屋の一角を埋め尽くす連なる山の様な書類が何故か消えていた。

 

「レイ先輩…おはようございます」

 

 サイリーン・レイ。4年ほど前から海軍本部では無くマリンフォードでの勤務であったが『女狐隊一斉スカウト(表向き)』によって本部へと集められた数名の内の1人だ。

 元々海軍に入る以前から女狐と出会ってた。正体も性格も知っているので極自然な流れだ。

 

「書類は?」

「……あのトリオです」

「あっ、多分あの人達中将に振り回されていますね。──じゃなくて、進度です。終わってないなら僕が手伝います」

「先輩本当に女狐隊の良心…」

「僕、こんなに大きな息子持ったつもりないんですけど」

「……」

「……」

「…………オカン。頼んだ」

「あいよ。ナイン、おやすみ」

「へァ!?ごフッ…!」

 

 ボケたレイ、そしてそれを見つめるMr.5(ボム)。ボムの言葉でマンデー(オカン)Mr.9(ナイン)を絞め落とした。

 一連の流れが分からないのは彼らの普段を知らない月組。

 

「今の何が起こった?」

「……さァ?」

「なんでナインがボコられた?オカン今生理?」

「しィッ!」

「おーいリック起きろー」

「すぅー…」

「──さぁさぁ此度もやってきました唐突に始まる答えの無い月組クイズ、問題は『何故ナインが死んだか』!」

「せぇえええッ」

「…ッ解は!」

「そう!」

 

 深夜テンションを引き摺っているのか遊び始めた月組。もはや何故ナインが云々は気にしてない様だった。

 そんな彼らにボムが冷静に告げた。

 

「ツッコミをしなかったからだけど…」

「「「えっ」」」

「えっ?」

 

 流石に理不尽すぎる答えに聞き返した。

 そこに疑問を持たれた事に驚き、ボムは目を丸くさせるが聞いていた月組は顔を見合わせてボソボソ話し始める。

 

「……めっちゃブラック。ツッコミ入れなかっただけで殺されんの?」

「女狐隊怖い」

 

 ……常識がズレていた。あと殺してない。

 そう言えばそうだったな、と思いながら頭をかき、ボムは大人しく説明を加えた。

 

「あのな、ナインはMr.ツッコミってあだ名が付くほどツッコミタイプだ。アイツが典型的なボケに反応しなくなったら限界。オカンに子守唄(物理)をしてもらうんだ」

 

 ナインの限界を確かめる方法の一つだ。彼はBW組の中で最も体力が無い上に既に三徹目、無理矢理意識を落として休息を得た方がいいだろう。

 なお、オカンに頼り意識を落とすのはこれで8回目だったりする。白と赤がモチーフの女狐隊の勤務内容は想像以上にブラックだった。顔色は青い。リィンの本質(だてんし)と同じ色だ。

 

「その感覚は全く分からん」

「ツッコミって通常営業?」

「反射的な何かだったか?」

 

 説明されても分からない一部が首を傾げる。その3人に向けてグレンが簡単な質問をした。

 

「……何も訂正して無い状態でリックが俺のことを『グレン』って呼んだらお前らは何を思う?」

 

「体調不良を疑う」

「偽物か確かめる」

「医者に連れてく」

 

 仲の良い答えが返ってきた。

 

「月組外じゃ名前を正しく呼ぶ事が正常だ」

「「「そうだったな…」」」

 

 ちなみにこの3人は頭が悪い訳では無いが良い訳でも無い。脳みその回転が遅いだけで物事の理解は出来る。

 リック(アホ)には誰もが匙を投げたが。

 

 3人がしみじみとグレンの言葉を反芻(はんすう)していると、バレンタイン(レモン)が戻ってきた。

 

「ただいまー……。出来上がっていた分サカズキ大将に書類提出して来たよ」

「レモンお疲れ」

 

 何故サカズキか。

 それは現在総括である元帥のセンゴクが居ない事と、本来仕事を分担すべきであるクザンの度重(たびかさ)なる脱走に原因があった。BW組は何度も繰り返される経験に基づき一つの答えを出していた。

 

 『例え怖かろうと一番まともに仕事する人に提出する方が仕事が速い…!』と。

 

 充分過ぎる程社畜だった。

 

「『今日も寝なんだか…』って呆れた目で言われた。笑えない」

 

 任務失敗=命の危機があったものの、本来の性格からか、それとも地位によるプライドからか、本人にしか分からないがレモンはBWでミス・バレンタインと名乗っていた時はキャハキャハとよく笑っていた。

 

「あぁ、笑えないな」

 

 彼女と長くパートナーを組んでいたボムが何度も頷いた。

 

「それで個人的なヤツらしいけど追加の仕事」

「もっと笑えない」

「内容はなんだったんだ?」

「マーロン海賊団のその後」

 

 ボムは死んだ目となり、代わりに月組のクーバーが口を出す。レモンが答えたが記憶にない。ソレを調べる仕事だと言うが、聞き覚えの無い海賊名に一同は首を傾げたままだった。

 

「聞いたことあるか?」

「待って、ここまで出てる。言葉の波が押し寄せて来る……ッ!」

「溺れてるじゃねェかよ」

 

 月組のサムが頭の上に手を置き思い出すようにうんうん唸っているが出てこない。

 最初から調べるしかなさそうだ。

 

「いや…それ元七武海」

「「「「マジか」」」」

 

 最年長のバンが軽く答えを放つと、その回答に驚きの声が漏れる。

 

「七武海って、昔の奴どんなのだっけ」

「仲は…悪いはず」

「何年前だァ?」

 

 今の七武海が濃いが故の弊害だった。

 月組は七武海と関わったことが無かったが、他の将校の話を聞く限り印象は伝わってくる。情報源になった将校、もちろんFC会員だ。

 

「資料庫ですか…」

「馬鹿じゃねーのって言いたくなるくらい広いよなァ、あそこ」

 

 地下にある保管庫。過去にあった事件や海賊のプロフィールなど無名の海賊であっても情報が記載されてある。

 だからこそ量は半端では無い。

 元七武海だと絞れていたとしても探すのに時間はかかるであろう。

 

 そこにある物が、一般兵の立ち入りを許可出来る程度のレベルの情報量だったとしても。

 

「一応人数絞るぞー…。グレンとリックはペアで行動して欲しいから保管庫は無しで」

「俺は荷物持ちか」

「何が荷物だ?」

「「「お前だよ」」」

 

 いくつかの声が揃うと不服そうにリックがブーブー言い始める。

 

「にしてもなんで今更マーロン海賊団なんか…」

「元王下七武海〝悪魔の片腕〟グラッジが船長のマーロン海賊団かぁ。グラッジは『アレ』曰く確実に死んでるらしいから、船員のって事か?」

「えっ、残ってる?」

「『アレ』って、あぁ、イル君か」

 

 月組の情報共有力を舐めてはいけない。軍艦にてクロコダイルから聞いた話は共有されてある。

 リィンの手で唯一殺した海賊だ。

 

「じゃあニコラス、クーバー、クレス。適当に数人引き連れて資料庫行ってこいよ。俺はスモーカーさんの所に行ってる」

「じゃあ俺は会員所。写真捌いて来る」

「じゃあ俺もー!」

「アラバスタの衣装写真って売ったら流石にマズイか…?でもあそこに麦わらの一味がいた事はどっちみち知れてる事だし大丈夫か」

「俺は仮眠取る」

「俺も」

 

 月組がバラバラと散ってゆく。その行動力と統率力や連携にBW組が驚きと尊敬が混ざった目で見ていた。10年間の仲は伊達じゃない。

 

「相棒、手伝おうか?」

「ボムッ、助かる〜…!」

「オカンも寝てろよ。体力は俺達の方がある」

「あー…じゃあ頼むよ」

 

 早々に寝落ちている新人のベンサムやパレットには何も言わない辺り優しさが溢れる。だがベンサム達はボムより体力もある筈だ。

 慣れない書類仕事のせいだろう、疲労困憊の様だ。

 

 BW組の6人よりも体力筋力戦闘力などが劣っている月組だが、約10年間も雑用仕事をしていたお陰か、こう言った仕事に慣れているようで徹夜でも動ける者が半数以上いた。

 ボムは心の中で思わず感謝した。そして評価は上向きにしたままグングン伸びる。

 

「(あの大将がボンド役なのにこんな頼りになる人達と出会えることになるとは…)」

 

 自分の主の評価は正直ろくでもない。

 

「じゃあ僕もついでなのでお手伝いを」

 

 雲の様にフワフワとした真っ白な髪を揺らしながら、レイもニッコリと笑って告げた。

 ……背筋が凍りそうになったのは気の所為だろうと信じていた。

 

 

 ==========

 

 

「あっ、先約」

「アレ、見ない顔だ。お邪魔します」

「見ない顔か?どっかで見たけど?」

「俺に記憶力無いの知ってるだろ」

 

 資料庫に入ると見知らぬ顔をした包帯だらけの海兵3人が資料を探している様だった。これではあまりおおっぴらにリィンの事を話せなくなる。

 

「見ない顔、って事は古参?」

「おー、まぁ古参。月組っていうんだ。今どき由来は知らなくても本部に居れば聞くと思うけど」

「ヘェ、知らなかった。俺達怪我で前線退いてる最中だから資料作成の仕事任されてんの」

「資料探し手伝おうか?」

「まじでェッ!いいの!?」

 

 器用貧乏であるクーバーの提案にサングラスを掛けた方の男が嬉しそうに飛び上がる。

 

「お、おい」

「な〜、いいアイディアだろ、兄弟」

「まぁ人手があって助からない事は無い」

 

 背中に隠れる様にしている男が服を引っ張るが、残りの2人は力を借りることに負い目を感じていないようだ。

 

「俺はアタック。で、こっちが双子のハミング」

「ども」

「で、後ろに隠れてるのは弟」

「……ハイター、だ」

「人見知りで顔みて話すの苦手だからあまり関わらないであげてくれ」

 

 アタックがニカリと笑いながら名乗るとここに居る月組やボム達も軽めの自己紹介を済ませた。

 どうやらこの3人は上司の名前は言えないものの無茶な命令でこうなったらしい。

 

 こうなった、というのも見ればわかる。包帯だらけの体の事だろう。中でも酷いのは弟だと言うハイターで、首から全ての指までほぼ包帯だ。

 

「(包帯まみれ…凄い既視感。見た事あると思ったらアレか)」

「(鷹の目に遭遇したらリィンちゃんいつもこんな感じだったな…)」

 

 月組は懐かしそうに目を細める。残念ながら結構な頻度で見た格好だった。

 

「(上司の命令なかなかに酷いな)」

「(アレ、戦闘は無いもののウチだって疲労度を表に出せばこんな感じじゃない?)」

 

 ボムとレモンはまだ見ぬ先輩がこんな目に遭ってない事を祈った。かなり望みは無いだろうが。

 

「調べ物は?」

「七武海の天夜叉、だったよな?」

「あァ」

 

 ハミングがハイターに確認をすると肯定の言葉が返ってくる。七武海と元七武海、調べる事はほぼ同じだった。これ幸い、勝手知ったるなんとやら、ここに来た月組の6名がバラバラとバラけて資料を探り始める。

 元雑用である彼らにとって書類を分けてしまう事など普段の勤務内容。場所は覚えている。しかして彼らの凄いところは『誰がどこを調べる』などと言わずに別の所で次々資料を集めていく事だ。

 

「月組ってもしかしてエリート…?」

 

 流石にボムが引き攣った声を出す。

 

「いや、そんなことないですよ。ただ、本部の雑用仕事で僕らに敵う人間が居ないだけです」

「10年間望んで雑用だったっけ?」

「えぇ」

 

 月組のジョーダンが手元の資料を捲りながら独白に返事をした。過去最長の快挙、しかもほぼ全員が、だ。兵士になれる機会などいくらでもあったがリィンの為にと留まっていた。

 男だらけの軍で娘や妹を連想させるリィンの虜になったのはかなり必然的な事。当時わずか4歳で怪我人。保護欲が働くのも無理は無い。

 

「ねェ、タイショーって昔どんな感じだった?」

「んー…天使、です。あ、その顔だと『似合わない名前だな』とか思ってますね」

「似合わない」

「絶対似合わない」

 

 声を揃えた2人に思わず苦笑いを零す。

 

「でも本当ですよ。あの子は礼儀正しくて少し大人びようと背伸びしている子供らしい子供で『あっ、これが尊いって感情…守りたい、この笑顔』って思ってましたもん」

「それが猫被ってた時期?」

「はい。襲撃事件で素の表情と態度を見て驚きましたが、それを機会に内面をさらけ出す様になってくれまして。………本当に嬉しかった、だから僕らはファンクラブを辞めないんです」

「『心許した』ってギャップにやられたのね…」

「ごもっとも」

 

 今度襲撃事件の事をお話しますね、と言うのでBW組と新入りとで話を聞こうとレモンが心に留める。大将の知らない話を聞くのはとても楽しい。

 

「(ここに来れて良かったなぁ。()()()()()()()()()()()()()()平和だし命の危険は無い…)」

 

 レモン達がBWとして最後まで戦っていたらどうなっていただろうか。牢獄か、脱出か。少なくとも今とは全く違い、太陽の下を堂々と歩けない結果にはなっていただろう。

 

 

 寝惚けた頭を必死に起こしながら資料を探すこと約1時間。包帯海兵3人も慣れない仕事に疲れた様子だったが目的の物を手に入れて満足そうだ。

 

「上の許可無かったら持ち運び出来ないからな。あ、借用書はアッチの紙。所属の部隊と階級、それとMC(マリンコード)が必要だ」

「持ち運びは多分怒る。書き写していくよ」

「お前の所の上も大変なんだな…」

「ボコられると言うか、なんというか。ま、それでも付いて行くんだけど」

 

 ハイターに蹴られ、アタックは慌てて机に向かって資料を写し始めた。

 どうやら彼の人見知りが発動するのは他人だけの様だ。

 

「結構簡単に入れたな…手続きとかあると思ったのに」

「そりゃ内容はしょぼいからな」

「せっかく集めた物を無くしたくないだけだよ」

「コレクション魂?」

 

 ハミングの声にオレゴが答える。機密性の高い情報は将校しか入れない上に元帥か大将の許可が必要だ。……まさかその大将が情報を手に入れてウハウハしてるとは思わないだろう。

 

「なァ、なんでこの天夜叉は嫌いな食べ物とか書かれてあるんだ?」

「…………少なくともどうでもいいこと書かれている事は分かった」

 

 アタックの疑問にハミングの表情がスンッと一瞬にして消え去った。

 なるほど、別に見られても問題ないわけだ。

 

「────月組!」

 

 資料庫突然入り込んでき海兵に驚き、視線を集めた。駆け込んできたのは雑用時代別の部屋に居た者で少し記憶がある。もちろん会員だ。

 

「〝千両道化〟のバギーがインペルダウン護送前に脱走した!このマリンフォードに居る!リアンの奴がここに居るから伝えてくれって…!」

「分かりました。今度こそ包囲を!」

 

 ニコラスが言葉を発すると6人が走り出す。それに続くボムとレモン。

 

「おい、あんたは…?」

 

 どうするんだ。

 先程から静かな白髪の海兵にそう言いかけたハイターは思わず言葉を飲み込む。

 

「『海賊』が…この島に、いる…ッ!?」

 

 レイの目には怒りが宿っていた。

 一心不乱に『海賊』の書類を探していたレイは、この場に突如現れた脱走した『海賊』に狙いを定めた。

 サイリーン・レイ、彼は昔所属していた自警団を全滅に追い込まれた経験を持っていた。

 

「……キミ達も緊急事態なので一応付いてきて下さい」

 

 リィンが陰で『寝首かかれそうで怖い』と評価を下す能力者の部下だ。




鼻「見つけたリィン!続きを話して貰うぜ!」
3「エンカウントしてどうなった!?」
堕「あー…。お風呂場ということで全裸では無きですか。私も出る瞬間ですたしゾロさん入る瞬間ですたし」
3「まぁそれは……」
堕「私思わず言うしたのですよ『ご立派ッ!』と」
鼻「いやなんでだよ」
堕「そしたらゾロさん私を見て『ハッ、お粗末』と…!怒髪天ですぞ!激おこですたぞ!」

堕「………でも流石に仲間を殺す気は無いですたのでルフィとナミさんにはバレぬように死ぬ気で隠すました」
「「あぁー…そうだな…」」

登場人物(モブ以上脇役以下)が多いのでサラリとまとめました。

BW組
(省略)
先輩
・サイリーン・レイ…海賊に恨みを持った良心。
・トリオ…登場にはならず
月組(グレンとリックは外す)
・ニコラス…月組のママン
・クーバー…Mr.器用貧乏
・クレス…Mr.平均値
・オレゴ…物理狙撃手
・ジョーダン…説明好き
・バン…最年長
包帯海兵(上司を秘匿している)
・アタック…双子で雰囲気は小型犬
・ハミング…双子で雰囲気は大型犬
・ハイター…弟で雰囲気は猫


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第169話 ですよね

 海軍本部マリンフォードに突如起こった凶悪犯罪者の護送船からの脱走。その話は瞬く間に広がってしまった。

 必要の無い人間にまで。

 

 大将に?元帥に?それとも守るべき市民に?

 

 いや、違う。

 

「止まれそこのお前」

 

 走る月組やレイ達を引き止めたのはガリガリにやせ細った貧相な身体と不機嫌な顔をした男。

 

「私は監察官のシェパード中佐である!」

 

 マリンフォードからナバロンに出向く途中の監察官だった。

 

「この騒ぎは一体何事だァ…?」

 

 止められたのは包帯海兵とMr.5(ボム)ペア、月組のジョーダン。そして唯一の将校で少佐であるレイ。しかし彼とて階級は下だ。しかも監察官とは分が悪い。

 

「か、海賊が脱走しました!」

「脱走だとォ?」

 

 シェパードは訝しげに眉を顰める。

 敬礼をして告げたレイはこっそり能力を発動させることにした。

 

「(〝雲の糸〟…!)」

 

 体から目に見えないほど細い雲が張り巡らされる。その細い雲はレイの体力を削りながらマリンフォード全体を探していた。

 

 クモクモの実の気象人間。

 レイは体力を削りながら自分の体を雲に変え、雲を発生させ、天候をも操る。

 

 青い海に住む誰より優れた『雲の知識』がその力を最大限に引き出していた。

 

「ハッ、海軍本部も落ちたものだな」

「〝千両道化〟のバギーはバラバラの実の能力者です。しかもずる賢い。おそらく能力を秘匿していたと思われます」

 

 1度バギーと対峙した事のある月組。ローグタウンで捕らえることが出来たのだが、その能力に気付かず取り逃してしまった経験を持っていた。

 『今度こそ包囲を』と言ったその言葉にどんな感情が込められていたかなど、連携が売りの月組を知っていれば簡単に分かるだろう。

 

 シェパードはそんなことを知らず鼻を鳴らす。

 彼が目をつけたのは赤のスカーフを巻いた女狐の部下である3人だ。

 

「なんだその隊服は。改造隊服は将校の特権なんだがねェ?」

「……申し訳、ありません。規則ですので」

 

 能力を使うが故に、体力を使う。

 呼吸が荒くなったレイが返事をするもシェパードは一等兵の2人に目を向ける。

 

 こんなことをしている暇など無いと言うのに。

 

「上は誰だ、こんなふざけたことを容認する人間は。監察官として言わせてもらうが非常に目に余る行為だ!」

「女狐大将…です…」

「ハッ、女狐ェ?」

 

 噂だけの存在にシェパードは呟いた。

 

「フン、昆虫食いか」

「……ッッ!」

 

 ある程度の名声が上がると、批判を浴びる。

 

 〝昆虫食い〟

 

 女狐の事を知らぬ者は、恐れる者は、妬む者は彼女の事を陰でこう呼んだ。

 意味は、特出した成果も無い雑魚潰し。

 

 ……残念な事に事実だ。

 

「テメェ…」

「下がりなさいッ!」

「でもレイ先輩!」

 

 いくら女狐の部下であろうと正当な理由があれば潰される。挑発に負けた方が終わりだ。

 怒り狂った様子のボムを、レイと月組のジョーダンが必死に止める。バレンタイン(レモン)は怒って居たが手を出そうとしなかった。しかし相棒を止める素振りは一切ない。

 

 ちなみにジョーダンは「(……うん、確かにそうですよね)」などと評価に納得していた。自称雑魚のリィンを知り、名ばかり大将だと分かった今、特に違和感がなかった。

 ……言い方は気に食わないが。

 

 アタックやハミングは弟のハイターを庇いながらジッと監察官を睨んでいた。目元が隠れていてよかったと思う。

 

「監察官に、その態度、いいのかねぇそんなことをして」

 

 手を出せば終わり、手を出せば終わり。

 

 手を出せば──。

 

「元々拾ってもらわなきゃ終わってたんだよ…」

 

 ボムが小さく呟く。

 

「たった数日間だったけど、それでも大将は俺にとって大事な大将になってた…。それを、大将を知らない人間が勝手に喚いて」

「──見つけました、廃倉庫帯のL-31です!」

 

 レイがボムの声をかき消す様に大声で言う。

 雲でようやく海賊を見つけた。

 

 だがその瞬間レイは体力切れで膝をつく。息はとても荒い。

 能力者だと知らなかったボム達や包帯海兵3人は動揺するが、月組のジョーダンだけは意識を切り替えた。

 

「アタックさんたちはレイさんを!ボムさん、レモンさん、行きます…!」

 

 ジョーダンとて、彼が能力者だと知らない人間だったが唐突な異変には慣れている。

 ボムとレモンを叱咤すると駆け出した。

 

「くそ…!」

 

 吐き捨てる様にそう言うとボムは足元を爆発させ、その爆風を利用して加速する。レモンも体を軽くし、ボムの前を突き進んでいる。

 

「待たないか貴様ら!」

 

 シェパードは彼らを追う。

 厄介なことにならなければ良いが、とアタックは見送った。彼らも将校ではないので手を出しにくい。

 

「アイツらも能力者だったのか…」

 

 ハイターは小さく確認するようにレイに言う。

 ゼェゼェと体力切れを起こしているレイだったが、視線は『海賊』がいるとされる廃倉庫に向けられていた。

 

「……ハイター君、すみませんが、ゲホッ、僕を運んでくれますか」

「なんでそこまで必死に」

「僕は、海賊が、ゲホッ。大嫌いですから」

 

 下を向いてゲホゲホと咳き込むレイ。

 

「──命を賭しても、なんとしてでも、潰す」

 

 その覚悟を聞いてハイターは深く息を吐いて決めた。

 

「オタクには書類探しを手伝ってもらった恩がある。手荒く運ぶけど文句は言うなよ」

「上等…!」

「と言っても場所は分から──」

 

 建物の隙間から爆風により浮かび上がったレモンがその目に映る。とても激しい移動手段だ。

 

「分かったわ」

「分かるな」

「…………行くか」

 

 ハミングがレイを担ぎ、追う。

 

「女狐も面倒なの抱えてるな…」

 

 頭が痛かった。

 

 

 

 ==========

 

 

 

「(くそ…なんだよコイツら…!)」

 

 〝千両道化〟のバギーは迫り来る包囲網に焦っていた。

 

「(ロジャー海賊団出身ってバレたからこのタイミングしか逃げ出せねェってのによォ)」

 

 包囲網の正体は月組。バラバラに散らばった彼らは逃げ場となる港や家屋などを目安に包囲網をジワジワと狭めていた。

 逃げ出した時間と視線を気にしてそこまで逃げていないだろうと判断したグレンが包囲網作戦を実行させたのだ。一等兵だと高を括っていたバギーは、人海戦術を用いた策略にまんまと引っかかってしまった。

 

「ここに来るとは思っていた」

 

 廃屋となった倉庫の一角に逃げ込んだはいいがそこには1人の海兵が立っていた。

 

「なんだよ、なんなんだよお前ら!」

「答える義理が無ェな」

 

 その海兵、名をサム。月組で会員No.18で、写真を撮るのは上手いが賭け事に弱い男だ。

 

 そして海賊の脱走にも包囲網作戦にも気付かなかった運の悪い男だったりする。

 なぜ気付かなかったか、それは交代でリィンの写真を捌いていたからだ。確実に自業自得だ。

 

「(やばいやばいやばいやばいやばい無理吐く)」

 

 特技はハッタリだった。

 

「(くそ…まさか逃げた先に海兵が居たのは!こいつの態度からみて作戦の内!出入り口付近にいるのは俺のようだがどこかで仲間が隠れて…)」

「(うわぁあこいつ最近懸賞金跳ね上がった〝千両道化〟…しかも出入り口塞がれてるし…)」

 

「「(──逃げたい!)」」

 

 海賊と海兵の心が揃った。

 逃げ出したいサムは猫をかぶる。さも想定内ですよ、と言った様子を崩さなかった。

 

「まぁ、まさかここまで単純な行動をしてくれるとは思ってなかったけどなァ…?」

 

 廃屋には光が少ない。幸いな事に震えている姿はバレない。

 サムは月組の誰かがスモーカーに自体を伝えてくれる事や、誰かがやって来ることを期待した。

 

 そしてその賭けに成功した。

 

──ボォンッ!

 

 爆発音と共に入ってきたのはレモンと煙を上げたボム。そしてサムの同期であるジョーダンだ。

 

「くそ!」

 

 バギーは不都合な展開に唾を吐く。

 

 そして続いて入ってきたのは包帯まみれの海兵に担がれた将校。レイだ。

 

「海賊…ッ!」

「(あ、ヤベェ)」

 

 レイの怒り狂った視線を向けられてバギーは一瞬にして察する。

 

 ──この男はヤバイ。

 

「見つけた、海賊…!」

 

 バギーを見つけたレイは怒りで目の前が真っ赤に染まる。赤い、血の色。記憶にこびりついた海賊への記憶。

 

 彼の生まれ故郷はもう無い。一人の男によって滅亡した。レイは唯一の生き残りだった。

 アテのない旅でようやく見つけた居場所。そこは村を守ろうとする勇敢な男達が笑いあって助けあえる自警団だった。だが、彼が様々な事を知り育った自警団は消えた。襲ってきた海賊により。

 怒り。憎しみ。悲しみ。

 

「…………殺したい程嫌ですが、僕は貪欲に強さを喰らう」

 

 目の前にはバギーという海賊しか見えていない。バチリ、と雷のなる前兆が聞こえた。

 

 雲の真髄は気象。雨を降らせ、雪を降らせ、夜に変え、雷を鳴らす。

 

「〝神の裁き(エル・トール)〟!!」

 

 『なんで、故郷を滅ぼせるんですか!』

 『……お前は知っているぞ。雲の力を隠し持っていた輩か。どうだ、こちらに来ないか?』

 

 想像以上の能力に全員が驚く。レイの体は雷を発生させる雷雲に変わっていた。

 

 『冗談じゃない!僕は、壊したくない! 母親の命を「医者の覚悟不足」で諦めたと聞いた時からずっと…!』

 

 いや、少し違う。

 まるでこれは…──。

 

「能力の暴走!しかも自然系(ロギア)だ!巻き込まれない様に離れろ!」

 

 アタックが慌てて叫ぶ。

 能力者の暴走で一番厄介なのは広範囲に攻撃を加えることが出来る自然系(ロギア)だ。

 

「〝ホワイト・アウト〟」

 

 その場に新たな声が響く。

 雲は煙に押し流されてレイの元へと集う。

 

「ス、スモーカーさん!あとグレン!」

 

 サムの嬉しそうな声。葉巻を咥えたスモーカーが手を煙に変えてレイを捕らえていた。

 戦闘歴も経験もスモーカーの方が上だ。

 

「サムとジョーダン。バギーを捕まえとくぞ」

「「ウッス…」」

 

 キレ気味のグレンに思わず2人は姿勢を正す。

 スモーカーはレイの姿を見た。

 

「アイツの部下ならしっかりしろ」

 

 とてもシンプルで簡単な言葉だったが効果は抜群。元々能力で体力を削っていたのだから弱ってもいたんだろう。肩で息をしながら四つん這いになっていた。

 

「正気に戻ったな」

「なん…とか……。すみません、ジョーダン君達の…」

「スモーカーだ」

「そう、ですか。スモーカーさ…!」

 

 ふ…、とレイの力が抜ける。どうやら雲に変わる事は想像以上に体力を消耗する様だ。

 そして海賊討伐に出かけない女狐隊なら尚更。

 

「性格がたしぎに似てる。頭痛てぇ」

「たしぎ??」

 

 たしぎの姿を見たことないボムペアが首を傾げるが、その疑問は次に入ってきた人物によって邪魔される事になってしまった。

 

「見つけたぞぉ!」

 

 監察官シェパードだ。

 ギャーギャー騒ぎながら文句を言っている。言いがかりにも程があるのだが、監察官という立場は特殊なのでスモーカーであろうと手を出しにくい。しかし首を切られてでも反発しようとする男がボムだった。

 

「…………おい、私闘は禁止だ」

「くそ、分かってんだよそんなこと…!」

「何をゴチャゴチャ言っている!そこの昆虫食いの海兵共!」

 

 ボムだけじゃなくレモンまで我慢の限界が近付いたその時、ハイターがボムの顔を見て言った。

 

「手を出したら海兵としての道は終わるんだな」

「あ、あぁ…」

 

 ハイターはニヤリと笑い言った。

 

「お前ら、随分と運が悪い」

「待て…ッ!」

 

 スモーカーが止めようとするがハイターは走り拳を固める。そしてその拳をシェパードの腹に思いっきりぶち込んだ。

 

「ガハッ!?」

 

 1発で沈んだシェパードを見下ろしながらハイターは鼻で笑う。

 その様子にアタックとハミングがやれやれと言った様子で肩を竦め苦笑いを零した。

 

「お前らなんで…!ハイター!?」

「あッ!」

 

 海兵キャップが地面に落ちる。ハイターは手に巻いていた包帯をしゅるしゅると外した。

 

「お前ら最近名を上げた…」

 

 ハイターは血色の悪い顔でニヤリと笑う。

 怪我のないタトゥーだらけの手を持ち上げると、アタックとハミングの2人がハイターにしがみついた。

 

「じゃあな」

「資料探しの手伝いありがとな」

 

「──〝ROOM(ルーム)〟」

 

 スモーカーが十手を手に取り3人に攻撃しようとしたが、あちらの方が早かった様だ。

 

「〝シャンブルズ〟」

 

 その場には3人の姿は消え、樽があった。

 

「えっ、ハイターが……人見知りじゃ無い?」

「そこじゃないだろ」

「海兵じゃなければ手を出してもいいって話じゃ無ェんだよ…! あの海賊共! 潜入と脱走を許しちまったじゃねェか!」

 

 スモーカーがガジガジと思いっきり頭を掻き毟った。

 

 

 

 

 

 

 

 七武海定例会議から帰ってきたセンゴクは胃痛薬を追加注文する。

 元王下七武海の国家反逆に加え更に起こった面倒事。

 ・〝砂姫〟の誕生

 ・〝千両道化〟の脱走未遂

 ・〝死の外科医〟の潜入

 ・監察官への暴行

 ・爆発によるマリンフォードの地面設備破壊

 他、3点。

 

 全て、なんだかんだと女狐に関係する事だ。

 

 胃痛持ちの元帥は小さな野狐に電伝虫で全ての気持ちを込めてこう言った。

 

 

 

「あぁ、お前か──外道」

『上司が酷い!』

 

 お前の影響の方が胃に対して酷いわ阿呆。

 

 

 

 

 

「レイ先輩?何してるんですか?」

「あぁ、今ナバロンに着くギリギリだと思うのであの監察官殿の船の上にスコールを、と思い」

「逆鱗に触れるとやばいタイプだこの人」

「まともじゃなかった」




ナバロンに向かう途中で嵐にあった理由はこういう恨みがあったから。
サイリーン・レイ君の出身はもう分かりましたね。過去はもう少し先で全貌が明らかになるはず。オリジナルキャラでした。彼は。

さて、一番問題の洗濯物3人組の本名は出してませんが…残念!!!!海兵じゃなかったのだ!!!
アタック=シャチ
ハミング=ペンギン
ハイター=ロー
アタックやハミングの言った上の命令はローの命令。包帯はタトゥーを隠すため


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ウォーターセブン編
第170話 知らぬは当人ばかりなり


 

 それは丁度リィン達がロングリングロングランドでフォクシー海賊団を泣かせ、嘲笑っていた最中の事。

 

 

 ジャヤで1億の首を取り逃し七武海入りの計画を果たせず地味に苛立ちが溜まっていた黒ひげ。

 名はマーシャル・D・ティーチ。

 

 聖地に赴いたラフィット─七武海からの精神的攻撃によりSAN値ピンチ─という仲間との合流の為に島に留まらなければならなかった。

 

「よォ、探してたぜ、ティーチ」

 

 その場に現れたのは2番隊隊長のエースと1番隊隊長のマルコ。白ひげ海賊団の主戦力だ。

 

「エース隊長じゃねェか、ゼハハハ!元気そうで何よりだ!」

「弟妹補給をしたもんでな」

「……エース」

 

 真顔で述べたエースの頭を、呆れた表情のマルコがシバキ倒した。しかしティーチはニヤニヤと笑うだけだ。

 

「連絡が入ったんだよい、匿名で」

 

 マルコが静かに話す。

 

 本来彼らは地道に記録(ログ)を辿ってここに来る筈だった。予想より早くなったのは『情報屋』と名乗る男から連絡が入ったからだ。

 電伝虫の番号を教えた覚えもない。だが、気になる発言を残して切れた。

 

『黒ひげならジャヤにいる。最高のショーを楽しみにしているよ、盃の長男ゴール・D・エース』

 

「まさかホントに居るとは思わなかったけどな」

 

 ──彼らは知らない。

 口の軽い情報屋のオーナーの手によって電伝虫の番号が共有されている事も。

 名前に動揺して本来の力を発揮出来なければいいと企んでいる事も。

 ジャヤに男の仲間がいた事も。

 最優先で黒ひげを探していた事も。

 

「あぁそうだ。妹を見たぜ、エース」

 

 その言葉にエースは物理的に燃え上がった。

 

 黒ひげは語る。1億の懸賞金であるルフィの首を手土産に王下七武海の称号を手に入れる予定だった事、そして残念だがエースの妹であるリィンの首では額が弱過ぎるという事。

 

 これでキレない兄はいない。

 語られた2人は弟と妹だ。

 

「そいつは俺の弟だ」

「!?」

 

 ティーチが驚いた瞬間、その場に一人の男が現れた。ラフィット、仲間だった。

 

「船長、七武海入り辞めた方がいいと思います」

 

 発せられた言葉を飲み込むのに少々時間がかかった。

 

「ラフィット、それどういう事だ…?」

「七武海ヤバい。ただそれだけです」

 

 分からない。分からないが、ラフィットの形相は必死過ぎた。

 

「クロコダイル氏が七武海の称号を剥奪されたのが残念でなりません…ッ!」

 

 その渦中に関わっていたエースとマルコは顔を見合わせて首を傾げる。

 国を乗っ取ろうとしたという情報は聞いているので、何故残念に思われるのか理解できなかった。何故、こうも同情されているのかも。

 

 自業自得、その言葉はピッタリの筈だ。

 

 残念な事に、彼らは知らない。アラバスタや世界中を混乱に陥れたあの放送を。

 

「お前、一体聖地で何があった……」

「船長がムサイからッッ!反発が!あの方達の反発は正直怖いところがあります…!」

「おい待て何の話だ」

 

 ラフィットは半泣きだった。

 困った表情のティーチ、船員からはムサイと言われそれ故に七武海をオススメしないなどと言われ、可哀想な所はある。

 

 

 

 

 しかし、それで殺意が収まる訳が無い。

 

「なぁティーチ。お前はさ、なんでヤミヤミの実を手に入れようとしたんだ」

「……海賊王に、なる為さ」

 

 ニヤリと笑ってティーチは手を闇に変えた。

 闇とは引力。全てを引き摺り込む力。

 

 引力は物体を無限の力で凝縮させ押し潰し、銃弾も刃も打撃も炎も雷も全て引き摺り込む。

 

 そして常人以上の痛覚と引き換えに、ある物も引き摺り込む事が出来る。

 

「〝闇水(くろうず)〟」

 

 能力者の実体。

 

 つまり、ティーチが触れると悪魔の実の効果は消える、ということだった。

 

 

 

 人の倍は生きている、王の首を狙う為に牙を研いでいたティーチ。

 

 

 

 

「ゲホッ、ゲホッ」

 

 ……基礎身体能力で、彼に敵う訳がなかった。

 

「面倒臭い能力だよい…!」

 

 街どころか島が滅ぶ攻防の果てに膝を着いたのはエースとマルコの両名。

 折れた腕を支えながら笑うティーチを睨むがその目に宿る覇気は少ない。

 

 恐れ。

 

 白ひげ海賊団の幹部2人で、まさか負けるとは思ってもみなかったのだろう。想定外の事態にエースもマルコも動揺の色が隠せない。

 

「ヤミヤミの実って言うのはな。〝悪魔の実〟の歴史上、もっとも凶悪な能力だ」

 

 

 

 ──彼らは知らない。

 電伝虫で情報をリークした男が、この結果を予想していた事に。

 負けると分かっていて勝負をけしかけた事に。

 

 

『…─…──〝火拳〟と〝不死鳥〟の護送情報確認完了。早めに戻ってきてくれ』

「俺はアンタの便利な道具じゃないんだけどな」

『成功したら祝杯を上げよう。昔東の海(イーストブルー)で美味い店を見つけてなかったか?』

「誤魔化したな」

 

 

 ジャヤで事の顛末を見守っていた男が『六式』の一つ〝月歩〟空を駆ける。彼の住処は月歩で数日。何、楽なものだ。

 

 

「──えぇ、その通りです。貴方達はVIP対象外になりまーす」

 

 道化の仮面は、上手くいったと笑うその笑顔を隠す為に付けていた。

 

 

 

 ==========

 

 

 

「平和だなぁ……」

「平和ね……」

 

 気候は春、時々夏。

 

「あ、ナミさんはあの金塊どこで入手したぞ?」

 

 グラン・テゾーロから次の島、ウォーターセブンに向けて船を進めることになった。

 航路が分かる理由は、そこが政府機関であるエニエス・ロビーと繋がっているから。行ったことはないが存在自体は知っていた。

 

「空島でね、蛇のお腹の中にあったの」

「腹?」

「そう、腹」

 

 よくよく考えれば空島の話は慌ただしくて聞けてなかった事に気付いた。空島は情報が無い。聞いておくべきか。

 

「空島では何が起こるました?」

「エネルとか言う神が出て来て…そこまでピンチでは無かったけど、今までで一番大変だったわ」

「エネル…?」

 

 聞き覚えのある単語に頭を捻る。

 

 話してくれてるナミさんには悪いが猛烈に気になって仕方が無い。

 

 私の部下には空島出身者が居る。

 空島で何が起こったとか、話してくれなかったけどその名前だけは聞いた事があった。

 

「……リィン」

「はい、何ですか?」

「……隠してること、無い?」

「ありますけど?」

 

 堂々と告げれば落胆した表情になる。下手に隠すよりは隠し事があるということを伝えておいた方がしがらみが無いと思ったんだが。

 

「お前変なところで度胸あるよな…」

 

 通りかかったウソップさんがそう言って去ろうとするが、ギョッとした顔付きで戻ってきた。

 

「……い、一応聞くが、お前ら何してんだ」

「へそくり計算」

「と、支出予定額決算に偽金探しぞ」

 

 バラバラと凄い勢いで札束が捲られて、紙に次々数字が書き込められているんだ。驚くのも無理はない。

 だけど書類仕事してたら片手で何かしながら書き物するとか慣れるから。しかも私は重要書類の場合スモさんやヒナさんの押し入れの中でやってきた経験がある。

 

「金、だいぶ稼いだな…」

 

 最初フォクシー海賊団から奪い取った6億、そして普通のカジノで3億初期費用で7億手に入ったから合計10億。丁半で2億消して5億の儲けで13億。更にルフィが10億賭けたから23億。

 

「黄金も売れたしね」

「3億行くならずは少し残念ですたが…」

 

 空島で手に入れた黄金はテゾーロに売った。黄金を手に入れようとしてるのなら問題なく買収すると思ったからね。

 

「古代遺跡の遺物があんなに安いだなんて」

「テゾーロは形より量を求めるですから仕方ないと言えば仕方ないですね」

 

 売却金額は2億。

 これで一味の合計資産額はざっと25億。

 

 更に言えば強奪した火薬や砲弾、船修理用の木材達も手に入っているので修理費はかなり抑えることが出来るだろう。

 使えない武器は売るしかないけど。

 

「ふっふっふー、山分け金額も大変な事になるですね〜。夢のマイホームが建つですよ」

「え?お前家持つの夢だったのか?」

「はい。赤子時代は山賊の家に居候、雑用時代は月組と雑魚寝みたいな感じですたし、今はメリー号。まともな家で住むした経験が無いのです」

「……お前の経験がエグすぎてヤバい」

「語彙力無いですね…」

「お前が言うな」

 

 もし上手く山分け出来たなら2億位が手元に残るだろう。それだけじゃ家は建ちにくい。建てれるんだけどサイズが足りないか。

 だがしかーし!私には大将としての給金がある!潜入特別手当は残念な事に出ないけど!

 

 最低でも4人暮らし用かな…。私は1人でゆっくり出来るなんて望みを早々に捨てた。

 

 断言出来る。絶対、何かは来る。

 

 1人暮らしの家を建てるより完全防備の私室を1つ作る方に金を費やした方がいいと思ってる。

 

「リィンちゃん、ナミさん。じゃがいものパイユ作ったんだけど食べる?」

「あ、食べる食べる」

 

 サンジ様がさらに盛り付けられた料理を持ってやってきた。ウソップさんにお前の分はキッチンだと言いながらナミさんに渡す。

 

「リィンちゃん?」

「……ルフィ見て思い浮かびますた?」

「……バレたか」

 

 じゃがいもを細く千切りスライスした物を薄い円形にしてチーズとデンプンで固め揚げた物。

 どう考えても『麦わら』だ。パイユの意味も麦わらだし。

 

「いただきます。サンジさんは凄いですね、毎日作ってその上こうやっておやつまで」

「餌付、じゃなかった。作るの楽しいから」

 

 聞こえなかったことにしておこう。私も得だ。

 

「皆!なんか、カエルがクロールしてる!」

 

 見張り台に立っていたビビ様が大きな声を出して航路とは少しズレた方向を指さしていた。

 

「いやいやそんな馬鹿な…──ってマジだ」

 

 ウソップが見て呟く。やだ…私にも見える…。

 傷だらけの大きなカエルが思いっきりクロールしていた。

 

 ビビ様は見張り台から飛び降りてルフィと共に船首にやってきた。

 ず、随分アグレッシブになりましたね、姫様。

 

 ……危ないのでやめてください。

 

「あのカエル追うぞ!」

 

 危ないので!やめてください!

 ルフィにしがみついて引き止める。

 

「は〜な〜せ〜ッ!離すんだリー!」

 

 私は必死に止めようと腰を掴むが、無情にもルフィはオールの元へと向かおうとしている。

 

「じゃあリーがあれ捕まえろよ〜」

「……大味そうなので嫌ぞ」

「食う事前提かよッ!」

 

 

 結局追いかけていきましたとさ。畜生。

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

「お前、今何を考えとるんじゃ」

「……昔の事を少しな」

「昔を憂うなど、珍しいの」

「自分でもそう思う」

「かぁ〜〜。こりゃまた珍しすぎるわい」

「うるせぇ」

 

 

 初めての任務失敗。

 そこで出会った、付き従ってみたいと思える女の話でもしようか。




「必殺、〝情報多量摂取〟…!」
ハイということで久しぶりのリィン……はフルで出なかった。だいたい4割。これがハロウィンのイタズラ(雑魚い)

なんか解説書こうと思ってたんですけどド忘れ。何か疑問があったら気軽に感想へどうぞ。

ひとまず前半について。原作との明確な相違点が現れ始めました。個人的な解釈もあるので断言出来ないんですが、黒ひげはマルコ含めても勝てないと思ってる。
後半、ここでの相違点はズバリ『黄金の換金』ですね。実はもうお金に変えてしまっているので、ナミさんの3億もぎ取るシーンなど諸々が亡くなります。死んだ。


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第171話 前言撤回!

 

「ウォーターセブンの記録(ログ)は1週間らよ、ゆっくりしていきな!」

 

 海列車。

 海の上を走る列車が走るところを間近で見ることが出来、シフト(ステーション)にいたココロさんというおばあさんに地図と紹介状を書いてもらった。

 

「あの、ココロさん」

「ん〜?なんらァ?」

「……あー、やっぱり何事も存在しないですぞ」

 

 いや、うん、流石に人魚じゃないよな。

 ジンさんに聞いた話だけど、昔アイドルみたいに綺麗な『ココロ』って人魚が居たって。シラウオの人魚で海藻(かいそう)みたいに鮮やかな緑の髪が波に揺れて当時1番人気だったとか。

 

 まぁいいや。

 

 

 ココロさんに素早く別れを告げ船を動かす。目的は船大工の仲間、そしてメリー号の修繕だ。

 

 〝水の都〟と呼ばれるウォーターセブンは目指し船を進める。

 ナミさんが貰った地図を見て唸っているが、それを完全に無視して海流を操作する。頑張れ航海士、私の代わりに。

 

「リィンちゃんちょっとアドバイスくれ…」

 

 困り果てた表情のサンジ様に呼ばれ仕方ないと、船の後方に移動する。彼は現在六式を習得しようと自分なりに訓練を積んでいるらしい。

 

 なんせそう簡単に出会うはずもなかった元海兵が2人も一気に出会ったのだ。力を手に入れようとするサンジ様が、アドバイスをもらいに行かない訳がない。

 

「それではサンジさんはどちらを?」

「月歩かな」

「あぁ、目標ですたものね」

 

 言葉で教わったけど体では理解できない。だからこそ繰り返すんだろう。

 

「……えっと…地面を10回蹴る勢いで…」

 

 人間が到達しちゃならない単語が聞こえた。

 

「あー、サンジさん。あくまでも参考にすて、自分の技を考えるしたらどうです?縛るした考えよりは自由と応用が聞くです。その代わりアドバイスなどは誰でも難しいですけど」

「リィンちゃんならどんな感じ?」

「んうぇ!? んー…、く、〝空中散歩〟!」

「まんまじゃねーか」

 

 昔マルコさんに背中に乗せてもらって空中散歩したなー、とか思いながら箒でぶら下がり歩く真似をする。

 通りかかったウソップさんが見上げながら呟いた。

 

「ナミさんナミさん!ウソップさんがスカートの下を覗くする!」

「てっめぇええ!嘘つくんじゃねーぞ短パン!」

「……ウソップ、マントの下にある服をちゃっかり見てるお前に執行猶予はないと思え」

 

 サンジ様に激しく同意。

 ウソップさんは脱兎のごとく逃げ出したが、人間の常識を超越(ちょうえつ)したスピードのナミさんに敵う訳が無い。あっという間に距離を詰められてエビ固めに苦しんでいた。自業自得だ。

 

「あ、ウォーターセブン」

 

 空を歩くように飛んでいたら遠くに物陰が見えた。遠目だと三角形に見える。

 

「ルフィ!目的地見えるした!」

「ホントか!?」

 

 嬉しそうに顔をパッと上げて私を見た。

 ……ん?

 

「じゃあ上陸するぞ〜!」

 

 ルフィはニコニコ笑いながら進行方向を向く。

 

「……」

「どうした?リー?」

 

 隣に並んで立って少し考えてみる。

 

 ……うん、やっぱりなんか違う。

 

 私は周囲の視線や空気に敏感だったりする、ヘタレだからね。

 私には分かる、ルフィはピリピリしてる。

 

 触れない方がいいな。面倒だし理由分からないし、それに面倒だし。

 ……………面倒臭いから。

 

 

 ==========

 

 

 

 白のレンガ作りの外壁に水を連想させる青や水色の涼しげな塗装。水の流れる大きな水路の隣には数字の書かれた上下開閉式のシャッターが見える範囲でも4つある。

 最も高い位置にある大きな噴水に目を奪われがちだが海の上に建ち並ぶ民家も綺麗だ。

 

「でっけ〜…!」

「私はグラン・テゾーロの方が魅力的かも」

 

 ルフィやビビ様の冒険児コンビが興奮した様子で声を漏らす隣でナミさんは顎に手を置きそう呟いた。ちなみに私は外装に興味はありません。

 住居や街に求めるのは安全性、ただそれだけ。

 

 ……グラン・テゾーロは金粉、ウォーターセブンは高波や津波が心配。

 

「正面がブルー(ステーション)って書いてあるわね、港はどこかしら」

 

 駅という事は海列車の乗り降りがここで行われるということか。

 適当に船を動かすかと考えた時、釣りが楽しんでいた地元の住民らしき人に忠告された。

 

「おーい、君たち!海賊が堂々と正面玄関にいちゃまずい!向こうの裏町に回りなさい!」

 

 お礼を言いながら船を動かす。

 なるほど、世界政府御用達の造船会社が存在しているだけある。海賊を恐れることのない戦力が備わっているとみて間違いないだろう。

 

 彼だけでなく裏町に回ると略奪かどうか聞いてくる住民もいた。

 ……肝すわりすぎだろ。

 

「やっぱり強い用心棒とかいるのかな」

「そりゃあもちろんいるでしょうね」

 

 1番と7番のシャッターが見える岬に船を止める。錨を下ろして帆をたたむ。特に何も問題がなく停泊の準備ができた。

 さらりと風が心地よく頬を撫でる。

 

 突然肩をポンと叩かれた。そこにいたのはゾロさんだった。

 

「うをッ、突然どうした?」

「それこちらのセリフですが」

 

 しばらく考え込むとゾロさんは頭をポリポリかいて今後やることを聞いてきた。

 

「……そうですね、4つに分けるしましょうか」

「なんで4つ?」

「役割です」

 

 ウソップさんの疑問に答える。

 

「まずライスバーガーさんの所に行く人は修理の依頼も一緒にすてほし──」

「──ちょっと待て!!」

 

「いやいやまってリィンちゃん、何その美味しそうな名前の人間。人間?」

「えっ、さっきの招待状が」

「「それはアイスバーグ!」」

 

 ウソップさんとサンジ様の同時ツッコミのシンクロ率、凄い。ツッコミにはこんな技術があったのか。

 

「アイスバーガーさんの」

「バーグ!」

「……アイスさんという所と造船所に行く人と」

「諦めたな」

「お腹空いてんだな」

「………食料補充するなどの人と」

「空腹か」

「確定したな」

「……………本屋」

 

 そして残りは船番という事になる。ウソップさんとサンジ様は少し黙っていてほしい。

 

「リィンが造船所とかの交渉に行く?」

「いえ、行くしませぬ」

 

 交渉事は常時私の出番だと言っていた。それ取られるとやること無くなるし、自分の思い通りに物事を進ませれないから。

 しかし私は今回即効で拒否した。するとナミさんは目をまん丸くして驚く。

 

「私ゾロさんと一緒に船番で」

「リィンちゃん本屋じゃないの?」

「そこは博識のロビンさんにバトンパスです。どうか、出来る限り、常識の範囲内にて、腐るした本のチョイスを!」

「そこで私に任せるのは予想の範囲外よ」

「だって唯一耐性ありそう!!!」

「…………そうね」

 

 周囲をぐるっと見回した後重々しく頷いてくれた。良くも悪くもピュア過ぎる。

 

「1番歳下が穢れててどうするの」

「私が居るしたは軍です」

「薔薇の花がさぞかし綺麗だったのでしょうね」

 

 健気過ぎて直視できないとか言ってた人のセリフチョイスじゃない。

 腐知識少ないビビ様が分からない業界用語を使ってくる辺りとても卑怯だと思う。私なら分かると思っているのか正解だちくしょう。

 

「──居るしたのはそれを食べる者」

「私にッ、その趣味は無いからァッ!」

 

 ニコ・ロビン実はリアクション豊かだったりしない?気の所為?

 

 とにかく私が直接関わる人や部下に腐女子や貴腐人が居なくてよかったと心から思う。ヒナさんと仲良くなれた一因がその存在だったとしても。

 ……うん、記憶に蓋をしておこう。

 

「そ、それでリィンちゃん。誰が何を担当するのが良いと思うんだい?」

 

 不穏な気配を察知したのかサンジ様が最大限顔を青くして話題回避に務めた。

 ナイスすぎる軌道修正にファンになってしまいそうだ。あ、前言撤回。ジェルマが面倒臭い。

 

「申し訳ないですが役職固定すて頂きたい方が数人居るです。まずゾロさんは誰が何事と言うしても留守番。こんな道が複雑かつ視界の悪き場所は怖いです!」

「そりゃそうだ」

「異議なーし」

「しようがない」

「特にないわ」

「賛成ね」

 

 動物組含めてゾロさん以外の人が頷いた。張本人は不服そうである。解せぬのはこちらの方なので大人しくしていてください。

 

「ビビ様とチョッパー君は本屋、必要文庫を買うしてください。お目付け役でロビンさんと、カルー?」

「クエー…ッ」

「なんで疑問系なんだ?ってカルー拗ねてるぞ」

 

 ビビ様は官能小説、チョッパー君は医学書。

 一応ストッパーだし考古学者だからニコ・ロビンを含めて。

 

 そういう意図を込めて答えるとカルーの言葉を翻訳したチョッパー君が進言した。

 

「護衛、だといいですねって感じ」

 

 サムズアップするとへこんだ。

 

「さて、次ですが」

「お前スルースキル凄いな」

 

 そのウソップさんの発言もスルーさせていただきます。一々まともに取り合ってたら疲れるんだよキャラの濃いヤツら。

 

「サンジ様は買い出しで。申し訳ないですが食料把握可能がサンジ様だけですて……」

「了解」

 

 何の異も唱えないサンジ様マジ天使。

 あ、前言撤回。私の天使はスモさん、意義は認めない。

 

「船修繕依頼と紹介状の方。ついでに船大工探しをナミさんに」

 

 基本はこれだけだ。というかここまで決めると戦闘要員の中で残ったルフィがナミさんに着いていくことになる。そして恐らくメリー号を1番愛するウソップさんは修繕依頼チームに行く。

 サンジ様が1人なのは腑に落ちないけど、強いし問題ないだろう。

 

「リィンはなんで外に出ないんだ?」

「ここが政府御用達故」

 

 絶対関わってやるものか。役人とかバンバン来るじゃん?政府だよ?『政府』御用達だよ?

 海軍御用達なら譲ったけど、政府は別。ここは譲れないよ?無理だよ?和睦などありませんよ?

 

「……私、顔写真付きの賞金首になりますたし」

「あっ、やっと自覚出たのね」

 

 ニコ・ロビンが毒を吐いた。

 物理的な毒は無効だけど精神的な毒は有効。

 

「は〜〜〜もぉ〜〜〜ニコ・ロビン世界政府的賞金首なのに子供の頃の写真とか狡いです!」

「ハイハイ」

 

 似顔絵は文字に表したら判明できるけど子供の頃の写真が1番分かりにくいんだよ追う立場として言わせてもらうと!

 

「質問ご要望は?」

「船の修繕はどれくらい使う?」

 

 そうだな、安めに済むならそうしておきたいが手抜きにされるのも不服。

 

「1億でひとまず交渉。用意する金額は2億でお願いするです」

 

 何事も無く、終わりますように。

 

 

 

 ==========

 

 

 

「アッ!」

 

 船番開始約10分。

 やり残しというか、しなければならない事をひとつ忘れていた。

 

「ゾロさんゾロさん!起きるして!」

「ん、あ?」

 

 甲板で悠々と昼寝をしていたゾロさんを慌てて起こし注意をしていく。

 

「いいですか、修繕の人が船の確認に来るした場合笑顔で好印象!」

「なんの話しだ」

「私忘れ物しますた!上陸するです!」

 

 私が進んで上陸。

 その言葉をゾロさんは少し目を見開いた後訝しげな顔をした。

 何を企んでいるんだと言わんばかりの表情、甚だ遺憾でござる。

 

「フォクシーから奪い取るした使用せぬ武器の売却が残るしてました」

「…………………はァ」

 

 深くため息を吐かれ少し不機嫌になる。

 こちとら一味の為に涙を流し(物理)頑張ったというのにそれでも仲間か。

 

「まぁ分かったよ、行ってこい」

「絶対船の外に出るはダメですからね!?」

「俺は子供か」

 

 岬は岩場なので足元が滑りやすい。断腸の思いで舗装された道まで目立つけど箒に乗った。

 石畳の上に降り立つと遠目でも甲板にゾロさんが見える。

 犬猫を追い払うかの如く手を払われたのでそれに対して舌を出すという幼稚な行動に移った。

 

 大人げないんだよバーカ!ボッチ!

 

 私は通りに飛び込む様に駆け出した。

 

──グイッ

 

「んにょ!?」

 

 ……ゾロさんの死角に入った瞬間、腕を引っ張られ湿った裏路地に連れ込まれるとは思ってもみなかった。

 災厄さんお仕事し過ぎです。

 



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第172話 メリー号の寿命

 

 水路をヤガラというウォーターセブン独特の乗り物で進み、1番ドックにたどり着いた一行。

 ルフィはナミとウソップの静止の声も虚しく造船所の中に入ろうとする。

 

「おっと待つんじゃ、余所者じゃな?」

 

 柵を跨ぎかけたルフィを、ウソップに似た鼻を持つ男があっという間に距離を詰め防ぐ。

 

 3人はその鼻に驚くも本題に移った。

 

「えっと、アイスバーグさんに会いたいの。これ招待状よ」

 

 そしてそこでアイスバーグが市長でありガレーラカンパニーの社長であり海列車の管理をしていることを知る。

 

「最強かそいつ!」

「ワハハッ!ひとまずわしがひとっ走りしてお前らの船の具合を見てこよう」

「ヤガラブルで?」

 

 ウソップの疑問に男は歯を見せて楽しそうに笑う。余所者ということは船大工の力を知らない。

 

「そんなことしとったらお前達待ちくたびれてしまうじゃろう?」

 

 驚きを企む。

 

「──10分待っとれ」

 

 ナミがその速さに聞き返した時、男は凄まじい速度で走り出した。その先に絶壁があろうと。

 

 男はウォーターセブンを自由に走り回るガレーラカンパニー1番ドックの〝大工職〟職長カク。

 

「人は彼を〝山風〟と呼ぶ」

 

 奥から秘書であろう女性と共に1人の男がやって来た。驚く3人に向かって自慢気に笑う。

 胸からひょっこりネズミが顔を覗かせている。

 

「ンマー!うちの職員を舐めてもらっちゃ困る。より速くより頑丈な船を造るには並の身体能力では間にあわねェ」

「………そっか」

 

 ルフィは走り去ったカクを姿を追う様に視線を逸らさなかった。

 

「どうした?」

「アイツ、飛ぶ時地面を3回は蹴った」

「ゲェ、化け物かよ」

 

 ウソップは嫌そうに呟きながら視線を追う。

 まるでその視線を遮る様に秘書が声を出した。

 

「〝麦わらのルフィ〟〝堕天使リィン〟〝海賊狩りのゾロ〟〝砂姫ビビ〟〝悪魔の子ニコ・ロビン〟以上5名の賞金首を有し総合賞金額(トータルパウンティ)3億3300万ベリー。結成は東の海(イーストブルー)の現在10名組の麦わらの一味ですね」

「仲間になった順番まで知ってんのか!」

「めっちゃバレてるぅー…」

 

 ウソップが死んだ目で後ずさる。

 予め『海賊も立派な客』だとリィンに知らされているので退く気は毛ほどもないが。

 

「こうして他のやつから聞いてみるとリーも海賊なんだなって思う」

「海賊の枠を越えてるもんな、アイツ」

「そうね、女神ね」

 

 ルフィの言葉にクルー2人は同意するが意味までは合わなかった様だ。

 

「カリファ、今日は何があった?」

 

 そう問われたカリファは幾つかの予定をスラスラと言い出した。その量は異様だ。しかし市長でもあるアイスバーグはこれらの予定を全てキャンセルするという横暴に出る。秘書は強く止めず淡々と了承の返事をした。

 

 無茶苦茶だと思いながらナミは紹介状を渡す。

 どうやら紙についていた唇のマークが気に入らず破ったらしい。

 

「ンマー!とは言えカクが査定に入ったんだ、話は進んでる。……どうせ今日は退屈な日だ、工場を案内しよう」

「仕事をキャンセルした男の態度か」

 

 意外にも案内と相談にはのってくれるらしい。

 それでもありがたいと思いながら3人は彼の後をついていく。

 途中借金取りに追われる〝艤装・マスト職〟の職長であるパウリーという男が視界の端に見えたが、アイスバーグはため息を吐いて無視した。どうやら常にあるらしい。

 

「いいルフィ、借金は絶対ダメよ」

「ダメなのか」

「借金はダメだけど貯金はいいわ」

「金はリーしか仕舞えないな」

「そうね、リィンは最高ね」

「常識だ!」

 

「あ、こいつらは気にしないでくださーい」

 

 ウソップが疲れ果てた顔でニッコリ笑うと同情された。涙腺に来た。

 

「あ、そうだオッサン!俺、船大工探してるんだけどよ」

「ん?船大工を?」

「なんだっけ、リーが前に言ってた…。あ、そうだ、サンジの時だ。勧誘したいけど親であるアイスのおっさんに許可取らなきゃならねぇって!」

「ンマー、いいけどよ。どんどん『リー』って子の謎が深まってきた…」

 

 ルフィの成長を心から喜ぶ話題の張本人が居ないタイミングで、ルフィは記憶力を発揮する。

 リィンの涙ぐましい努力を気にせず、一行は船大工を探す為歩き出した。

 

『クルッポー!パウリーの奴がまたやらかしてたっポー』

「いでぇ!耳を掴むな耳を!」

「すげぇ!ハトが喋った!……ん?動物って喋るのか?」

「普通は、喋らないわね」

 

 雑談をしながら道を進む。アイスバーグの好かれ具合に驚いていると、〝木びき・木釘職〟の職長ルッチがパウリーを引きずってアイスバーグの元へとやって来た。

 ハトが喋る理由はどうやら腹話術らしい。

 

 パウリーはナミに目を向けると目を思いっきり見開き真っ赤な顔して怒りだした。

 

「なっ、その女!足を出しすぎだハレンチめ!」

「は?」

「まぁまぁ落ち着いて」

「ぶっ!?カリファてめぇもだ!」

 

 麦わらの一味に引けを取らないキャラの濃さ。

 アイスバーグの苦労が目に浮かぶ様だ。ウソップはお返しにとばかり同情した。

 

「ハレンチだとかフレンチだとか、まーそんな事よりもよ」

「そんな事とはなんだ。ここは男の職場だぞこの野郎」

「おっさん達、メリー直せるか?」

 

 神聖な儀式の様に、船が造られる工程をバックにルフィが聞く。

 

 アイスバーグは船の具合にもよるので明確な答えは出さなかった。

 

「メリーってのは船の名前か?」

「おう!ゴーイングメリー号って言うんだ」

「そいつはアンタらの道具か?」

 

 ルフィはその問いに首を傾げた。

 

「メリーは仲間だぞ?そんで家だ!」

「お前、いい船長だな……」

 

「俺は、海賊王になる男だ。だから絶対直してくれよな!」

「一応それなりにお金は持ってるの」

「随分と無茶苦茶な冒険してきたから労わってやりてぇな」

 

 3人は自分達がメリー号に乗り続ける事を微塵も疑っていなかった。

 

 

 

 ==========

 

 

 

 ウォーターセブンの屋根を飛ぶ様に、カクは船が停泊していると言う岩場の岬まで猛スピードで駆けた。

 

「(参ったわい……確か堕天使は元海軍雑用…)」

 

 心中穏やかではない。

 

 この男、世界政府のCP9に所属している言わばスパイだ。カク自身に知名度は無い物の、同僚である彼の名は政府関係者に知れ渡っている。

 と言っても戦闘を生業とする者に限られるが。

 

 海軍の海兵、政府のCP、監獄の看守。

 雑用と言う存在は元々知りえないだろう。

 

 しかしだ。

 本来名を知るはずのない雑用でも、知っている可能性があるのだ。

 

「(ルッチの奴には、悪いが──)」

 

 『第1部屋所属雑用員暗殺任務』──の失敗。

 

 当時姿を隠していたと言えど、ルッチとリィンは1度対峙してしまっているのだ。

 たかが雑用と、簡単に油断する事は出来ない。

 

 願わくば、知らない事を。

 

「(何が付き従ってみたい、じゃ。ワシらは政府の駒。そんな事は敵わない)」

 

 同僚に申し訳ないと思いながらも頭は非常に冷たかった。冷静とも言う。

 目的の1部であるニコ・ロビンと共に不安要素がやって来たのだ。

 

 計画を、決行すべきか。

 

 『悪魔の子を手に入れ』そして『堕天使の口封じ』をする。『図形』の入手もこれを期に決着を着けるべきだろう。

 

 ──死人に口なし。

 

 不安要素など消してしまえばいい。

 

「(は、わしは、何をしとるんじゃろうな)」

 

 世界の為にとまで言わないが、何の為に力を付けて来たのか分からなくなってきた。

 成人すらしていない子供を殺す事になんの躊躇いも無くなってしまった。

 踏みとどまる理由は死体の処理や死亡の理由付けが面倒だという事、のみ。

 

 乾いた笑みを浮かべて目的の場所に辿り着いた時、船の上に居るのは剣士だけだった。

 

「船を見させてもらうぞ〜」

 

 目的の人物は2人とも居ない。

 

「アンタは……?」

「わしはガレーラカンパニーの職員じゃ、お前らの船の査定に来た」

「査定……」

「どこが傷んどるかのチェックって所じゃな」

 

 職人長のカクは人懐っこい笑顔を浮かべて愛されているメリー号を見た。

 

 

 

「………ほー、この船は随分大事に使われておるみたいじゃな。羨ましい」

 

 例え偽物の笑みを浮かべていても、その口から零れ落ちた言葉は彼の本音だった。

 

 

「どうだった?」

 

 しばらく周り続けて見たカクにゾロは不安を押し殺して聞いた。

 

「──この船は…」

 

 

 

 ==========

 

 

 

 カク査定結果。

 その言葉にルフィら3人はホッと息を吐いた。

 

「修理せんといかん所はあるがまだ乗れるわい」

 

「良かった〜…」

「大分長いこと乗ってきたからやっぱり心配だったんだよな……」

「空島から落ちた時は怖かったけどね」

 

 まだ乗れる。

 プロに査定してもらった結果だ、不安に思う事も無い。

 

「ただ、いつ竜骨がやられるか分からん。今の状態なら少なくともシャボンディ諸島まで持つとは思うが」

「修理したらどうなるんだ?」

「そうじゃな……新世界に行けるかどうか、と言う所じゃわい」

 

 乗り方と操縦の腕と気候次第と付け加えカクは説明する。なんにせよ、メリー号にはまだ乗れるという事に3人は有頂天になっていた。

 

「修理代いくらかかる?」

「ざっと見積もって100万以上1億未満じゃな」

「良かった、許容範囲内だわ」

 

 ナミは予想より安く済んだメリー号の修繕費に笑みを零す。

 

「しかしまぁ随分傷は深かったわい」

「山登ったり空から降ったり刺されたり折られたり……船だよな?」

「それは本当にキャラベル船か?」

 

 パウリーが真剣な顔で聞いてきた。

 ウソップは過去を思い浮かべながら確か船だったはずと考える。

 確か、が付いている辺り自信は無い。

 

「じゃがまぁ修理は少し待て」

「えっ、どうして?」

「この時期になるとアクアラグナっちゅう高波がくるんでのォ、そいつが終わってからじゃな」

「あくあ、らぐな?」

 

 カクは顎に手を置いて考える。

 

 修理に時間がかかり海を渡る足が間に合わなければ仲間を追うことも出来ないだろう。

 

「船を縄で縛りこの島に固定する方がいいかの」

「縛ることなら俺に任せて貰うぜ!」

「パウリーの仕事じゃから十分こき使ってくれ」

 

 チェックメイトまであと数手。




海軍側と、政府側で、同じ事件なのに認識に違いが生まれています。
襲撃と暗殺。これにはとても違いが。

私の中で海軍 政府 監獄は全く別物です。現代日本の三権分立に近い感じですね。それぞれ役割が違い、昔は独立した組織だったらいいなぁ、って妄想。
ただ日本の三権分立と違いお互いを監視しているのではなく利用し合ってる感じ。ここら辺の細かい所は本編で、ということで!


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第173話 本当に関わりがあったのは

 

 本屋に向かった2人と2匹。

 各々(おのおの)自由に本を物色していた。

 

 チョッパーは医学、ロビンは考古学、ビビはまぁ割愛する。

 カルーは主の姿を大人しく見守っている。

 

「ねぇミス・オールサンデー」

「なにかしら?」

「どこにあるか分からないから探すの手伝って欲しいのだけど……」

 

 ロビンはビビの様子を見て固まった。場所は恋愛小説コーナー。

 違う。多分目的はアダルティな所にあるはず。

 

「この白さをどうして変えられると思うの……」

 

 ある意味持ち合わせた純粋さに天を仰ぐ。

 衆道(BL)がオブラートに包まれた小説か何かを探そうと思うが、探すにしても場所が場所だ。

 

 未成年(ビビ)が手を出してはいけない場所。

 

「あー……えっと……そうね……」

 

 ロビンは過去様々な修羅場を乗り越えてきた闇の住人である。しかし過去最大級の『語り難さ』に困り果てていた。

 

「……心理描写を経験してはどうかしら。お姫様が求めるジャンルでは無くて男女の心理や価値観の違いを勉強することをオススメするわ」

「盲点だったわ…!」

 

 この場を乗り切れた事にロビンはこっそり息を吐き、無心に本を漁るビビを見た。

 

「…………ねェ、私は笑えているかしら」

 

 ニコ・ロビンはオハラ唯一の考古学者。

 なぜなら他の考古学者が海軍の手によって滅ぼされたからだ。能力者ゆえに溶け込めずに居た彼女を迎えてくれたのはオハラの考古学者。

 彼らは先人達の言葉を未来に残す為に、歴史を伝える為に、ロビンを逃がした。

 

 たまたま流れ着いた海兵、ロビンの友達でもある巨人族はクザンの手により氷漬けにされ。

 

 ロビンは全てを失った。唯一残ったのは自分の命だけ。

 笑えと言った、仲間がいると言った。

 

 世界は広いのだと。

 

「(私だってオハラの人間だもの)」

 

 歴史を解明し、伝えるのは我ら。

 

 1つ、ロビンはビビに言おうとした。

 

「──みつけた(CP9です)

 

 カツンッ、と。足音と共にロビンの耳に入ってきたのはタイムアップの言葉。

 

 ぞわりと背筋が凍った。

 

「ッ!」

 

 ロビンは咄嗟に口を開く。

 

「待って!」

 

 ピタリと仮面を付けた人間が足を止める。

 ロビンは震える手を握り締めて言った。

 

 もう終わりだ。

 

 

「私は、あなた達について行かないわ」

 

 ──過去の自分とは、もう終わりだ。

 

「……」

 

 仮面を付けた人間は想像していた反応と違う言葉に驚くも黙って聞く。ビビはロビンの異変に気付いた様で、ロビンのそばに寄った。

 

「知ってるかしら、私の船長さんはね」

 

 グランテゾーロでの二重作戦。船長3人が仲違いをし別働隊として動かす為に〝赤旗〟X(ディエス)・ドレークはルフィを煽った。

 

 『お前は船の船長だろ!残りのクルーと1人のクルー!どちらの命が重たいか、どちらを捨てればいいか、命に終わりがあることを学べ!将たるもの冷静さを見失うな!』

 

 二重作戦はロビンの発案で、煽る為のセリフを考えたのもロビンだ。

 ロビンの心の代言とも言える言葉を聞いてルフィは迷うこと無く答えた。

 

 『俺は例え誰だろうと見捨てねぇ!見捨てたくないから、仲間だろ!命を賭けてでも助ける!』

 

「──絶対、私を見捨てないわ」

 

 ロビンは笑う。

 

「だって船長さん、世界政府に喧嘩を売ってでも私を取り戻そうとするわ。そんな事させる訳にはいかないのよ」

 

 そんな大それた事した時は胃痛持ちの雑用が悲鳴を上げることは簡単に想像付く。ロビンはそんな光景を想像してクスリと笑った。

 

 そして腕を組み自信たっぷりに見下す。

 

「あなた、そんな仲間は居るかしら?」

 

 煽りよる。

 

 カルーがビビの前に立ち庇いながら遠い目でロビンを見ていた。

 

 そんな煽りをものともせず、敵は少し考えた素振りを見せるも即座に行動に移った。

 

「な…ッ!」

 

 ロビンはあっという間に背後を取られる。

 仮面の人間がロビンを半殺しにして捕らえようとした瞬間、聞き覚えのない声と鎖の音がロビンを救う。

 

「〝ストロング(ライト)〟!」

 

 声の主は鎖に繋がれた拳を飛ばしている海パン姿の男だった。変態だった。

 敵は仮面の下で小さく舌打ちをするとその場を一瞬にして去る。その姿は見えなかったが2人と1匹、そして男もホッと息を吐いた。

 

「アウッ、お前ら大丈夫か?」

「え、ええ。ありがとう」

 

 海パン男と会話するロビンの後ろにビビはそっと隠れた。当たり前の反応だ。

 いくら助けてくれたといえど王族として教育されていればこの男が変態か否か、関わるべきか否か、など考えなくても分かる。ビビの脳内ではチャカとペルとイガラムとコブラが脳内会議で即判決をしていた。

 

「にしてもなんだありゃァ」

「心当たりはあるわ、政府の手先ね」

「………政府か。また面倒な」

 

 男は顎に手を置いてロビン達に同情する。

 政府御用達の島とは言え、好かれているかといえばそうでも無い様だ。彼の様子を見て嫌悪の感情が見て取れた。

 

「とにかく助かったわ。あの場で(かわ)せる自信が無かったの」

 

 ふとロビンは思い浮かんだ。

 

「そう言えば随分タイミングが良かったわね」

 

 まさか監視されていたのかと警戒した。その考えが伝わったのか男は慌てて手を振り否定する。

 

「あんだけカッコイイ啖呵切ってたら気にするだろ、あんたの所の船長は幸せもんだ、って!」

 

 どうやら完全に偶然らしい。

 最後の煽りは最高だと語る様子に嘘偽りは無いようだ。

 

「俺ァ解体屋のフランキー。岩場の岬北東にフランキーハウスつー所があるから困り事があれば頼れ、家のヤツらも力を貸すぜ?」

「……そう、ありがとう。ニコ・ロビンよ。こっちは」

「ビ、ビビです…。フランキーさん」

「クエッ!」

「俺はチョッパーだ!」

「あら?船医さんいつの間に?」

「ちょっと急いで帰らなきゃならなくなったんだ!悪いけどフランキー、時間があったらでいいんだけど、買い物終わったロビンとビビを船まで送ってくれないか?」

 

 いつの間にかやってきたトナカイ型のチョッパーは挨拶もそこそこに街を走り抜けて船の方向に消えていった。そのリュックには本をいくつか持っているのが膨らみで分かった。

 目的のものを探すのに集中していたらしい。この騒動に気付かず、更に慌てる様に走るチョッパーは残された者達に微妙な空気を生んだ。

 

「……あの動物喋るのか」

「ようこそ常識がおかしくなる世界へ」

 

 常識のおかしい常連者に見守られながら、常識のおかしい予備軍がウェルカムと両手を広げた。

 

 

 

 ==========

 

 

 

 CP9がリィンを気にするのには、普通に生活していたらまず有り得ない出会いをしているからだろう。

 

 当時、間者を海軍本部に送り込んで居た世界政府は『リィン』に価値を見いだした。その血筋から来る戦闘能力等は今後に期待できる。

 

 しかし彼女の価値を見いだした時、タイミングが悪かった。

 元帥や三大将と面識を持ち合わせ義理の祖父はかの英雄。更には謎の大将が七武海を秘密裏に暗殺するなど海軍本部の力が変動していった時期。

 

 挙句の果てに本人は七武海の一部と交流を持ち始め、特に天夜叉であるドンキホーテ・ドフラミンゴの執着は目を見張る物だった。

 口を滑らさないかの監視や嫌がらせだったとは流石に政府も思うまい。

 

 突ける隙、政府に取り込める隙が無かった。

 

 政府は変わりゆく海軍を支配体制として自分達の下に置いておく自信も無くなっている。そんな時彼らは新たな戦力となりそうな子供をどの様に対処しようとしただろうか。

 

 

 それこそ、『第1雑用部屋襲撃事件』──政府はその事件を『第1部屋所属雑用員暗殺任務』と呼び行動に移った。

 

 問題は『リィン(こじん)』では無く『第1雑用部屋(しゅうだん)』であった所。海軍本部はこの事件をリィン狙いだと思った。それもまた事実。しかし政府は月組ですらも狙いを定めていた。

 

 理由は単純に見えて複雑となっている。

 

 

 何故リィンを見つけられた?何故リィンを知った?海軍の最重要機密とも言えることを?

 

 

 答えはその間者にあった。

 

 

 

 ──FC会員No.26。

 当時潜入していた間者は雑用として海軍を監視していた。雑用ならば海軍本部という組織に捕われず様々な所へと赴ける。

 ……リィンと同じ様な考えで雑用に居た。

 

 彼はそこでリィンを見つけた。印象に残らぬ様に、尚且つ程よい距離感で。

 幼く経験の浅いリィンはその企みに気付かなかった。それは同期の月組もまた同じ。

 

 

 政府は第1雑用部屋の襲撃と同時に間者を自然に取り戻す行動へと出た。

 

 『死人に口無し、だ。海軍の駒予定のモンキー・D・リィンと共に、間者であるアイツと関わりのある目撃者(なかま)を──消せ』

 『『ハッ!』』

 

 もう誰が命じたかなど覚えていない。

 

 そして間者を取り戻し、記憶に残っている雑用共を消し、政府が動かせない新たな戦力を潰す。

 

 シンプルで、複雑で、八つ当たりにも等しい。

 

 

 そして(きた)る日の真夜中。

 今から約6年前の話。

 

 暗殺者として差し向けられたロブ・ルッチは体格も姿も顔も髪も、何もかもを隠し闇に溶ける様にその部屋の中に姿を現した。

 

 鍵は開いてある、中にいる間者が開けていた。

 訓練も積んでない雑用がその事に気付くなど有り得ない話だった。

 

「(やってくれ)」

 

 もしも途中で誰かが気付けば間者は敵に怯える振りをすることになる。そんな面倒な事はごめんだと思いながらルッチに合図を送った。

 

「(まずは1番の目的…───!)」

 

 『人刺し指』が向かうのはもちろんリィン。

 しかし彼らは知らなかった。

 

 

 眠 り を 邪 魔 し た 者 の 末 路 を 。

 

「……ッ!」

 

 たとえ義理の兄であろうと眠ろうとする所を邪魔したのならば部屋から甲板に向けてぶっ飛ばす程の火事場の馬鹿力……いや、微睡みの判断力。

 

「ヴアッ!」

 

 リィンに襲いかかった突然の殺気。

 日々人の顔色を観察し、戦闘狂と対戦に無理やり付き合わされていたリィンが殺気を感知する事はまさに朝飯前。

 

「………誰ぞ貴様ァ…」

 

 寝ぼけな眼でリィンは攻撃を避けると睨み付けた。その拍子にリィンがぶつかってしまった月組の誰かが目を覚ます。

 

「お、おいッ!なんかやべぇの居る!」

 

 なんでこうなってしまったのか。

 ルッチはそう考えたが力量差など見て取れる。

 

 しかし微睡みの判断力は本領発揮する。

 

「………………サムさん」

「は、はいっ!」

「……本日の不眠番にスモさんが居る故に呼ぶ」

「い、行ってきます!」

 

 頭の回転速度が異常であった。何故不眠番などを把握しているのか分からないが怒りが見て取れるのでサムは何も触れずに走った。

 もちろんルッチは止めようとするが、ある意味覚醒しているリィンは想像以上の判断力を発揮。

 

「邪魔、するなぞボケがァァ!」

 

 それが『伝令』の事なのか『睡眠』の事なのか誰も触れないが、月組にリィンの本性がバレた瞬間だった。当然、間者を含め全員が驚いた。

 

「貴様が誰か知りませぬるがァ?年端も行かぬ小娘に奇襲を仕掛けるなど圧倒的弱者!……深く海の底にて沈むし足掻くしろ」

 

 月組を背に庇い啖呵を切る姿にルッチは何を思ったのか知らないが、興味を抱いたのは事実だ。

 

「チッ、時間をかけるとまず…──」

「ウラァッ!」

 

 爆発した。

 恐らく集中しきれない寝起きの状態で力を振り絞ったせいか、無意識に等しかったせいか、リィンが倒れる様に眠るのと引き換えにルッチは部屋事吹き飛ばす様な爆発に巻き込まれ撤退をした。

 

 イレギュラーが多い、初めての任務失敗。

 

 少なくとも、無意識でも、『庇われる』という物はどんな気持ちだろうかと。

 

 そう思った。

 

 

 

「え、お前海軍辞めるの?」

 

 その翌日、月組の1人が海軍を辞めることになった。もう必要書類は軍曹辺りに提出したらしい。

 

「襲撃事件が、かなり来ての……」

「あー…ま…まぁ…確かに」

「一応聞くがそれは襲撃者の方だよな?」

 

 男はその言葉に頷く。

 

「まぁ脱退の許可貰っちまったんなら俺らが引き止める理由が無いだろ」

「会員としては存在するよな?な?」

 

 リックが慌てて聞くと、男は苦笑いしながらも頷いた。その様子にホッと息を吐く。

 こんな経験、共有出来るのは幹部しかいなかったから余計にだ。

 

 男は、間者は、心の中で冷たく見下ろす。

 

「(次の所に潜入せんとな…)」

 

 幸い海軍雑用からの経歴はある。潜入はしやすいだろう。

 

「じゃあ、達者でな」

 

 別れの挨拶をしてグレンは男の名を呼んだ。

 

 

 

 

 

 

「──カク」

 

 

 気付けば夕刻、太陽は西へと傾いてウォーターセブンの街並みをオレンジに照らしていた。

 

「どうした……もう作戦が開始されるが」

「ちょっと、昔を思い出しちょっただけじゃ」

「昔を憂うなど、珍しいな」

「……語ってやろうか?お前の言う『付き従ってみたいと思える女』の話を」

「うるせぇ」

 

 カクは怪しげに笑い不機嫌になったルッチを見るが、仮面を付けてしまったので思考を切りかえた。

 

「(のォリィン。お前はわしの事覚えとるか?)」

 

 日が沈めば作戦決行。

 ウォーターセブンとの別れも近い。

 

「(わしはお前の事…──)」

 

 彼女に執着するルッチをちらりと一瞥(いちべつ)すると因縁とも言える相手を思いながら口に出した。

 

「嫌いじゃな…!」

 

 今宵また、悲劇が始まる。




どうだ驚いたか!
月組には3人の欠員がいる。1人は出版社、1人は青い鳥、そしてもう1人は、コイツだ。

八方美人又は愛玩動物リィンにとって「嫌い」という感情を向けられるのは珍しいですな、本人を知っているなら尚更。

質問が来るであろうから先に行っておきますと、死霊使いのグレンは気付いてません。『自分の為の欲』を考えている輩に対してなら魂汚れてて気付くんですけどね。(例:BWが反乱軍に潜入している状態)

さて、次回はようやくリィンに戻ります。ずっと裏路地に引っ張られたままでしたね。


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第174話 残酷なテーゼ

 

 ぶんどった武器を売るために船を出た。

 しかし私はゾロさんの視界から消えた瞬間誰かに腕を引かれて裏路地に連れ込まれた。

 

 今、ここである。

 

 いや、うん、私はさ、これまで色々な人間に攫われたり捕まったりと普通じゃない経験は沢山してきたわけですよ。並大抵の事では驚かない自信が……いや無いけど。驚く時は普通に驚くけど。

 今までの傾向から考えて海賊とか人攫いとかのめんどくさい部類が下手人だった。

 

 

 私の手を引いた相手は私より背が低かった。

 

 

 もうこれだけで私の中の常識(一般的とは言わない)が崩れ去った気がする。

 

「え、えっと……どうしますた?」

 

 材質は分からないけどヒラヒラとしたマントを着ているから性別すら分からない。とりあえず何か用事でたまたまって可能性があるので穏便さ重視で聞いてみた。

 

「ねェ」

 

 反響する様な声が聞こえて、ぶわっと温かい風が吹いた。

 

「船を壊して、リィン」

 

 頭の中に直接響く声だと思った。

 言葉の意味はよく分からない。

 

 何故メリー号を壊さないとならないのか。ルフィの敵?

 

「誰……?」

 

 名前を知られている事に思わず警戒した。

 賞金稼ぎだったら面倒臭い。この子供が一体なんなのか、もしかしたら奴隷という可能性も捨てきれない。

 本命は後ろから私を狙っているとか。

 

「……名前、言っていいの?」

 

 その子が悲しげに眉を下げた。やだなぁ、疑う事しか出来ないの。

 

「僕は(ゴーイング)・メリー号だよ」

「………………は?」

 

 おっけー、落ち着こう。

 メリー号がメリー号を壊せと?で、この子がメリー号だと?

 

「……さらばッ!」

「だから良い?って聞いたのに!」

 

 脱兎のごとく、逃走したかったけど予想していたかの様に服を掴まれその場で滑って尻餅をつく羽目になった。

 頭おかしい子がいるよー!ゾロさん助けてー!

 

「関わりたく無きッ!」

「うん、予感はしてたよ」

「第一、メリー号は船であり君が船という証拠が無きぞ!信じぬぞ!お化けダメ!」

 

 組み付きを仕掛けるメリー号(仮)は案外力が強くて振り解けない。メリー号(仮)がフードの下から見える目をパチクリと丸くした。

 

「SAN値削るよ?」

「確定?」

「僕、メリー号だよ?君たちが今まで乗ってた船だよ?」

「……嫌な予感ぞする」

 

 あっれれ〜!?おっかしいぞ〜〜!?私よりちびっこいのは絶対私を逃がそうとしないぞ〜!?

 

「おかきとあられ」

「うぇ」

「胃痛親子」

「ひぎゃ」

「あ、アイテムボックスの中にはなんか色々入ってたよね。なんで禍々しい色した液体が沢山あるのか聞いてもいい?」

「ダメぞ〜〜〜〜ッッ!」

 

  頭抱えた。

 私のトップレベルシークレットinアイテムボックスが速攻でバレた。誰にもバラしたくないものだったというのに。

 

「女狐さん大丈夫?生きて?」

「トドメ刺すされた。キツイ。メリー号が鬼畜」

 

 えっ、じゃあメリー号って、メリー号???

 私の視界の前に居る子はメリー号???

 

 人型の、メリー号???????

 

「………う、うっ、おばけ、や、うっ、ぴっ」

「ストップ」

「もがっ!?」

 

 叫びかけたら口を両手で塞がれた。

 その体温は風の様に実体が掴めない、はずなのに温かさがあって。

 

 ……あ、コレ人間じゃない。

 

 

 

 

 

 

 

「……は!?」

「あ、戻ってきた?」

 

 意識飛んでた。ぼーっとしてた。

 メリー号が目の前で手を振る。

 

「おちゅちゅきますた」

「落ち着けてないよ」

 

 ふぅー、と息を深く吐く。

 落ち着いた。状況は未だによく分からない。

 

 メリー号は私にメリー号を壊せと言った。何故人間の姿でメリー号が現れたのか。

 

「私を、呼ぶした理由は何です?」

 

 ニコリとメリー号は笑う。

 

「引き止めた、じゃなくて呼んだ、って辺り流石だなぁって思うよ。うん、キミを呼んだ」

 

 メリー号の舟の上で私は誰かに肩を叩かれた。

 振り返った時はゾロさんが居たからゾロさんだと思ったけど、よく考えたらおかしい。

 

 彼は驚いていた。『突然どうした?』と。

 私の肩を叩いたのはゾロさんじゃない。メリー号に触れた時の感覚と同じ、風のようだった。

 

 その時に呼んだんだね。

 

「何故壊す必要を?」

「僕さ、キミの声聞いて分かったよ。僕はこの先要らない。僕は仲間が大好きで、僕はいつか壊れる物で、成長出来ない。だから壊して」

「……なるほど、確かにメリー号ではこの先の海を渡る可能性ぞかなり低きです」

 

 メリー号に乗っていたら『大好きな仲間』を殺してしまうから造船技術の発達したこの島で船を乗り換えろ、って事。

 

 壊したら足掻くほどの未練なんて無い。

 

 合理的で、お金もある今理想的なプランだ。

 

「私が居るです、この先も乗る可能性ですが?」

 

 なんでもありの私が居なければの話だけど。

 

 そう言うとメリー号は段差に腰掛けてフルフルと首を横に振った。

 

「なんで僕がキミに頼んだか分からない?」

「一瞬で破壊可能だからでは?」

 

 違う、と否定された。

 

「女狐だからだよ。僕を壊せる、非情な存在」

「まぁそうなのですかね」

「キミはいつまで船に乗るの?期間限定の仲間で自己犠牲とは程遠い人間だよね?」

「……えぇ」

 

 『仲間(ルフィ)を大事にしている』『自分第一』『船への執着が薄い』

 挙句『難関突破出来る人間は期間限定』

 

 ここまで揃ってたら私しかいねーーーーー!

 

 私が期間限定だからこそ、責任の1部を負えってことか!

 こんな不可解な事言えるはずもないし完全単独でバレたら嫌われる事確定で実行しろと?

 

 

「僕は多分まだ走れる。だけど時間は無い。ならいっその事──」

「次の船に意思を繋ぐ、と?」

「正解っ」

 

 ゴーイングメリー号は設備の整った船だ。だけどそれは普通の海であった場合。

 偉大なる航路(グランドライン)を相手とすると不足している所は致命的で、設備が足りない。

 

 合理的、理想的。

 

「……分かりますた、が」

「やっぱり『僕』を壊すの、嫌?」

「いえ、所詮は『物』です。いつか壊れるするなら、破壊のタイミングとしてこれ以上に無いほど理想的です」

 

 物に思い入れは多少なりともある。だけど所詮そこまでであり、壊れてしまったらその間どうしよう、や代用品を見つけないと、だ。

 問題はそれを使う人間であり壊れた事によって起こる事象だけ。

 

「何故私が……!」

 

 船で起こったことを全て知っているのなら胃痛持ちの事やこういう責任が問われる事を嫌ってる質なのは分かっているはず。

 なのになんで私に任せるかなぁ。

 

「キミが僕を最初に『家』と認識したからだよ」

「家、と?」

 

 首を傾げるとメリー号は頷いた。

 

「船長達は僕を仲間だと言ってくれる。それはとっても嬉しくて、物にとって名誉な事だ。でも僕は物だから」

 

 フードの下でメリー号は目を閉じて過去を思い出していた。感覚で何となく分かる。

 

「僕は望まれて父親(メリー)に造られた。使われる日をずっと望んでいたらキミ達が乗ったんだ。僕は昨日の事のように覚えてるよ」

 

 あ、そう言えばメリー号ってウソップさんの島のお嬢様の執事が設計して造ったんだったか。素人なのに凄い造船技術だと思った記憶がある。

 

「最初キミは寝ていたね、だから最初に僕を家と認識してくれたのがキミなんだ」

 

 徹夜で海賊潰してたから疲れ果てて寝たんだったな。

 

「それからキミはこの船でずっと秘密のやり取りをしてた。それって僕が家として船として安心出来るって事でしょう?」

 

 見張り台は誰も来ない事や見渡せる事含めて都合が良かったからセンゴクさんとのやり取りに使ってたな。確かに安心してた。

 

「知ってる?キミ、船に酔うけど僕から離れなかったんだよ。緊急時は仕方ないとしても、足を付けてくれてた」

 

 あー、昔は船に乗る時箒に乗ってた。だけど今は見張りだとか攻撃だとか以外はメリー号に乗ってたな。

 

「それに物として長持ちさせようとしてくれたんだ。皆良くやったって褒めてくれるけどキミは褒めない。だけどクジラさんにぶつかりそうになった時や槍に刺された時は絶対キミが長持ちさせようと守ってくれた」

 

 うん、波を動かして守ろうとしてたね。守れない事はあったけど長持ちさせる事が悪いとは思えないな。

 

「危ない所では僕に乗ってた。僕が安全地帯で僕を物として考えてたのはキミだけなんだ」

 

 『仲間』としての意識が強いのは麦わらの一味で『物』としての意識が強いのは私。

 メリー号にとってどちらも名誉のあることだけど壊されるなら『物』として考えている私がお互い都合が良い。

 

「船に1番乗ってたのはキミだよ。だから僕はキミに壊して欲しい」

 

 引きこもり精神がこんな所で悪影響かー。

 

「皆が夢を語った時、僕にも夢が出来た。最期まで仲間と居る、叶う筈も無い夢が」

 

 嵐の中で樽を割った時。

 

「仲間が出来て、仲間が増えて、お客さんも乗せて。人知れず壊れていく事は少し悲しいけど」

「キミが僕の船としての想いを知ってくれてるなら寂しくない」

「それより仲間がバラバラになる事が怖い」

 

 

「……僕はキミを知ってるよ。悩んでた事も、企んでた事も、笑っていた事も、泣いてた事も」

 

「でも…──」

 

 メリー号は困った様に笑った。

 

「僕、キミがそんなに涙脆くて情に厚い人間だって分かってなかったみたい」

 

 目元が熱い。溶けそうな程熱い。

 湿気た裏路地に涙の跡は残らなかった。

 

「私っ、そんな、非情になれな、っ!」

 

 私は外道や鬼畜と言われるけれど、少しおかしな経験をした、極一般的な思想を持った人間だ。

 人を殺した時は何度も吐いたし、もう経験したくなかった。

 刀剣や銃を向けられると未だに怖くて、逃げ出したい気持ちに駆られる。

 

 考え方は世界に揉まれ変わったかもしれないけどベースは転生前の、平和な世界の、無い記憶。

 

 人型を保て、考え、意志を持って、伝える事が出来るこの『物』が。

 『人間』と違う所を探す方が難しい。

 

「ごめんね」

「謝る、くらいなればっ、もっと、運ぶ」

「海を知ってるキミなら分かる筈だよ」

「私は、したくなき…! そんな、事……っ、言うされて」

「……ごめんね」

 

 最良の選択だって言うことは分かってる!船を2隻持つことの難しさだって分かってる!

 拠点もない私たちじゃ船を確保出来る土地を得る事から始めなくちゃならない!

 

 メリー号の気持ちや考えだってとても分かる!

 分かるんだ、分かるし理解も出来るんだよ。

 

 人間はこういう時利益や効率で考えられなくなるから困るんだよ。

 

 

 私が、利益の薄い海軍に執着している事と同じ様に。

 

「キミにしか頼めない」

「……分かる」

「船を乗り換えて欲しい」

「……分かる」

「僕は、幸せだったよ」

「……そんなの、私だって…!」

 

 人知れず泣いた。

 人は居ない。

 

 温かな風がただ吹くだけで、私は何度も何度も考えた。

 冷静な判断を出来ない脳みそでは代打案も浮かばないし、なにより決意を固めたメリー号を説得する方法はもう無い。

 

 

 

「…………メリー号を、壊す」

「ありがとう」

 

 せめぎ合う葛藤の中、私は答えを出した。




文字数や展開調節していたら更新が遅くなってしまったでござんす(出来たとは言ってない)

さて、感想欄で色々と『連れ込んだ誰か』を想像していましていらしましたが答えはメリー号でした。
人間ですら無い!!

情報過多の話(第170話)で隠したかった所はここ
>「はい。赤子時代は山賊の家に居候、雑用時代は月組と雑魚寝みたいな感じですたし、今はメリー号。まともな家で住むした経験が無いのです」
家という認識です。
絶対気付かれない自信はあった。


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第175話 幸せなアンチテーゼ

 

 夕暮れ時。

 私が船に帰ると私以外の全員が居た。

 

「あ、私遅刻です?」

「いや、全然」

 

 サンジ様が微妙な笑みを浮かべて出迎えてくれる。そして視界の端にチラチラ映り込む上機嫌なルフィに視線を移した。

 

「なぁなぁリー!聞いてくれよぉ〜!」

「……………船の修繕可能でしたか」

「なんで分かったんだ、エスパーか!?」

 

 親が親なら子も子だな。ミンクの子はミンクという事だし。

 私はエスパーじゃない。

 多分、モンキー一家限定の心理学者か何かだと思う。

 

「それで船はどの様にと考えるしてますか?」

 

 よっこいしょ、と椅子に座って机に視線を落としながら聞く。机の上には銃。

 

「……何してるんだ?」

「改造」

 

 ウソップさんの質問に淡々と答え目は決して前を向かない。

 目元だけは見せてたまるか。私に銃の改造技術は無い。

 

「んで、メリーの事なんだけど。もちろん直してもらう、これは船長命令だ!」

「無駄な所で船長命令を使わないでルフィ」

 

 一緒に行ったナミさんがペシッとルフィの後頭部を叩いた。

 初めからナミさんが説明した方が早いが、私にはメリー号を壊すという使命がある。

 その都合のいい展開を作らないと。

 

「アクア・ラグナって高潮が数日後に来るらしいから、その日までアイテムボックスって奴でリィンがメリーを仕舞まっておける?」

 

 おおっとぉ!?私に都合のいい展開が早速来たとか災厄さては私を見限ったなァ!?

 

「あら、でも堕天使ちゃん容量いっぱいじゃなかったかしら」

「ふげっ!?」

「前にメリー号でギリギリだと言ったわよね?」

「はい、です」

 

 自分で自分の首絞めた。

 災厄が居なくなるなんて夢のまた夢の幻想やったんや……。災厄が一途過ぎて笑えない、来世では縁が切れますように。

 

 いや、でも管理を任される以上壊れたら私の責任問題か。

 

「では高潮ぞ経過まで待機という事ですね」

「でも高潮どうしよう……」

「あー、それですたら」

 

 困った声を出すナミさんに1つ提案する。

 

「あらかじめ高潮に呑むされる事前提で船を街に括るしておきませぬか?波に逆らうすると悪化する可能性があるですので、縄か何かで」

 

 縄で結べば波に揺られ激しい抵抗も無い。修理する為に荷物を退かしておく必要があるならもういっその事、という考えだ。

 どうせウォーターセブンの船着場はお金かかりそうだし。

 

「それ、縄が切れればヤバくねぇか?」

「大丈夫ですぞ。そこは本職に任すすればよろしきかと」

 

 縄が切れれば、終わるんだよ。船は。

 荷物を別の場所に置ける理由にもなるし、私の不思議色を使えば繋ぐ縄なんて簡単に千切れる。

 

 カチャカチャと銃を弄り回しながら余裕がある様に言うのがポイント。

 自信がある案だと思われれば、私の意見はすんなり通る。

 

「じゃあそうすっか!」

 

 ルフィは疑うこと無く了承した。

 船長の許可さえ取れれば簡単な話だ。

 

「ナミさん、アクア・ラグナはいつ頃来ると?」

「明日の夜中以降ね」

「では時間があるですね。荷物の運搬は明日にするが最良と思うです」

「えぇ、もうすぐ日も暮れるしね」

 

 太陽は半分以上沈んでいるのか薄暗い。

 窓の外の様子を見ながらナミさんが私の意見に同意した。

 

 ふと、ゾロさんが口を開く。

 

「お前武器換金出来たか?」

「あー…それが店を探す不可能で」

「ヤガラブル借りなかったの?」

「箒でちょいちょい、と」

 

 ヤガラブルというのは道案内可能な移動手段なのだろうか。そう予測を立て、返事をするとツッコミが来なかったので正解だったらしい。

 実際メリー号と話していたから忘れてたんだけど、それっぽい言い訳考えていて良かった。

 

 とりあえず話題転換はしておこう。

 

「ビビ様は本見つかるしますたか?」

「バッチリ!」

「……ロビンさん」

「我ながらナイスチョイスだと思っているわ」

 

 なら安心出来るか。

 チョッパー君は薬研(やげん)で薬をゴリゴリ削ったり本を捲ったりしているから話題を振らない方が良いかもな。

 

「ルフィは?造船所はどのような感じですた?」

「それがよ〜面白いやつが沢山居たんだ!」

 

 あーはいはい船長可愛いな。

 島に着く前のピリピリした雰囲気は薄れていてホッとする。

 

「ウソップみたいな奴とか、ハレンチって言う奴とか」

「全くわからぬ」

「あとアイスのおっさんは天才だし」

 

 話を半分聞き流しながら銃の構造を見ていく。

 反動が大きい銃は打撃用だよな。うん。

 

「あとアイツ面白かった、ハトで話す奴!」

「ルッチって奴だな。親切な奴だったぜ」

 

 ウソップさんの言葉に動きを止める。

 

「るっち?」

「知り合いか?」

 

 残念ながら知らない人だ。

 でも待って、私はこれでも海軍上層部の人間だから聞き覚えはあるんだ。

 雑用以外なら、海軍で知られてる名前。

 

「ロブ・ルッチ……?」

「おー、そいつそいつ」

 

 ケラケラ笑いながら言ったウソップさんの肩をガッと掴む。

 

「それは、造船所の職員ですたか!?」

「お、おう。……あれ?お前目元赤くなって」

 

 悪いと思いながらもウソップさんを弾き飛ばすようにして外に出る。

 

「お、おい!リィン!?」

「望むなれば、出航準備を…ッ!」

 

 街を縫う様に箒で飛ぶ。

 

 時々私を目撃する人間がいるのでマントのフードを深く被り特定を避ける。闇に紛れて造船所まで急いだ。

 

 ロブ・ルッチとは有名な名前だ。海軍にいてもその名前と歴史は伝わってくる程に。

 彼は13歳の時とある国で海賊に人質に取られた兵士500人を皆殺しにした経歴を持つ。

 その時の傷で、背に5つの砲弾の跡がある。

 

 化け物だ。砲弾を5回浴びて死なないとかどう考えても化け物だ。

 

 正直国や国民を危険に晒す羽目になった兵士に同情の余地は無いが、政府がニコ・ロビンを求めて居る噂を手に入れている以上、警戒した方がいい所の話じゃない。

 

「〝ハーフノット エア・ドライブ 〟!」

 

 突然の声と、飛んでいてもなお引き寄せられる不意打ちの攻撃。

 箒には縄が繋がれてあり地面に叩き付けられる様に飛行が阻止された。

 

 とぷっと海に沈む様に光が消え闇が生まれる。

 

「不法侵入でもしようってか……てめぇ?」

 

 そこには縄を片手に男が葉巻を吸っていた。

 子供の姿である私の顔を目撃して訝しげに眉を寄せる。

 

「邪魔するなぞ!」

「どっかで見たか……誰だお前」

「早く、市長に会うしなければならぬ!緊急事態ぞボケェ!」

「なっ…!」

 

 口の悪さにか、会う相手の事を聞いてか、絶句という表現が当てはまる。

 

「アイスの人の部屋ぞどこ!ロブ・ルッチの事で話があるぞり!何故その様な奴が船大工などすてるぞ、ここには、何がある!」

「待て、何の話だ」

 

 聞いた方が手っ取り早いと思い詰め寄った。

 

 その時、潮風に紛れて温かな風が吹く。

 風に紛れて硝煙の……銃撃の匂いと鉄臭い血の匂いが届くいた。

 

「……血の匂いッ!」

「うわぁああんっ!政府などクソ喰らえ!」

 

 この世の残酷さを嘆きながら箒に乗る。風が道案内をしてくれる様に1つの窓から匂いを運んで来てくれていた。

 

「あそこ……!」

 

 なりふり構って居られないのでガラス窓をぶち破ってダイナミックお邪魔しますッ!私の首と海軍の胃の耐久性がピンチですこんにちは!

 

 そこには変な仮面を付けた2人組と煙を吹く拳銃。そして血を流してベットに蹲る男が居た。

 

 ……せやな、政府の人間が1人とは限らへんよな。リィン知ってたで。

 

 遠い目をして空を眺めた。

 空が綺麗だなぁ……曇りだけど。

 

「堕天使リィン……何故ここに」

 

 仮面の1人が私を見て呆然と呟く。

 声色から焦りと警戒が見て取れる。

 

「アイツら望んでいた相手と真逆だったな」

 

 よく分からないが、『アイツら』という事はこの場の2人を除き複数人数別の場所に居るということ。敵さんは最低でもこいつら含めて4人居るんですね絶望。

 

 ベットの上に居るアイスバーグさんであろう人物と目が合う。口が逃げろと動いたが、ここで逃げたらセンゴクさんの胃が死を迎える上に私も全体的にヤバくなるので逃げれません。

 麦わらの一味に関連する事柄は全て私の責任ですので!この部屋の壁にある唯一の手配書ニコ・ロビンとか見たくなかった!

 

 うぉおお逃げてぇええ!でも切り札あるからワンチャンいけるでこれぇぇぇ!かんばれ私!がんばれ私!

 

「……CP9、ですかねェ」

 

 荒ぶる心を沈めながらアイスバーグさんの前で庇うようにベッドに乗る。背後からの奇襲の際はアイスバーグさんが盾という事でよろしく。

 

「……!」

 

 ビュッと風が吹くような速度で仮面の1人が私に詰め寄り喉に指を突き立てる。

 これ、喉に穴開くパターンですね。

 

 恐らく六式使い。私は視界で捉えることが出来ても、超人では無いので体は動かない。

 つーかその速さについていけるか阿呆が。

 

「私を、殺すですか?どうぞご自由に」

 

 ニヤリと不敵に笑ってみせる。

 仮面の2人組はピシッと固まった気がした。固まってくれているのがいいなぁ。

 

「殺せます?無理ですよね?貴方達がCP9である限り、絶対に無理ですよねェ?」

 

 当然ゲス顔である。

 切り札は最初から攻撃に全振りさせてもらう。

 

「私を殺せば、堪忍袋の緒が切れる方がいますもの、ねェ? 分かってます、分かってますよ。私には貴方達の気持ち分かっていますとも……」

 

 うんうんと頷きながら喉に当てられた指をそっとズラす。やめてください死んでしまいます。

 

「天竜人の怒りには、触れたくないですよね」

 

 こんな言い方されてキレて突発的な行動を起こさないとか平常心強すぎかよ。流石だな闇の正義を掲げる人達。

 

 いや、海軍の兵士として『闇』は必ず必要な組織であるということは重々承知してるし、むしろつまらない問答で無駄な時間を過ごす位なら問題事態潰せば良いとは考えているよ?賛成だよ?だけどそれは私が絡まなければね?

 

「私がONLY(オンリー) ALIVE(アライブ)になった理由は天竜人の口添えですよね。私にはこれ以外何も浮かばないのですよ〜……実際その様でしたしね」

 

 会話に集中させる為、あえて慣れない標準語で語りかける。さぁ時間を稼ごうじゃないか。

 下で出会ったロープの人も異様な事態に気付いていたのだから増援は来る。

 

 そして自分が優位に立っている印象は必ず植え付けろ。何が目的なのか探せ。政府の思い通りにさせるな。

 

「もちろんそれは1人ではない」

「……ッ!」

「そうですね、2人、でしょうか」

 

 むしろ2人しか思い当たらないけど。

 

「ふふふ……確かに面白い存在だわ」

 

 仮面の1人が、その仮面を外した。私の背で息を呑む音が聞こえる。

 

「……カリファ」

 

 茨のムチを持った鉄仮面の正体は眼鏡をかけたお姉さんだった。アイスバーグさんの知り合いらしい。

 

「いいわ、どうせもうここには用が無い。去らせてもらうわ」

「おい……!」

「どうせ古代兵器の設計書は数年前訪れた彼が持っているんでしょう?」

 

 古代兵器とか凄い嫌なワードが聞こえた気がするけど気の所為だよね!絶対!

 カリファさんの視線が私の後ろに寄せられる。

 

「カティ・フラム」

「グ…ッ!」

「彼は今名前を変えてフランキーと名乗っていると記憶しています。彼が、設計書を持っていると見て間違いない様ですね」

 

 カリファさんはそのまま私をアイスバーグさんの方へ突き飛ばした。

 

「堕天使リィン、1つ聞かせて欲しい」

 

 もう1人のクマ型の仮面を被った人物が声を出す。声色から男だと言うことが分かった。

 

「何故、海軍を辞めた」

「貴方になんの関係が?」

「俺には無いな……俺には」

「政府には、大有りですたかぁ」

 

 質問の意図が分からないが答えはひとつ。

 

「自己満足の為ぞ」

 

 相手がその言葉に反応する前にカリファさんが電伝虫を取り出した。

 

「行きましょう。向こうは本命を手に入れたわ」

「……本命?」

 

 政府の目的は『古代兵器の復活』で、フランキーという人間がその設計書を持っていて、その男はこの島に居る。

 そして古代兵器という関連性から考え、タイムリーな目的。

 

 世界で唯一読める人間。設計書の入手成功率が100%と確定されない場合、狙うのはただ1人。

 

「ニコ・ロビン…ッ!」

 

 仮面を付けた男は私の反応に対し何も答えずに壁に体を当てる。驚いた事に、カリファさんが男の体を押すと壁がドアに変わった。

 

 多分、ドアドアの実の能力者。

 

「ではアイスバーグさん。さようなら」

 

 瞬く間に姿は無くなる。

 ここに来て1分程度しか経ってない筈なのに長い時間が経っている気分。

 

 1連のやりとりで得た疲れを誤魔化す様に深く息を吐いて緊張を解く。

 

「はァ、若干予感はすていましたが、仕方ないとはいえ。これはこれで面倒臭い。流石に海賊巡るして全面戦争など馬鹿馬鹿しい」

 

 海軍を『海賊奪還』の為に動かす訳にはいかない。もちろん何も無い事が1番だけどニコ・ロビンが向こうの手に渡ってしまった以上、こちらとしてもなんとかしなくちゃならないんで。

 

──プルルルルルル…

 

 アイスバーグさんの意識が朦朧としている事をいい事に、懐から取り出した電伝虫のダイヤルを慣れた手つきで操作する。わりと早く相手に繋がった。

 

「………ニコ・ロビンが政府の手に渡るした。彼女を派遣してください。現在の場所はウォーターセブンで目的地は恐らく、司法の塔」

『…………遂に動いたか』

 

 電伝虫の先でポツリと微かに聞こえる声。

 その声をかき消す様に扉が大きな音を立てて開いた。

 

「アイスバーグさんッ!」

 

 下で会った男だった。

 私の後ろに居るアイスバーグさんを見て顔色を変える。

 

「下手人はCP9です。特定可能者はカリファとロブ・ルッチ、他2名。市長暗殺未遂、古代兵器の設計書を狙いニコ・ロビンの誘拐」

「はァ!?どういう事だ!?」

「………以上」

『了解した。3時間後また連絡を』

 

 マントの下で電伝虫を切る。

 止血中の男に視線を向けて言った。

 

「CP9とは政府の、世界の闇です。少なくとも先程上げた2名はこの方を狙うしたので『仲間』など言い絆されぬ様に」

 

 

 仲間に絆されるな。

 

 私は頭の中で作戦を練り始めた。




ハイハイメリクリクリぼっち!
クリスマス用の話を挟むとでも思ったか?思ったのか?うるせぇクリスマスなんて知るかよ!大体おまえらクリスマス当日に上げても読まねーだろ!?知ってるよ!?この話読んでるのどうせ年明けだろ!?
彼ピッピとデート♡インスタ映えの女子会♡そんな話知らねぇ!聞きたくないんだよバッキャロー!どうせ脳内ハッピーなんだろ!?いやうるせぇ何も言うな聞きたくない!
クリスマス期間限定とか書かれたパッケージに踊らされて無駄にお金を資産したらいいんだ!
無駄にキラキラと派手にしたらなんでもいけるとか鳥がこの日のために沢山絞め殺されるだとかイチゴのヘタ取りとかヘタ取りとか甘い香りに殺されそうじゃ〜〜〜!
いちごとかリア充の赤じゃなくて血なまぐさい赤に染まりやがれこんちくしょうー!!

いいクリスマス過ごせよ!  


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第176話 選ばれたのは女狐でした

 

 リィンが船を飛び出し、部屋の中は一時呆然となった。

 何故出航準備をしなければならないのか。

 何かしらの意味があるだろうが、その意味が分からずただ無言で顔を突き合わせるだけだった。

 

 やっと船が修繕出来る島に来たのだ、そのチャンスを逃すのは惜しい。

 

 特に説明を受けていた3人は航海可能の距離を考え行動出来ずに居た。

 

「とにかく荷物、纏めておくか……?」

 

 サンジが苦笑いをしながら行動を促す。

 

 バタバタと荷物を纏めている内に日が沈んだ。

 曇り空で元々暗かった上に、頼りだった太陽が沈むと辺りは闇を覆われた。

 

「風強いな……だから高潮が来るのか」

 

 ウソップがその風の強さに納得する。

 

 その時、自然と甲板に集った一味の間に切り裂く様な突風が走った。

 それはまるで山風。気が付くとウソップやナミなど戦闘に不向きな面々が地面に倒れていた。

 

 意識は微かにある。

 咄嗟に飛び退いたルフィや、見聞色の覇気使いはどこかしらに与えられた攻撃に小さく息を詰まらせた。

 

「おい、堕天使はどこに居る」

「……チッ」

 

 仮面を付けた男2人が伏した一味を見下ろす。

 

 牛の仮面を付けた男は何かを探す様周囲を見渡し、骸骨の仮面を付けた男は不機嫌な態度を隠そうともしなかった。

 

「敵か…!」

 

 ゾロが一閃したがスイッと避けられる。しかしゾロもただ刀を振るった訳では無く、見聞色の覇気で2人の動きを読み追撃を加えた。

 

 ビッ、と服が裂け、その下に見える肌から血が流れた。

 

「……覇気使いか」

 

 骸骨の下で、男が確認する様にそう呟くとゾロは口角を上げた。

 

「だったらなんだ?都合が悪かったかァ?」

「いいや…──」

 

 苛立っていた男は指を構え指銃の用意をして言い放った。

 

「都合が良いわいッ!」

 

 指は黒く色付き、ゾロに突き刺さる。

 血が流れる事によって冷たさを感じたと思えばすぐさま燃える様な熱がゾロを襲う。

 

「ゾロッ!」

 

 サンジの蹴りが男に向かう。しかし男はその動きを読んでいたのか軽々しく避けた。

 ゾロとサンジには経験で分かる。これは見聞色の覇気特有の先読みだと。

 

「おい、お前が船を調べろ。お前の方が構造分かってるだろ」

「……任せい」

 

 あっという間に3人も地に沈む。

 

 彼らは知らなかったのだ。CP9は任務の相手によって覇気の使用を変えることを。

 

 

 例えばの話をしよう。

 もしもCP9が覇気のはの字も知らない海賊に出会い任務に関わり、尚且つ敵だった場合。CP9が追い詰められたとしても彼らは覇気を知らない相手に覇気を使わない。その敵が政府の面子に関わる事やニコ・ロビンを奪還せんと目論む者だったとしても。

 それは意地であり力を持つものの僅かばかりの抵抗だ。

 CP9が追い詰められるという事は戦いで様々な事を吸収する恐れがある為、敵を更に強化する存在である『覇気』を教える訳にはいかないのだ。

 

 レベルアップを潰す。次その敵がレベルアップする前に別の者が潰せばいい。

 

 

 先程も言った通り『覇気を知らない』相手であればの話だが。

 

 牛の仮面を付けた男の、ロブ・ルッチの視線の先に居る海賊は間違いなく覇気を知っている。

 多少使えるとしても幼い頃から訓練に励み超人的な力を手に入れた彼らには、覇気の硬度も読みも桁違いだ。

 

 

 差はより一層開く。

 自分達が『覇気を知ること』が『敵のレベルを上げる』結果になると誰も予想していない状況で麦わらの一味は何が出来たであろうか。

 

「ロ、ビン……」

 

 薄れる意識の中、ルフィは気を失ったロビンに手を伸ばし続けた。

 

 

 

 ==========

 

 

 

「リー!」

 

 バタバタと慌ただしくルフィ達がアイスバーグさんの部屋に転がり込む。

 怪我でもしたのか、所々包帯が巻かれていたりガーゼを貼っていたり、予想していたより被害は少なくてホッとした。腕の1本2本持っていかれたもんだとばかり思ってたから。

 

「ルフィ!」

 

 兄の名を呼ぶと、彼は私の喉や足や手など服の隙間から見える包帯に顔を顰めた。

 

「リー、そのケガ」

「少々しくじるました」

 

 私が苦笑いを返すとルフィは泣きそうに顔を歪める。泣き虫は変わらないなぁ。

 

 ……部屋にいた2人から冷たい視線が飛ぶ。

 

 『怪我してないくせに堂々と嘘つきやがって』

 多分言いたい事はこんな感じだろう。

 

 怪我してませんけどなにかァ!?

 怪我したフリしてますけど何かァ!?

 

 

 襲撃者2人が消えてから私は包帯を巻いて怪我を自演し、アイスバーグさんと縄の人であるパウリーさんに口止めを依頼した。

 ルフィは恐らくニコ・ロビンを取り戻しにエニエスロビーに行くけど、私は行きたくないから怪我したフリするのでよろしく、と。

 

 もちろんしこたま怒られた。

 最低だとも言われた。

 

『足でまといが居てなんの為になると!?命をかける彼らの邪魔になって助ける不可は、私が1番後悔するッ!』

 

 って感じで誤魔化したけど。

 

 彼らには私の『立場』を説明してない。電伝虫での通話は2人に聞こえてなかった様だから無駄なリスクは避ける。

 

 

 

 あの通話から3時間後。センゴクさんに連絡を入れ直して計画を練った。

 センゴクさんは私が頼んだとおり『彼女』を護送の1人として派遣してくれた。

 

『分かっているだろうが堕天使は女狐と鉢合わせ出来ないからな』

『ならば堕天使は一旦消えるます』

 

 海軍の方で、潜入しているCP9全員を割り出せる事は不可能に近い。だけど政府は海兵を戦力として要求する。

 ……政府から税で海兵の給料を貰ったり懸賞金の振り分けをさせてもらっている以上増援要求には応えないといけないからね。逆手に取る。

 

 その中に最大戦力の『女狐』を投入する。

 私とセンゴクさんやおつるさんなどの上層部は一部を除き古代兵器反対派だ。

 

 海軍の下っ端諸君には悪いが女狐はニコ・ロビンを殺すか麦わらの一味に戻す。

 女狐の名前に傷が付くのも個人的に嫌なので罪は麦わらの一味に押し付ける。

 

『リィン、お前は麦わらの一味をどう思う?』

『将来の危険性は高いですが本人達の危険性は低いです。戦闘能力はまだまだで現時点では──』

『違う』

『はい?』

『それは女狐としての意見だろう。私はリィンに聞いているんだ』

 

 答えられなかった。

 

『この件が終わったら1つ提案がある。せいぜい麦わらの一味を悪役に仕立てあげておけ』

 

 ご丁寧に死亡フラグを立てて切れたけど。

 

 

 

「ロビンが攫われた」

「はい…」

 

 この部屋には襲撃に出くわしたガレーラカンパニーの2人とニコ・ロビンを除く麦わらの一味が揃っている。

 

「えーと。まず私の状況説明から入るですかね」

 

 出してもらっていた椅子の上で膝を抱える。

 

「私の出身がどこかご存知ですよね」

「海軍よね……?」

「いいえ、月組です。雑用の中でも情報通の月組なのです。一般的に知るしてませんが」

 

 私はそこで『ロブ・ルッチが政府の人間で海兵達の間で有名だ』という話をした。

 

「……だからリィンちゃんは知ってたのね」

「やはり有名所は回るしてくる故」

「へ〜、リィンちゃんって政府の人間にも詳しいもんなんだな」

「海兵ならまだしも政府はホンッッット詳しく無いですよ」

 

 サンジ様の関心に否定する。謙遜とかじゃなくてガチで知らないからロブ・ルッチを知っていたのは運が良かった。

 ん?良かったのか、これ?

 

「で、私がここに来るとアイスバーグがピンチで咄嗟に庇うしたりすたがこの通りで」

 

 あの時の不穏なやり取りは絶対言わない。

 

 怪我したしやばかったけどあちらさんが居なくなったから無事だった。

 

 それで終わりだ。

 

「俺達は…──」

 

 ルフィ達の方は至極シンプルだった。

 

 襲われて攫われた、以上。

 

 強いとは予感してたけど手も足も出ない状態なのか……。不意打ちだったからか、実力差か。

 

「ロビンさんは、取り戻すのですよね」

「当たり前だ」

 

 期待の目が寄せられるので作戦を考える。

 細かい作戦を練ったとしてもルフィが守るとは思えないからシンプルに。

 

「では──」

 

 予め考えてあったのもあり作戦は簡単に思い付いた。それを伝えようとしたタイミングでアイスバーグさんの部屋にノックがあった。

 

「アイスバーグさん、フランキー一家が…」

 

 フランキー一家という事は例のフランキーさんが関係してそうだ。

 案内人に連れられてやって来たのは……変態っぽい格好をしていたけどまぁよくある事か。

 

「頼むッ!」

 

 その男は入るなり突然土下座をした。

 

「兄貴を助けてくれッ!」

「……何者かによりフランキーさんが攫われるしたなどと言いませぬよね?」

 

 肩がビクリと跳ねた。

 

「あの……フランキーさんには助けられたの」

 

 ビビ様が控えめに言う。

 

「オールサンデーを助ける事も大事だけどフランキーさんも助けたいわ、ダメかしら」

 

 詳しく話を聞いて心の中でため息を吐く。変な仮面に狙われて助けてもらったとか早めに言って欲しかったかな!一味集合してすぐに飛び出した私が悪いんだけども!

 

「まぁ戦力が多いに越す事は無いです。……ちなみにガレーラカンパニーの方から戦力はありませぬか?そうですね、ロブ・ルッチ達に一言言うしたいなどやぶん殴るしたいなど」

「俺が行く。適当に数人見繕って大丈夫か?」

「……いえ、誰が潜むか分かるしませぬので」

 

 私がこの島に4人以上で潜むなら同じ場所に固めたりしない。最低2箇所から調べる。

 

 それに居ると分かっている残りの2人が誰なのか気になるし。

 

「適当はダメです、仲の良さで選ぶもダメです」

「ならどうしろって…」

「ロブ・ルッチ以上の勤務年数を重ねるした忠誠心の高い人ぞ優先」

 

 パウリーさんは考え込んで居たけれどふと思い当たって顔を上げた。

 

「元海軍雑用が居るんだけど」

「却下」

「なんでだ!?」

 

 元海軍雑用って事は大概私の事知っているだろうからあんまり関わりたくないなぁ。

 

「ちなみに、何年前より?」

「5,6年くらい前か……」

「より一層却下!」

 

 私が月組で猫かぶっていた時期とモロかぶりじゃないですか絶対ヤダ!

 そりゃ、扱いやすいとは思うけど『堕天使』はこの作戦に参加しない気だから余計なんだよ。

 

 信頼出来るかと言われたら否定するけど、信用は出来るから入れてもいい。だけど、雑用の戦力ってたかが知れてるし。

 

 

 海軍には戦闘に関われる三等兵以上になるまでに三つのルートがある。

 一つ目、訓練所。戦闘のいろはを学ぶ即戦力作りで教官がヤバい。元海軍大将とかヤバい。

 二つ目、雑用。入隊からすぐに海軍に関わる事が出来るけど名前の通りなので戦闘技術は独自で開発しなければならない。

 

 大方この2通りだけど、私みたいな特例や上層部のスカウトや市民徴兵などで地位をもらう三つ目のルートがある。

 もちろんスタートの地位は違うけど、訓練所出身者は雑用出身者に海軍の地区や組織形態やマル秘術を教わり、逆では生き残る術を教わる。

 いがみ合うもんだとばかり思っていたがそんなことは無く、風習なのか伝統なのかコンビを組んだりニコイチになる事が多い。

 

 ……そう言えばジジは訓練所出身者で、その部下のドーパンさんは雑用出身だったらしいな。

 

 

 閑話休題

 

 

「とにかく海軍はダメです!そもそも私ぞ海賊に転移すますて正直顔合わせ辛い上に人の顔を覚えるは大の苦手!」

「試しに聞くが、お前流石に仲間の顔くらい見分け着くよな?」

「……………もちろんッ!」

「今の間はなんだ今の間は」

 

 ゾロさんにぶにょっと私の両頬を捕まれひょっとこ現る。ごめん正直自信ない。

 

「……まぁ、それならアイツにはガレーラカンパニーの方を任せるか」

 

 パウリーさんは腑に落ちない様子であったが了承した。

 

「じゃあ作戦会議しましょう」

「では基礎的な組織情報と麦わらの一味・ガレーラカンパニー・フランキー一家の連合軍の作戦を授けるです」

 

 その言葉に反応したのはサンジ様だ。

 

「授ける……?」

 

 訝しげにこちらを見るので思わず苦笑いが零れてしまう。

 

「その、ですね。今回も私は不参加とお願いすたいのです」

「最近リィンちゃん不参加多いな……」

「うっ、すみませぬ。ですが事情というか」

 

 ギュッと握りしめていた手を前に差し出す。

 私の手は小刻みに震えていた。

 

「私っ、怖くて、能力使用不可能です」

 

 サンジ様の眉は歪む。

 彼は苦々しく視線を外すと謝った。

 

「ごめんなさい、私は万全で無ければ能力を使うが不可能なのです。多く集中力を必要とする故」

 

 ぽつりぽつりと言葉を漏らす。

 

「私、昔政府であろう人間に殺すされかけた事あるです。夜中ですた。その時気付くすれば意識を失うしており、友人や月組が何とかすてくれた様ですが……部屋は半壊ですた。それ以来ホントに、政府がダメで……」

「なんでリィンが、子供がそんなに狙われて」

 

 ナミさんの驚きは最もだろう。

 私もビックリしている。

 

「私の名前はモンキー・D・リィンです。ルフィの祖父に養子としてモンキー家に入るしますた」

「そう、だったの」

「ジジは有名な海兵でその分恨みも……」

「じいちゃん怖いもんな、俺もエースも皆ボコボコにされてた」

 

 論点ずれるから船長は少し黙ってて欲しい。

 

「私が狙うされる理由、それだけでは無きなのです。正直有りすぎるで特定不能な程。実の両親がかなり有名人で私は海軍や政府にとって害悪な子供ですたから」

「そう言えば育ての親は海軍の」

「はい、それもですね」

 

 改めて考えると酷いなとは思う。私平和な島のパン屋の娘とかになりたかった。

 ここまで来たら貴族でもいい。貴族でもいいから戦いに無縁な辺境伯の三女辺りが良かった。

 

「まぁとにかく、敵の狙いを増やす訳にはいきませぬし…私は今回も足でまといです。……ごめんなさい」

 

 奪還に参加はしないけど、奪還作戦には思いっきり干渉させてもらう。

 

 さぁ、戦を始めよう。

 

 

 

 

「目的は、違えぬ様に。……どうか、生きて帰るしてください」

 

 他人の事を願い動くと自分が疎かになる。

 それは私の欠点。

 

 

 敵に秘密がバレる事になるとは、思ってもみなかった。




今年最後の締めくくり!

捏造設定があります。
1つ目はCP9。原作ではメタ的な事もあり登場しませんでした覇気ですがこの作品では無理やりこじつけで理由を作っています。
「覇気知らん相手にわざわざ教えてたまるかボケ!」というプライドの元原作では使わなかったという判断に……うん、改めて考えると無茶すぎる。

そして2つ目は海軍の登用方法。2つの出身があるだろうと言うのは何となく掴んでいたのですが細かい方法など知らず適当作りました。
は〜〜〜組織形態とか捏造設定作るのとっても楽しい♡

それではまた来年!良いお年を!


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第177話 作戦S

 

 カツカツとブーツが海列車の搭乗口に響く。

 厚底どころじゃない高さのブーツは歩きにくい様に見えるかもしれないが、靴の中でも更に高さを誤魔化している為竹馬に乗った感じで動ける。

 

 外からは見えないが中から見ると透ける狐型の仮面を身に付け、手が隠れるほどの袖と深いフードの着いた真っ白な長いコート。

 

 中身が日本人特有の寸胴だからこそ、この世界の人間が足が長いからこそ出来る姿。

 

「貴女は……」

 

 スーツ姿の政府の男に聞かれ低い声で答える。

 

「……………海軍大将女狐」

 

 この姿で戦えと言われたら絶対死ぬ。

 慣れるべきだなと思いました。

 

 

 

 ==========

 

 

 

 海列車に乗り椅子に座ってCP9を待つ。

 

 私は今回に限り命の危険性が限りなく低い。

 証人がそこら中に居るから私に手は出さないだろうし、彼らの目的がニコ・ロビンである以上私は戦えなくても平気。

 

 それに戦う羽目になったら負け確定なので戦いを回避する事の方が重要だな、うん。

 戦闘にポイントを振るより回避にポイントを振らせていただきます。

 100%負けか75%負けか、どちらを選ぶかと言われたら後者だよね。更にドーピング出来るんだから負ける確率は低くなる筈!

 

「……………ふぅ、やるか」

 

 アクア・ラグナで船を壊す為に、メリー号とウォーターセブンを繋ぎ止めた縄はこっそり引きちぎった。麦わらの一味とガレーラカンパニーとフランキー一家の連合軍に作戦は授けた。

 あとは必ず起こる高潮と現地での彼ら次第。

 

 さて、政府がどう動くかね。

 

「ッ、女狐!」

 

 ニコ・ロビンの声が耳に入った事で3段階踏んでいる『作戦S:探し物』の失敗を悟る。

 1段階目の作戦S、ハッキリ言うと期待してなかった。

 

 能力を駆使して隠れるなりなんなりするだろうし何もせずに待機するより気が晴れるだろうと思って立てた作戦だ。

 内容は至ってシンプルで街中に隠れているCP9とニコ・ロビンを探し出すこと。

 

 『堕天使』が唯一関われる作戦だから私がほとんどを担当したね。

 

「……………フン」

 

 特に気にする素振りを取らず視線を向けるだけで終わる。暴れるからなのか分からないが担がれている図体のデカいのは例のフランキーさんか。

 

 ニコ・ロビンは私の登場に酷く動揺している。

 『女狐』は麦わらの一味担当だと言わなかったか?

 

「ほォ、アンタが女狐か」

 

 ハトを肩に乗せた男がジロジロと不躾に私を見る。その後ろはカリファさんだ。

 多分この人がロブ・ルッチ。

 

「今回はよろしく頼む」

「………。」

 

 手を差し出されたのでその手を払う。

 政府と仲良しするつもりも予定も策略も、女狐には無い。

 

「つれない女だ。つまらん」

 

 知るかボケ。

 続けて入ってきた2人の内、キャップを被った男に目が行く。

 

「………ッ!?」

 

 思わず1歩下がり息を飲んだ。

 

 ウソップさんに似た四角い長鼻に短く刈り上げた髪。

 

 その姿を知っている。

 何年か前、月組襲撃事件の前まで共に時間を過ごした人物。

 

 カクさん。

 

 そこまで干渉しないタイプの人だったけど月組の一員で、海軍を辞めてから連絡が取れないとリックさんが言ってた記憶がある。

 戦闘なんて見たこと無くて、月組の中では比較的若い方だった。

 

「……………嘘だ」

 

 月組は私の味方で、同期で、理解者で、信頼してる人達。

 

「なんじゃ、わしの事知っとるんか?」

 

 気軽そうに笑いかけながら独特な口調で寄ってくるこの人物は、記憶の中のカクさんと同じ。

 

「わしゃ、カクと言う。よろしく頼むわい」

 

 手首を掴まれて見下ろされる。

 カクさんだ、間違いなく。

 

 CP9は小さい頃から特訓に励んだ政府の武器。

 

 ああ…読めた。悲しい程に読めた。

 第1雑用部屋襲撃事件で海軍内から襲撃者を手引きしたのは貴方だったのか。

 

「……………馴れ合う気は無い」

「まぁそんな堅苦しいことを言うな。どうせこの作戦で関わる仲じゃ」

 

 信用も信頼もしないしあんたとはもう既に関わっているんだよ!

 

 掴まれていた手を振り払うと4人に視線を1度向けて言い放つ。

 

「………………偽名を!使え!」

 

 ずっと言いたくて堪らなかった!特にお前だロブ・ルッチ!

 普通に有名な名前を潜入時に使うな!しかもフルで!馬鹿なのか、馬鹿なのか!?

 カクさんは雑用出身で使い回すの仕方なかったり元々有名じゃ無いから分かるけど!お前は別口だロブ・ルッチ!

 

 馬鹿だろ!?脳みそ溶けてんの!?溶けてるよね絶対!?

 

 もう一度言わせて!?バッカじゃねーの!?

 

「面倒だろ?偽名考えるの」

「……………はぁぁああぁぁあ」

 

 思わず深くため息を吐いた。

 その面倒な行動で守れる命があるんだよ例えば自分とか。

 

 

 話すだけ無駄な気がしてきた。

 女狐は無口キャラ、もういい知らない。

 

「……………寝る」

「マイペース過ぎんか」

 

 カクさんのフレンドリーさが今はとても恨めしい。逃げない様にかニコ・ロビンにもフランキーさんにも錠が嵌められており鎖が繋がっている。

 その鎖を受け取って先頭車両に向かう。

 

「わしも着いていこうか?」

「……………必要無い」

「つれんのぉ」

 

 やけにグイグイ来るなこの人。

 ちょっと、いや結構本気で勘弁して欲しい。

 

 本性を出してなかったと言えど何年も同じ空間で過ごして来たから情がある。

 

──パンッ!

 

 力いっぱい、本気で殴り掛かるがもちろん手のひらで防がれた。

 乾いた音が車両に響き渡る。あ、胃を痛めてる軍曹辺りはごめんな。

 

「……………もう一度言う。馴れ合わない」

「……やけに突っかかってくるわ、お前、わしの事知っとるな?」

「……………知るか。今度は本気で殴る」

「おぉ怖や怖や、大人しく退散するとしようか」

 

 飄々とした態度だが、決してこちらを観察する目を止めない。

 気に入らないんだよ、その顔で語り掛けるな。

 

 

 ……思ったより私は動揺しているらしい。

 あーやだなぁ、私の微妙に人間臭い所。

 

 ルフィみたいに割り切れる性格だったらいいのにって何度思ったことやら。

 

 

 

 ==========

 

 

 

「何をしているんだカク」

 

 呆れた表情のルッチがカクを見ると、扉の向こうに消えていった女狐の真っ白な背を見ながら顎に手を置く。

 

「背中にのぉ」

「あ?」

「背に、何も書いてないのが気になってな」

 

 その言葉に記憶を掘り返す。

 確かに将校にあるはずの『正義』が書かれていなかった。

 

「それに…──」

 

 カクは目を伏せ右手を見る。

 

 手首を掴んだ時に感じた体温と脈拍数。

 もちろん手首を掴んだのはわざとで、脈は嘘を付けない。

 

「どうやらあちらさんは、わしの事を知っとるようじゃったな」

 

 海軍へ潜入していた時期、女狐の中身と関わった事があるかもしれない。

 麦わらの一味を、正確に言うと堕天使を殺せなかったどころか見なかった事は残念であるが、政府の厄介な敵として女狐が居るのもまた事実。

 

「暴いてみるのもまた一興」

 

 手加減された生温い拳は、女狐の動揺を確かに伝えていた。

 

 

 

 ==========

 

 

 

 突き刺さる様な視線を抜けて先頭車両に乗り込む。この車両に居るのは私とニコ・ロビンとフランキーさんだけ。

 ここで2人に襲われたらたまったもんじゃないが……まぁ大丈夫と信じたい。

 

「……女狐。貴女、一体どうしてここに」

 

 ニコ・ロビンの困惑した声を無視して通路を挟んだ反対側に座る。

 『堕天使』を知っているからなるべく会話したくないんだよなぁ。

 

 CP9の空間は思っていた以上に息が詰まる。ふぅ、と小さく息を吐けば、視線を向けているニコ・ロビンに女狐の目的のヒントを与えた。

 

「……………政府は、嫌いだ」

「え、あ、そうなのね」

「……………私は寝る」

「聞いたわ」

 

 流石に伝わらないかなぁ。

 

「……………何を話しても気付かない程寝る」

 

 言外に『寝た状態になるから脱出計画なりなんなり練ってても気付かないよ!政府に一泡吹かせても私はむしろ喜ぶよ!』と伝えると、彼女は息を飲んで私を見続けた。

 

「例え貴女を殺そうとしても?」

「……………。」

 

 物騒な事聞かれたけど無視した。私は寝ると言ったから寝るんだ。

 必要以上に関わりませんから!

 

 いや、流石に声で気付かれるとか嫌だからね。

 

「フランキー、きっと船長さんが助けに来てくれるからどうやってCP9の目をくぐりぬけるか少しでもいいから相談しましょう」

「いや……それについては賛成なんだが、アレほっといていいのか?」

「女狐は私達の記憶を読めるそうよ。多分教えてはくれないでしょうけど、秘密にするだけ無駄だわ。なら堂々と()()()最中に話す方が得策ね」

 

 ブツブツと2人の会話が聞こえる。

 わざと2人を一緒の所に置いて正解だった。

 

 麦わらの一味側も今着々と作戦進めている最中だから待っているだけでもなんとかするよ。

 キミらは女狐っていう最強の味方がいるから。

 

 上にも許可取ってる守りの海兵なめんなよ。権力に怯えないで実行できるって素晴らしい。

 

「女狐、居るな?」

「……………チィッ」

 

 扉の向こうから声が聞こえる。

 カクさんの声だ。思いっきり舌打ちをした。

 

「カティ・フラムから古代兵器の設計図が何処にあるか聞いとってくれんか」

「……………可能であれば」

「まぁわしらも向こうで拷も…尋問する予定ではおるがお手並み拝見とやらじゃ」

 

 それ、口を割らなければ女狐の評価が落ちるという事では?

 

 扉から気配が遠ざかっていく。

 うわ、面倒臭い。そういうのは口車が得意な『リィン』が『女狐』だからこそ出来るのに。

 最初から最後まで無口の女狐が出来るわけ無いじゃん。

 

「……どうすんだ嬢ちゃん」

「……………じょ…ッ!」

 

 フランキーさんの女狐の呼び方に思わず反応してしまう。年齢不詳だけどまぁ声からしてフランキーさんより若いよな。

 

「……………誰の話だか知らんな」

 

 カティ・フラムなんて名前は知らない。

 女狐は『フランキー=カティ・フラム』ていう図式を知らないから問題無い。

 読み取れる事は読み取れるだろうけど。

 

 そうか、女狐は無気力無口のドジっ子キャラになればいいんだ。

 私は今日からドジっ子ね。女狐、さっきの会話なんて忘れちゃった!テヘッ!

 

 

 私が変な決意を固めて2人の作戦会議をぼんやり聞いていると事態に進展が起こった。

 

──コンコンッ

 

 ニコ・ロビン側の窓からノック音が聞こえた。

 そこにはウソップさんの姿があった。

 

「ッ、長鼻くん!?」

 

 『作戦S:潜入奪還』

 私が出来ればこれで解決してくれないかと願った物。

 作戦の概要は、海列車に乗り込んで屋根を伝いこっそり先頭車両に向かうという事。

 実はこの海列車の後ろからルフィ達連合軍が迫っているので海に落ちて線路の上に立っていればルフィが拾ってくれると言う。

 

 戦闘は絶対避ける。私は心の中で、ウソップさん達が列車内の敵幹部に見つかればこの作戦を女狐として壊そうと誓っていた。

 

 見聞色の覇気が使えるらしいから気配を消すこと前提で。難しい!ってキレられたけど、声を消せばいいんだからとりあえず息止めとけ。それだけで大分違う。姿を見せず存在を認識していなければ見聞色の威力は半減だ。

 

「長鼻くんどうして此処に」

「おう、リィンの作戦でこっちに…──って、げえ!?女狐ェ!?」

「危な……!」

 

 ニコ・ロビンが窓を開け、ウソップさんが窓枠に手を掛けるも私の姿に驚いてなのか滑った。

 

「……ッ!」

 

 慌てて私がウソップさんの服を掴む。

 腰に縄が付いているから上からサンジ様が引っ張っているのかも。

 

 この作戦はサンジ様とウソップさんの2人だけの参加だ。ゾロさんの判定だけど、他は気配消すとか出来なかった。

 来歴的に『消える』が出来るサンジ様と、その性格故に目立たないよう『消える』ウソップさんだからこそだろう。胃が痛い。

 

「な、なっ!」

 

 驚いているウソップさんを尻目に車内に引き摺り込む。

 

 思わず行動しちゃった!女狐のドジっ子!

 ……現実逃避が上手くなってきたなぁ。

 

 3人の視線が集まる中、私は苦し紛れに演技をした。

 

「……………ぐ、ぐー、ぐー」

「それで寝たフリは難しいと思うわ」

 

 ニコ・ロビンの冷静なツッコミが私の心を的確に抉ってくる。辛い。

 

 私は何も反応しないで席に戻り、腕を組んで寝始める。窓から更にサンジ様が入ってくるのが分かって吐血しそう。

 

「アレ、なんで?」

「政府が嫌いだから寝ているんですって。何を話しても気付かないくらいに」

 

 ニコ・ロビンが私の代わりに説明する。地頭が良い2人はきちんと意味を把握したみたいだ。

 まぁ意味が分かるのと理解や納得は違うと思うけど。

 

「後ろからルフィ達が来てるから行こう」

「行く、ってどうやって……」

「……海に飛び込む」

「なァ!?待て待て、俺達の鍵はどうするよ!」

「あぁ、それはリィンが何とかしてくれるから安心しろよな」

 

 そんなに時間は経っていないだろうが脱出の計画を話していた。

 もちろんそのまま進めてくれる方がいいんだけど、残念ながらお客様がやって来た。

 

「……………黙れ」

 

 この人達の前でアイテムボックスを使うのは嫌だけど、大きな麻袋を取り出してウソップさんとサンジ様に被せ中に入れた。

 ウソップさんが何か訴えていたけど、私の足元に置き、声のする所を──具体的に言うと口を足で踏み物理的に黙らせた。

 

 私は女狐私は女狐。サンジ様への無礼とか気にしない女狐、胃が普通に痛い……!

 

「女狐殿、いらっしゃいますかな」

「……………何だ」

 

 全員無事お客様に気付いた。

 もう足を退けても喋らないだろう。

 

 同じ車両に私が居てよかったと今すごく思っている。入ってくる時に何も言われ無いパターンだと困る。

 

「……………邪魔」

「まぁそう言いなさるな」

 

 政府の役人の……誰だっけ、なんか犬の名前。

 その人が私の足元にある袋に目を付けた。

 

 ニコ・ロビンじゃなくて目的は女狐だったか。

 

 二兎追うものは一兎も得ずって言葉を知っているかい?

 せめて、ニコ・ロビンは逃がさせてもらう。女狐には海軍と言う守りがあるからね。

 

「それは?」

「……………(政府の喉笛掻っ切る)武器」

 

 そう言って麻袋を軽々と持ち上げる。

 無機物なら軽くできるし、箒みたいに浮かばせたなら袋はそのままの状態で浮かぶ。全体で支えれば破れない。ただひたすらに集中。

 

 役人の方に投げ捨てるとニコ・ロビンが息を飲んだ。『浮かばせる』をせず、役人は大人2人分の重さに尻餅を付いて驚きを表情に出した。

 

 そう、驚いてビビってくれ。

 女狐はその重さを軽々持ち上げれるのだと。

 

 麻袋の中身に意識が行く前に役人から回収して床に置く。

 中の2人には正直スマンと思っているけど死んだり作戦失敗するよりマシだと思って欲しい。

 

「……………異常なし、去れ」

 

 そう言えば去ってくれるだろう。あくまでも政府と海軍の目的はニコ・ロビンだもんな。

 これ以上留まって私を探っても無駄だぞ。

 向こうは『女狐を観察する』つもりで来たかも知れないが建前は『ニコ・ロビン』だもんね。

 

「……チッ、昆虫食いが偉そうに」

 

 役人はそう呟いて車両から出ていった。

 麻袋を軽く蹴って『出て来ても大丈夫』と合図すると2人は微妙な顔しながら出てきた。

 

 しかし昆虫食いとはどういう意味だろ。

 感覚的に悪口なのは分かるけど。

 

「あ、えっと、ありがとうレディ」

 

 サンジ様の勿体ない感謝の言葉に無視をして寝たフリを続ける。

 私はひょっとしたら道化師なのかなー。

 

「……ロビンちゃん、早く逃げよう」

 

 私から返事を望めないと分かったのかサンジ様は踵を返す。しかしウソップさんは私を凝視したまま動こうとしなかった。

 

「女狐」

 

 呼ばれたけど無視。

 頼むから関わってくれるな。

 

「お前はもちろんだけど、俺の船長は化け物だと思っている」

「おいウソップ、早く逃げないと……」

「俺は最年少よりも弱くて度胸も無い!正直俺は前々からアイツらの化け物みたいな強さについて行けないと思っている」

 

 弱音は言えども仲間に零すことが無かった仲間に対する本音を女狐に零している。

 

「俺、置いて行かれるのが怖いんだ。知ってるかも知れねェけど俺は海に出ようとした時ルフィに誘われた、ただそれだけの縁だ」

「おい!ウソップッ!」

「ルフィは海賊王になる。だけど俺は何もそこまで〝高み〟へ行けなくったっていい。ならいっその事……」

 

 そこまでウソップさんの言葉を聞いて胸ぐらを掴み座席に押し付ける。

 

「……………これは寝言だ」

「お、おう…?」

「アンタ、馬鹿か?」

「な…ッ!?」

 

 他の3人は警戒しながら私の行動を見守っていると言う様子だろう。

 

「モンキー・D・ルフィを1番知っているのはお前の筈だ。馬鹿騒ぎで、誰よりもそばに居る。お前は麦わらの仲間でありながら唯一の友だ」

「友……?」

「度胸が無いだ?巫山戯るな?この私を恐れずに堂々と、無駄に関わる癖に?」

 

 本当にこれは私の本音だ。サンジ様でさえ女狐には関わろうとしない。

 

「お前は反吐が出る程勇敢だ。お前は自分の力量と状況を把握してこうして動いた。無駄な問答に付き合わせるな〝追撃者(チェイサー)〟の息子!」

 

 女狐はウソップさんをそのまま地面に転がす。

 さっさと逃げて欲しいが一味が『バラバラになる』のは困る。

 

 死にゆく船との約束だから。

 守りを掲げる女狐から、守らせて欲しい。

 

「……………お前相手は骨が折れる」

 

 見聞色の覇気を使えない私は狙撃手などの遠距離攻撃可能な人間相手に相性が悪い。

 

「でも俺……」

「………………まだ喚くか!見苦しい!」

 

 女狐だからここぞとばかりに口を悪くする。

 

「では何故ここに居るッ! それ相応の無駄な覚悟と無駄な勇気が無ければなし得ない!」

 

 堕天使リィンは逃げたんだ。

 その覚悟と勇気を捨てて逃げた。

 

 だからネガティブになってウジウジするのはもうやめて。

 

 

 貴方は私が知る中で1番勇敢な人だから。

 




新年あけましたおめでとうございます。
今年もまたよろしくお願い致します。

とまぁ恒例の挨拶は置いておき。
本日お知らせしたい点は2つ、こちらです。
・女狐の中身が正式に決まった
・表紙を新たに作り貼り直しました

言い方が頭悪うううううい!

とりあえず前者はもちろん『リィン』今も昔もこれからもだったんですが、表立った海軍正式な、下っ端にバルても大丈夫式の仮面が関係したという感じですね。だから何も知らない第三者から見るとリィン≠女狐の正体となるように。
もちろんとっくに伏線は仕込んでますぜ。ギャグからシリアス設定を作る事に定評がある恋音です(知らん)

後者は文字のままですね。
イメージ画像、という事だったのできちんと表紙を作りました。そして若干のネタバレ注意です。ネタバレがネタバレでなくなるのは修行時期、もしくはリィンに新たな『顔』が追加される時です。


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第178話 使えるものは全て使う精神の代役

 

 

「……………接近戦闘兵と狙撃兵を同一視するなど馬鹿げた話だ」

 

 そう言って女狐は再び眠りにつこうとした。

 いや、先程からずっと寝ていたのだ。言ったのでは無く寝言、動いたのは寝相。

 

 ウソップは言葉の意味を考えようとしたが、来襲した危機にそうもいかなくなった。

 

「鼠が紛れ込んでいた様だな」

 

 ロブ・ルッチ。

 ウソップが造船所で出会った男が扉を蹴り飛ばしながら入り込んだ。

 

「女狐、相手は貰うぞ」

「……………。」

 

 女狐は何も反応せずに席に着く。それは『どうぞご自由に』と行動で示しているも同然だった。

 

 海列車の屋根の上に居た男を倒したはいいが正直この男に敵うとは思えない。

 ウソップとサンジはリィンに言われた『敵に見つかった場合』の事を思い出していた。

 

『いいですか、敵はロビンさんの知識とフランキーさんの設計図狙いです』

『CP9以外の誰かの目がある場合にのみ、命を屠る事では無きです』

『まぁむしろ人の目が無いなれば海難事故などと称して殺す事もあるですが……』

『ロビンさんが政府に非協力的で抵抗が見るした場合誰かしらの監視が付くと思いますが、まぁ1人くらいでしょう。軽く意識を落とすのも手ですが喋らぬ様に口を塞ぐなどがいいです』

 

 ここまでは理解出来た。理由はとてもよく分かる。運に恵まれていたのか監視の目は自分達の行動を黙認した女狐で都合が良かった。

 

『もしも逃げる為に海に落ちる途中、敵に見つかるした場合』

『視界を奪うし人に紛れるがいいでしょう』

 

『中には絶対海兵が屯する場所ぞある。そこまで逃げ込むするか最後尾に行くするかして……外へ飛ぶしろ。そして泳ぐ』

 

 リィン本人は見つかった場合の作戦なんて適当に考え、女狐がロビン以外の人間を取り逃がせばいいやとしか考えて無かった。

 しかし本音を知らない面々は違う。その言葉を信じて作戦を実行した。

 

「〝煙星〟!」

 

 ウソップの放った煙に紛れ、4人は最後尾にまで急いだ。

 車両一つ一つに煙星を放ち視界を奪う。

 CP9に捕まる前に人が多い所へ…!

 

「……………馬鹿が」

 

 海兵が屯する車両に踏み込んだ時、煙を放つよりも早く、低い中性的な声が聞こえた。

 

──ドガァンッ!

 

 空気の塊に殴られたと錯覚する。

 横からの強い不可思議な衝撃に4人は車両の壁を突き破って海へと叩き付けられた。

 

 突然の出来事で海水を飲み込む。

 荒れた冷たい海で自分の位置を確認しようとするがもがくだけ。

 脳が鋭い痛みを訴え、ようやく海面に出た。

 

「な、んで……!」

 

 女狐はもがき苦しむ自分達を空中から見下ろしていた。

 まるで足元に透明な床がある様子だが、荒れた波が何も無いと教えてくれた。

 

「……………フン」

 

 女狐がウソップとサンジの顔を見るが即座に視線を外し右手を持ち上げた。すると海水に包まれ気を失ったロビンとフランキーがゆっくりと浮上していく。

 

「……………足掻け」

 

 小さく聞こえた声に聞き返そうとした2人だったが女狐は目的の2人を連れ空中を走る様にして海列車に戻って行った。

 

 月歩などと違い何度も足を動かしているわけでは無いのに。その不思議な現象にサンジはぞわりと背筋を凍らせた。

 

「………クソ、作戦失敗か」

「とりあえず路線まで泳ごう」

 

 幸いな事にこの荒れた海でも泳いで海列車の路線に戻れる距離だ。

 

「なぁウソップ」

「ん?」

「ひょっとしたら、女狐を使えるかもしれねェ」

「……は!?」

 

 サンジは嫌な記憶を通じてある確信を得た。

 

 

 

 ==========

 

 

 

「はーー…やべーやつが居たんだな…」

「女狐かァ。嫌だなァ……アイツ相手すんの」

「うっ、なんで大将が……」

 

 線路から引き上げられた2人が『敵に女狐がいる』と伝えた列車内は鬱々とした空気になった。

 

 後方発、海列車〝ロケットマン〟

 元々試作品として造られていた海列車をアイスバーグが1日かけて修繕改造し、操作している暴走海列車だ。

 爆発的なスピードを生み出すが止まれないと言う不良品だったが、そこは流石7つの造船会社をまとめあげた腕を持つアイスバーグ。操縦が難しいと言う欠点があるが見事海を走っていた。

 

「ちょっと教えて欲しい事がある」

 

 濡れた服の着替えが終わりタバコの煙を吐きながらサンジが連合軍に視線を送った。

 ここに居るのは麦わらの一味だけでは無い。

 連合軍なのだ。自分達が知っている事以外の情報を持ち合わせている可能性がある。

 

「女狐について、確証のない噂でもどんな些細な事でもいいから知っている事を教えて欲しい」

 

 面々は顔を見合わせたがポツリポツリと噂話を口に出す。

 

「守りの大将だったよな」

「七武海の宿敵だとか………」

「『昆虫食い』だって言われてる」

 

 確証のない噂の中でパウリーが確定された言葉を使う。聞き覚えのない呼び方に首を傾げた。

 

「ウチの職員のカクと役人が話してた」

 

 ニュアンスとしては馬鹿にしている感じだったと言う。そのカクは後々苦笑いをしながら教えてくれた。

 

 『昆虫食いっちゅーのはじゃな、特別功績も上げず雑魚ばかり狙っておるってことじゃ』

 

 女狐に対する評価が少し下がった気がした。

 もちろん畏怖や嫌悪、どちらかの感情を込めて言ったのであろうが政府の役人には好かれていない様子だ。

 

「ンマー、話は聞いたぜ」

 

 汗を拭いながらアイスバーグが出てきた。

 

「おっさん、海列車の操縦大丈夫なのか?」

「おう、フランキー所の奴に教えたから数分は持つだろ」

 

 疲れたのかドカッと座席に座り腕を組む。

 ウソップの疑問を返すと先程まで話題の中心にあった女狐についての話をし始めた。

 

「アイツはなぁ……島の頂点に立つと関わってくるぜ」

「頂点つーと国王とか?」

「おう。俺ァ関わらない方針を取ったんだけど」

 

 サンジが表情を固くする。

 

「アイツは『守りの大将』って言われてんのは知ってるか?……現時点で存在する4人の大将にはそれぞれ特徴があってな。女狐が現れてから明確になって来た」

「特徴って?」

 

「過激派の赤犬は『海賊』、青キジは『民』、黄猿は『世界貴族』、そんで女狐は『王族』だ」

「っ、やっぱりか」

 

 条件反射の様に顔を上げたサンジに全員の視線が集まる。

 話をしていたアイスバーグでさえ口を閉じサンジを見ていた。

 

「話、中断して悪い」

「おお…別にいいんだけどよ…アンタが話を切り出したんだし……」

「いや、うん、これなら多分女狐を使える…」

「さっきから思ってたんだけどよ、それってどういう事だ?」

 

 確認する様に呟くサンジにウソップが首を傾げて言葉の意味を聞く。

 

 サンジはある言葉を思い出していた。

 

 『王族は守れ』

 

 仲間の為だ。なんでも利用してやろう。

 リィンという参謀が居ない以上、現地で頭が回るのは王族として教養を積み、その上戦えるサンジしか代役は居ない。

 

「船長」

「おう」

 

 サンジは海列車の揺れる車内でルフィに対し土下座をした。

 

「仲間にも言えない秘密を、俺は持っている」

 

 リィンが聞いたら盛大な巻き添えを喰らう言葉をサンジが放った。ルフィはその言葉に何も反応せずに見ている。

 

「でも、仲間を騙してるつもりは無い」

 

 リィンが聞いたら盛大に罪悪感を刺激される言葉を放つ。

 周囲は息を呑むが口は挟まなかった。

 

「女狐の相手、俺に任せちゃくれねェか」

 

 ルフィは確認する様に口を開く。

 

「アイツ、多分かなり強いぞ」

「あァ」

「俺達が敵う相手じゃないぞ」

「分かってる」

「………死なない、って言えるか」

「死なねェ」

 

 俺が倒したい。

 俺が相手をしたい。

 海兵(ガープ)海賊王(ロジャー)の様に、女狐は海賊王(じぶん)のライバル。

 俺が……。

 

「任せた」

 

 ルフィはせめぎ合う葛藤を押さえ込んで自信のあるサンジに強敵との対立的な立場を託す。

 知ってか知らずか、その信頼に答えるようにサンジは屈託のない笑みを浮かべた。

 

「おい」

 

 海列車の上に居たゾロが雨に濡れた体で車内に入り込む。くいっ、と顎で進行方向を示すと、海の変化に強いナミがまさかと顔を青くする。

 

「アクア・ラグナが来たのね」

「まてまてっ、このタイミングって事は同じ路線の先を走ってたロビン達はどうなったんだ!?」

「そこはあれだろ、六式使いのCP9と女狐がいるから……」

「お、おお、そうだな……」

 

 慌てるウソップに六式の知識があるサンジが呆れた目で言った。そしてトントンと革靴を足に合わせながらゾロに視線を送る。

 

「たかが海水に船長が動くまでもねェな」

「どっしり構えてろ」

「けどなぁ、俺も体動かしてぇんだ」

 

 リィンが時々人間やめてるわと思う3人のやり取りにパウリーが口を挟む。

 

「そうは言ってもあの高潮をどうするつもりだよお前ら……」

 

 窓から前方を見ながらの声は近年稀に見る高潮の規模にやや強ばった声だ。

 

「斬る」

「蹴る」

「殴る」

「まぁお前らってそうだよな」

 

 どこかデジャブ感を感じながらウソップはその力量差と発想に恐れ慄いた。

 

「(コイツらと俺は役割が違うんだ……焦るな)」

 

 しかしその目に劣等感は写って無い。

 女狐の寝言で違いというものを認識した。

 

 狙撃手は援護が花道。本来であれば敵を倒す為の立場では無いのだ。

 

「まぁ仲間を信じろ船長」

「俺とクソコックだけでも十分過ぎる」

 

 最終作戦S:正面突破 開始──!

 

 

 

 

 

 

「………………皆、スゲェよ」

 

 誰にも聞こえない程小さな声で誰かが呟いた。

 



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エニエス・ロビー編
第179話 隠していた本音


 サンジ様とその他を海に突き落として荒っぽい脱出をさせた。胃が死んだ。

 まぁ胃が死んでいるのは普段通りなので置いておき、問題はこれからの事。

 

 イメージして靴を浮かせるという偽月歩を使ってニコ・ロビンを捕獲したはいいんだけどエニエス・ロビーでどう逃がせばいいのか検討ついてないんだ。

 結構行き当たりばったり人任せというか。

 

「久しぶりに戻ってきたな、感慨深い」

「……………死にやがれクソが」

 

 海列車が止まりロブ・ルッチが声を漏らす。

 のうのうと楽してるCP9に思わず苛立ちと共に本音が漏れた。いっけなーい!女狐ったらドジっ子なんだから!ドジっ子ってこんな感じだったっけ!?

 

「いい加減機嫌を直さんか」

「……………」

 

 隣で独り言を聞いていたカクさんに背中を叩かれるが返事はせずにつま先を踏む。「い゛ッ」と声がしたが気にしない。

 

 実はエニエス・ロビーに着くまでにアクア・ラグナがやって来てしまった。予定より早く来た高潮の規模に正直びびった。

 CP9、こいつら何をしたと思う?

 

 『どうする気じゃい女狐?』

 

 カクさんは黙って欲しかった。人の警戒心を解く爽やかな笑みが今は憎い!

 ほんっっっと、頭痛い。ジンさんの魚人の技を再現してみたんだが思ったより上手くいかなくて蒸発っていう状況になったんだけどな。

 

 全部後ろでガヤガヤと殺したいほどうるさいこいつらが悪い。

 集中出来るものも出来ないんだよ。

 

「ほれ、さっさと塔に行くぞ」

 

 舌打ちを返事がわりに司法の塔へ向かう。

 これからすることは残りのCP9との顔合わせとフランキーさんの口を割る事。そしてめんどくさいけどこいつらの長官に合わないといけない。

 護送船が出るまで要は暇だと言うこと。それなりの手続きや準備や指示があるから軍部って面倒臭いよねぇ〜。

 まぁ?別に?手間を増やして時間稼ぎしてるとかァ?海軍側として言わせてもらうけどォ?そんな事一切無いんですけどねぇ?

 

「正門を開けェーーーーッ!」

 

 海兵の令でエニエス・ロビーの正門が重々しい音を立てて開く。右手に海兵、左手に役人。そして目の前に巨大な正義の門。

 夜の無い島、通称不夜島のエニエス・ロビーは明るく奇襲には向かない。挙句の果てに滝つぼの様な位置に両側から生えるような島をエニエス・ロビーという。島の周りと中央はくり抜かれた闇。空さえ飛べなければ為す術もないだろうな。

 

 最終作戦は正面突破にしておいて良かった、下手に混乱を招くよりは考えなしでも突っ込んで貰う方がいい。

 

「女狐大将…!」

 

 将校であろう男に呼び止められ立ち止まる。

 CP9とは距離を離して話を促した。

 

「海軍元帥より連絡を承りました」

「……!」

「司法の塔より護送船の置かれている橋へ行くには地下を通る必要があり、CP9は長官を含め全部で8人。内4人が塔に居るそうです」

 

 センゴクさんやばいありがとう!超助かる!

 にしても地下か……なるほどなァ。空から行くことはほとんど無理だと言うことか。

 

「……………了解した。ご苦労」

「は、はい!」

 

 敬礼を尻目にCP9の元へ戻る。

 

「なんの用じゃった?」

 

 カクさんの事は確実に無視をする。

 さて、時間を計算すると恐らく麦わらの一味含む連合軍が来るのは約30分後。CP9が早期に発見しないように、その間にルフィ達が雑魚共を潰す必要があるのか。

 

 要するに、女狐を目くらましに使えばいいわけだ。

 

 

 本島正門をくぐり裁判所を通り抜ける。ニコ・ロビンとフランキーさんは大人しくしてこちらを警戒し切っている。

 

 

 

 そして。

 

「やァ女狐、会えて嬉しいよ」

「……………あァ」

 

 遂に他のCP9や、その長官と挨拶を交わすことになった。

 

 長官スパンダム。

 CP9メンバーは

 ロブ・ルッチ

 カク

 カリファ

 ブルーノ

 クマドリ

 ジャブラ

 フクロウ

 

 以上合計8名。

 私の敵だ。

 

 なんかいきなりこいつら道力とか言うパワー数値測りだしてビックリしたけど。

 

「女狐ぇ、お前もやってみんか?」

「……………意味が」

「いいからやってみんかぁ!」

 

 背中を押されてフクロウという男の前に立つ。

 

「武器を持った衛兵が10道力とするチャパ!」

 

 ということはロブ・ルッチが4000だったから400人力………。ん、でも衛兵ってどれくらいの強さだ?衛兵は警備兵でしょ?雑魚じゃない?

 

「……………衛兵、とは」

「あぁ、聞き慣れんか。海軍で言う准尉辺りじゃなぁ」

 

 ならそこまで強くない?あれ?基準が分からなくなってきたぞ?

 微妙な地位を出されても分からないな。ガープ何分の一とかセンゴク何十分の一とかなら分かりやすい!……いや分からねーや。あの人たちの本気知らないもん。

 

「………………ッ!」

 

 とりあえず何も考えずに思いっきりぶっ叩いてみた。勿論フクロウは簡単に吹き飛ばされない。

 

「チャパパ!300道力」

 

 おお!30人分!私にしては鍛えた方か!30人か!そっかそっか!かなり嬉しい気がする!戦闘民族では無い私が刀振り回して避けてるだけでそれだけ育ったのか!

 衛兵って事は多分大人だろうし子供にしてはよくやった方か!

 

「手を抜くなや!」

「本気出せ」

 

 カクさんとロブ・ルッチが詰め寄って来る。

 いや、これ本気なんですけど。

 

「もう1回!もう1回!」

「……………チッ」

 

 もう1回殴ってみる。

 

「20道力チャパ……」

「女狐ぇえええ!」

 

 カクさんうるさい。

 

「……………殴り方を知らん馬鹿共は実践で勝てるのか?」

「おい……それは俺たちのことを言ってんのか昆虫食い」

 

 長い髭を垂らしたジャブラが凄い形相をして詰め寄って来る。

 

「さてな」

 

 鼻で笑って椅子に座る。全員の視線が注目しているうちに不思議色でこっそり電伝虫の受話器を外しておくのも忘れない。

 本命はそっちだ、でなければこんな茶番に付き合わない。

 

 これで連絡は来ませんね!

 

「クソが…女の癖に」

「……………はァ」

 

 まぁ弱いのは認める。

 

「……………では聞くが、ロブ・ルッチが衛兵400人程度の実力か?」

「……それ、は」

「お前は衛兵何人分の働きが出来る?」

「何千人であろうと出来るに決まってるだろ!」

 

 そういう事だ、と言う代わりに腕を組んで座り直す。ジャブラはそういう事じゃないと言いたげに睨んでくる。

 そんな中口を開いたのはカクさんだった。

 

「なんじゃ、今日のジャブラはやけにつっかかるのぅ。どっかの狐と同じよう…──おお、視線だけでも怖いわい」

「今衛兵達の間ではジャブラが昨日キャサリンにフラレたという話で持ち切りだー」

「それでか」

「ちょ!ちょっとまて!何故その話を皆が知っているんだ!」

「俺が喋ってしまったーチャパパパ」

「てめぇかぁ!」

 

 CP9はやかましい。それだけは分かったから黙ってくれ。お願いします。

 これひょっとして女狐を目くらましに使わなくても平気なんじゃない?こいつら自体が目くらましじゃない?

 

「ともあれ5年間の任務ご苦労だったお前ら。カクはろくな休暇も無かったので10年か」

「長官」

「……ん、おお、すまんすまん」

 

 カクさんが注意しスパンダムは口を閉ざす。

 ……私は彼が13の時に出会った。そこから5年騙され続けていたわけか。

 これは確定かな。

 

「………ッ」

 

 たった1人、されど1人。1番歳が近くて1番距離があった。

 ……やっぱり辛い。

 月組は私が唯一信頼しているのだから。

 

「渡したい物もあるが、あの二人を呼んできてくれ……!」

 

 海兵の私が居るからかスパンダムは発言に気を付けている。実際記録しているわけでは無いからどうしようも出来ないんだけど。

 ロブ・ルッチが扉の外に置いていたニコ・ロビンやフランキーさんを連れてくる最中、スパンダムは私に質問をした。

 

「女狐、アンタは古代兵器をどう思う?」

「……………興味無い」

「ワハハ!無関心か!それもまたいい!」

 

 機嫌が良いのかスパンダムは大笑いをする。

 この人は正義の方向性が違うのと平和を維持する事を義務感と思っているから横暴なんだろう。

 

 悪い人では無い。決して出世欲に塗れている訳では無いし、狡猾だから上にひたすら使われる事も無いだろう。自分が悪人でなければ害はない。

 

 武を持って武を制す。

 

 手っ取り早く確実な方法。否定するつもりは無いけれど、その武を正しく使える大人だったら私は反抗しない。

 今の政府は赤子同然。

 

 古代兵器という武器を渡すには不信感が勝る。

 

 三大勢力の『海軍本部』『七武海』『四皇』とタライ海流で繋がる『海軍本部』『エニエス・ロビー』『インペルダウン』は全く別物。

 基本武力を持たない政府が力を欲するのは分からなくもないが……。

 

 

 そんな考え事をしている間にロブ・ルッチが目当ての2人を連れてきた。

 

「8年ぶりだな、カティ・フラム。まさか生きているとは思わなかった……!お前が生きて設計図をもっている事を知ってさえいれば!過去の罪でしょっぴく事も出来たというのにッ!」

 

 スパンダムは過去に因縁があるのかフランキーさんを睨み付ける。

 

「それに引き替えお前の兄弟子のアイスバーグは厄介だった……。恨みがあるはずの世界政府に自ら近付き我々も下手に手を出せなくなった!」

 

──グイッ

 

 なんの因縁があるのか暇潰しに予想しているとカクさんに腕を引き上げられた。

 

「お前が聞いて気分の良い話じゃ無いじゃろ」

 

 心配そうに顔を歪めている。

 

「……………関係な──」

「外で話をせんか?長官はこうなると長い」

「……………必要ない。聞かれたらマズいと?」

「いや、そうでは無い。ニコ・ロビンについても話したい事がある」

 

「カク?」

「なぁに、気にせんでくれ。ちょいと逢い引きさせて欲しいだけじゃ」

「ぶち殺されたいか」

 

 自分でもビックリするくらい低い声が出た。

 スパンダム達はビクリとしたのに、カクさんは一切気にせず飄々とした態度を崩さない。

 

 その心配した顔だけはやめてくれないかな。

 

 

 そこまでしてない抵抗も虚しくあっさり外へと連れ出される。見張りは中にいるせいか廊下はがらんとしており思わず眉を顰めた。

 

「女狐」

「……。」

「あの男は海賊王の船を作った男の弟子じゃ、もちろんその兄弟子のアイスバーグも、な」

「……………で?」

「……そんな事はただの言い訳じゃな。女狐、お前大丈夫か?この作戦に思う所もあるじゃろう」

 

 海軍に居た経歴があるからか、海軍の方針を知っている。

 

「正直政府はニコ・ロビンを使おうとしておるわい。けど海軍は違う。ただ捕縛する事を、罪人であろうと最低限の尊厳という物を守っておる」

 

 インペルダウンの内容は尊厳もへったくれも無いから飴と鞭の様な気がするけど、海軍は罪人を利用しない。

 騙して捕縛する事はあるけど。

 

「お前がいつから海軍に居るのかわしには分からんが…──」

 

 心配そうに眉を下げてカクさんは手を。

 

──ダァンッ!

 

 手を伸ばして私の腕を壁に押さえ付けた。

 

「ッ、何を!」

「──わしが海列車でお前に会った時お前の腕を掴んで挨拶をして質問したのは覚えとるな」

 

 カクさんの足は1本で自分の体を支え、残る1本で私を押さえつける為に足の間に入れていた。

 やばい、動けない……。

 

 反抗の為に彼と視線を合わせると思わずゾッとした。

 さっきまで心配そうな様子を見せていた表情はストンと抜け落ちていた。

 

 ハニートラップの1種だったかと今更ながら悟る。やばい、カクさんだからかより一層効く。

 

「『わしを知っとるのか』と聞いた。甘いのォ女狐、脈が知っとると言っておったわい」

 

 脈拍……!?

 は!?そんなもので判断したの!?

 

「震えておるぞ女狐」

 

 やばい、やばい。かなりやばい。

 知ってるに決まっている。詰めの甘さが招いた事は分かるけど動揺するなという方がおかしい。

 だって、カクさんは月組だったんだ。

 何も持たない平凡な雑用で、好きも嫌いもある普通の人間。

 力、能力、そこら辺にとことん関わりのない極一般的な雑用。

 

「剥ぐぞ」

 

 口で仮面を咥えられたと、混乱する頭で認識した瞬間後ろで結んでいた紐をぶち切る様に外された。

 

 目が合った。

 

 ギリリと手首を掴む力が強まる。

 カランと陶器の仮面が廊下に落ちる。

 

 

 バレた。バレた。

 カクさんに、よりにもよってこの人に。

 

「ふッ、ざけるなぁぁあ!」

 

 カクさんが振りかぶった拳を間一髪で避けると石造りの壁にヒビが入り崩れた。その勢いを殺せず私は部屋の中に転がり込む事となった。

 部屋の中にはニコ・ロビンが居る。

 それだけは頭に入っていたので、フードを引っ張って顔や髪色が見えないようにするだけで精一杯だった。

 

 受身も何もかも取れず吹き飛ばされた壁と共に地面をゴロゴロと転がる。

 普通に痛い。

 でもあの拳を喰らわなくて良かった。

 

「カク!?」

「おいお前ら一体どうし…ッ」

 

 起き上がろうと地面に手を着いたがそれより速く、まるで風の様な速さでカクさんが胸ぐらを掴みあげた。

 地面に背を付けて居ては力が入りづらい。

 

 そもそも2000オーバーの道力持っている人が正面から押さえつけて居て、私が起き上がれる筈ないか!

 ちくしょう!ふざけている時間も余裕もない!

 

「なんで、お前なんじゃい!」

「……………どけ!」

「なんでお前が大将などという馬鹿げた地位に就いた!恵まれた環境に、人間!何故お前のような腑抜けた人間が!」

 

 乗られてるせいで腹が絞まる上に、手は胸ぐらじゃなくて首に移動している。

 その目に映るのは明確な殺意。

 

 怖い。この人に殺意を向けられる事が怖い。

 

 そうだよ私は腑抜けてるよ!それがなんだ!

 

「う、るさい!」

 

 渾身の一撃、とまでは行かなかったが風の力も使って体勢を逆にする。今度は私が上だ。

 

「お前にとって恵まれた環境かもしれない!知るかそんなもの!私は必要なかった!譲れる物なら譲りたかった!他人が心から必要と欲しても私は心から必要無かった!」

 

 口調、声色。私は女狐だ。キープしろ。

 

 でも溢れる感情は制御出来ない。

 

「なんでお前がここに居る!なんでお前だ!」

 

 第1雑用部屋の人間じゃなければ良かった!

 耐えきれない!

 私にとって月組は他の言葉に表せないほど大切な存在なのに!どうしてカクさんが海軍に居たんだ!別の人間ならどれだけ良かったか!

 

 センゴクさんや親友や家族ですら信頼していないのに!唯一信頼したのは月組なのに!

 

「お前がそれを言うかッ!」

 

 ゴロゴロと横に転がり次に上を取ったのはカクさんだ。

 

「そうじゃ欲したわい!他人に認められても業績などとんと持たんお前が死ぬほど羨ましい!その気運をどれだけ羨ましいと思ったか!」

「お門違いも甚だしいッ!」

「あの時お前さえ殺していたら……!面倒な事にもアイツから話を聞き続けることも無かった!」

 

 誰が死ぬか馬鹿野郎がッ!

 

「何発殴っても気が済まない!」

「お互い様じゃな!」

 

「貴方達いい加減に…」

「「──黙ってろ/おれ!」」

 

 カリファの言葉に噛み付く。それよりカクさんの方が今は頭にきてる。

 13のガキじゃ無いのに人にどうしようも出来ない感情ばっかりぶつけてきやがって!私がどれだけ災厄の出会いと出来事を要らないと思ったか知らないくせに!

 

「私だって人間だ!」

「その態度が気に食わんッ!血を吐く思いでどれ程の修行に耐えてきたと思っておる!それなのに手に入れた力はお前より──媚び売って腑抜けたお前より下じゃ!なんでお前なんじゃい!」

 

 上になり下になりとどっちつかずの攻防。

 

「屁理屈ばかりでどうしようもない八つ当たりをされては腹が立つ!お前は何故CP9だ!」

 

 カクさんがCP9でなければ良かったのに。海軍に入らなければこんなに苦しい思いをする事なんて無かったのに。

 

「元帥に大将!七武海!どうしてお前ばかりが選ばれる!正義の為にお前が何をした!世界の為に一体お前が何をした昆虫食い!」

 

 私は常に私の安全の為に動いている。世界なんて知らない、正義なんて関係ない。『守りの海兵』なんて言われてるけど私は『護りの海兵』で自分を護る事を最優先とする。

 

「残った者達が連絡の取れないお前をどれだけ心配したと思っている!お前は!信頼を!踏みにじった!それが答えだ!」

 

 殴っても止められ、殴られたら避ける。

 頭に血だけが登る無駄な口論。

 

「お前の正義は世界で不要!」

「お前の時間は私の無駄を生んだ!」

 

 

「──お前など、死ねばいいッ」

 

 その理不尽な怒りは私にとってどうしようもない程正論すぎて、猫の皮被っていたとしても5年共に過ごした知り合いからの明確な殺意に泣きそうになった。

 

 カクさんを思いっきり突き飛ばし予備の仮面を取り出して着ける。

 

 

 

 私が自己中心的な人間なのは、幼い頃から知っている。開き直ってるしそれが私だと認めてる。

 自分本位で何もかもの嫌な事を堕天使のせいにして、根性無いから逃げてばかり。

 それなりの力はあるのに上手く使えなくて、むしろ使ってなくて。チートじゃないとか言いながらその可能性を自覚して。

 

 知ってるんだよそんなこと!

 親の実績引き継いで七光りな事!ずっと私の純粋な能力だけでここまで生きてきたわけじゃないって事!友を、協力者を、手に入れたわけじゃないって事!

 

 何より誰より私が1番知ってる。

 罪悪感は抱かないのに虚しさは感じるなんて自分本位だからこそじゃないか。

 

 

「………知ってるぞ、ずっと」

 

 

 仮面とフードが零れる涙を隠してくれた。




ここまで続けているシリアス展開。
ビックリするほど落ちる感想数。作者の体調不良を疑い出す読者。それでも変わらないテンションの『リィン〇〇(挨拶)シリーズ』読者。

素直だなおい。

私は!!!超元気!!
シリアルじゃなくても最近嬉々として書いてるよ!というわけで原作ワンピース『海賊の海兵』も見てみてね!同じ作者が書いてるよ!
というかシリアスまだまだ続くんでシリアルはお預けです。

リバウンドって言葉を知っているかい?つまり、後は分かるな?

ちなみに今回の話はこの作品を始めて最初の方にあったご指摘的な感想を反映させていただいています。
昔の鉄槌は二度と踏むまいて……ッ!(ツッコミ待ち)


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第180話 人を信頼しない理由

「貴方達子供じゃないんだから」

「知ったことか」

「……………知らない」

 

 カリファの言葉に腕を組んでカクさんとは反対側を向く。

 くっそ、口の中切れて血の味がする。

 カクさんの素って想像以上に柄が悪い。

 

 ドッタンバッタン(意訳)したがロブ・ルッチに無理矢理止められて渋々拳を納めた。

 結局1発も殴れなかったし打ち身で体が地味に痛む。

 

 泣きたくて堪らない。よりにもよってこの人が裏切りで。キツイ。

 

「知り合い、か?」

「知りとうもないわ」

「ハッ」

 

 スパンダムの言葉にカクさんが悪態をつき私は鼻で笑う。ニコ・ロビンが居るんだから余計な話はしたくないんだよ。

 

「あー…では衛兵、この2人をとりあえず鎖で繋いでおけ。海楼石は決して外すなよ…。カティ・フラムはインペルダウンへ、ニコ・ロビンはめんどく…海軍本部へ。護送船の準備が出来次第〝正義の門〟をくぐり出航する。CP9は各々部屋で休んでおけ」

「……………協力感謝する」

「なぁにが協力じゃ、無理矢理お前らが海軍本部までの航路を取り付けた癖に」

「あ?」

「図星か?」

「いい加減にしろ」

 

 思わず席を立つがブルーノとクマドリに押さえられ再び席につく。

 政府の手に渡るより先にニコ・ロビンの身柄は一旦海軍本部に預けられる事になっている。

 

 そこで殺す。

 古代兵器などについては口を割らせない。

 

 海軍側の目論見はそうだ。

 

「……………1人にさせてもらう」

「わしがお供してやろうか?昔の様に?」

「居るか」

「アイツらも馬鹿よなァ、ちょっと笑って人間味を出せばコロッと信じる。あの番号などただの茶番劇じゃ……」

「やめろ女狐ッ!カクも口を閉じろ!」

 

 殴りかかってやろうと足に力を入れたがブルーノに今度こそ本気で止められた。

 

「ッ、お前!」

「なんじゃあ?おお、そういやわしの配膳した飯は美味かったか?随分と色んな毒を試したんじゃがなぁ?」

「お前が……ッ!」

「カク!いい加減にしろ!」

「黙れガキ!ホームシックになって部屋の隅に縮こまってろうさ耳野郎!」

「その話はお互い封印したはずじゃろう!」

 

 月組だけが見れるアルバムに今でも保存されてるの知ってるからな!アンタのうさ耳!嫌がるカクさんにうさ耳付けたリックさんほんとナイス!

 

「女狐ってあんな感情的な奴だったのか……?」

「私に聞かないで、ほとんど知らないわ……」

 

 鎖に繋がれて会話してる人達は余裕じゃないのに余裕ぶらないで欲しい。

 

「こっ、の放浪癖持ち!」

「黙れ牛肉で豚肉を食べる肉食系!」

「やめーーーーーーやッ!」

 

 5年間の黒歴史は私の方が把握してるんだよ。

 私は猫被っていたので弱点は晒してない筈。

 

「お前だけは絶対殺す……!」

「……………喚いてろ」

 

 ニコ・ロビンが苦々しい顔をしてるからもうそろそろやめて欲しい。

 この部屋に居たく無いのでブルーノの拘束を振り払って落ち着きを取り戻す。部屋の外に出ようとするとスパンダムが声をかけた。

 

「あ、待てお前ら。忘れていた」

 

 そりゃあんなドタバタがあったら忘れるわな。

 

 そう言ってスパンダムが箱から取り出したのは悪魔の実だった。

 

「よよい!よれァ〜〜〜あ!!」

「悪魔の実じゃねーか!? ヤベェそれをこっちに近付けるな!」

 

 ジャブラが咄嗟に距離を取った。

 曰く、能力者が近付けば体が吹き飛ぶとか。

 

 馬鹿だろ。それは2つ目を口にした場合の惨状だろうに。あ、憎めないアホってこういう事か。

 

「一つ言っておくが俺にもそれが何の実か分からねェ……強くなれCP9…!」

「………………あっ」

 

 カクさんとカリファが手に取った悪魔の実の形状を見て反応してしまった。

 目敏くカクさんが近寄り、腕を掴んだ。脈拍ですね分かります。

 

「これが何の実か、知っとるんじゃな悪魔の実オタク」

「……………」

 

 顔を逸らして廊下に向かう。客室に行かなくてもどっか適当な所で時間潰せばいいか。

 

「女狐よ、食ってみるか?悪魔の実」

「……………食べてもいいなら食べるが?」

「……ッ!」

 

 2つ目を口にした場合体は四散する。

 そうだね、雑用の私も女狐の私も悪魔の実の能力者だとしているからそれは遠回しな殺害宣言。

 

「問う。食べてもいいのか?」

「………チッ」

 

 その実は私に不利益な能力じゃない。

 今まで食べる機会が巡ってこなかっただけでデメリットはカナヅチになるだけ。特に支障は無いから食べてもいい。

 

 堂々と言えばカクさんは舌打ちを何度も繰り返した。

 

「お前は秒針か」

 

 ブルーノの冷静なツッコミを聞きながら外に向かおうとするとロブ・ルッチに腰を掴まれた。

 なんでや。

 

「俺の部屋」

「チッ」

「なぜ私も行く必要が…!」

 

 司法の塔にはCP9それぞれに部屋があるのにロブ・ルッチの部屋に全員揃ってしまう。

 実はお前ら仲良いな。……私にとっての月組と同じ感じか。

 

 ロブ・ルッチの部屋は緑を基調とした落ち着いた雰囲気の大きな部屋だ。広いと言うより大きいという表現が似合う。

 下座の席に放り投げてられてイラッと来るがそれよりも言いたいことはある。

 

「バラす気かお前は!」

「非常に残念ながらバラせん理由があるわい!」

 

 カクさんに噛み付けば少し安心する答えが返ってきた。果たして誰にバレたらいけないのか分からないがカクさんにとって不味いことらしい。

 

「死人に口なしだ……殺す……」

「それはこっちのセリフじゃな……お前も第1雑用部屋の奴らも全員殺す……!」

「させるか!」

「随分執着しとるもんじゃな薄情もんが!」

「薄情なのはどっちだ!」

「わしは仕事じゃ!騙される方が悪い!」

 

 正論だ。

 正論にキレるのはお門違いだけど、分かってるけど感情をコントロール出来ない。

 

「簡単に騙されおって、それで大将なんじゃからレベルの低さがうかがえるわ!」

「グッ、う……!」

「図星か名ばかりの昆虫食い」

 

 顎をあげて煽ってくる。

 

「……お前の黒歴史を私が握っている事を忘れるなよ仮面ヒーロー君」

「……わしの一言でニコ・ロビンに正体がバレるということを忘れるなよ天使殿」

 

「さっさと食え!」

 

 痺れを切らしたブルーノが叱り付けるように言い放つ。多分カクさんが最年少だと思うし、ブルーノが最年長。

 

「最年長はこれでもジャブラだーチャパパー」

「は!?」

「おい待て女狐なんだその『は!?』ってのは」

「声、出しッ」

「よよい!あ心の声がァ〜〜もれてェ〜エ!」

「やかましい!音量!」

 

 椅子の背もたれから身を乗り出したジャブラが私の肩を組む。

 

「見て見てカク、俺ら仲良し」

「まとめて殺すのに便利じゃな」

「巻き込むな!」

 

 距離を詰めるな!馴れ合おうとするな!触れるな!ノットフレンドリー!

 

 私をここに連れてきた張本人のロブ・ルッチは上座に座ってネクタイを緩めていた。

 とりあえずCP9が全員ここに集まっているのは都合がいい。

 ニコ・ロビン達は多分大丈夫だと思うけど。

 

「あんたも飲むか?」

「要らぬ」

「口調が戻ってきとるぞ」

 

 思わず口を押さえ、手のひらの中でこっそり口角を上げる。カクさんが私の正体をバラしたくない理由はこの中にあるという事か。

 

 ロブ・ルッチは髪をまとめてスッキリさせた後度の強い酒をグラスに注いだ。

 

「何故私を連れてきたロブ・ルッチ」

「ん?あぁ、カクがギャーギャー騒ぐのが珍しかったからな」

「子供か……」

「わしより子供のくせに何を言うか」

 

「……は?」

「えっ」

「はぁ!?」

 

 潜入組から驚きの声が零れる。

 ちなみに彼らと同じく聞こえていたであろうジャブラは口をぽかんと空けていた。

 

 ……フクロウに聞かれなかっただけセーフか。

 

「………………肉食系」

「反省はせんがこちらのミスじゃった。だがその呼び方はやめい」

 

 カクさんは反省の色を全く見せないどころかニヤニヤ笑いながら追い打ちをかける。

 

「昔の様に呼んでみたらどうじゃ。『カクお兄ちゃん』と…──」

 

──ズガァンッ!

 

 氷結した水分が巨大な斬馬刀を象ってカクさんの足元に突き刺さった。いや、確実に心臓を狙って落としたはずなのに軌道を逸らされた。

 

「ッ、戯言を一々!」

「そーじゃなぁ……今のお前を見とったらアレが猫を被っとる事くらい容易に想像出来る……」

 

 手のひらで転がされている感じが否めない。腹立つ。腹立つ。

 死ぬほど腹立つ。

 

「ハッ、戯言を一々覚えとるのはどっちじゃ。お互い警戒しとったか?いや、違うな。お前はわしらを手駒にしようと画策した」

「違う!」

「違わん」

 

 月組は手駒じゃない。道具でもない。

 便利な人達だとは思ったけど、信じて頼りにしてる同期。

 背中を見せても安心出来る、衣食住を共にして命の危険性を感じない。

 

 大事な人達。

 

 元々下心ありで近付いたんじゃ無い。

 

「結果論」

「……………そう」

 

 そうだった。

 結果が同じであれば理由も過程もどうでもいいと知っている。

 

「ならお前は紛うことなき敵だと結論を出す」

 

 たとえそれまで歩んできた軌跡があれど──

 

 

 

「──結論に至るまで随分遅かったのォ?」

 

 

 カチリと体が固まる。

 

「訂正させてもらうわい。薄情者じゃなく、公私を分けられんただのお子ちゃまじゃったな」

 

 そう言ってカクさんは悪魔の実をがぶりと食べた。不味そうに頬をふくらませ吐き出すのを我慢している様だった。

 

「ロブ・ルッチ」

「なんだ……?」

「お前達は政府に何を求めた?」

「……殺しの、正当化」

 

 それを聞いて席を立つ。

 煽ってくるカクさんには目もくれずに外へ。

 

 廊下を通り、迷子にならない程度に距離を。

 あの部屋から、CP9から離れる。

 

 

「………」

 

 うっすらと爆発音が聞こえた。あー多分ルフィ達かなぁ。うん、私頑張ってあの部屋に留まったから充分時間稼げたよね。

 

 誰もいない廊下でズルズルと地面に座り込む。

 

「もう、いない……」

 

 私の知っている月組のカクさんは幻想だった。

 グレンさん達になんて言おう…リックさんは前向きに捉えるのかな……ニコラスさん辺りならショック受けて固まりそう……。

 

「………楽しかったんだけどなァ。30人でバタバタと当番を回すして、写真をこっそり撮り集めるして、ただいまって、おかえりって」

 

 口の中、血の味がする。

 これだから。信じられないんだ。

 

「───…─」

 

 音にならない言葉を呟いた。




 一つ、兄に対して肉体的にも名誉的にも危害を加えられる事。
 二つ、自分のモノを使われる事。
 三つ、格下に利用される事。

そして、『四』つ。
最後の地雷は言葉と共に隠された。人を信頼しない理由とは、それである。

リィンには裏設定があるので知っているのと知らないとで文章の見解が違ってきます。つまり、お得意の伏線ですね。

なてなさんが素敵なイラストを描いてくれました。

【挿絵表示】


今まで何人もの方が描いて下さり本当に嬉しくて、保存しています。アナログ形式でも。数が、膨大。好き…。


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番外編15 〜幻の26番〜

 

 それは昔の話。

 決別を決めた弱い強者が、太陽の光を反射して辺りを照らす空間で仮面を被っていた時期の話。

 

「リィンです」

 

 第1雑用部屋に1人の少女が加わった。それにより部屋は満員となり、運の良かったメンバーは影でガッツポーズをする。

 そんなことを把握しながらリィンは偽物の笑顔を振りまく。

 

 傷だらけ。

 服の下から覗く包帯が痛々しい。

 

 しかしリィンは笑みを絶やさなかった。同室の同期は心配を敢えてせずに手助けをする事にしたのだ。

 

「これ俺がするなー」

「あ、リィンちゃん、こっちだよこっち。人が沢山いるから気をつけてね」

 

 変に気を遣われるより、1番必要としてる手をくれる。

 入隊して約1ヶ月後、彼らの観察力の高さに彼女は舌をまいた。

 

 

 

「(仲良くしとって損は無いじゃろうな)………リィン、それわしが持ってやるわい」

 

 その頃のカクは天使愛好会の幹部として程よい距離感を保っていた。

 正直興味も無かったが、その部屋で変に目立たない為には変人になるしか無かった。

 

「ありがとうますぞり!」

「歳も比較的近いし、よろしく頼むの」

「よろ、しゅく……よろ、よろしくぞ」

「ブハ…ッ!」

 

 当時リィン4歳、カク13歳の出会いだった。

 

 

 それから1年後だ。

 徐々にリィンの才能、人に目を付けられる能力に誰よりも早くカクが気付いた。

 

 成人済みの将校候補と仲良くなっているのに気付き、更に大将と交流もあると知った。

 有益な情報を手にする為に将校に近付こうと躍起になっていたカクにとって、その光景はとても苦しくなった。子供相手に大人げないと自分を律しながら。

 

 

 

「わしはァ〜〜正義のヒーローになるんじゃ〜」

「オイ誰だカクに酒飲ませたのは!コイツまだ14だぞ!」

「謎の美男子、仮面ヒーロー、カク!見参!」

「お前はそれでいいのか……」

 

 もちろん酔ってなどいなかった。

 仮面なのに美男子と分かるのか、謎なのに名前を名乗ってどうする。そんなツッコミが入れられながらカクは算段を練る。

 

 最近現れた女狐の件を調べなければならない。

 そして新戦力の目星を付けておかなれば、と。

 

「ここにだな……こう……うさ耳カチューシャがあるだろ?」

「ノーランはマジで何処に仕舞ってるんだ」

「いえーい」

「この部屋の忘年会やべーわ!俺お前らほんと好き!」

「カクー!うさ耳付けろー!」

「装・着ッ!」

「ブハハハ!ヒィーッ!腹痛てェ!」

「おっとォ!こちら実況のジョーダン!オレゴ選手、落ちました!寝落ちです!」

 

 

 

「えへへ……私、ここ、楽しむでしゅるぞ……」

 

 眠い目を擦りながらリィンは本音を零した。

 部屋の中の視線が一点に集まってもいつもの事だとリィンは気にしない。

 

「俺ここ好きーーーッ!」

「僕も好きですーーー!」

「わしも好きじゃーーーッ!」

 

 そこからは好きコールばかりであった。

 特別な人間など居ない普通の空間。

 

 普通の、世界。

 

「私、ぞ、好きます……」

 

 

 

 

「はへ?ほひけふむ?」

「お前……肉ばっかり食うなよ……こっちが気持ち悪い……」

 

 牛肉で豚肉を食べていたカクにハッシュが雑用仕事の交代を申し出た。

 

「今リィンが放浪中でよ、七武海徴収の茶汲み係が居ないんだって。当番的に代理は俺なんだけど嫌だ。正直行きたくない。交代してくれ……」

 

 流石は優位に立たなければ強気になれないビビり。望んでいた仕事だとカクは内心思いながらも考える素振りを見せた。

 

「わしに出来るかの?」

「出来る出来る大丈夫」

 

 随分適当な返事にため息を吐いて皿の上の物を食べる。皿の影に隠れてニヤリと笑った。

 

 

 

 

「リィンじゃないのか。奴よりは茶が旨いが」

「オイ、ミホーク。今日新入りが来るとか言ってた癖に来ねェじゃねェか」

「センゴク、新しい七武海というのは一体誰なんだ?」

 

「あー……そいつは今リィンを誘拐中だな」

 

 自分の事など殆ど視界に無い、そんな態度にカクは我慢の限界だった。

 精神年齢がまだ低い彼にはどうしようも出来ない嫉妬が生まれる。

 

 なんで、アイツばかり………!

 

 

 

「もしもし、ルッチか?例の人間なんじゃが、これは無理じゃな……。次の潜入もあるし、第1雑用部屋の奴ら全員殺すしか手はないわ」

『そうか……血が滾るな』

「結局わしらは血の中でしか生きれんのォ」

 

 普通の世界などクソ喰らえだ。

 望むのは、果てしない強さを叶えるための過酷で醜い世界だ。

 

 

 

 ==========

 

 

 

「(過ごしやすい……)」

 

 過剰な心配をせずに手助けをしてくれる月組はリィンとって都合が良くて、楽だった。

 半年雑用として過ごせば、スモーカーやヒナという友人が出来た。立場を気にした。探り探りの友人関係に気疲れする事も多々ある。

 

 それでも変わらずリィンを愛してくれた同期の居心地が良かった。

 

 リィンはあまり話をしないが、居心地の良さに頻繁に傍にいた人間がいる。

 

「んー?どうしたんじゃ?」

「文字、不明な部分。解読願いぞり」

 

 悪魔の実大百科や本を取り出して分からない文字を聞く。

 

麒麟(キリン)じゃな」

「ありがとじょー、カクお兄ちゃんッ!……えへへ、なんつって」

「あああーーーーー可愛ええのォ〜〜〜わしに妹が居たらこんな感じじゃろうか〜〜!」

 

 巫山戯(ふざけ)て兄の様に呼んだ。

 3人の兄と離れてホームシックになっていたのもあって、リィンはカクを兄の立場へと無理矢理入れ込んだ。

 

 仕方なかったのだ、その時のリィンには。

 それしか無かった。

 

 

 

 

「泣きよるんか?」

 

 ある日の夜中、心配そうな顔でカクはリィンを覗き込んだ。

 

「さ、寂しいでしゅて」

「そうか……。のォリィン、来るか?わしは寒いんじゃ〜」

 

 とても優しいカク。

 彼は自分の布団にリィンを呼ぶ。

 

「不快、不起訴、ふ、ふ?あ、不要ぞ!」

「お前さんの言葉は面白いの……」

 

 その親切に、救われた。幸福な日々に。

 

「ありがとうぞ」

 

 ベゴニアの小さな花が月明かりを浴びていた。

 

 

 

「はえ?カクさんが去るした?」

「流石に襲撃事件が堪えたらしい。止める理由も無いしな」

「うー……ノーランさんも近々去ると進言してますですぞりゅ?」

「あァ、言ってたな」

 

 態度を、被っていた猫を捨ててもリィンを変わらず愛してくれた同期。

 

 襲撃事件の際、かちりと『信頼』という言葉が当てはまった。

 

 カクが海軍を去ったというのは、その翌日の事だった。

 

「まァカクさんなら有り得るじょ」

「良くも悪くも普通だからなァ。流石に成人してない子供にあの光景は」

「グレンさんグレンさん、私。私まだ9歳」

「……………前言撤回を」

「却下じょーー!」

 

 例え雑用という括りが無くなっても、信頼してる同期は変わらない。

 出版社を開きたいと常々言っていたノーランも変わらないのだから。平気だった。

 

 兄と巫山戯て呼んだあの時から。

 

 ……自分がこれ以上、依存しない内に。

 

「とりあえず破壊した部屋を片付けるのが仕事だな……」

「リィンちゃんが一瞬で壊したとは思えない破壊具合だよなァ」

「悪魔の実の暴走、それぞ決定!さァ瓦礫撤収ぞやりまするよやるですー!」

「爆発は無しの方向で!」

「リックさんが虐めるぞりーッ!」

「脳内花畑野郎は無視するのが1番平和だから」

 

 あ、とリィンは立ち止まる。

 そして笑顔で言った。

 

「ただいま!」

 

 その声に対して月組がした返事は言うまでも無いだろう。

 普通の世界は、時間を掛けて濃度を薄れさせながら、リィンの心に浸透していった。

 

 

 

 ==========

 

 

「───…─」

 

 あの時言った言葉。

 

 

 もう、何かしらの言葉を伝える相手など居ないのだ。

 

 

 

 水はいつか枯れる。

 固まった氷が全て昇華されるまで。

 

「面倒臭いのは、私では無きですか」

 

 馬鹿らしく思えて来て、リィンは女狐として笑った。




例え裏設定を察しても口を閉ざしていて欲しい。なぁ裏設定知ってる方、二つの意味で読めるよね???楽しい????私はリィンが傷付いてすごく楽しい!!!(ダメやん)


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第181話 正解の鍵はどこに

 

「いやー……まさかこんな簡単にここまで来れるとは……」

「リィン怖い」

「リィンちゃんが怖い」

「ホントなんでアイツ海軍に居たんだよ」

 

 麦わらの一味+パウリーは裁判所の屋上まで無傷でやって来ていた。

 

「ほんと怖い……」

 

 ウソップが震える。

 彼らの纏った服は真っ黒の役人服。

 

 リィンの案だ。

 曰く、『政府の役人も海軍の兵も合同であれば自分の部隊以外の顔なぞ分からぬぞ。…──全員で剥ぎ取るしろ』と。

 

 リィンの案なのだから安全性はそれなりに高い筈。それなのに何故本人は来ないのだろうか。実際無傷で裁判所まで辿り着けた。

 そこまで考えてウソップは思い付く。

 

「(いやアイツなら自分の黒歴史知ってる海兵と顔突合せたく無いだろうな)」

 

 ……残念ながら正解である。ウソップはリィンの事をよく分かっている。

 

 それに反して残念なナミは考えた。

 

「(作戦の主体が政府だから協力体制にある海兵に不信感を持たせる為にわざわざ役人服を勧めたのね……)」

 

 ……非常に現状の的を射ているが、彼女の愛するリィンは案外そこまで考えていない。

 スパイをしている海兵として海軍の失態を作りたくないだけである。

 

「(仲間に怪我させたくないだなんてリィンらしいわ……)」

 

 王族に怪我させたくないの間違いである。

 

「でもウソップ、お前も案外言えた物じゃねェからな」

「なんでだよ」

「巨人の門番になんて言ったか、もう一度この場にいる人間相手に言ってみろ」

 

 嫌そうな顔をしてゾロはウソップを見る。

 ウソップはふむ、と少し思い出してから口を開いた。

 

「『お前らの船長、捕まってないって役人が影で言ってたけど。そんな簡単に捕まる程弱いのか?違うよな?』だな」

「うわぁ……」

 

 思わず素でサンジが呟いてしまった。

 セリフを聞く限りあたかも門番2人のエルバフを海賊として気遣う様に聞こえる。

 

 しかし実際は誰かに罪を押し付けたし捏造しているし煽っていた。

 

「根拠は、あったのか?」

「あるわけねーだろ。エルバフの2人が呟いてたのを聞いて捏造した」

「うわぁ……」

 

 引いた声、本日2度目である。

 

「まぁリィンにエルバフの船長クラスは捕まってないって昔聞いた様な聞いてない様な……」

「曖昧かよ」

「まぁいいじゃねェか、なァルフィ」

「おう!」

 

 何も考えてないルフィに話題を振る事で強制的に会話を終わらせるウソップ。流石リィンという鬼畜外道にツッコミを入れているだけある。奴がやりそうな事を見事してのけた。

 味方は現地調達。ある意味賭けだ。

 

「……ここから司法の塔に行くまで方法が無い」

 

 構造を知っている。という事で陽動の連合軍から別行動し麦わらの一味に着いてきたパウリーが口を開いた。

 裁判所から司法の塔まで跳ね橋がある。

 しかし操作する人間も方法も何も無いので跳ね橋は開かない。

 

「なんか聞いてないか?」

「なるほど、これじゃ前に進めないって事か」

「私とリィンの関係みたいね」

「……理解してるんだなァ、お前」

 

 ウソップの冷たい視線を無視してナミは懐からリィンの発言メモを取り出した。

 

「『飛べ』」

「つまり丸投げか!」

 

 そうしているとビビは屋上から下を眺め、底無しの滝つぼに身震いした。そしてその視線を上に移動させる。

 

「あの、パウリーさん」

「ん?」

「ここから……そうね、向こう岸の窓までの長さのロープって作れる?」

「持っている奴全部使えば辛うじて出来るが…」

 

 ビビは頭の中で距離を計算する。

 風はやや右の追い風。

 

「行けるわ」

 

 教養の高さが、突破する打開策を作り出す。

 その声に一味は目を輝かせた。

 

「ウソップさん、ロープの先端を下へ。引っ掛けて欲しいの。傾斜はなるべく緩やかに」

 

 ウソップはその言葉を聞いて作戦を悟る。

 そして目星を付けた。窓枠がある。

 

「いけるな」

 

 裁判所の柱とあの窓枠に縄を繋げれば、その縄を伝り滑る事が出来る。

 ハンガーなどで滑るのもいいが、チョッパーのバランス感覚なら余裕だろう。

 

 ナバロンで険しい山肌を駆け上がる経験をしたビビはそう考えた。

 

「この作戦は正面突破。多分ここから隠れる必要なんてなくなるわ」

「何してもいいのか?」

「ええ。下に到着すれば格好なんて意味がなくなるわ、ド派手に戦いましょう!」

 

「出来たぜ。狙撃手、ロープを飛ばしてくれ」

 

 パウリーの言葉にウソップは頷いて取り付けたフックを大きなパチンコで飛ばした。

 

──カチャリ…

 

 狙撃の腕は進化している。ここに来る前に、リィンに頼み風貝(ブレスダイアル)に風を貯めている。

 届かないかと思われたが風の後押しもあり見事窓枠に引っかかった。

 

「よし、縄を縛り付けたぞ!」

 

 純粋なパワーで言えば1番の怪力であるチョッパーが反対側の縄を柱に縛り終えた。

 

「じゃあ乗り込むか?」

「剣士の俺が壁を斬り破れば良いか」

 

 縄の先は石壁。物理的に開けるしか無い。

 チョッパーに乗れるのは2人だ──もちろんサンジの意見でレディ2人が乗る事になった。残る人間は縄で滑らなければならない。

 

「じゃあよ、ウソップ」

 

 ルフィはイタズラを企む少年の笑顔で言った。

 

「喧嘩、売るか!あの旗に!」

 

 

 

 ==========

 

 

 

 バサバサとはためいていた筈の世界政府の旗。

 

 ……なんで燃えてるん?ちょっとリィンさんに説明してもらおうか?

 

 スパンダムに呼ばれたのでニコ・ロビンが居る部屋に戻り窓側に行くと裁判所の屋上で一味+パウリーさんがこちらを見ていた。

 

 ……だからお前ら何してるん???

 

「いいかお前らーーーーーッ!」

 

 ルフィの大きな叫び声が聞こえた。

 

「俺の仲間に手を出した事!後悔してももう遅いからなーーッ!俺は!世界を!敵に回すッ!」

 

 ……(リィン)抜きでそんな重要事項決めないで欲しかったんだけど。

 

「ロビーーーンッ!安心して待ってろーーッ!」

 

 助け出せる事を微塵も疑っていないルフィの声が聞こえたニコ・ロビンは、海楼石に繋がれた状態でも余裕な様子でうっすら笑った。

 

「……ごめんなさいね、待ってるだけの性分じゃ無いの。信じてるわ、()()()

 

 その声は絶対に届かない筈なのにルフィはニヤリと笑った。

 

 

 その時スパンダムは大笑いをし始めた。

 

「正気か貴様らァ!あのマークは4つの海と偉大なる航路(グランドライン)にある170国以上もの加盟国の象徴!もう終わりだ!世界を敵に回して生きていられると思うなよ!」

 

 始末書、やばいよね、コレ。

 

 というか加盟国の王女が加盟国連合に喧嘩売って良いのか……?

 うん、胃が痛いからこれ以上考えない事にしよう。女狐はドジっ子。

 

「ワハハハ!ゲームをしよう、麦わらの一味!」

 

 CP9は顔を出さずに部屋の中でスパンダムの発言を聞いている。なんでお前らがベランダに出ないで私とスパンダムだけが出てるの?謎。

 

「ニコ・ロビンの海楼石の鍵をCP9から奪って見せろ。ただし俺たちはニコ・ロビンを連れて行くし偽物の鍵も用意する」

 

 鍵取り合戦か。

 ……いや、正直リィンが居れば平気なんだけどね、律儀に守らないと思う。

 

 それだけ言うとスパンダムは部屋の中に戻って行った。

 

 私に注がれるサンジ様の視線がとても嫌だ。

 

 

「正解の鍵は1。さーて鍵分けじゃ鍵分け」

 

 ()()の声をBGMに麦わらの一味の行動を見守る。どうやらロープを使ってこちら側に滑り込むらしい。

 私が氷を張るなりしなくても平気だったか。

 

「ん…」

 

 窓辺でぼんやり眺めていた私にルッチが握り締めた手を差し出した。

 

 何してんだコイツ。

 ……って、思わせてください。多分、いや絶対その手のひらにはロクな物入ってないから。

 

「チッ」

 

 舌打ちと共に無理矢理渡してきやがった。

 渋々受け取ってそれを見てみる。

 

「……………おい」

「なんじゃあ女狐、不服か?」

 

 私の手には鍵があった。

 しかも数字は1。ニコ・ロビンの鍵だ。

 

「お前の行動はわしと一緒じゃ。何をしでかすかわからんからのォ?」

 

 カクの煽りに何も反応せずに腕を組む。

 同時に下の方でドゴンッと壁が破壊される音と振動が伝わってきた。乗り込んで来たか。

 

 戦闘狂というか、殺人癖持ちのCP9は鍵を片手に敵の登場を喜びニヤリと笑う。

 

 

 ただ1人、カクだけは私の態度が不服だったようだ。

 

「ルッチ。お前は俺とニコ・ロビンに桟橋まで着いて来い」

「……アァ」

 

 積極的に戦えない、しかし確実に鉢合わせる立ち位置に微妙な顔をして返事をしている。

 スパンダムはそんな事気付かずにニコ・ロビンの鎖を持って立たせた。

 

 その時ニコ・ロビンは背を向けているルッチに向かって、どこからか取り出したナイフで刺そうとした。

 

──カラン……

 

 袖に隠し持っておけるタイプのナイフが私に阻まれて地面に落ちる。

 海楼石に繋がれた後ろ手だから、ニコ・ロビンは力が入りにくい。手首を握り締めた私にキッと睨み付けた。

 

「余計な真似を……」

 

 私の背中からルッチの小さい声が聞こえた。

 

 傷一つ付けたなら御の字だけど、ニコ・ロビンは絶対にそれが出来ない。

 実力体格が自分より上の人間に、更に自分が万全で無い状況で、傷が付けれたら私は今頃ミホさんを打ち破ってるわ馬鹿。

 

 見聞色の覇気使いに、生身での攻撃は相性が悪い。多分ルッチは手首を掴んで折ってた。

 

「生意気なッ!」

 

 スパンダムがバキッとニコ・ロビンを殴る。

 その衝撃で彼女は地面に転がった。

 

 私はその隙に風で指先を切り付ける。

 

「ッ!」

 

 痛みに顔を歪めるニコ・ロビン。

 恐らくピンポイントで出来た小さな傷にも気付いてる。打撲と切り傷の痛みは違うから。

 ……経験則ですが何か?私別に泣いてない、ぐすん。

 

「女狐、わしらも持ち場に付くぞ。グズグズしとる暇は無い」

 

 どうやら心配に思ったジャブラや、拷問がまだのフランキーさんも一緒に行動するみたいだ。

 お互い監視出来るのはこちらとしても好都合だからカクについて行く。立ち上がるニコ・ロビンの隣を通る時、小さく呟いた。

 

「……血の跡位残せ」

 

 一緒にナイフの隠し場所を考えた私は助言が出来る。もう片方の袖口に隠されたナイフで血を流せば追ってくるルフィ達の目印になる。

 

 

 どうやら息を呑む音も何も聞こえないので余計なお世話だった様だけど。

 

「俺たちも適当な場所につくチャパパパ」

「あやァい!フクロォ〜〜〜ウ、俺と一緒に。あ行かねェ〜〜〜かァ〜あ」

「……ジャブラ、そっちは頼んだ。こっちは頑張るから」

「今の所女狐が大人しいから平気だな」

 

 フクロウ、クマドリ、ブルーノの3人は部屋を出て行った。カクと私が問題児扱いされてるのすごく不服です。私は問題児じゃありません。

 

「私は能力も試したいし1人でいます、長官」

「おう、分かった」

「セクハラです」

「う、受け答えしただけでか……?」

 

 陽動の連合軍は指示通り怪我を最小限に目立っているだろうか。心配。

 でもとりあえずやるべき事はやっておく。

 

「女狐ェッ!」

「……チィッ!」

 

 カクの並ならぬ殺気に晒されながらも、私は歩を進めた。




本格的に奪還が始まる。つまりここからは私の苦手な戦闘描写………ガチシリアスとシリアルで誤魔化す式、く、ここは成長の為に前者を選ぶべきか…!(まだ書けてない)


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第182話 越えるべき敵

 

 司法の塔内部、ダイナミックに突入した麦わらの一味+αは3班に別れて行動していた。

 というのも、どこかの船長が1人で突っ走ったが故の惨状である。

 

 『1対2以下になるな』

 

「……ルフィには何か秘策があるみたいだ」

 

 リィンの言葉など聞いてないように走り出したルフィを見てサンジが呟く。

 

「ひょっとしたらリィンから指示が出てたり?」

「そうだといいがな……」

 

 虱潰しにロビンの鍵を探す為に走り回る。そして1つの部屋に入ったのはサンジとナミとウソップの3人だった。

 この部屋にいる、そう確信を持ってサンジが扉を開けた。

 

「あら、当たり」

 

 途端、女性の声が彼らの耳に入る。

 部屋の内装はバスルームであり、床には泡が所々残ってある。しかし声の主はバスルームとは不釣り合いだが、随分露出の激しいスーツを着こなしていた。

 

「アイスバーグさんの秘書……!」

 

 サンジ達は最少人数の3人での戦闘のため、見聞色の覇気を使いなるべく弱いCP9を狙った。

 そしてそこにいたのはカリファ。辛うじて3人と面識のある人物だった。

 

 カリファは『獲物』が自分の元へ来たことに喜びを感じる。曲がりなりにも自分はCP9なのだと実感しながら。

 

「悪いけど、今リィンが居ないから鍵が必要なの。渡してもらうわ」

 

 やる気満々のナミが棍棒を構える。正確に言うと、ウソップが空島で手に入れた(ダイヤル)を使って改造した天候棒(クリマタクト)だ。

 

「1つ残念なお知らせをしてあげる」

 

 負けることを想定していないのか余裕たっぷりの表情でカリファは腕を組んだ。

 

「私達、今回の任務に本気を出してるの」

「あぐ…ッ!」

 

 パッ、と姿が消えたと思った瞬間。剃で移動したカリファがナミを蹴り飛ばした。

 する素振りを見せない状態からの六式に、脳の反応速度は追い付かず呆気に取られた。

 

「ナミさん大丈夫か!?」

「お、おいおいマジかよ……」

 

 地面の泡にぶつかりながら転がったせいでベトベトのナミは痛みに呻く。慌ててサンジが駆け寄り、ウソップは圧倒的な戦力差に苦い顔をした。

 

「覇気すら習得してない下級海賊が、私達に逆らうなんて身の程知らずだわ」

 

 たった一蹴りで戦線が崩される。

 プレッシャーも力も何もかも、自分達より確実に上。

 

 足掻くだけ無駄な戦力差だ。

 CP9の中で1番弱いであろう女相手でも、だ。

 

「(それでも足掻いてここまで来たんだ…ッ!)」

 

 女狐、青雉、テゾーロ。

 ここに来るまでに敵わない敵との遭遇が続いていた。運も味方して、なんとか乗り越えて来た。

 壁は越えること無く避けてきたが、目の前に立ちはだかる壁の大きさを知らない訳では無い。

 

 越えるべき時はやってきた。

 

 きっと今がそれだ。

 

「サンジ君、あのスピード追いつける……?」

「かろう、じて」

 

 見聞色と武装色の覇気が厄介なだけあって、速度はサンジと同等。少なくとも見聞色の覇気を本当に齧っただけのサンジでは太刀打ち出来ないだろう。もし覇気というアドバンテージが無ければなんとかなったかもしれない。

 結局、今更その話をしても無駄である。

 

「〝剃〟」

 

 サンジとナミに、カリファが迫る。訓練された脚力はまるで斬撃。

 サンジはナミを抱えてウソップに向かって投げた。手荒だが足でまといになりかねない状態でナミがサンジの邪魔をする訳にはいかない。

 

「くっ……!」

「なかなか速いわね。でも見聞色をまともに使えないようでは──」

 

──バキッ

 

「無意味よ」

 

 肋骨に勢い良く入った蹴りはサンジを踞らせるのに充分だった。

 

「洗ってあげましょう」

 

 カリファは唐突に腕を変化させる。それはキメ細やかな泡だった。

 事前の情報収集では悪魔の実の能力者ではなかったはずだが、いつの間に能力者になったのか。

 

「ウソップ」

「あァ」

 

 決定的な弱点がある能力者。

 ウソップは玉を準備し、ナミは天候棒(クリマタクト)を握りしめる。その様子に気付いたカリファは油断すること無く睨み付けた。

 余裕などありはしない。ただ確実に麦わらの一味を滅する事を目標として、戦う。

 

「ナミ、お前スモーカーやれ」

「じゃあウソップはアラバスタ出航の黒檻隊ね」

「やるしかねぇか」

 

 カリファが訝しげに眉を顰めると、ウソップはパチンコを構えた。

 

 ここに来る前知った。

 『海水や海楼石こそ最強の手段だ』と。

 

「〝海水星〟!」

 

 海楼石は加工が難しい。しかし海水ならば加工が出来る。ゼラチンで表面を固めた海水の弾。

 それなりの衝撃を与えればプチッと潰れる。

 

「ッ!」

 

 蹲っていたサンジがカリファの足を止めるべく手を伸ばすが、避けられる。その時カリファは手の泡をサンジの口に押し込んだ。1番厄介な人間を優先して潰す事にした様だ。

 当然泡を口に含んだサンジは顔を青くして吐き出す。容赦もなく本気だ。

 

 見聞色の覇気というのは厄介な物で動きを読んでしまう。

 

 ウソップの弾も当然ながら見切られた。

 

「はぁっ!」

 

 しかしウソップの弾は正確だ。見事にカリファの避ける方向を誘導してみせた。アラバスタで黒檻隊相手に戦っていた際、嫌だと思った相手側の作戦だ。

 

 その隙に蜃気楼を生み出して姿を消したナミが棍棒をカリファの頭に向かって振り下ろした。

 

 ガンッ、と鈍い音がしてカリファの足元がふらつく。

 

 ナミは攻撃の手を休めることなく執拗に棍棒を振り回した。型など無いがその動きはリィンに似ている。流石変態さんである、脅威の観察力でトレースしてしまっていた。

 

「……ッ!」

 

 ナミにぶつかっても構わない弾は遠慮なく2人に降り注ぐ。

 カリファは頭から流れる血を拭えず片目が塞がる。見聞色の覇気使いにとっては些細な事だが。

 

「(く……!海水で上手く……能力が……!)」

 

 しかし所詮はナミの体力。

 息もつかせない攻撃は1分と持たず途切れる。しかしその頃には復活したサンジの足技が猛威を奮っていた。

 海水星の在庫は少ない。リィンをもっとこき使っておくべきだったと後悔したが、海水に濡れたカリファの動きは確実に遅くなっている。

 

「ナミさんッ!」

 

 サンジは足を器用に使い攻撃をいなすと腕を使ってカリファの動きを止めた。

 

 当然呼ばれたナミは天候棒(クリマタクト)を構え喉に向けて突いた。遠慮などしていたら負けである。

 

「ッ、ぐ……! なに、こ、れ……力、が」

 

 地面に押し付けてナミがマウントを取る。

 サンジとウソップは深く息を吐いた。

 

「海楼石の、加工って、難しいらしい、わね」

 

 体力が少ないナミは肩で息をする。しかしその顔には笑みが浮かんでいた。

 

「でも、──出来ないわけじゃ、無い」

 

 無機物であれば操れるチートな外道が親友を真似て改造した天候棒(クリマタクト)。先端には海楼石が埋め込まれていた。

 

「俺はキミを蹴りたくない。鍵を出してくれ」

 

 サンジはゲホッと咳き込みながら見下ろす。

 どうやら肋骨は折れているようだ。たった一撃でそこまでの衝撃、正直恐ろしい。今回は作戦勝ちだったようだ。

 

「……私の鍵は、ハズレよ」

 

 ポケットから取り出した鍵は素直にナミの手に渡った。苦悶の表情を浮かべてカリファは聞く。

 

「何故、厄介な仲間を、抱えてられるの」

「ロビンは敵だったけど、それでも心を通わせたわ。『何故』とか、そんな理論的な事じゃなくて感情論なの。厄介な仲間がロビンなんじゃなくて、たまたまロビンが厄介な仲間ってだけよ」

「違う」

 

 喉を押さえつけられ酷く苦しそうにカリファは訂正の言葉を紡ぐ。

 

「〝堕天使〟よ」

 

 麦わらの一味に堕天使が居たからCP9は本気を出している。

 

「何も、知らないのに、哀れね。その子が、アイスバーグさんの部屋で、なんて言ったと思うの」

「リィンの隠し事なんて今更よ」

「それに説明しきれないややこしい事とか多いしな……テゾーロとか」

 

「ふふっ、きっと、噛まれるわ、あの子。ウチの獣2匹に……」

 

 カリファは女狐がリィンだということを知らない。しかしルッチが、カクが、任務で失敗した原因だと言うことは知っている。それぞれ執着と殺意の感情を抱いている事も。

 

「ウソップ、眠らせれるか」

「おう」

 

 ウソップはチョッパーから受け取っていた『初期メンバー沈静化用麻酔薬』を使いカリファを無理矢理眠らせた。恐らく数時間は起きない筈だ。

 

「その瓶何よ」

「おめェまでの暴走癖持ち古参を沈めるための道具だよ」

 

 訝しげに見ていたナミはウソップの返事を聞いて膨れっ面になる。

 

「どうした、サンジ」

 

 黙ったまま手を見つめているサンジにウソップが声をかけた。

 サンジはその姿のまま口を開く。

 

「気配を消せたら、いやいっそ姿を消せたら見聞色の覇気使い相手には絶対有利だろうな」

「まぁな。ナミの姿が一旦消えただけで有利に動けたし」

「スケスケの実食いてーーー……透明人間になりたい……」

「お前の欲望にぴったりだな」

 

 軽口を叩きながら、次の鍵を手に入れるべく仲間と合流出来する事にした。

 CP9は想像以上に強い。時間がかかるのが惜しいが別れない方が得策かもしれない。

 

 

「……確か、あの絵本って」

 

 

 

 ==========

 

 

 

「カティ・フラム。お前、さっさと口を割らんと一生口を効けなくなるぞ?」

「がっ! げほ、ゲホッ!」

 

 カクの蹴りがフランキーの体に何度も何度も入る。鎖に繋がれたフランキーはろくな抵抗も出来ず無駄に血を流していた。

 

「チッ」

 

 情報を聞き出すための拷問では無く苛立ちを発散させる為の行動にしか見えない。同じ空間にいるジャブラと女狐は互いに顔を見合わせた。

 視線から『お前のせいだぞ女狐』といった訴えが伝わってくる。それに対して女狐は知らぬ顔を貫いた。

 

 フランキーの口や額からは血が出て、正面の改造された肉体でもボロボロの状態だ。

 

「あー、カク。流石に喋れないだろうからしばらくやめとけ」

「……分かったわい。ジャブラ、準備運動をしたいんじゃが相手してくれるか?」

「まぁそれくらいなら」

 

 準備運動と称しているが、フラストレーションを解消する為に体を動かしていたいのだ。2人が体を動かす中、女狐はフランキーに近付く。

 

「ゲホッ、ゲホッ」

「(喉が潰れてるな……。流石に罪悪感が……)」

 

 女狐に向くはずだったが、そこに的となる人間が居てしまった暴力。女狐は申し訳ないと思いながらも何もしない。

 何も出来ることが無いのだ。

 

──ガチャ…

 

 せめて、と思い鎖を外す。フランキーは満足に立ち上がる事も出来ないようだが自身の体から1束紙の塊を取り出した。

 

「ッ、ゲホッ」

 

 何かを言いたいようだが紙束をCP9にバレないように押し付けて居ることは確かだ。

 

「(アイテムボックス入れておくか。喉が回復した時間を狙って女狐として聞くことにしよう)」

 

 紙束に対して全力で現実逃避をしていた。

 この状況で察せない程鈍感じゃない。

 

「探したぞCP9……!」

 

 怪しげな紙束を受け取り終わったタイミングで部屋に入り込んできたのはゾロ、ビビ、カルー、チョッパーの麦わらの一味とパウリーの5に……3……5人だ。

 

「フランキーさん……ッ!」

 

 ビビは知った顔の姿に悲鳴に近い声を上げる。

 それと対照的にパウリーは旧知の仲である人物を見て顔を輝かせた。

 

「カク!お前も来てたのか!」

「パウリー…」

 

 ──彼らは、カクがCP9だと言うことを知らない。

 

「無事みたいだな、よかった。っ、と、そこにいるのがCP9か……」

「パウリー! 気をつけい、こいつとんでもなく強いぞ……!」

 

 カクがジャブラを警戒して後ろに下がる。パウリーに目配せをしながら敵対の意志を見せた。

 ジャブラはカクの企みに気付く。

 

「パウリー、少し頼みがあるんじゃが」

「なんだ?」

「ハッ、ガレーラカンパニーの社員は腰抜けだな!」

 

 ジャブラの煽りにグッと堪えながらカクはパウリーの傍による。

 カクは手を伸ばしかけたその時、地面から突き抜ける様な衝撃に体勢を崩し、ダンッという地面を踏む音と体を揺さぶられる感覚をその身に感じると勢い良く空中へと投げ出された。

 

「ッ、カク!」

 

 先程カクが立っていた場所には白い存在。女狐が立っていた。

 当然パウリーは警戒を強める。

 

「……………今、何をしようとした。カク」

 

 地を這う低い怒りの声。

 空中で体勢を立て直しながらカクは女狐を睨んだ。

 

「邪魔すなや」

 

 パウリーでさえ聞いたことの無いカクの怒った声に、女狐は表情を変えることなくパウリーを1番傍に居たビビへと押し付けた。

 

「……………巫山戯るな」

「巫山戯てなど居らん。わしはただ最善を尽くしただけじゃ」

「……………はァ?」

 

 2人の険悪なやり取りにジャブラは深くため息を吐く。煽られても大人しくしていた女狐に我慢の限界が来たのか、収拾つかないハメになる。

 

「その最善が、王族と市民を殺す事か?」

「この場におる時点で仕舞いじゃ」

 

 ここに来て連合軍は違和感を覚える。

 

「わしらが相手する。お前は下がれ、女狐」

「巫山戯るなCP9。此度の作戦は海軍と政府の合同作戦だ」

 

 まるでカクがCP9のような…──。

 

「この作戦ではのぉ?」

「…………。」

 

 カクの隠した言葉に女狐は黙った。

 仮面の下で苦虫を噛み潰したような表情をするが幸いな事に連合軍には見えない。

 

「ここで口を開いてもいいんか?」

 

 『女狐=リィンだとバラす』といった脅し。残念ながら1番効く。女狐は小さく舌打ちをしてフランキーの傍に向かった。

 

 満足気にカクは笑みを浮かべる。

 カクはこの秘密を現時点で言うつもりは無かった。少なくとも女狐にはサンジとウソップを逃がしたという()()を持ち合わせている。リィンだと言うことがバレた場合、1番高い可能性は麦わらの一味と力を合わせる事だ。

 

 それは頂けない。

 リィンが傷つかない。

 

「すまんなぁパウリー。わしは昔っから、こっち側じゃ」

 

 もう理解してしまった。

 パウリーはショックよりも先に怒りに目の前が真っ赤になる。

 

「カク、お前もクビだ……ッ!」

 

 何年同じ釜の飯を食おうと、アイスバーグさんを襲った敵を、許せるわけがなかった。

 

 

 

「たかが5年。お前ら、本当に馬鹿じゃのォ」

 

 握りしめた拳が悔しさで震えた。




お久しぶりです!な!
ハッハッハ、大変な事になっている(確信)

ちょっと思いついたネタとか入れ込んでいた伏線とか若干忘れて無いか心配しているのでもう『ここおかしくね?』みたいなのあったら気軽に教えて欲しいですな。


戦闘描写はほんとに滅べ。


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第183話 敗北の味をした勝利

 

「……………ゲホッ」

 

 フランキーさんの咳き込む音を聞きながら戦いの傍観中の女狐ことリィン。

 正直言って暇でござる。

 

 女狐が男の娘説じゃないかと疑ってかかって観察している腐女子センサー搭載のビビ様相手に下手に声を出すことも出来ず。

 かと言って麦わらの一味に手を出せばCP9は獲物を取ったと怒り、CP9に手を出すにしても正体をばらされる。

 

 

 うん、紛うことなき無駄骨ですね。

 ここは女狐じゃなくて堕天使で来るべきだったかと今更ながら自分の判断を恨む。

 

 

「ッ゛ぁあ゛ー……クソゲー過ぎる…」

 

 

 好意があれば拗れて病んで、悪意があれば色んな意味で殺しにかかってくる。

 私の前世ホント何したんだよ……辛い……。この世界で生きていくことが辛すぎる。コルボ山から出るんじゃなかった……。でもどっちみち引きこもってたらジジに強制連行されそうだからミスしても許されやすい幼女の内に海軍入って良かった……のか?わからん!

 

 

 さて、現実逃避もそこらにして現状を把握しましょう。私とっても出来る子だから目の前の状況を簡単かつ分かりやすく説明出来るよー。

 

 

 連 合 軍 詰 ん で る 。

 

 

 ……いやいやいやいや、無理でしょ。覇気と六式という戦闘のエキスパートに東と王宮と大工職で育った多少強い人間が勝てるわけないって。

 しかもカクのやる気が殺る気満々すぎて言語中枢破壊される怖い。自分本位な考え方だけどつくづく私が対峙してなくて良かったと思う。私相手なら連合軍より殺意マックスハートだし。

 

 

 それにパウリーさん!あんた手加減してるでしょ!苦悶の表情浮かべてりゃ分からいでか!

 

 情に!絆されるな!キミたちが頼りだ!それ行け頑張れ!私の!代わりに!

 

「ッ、ぐ……。じょ、う……ゲホッ!」

 

 吐血混じりの咳き込む音を必死で抑えながらフランキーさんが私を呼んだ。

 

「……………チッ」

 

 不機嫌な女狐の返事は舌打ちがデフォルトでお願いします、というかホントに素。女狐はキレた時の他人への対応も人と関わりたくない病も面倒くささも本当に素過ぎて……。

 まァたてめぇ厄介事押し付けようとしてくるんだろ私知ってるからな関わるなやド畜生!って心の声を前面に押し出しているから……。不機嫌なら態度で示そうよ!ほぉらぶっ叩けぶっ叩け!

 

「あ゛れ、だい、じょ……!ッ、グッ」

「……………無理」

 

 断言出来る。これは無理。

 親友コンビと義親コンビの差くらいあってもおかしくない。

 

 眼前ではカクの麒麟の能力を使った斬撃の嵐が5人を襲っていた。ちなみにチョッパー君はランブルボール2個目だ。

 カルーの足を持っても避けきれない斬撃に心が削れていく。

 

 カルー…ビビ様をよくぞ守ってくれて…。ありがとうございます。護衛だといいかな、とか言ってごめんなさい。

 

 

 観察して分かるけどやっぱり1番の原因はカクのやる気だろう。これでもかとストレスを発散している癖にジャブラとの呼吸は抜群に合っているからこそ厄介。

 理性の無い獣より知性のある畜生が嫌。

 

「どゔに、がッ、ゲホッゲホ…ッ!」

「……………頭は使えない」

 

 『なんとかしろ』という敵にも味方にもならない立場の人間への訴えに拒否する。

 女狐は暗躍(物理)タイプなんだよ。表に顔が出ないからこそ完全実力派として地位を確立してるって設定なんだから困る。

 

 まぁ中身は状況打破の為に考えるけどね。

 

 

 CP9は己の場所を動かないつもりなのかどれだけ戦闘の音が鳴り響こうとも増員は来ない。見聞色の覇気使いが察しないわけない。

 だから味方が増えるのが先か、ゾロさん達が倒れるのが先か。

 

「〝悪魔風脚(ディアブルジャンブ) 胸肉(ポワトリーヌ)シュート〟!」

「グ…ッ!」

 

「…………は?」

 

 思わずリィンに近い声を出してしまったがどうやら全員視線と注意は()()()()()()()()()()()()()サンジ様に注がれていた。

 

 え、扉は開いてるけど誰かが入ってきた影はなかった、よね?なんで?

 

「ビビちゃん、怪我は?」

「大丈夫よ受けポジ(サンジさん)!でもカルーが……」

「今助けに来たことをすごく後悔しそうだから麦わらの一味のレディは落ち着いて欲しい」

 

 私も思う。

 

「なんじゃお前……能力者か」

「能力者なわけあるかばーか」

 

 カクの警戒に対してサンジ様は罵倒を返す。

 私にも状況が分からないから説明して欲しいんだけど。

 

「………」

 

 サンジ様の蹴りはそう効いてない様で、カクは真顔で何かを考えている様子だった。その隙にチョッパー君はカルーの怪我を見ている。

 サンジ様は大分ボロボロのゾロさんと視線を合わせて協力を決めた様だ。それに興奮するのはもちろんビビ様です。

 

 ちなみにさっきっから大人しいジャブラが地味に怖かったりする。

 

「ん、分からん」

 

 考えるのを放棄したカクは目ですら追えない脚力でご丁寧に武装色の覇気を纏ってゾロさんの刀を思いっきり蹴った様。肉眼で捉える事が出来ない蹴りって刀でさえ切れるんだって思ったね。

 

 ……エグい。

 

「おい……なにしてくれてんだテメェッ」

「それ、海軍の支給品じゃろ。恐らくじゃがリィンの奴に貰ったか……」

「「……!」」

 

 麦わらの一味が、パウリーさんが目を見開く。

 

 お願いだから動揺しないで……!多分動揺させて居場所を掴むつもりだから!

 

「女狐、この室内全体に風」

「断る」

「確実に風を使えると分かって言ってやったわしの気遣いを無駄にするんか?従え女狐、口を割ってもいいんか?」

 

 ……そうだねー。リィンは風の能力者だし、女狐はなんでもありな能力者って設定だもんね。

 せめて使えるやつを、って判断か。

 

「…………………くっ、そがキリン野郎」

 

 七武海と同類の呼び方をして見せれば嫌そうに顔を歪めた。仕方なく風を操る、周囲を洗濯する様に回す。

 

 熱いところも冷たいところも全て混ざる様に。

 

 

「見つけたぞ」

 

 自分の手の平の上で転がるのが楽しいのか知らないが、ニヤリと悪役の様な笑い方をしてカクが姿を表したナミさんに向かって指を刺した。

 人体に刺した、指を。おかしい絶対おかしい。

 

 突然現れたナミさんとウソップさん。空気の歪み具合から蜃気楼で姿を消していたのだと思うけどこんなに綺麗に消える物なのか。

 

「ナミッ!」

 

 刺されたナミさんの安否を気にする声。しかし本人は呻くだけで返事が出来ない様だ。

 

 サンジ様達の参戦に勝機来たか、と思ったけどこれもこれでやばい。王族殺しちゃダメ絶対。

 

 ナミさんは別に気にしてないけど……。

 

「めぎ、づ、ッ、ゴホッ!」

「……………チッ」

 

 とりあえず王族2人居るこの状況は不味いから打開策を考える。

 

 海楼石を取り付けりゃワンチャンあったり、海水で空間を満たせば良いんだけど、悪魔の実の能力者は連合軍側にも居るし私もその設定だから使えない。

 連合軍を煽る事はカクの妨害で不可能に近い。

 

 CP9を黙らせ、且つ一瞬でもいいから動きを阻害出来て、昏倒。

 

 

 

「…………あ」

 

 居るじゃん。とっておきの手駒が。

 えっ、耳の早い()()()()がこの件について掴んだり手を回したりしてないわけが無い。

 

 それに、うん、確実に、いると思う。

 

 だってここには女狐が居る。

 陰で大爆笑したっておかしくないし、見聞色の覇気使い相手でも気配は消せる。

 

 なんと言ってもォ?

 私の影響でスレたらしいですしぃ?

 

 この空間でどこに潜んでいるか、それは恐らくドジしても平気な場所であり、普通は予想出来ない場所。

 

 

 ……大将の後ろ!

 

「出て来い…ッ!」

 

──ダァンッ!

 

 私は後ろに向かって叫ぶと、その声に応えるよう、羽ばたく鳥のように、仮面を被ったピエロが青黒いマントをなびかせて空間に舞い降りた。

 

ㅤ情報屋青い鳥(ブルーバード)、私の手駒のシーナだ。

 

「どこからっ! ──女狐ェ! お前の仕業か!」

 

 身内(政府側)から疑いにかかるのやめろや。シーナの情報入手選択は本人の独断です。

 

「お前!」

 

 その仮面にギョッとゾロさんが目を見開くが身長3mを優に超える偉丈夫は空間を展開した。

 可視化出来ない凪の空間を。

 

 あァ、空間の覇者が仮面の下で勝ったも同然の顔して笑ってるのが想像出来る。

 なんでドンキホーテって色々物騒なの?ドンキホーテの名がつく人間やばい。

 

「ちょっと、大人しくしててくれよ……な…!」

 

 シーナの長い足がいちばん近くに居た私を蹴りつける。咄嗟に後ろへ飛ぶが、地面に足を付けた瞬間首から下が固まった。

 

「──〝無風(ストップ)〟」

「ッ、誰だお前……」

 

 ジャブラの声が背中越しに聞こえる。

 この状態だとCP9と女狐が背中合わせで連合軍と乱入者を警戒して居るように見えるな。

 

 シーナの采配が私に都合良すぎて神。

 

 私も敵認定してくれているお陰で立場は守られている。

 

「情報屋、青い鳥(ブルーバード)の1人。情報を扱う側として麦わらの一味をやられるのはちょっと世界的に不味いわけよ…──なんつって」

「なん、なんでお前」

「え、えぇ、その仮面、え、うそ、なんで」

 

 パウリーがその存在に警戒する中、麦わらの一味はシーナの登場に驚きの声を上げていた。

 

()()()は俺達の事を何も知らない。出来れば秘密にしておいてくれ」

 

 シーナ大好きぃいいいーー!

 良くぞ!良くぞ!リィンが青い鳥(ブルーバード)に無関係だと証明してくれた!愛してる!

 

「ッ、クソ、動かねェ。女狐、体動くか」

「全く」

「なんじゃこの能力……。あの女の透明になる技もそうじゃが面倒いの」

 

 不気味な能力にカクとジャブラは嫌そうな声を出す。ここで簡単に女狐が封じられたら海軍大将の名前が廃るな。

 

 焦りの滲むジャブラと違い、状況打破出来ないと分かっていてもカクは余裕そうだ。空気の流れ自体を止める凪の能力だから、1部例外はあるけど基本動く事は出来無いと思うんだけど。

 2人は動物(ゾオン)系だし。

 

 にしてもシーナが居てくれて良かった……。これで連合軍の負けは無い。

 

 

「お前、なんでこんな所に……!」

「だーかーらー、俺は情報屋なんだって!こんな面白い状況の詳細を入手しないわけないだろ」

「貴方が青い鳥(ブルーバード)だったなんて……」

「助かった!お前の能力でやっつけちゃってくださいお願いします!」

「うおおおんっ!おで、じぬがどおもっだあ!」

「ッ、もしかしてアイツも?」

「そーそー、将来ハゲそうなヤツもな」

「「だからそれやめろって」」

 

「俺らを挟んで和気あいあいと喋るなッ!」

 

 ジャブラの怒りの声に視線が集まる。

 その気持ちはとても分かるけど、耳がキンキンするから音量落として欲しかった。

 

「……女狐に関しての情報は、ほとんど無いんだよなぁ。例えば…──」

 

 シーナの仮面と私の仮面の下で視線がバチッとぶつかる。

 

「──中身、とか」

 

 お前もかブルーバード。

 1歩1歩ゆっくり前に出て私に近付いて来る。

 

「……ハッ、秘密を抱えるからいかんのじゃ」

 

 秘密を暴きたくなるのが人の性。カクの背中越しの『ざまぁ』に改めて考えさせられる。

 ……隠すんじゃなくてオープンにすれば秘密は弱点じゃなくなるのか。頭のいい人なら私と本人に都合のいい解釈をしてくれるかもしれない。

 

「音も気配も姿も消してたってのに見つけられて正直悔しいんだよな」

 

 シーナの能力で首から下が動かせない私は伸びてくる手を見送らざるを得ない。

 

「下衆な輩が」

 

 仮面に手を触れた瞬間、私は1歩足を下げる。

 

「触れるなッ!」

 

 その足の膝を鳩尾に向けて思いっきり上げた。

 

「………は?」

「えっ」

「なんっ!?」

 

 シーナの能力が私限定で解除されたと知らない人達が驚きの声を上げる。問題のシーナは体を浮き上がらせ衝撃から逃れていた。まぁ蹴られた様にしてるけど。

 

「なんで動けるんだよお前……」

 

 腹を押さえ蹲るフリをしたシーナが忌々しそうに睨み付ける。

 私の口元はフードに阻まれ、丁度正面にいるシーナにしか見えない。口パクで『最高』と伝えると、口元まで隠れているから分かりづらいものの確かに笑った気がした。

 

「女狐、俺達も動かせれるか?」

「…………………嫌だ」

 

 イエスともノーとも言わない曖昧な返事。『出来ないけど出来るフリして断る』は青い鳥(ブルーバード)の常套句です。

 

「やめじゃ」

 

 殺気を収めた不機嫌なカクの声が聞こえた。

 

「降参じゃ降参。攻略法が浮かばん」

「女狐が能力解除出来てるだろ」

「何故わしがあんな奴頼らんといかんのじゃ!」

 

 諦めた様子にジャブラがツッコミを入れるがカクは絶対女狐を頼らない。

 それが分かっているので深いため息を吐いた。

 

「第三勢力の乱入により作戦はやむ無く失敗、全ての責任は女狐に有り。これで仕舞いじゃわい」

 

 プツリと空気が動き出す感覚。シーナの能力が解除されたのを感じ取ってカクはその場に胡座をかき、ブスッと顔を歪めた。

 

「……子供かよ」

「あ゙ァ?」

「やめろ」

 

 喧嘩になるかと思われたがジャブラが間に入ったので喧嘩にならなかった。助かった。

 

「お、おい……これ勝ったのか……?」

「多分?」

 

 ウソップさんの困惑した声を聞いて大事な事を思い出した。傷の手当てを終え横になっているナミさんに近付くと、ゾロさんに警戒される。分かり切ってたけど。

 

「…………」

 

 周りの様子を無視して右手を差し出すと、ナミさんは困惑した様子でそろそろ手を伸ばした。

 

「っわ!」

 

 グイッと引っ張り起き上がらせる。その手にこっそり鍵を握らせた。

 

「え?えっ、これって、え?」

 

 よーしよしよし!これでニコ・ロビンの鍵は連合軍に渡った!後はよろしく!

 1番強いの残ってるけど!ルフィが心配だから早く行ってあげてね!

 

 

 私が鍵を渡したことに気付いたカクがギャーギャー喚いているけど、リィンだと知って本物の鍵を渡したお前が悪い。

 

 ナミさんは鍵の数字を見てギョッとしている。

 CP9だけ持っていると思ったんだろう。残念ながら女狐が本命でした。

 

 

 その時、過去最悪の放送が響いた。

 

『よりによって、「バスターコール」をかけちまったァ〜〜〜〜ッ!』

 

 

「「「は?」」」

 

『馬鹿な事…! 今すぐ取り消しなさい!──誰に向かって口利いてんだテメェは!』

 

 ニコ・ロビンの焦った声と開き直るスパンダムの声が聞こえる。

 え、待って、まずなんでバスターコールの権限を政府が持ってんの?あれって大将以上の人間じゃないと無理だよね?約10年海軍大将してる私ですらソレの権限は持ってないんだよ?

 

「何をしてるんだあの男は……」

 

 政府側からため息が零れる。

 しかもこれウッカリってやつだな。

 

『……エニエス・ロビーでさえ焼き尽くすわ。建物も、人も、島そのものも。貴方はそれでもいいと言うの?この島には、これからの未来を担う兵士が沢山いると言うのに?』

 

 落ち着きを取り戻したニコ・ロビンの声に違和感を覚える。オハラはバスターコールで滅んだと言うのに、動揺していないのか。

 

 それとも、放送されている事に気付いている?

 

『古代兵器への手がかりであるお前を取り戻す為に必死こいて翻弄されている馬鹿共をより確実に葬り去る為なら、何千人だろうと犠牲にするさ』

『そう、貴方は、スパンダム長官は海賊を止める事が出来なかった能無し兵士を犠牲にすると言いたいのね』

『そうだ!』

 

 あッ、これ言質取りに行ってるわ。

 

「あーー…政府の信頼が……」

「元々地に等しい癖によく言うな」

「やかましい青い鳥(ブルーバード)

 

 シーナは連合軍連れて去ってくれていいんだけどな。あとフランキーさんの手当てもよろしく。

 

『ッ、大将女狐が知ったらどうなるかしら。彼女は守りの大将、決して許しはしないわ』

『あんな昆虫食いなんざ敵じゃねェ。雑魚なんだよ雑魚! カクにやられる程度の実力でよく最高戦力だって言えるな』

「「あ゙?」」

 

 ですよねー。と心の中で同意していたら何故か怒りの言葉を発した人間が居た。

 

「はァ?なんじゃあいつは? つまり、わしの望む環境はその程度と言いたいんか?あ?喧嘩売っとんのか?女狐の怠慢じゃろう?」

「カクやめろ落ち着け」

「は?なんだあのクズは? 情報屋としてあるまじき情報の少なさに必死こいて探ってんのに、今回でさえ退けたその実力を?雑魚だと?」

「落ち着け」

 

 カクをジャブラが、シーナをサンジ様が落ち着かせようと宥める。あ、うん、私が馬鹿にされたから怒ってるわけじゃなかったんだね。

 

 泣いてない。

 

『バスターコールがかかった島に居たら誰も助からないと知って、出世の為に使うのね』

『何度言わせりゃ分かる!そうだと言ってるだろうが!』

『それにしても地下に通路を作るなんて考えたものね。壁から入るなんて思いもよらなかったけれどルフィが来て驚いたわね。怪我はしてない?』

『お…?おぉ……?』

 

───ブツッ…ツー…ツー…

 

「アッハッハッハッハッ! ニコ・ロビンのヤツ随分面白い真似をしてくれたな!」

 

 カクの大笑いに隠れて何度目かのため息を吐き出す。これは……どう足掻いても……女狐(わたし)の出番ですよね。

 

「デジャブ感あると思ったら、リィンそっくり」

「あっ、確かに」

「エグい方向や相手にとって嫌な事を積極的に攻めていく感じ、確かに似てるな」

 

 ナミさんが思いつき、ウソップさんが同意してシーナも便乗する。シーナ後で覚悟してろよ。

 

「女狐、どこに行くつもりじゃ?」

「……関係無い」

 

 

「お前がこの場から出た瞬間わしは口を開く」

 

 バラすって?

 残念ながらそれは叶わない幻想だと思うよ。

 

「出来るものならご自由に」

 

 そう言い放ち私は靴を浮かせ空を駆け出した。

 殺気まみれの視線が確かに突き刺さる。

 

 まずそもそもの話、シーナが私の正体を守る事を優先して行動したなら、彼はそれを突き通す。

 それに、カクは絶対口を開かない。

 

 

 絶望は希望によりてその輝きを放つ。

 

 『リィン=女狐』という言葉の威力が最大値に達する時にこそ、言うでしょう。

 

 ──それは今じゃない、筈。

 

 

 ==========

 

 

「はー、やってられるか」

 

 ジャブラは大きく愚痴を吐く。完全に敵対心が無くなったと見て、チョッパーとビビはフランキーの元へと急いだ。

 

「能力の相性が悪過ぎるわい、ツテで勝利するなど想定外じゃ」

「……俺はお前らについてやってられるかと思ったんだが」

「聞こえんな!」

 

 ツテや情報でさえもその人間の強さ。リィンの教えだからこそ特に不服な点はなかった。

 カクの寝転がった姿を見て怒りが湧いて来たパウリーを手で制して、ナミは彼らに向いた。

 

「リィンと、知り合いなの……?」

 

「……何故、言わんといかん」

「リィンの仲間だから」

 

 パウリーはふと思い出してナミに声をかけた。

 

「こいつの経歴は海軍雑用だ」

「……リィンと同じ、雑用?」

「反吐が出る。何が同じじゃ。あんなめそめそ泣く様なクソガキと同じなど、侮辱もいい所じゃ」

 

 その顔に浮かぶのは嫌悪。

 

「ッカク!お前ッ、なんでアイスバーグさんに傷を負わせたんだ!」

 

 我慢できずに噛み付くパウリーに、カクは鼻を鳴らした。

 

「そっちはカリファ達じゃ。わしは一切関わってない。わしがしたのは麦わらの一味…──いや堕天使の暗殺」

「「「……っ!」」」

 

 船の侵入者がカクだと判明し、麦わらの一味は目を見開く。しかしそれよりも気になるのは仲間の暗殺未遂の事だった。

 

「昔雑用部屋の暗殺任務に失敗してのォ、そっちの再チャレンジと、私情じゃな」

「月、……組」

 

 恐れと共に呟いたのはサンジだった。

 仲間が、リィンがかつて所属しており、今でも信頼を寄せる心の支え。

 

 答えは、『なぜ知っているのだ』と言いたげなカクの表情の歪みだった。

 

 嫌悪だ。

 

「ッ、テメェ!」

 

──ガツンッ

 

 サンジの渾身の蹴りは、武装色の覇気を纏ったカクの腕に邪魔され、ほぼ未遂に終わる。

 

「5年じゃ」

「は?」

「5年も、無駄な時を過ごした。ウォーターセブンで過ごした5年よりもずっとの」

 

 それほどにまで、カクにとって、女狐がリィンだという真実が(むご)いものだった。

 

「麦わらの一味、去ってくれ。また暴れられたら面倒だ。止める俺が」

 

 確実な敗北、能力の相性。

 ジャブラは潔くこの戦に終わりを告げた。

 

 

「お前らは知らん。あのガキの、本質を」

 

 悪魔の囁きの様な声が聞こえた。




過去最悪の放送は個人的にアラバスタでの嘘はついてない捏造まみれの放送だと思いました(まる)


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第184話 生き証人の恐ろしさ

 

 空を駆ける。

 空気を蹴り、風をまとい、不慣れな移動手段でさえもなるべく速く兵士の元へ。

 

 縄で捕まっている連合軍と、動揺と落胆でそれどころじゃない役人と海兵が見えた。

 

「……! 女狐大将!」

 

 地面に降り立つと将校マントをなびかせて敬礼をした海兵。あーごめん、名前全く知らない。

 けど現場での最高将校はキミかな。

 

「侵入者は」

「そちらに全てまとめてあります」

「各員配置体制」

「……怪我人以外立場は離れていません」

 

 滞りなく現状把握をする。

 混乱しても務めを果たそうとする海軍教育具合は政府の比じゃないね!(海軍贔屓)

 

「スパンダム長官に代わり総員に司令を下す」

「ま、待ってください!我々政府の者はスパンダム長官の命令にのみ従えと……」

「命令権を放棄してもなお?」

 

 押し黙った役人を無視して風を操る。怪我してない私が風を使う事に下手打つと思うなよ。

 

──バラッ…

 

 風が切り裂いたのは捕縛された連合軍の縄。

 これに関しては流石に海兵もギョッとした。

 

「麦わらの一味に脅された()()()を連れ島から脱出せよ」

「え……、あの、女狐大将、それって……」

 

 罪を全て『麦わらの一味』に押し付け連合軍を解放する。

 

 全てを破壊するバスターコールから逃げるには足が必要。だからこそ役人を使い逃がす。

 それとCP9とスパンダムに対する武器になってもらいます。

 

 こいつらはスパンダム、この場の最高司令官が捨てた存在。もちろんCP9も含めて。

 その証拠は捨てられる本人。

 

 ニコ・ロビンの言質取り放送のお陰でスパンダムが役目を放棄した以上、この場の最高決定権は私に移された。スパンダムの方が上というのは海軍側(女狐)が任務に無理矢理入り込んでいる存在でしかならないからだ。

 過去の話になってしまったけど。

 

 

「被害者、お前達も指示に従いウォーターセブンへ戻れ」

「だ、だが!」

「私はここに残る。キミ、任せた」

「そんな、危険です! 我々も共に……!」

 

 続けようとしていた言葉を止める様にする。

 『今』、『この場の人間』が『死ぬ』事が私にとって都合の悪い事態なんだよ!頼むから従って逃げてくれ!

 

 

 ……バスターコールはある意味口封じだ。

 スパンダムの失言に本人が気付いて居なくともいつかは知らされる事。

 その失態を知っているのは『バスターコールが起こる島に居る兵士』と『犯罪者』と『脅されていた一般人』だけなんだ。

 

 島全体を包囲される事を含めて視野に入れると包囲網を突破する為には連合軍が乗ってきた海列車じゃ力不足。政府の名前が付いている海列車や船が丁度良い。

 

 口封じ?死人に口なし?

 それの対抗策で1番怖いのは生き証人でしょ?

 

 この場の人間は誰一人として死なせないよ。

 政府に一撃加えたいんだよ、物理的じゃなくてもいいから。

 

 むしろ私はそっちの方が得意だし。

 それに一目見た時から気になっている人間が政府の内部に居るという事も重要。

 

 

 スパンダムが部下を捨てたという証拠が欲しいんだよ、どうしても。

 その人を引き抜く為に。

 

「海軍本部へ向かえば直接仏……元帥へ報告。個人的な見解を述べず事実だけを伝えよ」

「わかりました……!ご武運を!」

 

 将校は敬礼をすると指示を出す為周りに話しながら駆けて行った。現場で指揮する人間ホント尊敬するわ。私には無理。

 

 

 とにかく、塔の内部で起こったことは私がするとして、なるべく早めに正式な報告をセンゴクさんに伝える人間が必要となる。

 センゴクさんやおつるさんは賢いから多分何が起こったのかあらましは把握して、一手を作ってくれるはず。

 

 も〜〜……前代未聞過ぎるでしょ……。

 バスターコールの出動要請がミスであり、なおかつ海賊の口車に乗せられ兵士を切り捨てる事を堂々と放送って。

 

「おい姉ちゃん。いいのか俺たちを解放して」

「……さっさと、去れ」

 

 この場に居るのが『人と関わりたくない女狐』じゃなかったなら連合軍が納得出来るように説明出来たのかもしれない。

 

 女狐はそんなことをしない。

 関わらない、馴れ合わない、優しくない、の3点揃いだ。

 

「……恩に着る。アニキ、っ、フランキーのアニキとせめてウォーターセブンのパウリーは頼む」

「チッ」

 

 連合軍(ひがいしゃ)を逃がすということは、司法の塔に居る海賊では無い賞金稼ぎ(フランキーさん)政府造船職員(パウリーさん)も同じ事。

 女狐の頭の良さの線引きは曖昧だけど一応大将だから理解出来てもいいか。

 

 

 

 もう下の現場に用は無い。

 死なれては困るけれど、どうしても生かさないといけない!という理由じゃないからこの程度の手助けでいいだろう。

 

 現在の最高司令官(責任者じゃない)としての基礎的な事をやってたらセンゴクさんには怒られないだろう。多分。

 

「………はァ」

 

 ところで、私の所属している情報屋青い鳥(ブルーバード)

 そのメンバーはかなりの少数精鋭だ。万年手が足りない。

 

 人手の補い方は殆どスカウト。情報屋幹部を探して出して希望する人間なんて早々いない。

 やる気があれば1年間どこかしらの組織で新人研修をさせられる。きちんと情報を渡せ、それに合格すれば正式なメンバーだ。

 

 このシステムの1番の問題点。

 アイツらが私に何も言わないという点。

 

「そこの役人!」

「は、はい。どうしましたか?」

「近くに」

 

 周りの指示を聞きながらメモを取っていた黒いスーツの人間を傍に寄せる。

 

「……私を探っても無駄だ」

「は…!?」

 

 ニンマリとその相手にだけ見える挑発的な笑みを浮かべて言う。

 

「おたくのトップ達は『女狐』の情報掴んでるので、二度手間だよ。1年研修中の新人」

 

 役人は驚いた顔をしていたが、次第に何となくでも状況を掴めたのか笑みを返した。

 

「女狐さん、ナミ達頼んだよ」

「断る。なんでそっち?普通おたく達の仮面男の方だろう?」

「先輩の力を馬鹿にしない立派な後輩ですので」

 

 歯を見せて笑いながら政府の役人のフリをした青い鳥(ブルーバード)の新人は背を見せ去って行った。

 

 

 テゾーロ、シーナ。現時点キミ達に経営を任せてると言えど私を試す様な真似をしないでくれるかな。あの新人が青い羽根ペンを使ってなかったら気付かないから。

 

 

 女狐=リィン=情報屋ボスという方程式はテゾーロとシーナと、そして情報管理上タナカさんしか知らない。それは徹底させている。

 

 だからあの新人は驚いただろう。

 『情報屋の餌(めぎつね)』が青い鳥(ブルーバード)の存在に気付いた事に、『青い鳥(ブルーバード)』が女狐の詳細を掴んでいる事に。

 

 

 身のこなしも気配の消し方もそれなりに出来てるから元々何かしらしていたのかもしれない。

 悔しい程に人選が良いんだよな、テゾーロ。

 

 

 

 ==========

 

 

 

「おかえり」

 

 司法の塔へ戻り、先程まで居た部屋に行くと中にはCP9の2人はもちろんだがシーナとサンジ様も残っていた。

 

 いや、なんで!?

 

「女狐、こいつら早めに追い出してくれ……カクが……」

 

 察した。

 要するに苛立ちが限界越えそうなんだな?

 

「おい女狐!」

 

 サンジ様の呼びかけに顔をむける。彼は真剣な顔をしていた。

 

「知ってるかもしれないが他の仲間はロビンちゃんを追いかけた。ここには、こいつら除いて俺だけだ」

 

 いいえ知りません。

 状況知りたいけど、ここでシーナに視線を向けたら絶対バレる。かと言って少しも向けないのは不自然。口を挟んだら向けることにしよう。

 

「あの鍵は本当にロビンちゃんの鍵か?」

「さァ」

「答えろ」

 

「……。」

 

 無言は肯定。

 記憶を読める設定の女狐さん、キミたちの認識は知ってるよ。

 

「外に出ろ」

 

 CP9から『何かある』という風に疑われてしまうだろうけど、それが最善策だと……。

 

「──断る!」

 

 サンジ様は仮面越しの私と目を合わせる。もちろん相手には見えない瞳、だけど確実に視線を捉えている。

 

「CP9に疑惑の目を向けられ女狐の信用を失う事と、『俺』に逆らう事、一体どちらが拙い事だと思う……?」

 

 ……考え方が究極過ぎる。どうしよう教養のある人間めちゃくちゃ怖い。

 

「そしてもう一つ、俺に手を貸せ」

「……ッ」

「CP9の目の前で『海賊に協力しろ』なんて大将にとっちゃ不味い事だろうな。だがキミ…──あんたは、それよりも不味い事を知ってる」

 

 わざわざCP9の前で言う理由。

 これから権力をわずかでも削られる事が確定しているCP9ならば、構わないと。

 

 

 そして『2択しかない選択肢』の場合、嫌な方はどうしても避けなければならない。

 情報屋と政府の人間、その前で言う事で自分の出生──『王族だという事』と共に選択肢を提示するからこそ、サンジ様のお願いは最大威力を発揮する。

 

 なぜなら、『調べれば分かること』だから。

 

 ・サンジ様のお願い(めいれい)に従う

 →政府から海賊との癒着疑惑が上がる

 ・知らぬ存ぜぬを突き通す

 →特に何も無い

 

 だけど、それは2人だった場合だ。

 調べれば分かる『ヴィンスモーク・サンジ』の存在は、CP9と情報屋なら簡単に掴める。

 

 名前も姿も変えてない人間は、生まれた事すら無かった事にはされてない。

 ジェルマ王国の歴史には名前が残っている。

 

 

 後者の選択を実行した場合。

 女狐の弱点を掴みたい政府に、後々「なんでジェルマの王族の命令を聞かなかったんだ!」と責められる。

 

「くっっっっそが!」

 

 大将が国の戦力に怯えるなど本当なら有り得ない事。だけどサンジ様は女狐の『王族を守れ』という発言を聞いている!

 言葉の裏に含まれた、『亡命していたとしてもジェルマの王族は下手に殺せない』という真意に気付く。

 

 あァ、クソ。

 あの場で変な発言をするんじゃなかった。

 

 ハッキリ言って不要な台詞!調子乗ってた!

 

「いってェ!なんで俺だよ!」

「八つ当たりだ!」

 

 女狐に、前者しか選択肢は残されていない。

 

 シーナを蹴り上げて苛立ちを発散させた。

 

 

 CP9の2人も馬鹿では無いので、嫌々だとしても『海賊』に従ったとは思ってないのだろう。口を出してこない。

 

「とりあえずロビンちゃんの所へ追いかける。頼んだぞ」

「クソ……!」

 

 ばっ、と飛び出たサンジ様とシーナに続く。

 

「精々背中に気を付けェよ」

 

 純粋な心配じゃない、遠回しな宣戦布告を耳にしながらその場を後にした。

 

「……クソが」

「あー、女狐、この状況にした俺が言うのもなんだけど、レディがクソって言うのは……」

 

 チラリと横を見る。利用した罪悪感もあるのか苦笑いを浮かべているサンジ様に意地返しをする為に口を開いた。

 

「……──女狐(わたし)がいつ女だと言った?」

 

 2つの絶叫が響いた。

 

 

 

 ビビ様、貴女の妄想利用します。

 




青い鳥(ブルーバード)相手に調子乗ってたら足元を糞塗れにされた女狐(※女とは言ってない)の話。


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第185話 勝てないけれど負けない

 司法の塔内部、ニコ・ロビンを追うために残された血の跡を辿り恐らくルフィがぶち壊したであろう扉をくぐり抜ける。

 正義の門へと向かう道はセンゴクさんと放送曰く地下なのでそこに行くための部屋に入った。

 

「サンジ君!シーナ!……って女狐も!?」

 

 ナミさんが2人の後ろを走る私の姿を見て驚きの声を上げる。

 それに対する返事はもちろん舌打ちだ。

 

「ぉぉおお、おいサンジ、お前まさか……」

「おう、有言実行してみた」

「マジかよ……」

 

 サンジ様の言っている意味が良く分からないが女狐を利用する事に違いは無いだろう。

 晴れやかな笑顔でピースをする王族をここまで殴りたいと思った事は無い。

 

「なァ、これ俺行く必要ある……? 麦わらの一味には関係ないし、正直海軍苦手なんだよ」

 

 シーナは頭をかきながら呟く。

 バレたら困るもんね、ドンキホーテ・ロシナンテだと。

 

「頼むよシーナァ、CP9相手じゃ心許無いんだ」

 

 ウソップさんの必死の懇願だったが、シーナは決して首を縦に振らない。

 

「女狐が居るだろ」

「寝首を搔かれねぇか心配だから無理です」

「俺だって寝首掻くぞ?」

「またまたぁ」

 

 ……甘いなぁ。

 

 感想が同じだったのかシーナは一瞬言葉を途切れさせた。そして彼はため息と共に「分かったよ」と小さく呟く。

 

 海軍の前で能力は使わないでくれると助かる。

 

「そう言えばフランキーさん。貴方、古代兵器の設計書、って言うのはどうなったの?」

「あ゛ー、燃や゛した」

「まだ無理に喋るなよ、というか絶対安静だ!喋らないでくれ!」

 

 先程よりハッキリと喋る事が出来るフランキーさんをチョッパー君が止める。連合軍は満身創痍で正直ルフィを含めたとしてもルッチと戦えるとは思えない。

 今はただニコ・ロビンを奪還して船を奪取し逃げる事に集中したい。

 

 いや、させたい、の方か。私は堕天使じゃなくて女狐の方だから視点を連合軍と同一視させたらいつかボロが出るな。気を付けよう。

 

 

「……………燃やした?」

 

 ん?あれ?

 まって、フランキーさんなんて言った?

 

 燃やした?

 

 非常に言いたくないし認めたくないけど、渡したじゃなくて?

 女狐は古代兵器に興味無いというのは認識しているから言ってもいいのにわざわざ燃やしたと言ったの?

 

「……何か不都合でもあるの?」

 

 不服そうにナミさんがこちらを見る。

 

「……………どうしてくれるお前」

 

 私の『責任を女狐に押し付けてくれやがってどうすんだテメェ』という言葉にフランキーさんはニヤリと笑い返すだけだ。

 医者の言い付け守って素晴らしい限りです!

 

 

 

 これ、センゴクさんになんて言えばいいの…?

 

 

 

「あの、女狐……さん。私、貴女に聞きたい事があるの」

 

 ビビ様が遠慮気味に視線を向ける。

 

「──性別を聞きたくて!」

「こっちを見るな女狐」

「お願いしますこっちを見ないでください」

 

 1秒も経たずにサンジ様とシーナにヘルプコールを即拒否された。辛い。

 

「砂姫」

「はい?」

「CP9は仲良い。幼い頃から共に修行をし、潜入任務まで共にこなした。そう言えばこの場には潜入先の造船会社の職員が居たな」

「……──なかなかやるわね」

「まて、それは俺か!?」

 

 ビビ様の真剣な顔とパウリーさんの驚きの声を無視する。

 

「女狐があんなに喋った姿見たの初めてだ」

「我が身可愛さに売ったな」

「いいんじゃねェか?所であの姫さんは何に興奮してるんだ?」

「「情報屋もまだまだだな」」

「聞き捨てならねぇ言葉なんだが?」

 

 人間初心者が仲良いのかー!って言ってる内にそこの男共は何を話してるんだか。

 

「ニコ・ロビン」

 

 その言葉で現実に引き戻すとナミさんが口を開く。

 

「あの橋に行く為の地下通路……水没したわ」

 

 なんやて?????

 

 

 

 ==========

 

 

 

 ガツンッと金属同士がぶつかり合う音にそれが破壊される音。それらが幾度となく続き場はもはや政府機関の建物の1部とは思えないほどボロボロであった。

 

 ためらいの橋へと続く地下通路。

 そこは戦いの余波により壁が破壊され海水で満たされている。

 

 ためらいの塔の支柱階段にはルフィとルッチが死闘を繰り広げていた。

 

 通路が使えない現状で、ためらいの橋へと引き摺られたロビンを救える者はルフィただ1人。

 

「ゲホッ、ぜー……ぜー……」

 

 しかしルフィは荒く息を吐きながら必死にルッチの攻撃を避けている。

 避ける、だけだ。削れる体力と、攻撃の通らなさ、それに加え自分は血も流している。

 

 勝てない。

 

 武装色の覇気で守られた体は辛うじて打撲痕があるがほとんど効いておらず、見聞色の覇気で行動を読まれた先には強烈な『指』がある。

 

 勝てない。

 

「もういい加減諦めたらどうだ、麦わら」

 

 息一つ上がっていないルッチは倒れまいと踏ん張るルフィを見下す。勝ち目のない勝負に命を掛ける活力の根源を見るように。

 

「俺は自分が死ぬまで、絶対に諦めない」

 

 立つのがやっとの重傷、拳1つ振る事すらままならない体力。

 しかしその目に宿すのは覚悟だった。

 

「何故そこまで命を懸けられるんだ」

 

 純粋な疑問にルフィはニッ、と笑った。

 

「他人にしか命は懸けれないだろ、俺はその他人が──仲間だっただけだッ」

 

 ズキリと痛む穴の空いた左肩。

 

 このままだと自分は殺されロビンは敵の手に渡る。他の仲間も、ここまで来る為に助けてくれた連合軍も、……確実に死ぬ。

 

「黙れ……!」

 

 ルフィの鳩尾にルッチは手加減を知らない強烈な蹴りを放った。避ける間もなくルフィは吹き飛ばされる。

 その蹴りによって足にまとわりついた風がルフィの肌にいくつもの赤い線を生んだ。

 

「なら何故ッ!命を懸けるこの状況に、命を懸けられる事に!何故そうも不満なんだ!」

 

 怒号がルフィの身に降り注ぐ。たった一撃だがルフィにとってはたまったもんじゃ無い。

 ゲボ、と血を吐くと負けじと叫んだ。

 

 不満を。

 

「俺は弱い。俺は仲間が居ないとなんにも出来ねぇ!だから俺に出来るのは、敵を倒す事だ!」

 

 握り締めた拳から蒸気が発生する。急激な血液の循環に体温が勢いよく高まる。

 

──ドッ!

 

 繰り出された鋭い一撃。

 

「だけど」

 

 しかし武装色の覇気で守られているルッチは傷一つ所か、1歩たりとも動かない。

 

「ハキもまったく出来なくて、3人に先を越されて、リーの立てた作戦はゾロとサンジが大事な所で……」

 

 生まれるのは、劣等感と焦燥感。

 

「『役立たず』って言われてねぇけど、俺は船長として力不足だ」

 

 守る筈の立場の人間が、無力さを嘆く。

 

 仲間はどんどん先を行くのに、立ちはだかる敵は幾度となく高い壁を作り未来を見えなくする。

 仲間の姿を覆い隠す。

 

「多分お前にも勝てない」

 

 潔い敗北宣言。

 

 ルッチは酷く冷めた表情でルフィを見据え、口を開いた。

 

「貴様はその程度の人間か」

 

 1度の攻撃で体力が底をついたらしく、ヘロヘロの状態のルフィに失望した。

 

「……悔しくて悔しくて、たまらない。皆がすっげー羨ましい」

 

 どう足掻いても勝てない相手に、己の弱さを知った。船長として慕ってくれる仲間には決して漏らせない本音を、今はただこの空間に唯一存在する敵に漏らした。

 

「守られてばっかりなんだ、昔から。妹に」

 

 自分は兄だ、船長だ。

 守るべき人間だ。

 

 しかしリィンはルフィより様々な点で力をつけた。器用貧乏な才能を限界まで高めていた。

 悪魔の実の能力者として同じスタートで、進む道の途中経過は同じ海賊。

 

 どこで差が生まれたのか。

 それは離れていた10年で分かっていた。

 

「……それで、俺に勝てないお前はどうする」

 

 ルッチの問いに対する答え、それはたった1粒の飴玉だった。

 ルフィは懐から取り出した飴を口に放り込む。

 

──ガリッ

 

 噛み砕かれた飴は舌から喉へ、体全体に行き渡る。力が、湧いてくる。

 

「お前に、負けない事だ!」

「忘れたか麦わらのルフィ!お前は船の上で…」

 

 ルフィが消えた。

 いや、高速で足を動かしルッチの背後に回ったのだ。

 

 六式の〝剃〟だ。生まれ持つ天賦の才は滞りなく発揮され本番で成功してみせた。

 

 背を見せてしまったルッチは迫り来る足を硬化した腕で食い止め──。

 

「うぉおおおッ!」

「くッ!?」

 

 ガチン、と金属がぶつかるような音と共にルッチが吹き飛ばされた。

 木箱にぶつかりクッションとなった様だ。

 

「……」

 

 ルッチはなんの不自由も無く起き上がった。

 受け止めた腕に生まれたヒリリとする痛みを無視して。

 

「一体、何をした」

 

 先程の飴だ。

 それを食べた瞬間動きが変わった。

 

 底をついた体力では足ひとつ動かすのもやっとだろうに、ルフィは難なく立ち上がった。

 

 『ルフィ、もしも、どうしてもピンチの時はこの飴を食べるして。副作用は存在するが、絶対に体力を半分は回復させるし、力が湧き上がるぞ』

 

 心配そうな、それでいて必死そうな家族の顔を思い浮かべる。

 

 絶対に助けになる。

 その言葉を疑う事は無かった。

 

 実際ルフィはその足に再び力を取り戻した。

 

「妹から貰ったんだ、オ…なんちゃらンって名前の飴。俺を一時的に強くしてくれる飴だ」

 

 ルッチは思わず目を見開く。

 

「まさか……オカイン…!?」

「おー、そんな感じだった気がする…ッ!」

 

 オカの葉が元のオカイン。

 禁断症状は化け物が見える幻覚。

 

 得られる力は、幸福感と。

 

「う、りゃあァッ!」

 

 激しい高揚感が加わったドーピング。

 

 ブチブチと筋肉の筋が切れる感覚に気付かない振りをしてルフィは幾度となく拳をぶつけた。

 

「く、そ……!薬物か……!」

 

 ルッチはルフィ相手に能力を使った。

 黄色と黒の模様が肌に浮び上がる。

 

 邪魔になった上着は脱ぎ捨てた。

 

「この背を見せるのは随分久しぶりだ。なァ、麦わらのルフィ。──()()()()()()

 

 ギョッと目を丸くしたルフィは迫る指に身を屈めた。

 股下を転がり背に回る。

 

 上着を脱いだルッチの背がルフィの目に入る。

 

 そこには、5つの砲弾の跡がくっきりと刻まれて居た。

 

 

 

 見覚えがある。

 

 

「なんで……その傷……」

「ゴア王国に天竜人を迎える際はCP(サイファーポール)が護衛の一端を握る。もちろんそれより前から国に在中し『ゴミを焼却する手助け』も、な」

 

 

 ヒヤリと空気が冷えた。

 

 

「10年前、視察としてゴア王国に先行した時は『ゴミ』の様子を観察し効率よく『焼却』出来る方法を国王や貴族に提案したものだ」

 

 そう言えば、とルッチの口が歪む。

 

「〝リーちゃん〟は今回も熱を出して寝込んでるのか?」

 

 ビリビリと肌が引き攣るような殺気がルッチにまとわりつく。

 知らず知らずのうちに笑みが浮かんでいた。

 

 ──やはり、スイッチはソレか!

 

 ルフィの覇気は、覇王色だ。

 

「お前が!……お前がゴミ山を、サボをッ、リーを……!」

「ッ、あの計画は、全て俺の案だ。豹になって駒を探していたら、おあつらえ向きにお前達4人が居た」

 

 威圧を増した覇気──と言うより闘志か。

 ルッチは『妹』によって様変わりしたルフィの空気に喜んだ。

 

 待ちわびていた殺し合いが始まる、と。

 

 ただの戦いには興味が無い。求めるのは血で血を洗う醜い獣の様な闘いだ。

 

「ポルシェーミが偉大なる航路(グランドライン)に居たのもお前の仕業かッ!」

「ポルシェーミ?」

 

 ルッチは高まる戦いへの期待と渇望を堪えながら記憶を遡る。

 

「そう言えば国から出る時連れて行けとうるさかった紫の奴が居たな……──まぁいい。もう関係無い話だろ」

 

 するとルッチは再び姿を変える。

 ネコネコの実モデル(レオパルド)、その名の通り豹へと、豹変した。

 

 極めてベースの生物に近い獣型だ。

 

 そもそも動物(ゾオン)系は実を食べただけで人間の身体能力が上がる。理性を持った獣は、それだけで厄介なのだ。

 

「その、姿、何度も見た……。俺を咬んだ!コルボ山で見たッ! お前が、お前が!サボを殺したのかァッ!?」

 

 ルフィの記憶にある獣より一回り大きいサイズだが、背にある傷は全く同じだ。

 

 地面を蹴る。

 頭に血が上り切ったルフィは冷静さを失っている様子だった。ただ無防備に、咬んでくださいと言わんばかりの突撃に。

 

 ルッチは隙を突きその首筋に噛み付く。

 

 この程度か、と。

 

「う、ぉおおおお!」

「ッ!?」

 

 瞬間、ルフィが動いた。

 驚いた事にルフィは肩口を差し出したのだ。

 

 その上、咬み付いた獣の牙を引くこと無く、押し込んだ。筋肉が力んでおり牙はそう簡単には抜けない。

 引けばルフィの肉は削げていただろう。

 

 そしてルフィはハッと何かを思い付いた。

 

「うりゃあァッ!」

 

 巨体の獣が肩を咬んでいる、しかし自身の片手は未だ自由だ。

 ルフィは拳を握り締め、牙の隙間を縫って口内、その無防備な喉目掛け大きく殴りかかった。

 

「っ、の!」

 

 そう簡単にやられる訳にはいかない。

 ルッチは肩口から牙を抜き咄嗟に距離を取るとルフィを睨みつけた。

 

 姿はまたも変わり人獣型だ。

 

「えぐい事を考える」

「忘れたのか……、だって俺、1回お前に咬まれた事あるって言っただ、ろ……」

 

 ボタボタと傷口から血液がとめどなく流れる。

 左肩を押さえ引き攣り笑いを浮かべながら、血色の悪い顔でルフィが呟く。

 

「忘れたのか、麦わらのルフィ。お前はあの姿の俺に敗北した事を!」

 

 ルッチは酷く愉しそうに笑う。

 

 猫だと思っていた小さな存在は、実は子ライオンだった!まだまだこれから楽しませてくれる!

 

「ふぅーー……」

 

 ルフィは懐から何かを取り出した。ルッチは先程と重なる光景に、咄嗟に剃を使う。

 

 神聖とまでは言わないが無粋な物に勝負を邪魔されていい気分はしない。

 

「2、個目ェ…──」

「させるかッ!」

 

 斬撃の足技がルフィの右手を傷付ける。鮮血が飴玉と共に飛ぶ。

 これで両腕が使えなくなった。

 

 ──それでもまだ負けていない!

 

「〝ゴムゴムのォ、ッろくろ首〟!」

 

 

 ガリッ!

 

 

 噛み砕く飴の音、そして数秒の無音が続く。

 先に口を開いたのはルッチだった。

 

 

「俺はお前が羨ましいな、背中を合わせ『守られる幸福』を知っているお前が」

「奇遇だな、俺もお前が羨ましいと思ってたところだ。『守れる強さ』を持ったお前が」

 

 ルフィはルッチを睨みルッチはルフィを睨む。

 

 お互い羨ましい所があり、お互い無いものを強請っている。

 

 

 その姿はリィンとカクに酷似している。

 しかし彼らは羨ましいと思いながらも、己の持つ『誇』を決して譲らない。

 

 なんでお前なんだ、とは思っていなかった。

 

 

「薬を使い誤魔化していても限界は来る。お前は結局地に伏せる事になるぞ」

「残念ながらめちゃくちゃ弱い俺は死なない理由があるんだよ……」

「ほう?」

 

 ボッという空気が爆発する音と床や壁が破壊される、たかが1本の指の威力。

 落ちれば海。その狭いためらいの塔の通路を上下最大限に使い、『死なない理由』を確かめる為に何度も連続で指銃を使い続けるルッチ。

 

 

 

 見聞色の覇気で分かっていたが、煙の中から現れたのは血を流しながらも笑うルフィだった。

 

 

 

 ルッチの連撃を避け切ったルフィは言った。

 

「──だって俺は、兄ちゃんだから」

 





【挿絵表示】

今日は2度目の日です。誰がなんと言おうと私の作品が主役の日です。サボの誕生日でもあるけど、もう2度と来ない、2度目の日です。

とまぁ何かするわけでもないんですけど。

前半は麦わらの一味に振り回される女狐
後半は麦わらの一味に劣等感を抱く船長

ルッチが10年前に行った事。
1.ゴア王国のゴミを効率良く消す為に数日潜伏
2.コルボ山4兄妹を観察し獣の姿で敵対(ルフィを咬む)
3.ブルージャム海賊団に『ゴミ山燃やしたら貴族にさせてやる』と言って火薬を渡す。貴族と結託し4兄妹を使う方法も授ける。(→ドーン島編後半)
4.天竜人を出迎える
5.ゴア王国を去る
6.ポルシェーミをヴェズネ王国で捨てる


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第186話 大っ嫌いも好きの1種

 

 はい、こちらためらいの橋へ向かう唯一の道である地下通路が海水で使えない女狐です。

 正直めちゃくちゃ困った事になりました。

 

「どうすんだこれ……」

 

 地下通路が使えない事に寸分の違いは無いので正義の門が思いっきり見える外に出ました。

 目の前の海面は渦巻いていて、正直魚人や人魚じゃなければ泳ぐ事は出来ないだろう。

 

 そして何より絶望的な状況。

 正義の門が、開いてる。

 

 ……バスターコールが来たんだ。

 

「女狐」

 

 私を呼ぶシーナの視線は海。

 長年の付き合いで、なんとなーく言いたい事は分かってくる。

 

「俺は表立てないからピンチになった時助けてやるよ」

 

 ダウト。

 とんずらするつもりだな。麦わらの一味は信じてしまったらしいけど。

 

 そして視線に込められた願い。

 

 行けってか、やれってか。

 道を、作れと言いたいのかな?

 

「麦わらの一味!」

「「「!?」」」

 

 ためらいの橋の構造はパウリーさんが分かっている、三角海流はシーナが知ってる。女狐(わたし)がやれる事なんて微々たる物だ。

 

 本当はやりたくないし堂々と手助けしたくないしここで政府に全ての罪を押し付けた状況で死んでくれても構わない気がする。

 

「……………仲間を連れ、船を奪い、消えろ」

 

 絆されるな、って、何度も誓ったのに。

 

「馬鹿な海賊共」

 

 靴の裏を浮かせ、月歩をイメージした空中歩行でためらいの橋に向かう。

 私の通った痕跡は海が凍った氷の道。

 

 クザンさんが海水を凍らせる様に私だってやってみせた。

 

 ピキリピキリと凍る音と冷気が下から感じられる。なるべく目立たせたくないから幅は取らないように、でも彼らが足を強く踏み締めても割れない様に深く。

 

 

 

「スパンダム長官」

「は?」

 

 ためらいの橋に辿り着くとスパンダムが1部分だけ凍った海を見ない様にしながら声を掛けた。

 ジャラジャラと鎖を持ちスパンダムはへらりと笑っていた。

 

「おお、女狐殿、丁度良かった。ニコ・ロビンが強情でなかなか進まなかったのだよ。手伝って貰ってもいいか?」

 

 驚きと悔しさが混じったニコ・ロビンは引き摺られたのか擦り傷がいくつも付いている。

 強く唇を噛んだ傷跡も、殴られた青アザも、涙の跡も。

 

「女狐……ッ」

 

 ここまで時間を稼ごうと何度も抵抗した。それが何より助けに来てくれる仲間の為になり自分の命の灯火が潰える事が助けに来てくれた仲間への侮辱だから、だろう。

 縋る様な、それでいて警戒する様な複雑な表情を浮かべたニコ・ロビン。

 

「この状況はどういう事だ?」

「青雉大将よりバスターコールの権限を預かっていて招集をかけた。何か不満でも?」

 

 聞き捨てならない事が聞こえたがおつるさんの策だと思う。私が理解できないというのはそういう事だ。

 

「女狐!彼らは、私の仲間は無事!?」

「うるせぇぞニコ・ロビン! たかが海賊がCP9に敵う訳ねェだろ!死んでるさ!」

「今は不確定な情報は要らな……ッ!」

「うるせぇつってんだろ…!このっ!穢れた!罪人が!」

 

 私は麦わらの一味が嫌いだ。

 海賊と言う人種が大嫌いだ。

 

 特に何かされたとか因縁があるわけじゃない。

 

 でも、嫌いなんだ。

 

「……。」

 

 私にバスターコールを止める力は無い。ここからは麦わらの一味と『私が守らなきゃならない人間』の動かし方で展開が違ってくる。

 仮面の下でそっと目を閉じた。

 

「スパンダム」

「はい?」

 

 麦わらの一味は大馬鹿者だらけだ。

 血だらけになりながらも自分より仲間を守ろうと踏ん張って。誰かの為に動く、なんて私に出来ない事を当たり前の様にしてくる。

 

 自分の命をどれだけ軽々しく扱うんだよ。捨ておけばいい仲間なんて気にしなければいいのにどんな敵でも絶対に諦めたりしない。

 

 海賊の癖に、犯罪者の癖に、キラキラと子供みたいな夢を語って。

 明る過ぎて苦しい位に真っ直ぐな光みたい。

 

 馬鹿だ。馬鹿。

 

 自分本位で生きれば辛くないのに、痛くないのに。馬鹿みたいに真っ直ぐで、絶対に疑わない。

 

 いつもの自分なんて殴り捨てて、泥臭く醜く足掻きながら生きて。

 

 私と正反対。

 秘密ばっかり持ってる私を馬鹿みたいに信じて頼ってくれる。普通の海賊なら疑う所だよ。

 

「私が担当する海賊は舐めない方がいい」

 

 なんの為に『大将』が担当してると思っているんだ、と遠回しに警告する。

 すると私の背後から眩い光がためらいの橋全体を包み込んだ。

 

「うわぁ!」

「ッ!?」

 

 閃光玉が目を眩ませる。スパンダムの驚いた声と恐らく尻もちを着いた音が耳に入り、ガチャンと──鍵の開く音。

 

 辺りから光が消えた時、ルフィ以外の麦わらの一味とフランキーさんとパウリーさんがニコ・ロビンを無事奪還出来ていた。

 

「動かないで!」

 

 ビビ様がナミさんにナイフを突きつけられている。ONLYALIVE(いけどりのみ)を人質に取られた。

 

「動いたら、この子の喉元掻っ切るわ」

「こいつやると言ったらやる女だぜ」

「おおおおおうそうだ、よした方がいい!」

 

 スパンダムと私に挟まれた状態の海賊達。円形になって警戒している。

 私が反対側に居ると言う余裕からかスパンダムは笑い出した。

 

「それがァ?」

 

 どうやらスパンダムはこの状況を()()()()()らしい。

 政府の中にある必要悪のテーマ、というか掲げている言葉は『死人に口なし』だ。

 

 ビビ様が海賊の手によって殺される事に、世界政府は痛手を負わない。

 なぜなら『青雉の司令名代の起こしたバスターコール』で海賊諸共消し飛ぶから。

 

 名代という事は代わり、つまり責任は青雉であるクザンさんの物だ。あくまで発動者はスパンダムだからこそ彼は『バスターコールで海軍の不始末を尻拭いした』という結果になる。

 

 だって、死ねば残るのは『死』のみ。王族か海賊、どちらが先に死んだとか関係無い。

 

 バスターコールでためらいの橋で起こった惨劇の生き証人を消せば、『青雉の責任放棄でスパンダムが義理を立てるため、殺された王女の仇という名目でバスターコールを使った』事になるのだから。

 

 生け捕りのみなんて生死問わずより危険性が高い。その後の政治的利用価値としての意味で。

 

 

 もちろん、あのムカつく馬鹿達はそんな事を絶対しないしさせない。命を懸けて仲間を守るだろう。だからこそこの場に立っている。

 たとえためらいの橋が軍艦で取り囲まれていたとしても諦める事なく。ルフィを待っている。

 

「──うらあああああッ!」

 

 丁度その時タイミング良く橋が隆起し破壊された。そこから出てきたのは血をダラダラと流したルフィだった。

 誰よりも満身創痍で1番大切な『ロブ・ルッチへの妨害』をやってのけてくれた。

 

 ニコ・ロビンを奪還する事が何よりも大切と思われがちだが、そこに至るまでの強敵は間違いなくロブ・ルッチ。

 

 勝てなくてもいい、ただ負けなければ、時間を稼げたら。

 今はそれだけで充分すぎる。

 

「ルフィ!」

 

 海賊の喜ぶ声が高らかに上がる。

 ルフィはゼーゼーと荒い息を吐きながらフラつくが、護送船の方向からやってきた海兵を睨む。

 

「居る、って、分かった…ッ。お前達が居るって、みんな居るって、分かった……!」

「ルフィ……」

 

 ためらいの塔からもうひとつの破壊音。

 ルッチは倒された訳では無いので動ける余裕があるだろう。

 

「みんな、居る! ちゃんといる! リーも!」

 

 ピクリと肩が揺れる。

 下から出てきたルッチが血を拭いながら私の隣にやって来た。

 

「……堕天使、が?」

 

 呆然とした様子だ。微かに聞こえた声に思わず眉をひそめた。

 

「女狐!ありがとな!こいつら守ってくれて!」

「は?」

 

 私も政府も仲間でさえも分からないルフィのチグハグな言葉。いや、私は仮定が立てられる。

 

 

「にっしっし、逃げるぞお前ら!」

「女狐! こいつらを殺せ!」

 

 スパンダムから司令が飛ぶ。

 彼自身が最高司令官の責任を放棄したあの放送を知らないんだろう。

 

「リィン、橋を破壊して、皆を海へ落として」

 

 背後から脳に直接響く様な高い声が聞こえた。

 

「………」

「あ、気絶しないでね?」

「………………何故」

「大丈夫、キミの代わりに僕が仲間を守る」

 

 内蔵を震えさせる大砲の音に紛れて、爆風に紛れて、私の背には優しくて暖かい声と風がある。

 周りには聞こえてない、私にしか聞こえない優しい声。

 

「僕を、仲間の可能性を、信じて」

 

 私はメリー号の繋いでいた縄を切った。それはつまりメリー号の破壊。

 アクアラグナで流されたはずのメリー号は今ここで私に話しかけている。

 

 幻とか、妄想じゃない?

 

 なんでいるとか、これからの事とか、もうどうでもいいや。

 

「──ッ落ちろ!」

 

 風の巨大な塊は上から下へとぶつかる。重圧に耐えきれ無かった橋の1部は崩れ、麦わらの一味とフランキーさんとパウリーさんは海へと投げ出された。

 

「あとは門を閉じるだけ。僕は難しい事なんて分からないけどこれだけは言える」

「ッ」

 

『────迎えに来たよ!』

 

 ここからじゃ支柱近くの海は角度的に見れないから、私はメリー号の言葉を信じてためらいの橋第三支柱の開閉レバーへ向かわないといけない。

 

 信じて。

 

 足が震える。

 彼らは本当に船に乗り込んだ?誰か取り残されたとかは?本当にこの数の軍艦を切り抜けれる?

 

 私無しで、彼らの力を信じて。

 

「……ッ!」

 

 踵を返した。ルッチが様子に気付いて声をかけたが無視をする。

 

「守ったと聞いたが、どういう事だ?」

「さぁな」

 

 そこだけはなんとか弁明をしておかなければならない。

 

「──麦わらは英雄ガープの孫だ」

 

 ためらいの橋に居た海兵はそれだけで納得してくれた。モンキー一家って良く分からないよね。

 

 ジジ、海軍で暴走する貴方にここまで感謝した日はありません。

 自重しやがれあの野郎!

 

 

 ==========

 

 

 放送で避難していたのか上に出て戦闘に混ざっていたのか知らないが第三支柱の正義の門操作室には人っ子一人居なかった。

 ルフィが『リーが居た』発言をしたお陰で勝手に門を閉じたのは海賊という手が使える。開閉レバーで門を閉じる。

 

 閉じる事によって生じる渦はナミさんがなんとかしてくれると思う。

 大丈夫、彼女ならやってくれる。

 

 私が安心して船に乗れてるのは彼女のお陰なんだから、きっと無事。

 

 ムカつく程馬鹿で大嫌いだけど……死なせたくないんだよなぁ、これがまた。

 大嫌いだけど、大好きなんだよなぁ。

 

 こんな隠し事ばっかりの私を馬鹿みたいに信じてくれて、全部私の自業自得なのに助けてくれてさ、迷惑かけたのに、逃げたのに。

 私の事仲間って呼んでくれるんだよ?

 

 絆されない訳ないじゃん。

 

「あーあ……」

 

 センゴクさんは『麦わらの一味を悪役に仕立てあげろ』って言ってたからバスターコールは『存在しなかった(=ルフィが破壊した)事』になるけど、他の将校は違う。麦わらの一味に潜入している大将、リィンが『政府と敵対する今回の件』で海賊の手助けしたら裏切りじゃないか。

 

 女狐に徹してこっそり手助けしたのなら問題無いけど、最初は居なかった堕天使が()()()()()()()、のなら『女狐』を知ってる者からすれば、確実に裏切り。

 

 だって、もう少しで海賊を殺せた。

 そのタイミングでスパイが助けたら駄目だ。

 

「はぁ」

 

 まぁ1部だけしか知らないので大多数は『堕天使リィンは敵』という認識。

 女狐の服装から堕天使に変わる為に服をマントを脱ぐ。

 

 扉に鍵を閉めた為人は入ってこないだろう。

 

 もっと上手く運べなかったのかと後悔して。

 

 

 油断していた。

 

 

「は……?」

「うわ……」

 

 扉じゃなくて壁からブルーノの能力でやって来たルッチに仮面を外している最中を見られた。

 

 あ、逃げ場ないわ、コレ。

 

 この状況から相手が考えられる推測。

 『女狐が堕天使だった』という真実と『堕天使が女狐に化けた』という最悪な状況。

 

「……居た」

「居たな」

 

 ルッチの呆然とした声にため息を吐きながらブルーノが呟いた。

 

「どこに居るんだと思いながら探してたけどそっちか……」

 

 完全に予想外だった模様。

 推測は前者を取ってくれた様だ。

 

「あー……女狐、いや、堕天使?」

「一応女狐でお願いするです」

 

 堕天使という名前は嫌いなので他人から呼ばれると寒気がする。

 ブルーノが周りを見渡して聞く。

 

「麦わらの一味を逃がしたのか」

「そうですけど?」

「海軍を裏切ったのか」

「違うですけど?」

 

 何を言ってるんだと不思議そうな顔をする。そんな私の様子に2人は訝しげに顔を歪めた。

 

 フッフッフッ、馬鹿だなCP9。理解出来ないのか?……まぁ私も理解出来ないのだけど。

 思いっきりハッタリです。

 

 せめて表情だけは余裕ぶっこいてないと裏切り者としてノータイムで殺されそうなので必死だ。

 

「麦わらの一味を殺す事、さて」

 

 クスクスと馬鹿にするような笑みを浮かべて私は必死に考える。

 

 正直利点と言えば『王族の命』と『ニコ・ロビンの知識』だ。それ以外に生かす意味は無い。

 

「まだ早い、今はまだ早いのですよ」

「今は早い……?なぜだ、我々の力ならばあの程度の海賊など狙って殺せるだろう」

 

 知ってます。

 だから必死に全員生かすことによるメリットを考えているんです。

 

「殺して、どうなる?」

 

 2人はハッとした表情に変わった。

 どうやら自力で隠された真実に気付いた様で何よりです。……私は知らないけど。

 

「何か巨大な力が動くのか…ッ!?」

 

 革命軍や海賊は多分使えない。王族も所詮狙い撃ち出来る命。

 

「……古代兵器」

 

 ブルーノが息を飲んだ。呟いたルッチは真っ直ぐにこちらを見据えていた。

 

 私は笑みを深めるだけ。

 

「政府が狙うからこそ殺せないニコ・ロビンと同じ存在。しかし周りを殺せばどんな状況下で発動するか分からないから危険。そう取れば自然と答えは見えてくる」

「つまり……麦わらの一味には!」

 

 プルトンはフランキーさんの設計図から造られる戦艦。

 

 残りはポセイドンのウラヌス。どんな兵器なのかも分からない未知の存在。

 2分の1ならあってもいいと思う!うん!丁度いい設定が出来たね!

 

「これはまだ潜入中の私と直属の上司しか知りません。何せ赤封筒案件。早々簡単に発表不可」

 

 確信が持てないから、と言えば黙っていても問題はないし欺こうとしたとも言われない。

 なんて素敵な案なんでしょう!

 

「分かった……流石に荷が重い事だな……それで逃がしたのか」

「えぇ、その情報は麦わらの一味に居るなれば判明する可能性もある故に」

「その古代兵器の情報は海軍で独占する、と言いたいのですか?」

 

 嫌味にも似たルッチの言葉にピシッと空気が固まる。古代兵器解読、ニコ・ロビンの力を、真実を知れるのは潜入している私のみ。

 

「私の価値ですから、命を懸けた交渉ですね」

 

 私の生存確率が上がる。

 

 敵対する気は毛ほども無いけど命の危険をおかしてまで手に入れた情報、そう易々とくれてやる訳にはいかない。

 

 そう言外に伝えれば納得した様子だった。

 

「では私はこれにて戻ります。リィンは『政府に怯えウォーターセブンに待機中』ですので」

「まってくれ!」

 

 逃げようと思って箒を取り出そうと思えばその手を咄嗟に捕獲された。

 

「部下にして欲しい」

「えっ、普通に嫌です」

 

 これ以上爆弾を抱える気は無いので嫌です。

 

 

 

 ==========

 

 

 

 一足どころじゃない程早くウォーターセブンに到着した。ルッチとブルーノには口封じを『政府に捨てられた場合海軍が2人を拾う』というどちらにも有利な交換条件の元お願いした。

 殺しの正当化を求められるのは大きな正義の元でしか無い。それに海軍に置いておけば口封じは確実だったりする。

 

 誰の部下、とは言ってないから私に被害が被ることなど無いだろう。

 

 後は、麦わらの一味達を待つだけ。

 

────ドシュッ

 

「え……」

 

 硝煙の臭いはしない、発砲音も無い。

 それでも私のふくらはぎから血が流れていた。




エニエス・ロビー編、終了。
そして不穏な終わり方です。

次章というか間に挟む数話は予想外の展開が連続します!(※シリアスのリバウンドでは無い)


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海賊船編
第187話 始まったアウフヘーベン


 

 降り注ぐ喧騒と砲弾の音を聞きながら、正義の門が閉じるられることによって生じる渦を上手く使い麦わらの一味達は無事エニエス・ロビーから脱出した。

 牽制程度にしか使われなかった砲弾を避ける程度造作も無いことだ。

 

 スパンダムは指令を()()()()様子だった。

 

 『彼』の能力を知っている者なら不思議な現象に心当たりがあるだろう。何度喚いても声どころか体から発する音が出ない『凪の状態』は司令官としては不便な筈だ。

 

 

 連合軍は海列車で一足早く逃げ出していたので問題はあるまい。なんの不安も無く、とは言えないが麦わらの一味達は正義の門が閉じた事を確認して勝鬨を上げた。

 

「この()()!俺達の勝ちだ!」

 

 へろへろになりながらもメリー号の上でルフィがニッカリと笑う。

 

 

 

 

「どこにも誰も乗ってないわね」

「おっかしいな………リーの気配がしたと思ったのに……やっぱりアレかな……」

「俺達の見聞色の覇気には何もひっかからなかったから気の所為だろ」

「私のリィンセンサーにもね!」

「ナミがどんどん変態になってきやがる……」

 

 ふざけた調子で笑い合う麦わらの一味。

 しかし彼らにも声は届いていた。

 

 『迎えに来たよ』

 

 と。その優しい声は確かに届いた。

 あの声はリィンの声じゃない、でも確かに仲間の、メリー号の気がした。

 

「それにしても、ルフィさん凄いわ、ロブ・ルッチを食い止めたのね…」

「秘密兵器使ったけどな」

「秘密兵器!?なんだそりゃ!」

「リーに飴玉貰った!」

 

 ウソップはその言葉だけで一抹の不安を覚える。すごく嫌な秘密兵器だと直感で察した。

 

「オカインとかアイツが言ってたな」

「ブフーーーーッ!」

「おいチョッパー、やべぇのか?」

「ヤバいも何も!オカインは薬物だ!1回使っただけでもダメなんだぞ!?なんでリィンが持ってるんだ!吐け!ルフィ吐いてくれぇ〜〜!」

「薬物ゥ!?そりゃやべぇだろ!」

「うぐ、く、くるじいぞちょっばー……!」

 

 便利なのに、とブツブツ言いながらルフィはケホケホと咳き込む。実は3つ使っていたので現物は残っていない。吐くにしても手遅れだろう。

 

 

 晴れた空の元、傷だらけの彼らは迎えに来たメリー号の背中で談笑した。

 

 海と空の境界線上に何かが見えたのをロビンが報告する。

 

 その影は連合軍が乗った海列車、ロケットマンだった。フランキーは子分やアイスバーグの姿を見て男泣きをしている。

 

 

 ──バキ…ガタン…!

 

 メリー号がマスト付近から真っ二つに割れた。

 

 

「え……メリー……?」

 

 ザワザワと動揺の声が響く。

 まだ走れると、言われた船だったのに。

 

「おっさん!メリーがやべぇよ!何とかし……」

 

 仲間を助けてくれと叫んだ途端ルフィはチカチカと目の前が点滅した。メリー同様にルフィも限界だったのだ。

 無理に酷使した体で叫べば血液不足も祟りまともに動けもしない。

 

「お願いアイスバーグさん!私たちメリーに救われたばかりなの!メリーを助けて!」

 

 海列車から顔を覗かせていたアイスバーグは船長の代わりに訴えたビビに向け呟いた。

 

「だったらもう、眠らせてやれ」

 

 覚悟なんてしてなかった。

 麦わらの一味は突然訪れた『メリー号との別れ』に激しく動揺を見せる。

 

 そんな彼らに向けてアイスバーグは静かに言葉を紡いだ。

 

「残り時間の少ない船だと言われていただろ。限界だったんだ、その船は」

「だが査定したのはカクって奴だろ!?あいつはCP9だ!本職のアンタにならメリーは治…」

「止せ」

 

 ウソップの訴えを止めたのは船に乗っていた唯一の本職パウリー。

 首を振って行動を諌めるとメリー号を見た。

 

「カクは確かに裏切り、いや、CP9だった。仮に査定が虚偽申告だったとしても──もう無理だ」

 

 竜骨まで折れている船はもう船ではない。ただの木屑だ。

 

 それでも諦めきれなかった。覚悟なんてしてなかったのだから。

 

「……ッ、皆」

 

 麦わらの一味のトップが静かに声をかけた。

 仲間の命を預かる人間は誰よりも覚悟を瞳に映していた。

 

 船長として決断しなければならない。

 仲間達は覚悟の意味に気付いてポロリと涙を零した。

 

「メリー号を、休ませよう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 パチリパチリと木の燃える音。

 ゆらりと海面に浮かぶメリー号の姿はオレンジの暖かな炎を纏っていた。

 

「長い間……俺達を乗せてくれてありがとうメリー号」

 

 フランキー一家の船に積んでいた小舟に乗り麦わらの一味は仲間の海底への一人旅を見届ける。

 

 

 

 もう1人の仲間は、追憶の雪を降らせた。

 

 

 みんなが大好きだった。

 沢山笑って沢山悩んで沢山泣いて、それでも離れないで一緒にいた。一緒にどこまでだって行ったんだ!

 この先は、もっと大変な旅になるだろう。

 大丈夫、キミ達ならこの海を渡っていける。

 

 泣き虫で強がりな小さな女の子は心配だけど仲間ならきっと大丈夫。想いは全て託した。

 

 願う、なら。

 

 伝える事が出来るのなら。

 

『ごめんね』

「……え」

 

 ゆらりと炎が瞳に映る時、ルフィは聞こえた声に小さく音を零した。

 

『──もっと皆を遠くまで運んであげたかった』

 

 蘇る。降り注ぐ、追憶の雪は脳裏に様々な光景を映し出した。

 

『…………ごめんね。ずっと一緒に、冒険したかった。だけど僕は、幸せだったよ』

「ごめんつーなよッ!」

 

 ルフィは叫んだ。気力を使い果たしても尚。

 

「こういう時は、ありがとうだろ!」

 

 あぁ。

 ああ!

 

 僕の仲間はなんて素敵な人間なんだ!ありがとう僕の最高の仲間!

 

『今まで大切にしてくれて、どうもありがとう』

 

 強くて陽気な船長。

 隠し事ばっかりの雑用。

 よく昼寝をする剣士。

 色んな所へ連れてってくれる航海士。

 寂しがり屋のコック。

 不器用な優しい狙撃手。

 

 荒れた海で誓った約束、僕も叶うはずのない願いをこっそり誓った。

 

 たくさんの奇跡を見て、たくさんの思い出を積み重ねて。

 仲間は増えて大変な事が沢山出来たね。

 

 つまみ食いを巡り夜中に起こった攻防も、怒らせて追いかけっこした日も、皆で甲板に寝っ転がった時も、空を飛んだ感覚も、大掃除も、守ってくれた優しさだって!

 

 僕は全部覚えてる!

 

 

 

『僕は本当に、幸せだった!』

 

 

「───メリィーーーーッ!」

 

 こぼれ落ちる涙は海に溶けて沈んでいった。

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

──ドシュッ

 

 足元に痛みが生じ、ふくらはぎから血が流れていた。意識した途端痛みは激しくなり立っていられなくなる。

 

 肉の抉れる音は聞き覚えがある。

 だからこそやばいと感じた。それが私に降り掛かっているのだから!

 

「く…ッ!」

 

 案の定倒れ込む私の体。しかし追撃に備えて腕の力を使いながら湿気た地面の上を転がった。

 

──スピュン! ピュン! ピュン!

 

 木箱の裏に回り込む。

 ぎゃりぎゃりと地面を削る圧力の音に頭痛がしてくる。

 

 

 私はこの音を、聞いた事がある……?

 

 

「隠れても、無駄」

「……嘘でしょッ!」

 

 上空に体を飛ばしたであろう刺客はまるで死神の様で、大きな刀を持っていた。

 その刀はただの刀じゃない。

 

「死ねぇえええッ!」

 

 高速で流動する水を纏った刃だった。

 

──ドガァッ!

 

 避けた先では地面が軽く1m程斬られている。

 無駄のない力はヒビすら生まない。

 

 ゾッとした。

 なんでこんな化け物に狙われてるんだ、と。

 

「ようやくだ! 女狐!」

 

 今、なんて言った。

 

──ドゴッ!

 

 上半身を捻ると飛んできた刀が先程まで首があった場所に深く突き刺さる。

 

「っ、私は女狐じゃ」

「黙れ!黙れ黙れ黙れ!」

 

 歳は、私と同じか少し上。

 性別は、女。

 

 マントの下から覗く髪色は見覚えのある栗色。

 

「ッ!」

「殺してやる……殺してやる! 私はその為に生きてきた! 父の! 殺された父の未練を引き継ぐ為に!」

 

 痛みで集中出来ないから不思議色を使えない。

 というかそれ以前に言葉すら喋れない程の連続攻撃に、対処するのは手に持つ木製の箒1本。

 

 服から何か武器を取り出すことすら出来ない。

 

「覚えがないとは!言わせない!あの時私は隠れている事しかッ!出来なかった!」

 

 ガツンガツンとぶつかる音。所々蹴りが飛んできて、それはしなる鞭の様に変化した水だった。

 金属製と木製の武器じゃ質が違いすぎる。消耗戦に持ち込まれたら間違いなく負ける!

 

「舐め、るなぞ!」

 

 力任せに押し込めば彼女はバランスを崩──。

 

「てりゃあああッ!」

 

 彼女が刀をこちらにぶん投げて視界を奪った。

 獲物を投げるか普通!?

 

「〝水素爆弾(ハイドロボム)〟!」

「ッ!?」

 

 刀を避けたその一瞬を利用して水の塊が襲ってくる。避ける間もなくぶつかった。

 

 水の爆弾にぶつかり数メートルは吹き飛ぶ。

 

「どうだ女狐ッ!能力者にッ、水は効くだろ!」

 

 必死の形相で叫ぶ姿が見えた。

 

「〝水弾丸(ウォーターバレット)〟ォ!」

 

 スピュンと再び指先から凄まじい圧力で水が飛んできた。

 

 この人、私の攻略法を分かってる!集中する隙が無かったら不思議色を使えない!

 

「うぁあああッ!」

 

 ズキズキ痛む足で踏ん張って家の影を利用して死角に入る。先程の攻撃で脇腹にも1つ穴が開き、腕もいくつか掠った。掠っただけなら良かったが避けきれずに抉った場所もある!

 

 落ち着け、落ち着け、痛い、痛いけど今踏ん張らなきゃ確実に死ぬ!

 せめて武器を、鬼徹、は無いからなんでもいいから刀を!

 

 焦るな落ち着け、痛みなんて無い、だから集中してアイテムボックスから取り出せ。

 

「気に入らないんだよ女狐! 突然現れて父を殺して! 私にとって大事な人だった! なんで殺したんだ!」

 

 ここまで来たら彼女が誰の娘なんか、なんて分かる。聞き覚えのある技の音、その技ももちろんだけど。あの目と髪の色は私が殺した!

 

「グラッジは海兵殺しだ!」

 

 元王下七武海〝悪魔の片腕〟。

 ミズミズの実の能力者!

 

「そんなの関係ないッ!私の親だ!」

 

 ここで手加減したら……死ぬ!

 

「あんたが!あんたが殺さなければ!私は父の元で幸せに暮らしてた!父が殺した海兵だって子供の私をぶん殴ってたくそ海兵だ!」

 

 落ち着け、落ち着け。そうじゃなきゃ不思議色は使えない。

 

「死んだ奴らは私たちディグティター家を無能だと罵った海兵だ!」

「〝火拳〟ッ!」

 

 下町の民家の屋根にこっそり登り上から火の塊を降り注がせる。断末魔の様な叫びが下から聞こえる。

 

 戦闘中に話すなんて愚の骨頂!聞き捨てならない単語が聞こえた気がしたが海賊になった時点で罵り対象なんだよ!

 

──ズピュン!

 

 頬を掠める水の弓。

 弓の先には水が繋がっていた。

 

「ッ!」

 

 咄嗟に距離を取るとその水を伝ってか分からないが敵が屋根に現れた。

 

「水の能力者に火は効く、です?」

「……許さない。絶対に許さない!あんた立つだけでやっとじゃない!痛みに慣れてない証拠なんだよ女狐!名前だけの色無し大将がぁああ!」

 

 刀を構えて突撃して来る。その刃は1回でも掠ったら人体の1部を吹き飛ばすだろう。

 

 どうしょう!どうしょう!

 

「水に怯まない能力者なんて居ないんだよッ!喰らえ〝剣の(ソード)……──!」

 

 鍔迫り合いになった刀から水の塊がどんどん大きく造られていく。

 あ、これは1発で死ぬ。

 

「……引いてダメなら」

 

 溜まるのに時間が掛かるからこその鍔迫り合いは確かに押し返すのに力が居る。

 それが!どうした!

 

 こちとら力で敵わない敵しか居ないんだよ!フェヒ爺に重心移動は教わってるんだ!

 

「外せ!」

 

 刀を捨て下にしゃがむ。

 力を思いっきり込めていた相手はそれだけで簡単にバランスを崩す!

 

「てりゃァああッ!」

 

 復讐する為にしか存在意義を生み出せない彼女には酷だけど。

 

「まさか……このまま水路に落ちるつもりか!」

 

 腰に体当たりをして屋根から身を捨てた。

 落下予想地点には淡水と海水が混ざる能力者にとって大きな弱点の水。

 

 水に怯まない能力者は居ないんだったね!

 

──ドボォンッ!

 

 大きな水柱が上がった。

 水路の底に体を打ち付け口の中にあった空気がゴポリと音を出して零れる。

 

 死ぬ時は道連れ思想なのか水に沈んでも決して手を離してくれない。

 塩分濃度の低い海だからこそ能力者でも力が多少入るのだろう。

 

「ッ!」

 

 躊躇してたら私が窒息死する!

 

 マントの中に普段から仕込んでいるナイフを彼女の首に這わせ──そのまま横に動かした。

 

 私の服を掴んでいた手の力が、抜ける。

 

「ぶはっ!」

 

 綺麗なウォーターセブンの水路を血で汚してしまって申し訳ないと思いながら這い出る。

 ふくらはぎだけじゃなく体の至る所から血が流れていた。

 

 水に浸かったら迷うこと無く家出するヘモグロビンが憎い。

 

「ゲホッゲホッ」

 

 鼻から水が入ったし結構飲んでしまった。

 

 右手に握ったナイフに伝わる感触は確かに肉を切り裂く気味の悪い手応えで、狙ったのは血管が密集している首。

 

 結果は確かに『死』だった。

 

 頭がフラフラする。怪我だけじゃなくて恐らく感情的な要因もある。

 

 

 私は彼女の名前すら知らずに殺した。

 この手で、直接。

 

 父子揃って私が。

 

「う……ッあ、ぁ……!」

 

 生温い世界で生きてきた私にとって、自分が引き起こした直接的な死は、キツかった。

 

 その他人の死が私だったら。あんな簡単に1度の傷で死んでしまうなら。

 それより私が潰した彼女の未来は。

 私が殺してしまった、この手で彼女を殺してしまった。

 

 1度グラッジを殺したのなら慣れる?そんな事ない!あの気味の悪い感覚を何故この世界の人間は楽しめる?

 

 分からない、その矛先が私に向いたら簡単に死ぬ。3人分の顔を持つ私に恨みを抱いてる人間は1人分より多いのに、彼女みたいに仇討ちを仕掛ける人間がいないわけない。

 

 怖い、殺されるのが怖い。

 それでも殺すのも怖い。

 

 でも死ぬ方がもっと怖い。

 

 ズキリと痛む傷。擦り傷などという低レベルな傷じゃない事は確かだ。

 いくつか食らった技はどれも致命傷に繋がる。

 

 

 フラフラする。血が足りない。痛みで気が狂いそうだ。

 

「も、やだ……」

 

 

 

 

 

 

 カランと落ちたナイフの音を聞いて、私の記憶はそこで途切れた。




前半(細かすぎて伝わらないこだわり選手権)
ルフィは原作で「このケンカ」と言っていましたがこの作品では「この勝負」と言っています。それは彼の目的は「ルッチ達政府を倒すケンカ」ではなく「ロビンを取り戻す勝負」という認識が強かったからです。だから彼はルッチに勝ちませんでした(勝てないとも言う)。しかし死んでも無いので『喧嘩に負けて勝負に勝つ』みたいな感じですね。

後半
ここでは刺客の紹介を。
ディグティター・グラー(15)(♀)
元王下七武海、マーロン海賊団船長グラッジの娘です。

オリキャラがここまで引っ張るのも珍しい(というか雑魚キャラ)と思ったでしょうが、彼らはもう少し因縁があるのでこの章で秘密を解き明かします。


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第188話 予想外のジンテーゼ

 メリー号が燃える。

 雪を降らせながら沈んでいく。

 

 1人用の小舟にルフィが乗って、その後ろには麦わらの一味と多分ウソップさん。それとココロさん達が何故か居た。

 その中にビビ様とカルーは居ない。

 

 彼らは泣きながらメリー号を見守る。

 

 おかしい。

 何故このメンツなのか。何故波で壊れた筈のメリー号が燃えているのか。

 

 おかしい。

 

 おかしいけど、そこに私が居ないのはおかしくないと思えた。

 

 

 時々夢に見るこの奇妙な出来事はなんだろう。

 夢にしてはやけにリアルだけど私が見た覚えのない風景は鮮明に映し出されている。実際起こっていることが多いし、これから起こりうる予知夢とも言える。

 だけど誤差がある。

 

 何か、違う。全ての奇妙な夢に差異がある。

 

 

 夢相手に馬鹿馬鹿しいと思いながら私の意識はゆっくりと現実に戻されて────

 

 

 

 

 

 目が覚めるとブルーノの顔があった。

 

「ん゛ッ──…─!?」

 

 なんで!?と叫ぼうと思ったが声が出ない。

 あれ?なんで声が出ない?

 

 というかなんでブルーノが私の目の前にいるんだ?仇討ち娘はどうなった?

 

 これも夢?うん?どういう事?

 

「……お前、キミ?いや、お前」

 

 部屋は殺風景で宿と変わりない。レンガ造りの壁は冷たく感じる。

 ブルーノは呼び方にしっくり来ないのか首を傾げながら私を指さした。

 

「──明日、6番ガレージ付近、あんたの血痕がある石碑を3回叩け。でなきゃバラす」

 

 脅されました。

 本当に状況が把握出来ない中で、何とか内容を覚えるとブルーノは胡散臭い笑顔を見せた。

 

「目が覚めたか麦わらの一味の!仲間を呼んできてやる、ああ申し遅れた俺は酒場で店主をしているブルーノという者だよろしく頼む」

 

 周囲へ知らしめる為、そしてそういう設定だと私に伝える為に自己紹介したとしか思えない。

 ……よろしく頼むという言葉は『この事は黙ってろ』って言外に伝えてるって事になるのかな?

 

 黙ってろも何も何故か声が出ないんですけど。

 待って本当に私状況把握出来てない。

 

 ブルーノは部屋を出てどこかへ向かった。ベッドの上に1人残された私は思わず呆然とする。

 

「ん゛……?」

 

 言葉から判断するにブルーノは麦わらの一味を呼びに行った。ブルーノの顔を知っているのがニコ・ロビンのみだとすると、この場所には全員居ない、という事か。

 ニコ・ロビンが居たら顔の割れてるブルーノが堂々と敵陣に居られるわけないし。

 

 

 一体どういう事なんだ?

 

 私は確かグラッジの娘をこの手で殺して倒れ込んだ筈……。う……吐きそう……。

 

「リィン大丈夫か!?」

「リィン無事!?」

「リィンちゃん目が覚めたのか!」

「リィン良かったーー!」

 

 突然部屋に雪崩込んで来た麦わらの一味に思わずギョッとする。

 それぞれ怪我の有無はあれど元気そうで良かったのだが、てんでバラバラの言葉は一気に聞き取れないのでゆっくりプリーズ。

 

「リィン大丈夫!?怪我は?動ける?」

 

 そう焦りながら私に声をかけたのは白髪でテンパの同じくらいの年頃の男の子。

 その子の後ろにはルフィとニコ・ロビンとアラバスタコンビ以外の一味が勢揃いしていた。ブルーノと共に。

 

 うん、やっぱり訳が分からない。

 とりあえずこの男の子は誰?

 

「リィンやっぱり声が出ないのか」

 

 チョッパー君の問いかけに頷く。軽くは出るかもしれないけれど喉が痛むから喋りたくない。

 喉に損傷は無かったと思ったんだけど……。

 

 心配そうな顔をしながら、それでも医者を優先させているのか他のメンバーは口を出さないままで傍観していた。

 

「お前がびしょ濡れの血まみれでこの子に運ばれてきたんだ。そこで俺が拾った。麦わらの一味というのは把握しているからな」

 

 ブルーノが状況の説明してくれる。

 なるほど、私はこの子に拾われたのか。そしてそれをブルーノがさらに拾ったと。

 

「ゔ、あ……」

 

 お礼を言いたいけど、声がうまく出ないので頭を下げるだけにとどめる。その子は聞き覚えのある声で小さく安堵した。

 

「そういえばこの子どこの子?リィンのマントを被ってたけど、服が燃えたみたいにボロボロだったのよ。あっ、サイズが丁度良かったからリィンの服、勝手に借りたわ」

「えっ、とぉ……僕、ちょっと説明が難しくてリィンが目覚めるの待ってたんだけど」

 

 その子の困り顔は、どこか私を彷彿させた。

 髪色と髪の質感が違っているから直ぐに気づかなかったけど……。

 

「リィンに似てるわね」

 

 うん、ナミさんが言うなら間違いないかな!

 変態さんの私に対する観察眼は目を見張るものだ。自重してください。

 

「動けるか?」

 

 返答に迷ったけど頷く。

 

「襲われたのか?」

 

 思いっきり頷く。体が傷んだ。

 

「この子と知り合いか?」

 

 苦笑いを浮かべている少年をじっと見る。同年代に知り合いは居ない、それは確実だ。

 でも聞き覚えのある声だ。つい最近初めて聞いた優しい声に。

 

「………………」

 

 熟考して口だけ動かした。

 

『メリー号?』

 

 それだけで彼は、メリー号は嬉しそうに笑って私に飛び付いた。

 

「うん!」

 

 いやなんで????

 

「知り合いなんだな?」

 

 チョッパー君の確信した問いに頷く。ただひたすらに読唇術を使えそうなナミさんが真顔で見てるのが怖いです。

 

「ゲホッ、ぁー、あ゛ー……」

「戻ってきたか?」

「なん゛ッとか」

 

 覚えのない喉の怪我はそこまで酷いものじゃなかったみたいで、想像していたより早く喋れる様になった。

 

「まず報告、誰一人欠けることなくロビンを取り戻したぞ」

「おづがれざ、ま、です」

「俺達がこっちに戻ってきてから半日くらい経ってるんだ。ルフィとロビンは疲労が強くてまだ目が覚めないと思う」

「ここ、は?」

「荷物を置いてた宿だ」

 

 ふむふむ、寝ていた時間はそう長くはないって事か。疲労困憊だろうルフィは軽く2日は寝るかもしれないな。

 

「奪還方法はまず置いておく、それとリィンに起こったことも。緊急性は無いんだよな?」

 

 その言葉に頷く。

 焦った様子が私から感じられないから終わった事として認識されたみたいだ。

 

「多分リィンにとって1番直接的に関係する報告があるんだ」

 

 私に?なにかあったっけ?

 

「あの酔い止め禁止」

「──ッ!は、ぃ゛ッ!?」

 

 え、なんで!?私あれが無いと酔って死ぬんだよ!?絶対!なんで!?

 

「あんっっな危険な物を仲間の1人が使ってたなんて!俺は医者失格だ!」

 

 危 険 な 物 ?

 

 理由が分からず混乱する。チョッパー君はやっぱりな、といった様子で深い溜息を吐いた。

 

「あれ、かなり強い麻薬だぞ」

 

 ……頭の中をリフレインする麻薬という言葉。

 あの酔い止めを作ったのは元世界政府科学者で今は賞金首のシーザー。

 

 いやいやいやいや!いくら頭がぶっ飛んでようと私を毒殺しようと頑張っていても流石に中毒性のある麻薬を使うだなんてことは無いだろう!

 

「ですが、酔いは止ま゛っるし、て…」

「それはプラシーボ効果だよ」

「………ま゛、さか」

「うん、思い込みだ」

 

 なんだと?

 じゃあ私は私の知らない麻薬を酔い止めだと思い込んで接種してたってこと?

 

「ふー……………」

 

 大きく息を吐き出した。

 

「あ゛のやぶ野郎絶対ぶち殺ず」

「物騒な事言うな」

 

 チョッパー君は私の体を調べたみたいで薬物反応が出てない事に気付いている筈。嘆いていたけど焦っては居ない。

 それどころかなんか説教されそうな雰囲気なんですけど。

 

「次、リィンがルフィに渡した飴玉だけど」

「はぃ」

「なんであんな危険な物渡したんだ!」

「へ?」

 

 ぷりぷりと怒れる医者は私の寝ているベッドをバンッと叩いた。

 

「確かにルフィはあれがなかったら死んでたかもしれないけどさ!よりにもよって医者の俺がいるのに麻薬を渡すなんて!」

「待つ、まーーーづッ!」

 

 ルフィには確かに飴玉を3つ渡した。それに間違いは無い。それにチョッパー君の反応からするにおそらく使ったと思われる。

 

 いや、でも、麻薬????

 

「麻薬で、は、無きです」

「へ? でもドーピングとして使われたりするオカインなんだろ?しかも多量の」

 

 その言葉に対して私は静かに首を横に振った。

 オカインは最近関わりあったけどサボ達が破壊し尽くしたから手元にあるわけが無い。

 

 ルフィに渡した飴玉の原料は違う。

 

 

「オロナミ゛ン」

「おろなみん」

 

 私がルフィを害する薬物を渡すわけが無い。

 多分幻覚作用(強力)があるメスカルサボテンくらいで終わる。

 

 オカインなんて渡すものか。

 

「でもルフィは何度も瀕死状態で立ち上がって」

「プラシー、ボ効果、です」

「………まさか」

「思い゛込み」

 

 チョッパー君はガックリ項垂れた。

 『これパワーアップするで!』って信じ込ませたら限界を越えてルフィは立ち上がると思ったんだよ。だって催眠術とかすぐかかる人じゃん。

 

 

「あぁ〜〜〜……焦ったァ……」

 

 医者からすれば作用の強い薬物は絶対使いたくない代物だろうね。

 

「そのオロナミンに……あいつは……そうか…オロナミンか……」

 

 ブルーノがショックを受けた様子でブツブツ愚痴り始めた。リィンは彼の正体を知らないのでお口チャックします。

 

 

 

「リィンちゃん」

 

 サンジ様がベッドから見る私の低い視線に合わせ腰を落とした。ピリピリとした緊張感が再び部屋を包み込む。

 

 何か、有ったのだろうか。それとも私の何かに気付いたのだろうか。

 この場にはサンジ様とナミさんという察しの良い人間が居るので可能性はゼロじゃない。

 

 いや、でも、女狐に関してはボロを出さないようにしたし、性別という観点で私からは遠ざけた筈だし、戦闘の跡が残っているから私がこの島に居たと普通は考えるだろうし。

 

 

 

「メリーが壊れた」

「………………………は」

 

 予想外の言葉に目を丸くする。

 

「俺たちを助けに来てくれたメリー号は真っ二つになって、ルフィが送り火を焚いた」

 

 待って、待って。

 

「信じられないかもしれないけど、メリーは別れを告げてくれたんだ」

 

 じゃあ、ここに居る白髪の……。

 

「……リィンちゃん?」

「う、あ、ぴ…。ッ、ゆ、ゆうれ…モガっ」

 

 パニックになりかけた私の口を塞いだのは張本人(?)のメリー号。既視感ある。

 あー、裏路地に呼ばれた時こんな風に落ち着かせようとしてたなぁ。

 

 触れる手の感覚は、前に思った不思議な触覚を生み出さなかった。普通の人間に触れているような感覚。

 

「リ、リィンちゃんとボウズ?どうした?」

 

 待ってサンジ様、だって、だって。

 

「プハッ、ゲホッ」

 

 手を離してくれたので気道を確保出来る。痛みを感じる喉で咳き込みながら恐る恐るサンジ様を見て、口を開いた。

 

「では、コレは……?」

 

 コレが示すものは当然メリー号(仮)で、彼は困った笑顔を私に向けていた。

 お前はコミュ障(たかのめ)か。どういうことなのか私にも分かるように説明してください。

 

「コレ、って。リィンちゃんの知り合いだろ?」

 

 キョトンとした顔をしていたが次第にサンジ様は叱るような顔付きになった。

 客観的に見ると知り合いを『コレ』呼ばわりする事はどうかと思うんです。確かにサンジ様の仰りたい事分かります。

 

 でも!でもだな!

 

「わがるがボケェえぇぇ!ッ、ゲホッ!」

 

 状況!説明しろ!メリー号(仮)!

 

 スパンッと勢い良く白銀の頭を叩くと痛いという抗議の声が耳に入ってくる。

 

「説明、求む゛、ぞ!」

 

 私が睨みつけると、仕方ないと言った表情で彼は口を開いた。

 

「僕、ゴーイングメリー号って言うんだ」

 

 絶叫が部屋を支配した。

 

「どどど、どういうことだてめぇら!」

「いや何言ってんだよお前」

「メリー?え?おぉ??」

 

 反応は予想していた通り。

 特に彼らはメリー号を燃やしたという姿を見ているらしいので混乱は私以上だろう。

 

 私は事前に人型のメリー号と会っていた。それが今冷静に考える事が出来る鍵だろう。

 ……嘘です自分より混乱する人間が居るとスっと思考が冴えるんです。あ、私はまだマシかもしれないって。

 

「ねぇメリー、貴方はどうしてリィンにそっくりなの?」

「おーいナミー。それより先に聞くこと普通あるだろー。なんで存在より容姿を優先したー」

「メリーと知り合いであるリィンと偶然似るって凄い確率だと思うの」

 

 麦わらの一味で唯一異色を放つナミさん。彼女は驚くほど冷静でメリー号と視線を合わせた。

 

「それは、僕がリィンと1度会ったことがあるから。僕の目で直接見た人間はリィンだけなんだ」

「そうなのね、ありがとう」

 

 人間の認識として1番強いのが私だった。だから似たような人型になった、と。

 

「なんでそんなに冷静なんだオメーは」

 

 ウソップさんが冷ややかな目でナミさんに問いかける。その2人に触発された一味は徐々に冷静を取り戻し、ナミさんに注目した。

 

「リィンが喉を怪我して声が出なくて苦労してるのに読唇術を使わない理由が無いじゃない」

 

 

 左様ですか。




安定のナミさんでオチを決めることがこんなにも楽だとは。

喉の怪我。燃えた筈のメリー号が人間として現れた。ブルーノが居ること。
謎ばかりですがとりあえず言えることはメリー号擬人化めっちゃ楽しいです。

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【重大なお知らせ】
かなり更新速度が遅くなります。現在連載している恋音の作品を総合した場合でも更新が月一とかになりそうです。時期的に断定は出来ないのですが更新を1時停止する可能性があります。


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第189話 戦力が高まると死亡率も高まる

 

 混乱の序盤を呼んだ宿の部屋での一幕。

 

 一応助けてくれたブルーノに一味はお礼を言うと彼は誰にも分からないように私を一定時間見ると去っていった。

 多分『絶対来いよ』とか伝えたんだと思う。

 

 さらに言えばメリー号が人間として現れた。それはあまりにも衝撃的過ぎて、私が怪我を負った詳細より皆の意識はそちらに集まった。都合が良かったので指摘しなかったんだけど。

 

 細かい事なんて分からない。ただ見舞いに来たアイスバーグさんによると『クラバウターマン』という付喪神と妖精を混ぜ合わせた存在が変異したものだと推測される。

 彼、ゴーイングメリー号は多分夢を叶えに来たんだと個人的に考えた。

 

 『皆が夢を語った時、僕にも夢が出来た。最期まで仲間と居る、叶う筈も無い夢が』

 

 船としての最期に、私は居なかった。

 叶う筈も無い夢を再び叶える為に。

 

 仲間に見守られながらという『船』として稀有な最期なのに、多分つなぎ止めたのは『リィン』の未練だ。

 それが私の未練なのかメリー号の未練なのか分からないが『メリー号が居る』という事が事実なので、私たちに真実は必要ない。

 

 ルフィとニコ・ロビンが目覚めるまで、メリー号は麦わらの一味と交流を深める。多分仲間になるんだろうけど、翌朝になっても船長が目覚めなかったので断言出来ない。

 

 

 

 そして今、私はブルーノの指示通り、6番ガレージ付近にある血痕が付着した石碑の前に来ていた。

 数通り奥には私の戦闘の爪痕が残っている。

 

「はぁ……」

 

 朝日が昇る頃、宿を抜け出す事に成功したのだ。怪我して約1日、当然痛みは引かないし体を動かす事すら億劫なのだが、女狐だと知っているブルーノだから会わないといけない。

 

「この石碑に何が……──」

 

 そう呟いた途端、石碑が扉の様に1部開いた、

 

「あ、」

「あっ」

 

 ドアドアの実の能力者、ブルーノが扉に変わり地下への入口となる事を瞬時に察した。

 ブルーノを扉にしたのはルッチだった。

 

「め、女狐」

「……やァ?」

 

 どんな反応をするのが正解なのか。

 お互い微妙な反応になる。

 

「見られると不味い、まず中に入ってくれ」

 

 ブルーノの催促に同意見だったので石碑の中に入る。石碑の中と言っても地下に続く階段があるだけだから幅という意味ではほぼ無い。

 

──バタン

 

 能力が解除されたことにより扉は石碑へと戻った…───あれ?これ密室?

 

「ふっ……もう遅いぞ女狐」

 

 まぁ最大限集中して石をぶち破ればいけ、無いな。私はそこに至るまで集中しきれないような気がする。

 

「地下に隠れ家……の様な物があって、潜入していた際はこちらも使用して居た。俺は酒屋の店主だからそちらがホームで、こっちは念の為、という物だな」

 

 アクアラグナでここは浸からない。

 だからコイツらは地下に隠れ家を作れたのか。

 

 コツコツと石階段を降りていくとうっすら光が漏れている空間が現れた。

 前を行くルッチの背中をぼんやり見ながら後ろのブルーノにも気を配る。

 

 言わば敵陣ど真ん中、警戒を解く理由が無い。

 

「ここだ」

 

 ルッチが扉を開けると視界は開けた。

 石で囲まれた地下空間は酸素を確保出来るのか心配になって居たが、それより飛び込んできた光景に歯ぎしりした。

 

「カク……」

「……フン」

 

 CP9が全員居た。

 

「どういうことぞ、何故私を呼ぶした」

「そちらが素の喋り方か」

「説明しろ」

 

 私がブルーノを睨みつけると、誰かに肩をガシッと掴まれ引き寄せられた。

 

「よお、堕天使リィン。まさかお前が女狐だったとはなァ!」

 

 ジャブラが肩を組んでビシバシ叩いてくる。痛い痛い痛い! ちょっと! 怪我してるから本当にやめてください!

 

「や、め、ろ!」

 

 肘で押して止めさせるがジャブラはご機嫌のまま私の近くをうろちょろしていた。

 本当にコイツ最年長か……?

 

「で?」

 

 ジャブラの反応から私=女狐だという事はバレていると見ていいだろう。

 

 私は無造作に置かれている木箱に腰掛けると周囲を見渡した。

 各々個性はあるが、私の言動を見ている事に違いは無い。

 

「私が呼ぶされた理由は?」

 

 全員が居る、ということは恐らくカクは私を殺せない。『リィンが女狐だとバレたらリィンを殺すことに支障をきたす人間』というのがCP9の中に居る以上殺される確率は低い。

 その考えに至っている事を態度から見て取れたのかカクは小さく舌打ちをした。

 

「今回のエニエス・ロビーの件の政府の対応を報告しようと思ってな」

「はァ?」

 

 思わず眉をひそめた。

 

「何故私に言う必要が存在する?」

 

 いつか海軍にも報告されるし、潜入中の私をわざわざ呼び出すというリスクを背負ってまで報告する事じゃない。

 ブルーノは私の反応を予想していたのか特に気にすること無く話を続けた。

 

「政府側の失態は俺達が背負う事になった」

 

 その言葉は予想していたより、いや、予想すらしていなかった。

 

「分からない、政府はCP9という戦闘力を捨てるほど人手に優れるしている? 第一、CP9は有能で切り捨てることにより得るメリットは無に等しいのに?」

「……買い被りすぎやしないか?」

「事実しか言いませぬ。CP9は強い。育成施設などもあると思うですが、その中でも間違いなくトップレベルのあなた達を切り捨てる?」

 

 責任を負う、という事は規模が大きい今回の1件だと間違い無く『解雇』または『大幅な降格』という結果になるだろう。

 スパンダムならまだしもCP9が背負う意味が分からない。

 

 彼らは政府にとって重要な駒。本当に意味が分からない。

 失態は失態かもしれないが、別の失ってもいい人材に責任を押し付けるのが効率の良い選択。

 

 何故、有能な人間が切り捨てられる?

 バスターコールはもちろん、殆どが正義の闇に屠られる出来事なのに?

 

 

 断片的にだが、拙い言葉遣いでそう伝えるとルッチがニヤリとほくそ笑んだ。

 

「あー……女狐、それを可能にする感情が存在するんだ……」

 

 苦笑いを浮かべながらブルーノは呟いた。

 

「怒り」

「子供か」

 

 読めてしまった。読めてしまった!

 私の回転速度の速い頭はその一言で簡単に答えを出してしまった!

 

 スパンダム怒らせて一時的に責任を負う事になったな! そして我に返った政府に『力になってくれ!』と言われる前に話を漕ぎ着けて置こうと私を呼んだんだな!?

 

「つまり、『俺たちを海軍で雇わないか』という提案だ」

 

 嬉しそうにジャブラが笑顔で告げた。

 

「……ブルーノだけでOK」

「なんでだよ」

「ドアドアの実めちゃくちゃ有能説! 私の為に技を作るして欲しい! 案は存在する!」

「俺も使えるぜ!?」

「正直他は要らぬぅ!」

 

 腕でバッテンを作るとカリファ辺りからだよねといった納得の表情を頂いた。

 

「その、誘いは大変嬉しいんだが。……睨むなルッチ、不可抗力だろう」

 

 ブルーノは両手を上げて降伏の仕草をルッチに向けていた。

 彼だけが選ばれた事に嫉妬? それとも海軍に屈するなど、という怒り?

 

 よし、分からないけどルッチはすこぶる面倒くさそうだ。

 

「お前さぁ、断れない立場だっつー事分かってんのか?」

 

 ジャブラの言葉にニッコリと微笑む。

 

「分かってるから悪あがきしてんだよクソ野郎」

 

 ルッチとブルーノの契約だと『政府に捨てられた場合海軍が2人を拾う』条件。

 ただそれは2人だけの場合。今この場には私の秘密(めぎつね)を知っている人間が増えた状態。

 

 断れない秘密。

 手元に置いておくことに監視の意味を含めて異論は無い。

 

 でも個人的な感情ではブルーノ以外全くこれっぽっちも欲しくない。

 

「ぶ……っ、はっはっはっ!俺やっぱりコイツ好きだわ!」

「私は普通に嫌いですけどね!」

 

 政府の武力を削げるのも、戦力を手に入れる事も、多少嫌味を言われるだろうがメリットな事に違いは無いが───。

 

「ん?」

「どうした?」

「貴方達は海軍か政府に居たい、ですよね」

「まぁそうだな」

 

 『殺しの正当化』を求めるには2つの組織のどちらかに所属する必要がある。

 

「殺すことは好き?手柄にならずとも?」

「当然」

「もちろん」

「愚問」

 

 即答だった。

 

「殺しの快感を知らないなんて勿体ねぇよなぁ」

「肉の引き裂かれる音が好きチャパー!この前の革命軍の任務は楽しかったチャパパ」

「あ、もういいです」

 

 その精神は全く理解出来ない。まぁ好きと捉えるか嫌いと捉えるかは個人の自由だから止めろとまでは言わないけど。

 

「賞金稼ぎじゃダメなのです?」

 

 殺しを正当化出来る大義名分が存在する。

 お金も貰えるし罪では無い。

 

 首をかしげて周りを見てみるとピキっと固まっていた。

 

「守りが薄い。それだとどこかしらから声がかかる。『政府に戻らないのか!』みたいにな」

「いやぁ、海軍に居ても同じと思うですが……」

「それに! それにだ! なァブルーノ!」

「あ、あぁ! シャボンディ諸島には手を出しづらいレベルが在中しているのを知らないのか? あの冥王と剣帝が睨みをきかせている」

「彼らは海賊や賞金稼ぎをレベルアップ方式で探すしているだけなので実際手は出しませぬよ」

「なん……」

 

 2年間の海賊(ゴミ)掃除は無理しないレベルを見極めて彼らがターゲットを決めてくれていました。

 

「それに賞金稼ぎなんてシャボンディ諸島だけに拘る必要など存在しませぬし……」

「いやいや、それに殺していい人間の情報を集めるには個人だと限界がある。海軍なら海賊の情報はどんどん集まるだろう」

 

 まぁ確かにそうだ。

 私も海賊や人の情報を探したり隠蔽するために入ったも同然。後者はほとんど無理だったが人は探せた。

 

 でも任務という名目が出てくるから自由では無いと思うんだけどなぁ。軍って規律やら何やら雁字搦めだし。

 

「……何が目的?」

 

 CP9が必死になって海軍に入ろうとする理由が見つからない。

 

「私を売った人間が居るCP9を信用出来る理由が無いですぞ?」

 

 視線は自然とカクに集まる。

 彼は馬鹿にするように鼻で笑った。

 

「売るとは人聞きが悪い、精々──」

「──写真を()()()()、とかです?」

 

 責めるような視線を向けていても全く気にした様子はない。ただ絶対にこちらを見ないようにしているのは確実だ。

 

「私の手配書の写真、雑用時代の物でした。しかも年齢的に5年前」

「カク、お前まさか」

「……わしの私物じゃな。ウォーターセブンでの経歴は海軍雑用から、残っておらんと第1雑用部屋出身として些か不自然じゃろうて」

 

 恐らく一般的に販売されてあるレア度の低い写真なのだろう。というか、初頭手配ではフード被った14歳の私なのに、更新されたら10歳位の頃の写真に変わっていた。

 どう考えても誰か、海軍関係者がリークしたに決まっている。

 

 月組のカクさんだった、というのは流石に予想出来なかった。良く考えれば分かるけれど、私の写真を持っているなら最近の写真、脱軍前の写真を提供するだろうね。

 

「リークした先がONLY ALIVE(生け捕りのみ)で残念ですたね」

「……喧嘩売っとるんか?」

「最初に私に喧嘩売ったのはテメェだろうが」

 

 私は意図的に喉を擦る。

 グラッジの娘が居ないのに負った謎の怪我。

 

 喉に残った人間に締められた様な痣。

 

 そして私を拾ったのはCP9(ブルーノ)だ。

 

 

 多分、ブルーノの前にカクが私を見つけたんだと思う。そして殺そうと企み……失敗した。

 微塵たりとも隠そうともしない殺気が物語っている気がした。

 

 

「はぁ、もう目的を言ってもいいか? カクが居る限り女狐は『うん』と言わない」

「なら張本人が直接言いなさいよ?」

 

 ブルーノとカリファが視線を向けたのはルッチだった。やっぱり本当の目的を言わず取り繕った理由だったか。

 ルッチは少し視線を泳がすと観念したように私を見て口を開いた。

 

「その、俺が『リィン』という人間の、ファンなんだ」

「…………………はい?」

 

 耳がおかしくなったのか? と首を傾げてみると呆れた表情でブルーノが呟いた。

 

「お前の耳がおかしいんじゃ無くて、ルッチがおかしい」

「あっ、聞き間違いでは無きでしたか」

 

 何をどうしてそうなった?

 多分見た目に騙されるタイプじゃないと思うんだけど。

 

「カリスマ性に惚れてます貴女の下で背中を見ながら手足となって働きたいですサインください」

 

 思わずカクに助けを求めるくらいには衝撃的過ぎた。普通に無視された。

 

「ど、どうしても私の下がいいと」

「当然」

「移動をCP9全体で、という意図が分かるした気がする」

「……まぁ、流石にストッパーとしての役割くらいは果たしましょうかと思ってね」

 

 カリファの言葉に納得する。

 コレを海軍……と言うか私の下に放つ事の責任感だったのね。確かにルッチとブルーノだけだと私がしんどいからストッパーは多いだけいいかも知れない。CP9を総合的に見て、1部より全体を取るほうがいいか。

 

「……ちょっと、電伝虫かけても?」

「構わないがどこに…?」

「……………育ての親?」

 

 センゴクさんと言ったら止められる可能性があるのでそう言う。

 CP9のまとめ役はブルーノで決定だな。うん。

 

──ぷるぷるぷるぷる……がちゃ

 

『おかき』

「センゴクさんCP9本当に訳が分からないぞ助けて私の鬱憤を晴らすして愚痴らせて!」

『ちょっとまて何があった……! あと愚痴らなければならないのはこちらの方だ問題児!』

「私は優等生だと思いますたがねぇ!?」

『お前の両親の顔を思い浮かべてみろ、それが答えだ』

「血統に拘るこの世界など大嫌いぞ!」

 

 ぜーぜーと荒い息で呼吸をしながら吐露すると電伝虫の先に居る海兵が誰なのか分かった面子はそれぞれ驚きの表情を見せた。

 

「そう、来たか」

「私は英才教育です」

「ハッ、生かせておらんがのぉ」

「黙るしろうさ耳野郎」

「お前が黙れ言語不自由娘」

「お言葉で理解できないようでございましたらその天狗になった鼻を物理的に見るに堪えない惨状にさせていただきますが?」

『外野がうるさい』

 

 ごめんなさい。でも私のプライドが……!

 あ、はい、電伝虫越しに死んだ目をしているのが分かったので優等生のリィンさんは真面目に連絡させていただきます。

 

「あー、その、センゴクさん。果てしなく限りなく違いなく決定事項の報告がございますて」

『今更な話だな、事前に相談がないのは。今時間が無い、手短に頼む』

「……元CP9、私のモノにしていいですか?」

『……………細かく頼む』

 

 説明を求められたのでCP9の代表としてブルーノと一緒に話をした。

 

 ・政府はCP9に責任を負わせた

 ・責任追及が撤回される前に海軍に吸収したい

 ・そして女狐の正体を知られたから監視も含めて女狐隊が望ましい

 

 ・第1雑用部屋襲撃事件の下手人がCP9だった

 

 ブルーノが口に出した最後の報告には度肝を抜かされたが、それは誠意を見せたと取っていいだろう。

 

 電伝虫は深いため息を吐く表情をした。

 

『お前は、どうしたいんだ』

「正直野放しにする事だけは嫌です。だからといって関わりたいかと言うされれば否です」

『……続けろ』

「ねぇセンゴクさん。あまっちょろいと言うされるかも知れませぬが、私は人を殺すのが怖いです。もう嫌です。殺さず無力化可能なれば上出来ですが、絶対は有り得ない」

 

 あの感覚だけは、無理。がくりと相手の力が抜ける瞬間がダメ。他人の死を背負う行為が嫌。

 

「私は、『最高()()』になれませぬ」

 

 肩書きだけの大将。

 何故五老星が『私』を大将に推薦したのか分からないけど、私が実力を持って大将になる事は絶対にありえない。

 

「だから、私は殺意が欲しい。私の部隊が殺しを出来ると言う評価が欲しい。刃が、欲しい」

 

 良くいえば『指揮官』で、悪くいえば『手柄を横取りする臆病な上官』だ。

 その点CP9は殺しの正当化さえあれば評価など気にしない。

 

 私にとって都合のいい殺害方法だ。

 

 武器の代わりに人を使う。外道だろう、非道だろう。それでも私は人を殺したくない。

 ワガママだと言われようと人を殺したくない。

 

 目の前に迫る死の恐怖、きっと私は刃を振るうだろう。でも振るうだけだ。

 多分、私はもう人を殺せない。

 

 傷付ける事ですら怖いから、私は武器を持たない。刀を習えど、使えど、銃を持てど、使えど。

 

 だからどうしても暗躍を中心とした女狐に殺しの仕事が回ってきたら、誰かを使わなければならない。

 私の今の部下はそれに向かない。

 

 

 それに、命のやり取りは怖い。

 今回私は本当に死んだのかと思った。

 

 体はボロボロだし精神的にも参っただろう、と他人目線で考えていたから。一種の現実逃避だ。

 

『お前は、随分嘘が上手くなったな』

「はい?」

 

 電伝虫の向こうでセンゴクさんが笑っているのが分かった。

 虚をつかれて思わず目を丸くする。

 

『お前は、風の能力者だと言っていたな』

「はい、そうですけど」

『火種』

「……ひだね?」

 

 何の話だと首を傾げた。

 

『お前が初めて使ったであろう能力の事た』

「ぎゃん!?」

『上層部はお前が風の能力者じゃないこと位入隊時から知っている』

 

 嘘マジで?えっ、クザンさんだけじゃなくて?

 

『頭の回るお前が人を傷付ける行為を極限まで避けていた事も分かっていた。それでも1度は経験をと思い討伐任務を組み込んだこともあった』

 

 あ、突発的な任務じゃなくて通過儀礼として組み込まれていた任務だったんですね。

 しかもそれは女狐としての評価にも繋がるチュートリアル。

 

 全部、手のひらの上だった。

 

 電伝虫は未だにくつくつと笑っている。

 

『子供相手に看破される程我らは甘くない。多くの新米海兵を見てきて、成長の仕方というのも経験から分かっている。たった1ヶ月?十分すぎる程の見極め期間だ』

「あー、経験は強かですね」

『想定外の事も多かったが、大雑把に今の状況を予感していた。殺しを忌避する性質もな』

 

 つまり、何が言いたいんだ?

 

 予想されていたのは分かった、私に対して失望したわけじゃ無いことも分かった。

 そして海軍……いや、センゴクさんを舐めていたのも理解した。

 

『CP9の件、了解した。こちらでも手配はしておく。ただし加入はお前が女狐として落ち着いて海軍本部に戻れたら、だ』

「何年越しになるとお思いで?」

『今の麦わらの一味の実力で後半の海を渡れると思うのか? 早死、もしくは鍛錬期間を設ける筈だ。いや、そうなるように操作しろ』

「大分、無茶を言うですね」

 

 なんとかしてみせるか、と思ったけど、センゴクさんが私の嘘とCP9を受け入れる事への繋がりが読めない。

 結局彼は何が言いたかったのだろう?

 

 話と話の間に脈略のない話をする様な人間ではあるまい。

 

『不思議か?』

「とっても」

『……正規の大将の通り名は言えるな?』

「赤犬、青雉、黄猿、です」

『そう、で、お前は?』

「女狐です」

 

 線引きされた実力差の通り名。

 私には色が無い。

 

 機嫌が良さそうに電伝虫越しのセンゴクさんは笑みを浮かべていた。

 

『先読みでは私の勝ちだな』

 

 訳が分からないまま電伝虫が切られた。

 CP9に視線を向けてみても理由が分かる人間は居ない様子。

 

 部外者が居る以上麦わらの一味どうこうという話は出来ない、改めてかけ直すとしよう。

 

 

「絶対、勝てませぬぞ……」

 

 先読み所の話じゃないことに彼は気付いていないのだろうか。

 私が彼に勝てる要素なんて微々たるものだ。

 

「とりあえず、落ち着きたらCP9は正式に女狐の部下です。信用しませんが利用はするです、よろしく」

 

 私の部下には曲者が多すぎる。

 




この後電伝虫をかけ直して麦わらの一味の処遇について果てしなく限りなく違いなく決定事項の提案を持ちかけられるリィンさんの姿はあったけど書きません。

>ドアドアの実めちゃくちゃ有能説! 私の為に技を作るして欲しい! 案は存在する!
リィンの欲しがった人材はブルーノでした。

メタ的な話ですけどメリー号が何故人間になったのかという設定をちゃんと作りましたで。いやぁ……私って凄いなぁ!(自分で褒めていくスタイル)
伏線楽しい……。


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第190話 他人の苦労で機嫌回復

 

「おはようリィン」

「おはようですロビンさん、体調は?」

「倒れそう」

「ッ!? チョ、チョッパー君ロビンさんが大変ぞりー!」

「ふふ、冗談。大丈夫よ」

 

 優しく微笑んだ貴女が、あんな業を背負っているなんて気付きもしなかった。

 

 

 ==========

 

 

 宿屋『憩い』には麦わらの一味と、そして船大工の数名が居た。

 

「船を、造らせてくれェ?」

 

 ウソップさんの言葉はつい数秒前フランキーさんが言った言葉だった。

 

「お前達、船が必要だろ?」

 

 アイスバーグさんのプレゼンテーションは続く。多分こちらがうんと言うまで続くのだろう。

 

「俺達は世界屈指の船大工だ。そこにいるゴーイングメリー号の出来た航海が出来る様な船をお前達に造って贈りたい」

「俺はなんと言ってもウォーターセブンの市長として腕がある。これに加え是非にと声を上げているコイツら、パウリーとフランキーだって腕は自信を持って勧められる」

「元はと言えば今回の件、俺達の巻き添えの様なものだ。迷惑かけたからな、恩を返させてくれ」

 

 意気揚々とメリットややる意味などを伝えてくる。その話の内容に悪い点は『しばらく島に拘束される』以外見つからないだろう。

 中古や量産品ではなくオーダーメイド、有り余る程のメリットだろう。

 

 私は船長代理として彼らを見据え、静かに口を開いた。

 

「──で、本音は?」

「「「クラバウターマンが生まれる程の奴らの乗る船を造りたい!」」」

 

 船大工って船馬鹿なのかな。

 後、少なからず本音を隠して耳障りのいい言葉を並べるルッチの性質は間違いなくウォーターセブンで育ったということが分かった。

 

「メリー号亡き後」

「僕まだ生きてるよ?」

「ややこしくなる故黙るして」

 

 ナミさんの膝の上に嬉しそうに乗っているメリー号が口を挟んだので言葉を制する。

 

「……船が壊れるした今、その提案は大変有難い話です。利害が一致すた事は確かでしょう」

「本当か!」

「ですが、我々は海賊です。そしてルフィは海賊王になる男」

 

 恨み廃りを無くすためにハッキリさせて置かなければならない事がある。

 

「過去、海賊王の船を造った船大工がどんな結末を辿るしたか知らぬのですか?」

 

 

 海賊王に関わった者は全て処刑。

 

 

 それは初代海賊王の周囲に起こった全てで、前例がある状況。センゴクさんがルフィを悪として利用する場合、海賊王になる事も視野に入れているだろう。

 電伝虫で『力を付けさせる』と発言した以上死なせることは無い。

 

 2代目海賊王の周囲にだって起こる未来だ。

 

「なれる、なれない。そう言うしたのでは無き」

 

 ルフィは私が、海軍が、世界が。

 

「海賊王に()()()

 

 当初この船に乗った目的はルフィを目立たせずに生き延びさせる事だったが、私にも譲れない物が出来た。

 

「麦わらの一味の為に、命をかける覚悟があるのですか?」

 

 言葉を区切れば、ルフィ以外の麦わらの一味全員が気を引き締める。

 船員の意思は皆同じと言うこと。

 

「造った船に…──」

 

 緊張感が宿のホールを支配する中、フランキーさんが言葉を発した。

 目は真っ直ぐ私たちを見ている。

 

「男はドンと胸を張れ!」

 

 その言葉の真意が伝わっているのかアイスバーグさんは笑みを浮かべた。

 

「俺達の師の教えだ。海賊王の船を造ったと胸を張った男のな」

 

 私はその言葉で肩の力を抜いた。

 

「出過ぎた真似ですたね、謝罪します。どうやら甘く見るしていたのは私です」

 

 純粋に頭を下げた。

 ……うちの保護者達が大変ご迷惑をお掛けしました、という意味を込めて。

 

 いや、ほんとごめん。私達の父親と武術の師匠が迷惑をお掛けして。

 

「いや、構わな…──何故苦虫を噛み潰したような顔をしている」

「何事もございませんぞ」

 

 気にしないでください。

 

「それでえっと、貴方がフランキーさん、ですね?なんというか、奇抜なファッションぞ」

「初対面一発目にそれは酷いんじゃないか?」

「初対面でその格好はやばきでは?」

「お互い様か」

 

 私の酷さは海パン(そこ)までじゃないと思う。

 リィンとフランキーさんは初対面なので当たり障りの無い会話をする。それをしないとおかしいからな。

 

 するとフランキーさんはふと顔を上げてアイスバーグさんを見た。

 

「アイスバーグ、おめーよ、2億くらい持ってねぇか?」

「……唐突だな。金は貸さないぞ」

「目をつけてた希少木材が市にあって、船用に買いに行きたいんだが」

 

 アイスバーグさんの目が輝いた。

 パウリーさんもまさかと言った表情だ。

 

「宝樹アダム」

「あ、それリィンちゃんが持ってますよ」

 

 ビビ様が手を上げてニッコリ伝えた。よく覚えてるな。

 

「…………えっ、造れる分?」

「結構あったよね、リィンちゃん」

「全部ぶんどるしてきますた故、キャラヴェル2隻は固いかと」

「裏のルート売り出される……レアなヤツ?」

「2億くらいするとは言うしてますたね」

「……そのルートって、カジノ?」

「グラン・テゾーロ」

 

 あ、崩れ落ちた。

 

「ルフィ、目覚めないな」

「医者として俺は、普通死んでもおかしくないと思っているぞ。ビビから貰ったけど血液も不足してたし疲労が半端じゃない。それでも生きているのは生命力の高さだろうな」

 

 項垂れるフランキーさんを視界に入れずスルースキルのレベルが着々と上がっているウソップさんが呟く。するとチョッパー君は医者としての見解を述べた。正直分からんでもない。

 

「リィンも大変だっただろうけどよォ、CP9相手ってのも苦労したぜ」

「の、様ですね。私も大概ボロボロと思うですたが引けを取りませぬ」

「……そういや、リィンがウォーターセブンに残った理由ってその怪我に関係するのか?」

 

 その問いに苦笑いを返す。

 詳細を話したらボロが出る。グリッジを倒したのは私じゃなくて女狐で、彼の娘が恨みを抱いていたのは女狐である私。

 

 そこには決定的な違いがあった。

 

「まぁ、そう、です。……ごめんですぞ、言うと絶対止めるされると思うして」

「ルフィは間違いなく止めるだろうな」

「この戦いには、私がちゃんと決着を付けるしたかった」

 

 話したくないけど話す、という曖昧な表現を使って誤魔化しながら渋々口を開いた。

 

「なにより、巻き込むは嫌」

「馬鹿かオメーは!」

 

 私の言葉に強く反発したのは会話の相手であるウソップさん。突然の罵倒に私は目を白黒させた。

 

「ビビは国と七武海のゴタゴタ、ロビンは世界に喧嘩売るっつー巨大な問題に俺達を巻き込んでくれた!新入り達が俺達を巻き込む勇気を持ってんのになんで2番目のお前が尻込みしてんだ!」

 

 海賊は実力主義、序列は絶対。

 いくら仲が良くても『順番』というのにこだわりがある。

 

 私は様々な面での実力があり、海賊になったのはルフィに続き僅差で2番目だ。

 

 船員の私に対する認識は副船長に準じる地位。

 ルフィと私に地位差はあるけど、私とゾロさんにもそれなりの差がある。

 

「ウソップさん、変わりますたね」

「……女狐に言われたんだ。俺は勇敢な男で、あの化け物達に敵わなくても役目がある」

 

 小さく呟いてウソップさんは晴れやかな笑顔を見せた。

 

「俺は狙撃手、援護が花道! 仲間の進む道を援護するのがこの船での役目だ!」

「……ッウソップさん、本当に頼って宜しきですか?」

「当然だ!」

 

 『私』の言葉でそこまで変わってくれたのかと嬉しく思い…──袖から貝を取り出した。

 

「……へ?」

 

 ──カチッ

 

『俺は狙撃手、援護が花道! 仲間の進む道を援護するのがこの船での役目だ! ──……ッウソップさん、本当に頼って宜しきですか? ──当然だ!』

 

 (ダイアル)から複製された音声が流れる。

 ぱちくりと目を開いて口を閉ざしたウソップさんの顔には汗が流れていた。他の面子はこれから起こる事を予期したのか苦笑いを浮かべざるを得ない様子。

 

「言質ぞ、ウソップさん♡」

「──撤回を!発言の撤回を所望する!」

「狙撃手のウソップさん援護よろしくお願いするですよっ」

 

 まぁ絶対巻き込めないんだけど、私の為に。

 

 とってご覧なさいと体の小ささを活かしてウソップさんの音貝(トーンダイアル)を奪おうとしてくる手をするりと避けていく。

 そんなじゃれ合いの最中、サンジ様がビシッと手を上げた。

 

「女狐の話題が出た所で俺とっても言いたいことがあります!」

 

 必死だな。

 

「──女狐、本人曰く男です!」

 

 一瞬の静寂の後、最初に口を開いたのは男の娘説を提唱していたビビ様だった。

 

「これは勝ったわ!」

 

 何に勝ったというんだ。

 

「あーーー……だからか」

 

 次に口を開いたのはフランキーさん。

 ニコ・ロビンに視線を向けながら納得した様な声を出した。

 

「俺、アイツのこと嬢ちゃんって呼んだら変な反応をしてなァ……」

「俺もレディって呼んじまったぜ……」

 

 両方共予想外過ぎて驚いただけです。

 まぁ女だとは言ってないけど男だとも言ってないから精々(まど)えと思ってます。

 

 動揺が走り、各々が女狐に関して考えている微妙な空気をいい意味で破壊したのは1人の男の目覚めだった。

 

「ッ、リー!」

 

 ドタバタと上から駆け下りて来たのは昏睡状態だったルフィ。

 

「──生きてるか!?」

「死んでたらそれで問題だと思うぞ」

 

 この短時間で自主的に起きてくるとは思ってなかったので、正直驚いている。

 

「ルフィおはよう」

 

 お呼ばれした様子なので声を掛けると、ルフィは私を視界に入れた途端駆けつけ、肩を力強くがしりと掴んだ。

 

「大丈夫か!?」

「いだだだだだだ! ルフィ! 痛い! 死ぬ!」

「よし、生きてるな!」

「ルフィに殺すされるかと思考したぞり!?」

 

 痛みに疼く肩を擦りながら涙目で睨みつける。

 無事を確認する為に地味に痛い方法を選択する辺りルフィだなって思うよ。

 

「ルフィ、もう平気なのか?」

「んー、筋肉痛? ちょっといてぇ」

「ルフィはリィンに比べて肉体損傷より肉体疲労の方の色が強かったからな」

 

 チョッパー君が納得した声を出す。

 ルフィは周りをキョロキョロ見渡してニコ・ロビンに声をかけた。

 

「ロビン、頑張ったな」

「そうね。ようやく羽を休めることが出来るわ」

「ししし!」

 

 ルフィが起きるだけで空気が一気に変わった。

 麦わらのルフィは色んな人の光で皆それに縋るんだろうか。例え海賊でも。

 

 まぁ、『兄のルフィ』は私だけの特権だけど。

 

「ルフィ、ルフィ」

 

 ナミさんが膝にメリー号を乗せたまま声をかけた。ニッコリ笑顔で上機嫌だ。

 ルフィはメリー号の姿を見て一瞬固まる。

 

 私と似てるから、か?

 

「なんか、リーと似てるな!メリー!」

 

 近付いてフードを脱がすと白銀の髪をわしゃわしゃと撫で始めた。

 

「わっ、わぁっ!」

「そっか、この角? お嬢様の所の羊にも着いてたな、親にも似たのか!」

「執事な、執事…──っていやいやまてぇい!」

 

 ウソップさんがツッコミにツッコミを重ねるという離れ業をやってみせるとルフィは小首を傾げウソップを見上げた。

 

「なんだ?」

「お前ッ、なんでメリーがメリーだって分かったんだ!?」

「んー……なんとなく?」

 

 訳がわからないといった様子でウソップさんは額を押さえた。

 ごめん私はメリー号だと分かった。ただし事前知識があったからだ。

 

「俺達の中に居て、違和感つーのが無かったんだよ。だからもう1人の仲間、メリーかなって」

「だからって言ってもよォ、今のメリーは船じゃなくて人間だぜ? 普通分かるかよ」

「でもよぉ」

 

 ルフィは考えながら言葉を紡いだ。

 

「どんな姿だろうと仲間は仲間だから」

 

 

 どこか悟ったような、それでいて冷静なルフィの言葉はズキリと私の胸を抉った。

 それが、敵でも?私が女狐の姿だろうと仲間って言ってくれるの?

 

 ルフィの性格なら私を妹と言う。

 だけど、仲間と言える?

 

 どうしようもない不安感や空虚感に襲われる。

 

 

 その瞬間、見聞色の覇気を使えるゾロさんとサンジ様が立ち上がり扉を睨み付けた。

 

──ゴンゴンゴンッ!

 

 貸し切りのはずの宿の扉から重たいノックの音が聞こえた。

 扉は返事を待たずに開かれる。

 

「ぶわっはっはっは! やらかしたなぁ、麦わらの一味!」

 

 逆光で見えづらくてもその豪快な笑い方で誰なのか分かる。

 

「元気か、孫共!」

「じいちゃん!?」

「じじ!?」

 

 ニンマリ笑う義祖父の姿に私はひとつの真実に辿り着いた。

 

 

 他人の不幸は蜜の味。

 

 

 センゴクさんの機嫌が良かったのは私の苦労が確定された未来を知っていたからなのか、と。

 

 ──私、一体貴方に何をしましたか?

 

 正直心当たりしか無いのでこの質問は心の中に留めておきます。




令和最初の投稿! 短期間投稿すぎて私の睡眠時間は削れないんだけど!
\削れないのかよ!/
\一本取られたよ!/

まぁ今回細かい解説は無いので無視します。
とりあえず冒頭の不穏な表現について一言。
『あんな業』は例え逆立ちして世界1周してもギャグです。



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第191話 終わらない胃痛の連続

「じいちゃん!?」

「じじ!?」

 

 揃って悲痛な声を上げるルフィと私。

 背後で麦わらの一味の驚きの声が木霊した。

 

 海軍の将校服を来た男の来訪に当然ながら場は混乱に陥る。

 将校が私たちの祖父だと言うこともね。

 

「なんでいるんだよじいちゃん! 仕事しろよ!」

「その仕事でここに来とるんじゃ!」

「なーんだ、それならいっか」

「「「良くねぇよッ!」」」

 

 男性陣が同時に声を揃えた。

 追われる者としては、大変よろしくない出来事だろう。

 

「……ルフィ」

「うん」

 

 コクリと頷きながら声に出さないやり取りを交わす。私の言葉に隠された意味は『いつものやってもいい?』という許可申請、そしてルフィの意味は『任せた』だ。

 

 私は頭の中でキャラ変した。

 

「じーじっ!」

 

 ばっ、と手を広げてじじに抱きつく。現役中将は私の突進くらい余裕で受け止めた。

 

「……! なんじゃなんじゃ! ルフィ達が居るとリィンは相変わらず甘えたじゃなぁ!」

「じじ凄いぞ! 扉開けるが出来たぞ!」

「ぶわっはっはっは……それは褒めとるんか?」

 

 二足歩行出来てる!凄い!と雑に褒めるが、じじは孫に尊敬されるという感情自体が嬉しいのか海賊(ルフィ)に目もくれず私を抱き直した。

 

「……アイツ、何やってんだ?」

「ああいうのは昔っからリーの仕事なんだ」

「何となく分かったわ」

 

 物理的に追う者と追われる者、その立場に変わった瞬間じじは圧倒的強者になる。

 ……まぁ仕事関係で追う者と追われる者だと私が圧勝なんだけど。

 

 とにかく、海賊という追われる者の立場に立っている私達は昔の様にじじという脅威から逃げなければならない。

 そんな時こそ私の出番! 単純明快な人間相手に媚び売るのは得意です! プライドなんて知ったことか!

 

 幼少期の兄3人は『意識を逸らす』とか『話を摩り替える』とか『媚びを売る』って行動が頭に浮かんでも実行する力がなかったんだ……。あるのはデッドオアデッド、戦うか逃げるかのみ。

 

 3人がじじの脅威に潰されないの、私のおかげと言っても過言じゃない。

 

「ねぇねぇじじ、リーとにぃには、じじと追いかけっこしたくないなぁ」

「ん〜? なんじゃあ?」

「リーはじじと『またね』を所望するぞ、じじと追いかけっこは『さようなら』ぞ。嫌ぞり」

「そうかそうか! リィンはじいちゃんが大好きじゃなあ!」

「じじ凄い!」

 

 首筋に抱きつけば背後から仲間の声が微かに聞こえた。

 

「大好きとは言ってないな」

「シッ、ゾロ君黙ってなさい…!」

 

 よく分かったな。

 

「じじ、今日の用事ぞ何事?」

「おお、そうじゃ。忘れる所じゃった。──コビー! 例の持ってこい!」

 

 扉の外からピンク頭の人が現れた。

 コビー?コビーって、あのコビー君?

 

 贅肉どこいった!?

 

「お久しぶりです、ルフィさん、リィンさん、ゾロさん」

「………………ハッ、贅肉だるだるのコビー?」

「鍛えましたから!」

 

 自慢げにコビー君は笑った。

 その笑顔は前から変わらない様なのでルフィもゾロさんも警戒心を解く。

 

 さて、ガープ中将は一体誰を連れて来たのか。

 とりあえずコビー君が居るという事はヘルメットって人も居て、直属の()()()()()()()()()()部下であるボガートさんとドーパンさんが居る筈。

 ……ストッパー的な意味で。

 

「本日麦わらの一味にお持ちした物があります」

 

 コビー君は改まって姿勢を正すと手に持っていた紙を私に渡した。

 首を傾げながら見てみると思わず固まった。

 

「……ルフィに渡す無い辺り流石ですよね」

「光栄です」

 

 ニッコリ笑って私の胃を刺激してくる。

 メンタル強くなってるね、コビー君。ルフィとゾロさん、そして私の中でコレの重要性を把握出来るのは私だと選んだわけか、正解だ。

 

 ねぇ、仕事が早過ぎない?

 

 DEAD OR ALIVE(デッド オア アライブ)

 

 〝麦わら〟モンキー・D・ルフィ 懸賞金2億5000万ベリー

 

 〝海賊狩り〟ロロノア・ゾロ 懸賞金1億ベリー

 

 〝狙撃王〟ウソップ 懸賞金6000万ベリー

 

 〝泥棒猫〟ナミ 懸賞金2500万ベリー

 

 〝七変化〟チョッパー 懸賞金2000万ベリー

 

 〝悪魔の子〟ニコ・ロビン 懸賞金8000万ベリー

 

 

 ONLY ALIVE(オンリー アライブ)

 

 〝堕天使〟リィン 懸賞金800万ベリー

 

 〝黒足〟サンジ 懸賞金2億3000万ベリー

 

 〝砂姫〟ビビ 懸賞金2億1000万ベリー

 

 〝カルガモ戦士〟カルー 懸賞金500万ベリー

 

 総合懸賞金(トータルパウンティ)…9億8800万ベリー

 

 

 そっか、億越えが4人もいるのかぁ。

 胃が、痛いなぁ。

 

「サンジお前何したんだよ!」

「女狐脅したくらいしか心当たりねェよ」

「「「「それだよッ!」」」」

 

 圧倒的冤罪に私は心の中で大きく息を吸った。

 

 

 ……。

 

 十中八九ジェルマ姉弟です! 顔写真までご丁寧にどうもありがとうございますこれはジェルマ全員知っているという意思表示ですね! そして黒足という通り名の意味はサンジ様の育ての親は赤足だと分かってるんだぞって脅しですね! 黒はジェルマ(絵本)第3王子の色! もうこれ以上も無いくらいの脅しです!

 チョッパー君の変化形態が7つあるのは私のリークからですごめんね!

 そして参加しなかった私はカルー(未知)と同じ数字上がったという訳ですね! 低懸賞金でとても嬉しいですありがとうエニエス・ロビー不参加! 苦労と引き換えに一時の平穏を手に入れる事が出来ました!

 

 

 そう、心の中で叫んだ。

 

 表情は動かさない。というか動かせない。

 

「俺は信じない! カルーを除いてリィンが1番低いとか!」

 

 喚いてるウソップさんには申し訳ないが私は自分の金額にすごく納得してる。

 そんな強い訳じゃないもん、策略練るのが得意だから一味には『脅威』ってイメージ抱かれてるのは分かるけどさ。

 

 

「麦わらの一味も大分有名になったな」

 

 新たな声に全員の視線は扉に集まる。

 そこに居た彼らは麦わらの一味に関わりのある人物だった。

 

「ミス・マン…──ッ、えっと、ええっと」

 

 コードネームを言うのがまずい行為だと思ったのかビビ様は咄嗟に口を閉ざした。

 その姿を見て彼女は笑みを零す。

 

「久しぶり、ビビ王女。あたしは今ツキって名前を名乗ってるよ」

「まぁツキはオカンって呼ばれてるけどな」

「ナイン、殴られたいかい?」

「ごめんなさい」

 

 コントの様なやり取りを交わす。

 元ミス・マンデーと元Mr.9だ。

 

 彼らの友人であったビビ様は嬉しそうに再会を喜ぶ。

 

「来てるのはあなた達だけ?」

「ボムとレモンは連続して大物が捕えられてるから戦力として駆り出されてる最中。ま、同じ部隊の奴らは書類仕事してるから動けるだけマシな方だね」

「ボムとレモン」

「……ボムとレモン」

「ボムとレモンかぁ」

 

 大変わかりやすい偽名ですこと。

 

「コーーービィイーーーーー!」

「うわっ、ヘルメッポさん?」

「だっ、から、僕は海賊相手じゃなくて麦わらの一味に会いたいん、です、ってぇ!」

「そんな事言ったって俺知ってますからね! あんた船の上でウォーミングアップしてたの!」

「うぉ、この人の馬鹿力ほんとにやべぇ。コビー曹長ヘルプ!」

 

 ククリ刀を2本腰に着けた男ともう1人の海兵を引き摺りながら海賊嫌いのサイリーン・レイさんが入り込んできた。

 ……サイリーンさん重度の海賊嫌いだから本当は止めておいて欲しかったんだけど。

 

 彼は麦わらの一味を視界に入れた途端目に怒りを宿した。

 

「海賊……ッ! 海賊なんか、居るから……!」

「ん?」

「〝玉雲〟!」

 

 サイリーンさんの手のひらから怒りの雷雲が飛び出して丸く形を作った。

 その玉は迷うこと無くルフィにぶつかる。

 

──バリバリバリバリッ!

 

「麦わらッ!」

 

 フランキーさんの焦った声と雷鳴が轟く。海軍側は思わず天を仰いだ。

 海賊絡むとはげしくなる暴走癖どうにかしないと海兵として問題だよねぇ……。

 

 この原因が海賊じゃなくて私にあるんだから胃が痛いですセンゴクさん。

 

「お前雷使えるのか! ……すっげーな、エネルみたいだ」

「口を閉じろ海賊、僕をあんな外道と一緒にしないで…──えっ、今エネルって言いましたか?」

「ん? エネル知ってんのか?」

「レイ先輩ホントストップ。海賊嫌いなのは分かったから、この場の全員よーく分かったから!」

「サイリーンお前なぁ、ちょっと下がってろ」

「いや待ってください今海賊がエネルって、もしかして空島のことを知って」

「ほぉぉらぁあ! そんな事言ってるけどアンタの体が雷雲に変わってるから!」

 

 

 リィンこれ知ってる、混沌(カオス)だって。

 

 

「全員落ち着けぞーーーーッ!」

 

 今こそ覇王色の目覚める時!

 そう願ったけど覇王色なんてかすりもしなかった。黙ってくれたのは幸いです。

 

 

 

 ==========

 

 

 

 これ以上状況がぐちゃぐちゃになって言ってはいけないことを言ってしまったらアウトなので私が代理でまとめあげる。

 

「じじがここに来た理由は本当に手配書のみですか、アルスさん」

 

 あえて中将のそば付き一等兵、別名月組の1人に聞くと彼は頷いた。

 まずは徹底的にじじの口を封じる。

 

「おう、麦わらの一味に関しては中将クラスは不干渉だ」

「つまり女狐が麦わらの一味の担当というのは本当なのですね……」

 

 項垂れて嘆く。その頭を慰めるためにポンポンと撫でるのは今限定で癒しのルフィだ。

 

「じゃあ次ですがえっと、オカンとニセキング」

「絶対この人覚える気無いな」

「大将……。あ、いや、今大将って言っても紛らわしいね」

「確かにそうですね…──だってあなた達、女狐の部下でしょう?」

 

 2人はピクリと表情を変えた。

 心情的に焦っている、といった感じだろうか。

 

 まぁ、『女狐』としては話題をそこから離すのが正解だろう。

 だけど麦わらの一味の関心は現在女狐一直線。

 

 無駄に逸らすより弱点を掴みにかかろうとした方が仲間内で疑われにくい。

 

 今は、男説のおかげで私からかけ離れている。

 これを期に距離を離す。私が女狐を敵対視したら『私=女狐』という方程式は浮かばない筈だ。

 

「なん、なんでそんッ」

「ハハハ、なにいってんだい大将。ガープ中将の部下だよ」

 

 オカンは私の意図を分かったみたいで乗ってきてくれた。数秒時間が空いたのも結果的にいい感じになっているだろう。

 実際は『なんでわざわざ女狐(自分)の話を話題に出すのか?』と思っていたんだろうが、何も知らない第三者から見ると図星突かれたように見える。

 

「さっきの話で確信するしたぞ、私は元海軍側と言えど現在は麦わらの一味。その海賊の担当は女狐ぞ? じじには包み隠さすせず説明した故、正直海軍に元BWだとバレると当時予想すて……」

「あっ! 俺たち結構命綱ギリギリ渡ってたのか! なんとか生きてる! サカズキ大将ありがとうございます!」

 

 海賊として言わせてもらうと、犯罪者が海軍に行こうとその後の手出し出来ないから本人達次第だよね。

 

「なんで、赤犬?」

 

 海賊の私にも女狐にも分からない、そこでサカズキさんの名前が出るのが。

 

「面倒見てくれてるから」

「嘘!?」

 

 思わずガタリと席を立った。傷が傷んだ。

 

「リィン、それって青雉の言ってた?」

「そうです、海賊として1番忌避すべき大将ぞ」

 

 サカズキさんとサイリーンさんは混ぜるな危険だから討伐を共にした事は無い。つまり、それほどだ。

 

「おいおい……お前らよりにもよってそこに辿り着くのかよ」

 

 女狐の部下、そして赤犬の世話になっている。

 その字面の威力は凄まじく、サンジ様が引き気味に呟いた。

 

 その呟きを拾ったナインは手で顔を覆う。

 

「だって、任務失敗しても殺されない……」

「「「分かるわ」」」

 

 元BW、オカンとビビ様とニコ・ロビンが声を揃えて同意した。結構ガチで同意してる。

 

「じゃあ次です。コビー君とヘルメットは」

「ヘルメッポ! ヘルメッポだ!」

「2人はじじの所に居るのですよね、元気すてますか? じじを頼るした私が言うのも何ですが無茶苦茶でしょう?」

「……やりがいがあります」

「それで察する事が可能ですごめんぞ」

 

 遠回しな『余計な手間が多い』って批難。

 彼らも女狐の部下であるんだけど今は英雄ガープの部下(設定)だ。複雑な心境だろうがしばらく我慢して欲しい。

 

「じゃあ、サイリーンさん?」

「……はい」

「ここは直接ルフィの方がよろしきですか、私空島には行くしてませんし」

 

 バトンタッチ、と言いたげにルフィに視線を送ろうと振り返るとルフィは私を見ていたのかすぐに視線が合った。

 

「お前、なんでエネル知ってるんだ?」

「海賊に話すことなんて何も……」

「んー、じゃあちょっと質問変えるな」

 

 ルフィはサイリーンさんと視線を合わせる為にしゃがんだ。

 

「クモリンは」

「ゴホッ!?」

 

 噎せた。

 私の自慢の親友のあだ名はケムリンだったな。

 

「クモリンはさ、じいちゃんの部下?」

「僕は女狐さんです」

「女狐、好きか?」

「もちろん、でなければ僕は海軍に居ません」

 

 世間知らずであるが、サイリーンさんの生真面目な性格は答えをはぐらかすことをしない。

 

「どのくらい?」

「どの、くらい、と言われても……言葉にするのが難しいですね」

 

 ルフィの空気に飲まれてサイリーンさんの険悪感が薄れている、だと?

 えっ、ルフィ凄い。純粋に凄い。

 

「んー、じゃあさ、女狐が心から海賊になるって言ったらどうする?」

「軽蔑します」

 

 迷う余地なく答えられた。まぁこの人ならそうするだろうなとは予想してたんだけど。

 私、ホントにこの人に寝首かかれそうで怖い。

 

「………嘘です」

 

 サイリーンさんはしばらくすると小さく言葉を零した。

 

「無理です、軽蔑なんて出来ません。ッ、僕は昔母親を医者に殺されました」

「なんだって!?」

「決して治らない病じゃなかった、でも医者は僕に『メスをいれる度胸が無い』と言って治療を止めたんです」

 

 医者は責任から逃げた。

 同じ医者であるチョッパー君が憤慨するのをサイリーンさんは気付く。予想外の生物が怒りを見せた事に目を丸くしたが彼は話を続けた。

 

「それから数年後、僕の故郷……ビルカはエネルの襲撃を受けました」

「エネル……そっか」

「青海に堕ちて、僕はとある島で自警団として幸せに暮らしていました。色んなことを教えてくれたもう1つの大切な故郷でした。…──でも、海賊に襲撃を受けッ」

 

 握り締める手が震えていた。

 

「悔しくてたまらなかった! 村も破壊つくしされ仲間は倒れ死んでいく! そんな時助けてくれたのが女狐さんだったんです。あの人が僕を救ってくれたのは事実、だから僕は軽蔑出来ません」

「クモリンもすっげー経験積んでんだな」

「そして僕があの人を好きなのも事実ですから」

 

 …………………ん?

 

「待て、サイリーン、だっけ? お前もしかして女狐の事」

 

 なんか、ニュアンスが違う。

 まてまてまてまて、まてい。

 

「レ、レイ先輩……? 正気ですか? 日々追われてる書類が誰のせいだと?」

「事実です」

 

 サイリーンさんは真顔で淡々と答えた。

 なんだこの居た堪れない空気、海賊も海軍もどちらの陣営も気まずいぞ。

 

 海賊は『女狐は男だからビビ様ちょっと黙ってようね』的な気まずさ。

 海軍は『ここに女狐居るよね? アンタ正体知ってるよね?』的な気まずさ。

 

 あとナイン、書類仕事は正直すまん。

 

 そんな空気をものともせずマイペースなルフィは堂々と口を開いた。

 

「エネルはぶん殴ったぞ。クモリンの故郷、空島は無事だ! 鐘も鳴らしたんだ! お前の故郷、全部真っ白でさ、綺麗だな」

「…………なんですかその雑な褒め言葉」

「本心だぞ?」

 

 くしゃりとサイリーンさんは笑った。海賊には決して見せない笑顔だ。

 

「全ての海賊が貴方の様な人であれば良かったのに」

 

 

 ……彼の海賊嫌いの原因を作ったのは私だ。

 海軍は実はサイリーンさんの悪魔の実の能力に目をつけていた。膨大な、青海には無い雲の知識を有効に使った自然系(ロギア)の力。

 

 彼の所属していた自警団は村を守るもの。

 ……毒物を大量生産していた村を。

 

 当時はもちろん討伐対象、幸か不幸かサイリーンさんは無知だった。確かに彼ら自警団には自警団の友情があったけれど、決して見逃せない。

 

 この秘密は墓まで持っていく、決して悟らせない。私がサイリーンさんを助けたのは事実だけど真実はもっと残酷で、仕組まれた悲劇なのだと。

 

 

 

 すると未だにメリー号を抱いたままのナミさんが微妙な空気を払拭する様にルフィと私を見比べてため息を吐いた。

 

「にしても、リィンが海軍に未だある伝って言うのがあんた達の祖父だとは」

「リーは養子ってやつだけどな」

「ルフィの生命力の根源はここからです」

 

 無理矢理すぎる話題転換に乗っかっていく。

 この場の空気は一体感に満ちていた。

 

「おぉ、そう言えばルフィ、お前親父に会ったそうじゃな」

 

 だからと言ってその話題は無い。

 

「父ちゃん?俺に父ちゃんなんかいるのか?」

「なんじゃい名乗り出やせんかったのか……ローグタウンで見送ったと言っておったぞ」

 

 ローグタウンを訪れた事がある1部がざわざわと言葉を交わした。

 

 ええ、居ましたとも。

 

「リー、分かるか?」

「………………………知る、したい?」

「あんまり興味は無いな」

「よか、良かった……良かったぁ……」

「オメーは知ってんのかよ」

 

 これで言う必要が無くなった。混乱を招くだけで得るものは何も無い。

 

「お前の父の名はモンキー・D・ドラゴン。革命家じゃ」

 

 通りやすいじじの声は外で待機していた海兵まで余裕で聞こえていた。

 

「「「「「えぇえええぇぇええッ!?」」」」」

 

 言う必要の無い情報のばら撒き行為に、この人インペルダウンで監視しといた方がいいんじゃないかと思った。

 うん、センゴクさんに会ったら提案しよう。




「必殺、〝情報多量摂取パート2〟…!」
もう詰め込むだけ詰め込んだ感半端ない。

懸賞金について。
ルフィ(3億→2億5000万)……ルッチを倒しては無いから
ゾロ(1億2000万→1億)……CP9撃破ならずと未熟見聞色で若干マイナス
ウソップ(3000万→6000万)……実力者に軒並み目を付けられているから
ナミ(1800万→2500万) チョッパー(50→2000万)……正しく実力が本部に伝わっている
ロビン……原作と相違無し

サンジ ビビ……王族という身バレ額故

カルーとリィンは本編の通りですね。


サイリーン・レイ「みんなレイ先輩とか下の名前で呼びますし、あなた達も他人を呼ぶ際下を使うのになんで僕だけサイリーンなんですか?」
リィン「……なんでって、」
ガープ「……のぉ?」

レイさんと呼べないロックス世代と主人公。


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第192話 限界を迎えた胃

 

 どんちゃんどんちゃんと宴の音が空へと続く。

 ガープ中将来訪から2日程、日は傾き空はオレンジに染まっていた。

 

 ウォーターセブンの名物である水水肉が焼ける音はもう私には届かない。風に乗って運ばれる匂いだけが確かに存在していた。

 

 船大工達は早速船を造りに、メリー号もそれに着いて行った。

 麦わらの一味やフランキー一家は宴の最中だ。

 

「どうするの、大将」

 

 宴の会場から離れ、軍艦の停泊する港の近くで建物にもたれ掛かる。隣で聞いたのは元BW。

 

 宴が始まるまでじじを警戒したルフィが私を離してくれなかったのでようやく海軍と合流出来たと言った所だ。

 

「麦わらの一味を強くする、ですか」

 

 今の麦わらの一味は依存に近い。

 ルフィに救われた者、浴びせられる無限の光に目がくらんでそれ無しじゃ生きていけない依存。

 

 全員まとめて、という選択肢は無い。

 

 だからどうするのかと言われても『海賊の敵を使う』といった曖昧な案しか浮かんでこない。

 

「はァ……。女狐はしばらく使う不可ですかね」

「どうしてだ?」

「一味の注目を集める過ぎてボロぞ出そう」

 

 非常に疲れた。

 まさか女狐という者に成るのがこんなにも疲れるとは。

 

 肉体的な疲労ではない。立場だとか視点だとかに頭を使い過ぎて頭痛がしてくる。

 

「それにしても大将、そのケガどうしたんだ?」

「ん? あぁ、敵です。昔、潰し損ねるした尻拭いですかね」

 

 別件だけど思い出した、グラッジの事をじじに聞いておかなきゃ。

 

「ナイン、じじを連れるて来てくれませんか?あとついでにアルスさん」

「アルスって月組のだろ?待ってろ」

 

 そう言って駆け出した。

 

 慌ただしく過ぎていた時間はようやく落ち着きを取り戻したのかゆっくり歩いている気分だ。

 

「ねぇオカン」

「ん?」

「私、あなた達を逃がす気微塵も無いぞ」

「そりゃまた、光栄な話だね」

 

 くすりと笑ってオカンは私の耳元に口を寄せ1つの名前を呟いた。

 

「その名前、大将が捨てておいてくれない?」

「……マンデー=ツキは安直、そっちの方がまだセンスがあるぞ」

「いいじゃない、分かりやすいんだから」

「…………じゃあ、遠慮なく捨てるです」

 

 海風を思いっきり受けて体温が冷える。時々自分が何をしているんだろうと思う時がある、大事な物が一人分の手じゃ届かなくて、手の数を無理やり増やしている。

 自分はなんて欲張りなんだろう。

 少なくとも言えることは海軍を捨てられない。

 

 めんどくさい事、多いと思う。

 でもセンゴクさんが麦わらの一味を悪として利用するなら、今海軍を捨てる事は出来ない。

 

「じゃあオカン、これをベンサム……ド派手なオカマに渡すしておいて下さい。中にメモが入るしてる故に見るして、と。あ、女狐の機密です」

「あァ、ベンサムね」

 

 良かった、ちゃんと知り合ってたか。

 ともかく袋にメモととある一式を入れ、ついでに音貝(トーンダイヤル)も入れた。中に音声は吹き込んである、多分大丈夫だろう。

 

「リィン、どうしたんじゃ?」

 

 ナインがお使いを終え、2人を連れて来た。

 

「ねぇじじ、グラッジって何者ぞ?」

 

 単刀直入にアバウトな質問をぶつけるとじじは頭を捻り思い出した。

 

「グラッジ、と言うと昔七武海に居た……」

「この怪我はグラッジの娘──ミズミズの実の能力者にやられるした」

「……なんじゃと」

 

 じじが驚いたのは怪我をしたことじゃない。

 娘もミズミズの実の能力者だったということだろう。

 

「1人で実を入手は、ほぼ不可能。他にも理由は存在するが協力者は居ると思うぞ」

 

 真剣な表情で私はじじに問いかけ続ける。

 

「彼女はディグティターと言うした、それは一体何ぞ? 海兵に罵るされるような家、って」

「……そうか、お前は知らなんだか」

 

 しかーーし、私と相反してじじはキョトンとした顔だ!

 ……ちょっとイラッと来た。

 

「お前はロックスの時代は詳しく無いからのぉ」

「ロックスぞ、時代の名前?」

「ま、大体は、じゃがな」

 

 あまり喋りやすい話題では無いのか堂々と口を濁した。ごほん、と改まって咳払いをするとディグティター家について説明してくれた。

 

「ディグティター家は王族じゃ」

「はぃ!?」

「と言っても辛うじて現存している名ばかりの王族じゃがな。豊かな土地も国民も、もう無い」

 

 なるほど、と勝手に納得する。

 七武海の茶汲み雑用であり世界会議(レヴェリー)にも行く私が知らなかったという事は本当に名前だけの存在なのか。

 

「あそこは4人兄妹。長男を除く全員がマーロン海賊団……つまり次男のグラッジを船長として七武海入りしとったんじゃ」

「やばいぞ、当のグラッジ以外知らぬ。殺すされる可能性高きぞ」

 

 こいつはやべぇ。娘並の殺意を向けられる事間違いなしだ。もちろん生きていたら、だけど。

 グラッジ討伐の際は張本人以外全部クザンさん任せだったから詳細分からない。本部に戻って調べないと。

 

 焦っているのか頬にたらりと汗が垂れる。

 じじは変わらず奇妙な物を見る目をしていた。

 

「何ぞ?」

「あぁ、そうか。それも知らんのか」

「ん、ッん?」

 

 リィン分からんでござる。

 首を傾げて話の続きを催促した。

 

「グラッジと長男のグラッタは双子。弟のグラッサと妹のグーリアはニコイチで行動しよったが」

「が?」

「グラッタがとある海賊と協力して自分の国を滅ぼす1歩手前まで持っていったんじゃ」

「なにそれこわい」

 

 えっ、怖。1番の要注意人物がグラッタね、覚えておこう。

 

「あー……奴らは悪魔の栗色4兄妹と言われておってな。晴れて全員賞金首になった時は『眷属』『片腕』『足』『尻尾』などとお茶目に悪魔シリーズなどと……」

「じじ、そこからの豆知識は多分要らぬ。お茶目部分要らぬ。まぁ通り名は助かるですけど」

 

 視線をウロウロと(せわ)しなく動かしている。

 

「ん? 眷族……?」

 

 アルスさんが聞き覚えがあるのか分からないが小さな声で復唱した。

 

「言いづらいんじゃがなぁ……」

「うん?」

「そのグラッタという4兄妹の中で頭1つ所じゃなく飛び抜けて強い奴はじゃな、名前を変えて今もなお生きておる」

「げぇ」

 

 とにかく、そのグラッタはグラッジと双子だったんでしょう?

 年齢的に海賊王と同世代……やばいじゃん。

 

 大きく息を吸い込んで覚悟を決めた顔をしたじじが一言呟いた。

 

 

 

「フェヒター」

 

 

 

 

 

 

 今 こ の 人 な ん て 言 っ た ?

 

「ディグティター・グラッタはカトラス・フェヒターと名を変えた。お前も知っとる〝剣帝〟じゃ」

 

 

 脳裏に浮かぶ少ない交流があったグラッジ。

 

 『……………テメェは…っ!』

 

 怒気を含ませた声が聞こえて視線を向ければ濃い茶色の髪色が目に入っていた。

 

 『どうだ女狐…!能力者に水は効くだろぅ?』

 

 血のように赤い視線。

 

 『腹立つんだよォ…テメェも…、()()もォォッ!』

 

 鬼徹を取り出し、トドメを刺そうとした瞬間グラッジはハッとして懐かしそうに目を細めた。でもすぐに目は怒りや憎悪に変わって。

 

 

 

「あんっっっの片想い拗らせじじいいいいッ!」

 

 空に向かって吠えた。

 腑に落ちた、腑に落ちましたとも!

 

 道理で何もしてないのにグラッジ自身に睨まれるわけだ! だって鬼徹はフェヒ爺から譲り受けた妖刀だもんね!

 マジで妖刀の威力怖い! というかフェヒ爺が心底憎い! いまなら私グラッジと一緒にグラッタぶっ殺同盟組める気がする!

 

「リ、リィン!?」

 

 じじの声を無視して宴の会場へ足を進める。

 ズキズキと体の色んなところが痛むけどそれより優先すべきはルフィ!

 

「っ〜〜〜い、って」

 

 足がじくじくと痛む。

 それの元凶がなんなのか考えたら……いや討伐自体はセンゴクさんか。

 

 とにかく、とにかく!

 

「ルフィッ!」

「ほーひは?」

 

 どうした、と肉を精一杯頬に詰めて首を傾げるルフィの肩をがしりと掴んだ。

 

「シャボンディ諸島、次ですたよね! 絶対生きるして辿り着くしようぞ! 絶対に!」

「おう?」

「願うなら殴る可能な右手は完璧無事で!」

「誰か殴るのか?」

「もちろんッ!」

 

 私はフェヒ爺をもうそろそろ本気で殴っても許されると思う!

 

 おーよしよし、と言った感じでルフィが頭を撫でてくるのがなんだか不服。役得だけど。

 

「ルフィ、ルフィ〜〜〜っ」

「何だ、甘えただなぁ」

「私はなにゆえこんなに悪縁ばかりぞ……」

 

 もうこの世の全てを嘆いた。

 どうか、誰か、私に降り掛かる理不尽を全て殺してください。

 

「おーい、リィンちゃん!」

「アルスさん……?」

 

 苦笑いを浮かべた月組のアルスさんが紙袋を手渡した。

 

「呼んだのに忘れないでくれよ、ほい、土産。俺以外来てないから競争率高かったんだぜ?」

「くじ引き?」

「あみだの方の、だな」

 

 チラリと紙袋の中身を見てみる。

 そこにあったのは細々としたものがいくつか入っていたが何かしらの書物。そして服や靴などの衣類だった。

 

「後で確認するです」

「それがいい。でもある意味好みに合うと思う」

「でも、恐らくこの中に存在するであろう武器の説明だけ宜しきです?」

「もっちろんだ!」

 

 アルスさん、代表作が改造海水鉄砲というように武器を開発改造するのが好きなので多種多様に取り揃えてる。

 時々将校からも依頼が来るらしくて本当に月組って使えるんだなぁ、と思うよ。

 

「なぁリィン、そいつもしかして月組っての?」

「そうですぞ! 海軍時代一緒の雑用ですた!」

「10年は一緒だもんなぁ、今更海賊になるとか言われても敵対心出てこなくて困ってるんだよ」

 

 困ったもんだと笑うアルスさんに軽い調子で謝り仲の良さをアピールする。

 私達の表情に反してウソップさん達は曇り顔だった。ルフィ以外の麦わらの一味、そして名前も知らない連合軍だった船大工。

 

 来るであろう質問を私は覚悟した。

 

「カク、って知ってるか?」

 

 覚悟をしたのかウソップさんが口を開く。

 アルスさんは嬉しそうに笑い私と顔を見合わせたので、私もその笑顔を真似した。

 

「なんだなんだ、カクを知ってるのか!」

「何故ウソップさんカクさんご存知で? は、まさかその鼻……──生き別るした兄弟的な?」

「なわけあるかい!」

 

 ビシッとツッコミが飛ぶ。

 

「……? アイツなぁ、全く連絡寄越しゃしないんだよ。連絡先とか知らないか?」

 

 アルスさんが訝しげにこちらの顔を見る。しかしすぐにパッと表情を戻して質問をした。

 

「いや……全然……」

「あのガキ、会ったら絶対ぶん殴る!」

「全くですぞ、生死不明ろくにならずぞ!」

 

 腕を組んで頷く。

 するとウソップさんとバトンタッチしたのか船大工の1人が話しかけた。

 

「カクは結構最近うちを辞めてったんだ、海軍ではどんな感じだったんだ?」

「どう?」

「どうって、なぁ?」

 

 作り笑いが下手くそだな、なんて思いながらお手本の作り笑いを浮かべる。

 

「……私と1番歳が近くて」

「だからガキ扱いだったよな」

「で、優しいぞ?」

「気遣いが出来る奴だったから雑用仕事は将校付きだったな」

「あ、あと高いところ好きです」

「屋根の上の修繕得意だよな」

「あー、でもビビりぞ」

「襲撃事件の時に辞めちまったくらいだからな」

 

 やっぱり、カクさんといるの楽しかった。皆揃った第1雑用部屋は心地良かった。

 

──グイッ

 

 アルスさんと話していると腕を引っ張られ気付けばルフィの腕の中にいた。

 

「あー、はいはい。流石に2億の首から妹ちゃんを取ろうとは思わないから」

「ルフィ、息、息苦しき」

 

 無駄に力強いので切実に全力で抱き締めるの止めてください。

 

「いいかリー」

 

 やっと開放されたかと思えばほっぺたを引っ張られた。

 

「兄ちゃんはずっとリーの味方だからな!」

「ふひぃ、わひゃっひゃはらぁ」

 

 なるほど、月組は私の味方という認識だから嫉妬したって訳か?

 

「リィンガチ勢が本腰上げてきたな……」

「あら、でもナミは?」

「声も出せずに悶えてる」

「……可愛いもの、仕方ないわ」

「おっと、まさかロビンまで?」

「いいえ、可愛いは正義派ね。リィンとメリーとチョッパーって組み合わせとっても可愛くて」

「あーちょっと分かるわ」

「──泣かせて見たくなるのよね」

「分からねェ! 俺ぜーーんぜん分からねェ!」

 

 ウソップさんとニコ・ロビンの掛け合いが笑えない。メリー号、戻って来てくれ。今すぐ。私の代わりに生け贄となってくれ。

 そうか、ニコ・ロビンは迷惑な事にドSを覚醒させちゃったのかぁ。

 

 

 泣きた──……いや泣いたらダメだな。

 

 

「武器の説明していいか?」

「あ、はい、アルスさん」

 

 お願いしますと紙袋を渡そうと……。

 

「場所移動可、ですか? 不特定多数が存在する場で閲覧は流石に苦手で」

「じゃあリィンちゃん、10分くらいしたら俺がそっち迎えに行くよ」

「サンジさんありがとうですぞ!」

 

 私は紙袋を手元に戻すとアルスさんに着いて行った。聞こえないほど十分に距離を離した途端アルスさんは呟く。

 

「……聞いてもいいやつ?」

「後で判明可能ぞ」

「ならいいや」

 

 彼は、『カクさん』について私が何か知っていると悟った。10年の経験凄い。

 

 麦わらの一味はこれから個人で強くする方針に操る。その時、私に個人の時間が出来る。

 それが女狐として活動を始める合図だ。

 つまり、私が本部に戻ることになり、約束したCP9は自然と月組に出会う事になるんだ。その時真実を知ればいい。

 

「じゃ、武器なんだけど」

「これです?」

 

 ガサゴソと紙袋から取り出したのは綺麗な装飾が連なるブレスレット、に見える何かだろう。

 

「リィンちゃんはアクセサリーを身に付けないからプレゼントついでに武器にしようと思って」

「天才ですか?」

「リックが案を出したんだけど」

「なるほど、馬鹿と天才を両立しますたか」

 

 試作品らしくまだひとつしか無い。便利だったら量産するのも手だな。

 

「ふむ……」

 

 デザインはシンプル。

 カジュアルでもフォーマルでも、はたまたドレスを着た時だって違和感なく身に付けられる。

 

 よく見たら装飾の石は取り外しが出来るみたいだ。色味が微妙に違っているが微々たる差。

 

「使用方法は?」

「投げる」

 

 発言撤回、やっぱりリックさん馬鹿かも。

 

「正確に言うと装飾の石を箒並の速度で投げて欲しいんだ。何かにぶつかれば発動!」

「防御では無く攻撃ですね?」

「リィンちゃんって、防御力というか攻撃回避力高いだろ?」

「えっ、嘘!?」

 

 私こんなにボロボロです! 回避出来てないんですけど!

 

 アピールする為に両手を広げて包帯を見せるも彼は気にした様子を全く見せてくれなかった。

 げ、解せぬ。

 

「ちなみに注意点は、敵しか居ない所で」

「…………拡散式?」

「あながち間違ってない」

「…………………毒ですかぁ」

 

 味方にも被害が及ぶから私だけが平気な広範囲の武器、もう毒物しか出てこない。

 

「すぐに答えを確定して出せる所が素敵だと思うよ、流石俺らのリィンちゃん」

「私が確実に無事かつ便利な物を持つして来る貴方達も流石私の月組ですね」

 

 困った様に笑いながらお互い見合わせる。

 依存じゃないが心地良いのは確か。

 

「時に、これどこで入手を?」

「……企業秘密で」

 

 視線を逸らしながら言われてもやばいことしてるとしか思えない。

 どこで手に入れたんだこの毒。

 

「いやほんと……! 説明が難しくて!」

「聞きませぬから落ち着きて」

「ごめんありがとう」

 

 頭を抱えだしたから慌てて止める。説明が難しいって状況は経験した事あるから分かるよ、その頭抱えたくなる気持ち。

 

「にしても、カクなぁ」

 

 約束の時間が来てしまうので他愛も無い話を持ち出した。

 

「懐かしいですねぇ」

「船大工してたのか……。なんか意外だよな」

「はい。とっても」

 

 カクの立ち位置をどうしていこうか。

 私は『カクさん』に月組と同じ感情を抱いている設定だから、麦わらの一味の前でカクと会った時懐かしがったり駆け寄ったりする必要がある。

 

 我ながら芸が細かいな、無駄に。

 

 その時カクはどんな反応をするのが正解なのか考えておかなければ……。

 

 ま、最初から嫌悪感を滲み出して居てくれれば面倒な事にはならないだろう。いい人の面して寄ってくれば後ろからざっくりやられかねない。

 

 

 ……うん、カクの持ってる憎悪を麦わらの一味は知っているんだし、彼らからさり気なく誘導して聞き出して覚悟をする、ってシナリオに引きずり込もう。 

 

「カクさんはとってもいい人()()()ね」

「正義感溢れ過ぎて厨二引き摺ってた感じあったけどな」

「年齢的に仕方なきぞ?」

「それを年下に言われるアイツの不憫さよ……」

 

 はぁ、とため息を吐きながらアルスさんが呟いた時だ。ヒョコリとサンジ様が顔を出した。

 

「終わった?」

「はい! 距離を離すしてなんですが、知るされても無問題ですた!」

「海軍に居るヤツらからこの子に合同プレゼントってやつ。これでもファンクラブ出来る程人気だったんだぜ?」

 

 ブレスレットを付けてドヤ顔するとアルスさんが入手経路、の様な説明を足す。

 

「ふぅん、それが武器か。なんだったんだ?」

「毒です」

「…………毒か」

 

 そっかー、と遠い目をしながらサンジ様が復唱した。分かる、その気持ち。

 

「いくらガープ中将の孫だろうとこれ以上一緒に居るのは他の将校に悪いから俺もう行くな」

「はいです、また、また会えるしたならお話ぞ」

「うん、約束」

 

 海賊と海軍にという立場上、無理だろうけど。

 それを分かっているのか誰も余計な事を言わなかった。

 

 アルスさんの背中を見送る。

 さて、戻ろうかとサンジ様に顔を向けると、彼はじっと私の顔を見ていた。ギョッとした。

 

 い、いつから見てたんやサンジ様。

 

「リィンちゃん、ちょっと時間貰えるか?」

「え、は、はい」

 

 サンジ様はその場で一息吸い込んだ。その真剣な表情に体は思わず固くなる。

 

「実は、2人きりで話したいって思ってたんだ」

 

 ま、まさかこれはーーー?

 男女が二人きりで話って……。もしかしてもしかすると、こ、告──。

 

 

 

「俺が元王族だって知ってるよな?」

 

 

 あ、これあかんタイプの告白やん。

 

「何を言うしてるです? サンジさんが王族?」

「……はぐらかさないで欲しい。って、言っても女の子にあんまりこうやって尋問したくないんだけどさ」

 

 あ、尋問なんですね。

 しかも誤魔化しも効かないと。

 

 ……。

 …………。

 

「ッ、申し訳ありませんです知ってますた!」

 

 土下座した。もう何もかも投げ捨てて土下座した。だが、私はサンジ様の真意に背くことを表立ってはしてないぞ!

 

「あ、うん、だろうなぁ。世界会議にビビちゃんと行ってたから実家の人間に会った事あるだろうし、俺の事ポロッと様付けしてたから」

「ビェッ! サンジ様の事言うしてません!」

「ボロは出てたけどね」

 

 隠そうと思っていても心は隠せないし実際誤魔化せずボロっと心の中で呼んでる呼び方で呼んでしまっていたらしい、それに王族だとしてもリィンには関係ないけど女狐には未だに関係があって私が女狐だとバレたら無礼千万。それに私はレイジュ様方にもうサンジ様が麦わらの一味に居るという事を話しているし。

 

「……ぅ」

「リィンちゃん……?」

 

 首を傾げるサンジ様の心配そうな表情。

 

 

 

 ──胃がもう無理だって言ってる。

 

 じわじわと胃から溢れ出す何かを堪えきれずに私はトマト色をした嫌な液体を吐き出した。

 

 これだからトマトは嫌いでござる。




胃「むりぽ」


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第193話 不思議な船と変わり者の人間達

 

 カン、コン、カン、コン、と規則的に木槌の音が海へと響く。遠くでは宴の音が響いている頃だろうに、彼らは変わらず船を造っていた。

 驚くべき速度で造られていくその船の誕生を見ている1人の少年は、キラキラと目を輝かせながら感嘆の声を漏らした。

 

「凄いっ、僕達、こうやって生まれてくるんだ」

 

 やや興奮気味だったのか声は踊っている。

 徹夜で仕上げている船大工達は、少年の姿と言うよりも船の精霊クラバウターマンであったという推測から、メリー号に凄い凄いと言われる度に世もしれない高揚感に身を委ねた。

 

 まぁ、船馬鹿な人間が船に褒められたらそれだけで船大工冥利に尽きるということだ。

 

「船造りも終盤、サプライズ方式にしたいから離れて…──は、メリーにとっちゃ逆だな」

「うん! 僕、この子が生まれるまで見てたい」

 

 乱雑に置かれた石の上で足をブラブラ揺らしながらメリー号は船大工を眺める。

 

 

 しばらく経った頃、船の化身の傍にアイスバーグが座った。

 

「おう、船の子」

「なぁに?」

「お前らの所には船大工が居ないと聞いた。もし宛が無いなら……、俺を入れる気は?」

「……アイスバーグさんを?」

 

 キョトン、と首を傾げる。

 控えめに告げられた『一味に加えて欲しい』という欲求にメリー号は口を開いた。

 

「僕、フランキーがいいなぁ」

 

 その言葉を聞いてアイスバーグは爆笑した。

 なんだなんだと視線が集うが、気にした様子は全くない。

 

「そうか、そんなにアイツがいいか?」

「うん、僕はフランキーがいい。フランキーじゃないと嫌だ」

 

 アイスバーグは自分が選ばれなかったというのにその言葉にはホッとした様子を見せていた。

 

「好かれたなぁ、アイツ」

「あの子を治すのはフランキーがいいんだ」

 

 メリー号はスクリと立った。思い立ったが吉日とばかりに視線はフランキーへと向く。

 

「フランキー! 僕達の仲間になって!」

「ブフッ!?」

 

 当の本人は突然の話題に吹き出した。

 

「な、なんッ! なんで俺だよ!」

「んー、船の勘?」

「そりゃ……無下には出来ないけどよ……」

 

 船、絶対。

 船大工にしか分からない感覚を口にする。

 

「この島ってたくさん船があるでしょ?」

 

 ちらりと見渡せばそこらに船は在中していた。

 ウォーターセブンは所謂〝船の島〟だ、当たり前だと言えば当たり前だ。

 

「みーんな、言ってるよ。この前怪我してた所を治してくれた、とか。昔はやんちゃ坊主だったなぁ、とか。アイスのおじさんと喧嘩ばっかりしてたんだ、とか」

「突然始まる俺の黒歴史暴露! 親戚のおっちゃんかこの島の船は!」

「『てめーよりは年上だ馬鹿野郎』だってさ、そこの船が言ってるよ」

「てっめぇ! お前アレだな! この前カモメに糞付けられた船だな!」

 

 照れ臭いのか、船と話せた興奮からか、フランキーは顔を真っ赤にさせて船を指さしていた。

 人も船も話せるメリー号はやり取りに大笑いをしている。これがリィンとそっくりの顔なのだから多少は純粋さを分けて欲しいものだ。

 

「船の子、お前船と話せるのか」

「僕も船だもん」

 

 小さな船の子供はむすくれた表情をする。今は人間じゃねェか、とどこかの船が呟いた。もちろん普通の人間には聞こえないが。

 

「っ! そうだよ! 僕人間だ! 沢山食べ物食べて沢山熱を感じて沢山おしゃべりするんだ!」

 

 不機嫌そうな表情から一変、とても楽しそうにワクワクと心を踊らせた。

 感情表現というのも彼の心を踊らせる原因の1つなんだろう。

 

 リィンに分けてやりたい程ポジティブだ、顔はそっくりなのに。ついでに体格も。

 

「あ、でも船長にも聞いておかないと……」

 

 フランキーの勧誘、それには人間として前提条件があることを思い出した。

 彼は人で、海賊という組織の人間だ。

 

 船長に伺い立てるか提案する必要があった事を忘れていた。

 

「船長の所行ってくるね」

 

 ヨタヨタと危うい足取りで歩くメリー号を船大工は見送った。

 

「……良かったな、フランキー」

「……俺は、子分の面倒見なきゃならねェからあの誘いには無理だ、乗れない」

「お前の夢くらい知ってる、最高の船に乗ってやれ。お前の所の人間は見てやれるよ」

「俺達の造った船は見てくれないわけか」

「自分で見ろ」

 

 ──…アンタだって乗りたいだろうに。

 

 兄弟にそう背中を押され、フランキーは瞳に覚悟を宿した。

 心に浮かんだ言葉は自分の願望をありありと見せていた。

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

「わぷ……っ!」

 

 人の体になれないメリー号にとって足という存在は不思議なもので、重力を感じる移動手段は手間取る。

 クラバウターマン時代は歩くと言うより浮かぶと言った方が正しい。

 

 それ故にメリー号は転んでしまった。

 リィンの服を借りているので彼女の服が地面で汚れてしまう。

 

「ッ!? ちょ、大丈夫!?」

 

 メリー号は仲間や船大工では無い声が上から降ってくる。

 いてて、と小さな声を零しながらメリー号は嬉しそうに顔を上げた。

 

「痛いよ!」

「いや見りゃ分かるけどさ」

「わぁ、痛いってこんな気分なんだね!」

「は? 何言ってんのリィンちゃん。キミ、痛いとか死ぬほど味わってんだろ?」

「うん? リィン? 僕メリー号だよ?」

「は? あ、偽名? 髪色まで染めちゃってさ、今度は誰を騙そうと…──」

 

 しゃがみ込んだ男はメリー号と視線を合わせるが首を傾げた。

 

「……リィンちゃんじゃ、ねェな」

「だから、僕はメリー号! ゴーイングメリー号って言うんだよ! リィンとは別!」

 

 首をぐいっと掴んでメリー号は空中に吊り下げられた。アイマスクを付けた顔が双眸を捉える。

 

「メリー号、って麦わらの一味の船の名前だな」

「僕を知ってるの?」

「いや、そうじゃなくて。騙されるかよ、どう足掻いても偽名だって分かるだろ」

「……んーー! 僕船だったんだもん! 信じてないでしょ!」

 

 流石にない、と男が首を横に振る。

 信じてくれないと分かったメリー号はブスりと顔に不機嫌を表す。

 

 そして男は悟った。

 あ、リィンの血縁じゃない。と。

 

 感情表現豊かな人間はあの血縁に居たが、可愛らしいという表現とは程遠い存在だった。

 

 では何故こんなにも似ているのか? リィンを知ってから創造されたような見た目だ。

 

「本当に船……いや、無い、無いな」

 

 頑として信じない様子にメリー号は諦めた様子を見せる。

 

「おじさん、誰?」

「あ、あー。お巡りさん?」

「徘徊してるの?」

「……ニュアンスが若干違うけどよォ」

 

 純粋な疑問に心を抉られた男は思わず視線を逸らした。己が徘徊をしているという事は自覚しているんだろう。

 

「その乗り物で来たの?」

「すげーだろ、自転車で海を渡れるんだぜ」

 

 森の木陰に隠された自転車に視線を送ると男は自慢げに笑顔を見せた。子供相手だ、腕っ節も無いだろう。男の警戒心は次第と薄れる。

 

 しかしそれも一瞬。

 

「自転車、壊れそうだよ?」

「へぁ?」

「センゴクさんって人がこれ以上放浪するならいっそ自転車を壊してやろうかって言ってたらしいよ。すっごい嫌がってるからやめてあげてよ」

 

 胃痛がした。

 

「なんで、そんな、こと、を」

「自転車が訴えてるよ?」

「……センゴクさんの名前が出る辺り冗談の類いでは無さそうだな。あの人ブチ切れてるし」

 

 ブツブツと青い顔で呟く男。

 猫のようにぶら下げられたメリー号は大変そうだね、と自転車に視線を向けていた。

 

 どうやらチョッパーは動物、メリー号は乗り物と話せる様だ。

 

「嬢ちゃん、いや坊主か? 良かったらさ、海軍に来ねェ?」

「やだ。僕海賊だもん」

「お巡りさんを目の前にしてよく言うなぁ」

 

 ま、だよな。

 そう思いながら男は頭をガシガシかいた。

 

「ねェおじさん」

「おじさんはやめてくれ」

 

 メリー号はじっくりと男を観察し、まぁいいやと口を閉じた。

 メリー号は船での経験上分かっていた。リィンに関連する事で無駄に関わらない方がいい、センゴクという名に聞き覚えがあったとしても。

 

「え、そこで話止めるの? 気になるなぁ」

「こんな世の中知り過ぎるのもどうかと思って」

「……あー、まぁ」

 

 スンッと真顔に変わったメリー号。

 男は苦笑いを返す。

 

「僕の仲間もよく知り過ぎて胃痛になってるし」

「…………そりゃ、災難、だな」

 

 その胃痛の原因の中で1つ思い当たることがあるのか、放浪癖のある男は最早乾いた笑いしか零せなかった。

 

「それよりもっと知りたいこと沢山あるんだ!」

「ヘェ、例えばどんな?」

「んー……島とか、お買い物とか、肩車とか」

「んな些細な事でいいのか?」

「うん! 人の生を謳歌したい!」

 

 するとメリー号の視界はぐわりと高くなった。

 高身長の男の肩に乗っているのだと、視界の高さと伝わる体温を感じて分かった。

 

「肩車くらいなら俺がしてやるよ」

「あ、ありがとうおじさん!」

 

 おじさんという不名誉な呼び方に何度目かの息を吐いた。年齢的におかしくないのだが何となく嫌だ。

 

 それに反し、高い視線にメリー号はキラキラと目を輝かせる。

 

「リィンちゃんにもこんな可愛げがあればなぁ」

 

 幸い誰にも聞こえなかった。運がいい。

 

「ねーねー、おじさんー」

「クザンだ」

「ねェクザン、僕知ってるよ、たーくさん」

「おー」

 

 おざなりな返事も気にせずメリー号はキラキラと視界に降り注ぐ星の雨を全身に浴びた。

 

「だから、あの子の辛さも知ってる。優しい事も知ってる。たくさん、たーくさん!」

 

 メリー号が両手を広げて表現したばかりにバランスを崩しそうになる。

 何とか踏ん張るとメリー号はトン、と肩から飛び降りた。そして着地に失敗して転んだ。

 

「カッコつかねぇな……坊主」

「えへへ」

 

 痛い痛いと嬉しそうに呟きながらメリー号は立ち上がってクザンを見た。

 覗いたその目は無機質の様に冷たい。

 

「あの子を泣かさないでね、人間」

 

 この子供は、同僚にそっくりの子供は純粋な人間じゃないと直感的に感じた。

 クザンは密かに船だという言葉を信じ始めていたのだ。

 

 

 対するメリー号はクザンが『あの子』に近い人間だと知らない。それでも『あの子』を悩ませるのがお巡りさんだという事は理解していた。

 そして『センゴクさん』が『あの子』に近い人間だと言うことは確実に。

 

 人間関係に疎く、人間の感情をよく知らない新米人間だが、それなりに船として大切にされ海を渡ってきたのだ。

 船から人になった少年は、赤子同然の感覚を持ち、見た目通りの冒険心と好奇心を持ち、想像以上の慈愛を秘めていた。

 

 そのアンバランスさが好印象を抱かせる『メリー号』を奇跡的に生み出している。

 そうでなければ、リィンはいくら愛用していた船の化身だろうとメリー号を口車に乗せて隔離しただろう。リィンが()()()自分と仲間から。

 

「……どの子の事を言ってるのか知らねぇがソレが『海賊』になる以上聞けないな」

 

 本当に自分の同僚は海兵なのか。海賊じゃないという確信があるのか。

 クザンの抱いている疑心は案外根深い。

 

 彼は、麦わらの一味に絆されかけた者だから。

 

「まっ、いいやぁ! どーーせ、あの子はしぶといだろうし」

「…………坊主、お前なぁ」

 

 呆れて物が言えないとはまさにこの事だとクザンはため息を吐いた。

 

「じゃあ僕皆の所に戻るね! おじさん、また会えたらおしゃべりしようね! あと肩車も!」

「おじさんって言うなッ!」

 

 軽い足取りでメリー号は手を振りながら麦わらの一味が集う方向へと駆け出して行った。

 警戒心を抱きながらクザンはその背を見送る。

 

 

 どうかこの『見送る』という選択が取り返しのつかない選択になってくれるなと願いながら。

 

 




乗り物と喋れるメリー号、とっても楽しいです。
陽気な子がヒヤッとする空気を醸し出す瞬間とっても性癖にグサグサ来ます分かって!!!!!

おじさん「なんかアレヤダ」


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第194話 師匠譲りの覇気講座

 

「目覚めるしたリィンの覇気講座! どーん!」

 

 一味の前で高らかに宣言した私、潜入中の名ばかり大将(覇気未習得)の言葉。

 当然首を傾げられた。

 

「セルフ効果音は置いておき、リィンお前、覇気使えないだろ」

「フッフッフ……! 甘いですねゾロさん!」

 

 芝生の上に座る芝生頭の剣士を仁王立ちで見下ろした。

 

「ただの八つ当たり講座ですぞりッ!」

「おい」

 

 胃痛から気絶、ふと目覚めると新しい船サウザンド・サニー号の部屋。

 分かるか! 分かるな!? どっかで見た光景だと思ったよ! メリー号と同じパターンじゃありませんかコレ!

 

 メリー号が初めて船を家と認識した原因が『私の睡眠』だと言うではありませんか!

 私、それで貧乏くじ引かされたんです!

 またかよ! って思いますよね!?

 

「あー、ごめんな、リィンちゃん」

「すみませぬ、こちらの話です。サンジさん恐らく無関係ぞり」

 

 サンジ様の王族問題の件まだ片付いて無かったなぁ……胃が痛いなぁ……。

 

「覇気って言ってもどうすんだ?」

「この島に待機すている覇気使いの海兵、じじには絶対聞きませぬ」

「おう、じいちゃんだけは絶対ダメだ」

「ですぞ」

 

 理由はルフィの血縁という事で納得して頂きたい。ボロを出して欲しく無いし何より教える側には向かない。無自覚スパルタ殺害予告みたいな人だから。

 幼い頃から同じ『鬼ごっこ』を体験しているルフィと頷き合う。この感情を共感出来る人間が居て良かった。

 

「他の海兵は当然却下。教えるは武装色の覇気」

 

 私は親指で自分を指さした。

 

「教師は私です」

 

 当然ながら一味は私が覇気を使えない教えれないと認識しているので謎しか生まれなかった。

 そこに大きな手が上がる。

 

「まず覇気って言うのはなんだ?」

 

 フランキーさんだ。

 ちなみにこの人、私が眠っている間に仲間になったらしい。リィン、このパターンもどっかで覚えがある。

 

「覇気、という物は不思議現象。超能力と取るしてもおかしくないですし、鍛えるすれば悪魔の実の能力以上の力ぞある『武術』とでも言うしましょうか」

 

 覇気は3つ種類がある、と言いながらアイテムボックスからホワイトボードを取り出して文字を書いていく。

 

 【見聞色の覇気】

 

「これは見聞を広める、という表現が合うですがそれだけではなく、相手が『こうする』という行動を予測可能です。と言えどコンマ単位レベル」

 

 しかし、と言葉を続けた。

 

「達人同士になるとこの覇気は超重要の物となります。私はこれに詳しくないです故にこの一味で使うが可能のゾロさんサンジさんに聞くしてください。ちなみに──」

 

 続けて書かれる言葉は見聞色の覇気の下。

 【直感】【聴覚】【視覚】【紙絵(紙一重)】

 

「これらの延長戦にあるです。最後の言葉はCP9や海兵が良く使うする六式の1つ」

 

 六式についてはまた今度という事にする。

 感覚として違いは無いのだろう、ゾロさんサンジさんの2名は納得した表情をしている。

 

「そして次、こちらは特殊なパターンぞ」

 

 ホワイトボードに書き足す言葉。

 

 【覇王色の覇気】

 

「これは素質のある者しか使用不可」

 

 覇王色の下に続けられるのは1つ。

 【覇気】

 

「全ての覇気はこれらから派生される為『覇気』と名が付くです。使用者の力量差により効果として気絶や立ちくらみなど差が出てくるですが」

 

 特にルフィとビビ様を見ながら言葉を紡ぐ。

 

「心臓を威圧する、と同義です。赤子などに使用すれば確実に死を迎えるですよ、コントロールは必要不可欠です。それだけ特殊な覇気です。そして最も謎の多き覇気ぞ」

 

 『覇気のある人』とか『覇気のある声』とか良く言葉として使われる。延長戦にあるのは間違いない。

 だからこそ王。

 

「1つの船に2人または3人と居ることは珍しく無きです。知る範囲、海賊王の船でさえ3人もいますた。──つまり覇王色の覇気の所持者は案外居る、故に優先的に鍛える必要はあるです」

 

 覇王色の覇気の質の高さで先の未来が決まると言っても過言じゃない筈。

 士気が違ってくる、押され気味で始まる戦いほど負けが確定している未来はない。

 

「そして最後、これが今日私の教える覇気」

 

 ホワイトボードに書き込んでいく残りの覇気。

 

 【武装色の覇気】

 

「…──肌や物を鋼鉄の様に、武装した様に固くする攻守重要の覇気です。なおこれは能力者にも攻撃が通用するという優れもの。これから非能力者が珍しくなる海では弱点を突く以外必須ぞ!」

 

 例えばルフィに打撃でダメージを与える事が出来る物。と説明すれば有用性は伝わる。

 

 導入が終わり疑問を最初に口にしたのはツッコミ担当のウソップさんだった。こういった所で目を付ける才能は賞賛に値する。

 

「使えなければ教えられない、だったよな。覇気や六式は」

「はいです」

「じゃあリィンって武装色の覇気を?」

 

 私は無言で首を横に振る。

 それにますます疑問を抱くのかウソップさんは顔を(ひそ)めた。無意味に私が惑わせる事をしないと分かっているのか口は挟まないようだ。

 まぁ、意味があれば惑わすんだけどね。

 

「私は一度奇跡的に使う事が出来たのみです。命の危機に瀕するした時。正直、今まで忘れるしていますた……──無意識の内に思い出さぬ様にしていた、の方が正しいでしょうか」

 

 うっすらと顔に笑みを浮かべる。

 私はグラッジ討伐の際、1度だけ使えた。でも彼を殺した瞬間を思い出したくなくて、死んだという結果だけを覚えて過程をすっ飛ばして思い出していた。現実逃避とも言う。

 偶然とも言える1度だけの覇気。

 

 悟ったような辛そうな表情を浮かべてると細かい事はつっこまれないだろうという無駄に手の込んだ演技をしてます。

 

「それが武装色です」

 

 ちなみに! と普段の調子を出しながら豆知識を挟む。

 

「覇気と言えど多くの呼び方があるそうです、空島では見聞色の覇気を心鋼(マントラ)、ですたよね。それとワノ国では覇気を流桜(りゅうおう)と呼ぶそうです」

 

 パン、と手を叩いて思考を切り替えさせる。

 ここからは実技の時間だ。

 

「理論的に語るは不可能、全ては感覚。そして固定概念は成長を塞ぐです。それぞれの覇気というのを考え、それを育てるが最良!」

「だけどリィン、私の様に戦闘の才能が無い場合使いづらいんじゃない?」

 

 暗殺特化のニコ・ロビンが戦闘の技について不安を零す。

 

「私の師からの教えぞあるです」

 

 1つ指を立てて思い返しながら口を開く。

 

「疑わない事、それが覇気を引き出す上で最も重要な事。なのです」

 

 数多く覇気使いを見てきた上で言える事は『ここからここまでが覇気』という仕切りが無いということ。

 武装色だけでも鉄の様な覇気だってあったし雷を発生させる刺々しい覇気だってあった。

 

「武装色の覇気は1番簡単で難しいという2面性を秘めるしています。例えばゾロさんの飛ぶ斬撃やサンジさんの燃える足は武装色では無いのですか? それが出来ぬと疑いますたか?」

「なるほど、思い込みね」

「はいです! だから私にとって簡単でありますが人により難しいのです」

 

 ナミさんの納得した声に同意する。

 ふとルフィに視線を向けると彼は煙を吹き出していた。あぁ、限界か。

 

「ル、ルフィ大丈夫?」

「リーの話は勉強になる事ばっかりだって分かってんだけど……」

「まぁ、理解力に差があるですよね」

 

 仕方ないよなぁ。

 だってルフィだし、言葉で説明と言うより感覚派だろう。

 

「んー……武装色って硬くするんだろ……? 武器とか技の代わり、だよなぁ」

「広い意味でそうぞ」

 

 唸りながらルフィは言葉を捻り出していた。

 

「リーの、なんだっけアレ。スッ、て避けてグワッ! て攻撃するやつ。攻撃する? つーか、攻撃を跳ね返す……?」

「あァ、柔術ぞ。私は力が無い故に攻撃をいなす事や相手の攻撃を利用すて反撃するなど」

 

 殴られたら相手の偏った重心を利用して殴ると2倍くらいのダメージを与える事が出来るし、背負い投げをすれば相手の勢いも乗算されて地面に叩き付けられる。

 最近『堕天使リィン』のキャラ付けの為にもっぱら箒とかの棍棒術を使っていたから、そちらが出てくるのは予想外だ。

 

「ぅー、じゃあボーッとする、んー、でも避けたら見聞色の覇気か? でもなぁ……そうじゃなくて相手の攻撃を受ける、って。ううううう」

 

 本格的に唸り始めた。

 

「……俺、フェヒ爺の方が分かりやすいかも」

「そんな気はすてた」

 

 私は覇気の訓練を受けてないが兄3人は訓練を受けている。今になって思い出してきたのかな。

 

「……フェヒ爺?」

「私の師匠、認めたく無きですが」

 

 口頭説明は上手いくせに実技訓練になると途端にポンコツになる擬音語祭りの開催者。

 ルフィの語彙力が育たなかったのはコイツのせいだと思う。

 

「とにかく! 意思確認です、2代目海賊王の一味になる予定は?」

「「「「「ある!」」」」」

 

 皆が声を揃えた。

 

 なら頑張ってください、と笑みを浮かべホワイトボードを軽く叩く。

 

 これから先、覇気の習得の有無は超重要になってくる。一味の大多数が賞金首になった以上危険性も増すだろう。

 やっぱり『2代目海賊王計画』の為にこの人達に修行期間を備えて、センゴクさんと相談しなければならない。

 

 海賊王にさせる、と言ったがやはりルフィの強化は必要不可欠の条件だ。

 

「にしても、なんで唐突に? これから先の航海でも時間はあるだろ?」

 

 ウソップさんが引き攣った笑いを浮かべながら聞いた。

 

「私がこれから……まともに動けぬ故に」

 

 私はとても悔しそうな顔で、というか心底悔しい。船酔いが! 絶対辛い! 白ひげさんのところでは船に酔わなかったのにシャンクスさんのところでは酔ったから船の大きさが関係してると思うんだけど!

 

 中身の無い船酔いの瓶を握り締めた。

 

「察した」

 

 途端死んだ目に変わったウソップさん、船の動いていない今の内に基礎を教えとかなきゃならないんだよ! まだ出航してすらないのにもうすでに陸に上がりたい!

 

「……それと、もう1つ残念なお知らせぞ」

 

 アイテムボックスから折れた箒を取り出した。

 

「おまっ、それ!」

「あんっっの、クソ野郎! ご丁寧に私の箒を折るして、折るしてぇえぇぇ!」

 

 ここまで滞在期間を伸ばして貰っていたのは船の完成の他に箒の探索をしていたのだ。

 それがこのザマだ! 絶対カクに決まってる!

 アイツが私の喉を絞めようとして失敗した当てつけにやったに決まってる!

 

 まぁ、刀を箒で受け止めたり人を殴ったりと箒にあるまじき無茶させたけどさぁ。

 

「あー……ダメだね、この箒死んでるよ」

「乗り物語のメリー号の査定が心に来る!」

「お前のネーミングセンスがクソだな」

「シャラップゾロさん」

 

 メリー号が近寄って箒を見たけど、例え生きていたとしても飛行に使えません。

 探さなきゃなぁ。

 シャボンディ諸島はノーチェックだったからそこで見つけ……長い。ここからの航海が長い!

 

「リーは怪我してるんだから無理するなよ?」

「皆してますが、特にカルーとか」

「それでもだ! お前が1番酷いんだからな!」

 

 同意するようにカルーが鳴く。

 そうか……政府に喧嘩売りに行った一味よりたった1人の小娘相手にした私の方がダメージ酷いのか。自分の弱さがしみじみと実感出来て辛い。

 

「まぁ、分かりますたよ。絶対安静、サボる口実になる故に大歓迎です」

「よし!」

「いやルフィよしじゃねェだろ」

 

 ビシッと安定したツッコミが入る。

 包帯を替えたいので一応チョッパー君を連れてナミさんを締め出して女子部屋に向かった。

 

「リィンが最近酷いわ」

「当然の反応だと思うけどな」

 

 ウソップさんは一味の中で唯一の良心かもしれない。杞憂だと思うけど。

 

 ……うん、頑張ろ。

 

 

 

 

 

 

 

「じゃ、出航するぞお前ら!」

「おう!」

 

 何に追われるでも無く仲間が1人も欠けること無く、海賊船サウザンド・サニー号は海へと1歩踏み出した。

 ルフィの出航の合図で各々が立場に付き帆が張られ舵をとる。

 

 

「ふと、思ったんだけどよ」

 

 船酔いで死にかけている仲間の1人を想起しながらサンジは咥えていたタバコを吹いた。

 視線は船首にいるルフィ。傍らでメリー号が楽しそうに笑っていた。

 

 呟くサンジの声を拾ったのは偶然そばに居たウソップとゾロだ。

 

「どうした?」

「くだらねぇ事だったらしばくぞ」

 

 サンジは一度口を噤んだが抱えきれる疑問では無いなと思い、再び口を開いた。

 

「ルフィってメリー号を燃やした時にぶっ倒れただろ? なのになんで…──」

 

 誰も気にしなかった。

 ボロボロだったのはお互い様だった。

 

 

 エニエス・ロビーに行かなかった1人の仲間の容態。生死の境を彷徨う程の大怪我。

 

 それはウォーターセブンに戻り初めて分かった事実。ロビンが知った後に倒れた事から、同一視していた。

 

 

 ルフィが目覚めた瞬間口にしたのはリィンの名前だ。そしてその次の言葉。

 

 

 『──生きてるか!?』

 

 あの時は気付かなかった。

 

 

「なんで、ルフィはリィンちゃんが死にかけの怪我してるって知ってたんだ……?」

 

 

 

 麦わら帽子の下で口角がひっそり上がった。




ここで覇気に触れておきたかったのにはあんまり理由ないですけどあることにしておいて下さい。
箒も酔い止め麻薬も無いリィン氏、これから無事死亡します。あれれ〜?おかしいぞ〜? ……リィンってお化け無理だったよねぇ〜? もう一度言いましょう。
こ れ か ら 無 事 死 亡 し ま す 。

そして不穏な最後。知るはずの無いことを知っているルフィの思惑とは。
次、海賊船編ラスト+思惑解明!


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第195話 嫌い嫌い、大嫌い

 

 これは過去の話。ほんの数日前に起こった奇怪な出来事であり、小さく動かされた歯車が大きな歯車を動かした時だ。

 

 

 

 時はルフィがロビンを奪還、そしてギリギリまで運んでくれたメリー号を燃やした後、積み重なった疲労により倒れた時の事だ。

 それはルフィの持つ限界を3度も超えた、まさに言葉通り命を削る程の疲労であり、死にかけも同然だった。否、実際死を目の前にした。

 

 薄れつつある意識の中で想ったのは……。

 

 

 

 

「…──どこだよ、ここ」

 

 疲労の重大さを理解しない張本人は目覚めると何もかもが黒い空間にいた。

 発した声は闇に消えていくだけで、それに誰も反応しない。

 

 ……事はなかった。

 

「まっっったここですかぁ!?」

「うわぁ! びっくりしたぁっ!」

 

 両方とも聞き覚えのある声だ。悲鳴にも似た馴染み深い声と、それに驚く優しい声。

 平衡感覚を失った体では辿り着くことは難しいだろう。でも仲間が傍に居ることは分かった。

 

「リー? メリー?」

 

 ルフィは名前を呼んだ。

 

「えっ、ルフィ?」

「わ、船長! ってリィンここどこォ」

 

 自分が居ることに驚かれた様だが間違いないだろう。知らず知らずの内に溜め込んだ空気をホッと吐き出した、どうやら本人(?)の様だ。

 

 そういえばリィンは『また』と言っていたな。

 

「リー、ここがどこか知ってるのか?」

「……はい」

 

 声色からぶすくれた姿が簡単に想像出来る。その頭を撫でてやれないことを少し残念に思いながらルフィは小さく笑みを零した。

 

「ここは時空の狭間、死者が次の世界に生まれる為の道から外れた者が落ちる場所、と思うです」

「……つ、つまり?」

「不思議空間」

「分かった!」

 

 小難しい表現で分かるわけが無い。

 ルフィは頼りになる妹がいると分かっているので思考を放棄した。別名押し付けだ。

 

「じゃあ俺死んだのか?」

「9割死で確定です」

「そっかァ」

 

 残念だったけど後悔は無いな。

 ルフィはそう考える。仲間が自分の為に、自分は仲間の為に一生懸命になって至った結果だ。

 

 未練はあるが、それ以上に楽しい人生を送れたでは無いか。

 

「時にメリー号! どういう事ぞどういう! 私確かにあの時任せるしますたよね!?」

「ちゃんと運んだってばぁ! 途中で壊れちゃったんだけど皆ロケットマンさんに乗ったよ!」

 

 お互いの認識がある様で驚いた。

 いや、よく考えたらあるだろう。

 

「なァリー」

「何ですルフィ」

「女狐は死んだのか?」

 

 ハッ、と喉から空気の漏れる音がルフィの耳に入り込む。

 静かに目を伏せた。

 

「知りませぬよ、その様な事」

「でもさ、女狐はエニエス・ロビーに居たし、リーがここに居るなら女狐も死んだんだと……」

 

 ルフィの説明は分かりずらい、それでもリィンが読み取れたのは、現状死んでいるという側から見て分かる『リィンの死=女狐の死』だ。

 リィンが死ねば自動的に女狐も死ぬ。

 

 女狐の中身がリィンで、リィンが『死』に居る今、女狐の姿で死んだのではないか。

 

 その憶測は確信を持っている。

 

「はぁぁあ………」

 

 リィンは深く息を吐いた。

 多分、泣きそうな顔になっているんだろうとルフィは予想する。

 姿が見えないのが残念でならない。

 

「いつ、わかるした?」

「んー……そう思ったのはルッチと戦ってる時かなぁ。でも多分それより前に気づいてたと思う」

 

 観念したのかリィンは聞く。それに対してルフィは過去を思い返しながら口を開いた。

 最初は多分ナバロンだ、女狐の姿が仮初だという事だけは分かっていた。

 

「視界がグワッて広がったみたいになって、感覚が鋭くなって、それで分かった」

 

 ルフィは微笑む。

 

「そこに居るのはリーだって」

 

 息を呑んだ音が確かに聞こえて、ルフィの笑顔は苦笑いに変わった。

 

「納得したし、ずっと助けてくれたんだって分かって、すっげー嬉しかったんだ! ……リー、俺の大事な妹。なぁ!」

 

 触れない、どこにいるのかわからない。

 視界が封じられるだけでこんなにも苦しい。

 

 だって彼女はずっと助けてくれた。

 

「俺、お前の事大好きだ!」

 

 愛しいと思う感情。

 悩みながら船に乗ってくれたんだろう、自分の進む道へと手助けをしてくれた。敵になって立ち塞がって教えてくれた。

 

 彼女は今まで利用してきたものを捨てられないと零した事がある。そんなに悩んでいながら仲間を、自分を救ってくれた。

 

 これ程心を締め付ける嬉しさがあるものか。

 こんなにも優しい敵がいるものか。

 

 感謝だけじゃ足りない、抱きしめて心から叫んで世界中に自慢したいほどの感情が沸きあがる。

 

「リー。俺、お前の兄ちゃんで良かった。仲間で良かった。もう何を言ったらいいのか分かんないくらいお前がお前でよかった。女狐がリーで本当に嬉しいんだ」

「それ、はっ。狙う、されぬ、故?」

「違う!」

 

 嗚咽混じりの声に否定の言葉を述べる。涙を吹きたい、抱きしめたい。肩を掴んで顔を見たい。

 

「女狐は俺のライバルだから! リーがいい!」

 

 俺が倒したい。

 俺が相手をしたい。

 

 せめぎ合う葛藤を、海列車の中で押し殺した。

 

 

 現実はもっと単純で簡単。

 肩を並べて背中を合わせて戦える仲間であり妹が最高の敵(ライバル)だった。

 

 嬉しすぎてどうにかなってしまいそうだ!

 

 

「ルフィッ、わた、私ずっと騙すて、酷い事言うして! でも、欲張り故にルフィも海軍も捨てる不可能でぇッ! 苦し、て! どっちつかずで!」

「うん」

「なんの為にやるしてる、と! 何度も思うた! でももう大事が多すぎるした、からッ」

「大変だったな、気付いてやれなくてごめんな」

「私、被害者では無き、なのにッ! 苦しむは自業自得で、私のエゴぞ!」

 

 兄の為に海軍を騙し、海軍の為に仲間を騙す。

 そんなどっちつかずの自己満足ではどちらも幸せに出来ないし望み通りにならない事だって分かっていた。

 

 どうしようも無い無駄な葛藤。

 

「頑張る、なんてっ。自分に、しか、分からぬのに! 自分以外の為に、がんば、て……! なんのために頑張るなんて……!」

 

 誰かの為に生きていく、命をかける。

 そんな行為が大嫌いなリィンは自分の嫌いな生き方をしていた。自分の為だと自己暗示をかけながら結局至る行動は他人の為、ルフィの為だ。

 

 秘密が多いという事は努力を誰にも知られないという運命。単純な出来事は裏で複雑化しておりそれを解くのは見えない頑張りだ。

 無駄な事だってあった。誰にも褒められないのになんでするのか。

 

「ルフィだから、ルフィが! ルフィの力になりたかった、からぁ!」

 

 共に歩んだ航海で分かった。

 耐えきれないとばかりにルフィはリィンに負けじと叫ぶ。

 

「リー大好きだ! ありがとうっ、愛してる! 俺ホントに、幸せだ……!」

 

 一つ一つは世界に溢れているありきたりな言葉だった。

 それでもリィンはルフィの言葉に救われた。

 

「にぃに……大好きぃ……ッ」

 

 子供の頃の様に泣きじゃくる妹の声を聞き、ルフィは何のしがらみの無い子供の頃に戻った錯覚をした。

 

 

 

 

「……多分、ルフィとメリー号が狭間に落ちるしたのは私が原因と推測するです」

 

 数分が経過し、落ち着きを取り戻したのかリィンが鼻を啜りながら予測を述べる。

 口を挟むことも無く、静かに仲間を見守っていたメリー号もようやく言葉を発した。

 

「どうして? 船長と僕は一緒の場所だったけどリィンは別の所に居たでしょ?」

「私はウォーターセブンにすぐ戻りますた故にその通りです」

 

 リィンはルフィやメリー号に起こった一幕を聞き自分もウォーターセブンで何が起こったのかを話す事にした。

 昔、女狐として殺した七武海の娘が復讐に来たのだと。その戦いの一幕を。そして自分でもヤバいとは思うほどの怪我を負ったことを。

 

「私はどうやらここに落ちやすいらしく、巻き込むしたのでは無いかと」

 

 ルフィの頭の中ではベルトコンベアに乗ったルフィとメリー号にドロップキックをして底に突き落としたリィンの姿が浮かんだが、首を横に振って考えるのを止めた。

 

 残念な事に大体合っている。

 

「来世、変な生まれ方をすたら確実にここに居る堕天使というクソジジイの性で…──」

『誰がクソジジイじゃ!』

 

 スパァァァンッ! と音が鳴り響く。

 まるでハリセンか何かで頭を叩いた様な鋭い音だ。

 

 痛みに悶えるリィンの声もした。

 

『残念なお知らせじゃが、お前らは死んでない』

 

 数秒の空白の時間。その後、リィンが心から叫んだ。

 

「またこのパターンですかぁぁぁあッ!」

 

 ──リーって気苦労多そうだなぁ

 

 冷静にルフィが考えた。口に出さない優しさがリィンの胃に沁みる。

 

「ねェおじいさん。それって僕も?」

『あ? 知るかそんなもん』

「堕天使テメェホントまともな神経持つしてくれぞ! いい加減な対応ダメ絶対!」

『数日ぶりに聞くが大分言語中枢が進化したの』

「はいぃ!? 数年ではなく!? あ、時間の概念が無いんですたねごめんぞりィ!」

 

 冷静にルフィは考える。堕天使の名前が嫌いな理由はここから来ていたのか、と。

 人間、自分よりも気が高ぶっている者がいれば自然と冷静になれるものだ。

 

「ねーねー! 僕って人間になれる?」

『……出来ない事はないが』

「ホント! じゃあ僕人間になりたいなぁ、したい事沢山あるんだ!」

『あーあー、分かった、分かったから。ホレ』

 

 堕天使がざっくりと返事をした途端メリー号の気配が消えたのが分かった。

 

「何すた?」

『転生作業中、じゃな。そうすぐ目覚めさせるもんじゃないわい』

「そうですか」

 

 なんとも言えない微妙な間が空間を支配する。

 

「というか堕天使、メリー号に優しくなき?」

『アレは人ではなく半神の様な妖じゃろう』

「……種族差か」

 

 しかしリィンがよしっ、と呟いた。

 

「ルフィ、私先に戻るぞ。皆には秘密ぞ願う」

「おう。ありがとな」

 

 そうして堕天使と数言やり取りを交わしてリィンは空間から消えて行った。

 残されたのはルフィと空間の主だ。

 

「なァおっさん。さっきの2人のさ、ここで起こった記憶消せれるか?」

 

 堕天使から向けられた視線が疑問に満ちている事に気付いた。

 

『……出来ないことはないが、何故そんな手間をするんじゃ』

「だって、さっきまでのリーの本音さぁ、顔みて聞きたいし。それに俺だけ知ってるってなんかわかんねえけど嬉しいし」

 

 ルフィらしい独占欲と優越感。彼らしい曖昧な感情で彼は実行に移す。

 

『我儘な……』

「知らねェのか?」

 

 呆れ返った堕天使のつぶやきにルフィはニッと歯を見せて笑った。

 

「──俺は海賊王になる男だ!」

 

 だって彼はリィンが大嫌いな海賊だから。

 

 

 

 ==========

 

 

 

「船長、ご機嫌だね」

 

 何も覚えてない船の言葉を聴きながらルフィは笑みを深めた。

 

「まぁな!」

 

 自分だけが知ってる秘密。

 自分だけが知ってる本音。

 

 自分しか知らない、裏側の話。

 

 

 

 

「…──しっしっしっ! そう簡単に俺を操れると思うなよ」

 

 何も覚えてない最愛のライバルに小さな声でメッセージを送った。

 紛うことなき宣戦布告だった。

 




まぁリィンは体調すら操れなくて船酔いで死んでるんですけどね。


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スリラーバーク編
第196話 災厄は完全にドS


 

 麦わらの一味新海賊船サウザンドサニー号は順調に航海を進めていた。

 

 例え生簀にサメしかいなくても、海神御宝前の樽を不用意に開け閃光弾が爆ぜても、大嵐(おおしけ)から逃げた先が魔の三角地帯(フロリアントライアングル)でも。

 

「ばっっっっっかでは無きですかァ!」

 

 船酔いで死にかけている私を叩き起した一味に怒りをぶつける。

 波は荒れているがゆったりとした大波なのでまだ比較的大丈夫。もちろん平常時より気持ち悪いのに変わりはないが。でも自分でも分かる、今絶対顔色は青いのだと。

 

「ばか、ばかぁ、ばーーーか!」

 

 なんで怪しげな物をわざわざ拾うかな! 警戒心持とうよ! まずそこが1番重要だよ!

 

「で、リー。ここどこだ?」

「……」

 

 悪びれた様子が全く無いルフィ。

 そうだよな、悪い事したなんて思ってないだろうしなぁ。

 

 他の一味はルフィに『何言ってんだ!』という感じの視線を浴びせていた。仮にも説教中の態度じゃない事は確かだ。

 

「はぁ、ここは魔の三角海域(フロリアントライアングル)、後半の海へ行くには必ず通るしなければならない海域。ですが、問題は誰かに狙われるした状況で突入ぞ事が1番拙き事ですぞ!」

 

 ガンガンと地団駄踏む。大多数が賞金首になったというのに狙われる者だという自覚がこれっぽっちもない危機管理能力の乖離(かいり)! 海賊として大問題だ!

 

「ま、有名な海域だな。毎年100隻以上が遭難して、中にはゴースト(シップ)が出るって噂だ」

「知りませぬぞりんびょぉおおお!」

 

 聞こえない! 私は聞こえない! 聞こえてたまるかそんなガセネタ!

 第一会ったら遭難するという船なのに何故噂が流れているのかすら疑問だな! あっはっは!

 

「……リー、昔からお化けダメだもんな」

「ルフィその目やめるして」

 

 哀れみを込めた視線からそっと目を逸らす。

 

「だいたいこういうのはウソップさんやチョッパー君もダメですよね!?」

「いや、俺よりビビってる奴がいると何故か落ち着くんだよな。それが今回リィンだから尚更」

「俺、お化けより人間が怖ぇ」

「…………左様ですか」

 

 なお同じくビビるであろうナミさんには敢えて聞かない。気分的な問題で。

 

 

──…ギィ……ギギ……

 

 途端、古びた木材の軋む音。新しいサニー号にそんな音がするわけない。

 

「…ホホホ〜〜……ヨホホ〜……」

 

 歌う様な歪な声。

 身の毛もよだつ、空気に反響するブレた音。

 

 嘘だ嘘だ嘘だ!

 ありえない! あってたまるか!

 

 薄ら寒い湿気た空気が背筋を否応が無しに凍らせる。不気味な音楽が、崩れる木の音が、波の気配が、背からどんどん近付いてくる……!

 

 怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖いっ、無理だ!

 

「で、っ」

 

 視界の端で、ウソップさんが後ずさる。

 込み上げてくる訳の分からない不快感と吐き気が相乗効果を生み出し、足は震えていた。

 

「出た〜〜〜ッ! ゴースト(シップ)!」

 

 ──ぎゃああああ!

 

 叫ぶ声が遠くに聞こえる。耳がぼんやりと膜を張ったのかまるで私は他人事。

 

 他人事に、したかったのかもしれない。

 

「ヨホホ〜……ヨホホホー……」

 

 ずっと続けられる音楽に気が狂いそうだ。

 フレーズは()()の唄。

 

 魔の三角海域(フロリアントライアングル)は毎年100隻以上もの船が遭難して、失踪をしている。特に通る船は、()()

 

「ビンクスの酒を……届けに行くよ……」

 

 嫌だ、ヤダ、私は。私は無理だ、これ以上この空間に居たら私は絶対狂う。

 

「ッ、うあ……」

 

 ハグ、と喉を潰された様な吐き気が訪れる。

 なぜなら私の視界の先には、湯気のたつティーカップを片手にこちらを呪うかの様に見る、動けるはずの無い、物。

 

 骸骨だ。

 人が死に肉体が腐敗した後に出来上がる骸骨。

 

「ル、フィ。ルフィ、ルフィいい、ルフィ、にぃにヤダ助けて、にぃに……っ!」

「リィン見て見て骸骨人間だよ! 凄いね! 僕おしゃべりしたいなぁ!」

「私も聞いてみたいわ、あれ、どうなってるのかしら……!」

「俺も俺も! 悪いなリー!」

 

 メリー号、ビビ様、ルフィは言葉で絶望を確かに伝えてくれた様です。

 

 

 

 ==========

 

 

 

「私分かるした気ぞ」

 

 足が震えてまともに動けない私を背負うルフィはゴースト(シップ)の縄をギシギシ鳴らしながら登っている。苔の付いた縄は時代を感じる。

 くじ引きで選ばれたのは3人。冒険心溢れるルフィのお伴に選ばれた。

 

 1人はもちろん災厄持ちの私。そして残る2人はビビ様とサンジ様……。

 

 あかん! 私が正気を失えば絶対あかんやつ!

 王族蔑ろ良くない!

 

「う、うっ。私もう嫌ぞ……おうちかえる……」

「これ終わったらな」

「サニー号では無くて……」

 

 高所から目をそらす為に仕方なく上を向く。

 

 その時だ。

 

 私は骸骨と目が合った。

 眼球など無い、筋肉などない。それでもギョロりとこちらを見る2つの眼光に身をすくませた。

 

 

 SANチェック、失敗です。

 

 発狂、入ります。

 

「ぴ、ぴぎゃぁああああああッッッッ!おばけぇぇぇえええ!」

「えっ、うそ、お化け!? ぎぃやぁあああ!」

 

 無理無理無理無理! 本当に無理ですごめんなさい殺さないで! 七武海ぶち殺せと言われたらすぐ殺しに行くので来ないでください!

 

「いや、お前だよッ!」

 

 ワンテンポ送れたサンジ様のツッコミで正気を取り戻した。

 

 そんな中ビビ様はキラキラと目を輝かせルフィは大爆笑している。呑気だなぁ。

 現実逃避していた私を無視して、お化けにビビるお化けが居る船に乗り込んだ。

 

「よっ、とぉ。大丈夫か?」

「無理です」

「よっこいしょ。その、大丈夫?」

「無理です」

「よっ。あー、大丈夫か?」

「だからっ、無理だと……っ!」

 

 似たりよったりな心配してくれるけど言葉だけなのか3名の興味は喋る骸骨という異形の物に注目している! リィン知ってる、これ警戒じゃなくて興味だって……!

 

「御機嫌ようヨホホホ! 先程はどうも失礼! 目が合ったのに挨拶も出来なくて!」

 

 王族に頼るのは立場上ダメ、仕方なく対象と1番近いルフィの背中にへばりつく。

 

「…ところでお嬢さん」

 

 骸骨はあろう事かビビ様に目を付けた。

 

「──パンツ見せていただいても宜しいでしょうか」

「却下っ!!」

 

 何を言っておるんだこの変態は!

 

「ジョークですジョーク。ヨホホホ〜」

 

 呆然とするビビ様の代わりに拒否反応を示すが骸骨は飄々(ひょうひょう)とした態度でめげなかった。

 私はジョークだと思えないんですがねぇ!

 

 無理です言えません怖いです。

 いやでも待て、センゴクさんの方が怖いな。

 

「お前面白ぇな!」

 

 骨格(リアル)が自分の背丈の2倍くらいあって怖くないわけが無いんだけどどうしても心身ともに嬉嬉として抉って来たセンゴクさんの方がタチ悪い。この骸骨、背を向けた瞬間に……とかってならない限り会話は出来るみたいだし。

 

「ゆうれいこわい」

 

 結局それだ。

 幽霊は居る、それは昔聞いた覚えがあ…──。

 

「るぅ?」

 

 首を傾げる。3人と骸骨は様子を変えた私に気付いた。

 

「どうした?」

 

 既視感が私の中に根付いている。

 目を閉じて、視覚を塞ぐ。頼るのは聴覚だ。

 

「おや? お嬢さんはどうしたんですか?」

 

 似た、声を。というか同じ声を知っている。

 なんで内臓が無いのに声が出るのか、とか科学的根拠はドブに捨てたような存在。

 

 科学を撲殺するクソ不味い果物がこの世界には存在している。

 

 幽霊は存在すると聞いた時、私の他にももう1人居た。海を知らなかった私が手に入れた初めての、友人が。

 

 

「──ブルックさん?」

 

 

 私の口は名前を発した。

 

「私をご存知でしたか? いやー、こんな骸骨になっても昔の海賊だと分かる方がいるのですね」

「いやっ、いやいやいや! 否定プリーズ!」

「リー、コイツ知ってんのか?」

 

 ルフィの微かな疑問を今は置いておき私は骸骨を睨み付ける。

 

「何故、何故骸骨!? 何故アフロ!?」

「毛根、強かったんです」

 

 訳が分からないけど私このノリで察した。そしてアフロだという事で確信した。

 

 確信したく、無かったぁ!

 

「ブルックさんってヨミヨミの実のブルックさんですよね!? ラブーンの! ビンクスの酒の!」

 

 ぱちくりとした視線が私と絡み合う。

 見た目、無理です。

 

「何故、ラブーンの事までご存知で?」

「「「ラブーン!?」」」

 

 聞き覚えがある鯨の名前に3人も驚きを隠せない様子だ。

 場は混乱を呼ぶ。

 

「っ、会いたくござりませぬぞですた!」

 

 膝から崩れ落ちて顔を覆う。

 昔死にかけて時空の狭間に堕ちた時、蘇り中のブルックさんに出会った。私、ラブーンの時はギリギリ思い出せなかったんだけどちゃんと覚えてた! ちくしょう!

 

 幽霊じゃないけど! 幽霊だった!

 

「……もしかして、リィンさん?」

 

 名前を呼ばれた事で私が知り合いなのだということが3人も分かった。

 

 驚きの声は幾重にもなり、船の上でウソップさんが成仏してくれと拝んでいた事を知ってぶん殴ったのだった。

 

 

 

 

 

 

「で? 船の上での惨状は分かったのだけど、私達まだこれっぽっちも貴女達の事を理解出来てないわ。包み隠さず、話してもらうわね?」

 

 現在、ダイニングで正座中の私。お客様であるブルックさんは骸骨の姿でソファにオロオロと座っていた。

 見下ろすのは最近ドSに目覚めた厄介極まりない頭脳の持ち主、闇世界の住民ニコ・ロビン。

 

 

 あ、胃が痛い。精神に来る。ブルックさんを見る度に視覚でも死ぬけど。

 

「はい! む、むかし死に目に遭うした時ちょっと会いますた!」

「より一層分からなくなったわ……説明する気あるのかしら……?」

「ヒッ」

 

 ニッコリと笑う笑顔にヒヤリとしたものが背筋を這う。あかん、この笑顔何円? 何円注ぎ込んだらこんな笑顔になるの?

 

「えっと、まず時間軸的にブルックさんの説明から、ですよね」

「そうなの?」

 

 私も細かい時間軸が分からないので、ブルックさんにバトンタッチ……というかぶん投げる。

 私の話は彼が死んでからだ。一応彼の人生の1部を話として聞いたのだが、私が彼の人生を語るには力不足だ。

 

「……私はルンバー海賊団という船で副船長でした。そしてヨミヨミの実という悪魔の実を食べて能力者になったのです」

 

 どうしたらいいのだろうか、と悩んでいた様子だったが私にしてくれた様な説明をお願いすると口を開いてくれた。

 

 

 ラブーンを双子岬に残したこと。そしてこの海で同業者に襲われ死んだこと。

 死に際に残した音楽をラブーンに渡したいと思っていること。

 そしてヨミヨミの実で黄泉の国に行ったこと。

 

「まぁそこは黄泉の国では無く時空の狭間という場所だったらしいですけどね! 教えて頂かなければ私ずっと勘違いしてました!」

 

 愉快そうに笑う骸骨。正直くっっそ怖いです。

 

 

 ……そこまで話せば私の番だ。

 ラブーンを知っている一味は何かしら言いたそうにしていたがまだ全ての話を終えてないので口を噤んだ。

 

「私は故郷で一度死に目に遭うしますた。えっと詳細は省く」

 

 本音を言うと細かく覚えてない、だ。

 それが背中の傷だったというのも覚えてるしルフィを庇って出来たというのも覚えているけど。

 

「で、私は時空の狭間という場所でブルックさんに会うしました。ま、簡単な経緯ですね」

「あぁ、確かお話ではお兄さんを庇っ──」

 

 骨の折れる音。

 原因は私が全力で岩塩をぶつけたからだ。

 

「……そんなものいつの間に手に入れた?」

「元々所持済み」

 

 お化けには塩が効くと聞いた。持ってないわけが無かろう。

 

「ヨホ、ヨホホ……。骨身に染みます……骨だけに! スカルジョークッ!」

 

 自称紳士なだけあって触れたらいけない話題なのだと気付いたのだろう。空気を変えるために空元気を出しているように思える。

 見た目さえ、まともならなぁ。

 

「時空の狭間ではお互いの話をして何やかんやと終わるしますた。後はブルックさんが何故骸骨として蘇るしたのか……ですけど」

「おい待て。俺は肝心の時空の狭間とやらの話を聞いてみたいんだけど」

「……生きるか死ぬかの大博打を将来するつもりです? 第一、関わる可能性など悪魔の実程非常識でなければ有り得ませぬぞ」

「だっておかしいだろ。時間軸が」

 

「「あっ」」

 

 2人して時間の概念という説明を省いていた事に気付いた。

 

「向こうに『時間』という物はありませぬ」

「えぇ、よく良く考えれば『時空』というのは時間と空間を両立する言葉。『狭間』という言葉から見て取れますが、本当に狭間なのですね」

 

 うんうんと納得し合っていると頭を悩ませたウソップさんが唸りながら視線を向けた。

 頭固いんだな、思ったより。

 

「よく分かんないんだけど、簡単に言うとどうなんだ?」

「……不思議空間?」

「分かってたまるか! そんな投げやりな説明に納得出来るのはルフィだけだ!」

 

 否定はしない、でも飲み込んでくれるとありがたいです。ルフィなんか思考を放棄しているのか目を閉じて何も言わないぞ! 見習え! 嘘ですちょっと不気味です!

 

「私も説明が難しいので時空の狭間についてはパスでお願いします!」

 

 それ以前に細かい事を知らないブルックさんは流れに便乗して話題を終わらせる方向へ動く。

 そして彼が話し出したのはなぜ骸骨になったのかという話だった。

 

 

 ……死体放棄で白骨死体になった身体に蘇ったらしい。なぜそれで甦ろうと思ったんだよ。

 

「ようやく誰かと会えましたし、リィンさんと現実で会えたんですけど。目が合わないんですよね! 私、合う目ないんですけど! ヨホホ!」

 

 無理です。見れません。

 目どころか顔すら見れません。

 

 だって、目がないのにどう合わせろと! 眼球の無い虚空がどれほど怖い事か!

 

「よぉーしブルック! お前俺の仲間になれ!」

「あ、いいですよ」

「ぎゃぁあああああああっ!」

 

 ルフィの言葉に思わず叫び声をあげる。

 これ以上SANチェックは要らないんです朝から晩までSANチェックって私発狂死する気しかしない!

 

「……と、言いたい所ですが。私は太陽の下に出ることが出来ないんです」

「え?」

 

 予想外の言葉に思わずブルックさんを見る。

 

 あっ、怖い無理。

 

 そっと視線を外した。視線の先にはウソップさんが冷たい目で私を見ていた、解せぬ。

 

「お前なぁ……」

「私肉が付いてないと無理です」

「さらっと標準語で喋るなよ」

 

 奇怪な現象も嫌いだけど物体の方が嫌い、と言うより無理です。

 ……早く船から去ってくれないかな、なんて初めての友人に対しあるまじき思考を抱く。

 

 口に出さないだけ私とっても優しい。

 

 

──ガゴォンッ

 

 私は衝撃の展開に忘れていたのだ。

 

 この船が何者かに狙われている可能性大だという絶望的な現実を。

 

「わ、わぁっ、うぷっ……うえっ」

 

 突如襲ってきた大きな揺れ。

 感覚的には何か大きな物が海に落ちたとかせり上がって来た時の波。

 

 そこの波さん大人しくして。あんたもナミさんと同じで大人しくしてる事出来ないの?

 

 

 すると突然ブルックさんは外に顔を向けた。

 絶望の交じった、希望を滲ませる雰囲気。

 

「なんて事! まさかこの船はもう監視下にあったのか!?」

 

 キッチンの扉をバン! と開けたブルックさんは驚愕の声を発する。

 

 監視下、その言葉で既にアウトです。

 

「どういう事ぞブルックさん」

「……実は私影をある男に盗られておりまして太陽の下にいる事が出来ないのです」

 

 呆然とした様子で口の様な物を見たブルックさんに声を掛けると何か聞き覚えのある能力を聞かされた。

 それよりも気になるのは目の前に広がる霧がかった寒気すら感じる小さな島。

 

「この島は奴の本拠地、西の海(ウエストブルー)からやってきた海を彷徨う〝ゴースト(アイランド) スリラーバーク〟!」

 

 影を奪う、影、影の不気味な力。

 ゴースト。あ、ここでもう既にアウト。

 

「なんだよそれ! おいブルック! そいつの名前教えろ! 俺が取り返す!」

「いいえ……! いいえ! 私は貴方達に死んでくれと言うつもりは欠けらも無いのです」

 

 影を奪う強者。拠点を持つ、引きこもって影を操る悪魔の実の持ち主。

 

 …………。

 

「肉があるからって調子に乗るなぞ七武海ッ!」

 

 よりにもよって! 七武海唯一の完全未知(ダークホース)

 

「何だ、七武海か。よし、リー行くぞ」

「なにゆえーーッ!?」

「だって七武海って言えばリーだろ?」

「私知らぬ、知らぬ故! 私この七武海は未知の無知の未開の地!」

 

 言うんじゃ! なかったァ! アウトです! アウトは3つ目なのでチェンジでお願いします!

 がしっと腕を掴まれて、慌てて首を横に振る。

 

「待ちなさいルフィ、リィンの嫌がる事はやめなさい」

「セリフは立派ですけども握り拳固めるしてナイスガッツ的なのぞ禁止ナミさぁん!」

 

 それ口だけじゃん!

 

「ヤダー! 俺絶対七武海倒すー!」

「馬鹿野郎、ガキかよオメーはッ! 舐めてかかって上手く行くとでも思ってんのか!?」

 

 フランキーさんが七武海というワードに微かな怯えを見せる。

 

「だって! …………リーが嫌がってるし」

「ルフィ……──貴方よく分かってるわね」

 

 ニコ・ロビンあんたちょっと黙れ。

 分かってない、分かってないんだよォ! 人の嫌がることをしてはいけません! 子供でもわかる道徳のお話から始めようかな! 覇気じゃなくて人格形成の話からやろっかぁー!

 

「ルフィさん、相手はリィンさんの言う通り七武海です。危険な真似はやめてください」

「だって七武海ってアレだろ?」

「まぁ、アレだけど」

「アレだけどよォ」

「……何言ってんだお前ら」

 

 ルフィ、ナミさん、ウソップさんが『アレ』と形容し難い存在を苦い顔で告げる。それに嫌そうな顔をして疑問を投げかけたのはゾロさんだ。

 

 あー、そう言えば一味は全員じゃなくてこの3人しか七武海と会話してないのか。

 コミュ障(ミホさん)は除いて考えさせてもらう。

 

「お願いですアレを七武海の常と思うなかれ殆どですけど!」

「殆どそうなのかよ!」

「だからアレってなんだよッ!」

 

 お願いこれ以上ツッコミスキルを上げないで。

 何その複合技、凄いな。ある意味ボケにも変化出来るツッコミだぞ。

 

「いいですか、モリアは、この七武海は会議にも出ぬ本物の七武海! 悪影響無し!」

「……それ、お前が悪影響を及ぼす存在だってこと認めてるの分かってるか?」

「そうでもしなければ止まらぬでしょう!?」

「そうだな!」

 

 そんな私の嘆きを無視してる兄はブルックさんに向いていた。

 

「ブルック、俺達はどうしてもここから出なくちゃならねェ。その為には七武海に用がある」

「無いです嫌ですルフィ私の頑張るをやるぞりゅんペぼっ!」

 

 あれれー? おにーさまー。可愛い妹の声、聞こえてる?

 

「そう、なのかもしれませんが。……あの、リィンさんが凄い鳴いてますけど」

「俺はこの時間だけリーが聞こえない仕様だ」

「随分便利な仕様でごじりますぞねーー!?」

 

 普通に無視される。辛い。

 

「んで、お前も影を取り戻す為に七武海に用がある。だろ?」

「え、えぇ、そうなりますが。……あの、リィンさんが凄い首振ってますけど」

「俺はこの時間だけリーが見えない仕様だ」

 

 サンジ様聞いて、私透明人間になれたみたい。

 認識もされないなんて凄いよね。

 

「それに俺は偉大なる航路(グランドライン)を1周してラブーンに会う約束があるんだ」

「え……っ?」

「にっしっし! アイツ、でっけーぞ! 山かと思うくらいだ!」

 

 ラブーン……? とブルックさんが小さな声でその名を復唱する。

 

「何より俺は海賊王になる男だ! 七武海だろうと四皇だろうと、大将だろうと俺は越える!」

 

 おう、不正バッチリの勝利をくれてやるよド畜生。卑怯不平等は弱者の戯言ってなァ。

 ……だから! 不正の機会を! 裏工作する準備とかください! 正面衝突反対!

 

「目的が一緒の海賊団は手を組むんだって聞いた事ある……」

 

 ルフィは天使のようなとってもいい笑顔でブルックさんに言い放った。

 

「俺と同盟を組め! ルンバー海賊団! そんでちゃんとブルックが影を取り戻した時、俺の仲間になれ!」

「ッ、死なないと、約束してくださるなら!」

 

 

 私にとってそれはただの悪魔の囁きです。

 

 私の懇親の嘆きは便利で都合のいい仕様により変わらず無視され続けた。

 




さぁ楽しい宴の始まりだ! 泣き叫べリィン!


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第197話 特技は気絶です

 

 おっす、オラリィン!

 ついさっき、誰とは言わないけど会議の出席率ワースト一位の引きこもり君の策略により島のような船のようななんかよくわかんねぇ場所に招かれた所だ!

 

 初めての友人であるブルックさん率いる、と言っても1人だが、まぁルフィは同盟を結んだってわけだ。ぶっちゃけ同盟の意味を履き違えてる気がするけど。

 

 そしてこれからどうするか、という時巨大な波が!

 ……酔い潰れた。うん。

 

 するとどうだろう、揺れが収まったと思えば船は蜘蛛の巣に絡み付いてるではありませんか!なんてこったい!

 もちろん、私にかかればたかが蜘蛛の糸。簡単に解けるぜ、と不思議色を使おうとした時。

 

 『よーし待ってろよ七武海!』

 

 意気揚々と船を降りた船長。そして王族。

 つまり何が言いたいかと言うと──

 

「嫌です無理ですごめんなさい許してください本当にごめんなさいお巡りさん助けて!」

「すっげー標準語」

 

 左にビビ様、右にサンジ様。

 がっちりと両手を王族に固められて、私は見るからに出そうな雰囲気を醸し出す七武海滞在の島〝スリラーバーク〟に上陸した。

 

 何が出そうとかは敢えて言わない、でも名前からして怪しいとは思わんのかね。

 

 ……冷静を装ってみた。諦めた。

 もぉぉおやだぁぁあかえりたいいー!!

 

「嫌ですごめんなさい何でもしますから!」

「ん?今なんでもって言っ……」

「ナミさん怖いっ!」

 

 嫌がる私を誰も助けてくれない! これは過去最大級にやばい事は確かだ! ほかの所では上陸したくないって、行きたくないって言えば無理矢理行かせようとしなかったのに!

 

「じゃあよォ、リー。『1人で船番』と『皆で上陸』が嫌だったらさ」

 

 鬱蒼とした森を進む中、ケルベロス─襲ってきたのを三強が撃退して脅してる─に乗ったルフィが天使の様な提案をしてくれた。

 

「1人でこの海域出てるか?」

「それぞ! それぞお願いするです!」

「ただし! 条件が一個ある」

 

 ルフィは天使の笑顔で言った。

 

「──俺と1日100戦」

「鬼! 悪魔! 上昇のち落下など最低ぞ!」

 

 悪魔のセリフだった。どう考えても悪魔だ。

 どこで覚えたこんちくしょうッ!

 

「……アイツ、普段自分がアレやってるって自覚ねェのかな」

「ないと思うよ?」

「人の振り見て我が振り直す事が出来ない奴だ」

 

 ウソップさん、メリー号、ゾロさん。聞こえてるからな。後で覚えとけ。

 

「そんなに怖がんなって。ケルベロス乗るか?」

「無理です腐るした臭うぞ存在するぞりッ!」

 

 ザクザクと歩くは彼らに渋々歩かされる。王族コンビに引き摺られるとかそういう失態は絶対出来ないってことだけは分かってるんだけど、足が震えて上手く歩けない。どう見ても引っ張られてる。

 あかん、二重の意味であかん。

 

 

「生まれ変わったらノミになりたい……」

 

 突然ゾロさんがネガティブ発言をかました。

 分かる、分かる。

 人間に生まれたくない。

 

「生まれてきてすいません……」

 

 分かる、分かる。

 無駄に世界中引っ掻き回してごめんなさい。

 

 ……ん? ゾロさんが言った?

 

「ゾロあんた突然何を…──」

 

 ナミさんがゾロさんの変化に眉を顰める。やだなぁ、リィン、すっごい嫌な予感。

 

「あっ」

「え……?」

「うわぁ……」

 

 皆様の視界の先にあるのは半透明で、甲高い声でブツブツ呪文の様な言葉を唱える……。

 

 

 お化けなんてない、お化けなんて居ない。認めてたまるか畜生!

 

「悪霊退散ッ!」

 

 保存してある岩塩の中で1番大きなものをアイテムボックスからぶつけた。想像してたよりも呆気なくそいつは消えた。えー、マジで? こんな簡単に?

 

「マジか……お化け塩効くのですね……」

「リィン気を付けて! 1匹だけじゃな」

 

 そう忠告したナミさんの体をお化けが通り抜けた。マジでホラー。

 もう無理。

 

「……生まれ変わったら……リィンに食べられたい……それで体になりたい……」

「ゾロさんと別ベクトルでネガティブ……なのですかコレ、なんか欲望を感じるですぞ?」

「はい! じゃあ私は生まれ変わったら壁になりたい!」

「おいこれ転生暴露大会じゃねーんだぞ!?」

 

 そんなウソップさんにもお化けは遠慮なく通り抜ける。私? 第六感がフル発揮してくれてるのかめちゃくちゃ避けてる。

 

 王族両手に。

 

 キツイ、視界にも精神にも肉体にもこんなハードな任務初めて!

 

「生まれ変わったら……弱虫になりたい……」

「安心しろウソップ! 既に弱虫だ!」

 

 サンジ様の辛辣なセリフを聞き流しながら1つ言いたいことは地味にポジティブなの腹が立つだった。自分は弱虫じゃなくて勇敢だと言いたいんですねどう考えても女狐(わたし)のせいです。

 

「リ、リィンちゃん囲まれたっぽいけど、どうしよう……」

「ルフィ助けて!」

「実害ないしリーの転生がんぼー聞いてみたいからやだ!」

「害大有りぞ私限定隠れドSモンキー末代!」

 

 ウソップさんやゾロさんのツッコミが無いって苦しい!

 

 迫り来るお化け。なかなかにファンシーな見た目をしてるけど正直物理が効かなくって浮かんでてもうホントに。

 

「ド畜生ーーーッ!」

 

 ストックの海水全部使って数打ちゃ当たる作戦を実行する。流石塩分、お化けは消滅した。

 私今から塩分ラブになる!

 

 胃薬ごめん! 私塩分に嫁ぐわ! ソルティー・リィンでよろしく!

 

「……はっ! なんだあれ、世に生きる全ての人間がネガティブになりそうな」

「私ゴースト本当に無理なんです! こんな見た目ですけどね! ヨホホホホ!」

「の割には元気だな」

「あれすっげーな! 俺欲しい!」

 

 正直帰りたいし意識飛ばしたいしここで生き延びるくらいなら潔く死んでやりたい。

 

「海水でベタベタになっちまった」

「おーいリィンさぁーん、もっと他に方法なかったのかよぉ……?」

 

 海水の余波でびしょ濡れになったネガティブ3人……の内、男2人が不満をぶつける。

 悪霊退散浄化じゃ文句を言うな!

 

「じゃあ逆にどうするが正解ぞ。岩塩でもぶつけるしろと──……?」

 

 背筋を撫でられる様な悪寒に、何を思ったのか私は後ろを振り返った。

 何も、居ない。

 

「……どうした? リィン、カルー」

 

 ウソップさんが声を掛ける。振り返ったのは私だけじゃなく、そのカルーは鳴き声を上げた。

 

「クエー…ッ」

「視線を感じたんだってさ、リィンもか?」

「……カンジテマセン」

「2人とも感じたってさ」

 

 チョッパー君がご丁寧に翻訳してくれる。

 今はとても嬉しくない。

 

 ナミさんに上着をかけていたサンジ様と服を絞っていたゾロさんも辺りに気を配り出す。

 

「……気配なんて、感じないけどな」

「あァ」

 

 見聞色コンビが何も感じない?

 え、なにそれ怖。動物的勘? でも獣人スタイルのチョッパー君は何も感じてないし……って誰が動物やねーーーんっ!

 どうしよ脳内でふざけてても普通に怖い!

 

 何も感じないというのに一味はジリジリと警戒心を上げていく。

 

 何もいないのに視線を感じる。

 見聞色すら通用しないというのに。

 

 なんで、悪寒が止まらないのか。

 

 月の光がぼやけて拡散される中、湿気た地面は冷気を発する。

 ぞわり、ぞわりと背筋を這うこの感か…──。

 

「こんにち」

「ぴぎゃああああああああッッ!」

 

 背中の更に上方面から声が聞こえた! と思ったらウソップさんに叩かれた。

 

「お前の悲鳴にビビるんだよ! いつもの事だとしても! ちょっと黙ってろよ!」

「圧倒的に理不尽ッ!」

 

「……これ、どうしまし?」

「ウチの阿呆は無視してくれ」

「…………左様でございまし……」

 

 ゴホンと咳払いしたコウモリ男はおどろおどろしい雰囲気を醸し出しながら話をし始めた。

 

「夜も深けてまいりますと、この森はこの世のものとは思えない場所へと変化致しまし……」

「深けずとも変貌なしぞばぁぁあか!」

「パニくると罵倒の語彙力無くなるのか」

「ウソップさんの長っ鼻ぁあああ!」

「おいお前のソレは悪口か!?」

 

 ゴホンゴホンと更に咳払いの音が耳に入る。

 

「もしよろしければ私の馬車で屋敷にいらっしゃいまし……。ドクトル・ホグバック様の屋敷へ」

「ホグバックッ!?」

 

 チョッパー君が驚き、私も聞き覚えのある名に目を見開く。

 

「えっ、天才外科医が何故こんな辺境に!?」

「おやリィンさん、その名に聞き覚えが?」

「……まぁ、一般常識程度でわひゃあああ!?」

 

 視界に! 視界にブルックさんが入った!

 怖い無理雰囲気と乗算されて限界!

 

「泣いてませんよ、ヨホホホホ……!ぐすん」

 

 私の中の良心は全く痛まないので私の視界から消えて欲しいです。

 

「ドクトル・ホグバックは偉大なる航路(グランドライン)では確実に有名よ。その腕で数多の手術オペをこなし、地位も名誉も医者の憧れさえ手に入れたって」

 

 ビビ様が興奮した様子のチョッパー君を見ながら説明をする。

 

「結局は、内科に敵わぬ、後手に回る医者ぞ。怪我を防ぐ事ぞ不可能」

 

 悪態ついた私に反応したのはチョッパー君だ。

 

「お前医者、というか外科医嫌いなのか」

「大っ嫌いですね」

 

 私は堂々と胸を張って物申した。

 

 

「過去10年、毎年医務室使用数最高値をぶっ叩き出すした私がむしろ逆に外科医を好きになるとでも!?」

 

 

「……予防接種嫌がる動物かな?」

「動物は獣医が嫌いだよな」

 

 切れ味抜群コンビは黙ってろ!

 事実だとしても! 真実だとしてもだ!

 

 私にだって分かってるんだよただの八つ当たりだってぇぇ……。でも嫌じゃん、治療が欲しいというより治療を不要としたかった。

 七武海に目をつけられるということはな、こういう事なんだよ。

 

「故に帰るぞ!」

「はい強制連行」

「サンジさん私も手伝うわ」

「弱点属性ぞ攻撃は禁止いいいい!」

 

 王族サンドは本当に反則だと思う。

 馬車に乗った。辛い。

 

 霧で見えにくかったけど、この馬車の馬って変じゃかった? 気の所為? 気の所為でいい?

 

 

 

 馬車は2つ。

 1. 私、サンジ様、ビビ様、ニコ・ロビン、ナミさん、カルー(5人+1匹)

 2. ルフィ、ゾロさん、ウソップさん、フランキーさん、メリー号、チョッパー君、ブルックさん(5人+1匹+1体)

 

 この、精神に来る感じ辛い。

 ブルックさんという視界の暴力が居ない事は本当に安堵なんだけど、こう、精神的に来る。

 

 

 

「うわぁぁぁあ……うえ……うう……うぷっ」

「スリルもだけど、可愛い子の泣き顔って大好きなの」

「あっちの馬車は楽しい事に……って、見てオールサンデー! 外に珍しい動物がいるわ!」

「リィン! リィンこっちおいで! さぁ、お姉ちゃんの膝の上に!」

「レディばっかで嬉しいはずなんだけどなんか微妙に嬉しく無いんだよな、どう思う?カルー」

「クエ……。クエー」

 

 外からボコボコって地面から何か生える様な音がするの本当にやだ! 木々が動いている様にガサガサと音がするの本当に無理!

 まぁ実際、そんなことありえてたまるものかって感じだけどぉ!

 

「乗り物酔いも七武海もこの島もついでに一味も私どちらぞ選択するしても地獄しかなくて無理ぞ助けて」

 

 起こりそうで起こらない、そんな密室空間に私のSAN値は余裕で削れた。

 

 りあるくとぅるふのーせんきゅー。あのゲームに手を出した七武海の形容し難いピンクの物体は絶対に私たち青い鳥(ブルーバード)が殺す。

 お前に対しての殺意はガン盛りだぞ畜生。

 

 

 あぁ、今は別の七武海かぁ……。(遠い目)

 

 

 

 ==========

 

 

 

「やっどぉうどゔつぎだぁぁぁア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!」

「喜びながら絶望するとか、お前随分器用なことするんだな」

 

 乗り物から降りられた! 七武海に近付いた!

 どうしようどれも辛い! もはや生きることが辛い!

 

 来世は! 権力者の元に生まれて家督争いなんてせずに人と関わることなく動物に囲まれながらのんびり引きこもりたい! 下っ端反対! 裏切ることの無い従者が欲しい! あわよくば姫君とか言われて可愛がられたいけど人と関わりたくなかった!

 

 さよなら今世また来て来世……。

 いやいやいやいや! まだ死んでたまるか!

 

「あっ、お前実は発狂してるな?」

「うぇぇえんるふぃぃいっ!」

「おー、兄ちゃんここにいるぞー」

 

 生きる希望を捨てないだけ素晴らしいと自画自賛して遠慮無くルフィにしがみつく。赤子を諌めるような対応に不服はあるがナミさんにしがみつくよりは何倍もマシだろう。

 帰りたい。本部でいいから帰りたい。

 

 仕事に悩殺されても構わないし、なんならクザンさんの探索してもいいから帰りたい!

 

 途中で置いてかれるとか不吉な事は起こらないし起こらせない。コウモリ男はブルックさんに捕獲されており、何故か冷や汗をダラダラ流していた。

 予想は簡単。ブルックさんの影を抜いた一味だから、でしょうに。

 

「にしても、トンネルみたいな屋敷だな」

 

 屋敷の真ん中には大きな通り道が造られており正面には中庭が見える。その途中にはいくつかの扉が存在している。

 

 ──カッ!

 

「わひゃあ!?」

 

 古井戸にスポットライトが当たった。

 あっ、もう嫌だ。

 

 古井戸の中から出てきたのは継ぎ接ぎの皮膚を持つショートカットの女性。顔色は悪く人形のようにも見えた。彼女はゆっくり視線を合わせる。

 無表情で、皿を片手に。

 

 はい、無理です。

 

「1枚、2枚、3枚、4枚……」

 

 何故か皿を男性陣へと投げ続けている。これ幸いと現役王女を優先的に保護という形で距離を取った。

 

 ……いやもうだから無理なんですって!

 

「あんた達は屋敷に招待出来ない! そこの彼女達は入っていいわ」

 

 丁重にお断りさせていただきます。

 

「あんた達は行っておしまい! 8枚! 9枚!」

「うぎゃーーッ!」

 

 皿を投げられてウソップさんが悲鳴をあげる。

 何故か見た目男(ただしメリー号は除く)だけ狙われるので私はナミさんの後ろに隠れた。

 

「リィン見てよ、あのお姉さん修繕した乗り物みたい」

「やめるしてメリー号!」

「怯えてるリィンがとっても可愛くて幸せ……」

「涙目ってところがミソね」

 

 トドメを無意識に刺そうとしてくるメリー号に泣きそうになると変態さん2人が喜ぶ。四面楚歌かよ。なんだこれしんどい。

 

「もういい! それくらい特例で許せ!」

 

 バン!と屋敷の扉を開いて外へ出たのは体のバランスがおかしい、男。長い鼻、長い牙、長い爪に長い足、さらに裂けた口と額にある縫い跡。

 

「んぎゅだああああッ! おばけぇえええッ!」

「ええぇええぇえ!? なんでぇえ!?」

 

 男は近寄って私の肩を掴んだ。

 

「なんで? なんで!? え、俺人間だよな!?」

「怖い! やだ! 離すして! ふぎゃぁぁあぁ!」

「それはかなりショックッッ!」

 

 お願いですから人間ならもっと人間らしい容姿をしてください! 身長なら誤差の範囲なのに!

 バランスだけは! どうにもならないから!

 

「……ウソップさん、こちらをお願いします」

「お、おう?」

 

 パニックに陥る場を収めたのはたった一つの刃だった。

 

「えっ」

「……え?」

 

 男と私の間に突かれた細身の剣。あまりの速さに一瞬黄泉の国の冷気が流れたんじゃないかと思った。有り得そうで怖い。

 だってその見覚えのない刃の持ち主はブルックさんだったから。

 

 ……ぶっちゃけちびるかと思った。

 

「お久しぶりですねェ、ホグバックッ!」

 

 あーはいはい、うんうん、私これ、この展開先が読めたよ。ウンウン。

 そりゃね、私も長いことこの世界でリィンとして生きてきましたから。

 

 島はスリラーバーク。敵は七武海。超至近距離に骸骨。目の前に刃物と七武海の手下であろう外見ホラー男。移動手段の箒は消え、船酔い止めの薬は船医に捨てられ。

 

 うんうん。やっぱり私展開察したよ。

 

 

 

 

 ……気絶します。

 

「リィーーーーンッ!?」

 

 遠くでウソップさんの遠吠えが聞こえた気がする。




普段よりリィン視点の地の文はめちゃくちゃ。ちゃんと考えれてませんね。

ここで調子乗ってる恋音より宣伝。
そう言えばこの作品でしてなかったなー、とか今更な事を知った。

リィンがこの作品の世界(通称2度目)の人生を全う()した後、の物語を連載してます。この2度目の世界での記憶は一切無いんですけどね。
作者ページから是非飛んで見てください。
タイトルは『3度目の人生は魔法世界で』です。


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第198話 得意芸は叫ぶ事です

「まぁ……頑張った方ね」

 

 ナミが呟く。

 視線の先にはルフィに背負われたリィンだ。もちろん気絶している。

 

「ドクトル・ホグバック……」

 

 この場に居る医者が同盟相手の敵だ、という事にようやく気付いたチョッパーは絶望感と共に小さく名を零した。

 気付く者は気付いていた。

 

 しかしなぜここに居るのか、などとは分からない。だからこそ無理矢理七武海に従っているという可能性を捨てきれなかったのだが、ブルックの態度からその可能性は無に等しいと悟る。

 

「とりあえず屋敷の中に入ろうぜ、俺こんな外で話したくない」

 

 ウソップがぼんやりと霧がかった屋外の景色を見て一つ提案した。敵の根城に入り込む事に若干の抵抗はあるが、彼の言う通り外は何となく嫌だ。

 もとよりリィン以外は屋敷のどこかにいるであろう七武海に用があるのだ。虎穴に入らずんば虎子を得ず。……悪夢に悩まされるリィンを無視して足を進められる。

 

 シンドリーちゃんと名前を呼んで皿をぶつけられるホグバックが居たが最近の麦わらの一味はスルースキルの経験値が増倍中で、ごく普通に無視をしていた。

 

 

 ==========

 

 

 昼でも暗いスリラーバーク。

 太陽の光を拝めない状況は誰かにとって幸運だが、リィンにとっては運の悪い、むしろ最悪の環境だ。

 

 恐怖が増進される空間で、1人のビビりは目を覚ます。誰かの背に乗っているようだ。

 

「う……だ、れ」

「うわぁぁあ良かったリィン起きたか!」

 

 歓喜の声にぎょっと覚醒する。聞き覚えのある涙声は一味の狙撃手ウソップだ。

 リィンは首を傾げる。

 

 ──何故ウソップさんは走って…? 他の一味の姿が無いのは?

 

 寝起きだとしてもわかる意味は一味が分断され何者からか逃げている最中だということ。

 

「とりあえず降りてお前の足で走れ!」

「分かる、した、ですが!」

 

 背から飛び降りたリィンはどこに向かうのか分からずもウソップに着いていく。そして気になっている事を問いかけた。

 

「皆さんは!?」

 

 反射的に聞いたが隣を走るウソップはなんとも言えない表情で前を見ていた。リィンはたったそれだけでやられる胃を持っていない。ただちょっと、連鎖的に起こる胃痛を予知しただけだ。

 

 言いづらそうにしたウソップは聞き取れるギリギリの声で小さく経緯を話すことにした。

 

「……屋敷に入ってしばらくしたら、突然眠り出した。戦える奴らが軒並み眠って、どうしたんだって叩いても起きなくて。それで、少し目を離した隙に、っ消えた。他の奴らも、振り返ると1人ずつ」

 

 寝起きにこの絶望感はあかん。

 リィンは涙目で訴えた。首を横に振るだけで言葉は出ない。

 

「し、死体ぞ無い分まだましですね!」

 

 ひょうきんな事を言っている自覚はあるが『=死』と決まった訳ではない。こういった言い方をすればウソップだと楽観的に考えてくれると知っている。頼りにしてるぜ、相棒!

 厄介事を押し付ける気満々でリィンがウソップの肩を叩いた。忘れがちだが紛うことなき屑だ。

 

「俺が、屋敷に入ろうって……言ったから…ッ!」

 

 頼りにしようと思っていた現在唯一の相方はSANチェック失敗どころか不定の狂気に突入していた。

 明るい未来が見えない。絶望去ってまた絶望である。

 

 

 屋敷内を行く宛もなく駆ける2人。

 暗闇の中で頼るのは廊下に細々と灯るロウソクの火のみ。ゆらゆらと揺れる火が、怪しげな影を生む。

 

 どくりどくりと心臓が嫌な音を立て始める。

 

 かつかつと廊下の石を踏む音が、耳に入り染みるように頭に響く。

 

 あぁうるさい。うるさい。

 雑音なんて要らない。

 

 ウソップと繋いだリィンの手は震えていた。

 体温は冷え切っている。

 

 

 視界の端に何かが遮ったような…──

 

「……」

 

 

「ねぇウソップさん」

「……なんだよ」

「聞くですよ?」

 

 うるさいうるさいうるさいうるさい。

 

 思わず、手を離した。距離を取った。

 だってリィンは気絶していたんだ。

 分からない。

 

 この人が本当にウソップなのかどうか。

 

「姿が消えたのですたならば、なにゆえ私たちは走るしている?」

 

 おかしいのだ。頭の中で指摘する矛盾に耳を塞いでいた。

 

 

 アイツだ。あぁアイツだ。

 

 

 消えただけなら、狙われないように隠れたりすればいい話。何故目立ちやすいにも関わらず走って堂々と廊下を逃げているのか。

 目立ちやすくするため?

 それとも──

 

「──逃げてる」

 

 冷たい風が入り込んだ。リィンを包む風は体温を一気に奪う。

 背に突き刺さるあの視線が、心臓を抉り。

 

「は、はは」

 

 何から、とは聞かなかった。ウソップも言わない。

 ここは七武海の本拠地で人間が敵。

 

 それでいいんだ。それで。

 

 

 

 

 見ィ……ッケタァア゛

 

 

「「──ッ!!」」

 

 

 2人は声にならない悲鳴を上げた。

 見つけられたのなら隠れる必要は無く逃げればいい。

 

 その理由付けすら出来ないほどに走り出した。頭が真っ白になって、とにかくこの場から離れたい。その一心で走り出した。

 走る。走る。走る走る走る走る走る。

 

 突き刺さる痛みがリィンの体を支配する。

 

 胃が声の代わりに悲鳴を上げた。

 背に突き刺さる視線は変わらない。

 

「振り返るな…ッ!」

 

 分かっている。

 そう返事したくとも喉が詰まり声が上手く出ない。体が震える。体が上手く動かない。

 

 

 

 ──後ろから聞こえる足音の正体は何?

 

 ウソップは知っていた。だから逃げていた。

 それを見たら、凍りつくと。リィンならばもう一度気を失うと分かっていた!

 

 ただ、リィンはウソップのことを信じていなかった。

 

 

 見た。見てしまった。

 あの醜い化け物を。

 

 

「リィン!?」

 

 突然自分と反対側の別れ道に行こうとしたリィンにウソップが仰天して振り返る。視界に入ってしまった、徐々に近付くゾンビに、小さく悲鳴を上げる。

 

「わたっ、私貴方信じる、不可の、で」

 

 ボタボタと大粒の涙がリィンの目から零れる。

 ……常時ならともかく、今の精神が擦り切れ視野の狭い彼女に状況を把握する能力は無い。

 

「別行動、しま、しょ、ね?」

 

 痛々しい。

 本当なら一緒がいい。

 

 なぜなら一味は分断され、おそらく敵の手中。そして自分が本物だと分かっている。リィンも本物だと分かっている。

 

「ホグバックは、医者で、偽物ぞっ、作る出来……! だから、から、私信じは、無理で」

 

 リィンは違う認識だと分かっている。

 

 

 T字路の左右どちらを進むか。

 

 

「分かった、別にしよう」

「ッ!」

「1人とかめちゃくちゃ怖ぇけど……。リィンはもっと怖いもんな、俺が、俺じゃないかもって。疑うのしんどいよな」

 

 壊れた人形のように首を縦に振るだけでリィンは肯定の意を伝える。

 追いかけてくる『ゾンビ達』はすぐそこだ。

 

「ご、ぶうんを」

「おう」

 

 罪悪感を拭うために口に出した言葉にウソップは微笑む。

 お互いが背を向けて走り出した。

 

 ゾンビは二手に別れて追ってくる。

 

「(無理無理無理無理無理無理)」

 

 過去最高速度で走っている自覚はあった。普段から箒にかまけて長時間走ることの無いリィンにとって体力勝負とは負け確定の勝負だ。

 

「(どこか、どこかに!)」

 

 大きな扉が目の前に見えた。小さな部屋で身を隠すよりすぐ逃げることが出来る、部屋に飛び込んだ方がいいだろうと考え、部屋に入り込んだ。もしも中に人が居た場合危険なので気配を最大限消して。

 震える手で扉に触れた。

 

 この不気味な空間に留まるくらいなら危険でも逃げだせるという心の平穏を取ってしまったのが彼女の運の尽き。

 

 

 息を潜め、視野の狭まった目で物陰に隠れる。

 部屋の中なんて見たくないという望みが無意識にそうさせた。己の首を締めると本能が訴えるというのに。

 

「…────……──」

「ッひ」

 

 案の定何者かの声が聞こえた。

 リィンはか細く悲鳴を漏らしたが、どうやら聞こえてない様だ。

 

 必死に口を手で押さえバレないよう息を殺す。

 

 ゾワゾワと背筋を犯す寒気と、視界を覆う毒のような霧は不気味さを引き立たせる。

 人間ではない敵と、人間卒業してる七武海が近くに居るという間違いようのない事実が遠慮なく胃を殺しにかかる。

 

「(あぁ、これダメだわ)」

 

 気絶したら死ぬと分かっていて易々と意識を飛ばす訳にはいかない。

 それだけを頼りに踏ん張っていたリィンだったが限界が来たのか目から大粒の涙をボタボタ流しだした。

 

 人は恐怖の前に居座ると思考を放棄する。

 

「…──麦わらの一味が……──」

「キシシシシ……!」

 

 耳の奥を触るような高いキシキシとした笑い声は恐怖を駆り立てる事は無かった。もはやそこまで理解出来ない。

 

 リィンにとって、誰だろうが、笑ってようが、何を話そうが、何を狙おうが最早関係ない。

 

 

 流れ落ちる涙だけが限界を伝える手段。

 

 

「生かしておかないとなぁ、あんなに強い影だ」

「フォスフォスフォスフォス!」

「くれぐれも堕天使の──気…──ろ、他の七武海と争──なきゃな。情報を──なよ」

 

 ボタリボタリ。

 枯れるほど水を流す。

 

 ボタ、ボタ、ボタ。……ボタリ。

 

「あと1人…────」

 

 

 何を言っているんだろう。

 何を話しているんだろう。

 なんで動かないんだろう。

 

 逃げなきゃ。

 

 

 金縛りの様に固まった足。

 力が入らない足。

 

 

「ミィつけた」

 

 

 下から入る光は妖しすぎる影を作って──

 

 

「(あ……)」

 

 

 ぶつりと体が斬られる感覚を最後にリィンの意識は暗闇の中に溶けていった。

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

「じゃねぇだろぉッ!」

 

 

 ガバリと起き上がった。

 周りの景色は見慣れた女部屋だ。いや、船酔いでダウンしてるからベッド周辺見慣れてるんだけでサニー号に変わってすぐだったわ。

 

 じわりと汗ばんだ服を手早く脱いで着替える。

 

 随分と嫌な夢見た。

 

 

 額を拭うと汗だらけだ。苦手なホラーを夢見たらそりゃ汗かくよね。

 汗にはファンデも混ざっている。あー、これ化粧も落ちてる。絶対落ちてる。

 

 髪で隠れるけど、一応傷跡中心に化粧し直しとくか。

 

「はァ……」

 

 私の荷物置きから必要な物を取って化粧台に近付く。

 七武海の夢見たからミホさんに殺意湧いてきた、私が毎回面倒な化粧しないといけないの額を割ったバーサーカーのせいだったから。

 

 

 顔を上げた。

 

 一瞬で下げた。

 

 

 

 

 

 ……ちょっと待って、今、鏡に何写ってた?むしろ、何か写ってた?

 

 冷や汗が流れるの、すっごい分かる。

 

 

 そして下を向いた私には分かってしまった。

 その足元に影が無いことを。

 

 

 SANチェック失敗です。

 

 

「──うぎゃああぁぁあああぁあ!?」

 

 慌てて部屋の外に出ると甲板の芝生の上には一味と骸骨が居た。う、嘘やん。

 

「おはようリィン」

「よう、お前は随分時間かかったから諦めた所だったぜ」

「ヨホホッ、苦労しました」

 

「……夢じゃ、ない?」

「現実逃避失敗おめでとう」

 

 拝啓、今世の母

 せめて予知夢オチにして欲しかったです。

 

 こちらを見る麦わらの一味に、影のある人物は1人も居なかった。私含め。

 

「うぇ、ぅあ、ひぇん」

「だよな」

 

 嘆いているとウソップさんが肩を叩いて同情してくれた。

 夢であればよかったのに! 現実かよ!

 

「で、俺たちみーんな影を取り返すどころか奪われたんだけども」

「停止不可ウソップさん! 私今から海に飛び降りる!」

「少しは落ち着け能力者!」

 

 大丈夫! 私に海ぽちゃで即死は無い!

 その常識を突いて逃げる!

 

「もう、もう! もうもうもう!」

「ハイハイ牛さん。無い乳絞っても出てこブフッ!?」

「セクハラ発言」

 

 私の頭突きとサンジ様の蹴りがウソップさんの体に勢い良く入った。

 

「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙、冷静になった。なりますた」

 

 大きく息を吐いて頭を冷やす。

 多分、状況は理解した。

 

 

 

 

 殺意が溢れた。

 

「ちょっと、反撃させてもらうしても、いい?」

「えぇー、リーに任せるのか?」

「何故そこまで不服そうに?」

 

 リィンよくわかんない!日頃の行いはとっても優等生なのに!私特に悪行してないんだぞ!?

 

「作戦とかあるの?」

 

 ナミさんに言われて、少し考えてみる。

 悪魔の実の特性とかそこら辺を諸々考えて、屋敷の状況、視界の悪さ、悪天候故の特徴。

 

 

「大丈夫ですね、うん、多分いけるです」

 

 今過去最大レベルで働いたかもしれない。

 うんうんと我ながら恐怖を覚える作戦に頷いていると、唸って悩んでいたルフィがポツリと呟いた。

 

 

「俺、妹がインペルダウンで引き篭るとか嫌だから手を出さないことにするよ」

「ルフィ、ゾンビと遭遇して頭の回転おかしくなりますた?」

 

 どういう思考回路もったらそうなるの?

 

 

 話を聞いてみると証拠隠滅まで考えてるだろうに無駄に手を出して作戦壊したくない、だとか。

 なるほど、完全犯罪の邪魔をしたくないって事か。

 

 

 どういう思考回路もったらそうなるの?

 




ホラー描写をしようと思って三人称視点にしたのにギャグ性質の書き手の性でコレジャナイ感がすごいので海賊の海兵(シリアス)を書いていた頃の私は間違いなく過去最強。
さて、ここからリィンの逆襲。
モリアはん、特に何もしてない所悪いけど死ねどす。


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第199話 手加減は海軍に置いてきた

 

 影を手に入れた。

 呼び寄せ、尾行させ、驚かし、追い詰め、影を奪った。

 

 偶然の産物では無く狙った事だが、こうも思い通りに行くとは、話が違うでは無いか。

 

 

 モリアは1人、部屋の中で堪え切れない笑みを零した。

 

 

 自分以外の七武海が話していたのを聞いていた。マリージョアには行かなかったが、警告と牽制も兼ねて、縄張り増減連絡の際に言われたのだ。

 

『手を出すなとは言わねェけどよ。あんまり舐めない方がいいと思うがな』『そうそう、あの甘噛みは毒付きだな』『肉体労働より頭脳労働だ、あれは。興味が無いならそれでいいが面倒くさくなるから仲間に入れたいとか言い出すなよ』『何戦目だったか?』『知らねぇ、どうせ暇潰しの賭け事だし』『お主ら……』

 

 呆れた魚人の声で毎回切られた様な気がする。1年に1回あるかないかの連絡では、年々勢い良く増してくる疎外感のせいで他の七武海と交流を図ることも人となりを知る事も出来ないが、毎回と言っていいほど出てくる名前は雑用の少女の名前だ。

 今回こうして影を奪った。

 

 現状が知られた所で他の七武海が報復に来ることはまず無いだろう。なぜなら彼らは海賊だ。利益が無いと動かない。

 

 

「影を使うには、本体は生かしておかなきゃな」

 

 

 噂の『リィン』とやらは子供だった。

 くれぐれも堕天使の扱いには気をつけろ、とは言っておいたが無事闇の中をさ迷うことになっただろうか。他の七武海と争いを避ける為にも情報管理だけはしっかりしておかなければならない。

 

 

 まぁ、この程度。しかも先に手を出したのはあちらの方だ。

 例え七武海全体がリィンという少女に傾倒していようが、所詮は七武海も海賊。自業自得の結末に文句は言わないだろう。

 

 

 

 

 

 モリアの予想は正しかった。

 彼以外の七武海は「先に手を出しておきながらその程度でやられるなら自分達の目が劣っていただけ」だと言っただろう。

 

 

 

「ねェ」

 

 不意に少女の声が聞こえた。聞き覚えのない声に、麦わらの一味かと思うが誰も居ない。

 

「誰だ」

 

 モリアは警戒して声をかけるがその声に答えてくれる気配は無かった。

 

「どうして?」

「なんでなの?」

「おかしいなぁ」

「あなたは1人?」

 

 クスクス笑う声が、言葉が。同じ声が別の場所から聞こえて来る。

 

 ……何故同じ声が?

 

 そう思ったのも束の間、目の前にぼんやりと金髪の少女が現れた。

 どういうカラクリか知らないが【リィン】に間違いない。何かの悪魔の実の能力者で、この状態を作り出しているのだろう。

 

 足元に影が無いので本人と見える。

 

「どうして?」

「ちっ、ゾンビ共!」

 

「ねぇ、どうして?」

 

 モリアはゾンビ兵を呼んだが、誰も来ない不気味さに思わずリィンを見た。

 

 

 『──あんまり舐めない方がいいと思うがな』

 

 脳裏に、言葉が浮かぶ。

 

「どうしてゾンビ達を使役してるの?」

 

 独り言を呟くように紡がれた疑問。立ち止まった少女はだらりと力を抜いてボソボソと同じ質問を繰り返す。答えあぐねいているとピタリと言葉が止んだ。

 

 無言が続く。

 無言が。

 

「どうして……」

 

 ぼそ、と催促するような言葉にモリアは反射的に叫んだ。

 

「ッ、仲間なんざ生きてるから失うんだ!ゾンビなら代えのきく無限の兵士だ!だから、だから俺は!」

「どうして……?」

 

 繰り返される何故という言葉。

 今度はその方向からではなく、再び複数の場所から問いかけられた。

 

 何故?答えたのに繰り返されるその問い。

 

 心の中を読まれているようでゾッとした。

 

「俺は、俺は……」

 

 1歩下がったモリアに少女は音もなく近付く。足すら動かしてない無音の移動にモリアは精神の脆い部分が削れる音を聞いた。

 

「私ね、私ね」

 

 しばらくしてだろう。少女は再び口を開いた。

 

「七武海が大嫌いなの」

 

──ドシュ…

 

「……???」

 

 何が起こったのか、脳が理解を拒んだ。

 少女の体を突き抜けて、緑と金のスラッシャーが己の体にくい込んでいた。

 

「…〜〜ッ!?」

 

 自然系(ロギア)だと瞬時に判明した。覇気を使えない自分では相性が悪過ぎる!

 

「は、仲間がいるのか」

「私あなたの事知ってるよ、話してたもん。話してたよ、みーんな」

「話して、た?」

 

 幸い傷は浅い。

 敵意として反対したが、殺意には程遠い攻撃だ。

 

「知ってるよ、話してたよ、あなたのこと」

 

 また機械のように繰り返される。

 ばっ、と勢い良く上がった顔についてある双眼と目があった。口元は怪しげに歪んでいる。

 

「アハハハハハハ!」

 

 笑っているはずなのに、声は後ろから聞こえた。

 何故だ、どうなっている。

 

 思わず後ろを振り返るが、コロリと転がってきた物に目を奪われた。

 

 ──────目玉だ。

 

「ッ、!」

 

 それを認識した瞬間大量の目玉が上から降り注ぐ。

 ボタボタと体に降り注ぐ目玉の感触はまるでゼリーの様で、不気味さが増す。ふわりふわりと脳が浮かんでいく奇妙な感覚。

 

 敵の攻撃だと判断したモリアは目玉の雨が終わった瞬間少女の姿を目に捉えたが、彼女はニヤニヤと笑うだけで何も言わない。

 

 

 ひんやりと足先から冷たくなる。

 

 

 ……怖い。

 

 いつぶりだろうか、こんなにも恐怖を身近に感じたのは。

 ガリガリと精神の削れる音。

 

 話してる、話してる。

 【リィン】が言った『皆』とは、恐らく。同じ立場である海賊達。

 

 多少であろうと繋がりのある海賊。

 

「なっ、んだ」

 

 突然霧が発生した。

 その色は、何故だろうか。赤い。

 

「──ッ!」

 

 目が痛い、喉が痛い。鼻の奥に、皮膚に、ヒリヒリと焼けるような感覚がモリアに襲いかかった。今まで感じた事のない痛みと、それを上回る不気味さ。

 反射的に少女を切り裂こうとした。

 

 他の七武海との争い?扱いには気をつけろ?そんなことどうだっていい!

 

 

 しかし爪に何かを切り裂いた感覚はなかった。小さい子供1人、力に物言わせ捻り潰す事は簡単なはずなのに。

 まるで最初からそこにいなかったように。

 

「アブサロム!ホグバック!……ッ、ゲホッ、ペローナァ!」

 

 息を吸い込む度に焼け付く喉。

 毒だろう、あまり吸い込まない方がいい。

 

 しかし毒ということは敵も手出し出来ない諸刃の剣だ。

 

 仲間の名を呼ぶも、誰も現れない。

 痛みによる生理的な涙が止まらない。誰も現れない。誰も来ない。声に答えない。涙が止まらない。

 

 

「誰も来ないよ」

 

 心を読まれた様に己の不安を断言する少女の声。

 

「だって」

 

 またしても声が聞こえた。

 

 やめろ、言うな。

 やめてくれ。

 

 その時、背後から初めて気配がした。耳元で呟かれた言葉は、モリアの最も嫌う、最も恐れる単語だった。

 

 

「──────ぼっち(ひとり)なんだから」

 

 振り返ったその先に、リィンが居た。

 その顔はまるでモリア君が余ったからそこのグループ入れてあげなさいと先生に言われた時の嫌そうな姿とそっくりだった。

 

「ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙(汚い高音)」

 

 

 

 彼以外の七武海は「先に手を出しておきながらその程度でやられるなら自分達の目が劣っていただけ」だと言っただろう。

 

 ただし「自分達の目は決して劣ってない」と自信満々で続けるが。

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

「えっぐい」

「エグイな」

「お前マジかよ」

 

 海水、または塩によるゾンビ兵の数を減らしてくれていた方々が船に戻った瞬間、見るに堪えない格好で海楼石付きの縄に亀甲縛りにされたモリアを見て呟いた。

 

「流石の巨体、不慣れ、私苦労しますた」

「その縛り方に慣れてる所にツッコミ入れた方がいいか?」

 

 彼はその大きさ故に船には乗せられないので適当に広い場所で放置している。

 一仕事終えたので私は満足だ。

 

 

「一瞬にしてゾンビ達の動きが止まったからモリアが死んだかと思ったんだけど……」

 

 ゾンビ討伐参加のサンジ様がモリアを見てポツリと呟く。

 

「殺してやった方がいいんじゃ」

「私への評価が酷い」

 

 生かしておいた方が精神的に追尾攻撃出来るから生かしてください。

 あ、当然写真は撮ってる。ウソップさんにドン引きされたけど。

 

「ゾンビ討伐の方はどうでしたか?」

「リィンの睨み通り、能力で出来たゾンビだったから塩で撃退出来たわ。明確な弱点が分かっている分生身を相手にするより楽だったわね」

「ヨホホホ!私も無事影を取り返しましたし良かったですよ!」

「俺たち3人の方は特に強敵無し、強いて言うならビビりの影がちょこまかと走り回って時間食ったくらいだな」

 

 ニコ・ロビン、ブルックさん、フランキーさんが順々に感想を述べてくれる。そうか、ゾンビは影の性格に影響を受けたりするのか。

 

「こっちは求婚された」

「はい?」

「あと途中でスケスケの実の能力者が出てきて、コックがブチ切れて蹴り飛ばした」

 

 ゾロさんの報告に思わず聞き返す。しかし彼は答えるのではなく言葉を続ける選択をした。

 

「秋水っていう刀をゲットした」

「あァ、えっと、確か誰かに壊されるしたんですっけ?」

 

 苦々しい顔でゾロさんは肯定する。エニエスロビーでカクに蹴られた時パキンっと壊れたんだったか。

 

「あの野郎ッ、スケスケの実……!俺が、食いたかったのに……!」

 

 因縁を思い出すのかサンジ様が悔し涙を流しながら燃え上がるという器用な事をしていた。

 ……ジェルマ国第3王子は死んだ、いいね。文句は言わせない。

 

「なぁなぁ、これどうなるんだ?」

 

 ルフィがそう聞いてきた。

 そうだね、公になるとモリアは問答無用で七武海の称号剥奪だろうけど。

 

 うん?

 

「ルフィが、その後を、考えるしてる!?」

「「「はぁぁあぁあ!?」」」

 

 驚きの声が重なった。

 特に東の海(イーストブルー)からの付き合いである4人は驚きまくっていた。

 

「ね、熱は?」

「無い!」

「怪我は?」

「してない!」

「精神攻撃……」

「しょーきだぞ!」

「拾い食いか?」

「それはしたけど」

 

 したんかい。そうツッコミそうになるのを押さえ込んだ。

 

「俺、リーの思い通りになるの嫌だから」

「んー?」

「おー?」

 

 私とウソップさんが唸った。意味を上手く理解出来ない。他も首を傾げている。

 

「それはつまりなんだ、ルフィ。リィンが敵にするみたいに、誰かに思い通りに操作されたくないって事か?」

「そうなのか?」

「結局バカなのかー」

 

 言葉を省き過ぎではないのかルフィ。

 それは『私の思い通りになる敵』みたいになりたく無いって事だよね。『私=他人』って事の様だし。

 

「敵に思い通りに動かされたくないから考えようと頑張っている。なお敵はリィンのように性格が悪い事を想定しての発言である。──てことだな」

「おぉ」

 

 わかりやすい。と周囲からウソップさんへの賞賛が飛ぶ。1部は拍手をしているようだ。

 まぁウソップさんは初対面で私の不思議語を一拍置いてだろうと理解出来た読解力の高い人だから。

 

 ルフィはまだよく分かってないのか頭を捻っている。

 

「まぁ、そんな感じなのか?」

 

 あ、これダメですね。ルフィはルフィだ。

 

「とりあえずどうもしないだろ。俺達が何も言いふらさなけりゃ、だけど」

 

 フランキーさんはそう推定していた。チラリと合ってるかどうかの視線が寄せられたので少し考えてみて、私は素直にその言葉に頷いた。

 

 どうもしない、と言うよりどうすることも出来ない、だけど。

 

「う、うぅ……ぅ」

「起きたな」

「起きたみたいだな」

「おーい、大丈夫かー?」

「皆さん私の被害者に対する扱いが優しい過ぎませぬ?」

 

 なんだろう、この、一味に生まれている共通認識。

 

「おはようモリアさん!調子はいかが?」

 

 パチリと目が合ったので笑顔で話しかけた。悲鳴を上げられた。解せぬ。

 

「リィン、これ以上モリアをいじめてやるな!」

「む、麦わら……!」

「何かがおかしい気がするです。絶対おかしい!」

 

 モリアを庇うように立つルフィの姿と、それを擁護するような一味の姿。モリア本人も私の船長を助けてくれたメシア風の視線で見ている。

 そいつが今回の小悪の根源なんですけど、と言っても無駄な気がしてきた。

 

「待ってこの格好すごく力入りづらい何これ怖い」

「海楼石付きです諦めるして」

「怖い!!!」

 

 ある程度落ち着くのを待ってみる。

 夜明けまでまだ時間があるみたいだし、海軍として七武海の称号剥奪は望まない事だろうから話でもするか。

 

「おま、お前ロギアか!」

「いや、違うです。間違いなく超人系(パラミシア)ですよ」

「じゃあなんで武器が突き抜けた!?」

 

 【私の体】を貫いたビビ様の攻撃。アラバスタで私が喰らった攻撃を参考にさせてもらったから、かなりびっくりしたと思う。アレの答えはとっても簡単。

 

「映像です」

「……映像?待て、俺は確かにアレと会話してたぞ!?」

「それ、本当に会話ですか?一方的に語りかけ、何度も繰り返し、不自然に時間が開きませぬでした?」

「…………確かに」

 

 ウソップさんに持たせた映像貝(ピクチャーダイアル)に元々演技をした私の姿を投影させていた。普通に透けてしまうけど、スリラーバークの薄暗く視界の悪い場所なら誤魔化しようが聞くと思ったからだ。あと透けてると気付いても絶対怖い。

 

「じゃあ複数の場所から声がしたのも」

「私の声を録音した物を仲間に持たせるして物陰に」

 

 非戦闘員であるビビ様やナミさん、それとチョッパー君とメリー号に複数の声を担当してもらった。音貝(トーンダイアル)とっても助かりました。ホント、使い方次第であのくぐもった音とか雰囲気出せるね。

 私がやられる立場だと一瞬にして気絶するクオリティ。

 お化け屋敷はお化けになるからこそ面白い。

 

「は、そうだ!あの赤黒い霧は」

「毒じゃないですのでご安心を。ただの香辛料の霧です。トウガラカラシってやつの」

「あの目玉は、一体どこから手に……」

「我が一味のコック作、食べれるゼラチン目玉です。ハロウィンの際出ますた!美味しかったです」

 

 そこまで笑顔で答え続けるとモリアは見るからに脱力した。

 

「なんで俺はそんな……子供騙しに……」

「それも仕方ないと思いますよ?あのスラッシャーにはメスカルサボテンという幻覚作用ぞある植物を塗りますた故に。まぁ、少ししか所持すてないので思考能力低下程しかありませんですたが」

 

 最早何も言わなくなってしまった。

 

 

「……お前、やっぱり最低だわ」

 

 ゾンビ討伐に参加していた方々を代表してゾロさんがしみじみと発言する。

 

 モリアさん、悪人が相手にするのは善人とは限らないんだよ。

 




エニエスロビーのシリアス続きの反動がドンドンやってくる。モリアをこんな、我ながら酷い倒し方した人っているのだろうか。
無傷の勝利。本気出したリィンは苦手分野をも活用する。

陰キャモリア君。引きこもりというか、仲良すぎる七武海の輪に入れなくて元々SAN値ガリガリ削れてたんですよ。アーメン。


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第200話 人を呪えば落とし穴

 

「モリアぶっ飛ばしてはないけど、影取り返したし、これでブルックは俺達の仲間だな!」

「あれ!? そんな約束ですたっけ!?」

 

 モリアにやり返すことばかり考えていて勝利後の話をド忘れしていた。あかんこれ死ぬ。

 

「嫌です無理ですぅ!」

「……リィンさん、嫌がりますねー。私自身は嫌われてない様ですけどこの見た目が圧倒的にダメですねー」

「そうですよ!? 当たり前では無きです!? ずっとおじいちゃん辺りぞ思うしたら、まさかの骸骨!」

 

 折角影を取り戻したのにホラーがこれからついて回るとか考えるだけでゴリゴリ精神がやられる。

 

「諦めろ、リー!」

 

 嬉しそうにルフィが私の肩を叩く。辛い。

 約束は約束、口約束程度じゃなくて海賊旗を掛けた約束だ。

 

 思わず頭抱えた。

 

「……ブルックさん」

「なんでしょうか」

「……私、失礼な反応ばかりだと思うです」

「そうでしょうね、しかしながら当然の反応だと思いますよ?ヨホッ」

 

 ブラックさんは私の失礼な態度や反応すら大人の余裕で流してくれる。すっごく良い人だって分かってる。

 

「頑張るです」

「これからよろしくお願いしますね、リィンさん」

 

 私が大人にならざるを得ない。努力はしよう、努力は。

 

 この島で少しだけ時間を取って休息をするべきだな、ゾンビは居ないけど死体はあるので場所にだけ気を付けて。

 もう少しで夜が明けそうだからめちゃくちゃ眠たいんだけど。

 

 

 

 

『──なるほどな、悪い予感が的中したというわけか』

 

 

 突如聞こえた電伝虫を通した老人の声。

 何も気配が無かったのに現れた何者かを皆が視界に入れた。

 

 

「え……」

 

 

「その様で」

『まだクロコダイルの後任が決まらんと言うのに、また一つ七武海に穴を空けるのはマズい』

 

 モリアと変わらない程の巨体。上半身の大きな体には独特の模様が描かれていて、手にはその能力の不用意な発動を阻止する為の茶色い革手袋。聖書を片手に〝暴君〟と呼ばれている男はこちらを一瞥した。

 

『そう次々と落ちてもらっては七武海の名が威厳を失う』

 

 ……ごめんなさい。海軍内で威厳は無に等しい事が知られてるんですけどね。

 

「バーソロミュー・くま!」

 

 モリアが思わずと言った様子で声を荒らげる。それに気付いた電伝虫の人物はくまさんに質問をした。

 

『まだ息はある様だな』

「えぇ、息は。傷も無い。ただ──」

 

 

 

「亀甲縛りで体に落書きされた姿を無事と言っていいのかは微妙ですが」

「いっそ殺せ!」

 

 同僚に見られたという羞恥心からモリアが泣き出した。

 

『……これはモリアの敗北ととって良いのか?』

「完全敗北ではある」

「何しに来たんだよテメェは! トドメか! トドメを刺しに来たのか! なら早いとこ殺してくれ!」

 

 泣き喚くモリアは完全にスルーされている。

 どうする、こんなにも早く政府へと情報が伝わるとは思わなかった。とんずらする時間くらいはあるもんだと。

 

 くまさんは微妙に話が通じない所がある。それは頭の出来とかじゃなくて、根本的に私と捉え方が違うからだ。

 

 

 だってあの人、ズレてんだもん!

 

『そうか、なら私の言いたいことは分かるな』

「あァ」

 

 まずいまずい、まずい!

 ここでモリアが敗北したと取られると残る道は抹殺一択。だって七武海の評価を落とすわけにはいかないんだから!

 

『世界政府より特命を下す……! モリアの敗北を知る麦わらの一味を抹さ──』

「ちょっと待ったァァァァ!」

 

 大声を出して電伝虫の言葉を遮る。下されない内に訂正させてもらおうじゃないか!

 

 狙い通り、言葉は止まった。

 ルフィ達を殺される訳にはいかない。個人的にも、組織的にも!

 

『……くま』

「あァ」

 

 なんの音もなく、くまさんが目の前に移動して来た。弾くことによる高速移動。

 ……何年も見てきたら大体慣れてくる。

 

『麦わらの一味の、堕天使だな』

 

 会話する気はあるってことか。

 多分これ世界政府じゃなくて更に上の五老星なのでは?

 

「……リィン」

 

 くまさんが私の名を呼び、電伝虫の乗った手を伸ばしてきた。その事に後ろはざわついた。

 でも若干想像してたんじゃないでしょうか。

 

 だって七武海だよ?

 

 私は差し出された手の上に乗ると、その上にある電伝虫に語りかけた。

 

 ……くまさんとは体格差の言葉で終わらせてはいけないほどの差があるので会話する時は手のひらの上が定位置なのだ。ことある事に小さい小さい連呼されるけど。

 

 

 

「忙しき身にお時間を取らせるのもどうかと思うですので、単刀直入に言うさせて頂きます」

 

 海賊の私が言うということは皮肉にしかならないだろう。無駄に喧嘩売ってる様にしか思えない。ただ、海軍大将としてはマジで時間取らせてる事になるから言う。

 

 両視点で見て大丈夫そうなら私は自分の胃の安全を優先するよ。

 

「私達を殺すだけの口封じは全く無意味です」

『なんだと……!?』

 

 電伝虫の先で驚く声がする。

 

「細かくお話しましょうか?」

『……海賊の言うことは信用ならない。お前の思う事全て話せ』

 

 真剣な表情のまま手だけで麦わらの一味にサムズアップする。どうやら上手く流れに乗せれた様だ、というアピールで。

 多分相手は潜入中の大将という肩書きから頷いてくれるはず。

 

「まず、モリアの能力ですが。影を操るというもの。そしてその影の持ち主は、太陽の光を浴びるが不可能。そして私達も同じ目に遭い、気絶と同時に奪い返すしました」

『……なるほどな』

「はい。つまりモリアの敗北を知るのは私達だけではなく、全世界中。海兵も役人も大勢いるでしょう。その影が戻ったことで『モリアが倒された』と──」

 

 私はニヤリと笑う。視界の端で一味が身を寄せ合う姿を捕捉した。

 

「──()()()する人がいる筈です」

 

 『影が戻る』=『モリアが意識を失う』という方程式がそこら中で起こっている。

 

 実際はモリアが気絶した時に影が戻ってくることは無かったし、ゾンビ討伐組の人達が頑張って塩撒いてくれたし、私もモリアが気絶してる最中に海水の雨を全力で降らせた。

 その意味を伝えない事は私の責任にして欲しくないからでもあるんだけど。

 

 だって私達が影を戻さなければモリアの敗北は世に知られなかった事になるし? 秘密裏に排除する事が楽になるじゃん? 黙っている方がいいよね! 都合のいい設定にモリアの能力を塗り替えればいいじゃない!

 

 

 政府にはお悔やみ申し上げる(皮肉)が。気絶による能力解除、という弱点を持っている能力者は結構な数だ。

 

 

『ほう?』

 

 電伝虫の先で感心した様な呟きがあった。

 

 そして倒される事が七武海の面子を保つのに不要ならば。

 別の理由にすり替えてしまえば良い。

 

 

 真実を知るのは麦わらの一味だけだ。

 

『そう勘違いする者がいるのは、また随分と厄介だな』

「でしょうともでしょうとも」

 

 ニッコリ笑顔で肯定する。

 気付いてもらえて嬉しい限りでございます。

 

 モリアの能力解除は気絶だ、という認識だけでは終わらせない。後始末で大事なのは何故気絶したのか、だ。

 

「モリアは『海難事故』だと思われるしていた海賊と戦うしたのでしょうね。水面下で影を集めて」

 

 七武海を気絶させた相手が麦わらの一味という馬の骨であれば面子が保てないだろう。

 

「東出身の超新星(ルーキー)に? まさかまさか!」

『そうでないと辻褄が合わないなァ? 七武海の選定基準をクリアした者同士ならともかく』

 

 この会話で作られたシナリオはこうだ。

 海難事故で亡くなった筈のグラッジが実は生きていて、それを倒す為になりふり構ってられなかったモリアは多少の犠牲と共に兵を集めて対立した、と。しかも犠牲と言えど命は決して奪ってない。

 

 あァ、新たなヒーローの誕生だ。

 

「うふふ、ふふふ……!」

『はっ、ははは! アーッハッハッハ!』

 

 深夜テンションの私は電伝虫を挟んで相手と笑い合う。たったそれだけなのに私の仲間達は引いた表情で私を見つめてきた。おいモリア、お前もか。

 

「やっぱりお前は汚いな」

 

 くまさん、それ褒めてないから。

 

『…………それで、そう操作して貴様になんのメリットがある。政府に恩でも売るつもりか?』

「恩とは、売るものではありませぬ。いつ間にか買わされるものです」

 

 もう既に恩を買ってるんだよ、政府さん。

 

 朝日が昇って来て空が白けだした。霧が晴れている。スリラーバークに久しぶりに光が差し込んだのだろう。

 影もあるので消えることは無い。

 

 

「ねェ、その恩。ここで返すのもありでは?」

 

 つまりその案と身の安全を交換だ。もう既に貴方は私の話を聞いている、買っているんだからクーリングオフは出来ないぞ。

 

 この話に『海軍大将』のメリットは微塵も無い。だって海賊は逃がすより殺す方がいいじゃないか。政府から見るとそう思う。

 

『……何を企んでいる』

 

 当然怪しまれた。

 海賊を逃がそうとする行為は『海軍大将』にとって不利益。

 

「古代兵器」

『……くま、手を引け』

 

 CP9でも使えたこのマル秘テクニック。もしかしたら元CP9がチラリとでも報告している可能性がある。どんだけ古代兵器に飢えてるんだ世界政府。古代兵器復活阻止とか言っておきながら、古代兵器を誰にも渡さない様にしている。

 

 何も話すことが無いのか、話すのがマズいと感じたのか、真実は分からないがぶつりと音を立てて電伝虫が切られた。

 

 

「はぁぁぁあぁあぁ……」

 

 張り詰めていた緊張の糸が切れて脱力する。

 くまさんの手のひらの上だったが思わず横になった。

 

「ごめんですロビンさん、貴女の読解力を言い訳に使うしますた」

「いえ、別にいいのだけれど。あの石を読み解けるの私だけだし必然よね」

「……ロビンさん、私にアレの読み方教えてくれませぬ?」

「……かなり難しいけど大丈夫?」

「多分」

 

 私は生存確率上げるために頑張る。

 

「教えてあげるけど、あの文字の使い方は気を付けて。貴女だから教えるのよ」

「はいッ」

 

 歴史を知れば、確実に武器になる。知りすぎれば口封じとして消されるかもしれない。

 でも予感でしかないけど、絶対鍵になる。それこそルフィを海賊王にする為の。

 

 後情報屋としても役に立つ。

 

「リィン」

「なんですかーくまさんー」

「ピンクの髪の女を『旅行』させたんだが、お前の仲間では……」

「あ、大丈夫。麦わらの一味じゃないですね」

 

 私はくまさんの旅行を経験した事無いけどドフィさん曰く「空飛べるから面白味が無い」だった。絶対旅行しない。

 

「あっ」

 

 問答無用で旅行させられたドフィさんで思い出した。くまさんの能力は狙った所に飛ばせる能力だと言うことに。

 

「ッ!」

 

 浮かんだ案が私に都合よすぎて叫びそうになったが慌てて口を噤む。ここで派手な動きを見せたらバレてしまいそうだ。

 後ほどセンゴクさんに相談しよう。

 

「僕さ、もうリィンが怖いよ。何より誰よりリィンが怖い」

「おでも、おでもリィンがいちばん怖い! 何話してるのか俺には難しかったけど! 怖いのは分かった!」

 

 チョッパー君に抱きつかれたメリー号が海の様な冷ややかな目で私を見ていた。

 ニコ・ロビンが怪しげに笑ってるからチョッパー君はどうぞ虐められてください。

 

「人がこの場全員の生存に向けるして頑張ったというのに。解せぬぞ」

 

 くまさんの手のひらの上で腕を組み怒りの様子を見せると狙い通りウソップさんが竦み上がった。モリアの後ろに逃げる様に隠れた。

 

「……リィン、箒はどうした?」

「あー、実は壊れるして。気に入るしてたのですけどね」

 

 高さがあるので普段は箒で降りるのだが、それが無いのでくまさんが疑問を持った。

 

「ほう」

「……なんですか」

「いや、あの箒が壊れたかと思ってな」

 

 そう言えば強度的に高性能だった。

 何度か見たこともあるだろうし材木とか加工法を知ってたのかも。

 

 だってフェヒ爺と交換した時に入手した一本目は災害に巻き込まれた時に折れた。

 それからずっと二本目を愛用してたもんな。

 

「……遂に壊れたか。砲弾でもくらったか」

「さァ、気絶中に壊れるしてますた故に」

「…………それは、首の締め跡と関係が?」

「でしょうね」

 

 船酔いで吐く時に邪魔だから包帯は外していたけど、気絶中に負った一時声が出ない程締められた喉の怪我は誰か予想ついていたから。

 多分箒もそいつだ。裏切り者だ。カクだ。

 

 これで冤罪だったら逆恨みでしかないけど今更罪が1つ2つ増えた所でへこたれる様な男じゃないだろう。

 

「さぁてモリアさん。貴方はたった今命を救うされ名誉ある功績を手にしますた」

「鬼!」

「鬼畜!」

「堕天使!」

「人でなし!」

「ちょっと麦わらの一味黙るして」

 

 これから要求する事に大して察したウソップさんがブーイングを始めた。ギロりと睨むとまたモリアの後ろに戻った。弱い。

 

「財産、欲しいなっ」

 

 語尾にハートが付きそうな程甘ったるい声で溜め込んでるであろう宝を要求する。

 モリアは雨の代わりにトマトが振って地面から無数のゾンビが沸いてきた様な顔をした。

 

 トマト顔のまま停止しているので私は表情のベクトルを変え、呆れた表情で肩を竦めた。

 

「誠意を見せるしろ、誠意」

「誠意=物品!? なんだこの汚れた子供!」

「はー、これだからぼっちなのですよ」

「外道! 人の最大のトラウマを気軽にほじくり返す辺り間違いなく外道だ!」

 

 泣き叫ぶモリアの影からウソップさんがソロリと顔を出して疑問をぶつけてきた。

 

「とりあえず七武海の事は置いておいて。わざわざ海水降らせて多分全部の影を取り戻したのになんで言わなかったんだ?」

「逆恨み防止ですよ。世間に知るされると不味い事をわざわざ助長させるした私達の行為を、普通許しますか? おのれ余計な真似を……! ってなりませぬ?」

「あー、確かに」

「……これが狙撃王か」

 

 左様ですよー。と思いながら私は解説を続ける。

 

「私達が生き延びる為には、くまさんに命令させぬ様にする他無い。だから政府の後始末の方法を助言すたのです。殺せぬ理由というのを作り出すしたうえで」

 

 古代兵器という理由さえあればどうにかなる。だから、世間に知られた事を『仕方ない事だ』という感情で終わらせた。たった十人程度の海賊を潰しただけで事態が収束するならそれでも良いが、仕方なく、世間に知れ渡ってしまっている。

 

「その事に気付くした以上、私に恩が出来ますたからねェ。この場では生かす方が得だと思うしたのでしょう」

「うっわ、お前ホント考える事が悪役」

「海賊が悪役で何が悪きぞ!」

 

 フハハハハ! と高笑いをする。私は悪役だよ、とっても性格の悪い悪『役』だ。演技はこれでも得意な方でして。

 

「じゃあ俺も聞いていい? そいつとの関係は?」

 

 サンジ様がくまさんを指差した。私達はお互い顔を見合わせて、形容し難い関係なのだと初めて気付く。青い鳥(ブルーバード)としてなら取引相手なのだが、七武海と雑用としてならほぼ関係が無い。

 

「茶飲み仲間?」

「そうか?」

「飲みませぬね、特に。出席率も下の方だから普通ですたし」

「……的を射ている」

 

 首を傾げまくった。

 

「あいつが例の黒足か」

「あァ、やはりその色は嫌がらせですたか」

「さァ、だが」

 

 くまさんはサンジ様を見て、さらに視線をビビ様に移す。なんですかその胃を痛める為にある様な視線は。

 

「そいつらの父親はやはり子供に甘い。遺伝だな」

 

 楽しそうに笑っていた。

 

「ちょ、ちょちょちょちょ、まつして、今聞く耳排除勧告ぞ不可な事が耳に侵入を許すしたぞ!?」

「もうそろそろ告げるタイミングが無くなりそうだから言うが」

「何トイレ直行ぞ程度の覚悟っぽく推定の重大発表するつもりです!?」

 

「──ソルベ王国の元国王だ」

 

 パキリ、と体が固まった音がした。

 

 なんで? 私が王族苦手だってわかってるよね?

 ドフィさんでギリギリ許容範囲内って所だったんだよ?

 

 なんで追い討ち仕掛けるように告げた? なんでわざわざサンジ様の正体がバレそうな発言をかました? 衝撃の展開過ぎて皆気づいて無いみたいだけどさぁ?

 

 くまさんが?

 国王? 元であろうと? 国王? 王子とか王女とかそういうレベルじゃなくて退位した国王? 国の1番上?

 

 私が乗っている手の持ち主が?

 

 

「モッ」

「も?」

 

「モンキー・D・ドラゴンの馬鹿野郎ッ!」

 

 よくわかんないけど大変だな、と笑うモンキー家の慰めを受けて、この世の悪は間違いなくモンキー家だと確信した瞬間だった。

 ここまで来れば流石に貴族までとは言わない、せめて王族だけはやめてくれ。

 




モリアの影は不思議色の覇気で元通りになりました。
海難事故は世の中に溢れているのです、失われた命を有効活用しない手は無いでしょう。和睦です。和睦をするのです。それが世界を守る1歩です。助け合うのです。

はい、つーことでここでスリラーバーク編終わります。驚きの短さ。
どうせ皆さんもうそろそろあの人に会いたいんじゃない? クハクハ笑う例のあの人。


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ストロングワールド編
第201話 歴史を知らぬ者


 

 それはあまりにも冒涜的な出来事であった。

 その出来事を本部の天守から見下ろしていた海軍元帥は小さな声で「いかれとる」と文句をこぼした。

 

 

 

 史上ただ1人、偉大なる航路(グランドライン)を制覇し海賊王となった男、ゴール・D・ロジャー。

 

 今から25年前、彼らは一船で海賊艦隊と戦った。結果は悪天候と舵輪が敵の頭に刺さり抜けなくなるという不慮の事故の為、痛み分けとなり戦いは集結した。

 

 その敵こそ〝金獅子〟と呼ばれる者。

 海賊艦隊提督とも呼ばれ、海賊王並びに白ひげやビックマムと覇権争いをし、当時の四皇とも言える立場に君臨していた男。

 

 名を、シキ。

 

 フワフワの実の浮遊人間だ。

 

 ロジャーが海軍に捕まったということを聞いたシキは彼を殺すべく、激情のままに単身海軍本部に乗り込んだ。その際シキを止めようとするセンゴクとガープと戦闘となり、マリンフォードを半壊させるほどの激闘の末に敗北。

 

 インペルダウンに投獄されていた。20年前までは。

 

 そう、彼はインペルダウンから脱獄したのだ。史上初の脱獄犯。

 彼はずっと身を潜め、伝説としてその名を残していた。

 

 残しているだけでよかったというのに。

 

 

『──流石にエッド・ウォー海戦は歴史として知るしてますが!』

 

 電伝虫の先でさもイライラしてますと言いたげな荒れた声が発せられる。しかしセンゴクはよく分かっていた、これはストレスによる胃痛を察知した時の声だと言う事を。

 知将、海軍元帥〝仏のセンゴク〟はニヤリと笑う。

 

「喜べ、早速麦わらの一味を利用する機会が出来た」

 

 電伝虫が表情を変えた。

 形容するならこうだろう、なんてことを言い出してくれてるんだこんちくしょう泣きそう胃が痛い聞きたくない。

 

「シキは巨大な岩、おそらく島を移動手段として使っている。能力は非常に厄介で現在海軍本部も強大な打撃を受けて──」

『センゴクさんセンゴクさん』

 

 泣きそうな顔をした電伝虫が己の名を堂々と呼ぶ姿に思わず首を傾げる。

 

『現在麦わらの一味、その島の群集にてバラバラです』

「お前の災厄が私にとって都合良すぎて拍手を送りたい」

『航海士連れ去るんじゃねーよ舵輪野郎ッ!』

 

 バキバキと木を破壊される音と泣き叫ぶ部下の声をトンチキな姿をした電伝虫から聞いて、センゴクは想像以上の愉快さに声を出して笑っていた。

 

 

 

 ==========

 

 

 

「美味しく、なきですーーーーッ!」

 

 起伏の激しい空飛ぶ島々の一つ、私は1人孤独に猛獣から逃げ惑っていた。鰐は、鰐だけは来るな!

 

『ハッハッハッハ!』

 

 寂しさと同時に緊張感をも四散させるセンゴクさんの笑い声を聞きイラッとする。他人事だと思って笑い事にしやがっ…──ひぃい! ちょっと待って見つかった!

 

『空を飛ぶのは得意技だろう!』

「箒!破壊中!CP9の1人が壊すしますた!」

『アッハッハッハッハッ!』

 

 何が面白いのかずっと笑っている。

 ちくしょう! 余裕綽々で見学に回りやがって!

 

 木の幹に隠れても壊される。撒いたと思えば別のところから別の怪物がやってくる。

 無限ループって……怖くね?

 

「うあああっ!」

 

 飛べない逃げれない。HAHAHA、この島から脱出不可能ってわけですか。とんだツンデレだな、ツンデレ。詰んだ出れない。そして笑いながら報告をしてくるセンゴクさんの話も聞かなければならないという。

 

『──以上が海軍本部での被害状況だ』

「隠し切れない笑いが殺意を誘う」

『その殺意は全力で金獅子に向けておけ』

「現時点の麦わらの一味ではレベルが高過ぎるのですよ! せめてもっと修行期間などを設けるしてからにすて!」

 

 電伝虫の先でセンゴクさんがハッとした表情に変わる。

 

『その件で何かいい案が思い付いたか?』

 

 題して麦わらの一味強化作戦。

 センゴクさんと私で計画中なのだが、2代目海賊王を操り人形にして正義で解決出来ないことを物理的に解決してもらおうという長期作戦の1部だ。

 

 麦わらの一味は潜在能力や才能はピカイチ、しかし今の麦わらの一味では新世界を渡ることは不可能。だからこその強化作戦。

 

「ちょっと面倒臭いですけど浮かぶましたよ」

 

 やってきた虎を不思議色で吹き飛ばす。ミズミズの能力の再現だ。

 ……やっぱり技名考えた方がいいのかな。〝再現ミズミズ!〟とか。

 

 いや、うん、恥ずかしい上に手がモロバレだ。

 

『一味はバラバラに強化した方が依存度も低くていいぞ』

「都合いい方がいるでしたよッ」

 

 バトルロイヤルな島で1週間、私は獣の気配が無いであろう木々の間に入り込む。サバイバルは得意じゃないので休憩しつつじゃないと辛い。

 

「はーー……」

 

 大きく息を吐いて呼吸を整える。作戦の説明ついでに状況整理もしておこう私の為に。

 

 私達が居るのは空の島。と言っても空島というわけじゃなく、シキの能力で浮かぶ気候も大きさも全てバラバラな無数の島々が雲の高さで浮遊している奇っ怪な場所だ。

 

 

  時を遡る事、3日。

 東の海(イーストブルー)で街が次々壊滅してしまうという新聞を見ていた頃だった。浮かぶ島が通りかかった。

 

 その時ナミさんがサイクロンが来ると天候を予見した。親切心をルフィが出さなければ、きっと何事もなく過ごすことが出来ただろう。

 

 サイクロンから避ける事が出来ても厄介事から避ける事は出来ない様で、ナミさんが攫われてしまったのだ。

 咄嗟のことで、飛行も出来ない私に船を浮かばせる『イメージと集中力』は無かった為、メルヴィユと呼ばれた空中群島にバラバラの状態で墜落したのだ。

 

「四六時中集中しっぱなしでしんどいです」

『なるほどな、その状態なら電伝虫も難しかっただろう』

「1人ゆえに堂々とこうして作戦を話すしたりするが可能なのは助かるですけどォ……。ハー、これからシキ討伐、ですか」

『地上からの援軍は流石に無理だぞ』

「それなのですよねぇ」

 

 この群島に居る人物で倒さなければならない。

 ということは最早麦わらの一味の力だけで、ということだ。

 

「フー、合流が先ですかね」

『いや、麦わらの一味の生命力は優れているのだろう?』

 

 確かに優れている、と考えながら返事をした。

 

 質問の意図を考えてみる。

 嫌な、予感がした。

 

「──ま、まさか。単独潜入……」

『海賊王関連の話題は食いつくぞ』

「……はい」

 

 ここまで来ると抵抗する方が疲れるだろう。感情を表に出さないが、センゴクさんは海軍本部の襲撃……いや、通り魔に大分腹が立っている様子だ。前時代の遺物を大海賊時代でのさぼらせる事はまずしたくないだろう私だってそうだもん伝説相手にするとか。

 なんの為に表舞台に出てきたのか分からないが、何か企んでいる事は確かだ。

 

「シキ、ね。何か攻略法とか無いのですか?」

『当時どうやってシキを確保したと思っている。敵陣に考え無しで突っ込んできたのを私とガープで叩いたんだ。あるわけがなかろう』

「えぇ!? じゃあ動揺を誘うとかその様な」

『あー……? ロジャー以外浮かばんな……。なんせやつは支配、ロジャーは自由と全く海賊としての方向性が違っていたからな。エッド・ウォー海戦とて、原因は方向性の違いによる衝突だ』

「そんな駆け出し中のバンドマンの様な言い方をせずとも」

 

 ガキ扱いに思わず肩の力が抜けた。

 センゴクさんってホント海賊に関してある意味辛辣な物言いをするよね。センゴクさんが気に入る海賊とか居たら見てみたい。

 

「センゴクさん好きな海賊とかおらぬのです?」

『いるわけが無いだろう。サカズキと違ってお前の親であるカナエにも…──』

「聞き捨てならない言葉が聞こえた様な気がするのですけどサカズキさんがカナエさんに対してどういうことです!?」

『──居たな、ロジャー以外に興味を示した物が』

「セーンゴークさーーんっ!」

 

 マイペース元帥。ちょっと歴史を知らない若者に分かりやすい説明はしてくれないのだろうか。

 私海軍に来てまだ10年しか経ってないんだ。早熟(転生)童顔(役作り)なせいで見た目と年齢と精神で段階的に差があるけど時間的な概念では若輩者なんだよ。気付いてこの気持ち。

 

 私、大海賊時代生まれ。それ以前(ロックスせだい)とか全然わかんない。

 

『カナエで思い出した。〝幻〟を随分気にしてたな』

「……頭は」

『無事だ、どいつもこいつもな。──幻というのは私も1度しか会ったことが無いがロジャー海賊団の1人、だと思う』

「……思う」

『推定だ推定。その男を気にしてたな。具体的に言うと会ってみたいのになんで会えないんだ、という……』

「子供」

『子供だな』

 

 結局使えた話題じゃない。一応青い鳥(ブルーバード)にも聞いてみるけど幻と呼ばれるくらいなら望みは薄いだろうなぁ。

 ほんとにあの世代どうなってんだろう。

 

 私達も後の世代で『どうなってんだよあの世代』とか言われるのかな、言われるな。どうなってんだよ私達の世代。新聞で1面飾る系の事件は全てルフィの同期だぞ。

 

 年齢はまぁルフィが圧倒的に若いけど。

 

「そういえば何も考えず日の出方面に向かうしますたけど獣の気配がしませぬね」

『獣避けでもあるのか? 落ち着くまでガヤガヤとしていただろう』

 

 ふと周囲を索敵してみる。

 周りの木々は奇妙な形をしていた。樹高は数メートルしかないのに幹がとても太く、先細りになった先端に茂る申し訳適度の葉。

 

 臭いがややキツい。薬品の様な臭いだ。

 

「……この樹、多分毒ですね」

『人間にも、か?』

「多分、推測の範囲ですけど。私にとって安全地帯ですねェ」

 

 電伝虫の先でセンゴクさんは微妙な表情をした。

 

「もしかして、っと」

 

 規則的に並べられた樹林帯を抜けると、予想していた通りの物が見えてやや嫌な気分になる。

 

「センゴクさん見つけますた。シキの、本拠地です。海賊船がそこらにあるので、恐らく……」

『あァ。十中八九、復讐に乗り出したのだろう。止めてくれ』

 

 シキの執着する物がロジャー海賊団の、海賊王の存在ならば。彼の生まれ故郷である東の海(イーストブルー)は、つい最近『村の壊滅』で新聞を彩っている。

 

 ここに関連性を見いだせない事はまず有り得ないだろう。もちろん前提として海賊王への執着を知らなければ無理だけど。

 

「虎視眈々とシキの命を狙ってる同士、居ないですかね」

『希望的観測はオススメしないぞ』

「ですよねぇ」

 

 酒場らしき所を出入りする海賊らしき人達は皆黒服でドレスコードがあるらしい。らしい、らしい、と推測ばかりで確証を持てないのが悔やまれる所だが、乗り込むしか敵内部の情報を集める方法は無いだろう。

 この過酷な環境に村といった外部的存在で情報が手に入るがのか分からない。

 

「冒険せねば宝は手に入らぬ。昔の偉い人も言うしてますたし、非常に残念ながら潜入は得意というね、悲しき」

 

 危ない海は渡れ。

 観測して渡る時間が無い私には雨風凌ぐ場所も欲しかった。

 

 

 

 

 

 

 

「……ゼハハハハ、俺ァ随分運がいい様だ」

 




スタンピードは映画公開初日から行けて、さらにユニバのプレショにも行けて、と大興奮の状態なのですけど携帯無くしてます。自業自得すぎて悲しみ。

さぁさぁ、ストロングワールド編入りました!
構成を考えてみて、なんて面白味が無い改変にもならない章なのだろうとすごくガッカリしてたのでね、私ちょっとTNT埋め込んでみました。


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第202話 黒と黒の睨み合い

 

 酒場の中は随分と活気に溢れかえっていた。

 

東の海(イーストブルー)の壊滅、世界転覆。4日後にデモンストレーションとして島唯一の村に怪物を送り込む。その後に復讐決行ってことかぁ」

 

 手に入れた情報をポツリと呟く。酒場の一角で人目を避けるように電伝虫を取り出してそれだけセンゴクさんに伝えると証拠隠滅として電伝虫をアイテムボックスにしまう。

 柱の影になっていて手元だけは誰からも見えない筈だ。

 

 

 麦わらの一味の雑用として先にここに着いたのだろうと予想している海賊達は、私に対して特に警戒する事も無くシキの計画を簡単に話してくれた。

 この島の怪物は確かに危険だ。東の海(イーストブルー)に放たれたら、きっと死者の数は跳ね上がる。

 

 

 もしも麦わらの一味を使えなかった時はこの情報をいち早く手に入れることが出来たセンゴクさんが4日の間で東の海(イーストブルー)に対策を設けることが出来るだろう。

 ……多分。

 

 そもそも情報を手に入れるだけならこうして簡単に出来たんだ。その上で未熟な麦わらの一味を戦力として伝説にぶつけるわけが分からない。

 

 海軍はシキの後処理で手が回ってないのか?

 それとも、何かにかかりっきりで割ける戦力が無い、とか?

 

 ……どっち道、センゴクさんが海兵を使えない理由があるのなら、潜入中の私に言いたくない事なのだろう。情報共有されてないということはそういう事だ。

 

 まァ何か考えがあっての事だろうから心配はしてない。

 どんな方向に転んでも平和の象徴である最弱の海、東の海(イーストブルー)を捨てる事だけはしないから。

 

 やっぱり潜入しだしてから海軍の情報を第一に集められなくなったから困るよ。その分海賊の一味に居るととんでもない情報が生み出されていくけど。

 はぁ〜〜〜〜〜! 嫌だなぁ〜〜〜〜! ここから動きたくないな〜〜〜!

 

「おい」

 

 顔色を変えずに嘆きながらジュースを飲んでいると声をかけられた。はいはいまた絡まれるのね。私が美少女でチョロそうだからってカモにはならないよ。なんせ転生してるから早熟してんだよ。

 振り返ると髭を生やしてみるからに下品そうなでっぷりとした体型の男がいた。

 

「久しぶりだなァ、ジャヤ以来か。船長はどうしたァ」

「……」

「……?」

「……」

「……お、おい?」

 

「……えっと、どちら様?」

 

 首を傾げたら男の後ろにいた仲間が大爆笑し始めた。

 

 ごめんなさい私の顔認識は壊れてるんだ。声すら覚えてないということは多分そこまで交流が無い人だと思うんだけど。

 それにジャヤって海賊のリゾート地じゃないですか。覚えてられるか。

 

「船長忘れられてんじゃねぇか」

「ゼハハハハ! まぁいい! 麦わらはどうした」

 

 私の船長が『麦わら』だと知っているって事か。なら麦わらの一味として会ったな。ジャヤに唯一行ったのは海賊の私だからそこまで迷う必要も無いし、下手に他の顔を見せるのは愚策か。

 

「迷子中です。あー、えっと、おたくは」

「おや?あなたもしかして『リィン』ですか?」

「え、はい、そう、ですけど」

 

 仲間の1人である細い男がシルクハットを上げながら聞いてきた。

 私も顔出しの賞金首、エニエス・ロビーの1件を麦わらの一味による暴動だとされて注目度が上がっている中だ。たとえ少ない額でも目はつけられる。

 

 覚悟してた事だけど知らない人に知られてる恐怖感凄い。

 

「──やはり!貴女がクロコダイル氏を貶めたという!」

「「まてまてまてまて」」

 

 船長さんと私の声が被った。

 

「ラフィットお前それどういう事だ? クロコダイルが倒れたのは懸賞金の上がり具合から麦わらだと思ってたんだが」

「それも正しいですよ船長。しかし私はドフラミンゴ氏の話した内容があまりにも悲惨過ぎて……」

 

 クロさんのロリコダイル放送の真実を知っている?

 それにドフィさんと繋がり、は無さそうだけど本人から聞く機会があったということ?

 

 頭混乱してきた。

 

 それにラフィットって名前をどっかで聞いた事あるような……。

 

「……ッ!く、ろひげ!?」

 

 椅子から瞬時に立ち去り距離を取って警戒する。

 髭面の船長さんは私の反応を見てニヤリと顔を歪めた。

 

「無名の筈の、俺を知っているのか……?」

 

 ラフィットは聖地マリージョアに侵入して新七武海に黒ひげを推した人物の名前。ということは彼が船長と崇めるこの男。

 

 元白ひげ海賊団の『ティーチ』だ。

 カナエさんが予知で警戒を促したティーチで、私が予知夢で警戒をしている黒ひげ。

 

「これは少し、話を聞かないとなァ?」

 

 ジリジリと迫りよる腕は闇を纏っていた。

 

 

 

 ==========

 

 

 

「…──それが何故こうなるのですかねぇ」

 

 予想外の展開に私は机に肘をついてため息を吐いていた。

 

 場所は黒ひげ海賊団の船である丸太の中、私が腰掛けた椅子の前に陣取る机には山盛りになったお菓子。

 

「丁重な扱い」

「ウィーッハッハッハ!この食いもんは船長のお気に入りだ!」

「じゃあ遠慮なく」

 

 くれると言う様子なので遠慮なくお菓子を摘む。毒を仕込まれたとしてもある程度なら余裕だろう。

 むしろ私に効く毒があるなら教えて欲しいです。インペルダウンのマゼラン署長かな……。今度頼んでみよう。

 

「さて、堕天使」

 

 ゼハゼハ笑いながら黒ひげは私の正面に座った。

 

「話と行こうか」

「その前に堕天使という名前は結構嫌い故に別で呼んでもらうしてもいいですか?」

 

 私の顔の区別として呼ばれるならまだしも、呼び名として呼ばれるのは心底腹が立つ。

 

「悪かったなァ、じゃあリィンと呼ばせてもらおう。俺もティーチでいい」

「ティーチ、さん」

「ゼハハハハ!」

 

 呼び捨てにするほど『仲良く』も無いし『敵対している』わけでも無い。まぁ、私は『黒ひげティーチ』を警戒していたし、私怨はあるね。

 要するに初めましてなのだ。事前情報最悪な。

 

「初めましてティーチさん。麦わらの一味雑用のリィンと言います」

「初めまして、俺はマーシャル・D・ティーチだ」

「どうやらお互い、己の想像以上に互いを知っている模様ですね」

 

 もぐもぐとお菓子を食べながらティーチさんを見る。

 彼は私と同じように甘い物を口にしながら私を見た。

 

「ティーチさんは、私の何を知っている? アラバスタの1件、そして800万程度の私に目をつけた」

 

 懸賞金は低いのに私を覚えていた。

 もしかして、この男が黒ひげなのだから、白ひげ海賊団でエースと兄妹だということを知っていたのかもしれない。

 

「まぁ待て、質問はこちらが先だ」

 

 ムッ、と出鼻をくじかれたことに顔を歪ませる。

 机のお菓子をひょいと口に入れた。

 

「リィンは海賊の事をなんだと思う?」

「海賊、を?」

「ゼェハハハハ! そうさ海賊だ! 海賊には色んなやつがいる!」

 

 海賊のあるべき姿。

 シキは支配、海賊王は自由。

 

 海賊がそうあるべきだとした信念の事を言っているのだろうか。

 

「私は……」

 

 正式に言うと海賊では無い。

 でも私は思い描く海賊の姿がある。海賊と言えば…──。

 

「クソ野郎、ですね」

「ほう?」

「裏切り、利用し、下品で、下劣。そして──馬鹿」

 

 私はもうひとつお菓子を食べてティーチさんの目を見た。

 

「馬鹿であることこそが、海賊。支配?自由?そうじゃない、馬鹿です」

 

 まともな判断をしているのなら犯罪者になんてならない。理性を蒸発させた末に、そうなった。

 

「冒険することも夢を追うことも、全て馬鹿だからできる。損得勘定とか全てひっくり返して馬鹿になるからこそ、海賊であると」

 

 ──私はそう思う。

 

 そう伝えるとティーチさんは嬉しそうに笑い出した。

 

「お前、俺の仲間になれ。お前の信念は俺の信念とよく似ている!共に世界をぶっ壊して馬鹿になろうぜ!」

「お断りします」

 

 私は笑う。

 

「ルフィを海賊王にすると決めたので」

 

 いい断り文句だと思う。海賊らしい理由なんじゃないだろうか。

 

「妬けるじゃねェか、そんなに兄がいいか、堕天使」

「言い方に気をつけぬと私の必殺技情報操作でお前をロリコンホモにするぞ」

 

 瞳孔を開いて見続けるとティーチさんではなくラフィットさんの方が頭を抱えた。それだけはやめてくださいと小さくブツブツと繰り返している。あの人に何があったんだろう。

 

「……待つして」

「ん?」

「ルフィとは血が繋がるしてない。見た目も似てない。なのに何故、兄妹だと分かるした……?」

 

 ティーチさんは数秒のタイムラグがあったが「エース隊長に聞いた事がある」と答えた。嘘は、多分ついてない。

 嘘はついてないけど真実を1部隠していると言ったところか。

 

「リィンお前、『馬鹿』じゃねェな?」

「十分馬鹿だと思うですけどね」

 

 遠回しな海賊じゃないだろうという指摘。

 ヒヤリとしたが私は表面上の返事しかしなかった。このままでは肯定してるも同然なので少し言葉を足す。

 

「…──血の掟を破るほどの馬鹿ではありませぬが」

 

 私は間違いなく、この場の誰一人にだって勝てやしない。

 ティーチさんは『七武海になる』という事を達成出来てない。

 

 何か目的があるはずだ。

 そう確信できる理由だって存在してる。

 

 

「あなた方、よく甘い物をそんなに取れますね」

 

 ラフィットさんが空気を変える様に机の上を見て呟いた。山盛りになっていたお菓子は私とティーチさんの手によって3分の2は無くなっていた。

 

「甘い物は正義では?」

「甘い物は別腹だろ」

 

 七武海の鷹の目、コミュ障ミホさんと同じような事を言うティーチさん。それはちょっと分かるけど、ここで出てくるお菓子めっちゃ美味しいんだから手が止まらない。

 

北の海(ノースブルー)の焼き菓子はやはり味が濃いですね」

「だろう、そこの美味いんだ」

「そういえばジャヤで食べたパイ美味しかったです。食べますた?」

「おいお前絶対俺の事覚えてねェだろ、目の前で麦わらに喧嘩売りながら50個持ち帰ったわ」

「……覚えてないですね」

「まぁいい、東の海(イースト)ではバラティエつー飯屋が美味かった」

「ハッハッハ! その店の副料理長が我が一味のコックですぞ!」

「なん、だと……!?」

 

 世界各地の美味しい所を語り合う。

 ここまで食の好みが合っている人物に会ったことが無い。

 

 ティーチさんが美味しいと言った所は間違いなく私の好みなので行ったこと無い所をメモしておこう。

 

「でもまぁアレだな、1番うまかったのはオヤジの所で食べた飯だったからなァ……」

「あァ……分かるます。サッチさんのご飯って美味しいですよねぇ」

「甘い物もとことんまで舌に合う」

「当時海兵だった私もこのまま海賊になろうか揺らぎますたもん」

「そういえばリィン、お前2回目に船に来た時女狐って名乗らなかったか?」

「えっ……。まさか信じているのです?」

 

 信じられない、と冷ややかな目で見るとティーチさんは鼻で笑った。流石に無い、と。

 あーーっぶねぇ。良かった良かった。信じられないよな、普通は。

 

「そのサッチさんを殺そうとしたティーチさんは馬鹿ですけど馬鹿じゃないですね」

「仕方ねぇ、この能力が欲しかったんだから」

 

 嫌味を混ぜて言ったのに全く気にしてないティーチさんは腕に闇を纏った。なんというか、惹き付けられる闇だ。

 

「それ、触れた時なんかゾワゾワしたのですけど」

「能力者の実体を引力で掴んだからな」

「……なるほど、能力無効化」

 

 1時間前の自分の判断に拍手を送りたい。

 あの手に掴まれた状態で『魔法』を使っていたらそれが能力じゃなくて覇気の1種だとバレてしまう所だった。

 

「それは確かに、欲しますね」

「トリッキーな能力ではあるから使いこなしにくいけどな。どうだ、これを聞いても仲間になる気は」

「無いですウザイ。そもそも私貴方嫌いですから」

「サッチ隊長を殺そうとしたから、か?」

 

 分かりきったことを聞いてくる。

 その顔には笑みが浮かんでいた。

 

「まさか」

 

 私はティーチさんの予想通りに返事をした。

 

「裏切りは海賊の常套手段ですよね」

 

 彼が白ひげ海賊団に不義理を働こうと私は知ったこっちゃない。それ前提として程よい協力関係を築きあげれば御の字。

 いや、協力関係じゃない。互いが互いを利用し合う都合のいい共犯者だ。

 

 私は立ち上がってティーチさんの傍に行くと、その手を差し出した。

 

「私は東出身です。シキの野望は個人的に阻止したい。でも、麦わらの一味だけは力不足です」

「それで、俺達に協力を頼もうと……?」

「はい」

「俺は力を手に入れたいから()()()()()の傘下に加わろうとしているのに?」

 

 目的の為に人を殺そうとした事。欲しい物を手にする為にはルールすら破る点。都合のいい人間を贔屓して、都合のいい人間を利用する点。

 ティーチさんは私とそっくりだ。

 馬鹿になりきれないのに、根本的に馬鹿な所。裏切りや脅しですら正しい行為だと、己を正当化できる所。

 

「ハッ、()()()()()()を狙うお前が誰かの傘下に入るなんて、片腹痛いわ」

 

 ティーチさんは私が出会った中で1番海賊らしい海賊だ。

 

「……ゼハハハハハ!」

 

 

 

 個人、組織が同じ目的の為に手を組むことを同盟という。

 




何も話が進んでないのにこの話で決まったことはリィンと黒ひげ海賊団のいつ裏切られるか分からない信用すら出来ない同盟が結ばれたということだ!

リィンはエースが護送されたことを知らないしこれから戦争が起こることも知らない。それを黒ひげも分かっているから言わないでいる。


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第203話 デュフフって笑えよ黒ひげ

 

 潜入と言っても時間は少なく、事前情報が少ない。

 だから興味を持たれる様な話題をして釣りをしようかと思ったが、まずシキが酒場に現れない。

 

「無駄に黒ひげ海賊団と交流するだけで終わるしている気がする」

「……あれだけカッコつけたのにな」

 

 布団の上で項垂れる私を微妙な表情で慰めるのは黒ひげ、ティーチさんだ。

 

「はぁーー、詰んだ」

「こればっかりはどうしようも無いからな」

 

 布団を抱きながらゴロゴロ転がって唸っていたが、ピタリと止まって椅子に座るティーチさんを見上げた。よく敵船で寛げる余裕があるな、と苦言を呈している。

 

 この船には現在私とティーチさんしかいない。

 一応長であるティーチさんと、どうやっても敵意を持っている麦わらの一味の私は下手に動くわけにはいかないのだ。

 

 ラフィットさんは本拠地を物理的に潜入して調査中。そして他の3人は酒場にて情報収集だ。

 

「ティーチさん達はさァ」

「ん?」

「なんで七武海になりたかったの?」

 

 視線が交差する。

 企みながら企みを探す油断のできない心理戦が常に起こる。

 

 私は黒ひげ海賊団にいる間、肉体的にリラックス出来たとしても精神的に全く気を抜けない。

 

 ……まぁ、こっちの方が楽なんだけど。

 

 サバイバルよりはずっとマシな状況だと考えてしまう事に我ながら麻痺してるな、と思う。

 

「貴方の狙いは何?」

「…………。随分、ハッキリ聞くんだな?それを聞く目的は?」

 

 盛大な煽り顔でティーチさんは私を見下ろす。

 私は目を閉じて息を吐いた。

 

「私は元々七武海のお茶汲み係で少なからず交流があった。彼らのことを好意的に思うしているから、危害が加えられぬか少し心配ぞ。七武海になる理由が『七武海の権力』か『七武海の人』のどちらかだと……。………。」

 

 私は思わず布団に丸まった。

 

「内密に頼むぞ」

「ぜハハハッ!随分惚れ込んでいるようだな!」

「……もーーーっ!」

 

 布団からガバッと起き上がって私は怒りを顕にした。

 

「海賊になって偉大なる航路(グランドライン)突入後、すぐに七武海戦があったのですよ!?仲間に『七武海の事すきだよ』って言えますか普通!?しかも!仲間の1人は七武海の被害者!仲間は擁護!無理でしょう!?」

 

 ボブボブとクッションを殴りながら顔に熱が集まるのを実感する。ティーチさんは笑いながら机を叩く。

 

「馬鹿野郎〜〜〜っ!」

 

 限界だぁ、ともう一度布団に倒れ伏す。

 麦わらの一味への文句はブツブツと永遠に零せる気がする。

 

「……それで、なんで七武海になろうと?」

 

 チラリと視線を向けると大笑いしていたティーチさんは私にグイッと顔を近付けた。

 

「七武海はただの手段だ」

「答えになってない」

「ゼハハハハッ!」

 

 ティーチさんは再び大笑いしながら外へと向かった。多分仲間と合流するんだろう、ここは私に関わる余地は無いから逆鱗に触れない為にも布団の中に戻っていく。日付けが変わる前には眠りたいからね。

 

 

 

 

 

 

「……チッ」

 

 布団の中に丸まって小さく舌打ちをする。中々ボロを出さないな。馬鹿を演じている天才、って感じがする。相手にするのがとても嫌だ。

 

 もちろん、私は七武海の事が大っ嫌いだし、ティーチさんに向けて言った言葉は全くの嘘だ。そして、ティーチさんは私が嘘をついたことに()()()()()()

 当然気付かせる様な、拙い演技をしたのだからその疑惑には辿り着くだろう。

 

 彼は思う筈だ。

 まだまだ未熟だ、と。自分の事を知りたがっているのは敵情視察か、と。

 

 敵情視察っちゃあ敵情視察だけど、私は『海賊の立場』から敵情視察したいんじゃなくて『海兵の立場』から敵情視察がしたいのだ。

 同業者に向けて隠した、としても。敵対者に向けて隠したわけじゃない。

 

「手強いなぁ……」

 

 私が嘘をついたからこそ、ティーチさんは海賊(わたし)の目的に気付いた筈。海賊(わたし)が知りたいのは、七武海の安否じゃなく、七武海が壊れるかどうか。

 だって私の目には酷い憎悪が映り込んでいた筈だから。

 

 ルフィを海賊王にしたい海賊(わたし)は、強大な敵(しちぶかい)の数が増えるか減るかが重要。ティーチさんが七武海になって、七武海と潰しあってくれるなら万々歳。

 

 黒ひげ海賊団の戦力が合計どの程度か。七武海をどれくらい潰せるのか。七武海を基準にして黒ひげ海賊団の戦力を確認する。

 七武海をよく知っている私なら観察できる。

 

 ルフィの敵は、早めに潰す。

 強大な敵は七武海以上のティーチさんなのかもしれ無いから。

 

 だから、実力を隠しておきたい、強さを隠しておきたいティーチさんはそれを隠した。

 七武海を手段だと言って。

 

 『遠回しな戦力確認』を上手に避けてみせたのだ。

 

 会話として表現するならこうだろう。

 

 『七武海好きー(嫌い)。大丈夫?七武海倒さない(倒せる程の実力持ってる)?』

 『七武海は手段として使いたいから知らなーい』

 

 うん、言い得て妙だな。

 

「……。」

 

 ただ、海兵(わたし)が知りたいのはその『手段』の方だ。

 

 七武海になってしようとした目的は、『七武海』にならなくても出来るのかどうかの確認。

 七武海になる事で起こす事柄(海軍にとって忌避すべき事)は、七武海になってない今でも出来るのかという。

 

 ──『七武海は()()()()()()

 

 他にも、手はあるという事ね。

 

 

 化かし合いでは私の方が少し上手だった様だ。

 これがおつるさんだったら海賊、海兵どちらの私の疑問を答えさせる事が出来たんだろうな。

 

 うん、まだまだ甘いという事。

 

 まぁ海兵(わたし)の知りたいことを探れただけ良い方か。二兎追うものは石ころ程度しか手に出来ないから。

 

 

「おやすみぃ」

 

 お次は『目的』を探ってみますか。直接的過ぎて探れるか分からないけど。

 いや、それよりシキに本腰入れた方がいいな。

 

 

 ちなみに独り言も聞かれている事前提だ。

 

 

 

 ==========

 

 

 

 ビビは遭難して約1週間、カルーとメリー号と共にあちこちを駆け回っていた。

 

「ッ、メリー君お願い!」

「了解だよ!」

 

 カルーに跨ったビビが縄を持ってメリー号を呼ぶ。そのメリー号は、ビビのもつ縄を腰に着けた状態で自分の体以上の木槌を軽々振り回して怪物の脳天を思いっきり潰した。

 

「よいっしょ!」

 

 しゅるりと木槌の大きさが小さくなる。それを確認したビビは縄を引っ張った。

 

「この作業、だいぶ慣れてきたね」

「メリー君がいて本当に良かったわ」

 

 カルーの背に戻ってきたメリー号がビビと笑い合う。

 

 メリー号は槌限定で大きさを変えることが出来る様なのだ、しかも本人に重さは関係ない。

 恐らくメリー号の元であるクラバウターマンが木槌を持っているからだろう。

 

 大きさを変化させるのは体力を使う上にほんの数秒。それでも1週間、このでこぼこトリオが生き延びたのはメリー号特有の能力に気付いたからだった。

 

 

「メリー君!あれ、町じゃないかしら!」

「うんっ、多分そうだよ!」

 

 不思議な形をした木に囲まれた集落を発見し、笑顔を見せるビビとメリー号。しかしカルーは嫌そうに顔を歪める。

 

「ぐえぇっ」

 

 チョッパー程ではないにしろ、カルーは人間より嗅覚は優れている。

 苦しそうに唸り声を上げるも覚悟を決めて飛び込んだ。

 

 生物にとって有害な成分を放つ木の元へ。

 

 

 

「ビビ、でっかい電伝虫がいるよ。多分見つかるのダメだと思う」

「そうね……。隠れながら、どこか休める場所を探しましょう。皆も見つけないといけないし」

 

 貧しい村の様だった。

 ビビは奥歯をギリリと噛み締める。

 

 王女として、人の上に立つ者として、少し観察しただけでもこの村の生活水準が低いことが分かる。それは文明や文化ではなく、人為的に。若い人手が無いことから虐げられた村なのだとハッキリ分かる。

 

「(人の命は……道具では無いのに…!)」

 

 悔しいと今嘆いても何も変わらない。

 そのために自分は考える頭があり、動ける足があり、話せる口があるのだ。海に出て、強くなると決めた。

 

 こんな、無茶苦茶なおままごとで悲しむ人々が少しでも減るように。海賊である以前にビビは王女なのだから。

 

 

 物陰に隠れて電伝虫をやり過ごした2人と1匹はふぅと無意識の内に緊張で止まっていた息を吐く。

 

「最近流行りの下剋上がこんなにも大変だなんて思わなかったよ」

「さいきんはやり」

「僕人間には疎いけど、すっとこどっこい七武海とか奇天烈政府が僕らより上だったのは分かるよ?」

「ふ、普通に七武海と政府じゃダメなのかしら。その語彙はどこから手に入れたの?」

「リィン!」

「……ちょっとそんな気はしてたわ」

 

 リアル災厄は居なくても影響を与えるのである。幼馴染はため息の代わりに苦笑いを零した。おまいう案件(ブーメラン)に気付かぬまま。

 

「あれ?ビビ?」

 

 聞きなれた声が突然耳に入り、それぞれが顔を上げた。逆光に思わず目を細めたが、その声に、顔に、ビビは『彼が居れば絶対大丈夫』だと確信した。

 

「いやー、良かった!3人とも無事だったんだな!」

「ちょっとルフィ、早く中に入……ってビビ!良かった、カルーとメリーも一緒なのね」

 

 そして彼に続き顔を見せたのは攫われていたはずのナミだった。

 

「ルフィさん!それにナミさんも!」

「話は後よ、とりあえず建物の中に入りましょう」

 

 仲間と合流出来た彼女達は安堵の息を吐いて、ルフィに続き民家に入っていく。その姿をこっそり電伝虫は捉えていた。

 

 

「ビビちゃん!無事だっだねぇ!」

 

 シャオという名前の少女を助けたゾロとチョッパーが転がり込んだ家で一味の半数以上が集う。それもそうだろう、この村は唯一の村だ。

 

「居ないのは……あっ、どうしよう安心してる」

 

 ウソップの言葉に全員はこの場に居ない面子の顔を思い浮かべる。

 

 ロビン、フランキー、ブルックという良識と知恵を持つアダルトリオ。そして単独行動が得意なリィンだ。1人にさせてはならない面子はこの場に揃っている。

 この4人であれば、それぞれがバラけていても、誰かと組み合わされても問題はあるまい。

 

「……ひとまず何も知らないビビ達のためにも情報整理をするわ」

 

 ナミの一声で視線は全て集まる。

 1週間サバイバルしかしてこなかったビビにとってはありがたい話だ。

 

「ここは空飛ぶ群集島メルヴィユ、それとダフトグリーンって言う不思議な木に守られたこの村は唯一の村」

「じゃあ先にダフトグリーンだけど、この樹木は毒だ。もちろん人間にも毒なんだけど、カルーとビリーは特に気を付けてくれ」

 

 クエッ、というカルーの鳴き声に続き、聞きなれない鳴き声が続いた。カルーと同じくらいのサイズで、カモとクジャクの特徴を持った黄色い鳥だ。一体この生物は何者なのだろうか。

 ビビが首を傾げているのに気づいたナミは苦笑いで説明を加えた。

 

「ビリーはシキの所で生み出されたクリーチャーよ。脱出する時に助けてくれたの」

「そうなのね、ビリーさんありがとう」

「クォ〜〜〜!」

 

 誇らしげに鳴くビリーにカルーが先輩風を吹かせてクエクエと会話をしている。頷き返すビリーもビリー、人間じみている。

 

「このダフトグリーンによってかかる病がダフト。毒だからな」

「トニー君、それは治せないのかしら」

「一応治せるさ。I.Qって言う花が特効薬の原料らしい。でも、それは」

「……もしかして、シキが独占している?」

 

 ビビの指摘にナミは首を横に振った。

 

「それだけならいいんだけど、あんた達外にいる怪物……クリーチャーに遭ったでしょう?」

「えぇ、デタラメな強さを持った生物達ね。メリー君が居なければタダじゃ済まなかったわ」

「I.QはS.I.Qという、生物を凶暴化させる薬品に使われているの。つまり外にいるクリーチャーはシキの手によって生み出された化け物なのよ」

 

 シキはこんな怪物を生み出して何を目的としているのだろうか。これはナミにも分からない事だった。

 

「ルフィ、どうする」

 

 沈黙を保っていたゾロが船長に意見を仰いだ。

 

 腕を組んでルフィは少し考える。

 

「シャオはゾロ達を助けてくれた恩人だ。困ってるなら助けてやりたい。でも、相手は海賊王のライバルだった奴、なんだよな?」

「まァ、結局どうであろうと強い。それは違いない」

 

 ルフィは正直な気持ちを吐き出した。

 

「俺じゃ、まず勝てない」

 

 ビビはその言葉に思わず息を飲んだ。しかしどうだろう、ゾロもナミも、ウソップもサンジも、その顔に不安の色は無かった。

 

「俺たちは負け越しだ。負けて、負けて、負けて。それでもまだ誰一人欠けることなく生きてる」

 

 ルフィはちらりとメリー号に視線を寄せて二カリと笑った。欠けてない、1人として。

 

「でも、俺たちなら、勝てる」

 

 その目には絶対的な自信があった。

 

「まぁ俺考えるの苦手だから諦めない事しか出来ないんだけどな!」

 

 あっけらかんと笑い出したルフィにナミはゴツンと頭を叩いた。仕方ないとばかりに苦笑いを浮かべている。

 

「あんたの出来ないことは私達が補うんでしょ、船長」

「そうだぜ船長。いつだったかお前言ってただろ、俺に出来ることは敵をぶん殴ることだって」

 

 ウソップがからかうようにルフィと肩を組む。ビビにとっては知らない話だ。

 

「そもそも、ルフィは勝てるはずない敵に勝ってきた。弱気になるなよ、船長。あんたには強い仲間が着いてんだからよ」

「別に弱気になってねーよー!」

「どーだか」

「ま、どうでもいいな。ルフィならやれるだろ」

 

「(やっぱり、凄いなぁ)」

 

 ビビもこの一味に入って長いが、やはりこの5人には特別な絆で結ばているような気がする。これが、麦わらの一味。

 東の海からやってきた未来の海賊王の一味。

 

 

「(これが、私の仲間)」

 

 左手をぎゅっと包み込む。

 見えないバツ印が勇気の源だ。

 

「勝とうね、ビビ」

「うん、ありがとうメリー君」

 

「ロビンかリィンが居れば違った作戦思い付くんだろうけど、私、提案があるの。──もう1回シキの所に戻ろうかなって」

 

 ナミの言葉を聞いて、あまりにも危険な作戦に一味は難色を示した。

 

 しかしルフィの分かったという一言に、ナミは笑みを浮かべたのだった。

 

 

 

 

「……女狐が出てくるかもなァ」

 

 ルフィのちょっとした予想に、小さな狐はクシャミをしたという。

 




ぶっちゃけリィンと黒ひげの心理戦超楽しい。
シリアスになりきれてない感あるけどシリアス続くと発作が出るのでギャグという清涼剤を所々投入していきますぞ。


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第204話 親譲り兄譲り、パパ譲り

 

 シキの膝元にある酒場で黒ひげティーチさんとつるんでいると声をかけたれた。

 

「あら、リィン?」

 

 どう考えてもシキと敵対している麦わらの一味の私とティーチさんが一緒にいるのはいかにも敵対しますよと言っている様なものだが、まずは興味を持たれることだと疑惑の可能性を切り捨てた。

 

 曰く、私が麦わらの一味に潜入している黒ひげの一味にすればいい。

 

 まぁそれは指摘されればの場合だけども。古馴染みという点ではあながち間違いでは無い(白ひげ海賊団関連)ので表に出だした。

 

「……えっと」

 

 私を呼び止める声のする方向に視界を向けると黒い艶髪をポニーテールにした女性がいた。ドレスコードを守っているわけではなく、ラフな服装の様だ。

 

 彼女の連れに目を向ける。ガタイのいい水色の髪の男と骸骨……。

 

「あ、ロビンさんか」

「ちょっと待って、今私だって分かるのに時間かかったわね?」

 

 ニコ・ロビンはナミさんと違ってありがちな特徴しかないもん。目鼻立ちの彫りが深いって言われてるの聞いた事あるけどそんな細かい違いが分かるわけない。

 

「仲間か」

「ここまで来ると私が迷子ですね」

 

 ティーチさんの声掛けに返事をするとニコ・ロビンは腕を組んで値踏みするように私達を眺めた。

 

「……古参さん。まさかとは思うけど、1度とはいえど船長の首を狙った海賊に乗り換えたの……?」

 

 ニッコリ笑顔で宣った。

 隣にいたティーチさんの笑みが引き攣っている。

 

「あらあら新入りさん達御機嫌よう。ご存知無いかと思うですが私と船長は兄妹ですのでご安心を。それよりロビンさんの方が不安ですが。ねェ、悪魔の子」

「ふふっ、ご高説を賜り恐悦至極ね」

 

 ニッコリ笑顔で言い返した。

 隣にいたティーチさんの顔がすっごい引き攣っている。

 

「……お前らルフィが居ないと仲悪いのか」

「敵でしたからね」

「今でも敵だけどね」

 

 物騒な言葉にフランキーさんがぎょっとする。ブルックさんもなんか反応してるけど私はそっちを見たくない。

 

「絶対こしあんの方が美味しいのに」

「つぶあんの食感の良さが分からないだなんて可哀想だわ」

 

 敵対理由としての言い訳にフランキーさんがずっこけた。

 

「お前らホントは仲良いだろ」

 

 呆れながらの指摘に私はニコ・ロビンを見る。つぶあんこしあんはブラフだ。

 だからこそ嫌悪を顔に出した。

 

「……ちょっとむりですね」

「好み云々を除いて、私は彼女を麦わらの一味の異物としか見れないの」

「古参に向かって異物呼ばわり。はー、大体敵大将から乗り換えた女がもう一度乗り換えない保証が無いのでね。信頼どころか信用も出来ませんよ心では」

「裏で動く事が多くて信頼出来ないのよね。どこか一線引いて観察してるみたいで少し気味が悪いわ。命の危機に瀕するとすぐに仲間を売るタイプよ彼女は」

「自己紹介ですか?」

「生意気ね、堕天使ちゃん」

 

 ニッコリ笑顔で遠慮なく言い合う。ニコ・ロビンこういった面で私の本質捉えて来るから嫌い。

 嫌いだけどストレス発散にはなるんだよな。私は普段雑魚辺りの海賊のストレスを溜めさせてキレたところを盛大に落とし穴に嵌める方法しかストレスの発散法がなかったからなぁ。雑用時代から。もう周りにストレスの発生源しかなかったし。

 

 そう考えると海賊万歳だね。ストレスも少なくてニコ・ロビン相手に発散出来て。

 

 ……転職しようかな。

 

 ニコ・ロビンもストレス元だけど様々な業界のストレスと比べれば楽だと思うんだ私。逃亡生活できる位の伝手は作ったしなんなら手配書は脅す。

 

「ティーチさん別行動可?」

「かまやしねェが、一応戻って来いよ。去るにしても何にしても」

「はーい」

「……ラフィット、付いてろ」

 

 信用ならねぇ。そんな心の声が聞こえた気がした。

 はい、ぶっちゃけシキ討伐の共闘同盟組んでるけど気を配る必要性を一切感じないので何か決定しても何も言わないつもりでした。面倒臭い。

 

 漁夫の利、って知ってるかい。

 

 知ってんだろうなぁ、馬鹿になった天才だから。

 

「それで御三方、ルフィ達と会いますた?」

「いや、俺たちはバラけてからずっと一緒に居るが他のメンツとは会ってないな」

「海に落ちてないといいのだけど」

「物騒な事言うなよ」

 

 ふーん。なるほどね。

 まずは一味の合流が先、かと思っていたけどナミさん救出が先になりそう。

 

 ちなみに人質に取られた場合全力で見捨てるつもりだから支障は無い。

 

「ここに唯一村がある様なので集まるにしてもこちらかあちらか、になるとは」

「ヨホホホ、それはそうですね。リィンさんはこちらにいらっしゃるつもりで?」

「空を飛べぬのが残念ですがここ以外に建物らしき物は無きよですぞ。まぁつまり、最終到達地点がここだと思うので行き違い防止で離れるつもりはありませんです」

「じゃあ俺達が動く方がいいな」

「ええ、そうして頂くしますと有難いです」

 

 言い方が悪いのは分かってるけどお子さん達が居ないと話が楽。実用的で現実的。

 

「少なくとも現在サニー号には居ないという事が分かっているのでそれは共有を」

「あー、えっとリィンは個人で電伝虫持ってんだったか。高いのによく個人、しかもでかい奴手に入れたよな」

「雑用時代連絡手段が無いのは不便ですた故に」

「なるほどそれで。サニー号には電伝虫常備してありますもんね」

 

 1日3回くらい念の為掛けてるけど重なった事がないので多分サニー号を拠点には置いてない。

 これからどうしようかなー……。センゴクさんに聞いても弱点とか攻略法が無かったんだもん。海楼石とか海水を上手く使うしか出来ないか。一応もう一度聞いてみるかな、調べてくれてるだろうし。

 

「多分その村より黒ひげティーチさんの船の方が近いのでいざとなればそこを拠点に」

「待ってくださいウチはホイホイと敵を招くほど貞操観念緩くないんですけど」

「そんな処女みたいな事ぞ言うされても。ほら、協力。人間でしょ?」

「圧倒的な理不尽に既視感を覚える」

 

 ラフィットさんそれ多分七武海。

 まぁ言わずに黙っておこう。私にとっても地雷だ。

 

「んで、そいつらとはどんな関係だ? 少なくとも俺とブルックは初見……だよな?」

「へ?あ、はい、恐らく。有り得ませんし……」

 

 何かを考えていたんだろう、フランキーさんの言葉にハッとしたブルックさんが肯定の意を示すが、ボソリと意味深な事を呟いた。けれど、彷徨っていた時間を含め会ったことは無いだろう。

 

「んー。方向性の一致ですかね」

「駆け出しのバンドマンみたいなこと言われてもよく分からないわ」

 

 私は顎に手を当ててこれからのことを考える。

 なんと説明したらいいか。

 

「古馴染み……?いやでも会ったことは無いですし……。とりあえず保護してもらった、が正解ですかね。目的はシキの親分に取り入るって意味で」

 

 周囲に耳があるので言葉は取り繕う。寝首かこうとしている事は伝わるだろうし、この人達なら。

 

「そう。まぁルフィとシキの親分の力は雲泥の差だもの、ごく普通の判断よね」

「ええ。という事なので合流したらよろしくお願いしますです」

「仕方ないわね、分かったわ」

 

 脳内変換の意味合いと速度が似ているニコ・ロビンとは言葉を取り繕ってもサクサクやり取りが進む。いやー、嫌いだわー。その分私が取り繕った他の事もほぼリアルタイムで理解出来てしまうんだから!

 

 ニコ・ロビンは立ち上がって出口へと向かう。フランキーさんとブルックさんもそれに続こうとした。

 

「あ、そうだフランキーさん。これコーラ」

「……? なんで持ってんだ? しかもこれ炭酸抜けてねぇし」

 

 フランキーさん加入からアイテムボックスにコーラは樽で常備している。なんでフランキーさんやサニー号の燃料はコーラなのか眠れないほど悩んだけど、ともかくコーラは流石に1週間近く経てば樽なので炭酸が抜けてしまう。

 

 しかし私が取り出したのは瓶入りの炭酸が抜けてないコーラ。

 

「私実はナミさんの分野も得意なのです。身体ぞ勝手に動くと言うか」

「ナミ?」

「あぁ、そういうこと」

 

 ニコ・ロビンは分かったみたいだが、ナミさんの本職は航海士だけど泥棒だという事は超新入りのフランキーさんとブルックさんには分かるまい。

 私はドヤ顔で告げた。

 

「真っ当な犯罪行為で手に入れるした故に気にしないでください」

 

 本日何度目かの引き攣った笑みを見た気がする。

 

 

 

 ==========

 

 

 

 3人が去った後、ラフィットさんが潜入調査(物理)に戻った。私は黒ひげ海賊団に戻る間の空いた僅かな時間でセンゴクさんに連絡を入れた。

 

『おかき』

「あられ」

『状況はどうだ。デモンストレーションまで時間が無いと踏んだが』

「麦わらの一味の戦力は怪物を何とか無傷で倒せる様です。ニコ・ロビン達は生き延びていたので、恐らく全員。──それでその唯一の村に向かうして貰うしたです」

『馬鹿正直に頼んだのか?』

「いえ、ルフィ達がそこに居ると踏んだので合流という名目で。ぶっちゃけ村を見捨てても私としては無問題なのでそこからシキ本拠点に来てもらうか……。まあ麦わらの一味次第ですね、村の事は」

 

 唯一の村、という場所がどんな所か分からない。でもそこに麦わらの一味が1部だろうと居るのは確かだ。

 若い働き手がシキの酒場に居ることは確定。そして肘辺りに羽根のような何かが付いている。

 

 学者あたりは生物的な観点で保護を求めるかもしれないし、罪の無い一般市民を助けたいのは本音。でも、シキを潰す前に余計な体力削って欲しくない事も本音。

 

 全がこれから向かわれる東の海(イーストブルー)なら私は個である村を切り捨てる。

 

『合理的だな。反対は無い』

「それは良かったです」

『それで肝心のシキに関して作戦の目処は立っているか?』

「いやぁ、それが全く。戦力が足りぬすぎて」

『……ほう?私はブランク有りのシキなら麦わらの一味だけで完遂出来ると踏んでいるんだがな』

 

 いや無理だって。だって四皇レベルだよ?全盛期センゴクさんとジジが我武者羅無計画シキをなんとか捕縛出来たんだよ?無理だって。ホント。

 

「ボケますた?」

『いい度胸だ。まとめて覚悟しろ』

「申し訳ありませんです」

 

 つい本音が出た。ドスの効いた声に思わず姿勢を正す。

 

「あー。私現地で一海賊団協力を得ますて」

『……むしろなんで得られるんだ?』

「それが黒ひげ海賊団なのですよ」

 

 名を言うとセンゴクさんは押し黙った。電伝虫がセンゴクさんを真似て深いため息を吐くと、再び口を開いた。

 

『…………私はお前のそういう所に関しては全く微塵たりとも敵わないと思っている』

「褒められるしてます?」

『微妙に褒めているが大半は呆れだな』

 

 色んな人間味方に付けるルフィには敵わないので私は下位互換だと思います。どうせ協力者止まりが殆どだし。

 ……まっ、私が信頼も信用も置かないからなんだけど。

 

「今回連絡入れたのはその報告もですが更に情報が欲しいからなのです」

『情報?』

「シキの揺さぶりです。精神的に攻撃を入れて肉体にも影響を出したい」

『脅しネタ、……いや動揺を誘うネタか』

「戦略的癖は期待して無いですので」

 

 思い返しているのか電伝虫越しに悩む姿が簡単に想像出来る。電伝虫はセンゴクさんの動きをトレースして首を横に振った。

 新たな情報は無いらしい。

 

「ちくしょう!なら海賊王の一味と例の〝幻〟ってクルーについて!」

『濃すぎて説明出来るわけなかろう』

「あ゛ーーー……ッ、ちょっと分かる」

 

 レイさんとフェヒ爺だけでもあんなに濃いのにその船長が濃くないわけない。

 

「……エースネタで釣ろうかな」

『止めておけ』

「ですよねー。ハー、面倒臭い」

『……まぁ【エース】というのは確かに言い得ているが。はァ、なんとなく辞めておいた方がいいか』

 

 小さな声でブツブツと情報整理しているのか頭を悩ませている。うーん。海賊王一味が取っ掛りやすいと思ったんだけど。

 

「幻ってシキと会った事無いんですよね。じゃあ誰かに幻のフリ……、私が幻のフリぞするは可能ですかね」

『色々手を加えたら出来ないことは無いと思うが、ロジャーがどんなフィルターを通してシキに話してるか分からん。それにお前は微塵もロジャーを知らんだろう』

「……逃げるのが嫌いなのかなー、程度ですね。戦闘スタイルすら知りませんし、ぶっちゃけ死んだ人間に興味は沸かぬのでレイさんにも聞いた事ありませんです」

 

 傍迷惑な存在だと言うことは知っている。

 私は頭をガシガシかいて電伝虫を見た。

 

『お前目が据わってるぞ』

「自覚はしてるです」

『それにな、幻は恐らく男だ。黒髪の女顔だったがソレに化けるよりは…──待て、お前自分を忘れてないか?』

「忘れてませぬよ?」

『違う、お前個人の価値だ』

「伝手の多さ?」

 

 首を傾げるとセンゴクさんはもう一度ため息を吐く。失礼な。

 

『お前の親は』

「センゴクさんじゃ……。あっ!」

『はーーー、このバカ娘が』

 

 私の親は海賊王一味。私自身がカードになることをど忘れしていた。

 




レイリーの事を『お父さん』などと呼ばずに『レイさん』と言っているのは無意識に他人のジャンルに入れてるからですね。
次回からようやく物語が進展します。理由は構成が浮かんだからです。長らくおまたせしました。……いやほんと、この章は改変が浮かばなくて浮かばなくて、トレースだけは嫌なので。何度目かの言い訳になると思いますが。


ところで今年が終わるとか信じられる?今年全然更新出来てないよ?そして秋はどこにあった????


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第205話 クレイジーちゃん

 

 私の電伝虫に一通の連絡が入った。

 

『あーあー、こちら狙撃手。合言葉を言え』

「合言葉」

『よし──いやなんだよそれ──なんか適当に言っときゃ反応で雑用だって分かるだろ──こっちにはナミ以外全員居るぞーリー!──あっ、バカ、折角名前言わない様にしてたのにコイツ!』

 

 電伝虫の先はいつもの様子の一味。ナミさんが居ない事で焦っているという事は無かった。

 理由は簡単、ナミさんが1度抜け出して合流した後シキの元に戻ったから、だろう。

 

『時間がないからさっさと伝えるぞ。お前はナミとなんとか合流してくれ、出来るか?』

「えぇ、もちろん」

『ひぇ……流石だな……自信たっぷりかよぉ』

「こちら現地で協力者を得るしてるです、まあ後で兄に売るんですけど。目的は一緒だと思うしてください。ロビンさん達から聞いていますよね」

『ナミ以外はな。そっちに協力者が居るって尚更安心した。俺たちは準備整えて乗り込む。異論は?』

「ありませんです。雑魚潰しは必要ですか?」

『どうするルフィ。やって貰っとくか?──んん、リーはナミの傍に居ることだけ考えてくれ』

 

 余計な作戦を挟む必要の無い判断。シンプルでわかりやすいし、シキ側もシンプル過ぎて対策も取りにくい。相手は歴戦、しかも船長と来れば頭は働く。逆に罠に掛けられる可能性がある。今欲しいのは少しの可能性じゃなくて確実性。保険は一応あるけれど、失敗は出来ないのだから。

 

 

 私は黒ひげ海賊団の動かし方を指示して早速乗り込む事にした。先陣だ。

 

 

 

 

 

 シキの酒場。奥に向かう扉に進もうとすると係らしき人に止められた。私はそこら辺の海賊に顔を見られないようマントを着てフードを深く被っている為、中身はバレてない。注目を集める為に態としている節があるので一石二鳥だ。

 

「困ります、ここから先は」

 

 私は不思議色の覇気で扉を開いた。

 

「金獅子のシキにお目通り願うッ!私はロジャー海賊団の関係者!話ぞしたい!」

 

 届くように大きな声で。シキに届かなくったっていい、幹部の、それこそ古参連中に届けば、声が届けば。

 必ずシキの元まで行けるキーワードがある。

 

──ジャキッ

 

 子供の、しかも女の声だと分かっていながら周囲は銃を突き付ける。正直めちゃくちゃ怖い。だけど私は動じてませんアピールとしてその場で正座をした。

 

 バタバタと慌ただしくなる。

 

 私はただ待った。

 

「ピーロピロピロピロ!」

 

 おかしな笑い声と、シーナが履いていた靴で歩いた様に間抜けな足音が響く。

 ピエロの様な顔にマフラー、そして白衣。

 

 くそう、そこはかとなく青い鳥(ブルーバード)代表選手、名無しのピエロ・シーナの陽気バージョンみたいなキャラしてる。キャラ被りは殺さなきゃ……!絶対監獄入れてやる……!

 

「俺はDr.インディゴ、お前だな、堂々とやってきた侵入者は」

 

 グッ、と息を飲む。やばい、この人陽気なキャラに見えるけど結構強いかも……。

 それと声でイラッッッッとする。私に毒薬実験諸々をしていた主治医のマッドサイエンティストの声に似てる。すっごい腹が立つ。キャラ被り厳禁だぞミックス男め…!

 

 おっけー、落ち着こう。落ち着こう。多分年代的にこの人の方が先に産まれた。私の知ってる人達の方が後。

 それに私はキャラ被りなんてしない。そういうキャラを潜入時作っているから大丈夫。私はきっと大丈夫。

 

 ふぅーー。

 

 私はため息を吐いて心を沈める(自分の感情排除的な意味で)と、もう一度口を開いた。

 

「貴方は、古い時代の海賊ですか?」

「それはどういう事かな?」

「……ロックスの時代、とかの」

 

「…………それより少し後だな。それでそれを聞いてどうなる」

 

 私はカラリと笑ってフードの下からインディゴを見た。顔がわかる様に。

 このインディゴに麦わらの一味だとバレるのは致し方あるまい。ほかはやめておきたいけど。

 

「いやァ、自分の知識ぞ通じるか確認ぞしたかったのみです!では……──パーレイを宣言します」

 

 インディゴは表情を変えた。

 古い時代の言葉だからなんで私が知っているのか、といった意味だろう。

 

「もう一度言うです。……ロジャー海賊団の関係者です、パーレイの権利を主張するです」

 

 震えているのがバレないように、自信満々で笑ってみせた。

 

 

 

 

 そして私は、危害を加えられること無く金獅子のシキの元へと交渉(パーレイ)を出来る事となったわけだ。

 

 

 

 

「ジィハハハッ! 麦わらの一味の小娘が! まさかパーレイの権利を知ってるだなんてよォ! 俺ァ懐かしくて懐かしくて! さてはお前……エースか!」

「なわけあるか!」

 

 ジハハジハハと大爆笑するシキに思わずツッコミを入れてしまう。シキのそばに居たのかナミさんがドレスを着て控えている。ナミさんはギョッとした目で私を見た後、シキに問いかけた。

 

「あの、パーレイって。リィンに危害は加えない、もの、です、よね?」

「交渉次第だな」

「パーレイというのは昔の海賊の用語で、宣言すると交渉ぞ終わるまで危害は加えられませぬ」

 

 シキは私の無礼や説明なんて気にも止めないで話の続きを促した。

 

「私が求めるものは、親の情報。貴方に与えるは私の能力。天候に左右されやすきフワフワの実なれば、ナミさんのバックアップが可能性です。天候を読む事は出来ませぬが、避けられぬ天候は私が払うます。故に、私をここに置くしてください」

「お前の意見はどうだ、ベイビーちゃん」

 

 シキは自分の意見を発する前にナミさんに問いかける。私をよく知らない自分の判断より、よく知っているナミさんの意見も経由した方が確実な情報を手に入れられると思ったんだろう。

 

 ありゃあ、この人海軍に特攻仕掛けた癖に頭が回る上、用意周到。って感じの性格持ってるね。

 面倒臭いったらありゃしない人種だ。

 

 センゴクさんが弱点だとか攻略法を思い浮かばないって言った意味がここに来て分かった。

 

 ……下手したら攻撃ローテーションの持久戦になるぞコレ。

 

「リィンは、私が倒れて読めなかったとき、航海士の代わりをしてくれていた、と聞いています。役職欠けの時も彼女が基本代理を。……彼女が居なかったら私たちはボロボロだったから、間違いなく有用性は高いです。でも、戦うとなると……」

「無理ですね!そういう訓練は受けてませぬ」

「あっ、あと海を操れるわ。その、船は浮いているから問題ないかもしれないけど……」

 

 ナミさんは私が飛ぶことは言わなかった。

 箒が壊れた今、その判断は正しいだろうけど、こう考えるとシキと私の能力って……。

 

「似てる、かも」

「……私も思ったわ。リィンの能力」

「私の能力の名前は、フワフワの実関連なのかも、知れませんね」

「ほう……?」

 

 どういうことだと目で訴えて来るので、私の能力の設定に付いて説明し始めた。

 

「悪魔の実の名前を知らずに能力者に。秀でた1点はありまぬが、オールマイティな能力だと思うです。物を浮かす、為に風ぞ操る。風の摩擦で火を起こす。全部イメージが強ければ強いほど力になるかと」

「なんでもできるのか」

「可能な範囲ならばなんでも。打ち合えば火力不足で押し負けますが、恐らくシキさんの技はトレース出来るものかと」

 

 シキはニヤリと笑った。

 

「良さそうだ。利点がある」

 

 ホッと一息を吐きたいのを我慢して笑い返す。ナミさんは可愛い可愛い言わないでお願い、今は交渉の時間なの。

 

「さて、親の情報だったか。親の名を聞こうか」

「はい。ただし、ナミさんは退出を」

「えっ!?」

 

 驚いた顔をしたナミさんが私を見た。

 

 えっ、むしろ聞けると思ったの?今の間に準備やらなにやら出来るよね?一応侵入者である私がいるんだから。

 

「ベイビーちゃん、温室に戻ってな」

「……はい。リィン、後で来てね。お願いよ、私貴女が居ないと」

「だから私がここに来たんじゃないですか。姉代わりを見捨てられないから全てを裏切るして、全部を捨てて!私の事好きですか!」

「愛してるわ!」

「ならさっさと去る!駆け足!」

 

 元気よく返事をして明るい表情をしたナミさんが駆けて行った。

 ナミさん、私が大好きだからなぁ。きっとシキはこのやり取りで『相思相愛のお互いがお互いの人質になれる』と確信したはず。私がデレを作ったからいつもよりテンションの高いナミさんは、私がここにいる限り裏切らないだろうと。

 

 心の中で鼻で笑う。

 

 ナミさんの1番も、私の1番も、互いじゃないし。私ならナミさんを切り捨てられる。己の命の方が重い。

 

 

「美しき姉妹愛、泣かせるじゃねぇか」

「実は今回の件が起こらなければ盃を交わそうかと」

「おーおー、そりゃ邪魔しちまったなぁ。つまり俺と親子盃を交わせば自然と姉妹になるってわけか」

「はい!実は私に利点しか無いです。ただナミさんの所に居たい、と。私の望みはそれだけ」

 

 私は口だけで笑う。

 

「その為なら私はシキさんに忠誠を誓うです。親子としても、手駒としても」

 

「お前……望みはそれだけじゃ無いな?」

 

 明らかに作った笑みを浮かべていたのでシキは指摘を入れた。そうでしょう、演技下手でしょう?『私』って。だからこれから言うことが本音なのですよ。『私』の。

 

「バレ、ますたか。えぇ、正直望みはもう1つ存在するです。東の海(イーストブルー)にはナミさんの姉がいるので……」

「やめて欲しい、と?」

 

 私は目を細めて狂った様な表情を作り笑った。

 

 

 

「いいえェ、その逆です」

 

 

 シキは目を見開く。私は気にせず追い討ちを掛けるよう言葉を続けた。

 

「ルフィは最弱の海を守ろうとしていましたが、私は東が憎い。ナミさんの姉が憎い。憎くて、憎くて、憎くて、憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて!──だから壊れてしまえば私にしか依存しなくなりますよね」

 

 私は体を抱き締めて震えを押さえる。

 

「嗚呼……楽しみ過ぎてどうにかなりそう……!私だけの家族、ナミさんが、姉代わりが姉になって、私だけがナミさんの姉妹になれる!ずっと!ずっと!」

 

 私が口角を緩めて叫ぶとシキはそれに負けないくらい笑い始めた。

 

「ベイビーちゃんに言えないわけだ」

「実の親に、興味はあります。知りたい。でも家族の絆を大事にするナミさんに家族想いのフリをしておかなければ。居ない親を探すのはもう充分、だって、シキさんがパパになってくれるんでしょう?子は親に従う物です、でも、私を愛してくれるですか?私は家族が欲しくて、欲しくて、欲しくて……ずっと欲しくて……!」

「ジハハハ!良いだろうその狂い具合い気に入った!今夜盃を交わす、お前も来なァ、クレイジーちゃん」

 

 周囲にはドン引きされているというのに、シキは大分心が広い。

 

 ……まぁどちらかと言うとシキの世代が濃すぎるんだと思う。私多分まだ薄い部類だと思うよ。レイさんとフェヒ爺見てたら分かるもん。

 

「あ、でも実の親に関しては興味あるのでお願いするです」

「……クレイジーちゃんは親の名を分かっているのか?」

「はい。東の海(イーストブルー)にはギャバンさんが、そして白ひげ海賊団にも縁が。それとエースとも」

「ほう。()()エースと」

「あのヤローには迷惑ぞぶち掛けられますたが同じ穴のムジナ故に」

「黒髪の野郎だったな、確か。へぇ、話にゃ聞いていたがまさか会ってるとはな」

「馬鹿ですよ馬鹿。驚きですた」

「ジハハハ!そりゃ仕方ねェ、なんせあのクソッタレ海賊団の、だ!イカれた野郎じゃなきゃ血筋も何もかも納得出来ねェ!」

「それ私にも突き刺さるですねぇ!?」

 

 私が必要最低限の情報を全てだというような表情で告げれば、「親を当てる」と言って考え始めたシキ。

 話を聞いた上で、私の顔を見たので確信したのかシキはニヤリと笑ってきちんと当ててきた。

 

「レイリーとカナエか」

「お見事!冥王と戦神ですね」

「ジハハハ!レイリーの野郎の成分が髪色にしか現れてねェじゃねェか!それに…………随分と反応が淡白だなぁクレイジーちゃん」

「私ぞ捨てインテルダウンに入るした母親と今まで全くと言うしていいほど関わりぞない父親。親だと自覚ぞする方が難しいぞ、です」

 

 時々眉をひそめていた私の口調。捨てた、という単語で目を見開いた後納得した表情に変わった。上手でしょう、説明もせずに状況を判断させてしまう話し方。言わずとも察してくれてありがたい、私の目的はナミさんということになっているから。淡白で行くぞう!

 

 ナミさんが大好きって設定は笑いを堪えすぎて全身が複雑骨折起こしそうだけども。

 

「レイリーはなぁ、ドSだな」

「どえす」

「あと嫉妬深い。カナエに関しては特に。クレイジーちゃん他人をいたぶって遊ぶの好きかい?」

「希望から絶望に変えるのなれば好きです」

「性格は間違いなくレイリー似だ!」

 

 何が面白いんだろうかずっと笑っている。あとごめんそこら辺は知ってる。レイさんはここ2年間時々ゴミ掃除任務ついでに海賊のレベル調査で行ってるから会話はしてる。ギリギリ。

 

 正直、向こうもいきなり大きな娘が出来ました、って言われても困惑物だっただろうし。私も父親の存在知ってても会ったのは大分経ってからだったから。

 親子って言われてもなァ……。

 

 月組の方がまだ親って感じする。理解が凄い。

 

「父親はシキさんがいるのでもう用済みですね。生みの親は、戦神は?」

 

 椅子に座ったシキがポンポンと膝を叩いた。あー、これ知ってる。七武海がよくやるやつ。

 癒し系リィンちゃん入りまーす!

 

 いそいそと膝の上に行って小動物の様に膝を揃えてちょこんと座った。体格差もあって体勢が不安定にはならない。

 

「カナエはなァ、おかしな奴だった。センゴクの野郎……海軍の元帥に友達になってとせがむ様な変人だ」

「うっわ……」

「ジハハハ!娘がドン引くな!」

 

 そりゃセンゴクさんも話したがらないわけだ。

 

 周囲は馴れ馴れしい私の態度に不快感を覚え……る訳もなく。可愛い私はシキの傍に居ることもあって大丈夫だろうと確信したのかそれぞれが作業へと戻った。親子盃の準備とかだろう。

 

 それでも何か言いたげにパントマイムしているインディゴと、私をじっと見るスカーレットと言うゴリラ。ニッコリ笑ったら動きが止まってコソコソし始めた。おい失礼だな。

 

「他には?」

「あー、予知だな。予言する。俺とロジャーの衝突も予言していた。アレが予言を外す姿は見た事ねェ」

「ふぅん。じゃあ私が1人森を彷徨う事も予知ぞしてたのですかね」

「どーだかなぁ」

 

 頭をワシワシ撫でる手に擦り寄る。楽しいと言わんばかりに目を細めれば完璧懐いている姿だ。

 

 今の私は愛情に飢えています。はい。

 

「クレイジーちゃんは母親に興味があるみてぇだな」

「はいです。なんというか……すごく、異物臭がする?不思議?違和感?ううーん」

「言わんとしていることは分かる。似合わなすぎて俺だって嫌悪を抱いていた」

「話を聞くのみですがチグハグです」

 

 いやほんと何者なんだあの人。興味が無くてあんまり調べなかったから人物像がハッキリしない。

 

 するとチラチラと窓の外に雪が降り始めた。先程まで曇っていたのに。

 

「雪が珍しいか」

「冬島には、1度だけ行くますた。でも、寒くて」

「ジハハハ!だろうな!」

「シキさんはぬくぬくです。多分ナミさんの方がぬくぬくと予想……予知するですけど」

「そうか、予知するか」

「そうぞ、予知するです」

 

 私は子供。私のことをろくに知っている奴はここに居ない。

 

 なら、全力で懐きやすい無知な子供を装えば、転生(はやじゅく)の私には気付かないだろう。

 

 潜入で1番油断されやすいのは女子供。

 

 

 私歴が無い輩に御せるほど私は甘くない。

 

 子供が全員純粋無垢だと思うなよ、こちとら堕天使産の海軍育ち、挙句七武海の担当だ。

 

「ナミさんの所、行くしてもいいです?」

「いいぜ、インディゴ案内」

 

 ピエロ・インディゴはパントマイムで伝えようとするが何も伝わらず全員が首を傾げる。

 

「あ?」

「分かりました」

「いや喋るのかよ!」

 

 キャラブレッブレな所も名無しのピエロ・シーナと似ててムカつきます。

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

「正面から麦わらの一味、裏から黒ひげ海賊団、内側に堕天使。ゼハハハハ!今この浮遊島で考えうる最強で最凶の布陣じゃねェか!」

 

 黒ひげ、マーシャル・D・ティーチは笑っていた。吹雪の中仲間を引き連れ。彼は笑っていた。この歴史を動かす様な出来事に参加出来る喜びに。そして愉悦感に。

 

「楽しそうじゃねェか船長」

 

 ジーザス・バージェスは独立後1番の上機嫌さに釣られて嬉しくなったのか口元には笑みが浮かんでいた。

 

「あぁ、楽しいさ!特に麦わらの一味!あいつらホント面白ェ!白ひげの所でも、ジャヤでも、交流という交流はなかった!時に俺ァ随分前から妹の方には目を付けてたんだぜ!?えぇ!?」

「妹の方の首じゃ弱いと言っていたのは誰だったか……」

「俺だな!」

 

 狙撃手のヴァン・オーガーの指摘に、過剰申告をあっさり認めた黒ひげは更に笑った。捩れるほど、体を曲げて笑った。

 

 無邪気な子供とも思えるオーバーな笑い方。前に捩り、背を反り、苦しいと全身で表現しながら笑い続ける。

 

 壊れた笑いは段々小さくなっていき、落ち着きを取り戻していった。

 

 

 絶え絶えになった息を整えて、ティーチは純粋無垢な瞳でリィンがいるであろう方向を見る。そしてなんの感情も込めずに欲望だけを口にした。

 

「欲しいなァ」

 

 ぞわりと仲間ですら寒気を覚える程の殺気……いや、怪しげな雰囲気だ。殺意なんて微塵もない。だが、ただの欲望に、危機感を抱く。

 

 たかが欲望に、だ。

 

 逃げ出したい気持ちに駆られる。

 

「だがなァ、アレはダメだ」

「どういうことだ……?」

「アレはこれから育つだろうなァ。観察してるのは楽しいだろうなァ、傍に置いたら便利だろうなァ」

 

 ティーチは横目で目標物の方角を眺めながら顔だけを仲間に向けた。

 

 

「──堕天使リィンは海賊(ばか)じゃない」

 

 

「「「……!」」」

 

「一体、どこの。やはり海軍ですかね」

「……その線は薄いだろうな。結局新聞などでエースの事は知らされる。麦わらなら間違いなく向かうだろう。──それを回避する為にスパイがさりげなく情報の入手を遅らせる必要がある。手遅れな時間ほどにな。発言力のある堕天使なら進路選択も可能だろう」

 

 ティーチは考える。

 

「知らないんだよ、堕天使は。エースの現状を。知らないフリをしている演技、じゃねェな。海軍が現状を知らせない意図が分からない」

 

 裏に誰かが操って堕天使が麦わらを動かしているのはわかる。だが、その裏が分からない。

 海軍内だとすれば恐らくセンゴクだろう。

 

 ラフィットは唯一センゴクと面識のある男。恨み言をブツブツ呟いていたセンゴクに限って、それは無いだろうと可能性を高める。

 

「次点で七武海。……クロコダイルはまず無い。ラフィット、可能性は」

「えぇ有りません。1番可能性が高いのはドフラミンゴ氏でしょう。彼はクロコダイル氏をリィン氏が陥れたと嬉しそうに語っていましたから」

「……お前七武海の結束高いって言ってなかったか?」

「おや船長、あくまでも彼らは海賊ですよ」

 

 有り得るな、とティーチは頷いた。七武海にはなれなかったものの、ラフィットが聖地に侵入出来たのは利点だ。少しであろうと七武海と面識を持てたのは今後役に立つ。

 

「その次、謎の組織。恐らく情報屋。その下っ端という可能性だ。マルコが言ってただろう?『俺たちをリークした者がいる』ってよ。まさか俺が勝つとは思ってもみなかっただろうが、堕天使(したっぱ)の兄の手助けって所か。幸い麦わらの一味は台風の目となる貴重な情報源だからなぁ」

 

 

 ティーチは馬鹿のフリをした天才だ。頭の回転も素晴らしい。

 少ない情報で現状を理解するのが得意な。普段は考えずに馬鹿やらかす事が多いが、リィンとの探り合いに触発されて、リィン相手に本気で頭を使ってやろう、と。

 

 ただ、ただ純粋に頭が良かった。

 

 

 

 例えば『麦わらの一味強化作戦を企んでいるから知らせる必要性が無い』という元帥に有るまじき考え。

 例えば『ただ苦しむだけの王にならなくて嬉しい』という海賊に有るまじき考え。

 例えば『トップの兄を排除しようと黒ひげを利用した』という部下に有るまじき考え。

 

 

 その意味のわからない常識外れの考えは流石に予想出来なかっただけだ。むしろ出来たらそれはもう天才ではなく神の領域だが。

 

 惜しいぞマーシャル・D・ティーチ!リィンのとんでも影響力を理解出来たらその領域に突っ込めるかもしれない!

 ……まぁリィンがティーチに対し、『取り込む』ではなく『完全敵対』として警戒心を顕にしている今、絆スキルに気付かないだろうが。

 

「それにしてもクロコダイル。ラフィットの話じゃ色々悲惨な現状にされてたな」

「ウィッハハ!あれにゃ大爆笑したぜ!」

「私は胃が痛いです。なぜあんな非人道的で残虐な始末の付け方が出来るのでしょう。彼女元々海軍雑用ですよね?メンタリティが人間じゃないと思います」

「……ちょっとわかる」

 

 少なくとも戦力の乏しい今、あの毒牙に噛み付かれるのは避けたい。名誉的に。

 そう心に秘めた海賊であった。




モデル、清姫


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第206話 胃痛は誰かに乗り移れ

 

 

 狂気の沙汰ほど面白い。

 

 

 私に演技を教えてくれた人はそう言った。もちろん他にも教えてくれた人はいるけど、長期ではなく短期間で演技をする時はとにかく目立つ様に濃く、と。

 

 不信感があってもいい。

 とにかく目的に合ったキャラ作りを。

 

 濃いキャラは濃すぎる周囲を参考にしたり、物語を参考にしたり、様々だ。

 

 

 例えば、誰かと数分だけ会話して情報を引き出す時は『無邪気で無知な知りたがりの少女』を演じた。引き出す内容は道を聞いたりだとか些細なことも多かったけど。

 実年齢より幼く、笑顔で、光しか知らない、恐れなど知らない、そんな子を。

 

 逆に相手に取り入る時は『執着する物が分かりやすい未熟な少女』を演じる。重たい狂気が向く相手が自分ではなかったら、他人事ならば、読者を惹き込む物語の様に目を向けさせる事が出来る。

 

 

 これが長期間ならば確実にボロが出る。

 短期、短時間限定の話だ。

 

 

 長期間の場合、好感を抱かせるのが一番重要。会話だって本当に近い事しか言わない。嘘の割合は1割。

 自分の弱い所、二面性を見せれば、それがもとより完璧で実力もあるキャラだと親近感が一気に湧く。つまりギャップ。ギャップを隠したがったら、それが『真実』だと信じてくれる、と。

 

 『素の私』が被る『隠したい私』を隠す『演技の私』

 

 隠したい私を見た時、演技の私はあっという間に信じられなくなるけど、その分隠したい私が信じられる。

 素の私に気付かずそこでストップをする。

 

 ニコ・ロビンの様に目敏く疑り深い人は素の私までたどり着こうとするけど。

 

 

 

 とにかく、短期間の演技は、ボロが出やすい長期間と違って得意なのだ。

 

「えへへ」

「リィンが可愛すぎて息が出来ない……」

 

 ナミさんの腕を左手で、シキの腕を右手で抱き締めながらニコニコと上機嫌に笑ってみせる。シキにくっ付いたままなので私とナミさんは自然と上座に鎮座する事になった。

 

 シキは金糸をふんだんに使った見るからに豪華な羽織袴姿。私は襲撃の時の黒いドレスコード。ナミさんはシンプルなワンピース姿だ。

 正直吹雪いている中この格好はキツいので暖を取る意味でもシキにくっ付く。笑顔を忘れない、キープ。

 

 大広間に鎮座する海賊は不思議そうな顔で私を見る。

 

 今の『私』は上機嫌なので営業スマイルを無料でそこらに振り撒いた。くっ、皆が惚れちゃう……!

 

 事実少女にデレデレする海賊が生まれたわけだけど。

 

「よく集まったな、野郎ども。これより俺の配下に収まってもらう為の契り盃を交わしてもらう。なお、裏切り者には容赦しねェので、そのつもりで」

 

 後半を言うに辺りシキの殺気が飛んでくる。皆が皆、顔を青くしたりびくつく中……。

 

 うん、まぁ。『脅しの殺気』には慣れてるんだよなあ。

 

「ジッハハハ、クレイジーちゃん慣れてやがんな」

「裏切らねば良いだけの話では?私の望みは叶えるしてくれますたしっ!」

 

 そんな脅し上機嫌で可愛い私には効きません。なぜなら子は親に従う物だから。

 

 シキの海賊としての方針は『支配』。海賊王と方向性の違いでエッド・ウォー海戦開いたくらいなんだから忠義大事。

 

 親でいてくれる限り狂った私は裏切りなんて微塵も考えませんから。

 

 

 そう言った心積りでさらに抱き着く。

 

「盃を」

 

 シキがそう言うとお酒が並々注がれた盃が現れる。私やナミさんの前にも小さい物が出てきた。

 懐かしいな、盃。ルフィと、エースと、サボと。3人と交わした盃。

 

 じいっと眺める。

 

 小さな頃のコルボ山での出来事を思い返すと涙が出てきた。

 

「ジハハハ!そんなに嬉しいか!」

 

 また、3人と一緒に盃を交わさなければ。私はそれを目標としていたんだから。バラバラの3人を、集めなければ。

 だから絶対にルフィも殺させやしない。

 

「感慨深き、です」

 

 

 ……まぁ半分演技なんだけど!

 ここでマイナス要素ではなくプラスの感情で盃を眺めて、歓喜あまって泣いてしまったら油断されやすいだろうと思って。

 

 嘘は言ってない嘘は。

 感慨深いよ?ただもう盃を交わしているだけで。

 

 

 私は別に海賊ってわけじゃないから海賊のルールに馬鹿正直に付き合わなくったっていい。

 この酒飲もうが飲むまいが、なぁ……?

 

「知っての通り、東の海(イーストブルー)偉大なる航路(グランドライン)を含めた5つの海で最弱の海だ。死んで惜しまれる偉人も居やしねぇ。思う存分暴れるがいい!」

 

 シキは杯を掲げる。それに反発したのはナミさんだった。

 

「待ってください、そんな、東の海(イーストブルー)には手を出さないって……!」

「ナミさん大丈夫。大丈夫ですよ。ナミさんの故郷、特にお姉さんの事はシキさんにお願いしますた。()()()()()()()()()そうです」

 

 眉を下げて幸せそうに笑ってみせた。くっ付いているシキは喉の奥でクツクツと笑みを零している。

 

 どうにかしてくれる=『私』の望み通り排除してくれる。

 

 ナミさんは知らない事だ。

 

 

 それでも流石古参というか私の言葉に訝しげに眉をひそめた。何か企んでいることは、というか違和感があることは感じ取ったらしい。うん。これで納得して大人しくしてくれていると有難いかな。

 

 

 するとその時だ。

 シキが大杯に口を付ける寸前のこのタイミングで、シキの部下が慌ただしく駆け込んできた。

 

「……てめぇ、なんだこんな時に」

「大変申し訳ありません。至急お耳に入れたいことが」

 

 あ、まずい。侵入者の報告か。

 私は急いで口を開いた。

 

「その人、嘘の匂いがするです」

「……嘘の匂い、だ?」

 

 ちょっとでもいい、直ぐにバレてもいい。

 ルフィ達がここに辿り着くまでの数分数秒を稼げれば。

 

「大人の、腐るした匂い。いやな匂い。不快。いや、私この人嫌。人を、売る匂い。人を食い物にぞする匂い」

「なんだと?」

「えっ、そんな。私はシキ様に忠誠を誓っています!決してその様な事はありません!」

 

 シキがどちらが本当か、何を優先すべきか考え始めた一秒後。白刃がきらめき広間の大襖が一刀両断にされた。

 そしてもう一方の大襖も烈風を纏う蹴りで吹き飛ばされる。

 

 逆光の元、麦わらの一味が正面から堂々と現れたのだ。

 

──ドゴォンッ

 

 背後の金屏風が大砲の音で吹き飛ばされる。新たな襲撃者だ。光を正面から浴びたのは黒ひげ海賊団。

 見聞色の覇気使いってなんでこうもタイミングバッチリなんだろう。

 

「なっ!?」

 

 シキが驚き、意識が前後に奪われた。……今が1番だな。

 

「ナミさん下がる!」

 

 ナミさんが私の指示で後ろに飛び去ると、シキはくっ付いていた私を素早い動きではじき飛ばした。

 そうだね。麦わらの一味と黒ひげ海賊団がタイミングよく入り込んできたのだ。私やナミさんを疑うよね。

 

 疑わしきは罰せよ。

 

 疑り深く慎重なシキならごく普通の判断だ。

 

「リィン大丈夫!?」

 

 畳の上をゴロゴロ転がって右の襖に当たる。

 予想通り威力は半減以下だった。

 

「あ?」

 

 シキは先程まで私がくっ付いていた左手を見る。

 そこには、海楼石の錠があった。

 

 前後に侵入者が現れた瞬間海楼石の錠を取り付けました、対クザンさん捕縛術でーす! ……最近は学んだのか逃げ出そうとする時は徹底的に距離を取ろうとするけど。

 

「ふははははは! 残念ながらそれは牢獄でパクって来たやつ故に鍵はないのですよ!」

「おいおいリィン。こいつはつまらねぇじゃねぇか。伝説の海賊に海楼石付けちゃ形無しだろ」

「おいリー! お前これ企んでたな! なぁにが『分かりました』だよ! ナミの! そばッ!」

 

 2人の船長に怒られる。

 

「やかましいです! 確実性を考えたら溜め込んだ海楼石使うが最良でしょう!? 戦闘無理なのでここから先はお願いします! お膳立て、おーぜーんーだーてー!」

「お前、堕天使能力者じゃねェのかよ」

「とある方の教えでコツを掴むしますた。能力者でも海楼石に触れる位は可能ですぅ!」

 

 そもそも海楼石に繋がれた状態、触れた状態でも動けることは動けますから。ルフィはよっぽど海楼石と相性が悪いのかすぐにヘニョヘニョになるけど、普通能力者って海楼石の錠付けて護送されるんだよ? 多少なりとも動けないと運ばないといけなくなるじゃん。

 

 

──ゴゴゴゴゴゴ……!

 

 

 まぁ悪魔の実の能力は使えなくなるんですけど。

 

「クソ、能力が解除されたか」

 

 シキがイラッと呟く。

 地響きを上げながら浮遊島が墜落していってるのだろう。空島と違って1人の能力によって浮かんでいる島だ。

 

 もちろん想定内。でも落ちる島のデメリットよりシキの能力を封じて確実性を高めるメリットの方が魅力に感じた。

 

「リィン! 今すぐ研究室か何かからIQって花探してきてくれ! あれ、ダフトグリーンの解毒剤なんだ!」

「IQ? って? そんな花ぞここに?」

「IQからSIQって薬品になるんだ。多分だけど、その薬を打ち込まれた動物が戦闘的な進化をするようになったみたいで」

 

 私は概要が分からなさすぎてキャラ被り野郎インディゴに目を向けた。

 

「SIQって、何?」

「この島の動物を凶暴化させる薬だ。追加で投与を繰り返すことで、より狂暴に、より頑丈に、より凶悪に、強く進化させる事が出来る」

 

 ただし答えたのはシキだったが。

 

「ジハハハ、クレイジーちゃん……。随分クレイジーな事をやってくれたな」

「ごめんなさいねぇ、でも、パパはもう充分故に」

 

 

 シキが脱獄したのは20年前。

 

 私は有り得る可能性に1つ口を開いた。

 

 

「そのSIQ……──北の海(ノースブルー)の国に流したとか言うしませんよね」

 

 シキは笑った。それだけで質問の答えは充分だった。

 

──ドゴォンッ!

 

 摩擦熱で赤くなった足を振るう彼がシキを吹き飛ばす。

 

「テメェが!いなけりゃッ!」

 

 流石と言うかなんと言うか。シキは弱体化しているのにも関わらず余裕そうな顔付きで起き上がった。

 

「ハー、仕方ねぇな……」

「──口を慎めよクソ野郎。そして今すぐ俺と母さんに償え。俺とお前にゃ、どうやらクソみてェな因縁があるみてェだ」

 

 うーん、言わない方が良かったかも。サンジ様がブチ切れてる。

 

「あっ、リィン! 俺もそっち行く! この化け物共と一緒に居たくねェ」

「俺も、俺もやっぱり連れてってくれ!」

「クエー!」

「リィン私も連れてって……!」

 

 するとビビり四人衆が私に引っ付いてきた。それがシキに対してなのか怒る仲間に対してなのか分からない。

 でも私は言った。

 

「カルー以外ならいいですよ」

 

 ガンッとショックを受けた所悪いけどカルー、貴方はビビ様の護衛だからね。

 

 

 

 ==========

 

 

 

「さて、と……」

 

 トントン、とブーツを履き直す。いつまでもヒールじゃ逃げにくい。

 

「ナミさんそろそろ仕掛けますか?」

「そうね、いいかも。皆はきっと大丈夫よね?」

 

 薬品庫で薬を袋に詰めながらナミさんに確認を取るとOKサインが出る。するとおいおいおいおい、とウソップさんが割り込んできた。

 

「吐け、何するつもりだ」

「そんな海兵みたいな事ぞ言うしないで下さい」

「とにかく吐け」

 

 ぶぅー、やれやれ。

 

 私はポケットからスイッチを取り出してウソップさんに手渡した。揺れる大地、酔いそうな中、ウソップさんは未だに訝しげ。

 

「大したことでは無いですよ?ポチッと」

「ホントに大丈夫か?」

「見れば分かる程度の仕掛けです」

「それ逆に見れるほど分かるって言うんじゃ……まぁ押せばいいんだな」

 

 躊躇いがちだったがウソップさんはポチリとそのスイッチを押した。その瞬間だ。

 

──ボンッボンッボンッッ、ドォォォオンッ!

 

 連鎖的に鳴り響く爆破の音。

 

「リ、リィーーーーーーーンッッッ!?」

「……火薬多過ぎますたね」

 

 ナミさんと2人でプールのそばで爆弾を作って、アイテムボックスにしまって、散歩と称して監視のゴリラと一緒に周辺……具体的に言うと毒の木を中心に散歩した。

 

 ある程度離れててもアイテムボックス使えるからね!死角に入った瞬間出せば完全犯罪の実行完了!

 

「お前っ、お前なぁ! ほら見ろ俺の足! 壁壊れた瓦礫で鼻掠めてガクブルじゃねェか!」

 

 わぁ! 生まれたての子鹿みたい!

 

「ちなみにこれ、恐らく怪物ぞやってくるのでお気を付けて」

「道理でお前がビビと行動しねぇわけだ!!」

「研究資料を全て潰す故に、ここもどうにか爆発させる事にしますね。あ、居てもいいですよ?」

「言い草が全体的に酷いなおい!」

 

 ツッコミ王・ウソップさんは私の肩を揺さぶった。

 

「今回は私もぶっ飛び切れぬと気絶可。アイアムクレイジーちゃん。いつもとちょっと違うですから!」

「ただのやけくそかよ!」

「だって海賊王と並ぶした人ですよ?挙句エース達が追う黒ひげですよ?」

「……胃がはち切れそう」

「吐血済み!」

 

 可愛くウインクしてみせるとウソップさんは哀れみの目で私を眺めた。正直今からでも倒れたいし気絶したい。

 

「たった半日だけどリィンがベッタリで幸せだったわ……シキに感謝しなくちゃ……」

 

 うん、気絶したい。

 気絶しようと思ったんだけどウソップさんに思い切り肩を掴まれて意識が戻った。私だけを楽させてたまるかという力強い意志を感じる。物理的にも。

 

「でも、ルフィってやっぱりリィンの兄貴なんだな」

「へ?」

「『リーの事だから絶対なんかやる』って負の自信たっぷりで宣言してた」

「負の自信って……」

 

 ふと、違和感を覚えた。

 普通過ぎるのだ。

 

 私はキョロリと周囲を見回し、視界の悪い空を見上げる。

 

「どうした?」

 

 ……嘘でしょ。

 

「なにゆ、え、なんで、なんで島が落ちるしてない……!?」

 

 

 さっきまで落ちてたはずの浮遊島が、能力によって浮かんでいた島が、落ちる気配もなく空を漂っていた。

 




胃痛をコントロール出来る様になりたいな(Byリィン)

今回、リィンが手を掴んで居た状態で能力を無効化させる海楼石を使わないわけがないな、って。思ったんですよ。特に格上との戦いで。デバフ効果盛らないわけが無いって。まぁ勝手に脳内でリィンが動いたんで後付設定ですけど。

それと今回予想外の方向にシキが動いてくれました。それは次回にて。


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第207話 勘違いは後にならないと気付かない

 

 ボンボンと外で何かが爆発する音がする。

 大広間で雑魚を潰した海賊はなんだなんだとその音の出処を探った。

 

 シキは1人壇上に座り、王座から見下ろすように片付けられていく様を眺めていた。

 

「おいおい怪物。今テメェ撃たれたらろくなことにならねェ事くらい分かるだろ」

 

 後ろから黒ひげ海賊団の船長であるマーシャル・D・ティーチが拳銃を突きつけながら言う。

 

「ダフトグリーンが壊されたか。20年、あと1歩の所で、また()()に邪魔されるのか。なぁゴール・D・ロジャー。お前だろ、ここにあのクレイジーちゃん差し向けたのは」

 

 返ってくる筈の無い問いにティーチは訝しげに眉を顰めた。

 

「ハハ、っ! ジハハハハ! こんなに面白れェ展開はいつぶりだロジャー! あぁいいさ、テメェの生まれ故郷は諦めてやる!」

 

 大笑いをし始めたシキは天を仰ぎながら今は亡き強敵に宣言した。届くように、届くように。

 眠りに誘う声(レクイエム)を。

 

「ここには、テメェの遺品がわんさかあるんだろォ? そんなにクレイジーちゃんを、麦わら帽子の野郎を守りたいか! テメェの継承者をよォ! いいさ、東の代わりに、俺がテメェの守りたいもん全部壊してやる! ここにいる奴らも! テメェが後生大事にしてきた()()()の野郎もなァ!」

 

 グシャリと肉を断つ音が耳に入り込む。不快な音だ。壇上は真っ赤に染まり上がる。ぼたぼたと音が。ぼとりと何かが落ちる音が。

 

「ジハハハハッ! 俺ァ、インペルダウンを脱獄した唯一の男だぜェ、クレイジーちゃん」

 

 この場にリィンが居たらきっと言うだろう。

 『テメェの方がクレイジーだキャラ被り野郎』と。

 

 

 左の手首から先は切り落とされていた。

 両足を切り落として脱獄した20年前の様に、能力を封じる海楼石から逃れる為に。

 

 

 

 

 

 

「誰が1番クレイジーだってんだよイカレ野郎」

 

 馬鹿になりきれなかったティーチがボソリと呟いた。ラフィットは胃痛で死んだ。多分、リィンの分も彼が請け負っている。

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

「うひゃー! タイミングクソほど悪いのにきたきた! 怪物さんこっち! 餌は沢山ぞー!」

「お前実は発狂してるな!?」

 

 わっはっはっ、と笑いながら走り続ける。チョッパー君に乗ったナミさんと横を並走するウソップさん。私は徐々に距離を広げていく。

 

「おいリィン、お前結構体力ヤバいんじゃ……」

「寒いは無理無茶無謀!」

「おいいいい!? ほんと、ほんとしっかりしてくれ!? なんで、お前今回ほんとどうした!?」

 

 体力は元々無い。長距離走より短距離走の方が得意なタイプなんですよ私ってやつは。

 

「奥の手ぞ……ありますよ……っ? ゲホゲホ! ぜー…最近出来るした」

 

 私はブレスレットの連なった紫の石を1粒取り外して握りしめた。うえっ、体力がきつい、嘔吐く。

 

 丁度ビビり三人衆と距離を離していたのでその場で進行方向を逆にして私は思いっきり振りかぶった。

 ピッチャー! 行っきまーす!

 

 箒で飛ぶ速度で石が放たれる。不思議色も当然使っているので速度は出た。

 

 先頭を突進していた赤い闘牛の様なイノシシの様な、謎の進化を遂げたクリーチャーにぶつかりその瞬間、石は爆ぜた。

 

「……リィンさんや」

「…………なにごとぞ?」

「……お前のその武器、何」

 

 ぼふん、という効果音を上げ、石は煙に変化。するとこちらに向かって来ていたクリーチャーはほぼ全て一瞬のうちに昏倒した。

 

 これは月組から貰った物だ。

 

 毒の威力も然る事ながら、強い衝撃が与えられた際の物質変化。そしてこれが一種類ではないという恐怖。

 

 

 私は息を吸って一言呟いた。

 

「……吐血、行きます」

「「おいおいおいおい!」」

 

 役職ツッコミと役職医者が同時にストップをかけたけど吐血は生理現象なので無理です。

 

 まず聞かせろ月組、この毒はどこで入手した。

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

「なァ、ルフィ。エースって……お前の」

「──エースに手出しはさせねェ! 当然リーにもだ! シキ!」

 

 ルフィは拳を握りしめてそう言い放つ。威勢良く啖呵を切る超新星(ルーキー)の姿に、シキは笑みを深めた。

 

「テメェも()()()の知り合いか。まァそうだよなァ、その帽子、一目瞭然ってもんだ。赤髪の小僧から譲り受けただろ」

 

 ボタボタと垂れる血を気にせずシキは20年前に失った両足の代わりに付いてある刀で立ち上がった。

 イカれたやつだと誰もが顔を顰める。

 

 シキは能力を発動させメルヴィユを浮かび直していた。

 

 右手を握りしめ、開き、また握る。無くした左手の分のバランスを補うように身体を確認しているようにも見えた。

 

 戦闘態勢に移る全員。警戒心が強まる。

 

 ここでリィンが居たならば『準備の時間を与えるな!速攻で潰せ!』とぴゃーぴゃー喚……、必死に訴えただろう。

 

「ジハハハハ……。エースとは是非とも会ってみたかったが、仕方ねぇ。お前たちはこれから死ぬ運命だ」

 

 情報源として生かしておく、という手もあったがシキはそれを選ばない。もとより『エース』、海賊王関連の情報が手に入るとは思ってない上に浮遊島で下界より離れていたシキだ。期待自体してなかっただろう。

 

 だからこそ飛び込んできた情報源を切り捨てる躊躇は全く無い。

 

「1つ言わせろ! これは譲ってもらったんじゃなくて借りてるんだ! 俺はシャンクスに返す予定だ!」

「ツッコミ所はそこなんですか!? 沢山ある中で貴方は本当にそれでいいのですか!?」

 

 ラフィットの悲痛な叫びが場を支配した。

 その言葉を皮切りにシキに対し殴りかかったルフィ、指摘は全く聞いてない様でこっそり泣いた。

 

 前言撤回。支配どころか耳にすら入ってない様だ。

 ルフィの相手大変だよなという哀れみの視線を向ける者は、現在大広間にいる麦わらの一味の面子に居ない。

 

「うおりゃあ!」

 

 ルフィが殴り、シキはそれを右手で掴む。

 左手がない事は戦闘スタイルを変えなければならないという事。自由に使える右手を咄嗟に使ってしまったかと思われたが、シキは余裕そうな顔付きでルフィを軽々しく投げ返した。

 

 空中でバランスを取り直すルフィ。

 

 そして金獅子の彼に戦いを挑んだのはルフィだけではなく戦闘の狼煙が上がるのを待っていたティーチもであった。

 

「〝闇穴道(ブラックホール)〟」

 

 辺りに闇を広げ始める。黒ひげ海賊団は一同距離を離した。

 

「ッ、お前ら離れろ!」

 

 ルフィの慌てた指示。何かがヤバいと勘付いたその時、闇は急速に広がった。

 

 全てを飲み込む闇の力。

 

 飲み込まれかけたメリー号を伸びる腕でルフィが引き上げると、部屋にあった物は全てソコに引きずり込まれた。

 

 シキは当然能力により浮かんで闇を見下ろしている。

 無名だと思っていたがとんだ化け物が伏せていたもんだ、と。

 

 ティーチは続けざまに能力を使う。

 

「〝解放(リベレイション)〟ッ!」

 

 闇と共に、ソコから物が噴出する。原型が留めて居ない、圧縮された何か。

 それは間違いなくつい先程飲み込んだ大杯やらなにやらであった。

 

 恐らくそれ以前の物もあるのだろう。吹き出された物は量に比例しシキにぶち当たった。

 

「……アイテム、ボックス」

 

 ボソリとメリー号が呟く。

 見た事の、体験した事のある現象だった。

 

 それ故に動けなかったと言っても過言ではないのだ。

 

「…………〝ギア・2(セカンド)〟〝ゴムゴムのJET銃乱打(ガトリング)〟!」

 

 血流の促進により肌が赤く熱を持ったルフィの前方広範囲の攻撃。ゴムの反動を利用したソレはドドドドという大きな音を立てながら打ち出された。

 正しくガトリング。

 

 アーロンと対峙した時から使っているこの技は思い浮かんだ最初より重さも速さも精度も数もスタミナも段違い。

 

 数回外したにしろ、ルフィはちゃんと目標を殴った。

 

 

「いたたたたたた! おい待て麦わらテメェ!」

 

 ──シキとティーチの2人を。

 

「うるせェ! うちのメリーを危険な目に合わせただろ! それに、それにリーを1週間も取りやがって!」

 

 言い分は理解出来るが納得は出来ない。ティーチはリィンの事だとしか心当たりが無かったので『リー』について言い訳をした。

 

「いやあれはどっちかと言うとアレが転がり込んできていたんだが」

「あと俺お前嫌い!」

 

 エースが探している敵とだけあって嫌悪感は端から高い上に妹が頼った海賊であったことを知って大嫌い度100%だ。

 

 素直な言葉にティーチはピクピクと頬を引き攣らせた。

 

「うるせぇ!!!!!!!(クソデカボイス)」

「いや船長の方がうるさいです」

「だいたい4日しか居なかったわそっちの堕天使は! ッッカー! 俺ァ無理だわ! テメェら兄妹ホント色んな方向に虫唾が走るわ!」

「船長、ステイ、ステイですよ船長」

 

 ラフィットが死んだ目でツッコミを入れた。

 

 エースは悪魔の実阻止という意味で。ルフィは傍若無人のぶっ飛び頭脳という意味で。そしてリィンは弱虫であるのに探ろうと模索する生意気という意味で。

 それぞれが色んな方向にティーチを不快感へと誘う。コイツらが揃う姿を見たくないと心底思った。

 

 シキはそのやり取りをただ眺めている。

 

「んな外道に付き合ってられるほど俺も暇じゃねェんだよ! さっさと首取るかもしくは潜伏しておきたかったんだがなァ!」

「知るかそんなこと! リーが出す案に乗った時点で終わりなんだよバーーーカ!」

「テメェのクルーだろ!? 手綱握れ!」

「俺馬鹿だから難しいけどこれでもすっげー頑張ってんだよ!」

「──馬鹿なのは見りゃ分かる」

「──おう」

 

 突然トーンダウンした船長2人のテンションにラフィットはもうついていけなかった。

 

 シキはそのやり取りをただ眺めry

 

「そもそもお前! 黒ひげ! エースに何したんだこんにゃろ! リーもめちゃくちゃ怒ってたぞ!」

「うっせー! テメェにゃ関係ねェ話だ!」

 

 ビシリと指をさしてティーチを睨むルフィ。

 ラフィットは麦わらの一味のツッコミを期待したいが、全員のスルースキルが高すぎて怖い。なんでこんな頭のおかしいやり取りを無視出来るのだろうか。なぜ無視して他の敵を潰す作業に移れるのだろうか。

 

 シキはそのやり取りをry

 

「堕天使が怒ろうが俺にはどーでもいいんだよ! 俺に文句言う暇があんならその堕天使をどうにかしろ!」

「無理だ! リーの性格だけはどうにもなんねェ!」

「アイツどーッッせ! なんか企んでるぞ!?」

「そんなこと分かってんだよバカ! それが分かんねェから苦労してんだろアホ!」

 

 ただの口喧嘩に発展した船長2人。

 もうどうにでもなれと自暴自棄になり始めるラフィット。

 最早傍観しか出来ない黒ひげ海賊団。

 それを余裕で無視して雑魚を吹き飛ばし粗方片付かせた麦わらの一味古参。

 微妙な表情をして古参に習うフランキーとブルック。

 

 

 シキはry……

 

「──俺を蚊帳の外に出して話すんじゃねェよ!もうお前らが潰し合ってろくそ超新星(ルーキー)共!」

 

 流石に我慢の限界だったのか2人の間に浮いていていながらも総スルーされているシキが青筋を浮かび上がらせながら吠えた。

 

──ガチャン

 

「「「「あ。」」」」

「あ!」

「あっ」

「……あァ?」

 

 浮力を失ったシキが地面へと落ちる。視線を集めた、()()()()()()()()()()()()()シキの首には、海楼石の錠が掛けられていた。

 

 

 ……そんな事を思い浮かび、尚且つ実行出来る人物など1人しか居ない。

 

「お前……それは無いわ、それは無い。汚すぎる」

「鬼! 鬼畜! 卑怯! 外道!」

 

「黙るしろお前ら!」

 

 そこで一仕事終えた表情をしていたのは、我らが極悪非道の外道悪知恵鬼畜娘だった。

 

 

 

 ==========

 

 

 

 はい。私は過去の判断に後悔してました。反省してます。そして私はとっても偉い子なのでその反省を活かして最前を尽くそうとしてみました。……足に着けても足を切り落として脱獄したんだから気付けば良かった。なんで手首に着けたんだろう。

 

 ブーブー文句を言うルフィとティーチさん

 麦わらの一味は呆れた目で周囲と視線を合わせていたりしてるが、黒ひげ海賊団はドン引きだ。

 

 いや、黒ひげ海賊団よ。あんた達は白ひげさん裏切ったっていう悪い意味で実績あるんだから卑怯も汚いも己の武器でしょう。

 

「は!? これどうなってんだ!?」

「着けたところ切り落とすされるならば逆に切り落とせぬ所にするが良いのでは、と。鍵無いですし!」

「ひっでー。お前に人の心ってのは無いのかよ」

「めちゃくちゃあるですけど。喜怒哀楽全て完備ですぞ」

「ダウト」

 

 途中まではウソップさんだったが最後だけは被せ気味の勢いで喜怒哀楽初期装備のサンジ様がツッコミを入れた。

 

「にしてもリィンちゃん薬取りに行ったんじゃ……?」

「浮遊に気付くしますたので重要そうな場所に怪物送り込むしたあと速攻でこちらに来ますた。いや、爆発させるした後ですたので怪物だけはなんとかせねばと」

「あ、あー……そうか。それでか──」

 

 サンジ様は私の後ろを目にして、飛び込んで来た存在についてコメントした。

 

「──チョッパーが体力切れで死にそうなのは」

 

 

 イエス、餌になって貰いました。

 海楼石を着ける為に気配をギリギリまで消したけど、何かしら動揺すると気配は揺らぐからね。万が一大広間に怪物が来たら絶対動揺して揺らぐと思って。

 

 気配消すのは得意。消すのだけは。

 七武海(特にミホさん)から逃げ回るってこういう事だ。

 

「別に解説してもいいですけど、このままだと島、落ちるですよ?」

 

 私はコテンと首を傾げた。

 

 

「「「撤収〜ッ!」」」

 

 今度こそ浮かび直す事は無い。各々が船へと乗り込もうとした。

 

「あ、幹部あたりは縛るして下さい〜。能力者いるしたら海楼石をくっ付けるです。盗ん……壊れるした錠なれば可能でしょう!」

「はい!? お前更になんかするつもりなのか!?」

「追手の足を削ぐは重要でしょう?」

「言ってる場合か! ほら脱出するぞ! 最悪シキは追って来れないんだから」

 

 どんな場面でもツッコミをサボらないウソップさんは私の首根っこを捕まえて縛りかけの海賊はそのまま意識を落とした。

 うーん、まァ、最悪シキだけは動けないからいいか。

 

 鍵がない限り解錠出来ない海楼石。足首や手首のように切り落とすことは不可能。島が落ちるなら下は恐らく海。逃げ場のない島だ。

 うん、大丈夫だな。そうそうに錠を外せる技術を持った人間は居ないだろう。私はピッキングに見せかけた不思議色の覇気だし。

 

「それじゃあ黒ひげ海賊団! 4日お世話になるしました! くたばれ!」

「お前がくたばれ! 美味い店あったら開拓しとけリィン!」

「会えない事を祈るで〜〜す!」

 

 黒ひげ海賊団はとっとと逃げ出し始めた。

 逃げ足の速さは流石だ。

 

 ぶっちゃけごまごましてる時間は無い。

 

「お前ら、急げ!」

 

 フランキーさんの怒号に一味もそれぞれの足で動き出す。なんか、見たことない鳥がいるけどまァツッコミは後で入れよう。あれ、なんだろうホント。

 

 

 

 

 

 

 

 

 サウザンド・サニー号はまだ朝日の見えない空を行く。

 帆ではなく、帆で作ったパラシュートを広げて。

 

「でも、どうしよう。俺、シャオに薬取ってくるって言ったんだ」

「……。」

 

 1人、チョッパー君がすっきりしない顔で呟く。

 

 崩れていく浮遊島。あそこにあった唯一の村に住むシャオという女の子のお婆さんがダフトグリーンによってダフト病というのを発症しているらしい。

 そうだよなー、私が『村は犠牲になったのだ』とか思ったとしても麦わらの一味は拠点にさせて貰ってた所だもんなー。

 

 

 私はため息を吐いてアイテムボックスから色々探し始めた。

 

「リー?」

 

 ガラガラと色々な物が出てくる。

 あ、ヤバいやつ。これはしまっておいてっ、と。……これじゃない、あれでもない。うーん。しっくりくるものが無い。ちくしょう。

 

「……うわぁ、なんか色々物騒なやつが出てきてる」

「ウソップさん」

「はいッ! 物騒とか言ってすみません!」

「男部屋に飾るされたラグありますよね。それ、貸すして。あれで飛ぶ」

 

 箒が無い今、イメージ出来る物がないと飛べない。

 女狐の靴があれば月歩の様に空中を歩くイメージが出来るけど、それを出すのはあまりにも拙い。

 

「リィンちゃんコレ?」

「そう! それですサンジさん!」

 

 取ってきてくれたサンジ様からラグを受け取り、集中を重ねる。常にイメージするのは最強の自分、OK、多分行ける。

 

「これに風を集めるして飛んでくるです。体力、切れそうになるでしょうが村人くらい島ごと浮かせてやるですよッ!」

 

 風は実際必要無いけど建前として言っておく。

 チョッパー君からIQの薬が入った袋を奪い、ラグに飛び乗った。てれれれーん、魔法の絨毯イメージ〜!

 

 うん、まぁ箒と違ってイメージに慣れてないから不安定だろうけど、とりあえず麦わらの一味から距離を取れば女狐になれる。

 

「でも、リー!」

「シャボンディで合流ですルフィ。私ならそこに行く経験ぞあります。そのサオさんの」

「シャオ」

「──シャ、オ、さんのお婆さんとかに薬配るすればよろしきですね!」

 

 メルヴィユが浮遊力を失い崩れていく。

 能力者にとって奈落の底でもある海に、小さな島から徐々に墜落していく。

 

「……進化、ですか」

 

 そんな中、お飾りであった腕の羽根が進化したのか大きく広がり空を泳いでいた。

 

 ……病に犯された者は、どうだろうか。

 

 チョッパー君がその進化に対して微妙な顔をしているのが体力面での浮遊限界などだろう。

 

「多分箒より時間ぞかかるです。でもなんとかしてみます」

「……分かった。リーしか頼れないのは分かってる。不満なのは俺のわがままだ。シャボンディ諸島で会おう」

「あっ、リィン!」

「さらばです!」

 

 ナミさんが声をかけてきたのでそれを遮る様に飛び立った。いや、だってあの人怖いじゃん。演技だとしても甘えたから後々が死ぬほど怖かったんだよ。

 

 

 

 

 

 

「シャボンディ諸島って、諸島だから指針無いんじゃ……」

 

 私の耳には届かなかった。




戦闘シーン描写が嫌すぎてカットした結果。シキ、前話までメチャ強オーラ醸してたのにすごく残念な事になった……。でもごめん大体初期の予想通りの展開だったから許して。本当に最初想像したのは海水しゃぶしゃぶだったんだ。ほんとごめん。

そして喰らえクリぼっちビーム。


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第208話 あやふやな輪郭

 

 

「あーー、どうしよう」

 

 フラフラと不安定にも飛んでいったリィンを見て麦わらの一味は空から落ちながら精神的な疲労感を自覚する。

 

「シャボンディ諸島への行き方、聞いてない……」

「それと、ビリーに乗って行けば飛べるって事もな。あいつが、聞いてない」

「アハハ、カルーが陸上のカルガモだから同じだと思ったんでしょうね」

 

 航海士のナミが先行きの不安に顔を青ざめさせ。──まァリィンという天使が居ないことも一因だろうが。

 ウソップがリィンの知らないであろうことを口に出せば、ビビは苦笑いでカルーを眺めた。

 

 遺憾の意!とカルーがポーズを決めた所でビリーがどんまいと言いたげにぽんとカルーの肩に手羽先、もとい、右翼で叩いた。

 

「まぁ、何とかなるんじゃねーのか?」

 

 ルフィの能天気とも言える判断にナミが頭を痛くする。全くこのお馬鹿はと言いたそうな表情だ。

 

「全くこのお馬鹿は……」

 

 口に出した。

 

「あのね、諸島は島じゃないんだから、磁気を記録する記録指針(ログポース)永久指針(エターナルポース)も使えないってことなの。そこまではお分かり?」

「わかんねェ」

「このお馬鹿」

 

 ナミが頭をスパンと叩く。ゴムなので効かないのは分かっているが精神衛生上無駄と分かってもしなければならないことが世の中にはある。

 

記録(ログ)を辿れないってかなり厳しいわ。島じゃないなら気候海域とかも無いでしょうし」

「それに航路の問題もあるな。何より目印は魚人島のみ。下だろ?とりあえずそこ目指すか?」

 

 偉大なる航路(グランドライン)育ちの人間があーだこーだと話し合う。ルフィは余計なことを言うと叩かれるなと察して口を真一文に結んだ。人に聞けばいいのにと非常識なことを考えながら。

 

「そうよねぇ、気候海域の有無は重要だわ。何かあればリィンに頼むんだけど準備をしっかりしないと。それと向こうでの合流の仕方とか」

「あ、ナミさん俺が見聞色の覇気で探すよ。まぁ、範囲は狭いけど」

「そうよね、それしか無いわよね。──リィンが気配を消さない限り」

「ッッッあー……」

「俺たち魚人島への行き方も知らないだろ?海底1万mだっけか?」

「シャボンがどうとか、彼女言ってたけどさっぱりだわ」

「なー、行こうぜー?海着いたぞ!リーなら大丈夫だって」

 

 ルフィのその声に一同は声を揃え上げた。

 

「──リィンの心配はしてない!」

 

 ……そんな一味の様子を見て、フランキーが引き攣り笑いを浮かべる。それに気付いたブルックが恐らく同じ感想を抱いていたのかスススと寄り添った。

 

「……あいつら、リィンに依存し過ぎてる、よな」

「……えぇ私もそう思います。ちょっとこれは、怖いですね」

「……リィンが死ぬか裏切りゃ一味は完全に崩壊するな」

 

 CP9という裏切りを目にしたフランキーは海軍事情に詳しいちびっ子の裏切りを捨てきれない。

 そうでなくとも、船長ではなくリィン個人に依存し過ぎている彼らの先行きに不安を抱いていたのだった。

 

「ところでビリーどうすんだ?このままここにいるか?」

「クオ、クオクオ」

「クエ、クエクエ」

 

 鳥類2匹が顔を合わせて頷くとビシッとポーズを決めた。随分仲がいい。

 

「帰る場所も無いしビリーとカルーが兄弟盃交わすんだって」

「鳥が盃……」

 

 チョッパーの翻訳に、非常識の塊である一味に未だ慣れないフランキーが再び引き攣り笑いを浮かべた。心配だ。この一味が。

 

 

 

 ==========

 

 

 

 フラフラとラグで飛んで行けば崩れ落ちて行くメルヴィユに到着した。途中進化した住民が空を飛んで行っていたが病人はどうだろうか。

 

「そこ、そこのお兄さん!」

「え、あ!シキの所に乗り込んでいったお嬢さん!?無事だったんだね!?」

 

 服装からして従業員、しかも無理矢理労働させられていたであろうお兄さんに声をかけたら相手も私を認識してくれていたみたいだった。

 

 私は薬の入った袋を手渡す。

 

「これ、ダフト病の、薬。配る、飛べぬ方多分存在するです!」

「ええっ、と、ダフト病の薬ですね。病に倒れてる方々に配って来ます。ありがとう、本当にありがとう!」

 

 お兄さんは空を自在に飛び回り村へと向かっていった。

 そうだ、そもそも私は直接配り回るなんて労力を使うつもりは無い。責任も出てくるし。間に合わなかったらどうするつもりだ、その場合の責任は私に来るんだぞ全く。

 

 私は優しい青年の手助けをしただけ、そこに責任は何も存在しない。

 

 私が一味を離れてメルヴィユに戻って来たのは別の目的がある。

 

 

 

 アイテムボックスから別の人物になるための一式を取り出し、身にまとった。

 

 

 

「あァ?テメェ、誰だ?」

 

 首に取り付けた海楼石の錠を取り外すこと無く上座に堂々と座っていたシキが声を出した。

 これは、驚いた。なんでこんなに余裕なんだこの人。

 

 拘束してある幹部の縄部分を不思議色で浮かばせ、……見た目が凄く拷問じみてるけど想像しやすいだけだから仕方ない。

 

「海軍大将、女狐」

 

 お決まりの自己紹介を告げればシキは首を傾げた。

 

「聞いた事ねェな、20年前は居なかった筈だ」

「……………どうだかな」

 

 この前女狐の中身が男と明言してないけど男疑惑を植え付けたので、男と取れる口調にしてみる。

 シキは海楼石があっても油断出来ない。なんか首に付けてもまだ脱走しそうな怖さがある。

 

 念の為見に来て正解だったかもしれない。

 

「なァ、一つ聞かせてくれ」

「言ったら解放してくれんのか?フン、テメェが誰だか知らねェが」

「あァ」

 

 ギョッと目を見開いたシキは私を見た。

 

「……──その錠位は外してやる」

 

 私は余裕を持って伝えた。

 

「この島には会いたくねェ小娘が居る。さっさと交渉(パーレイ)といこうぜ、金獅子」

 

 男口調って難しいですね。フェヒ爺の真似をさせていただいてます。

 

「お前海軍の裏切り者か」

「聞きたいことは一つ。ロックスだ」

「殺せ」

 

「ロックスはDを持っていた、そうだな」

 

 これは確信した推測。

 Dはただのミドルネームだとばかり思っていたが、この世界にミドルネームはほぼ存在しない。

 

 存在するのがDのみだからだ。

 

 モンキー・D・ルフィ

 ポートガス・D・エース

 マーシャル・D・ティーチ

 トラファルガー・D・ワーテル・ロー

 

 そしてゴールド・ロジャー。彼もDを持っている筈。昔、シャンクスさんと出会ったばかりの頃。彼はエースのことを「ゴール・D・エース」と言った。当時は聞き間違いかと思ったけど世界を見てきて聞き間違いじゃないと確信した。

 

 世界に嵐を呼び起こすはD。

 

 そしてロックスは人の名前だ。推測の域を出ないけど反応からしてそうだろう。

 

「テメェはあの時代より後に生まれた若造か」

「……………フン」

 

 それよりもずっとずっと後です。

 

「少なくとも、俺ァロックスについて語るつもりは無い。関係者一同同じことを言うと思うぜ」

「……………それだけ恐れられ」

「いや、そうかもしれないが違う。黒歴史だ黒歴史。誰が言うかクソッタレ」

 

 私はガックリ肩を落とした。

 なんだ、その理由。いや、でも将来私がルフィの船に乗っていた歴史を語れるかと言えば否だからなァ。

 

「もういい」

「へーへーそりゃようございました」

 

 さて、どう運ぼうかな。中将辺りに手渡ししないと不安ではあるんだよなぁ。

 

「なァ、この20年、下では何があった」

「……………」

「テメェの存在なんて知らねェ。ロジャーが死んでから何が変わった。海軍で、世界で何が起こってやがる」

 

 20年って言われても私まだ15年も生きてないしなァ。

 女狐の年齢を20以上に捉えているだろうから無難な所でも答えるか。

 

 いや、でもなァ。はったり使わないと女狐はシキに敵わないし。

 

「……………私が目覚めた」

 

 うん、意味深過ぎる発言になった。

 でも自意識過剰とかじゃなくて私が居るからめちゃくちゃに変わってる気がする。ある意味私もDだからね。

 

「随分な自信だな。俺が出たらまずテメェを殺すことにするさ」

「(悪影響に関しては)自信しか無い」

 

 腕を組んで浮かぶ。シキの様に。

 何故フワフワの実の能力の様に浮かべるのか、と言いたげに訝しげな顔をしていたけど、島々の着水の音を聞いてヒクリと頬を吊り上げた。

 

 私は浮かぶ事が出来るからシキを決して逃がしはしないという意志だ。ここで逃がせば次のチャンスはもう無いと思っていい。

 今回と同じように油断はしてくれないだろう。

 

「海に落ち、俺は目下捜索中。なんてことは許してくれねェわけか」

「当然」

 

 用意周到な相手には用意をさせない。

 ドォンという自由落下の衝撃が島に伝わる。私はシキの海楼石の錠を浮かばせ運ぶことにした。首が締まる?知らないな!自由な右手で何とかしろ!

 

 わーいと視界の開ける空へ向かうとガヤガヤとした声が聞こえてきた。海面に誰かがいる……?

 

「シキだ!シキが浮いてるぞ!」

「なんだと、それじゃあ能力は解け……て…………──何してるんだ、ですか大将」

 

 

「……………捕縛」

「締まってる締まってる」

 

 蜘蛛のように背からいくつも腕を生やしサーベルを持ち、戦闘態勢に移行している将校と目が合った。

 ナイスタイミング!

 

「……とりあえずシキをこっちに。貴女は中に」

 

 軍艦から指示されて渋々下ろす。首が締まってる上に海楼石だから右手の力に余裕も無いのかバタバタともがいてたシキは恨めしそうに私を睨んだ。

 

 まだ夜が明けてない。麦わらの一味の船には気付いて無いようなので本当に色々な意味で助かるタイミングだ。

 海水でしゃぶしゃぶしながらシキを運ぼうかと思っていたけど軍艦があるなら丁度いい。

 

「中将、状況は」

「こっちが聞きたいんだがな全く!こちらオニグモ、ストロベリー、ヤマカジ中将3名は元帥の指示でシキを捜索中だ、でした!」

 

 どうやら彼らがここに居たのはある意味偶然に近い様だった。多分海軍本部が通り魔にあってからすぐに出動したはず、でなければ空中を浮遊するシキに間に合わない。

 

 私と連絡を取る前のセンゴクさんからの指示で追っていたのなら『潜入中の大将(わたし)』が出てくるのは予想外だったのだろう。

 

 

 オニグモ中将はシキと幹部2名の捕縛などの指示やら何やらを色々飛ばして私を部屋の中に入れた。

 恐らく執務室の様な部屋。そこには私とオニグモ中将しか居ない。

 

 

 私はスッと流れるように正座をキメた。

 悪いことしてないけどした気分になる。

 

「……今からストロベリー中将とヤマカジ中将連れてくるから逃げるなよ小娘」

「う、うっす」

 

 本部務めの中将は女狐の正体知ってるから女狐の仮面を被る必要が無いのはありがたいけど本性も知ってる事になるから強く出られない。ちくしょう。親戚のおっちゃんが。

 

 オニグモ中将はバタバタと飛び出して行った。

 

 とりあえずセンゴクさんに報告しないといけない、と電伝虫を取り出し番号を掛け──。

 

「「大将!」」

「速っ」

 

 いや、冗談じゃなく速すぎて驚いた。

 

「嫌な予感がする。女狐がいるという事は金獅子のシキは麦わらの一味が……」

「あー、うん。うんん?いや、私だな?」

 

 ストロベリー中将が唸る内容に頷こうとして、一瞬止まった。トドメをさしたのは私に、なるのか?これ。特に死闘という死闘を繰り広げてないぞ麦わらの一味。

 

「……麦わらの一味が倒したんじゃ無いのか?」

「私です、一応は。でも海軍は中で起こるした事を知らないから客観的に見ると麦わら……」

『……なんの話しをしてるんだお前たちは』

 

 掛けていた電伝虫がセンゴクさんに繋がったので状況説明と指示を仰ぐ意味で一連の流れを説明し始めた。

 

 

<説明中>

 

 

 そこには大の大人3人が凄い形相で悩ましげな表情をしていた。

 

『お前のムーブに慣れてない中将相手にお前が直々の説明はまだ早かったな』

「早いも遅いも無いですこんなの」

 

 ヤマカジ中将がボソリと呟いた。

 

『しかし、我々海軍がこうして現状を把握出来ていたとしても、リィンという媒体が無ければ理解出来ていなかった事だ。客観的に判断するとしよう』

「そうなると、黒ひげ海賊団はまだ不明という形で良いですね。軍艦も見つけるしてないでしょうし、女狐が見ていた、と仮定してもろくな活躍は無いです」

『そうだな。麦わらの一味の懸賞金を上げ、表沙汰にする場合は捕縛の手柄は女狐。すまないなリィン、また手柄を横取りするというレッテルを貼り付ける』

「気にしませぬよ」

 

 クロコダイルの件、今回のシキの件。麦わらの一味の懸賞金だけ上げ、表の民衆相手では女狐の手柄とする。ただし聡い者はこれが麦わらの一味がしたことだと察するだろう。まぁ一般市民は気付かないだろうが。

 

 実際私がシキを無力化させて捕縛したとしてもその聡い者には、まさに『昆虫食い』と評価を下すだろう。

 

 

 その程度気にするものか。

 

「リィン、お前この後どうするつもりだ」

「あー、シャボンディ諸島でセンゴクさんと一緒に考えるした『罠』にぞ麦わらの一味を嵌める予定故、向かうですけど箒が無いので女狐の姿で飛ばして着替えですかね」

 

 『罠』という言い方をしているが実際『麦わらの一味強化作戦』なので悟られない様にしている。

 

「前も言いますたけど私の親代わりがセンゴクさんとバレるしてる故によろしく」

『あー、そこは分かってる。大将1人派遣、それも分かってる。とにかく、今回の潜入で女狐の設定がブレすぎだ。無口キャラが幸いして、把握に不明瞭な部分が多いが後日しっかりまとめるからな』

「ラジャです」

 

 私が敬礼をすると中将3人は頭を抱えた。

 

「何を考えてるのかさっぱりわからん」

「視点がわからん」

「わからん」

『そういうことに慣れておらんと咄嗟の判断は難しいだろう。特攻隊長と指揮官の使う頭が違うのと同じだ』

「そうですよ。そういうことを考えるが私の仕事でもあるです。女狐自体が虚像術ですから」

『……偉大なる航路(グランドライン)を1人で渡る大将が虚像であってたまるか』

「……センゴクさんが言うですか」

 

 私に世界規模の宅配頼んでるのはセンゴクさんだけだからな。

 そうせざるを得なかったのが私だ。

 

「ハー、初めて会った時はあんなにちびっ子だったってのに、嫌な方向に大きくなったな……」

「いた、痛いですオニグモ中将!禿げる!」

「「「あんな育ての親を持つから」」」

『貴様ら後で覚えておけよ』

 

 電伝虫越しなのに殺気が伝わってきた。

 

『そう、リィン。お前なら今日中にシャボンディ諸島に付けるよな』

「まァ麦わらの一味より早く着くは間違い無いですね」

『シャボンディ諸島にサカズキが居るはずだ。あいつに居られると『罠』に矛盾点が生じることになってしまうから戻るように言ってくれ』

「エ゛ッ、サカズキさんが、はァ、分かるました」

 

 とりあえずもうそろそろ酔いそうなので船出てもいいですか?




女狐の中身については1度決定しますがすぐにひっくり返るので頭の片隅に置いておく程度にしておいてください。と、予告しておきます。
シキの発言は圧倒的に伏線まみれだ。


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シャボンディ諸島編
第209話 ぼやけた輪郭


お探しの作品はこちらで間違いないしなんなら内容が夢オチということは一切無いです(先に言っておく)
受け止めるのだ、頑張ってこの真実を。


 

 海軍大将赤犬には誰にも言えない秘密があった。

 とある人物に救われた事、だ。

 

 

 いや別に救われた事自体については誰に言っても構わないだろう、相手が海賊だったという事を除き。

 

 

 

 その秘密は海兵にとって拙い。

 その秘密は赤犬にとって拙い。

 

 

 

 リィンが女狐と別の存在として居る様に。

 サカズキもまた、赤犬とは別の存在としていた。

 

 その秘密とは……──。

 

 

 

 

 

 

 

「わぁ!おじちゃんありがとう!」

「お菓子?お菓子?」

「えへへっ、私おじちゃん好きーっ!」

 

 サカズキは群がる小さな子供たちを抱き上げて言う。

 

「──おじちゃんも皆が好きだぞ〜〜!」

 

 秘密とは、彼が大の子供好きであるという事だ……!

 

 

 シャボンディ諸島は60〜69番GR(グローブ)までが海軍駐屯の場所で治安もいい。しかし、親に棄てられたりなどの所謂孤児は住みにくいのだ。

 海軍駐屯ということは1番治安のいい、政府の出入口。世界貴族なども多い。

 

 それ故に無法地帯に住まなければならない子供たち。

 サカズキの数少ない趣味は子供たちをシャボンディ諸島で愛でることであったのだ。

 

「おじちゃんよく来てくれてるけどお仕事は〜?」

「皆を守ることじゃよ〜」

「おじちゃんおじちゃん!抱っこして!」

「もちろんだとも!」

 

 デレデレと子供たちを撫でながら相手をする男。この男がサカズキの素であり秘密だ。

 

「おじちゃん今日は元気無いねー?」

「ん?そうか、のぉ……。よぉし高い高いをしてやろう!」

「ヤダー!」

「おじちゃん凄く投げるもんっ!やだよぉ!」

 

 拒否されてショックを受けている背に子供たちが飛びつく。

 もう一度言うがこのショックを受けている男がサカズキであり秘密だ。

 

「おうまさーん!」

「ヒヒーン、そりゃ、進むぞ!」

 

 3人ほど子供を乗せお馬さんごっこをする男。くどいほど言いたいがこの男がサカズキであり秘密だ。

 

「なに、してる?」

「ん?お嬢さんも混ざ………る……か」

 

 気力で最後まで言い切った。

 

 おじちゃん何してるのー?とくっついていた子供から声が掛けられるが、それよりもサカズキは声をかけた少女の姿に思考が停止してしまっていた。

 

 黒いマントに黄色い髪に青いリボン。

 

 我らがリィンだ。

 

 

「(……まずい、こんな姿を見られたとありゃ死ぬしかない。潔く今すぐ海に飛び込み……。いや、子供たちの前でそんなことは。待て、確かリィンは人の顔を判別するのが苦手じゃった筈。子供好きのわしと赤犬が同じとは思うまい。むしろ堂々とリィンと遊べば別人と思うんじゃなかろうか……)」(この間0.1秒)

 

「お嬢さん見ん顔じゃなー。どうだどうだ、おじちゃん達と遊ぶか?」

 

 完璧だろう。ニコニコ笑みの気のいいおじさんがまさか海軍で悪即斬と言わんばかりに仏頂面の物騒なおっさんだとは思わない。

 サカズキは笑みを浮かべておいでおいでと手招きをした。

 

 リィンはきょとりとした表情で口を開く。

 

「えっと、おじちゃん?リーも混ざっていいー?」

 

 完璧であった。

 サカズキは内心ガッツポーズを決めて誤魔化し切れたことを称えた。

 

 いや、まぁ、海軍大将赤犬と子供好きのおじちゃんが一緒だと思う方が難しいだろう。

 それにリィンとサカズキは付き合いこそ長いが関わりは浅い。そう思っている。

 

「よーし、鬼ごっこじゃあ!」

「わーっ!」

「きゃーっ!」

 

 日が暮れかける僅かな時間だが、サカズキは確かに子供たちという存在で日々の疲れを癒していった。

 

 さようならと寝床へと向かう子供達を見送り、さてリィンをどう返すかと悩んだ頃。

 

 リィンは口を開いた。

 

 

 

 

「──それで、何をしてるですか、()()()()()()

 

 サカズキは膝から崩れ落ちて泣いた。

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 はい、こちらリィン。

 えっと、ただいまグズグズ泣いてるサカズキさんを慰めてます。

 

 

 なんでこうなったんだろう。

 

 見てはいけない素顔を見てしまったから本当に申し訳ないんだけど擬態というかあまりにも別人すぎてなんかの任務中かと思ってしまったから内心大真面目に乗ってしまったんだけど。うん間違いなく乗ったのが悪かったな。素直にツッコミ入れれば傷付くことも無かっただろう。

 すごく、いたたまれない。

 

「い、いやー、でもでも、サカズキさんこのようなる趣味ぞ存在したですね!おど、驚きますた!」

 

 あ、自分の演技が完全に棒になってる。棒読み選手権があればぶっちぎりで優勝出来そう。

 ……よく分かった。

 

 私 も 動 揺 し て る。

 

 私の下手くそな慰めにサカズキさんはついに顔を覆ってしまった。

 

「わしはなぁ、わしは、何十年も隠し通して来たんじゃ」

「……………でしょうね」

 

 思わず死んだ目で同意した。

 誰もこんな素は想像してないって。多分センゴクさんですら気付いてないよ。

 

「血も涙もない『赤犬』を演じ続けて来たんじゃ……!」

「……別人に成りすますスキルは純粋に凄いと思いますた。でもごめんなさい今凄くギャップが、ギャップが」

 

 スン、と最早本音で語る。

 今、演技は出来ない。微塵も。

 

「ジョナサン以外にはバレた事は無かったんじゃ……ッ!」

「ジョナサン……。あァナバロンに居たサカズキさんの子飼い」

「……お前さんそれ直接本人に言うと無礼じゃぞ」

「……やった後です」

 

 事後ですごめんなさい。

 サカズキさんははぁーと項垂れてボソボソ言葉を続け出す。

 

「大体のぉ、海軍、海軍に入るためにこの性格を作ったんじゃァ、最近は、最近の若者は子供の内から海賊になんぞなりおって!殺しにくいったらありゃせんわ!」

「子供、殺したく無いのですね」

「当たり前じゃ世界の宝じゃぞ!」

「サカズキさん……ちなみに私がセーフならばどこまでセーフです?」

「10代はどう考えても子供じゃろう!このっ、麦わらの一味の阿呆が!」

 

 私は天を仰いだ。

 

「20越してもまだまだ子供じゃと言うのに……!」

 

 サカズキさんの『子供』の範囲が想像以上に広かった。うん、そりゃ最近の海賊が子供だらけだと思いますわな。

 

「……まァ、私は内緒ぞするですよ」

「本性バレしちょるのに今まで通りに演技ができるか!いたたまれんわ!」

「デスヨネー……」

 

 超わかる。

 

 サカズキさん。方向は違うけど私と似てるんだな。

 つまり今の私の反応や気持ちは私の周囲と似てるんだな。もっと周りの胃に優しくしよう。

 

 いや、私(の胃)に関係ないなら別に周囲(の胃)にダメージ与えようと別にいいか。

 

「要は、サカズキさんって素は甘い上に殺生嫌いな子供好きのおじちゃんって事ですよね」

「ぐぅ……」

「事実突きつけたのみでそんなにダメージ受けるしないでください」

 

 サカズキさんは子供じゃなかったとしても極力殺しはしたくないそうだ。なら私と似てるじゃないだろうか。

 

「サカズキさん、貴方本人の殺しの仕事ウチに回すしてくれませぬ?」

「……お前さんに殺しなんぞさせられるか」

「そのセリフ10年前に聞きたかったです」

 

 主に七武海討伐バージョングラッジの時ね。

 

「そうではなく、私、この前『殺し専用の武器』ぞ手に入れたのです。それを使わねば不満が出てきそうで」

「殺しの……。物騒じゃな。つまりは血の気が多い連中ということじゃろう。リィン、なんでもかんでも抱え込みすぎじゃ──」

 

 サカズキさんは海軍大将の顔になった。

 

「CP9です。引き込みますた」

「よぉし分かった譲ろうドンドン譲ろう」

 

 交渉成立である。

 殺しの正当化を求めるCP9を抱えるがために『殺さないといけない女狐』と『殺したくない赤犬』の間で協定だ。

 

「殺しを譲る分そっちの書類を抱え込もう。お前さんの子供達がひーこら言いよるぞ」

「……アレ、子供です?」

「十分子供と言ってもいいじゃろう」

「その割りには私『親』なのですね」

 

 私の子供ってことは私が親って事とイコールじゃん。

 嫌だよこの年で親とか。

 

 ジェルマを子供じゃなくて生徒にした過去の私と抵抗力は未だに残ってるぞう。

 

 

 意気込もうとするとサカズキさんは不思議そうな顔をして私を見ていた。

 

「サカズキさん?」

「お前は確かに見た目が子供じゃが。わしとしては同じ1人前の大人と思っちょったんじゃが」

 

「…………。」

 

 今度は私が頭を抱えた。

 

「おいリィン?大丈夫か?」

「……いや、大丈夫です、うん」

 

 そっかー。私、ちゃんと対等なんだ。

 お飾り大将だけど、子供の範囲が広いサカズキさんには大人だって思われてるのかー。

 

 昔は危険から遠ざけていたような気がしなくもないけど。主に毒殺とかそういうので。対毒実験系に1番最後まで反対してたのはサカズキさんだったし。

 でも最近そんなの無いと。5年くらい前から、そう思ってた。

 

 

 子供であることのメリットと子供であることのデメリット。

 デメリットは大人と同じ対応をしてくれないから、まともな意見が通りにくかったり評価されにくかったり様々。

 

 うん、助かりますけど。

 

 ……なんだこれめちゃくちゃ嬉しいぞ。ついでに言うと恥ずかしいぞ。

 

「サカズキさん」

「なんだ?」

「『女狐』のキャラは『赤犬』リスペクトなのですよ。私が知ってる中で1番かっこいい海兵モデルです」

 

「…………。」

 

 サカズキさんが頭を抱えた。

 

 Win、リィン。……なんちゃって。

 

「あ、あー。そういえば、私は赤犬というモデルがいたから女狐が出来ますたけど。サカズキさんはゼロから赤犬を作り出したのですか?」

「あー、いや。…………そうじゃな、お前も関係者じゃから話す方がいいか」

「関係者?」

 

 通り名が納得出来るほど顔を真っ赤にしたサカズキさんがパタパタと手で仰ぎ熱を逃がしながら話をしようとしてくる。

 私は優しいので突っ込まない。話を続けて。

 

「海兵になりたいのに戦うのが怖くて嫌じゃと嘆いていた子供の頃、わしにアドバイスをくれたのは〝戦神〟シラヌイ・カナエじゃ」

 

 予想外の人物の名前に私は驚きと共に声を出した。

 

 

「カナエさんはサカズキさんより年上……?」

 

 

「あの年齢詐欺師怖いじゃろ。お前の血筋じゃ」

「やめるしてサカズキさん怖い」

 

 写真では歳取った感じしないと思っていたし悪魔の実の影響か何かなんだろうなとは思っていたけど。

 あの人実年齢何歳なんだろう。

 

 私は普通に歳を取りたい。グラマス美人になりたい。

 

「『怖いなら仮面を被ればいいんだよ』だとさ。当時名も知られてない状態で初めて会うた。その時じゃ、わしが彼女に返しきれないほどの恩を受けたのは」

 

 その言葉私にも共感出来るところがあるから辛い。仮面、被ってます。結構物理的に。

 

「私もね、私もですよ。そりゃいくつか恩はあるですけど。海賊が多い!素直に恩ぞ返す不可能!」

「分かる」

 

 二人同時にため息を吐いた。

 この世はクソです。

 

「つまりわしはカナエさんの恩をお前に返すつもりでおるんじゃ」

「どうつまり!?そこは別では無いですか!?」

「仕方ないじゃろ海兵としては海賊に恩など返せん!」

「分かるけどォ!」

 

 それは私が受け取るだけで得ではあるけどいたたまれないぞ!私がアドバイスしたならともかく!

 

「カナエさんが海賊だと知った時どれほど絶望したもんか。わしのルーツじゃぞ」

 

 飲まないとやっていけない!と言いたげにサカズキさんは地面を叩く。ごめんねお酒持ってなくて。

 センゴクさん助けて、サカズキさん壊してしまった。

 

 サカズキさんの手に着いてしまったシャボンを不思議色を用いて水で洗い流す。風以外も使えるとバレてるから風の能力者だと偽らなくて大丈夫。

 

 顔持ちすぎて、人脈広すぎて、誰に何を言ってもいいのかどんなキャラと定めてるのか分からなくなりそう。

 

「殺しとか戦いとか、嫌いなら何故海兵になろうと思ったのです?」

 

 純粋に疑問を持ったので聞いてみた。サカズキさんにもう畏怖とかそういう感情は無い。微塵も。

 

「海賊が、嫌いじゃから。それ以外に無いな」

「そっかー」

 

 ……前言撤回。サカズキさんは普通に海賊嫌いの赤犬だった。

 いくらなんでも完全に別人を演じるなんて無理な話だよな、知ってた。

 

「とりあえずサカズキさんは本部に戻るしてください。作戦に『赤犬』がいるのは余計なのです」

「何を企んどるんじゃ」

「今回の作戦が成功したら教えるでーす」

 

 絶対やらかすという負の信頼が成り立っているらしい、サカズキさんは険しい目で私を見ていた。

 

 

 麦わらの一味を海軍(わたし)が操作して正義が行えないあれやこれを実行出来る悪に仕立て上げるなんて、英雄作り上げるより酷い結末だよね。

 

 私は立ち上がって頭の中で作戦を整理し直す。

 最高の結果を求めるために、全て最良の過程を得なければならない。いかに麦わらの一味を動かせるかが重要になってくる。

 

 

「リィン、今この諸島にいる大型超新星(ルーキー)がどれほど居るか知っちょるか」

「……?いいえ、先程上陸したばかり故に」

「億越えは9人居る。麦わらの一味を含めたら…──」

「14人、ですか」

 

 その言葉にサカズキさんは首を傾げた。

 

「麦わら、海賊狩り、黒足、砂姫ときて……数が合わんじゃろ」

「つい先程シキを討伐した故に一味全員賞金ぞ上がります。麦わらの一味本陣がこの諸島に上陸する頃には億越えは悪魔の子も追加です」

「どこを目指しちょる麦わらの一味」

「海賊王ですね」

 

 約半数とまではいかないが3分の1を占めてるのが麦わらの一味って。まぁ予想より少ないというか、億超えが予想より多かったというか。

 

 億超えが14人も一度に集うタイミングってそうそうないと思うんだけど。しかも前半の海で。

 そりゃ、大物海賊とか四皇辺りが前半の海で全面戦争なんて起こせば話どころか次元まで別だけどさ。ルーキーなんてワンコも同然。世界は広いねェ。

 

「本当にリィンは何を企んどるのやら」

 

 呆れた様子のサカズキさんは肩を竦めて目を伏せる。その様子を見て、私は腕を組んで考えた。

 

 細かい作戦は言えない。その先にある狙いはセンゴクさんと私だけの共有部分だから。

 

 ……この言葉が丁度いい。

 

 

 未だに座っているサカズキさんに向かって私は口を開いた。

 

「〝麦わらの一味完全崩壊〟って、感じで」

 

 か弱い海賊の種を、世界が育てる為に。

 




はいというわけで赤犬サカズキさんのキャラ設定大暴露でした。「カナエさん」の影響で性格偽ってる。
今のリィンは『女狐→リィン』を知った人達と同じ様な反応、因果応報、まあそれはさておき。
ちょっとここでフラグ建設というか回収というかご都合主義発動というか説明させて欲しい。

元々「カナエ」という人物はリィンの生まれてない時代のメタ的にどうしても変えたいだとか未来への影響的に変えたいだとかそういう点の改変用に作られた、作者的な意味でチートなキャラなんですよ。
今回の件、ロシナンテの件、鬼徹の件、その他もろもろ。細かく触れる話は作る(というか作らなければならない、話的に)のでお待ちください。

あと前話で言い忘れてましたあけましておめでとう。


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第210話 最悪の出会い(複数形)

 

 

「やっほー、ノーランさん!」

 

 シャボンディ諸島69番GR(グローブ)出版社『毒の花』に私は来ていた。

 

「リィンちゃん今日も可憐だね」

「当然ですね」

 

 互いにいつもながらの返事を挨拶代わりにする。

 私が可憐で可愛いのは知ってる。ただ私が可憐なのは少女特有のブランドなのか、贔屓目なのか。月組は間違いなくどんなに歳取ろうと可愛いと言う気がするのでジャッジには向かない。

 子供のうちは天才で大人になると凡人。という様に成長すればパッとしない、なんてことも有り得る。顔の判別が苦手な私には外見を客観視出来ないというのが大変に困る。

 

 ま、世の中美だの可愛いだの探求は止まらないしなんなら外見だけで決まるわけないし仕草とか必要だし…………って考えてたら深淵覗く羽目になるからこれ以上余計な事考えるのはやめよう。うん。

 

「奥へどうぞリィンちゃん」

 

 毒の花のトップ、編集長であるノーランさんが出迎え、私はそのエスコートに従い奥の部屋へと向かう。

 

 『あの子は誰だ』『見た事あるぞ』『海賊じゃなかったか?』なんてザワつく声をBGMに私とノーランさんは笑いあった。

 

「慣れですよね」

「慣れだね」

 

 子供の雑用なんて今では勝手知ったるなんとやら的な人も多くなったが入隊当時すごくざわつかれた経験がある。子供どころか赤ん坊だよ4歳って。頭おかしい。結局は注目を集めることに関して慣れてしまったのだ。

 

 ファンクラブとか。特に。

 

「そう言えば……『同じ島にいるんだから世界規模で見れば実質同棲してる』とか言ってる他の雑用部屋あったな」

「その考え方は嫌いじゃないです」

「ま、僕は海軍離れて長いから今どうなってるか分からないけど。時々同期が遊びに来るくらいで」

「安定した仲ですよねー」

「ねェ」

 

 ケラケラと笑い部屋に入る。

 上座に私、下座にノーランさんという少し……いや常識的に考えるとかなりおかしい位置に座る。

 

「さて、絵本などの売り上げについてなんだけど」

「どうなりますた?」

「特に絵本は大ヒット!アラバスタの速達便から出版社にファンレターが届くくらいだよ。『真実を知れてよかったわ!』って」

 

 ノーランさんは手放しで喜ぶ。

 アラバスタで起こった国盗りの争い。その事後報告という形でアラバスタ全土に向けて『作家』がインタビューを元に説明をした。

 

 嘘はついてないが真実は言ってない。

 

 放送を聞いた者、もしくは内乱に詳しい他国の者、など、まァ色々な立場があるだろうが少しでも関わりがあった者はその既視感に気付くだろう。

 

 『放送を担当した自称作家』と『作家アメ』が同一人物である可能性に。そして絵本の内容が実際の出来事をモチーフとしている事に。

 

「『ワニの王様と人間の王女様』、民衆には数少ない娯楽本として。貴族やその他有力者は情報収集として。いやァ、こんなにひとつの本がありとあらゆる世代に広がるとはね」

 

 えぇ、自信作ですとも。

 全方面に対して完璧な嫌がらせ、もとい策。

 

 死体蹴り?オーバーキル?ハッ、知らんな。

 これこそが私の最高の結果だ。

 

 まァあとはアフターエピソードとしてクロさんへの影響とかそういうのがあるけど。

 

「BL作品はどうなりますた?最近出したばかりですよね?」

 

 私は問題の品について話題に出した。

 ビビ様の書いたBL小説。ジャンルはドフラミンゴ×クロコダイルってことで……うん、ドフ鰐でいいだろう。

 

 1枚目にはちゃんと注意喚起として『この作品はフィクションです。実際の人物や出来事とは一切関係ありません』って書いてあるから。

 

 作者として一切関係したくないだけで嘘とも真実だとも言わないんだけなんだけどもね。フィクションだよフィクション。ただし島の名前とかそういうその他に修飾する言葉だけど。

 

「固定ファンがつきました」

「ですよねー!」

 

 予想してた成果に頷いた。

 ノーランさんは確か……と、過去を思い返しながら口を開く。

 

「薔薇を主食にする方々も海軍にいたからね。僕も想像してたから」

「薔薇は全然咲かないのにね」

「ホントそれ。むさ苦しいだけ。夢も希望も色気もない。あるのは天使ただ一つの癒し……」

「はいはい」

 

 キラキラと目を輝かせながら崇めようとするノーランさんの顔面を掴んでまともに戻す。

 腰を浮かせかけてたから無理やり座らせるのだ。それだけでまともに戻れるんだからナミさんはノーランさんを見習って欲しいよね。

 

「それにしてもリィンちゃん海賊になったからもうここには来れないかと思っていたけど、普通に来たね」

「ここは海軍駐屯のGR(グローブ)ですもんね、治安を考えると仕方ないです。まァ服装ちょっと変えるして堂々と歩けば案外気付かれぬものです」

「へぇ、そうなんだ」

「あと私ポニーテールも似合うでしょう?」

「出来れば写真撮りたい」

「月組限定ならどうぞォ」

「やった!」

 

 ここまで来るのに耳丈辺りのポニーテールにしてやって来た。服は黒じゃなく茶色。

 印象操作は完璧なんでね。青いリボンも黒いマントも目立たないようで逆に特徴的だからこそ、ずっとその格好をしているからこそ。だよ。それにリィンという私を知ってる人なら口調とかもね。

 

 毎晩カラスの集団に混ざり羽ばたく真っ白なカモメがいたら目に止まるけど、そのカモメが予告もなく真っ黒に染ったら気付かないもの。

 

 

 ピースしながら写真にうつればノーランさんは数枚で終わらせた。多分これから1枚に絞るんだろう。……数が少ないのは本人曰くプレミアム感と、そもそもの数が多いから、だそうだ。

 まあ10年共にいるから母数は多いだろうね。

 

「まァリィンちゃんONLYALIVE(いけどりのみ)のタイプの海賊だし命の危険は無いよ、ね?」

「あと私が未だに海兵だから安心してですぞ」

 

 足を組み机に置かれた紅茶を飲む。

 へぇ、いい茶葉使ってる。これどこのだろう。

 

「あ、気に入った?その紅茶(ノース)の暖かい所で育つ品種で……──ってはァ!?どういうこと!?」

 

 現実逃避入ったかと思うけど単純に発言内容を脳内が拒否しただけか。意味を呑み込めた様で何より。

 

 私はイタズラが成功した子供のように口角を上げた。

 

 

「私、海軍大将やってるの」

 

 ノーランさんは目を見開いたがすぐに持ち直して言葉を紡ぐ。

 

「リィンちゃんの能力や才能を考えれば当然だね!」

「やっぱりノーランさん月組で2番目に狂うしてるぞね」

「ありがとう。リックより狂ってないとは思ってたんだ。おそろいだね」

 

 やっぱり狂ってるわ。

 会話が通じない狂化的人物ってメンタルもだけど色々強い。

 

「リィンちゃんが海軍を離れた僕にそんな重要な事を言うってことは、月組は皆知ってるし必要になる何かがあるんだね?」

「その通り」

 

 私がここに来たのは本の発売の件だけじゃない。毒の花は新聞も出版している。

 私がここを利用するのは情報操作という意図があり、理解者月組のノーランさんはその意図を納得してくれる。その後の影響やどういった操作なのか、内容を理解出来なくとも『わかった』と納得してくれる。1からツテを作らないでいい分有難いことだよ。余計な詮索もしないし。

 

「女狐としても、リィンとしても。これから起こることの後押しとして世界中に広げて欲しい事柄ぞある」

「分かったよ」

 

 内容すら聞いてないのに、ノーランさんは当然と言いたげな態度で即答した。

 

 

 さて、根回しは十分。

 麦わらの一味が到着するまでシャボンディ諸島をフラフラしよう。

 

 

==========

 

 

 

 さっきまで居た69番GR(グローブ)から少し移動して無法地帯に足を踏み入れる。現場の下見とも言うけれど、この諸島にいる9人の億超えが誰だか把握するために、シャッキーさんのところに向かう最中だ。

 

 ……飛べないって不便だな。足だと時間がかかる。

 

 一味到着どころかシャボンでコーティングし終わる(タイムリミット)まで時間はあるんだ。麦わらの一味が完全崩壊したらしばらくゆっくりできる。

 センゴクさんもこの潜入が休暇とは言うまい。ちゃんと有給貰うんだ。

 

 とりあえずいつ麦わらの一味から行き方についての質問として電伝虫が掛かってくるか分からないから電伝虫だけは常備しといてっ、と。流石に電伝虫をかける脳はあるよね?

 

「あーーーーーーッ!!??」

 

 突然ピンクの髪の女の人が私を指さして驚きの声を上げた。

 

「なんで、なんであんたみたいなヤツがここに!?」

「え、知り合い?」

「いやなんで本人が謎がってんだよ」

 

 私の疑問が思わず口に出た時、偶然その場に居合わせた手長族がツッコミを入れた。

 

「あ、いや、知らねェ!お前なんか知らねェ」

「既視感ある……。多分どこかで会う、した?」

「知らねェって!」

 

 女の人は頑なに拒否をする。じゃあこの既視感の正体は何?私の勘は会ったことあるって言ってる。

 

「手長族のお兄さんはどう思う?」

「オラッチに聞くのかよ!ぜってー会ったことあると思うぜ!」

「だよねー!」

「でもお前が覚えてないのは逆におかしい」

「……ダヨネー」

 

 ジロジロと手長族が見てくる。

 

「ヘイそこのカワイコチャーン、今1人?」

「1人ですぞ〜!」

「良かったらオラッチと話でもしねぇ?例えば、海賊の話とか。麦わらの一味のこと教えて欲しいなァ!」

 

 私、チョロそうだと思われてる?

 狙い通りですいいよいいよ!カモンだよ!よきにはからえだよ!逆に情報漏らさせてやるから!

 

「やめときなよ〝海鳴り〟」

 

 女の人が手長族の肩を掴んで引いた。

 まるで私を警戒する、みたいに。

 

「──甘くないぞ、こいつは」

 

 その言葉に私は目を細めた。

 張り詰めた空気が私たちの間に駆け抜ける。手長族はその不穏な空気に気付いていながら面白げに観察していた。

 

「いやァオラッチひょっとしてモテ期来たコレ?」

「「寝て言え」」

 

 私が胴体を、女が顔面を同時に殴った。愉快な音が聞こえた気がしたけど気のせいだ。

 

「精々、私が気付かないままでいることを祈るんですね」

「……チッ。行くぞおめぇら!」

 

 女の人は舌打ちをして仲間を引連れて場を去っていった。船長、と呼びながら仲間は女の人を追いかけていく。

 

「女ってコエー」

「うるせーです」

「また会おうぜ〝堕天使〟」

 

 アッパラパーな音楽家はそう言い残して建物の上へと飛び跳ね姿を消した。

 

 

 9人中2人。

 ボニー海賊団船長〝大喰らい〟ジュエリー・ボニー 懸賞金1億4000万ベリー

 オンエア海賊団船長〝海鳴り〟スクラッチメン・アプー 懸賞金1億9800万ベリー

 

 

 早々同期の人物特定が出来るとは。

 新聞を見る限りそこまで目を付ける様な事をしてなかったから気にしてなかったけど、特にジュエリー・ボニーの方は気にしておかないと。

 

──…ぐう

 

「お腹すいたな」

 

 シャッキーさんのご飯はこれから食べれるのでどこか美味しいレストランでも開拓しに行ってみようか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 12番GR(グローブ)

 

「麦わらの一味のガキか。ガキが一丁前にレストランに来るんじゃねェよ、家に帰ってママの手料理でも食って寝てな」

 

 海軍将校みたいに護衛のポーズを崩さない部下を大勢引き連れ、その男はレストランにて私にそう声を掛けた。

 

「そう言いなさんなギャングの人よ。堕ちた天使、リィンか……。こちらで食事を共にしてみないかね」

 

 その言葉に同じレストランで腰を落ちつけていた男が私を手招きした。

 

 

 か、からまれた!

 残り7人中の2人に!

 

 なんだね災厄君。お前また私を殺しにかかってるな????

 

 ファイアタンク海賊団船長カポネ・〝ギャング〟ベッジ 懸賞金1億3800万ベリー

 破戒僧海賊団船長〝怪僧〟ウルージ 懸賞金1億800万ベリー

 

「すみません店員さん、この巨体も私のちまいのも座るが可能な3人用の円卓1つ」

「は?」

「ん?」

「え、あ、はい、かしこまり、ました……?」

 

 私今ならなんでも出来る気がするんです。

 このレストランは無法地帯にあるというのに質がいいのか、1分と待たず高さのある円卓と足の長い椅子が2つ用意された。

 

「どうぞおすわりになるして? 一緒にお食事でもいかがです? ……あァご安心を、この場の食事代は()()()()()()から」

 

 一足先に席につき、私は頬をついてニコリと笑って席を勧めた。

 強調して伝えた食事代こちら持ち。

 

 特にギャングは『ガキ』に奢られるという行為は侮辱以外何ものでもないだろう。下と見た人物に、『3人程度の食事代を心配する男』だとバカにされた気持ちはどう?

 

 海賊ふたりはどう考えても大人。大人が子供に『海賊は危ないから平和に暮らしてろ』とか『おじさんがご飯を奢ってあげよう』とか上から目線で行っていたけど、この一瞬の言葉で逆転した。

 

 別に子供扱いが嫌いな訳じゃないけど。まァこんなのお遊びの内、だよね。

 

 ここでキレたら『子供』だよ。という気持ちを込めて更にニッコリ。穏便に行こうね〜!

 

 

 その心の声が聞こえたのかギャングは私に銃を突き付けた。

 

「お嬢さん、お前が相手してるのは海賊だが?喧嘩売っときながら穏便に済ませよう、なんて真似が通用すると思うなよ」

 

 そうですね、海賊って馬鹿の塊でした。

 

「おじさん、貴方が相手してるはガキではなくて海賊ですが?脅して終わらせよう、なんて真似ぞ通用すると思うなぞ」

 

 そっくりそのまま返した。

 正直銃を突き付けられて怖くないわけないし今すぐ逃げ出したいけど生憎と『脅しに動揺しない余裕綽々な態度』の演技は慣れてんだよ。大将舐めるなよ、常に余裕じゃないといけないんだぞ。最高戦力だぞ。ハッタリって大事!

 

「あとなぁ!ママはいねーーーーんだよ!」

 

 ドン!と机を叩き喚いた。

 空気を変えるために空間を私ムーブに持っていこうと思って。場の支配者は私。麦わらの一味見てて思ったけど場を支配するにはツッコミに回らずボケに回ると支配出来る。

 

 

「マジで何ぞあの人!?謎が謎を呼ぶ!もっと単純ダメですか!?」

 

 

 というのは建前でマジで本音ぶつけてます。

 ガンガンガンガン!と机を叩いて喚き続ける。

 

 赤犬サカズキさんの1件で私には分からなくなった。どこでどんな影響与えてるのかさっぱりだ!でも仮面を被る云々はとても納得しか出来なかったので積極的に仮面被っていこうと思いました!

 

「お、おう……」

「……壊れましたな」

 

「ママもパパもわからん!意味わからん!うっ、あの人たちのせいで私の人生めっっっちゃくちゃぞお!多分影響なくてもめちゃくちゃのような気ぞするですけどぞろんぴー!」

 

「言語めちゃくちゃだなオイ」

「叩けば直るか……?」

 

「──正直人型取るのやめて欲しい」

 

 ぴぇん、と泣き喚いたら机に顔を伏せる。

 頬をくっつけて脱力。銃口から体は動かされた。

 

「待って!空島の人!さっき私の事なんと言いますた!?」

 

 ふと気になり顔をがばりと上げるとドン引きした様子のギャングとマイペースにメニューを見ていた。

 

「堕ちた天使、と言いましたな」

「それですよそれ!なにゆえ私そんな意味の分からない呼び名が伝来されるですか!私この世で1番堕天使嫌い!設定が私に優しく無きィ!」

 

 海軍で天使だのなんだのと言われていたからだろうけど!あえてそこ取る必要性あった!?

 もっと他にもあるじゃん!シャンクスさんみたいに赤髪とか、エースみたいに技名とか!いや私技名持ってないけど!

 

「堕ちた海軍将校ドレークとお揃いなのが嫌かね?」

「あ、ドレークさんの弱点卵と女なので良かったらバンバン使うしてネ」

「なんでそんなこと知ってんだよ」

「元海軍雑用で〜す!──あ、私ホイップマシマシフルーツたっぷりパンケーキで」

 

 心底要らない情報がボロボロ出てくる。とギャングは文句を言った。さっさと座れ。私に愚痴らせろ。

 

「だいたい、この世界クソだと思いませぬ?思うですよね。あと技の名前を叫ぶ文化。あれ恥ずかしいと思うの私だけですか?」

「「…………。」」

「名前で技の概要分かるですし。不発確率も高くなるのに。心底不明」

「まァ、確かに」

「そう言われれば」

 

 不可避系ならまだいい。そういう刷り込みをあえてした状態で、技名と違う技を使うとかなら大賛成。

 世界、ちょっと素直すぎない?

 全然素直じゃない場面もあるけど。

 

「じゃあ乾杯」

「「どんな音頭だ!」」

 

 乾杯したの私だけだったしお冷だった。

 

 

 大型ルーキーの残り5人中、1人はドレークさんだということが分かった。正直グランテゾーロで会った時からタイミングは一緒になるだろうと思っていたからバジル・ホーキンスも居るな。

 

 

 ドレーク海賊団船長〝赤旗〟X(ディエス)・ドレーク 懸賞金2億2200万ベリー

 ホーキンス海賊団船長〝魔術師〟のバジル・ホーキンス 懸賞金2億4900万ベリー

 

 

 残りの3人。一体、誰だろうか。

 

 甘ったるいパンケーキで糖分を補充しながら同期の能力をニッコリ笑顔で観察した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ」

「あ?」

 

 13番GR(グローブ)

 私は残りの3人の内、2人が誰なのか悟った。

 

「〝堕天使〟……?」

「〝殺戮武人〟さん」

 

 キッド海賊団戦闘員〝殺戮武人〟キラー 懸賞金1億6200万ベリー

 

 つまりこの人の船長であるキッドさんも同期。

 そして唯一不明瞭である1人も勘で大体察した。信用してるよ、私の災厄吸収能力。偶然嫌な方向に進むって意味では全幅の信用と信頼を寄せている。

 

 勘とは、瞬間的に行われる経験に基づいた判断である。

 

 

「──同窓会かよ!」

 

 まさか初日数時間で全員との縁を築き上げるとは思ってもみませんでした。もちろん、悪縁ですが。




ママとパパって言い方可愛いよね。演技だけど。
まだ最悪の世代とか名称は無い。私は悲しい。なぜ一人称視点で作品を書き始めてしまったのか。ポロロン。


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第211話 前の時代の海賊と今の時代の海賊

 

 〝殺戮武人〟に出会ってしまった超絶不運で、それだけで9人全員察するという超絶賢い私ことモンキー・D・リィン。(※ただし住民登録表の上での家名なのでほとんど使わないフルネーム)

 

 そんな私は彼に出会った瞬間ダッシュでシャッキーさんの店に入り込んだ。

 それ以上追いかけてこなかったので良しとしよう。記憶に残ったであろうことは確かなので完璧だとは言えなかったけど。

 

 だって顔知ってるキッドさんとローさんには会いたくねェもん。覚えてなければ嬉しいしその可能性も高いけど、私の災厄吸収能力を前提に考えると覚えてるし出会うし絡まれる可能性が高すぎる。

 なんでこんな意味の分からない能力があるんだか。変人ホイホイか私は。

 

 とにかく、無事シャッキーさんのぼったくりBARに逃げ込めた私は敵情視察とかそういうミッションをシャッキーさんに聞くことなくオールクリアしたので引きこもっていた。

 ちなみにその間居候しているはずの海賊王クルーズは帰ってこなかった。

 

 

 

「全然帰ってこない」

「……フェヒ君辺りはリィンちゃんに気付いて帰ってこないとか有り得そうじゃない?」

「それはとても分かる。あの人野生の勘がルフィ並だから……」

 

 私がフェヒ爺を殴ろうと思っていることがバレているのか全然帰ってこない。

 ルフィが居たら来ると思ってるんだけど。

 

「レイさんが放浪癖所持してるは普段通りなので特に言わないですが、プー太郎フェヒ爺がここ3日現れぬは確実におかしい」

 

 2年間私は潜入捜査資格を得るため、センゴクさんから課せられたゴミ掃除をシャボンディ諸島でしていた。

 他の任務もあるので1週間から半月に1回か2回。うん、結構まばらだったけどゴミ掃除でコツコツ業績(捕縛数)と実力貯めた。

 

 その間の拠点というか食事処というか。それに利用していたのがシャッキー’s ぼったくりBAR。

 ほぼ毎回フェヒ爺は居た。戦い方のコツとか教えてもらってたりした。対してレイさんはお酒大好きマンなので飲み歩きやら酒代稼ぎやらで放浪してたけど。ギャンブル好きらしいし……ってこう見ると碌でもない……?

 

 

 つまりこの3日、フェヒ爺が現れない事が異常なのだ。ちなみに泊まらせて貰っているのでフェヒ爺の寝床使ってる。

 帰ってきたら分かる様に扉全てに髪の毛挟んだり罠仕掛けてたりしたんだけどそれすら動いてなかった。

 

 

 

 あ、ちなみに死んだとかは思ってない。微塵も。なにかに巻き込まれたとも思ってない。欠片も。

 

 

「でもリィンちゃんがここに来てくれたおかげで大型ルーキーが14人になると情報掴めてよかったわ」

「…………ウチ、ヤバいですね」

 

 2日前の事だ、早々に更新され再配布された麦わらの一味の懸賞金。客観的に判断している、という状況だから正しく値段が釣り上げられたとも言えないが妥当とも言える懸賞金になった。

 

 

 DEAD OR ALIVE(デッド オア アライブ)

 

 〝麦わら〟モンキー・D・ルフィ 懸賞金3億5000万ベリー

 

 〝海賊狩り〟ロロノア・ゾロ 懸賞金1億2000万ベリー

 

 〝狙撃王〟ウソップ 懸賞金8000万ベリー

 

 〝泥棒猫〟ナミ 懸賞金4500万ベリー

 

 〝七変化〟チョッパー 懸賞金4000万ベリー

 

 〝悪魔の子〟ニコ・ロビン 懸賞金1億ベリー

 

 〝船の精霊〟ゴーイング・メリー 懸賞金4600万ベリー

 

 〝鉄人(サイボーグ)〟フランキー 懸賞金6400万ベリー

 

 〝鼻唄〟ブルック 懸賞金5300万ベリー

 

 

 ONLYALIVE(オンリーアライブ)

 

 〝堕天使〟リィン 懸賞金900万ベリー

 

 〝黒足〟サンジ 懸賞金2億5000万ベリー

 

 〝砂姫〟ビビ 懸賞金2億3000万ベリー

 

 〝カルガモ戦士〟カルー 懸賞金2500万ベリー

 

「ちょっと、いやかなり合計金額数えるの怖いです」

「私が代わりに数えて上げようか?」

「無理です私の脳みそ優秀故に勝手に暗算し終わりますた」

 

 141200。

 つまり、総合懸賞金(トータルパウンティ)は14億1200万ベリー。

 いっその事計算間違いであればいいのに。

 

 本当に同期に比べて桁が違う。

 そりゃ、元々更新される前の合計が約10億だったんだから他の大型ルーキーも下っ端の私見ただけで着目するよね。

 絡まれやすいというか最早絡まれざるを得ない。

 

 もうここから出たくない。引きこもる。

 

「船長と新規配布のメリー号を除き全員が2000万ベリーの上乗せ。その法則から行くと100万しか上がらぬ私がめちゃくちゃ不自然ぞ」

「……海軍は何を考えてるの?リーちゃんって確か潜入だったわよね?」

「あー、これ海軍のせいじゃないです。間違いなく政府です」

 

 原因に心当たりがあり過ぎる。

 政府の更に上の上、天竜人だけどね。

 

 っは!やっぱり血筋ってクソだと思うね!(憤怒)

 

 潜入だと疑われる様な疑問点(イレギュラー)を作らず、海賊に溶け込む事が潜入としての正解。個人的感情として生け捕りのみは有難いけど、業務的感情としてはただのありがた迷惑だから!私手加減してくれる顔見知り結構海軍にいるから!海軍相手には殺されること無いから!多分だけど……賞金稼ぎには関係ないだろうけど……。

 

「はー、賞金稼ぎに狙うされるは忌避したいです……」

「気を付けてねリーちゃん。最近金獅子の再来とかって言われる賞金稼ぎが頭角を現したから」

「金獅子……」

 

 うげ、と思わず嫌な顔をする。

 シキは能力的にも性格的にもあまり対峙したくないタイプ。まだフェヒ爺の方が遥かに楽。

 

 そんなシキの再来とか胃が悲痛な叫びを上げそうな案件過ぎる。

 私賞金稼ぎはノータッチだから全然知らないんだよな、情勢とか情報とか。

 

 賞金稼ぎは自分の采配でレベルにあった金稼ぎをするってタイプだから海兵ほど目立たないし海賊みたいに問題になることも無い。

 

「1年ほど前からかしら。もしかしたらリーちゃんも会ってたりするかも。──金の髪に、緑の、要は周囲のグローブに溶け込める色の服を着た女の子だって聞いたわ」

 

 シャッキーさんの情報は確実なものが多い。

 ……私のシャボンディ諸島での活動時期と被っている事に首を傾げた。

 

「それにシキの再来と呼ばれる由縁は空を浮くから、なの」

 

 空中に滞空できる、能力?

 

「それ私じゃないです?」

 

 シャッキーさんは静かに首を横に振った。

 

「私もそう思って細かく調べてみたの。リーちゃんの事じゃなかったわ。額に十字傷があって、何より──標準語を話してたみたいだから」

「……そうでしたか。じゃあ違うですね」

 

 私はそう納得して頷いた。

 

 

 ……。

 …………。

 

 いや、私じゃないかそれ。

 シャッキーさんの手前誤魔化したけど、多分それ私。

 ゴミ掃除の時期は化粧なんてしてなかったから、普段化粧で隠してる傷跡が荒ぶる度に見えていただろう。それと標準語はもう身に付けている。一応この不思議語、キャラ付けだからね。『リィン』と『それ以外』の顔を使い分けるための。

 

「ちなみに名前とか知るしてます?」

「〝金豹〟よ」

 

 金豹ね。覚えた。

 絶対後で調べ直してやる。

 

 そして本名という意味での名前が出てこなかった事に私疑惑が高まった。

 

 

「レイリー、シャッキー、いるかー?」

 

 カランカランとベルのなる音に私とシャッキーさんは扉に目を向けた。

 

「いらっしゃい、悪いけど今この子の貸し切りで……って、はっちゃん〜〜〜!?」

「ニュ〜〜〜、ご無沙汰してんな〜シャッキー!」

「そうよもう10年ぶりくらい!?」

 

 入ってきた魚人にシャッキーさんが驚きの声を上げる。

 だが私はその後ろに続いた人影に驚きを隠せなかった。

 

「ルフィ!?」

「リー!」

「「なんでここに!?」」

 

 まさか連絡も一切せずに合流するとは思ってもみなかった、麦わらの一味オールスターズだった。

 

 

 

 ==========

 

 

 

「……なるほど」

 

 私は彼らの話を聞いて麦わらの一味の行動を把握した。

 たまたま人魚のケイミーさんとヒトデのパッパグさんと出会って、魚人のはっちゃんを助け出し、トビウオライダーズという人攫いチームを傘下に入れた、と。

 

「入れてない入れてない」

「あ、そうですか」

 

 ウソップさんの訂正を受け入れる。

 するとルフィは首を傾げながら私に疑問を投げかけた。

 

「リーはなんでここに?はっちゃんの友達と知り合いか?」

「うーん。まァ知り合いっちゃあ知り合いぞ。元々シャボンのコーティングをここの、レイさんって人に任せようと思っていた故に」

「あー、じゃあ俺たちの目的地は最終的にここだったわけか」

「偶然にも」

 

 私が意図した航路と、ルフィが偶然選んだ航路が一致した。頼もうと思ったコーティング職人まで一致。そしてまさか海の上で誰かに行き方を聞くとは。

 てっきり電伝虫で連絡があるとばかり。

 

 私からかけなかったってのはあると思うけど。『作戦』の準備の為の日付伸ばしたかったから。念の為。

 

「じゃあ紹介を。彼女はシャッキーさん。私たち麦わらの一味の同業者で先輩の、元海賊」

「ええ!?そうなのか!オバハンも海賊だったのかー!」

「そうよ。あ、そうだリーちゃん。この子達に飲み物出してあげて。貴女なら彼らの好み分かるでしょ?」

「せっこい情報の集め方するですよねシャッキーさんって……」

 

 あえて私に情報出させる辺り小狡いというか。

 私はカウンターの中に入って冷蔵庫から人数分の冷えたお茶を注いだ。そう簡単に情報渡すか。いや、好みの飲み物程度の情報だけどもさ。

 

「とにかく、シャボンをコーティングしたいなら職人自体を探してね」

「待ってたら帰ってくるだろ」

「そうね、いつかは。でも彼、半年ほど帰ってきてないから。賭博場か酒場かには居るんじゃないかしら」

「ええーーー!?」

 

 お茶を配っているとルフィの不服そうな声が耳に入ってくる。

 私は苦笑いをしながら自分の実の父親についての特徴を口に出した。

 

「まァレイさんも海賊ですからね。性ですよ性」

「リーちゃんにだけは言われたくないと思うわ」

 

 それ、同じ放浪癖持ちって事?

 私自分から放浪しに行った事なんて人生で5度あるかないか程度なんだけど。しかも数日間だけ。

 

「はは、こりゃ探しに出るしかねェな、」

 

 迷子癖のゾロさんが誰よりも早く腰を浮かせるがサンジ様に服を引っ張られ再びソファに座る形になった。そしてウソップさんがとどめとばかりにゾロさんの膝の上にメリー号を乗せる。

 人為的な重り……。

 

「レイさんを探しに行くのはいいけど気を付けて。この諸島にはモンキーちゃん達を含めて14人、億超えがいるの。……まァ麦わらの一味が最多の5人なんだけど」

「ああー。来る途中新聞で見たよ。ロビンも億超えになった」

「ウチにはリィンが居てくれるからライバルの観察は完璧よ!それでリィン、誰がヤバいやつだった!?」

「全員」

「そっか〜全員か〜」

 

 ナミさんは静かに涙を流し始めた。

 全員ヤバいです。

 大丈夫、全員把握した。把握したからこそ知りたくない現実を知れた。全員ヤバいです(3回目)。

 

「でも大丈夫。キミたちが探しに出なくても、彼らの方からきっとここに来るから」

「あの爺は確実に来る故に、レイさん探しは頼むという手もありですからねェ」

 

 私がそういった瞬間、カラン!と大きな音を立てて扉が開かれた。

 

 見聞色の覇気使いの2人が反応出来ないほど、やはりあの人は強い。

 

「え、うそ、まってくれ、なんで」

 

 ルフィが目を見開いて口をパクパクと動かす。

 一味がそんな船長の様子を見て警戒心を高めていった。

 

 

 栗色の髪はボサボサとしており、適当に後ろで結ばれている。長めの前髪から覗く紺碧の瞳は細められ、口角はニヤリと上がった。

 

 

 

「──元気そうに暴れてんじゃねェか、小僧」

「フェヒ爺〜ッ!!??」

 

 パッと顔を綻ばせ、ルフィは飛び付きにかかる。それをフェヒ爺は余裕で躱し地面へ叩きつけた。

 私の柔術はあそこから来てるんだよなぁ。見事に、鮮やかで、力も最小限。

 

「やっほーフェヒ爺。何故逃げた?」

「いや、お前、そりゃさぁ」

「まァそれは不問にする故に1発殴らせろ」

「断るに決まってんだろ小娘!」

 

 フェヒ爺フェヒ爺と喜ぶルフィを片手間にいなしつつフェヒ爺は私に対してバツの悪そうな顔をした。

 

 コルボ山兄妹の共通の知り合いとテンションについていけない一味。そんな中最初に声をかけたのはナミさん。

 

「で、リィンとルフィ。その人誰?」

「私の師匠……?仮の?」

「友達!昔っからの!」

 

「お前ら下2人って死ぬほど失礼だよな俺に対して」

 

 いや礼節を保つほど威厳も何もないと思うから。ルフィは素だけど。

 

「フェヒ爺、レイさんの行方知らぬ?」

「あァ、あの腹黒ならもうすぐ帰ってくるんじゃねェか?覇気で分かるだろ。あと小娘、誰か知らねェが監視されてるぞ」

「どうしよう最後の爆弾に全ての意識ぞ誘拐された。心当たり多すぎる故に残念無念、逆に心当たり無き」

 

 そしてやっぱり私を避けていた事がこれで判明した。今この場には麦わらの一味がいるんだから私が1人だったBARの周辺、を数日知らなきゃ判別出来ないよね。

 

 というか監視ってなんだ?人さらい?賞金稼ぎ?ルーキー?海軍?うーん、全て有り得そうで困る。

 

 ガコンと下駄を鳴らしながらだらけた格好でフェヒ爺は麦わらの一味を観察した。見られた一味はその無意識の威圧というか、威厳。その格の差を感じ取れた。

 実力も何も無い子供なら全く気付かないだろうこの気配には。それこそ、幼少期の私達兄妹の様に。

 

 

「麦わらの一味、か。小僧と小娘が世話になってるな。俺ァこいつらが幼少期の時世話してた」

 

 悪戯好きのジジイは爆弾をフルスイングで投げ入れた。

 

 

 

 

「ロジャー海賊団戦闘員〝剣帝〟カトラス・フェヒターだ」

「同じくロジャー海賊団副船長〝冥王〟シルバーズ・レイリーだ、よろしく頼むよ」

 

 

 

 ついでにとばかりにひょっこり顔を出したレイさんが自己紹介をした。残念ドヤ顔でキメたフェヒ爺とても痛々しい。すんなりごくごく普通に(内容除く)挨拶をしたレイさんと対比をするととても残念な感じになってる!

 私はカウンターの端に座っていたウソップさんの隣に座りお茶をカウンターに置くと、そのまま自然な流れで耳を塞いだ。

 

 

「「「「海賊王のクルー!!!???」」」」

 

 

 その全力のリアクション、耳を塞いでなかったら多分キーンってしてたね。

 

「あらレイさんおかえり。帰ってたのね」

「嬉しそうに帰る盲目野郎の音が聞こえたんでね、さてはと思って帰ってきた訳だが」

 

 シャッキーさんに歩み寄るレイさんと目が合う。私が見上げているとその頭をそっと撫でられた。

 

「よく来たねリィン」

「こんにちはレイさん。お邪魔してます」

「今回はコーティングの依頼、みたいだね。ゆっくりしていきなさい」

 

 そうしてレイさんは壁に背を預け、もたれかかった。フェヒ爺は見せ場を取られたことにブスくれてたが私の隣まで来ると腰を下ろす。

 

 驚きから解放された一味は私に詰めよってきた。

 まずは隣にいたウソップさんがカウンターに手を置いて私を指さす。気持ちは分からなくもないし同じような反応をした記憶もあるので私は寛大な心で許そう。

 

「お前なんっっっちゅう伝手得とんじゃい!」

「フェヒ爺はルフィとも伝手が」

「副船長はないじゃろがい!」

「流石ウソップさん今日もツッコミぞキレッキレの切れ味抜群ですね!」

「ありがとさん、こんなに嬉しくない褒め言葉初めてだ!」

 

 長い鼻がくっつきそうなほど詰め寄られ、彼はシャウトした。良かったね、隣接する建物が無くて。

 下手したら近所迷惑だぞっ。

 

「私でもその名前知ってるわ……」

「色んな本に載ってるわ、まさか冥王と剣帝にこうして会えるだなんて……」

「流石私のリィンよね」

「流石ナミさんだわ。全くブレない」

「少しもブレてないわね」

 

 『性別:ストレス』の3人組がソファで仲良く語り合う。

 ゾロさんやサンジ様、フランキーさんは大声こそ上げないものも目をこれでもかと言うほど見開いていた。

 

 人間初心者(人外)組も空気を読んで驚いているが、新しく入った鳥の……名前はビリーだったかな。そのビリーはカルーの真似をしているだけの様に見える。

 ちびちびお茶を飲んでいたブルックさんは世界情勢に鈍いこともあり、そこまで驚きなどは無いようだ。

 

「海賊王、ゴールド・ロジャー、でしたか?昔そんなルーキーがいたようないなかったような……」

 

 一味で1番大物なのって海賊王をルーキー扱い出来るブルックさんのような気がしてきた。流石最年長。

 ロジャーより上の世代って事はブルックさんってもしかしてロックスの時代の事を知っているんだろうか。

 

「なんでそんな大物とリィンが知り合いなんだ?」

「私それよりはっちゃんって魚人がレイさんと知り合いなのにびっくりなんですよね」

「ハチは20年ほど前に海で遭難していた私を助けてくれた命の恩人だったんだよ。以来、ハチがタイヨウの海賊団に入るまで仲良くしていた」

 

 あァ、はっちゃんはタイヨウの海賊団だったのか。

 

「じゃあアーロンと同じ海賊団だったのですね」

「……ニュ〜。ロロノア、お前の想像通りだったな。この子全然覚えてない」

 

 あれ、知り合いだったっけ?魚人の知り合いなんて少ないと思ったんだけど。

 はっちゃんは不服そうに鳴きながらゾロさんに文句を垂らす。ほらなという感じで鼻で笑うゾロさんがいつもながら腹が立つ。

 

「それでリィンとは、そうだな。2年前にたまたま人間オークションで出会って、そこからだね」

「まてまてまてまて。まずツッコミを入れさせてくれ。人間オークションってなんでそんな所に居たんだよ」

「酒代稼ぎで」

「私普通に売られるしますたよ?」

 

 サンジ様の言葉に答えを返すと頭抱え始めた。よくあることよくあること。

 私はトントンと机を指で叩いてリズムを取った。

 

「まぁ海賊王の一味という存在が意味不明の塊なので麦わらの一味もトントンですよね!」

「ちょっと分かる言い方やめてくんないかなリィンくぅん!」

 

 ウソップさんにビシリとツッコミを入れられた。

 

「ねーねー、海賊王って海軍に捕まって処刑されたんでしょ?僕だったら船長の代わりになっても逃がそうと思うけど、どうして2人は生きてるの?」

 

 ある意味喧嘩を売ってると思われてもおかしくない言い方。子供ゆえに無邪気な表情なのが幸いして、空気はそのままだった。

 

 メリー号、あんた人間初心者だから恐れもなくなんでも口にするよね。正直見てる方がハラハラするタイプだわ。

 

「そもそも、ロジャーは捕まったのでは無く、自首をしたんだよ」

 

 レイさんはキュポンとウイスキーのコルクを外すとストレートで直接飲み喉を潤した。

 

「政府としては力の誇示のため捕らえたかの様に公表したかもしれんがな……」

「あの、なんで海賊王は自首なんて真似を……?」

「そりゃアイツ、不治の病にかかってたからな」

 

 フェヒ爺がなんでもない顔で話すと私も含めて驚きしか出てこなかった。

 

「君たちは双子岬のクロッカスという男を知っているかな?あの男が3年間、ロジャーの病の苦しみを和らげながら船に乗ってくれたんだ。そしてロジャーは不治の病に蝕まれながらも、偉大なる航路(グランドライン)の制覇を成し遂げたのだ」

 

 驚きすぎて声も出ない。

 最強と思われる海賊王ロジャーは病という存在には勝てなかった。

 

 それでも、そんな中制覇を成し遂げた。

 

 ……いや、純粋に頭おかしい。なんというか、強さというか威厳というか。伝説って凄い。

 

「その後船長命令で海賊団は解散。そして皆の知る公開処刑へと成ったのだ……。──私は行かなかったよ、あいつの言った最後の言葉はこうだ」

 

 レイさんは懐かしげに目を細めて口調を真似た。

 

 『俺は()()()()ぜ……?相棒』

 

 その言葉が耳に入り込んできた途端ぞくりと背筋に寒気が走った。なんだろう、この感情は。感動でもない、危機感でもない。

 迫る壁の大きさ?その怪物がいないことへの安堵?

 

 違う、懐かしさ。

 

「………死なないって、アイツも言ったんだ」

 

 ボソリと呟いたルフィの言葉に私も既視感の正体に気付いた。

 そしてフラッシュバックする。

 

 

 エースが死んでしまう夢を。

 

「……リー?」

「大丈夫」

 

 なんでこんなタイミングで思い出すんだか。

 そんな情報、青い鳥(ブルーバード)からも海軍からも届いてない。まだ黒ひげ探しに精を出してるんだろう。まさか、空の上にいるとは思ってなかったみたいだけどね。エースは死なない。大丈夫。

 

「政府も海軍も驚いたはずだ。見せしめが式典へ。命の灯火はこの大海賊時代の幕開けとなる業火を生んだ」

 

 レイさんは目に涙を溜めて語る。

 

「あの日ほど笑った夜はない、あの日ほど泣いた夜はない。酒を飲んだ夜はない……!我が船長ながら、見事な人生だった……!」

 

 バーには時間の空間の様なぽっかりと出来た空白が流れる。圧倒されて誰も口を開けないで居たが、ナミさんのはァというため息でようやく呼吸が出来た。

 

「なんか、凄い話を聞いちゃったみたい……」

「当事者から聞くと凄いな……」

 

 心臓がバクバクする。

 これが、本物の海賊。

 

「……剣帝」

 

 ゾロさんがフェヒ爺に話しかけた。

 

「この刀は、あんたの物だと聞いた」

「鬼徹……。小娘ェ……テメェこの剣士に刀押し付けたな?」

「バレた?」

「可愛こぶってんじゃねーぞ小娘!」

 

 グリグリと頭を締め付けられる。いたたたた、待ってフェヒ爺頭潰れる。腕力と骨の耐久性が釣り合い取れてない痛い!

 

「俺はあんたに稽古を付けてもらいたい」

「断るよ」

 

 フェヒ爺は即答した。

 

「……私が嫌だと言うしても稽古付けようとしてきたのに」

「そりゃ小娘、てめぇと剣士は役割が違うだろ」

 

 フェヒ爺は椅子に座ったままくるりとゾロさんに向き直った。

 

「それはテメェが持ってな。使ってくれねェ俺や小娘よりちゃんと使ってくれるお前を気に入る筈だ」

「〝剣帝〟とも言われるあんたが、使ってやらねぇ……?」

 

 ゾロさんの疑問。彼は鬼徹を握る手を強めた。

 

「俺は純粋な剣術だとそう強くない。剣帝って名は剣の帝王とかそういう意味じゃねェんだ。刀剣を刀剣と使わない。そんな男だ」

 

 私の頭をガシガシと掴んで雑な撫で方をしながらフェヒ爺はきちんとゾロさんに言った。

 

「じゃあなんで妖刀なんてモンあんたが持ってたんだ?」

「あー……。いや、わすれた」

 

 絶対覚えてるな。私知ってる、五老星の1人から奪ったんだって。

 

「小娘の伝手だ。稽古をつけろと言われたら付けてやるよ。ただ、剣士としての稽古を望むんならお門違いって訳だ。それこそ大剣豪と呼ばれる男に頼むんだな」

「あの男はなぁ」

「アイツはなぁ……」

「アレは七武海だからなぁ……」

 

 初期5人組の男3人がミホさんの存在を思い出して苦い顔をした。初対面で毒爆弾放り投げ過ぎたよね、絶対あの人。

 

「私剣士としての稽古もそれ以外の稽古も望んで無きですが……!」

 

 そして顔を覆って絶望する私。

 出来ればハニートラップとかその部類の稽古なら有難かった……!それより軍師的な稽古の方がもっともっと有難いけど……!実践ならそう血の気の多い系じゃなければどんなに幸せだったか……!

 

「はー、誰かこの剣帝とか言われる悪魔殺してくれぬかなァ……」

「おおお、おまっ、海賊王のクルーだぞ!?そんな度胸よくあるな!?」

「悪魔って。テメェなんて口聞きやがるクソガキ」

 

 ウソップさんが背後からガクガクと肩を揺さぶり、フェヒ爺が叱るように私のほっぺたを引っ張る。

 私の頬はゴムじゃないので伸びませーん!

 

 あ、そうか。

 

「ごめんごめんフェヒ爺」

「分かりゃいいんだよ」

「──悪魔じゃなくてその眷属ですたネ!」

 

 

 

 とってもいい笑顔でそう告げた。

 

「…………あ?」

「ふはっ、なんだフェヒター。バレてるじゃないか」

 

 レイさんが壁際で楽しそうに笑う。

 引き攣った顔のフェヒ爺は私を見た。

 

「ねェ、栗色4兄妹」

 

 〝剣帝〟カトラス・フェヒター。本名、ディグティター・グラッタ。グラッタの通り名は〝悪魔の眷属〟。

 元王下七武海〝悪魔の片腕〟グラッジの双子の兄。

 

 その上弟と妹もいるって、コルボ山4兄妹と同じ構成でエースと同じポジションなんだね。

 

「そう言えば、レイさん、貴方の世代だと思うんですけどグラッタって王族知ってます……?」

「ふふっ、よく知ってるよ。あの国は我々海賊団が滅ぼした国だ。そこの第一王位継承者だろう?」

「そう、私その方がまだ王族であることは驚きますたけど、私あの方ぶん殴りたいのですよね。でもどこで会えるかもわからぬのでレイさん代わりに殴ってくれませぬ?」

「いいだろう承った」

「良くねェだろ!!!!おいテメェ腹黒!」

「そうかフェヒター。まだその言い方を改めないのか。仕方ない、調きょ……躾をしなければ」

 

「今悲しい単語が聞こえた気がするんですけどリィンさん」

「世の中には知らぬ方がいい事もあるんですよウソップさん」

 

 ボキボキボギャンッと背筋からやばい音を立てながらフェヒ爺が悶えていた。

 

 

「あの人、王族なのね……」

「あービビちゃん、それ以上はブーメランになるから口に出さない方がいいぜ」

「わかってるけど」

 

 ビビ様は楽しそう(レイさん限定)な2人を見て微笑みを浮かべた。

 

「私、海賊に進む道を選択して良かったのかもしれないわ。彼みたいに、彼らみたいに幸せそうな姿を見てそう思うの」

 

 サンジ様に向かって。

 ニコニコと笑うビビ様に毒気というか色々な感情が削ぎ落とされたのかサンジ様もへにゃりと笑って同感と呟いた。

 

 うん、サンジ様が王族だってことビビ様には気付かれてる、よね。

 

 それでもサンジ様の精神安静上王族同士の仲間意識は素晴らしい効力を発揮するので有難いという感情はある。

 

 

「でもアレだな、海賊王の一味ってエキセントリックな海賊団だな」

「言いたいことは分かるですけど」

 

 ウソップさんの的を射たような的を射てないような表現に苦笑いしか出来ない。

 

「エキセントリックな海賊団に子孫が居たらさぞかしエキセントリックな人物なんだろうなァ。リィンなんか知ってるか?」

 

 冗談なんだろう。肩を組みながら私に笑いかけるウソップさん。

 なんかなんかと聞かれたら、答えてあげるが世の情け。

 そして『仲間』への思いやりだろう。

 

 

 私はウソップさんの座っていた椅子を引っ張ってバランスを崩す様にすると、ウソップさんは背中から床へと転がり落ちた。

 

 講義の声をあげようとするがそれよりも速い私のナイフ。

 袖に隠し持っている小さいナイフだが頸動脈を掻き切る程度は出来る暗器を、ウソップさんの首筋に狙いを付けて床に突き刺した。

 

 

「どうも、エキセントリックな海賊団のエキセントリックな子孫」

 

 にこりと笑いかけて自己紹介をした。

 絶望しかない親の元に生まれる超絶不運で、それでも今まで生き延びてる超絶賢い私。

 

「モンキー・D・リィン。改め、シルバーズ・リィンです。改めてよろしく」

 

 エキセントリックな苗字を告げると、一味は漏れなく全員が声を上げた。

 

 

 

 ……耳、塞ぐの忘れてた。




18日に更新すると誓ったので早速更新させてもらった。
伏線を回収したような、伏線を入れ込んだような。
とりあえず『金豹』がどんな存在なのか触りだけでも入れれたのでセーフ(実は予定してたのに忘れかけてた)

レイリーしゃん、原作の麦わらの一味にはあまり興味を抱いてなかったが現在リィンが居る海賊ということで注目してるから初っ端からご登場。そしてようやくエキセントリックな海賊の実の娘だと情報共有しました。ドS親子、ここにあり。

デジタル大辞泉の解説
エキセントリック(eccentric)[形動]性格などが風変わりなさま。奇矯(ききょう)なさま。「エキセントリックな行動」


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第212話 最悪の出会い(単数形)

ただの茶番回です。


 

「それじゃあ私のビブルカードを渡しておこう。私はこれから君たちの船のシャボンコーティング作業に入る」

「ありがとうおっさん。ビブルカードの使い方は知ってるぞ。リーから教えて貰った!」

 

 ルフィが自信満々に頷くがこいつは1人にしておけない。

 全員が確信した。不安でしかない。

 

 まあルフィだけじゃなくてこの一味1人にしちゃならない部類が多すぎないかな。少なくとも東5人組は単独行動をさせちゃならない。ウソップさんは平気そうだけど彼は威を借る狐タイプの賞金首だから。目をつけられてるという危険視での懸賞金だから実力としてはまだ釣り合ってない。

 

「3日貰う。それが命を預かる作業の最速だ」

「結構時間かかるんだな」

「これに関しては仕方ないとしか言えないな。シャボン液を集める作業も必須だ」

「そういうもんか」

「船は41番GR(グローブ)だったな。私も移動しながら作業をする。くれぐれも、海軍に見つからぬ様に」

 

 レイさんの警戒心を強めるような言い方。

 私(とアダルトリオ)はその言い方に仕方ないなと理解出来るんだけど、お馬鹿さん達はその言葉に首を傾げた。

 

 苦笑いを浮かべたロジャークルーズに代わりシャッキーさんが口をだす。

 

「あのねモンキーちゃん達。海軍は流石に大物ルーキー達がこの諸島に上陸していることくらい当然知っているわ」

「あ、じゃあいつ攻めて来るか分からねェ……って事か」

「その通りよ黒足ちゃん」

 

 サンジ様がハッと気付き、意味と緊張が伝染する。

 シャッキーさんは真剣な顔付きだった。

 

 シャッキーさん、本当にルフィ達を気に入ってるんだな。目の前に海賊寄りの海軍大将がいるという事を知っていながら、しっかりと忠告をするんだから。

 

 まぁ私はこの潜入航海で海賊寄りでは無くなったんだけども。いや、むしろ逆に海賊寄りだからこそ海軍元帥に寄った。彼の策略にのっかった。

 

「はァ、海軍本部がそれどころじゃない事でも起こってくれればいいのに。そんな前兆は微塵もないわ。いつ大将クラスが攻め込んで来るか分からないの。本当に気を付けて、どうか3日間生き延びて。レイさんの作業は他と比べて速いわ、だからお願いよモンキーちゃん達」

「分かった」

 

 ルフィはシャッキーさんの懇願に答えるべく、真剣な顔をして頷いた。

 

「では3日後、その夕刻に集まろう」

「レイさんお願いします。何が起こっても、なるべく速くシャボンのコーティングを」

「分かっているさ」

 

 ……これでレイさんは半分封じた。

 ()()()()()()()、シャボンコーティングが優先だ。

 

 専門技術の必要なコーティング作業というのはそう急げるものでも無い。

 

「よぉーし! 遊園地行くぞ遊園地!」

「コイツことの重要性全然分かってねェわ」

「魚人島航海の為の買い出し! 必須! あとモリアとシキから頂戴したお宝の換金と……」

「待てお前また敵からぶんどってたのか!」

「宝の持ち腐れって言葉、ご存知?」

「知ってるよ!」

 

 ウソップさんは諦めずに1回1回ツッコミを入れていく。

 尊敬するわそのめげない心。

 

「リー、船長命令だー! 皆で遊園地行くぞ!」

「バラバラになった方が目を拡散出来る故に狙われにくいと思うのですけど……」

「うーん、確かにそうなのかもしれねェ。でも俺は皆で一緒に居る」

 

 バラバラになった方が個々の戦力が低下して『麦わらの一味完全崩壊』が狙えるんですけど。と、思わなかった事も無い。

 

 でもルフィは私の予想通り『私の意見』と反対の判断を下した。

 

「まァライバルからの敵襲とかあっても安全ですしね……。納得しますた」

 

 仕方なく渋々納得する、と言う様子を装い、私は心の中で思い通りの結果に運べた事をほくそ笑む。

 それと同時に軽く絶望した。

 ルフィが私と反対の道に進むという事は、もしかしたら野生の勘か何かで私が敵だと思っているのかもしれないという事に。

 

 ……いや、ルフィは最近考える。

 これは野生の勘なんて単純なものじゃなく、理性から来る結論なんだと。

 

 最悪の可能性は私が女狐だとバレている事だ。

 ためらい橋の上でのルフィの勘づいた様な怪しい言動。男説を植え付けたとしても疑惑は根付いてるのかもしれない。

 

 

「じゃあおっさん! 3日後会おう!」

「あァ。どうか、その麦わら帽子を絶やしてくれるなよ」

「……? おう!」

 

 シャンクスさんから預かった帽子はルフィの頭にある。シャンクスさんは元ロジャー海賊団の見習いなので思い入れがあるんだろう。

 レイさんはそう警告すると、ルフィは分かっていないながらも返事をした。

 

 そして流れるように私の手を繋いだ。……嫌な方向に考えると余計なことしないように『捕獲』なんだけど、ダメだな、作戦前で私結構脳内がピリピリしてる。なんでもないような行動でもやけに勘繰ってしまう。

 

「フェヒ爺はどうすんだ?」

「なんもやる事ねェからぶらついてるさ」

「そっかー」

 

 うんうんと頷きながら納得したルフィは前時代の海賊3人に手を振った。

 

「んじゃいってきまーす!」

「えっと、お邪魔しますた」

 

 ルフィの挨拶に続くとシャッキーさんとレイさんは笑顔を、フェヒ爺はぶっきらぼうな返事を返してくれた。

 

「ハチ、ケイミー!お前らは危なくなったらすぐに海に逃げるんだぞ!」

「わ、分かったよルフィちん!」

「ニュー……麦わら、お前すごい慎重な男なんだな……」

 

 海中で魚人族は最強だ。

 それにしても慎重という言葉に違和感しか出てこない。

 

「違うよのハチ。私達過去何度か海軍大将と鉢合わせた事があるの」

「ナミ、それ普通はそうそうないんじゃ無いのか……?」

「うーん……でも実際遭ってるからね……」

 

 ナミさんは故郷をアーロンに支配されてたから魚人が苦手だと思ったんだけど、案外普通に話している。それにお互い顔見知りっぽい……?

 

「俺たち海軍大将相手には負け越しだからな。特に女狐、アイツには負けてばっかだ」

 

 ギュッと握る手が強くなった。

 

「──絶対、俺が女狐を倒す」

 

 ルフィさん、その決意固めるのは私の居ないところでお願いします。可愛い可愛い妹の胃が軽率に死にます。世の中には知らない方がいい事って沢山あるんだよ。

 

 

 

 ==========

 

 

 

 シャボンディパーク。それは夢の国。

 シャボンに光が反射してキラキラと輝く夜さえ味方に付ける遊園地。

 

 海軍駐屯の諸島と真反対に位置する遊園地は、木を隠すなら森の中とも言えるほど一般人も多いのである意味最高に丁度いい逃げ場なのかもしれない。

 

 だがしかし、この遊園地は人攫いが頻繁に起こる。

 人に紛れ込めるから、そして人間の価値が高いから。

 

 誰も貧困街のやせ細ったボロボロの人間なんて欲しくないだろうし。

 

 

「それでこの文法は1行目から持ってきて、意味は大体感覚なの。例えば3文字目と5文字目を入れ替えると意味が全然変わってくるわ」

「えっと……3文字目を先に読むとこの文は……口、えっと、開閉ぞ、だから『その林檎を食べろ』……?」

「ええ、読み方自体は正解」

「それで、5文字目を先に読むと……真っ直ぐ、直接、いや、えっと」

「その考え方こそが私達オハラが解き明かして来た解読方法」

「あ、真実ぞ口に出さず……『真意を口に出すことを封じる』!」

「感覚は掴めてきたみたいね。流石の飲み込み具合だわ……。でも残念、その文は『真意を心に口を閉ざせ』」

 

 

 そんな心躍るシャボンディパークで私は椅子に座りながら古代文字の解読勉強と興じていた。

 

 掴みかけてる、事は確かなんだけど全てにおいて惜しい。

 暗記は得意だ。だから単語とかそういう意味なら覚えられるんだけど、厄介なのは文字一つ一つが更に文になっている事だ。

 

 文字が文に、それが更に文になる。こんなクソめんどくさい言語があってもいいのか。

 

「……リィン、貴女って言語不自由な癖に言語習得能力は高いのね。私の数年を返して欲しいレベルで腹が立つわこのディスコミュニケーション悪運娘」

「お褒め頂き恐悦至極〜ッ」

 

 イラッとしながら笑顔で返事をする。

 なんでこのニコ・ロビンとかいう人間は人が嫌がる的確なツボを突き、人が嫌がる的確な呼称を編み出すのが神業的に上手いんだ。

 

 タチの悪いことに私限定だから困る。

 

「……もう私しか読める人間が居ないの。これを絶やす事は出来ない。いつかの未来、また読めるかもしれない。でもきっと、政府は2度を許すほど甘くないわ」

「私この文字マスターしたらロビンさんに愛情を込めたラブレターぞ贈りますね」

「要らない、呪詛が込められてそう」

 

 ……カツカツとノートに文字を書き込んで行く。

 永遠の眠り、象形文字はこう。それで古代文字の法則と例の勘に従って1文字を書き切る。そしてもう1文字追加。それで2文字。後半の意味は、応用文字。

 

「貴女怒りを原動力にするタイプよね」

 

 書いた文字は『時を止め眠りへと誘おう愚かな者よ』。

 意味は『絶対殺すこの馬鹿野郎』、だ。

 

「……私でも古代文字は書けないっていうのにこのプライドへし折り器……」

「喧嘩販売中???? 今私買取強化期間ぞ???」

「喧嘩は受注生産待ちよ」

「まさかの受注性、コストわっっる」

 

 ルフィ達がキャーキャー遊んでいるから私とニコ・ロビン2人だと互いに口が悪くなる。

 

「とりあえずこの本あげるわ。寝る間も惜しんで勉強して頂戴。ポーネグリフの古代文字とは違うけど、歴史的には親戚みたいな文字よ。それを覚えたら大体雰囲気だけでも読めてくる筈だから」

 

 ぽんと膝の上に本が乗せられた。私はアイテムボックスに仕舞うと集中力を高めるためにも背筋を伸ばす。

 

「なぁリー! 一緒にジェットコースター乗ろう! おもしれーぞ!」

「私は普段からジェットコースターより速くて怖いものぞ乗るした故に結構ぞ」

「ええー!」

 

 絶叫系に乗ってきたのかルフィはウキウキとした表情ではっちゃん達を引き連れ戻ってきた。

 

 まぁジェットコースターみたいな海流に進んで乗るくらいだから好きだろうなとは思った。

 ジェットコースターとかこういった遊具の乗り物って結構ノロノロとしてて遅いから地上との高さを自覚して怖いんだよね。

 

「んじゃ次はなー、コーヒーカップとかってやつに……──」

 

 ルフィがそう言葉を続けた時だ。

 ──最低最悪な出来事が起こったのは。

 

「……お! リィン! ()()()()じゃなあ!」

 

 遊園地の中で、一味が勢揃いしている中で、1人の男が声をかけたのだ。

 オレンジの短髪に四角く長い鼻。

 爽やかな笑顔を浮かべながら、ルフィの背後から。

 

 心臓がドクリと嫌な音を立てる。

 

 表情を崩すな、ルフィの後ろにいるということは、私の顔をルフィに見られているという事だ。

 最悪な方向。最悪なタイミング。

 

『誰か知らねェが監視されてるぞ』

 

 フェヒ爺の言葉が頭の中をリフレインして、ギリッと歯を噛み砕きそうになるがそれを利用して顔に思いっきり笑顔を作る。すごく、嬉しそうに。

 

 

「──カクさん!」

 

 頭の中がパニックになる中、私は顔を隠す意味でもカクに駆け寄って抱き着いた。

 カクはそれを軽々しく受け止め、その勢いを使ってグルグルと子供と遊ぶように遠心力で回る。

 

「おーおー! おっきくなったのぉ!」

「元気そうでなによりですぞカクさん!」

 

 落ち着け、落ち着け。

 

 まずリィンの設定から考え直そう。

 

 リィンはカクがCP9だと言うことを知らないし、麦わらの一味と敵対した事も知らない。『月組で交流したお兄さん』との再会に喜ぶのが当たり前だ。ここまでは咄嗟の行動だったけど矛盾点を生み出さずちゃんと出来ている。

 次に『カクさん』の来歴について。『月組の後ウォーターセブンに就職、その後退職』がリィンの知る来歴。

 そして月組。『私が唯一の信頼を捧げる同期』だ。

 

 結論、『久しぶりに会えた月組に心底喜ぶ私』を作り出すということ。

 

「リィンもシャボンディ諸島に来とったんじゃなァ、にしてもまさかリィンが海賊になるとはのぉ……」

「えへへ……。それはごめんです。でもまた会えてホントに嬉しいですぞ!」

「わしもじゃー!」

 

 ぎゅうぎゅうくっ付き合う。

 ただしお互い全力で締めあってる為体の節々が悲鳴をあげてるし私も血管締めて落とす為にしている。クソ、筋肉の厚みが邪魔……!

 

 えーっと、それでカクについてだ。

 カクは恐らく麦わらの一味が私へ信頼を落とすとかそういった嫌がらせを込めてこうして現れた。むしろ私の不利になる事以外考えてないと思う。

 

「…………おまえなにゆえいる」

「…………ハッ、何やら企んでおるようじゃなぁ、め、ぎ、つ、ね、ど、の」

「…………ホントぶち殺したい…っ」

 

 おでこを引っ付けると、他人から互いの顔は見えない。

 私とカクは互いに喧嘩を売る為に、そしてその顔を見られない様にする為に。私たちは額を合わせて周囲に聞こえないよう本性をさらけ出した。

 

 くっっっっそイラッてする! ナニコイツ本当に腹が立つ! 他の! CP9はどこにいるんだよ! ちゃんと制御しろ!

 

「なんじゃなんじゃ! そんな照れることを言うな!」

 

 わざと大きな声で()()()アピールするカク。

 あーーーーなにこいつ、なにこいつ!!!!

 

 とにかく、私はカクが敵だと気付かなければならない。

 カクをCP9だと知ってる麦わらの一味の様子のおかしさに気付いて指摘して、それを教えて貰わなければきっと気付けない。

 

 『第1雑用部屋所属のリィン』は若干月組に盲目的だ。

 ルフィ辺りがズバッと切り込んでくれないと困る! 私に気を遣わなくていいから真実を教えてくれ! むしろ私がそう誘導してやる!

 

「ルフィ、紹介するぞ! この人カクさん! 海軍は()()の襲撃事件以来辞めるしてるけど、元月組の人ぞ」

「初めまして、…………いや、久しぶりじゃのォ、麦わらの一味」

「え? え? 知り合いですか?」

 

 あからさまに何かありますよといった雰囲気を醸し出したカクに嫌な予感を抱きながら、さぁ答えてくれと期待を込めて一味を見るという器用な事をしてみる。すると僕知ってるよ! とメリー号が元気よく手を上げた。

 

「僕のさ、もごっ」

()()()()の査定をしてくれた職人だったんだよ! なァルフィ!」

 

 ナミさんがメリー号の口を咄嗟に塞いで誤魔化すようにウソップさんが説明をして最終判断をルフィに仰ぐ。

 ナミさん、今だけはナイス。敵にメリー号の摩訶不思議擬人化を教えるわけにはいかない。

 

「……ルフィ? 皆さん様子がおかしいですよ? 何か、ありますた? カクさんが失礼したとか」

 

 私は更に切り込む。私の背後で、私の右手を強く、本当に折れるんじゃないかと思うほど強く握り締めながらカクが立っている。絶対ニヤニヤしてる。

 それと折れるんじゃないか、は偽り。絶対折るつもりで力込めてる。マントで隠れるからと言えどさ! 跡は残るんだけど!

 

 頼む、早く敵だと言ってくれ。ニコ・ロビン、貴女でいいから早く!

 

「…………いや、ウソップの言う通りだ!」

 

 ルフィは数秒葛藤したように思えたが笑顔で答えた。

 

「いやリィン、わしはとんでも無いことを麦わらの一味にしてしもうたんじゃ……。実はわしは」

「いやあカク!ウォーターセブンぶりじゃ、ねェ、か!」

 

 バシンとかなりの力でフランキーさんがカクの肩を叩いた。

 

「いったいのぉ、──カティ・フラム」

「その名前教えたからって呼びまくるんじゃねェよ!」

 

 バシバシとまるで攻撃する様にフランキーさんが笑顔で叩く。

 うん、イラついてたカクに思いっきり拷問されたの、フランキーさんだったもんね。『私』は残念ながらそんな事知らないけど。

 

「ふふ、実は彼、麦わらの一味をアイスバーグ市長を襲った賊だと思って牙を向いてきたそうなの」

「……へー! そうだったのですか。カクさん、正義のヒーローぞ好きなのは知ってますが事実確認は必須ですよ!」

「……あァ、そうじゃった。そうじゃった。なァ?」

 

 そろそろ感覚無くなってきた右手を解放すべく体の方向を変えて叱るように向き合うと、確認を取るようにカクは麦わらの一味に目を向けた。

 

「お、おうそうだ。その時は大変だったんだぜ」

「そりゃ強くてよー、全然手足も出なくて」

「え? カクさん、雑用でしたから私並に弱い筈ですよね? 武闘派のルフィが手足も出ないって……まさか……!」

「そう、そのまさかだリィン! カクの奴な、ウォーターセブンに来てからめちゃくちゃ身体鍛えてんだよ! な!」

 

 フランキーさんが私の疑惑を全力で逸らしてくる。

 

 

 

 なんだこの茶番!!

 

 『カクを怪しみたい私』としてはクソめんどくさいフォローだぞ麦わらの一味! 無駄な演技力を発揮しようとするなよ麦わらの一味! 『裏切りを自白しようとするカク』と『それを阻止して誤魔化そうとしている麦わらの一味』、『違和感はあるけど決定打が無いから気付けない私』の図。

 

 多分麦わらの一味が阻止する理由は『月組を信頼する私』がショックを受けないようにだろう。そんな心遣い本当に要らないからカミングアウトして! メリー号、キミなら私が女狐って知ってるよね! お願いだから! 『無知な堕天使リィン』に! 真実を教えて!

 

 

 感覚的に言うとこうだろう。

 

 カク『バラしちゃおっかなー、そうなるとリィンはショックを受けるだろうなー(棒読み)』

 麦わらの一味『そんな事させてたまるか!リィンの精神は守る!』

 私『知ってるから!さっさと事実確認させろよ!』

 

 

 

 麦わらの一味を手のひらで操るカクは私のこの葛藤というか進みそうで進まないこのモヤモヤを理解してるのに。

 麦わらの一味と私にそれぞれ別の嫌がらせを仕掛けてる。

 

 

 二兎追うものは……ってあるだろ! しくじれよ!

 

 茶番なんだけど茶番! 私もカクも麦わらの一味の話が演技で捏造だってのは分かってんの! 素人の嘘見抜けるとかそういうレベルの話じゃないの!

 私女狐だから当事者だったの! お願いだから早く情報共有して! 傷付くフリはするけど傷付かないから!

 

 ……センゴクさん助けてこれどうしたらいいの。

 

「どーしたんじゃリィン。不安そうな顔をして」

 

 憤慨しとんじゃいクソ野郎。

 

 カクは私の顔を覗き込んだ。ズキリと嫌な音が心臓から聴こえてくる。まぁ幻聴だろうけど! はっはっはっ!

 

「赤ん坊みたいじゃ」

「ばぶ〜〜〜!(憤怒)」

「わっはっはっ!」

 

 大笑いするカク。私はこれが演技だと知っているしもう理解している。カクも私が演技であることを知っている。

 

 誰に見せつける訳でもない茶番。無意味だ。

 

「リィン」

 

 カクは気持ちが悪いほど優しい声色で、気味が悪いほど優しい笑みで、体調を疑うほど優しい手つきで、私を撫でた。

 

「無理はするんじゃないぞ」

 

 ぐわりと内側から何かが溢れ出してくる。

 やめて。止まって、お願いだから感情を制御して。

 

 カッと目の奥が熱くなって、火のような熱が顔に集まる。ボロりと熱い涙が零れ落ちた。

 

「な、何を泣いとるんじゃリィン」

「うる、さい、です」

 

 吐き気がする! 吐き気がする!

 その顔で笑うな!

 

 心の底から湧き上がる感情は嫌悪だ! 月組の、私の5年間を汚された嫌悪! 悔しい、死ぬほど悔しい!

 

 懐かしさじゃないの!

 安心感じゃないの!

 

 そういう正の感情じゃない!

 

「……いい弱点を知った」

 

 泣く私を抱き締める過程でカクが耳元でボソリと呟いた。

 その体の行動も全て『カクさん』と同じ。

 

 これ以上、カクさんにならないで。

 私の思い出を汚さないで。

 

「そぉんなに、月組が大事じゃったか、女狐」

 

 正の感情じゃないけれど、私は現状こう答えるしか無い。

 悔しいけど、口に出したくないけど。

 

 言い訳を、麦わらの一味に『私』の不信感を植え付けない為にも演技をしないといけない。

 

 

 月組のカクさんと再会して喜ぶ私を。

 

「会えて、良かったぁ」

 

 もう一生会えない同期(まぼろし)に向かって、私はそう言った。

 

 

 

 

 悲痛そうな顔をした麦わらの一味は、きっと私に真実を教えてくれないだろう。そう確信してしまった。

 

 多分、それこそがカクの狙いだったんだろうなと。涙を頬にへばりつかせたままの私は、耐えきれない悲しみと突き上げてくる怒りをカクにとって都合のいい方向へ勘違いさせていった。

 

 二度と払拭出来ない屈辱と敗北に体を震わせながら。

 




ロリコダイルさんに続き人気があるカク。カクっていうか最早トゲだよね。この改変具合。リィンの悪影響。

久しぶりに日間ランキングに載ったってことを教えてもらったのでテンションアゲアゲで更新してしまいました。内容どす黒いけど。
えるしってるか、2度目の世界で1番仲悪い2人だぜこれ!


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第213話 友は金で買えないが友は金で売れる

 

 最悪だ。

 気分は最悪最低。

 

「リィン、大丈夫?」

「はいです。ちょっと化粧ぞ直す故に戻るして」

 

 私はとことん嫌いな人物に勝ちを譲ってしまうらしい。というか、苦手が動揺に繋がって頭が止まってしまう。悪癖だな。

 化粧直しという名目を使い、少しトイレに引きこもってテンションというかモチベーションを戻そう。

 

 よし、カクはとりあえず置いておこう。

 正式に部下に加える時は忠犬(猫)ルッチ公に殺してもらうか事故死してもらおう。もしくは海難事故リターンズ。

 海へ飛び込むタイプの心中なら付き合ってやる。能力者なんだから絶対沈める。

 

 

 

 

「……さて、と。気分入れ替えるぞっ」

 

 先程カクに出会うというイレギュラーな出来事があってしまったが、私はそれすら味方に付けてしまおうと思っているわけだ。

 私は今懐かしい友人にあってテンションと警戒心がぶっ壊れ真っ最中。そんな中、普段の私なら対処出来る出来事も浮かれぽんちの私なら対処出来ない。……有り得るよね、絶対。

 

 ここからは運任せと行き当たりばったりの作戦になってしまうが、麦わらの一味の行動パターンと私の災厄運任せなら多分想像通りに行くはず。

 

 運任せ、最高に運のない私が賭けるのは悪運の方。

 

──ガチャリ

 

「もしもしおかきさん……?」

 

 ボソリ、と声を出して私は伝えた。

 

「作戦変更、鉢合わせからオークション、第4プランに移行。これより作戦、開始です」

 

 それだけ伝えると私は電伝虫を切った。

 電伝虫の有り難い所は相手の表情を電伝虫が真似してくれる点だろう。電伝虫はセンゴクさんの真似をして頷いていた。

 

 

 私は気配を消し、公共トイレの窓をあげるとそのまま裏に向かってトイレから脱走した。表にはナミさんが私を待っている。だから彼女達に気付かれない様に出るなら小柄さを生かして窓から。

 そして青いリボンを片方、地面に置いおくのも忘れない。

 

 香水をバリンと割って地面に落とすとその液体を少々掬って手首に擦り付ける。

 

 

「んむっ」

 

 建物の隙間を縫う様に暗がりに走り込むと、私は乱れた呼吸を整えさせた。

 肩で息をする。

 

 そうしていると流石私の災厄というかなんというか。

 

 

 目的の人物が現れた。

 

「撃たれたくなけりゃ大人しくしてな、お嬢さん。いや、海賊」

「どうもこんにちは、人攫いでーす!寄生海賊なら容易いなァ!」

「叫ぶなよ、叫んだら殺すからな。少女ってのは死体でも売れるもんだ」

 

 私は後ろを振り返ってその輩たち相手に涙を溜めた。

 どうもこんにちは、寄生で懸賞金上げていると見られている自覚のある実力系ハッタリ派潜入捜査海兵でーす!

 

「ころ、殺さないで。お願いです、い、いの、いのちだけは……!仲間も呼ばないです、だから、ッ」

 

 シャボンディパークの人攫いの縄張り、私が知らないと思うなよ。

 待ってました、人生2度目の人攫い体験!

 運がいいね!

 

 ……悪運が。

 

 

 有難いけど、個人的には外れて欲しかった運頼みだった。現場からは以上です。

 

 

 

 ==========

 

 

 

 最初に異変に気付いたのはルフィだった。

 

「ナミ、ビビ、ロビン」

「どうしたのルフィ」

「リーが居ねェ」

 

 ルフィの指摘に3人は顔を見合わせて化粧直しの時間について説こうかと思っていた。

 しかしそんな中、変態的なセンサーを搭載した変態さん。ナミがルフィと同じく「リィンが居ない」と口を開いた。

 

「……リィンが悲しむ気配を察知したわ」

「ナミさんってリィンちゃんに盗聴電伝虫でも付けてるのかしら……」

「やめなさい、何も付いてなかったらどうするの」

 

 恐ろしいとばかりにロビンがビビの思考を止める。ナミは化粧直しをしていたはずのトイレに駆け込むと、地面に落ちていた青いリボンを1つ拾う。

 

「……ルフィ、やっぱりいないわ!それにコレ、リィンのよね」

 

 

 ルフィはリィンが大事に付けていたリボンをナミから受け取ると(ナミは未練がましそうにリボンを見てた)、そのリボンを無くさないように腕に巻き付ける。

 

 

 なんだなんだと視界のうちに居た一味が集まってくる。ロビンが現状を説明してみれば、一味より比較的シャボンディ諸島に詳しい魚人族の2人が顔を見合わせ、もしかしたら、と呟いた。

 

「人攫い、かも」

 

 一味はリィンがレイリーと人間オークションで出会ったという話を脳裏に思い返していた。

 

『私普通に売られるしますたよ?』

 

 余裕な表情だった。

 

 ……。

 

「仲間の一大事だってのにちょっと安心しちゃった俺を誰か殴ってくれ!」

「俺が殴ってやるから同じ罪状で俺を殴ってくれ」

 

 がしりとウソップとサンジが結束を固めた。なお二人同時に殴りあったが当たり前のようにウソップが吹き飛ばされた。

 

「リィンちゃんなら1人で脱出出来るかもしれないな」

 

 リィンの狙いは麦わらの一味を人間オークションに誘導することだった。人を売買する胸くその悪い施設に進んでいくとも思えなかったのでこうして誘導することに決めたわけだが。

 

 ある意味信頼の高いリィンはそこまで心配されてない様だ。

 

「チョッパー君?どうしたの?」

「鼻が曲がりそうだ、この匂い多分アラバスタの香水……!」

「クエーー!クエックエッ、クエッ」

「えっと、カルーがトイレの裏から香水の匂いがするって。多分リィンのだと思う」

 

「あら、彼女、明確に助けを求めてるわね。多分自分じゃどうにもならない状況なのかも。海楼石着けられて、手足を封じられて、それなら彼女も脱出出来ないでしょうね」

「サラリと怖いこと言うなよオメー」

 

 ニコ・ロビンがそのメッセージ性に気付く。

 

「スンッ、匂い、多分辿れるぞ、俺っ」

 

 リィンが態々香水を割って体にも同じ香りを纏った理由。

 助けて、追いかけてきて、というメッセージを伝えるという建前上の、目印なのだ。

 

「どうするルフィ」

「もちろん助けに行く!」

 

 これがリィンではなくケイミーやナミなどであれば、仲間もどうするかなんて聞かず満場一致で助けに行っただろう。

 日頃の行いだ。悔い改める事は一生ないだろうが己の犯した数々の所業を思い返す良い機会になればいいな(願望)。

 

 

 

 

 

「仲間なのよ!売り物じゃないの!」

 

 ナミは1番GR(グローブ)の人間オークション横で職員の男に詰め寄っていた。ちなみにわざわざ餌と言う名の魚人、人魚族を連れてくるわけもなく。はっちゃんとケイミーはシャクヤクの所で待機という話になった。

 

「そうは言われても商品は既に運び込まれているんですよ。バイヤーと金額のやり取りも既に終わらせましたからねェ」

 

 その前ならお話は別ですが、ニコニコとピエロの様な格好をした男がそう答える。冷静さを欠いたナミは怒髪天を衝くがそれを制してロビンが口を開いた。

 

「人の売り買いなんて世界中で禁止(タブー)だわ、政府にいくら払ってるのかしら」

「人聞きの悪いことを。──しかし、そうですね。政府や軍の関係者は我々と話をしても人身売買という言葉が()()()()()()()様子。この商売の様子など少しも知らない様ですねェ!」

「なっ、最低!正義を背負う者が人身売買を容認するだなんて……っ!」

「………、そんな予感はしていたわ」

 

 反吐が出る事柄にビビが軽蔑する。これまで世界の闇を見てきたロビンはそんな純粋な仲間の姿を見てやはりとため息を吐いた。

 ふつふつと怒りを沸かせるナミがボソリと呟く。

 

「いいわ、皆行きましょう……」

「でもナミさん!」

 

「…………手が出せないなら、ここのルールで私のリィンを取り戻せばいいのよ。活動資金のある海賊の物欲、舐めないでよね」

 

 麦わらの一味の貯蓄は30億に届くか届かないかという、リィンのぼったくり(物理)によって潤っていた。

 

 ちなみに麦わらの一味にリィンが買われた場合ナミが所有者となることは皆考えなくても分かる事だろう。一応対抗馬としてルフィが居るが、どっちみちリィンにとって素直に喜べないだろう。ウソップは静かに目を閉じて合掌をした。ラーメン。

 

 

 

 ==========

 

 

 

「なんかすごいウソップさんに馬鹿にされてる気がする……!」

 

 カチャカチャと海楼石の錠を手首に着けられながら首に爆弾を装着した私は何かを察した。

 超余裕です。

 

 やっぱり海水や海楼石こそ最強の手段だ。

 

 私は海楼石に封じられて何も出来ない姿なので周囲に警戒されていない。能力者に海楼石、これ、世界の安心ポイント。

 

 つまり警戒されてないということは油断や隙が生まれる。海楼石付きの私は世間的に見ると圧倒的に弱者である。

 

 だから海楼石効かない私ってすごくチートだよね。そもそも能力者じゃないんだから。

 

「……二度と脱出はさせないからな」

「流石に海楼石付けられて能力で逃げようなんて真似は出来ませぬぅ」

 

 どうやら私が1度来たことがある人間オークションに売られた模様。

 顔知ってたみたい。やっほー2年ぶり!

 

 バチりとウインクしてアピールすると職員が嫌そうな顔をして木箱に腰掛けた。あ、監視ですね分かります。

 脱走した前科ありますもんね。

 

「職員さん私ってスタートいくらから?」

「懸賞金」

「900万か……。でも人間の相場金額って50万からですよね?約20倍もちゃんと売れるですか?」

 

 これは純粋に相場との差がどれくらいあっても売れるのか知りたい。いざとなったら私はナミさんをここにぶち込む。ナミさんだって賞金首、しかも若くて才能溢れる航海士だから絶対売れる。

 

「それは最低金額。むしろなんで知ってんだ」

「他が70万から、巨人族と人魚族が8桁……。あ、能力者って時価ですたね。だからか」

「いや、賞金首は名の通り首に金がかかってるからそれが最低金額だ」

「初耳」

 

 オークション形式なら仲介代を取られるとはいえ、懸賞金より金額が高くなるのなら賞金稼ぎより人攫いの方が増える。

 ドフィさんも上手い商売思い付くよな。資金の余ってる貴族や天竜人から金をオークション形式で奪い取る。

 

 そもそもオークションってお金を用いたゲームだ。特定の誰かより高い金額出して購入するという楽しみ。

 ちまちま小競り合いをしてる行為自体が楽しいものだ。

 

 ドフィさんも昔はだえだえ言ってたんだろうか。見てみたい気持ちはめちゃくちゃある。

 

「天竜人がいるから余計な真似はするなよ」

「もちろん」

 

 それを知っているからこの日を作戦決行日に選んだんですから。

 心の中でほくそ笑みながら適当な段差に腰掛け足を組む。

 

 視界の端で髪を結ぶゴム隠しに使っている青いリボンが揺れた。

 1つは目印として置いてきたからもう1つはバランス悪いし外しておくか。アイテムボックスにこっそりしまっておこう。

 

「天竜人、ねェ……」

 

 私は自分の番号と同じ数字の書かれた木箱にドカりと座ると足を組んだ。

 

 ……やっぱり謎だよな。天竜人自体が。天竜人は800年前世界政府を作り上げた20人の王族の子孫。世界貴族の別称だ。

 そう、王族の血筋なのに世界()()

 王の座をわざと空けているのか、ただ馬鹿であるのか。少なくとも世界政府を作った王達は賢王と呼ばれる部類の者だろう。

 

 

 私の身近な天竜人と言えばドンキホーテだ。関わりのある、要は好意的って意味で。

 

 ドフィさんは色々知ってるっぽいけど天竜人や政府と敵対中。シーナは幼かった事もあり天竜人というシステムをよく知らないらしい。

 

 後は護衛任務で知っている天竜人……。そこら辺はあまり関わり合いたくない。気に入られたが最後だと思ってるから。

 

 

 私の2つの顔。『リィン』と『女狐』は、捨ててもいい顔を『リィン』に選んだ。だから最悪リィンは死んでいい。気に入られても怖がられても嫌われても、捨てれる顔。優先度は低い。

 だけど女狐は今の私の最後の砦。

 女狐を消すことは難しい。

 

 2つとも命が危うい立場だから他の顔を作らないと……。

 

「……あれ?」

 

 天竜人って、政府って、空白の歴史って、古代兵器って、一体なんだか。

 海賊王の一味、つまりレイさんやフェヒ爺は知っているんだよね。

 

 じゃあ見習いの2人は?

 シャンクスさんとバギー。あの2人も謎が多すぎる。そもそも見習いと言ってもラフテルまで辿り着いたのか、歴史を知っているのか、そこが分からない。

 

 覇王色持ちの四皇シャンクスさんに肩書きだけがすごいバギー。あの2人確か兄弟分だったな。

 

 肩書き、か。

 ……ちょっとセンゴクさんに打診してみるか。バギーは私と同じ部類のような気がしてきた。利用出来る。

 

 それとバギーにビビり倒してた海賊なりたての私は黒歴史だから穴に掘って埋めたい。

 

「あとは」

 

 やっぱり問題は私が無知なこと、だよなぁ。海軍、強いては政府の中枢に腰を据えているというのに。世界が隠したい事も真実も情報操作も何も分かってない。

 ただ知ったかぶって怪しげな雰囲気作ってるだけだ。『女狐』を容易に消せない人物に仕立てあげなければ。そのために、ボロを出さないように。

 

「……ぎ、次!」

「うはい!?」

「……次だ、売り物」

「あ、私か。気付かなかった」

 

 オークションの出番が来た。不安そうな顔をした職員が私の手に繋がれた海楼石の錠。鎖を手に持つと引っ張る。

 てこてこと余裕な顔でついて行く私。

 

 そんなに不安そうな顔をするなって!

 

 バチコン、とウインクしたら更に不安そうな顔をした。

 非常に愉快。

 

「……今度奴隷買ってみるかな」

「お前が奴隷だ!」

 

 海賊を売って、その資金で身寄りの無さそうな人間を買う。ありだな。好待遇にすれば、私無しじゃ生きられない様にすれば裏切る事も無さそう。

 あと純粋に気になる。

 

 

 ま、ここは多分潰れるだろうけど。

 ごめんねドフィさん、ここたしかドフィさんの直接的な店だったよね!ドフィさん自体は誰かに責任押し付けるだろうけど心の中で謝っておく!

 

「おい誰か暴れる16番に鎮静剤打っとけ」

「もう煩わしいから物理的に鎮静させるすればどうです?」

「「「お前は商品!」」」

 

 はい、17番リィン大人しくします。

 

 

 

『エントリーNO.17、続きましても買いの商品。美少女の奴隷!話題の一味、懸賞金900万の〝堕天使〟リィン!育ち盛りの14歳!』

 

 ステージを照らす光が眩しい。

 司会者がサングラスをしているのはこの光の中競りの司会をする為に付けているのか。

 

『包丁を持たせれば料理を!箒を持たせれば掃除を!雑用なんてお手の物!ご覧下さいこの愛くるしさ!メイドにするも良し、海軍に渡すも良し、鬱憤晴らしも良しですが有効的に扱う方が良いでしょう!』

 

 ……。私はこの紹介について何も言わない。

 

『スタートは900万ベリーから!それではプラカードを……おっと1800万!これは早くも2倍!』

「1億ッ!」

『何ィ!?え、こんな小娘に1億とか正きぃった!』

 

 ナミさんの声がして驚くも隣の失礼な司会を蹴りつけた。

 ノー、文句は、言わない。お前一応商売人だろうが。自分に有利な売買に文句は言っちゃダメ。

 

「──5億」

 

 最前席からの声に、場はシンとなる。

 

「5億で買う」

 

 最前席はVIP席。そういうのは決まっている。

 シャボンに包まれたフォルムは誰がどう見ても天竜人だった。

 

『え、えー。5億で決まりでしょうか。これは対抗がいなければこちらで決定と…──』

「なんの!10億よ!」

『はぁあぁぁああ!?正気か!?』

 

 ごめんそれは止めない。数ヶ月前の私もきっと同じ感想を抱くだろうから。

 

「……ウチのクルーがゴメンね」

「ほんとだよもう胃が痛い」

 

 マイクを遠くに置いた司会者の悲痛な声が耳に届いた。私は天を仰いだ。天竜人相手に余裕で競り出来るのか。そこまで度胸あるのかナミさん。

 

「23番グローブの薬をオススメしておくぞ。──ゴメンね、開き直って」

 

 私が死んだ目で告げると最前席からの声が響いた。

 

「15億」

「……うっっそだろコレ別に目玉商品じゃないんだけど」

「18億!」

『ちくしょうやってやらァ!18億出ました!桁間違えてないよな!?』

「20億」

『ここで20億!最早史上最高値を超えています!人魚姉妹以来でしょうか!』

「……なあお前自分の価値上げれるか?他人に比べて何が出来る?」

「…………それ、言わなくても理解される事ですけど」

 

 お金を惜しむ程度の価値じゃない。改めて言わなくても分かっている。ナミさんも……──ロズワード聖も。

 

「強いて言うなら可憐さ?」

『24億でました!ロズワード聖のこれでラストでしょうか』

「聞けよ」

 

「30億よ」

 

 ナミさんのプラカードが上がる。

 これが麦わらの一味の限度額だろう。

 

 私はこっそり目を閉じた。

 あぁ、資金からして絶対ダメだよなぁ。ダメだもんなぁ。私は知ってる。……だからこそ人さらいに攫われるのをこの日に選んだんだから。

 

「──35億」

 

 静まり返る会場。そんな中私は口を開いた。

 

「40億」

「……はい?」

「だから、買うです。私を。40億で」

 

 ぽかんとした顔をした司会者。ただしマイクは離れた場所にあるのでそこにプロ根性を感じる。

 

「……いっそ価格を釣り上げて伝説になるしかないかな、と。そちらの方が嬉しいですよね?」

「……そりゃそうだけどデタラメの資金を競りに出すなよ」

「……大丈夫です。資金があるので」

 

 海に出て10年溜め込んできた貯蓄。

 『リィン』の切り札はこれだ。

 

「ギャンブルでちょっと」

『まさかの商品からの価格提示!どうやらギャンブルが得意な様子です!どうですかロズワード聖、切り上げますか?』

「45億」

「50で」

『ま、まだまだ釣り上がる価格……いやマジで桁間違えて無いですよね?』

 

「彼は出しますよ。本物ですから」

「……──え、ロズワード聖とお知り合い……?」

「彼は本物なのです、本物の……」

 

 資金のある麦わらの一味と競り勝負をしてくれるだろうと期待した本物の。

 

 

「──ロリコン」

 

『ロリワー…間違えた、ロズワード聖70億!国家予算とか超越しているぞこれ!』

「他の貴族から借りるんでしょうかね……それとも私の年単位の貯蓄を軽々上回る金額は月収程度なんでしょうか……。泣いてないです、別に泣いてないです。悔しくないです。ぐすん」

『ロズワード聖70億で決まりました!あ、ありがとうございます!』

 

 なんかすごく悲しくなって顔を覆った。

 コレクションは海賊の船長なんじゃないんですかロズワード聖。

 

 でも、ほんと、海軍雑用として聖地に赴いた時。ロズワード聖に目をつけられた。女狐には興味ないらしいが雑用リィンには大変ご興味を持ったらしい。

 

 世界会議の王族はリィン=女狐だと知っているが、世界貴族はリィン=女狐だと知らない。全員の共通認識というか、憎き敵だろうと世界貴族に余計な情報を落とさないのが世界会議の常識だ。

 

 1部例外はいるんですけどねー。

 

 

 ちなみにロズワード聖、私の手配書に圧力掛けてる超本人だろうからな。ONLYALIVEと聞いて絶対ロリコンロズワード聖だと思った。

 

 ロズワード聖、YESロリYESタッチの人だから。当時は睡眠薬こっそり気体化させて昏倒させたけど。

 

「お父様……」

「リィンだえ!ようやく手に入れたえ!」

 

 前代未聞の金額での取り引きだ。現金支払いなんて物はないんだろう。懐には一般人からしたら結構な額を入れているんだろうけど。

 

「ご主人様と呼ぶんだえ」

 

 わざわざ迎えに来たロズワード聖に膝をついた。ロリが好き、を称してロリコンと言うんだ、多少の不敬を少女は許される。媚び売るのもいいけど、私の本番はここからだ。

 

 

 麦わらの一味と天竜人を衝突させる。

 

 

 天竜人という大義名分があれば海軍の戦力を合法的に送り込めるとはセンゴクさんの談。ただ、『大型ルーキーがいるって名目があるんだから別にいいんじゃないか』とは指摘したんだけど『政府ではなく海軍内部で問題がある』と言われた。

 

「ご、ご主人さ」

 

 ギリ、と手に力を込めて悔しそうにそう呟く。

 ここら辺でルフィに視線を送り助けを求めればきっとルフィやナミさんなら天竜人の意志に反してでも助けて──。

 

 

「──ぅえ」

 

 首輪が急に動かされ首が締まる。首輪がなにかに引き寄せられている様に、私はロズワード聖の元から離れ客席に向かって飛んでいった。

 首が、首がしまる!

 

 どさりと肉厚な壁に背中からぶつかり息を詰まらせる。首輪は海楼石製じゃないので金属なのだが、固定された様に動かせない。

 

「え、え、何、誰、天竜人は」

 

 天竜人の場所を見るとステージから遠く離れた、とにかく出入口側へと飛ばされた?引き寄せられた?様だった。

 

 私は上を見上げる。

 

「面白れェことになってんじゃねェか、お前」

 

 そこにいた輩は赤い髪。

 

「あ!」

「──ROOM(ルーム)、シャンブルズ」

 

 口を開こうとした瞬間一気に視界が変わった。目の前には呆然としたキッドさんと、私が居たであろう場所には白いつなぎの愉快な帽子を被った男。

 

 するりと肩に体重がかけられる。

 

「妹の方、まさかお前が海賊になるとはな。見た時驚いたぞ」

「ちょっとキャプテェン!?俺をシャンブルズしないで欲しぐえ!!」

「邪魔だ」

 

 肩に乗っかった顔は不健康な隈があり、もふもふのキャスケットを被っていた。

 

「うげッ」

 

 名を口にしようとした、その時。グインと伸びてきた腕が私の肩を掴んで引き寄せた。

 

「お前らうちのリーに何してんだ!」

 

 鼻腔をくすぐる海の匂いに安心感を抱く。

 

「ルフィッ」

 

 名前を呼んだがルフィは海賊2人を睨み、口を開いて。

 ……ちょっとまって、こいつらの組み合わせはまずくないか。

 

 

「リーに手ぇ出すな!リーは…──」

「へぇ、テメェが麦わらの一味。騙されてんじゃねェか?」

「どんなあほ面かと思えば、なァ」

 

 あかん。

 

「俺の妹だぞ!」

「大佐の娘っ子に」

「革命屋の妹のほ……」

 

「「「──は?」」」

 

 3人の船長は首を傾げた。

 

 大型ルーキー最後の2人。

 

 キッド海賊団船長ユースタス・〝キャプテン〟キッド 懸賞金3億1500万ベリー

 ハートの海賊団船長〝死の外科医〟トラファルガー・ロー 懸賞金2億ベリー

 

 

 

 狂気の沙汰ほど面白い。

 

 私に演技を教えてくれた人はそう言った。もちろん他にも教えてくれた人はいるけど、長期ではなく短期間で演技をする時はとにかく目立つ様に濃く、と。

 

 不信感があってもいい。

 とにかく目的に合ったキャラ作りを。

 

 濃いキャラは濃すぎる周囲を参考にしたり、物語を参考にしたり、様々だ。

 

 例えば、誰かと数分だけ会話して情報を引き出す時は『無邪気で無知な知りたがりの少女』を演じた。引き出す内容は道を聞いたりだとか些細なことも多かったけど。実年齢より幼く、笑顔で、光しか知らない、恐れなど知らない、そんな子を…………。

 

 

 ……。

 あ、はい、現実逃避です。

 

 

「どういう事だ?リーは俺の妹でリーの父ちゃんは海賊だぞ!」

「お前こそどういうつもりだ。コイツは南の海(サウスブルー)のテッドって大佐の娘だろうが。直接本人に会ってんだが?」

「いやどうせ親は革命軍だろ?革命軍の兄と中身そっくりだったじゃねェか」

「はァ?あの大佐そんなに歳食って無かったが」

「何言ってんだお前ら。リーの兄は俺とエースで、リーの父ちゃんさっき会ったばっかりだ!」

「……はい?」

「は?」

「んん?」

 

 短期で演じたキャラの矛盾点がここまでタイミングバッチリに被るってこと、あるんですね。不信感があっても目的に合った設定。

 

 

「私の奴隷を返すえ!海賊!」

 

 とりあえず天竜人ぶっ飛ばしてもらう、ってことはしてくれないんですか。

 

 

「今すぐ覇王色が目覚めるしてこの場の全員気絶してくぬかなぁ」

 

 

 淡い希望発絶望行き海列車、出発しまーす。




この3船長の出会いを書きたいが為に、北海組が出ても私はグランテゾーロにローを投入しなかった。


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第214話 同窓会って黒歴史発掘調査兵団だよね

 

 

「「「どういう事だ!」」」

 

 私の素性に関する意見が綺麗なまでに食い違った3人の船長に詰め寄られる。

 

 私は顔を覆った。

 そしてため息を吐き、死んだ目で3船長を見る。

 

「いいこと思いついた」

「忘れてくれ」

 

 前頭葉をアイテムボックスに収納すればいいんだ!そうすれば完璧さ!ウソップさんツッコミが少し早すぎるかな!

 

「いや、もう無理だって、ダメだって、天竜人そこにいるって、矛盾点の塊みたいな人達が同窓会のごとく揃いも揃うしてなんだよ暇人ですか?」

「言ってること無茶苦茶じゃねーか」

 

 私の涙腺が火を噴きそう。なんでキッドさん私を呼び寄せたかな。このままだったらルフィがガチギレしてロズワード聖を殴ってくれそうだったのに。完全に毒気抜かれて視点が私に向いてんじゃん。どうしてくれるのさ。予定が完璧狂った。問題起こして欲しい時に起こしてくれない海賊なんてポイズン(物理)しちゃうぞ★

 

「よぉし逃げるぞリー。今海軍大将相手はさすがにきつい」

「待ってルフィ私海楼石!」

「あ?お前海楼石抜け出せねぇのか?」

 

 ゾロさんに抱え込まれ運搬される。私は怒る天竜人の叫び声をBGMに外へと連れ出された。そして外には海兵が武器を構えて居た。ワオ、タイミングが果てしなくバッチリかよ。

 

「ええええ、どう、どうしよう」

 

 天竜人が怒って海軍に救援出せばいいな、というのは希望的観測。ロズワード聖、当時雑用だった私を渡さなかった海軍嫌いだからどうだろうなぁ。殴られたらさすがにチャルロス聖辺りが通報すると思ったんだけど。

 

 早く海軍の戦力を呼んでくれ、という意味の『どうしよう』だったがローさんは何を思ったのか少し考え能力を展開した。

 

「〝ROOM〟」

「…………あれ?」

 

 ブオンという膜が広がり半球の空間が生まれる。わぁ、見覚えのある能力だ。具体的に言うと青い鳥(ブルーバード)のスットコドッコイピエロ。

 

「すぐ済む、気を楽にしろ」

 

 刀身を抜いたローさんが私に向かって刃を振る……ってなんでだよ!

 

──ブン

 

 刃が風を切る音。

 白刃の延長線上に居た海兵と、これまた延長線上にある入口に居た奴隷の首が切れた。

 

 ……。何しとんじゃい。

 

「何故避けた」

「避けますわい!……って、あれ?その奴隷、死ぬしてない?」

 

 奴隷の生首をつかんだローさんは首輪を適当な場所に放り投げてまた奴隷に首を繋いだ。

 つまり無傷のまま首輪をイリュージョンで外したわけだが。

 

「──分かったか」

「了解しますたお願い致します!」

 

 素直に両手と首を差し出した。

 ここで海楼石から逃げ出そうとしなかったら能力者失格だからね。知ってる。

 

 

 がちゃんと首輪と海楼石が外される。

 

 

 ローさん、シーナの知り合いだったよね。やっぱあのピエロの能力そっくりだ。このROOMって空間は凪の空間によく似ている。模倣か?

 

「キッド、まさか堕天使と知り合いか?」

「キャプテン、フレバンスの時の女の子だよな?」

 

 殺戮武人がキッドさんに聞き、クマのミンクがローさんに聞く。

 2人の船長はその質問に頷く。

 

 HAHAHA、胃が、胃が死にそう。

 

「……まぁリィンだからね」

「確かに」

「それは言えてる」

「もうなんも言えねぇな」

「おいこら麦わらの一味!」

 

 理解力があってありがとう!でも多少なりとも心配とかはして欲しいかな!

 

「……お前もついてこい」

「いいのか?」

「構わねぇ。戦力はあるに越したことはない」

 

 ローさんは奴隷に声を掛けると、彼は嬉しそうに笑った。

 

「こんにちはキャプテン・ジャンバーりゅ」

「噛んだ」

「噛んだな」

「噛みましたねェ」

「…………大丈夫か?」

「……ロズワード聖の苦労者同士仲良くしましょうぞね」

 

 その優しさに涙が飛び出そうだ。

 

「おいコラ糞ガキ!」

「……なんですかキッドさん」

「さっきの!どういう事だ!」

 

 あァ、3船長の言葉が食い違った件か。

 

「とりあえず──これ、蹴散らしてからでよろしきですか?」

 

 パン、と手を叩くというモーションを植え付けていつもの箒ではなく棍棒を取り出す。早いとこ新しい箒見つけないと。

 

「お、最近サボってた手拍子」

「……ウソップさぁん」

「別に手ぇ叩かなくても取り出せるんだろ?」

 

 ゴツンとその棍棒で隣にいたウソップさんの頭を思いっきり叩いた。フルスイングだ。

 ちくしょう、モーションの刷り込みは無駄に終わったか……!

 

「いいぜ、俺がまとめて片付けてやるよ」

「あ、ほんとですか。よろしく」

「背中はお前な」

「なんっっっでだよ!その言葉にキレる船長が2人も居ながら何故私チョイスぞ!」

「1回共闘したことあんだからに決まってるだろ」

 

 ならお前のクルーとやれよ!片付けてやると言った瞬間『あ?』って不機嫌そうな声を上げたルフィとローさんとやりたくないなら!クルーとやれよ!!!

 さも当然とばかりのバカバカしい表情に私はキレた。

 

「これだから童貞は……」

「童貞じゃねェわ!」

「うっそ卒業おめでとう!?本当!?真実!?」

「なんでテメェはそんなに上から目線でしかも意外そうなんだよッ!」

「だってラブホに泊まる程度で顔真っ赤にしてた童貞さんが……卒業とか信じられぬ……」

「……てめぇで卒業して欲しかったか?」

「へぇ、ヤれるの?」

 

 煽られたと分かったので喧嘩を売ってみる。にっこり笑ってみせればキッドさんは押し黙ったあと顔に手を当てて別の方向を向いた。小声で絶対無理って呟いてる。聞こえたよ、ちゃんと。ギロチンしてやろうか眉無し。

 

「ファーッファッファッ!キッドやられたな!」

「……!キラー!」

「あと私に手を出すと各方面が黙るしないので個人的にすごくオススメしないです。胃が、胃が痛い……」

「何か知らねェがどんまい!って、これ前もやったな」

「箒でグロッキーになるした童貞さんのバーカ!空き家狙うしたせいで私の胃は結構簡単に死ぬしたのですよアーホ!」

「ざまぁみろ」

 

 いーー!と歯を見せて威嚇する。

 この同期というか世代の船長共性格がクソオブドブで苦労が絶えない予感を察知。世代に特徴が渋滞してる。

 

 この世界のお巡りさん何してんの?あ〜私だったぁ〜。

 

 …………そうだせかいをほろぼそう。

 

 

「──どうでもいいので!そういうのどうでもいいので!童貞だろうと生娘だろうと知ったこっちゃないので遊んでないで手伝ってもらってもいいですかね!?」

 

 シャチの帽子を被ったハートの海賊団クルーが叫ぶ。海兵に押され気味で応戦していた。

 

「ローさん」

「あァ?なんだ革命屋妹」

「だからその言い方……。私貴方のクルーあまり知らぬですけどあのシャチ頭吹っ飛ばしていいですか?」

「名前はシャチであってる。兄様って呼んでくれたら後でバラしてやるよ」

 

「ルフィにぃに〜!」

「リーは俺の妹だって信じてた!」

 

 盃の絆を舐めるなと抱きしめ合う。注目すべきは麦わらの一味のこれでもかとスルーしている顔だ。

 でも絶対後で説明は求められると思う。

 

 冒険があればパン食い競走のように食いつくルフィだけど悪事はそこまでなので私の胃は治癒力の方が勝つ。とんでも発想力はお手上げですけども!

 

「リー、騒ぎは起こさない方がいいんだよな?」

「はいです。でもここまで騒ぎが起るすれば……海兵はやって来るでしょうね」

「そうなると俺たちはそーきゅーに魚人島に向かわなきゃいけなくなる!シャボンディ土産買ってない!」

「そこか」

 

 グルンとルフィは私を海兵の方角へ向かせた。んん?嫌な予感がするぞお?

 

「なんとかなんねぇかな?」

 

 何を抜かしてんだろうこの兄は。

 

「天竜人に危害は加えるしてない故に恐らく大将は来ないと思うですけど」

 

 これは本当。まだ奴隷としての私を奪った段階だからね。

 後乱戦を予想される外にわざわざ天竜人を出すなんて真似はしないだろうから外に出た今、天竜人に危害を加える、という期待は出来ないだろう。

 

 でも絶対投入させなければならない。海軍への言い訳として天竜人への危害を考えてたんだけどなぁ!

 

「あー、ルフィ。リィンちゃん。見知った気配が2つこっちに近付いてくる」

 

 サンジ様の忠告に私は首を傾げる。

 レイさんとフェヒ爺かな?いや、でもあの2人が素人の見聞色の範囲で気付かれる程時間の猶予を持つだろうか?

 

 とりあえず私はやれる事をやってみる。

 

「……海賊です道ぞ開けてください!」

「なんでそれで空けてもらえると思ったんだ」

「1周回るして開けてもらえるかな、と」

 

「──天使だ!道を開けろ!」

「俺たちの天使が帰ってきた!」

「捕縛したらインペルダウンだぞ!道を開けろ!」

 

 

「………。」

「………うそやん」

「……お前、お前まじか。引くわ」

 

 一部の人間が蜘蛛の子をつつく様に散り散りになって道を空けていった。これには私もドン引き。ついでにスルー出来なかった私大好きコンビ以外の麦わらの一味もドン引きした。

 他の海賊はもちろん絶句真っ最中だ。

 

「あァそうか……シャボンディ諸島の海兵って……本部からの派遣海兵……」

 

 10年という根深きファンクラブは本部の人間、元雑用が特に多いよね。しかも10年雑用してきたのは月組だけだから他の部屋の雑用ってどんどん出世していってるし。

 

 

 ……。

 ちゃんと仕事しようよ、海兵。

 

 

 

「雑用ゥ!またおまえか!」

「まてドレーク、他の海賊もいる」

「海賊なら海賊の道理ってモノがあるだろうが!そこ天竜人がいるだろ!迷惑をかけるな!」

「リィンさんがキレるやめろ」

 

 突然2つの声がして、その方角にいた海兵が吹っ飛び遊ばされた。

 

「な、何故来たんですかドレークさんホーキンスさん!?」

 

 そこに居たのはグランテゾーロで出会った北出身の海賊2名。シャボンディ諸島ではまだ再会してなかったけど、これで正真正銘フルコンプ。凄い、流石私!クソくらえ!

 

「麦わらの一味が余計な事しないかの監視だ!なんでお前ら海兵は捕縛せずに言いなりになってんだ!ちゃんと捕まえろ!」

「どっちの味方ですか貴方……」

 

 緊張感とか見事に雲散したわ。

 

「どーもこんにちはー、堕ちた将校殿!」

「元気そうで何よりだ、堕ちた天使殿」

「……。」

「…………。」

 

 やめよう、胃が痛くなってくる。

 

 

 

「──なにやってんだお前ら」

 

 ぞくりと背筋が凍り膝から崩れ落ちる。

 たらりと流れる冷や汗。

 

 でも声は聞いた事あるから、なんだか不思議な感じだ。

 

「ヘェ、今の海賊はこれを耐えられるのか。意外だな」

 

 バタバタと泡を吹く海兵達。

 私はそれに眉をひそめた。

 

「何これ……震えが止まらない……」

「すげぇプレッシャーだな……。まさかこんなところで伝説の海賊に出会えるとは」

 

「……とりあえず天竜人のそばに居るのはまずいだろ。話は後だ、GR(グローブ)移動するぞ、小僧、小娘」

「「はーい!」」

 

 私とルフィが同時に声を揃えたら麦わらの一味以外は仰天していた。

 

「分かる分かる。俺もさっきまであんなだった。運が悪かったな、こんなのに当たって」

「深く考えれば頭痛くなるだけだぜ、同期共」

「……海兵共、相手とタイミングがすこぶる悪かったなぁ」

 

 ウソップさん、ゾロさん、サンジ様。

 喧嘩売ってる??

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

 

「「「「剣帝の弟子ィ!?」」」」

 

 同窓会のメンツが口を揃える。

 12番GR(グローブ)まで移動した私たちはシャボンディ諸島の根の上で座り込んでいた。

 

 理由は覇王色の覇気を使えない筈のフェヒ爺が発した何かしらの技なんだけど、うちの女衆が膝をついて限界を迎えたのだ。

 

「──ということなのでこの栗色どぐされ畜生は一応味方です」

「言い草が全体的に酷い」

 

 ウソップさんのツッコミを華麗にスルーする。

 酸素と一緒にストレスも吸うこのストレス社会では多少のツッコミに気を使う必要性が感じられない、私は図太く生きる。

 

「んで糞ガキ、海兵の娘がなんで海賊なんてやってやがる」

「あァ確かに、気になっては居た。何故大物の娘でありながらお前たちは海賊に転じたんだ。占っても仕方ないので直接聞くが、リィンさんとドレーク」

「俺は海軍に嫌気がさしてただけだ。雑用の方は知らん」

「はァ?何を言ってるんだお前たちは。革命屋の妹の方となんの関係が」

「だーかーらー!リーの兄ちゃんはお!れ!」

 

 大型ルーキー船長5匹が噛み合ってるようで全く微塵も噛み合ってない会話をする。いや、唯一噛み合ってるのはドレークさんとホーキンスさんか。

 

「……こいつらの呼吸器官全部釘でぶち抜こうかな」

 

 ストレスすら吸えなくしてやろうか。私の黒歴史の生き証人。

 それに死なば諸共、巻き添えに出来るネタは一応持ってる。死人に口なしだよ。

 

 それにしても本当にどうしよう。

 天竜人に手を出すことなく現場から離れてしまった。途中からこれはやばいと思ってマントの下で電伝虫繋いでいたけど、センゴクさんの応用力に賭けるしかない。そしてそれに計画性もなく乗っかる私の火事場のクソ演技力とね。

 

「小娘、そろそろ説明してやれ。俺が現れたことよりお前の素性の方が気になってやがるぞルーキー共」

「デスヨネ」

 

 頭を掻きながら胡座をかく。

 女の子がそんな格好をしない、って感じでドレークさんが叱ってくるけどスルーした。

 

 それにマントの中で電伝虫がセンゴクさんに話を届けているから下手な事は言えないしね。簡単にだけ説明しよう。

 

「まずキッドさんの言う『私のお父さん』ですが」

南の海(サウス)の、テッドって大佐な」

「あれ、完全に嘘です。むしろキッドさんと会った時が完全に初対面ですしそれ以降会ってないです」

「はァ!?あんだけ仲良さげに会話しといて!?」

 

「リィンってこういうとこあるよな」

「周りを振り回す事に関しては天才的だし」

「リィンって残虐非道って言うんだよね」

 

 驚くキッドさんの横で麦わらの一味が訳知り顔みたいな感じに語ってる。あァ、慣れてきたんだな。

 

「麦わらの一味の反応は年下で年頃の思春期女子に対する反応だと思えばちょっとどうかと思う。ところでウソップさん辞世の句の用意は出来てる?」

「一息で死の覚悟を問うな」

 

 やだなぁ、ジョークが伝わんないなぁ!

 ニッコニコ笑えばウソップさんは怪訝な顔をした。ゴホンっ。

 

「えーっと、確かラーメンっていう名の書類配達でしたよね。私四歳の頃から海軍の能力者として雑用すていた故に、本部にいる親代わりからの依頼で飛びました」

 

 そこで私はドレークさんとホーキンスさん、そして麦わらの一味に視線を向ける。

 

「その親代わりが2人の言う『海兵の親』、です。だから親代わりが一緒のドレークさんはある意味兄妹分である感じですね」

 

 海賊として関係を表すならシャンクスさんとバギーといった感じ。兄妹弟子ってわけじゃないし、血縁も盃も間にあるわけじゃない関係性。

 

「それで次にローさん」

「……嫌な予感がするが」

「私は休日に革命軍に予定ぞあり向かった時の事でした」

「内容は聞いたらダメか」

「旧友の生存確認です、噂ぞ聞いたので。まぁそれが、ローさんの言う『私の兄』……つまるところ参謀総長だったのですけど」

 

「参謀総長ってアラバスタにいたマントのヤツ」

「……あァなるほどな、半分正解って訳か」

「つまりあの総長さんとは革命軍に入る以前からの知り合いだったってわけね」

 

 そういう事か、と納得したローさんは顎に手を当てて記憶を思い返していた。

 

「じゃあド……七武海の話は?」

「アレはただの真実ですよ」

「当時聞き忘れていたが、何故革命屋……あー、妹屋が知っていた?」

「私がところ構うなく妹ポジションで媚び安売り中みたいな呼び方やめるしてくれません?」

「兄様と呼んでくれても」

「い、や、で、す」

 

 全力拒否すると兄であるルフィと兄的なドレークさんが口を挟んだ。

 

「リーは七武海と仲良いんだぞ!」

「主な雑用が七武海の茶汲みだったな、皆がやりたがらなかったから幼子に押し付けたというエピソードがあったはずだ」

「ルフィ、ルフィ、吐き気がするのでやめてくれませぬ?」

 

 ただの精神攻撃だった。

 

「七武海程度の茶も注げぬとか当時の雑用クソほど情けないですよね。それがこの諸島にいる海兵と恐らく同期ですぞ」

「そりゃ、険悪な間柄に進んで入りたがる者なんか居ないだろ」

 

「は?」

「ん?」

「へ?」

「え?」

 

 ドレークさんのため息混じりの指摘に素っ頓狂な声を上げたのは当然麦わらの一味。

 フェヒ爺ですら、麦わらの一味の反応に驚いていた。つまりこの中で異質な反応は麦わらの一味だけ。

 

「いや七武海ってかなり仲良いよな?」

「え、えぇ、ボスはドフラミンゴとよく呑む中だったわ。時々ミホークもワインを片手にアラバスタに来てたけど……」

 

 ウソップの疑問にニコ・ロビンが答える。クロさんと長く居たのはこの人だから、当然関わりがあるよね。

 

「現存七武海ではモリア以外仲良しですよ。魚人のジンベエさんも迫害されてませぬし」

「あ、あーーーっ!リィンがアーロン相手に引かなかったし魚人怖がってないのって七武海に魚人がいるからなの!?」

「え、常識では?だってナミさんもココヤシ村で説明聞きますたよね?『ジンベエが七武海に加入する代わりにアーロン釈放』って」

「聞いたけど、魚人だった、のね、そうよね、冷静に考えればそうよね」

 

 ゾロさんの知り合いで賞金稼ぎ仲間である2人組にそう説明されたはず。

 

「貴女が入隊当時から七武海って仲良いわけじゃないのよね?貴女、影響力だけは1人前だから」

 

 ニコ・ロビンの棘のある言い方にイラッとしながらも七武海の初対面を思い返す。

 

「クロさんがロリコン……あ、違う、違わぬけど」

「お前の頭かち割って脳内調べてみてぇわ、なんだその記憶」

 

「あ、鬼徹で絡まれるした」

 

 ゾロさんがコレ?と言いたげに刀を見せてきて、フェヒ爺はスススと視線を外す。

 

「今は亡きヘイヴとくまさんがマイペースで仲良しで、グラッジがキャンキャンと他の七武海に絡む……。あ、ヘイヴというのは過去ドフラミンゴが七武海入りする時に殺すされた七武海で、グラッジというのは海難事故ぞ起こした今は亡き七武海」

「ッ、ハーッハッハッハ!ざまぁみろグラッジッ!」

「……で、そこで大笑いぞしてるはグラッジの双子の兄。本名ディグティター・グラッタ」

「ハッハッハッ!…──さりげなく素性をバラすんじゃねェよ」

「ジジから教えられた瞬間ルフィの所に精神回復に向かった私の胃の仇討ちがこの態度で終わると思うなぞ」

 

 ディグティター家は私が潰す。

 顔面をがしりと掴まれた私は、指の隙間からフェヒ爺を睨んだ。

 

「つまり七武海って昔から愉快ぞいだだだだだだだだ!」

 

 指!指に力入れないでください!顔面が!パキュッて!なっちゃいけない音が鳴る!ごめんなさいフェヒ爺!

 

「で、痛みに悶えてる小娘の代わりに説明するが、そこの小僧と小娘は盃を交わした兄妹。ま、子供の真似事だけどな」

「俺達は真似事の盃なんて交わしてねーぞフェヒ爺!」

「あーあー、んな事わかってるよ」

「ウソップさん私の顔いつも通りですか!?鼻もげるぽろんしたり変な所から骨出てませぬ!?」

「発想が怖ーよ。いつも通りだ」

 

 顔潰れるかと思った。よかった、私の顔は結構有効な武器だから。まぁ私の力を最大限に使う的な顔である女狐は顔を全力で隠してるんですけどね。

 

 やっぱり自分に課せられた設定が多すぎるしキツすぎるよね。伝説の海賊の娘で七武海の癒しポジションで最高戦力で……あ、ダメ、これ以上考えたら胃が死ぬ。

 

「…………ッ」

「そういえばフェヒ爺、貴方覇王色の素質は未所持と昔言う経験ぞあっ…──」

「下がれ小娘ッ!」

 

 フードを引っ張られフェヒ爺に物凄い勢いでルフィの方向へ弾き飛ばされた。

 

──ドガァアアンッ!

 

 シャボンディ諸島の木屑が宙を舞う。塵の中から現れたのは3つの物陰だった。

 

「おぉ、丁度いい具合に揃ってるな、大型ルーキー………っと、カトラス・フェヒター、貴様もいるのか」

 

 私はぺたりと腰を落とした。

 

「うそ、なんで……なんでこんな所に……」

「天竜人が居て、ルーキーが多くいて、尚且つ貴様らが居るなら、面倒を見た責任として片をつけんと政府に顔向け出来んだろうが。リィン……──いや、海の屑共」

 

 私は唇が震え、手も足も震えた。

 耳に自分の歯がガクガクと噛み合わせて鳴っているのが聞こえた。ひきつる喉で、『屑』と言った男の名を叫ぶ。

 

「センゴクさんッ」

 

 海軍元帥が、七武海と海軍大将を引き連れてやってきた。

 ちなみに七武海はくまさんで…──

 

「め、女狐がなんでここに!?」

 

 ルフィがそう叫ぶ。

 

 

 …──海軍大将とは、白い服装を身にまとい狐の面を被った、女狐だ。




後書き浮かばなかった


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第215話 特別意訳:だってお前海賊の子供じゃん

 

 突如現れた海軍元帥。

 七武海と最高戦力という手土産まで持って現れたセンゴクに、フェヒターは『リィンに攻撃を仕掛けたセンゴク』の正面に立つとリィンに疑問を投げかけた。

 

「小娘ェ!どういう事だ!」

「理解不明ぞッ!」

 

 リィンは震える手でルフィの服をがしりと握りしめていた。離れたがらないリィンをルフィは片手で抱えあげる。

 どういう事だどういう事だと何か分からないことがあったら全て私に聞きやがって!とリィンが心の中で悲鳴を上げる。

 

「仏のセンゴク、とりあえず麦わらの一味で良かったな」

「あァそうしてくれ。ただわかっていると思うがリィンの能力は厄介だ。確実に潰してくれ」

「了解した」

 

 くまはコクリと頷くと空気を圧縮し始める。ほんの少しの時間の溜め、それは散弾銃の様に破裂した。

 

「グッ……!元帥と七武海相手に1人じゃ荷が重いな……!くっそ、あの腹黒が居りゃ」

 

 ボソリとフェヒターは呟く。

 謎なのは海軍側の行動だ、何よりこの場に。

 

 

「(女狐が、2人いる……!?)」

 

 

 フェヒターの考えは、ルフィの驚きと直結していた。

 フェヒターもルフィも、そしてメリー号もだが、リィンが女狐だと知っている人間だ。

 

 嘘だ嘘だと繰り返し続けるリィンの脅えよう。

 フェヒターは1つの結論を下した。

 

 リィンにとってこの女狐は完全なイレギュラー。恐ろしい事だということ。

 つまり…──。

 

「海軍、てめぇ小娘を裏切ったな」

「なんの事だか分からんな」

「センゴクゥ!テメェだけはまともだと!思ってたんだがなァ!」

 

 『リィンでは無い本物の女狐が現れた』

 くまは拳を握りしめ武装色の覇気を纏うと、伝説の海賊であるフェヒターを無視してルーキーを潰しにかかった。

 

「ま…──ッ!?」

 

 フェヒターは動けなかった。

 その理由はセンゴクと共に現れた方の女狐だと、その視線で確信した。足が地面に縫い付けられた様に動かない。まるで空気が動くことを嫌っているように。

 

 

「そもそもだ剣帝。……リィンは冥王、ひいては戦神の娘だろう。海賊の血は、海賊王の一味の血は絶やさなければならない」

 

 

 リィンの恐れていた事が現実となってしまった。

 その言葉を避けるが為に、今まで頑張ってきたと言うのに。

 

 

「なんで、そんなこと……!センゴクさん、センゴクさんっ!」

「やめろ雑用!海賊に堕ちたのは我らの方だ!」

「違う、だって、やだやだやだやだ!」

 

 リィンは涙をボロボロ流しながら叫んだ。

 

「本当のお父さんみたいに!優しくしてくれたじゃなきですか!」

 

 海軍の親代わりは慈愛を込めた笑顔を浮かべ、口を開いた。

 リィンの言葉…──『父親のように』『冥王と戦神』などの真実に驚いていたキッドやローは、その言葉を聞いてキリリとセンゴクを睨むことになる。

 

「──最早利用価値もあるまい」

 

 ボンボンボンボンと地面が激しく爆発する。それはまるで水素の爆弾が降っている様な。

 仲間が、海賊が、その爆発に巻き込まれ血を流す。

 死に至るほど強い攻撃じゃないが、確実に戦いの火蓋が切って落とされたと確信する範囲攻撃だ。

 

 フェヒターはその技を見たことがあるようで見たことがない。

 つまり唯一の無知、女狐の技だと確信した。

 

「移動という観点ではくまを連れてきて正解だったか。まとめて潰すと護送船と海兵を使ってしまう。海底か上空あたりでいいだろう、能力者であろうとなかろうと死ぬ」

「確かに、的を射ている」

 

「う、ああああああああああぁぁぁ!」

 

 リィンが胸を抑えて苦しみ始めた。仲間の悲痛な声が届く中、リィンはルフィの腕から転げ落ち、地面にべシャリと倒れ込む。

 

「めぎ、つね、あ、なた………か…」

「……………消えろ」

「やめろォお!」

 

 女狐が手を銃の形にし、標準をリィンに合わせた。

 嫌な予感がする。

 ルフィは咄嗟にゴムの体を伸ばして女狐へと殴りかかった。

 

「させぬ」

 

 しかしルフィの腕はくまに弾かれる。女狐はバックステップを取ったかと思うと地面に倒れ込んだリィンに迷うこと無く肉薄した。

 

「小娘!」

 

 動けないフェヒターはただ叫ぶ。

 

「ちっ、〝シャンブルズ〟」

 

 ローの能力の展開。リィンの居場所とそこらにあったであろう樽が入れ替わる。

 女狐は小さく舌打ちをすると指で空に何かを書き始めた。何も見えない、パントマイムにも見える。

 

「〝獅子歌歌〟」

「〝首肉(コリエ)シュート〟」

 

 堂々とした余裕で女狐は立っていた。避けるなんて動作を全くする前兆の無い女狐。技を仕掛けた2人は眉をひそめる。

 

「〝武装〟」

 

 間に割り込んだセンゴクによって防がれていた。

 

「ずらかるぞお前ら」

「流石に分が悪すぎるな」

 

 ローとキッドが撤退の合図を出す。ホーキンスは既に姿が見えない。死ぬ確率は占いにより無いと知っていても、このプレッシャーに耐えきれる程の度胸は持ち合わせていないからだ。そしてドレークは叱られた子供のように萎縮している所をホーキンスに引っ張られていた。

 

 同期の撤退。それに続くようにルフィも声を上げた。

 

「全員!生きてここから逃げ出すぞ!バラバラになって!少しでも生存確率を上げるんだ!約束の3日後!会おう!」

「ハッ」

 

 女狐が鼻で笑う。

 そう言えば、と麦わらの一味が青キジの言葉を思い出した。麦わらの一味の同期も女狐担当だった、と伝えられていた様な。

 

 逃げるだけ、無駄なのではないか。

 

 女狐は海軍元帥というプレッシャーに隠れてしまっているが自分達はその女狐と対峙した、と思っている。ルフィ以外は。

 

「ハートの海賊団とキッド海賊団、後はバジル・ホーキンスに、ドリィ、君たちは見逃そう。だが麦わらの一味──」

 

 まるで女狐の言葉を引き継ぐかのようにセンゴクが海を漂う屑に向かって毒を吐いた。

 

「お前らは生きていることを許すと思うなよ」

 

 リィンは肩で呼吸をしている。何らかの攻撃を受け、反撃のできない状況だ。最速でリィンを潰されたということは、困った時のリィンの能力に頼れない。麦わらの一味だけでは、七武海1人だろうとキツイ現実だ。

 フェヒターは足が動かないながらも、上半身を捻り勢いを付けて武器を振り下ろした。それは斬撃となって……女狐の元へ。

 

 動けない原因からどうにかしようと考えた。

 

 また、大事な者が傷つく瞬間を傍観するのは嫌だから。

 

「ッ!?」

 

 予期せぬ方向からの攻撃だったのか、他に集中していたのか。女狐は虚をつかれ驚いた。斬撃は彼女に襲いかかる……寸前、斬撃自体が塵のように消え去った。

 流石にこれにはフェヒターも驚くしかない。不意打ちの攻撃を無効化した女狐に。

 

「あー……」

 

 それに気付いたセンゴクは嫌そうな声を出した。

 

「女狐、気を付けてくれと言ったよな。あァ、口には出すな。とりあえず、お前はリィンに有効だ。生け捕りのみだ、決して殺すなよ、だが確実に仕留めろ」

 

 一体何を言っているんだ。

 フェヒターは知っているはずのセンゴクが、全く知らない様に思えてきた。それに女狐の能力の制限、効果、それらが全く分からない。

 理解が出来ないのだ。こんな感覚は人生でそうあるものでは無い。

 

 

 女狐はコクリと頷くとリィンに再び肉薄する。止めようとするも仲間達は七武海のくまに邪魔されている。

 

「お勤めご苦労、女狐」

 

 リィンは女狐に触れられると、電流が走ったように体を硬直させ、女狐の方に向かって気を失った。

 

 

「……どういう、事だよコレ」

 

 フェヒターは考える。

 リィンが女狐であったことは確実だ。そして先程言ったお勤めご苦労という言葉は、リィンに。過去の女狐に言ったようにしか思えなかった。

 

 つまり、お飾りの大将はもう不要、という事ではないのか。

 

 リィンが仕組んだことであればまだ救いはある。だが今回シャボンディ諸島にやって来て、

 

 

「センゴク……!テメェ!」

「くま、ONLYALIVEは海軍本部へ飛ばしてくれ。ほかは海の底だ」

「心得ている」

「な……ッ」

 

 くまの肉球に触れたゾロが一瞬にして姿を消した。

 

「ゾロ、が……消えた……?」

 

 応戦で精一杯の麦わらの一味は最早ボロボロだ。比較的軽傷で済んでいるのは、海軍元帥は戦い自体にはそう参加せず、指示を出しているだけである、それだけだからだ。

 

 知将センゴク。

 その恐ろしさは最高戦力に劣らぬ戦力、では無い。

 

「ハートの海賊団、頼むから逃げてはくれないか。そこにいるとまで殺してしまう。珀鉛病の子よ」

「……!」

 

 物陰に隠れて息を殺していたはずのローが、見透かされる。

 全てを見通しているのかと、そう錯覚するほどの優れた知能。観察力。そして数多の海賊を罠に掛け捕縛してきた恐ろしい頭脳、戦略を組むこと。

 

「(いや、甘いな。脳筋すぎるぜセンゴク)」

 

 フェヒターだけはこの作戦の甘さというのに気付いていたが。

 それは作戦の不完全さではない。追い詰めが甘いというより、センゴクらしくない力技の作戦であったという事だ。違和感があるのだ。作戦立案がセンゴクでは無いのか、はたまた作戦に制限があるのか。

 

「くま、早くしてくれ。私達も忙しい」

「了解した」

 

 左で、右で、応戦しながら一味を相手するくま。その能力で次々と麦わらの一味は姿を消していく。

 フェヒターの横をすれ違った瞬間、彼はフェヒターにしか聞こえない様な小さな声で呟いた。

 

「……麦わらの一味は安全な場所に飛ばしている、安心しろ」

「テメェ、なんでそんな」

「麦わらの一味はリィンの仲間だ。説明不足か」

 

「……いいや、充分な理由だ」

 

 あの影響力だけは1人前の娘だ。その一言で納得してしまった。

 

「全く、雪辱を果たしたいだか何だか知らないが、こうわがままが何度も効くと思うなよ」

「わかっている」

 

「(ほぉー、あのくま公に無理通されてるから知将っぷりを発揮出来ないってわけか。なら、ひとまず安心か)」

 

 フェヒターは知将を相手取るより『麦わらの一味を理想的に離脱させるくま』に賭けた。抵抗の意志を感じないと思ったのか、足が自由になる。

 

「歳だけは取りたくねェな」

 

 ……最悪、リィンだけは奪い返せるように。女狐の手にあるリィン奪還は、自分の仕事だ。

 狙うべき点を決め、体力の温存に励んだ。

 

 瞬間的に、最大の力を出せるように。

 

 

 その間もどんどん麦わらの一味は消えていく。くまの能力は三日三晩どこかを飛び回り旅行する技、行き先は本人にしか分からない。

 

「焦んな、俺」

 

 リィンが成長する度思い返すのはロジャー海賊団で冒険した日々だ。拾われ、拾い、救われ、救い。

 

『グラッタ、情けねーな』

『ほぉーら行くよー』

 

 リィンそっくりなアホ面が思い返される。

 

「……やるか」

 

 麦わらの一味にとって、船長であるルフィにとっては絶望しかないだろう。仲間が次々と飛ばされる中、何も出来ず、ただ無力を噛み締める。プライドもへし折られ、絶望しかないだろう。

 

 ルフィが叫んだ。独り取り残されたルフィが。

 

「リーを、離せぇ!」

「……ッ」

「お前は!女狐なんかじゃない!似てるけど全く違う別人だ!あやふやだ!俺のリーを!俺の女狐を!妹を返せ!」

 

「……は、はは」

 

 なんだ、麦わらの一味はもう既に絶望を味わっていたのか。

 ルフィはリィンが女狐であることを知っていたのか。

 

 フェヒターは喉の奥から笑いがこみ上げてきた。

 

 俺に助けを求めるとか、そういう考えは持ち合わせてない。甘い。甘いが、助けたくなる男に成長している。

 

──強くなったな、小僧。

 

 今だけは耐えてくれ、行き場のない気持ちを無理矢理殺しフェヒターはそう願った。

 

「……もう二度と、会うことも無いだろう」

 

 くまの肉球に押し潰され、ルフィは姿を消した。

 

「小むす…──ッ!」

 

 ピンと海軍側3人に気付かれない死角でリィンが指を動かした。生きてる、大丈夫だと伝えてくれている。止まれと指で伝えてくる。

 

 考えがあるんだな、テメェには。その状況から逃げ出せる手段が。頼むから死んでくれるなよ。

 

「……センゴク、俺は絶対お前を許さない。小娘を苦しめた『外道』を」

「育児放棄した父親の代わりにここまで育てた私に感謝こそすれ恨まれるのはお門違いだがなあ」

「ッんだと」

「肝心の父親は来ない。所詮海賊、と言った所か」

 

 

 

 

 ──シャボンディ諸島12番GR(グローブ)。この日、麦わらの一味は完全崩壊を喫した。知将センゴク、七武海くま、そして謎の将校。恐らく彼女が女狐である。その強さは海軍を導き、世界を守る私達の神なのかもしれない。1部を覗き見た私はそう思った。『出版社【毒の花】より抜粋』

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

 キィ、と軍艦の扉が閉まる音。

 気絶したフリをしていた私は、その音を聞きながら黙ってセンゴクさんに運ばれる。

 

 どさり、とソファに腰を下ろす音。

 

 そして…──

 

「「──お疲れ様ーッ!」」

 

 人払いをした後でセンゴクさん、くまさん、女狐、そして私の4人でハイタッチを交わした。

 

 

 フゥ、と一息はいて私はセンゴクさんの隣にとすっと座る。センゴクさんが飲み物を用意してくれたので遠慮なく貰った。

 

「いや、土壇場でよく息ぞ合いますた。ありがとう!」

 

 乾杯、と言いたげな感じで私はコップを掲げる。

 それに付き合ったのは意外にもセンゴクさんだった。

 

「これはリィンの作戦勝ちだ。元々の作戦が力技なところがあったから細かな会話やごまかしをするだけで助かった」

「飛ばした場所は指定された者以外は適当なチョイスだったが大丈夫か?」

 

「大丈夫です多分。あの人たち生命力は高い故に。それにしてもくまさんも一味相手によくやってくれますたァ!それと女狐、短期間でよくここまで仕上げますたね」

 

 ごくごくと甘ったるいジュースを飲み干すと、コップを机に置いた。ハー…と脱力しながらソファに腰を沈めると、女狐は仮面を外しフードを取った。そこから出るのは私の顔。

 

「そうじゃないわよーーーう!あちし、本当にビビったんだからねい!?怪我はないのーう!?」

「私が守るからあえて無防備にしろ、と言っていたのに剣帝に一撃許してしまったな。すまない」

「だ、大丈夫ようセンゴクちゃん!何故か無事だったしぃ。……話持ち掛けられた時は流石にびっくりしたけど」

 

 ──をした、私の心友ベンサムだった。

 

 麦わらの一味とその他諸々に襲いかかった女狐はベンサムでした!ありがとう私の真似!

 

 そ れ よ り も 。

 

「見ますたかセンゴク!あのフェヒ爺の間抜け面!いやー、スカっっとしますたね!」

「これが冥王相手なら上手くいかなかっただろうな。間抜けの方で助かったよ」

「そりゃまぁ!足止め頑張りますた故にィ!」

 

 持つべきものは能力者の友と協力者だね。能力者万歳!

 

 

 

 そう、私は今回完全に企んで麦わらの一味を陥れたのだ。

 予定外の事なんてほんの少ししかない。例えばカクが現れたり天竜人殴ってくれなかったり同期が勢揃いだったり。

 

 

 

 今回の目的と方法、そして問題点を箇条書きにするとこうだ。

 

【目的】

 ・2代目海賊王育成計画

 →修行する環境を無理矢理作る

 ・麦わらの一味を完膚なきまでに叩きのめす

 →最高戦力や七武海に潰してもらう

 ・依存しない様に全員バラバラにする

 →くまさんの能力を利用

 

【問題点】

 ・レイさんとフェヒ爺の妨害

 →シーナを緊急派遣して足止め対応

 ・ルフィが女狐を勘付いた疑惑

 →念押しでリィンと女狐の同時投入

 →ベンサムのマネマネの能力で実現

 ・声色や戦闘

 →あえて何もさせず、私が能力(不思議色)を使う

 ・堕天使リィンの行動

 →動揺とショック、そして最初に狙いを付け無力化

 ・同期の海賊団

 →面倒臭いから逃がす

 

 

 完璧、完璧である。

 

 そして幼い頃の私の悪いところを完全に回収する為にも、今回頑張った。

 悪いところ?そんなの伝手を広げるために犠牲にした女狐の正体だよ。あれがなければ伝手は出来にくかっただろう。それの払拭だ払拭。

 

 女狐=リィンだと知っているフェヒ爺やその他諸々へのアピール。ズバリ『リィンは女狐だったのかもしれないけどその情報はほぼ無駄に終わるんだよ作戦』!

 

 『女狐リィン』の尋常じゃない動揺で、完全にイレギュラーだということを言外に伝える。

 

 そして『女狐ベンサム』が現れたことによって。

 

 海軍はこういう判断を取ったとみなされるだろう。皆は思うだろう。そして私、女狐も思うだろう。

 

 『お飾り大将を切り捨て、本物の女狐を出した』と。

 

 私、リィンは本当の女狐を登場させる(or見つける)までの繋ぎだったのだ。ロジャー海賊団の冥王と戦神の娘というポジションで純粋無垢。すぐに利用出来、切り捨てるのに容易な人物。

 政府や海軍にとって私ほど都合が良くて利用しても良心が痛まない存在はないだろう。そこを敢えて利用した。

 

「問題は本当の女狐が何故10年もリィンという影武者を使って潜伏していたか、ですけど」

「そこだ」

 

 女狐の輪郭があやふやだ!という問題点もあった。だから私はセンゴクさんにこう提案された。

 

 『リィンが演じる女狐を殺してみないか』と。

 

 私は『リィン』を捨て、『女狐』を選んだ。もちろん両方とも守れるのなら守りたい顔ではあるけど。

 完璧だった。流石、センゴクさんと私が考えた『絶望のシナリオ』だ。どこからどこまでが偽女狐で真女狐なのか、という括りを決めなければならないが私の潜入はこれにて1括り終了。考える時間は沢山ある。

 

「私の知ってる人間の中に都合のいい設定を持った人間がいた。そいつは能力者だったから、それを借りるのもいいだろう」

「へぇ」

 

 能力者は強力な能力を得る代わりに泳げなくなる。そして他にも代償はあり、肉体年齢が止まることや、能力の使用に体力を使うなどのぼったくりがあったりする。

 それはもう実際食べたり、会ったりしないと理解出来ない点だ。

 

 センゴクさん程の人物だったら多くの能力者を知っているだろう。

 

「とりあえずそれはまだ先の話だ。とりあえずリィン、潜入お疲れ様。そして女狐の任を一旦降りてもらう」

「真女狐も、やっぱり私なのですか……?」

「当たり前だ。お前をそうそう手放せるか。女狐の枠はお前を海軍に囲い込むのに丁度いい。……──これを期に自分が影武者の女狐で裏切り者だった、と麦わらの一味に伝えるのもいいかもしれんなァ」

 

 海賊もびっくりのあくどいやり方。麦わらの一味は友好的だ、多分許してくれるだろう。分からないけど。同情を誘うやり方でいけばきっと影武者の女狐だったリィンなら受け入れてくれる。

 そうすれば堕天使リィンは海軍と完全に分断。つまり海軍の内通者だと疑われる可能性は現状より限りなく低くなるだろう。

 

 

 真女狐。

 演技の都合とか、能力の都合とか、そういうのは多くあるので嬉しい限りだ。賢い人や私が女狐だということを知っている人に対して『偽女狐』と『真女狐』という括りを作るだけで、一般海兵や一般市民に対しては一貫して『女狐』だ。

 偽物と本物に違いを作らない方が良い。

 

「ともかくお前には休暇をやらないとな」

「え、マジです!?」

 

 ぎょっと目を見開いて休暇の話を詳しく聞き出そうとする。私これから書類仕事とかに殺されなくて済むの!?嘘!?マジで!?

 

「安全な所で1週間から1ヶ月、それくらいなら暇を出そう。というか最低1週間は休め」

「やったー!休みだァ!」

 

 クルクルと小躍りしながら喜びを全力で表現する。

 ベンサムは私の顔で苦笑いを浮かべながらため息をついた。

 

「とりあえず何かをやったフリをして堂々と余裕ぶってろ、って聞いた時はどうしたらいいものか焦ったけど。センゴクちゃんの指導あって本当によかったわよう」

「あの拳銃や文字のパントマイム完璧!あと声色も!」

「センゴクちゃんの指導の成果よーう。あと声色は音貝(トーンダイヤル)、って言うのよねい。あれに吹き込んでくれた女狐バージョンの声聞きまくったのよーう!」

 

 ウォーターセブンで月組に頼んで、ベンサムに荷物を届けてもらった。あの中には女狐なりきりセットが入っていて、仕草や癖は紙で細かく、声色は音を吹き込んで頑張ってもらうしかなかったから最悪私がアテレコしようかと思ってた。

 マネマネの実、やっぱり使えるな。

 

「ニコ・ロビン辺りが気付く無いといいですけど」

 

 まァ悟られる様な演技はしてない。私の嘘は、七武海辺りじゃないと中々見抜けないだろう。センゴクさんですら時々騙されるんだ。

 

 ただ情報を整理して真実に行き着かないか、という不安はある。どこからどう情報を得るか、そこは操作出来ないんだし。

 

「フェヒターが気付かないんだ、気付くわけがない」

「そうですね、あの人も間抜けですけど、賢くない訳では無いですし」

 

 そもそも3人の大将にすら伝えてない。

 サカズキさんがこの諸島に居て不都合だったのは、天竜人に要請されて動く人間が大将以上であるからだ。

 

 センゴクさんは麦わらの一味を利用しようと企んでいる。その中で他の大将が派遣され、命が潰されたら。

 麦わらの一味2代目海賊王育成計画が台無しだ。

 

 もちろん育成させるバラバラの期間に麦わらの一味が狙われても戦力分散してる今、とても拙い。

 そこでお役に立つのが必殺情報操作!

 

「それに麦わらの一味完全崩壊をノーランさんに頼むして大々的に広めるしてもらう故に、えへへ、完璧ですよ。これで麦わらの一味が完全に修行に力を込める可能です」

 

 とにかくこの情報を推して貰うように頼んだ。今回は情報拡散の意味も兼ねて全力で情報を広げる。その代わり、青い鳥(ブルーバード)では生存説を推して貰うけど。

 世界は混乱すると思うよ。

 

「そう言えばくまちゃんはどこに飛ばしたのよう」

 

 キョトンと私の顔が不思議そうな顔をした。くまさんの能力で飛ばされた先はベンサムに伝えてない。というか私も聞かされてない。

 一部の人間だけ、センゴクさんと相談して決めているけどほとんどセンゴクさんが決めた。予想外だったのはくまさんもノリノリだった事だろう。センゴクさんから又聞きしただけなんだけど。

 

 飛ばす場所は寸前に思いついて変えてもなんら問題無かったから相談とかそういうのは後回しだったんだ。

 

「ロロノア・ゾロをミホークの所に。これはリィンの希望だったな」

「はい。というしても、私も世界に詳しきわけではない故。センゴクさんに任せるでした」

 

 だから麦わらの一味が到着するまでの2日間めちゃくちゃしんどかった。シーナを呼び寄せて、ノーランさんと記事の打ち合わせして、センゴクさんと計画立てて、と。引きこもっていたので電伝虫フル活用で頑張りました。こんなに頑張ったの久しぶり。

 

 

 

「この知将親子怖いわ……」

「分かる」

 

 ベンサムの恐れる声とくまさんの同意。

 私はにっこり笑った。センゴクさんと同じような笑顔で。

 

 

 

『そもそもだ剣帝。……リィンは冥王、しいては戦神の娘だろう。海賊の血は、海賊王の一味の血は絶やさなければならない』

 

 

 

 

 私の恐れていた想像を、センゴクさんは現実にした。女狐の影武者なんて出生や諸々含め私の恐れることそのものだ。

 だから私は私を絶望させる為の策は思いついた。

 

 センゴクさんは私に『女狐リィンを殺さないか』と提案され、その計画に追加させる様に私はセンゴクさんにこう提案した。

 

『センゴクさん、私の嫌がることを実現してくれませんか?』

『は?』

『私、リィンを。影武者の女狐であり堕天使リィンである私を、海賊の血筋だと貴方がハッキリ口に出すして切り捨てて欲しい』

『……正気か?そんなことをしても、お前に利点は無いだろう。そもそも元女狐だと怪しまれる様な行動になるぞ?』

『女狐の正体がセンゴクさんの想像以上にバレてる。ならその欠点をゼロに戻すんです。センゴクさんが子供を利用する最低のクズ野郎という評価と引き換えに』

『それは』

『そうすれば、私はセンゴクさんを怖がる。海軍を恐れる。鬼の血を引く私だから』

 

 センゴクさんの評判は最低になるだろうけど所詮海賊の評価だ。

 やるなら、徹底的に。

 

 リィンの女狐を殺すのなら、手加減不要。普通のセンゴクさんなら『海の屑』に堕ちた子供を許さないだろうから。

 

 

 

 ……あ、そうだ。この作戦が終わったら言いたいことがあったんだ。絶対に伝えなきゃいけないことを伝え忘れていた。

 この作戦だからこそ。絶対に。

 

 

 

「センゴクさん、育ててくれてありがとう」

 

 感謝こそすれ恨まれるのはお門違い?

 全く持ってその通りと同意しか出来ない。

 

 センゴクさんなら私を見捨てないと思ったから、私は『私への絶望』が怖くなかった。諸刃の剣だと思ったけど、難色示したセンゴクさんを信じたのだ。

 

「……いかんな、歳か」

 

 センゴクさんは丸眼鏡を外して目元に手を当てた。ニッ、と歯を見せて、私はベンサムに愉快だと言わんばかりに笑いかけたのだった。あー、船酔いが来そうだなぁ。センゴクさん、傍で休んでいい?

 

 

 

 

 

 

「ご苦労さまですセンゴク元帥!」

「頼むぞ」

「……あれ?」

 

 何故か軍艦はインペルダウンに着いていた。

 

「…………あれぇ?」

 

 私はあれよあれよという間に囚人服を着せられて。

 

 

 

──ガシャン

 

 

 level6の牢屋の中に何故か居た。

 

 

 

「はぁああぁぁあ!?センゴクさんどういう事ぞ!?」

「すまんな、休暇はここで楽しんでくれ」

「えっ、え、これは休暇では無いですよね!?」

 

「あー、ごめんねいリィンちゃん。あちし別に女狐は乗っ取りしないからそこは安心してよう」

「外敵が来ることも無く、ワンルームで寛げる最高の場所だ。ベッドが硬いのは譲歩してくれ」

 

 牢屋の外でセンゴクさんが私を見下ろし、女狐の仮面を被ったベンサムが申し訳なさそうに手を合わせる。

 

 つまり私はこれから牢獄で、更にいえばいつでも処刑出来るわけじゃないですか。『元海軍雑用の現海賊モンキー・D・リィン』は住民登録で家名をモンキーにしているから、『両親が海賊の女狐本名シルバーズ・リィン』よりある意味安全っちゃあ安全なわけですけど。

 わざわざ海楼石の錠まで付けて、足枷まであって。

 

 センゴクさんはそのまま踵を返した。

 

 

「──もしもしィ!?流石にこの扱いはちょっとどうかと思うですけど!おい聞けやド畜生!!!……あ、ちょっと待ってください。さっとあ゛け゛て゛く゛だ゛さ゛い゛っ!」

 

 

 『私への絶望』が遅れながらも私にダメージを与えにやってきた。

 女狐も、なんなら私も表にいてはいけない世界の都合って、本当に何。

 

 処刑用の建前とかじゃないですよね。センゴクパパ。

 

 

 どういう事なの。聞いてない。




シャボンディ諸島終了。しばらく時間を開けて次に入りますが幕間に麦わらの一味のこの後、を投稿します。、

リィンは優等生系ドクズ。これはもう昔から分かっていたことだった。インペルダウンもやむなし。


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幕間
第216話 ルフィ、アレに出会う


 

 

「どこだ、ここ」

 

 ルフィはパチリと目を覚ました。知らない天井だ。

 天幕のかかった見るからに高そうなベッドの上に、ルフィは傷の手当をされた状態で寝ていたのだ。キョロキョロと辺りを見回すと、どこかで見ていたかのようなタイミングで女性が現れた。

 

「起きたのか」

「おう!で、えっと、誰だ?」

「……妾を知らぬとは嘆かわしい」

「なんかごめんなー」

 

 友人のように語りかけるルフィに女性は誰もを虜にするような笑みを零す。

 長く美しい真っ黒な髪が背中いっぱいに広がる。ルフィの鼻腔を上品な花の香りがくすぐった。

 

「妾の名はボア・ハンコック。妾の同僚が何やら迷惑をかけたようじゃな」

 

 ハンコックは水桶を手にルフィの座るベッドに腰掛けた。

 

「怪我は痛むか?」

「いや、大丈夫だ。手当てありがとな」

「気にするでない」

「でもなんでハンモックの所にいるんだ、俺」

「ハンコックじゃ」

 

 ハンコックはルフィを見つけた経緯という物を思い返しながら口を開いた。

 

 突如、ハンコックの根城に男が降ってきた。それがルフィだ。女ヶ島と呼ばれるハンコックの国は男児禁制、即刻捉えようとしたハンコックだったが、男の下に肉球の形で地面が抉れていたのに気づく。

 

 七武海会議に直接参加はせずとも電伝虫で定期的に連絡を取り合う仲だ。ハンコックはくまの能力も知っていた。主にドフラミンゴが旅行で遊んだという話の経由から。

 

「あの男がわざわざ妾の所にお主を飛ばすのを選んだ。これがなんの目的か分からぬが、ひとまず丁重な扱いをということにしたのじゃ。──麦わらのルフィ」

「んー、確かくまの奴と海軍の偉いおっちゃんは俺を、えーっと、海底に飛ばす??って言ってたけど?」

「……なるほど、海兵の指示に従うフリをして妾の元に避難させた、という説が高そうじゃな」

 

 偉いおっちゃんというのが元帥だと知らないハンコックは顎に手を当てて考える。それが元帥だろうと結論は変わらないだろう。

 

「そういやなんで俺の事知ってんだ?」

「麦わらの一味の事は妾達は着目しておる」

 

 そうしてハンコックはルフィを見た。何度も話題に出された名前だ。

 七武海共通の話題、リィン。彼女が雑用を抜け、所属した海賊の船長の名前だ。

 

 しかもクロコダイルを倒したと聞くではないか。これ程愉快な人物、興味を抱く人物は中々居ない。

 

「妾は七武海じゃ」

「……あー、七武海かぁ」

「他の奴らと一緒にするでない」

 

 ハンコックは澄まし顔でそう言うがお前に言われたくない案件なのである。そんなことを知らないルフィはふーんと興味なさげに返事をした。

 

「折角じゃ。女ヶ島を案内しよう」

 

 何度でも言うが女ヶ島は女人しか居ない。男児禁制だ。

 ハンコックはルフィが彼女にデレデレしない様子を見て、平気な部類だろうと判断をする。例えハンコックに対し骨抜きになったとしても目的があるので殺しはしない。ハンコックは声を裏返しながらも自分の中での本題を口に出した。

 

「ソッ、その代わり、麦わらの一味の話、リィンの話をしてくれぬか?」

「いいぞ!」

「ホントか!」

 

 そして話を振った自分が言えるものじゃないが楽しそうに嬉しそうに話すルフィの姿に『あ、ただのリィン好き』と確信したのもある。なんだ、麦わらのルフィは七武海と同類か。

 

 女ヶ島の様々な場所を案内する。ハンコックの部屋は肉球型にえぐれており、ルフィはここに飛ばされてきたことを改めて認識した。

 お礼の代わりと言ってはなんだが、ルフィは麦わらの一味の話を沢山した。旅のこと、仲間のこと、リィンのこと。女ヶ島という国にひきこもっているハンコックがそれはそれは楽しそうに聞く。ルフィの口も自然と軽くなっていった。

 そしてハンコックも女ヶ島の様々なことを説明した。ここは闘技場、ここは加工場、船着場、など。

 

 互いに警戒心は無く、仲睦まじく話を続けた。

 

 ルフィは麦わらの一味を語るにあたってシャボンディ諸島での話を掻い摘んで話す。

 

「……そうか、それで皆、くまに飛ばされたのじゃな」

「うん、くまの奴には感謝してる。殺すんじゃなくてハンコックの所に飛ばしてくれたから、俺はまだ生きてる」

 

 キツく拳を握りしめてルフィは悔しそうに表情を歪めた。

 

「ONLYALIVEが海軍本部という事はまず殺されることはない。じゃが、くまが行き先をコントロールしたのなら、海軍の手にあるのはリィンのみじゃ」

「そうなのか」

「あのセンゴクじゃ、話術巧みに逃げ出すことなどさせんじゃろう」

 

 ハンコックは爪を噛み忌々しいとばかりに視線を細めた。

 

「海軍本部か、インペルダウンにおるじゃろう」

「助けに行く」

「まて、無策で突っ込もうとするでない」

 

 だから足を貸してくれ、とルフィがハンコックに頼みこもうとするとハンコックはそれを止めた。

 

「妾は今海軍本部に招集されておる。これから戦争が起こるのじゃ」

「戦争……?」

 

 

 ハンコックは今回招集に応じるつもりである。

 普段呼び出されている聖地マリージョアではなく本部マリンフォードだ。他の七武海とオフ会し(いちどあっ)てみたいとは思っていたこの時、そしてルフィをリィンの所へ送り届けるのにちょうどいいタイミングだ。

 

 どのような意図でくまがルフィを飛ばしてきたのか分からないが、ハンコックは麦わらの一味を気に入っている。

 

 それは新聞や七武海内の電伝虫を通してだが。

 

 そして戦争が起こるということは海軍本部に捕えられているわけじゃない。それほど規模の大きな戦争だ。

 護送先が海軍本部がインペルダウンという選択肢であれば、余計なことに巻き込まぬように、騒ぎに紛れ脱走などしないように、インペルダウンに閉じ込めているだろう。

 

 

「3日前、いや、招集自体は1週間以上も前に発令されておった」

 

 3日前というのは戦争の原因を世間に発表したタイミングだ。発表から1週間後。

 

 問題の人物が処刑される。それが同時に戦争の開幕だ。

 

 発表から1週間で処刑とは、確実に喧嘩を売っているが準備をさせる暇などは持たせない微妙な時間の猶予だった。

 

「火拳のエースの処刑に合わせ、海軍本部と白ひげ海賊団が戦争を起こ」

「エースッ!?」

 

 ルフィはハンコックの肩を掴んで詰め寄った。どういう事だと焦りを顔に出し、ハンコックは訝しげに顔を歪めた。

 知り合いか、と聞けばルフィは泣きそうな顔をして答えた。

 

「エースは俺の、俺とリーの兄ちゃんだ」

「……お主、リィンと兄妹分じゃったか」

 

 驚く場所は多分そこじゃない。

 

 

 

 

 

 

「……はァ……はァ」

 

 

 大監獄インペルダウン。

 ハンコックの協力を経て、ルフィはそこに潜入していた。

 

 ただし、残念ながら脳みそは無いので暴動を起こす事、や手札を増やす、などの案は微塵も浮かばず、ただ1人でスタミナを消費しながらエースのビブルカードを片手に下へと向かっていた。

 

 ちなみにリィンの収容場所の選択肢がインペルダウンが海軍本部と予想してあるので居場所(ビブルカード)が分かるエースを優先的に迎えに来た次第だ。リィンは一切個人情報たるビブルカードをルフィに渡していなかったのだから。

 

 

 

 level1紅蓮地獄。

 

 剣樹や針々草といった刃物の様に鋭い植物が生える刃の森にて、囚人達が獄卒と追いかけっこをするフロアだ。植物は囚人を傷付けその身を紅蓮に染め上げる。

 

 また、level1にはその拷問フロア以外の独房通路が存在する。ただその傍には大型海王類を一撃で仕留めることが出来るブルーゴリラがいるのでlevel1クラスの囚人の脱走など以ての外だろう。

 

 そんな中、ルフィは拷問フロアで逃げ回る囚人の体を借りて頭の上を飛び回り、時に伸び、下へ向かった。

 森の中に唯一開いている穴、そこは逃げ道と呼ばれる場所だがlevel2に進むだけの地獄の道だ。

 

 ルフィはそれに向かって躊躇いなく飛び込んだ。

 

 

 

 level2猛獣地獄。

 

 闊歩するは突然変異種や希少種など一筋縄ではいかない猛獣。ルフィは牢番であるマンティコラという人の骨格を持ったライオンが「フンドシ」や「イチゴパンティ」など変な言葉を覚えていると知った瞬間速攻でフロアを抜けようと決めた。level1でさ迷いまくり時間のないルフィはそうせざるを得なかったのだが、決して変な存在から逃げたかった訳では無い。無いったら無い。

 

 元々level2は毒を吐く複数系のサソリだったり強靭な肉体を持つ人面ライオンだったりとバラエティ豊かなフロアだ。

 攻撃や防御手段が少ないルフィにとって厄介だろう。

 

 少しルフィは方法を考える。最近頭を使うようになってきたがクオリティとしてはお粗末だ。リィンが知って喜ぶか泣くかはその時々だろう。

 

 よし、と小さく呟いたルフィはガジリと親指を噛んで骨に、いや、筋肉に空気を送り込み始めた。

 骨と筋肉、両方が膨らみ筋力は何倍にも膨れ上がった。

 

 ギア3に近いようで、ギア2に近い。肌が若干赤みがかった。

 そしてルフィは巨大化させた腕を地面に向けて思いっきり振り下ろした。それなりの厚みがあるlevel2の床だったが、ルフィの一撃を前に呆気なく崩れ去ってしまった。

 

 

 

 level3飢餓地獄。

 

 アラバスタの砂漠を思い出すようなカラカラと乾いた、フロア自体が拷問のフロアだ。アーアーとルフィは唸りながら辺りを探索する。

 1人だと時間がかかりすぎる。

 ナバロンにて成功した目的地が分からなければ人に聞けばいいという信念の元、副看守長のハンニャバルに普通に聞いてみればあっさりとlevel4への行き方を教えて貰った。

 

 

 

 level4焦熱地獄。

 真下に火の海が置かれ煮えたぎる超高熱フロア。level3が熱いのはここが原因なのか、とルフィの足りない頭でも理解出来た。汗が遠慮なく流れるエリアだ、早めに抜けなければ生命活動に直結する。

 しかし、そのエリアはとある男が最も能力を発揮出来るエリアでもあった。

 

 

 

「海賊、麦わらのルフィ」

 

 声をかけられてルフィはハッとその場から飛び去る。ルフィの目の前に居た男は青雉やテゾーロ、そして元帥と同じような部類に入る。

 つまり、自分より圧倒的に強い相手、だ。まともに戦えば負ける。

 

「お前が、マゼランって奴か」

「仲間でも取り返しにでも来たか」

 

 デュルンと腕が毒に変化したマゼランは否定も肯定もせずにそう口に出した。

 

「え?」

「は?」

 

 ただしルフィはただ首を傾げたが。

 仲間が目的でないなら何故わざわざ、という疑問が芽生えたがルフィはあーーーっ、と声に出した。

 

「そうだ、リーの事忘れてた。危ねぇ、ありがとな、おっさん」

「仲間が目的ではないのか」

「いや、目的だった!目的だったけどエースの事で頭いっぱいでリーなら別に大丈夫かなーって思ってた!わりぃ!」

 

 危険性、というか心配度が妹より兄の方が上回っていたのだろう。ルフィは知られたら怒られそうなどと場違いな事を考えながら。そしてリィンがここにいるという真実が透けた。棚ぼたである。

 対してマゼランは火拳エースとの関係性について謎が生まれた。

 

「そーだオッサン!エースと、後そのリーってどこにいるかな!?ここら辺かなって思ってんだけどよォ、全然気配しねーから困ってんだ」

「その2人ならlevel……って答えるか。何故聞いた」

「逆に答えてくれるかなって」

 

 そんなことを言いながらも2人は攻防を続けていた。

 ただしルフィは逃げるくらいしか出来ない。

 

 ルフィは勘でしか無いがリィンがこのフロアに居ないことに気付いている。それは本当にただの勘。1000万にも満たない懸賞金だが、それ抜きにここまでのエリアには居ないと。

 

「チッ、ちょこまかと……!」

 

 ルフィが逃げる先は卑怯なことに看守、つまりマゼランが攻撃しにくい場所であった。

 もちろんマゼランとてひとつの組織のトップ。多少の犠牲など己の能力と長く付き合っていく上でとうに覚悟はついている。彼は味方ごとルフィを葬ろうとしていた。

 

 ルフィはあてが外れたかと思いながら空中へと逃げ出す。

 灼熱のこの空間では息を吸い込むだけで肺が焼けただれそうだった。

 

 ここでリィンが存在すれば『ルフィが相手の嫌なことを考えてる!』と踊り狂う程に喜ぶのだろうが、残念ながらこれがルフィクオリティ。1番喜ぶ者が居ないところでソレの望む成長を見せる。

 

 ただ、ルフィが考えると言っても所詮そこまでだ。餅は餅屋、刀は刀屋、蛇の道は蛇、悪事はリィン。

 

 

 ルフィはあっという間に毒に呑まれてしまったのだった。

 

 

 

 

 

 

 level5極寒地獄。

 

「イナズマくーん、麦わらのルフィ、やっぱり居たよー!」

「……ほんとにいるとは。いやすまない、疑ってたわけじゃないんだが」

「そう信じられるもんじゃないよ」

 

 私刑に処されたルフィを引きずり出した男が舌なめずりをしてルフィの心臓付近に手を当てた。

 

「……止めてもか」

「この子のスタミナを無駄に消費させるにはいかない。それじゃあ足りない。ここで毒耐性付けないと苦労はするだろうけどね」

 

 男は一言呟いた。彼の先の運命なんて知ったこっちゃないのだ。

 

「この瞬間が、今後より大事でしょ。彼も、そして私も」

 

 手に光が灯る。

 ルフィはボヤけた視界でその男の顔を確かに見た。

 

「──〝吸収(アブソリュート)(ベノム)〟」

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

「どこだ、ここ」

 

 ルフィはパチリと目を覚ました。知らない天井だ。

 何故か数日前にも同じ感想を抱いた気がするがまぁ良いだろう。

 

 体をムクリと起こして()()()()()()()ことに首を傾げた。辺りを見回せば簡素な洞穴。そして扉がついていた。

 

「……??」

「あ?起きた?」

 

 その部屋だと思われた場所はただの洞窟だったらしい。扉の外には愉快な空間が広がっていた。

 

 

「──何だこの変態集団。おっっっもしれぇ!」

 

 

 オカマがパーリナイトを繰り広げている。

 ステージに立つ男女。一際顔のでかい人間がいた。人なのかすらちょっと考えたが。

 あの人がこの空間の覇者だという事は……。

 

「ちげぇな」

 

 そう考えかけてルフィは首をブンブンと横に振った。

 

「ンーフフ、おはよう麦わらボーイ。ヴァナータの行動はここに入った時からずっと見てたわ」

「誰だ?」

「ヴァタシはエンポリオ・イワンコフ!このニューカマーランドの女王ッチャブル!ヒーハー!」

 

 独特なポーズをしたイワンコフ。周囲はそれに同調する様にテンションをアゲアゲにした。ルフィも楽しくなってきたのか両手を掲げてヒーハーと繰り返す。

 

「でぇもぉ?ヴァナータがお礼を言うべきなのはそ、こ、の、ボーイっチャブル」

 

 イワンコフが指をさした先にいたのは目覚めた自分に真っ先に声をかけてくれた男だった。癖のないサラサラとした綺麗な黒髪をポニーテールにした細身の、ただし確実に男だと分かる体格。ルフィの記憶で似た体型と言えばサンジや参謀総長であろう。

 

「やァ、主人公(ルフィ)君。体調に異変は?」

「無いぞ、でも俺あのオッサンの毒にやられたと思ったんだけどなんでだ?」

「そりゃ私の能力。間違えても毒に強くなった、と思わない事だね」

「そっか!ありがとう!」

 

 ルフィの屈託の無い笑みに男は笑い返した。困ったように眉を下げて、それでいてほっとした様な笑みを。

 

「っと、こうしてる暇無かったんだ!エース助けに行かなきゃ……!イワちゃん達も来るか?それと逃げ出すついでにエースとリーの場所教えて欲しい!」

「ごめんなさいね麦わらボーイ。ヴァタシ達はまだ脱獄する時じゃないの」

「えー!イワちゃん行こうよぉ!私脱獄する気満々だったんだけど」

 

 男がブーイングを垂れるとイワンコフの表情か鬼の形相へと変わった。

 

「黙りな!ヴァナータ、なんの為に体変えてると思ってるっチャブル!」

「痛みに、耐えれるようにだけど」

「ヴァナータは!瀕死なの!お分かり!?」

 

 それでも納得出来ないという表情にイワンコフは深く深くため息を吐いた。ルフィはやり取りの真意が分からず、ただビブルカードを握りしめて首を傾げていた。

 

「けどさァ、イワンコフ」

 

 キラリと男の瞳が光る。「あっ」とルフィはその既視感に口を開いた。

 

 

「ドラゴンの息子の手助け、しなくて何が革命軍よ」

 

 そこからは仰天の連続だった、と後々イワンコフは語る。男が語る内容はルフィ自身なんでそんなに知ってるんだろうと首を傾げるばかりだったが、イワンコフはそれを信じた。

 もちろん真実であるが。

 

「でも何故ドラゴンの息子が火拳のエースを助けにここに来たっチャブル。仲間ならまだ分かるけれど」

「……?兄ちゃんだから?」

 

 下を向いたビブルカードはエースがまだインペルダウンにいる事を知らせてくれていた。

 

「イナズマ!エースボーイの出航時刻をお調べ!ヴァターシはこれから麦わらボーイとlevel6へ向かうわよ!」

 

 イワンコフはエースもドラゴンの息子であるという勘違いを起こしていた。一気に協力的になったイワンコフにルフィは素直に喜んだ。

 level5.5内はバタバタと慌ただしくなる。

 

「そこの瀕死!ヴァナータはここで待機!」

「えええーー!?なんでよ!」

「死にかけをlevel6に連れてける程余裕は無いっチャブル。どうせここには戻って来るから連れていくならそこからよ!」

「……まぁ脱獄について行けるなら文句は言わない」

 

 文句タラタラな顔で渋々納得した男だったが、ルフィの視線が自分に向いてることに気付いて嬉しそうに近寄った。

 

「会えて嬉しいよルフィ君。握手してもらってもいい?」

「いいぞ!」

 

 男の差し出した手にルフィが少し見上げながら握る。握手をした瞬間、男はルフィを引き寄せた。

 

「……ところでさ、リィンはルフィ君にとって何?」

 

 周囲に聞こえないように小声だ。

 ルフィは首を傾げていたがとりあえず合わせるように声のボリュームを下げて関係を答える。

 

「俺の妹」

 

 男はやはりといった顔で嬉しそうに笑った。

 

 ……仲間と言わなかったルフィの無意識下の認識に気が付かないまま。

 

「それ、内緒にしといた方がいいよ」

「なんでだ?」

「イワちゃんがさ、エース君の事をドラゴンの息子だと勘違いしてるから、下手にリィンが妹だと告げる必要ない。髪色も違うしね」

「……?良く、わかんねぇけど。内緒だな!」

「よぉし偉い!」

 

 男はルフィをワシワシと撫でた。

 

 リィンの男親は冥王で、女親は戦神だ。髪色は父親譲りで外見は母親譲り。黒髪で男であるドラゴンが男親であると言われると、色々面倒な事が起こるのだ。

 

 ──金色の髪はどこから来たのだ、と。

 

 イワンコフはリィンの親を知らないのだが、まぁぶっちゃけると勘違いさせておいた方が士気的にも説明的にも楽なので下手にややこしくさせたくない。

 

「さぁ、て。希望の光(イレギュラー)はどこまで変えてくれたかな……」

 

 別名他力本願。

 男は、間違いなくあの血筋だった。

 

 

 ルフィは男を近距離で見上げながら思った。その距離感は一味の残念王女が見ると大興奮するがまぁそこは置いておこう。

 

 先程から既視感が、初めて出会ったはずなのにどこかで1度見たことがある様な気がしてならない。

 否、どこかでは無い。そこは特定している。

 ルフィの大切な家族で強敵だ。

 

「名前……」

「私の?あー、そういやどうしよう。まァバレてない事を祈るけど本名使わない方がいいのかな?」

 

 恩人に対して『あんた』や『お前』というのも何だか違って、何より他人な気がしなくて、でも『おっさん』や『兄ちゃん』というのも何だか違う気がする。その葛藤の末に漏らした言葉だったが答えてくれるようで少しほっとした。

 男はしばらく考え込んだ後、納得したのか頷いて口を開いた。

 

「そもそも私名前考えるの禁止されてた。ルフィ君付けて!」

「えーー。じゃあ、やっさん」

「お、なんかすごい予想外な感じで来た。その心は?」

「何となく」

 

 バタバタと慌ただしく準備をする周囲から切り取られたような感覚。やっさんと呼ばれたルフィの恩人はフルリと肩を揺らしルフィを見下ろした。

 

 この感覚。

 時間が一瞬止まったような気がした。

 

 帽子で出来た影がルフィの目元を隠していたが、その目に視線が触れると男は嬉しそうに笑った。

 あァ、船長みたいだ、と。血の繋がりなんて無いのに、この子は間違いなく。海の王となる主人公だと。そう信じて止まない。

 

「やっさんはリィンのきょうだいなのか?」

 

 虚をつかれた男は思わず目を見開いた。

 その質問を飲み込むとおかしいと言いたげに肩を震わせている。

 

 なんだか馬鹿にされてる気分になってルフィはムッと頬に空気をためた。

 

「惜しいねルフィ君。答えは秘密だ」

 

 

 

 エンポリオ・イワンコフ。

 カマバッカ王国の永久欠番女王であり、革命軍のグランドライン軍軍隊長だ。この場には居ないがMr.2の憧れでもある。

 そして彼(彼女)はホルホルの実の能力で()()()()()()()()()()()()()エンジニアである。治癒力を高めたりテンションを高めたり、そして彼女(彼)のホルモンで性別すら変わっている人物などこの場には複数いた。

 女の姿をしているが元男。男の姿をしているが元女。

 

 

「エース、助けるよ。私はこの日のために生き延びてきた」

 

 イレギュラーの投下で『予知』よりどうかいい方向に変化したことを願って。リィンに似た黒の瞳が、光彩を放っていた。

 

 

 

 

「結局やっさん誰なんだよ」

 

 カッコつけた男はその言葉でずっこけた。




七武海との交流で男嫌いは和らいでるアレと語ルフィ
頑張って頭を使って(使えたとは言わない)頑張ルフィ
異端児に助けられルフィ


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第217話 麦わらの一味の〝旅行〟先

 麦わらの一味の剣士は慎重な男だ。その鳴りを潜めつつあるが船長も仲間も熱くなるとデメリットをガン無視して突っ走る。それを止めるのがこの男の役目だった。

 

 情に厚く感情的になりやすい麦わらの一味の中で、静観し、そして締め役となる。

 

 それが顕著な証となって現れるのは対リィンの接し方だ。

 良くも悪くも、リィンに執着が無いのだ。

 

「いっ……たくねェ」

 

 肉球型にえぐれた地面の上でゾロは起き上がった。

 霧がかってる視界の悪いその場所は心までじめじめしそうな陰湿な島だった。

 

「なんで生きてるんだか」

 

 応戦しつつ聞いた会話では海底に飛ばすだか何だか言っていたような。そう記憶を掘り出し、掘り出し。

 掘り出しすぎた時、自分が生きている事の謎に答えが出た。

 

「アレ、七武海だったな」

 

 絶望しか目に映ってなかったが自分をここに飛ばした男は王下七武海の1人だった。結構リィンがフレンドリーなタイプの。

 うん、と納得してゾロは状況整理のため島を歩き始めた。対価として己が方向音痴だという事を忘れて。

 

 

 

 

 

 麦わらの一味の航海士はそりゃあもう残念なお人だった。リィンを愛しリィンを愛でる。愛に生きる残念筆頭。

 とは言えど彼女の優先順位は自分>リィン≧お金>(越えられない壁)>その他なので時としてリィンを利用するのだが。

 

「ここは、空島?」

 

 気圧の変化を感じ取ったナミは島を歩きながら周囲を観察した。シャボンの仕組みはよくわかっていないが、シャボンディ諸島と似たような気候なのは確かだ。

 

「参ったわ……リィンが絶対迎えに来れない場所よここ」

 

 リィンは喜んで辞退するだろう。それ以前に迎えに来れる場所だったとしても謹んで御遠慮させていただく人物だ。

 つまりナミのすることは決まった。自力でシャボンディ諸島に戻る事だ。どうやら風任せに動いている島、という訳ではなさそう。媚びだ。媚びを売るのだ。愛想を振りまくのだ。

 

「焦ると何も出来なくなる。こういう時程落ち着くのよ私!」

 

 ナミはリィンを愛している。育ての親に裏切られ、傷付いた彼女を癒してあげなければというありがた迷惑を考えていた。そう、とりあえず愛していた。

 

「……。」

 

 例え嘘だらけの笑顔だったとしても。

 

 

 

 

 

 麦わらの一味の狙撃手は勇敢な男だ。どんな相手だろうと牙をむく。まぁ、ツッコミという概念の中での話だが。根本にある度胸といった意味ではルフィに次ぐだろう。

 

 男は鍛えられていた。肉体的な意味ではなく、包丁を持てば今の人類には克服出来ない前衛的な創作物を作り出し、箒を持てば空を飛ぶというハチャメチャな奴の得意分野的な意味で。

 

「…………。」

 

 七武海と対峙して死ななかったのはまだ問題としていい。だって七武海だそこは仕方ない。七武海問題は大体アラバスタで悩み終わったので問題ない。それよりも問題なのは辿り着いたこの美味しそうな食べ物が実る豊かな島だ。

 鍛えられた勘が何かを訴える。あァ、わかってるぜ俺の超直感。自分を疑わずこいつを疑え。

 

「希望とはすなわちろくでもない絶望!優しい餌などあってたまるか!こんちくしょう!」

 

 鍛えられた男。ウソップ。

 目の前の恵みは普通に罠としか思えず1口たりとも口にしてたまるかと心に決め、敵(島)情視察と相成った。疑心暗鬼が最近のデフォである。

 

 

 

 

 

 麦わらの一味の料理人は情に厚い男である。敵だろうと味方だろうと見捨てるという行為が全くできない甘い男だ。

 それは美であり愚である。

 

 そして男サンジ。彼はとある海兵に似てきていた。

 

「オカマ、ばっかりかよ」

 

 周囲を見回せど気持ち悪い容姿ばかりだ。

 そんな空間でサンジは何故か心境的に落ち着いていた。

 

「………やべぇ、これはやべぇぞ俺」

 

 その落ち着き自体に焦燥感を抱く。心境的に矛盾してるだろうがそれどころじゃない。

 

 どっちつかずの立場。敵も味方も関係ない男はあの海兵に似てきていたのだった。

 

「(まさか……! レディ恐怖症……!?)」

 

 麦わらの一味のレディは見た目が素晴らしいし癒されるし美しい物は愛でていたい。が、ぶっちゃけ積極的に関わりたいとも思わない。そう、観賞用だ観賞用。残忍、残念、残酷、残虐。アレ、おかしい、目からオールブルーが家出してくる。

 

 オカマという未知の存在に囲まれたサンジは己のアイデンティティを失う事実に気付いてしまったのだった。

 

 

 

 

 

 麦わらの一味の医者は人間初心者だ。人間の生き方、感覚、分かりはするが理解は出来ない。ただそういうものだと純粋に覚えるだけだ。

 元が違うのだ、仕方ない。

 

 チョッパーは種族的にかなり中途半端な存在だ。

 

 トナカイとしての生き方も分からず、人間としての生き方も分からない。本能は分かる。ただ人族に限りなく近いミンク族とはルーツが違っている。ただこの世に1匹だけの化け物だ。

 

「……この島、俺が思ってるより文明が栄えてるんだな」

 

 それでも彼は理解を止めようとしない。

 1匹だけの化け物は『チョッパー()いい』と認めてくれた仲間達がいるからだ。

 

 人間にならなくてもいい、という意思はチョッパーにとって飛躍的な進化を及ぼす。

 

「皆、大丈夫かな」

 

 チョッパーにとって種族などもうどうでもいいのだ。

 嬉しい時に笑い、悲しい時に泣く。ただそれが同じであるのだから、それでいい。

 

 

 

 

 

 麦わらの一味の考古学者は孤独だった。恨みはあった。世界を、そして仇である青雉を憎んだ。

 

「……寒い」

 

 1人で明かす夜は寒かった。こうして飛ばされた今、それを思い出した。麦わらの一味で過ごした日々はなんて暖かかったのだろうか。

 自分が弱くなっていると思った。弱音なんて自分にはもう無いものだと思っていた。

 

 膝を抱えて冷気に体を震わせる。

 

 恨んでいた。

 リィンに会って、アラバスタで歴史を見失って、青雉と対面して、もうよく分からなくなっていたのだ。サウロが生きている、何故だろうか、それは青雉の仕業だったのだろうか。

 

 突然目的地を見失った気分に陥る。

 

 生きる意味が見いだせなかった。上手く、息が出来なかった。

 

「……寒いわ」

 

 でも、もう救われたから。

 生きる意味はあの船に全てある。

 

 ロビンは頬にこびり付いた一筋の氷を割ると前を向く。

 

「七武海ってホントろくなの居ないわね。リィンは許さない」

 

 とんだとばっちりに涙目でピーピー喚く小娘を想像するだけで少し体温が上がった。今生きる上での目的地はリィンをギャン泣きさせることだ。黙祷。

 

 

 

 

 

 麦わらの一味の船大工は少年のままだ。全然成長してないと言うより、昔から自分をどこか別の存在だと思っていた。早熟と言えばそれまでだが、そうというには判断力が鈍く、気に入らないものはとことん気に入らず、腐れ縁の相手と喧嘩ばかりしていた。

 

 現実感喪失。

 否、病ではない。

 

「なんだァ、ここは」

 

 フランキーはサイボーグだ。己の肉体ですら創作物の括りに入っている。現実味のない肉体改造が命を繋ぎ止めた事に違いは無い。

 

「……にしても、見事にバラバラになったな、全員」

 

 頭を掻きながら漠然とした不安が現実のものとなったことに薄ら寒い奇妙な感覚を抱く。

 

 言うなら将棋やチェスといったボードゲームだ。

 嫌なところ、嫌なところに駒を置かれ、気付けば動ける場所が少なくなっている様な。

 

 リィンに依存する麦わらの一味にとって悪手なのは確かだ。

 

「とりあえずコーラ探すか」

 

 情報収集も兼ねてこの雪山を攻略しなければならない。まず自分のいる場所がどこなのか。そこからだ。

 

 果てしなく絶望的な状況だが生きているだけ儲けもの。フランキーは意気込むが、外気の寒さに限界を感じ駆け足で適当な仮拠点を探し始めた。

 

 

 

 

 

 麦わらの一味の音楽家は掴みどころの無い骨だ。ヨホヨホと染み付いた唄の笑い声を上げながら曲を奏でる。

 その真意は表情筋がない事も相まって読めない。

 

 1度死を経験した者は強い。

 これはリィンに無い2度目の人生と言った所だ。なぜなら彼女は前世を覚えていないから。対してブルックはルンバー海賊団という前世を覚えているから。

 

「捕まりましたね」

 

 なんやかんや宗教的なあれに呼び出されなんやかんやで手長族に捕獲されたブルックは檻の中で体育座りをしていた。もういっそ骨を全てバラバラにして檻から抜け出そうかなどとホラー映画も真っ青の所業に踏み出そうと思ったが己の本職を思い返す。そうだ音楽家だ、ホラー映画じゃない。

 

 自分は薄汚い人間の欲望で見世物にされている。そんなことに気付かないフリをしてブルックは笑った。

 

「さぁ唄いましょう!ヨホホホ!」

 

 己が笑わずして、誰が観客を喜ばせようか。

 ブルックは音楽家だ。

 

 例え心に不安が渦巻いていようと、(テャマスィー)がある限り、誰より世界を楽しみ笑うだろう。

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

 ネフェルタリ・ビビは麦わらの一味である。役職はまだ無い。

 と言うより、彼女は仲間より自分が優れている点というのを探し続けていた。その長所こそが、力になれるのだと知っているから。

 

 見つからないから焦っている。──ということは微塵たりともなく。楽園(パラダイス)腐活動(しゅみ)押し付け(かたりあい)海賊生活を楽しんでいた。

 

 その矢先一味完全崩壊。

 

 ビビは軽く絶望を抱きながら飛ばされた先で生き延びようと知恵を凝らしていた。

 

「うーーん……。どうしましょう。こんなの経験ないわ」

 

 悩むのも当たり前だ。

 

 ビビが飛ばされた先では島の大きさは裕福な一般家庭の敷地程度。島というより小島だ。そして1度海に出ると上陸不可能なのが考えなくても分かる程ネズミ返しになった地形。食料を海から取る事も、小舟を浮かべても戻ることが出来ない。

 更に絶望的な事に、この島には草木が微塵たりともなかった。どこか故郷(アラバスタ)に似た気候に懐かしさと、そして雨が降らないだろうという予感に自然と冷や汗が垂れる。

 

 地面は岩。食料の宛もなく、綺麗なまでに地平線。

 

 唯一の希望と言えば、その島には大分立派な建物があったことくらいだ。ただし、何年も住んでいないのか所々風化していたし、食料などは期待出来ないだろう。

 

「火を起こせることさえ出来たらSOSを発信出来るかしら。うーん、他人の助けを待つくらいしか出来ない気がしてきた……」

 

 ここから先の動き方というのが未知の領域過ぎてビビは困っていた。

 それもそうだ。本来なら彼女は王家の娘として教育を受け、国のために生きるのだから。

 

「ひとまず、うん、水よね」

 

 ただ、アラバスタに似ていると言うならその気候の恐ろしさや対処法などは分かっている。ビビを延命させる知恵は、微かに存在した。

 

 ビビは古ぼけた家を見た後、意気込んで探索を始めた。

 

 

 

「……謎しかなかったわ」

 

 探索が終わったビビは机にぐったりともたれかかった。気持ち的に布団などに寝転がりたいのだがどうしようも無い程ボロになっていたのだ。

 

「この家の持ち主、大分金銭面に余裕があってカッコつけなのね」

 

 小屋の1階はキッチンなどの水回りや、書庫、そして長机に何脚もの椅子。キッチンは念を入れて探索したが瓶詰めのジャムが生き残っているだけで、ほかは全くダメであった。捨てることなく一応残しておく。

 ギシギシと音を鳴らしながら恐る恐る登った2階は部屋が3つほど並んでおり、吹き抜けになった下のフロアが見下ろせた。中はベッドや机、つまり客室の様な場所。奥にある1番大きな部屋は他に比べて装飾品などが立派だった為小屋の主が使っていた部屋だろう。

 

 

 全てにおいて、風化していた。恐らく何も使えないだろう。

 

 

 無駄に凝った装飾に客室。拠点というより別荘と言った方が似合うが、全くバカンスにもなんにも適さない島だ。意図がわからない。

 

「何より!バカなのかしら!木造建築がこの気候に合うわけないじゃない!」

 

 風化速度が早いと思った。

 風も強く吹き荒れるステップ気候に見合う建築じゃない。アラバスタを見習えとばかりに憤慨する。自然の恐ろしさを舐めてるとしか思えない。せめて石で造れと訴えたい。

 

「もう…──うわぁ!?」

 

──バキ、バキッ!

 

 長机が予想外の脆さだった。ビビの重さですら耐えられず落ち、机の下にあった床にぶつかる。……と思いきや、またも何かが割れる音がした。ゴツン、とビビは地面に頭をぶつける。

 

「いったァ……。床が割れた、のに。とても硬い」

 

 机の残骸の真ん中にて予想外の痛さに額を押さえ涙目で蹲る。床に片手を着いた時、敷かれたカーペットの質感に「ん?」と首を傾げた。

 

「カーペットが、丈夫過ぎる」

 

 触らなければ恐らく分からなかった。粗悪な触り心地だが、英才教育を受けたビビにとって物の質や価値を判別することは簡単な事だ。

 

 ビビは起き上がりカーペットを引きずって端に置く。カーペットの上にあった机ごとズルズルと。

 

 するとカーペットの下からは先程の衝撃で割れた床と、島の地面が見えていた。普通であればあまりにも低すぎる床だと思っただろう。

 そこに隠し扉さえなければ。

 

 流石に怪しさ満点の様子にビビはひくりと顔を引き攣らせた。

 これ間違いなく上の小屋自体が飾りだ、と。ここから下がこの小屋の持ち主の本拠点なのだと。

 

「ん、んんーっ!」

 

 かなり重たい扉を一生懸命上げようと数分格闘する。何とか開けきれた時、ビビの手は赤くなっていた。

 

「よし、行きましょう」

 

 

 

 真っ暗な地下に踏み込んで見た物。

 

 そこは島の岩がただくり抜かれた空間だった。四方の壁側には棚のように岩が削られており、その中には缶詰めや保存食、そして金銀財宝が鎮座していた。

 

 備蓄。何かあった時の資金源。

 

 そんな言葉が頭の中をグルグルと回る。

 

「……あ!」

 

 石の部屋の中心にはガラス張りの半球ドームが、これまた岩の机の上に置いてあった。そのガラスの中は見覚えのある白い紙。

 ビビはポケットから肌身離さないでいたレイリーのビブルカードを取り出した。

 

「やっぱり、ビブルカードだ。この小屋の持ち主はまだ生きてるのね」

 

 このビブルカードを元に誰かが辿り着いてくれないか、そんな期待を抱いている。だからこそ誰かが来るまで生き残らなければならないのだ。ここの備蓄は最悪1ヶ月持ってくれるだろう。

 

「……このビブルカードには、何も情報が書いてないわね」

 

 千切れた先、又はこのビブルカードの持ち主がビブルカードの進む先にある。得られた情報はそれだけだ。

 だが、完全に忘れ去られている島というわけでもなさそうだ。

 

「生き残るわ、絶対に」

 

 まずは水を作らなければ。金銀財宝も今はただの道具。ビビは今ある物を覚えながら頭をフル回転させ始めた。

 

 

 

 ==========

 

 

 

 カルーは麦わらの一味最速の足を持つ生物だ。ビビ1人乗せたとしても速度は全く変わらないためアラバスタでは生まれた時からビビの護衛として育てられてきた。

 

 BWという危険な組織に潜入した時も、カルーはついて行った。どちらかと言うとその時期からのコンビだ。

 

「クエーーーッ!」

 

 カルーは足が速い。ただし、ビリーの様に空を飛べる訳では無いし、水の中を泳げる訳では無い。

 シャボンディ諸島から別の島に飛ばされた今、最も船に戻れる可能性の低い生物だ。

 

 ドボン。

 

 飛ぼうと努力していたカルーが大きな音を立てて海に落ちた。

 

「………クエ、クエェ」

 

 カルーの計画として、途方もないが進化だ。

 この島なら大きな波もなく、溺れる心配もそうない。海に向かってひたすらに飛び続けた。

 飛距離が伸びると言うより跳躍力が育つと言う方が正しい表現だろうが。

 

 カルーはブルブル身体を震わせると羽に着いた海水を落とした。

 

「キャー!鳥さんが水浴びしてる!」

「離れるザマスっ!どんな病原体を持ってるかわからないのよ!」

「あの子が好きそうだよ、ねぇ連れて帰ろう!」

 

 思わず首を傾げる。

 人間2人が自分の事で話し合っているのは分かった。

 

 1匹では埒が明かない事もあり、2人について行くことに決めたのだった。

 

 

「んねー、んねー。この鳥、麦わらの一味の鳥じゃないか?」

 

 鼻水を垂らしながら大男がカルーに顔を近付けた。

 グエ、と苦手意識からか1歩下がり、エンガチョー!と言いたげに翼を自分の前でクロスを作る。

 

「麦わらの一味って言えばリィンでしょ。玩具にでもしとく?」

「へぇ、麦わらの一味だったんだ。ペットかな」

 

 最初に出会った少年がカルーを突く。ボフッと羽毛に指が埋もれた感覚が面白かったのか何度も何度も。

 

「ま、殺されたらあたしの布団にしてあげるねー!」

 

 カルーはその言葉に飛び去って距離を離した。

 その生物の反応に、話し合いをしていた4人が目を見開く。

 

「人間の言葉、伝わるんだ」

 

 少年の言葉にカルーは全力で頷いた。それはもう全力で。

 いくつか言葉が伝わるか、人間の文化を知っているか、それの確認のため、イエスノーで答えられるような他愛ない質問をいくつか繰り返す。

 

 少年は見るからに目をキラキラ輝かせカルーに抱きついた。

 

「キャー!あたしこれすっごく欲しいわぁ!」

「グエエエ!」

「ダメ。若様に指示もらわなきゃ。今ならまだ出発してないでしょ?」

 

 コンコンと扉をノックする音が少女の部屋に響いた。名前を呼び、入るよー。と言う軽い挨拶。

 若い2人は面倒臭いのが来た、と言いたげな表情になった。

 

 入ってきたのはメイド服を着た女だ。片手に書類を携えている。

 

「ようやく居たァ。私この前の仕事失敗してるから、この案件は引き継ぎ」

「やだあんた、失敗したのぉ?あんなに順調だったじゃない!」

「仕方ないでしょッ!若様も納得してくれたんだから!」

 

 少年が目的だったようだ。女はプンプンと頬を膨らませながら書類を引き継いだ。

 

「そういえば若様どこにいるか知らない?」

「え?若様ならもう出発したけど?」

 

 その回答に予想していたのか4人はため息を吐いた。

 

「若様ってホント……」

「なになに?若様に急用があったの?」

 

 キョトンとした表情の女に全員がカルーを指さした。女は目を見開くと思わず口を開く。

 

「カルガモ戦士!……は!そういえば新聞で麦わらの一味が完全崩壊したとかって言ってたわ!若様、すっごく微妙な顔して信じてなかったみたいだけど」

「じゃあじゃあ、このカルガモあたしが貰ってもいいかなぁ?」

「だーーーめ!少なくとも私の親友の仲間なんだから!」

 

「……クエッ」

 

 そこはかとなく嫌な予感がしたカルーは窓の外を見た。

 

 わぁ、いい景色だなぁ。

 

 王宮から見下ろした景色は向日葵が太陽を求めて空を向いていた。この場がどこなのか分からないが、単純で純粋な迷いの無い現実逃避だ。

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 ゴーイング・メリー号は麦わらの一味の船であった。過去形だ。

 本人も覚えてないがちょっと色々あって人間の形を保っている。

 

「ヘェ、じゃあここ海賊がいっぱいいるんだね」

 

 メリー号は誰かの船にもたれ掛かりお話をしていた。

 ニッコニコと笑顔で。

 

「んー、僕シャボンディ諸島まで帰らなきゃいけないんだけど。1人じゃ船に乗れないんだよねェ。どうしたらいいと思う?」

「……。」

「あ、大丈夫だよ!僕船だったから操作自体は自分の事のように分かるんだ!」

 

 船と。話をしていた。

 

 周囲の人間に聞けば良いというのに船の感覚が抜けないのかメリー号は船と話をする。周囲はぶっちゃけドン引きだ。積極的に無機物に話しかける少年など見た目が良くても関わりたくない。故に人攫いなども発生してないのだが。

 

「あ、でもサラさんとかの動かし方は分からないや。……うん?船尾中央舵方式のキャラヴェル船だよ。うん、結構前の技術みたい」

「……。」

「えっと、妹はアダムのスループ船。凄いんだよ、もう可愛くってさぁ!それに空だって飛ぶんだ!まぁ、僕も飛んだけどね!」

「……。」

「えへへ、ありがとう。ホワホワするね」

 

 純粋に怖い。

 喜怒哀楽が成り立ってる分余計に怖い。

 

「……ガキ、俺の船に何の用だ」

 

 耐えきれなかったのか船の船長らしき男が声をかけた。メリー号は巨漢の男を見上げる。

 

「キミが、この船の船長さん」

「ん?テメェ、見覚えがあるな」

「ねーえー、キミがガスパーデ?」

「……気のせいか」

 

 ガスパーデはなにかに喉の奥に小骨が引っかかった感じになるがまぁいいかと首を振った。

 

「で、ガキ。何の用だ」

「ただお話してただけだよ。ねー、サラさん!」

「……?サラさん?」

「この船の事だよ、サラマンダー号のサラさんっ。あ、そうそう、ガスパーデはもしかして元海兵さんなの?」

「……なんでそう思った?」

 

 船の名を知られていることに嫌な予感がするがガスパーデは一見無害な子供の顔を見た。目を合わせた。

 

「んーっと、クザンとかとそっくりの服着てるから」

 

 ガアァンッ!

 

 ガスパーデはその名を聞いた瞬間メリー号の首を掴んで叩き潰す。その衝撃で船には穴が開いてしまったが、気にもとめない。

 

「ゲホッ、ゲホッ!」

「ガキ、海軍関係者が」

 

 首が絞まり、内側が異常を知らせたのか咳が込み上げてきた。壊れてないだろうか、この身体はまだよく分からない。

 メリー号は宙ぶらりんのままガスパーデの瞳を覗き込んだ。

 

「その手、離してよ。人間」

 

 瞳の中に映る無機物的な何か。

 ぞわりとガスパーデの背筋が凍った。

 

「僕、クザンとか女狐とか、あとガープだったかな。その人間とは話した事あるけど。えーっと、胃痛親子の名前は……そうだセンゴクサン!センゴク。話してないけど会ったことある!──海軍はそれくらいしか関わりないよ?」

 

 いやピンポイントでそこかよ!というツッコミが周囲から入った。

 

 価値観というものが根本的に違うので何がおかしいのか分からずメリー号は首を傾げる。更に自分が殺されそうな事、など全く理解してないようだった。

 

「あーあ、サラさんに怪我させちゃった。早く修理してあげてね」

「ナニモンだ、テメェ」

「えへーっ、人間なんだァ!」

 

 いやそれくらい分かるわ!というツッコミが周囲から入った。

 

 とても嬉しそうに言うので倫理観とかなんかこう人間にあるべきものが欠けてる気がする。気のせいじゃないと思う。ガスパーデは怪訝な顔をした。

 

「そうだガスパーデ、僕シャボンディ諸島まで帰らなきゃいけないんだけど、サラさんで連れていってくれないかな?」

 

 いやそこで頼むんかい!というツッコミが周囲から入った。

 

 呑気だ。なお、体勢は先程と変わりなくガスパーデの腕はメリー号の首であり、地面に足はつかず、呼吸器官が圧迫されている状況だ。

 

「船で雑用でもしてくれるんなら、連れてってやるぜ」

「ホント!自信ないけど任せて!手始めに誰を貶めればいいのかな?やっぱり常識的に考えて七武海?」

 

 いやなんでだよ!

 周囲のツッコミは虚しく響いたが残念ながら浮かれぽんちと化したメリー号の耳には届かなかった。

 

 『いつ』とは言われてないことに気付くだろうか。

 下手をすれば一生雑用(概念)だ。人間初心者のメリー号に、サラマンダー号は不安げな声を上げた。声などないが。

 

 

 

 ==========

 

 

 

 ビリーは麦わらの一味で1番の新参者だ。そして恐らく1番若い。

 人間の言葉は多少分かるがちょっと賢い家育ちの犬程度の知能を持っている。不安だ。

 

 そんなビリーが辿り着いた場所は雷鳴轟く島だった。

 

 雷体質のビリーは雷にあたろうとダメージを受けない。なんなら心地良さまで覚える。

 

 

 ビリーは空を飛べるし海も泳げる。ただし浮遊島から出たばかりのビリーは世間知らずであり、どの方向に進めばいいのか分からない。

 そう、ビブルカードを持っていたとしても。それ自体の説明がされてないのだった。

 

 

 実はリィンは人攫いに捕まりに行く前気付いて居た。そこから怒涛の展開になって一味がバラバラになることも簡単にわかる。首謀者だからこそ。

 まぁ別に人間じゃないしそのまま野生に帰ってもいいかな、なんて事を考えていたので気付かないフリをしていたのだったが。

 

「………………鳥?」

 

 雷鳴に紛れる小さな声がビリーの耳に届く。クオ、と返事をしながら振り返れば人間がいた。

 ルフィも雷の中生きているので人間の中にはそういう種族もあるのだろうと勝手に想像する。

 

「驚いたぞ鳥。貴様雷では出来てないな」

「クオ、クオー!」

「ヤハハハ、じゃれるな」

 

 ビリーはその人間の周囲をグルグル回りながら触ったり興味津々といった様子で交流し始めた。男は不快に思わなかったのか愉快そうにビリーに体を預けた。

 

「貴様はこの環境で育った鳥か」

 

 その問いには首を振った。

 ビリーは男を背に乗せると有無を言わさず空を飛んだ。

 

「ヤハハハ!これはいい!青い海が一望出来る!」

 

 男は高笑いした。

 意味は分からずとも喜ばれていることには違いない。ビリーは上機嫌になって雷の降る島を飛び立った。

 

「赦そう鳥。我を背に乗せ青海を渡ることを」

 

 地形を全く知らない1人と1匹の、それこそ4つの海とかそういう常識的なことが欠如した2人組の長い旅が始まった。

 




ビビは無人島ですが他の人外3匹はお分かりになりましたね。
くっそ悩みました。

私は多分メリー号に夢を見すぎているんだと思う。好き。ゾロと並んで霊圧消えるけど。
幕間はこれにて終了。次回からインペルダウン編突入します。


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インペルダウン編
第218話 人の顔面を掴むのに遠慮が無い世界


 

 level6無限地獄。

 そこに投獄される者は起こした事件が残虐の度を超えた者、政府に不都合な事件を起こした事により政府から存在をもみ消された終身囚・死刑囚が幽閉されるフロアだ。

 

 インペルダウンに放り込まれて腹時計的に1週間。

 流石大監獄。この周辺の海域になのか。それとも海底だからなのか。少なくともlevel6にいる限り電伝虫が通じない。

 

 海軍本部にも、センゴクさんにも、テゾーロにも、月組にも。全てが連絡を取らないようにしている、って可能性もあるので一応念の為フェヒ爺や無関係の人にも掛けてみた。繋がらなかった。

 

 そんな情報を得ることが出来ない状況で私、リィンは。

 

「ハー、監獄って素晴らしい」

 

 文字通りの『休暇』を楽しんでいた。

 流石に監視の電伝虫はあるだろうから手枷足枷を外すことは出来ないので硬いベッドで休んでいるだけだ。

 

 それでも、それでも。

 

 暇なのって素晴らしい!

 暇だ暇だと言える時間がこんなにも幸せだとは!

 

 level6は拷問があるわけでも無いしただの退屈だから外敵が来る恐怖もなくて万々歳!

 

 周囲の牢獄と切り離されているのか、会話することもできない。けど、けど!それでいいんだ!会話してその相手のやばさに胃を痛めなくていいから!このフロアでの交流はもれなく私が死ぬ!

 

 想像以上の快適さに私は自堕落を思い出してぐでんぐでんと暇を満喫している。

 

 そりゃ粗末なご飯だし1日1食だけどないって訳でもないし、私自身が大食らいって訳でもないし、寒くないし暑くないし毒盛られてないし。

 は……!私監獄暮らしがしたい……!

 

 ご飯配達してくれる看守を抱き込めば暇潰しとして話とか内職とか出来る気がするし!飽きたら抜け出して適当なフロアの囚人と喋ればいいし!なんだよパラダイスかよここ!

 

 休暇万歳!大監獄万歳!

 私の最終防衛ライン監獄!決定ねコレ!処刑とかってなったら全力で逃げるけど!無限の暇って最高!

 

 青い鳥(ブルーバード)のお仕事?いやぁもう仕方ないね、この状況なんだから。仕方ない仕方ない。電伝虫頑張ったけど頑張った上で無理だったんだから仕方ないね!(とびっきりの笑顔)

 

「あ、いた!」

 

 何故か聞き覚えのある声がして牢獄の外を見てみるとルフィが居た。

 なんだルフィか……。

 

「いや、ルフィ!?」

「ルフィ君、仲間はいたか?」

「おう、見つけた!」

「ならいい。早く脱出しよう」

「わかった!」

 

 全力でクエスチョンなんだけど誰これなにこれ。見覚えあるぞ。誰だこれ。

 オレンジと白のツートンカラーの人は手をハサミに変化させると私の牢獄の扉と手枷足枷を切り落とした。

 

 呆然とする私の腕をルフィが引っ張る。

 

 私は足をもつれさせながら走ると事情を聞くために口を開いた。

 

「ルフィどういう事ぞこれ!」

「助けに来た! 助けてくれ!」

「どういう事なの!?」

 

 もう謎しか無い。

 

「イワちゃん!リー連れてきた!」

「早かったわね麦わらボーイ、level5.5までとにかく登って脱出準備を……何故居るのゴア王国ガール!?」

「は!?革命軍のイワンコフさん!?」

 

 その場にはゴア王国で1度だけ会った今世紀最大に気になる顔の大きい男か女かちょっとよく分からないドラゴンさんの部下であるイワンコフさん(名前は又聞き)と。

 

「リィンお前さん、怪我はしとらんか!?」

「は……?なんで、リィンがここに居るんだよい?」

 

 ボロボロの姿の七武海であるジンさん。

 そしてエースと一緒にいるはずのマルコさんが待機していた。

 

 私の素晴らしき頭脳は発揮する。

 ツートンカラーの見覚えがある人、イワンコフさん、麦わらの一味でルフィだけ。それにマルコさんとジンさん。

 

 ジンさんは私が監獄にいる事を疑問に思ってないから情報を得た状態でこの場にいて、マルコさんは居ることに驚いているから情報を得てなくて。それに囚人であって、そしてエースの姿はここに無くて。

 

 それは私の記憶と似ていて。

 

「……エースが、処刑される……?」

「流石だよい。昔言ってた予知夢の話とほぼ同じだ」

 

 恐れていた予知夢が現実に起こってしまった。マルコさんの同意で状況は悲しくも当たっていたし、予知夢の事は白ひげさんとマルコさんにしか共有してないから残念なことに現実だ。

 

「──おい」

 

 ……。

 

 そしてセンゴクさんが私をインペルダウンに投げ込んだ理由が分かった。あの人、私を戦場から遠ざけたかったんだ。余計な真似をしないように、エースの妹である私を。

 情報規制も私対策。くっそ、出遅れた。完全に出遅れた。

 

「それでマルコさん、出入口は?」

「…………リフトは閉じて階段からは睡眠ガスだ。天井をぶち抜くしか方法は無い」

 

「おいコラリィン!聞こえてんなら反応を示せ!!」

 

 ガン、と牢獄の中から海楼石を壁にぶつける音がした。

 わざわざ背を向けていたのに名指しできやがった。

 

「戦力いるのわかってるけど、俺、ぜっっったいあいつ出すの嫌だ」

「麦わらボーイが完全拒否してね。ヴァターシが弱味を握っていると言っても拒否してるのよ」

「あ、俺も無理。というか白ひげ海賊団は基本アレは拒否すると思う。アイツの口説き文句なんだと思う?『白ひげの首に用がある』だよい?無理無理」

「わ、わしは別にいいと思うんじゃがなー……」

 

 ルフィ、イワンコフさん、マルコさん、ジンさんの順で私に伝えてきた。

 ポケポケとした表情でジンさんは言っているが振り向きたくない。

 

 声かけられる度に冷や汗がドバッと出てくる。

 

「……これから脱出するのに有効な能力ではあります」

「でも!」

「好きにさせるしなければ、いいですよね?」

 

 気心知れてるというか使いやすい存在というか、便利だし有効だし未知で無知で未開の地よりは……。よし。

 覚悟を決めて回れ右をした。

 

 牢獄の中に居るのは囚人服を着て手枷を付けたクロコダイル。背後に何人か囚人がいるが格が違うというか。なんというか。

 

 緊張感で手が震えるのを自覚する。それをぎゅっと握りしめて名前を呼んだ。

 

「……クロさん」

 

 胸が早鐘を打つ。

 握りしめた手にじわりと汗が滲んだ。

 

「ヴァナータ、クロコボーイと知り合い?」

「どう……しよう……っ」

 

 思わず口元を手で隠して高鳴る胸を必死に押さえ込もうとする。耳のすぐ側で心臓が動いているみたいに、音が近くで聴こえる。

 

 震える唇で私は素直な気持ちを口に出した。

 

 

 

「──この状況面白すぎて高笑いしたい」

「「「「なんでだよ!」」」」

 

 多方面からツッコミが入った。

 

「いや、だって牢獄の外にいる面子はほぼ全て反対派で唯一縋れるのが私で、()()()()という立場にいるのですよこの人!私が圧倒的に上、コイツ下!最っ高に快感じゃ無いですか!?」

 

 思わずマルコさんに訴えるとマルコさんはクロさんに哀れみの視線を送り、私を見て、何かを確認する様に頷けば──天を仰いだ。

 

「これが、血筋、か……」

「ハーッハッハッハ!クロさん今どんな気持ち?ねぇねぇどんな気持ち?私に見下されてる現状どんな気持ち?教えてよどんな気持ち?ねぇねぇ?」

「最低だコイツ……」

 

 マルコさんのドン引き声が耳に入るが私は絶賛大爆笑中。七武海様が牢の中に入った状態で私に出してくれとプライドもへったくれもない頼み事をする羽目になるって最高にプライドへし折れるし侮辱もいいとこだし私逆の立場になりたくないわー!下に見てたやつに見下されるとか屈辱でしかならないし!私には到底出来ないね!流石七武海様!

 

 涙が出るほど笑えばクロさん器用に檻から鉤爪を出して私を引き寄せた。

 わぁ、よく海楼石に触らずに手を伸ばせるな。

 

 ……すごく既視感ある。

 

 檻越しでよく会いますね!

 

「ぶち殺すぞテメェ……!」

「ところでクロさん、私とある少女の腕の中ですやすや眠る少年の写真所持すてるのですけどぉ。──ど〜うしましょ〜?」

 

 どうする?欲しい?と写真を手に持って盛大な煽り顔をするとクロさんは心を読まなくても分かるくらい屈辱に身をふるわせた。

 

「なんか分かんないけどクロコボーイ可哀想ッチャブル……」

「クロさんの弱味を握る貴方に言うされたくは無いと思うです」

 

「リィン……お前なァ……」

「あ、やだ私ったらてへっ。……メイドさんの写真も出てくるしちゃった落としちゃう〜」

「ジ ン ベ エ !」

「リィン、クロコダイルを虐めるのもそれくらいにしとくんじゃ。後が怖いぞ」

 

 クロさんはジンさんに救援を求めた。心得たとばかりにジンさんが私の脇に手を入れ抱き上げる。

 別名捕獲。余計なことしないようにですね分かります。

 

 クロさんは怒りに身を任せ海楼石の錠でガンガンガンガンと行き場のない怒りを壁にぶつけていた。なるほど、煽りまくったらクロさんはあぁなるのか。他の七武海の反応も是非見てみたい。

 

「……こいつロリショタコンか」

 

 ボソッとマルコさんが狙った通りの勘違いを起こしたのが今日のハイライト。

 あ、ロリショタコンで思い出した。

 

「じゃがクロコダイル、ホントに出たいのか?」

「そうですよ。出たいです?別にそこにいるしても問題ないですけど」

 

 私の気持ちの大前提だが、私はクロさんを出してもいいと思っているし、むしろクロさんをアラバスタで潰す前から釈放賛成派だった。私のインペルダウン行きが想定外だ。

 ジンさんと私の言葉にクロさんは首を傾げる。

 

「ここは退屈だ、出たいに決まってるだろ?」

「ほんとに?ホントに出たい?本当です?」

「なんでンな念を押すんだよテメェはよォ」

 

 だってクロコダイルロリコン説は絵本の力も借りて今や世界中に広がって……。

 

 

 

 

「………………えっ。まさかご存知ない?」

「いや、まさか、リィン、アレの事じゃろう?」

「多分以心伝心可能であると思うですが、()()です」

「その、放送の……」

「ソレです」

 

 だって放送があった時期はまだギリギリクロさんはスモさんの船に乗った状態でアラバスタに居たはずだか……ら……。

 

 

「何の話してんだお前ら。俺が入ってからシャバでなんかあったのか?」

 

 

 純粋無垢な子供のような顔で首を傾げられた。

 

 

 ……。

 …………。

 

 

 うん。

 

 私は真顔でスっ、と針金を取り出すと牢獄の鍵、そして海楼石の錠をピッキング(のフリ)で外す。

 

 自然と頬が緩み始める。

 私は砂漠を蜂蜜色に染め上げる輝かしい朝日のような笑顔でクロさんを見上げた。

 

「ようこそシャバへ!」

「その不気味な笑みはやめろ……──こんなに可愛い笑顔なのにみてぇな感じで心底仰天する顔もやめろ」

 

 こんなに可愛い笑顔なのにッ!!!??

 

 同意を得るため他の囚人に視線を向けると無理無理と言った様子で首を全力で横に振っていた。不服でござる。

 あとクロさんが『可愛い笑顔』って単語を口に出すの面白すぎて録音してドフィさんと笑いたい。

 

「えー、リー、俺すっげーいや……」

「にいに……ダメ?」

「ダメじゃない」

 

 にっこにっこ笑顔でルフィが手のひらを返した。

 

「あのガール、ひょっとして世界最強……?」

「分かる」

 

 マルコさんが全肯定botになる前にさっさとlevel6から脱出しないとねー!

 

 イナズマさん(名前は聞いた)とクロさんが協力して出口を作り始めた。麦わらの一味に関わると無駄に時間が削れると分かってるクロさん発端だと思う。

 天然産魚人族のジンさんは頑張れ頑張れと2人を応援していた。おかしいな、旗を振る幻覚が見える。

 

 つまり出口作ってる最中、私とルフィとマルコさんとイワンコフさんは暇というわけだ。

 マルコさんの囚人服を写真に収めて白ひげ海賊団四番隊隊長のサッチさんに売りたい。多分大爆笑してくれるはず。私がクロさんの囚人服に笑えるんだ、きっと同じ。

 それを餌にお菓子作ってくれないかなー、って思ってたり。

 

「…………。」

「うるさいねい」

「否定はしないです」

 

 ところでさっきっから気になっている周囲の囚人の出せ出せコール。

 level6の囚人は基本億超えしか居ない。精鋭は監獄脱出にも戦争割り込みにも使えるけど、世から消されたこのlevelは制御という点から絶対に無理。もうそろそろ煩わしいな。

 

 

 私は大声でlevel6に告げた。

 

「──その牢獄の中でデスマッチぞしてください!その牢で1番強い者ぞ連れて行くです!」

 

「…………げ、外道だよい!?」

 

 おおおおお!と(たけ)りたち、牢獄の中で殺し合いが始まった。殴る蹴るの暴行が、見るに堪えない人間の醜さが露見する。

 出すわけないでしょ馬鹿。

 

「バギーさーん、出ておいでー」

 

 私はそんな中踵を返し、1つの牢の隅で気配を消そうと頑張ってる青髪赤鼻ピエロにジェスチャーした。

 その男は私を救世主でも見るような目で見て……。

 

「副船長のガキッッッッッ!」

 

 しまった、更に怯えた。

 

「うわぁぁぁああぁどっちに転んでも地獄じゃねーかコレ!前門のドS外道!後門の鬼!出たいけど出たくねぇええ!」

 

 バギーは屍の広がる牢獄で唯一の生存者だったらしい。私の方に近寄るけど一定の距離以上は近寄り難いみたいだ。

 

 いや、唯一じゃないな。

 奥にこの惨状を作り出した男がいるのか。

 

「おい、青い方、今なんつった」

「前言撤回!今すぐ出してくれ!ほら!早く!」

「わ、わかるますたよぉ」

 

 奥の男が口を開けばバギーは耐えきれないとばかりに私に縋った。腕の海楼石をグイグイ檻越しに押し付けようとしてくる。落ち着け。

 

 ガチャン、と檻の鍵を開ける。ひとまず怖がっている様子のバギーを牢屋の中から引っ張り出し、腕の海楼石の鍵を外そうとした。

 

「おい」

 

 奥に座っていた男が声をかける。

 うわ……意味がわからないくらい強い……。

 

 鍛え抜かれた肉体は牢獄生活でもきっと衰えもしなかったんだろう。無駄な筋肉がなく締まっている。人を倒し、殺すための肉体兵器。

 ちぎれ耳に、肩から胸に大きな火傷の跡がある男だ。

 

 こんなに強い人見たら忘れないと思う。だから海兵では無いけども、肉付きからしてこの人は。

 

「軍人っぽい……?」

「えっ、と、お前名前はアティウスでもなくてベリアルでもなくて、キティでもなくて…──そうだリィンか!」

「その間違われ方初めてなのですけど」

「リィン!リィンここから早く去ろう!今すぐ!早く!興味を持つな!」

 

 この大男は見上げても目が合わないかもな。

 そう思っていたら相手は膝をついて目線を下にしてくれた。視線が混じり合う。

 

 バギーは私の背に隠れて私を盾にした。おいこらてめぇ。

 

「……。お前が、アレの名付……」

「──こいつはダメだ」

 

 私の視界は真っ黒になった。右手で視界を覆われてしまい、会話を中断せざるを得ない。

 

「行くぞ。その赤っ鼻も連れてくつもりだろ、テメェも来い」

「げぇ!!??し、七武海ッ!?」

 

 目隠しされたまま引っ張られ覚束無いながら歩かされる。何、何!?え、声からとバギーの反応からしてこの手クロさんだよね?

 驚きながらもギャーギャー文句を言いながら私にへばりつくバギーの存在は確認出来てる。

 あの化け物と一体どういうご関係……?

 

「……チッ、生きてやがったか、胸糞悪い」

 

 だからどういうご関係?

 クロさんは忌々しげに舌打ちをすると独り言としか思えない音量で恨み言を呟いた。絶対に見せたりなんかさせないぞ★という力強い(物理)意志を感じる。

 

 私の下にフックがあるから、多分現状は左脇に詰められて、空いた右手で視界を隠されているというか顔面を掴まれている。ってことだね。私このままの状態で能力発動されたら確実に死ぬな。

 

 

「……ナニアソンデンダヨイ」

「弾丸が生きてた、互いが興味持たない内に回収した。以上」

「ナイスだクロコダイル」

 

 ドシャリと私にへばりついていたバギーさんが地面に落とされる音。

 視界が開くとマルコさんの嫌そうな顔が目に入った。

 

「脱出口は?」

「出来てるよい」

 

 天井に目を向けると螺旋状に切り取られた地面が穴に続いている。風化したような穴はクロさんで、螺旋状の地面がイナズマさんの能力だろう。

 

「ところでクロさん私いつ開放される?」

「さぁな」

「あー!砂ワニ!こんにゃろ!リー返せ!」

「別にテメェのモンでもねェだろ麦わら」

「いいや俺のだね!俺の仲間で俺の妹で俺のライバル!」

「分かったからさっさと指輪返せ」

「お前から渡した癖に……!」

「仕方ねェだろ、それ付けてたら能力使えねェんだからよ」

 

 脱出口の近くでクロさんとルフィが喧嘩し始めた。ハー、男ってなんだかなぁ。

 呆れ果てたので現実逃避で視線を逸らすとデスマッチを早速終えたであろう牢獄を見てしまった。と言うより、中にいた囚人と目が合ってしまった。

 

「……う、わぁ」

 

 出したくない。

 すごく出したくない。無視したい。

 

 けど、絶対便利。

 あの男さえ入れば船を奪わなくても足が作れる。

 

「……うーん」

 

 悩みどころではある。ただアイツの目的次第って所かな。

 

「あ、コラ逃げんな」

 

 ぴょんとクロさんの拘束から脱出すれば例の牢獄に向かい駆け足で近寄った。脱出するメンツはなんだなんだと私に視線を寄せる。

 

「あ!お前!」

「パーレイと行こうぜ、クレイジーちゃん」

 

 ルフィの驚きの声。

 その牢獄に居たのは首に海楼石を繋いだ金獅子のシキだった。

 

 舵輪を付けたその格好はやはり目立つ。否応がなしに覚えてしまうよね、このフォルムというか格好というか。

 

「リィンお前さん、どんな伝手をしとるんじゃ」

 

 ジンさんが呆れたとばかりにため息を吐いた。

 その伝手の中に自分も入っていることを忘れてるな、魚人族。私が聞きたいわそんなモン。

 

「俺が望むのは脱出手段だ。クレイジーちゃんの腕での鍵開けを頼みたい」

「それで?それによって私が得る利益は?」

「脱出の力になれる、あとはそうさな、麦わらの一味を殺さない」

「そんなものは大前提ですよ。仲間内で殺し合いぞされては足を引っ張るのみです。足でまとい」

 

 私は腕を組みシキを見下ろした。

 ドスンと背中から何かがぶつかる。正体はバギーだった。

 

「おぉぉぉぉお前ほんとやめろください!喧嘩!売るな!」

「でも私に交渉仕掛けたはあちらですよ?」

「相手は俺達が敵うような人物じゃねーーーーーーの!」

 

 ガクガクと肩を揺さぶりながら涙目でバギーが訴える。

 

「ねェ、私に与える物は何?」

「ジィハハハ……。そっちが素か、イカれてやがるなクレイジーちゃん」

「あと私ナミさんそこまで好き無いです」

 

 手のひらを見せてとりあえずそれだけは訴える。

 シキは爆笑し始めた。

 

──ガチャン

 

「貴方が入れば時間ぞ稼ぐ可能。確実性も増加。それなりに性格ぞ把握、知識まっさらなlevel6囚人より確実に利点はある。…──ただ、私の望みを聞くのであれば」

「いいぜ、聞いてやるよ」

 

 牢の中に入り込んだ私に向かってシキは王の様に宣った。

 

()()()、誰1人として」

 

 シキは酷くガッカリした様な表情を見せた。例えるなら期待外れ、そんなとこだろう。

 

「……甘いなクレイジーちゃん。いいか、俺はここの脱出経験者だ。経験してるからこそ言える。インペルダウンは甘くねェ、戦争ってのは…──」

「貴方程の海賊が、それを言う?」

 

 私は見下すように鼻で笑った。

 

「これから先。一生殺すな。誰1人。敵も味方も殺さずねじ伏せろ、圧倒的な強者で存在しろ。殺さなければならぬ程度の実力しか無いのなら、私は要らない」

「う、裏切り者ーーーッ!」

 

 ごめんバギー今シリアスしてるつもりだから黙って。

 大丈夫私たちは仲間。肩書きを恐れ肩書きを利用しつつ世界から逃げまくる仲間。

 

 ウィーアーナカマ。

 

 だから距離を取るのをやめて、地味に傷付くから。その手に着けた海楼石の錠外してやんねーぞ。

 

「お前の度胸にドン引きするッッッ!」

「私を育てた環境に文句言って」

 

 度胸だけはあるんです。ガクブル震えそうなの我慢してドヤ顔で話出来るくらいには度胸を作らざるを得なかったんです。

 

「ほー、あァそうか、親がアレだもんな。覇王色の素質くらい持ってっか」

 

 シキは何故か納得した様子でこのとんでも条件を呑んだ。真意が分からないけどシキによる死人が出ないだけいいか。裏切るだろうけど。

 

 絶対出さないと思ってたけど、海軍全体(潜入や元雑用だと知らない方々含め)の注目を私に集める位なら、誰もが目を引く存在を目くらましに投入しますわ。

 予知夢ではなんか世界に放送されてたみたいだし。

 

 彼を知り己を知れば百戦危うからずとも言うし、私はシキの戦闘スタイルもある程度の理想や価値観を知っている。そこらでタラタラと戦闘を続けてるどんぐり共よりは余っ程使いやすいかもしれない。

 

「シキ……」

「麦わら、テメェも物好きだな。わざわざ忍び込む……いや、入り込むなんてよ」

 

 シキはルフィの帽子を掴んで手に取ると、麦わらを観察し、素直に頭に戻した。

 

「シキ」

 

 ルフィは麦わら帽子の下で真剣な顔をする。そして見上げてシキに対し忠告をした。

 

 

「──リーに嫌なことされたら俺に言うんだぞ」

 

 

「リーちゃん腹が立つのでお先に失礼しまーーす!マルコさん運んで!」

「自分で飛べよい!」

「無理です!」

 

 デスマッチしてる囚人は普通に見捨ててこのエリアから脱出した。

 




やっと始まったぜ、〝この時〟がよぉ!!
はい、インペルダウンに入ってめちゃくちゃテンション上がってます。久しぶりロリコダイル!期待してるよ!

ところでリィン。そんなに監獄生活が気に入ったかい?よかろう、お前来世は監獄生活決定ね!


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第219話 踏んだり蹴ったり殴ったり

 

 インペルダウンlevel5.5。

 10年くらい前には知らなかったけど、最近になって知った存在だ。というのも、クロッカスさん経由でカナエさんの話を聞いた時出てきたワードだ。

 

 未だに状況を掴めきってない私たちlevel6組の為に、イワンコフさんが説明と装備の時間をくれた。情報共有も兼ねてマルコさんという当事者からも説明を聞いて、それで私なりに流れをまとめてみた。

 

 level5.5はニューカマーランドという一つの国であった。オカマしか居ない。

 その空間自体は過去の囚人が作り出した物で、情報や物資などは看守室など、インペルダウンの各場所から借りぐらしをしたり協力者の看守を作って物資を送って貰ったりとしている。

 

 うん、level5.5の謎が解けた。

 

 ニューカマーランドの服装は独特だけど、囚人服組に配られた服装が比較的まともで助かった。囚人服の私達は配られたその服に着替え、私はアイテムボックスの中から暗器をどっさり隠せるマントだけを取り出して着た。貰えるものは貰っとけ。

 

 

 そしてエースの処刑に関して。

 これはもうそのままだ。ただ、戦争に反対した七武海のジンさんと、どう考えても反発する私を、『麦わらの一味完全崩壊の為の私の作戦』を利用しインペルダウンに封じ込めた。

 センゴクさんにとって予想外だったのはルフィのとんでも行動力と言った所か。

 

 

 おおまかな流れが予知夢と同じように進みそうだな。戦争を回避する事を優先したかったけど、もうそれは不可能な段階にまで進められている。私の気付かない内に海軍内でセンゴクさんが。

 

 回避するためには情報が必須だし早めに情報欲しかったけど、この件に関しては1番情報を得れる位置にいる青い鳥(ブルーバード)が私なのでテゾーロやシーナを責められない。そこまで堕ちちゃいない。

 

 そもそもマルコさんとエースが捕らえられた経緯も経緯だ。

 黒ひげマーシャル・D・ティーチ……。あの2人を相手して勝てる実力だったのか、アイツ。

 

 ……──いや、()()()()、か

 

 面倒臭いと思いながらも状況を確認し終えた。

 

 予知夢程簡単じゃないな、現状。むしろ組織間や思惑が複雑化している。そもそもシキなんて存在自体が予知夢に現れなかった。マルコさんも、囚人としてこの場にいるのが予知夢通りじゃない事の証明。

 少しずつ違っている。

 

 絶対エースは殺させない。

 それだけは絶対変えてみせる。

 

 だから私のやるべき事はインペルダウンを確実に脱獄し、この戦力を戦争にぶつけて海軍に勝つこと。

 ただし海軍大将の私からすれば海軍は負けてはならない。

 

 考えろ。考えて考えて、戦力を均等にさせるんだ。

 脱獄組がインペルダウンに勝り、白ひげ海賊団と脱獄組の目的を共にさせ、七武海と海軍本部を打ち破る。でも脱獄組が白ひげ海賊団より勝ってはいけない。海軍本部が海賊に劣ってはならない。

 

 

 

「ぎゃああんッッ!無理ぞりッ!む〜り〜ぞ〜!」

 

 

 そんなことは今どうでもいいです。私は寒いです。

 

 

 

 インペルダウンlevel5。

 あの電伝虫ですら生息できない極寒の地。ここに投獄されれば凍死は免れない。指先からポロポロ崩れ落ちていくんだろう。

 

 そんなことは今どうでもいいです(2回目)

 

「寒いってより痛い!痛い痛い痛い痛い!」

 

 おいここ監獄だろ!気候を発生させるな!建物の中なら気候を!発生!させるな!温度を上げるのはまだ分かるけど温度を下げるな!そう簡単に出来るものじゃないぞ!寒い痛い!死ぬ!

 

「弱っちいなお前」

「黙るして周辺知らない顔や油断ならない顔ばっかりで話す相手が居ないから無駄に私にだる絡みするマルコさん!」

「……今俺はここで強姦だなんだ言われてもいいからこいつの服全部引っペがしてここに放置したい」

「最低ぞ!?」

「テメェが相手してんのは海賊だ、理解しろよい」

 

 今でさえ!こんなにも寒いのに!

 

「ちょっ、俺の服を奪おうとするなよい!」

「アイアム海賊ーーーッ!欲しい物は奪うが正解!」

 

 追い剥ぎじゃーーーーーー!

 グイグイマルコさんの上着を奪おうと引っ張ってたら革命軍にため息つかれた。

 

「遊ぶのはいいけどゴア王国ガール」

「私ゴア嫌い故に呼び方変えて」

「堕天使ガール」

「私堕天使クソほど嫌悪故に呼び方変えて」

「……わがままガール、騒ぐのもいい加減になさい。作戦は本当に理解出来たかしら」

 

 イワンコフさんが失敬な呼び方をして止めた。あれ、もしかして私見た目より子供だと思われてる?

 まぁ世間から離れて新聞でしか情報を得られない中、だから仕方ないし怒る気もないし不服感はないけど。

 

「くそうドラゴンさんにチクッてやる……!」

「ヴァナタドラゴンとも伝手があるの!?わけがわからナッシブル!」

 

 呼び名で地雷をとことん踏んだことは許さない。

 

 

 脱獄組はlevel5から1までの囚人を解放し、人海戦術として可能性を上げつつ脱獄することに決めた。level5.5で着替え、装備を整えた後すぐさま脱獄だ。

 

 脱獄は大まかに3つのチームに分別された。前方組は簡単に言えば敵を蹴散らす係。後は解放組、ここに大多数の人数。そして後方組は殿だ。背後からの敵に備える。

 

 私は脱獄前方組に選ばれた。万能型の能力の私はそれぞれの弱点をカバー出来て、相手の弱点を突く事が出来る。そしてこれは伝えてないけど、インペルダウン最強の監獄署長、唯一の天敵だろう。前方組満場一致での推薦ですありがとうちくしょう。

 

 まず後方組は革命軍の2人。イワンコフさんとイナズマさん。

 後方に主戦力を攻め込まれたら戦線は一気に崩れるけど、インペルダウンは『脱獄させないこと』を重視せざるを得ないから間違いなく主戦力を前方組に向けてくる。

 

 解放組。先程も確認し終えた通り大多数がここにいる。知ってる名前だとバギーがここだ。あの人はバラバラの実という斬撃無効系の能力者だから今回の脱獄で前方組には組み込めない。打撃や銃などが多いインペルダウンでは相性が悪い。バギーには生き残って貰わなきゃならない理由がある。まあしぶといから大丈夫だろうけど。

 

 

 そして前方組。ここには少数精鋭を入れ込んでいる。

 メンツは私。そしてルフィ、マルコさん、七武海、シキ。

 

 それと…──。

 

「ごめんねシキ運んで貰ってさ」

「無駄な体力消耗すんじゃねェよ」

 

 シキに乗っている男。

 名前すら知らないけど、ルフィがマゼラン署長の毒で瀕死の時、助けてくれた恩人らしい。

 

「やっさんやっさん!」

「んー?なんだいルフィ君」

 

 あと結構ルフィが懐いてる。

 あの人やっさんって言うらしいけど正式名称知らないし情報ゼロだからあまり関わらないようにって私の勘が囁いてる。

 馬鹿にならないしな、自分の勘。他人より自分信じますよ。根拠は後で作り出す。

 

「ひぃん……寒い……」

 

 暖を取るためにマルコさんにひっつき虫する。ぴーぴー鳴き喚いていると仕方ないな、と言いたげな表情でマルコさんが私を抱え上げ、羽織るだけだった上着の前を閉める。気分はカンガルーや猫。人肌、暖かい。同じ炎ならエースが良かったけど。

 

「で、なんでここにいるんだよい雑用サン?」

「ぴぇーー!寒い!マルコさんまだ寒い!……簡潔に言うと」

 

 寒がりな私を包んであっためるフリをしたマルコさんが耳元で問いかける。いや、気持ちあったかくなったのには違いないけどね。ぴーぴー喧しい私を静かにさせるためにとかじゃないのは知っていた。

 level5.5でタイミングを図っていたのに気付いたから私はあえてマルコさんに絡んでいるのだ。

 

「「──海軍に裏切られた」」

 

 私の『返答』とマルコさんの『予想』の呟きが重なり合う。

 

「……はぁ。あのな、リィン。人様の服の中入り込んでまだ文句を言うかよい。適当にかまくらでも作ってろ」

 

 互いに口調は巫山戯ている様にしか聞こえないだろうが、互いに顔付きは参謀としての表情だ。

 ま、ごく簡単な予想だろうね。海兵が囚人服を着て監獄に入れられてる理由なんて。

 

 煮え湯を飲まされたリィンちゃん。あと情報共有した覚えはないけど多分マルコさん辺りは私の両親察してるはず。シキでさえ私の両親を当てたんだ。白ひげさんが分からないわけが無い。

 

「ううー、寒い、寒い無理」

「麦わらに泣きつけ」

「ルフィ、やっさんなる人に取られるしてる。運ぶして親鳥」

 

 子泣き爺とかスネかじり小僧とかカンガルーの子供とかそういうレベルで張り付いてる。

 もう女狐とかどうでもいいのでこのフロアだけはさっさと抜け出したいです。

 

「初めましての時はあんなに優しかったのにこのパイナップル頭は会う度会う度コミュ障拗らせて私に当たりが強くな」

「誰がパイナップルだよい」

「い゛ッッだァ!?」

 

 しがみついて両手に自由が無い私の脳天に思いっきり拳が落とされた!痛い!え、待ってめちゃくちゃ痛いんだけどこれ頭から血が出てない!?絶対出てるよね!?

 痛みによって出てきた涙を目に溜めてマルコさんを睨みつけると、マルコさんの背後からにゅっと大きな手が伸びてきた。

 

「は…!?」

「ぬぁ!?」

 

 スッポーン、と効果音が付きそうな程気持ちよく私がマルコさんの懐から取り出された。

 

 私は猫か。

 

「あ゛ーーーッ!待っでぇさむい!痛い痛い痛いッッ!は!?キレそう!」

 

 外気の極寒の風と言う名前の凶器が私に襲いかかる!ちょっとだけでいいから時が止まって欲しい!

 

「これでも巻いてろ」

 

 服掴まれて宙ぶらりんになっていた私に緑色の布が手渡された。体格に合うサイズの、私にとって大きいそれは布の足りない私には有難い物だけど。

 

「ぐぅ……クロさんから受け取りたくない……」

「文句言うんじゃねェ」

 

 マルコさんから私を取り出したのはクロさんだった。ひぃ待って寒い。無理。

 ストール?ネクタイ?これなんて部位なのか分からないけどクロさんがよく首元に巻くストールをマフラーの様に首にグルグル巻きながら、誰が1番布重装備だろうと思って寒さに震えながら周辺を見渡す。

 

 ルフィ、普段通り。論外。ジンさん、そもそも魚人だから体温が低い。論外。シキ、存在から論外。恩人さん、論外。革命軍、所属から論外。……は!バギー!

 

「バギーさん!マイフレンド!寒き故に服」

「派手馬鹿野郎近づくな!」

「酷い!」

「白ひげん所の隊長と同じ様な暖取るつもりだろ馬鹿野郎!俺が殺されるわ!お前の親に!」

 

 くそう脅しが空回りしてる……!レイさんの調教用鞭を貸してもらって見せた過去の私を憎むからな……っ!

 

 私一人じゃ絶対このフロア抜けきる前に凍え死ぬ。なんなら死ななかったとしてもぶっちゃけ我慢するとか大嫌い。寒さを和らげる方法があるのに使わない手はないじゃん。でもある意味恩になるから死ぬほど他人に頼りたくないじゃん。

 マルコさんの所に入れてもらおうかな。情報という正当な対価を払ったんだし。いやでも、あの人能力なのか露出が趣味なのか分からないけど前全開だし。選んだ布薄いし。むしろあるだけ無駄なレベルの紙装甲というか。

 

 でも、でもぉ。

 全く知らない人は頼りたくないし。予想してたより寒いし痛いし。アイテムボックスから取り出そうとでも思ったけど、布巻くだけじゃ体温的にマイナスが多すぎて。

 

 

「…………………………………クロさんマントの下入れて」

「随分葛藤したな」

 

 苦肉の策だ。目の前でどうせそうなるだろうなと言いたげな顔してる元七武海に頼む羽目になるだなんて。

 

 マントの下から潜り込んで背中に負ぶさる。直接当たる外気が減っただけで楽になったけど、露出する顔が寒い。

 

「うう……帽子欲しい……耳あて欲しい……顔外すしたい……寒い……」

 

 電伝虫の生息不可能階層、舐めてましたごめんなさい。

 ぬるま湯地獄は耐えれたのに!ちょっと温度下げる裏技使って!

 

「あーーー!クロコダイル!またリー取りやがった!リー、俺があっためるぞ!」

「ルフィはちょっと、図体差が少なくて肉壁にならぬ」

「肉壁」

「……肉壁か」

 

 すると天然産魚人がハッとなにかに気付いた。

 

「しまった、ルフィ君はクロコダイルと敵対しとったんじゃったか!リ、リィン!」

「寒い無理気ぞ回らぬパスです……」

「ワシが間に立たねばならんのか……?ル、ルフィ君。確かにクロコダイルは短気で意地も性格も悪くて地獄に落ちても納得じゃが、そう悪い男でもないんじゃよ。なんせ渋くて流石に飲めなかった茶をこっそり枯らして痕跡を消し──」

「おうそこの鮫。ちょっと一旦枯れてみるか?」

「まてクロコダイル落ち着け、わしの顔を掴むな、ほら、わしがプレゼントしたバナナワニをとても喜んどった事は言ってなああああワシの顔が枯れる!!!」

 

 予想通り、因縁があるだろう白ひげ海賊団のマルコさんは七武海の姿を見てドン引きの表情を浮かべた。

 

「アレ、何」

「結構通常運転の王下七武海」

「……嘘だろい」

 

 ボソリと呟いた言葉は軽く絶望してる感じのアレだった。

 

「いいよジンベエ。確かにビビの国めちゃくちゃにしたしとことん気に食わねェけど、可哀想だから嫌わねェ──逆にむしろウチのリーがごめんなさい」

 

 盛大に視線を逸らした。

 するとクロさんが目にも止まらぬ速さで私の顔面を掴んだ。

 

「……テメェ一体何をした?」

「ちょっとノーランドっただけです」

「なんだその動詞は」

 

 嘘は吐いてないけど真実を知るものから見ると嘘になって絵本になっただけです。

 

「でもリー取ったのは許さねェからな鰐!」

「取ってねぇよ、取りたくとも手強いだろ」

 

 もうどうでもいいのでlevel5から抜けてくれませんかね。

 私たち前方組なんだからさっさと行かないと。

 

 願いが通じたのか分からないけどゾロゾロ駆け足になっていく。寒い。寒い無理。寒い。暑いのはまだ耐えられるけど寒いと殺意湧いてくる。

 

「アレ、クロコダイル。一々指輪付けたり外したりどうしたの」

「あー…?」

「あれ?キミ、ピアスって左に付けてたっけ?右じゃなかった?」

「ピアスは付け替えたし薬指は海楼石だ、んなことテメェに関係……ねェ話だ」

「はァ????こんな脱獄時に海楼石着けてるとか正気!!!????」

「うっせぇ、能力使う時はしまってる」

 

 クロさんが恩人さんに絡まれた。ということは足にしてるシキもいると言うことなんだけど。

 

 走り始めたからか顔に当たる風量が強くなってきたのでモゾモゾとマフラーの中に顔を埋めようとして、ふと、そう、ふと心の中の何か。それこそ第六感や直感とも言えるアレが顔を覗かせた。

 

「んー?」

 

 自分の感情に整理がつかない。情報不足と言うのもあるが、多分私は恩人さんが誰かわかってる。所属海賊団だとか組織とか。

 でもそれがちゃんと言葉に出ないというか、気付かないようにしているというか。そもそも恩人さんの存在に違和感というか。これ以上考えたら多分胃が死ぬというか。

 

「オイ、リィン」

「ぴゃいッ!?」

 

 極寒のlevel5では水分という意味で能力を上手く使えないのか、私を背に乗せて走るクロさんが低い声で名を呼んだ。

 

 すっごい、怒られてる気分。

 

 返事の悲鳴が思ったより大きな声だったのか周囲からの視線を感じた。

 

「俺をシャバに出したのはテメェだ」

「……?はい?そうですね?」

 

 まぁ具体的に言うと脱獄して無いからシャバに出したとは言えないけど、周囲の反対押し切って枷を外したのは私だ。

 

「言質は取ったからな」

 

 ……。

 

 えっ、待って、よくわからなすぎる。

 言質って何が。

 私が恩を売りましたよ、って意味で言質?意図が読めなくて逆に怖いんだけど。

 

 言葉遊び系に強い私が意味どころか意図すら、会話の文脈すら理解出来ない。理解の範疇外、って言うのがめちゃくちゃ怖い。

 

 

 そっと背中から降りた。寒かった。

 

「あ?なんで降りた?」

 

 あんまりにも寒過ぎるけどこいつにくっついたまま仲良くおしゃべりするくらいなら寒さに凍えて衰弱してやる。

 

「リィン?」

 

 スウーーーーーーー、と大きく息を吸う。クソ寒い空気が器官を通って肺に溜まる。

 クロさんは不思議そうな顔をして私を見ていたが、何かを察した様で愉快そうな顔になった。

 

「……へぇ、お前でも動揺とかするんだな」

 

「──ちょっと今からlevel6戻ってあのちぎれ耳脱獄させてくる」

「おい待てそれはシャレにならねェ」

「シャレじゃねーーんだよクソ野郎!私はクロさんが嫌がることなら全力でしたい!」

「巫山戯んなクソガキ!」

 

 腕を掴まれて戻るのを阻止される。バタバタ足を動かしてたらルフィが助けに来てくれた。

 あぁ私の愛しき兄様よ!

 

「リー、また鰐虐めてるのか」

 

 私は顔を覆った。

 

「…………」

「おい、なんか言えリィン」

「…………これは詳細を省きますが、結論だけ言うとお前は死ぬ」

「あ゛ァ?」

 

 今はまだ不快に思っても殺さない。

 必ず生きたまま地獄へ連れていく。

 

 でも1時間だけでいいので呼吸止めてもらってもいいかな。

 

「マルコさん乗せてー!」

「…………………………大人しくしてろよい」

「よーい!」

「返事みたいに使うんじゃねェ!」

 

 『種族:ストレス』から解放されたい。ぐすん。

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

 オニグモ中将が火拳ポートガス・D・エースを乗せた軍艦を率い、マリンフォードに到着した。エース処刑まで5時間強、いつ白ひげ海賊団が乗り込んでくるか分からない危険な時間帯。

 本来であれば目下の戦争に全力で注意を向けなければならないだろう。

 

「…………くっっっっそ海賊共め」

 

 センゴクが引き出しに入った数多の箱からベストオブ胃薬を取り出して胃に流し込む。胃が空っぽだが仕方ない。

 

 センゴクのエクストリーム胃痛案件は複数ある。それはもちろん戦争の事もなのだが、それよりもなによりもインペルダウンで起こった暴動についてだ。

 

 バタバタと足音を立てて一等兵が駆け込んできた。

 

「報告します!」

「……ダメです」

「元帥、聞き届けてください」

「巡回中の軍艦と連絡が取れなくなりました!」

 

 センゴクは堂々と報告を続けた一等兵に嫌な予感がしてじろりと睨みつける。キャップから除く顔はニヤリと歯を見せて笑っていた。

 

 ぎゅるんと胃が悲鳴をあげる。

 

 またリィン(おまえ)か。

 一等兵は月組で間違いないだろう。元帥や中将に囲まれての度胸はいっそ拍手したい気分だ。

 

「それと別件ですがインペルダウンに許可の無い軍艦が1隻着港した、と連絡が」

「…………どこのどいつだ」

「その情報はありません」

 

 センゴクは深く深くため息を吐き出した。

 

 

 

 余談だが、王下七武海はクロコダイルの抜けた席は未だ空席だ。本来であれば黒ひげマーシャル・D・ティーチが座り、『黒ひげ』という男の情報が共有されたであろう。

 未だ『身元不明の賊』でしかない。

 

 人は分からなければ分からない程恐怖を抱くのだ。

 

「(モンキー・D・ルフィの起こした暴動。マゼランが抑えてくれればそれで終わるのだが、2代目海賊王に死なれては困る。だがここで介入は難しい)」

 

 センゴクの計画は、正義が通用しない闇を悪で制する事だ。そう考えると極悪性も無く話題性や血筋や性格として麦わらのルフィは大変に都合が良い存在。リィン(せいぎ)が操れるという意味でも。

 

「(……いや、あの男は恐らく死なない。そこの心配はするだけ損だろう。問題のインペルダウン、嫌な予感がする。むしろこのまま死んでくれた方が良い様な)」

 

 何度目かのため息。大監獄インペルダウン、よっぽどのことがない限り落ちない。

 

 そこまで考えてセンゴクはスンと表情を無にした。

 

 麦わらに関しては考えるだけ無駄だ、と。祖父を思い出して現実逃避をした。

 

「……インペルダウンには苦労をかけるだろうが、マリンフォードの戦力を削ぐわけにはいかん」

「……あー、センゴク元帥。我らが大将はどこにいるかご存知でしょうか」

 

 突かれるとは思っていた点だ。センゴクは無難な返事をする。

 あとお前たち月組は女狐隊のスモーカーの部下であって直接的な部下ではない。なんだ我らが大将って。

 

「彼女は極秘任務に当てている。今回の戦争は不参加だ」

「分かりました」

 

 エクストリーム胃痛案件には女狐の件も含まれている。曖昧な女狐という姿、それをハッキリしなければならない。旧女狐は切り捨てたのだ。

 情報共有の範囲、諸々と必要だ。

 

 センゴクはもう一度ため息を吐いた。

 

「災厄が大挙して襲ってくる」

「どこの小娘のセリフですかそれ」

 

 中将が即座にツッコミを入れた。センゴクは笑えばいいのか泣けばいいのかわからなかった。嘘だ、ちょっと泣いた




『愛していた』と言った男は愛を過去形にした。理由は己が罪を得、監獄に入るから。リィンはその事を知らない。だから分からない。

過去形にする理由が、張本人の手により失ったことを。言質とは、その事である。ファーーーーざまぁwwww!!


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第220話 通常攻撃が全体攻撃で異常攻撃の海賊はきらいです

 

 インペルダウンlevel4。

 その灼熱の空間を私はマルコさんの背に乗って運ばれながらダラダラ流れる汗に負けないよう経口補水液をぐびりと飲み干す。

 

 焦熱地獄。

 毒が気化するこの空間は多分マゼラン署長の独壇場になるだろう。看守がガスマスクをしているのがいい証拠だ。

 

 マフラー代わりに使っていた緑のスカーフネクタイを腰巻きにする。ズボン、実は緩いんだよ。多分私がこの中で1番体格が小さいからだろうけど、貰い物の服じゃサイズちょっと大きかった。

 

 

「リィン、敵さんが来るよい」

「作戦通りお願いするです。…──いま!砲撃ッ!」

 

 

 私の合図に私を乗せたマルコさんと、恩人さんを乗せたシキがふわりと浮かび上がり、向かいくる敵に攻撃を加えることなく無視をして砲弾のようにすっ飛んだ。

 隊列を組むインペルダウンの看守達。その背後に、空中組4人が回り込んだ事になった。

 

「連携重視、決して殺さぬ様、総攻撃!」

 

 インペルダウンの看守は一気に形勢が不利になったことを悟っただろう。前門に億超えルーキーと七武海、後門に私たち。

 進むも地獄退くも地獄。大丈夫、死にはしない。

 

「〝ゴムゴムの…──銃乱打(ガトリング)〟!」

「〝三日月形砂丘(バルハン)〟ッ!」

「……魚人空手……〝唐草瓦正拳〟ッ」

 

「〝蒼炎の追撃〟」

「〝斬波〟」

「〝嵐脚・旋風〟!」

「よっこいッ、………はい?」

 

 

 ドガァン!という大きな音を響かせながらそれぞれが大技を放った。

 こちら側はシキと恩人さんが足技の斬撃。あちら側はルフィとジンさんが拳での打撃。マルコさんは不死鳥、クロさんは自然系という特質を活かしての特攻。

 

 

 私は繰り出そうとした技を思わず引っ込めた。

 

 

「連携と言うより単独技の全体攻撃……」

 

 覇気無しでこの威力とか正気?

 大丈夫?死んでない?

 看守の命があること前提でこのエリア抜けようと思ってるんだけど。

 

 まぁいいか。死んでても死を悟らせなければ良い。

 

「……………じゃあガスマスク外しまーす」

 

 砕け散った石橋の破片をふわふわと浮かせ、狙いを定めたあと銃で狙いを定めるみたいにマスクの金具を破壊していった。

 

「どうしたリー。お前今日絶好調だな」

「残念ながら躊躇う理由が見当たらぬのです……所属経験も無きですし……生きるか死ぬか、監獄生活は流石に無理ですし。正直拷問も死ぬほど嫌」

 

 ゾーン状態に入り込んでいるというか、休息を1週間取っていたお陰か。不思議色をバンバン使える。イメージしやすい。

 

 あとインペルダウンと政府相手なら基本躊躇わない、というか……ねぇ……。政府は秩序維持トライアングル(政府・海軍・監獄)の中でヒエラルキートップに位置してるから立場は若干気にするけど。監獄はなぁ。

 

 ガツガツと倒れ伏す看守に石を飛ばしていると恩人さんが首を傾げた。

 

「なんでマスク外してるの?」

「あー。ここの署長が毒の能力者なのはご存知ですよね。この熱だと毒が気化しそうで。部下が毒を吸える状態にあると知れば無差別的な毒攻撃は防げると思考しますた」

 

「思いつくけど実行しようってとこが凄いとこだよねい」

「流石イカれたクレイジーちゃんだ」

 

 うるせぇイカレサイコパス海賊。お前にだけは言われたくないわ義足片手野郎。

 貴方達2人は比較的脳みそこっち寄りなのは知ってるからな! 特にマルコさん! 白ひげさんの手を煩わせないように予め黒いことで手を汚してる件、私結構知ってるから! 情報屋舐めんな!

 

「しょちょーって、毒使うやつ?」

「そうですぞ」

「アレ駄目だ。仲間ごと毒使うんだ。あんまり意味ないと思う」

 

 ルフィの観察力に一瞬目を見開くが熱気で痛かった。

 

「少人数と大人数じゃ違うと思うのでお試しぞお試し」

 

 使えればいいや、って感じだから。

 私は無駄に被害を拡大させるため生贄を増やしていく。ひゃっほー! 毒祭りだー!

 

 

 

「……似てるようで、似てないような」

 

 ボソリと恩人さんが私を見下ろしながら呟いた。

 

「どうしますた?」

「んー。いいや、エースに任せて良かったかもなぁって」

「エースに?」

 

 恩人さんは私の頭をぐしゃぐしゃとかき回し始めた。うわわわわ、髪がぐちゃぐちゃになる。

 

「折角セットしたのに!」

「ただ結んでるだけじゃんか」

「それでもですッ! アホ毛閉じ込めるにどれほど苦労ぞしたか…──」

 

 ぴょんぴょん跳ねる1部の髪の毛が私の悩みなのに! この人は毎度毎度髪の毛爆発させてさ! 自分がサラツヤだって事自慢したいのかコノ……。

 

「ん?」

「あれ?」

 

 私と恩人さんが同時に声を上げた。

 

「す、凄い既視感が」

「あれ、なんだ今の感覚」

 

 恩人さんと互いに顔を見て首を傾げあう。

 どういうことださっきの感覚。何か、何かを忘れているような……?この人に関して何かを……?

 でも私こんな男の人知らない。記憶にないや。

 

「行くぞリィン、まだ敵はいる」

「え、あっ、待つして引っ張るはこけッ、こけこけこけッ」

「ニワトリかお前さんは」

 

 ちょおおうあ! 転ぶぅぅぅぅうッ! 危ないって!

 クロさんに腕を引っ張られ無理矢理足を動かす。ジンさんが並行してツッコミを入れた。違うそこじゃない。

 

「ぎゃう!」

 

 足をもつれさせていたので思いっきりコケるかと思ったが腕を引っ張られ転ぶ前に引き上げられた。

 

「あァ、悪ィ。股下の格差社会を頭からすっ飛ばしてたわ」

「ごめんですんだら海兵要らねェんだよ脚長お化け。大丈夫? 医者紹介する?」

「足が長くてすまねぇな、チビ」

 

 クロさんの1歩の為に私が歩数をどれだけ重ねてると思ってんだ。この世界平均が高すぎて意味がわからない。

 いやマジで医者紹介するよ? 手始めにローさんとかどう? ついでに物理的に身長縮めて来てよ。

 

「そこ、天下のプライドノックアップストリーム志向共。喧嘩してねェでさっさと進むよい。あーあ、麦わらはこんなに素直なのになぁ」

「「どこが?」」

「こーゆー時だけ声を揃えんな! 失敬だぞお前ら!」

 

 素直というか愚直で面倒臭いよ、ウチの船長兼兄貴は。

 冒険があればパン食い競走のように食いつくんだよ、馬鹿は風邪ひかないという迷信が確信に変化しそうな程の馬鹿だよソレ。

 

「ルフィって悩みぞなさそうで良いなぁ」

「俺だって悩み結構あるからな!」

「例えば?」

「性格悪いやつが賢いとか最悪だなーって」

 

 誰のことを言ってんだいルフィ君。

 あとそれは悩みじゃなくて考え事って言うんだよ。

 

「馬鹿だな」

「馬鹿だよい」

「う、うむ……否定はできんの」

 

 だよね。

 

「若いモンって頭イカれてるよな」

「それは若いモンに限らないんじゃん、シキ。あんたのその手どうしたの?」

「クレイジーちゃんにくれてやった」

 

 ……貰ってないから。

 あと恩人さんはシキと同年代だということが会話で把握した。

 

「シキさん、level3への階段どこ?」

「左だな」

 

 看守第2波が現れた。

 ギロリと全員の目が細まる。

 

 ……これ、私がいる意味よね。

 

 脱獄解放組が後ろから追いかけてくるけど前方組と若干距離取ってるのが過剰戦力度を見せつけてくるよねー。

 

 やっぱり1人でも脱獄出来たというシキがいるのがデカい。それと軽い調子でシキに乗ってる恩人さんもヤバい。身体能力さほど高くないのに柔の技がやばい。結構簡単に人が吹き飛ぶ。

 ……あの動き、似てるんだよな。私に柔術っぽいあれやこれを教えてくれたフェヒ爺に。

 

「来たか、厄介なのが」

 

 現れたのはブルゴリ部隊とそれを笛で操るサルデス牢番長。遠くからドスンドスンと大型の怪獣か何かが向かってくる足音もする。

 

 そして姿を現した怪物は獄卒獣だった。紫色のシマウマに黄色のコアラに青色のサイ……。色々物騒な武器持ってるみたいだけど。厄介だ、覚醒の能力者。という事はサディ獄卒長もいるって事ね。

 

 役職持ちが来たということは一気に片をつける気でもある。ってことは…──。

 

「マゼラン監獄署長がもう少しで来ます!」

「ならさっさと片付けるか」

 

 間違いなく来る。それまでにlevel4は抜け出したい。

 くーー! 能力者便利だなー! 覇気使いだと厄介だけどそれ生身だろうと変わらないし大多数の攻撃無効できる自然系(ロギア)! 不死鳥はありゃロギアだよ。卑怯。

 

吸収(アブソリュート)(ライト)

 

 男の人がコアラの獄卒獣に触れて何かを奪い取る。あの人も能力者ですよね普通に! ……ん? アブソリュート?

 

「リィン、やれる?」

「問題なく!」

 

 そのコアラがフラフラと目を覆いながらも問題なく私に向かってくる。ほかはブルゴリや獄卒獣や階級持ち職員相手をしてるので私が相手せざるを得ないか。

 ただの獣なら一気にNOと拒否するけど能力者なら別物。獣とは違って海楼石が使えるからね。

 

「よッ、うわぁ!?」

 

 ナックルダスターを付けた拳は無事に避けたが、予想以上の風圧で体重の軽い私は結構簡単に吹き飛んだ。バランスを崩した体勢で迫ってくるもう片方の拳。

 

「ッ!」

「く、らうか!」

 

 風は私の得意技だ!

 空気抵抗の為にバサバサと翻るマントに風を集めた。ぶわりと風を吹かせ、私は拳を避けきる。

 

 いつもなら箒で避けるんだけどそれが無い今は『空を飛ぶ』とか『空中移動』とかを別のイメージでやりきらないと詰む。上下左右自由に動けるのが私の利点で他の生物より優位に立てる力。それを利用しないでどうする。

 

「興奮の鞭〝赤魔鞭(アカマムチ)〟」

 

 風を纏い、避けて避けてを繰り返していると鞭が高速で飛んできた。

 

「──危ないなぁ、サディちゃん。ちょっとさァ、人様の戦いに割り込むのはルール違反じゃないの?」

 

 ただし恩人さんが素手で掴みきったが。なんだ、見た目普通だけど常識的に考えて普通に人間辞めてたか。そうだよな。

 サディ獄卒長と恩人さんが鞭に力を込めあって睨み合う。

 

悲鳴(スクリーム)が足りなくて欲求不満なの、お兄さんでいいから、私に悲鳴(スクリーム)を頂戴……!」

 

 ペロリと舌を出すサディ獄卒長は色気満々だったが、恩人さんは眉をひそめず鞭を引っ張ったまま。

 

「〝水かけ遊び〟」

「〝発泡雛菊斬(スパークリングデイジー)〟!」

 

 どこかから声が聞こえ、コアラの獄卒獣が倒れ伏した。横目で確認する。……よし、獄卒獣は放っておこう! アレより先にサディ獄卒長だな!

 私は恩人さんの肩に飛び乗って跳躍するとサディ獄卒長の頭目掛けて蹴りつけた。

 

「きゃあ!?」

 

 子供の蹴りなんてそんな威力ないだろうけど、風を纏っていたから威力は大きく見える。サディ獄卒長は天然パーマの掛かった頭をこれでもかと動かして避けた。

 

 ただ、避けた先にいるのは一瞬で移動した恩人さん。

 

 彼はサディ獄卒長の腕を掴むとそのまま投げ技に移行した。

 あの体勢では投げることは容易だろうなぁ。

 

「あ、やば」

 

 ただし恩人さんがバランスを崩さなければ。

 恩人さんは足をもつれさせて顔から地面へダイナミックキッスに移行した。

 

「……何、やってるですか!」

 

 あそこまで綺麗に技決めといてなんで自分が思いっきりバランス崩してコケるかな! 普通!

 私はサディ獄卒長が体勢を立て直す前に爪先を踏み抜きみぞおちに掌底を喰らわせ、腕を掴んで体を支える土台にするとそのまま両足を首に絡めた。

 

 喰らえ肉体的にまだ差が少ない人用の絞め技。

 

 全力で力を入れても首の骨は折れないだろうけど、勢いの方を重視。絡めた頭が前方に引っ張られ重心が頭に移動した時、私は逆さにぶら下がったままもう一度鳩尾辺りを強打した。

 

「……おお、綺麗に決まった」

 

 我ながらちょっとびっくりする。素人ではこうはいかないし、強者相手でもこうはならない。そこそこ実力があって受け身を自然と取ろうとして体格差も少なくて私と筋力やら色々な差が少ないからこそ地面に叩きつけられた。

 

 三角絞めで意識を落としていく。

 落としてる最中に恩人さんが近寄って来た。

 

「リィンやるねぇ。いやぁごめんごめん、今の体格考えてなかった」

「この野郎馬鹿野郎! 下手に任せれぬことぞしないで!? 初歩とか初心者とかそういうレベルのミスじゃ無きですけどあれ! なんです、二足歩行はじめるして2日目ですか!?」

「うげ、ヒッドイ言われよう」

 

 この人いや!

 もう余計な手出しせずにシキのところでぶら下がってて欲しい!

 

「リィン」

 

 私は首根っこ掴まれてぶら下がった。ごめん私じゃない。

 

「麦わらのところにすっこんでろ」

 

 クロさんに投げ飛ばされてルフィに受け止められる。

 一瞬息が詰まったがソフトに投げられた方なんだろう。

 

「リー? 大丈夫か?」

「ルフィ……」

 

 なぁ世界。

 お前らルフィをクッションに考えてないか?なんか、私が投げ飛ばされる先って決まってルフィなんだけど。ゴムだからか? 人の兄をなんだと思ってるんだ? ちなみに悪に仕立てあげてる事に関しては触れないで欲しい。ブーメランとか知らない。

 

「やー。でもびっくりしたな、アーロンがいるなんてさ」

 

 ルフィの言葉に同意する。

 私が獄卒獣の相手からサディ獄卒長の相手にすぐさま変えられたのはコアラが2人の手によって昏倒したからだ。

 

「早う立て2人とも。早めにここをぬけるぞ。陸上戦で魚人は役に立たん」

 

 ジンさんの言葉に頷いて階段へと急ぐ。後半は認められないけどな。陸上戦でもめちゃくちゃ強いじゃないか七武海。

 

「シャーッハッハッハ! ジンのアニキ! 出してくれてありがとな!」

「やかましい。わしは(イースト)で起こったこと許しちゃおらんからな、アーロン」

「麦わら、ボスは一体どうしたんだ」

「分かんねぇし知りたくもねぇや。で、お前は誰だ?」

「──バロックワークスのコードネームMr.1だ」

 

 魚人海賊団アーロン、そして壱と堂々と書かれた男がコアラを倒していたんだった。

 懸賞金からlevel4にいてもおかしくはないだろう。私はため息を吐いてジンさんを見た。

 

「出したのは素っ頓狂七武海共ですか」

「戦力になるとは思ったからの」

「まぁそうでしょうね」

 

 Mr.1も間違いなくクロさんが出しただろう。でなきゃ前方組に組み込まれない。

 

 そのクロさんはと言うと恩人さんと睨み合っていた。戦場を引っ掻き回すなだとか断片的に聞こえる叱咤の声。

 

 私は前方をみた。

 自然とシキと目が合う。

 

「すごく嫌な予感ぞするんですけど当てていいですか」

「……今だけは現実逃避しててもいいぜクレイジーちゃん」

「イワンコフさんの能力って確か」

「……それ以上は考えるな」

 

 OK! インペルダウン切り抜けるまでちょっと思考からポイするね! 戦場を引っ掻き回す何かとかどっかで聞いた事のあるフレーズだけど! 今は! 触れないで! 蹴り捨てますね!

 

 信じない、私は信じない。自己暗示ならとっても得意。

 

「まがおこわっ」

 

 マルコさんがとてつもなく失礼な言葉を投げ捨てたような気がした。

 

 ちなみに言うとシキもlevel4で自分の部下を脱獄させている模様。ここには居ないから解放組だと思うけど、パントマイムキャラ被り野郎とMr.ゴリラの2人組ね。

 これまでの私の捕縛履歴が無に帰す……。いや、無になるどころかマイナス一直線だ。泣いた。

 

「──ここが地獄の大砦!」

 

 大きな声が聞こえて来て、閉まっていた扉が堂々と開く。そこに立ち塞がるのはでっぷりとした腹で般若の面を被った様な顔立ち。手に薙刀を持ちブンブン振り回している。腰にある服にはインペルダウンの頭文字を組み合わせ切り取ったデザイン、つまりインペルダウンのマーク。

 

「何人たりとも! 通さんぞ!」

 

 ハンニャバル副署長だった。

 看守は薙刀〝血吸(けっすい)〟を持っていることに大興奮して喜びの歓声を上げている。

 

 シキ、マルコさん、ジンさん、ルフィ。そして新たに前方組に加わったアーロンとMr.1という厄介者相手に全く引かず勇んでいる。

 

 諦めない者はめちゃくちゃ面倒臭い。

 これは肉体的に骨を折るより心を折る方がしんどい人種だ絶対。

 

 

「か弱い庶民の明るい未来を守るため! 前代未聞の海賊〝麦わら〟! 署長に代わって極刑を言い渡す!」

「そこどけ!」

「やだねーーーーーッ!」

 

 ハンニャバル副署長の後ろに続くのはバズーカ隊。中の弾は恐らく能力者捕縛用の監獄弾。

 

 あれ、便利なんだよなぁ。私は海楼石の石を縄に結びつける位しか出来ないし。

 

 幸いな事に、バズーカ隊はマスクをしていない。

 月組から貰ったブレスレットを取り出して石をどれにするか選んだ。

 

 ……いや、私の運は頼れないな。

 

「ルフィこの中から好きなの選んで」

「んーーー。じゃあこれ!」

 

 選んだのは中でも一番濃い石。

 おおう、これなんの毒だろう。私じゃ絶対選ばない色だわ。

 

「リー、これ何するんだ?」

「投げる」

 

 グッ、と少し溜めてルフィの選んだ石を投げた。もちろん完全な生身じゃなくて不思議色を使って。

 箒や銃弾の速度になって石は階段の壁に当たった。

 

──ぼふんっ

 

「たーまやー」

 

 前に浮遊島で確認した通り石は強い衝撃で煙に変化した。

 毒々しい色の煙は見るからに吸い込んではならないものだ。結構早めに空気に溶けて消えていくだろうからさっさと吸って欲しいところだけど。

 

「何したクレイジーちゃん」

「元同期からの連名プレゼント……と聞きますたがこれがまた凄い加工の毒なのですよねー」

「一体どこのどいつだその同期、クレイジーちゃん殺すつもりで渡したんじゃねェか?」

「海軍本部元雑用現一等兵。残念無念、私に毒ぞ効かぬことをご存知の人たちなのですよね!」

 

 だからここぞとばかりに使っています。

 

「クレイジーちゃん毒物効かねぇのか」

「あ、はい。恐らく。流石に服毒したこと無い毒物なんて沢山あるですけど薬物科学者が私を毒殺出来ないと匙を投げる程度には耐性あるですよ」

「ダフトグリーンはどうだった?」

「周りのクリーチャーぞいなければ毒だと気付きませんでした」

「……まじでコイツ作戦クラッシャーだなオイ。最初に手足切り刻んで行動不能にさせとくべきだった」

「怖いことぞ言わないで!?」

 

 逞しい想像力が働いてしまって、バタバタと人が倒れていく音を聞きながらゾッとした。

 あ、なんかうめき声がいくつか聞こえる。ざっと1000人はいるだろうから下敷きになった人はたまったもんじゃないだろうけど。

 

「ううん」

 

 煙に近付き吸い込んでみる。

 喉の奥がピリピリと痺れる、生姜みたいな味。

 

「ルフィナイスチョイス! これ麻痺毒!」

 

 月組からプレゼントされたブレスレットの毒の効果がランダムなのが痛い。何故ランダムにした。効果は教えて欲しかった。

 

「リー避けろ!」

 

 煙の中から刃がブンと大振りに振り回された。

 

──ガィインッ

 

 咄嗟に暗器のナイフで受け止める、がもちろん小さなナイフだったのでナイフは割れるし勢いを殺し切れずに吹き飛ばされる。

 

「よ……っと」

 

 ルフィが私をつかんで引き寄せ、無事に終わった。

 うーん100点。

 こういう時カバー出来る実力のある系統がゴロッゴロいると安心するよね。インペルダウン脱獄できるかなとか不安に思っていたのは私です。お巡りさん、前方組の戦力がやばいです。

 

「……この毒で動けるか、副署長」

「か弱き人々にご安心いただくため! お前ら悪党は決して出さねぇ! ここは地獄の大砦、それが破れちゃこの世は恐怖のどん底じゃろがい! こんな毒程度に! やられてたまるか!」

 

 ビリビリと鼓膜が震える程の叫び声。

 辞めてください心が痛みます。一応現役海兵脱獄扇動してる立場の人間が血反吐を吐きそうな程良心が痛みます。

 

「ガッカリですよハンニャルバルルルさん」

「ルが異様に多い」

 

 私は腰に手を当てて鼻で笑った。

 

「正義だの悪だの面倒臭い。正義が悪事をしちゃなりませぬが、悪は正義をしてもいいのです」

「屁理屈な!」

「悪気がないは言い訳にならぬ。罪は罪。それを理解しない権力者の純心こそが、私にとっては許せなかった。まだ海賊の方が悪気がある分マシですよ」

 

 心は痛むけど私自己中心的なんで気にはしませんね!

 良心?言っちゃならないよその言葉は。

 

「どれだけ尽くしても! 利用され! 捨てられる! 血反吐が出るのですよこの世界のシステムは! クズがクズを生み出すことに何故気付かぬ! いっその事全て破壊したき願望で沢山ですぞ!」

 

 『センゴクさんに裏切られた私』ならこれくらい感情的になってもいいだろう。世界に絶望した時のセリフなんて考えなくてもボロボロ出てくる。

 

「正義? 悪? くっっだらない。その行動に名前はつかぬ! なぜだか分かりますか、ハンニャバさん」

「ルを減らしすぎ」

 

 吐き捨てるように私は言ってハンニャバルさんを睨んだ。

 彼は目を見開いて、私を『理解』した。

 

「昔、会っ……」

「──正しいから偉いのではなく、偉いから正し」

 

──ズドォン!

 

 

 

 闇の力を纏った"黒ひげ"がハンニャバルさんを沈めた様な音がした。

 

「……。」

 

 カッコつけるとすぐこれだよ。

 

 私は目を閉じてすぅ、と息を吸い込む。今の気持ちは晴れやかだ。ジリジリと焦がすような熱もダラダラ零れる汗も何も無い。清流に身を任せ美しい木々のあいだをゆったり流れている気分だ。木の影からチラチラと顔を覗かせる太陽は芸術的なまでに美しく、光が透けた木の葉は輝かしい。心が癒される。

 

「ティーチ貴様が何故ここに居るんじゃ!」

「っ、ティーチテメェ!」

「お前っ、黒ひ」

 

 

「──くたばれクソ野郎!」

「──食らうかド外道!」

 

 白ひげ海賊団関係者の憎悪に染る声を余所に私は思いっきりアイテムボックスから取り出した刀で殴り掛かった。棍棒や鉄パイプよりも殺傷能力の高い刀だ。

 

 チィイッ! 避けられた! 仕留め損なったか!

 

 大きな舌打ちをしてギロりと睨む。脱獄組のぽかんとした表情が目に入った。

 

「ぬぁ〜にぃ〜が! 『七武海はただの手段』、ぞ! 今ここにいること自体ぞ目的か! 七武海だろうと穏便には入れぬぞ無駄足野郎ッ!」

 

 『七武海になった場合の黒ひげ』のメリットが全然出てこない! このインペルダウン侵入という出来事はどう考えたってそれまでの過程を比較的穏便に済ますだけ、しかメリットがないでしょう! わざわざ、聖地に潜入してまで、七武海推薦する脳がわからない!

 正直他に七武海になるメリットがあるなら聞きたい!

 

 荒ぶる私は黒ひげに向かって刀をブンブン振り回したり投げつけたりしてた。

 

「この人能力者の実体を引き寄せるが可能なので皆さんお気をつけて!」

「人の能力バラしてんじゃねェ堕天使!」

「バラされたくない能力なれば人に説明するんじゃなきぞ黒ひげ!」

 

 グンと引き寄せられ胸ぐらを掴まれ文句を言われたので言い返す。下品な無精髭生やした頬を思いっきり引っ張った。

 

 説明したのはこの口だろ! 私に文句を言うな!

 

 仕返しなのか私も頬を引っ張られた。いーいーと敵対心MAXで言い争う。お前は世界で3番目に嫌いだ!

 1番がカク! 2番がニコ・ロビン! 殿堂入りで堕天使(ジジイ)!

 

「つーかなんで捕まってんだよテメェは!店を開拓しとけって言ったよな!」

「触れるな!」

「元帥と暴君と女狐にやられたんだってなーあー?」

「触 れ る な!元帥と女狐!くっっそ地雷です!」

 

「は?」

「えっ」

 

 クロさんとマルコさん、女狐だということを知っており、なおかつ新聞を見ていない人達が素っ頓狂な声を上げた。

 私はその驚きに対して苦々しい顔をする。

 

「てっきり海軍のスパイとか勘繰ってたんだがなぁ!ざまぁみろ!」

「むしろここにいるしてスパイな理由を探してる」

「……無いな」

「ですよね!!!!!」

 

 だんだんだんだんと踵が痛くなるほど強く地団駄を思いっきり踏んだ。私なんでこの状況でスパイ出来てるの?それとセンゴクさんの『女狐リィンを殺す』というぶっ飛び思考回路よ。アレ、私の着任って上からの指示じゃなかったかな。

 

 あの人元帥辞めるとか言わないよね。自暴自棄っていうか責任とかそういうのをぶん投げてハイになってるっぽい気がする。

 

「ッあーーーー!!思い出しても腹ぞ直立!あの狐!クソ、クッッソ!」

「手も足も出なかったみてぇだな!」

「なんっっっでご存知ぞクソ野郎!」

「新聞!」

「納得!」

 

「ちょ、ちょっと待てよい」

 

 言い争いをしているとマルコさんが間に入って手のひらを見せ、止まるように指示をしてきた。ただし片手は顔をおおっていて見るからに混乱してますといった表情。

 

「リィン、あんた、『女狐』に潰された、って」

 

 パクパクと口を動かし、声に出す言葉を選んだマルコさん。

 優しいなァ、海軍を辞めたポジションの私だけど、『女狐だった』という事実は覆らない。だから察されない様に、己の目的を誤魔化して聞いてくれている。

 

「言葉通りですぞ。シャボンディ諸島でコーティングぞ依頼。その後天竜人………いや、そんなのはただの建前ですね。麦わらの一味を潰す為に現れたセンゴクさんと女狐。くまさんの機転により直接捕らえられた私以外はルフィの様に生きるしたみたいですチャンチャン」

 

 私は物語を語るように手短に、そして淡々と感情を込めず経緯を説明すればマルコさんは口に手を当てて息を飲んだ。

 言いたいことは沢山あるだろうに。

 

「海賊の子は、どう足掻いても罪なんです。海軍にどれだけ貢献してようが、四皇の庇護下にあろうが」

 

 それは私の事でもあり、エースの事でもある。

 私は副船長冥王の、エースは船長海賊王の。似た者出生同士で育て親も同じ世代。ただ違うのは偽物の海賊か本物の海賊か。

 

 耐え切れなくなり、私はクシャりと前髪を握りしめて顔を伏せた。

 

 

 

 

「……あのセンゴクがァ?」

「いや、うむ、リィンが言うのであれば信じるほか無いが」

「ねェよな」

「ないのう」

 

 そこのすっとこどっこい七武海は口を縫い付けて声帯焼き切るべき。あとその会話前半に『信じられ』って入れてくれないと誤解を生む。下手したら前に『そんなこと絶対有り得』が入るから。

 

 ホントに私の天敵って七武海。死ね。

 見るからに信じてません信じられませんって顔をするな。

 

 

 だけど、とりあえずこれで真女狐=リィンにはならないだろう。七武海は不安だけどともかく海軍の情報を得づらい海賊相手にはマルコさん経由でばら撒かれる筈。特に所属の白ひげ海賊団とか。

 

「いや、うん、だから女狐って何」

 

 恩人さんが真顔で……いやこれは全く微塵たりとも飲み込めてない顔だな。ルフィが不思議うんちゃら~、って言う時と同じ顔をしてる。

 今ものすごく頭抱えたくてたまらない。

 

「お前……どんだけ阿呆なんだよ……」

 

 シキが呆れてものも言えなくなってしまった。はぁ、と深いため息が気苦労を文句の代わりに物語っている。

 対して恩人さんはアハハと苦笑いを浮かべて弁明し始めた。

 

「何度も説明されているんだけどどーにも飲み込めなくってさァ。記憶にないからってのもあるし、てっきりリィンが関係するもんだとばかり……。中身知らないの?」

 

 複数の視線を受けながら私は首を横に振る。ただひたすらに微妙な顔をせざるを得ない。

 リィンという人物は、女狐の中身は自分だと思い込んでいただけの利用された海賊の子だ。あと恩人さんやばい。女狐が私関連だとピッタリ当ててきた。

 

「アッ、そういや……俺は女狐に会ってるぜ」

「「「!!??」」」

 

 マルコさんのお前か、という視線を受けて首を思いっきり横に振りまくる。私じゃ無い、そう、めちゃくちゃ私じゃない。

 そういう演技はした。

 浮遊島でシキと話した女狐は私ではなく別の人物だ。真女狐の方。

 

「アレ口調的に多分男だ。知りたがってた情報から推測するに俺らの世代より下の生まれ、それと最近『目覚めた』って言ってたな」

「……え、目覚めた?それ、ほんとに?その女狐が言ったの?」

「おう、そうだが」

 

 恩人さんはそのまま顎に手を当てて考え込み始めた。

 

 え、なにその反応、めっちゃ怖いんだけど。

 真女狐の中身は設定って意味で全く未知ではあるけどもね、あるけども、中身私だよ一応。なんなら存在しないのよ、旧女狐を勘定に入れると。

 

 つまり、心当たりある方がおかしい。

 

 思わず恩人さんに対してスっと目を細めた。

 その不気味さ、アンバランスさ、異物臭、違和感、似合わなさ、この世界に馴染みない他のナニカ。

 

 ただ私の中での前例があった。

 

 その『世界の外側から』の前例が私自身だ。

 この人、もしかしたら転生者なんじゃないだろうか。それも、この世界に似合わない、前世の記憶を持った。

 

 私は確かに転生しているけど、その条件としてはほぼ周囲の魂と同じ。全ての魂はリサイクルされる。ただ私みたいに、なんらかのイレギュラーが起こるならあのクソジジイだと思うんだけど。

 

「…………あの、女狐談義もいいですけどそろそろ進みませぬ?」

 

 脱獄組が追い付いてきたということはlevel4はクリアしたという事になる。大丈夫、まだ時間はある。

 この監獄で何を求めているのか知らないし、ここで潰しておきたいけど、その余力は無い。

 

「あばよリィン」

「さようなれティーチさん」

 

 互いに進む方向は別。マルコさんは最後まで警戒していたが黒ひげは私の横を通り最深部の方へと向かおうとする。ただし、ふと顔を上げると踵を返し私に顔を近づけ呟いた。

 

「……まるでテメェが女狐だった。みたいなやり取りだな」

「それを今知れたとして…──意味が存在するのでしょうか」

 

 自嘲気味の遠回しの『イエス』に黒ひげが鼻で笑う。

 

「ねェな。強いて言うなら、俺の腑に落ちただけだ。エースの事についてなーんも知らない、ただの小娘だった事にな。偽物」

 

 黒ひげ海賊団で待っているぜ、という誘い文句を告げれば、黒ひげはそのまま背を向けて行った。ホントは殴り殺したいところだけど時間もないんだ。

 そのままマゼランと鉢合わせて潰しあってくれ。

 

「よォし。本当は蹴り殺したいところだけど、どうせ七武海の称号は剥奪されるんだし無視しよう!」

 

「む?」

「は?」

「え?」

 

 元王下七武海と私、つまり関係者が疑問詞を同時に上げた。

 

「「「黒ひげは七武海じゃ ないが/ねェよ/なきぞ」」」

 

 私もジンさんも七武海加入に承認してないから即答出来るしクロさんも予め私経由の警報で七武海の共通認識だから承認しないと察している。そもそも新聞読めばそんな言葉一言も無かっただろうに。

 

「──どういう事なのッッ!」

 

 恩人さんは舌を噛み切りそうな顔で叫んだ。うるさい。




リィンの動きや考え方、思考回路は黒ひげリスペクト(メタ的に)
牢獄の中の潰し合い宣言や正義悪の倫理観。

書き連ねているうちに1万文字超えてたんだが。どうしよう、頂上戦争自体2ページで終わりそうなのに…………バランスが…………。


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第221話 やつの名はチョロイン

 

 level3。

 激戦区level4から続く階段をかけ登る途中背後から異様なプレッシャーを感じた。それは多分全員が気付いた事だろう。

 

 マゼランが殿にたどり着いたということ。

 想定していた事ではあるけど、脱獄組は背後からの攻撃に弱い編成だ。むしろ前方組が過剰戦力すぎる。

 

 level3は解放組も手馴れて来た+突然解放のスピードが上がった。

 迫り来るマゼランという強敵に焦りを見せたのか鍵以外の手段を増やしたのだ。

 

 殿の後方組だったイナズマさんのハサミとMr.3と呼ばれる蝋の能力者の解放スピードアップ。もちろん殿に抜けられるのは困るので、Mr.3と共に同じく解放された元バロックワークス軍。Mr.4ペアやMr.1ペアという人達がクロさんの指示で後方組へと回された。

 

 

 ……それでも足りない。

 level2とlevel1の囚人を解放する為の時間が。

 マゼランを食い止める必要性があることを。

 

 

 恐らくlevel1には覚醒の能力者である獄卒獣やサディ獄卒長がリフトで移動してあるだろう。動物系覚醒者の回復能力はえげつないというかえぐい。

 

 level3である程度の戦力は獲られたからこのまま脱出してもいいけど……。

 

 

 うん?

 

 

「いやこのままlevel1.2無視すて脱獄する方が良きでは無いですか?」

 

 はっ、と口に出して呟いた。

 正直インペルダウンの看守程度ならシキの参加でオーバーキル。問題は役職持ちの職員だけど、名前知ってる人達に重傷者も居ないし余裕がある。無駄なリスク踏むより確実に軽傷で脱獄出来る方がメリットとしてはいいんじゃないかな。

 

 前方組が私に視線を寄せる。元々頭を使う役職の方々は一理あるな、と呟いた。

 

「だが、どうやって?」

 

 シキが首を傾げた時、私はこの人の思考回路に勝ったことを知ってドヤ顔になる。頭叩かれた。痛い。

 

「てれー、シャボンコーティング!」

「「あっ」」

 

 懐から取り出した珊瑚に魚人の2匹が同時に声を揃えた。

 存在は知っていても用途を理解できない大多数。ただし魚人達はまさか、といいたげな表情をした。

 

「リー、それなんだ?」

「魚人島の生活必需品の1つ。シャボンコーティングというのレイさんに頼むしたでしょう?」

「おう!」

「え、レイさんってレッ──モガッ! むーーんーーんー!」

 

 シキが唯一使える手で恩人さんの口を塞いだ。

 

 ……。

 私はルフィに向き直る。

 

「そのシャボンと同じ成分で、とにかく、海の中で何かをシャボンで包むが可能! まぁ浮力はニートですけどそれに関してルフィに説明しだすと日が暮れる」

 

 私はつまり、と言いながらlevel2に向かう為の階段前で壁を見た。

 

「全員シャボンに入るし、そこからシキと私で壁ぞ壊し海流を生む」

「インペルダウン沈まないか?」

「やだなぁ! ……出たら壁ぞ蝋で塗り固めるすれば良いのです」

 

 まぁここは気温が高いからすぐ溶けるだろうけどlevel2なら固まるだろう。蝋で作る理由だけど、すぐに出来るからなんだよね。更に『火で炙れば海に泳ぎ出てすぐ追えるが海水が流れ込んできて能力者に不利』。でも逃がすよりは良いだろうね。

 だけど、それを選べば海上戦が得意な魚人2匹に能力者でもない人間はすぐ落ちるだろう。戦線?いや、命が。迷うだろうなぁ。

 マゼラン署長は悩むだろうなぁ。自分は能力者だから海に出れないけど、己の部下を魚人数匹相手にさせるという無謀を指示しないといけなくなるんだから。でも壁を溶かさなければ追い付けないだろうね。

 

「それまさか親父の……」

「そうですマルコさん」

 

 予知夢であった白ひげさんの乗り込み方法。

 予知夢を知っているマルコさんがハッと思い出して私を見た。真顔で肯定する。互いに余計なことを言わない方が良いと思っているので記憶を掘り出しつつ可能性を吟味しているんだろう。

 

「ん! んーー!」

 

 カナん゛んッ。

 恩人さんが口を塞がれながらも何かしらを訴えて来た。

 

 シキが私にどうするか視線で聞いてくる。

 

 間違いなく……いやそうじゃなくて、えっと、確実に……じゃなくて──断定するな私。よし、恐らく、多分、キット。シキにとって私と恩人さんだったら恩人さんの方が付き合いが長いはず。今日出会ったばかりの態度じゃないんだから。

 そんな付き合いが長い相手に関して、シキが付き合いの浅い私にヘルプを向けてくるということは相当色々持て余す人なんだろうなぁ。

 

 

 主に戦場で自由にさせてはいけな……オット戦場限定じゃないない。うんうん。

 

 私は頷いて『いいよ!』と返事をした。

 

「ぶはっ、あー、えっとさ。海底進む方法はいいと思う。でもlevel2とかlevel1にも暴動が……ん? 起こってない……? あれ? ちょっと待って、ルフィ君どうやって下までたどり着いた?」

「頑張った!」

「おおう……そうか頑張ったか。そうじゃなくてボンちゃんとか……あれ3君も殿にいる!? そう言えばバギーも下にいた!? あれぇ!? ど、どうなってんの!?」

 

 そんな難しい事じゃ無いだろうに大混乱を極めている恩人さん。ルフィが単独で下までたどり着いたんなら鍵とか開ける技能無いし、そこまでおかしなこと起きてないよね?

 ボンちゃんが誰か分からないけど、バギーはアレでも億超えだしlevel6は妥当で。

 

「原ッ、予知と違いすぎる!」

 

──パァンッ!

 

 恩人さんの発言に対して被せ気味に大きな音。

 

「……お前それ耳痛まねぇ?」

「キーンてするぞり。正直鼓膜破損の思考する程痛い」

 

 読唇術でマルコさんの発言聞き取ったけど耳がキーンてする。さっきの音は私が耳を全力で塞いだ音だった。

 

「え? リィン?……一体どうしたの?」

「……余計な虫が飛ぶしていた」

「そ、そっか」

 

 恩人さんが首を傾げる。理由に関しては微妙に納得してないみたい。

 シキとマルコさんとクロさんが同時に哀れみの目を送ってくる。ごめん、ちょっと空気読んで黙っててね。

 

 まだ知りたくないし覚悟は出来てない。

 

「そもそも今シャバってどうなってんの?あたしが入ってからどんな感じになった?」

「俺に聞くんじゃねェよ……。俺だって20年は空の上だ」

 

 あっ、耳直ってきた。

 耳鳴りが小さくなって来た時恩人さんがルフィに質問を投げかける。

 

 もちろん階段上の看守はちぎっては投げちぎってはぶん投げしてるけど。

 

「ルフィ君海賊楽しい? なんか変わったことあった?」

「楽しい! すっげー敵がうじゃうじゃ居てよ! あっ、でも俺七武海嫌いだなー。特に鰐とミンゴはキライだ!」

「ミンゴォ!? なんで!? どっから出てきたドフラミンゴ!」

 

 後半の海で拠点を構えているドフィさんが前半の海で航海をしてるルフィとどう鉢合わせるのかっていう点が疑問なんだろう。あの人バッサバッサ空飛んで世界巡ってるからなァ。うんうん。

 

「変わったことなー。んー、ぜーんぶ変わってるからなぁ。リー、どう思う?」

「私の中でトンチキ出来事ナンバーワンはメリー号ですけど、理解出来ない存在としてはルフィの生命力ですね」

「分かる」

 

 粘り負けしたらしいクロさんがこれでもかと全力で頷いた。

 

「……別に変わったことは無いか」

 

 ボソッと恩人さんが呟く。残念ながら聞こえた。聞こえないふりするけども。

 

「メリー号ってあの羊船だろい?」

「そうそう、マルコさん達と革命軍が鉢合わせた船です」

「はい!? なんで!? どっから出てきた革命軍!」

 

 恩人さんが突然大声を出して仰天した。革命軍は結構世界中至る所に湧いて出てくるよ。あの組織は情報屋紛いなことしてるからね。

 

 ルフィは仰天してる恩人さんに興味は向けず思い返すように言葉を続けた。

 

「なんだっけ、フランキーとこのおっさんの人達に調べてもらって大丈夫だったんだけどさ、政府のあそこに助けに来てくれたメリーが壊れちゃってよぉ。あ、メリーがオキャクサマだったよいよい達とも話したいって言ってたぞ!」

「リィン、解読」

「ウォーターセブンで仲間のフランキーさんの兄貴分の部下であり、私の元同期であるカクさんに船の査定ぞ依頼。その結果大丈夫ですたが、エニエス・ロビーに乗り込む脱出という意味不明時、高波対策で繋ぐしていたメリー号が何故かその場に現れる。無茶が祟るし、破損。──そしてメリー号がマルコさん達にも会いたいと」

 

「全部だけど最後が1番よく分かんねェよい」

「そこは私も皆目検討も付かぬ故に不明です。あっ、メリー号懸賞金出ますたよ。シャバでどうぞご確認を」

 

 そもそも言語解読必要な不思議語使ってる私がルフィ語を解読するってなんだかとてもおかしな話なんだけども。まぁ大分慣れてきてるだろうしな、私の言い方の癖とかも。

 少しずつ少しずつ不思議語の癖を弱くしていってるのも要因の一つか。

 

「なんかもう全部がよく分からない。カクがリィンの元同期? えぇ? リィンはCP9だった?」

「は?」

「あっ」

 

 私が突然転がり込んできた情報を聞き返せばルフィが不味ったという顔をして私の耳を塞ぎにかかった。

 

「私、CP9なんかじゃないです」

「わー!!!! わーー! リー! これなんだろうなー!」

「壁ですね」

「すっげー! 壁って言うのかー!」

 

 誤魔化し方が雑の極み。

 

 これは、ほんとに。それすら恩人さんに知られてるのか、という驚きもあるが。それ以上に予想外のところで『カクがCP9である』という事実確認が取れた事への喜び。諦めかけてたこの事実。

 ほんと、なんでこんなところでゲット出来たんだか。

 

「あ、そう言えばリー! フェヒ爺大丈夫かな?」

「……いいでしょう今は乗ってあげるです。フェヒ爺なら大丈夫と思うですよ。コルボ山でじじと鉢合わせた時もなんだかんだ生き延びてますし」

 

「フェヒ爺ってまさかフェヒターッ! アイツあたしがどっっっれだけ探したと思ってんだ! 寄りにも撚っててトラジディー王国の同盟国かよ!」

「どらですーってフェヒ爺の国?」

「えっめっちゃ可愛くない? これホントにあたしとレイリーの娘……?」

 

──パァンッ!

 

「下手に首突っ込んでる変えるの怖かったからインペルダウンに入ったけどこの変わりようってインペルダウン入り損……? 絶対1人のイレギュラーで起こる範囲じゃ…──んーーーっ! むー!」

「……お前、クレイジーちゃんの耳が死ぬ前に黙ってた方がいいと思うぜ」

 

 耳が、痛いです。

 

 シキがこれ以上引っ掻き回されてたまるかと言わんばかりに全力で口を塞ぎにかかった。片手しか自由が効かない右手を躊躇うことなく恩人さんの言動を封じ込める事に使う辺りその本気度が分かる。うっわー、シキ世代ほんと全体的にしんどいわー。

 

 そんな同情を寄せながらlevel2に到達する寸前、私は足を止めた。

 

 スーハー、と息を吸って吐いて呼吸を整える。本当はしたくないけど、逃げ出したいけど。階下を見た。

 

「マゼランは私が止めます」

 

 私はそれだけ言うと前方組に指示を出し始めた。

 

 ルフィはそのまま真っ直ぐに。マルコさんは解放組(特に実力者や能力者)を優先的に誘導。クロさんは敵を蹴散らす係。恩人さんはもう黙ってシキに着いてろ。

 

「あたしの扱いが酷い気がする」

「妥当だろ」

「妥当だろい」

「それでシキさん」

 

 シキは私を見下ろした。

 

「インペルダウンの扉2つ、アレをクロさんと協力すて外して小船型に抉りとって2つ船の様な物を作るしておいてください」

「飛ばすのか」

「はい、ひとつはシキさん。もうひとつは私が分担するですけど、合流するまでは1人で」

 

 時計を確認する。

 現在時刻は11時。エース処刑まで4時間だ。若干余裕があるからこそキツイというか、スピード勝負に出られないというか。

 

 

「──1時間です。頑張って封じ込めるです。ですから、それまでに脱獄を完了しておいて下さい」

「かなりのスピードだな」

「蝋の能力者の能力はlevel2から熱の関係でもちます。なので脱獄スピードも上がるですが、それ以上にlevel2からは見捨てるしてもらって構うません」

 

 今まで1フロアで大体1時間使ってきた。だからあと2フロアを1時間で脱獄というのは完全に厳しいだろう。

 

「それと」

 

 どこの顔も見ずに私は頭を下げた。

 

「……お願いします」

 

 ルフィのことを。そして恩人さん、の事も。

 

「──任せな下位互換ちゃん」

「よろしく、上位互換さん」

 

 

 私はシキが初めてかっこよく見えた。シキ世代、やっぱり純粋に怖いわ。

 

 

 ==========

 

 

 

「わがままガール! ヴァナータ何故後方組に!?」

 

 イワンコフさんの声に私は後方を睨みながら階段を降りきった。

 ここまでマルコさんの背に乗ったりだとかして体力温存して来たんだ。飴玉を口に放り投げて糖分を補給しながら後方組に目を向ける。

 

「シキが脱獄準備ぞしています。恐らく直接乗り込む船は無いです」

「どういうことなの!?」

「バロックワークス、殿ご苦労です。──上でボスがお待ちですよ。チェンジ」

 

 前方組に比べて戦力の乏しい後方組は怪我も多い。マゼラン署長の攻撃を耐えていただけある消耗具合。

 Mr.1とMr.4ペアが私の言葉に目を見開いた。

 

「そもそも貴女何者?」

「……?」

「いや、麦わらの一味……。特に『堕天使』の登場からボスが着目してたのよ。だからオフィサーエージェントにも情報共有されてたわ。決して悟られない様にって司令だったけど」

「そりゃ新米賞金首の私に目をつける輩が居るなれば確実に私は七武海と結ぶますたからね。あなた達がボスの正体ぞ知らずとも」

 

 ミス・ダブルフィンガーだったかな。確か。

 彼女の質問に答え、私は屈伸を繰り返し運動の準備をする。

 

「Mr.1、貴方はこの階段落とせますよね。私取り残すして崩してください」

「そうなるとあんたの足が無くなるが」

「……私はシキ直々に下位互換の称号ぞ得ますた。シキはフワフワの実、大体察すて下さい」

 

 毒の竜が角から顔を出した。

 禍々しい毒の色。これ、いけるかなぁ。私の毒耐性がマゼラン署長の毒に勝てるのかちょっと不安になってきた。前言撤回したい。

 

 うん、でも、他のメンツ考えても1番マシな渡り合い出来るのって私くらいしか居ないんだよね。

 

「さっさと行くして、どこまで持つか分かりませぬ」

「けどガール、ヴァナタ勝算は!?」

 

「68%」

 

「……やけに微妙な辺りがリアルじゃナッシブル」

 

 私1人に任せるのが不安なんだろう。まぁそりゃそうだ。

 

「勘違いしてませぬ? 先程の数字は『勝算』です。時間稼ぎや引き分けですたら──100%ですよ」

 

 私は真剣な表情をして告げた。

 そこまで言えば私の覚悟がわかったのか後方組も私を置いて階段を駆け上がる。Mr.1が階段を破壊しながら……誰も階段で登れないように。

 

 

 

「時間稼ぎのつもりか? 元海軍雑用、堕天使リィン」

「無理です」

 

 即答した。

 

「………………は?」

 

 聞き返された。

 

「時間稼ぎが1時間可能である確率って一体何%だと思うです?」

「俺はお前の実力を知らない。だが確実に100ではない事は確かだ」

「そうです。大体体力のない子供が格上相手に1時間も渡り合うとか無理だと思いませぬ?」

「いや、うん、まぁ確かにそうだな。自分で言うか」

 

 ただひとつその可能性の算術に組み込まなければならない『設定』がある。私は壁を指さして空中を掴むと、引っ張る動きをする。紐を引っ掛けて引き剥がすようなイメージを元に、壁は破壊された。

 

 凪の帯(カームベルト)の海水が流れ込んでくる。

 

 

「──私は今、最強なんですよね」

 

 海軍に裏切られた『堕天使リィン』は海軍への影響やら何やらを心配しなくていいということ。むしろ政府側を困らせても責任が『堕天使リィン』だけに向かうこと。そして堕天使リィンは海賊だ。責任なんてあってなきが如し!

 

「イカれてる……! 能力者がわざわざ海水を呼び寄せるか……!」

 

 今まで女狐だった私は正義側に気を遣わなければならなかった。ただ、今はもういい。なるべく大々的に動きたくはないけど監獄は物理的にも水面下での騒ぎで閉鎖的空間の出来事。躊躇う理由が見当たらない。

 

 

 例えばどこかで『堕天使リィンは女狐の仮の姿だ』という情報が漏れ、センゴクさんに文句が行くとしよう。

 その時センゴクさんはこう言い訳が取れるのだ。

 

『あァそうだ。ただしここだけの話だが、アレは女狐の調節のために使っていた影武者で海軍が切り捨てた冥王の子だ』

 

 と。

 

 更に言うならもしも『それでも海軍の所属だった女狐だったということに違いはないうんぬんかんぬん』と文句を言われたとしよう。

 多分センゴクさんならすっとぼけた顔をして。

 

『いや、普通に考えて幼子を大それた地位に着かせるわけが無いだろ? 本人は子供ということもあり教育次第でそういうものだと認識させることに成功させたが、どう考えても周囲への言外手段だろ(意訳:女狐が偽物だと言うように伝えたつもりだがまさか子供の大将を信じるほど馬鹿だったのか?)』

 

 と。

 

 ……いや有り得そうで怖いわ。

 大丈夫? 私騙されてない? あっ、騙し討ちでインペルダウン行きになったのは私でした。

 

 だって普通に考えて有り得ない可能性(子供大将)が現実なんだよ? ほんとに現実か疑いたくなるけど。

 

「1時間の時間稼ぎ可能の確率は精々20%。そこまで私の体力ぞ持ちません」

 

 流れ込んでくる海水に足が浸る。生憎、海水の水圧で流されるほどやわな鍛え方はしてないので普通に立っていられます。

 うん、能力者でもないので力も抜けない。

 

 海水は地下へと突き進む。インペルダウン全体を海水で浸らせる事は流石に無理だ。そこまでの時間は無い。

 そもそもlevel3でさえこんなに暑いのに、もっと熱いlevel4で海水が蒸発してしまうかもしれない。

 水分は空気中に移動するから無くなることは無いんだけど。

 

 ……このまま流れて黒ひげが溺れてくれないかな。

 

「そこまで確率が低いのに何故無謀にも残った」

「だって勝率が80%以上あるから」

 

 あっけらかんと言い放てばマゼランは顔から毒を垂らしながらも目を丸くした。

 

「今、軍艦は周囲に無いんでしょう?」

「……。」

「素直ですねぇ。無言は肯定ですよ」

「……あァ、1隻もない。だがそちらにはシキが居る」

「ええそうです。シキと──私がいる」

 

 私はパンと手を叩いてモーションを植え付け、アイテムボックスから棍棒を取り出した。

 

「聞かせてくださいインペルダウン」

「……死にゆく貴様に何を教える」

 

 マゼラン署長は海軍本部で言うセンゴク元帥と同じ立場。そう考えるとこうやって1対1で睨み合いをしてる私は成長してると思うけど、胃が痛くなるかならないかで言えば別口。

 

 頼むぞセンゴクさん。もしも責任が海軍に行ったらごめんだけどその時は潔く『元女狐堕天使リィン』を切り捨てて『真女狐』は守ってね。

 ……私が本当に裏切られてなかったら、だけど。

 

「私は昔、歴史なんて興味なかった」

 

 毒の竜が私目掛けて噛み付いてくる。何とか避けきったり、棍棒に風を纏わせ毒自体を弾き飛ばしたりして回避をした。

 

「本当に、微塵も興味なかった。けど、今は知らなきゃならない。私の生まれた、この世界は、おかしすぎる」

 

 足元の海水を操り水球をマゼラン署長に向ける。彼は毒をだし盾がわりにボンボンと破裂する海水を避けていた。

 

「どうして──世界は私を助けてくれないんですか!」

 

 毒の竜をコピーするように海水の竜が作り出された。私は同じ姿形でも能力により生成された物なら海水というアドバンテージがあれば押し勝てると知っている。

 

「私は世界を助けてきた!」

 

 私の竜は資材が枯渇することない。

 対してマゼラン署長は体から生成される毒物だ。

 

 私は怒りを糧に思いっきり竜をぶつけている。それでも致命傷を与えられないのは、攻撃が入らないのは、経験の差だ。

 

「指令なら! どんなこともしてきた!」

 

 埒が明かない。

 私は海水を槍のように細長く保つとそれを鞭のようにしならせて羽飾りの近くを狙う。

 

「世界の為に! 正義を掲げる彼らの為に! ッ、良かれと思って、思っていたのに……」

 

 そこまで言うと私は言葉が紡げなくなった。

 パクパクと口を開いて何を言うべきなのか分からず途方に暮れる。だから言葉の代わりに心に生まれる復讐心を、怒りを、全て。

 

 ──世界の為に一体お前が何をした昆虫食い!

 

 あ、すっげーイラッとする。

 一体何をした? 昆虫食い?

 

「……私だって頑張ってきた。ここまでやってきた」

 

 棍棒を手にし、刺突の構えを取ると私は海水の力を一切使わず駆け足になった。心からの恨みを。

 ──世界を恨め。

 

「私はッ! 何年も世界に、海軍に! 時を! 自由を捧げてきたのに!」

 

 自暴自棄になり、毒の中へ特攻する。

 意味のわからない自殺行為な動きにマゼランは見るからに体の動きを止めた。

 

 涙を流しながら毒の中へ。

 

 私の体を覆うような巨大な手が私の目前に迫っていた。

 ……届かなかった。

 

「どうして、私を……世界が助けてくれないのですか……」

 

 度々口から溢れ出る疑問。それが唯一の謎。世界の、狂った愛おしい世界への疑問だ。

 中枢にいる彼らなら、この男なら答えを見つけてくれやしないだろうか。

 

 がしりと毒の手で体を掴まれた。

 私の()()()()()()()棍棒はあともう少しのところで届かず、手に力を入れる気力もない私は棍棒を手放してしまった。

 カラン、と棍棒が落ちる音。

 

 じゅわっと肌に毒が染み込む。

 

「……聞かせてくれ。貴様は、何故海軍から海賊へと身を転じた」

「転じてなど……なかったのです……そんなことないはずです……なかったはずなのに……!」

「…………スパイだった、というのか」

「そうですよ! ッ、正しいことぞしてきた! 情報流し、足ぞ引っ張り、内部崩壊、ニコ・ロビンの捕縛協力。なんだってした!」

 

 ボロボロと私の目から大粒の涙が溢れ出てくる。

 私を掴む手の力が段々緩んで来た。

 

 何を信じたらいい。何を演じればいい。私は誰に騙されていて、誰を騙していて。

 もうわからない。わからない中でわかるただ1つ。

 

「それ以前だってッ、海軍の裏切り者や海賊。どんな相手だってセンゴクさんが望むなら牙を向いた。噛み付いてきた」

 

 恨みを、妬みを、怨みを。

 センゴクさんに切り捨てられた、その虚しさを。

 

「良い事だと思っていたのに、それが悪かったとでも言うんですか?」

「……ッ」

「私が冥王の子だから? 会ったことも無い父親よりセンゴクさんを父と慕って来たのに? 良かれと思ってしてきた事は、私の存在の罪で帳消しなのですか? これだけ、10年も、全てを捧げてきたのに?」

 

 私は疑問をただひたすらに投げかける。壊れてしまいそうなほど、喉が痛む程。叫んで叫んで、裏切られた私はこの世の理不尽さに心からの悲鳴を上げ続けた。

 

「その、血筋だったのか」

 

 ボソリとマゼラン署長が呟いた言葉に私はカッとなって怒り狂う。

 

「致し方なしとでも言いたいんですか! 私は何も罪を犯してなかった! エースとは違う! 海賊になったつもりなんて、ッこれっぽっちもなかっ…──あァ……そうか……」

 

 気付いてしまった。気付いてしまった。

 私はついに脱力して絶望を目に宿した。

 

「──そっかァ。本当は私を体良く片付けたかったんだぁ。毒薬実験だって、耐え切ったのに。それも私を殺したかったんだ」

 

 嗚咽すら漏らさずただ涙を流していたら、マゼラン署長は毒の体で私を抱き締めてくれた。辛かっただろうと何度も呟きながら。

 

 真実に、残酷なシナリオに気付いてしまった私を。強く。

 

 

 

 

 ……チョッッッッロ。

 

 え、いや、ちょろすぎてびっくりだ。

 『海軍に裏切られた子供』に同情を寄せてくれてありがとう。

 

 海軍から切れたりしたら『リィン』は完全にこちら側に寄りますね。いろーんな組織でどっちつかずの地位に立ってどこかの仮面が捨てられたら他の仮面で『私自身』を守れるようにしておく。それは昔っからの目的だ。

 居場所、大事。そこに関してはブレないぞ。潰しが効く私流石。

 

 

 もしも本当に、万が一。真女狐の役目が私じゃなくて、私自身が海軍から排除されたら。旧女狐のリィンをインペルダウン所属にさせる。転がり込む。

 

 だって、拷問とかめっちゃ楽しそうやってみたい……。生かさず殺さず地獄行き。絶対楽しい。

 あとそういう設定を大々的に掲げながら海軍からの命令でインペルダウンに潜り込むこともこれで簡単になったわけだ。本当は政府にスパイしにこんにちはしたいけどね

 

 

「良かったらだが、俺の側近に。いや、養子にならないか」

 

 チョッッッッロ(2回目)

 

「へ? あれ? 殺す、殺すされてなき……?」

「ここまで生き長らえているということは俺の毒に完全に対処出来ている事だ」

「……毒は、政府の毒薬実験で耐性が」

「だから傍において置きたい。俺の傍に居ても死ぬ事が無い。これ程、俺の求めていた人材は居ない……!」

 

 この人、多分幼い頃から能力者だったんだろうな。

 自分の毒を制御出来ずに何かを殺したのかもしれないし、きっと孤独だったんだろう。

 

 私の毒耐性はあまりにも都合が良すぎる。

 

「私の毒薬投与は、貴方の傍に居られる様にって、神様が仕組んだのかも」

 

 神様絶対そんなこと考えてないだろうけど。

 そんな心優しい神様だったらもうちょっと人生イージーモードにしてくれてもいいと思う。

 

「なら!」

「……でも私、今は『正義』を信じられない」

 

 穴の空いた壁が水流と水圧でさらに範囲を広げた。

 ……まぁ私の不思議色で壁を更に壊しただけなんだけどもね。見せかけただけだ、ただの脱出口拡大だよ。

 

「父って何、親って何! ……まだ、海賊の親子盃の方が信頼出来る。私はとことん親に裏切られた。冥王は私を知らなかった、戦神は私を捨てた。センゴクさんは、センゴクさんは……」

 

 唇を噛み締めてマゼラン署長を見る。涙を溜めた瞳は視界を歪ませた。

 

「……私がここを出て、脱獄の手助けをして、海軍に牙を向いたとして。それで、貴方は、まだ私を養子にしたいだなんて言うのですか。世界の仕組みを、憎む、私を」

 

 マゼラン署長はそれを聞いて言葉を詰まらせた。脱出口へ。海水の元へ。私は歩を進める。

 

「私、もうどんな行動が間違ってるか分かりませぬ。言われるがままに口調を直して、それがセンゴクさんの言うことだから正しいって。偉い人こそ正しいのだ、と」

「……そうだな」

「意外ですぞ。そこで肯定されるだなんて」

 

 マゼラン署長は自嘲気味に鼻で笑った。

 

「この監獄では、俺が正義だ」

「……自覚済み、なのですね」

「あァそうだ。己が正義だ、と言うことはだ」

 

 私はその言葉の続きを予想して目を伏せる。

 袖の中に隠れた手でこっそり珊瑚を取り出した。シャボンを吐き出せる魚人島の物を。

 

「俺がキミを養子にすると言えば、最低この監獄内では正しいことになる。キミが外でどんなことをしようと、親が誰であろうと。俺が、法だ」

 

 とても嬉しい言葉だ。

 多分、私が何も知らない頃に出会っていたならこの人を親としていただろう。

 

 ただ、マゼラン署長とこうして対峙してみた感想としては。どうにも、二流という感じがする。

 人の上に立つ人物としてはそれなりに完成されているのかもしれないが、こう、なんて言うんだろう。まだルフィの方がカリスマ性があるしセンゴクさんの方が人をまとめる。言葉に色彩があるんだ。

 

 どうしても薄っぺらく見えてしまう。いや、周りが濃いだけなんだけど。

 

「誰も、一般常識なんて教えてくれなかった。知らないの、正しい事も悪い事も。私の倫理観でしかない。それすら、世界にとっては異端だろうけど」

 

 速攻でシャボンを生み出し中に入る。海水の流れを逆流させ、壁の外。凪の帯(カームベルト)へ。

 

 

 ==========

 

 

 

 不信感。

 

 不信感。不信感。

 

「はーー……はーー……」

 

 インペルダウンの壊した壁を氷と瓦礫で固め、精神安定の為に私の周囲も氷で覆った。凪の帯(カームベルト)の海王類は牙を向けない。周りを覆う氷は海水だから認識をずらす事が出来る。流石に毒を無力化出来たとしても殴られれば痛いから全力で避けていた為体力も消耗している。少し海の中で回復しなければならない。息が荒れる。でもそれは多分、精神的な意味で。

 

 不信感、不信感。

 

 

 ずっと気になってた。それは生まれた頃からずっと。

 彼女は私には出来ないことをしていた。私を庇い、自分はインペルダウンという監獄へ。

 

 お礼を言いたかった、会ってみたかった。

 

 でもそれは海に出る前の考えだ。

 海軍に入り、特に麦わらの一味に所属した段階から少しずつ認識が変わっていた。

 

 何よりそれを決定付けたのはクロッカスさんに聞いた時だ。

 

『うん、やっぱり変わんない。私この子を産んだらインペルダウンに行く。どーせどっちみち先は短いんだ』

『どうしてそうなる!?お前まで自首するつもりか!?』

『ううん、普通に捕まってみる』

『もっと意味がわからん!』

 

『それで、どうしてインペルダウンになんか入るつもりだ』

『ロジャーの子供を守る為』

 

『…………あたしが1番大っ嫌いな予知だよ。命を懸けてでも変えたい未来、()()()()()()だからじゃなくて、()()()()()()として』

 

 彼女の予知がなんなのか知らない。それがどんな原理で予知として働くのか知らない。どれほど細かく未来を見れて、どんな未来だったのかも分からない。

 

 でも、でもだよ。

 

 カナエさんの優先事項って、私じゃなくてエースな事は確かだよね。私を捨てて、ロジャーの子供のエースを守る為に、インペルダウンに入ったって。

 

 

 不信感。

 

 不信感。

 

 血の気が引いていくのがわかっていく。考える度に考える度に血の気が引く。

 

「わけが、分からないよセンゴクさん……」

 

 正直な話、シラヌイ・カナエに関してはどうでもいい。

 私の思考を占めている大半はセンゴクさんの事だった。センゴクさんへの思考を払拭する為に考えていたけど、やっぱり無駄だった。

 

 不信感。

 

 牢獄で考えていた事だった。休暇という名目でインペルダウンに入れられたのは私。海賊である、堕天使リィン。つまり旧女狐だ。

 

 私の疑問はこれに尽きる。

 真女狐に成る者は本当に私なのか……?

 

 だって、だって。

 ……だっておかしいじゃない! センゴクさんはどうやって海賊〝堕天使〟という名目で入れられた私をインペルダウンから取り出すつもりなの!?

 処刑はされないのかもしれない! でも、ルフィが来なければ脱獄なんて出来なかったよね!

 脱獄出来る出来ないの問題じゃない、センゴクさんが釈放させる気があるかないかの問題だった。だって、こんなの、まるで。建前が本音と同じような対応にしか見えないじゃん。出れないなら出れないでいいんだ。そう言ってくれれば望み通り飲んでた。でも、騙し討ちみたいだこんなの。

 

 海軍は私を殺した場合のメリットは少ない。ガチ勢、とまではいかないけどそれなりに伝手もあれば交流もあるし反発だってあるだろう。秘密裏でない限り。センゴクさんだって生かして外交カードに使いたい筈だ。特に世界貴族に最も近い王族、アラバスタとの繋がりは無視出来ない。

 敵対組織である革命軍との繋がりもある。そこだって無視出来ない。

 

 生かすメリットなんてこれまで作って作って、たくさん得た。だから殺されないと思っていた。

 

 でもなんで、監獄に入れる必要があったの。

 どうやって『海賊』を外に出すつもりだったの。

 

 たまたまルフィが脱獄騒ぎを起こしてくれたおかげで外部に不思議に思われることなく監獄を出られた。そんなのは時の運。

 これは流石に想定外だったよね。それすら想定してたのならお手上げだ。

 

 不信感。

 

 『それは女狐だから出してくれ』って言うの?それは旧女狐と真女狐という括りを作った今、インペルダウンに漏らすのはただの障害でしょう。

 

 ほんとに出してくれるつもりだったの?

 だって真女狐の事全然決まってないんだよ。誰に情報共有するとか全く未来のことが決まってないんだよ。それなのに、こんな、ちょっと先を想像するだけで詰むような。

 

 なんでこんなことをしたのか。

 もしかしたら本当に、シャボンディ諸島で言ったことが海賊に対する建前ではなく、私にそう見せ掛けた紛れもない本音だとしたら。

 

『そもそもだ剣帝。……リィンは冥王、ひいては戦神の娘だろう。海賊の血は、海賊王の一味の血は絶やさなければならない』

 

 その一連の流れ自体が『私を穏便に無力化させる』為の作戦だったとしたら。

 

『お勤めご苦労、女狐』

 

 だって私は、我ながらトリッキーな能力。

 騙して無力化させるのが1番。

 

 不信感。

 

 考えたくない。これ以上、裏切られたという確信を持ちたくない。どうしてという疑問だけで済ませておきたい。

 

 

「違う! 違う違う違う違う!」

 

 

 考えろ! 私よりセンゴクさんの方が賢いんだ! 1+1の答えは2しか知らないけど、ほんとはいくつもある! それを知ってるのがセンゴクさんだ!

 センゴクさんを信じてるなら考えろ! 考えない事自体が信じてない!

 

 センゴクさんは私より上手なんだから、私が思いつかなくても私を監獄から穏便に出す方法も策もある。絶対そうだ。

 思いつかなくて詰んでるように見えるのは私がまだまだ未熟だから! 視野が狭いだけだから! だからセンゴクさんには策が浮かんでるんだ! 一体どれほどの経験差があると思ってるんだ女狐リィン!

 

 

 …──引っ張られるな、『裏切られた私』の演技に引きずり込まれるな。そっちは私じゃない。センゴクさんを信じる私が、本来の私だ。何も信じない信じられない悲劇のヒロインは私じゃない。ただの演技だ。

 ソレが本当だと思い込むな。疑心暗鬼になるな。

 

「ゔ……ェッ」

 

 喉の奥がツンと痛み、途端に気道が狭くなる。込み上げてくる気持ち悪さ。生理的な涙がボロッと落ちた。

 

 

「別に、信じて裏切られた、とか。そういう経験はしてないですけどねェ……」

 

 心拍数を戻す為にとりあえず頭を空っぽにしてみる。海水の中というのは危険だが、私にとってはとても安心できる。海の氷に囲まれていたら海王類は気付かないんだから。

 

 トラウマはない。のに、心が拒否反応を起こしている。記憶をほじくり返しても何も心当たりがなかった。

 もうあると言ったら前世くらいだ。覚えてないけど。

 

 

 信じるって決めたんだ。私の存在自体を罪だと言う案に難色を示したセンゴクさんを。

 ……それが、彼の望む通りの展開を私が提案したのだとしたら。

 

 

 あァダメだなぁ。ほんとに信じきれてない。

 苦しい。

 センゴクさんに会いたい。会って、言葉を聞きたい。私だけで考えても泥沼化するんだから。

 

 

 まぁその前に戦争、その前にキャラが噎せる程濃い奴ら、だけど。病みそう。

 思考回路を止める。ただ考えるのは技で引き起こされるイメージだけだ。

 

「〝海流一本背負い〟……──」

 

 

 ────笑え。

 




誰かを混乱させてパニックにさせているシーンが1番筆のノリがいいんです。やっさんの大混乱極めてるシーンしかり、最後しかり。


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第222話 親の顔より見た災厄

 

 

「〝海流一本背負い〟!もどき!」

 

 普段なら羞恥心が勝って技名なんて叫ばないけど、人が居ない事をいいことに海の中で思いっきり叫んでイメージを固めると私のシャボンは海流に運ばれて空中へ乗りでた。

 

「あ、やべ……」

 

 ジンさんの技をオマージュ(パクリではないぞパクリでは)して海底からシャボンごと飛び出たはいいが、その海流の地点に扉が浮かんでた。

 

 しまった……。まだ脱獄には早いと思っていたから居ないと思っていたけど、もう全員脱獄完了してたんかいオーバーキル共め!

 

「──シキさんごめんコントロール手放す不可ー!!!」

 

 止めることも出来ず海水と私が脱獄組の足である即席船(大きな扉)に思いつき降り掛かった。

 

 シキは危うく能力を手放しかけた。

 

 

 ==========

 

 

 びしょ濡れになった即席浮遊船(扉)の上で海水をぶちまけた所業について謝り倒す。能力者が軒並み海水に浸って能力が使えなくなる中、気力で浮遊を保ったシキには盛大な感謝を。

 

 無茶苦茶な方法で乗り込んだことに一通りのお叱りを受けた私は内心お前が言うな存在自体が無茶苦茶な能力者、と恨みを込めたがおくびにも出さず困り笑いをした。七武海にはバレた。解せぬ。

 

「リィンのバッキャロー!お前のかーちゃんでーべーそー!」

「……(イラッ)」

 

 私の方向じゃなくて空に向かって叫ぶ恩人さんは全力でスルー。ビークールビークール。こんなのに感情掻き乱されるのは癪だ。相手してたら精神的なスタミナが減っていく。

 

「……お前、風の能力者じゃなかったのかよい」

 

 若干怒りながらマルコさんが口を開いた。

 

「あー、それが。元々風だったのは確かですけど、結構最近何故か覚醒したのか目覚めたのか分かりませぬが……どういうことなのでしょうね?」

「心当たりはねェのかよい」

「…………海軍を辞める前」

 

 潜入前です、と伝える。それがセンゴクさんが私を切り捨てる事になった原因かもしれないという漠然とした不安を抱えて。

 

 ──という演技をしながら。

 

 対私嘘発見器の七武海相手に嘘を吐くのは自殺行為だけど、完全に嘘じゃないからセーフ。

 そもそも私アラバスタ以降めちゃくちゃ経験積んだので嘘や演技得意です。

 

 演じたい自分を『それが本来の自分だったと()()()()』すると結構役に入り込める。……一瞬のめり込みすぎて自分を忘れるみたいだけど。ちょっと危ないな。危ないと自覚出来ている内が花か。

 

「しかし、即席とは言えこの浮遊船しっかりすてますね。1つ受け持ちましょうか?」

「いや、この程度1つだろうと2つだろうと手足動かすようなもんだ。……っと、テメェら!高度上げるぞ!」

 

 正義の門を前にしてシキが声を荒らげる。下から砲弾が飛び交うが一定以上の高度を保っていた浮遊船(概念)の2隻が正義の門より高く高く飛ぶ。

 

「びょえッ」

 

 私は咄嗟に箒の代わりに使っていたラグを手に持った。頼むぞ私の命綱。くそう、箒が無いの辛いな。

 

「ソッ、それで予想より速かったですけど、level2からはどのような脱獄を?」

「簡単な話だよい。2と1の囚人はガン無視して扉外してクロコダイルが扉を削って加工して全員乗り込んだ。まぁ容量ギリギリだけどよい」

「あァ道理で……」

 

 主戦力や名前を知ってる人間、そしてlevel5.5に居た囚人は右の扉。その他のエリアで解放した囚人は左の扉。左の扉は結構キツキツだ。まだ右の方が余裕がある。

 扉はクロさんが削ったのか箱型になっている。とても船とは言えない構造だけど、空飛ぶから水に浮く浮かばないは問題ないんだよね。

 

「ん?そういえばリィン、箒はどうしたんじゃ?」

 

 ジンさんが私のラグを見て首を傾げた。私が箒を使うことを知ってる人たちも確かにという顔をしている。

 

「ちょっと、壊れますて」

「……ついに壊れたか」

「ほー、あれが壊れたのか」

 

 元七武海が何故か感心した声を上げた。

 あの箒普通のやつじゃなかったと確信した瞬間だ。触れないようにしとこう。

 

「んっ」

 

 私は胡座をかいて座っていたルフィの膝(別名安全地帯)に乗ると顎に手を当てて考え始めた。

 

 さて、こっからどうするかな。

 どう考えても脱獄組の戦力が大き過ぎるんだよ。白ひげ海賊団と脱獄組が完全協力しないにしろ、敵は同じく海軍本部。でも脱獄組が居ないと白ひげ海賊団の勝利は危うい。白ひげ海賊団だけでは心もとないというのもあって脱獄組の戦力を全て捨てるのは勿体なさ過ぎる。だって肝心の白ひげさんは病に侵されてるもの。

 

 つまり脱獄組を削るべきなんだ。具体的にシキ世代。

 でも足が必要だから削れない。後、エースを助け出す事が大前提だから出来れば戦力削りたくないんだよ。戦力削って助けだせませんでした、なんて本末転倒もいい所。

 エースを処刑台から引きずり下ろして白ひげ海賊団と合流させるまではまだいい。肝心の撤退戦が危うい。ターゲット集中先がエースだろうから。

 

 誰かに相談できればいいんだけど、残念ながら『元女狐』になってしまった私は海軍の事情をマルコさんとかに相談出来ないんだよ……!センゴクさんにも相談出来ない……!あとごめんめっちゃ脱獄した……!

 

 とりあえず情報得るためにも私はアイテムボックスから電伝虫を取り出す。

 

「なにしてんだよい?」

「伝手から海軍の情報得られぬかな、と。それと白ひげ海賊団に繋ぎとるべきじゃ?」

「あァ、電伝虫無いから諦めてたけど助かるよい」

 

 白ひげ海賊団と脱獄組が手を組んだら海軍本部に勝ち目は無い。

 だけど、賭けるよ。

 多分彼なら私に連絡を入れるはずだから。この上空ならきっと電伝虫が繋がるはず。

 

──ぷるぷるぷる ぷるぷるぷる ぷるぷるぷる

 

「ピギャッ!」

 

 突然鳴き始めた電伝虫に思わず身を引く。

 

 よし。

 よぉし。

 かかってきたぁああ!

 

 ありがとう来ると思ってた!だって貴方も脱獄組の情報は得たいもんね!こんなクソみたいな頭脳労働者いる中で全てを誤魔化すのはかなりの高難易度だから完全受け身になってしまうけどね!

 

 ──センゴクさん!

 

 そう、このタイミングで私に掛けてくるのはセンゴクさんかドフィさんくらいしか居ない。テゾーロやシーナはそもそも私からしか掛けないし。

 なぜなら脱獄の情報を得ない状態の人間が囚人に電伝虫をかけるわけが無いもの。『電伝虫可能=脱獄済み=脱獄把握(インペルダウンより情報)』なんて限られるんだから。

 

「出ないの?」

「あ、やっさん」

 

 恩人さんが首を傾げながら近付く。私は思わずシキに助けを求めた。待って、『わたし』の設定的に多分いっぱいいっぱいなの。

 ここで電伝虫の相手を察せれた上で、パニック要因が近付いてきたことで、いっぱいいっぱい。分かるね。分かったら助けてくれ。乗り越えられるほど精神は安定してない『設定』だぞ。

 

 ……ん?

 待てよ。

 

 私はサッと顔から血の気が引いた。

 

「出ないならあたし出るよ〜!もしもーし、あられ!」

 

 これセンゴクさんにめちゃくちゃ怒られる奴じゃ──待って!!!待って!!!ちょっと驚きの過剰供給やめてください需要がねェんだよ!!!今このとんでもねぇ恩人さんなんて言った!?

 

 あられって言ったよね!!??

 潜入の合言葉の!

 なんっっっっっっで知ってんの!?

 

『…………は、』

「……!?……!……!?」

 

 はい1言目で分かりましたセンゴクさんですちょっと助けて。

 無差別に周囲の言語中枢を破壊する兵器なんじゃないのこの人。

 

 思わずルフィにしがみついた。

 ワタシ、アレ、ムリ。ニンゲン、コワイ。

 

「ごめんごめんただの戯れ。で、リィンの電伝虫にかけてきたのはどこのどいつかな?」

『誰だ貴様』

「こっちが聞いてんだけど」

 

 センゴクさんの警戒心バリバリの声。対して恩人さんは飄々としている。()()()()()()()()()()の持ち主が誰であるか、センゴクさんが気付くわけが無い。

 

「センゴクじゃねぇか。わざわざ掛けてきたのか」

『……あァロッ、クロコダイルか。お前も出てきたのか。よく出てきたな』

「オイリィン本気でシャバはどうなってやがる」

 

 いやごめんほんとごめん反省はしないし謝罪もしないけど。仕組んだ側としては嬉嬉として広げるけど。

 

「アッ、うっそセンゴク?やっほーマイフレンド!」

『貴様のような男等知ら…………待て、待て。おいクロコダイルそこにいるか。私の予想は合ってるな』

「非常に残念ながらな」

 

「元王下七武海と現海軍元帥が普通に会話すること自体おかしいと思わねェか」

 

 シキに完全同意。おかしいよね。存在から。

 

『インペルダウンより貴様らが脱獄したのは報告を受けている。船を奪うならまだしもまさか自作するとは思ってもみなかったがな』

「褒めんなよ」

 

 トゲトゲしい発言にシキが照れる。いや褒められてないよ。

 シキ世代がギャーギャー喚いている中、スススとバギーが近寄ってきた。

 

「リィン〜、麦わらぁ」

「肩身狭そう」

「窮屈そう」

「そういうとこだぞ派手馬鹿野郎ッ」

 

 私とルフィの感想に怒りながらもすがり付いていた。メンツ的に心中穏やかでは居られないだろうなぁ。お友達くらい探せよ。BWのMr.3とか丁度良さそうじゃん。

 

『ともかく、今回の大脱獄事件。主犯は海賊麦わらのルフィ。──そして』

 

 センゴクさんは電伝虫を通してそう告げると、溜め込んでいた息を盛大に吐きこぼした。

 

『──主犯格が多すぎて精査できん。誰だこの話をこんなに大きくしたのは』

「んな事言われたってなァ」

『最初は我々も〝千両道化のバギー〟や〝金獅子のシキ〟といった海賊。ついでに〝不死鳥マルコ〟やジンベエも頭に入れていたが』

「…………あたしが居た、って訳か」

 

『アァそうだ。予知の使い手。──戦神シラヌイ・カナエ』

 

 漏れ出た単語に私がビクリと肩を震わせる。

 恩人さん…──否、カナエさんは髪をぐしゃぐしゃ掻きむしって落ち着くように一息はいた。

 

「俺、その名前聞いたことある……」

 

 ルフィがボソリとつぶやくと聞き取れた私とバギーさんが視線を向ける。自然と目が合って、私は苦笑いを浮かべた。

 

「カモメのおっさんが言ってたよな」

「……うん、そうだね」

 

 シャボンディ諸島で私の親が冥王と戦神だということは情報としてばら撒かれた。

 

『おそらく主犯は麦わらのルフィに続きカナエだろうな』

「大正解!ぶっちゃけ監獄に入る前、海軍に通報した段階で計画してた」

『お前本当にふざけるなよ』

 

 本当に戦場引っ掻き回してるなこの人。

 比喩とか過大表現とかそんなんじゃなかったや。この人に予知を与えた神様を恨むんだけど。もしくは堕天使(クソジジイ)

 

「……センゴク。最後の話だ」

『いいだろう、聞こうか』

 

 思わず目を見開く。

 海賊の戯言だと一蹴するとばかり思ってたんだけど、意外にもカナエさんの言葉を聞く体制に入った。

 

 どういうことやねん、って気持ちを込めて歴代海賊に視線を向けるがシキだろうと七武海だろうと予想しなかった反応らしい。

 

「船長。ううん、ロジャーの息子を、助けて欲しい」

 

 センゴクさんは黙ってしまった。

 

 ただし周囲で聞いていた勢はザワりと騒がしくなる。海賊王の息子というワードに。

 

 何故かシキですら。

 

「んん?今から助けに行く目的ってドラゴンの息子なんじゃなかったブル??」

「は?あいつに息子?」

「海賊王に息子がいたのか!?」

 

 バギーがドン引きの表情を浮かべていた。

 

「いや、ポートガスでエースって言ったら普通船長の息子にならねェか……?」

 

 ならないとは思います。私もエースと話して色々情報集めなければならなかった。名前だけでは流石に無理。

 

 それとシキが驚いている事に驚いている。

 あの人エースが海賊王の息子だって知ってるよね。何故か会話が奇跡的に噛み合ったとか、まぁ流石にないだろう。私の親を当てるときエースの事話題に出したし。一体どこに驚いたんだろう。

 

「やっぱり無理かな」

『論外、だな』

「そっかぁ……」

 

 論じるまでもない願い事だ。

 

「じゃあ女狐君とやらに伝言お願いできるかな」

『……ほう、女狐の名がお前の口から出るとはな』

 

 そうだね。女狐の名前を使ってるの監獄に引きこもってたカナエさんの実の娘だもんね。分かる。ピンポイントで興味を持つかって感じだよね。理解ができないよこの存在。

 

 私センゴクさんの心境微妙に分かる。真女狐なんて全然決まってないから意味の分からないカナエさんの思考回路に『ほーうなるほどな(わからん)』って心境なんでしょ、どうせ。

 

「まぁね、あたしの予想が合ってたら、だけど」

 

 カナエさんはチラリと私を見た。心拍数が跳ね上がる。

 まさか、バレた?

 いや、でも、まともな思考回路をしていたら監獄に居た私と女狐はイコールにならないはず。

 

 だけどもし勘づかれていたら。心当たりがある言葉なら。

 この伝言は私宛になる。

 

 逆に…──

 

「『だから紅葉は嫌いだよ、後はよろしく』と」 

 

 心当たりが無ければ。

 

 女狐(わたし)が知らない女狐(だれか)が居る。

 

「あとそろそろセンゴクは観念して友達になって欲しいんだけど」

 

 

 ……。

 

 うん、後で考えよう。なんかもう全てに怯えるのが面倒くさくなってきた。

 

『クロコダイル』

「断る」

『ジンベエ』

「よく分からんがクロコダイルが言うなら面倒な事じゃろう。断る」

『そこの阿呆殴っとけ』

「誰が望んで関わるかよ」

「同意じゃな」

 

 クイクイとバギーに袖を引っ張られた。今度は何。

 

「あの2人って七武海の中で仲がいい間柄なのか?」

「七武海は多分皆仲良いと思うぞ俺は」

「特別仲良いって言うと別だと。恐らくですけど、クロさんはドフィさん。次点でミホさん。ジンさんはくまさん辺りじゃないですかね。次点で海賊女帝」

「えぇ……あの血の気の多いクロコダイルが誰かと仲良しこよしすんのか……?」

「何それ笑う」

 

 カナエさん中心に繰り広げられるどったんばったん大騒ぎを横目にバギーがボソボソと私とルフィに絡む。

 七武海全体的に仲良いから特別仲良しとかあんまりない気がするんだよ。あまり無い組み合わせ、とかってのはあるけど。ハー、ここに新たに入れられるであろう海賊と新生七武海結成の気が重すぎる。

 

「あーー、やばい、やばいわコレ。きっっつい。無理。死ぬ」

『お前、他に言い方無いのか。悲壮感が偉大なる航路(グランドライン)を家出して空島辺りで漂ったまま帰ってこないんだが』

「悲壮感は空島旅行中だからちょっとそれどころじゃない」

『右脳だけ寝落ちしてるのか貴様』

「もうこれが現実じゃないとまで考えてる。多分あたしの妄想」

 

 今度は私がグイグイとバギーの袖を引っ張った。

 

「あの海軍元帥と伝説の海賊って特別仲良き間柄?」

「……どうだろなぁ、俺はあの人がなんなのかもう分かんねェからなぁ」

「関係者諸君に問う。私は一体何見せられてんの?地獄?」

「現実」

「この世」

「惨いことを……」

 

 爆速で現実逃避をするなとパイ投げられてる気分。素直に同情寄せられる方が心にくるんでやめて貰えますか、シキ。

 

『とりあえずさっさと沈んでくれないか』

「やだねー!シキがいる限り沈まないし。手も出しにくいと思うよ、海軍さん。……──ところでさ、あんたに言いたいことはいくつかあるけど。ホントにいくつもあるんだけど。これだけは最優先で伝えとく。まぁ予想とは大分外れちゃったみたいなんだけどね」

 

 カナエさんは電伝虫に向かって言い放った。

 

「ありがとう」

 

 そう言い放った瞬間だ。

 カナエさんはふらりと体の力を抜いた。と言うより、抜けてしまったという方が正しい。ガラスが割れるように頭の中でバリンと音が鳴って、全ての感情が真っ白になる。

 

 後ろに向かって頭が倒れたな。あぁ、シキが支えようと手を伸ばしてるから。

 

「──姉貴!」

 

 耳元でバギーの声がクリアに聞こえ、パンッと風船が一気に割れるように鼓膜が元に戻る感覚。

 

 ッ、え、なんで、なんでカナエさんが倒れて。

 

「姉貴!姉貴!なァ、あんたなんで……!」

「……テメェ、ロジャーのとこの見習いか」

「バ、ギ……」

 

 駆け寄るバギーにシキが確認するように呟けば、カナエさんがバギーの頬に手を伸ばして……──何故か赤っ鼻をムギュっと潰した。

 

「あだだだだだ!」

「バギー……姉貴は可愛くないから姉さんって呼べって、あたし何度も言ったよねぇ……?あとどう考えてもあた、俺は男だろ」

「バッッキャヤロー!今更取り繕えるわきゃねーだろ阿呆!それに兄貴と呼ぶには男すぎて逆に姉貴しか無ィイ!?ッだだだだだ!ネッ、姐さん!」

「お前その腕力で瀕死か?????」

 

 支えたシキが呆れた表情でカナエさんを見ていた。

 

「瀕死も瀕死……。もーやだわー、不治の病とか、ほんと碌でもないわァ、クロッカス君の腕を今更ながら痛感ー、物理的に。だってさ……ゲホッ、ほぉら吐血」

 

 カナエさんは手で口元を抑え痰が絡んだ咳をした。なんということでしょう。手のひらには鮮血がドロリッチ。伝説の海賊の血だからリッチってか。はっはっはっ、やかましい。

 

 ちょっとさっき出た情報まとめると普通に海賊王と同じ不治の病にかかってる事が簡単に分かりすぎてもう私はどうしたらいい。

 

 電伝虫に視線を向けるが切られていた。ちくしょうセンゴクさんに逃げられた。革命軍が動くであろう現状整理報告しねーからな。記憶取り戻したサボがエース処刑の情報得て動かないわけないだろ。今のところ多分海軍側で私しか掴んでない確信に近い予想だぞ。

 

 私が本当に海軍側かはさておき!!!!

 

「イワちゃん戻して」

「ヴァナタッ、なんのために男の体にしてると……!」

「あたしが痛みに耐え切れるように、でしょ。もう無駄だよ。死ぬなら元の姿で死にたい」

 

 カナエさんの懇願にイワンコフさんはグッ、と息を詰まらせた後。爪を鋭くして彼女に突き刺す。ホルモンバランスの()()()

 カナエさんは、元の、女の姿に。

 

 私の記憶にある姿に。

 

「──リィン、おいで」

 

 名指しで私が呼ばれる。私は、弱々しくも見つめる真っ黒な瞳を見つめながら傍によった。

 

「騙してごめんね。あたしが、キミの母親な」

「──いやそれは普通に知ってますたけど」

「の、ぉおん!?えっ、今衝撃の新事実とかそういうのじゃなかった!?」

 

 私は思わずため息を吐いた。うん、知らない人は知らない事実で驚きまくってるから企みとしては成功してんじゃないかな?私には残念ながら微塵たりとも意味が無いんだけど。

 

「ヴァナタ……カナエの、娘……?」

「大体1桁前半で察すた」

「わぁ!?大分昔だね!?むしろ逆になんで!?」

「傍若無人な周囲に殺されぬ様に頭を活性化さるした私の幼少期の頭脳と純粋無垢さの弊害です」

 

 素直に知りたいとか思ってた時期の私に向かって時空飛び越えて飛び蹴りかましたい。やめろ、と。全力で。

 

 苦笑いを浮かべていたカナエさんだったが、段々口角が下がり、ついには顔を伏せてしまった。

 

「あたしは、キミに謝らないといけない」

「……それは、私を捨てたことに?」

「捨ててなんかないッ!」

 

 カナエさんは顔をバッと上げて叫んだ。

 苦しそうに。罪を吐露するように。

 

「あたしのは、もっと最低だ!キミの人生そのものを利用したんだ!本当は、キミの母親だって名乗ることすら烏滸がましい!」

 

 ゲボ、と口から血がこぼれる。

 そんなに限界なら喋らなければいいのに。

 このまま痛むことなく死ねばいいのに。

 

 なんで痛みを押してまで、元に戻って、私と話をするの。

 

「……少しだけでいい。もしかしたら残酷なことかもしれない。でも話させてくれないかな」

 

 流石の私も無言で渋顔を作った。

 でも、うん。頷くしかないよね。空気的に。正直知りたかったから。

 

「あたしはね、昔から『火拳のエース』が死ぬ世界を見てきた。その未来を知って、船の上にたって、船長の仲間になった時から。命を懸けて、私の持てる全てを持って変えようと心に誓った」

 

「変えられる場所にあたしは立っている。それを知った瞬間」

 

 

 そこまで話すと息苦しかったのかフゥー、と深い息を吐いていた。

 

「それが予知?」

「『予知』はそれだけじゃない。『麦わらのルフィ』が海に出てから、その全ての流れが。ところどころ記憶が危うい所もあるけど、観た当時は全て知ってた」

「…………」

「多分、キミも見たんじゃないかな。ある方法であたしがその記憶を送り込んだから。その時はもうあたしの記憶が断片的過ぎる上に、曖昧なフィルターを通してるから、キミがちゃんと覚えているかは知らないけど」

 

 心当たりが、ある。

 

「いくつか見たと思うです。でも、ハッキリ思い返した『予知夢』は、この後の戦争です」

「そっかー。そこは伝えれたんだ」

 

 私の言葉に驚く周囲。戦神の予知はそれなりに知られている事だ。

 私も引き継いでると思った面々もいるだろう。マルコさんだって予知夢の話をしたから遺伝だと思ってたハズ。私だってそう思ってた。

 

「あたしはキミがまだ1歳くらいの時。既に病に侵されてた。だからあたしはね、通報したんだよ。海軍に。あたしがいるぞ、って。そして来たのは、やっぱりガープのじっちゃんだった。あたしの予想は大正解ってわけ」

「なぜ、じじを」

「アァ、やっぱりね。ガープはキミを孫にすると思ったんだ。エースと同じように、ルフィと同じ様に。予知の世界のキーパーソン、三兄弟と同じ位置にたってもらうために。『麦わらのルフィ』や『火拳のエース』達が傍にいる環境下、否応がナシに彼らを守るために力をつけてくれるだろうと思って」

 

 言葉が上手く出てこない。

 息が詰まる。

 

 つまりなに、私は、エースを生かすためだけに産まれてきて、エースを守るためにじじに引き渡されたの……?

 

「予知の世界と今生きる世界。イレギュラーはあたしだけ。でもあたし1人じゃ、ロジャーの死は変えられなかった。未来は変わらなかった。戦場をひっくり返そうと、それこそ世界をひっくり返そうとしても。変わらないまま」

「…………」

「1人じゃ無理なら2人だ。あたしは身篭ったキミを『血を引き継がせたくない』って言い訳して、1番影響を受け、未来を変えやすいポジションに送り込んだんだよ」

 

 

 

 全部この人のせいだった。

 

 

 私があんなに苦労した、私の人生。

 全部。

 

 このシラヌイ・カナエという生物が。

 意図してじじに預けたから。私は3人に対して情を持ってしまって、海賊に巻き込まれて。怪我して、泣いて、苦しんで、辛くて、吐きそうになった世界を。最低なポジションで、望まない、平穏とは真逆の人生を送ることになった。

 

「……結局、イレギュラーなんてあたしだけじゃなかったみたいだけど」

 

 無駄な行為を。無駄な選択を。

 私は選んで。

 

「あたしの能力はランダムで吸収能力を付与する代わりにあたしの執着する記憶も引き継がれる。頂上戦争の記憶は霧がかったように思い出せない」

 

 カナエさんはボロりと涙をこぼした。ボロボロと蛇口が壊れたみたいにとめどなく流れていく。

 

「人任せにしてごめんねぇ……愛してあげられなくて……ごめんね……キミの人生を利用してごめんね……最低な親でごめんね……」

 

 震えながら懺悔する弱々しい『私の親』。

 

「私に謝罪しておきながら、それでも望むのはエースの生なのですか」

「……うん……あたしは『ロジャーの息子』を助けたいんだよ……それでも…」

 

 カッ、と目の奥が熱くなる。

 なんて勝手なことを!私が!カナエさんの言う予知の上での世界にいなかったとして!それで私が利用される!?冗談じゃない!

 

 イレギュラーも何も、ここが私の正史で、予知の世界が分史世界だ。

 貴女もこの正史に立っておきながら!なに勝手に世界の外側で自分の世界じゃありませんって言ってるんだ!

 

「ねえ……リィン……。キミは、この世界に生まれて、どうだった……?あたしに利用されてさ、自分の人生を、どう思ってる?」

 

 その質問に私は心の底から答えたくなかった。

 

「リー」

 

 ルフィが私の名前を呼ぶ。

 横目で確認すると、彼は真っ直ぐと私を見ていた。

 

 あァ、涙が止まらなくなってしまった。見るんじゃなかった。言いたくなかった。認めたくなかったのに。

 

「……ッ、幸せでした!」

 

 叫んだ私の言葉に虚をつかれたカナエさん。彼女は目を丸くしていて、私はなんだかそれすらも悔しくて。続けて叫んだ。

 

「色んな人に、会えました!災厄みたいな縁だけど、私は幸せです!」

 

 不思議な言語で偽ることなく言葉を向けた。

 

 きっと世界はこれからも絶望に染まるでしょう。

 幸せだなんて馬鹿な奴、と。過去の私が後ろで馬鹿にしたように笑った。もしかしたら未来の私も笑うかもしれない。

 

 でも困ったことに。狂ったこの世界でも愛おしいと思ってしまってたんだ。もう負けたねこりゃ。

 

 残念ながら今の私も笑ってる。

 

「そ、か。良かった……」

 

 満足だったのかカナエさんはすぅと涙を流した後、見惚れるくらい綺麗に笑った。そして段々、寿命の炎がビブルカードを燃やし尽くす様に目を閉じていく。

 

 思わず、その手を掴んだ。

 

 息が浅い。その動きが全て止まった時。

 カナエさんは死を迎える。

 

「ぉ……か……ぁさ……ッ!」

「──あれれ?おっかしいぞ?……まだ死ねないな」

 

 ………………は?

 

「我ながらしぶとい。あーあー、そうだルフィ君、リィン。とりあえず2人の疲労だけなら吸収出来ると思うからこっちおいでおいで。よーしよし、〝吸収(アブソリュート・)疲労(ラ・ファティーグ)〟」

 

 んんんん?体が一気に軽くなったが。

 

「あぁそれとリィン。レイリーに愛してるって伝言よろしくね」

「え、あ、はぁ」

「そーれーとー。バギー、アンタが1番会う可能性高いから言っとくけど女狐君1回ぶん殴っといて」

「なんでェえ!?」

 

 あ、これ起き上がれるかも。と言ったカナエさんがシキの手から離れて屈伸し始めた。ナニコレ。

 

「世界よーーーッ!あたしはこの世界に来れて幸せだぞーッ!ゲボフッ!」

 

 下に見える海に向かって叫んだと思えばギャグのような表情をしながら吐血した。

 

 ──バターッン……!

 

 これはカナエさんが凄い勢いで扉の床(概念)にダイナミックキスを決めた音。

 

 

 ……。

 

 

 …………。

 

 

 

「え?」

 

 シキが嫌そうな顔をしながらカナエさんに近付き、手首、首筋に手を当てて。

 

 ため息を吐いた。私に視線を向けて首を横に降ってる。そう、さながら、遺族に向けて残念ながらご臨終です、とでも言うように。

 

 

 

 

 ……。

 

 

 私は青く晴れ渡った空を見上げてすぅーーーーーーーーーーーー、と息を吸い込み。

 

「はっ、はぁあああぁあぁぁ!?ここまで来て色々タイミングある中でここで事切れる普通ッ!!!???」

 

 爆速で吐き出した。

 

 テンションの上昇と下降の速度が尋常じゃ無さすぎて心の中のグッピーが輪廻転生しても死に続けてる。ジェットコースターでもまだ助走あるよ?なにこれインペルダウンマジック?やべーじゃん1番怖いよやだよインペルダウン。

 

「なんつーか、最期まで姐さんって姐さん節炸裂してんだな……」

 

 この扉の船(概念)の中で1番シラヌイ・カナエを理解してしまうバギーが呆れたような、それでいてホッとしたような呟きを吐き出した。

 

 

「悲壮感が!!!!行方不明!!!!!!指名手配は!!!!!!??????」

「そろそろ月面調査中なんじゃねぇか?」

 

 慣れた様子のシキがケロリとした顔で上を指さした。

 私はその方向に向かって吠える。

 

 

 

 

「……なんでだ─────ッッ!!」

 

 

 拝啓 お母様。

 

 

 

 ──やっぱりこの世界って糞だと思います。

 

 

 

 

 お前が1番よくわからんわ阿呆!

 

 

 




残念ながらご臨終です。
私だけ時空歪んでるから今日は20日で2度目の3周年なんだ!!!!!!


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番外編16〜置き去りの者共〜

 

「ふざけんじゃねェぞ!」

 

 ぼったくりBARの壁が吹き飛ぶ音。店主であるシャクヤクは怒りを通り越して最早呆れ返り、ため息を吐いてカウンターに項垂れた。

 

「ッ、フェヒター。私は意見を変えないぞ」

「舐めた事抜かすのも大概にしろよ副船長さんよォ……」

 

 外に弾き出されたレイリーが破壊された壁の埃の中からフェヒターを睨みつける。額から血を流しながらの覇王色の覇気。フェヒターはそんなもん知ったこっちゃねぇと言わんばかりに睨みつけた。

 

 相手が覇王色の覇気を持っていなくとも力量差が無ければ影響力は少ない。フェヒターはロジャー海賊団でも上位に組み込まれるくらいには実力がある。

 

「我々の時代はもう終わりを迎えた。大海賊時代と同時にな」

 

 服についた埃を払いながらレイリーはフェヒターを見る。

 

「何度だって言う、戦争に関与すべきではない」

「っの、頑固野郎が…!」

 

 シャクヤクは何度目かのため息を吐いた。

 

 

 やはりというかなんというか、大型超新星(ルーキー)がここまで揃っていながら海軍が無反応なわけが無い。案の定追っ手は現れた。海軍元帥という規格外な存在だったことは予想外だったが。

 

 麦わらの一味が完全崩壊を迎えて早1週間。

 肝心の麦わらの一味は王下七武海のバーソロミュー・くまによると無事らしい。ただ1人を除いて。

 

 リィンだけは、どうやらインペルダウンに入れられた様。

 なぜ海軍本部という選択肢がないのか。それは男2人が喧嘩している原因にある。

 

「──エースは麦わらの息子だぞ!?」

「ロジャーの息子だろうがカナエの娘だろうが、2人とも海賊だ。我々はただの先人に過ぎない。干渉すべきでは無いだろう」

「小娘はテメェの娘だろう、がッ!」

 

 怒り心頭なフェヒターは握り拳を硬めレイリーの頬を思いっきり殴りつける。逃げも避けもしないレイリーは強烈な打撃にバキリと音を鳴らし、よろりと足がふらついた。倒れはしない。

 

「……随分な態度だな、フェヒター。いやディグティター・グラッタ」

「その名は俺じゃねェ」

「なかなか仲間だと認めず、カナエ達に押し切られて渋々ロジャー海賊団入りしたお前がここまで情に厚い熱血男になるとは思ってなかったよ、グラッタ」

「ッ、俺の名はカトラス・フェヒターだ!屑一族の名は既にねェ!俺にあるのはバカに付けられた自由を求めた武器の名だ!」

 

 キレやすい年頃のフェヒターはその名だけで冷静さを一気に失う。

 過去彼は王族だった。その名は親と共に殺した。

 

「大体俺はテメェのすかした顔が昔っからだいっっっ嫌いなんだよ」

「奇遇だな、私もお前の短気な所が昔から嫌いだよ」

「リィンが捕まったって言った時だってテメェの態度は気に食わなかった」

「『放っておけ』だったかな?」

 

 煽るようにレイリーは顔に笑みを浮かべて首を傾げた。

 フェヒターは額に青筋を浮かべる。

 

「実の親を殺した俺が言うのもちゃんちゃらおかしい話だがテメェの血の繋がった子だろうが」

「彼女は充分に大人だ。子供の見た目を利用出来る頭脳も持ち合わせている。どうにもならなければその時だ。それが彼女の海賊としての実力だろう?」

「アイツは海軍に裏切られてんだぞ!?インペルダウンに入れられてどうなるってんだ!もう小僧の処刑まで時間はねェんだよ!」

「もちろんキミの行動は止めさせてもらおう。私達が自ら動いては次の時代が育たない」

「育つまえに摘まれるのを黙って見逃せって言いてぇのか!」

「その通りだ」

 

 時代があろうが情のある子を見捨てることは出来ず戦争に介入したい剣帝と、古い時代の海賊は今の時代に干渉すべきでないと意見を動かさない冥王。

 現役時代からこの2人の意見はとことんまで衝突していた。方向性の指針が全く逆を向くのだ。

 

 その二人の仲を取り持っていた者達は、現在いない。

 

 シャクヤクは遠い目をしてまたもため息を吐き出した。

 

「薄情者だなテメェは」

「……冥王シルバーズ・レイリーは()()()()()()()()()と共に果てたのだ。私はただのジジイだよ」

 

 フェヒターはレイリーの襟首をガチりと掴んだ。

 

「──ゴール・D・ロジャーは生きてんだろ」

 

 北の冷たく濃い海の色をした瞳が、レイリーを見る。心がズキズキと氷柱で刺された気分だ。

 

「……そうだな、アイツは生きてる。だが海賊王と謳われた男は居ない」

 

 どんな言い訳をしてでも冥王として大海賊時代を生きるつもりは無いらしい。フェヒターはレイリーを説得する行為をついに諦めた。エース処刑の新聞がばらまかれて1週間、随分粘った方だ。

 だがフェヒターは自分の弟子にも近い男を見捨てるつもりは微塵も無かった。

 

 処刑まであと4時間と少し。

 戦争が始まるだろう。

 

 今シャボンディ諸島を出発するとマリンフォードにたどり着く頃には丁度いいタイミングだ。逆にこれ以上遅れれば手遅れになる可能性がある。

 

「火拳のエースは、ロジャーの息子じゃねェよ。俺の弟子候補だ。チッセェ時から面倒見てた、な」

 

 レイリーはグッと息を詰まらせた。

 ゆるゆると首を横に振り、ため息を1つ。

 

 

 ……こっちがため息つきたいわ、とシャクヤクが穴の空いた壁を見て死んだ目に変わった。

 

「お前は、名前を言わないが何か理由があるのか?」

「あ?」

「……ロジャーの息子はエースと呼べる。だがリィンの事は小娘のままだ。だが、ロジャー海賊団の面々の名前は呼ばない。そこになんの理由がある?」

 

 今度はフェヒターが押し黙る。

 真っ直ぐ見つめるレイリーの瞳に観念したフェヒターは渋々といった様子で口を開いた。

 

 先程と逆になった。

 仲がいいんだか悪いんだかよく分からない、とシャクヤクは遠い目をした。具体的に言うとインペルダウン方向に向けて。助けてリーちゃん、貴女のお父様達くそ面倒臭いわ、と。

 

「あの阿呆が言ってた」

「……カナエが?」

「『リィン』という名前は友人の名前と同じなんだと、アイツの子供の名付けが決まった時日の夜、そう漏らしてた」

「……初めて聞いたな」

「もう会えないそうだ」

「……となると、故郷の、か」

「俺はアイツの故郷なんざ知らん。麦わらとお前とアイツが何を隠してるのか、全く分からねぇ」

 

 

 隠し事。

 

 それはカナエの故郷に関係する。何かを隠しているという判断に至ったフェヒターにレイリーは顔に出さず心臓を跳ねさせた。

 

「アレだけ名前にこだわっていたのに他人に押し付けられた名付けをすんなりのんだ理由が分かったよ」

 

 カナエとロジャーはよく自分に子供がいたら付ける名前というのを語り合っていた。面白そうに笑いながらロジャーの話を聞き、逆に語り、そして偶にレイリーが話題に入り込む。それを仲間達が苦笑いで眺め、時々口をだす。

 

 

「つまり、だ。俺にとってリィンと名前を使う人物は小娘じゃねェ。それに──」

 

 フェヒターは死んだ目で呟いた。

 

「俺と小娘の名付け親が同じなんだからよ……小娘を名前で呼んでりゃ名付け親様はぜってー揶揄うだろ……」

 

 レイリーはそれが簡単に想像出来て苦笑いを浮かべる。そっちが本音か、と。有り得る。有り得てしまう。お前と仲間の子供が兄妹ぶーーん、といったニュアンスで遊ばれる確率しかない。

 

「ならそのロジャー海賊団はどうなんだ?」

 

 レイリーは腕を組む。

 楽しそうな表情を浮かべて。

 

「お前らどれが本名で偽名か分からねぇだろ。中にゃ自分の名前すら知らねェヤツもいるし覚えてないヤツもいる」

「私は間違いなく本名だが?」

「てめーなんざ盲目野郎で十分なんだよ、百歩譲って節穴野郎」

 

 こいつらなんの話してるんだろう。シャクヤクはため息を吐いた。さりげなく話題が逸らされていることにフェヒターは何故気付かないのだろうか。

 まあそこが副船長として船をまとめてきた手腕なのだが。

 

 その時レイリーの胸にザワつく嫌な予感がした。

 

「あ?反論はどうし」

「………………カナエ?」

 

 何故浮かんだのか。分からない。

 

「待ってくれ、嘘だと言ってくれ、まさか、まさか……!」

 

 青ざめるレイリーにフェヒターは思わず心配そうに表情を変えた。

 

「オイ…?」

「……すまない、動揺した。気のせい、だと思う。ただの勘だ」

「アイツになんかあったか?」

「気の所為だ、やめろ。この話はおしまいだ」

「……テメェがそういうなら触れねェけどよ」

 

 心臓がバクバクと激しく波打つのを気の所為だと無理やり思い込む。それでもリィンの様に自己暗示など上手くいくはずがなく、頭に嫌な未来が過ぎる。

 

「……なァ。お前さっき古物は新時代に自ら手ぇ出さないって主張だったよな」

「……ちっ、忘れていなかったか。そうだな」

「なら頼まれたら?」

 

 レイリーは訝しげに眉をひそめた。

 今度はフェヒターが楽しそうな表情を浮かべている。

 

「まぁ、それくらいなら干渉してもいいだろうな。海賊だろうが海兵だろうが、歳食った者が若い衆に継いでいくものだ」

「いいぜ、その言葉さえ聞けたら十分だ」

 

 外で喧騒が聞こえた。

 

「……何をしたフェヒター」

「何もしてねェよ。俺は」

 

 ただ、と言葉を繋げる。

 

「──ここにシルバーズ・レイリーは居るな!?」

「オイ!」

 

 二人の男がどかどかと入り込んできた。その後ろに何人か続いているようだが。一人の男に無理やり引き摺られて、といった様子が正しい。

 

「私だが」

「ちょうど良かった!頼みが……」

「おう、黙ってさっさと介入させろや」

 

 焦り気味だった乱入者にフェヒターが肩を組んで声をかける。副音声で待ってましたと着きそうだ。

 

 

「ッッッッッはーーー!?カトラス・フェヒター!?」

 

「な、副船長。これなら干渉していいんだろ?」

 

 レイリーは思わず目を見開いてため息を吐いた。

 今回は私の負けだ、と。




エイプリールフールってめっちゃ楽しいですよね。四月馬鹿四月馬鹿。


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頂上戦争編
第223話 想定外VS予想外


 

 海軍本部のある島、マリンフォードには主に海兵達の家族が住む大きな町がある。現在住民には避難勧告が出されており、避難先のシャボンディ諸島からモニターによって人々は公開処刑を見守っていた。

 

 それだけでは無い。

 各所より集まった記者やカメラマンもまた、ここから世界へ情報をいち早く伝えるために身構えていた。

 

 

 

 〝白ひげ〟の目撃情報──皆無。

 

 

 処刑の時まで3時間、マリンフォードに走る緊張は高まるばかりだった。

 世界各地より集められた名のある海兵達、総勢約10万人の精鋭がにじり寄る決戦の刻を待っている。

 

 

 

 三日月形の湾頭及び島全体を50隻の軍艦が取り囲み、湾岸には無数の大砲。

 港から見える海岸の最前列に構えるのは戦局の鍵を握るであろう5名の曲者。三大勢力のひとつ、〝王下七武海〟だ。

 そして広場の最後尾にそびえ立つ高い処刑台には事件の中心人物、〝白ひげ海賊団〟二番隊隊長ポートガス・D・エースが刻を待っている。

 その眼下で処刑台を堅く守るのは海軍本部〝最高戦力〟である大将3名。

 

 

 海軍本部元帥、〝仏〟のセンゴクが処刑台でエースの隣に立ち、拡散用の電伝虫を構えた。

 

 

『諸君らに話しておく事がある。ポートガス・D・エース……この男が今日ここで死ぬ事の大きな意味についてだ…──』

 

 どよどよと、ざわざわと。マリンフォードにピリリと緊張感、そして世界に動揺が走る。

 

『エース、お前の父親の名前を言ってみろ』

 

 何故こんな時にそんな質問をするのか。

 エースの白ひげを慕う叫びをセンゴクは一蹴する。

 

『当時我々は目を皿にして必死に探したのだ。ある島にあの男の子供がいるかもしれない。〝CP〟の僅かな情報を頼りに。生まれたての子供、生まれてくる子供。その母親達を全て隈無く調べたが見つからない』

 

 それもそのはず。

 ポートガス・D・エースの出生には母親の命を懸けた意地とも言えるトリックがあったのだ。

 

『女は実に20ヶ月の間、腹に子を宿した。──父親の死から1年と3ヶ月を経て、世界最大の悪の血を引いて生まれた。それがおまえだ』

 

 ──最悪な真実を。

 

『──お前の父親は!ゴールド・ロジャーだ!』

「……ッ!」

 

 ある人は羽根ペンをボトリと落とした。

 ある人は絶望で膝から崩れた。

 ある人は信じられないと叫んだ。

 

 それほどにまで、世界が驚き嘆く罪の血。

 

『今から6年前。我々()()が諦めず探した末に、ついにポートガス・D・ルージュの隠れ家を発見した。まだその時では確信に至らなかった』

 

『そして2年前、お前が母親の名を名乗りスペード海賊団の船長として卓越した力と速度でこの海を駆け上がっていった時。ようやく確信を得た、ロジャーの血がやはり絶えてなかったことに!』

 

 白ひげ海賊団に守られていた。

 迂闊に手を出せなくなった。

 そんなことを言いながらセンゴクはエースの反抗する言葉を叩き伏した。

 

『──お前を放置すれば必ず海賊次世代の頂点に立つ資質を発揮し始める。だからこそ今日ここでお前の首を取ることには大きな意味があるッ!』

 

 

 正義の門が開く。

 白ひげ海賊団の傘下の海賊船が続々と正義の門をくぐり姿を見せる。

 

 そこに白ひげ海賊団の船の姿はない。

 

 だがいる。それはもはや誰の頭にも確信している事だった。

 

 

『……──総員、砲撃用意!』

 

 

 センゴクの叫び声。

 海面が変わる。気泡がぶくぶくと溢れ出し、そして4隻が湾内に出現した。

 

『開始!』

 

 三日月形の湾内に現れた4隻に向けて、湾岸の大砲から砲弾が続々と飛んだ。

 

「親父!」

「むぅんッ!」

 

 白ひげが壁を叩くように空気を揺さぶると。バキバキと大気にヒビの入る音が聞こえた。砲弾が……跳ね返る。

 それと同時に海軍本部の左右に大きな海の山が作り上げられた。

 

「──なんで見捨ててくれなかったんだよォッ!俺の身勝手でこうなっちまったのに……!」

「俺は、行けと言ったはずだぜ。そうだろ、テメェら」

「おぉッ!」

「俺も聞いてたぜエース!」

「待ってろ!今助けるから!」

 

 雄叫びと共に地鳴りが。

 〝海震〟が〝津波に〟

 

 

 

 ──攻め入るは白ひげ率いる新世界47隻の海賊艦隊。

 ──迎え撃つは政府の二大戦力、海軍本部と七武海。

 

 

 誰が勝ち、誰が負けても時代が変わる。

 戦いの火蓋が切られた。

 

 

 ==========

 

 

 

 

「──ふむふむ、なるほど。胃が捩れそうな展開だね」

「それでどうだよい?」

 

 私は想定外の展開に胃をひきつらせ電伝虫に向き合った。

 

 左の扉(即席船)に乗る人々は私の集める情報にガヤガヤ注目を寄せる。まぁ、こんな船未満、電伝虫なんて備えられてるわけないもんね。私くらいしか外部と連絡取れる手段は無い。私はマリンフォードにいる月組のノーランさんに連絡を取りながら情報を入手していた。

 

 白ひげさん?ハハッ、繋がらなかったよ。

 

「え、っと。エースが海賊王の子だということが暴露されるし、それで開戦。状況報告、マリンフォード三日月形湾内に白ひげ海賊団4隻、島の周囲に軍艦約50。同じく傘下ほぼ同数」

「予知と同じように親父は動いたってわけかよい」

 

 概ねその通り。展開も予知通り。ただし想定外だったのは初動。

 初動は全体の指揮と展開を左右する。ほんの少しの傷だろうと大きな綻びに変えてしまう。

 

 センゴクさんが思った以上にやる。予知では初動を白ひげに許してしまったが、現実はセンゴクさんが制した。初っ端の砲撃が確実に海底から現れる白ひげにヘイトを向けていたということは奇策といかない、つまり対策が既に取れているということだ。湾内に入り込めた、ではなく、湾内に誘い込まれた。そうとっていいだろう。

 

「あ、津波発生」

「海震の影響か」

「……うん、なるほどね。青キジが海軍本部より巨大なる津波を氷結故に、側面は大きな氷。あ、湾内も?湾内氷結を確認」

 

 電伝虫と盗聴防止の電伝虫を両手に戦争の様子をどんどん伝えていく。

 

 右の扉(即席船)は戦争を目指していることを知って謀反を起こそうとしたのだが、そうは問屋が卸さない。シキが船を操っていることもあり、彼らでは航路を奪いされない。

 

 というわけでハンバーガーみたいに右の扉自体を、私が乗っている左の扉の下に押しやった。視界の邪魔。右の扉の囚人には戦場に投げたら勝手に暴れてもらうんでよろしく。戦争引っ掻き回す程度には出来るでしょ。

 

「あー、ところでわがままガール。ヴァナタ大丈夫?」

「ははは、もう何が何だか」

 

 イワンコフさんの言葉に死んだ目で答える。

 カナエさんの死後約10分経ってからの出来事だ。カナエさんの遺体は光の粒子になって悪魔の実に変わった。何を言ってるのか分からないが私も何を言ってるのか分からない。

 

 ただ、イワンコフさんはカナエさんの能力を説明されているらしいからそのわけのわからない現象を答えてくれた。

 

 チュウチュウの実の能力はメモリを持つ。使用する度に減っていくという話だ。回復はしない。

 カナエさんは延命のために常に若さと体力を吸収していた。それは大分メモリを食う吸収らしい。ルフィ自身はまだ気付いてないが処理のできない毒の吸収もしている。

 カナエさんの能力は吸収出来ても排出が出来ないんだ。それこそ例外は執着する記憶の譲渡とかいう私に渡された記憶。

 

 

 つまり私とルフィの疲労を吸収することで生命力とも言えるメモリに限界が現れたということだ。だから死んだのだろうと。ほっとけば自然と死んだのだろうから効率的な回復方法だった、とフォローは貰った。

 

 もうわけがわからないよ。

 

 とりあえず特異体質だったのか分からないけど肉体が吸収限界で光に変わった後、能力(実)だけが遺品として残ったわけだ。もちろん全員一致で私に渡された。

 厄介な能力として名を残しているから吸収人間の再来はお断りしたいけど、幸か不幸か実がその場にある。私は能力者(設定)だし食べれないから遺品として渡して保管して貰う方がいいもんね。

 

 ……レイさんに渡すに決まってるだろう。見るからに災厄招きそうな遺物なんて。

 

 

 ま、少なくとも悪魔の実がこの世に存在=能力者が死んだ=カナエさんの死。ってことだから、なんか蘇りそうだなって思ってた疑惑は杞憂に終わった。

 

 

『リィンちゃん、鷹の目が動いた。あー、〝ダイヤモンド〟・ジョズに止められたね』

「ふーん、やっぱり最初がミホさんか。鷹の目の攻撃、ダイヤモンド・ジョズが防御」

 

 ノーランさんがシャボンディ諸島で中継として流されるモニターを見ながら戦況報告してくれている。ほぼリアルタイムで情報を得られている分こちらとしてはタイミング的に助かる。

 うーん、シャボンディ諸島在中、便利だな。別に海列車系列街の在中部下っていうのも便利なんだけどね。人の流れはシャボンディ以上だし。

 

「……これマルコさん居なくて平気?」

「俺一人の穴くらい埋められなくて何が白ひげ海賊団だよい」

 

 マルコさんは予知夢でとても活躍した。それこそ白ひげ海賊団の要だった。だからこそ脱獄組と共にいるのは拙いんじゃないか。

 1人だけでも先に行った方がいいんじゃないだろうかと不安に思うも、マルコさんは鼻で笑って私の頭をポンポンと叩いた。

 

「……ん、中将部隊が傘下と交戦開始。黄猿、仕掛ける。防ぐしたはおっ!え!ブラメンコォ!?6番隊の!?あの人能力者なのは知ってるですけどそんなに強い!?」

「ははっ、白ひげ海賊団の隊長は皆強いよい」

「……はっ、よく言うぜ隊長格最強が」

 

 思わず驚いたけど、マルコさんは私の態度を不快に思わず自慢げに笑った。それに対して鼻で笑うのはクロさんだ。

 ビリリと殺気立つ2人。

 

「…………あんたが白ひげ海賊団を語るなよい」

「黒ひげに負けたマルコ君、何か用かね」

「なんか言ったかよい、20もいかねぇ少年に負けたクロコダイルさん?」

 

「2人とも、せめて殺気は消すして。存在から消してやろうか能力者ども」

 

 海水と海楼石どっちがよろしい。それは聞いてやろう。

 私が脅し気味でアイテムボックスから海楼石と海水を取り出すと敗者2人は渋々ながらも殺気を抑えた。

 

「ハー、元白ひげ海賊団だか白ひげさんの元彼だかなんだか知りませんが作業終わったのですか?」

「そんな事実は一切無い。……お前なァ、俺に対して言い草と人使い荒くねェ…?」

「えっ、そんなに可愛い男の子の写真欲しくないのですかぁ、そうなら言うしてよ、ドフィさん辺りにあげる故に」

「………………………単体だと直接的な攻撃力は少ねェが陰湿性はダントツだよなお前」

 

 クロさんの黒歴史(かわいいショタのイル君)をチラつかせると怒りのクロさんは素直に作業に戻った。

 

「……やっぱりこいつショタコンかよい」

 

 ボソッとマルコさんが呟くけどそれ(誤解だけど)本人に聞こえないようにしてね。

 

 私は次々と送られてくる戦争の情報に頭をフル回転させる。ほんとに余計なことは考えられない。カナエさんの真意も、センゴクさんの事も、戦争のバランスも。

 

「──!ダイヤモンド・ジョズが氷塊を投げるした。大きさ的に巨人部隊が数人で抱えれるほど………あ、あぁですよね……赤犬ぞ破壊完了。ッ!?白ひげ海賊団の黒鯨1隻破壊確認。んー、でも、三大将の内2人は戦場ですけど、赤犬俄然と動かず。無理ですね、この人動かすは」

 

 確実に攻めには回らない。

 サカズキさんは守りを堅めている。

 

 うん、本性知った今では分かるんだけど。人を進んで殺すポジションに移動するくらいなら守って置いて歯向かう敵をぶちのめす方が殺害率減るもんね。納得。

 

 まぁ攻撃の範囲はデタラメだけど。

 

「あぁ、うん、その反応はとてもわかるです」

 

 電伝虫の先でノーランさんが抱いた感想に頷くとマルコさんは興味があったのか聞いてきた。

 

「人災ってより自然災害の雨って」

「あァ……だよねい……」

 

 同じ穴の狢ってことだけは忘れないでくれ。

 

 

「なー!リー!まだかな。俺勝手に行ってもいいか?」

「それが出来ないように周囲固めてるでしょうが。ダメ、暴走絶対ダメ。ルフィは確実に何かしらひっくり返す予感しかない故に」

 

 ブーブーと文句を言うルフィ。飄々とした態度をしているが焦りが手に取るようにわかる。ビリビリと緊張の空気が緩まない。

 

「革命軍には付き合ってもらうですからよろしくイワンコフさん」

「……ここまで来たら、最後まで付き合うッチャブル。でもヴァナタねェ……てっきりヴァッターシはドラゴンが来るとばかりおもっていたから」

「んー、多分外れないと思うですけど。エースの身内、革命軍にもいる故に革命軍が無関係とはあながち言い難い。特にドラゴンさんの身近にいる分……あっ、海軍本部負けるわこれ」

 

 思わず口にでてしまったけどこれほんとにサボが革命軍動かしたらエース奪還どころか海軍本部が終わる。

 

 いや、まぁ、革命軍として海軍という仕組みを無くすと『革命』を認識する前提条件が崩れるから終わらせること自体はしないだろうけど、凄まじい大打撃だろうな。

 

「……え?赤犬が居ないって?でかい怪物が現れるした?巨人より大きい……?あっ、もしかして」

「あぁ、オーズか。リトルオーズJrだよい。ウチの傘下にエースに懐いてるオーズが居るんだ」

「……やばいですね。彼、多分集中砲火受けるですよ」

「だろうねい。大方暴走したんだろ。エース君助けるって」

 

 新たな情報が入った。

 

「七武海……動きます!」

 

 乱入するならそろそろだろう。

 

「なぁなぁクロコダイル早く早く」

「だァァァ!うっっっぜェ!」

 

 ちょこまか動いていたルフィをクロさんがぶん投げてジンさんがキャッチした。

 

「オーズ、湾内への突破口開くした。場所は白ひげ側から見て左側の、端。……遠いですね」

「いいか、リィン。合わせろい。オーズが倒れた瞬間だ」

「……!?正気ですか!?それより前でも大丈夫ですよね!?」

「オーズは回復力が優れてる。1回倒れたくらいじゃ死なねェの分かってるだろ。予知で。そのタイミングが1番意表を突ける」

 

 予知夢ではリトルオーズは死んだと思ったけどギリギリで起き上がって戦局をひっくり返した。

 場所的にも、タイミング的にも。

 

 

 うん、わかった。

 

 

「ノーランさん。オーズが倒れた瞬間教えるして」

『わかったよ。……巨人の中将が転倒して、集中砲火。まだ、まだだ。結構ボロボロになってるけど倒れない。でもそろそろ動きが怪しい。……!オーズが湾岸の七武海に攻撃対象を移した。ドフラミンゴが跳躍してオーズの足を切り落とした』

「クロさん準備は」

「出来てる。いつでもいけるぜ。動いてやるよ」

 

 とある作業を終わらせたクロさんは技の発動の為に体を落として手を砂に変えて準備を終わらせる。

 シキはそれに合わせて扉を動かし、ギリギリまで浮かび上がらせた。

 

『倒れそうだ、まだ倒れてない。だけど手を伸ばしている。処刑台に届きそうだ』

「ルフィもやる?クロさんと合わせるなら大丈夫ですぞ」

「ホントか!やる!フゥー……〝ゴムゴムの──〟」

 

「おいシキ。足元の扉、武装色で覆え」

「てめぇも大概人使い荒いじゃねェか」

 

「それじゃあ私、氷、破壊しますね。海水来るです故に気を付けるして」

「おう、能力者がよく海水を耐えたな」

 

 全員が戦闘態勢に入る。

 バキンと氷が扉の下の方から聞こえる。もちろん私が溶かし割った音だ。海水がせり上がらない様に防ぐ必要があったからね。ここは逃げ場が無い。

 

「ジィハッハッハッ、海軍本部の驚く顔が見物だな」

『七武海モリアが黒い物体でオーズを突き刺した……!ここだねリィンちゃん!』

「──全員!乗り込め!」

 

 

 

「〝暴風雨(ストーム)〟ッ!」

「〝侵食輪廻(グラウンド・デス)〟!」

 

 

 私の猛り経つ声に合わせ、ルフィとクロさんが()()()()()()を破壊した…──!

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 ゴゴゴゴゴゴゴゴ……。

 そんな地響きがマリンフォードに響き渡った。戦乱の怒号に紛れ、白ひげの地震の力に混ざり、気付かなかったが細かく聞いみれば音が違う。白ひげ海賊団のどれかの能力だろうが、目立った海賊の情報はやはり集めている。心当たりがない。

 

 センゴクは空を見上げた。

 懸念が1つ、シキの飛ばす脱獄囚共の姿は未だ見当たらない事。時間的にもういてもおかしくない距離だ。海流や風に左右されない分、白ひげ海賊団の到着より早く着くはずだ。

 

 オーズが湾岸の大砲に覆い被さるよう、橋になるように倒れた──

 

 

──ドォン…ッ!

 

 

 ──瞬間。

 

 突風が、瓦礫が、砂が。

 地面を突き破りマリンフォードの広場に穴が空いた。

 

「……ッ、地面だと!?」

 

 格好のつかない扉の姿がその穴から飛び出すように吐き出された。火山が噴火するかのごとく、その穴からは水圧で飛び出す海水が。

 

「エ〜〜〜〜〜ス〜〜〜〜〜ッ!助けに来たぞ〜〜ッ!」

 

 

 最悪のタイミングで最悪の場所に、最低な海賊達が現れてしまった。

 

 

「……ガープ。また貴様の家族だぞ」

「ぶわっはっはっは!これもう笑うしかないのう!」

「笑うな貴様!」

 

 センゴク元帥は胃痛持ち。

 

 

 ==========

 

 

 脱獄組の地面からの戦場乱入場所はなんと広場の真ん中、大将居座る処刑台の真正面。

 シャボンで海に潜り、クロさんの能力使ってモグラのように島に穴を開けながら辿り着いた。

 

 気付かれたら一気に攻撃を向けられるけど、白ひげ海賊団が陽動として(そんな気は無いだろうけど)地上に注目を集め、シキの能力を考えたら普通は空中に目を向ける。それもシキの全盛期を知っている海軍本部なら。だからこその地下だ。海でもなく土を選んだ。

 

 

「ジハハハハ!見ろ!センゴクのあの顔!ひぃー、クレイジーちゃんの策は最高だな!」

「シキさんが居なければ考えなかったですけどね」

 

 いてもいなくても私はこっちを選んだろうけど、さりげなく責任の全てをシキに押し付ける。シキの高笑いに苦い顔をしながら、地面から溢れる海水の傍で周囲を確認した。

 

 海水が壁になって背後からの攻撃は心配要らないし恐らく電伝虫にも映らないだろう。私もノーランさんも元々海軍本部雑用。電伝虫の光景から撮影ポイントと死角はわかる。

 

「チッ、白ひげが遠いな」

 

 クロさんがなぜ白ひげさんに執着しているのか、それはまぁ大体察してるけどぶつかり合わせる訳にはいかないからそこも含め空ではなく地面を選んだよな。白ひげ海賊団が海から来るだろう、もしくはそれ以外で(結局は真正面から)来るだろうと思っていたから。

 

 喰らえ必殺〝驚きの過剰摂取〟

 需要の無い供給はただのフォアグラ。強制的に食わされて太った肝臓です。私もいっぱい食わされてフォアグラったんだから海軍も共感してくれ。

 

「ミス・メリークリスマス。潜れ」

「りょ、だよ」

「Mr.3、Mr.4。てめぇらはミス・メリークリスマスの援護だ。Mr.3、ついでに海楼石ついてる非海軍側が居りゃ外して行ってやれ」

「う〜〜〜〜〜〜〜〜ん〜「わかったガネ」〜わ〜〜〜か〜〜」

「Mr.1ペアは……まぁ適当に暴れとけ」

「あんたがそう望むなら」

「ん、了解」

 

 バロックワークスがクロさんの指示を受け早速戦場に混ざりに行く。

 ルフィ?はっはっ、知らんな。多分1番激しいところがルフィの居場所でしょ。眼前には巨人部隊がいるんだからどうせ腕を巨人レベルで大きくするはず。

 

「さぁて、どう動こうかなァ」

 

 個人的な目論見、別名死体蹴りがあるからクロさんの側を離れないでいるけどそこからの行動は計画してない。不利な方向に力を貸し、どの陣営にもバレないようにエースを助ける。

 つまり、隠密活動。

 

 ただし、難易度はかなり高い。なんせ海軍も白ひげ海賊団も脱獄組も全て私に視線を注いでくる。

 

 ……センゴクさんと話すべきだよね。

 

 処刑台を見た。

 多分ルフィを見ていたエースが、泣きそうな顔で私を見た。口を動かした。

 

 なんで来たんだ、と。

 

 そういうの、昔から決めていた。

 

「──私のため」

 

 自分本位な人間による私のための行動。私の心が傷付くのが嫌だから来た。ただそれだけだ。

 高度なツンデレとかそういうのじゃない。ないったら無い。




展開をテコ入れして引き伸ばすのに苦労する章が始まりました。
正直戦闘シーンを一人称視点でやると死ぬという経験をアラバスタでこなしたので三人称視点でやりたかったんですけど、三人称視点にすると訓練されてしまった読者が『また騙すんだろう』と勘繰り始めるので泣く泣く一人称(リィン)視点で。

だからといって!絶対!戦闘シーン一人称で書けないので!しかも戦争という大規模!三人称視点とリィン視点をコロコロコロコロ変えます!打開策!
絶望を現実にするために。


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第224話 混沌とカオスの闇鍋

 

 それは海の頂点を決めるが如く、この戦争はまさに頂上戦争とでも言えるだろう。三大戦力がこれまで築いて来た全てをぶつけ合うのだ。

 降り注ぐ異常気象。それが人の手によるものだから能力者という存在は嫌になる。もはや天災と言っても過言では無いだろう。

 

 

 ──管轄であるナバロンからこの戦争に徴兵された中将、ジョナサンは自分の目の前に現れた乱入者を見てため息を吐かざるを得なかった。

 

 

 『赤犬の子飼い』だけでなく『女狐のお気に入り』を手に入れた男は元々この戦争に難色を示していた将校の1人だった。反対はしていない。センゴク元帥ともあろう知将が利益のない戦争を仕掛けるわけが無いのだ。本部から離れて己の海軍基地を手にいれた自分は情報が全て回ってくる訳では無い。そこまで手が回らない、とも言えるが。

 

 果たしてこの戦争の先に何を見るのか。

 

 それは極限られた者。

 否、もしかしたらセンゴクただ1人しか分からぬであろう。

 

 

 

「──だって堕天使と麦わらが個人行動してるんだもん」

 

 いい歳したおっさんの『もん』に隣にいたダルメシアン中将が盛大に吹き出した。

 

 

 ジョナサンは『麦わら』と付け足したが本音を言うと堕天使しか着目してない。

 

 何故なら彼女が立っているチームはインペルダウンに放り込んだ海賊たちがいる場所、つまり脱獄犯組である。

 何故なら彼女は顔を隠すタイプの海軍大将(さいこうせんりょく)、そんな場所に立つのはスパイだとしても()()()()()事なのだ。普段から顔を隠しているのだから表に出ても問題は無いのにも関わらず。

 

「(何企んでいるんだいセンゴク元帥と女狐大将は)」

 

 恐らく『堕天使リィンが女狐大将である』と認識している人間は『脱獄した堕天使』の存在にハテナマークしか浮かばないだろう。

 

 何も事情を知らない人間からみれば、インペルダウンに入れられた堕天使リィンがただ脱獄した。としか受け止めない。

 

 だが下手に情報があり、情報が不足している中将達は様々な想定を考えた。

 

 

 パターン1、リィンが裏切りセンゴクが切った。

 王道パターンであり、可能性として1番有り得る。だがリィンの海軍内での地位や人間関係、そして人物像を思い浮かべれば恐らくかなり可能性が低い。

 

 パターン2、センゴクが裏切りリィンを切った。

 先程と正反対。不都合になったか、それとも最初からそう決められていたか。知っているものは知っている、彼女の血筋を。今回の戦争の名目は『白ひげ海賊団の二番隊隊長』ではなく『海賊王の息子』だ。『冥王の娘』という矛盾点を海軍で囲うことは難しい。政治的に見て1番可能性が高い。

 

 パターン3、リィン保護の為にセンゴクが切った。

 理由は海軍の矛盾点、パターン2と同じだ。矛盾点を海軍で囲うことが難しいなら、内部的な組織であるインペルダウンで囲ってもらえる為に、インペルダウン内部に事情を説明すれば看守として働けるだろう。麦わらの一味が解散した状態では1番自然だ。そして軍人性より人間性を優先したらパターン2よりもコチラの方が正しい。

 

 パターン4、リィンが休暇としてインペルダウン見学に乗り込んだ。

 ぶっちゃけあの小娘を見ると1番有り得る。なんならインペルダウンに伝手とか持ってそう。なんか行き来ができそう。入ったら出れないはずなのに。

 

 

 ちなみに脱獄の手助けしたから結局敵対だ!とまっすぐ純粋に思う気持ちは微塵もなかった。脱獄するということはシャバで再び海賊になるという事。脱獄に反対しない方が不自然だ。自分の船長もいる事だし、1人でシキとか七武海とか潰して水面下(物理)で『海賊の敵対者』として口を封じるなら脱獄に反対しても大丈夫だが、正直自分であっても脱獄に協力する。海軍本部にぶつけるに決まってる。

 

 

 まァぶつけられた海軍本部としてはたまったもんじゃないが!!

 

 

「ダルメシアン中将、1ついいかな」

「とても断りたい気持ちでいっぱいなのだが」

「堕天使リィンと七武海の関係性について一言」

 

 ジョナサンの前提情報は1つ。

 クロコダイル称号剥奪騒動〜ロリコン報道を載せて〜に思いっきり関わっているというかそういう情報操作をしたんだろうなぁ、と考えているだけだ。流石に七武海関連の情報は掴んでいるが、確定している事柄は『七武海と麦わらの一味は敵対関係』これに限る。

 

「……堕天使リィンは元々海軍本部の雑用でだな」

「へぇ、それは初耳だ」

 

 それ『は』初耳。

 この意味にダルメシアンは気付いた。

 

 ナバロンで麦わらの一味が大暴れした事は海軍本部でも情報共有がされている。流石に沽券に関わるので書類上は『海賊襲撃訓練』と称していても世間に公表はされてない。

 

 まァ考えれば『麦わらの一味の関わった事件』で『情報精査・操作』が出来るなんてリィンがゲロった以外考えられない。訳知り顔で話している様子を見るにジョナサンも『女狐=堕天使』と知っているのだろう、と。

 

「その小娘は七武海会議のお茶汲み雑用を担当していた」

「なるほど、元々旧知の仲だったわけか」

 

 砂埃が上がる中、ピンク色の何かが乱入者達の方向へ飛んで行った。

 七武海には七武海を当てる。無難所だろう。

 

 勢いよく飛びかかった七武海、ドンキホーテ・ドフラミンゴの能力がある牙を向く。確か彼は覇気が3種類使えたはず、となると元七武海2人相手でも持つだろう。

 

「アラバスタの件は情報の段階というのもあってどこまで把握しているのか、いや、どこまで把握出来ているのかわからんが」

 

 ジョナサンは珍しい七武海対戦を見れると思って静観していたが、砂埃が晴れる頃には目をひん剥くことになった。

 

「七武海withリィンはぶっ飛んでるぞ」

 

 そこには子泣き爺が如くクロコダイルに引っ付くドフラミンゴがいた。

 

「──なんでだい!!!!!」

「本部の将官辺りは大体知ってるが七武海はすこぶる仲が良いから敵対を高望みすると足元どころか体全体が崩れ落ちるぞ」

 

 ジョナサンは直視しがたい現実に膝から崩れ落ちた。

 

「ちなみに堕天使リィンは七武海の仲を繋ぎ止める玩具だ」

「キミが! やって! どうする! ……大将(ざつよう)!」

「それな」

 

 七武海は単体だけで強力だ。

 七武海といえど海賊は海賊なので七武海のメンバーを変える事は少なくない。だからこそ、新しい七武海の確保と、七武海内部の結託(反乱)を防ぐ為に『ギスギスしている方が有難い』のだ。心から。

 

 残念ながらその事に気付く前にボンド役になってしまったリィンはかなり後悔している。己にしわ寄せととばっちりが来るから、と。

 

「あァ……理解してしまったよ……堕天使が敵対関係にあったクロコダイルの傍にいる理由が……」

「リィンは、七武海のお気に入りなんだ」

 

 なんということをしてくれたのでしょう。

 異様にげっそりとした表情の中将2人は顔を見合わせた後、深いため息を吐き出す。

 

 

 

 消耗品補給と作戦伝令に飛び回ってたまたま傍にいた月組の誰かは呟いた。

 

「……知らないって幸せだなぁ」

 

 違います中将。

 あそこの現実もっと酷いです。

 

 

 

 ==========

 

 

「クロちゃんなんで脱獄してんだよーーーーッ!」

「アホっぽい面晒してんじゃねェよクソミンゴ…! ぐ、おいコラ離れろ!」

「血の池地獄は温過ぎたか!? 此処こそが本当の地獄だと言うのにクロちゃん゛!」

「喚くな!!!!!!!」

 

 こちら現場のリィン。

 簡潔に言わせてもらうとこの展開が予想出来たのでジンさんのところに避難した所存。

 

「じゃ、俺は白ひげ海賊団と合流するねい」

「シキ! シキー! やっさんみたいに背中乗せてくれ!」

 

 マルコさんには普通に見捨てられたしルフィには置いてかれた。

 

「むっ、ドフラミンゴに遅れを取ったか」

「ジンベエ! クロコダイル!」

 

 ドフィさんに遅れてミホさん、そして海賊女帝が走り寄った。戦争の乱入者である脱獄犯をぶち殺そうとする体は保っていた方がいいと思うんだけど、どっからどう見ても親しい友人との再会に喜んでいる姿。

 

「すまんな、戦争に反対してしもうたわい」

「気にするでないジンベエ。お主の立場を考えれば仕方の無いことじゃ」

 

 この戦争に反対したことで牢獄に入れられたほぼ七武海剥奪確定のジンさんが申し訳なさそうに呟けば、真っ先に反応したのは海賊女帝だった。

 海賊女帝の慰める笑みで周囲が石になった。話を邪魔するなって視線が海兵に飛んでる気がする。気のせいだといいなぁ。

 

「海賊女帝は何気に他の七武海と初顔合わせで……」

「おおお、おい! 俺を1人にするなよ! なんだ七武海がいっせいに動きやがって!」

 

 慌てた様子でゲッコー・モリアも現れた。

 

「あっ、ぼっち!」

「名誉ある孤立と言…──ふんぎゃああああああ!? なんでここにいる! なんでここにいる!?」

「脱獄したからですけど……」

「ん? リィンはモリアと知り合いじゃったか?」

「麦わらの一味に所属してから潰しますた。はい証拠」

「……お主なァ、弱点となるものをなんでもかんでも写真に収めれば良いと言うものでもないぞ」

「これは、悲惨だな」

「ワァ俺絶対コイツ相手だけは負けない様にしよ」

 

 私が取り出した写真を見たジンさんとミホさんとドフィさんが殺せと喚くモリアに同情の視線を寄せた。

 

「……なんだ、お前達元気だな」

 

「ん、くまか。生きておるようじゃな」

「よォくま。生きてっか」

「あ、くまさん。生きてます?」

「監獄組。お前達に言われたくはない。心底」

 

 悠々と歩いて来たくまさんが聖書を畳んで私達を睨んだ。らしい。ちょっと視線が高すぎて表情まで分からない。何メートル差だと。

 モリアはいじめっ子達からくまさんのところに逃げた。

 

「あ、クロさん。マントの下入れて」

「あ?何企んでる?」

「いや、後ろの海水が落ち着く故に、電伝虫の視界に入ってしまうです」

 

 背後は潜り込んだ穴から溢れ出る噴海水のおかげで電伝虫の死角になってたんだけど、水の勢いが弱まって来たから隠れる様に潜り込む。1番隠れる場所があるカラ。ウンウン。

 

「ん?」

 

 ドフィさんがクロさんと、それに近寄った私を5度見くらい交互にした。

 

「何、お前らおそろい?」

「はァ!?」

「あっ、気付くしますた?」

 

 仰天したクロさんの声をガン無視して笑顔でドフィさんに向く。

 

 クロさんは白のシャツに黒のベストとズボンとジャケット。大まかに言うとね。

 そして私も白シャツに黒ベストズボン、マント。まァ私はクロさんから奪った(押し付けられた)緑の布っきれをベルト代わりに使ってるけど。

 

 あえてクロさんに合わせて勝手にお揃いにした。

 

「なんだよお前ら仲良…──じゃねェなリィン貴様これ以上クロちゃんを殺すな今すぐその服脱げ」

 

 ニッコニコご機嫌笑顔で愛想を振りまいていたらドフィさんはカッと目を見開いて一息で上記を述べた。うふふ、お揃いというのはね、仲良しだからするモンじゃ、ないんだよ。

 

 私の狙いに気付いたドフィさんに向けて私はやれやれと肩を竦めてみせる。

 

「仕方ないなぁ〜。ここに指輪ぞあるじゃろ?」

「ま゚ーーーーッッッッ!」

「右手の薬指に着けるですと」

「やめろお前ホントやめろ!!!!!」

 

 クロさんじゃなくて張本人でもなんでもないドフィさんが必死で止めようとしてくるの本当に笑えてくる。この指輪もお揃いなの。素敵でしょう? つける指も揃えちゃうね!

 

「クロさん見て見てお揃い」

 

 クロさんの背中に潜り込んでる状況だから右手だけ前に突き出して指輪をアピールする。ポイントはとても笑顔な事。

 

「……。」

 

 ひょっこり見上げて見るとクロさんは形容し難い表情で腕を組んでた。決して喜んでるとか、見惚れてるとか、そういう頭沸騰しそうな感情じゃない事は確かだ。

 

 私がなにか企んでいるという漠然とした前兆は掴めているらしい。脳みそ働いてなければ良かったのに。意外と冷静だな。反撃しないだけ動揺はしてるっぽいけど。不穏な気配を察知、って方向性で。

 

「…………チィッ」

「リィンちゃん舌打ちする顔びっくりするくらい歪むよな。心の歪みが留めきれなくて顔面に滲み出てる」

「猫ぞ被るしたらもっと可愛い舌打ちくらい出来るですぅ」

 

 ちなみに右手の薬指に付ける指輪の意味って知ってる?

 色々あるけど、人間関係改善って意味もあるらしいよ。

 

「ドフィさん、私はね」

 

 瞳を閉じて耳をすませば聞こえてくる。海兵の声。

 

『おい、クロコダイルとリィンの2人お揃いだぞ』

『お前はリィンちゃんを知らないからそう言えるんだろうが、あの子七武海大っ嫌いだぞ』

『つまりおそろいなのは……』

『えっ、まさかアラバスタの噂って真実……?』

『間違いなくそうだよな』

『『『『クロコダイルはロリコン』』』』

 

 閉じていた瞳を開いてまっすぐ見つめた。

 

「──お前ら七武海を陥れる為なら自爆も辞さない」

「お願いだから辞せ!?」

「ツギハオマエダ」

「クロちゃん生贄に差し出すから俺見逃して!?」

「アフターフォローもカンペキ!」

「死体蹴りの間違いだろ!?」

「ふぅんそうなんですね」

「ダメだ俺完全に振り回されてる……姫ちゃんパス……」

 

 疲れ果てた様子でドフィさんがギブアップした。

 

「………妾、ジンベエとくま辺りと話しておくから、胃が引きちぎれる案件は主ら三武海の役目じゃ」

「何それ初耳なんだけどォ!?」

 

 海賊女帝が全力で拒否していると、ふわりと私の頭に手が乗った。さっきまで硬直していたクロさんの手だ。くしゃくしゃと私の髪を遊ぶみたいにいじくった大きな手は、私の頭の形に沿うように包み…──そのまま私の脳みそ引きずり出して握り潰すレベルの力が込められた。

 

 

「いいいいいいいいいい!」

「おいリィン」

「ま゛ッあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!」

「『やっぱりロリコンだったのか』だァ?『幼い頃のビビ王女相手に惚れた』だ?『ロリが国家転覆の原因』?『性癖の過ち』?」

「い゛あ゛あ゛の゛ぅッ、み゛ぞ!」

「『クロコダイルの例の放送は真実だった』……だとよォ。このチッセェ脳みそに聞きたいんだが、俺は残念なことに俺の放送ってジャンルこれっぽちも覚えがねェんだ。……──な・に・か・知・っ・て・る・な?」

 

 ひぇっ待って頭潰れる潰れる潰れる! 出る! 脳みそが出る! 痛いとかそういうレベルじゃなくてもう吐きそう! はくはくはく! 吐くって! 最近船酔いでも吐き癖ついてるんだから本気で出る! 色んなところから出ちゃいけないものが出る! 待ってください! やめて、やめてください! やめろ!

 

「ハ、はっ、ハッ、は、沸点が低いゾね、沸騰石食べりゅゔ?」

「……本気で潰すぞ」

「これが! 本気じゃ! 無きと!?」

「どうやら俺の同僚諸君はこのクソみてぇな噂をご存知らしいなァ…?」

「ドフラミンゴが情報持ってきた」

「ドフラミンゴが教えてくれた」

「ドフラミンゴじゃな」

「お呼びだぞ天夜叉殿」

「いっそ拍手したくなる位の清々しさで俺を売るよな、お前ら──加担はしてないし阻止の方向で情報持っていきました俺は悪くないです」

「ねぇ待ってクロさんそろそろ私の頭がやばいパキュパキュ言ってるやばい音ぞ鳴るですひとまず離すして」

「……戦争後、死ぬ気で俺と合流。死んでも合流」

「イエス・サー!」

 

 敬礼しながら一気に距離を離した。

 頭ぐわんぐわんして視界揺れる。とんでもなく気持ち悪い。

 

「うううううう、ぐるぐる回るぅ」

「流石に同情は出来ねェぞ」

「私、適当な所フラフラする故、故に」

 

 七武海の周辺は海兵も海賊も手を出さないから安全地帯なんだけどその七武海自体が危険なので私は全力で去った。

 

 

 

 ==========

 

 

 

「………………あいつら何遊んでんだよい」

 

 戦況を簡単にひっくり返せるレベルの実力を兼ね備えた七武海が元を入れても7人揃っている。揃いも揃っているのに、戯れている。

 

「グララララ! 砂小僧も随分馴染んでるじゃねェか!」

「玩具にされてるリィンが可哀想だよい」

 

 白ひげ海賊団の海賊船。モビーディック号の上で合流した〝不死鳥〟マルコは〝白ひげ〟エドワード・ニューゲートにこれまでの情報共有をするために舞い戻った。

 

「……ところでマルコ。そのリィンが脱獄したってのは、ちとおかしくねェか?」

「センゴクと女狐に、コテンパンにやられたそうだよい」

 

 苦い顔をしてマルコが答える。その様子にある程度状況を察した白ひげは顎に手を当てて納得した。

 

「ほぉ、そう来たか」

「親父?」

「鬼の血を引くのはエースだけじゃねェ、そうリィンに言われなかったか?」

「……言われたねい」

「言われたかぁ」

 

 ため息と一緒に吐き出すように答えると、何が楽しいのか白ひげはグラグラと笑った。

 

「親父、笑い事じゃねェと思うんだが」

「俺たちの海軍伝手がなくなったってか?」

「……親父、わかってて聞いてるだろい」

「グララララ!」

 

 マルコという男は他人の想像以上にリィンを気に入ってたりする。

 年の離れた妹に対する甘さ、出来の良い娘に対する誉れ、対立関係に位置する存在に対する警戒、協力関係に位置する存在に対する喜び、下から追い上げる子供に対する恐れ。

 ぐっちゃぐちゃに入り混ぜられた感情。

 

 白ひげ海賊団では無いからこそ、マルコは威厳を保つ為に気取ってカッコをつける。見習いの頃から見てきた息子の今までにない面白い反応が、白ひげは楽しくて堪らなかった。

 

「おおかた鬼の血が邪魔になったんだろうが……」

 

 白ひげは断頭台に居座る男を睨んだ。

 

「女狐自体を消さねェのは謎だな」

 

 何を企んでやがる、と声に出さず呟く。

 この戦争で何がどう変わるかも分からなければ、この戦争自体がどう動くのか分からない。予知というアドバンテージがあっても不安要素の方がでかい。いや、むしろ予知という予備知識がある分、フラットに見えないから疑心暗鬼に陥ってしまう。

 

「オヤッさん!」

 

 ただ、予知があって助かることもいくつかある。

 

 モビーディック号に駆け込んだ傘下の海賊、スクアードがギザっ歯を剥き出しにして叫んだ。

 

「エースが、ッ、エースの処刑時間が、早まるって、情報が」

 

 息切れも知らず走ったのかゲホゲホと噎せながらの報告だ。

 

 スクアードが海軍の口車に乗せられる、との予知。リィンが細かな内容を教えてくれなかったが状況を整理すれば何を言えばスクアードの心情が揺さぶられるか、なんて分かりきった事だった。

 あらかじめスクアードにはエースが海賊王の()()()だという風に伝えた。息子である、と。海賊王に恨みを持つスクアードにはこの言い方が最適だった。

 実際仲良くなってしまうのだから言葉とは面白いものだ。

 

「安心しろスクアード。少なくとも、センゴクは作戦を漏らすようなヘマはしねェ。漏れた情報で踊らされてる俺らが……──ッ!」

 

 白ひげはそこまで言ってハッと視線を戦場に向ける。

 視線は少し前まで話題に上がっていた少女を探していた。

 

「親父…?」

「オヤッさん?」

 

 

「──マルコ、女狐も罠だ」

「……一体どういう、事だよい?」

「女狐の正体だとか、麦わらの一味がやられただとか、その情報そのものが罠だ」

 

 白ひげ海賊団に訪れた女狐の訪問。リィンとしては2回目であり、女狐としては初だ。あの時共に居たのは青雉。

 海軍は『白ひげ海賊団が女狐の正体がリィンだと知っている』事を知っている。

 

「全隊長に伝えろ。女狐は幻だと思え。出て来ても、出て来なくても、考えてそっちに思考持っていかれりゃ根本を見失う」

「……!」

「クソ、あの娘っ子が裏切られただとかもしくはそう見せ掛けてるとか、可能性を考えりゃキリがねェ。そうだ、センゴクが情報を、特に海軍のトップシークレットを()()()()()()()()()()()()んだ」

 

 いい具合に存在が戦場を引っ掻き回しやがる。

 自分で引っ掻き回すか他人に引っ掻き回す材料にされるかの違いはあるが中々に母娘そっくりだと白ひげは舌打ちをした。

 

 

 予知以前に女狐関連の情報は全て罠だと思った方が良さそうだ、と思考をフラットにする。

 初撃の登場を読まれていた事もあり、あちらにも予知が回ったかと考えなかった訳では無い。その思考全て邪魔だ。目立たないようで目立つ『リィン』に関係する全ての情報をとっぱらえ。

 

 ……手のひらで転がされている奇妙な感覚に寒気がする。

 

「スクアード、背後に気を付けとけ。だが動かす人数は少なめでいい。最低限の退路を確保し、背後からの初撃に食らいつく、その程度でいいから警戒を頼んだぜ」

「分かったぜ親父…!」

 

 大将陣は大技をいくつか放った後、それぞれ断頭台の下へと戻った。まるで時を待つように、力を温存するように。

 

 その様子から推測するに恐らく撤退戦が1番キツい筈だ。最高戦力を『背中』にぶつけて来るだろう。

 白ひげが最も嫌う、背中の傷を付けに。

 

「──ちったァ衰えろよセンゴク…! 見事に嫌なとこ攻めてくるじゃねェか!」

 

 とりあえず拳骨1回はリィンに入れときたい。例えそれが八つ当たりだとしても大人気無くそう思った。

 

 

 

 

 

 

 

「私の頭(物理)が狙うされてる気がする……しかも多方面から……!」

 

 野生の勘、第六感とも言える胃痛増進察知能力が無駄に働いた。




混沌もカオスも同じ意味だっつーの。

お久しぶりです。多分。ある程度頂上戦争編の話が完成したので微調整と添削しながらの更新です。オラは戦闘描写を回避する……!この戦争で……!

※ハンコックはハリケーンしてますがルフィでもリィンでもないです


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第225話 なく蝉よりもなかぬ蛍は身をこがす

 

 

「絶対実力落ちてるーーーッ! 落ちてるって言ってんだから手加減してくれよッ!」

「うるさいよ!」

 

 血と硝煙の匂いが混ざる戦場。

 びーこらびーこら喚きながら独特な仕込み金属バットを両手に海兵が応戦しており、その男を叱咤したもう1人の海兵は情けない相棒と肩を並べ、敵に向き合った。

 

 赤いスカーフを付けた、女狐隊。

 

 普通の下士官と同じ服装だが、海ではなく血の色が他と差を見せるため何かと狙われやすい。

 ちなみに同じ女狐隊でもこの戦争では別に目立ちたくないとちゃっかり普通のスカーフを付けている者が殆どなのだが残念ながらその事を2人はまだ知らない。

 

「──だっておかん! 俺たち普段机仕事ばっかだぜ!? 訓練とかの暇なく!」

 

 『おかん』と呼ばれた筋肉質な女海兵、ツキ。元はクロコダイル率いるBW(バロックワークス)と呼ばれるテロ組織の幹部で、コードネームにミス・マンデーという名を使っていた。

 ギャンギャン騒ぐ相棒にため息吐きたい気持ちを抑えて、彼女はインペルダウンからの厄介な脱獄犯相手に舌打ちをしながら相手をしていた。

 

 それでもと叱咤するつもりで相棒にちらりと視線を寄せ叫ぶ。

 

「身に染みてわかってるよナイン! けど! ここで被害抑えなきゃ後で書類に死ぬのはあたしらだってこと頭に置いて殺りあいな!」

 

 ナインと呼ばれた相棒は嫌そうにゲェと舌を出した。このナインも元BW(バロックワークス)の幹部。コードネームはMr.9であった。

 

 2人は元々コンビを組んでいた訳では無いが、海兵へと嵌めら(ひきぬか)れた際からのバディだ。

 

 

 幹部といえど、かろうじてコードネームがついているフロンティアエージェント。特出する程の実力は持ってない。

 

「ちくしょーッッ! かかって来やがれこの野郎ッ!」

 

 相手をしている敵が間違いなく厄介な能力者だと言う事は分かっている。他に被害がいかないようにある程度慣れてきた自分達が増援が来るまで持ち堪えなければならない。

 ナインは泣き喚きたい気持ちを必死に抑えてとりあえず喚くに留めた。

 

「随分とやけくそだガネ」

馬鹿(バッ)、このバッ! あんたらしつこいしねちっこいんだよこのバッ!」

「ぶ〜〜〜〜〜き〜〜〜〜〜が〜〜〜〜〜ほ〜〜〜〜〜し〜〜〜〜〜」

「あんた本当にノロマだね! このノロマ(ノッ)! ノッ!」

 

 敵の3人組はそれぞれ行動したくても全力で邪魔してくる粘り強くウザったらしい海兵に嫌気が差していた。

 

「くら……えッ!」

 

 ツキがナックルを着けた拳で木偶の坊に殴りかかった。筋力には自信があるが、どうやらその得意分野でさえ格上らしい。

 

 モグラだかぺンギンだか分からないが動物(ゾオン)系の能力者は地面に潜ろうとする。そしてそれを仕込みバットで地上に食らい止めるナイン。

 鉄程に堅い液状を固形化させ、木偶の坊に馬鹿でかい武器を渡そうとし、攻守ともにサポートに回る男。その木偶の坊は腕力こそ上回るもノロマなこともあってツキがギリギリ対処出来ていた。

 

「くっそぉ、女狐隊の先輩方はどこいったんだよォ、戦闘職のボムとレモンはどこだよォ」

「はっ、あたしらも一応戦闘職だけどね!」

「騙し討ちと人海戦術が得意な方のなッ!」

 

 ガイン、ゴイン、と白い液状で邪魔をしてくる男に段々苛立ちが募る。さっさと潰したいが攻略方法が分かっていないのに能力に飛び込むほど馬鹿ではない。考えて考えて、ふと嗅いだことのある臭い。具体的に言うと夜中の書類仕事の明かり。

 

「あ、おかん! このヒョロい男の能力わかった! 蝋だ!」

「チィッ! クソほど厄介じゃないか! これだから能力者は嫌いなんだ!」

 

 蝋の能力者、Mr.3は敵対してる格下の存在に舌打ちをした。実力は確実に下だろうに、格上の……しかも人数も多い3人とギリギリだがやりあえる存在に。

 

 

 オフィサーエージェントは重要な任務をこなす。対してフロンティアエージェントは懸賞金などで資金をかき集める為、任務が多い。

 そして元フロンティアエージェント、2人は拾われる前から色々な苦労(過小表現)を共にこなしてきた。

 

 つまり、チームワークなどはナインとツキが圧倒的に上である。

 

 格上相手にしがみつける理由はこれであった。

 

 

「(分かってるが…! 俺たち2人なら多分死なねぇだろうし負けないだろうが! 勝てる気が微塵もしない……!)」

 

 これに限る。

 

 ツッコミをする余裕すらないナインは背中にたらりと垂れる汗を感じ、苦い顔をするしか無かった。

 

 

 

 ==========

 

 

 

「あ、これ相性悪過ぎるわ」

「奇遇だな相棒、俺も同じこと考えてた所だ」

「もれなく私が死ぬ」

「間違いなくな」

 

 黄色の短髪の女海兵は相棒である男にそう宣言した。頷かれた。

 

 元BW(バロックワークス)のオフィサーエージェント、Mr.5とミス・バレンタイン。今はボムとレモンという分かりやすくて適当過ぎる名を名乗っているが、この2人も苦労を共にした為かコンビ仲は良い。だがそれ以上に、何より互いの能力の相性が良過ぎる。

 

 だからこそ即座にわかった。

 現在敵対している相手が過去最低レベルで相性が悪過ぎることに。

 

 ボムとレモンの攻撃手段といえば、ボムの爆発単体もだが身体を1キロに設定したレモンがボムの爆風を使って空中に跳び、1万キロまで体重を一気に増加させ相手を押し潰すという物だ。

 

 空中から狙いをつけるため1点しか攻撃出来ない上に目標を誤ると自分が埋まり兼ねないという弱点もあるが、それよりも注意すべき事は、肉体を使って潰す為一面の武器があるとこちらが怪我を負いかねない事だ。

 

 例えば棘の山だとか、刃物の山だとか。

 

「あらあら、それは残念ね。お嬢さん方?」

「適当に暴れろ、との命令だ。悪く思うな、海兵」

 

 敵の女は腕を棘山に。

 敵の男は腕を刃物に。

 

 対峙する2人の敵は余裕の表情でボムとレモンを補足していた。

 

「……ねェ相棒、逃げるが勝ちって言葉知ってる?」

「ははは、覆水盆に返らずって言葉知ってるか?」

「OK! 手遅れって事ね!」

 

 なんせ完全にターゲットとしてマークされている。背を向けなければ逃げられないが、背を向けたら死ぬ。

 

「ふぅ……。やるっきゃない!」

 

 書類仕事ばかりで訓練の時間は確かに少ないが、武器はいくつかある。そして自分達はまだ能力を見せていない。

 

「〝鼻空想砲(ノーズファンシーキャノン)〟!」

 

 ボムの飛ばした鼻くそがドゴォンという爆発音を立てて爆発した。

 

 それが開戦の狼煙だったようで、トゲを足に生やしたミス・ダブルフィンガーが足を長くする要領で咄嗟に避けた。

 しかし爆発を真正面から受けたMr.1はなんともない顔をしてボムへ肉迫する。

 

「くっ」

 

 ボムが身体を捻り刃に変化したその腕を避けようとした。

 

「〝強い石(フォルテストーン)〟!」

 

──ゴンッッッ!

 

「ぐがッ!」

 

 敵の肉体的な刃がボムに届く寸前、狙いを定めていた物理学を全否定する小石がMr.1の頭に追突した。それは片手で持てる程の小さな石だが、その重さは質量以上。

 Mr.1の後頭部から血が流れ、予想外の衝撃に頭が揺れ、隙が出来た。

 

「はっ、顔面から喰らえ…! 〝爆発する石(ボム・ストーン)〟!」

 

 ボムがその顔面に向けて小石を投げると、それはMr.1にぶつかり起爆した。

 

 石に能力を付与する。

 超人(パラミシア)系であれば、本来なら有り得ない能力の使い方。2人は海軍に入り新しい技を手に入れていた。

 

 深夜テンションで手にしたのだが、細かい話を思い返せるほど余裕は無い。

 

「…! 空ね!」

 

 ミス・ダブルフィンガーは最初の爆風で空に飛んだレモンを補足。腕をトゲにして伸ばす、伸ばす。銛で魚を突く様に伸びたトゲがレモンに向かった。

 空中では風任せの為身動きは取れない。

 

「──とでも思った?」

 

 レモンは伸びてくる細い針に向けて銃を構えた。

 

「〝そよ風息爆弾(ブリーズ・ブレス・ボム)〟!」

 

 カチリとリボルバー拳銃から実の無い弾丸が放たれる。

 不発と思われたソレは針に当たった瞬間、起爆した。

 

「きゃあ!?」

「うわぁッ!」

 

 その爆風で1キロほどしかない体重のレモンが弾き飛ばされる。

 

 心臓に直撃する筈だったトゲは幸いな事に爆発で体が移動したレモンの肩を掠めるだけに終わった。

 

「い゛……!」

「レモン! 目標物と近過ぎだ!」

 

 軽い為地面に落ちてもダメージはそう無いが、ボムの手の間に合う距離にあったのでレモンを拾いきる。爆風ではなく爆発をもろに受けたレモンの腕には火傷が広がっていた。

 

「これぞ肉を切らせて骨を断つ作戦! 心臓突かれて即死よりはまし!」

「涙目だぞ」

「だってボム! 爆発って熱くて痛いのよ!?」

「あー、俺爆発無効だから気持ちはわからん」

 

 弾倉にボムの息を吹き込んだリボルバーはレモンに預けられている。息すら爆発させてしまう男の究極能力だ。

 威力もそれなりにある。

 

 だが。

 

「……きゃはは、やだぁ、みてボム。敵さんとっても怒ってるみたい」

「だなぁ……。仕留められればよかったんだけど、そんなヤワじゃないよなぁ」

 

 爆発の土埃が晴れる。

 

 棘にして伸ばした腕に爆発を受け火傷を被ったミス・ダブルフィンガーと、それぞれの攻撃を受け額と後頭部から血を流したMr.1の姿があった。その表情は無。

 怒り心頭といった様子がひしひしと感じられる。

 

「(こいつら、1億程度の懸賞金はあるだろ絶対…! 海賊っぽくねェし、どこのどいつだよ…! 白ひげ海賊団じゃねェし脱獄犯だよな…!?)」

 

 攻撃が効いた様子はあまり無い。

 不意をつけた初撃。ここからどう攻めるか。

 

 いや、どう避けるか。そんなレベルでのお話だった。

 

 

 ==========

 

 

 

 

「〝カラーズトラップ〟〝なごみの緑〟」

 

 

 

 

「ッ、オカマ拳法──〝白鳥アラベスク〟!」

 

 

 

 

 誰かが「えっ」と小さく驚きの声を上げた。

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

 蝋を自由自在に操るMr.3が突然なごみ始めた。何を言ってるのか分からないが自分もよく分からない。

 

 ナインとツキが混乱して目を見開く。

 

 りんごほっぺが特徴的な三つ編みの知った姿が敵の傍でお茶を飲んでいた。いや、敵と一緒に、なのだが。

 

「……パレット? マイペースなのは知ってるけど流石にここ戦場だしそいつ敵だし」

「そそそそそそうだぜパレット! お前戦闘能力ないんだから待機してろって俺言ったじゃん!」

 

 ズズズ、と緑茶を飲み干したパレットはゆっくり立ち上がる。キョロキョロと状況を再確認して、ナインとツキに微笑んだ。

 

「……マイペースな私に優しくしてくれた先輩達なの。失敗しても怒らなかった。今もこうして庇おうとしてくれてる」

 

 パレットはその名が示すパレットを手にし、絵を描くには大きい筆には色を着ける。そして懐かしさを孕む複雑な瞳で、だが譲らない意志を確かに宿し元同僚に厳しい視線を向けた。

 

「──手を出さないで欲しい、Mr.3。それと、Mr.4ペアだっけ」

「……ミス・ゴールデンウィーク」

 

 

 バディを組んでいたベンサムとはお互い行くべき場所がある、と別行動を取った。まぁ相方の行先は容易に想像出来るのだが、と思いながら脅すように筆で警戒と決別を顕にした。

 

「うん、久しぶり。でももうその名前要らないからパレットって呼んでね。偽名だけど」

 

 パクパクと餌を強請る金魚のように口を開閉させるナインとツキ。パレットは悲しげに笑みを浮かべた。

 

 

「私、元々犯罪者なの。BW(バロックワークス)のオフィサーエージェント。このMr.3とペアを組んでた」

 

 寛ぎつつも、表情を驚愕に染め、Mr.3がミス・ゴールデンウィークを見上げた。

 

「──バラしちゃったし、もう海軍には居られない。でも、この2人には絶対手を出させない……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ボムとレモンはすっ飛んできた頼れる後輩の姿に表情を明るくした。

 

「──2人に、何してんのよーーう!」

「「ベンサム!」」

 

 戦闘能力の高いのがきた!期待していた援軍に心強く、そして見知った顔という事もあってテンションが上がる。

 

 3対2ならいける…!

 そう考え戦闘を再開しようと構えた。

 

「この落とし前、きっちり付けさせて貰うわよォ! Mr.1とポーラ!」

「……Mr.2か。どこにいると思えば、まさか海軍に居たとはな」

「頭痛いわ、ボスへの忠義を無くしたMr.2がおめおめと私達の目の前に現れるだなんて」

 

「え、え」

「……んん?」

 

 混乱した。そりゃもうとんでもなく混乱した。

 ボムとレモンは思わず互いの顔を見た。

 

「ボムちゃんレモンちゃん、ここはあちしが蹴り付けなきゃならないとこなの。引いてくれる?」

「えっ、いや、えっ、まっ」

「混乱するのもわかるわよーう、じょ〜〜ダンじゃないものねい」

 

 Mr.2ボン・クレーは2人を背にかばいオカマ拳法の構えを取る。

 

「──かかってこいや」

「上等」

「タコパの飾りにしてあげる」

 

 

 

 

 

 

 

 場所は離れていても心は同じ。

 ウイスキーピークからずっと一緒にやってきた4人は声を揃えた。

 

 

「「「「────ふざけんな大将ッッッ!!」」」」

 

 

 必要事項はさっさと喋れ、事前相談はこの際諦める、だがせめて情報共有はしてくれ。

 

 ……お前ちょっと便所裏な。

 

 

 

 ==========

 

 

 

「やっぱり嫌な予感ぞ止まらぬのですけど……」

「何をやらかしたッチャブル」

 

 『私』を知らない将校の攻撃を掻い潜ると奇跡的にイワンコフさんと合流が出来た。

 

「無意識下でも可能性ぞ存在故……ちょっと特定不可能ですね」

 

 うーん、心当たりが多すぎて逆に無いんだよなァ。

 何に置いても言えるんだけど私は無駄に伝手が多くて色んな目論見で色んな組織で活動してるから……。

 

 

 ルフィフォローの為に電伝虫を肩に乗せて戦場をバタバタ走り回る。シキとそれに乗っているルフィは格好の的だ。私は不思議色の覇気を使って身の安全を確保しつつ電伝虫に映らない様にしてルフィと確実に相性の悪い将校をちまちま削っていっていた。

 

 

「……!」

 

──ボンボンボンボンッ!

 

 攻撃性の低い見た目だけ派手な爆発を連続的に起こし地面を破壊し土埃を煙幕代わりにする。

 なんせ現れたのは七武海のバーソロミュー・くま単独。敵対のポーズ、攻撃を向けながらだったから。

 

 くまさんは背が高く図体もあるから電伝虫に映ると目立つ。

 目立つからこそ、姿を映したくない私としては目くらましが必要だった。

 

 だって私のそばにいるの革命軍だよ?

 攻撃だってするフリで、対話を求めている事は確実。

 

「ノーランさん私の位置特定してますよね、映る?」

『リィンちゃんは土埃で見えない。電伝虫が捕らえてるのはイワンコフとくまだけだ。地面にいるんでしょ?』

「はいです、それなら良かった。これから恐らく機密会話なので…──」

『あれーリィンちゃんの声が聞こえないなぁ』

 

 ……棒読み選手権があればぶっちぎりでトップを取れると思う。

 

『画面になにか進展あれば声を掛けるけどこっちは聞かない様にしとく。5分目安にしておくね。繋いで置いてほしい』

「ありがと」

 

 戦場の全体的な様子を随時私に伝えてくれている電伝虫の先にはシャボンディ諸島でリアルタイム視聴をしてくれる元月組ノーランさん。彼のおかげで電伝虫の撮影ポイントと戦場の流れ、私が把握出来ないところ、私の存在の確認をしてくれている。とても助かってる。正気だと絶対買わない位くそ高い(潜入必須物だから必要経費で落とした)盗聴防止の装置もつけているから大丈夫だろう。

 

「くま!」

「くまさん」

「リィンにイワンコフ」

 

 一応くまさんは海軍側だから表面上だけでも敵対を保たなければならないから、イワンコフさんに攻撃を仕掛けた。簡単に殴るだけなので手を抜いてるのがわかりやすい。

 

「……くまさん、手ぞ抜きすぎでは」

「元七武海であるクロコダイルと団欒しておきながら今更繕っても意味無いだろう」

「そうですけどね。七武海は特例措置ですよ実際。世の中の例外」

「一体どういうことッチャブル!?」

 

 はぁん? とわけの分かってないイワンコフさんのキレ気味の心からの叫び。

 

 あぁそっか。

 

「くまさんが革命軍のスパイは私ご存知ですぞ?」

「むしろ大分バレてる」

「くぅまぁ!!???」

 

 七武海というポジションで海軍と政府を調べていると言うかスパイしてる事自体は七武海と私はもちろん、なんならセンゴクさんも知っている。いや、七武海会議に巻き込まれるタイプの人は知ってるだろうから大将格は間違いなく知ってるな。

 

「煙幕を」

「ハイハイ」

 

 更に土の煙幕を激しくして、くまさんの口の形から読み取れない様にさせる。この電伝虫の映像の先にいるのが民衆とは限らないから。政府だって有り得るんだ。

 だってくまさんはもうすぐ…──

 

「俺からの遺言だ」

「はァ゛!?何を言ってブルのよヴァナタ!」

 

 がしりといがみ合うポーズを保ったままくまさんがなんでもない顔をしてイワンコフさんに告げた。

 

「あとはよろしく頼む。俺が回していた情報の後任は青い鳥(ブルーバード)とサボの連携で補うから安心しろ」

「いい加減におっシブル! ヴァターシにも分かる様にきちんと説明を……!」

「いいか、俺の姿を模した"何か"が現れても手心を決して加えるな。リィンもだ」

「らじゃ」

 

 海兵の敬礼を送ると状況がまだ把握出来ずに混乱しているイワンコフさんが私とくまさんを交互に見た。

 

「──もう二度と会うことはない……。さらばだ」

「くま…!」

「リィン、お前だけでも逃げろ」

 

 くまさんの攻撃が私に向く。

 何度撫でられたか分からない肉球のついた大きな手が私の体に触れ────弾き飛ばされた。

 

 

 

 

 

 

 私は海軍本部の部屋に佇んでいた。

 くまさんの能力で戦場から本部に飛ばされて、うーん、ここは女狐の部下が使ってる部屋かな。赤いスカーフが無造作に置かれてるし書類のジャンルも見覚えがある。

 

 逃げろ、って言葉は表面上だけらしい。

 

 

「海兵になれ、って事かな」

 

 

 つまり逃げるな、って事だね。

 くまさんの目的は分からないけど、ルフィの援護より海軍大将として場に現れた方が良いと考えたんだろう。

 

 ふぅ! 瞬間移動楽だねぇ!

 島の内部なら時間もかかんないし閉ざされた空間でさえ凌駕する。

 

 

 ……。

 

 

 くまさんは、政府で行われているDr.ベガパンクを中心とした人間兵器の開発の実験体として志願していた。

 この話は七武海と将校は知っている事だ。

 

 最初は手、その後足。意識はそのままに、それこそフランキーさんみたいに改造されていた。

 

 私がその事を知ったのはモリア騒動のその後。

 麦わらの一味の完全崩壊にくまさんの手を借りたいとセンゴクさんに打診した時、知らされた。

 

 残された時間はもう少なかった。

 だから、だからこそくまさんは麦わらの一味完全崩壊に手を貸してくれた。

 

 人格が無くなるならどんなぶっ飛んだ罪でも被ろう、と。

 

 麦わらの一味完全崩壊はいつか再結成されると決められている。それが私とセンゴクさんの間で交わした取り引き。『傀儡:2代目海賊王』を成すために。

 崩壊させたと謳っておきながらの復活はある種の責任問題になってしまう。

 

 うん!今のくまさんって最強だよね!

 人格が死ぬってわかってるからなんでもやりたい放題じゃん!素晴らしいね!

 

 いやほんと麦わらの一味完全崩壊の責任、全部押し付けれるの都合良すぎて最高!独断じゃん、くまさんの完全独断!しかも麦わらの一味が崩壊してない事に発覚する頃には多分くまさんの人格は消えてるから責められないし!

 

 なんか今の間に責任押し付けれるやつ探しておこうかな。

 もしくは言質取っとこうか、都合悪くなったら元七武海のくまが実は云々〜って感じで政府に言い訳出来る様に。

 

 え、絶対便利。

 海軍大将としてならまだ会話出来るし麦わらの一味崩壊の書類手続きって名目使えれば1日くらい引き止めれるから許可取っとこうかなぁ。

 

 

 

 

「…………死んで欲しくないのに」

 

 こぼれた。

 

 

「言ってても仕方ない、かぁ」

 

 

 いそいそと女狐の格好に着替える。

 私が海軍大将女狐で居ていいのか、センゴクさんに話をつけにいかないといけない。堕天使をインペルダウンに送り込んだ意味も。

 

 ホントに、私が裏切られていたら、その時はその時だ。そのままエースかっさらって逃げよう。

 

 うん。海兵として指示を仰ぎに、海賊としてエースを助けに。なんにせよ断頭台に行くのが1番だね。

 

 

「……!…!?」

「……………〜…!…?」

「…、…。……ー!」

 

 ガヤガヤと部屋の外で話し声が聞こえる。髪をかきあげて結び、仮面を着けてフードを被る。これでいつもの女狐だ。ただ正式な姿は必要だから普段の姿プラスで将校マントを肩にかけ、正義を背負う。

 

 旧女狐でも真女狐でもどっちでもいける反応を心掛けよう。相手に渡す情報は少なめに。

 

「……とにかく!ここでいいなら話っ…──」

 

 扉を開けて入り込んできたナインが私の姿を確認した瞬間1歩下がって爆速で扉を閉めた。

 

 おい。

 

「ナイン?なんで閉めた?」

「……なんか、いた。居てはいけないものがいた」

「は?」

「でも絶対殴らなければならない相手だった」

「どういうこ…──もしかして!」

 

 揉めた声が聞こえたから私は少し呆れかえり適当な椅子に腰掛け、足を組む。

 

「タイショー!?」

 

 勢い良く扉を開けて入ってきたのはレモン。

 その後ろに続くのはナインはもちろんベンサムとかの元BWと見覚えのあるMr.1などの幹部…。

 

 は?幹部?

 

 ナンデココニイテハイケナイモノガイタ?

 

「…………はぁあぁあぁあぁぁぁ」

 

「うわっ、ふっかいため息……。きゃ、きゃはは、タイショー久しぶりね。任務どうだっ、た?」

「レモン、冷や汗止まってない」

「いやだって雰囲気から感じ取れる『部外者ならまだしも何敵を招き入れてんだコラ』って殺気が」

 

 よくわかってるじゃんレモン。

 私はもう一度ため息を吐いて地面を踏んだ。

 

 こ こ に 土 下 座 。

 

「「……」」

 

 あんまり喋りたくないんだよ、設定どこからどこまでどうするかわかってないから。

 

 まだ元BW組だけなら救いはあった。それなら素を出して指示を出来た。──だが、部外者であるBW本隊に情報漏らす訳にはいかない。そこが繋がってんのはサー・クロコダイルだ。頭脳派海賊を舐める訳にはいかない。

 

 ボム、レモン、ナイン、ツキの初期メンバーが素直に正座した。

 

 どういう行動を起こせばいいのかたじたじしているクロさんの部下。そして自分は関係ないという顔をしたパレットと、他より情報がある分下手に動けないベンサム。

 

「ええっと……ミス、み、えっと」

「大丈夫Mr.3。私が元ミス・ゴールデンウィークだって事は女狐も知ってる。私とMr.2は罪に対する償いとしてここにいるもの。多分そこの4人も同じ」

 

 パレットが3の人の不安定な呼び掛けにはっきり答えた。うん、合格。このミス・ゴールデンウィークって存在は関わりもなかったから全然人となり知らなかったんだよね。

 頭も回るし一応口も回る。矛盾点のない必要最低限の情報開示だ。

 

 パレットの評価をやや上向きに修正して正座4人組を睨みつける。ビクゥ!と肩を跳ね上げて視線を逸らされた。

 

「大体、大将が俺たち全員BW出身って情報共有してなかったのがグダグダになった原因だし……」

「あ゛?」

「なんでもないです」

 

 私はそのボム相手に向けて、仕方ないという雰囲気を纏いながら近くに来いというジェスチャーをする。素直に近寄ってきたボムの耳に口を近付け。

 

 大きく息を吸い込んだ。

 

「元いた場所に返して来いッ!!!!!!!」

「い゛ッ!あ、耳死ッ」

 

 低い声だが思いっきり叫んだので耳にダメージを被ったのだろう。耳というか頭を押さえながら呻いていた。お前が元BW組の一応責任者兼代表だ。今決めた。私の肺活量舐めるなよ。

 

「くっそ、今奴らに情報を渡すつもりは微塵もねェってのに……」

 

 普段のリィンなら決してやらない様な口調と考え方と仕草をあえてBWに埋め込む。男にしては少し高めの声。女にしては少し低めの声。中性的な声を出せれば口調で性別を固定化出来る。

 私はフェヒ爺の口調を意識してもう一度ため息を吐いた。

 

「女狐は元々ベラベラ喋るキャラじゃねーんだよ……あぁ俺の計画が……しかもあの砂小僧……」

「た、たいしょーさーん?」

「何も見なかった。以上。仏のとこ行く」

 

 クソめんどくせぇと言わんばかりの雰囲気に元BW組はたじたじになる。ほんとに中身が知ってる人物なのか疑ってるという具合か。

 

 うん、絶対『リィン』がしない雰囲気出してるもんね。

 そりゃ対応が遅れるはずだ。

 

 ただベンサムだけは微妙に事情をわかっているだけあって苦笑いを浮かべていた。

 

「待って、あなたが、女狐?」

「あ゛?」

 

 ガラ悪く、とても悪く、他人の神経逆撫でする感じで固定。ただし情報は渡すな。めちゃくちゃ警戒しろ。

 

「足りない頭で考えろガキ」

 

 リィンと正反対のキャラを。もうここで真女狐作るしかなくなってきたぞ。

 女狐は男で、それで口が悪くて、子供じゃない。大まかそんなところだろう。よし。

 

 ただし正反対にしたからこそ訝しげな視線を向けてくる元BW組がいる訳ですが!もーー!予想外の事態に弱いのなお前ら!私の演技に振り落とされないでよ!なんでもない顔をしててくださいお願いだから!

 

「はぁ……。そこの4人、覚悟しろ。パレット、ベンサム。そいつら始末しろ」

 

 『始末』という言葉にBW本隊はピリッと警戒心を高め敵対の意志を強くした。

 殺意まで飛んでくるから肌がビリビリする。

 

「……始末の方法は?」

「任せる」

 

 パレットが冷静に聞いて来たので間髪入れずに脊髄反射で答える。

 やっぱりよくやるなぁ。これは言質取りに来たな。

 

「はいはいはぁい、あんた達外行くわよーう!」

「おいMr.2!」

 

 UターンしてBW本隊を外に置いやるベンサムとそれに続くパレット。

 

 多分パレットは『始末』の具体的な方法を指導されなかった、って言い訳で逃がすに留めると思うんだよね。彼女はまだ海軍に取り込めてないから。元パートナーに情があるんだろう。

 視線が他の5人と少し違う。

 

 始末とは口封じと取れる。むしろそうとしか取れない。

 

()()()()()よ」

 

 私がそう言えば、パレットは振り返って目を見開いていた。

 

 

 黙秘をしろ、それは情報を渡すなということ。不利益になるから敵に渡すな、と。

 つまり『生かしている事』が前提条件だ。

 

「うん!」

 

 今度はとんでもなく嬉しそうに返事をしてグイグイ背中を押し始めた。あぁ、そのMr.3って蝋人間、転ぶよ。

 

 さて、と。

 どうしようかな。

 

「た、大将ごめん……?え、ほんとに大将……?」

 

 ナインが困惑気味に口を開いた。

 

「40点」

「へ?」

「決定的な情報を渡さなかったこと、途中で邪魔しなかったこと、疑惑を少なくとも敵の前で言わなかったこと、BW相手に武器を構えていたこと、それで合計40点」

 

 これはあのBW本隊と交流がなかったからこそ、だろう。ベンサムとパレットは警戒を解いていた様だけど、相手の死角に入っている手にはそれぞれ武器が握られていたり、すぐ動けるようにしていた。

 

「ただ、私にもバレる程度の警戒を見せた、相手にもバレてる事確定。それと動揺激しすぎる。私の演技に振り回されるな」

 

 そこまで言って4人は息を思いっきり吐いた。

 

「んな無茶なぁ〜……」

「はぁぁぁぁ緊張したァ、よかったタイショーだったァ」

「警戒解かなくてよかった……」

「あ、あぁうん、良かったのかねコレ。大将の不利益になってない?」

「それに関しては後で推理するから今はどうも言えない。ここでクロコダイルの部下って人種と会えたこと自体を利益にしてみせる」

 

「「「「大将不思議語は!?」」」」

 

 ……今ツッコミするところはそこなのか。

 

「潜入にそんな特徴的な欠点作るわけないでしょ。不思議語は感覚的に言うと方言」

 

 まぁ、人物名は危ういけど!

 

「ところであのBWなんでここに呼んだ?」

「戦場で全員BW出身って知ってとりあえず誰にも邪魔されずに話をしようと」

「──それ、建前だよね?」

「…………きゃはっ」

 

 レモンが誤魔化す様に冷や汗流しながら笑った。

 

 

 教育的指導入れるしかないな。元BW組の中で1番パレットが有力みたいだけど、信用って意味ではこの4人の方があるし。それ以上に心友と盲目させた義理人情厚いベンサムの方が高いけど。

 

 ポーカーフェイスと対応力が1番か。

 戦闘能力自体は知らないから実力テストを並行して行うにしろ、私ちゃんとした教育受けたこともなければ指導したこともないんだよね!……海兵として根本的に色々おかしい。

 

「嫌な予感がする」

「同意」

「女は度胸女は度胸」

「男は愛嬌?」

「よっ、プリンセス!」

「女王様とお呼び!」

 

「さて、では命乞いからどうぞ」

 

「「「「ごめんなさい!」」」」

 

 部下は上司に似てくるんだろうか。仲間内でのノリとテンションに差はあれどぶっ飛び具合は元上司クロコダイル氏にそっくりだとただひたすら思った。BW組は七武海と同類。




リィンは極々自然にブーメランを無自覚でかますのでツッコミは皆様のおてもとのハリセンで。


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第226話 給料の大半は胃薬に消える

 

 

「あ、麦わら」

「んー?」

 

 荒れる声、飛び交う怒号、地を蹴り風を切り拳を振い魂を震わせる。本能とも呼べる深い闘志が表に出、血を流す激しい戦闘の最中。まるで偶然知り合いとすれ違った様な声色で声をかけられたルフィは、シキと共闘しながらそっちを見た。

 

「知り合いか、麦わら坊主」

「やー、見覚えないな」

 

 ばたばたとなぎ倒されていく将校の隙間からヒョロい極一般的な海兵の姿があった。少なくとも将校服を着てないことから、いや、それ以前に行動や気配の張り巡らせ方で弱っちいのは目に見えてわかる。と言うかなぜ海兵に声をかけられたんだ。……シキは至極当たり前の理解不可能な謎に直面した。

 

「俺ちゃん、月組」

「月組かー!」

「そー。俺ちゃん直接麦わらの一味と対峙したことないけど、又聞きはしてるから大体把握してるぜ〜」

 

 ヘラヘラとフレンドリーに話す海兵と、月組と聞いて警戒心を緩める麦わらにシキはちょっと混乱する。嘘だかなり混乱した。

 

 お前らはロジャーとガープか、と。

 

 そういえば麦わらのフルネームはモンキー・D・ルフィで、そういえばモンキーの名前って聞き覚えあったな、そういえばアイツは……と嫌な予測が連鎖的に立てられ精神が死んだ。リィンとの約束通り『誰も殺さない』というすこぶる気を使う戦い方をしているので疲れている。律儀に守っている自分が偉い。

 

「月組は俺と話してていいのか?」

「戦闘不参加の許可は取ってるぜ。俺ちゃん達物資補給で飛び回ってるから戦闘に体力割く余裕はねェの。ヨワヨワだしな」

「ヨワヨワだな」

「だろー?」

 

「ん゛んッ」

 

 男の無法っぷりを注意する様な咳払いに、月組は思わず苦笑いをうかべた。

 この男、優等生揃いの月組の中で最も態度の悪いタイプだった。なんせリィンの写真を売り捌く際の窓口。多少の脅しや格上の相手に耐えるメンタルを持っていなければやっていけなかったから。

 

 その分1番顔が広いのだが。

 当然の様に己の好み(せいへき)を把握されている同志は注意しにくかった。だって弱点と弱みを握られていると同じだから。

 

「麦わら、千両道化……って言っても分かんねェか。バギー何処にいるか知らねぇ?」

「バギー?見てないけど、なんで?」

 

 なんで敢えてそれ?と言う意味で聞いた。

 通り名ではなく名前で目的の人物を聞いたところからルフィの性格は共有されていると分かるのだがそれに気付くほど細かな性格はしてない。

 

 月組は月組でひとつなのだ。

 

「俺ちゃん達、ローグタウンでバギー捕縛を1回ミスしてんの。ま、捕縛し直したけどな」

「ふぅん」

「月組の前にまぁた現れたんだ。ぜってー、とっ捕まえる」

「戦闘しないんじゃなかったのか?」

「戦わなくても勝てる方法なんざいくらでもあるんだよ」

 

 じゃあなー、と友達に向けて言うようにその場を離れる月組を見てシキはルフィに声をかけた。

 

「月組ってなんだ?」

「リィンの友達!」

「……海賊(ただ)の友達が上司の攻撃を一旦躊躇わさせれるわけねぇだろどうなってんだ」

「さー?」

 

 それは現在対峙している海兵の3分の1がリィンファンクラブのメンバーであり、さらに3分の1が女狐の表の顔の交友関係を知っているからであり、それが中将に多いから何も知らない海兵も躊躇っただけである。

 

 恐るべきが狐の威を借りた仔犬なのか、虎の威を借りた狐なのか。海賊にはみじんも分からないくっっっだらねぇ問題だった。

 

 

 

 ==========

 

 

 

『リィンちゃん、一の電伝虫と三の電伝虫が途切れた。原因はどちらも中将の範囲攻撃の巻き添えだね』

「把握、あ、ここからは女狐でお願い」

『了解。どういたしまして』

 

 ぶつりと私の電伝虫が切れる。マントの中で電伝虫の口元にコードのついたマスクをつけ、コードの先のイヤホンを耳につけた。流石に堂々と電伝虫を出す訳にはいかないから……。

 

 電伝虫を使っているということは他の、例をあげるならBW組や本部に居る月組や青い鳥(ブルーバード)からの連絡が出来ないという事なんだけど。何を置いてもシャボンディ諸島で全体を見てくれるノーランさんの電伝虫を優先したかった。

 

──ぷるぷるぷる…

 

 電伝虫の鳴く音。私はコツリと意識を変えて足を進ませた。

 

『こちらノーラン、女狐大将ですね』

「…………あァ」

『報告します。IV地区で月組数名と千両道化交戦確認』

「変化があれば報告」

『はい!』

 

 堕天使リィンとのやり取りから大将女狐とのやり取りに変化した。これはノーランさん側での警戒と、私の電伝虫を聴かれた場合ボロが出るからという理由で。

 

 ……別に打ち合わせはしてないんだ。これがまた。

 月組って怖いなぁ。元BW組の対応力が普通であって、月組の適応力対応力が私に合わせすぎて異様なだけなんだよね、10年って怖い。

 

 聞いて欲しくないところは聞かない様にしてくれるから守秘義務守りやすいしホント凄いと思う。素直に。私に同じことをやれと言われても絶対出来ない。

 

 

 カツンカツンと足音を鳴らしながら断頭台へと向かう。

 心臓が動き過ぎて、脳みそが沸騰しそうだ。

 

 

「ふぅ……」

 

 警護の海兵は私に気付き敬礼を送る。

 視線だけ向けて特に反応することも無く階段を登った。

 

 カツンカツンと響く。

 

 断頭台には処刑執行人が2人、そしてエースの傍にセンゴクさんがいた。階段を上がる度に空気がピリピリと震える。

 

「あ」

 

 センゴクさんと仮面越しに確かに目が合っ──

 

「何故来た女狐ッ!」

 

 気付いたら階段の中腹でセンゴクさんに胸ぐらを掴まれていた。

 いつの間に移動したんだろう、とか。思ったより苦しくないな、とか。

 

「……ッ、分かってる、あの騒ぎに便乗しなければならなかったことは…! だが、なぜ大人しくしてくれなかった……!」

 

 周囲に聞こえない様な音量。それでも苦しげに吐き連ねる言葉に私はどうでも良くなった。

 よかった。私は捨てられたんじゃなかった。

 

 信じきれなくてごめんなさい。

 

「お前を、守れないじゃないか……!」

 

 グッ、と胸ぐらを掴む手に力が込められる。

 心配してくれていたんだ。エースの処刑を邪魔されたくなかったんじゃなかった。

 

 それがなにより嬉しいか。

 それがどれだけ嬉しいか。

 

 思っていた以上にメンタルがボロボロなのかもしれない。

 

「……親が、センゴクさんなら良かったのに」

 

 吐血するように本音がゴポリと口から溢れて出てきた。

 

「カナエは」

「死にました」

「………………そうか」

 

 安心した表情で溜め込んだ淀みを吐き出すようにセンゴクさんが呟いた。私の呟きに関しては触れてくれないらしい、ぶっちゃけ助かる。まだ自分の感情を理解しきれてない。

 不信感だらけのセンゴクさんに対する感情、それを上回るキテレツ戦神とその最期。神様、私なにかしましたか。私はまだ歩く起爆剤になってないよ。

 

「話は後だな。報告を」

「報告、堕天使は暴君に飛ばされ行方不明だ」

「なるほどな」

 

 通常の会話の音量で断頭台に登る。

 1発触発だった雰囲気が四散したのでハラハラしていた周囲がほっと一息着いていた。うん、ごめんね。

 

「女狐、お前がロジャー世代を知っている事はバレるなよ」

 

 =真女狐はロジャー世代を知っている設定(※ただしロジャー世代とは言わない)

 

「(おけまる把握した)へーへー」

「仮面を被れ」

「…………了解」

 

 調子を整える為にも真女狐として会話をする。もしかしたらエースに聞こえたのかもしれない。振り返り私の姿を見てギョッとしていた。

 

 元々あった概念と、咄嗟に作られた設定をあわせる。

 

 今の女狐の中身は真女狐だ。

 真女狐の素は『男口調で周囲を子供扱いして柄の悪い他人の神経を逆撫でする男』だ。細かな追加設定はたった今決まったロジャー世代を知っていること。

 元々決まっていた事から考えるに、この女狐は『リィンを影武者として利用した、シキや白ひげ達の全盛期を知っているが、ロックス世代を知らない、リィンと正反対の最低野郎。それがリィンの作り重ねた女狐を真似している』って事だね。なんだこれ碌でもないな。

 もっと細かい人物像は後で詰めよう。リィンと全く違う人物像だからボロが出ないように作り込まなきゃ。

 

 実はちょっと楽しくなってきている。

 世界を、全ての海賊を騙す私とセンゴクさんの女狐。

 

 センゴクさんに切られたわけじゃなかった、それがわかった途端これだ。頭の回転が全然違ってくる。

 

「リ……めぎ、つ……」

「…………。」

 

 エースの動揺した声色に笑いを堪えながら私は断頭台で見下ろす。

 

「……へぇ、似てんな」

 

 意味深にそう呟けばエースは『中身がリィンじゃない』と確信してこれでもかと言うほど目を見開いた。リィン≠女狐の印象植え付け完了だ。

 

「女狐」

「あー、悪ィ」

「お前本当に頼むから一言も喋るな。シャボンディ諸島で出来たのに何故出来ない」

 

 適当な真女狐がうっかりエース関連の情報を漏らし、それを不味いと思い諌めるセンゴク元帥。の、表現。

 芸が無駄に細かすぎると我ながら思う。

 

 センゴクさんが本気で止める時はもっと声に覇気を込めているからこの情報渡しは間違いないんだろう。ただ、エースはこれから処刑されるので情報を渡しても問題ないから練習台替わりに……って事だったら『エースを生かす未来』を望んでる私にとって利となるか害となるか判断出来ないけどね。

 

 

 私はシャボンディ諸島で麦わらの一味を潰した方の女狐。鼻で戦場の有象無象を笑ってセンゴクさんの反対側に立つ。

 

「……!」

 

 ちょっと楽しそうな設定が浮かんだので適当な紙と量産品のペンを取り出してガリガリ文字を書く。

 喋るな、と言われた女狐はそのメッセージを折り畳んでセンゴクさんに渡した。

 

 訝しげに見られる。

 受け取ったメッセージを読んだセンゴクさんはものすっっっごい嫌そうな顔で読んだ後、そのメモを返して来た。

 

 書いたメッセージはこう。

 

『クザンさんみたいな人を誘うタイプの中身プレイボーイ設定とか男の印象付けやすいしリィンと真逆でいいと思うんだけど、使えたら使ってもいい?』

 

 私は証拠隠滅のためにその紙を燃やす。

 鼻歌を歌いたい気分だ。

 

 どうせ真女狐の中身も仮面を脱いで外に出る。でも骨格や顔つきはごまかせないから、『男』だという事をさりげなくアピールしなければならない。

 私の中で男だと意識(恋愛的な意味ではなく)できるのはクザンさん特有の『今夜どう?』発言。女めっちゃ食ってそうな非童貞感。あれは使える。

 

 

 そ! こ! で! だ!

 

 私が考えているのはクザンさんみたいに対女性オンリーじゃなくて対男性!または両刀使い!

 

 ……なんせネタが沢山あるから。ありがとうビビ様。貴女に押し付けられている貴女の趣味は今まさに私の役に立ちます。あれ、おかしいな、胃が痛くなってきたぞ。

 

 

「……まぁ、いいだろう」

「よっし!」

 

 思わずガッツポーズ。今急いで決めなくてもいいんだけどいつどこでどう来るか分からないから大まかな所を決めておきたかった。

 こういう誤魔化せる言動ができると決まっていたら、何も決定してない『今』なら問題を先送りに出来る。

 

 例えばなんだけど、『お前女なのか?』って聞かれて『そんなに女に見えるかよ。てめぇの身体で確かめてみるか?ネコちゃん』っていえば逃げられる。完全に逃げられる。ペンは剣より強しだよ。男も女もいけるタチって最強じゃん。

 

 あぁ、やだなぁ、ビビ様に脳内汚染されてる。

 

 『俺』の人生はどんな感じなんだろうなぁ。ゲームでキャラクターシート作ってる気持ちでいっぱい。ワクワクする。どんどん設定が生えてくる。

 

「あ、報告。革命軍の乱入の可能性あり」

「何故それを今言った! この戦争終わったら絶対お前の金で胃薬を買えよ!」

 

 エースを生かすためには、センゴクさんを裏切らなければならないけど、ここまで近付けたんだ。でも近距離なら表立って裏切らなくてもどうとでもなる。大丈夫だ、これならいける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 浮かれた私を世界は嘲笑った。

 

 

 

 




女狐は『男も女も食える年齢不詳の人の神経逆撫でするのが趣味な口の悪い野郎』ってことになってます。本当はもっと色々経歴とかの設定もあるんですけど時間軸的に出せないのでそういう男の真似をリィンがしてるよ、って曖昧な捉え方でOKです。
なんせこの設定、後々グルンと変わるので。いや大まか変わらないけどとんでもない設定がくっつくから戦時中の今は冷静に設定を練れない(センゴクが)のです。

頂上戦争、6月で終わらせます。恐らく。


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第227話 表情筋頑張ってるで賞

 

 ──女狐が現れた。

 

 それと同時に白ひげが戦場に降り立つ。

 

 気付かれない様に陣を左右に展開するセンゴクと、それに気付き追う白ひげ海賊団。

 

 開戦から約1時間半。

 刻一刻と迫る処刑の時間を前に繰り広げられる戦争。

 

 インペルダウンからの大脱獄劇、戦場になだれ込むその名だたる凶悪な囚人達。目の前に映し出される光景はこの世の物とは言えず、世界の歴史を塗り替える頂上決戦。

 

 揺れ動く未来を掴み取る為に、両者は拳を大きく振り上げた。

 

 大気にヒビが入る。

 振動が処刑台まで届き、そしてそれは届くことなく逸れた。

 

 その原因は拳を振り下ろした女狐。

 先程から動向を観察していた。

 

「(声は聞こえないが、エースの反応から見て、やっぱ女狐はリィンじゃねェな……。俺の振動をどうやってたった1人で消し去った……? 相当な力技か、相当なテクニックがねェと出来ないが)」

 

 大した動揺も無く現状を分析をする。

 観察して分かったが、成程、中々に擬態が上手いらしい。白ひげの一撃をいなせる実力があるくせに強者特有の気配の強さや威圧感が圧倒的に薄い。

 ぴーこら騒ぐ小娘の方がまだ存在感がある。

 

「(──あれは本当に〝幻〟とすら言える)」

 

 予知夢に居なかったもう1人の大将。

 それは夢を見た当事者であるリィンの役職だからと思っていたが、やはり気になる。

 

 女狐はリィンではない。

 というより海軍はリィンを味方と見ちゃいない。

 

 それは『麦わらの一味完全崩壊に女狐が居合わせている』『リィンがインペルダウンにいた』『マルコの見解によるリィンの空元気』から確定している。むしろそれ以外ありえない。

 

 だからこそ、こちら側に引き込めるかと探しているリィンの姿が見えないことが何よりも"おかしい"のだ。カナエの娘は馬鹿じゃない。脳みそが使える人間だ。何も行動を起こさないわけがない。

 

「くそ…ッ、何より俺が引き摺られてどうする」

 

 頭を支配する女狐の存在にたらりと冷や汗が流れ落ちる。ため息をひとつ吐き出して思考回路から女狐やリィンの存在を追い出した。

 

 ──だがそれを除いても、やはりおかしい。この戦争は何かがおかしい。

 

 海軍は現状押されている。

 だが現状を打破する策はある筈だ。

 

 白ひげは予知で『パシフィスタ』と『包囲壁』という苦虫を噛み潰す様な知識がある。だが、現れない。使われない。

 

 海兵が左右に逸れているのは背後から来るパシフィスタで挟むからか、と思ったのだが待てど暮らせど一向に来ないのだ。

 

 大将共の様子から見てエース処刑後撤退戦で仕掛けるというのは分かっている。だが、そうくると包囲壁を作動しない意味が分からない。

 

 有象無象の海兵は左右。中将達は真ん中。

 差は均等に見えて、本当に微々たるものだが真ん中が1番薄い。

 

 白ひげ海賊団とエースの断頭台を結ぶ最短距離が最も……。

 

 まるで『さぁどうぞエースをかっさらってください』と言いたげなお膳立てだ。どう考えても罠だろう。ここで素直に『ありがとうございます』と通る訳にはいかないが、そこを選択せざるを得ない状況に追い込まれるきがしている。

 

 世界最大の()()、海軍。組織というのは人が多い、それだけで厄介だ。木を隠すなら森の中。喉元に突き付けられる刃を有象無象で隠し通せる。

 

 あぁ嫌だ、これだから極力海軍と拳を交えたくなかったのだ。

 

「親父!シキから(ダイアル)だ!」

「……」

「めちゃくちゃ嫌そうだな!」

 

 イゾウが手にしたメッセージ。なんで脱獄したばっかのテメェがそんなの持ってんだよと白ひげは心底嫌な顔をして受け取り、耳に当て再生する。

 

『エドワード! 女狐に手を出すんじゃねェよ! アイツは俺の獲も…──何言ってんだシキ! 女狐は俺の敵だ! …──あァ!? てんっめぇクソジャリ! 俺の背に乗っときながら何ふざけたこと…──って訳だ白ひげのおっさん! エース助けてぇのは一緒だけどそこだけはよろしく頼』

 

 握り潰した。

 

「……。」

「──ふざけんじゃねぇぞこのアホンダラ共!」

 

 掴んだ大気を白ひげが背負い投げの動きで地面にたたきつければ、世界が傾く。

 海も、島も、丸ごとグラグラと傾いていた。

 

 無茶苦茶に揺れる波の動きが津波となって襲いかかる。大きな揺れの大きな範囲。

 

 世界最強の男、天変地異が動いた。

 

 

 ==========

 

 

 振動が収まった中でドッドッドッドッドッドッと早足で駆け抜ける心臓に鼓膜を支配される。

 冷や汗が止まらない。

 

「……!」

 

 ひぇっ、とかあなたホントに病人?とかそんな感じの声が出そうな所を寸前で飲み込めた。

 

 え、これで全盛期じゃないとか嘘ですよね。

 いや嘘だと言ってください。全盛期なのも嫌だけど。

 

 天と地がひっくり返ったかと思った。あ、これ酔うなと思った瞬間浮かんだ私ナイスチョイス。天才、ありがとう。だが白ひげテメーはダメだお前は天才というより果てなき天災。

 

 というか、私よく白ひげさんの一撃抑え込めたね。

 わかってるよ、抑えたんじゃなくて逸らしただけだってのは。

 

 

 ……実を言うと、私振動って得意なんだよ。

 得意なのに抑えられないのかって言われると全く持ってその通りなんだけど。

 

 青い鳥(ブルーバード)のシーナが多分白ひげさんの能力の下位互換だと私は思ってる。なんせアイツは動きによる空気、声の振動、周波数を支配する。無効化する。

 

 対して私は想像力と集中力さえあればある程度の能力を再現出来る。ただ、肉体を変化させることは出来ないから周辺で起こす事象に関して限定。

 

 だから身近に存在する能力者(シーナ)の使う振動関連の能力は自然と意識しやすくって得意。

 

 ま、得意なのは物質の浮遊、これが1番得意だ。風だと偽っているけど、根本にあるのは慣れ。

 

 

 地面の陥没、水の発生、火種の発生、風の操作。

 魔法と言えば、と問えば基本的に挙げられそうな4元素。本当はそこまで得意じゃない。そりゃまあ身近にそれ関連の能力使える人がいるけど、なぜなら理解できるから。

 

 どうして陥没が起こるのか、どういう原理で水が生まれるのか、火が発生するのか、風が存在するのか。考えないと使えない。慣れたとしても理解してるからこそ、起こす現象は常識の範囲を抜け出せない。

 

 

 

 だから『私自身がよく分からない想像の世界』なら、それは深く考えなくても『そういうものだ!』と強く認識して簡単に使いやすい。だって考えても悪魔の実の原理は分からいんだから! イッツファンタジー!

 

 

「…………。」

 

 だからといってもう1回やれって言われても出来る気がしないんだけどね。

 

 完全相殺はもちろんだけど逸らすことすらもう出来ない気がする絶対やりたくない。何よりプレッシャーがやばい。やらなきゃ死ぬというプレッシャー。

 

 悪魔の実大百科の暗記と悪魔の実研究家の論文に目を回した私が思うんだけど、グラグラの実の能力者自体はそんなにすごいものじゃないでしょ。私が白ひげさんと同じ実を食べたとしても彼の使い方は出来ない。震度3が起こせるか否か辺りだろうし、出来たとしても衝撃の相殺。攻撃に転じさせるなんて絶対無理。あと大気を簡単に掴むな。あれは筋力のなせる技だ。

 その筋肉に何が詰まってるの??? ひじき???

 

 

 私の目の前にはナイフが迫っていた。

 

「は!?」

 

 見極めて体術を用い、海楼石のナックルで叩き落とす。

 奇跡だった。なんか考え事してたら突然のナイフにびっくりし過ぎて心臓止まるかと思った。

 

 再び激しい心臓の鼓動。

 心臓今日忙しいね。ごめん。

 

『──大将、そっちに金獅子が!』

 

 耳から入る情報に舌打ちをした。あぁ来ちゃった! 気付かれたく無かったのに! なんで女狐が現れたこと気付いちゃうのシキ! センゴクさんじゃなくて私に喧嘩売るとか絶対根に持ってる……!

 やめて! 中身そんなに動けないの! ──ほんとにやめろ。

 

「ははッ、やり合おうぜ女狐!」

「……………ガキ」

 

 ふわりと一気に浮遊して現れたシキのめちゃくちゃ凶悪な笑顔に引き攣り笑いしか浮かばない。

 

「どうとでも言え! ──しっかり届けよ、麦わら!」

「は、うわああああ!!??」

 

 背中に乗っていたルフィを掴んだシキはそのまま断頭台にぶん投げた。ってはあああ!? お前何やらかしてくれてんの人様の兄に!

 

「チッ、速攻でケリつける」

 

 空中に1歩足を踏み出す。

 正しくは浮遊のイメージを歩行に合わせてるだけなんだけど女狐の格好で女狐の靴だと空中歩行のイメージがしやすい。イメージさえ出来れば、制空権は同等!

 

 フワッ、とルフィを避「ドベッ!」けて周囲をフワフワさせている刀やら何やらを避けながら、空中戦の開幕だ。

 

 無理ゲー過ぎて泣きそう。いやいや大丈夫、シキはまだ私に対して油断してくれているから大丈夫。私を年下だと思っているし、私の戦闘スタイルの特定もまだ。大丈夫。

 

 下は見るな下は見るな下は見るな下は見るな。

 大丈夫だ私は高い所が大好き。(自己暗示)

 

「ハッ、俺に惚れたかクソ野郎!」

「メルヴィユでは世話になったなッ!」

 

 飛んできた刀を間一髪で避ける。髪の毛あったら切られてたわ、これ。

 袖からナイフを数本取りだし、ぶん投げる。不思議色の覇気が備わったナイフはシキの操作スピードと遜色無い。

 

 くっそー! それでも遜色無い程度とか泣きそう! イメージの問題か! それとも技術か、集中か!

 

 一体いつ触れて能力の範囲内に納めたのやら。

 シキと私の間に海水の塊が浮遊した。私じゃない。海水操るのは私の十八番だけど女狐じゃなくてリィンの十八番なので私じゃないです。

 

 ははっ、油断はしてるけど出惜しみはしてないってか。

 

 

 

 ……………泣いていいですか。

 

「お前死ぬまでインペルダウン篭ってろ」

「聞こえねぇな!」

「おい、その都合のいい耳引っこ抜くぞ!」

 

 他の誰よりもシキだけは野放しに出来ない。どこでどんな事を企てるかわかったもんじゃないから。

 

 フェヒ爺みたいな口調で、周囲に誰も聞かれないから空中という舞台で堂々と会話をする。

 

 大丈夫、シキは私を殺せない。そういうリィンとの約束だ。

 だけどそれを知っているってこと自体をシキに悟られては不味い。

 

 大丈夫゛ッ!(何度目かの自己暗示)

 

 うん、やっぱり長時間も相手するとか無理だし全力で速攻で素早く沈めて余裕なフリをする。

 やっぱり海楼石だな。対能力者戦法ありがとう。

 

「ジハハ、くたばれ能力者」

 

 箒に乗るみたいな速度で、ヒナさんみたいに鮮やかな捕縛方法で、ミホさんみたいに一閃を。大丈夫。

 

 襲い来る海水()()()駆け抜け。

 

「は……」

「──テメェがな」

 

 その首に、海楼石を取り付けた。

 

 シキに特定の弱点は存在しない。

 でも人間なら、虚をつかれた場合動きが鈍くなる。能力者同士だから海水が使える方が有利で、海楼石製の武器は持てない。

 

 その先入観をぶっ潰す。

 

 浮遊の力を失った海水が雨のように戦場に降り注ぎ、断頭台を中心にびしょ濡れになる。頼むよルフィ、センゴクさんが海水で動き鈍ってる僅かな間にエースを解放して!私が何も手を出さなくてもエースを救えるなら救いたい!

 

「……テメェ今、海楼石に触ってやがったな?」

 

 浮力を失ったのはシキも同じ。足に取り付けられた刃が浮かばないので、自然落下をしていたシキを引っ張り上げる。

 

 ──そしてそのままお姫様抱っこをした。世界中に放送されろ公開処刑だ。

 

「おい! 女狐! この運び方だけはやめろ!」

「女狐にも色々事情が合ってな、お前が俺の素を黙っててくれるなら自然落下させてやるよ」

「……ぐ、黙ってるからさっさと落とせ」

「じゃあな」

 

 不思議色を使って海兵しかいないところにぶっ飛ばした。

 自然落下というか、自然落下以上の速度だけどまぁ、いいか。どうせ頑丈だし。

 

 それでルフィは……。

 

 

「…………ん?」

 

 断頭台のエースの傍で固まって居た。

 センゴクさんや大将達の攻撃は他の人達が何とか防いでいる。長くは持たない、最初で最後のチャンス。

 

「──やべぇ、鍵の事、忘れてた」

 

「「「「このアホーーーーーーーッ!」」」」

 

 海賊だけじゃなく海軍からも思わずツッコミが入った。ルフィの脳内に一体何が詰まってるの? わたあめ?

 

 

 

 ==========

 

 

 

 誰も想像していなかった奇想天外な展開に思わず時が止まる戦場。

 

 そしてその瞬間、戦争は急速な変化を迎える。

 

 

──ブォン……

 

 

 島全体が円形の空間に閉じ込められた。

 

 

 海軍は海賊の能力かと警戒し、海賊は海軍の作戦がこれかと警戒する。

 

 リィンと…………ドフラミンゴ以外は。

 

「〝シャンブルズ〟」

 

 聞こえないはずだが、確かに聞こえたその声に能力を確信した。

 

「──悪いな海軍」

 

 処刑執行人が立っていた場所に現れたのは2人の男だった。1人はファー状の白黒帽子を被った隈が特徴的な人相の悪い男。もう1人はシルクハットを深く被ってニンマリと悪戯を企む笑顔を浮かべた金髪の男。

 

 後ろ手に囚われているエースと、エースを守る様に庇ったルフィは何かの違和感を掴み取って思わず硬直した。

 

 

 

 

「俺の兄弟、返してもらうな」

 

 

 

 疑問よりも先に直感で2人は理解した。わかった。

 自分達を兄弟だという男は、1人しか知らない。

 

「「──サボ!?」」

 

 その確信めいた問いに笑顔で返すと、サボはルフィとエースを引っ掴んで団子状態になる。

 そして笑顔のままルフィに指示を出した。

 

「ルフィ、トラタイガーの腕掴め」

「ゔん!」

「トラファルガー、だッ!」

 

 ローが怒り気味で修正をするもルフィのゴムの腕がローを拘束して有耶無耶になる。

 

くたばりやがれ(ごきけんよう)

「〝シャンブルズ〟」

 

 サボの売り言葉を最後に、センゴクの眼前から4人が消えた。

 入れ替わる様に前線に居た筈の海兵が現れて。

 

 カラン、と海賊を繋ぎ止めて居た海楼石がその場に落ちた。

 

 

 

 

 

 

「アッハッハッハッハッ!」

「サボぉぉおおおお!」

「しゃぼぉお!!!」

 

 大爆笑するサボと大泣きするエースとギャン泣きするルフィという心の底から厄介な兄弟に巻き込まれたローはため息を吐いた。

 

 2人のひっつき虫を付けながら走るサボはとても幸せそうだ。

 

 

 数年前故郷に里帰り兼墓参りに災厄をひっつけたのかもしれない。一皮剥けたというか殻を破った革命軍の幹部はそりゃまた人の話を聞かず、これまでも実は何度か巻き込まれている。ローは何度繰り返しているか分からない釘をサボに刺した。

 

「革命屋兄、俺が手を貸すのは今回で終わりだからな!」

「ありがとな〜トラマスク!」

「トラファルガーだと……! 何度言えばいいんだ……!」

 

 白ひげの範囲内に転がり込んだ4人は氷の上でズザザザザ、と足を止め、振り返る。

 その4人とすれ違うように戦場に駆け出した2人の人物に見覚えがあったからだ。

 

「サボ、ほんとに、サボ。サボだ。サボ生きてた」

「な゛ん゛で、おれ゛、さぼ」

 

 混乱の最中である2人の兄弟を撫でながら、己達を背に庇う伝説に目を向ける。

 

「無理矢理巻き込んだけど流石に過剰戦力だったかな……」

 

 サボはボソリと呟いて、ローは顔を顰めた。当たり前だボケ、と。

 

 

 

「オラオラオラ! 海軍! 俺の子に手ぇ出しやがったな!」

「お前の子じゃないだろ……」

 

 刀を手に二人の男が壁になる。

 正しく双璧。

 

「──俺より後ろに進む者が居りゃ、〝剣帝〟の名において潰すからな」

「良ければ〝冥王〟の名も掛けようか」

 

 剣帝カトラス・フェヒターと冥王シルバーズ・レイリーの参上だ。

 

 

『──総員下がれ! その男らも未来の有害因子だ! 幼い頃エースと共に育った義兄弟であり、麦わらのルフィは革命家ドラゴンの実の息子だ!』

 

 

 センゴクが手に入れた情報を元に拡声器で通達する。もはやそのレッテルをものともしない無法者。

 それでも世界は衝撃の事実に、悪夢を見ている気持ちになる。

 

 いや、これは現実だ。

 

『剣帝は幼い頃のエース達を育てた経験がある! 再度忠告する! 少将以下は下がれ! 足でまといだ! ……無駄死にするぞ!』

 

 シキが無力化されていることだけが救い。

 2つどころか3つの伝説を同時に相手しなければならない海軍は、予想もしなかった乱入者にギリッと歯を噛んだ。

 

「火拳のエースが海賊王の息子で……麦わらのルフィが革命家ドラゴンの息子……!?」

「こちら情報部! あの金髪の優男、革命軍の──参謀総長のサボだ! 覚えがある!」

「億超えルーキーも2人揃い踏みとかどんな義兄弟だよクソッタレ!」

 

 悪態をつきながら邪魔にならないように撤退する海兵達。

 

 その姿を見てサボがローに向いた。

 

 

 

 

「…………これトラオも兄弟になってないか?」

「俺をこいつらと一緒にしてくれるなッッ!」

 

 心からの悲痛の叫びは届かなかった。




追加の乱入者4名入りま〜す!(ニッコニッコ)
これ、ここほんと書きたかった。ほんとはエースがサカズキに胸穿たれるシーンに「間に合った…!」って割り込むIF漫画みたいな感じにしたかったけど戦闘シーン書きたくなさ過ぎてロー(表現力のチート)の手を借りちゃった。結果的に私の作品らしいエンドに持ってけるんで逃げの道思いついた私を褒めてる真っ最中です。フゥ!救出完了!

空中でポカンとした表情を保ちながら内心荒ぶるダンス踊りながらめちゃくちゃ喜んでる女狐いるけどバランス的に書けなかった。満足。


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第228話 油断大敵、火がぼうぼう

 

 遡ること数時間前。

 

「……何をしたフェヒター」

「何もしてねェよ。俺は」

 

 シャボンディ諸島でBARの壁を他界他界しながら言い争い(物理)をしていたレイリーとフェヒター。戦争に参加するべきではない、と主張していたレイリーは何故か途中で様子をコロリと変えたフェヒターに訝しげな視線を向けた。

 

「──ここにシルバーズ・レイリーは居るな!?」

「オイ!」

 

 二人の男がどかどかと入り込んできた。その後ろに何人か続いているようだが。一人の男に無理やり引き摺られて、といった様子が正しい。

 

「私だが」

「ちょうど良かった! 頼みが……」

「おう、黙ってさっさと介入させろや」

 

 焦りを滲ませる乱入者、引き摺った方の男は目を見開いた。

 

 見覚えのある顔。

 

 自分はここに()()()()()()()()()()にやって来たのだ。彼が居ることは予想してなかった。彼が、剣帝だということは知っていたのだが。

 

 

「ッッッッッはーーー!? カトラス・フェヒター!?」

 

 その叫び声にフェヒターは愉快だと爆笑する。介入を許さないなら頼られればいい。それが先人として導ける方法だ。

 

「いい! ちょうど良かったフェヒ爺! それと冥王も! 頼む! 俺とリィンの兄弟分であるエース! 助けてぇんだ! 力を貸してくれ!」

 

 あァ、そう来たか……。

 レイリーは思わず頭を抱えた。

 

 男の名前はサボ。革命軍のNo.2だった。

 

「……それで、後ろから仲間が追いかけてきているようだが。その引き摺られている海賊君は?」

「被害者だ」

「友達だ!」

「誰が友達だ革命屋兄!」

 

 肩を組まれて毒気を抜かれる笑みで言われればカッとなり反論する。トラファルガー・ロー。シャボンディ諸島に集結した大型超新星(ルーキー)の1人だ。

 

「昔リーと一緒にトラタルダーに会ってさ。それでちょっとした情報提供する仲になってたんだけど、コイツの能力便利だし船が潜水艦だから乱入にはピッタリだと思って!」

「い! や! だ! か! ら! な! ──少なくとも俺はセンゴクに目を付けられてるんだ、わざわざ面倒臭い事に巻き込まれるかよ!」

「あー、でもトラサンダーは七武海を目標にしてるんだろ?」

「トラファルガーッ!」

 

 噛み付くローに全く気にせずサボが口を開く。

 

「まぁまぁ、革命軍はお前に全面協力するから個人的な頼みくらい聞いてくれよ。入れ替えるだけでいいんだ、頼む!」

 

 あ、押されてる。

 というより会話が通じないと諦めたという方が正しいか。

 

「ところで、革命軍の」

「あ、俺の名前はサボです」

「サボ君、何故私とリィンが親子だと?」

「アラバスタで知りました。ちょっとした会話の流れだったんでたまたま」

 

 どういう流れでそうなったんだと思わなくもないが、アラバスタでは様々なことが起こったようだ。他人事、というスタンスでレイリーが納得する。

 

「副船長。ロジャー海賊団馬鹿にされてていいのか?」

 

 答えなど分かりきった笑顔でフェヒターが問いかけると、レイリーはやれやれと肩を竦めた。

 

「白ひげに恩を売るのもありだな」

 

 

 

 

「──俺の意見を聞けよお前ら!」

 

 伝説相手に文句を言えるローのメンタルは間違いなく強い。

 

 

 

 ==========

 

 

 

「女狐、女狐」

「……私の兄弟が申し訳ない」

 

 センゴクさんによる『嘘はついてないけど情報の錯乱上でありうる勘違いを意図的に起こした放送(ネタ提供:私)』で無事、ローさんを生贄に出来た私は良心の呵責というか、なんというか。

 

 まさかこうなるとは。

 

 足でまといになる海兵がドンドン引いていく。撤退戦が始まる。思わずため息を吐いた。

 

『大将、電伝虫の生き残りが1匹になった。中央、三日月湾を映す個体だけです』

 

 綺麗に展開が見える視点が残ってるのか。

 5匹くらい居て、1匹残ったのは運がいいのかどうなのか。

 

 凍り付いた湾内で元ロジャー海賊団が睨みあげる。

 

 剣士2人が殿って所か。

 

 んん、でもまさかサボがローさんと2人を引っさげてやってくるとは。サボの乱入は予想可能だけどこんなの予想出来たとしても回避出来ない。海軍絶体絶命のピンチじゃないですか。

 

 意味のわからない戦力に海賊側の士気は最高潮。脱獄囚人もそれぞれ散り散りに逃げ出そうとしている。私の部下が蜘蛛の子を散らすように逃げる海賊に向けて雲を撒き散らしながら追い掛けてるんだけど……いやあ……うんまぁ……。撤退だって言ってんだろ少将以下。海賊特攻、指示聞かないな。バーサーカーでもまだ言うこと聞く。今回の標的はアーロン海賊団らしい。道理で脱獄した魚人を見ないと思った。その雲の能力者、しつこくってしぶとくってウザイよね、ざまぁみろ(アーメン)

 

 

 

「──きかせてくれ、センゴクッ!」

 

 地の底から這い出でる様な大声がレイさんから発せられる。飛ばされて来たのは殺気だ。

 

「カナエを見てないか!」

 

 ……カナエさんを案じるレイさん。

 センゴクさんは黙って電伝虫に声を吹き込んだ。

 

 

『〝戦神〟シラヌイ・カナエはつい先刻、脱獄途中での死亡が確認された。詳細は知らん。──地獄で聞け』

 

 その言葉が合図だったのか、中将と大将が揃って海賊へ刃を向けた。息もつかせぬ様な攻防が始まる。

 

「女狐、お前も行ってこい」

「シキ単独撃破の勇者に褒美は」

「ない」

 

 ちくしょう。

 

 とっ、と空中に足を踏み出す。

 傘下の海賊や囚人達が逃げる時間稼ぎを白ひげ海賊談の幹部を筆頭に実力のある方々が作っている。

 

「〝流星火山〟!」

 

 巻き起こる天変地異。早く、早く逃げて。

 誰を犠牲にしてもいい、兄だけは逃げて。

 

 サカズキさんの起こした技はロジャー海賊団の剣士2人が剣圧で吹き飛ばす。吹き飛ばされた先は共に戦う海兵が居たりするが、流石は中将達のレベル。泥はね程度寝てても避ける。

 

 しかし火山の熱は足場になっていた氷を溶かすことになった。

 

「〝海流1本背負い〟」

 

 避け切れず足元が崩れ海水に落ちた能力者や海賊は、ジンさんの技で船まで吹き飛ばされる。

 

 その戦場に足を踏み入れたくなさすぎて辛い。いや、無理でしょ。新参者で未熟者の私が出来るわけないじゃん。参加出来るわけないじゃん。どうにかして時間稼ぎたいな……。

 

 

──ピュンッ

 

 空中で悠々と見学していると、鉤爪が私の傍で空気を裂いた。

 

「俺と遊んでよい」

 

 死を知らぬ青い炎を纏い、能力者(じかんかせぎ)があちらからやってきてくれた。

 

「……………不死鳥か」

「……なァ答えろよい。あんた中身はリィンじゃねェのか?」

 

 訝しげな表情で問いかける姿。

 それは中身を確信しているとか揺さぶりをかけるとかそういう意味ではなく、そうであってくれるなという希望的な問いかけなのが見え透いている。

 

「やだなぁマルコさん、私リィンですぞ」

 

 その望み通りコロッと声色を変えてやればマルコさんはギョッと目を見開き動揺が激しくなった。私はその姿を思いっきり蹴りつける。

 

「あグッ」

「もういっちょ……!」

 

 地上も激戦。

 上空も接戦。

 

 マルコさん相手は正直な所キツイ。海楼石を使わないと勝てる未来が見えない。

 ただ、非能力者より決定的な弱点がある能力者の方がやりようがある。下手な非能力者差し向けられるよりは1対1で相手してもらう方が有難いけど。

 

 

 私は顔面に海楼石製ナックルを付けた拳を叩き付けた。

 

 目の前の相手だけに集中できる。それって私にとって利点だ。空中戦を可能とする能力者はマルコさん位しか居ない。

 

「い゛…………」

 

 距離を離し顔面を覆うマルコさん。鼻からは血が流れている。うん、ごめんね。非力な私が狙えるのそういう弱点しかないの。特に空中戦だから。

 

「やッ……ろう」

「おー怖」

 

 いやまじで怖いんだけど何このガラ悪い人私知らない。いつもの優しいマルコさんどこ消えたの。もしかしてこれ影武者だったりしませんか。

 

「まさかとは思ったが海楼石使えるのか、能力者だろい、お前」

「は?」

 

 私はマルコさんの問いに対して腕を組んで鼻で笑った。

 

「──まさか、まだ誰も海水克服してねェのか、白ひげ海賊団ともあろう者が」

 

 私ならキレる。

 なんだコイツ(※私)、人を煽るのを生き甲斐にしてるのか腹立つな(※私)。年齢不詳もいいとこだろう(※私)。やだぁ真女狐の設定がどんどん生えてくる。

 

「あ゛ァ……?」

 

 ヒエ……地の底から這い出したゾンビの声(経験則)じゃん……。

 

 あ、真女狐の口調訛ってても良かったな。そらあきまへんわぁ、って。いやでも不思議な口調って観点からリィンと共通点生むのもなぁ。

 

──ブンッ

 

 ええはい、現実逃避です。

 

 飛行速度速すぎて引くんだけど。マルコさんってこんなに怖かったんだ。トラウマになったらどうしよう。比較的親しい人から向けられる殺気ほど恐ろしいものは無いよ。

 

 多分不死鳥の鳥はグンカンドリ。

 

「……ッ」

 

 マルコさんの顔を見るとチカッ、と脳裏に情景が浮かんだ。

 

 

『いいか、リィン。合わせろい。オーズが倒れた瞬間だ』

『……!? 正気ですか!? それより前でも大丈夫ですよね!?』

『オーズは回復力が優れてる。1回倒れたくらいじゃ死なねェの分かってるだろ。予知で。そのタイミングが1番意表を突ける』

 

 忠告すべきかいなか、これ以上海軍を不利に追いやるのは立場的に危険だ。でも私が思いつく適度ならセンゴクさんは気付いている様な気がする。

 

 エースは奪還できた。なら、海軍は負けてはならない。

 

「──拳骨ッッッ! オーズだ! 抑えろ!」

 

 使うのは海軍の英雄だ。

 白ひげ海賊団の切り札を切らせる訳にはいかない。だけどガープ中将程の実力者が白ひげ海賊団に向けられるのはちょっとまずい。戦況が変わる。

 なら変えさせなければいい。動かしてはならない者同士をぶつけあわせる。

 

「くっ、そ、やっぱ覇気使い厄介だよい……!」

 

 ぼうっ、と蒼炎が激しさを増す。

 腕を翼に変える人獣型ではなく、まさに不死鳥と言わざるを得ない獣型の格好だ。

 

 大将の攻撃でさえ、炎と共に再生する。

 あやふやな地位を保つ、自己保身第一の私が、その能力を知って、マルコさんと出会って。

 

 ──攻略法を何も考えないとでも思ったか!

 

 

「ッ!〝盾〟!」

 

 後、観察と推理だけでやってるので私見聞色持ってないです。

 

「……………防がれたか」

 

 私自身の肉体は動いてないから引っ掛かると思ったんだけど、野生の勘が優れていたのかマルコさんは自身の周囲を蒼炎で固めて防御力をあげた。

 

 マルコさんの周囲、というか空中には土煙に紛れて海水の網が張り巡らせていたんだ。

 

「海水使い、か。このまま突っ込んでりゃどうなってたことか」

「微塵切りですぞ」

 

 語尾にハートをつけるくらい甘ったるいリィンの声で過剰予想を告げるとマルコさんは親の仇でも見るような顔で私を見た。

 

 実際、海水を流動させたりして切れるように威力は加えてないから、マルコさん自身の飛行速度が影響しても皮数枚切れる位しかダメージは与えられないだろう。

 

 マルコさんの炎自体に攻撃性がないことは知ってる。不死鳥の真の恐ろしさは自身の身体能力を上昇させてしまう、その不可避のスピード。なら近寄らせなければいい。

 

「あんた、なんの能力者だよい」

「……………」

 

 そう、だな。

 真女狐は隠す必要性ないよね。

 

 戦闘技能に関する実力だが、堕天使はリィンより少し低めに見積もっている。そして女狐はリィンより過剰に表現している。

 

 存在しない悪魔の実の名前、ちゃんと、私は作り上げている。

 

 

 

「──イデア。イデイデの実を食べた、イデアそのもの」

 

 

 

 悲鳴をゴクリと飲み込んで口に笑みを浮かべる。1にハッタリ、2にハッタリ、3と4に実力だ!

 

「イデ、ア……?」

「……………かつて、ソレはイデアを見ていた。だが、ソレは汚れた。肉体という監獄に押し込められ、ソレは人となった」

 

 この世界に『イデア』という単語は存在しない。

 私は語るようにマルコさんに教えた。さァ、知らしめろ。女狐(わたし)は不変たる存在だ。

 

「世界というイデアの模像を見ることで、人という存在はイデアをおぼろげに思い出す。悪魔の実によって、イデアを掴み取る」

「……なんだよい、それ」

「人は物の外側ではなく内側を見て、かつて見たイデアを想起する時。──人は物を真に認識する事となる」

 

 マルコさんの声が若干だが震えた。

 だってそうだ、あの人の頭ならこの説明で理解出来る。

 

 物を、現象を、本当に認識する時。それは『想像力』にほかならない。

 

 

「わかりやすい言い方をしよう──『なんでもあり』だ」

 

 

 隊服をバザッと翻し、私は地上に向けて降りて行く。

 虚をつかれたマルコさんの声。

 

 サカズキさんを捕捉した。飛び降りれる高さになったので浮遊力を消し、彼の背後に降り立つ。

 

 すれ違いざまにこう呟いた。

 

「私をとめて」

 

 瞬間、私はすぐさま何かあり気な動きをする。

 

 なんかこう止めなきゃヤバそうだなって感じのハッタリ。

 地水火風を生み出し、氷がじわじわと割れ、水が浮かび上がり、火が踊り、風が吹き荒れる。見るからに何かしらヤバイやつの発動の準備だ。

 

 するとサカズキさんがハッとした様子で私の腕を掴んだ。

 

「やめんか! ソレを使えばここら一帯めちゃくちゃになるぞ!」

「……………面倒だ」

「頼むからやめろ……。部下まで殺す気か」

 

 ザワ、と周辺の将校が注意を払う。

 

 ありがとうサカズキさん……! 殺生嫌い子供大好きサカズキさんなら己の攻撃の手を緩めれる、って意図で乗ってくれると思ってた! あァ〜〜〜〜緊張した〜〜〜! マルコさん相手に時間稼ぐの本当にしんどかった〜! 元々考えた悪魔の実の名前も出せたしマルコさんが死ななければ徐々に海賊間で悪魔の実の名前が広がるだろう! 私を相手にするのが無駄な行為だと思え! 逃げ惑え! いや怖かった!

 

 

 数秒の睨み合い(ハッタリでじかんかせぎ)が続く。

 先に折れたのは当然女狐だ。

 

「……………はァ」

 

 やれやれ仕方ない、そういう態度で私を中心に吹き荒れさせていた風を止めた。

 

 すると途端にズキンと稲妻の様な頭痛が走り、目の奥がチカチカする。

 あまりの痛みに頭を抑えた。

 

「反動か」

 

 いや、まって、これ演技じゃなくてリアルに痛い。

 不思議色使い過ぎた。集中し過ぎて脳みそに糖分が足りない。

 

 こんな戦争中に甘い物口に入れられるわけないし我慢しなきゃ。

 大丈夫、万全じゃなくてもエースはもう大丈夫。伝説3つに守られてるんだ。

 

「下がっておれ女狐。いくらなんでも貴様が出るとわしら側にまで被害が来る」

 

 助かる、とても。

 言葉に甘えて数歩下がるとサカズキさんはボコッと右手をマグマに変えた。

 

「……すまんな、腕をもらうかもしれん」

「え……」

 

 どういうことか聞き返そうとした時にはもう既に小さな声では届かない場所に居た。

 

 

 ──仕掛けた…!

 

 直感的に分かった。

 この戦争の肝はここだ。

 

 サカズキさんに合わせるように2人の大将が地を蹴る。

 クザンさんがフェヒ爺とレイさんを同時に相手取り、リノさんが白ひげさんに攻撃を加えようと真正面から目が眩む様な光になった。

 

 嘘、瞬きするような微かな間に攻撃の手が5回、いや、フェイントも入れると7回分くらいか?異次元すぎて息を飲む。

 

 中将がそれぞれ、白ひげ海賊団の隊長達と1対1というかなり無謀な作戦に乗り込む。

 

 そして白ひげ海賊団の背後にレーザーによる爆発。

 ここで、来るのか、パシフィスタ……!

 

 地響きというか地獄に立っているんじゃないかと思うほどの砲撃が背後から何連も吹き荒れる。中将達の邪魔にならないように、海賊が逃げ出さないような砲弾の檻!

 

 

 誰もが注意を複数の箇所に向けてしまった。

 その一瞬の隙。

 

 地面を潜り込んだマグマがエースに肉薄していた。

 

「……エース!」

 

 大丈夫。攻撃の手は緩い。

 素人目やサカズキさんの能力に慣れてない人は普通に見えるけど、そのコンマ数秒の緩さがエースをギリギリ生かす手。

 

 手を抜いてる事は確かに分かるのに、海軍は誰も忠告しない……? いや気付かれてないだけか……?

 

 

 エースはそのマグマを避ける為に足を動かし──

 

 

 

「え…っ」

 

 サカズキさんの拳がエースの胸を焼いた。

 

『え…?』

 

 

 

 じゅっ、とこぼれ落ちる血液。

 

 周りの動きが全てゆっくりに見えて。

 

 それは予知夢と違うけど、現象として予知夢と同じ。

 

 理解が出来ないと言いたげに。

 

 

 動けたはずなのに。

 

 なんで、エースは動かなかった。

 背後に庇うものは何も無い。なのになんで、棒立ちでマグマを迎えた。

 

 

 

 

 

 私の視界から色彩が抜け落ちた。

 

「──エースッ!!!!」

 

 炎ですら焼き尽くすマグマで身体中に火傷を負いながらルフィが必死の形相でエースをサカズキさんから引き剥がした。

 

 なんで、どうして。

 

 理解が出来ない。

 

 私はこれを避けるために動いたのに、どうして今、足が動かない。

 

 エースの背中はルフィによりかかり、救出で焼けたルフィの胸から血が流れる。サボは2人を庇ってサカズキさんに爪を向けている。

 

 

 動け、動け。

 

 泣くな。まだ息がある。

 

「なんっ、で、動かない、の……ッ!」

 

 足が動かない。怖い。エース死なないで。

 集中して、止血、あぁ、医療知識なんてない、どうやったら助かるの。

 

 私はポケットに入れた筈のエースのビブルカードが、その有様を私に突きつける様に地面に落ちた。

 

 待って、まって、おねがい、だからまって。

 今何が起こってるの、よく分からな、なんで、どうして。

 

 

 違う早く理解しろ、そして動け!

 まだ間に合う! ビブルカードはまだ残っている!

 

──ガシッ…!

 

「ッ」

 

 私の腕を誰かが力強く掴んだ。首を動かせば、ボロボロ涙をながして心底悔しそうなジジが居た。

 

「行くな、せめてッ、お前だけは行くな……!」

 

 私を掴む手が震えている。声も震えている。

 自分だって行きたい癖に、駆け寄りたい癖に、サカズキさんを殴りたい癖に、ジジは心底耐えている。──(まご)がいるから。

 

 何も関係がない女狐(わたし)がエースの所に行ってしまうと、関係がバレてしまうから。全てが台無しになってしまう。幸いなことに、足は動かないから、行けない。

 ……何が『幸いなことに』だ馬鹿。

 

「──エース!」

 

 クザンさんを吹き飛ばしたフェヒ爺とレイさんがエースに近付いた。レイさんはサカズキさんと攻防を繰り返し、近付かせまいとしている。

 最強の海賊を相手にしたリノさんは内臓をやられたのか地面にべチャリと叩きつけられ口から血を流していた。伝説2つを同時に相手したクザンさんだって無茶をしたからボロボロ。他の中将も一気に仕掛けたからか無傷とはいかない。──そこまでして作った隙だった。

 

 サカズキさんの嘘つき、腕じゃないじゃん。

 違う、嘘つきは私だ。何を置いても、何を捨てても兄を助けると誓ったじゃないか。

 

 

「トラロー! 医者だったよな! エース助けてくれ!」

「……無理だ」

「は、」

「無理だと、言ったんだ。それより麦わら屋の傷の手当てを優先すべきだ」

「俺は平気だからエースを!」

「治す箇所が無いのに治せるか! 医者をッ、神様だと思うなッ!」

 

 ローさんに詰め寄るルフィとサボ。喉の奥がギュッと縮こまってくるしい。

 

「…! リー、リーなら!」

 

 私でも無理だよ。奇跡が起こっても無理だよ。声が、声が出ない。私はここにいる、ここにいるよ。すぐ側にいる。

 

「……る、ふぃ、さぼ」

「「……エースッ」」

 

 掠れた声が奇跡のように私まで届く。声が真っ直ぐ私にまで届いてくる。皮肉な事に。

 

 最悪だ! なんでエースの声が私に届くのに! 私は声を出すことも出来ない! 手が震える! 心臓が、痛い。

 

 足が動かない! 声が出ない!

 この薄情者! ここで動かなくてどうする!

 叫べ……! 叫べッ! 逃げろと叫べ………ッ!

 

「悔やみきれん、一瞬の抜かり…!」

「なんて事に……!」

 

 ビスタさんとマルコさんの攻撃がサカズキさんに届いた。でも効かない。

 

「るふぃ、ごめ、んな、たすけれ、もらえなくて」

「……! 約束したじゃねぇかよ! エース! お前死なないって! 折角、サボ、サボも逢えたのに、みんな、揃っ……!」

「さぼ、ありがとな、きて、くれて」

「エースお前ェッ! 気付いてたんだろ! 俺が生きてること! 男気見せろよッ! アラバスタで交わせなかった盃、交わすんだ!」

 

「りー、きこえ、てる、か。はは、おれ、おまえのどりょく、むだ、に、しちまった、か……な」

 

 聞こえてる。聞こえてるよ。

 お願いだから死なないで。この先どんな災難が待ち塞がっていてもいい、私の生きる理由を取らないで。神様、いるんでしょう、お願いだから、エースを死なせないで。

 

「俺な、ずっと、生まれてきてよかったのか、ってこたえ、が。ほしかったんだ。名声じゃなく、て」

 

 じゅ、とビブルカードが物凄い勢いで焼け焦げていく。

 消えないで、消えないで!

 

 なんで私はこんなに薄情者なんだ、どうして何もかも投げ出してエースの元に向かえないんだ。

 

 こんな終わりはいらない、欲しくない。

 

「ちゃんと、貰っ、てた。オヤジに、兄妹に」

 

 ボロッと飴玉のような大きな粒が目から零れていた。

 

 

 

 ──助から、ない。

 

「今日までこんな、どう、しようもない、俺を」

 

 ルフィにもたれ掛かり、サボに手を伸ばすエースは。

 未練がましく悔しくて堪らない下手っクソな笑顔を浮かべた。

 

 

 

 

 

 抱いていた希望がガラガラと崩れ落ちていく。

 

 普通の家に生まれたかった。普通の家に生まれたら、こんな出会いもなかった。ただ世界で在り来りな情報として脳内を通り過ぎただろう。

 そしたらこんなに胸がツンとならなくて、そしたらこんなに苦しくなくて。

 だから私は自分本位だ。

 この苦しみをずっと味わいたくなかった。

 

 頭は真っ白になって、目の前が真っ黒になって、未来が見えなくなる。憧れていた景色が、真っ赤に焼き尽くされる。

 

 変われない。

 どれだけ経験を積んでも、変われないのは私だ。

 変わらない。

 私の覚悟の甘さが、変わらない今を産んだ。

 

 先を知っていた。先をみていた。使える頭も使える実力も使える伝手も、私にはあった。存在した。

 

 これなら大丈夫だと、そう思っていた。そんな保証何も無い。予知から変わった事が多かった。だから油断した。私は強くて色んな人に色んな意味で注目されるからと、驕った。

 

 

 

 それは初めて感じた絶望だった。

 絶望は普通の顔をして近付いて、そのまま私にナイフを突き立てる。さぁ、私が壊すんだと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──愛してくれて……ありがとう…!」

 

 私の生まれた意味を奪ったのは、私だ。




──火がぼうぼう、漢字で書くと火が亡々。意味は、火を灯している時油を切らしたら火が消えてしまうため油断をするな。

無慈悲に告げます。
死にました。

希望からの絶望は私の大得意です。Twitter見てくれてる人や感想を見て意味深な考え方をする尖った輩は匂わせた嫌な予感に気付いていたんじゃないでしょうか。ずぅーーっと前から浮かんでいた、展開です。


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第229話 愛というありきたりな言葉

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!」

「……っ!」

 

 ルフィはサボにしがみついて喉が傷付いても泣き叫ぶ。サボはルフィを守るように抱きしめて唇を噛んでいた。

 

「──所詮は海賊じゃ」

 

 サカズキさんの声が透る。

 傷はあれど他の人と比べると軽傷なサカズキさんは白ひげ海賊団を煽っていた。

 

 普段の赤犬のキャラからすると有り得ることだけど。素のサカズキさんからするとこれ以上の争い拡大は考えられない。それとも私がサカズキさんを知らな過ぎるだけなのか、どうなのか。

 ちょっともう、よく分からない。頭が働かない。

 インペルダウン脱獄から沢山ありすぎて頭がグラグラする。今すぐ倒れて眠りたい。そしたら起きて、それで皆、居て。

 

 これはきっと夢だ。

 だって予知夢と同じで私は何も干渉出来ない。予知夢に2パターンあったなんて笑える。笑え、……………笑えない。

 

 親が死に、兄が死に。

 ……わたしが、かぞくをころした。

 

 

「……ェ、ースッ!」

 

 ようやく声が出た、足が動いた。

 今更になって私の時間が動き始めた。

 

 現実は無情にも突き付けられた。

 

 いっそ、体が動かなければ! これも夢だと思えたのに!

 

「正しくなけりゃ生きる価値は無い。海賊という間違いを犯した時点で、貴様ら海賊に生きる価値は無い!」

 

 エースが死んだ。死なせてしまった。救えなかった。

 ギリ、っと握りしめた私の拳に爪が突き刺さる。痛い。

 

 エースは死んだ!!

 だけどそれが──ルフィとサボを死の危機から救わない理由じゃ無い!

 

「……!」

 

 色んな叫び声で耳がごちゃごちゃになる中、私は走り出した。海軍(ガープ)の手を振り払って。

 助ける、絶対助ける。

 

 泣いちゃダメだ。

 

 サカズキさんの近くまで来ればエースの死に顔が見れた。

 泣きそうな顔だ。

 

 悔しい、悔しい! 悔しくて! 私の生きる理由も生まれてきた意味も何もかもここにかかっていたのに! 全ての理由があの瞬間だったのに!

 

 

 3人の兄を救いたかった。『私が大好きな兄』を。

 絶対迷わない。

 

 ルフィとサボを連れて戦場を離れよう。戦意喪失の状態が1番危ない。センゴクさんや海軍を裏切ることになる。それでもいい。裏切っただけじゃ誰も死なない!

 

 視界が歪む。

 死ぬ瞬間じゃないのに走馬灯が脳裏を駆けた。

 

 叱られた。

 褒められた。

 頭を撫でてくれた。

 色んな海兵が、私を見守ってくれていた。

 どんなに苦しくても。

 どんなに辛い事でも。

 海軍で、生きていた。

 利用して、大好きになっていった。

 

 裏切りたくない。捨てたくない。でもそれ以上に誰も死なせたくない。大事なルフィを、サボを、友達を。

 

 苦しい。

 

 

『──そんな泣きそうな顔すんじゃねぇよ、エース』

 

 

 聞き覚えのない声が私の背後から聞こえ、追い風が走った。

 生暖かい、決して心地良いとは言えない風。

 

 でも似たような物に覚えがある。

 

 あぁ、メリー号と同じなんだ。もしかして白ひげさんの船か、なんて考えて。

 生暖かい東風がビュウと戦場を通り去った。

 

「……ァあ」

 

 思わず足が止まる。なんだかよく分からないけど、メリー号と違ってその風は酷く苦しい。不快な苦しさじゃない。

 これまで感じたことのない圧倒的なプレッシャーに苦しくなったんだ。

 

──チリッ

 

「エースの兄弟、とにかく退くよい」

 

 エースの亡骸を抱き上げたマルコさんが沈む2人に声をかける。

 力無く腕が落ちるのを見た。

 

──ヂッ

 

「エースう゛……」

「エースッ……!」

 

 2人の兄弟が力無く名前を呼んだ。

 

──ヂリッ

 

「「……ッ!?」」

 

 ロジャー海賊団の2人が同時にエースの方向を見て、声を荒らげた。

 

 

 

 ==========

 

 

 エースは現実ではない何処かで景色を眺めていた。

 

 様々な文化が入り乱れる場所。

 見ただけであの大海原を旅する世界では無いと思った。様々な島が一緒ごっちゃになった様な。

 

 ただ、天災にでも遭ったのか焼け落ちており、本来の使用目的として使えたものじゃない。

 

「よォ、起きたか」

 

 煤だらけの建物の陰から男が声を掛けた。その図体はエースとそこまで変わりない。ただ、世間から姿を隠すようにマントを被っており、見るからに怪しい男。そしてその男の後ろには従える様な海兵の姿があった。

 

「なんだよおっさん」

「おっさ……! いや、まあ、そうだけどよ。とりあえず話でもしようぜ」

 

 す、と視線を向けた先には木箱があった。

 そこに座れということか。

 

「……。なァ、ここって」

「死後の世界だ。まァ、転生する前にちょっと休憩する場所だな。知ってるか?魂ってもんは初期化して使い回すんだってよ」

「ふぅん」

 

 エースはやっぱり死んでたか、というか確信と共に木箱に腰掛けた。

 

「…………エース」

「ん?あ、おっさん俺の名前知ってんのか」

「あんまり時間が無いから聞きたいんだけどよ」

 

 男は意を決して問いかけた。

 

「お前は、あんな世界でもさ、生きたいと思ってるか?」

「……。」

「海賊王、そいつがお前の人生をぶっ壊した。苦しかっただろう。辛かっただろう。いくら白ひげに守られてようと、お前の処刑もそうだ。絶対的に離れない呪いだ」

 

 生まれてきて、忌み子だと世界に嫌われて来た。

 それでも自分は…──。

 

 エースは考えた。

 

 熟した果実の様にポタリと熱が落ちてくる太陽の下、ヨダレを垂らしながらたった1人残った弟の前髪を掬った。火拳となって仲間に『太陽のようだ』と称される度、自分しか知らない陽を思い出した。そんな陽が昇りきった、暑さを感じ出す寝坊した朝。

 

 草木がめいいっぱい葉を広げそのエネルギーを吸収する、それを横目に細く柔らかな金髪が太陽の光で輝く友人に焦がれその日から心の大半を占めた。熱に耐えきれず掛けた水しぶきが光を反射して生き物のように空中を泳いだのを未だに覚えている。太陽が最も力強くなる、甲板が地獄みたいに暑くなる昼。

 

 どんな季節でも必ず冷たさが頬を撫でる中、覚束無い足で山を歩く妹の手を引いて上を見た闇の中の輝く空。眩し過ぎて見上げれなかった真っ直ぐな太陽の光を纏い届かない闇に光を届けてくれた。冷たい(きず)と遠回りな(あい)が存在する、とても不安定で飛び交う虫が鬱陶しい夜。

 

 

 ……"答え"は分かりきっていた。

 

「生き、てたかったな。うん、まだ生きたかった」

 

 確かめるように頷いて。エースは拳を握り締めた。祈るように、生命の尊さを抱き締めるように。

 

 込み上げてくる。

 生への未練。

 

「……俺ッ! 生きたかったんだ! たとえ鬼の子だとか言われても! 生まれてきてよかったと心からッ、そう思うくらい! あの世界で生きるのが大好きだったんだッ!」

 

 震える声で泣き叫んだ。

 

 静かに見守っていた海兵が五月蝿いと文句を言おうとしたが、男の片手でそれは止められる。

 

「よかった、お前はあの世界を愛せたんだな」

 

 男の安堵した声にエースはバッと顔を上げた。

 お尋ね者みたいに深く被ったマントの隙間から嬉しそうに微笑む顔が目に映りこんだ。

 

「なァ、エース。さっき時間が無いっつったよな」

「うん……」

「──お前この世界に居らねぇよ」

 

 思ってもみなかった言葉に思わず固まる。

 

「あなたねぇ、言い方ってもんがあるでしょ」

「うっせぇよ海兵」

「まぁつまらないのでもっとしぶとく生きてくださいよとはおもいましたけど」

「嬢ちゃんも大概言い草酷くねェか????」

 

 思考回路がフリーズする最中ギャーギャーと言い合う2人に思わずツッコミを入れてしまう。

 

「……行ってこい」

「……うん」

「まだ間に合う」

「…………よく、わかんねぇけど、わかった」

「俺はこんくらいしかしてやれねェ。あとは自分で踏ん張れ、エース」

 

 グッ、と喉がなった。

 泣きたくなるくらい嬉しい鼓舞だ。

 

 エースの視界がぼやける。泡に解けるように、火に変わるように。涙が流れるように。

 

 

「なァ! 俺さ!」

 

 エースは遠くなる意識の中、男に向けて叫んだ。叫び声は風となって、男の被っていたマントをなびかせる。

 

「──やっぱ父親は親父の方が好きだ!」

 

 コケた。

 思わずずっこけた。

 

 なんなら口に出さないだけでお袋を放ったらかした海賊王はくそだとすら思っている。そこは譲れない。

 

 イタズラが成功したようにエースが笑う。

 

 

「でも! 俺、あんたの息子で良かったよ!」

 

 

 答え(ゴール)は最初からそこにあった。

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 突如、息絶えたエースの体からぶわりと青い炎が燃え盛った。

 抱えたマルコはギョッとして取り落としそうになる。

 

「マルコ!?」

「俺じゃねェよいッ!」

 

 傷口から燃える青い炎。エースの炎は赤だ、皆が知っている。見覚えのない筈だ。でも、青い炎は見た事がある。

 

──ドク…ドク……

 

 リィンはその青に目を奪われた。心臓の音が耳元で激しく聞こえている。それは自分の心臓の鼓動なのだと理解はしているが、エースの心臓が動いているのじゃないかと錯覚する。

 

 期待してもいいのか。

 

 彼女の知る青の炎は、白ひげ海賊団の1番隊隊長。不死鳥。

 

「…………ッ」

 

 復活の炎の色だ……!

 

 

 握りしめていたリィンの拳から青い炎が見えた。燃え広がる不死の炎。

 キラキラと海を想い返す様な炎が。

 

 失ったはずの命の紙(ビブルカード)がそこにあった。

 

「「エース!?」」

「…………は、はは、ははははは!」

 

 

 よく分からない、意味が分からない。脳内は盛大にパニックを起こしている。戦場の誰も、彼も。

 

 だが一つだけ確かなことがある。

 

「ニッ…────〝火拳〟ッ!」

 

 不敵に笑ったエースは拳をオレンジの炎に変えて、サカズキに技を放った。

 呆気に取られていたサカズキは簡単に技を受ける。炎じゃマグマは燃やせない。

 

「むっ」

 

 ──炎が青くなった。

 

「……ッ! なんじゃァ、わしを燃やしたじゃと!?」

 

 炎を燃やすマグマの事象がひっくり返った。

 

 ボッボッと炎を撒き散らし、体に馴染ませる様に長い時間を掛けて炎を鎮めていくと、そこには拳を握りしめたエースの姿があった。

 

 エースはぐっぱっと拳を握りしめたり開いたりして、漸く口を開いた。

 

「やー、死ぬかと思った」

「「「「「死んだんだよ!」」」」」

「ただいま!」

「「「「「おかえりッ!この野郎!」」」」」

 

 

 混沌と化した戦場。海軍側で最も早く行動に移したのは女狐だった。

 

「──元帥! 戦争! 終了!」

 

 

 断頭台で佇むセンゴクに向けて彼女は大声で叫んだ。

 電伝虫を待つその数秒が勿体なく感じ、喉が張り裂けそうな程大きな声で。その声は元帥だけではなく、戦場全てに届いた。

 

 彼女の言葉に呆然とするのは中将ではなく海賊。

 これは遠回しな海軍への裏切り。まだ映像電伝虫が繋がっていることを知っていながら。否、知っているからこそ『海兵のリィン』がやらかすのだ。

 

 海賊のリィンではなく、海兵のリィンができる海軍への裏切りと海賊への救済。

 

「よォクロコダイル、カナエの件でちょっと話があるんだ一緒に行こうぜ」

「そうだな、フェヒターの言う通りだ」

 

 ………彼女の後方で確かに行われているカチコミに若干恐れながら。

 

「──女狐大将、こちらを!」

 

 拡声器の着いた電伝虫が海兵から渡される。

 それを手に取って声を吹き込んだ。

 

 世間一般の女狐の仮面を被って。

 

 

『──死傷者は多い。敵の士気は最高潮。戦力差も目に見えている。元帥、私達海軍の、敗北だ。部下の手当を優先したい』

 

 部下多分ピンピンしてるだろうけど。むしろそんな予感しかしないけど。綺麗事の建前を利用する。

 

 停戦を決定したのは女狐だ。世界中に放送されながらも、敗北は許されない海軍の敗北を認めたのは、海兵だ。

 それを発言した瞬間、たとえここから再戦しようと勝利しようと『最高戦力が敗北を認めた』という事実は覆らない。

 

「(変わらないんだったら、変わらないような追い込み方をしたんだから。私が恨まれても、この戦争を終わらせたい。──お願いセンゴクさん、私はエース達をもう二度と死なせたくないんだ)」

 

 完全な裏切りだ。

 決して明確ではない、しかしリィンの心情を理解したセンゴクの目には『海賊を助けたいから負けを認めた海兵』という真実が逃れようもなく映っている。リィンが普段から良く使う、どっちつかずのあやふやな立場で誤魔化した言い分じゃない。

 

 彼女は今センゴクを脅していた。

 

 センゴクが終戦を認めれば、女狐の裏切りを認めることになるがこれ以上最悪な状態にはならない。

 センゴクが終戦を認めなければ、女狐は世界に発信されている状況を利用して海軍を裏切る。

 

 

 さぁ、どうする。

 『海軍の敗北』と『最高戦力の裏切り』のどっちを世間に知らしめる?どっちの方が傷が浅い?

 

 どちらに転んでもリィンはエースたちを助ける。自分自身を賭けて。

 

 

 

『…──戦争は終わりだ』

 

 それは1分だったか、10分だったか。

 極度の緊張状態が続く中、電伝虫から告げられた結論だった。

 

 シャボンディ諸島からの通信で最後の映像電伝虫が切れたと伝えられ、リィンはようやく人心地着いた。安堵の息を吐き出したいところだがそれをぐっと我慢する。

 

「女狐大将」

 

 戻るぞ、と言いたげな視線を向ける中将。その姿はボロボロだ。火傷に刀傷、内出血。怪我のエレクトリカルパレードだ。

 センゴクの元に向かわなければならない女狐は脳内で現実逃避をしつつ頷いた。

 

 踵を返す。

 ギュ、と固めた拳にはもう(うしな)わないと心に決めた紙が丸まっていた。

 

 

「──女狐!ありがとう!」

 

 ルフィがエースとサボを抱きしめて親指立てている姿が目に入った。それを庇うように立つ古い海賊の集団。

 

 この海で最も恐ろしい、どんな輩でも味方につけてしまう才能。

 それがたとえ海軍大将でも。

 

 

「ははっ」

 

 短い笑いがリィンから零れる。

 右手をルフィの方向に持ち上げて、手の動きがよく見えるように。

 

「────ばーか」

 

 中指を立てた。

 

「「「ふざけんな女狐ーーーーーッ!」」」

 

 簡単に煽られた海賊の合唱とブーイングを浴びながら、彼女は前を向いた。

 

 

「(最悪を想定すると私は死ぬだろうな……)」

 

 

 忘れてくれるな、大海賊白ひげ。

 

 ──この場に黒ひげが現れなかったことを。奴らが何を企んでいるのか、まだ不明瞭である事を。

 

 

 ==========

 

 

 

 

「……良かったんですか」

「ん?」

「人に刻まれた本能に逆らって」

 

 

 ──死後の世界最大の禁忌。現世への干渉。

 

 

 狭間から眺めるだけなら良かった。だがそこに手を出してしまえばもう輪廻転生など期待出来ない。

 

 世界的大犯罪者。

 

「郷に入っては郷に従えって言うでしょう。この世、というかホントに意思が拒否する類いのルールを破って」

 

 禁忌は現世がぐちゃぐちゃになるから、では無い。

 越えられない境界線を無理矢理破るその行為こそ、死後の世界を穢してしまうのだ。

 

 焼け焦げた建物、崩壊した土地。

 たった1人。その男を生き返らせるだなんて力業(ちからわざ)。そのためだけに穢された文明。

 

「うるせぇ俺が郷だ」

「えぇ…………」

 

 かなりドン引きした様子で海兵は犯罪者を見た。郷というより果てしない業のような気しかしない。

 

「嬢ちゃんはどうすんだ?まだ下を見てるのか?」

「バカも休み休み言ってください。さっさと転生しますよ。自我ならともかく記憶保ってるの、地味にキツイんですから」

「へぇ。んじゃ、良き来世を」

「言われずとも」

 

 別れの挨拶もそこそこに海兵は背を向け次の生へと向かっていった。自然と吸い込まれるように歩いていく。まるでベルトコンベアに流れるように。

 

 大犯罪者は独り水たまりを覗きながらにんまりと笑った。

 

「──俺の意思は死なねェ、ってな」

 

 パシャンとその水溜りを踏み…──さっきの海兵が居場所をチクったのだろう、治安維持に携わっている天使が続々と追いかけてきた。もちろん当然呼吸をする様にさっさと逃げ出す。

 

 

 

 世界をひっくり返す大犯罪者は、これから始まる逃亡生活に楽しげた笑みを浮かべた。

 

 




生き返りました(断定)
死後の世界の秩序と治安とひとつの魂の輪廻転生権剥奪と引き換えにたった1人の男が生き返りました。

よし!誰も展開読めなかっただろう!
読めてたまるかこんちくしょう!!


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閑話
小話集その1


初めて日記形式にチャレンジしたけどもう一生しないなって思いました。月組の1人の5年間の日記。


 

 〇月✗日

 今日は海軍入隊の記念すべき日。ということで日記を付けようと思う。俺は海兵育成学校に通える金を持っているわけじゃないから海軍雑用として給金を頂きながら上を目指そうと思う。

 最初は当然微々たるもの、だが昔から憧れていた少年時代の夢をこの歳で追える事に感謝しなければ。人生何があるか分からない。店が潰れたことは不幸だが、妻と幼い我が子を養うために俺はやらなければ。やる気は十分だ。

 

 俺の所属は第1雑用部隊。寝床も当然個室なんてなく雑魚寝だ。部屋は部隊名と同じく第1雑用部屋。上は多分40くらい行ってんじゃないだろうか、年齢も出身もバラバラだ。同じ島の出身のやつは……別の部屋だった。

 俺が部屋に戻る時間が遅かったこともあってほとんど揃っていたがパッと見12.13辺りの坊主が1人、その次がまだ20にギリギリ行ってない奴ら。「お、若いのがいるんだな」って思ってた。

 

 どうやらそれぞれ30人のチームらしい。まあ雑用なんて至る場所に配置されるから行動を共にとることは少ない、だが同期であるから長い付き合いにはなるだろう。

 軽く自己紹介をして、どうやら1人足りない事に気付いた。初日から医務室に叩き込まれてるらしい。情けないな、レクリエーションでまさかの医務室お泊まりだ。

 

 これからの海軍生活が楽しみだ。目指せ!将校!……はちょっと言い過ぎだな、伍長くらいにはなりたいな。

 

 

 

 〇月*日

 おれのむすことおなじくらいのけがしたおんなのこだつた。

 

 

 

 〇月#日

 昨日は動揺し過ぎたが一晩寝て働いてようやく頭が働いて来た。

 第1雑用部屋のもう1人の子というのは4歳位で何故か包帯だらけだった。名前はリィンちゃん。多分俺はこの出会いを一生忘れないだろう、ショックすぎるわバカタレ。

 どうやら故郷で海賊に怪我を負わされ、医者を求めてここに来たらしい。保護者が海兵と色々な諸事情が重なって海軍に入隊したようだ。しばらく医務室との行き帰りが多いとムスッとしていたが俺としては大人しく医務室というか病院に行って入院してて欲しい切実に。あとその海賊は許さん。それとリィンちゃん、頼むから療養してくれ、仕事をするな、箒を手に持つな。置くんだ。治るまで寝ててくれ。

 

 

 

 〇月☾日

 海軍入隊5日目、同じ部屋の1人がリィンちゃんのファンクラブを一緒にしないかと誘ってきた。いや、流石に妻子持ちにファンクラブ勧めるのはどうかと思う、と遠慮したのだがどうやら普通のファンクラブとは違うようだ。

 誘ってきた男はジョーダン。やけに説明が上手く納得させられた。「可愛くて庇護欲を刺激されるのは間違いじゃない」「その感情は歳が一回りも二回りも離れているから欲情にいかない」「他の部屋には若いのもいる」「この部屋は妻子持ちも多い、教育面や保護者としての面で団結しておきたい」「ただ囲うとやっかみを受けることも確実」「なら幹部という事で他の部屋の奴らに協力的な意欲を見せて実際壁になっておきたい」と。

 うちの部屋でリィンちゃんを除き若いのはカクって13の少年だ。カク自身はかなり人柄がいいみたいだから、うちでリィンちゃんに抱く感情があるとしたら『親心』に『兄心』だろう。今は『小さい子が頑張ってて可愛いな』という感想でも、リィンちゃんが成長してくると穏やかな感情で終わらないのも確か。

 

 なんで女の子が同性の多い部屋じゃなくて第1雑用部屋だと思ったら。部屋の平均年齢が高い+家庭持ちの多さか。と納得する。まぁ、言葉を濁したいが日記だし。

 妊娠して海軍を辞める奴もいると聞いた。つまりはそういうことだ。唯一でその上幼子だからこそ第1雑用部屋が安全なんだろう。例え同性が居たとしても、もしもその同性が事に起こった場合情操教育に悪い。うん、うちが最適だな。

 他の部屋は若い坊主も多いみたいだし。

 ということで俺はリィンちゃんのファンクラブに入ることになった。歳も同じようだし息子の嫁に……。いいな、あの子が娘になるの。

 

 

 

 〇月▲日

 入隊して1週間だ。恐ろしいことに既に部屋の全員がファンクラブに同意してるらしい(グレンってやつは馬鹿げてると鼻で笑って無視していたがあれは分かるぞただのツンデレだって)。リィンちゃんがいることを認識して6日だぞたったの。その行動力が恐ろしすぎる。いや、今日はそれより恐ろしいことが分かった。リィンちゃんが医務室通いしてる隙にあの海軍の英雄が現れたのだ!拳ひとつが隕石と同じ天変地異を引き起こし、そして数多の海賊に恐れられた拳骨のガープ中将!

 ……まさかリィンちゃんの保護者が英雄殿だと思うか?

 「うちの孫をよろしく頼む」と真剣な顔で頭を下げていた。流石は英雄。その表情ひとつで気が引き締まる。

 

 代表であるリックが一応保護者である中将にファンクラブの許可を取り、他の奴らも説得に加わる。俺もした。流石は中将、懐が広いのか許してくれた。幹部は全員で28人。ガープ中将は29番目のナンバーを持つことになった。保護者が入り、そして幹部外になるからこそ俺たち幹部の地位が高くなるからと。他のファンクラブメンバーと同じように扱えと仰った。懐広過ぎてグランドライン飲み込めるんじゃないかなあの方。これで他の部屋や上司からリィンちゃんを守りきれるだろう。憧れていた海軍だが、もちろん一枚岩じゃないことくらい知ってる。若いのには理解されにくいけど。最年少(カクのこと。リィンちゃんは別口)がそこに理解あってよかった。

 

 

 

 ◣月×日

 海軍を入隊して1ヶ月の月日が流れていた。リィンちゃんがあの悪魔の実の能力者だった。海軍に入った色々な諸事情は多分これだと思う。自分の悪魔の実がまだ分からないようでその日から堂々と悪魔の実大百科を読んでいる。難しい文字はまだ読めなくて、よく傍にいるやつに読んでもらっているがいや欲張りすぎだろう。普通に読めるもんは読めるんだから。

 読解能力が4歳児のレベルじゃないが、そういえば喋り方は拙かった。アレが可愛いんだけど。サウスバードみたいに「ぞ!」「じょ!」と返事する姿の可愛いこと。ちなみに驚くと「みょっ!」とか「ぴぎゃっ!」と言いながら飛び跳ねる。可愛い。

 

 

 

 ◣月▲日

 大概の情報はリックに集まっている。俺は早速リィンちゃんの喋り方についてリックに聞いた。あいつは名前を覚えないので言語能力はリィンちゃん以下だと思う。

 流石に知らないだろうと思っていたんだがどうやら結構前に知っていたらしい。ふざけんな。情報共有しろよ。

 曰く、人里離れた山の中でカクより少し下くらいの、まぁようはガキンチョだな。そんな兄と暮らしていたらしい。保護者が英雄なこともあって地元の人に育てられたらしいが。まぁ山の中か。自給自足だろうし家の中で兄と留守番して本でも読んでたんだろうな。

 あとお前は本当に情報共有しろよ。

 

 

 

 ◣月☾日

 昨日情報共有しろよとこっぴどく言ったからかリックが寝る前に今日あった業務やリィンちゃんのことなどを共有している。

 俺は日記を取りながら聞いている。

 ファンクラブの人数が60人達成したらしい。大体秩序を守ってくれる人数、として歓迎すべきだ。おー、と拍手している。

 今日は特筆すべきことはないだろう。そろそろ寝ようと思

 

 ふざけんなよあんぽんたん!今まで集めてたリィンちゃんコレクションを売りにかけることに決まっただァ!?いやそりゃ活動資金も必要だし他の部屋の奴らのガス抜きにもなるの知ってるしヘイト向けられないっていうのは分かるけど!そういう大事なことをてめぇ1人で決めるな!

 

 今日は夜空が綺麗だ。窓からぶら下がるリックさえ目に入らなければ。

 

 

 

 ▇月◣日

 約半年、この日記初日以外リィンちゃんのことしか基本書いてないなと思った。なので今日もリィンちゃんのことについてかこうと思う。そろそろ日記の題名を変えるべきだと思っている。

 最近、リィンちゃんが定職についた。いや、俺たちと一緒の雑用なんだけどさ。

 

 その名も『ガープ中将クザン大将追走式捕縛係』だ。馬鹿げてるだろ、4歳の女の子に海軍のめちゃくちゃ偉い人が捕縛されるんだぜ、その名の通り縄で。あの捕縛術どこで習ったんだろうってくらい鮮やかな手つき。痺れた。好き。

 

 ほんとに海軍のお偉いさんが悪魔の実の能力者だとしてもリィンちゃんみたいな可憐な少女に捕まるのは謎だと思う。他の部屋の奴らも言っていた。でも俺たちは知っている、自分の足で歩いたマリンフォードのマップを作ってんのあの子。地点にポイントの名前つけてて、そこ、俺たちが雑用する場所だったりする。そこでお2人を見なかったか聞いて、逃亡ルートをトレースして、先回りしてんの。小ささ活かして物陰に隠れて。

 本当にすごいよあの子。海兵になるべくして生まれてきた思考回路持っている。

 

 測量士の知識持って、マッピングが得意なのがうちに1人いて、まぁノーランって言うんだけど。よく協力してるんだけど本当に恐ろしい。

 捕まえたらやりましたって言いたげに近くにいる雑用にピース向けるからファンが増える増える。末恐ろし。可愛い。

 

 

 

 〇月▊日

 もうすぐ雑用として海軍に来て1年が経とうとしている今日この頃。

 今日リィンちゃんは居ない。つまり俺たち野郎共の祭典だ。

 

 というのも、クザン大将捕縛で目をつけられていたのか黄猿ことボルサリーノ大将の任務に付き従う任務に着いたのだ。恐ろしい出世をしそう。上に目をつけられ過ぎてないかちょっと不安だ。

 

 

 ==========

 

 

「ところでさ」

 

 酒を注がれたので日記を手に置くとオーウェンという男が口を開いた。

 

「雑用勤務は1年で他所に配属」

 

 その言葉に俺たちはみんな動きを止めてしまった。

 そういえばそうだ。雑用仕事はもうすぐ終わる。

 

「──…勤務先希望届け、もう届いてるぞ。第1希望から第3希望まで書く枠がある」

 

 部屋で1番のしっかり者でもあるグレンがこの部屋の代表だ。まとめ役、となると別だが冷静沈着に周囲を見て指示を取れる。

 そのグレンに希望届けが来た、ということはこの部屋のタイムリミットも近い。

 

 どこに配属されるのか分からない。希望は一応取られるらしいけど結局は個人の手腕が1番優先で、希望も吟味した上で人事部が選ぶから。

 

「そりゃ、三、いや二等兵になるか。まぁどっちかわかんないけどそこら辺になるのは分かってるぜ?でもさ、部隊は違うし今まで通りってのもいかないだろ」

 

 オーウェンは言葉を続ける。同期である、昇格にばらつきもまだ出ない。だが、うんまぁ確かに、今まで通り情報を共有したり連携取ったり出来ないのが痛い。大まかな部隊も、曹長が変われば方針も変わる。

 

「平和な場所で燻りたい変化を望まない日和ってわけじゃないけどさ」

 

 ぐいっとグラスに入った酒を飲み干すとオーウェンは顔を俯かせた。

 

「……このチーム以上に力が発揮出来るとは思えないんだよぉ」

 

「あ、すまんハッシュ水とってくれ」

「おうとも」

「モリスお前1杯で終わりだこのクソ下戸」

「わしも呑んじゃダメか?」

「ダメに決まってんだろこのスットコドッコイ」

「嫌だ、僕は酒を愛してる、手放さない。僕がこの酒を用意したんだ。ショットグラスは実質ゼロカロリーだから無問題だ!」

「グレンさんのケチ、ノーランさんだけが頼りじゃ頼む……! わしにも酒を恵んでくれ!」

「カメラワンランク上狙いたいですよね」

「問題だらけだ! レオン! モリス寝落ちコースに誘って!」

「よっしゃ買いじゃ!」

 

「急募! 俺が吐き出したシリアス属性の二酸化炭素!」

 

 情緒もへったくれもない部屋の空気にオーウェンも崩れ落ちた。酔いが回ったらしい。あと二酸化炭素なら出すだけだして他人は吸えないだろ。空気吸うなら酸素だ。そのシリアスは場に留まるだけだからな。

 

「うぉ、うぉぉん、俺なぁ、大佐にスカウトされてんだよォ。返事待ってもらってんだよォ」

 

「オーウェンが潰れたぞ」

「こいつ酒飲むと泣き絡みするタイプか」

「飲み会ってのは最後まで正気保ってたやつが負けるが、ここには正気保てるやつ多くて助かるわ。年齢的に酒飲めないやつもいるし」

 

 ざるとわく共が一角を陣取りながらカオスっぷりを眺めていた。ちなみに俺はほどほどに酔う。まぁ翌日には残らないけど。

 

「なんでオリジンそんなに喚いてんだ?」

「オリジンじゃなくてオーウェンだろうが。名前のランクを勝手にあげるな」

「グレンてめー俺の名前馬鹿にしてるだろ」

「バカにしてるのはお前の名前じゃなくてお前だ」

 

 リックの名前の間違いに即座に反応するのは毎回グレンだ。絶対こいつらはバディから外さんとこう。ツッコミ出来るやつはいるがこいつ以上に子守りが出来るやつはいない。

 

「よくわかんねぇけど雑用希望って書けばいいだけじゃん」

 

 ……。

 

「「「「「「それだーーッッ!」」」」」」

 

 リックの言葉に部屋の八割が声を揃えた。

 

「まぁ思い至るよなそこに」

「馬鹿って確信をつけるよな」

「上に根回ししとかなきゃな」

「ふふふ、リックさんはすごいのぉ」

「あっ、こいつ呑んだな、取り上げろ」

 

 このグダグダ具合、日記には書けないな。

 ……というか今日の酒はどこから手に入れたんだろうか。モリス(今夜の宴の品集め係)は酒に関わると怖いやつだな。

 

 

 ちなみに翌日リィンちゃんを入れて飲み会の2日目を開いた。今日以上にグダグダだった。

 

 

 

 ==========

 

 

 

 〇月◤日

 最近大将が4人いるという噂を聞いた。入隊して1年、当時は思いもしなかったよ、雑用が2年目に突入するだなんて。

 ここの所物騒な話も増えている。俺たち第1雑用部屋、通称月組は雑用間でのリーダーだ。雑用仕事のチュートリアルは今回上官方ではなく俺たちがバラバラに別れそれぞれの仕事を指導するという大役になった。リィンちゃん以外。当然みんな布教する気満々だ。

 

 まぁリィンちゃん情報部の手伝いしてるらしい。他の部屋の雑用がそこに行ってたからそいつの雑用作業の引き継ぎみたいだ。ジャンの野郎許せねぇ。アイツが雑用ではなく三等兵になったからその雑用枠にリィンちゃんが選ばれたって訳だ。

 最近物騒な話題が増えてるから情報部人手足りないっぽいし。

 

 海兵(複数)が首ちょんぎられるってどういう事だよ。

 

 

 

 〇月#日

 ここ1週間リィンちゃんの様子がおかしかった。

 食欲が無いみたいだし夜中に飛び起きることも多かった。俺たちはどうすることも出来なくて、何より理解してあげられなくて歯がゆかった。次第に症状は収まっていったけど、それは表面とり繕えるだけでまだトラウマを背負ってるのがよく分かる。

 何があったのかは多分だれも聞かない。リィンちゃんは賢くて強い子だから自分で解決したなら俺たちは愚者みたいに騙されて心地いい空間になるだけでいいんだ。リィンちゃんを叱ったりリィンちゃん本人の為になる親は俺たちじゃなくていい。

 リィンちゃんが羽を休めれる、利用出来る休息所であればいいんだ。あの子は息が詰まりそうな生き方をしてるから。

 

 

 

 ==========

 

 

 

「未だに情報共有出来てなかった事に驚いてんだけど」

 

 それは海軍に入って3年目に突入したある日。リィンちゃんが1週間以上不在という異様な事態だ。ガープ中将が会員No.29な事は知ってたけどクザン大将も入ってることは知らなかった。

 

 新しい写真も入手出来ないから若干の焦りもある。

 

「あのさ、俺たちってリィンちゃんを布教するんじゃなくてリィンちゃんを守るために、欲を出せば独占「言い方」したいが為にファンクラブ設立してんじゃん?」

「まぁたしかに」

「でも最近爆発的に増えてるからどうしたもんかと。名前と番号控えてるけど3桁越してもう無理じゃん。全員覚えてる?」

「……俺は見ればわかるが、お前ら無理だろう」

 

 グレンの意味わかんない人外じみた発言を景気よくスルーして月組を見渡すが皆首を横に振った。番号管理してるヴァンが唯一把握出来てる、のかもしれない。俺は無理。今日クザン大将で驚いたくらいには無理。中にはガープ中将の件を知らなかったやつもいるんだから尚更無理だろ。

 

「俺たちの課題は2つ! 今後起こる(確信)爆発的な会員の増加について行く技術と管理! そして情報共有と連携の強化!」

「没個性の僕らに便利な技術も能力もないですよ」

「………………だよなー」

 

 むしろ個性の塊じゃなかろうかとは思ったけど口に出さないでおく。近い距離にいるから個性まみれだと思うだけだコレは。

 

「俺が……俺たちが技術になるんだ…!」

「酔ってんのか?」

「腹減ったんじゃが」

「道草でも食ってろ」

「どうする技術班系のところ行ってなんか便利な機械とかコンピュータ分けてもらうか?」

「どうやってやるんですか」

「い、ろ、じ、か、け♡」

「おぇ……きっつ……」

「悪阻か?」

「誕生したのは殺意でした」

 

 俺たちって脱線しないと会話出来ないよな。

 

 

 

 ==========

 

 

 

 ✗月✗日

 なんかできた。

 

 

 

 ✗月☾日

 使い方はマスターした。今まで身バレしないように袋被って開催してもらっていたリィンちゃんの写真買取の会は最後となった。開催は毎週金曜の夜中に行っていたのだが(競りだと給料差で難易度が変わってしまうのでその時々によりじゃんけんやらオセロやらとゲーム内容が変わる)人数が増えてはそれも難しい。『ここに……リィンちゃんがお茶を運ぶ写真が……!』って七武海会議着いてった俺が撮った写真を出すの楽しかったんだけどな。あれ10枚しかスってなかったんでレアモンだったんだけど。

 

 そしてその会を廃止し新たに出来たのは『携帯電機式ナンバーカード』だ。

 使い方は簡単。俺たち月組が毎週金曜に写真を更新する。まぁ写真じゃなくて題名を更新するんだけど。

 大元の機械から発信された情報は会員の元へ届き、会員はその希望の写真と枚数を送信するという作りとしてはシンプルな物。

 ちなみに今週は『髪を乾かすver.5』『窓磨き任務ver.8』『笑顔シリーズver.15』『ぬいぐるみを抱える』の4種類だった。少ないかもしれないけどコピーする枚数が多いんだ。

 

 ちなみに過去の写真は俺たちに直接話をつけるということになっている。望めばいくらでも刷るけど、レアモンは別口。

 ちなみに今週のレアモンは『箒で魔女ごっこ』(10枚限定)だ。ちなみに魔女ごっことしているが悪魔の実の能力で空飛んでる姿をリアンがカメラに収めた。レアモンの取得方法は今回から応募者の中から抽選。ちなみに値段は1万ベリーとお高めなので応募自体の出し渋りも多い。まぁ会員の母数が増えたらもう少し応募への難易度を高めるつもりだけど……。

 

 

 

 ◤月▊日

 リィンちゃんの写真を売って(言い方は悪いけど)得た金の使用用途は今のところ大まかに3つ。

 その1、リィンちゃんに還元。半分は絶対還元するって決めてる。リィンちゃんの服をプレゼントしたりこっそり荷物に入れたり銀行に振り込んだり。

 その2、カメラの購入資金。月組の所持するカメラは2つ。1つは元々カメラの仕事をしていたノーラン。そしてもう1つは共用で第1雑用部屋に置いてある。ランクもまだ低いしそれぞれが持てるようになったらもっとリィンちゃんの写真を撮る機会に恵まれるだろう。悩ましい。

 その3、募金。在り来りだけど俺たちの利益には出来ないからガープ中将やクザン大将という伝手を使わせてもらい海軍の設備や海軍が抱える孤児院などに送って貰っている。今は微々たる金額だけどもっと発行数が増えれば……まぁ、使用用途のない兵士の給料ってほぼ娯楽に注ぎ込まれるから。遠い話では無いだろうな。

 

 

 

 ==========

 

 

 

「我らが天使の様子がおかしいと思わないか?」

「というより俺たちの理解に違和感を感じる」

「多分僕らはリィンさんの事理解出来ないんでしょうね。男女の認識差はもちろんどうにも理解度に壁を感じる」

「……簡単な話であって難しい話だな。あの子は汚い人間ではないがお綺麗な人間でもないから。というか他人を完全に理解しようとするお前ら純粋に気持ち悪いな」

「ここ近年お前かなり口悪くなってないかい?」

 

 

 

「…………そろそろ潮時じゃな」

 

 

 

 ==========

 

 

 

 ▇月◤日

 海軍を入隊してついにとうとう4年の月日が経ってしまった。

 リィンちゃんが世界会議へ向かう護衛船の雑用として長期任務に就いた。もちろんエリート雑用であるのは他にもいるので、リィンちゃんだけじゃなくて他のやつも乗ってたりするし、別の船だけど護衛船雑用任務はある。かく言う俺もストロベリー中将率いる護衛船雑用だ。同じ部屋からは〝外見最年長〟のポート、〝実年齢最年長〟のバンと一緒だ。この2つ名使ったら怒られるんだけど日記だから別にいいよな。

 リィンちゃんと一緒にアラバスタに向かったのは確かサム。賭け事に弱いやつだけど任務では真面目だから心配はいらない。まぁ月組で任務に対して不真面目なやつなんていないけど。これでも月組は海軍内のチームでも抜きん出た優等生だ。無駄に有能。……いや、有能にならざるを得なかったというか持てる活力を割り振ってしまったというか。

 プロデンス王国ってどんなとこなんだろうか。不安だ。

 

 

 

 ▇月☾日

 プロデンス王国の王様もしかして護衛要らないんじゃ………?

 

 

 

 ▇月◣日

 護衛の数日間、俺たちは慣れない任務ということもあって緊張……。することもなく、そもそも雑用だから船の清掃とか武器の手入れとか調理補助とかそういうのだからめちゃくちゃ忙しいせいですぐ近くに王様がいるとか考えずに済んだ。

 

 

 

 ▇月>日

 世界会議が行われる中、リィンちゃんはアラバスタ王国のお姫様と遊んでいるらしい。些細なことでも戦争になるらしいから流石にめちゃくちゃ気を使ってるんだけど、まぁリィンちゃんなら多分大丈夫だと思う……。絡まれる心配はあるけど。

 

 ところで死にそうなほど緊張してるのは今日の昼間たまたま起こった事で色々感情が大爆発してる。プロデンス王国のエリザベロー二世がファンクラブに入ったからだ。何を書いているのか分からないが………いや、突然話しかけられて『あのアラバスタの御息女と一緒にいる海兵はなんだ?』と。いや、俺もテンパってたし、もしかして子供の海兵が雑用とはいえ神聖な場に遠足気分で来たと勘違いして不快に思われたのでは!?と焦って布教してしまったんだ。何を言ったかぶっちゃけ覚えてない。だって、普通、王様と話せると思うか?普通に。無理だろ。陛下が懐の大きい軍人気質の方で良かった……。

 

 

 

 ▇月<日

 俺は悪くないだろ普通に考えて。

 

 

 

 ▇月✗日

 知ってた。リィンちゃんがただで終わらないって。

 細かい経緯は分からないけどジェルマ王国に目を付けられたらしい。アラバスタに送り届けたらジェルマ訪問だと。

 マジでどうなってんのあの子。……まさか、ご子息の嫁候補に……!?ダメだ!リィンちゃんはどこにも嫁にやらない!たとえそれが、王族に楯突いても!

 

 無理だな。無理です。多分リィンちゃんなら乗り切れるしそこまで心配しなくてもいいか。

 

 ところで俺を見習ってか知らないけどリックがまた王族をファンクラブに陥れたんだがあいつってなんなの?意図してはめ込めるの?

 たまたまそばにいたノーランが悔しそうに「あいつ……やるな……」って改めて呟いてた。海軍入隊前から知り合いだったらしいグレンが疲れ気味で「あいつ『やる』から手が付けられないんだよ」と愚痴っていた。間に挟まれた俺可哀想。ちなみにバリウッド王国のハン・バーガー王らしい。議長じゃねーか馬鹿野郎。

 

 

 

 ▇月▲日

 ただいま久しぶりの我が家────

 

 

 

 ▓月◥日

 もうすぐ5年が経とうとしている。流石にずっと雑用でいることに苦言を漏らされているがここまで来たらやれるだけやってやろうとかいう気持ちが出てきている。

 ただチラホラ海軍ではなく別の道に進もうとしている奴らがいるのも確か。特にノーランなんかそうだ。あいつは確実に辞めるんだろう。仕方ないんだ、子供の仲良しこよしじゃあるまいしそれぞれ生活だって夢だって持ってる。俺たちの勝手な尺度で止めることなんて難しい。なんならモリスだって酒屋開きたいとかブツブツ言ってるし夢を追うのは自由だ。

 ただやっぱり別の道を進むって言うのは寂しくもある。

 

 は?新聞か雑誌社を設立したら情報操作もしやすいし布教もしやすい?お前が布教してる真犯人か。確かに口も上手いし頑として譲らないお前なら出来るだろうけど。

 はいい?居酒屋とかなら情報入ってきやすいから将来出世した俺らの為になれる?まぁ海軍本部の海兵の弱味やらなにやら握るのはお前が1番得意だし聞き専だけどさ。

 流石に自分のために生きろよ。

 ……リィンちゃんの役に立つことが生き甲斐?わかる。

 

 

 

 ==========

 

 

 

 初めてリィンを見た。

 俺たちが、俺が今まで見てきた姿は『リィンちゃん』だった。

 

 

「──なんかやべぇの居る!」

 

 寝起きながらも危機感を抱かせる叫び声で目が覚めた。

 怪しいやばい奴。

 

 その存在と対峙するのは最年少。危ない、とか下がってろ、とか。そういう注意をしようとしたのに、ゾッとした。

 リィンちゃんから溢れ出る殺気って言うのかな。背筋に氷を入れられたみたいな冷たい空気。でもリィンちゃんはマグマみたいに荒々しくて、たまたま見えた瞳は鋭く光を放っていた。

 

 既視感。

 

 その既視感の正体を探り当てる前にリィンちゃんが能力を暴走させた。これが本当だ。これが真実だ。その目に焼き付けろ。

 

「──海の底にて沈むし足掻くしろ」

 

 迷わず俺たちを背に庇い啖呵を切る姿。

 

 かっこいい。

 リィンちゃんは息をする事と同じくらい可愛いんだけど、今のリィンちゃんは俺たちが将校に抱く様なかっこよさと同じだった。

 

 部屋のほとんどを吹き飛ばす様な爆発と共にリィンちゃんは気絶した。

 

「襲撃者は……消えたか」

「くっそ、何も出来なかった!」

 

 月組のパパ的ポジションにいるリアンがリィンちゃんを抱きとめ抱え上げる。外敵から身を守るように。

 

「……それにしても、あれが素か」

「天使が天使じゃなかった……! どっちかって言うと戦乙女とか戦神って感じだった……!」

「そりゃー理解出来ないはずだわ。こんな荒々しい一面……というかこれが全面か。俺ちゃんリィンちゃんの思考回路全然的はずれな予想してたわ」

 

 メンタルが強めのラークスですらショックを受けている。いや驚くよなこれは普通に。

 すっごいかっこよかったし女の子になるかと思ったし子供と同じくらいの子相手にときめくとか情けないし推すしかないし庇護欲が一気になくなったしその代わりに崇拝が生まれたしなんかもう色々漏れ出す前に複雑な感情をオリジナルブレンドした何かを飲み込んだ。

 

 

「ッ、無事かリィン! お前ら!」

 

 不眠番だったらしいスモーカー大佐が駆け込んでくる。サムは思ったより足が早かったらしい。リィンちゃんに指示されてからそこまで時間が経ってない。

 ひぇ……指揮もできるの……? もしかしてリィンちゃんしゅごい人……? はわ、女の子になっちゃう……!

 俺もしかしたら庇われた瞬間に生まれたのかもしれない。一生着いてく。無理。推します。

 

「スモーカー大佐……どうしよう……俺ちゃんと男の子?」

「……お前の思考回路どうなってるんだ?」

「思考回路はショート寸前です」

疑う(ダウト)ん゛ッん、……既にショートしてるだろ」

 

 息子よ、今お前はどれくらい大きくなっただろうか。パパは海軍に来て王様と出会いました。俺たちの王様はお前と同じ歳の可愛くて可憐で笑顔が素敵な、痺れるくらいかっこいい王です。




リィンは多分この後くらいにこの日記見たと思う。それで信用から一気に信頼にジョブチェンジするってやつ。


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小話集その2

 

 

〜盃4兄妹〜

 

「リー!朝だぞ!狩りにでるぞ!」

「やぁ!やーぁー!」

「エースぅ、リーまた駄々捏ねてる」

「……リーってホント外苦手だよな。弱虫」

 

「おしょと苦手は禁止じこお、ぞ!私が嫌悪あすなろ抱きは!魑魅魍魎!」

「あすなろ抱きって何……。いや魑魅魍魎なんて居ないしいるとしたら猛獣な」

「それですた」

 

 怪我がまだ治っていないリィンは万全ではない。そんな時に外に行くだなんて自殺行為、了承する方が可笑しい。

 

「よしよし。リーはエースやルフィと違って可愛いなァ」

 

 サボに撫でられて嬉しそうに目を細める。ここぞとばかりにチョロ……攻略しやすいサボから手っ取り早く魅了するという外道みたいな手を使い始めた。

 

「サボ!甘いぞ!俺もしかしたら可愛いかもしれないよく見ろ」

「サボ、サボ!俺も可愛い!」

「……エース、ルフィ。リーを見てみろ」

 

 雑な訴えにサボがキリッと真剣な顔でリィンに視線を向け直した。3人の視線を一気に受けたリィンは一瞬キョトンとした顔をしたが、まだまだぷっくりとした手を丸めてグーを作ると両手を頬のそばに持っていき、小首を傾げ。

 

「にゃあ!」

 

 上目遣いで鳴いた。

 

「ま、負けましたわ!ちくしょう!あたくしの可愛さじゃサボ様を引き留められないっての!?きぃー!」

「リー可愛い!もう1回!」

「……ルフィ、ですわって付けろ(ボソッ)」

「もう1回ですわ!」

 

「にゃー……えへへ、可愛い?」

 

「「「か〜〜〜〜〜わ〜〜〜〜〜い〜〜〜〜〜い〜〜〜〜〜」」」

 

 照れ臭そうに笑いながらアンコールをこなすリィンに3人の馬鹿兄は声を揃える。茶番だ。結構""ガチ""で騙されにかかる系の茶番だ。果たしてそれは茶番なのか……。

 幼い彼らは気付かないがダダンは気付いていた。

 

「(『猫被り』の『可愛こぶりっ子』…………)」

 

 あからさまな騙してますに騙されるのはバカなのかバカじゃないのか。いやアホだな。

 

 子供達はコルボ山で今日もアホやっている。

 

 

 

 

 〜雑用リィンの1日〜

 

 

 朝、決まった時間に目が覚める。リィンは何も行動を起こさずにそのまま目を閉じた。彼女の周囲をモゾモゾと起き始める気配。

 

「リィン〜朝だぞ〜」

 

 起きるのを渋り布団を剥がされようやく目元を擦りながら出てくる。んー、と唸り声をあげて両手を広げれは既にじゃんけんが終わって見事勝利を手に入れたひとりがリィンを抱き上げ、地面に足をつかせた。

 

「おはよ」

「おはよ、ごじゃる、ましゅ」

「流石のリィンちゃんでも朝は苦手かァ〜」

 

 笑われながら身支度を済ます。ぴょんぴょんと跳ねてしまった髪の毛を既に身支度が終わった誰かが櫛でとく。

 食欲をそそる朝食のいい香りにグゥ、とお腹が元気よく空腹を訴えた。

 

 

「いただき……まふ……」

 

 グラグラと頭を揺らしながらリィンはご飯を味わう。質素ではあるが幼子にとって驚くほど量があるソレを腹8分目まで食べると、育ち盛りのカクに残り物を押し付けた。

 完全に食事が終わるその頃、リィンはぱっちりと目を開きニコニコと笑顔でデザートに齧り付いていた。

 

 

 雑用の仕事は朝から沢山ある。今日の振り分けが終われば颯爽と持ち場に着く。今日の午前、リィンは愛用の箒をまるでぬいぐるみのように手を離さず抱きしめ、書類配達に走った。

 

「じゃあこれの書類は人事部本室、んでこっちの青いのは黄猿大将第5補佐官辺りで」

「りょーかいっ、ます!」

 

 大人にとっては少ない量だが幼子にとってはかなり大きい。リィンは箒を紐で結び肩から下げ両手で書類を落とさないように抱えた。

 

 

 そんな配達任務も途中で悲劇が襲う。

 

「リィン! 大将だ! 頼む!」

「方向!」

「第3会議室の窓から飛び降りた!」

「把握!」

 

 両手に持った書類を道の端に起き、リィンは箒を手に取り窓から外に飛び出した。1階なのが幸いした、追い掛けるまで時間はかからない。

 そう、脱走兵の捕縛任務だ。

 

「あ、リィンちゃん」

「その声…! 青です!」

「5分くらい前三日月湾ポイントEからA方向に歩いてるの見た!」

 

 声で同じ部屋の仲間であることを確認したリィンが『青雉の目撃情報』を求めた。月組独自のポイント名なので他は理解不能だ。もちろんクザン張本人も分からない。なおこれが『拳』だったら拳骨のガープ中将の目撃情報を求める声だ。

 

 リィンは箒に乗りショートカットをしつつ正面門から少しズレた鉄柵の傍で気配を薄める為に息を1分ほど殺し待っていた。

 

「ほ、運が良かったか。今回は逃げ切っ……」

「へぇ?」

 

 

 午後は清掃任務だ。モップで手強い汚れと格闘する。

 

「せいが出るな」

「ぴゃっ!」

「はは、跳ねた。ほら飴ちゃんやるよ」

「…! やったあ! ありがとう、ます!」

「上手にお礼言えました」

「あ、おらも菓子あげるなぁ〜」

「ぴゃあ! 大歓喜飴さん霰さんぞりゅっ!」

 

 ただし1箇所に留まるので姿を確認した海兵によく貢がれる。わざわざ部屋まで戻ってお菓子を持ってくるのだ。甘い物は好きだがいい歳した怖い面したおじさんが怖がられないように餌付けしてると思うと、あまりの愉快にリィンは自然と笑みが零れてしまうのだった。別に子供みたいにお菓子が嬉しい訳では無い。ないったら無い。

 

 

 夕飯時、部屋毎の時間が決まっており下級兵士食堂で決められたメニューをもぐもぐと食していく。

 

「幸せそうに食べるよな……」

 

 ハムスターのように頬いっぱいに入れて食べる姿を見ると1日の終わりという感じがして、同じ時間帯に恵まれなかった残業雑用に笑いながら自慢するのが居合わせている雑用にとっての幸せだった。

 

 

 リィンの夜は寝巻きに着替えると布団の中に潜り、情報共有が成される月組の様子を眺めみる。

 

「私こんにち、お菓子ぞ頂戴たてますた〜」

 

 ニコニコ嬉しそうに自慢する。近くにいた誰かが良かったなと頭を撫でる。そしてリィンはゆっくり瞳を閉じた。

 

「……それで今日の天使愛好会の情報共有だけど」

 

 ボソボソとリィンを起こさない様な声で交わされる情報共有。しばらく言葉を交わすとロウソクの灯火が揺らぎ消え、リィンは眠りにつくのだった。それよりも前に寝落ちることも時々あるけれど。

 

 海軍の雑用の、平凡な1日。

 

 

 

 〜雑用リィンの1日〜

 

 

 朝、決まった時間に目が覚める。

 

「おはようです」

 

 リィンの声掛けで月組は続々と目が覚めていく。身支度は完璧、女狐としての書類も書き切りアイテムボックスにしまった。

 

「おはよ〜リィンちゃん」

「寝癖ぞついてますぞ」

「つけてるの」

「おはよぉ、俺、寝るね」

「夜勤おつかれさまですじょり」

 

 おはようといくつも挨拶を交わしながら、リィンは軽い足取りで朝食に向かった。

 

 

 綺麗に食べきった皿を片付けたら早速任務だ。リィンは色々な場所を巡り元帥室へと赴いた。渡される配達雑用任務。

 

「最近頻度高度で無きですか?」

「……修正がめんどくさい言語間違いをしてくれるな」

「申し訳ございませんです!」

「今日のソレはG9だ。帰り道、シャボンディ諸島の第3部隊隊長のホーンデット大佐に手配書の更新情報を貰ってこい。話はつけてある。……まァ、お前に頼むのも慣れてきたからな。お前自身も慣れてきているだろう」

「流石に慣れますよォ。赤封筒は勘弁ですけど」

 

「いってきまーす!」

 

 元帥室から飛び出るな。楽なのは分かるが。

 センゴクがそう呟いた。

 

 

「ヘルプに参るしたー!」

「リィンちゃん…! 助かった、今日は他に取られたとばかり!」

「ジャンさんこんにちは、他は先に片付けるしてきますた!」

 

 本日の午後は情報部に途中参戦だ。万年人手不足の部署にヘルプに行かされる。私ったら有能、と自画自賛してリィンは書類の振り分けに励んだ。雑用なので重要書類に触れられないがそれでも大事な知識になる。

 そんなことをしているが真剣に取り組むその顔に評価は高くなる。ちなみに他を片付けた、といっても人手不足部署に顔を出したのはこれが一日で初だ。はっきり言って存在が詐欺だ。

 

 

 そして毎度の事ながら途中で捕縛任務が入る。

 

「い、行けたかの……!? 後ろも、前も、横も、よし、居らん! 行け…」

「──何処にぃ?」

 

 上を確認し忘れたのは痛恨のミスだ。

 

 

 夜、情報共有を聞き、話す。掛け布団を丸めて背もたれにし、本を片手に聞いていた。

 

「リィンちゃん猫被るの辞めてからすごい変わったね」

 

 改めてそう言われる。

 普通に文面だけ取ると嫌味や注意とも取れる。

 

 だがリィンは自覚していた。

 頬に手を当てて妖しげに笑みを浮かべた。

 

「──()()()()()()()見せぬ素の私も好きでしょう?」

 

 それが嘘だと分かっている。素を見せるのが月組だけではないと。それが嘘だと気付かれていることを、知っている。

 相互理解。

 月組はその嘘をひっくるめてにんまりと笑った。

 

「「「「もちろん!」」」」

 

 天使愛好会の情報共有を今更聞かなくても信じて頼っているので、リィンは誰よりも早く眠りに落ちた。

 

 朝起きるのを愚図らなくなり、不相応にしっかりと姿を見せられる様になり、そして警戒心は胡散していた。

 

 

 

 海軍の雑用の、平和な1日。

 

 

 

 

 〜女嫌いの少将と努力嫌いの雑用〜

 

 

「びょ!」

「ぼ」

「ぼびょー」

「……なんでそうなるんだい」

 

 ハーーとつるがため息を吐く。苦笑いで答えることしか出来ないリィンが冷や汗を流した。

 

「こうなりゃ慣れだよ」

「なれ。」

「定型文をとにかく覚えて口からスラっと出るとこから始めるよ!」

「イエス・マム!」

「なんでそういう所がスラッと出てくるんだいあんたって子は!」

「ごめんじょです」

「申し訳ございません」

「申す理由存在しないです!」

「改変しない!」

「申し訳ありませんです! 口からスラッとポロリンするます!」

「するんです!」

「スルンです!」

 

 おつるのパーフェクト言語教室が開かれてる中、扉を開けて入ってきたのは二人の男だった。

 

「……一体何をしておるんだお前達は」

「つる中将お邪魔します」

「なんだいあんたらか。書類ならそこに置いてあるよ、追加は同じとこ置いときな」

 

 ぴ……、と鳴きながらリィンはもう1人の見覚えのない海兵を見上げた。

 

「(誰だこの人)」

「(なんだこのちんまいの)」

 

 互いの思考が止まっている間につるとセンゴクのやり取りは既に終わっていた。

 

「む、互いに知らなかったか。ドレーク、ソレは最近入ってきたリィンだ」

「リィン、その子はドレークだよ。あんたよりも前に入ってた、位は少将。境遇は似たようなもんだから仲良くやりな」

 

 最初に言葉を発したのは表立っての階級も下であるリィンだった。

 

「リィン雑用兵であります!センゴクさんとおつるさんには良くしてもらっています。若輩者で世間知らず故、おぼつかない所も多々あるでしょうがご指導ご鞭撻よろしくお願いスルンです」

「……ドレーク少将だ。リィン雑用兵、これから同志としてよろしく頼む」

 

 顔が互いによろしくという顔ではない。何となく、何となく互いに感じていた。

 

 こいつ(コレ)自分の知らない親代わりを知っている(おやがわりをうばうガキである)、と!

 

 互いに敵視を抱き、よろしくしたくない顔で、そっと自分と同性の親代わりの傍に寄った。そう、同時に。

 

 ──キッ!

 

「そこから離れろ!」

「そこにぞ直立禁止!」

「上司に向かってなんて口の聞き方だ!」

「ぴぃ! 子供だから知りませーーん!」

 

 下の子の出現に上の子が拗ねるように、上の子が構われるのを嫌う下の子の様に。

 2人は罵りあいとも言えない子供の口喧嘩レベルの口論を初めた。まァ片方は完全に実年齢が子供であるので大人気ないのはドレークの方なのだが。

 

 

「この子、人を煽ったり馬鹿にする時は伝わりやすさ重視で標準語が出てくるのかい。珍しいタイプだね」

「自己愛強めなリィンらしい結論だ」

 

 親代わりはいつまで経っても可愛い子供の愉快な衝突をいつ止めるか悩みながら、心地いい独占欲に身を委ねた。

 

 

 

 

 

 

 〜猫っ被りと猫っ被り〜

 

 

 

「かぁーくさーん」

「りーぃーんー!」

 

 壁からぴょこっと顔を出したリィンが間延びしながら人の名を呼ぶと、呼ばれた人物は嬉しそうに名前を呼び返す。

 認識された!と確信したリィンはぴょんと嬉しそうに飛び跳ねて両手を平げながら抱き着きに向かった。カクはそれを難なく受け止め、脇を掴みクルクル回りながら高く掲げる。

 

「どうしたんじゃリィン」

「あのねっ、カクさん! スモさんに美味なる、お菓子頂戴すた!」

「ほう! それはよかったのォ!」

 

 リィンは嬉しそうに真っ赤に染めあげた頬に手を当てる。大興奮するほど美味しかったのだろう。

 自分の事のように嬉しそうに笑うカクは永遠とリィンをクルクル回している。多分このままだと酔うぞ、と眺めていた誰かが注意した。

 

「それでね、それでねっ!」

 

 ガサッと言う包装紙の音が聞こえたと思ったらカクの口の中に何かが放り込まれた。リィンは両手をカクの口に押し付けている。その姿から察するに……。

 

「おしゅしょわけ!」

 

 目を見開いたカクが硬直した。ただし口だけはもぐもぐと高速で動かしている。

 

「か、カクさん? 美味なる? ならぬ?」

 

 口に手を当てたままリィンが不安げに首を右左と傾げながらウロウロと聞く。ゴクリと胃に送り込んだカクはにーーーっと笑い口元にあったリィンの両手を食べた。

 

「あびゃあ!?!?!?」

「わっはっはっはっ! 美味しいなぁ! ありがとのォリィン!」

「きゃーーーっ!」

 

 髪をぐしゃぐしゃに掻き回され逃げようとするががっちり捕まえたカクが逃がさない。めちゃくちゃにされているリィンは悲鳴を上げながらもケラケラ笑みを浮かべている。

 

「カクさんのあぽときしん!」

「あんぽんたんの間違いじゃろ」

「それですわー!」

「ぶっは!」

 

 第1雑用部屋最年少コンビは見るものに癒しを与えるともっぱらの噂。なお比例するように嫉妬も激しい。

 

 

 

 

 

 〜3人の大将と1人の大将〜

 

 

「〜〜〜〜〜〜〜ッ、貴様ら! 少しは七武海を見習って仲良くしてこい!」

 

 相性が悪くはないが良くもない、だが方向性の違いで衝突を起こす。そんな大将にブチ切れた元帥が3人の大将を放り投げた。ペシンと叩きつけられたのはシャボンディ諸島にある有名焼肉店の割引券。ここで無料券じゃない事に微妙な顔をした。

 3人の大将は顔を見合せた。あ、こいつらと食事とか無理。

 そしてクザンが行動を起こした。ようするに、衝突して軋轢が起こるのなら油を差せばいい。

 

「……なるほど??(????)」

 

 奢られるという名目に喜んで釣られたもう1人の大将が宇宙を見た。

 

「いただきます」

 

 丁寧に挨拶をするとリィンは遠慮なく皿に盛られていく肉を食べていった。

 

「おねーちゃん生大3つ追加! あと烏龍茶も!」

 

 クザンが既に飲み切った事を確認して追加注文を入れる。もぐもぐと咀嚼しながらリィンは口に出す言葉を考えた。

 

「そもそも、なんで大将はそんなに仲悪いですぞ?」

「んー、言っちゃ悪いけど仲はわるく無いよォ〜?」

「そうじゃな……別に嫌っとるわけじゃない。七武海が異常なだけじゃ」

「絶対センゴクさん疲れてるよな。七武海を引き合いに出すレベルとか」

「……まァそれもそうですね、センゴクさんとガープ中将が仲悪いわけでは無いのですし。あんな感じに似てるですよね」

 

 あくまでも仕事上の関係として今まで築いてきたからこそプライベートは耐えられないという事か。

 1人納得して箸休めに野菜をむしゃる。お高いお店はお野菜までお高いお味がする。とりあえず【お】を付けとけば格式高い感じになると思ってる雑な思考回路でリィンはゴクリと飲み込んだ。

 

「皆さん進む仕方は違うますが見る場所は同じ方向ですもんね……」

 

 追加注文の烏龍茶を受け取りゴクリと飲む。食べながら話をするという行為は中々に喉が渇く。

 クザンだけならまだしも他の2人は大将としての威厳もあるので若輩者は緊張して肩身が狭いのだ。

 

「……キミは、よく人を見てるねェ」

「私ヘタレですしビビりなので、人の顔色疑うというか……。人の感情や心情を読み取る挑戦に必死なのです」

「恐ろしい限りだ。その歳でそこまで出来るのは」

「俺ちょっと気になってたんだけどさぁ、リィンちゃん得意な分野ってなんだ?」

 

 その問いかけにリィンはふむ、と考える。

 

「……作戦立案ですかね、猫は被れる故に表立って指揮も可能ですが、前線は無理ですね。集中癖がある故、視野が狭くなる。誰かを使う方が楽です」

「こりゃまた異色」

「根っから将官の素質があるねぇ〜」

「わしらはまた方向が違うからのぉ、アプローチも意見も違う方が軍としてはありがたい話じゃ」

 

 この不器用な大人たち、プライベートな話は出来ないんだろうな。

 そんなことを思いながら軍議に花を咲かせた。

 

 リィンはこの憧れる3人に並んだような気がして、花のように笑った。

 

 

 

 

「私聞きたいことがあったですけど」

「「「ん?」」」

 

 ふと思い出したようにリィンがゆっくり口を開いた。

 

「死を合理化する為に、どれくらいの死ぞ必要でしょうか」

 

 空気が固まった。

 

「無理だな」

「無理だろォねェ」

「無理だ」

 

 ズバッと切り込まれた否定の言葉にリィンはゴンと頭を机にぶつける。

 

「殺させた俺が言うのもなんだけど、リィンちゃんは死に慣れるなよ」

 

 そのためのお勉強だったんだ、とは口に出さず。

 クザンはジョッキを傾け、そして空だったことを思い出してそそのまま机に置いた。

 

「絶対に、慣れるな」

 

 呪うように言葉を紡いだ。

 

 死を合理化出来るのは『海賊』だ。

 命を大切にするからこそ他人の命を奪う。矛盾しているようで矛盾してないその重さこそが『海兵』であるべきだ。それがどんどん積み重なって。いつしか救えた命より奪った命の方が多くなってしまっても。

 決して合理化だけはしてはならない。そこから逃げ出してはならない。

 

 

「遠いなぁ……」

 

 近いようでまだまだ遠い。3人の大将と、1人の新米大将。

 

 

 

 〜モブくんの布教活動〜

 

 

「先輩ーーーーーッッ!」

「だぁーー!寄るな寄るな寄るな!」

「今日こそ天使様の沼にハマってもらいますよーーーッッ!」

「知ってるよ本部の天使様だろ見た見た写真みたって、ただの幼じよおおおお!?!?あっっっっぶねぇな!?……うわ、ペーパーナイフが壁に突き刺さってる。お前これで何切るつもりだったの?頸動脈?命の重さが紙より軽いんだが」

「リィン様をただの幼女と侮った先輩は敵」

「落ち着け落ち着けわァ俺とっても天使様気になってキチャッタナー」

「ですよね!!!!!!!!!!!!(大声)」

「うわうるさ……」

「リィン様はですね、目が合ったらにぱっと笑って手を振ってくれるんですよ!」

「その年頃あるあるじゃねぇの……?」

「しかも気分がいいとその場でクルクルダンスを踊るんです!そのダンス中目が合った人はもみじのおててで作った小さくってめちゃくちゃ威力の高い拳銃で心臓撃たれるかウインクという隕石で押し潰されるか投げキッスという核爆弾で死ぬんですよ」

「…………いやそんなアイドルみた「天使様」……天使みたいな子が現実にいるわけないだろお前の妄想だなそれじゃあ俺は仕事に戻」

「先輩絶対海軍本部行ったら覚えとけよこの顔面マッチ棒野郎!」

「お前この前俺が廊下で滑って顔火傷させたの見てたな!?!?!?」

 

 そうして無理矢理リィンの知識を埋め込まれた張本人や周囲にいた者は海軍本部に出張する任務で興味を抱き、深淵を覗いてしまう。

 

「……後輩、天使ってガチで居たんだな」

「ようこそリィン様の沼へ!!!!!(満面の笑み)」

 

 深淵を除く時深淵もまたこちらを覗いているのだ。

 

 

 

 

 〜胃薬カルテ〜

 

 

 

 初めてリィンが手にした胃薬は海軍本部の胃薬であった。

 

「おなか、げきつう……」

 

 ろくに喋れないほどの痛みに医務室で蹲るリィンに医者はドン引きした。

 

「……あのねリィン君、私は確かにキミの傷も毒も確かに見てきたけどね」

「はぃ」

「流石に精神系はお手上げだからな」

 

 キリキリと痛む胃。試しに使った胃薬は約1ヶ月でお役御免となってしまった。効かないのだ。

 

「……一応言っとくけどソレ昔センゴク元帥が使ってたのと同じやつだから」

「うぇ」

「原因取り除けない?」

「ぷぎゃんます。たとえ元凶ぞ消滅したとして、私の脳みそ」

「……考え方がそもそも胃痛を引き起こしてたりするのか。それとも1つ取り除いただけでは払拭出来ないほど原因があるのか」

「両手!」

「両方ね、ふんふん」

 

 カルテに書き込みながら医者はため息を吐いた。

 

「リィン君飛べるって聞いたが島から島はいけるか?」

「試すまだ未定ですぞ、しか、らば。しらしながら!しかし!」

「うん」

「推定、飛行可能!ぞ、です!」

 

 医者は新しい胃薬を用意する。

 錠剤ではなくカプセル型のそれが瓶に詰められており、嫌そうな顔をしている。

 

「本当は子供用じゃないんだが」

「ぴ?」

「同じくセンゴク元帥が使っていたことがある」

 

 つまりセンゴクはいくつも胃薬を乗り換えたということになるのだがリィンは同じ道を爆速で進んでいることを知って胃を痛めた。変にネガティブなのは考えものだ。

 

「未完成の肉体にこの胃薬は薬品としてキツい。年齢制限を普段は設けてるくらいだ。だから数は徹底的に管理するんだ」

「マイロード…………!」

「1週間に1回、休み明けの朝に飲みなさい」

 

 半年後。

 

「ロードぉ……」

「ちなみにこれは診断書。トリノ王国の永久指針(エターナルポース)はここ」

「ロードっ!」

 

 パタパタと嬉しそうに駆け出し箒に飛び乗る姿を窓から眺めて医者は呟いた。

 

「……毒分解する体ってことは薬も効かないってことなんだけど、まだ気付いてないっぽいな」

 

 医者は次の斡旋先を考えながら前例(センゴク)のカルテを取り出し、出身(ドラム)王国から取り寄せしてみるかと1年後に向けて準備をしていた。

 ぶっちゃけ医者よりも患者(センゴク)の方が胃薬に詳しくなっているので、そうなってしまわないように気を付けよう。多少金がかかっても個人用の専用薬を開発・用意するのが1番効くと知っているが。

 

「今の大将の給金じゃ難しいねぇ」

 

 しかしあの歳で胃痛に悩まされるとは恐れ入る。

 

 

 

 〜革命屋兄とトラタイガー〜

 

 

『もしもーしトラルンルー』

「トラしか合ってないが革命屋兄」

『サボだけど』

「なんだ、ドフラミンゴの件で進展でもあったか」

 

 潜水艇の中で電伝虫を片手にため息を吐きながら耳を傾ける。海賊になって5、6年、革命軍と交流を持ち始めて約2年。

 期待していた情報だったのだが続けられた言葉に落胆する事となる。

 

『ソレ探り始めてまだ2年しか経ってないっての……。世界会議に潜り込むからそこで探るさ』

「お前バカかよ」

『これでも海軍内部でも色々情報集めてもらってるんだ。なんならお前も潜入してみるか?手筈なら整えるぞ?お前の能力ならもしもの心配がなくて助かる』

「俺は医者であって瞬間移動の能力じゃないんだが…。で、要件は」

 

 イラッとしつつもまァあまり知らないやつだからと根はいい子なローが話を促した。

 

『ルブニール王国に行って1人の少女の悪魔の実を探って欲しいんだ』

「はァ?」

『家はメァーナス通り桟橋近くのボロい一軒家だ。親族の類いは無し、名前はマリアンヌ。報酬は現在のドンキホーテ一味幹部の悪魔の実の能力一覧。じゃ、よろしく頼むな』

「は、おい!ちょっ…!」

 

 ガチャンと要件だけ告げられ、YESもNOも答えさせてはくれなかった。ローは迷う。探るだけなら探れるし、面倒だが行けない距離じゃない。だが報酬は死ぬほど魅力的だ。

 

「…………ベポ、ルブニール王国に進路変更だ」

「アイアイキャプテン!」

「えーなにー?キャプテンノーランド好きだったっけ?」

「依頼だ。……シャチ、観光くらいの時間は取るから落ち着け」

 

 有名な絵本のうそつきノーランドの出身地ともあって依頼云々関係なく行く口実が出来て嬉しかったのかシャチが見てわかる程度にはテンションを上げる。

 クルーに甘いローがそれを容認してしまったのが、悲劇の始まりだった。

 

 

 

「……目的の家はもぬけの殻だったんだが」

『やっぱ足取りは掴めなかったか。じゃ、報酬はなしってことで!』

 

 や っ ぱ り ィ ?

 

 

──ブチッ

 

 その切れた音が電伝虫なのか堪忍袋の緒だったのか、知ってるのはハートの海賊団だけ。

 

 

『虎樽助!今どこいる!?』

「……トラファルガーだ。今は(ここで素直に答えたらまた厄介事※6回目を押し付けられるな)北の海だな」

 

 広過ぎる選択肢を取り出し、依頼場所を『あぁ遠くて行けないな』と言って断る作戦だ。

 ちなみにハートの海賊団は現在偉大なる航路(グランドライン)だ。

 

『ちょうど良かった!()()()で噂の埋蔵金を探って欲しいんだ!手に入るルートがあれば活動資金にしたいからな!よろしく頼むよ!報酬は海軍潜入お膳立てってことで!』

 

 がちゃん。

 

「……なぁシャチ」

「はい、キャプテン」

「俺たち今どんな島にいると思う?」

「……北の海、では、無いことは確かですね」

 

 現在地はメカ島。難破した船から老婆の入った宝箱を見つけてしまってやってきたばかりだった。

 

「うちに革命軍のスパイがいないか探れェ!」

「居ないよそんなやつ!!!!!!」

「いないと逆に困るだろ怖いだろ!」

 

 そして報告の際「今回だけだからな!」とテンプレートを告げて終わるのだ。

 トラファルガー・ローの苦難はまだまだ続く。




走馬灯終了。
ネタだしお手伝いありがとうございました!

ちなみに雑用の1日前半はめちゃくちゃ猫被ってるので朝は中々起きない()()をしてるし早く寝る()()をして起きて聞いてる。だからファンクラブを知ってたんだけど。
原作軸でファンクラブを把握してたと知った月組は言った。「リィンは盗撮に気付かない鈍感なんだって思ってた時期もありました。実際は気付いていたからこそ気付かないフリをしてたんだな、って。なんせ己の利益になるから。計算高いがすぎる。流石だな」(Byモンペ)


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マリンフォード編
第230話 断罪の間


 

 

 〝議事の間〟

 

 大まかに言えば問題点を話し合ったり決定事項を詰めたりなどかなり重要な会議を行う場所だ。情報の公開が出来ないような内容を話し合う場でもある。

 参加可能階級は中将以上。

 階級が伴わない者が議事に参加する抜け道は、会議に近付かれない様に警護したり、お茶汲みの雑用をしたり、そういう建前を用いている。当然その抜け道は聞くだけ、なんだけど。

 

 

 私は畳張りのその議事の間の中心で正座をしていた。

 

 

「…………。」

 

 

 戦争の直後ということもあって、最低限の巡回をしている中将もいたが本部の中将の殆どが勢揃い。

 その全てが私、女狐の方向を向いている。

 

 上座にはセンゴクさん。

 両端には上座側に大将、そして古参の中将達がズラッと並ぶ。

 

 異常なまでの威圧感と圧迫感。

 緊張し過ぎて飲み込む唾さえ出てこない。

 

「──さて、女狐」

「……は、い」

 

 たったその一言でビリビリと体が恐怖に支配された。

 私が敵に回したのは、この人だ。ここに来て、いや航海を積み重ねてきてようやく分かった。私は今までコレに気付かなかったのかと呆れるばかり。

 

 ──センゴクさんは覇王色持ちだ。

 

「休暇中の身ながら今回の戦争参加、ご苦労であったな」

 

 労る言葉だとしてもチクチク嫌味が突き刺さる。言葉そのまま受け止めれたら幸せなんだろうけど、本当に嫌味にしか聞こえない。

 『余計な真似して互いに苦労したな』と言いたげだなぁ。泣きそう。

 

「……勝手な判断で勝敗を決定させ迷惑をおかけしました。申し訳なく存じます」

 

 心臓が縮こまるのを堪えて頭を下げ、口を開く。

 言い訳する余地もない。

 

 勝敗を一方的に決定する場合は、戦争に関係ない第三者の介入、もしくは部隊の約3割を喪失してからが基本。

 なんなら海賊に対して絶対に正義でなければならない海軍は例え壊滅しようと諦めてはならない。矛を収めるのは、敵に追い討ちを仕掛けるか否かの瀬戸際のみ。

 

 私は名ばかり大将だ。バスターコールの権限を持ってないし、軍事的な発言力は持ち合わせてない。元々、停戦なんて口に出来るわけがないのだ。

 あの場は女狐が表面上海軍大将として立って居たから、シャボンディ諸島に放送されていたから出来た力技。

 

「頭を上げろ」

 

 びく、と肩が小さくはねる。

 私の顔は仮面で隠れているけど、内側からは見えるのでセンゴクさんの表情はよく見えた。

 

 あ、怒ってる。

 

 自分の血の気が引く音が聞こえた。絶対聞こえた。

 

「〜〜〜ッ!ごめんなさい!白ひげ海賊団を、私情で逃がすますた!」

 

 頭を下げる勢いを付けすぎてゴンと畳に額をぶつけてしまう。

 畳だから痛くはないけど、極度の緊張から生理的に涙が出てきていた。

 

「海軍を、敗北に追い込みました!」

「そうだな。女狐、貴様のお陰で海軍は劣勢の状態で終わった。敗北を歴史に刻んだ」

 

 ズキンと心臓が痛む。

 悲鳴を上げる。

 

 謝っても許されることじゃない。頭を上げることが出来ない。

 

「──明確な裏切り行為だ」

 

 ハッキリと言葉にされた事で重みがズンと加わる。罪悪感と後悔と、喪失感。

 でもきっとルフィ達を失うより。そうだよ、後悔しないんだ。喪ってからじゃ遅い。3人を喪うことに比べたら、こんな程度。

 

 泣く資格なんてないけど、心底泣きたくて堪らなかった。

 

「センゴクさん、そろそろ。無駄に時間を使うモンでもないですけェ」

「えぇ、俺はもうちょいやってもいいと思うけどなぁ」

「わっしはサカズキに賛成だよ。どうせこの後、それなりの処分を決定させなきゃいけないんだしねェ〜」

「「うわ……」」

 

 サカズキさんがこのやり取りを終わらせようとしてるがクザンさんが反対。リノさんは私を精神的に責め物理的に胃を痛めつけながらサカズキさんの意見を支持した。怖い。

 

「……そうだな。しかし私個人としては女狐が気付くだろうと思っていたんだがな」

「いいや元帥流石に無理でしょう」

 

 思案顔をするセンゴクさんにストロベリー中将が発言していた。センゴクさんはスっ、と表情を無に変え、私に告げる。

 

「女狐」

「…………はい」

 

 

「──この戦争は負けるのが正解なんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありゃ、固まったな」

「女狐大将〜? んー? 生きてるかな?」

「センゴク元帥もお人が悪い」

「気持ちいい笑顔浮かべてんじゃないよセンゴク」

「女狐、息しとるか?」

 

 

 

 負ける、のが正解。

 負けることが正解?

 ん? 負けないのが正解?

 あれ? 今なんて言ったっけ?

 

 

「…………………パードゥン」

「この戦争は負けるのが正解なんだ」

 

 センゴクさんはこれまで見た事ないほど輝かしく晴れ晴れとした笑顔で綺麗にもう一度言ってくれた。

 

 うん、えっと。

 聞き間違いじゃ、無い?

 

 

 

「はああああああああ!? 私の渾身の混乱の叫びどパートツゥぞ!? どういうこと、どういうことォ!?」

「わっはっはっはっはっ!」

 

 思わず立ち上がってしまったが、私の態度を全く気にせずひっくり返る勢いで大爆笑するセンゴクさん。流石に理解が出来なくて言葉の裏側を読み取ることが出来なくて、私は周囲の中将達を見回した。

 中にはぶふっと吹いている人、苦笑いしてる人、無言で視線を逸らす人。

 

 あっ、これ私以外全員理解してる顔だ。

 

「笑うならちゃんと笑うして!!!!」

「キャンキャンうるさいぞ女狐」

「笑いながら言う禁止です!」

「どっちだ」

 

 耐えきれなくなった者達が笑い始める。

 血縁ではないものの、一応祖父であるガープ中将を見たが耳を塞いで下を見て、情報を完全にシャットダウンしていた。つ、使えない!

 

「女狐、貴様は任務にあたっていたから知らんだろうな。だから本当に、なぜ途中参加してしまったのだと頭が痛かった」

「そういう意味で!?」

 

 やれやれとため息吐いてるけどため息吐きたいのはこっちなんですけど!?

 

「女狐、何も違和感を抱かなかったか?」

 

 その言葉に私はよく分からない状態で座り直して頭を捻りあげる。

 

「……包囲壁が出なかった事、電伝虫が中将の攻撃で切れていった事、パシフィスタの登場が遅い事、撤退戦の攻撃の手が、緩い……? あと白ひげ海賊団内部に攻撃してない事」

「ほう、9割理解しているじゃないか」

「あっ、七武海の攻撃が温……」

「「「「七武海には何も指示してない」」」」

 

 あの野郎共……。海軍を勝たせる気無かったって事だな……。暇潰しか? ヒマ・ツブシちゃんなのか? 頭からひつまぶしみたいに食べるぞ?

 

「つまり?」

 

 

 センゴクさんの問い掛けに私はゆっくり言葉を理解していく。

 覚えがある違和感は内部から見ないと分からないものが多いけど、1個1個だと些細だけど、観察力がないと気付かないだろうけど、全て組み合わせると一筋の線が見えてくる。

 

 つまり、本当に勝つ気が無かっ………?

 

 

 私はそのままバタンと畳に倒れ伏して駄々をこねる子供のように大の字に寝そべった。

 

 

 

「──私センゴクさん大っ嫌いッッッッ!!!!!」

 

 

 議事の間には笑い声が響いた。

 

 くっそ〜! 騙された! めちゃくちゃ騙された! 負けるという目的位は言ってくれて良かったのに! 言ってくれたっていいじゃん! 海軍は決して負けてはならないとかインペルダウンでめっちゃ考えて! それで負けさせてしまった事にめちゃくちゃ負い目を感じて! たのに!

 おい誰だざまぁみろとか言った将官。

 

 

「……それで、どうしてそのようなトンチキな事──ヒィ!」

 

 その疑問を投げきる間も無く、笑い声の絶えなかった空間が静まり返った。殺気と怒気で場が溢れている。こんなの誰でも悲鳴を上げるわ。

 オノマトペにするなら『ゴゴゴゴゴ』だ。

 

「そうだな! キミにも見てもらわないとな!」

 

 取り繕った様な笑みでセンゴクさんはぐしゃぐしゃになった書類を取り出して渡した。

 

 

 ──確認中──

 

 

「………………はあ゛?」

 

 5回は読み直した資源の無駄の具現化に私はごく簡単にキレた。

 

「お時間をおかけして恐縮でございますがこちらの書類とも言い難い紙は本気で仰っているのでありましょうか」

「……正式な書類として届けられた」

 

 何が書かれているか分かるのに何を言ってるのか全然理解が出来ない。奇跡じゃん。

 

「も、もう1回時間ください」

 

 これを現実的な書類としてもう一度読み直した。

 

 

 三大勢力の均衡を保つ為の海軍軍縮条約の制定

 主な内容は2つ。

 ・主力艦の製造禁止(購入の場合は政府を通す)

 ・補助艦の保有量の指定

 

 

 グシャッ。

 

 つまり『政府が制御出来ない力を付けられると困る』ってのが本音だよね!?

 

 

 提案者は……スパンダム………。

 聞いたことあるなぁ?? あぁ?

 

 

「コレは一応推測だが」

 

 毎秒死んで欲しいと思っているとセンゴクさんが口を開いた。

 

「自分は強いと驕っている阿呆派と海軍の戦力増加に怯えた馬鹿派が奇跡的に噛み合った結果だと思っている」

「予想外の策士とかそういう希望は」

「仮に利益を生み出せる頭があったとして、何をどう足掻いても野心家としか思えん上に海軍に不利益しか、ない」

 

 軍隊自体の縮小という案はまだいい。多分政策としてこの世に存在するだろう。

 だけどこれは国家間の和平を結ぶためにするもんだよね? 『私たちは戦争するほどの道具を持たないから、お前らも持たないでくれ』って。もしくは戦争国の国家予算圧迫回避方法。軍艦の製造も維持もお金かかるってのは雑用やってる私はよく知ってる。

 

 だけどこれは無い。そもそも前提が違う。

 世界唯一の中立正義組織海軍がパワーを失ってどうする!!! 力が余ってるから税金の確保の為にって名目かァ!? ウチの軍事費減らしても意味が無いだろうが! 手配書の! 懸賞金は! 税金! 賞金稼ぎに渡さないといけない(くび)を無報酬の海軍で積極的に潰し回ってるから税金が使い果たされてないんだろーーーーが! (ガキ)でも突ける穴を堂々と見せびらかすなよ馬鹿ども。まず理由を提示しろ書類として不完成だ、ただし全て燃やすがな。

 

 

 即火中!!!!!! 成敗!!!!!!

 

 

「これ届けた輩誰ですか」

「監察官だ…………」

「逃げ場がない」

「名前は確かシェパードだったかな」

 

 監察官は海軍内部を監察する()()()海軍組織だ。階級も海軍に合わせているし、表面上は海軍組織の一員だけど、実態は政府。

 

 シェパードねぇ。どっかで聞いたことあるぞぉ。

 

「………阿呆と馬鹿の奇跡的なコラボレーションッ!」

 

 項垂れた。

 ……私が完璧に潰し損ねた政府のネズミ共が猫の胃袋を噛みに来た。CP9とナバロンの両方で政府の役人と関わったが徹底的に潰しておけばよかった。

 

「まァともかく『敗北』の結果を望んだ理由がコレだ」

 

 要約すると『縮小する暇ないんでお断りしますね〜(ニッコリ゛)』だな、今回の敗北の理由って。

 率直な感想として政府もやばいけど海軍も大分やばくない?

 

「…………精神汚染? ……徹夜? いや洗脳という線も」

「内部状況を知らないとそういう反応になるのは分かっていたが流石に口を慎め」

 

 もっと条約を蹴るいい方法はあっただろうになんでそんな力技で解決しようとしたのか考えているとセンゴクさんからストップが入った。

 

「時間があればもっと穏便な方法など出てきた。……だがな! 直面したのはシキの通り魔の件! 黒ひげ海賊団の件! 貴様ら麦わらの一味のどったんばったん大騒ぎ! 白ひげ海賊団との全面戦争! そのくそ忙しい最中にふざけた条約要請だと!? 白ひげ以外の情報を持ってくるな、と何度叫んだと思う! ここ1ヶ月はろくに寝てないぞ!」

「ウワァ」

 

 流石に私でもドン引きした。

 察した、議事に会議にと慌ただしく割ける時間が少なかったから最も巫山戯たクソみたいな案件は過程より解決を重視したんだね。

 

 脅しをかけて交渉するにしてもかかる時間があるしその交渉の前に戦争が入るから軍事力にも影響が出て、確実にある事後処理でどれだけ時間を取られるか分からない。

 ならばこうしましょう。

 海軍の軍事力を縮小させなければ良いのだ、と。縮小させる余裕なんざない、と。

 

 プロの脳筋かよ。

 にしたって力技の規模が世界規模なんだけど。個人的に都合いいけど。

 

「──だがそれはそれとしても、貴様が海軍を裏切ったことには違いないぞ」

「……ぅ、っス」

 

 誤魔化されなかったか。

 

 そうだよなぁ、負けることが正しい選択だったとしても、それを知らずに敗北の結末を出したんなら裏切りだもんなぁ。

 雰囲気的に結果オーライだからそこまで重くはないだろうけど。

 

「ふぅ……。どんな処罰だろうと異論はありません」

 

 それで許されることはない。

 なんせ罪に対する罰だ。

 

「──リィン、大将位の任を解く」

「……ッ!」

 

 していた覚悟と違う命令に思わず息を飲んで顔を上げる。

 

「リィン、海軍を辞めろ」

 

 言い方を変えて伝えられた言葉。

 

「ちょ、ちょっとセンゴクさん、流石にキツすぎやしないかい?ほら、彼女色々功績は上げてるじゃんか。大将として遜色ない仕事はしてるよ?……あと辞められると書類仕事が溜まる」

「そーじゃそーじゃ!わしも困る!」

 

 反発してくれるのは嬉しいけど9割サボりが理由な人達は黙って座ってろ。

 

 所々反対の声が上がるのはとても嬉しい。

 

 まぁなんせ、殺さないなら生かして利用する方が便利だ。しかも私は触りとは言えど海軍内部を知っている。そんな存在を外海に放つ、と言うのも不満だろう。他人の手に渡るなら殺せ、って意味での擁護だとはわかる。

 

 私は拳を畳に、軽く頭を下げた。

 

「承知しました」

 

 素直な返事に、周囲はぎょっとした。

 

 

 ──覚悟はしていたけど、覚悟を必要としない処罰に驚いた。だって、元々『堕天使(リィン)』は海軍()裏切られ捨てられるというシナリオだったから。

 

 

「ちなみに事後処理が終われば女狐には追加の……恐らく赤封筒レベルの長期任務を受け渡す。抱えている仕事を整理しておけ」

「っえ!? あ、はい」

 

 流石に度肝を抜いた。

 

 

 世界を揺るがす程の赤封筒案件。

 組織や世間的に見たら解雇って十分な罰だけど、今後も海兵として海軍にいる以上、ちゃんと罰が必要だ。

 

 私に与えられた本当の罰は、赤封筒案件……。そっちが本命か。うわぁ、いやだ心底嫌だ。

 

 

 そして周囲は気付く。『リィン』は解雇されたけど、違う顔をした私がまだ女狐であるということに。

 中には訝しげな顔をしつつも納得する者、追加の任務の難易度にドン引く者、安心して息を吐く者。いやぁ、愛されてるなァ。……──同情するなら仕事を変わってくれ。

 

 

 まぁ、悪いことしたのは私だし。仕方ないけど、こう、若干安心させたところで思いっきりくそ重たい罰を与えるのはどうかと思う。いややりますけどね!流石に恩を仇で返そうとは思わないよここまでクソデカ案件抱えてくれたんだから!

 

 ……正直、ここまで私を思ってくれる他人って居ないんじゃないだろうか。

 ルフィを助けたい、エースを、サボを、生かしたい。大事なものを取りこぼさないように、私が死なないように、守ってくれている。麦わらの一味に絆された段階で裏切り者として見捨てられてもおかしくない。もっと昔にもおかしくないタイミングはあった。

 今回こそは本当に裏切り者として殺されてもまァ納得できるから潔く受け入れようと思った。

 

 その覚悟が、全部無駄になった……!

 

 

 

 

 私はこの人の為に何かしたい。命を懸けて、私の全てを持って、私を守ってくれた人に…──んん????

 

 

 私そんなお綺麗な人間じゃないよ??

 

 

「…………センゴクさん、もしかして、罪悪感をわざと抱かせ……?」

 

 

 お返事は今まで見たことがないレベルの笑顔だった。

 

 

 

 

 

 いや怖いわ。冷静になったけどセンゴクさんってめっちゃ怖い。気付いたけど、気付けたけど!気付いてしまったけど!

 

 どこからだ、どこから仕組まれてた。

 

 まず私がエース保護の思想を持っていることは既にバレてると確定していい。多分、初めて赤封筒に触れた時からバレてるとみて間違いない。

 だから戦争で裏切る確率は高かっただろう。

 私が海軍を捨てられないという、どっちつかずな思想を持っていることもバレていたら、表立って敵対はせずに海軍を影で操って、終結させる展開も読めてたはず。

 サカズキさんが言った『腕1本は貰うかもしれない』という発言から見て、センゴクさんは元々エースを殺すつもりはなかった。そう指示していた可能性も捨てきれない。

 私に対する人質として、エースを生かせば、生かすシナリオを私が築けば、罪が、罪悪感が、私に植え付けられる。

 そこを利用すれば……?

 

 うわあああ怖っっっっ。

 ちょっと待って気付いてしまった方がホラーじゃないか!これ!知らないままの方がいくらか幸せじゃん!大事にされて守られている事に変わりはないんだから!くぅぅ!使える頭がある自分が憎い!自分のアイディア高過ぎて発狂する!

 

「──ぎつね、女狐!聞いているか!」

「はい!センゴクさんは怖くないです!私は幸福で幸せで満足デス!」

 

「あらら、あと引き摺ってら」

 

 姿勢を正して返事をする。

 横のクザンさん、黙れ。

 

 議事の最中、私は考えに没頭してしまったけど初めて議事に参加出来た。席はクザンさんの横だ。……ぶっちゃけ考え事に集中しすぎてどうやって移動したのか覚えてないけど。

 

「それで、これからの新時代。お前はどう睨む」

 

 センゴクさんの曖昧な質問に、少し考える。

 これは現状の確認や先の予想というより、私の思考回路を確認する儀式みたいなものだろう。

 

「そう、ですね。──インペルダウンの暴動、予知を中心に計画してたらしいですし、あれの主犯はシラヌイ・カナエですよね。そこは死亡を確認しました。正直目の前で見たし複数人が確認したにも関わらずめちゃくちゃ断定できないのが怖いですけど」

 

 うん、とほぼ全員に頷かれた。

 そうだよ、目の前で死亡を確認したのにすごく死んでない気がするの、分かってくれるよね。黄泉がえり、という前例が出てしまった以上普通に考えて有り得ないのにぶっちゃけ6割生きてるんじゃないかと思うレベル。いや肉体の消滅も確認したし、悪魔の実も手元にあるし、あるわけないんだけど。あるわけないんだけど。……ないよね??

 

「今回の戦争自体にそこまで影響はないと思います。結末自体は戦争前と戦争後で対して変わらないので」

「ほう……?」

「世界が着目する点は、麦わら兄弟。これに限ります。『滅ばぬ海賊王の血』『大暴れする台風の目』は他の雑魚海賊の抑止力になる可能性が高いですが、同時に力を持つ海賊の勢いは苛烈極める一因になる、ですね」

 

 ただ、と言葉を続ける。

 

「存在はともかく。張本人は私が操れます。ツボも押えてるし弱点もいくつか。暴れ馬故、確実にと言えないところが難点ですが。同時に古強者や波に乗った海賊の視線を麦わらの一味に向けさせることも可能です」

 

 私はそこまで言って眉を顰める。

 アレが分からない。

 

 

「新しい時代、1番の不安要素があります」

 

 喉が渇く。

 私が1番不安を抱く、闇。

 

「〝黒ひげ〟マーシャル・D・ティーチ」

 

 1部を除き殆どがその名を聞いたことないだろう。

 

「──元白ひげ海賊団所属、血の掟を破り脱走。火拳と不死鳥両名を同時に相手取り、戦闘不能に。そして両名の身を手土産に七武海の称号を狙った。ただの手段、として」

「……黒ひげはインペルダウンにも現れたそうだな」

「えぇ。実際止めようとしたですけど、他の目もありますたし、無理でした。黒ひげが向かった先はインペルダウンlevel6。多分、いや、絶対目的は…──そこの囚人」

 

 それだけではない。それで終わりでは無いのだ。

 

 起こらなかったこそ! 怖いのだ!

 

「やつは悪魔の実を2つ食べることができます」

「「「!?」」」

「彼の狙う実は、グラグラの実。私が白ひげ海賊団を私情で逃がしたのは、やつに実を手に入れさせないため」

 

「ま、待て。待て女狐……。それは一体、どういうことだ」

 

「……おそらく死体から悪魔の実を取り出せるのだと思います。実力も頭も両方備えられ、長年狙っていた悪魔の実を手に入れた狡猾な男。ソイツが! 無名であることが! 警戒されてないことが! 私はとても怖いのです!」

 

 気持ちが昂りすぎて思わず叫び声になってしまう。

 海兵として黒ひげが注目されてないことは怖いけど、個人的に名もあげてない段階で中将方に注目されるのはクソ腹立つ。

 

 センゴクさんは眉間にこれでもかと皺を寄せて発言する。

 

「…──level6から黒ひげによって連れ出された囚人は4名だ。だがもちろん、それ以上に消えている。同時に死体の数も多かったがな」

「アッ」

「……おい待て女狐その『アッ』ってなんだ」

 

「…………いやぁ、その、うるさすぎて、デスマッチをさせてたので」

「お前に人の血は流れているのか???????」

 

 海兵は宇宙の神秘を見てしまった動物みたいな顔をしていた。これもしかしなくてもインペルダウンのマゼラン署長ショック受けてるだろうな。責任取って辞めるとか言わなければいいけど。

 まァ脱獄で目立った奴らはイナズマさん以外全て面識があったし探り入れたりとやりやすかった。これからまた情報を得なけれ…──。うん?

 

「海賊側を最も理解してるのって、もしかして」

「「「「「「お前/あんた/キミ/女狐 だな」」」」」」

「……こんな責任要らない。どーせこれから麦わら兄弟と合流しますしィ? 剣帝冥王コンビと会話するでしょうしィ? 元七武海ズは確実ですし白ひげ海賊団からもどうせ質問攻めにあう、は?? こわっ」

 

 えぇ、自分がやばすぎてセルフでドン引きする。

 

「でもま〜、あれだわ。麦わら。アイツらほんとどうなってんの?一味も、兄弟も」

「火拳、革命軍参謀、麦わら、死の外科医、厄介な4兄弟だな」

 

「ボブっ」

「ゲホッ」

 

「ルフィとエースとサボはもちろん知ってるんじゃが、あのローとかいうやつも杯交わしとったか……?」

 

 ゲホゲホと咳き込んで喉を直した。あー、ビックリした。

 

 私からは何も言いません。そのままそう捉えておいてください。反応がリアルですから。

 でもサボの気に入りようもルフィとエースの恩義も、マイナス方向には進まないだろうから……。うーん、嘘から出た真になるかもしれないな。普通に嫌だな。

 

「まァ、私は以上ですね。結論は『黒ひげを要警戒』です。私の手が届かない場所にいるので余計に」

 

 そろそろ私は席を立って兄の元に行かないと怪しまれるな。

 

 そう考えていたのが伝わったのかセンゴクさんは私に必要な重要項目を先に告げた。潜入兵は多忙なのです。1度海賊側でそれぞれの情報集めてセンゴクさんに報告しないとならないしね。

 

「七武海のことなんだが」

「……………ぅゎ」「ぅげ」

「そこら辺で小さく呻き声を上げるな」

 

 中将は基本七武海会議で監視などをこなすので七武海のハチャメチャ具合をよく分かっている。

 

「現在の七武海の状況を、」

「ハッ、席はドフラミンゴ、ミホーク、ハンコック、モリア。3枠開いています」

「……3枠?」

「くまは今回の麦わらの一味壊滅作戦で海賊に手を貸した。その点から除籍だな。あとは政府の内情……パシフィスタと絡む」

 

 ポツリとわざと疑問を口に出せば外にいて内部を把握しきれてない私に答えてくれた。

 いや、知ってたけどね。

 責任背負ってくれているの。

 

「新たに候補があれば」

 

 じゃあ私はさっさと答えておこう。

 片手を上げて候補を口に出した。

 

「『バギー』『大型超新星(ルーキー)』『クロコダイル』」

「…………その心は?」

 

 若干予想と外れていたであろうこのチョイス。

 私は一つ一つ理由を上げていくことにした。

 

「まずバギー、これは実力という意味ではまっったく意味は無いです。ただ、彼は肩書きがある。弱い故に武力行使や弱点を点けば簡単に操れる。それに調子乗りで小心者だからこそ、四皇と争わず渡り合えるんです。赤髪と兄弟分ですし……」

 

 あとこれは根拠がまだ見つけられてないただの勘なんだけど。あの人、多分天竜人。もしくはそれに近い肩書きはある。

 何となく理由を付けるのなら、『私』。私とバギーって存在定義が近いんだよ。肩書きだけがどんどん膨れ上がっているけど、実力は中の上、上の下。だから将来アレの全てが明らかになると政府ですら抑え込める権力になれる気がする。勘違いだとしても。

 

「次にルーキー。今の世代と全員顔を合わせました。同時期に上陸したこともありそれぞれかなり行動を睨み合ってるので、1人でもこちら側に寄せたい」

 

 それに関して2人だけ、出来れば3人候補から除きたい人がいる。それはルフィ(もちろん+一味)とドレークさん。ついでにローさん。

 ルフィの建前は『海軍政府と全面対決したから』で本音は『海賊王にする予定だから』だ。七武海になると海賊王の道、近道だろうと思うけど悪の代名詞として操るつもりなので指示される立場にいて欲しくない。指示できないからこそ海軍が手を出せない場所に手を出してもらう悪、である必要があるのだから。

 次にドレークさんの建前は『離反した元海兵だから』で本音は『旨味がないから』だ。七武海は新しい伝手というか、あまり知らない人を置いておきたい。染まるから。

 ローさんも避けたい理由は、多分ドフラミンゴとぶつかって七武海称号も意味なくなるから。これからの未来1つ枠が削れることは確定してるんだからね。2つにしたくない。

 

「最後にクロコダイルですが。アイツは裏に閉じ込めたくない。表に立っていて欲しい」

「……………何故か聞いても?」

 

 シンプルにまとめた言葉にセンゴクさんは引き攣り顔で聞いた。

 

「広告塔だから!」

「それは晒し首と言うんだッ!」

 

 右手を握り拳を固めてムン! とドヤ顔するとドン引きされた。げせぬ。

 

「この後事後処理等ですぐ行動を起こさねばならない者もいるだろう、ここで1度議事を締結させる」

 

「……もしかしてもしかしなくても私の反応を楽しみたいがために開いた?」

「……」

「全員視線を逸らすな」

 

 1時間と待たず終わる何も決定されない薄っぺらい議会に疑問が口から溢れれば遠回しなYESがヒシヒシと伝わってくる。

 いじめっ子かあんたら。

 理由のある仕返しという名の制裁が襲いかかってきた。

 

「クザンさん、本音は」

「スキルが人外すぎて大人のプライド粉々にされるからリィンちゃんのミスは残さず掬いとって笑いたい」

「そのプライドは大人じゃないかな……」

 

 皆さんよく覚えておいてください。こいつらが海賊の脅威として世界の抑止力になっている中将なんです。




最後になってくると気力が尽きてぐだぐだしてきたけどよく考えたらこれがこの作品の常だし別にいっかなって。


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第231話 重い想い

 

 

 

「──キミが居ながら何故カナエを殺したッッ!」

 

 

 襲い来る無意識の覇王色に、心臓が竦み上がった。

 

 

 シャボンディ諸島12番GR(グローブ)。私は海軍の会議という名の弱いものいじめを抜け出し、エースのビブルカードを辿ってやってきた。途中退場してしまったし、顔を合わせづらかった。気が滅入りそうな中やってくれば3人は私を無事でよかったと喜んでくれたから、酷く安心して。エースに生きててよかったと、嬉しい、と。全部見てたくせにありきたりな感情を口に出そうとした瞬間レイさんが私に気付き。──そう叫んだ。

 

 

「は、……っ!」

 

 今までで一番重くて苦しくて殺意の乗った覇気に浅い呼吸が漏れる。レイさんがくしゃくしゃくしゃになった顔を手で覆う。

 

「貴様が居ながら、カナエはっ、カナエが……!」

 

 失望と怒りが混ざったその心からの叫び。会う度余裕そうな顔をしている姿とは思えない程の剣幕だ。

 

「──レイリーッ!」

 

 命が茨で締められて、何もかもを搾り取られるような。苦しい。うまく息が、出来ない。

 

「……だ…!……っ、……。信じ、……」

 

 フェヒ爺の叱咤にレイさんは抗議をするように口を開いて、ハグハグと口を開閉させると、その剣幕の激しさは次第に萎んで行った。

 私も上手く呼吸が出来始めた。

 

「…………すまな、い。キミに当たる事じゃなかった」

「……いや。……。大丈夫です」

「…………頭を冷やしてくる」

 

 殺したのか。と、その質問に上手く否定できないで居る。未だにじわりと殺気が漏れていた。私に直接当たるような殺気じゃないけど、当たる場所のないぐちゃぐちゃと色んな場所に飛んで、感じられる緩急にヒヤリとする。

 レイさんはそのまま私を見ることなく背を向けてどこかへ去っていった。

 

 時が止まる。

 気遣いげにその場の誰もが私に視線を向けた。

 

──ドサッ

 

「リー!?」

 

 張り詰めていた緊張が解けて膝から崩れ落ちる。レイさんを警戒してなのかそばにいたサボが地面に倒れる前に支えてくれた。

 

「……あ、あー、大丈夫。覇王色慣れぬ、だけぞ」

「いやまあ確かにすごい威力の覇気だったけどそうじゃなくてだな?」

 

 バツが悪そうな顔したフェヒ爺が私に歩み寄り頭をワシワシと撫でた。

 

「感情を押し付けて悪かったな。あいつにも言っとく」

「んー、大丈夫。それよりレイさんはほっとくが1番。気持ちは分かる故に」

 

 ヘラッと笑って手を押しのける。フェヒ爺は眉をしかめた。

 

「それよりこれからどうするか考えるなければ」

「あ、あァ……」

 

 腫れ物を扱う様な反応。まァ私でもそうなる。わかる。

 周囲を見回して確認する。ルフィ、エース、サボの3人と、ローさんとフェヒ爺。

 

「…………あれ? クロさんは?」

「クロコダイルのことか? なんで一緒にいるって知ってるんだ?」

「ここにいる元月組の人と電伝虫繋いでずっと中継すてた。ね、ルフィ」

「それってモグラしてる時話してたやつ?」

「そうそれ!」

「……なるほどなぁ、それでリーと連絡つかなかったわけか。マリンフォード行く前にめちゃくちゃ連絡したのに全然連絡つかないし」

「申し訳ございませんです。だから頭蓋骨は! 頭蓋骨リンゴだけは勘弁!」

「怒ってないよ、お前俺の事なんだと思ってんだ?」

「ゴリラ──いいいいいい゛!待ってごめんなさいごめんぞりっ!今脳みそはやばい今脳みそはダメ禁止!!」

 

 なんなの、私の頭って掴むためにあったの?知らなかった。

 それともあれか、この世界の人間にとって私の身長が下にあるから1番近い距離にある頭を掴みたがるのか?その身長を削るぞ。ヤスリで。

 

「サボとリーが仲良い!なんで!?」

「……ルフィもしかしなくても気付くない?サボはアラバスタで一緒にいた参謀総長ぞ?」

「ええええええええ!?」

 

 その驚きの声と顔に思わず目を見開いてしまう。話題の張本人であるサボに視線を向ければ目があったので、笑ってしまった。

 

 私の様子に周囲は見るからにほっとした表情を見せている。うーん、単純。

 

「それでクロコダイルだけど、あいつならフェヒ爺が」

「フェヒ爺が?」

「……悪い」

「大爆笑しながら絵本が出版されてることをチクった。お前、シャボンディ諸島着いてから出版社に行ったんだろ?」

 

 やっぱりシャボンディ諸島に着いてからの行動、フェヒ爺見てたな。おかしいと思ってたんだよプー太郎フェヒ爺が3日も様子見せないの。絶対怒ってた私に気付いたからに決まってたんだ。

 じとっと睨むとあからさまに視線を逸らされた。

 

「でもさ、放送ってなんのこと?」

 

 エースが頭に手を当てて首を傾げた。

 

「……俺はリアルタイムで聞かなかったからな。情報は得てるけど」

「俺、リーの所業の数々の中でアレはちょっとどうかと思う」

 

「麦わらの説明はめちゃくちゃ過ぎるし、革命軍のやつは情報の正確さが足りないから当てにならねェんだよ」

 

 ぞわ、と寒気が背筋を駆け抜けた。

 

「なァ、リィン?」

 

 耳元で聞こえるその声に引き攣り笑いを浮かべ両手をそっと上げた。

 背中取られた、気付かなかった。

 

「……いつから居たです?」

「お前が到着してから」

「さいっっしょからでは無きですか!」

 

 声を荒らげると頭に手を置かれた。

 人質ならぬ頭質……!

 

「で?」

「……で、とは?」

「冥王にこっぴどくフラれた元海兵さんの今のお気持ちは?」

「おい! クロコダイル!」

 

 自分でも分かるくらい私の顔から表情がストンと抜け落ちた。

 今の自分の感情が分からないほど、クズでもマヌケでも無い。

 

「──元々」

 

 気を使われていることも知っていた。

 私は口を開く。

 

「私と冥王と戦神の間に親子の繋がりは無いですよ」

 

 私はレイさんに対して『ロジャー海賊団の副船長』と捉えており、カナエさんに対して『謎しかないルフィの恩人』と捉えている。

 興味はあった。でもさ、こうやって、カナエさんに『利用するために生まれた』とかレイさんに『殺したのだ』と責められて、感情は確かに揺れ動いたけど私は全然悲しくなかった。

 

 だって所詮他人だし。

 だって、私の親はセンゴクさんだから。

 

 私は辛くない、悲しくない。

 ……だって私は幸せだから。センゴクさんという親を手に入れたから。どれだけヘマやらかしても裏切ったとしても、信じてまだ守ってくれるセンゴクさんがいるから。

 

 あぁダメだ、リィンはセンゴクさんにも裏切られてるんだから親は地雷にしないと。

 

「……私には、親は居ないけど、兄ならいるので」

 

 嘘をつく時嘘は吐いてはいけない。私は感情をそのままにへにょっと笑った。

 

 レイさんが私を責めた。

 私が居ながらどうして『殺した』のだと。客観的な状況を見ればそこに当てはまる言葉は『殺してしまった』か『死なせてしまった』だろう。

 私が手を下した、殺したこととして責められた。

 

 事実だ。

 

 だからこそ、浮遊する扉の上で起こった出来事は貴方が話したんだろう。どこからどこまで話したのか分からないけど。様子から見るにほとんど話してるんだろうな。

 性格悪い感じに。例えば『私の体力を回復させたらそれが限界で息絶えた』とかね。……唯一状況説明できるクロさんを恨み見上げた。

 

「ん? 会話は話してないが行動なら話したな」

「クロさんって、性悪だよね」

「お前ほどじゃねェな」

 

 確認で悪態をつけば堂々と返事が貰えた。遠回しだけど、性格が悪いことを訂正しなかったって事『私が嫌なところをチクった』って事。

 

 まぁ、そういうことだ。

 そもそもカナエさんは興味があったけどレイさんに対してはほぼ無関心に近い。

 

「……フェヒ爺はともかく、女狐(かいへい)だった私にとって古の海賊はただの敵ですたから」

「はっ、性悪」

「クロさんほどじゃないです」

 

 頭に手を乗せて体重かけてくる元七武海はいい加減にして欲しい。

 まだ女狐だとカミングアウトしたこと怒ってんのかな……ネチネチネチネチ女かお前は。あっ、ちょ、頭握らないで、あとなんでナチュラルに思考回路読んでるの。

 

「それ、で!」

 

 腕を除けて距離を取ると私はそっとルフィの後ろに回った。

 

「クロさんが私を合流させた意味ぞ何です。ロリコダイル報道の真実追求じゃなきでしょう」

「おいちょっと待てお前」

「そこら辺はドフィさんが直接聞くしてたらしいですのでそいつに聞くなり世間に聞くしろ」

「絵本から見て既に嫌な予感しかしねェんだよお前ホントそれに関しては覚悟しろ」

 

 頭が痛そうにため息を吐くクロさん。お前より私の方が苦労したので覚悟するのはお前の方だ。私は悪くない。なんならもう一手二手は加える予定。

 

「で?」

「……はァ、指輪貸せ」

「あげますね!」

「要らん」

 

 海楼石の指環を笑顔で投げ捨てるも残念なことに拾われた。

 

「リー、あの指輪ってもしかして……」

「私がまだ正真正銘幼女の頃クロさんから貰った」

「うわぁ(ドン引き)」

 

 聞いてきたサボがトマトでも見るような目でクロさんを見た。その視線を受けてクロさんは不機嫌そうにフンと鼻で軽く返事をする。

 否定しないことにさらにドン引きした様だ。

 

「……というか私サボに『リー』って言うされるのゾワゾワする。違和感」

「なんでだよ、昔っから呼んでただろ」

「それ4歳までですぞ?あまり覚えてなきですし、そもそもそれ以降の方が長いです」

「……忘れようか、リー。初めまして革命軍のサボですお前の兄です」

「無茶が過ぎる」

 

 戦争負けちまおうとか言ってた海軍も驚くほどのパワー。私じゃなきゃ受け流せないね。まァこれ以上重かったら受け流す前に潰されるんだけど。

 

「チッ、くそ、おいこの場の非能力者!」

 

「……俺だけど。多分フェヒ爺も」

「おう、非能力者だな」

 

 舌打ちしたクロさんがサボに指輪を投げた。

 

 つまり求婚……?

 

「俺に渡すとはいい度胸だなクロコダイル。──割るぞ?」

「割れるならやってみろそれは海楼石製だ」

「あァ……それで非能力者に……」

 

 サボがジロジロ指輪を眺めるとルフィもエースもフェヒ爺も、あとついでにローさんも寄ってきた。

 

「飾りっけないな」

「武器だもん」

 

 

「革命軍、土台と宝石部分を回して開けろ」

 

 今ちょっと理解し難い言葉が聞こえた。

 

「回して?」

「開けろ?」

 

 非能力者同士が顔を見合せ指輪を手にかけ…。

 

──パキッ

 

「「「「…………。」」」」

 

 なんか、動いたね。

 どうしようすごく嫌な予感しかしない。

 

「サボ、そのまま海楼石掴んだ状態で小娘やクロコダイルに渡さず海に投げ捨てろ」

「承知」

「……。革命軍、後で雑用からリィンがもっとチビの頃の写真奪ってきてやるよ」

「ふざけるなぞクロさん、邪魔したらお前の写真コレクションの中から恥辱物をイワンコフさんに渡す。ちなみに画像加工もする。AD(アダルトでんでんむし)みたいに加工する。サボ、そのまま海へGO」

「──愉快な脅し合いをするな〝シャンブルズ〟」

「「「「あっ」」」」

 

 ローさんの能力厄介だな。

 そこら辺にあった草とサボの手の中で封印していた指輪が入れ替わった。

 

「……ビブルカードか、これ」

「やっっっっっぱりな!このストーカー七武海共!ドフラミンゴ共々よくもやってくれたな!」

「クハハハ、いやぁ実に愉快だったぜ?死んだとか報告が流れておきながらそのビブルカードが移動してる様を見るのが」

「うがぁあああ!敗因はコレ!?うぎぃいいいい…っっ!」

 

 ローさんの手からヒョイとビブルカードと海楼石を取ったクロさんは宝石を台座に戻し私に放り投げた。

 

「……サボ「要らない」これあげ返事が早い!」

 

 私はぎゅっと眉を歪ませながらクロさんを睨んだ。

 

「………………七武海、というかクロさんは心底嫌いです」

 

 指輪をアイテムボックスにしまい込む。もう一生この世に出さない。私の視界に入れたくない。

 

「火」

 

 クロさんが懐から葉巻を取り出して私に向けた。

 

「……脱獄囚が何故葉巻など持って」

「スモーカーくんから奪った」

「私の親友になんてことを…!というかクロさんだけ会うしてずるい!私早々会えぬのに!」

 

 この悔しさを私は火種に変えて全力で燃やした。

 すっごいキレ気味の表情をされる。

 

「なァリィン、お前俺のとこ来るか」

 

 ……予想外の発言に思わず凝視する。

 昔から私を自分の手札に加えようとはしてたけど、今、そう来るとは思ってもみなかった。

 

「だ、ダメだ!俺の仲間だ!」

「……そうじゃねぇ。ガキは黙ってろ」

 

 ルフィが私に抱きついてクロさんを睨んだ。

 

「悪いがクロコダイル、小娘は俺が養子に貰っ…──」

 

 次に口を挟んだフェヒ爺にクロさんはキッと睨みつけた。

 

()()()()()()、外野は黙ってろ」

「ッ」

 

 心臓がはねる。

 流石にクロさんを直視出来なくてルフィの腕の中で静かに目を伏せた。

 

「まァいい。だがな、無かったことにするつもりはないからな」

「じゃあ無かったことにしよう!」

「張本人の意見ガン無視すんな」

「昔から張本人である私の意見ガン無視されてますけど??」

「まるでお前に人権があるような言い方だな」

「あるわボケっカス!!!!!!!死ね!!!!!!」

 

 中指立てギャーギャー騒ぐとルフィが私を落ち着かせようとしてくる。

 

「私はクロさんの存在を忘れたいぞ…………死ぬほどいや………」

「出来るもんならな」

 

 クロさんはそう言って鼻で笑うと背を向けて去っていった。最終的に水に解けるように砂に変わると、足取りが掴めなくなってしまう。

 

 くっそ、爆弾投げ込むだけ投げ込んで行きやがって。

 

「リー、もしかしてクロコダイルの騒動って人が違うだけなんじゃ……」

 

 パンパカパーン、正解。

 

 

 

 ==========

 

 

 

「革命屋兄、報酬」

 

 改めてエースの無事の確認したり、戦争の結論を現地にいたサボから教えてもらったり、クロさんに対してキレるサボを私とルフィで押さえたり。

 

 ダラダラとルフィ達に合わせて会話をしていたら静観していたローさんが痺れを切らして口を開いた。

 

「報酬?」

 

「アァ、エース助ける時に手助けしてもらったからその報酬。──これが、俺の食客印」

「確認した」

「なにですか?ローさん革命軍に居候するのです?」

「あれは革命軍の幹部が持てる最優先の取引先って感じかな。あれ持ってると革命軍の兵も動かせるしそれこそ居候する事も出来る」

「へぇ!便利ですね!」

「本当はお前らにもやりたいけど食客印って1個しかないしな〜」

 

 グズグズとサボがきょうだいを愛でていく。ルフィを抱き締め、エースを抱き締め、そして私に来ると思ったのでローさんところに避難した。

 

「ローさん食客印見せるして」

「あぁ」

 

 金の土台に淡く青白い光を放った線でなにか模様が書かれている。

 発光した線、か。これは早々真似出来ない技術だな。なんだろうそれ。私のファンクラブの人たちが持ってるカードと似てる様で……。

 

「ビブルカード」

「う、そだろリー。なんで分かるんだ?」

「勘」

 

 瞬間的に判断したことを思わず口に出してしまった。理論付けがまだだったのに。

 

「特にエースに食客印は持たせたかったんだけど。ルフィはリーといるから行動も連絡もやりやすいし……」

「俺はいいよ」

 

 エースはニッと笑いながらローさんを見た。

 

「そいつ、俺を助けるためにサボに巻き込まれてくれたんだろ?ならいい!サボの1番はそいつが持っとくべきだ!ルフィとリーの同期でもあるんだろう?」

 

 陽の気に当てられてローさんが形容し難い表情をしていた。

 

「ありがとうございました。あ、あとルフィの治療もありがとう!はは、俺恩人ばっか出来てるや」

「俺もトラ男にお礼いってない!ありがとな!お前いーい奴だな!」

 

「お、おう……?」

 

 未知の存在を見たような表情をしてる。ちなみに私とサボも2人の無垢な感じに目を覆いたくなっている。

 

 純粋さ、言っちゃ悪いが、既にない。

 参謀、心の一句。

 

「それでさァトラ男!ほんとに俺たちの兄弟になるか?」

「は!?」

「えっ、なにそれ」

 

 ローさんが驚き私も激しく動揺を見せる。するとサボが経緯を教えてくれた。

 センゴクさんの放送で勘違いする兵士が出てきて、ローさんも兄弟だと噂されてる、って。ングっ、吹いたらダメ吹いたらダメ。勘違い起こしてた中将の顔を思い出──無理です。

 

「アッハッハッハッハッ!んふふ、ローさん、兄弟んふふ!私ぞ代わりに、んっ、ふふ、ははは!」

 

 耐えられなーい!

 私は今まで笑えなかった分盛大に体を折り曲げて笑った。

 

 

 

「……クロコダイルに感謝しとかないとな」

 

 レイさんが消えた方向を見たサボの、小さく呟いた声が聞こえてきてしまった。

 

 

 あー、なるほど。そういう事か。

 納得。

 

 私の思考回路をレイさんからクロさんへと丸々変換させるためのトロールだったわけか。

 

「あー、お腹ぞ腹痛!ぐ、ふ、ふふ、んふ、アハハ!」

 

 私はそれに気付かないふりをして笑った。

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

 

「冥王レイリー」

「……クロコダイルか」

 

 ビリビリと収まらない殺気を纏いレイリーは口を開いた。

 

「本当に、カナエをリィンが殺したのか」

 

 クロコダイルは〝さァ〟と前置きをすると、薄ら寒い薄っぺらな笑みを浮かべる。

 

「俺は船の上での死に際を包み隠さず『全て』話した。それでどう捉えるかはお前の勝手だろ」

 

 

 〝だがな〟

 

「アイツに苦しみを、トラウマを与えるなら例え実父だとしても許さねェからな」

 




『信じてた者に愛する者を殺された』と。レイリーの主観。
あながち間違いでもない。
それにリィンはカナエさんの想いを、『エースを救済する』という命全てを、リィンの体がその存在意義である様に、カナエの生きる理由だったソレを手から零したから。リィンはカナエを殺した。これはレイリーよりもリィンの方が認識は強い。

ちなみにリィンはレイリーのおもっくそ重たいリィンに向けてしまう殺意を理解してしまうから否定も出来ないし恨めもしない。ただし悲しまないのが親子の絆が希薄なとこ。うーん、このドS親子クソめんどくさいな。


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第232話 時経てば鐘が鳴るなりデストピア

 

 

 私をぷぎゃろう議会の翌日。

 

 

 ──の、深夜。もうすぐ日付けが変わろうとしている闇の中だ。まァ海軍本部は復旧作業の光で明るいけど。

 

 私は任務から帰還してすぐ女狐部屋に飛び込んだ。

 中のメンツを確認してコートを脱ぎ捨て仮面も脱ぎ捨て、シャツと長ズボンになるとバランスの取りづらい厚底のブーツを脱いだ。

 上から海軍支給のジャージを来て、スカーフを巻く。

 

 あァ疲れた。

 めちゃくちゃ疲れた。

 

「た、たい、しょー?」

 

 そのまま地面に倒れた。

 

「は、え、ちょ!?」

「初めましてションです女狐隊の雑用です」

「あっ、大将が言ってた新しい雑用ってあんたか」

 

 ぐぅー、とお腹が鳴る。

 

「オカン、なんか軽食ない?あっ、間違えた。……先輩、なんか軽食ちょーだいよ」

「そういうキャラ付けかい」

 

 ション、というのは戦争後私が過ごす雑用姿の名前であり、真女狐の中身の名前でもある。

 

「忙しい……忙しい……まだ考えなきゃ……今日は徹夜だ……」

「「一徹なら余裕でいける!」」

「成長期になんて酷な事を」

 

 レモンとオカンが同時に声を揃えた。

 いやでも今日はほんとに忙しかった。死ぬかと思った。まだ調節しないといけない書類もあるし育成メニューも考えないといけないし、七武海の書類も作成して、七武海候補の現在地も探さなきゃ……。

 

「えっと、さ、大将に聞きたいんだけど今日何があったんだい」

 

 昨日はまだ楽だった。

 海賊相手にお話するだけで終わったからまだ良かった。

 

 オカンに聞かれ、私は辛く苦しい今日一日を思い返すのだった。

 

 

 ==========

 

 

 人払いを済ませた元帥室にて。

 

「センゴクさん、真女狐って雑用として表立っていいのですよね?」

「そちらの方が動きやすいだろう?何か決まったのか?」

「いや、髪の毛染めてみようと思うまして。どうですか?黒髪」

 

 仮面とフードを外して、黒く染めた格好を見せればセンゴクさんは数秒ピタリと固まればため息を吐いた。

 

「やっぱ、似てるです?」

「……あァ、予感は確信に変わった」

 

 よく分からない反応をしながら私を上から下までジロジロ見る。

 冥王の遺伝子が色と性格にしかでてないと言われるほど見た目は戦神寄りな私がだ。その色を黒に変えれば戦神そっくりになると思っていた。うーん、顔隠すようにしとこうかな。フードとかで。

 

「この女狐の名前はション」

「お前にしてはいい名付けだな」

 

 リィンカーネーションから取ったので。

 言ったらキレられそうだけど。

 

「それで『女狐』の形態なんですけど3種類に分けようと思うして」

「3種類……あァなるほどうちに入ってるネズミ対策か」

「そうです。『旧女狐は裏切られた堕天使リィン』と『ションという演技をしている女狐リィン』が海賊と海軍に潜り込むしたスパイに見せる顔です」

「最後のひとつは真女狐か」

「はい、堕天使リィンをギタギタにした方の女狐です」

 

 右手で指を2本立てる。

 

「その2つの顔は海賊側です。『海軍を敵視する裏切られ者』と『再び取り込まれたお馬鹿のフリをするダブルスパイ』です。そのふたつが海賊側だと知ることは時間の問題でしょう。でもセンゴクさん達上はリィンがダブルスパイしてることを気付くしないでください」

 

 だってもう1つの顔が使えなくなるから。

 

「最後の1つが真女狐です。『リィンを影武者として利用するションという男』が女狐です」

 

 わたしことリィンはションという男の真似をさせられている、って感じ。リィンは海軍に裏切られた顔と海軍の情報を集めるためにスパイをしている顔とふたつを持つことになる。裏切られて向ける憎悪は本音。でも海軍から見たら演技。

 ま、海賊側にいる頭のいい人対策だな。

 

 

 ルフィ達お馬鹿組や距離の遠い親しくない海賊相手は海軍に捨てられた姿を見せる。頭のいい人は「自分から海軍を抜けたのにどうして捨てられた?」ということに気付くだろう。そこで元女狐だと言うことを言おう。

 そしてニコ・ロビンとかマルコさんとか海軍に潜む海賊スパイ相手とか頭が働く相手には、『海軍に潜り込んでいるから触れてくれるな』とダブルスパイだと発言しよう。

 

 

 つまり、リィンと名前がつく者は全ての顔において海賊側だ。

 リィンは真女狐がいることには、気づいてないけど。

 

「──って感じでどうです?センゴクさんと女狐がリィンを利用しているクズ野郎って評価になるですけど」

「……お前、海賊側で生命の保険を掛けてるな……?」

「いぐざくとりー!」

 

 私は堂々と裏切り発言をした。

 

「親は変えられないですから、だから大丈夫。私の命の保険はできた。センゴクさんにとって冥王と戦神の子が悪だとなったら遠慮なく切り捨ててください」

 

 海賊側はもちろんだけど最終生命線の青い鳥(ブルバード)もある。ココはセンゴクさんに伝えてないけど。

 

「舐めるなよリィン。子を捨てなければ成せぬ程度の低俗な策を私が講じると思うな」

「……!」

 

「いいか、リィン。私相手に上手く渡り合う必要なんてない。言いくるめる必要も、勝つ必要もない。……もっと肩の力抜いて、変な策略に頭使うの止めて、無防備な状態でぶつかってこい。もっと素直に自分の願いを口にしろ。私たちは家族だ」

 

 ──それはそうとして全力で力をつけてもらうので死ぬかもしれんが。

 

 

 そう告げられて感動はスンと消え去った。楽するための努力ならまだしも、普通に努力は嫌でござる。

 

 

 

 ==========

 

 

「情報屋、今すぐ麦わらの一味の所在地探すして」

『えぇ……マジで?』

「情報入手経路が欲しい。把握する程度でいい。目撃情報合ったら集めといて」

『ハイハイかしこまり』

 

 依頼という体を保ちながら青い鳥(ブルーバード)に連絡をつける。戦争のそれぞれの情報を集めていたりするからめちゃくちゃ忙しいだろうな。

 

 麦わらの一味は現在バラバラだ。

 ルフィとフェヒ爺と話し合いをした結果しばらく身を隠さなければならないだろうという結論に至った。というか誘導した。

 その隙に私は麦わらの一味の皆を探すという表向きの理由をつけてルフィと別行動をしている。

 

 このまま修行とかして力を付けさせたいんだけど。まァ上手く持って行けるだろう。

 私は麦わらの一味を合流させないようにしなければ!

 

 キョロキョロと周囲を確認して人がいないことを把握する。

 

「あとそろそろドフィさん潰す予定です用意よろしく」

『……!テゾーロ!てーぞー!作戦突入する!俺ちょっと例の噂流す下準備してくるわ!』

『は、おいちょっとまてピエロ!』

『タナカさん俺出てくるヌケさせて!』

『……くっ、遅れをとってたまるか!実弟便利だな…!オー、いやえっと、まぁいいや。どぎつい噂流したい、流したいから考えてくれ!』

 

「ウチってホントドフィさん嫌いだよな……」

 

 これは勝つ自信しかない。

 

「あと長期任務予定なのでしばらく連絡つかぬと思うしてください」

『分かった。何かあったら連絡をしてください』

 

 長期任務……。

 心配にしかならない。そもそも今のレベルで実力が足りないってどんな過酷な任務なんだろう。

 

「考えてる暇はないけど考えないと」

 

 つまり体と口を動かしながら考える。これに限るな。

 修行期間に長期任務終わらせなければならないんだから時間は少ないぞ。

 

 

 ==========

 

 

「……もしもし」

『どーーーしたんじゃ!裏切られた女狐さん!』

 

 CP9に連絡を取ると、嬉しそうな、心の底からハッピーな声色をしたカクが出てきた。

 

 ふっ。

 

 私は鼻で笑う。

 

「残念でしたねぇ?海軍へのご案内でございますぅ!」

『………………はァ゛?』

 

 ざまぁみやがれと嘲笑うとさっきとは一転して気分の悪そうな低い声が漏れた。

 

「他のCP9」

『もうCP9ではないのだが貴女の1番の部下がこちらに』

「チェンジ」

『変わった。ウチの頭が残念なヤツらがすまない』

 

 ルッチとカクは個人的に話が通じないのでブルーノが出てくれるのは本当に助かる。でも最初から出てきて欲しかった。

 

 

「……その頭の残念なヤツらが私の部下になることに頭が痛い。それでブルーノ、とりあえず必要書類とか用意するので数日中に海軍本部に来る事。事務の方で女狐隊に確認の連絡を入れさせてください。案内はカクに。女狐隊の場所は元帥室のすぐそばですので扉の前で部下か雑用を配置させておきます。赤い何かを身に付けているので」

『我々は資金が心許ない。そのままそちらで雇ってもらえるのだろうか』

「ある種面接は終了してる段階なので大丈夫です。というか設備が戦争でやられてる故に、人手が不足中なのでさっさと頼む。経費から落とすので私物もこちらに着いてから揃えるのと、宿舎貸し出しも枠開けてます。まァ宿舎は四人部屋ですけど」

 

 必要事項をサッと伝える。

 すると歩きながら電伝虫を使っていたせいか人と鉢合わせた。まぁ聞かれても問題ない相手だったから移動中に使ってたんだけど。移動時間が勿体ない。

 

「あァなんだお前か」

「ん、青雉………大将」

「わりぃな電話中。兵站部と兵備部から連絡、輸送部に物資配達とか借り出してた武器の返却とかまとめ終わったから指揮取っといて」

「…………把握」

 

 女狐隊というより女狐である私が輸送部の長をしている。重要な部分を任されているけど、情報として重たい責任がのしかかるわけじゃないし兵站と兵備の指揮ありきな部分があるから不在気味の私にとってありがたい部隊だ。

 

 ちなみに兵站部はおつるさん、兵備部はクザンさんが指揮を取っている。

 

「というわけでお前らには殺し以外にも仕事がわんさかある。期待してるよ」

『……は、い』

 

 ガチャりと電伝虫を切りため息を吐く。

 電伝虫が終わるのを待ってくれていたクザンさんから書類の束を受け取った。

 

「物騒な指示してんね」

「……そっちにサイリーン回す。仕事しろ」

「お、雲の手助かる。兵備部、建物の修繕まで仕事に入ってんだよ。あの雲凍らせたら高い所まで手ぇ届くし俺にくれない?」

「…………。あれ優良物件と見せかけた事故物件ですけど良いのです? 個性の闇鍋の女狐隊に入ったってところで察して欲しい」

「OK、素に戻るくらい本気で事故物件なわけね、借ります」

「もらってくれてもいいですよ。里親募集中」

「か! り! ま! す!」

 

 兵備部の仕事はクザンさんが怠ける度にウチが請け負っているけど仕事に殴り殺されそうな量あるよね。同情する。

 まァうちに飛び火するから同情の余地なく縛り殺すんだけど。クザンさんを。

 

「どうしてクザンさんの脱走に対する行動力が何故仕事に発揮されぬのか拷問したい……」

「尋問すっ飛ばさないで欲しい。大体、サカズキとか女狐とか働き者って言われてるけど、皆が皆働いたら働き者には成れねぇから。俺みたいなのがいるからアンタは働き者になれる、勝手に1人で立派になったような顔をするなよ」

「……法の穴を突く犯罪者みたいなこと言うするなです」

 

 バラバラ、と書類を眺め終わったのでいくつかの分類に分ける。こっちがコビメッポ、こっちがナイン、こっちがベンサム。それでこっちがジャン。こっちがラッド。

 

「…………何してんの?」

「ジャンル分けですね。ある程度頭に入れて把握出来たら書き仕事と指揮は部下に任せるです」

「こっわ! え、今の会話中に書類把握と指示出しの整理終わってんの!?」

「雑用こなしながら輸送部やってる私の書類捌き舐めぬでください。これから七武海の会議の方があるんで追加仕事はさっさと片付けるに限る。それじゃあまた後で」

 

 七武海の会議は女狐が責任の一端を担っているから強制参加だ。今回の会議にはクザン大将がいたはずだから。

 

「──鬼畜は社畜……」

 

 岩塩投げた。

 

 

 ==========

 

 

「これ、人手毎に書類分けてるから輸送の手配と指揮をよろしく頼む」

「大将会議じゃなかったっけ?」

「これからすぐ行く。あ、それとこの後新しく女狐隊に1人雑用が入るから」

「ほんとか!?よっしゃ人手が増える!」

「いや人手は増えない」

 

 だって私だから。

 

 

 ==========

 

 

 七武海会議。

 これ七武海とする会議ではなく、七武海を議題とした会議だ。私の数少ない堂々と参加出来る会議でもある。

 

 ──話題がない時は普通に愚痴大会になる。

 

「今の七武海の枠は4枠。残りを決めなければならない訳だが女狐の言うバギーからまず話し合おうか」

 

 議長は毎回大将が取り仕切る。この大将っていうのは正規の3人なんだけどね。私は遠征入ってなかったらほぼ毎回参加だし。

 

「──女狐です。手元の書類、4ページ目」

 

 ない時間の間にサッと作ってきた書類だから過不足も多いけどそれは皆分かってくれているので黙って目を通してくれている。

 

 ここでは多くの階級のものがいる。昔は雑用として参加してたけど、女狐として参加しだしてから意見は通りやすくなった。まァ口調の問題でプレゼンはしにくいけど。

 

「──以上、千両道化の来歴は名前だけは派手、……ロジャー海賊団出身がでかい」

 

 勘で『利用出来る!』と思ったところを理論的に詰めていった。私は結構勘を信じている。勘って過去の経験に基づく瞬間的判断だから、私自身を信じることと同意なんだよね。

 私自分が1番信じられるし自分の意見が1番大事。

 

「……脱獄した囚人を引き連れて戦場から逃げ出すという悪運高い所もある。実際あの悪運は月、失礼、白猟の部隊が苦渋を飲まされたと報告が」

「だがなぁ女狐……さすがに運なんて不確定な要素は判断に掛けるぞ」

 

 バギー、絶対使えるから推しておきたい。

 私は手札を1枚切った。

 

「……ちぎれ耳の火傷を負った大男」

「「「「……ッ!?」」」」

「インペルダウンの報告(と誤魔化した私の記憶)によると、奴はそのちぎれ耳の牢屋で唯一生き残っていた。世渡り上手……いや、どちらかと言うと特異的な素質がある」

 

 まぁ! なんて私とそっくりなんでしょう! 私が生まれた頃から海賊であった道を進んでいる姿を見ているようですわ!

 

 動揺を見せた古い海兵に私はやっぱりな、と反応を示す。マルコさんとクロさんが両方とも嫌な顔をするちぎれ耳は絶対に厄介な存在なんだろう。

 その男ですら抑えられる場合、これはとんでもなく強いカードになるぞ。

 

 まァ、そのちぎれ耳を七武海に取り込めれば戦力的にはかなり力強い。制御が難しいけれど。

 

「女狐、カード出し切った? 終わり?」

「…………ふぅ、終わり」

「了解。反対意見賛成意見は後にしよう。まァ前代未聞の空席の多さだ。次の推薦……。じゃあブランニュー少佐」

 

 今までの数倍は時間がかかった。

 

 

 

 ==========

 

 

 女狐の仕事として海賊側の戦力やらの把握も地味に入っている。まぁ潜入捜査官として海賊になってから始まった仕事だけど。

 白ひげ海賊団への連絡を取ろうとするも繋がらないのだ。

 

 会話が入らない様、完全防音の密室の中で電伝虫をかけている。

 密室だが扉の窓に分厚いガラスが嵌め込まれているので中は覗かれるんだけど、特に潜入だったりと私みたいな特殊な任務についてる人がよく使う。

 

「あーーーもう繋がんないな」

 

 船1隻潰れてたし電伝虫の番号知ってる個体、海に沈んだかな。

 他に知ってそうな人は、エースだけどエースこそ白ひげ海賊団と合流を願っている人だし。ボンド役である私が取れないとどうしようもないか…。

 

──ぷるぷるぷるぷる……がちゃ

 

『誰だ?』

「シャンクスさんいますか!」

『……あ、リィンか! こちら赤髪海賊団。久しぶりだな、ヤソップだよ。うちの息子がそっちいるんだってなぁ?』

「ウソップさんのことですぞね、いつもお世話になってるです」

 

 主にツッコミで。

 あの人いなかったら麦わらの一味はボケが飽和して私の胃が大変な事になる。麦わらの一味の生命線だよ。

 

『そんで頭に何か用かい?』

「白ひげ海賊団と連絡取れぬで、連絡先知ってるかなって」

『一応俺達もアイツらも四皇ってライバルなんだけど……。悪いけど頭は今1人で上陸してるんだよ。俺達も電伝虫は知らないし力にはなれないな……』

「そう、ですか。じゃあ伝言頼めますか?」

『おう!』

 

「──今となっては意味ぞ皆無ですけど私の情報をミホさんに漏らした点は絶対に許さない、と」

 

 驚いたんだ、私。私が女狐だと知らないはずのミホさんが知ってたことに。

 戦争後すぐだよ。『あの女狐は結局誰だったんだ?』って確認が飛んできたの。絶対殺す。

 

『…………お頭は火葬と水葬と土葬どれが好きだと思う?』

「水葬じゃないですかね。ほら、海の男(笑)ですし」

 

 葬儀の準備はお願いします。

 

 

 ==========

 

 

「いた、女狐!」

 

 リノさんが駆け寄る。随分探されたみたいだ。

 

「何事」

「とっ捕まえた囚人をインペルダウンに送る準備が出来たから、優先的にちょいと頼むよ」

「待って、輸送……いや護送は手が回らぬと私とリノさん両方結論を出したでは無きですか」

 

 囚人の護送は護衛部の隊長リノさんと輸送部で手分けしながらやっている。今回は送り込む先のインペルダウンが修復作業に追われてるからマリンフォードの牢屋にぶち込んでいる。脱獄囚全員ではないが気絶した囚人は回収し切ったので、過去見ない量の囚人は牢屋のスペース的にきついだろうけど。

 

「それが経理の方で牢屋の維持と食料計算したらあそこ邪魔だって圧力がねぇ……」

「水でもぶち込んどけば」

「何よりシキがあんたに会わせろってうるさい」

「…………それが本音ですね。まさかその護送船の指揮官って」

「キミだよ」

 

 この、忙しい時に限って……!

 

 でも経理には逆らえない! ぐぅううう、立て込んだスケジュールが!

 

「女狐隊、やっぱ人手足りな過ぎるんじゃないのかねェ〜?」

「……厄介者の詰め合わせですし気軽に募集すると内部は動けなくなるですし新人を潰すが事になるのが容易ですので派閥なら兎も角最低月組並の精神と我の強さぞなければ難しいかと」

 

 なんせ元犯罪者はもちろん、犯罪助長者達や亡命者がいるもんで! 女狐隊や海軍に縛り付ける理由がなければ入れられないんですわ!

 スカウトばっかだよもう!

 

「あー、まぁ、ウチにも仕事回すんだよ。あっしらのところは人手が多いから」

「ありがとう……ございましゅ……! あと速攻行くして帰る故に航海士はいらないです最低限……。大佐、少佐、雑用ワンチームくらいで準備お願いするです!」

 

 永遠と話しかけてくるシキを微妙に相手し、私は海流を操りながらインペルダウンに護送した。これやると航海士にキレられるという現象が起こるから……。いや、ナミさんだけなんだけどね今のところ。

 

 ちなみにマゼラン署長は女狐になんの反応も示さなかった。そういえば女狐だったことは言ってなかったな、って今更思い返すのだった。

 

 

 ==========

 

 

 

 

「死ぬかと思った」

 

 1日を思い返してバン! と机を叩いた。

 

 そうだよ! 忙しかったんだよめちゃくちゃ! ちなみにこれから考えなきゃならないのは部下の育成メニュー考案だよ! 私教育とかやった事ないから海兵育成学校の方に教えて貰うために連絡してきたんだよ! 参考書類! 貰っできたんだよ!

 これから組み合わせなきゃ!

 

 明日から早速育成(私含め)に入るからこの真夜中の間に私が背負ってる仕事をほぼほぼ片付けておかないと。

 

「……くぅ、女狐大将の机借るぜ」

「キャラブレッブレだよ」

「うるへー。明日から本気出すです……」

 

 とりあえず片付けて起きたいのは麦わらの一味の処遇の件というか修行までの操作だけどこれはまだ大丈夫だろう。ルフィはフェヒ爺に任せているし。

 んで次にCP9、これも呼び寄せている段階だから到着したら完了。

 輸送部の仕事はある程度仕分けしときたいな。いやどんどん増えるだろうから最適化させるべきだね。

 

 赤封筒の長期任務。脅される様に実力が足りないと口を酸っぱくしてセンゴクさんに言われている。

 このままじゃ普通に死ぬ、とも。

 

 じゃあなんでその任務私にさせるんだって話。他に適役いるでしょ絶対。いやわかってる、それくらい重たくないと裏切りと釣り合いが取れないのは。でもさぁ。

 

 ドスンと上座にある椅子に座る。多分ここが大将席。

 ここの反対側の部屋はあったけど、この部屋というより私自身女狐隊の部屋に入ることはなかった。

 

 ここは私が潜入中にできた新たな部屋だったりするし。

 

「は? この椅子なんぼすんの? 座り心地すごっ」

「そりゃ大将の椅子だから良い奴使ってるに決まってんじゃないか」

「そーそー、ホコリ被らない様に保たなきゃなんないからション君が使ってよ」

 

「俺、女狐大将の名代として書類仕事と指示出来る様に雇われた雑用だから戦闘は期待すんなよ。……ってことで」

 

 ドスドスとアイテムボックスから書類と参考資料をいくつか取り出す。

 

 まずは戦争の片付けより個人の仕事の片付けを優先、そして女狐隊の課題である新規女狐隊(元BW)の能力を把握することから始めないと。体力テストを。それで育成の方針は……うーん……どうしようか。

 センゴクさんが考えてくれてもいいのに、こういう私兵にも近い部下くらいは自分で育てろって言われちゃったし。まァ確かに育成経験無いと今後効率的に強化出来ないけどさ。

 

 方針は生き抜いて命を守り抜くことでいいか。矛盾してるけど。

 

 女狐隊は王族と関わる仕事が割合的に多いから王族にビビらない心臓とそれを抱えてでも逃げる筋力とかは必要だな。

 王族の基準は世界会議(レヴェリー)の王族でいいかな。情報集めないと。護衛艦の船長と月組に聞けばある程度情報集まるだろうか。

 

 サッと書類元作るべきだな。報告書。

 

「そういえばボムパイセンってやつは?」

「ボムなら仮眠取ってるよ」

「パレットパイセンは?」

「軽食作りに行った」

「反対の部屋は?」

「指揮取ってるの以外はもう上がった」

「把握」

 

 潜入中に溜まりきったどうしても私じゃ無いと許可を出せない書類に名前を書、こうとしてとまった。

 あー、名前変更手続き忘れてた。

 

 この書類リィンじゃなくてションって書かなきゃいけないんだ。

 

 まァ元々女狐って正体隠していたし、最近は潜入とかしてたから本名で女狐の書類書くの嫌だったんだよね。その点ションなら両方応用が出来る。『裏切られた者』『ダブルスパイ・海軍雑用大将』『真女狐』って名前で表すと『リィン』『リィン・ション』『ション』だから。

 

 面倒だけどさっさと変えていた方がいいな。

 

 よし、速読終了。書類は目を通せた。

 

「ただいま……」

「帰ったわよーーーう!」

 

「ナインとベンサム、おかえり」

 

「ベンサム……両手が塞がって扉が開けられないの、開けてちょうだい」

「了解!」

 

「ふぁー……おはょ、仮眠交代」

「まだ仮眠取れるほど書類片付いてないからパス」

「あちし忘れる前に報告書まとめるわねい」

 

 続々と元BWが集合した。

 

「ん?そいつ誰だ?」

「あー、タイショーが昼間言ってた雑用。名前はションくん」

「女狐名代のくらいを頂いたスカウト雑用のエリート、ションだよろしく。オラ、さっさと書類寄越せ。言っとくがやっかみ受けるのめんどくせぇから女狐名代って漏らすなよ」

 

 どこの部署も今は死んでる。

 ヘルプも頼めない忙しさだ。海軍が後手に回らないようにさっさと事後処理を終わらせて世界情勢調査と白ひげ海賊団のナワバリ確認をしないとならない。

 

「……俺、そいつの声聞いたことある。悪態ついてガラの悪い声。あとなんか殴らなきゃならない様な声」

 

 無事正体を察してくれたようだ。

 今は演技指導とかそういうのやってる暇ないので私は先に書類全てにションと名前を書いていった。

 

「ボムパイセン、この最終書類を先に他の部署に回しといてくれ。んで帰りに名前変更手続き届けを事務から貰って来い」

「雑用のくせに命令口調かよちくしょう!いってきます!」

 

 届け先が多いから大変だろうけど。

 あと普通に書類の順番が逆だろって話は聞かない事にしてる。

 

 ──ゴンゴンゴン

 

「女狐隊ーッ!ヘルプ来たぞーー!」

「「「「月組様ーッ!」」」」

 

 女狐隊がわっと輝かしい顔をして声を揃えた。

 

「今戻りました。月組さんも一緒だったので」

「月組は雑用の作業全部把握してるからありがてぇよな」

 

 コビメッポも戻った様で一緒に入ってくる。コビーは怪我をしてるのか包帯を巻いてたりするが、それ以前に顔色が悪い。精神的にやられてるな。

 そんなコビメッポに続く顔触れは顔判別つかないけど動きから見て月組だ。

 

 へぇ、いつの間に月組と女狐隊仲良くなったんだろう。

 

「他の部署も雑用配置されてるから普通は女狐隊も配置されてしかるべきなんだろうなぁ……」

 

 雑用時代は結構色々な部署で雑用仕事をしていた。

 雑用が出来る範囲って地味に多い。そりゃ判断とかは出来ないけど作業環境を整えるのも雑用の仕事だ。

 

「ん? 新顔……? 見たことある様な」

「あ、リィン。海賊の方はいいのか?」

「んん!?」

「は!?」

「あ? なんだよお前らその反応」

 

 月組がごく普通に(リィン)だと気付いたグレンさんを注目した。

 

「何を驚くこ……。──なるほど姿が違う」

「むしろ何で判断してんだ怖いわ馬鹿!」

 

 変装にミスがあったのかと思った。けど他の月組も時間かかったし。だって黒髪だよ。顔立ちも似てるらしいから「リィン」が出てくる前に「カナエ」が頭に過ぎると思ってたんだけど。

 

「……まァいいや。名前はション、新米雑用。よろしく」

「おう! よろしく!」

「丁度よかった。特に月組は書類仕事しながら聞いてくれ。──墓を、作ろうと思う」

「タイショーキャラブレッブレなんだけど」

「なんで墓?」

 

 

 そうしてごちゃごちゃしながら書類仕事を回していく。私と月組の息のあいっぷりは気持ちよくて書類仕事がドンドン片付いていく。コビメッポが2時くらいに上がり、3時にはテンションが出来上がっていた。

 

 夜食を作りに出る元BWと月組に調理場のコックに電伝虫で頼めば作って届けてくれるのにと漏らすと全員が苦い顔をしてピシリと止まった。なんでだ。

 

 

 そして時は早朝。

 

 

 

 ──鐘が鳴った。

 

「ん?」

 

 久しぶりの徹夜に眠気もMAXに達し、幻聴かと思ったがカラーンカラーンと鳴っている。何か鳴らす予定ってあったっけ……?

 

「後ろの扉は、一体何があるですか?」

「書類置きと武器置きが暗室の方、で、更に奥に行くと窓がある。青雉大将捕獲用に飛び出すとこ」

「つまり使用用途は無き、と」

 

 未だにカラーンカラーンとなり続ける鐘の音が気になり探索も兼ねて窓のある奥部屋へと向かった。

 

「んー?」

 

 取材の記者が戦場でざわめく中、西端にあるオックスが鳴っていた。

 あれは去りゆく年と迎える年に感謝で鳴らす鐘なんじゃ……? 時期外れもいいとこで……。

 

「は?」

 

 目が覚めた。

 

「誰か来い!」

 

 私は窓から顔を出さないように体を伏せて室内にいる人に叫んだ。防音も何もしてない扉は簡単に声が届く。

 

 ……12……13……の鐘の音。

 

「どうしたんだ大将!」

 

 ボムが代表してなのか入り込んだ。

 

「……ションだ。いいか、俺は見れねェ。窓の外を確認して俺に教えろ」

「、わかった。──なんでこんなとこに。……麦わらのルフィが鐘を鳴らしている。そばにいるのは剣帝と冥王、それと元七武海のジンベエ」

 

 じ、ジンさんーーーーッ!

 あんたも居たのか! これ取材陣の前だから世界政府と完全敵対奪取出来ないよ!? 何トドメ刺してるの!?

 

「あ、こっち向いた。……黙祷かあれ。海軍本部に向けて黙祷してる」

 

 あほーーーーーーーーーーーーッッッッ!

 

 私抜きでなんてことを仕出かしてんだお前は! 何も聞いてない! 何も聞いてないよ私! 妹兼! ある意味副船長ポジの私に! 報告と連絡と相談をしてくれ! ホウレンソウ!

 

 

 うわ、うわぁ、これ戦争で亡くなった人に黙祷とかならまだ安心安全だったんだけど。

 オックス・ベルが16回鳴ったって事を考えるに。

 

 海軍本部に喧嘩売ってる。

 

「あ、暴れ始めた。脱出するみたいだ」

「うわあ…………」

 

 雲隠れとかそういう脳みそは無いんですかそうですか。

 あ、どうしようお腹痛い。

 

「ん?」

 

 ボムが何かに気付いたのか目を凝らしている。その姿を見上げるとボムが口を開いた。

 

「3D、に×。その下に2Y」

「……何が?」

「麦わらってタトゥーとかするやつじゃないだろ?そう腕に書いてある」

 

 3Dは消えて2Yが残る……。

 

「なるほどな。クソ、やってくれたな」

「え、今のでタトゥーの意味分かるのか?」

「入れ知恵は冥王の方か……。剣帝は馬鹿だもんな」

「ションー?」

「元帥部屋に行く。お前らは顔見知りだから逆に顔出さない方がいい」

 

 コートを着てフードを被り仮面をつける。ブーツを履いて高さを作れば私は窓から海賊を確認せずさっさと元帥室に向かった。

 

 

 

 

 

「──センゴクさん! ベストオブ胃薬プリーズ!」

「先に報告だ馬鹿!」

 

 込み上げる胃液が喉をやる。

 




女狐の大変な1日(多忙)
リィンはエニエスロビーの爆走で学べば良かったと思う。
やったね!政府に喧嘩売って、インペルダウンと喧嘩して、ついに海軍に喧嘩売っちゃった!あと何が残ってるだろう。


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第233話 古参七武海は新時代の光を見守る

 

 シャボンディ諸島のとあるGR(グローブ)にて、王下七武海の称号を得ている〝海賊女帝〟ボア・ハンコックは聞こえてきた会話に割り込んで告げる。

 

「──ならば妾のところに来てはどうじゃ」

 

 突然の声に警戒したが、ルフィはその顔が恩人であると分かり笑みを深めた。

 

「あー! ハンコック!」

「先程ぶりじゃなルフィ。フェヒターとレイリーも元気そうで何よ……なんじゃ貴様もおったかクロコダイル」

「よぉ蛇姫、ジンベエ。元と現役揃い踏みでお熱いこった」

 

 ハンコックはその場でルフィとフェヒターとレイリーが話し合っていることを耳にしたのだ。そしてクロコダイルの言葉によってハンコックの後ろにいるジンベエに気づいたルフィは嬉しそうに飛び跳ねながらジンベエの元に向かった。

 

「ジンベエ、無事だったか!」

「ルフィ君、お主こそ無事で何よりだ。怪我はどんな感じじゃ?」

「えーっと、とらとら!」

「トラファルガー。……馬鹿なことやったお陰で火傷が酷いが、比較的軽傷だ。体力の消耗も少ないから数日でケロッとするだろう」

「昔死にかけたもんなー、また死にかけるのは勘弁だ!」

 

 体力と聞いてぴくり、とレイリーが眉をひそめた。

 

「で、お前らどうしたんだ」

 

 クロコダイルは即座に口を開く。違和感のあるその様子に気付いてなのか知らないがハンコックは先程の話を再開した。

 

「修行出来るような過酷な環境を探しておるのじゃろう。妾の国のすぐ側に中々愉快な島があるが」

「あァあそこか……確かにルフィくんの修行にはうってつけだな……」

「……レイリー、どうしたのじゃ?様子がおかしいが」

「娘に暴言吐いた」

「……吐いてない」

「八つ当たりしてんだよ」

「……当たってない」

 

 子供のようにブスッと顔を歪ませている姿から察するに図星なのだろう。ハンコックとついでにジンベエはフェヒターにある程度事情を聞いて、困り顔をした。

 

「……ま、分からんでもない。妾なら愛する者が死んだとなれば正気を保てんじゃろうな」

 

 ぐ、と顔を顰めてハンコックは呟く。お前ならどうする、と言わんばかりにクロコダイルに目を向けた。

 

「もう既に国に当たって終わらせた。未遂だったけどな」

「それは未遂でも実行した時点でアウトじゃ」

 

 馬鹿者、と覇気のこもった手刀を繰り広げた。

 

 ──同じ穴の狢(かいぞく)しか居らんな。

 

 ハンコックはうん、と頷いた。

 

「ルフィを育てると決めたのならしゃんとせねばな」

 

 子供の年齢でもおかしくないハンコックにそうズバリと言われてレイリーはニッコリ笑う。

 

「任されよう、フェヒターが」

「俺かよ! てめーだよ!」

 

 余裕な表情が取り繕われた。

 ハンコックはやれやれとため息を吐き出す。

 

 表面上まともになっただけまだマシか、と長い付き合いのフェヒターは空を見上げた。

 

 

 この後めちゃくちゃ16点鐘した。

 

 

 ==========

 

 

 ミホークはかなりマイペースであると自覚している。戦争が終わってすぐ思い返したようにリィンに女狐確認の連絡を入れ、適当な島でブラブラ暇を潰しながら暇しかない自分の根城に戻った。

 

「あ」

「あ!」

 

「……ロロノア・ゾロと、誰だ」

 

 新聞を手に持つフリフリしたピンク髪の娘と、頭を悩ませている麦わらの一味の剣士が家に居た。

 

「お、お前モリア様と同じ七武海じゃねーか!何の用だ!かーえーれ!かーえーれ!」

「ここがおれの家だ」

 

 シッケアール王国の薄暗くジメジメした空気の中で色付いた様な感覚だった。

 

「お前のとこの七武海に飛ばされたんだ。邪魔してる。あとついでに仲間の誰かと連絡が取れないか?」

「あー……リィンでもいいか?」

「あいつならより一層万々歳だな」

 

 ゾロは肩を竦めながらも話の通じるやつと合流出来たことに心底安心した。船で出ようとしても方向も何もかも分からないのだから、特に単独行動が出来るリィンの伝手はありがたい。

 

「リィンか」

『…しもし、ミホさん?何事で、あるです?』

「お前声が死にかけだが」

『思い出させぬでください………』

 

 疲れ果てたリィンの声が聞こえてきてゾロはようやくため息を吐き出した。

 

「リィン! 3D2Yの意味って分かるか!?」

『うぉあ!? ゾロさん!? なんでゾロさん!? …──あ、くまさんに飛ばすされた先もしかしてミホさんのとこ!?』

「全くもってその通りだ」

 

 驚く声が電伝虫から聞こえてくる。

 ゾロは久しぶりの仲間の声に自然と笑みを深めた。

 

『いいですかゾロさん、私たちは3日後合流予定で、すた』

「そうだな」

『"3D"aysがバツ印で、次の集合は』

 

「「「──"2Y"ears!」」」

 

 現地の3人が声を揃えた。

 

『若干怪しい人は何人かいるですけど、私たちは強くなるために立ち止まる必要があるです。私は解読不能なアホども優先に探すする為にちょっと色々すてるので、所在地分かってるゾロさんとこには行かないです、別にいいですよね』

「あァ大丈夫だ。なんとかする。非人間的存在優先で頼むわ」

『丁度ミホさんもそこにいるようですし修行でもつけてもらうしたらいかがです?』

「あー……どうだ?」

「…………外に、マントヒヒが居る。人を真似をして学習する猿だ。そいつらに勝てるくらいならつけてやるが」

「傷口に唾塗りたくる猿なら切り倒したけど。アイツら学習するんだったら手当して正解だったな」

 

 殺してない、ときたか。

 ミホークはこっそり笑みを深める。そもそも麦わらの一味というのは面白い存在だと常々思っていた。

 

 

『じゃあそういうことで』

「リィンはどこで力付けるつもりだ?来るよな?」

『私戦闘面での修行はちょっと……。まァ私はグランテゾーロを拠点に飛び回るしてるので伝言あったらそっちのシーナにお願いです』

「あァ酔っ払いピエロか」

 

『ミホさん余計な口開いたら私は貴方をガン無視するのでよろしく』

 

 

 がちゃり。

 

 

 そう牽制をされたミホークはアーーと天を見上げた。ゾロとペローナという少女がミホークを見上げる。

 

「(女狐だったと漏らすな、って事か)」

 

 リィンにとっても予想外の出来事であったのだ。ミホークが女狐の正体を知らないと思っていたからこそゾロの旅行指定先を彼にした。ミホークは懐に入れた相手には口が軽い。

 

 知っていた、絶対ゾロを懐に入れるという事を。

 

 ペローナはわけがわからなくて首を捻る。

 

「どういう事だ?」

「……まァ、昔から色々あったんだ。俺は仮にもリィンの師範をしていたからな」

 

 

 ゾロはペローナの耳元でこっそり情報を正した。

 

「1桁の少女が刀持って追いかけ回されてたらしい」

「うげ、頭イカれてんのかよ」

 

 暇だらけの島から暇が消えた。

 

 

 ==========

 

 

「クエーーーーッ!」

「…………どういうこと?」

「若様おかえりー!」

 

 子供たちがドフラミンゴの足に引っ付き、止まった思考が再び動き出す。

 

「え、いや、これビビ王女のとこのカルガモじゃん。どういうこと」

「私たちにもよく分からないの」

 

 カルーは新聞をドフラミンゴに渡してみせた。

 

「は?麦わら?」

「クエッ、クエ!」

 

 右翼でズバッと写真の右肩を示したカルーにドフラミンゴは困惑する。こいつ思ってる以上にコミュニケーション取れやがるな、と。

 

「3…なんだこれ」

「クエーーー、クエーーーー!」

「分かんねぇって分かんねぇって! 流石に無理だろこんなの! わかったわかったリィンに連絡取ってやるから!」

 

 その発言にカルーは顔を横にブンブンと振った。

 

「……? 麦わらの一味抜けてきたのか?」

「(ブンブン)」

「確か完全崩壊って新聞にあったな……。くまが、あぁなるほどここに飛ばされてきたんだな」

「(こくん)」

 

 若様すごいと子供達に喜ばれるが、俺これ知ってるウミガメスープだ、イエスノークイズ苦手なんだよな。そう思いながらカルガモ相手にやり取りを交わす。

 

「戻りたくねぇのか」

「(ブンブン)」

「戻りたい」

「(こくん)」

「……戻るタイミングは今じゃない」

「(こくこくこくこく)」

 

 高速で頷かれて、ここまで来てドフラミンゴは推理を始める。手元にあるのは海軍本部に乗り込んで行ったバカの話だ。そばにいるのはリィンではなく冥王と剣帝とジンベエ。ほかはともかく冥王は中々の頭脳派。リィンが居ないが、真偽はともかく一応海軍本部センゴクと揉めた後だ。現れないのに不思議はない。

 

 そもそもリィンが海軍側で、麦わらの一味にスパイとして居たら海賊行為を助長させるようなことをするだろうか。例え海軍から離れたとして、生存ラインがそこにしかない海賊の一味を悪目立ちさせるだろうか。

 

 いや、否だ。

 

「それにこれはリィンが好まないな」

 

 元々リィンは戦略に新聞を利用する事をあまりしない。新聞は時が過ぎれば消え去るし、裏で操らなければ文字を改ざんすることも難しい。

 

 やはりこれみよがしに書かれてある文字だ。

 

「(冥王の思考回路をトレースしろ、あいつなら何をやらかすか。奴らが戦場から去る時クロちゃんも麦わら兄弟と共に去った、ということは、戦神の死亡も当事者だから隠さず把握している……)」

 

「若様?」

 

「(リィン大好きなあのクロコダイルが実父にする牽制、によって、何を動かされた、か)」

 

 ドフラミンゴは情報が不足する中、口を開く。

 

「力不足、だな」

「(こくん)」

 

 くまのやりそうなこと、クロコダイルのやりそうなこと。

 麦わらの一味に関わる七武海から整理して、そして答えを見つけた。

 

「……雲隠れして修行期間でも設けるのか?」

「クエ!クエ!(こくん!)」

 

 当たりだ!とその反応にドフラミンゴはおかしくてたまらなくて顔を手で覆った。

 

「フッフッフッ…!くま公め、この俺を利用しやがったな…!」

「ク、クェ……」

「なるほどなるほど、この写真に集合のメッセージが隠されてあると」

「(こくん)」

「それは時期か?……いや、時間だな。DとY。『2年後』か」

 

 ドフラミンゴは見事に自分の力で見事推理して見せた。

 カルーは喜びうかれているのかバサバサと羽根を広げた。

 

「簡単に連絡を取れる俺の元にいながら連絡を取らずテメェでやろうとしたのか、甘えず鍛えあげようと」

 

 ドフラミンゴから笑い声が零れる。

 あァ愉快だ!愉快でたまらない!

 

「お前かなり"漢"だな…!気に入ったぜ、()()()

 

 純粋に面白い。

 使えるものを使わない単純馬鹿は、自分達と正反対で観察が楽しいのだ。…──最も、仲間に単純馬鹿はいらないのだが。

 

 

 ==========

 

 

 

 クロコダイルはリィンの持っていた指輪から取り出したビブルカードがずりずりと動く様を眺めていた。

 

 その方向はリィン。──では無い。

 

「はっ、俺がただガキ1人の方向把握するためだけに仕込むかよ」

 

 このビブルカードは『保険』だ。

 もしも全てを失った時の。

 

 ただそのもしもが現実として起こった為、回収したのだった。

 

 ビブルカードの持ち主はクロコダイルだ。自分の爪から作られたこの保険は隠れ家に置いている。磁力も何も生み出されない裸の島に置いてる隠れ拠点に指針(ポース)は利用できない。

 

 方向把握?

 そんなのは嘘っぱちだ。むしろ仕込んでいた事を半分忘れるくらいには保険だった。

 

 クロコダイルの視界には小島があった。

 ネズミ返しの草木も何も無い小島は人が生きるのに不向きだ。

 

 砂人間であるクロコダイルを除いて。

 

 古びた、見るからに使われてない屋敷に入る。……おかしい。確かに数年は来なかったが明らかに違う所がいくつかある。

 その中で決定的なあとは隠し部屋への扉が開かれていることだ。埃のつもり具合から約1週間〜2週間。

 

「……。はァ、マジかよ」

 

 自らの能力でくり抜いたその隠し部屋の中で、スヤスヤと眠りにつく見覚えしかない少女が居た。

 クロコダイルは現実逃避も兼ねて小屋を出、島を眺める。

 

 そこには肉球型にえぐれた土地を利用して空気中の水を溜める様にカバーがかけられてあった。

 

 頭が痛いと言わんばかりに額に手を当ててクロコダイルはクソデカため息を吐いた。

 BWと合流もしなければならないのに。

 

 

──バサバサ!

 

 

 その羽音にクロコダイルは更に眉をひそめた。

 

「海軍の伝書バット?」

 

 あぁ嫌な予感がする。

 ──だが、ある意味目的にはちょうどいいかもしれない。

 

「王下七武海の称号、なァ。クハハ、剥奪しておきながら何を企んでるのやら」

 

 あぁ頭が痛い。

 

 

 ==========

 

 

「なージンベエ」

「ん?どうしたんじゃエースさん」

 

 ハンコックにシャボンディ諸島まで送ってもらったジンベエは、ルフィに着いて海軍にお礼参りをした後、そのままシャボンディにて自分の船をまち、エースを白ひげ海賊団へと送り届けた。

 

 無事の合流で白ひげ海賊団全体が湧き上がった。

 その様子を嬉しそうに見ていた。

 

 すると輪の中から出てきた主役でもあるエースがジンベエに寄ってきて声を掛けたのだ。

 

「リーとレイリーってさ」

「うん?」

「似てるよな!」

 

 にかっと笑うその顔にエドワードが似てるな、と。誰とは言わないがそう思った。思ってしまった。親として少し悔しい気持ちがある。嘘だかなり悔しい。

 

「お前だって親と似てるよい」

 

 マルコが口を開き白ひげ海賊団は口々に似てるところを上げていく。

 

「まず顔が似てる」

「わかる、目が鋭いところな。間抜けた時の表情も似てる」

「あとすぐ寝るとこ」

「あー、わかる。飯食ってる時に寝るのはそっくりだ」

「……知らなかった。皆海賊王詳しいんだな」

 

 そりゃ三日三晩戦うことなんてざらにあったから。

 皆が皆同じことを考え苦笑いを浮かべた。

 

「逃げるのが嫌いだから、よくレイリーに引きづられてたな」

「尻に敷かれてるというか」

「あー、それ俺とリーも同じかも」

「レイリーは寝起きがくそ機嫌悪いから朝方に戦うのは嫌だった」

「リーも寝起き最悪だな、すぐに目は覚めてくれるんだけど無理矢理起こされるとダメだ」

 

 共通点が掘り出されてくる。

 

「だが」

 

 白ひげはエースの頭を撫でた。

 

「お前は生き返った」

「うん」

「リィンは海軍で息をしていた」

「うん」

「似てるけど、ちゃんと違うんだよ。お前らは親のコピーじゃなくて、それぞれの存在だ」

 

 だから親がどうとかで裁かれる必要は全く無いのだと。

 

「……俺、皆に助けて貰えて嬉しかった」

 

 真剣な顔でエースは言った。

 

「白ひげ海賊団を抜けさせて欲しい」

 

 衝撃が走り、どよめきが生まれる。質問されるよりも早く、エースががばりと頭を下げる。

 

「この恩は、絶対忘れない! 絶対忘れられない! 一生かけて返しても足りないくらいの大恩だ! ッ、だからこそ、だからこそ俺、やりたい事が見つかったんだ」

「…………そうかァ」

 

 海賊王の玉座の前で次の王を待っていた白ひげ海賊団の船長はこれから発せられる言葉が予想出来てしまい、ほろりと涙を流した。

 

 

 

 

 

「────海賊王になるよ。助けられた命で、白ひげや海賊王を越えて、皆が誇れるくらいの海賊に」

 

 

 歴史の(スタート)が切って落とされた。

 



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第234話 ここが地獄の一丁目

 

 

 地獄の強化合宿が始まった。

 

 女狐隊の一斉強化というよりは私の強化のカモフラージュに女狐隊を使っているという感じ。

 

 

 私にはいくつか足りない物がある。

 速度はまぁいい。回避能力もそこそこある。

 

 もちろん『悪魔の実』を除いた全ての項目で実力者とは不釣り合いな程不足しているのはわかっている。

 

 私に1番足りてない項目。

 

 それは──技だ。

 

 必殺技とも言える技がない。もちろん小手先だけの技も存在しないが、海賊のリィンと海軍のションを区切るための技を作らなければならない。

 人から恐れられるほどの技さえあれば印象付けには程よい。……いやまぁ印象付け云々を除いても、普通に火力が足りてないのだが。

 

 私の戦闘スタイルは能力任せなところがある。気軽に手に入る攻撃力という意味でも使い勝手がいいし、海楼石でさえも無力化出来ない手段。集中力を高めなければいけないし、集中力が削げてしまうと使えないけど、使わなけれ勿体ない。

 

 堕天使リィンは棍棒使い。経験として柔術や拳を使うこともある。武器は軒並み使えない。本当の実力より下位互換の能力を駆使して戦う。

 

 これを考えるとやはり今まで使わなかった武器を使うのがいいんだろうけど短期間で強くなるには少し足りない。強力な一撃が欲しい。

 

 圧倒的な強さで他者をねじ伏せる……()()()()が。

 

 うん、肉体的な技と見せかけて能力で誤魔化すのがいいかな。嵐脚(使えない)を風系の能力で誤魔化す、みたいな。

 そのためには集中力を上手く途切れさせないようにしないと。

 

 方針、方針……。

 

 

 

 

 

「ぜェ……はァ……!」

「ん、ぐううううう…!」

「はっ、はっ……ふっ、はっ……」

「ぃ……ぅ……」

 

 新規に入った部下(元BW組)の実力を把握しない事には強化の目処が立たない、ということで永遠と全力疾走させて死にそうな部下の嗚咽をBGMに考えていた。

 

「持続力、瞬発力、共にベンサムパイセンが1番。持久力はボムパイセン……。それで加速力はオカン」

「ぜぇ……! ぜぇ……ッ!」

「何言ってるか分かんねェよパイセン」

「ご、ェ、やる、……ぜぇ……っ! ひつよ、あっ、か」

「文句は俺に言われても……。この育成メニュー組んだの女狐大将ですから」

 

 これやる必要あったか?って言われたようなのだが、今の私は海軍雑用のション君だ。

 俺はあくまでも天使でも女狐大将の指示に従ってるだけでーす。お前じゃねぇかって視線は無視します。

 

「んじゃ島もう一周、全力で。タイムリミットは10分。はい、GO!」

「ああああああああぁぁぁ!」

「ううぅぅううう……!」

「むり、む、むり!」

「ぉぁ……」

「……………………………っ!」

「ジョー、ダンじゃないわ、ッッッッよーう!」

 

 死にそうな顔をしながらも走り出した6人の背を見送って、私は後ろの存在に声を掛けた。

 

 

「──なんですか、青雉タイショー」

「いいやァ? 暇だしこれからあるお祭り見学だけどぉ?」

 

 馴れ馴れしく肩を組んでくるクザンさんに嫌そうな顔をする。

 フードを深く被っているので表情は見えにくいが絶対面白そうな顔をしているに決まってる。

 

 クザンさんはフードの中を覗き込んでヒュウ、と口笛を吹いた。

 

「可愛ー顔してんね、今夜どう?」

「……誰が女顔だぶち犯すぞ坊主」

「あっ(なるほどという顔)」

 

 ションというキャラクターで過ごしてみて、どの口調でどの表情、癖、そういう無意識下の動かし方を学ぶ。だからあえてションという人間がどういう人間なのか、は部下だろうと将校だろうと伝えてない。

 

「つーかション君だっけ? お前暑くねぇの?」

「……暑いに決まってるだろ」

「だよなァ」

 

 私は首元まで隠れるタイプのジャージに黒マスク、そして帽子目元深くまで被り更にフード付きのマントを着ている。すこぶる暑い。

 

「しーかたねぇじゃないスか。俺の顔戦神とそっくりなんですか、ら」

 

 ションは明言しないし自分もわかってないって設定だけど、戦神の弟辺りでいいかな。

 

「しかもこのマント俺見覚えしかねェんだよ。女狐のやつじゃん?」

「……裏っ返しなのによくお分かりで」

「マジだった? 当てずっぽうなんだけど」

 

 殴った。避けられた。

 

「ま、俺は女狐隊一斉スカウトで見初められた雑用なんで、そんじょそこらの雑魚共とは違うんでー」

「へぇ? 大将に喧嘩でも売ってんの?」

「ハハハ、そう聞こえました?」

 

 頭を叩かれかけた。避けた。

 

「──で、女狐」

 

 耳元でボソリと単語が聞こえる。クザンさんの方が圧倒的に背が高いから腰痛みそうなほど前かがみになっていた。

 

「VS中将戦、どんくらいもつと思ってんの?」

「……全員持たせる。そのための指揮官、だ」

 

 本当はもうちょっと不敬な口調にしたいけど素を知られてるからやりづらい。

 

「ふぅん、手助け要らねぇみたいだし、俺は精々見学でもしてようかな」

「仕事は……」

「こんな面白いことあるのにいつまでもやってられっか。後でやる」

 

 おい、と何かしら忠告しようと振り返ればクザンさんはいつの間にか遠くで背を向けていた。今さら驚きはしないけど実力差に悔しくなるというか呆れ返ってしまう。

 

 

 『VS中将戦』

 

 これからBW組が走って戻ってきたら始まる模擬戦の事だ。その名の通り、中将達と戦う。シンプルな目的だ。

 

「た、だ、ま……」

「…! 意外だ。ナインパイセンがトップか」

「おうよォ………!」

「ニセキングテメェ! バット持ち出し! てぁ! ショートカットはず、りぃ、ぞ!」

「カーブで! 支えにぃ! 使っ、ただけ、だろ!」

 

 ゼェゼェと息を切らしながらそこまでの大差は見せずBW組が戻ってきた。タイムを書き込む。

 見るからに戦闘出来なさそうなパレットが大分涼しい顔をしているのが気になるな。何かしら能力で体力補助が出来るのか……。カラーズトラップ、だったかな。

 

「パレットパイセンなんの能力者? アトアトの芸術人間、じゃないことは確かだよな?」

「能力者じゃ……はぁ……はぁ……ない、よ……」

「……! お、おいおいまじかよ……。パイセン、今からお前は能力者だ。いいな?」

「えっ、え」

「イロイロの実の色彩人間。あーゆーおーけー?」

「お、おーけー!」

 

 私のお仲間見つけたーーーー!!???!?

 え、いや、だってこんな身近にいると思う?非能力者が生まれ持つ性質や極め上げた何かで悪魔の実と同等の能力を得るのって。

 

 動揺を鎮める。

 今はそれを無視しておこう。

 

「ショ、ンく、……! きゅうけ、だよね!?」

「ん?」

 

 レモンの言葉にバインダーに挟んだ紙ををペラペラと捲る。『女狐大将から渡された育成メニュー』だ。中身はまぁ、今のとこ白紙だけど。だって雑用のポジションにいるけど結局私が女狐なんだし。

 

 

「これから中将方と対戦です♡」

 

 仕事の隙間を縫って現れた中将に手を振り挨拶をすると、対戦する張本人である6人は絶望的な顔をした。

 私? 戦闘は不参加の雑用ですので。ま、不特定多数の視線がある中の訓練なので戦闘スタイルの特定を防ぐためという理由もある。

 

 

 ──いやぁ! 私が直接対戦とかじゃなくて良かった!(本音)

 

 

 

 ==========

 

 

 右足から2.3.4。下がる、→0.2秒後、左足踏み込み。その後パターン3。右手で殴るか、フェイントか、左で殴るか。左でのフェイントは無し。

 蹴りは確定フェイント。腕の間合いの1.5倍の間合い。目的、リズム崩し。右手から右肘、回数正/正正。確率2分の1。切り返し速度0.1秒。その後左手抉り込む確率3分の1。

 

 並列思考。

 

 ナイン、仕込みバット。9割攻撃阻害腕に絡ませる。1割移動回避目的。立ち位置中距離固定。近距離、確定しゃがむ。相手視線のフェイント、気付かない。動き方違和感。

 

「──そこまで!」

 

 私が声を張り上げタイムウォッチをカチリと止める。

 

「あり、がどございまひゅ……」

「うん、もう少し頑張れ」

 

 今手が空いてるからと早速相手にしてもらっていた中将に息も絶え絶えなナインが肩を叩かれる。

 元々体力テストと称して基礎身体能力の把握と体力消費をさせたのは、実践での心拍数と状況の再現だ。

 

 表向きは格上との戦闘経験と回避経験を積むこと。

 そして、裏向き。

 

 センゴクさんに告げられている。──私が全ての中将の動きを覚えろ、と。

 私は対戦に参加出来ない。だから全て目で見て覚えて分析して、そして動かすのだ。私の代わりに女狐隊を。

 

 私が動くとリィンの動きになってしまう。『リィンがションという男の真似をしている』現状、その指示を出しているセンゴクさんがストップをかけるだろう。

 『女狐(ション)という男』の動きはこれから考えなければならないが。

 

 

「……パイセン、来て」

 

 雑用(たいしょう)の言葉に中将はビリ、と警戒心を上げてくる。

 

 中将対戦の3分の1で既にヘロヘロなナインを呼び寄せる。10分回避、10分攻撃、10分総合対戦だ。まだ回避戦しか終わってない。

 

 …………もう少し頑張れぇ?

 

 はは、まだ育成してないから底が知れてるだろうけど。

 私が人を使うことに慣れてない、部下の力を100%出し切れない、なんて舐められる訳にはいかないんだよプライド的に。

 

「わ、悪いション……。足うまく動かなくて」

「そこは気にしてない」

 

 私はナインの耳に口を近付けた。口元を読まれないように。

 

「──あの中将、弱いぞ」

「……は?」

「ナインより弱いぞ。さァ、動いてくれるね?」

 

 ギョッとしたナインが私の顔を見た。

 私はなんの心配もしてないようにドヤ顔で笑みを深める。ナインは中将に勝てる、これ、当たり前。

 

「──いいか、狙い目は……!」

 

 

 2戦目。ナインの攻撃ターン。

 

 ナインは持ち前のアクロバティックな動きで中将の意表を突いて戦っていた。

 

 回避方法、細かな殴りでの打ち消し。右手多め。割合、2.5.9.確率65%。下半身への攻撃対処、30%で片足を上げるだけ。50%蹴り、30%殴り。視線、一瞬回避先へ向ける。攻撃自体は見聞色の予測。

 

 並列思考。

 不規則な軟体行動。バク転。バット無駄な回転→土煙発生。上半身への横殴りと下半身への蹴り同時可能。指示にアレンジを加えるところ有。

 

 

 ……予想通りだ。ナインの動きがぎこちなかったのは緊張もだが格上との戦闘というプレッシャーだ。縋るものがない、確実に弱いと自覚出来ている。馬鹿な自覚もある。

 

 なら自分より賢い人間が確定だと判断した事象に縋ればいい。その人間を私が演じただけだ。

 体力が削れていることなど忘れてアクロバットな動きをするのが楽しそう。もって……3分かな。

 

「くっ、やるな…!」

 

 中将はやりづらそうな顔を見せる。

 育成学校で訓練を詰んだ確実性を求める中将相手だ。奇想天外な動きを見せる実戦で癖ができたナインの相手はやりづらかろう。

 

「あッ」

 

 体力の限界でナインが膝から崩れ落ちる。カランとバットが落ち、心臓を押さえうずくまる。

 

「ッ! 大丈夫か…──ッ!?」

 

 ──しかし。しかし、だ。心配して駆け寄った中将の手首にナイフがあった。

 ……うん、及第点ってとこ。首狙えとは言ったけど流石に無理だったか。私なら迷わず金的いって首狙ってた。

 

「……。まいった。油断してしまったな。リ、ションの提案か」

「体力、的には、もうむり、です。から、そこはえんぎじゃな、い、ス」

「最後の一手に使えとは言った」

「だが海賊相手には通じんぞ」

「そん、時は、毒バラ、まき、ます。俺、ちょっとな、なら、耐性」

 

 睨みとしてはいいとこついてる。ただ海賊にも毒耐性あるし、即効性だとしても武器を取り落としてしまえば傷付くので少々甘いけど。うん、流石王下七武海の元部下。元々の素質は下っ端に近いとはいえ、基本の能力値も才能も良質。かなりいい拾い物した。

 

「カッカッカッ! いやいや、こいつァ1本取られたな!」

 

 フードや帽子の隙間から見える範囲に、中将がこっちを横目で見ている姿を補足した。

 どうしたらいいか、ってことでしょう。

 

 私はペンを持ってない片手で、まるでりんごを握り潰すかの様に握り締めた。

 

 

 ──潰してOK。

 

「…………それじゃあ、中将地位の意地をかけた第3戦目といこうじゃないか」

 

 

 とりあえず完膚なきまでに叩きのめされたナインには罰として次の対戦30分間は腕立て伏せの刑に処した。

 私の指示があれば勝ちうるという自信、だけども鼻っ柱は折る。

 

 

 ナイン戦闘中に次の駒であるパレットを走らせたので、疲労度はそれなりにあるだろう。

 

 

 合計6戦、計3時間。私たち女狐隊の徹夜明けの午前は身体酷使になった。

 

 とりあえず今日の6名の中将の戦い方は覚えたと言えよう。

 

 

 ==========

 

 

 午後は私の実戦訓練だ。

 午前中に覚えた動きを復習しながら海軍所有地の無人島へ女狐として移動する。

 

 海軍所有地の孤島。通称:訓練島は戦闘訓練を見られたくない者や部隊で野営訓練、サバイバル合宿などに使用する。なので鉢合わせしないように予約を入れなければならないのだ。

 

 この島でする事は私の技の訓練。

 

 

 

 

「さァ、始めようかリィン」

 

 

 ……。海軍保護者相手に。

 

 

 あ、いたたたたたた。プレッシャーすごい。

 いやだって、小娘相手に海軍の英雄が。確かにここ海軍本部とそう遠くない島だけど元帥が本部空けてもいいのか!?

 

 

「はーーー。これも生き残るため生き残るため生き残るため」

 

 センゴクさんが予約してくれたんです。この島の使用。

 

「……センゴクさん、私同じ歳に比べたらかなり戦えるですし、体も動かせるですけど、赤封筒任務そんなに実力足りませぬ?」

「さぁな。お前次第で戦闘の有り無しは変わるだろう。──だが、仮に。その任務先で戦闘を起こすとなると」

 

 泣き言を抜かす私にセンゴクさんは厳しい目を向けてきた。

 

「全盛期の我々、もしくは全盛期のシキを個人で相手するような物だ」

「無理では無きですか! 今からそこまでレベル上げ無理ぞ!?」

「だから手回ししているんだろうが。戦闘経験豊富なもの達の動きを覚え、理解し、そしてはったりでもなんでもいい、女狐の虚像術を使い強者の振る舞いを見せつけろ。その為に訓練をするんだ」

 

 理解してるんだけどォ。

 いやまぁセンゴクさんも私が理解してるからこそ淡々と言ってるんだろうと思いますけど。

 

 

「んぐぅ」

 

 

 理解も納得も出来るけど、やりたいやりたくないは別です。やらざるを得ないけど。

 

「それで、女狐の技の方針は決まったか?」

「……足技です」

「ほう、心得は?」

「黒足のサンジの足技の記憶くらいで使用経験は無いです。動くとなるとサンジ様の動き方になると思う」

 

()()()()()()……か」

 

 言葉に込められた意味を読み取るのすごいスキルだと思う。

 

「理解出来る範疇だと、女狐は理解されてしまうです。ちゃんと人なのだと」

 

 女狐は私の実力以上の技と能力を使わなければならない。例えば能力者なのに海楼石に触れられる、とかね。

 

 分からないって普通に怖いよ。原理が分からない。避け方が分からない。なんの能力か分からない。

 

「それで、思い付いたのは?」

「──動かない蹴り」

 

 ゆらりと私は集中力を高めた。目標物を探すとセンゴクさんが適当な岩を指さした。

 

「……!」

 

 足元に熱気と冷気を一気に作り、ゆっくりと軽く蹴り上げる。その温度差を胡散させればあとは目標物。

 風では威力不足。物質自体を破壊してしまうと人体には使えないから、外的要因の絶対的な破壊力。

 

 私が選んだ能力は大気だ。

 

「〝割れろ〟」

 

 白ひげさんのように大気にヒビが入り、振動がぶつかり。

 岩はバキッと大きな破壊音を上げてヒビを刻んだ。

 

「なるほど、これは分からない。足技、と言われると足技にしか見えないが、能力と言われると納得出来る。……能力の使い方が大分自然になったな、うん、理解は出来ない」

 

 蜃気楼がまだよくわかってないが熱気と冷気があれば出来る。目の錯覚と言えるほどの一瞬を足の動きと同時に生み出し、視界を歪ませる。そしてタイムラグを少々作って、本命の大気操作。

 大気の操作の仕方はぶっちゃけわかんないけど、白ひげさんの技の再現だから絶対強い、はず!私の中の記憶で1番威力のある再現可能能力ってこれだったんだもん!

 

 

 一気に3つも集中力を割ったせいで脳みそに糖分が回ってない気がした。お試し一回目でここまでいけたなら、これを極める方向に持っていってもいいだろうか。

 

 チラリとセンゴクさんを見る。

 センゴクさんはフッと鼻で笑うと私に言った。

 

「──技名は?」

 

 まさかの一発合格に私のテンションは飛び回る海流(ジャンピングストリーム)

 素直に嬉しい! 深夜テンションで考えただけなのに実用的な技だと認められた!

 

 私は笑顔で告げた。

 

「不可避キック!」

「それは考え直せ」

 

 速攻不合格を貰ったけど、この後むちゃくちゃ練習した。甘い物沢山持ってきといて良かった。女狐は甘党設定にしておこう。そう心に決めた。

 

 

 ……泣いてないです。

 




純粋な戦闘訓練。
リィンは実力をつけるためにまともな、正統的な修行をすべきだけど、そのためには時間が足りなさ過ぎるので能力ありきの技を純粋な肉体技として誤魔化す方向で技を練り上げています。不可避キック。リスペクトはめりこみパンチ。このネタ知ってる人は僕と握手しよう。

ちなみにリィンが肉体技を使わないのにはいくつか理由があるんですけど、その内の2つは『傷が付いたら集中力が削がれる』と『逃亡、回避用の体力を残すため』です


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第235話 ちなみにここは地獄の三丁目

 

 訓練島はいくら元帥とはいえど毎日予約を入れることができる訳では無いので、空いた時間にとある内部調査任務が組み込まれた。空いてないです。平均睡眠時間は考えたくない。

 

 そんなデストピア拷問(じごくのきょうかくんれん)を繰り返して1週間。遂に奴らが来た。

 海軍本部内での戦後処理は終わったんだけど活性化されたイキリ海賊もいるもので、真面目に世界中という意味の戦後処理が終わらない。なので女狐隊の部屋の方で昼休憩も兼ねて書類仕事を片付けていると、事務の方から連絡が来たのだ。

 

 私が女狐部屋の扉の前で待機していると目的の人物は姿を見せた。

 

「……キミか」

「待ってたぜ新人。つってもまぁ俺もお前らとそんな変わんねェけど」

 

 ションとしての色を全面に押し出して腕を組む。

 赤いマスクをした女狐隊の雑用である(おれ)はその新しい同僚に視線を向けた。

 

「俺は女狐隊の雑用のション。まァ、女狐大将が多忙な方だから雑用仕事の代理として雇われてる」

「雑用と言う割にはそれなりに権力があると思ったが、そうも外れてなかったようだな。よろしく頼む、俺は一応代表のブルーノだ」

 

 ──やってきた人物はCP9の7人。

 手を出されたので少し迷いはしたが軽い握手をし、CP9に自己紹介をしてもらった。

 

「まずだが、女狐隊には向かい合わせに2つ部屋がある。あっちは女狐大将の部下。んで、こっちは女狐大将の手駒」

「……どう違うんだ?」

「あっちの部屋は進路に選択の余地がある。他の大将の下に行くとかな。要するに海軍で置かれている女狐の部下ってこと」

 

 普段コビメッポ達が過ごしている部屋の方を指す。ちなみにこちらは任務もそこそこ多いが休みも交代で取れている。

 本当に海軍から手放せない重罪(元海賊とか犯罪者予備軍とか)は組織として縛り付けている。

 

「こっちの部屋は選択の余地はない。女狐大将のために動き女狐大将のために死ぬ。ま、要するに訳あり。──女狐と称されるただ1人の為の部下」

 

 これは潜入を始めて出来た部下。所謂私兵。

 組織ではなく個人に縛り付けるため拘束力は弱いけど、保険を掛けまくる私にとって便利な人達を私に縛り付けられるのはかなりの利点。

 

「さァ、どっちを選ぶ?」

「わしあっちー」

「逃がすか」

「逃がさないわ」

「誰が逃がすか俺たちは一蓮托生」

「逃げたら俺は色々漏らすチャパ」

「そいつァ、あ、ねぇんじゃないのかァ?」

 

 あっちの部屋に意気揚々と向かったカクを必死の形相で食い止める5人。そう、残る1人。ちょっと、いや結構海軍のナミさんやってるルッチがこっちの部屋に迷う余地なく選択したからだ。

 

「嫌じゃ!わしは女狐のためになんぞ働いてたまるか!」

「女狐大将の部下の目の前で堂々と反逆とはいい度胸だな小童」

 

 (おれ)は小さく笑って小突き、全員を『こっちの部屋』に入れた。

 

「あー、お前らかぁ。……ったく、俺たちに情報共有くらいしてくれよな」

「ボムパイセン事務からの連絡でおもしれえくらいに『なんのことだ?』って顔してたもんなァ」

「当たり前だろ!」

 

 CP9は部屋を見回して、空席の女狐の場所を見つけた。

 

「……女狐は?」

 

 カクが嫌そうな顔をして聞く。

 

「んー」

 

 

 とりあえずそこまで多くない荷物を部屋の適当な場所に置いてもらう事にする。私は悩みながら大将の机に向かい、椅子を引いて。──どかりと座った。

 足を組み、背をかけ、フードと帽子を取って腕を組む。

 

「──女狐ならここにいるですけど、何かぁ?」

 

 

 CP9の空気は綺麗に固まった。

 

「「「「はぁあ!?」」」」

「改めまして、ようこそCP9。スカウト雑用の『俺』はあくまでも女狐大将への繋ぎなので、大将に用がある場合『俺』に一報入れてくれ。ある程度は俺が指示を出す」

「は、まさか、別人になっていたとは……?いやその顔見覚えがある……。戦神の若い頃と同じで…?」

「残念だけど髪染めただけ。さて、とりあえず政府からの干渉防ぐ為に名前を書いてもらう書類がある」

 

 固まるCP9に女狐隊は苦笑いや同情の視線を向けながら手を動かしている。失敬な。

 

 引き出しから書類を取り出すと、ある程度の塊にまとまった書類を個人個人に渡していく。

 

「……これ、まさかとは思うが」

 

 それぞれが中身を確認する中。1人だけ量の多いカクが書類をパラッと捲り引きつった顔を浮かべた。

 

「入隊届けだけじゃ守りに足りないのである程度の役職をそれぞれ用意した。この多忙期の1週間にちまちま用意したから書類ミスがあるかもしれないけど……まぁチェック入れてるし大丈夫だろう。内容の理解はまだいい。把握だけして」

 

 普通にただの名誉職だが役職を用意した。ポケットマネーから条件達成させたんだから文句は言うなよ。

 ちなみにめちゃくちゃ手間はかかった。

 

 表情を引き攣らせた同じ雑用なら、その苦労と手間は分かるよな?

 

「名前今すぐ書いて。まとめて提出する」

 

 入隊届けの処理自体は普通に簡単なんだけど、カクの扱いに死ぬほど苦労した。他のCP9と同じく昔から政府一筋なら兎も角、こいつ海軍歴があるから経歴のダブりがあるんだよ。つまりスパイっていう証拠。

 

「カク」

「………なんじゃあ」

「お前、海軍内へのポーズは私と同じで裏で役職持ってた潜入捜査兵。政府へのポーズは、海軍潜入なんて経歴は無かった。理解しろ」

 

 カクは一瞬硬直した後隠す気がないめちゃくちゃ大きな舌打ちをした。

 喧嘩売ってんのかこのクズ野郎。

 

「どういうことだ?」

 

 ジャブラが記入し終わった書類を私に出しながら聞いた。

 

「アイツは海軍の中では、『政府に潜入してましたが任務を終え戻ってきました。雑用だと偽ってましたが機密特殊部隊所属員です』って言うポジション」

「うん、何となくわかった」

「で、そのままの言い分だと政府に対する反発になってしまうから、政府に向けては『海軍雑用だったのはカクではなくて弟のシカクだった、そうだろう?』って潜入自体をなかったこととしてゴリ押しする」

 

「シカク……」

「弟のシカク……」

「カクお前シカクなんて弟いたのか」

 

「わしに聞くな知るかッ!」

「そこはきちんと知れ」

 

 政府の役人が海軍に潜入をしていた、なんてことが公になれば困るのは政府。だから脅してるんだ。

 カクは他のCP9と同じく普通に政府から海軍に転職した人物だ、と。

 

 

 あくまでも建前だから色々矛盾点が多すぎるけど、脅しかけているのは海軍側なので慌てるのは政府だけだ。

 

 これ、ちゃんと政府と交渉(おはなし)しなきゃならないんだけどね。

 私が任務で間に合わなかったら部下に託すことになる。脅し(こうしょうにん)を任せるとするならパレットかな。

 

「チャパー、そんな大事なこと俺の前で話していいのか〜?」

 

 CP9口軽選手権堂々トップのフクロウが心配そうというか申し訳なさそうな顔でそう聞いた。

 

「無問題。信じてるよ、フクロウ」

 

 元々漏れてもいい話しかしてない。政府の人間はフクロウの口が軽い事くらい知ってるだろう。ションがリィンであり女狐だってことも、カクの経歴を誤魔化していることも、全部バレても問題無いってわけだ。

 

 本当に隠したい事はさらに裏側にある。真女狐という存在はね。

 

 あとぶっちゃけ虚言癖ありという噂を流すことくらい造作もない。そういう噂話の裏工作はクロさんのアラバスタ事件で慣れてしまった。

 

「が、頑張るチャパー!」

 

 そんな裏事情を知らないフクロウは意気込んだ。

 綺麗な建前を信じて出来る限り頑張ってくれ。

 

 

「やはり貴女こそ俺に相応しい主……。部下というより奴隷の立ち位置の方が特別感が出て……」

 

 こちらをじっと見ながらブツブツ呟く『確実に尊敬の度が過ぎたルッチ』に、私は周囲を見渡した。

 

「ここまで拗れさせたの誰」

 

 ──お前ほんとろくな事しねぇなカク!

 

 全員の視線からそっと目を逸らした屑に盛大な殺意を込めた。

 

 

 コンコンコンとノックの音がした。

 

「女狐隊ー!来たー!」

 

 普段はそのノックにナインが私の指示を待ち開けるのだが、その声が聞こえた瞬間部屋の中の奴らは無条件に開けやがった。

 いやまぁね。私も開けるけど。

 

「月組様ーーッ!」

「待て開けるなッ!」

 

 ──いや開けたらダメじゃん!?

 

 チラっとカクの顔を見たら扉を見ながら驚く表情をするも、ニヤリとめちゃくちゃ凶悪に笑った。

 

「えっ、た、ション?」

 

 ナインが扉を開ける前に動揺して止まったが私は思わずため息を吐く。あぁ、必要なワードを渡してしまった。

 

「こちら女狐隊でーす!」

 

 ニッコリ楽しそうに笑う表情を被ってカクがウキウキしながら扉を開けた。

 隙間から見える姿は数人の塊。声と動きのくせから間違いなく月組だ。表情は仰天。

 

「おっ」

「え……?」

「あ、あ」

「えっ、ま、まって……」

 

「「「「「「カクーーーー!?」」」」」」

「サンカクーー!!」

 

 なんか名前の合唱に変なの混じったぞ。

 

「ひっさしぶりじゃなぁ!」

 

 名前を間違えたのはリックさんだと確信しているので今回は惜しかったなと思いながら私は椅子を蹴ってカクに肉薄した。

 

「ふっ…!」

「──ッ!」

 

 空中に飛び上がった状態で回し蹴りをすれば重量と体重が足の1点に集中されるので、カクの頭にぶち込む。

 まぁ武装色の覇気を纏った腕で防がれた。想定内。

 

「え、何、何事?」

「いててて、ションのやつどーしたんだ?」

「あの子なら真っ先に飛び付くと思ってたのに」

 

 目論見通り、月組が異常さを感じ取ってボソボソと話し合う。

 

 シャボンディ諸島から変わってないなコイツ。

 

 月組を庇うようにそっと手を広げ、月組の誰かが飛び出すのを防止した。

 

「──死者に用はねェんだよ屑」

「オーオー、随分な言い様じゃ。やっぱお前、ムカつくのぅ」

「ムカつくぅ?ハッ、甘口で言ってんじゃねぇよ。殺したい、の間違いだろ」

 

 吐き捨てたおれ()の言葉にカクは愉快で堪らないと言いたげな表情を浮かべた。世はそれをゲス顔と呼ぶ。

 

「え……」

 

 リックさんの後ろで顔を強ばらせたグレンさんが小さく動揺と悲鳴を漏らした。

 

「しゅ、うげきしゃ……」

 

 その単語に思わずバッと振り返る。その視線の先にはルッチがいた。

 なんでバレ……!?

 

「なんじゃ。グレンさん、ルッチの事知っておったか」

 

 カクは私の蹴りを受け止めた左手をぶらぶらと遊ばせてだらしなく突っ立って口を開いた。

 

「改めて、わしは元CPのカクじゃ。そこのルッチと共に行った殺害任務は失敗してしもうたが、月組はいい隠れ蓑じゃった。これからもどうぞ、よろしく」

 

 性格悪い挨拶を向けたカクに私は息を吸うようにイラッとしてしまう。裏工作でCP9()潜入してた設定だったの忘れたのかコイツ。いや、嫌がらせなのは分かるけど。

 

 

 するとリックさんが前に出てきてカクに手を伸ばし──頭をぐしゃぐしゃに撫でくりまわした。

 

「は?」

「えっ?」

 

「お前背、めちゃくちゃ伸びたなー!成長期こっわ!」

 

 あっけらかんと言い放った言葉に私とCP9は呆然とする。

 

「ということは…──もしかしなくてもカクって月組の中でめちゃくちゃ戦えるやつってことなんじゃ!」

「よっし、よぉおっし!物理に弱い俺たちこれでシカク無しなんじゃ!」

「カクだけに?」

「カクだけに!」

「っしゃあ!これで物理に走る狂信者の対処係が出来た!こっちこそよろしくカク!いやぁ戻ってきてくれてよかった!」

「でも連絡取れなかったことは許さんからな」

「ギルティ」

「おっまえっの弱点やーさーい!」

 

 一通りいじくった後、「じゃあ書類整理するなー」と言いながら仕事に向かった月組。いつもの定位置なんだろう。余った机や折り畳みの机を取り出して元BW組からまだ手を出してない書類を受け取っていた。中には完成した書類を届けに外に向かう人もいる。

 

 ぐちゃぐちゃになった髪の毛をそのままに、ポケッと月組を眺めるカク。そしてドン引きしたり感心したり爆笑したりと個性さまざまな様子を見せるCP9。

 ちなみに私は軽く引いてる。

 

「……──いや、えっ、海軍の麦わらか?」

「その例えはやめろ」

 

 

 

 

 グレンさんがルッチをチラリと見て、耐えきれなかった様に私を呼び出した。




わーいやったー!カク!お誕生日おめでとう!祝CP9入隊!


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第236話 ダブル死霊使い(片方は偽物)と遭難事件

 

 

 カクとの再会に喜ぶ月組とそれを揶揄うCP9。

 そんな中グレンさんがルッチを警戒しながら近付いて来た。

 

「……ちょっと、相談したいことがあるんだが」

 

 奇遇だな。と、純粋に思った。ルッチが第1雑用部屋の襲撃者であるという情報はセンゴクさん以外には漏れていない。

 グレンさんが一目見て何故分かったのか知りたい部分がある。別に隠していてもいいんだけど。

 

「──CP9、そいつらに基本的な業務作業を聞いておいて。あんたらのメインは書類じゃなくて実働だけど、普通に回してもらうことになる」

「拝命した、が。我が主」

「雑用、ション」

「……ション、様」

「ション」

「…………………………しょん(嫌そうな顔)」

 

 ルッチの呼び方をめちゃくちゃ修正して私は腕を組んだ。おら、続きを話せ。

 

「俺達の呼び名はどうにかならないだろうか」

「……? ルッチって呼んでるが」

「そちらではなく複数呼ぶ時の方だ。元々表立った組織じゃない上に、俺達はそこを抜けてきている」

 

 一理所の話じゃないな。

 そういえば、私はまだ彼らをCP9と呼んでいる。

 顎に手を当てて頷くと、今度はボムがそろりと手を上げた。

 

「俺達も元々の組織名じゃなくてチームとして名前を貰いたいかなーって思います」

 

 ……CP9は実働部隊で元BW組は書類部隊じゃだめだろうか。うん、ダメだろうなぁ。

 

 CP9の形態は知らないが基本的に潜入などしていた4人が対人系統と残りの3人が荒仕事をこなしていたのはわかる。ややこしいだろう。元BW組もバディが作られているが。

 

 2組を見比べ、ちょうど中間にいた『組』と視線が交わった。

 ……それだ。

 

「元BW組、君達は星組。元CP9、お前達は空組」

「ウチのカクは他所にやりませんッ!」

「月組はお黙り──カクさんの墓は作ったでしょう」

「あれカクの墓だったのか!?」

「お前マジで何をしとるんじゃ!?」

「カクが既に死んでいた件について」

「成仏してくれ」

 

 同じような組み分けの名前。カクが月ではなく空の方に入っていることに気付いた月組がびゃーびゃーと泣き喚く。

 この感じ心底懐かしいな。

 

「俺たちが星でこいつらが空。理解したけど、由来が全く分かんねぇ……」

「ション〜、これどういう意味?」

 

 ボムとレモンは私に質問を投げかけると『なんだろねー』と言いたげに互いに顔を見合わせて首を傾げていた。

 

「星は、太陽の周りを巡り太陽がいない場所で月と共に闇を照らす輝きを放つ」

「……! それ、って」

「空は、太陽の有無で色を変える。たくさんの色に」

 

 うん、我ながら上出来。私は帽子を被りフードを被り外に出る身支度を済ませる。

 

「──ってことで俺は他の任務に行ってくるから指示必要な場合はコビーに聞いてくれ。グレンパイセン、お供頼む」

「あ、あぁ……」

 

 去り際、(おれ)は皮肉めいた笑みを浮かべて告げた。

 

「星が空を彩り月が照らす。……なァ、ピッタリだろ?」

 

 そのまま外に出て扉を閉めた。

 

──バタン…。

 

 

 ……。

 …………。

 

「身内いる中でする演技ほどしんどいものは無い」

「あっ無理してたんだな」

 

 グレンさんのやっぱりなと言いたげな同情的な視線を受けて私のメンタルは少しずつ回復する。

 

「詩人みたいな言い方を好むキャラ付けなんだよ」

「それ、元帥が?」

「そう」

 

 雑用のションという人物はリィンが演技をしている姿だ。その演技の姿はセンゴクさんの指示。──という設定にしている。

 

 私が判断したションのキャラ付けだってセンゴクさんの指示の元そう演じているということになる。なんでかは分からないけど、まぁ細かいことはまた今度脳内でまとめよう。本当は自分でも痛い演技はやりたくないんだけど、私にとって恥ずかしいくらいがこの世界じゃ案外普通。あとやりたくないことをやってこその命令だから生命線なので死ぬ気で羞恥は堪えるよ。

 

「それで、グレンパイセンの話は?」

「あー、うん、その、任務って言うのは?」

「任務自体は本当にあるけど後回し。グレンさん優先」

 

 口調が戻る。

 私は引き締めるように、女狐隊の色をしたマスクを着けた。

 

「人に聞かれたくない?」

「……。いや、そこまで気にはしない」

 

 ──不味くなったら守ってくれるだろ?

 

 そうグレンさんは確信したように笑みを深めた。

 

「はは、参ったなぁ」

 

 大当たりだよド畜生。

 

 

 ==========

 

 

 

「……………………マヂで?」

「マヂでもマジでもどっちでもいいけどさ、ガチだよ」

「……………………絶対的な味方でよかった」

「そいつはどうも」

 

 グレンさんが死霊使いの末裔だった。

 

 

 

 死霊使い。

 私はその存在を幽霊が見えて、操作出来る。そういう存在だと思っていた。

 

 死霊使いというのは魂を認識出来る能力だった。

 例えばベンサム、彼がたとえマネマネの実で顔を変え、私の姿でいたとしてもグレンさんにはベンサムだとすぐに分かる。

 私が例え変装をしても、別の存在としてその場に立てど、グレンさんには一目瞭然。

 

 過去に女狐の姿でグレンさんと会ってなくて良かった。

 

 まぁつまり──顔認識バグ。

 

「そういう言われ方は初めてだな」

「おそろいおそろい」

「……俺、お前を見掛けても周囲にアイツらがいなかったら声掛けないことにする」

「そうだね……。わた、俺無駄に顔があるからなぁ」

 

 是非とも見た目で人物を判断出来る普通の人間と一緒の時にしてください。グレンさんの魂判別で味方の顔使い分けがバレてしまっては困る。

 

「ま、敵にとっちゃとんでもねぇだろうな」

 

 特にベンサム。何度でも例えに出せるくらいベンサムと相性が悪すぎる。ハー、味方で良かった。

 でも一目見た事ある襲撃者がルッチだって判断したカラクリはわかった。

 

「……それで? 相談ごとってのは、グレンパイセンが死霊使いってところの他にあるんだろ?」

「うんまぁそうなんだけど、よくわかるよな」

 

 人気の少ない場所で壁にもたれ掛かりグレンさんをちらりと見た。眉間に皺を寄せて、更に言えば顔色がめちゃくちゃ悪い。

 

「火拳の、ことなんだが」

「…!」

 

 出された話題にヒュッと息を吸い込む。

 そういえば、戦争後から心ここに在らずと言った様子だったけど。

 

「俺が死霊使いだからなのか、やべーもん見ちまってさ」

「エースの生き返りのカラクリか!?」

「……あぁ」

 

 コクリと頷き、グレンさんは続きを口に出した。

 

「海賊王、だった。俺、偉大なる航路(グランドライン)後半出身だから見たことあるんだよ。……海賊王ゴールド・ロジャーの魂」

「海賊王が、一体……? 生き残ってた、のか?」

 

 グレンさんは首を横に振った。

 

「じゃあ、え、まさかとは思うが。魂は生まれ変わっても同じ形をしてるだろう? 初期化されるんだから。エースが海賊王の生まれ変わり、とか」

 

 推測を口に出すとグレンさんは仰天したように目を見開いた。

 

「……いや、その推理は外れてるわけだけどさ。呆れた。お前、魂の初期化まで知ってるのか」

「むしろ逆にその若さで生まれ変わり知ってるの? こんな広い世界で?」

「あ、うん。目の前にいるし」

「!?!??!?どゆこと!??!?え、私の前世グレンさんご存知!???!?」

 

 いやいや待ってどういうことですか!? 私の前世間違いなくこの世界ではないんだけど!

 

「いやだって、25年くらい前って生まれてないだろ」

「全く微塵も欠片もこの世に存在してませんが!?」

 

 土石流みたいな情報に私が大変なんだけども。

 情報過多で頭がクラクラしてきた。

 

「ともかく! ……火拳の生き返りに海賊王の魂が関わってるって訳、細かい詳細は分からないし、そもそも魂関連って言葉にするには難しいから1番近い炎として例えるが」

 

 軌道修正をするようにグレンさんは無理矢理言葉を繋げ、ため息を吐き出した。

 

「海賊王の炎が、火拳の炎を包んだんだ。それだけでも俺には強い衝撃だった。浄化する様に一瞬消えたと思ったんだ。まるで魂が天に回収されるみたいに。だけど海賊王の炎が世界を壊すくらいの無茶苦茶な法則を無視した力技で、火拳の魂を肉体に押し戻した」

「海賊王の、魂は一体どうやってこの世に……?転生は、してないんだよね?」

「成仏すると、うーん……スっと消えるんだよ。透明度がどんどん高くなって。今回はその逆。何もないところからバリバリと雷を放つように無理矢理現れた」

 

 私は顎に手を当てて考える。

 グレンさんと私の眼球の光の屈折率が違って半分くらいしか理解できない。少なくとも、何度も念を押されてる通り海賊王は確実に死んでいるんだろう。

 

 死後の世界から無理矢理力技で干渉されるとこの世の法則が全くデタラメになってしまう。前例を作ってしまった以上厄介だね。領域外のことにまで可能性という視野を広げなければならなくなった。

 

 ……。個人としては、無理矢理でも法則を無視してでも、助けてくれたのはありがたい。

 

「俺にとってはホラー映像見てる気分だった。正直今までめちゃくちゃ怖かったんだけど」

 

 グレンさんは困ったように笑った。

 

「やっぱお前凄いな、皆が傾倒する意味が分かるよ」

 

 

「…………グレンさん頑なに名前呼びしませんよね」

「間違えたらどうするんだ俺は顔認識出来ないぞ」

 

 話の腰は私が力技で折った。

 

 

 まぁ傾倒するとか言われても私は慰めもしてないし解決策も出てない。ただ情報共有されただけなんだけどね。

 

 

 そういえば、アラバスタでコアラさんやマルコさんが絶賛してたの確かグレンさんだったな……。潜んでいたBWを見事に当てて見せた、というのは聞いていたけど。当時てっきり表情とか仕草とかで怪しい人たちを見つけるスキルを持っているのだと思っていたが。

 魂の大体の素質が判断基準か。

 

「ところでお前任務って言うのは?」

「ん?あァ……噂程度にはなってると思ってんだけど、海兵殺し………。あ、パイセンめっちゃ使えんじゃん」

「え、何怖い。海兵殺しって」

 

 

 にんまりと笑ってグレンさんを見る。今度はこちらが驚かせる番だ。

 

 

 

 ==========

 

 

 

「………………マヂで?」

「ハイハイ同文同文」

 

 

 私に舞い込んできた任務を説明するとグレンさんは呆然とした顔をした。いや、普通に嫌そうだな。

 

 最近また新たに起こった事件現場に足を進める。もう既に情報は紙に変換されてるけど。

 

 横を着いてくるグレンさんは未だに混乱しているようだった。

 

「えっ、もう1回聞くけど海兵殺しってほんとにここで起こってんの?」

「人がいるからそれ言うの控えてくれよ。なぁに、ちょっと海軍本部で『遭難事件』が起こっただけだ」

「それはそれで問題あるけどお前の頭にある隠語辞典引っ張り出してこいどこで知るんだそんな言葉」

 

 

 海軍本部海兵遭難事件。

 ──端的に言うと今現在本部で起こっている、殺人事件だ。

 

 対象は海軍本部勤務者。合計3名。

 時期は戦争後から約1週間。

 

 とりあえず裏切り者の線を睨んでいるからグレンさんの力を借りようと思ったんだけど。

 

「が、概要は」

「遭難者は全て海兵。繋がりは今のとこ海兵としか無いな。部隊も所属も派閥も全部違う。あ、唯一言えるのは睨まれてない様な海兵」

「睨まれてない……?」

「上とか裏にだよ。要するに、海兵として理想的な奴?女狐派閥のやつもいたな」

 

 この海兵殺し。

 私がわざわざ担当していることに理由が1つある。

 

 遺体状況が全て首チョンパだった。まるで鋭い刃で一閃された様に、首が跳ねられていた。

 中には少将地位の人物も居たから、そのレベルの実力者を一撃で仕留められるような犯人なのだろう。

 

 昔扱った海兵殺しにそっくりだ。

 グラッジって言う栗色七武海の起こした事件にな。

 

「昔もこんな感じで誰かが調べたんだろうなぁ」

「え?……あァ、昔の七武海か」

 

 ふぅん。月組内ではグラッジの事件も共有されてるのか。

 

「これから聞き込みもあるし、丁度いいからグレンパイセンの目で色々情報渡してくれよ。事件に関係なくても」

「あ、それで。事件は建前か」

「そうとも言うなァ」

 

 帽子を深く被って後頭部で手を組む。

 鼻で笑って私は俺の仮面を被った。

 

「……これでも筋肉痛で体動かねぇんだけどな」

 

 恨み言くらいは吐かせて欲しい。センゴクさんとの1対1強化訓練技の練度上げ中心とは言えかなり厳しいんだから。

 さっさと犯人見つけて睡眠時間に充てるしかないな。

 

「調査って言ってもどこからどうするんだ……?聞き込みか…?」

 

 今まで海軍本部で雑用してきたグレンさんの疑問に私は指を1つ立てて見せつけた。

 

「現場検証」

 

 演じてるキャラ付け的に対人技能は使えないんでね。

 お得意の頭脳戦と行きますよ。

 

「検証……」

 

 不思議そうな顔をしていた。

 

「この世界さぁ」

「お、おう。話の切り出し方のスケールがデカいけどなんだ」

「──体格差も筋力差も激しいんだよ」

「そう……だな?」

 

 私の勢いに呑まれかけてるグレンさん。

 前世と比べたら圧倒的に体格差という隠せない証拠がある。戦い方という色がある。

 

 遺体や死体から犯人を特定するなんて、造作もない。指紋よりずっとずっと分かりやすく、避けにくい証拠だ。

 

 私がリィンと女狐とションで戦闘スタイルを変える訓練をしている理由はこれだから。

 

 

 事件現場に到着し、私は勘に従い気になったところを睨み始めた。

 

 

 ところで遺体と共にあった証拠がある。

 それは一輪の花。

 

 弔うように胸に置かれた幸福や救いの意味を持つ花ばかりだった。




昔昔リィンも死霊使いだって偽ったからね。本当はこの事件削るか削るまいか迷ったんだけど折角だしグレンさんの説明も兼ねて入れとこうかな、と。別に重要な事件じゃないです。ただの遭難事件なんで。頭から先が。


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第237話 未だ遭難中

 

 

 海兵殺し。

 あァ、現場は海軍本部だ。ということはウチに潜り込んだネズミか裏切り者か。そのどちらかということになる。なんて嘆かわしい。同じ正義を背負う者として情けなくて涙が出てくるよ。

 

 

 

 ──なんて思うはずも無く。

 

穿鑿(せんさく)じゃーい!」

「おー!」

 

 調べて調べて調べたおす。出来ることはそれだけだ。

 

「で、現場がここ?」

「うん。ちなみにここの被害者はグレンパイセンと同じ身長」

「…………………検証ってまさか俺で?」

 

 目を細めてYESと回答した。

 

 身内からそんな事件を起こしてしまって情けない?嘆かわしい?

 ははっ、そんな感情は微塵も浮かんでこないね。なんせ私だって裏切り者(一応未遂扱いだけど)。私の任務のために犯人を特定する。絶対に。

 

「んじゃパイセンそこ立って」

「おう」

 

 指定した場所に素直に従い直立するグレンさん。私は靴をふわりと浮かせとりあえず後頭部だが目線が合う高さにしてみる。

 ……。

 うん、背後同じ目線は無いな。

 

「パイセンこっち向いて」

「はいよ」

「……うーん。これは、また、めんどくせぇな」

 

 再び自分の視線の高さをふわふわと調節し、考えるより先に一旦地面に降り立つ。

 

「血飛沫の跡が確か……」

 

 資料の写真を撮り出して脳内で事件現場を再現する。角度、血飛沫の大きさ、うーーーわーーーこれ確実にめんどくさい事件じゃないですかやだ。

 

「なんでそんな嫌そうな顔を?」

「大体の像を絞れたから、かな」

「速くないか!?」

「おっし、聞き込みはパイセンの仕事な。可愛い後輩からのお願い。周辺じゃなくてその目使って犯人カチコミ行くぞオラ」

「ちょ、ちょっとま、おいこら」

 

 一発目の検証とも言えない現場検証は終了したので場所を移動する。一応念の為他の場所も調べていく。

 

 

「む、ションか」

「ん?あァ、赤犬大将」

 

 現場確認の途中、周囲にサカズキさんの部下がいるが声を掛けられたので反応を示す。緩く敬礼するとツカツカと歩いていった。ションはキャラ設定上媚売らないし愛想も振りまかないので。

 

「……。その資料」

「あァ、例のヤツ。俺に回ってきたんで。こういうのは雇用範囲外だと思ってたんだがなぁ」

「人手不足じゃ諦めい」

「へーへー」

 

 部下の人達は軽々しい(おれ)の態度にギョッとしてるみたいだ。

 サカズキさんは声をかけたのがリィンが演じてるションという男(一応取り繕っただけの除籍)なので普段と変わらない態度で接している。

 

「──じゃあその通り進めちょってくれ」

「はっ」

 

 ちょっと待ってろ、と言いたげに手のひらを向けられたので手を組みながら待つ。サカズキさんは部下に指示を出していた。

 

「……パイセン、この場でとりあえず見て」

 

 私の斜め後ろで待機してたグレンさんの襟首を引っ張って耳を私に寄せさせる。

 

「…………右から、清純な魂、黒さもあるけど表に出さないお前タイプ、優しすぎる、そこそこ業を繰り返すタイプ」

 

 その性根が優しすぎるの判断下したの間違いなくサカズキさんだよね。はー、なるほど。大体の性格もバレるのか。魂は記憶の初期化だから。性根はなぁ。

 

「一応いっとくけど性根がってだけだから育ってきた環境も現状の性格に影響するからな?」

「そーれーは、理解してる。あくまでも参考要素の1つだって」

 

 そこそこ業を繰り返すってことがどんな感じなのかわかんないな。というか言葉として説明させるのがそもそも下手打ってるんだけど。

 

 んー、視界が共有出来たらな。

 

「海賊って基本どんな感じに見えんだ?」

「自分本位な感じ。お前より黒さは薄いけど」

 

 ……。

 まぁ顔面だけ見てこの人○○してそう、とか言われても説得力はないよね!要はそういう判断だよね!

 

「現実逃避してそうなお前に向けるけどお前が実は腹黒で自分本位でどうしようもない業を繰り返す魂だってのは分かってるからな」

「ド畜生!」

 

 地団駄を踏むと指示を出し終えたサカズキさんが寄ってきた。

 

「それで、どこまでわかった?」

 

 そういえば2番目の被害者はサカズキさんの派閥の人だったな。

 不意に思い出した。やっぱりこの人は優しすぎる人なんだな。

 

「身長は250cm前後。獲物がかなりの業物、もしくはやべーレベルの覇気の持ち主。……被害者全員に警戒されない様な人格者」

「えっ」

「つまりお前じゃないだろうと決めつけられやすい将校だな。地位は本命が大佐あたり。大穴で中将」

 

「ふむ、大佐あたりと言う目安は?」

「地位もあり自由もあるラインがそこだろうよ。他組織のネズミが使いやすい地位だ」

 

 肩を竦めやれやれと言った感じにアピールする。

 少将が犠牲になったってことは実力中将レベルでないと綺麗に仕留めにくい。

 

「なんで身長とかわかったんだ?」

「えー、勘?」

 

 首はねの角度とか血飛沫の勢いとか諸々で推理出来るけど、私は探偵じゃないから『その結論』に至った経緯を説明するのが苦手なんだよなぁ。

 

「身長の件はもう角度から来る予測としか。ただ首の断面図を見るとかなり綺麗に切れていたからな、武器はいいもん使ってるな」

「くびのだんめんず」

「……お前ほんとにいくつだ??人間か??」

 

 私の言葉を繰り返すだけbotになってしまったグレンさんに哀れみの視線を送りながらサカズキさんが首を傾げた。

 

「…………よく、断面図なんて見れるな」

「俺に無関係じゃねェか。ヤッたわけでも知った顔でもねぇし。顔分からないが」

「お前ほんとににんげんか……?」

 

 グレンさんが震え声になってしまった。

 被害者は1番最初が拳骨部隊、2番目が赤犬部下、3番目が女狐派閥。所属形態も系統も違うからなぁ。名前聞いても思い出せないし。

 

「まぁだがその人物像は当たっちょるわい」

「……へ?」

 

 予想外の言葉に思わず素を出してしまう。サカズキさんは飄々とした顔で告げた。

 

「センゴクさんが既にその結論を出しちょる」

「──元帥テメェッ!!!!!」

 

 何がしたいのセンゴクさん!?

 犯人像の当たりをつけてるんなら教えてくれたっていいじゃん!なんで私に推理させるの!?

 

「海軍の知将2人が同じ結論ならほぼほぼ確定じゃァ、これ以上被害が出んようにするんじゃな」

「んぐぅ……」

 

 褒めるのかプレッシャーかけるのかどっちかにして欲しい。

 

「……。まぁ、やれるだけやってみるけどよ」

 

 フードと帽子を脱いでガシガシと頭をかく。

 肉体的にも精神的にもめちゃくちゃ疲れている。海賊稼業って楽だったんだな……。

 

「サカズキ大将!頼まれてたやつ出来ましたよ」

「あァ」

 

 サカズキさん、女狐隊に負けず劣らず忙しい様子だ。流石人事部。

 

「ヴェルゴ中将、頬にウインナー付いたままじゃが」

「……!これは失敬」

 

 そろそろ時間食うのも食わせるのも利益にならないし立ち去ろうか。それとも引き止められた理由に犯人像の推測を聞く以外に何かあったんだろうか。

 

「グレンパイセン、身長だけ絞ったリストとかそっちで作れる?」

「え、あぁ、出来ると思うけど、個人情報入手権限が必要だから最低でも大佐以上の名前が必要だと思う」

「じゃあ女狐大将に許可取るかー」

 

 顎に手を当てて考える。

 

「……?大将、彼は」

「中将にはまだ共有しちょらんかったか」

 

 2人の視線が私に注がれた。

 ヴェルゴ中将……だっけ?関わったことなかったと思うんだけど。この人、250cmの身長格だな。

 

「女狐大将の繋ぎやってる個人雇用雑用。ま、よろしく頼むぜ、中将」

 

 ヘラっと笑って軽く手を振る。

 

「……(チラッ)」

 

 帽子の隙間から一瞬だけグレンさんに視線を飛ばす。グレンさんは私を見ずに中将を見ていた。

 

「女狐大将の部下か!そうかよろしく頼むよ、明日の七武海臨時会議が一緒だったと思うから」

「あァ、確かに大将は明日戻るな。伝えとく」

 

 別に中将だから私が女狐であることを教えてもいいんだけど今回250cmは敵対の可能性があるから念を置いておく。

 

「すまんなション。女狐によろしく言うとってくれ。……後、そっちの人手のことなんじゃがやはり誰か派遣しようか」

「あー、すまん。俺ァその方針は弄れねェから持ち帰って検討させてくれ。人手不足は痛感してるからこっちで大将に話通しとくよ」

 

 意訳:決めかねないから少し時間が欲しい。

 

 女狐の雑用ポジションの台詞を吐くとサカズキさんはひとつ頷いてヴェルゴ中将と共に踵を返した。

 

 去り行く背中が見えなくなってグレンさんに問い掛ける。

 

「で、どうだった?」

「殺身成仁みたいな魂」

「自己犠牲型の正義の塊ってとこか。んー、違うか…………──まてよ」

 

 思い出した。ヴェルゴ中将の通り名。

 

「〝鬼竹〟だ」

「……あァ!あの人が鬼竹か」

 

 鬼に金棒を持たせるように、竹ですら強力な武器に変えてしまう程の覇気の持ち主。

 

 やっぱりめんどくさいな。中将が敵だと。しかもヴェルゴ中将はまだ戦闘訓練の相手してもらってないから戦い方も分からない。

 

 いや、誰であろうと中将と敵対したくないな。

 

「さて、リストまとめするか」

「それ俺がするんだよな!?」

「うん、(おれ)他にやる事あるし」

 

 人に仕事を押し付けるのは結構得意です。

 

 

 

 ==========

 

 

 

「その、お邪魔します」

「おう、いらっしゃい嬢ちゃん」

「──お前の部屋じゃねぇだろうが」

 

 よう、と片手を上げたジジイの頭に遠慮なくハリセンをぶち込む。

 

 グレンさんに身長250cm前後の将校のリスト作成を頼んでいる間、私はパレットを連れて女狐隊の【あっちの部屋】に居た。

 

 そろそろ『あっち』とか『こっち』とか紛らわしいから、昔からある方の部屋(ヘルメッポが在中するとこ)を『昼の間』で、潜入中に出来た部屋(星組達が在中するとこ)を『夜の間』と名付けとこうか。

 

 昼の間には基本的に外回りが多い。顔が割れてる元海賊は基本的に部屋の中にいるけれど、人口密度が低いから比較的静かだ。

 

「あ?そういえばジャンは?今日は書類だろ」

「あーー、それが」

「あのイカレござる野郎ならとっくの昔に『向かんでござるー』とか言いながら逃げたぜ」

 

 部屋の隅で積み上がったガラク……備品をガチャガチャと整理していたバッカが顔だけひょっこり出して嫌そうに顔を歪めながらそう言った。

 

「はーー。またか」

「我らが女狐隊における三馬鹿の一角だぞアレ」

 

 学ばねぇよ、と言いながら作業に戻っていった。

 ちなみにその三馬鹿の中にバッカは含まれてない。馬鹿って名前してる割りにバッカは頭良いもんな……。

 

「それで、あー、名前なんだったか?」

「ション」

「そーだ、ション。それで、わしとパレットの嬢ちゃんへの仕事ってのはなんじゃん?」

 

 備品整理をしているバッカの実父である発明家のヴォルフがソファに腰掛けながら私に聞いてきた。

 私が迷わず上座に座ると、パレットはヴォルフに倣うように彼の横に座った。

 

「1つ『ガッチャン』2人に作『ガタガタ』て欲し『バキッ』いもん『ガラララララ』る」

「おーい、それ俺が聞いてても問題ないかー?」

「お前がいても問題はねぇけど整理整頓の音が素直にうるせぇよ」

 

 話が進まないんだが!

 ソファのど真ん中に腰掛けていたが、腰をズラして1人分開けるとその空席をポンポンと叩く。

 

「……お馬鹿さん、構って欲しいなら素直に来る」

「……!ゲパッ!」

 

 ぴょこ、と嬉しそうな顔をガラクタの中から出していそいそとこちらに向かって来た。喜びぐあいが幼女だよねこれ。

 

「それで仕事なんだけど、2人の通常業務は一切止めるから作ってもらいたいものがある」

「……私は別にいいけど出来るかな?」

「この方が出来ねえ仕事を振るとは思わねぇが、大分重要な仕事なんじゃろう?」

 

 私はマントと帽子を脱いで髪の毛を触った。

 

「地毛と染色の切り替えが時間をかけずに出来る何かを発明して欲しい」

「「……!」」

 

 2人が目を見開いて、最初に口を開いたのはヴォルフだった。

 

「興味が湧いた。細かく教えとくれ」

「今私は金髪と黒髪を使い分けてる。すぐに海賊として活動出来るように染め粉を使ってるんだよ。液体ではなくて」

「その染め粉って、確か水で洗い流せるタイプの……」

「そうだよ。別に染色液と脱色液交互に使って染めてもいい。……ま、生え際とかボロがでやすいからすこぶる手間がかかるけど」

 

 未だに慣れない視界に入る黒髪に水をかけると染め粉が落ちて金髪が見えてくる。

 

「不便だな」

「めちゃくちゃ不便。ったく、センゴクさんもわざわざ黒髪にしなくても良かったのに」

 

 自分で黒髪にすると決めたのにセンゴクさんへの文句を口に出す。ファンデーションを塗るように染め粉をパフパフすると再び黒髪に染まっていった。

 

「2人の力で新しい髪色切り替えの装置なりなんなり作って欲しいんだけどやっぱり……()()()()()()()()?」

 

 私が首を傾げながら聞くとヴォルフはピクリと青筋を立てた。

 

「オイ雇い主さんよォ、発明家に『出来ねえか』とは随分な了見じゃねぇか」

「いやぁ普通は無理でしょう?だってヴォルフは機械いじりしかしないし。私も難易度は高いだろうと思うしたのですよねー」

「……やる」

 

 私は腕を組み、なんて言ったか聞き返してみた。

 

「──やってやるって言ってんだガキンチョめッ!出来ねえと鼻から提案するその思考回路にスパナぶち込んでやらァ!やるぜ嬢ちゃん!」

「え、あ、うん。……ヴォルフおじい様、私それぞれの理想の姿に変身させるカラーの能力持ってるよ」

「よし、やってやるぞー!」

「お、おー!」

 

 簡単にやる気を出したヴォルフに思わず大爆笑する。腹がよじれそうな中、隣に座るバッカをばしばし叩いた。

 いやー単純。職人気質な人ってやる気を引き出しやすくて堪らないわ。

 

「はぁ、親父……」

 

 早速ヴォルフとパレットがあーだこーだと構成を練っている傍らで、バッカが情けない声を上げていた。

 

 

 ヴォルフとバッカは親子だ。(ノース)で拾ってきた。

 元々バッカの能力、溶解人間であるデロデロの実の能力を狙っていたんだけども本人の基質も難がありすぎるわけじゃないし女狐隊スカウトだ。ついでに父親であるヴォルフも拾ったんだったっけ。

 

 地元の財宝狙って大喧嘩したらしいけど、まぁこの親子は技術が必要なだけであって過去は必要ない。

 一応バッカが元賞金首だから扱いはそれなりに手間がかかるけど。書類上では刑期間だ。

 

「ギブ&テイクを忘れるんじゃねぇぞ!」

「ははっ、俺を舐めるなよヴォルフ。お前が欲しいのは……これだろう……?」

 

 私は最近発掘された謎の金属、ワポメタルを取り出した。

 出産国すら不明だがこの噂を聞いた瞬間何かに使えると思って青い鳥(ブルーバード)経由で取り寄せたもんだ。

 

「〜〜〜〜ッ!最高じゃな!この天才発明家に任せい!3日で仕上げてくれるわ!」

「えっ、無理よおじい様。1週間は欲しい」

 

 とりあえず髪色の問題はこれで解決したも同然かな。

 パレットが『不思議色の覇気使い』でよかった。同じ魔法(はき)使いとしてわかるけどある程度のむちゃも思い込めば出来るから。

 

「カカカ!ただいまでござる〜!移動式厨が来た故に、拙者焼き芋を買って参っ──御免!」

「バッカ、ゴー」

「逃がすかござる侍!別にボム達の部屋と違って切羽詰まっちゃいねぇけどサボりは許さねぇぞ!」

「私たちそんなに書類仕事切羽詰まってるの……?」

 

 私がいるという現状を把握し即座に踵を返したジャンに向かってバッカが飛びかかる。

 ただし普通に逃げられた。

 

「バッカは持久力あるけど瞬発力はないね」

「能力の性能的に瞬発力は削る他なかったんだよ」

 

 実力を把握してるから目に見えてわかった結果だけども、バッカはブスッとした表情で言い訳を零す。

 

「……ショーン。グレンがリストまとめ終わったって」

 

 私に都合の良すぎるタイミングでボムが書類を片手に入ってきた。

 

「あ、ボム。悪いんだけど」

「悪いと思ってるならそれ以上言うな」

「悪いと思ってないから言うんだけどジャンの野郎とっ捕まえてきて貰えるね?」

 

「YESかはいしか受け付けないやつだコレ!クソッ!」

 

 




女狐隊
ヴォルフ→我楽多屋の爺さん
バッカ→ゲロゲロの実の元海賊
ジャン→偽名。モデルはジョン万次郎。亡命中。


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第238話 堕ちた

「……お、お前辞めてねェじゃん!!!」

 

 指差しで叫んだ天夜叉にドロップキックをキメた。

 

 

 

 避けもしなかったドフィさんが壁際まで吹き飛び後頭部をぶつける。その姿を眺め、つかつかと歩み寄り仁王立ちで股の間にドフィさんを閉じ込めると胸ぐらを掴む。ほんっっとにこの人はさァ。

 

「口ぞ慎め、さもなくば貴様ぞホモの刑に処す」

「オレナニモイッテマセーン」

「よろしいです」

 

 解放する為に足を退けるも、ドフィさんは糸になって解けた。

 チッ、分身の方だったか。

 

「それで、何故私だとわかるした?」

 

 壁を向いたまま腕を組んで小さい声を出すとバサバサとピンクの下品なコートが私の体格を隠すように覆いかぶさった。

 

「フ、フフフ。答えは引っ掛けだ」

「……はっ、あ、あぁ〜。クソ、やられるした」

 

 額に手を当てて項垂れるとドフィさんの高笑いが激しくなった。その笑い方あやつり人形みたいだから止めた方がいいよ。

 

「で、新聞の方、影武者か?」

「さァ。細かくはなんとも」

 

 上半身をグイッと下げて私と顔をど突きあわせるので私も素を出して答えた。私の解答がお気に召さなかったのか額がぴくりと動いた。

 

「なんとも? お前が? 何も理解してねぇ?」

「センゴクさんの知り合いらしき故に、そこまでご存知無いです」

「…………お前、それ」

 

「──天夜叉ドンキホーテ・ドフラミンゴ。ウチの女狐に絡んでないで着席したらどうだ」

 

 微笑みを浮かべたセンゴクさんがドフィさんの言葉を無理やり止めるように介入した。

 

「センゴク……」

「着席を」

 

 頑として譲らないセンゴクさんに不機嫌な顔をしたドフィさんが無言で、だが激しくドカッと座った。

 

 

 多分だけど、ドフィさんは『お前、それ。──お前が影武者の方じゃないのか』って指摘しようとしたんだと思う。

 そう仕立て上げてるからね。

 

「それでは無事皆揃った様なので此度の戦争の報告と新たな七武海候補についての議題を……──」

 

 椅子に座ると自分の背の低さが目立つから嫌だけど着席する。

 『リィンが演じるション』は偽女狐だ。それは『ションという男』の女狐の影武者である。『リィン』は『本物のション』を知らない。センゴクさんの間接的な指示で『ションの真似』をしているだけに過ぎない。

 

 ドフィさんは気付けた筈だ。

 

 体裁云々より私に話題を聞かせなかった点から。

 

「……すまない女狐大将」

 

 隣に座る例のヴェルゴ中将が顔を寄せて来た。

 

「……………。」

 

 頬にパンケーキ付いてるんだけどどうやったらそうなるんだこのドジっ子。

 パンケーキ引っ掴んで剥がすと私の部下として控えてるスモさんに渡した。すごい嫌そうな顔された。

 

「お恥ずかしながら私は七武海に詳しく無くて……。事前に調べるより担当である大将に聞くのが早いと言われたのだが」

 

 一応畏怖の対象である私に聞けとかどんだけ命知らずなことさせようとしたんだ。

 

 仕方ない、と私は腕を組んだ。

 

「……〝鷹の目〟ジュラキュール・ミホーク。最古参。元は賞金稼ぎ。近年の参加率は高め。比較的安全。七武海の誰でもいい人間に用があるならコイツに行けばいい」

 

 ミホさんに視線を送り必要最低限の知識を植え込んでいく。剣士だということは流石に知ってるだろうから、一般知識ではなく海兵としての知識を教えるべきだな。

 

「〝海賊女帝〟ボア・ハンコック。リモート参加率高め。今回で2回目の実物参加。ときめくと石にされる。なるべく視界に入れないこと」

 

 海賊女帝に視線を送る。ヴェルゴ中将はメモをとっていた。

 

「〝天夜叉〟ドンキホーテ・ドフラミンゴ。参加は皆勤、下手に手を出したり情報を漏らすと面倒だから必要最低限の事以外会話するな」

 

 そのための海軍側での七武海会議だ。出すか出さないか、情報の精査をする必要がある。ほんとに油断ならないからなー。

 

 この悪巧み三銃士め……!

 

 ちなみにこの三銃士だが、1人はもちろんドフィさんでもう1人はクロさんで、最後の1人は元だけどジンさんだ。無自覚なとんでもイベント発生七武海。

 

「〝影法師〟ゲッコー・モリア。参加なし。海賊討伐率はダントツ。放置が丁度いい」

 

 以上4名。ちなみにモリアはいない。今回も不参加だ。

 

「ふむ、なるほど。助かりました女狐大将」

 

 言葉足らずなシンプルな説明だったがそれで満足したのかヴェルゴ中将はニッコリ笑みを浮かべて姿勢を戻した。

 疑ってるの申し訳なくなってきた。

 

 ヴェルゴ中将は本部とG5の掛け持ちだったか。

 

 

 

 さて、と。

 

 私は腕を組んで会議の内容を聞く。

 七武海は頂上戦争、これといった報告はなかった。精々口裏合わせた責任の押し付けもとい『くまが引っ掻き回した報告』だ。こいつら多少なりとも情はあるはずなのに死ぬと分かって思いっきり責任押し付けてやがる。素直に言って最低だな!

 あとは個人的に起こした行動だけど、蛇姫が堕天使及び麦わらを追い掛けたが取り逃した、と言った報告。結局16点鐘させてるから今更な報告だけど。

 

 ドフィさん辺りはルフィとか純粋たる海賊についてほぼ触れていない。まあ七武海より詳しい私が海軍側にいるとわかったのならね。

 

 

「それでは新七武海体制について……──」

 

 私はこれから訪れるめんどくさい七武海の面子に未来を憂いてため息を吐くのだった。

 

 〝砂漠の王〟クロコダイル、〝千両道化〟バギー、〝死の外科医〟トラファルガー・ロー

 

 今までもまとめられた自信はなかったけどこれからもまとめられる自信ないな。うん。とりあえず3分の2私の思い通りになったことだけは褒めよう。良くやった。残りの3分の1でマイナスだよ。ちくしょう。

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

「──なんでわしが貴様と一緒なんじゃ」

「全員一通りやったんだから文句言うな」

 

 カクに仕事の説明も兼ねて本部をタイマンで練り歩く。地理の説明は今更要らないけれど、輸送部や女狐隊としての仕事内容は触れたこと無い。そのためのオリエンテーション……。

 

 本音を言うと、CP9の腹のうちを探ったり、良く知らないから性格などの私的な部分を把握しておきたいのもある。

 

 ──そう、ただの面接だよ。

 時間が取れないんだよ面接の時間! 仕事しながら移動しながらの方が効率がいい!

 

「雑用ができるのは知ってるが、他に何が出来る?」

「殺し」

「それも知ってる」

 

 カクは飄々とした態度で別の方向を向く。

 私に教えることは何も無いのか、先程から聞けど聞けど必要最低限の情報しか出てこない。

 

「おーおーやりよるわい」

 

 窓の外をふと眺めたカクが外周を走り回っている星組を視界に入れ、そう言葉を漏らした。

 

「……わしはお前が元々嫌いじゃ」

「知ってるけど?」

「女狐とわかってからより一層嫌いになった。むしろ殺してないのが奇跡じゃ」

 

 そりゃどーも。

 

「昔から、努力こそが全てじゃと思っておった。努力は実を結び、力になると。そういう修行ばかりこなしておった」

「六式の熟練度から見てそうだろうね」

 

 カク含めて元CP9、現在の空組は覇気もだけど、六式の技術がとてもじゃないけど若さと比例しない。中将と星組の対戦見ていてはっきりとわかった。空組は中将レベルの六式……もしかしたらそれ以上かもしれない。

 

 並大抵の努力じゃ身につかない技術だ。

 

「だからわしは、天才という言葉が大っ嫌いじゃ。才能も嫌いじゃ。わしのこの技術は、人を殺す技は、何日も何年も苦痛を得て、血のにじむ努力の果てにある結果じゃ」

 

 『努力』している星組を見て、ボツリボツリと独白している。

 

 耳が痛いな。私は努力が嫌い。才能とか、向き不向きとか、楽にショートカットできるの方法を常に探している。

 

「お前は努力が嫌いじゃろ」

「……そうだよ。嫌いだね。痛いもの苦しいのも全部嫌。コツコツコツコツ積み重ねる努力は死ぬほど嫌いだ」

 

 ただ。

 そう私は言葉を繋げる。

 

「効率のいい努力と言って欲しいね」

 

 ガンッと胸ぐらを掴まれる。

 カクの努力を否定する私の言葉に我慢ならなかったようだ。

 

「…………そういう所が嫌いなんじゃ」

「がむしゃらにやることだけが努力じゃなき」

 

 その生命を搾り取るような努力の先には、普通の努力や才能で到達出来ない何かがあるのかもしれない。でも私は上手くいくためには出来ないことだとキッパリ諦めることが近道だと思っている。諦めないことと諦めが悪いことは違うから。

 

「嫌いじゃ。時の運や、才能で悠々と実力を伸ばせる者が。じゃがそれ以上にお前はそれを持ち合わせながら利用しない所が、くだらんほどに反吐が出る!」

 

 そう叫んでいたカクだったが、私を睨みつけながら独り言のような声で呟く。

 

「わしは人材調査や引き抜きの目に使われるくらいには目が優れておる……。お前は、お前には才能があった」

 

 睨み殺しそうな目で私を見据えるカク。瞳の中に私の顔が見えるほど、近い距離で。

 吐き捨てた。

 

「お前には殺しの才能がある」

「──聞きたくない!」

 

「お前、努力が嫌いだと建前使う癖して、1番向いとる技を磨かんじゃろうが! そこが、そこが1番、お前のそういう自己矛盾を平気でするところが、心底気に食わん」

 

 ガツンと頭を殴られたような衝撃。

 

 ──殺しの、才能。

 

 前世も今世も来世も平凡平和な私に、殺しの才能。人を殺すことはすごく嫌いで、もうしたくないから元CP9って殺しの集団を引き込んで。

 

 喉が震える。

 叫び出したい。

 

 なんて。なんて。

 

「発想がサイコパスのそれ」

「は!?」

 

 センゴクさんに言われたことがある。

 多角的な情報源がないカクの観察眼があるという自己申告を信じたとして、それに匹敵する程の観察眼の持ち主が言ったことがあるんだ。

 

 私は殺しを忌避する性格だって。

 

「仮にお前の言う通り私に殺しの才能があったとして、その才能を伸ばすかは私の決断にあり、お前の気に入る気に入らないは別問題だ」

 

 なんで私嫌いな相手の言うがままに操られないといけないの?

 私の、部下(かくした)に。

 

「──わざわざ私が手を下さなくても」

「人徳や道徳や以前にそういう発言が出るあたり自分がクズですって自己紹介してるようなもんじゃが」

 

 お手軽3分ボクシング、お前サンドバッグな。

 

 拳を構えた瞬間、背後に人の気配がして通路を見るとカクも同時に奥を向いた。ガヤガヤした音からどうやら帰還した部隊があるらしい。

 

 あ、なるほど。

 人の気配とか殺気とか。感じてしまうのは私がビビりなのではなく、殺しの才能があるから、とか思っちゃったわけか。勘違いしちゃったわけかーー。このうっかりさんめ。脳みそに豆腐で出来たピッケル振り下ろすぞ☆

 

 多分脳みその作りが雑だから悪い方向にしか思考回路が向かないんだろうな……。

 

「あー疲れた」

「あの人まじでいい加減にして欲しい……」

 

 愚痴を言いながら通りかかった一部隊。

 私とカクは邪魔にならないように端に避ける。女狐隊1部から結構嫌われてるからな。赤の印が攻撃の的になりやすいというか。

 

 窓の外を見ると星組が全員でバテていた。

 

「……あと3日は同じメニューかな」

「昨日と様子が違うが何をするんじゃ」

「今日はガープ戦だけ。──だから万全にまで整える」

 

 普段は6人の中将と戦闘をするんだが、ガープ中将の場合全力で当たらないとまず勝ち目はない。

 明日も明後日も、というか向こう1ヶ月ガープ中将が本部で戦闘訓練出来るほどの時間が取れないから育成が中途半端な今日だ。死ぬ気で食らいつかせて技と戦闘の癖を全部覚えてやる。待ってろよジジ、絶対一泡吹かせてやる……!

 

「……カク君?」

 

 やる気を上げすぎて窓から飛び降りてでも合流しようかと血迷ったことを考えていると隣にいた元CP9に声がかかった。

 カクは顔を上げて名を呼んだ人物を見上げ数秒フリーズする。

 

 フリーズ?

 

「……! ドーパン大佐!」

 

 あっ、こいつ名前忘れてたんだな。

 

 思い出しましたと言わんばかりと声色だったが大佐は気にしなかった様で朗らかに笑っている。

 

「久しぶりじゃですね、カク君。私はてっきり……。辞めたと聞いていたんですけど」

「あー、それが。長期任務に着いとったんです。すいませんがこれ以上は守秘義務に反するもんじゃし」

「……そうか、辞めてなかったんですね」

 

 眉を下げて呟くドーパ……。あっ、ドーパンさんか! ジジの部下の! ああ、(リィン)がお世話になりました。

 

 単体で見るの初めてだからめちゃくちゃ分からなかった。ジジとボガートさんのどっちかが居ればすぐにわかった。ソロは無理。

 

「大佐ー?」

「ああ、先に上がってもらって大丈夫ですよ」

「はい、おつかれさまです!」

「お先失礼シャス!」

 

 一応大佐が相手だからか、上下間の緩いガープ中将の部下といえど適当に挨拶が交わされる。

 私も行きたいんだけどな。

 

「大佐との関係は?」

「昔取り入っとった」

「このクソ野郎」

 

 ふとドーパンさんの視線が私に向いた。

 

「か、の……れ? は?」

「女顔で悪かったな……」

 

 (おれ)は拗ねたように顔を背けた。

 

「わしと同期……? じゃ! です!」

「……………どーも」

 

 ドーパンさんならガープ中将の部下だしリィンだと言ってもいいと思うんだけど。ボガート少将には教えてるし。

 人の目があるから言えない。

 

「赤いスカーフってことは……………………女狐の所ですか」

「おいなんだその間」

「妥当な反応じゃろ。昔から毛嫌いされとるぞ」

「まあ仕事量半端ないけどな」

「そーいうとこじゃ無いわ昆虫食いのぶ〜〜か!」

「現実逃避くらい分かれよば〜〜か!」

 

 互いに猫を被りながら演技をする。

 ドーパンさんは困ったように笑っていた。

 

 部隊の人がいなくなり、再び廊下にシンとした静かさが戻る。

 

「それでドーパン大佐、何か用があるんですか?」

 

 耳に馴染みのない敬語を聞き流して窓の外を見ると星組は息を整えきれたようだった。

 

「カク君は、今回の戦争は不参加だったのかな?」

「あぁ! わしはその後に戻って来れたんじゃ……」

 

 そういや人気も無くなったし、ジジの部隊にいるなら関わらないことは無いし、逆に知らないと支障が出るからドーパンさんにそろそろリィンだと伝えてもいいかな。

 

「……()()が足りませんね」

 

「わはは! リィンがいるならともかく野郎ばかりの海軍で華なぞ」

「──その事だけど」

 

 

 

 影が差す。

 

 不思議に思い見上げる。

 

 ドーパンさんは変わらない笑顔で

 赤みがかった鱗の付いた口角を上げて

 鋭い牙を持つ口角を上げて

 高い目線から見下ろしていた

 

「に、ひゃくご……じゅ……────ッ!」

 

 首──!

 

 私は『勘』で姿勢を低くして後ろに飛び去った。

 

 頭の上で鉈みたいな爪が空を引き裂く。視界の端でカクは飛び上がっていた。

 

「おや?」

 

 避けられた事が意外だったのかその物体は目を見開いている。

 

 頭が急速に回転し始める。

 

 

 ドーパンさんの姿は2()5()0()c()m()は有ろう人獣型の姿に変わっていた。動物(ゾオン)系の能力者。爪先は死神の大鎌みたいにとても鋭く、その爪で引き裂かれたら()()()()()()()()なのだろう。

 死体の体は全て見上げていた。刃の角度から身長も割り出せた。

 対面した状態で殺されており、それはまるで。親しい相手と話していた最中に殺されたように。

 カクは250cmに警戒する理由はない。だけど避けられたのは今までの経験による身体能力だろう。それよりなぜドーパンさんが人獣型で爪を……。ガープ中将部隊は能力者自体が少なかったはず。この能力は幻獣種かいや古代種の恐竜、モデルは鍵爪が特徴で見た目が鱗で赤みがかった種類回復能力が優れているから。

 いやまて知ってる人はカクが裏切り者だと知ってるから名無しでぽっと出の女狐隊の部下と裏切り者、もしくはションが私だと知ってる人は裏切り者と裏切り者の組み合わせだとわかるだろうしそうじゃなくても裏切り者と新米の組み合わせどう考えても信頼度とか信ぴょう性が足りないから……!

 

 

 ──ズキンッッッ!

 

「い、つぅ……」

 

 久しぶりに脳が一気に回ったからか引きちぎられるような痛みが頭に響く。

 

 

 ドーパンさん、能力者、何故か殺しにかかってきた。

 

 

 うん、結論はこれだな。無駄に考えると集中力足りなくなる。

 

 

「ション! どういうことじゃ!」

「お前ら分からない事あれば俺に聞くなよッッッッッ!」

 

 海賊船の上で沢山飲み込んだ言葉を吐き出した。

 

 というかドーパンさんって能力者だっけ!? そんな話聞いたことも見た事もないけど!?

 

「あぁ、『はな』が足りない。私には2人を同時に祝福してあげることが出来ない。なんで戻ってしまったのですかカク君。──この生き地獄に」

 

 

 哀れみ、そして嘆くドーパンさん。

 

 こういう修羅場で自分がメインじゃないの珍し過ぎて実は立ち位置をよくわかってない。脇役に徹するにはどうしたらいいんだ……!

 

 今どうでもいいことを考えただろう、と言いたげな鋭い視線が隣から飛んできたので思考回路を戻します。はい。

 

「海兵殺し」

「あ?」

「いま海軍内で起こってんだよ、首から上がさよならする事件が」

「海軍の治安はどうなっとるんじゃ!?」

 

 昔から治安は悪いよクソ野郎。

 私は改めてドーパンさんを観察した。

 

「海兵殺し……。酷い言われようですね」

 

 ドーパンさんは悲しそうに視線を斜め下に向ける。

 

 ……証拠が欲しいな。証言以外でドーパンさんが海兵殺しの犯人だという証拠が。

 

「キミ達は知らないでしょう。頂上戦争、アレは本当に酷いものだった」

「……。」

 

 手をマントの内側に引っ込め、アイテムボックスから電伝虫を取り出した。サイレントモードで番号をかける。

 

「醜い叫びが、悲鳴が。噎せ返るような血が。四肢が飛び、目が潰れ、刃にかかり死んでいく。私の大事な部下達が。友人が。上は知らないでしょうね、報告書で読むだけの結果なのですから。死するまでのこの世の苦しみとその地獄を」

 

 そう言いながらドーパンさんは笑った。

 

「だから私は悟ったんです。海兵として、正義というものを背負う者として。この地獄から助けるのだと。それが私の正義なのです」

 

 

 つまりこの世は地獄です。死こそ救済正義って訳だね。

 

 ……。

 …………。

 

 

「いや悲しみの数だけ頭が伸びるストロベリー中将じゃあるまいし」

「あの中将の頭いかれとるんか!?」

 

 

 胡蝶蘭……幸福が飛んでくる

 カサブランカ……祝賀

 ユーカリ……新生

 

 嫌味なほど祝福の門出って感じの花だったからどんなサイコパスかと思えばよく知ってる人でしたってオチはなぁ!

 

 いっそのことため息を束ねたブーケでもプレゼントしてやろうか!

 

「おい。頭は、一体どこに行ったんだ?」

 

 遺体は綺麗に絶命していたが、首から上は未だに行方不明だった。私は口調をリィンだとバレないようにキープしながら問いかけた。

 ドーパンさんはけぶるような視線を私に向け、微笑みを浮かべたまま口を開いた。

 

「私は、花をあげ祝福した人達ととても親しくしていた。大事なんです。それと同様、カク君を気に入っています。若い身でありながら仕事に励み、挨拶も欠かさない。そんな彼を」 

 

 胡散臭すぎる評価にカクをチラッと見ると鼻で笑い返された。

 やーい、猫かぶるから変に目をつけられるんだ。

 

「──彼らを救いたい。君たちをこんな地獄に捨て置けない」

 

 ドーパンさんはその特徴的な爪で口元を撫で、そのまま喉を摩り、お腹に手を置いた。臓器的な意味で言うと、胃。

 

「……ハッ、そりゃ見つからねぇ筈だ」

「お恥ずかしながら、彼らを見世物に出来るほど心を鬼にも、体全てを食べ(供養し)てあげることも、私には出来なかったんです」

 

 だから頭だけ、食べたって事か。

 

「ッッッ!」

 

 足先の踏み込み…!

 

 グッ、と体を反ると丁度首元があった場所を爪が薙いた。

 

「大丈夫。怖くないですよ」

 

 慈愛に満ちたような笑みを浮かべてるけどこの人こんなに狂ってたっけ!? 固定概念をマーキングみたいに擦りつけて来ないで欲しい!

 

「チィッ! 殺られそびれたか!」

「お前は誰の味方だよッ!」

 

 間違いなく心の篭った舌打ちは私が生き残ったことに対してだな。

 

「驚きました。カク君も少年も避けれるとは」

 

 ちょっと冷静になってきた。

 よくよく考えれば爪ってだけで刀よりリーチは短いし形状は違うけど大剣豪ミホさんの劣化版とか考えれば生き延びることは簡単だ。

 

 問題はどうやってドーパンさんを仕留めるか。

 

 ガープ中将の切り離してはいけない部下としてボガートさんと共に名を連ねる彼だ。信頼度はぽっと出の女狐隊の私たちより高いことは間違いない。

 

 一応電伝虫の録音機能を起動させているけれど、カクが私にとって余計なことを口走ったら証拠として提出出来なくなるし。

 

 

 それに仕留める手段。

 

 

 ……動物系はすこぶる苦手だ。決定的な弱点が無いから。

 

 私の持ってる武器の中で最大威力を放つ物はセンゴクさんと特訓している蹴り技だ。ただし、これは『真の女狐』の技なので、『影武者女狐』の(ション)が使ってはならない。というかカクに見られてはまずい。

 

 

 いや、見られなければいいのか。

 

「早くお逃げなさい。この薄汚れた世界で生きていて、良いことはない」

「やっても!?」

「お前はまだ手を出すな」

 

 カクが痺れを切らして殺しに掛かろうとするが、海軍内地位がないカクにたかが『行き過ぎた正義』を始末させる訳にはいかない。

 調査任務に就いてるのはあくまでも、女狐(わたし)だ。

 

「カク……ッ!」

 

 避けながらカクに近付き腕を掴む。

 そして引き寄せ、私は頭を抱き締めた。

 

 

「……!? おい」

「──投降しろ。お前は海軍の害だ」

 

 頭を抱き締めながら言う姿は滑稽だけどもうモーションの準備をしてる最中なので、そのままで時間稼ぎも兼ねて話せばドーパンさんは表情を切り落とした。

 

 

「…………体のウイルスを駆逐する為、人は薬と称して毒を摂取するでしょう。何故分からないのです。私は害と呼ばれても、大切な人たちを救いたい」

 

 古代種の筋肉で抉り込むような蹴りが放たれた。

 風でほんの少しだけ体を動かす支えとするとカクを抱え込んだままでもバランスを保てた。

 

 ゆっくり足を蹴り上げる。

 熱気と冷気が足元で混ざり合い緩い蜃気楼が生み出される。

 

 熱気と冷気の狭間で生まれたそよ風が頬を撫でた。

 

「……? 何をしまし──ッ!?」

 

 ドーパンさんがキョトンと油断して筋肉が緩んだその瞬間。大気が割り、強い衝撃波を心臓目掛け放つ。

 

 バキバキという氷の割れる様な音と共にドーパンさんは吹き飛んだ。

 

「い、ッつぅ……」

「おわっ!?」

 

 今までの私の模倣技とは比にならない程、威力は桁外れにまで完成させている。これを能力ではなく肉体技として認識させる訓練はまだ甘いけど。

 

 激しい頭痛にカクの頭を抱え込んだまま尻もちを着いた。

 

「あー……いててて、受け身取り損ねた」

 

 カクに見られないように頭を抱き締めたが、技は見られてなかっただろうか。

 

 ──不可避キック

 

 の、実戦デビュー。名前直せとは言われたけど直せていないままだ。

 

「カク、衝撃は来なかったか」

 

 カクの頭を抱え込んだのには2つ理由がある。1つは見られないため。そしてもう1つは第三者を抱えたり守ったりしながら使っていても肉体的な影響が無いか。

 

「……。」

「………………おい、カク?」

 

 頭は私に凭れかけ、手は辛うじて床に付いた状態で固まったまま動かない。声掛けても硬直したままだ。

 

 気絶しちゃったとか?

 

「……カクさん、無事です?」

 

 一縷の望みに賭けてリィンとして聞いてみると。

 嫌なほど効果は抜群だった。

 

 カクはハッと覚醒し、立ち上がり、私を見下ろした。

 

「〜〜〜〜〜〜〜ッ!」

 

 顔 を 真 っ 赤 に 染 め て

 

「…………は?」

 

 それだけならまだ良かった。

 目が合うと、カクはハグハグと言葉にならない音を荒らげながら後退り、じわじわと目に涙を溜めていた。息が切れたように肩で呼吸をしながら。ら

 

 

 え、ちょっと待って、えっ、待って。

 

 待って少しだけ冷静にさせて欲しい。

 その、表情は、何。今の、感情は、何。どこに、何に。お前は、ただ怒り狂ってるだけだよね?

 

 混乱が伝染して上手く頭が働かない中、カクは殺気を混ぜた涙目でキッと私を睨み付け──。

 

「このッ、一生童顔がーーーーーーーッッッ!」

「おいちょっと待てそれは聞き捨てならない!」

 

 呪いの様な捨て台詞を吐いて逃げ去った。

 

 

「え、えぇ…………」

 

 逃げ帰るその先は私の職場なんだけど。

 いや、海軍雑用だった時代の伝手とかはあるか。

 

「…………はぁ……どうしよう」

 

 伸びているドーパンさんを拘束しつつ呆然としていると、どれだけ時間が経っていたのか分からないが星組とじじが現れた。

 

「ション!何があっ──……何があったんじゃ!?」

 

 2度見したじじが動揺を激しく見せる。

 

「はぁーー……テメェの部下の様子くらいちゃんと見ろよ英雄殿」

 

 私は小さく縮こまってため息を束ねたブーケをじじに投げ捨てることにした。

 カクという名の盛大なブーメランが突き刺さった気がしたが多分気のせいだ。気の所為。

 

 

 

 ……でもアレ、確実に堕ちた時の表情だよな。

 

「はぁ〜〜〜〜……ッ」

 

 怒りながらため息を再び吐き散らかした。

 

 こんなにも、虚しいものがあってたまるか。




リィンの新の得意技はブーメランだと思う。


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第239話 自己防衛幼女さん

ただし自己防衛出来たとは言わない。


 

「ううううううううう」

 

 唸り声。

 

 呻き声。

 

 ガン、という大きな音を出しながらカクは額で机を割った。備品がどんどん無意味に壊されていくサマを咎めるリィンは現在居ない。

 3個目の机だったものを片付けているカクに一部がゲラゲラと笑いからかった。

 

「少しはぁ〜〜! 落ち着いて、あっ。ンもらっ! ンもらァ〜〜〜お〜〜〜か〜〜〜っ! よよォい!」

「出来るわけがなかろうが!」

 

 クマドリが誰よりも髪を自在に操る『生命帰還』で誰よりも早く書類を片付けながら誰よりもうるさくカクをあやす。

 

「カクはもちろんだけどクマドリもうるさ……」

 

 ツッコミは別に任せたボムが机に顔を伏せても喧騒のせいで眠れないと彼らを睨む。当然だが元CP9にそんな子猫の威嚇は通用しない。

 

「まさかルッチに続きカクも惚れたとはな」

「あァ!? ンなわけないじゃろが! 目ん玉ついとんのかお前!」

 

 ブルーノが落胆するように息を吐き出す様子にその評価はちょっと待てと言わんばかりにカクが憤慨する。

 

 

 海兵殺しの事件が解決した翌日の午後。未だに己に生まれ堕ちてしまった感情の名前に思考回路が追いつけないでいた。

 

 

「全くだ……。ブルーノ」

 

 揶揄うか同情するか慰める周囲だったが、その中で意外にもブルーノの意見に反対したのはルッチだった。

 ルッチはやれやれと肩を竦め、カクはウゲッと嫌そうな顔をする。絶対ろくなことにならない。そんな気しかしないのだ。海軍のナミさんとは伊達では無い。

 

「俺と一緒にするな。俺は上司として好んでいるし尊敬しているし、言うなら俺の感情はシンプルで綺麗で洗練潔白で」

「お前にそれ以上似合わない言葉があってたまるかめんどくさ男め」

「つまり俺がリィンさんに向ける感情はカクの様にチャラついた感情では無い」

 

 はっきり口に出したルッチ。

 手っ取り早く簡潔に言葉の内容を意訳するとするならば。

 

 同 担 拒 否 。

 

 というシンプルで綺麗で洗練潔白な四文字で表す事ができた。

 

「あ゛?」

「はァ?」

 

 その様子は一触即発。殴り合い蹴り合いになれば書類はたまったもんじゃない。もう終わりかけなんだ。

 全員が慌てて仲裁に入ろうとするが残念ながらルッチとカクは夜の間の戦闘能力TOP2。少なくとも犠牲は出るだろう。星組はそっと書類を守る方に入った。諦めとも言う。なんでこんな爆弾抱えてるんだろうと思わんでもないのだった。

 

「それに! わしは!」

 

 カクが心の底からの気持ちを吠える。

 

「リィンが大大大大大大──大っ嫌いじゃッ!!!」

 

 どの口が、と空組が冷ややかな目を向けるが、どこをどう足掻いても冷静ではないカクの目には入らない。

 

「まぁ言うけどさ、カク」

 

 扉を開けながら入ってきたのはグレンだった。どうやら廊下にまで声が漏れていた様子だ。人の通りはあれど元帥室の前という立地上、基本的に高いくらいを持つ将校しか通りかからないので問題は無い。

 

「リィンとションは別物だぞ」

「そんっっっなこと知っとるわ! 知っとるからこんなにわしは怒り狂っとるんじゃろーがグレンさん!」

 

 4個目の机は今この時死をむかえた。短い生命だった。

 

 

 月、星、空。その三組にはリィンとションの認識に少々差があった。

 

 月組はリィンの理解者である。リィンが別人に成っているということを理解しているので、混同させはしない。あくまでも仕事仲間としてションと接する。

 

 星組は月組の次に長い付き合いだ。だがどの組よりも振り回されている自信があるので、上司だったり崇拝だったりなどの感情ではなく『リィン(またはション)に振り回される』という現象事態を受け止めている。別人だと理解はしているが、ある意味一緒ごっちゃにして見ている。

 

 その二組とは対照的に、全く理解出来ていないのが空組だ。『結局ションはリィンだろ?』という意見の元に居る。

 

 カクという存在にとって、理解という意味での本質はCP9(そらぐみ)ではなく月組なのだ。だから複雑なのだ。

 

「所詮ションってやつは幻だし、その根本にあるのはリィンだしなぁ」

 

 

 『リィンとション』という関係性は複雑である。

 

 女狐には『偽女狐(リィン)』と『真女狐(ションα)』の2人がおり、偽女狐(リィン)真女狐(ションα)という存在の真似をしている為雑用(ション)が生み出されている。

 

 まぁもちろん真女狐はリィンが名前も出生も全てを捨てた姿なのではあるのだが。

 

 

 グレンの指摘に、カクは月組の理解度(べつじん)だが、根本はCP9の思考(おなじじんぶつ)なのだということを再認識し、周囲の認識ギャップにさらに唸り声を激しくした。

 

「チャパパッ、でもおれはあの人好きーー! だー!」

 

 フクロウが口元に手を当て口ずさむとルッチとカクが同時に睨みつける。もちろん彼もCP9、そんな動物の威嚇など気にすることも無くぷぷぷと笑いを零していた。

 この状況が楽しくてたまらないジャブラはニマニマと笑みを浮かべ、愉快話を肴に真昼間から酒を呑んでいた。

 

「あの人、昨日おれをアレしたチャパパー。あれ、あっ、壁ドン」

「「「「「壁ドン」」」」」

 

 予想もしなかった状況に部屋の中の人間ほとんどが復唱してしまった。

 

「な、なん、なんて言うたんじゃ」

「チャパパ……!」

 

 含み笑いなのか思い出し笑いなのか。

 フクロウは笑うだけで答えはしない。

 

「おれだけの秘密だーー!」

 

 その瞬間空組は言葉に言い表せない程の衝撃を受けてしまった。

 

 あの、口に重さが欠片もないフクロウが、秘密、だと……!?

 

 と言った感じに。

 そして彼らは同時に戦慄した。あのフクロウの口を物理ではなく精神的に封じる事が出来たという事に!

 

「その後なるほどなって納得したっきりまだ帰ってないんだよー!」

「それってどっち? ション? リィン?」

「男の格好だったぞー!」

 

 よよいよよいとクマドリが激しく驚く声をBGMにフクロウが鳥のように唇をすぼませる。

 日課となりつつある早朝の戦闘訓練以外では顔を見せていない。

 

 避けてるのか純粋に忙しいのか。

 情報が不足しているため判断は出来ない。

 

 リィンが返した反応である「なるほどな」とはどういう流れでそうなったのか誰もが聞き出そうとしたが、続けられた言葉に硬直する羽目になった。

 

「おれ、女の子になるかと思ったチャパ〜〜っ!」

 

 フクロウ照れ照れと頬を染めくねくねと体を捩る。

 

 1秒。

 10秒。

 

 1分の空白ができる。

 

 

 震える指先でジャブラがカクを指さした。

 

「カク……ぉま…お前……」

 

 喉が震え全身が震え、もしかしたら白ひげが何かしているのではないかと思うほどバイブ状態である。バイブオブバイブレーション。もう何を言っているのか分からない。

 

「──お、女の子になっちゃうのかーーーーッ!!!???」

「なるかドアホーーーーーッッッ!!!」

 

 ぎゃはははは!と大口開けて笑い出したらもう止まらない。部屋の隅で我関せず仕事を纏めていたカリファでさえ顔を背け吹き出していた。

 

 憤怒と羞恥で顔を真っ赤に染めたカクが机を再び割った。

 

「そもそもどこにどう動揺してるのよ」

 

 呆れたと言わんばかりにカリファが冷ややかな視線を向ける。カクはグッと唇を噛んだ。

 

「かっ」

「か?」

「庇われ、た、とき」

 

 憤怒の炎をボッボッと揺らがせながら口を開いたり閉じたりと忙しい。5年間共にいた月組と幼少期から共にいた空組は面白すぎて頬の筋肉を酷使する羽目になっていた。

 

「腹がたった、じゃが、リィンじゃ、無いと認識してしまっ、わからん、苦しい…………」

 

 庇われるなんて初めてだからこそ、よくわかってない。

 

 カリファはあながち『女の子になっちゃう』が外れでもないんじゃないかとすら思った。(カクにとっては)残念ながらその推理は当たっている。

 

 

──バンッ

 

 扉が激しく開かれた。

 

「\ジャン!/ カン次郎です!」

 

 また濃いのが来た。

 Mr.ツッコミナインがツッコミを放置して頭を抱えた。

 

 収集のつかなくなった空間に新しい混沌が混入されたとしてもそこに待ち構えているのは闇だということがなぜわからないのか。

 

 扉をバンと開きポーズを決めながら寝入ったパレットを片手に入ってきたのはジャンという昼の間に普段いる1人だった。

 

「ほらほら、そろそろ片付け切るぞお前ら。星、だったか。彼らを見習え。手は止まってないぞ」

「プロじゃな」

「安心しなさいよーう空組ちゃん。──どうせこの後追加が入るわ」

 

 ベンサムが真剣な表情でブルーノに告げる。流石のブルーノも無言で渋顔を作った。

 

「ジャンジャン、パレットありがとね」

 

 ジャンの抱えていたパレットを受け取りレモンが仮眠室に届けに行こうと踵を返す。

 

「カカカ! なんのこれしき! あ、そうそうお初にお目にかかる拙者の名前はジャン。いーすとぶる、のとある田舎町の確か漁師の息子でござるよ!」

 

 個性でグングニル振り回してそうな勢いある挨拶に面をくらってしまった元CP9。

 

「いやお前絶対ワノ国の侍じゃろ」

「なななななななにを言うか! 拙者はジャン。いーすとぶるのとある田舎町の漁師の息子でござるよ!」

 

 ワノ国だ……。

 政府所属であった空組は心の声を揃えた。

 

「微妙にちぐはぐなんだよね……」

「……ぬぬ、拙者。実はとある国から海難事故で亡命扱いとなってしまい」

 

 ワノ国だ。

 これ絶対ワノ国だ!

 

「しかも祖国は政府非加盟国でござる、故に出身も身分も隠しているのでござる」

 

 ワノ国だ。

 非加盟国とか絶対ワノ国だ!

 

「偽名は元々ジョンであったが、どうにもこうにも名乗りを直せぬ。その時我が主が出現場面の擬音語に変えるよう指示してくれたのでござるよ」

 

 どうにか隠そうと頑張ったんだという努力の証が見なくてもわかる。結局無駄であったのだが。

 

「女狐のところには口調が不自由なやつしかおらんのか」

「お前が言うな」

 

 耐えきれなかったMr.ツッコミがカクの特大ブーメランにツッコミを飛ばした。

 

「ここも人手が一気に増えたものよ!」

「2日に1回睡眠時間が取れそうな位にはな」

 

 とんだブラックである。

 

「そういえば」

 

 書類の山から顔を上げたツキが疑問を漏らした。

 

「大将長期任務入るらしいけど」

「俺が共に就く」

「ダウト。単独任務だって聞いてます。全く困った子だね、ルッチは」

 

 オカンというあだ名がつく彼女らしい評価にルッチはむっと拗ねたような表情を見せた。

 

「それで──女狐代理のションがこの部屋で缶詰状態になるらしいよ」

 

 さっ、と何人かの顔色が青く染った。

 

 女狐とションは建前は別人だ。女狐不在中は代理で雇われたションが仕事を取り仕切る。……という設定だ。

 例えションに『合わせてくれ』という何かが来たとしても断るだけの()()()()という口実が必要なのだ。と。

 

 

 まぁその書類の山を片付けるのは夜の間の人員ということになるが。

 

 

「……──あんなクソ最低なヤツに惚れる馬鹿が居るんか?」

「残念ながら、例えカクがそうじゃなくても居るには居るんだよな。サー・クロコダイルとか」

「麦わらは大将がモテると信じて疑ってないぞ。……ってはァ!?? ボ、クロコダイル!?」

「あー。多分俺らしか知らない」

「センシティブな事だしな!」

「それもあながち間違いじゃないけど意味が違うだろ」

 

 月組と星組の経験に基づく発言でカクは頭を抱えた。

 今この時、心がひとつになった。実に感動的な瞬間だ。

 

 

 ──殺意でも執着向けてる分手遅れだろう、と。

 

 

 

 ==========

 

 

 

「ぶえっくしゅん!」

 

 世界最大のエンターテインメントシティ。グラン・テゾーロ。

 カジノホテル「THE REORO」から黄金塔の内部に入り込み、休憩所のような場所で作業をしていると盛大なくしゃみが出てきてしまった。

 どの顔でウワサされてるんだろ……。

 

 ここはTOP3(実質TOP4)の能力でしか入れない休憩所だ。

 表向きはテゾーロ、シーナ、タナカさんのTOP3。

 実際は私、テゾーロ、シーナのTOP3だ。まぁタナカさんも入れるんだけど。

 

「それで、麦わらの一味の情報集まってる?」

 

 ギルド・テゾーロ。

 ここグラン・テゾーロの偽主(かんばん)として君臨している男はサングラスを机に置いた。

 

「ええ色々」

「オーナー服いるー?」

「あ、シーナついでにマント系も頂戴」

 

 元ドンキホーテ・ロシナンテ。現在は名無しのピエロ。

 跳ねっ返りの長い金髪を尻尾のように動かしながら、ピエロの装いを解除したシーナは私のサイズ専用のドレッサーからいくつか服を取り出して放り投げた。

 

「まず確認も兼ねてルフィだけど、女ヶ島のそばの無人島で冥王と剣帝、時々エースとサボと修行中。期間は2年間。集合はシャボンディ諸島」

 

 赤封筒案件の長期任務の準備と情報共有の為休暇として青い鳥(ブルーバード)に来た。

 とりあえず非常食と武器と現金と換金出来そうな物、それと先程補充した衣服とか変装用の小道具とか生活に必要な必需品はアイテムボックスの中に入れる。

 

「堕天使の現在地はここグランテゾーロ。海賊狩りは鷹の目の根城」

 

 私はこれくらいしか把握してない。王族の足取りが掴めてないのはめちゃくちゃ怖いけど、くまさんとセンゴクさんの判断に任せている。

 

「それでは俺たちが集めた麦わらの一味の足取りだが。シーナ」

「泥棒猫がウェザリア、狙撃王がボーイン列島、七変化がトリノ王国、鉄人がバルジモア」

 

 テゾーロが黄金を手足のように使い紅茶を沸かす。にょろにょろと器用に黄金がコップを掴みトポトポと紅茶が注がれた。鼻腔を擽る上質な紅茶の香り。

 

「4人、か。ウェザリアは聞いたことない」

「ウェザリアは空島だよ。天候研究所の」

「むしろ空島なのによく情報入手したね」

「下に降りてくるから情報は得やすい。取引先でもあるしな」

 

 天候を買い取ってるのか。

 うちの取り柄って資金だからな、金を使う研究所とはいい関係になれる。

 

「それと、革命軍関連から探れば、悪魔の子が革命軍に、黒足がカマバッカ王国にいることがわかった。悪魔の子の方はオーナーの管轄ってことで。細かくは探れなかったな、」

「ふぅん……。ニコ・ロビンが革命軍って事は、移動してるのか。まぁそこら辺は直接交渉する方が早いし、何かあればサボが教えてくれるだろうからいいや」

 

 カマバッカ王国って事はイワンコフさんの国だし、サンジ様とニコ・ロビン含め7人はほっといて大丈夫そうだね。

 

「鼻唄は少々厄介でな。ナマクラ島という閉鎖的な島に飛ばされたようだが、手長族に攫われてしまって」

「放置!!!!!!!!!」

 

 部屋を彩る黄金が紅茶を照らすせいか、心做しか輝いて見える紅茶を私は受け取りハッキリ告げた。

 

「ブルックさんの場合あの見た目ですから否応がナシに情報は集まるし、これ以上は積極的に調べなくてもいいかな」

「ではその様に」

「クラバウターマンはガスパーデの所で雑用してる」

 

 聞き覚えのある名前に疑問が浮かぶ中紅茶に口をつける。悔しいくらい腕がいいので紅茶はめちゃくちゃ美味しかった。

 

「あっ、海軍最大の汚点」

「時期的には俺の同期。流石に知ってたか」

「海賊に転じたのは私が入るより前だけど一応」

 

 汚点と言われる位には語られているからよく海軍のおじたま♡たちに聞かされていた。もちろん私が女狐と知らないおじたま♡なんだけど。知ってる人はイコール実力者ってことでもあるから、入手は雑用のリィンちゃんを可愛がってくれるファンクラブ会員辺りだよな。

 

「んで、オーナーが気にしてた砂姫とついでにカルガモだけどォ……」

 

 シーナが気まずそうに視線をあちらこちらへと向ける。テゾーロは目を開けてすらない。胡散臭いニッコニコ笑顔だ。

 

「……まさか見つかってないとかは」

「それは無い!!!それは、ないんだけど……あの主従すこぶる厄介というか……」

 

 トマトを噛み潰したような表情でシーナが居場所を告げた。

 

「砂姫がクロコダイルで、カルガモがドフィの所……」

「厄介極まりなきだしむしろビビ様大丈夫ぞ!!!??」

 

 そこら辺因縁しかないと思うんだけど!?

 

「まぁでも本来はどうやら革命軍に預けるっぽかった。革命軍の武器関係の調達ルートの付近に飛ばされたと思われる島があったから」

「…………それより先にクロさんが見つけてしまった?」

「まぁそうだけど飛ばされた先はクロコダイルの隠れ家だな。本部やマリージョアに行き来してた時代の仮拠点でもある」

 

 その瞬間私の顔が歪んだのがわかった。その顔を見たテゾーロが吹き出す。

 ……監獄から出すんじゃなかった。

 

「あとビリーだっけ?それは悪いけどまっったく足取り掴めてない」

「野生に返ったかな」

 

 一通りの情報を入手して軽く頭が痛くなってきた。

 私はソファに体を沈みこませて深い息を吐く。

 

「CP9はどうなったんだ?」

 

 よっこいしょ、とジジくさい言葉を漏らしながらファイルを片手に座ったシーナが首をかしげる。

 

「とりあえずルッチとフクロウを押さえてるからまだ何とか。1番信用ならないのはブルーノで次点にカリファだけど」

「へぇ、フクロウってあの口の軽いやつだろ」

「口が軽いなら噂流しに使えばいいんだよ。幸い、ホントのことが多いからね」

 

 フクロウには色々と情報を入れてある。

 というか漏らす様な情報しか入れてない。

 

「昨日実験も兼ねて壁ドンしてみた」

「へぇ、なんの実験?」

「CP9はもしかしたら上司運が無さすぎてカッコイイ上司に慣れてないんじゃないかと思って。センゴクさんみたいな」

 

 スパンダムを見ればよく分かる。あれは人を動かすタイプじゃないのに。

 

「それでどうなった?」

「──手が届かなかった」

「「ブホッ」」

 

 2人が同時に吹き出した。

 いやだって、そうじゃん。私より体格のある人間を腕と壁の間に入れられると思う?

 

 無理でしょ。もしも壁ドンするならブルーノまでだよ。

 

「だからこう、あっ届かないって思った瞬間体を押して壁にドンッてぶつけて」

「そういう壁ドン!?」

「スカーフ引き寄せて『口の軽さなんか気にすんな。フォローするのが上の仕事だ。お前は自分の実力を充分に発揮してろ』って」

「わー!かっこいー!俺のフォローも頼むぜー!」

「どんくさピエロめ、テメェのケツはテメェで拭け。ねっ、オーナー。俺はフォローしてくれますよね」

 

 両方とも嫌に決まってるだろ。いい歳したおっさんが喚くな。

 

「ドンキホーテ・ロシナンテ(37)、ギルド・テゾーロ(39)」

「誰のことかな!」

「知りませんね」

 

 アラフォー2人はお手本のような笑顔の面を被った。

 まぁ素敵な笑顔だ事!くたばりやがれですわおっさん!

 

「まぁ、予想は当たるしたかも。CP9は可愛い少女じゃ攻略出来ないみたい」

 

 グイッと紅茶を飲み干して空になったコップを机に置いた。

 

「じゃあ私行くねー」

「オーナー長期任務?」

「うん。決して死ぬなお前の伝手は使えないと思え、準備を念入りにしろ。そう脅すされたんだけど任務の概要は欠片も教えてくれなくて何ぞ準備すればいいのか皆目検討も付かないけどとりあえずやれるだけはやったから」

 

 今までの箒と違って移動するのに時間がかかるから背伸びをして体を解す。寝たら怠さは消えるから本部に戻ったら仮眠を取ろう。

 

「あ、そうだ」

 

 テゾーロがふと何かを思い出したのか黄金を操りつつあそこじゃないここじゃないと何かを探していた。

 島規模で探せるって途方も無さすぎて……。便利なんだけどさ。

 

「あったあった」

 

 壁の黄金を突き破ってスポンッと出てきたのは──。

 

「えっ、は、箒だ!?」

「そこまで驚かなくても別に箒なんてこの世に掃いて捨てるほどあるでしょ……」

 

 その通り掃いて捨てる道具だけど!掃く方の道具だけど!

 

「スカした顔してこうは言ってるけど、コイツめちゃくちゃこだわって箒発注してんだぜ」

「シーナッッ!」

 

 放り投げだされた箒を受け取る。

 The魔女って感じの、本来の使用用途を考えれば実用的とは言い難い箒。重さもそこそこ。

 みょん、と伸びた黄金の柱。それを目視すれば勢いよく箒を叩きつけた。

 

「……ッ!」

 

 乱雑に扱っても手に反動が来るだけで箒は原型を保っていた。

 木材というより鉄みたいな感覚だ。

 

「イタカイゴスって品種の木材です。良かったらオーナー使ってください」

 

 うん。気に入った。ダニエルと名付けよう。よろしく3代目箒。

 箒にしては重いけど武器にしては軽いからいざってとき振り回しやすいし。

 

「それじゃ、行ってきます」

「「行ってらっしゃい」」

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

 休憩室で、だったがリィンを見送った名無しのピエロとテゾーロは気配を感じなくなった瞬間深い息を吐いた。

 

 

「……バレたかと思った」

「……いや、もしかしたらバレてる可能性もある。気を付けとけ」

「言われずとも」

 

 予定外の帰還に冷や汗が止まらなかったが、上手く普通を纏えていただろうか。

 

「あーくそ、やっぱ生き返りは卑怯だよなーっ!ローの姿が見れたのは良かったけどさ」

 

 キリキリと痛んだ胃を押さえつける。

 

「……1度は殺せたんだ。あれ以上のチャンスが回ってくるとは思わないがきっと殺せるさ」

 

 

 ──頂上戦争にて、火拳のエースは死亡する。

 

 それは青い鳥(ブルーバード)の2人が狙った真の目的だった。

 黒ひげマーシャル・D・ティーチにエースとマルコの2人をぶつけるのも、そこから処刑されることも。

 

 1度は処刑台から逃がしてしまったが、赤犬であるサカズキの手により殺せたはずだったのだ。

 

 ……足の空気をナギナギの実の能力で凪の状態にして。

 

 直接的に殺してはないが、確実に死因になった。

 

 

 なのに、なのに!

 エースは蘇ってしまった!死の淵から!

 

「あの子が火拳死亡を阻止しないように動きも止めたんだけどな」

「戦争に関しては反省するだけ無駄だ。切り替えろ」

 

 エースの命が消えるあの瞬間。リィンは足が動かなかった。声も出なかった。精神の錯乱による判断能力が欠如した状態を狙ったシーナ渾身の阻止だ。

 

 リィンはシーナが自分の周囲にしか能力の展開が無理だと思っている節がある。

 残念ながら遠距離発動も可能だ。

 

「足がつかないのはお前だ。これからも頼むぞ」

「勿論」

 

 全てはリィンの兄を殺すために。

 

 

 

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

 赤封筒案件の長期任務。

 センゴクさん、何を思って可愛い娘をこんな所に連れてきたんですか。

 

 

 それでは問題です。

 私は今、どこにいるでしょーか!

 

 

「──あのッックソ野郎ーーーーーーーーーーッ!!!」

 

 

 かつてないほどセンゴクさんへの恨みを吐き出した。

 

 

 ────今、過去にいます。未来で待ってろ。

 




カクリィではなくションカク(概念)です。

そしてエースが不自然に死んだ理由はシーナの手によるものでした。感想欄、見事に正解を弾き出してて怖い。

これにてマリンフォード編終了。次回から赤封筒案件の長期任務編に参ります。
バランス計算をしつつ書き連ねていこうと思うのでちょっと時間開けます。(こういう違いが守られた試しがない)


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過去編
第240話 大は小を兼ねる


 

 

 遡ること……遡る?こと、1か月前。

 

 センゴクさんと共にパンクハザードという島に来ていた。そこは静かで緑豊かな毒ガス立ち込める世界政府の研究所。

 

 ──久しぶりに来たな。

 

 はい。毒ガスだなんて厄介なものがさも酸素ですって言いたげに蔓延っているけど、過去に何度も訪れたこの研究所。研究所、ということで機密も多く自由に出歩けなかったが大体の建物の構造は知っている。今回の訪問は研究所の見回りをするだけなのか。と、思っていたが最終的にセンゴクさんに連れられて向かったのは普段通っていた研究所ではなく、隣接する山の中に独立する研究施設だった。

 はて、こんなものは見た事がないんだゾ。

 

 そう思いながら眺めているとセンゴクさんが力技で扉を開けた。正しく言うと破壊した、だけど。

 

「シーザーはいなさそうだな」

 

 果てしなく棒読みで発せられた言葉は間違いなく『建前』であることが察せられた。

 

「ああリィン。もう口を開いても大丈夫だ」

「どうしてセンゴクさん毒ガス平気ぞ!?」

「……開口一番でそれか」

 

 まるでお前はどうしてそう能天気なんだと言いたげなため息が返事代わりに吐き出された。

 

「お前が通ってた研究所はシーザーが幅をきかせていたのは知ってるだろう」

「あ、はい。というか薬品関係はシーザーの管轄ですた故に」

 

 ベガパンクが所長だと聞いてはいたが実際誰かを相手する時はシーザーだった。ベガパンクとは会ったこと無い。

 

「ベガパンクは主に悪魔の実の研究もしていてな」

「あァ、伝達条件の解明や派生利用法ですよね。確か最近だと2年前の悪魔の実による細胞劣化停止が影響する自然治癒能力、でしたっけ」

 

 ベガパンク、脳みそどうなってんだろう。

 1人で何百年もの時を箒で飛び去ってる気がする。ベガパンクが研究を始めてからこの世界の文明が一気に開花してると思うんだ。

 

「今回の任務はベガパンクが関わる。この研究施設はベガパンク個人の物だ」

「…………お腹痛くなってきた」

 

 嫌な予感しかしない。皆目検討もつかないが、技術の元にベガパンクの名前が出てマトモな事件に関わったことがない。何様ジェルマ様もベガパンクの技術の影響だし。

 

「……派生利用法。つまりお前の身近で言うと物に悪魔の実を食べさせるという研究だが」

 

 脱力しきったセンゴクさんが通路を進み部屋に入って行く。何をそんなに疲れてるんだろうこの人は。

 

「──ところで手荷物が少ない様だが任務の準備は万全か?」

「えっ待って怖きです怖きです何故ここで聞くしたのですか」

「何があっても生き延びれる様な準備はできたか」

「対人戦闘交渉とかサバイバルとかの準備はすてますけど研究云々は無理ですよ!?いやセンゴクさんですたら私に出来ない任務は振らないと思うですけど」

 

 もしかしてベガパンク生み出してはならない物を生んだ…?それの破壊とか?いやでもそれなら戦闘訓練なんて必要ないし物理的な強さは要らないもんね……?

 

 ぐるぐると疑問が頭を支配する。

 

「すまないな。お前の行動で全てが決まる。どれが必要などの指示が出せない」

「むしろ逆にそんなに未知であるのに赤封筒レベルだと判断されるしたの怖いのですけど」

「思えばはや10年。お前がまだ小さい時には想像もしなかったな」

「怖い怖い怖い怖い。回想やめるして」

 

 そしてセンゴクさんが扉を開けた。そこにあるのは部屋全体を覆い尽くすほどコードやら何やらが繋がれたゴテゴテしいナニカ。機械なのは見ればわかるが人間の鼓動の様に規則的に脈打っている。

 

「これがベガパンクの……研究?」

「動物系以外の悪魔の実を食べさせた。試作品1号、らしい」

「……動物系以外を?」

 

 悪魔の実の著書はいくつか読んでいるが、動物系の悪魔の実は特殊で。仮説として悪魔の実が意志を持っている、という見解になっていた。人間が食べれば別の意志が混ざるので理性を無くしやすく、そして物に食べさせれば意志がひとつだけなので自我が発生する。と。

 

 その仮説のまま行くとまだ動物系以外の悪魔の実が物と融合するのは難しいはずだけど。

 

「いやベガパンクならするか」

「そうだ、したんだ」

 

 何を考えていたのかすぐにバレた。

 

「この試作品は、はっきり言って失敗だ。稼働はしているが、悪魔の実の能力の使用は出来なかった。ちなみに悪魔の実の詳細は……わかるが、記録として残されてないほど見た事が無かった」

 

 センゴクさんが心臓部である場所をバンと叩いても変わらない。いや、精密機械を叩くな。

 

「お前に判断を委ねたいのは、この失敗作を保管するか破壊するか」

「正直自然系の実装化のためにも保管しておくのが吉かと思うですけど……」

 

 不気味な部屋の中を恐る恐る進む。ドクリドクリと脈打つ傍から見ればSAN値削れる様な物体の傍に向かった。

 

「──ただし」

「えっ?」

「例外的に反応する物がある」

 

 瞬間、機械は壊れそうなほどガタガタと震え始めた。

 

「例えば、隕石。要するに……この星のものでは無い物質に反応する」

 

 その声に呼応するように激しい動きになって。

 

「ど、えっ、は」

「はぁ〜……貴様はどうしてこうも。どういう星の元に産まれたらそうなるんだ」

「この星ですけどォ!?」

 

 私時空の狭間での記憶はあるけど魂はリサイクル式だしその条件に合うとは到底思えないんだけど!

 

「待って待ってまてまてまてまて待って」

「これはただの推理だが。お前の母親は恐らくこの星の人間じゃないぞ」

「は???????予想外で覚悟ぞ出来てないですが???????どういうこと???????」

「それでは健闘を祈る」

 

 ぐにゃりと体が引っ張られる感覚。とんでもない気持ち悪さ。浮遊感。不快感。

 目の前に居たはずのセンゴクさんが一瞬で姿を消した。

 

 いな、消えたのは私。

 

 

 

「──ぅ、ぁああああああああ゛ッ!」

 

 見渡す限りの青に飲み込まれ、空中に転移した私が海へと落っこちた。能力者なら死んでたぞコラ。

 

 

 ==========

 

 

 

 青い青い、荒れた海を眺めながら、海岸に腰掛けていた私はため息を吐く。冬の冷たい潮風が肌を突き刺す様に吹き荒れ、乾燥した空気は喉と目の潤いを奪っていく。苦手な寒さを眼前に私はもう一度ため息を吐き出した。

 

「お姉ちゃん、大丈夫?」

 

 海からザブンと顔を出したのは魚人族の子供。恐らく特徴からサメの魚人だろう。私よりもいくつか歳が下の少年は心配そうな顔をしていた。

 

「うん、大丈夫だよ。ぼーっとしてごめんね」

「オラはいいんだ!……中々見つけれなくてごめんよォ」

 

 しょんぼりとした少年に私はにっこりと微笑みかける。

 

「危ない海なのにいつもありがとう。今日はもう終わろう」

「い、いいい、いいんだよォお姉ちゃん!」

 

 焦って水かきのついたを手振りながら、少年は青い顔に赤味を足して首が取れそうな程激しく横に振る。

 ゴツゴツとした海岸のフジツボだらけの岩で体を支え、私は海に向かって手を伸ばした。

 

 もごもごと躊躇いがちに伸ばされた手を掴んで引っ張り上げる。

 

「お姉ちゃんが濡れちゃうよォ」

「これくらい屁の河童よ!」

 

 海水で濡れた黄色のゴワゴワした髪を撫でて岩に並んで座りかける。

 魚人の子は海水で服まで濡れているので、寒空の中太陽に当たって服を乾かすのだ。

 

 普段イタズラばかりする悪ガキ坊主が、こればかりは申し訳なさそうにしゅんと顔を伏せる。

 

 

 

 ──約1ヶ月。

 転移能力で飛ばされた私は、漂流し、そして大切なものを無くしてしまったのだ。いつでもこの島を出る準備は出来ているのに、ソレが見つからないから動けないでいる。

 

「──見つからないね、お姉ちゃんのママの指輪……」

 

 ──見つからないのだ、私の『夢見る幻くん』が……!

 

 

 説明しよう。

 夢見る幻くんとは女狐隊の技術者ヴォルフと不思議色の使い手パレットが共同で作ってくれた髪の毛の色を切り替えるための装置である!

 

 

 はい。作ってくれたばかりなのに速攻で無くしてしまった馬鹿は私です。

 

 指輪の形にしているのはチェーンで首からぶら下げる為。昔クロさんにもらった海楼石でできた指輪もそう保管していたから慣れていた。

 

 はぁ……ほんとにどうしよう。

 ボロボロの有様で作ってくれた2人に無くしたから複製して欲しいとか言えない。

 

 とりあえず転移したことをセンゴクさんに連絡しようと思って電伝虫をアイテムボックスから取り出した瞬間電伝虫は寿命を迎えられた。長寿種なのに。

 オマケに拾ってくれた島は外部との連絡を微塵も取らないような島。監視ってほどじゃないけど人の目がありすぎるから単独の行動に移せないのもあるが、本当にいざとなれば、いざとなったらしゃぼんに入って海操りながら探す。

 

 

 

 漂流中に髪色を黒に変える装置を無くしてしまった&濡れた服を着替えさせてもらったという点から、私は堕天使リィンだとバレることなく漂流した少女を演じることとなった。

 

 ちなみに装置は形見という設定。装飾品として使えなくないデザインだからね。私の指のサイズには合わせてないけど。

 

 

 

「お、オラは絶対見つけるからな!」

「……!」

 

 すくっと立ち上がった魚人の子の宣言に私は目を丸くする。

 そして顔に喜色を浮かべて優しく微笑んだ。

 

「ありがとう……!」

 

 ──好感触!ミッションコンプリート!魚人の駒候補拾ったり!

 

 

 こんな最低なことを思い浮かべて攻略しようとしているのにもわけがある。うん、この島でやることって好印象抱かせて伝手を増やすことしか出来ないんだ。少年はまぁ、未来への投資。成人迎えた魚人に癖がありすぎて女狐隊に引き込めないなら素直な子供を育てればいいじゃない作戦。私がまだ迎えてない全盛期を過ぎても、若さは力になる。

 年上にだけ媚び売るのも未来で詰む。

 

 

 私子供だいっっっっっ嫌いだけどね!

 

 素直じゃなくても、いい子は好きよ。私に都合の『いい子』はね。

 

 

「ソッ、そういえばお姉ちゃん!冬至祭の準備は出来たの?」

「朝から沢山のお砂糖掻き混ぜて疲れちゃったけど、万端だよ」

 

 閉鎖的なこの島には独自の文化があって、冬至祭というのもセムラを食べて断食するという地獄の様な風習なのだ。アイテムボックスからくっそまずい保存食取り出して飢えは凌いでやる、絶対に……!

 

「……まさかとは思うけど、お姉ちゃんの作ったセムラ一緒にしてないかな?」

「……別の場所に置いてあるよ」

「ほっ!良かった、めでたい祭りで死人が出るとこだったな!」

「一応食べれるのに、私の作るご飯ってそんなに前衛的かな……」

「そんなお姉ちゃんに必殺料理人の称号をあげるんだな!」

 

 片手で目の前をうろちょろする頭をスパンと叩く。

 海軍生活、食事当番から外され。海賊生活、食器洗いしかさせてくれない。

 手作りチョコを食べたものは物言わぬ屍と化す。

 

 これを嘆かず何を嘆くというのだ。

 というかなんで私が作ると毒物が精製させるんだろう。体内に溜め込んでしまった毒が排出でもされてるのかな。

 

 いっそ私の作った食べ物を武器にすれば……!

 名付けてポイズンクッキング。泣きそう。

 

 脳内サンジ様が食べ物を無駄にするの地雷ですって顔してバツ印出してるからやめよう。

 

 

「お姉ちゃんシスターなんてやめればいいのに」

「でも皆より少しお姉ちゃんだから、マザーのお手伝いしたいの」

 

 魚人の少年は勢いよく立ち上がって鳴くお腹をアピールした。

 

 

 

 拝啓、センゴクさん

 

 

 ニュースクーもやってこない様な辺境に位置する島。周囲の海は荒れ、やってくる船は全くない。完全に自給自足のこの島で。……巨人の島、エルバフで。

 

 

「──セムラの時間だよ!行こ!リンお姉ちゃん!」

 

 息を吐くように嘘をついた偽名を名乗り。

 

「ハイハイ」

 

 あなたの愛する娘は今、シスターをやってます。

 ちょっとした懸念があるのですが、その恨みつらみはこの冬至祭を頑張って乗り切った時に五寸釘片手にお人形さん遊びで発散しようかと思います。

 

 

 

 

「あァ……寒いなぁ……」

 

 寒空を見上げて白い息を吐き出した。

 

 ────『羊の家』より。




リィンツインテールにしないの巻。
メリーーーーィンクルシミマース!!!!!!

年末年始はあまりにも忙しいので書き溜めを更新していきます。
さて、やって参りました過去編(物理)本誌を読んでる君たちならここで何が起こるのか大体察せたはず。


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第241話 山椒は小粒でもぴりりと辛い

 

 こんにちは★私リィン!(裏声)

 赤封筒任務っていう危ない任務についた14歳のか弱い可愛い女の子!(裏声)

 

 そもそも赤封筒任務っていうのは世界に混乱を招く様な大きな災いになりうる機密任務ってことなんだけど、ランクで言うなら海賊王という大悪党中心の任務ってことになるね!(裏声)

 ちなみに私が関わったことあるのは3つ。1つ目、海賊王の息子エースの出生確認。2つ目、金獅子シキの東の海襲撃計画。3つ目、頂上戦争。(輝かしい裏声)

 

 

 ……やばさのレベルが桁違いなんだよなぁ。(ど低音)

 

 

 残念ながら関わったことある3つは結果的に赤封筒任務になったものばかり。ナバロンで貰っていた赤封筒はシキの件で使うという超スピーディ利用。

 今回の任務は予め赤封筒任務だと告げられているものだから緊張の度合いが違う。

 

「お〜〜〜〜いち〜〜〜〜〜♡」

 

 センゴクさんに連れられやってきたパンクハザードで遭遇した機械。

 転移系の能力なのは確定なのだが、ちょっとした疑惑(かん)がある。これはまた後で推理しよう。

 

 とにかく、私は転移で飛ばされ、海に落っこち、そして漂流した。

 流れ着いた場所はエルバフ。閉鎖的な巨人の島。

 羊の家という孤児院にも似た施設で目を覚ましたというわけだ。

 

 ──髪色を変える夢見る幻くんを海に落っことしたまま。

 

 目を覚ました瞬間はとにかく『リィン』とバレないようにしたくて、羊の家では『リン』と咄嗟に名乗った。偽名を名乗り慣れてるのはまぁ言うな。幸か不幸かおかげで巨人の女の子に名前が似てるからと懐かれたけど。

 

 羊の家はマザーが1人で切り盛りしていた。

 悪ガキ、悪ガキ、一歩飛んで悪ガキ。ただし才能はピカイチ。親から見離される様な悪ガキでも、その能力は半端じゃない。そこで私は思ったのだ。

 

 ……これ、私の伝手にならないか?

 

 と。ええ、魚人も、巨人も、多種多様な種族を女狐隊は募集しております。というか本気で我の強い奴じゃないと女狐隊で仕事回せないから。

 今まで歳上ばかり見てきたが、よくよく考えれば私が最も人材を必要とする時期は今よりも後。私自身が実働可能な今よりも、ね。まだ考えるには早いが30歳を超え、全盛期よりも実力が下がってしまったら、体を壊してしまったら。長く使える駒は己より歳下。

 

 というわけで! 年上相手は妹キャラなら、年下相手にはお姉ちゃんでしょ! って安易な考えを持った私は孤児院の新入りよりも目立つポジション。──シスターとして生活している。

 

 名目はマザーのお手伝い。本音は陥落させる。

 手っ取り早いのは『初恋』を奪うことだけど、あまりやる気は起きない。

 

 あと、『新入りだけど慣れない環境でお姉ちゃんを頑張る少女』という付加価値が着くので島の巨人にはそりゃもう受けがいい。

 

「おいしいおいしい! 甘ぁ〜〜い♡」

「まてまてリンリンお前のはこっちじゃない、そっち!」

「なんて速度で食うんだ! お前専用のは沢山あるから落ち着いて食べろ!」

 

 この1ヶ月、巨人の記憶に確かに刻みつけた私という名の少女の存在。

 

 巨人族の伝手はかなり重要だ。大きさはそのまま強さになる。私が欲っしても絶対に手に入れられない強さ。

 それにエルバフとあれば、海軍で使えなくても海賊として使える伝手になる。私は全力で媚び売るし愛想を振り撒くよ。

 

 だけどまぁ、無駄になりそうな気がするんだよね。この伝手。

 

「リンが作ったやつは全部お前のだから! 俺たちには食べられないからそっち優先して食べろ! むしろ食いきれ!」

「リンお姉ちゃんのセムラおいちいよ〜〜〜〜〜〜〜♡」

 

「……肉体が強い俺でさえリンの飯には昏倒したからな……。リンリンが食べれる体質で良かった」

 

 私は隣に座る巨人の腕を無言のままナイフで刺した。

 

「おっ、どうしたリン。拗ねてるのか」

「拗ねてないわスタンセンさん!」

「しかしよく作れたな、小人には難しかろうに」

 

 巨人の奥様達と一緒に小人小人言われながらも頑張ってマジパンを作った。作業の効率化のためにも私ひとりで大量に作る必要があったので能力使いましたとも。

 

 『私』は重たいものを持ち上げられる悪魔の実を食べた能力者。だから両親に捨てられ、エルバフに流れ着いたという設定なのだ。とりあえず巨人の島では全てが重いので物質浮遊に特化させた能力の説明をしている。非能力者にしようかと思ったけど親から見離される子供の集まりで見離される様な設定がないと浮く。

 

「お姉ちゃん口汚れた」

「ハイルディン……私あなたの口拭くの大変なんだけど」

 

 巨人用のハンカチを操作して巨人の子の口を拭う。

 羊の家には基本人間の子供しか居ないが、保育施設も兼ねているので巨人の子供達もやってくる。リンリンは別の島からやってきたみたいだから羊の家の唯一の例外。

 

「そうだわヨルル様! この前鹿の家で兜が彫られた大きなコインを見つけたのだけど」

「お? ザバババ! それはコインではなく硬貨じゃリン」

「硬貨、お金なの? 使える?」

「ワッハッハ、リンおめーそれじゃ小人で言う10ベリーだば! 飴ひと粒も買えやしないば!」

 

 ──やっぱりか。

 

 ここで手に入れた伝手が無駄になりそうな気配の正体。

 

 それはここが過去なのではないか、という疑惑だ。

 兜の彫られた硬貨。それは具体的に言うと全て銅で出来ている。人間と巨人のサイズ感から交易が難しいとされるため、確か30年ほど前に硬貨の金銀銅含有量が統一化されたはず。

 

 つまり私の知識では巨人族の兜の硬貨は遺物。記念コインみたいなもんだ。溶かし直せば人間にとって飴玉ひと粒以上の価値に錬成出来るけど。

 

 

 ただ確信に至らないのが人間と巨人族との交流にバラツキがあるということ。エルバフなんてもってのほか。

 海軍で働いている巨人族の人達は、結構外交的な人達。閉鎖的なエルバフなら遺物を使っていてもおかしくは無い。

 

「……どうしたものかな」

 

 おいしいおいしいとポイズンセムラを絶賛する声を聞きながら、雪が降りそうな空を見上げて思わずため息を吐いた。

 

 

 

 ==========

 

 

 

 断食1日目

 

「マザー、お姉ちゃん……お腹すいて死にそう……」

「冬至祭は太陽の死と復活のお祭りよ。苦しい冬を越えて太陽もまた私たちを暖かく照らしてくれるの」

「ほらリンリン座って。温かいお水だよ」

「お姉ちゃん初めてだよね、平気なの……?」

「うん、まだ大丈夫!(だって保存食食ってるし)」 

 

 

 断食2日目

 

「ブハッ、今日も見つからないな」

「断食中なのにありがとう」

「オラは慣れてるから」

「リンお姉ちゃん〜〜! リンリンが駄々こねてるの〜!」

「あぁ……。ありがとうゲルズ、すぐ行くね」

 

 

 断食3日目

 

「──めでたしめでたし」

「あら、皆寝てしまったの?」

「好きな絵本の内容、ずっと覚えてたの。そしたら皆寝ちゃった」

「毛布をかけてあげましょうか」

 

 

 断食4日目──

 

「はぁ〜〜〜〜見つかんないな〜〜〜」

「お姉ちゃん何してるの?」

 

 魚人の子と一緒にため息を吐いていつもの日課である夢見る幻くん探しをしていると、岩陰からニョキッと巨人の子が顔を出した。

 

「あ、リンリン。今オラがお姉ちゃんの指輪探してるんだな!」

「お姉ちゃんの指輪?」

「私のね、ママが唯一私にくれた指輪なの。ここに流れ着いた時落としちゃったみたいで」

「……じゃあおれも探す!」

 

──バキィッ

 

「あ、」

「あっ」

 

 海岸の岩は脆い。巨人族の子供といえどその巨体がのしかかれば簡単に崩れてしまう。

 

──ドボーンッッッッッ!

 

 大きな水しぶきを上げて彼女が海に落っこちた。

 海水がびちゃびちゃと全身にかかる。巨体は落っこちただけでも水しぶきで人を殺せるのかと思ったよね。

 

「おぼっ、おぼれ、おれ溺れるぅぅぅぅ」

 

 バチャバチャと両手を動かすとその分海水かかるのでほんとに勘弁してくれ私が溺れる。

 

「リンリン、そこ、リンリンなら足つくんだな」

「えっ?」

 

 魚人の子が白けた顔でそう告げると、巨人の子はキョトンとした顔で私たちを見た。そして海を見たあと、地面の感覚を確かめるようにじゃぶじゃぶ上下し、えへへと笑った。

 

 

「ゲホッゲホゲホ!うえっ、ゲボッ」

 

 余波で溺れかけた私に気付かずに。

 

 えへへじゃねーーんだわこのスットコドッコイ。

 その体が及ぶ影響を考えてから笑えやクソガキ。

 

 素直すぎて善悪の区別がつかない悪魔みたいな子供を具現化させて集合させたような存在だけど、この子は絶対将来使えるんだよね。倫理観や常識さえ学べれば将来巨人族を統べる程の実力者になる!

 

 最悪海軍じゃなくても海賊としての伝手で使えないかな……。

 

「お姉ちゃん大丈夫?」

「う、うん……。大丈夫」

 

 全然大丈夫じゃないけど優しいシスターは笑顔で平気なフリをしなければ。

 

「リンリン上がっておいで。冬の海は体が冷えちゃう」

「うん!」

 

 そうして巨人の子は、大きな大きな動きで。

 勢いよく海から上がった。

 

 

──ザッパーンッッッッッ

 

 

「うぇ、おえっ、ゲホゲホ」

「お姉ちゃん絶対オラから手を離さないでな!? 海に引き込まれちゃうからな!?」

「ありがとう……ほんとにありがとう……」

 

 引きずり込まれそうな波の勢いに魚人の子に捕まりながら耐えた。

 

「……ニンゲン、アマリニモモロイ」

「お前が言うなー!」

 

 私の代わりに怒ってくれる少年。

 あぁー。びちゃびちゃだ。太陽が照らないから服乾かないって言うのに。

 

「んあ、あれ? お姉ちゃんー、足痛いぃ」

「……ゲホッ、ああ、何か刺さってるのかもね。ほら、足を見せてごらん」

 

 素足で海の中に入ったら、特にこの辺りは岩礁ばかりだしそりゃ痛いわ。

 ケツを着いた様子を確認して、足裏を観察する。

 

「あちゃー。刺さってる刺さってる」

「手伝ってくれる?」

「うん!」

 

 イラつく感情を抑えてニコニコと笑みを浮かべる。

 

「お姉ちゃん今マザーみたいな笑顔してる〜!」

 

 …………え?

 

「お、おおおおねえちゃんお姉ちゃん!!! お姉ちゃんあったな!」

「今度はどうしたの!?」

「あった! あった!」

 

 魚人の子がキラキラした瞳でバッと両手を差し出した。

 手のひらの上に置いてあるのは……。

 

「あーーーーーーーッッッッッ!?」

「あったーーーーーーー!」

 

 正直望みはかなり薄かったからしゃぼんに入って海水操りながら探そうかと思ってたけど! そんな危険を犯そうと思ってたけど!

 

「お姉ちゃんの指輪! あった!」

「どっ、どこに…!」

「リンリンの足に刺さった岩の、隙間に!チェーンがくっついてたんだな!」

 

 大興奮を全身で表現する少年は勢いよく私に抱き着いた。

 

「お姉ちゃんの指輪見つけたんだなーーーーーー!」

「えっ、わ、ちょっ」

 

 

──ドッボーンッッ!

 

 しこたま濡れた。

 ……ルフィが絶対同じことやる気配を察知したので足腰鍛えようと思いました。

 

 

 

 断食5日目

 

 

 さて、ついに目的の夢見る幻くんを探し出せたわけだし。

 私はそろそろ羊の家を去ろうと思う。

 

 ただしそれは自ら去るのではなく、偶然去らねばならない。このまま好印象でいるならね。

 

 ここが過去であるという仮定が正しかったとしても、巨人の寿命はそりゃもう長い。覚えている、という可能性はなくならないのだ。

 この仮定を気付くのがもう少し初期の段階なら印象薄くさせ……ることは無理だな。リンリンがいる。似てる名前というだけで懐いたリンリンが。

 

 新聞で日時を確認しない事には確信が持てないが。

 

 去り方の理想を言うなら里親探し、だろう。

 例えば──海軍とか。

 

 

 

「あったぁ♡」

 

 夜中コソコソとマザーの机を漁れば出てきた書類。

 というか海軍言語(あんごう)で書かれてあるじゃない。人身売買の証拠。

 

 

3jlimslvgt@ht@qtrg@.

j5svthiuoue

zg@kzgt@na.sgezmkf@d9w@

6a364

lylyse4bs@mkfudmggqe

uit3;f@;yoh=

 

 記憶を探り答え合わせをしていく。

 

あまりにもとりひきか゛くか゛たかすき゛る

まえとひかくにならない

つき゛のつきか゛みちるときいつものは゛しよて゛

おちあおう

りんりんということ゛ものはなしもききたい

なにかあれは゛れんらくを

 

 目の付け所が流石だな。今いる羊の家の子供たちの中でリンリンを選ぶとは。まあ良くて大将、悪くて大佐。上手く行けば元帥になれる戦闘能力の素質がある。将として、組織の人間としての素質は兎も角。

 

 次の月が満ちる時。──来月の満月か。

 流石にいつもの場所というのは分からないけれど、これで確信した。羊の家は定期的に子供を売っている。

 

 多分、エルバフの巨人は知らないだろう。

 

 

 私はこの事実を……──見なかったことにした!

 金額の指定は分からないけど優秀な人材が裏取引であろうと流れてくるのはいい事! それが巨人の子なら尚更!

 

「…………あれ?」

 

 じゃあここは過去じゃない?

 リンリンなんて名前の巨人族、少なくとも海軍本部に居なかったような。

 

 ──! 足音!

 

 首を傾げているとギシギシ軋む床の音と共に、マザーの足音が聞こえてきた。

 箒をアイテムボックスから取り出し部屋の中で大きく上昇。小屋の梁の上に忍んだ。

 

「……お前たち」

「ハァイママ!」

 

 マザーが虚空に向かって話しかけると暖炉の炎が返事をした。

 いやなんで????

 

「何か変わったことはなかったね?」

「女の子が来たよーーーママー!」

「……なんだって?ここには入っちゃいけないと教えたはずなんだけどね」

 

 やっ……ばい。

 冷や汗が流れるのを確かに感じる。

 

 まさか、この部屋の火が人格を持っていると誰が思うか!

 これは確実に能力者……! ぬかった、諜報可能な能力者相手だと情報戦は分が悪い! 戦闘なら優位に立てれるのに!

 

「その子は誰だい?」

「今そこにいる子ー!」

「……可愛い私の子、降りておいで」

 

 イラつきを抑える様ないつもの貼り付けた笑顔でマザーが手招きした。

 

「……チッ」

 

 私は箒を仕舞い、靴を動かすことで、ゆっくりと降りて行った。

 

「マザー……ごめんなさい……」

「まあリン……。貴女、どうして」

「……ママがね、私を海に投げる前に何かを書いてたの。見た目覚えているから、もしかしたらマザーも私を捨てるんじゃないかって。だって私は子供じゃなくてシスターだから……」

 

 苦しい言い訳を重ねる。顔を下げて、スカートの裾をぎゅっと握り締めればマザーカルメルは貼り付けた笑顔で私を抱き締めた。

 

「そうだったのね」

 

 彼女の思ってることを今から当ててあげよう!

 

 

「──嘘くさい」

 

 そう呟いて私は首元にナイフを這わせた。

 

「そう思っているでしょう。マザー」

「なっ…!」

 

「私も同じこと思ってる! おそろいだね! でもね、私マザーより笑顔上手なんだよ!」

 

 頬を染めて天真爛漫の笑顔を見せた。

 

「……マザー、取引をしよう────!」

「なんだって…?」

 

 

 断食6日目

 

「お姉ちゃん嬉しそうだね」

「うん、とってもいいことがあったの」

「あーーーーーお腹すいたァーーーーーー!」

「シス。マザーは?」

「新しいママとパパを探すためのお手紙を書いているのよ」

 

 

 

 断食7日目

 

「シスター、おいで」

「はぁいマザー」

 

 部屋の片付けをしているとマザーに呼ばれた。

 

「言ってたやつさ」

「おっと」

 

 マザーと机を挟んだ対角に座る。

 乱雑に渡された過去の取引内容。人、値段、全てが控えとして残ってあった。

 

「へぇ、こんなにも残っていたのですね」

「当たり前だよ。こう言う商売だからこそ証拠は大事さ。あんたもこの仕事する気でいるなら覚えとくんだね」

「うーん……私はどっちかと言うと売るより買いたい派かな……」

 

 取引の日付けを見て確信したことがある。

 

 ──ここは過去だ。

 

 大体60年前って言ったところかな。

 過去への転移。時間も場所も全てを移動する、か。

 

 しかし……60年。思っていたより長い。

 ということは羊の家の子供たちは私より年下ではなく歳上ということになる。というかそれを気にするより先に私の身を何とかする方法を考えろって話だ。

 

 遡行。

 長すぎる時の流れをどうやって元の時代に戻るべきやら。

 

 

 とりあえず裏取引した海兵の名前は覚えておこう。普通に偽名だと思うけど偽名だけでも特定しておかねば。

 

「悪魔め」

「ママとパパにそうやって言われて捨てられました。悪魔の実を食べる前に言われていたから♡」

 

 にんまりと笑みを深めて。

 ……戦神と冥王を思い返して、浮かべていた笑みは自然と消えた。

 

「貴女はすごいです、マザー」

「煽てたって何も出てこないよ」

「……いいえ本当にすごい。ジョン・ジャイアントの名前がある。そう、彼が1番最初。彼は恩師の教えを大切にし、そして巨人の海兵となった。それは結構有名な話」

 

 貴女はマザー(おや)として、優秀な人だ。

 

「例え子供の存在意義が『金』だとしても。『己の欲望』だとしても、貴女は愛されていると見事錯覚させて見せた。中途半端な善意で『売られた』だなんて真実を告げず、常に笑顔を貼り付けて悪意を貫き通した」

 

 

 例えそれが偽りでも、売られた子供はそれが事実。

 

 

「羊の家は優しい地獄だ」

 

 愛されることを知らなかった子供に偽物の愛を与え。偽りだと知らずにそれを抱きながら利用されていく。子供相手でも手を抜かず、偽りを真実だと思い込ませて来た。

 それは利用される子供にとってどれだけの救いになったのだろうか。美談として記憶の隅に住み着くカルメルはどれだけ聖母だったのだろうか。

 

 偽りだからこそ、子供達が抱く感情が簡単にわかる。

 

「……マザーは私にとっての仏ですよね」

 

 もしもセンゴクさんの愛が偽りでも、私はそれを真実だと信じ続ける。

 

 

「大変! マザー! シスター! 助けて!」

「どうしたの!? ゲルズ!」

 

 扉をばんと開けて入って来た巨人の女の子が焦りを顔に滲ませ、血の気を失った顔で話題の名前を叫んだ。

 

 

 

 

「セ〜〜〜〜!! ム〜〜〜〜!! ラ〜〜〜〜!!」

 

 轟々と燃え上がる炎。

 頂上戦争を彷彿させるその血の焦げる臭い。

 

 私より大きな巨人族の戦士達は名誉と共に地に伏せていた。

 立ち上がれないほどの重症。

 ぱっと見ただけでも命に関わる様な怪我。

 

 周囲に点在しているはずの動物の家は炎に包まれ、息をするだけで気道を火傷しそうだ。

 

「セムラを……もってこい……」

 

 飢えに飢え、天まで届くような叫び声を上げる。リンリン。

 あぁ、改めて認識した。

 

 ……これだから子供は嫌いなんだよ。この癇癪めちゃくちゃめんどくさい。

 

「リンリン……! なんてことを……!」

「──とうとうやったなリンリン…。太陽に感謝する資格もない」

 

 滝ひげのヨルルと恐れられる巨人族の長とも言える男がリンリンの癇癪の前に立ち塞がった。

 

「マザー、確認したい。エルバフとリンリン、どっちを取る?」

「どういう」

「いいから早く答えて!」

 

「──金になる方(リンリン)!」

 

 こうなったら絶対リンリンの身柄海軍に送れよくそばばあ!

 

 私は名前を聞いた瞬間走り出した。

 

「お姉ちゃん!?」

「シスター危ないよっ!」

 

 アイテムボックスから準備期間に大量に作り貯め廃棄方法を失った失敗作のセムラを取り出した。

 

「ヨルル爺邪魔です、そこを退け!」

「むっ!? じゃ、邪魔!?」

 

 思ってもみなかった言葉だったのか滝ひげがギョッとして構えた刃を止め私を見た。

 おえっ、熱気が喉を焼きそう。

 

「リンリン! 新しいセムラよ!」

 

 顔面を物理的に作り替える猟奇的な感じの掛け声になってしまったがリンリンはセムラという言葉に反応した。

 

「だから落ち着いてぇっ!」

 

 よく見ろ。巨人とはいえ子供。

 動きも単調。

 

 私なら確実にやれるはずでしょ!

 

 滝ひげを庇うように両手を広げて癇癪中のリンリンを待つ。これなら私の行動は傍から見ると子供特有の無茶無謀だと思うじゃん。

 

「うああああ!!!! セムラーーーーーーッッッ!!」

 

 リンリンは大興奮した様子で、セムラの前にいる私を邪魔に思ったのか。

 大きな手を振りあげ、私をぶった。

 

 熊でさえ、巨人でさえ一撃で殺せそうな平手打ち。私の体は簡単に吹き飛ぶ。

 

「シスターッッ!」

「リン!」

 

 悲鳴とも思える私を呼ぶ声を後目に私は思いっきり吹き飛ばされる。

 1回、2回、3回、焼けた地面をバウンドする。ゴロゴロと地面を転がって地に伏せた。

 

 よろよろと力を振り絞って上半身を起こす。残った力を全て込めて、叫び声を上げる。

 

「──いただきますしなさいッ!」

 

 ごおっ、と風が吹き荒れてリンリンの耳に届いたのか、キョトンとした顔をして。

 

「いただきま〜〜〜〜〜〜〜す♡」

 

 大きな声で元気よく食べ始めた。

 

「シスター無事かの!」

 

 どしんと大きな揺れを鳴らしながら滝ひげが駆けよって来る。

 

「……ヨルル様、無事でよかっ、た、」

 

 近くで燃え上がっていた炎が私の体を包み隠した。

 

 

 

 

 

 

「無傷とは行かぬけど無事死ねますたかな」

 

 黒い服に身を包み込んで、髪色も黒に変えて、私は遥か上空でエルバフを見下ろしていた。

 

 リンリンの手の動きに合わせて吹き飛ぶの、難しかったけど想像してたより自然に出来た。炎に呑まれたから死体が残ってなくても死んだと思うだろうし。

 ただ、唯一能力の欠片を知ってるカルメルは私が生きてると思うだろうね。

 

「あ痛たた、火傷」

 

 転がったりバウンドしたりとした時に出来た擦り傷。歴戦の巨人を前にした死んだフリだから受身を取らないようにした。否応がナシに怪我は出来るし最期に炎を目隠しに使った上炎の中を走り抜くという荒業。

 ここまでして死んだフリをしたのもエルバフ、しかも過去の島に興味はもう無いから。結局堕天使であろうと女狐であろうと使えない伝手ではあるから。想像より早く離脱する機会が出来たけど。

 

 さぁて、どこ行こうかな。ゴロンゴロン回転したせいか気持ち悪い。

 

 

 ひとまず先に怪我の手当と変装を急ぐためにも適当な無人小島で羽を休める。飛んだのは羽じゃなくて箒だけど。

 

 マザーの能力、便利だったな。上空から最後に見た炎に魂を吹き込む様子。

 辺りを包んでいた炎が食べられるように1箇所に固まった。

 

 私は巻いていた包帯をピタッと止めて顔を上げた。

 

「あ、あれ、あの能力、細かくは分からぬけど無機物に命を吹き込むって」

 

 ベガパンクの無機物に物を食べさせる技術を可能にさせるんじゃ──

 

 

 

 グンと引っ張られる感覚に、私の視界は青く染った。

 

 

「────うそでしょまた!?」

 

 見渡す限りの青に飲み込まれ、空中に転移した私は愛しい母なる海に落っこちた。海難の相でもあるんだろうか。能力者なら死んでた。




本気を出した災厄。
さて問おう。

こ れ で お わ る と お も う て か !

NEXTリィンズヒーント!
『エース』

それではまた来年お会いしましょう


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第242話 来年のことを言えば鬼が笑う

 

 ザワザワと人の往来が激しいこの島。

 東の海(イーストブルー)の流行の発信地であるミラーボール島。

 

 船旅に吐き気と船旅を重ねて情報の多い島に移動した甲斐がある。海に落ちたあと意識を飛ばす前に漁師に拾われたのは本当に良かった。

 

 とあるカフェで甘ったるいカフェラテを飲みながら、私はニュースクーの毎日新聞を読んでいた。

 

「ええっと、50年前って言うと……」

 

 海軍の組織法律の形態が変わった辺り……だったっけ。海軍内部が荒れてたとか聞いたな。歴史って日常生活じゃあまり使わないし教えを乞うといつでも教えてくれる環境下にあったから過去には詳しくないんだよな……。海賊稼業やり始めて調べなきゃとは思ったけど。

 

 頭をガシガシかいて、もう1回甘い物を飲んだ。

 

 

 視界から入る髪色は黒。

 女狐服を裏返してだるく羽織り、真っ黒のタンクトップを着た私。いや、俺。

 

 髪色変えの夢見る幻くんは無くさないようにアンクレットとして足首に巻いている。針金編み込んだミサンガで巻いてるし上から靴履いてるし多分もう無くさないだろう。海ぽちゃ、ほんと、怖い。

 

「よう兄ちゃん歌おうぜ!」

「絶対流行る! アフロのカツラだよー!! ヅラじゃないze、カツラだyoー!!」

「ねぇ、君、前世で会ったとか無い?」

「アイツだってアイツー!」

「ゲホッゲホッ、ケブラレタムシサレタアブラカタブラ」

 

 ミラーボール島、人間観察するだけで時間潰れそう。あとアフロは流行りません。

 

「なぁ、おい」

 

 とにかく、あの60年くらい前から一気に10年時が進んだ、転移した? ってことは順調に行けばあと5ヶ月くらいで元の時代に戻れるのでは無かろうか。2年以内ならセーフ。

 

「なァ、お前だって」

 

 2年というのもルフィの修行期間という期限だ。

 まあ過去に遡っている以上、時間経過がどう影響するのか分からないけど。元の時代に戻る時、私の重ねた年月共に進むのか、それとも進まないのか。うーん、流石に冷静になると時間遡行は怖いな。

 

「お前だよ……っ!」

 

 いきなり新聞を取り上げられ、新聞の向こう側に居た男と目が合った。

 

「は、誰……」

「やっぱお前似てるな〜!」

「……だ……」

 

 ヒュッと吸い込んだ息を慌てて吐き出す。

 

「げっほ、ゲホッ」

「っと、驚かせちまったか、悪いな」

 

 その男は笑顔が眩しい青年だった。歳は20代の中頃といった風貌。

 見た目の歳よりもずっと子供っぽい表情を作る男は、ニッカリと笑ったままロマンス通りの方向に視線を向けた。

 

「お前ーーーーーーッ! 勝手にフラフラ出ていくなーーーーーー!」

「わっはっはっ!」

 

 男は()()()()()の下で大声を出し笑う。

 

「なァレイリー見ろよ、こいつカナエにそっくりだ!」

「はぁ……。お前、目の前に興味ある物があるとパン食い競走の走者もびっくりする食い付きを見せるよな……」

「あっ、悪ぃ! 俺の名前はゴール・D・ロジャー!」

「ハァハァ……ロジャーもレイリーも……走るの速すぎ……」

「お前も充分速いじゃないかカナエ」

「なァカナエのそっくりさん、お前なんて名前なんだ?」

 

「………………………………通行人A」

 

 胃が、すごい体感的に久しぶりの血反吐がまろびでそうな胃痛が、ただただ私を無言で蝕んだ。キリキリ言ってるけど。

 海難の相、お前こう言うやつは外していいんだよ。悪運というか災厄仕事時過ぎでは。そろそろ休暇取ってくれていいんじゃないかな。

 

「おっもしれー女!」

「あ゛……?」

 

 多分だけど、私の反応の正解はこうだ。

 

「俺は……男だッ!」

「ギャンっ!」

 

 丸い机を挟んだ向こう側に居たので私は海賊王の股間目掛けて椅子を蹴り飛ばした。ヒット! クリティカル! ……ふっ、造作もないことよ。

 

 今までの恨み、色々擦り付けるぞお前。

 

「俺ァタチ専門なんだよ。低俗なナンパなら女になって出直しやがれ」

 

 説明しよう!

 男同士でセックスした際男役をする方がタチ、女役をする方がネコと俗物では言われているんだ! HAHAHA、こんな知識どこから得るんだって? ……私の胃を殺したいの? ビビ様からだよ。

 

 

 

 多分だ、多分だ。

 私はもしかしたらもしかしなくても。

 

 真女狐の正体を現状の自分にできるのでは無いだろうか!

 

 女狐には2人存在がいる。1人は冥王と戦神の娘であるリィン。そしてもう1人は、今ここで誕生日した海賊王のナンパを振った男だ。

 男はリィンを影武者として利用しているし、リィンは男の真似を上司にさせられている。

 

 その男の方! 真女狐!

 その存在はリィンが存在しないこの時代で、植え付けることが出来るのでは無かろうか!

 

「お、」

「お?」

「おもしれー! カナエと似てるのに表情全然違うからめっちゃおもしれぇ! なァ通行人A! お前仲間になれよ! 一緒に海賊やろう!」

「はァ? 低俗なナンパは間違いだと思ったが、間違いでも無かったか?」

 

 不機嫌そうに警戒心を露わにしてガラの悪い態度でロジャー海賊団の古参共にションという男の印象を植え付ける。この3人にリィンの記憶はないから今の状態でバレることなどないのだけれど、違いはあるだけいい。

 

 ……しかし想像してなかった面子が不意打ちで来るとは。過去旅行中は髪色絶対黒髪に固定しておこう。

 

「サヨウナラ、もう二度と会うことがねェように」

 

 必殺☆全力で距離を離す作戦。

 追い掛けようとする海賊王を振り切るように靴の操作を利用して民家の屋根の上に飛び乗った。まるで己の脚力で飛び乗った様に。

 

「べっ」

 

 地面を這う(感覚的な意味で)ロジャー海賊団の古参3人を見下ろして、舌を出した。私、お前ら、嫌い。

 

「は、腹立つ〜!! レイリー! カナエ! 船にいる奴らも呼んで来い! アイツ絶対捕まえて仲間にする!」

「はは、お前が失礼なやつってことはよくわかった」

「あたしドッペルゲンガーとか初めて見たわ……。もしかして生き別れの双子……?」

「「わっはっはっ!」」

「棒読みで笑うなー!」

 

 じゃれつく3人に思わずズッコケながら、鬼ごっこが始まった。

 おりゃあ! 印象つけてくぜぇ!

 

 ……でもゴールド・ロジャー本人ならともかく残りの2人は私が気まずいし、遊んだら普通に本気出して逃げるからね。性別を女に変えるという荒業で。

 

 

 

 

 

 

「「異世界人が何を言ってるんだか」」

「声を揃えるなー!」

 

 

 ==========

 

 

「見つけ──あああああ逃げられた!」

 

「居た──えっ、案山子!?」

 

「あぁ私は君を捕まえる気はな──チッ、煙幕か!」

 

 

「おい、カナエに似た人間見たか?」

「見たけどぴょんぴょんめっちゃ逃げるから無理」

「あの化け物3人から逃げ仰せてるやつが俺たちに捕まるわけがないよな」

「だよなー。俺も無理だと思うわ、お前らは流石に相手になりゃしねぇもん」

「なー!」

 

「……。」

 

「……よォ!」

 

「ろっ、ロジャー!!!!! 小憎たらしい坊主ここにいるーーーーーー!」

「判断が遅せぇよばーか」

 

 時に名も分からぬクルーをからかって逃げていた。

 

 

 というかロジャー海賊団、まだ完成度が低いから東の海で集まったばかりのレベルって感じするなぁ。そりゃまぁ、一般人や名前も知られてないような海賊から見たら化け物レベルなんだろうけど、偉大なる航路(グランドライン)視点から見ると、まだ発展途上。

 だって多分、戦っても私が押し勝つ。特に両親2人は戦い方の相性とかスタイルを知ってるし。

 

 

 屋根の上から地面に降り、路地裏で小休憩する。

 

 ……さっきの考察。よく考えたら私も化け物レベルってならないか。

 

「……なァそこのお前」

「んあ?」

「お前の首に、金額はあるのか」

 

 茶髪の少年。恐らく美少年だったり儚げなイメージが似合う様な少年が私を見て言った。

 

「俺ァ別に悪いことしてないから掛かってねぇけど。まぁ悪いことしてもお姉様方にもみ消してもらえばいいだけだし♡」

 

 ドクズ発言をして次なる刺客を捌く方法を考える。

 

「ならいい。お前は金にならん。僕が動くだけ無駄だ」

 

 小綺麗な格好をした少年は腰に差し込んだカトラスに込めていた力を抜いた。

 

「……ふぅん、お前ホントにアホ面女に似てるんだな」

「誰が女顔だ」

 

 見逃されてる様なので脇を通り抜け、──咄嗟にしゃがんだ。

 

「ヒュウ! いい太刀筋だ」

 

 知らんけど! ロジャー海賊団の関係者なら多分才能はピカイチなんじゃないかな!

 

 そんなことを考えながら頭上を掠める不意打ちの一振を避け、手首を蹴り上げた。私の靴はおっもいぞ。肉体操作は出来ないけど、装飾品で操作イメージするから勢いも付くし。

 カランと音を鳴らし地面に剣が落ちる。私は振り返らずにぴょんぴょんとまた屋根に飛び乗った。

 

 

「いやー、思ってたより楽しいな」

 

 男のフリをするというか、自分とはまっっったく正反対の『性に緩く口も悪く人を傷つけることに忌避感のない最低の上から目線糞野郎』を演じるのは。

 口調はフェヒ爺を意識してるとは言え。

 

 ……こんな男が海軍大将になれるのだろうか。

 

 

「キャーーーーーッ!」

「うわああああ!」

 

 港の方からたくさんの悲鳴が聞こえてきた。

 反射的に視線をそちらに向けると、真っ黒な旗を掲げたドクロ。

 

「くそったれ」

 

 休暇のつもりだったんだけどなぁ!

 悪態を吐き出しながら駆けていく。東の海(イーストブルー)の海賊の質は平均的に低い方だから私でも対処出来ると信じているけれど、時々とんでもない化け物生み出す海域でもあるからな。ロジャー海賊団とか、麦わらの一味とか。

 

「ふはははは! 私はドラルーク! ドラキュラ海賊団の船長であ──」

「くたばれ」

「きょわああああ!?」

 

 変な悲鳴を上げながらだが必殺の飛び蹴りは避けられた。

 

「口上くらいはちゃんと言わせんか馬鹿め!」

「馬鹿はお前だ……。なんで隙だらけの口上を待たなきゃなんねぇんだよ。訓練やら模擬戦やらじゃあるまいし。海に出りゃこの世は殺し合いだろうが」

 

 吸血鬼野郎はホクロウみたいな顔で目を丸くしながら手のひらの上にポンと拳を置いた。

 

「納得ッ!」

「素直でよし。というわけで解散」

「はーい! お疲れ様でした!」

「もう来んなよー」

 

 片足に重心を傾け腕を組み、背を向ける海賊を見送──

 

「──じゃないわ! 私は女を調達しにきたんだ誰が帰るか!」

「チッ、流されねェか」

「ええい野郎には興味がない! 君がさっさと消えないか!」

「「「「きーえーろ! きーえーろー!」」」」

「あ、お前俺の事普通に男だと思うのか」

 

 さっきまでロジャー海賊団相手に女顔だとバカにされまくってた気がするから、ナチュラルな男扱いに感心する。

 

「え、だって君は私のドラルークくんが反応しないから」

「セクハラ撲滅」

「おぎゃーーーーー!?」

 

 それはそれでめちゃくちゃ腹立つから私は全力で蹴りの斬撃を飛ばした。

 

 嵐脚擬き。

 足を振り回すタイミングに合わせて風で切り付けるだけだけど。

 

「よっ、ホッ、よいしょおッ! つーかなんだよ吸血鬼海賊団って。よっこいしょッ! 日光に弱そうな名前しやがって」

「あぁぁぁぁ私の部下を片手間に退治しながら疑問をぶつけるな馬鹿野郎! 馬鹿か!? 君は男のプライドが無いのか!?」

 

 とりあえず一般市民を襲う船員を優先的に潰していく。脳震盪狙いの頭かち割り殴りや鳩尾辺りを狙って殴りかかっているから、1発で倒れ伏していった。

 私、鍛えた男と比べて腕力はそこまで無いから弱点を的確に狙う必要があるんだ。よっと、金的一丁! うーん、悶絶してるね。数多の人体の弱点狙って生きてきたけどソコがやっぱ効く気がする。

 

「ごたーい、ろくたーい」

「ばか、馬鹿ーー! 玉入れで入った玉の数を数えてるわけじゃないんだぞ貴様ーーーーーー!?」

 

 右からの攻撃上半身を下げて避けて不動であれ移動のタイミングで靴の操作、風の発生で嵐脚擬き。10時の方向に市民、5度ほど角度ずらして石投げ、意識逸らしで速攻行ってぶん殴り振り抜きついでに背後の敵角度70蹴り上げ。

 

「はーち、きゅー、じゅー」

 

 というかまだ10人目か!

 涼しい顔して倒しまくってるけど脳みそをフルで動かして最小限の肉体移動に留めている。もし顔面を動かしていいならめちゃくちゃ叫んだし眉間にシワよったから。

 

 視野を広く、そして狭く。考えるな考えろ!

 効率良く海賊を倒すために動きを考え続けろ思考を止めるな。

 

「オラッ!」

 

 私の背後から拳が生え、目の前にいた海賊を勢いよく吹き飛ばした。

 ……心臓縮むかと思った。

 

「捕まえた!」

「……はぁぁぁぁあ〜」

 

 麦わらの男が私の肩に手を置いてニッと笑っていた。

 

「というか通行人A、お前めっちゃ強いなぁ。──ますます仲間に欲しくなった」

 

 口元を手で隠して悪そーな笑みを浮かべる海賊王に、私はひくりと喉が小さな拒絶反応を起こす。

 多分だけどエースと顔面似てる。心臓に悪過ぎる。

 

 というかさ、私も殴ったけど筋力差的な問題で海賊王よりしょぼく見えるから殴らないで欲しい。銃でも使ってろ。

 力の海賊王と技の私。

 筋力ないから脳震盪起きるように殴るタイミングを筋肉が力を抜いた瞬間狙ってるし余裕あるなら微振動を起こしてるから一応、威力的には変わらないんだけど、うーん。

 

 見た目の強さ的な意味ではしょぼいな!

 

「しゃがめロジャー」

「えあっ!?」

 

 ロジャーの肩に手を着いてそこに重心を乗せ、飛び上がり海賊王の背後にいる敵を蹴り飛ばした。

 

「……キリがねぇな」

「カナエが来ない内にカタをつけたいんだけどなぁ」

 

 コイツがいるから身体能力だとごまかせない能力はあまり使いたくないな。

 

「おっ、坊主、これ借りるぜ……ッ!」

 

 自分より確実に年上の人を年下扱いするという年齢詐欺の無駄に手の込んだ無駄な手間を加え、適当な人物から武器を拝借した。ぎょっとした顔をされたけどアイテムボックス使うわけにはいかないんだ。ちゃんと返すから許して。

 私は海賊王が海賊を殴ってる所まで戻り、襟首引っ掴んで自分より後ろに下がらせる。

 

「〝神速(しんそく)〟」

 

 チキッと鯉口を鳴らし刀を鞘に納めるだけの簡単な動作。

 ただし、私は不思議色の覇気で前方の視界に存在する海賊全てを地に伏せさせた。敵の身体には切り傷。風で斬りつけたのだった。

 

「うっわ、凄……」

「飛ぶ斬撃の味はどーだよ」

 

 斬撃じゃないけど! 私がそんな視界に捉えられないほどのスピードで刀振るって斬撃飛ばすだなんて無理ー!

 海賊王に(おれ)の存在を強く印象付けるには矢張り圧倒的な強さが必要だ。己が敵わないと思う敵ほど、恩師ほど、記憶に残るものだ。

 

 正直不思議色の覇気を使っているから『切り傷で倒れ伏す』という結論は変わらないんだけど、能力者か非能力者のどちらが凄いかっていうと非能力者だよね。

 

 しかしまさか海賊王と共闘出来るとは。

 

「ん?」

「あ?」

 

 だけど、海賊王と私が同時に疑問符を浮かべた。

 

「は? あれ食らっときながら起き上がるかフツー」

 

 敵さんたちはゾンビの様に起き上がってきた。

 ひょえ……。威力不足が露見するから勘弁して……。

 

 というか体の動かし方もそうなんだけど、東の海(イーストブルー)の平均から大幅に実力が高い。自分の戦い方に集中力かなり使ったから、感覚的に偉大なる航路(グランドライン)前半の海賊。

 懸賞金2000万くらいかな。

 

「ふはははは! ようやく気付いたか馬鹿共め! 私たち吸血鬼海賊団はあの海の秘宝、悪魔の実の能力者がいるのだ!」

 

 船長の高笑いに私は心の中で納得する。

 よ、良かったー! 私の実力(はったり)不足とかじゃなくて!

 

「な、なんだってー!? あの一生お目にかかれない能力者を手にしてるのかー! なんてこったー、くそー、これじゃあ勝ち目はねー」

「A? A? どうした急に」

「ふはははは! そうだろうそうだろう!」

「諦めるしかないのかー、くそー、最期に聞かせてくれー。お前たちの能力は一体なんなんだー」

「ふはははは! いいだろう! 冥土の土産に教えてやる!」

 

 腹芸なんて出来ませんと顔面に書いてる海賊王がキュッと口を閉じた。

 ただ、敵海賊は普通に馬鹿なので調子に乗って高笑いをし続けた。あっ、むせてるむせてる。

 

「うぇ、ゲホゲホ。……ふはははは、我が海賊船には幻獣種と言われるめっちゃ珍しくって金になる能力者がいるのだ」

「うんうん、能力者がいるのは知ってるからどんな能力か教えて」

 

「見事に失敬だな君は。まぁいい……──ヒトヒトの実、モデル吸血鬼! この雑用の坊主は吸血することで眷属を増やしただの人間では敵わない回復能力と身体能力を兼ね備えた吸血鬼になるのだ!」

「へー」

「ただし日光には弱い」

「弱いならこんな日中に海賊行為をやるなお前……」

「馬鹿か君は! 夜中だといい女が出歩かないだろうが! 家に入ったらそれは最早強盗だぞ!」

 

 人攫いは良くて強盗はダメなのか。

 もうヤダコイツら濃い……。

 

「我ら吸血鬼は首を日輪を吸収した刃で斬らない限り永遠と不死身なのだ!」

「主君、別にお日様いりません」

「カッコつけさせろォヘイヴゥ!」

 

 雑用の少年のツッコミに船長がビシィと指さした。

 全体バフ系の能力者。だけど、まあ、うん、吸血鬼としての長って雑用の少年になるんじゃないかな。船長ただの眷属じゃん。

 

「はーーー、つまり」

「つまり?」

「つまり!」

 

 私が言葉を放つと吸血鬼達は首を傾げ、ロジャーは笑顔で結論を出した。

 

「──この子を気絶させれば海賊団は無力化するだろう」

 

 雑用の少年の後ろに回って手刀を繰り出したレイさんが、そう言葉を繋いだ。

 

「レイリー!」

「やあ通行人A。我らの船長に捕まったわけか」

「まぁな」

「無事カナエが来る前に片付いた様で何よりだ」

 

 さて、近距離にいるロジャー海賊団からどうやって逃げようかな。

 

 逃亡方法を考えながら刀を借りた男を探す。

 キョロキョロと白いフードの男を視界に捕えるために注意が疎かになっていたんだろう。集中力を使い果たして脳みそも上手く働かなかったのだろう。

 

「……!」

「……ッ!」

 

 曲がり角を覗こうとして顔を出すと、目的の人物では無いが見覚えのある男と顔を突き合わせることになった。

 丸い頭。眉間に寄った皺。大きな鼻。への字に固く結ばれた口。

 

 目と目が合うー。

 瞬間。

 

 

「ッッッッッッ!」

 

 回れ右してダッシュした。

 

 

「Aー!? どこに行っ……やべ、海兵か!」

「あ、あっ、ロジャー!! この騒ぎはまた貴様かー! 見つけたぞ!」

 

 追手は4人の下級地位海兵!

 やばいやばいやばいやばい!

 

「野郎共ー! 船に戻れー!」

「うははは! ロジャーのやつまたやらかしたぞ!」

「戻れ戻れー!」

「待たんか貴様らーーーーッ!」

「悪いなセンゴク、そこに残った海賊はよろしく頼むよ」

 

 必死こいて足を動かす。

 レイさんが朗らかに後片付けを押し付けた。

 

「あっ、ロジャー! そういや俺息子が産まれたぜー!」

「マジでか! 今度抱かせろよガープ!」

「「「お前ら敵同士!」」」

 

 海賊王が後ろ向きで走りながらニコニコと笑みを深める。

 

「おつるちゃん! 元気〜!?」

「元気よ、お前が元気じゃなければもっと元気なのにね……ッ!」

 

 先に乗り込んでいたカナエさんが両手を振った。

 

「あ、やべ、ゼファーのやつ力溜めてる」

「飛び付いて来るぞ急げ、出航だ出航!」

「──〝月歩……改〟ッ!」

 

──ドォンッ

 

 足先に爆弾でも込めてるんじゃないかと思うほどの爆発的な跳躍力。普通の月歩のように何回も空を蹴るのではなく超人的な1発の脚力。

 地面を砕き、進み始めた船に軽々と空中で追い付く。

 

「〝武装〟!」

「下士官が一丁前に六式と覇気使ってんじゃねェよ……ッ!」

 

 両腕を黒く染めた武装色で殴り掛かる。

 飛ぶ拳圧。大砲の様に、ルフィの機関銃(ガトリング)の様に降り注ぐ拳を避け。

 

 ゆっくりと足を動かして蹴った。

 

「〝不可避キック〟」

「「「「ネーミングセンス!」」」」

 

 船上の奴らから同時にツッコミが走り、上空にいた海兵を衝撃波で押し返した。

 

「うわぁ、名前はどうかと思うけどすげぇ」

 

 うるせいやい。

 白ひげさんのグラグラを皮膚に触れる場所で再現する衝撃脚。センゴクさん相手にやっても最初は全然効いた試しなかった。今普通に血反吐出させる威力になってるけど。

 

「はぁぁぁぁ逃げきれた……」

「心臓縮んだ」

「どこでも湧いてくるなアイツら」

 

 逃亡成功したことに安堵の息を皆が吐き出す。

 

「船底まで行ってる! おい誰か塞げ塞げ!」

「竜骨は!?」

「そっちは無事!」

「つーかカナエは竜骨知ってるのに塞ぎ方すら知らねぇのかよ!」

「ロジャー入ってきた海水飲み干せ!」

「よしきた」

「「やめんか!」」

 

 若い頃のセンゴクさんとおつるさんとジジと、あの黒腕のゼファー先生。

 まさかまさかの連続で驚きっぱなしだけど、精神的にすごい重症を負った。

 

 

「……アッ! やましいこと何も無いから逃げなくていいじゃねぇか!」

「今気づいたのか通行人A」

「ようこそロジャー海賊団へ!」

「あぁぁぁしくじった流れで乗っちまった……! クソッタレ……!」

 

 思わず頭を抱える。バタバタと船の修繕を急ぐ音も次第になくなり、後悔しまくっていた私に影が差し込んだ。見上げるとニッカリと笑った海賊王がそこに。

 

「改めて、俺は船長のゴール・D・ロジャー! こっちは副船長のシルバーズ・レイリー!」

 

 ええ、存じ上げております。

 

「んであっちがシラヌイ・カナエで、あっちがスコッパー・ギャバン、それとあっちがタロウで、こっちがエリオ」

 

 ええ、半分くらいは存じ上げております。

 

「それとこいつはディグティター・グラッタ」

 

 ええ、存じ上げておりま……。

 

「…………ディグティター?」

 

 名前の羅列に顔を上げる。

 そこに居たのは路地裏で見逃すフリして躊躇なく首狙ってた小綺麗な少年だった。

 

「……ッ、僕に関わるな」

「え、は?」

 

 僕? え、ディグティター・グラッタってフェヒ爺の本名だったよね。

 え、フェヒ爺が、僕とか使ってんの?マジで?

 

 口に手を当てて下を向く。OK、笑うなよ私。

 あまりにも記憶と違いすぎてギャップ半端なくて幸薄そうな僕っ子少年でも笑うなよ私。

 

 下を向くと自然と視線がそれを見た。

 私が借りた刀を。

 

 

 ──鬼徹でした。

 

「………………グラッタ、、これやるよ」

 

 呪われし刀は本来の歴史の持ち主にぶん投げた。果たして鬼徹はフェヒ爺が元から奪ったのか、奪われたものを譲られたのか分からないが、まあ結論としては変わらないからもういい。これ以上深く考えるのは責任とかで胃がひきちぎれるからもういい。

 

「わ、ととと……」

「それで通行人A。ロジャーはお前が欲しいみたいだし、お前は船から降りられないし、どうする?」

 

「……チッ、飽きたら降りるからな」

 

「よっしゃー!」

 

 ガッツポーズをして、心から喜ぶ姿を見せる海賊王。いつ転移の時がやってくるか分からないので、ここに風来坊やら天邪鬼やらの設定も付随させておく。もう一度ため息を吐き出すも、まだ衝撃は終わらなかった。ロジャーは名案だ、と言いたげな表情をして。私に追加ダメージを与えてくるの。さすがは海賊王。殺したい。

 

 

 

「通行人A、お前今日からエースな!」

 

 ガツンと頭を殴られた気分になる。

 フラフラと甲板の縁に手を置き、大きく息を吸う。嗚呼、頭がズキズキと痛む。胃も痛い。吐血をしたい。でもそれは我慢しなくてはならない。

 

 

 

「──あのッックソ野郎ーーーーーーーーーーッ!!!」

 

 

 小さくなっていくミラーボール島に向け、かつてないほどのセンゴクさんへの恨みを思いっきり吐き出した。

 




ロジャー船長お誕生日おめでとうございました(31日)
そしてエースお誕生日おめでとうございます(1日)

アンドハッビーニューイヤー!あけましたおめでとうございます。
はい、というわけでエースくん(古い奴)の誕生です。
バリバリ伏線回収してくぜ〜〜〜〜!


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第243話 仏の顔も三度まで

 

 ロジャー海賊団の船が消えました。

 一言で完結する経緯と、一言で解決しない現状。

 

 偉大なる航路(グランドライン)の入口、双子岬で途方に暮れていた。

 

「ロジャー、お前は最高だよ」

「………………はい」

東の海(イーストブルー)が地元だとしても冒険したい気持ちはわかる。なんせ知らねぇ島は沢山あるもんな」

「………………はい」

「補充もままならねぇまま海軍の犬っころ4匹に追われるのは最高にクレイジーだ」

「………………はい」

「そんな物資も余裕も最高に不足した俺たちに待ち受けていたのは栗坊主の船ごとあばよ事件」

「………………ちょっとネーミングセンスが無」

「ゴール・D・ロジャー?」

「ナンデモナイデス」

 

 私はもう頭と胃が痛くなるから深く考えるのをやめた。

 (おれ)は楽しいことを優先的に考える。

 

 やや説教臭くなってしまったが、心の中のリィンがコイツをどつき回せって言っているから後で海水に沈めるとして。いや、レイさんが鞭を片手に素晴らしい笑顔を浮かべてるから楽しい調教……ゲフンゲフン、教育の時間がやってくるのだろう。

 世の中には知らなくていい事が沢山あるので。

 

 とにかく!

 私はロジャー海賊団に引っ捕まり、無事偉大なる航路(グランドライン)入りしたのだがまぁエキセントリックな一味だ。まともに入れる訳もなく。クジラに飲み込まれる、なんてアホな事件は起きなかったが子クジラと戯れている隙にフェヒ爺が物資(仮)を乗せ船ごとさよならしてしまったのだった。

 物資(仮)、というのも海賊団襲って宝石金銀手に入れた。のはいいのだが、それを換金して食料やらの必需品にする前にセンゴクさん達に追いかけ回されるから。金銀財産も使えなきゃただのゴミ。

 

「でもだって、エースだって俺と一緒に足元すくわれた仲じゃん」

 

 ロジャーの言葉に私は鼻で笑う。

 私は何をしていたか、だって?

 

 ──悠々と傍観していた……!(ドーン)

 

「いや気付いていたが?」

「気付いてたのかよ!」

「俺は面白そうだから傍観した。わざわざつまんねぇことするかよ」

 

 うそです気付いてませんでした。

 正確に言うと途中で気付いていたんだけど、(おれ)が途中で気付く、なんて強者らしくないから『気付いたけど気付いてないフリ』の演技で余裕綽々してました。

 

 私が未熟でミスったとしても愉快犯の(おれ)はわざとミスったってことになる。誰にも分かるまい私のハッタリを……!

 

 

 あ、ただしセンゴクさん達相手は全力で気付き次第逃げさせてもらったが。初回以降エンカウントしてないぜ!

 ──……まあ、顔を突き合わせてないだけであって目眩しに全力注いだから、うん、被害は盛大に行ってたと思う。数十年先に謝っておく、ごめん。

 

「というか、カナエはさほど焦ってないな」

 

 レイさんがカナエさんに顔を向ける。

 彼女は未だにクジラと歌って踊って遊んでいた。

 

「緊張感のないヤツめ。本物のアホとはこういうヤツのことを言うんだな」

 

 口が非常に悪くカナエさんの評価は厳しめだが、その実、表情は優しい。カナエさんはあまりにも善で光だ。たとえ周囲に及ぶ影響が善でなくても。強い光は焦がれる。レイさんは眩しげに目が細めていた。

 ロジャーが思わずと言った感じで私の肩にもたれかかる。

 

「おやおやおや?」

「あー……おやおや」

 

 どうやら朴念仁という訳でもなく、そこに秘められた感情を敏感に感じ取ったご様子。

 

「……なんだロジャー、とエース。その気色悪い顔は」

「「いいやなんでもー」」

 

 営業スマイルを浮かべる私に対してロジャーの笑顔は愉快だと言わんばかりの笑顔。その態度が不服だったのかレイさんは吐き捨てるような舌打ちをした。

 

「歴史ってのはさー。早々変わらないもんなんだよね」

 

 カナエさんが唐突に話かけるのでレイさんは面白いくらい肩をビクつかせた。

 クジラ──ラブーンの上で寝そべっていた彼女は視線をこちら。具体的にはロジャーに向ける。

 

「歴史の強制力っていうの〜? だから、なるようにしかならないんだよ。力技で無理矢理変えない限り。多分、それこそ命をかけない限り。大丈夫大丈夫、少なくともコレでロジャーやレイリーが死ぬようなことにはなんないから。なるようになる!」

 

 頑張るぞー、なんて気の抜ける雄叫びを上げながらカナエさんはケラケラと笑う。

 予知の使い手、シラヌイ・カナエ。

 ぶっちゃけ私が知っている情報なんてこの程度だ。

 

 予知なんて言う歴史で何を見たのか。エースが死ぬ未来を、貴女はこの時期からずっと見ていたのか。

 

「……なんて楽観視だお前は」

 

 彼女の言葉の真意を真剣に考えすぎている私に対し、レイさんは呆れたようなため息を吐いた。

 なぁ、と耳元で()()()の声がした。

 

「どう思うよエース」

 

 あ、違った。ロジャーだった。

 それで私の方がエースだった。紛らわしいな! 声が似ているんだよ声が! シバキ倒すぞ!

 

「ほの字に6480万ベリー」

「大雑把なのか具体的なのかわからんな。じゃあいつくっつくと思う?俺は10年以上20年以内に500ベリー」

「1発ぶち当てるだけで関係が終わるに55億ベリー」

「なんでそんなに色々具体的なんだお前」

 

 生き証人がここにいるからだよ。

 賭け事なんて勝ち確のお遊びをこっそりしていたが、レイさんのロジャーを呼ぶ声で中断された。

 

「クロッカスが船を貸してくれるらしいぞ」

「まじかー! ありがとうクロッカス!」

「船はまあいいんだが、お前たちあの男が逃げた先が分かるのか?」

 

 若かりし頃のクロッカスさんが首を傾げた。

 すると何故か言ってる意味が分からないとばかりに全員首を傾げる。まあ私とカナエさん以外なんだけど。

 

「えっと、ろぐぽーす? だっけ。それ持ってたら進む島の方向分かるんだろ?」

 

 私の肩に体重かけてた野郎の顎を躊躇なくどついた。

 

「ボギャン!?」

 

 下から顎に掌底喰らわせたので間違いなく舌は噛んだだろう。脳震盪まで行ってないのが悔しい限りだ。体は頑丈だなコイツ。

 まさかとは思うけどこの人、針路がひとつしかないと思ってる?

 

「それは偉大なる航路(グランドライン)前半の話だ馬鹿」

「ここ、双子岬から選べる航路が7つあるんだよ」

「そもそも永久指針(エターナルポース)持ってたらどうなるんだって話だが」

 

 上から私、カナエさん、クロッカスさんの言葉だ。

 私地図は読めるが海図は読めないのであまり航海の知識は入れてないんだけど、間違いなく方向だけで渡れるほどここは優しくなかったよ。船酔い的な意味で。

 

 ところで手首に船酔い防止のツボがあるの知ってる?

 うん、跡になるけど内側に突起があるブレスレットとかで押さえ続けるんだ。

 

 ……つまりそういうこと。

 

 それでもマシになる程度なんだけどね。

 

「か、カナエさまーーーーーッ!!!」

 

 ロジャー達は皆、カナエさんに向けて拝み始めた。

 困惑したような表情で数歩下がるカナエさん。気持ちは分かる。

 

「予知の力で何卒、何卒ー!」

「え、えぇ……。私この時代詳しくないのに……。クロッカス君……、航路候補の指針7つある?」

「あ、あぁ」

 

 クロッカスさんが名前を書き出していく。

 彼女の予知が、目の前で見られるのか…………!

 

 

「──うん、ウイスキーピークじゃないことしかわからん!」

 

 ずっこけた。

 

 お、思ったよりしょぼいというか、私もルフィ達と行ったことあるから知ってる。私の方が詳しいじゃん。

 

「ダメだって。私の予知はかなり限定されてるんだからー!」

「使えねぇ!」

「ロジャーよりは使えますぅ!」

 

 はぁ。ダメだこいつら。動いてもいいか分からないけど、カナエさんの言う歴史の強制力っていうのを信じよう。私が適当に動いてもなるようになる。

 私はペンを持ち出して、ウイスキーピークの名前を消す。そして端から順番にあるひとつを除いて、消していく。

 

「え?」

「んお?」

「……エース、ここが?」

「見るからにヤバそうな名前なんですけどぉ」

 

 書かれた名前はパネーナ島、トラジディー()()

 

「根拠は?」

 

 フェヒ爺の故郷ですし、と素直に言えればいいが私なんでもない顔をして答えた。

 

「ディグティター・グラッタだろ。あの栗坊主の名前。ディグティターつったらこの帝国しかねぇだろうが」

 

 だけど内心バックバクである。

 フェヒ爺の実家。実はめちゃくちゃヤベぇのでは、と。

 

 私の生きていた時代は基本的に王国ばかりだ。

 帝国とは規模が違いすぎる。

 

 王国は王様を君主としてひとつの口をまとめあげている国の事を指す。

 

 では帝国は?

 

 ──答えは、ひとつの国に飽き足らず他の国を植民地化して支配した大規模な元締の国である。

 

 これが支配ではなく協力や協定なら共和国とかになったのに……!

 

「帝国の一族か……」

「ロジャー……お前ってやつはどうしてそう厄介なやつを惹きつけるんだ……」

 

 レイさんが呆れたようなため息を吐いた。

 後の世で冥王と恐れられる男も、経験値の足りない青年だとただ船長の生まれた星を嘆くしか出来ない副船長なんだね。

 

 まあもちろんというか、彼らロジャー海賊団はごく当たり前にフェヒ爺を追い掛けることになったのだったが。

 

 

 

 というか、マジで元の時代に帰ったら1発と言わず何度でもぶん殴るからなフェヒ爺。お前の実家王国じゃないのかよ。

 

 

 ==========

 

 

 

「いやー着いた着いた! クロッカスが船貸してくれて助かったぜ!」

 

 ケラケラと楽しそうに笑うロジャーの後ろで死屍累々のロジャー海賊団。

 

「死ぬかと思った」

「めっちゃ疲れた」

「あの麦わら絶対殺す……」

「うえぇキモ冷やした……」

 

 偉大なる航路(グランドライン)のふるい落としで精も根も尽き果てた彼らなんて知らぬ存ぜぬ。ロジャーは残った人間の中で唯一ケロッとしている私と肩を組んだ。

 

 レイさんとカナエさん、それとバンさんことスコッパー・ギャバンに絡むのはあまりにも危ない、し、凄く気まずいので自然とロジャーに絡むことになってしまうのは仕方ないんだけど。私今ひじょーーに船に酔ってるから体を揺らさないで欲しい。

 

「エース。キミなぁ、少しは手伝えよ」

「やだよめんどくせぇ。島特定してやったんだから充分貢献してんだろォ?」

 

 私は完全に麦わらの一味で言うゾロさんな感じで寝こけていた。あんな大揺れで寝れるはずもないが。個人的にどんなところでも寝れる人って大物だと思う。

 そう、絶対的に、私はこのエースくんを! はったりで! 大物にしなければならないんだ! 中身が小心者なんて悟らせないように!

 

「それにしてもまぁー。岩だな」

「岩山だな」

「断崖絶壁感すごいな」

 

 なー。と顔を合わせてるロジャー海賊団の前で見上げるトラジディー帝国。

 そう、いわば山。

 というか、岩。

 正しく岩山。

 

 例えるならドラム王国のあの垂直の山がもっとゴツゴツして刺々しくなった山が何本も生えまくっている感じ。というか、ぶっちゃけ平地が見当たらない。

 

 ここ、ホントに帝国ですか?

 他の国を植民地化するほどの武力をお持ちなのですか?

 

 しかもここ、冬島じゃん。雪の降らないタイプの寒冷地。

 いくつもの山の隙間を通る強い風が吹き荒れ、雲が飛ぶから降雪がない。つまり雨もない。普通なら人どころか動物すら住めないよ。

 

「──なんだ貴様ら」

 

 警備の仕事をしていただろう男達が武器を手に私たちの前に立ち塞がる。

 服装は青銅を繋ぎ合わせたであろう時代遅れの鎧。赤青緑といった染色が結構ガッツリ入っている服の上に着てるのかな。あ、違う、時代遅れじゃなくてここがその時代なのか。兵馬俑(へいばよう)って感じ。この地形に馬があるのかはさておき。

 

 どうする? と言いたげにロジャー海賊団は視線を合わせた。

 

「あのさお兄さん達ー! グラッタってやつ知らない〜?」

 

 緊張感も何も無くカナエさんが声を出した。

 この人たち交渉とかしないタイプの海賊団か。察してたけど。察していたけど!

 

 麦わらの一味はナミさんやウソップさんが基本的にビビり散らかしているし、航海士のパワーバランスが強いから比較的慎重派だったんだろうな。うん、よその海賊とじゃない、ロジャー海賊団との比較だ。極論がすぎる。

 

「グラッタ、グラッタなぁ……?」

 

 警備の男は、耐えきれない! と言わんばかりに吹き出した。

 

「ガッハッハッ! あの出来損ないならテメェらには会わねぇよ!」

「……なんだと」

「精々あの男に騙された奴らだろうが。運が悪かった」

 

 そんな風に小馬鹿にする男達(※複数形)だったが。

 

「──よし、全滅したな!」

 

 当然の話だが、未来の海賊王の前に為す術もない。1人残らず倒れ伏した。

 この辺物騒で困っちゃいますよねー。

 

 いやしかし呆気なかったのか圧倒的だったのか。みごっとにどっちかわからんな。

 ミラーボール島で出会った吸血鬼海賊団の方がまだ強かった。

 

「なんちゅーかどうちゅーか。この国あれだ。ワノ国の他国バージョンというか、シンコクというか」

 

 カナエさんがムムムと悩みながら首を傾げている。インペルダウンで学んだことはカナエさんの発言は意味があるけど真剣に受け止め過ぎると軽率に胃がやられるということ。過去から学べる良い子の私は深く考えないでおこうと思います。

 

「…………まさか警備隊のヤツらを倒せる海賊がいるとは」

 

 岩陰から先程の警備達よりボロボロの服を着た男がピッケルを手にして、こちらを警戒していた。

 

「聞こう。グラッタ()に何の用だ」

「俺はよー、グラッタに船返して欲しいだけなんだよ船! ボロいけど! あと宝! ついでに俺の麦わら帽子! 船に置きっぱなんだよな!」

「船と財宝の後に出てくるのが麦わら帽子なのか……」

 

 呆れた様子の男は首を静かに横に振った。

 

「船はここから反対側の船着場に置いてある。が、中の財宝はないだろう」

「……我々はこの島を一周まわったが、反対側に船が置けるような波止場も、そもそも船影すらなかった。嘘をつくんじゃない」

「嘘ではない」

 

 たしかに、レイさんの言うことは正しい。私たちはゴツゴツと岩場が連なるこの島の周囲をぐるっと回って見たが、基本的に浅瀬だからか波が激しく船が置けるような場所はなかった。

 

 間髪入れずに答えた男。

 私は組んでいた手を解いて、ようやく口を開いた。

 

「今が満潮だから船着場がねェのか」

「…………!」

 

 ギョッと目を見開いた男の反応で、私はこの予想が当たりだと言うことを確信した。

 

 ヒントはナバロン。

 

 海図が読めずとも、満潮の時間帯でさえ船が通れるか通れないかギリギリの浅瀬。引き潮の時は海すら消えるのだろう。

 そんな環境で他国との交流をどうしているんだって話。

 この岩山ばかりの島で産業が盛んに行われているとも思えない。自給自足なんて夢のまた夢だろう。

 

 だったら、帝国と呼ばれるほどの武力国家であれば。

 攻められにくく、攻めやすい。そんな地形の利があるはず。

 

「お、驚いたな。この国の出身……ではなさそうだな」

「当たり前だ。てめぇらみたいな服装の趣味はねーよ」

 

 アラバスタやワノ国のような地形や歴史に基づいた結構独特な服装をしたこの国だ。過去の経験から言わせてもらうと、こういう目立つ民族衣装をお持ちの国は厄介事の匂いしかしないという。

 

 船番でもしてようかな……。

 

「──お前たちはグラッタ様とどう言った関係だ」

「友達!」

 

 騙されたはずなのに、裏切られたはずなのに。そんなことを微塵も感じさせない毒気を抜かれるような笑みを浮かべたロジャーが即答した。

 

 

「…………こちらだ、着いてきてくれ」

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

 男に案内された先は地下だった。レールが敷かれたあまりにもお粗末な、崩落の危険すらありそうな地下。

 途中で岩を運んでいるトロッコとすれ違ったが、それを押している人間を囚人と間違えるほどボロボロの布を纏っていた。

 

「ああリーダー、おかえりなさい。彼らが周辺を回ってた船の」

「その通りだ。グラッタ様のご友人らしい」

「ははっ、そりゃいい!」

 

 地下のある程度広い場所。机やら飲み物がある所を見るとこの国の人達の居住スペースらしい。はたまた男とすれ違ったが、海岸であった警備の男とは違う、親のような表情で笑っていた。

 ふぅん、グラッタ様は中々に人望があるご様子で。

 

「さて、何から話そうか」

 

 適当な場所に腰掛ければ、案内してくれたリーダーと呼ばれている男が手を組んだ。

 

「まずは自己紹介だな。俺はペーター。労働者のリーダーをしている」

「俺はグラッタの友達のロジャーだ! よろしく頼むよ」

「私はグラッタのお友達2号!」

「じゃあ私はグラッタの飼い主だな」

「え、じゃあ俺グラッタのマブ」

「なら俺は〜、グラッタの酒飲み仲間でどうよ」

 

 緊張感を東の海(イーストブルー)に置いてきたのか貴様ら。

 

「それでリーダーくん。この国はどうなってやがる?」

 

 脱線しそうな勢いだと麦わらの一味で学んだ私は早速本題を出した。

 いやー、麦わらの一味で学んだことがこんなにも役立つだなんて。嬉しいどころかむしろなんか腹立ってきた。手違いでぶん殴りそう。

 

「そうだな、まず、この国の地形から話そう。この国は見てわかる通り岩山しかなく、元々地形はドーナッツの形をしていた」

 

 ペーターが話すには、潮の満ち干きで変わる土地の面積はコツコツと岩山削って海底に沈めていった結果らしい。言わゆる埋め立て地、だね。

 そして山岳にはぐるっと一周、外海に向けて見張り用の城壁があるらしい。

 

「島の中心、ちょうどドーナッツの穴の部分。そこにこの国の王や貴族──通称、支配者が住む海上首都がある。要するに海の上にある街だ」

「周囲は岩山、島に入れるのは満潮か干潮のどちらか。ただし満潮時はキャラヴェル船程度の船底でしか渡れないというわけだな。それは確かに攻め込まれにくい」

 

 成程。

 下手をするとナバロンよりも強固だ。ナバロンの場合土地がお利口さん過ぎるから、登ろうと思えば登れるし、逃げようと思えば逃げれる。この国の場合別だな。

 

「この国の民は俺たちの様に淡々と岩山を削り奴隷の様に働かされる労働者が殆どだ。ついでに、始まりの島に相応しいほど続々やってくる海賊もな」

 

 ここを始まりの島に選んだロジャー海賊団は苦笑いを浮かべた。私達も警備兵に勝てなかったら膨大な武力を前に奴隷となったのだろう。

 

 この帝国、武力はどこにあるのかと思ったが。

 頭だな。

 

 この岩山は削るのにとてもパワーが必要だろう。ピッケルがかなり質のいいモノを使っている点から並大抵の武器より硬い。加工が難しいだろうが、この時代の銃技術であれば、大雑把な球の大きさでも放てるから数の暴力で武になるはず。もちろん剣にも槍にも、武器加工し放題だ。

 

 それもこれも全て頭がなければ使えなかっただろう。この国が何代目なのか分からないが、これは中々に厄介な国だね。

 

 出来れば十数代目であります様に。先代の恩恵にあやかっているだけの、座っているだけの皇帝であります様に……!

 

「この帝国の皇帝陛下は協定関係にあった周辺の国を有り余る才で丸ごと支配し、食糧問題も解決してしまった」

 

 私の祈りは無駄な時間へとなった。さよなら、無駄な祈り。

 現在の皇帝がヤバいやつでファイナルアンサー。

 

「──疲弊した我々にも救いはある」

 

 演説に熱の入ったペーターがバンッと机を叩いた。

 

「グラッタ様だ」

 

 ディグティター・グラッタは現皇帝の長男。肩書きだけ見れば圧倒的に恨みを買うポジションにいるけど……。

 

「皇帝は言ったのだ。この国を、100億で売ると」

「ひゃくお……!」

 

 私の全財産の2倍くらいかな!

 ……これ個人で集められる金額じゃねーよ馬鹿じゃねーの。

 

 まあ天竜人だと端金だけどね!(血涙)

 

「ああなるほどな。それで栗坊主が国民解放のために金を集めてるわけだ」

「そういうことだ!」

 

 私がさっさと結論を出すと身を乗り出して肯定してきた。

 なんというか、ナミさんみたいなやり方だな。問題はフェヒ爺がナミさんよりめちゃくちゃ強いから賞金稼ぎとして金稼ぎも出来るっていう事。

 フェヒ爺が現在16歳であることを考えれば、多分十数億は稼げているのかな。

 

 今更だけどカナエさんが18でフェヒ爺16ってことを知って仰天している。

 フェヒ爺の方が年下だったのか…………。

 

「国の内部のことだろうに詳しいな」

「まぁ、俺は元警護隊の部隊長を務めていたしな……。この国のやり方に、そしてグラッタ様ただ1人に背負わせることが出来ず、労働者落ちだ」

 

 やれやれと肩を竦め、嘆くペーター。

 

「ッ」

 

 背筋にぞわりと何かが走る感覚……!

 殺気ではない、怒気でもない、これは、これは!

 

 過去の経験でめちゃくちゃ追いかけられた気配(トラウマ)

 

「──おい、お前ら」

 

 モグラ穴みたいな地下の、ひとつの通路からガヤガヤと労働者の喜ぶような声が聞こえてきた。

 

 私はロジャー海賊団にニンマリ笑いながら声をかける。

 

「隠れるぞ」

 

 

 

 

 

 

「戻られましたかグラッタ様!」

「ああ、ペーターもご苦労」

「いえ……。我々が今を生きられるのもグラッタ様のおかけです」

「グラッタ様! 僕ね、今日は20キロも掘れたんだよ!」

「ふふっ、やるじゃないか。無理しない程度に頑張るんだぞ」

「グラッタ様、本日でようやく虎の山が3分の2になりました。このまま行けば50年後には全ての山岳を切り崩せることが出来るでしょう」

「……苦労をかけてすまないな。僕にもっと力があれば、あいつらに好きにさせないし、お金だって早く集められるのに……」

「いいのです。グラッタ様が労働者に分け隔てなく1人の人間として接してくださることが、何より……」

 

 

 そんな和気あいあいとした労働者とフェヒ爺の様子を見て。

 

「あんっっな船の上ではツンツンツンツンデレみたいな顔しときながら」

「ぶくっ、ふ、ブブッ、んふふ」

「いやー、慈愛に満ちたオウジサマ、似合わねぇな」

「んひゃひゃひゃ!あー、おっかしい」

 

 ロジャー海賊団は性格が悪いので隠れた状態でめちゃくちゃ笑っていた。

 

 いやでも私の記憶にある性悪鬼畜糞栗色フェヒ爺から想像が出来ない。

 王族なのは知っていたけど、こんな、民に等しく(笑)慈愛に満ち(笑)ご立派(笑)な王族だとは。

 

「ところでグラッタ様」

「ん?」

「お友達が来ておりますが」

「…………は? 友達? そんなの僕にいな」

 

 フェヒ爺が言いかけた状態でピタリと止まる。ペーターの視線が隠れている私たちに向いていたからだ。

 まるで壊れたブリキのおもちゃのようにギギギギと錆び付いた首で振り返る。

 

 顔を出したロジャー海賊団はニッコリ笑って手を振った。

 

「…………なっ、なんでいるんだ!!」

「避けろ避けろ!」

「ガチギレじゃん」

 

 刀の使い方を知らないのか適当にブンブンぶん回すフェヒ爺。刀は想像より脆いんだから扱いには気を付けないと。

 私はこの中で1番動けないカナエさんの襟首を引っ張った。

 

「おりょ?」

「あれ、妖刀。その位置に立ってたら斬られるぞ。──おいこら栗頭! 刀を雑に扱うな!」

「うるさいな! 子供は黙ってろ!」

 

 問答無用で蹴り倒した。

 

「……──誰が女顔のキュートなガキだって?」

「誰もそんなことは言ってないと思うが」

 

 地面で手足をばたつかせているフェヒ爺の上に岩を抱えて座った状態の私が、ロジャーを見た。

 

「先に言っとく」

 

 この後の行動を予感していた私は念押しで脅しをかけた。

 

「国を、そして世界を敵に回すことは、今後のためにならないのは確かだ」

「おう」

「この世界はクソッタレだ。偉けりゃ正しい、それはお前みたいな海賊とは真逆に存在する正しさだ。お前はまだまだ弱い。そりゃ、強くはなるだろうが現時点では下から数える方が早いくらいには弱いよ」

 

 足を組んで腕も組む。彼は、ルフィでは無い。十分大人だ。

 

「苦しくて、辛くて、どうしようもなくて、理不尽で、不条理で。避けたい未来は変えられず、全てに置いて意味が無い。そんな死がお前に降りかかる。いつ何時も、休む暇なく」

 

 麦わらの一味は、苦しんだ。

 世界の正しさに、越えられない壁に。

 

「この道を進まなければ、お前は可愛い嫁さん手に入れて可愛くて生意気な息子でも腕に抱いて、海軍の犬っころ達と友人になって、誰も泣かせることなくなんてことない幸せな死を迎えることになるかもしれない」

 

 お前が、海賊王になんてなったせいで。ルージュさんは死んで、エースも死んで、フランキーさんの師匠も死んで、いくつもの命を無意味に散らせた。お前が『海賊王』なんて称号を手に入れたければ、私の時代はもっと平和だったのかもしれない。

 

 救われる者あれば、失う者もいる。世の中は白黒つけられないけど、嘆きたくなる裏表がある。

 

「なぁ『D』、お前ならどうする」

「決まってんだろ、『A』」

 

 エースのような顔をしているくせに、ルフィのような笑い顔で言い放った。

 

「正しさの前に頭下げて、強きの前に膝ついて、どでけぇ壁に足止めるくらいなら」

 

 私の歴史に伝わる海賊王の一味が壊した国。

 

 

「──俺は海賊をやってねェよ」

 

 偉大なる王は言った。

 この国を壊す、と。

 




この時代に永久指針やら記録指針やらがあるのかちょっと調べきれなかったので物語を円滑に進めるためにあることにしました。
ちなみにサブタイトル仏の顔も三度までですけど、東の海で対峙した回数は優に三度を超えます。つまりそういうこと。


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第244話 生は難く死は易し

 

 

 不知火叶夢(しらぬいかなえ)には、叶えたい夢がある。

 

 

「火拳のエースを生かす」

 

 

 たったそれだけのシンプルで最高に難易度の高い願いだ。

 

 

 

 叶夢は高校生だった。

 現代社会日本で、学校帰りに買い食いをしバイトをしてお金を貯めてみんなと遊びに出て、それでサボったツケにテストで順位を落としてしまい親に叱られる。友達がいて、親友がいて、行きつけのカフェもあって、いつも幸せだからニコニコと笑っている。

 

 とても普通だった。

 

 

 切っ掛けは気まぐれだった。

 親友と遊ぶはずだった予定も無くなった、火曜日の放課後。

 

 ふらり立寄ったのは黒魔術なんて書かれた不思議な店だった。赤はまだしも黒なんてあまり耳にしたことなく、惹かれた。

 中はまあとんでもなくインチキ臭かったので何も買わずに出たのだが。

 

 出た先の景色が違っていたのだった。

 

 簡潔に言えば異世界トリップ。

 それがシラヌイ・カナエが、海賊の世界に現れた原因である。なんてことない、普通にテンプレートに基づいた異世界転移。

 

 その場所がローグタウンだと知れば叶夢は麦わらの一味が現れるその日まで待っているつもりであった。だって目的を果たすなら彼らを待つ方が確実だもの。

 

 

 

 彼女がまだ小学生であった頃。

 コンビニがまだ立ち読み可能な時期だ。親に連れられ立ち寄った時に読んだ漫画はエース死亡のシーンだった。

 

 悔しかった。

 漠然とした形で胸に溢れ出て来た感情はソレだった。

 

 

 そんなある意味トラウマとなった異世界に転移してほとんどの者が思うのは原作改変だろう。

 彼女、叶夢も例に漏れずそうだった。

 

 

 叶夢の周りでは死が溢れていた。

 1番酷く印象に残っているのは目の前で起こった交通事故だった。居眠り運転、よくある話だ。

 早朝、武道を習っていた叶夢は日課の走り込みでソレを目撃したのだった。多分、誰よりも居眠り運転に早く気付いていた。

 

 彼女がなろう系の主人公なら、轢かれる人を庇って犠牲になった。

 彼女が二次創作の主人公なら、犠牲になるのは最初から彼女だった。

 

 しかし彼女はただの通行人A(ぼうかんしゃ)でしか無かった。

 

 走って、大声を上げて、手を伸ばしても。驚き僅かに躊躇したコンマ数秒のせいで。届きはしなかった。

 知っていたのに。気付いていたのに。

 

 目の前で轢かれる人の血飛沫がポタリと顔に跳ねた。

 ただの知らない人であればまだ良かった、その轢かれた人物は叶夢が幼い頃、兄の様に面倒を見てくれた人物であった。

 

 

 兄を目の前で失ったルフィの気持ちが痛いほど分かる。……分かってしまう。

 

 

 名も無き傍観者は仕組まれた様な奇跡を目の前にして、奇しくも手に入れたこの2度目の人生で、ワンピースという世界に、爪痕を残してやろう。そう誓った。

 

 過去の自分(しゅじんこう)を救うために。

 

 

 

 ==========

 

 

 

「……まぁ、まさか予想よりも遥か昔だとは思っても見なかったけどねー」

「ん?何か言ったか?」

「なぁーんでもー」

 

 カナエさんがヘラッと笑いながら手を振った。

 

「手を振る暇あったら手ェ動かせ」

「飽きるんだけど鍵開け作業〜! ねぇエース一気に出来ないかなーー!?」

「……………………」

「ねぇなんで今めちゃくちゃ悩んでるの????」

 

 

 トラジティー帝国に反旗を翻す。

 海賊王が出した結論はコレで、皇帝陛下をぶん殴りに真っ先に飛び出したのもロジャーだ。

 

 残された私たちと、ついでに労働者はフォローに走るしかない。

 

 ひとまず副船長であるレイさんと、労働者のリーダーであるペーターが話し合って、私とあとついでにカナエさんは奴隷として働かされている海賊の解放に向かったのだった。

 

 気まずいったらありゃしない。

 

 多少の違いはあれどテンション自体は昔から全然様子は変わってないし、なんだったらレイさん直々に『カナエを戦場に近付かせないでくれ』とガチな目で頼まれてしまった。過保護な所も変わらないし戦場引っ掻き回すのも変わらないってか。

 

 ……カナエさんは正直そこそこ強い。

 ロジャーやレイさんと比べると当然弱っちょろいのだけれど、柔術を習っていたのか型がある。

 

 というか、そこそこ弱さを自覚している実力者だから変に戦場引っ掻き回すんだろう。自重しろ。

 私が目撃しただけでも、粉塵爆発起こしやがったからね。思考回路が最早テロ。

 

 

「あ、ありがとうごぜぇやす」

 

 ぞろぞろ解放した海賊は劣悪な環境からか大分やせ細っているし傷だらけ。挙句風呂に入ってないからか汗臭いゴミみたいな臭いがする。

 リィンなら気にしないで、ってニコニコ笑顔で愛想振りまくけど、(おれ)は感情を素直に出すつもりでいるので普通に鼻をつまんだ。

 

「これで全員か」

「ウッス! ほんとにありがとうごぜぇやす姉貴達!」

「あ゛?」

 

 海賊は頭を下げた。何故か、私に姉貴と言いながら。

 

「だーれーが、女顔だって?」

「す、すいませんッッッ!」

 

 女と間違えられるのは地雷なんだ。

 

 キレかけた(おれ)の言葉に海賊たちは頭を下げる。

 ……カナエさんに向かって。

 

 

「すいやせん兄貴!」

「カナエ5分よこせ」

 

 私は致し方ないと思うんだけどね。私とカナエさんどっちかが男ですって言われて、じゃあ女はどっちだってなったら、私なら歳若い方を選ぶ。つまりこのエースくんだ。

 まあ演じているエースくんがソレを許すはずもなく。

 

 きっちり5分でシバキ倒した。

 

 無駄な手間かけさせやがってと言いたげに手についた埃を払うとショックを受けているカナエさんがぼつりと呟いた。

 

「……あたし、そんなに男っぽい?」

「俺のどこをどう見て女っぽく見えるんだよクソッタレ。はぁー。ま、ややこしいから俺フード被っとくわ」

 

 カナエさんと私はかなり顔が似ている様子。流石にカナエさんが素人臭い動きしてるし見間違いされるほどじゃないとは思うんだけど。白いマントという印象付けも兼ねて念の為フードを被る。

 私は渋顔を作りながらため息を吐いた。

 

「んで、負け犬海賊諸君。テメェらは今この時解放と相成った」

 

 煽りながら腕を組む。

 (おれ)の癖は腕を組んで顎をしゃくり上げる仕草だと知らしめるように。

 

「一海賊団じゃ警備程度に負けた諸君だが、いまは違ぇ。仲間がいる。同じ苦渋を飲まされた負け犬同士な」

「えぇ……めっちゃ煽ってるじゃん……それキミのデフォなの?」

「このまま去るも良し。ただ……──海賊がやられっぱなしってのも、癪だよなァ?」

「めっちゃ悪い顔……」

 

 行く道を示してやれば、私の言葉に腹が立っていたプライドの高い海賊たちは簡単に海上都市へと足を進め始めた。

 

「いやー、馬鹿は単純でいいわ」

 

 ケラケラと笑いながら走っていく背中を見送る。

 何年も圧政を強いていたからか、それとも時代や航路の影響か、私の想像よりはるかに海賊の数は少ない。両手で数え切れる程の海賊団しかいないし、その海賊団も両手で数え切れる。100にも満たない、栄養失調気味の海賊。

 

 ……壁にすらならないかもしれないな。

 

 

「えーす。あたし達も行こ!」

 

 この国の違和感を手繰り寄せているため、足が止まっていた私にカナエさんが声をかけた。

 

「なァ……──」

 

 言葉が止まった。

 いや、言い出そうとした言葉は分かる。彼女が言いにくそうに私を『エース』と呼ぶからだ。

 

「……?」

 

 こてん、と首を傾げる姿。

 

 『こんな時期から鬼の子(エース)の予知をしていたのか』『どうして生まれてもない様な子供を気にかけれる』『お前にとってロジャーになんのこだわりがあるんだ』

 

 私はため息を吐いた。

 

「……あほ面」

「ぎゃん!? お、同じ顔してるくせに!」

「お前よりは遥かに理性的で知的な顔面してるわど阿呆」

 

 ぶすっと拗ねて恨めしそうに私を見る顔から逃げる様に深くフードを被る。布に囲まれていると、周りを認識しなくていいから楽だ。

 

「キミとあたしってやっぱ似てるよね……。一体、何者なの?」

 

 探られるとまずい話題を選ばれた。

 だけど、海賊王、冥王、戦神の対策なら出来ている。この3人はシラヌイ・カナエについて隠していることがあるから。絶対に。何かを。

 

 

 人は、疑われると疑えないんだよ。

 

「それはこちらのセリフだな。出生は? 母親の名前は? どこの地区出身だ?」

「…………えっ、とぉ。わ、ワノ国の」

「ふぅん」

 

 嘘だな。

 ワノ国の人間が和服以外を着るなんてほぼ有り得ないし。

 

 

『これはただの推理だが。お前の母親は恐らくこの星の人間じゃないぞ』

 

 

 隕石など、この星のもの以外が反応する機械。

 私の体に流れる血が、肉体が。半分はこの星でないとしたなら。

 

 そもそもセンゴクさんが出した結論が間違っているとも思えな──

 

「というかミステリアスな女って設定良くない?」

 

 …………宇宙人か???????

 

「いいじゃんいいじゃん! ミステリアスに、あたしなる!」

「…………宇宙人か?」

「親友が言ってた、あたしは不思議な魅力があるって。どう? 男から見てミステリアス感ある?」

 

 腰に手を当ててうっふんと言いたげなポーズを取るカナエさんに対し、私は無視という手段を取った。

 まともに相手したらダメだなほんと。知ってたけど。

 

 あと多分その親友、不思議(ミステリアス)ってより不可思議(ワンダー)って意味で使ったんだと思う。

 

「……あたしさ、最近こっち来たばっかなんだ」

 

 トコトコ歩いてゆっくり向かう私の後ろで、カナエさんがぽつりと呟きた。零れた言葉は寂しそうで、迷子になった子供みたいだ。

 

「ねェエース。ロジャーにとやかく言ってたけどさ」

「……」

「キミは、失う覚悟は出来てる?」

 

 思わず足を止めて振り返った。

 

「──出来てねぇよ」

 

 キッパリと言い放つ。

 カナエさんの瞳が微かに揺れた。

 

「失いたくないから、人は足掻くんだろうが。失う覚悟を持ってしまったなら、そいつを殺すことと同じ事だ」

「……っ、」

「お前が予知とやらで何見てんのか興味はクソほどねェ」

 

 真正面で彼女の目を見て、私は言葉を続ける。

 未来が見えるからこその葛藤。

 

 私には、わかる。

 カナエさんに記憶を押し付けられたその時から。

 

「なァ、お前は命を賭ける覚悟ってあるか?」

「あるよ。キミは?」

「あるぜ、他人の命ならな」

「くそサイテーじゃん」

 

 真実を言えばドン引きされた。私はそれを鼻で笑う。

 私は自分より大切なものを持ってないよ。

 

 ポケットに手を入れ、踵を返した。これ以上の問答は無用だと、足を進めようとしたのに。

 

 

 

「エース、家族を亡くした事はある?」

 

 お母(カナエ)さんの言葉に、再び足は止まった。

 

「……………………あァ。失くしたよ」

 

 昔から、存在しなかったのかもしれないけれど。

 

「あたしは、親を早くに亡くした。血は繋がってないけど、近所のお兄ちゃんも、双子みたいに仲良い親友も、ペットの犬も、家族と呼べるものは…──無い」

 

 先程と比べて私は振り返ることが出来なかった。

 背中に言葉が突き刺さる。

 

「エース、あたし海賊でいいのかな……」

 

 震えた声でつむぎ出される言葉。

 

「家族を救いたかった。救えなかった。救えないのは、辛いよ。だからあたしは変わらきゃならない。悪いことするのも怖い。海賊として武器を振るうのも人を傷付けるのも怖い。それに目的の前に死ぬのは怖いよ。死ぬことは怖くないのに、救えないのが、怖い。救いたいよ、エース」

 

 泥みたいに重たくて粘着質な雨が降り注いでいる様に、重量を感じる実体験を重ねた言葉の意味(エース)は、きっとポートガス・D・エースのことを言っている。私の名前を呼ぶと誤解させながら、見ているのは遥か未来の『兄』だ。

 

 

 もしかして……。

 

 私は気付いた。喉の奥がビリビリと痺れる。

 

 私はカナエさんの予知を1部分だけ受け継いだ。そこで見た予知の世界の頂上戦争。……ルフィは家族(エース)を失った。

 

「ハハッ、アッハッハッハッハッ!」

 

 単純な事実に笑いが止まらない。

 

「普通そこで笑うかなぁっ!?」

「わりーわりー」

 

 この人は紛れもなく私に似ていた。

 私はてっきり、外見だけだと思ってた。

 

 エースを救いたい。

 何を利用してもエースを助ける。

 

 その望みに私が受けたのは『リィンよりもエース』を優先した、してしまった真実。

 

「カナエ」

 

 この人は、自分をルフィにミラーリングしてるだけの、自分本位な人なんだ。

 

 私と同じ、自己主義の。

 

「な、なによぅ」

 

 そしてこの世界に生まれ落ちて14年経ったからこそ、この人が多くの人の目に付いた理由がわかった。

 

「お前、異常だよ」

 

 ──この人は普通過ぎるから、この世界で異常なんだ。

 

 

 シラヌイ・カナエはあまりにも普通。でもそれはこの人の元の世界での話であり、記憶もない前世を知っている私の中の常識での話だ。

 

「生き悩むテメェにひとつ、アドバイスをくれてやる」

 

 カナエは、母親じゃない。親ではなく子でしかないんだ。

 少し先を行く先輩から、進路に悩む子供へ。

 

 

 (おれ)は振り返った。

 

 

「ロジャーに惚れろ」

「ホァッ!?」

 

 簡潔に伝えた爆弾みたいな発言にカナエは思いっきり顔を真っ赤にした。うぎゃうぎゃと唸り散らしているが、(おれ)は顎をしゃくりあげる。

 

「だだだだだってロジャーにはルージュさんが……」

 

 こいつ、ポートガス・D・ルージュの事まで知ってんのか。

 予知、バカにならないな。

 

 勘違いしているカナエの鼻をムギュっと摘んだ。

 

「死には狂気と狂喜でしか対抗できないモンだ。狂え、お前の普通をとっぱらえ」

「ふつう?」

「ロジャーに惚れ込め。アイツの為に生きたいと、そう思えるくらい惚れて惚れて狂え」

 

 普通じゃない世界で自分本位な人間が生き狂う術は、

 

 

「王様を見つけろ」

 

 

 

 

 

 ==========

 

 

 偉大なる航路(グランドライン)突入前。リバースマウンテンの入口が眼前に迫った荒れ果てた海で、カナエはポツリと原作(よち)を思い返していた。

 

「進水式……」

 

 エースを救済する。

 それは目の前で義理の兄を失ったという、同じ現象に逢った主人公(じぶん)の罪を払拭する為に。

 

「あたしの、夢は」

 

 

 空き樽が強風で吹き飛ばされていくのを眺めながら、カナエは口をつぐんだ。

 

 

 

 

 シラヌイ・カナエに、叶えたい夢はまだ無い。

 

 

 

 




シラヌイカナエの話。
異世界転移したばかりの彼女は『兄を失った主人公』を救いたいだけなのであって、『ロジャーの息子』を救いたい訳では無い。

ちなみに彼女の元の世界に関しては裏設定あります。知らなくても平気だけど。


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第245話 嘘も方便

 

 トラジティー帝国とは。

 空白の歴史から存在する古くからある国であった。

 

 現在の皇帝の称号は黒亥。

 称号とは子丑寅……と続く12の動物と、春夏秋冬からなる青、朱、白、玄(黒)の4色を組み合わせたものである。

 

 黒、4つの季節で言う冬。そして亥は干支で最後の動物。

 

 遥か昔から続いた称号という文化。

 これが表すこと、それ即ち。

 

 

 現皇帝、ディグティター・テロスは歴史上最後の皇帝という事。

 

 

 長すぎる歴史は一夜では語り尽くせぬほどの多くの困難が待ち受けていた。偉大なる航路(グランドライン)という荒れ果てた磁気の狂う海に囲まれたトラジティー帝国は、当時こそ激しい山々がなかったがその寒々しい気候の性で周辺の島を植民地化せざるを得なかった。

 

 ディグティターは独裁者であった。

 島の上に住処を建設し、広すぎる土地で畜産農業と金属加工という特色で、トラジティー帝国は帝国として成り立っていた。

 

 ──地震が起こるまでは。

 

 

 それは青亥の時代。要するに現在の3個前の皇帝が君臨していた時代だ。

 

 今思えばそれは悪魔の実の能力者が起こしたことなのではと考えられるのだが、当時は巨大地震の発生で国中がパニックになっていた。

 地盤が浮きあがり、地形変動。

 現在の山々が飛び出たドーナッツ型の地形になってしまった。

 

 当然島の上に建っていた建物も、生業としていた畜産も、長きに渡り築き上げてきた文化は全てパァだ。

 朱亥、白亥の時代でギリギリ食い繋いだ国を、黒亥は国民奴隷化という力業で復興させていた。

 

 そんな激動の時代を過ごした亥の時代。

 ついに最後の皇帝となった。

 

 現皇帝テロスにとって、幼い頃にみた広大な平野に栄える文化がトラジティー帝国の常識であった。

 グラッタは、今の岩山こそがトラジティー帝国の常であった。

 

 

 この国の命運は、未来のみが知っている。

 

 

 

 ==========

 

 

 

「あの麦わら野郎……!」

 

 レイリーがキレ気味で襲い来る護衛隊をバカスカ吹き飛ばす。

 人間離れした速度で海上都市の道を走り抜け、王城へと急いでいた。

 

 グラッタも負けじと足を速める。

 

 しかしそんな2人でも追いつけないで居たのはロジャーだった。ちなみに他の仲間は別働隊を抑えたり、サポートに徹していた。

 

「はァ……! はァ……!」

「別に無理をしなくてもいいんだぞグラッタ」

「僕の……っ、国の問題だ……!」

 

 息絶え絶えながらもそう口にするグラッタの頑固さにレイリーはため息を吐いた。実に非効率的だ。

 ロジャーが先行しているのだ、実力はグラッタとて知っているはず。そこまで急ぐことも無いだろうに。ガムシャラに突っ走るのはこの海賊団では船長のみで充分だろう。

 

 そうは思うが心情も理解は出来るため自分の心の中に留めておく。

 

「にしても……」

 

 レイリーは一人の男を思い返した。

 

「そこはかとなく、気味が悪いな」

「なっ、なにがだ……!」

 

 刀の使い方を知らないグラッタが叩き切る様に刀を振るった。その様子に眉をしかめながらもレイリーは懸念事項の続きを口に出した。

 

「エースだよ」

「あー……、あのっ、……! 意味深女顔か」

「それだ」

 

 意味深。

 どうしてもこうしても、エースは何かを知っているように思えてしまう。発言の全てが意味深に聞こえてしまうのだった。

 

「アイツは具体的な行動指針を提示した事はないが。微かな言葉で、アイツの望む通りに進ませられているような。漠然とした畏怖がある」

「……僕も、なし崩しだがお前たちを巻き込むと決めた決断。それすらも、僕の意思じゃないのか疑ってしまう」

 

 今日の天気は曇り時々人だ。バッタンバッタンと海上都市から海に吹き飛ばされていく人災の中。別に本人はそんなつもり持とうも無いが、のほほんと会話しているその姿に、空を舞う護衛隊は涙を流す。俺たちは風の前の塵に同じか、と。

 清々しいほどの雑魚扱いだ。

 

 

 まぁその懸念事項である小心者は普通にガチで出生に関わるので歴史改変を恐れてぴーぴー心の中で喚いているだけだ。

 残念それは普通に勘違いなのだった! ──半分は。

 

「何者だろうなアイツ」

「僕ら、結局アイツの名前も知らないだろ」

「まぁ、な」

「アホ面女と似た顔だし血縁関係なんじゃないのかな……と、僕は簡単だけどそう思う」

「…………。」

 

 余談であるが、カナエが異世界出身だということはローグタウンで会った2人。つまりロジャーとレイリーしか知らない。

 カナエの血縁関係がこの世界に居ない事は確実で、だからといって確信した返事をすることも出来ず口を噤む。

 

 あるいは。

 カナエとエースは同じ存在では無いのだろうか。世界を隔てていた同一の存在がイレギュラーな異世界転移でドッペルゲンガーとして……。

 

 そこまで考えレイリーは首を振った。

 ここから先は考えても答えは出てこない。それこそ神にでも聞かない限りは。

 

「さてな」

 

 ようやく振り絞った言葉はあまりにも重さを感じない軽さだった。我ながら嘘くさい言葉だと自覚して、レイリーは速度を上げた。

 

「得体の知れない男だが、あの男は強い。ロジャーよりも遥かにな」

「そう思うのか?」

「あァ。あの男の技を見た事があるだろう? 私には、理解できなかったよ。超人的な身体能力と武器を扱う技術。彼が何をしたのか一切分からないから対処も出来ない」

 

 ここにリィンが居ればしめしめ狙い通りだとか考えたであろうハッタリを賞賛(※リィンにとっては)するレイリー。

 グラッタはそれに対して、エースが悪魔の実の能力者なのではないだろうかと推測をした。心の中で。コミュ障のグラッタくんはレイリーに真っ直ぐ対立した意見を言えないのである。

 

「まぁ今は同じ船に乗ってる仲──」

「どらっしゃあ!」

「………………間だと」

 

 ……いいなぁ。

 その言葉は最早発音したのか分からないほど弱々しい声だった。

 

 断言する言葉から願望する言葉に変えたのも、カナエの息む声と共に眼前に護衛隊の兵士が吹っ飛んできたからだ。

 

「違ぇカナエ! てめえの筋肉はそれ以上育たねぇんだから力業でどうにかしようとすんなってなんべん言ったら分かんだ!」

「だってスッキリする!」

「ふざけんなど阿呆ッ! 能力者でもなんでもねぇ女が筋肉ついた野郎を吹き飛ばせんのは精々3回だ! 重力使え重力! 叩き上げんな叩きつけろ!」

 

 そっくりな顔した2匹が言い争いをしながらやってくる。

 

 何テロ犯に物理的な強さ与えてパワーアップさせようとしてるんだエース。

 

 言ってることが理にかなってる分よりいっそう腹が立って仕方がない副船長。彼はこの世の不条理を嘆くような深い深いため息を吐かない代わりに拳に込めてとりあえず男の方をぶん殴った。避けられた。

 

「チィィッ!」

「おいおい、男の嫉妬は見苦しいぜ」

 

 大きな舌打ちに全自動煽り機が鼻で笑う。

 

 麦わらの一味や七武海や紅白四皇が海賊の基準であるリィンの判断では、仲がいいのか悪いのか分からないロジャー海賊団。仲間というより戦友に近しい。それも互いに衝突するタイプの。

 その考察を元に、リィンは己が演じているエースという男をわざと他人と衝突させるようにしている。

 

 リィンがボンドならエースは油だった。

 

「……!」

 

 エース、そしてレイリーの2人が視線を進む先に向ける。ワンテンポ遅れてグラッタとカナエがその視線を辿った。

 

「ピーター……」

 

 ポツリと名を呟いたのはグラッタ。

 護衛隊の誰よりも強い気配を纏った筋骨隆々の男が現れたのだった。

 

 怒気を含んだその鋭い視線。いかり肩が震えている。

 

「嗚呼腹が立つ」

 

 ドシンと一足踏み込んだだけで重さが伝わってきた。

 

「嗚呼腹が立つ」

 

 レイリーがグラッタに視線を向け、あの男は誰だ、と言いたげに顎をしゃくる。

 

「嗚呼腹が立つ」

 

 ブン、と焔をかたどった様な円月が槍の穂先に付いた(げき)を振り回し、ピーターは攻撃の意志を見せた。薙刀やハルバートに近い武器は、間合いの問題もあり戦い辛いことこの上ないだろう。

 

「……皇帝直属の護衛隊、1番隊の隊長だ。この国で1番、優れた腕を持っている」

 

 ふーん、と心の中の震えを隠しながらエースが興味無さげに相槌を打った。

 

「何故貴殿らは陛下のお心を理解できない」

「分かりたくもないっ! 国民を奴隷の様に働かせる考えなんて!」

「ッ! 貴殿がそうも腑抜けているから! この国の未来は無いのだ! 貴殿が情けないから! 我が王はこうしているのだ!」

 

 皇帝の歴史を知らぬ3人が完全に理解出来ずにいると、ピーターは大振りに戟を振り回した。

 

 レイリーがカナエをフォローしながら刃の軌道を避けきれば、行き場を失ったそ風圧で背後の建物が崩れる。

 威力は偉大なる航路(グランドライン)あるある。

 斬撃とまでは行かずとも、中々の威力だ。

 

「陛下は素晴らしい! グラッタ様よ、貴殿は何故陛下の素晴らしさに気付かない!」

 

 ギロリと睨みつけるその眼光に、16歳のグラッタは肩をびくつかせる。

 

「ぼ、僕は……」

 

 グラッタは海に出た。それは賞金稼ぎとしてだったが、ロジャー海賊団として色々な島を回った。偉大なる航路(グランドライン)からわざわざ東の海(イーストブルー)に移動してまで。

 

 そこで知ったのは、生まれた頃からあった国の常識ではなく、世界の常識だった。

 

「やっぱりこんなの、間違ってる……!」

 

 国の最強に挑む覚悟を決めたその時。

 

「ん?」

「へ?」

「は?」

 

 グラッタは姫抱きの状態だった。

 

 えぇ、犯人はリィンもといエースである。

 

「機動力が1番あるのはまぁ俺だな」

「??????(??????)」

 

 大混乱のグラッタは声も出せずに首を傾げた。

 周囲の人間だってぽかんとしている。

 

 人間離れしている筈のレイリーの走行速度を見ていたエースはまぁ自分の方が速いだろうと結論付けた。

 

「え??ん??なん、なんで??????」

「悪ィな、護衛タイチョーさん?主役はテメェに構ってる暇、ねェんだわ」

 

 屈伸したエースがグラッタを抱えたまま、海上都市の中心に高くそびえ立つ城を見てニンマリと笑った。

 

「主役の舞台は、アッチだろ……!」

 

 その言葉と共にエースは跳躍して屋根に登り、そのまま城壁に向けてバッタの様に飛び跳ねて行く。

 

「エーーーースッ! 貴様私たちに押し付けたな!」

 

 怒り狂うレイリーの声が背中に届くが、カラカラと笑いながら誰も通れない直線的な最短距離を走り抜けていく。

 不思議色の物質操作万歳。浮遊は結構得意分野なのであった。

 

「まさか……このまま突っ込む気か!」

「あんな筋骨隆々の野郎相手して興奮する訳ねェな」

 

 ロジャーも先に行ってる事だし、と言い訳を重ねる。

 

「(無理無理……! 勝てないことは無い、と思うけど(おれ)のキャラ設定上余裕の勝利じゃないとマズイ!)」

 

 最強キャラとして、傷を負う訳には行かない。

 

 リィンは都合のいい男に仕立て上げるためエースに3種類の設定を付けた。『気分屋』『飽き性』『面白い物好き』。

 何か危険なことがあれば『趣味じゃねぇ』とか『つまんねぇな、一抜けた』とか『今日は戦闘の気分じゃねぇ……あとは任せた』とか出来ちゃうわけだ。天才的な頭脳が閃いちゃったのだ。

 

 ……どうせ後で自分の首を絞めるだろうに。その場しのぎの姑息な手しか使えないリィンは過去から少しも学んでなかった。

 

「(あの男が最強なら、帝王はそこまで強くない)」

 

 箒に比べると大分遅いのだが、ビュンビュンと風を切る速度で空を駆け抜けていく。屋根やら壁やらには足が着いているので飛行ではなく走行だと騙し通せているのだった。

 

 エースは前を見据える。

 

「(懸念事項は後の七武海、ディグティター・グラッジ……。彼の今を相手にしてロジャー海賊団が負けることはないにしろ、ミズミズの能力を今手に入れていたら引っ掻き回される事は間違いない)」

 

 ああヤダめんどくさい。

 出来れば関わりたくない国ナンバーワンと絶対に関わりたくない海賊団の組み合わせは、どう化学反応を起こしてもクソだ。

 マイナス同士を足してもマイナスにしかならないのだ。

 

「アソコだな……!」

「うわああああッ!」

 

 エースは目星をつけた部屋に飛び込む。いきなり上がった速度にグラッタは思わず目を強く瞑った。

 

「どりゃあ!」

 

 城に入った瞬間建物の下の階から力技でショートカットしたであろうロジャーと目が合う。

 

「お、グラッタ!エース!」

「……お前、迷子か」

「ギクッ!そそそそ、そんなことないぞエース!」

「迷ってよく分かんねぇからとりあえず偉そうなやつは上にいると踏んで下から突き破ったか」

「なんでわかるんだ!」

 

 麦わら帽子被ったやつは同じ思考回路をしているのかもしれない。リィンはフードの中で深く深く、ため息を吐いたのだった。




次回、トラジティー帝国編終了だといいなぁ(願望)


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第246話 恨み骨髄に入る

 

 

 こんにちは、リィンです。

 

 結論を言おう。

 

「うっし! 終わり!」

 

 ロジャーがワンパンで帝王を沈めた。

 この国が一体どれほど続いた国なのか分からないが、長く続いた栄華も帝王が倒れ伏した瞬間に終わったのだった。

 

 ロジャーとグラッタと共に謁見の間みたいな所に来たあと数回会話というか問答を交わしたディグティター親子だったが、まぁ帝王はぶれない。これが最善だ、と。国の在り方だ、と主張していた。

 

 それに我慢の限界が来たのがロジャーだ。ルフィで知ってた。

 

「よーし、これでグラッタは俺の仲間だな!」

 

 海賊王の一味がトラジティー帝国を壊滅状態に陥らせる。

 それが私の時代に伝わっている歴史だ。

 

 果たしてこれが正しいのか間違っているのか、私には到底分からない。ダイレクトに私の時代に影響する出来事。

 

 

 ただ、これだけで終わらせてはならない事は分かっている。

 

「……いいや、僕はこの国に残るよ」

「だろうな」

 

 つまらない、と言いたげな表情と共に私は腕を組む。

 困り眉で申し訳なさそうな笑顔を浮かべたグラッタが断った。

 

「圧政を強いていた王族って意味で、僕の弟や妹は次の王にはなれない。元々長男が国を継ぐという文化もあるし、国民のヘイトを集めているアイツらには、無理だ」

 

 そうでしょうとも。

 グラッジは王ではなかった。その下の弟と妹も同じく。

 

「それにこの国を捨て置けない。僕は、この国を復活させるよ。幸い僕の集めた資金が多少は残っているだろうし、父上や貴族たちが溜め込んだ宝石を売れば開拓費用にはなるだろう」

 

 宝物庫どこだったか、なんて無理した笑顔を浮かべながらグラッタが呟く。

 私的にも(おれ)的にもこの展開はすこぶる面白くない。

 

 そう。面白くないのだから、面白くしたって構わないよな?

 

「麦わら、国の代表として協力を感謝する」

「俺は気に入らなかったから殴っただけだ」

「飛び蹴りだったけどな」

「うるさいエース! 失敬だな!」

「つーか武器使えよ武器」

 

 カラカラと笑いながら、私は玉座から崩れ落ち地面へと雑巾のように這いつくばったままの屍(生きてる)を横目で見る。

 

「ほらグラッタ。労働者共が待ってんだろ。無事を報告してこい」

「あ、ぁ。お前はどうするんだ」

「あ? 俺ァ最年長だからな、ガキ共の後片付けだよ」

 

 ロジャーがとてもウザイ顔でウッソだーと言いたげに体を引いた。ウソですけど何か。

 

 冕冠(べんかん)が地面に転がる。

 

 (おれ)はシッシッと犬猫を相手するように雑に2人を追い払った。

 

「さて、と」

 

 2人が居なくなった事を確認して私は元皇帝の元に足を進める。別に居ても居なくてもどっちでもいいんだけどね。

 

 私はこれまで色々な国と関わってきた。今回特出すべきはアラバスタ。

 コブラ様は圧政を強いていた。雨を他の土地から奪い取り、王宮付近に雨を集めるというヘイトを集める政治を。

 

 ……まぁ犯人はクロさんだけど。

 

 

 玉座からこぼれ、石畳に這い蹲っている。

 灰汁を取らず長い時を煮込まれ続けたコンソメのような濃い茶色がパラリと地に広がっていた。蹴られた衝撃で結んでいた髪紐は解けたのだろう。

 

 進めた足の先で、壊れた石畳の欠片を弾いてしまった。小指ほどの石の欠片がコロコロ転がりコツンと皇帝にぶつかる。

 

「──お望み通りのシナリオだったか? 悪役」

 

 見下ろしてそう吐き捨てた。

 

「この国、海上都市にだけだがそこら中に宝石や布や黄金、例え後世で売り捌いても価値が変わらない物がいくつもある」

「……。」

 

 倒れ伏したまま沈黙を保つ男に私は言葉を続ける。

 

 私、これでも参謀。

 その現象が起こった未来で一体どういう結末になるのか考えるのが仕事なの。

 

「幸い、換金すれば資金になる。幸い、圧政で進んだ開拓がある。幸い、土地の理で攻め込まれることは無い。幸い、唯一国民の味方になった王族がいる。幸い、国民の協力は容易く集められる」

 

 ()()()()()()()()にグラッタが王になった未来は明るいだろう。この国の抱える悩ましい土地の問題、それに追随する外交問題。不幸中の幸い、それが全て圧政のおかけで解決する。

 

「よく出来た革命録だ」

 

 人は共通の敵を認識して初めて協力し合えるのだから。

 

「……──なぜ、分かった」

 

 ムクリ、となんてことない顔をして皇帝が上半身を起こした。

 あらら、ノーダメージなのは予想外。

 

「相手が悪かったな、経験がちげぇんだよ。よく出来てたぜ?」

 

 いやホント、相手が悪かったね。

 私基本的に物事を信じないから。それにアラバスタで似たような感じ見てるし。今回は悪役と黒幕が同一人物だったけどさ。

 

「重要な役職についてそうな奴らはクズばっか、ここに来るまでの警備隊、ありゃなんだ。烏合にも程がある。贅沢三昧、鍛えた様子もない、労働者の方が体動かしてる分強いさ」

 

 だからだ、と私は結論を話す。

 

「労働者共が反旗を翻すその瞬間、この城の護りはあまりに脆い。外海から攻め込まれない地形を考え出したお前が、内部反乱に頭回らないわけが無い。お前、頭いいだろう」

 

 生まれてくる時代が違えば恐らく彼は大帝国の主となった筈だ。武力もあり、知恵もある。まぁここで言う武力は女狐と同じような手駒(ぶき)って意味の武力だけど。

 

「んでもって確実に鍛えたやつは王から謀反した体を取って労働者の中、か?例え攻め込まれたとしても、『我々は元戦士だ!』とかって民衆を護る言い訳が出来るしな」

 

 例えば労働者のリーダーとかね。

 私は明らかバカにしたように拍手をした。

 

「全く、素晴らしい策だな」

 

 ムッとした様な微妙な反応を取る皇帝。

 これでも私はめちゃくちゃ褒めているつもりだ。

 

 王はいい国ほど動きづらい。

 だって周りは王に忠誠を誓うからこそ謝った道に行かないように止める。アラバスタでは決定的な悪が露見しない限り動けなかった。王が自ら政策として乗り込むことは出来なかった。

 

 それをこの王は自分を捨て行動に移した。全く、ここは自己犠牲精神の国かな?

 

 

「──エース君!」

 

 私の考え事に蓋をするように、無意味と化した謁見の間に現れたのは労働者のリーダーであるペーターだった。

 リーダーとペーターとピーター、紛らわしくて仕方ないと思います。

 

「よォ、リーダー君」

「……!あ、と片付けは私がしよう。客人の君が手を汚さずともいい。この国の事だ」

 

 皇帝が起きている事を見てビクリと動揺をしたペーターだったが、瞬きをして最後には普通の態度で言い切った。

 

「良い、ペーター」

 

 皇帝が言い訳を重ねるペーターにストップをかけた。

 

「この者は全てを見通しておるよ」

「………………は、」

 

 パクパクと口を馬鹿みたいに開いたり閉じたりして混乱するペーターに私は歯を見せて笑い手を振った。

 やっほー、リーダー君、元気ー?

 

 私 は 甘 く な い ぞ 。

 

 なんせリアル命掛かってるからな。巫山戯ててもロジャー海賊団が馬鹿やっても全力で頭回してるからな。

 

 東の海でロジャー海賊団を観察し、私がトラジティー帝国でガッツリ行動に移した理由をここで説明しよう。

 

 というか結論。

 (おれ)の行動がなければ現在改変が起こってしまう。

 

 

 『私がいる頂上戦争で海軍が負けた現在』と『カナエが見た頂上戦争で海軍が勝ったIF』

 

 この2つにあるものとないもの。

 ぶっちゃけて『リィン』だ。

 

 正確に言うと『カナエ(イレギュラー)子供(ふせき)』なんだけど、インペルダウンにて予知の外側たる人間を自称するカナエが、今現在でさえあれだけ未来を変えるのが難しいと言っているのに、だ。

 

 頂上戦争の勝敗が変わる未来の分岐点、それが私が生まれるはるか前のこの時代に布石があるとするなら。

 

 私 以 外 い な い よ ね !

 

 心中お悔やみ申し上げます。私の胃は死にました。責任が重い。

 

 つまり今の過去の時代において、私が動けば元の時代に、私が動かなければ予知の時代になるというわけだ。まっぴらごめんだね。

 

「え、あ、つっ……。つまりこの子は」

「おいコラ誰がガキだ。てめぇらよりは年上だボケ」

 

 実際そんなことないのだけど、年齢の特定を防ぐ為に誰よりも年上のキャラで居る。

 

 キリキリし始めた胃を労わるように思考変換する。

 

 ……だって私、元の時代に戻ったら、ロジャー海賊団に居たこの男を真女狐にする気満々だもの。

 

 過去と未来、姿が変わらないなら悪魔の実の能力で成長止まったりして年齢もよく分からないでしょう!ぶっちゃけ私も肉体年齢止まる感じの能力者は年齢分からない!だったら年上キャラで行こーぜ!

 

 この(わたし)、後に元仲間の娘を影武者に使う悪魔である。

 

「まぁいい。リーダー君そこに座れ」

 

 地べたから起き上がった状態の皇帝の視線に合うように私はどかりと座り胡座をかく。丁度三角形になるような位置に視線を寄越した。

 

 オロオロしながらだったが、背を正して正座した。

 

「で、だ。皇帝さんよ。お前の策は後世においてそりゃもういい案だ。現状考えりゃあな」

「……褒めの言葉として受け取ろう」

「ま、力技過ぎるがな。まるで時間が遺されてねェみてェな策じゃねぇか。こうしてネタばらしした今、リーダー君を手駒に革命をさせようって魂胆が丸見えだ」

「仕方なかろう。私は病に侵されている」

「ほーん、通りで」

 

 皇帝の、頭がいい事を前提に考えると、寿命でなくなる世代交代の方が色々政策としてやれると思ったんだけど、そういう事か。

 

「それにしたって身体は頑丈みてぇだがな」

「はァ……。分かって言ってるんじゃないのか。──私は悪魔の実の能力者だ。この国は代々、目の前に現れた悪魔の実は必ず口にするという文化がある」

「へえ」

 

 交易とかで手に入れた悪魔の実も、血族が食べていたとするなら家系的にほぼほぼ悪魔の実の能力者なのかもしれないな。現にグラッジだって……。

 

 ん?

 

「この国は悪魔に魂を売らねばやっていけぬ。私は、ハズレだ。ヒトヒトの実、モデル人間。人より頑丈とはいえ、それでも病にはかかる」

 

 それめっちゃ聞いた事あるーーーー!

 そりゃそうだ人が人になったって大ハズレだわ。魚人が悪魔の実食べるくらいには無意味だわ。挙句病気にかかってるらしいし。

 

「話を戻す。お前のこの未来を託す策は1つ重大な欠点がある」

 

 私の時代にも激しく影響する1つがな!

 

「「グラッタに王の素質は無い」」

 

 私と帝王のセリフが被った。

 

「ああ、分かっているさ! グラッタは私の子供の中で飛び抜けて腕が立つ。だから外で資金を集める仕事がうってつけだった、そして国民の味方になる事も! だが、だからこそ、王として必要な教育をまともに受けていない」

「お待ちくださいっ、だからこそ私がグラッタ様の補佐になるべく代わりに学びを」

「あーあーあーあー、うっせぇな。そこまで言われなくったって分かるっての」

 

 1言われれば10くらい理解出来るから時間かけさせるな。

 私はため息を1つ吐いた。

 感情にブーストがかかると他人の話を聞かなくなるのは血筋か。

 

 分かってる。王の教育を取れば国民と資金源を失う。逆もまた然り。未熟な王でも国民と協力出来る王は生き延びれる。だからこそ王の教育を捨てたんだろうこの国は。

 

「1匹の羊に率いられた狼集団と、1匹の狼に率いられた羊集団。強いのは、後者だ」

「何となく意味は分かるが……」

「つまりこの国にとってグラッタ君は非常に邪魔だ」

 

 あの手この手で言い方を変え、グラッタを海に出させようとする。

 予知の頂上戦争にフェヒ爺が現れなかったのを考えると、グラッタが海に出てフェヒターと名乗る様にならないと多分現在改変が起こってしまう……!

 

 予知の世界では多分グラッタ、このまま王になったんじゃないかなーとか考えてみる。ロジャー海賊団は引き際がいいし。

 

「──ひとつ、案があるぜ」

 

 口角をニッと釣り上げ、目を細めた。

 

「共和国にするんだよ」

「待て」

 

 皇帝がストップをかけた。

 

「この国をソレに切り替えるにはリスクがデカすぎる。我が国は交易と植民地を命綱として成り立っている。これまで築いた婚姻などの繋がり、それら全てを失いかねん」

「頭が硬ぇな皇帝」

 

 私はビシッとペーターを指差した。私が何か!?と言いたげに動揺を見せるペーター。

 

「国民に政治させりゃいい。もちろん、王は別に居た状態でな」

「それは、王がお飾りという事か」

「当たりだ。別に王が政治やる必要ねェんだよ。君主はいるがそれは国民の象徴であり、国を政治するのは国民の代表者。──な? これでグラッタはこの国に必要ねェ」

 

 君主制の王国を名乗ったまま実質共和国。

 

 国の顔であるお飾り王様が訪れた者相手に馬鹿正直に顔を出さなくてもいい。そもそも乗り込みにくい地形のトラジティー帝国だ、他の国を訪れる事はあっても訪れられる事は少ない。

 こんな荒れた海で国王自ら航海するリスクは、まともな国ならまずしない。世界会議は別として。

 

「問題は共和国に切り替えるために世界政府と海軍にそれなりに伝えとかなきゃならん事だが……」

 

 うーーーーーん。

 

 馬鹿正直に海軍に伝えてもいいんだけど、この時代の海軍荒れてたらしいし。どこにどんな目があって耳があるのか分からない。

 

 むむ。

 むむむ。

 

 

「……どうするのだ」

「………………恐らく俺たち海賊を追ってこの後海軍が来るだろうそいつらの中にセンゴクって名前の海兵がいる多分そいつに押し付けりゃどうとでもなるだろうな」

「とんでもなく早口だなッ!?」

 

 ごめんセンゴクさん!!!!! 後は任せた!!!!!

 

 今後問題が発生させた時『何かあれば海軍のセンゴクに!』がロジャー海賊団の合言葉になることを私はまだ知らない。

 

「何故、そこまでして国に首を突っ込む。お前は見るからに面倒事が嫌いだろう」

「残念ながら、俺ァ面倒事が嫌いなんじゃなくて、面白い事が好きなんだよ」

 

 未来の歴史に、〝剣士の皇帝〟カトラス・フェヒターを。

 

 

 

 ==========

 

 

 お前には分からないだろう。

 自分が、弟や妹が切り捨てられる未来を着々と待つ恐怖を。

 

 何が長男。俺だって長男だ。

 たった一瞬、1秒、ただ遅れてこの世に生を受けただけで俺は捨て駒だった。

 

 だからと言って完全な自由も望めない。

 あいつが死んだら次は俺だ、俺の人生はお前の予備でしかない。

 

 

「──ディグティター・グラッタ……! 俺は絶対に、王であり自由であるお前を許さない……!」

 




最後の皇帝。ディグティター・テロスは国民奴隷化という手段を取った暴君として、後の世ではこう語られる。

──悪魔、と。


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第247話 憎まれっ子世に憚る

 

 

 この国の結末の話をしよう。

 革命が終わり、答え合わせをした皇帝が最後に下した命令。

 

 

 ──処刑。

 

 この皇帝、性格の悪いことに処刑人をグラッタに指名した。

 

 実の親を殺す行為。

 例えディグティターの2人に親子の絆がなくてもその傷の深さは測りきれない。

 

 次の王となったディグティター・グラッタが一体どんな気持ちでその刃を振り下ろしたのか分からないが、事実この国は新しい時代を迎えた。

 仮初の象徴となる君主が降臨する、民主制の国の新たな誕生だ。何年かかるか分からないがこうしてこの国は、帝国から王国へと変化する。未来へと繋がっていく。

 

 これで合っているだろうか。

 ここから先の未来を想像すると、私の知っている未来に繋がるはず。これは一種の先読み。センゴクさんはこういった先読みを得意とする。

 

 私に、出来ているだろうか。

 下手すれば世界の命運すら変えかねない。それをメリットと取るかデメリットととるか。

 

 予知の使い手、シラヌイ・カナエはこの恐怖に怯えながら生きてきた。

 耐えきれない。

 

 幸い私の過ごした時代は『変えたい』という強い願いは無い。だから私の知っている歴史に添わせる形で大丈夫だろうし、カナエの言っていた歴史の修正力という根拠の無い賭けを信じるしかない。あァ胃が痛くなってきた。ことが終わったんだから後悔しても意味の無い事なのに。

 

 

 

「エース!」

 

 国を上げて解放の宴が行われる中、物陰で思案顔をしているとグラッタが駆け寄ってきた。

 

「あ? ……なんだてめぇか」

「きっ、きいた……! お前、僕が海、海賊なんで……!」

 

 切れる息を整える間もなく驚きと動揺の感情を伝えてくる。

 

「僕は王にっ、王になったんだ、なのになんで身支度させられてるんだ!? なんでお前が、ッ、僕を海賊にさせようと……!」

 

 あ、あー。なるほど。ペーターから聞いたってわけか。

 何故海賊になるのを後押ししたかって聞きたいのかな。

 

「だってお前、本当は海賊やりたいんだろ」

 

 その指摘にカッと顔を真っ赤にするグラッタ。無自覚だったか、自覚してるからこそ指摘されたくなかったか。

 今まで王になることを最終地点として見据えてたからこそ自由を求めるのは予想外だったみたい。うーん、この人も大概めんどくさいな。

 

 というかディグティターが全力で面倒臭い。

 全員が全員、自分の望みを押し通す癖に変な所で引くから。うん、引き際が下手くそ。

 ま、3番目と4番目の子は知らないけどね。

 

「で、でも僕はこの国でみんなを守らなきゃ……」

 

 かつて。いや、まぁこの時代から考えると未来だけど。かつて私を非常に苦しめたクソドS擬音語師匠フェヒ爺と同一人物とは思えない程、グラッタはうじうじと悩んでいる。

 もしかしてフェヒ爺とグラッタって別人だったりしない?影武者とかないですか。……ないですか。

 

 もごもごと言い訳を絞り出しているグラッタに、私はデコピンをお見舞した。

 

「名前、決めとけよ」

「は?」

「ディグティター・グラッタはこの国の王の名前だ。海賊が名乗るのは不味いだろ」

「でっ、でも!」

 

 この国の裏事情はグラッタはもちろんロジャー海賊団にも知られてはいない。グラッタが王になる時代を作り上げられたカラクリは。今でも、漏らさない様にとペーターが私を監視している。

 

「どんなに下らねェ動機もご立派な動機も、やってしまえば全部同じなんだよ。理屈も動機も後付けしちまえ。──お前が今やりたいことは、なんだ」

 

 船に宴の最中に掲げられたロジャー海賊団の海賊旗を横目で見て、視線を誘導する。

 

 頼む、頼むぞ……。

 

 例えそう思ってなくても私は無理矢理そうだと思い込ませるから。認識させるから!

 無意識に海賊をやりたいと思っていると勘違いさせるから!

 

 

 だってほら、望みと言われて視線に入ったのは海賊旗だ!

 

「……じゃあ」

 

 背中がぞくりと寒気で震えた。

 何か。

 なんだこれ。

 

 痛い。気持ち悪い。

 

 背中が痛い。

 痛むのは……背中に負った古傷だ。

 

「じゃあッ、お前が僕の名前を考えてく──」

「ッグラッタ!」

 

 間に合え──!

 

 私は咄嗟にグラッタの腕を引っ張って立つ場所を変えた。

 引っ張られた勢いでグラッタがバランスを崩すが、抱き留める様に私は背を向ける。……刃に。

 

──ザシュッ

 

 斬れる音。

 耳に伝わるそれは聞き覚えのある音。

 

 肩から腰にかけて過去に感じたことのある激痛が走った。

 

「ッ!」

 

 グラッタの背中から刀が飛び出たのが分かった。気付いた時には庇うくらいしか出来なかった。

 嫌な予感はしてたのに。コンマ数秒の遅れが命取り。

 

「貴様……ッ!」

 

 刀を振るった相手にグラッタが視線を向けるが、私の背後の方にいた監視のペーターが飛びかかって押さえた。

 

 ガシャンと転がるのは鬼徹。

 グラッタが持ってないと思ってたけど彼が持ってたのか。

 

「──グラッジ……ッ!」

 

 早く傷の手当をしたいんだ。

 それを考えた瞬間サッと顔から血の気が引いた。

 

 やばい。

 グラッタがここで死ぬ=私が生まれなくなる可能性大だから死なせるよりは庇うを選んだけれど。

 

 自分は今、男のフリしてるんだった……!

 

 

 傷が熱を持つ。

 ジクジクするとかそんな生易しいレベルじゃなくて、かなりキツい。

 血が流れる。傷口が冷たく感じる。

 

「お前がァ!」

 

 騒ぎに気付いたのかロジャー海賊団がかけて来る。

 

「お前が何も気付かないから!!お前が何も知らないから!!!俺は!!俺たちは!!!!」

 

 ギャン泣きと言っても過言ではないグラッジの様子にペーターは怯む。そのあとは最早何を言っているのか分からない支離滅裂さ。いや、ペーターが真実を話させるまいと妨害しているからなのかもしれないけど。

 

「……ペーター、追放しろ」

「…………はっ」

「グラッタ!!!」

 

 泣き吠えるグラッジに、グラッタは腰にさしていたカトラスを引き抜いた。

 

──ザンッ

 

 

 片腕が落ちる。

 人の痛みに唸る声。

 

「僕の仲間に傷をつけた事! 後悔しろ!! 僕の国に二度と足を踏み入れるなッ!」

 

 この世代、人体を欠損させることに躊躇無さすぎない……?

 痛みを耐えながら私は現実逃避をし始めた。

 

 グラッジの片腕生活、ここから始まったのね。リーちゃん、何がなんだかもう分からないよ。

 

「俺がッ…! お前なら良かったのに……! 俺がお前なら! 絶対に上手く行ったのにッ!」

 

 ……なれば良かったんじゃないかなって思います。

 ここから先、ディグティター・グラッタという人間が王として居なきゃならないんだから影武者として成り変われば良かったんだと思います。

 

 まあ、ディグティター・グラッジがマーロン海賊団の船長として七武海になる未来を知ってる以上、指摘もしないし阻止するけどね。

 王下七武海のグラッジという存在もまた、私の人生には不可欠だから。

 

 

 あ、いてててててててててて。

 待ってめっちゃ痛い。痛覚遮断して欲しいんだけど。

 

 血の気は引いたまま。

 物理的なダメージと精神的なダメージのダブルパンチ。多分じじの拳骨よりも威力ある。

 

 私、男の設定だから上半身脱いで怪我の手当てとか出来ないのに!

 う、うーーーん。もしかして背中だけなら行け、行けるか……?

 

 それに追加してぐるぐると船酔いしたような気持ち悪さが胸の内を支配する。吐きそうなほど気持ち悪い。

 

 2回ほど、私はこの感覚を経験している。

 

「……ッ」

 

 逃げなきゃ。

 この感覚は、時間移動の感覚だ。

 

 時間を移動する瞬間を見られては堪らない。

 

「エースッ!」

 

 ロジャーに捕まった。はい知ってた。

 体を起こすと、ロジャーが私の体を支える為に腕を回して来た。つまるところ腕の中(にげられない)というわけだ。クソッタレ。

 

 大丈夫大丈夫、背中焼けばとにかく、止血出来るから。

 

 ……とりあえず後のことは考えずに行こう。

 ・この場から離れた状態で時間移動する

 ・時間移動の前後に背中を焼いて止血する

 ・治療

 

 よし、これに限るな。

 

「お前、なんで僕を庇ったんだ!」

 

 グラッタが慌てた様に駆け寄って来る。

 

「……なァ」

「ペーター! 早く医者を!」

「──カトラス・フェヒター」

 

 私が口を開くと、完全に虚をつかれたのかキョトンと目を丸くした。

 

「かとら、す。ふぇひたー……?」

「お前の名前だよ」

 

 グラッジに襲われる前に言おうとしてた言葉を思い返しながら、私は薄ら笑う。

 

 ……卵と鶏、どちらが先か考えちゃダメだ。

 

「カトラスを使う剣士。お前にお綺麗な刀は似合わねーよ……」

 

 刀使ったら確実にボキボキ折る未来しか見えない。

 柔と剛を使いこなせるにはまだまだ長い、はず。使えない私が言うのもなんだけど。

 

「自由に生きろ、フェヒター。その名は、お前をディグティターって名前の鎖から解放された。自由を求める為の名前だ」

 

 手を伸ばしてフェヒターと成った男の頭を撫でる。ぐしゃりと泣きそう顔をしていた。

 あ〜〜〜〜〜〜写真に撮りた〜〜〜い! 弱点を押さえときた〜〜〜〜〜い!

 

 

「ロジャー、ちょっと起き上がらせてくれ」

 

 ボタッ、と血が地面に落ちる。

 出血が激しい。胸の気持ち悪さと血液不足で目眩がしてきた。

 

 ふふ、ふふふ……!

 

 めっちゃ痛い! でもこれくらいなら応急手当で乗り切れるな。傷が浅い。気まぐれ鬼徹くんの天邪鬼に助けられるとは。

 あ、私は剣士じゃないので背中の傷は痛いだけでなんとも思わないです。

 

 でも乙女なので玉肌を傷付けた事は許しません。例えば既に傷跡だらけだとしてもな! グラッジは未来で殺す! 過去の私が! ……いや、めちゃくちゃにややこしい。

 

「空、見てみろよ」

 

 

 私は暗闇に浮かぶ欠けた月を指さす。

 

 ロジャー海賊団は私の指の先に視線を進めた。

 宴の声は遠く、ぱちぱちと灯火の中で木の爆ぜる音が静かな闇夜にあった。

 

 その場にいる人間の吐いた息が白く視界に入る。

 

 

「……」

「…………」

 

「……?」

「………。」

 

「……エー、す?」

 

 

 先程まで居たはずの男が居なかった。

 

「「「あんのクソ野郎ーーーッ!」」」

「猫かアイツ!」

「おい探せ! 探し出せ!」

「あんの野郎視線誘導しやがったな…!」

「血痕も途切れてんだけどどうやって移動したんだアイツ!」

 

 解:気配を消すスキルは努力の塊

 

 

 

 ==========

 

 

 

 じくじく。

 ぐるぐる。

 

 吐きそうな痛みと気持ち悪さが同時に襲ってくる。

 

「ゥ……ぁ……っ!」

 

 歯を食いしばって我慢するが、痛みは変わらない。飲み込むことすら出来ないヨダレがぼたりと零れ落ちた。

 

 火を。火をつけなければ。

 

 視界を回す気持ち悪さと引き攣るような痛みの最中で満足な集中力を発揮する事も出来ず、岩肌に倒れ込んだ。

 

 

「あ゛〜〜〜〜〜〜〜〜くそ」

 

 山の中腹。外界への見張り台になっている人気のない場所で、私は文句を垂れた。

 痛いし。辛いし。しんどいし。

 

 私の背中には傷が多過ぎる。

 

 せめてこの気持ち悪さが無くなれば火が付けれるのに。

 

 この気持ち悪さは時間移動からなる吐き気。

 この痛みは背中の傷のせい。

 

 早く、速く。

 

「──ここにいたのか、エース」

 

 地面に倒れ伏したまま、私の体がビクリと跳ねた。

 怪我如きで弱りくさってる姿をこの時代の人間に見られたくないから逃げたのに!

 

「……ロジャー」

「怪我の手当っ、しろよ馬鹿」

 

 肩で息をしている姿を見るに猛ダッシュで探していたんだろう。そこまで時間が経ってない事を考えるに見聞色の覇気か野生の勘……──野生の勘だな。

 

「傷、深いのか」

「……黙秘する」

 

 事実、かなり浅い。

 回答をはぐらかしたのはこのまま死んだと見せかける方がいいのか、それを悩んだからだ。

 

 大丈夫。放置しとけば別だけど、この怪我なら死ぬほどじゃない。昔、子供の時は切れ味の悪い剣でザックリ斬られた。今は、切れ味のいい刀で浅くスパッと斬られた。

 切れ味がいい分血は出るけどぶっちゃけ流血時間は少ない。圧迫しとけばすぐ血は止まるし治りも早い。

 

 背中じゃなければ焼かずに止血するんだけどね!!(キレ気味)

 

 くそっ、流石は妖刀3代鬼徹。

 切れ味は知ってるけど身に染みては知りたくなかったな! でも切れ味ほんとにいい時は体ごと真っ二つになるし! まだマシ!

 

「いッ……っぅ……」

 

 起き上がろうとしたけどあまりの痛みに起き上がれなかった。紙で指切っただけでもかなり痛いのに痛くないわけがない。痛み耐性あんまないんだぞこちとりゃ。

 

「医者呼んでく、」

「呼ぶな!」

 

 ズキンッ。

 痛みに顔を顰める。

 

「ロジャー、ッ、誰にも言うなよ」

「は?」

「俺が、この程度で弱ったらダメなんだッ!」

 

 俺は未来で海軍大将女狐として生き。

 自分と同じ面をした小娘を影武者として祭り上げ。

 イデア人間として、畏怖される存在として。

 大海賊時代の抑止力に。

 未来の海賊王の敵対者になるんだ。

 

 俺の強さで混沌とした時代を生き延びなきゃなんないんだ。

 

 リィンやルフィと違って。

 人の伝手を使ったり人を味方に付けるんじゃなくて、己の足1つで立たなきゃならない!

 

「〝麦わら〟」

 

 グッと力を入れて立ち上がる。崖を背に。顔をロジャーに。ふらつく足で大地を踏み締めて、未来の海賊王を睨んだ。

 

「……────?」

 

 聞くはずのなかった質問が口から零れる。

 この場で最適な質問じゃなかった。

 私はこの男に嫌われないように、ただ繕って通行人Aとして印象に残せば良かったのに。

 

 

 ロジャーは一瞬虚をつかれた。

 

「お前、本当は子供っぽいんだな」

「んなッ……!」

 

 思わず表にでてきた『私』の顔に赤が集まる。

 

「──大丈夫、いつかきっとお前も分かるよ」

 

 屈託のない笑顔でそう答えられた。

 

「…………そうか」

「あとわかんなくても大丈夫だ!」

「おい」

 

 クラりと頭が回る。

 あ、来た。

 

「誰かはお前を愛すし、俺はお前を愛すから」

 

 

 そっかァ。

 

 

 私はニッコリ笑って、崖に向かって背中から飛び落ちた。

 

「は、え、ちょ、エースッ!?」

 

 

 

 

 グンと引っ張られる感覚に、私の視界は青く染った。

 

「────えぇ知ってましたともッ! ド畜生!」

 

 見渡す限りの青に飲み込まれ、空中に転移した私は能力者を愛してやまない海に落っこちた。お祓い行こうかな……。今回はホントに死ぬかも。

 

 

 

 

 

 

「……人を、愛する事が分からないんだ」

「どうしたら、どう生きたら麦わら(おまえ)みたいに命を賭けられるんだ?」

 

 答え(ゴール)は。どこに。

 

 

 

 ==========

 

 

 もしも、誰かが先に戦い始めなければ。

 誰かが逃げ惑う最中コレクションの妖刀を落とし、金目の物になると拾ったかもしれない。

 

 もしも、誰かが共和国と吹き込まなければ。

 カトラスの剣士なんて人間は存在せず、帝国から王国に変える激動の時代を慣れぬ政策で悩まされる王が存在したかもしれない。

 

 もしも、トラジティー王国に王が残れば。

 偶然手にした使えもしない刀を金策で売り飛ばし、巡り巡って東の海の樽の中に乱雑に置かれていたかもしれない。

 

 

 所詮それはもしもの話。

 存在しない、〝予知(もしも)〟の話。

 

 




いちごおいしい。(貰い物のいちごを貪りオチがまばらになってしまった話の終わりに現実逃避しながら投稿ボタンを押すのであった)

ロジャーの『大丈夫』には別の意味も込められていますがまあここで言及せずとも未来で多分回収出来ると思うので。


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第248話 人の振り見て我が振り直せ

 ズキリ。

 耐え難い痛みで目を覚ました。

 

「知らない天井ぞ……」

 

 痛みでチカチカする目元を擦り見上げた天井。そっと呟いた。いや、ほんとに知らない。またどこかに流れ着いたのかな(確信)

 

 痛む体をよっこいせと起き上がらせると、そこはお世辞にも綺麗とは言えないベッドだった。

 体には手当のあと。上半身にぐるりと血で汚れた包帯が巻かれていた。

 

 

 回転を取り戻した頭で考える。

 

「あ゛ーーーくそ」

 

 失敗した……!

 俯いた私の視界に入り込む()()()

 

 そうだよ、夢見る幻くんで髪色切り替えてない状態で手当されてしまった……! 男キャラでは行けない! そもそも海の上にいきなり出て箒構えて飛べるかって言われたら絶対否だよね!

 

「う……」

 

 興奮からなのか、思わず蹲る。

 

 気、気持ち悪い……。

 この吐き気はもしかして転移の気持ち悪さじゃなかったんだろうか。吐きそう。ああ最悪だ。気持ち悪くて堪らない。転移する前よりはまだマシだけど。

 

「あ、お姉さん起きた?」

「っ!? い゛ッ──」

「む、無理しちゃダメだよ、じゃないと傷が開いちゃう……!」

 

 ペションと眉を下げた少年がタオルをかけた桶を持って部屋の中に入ってきた。驚くついでに体が反射的に動いてしまったので私は軽率に死にました。痛い。

 状況とセリフから判断するに、どうやらこの子に世話を掛けていたみたい。

 

 貧乏な一般人。

 私のなけなしの良心がじくじくと痛む。多分背中の傷だけど。

 

 あぁ痛い。涙出てきた。

 

「状きょ、……ッ、状況を、説明、してくれ、ないかな?」

 

 やっぱりトラジティー帝国ではアドレナリン出てたか……! 何が死ぬほどの傷の深さじゃないだよバカ。死ぬほど痛いじゃないか。無理、死ぬ、死んじゃう。

 

「漁に出てたら海にクウイゴスの木に浮かんでるお姉さん見つけて……。それで家まで運んだんだ。綺麗な包帯あってよかった」

「ご迷惑をおかけして……」

「気にしないで!正義とは弱気を助ける者である!……なんて」

 

 えへへ、と恥ずかしそうに笑う少年。

 

 海軍の言葉。

 

 あぁ、この子は海兵になりたいのか。

 

「は、恥ずかしいよね。僕なんかがカッコよくて強くて、それで正義なんて」

 

 かぁ〜〜!と頬を染め上げる少年。

 私は、正直何も言えなかった。

 

 ──痛くて。

 

「い〜〜〜〜〜〜〜っっ無、無理……!」

 

 誰でもいいから私を気絶させて!

 

 

 

 

 少年は私をベッドに寝かせて、自分は狩りをしてくるからと外に向かった。

 そこから約30分。私はあまりの痛みにえずきながら結論を出した。

 

 ……よし、逃げるか。

 

 ええ、逃げますとも。

 ややこしい所からは逃げるに限る。……というか後々海軍に入る可能性が1ミリでもあるなら距離を離した方が得策。黒髪のカナエ顔、なんて人物が『女狐隊の雑用』として現れるんだから。

 

 そういえば今、何年前くらいなんだろう。

 この家……小屋……建物……えっと、かろうじて建造物と言える無いよりはましの家には娯楽や情報が転がってない。家の中に居ても情報は得られないだろう。

 全てはあの少年からしか。

 

「はぁーーー……」

 

 じくじくと痛みは引かない。

 

 私はアイテムボックスから非常食を取り出して胃の中に流し込んだ。咀嚼が傷に響くが食べないことにはどうにもならない。

 

 服を羽織り、靴を履く。あ、シークレットブーツは今回に限り歩きにくいな。んん、でも我慢しよう。

 

 

 ……。

 

「チッ」

 

 自分の思考回路に入ってきた言葉に小さく舌打ちする。

 

『は、恥ずかしいよね。僕なんかがカッコよくて強くて、それで正義なんて』

 

 ルフィのお節介癖が移ったか、それとも別の何かか。運命とやらか。

 その言葉が頭にしがみつく。

 

 

 私は靴を脱いでまたベッドに戻った。

 

「この世界で生きるには恥ずかしい」

 

 技名を叫ぶ文化とか。私にとってめちゃくちゃ恥ずかしい。でもそれが普通なんだよなぁ。

 彼にとっての普通がなんであれ、海兵としてカッコつける事に恥ずかしさはある。

 私の世界は物語ではないから。

 

 

 無駄に時間が流れていく。

 インペルダウンで過ごした時と同じような時間が。

 

 あの時と違うのは、死だ。

 私が経験してしまった、家族の死。

 

 

 昔の私よ。それこそコルボ山にたどり着いたばかりの私。

 貴女は1番自分が大事で、多分エースに背負われながらあだだだ泣き喚いている頃でしょう。いや、あれに関しては未だによく分からんないよね。1歳児を背負ったまま獲物を狩りに行くな。

 

 その山の中で、貴女は大切なものに出会いました。

 

 そしてその大切なものを壊すのは、貴女です。

 

 

 今の私みたいに、背中に傷を負ったまま必死になってゴア王国を歩き回った私。

 貴女は初めての予知に触れ、頭をぐちゃぐちゃに掻き回され、太陽も高くなった石畳の上で蹲って、現実を迎えました。未だにイワンコフさんは見たら忘れない顔ナンバーワンだよ。安心して。

 

 その別れと出会いは私を海へ駆り立てる第1歩でした。

 

 そしてまた貴女は何も出来なかった。

 

 

 その一件で自分自身がブラコンなのだと判明してしまった照れくさい私。

 貴女はこれから兄を助ける為に海軍に入ります。女狐なんて未だに理由がよく分かってない大将になって、とんでも七武海に絡まれて泣き喚きます。理不尽が服着て大乱闘してるもんね。そりゃ泣くよ。

 

 その『家』で貴女は家族を見つけます。友を見つけます。仲間を、部下を、大切な人たちを。守りたいと、そう思える世界を。

 

 貴女は自分本位で優柔不断。昔から自覚していました。

 そうやって迷いまくって、大事なものが増えすぎて。

 そして、最初に選んだ大切なものを取りこぼしてしまうのです。自らの手で。

 

 なんて、なんて。クソッタレ。

 

 本当に大切なものはなんだったのか、大切な者の優先順位を!貴女は忘れてしまう、つけそびれてしまう!

 

 

 

 あぁ、今の私よ。

 

 お前は一体、何がしたい。

 

 

 ギギギ……。と扉が開いた。

 少年が帰ってきたのかと思い顔を上げれば、そこに居たのはやせ細ったドブの匂いがする貧困民。

 

 手にはボロボロの刃。

 

「誰だ」

 

 ション(エース)に引っ張られている為か、驚くほど低い音が出た。

 

「殺せ……」

「奪え……」

「こロセ……」

 

 男はブツブツと呟き続けている。

 目が、イッちゃってるんだよね、この世ではないどこかに。

 

 痛む傷口を庇うように私はベッドで逃げ出せるような格好を取る。姿勢を低くして、足に力を入れて。

 飛びかかってきたら脇を抜けよう。多分、私が力加減したとしても多少の衝撃で死んでしまいそうだ。

 

「ッ、やめろ!」

 

 少年が戻って来た。

 眉間に皺を寄せて親の仇でも見るような鋭い眼光で少年が刃を振るった。男に。

 

「アヒャ、ヒャヒャハハハハハ」

 

 ただし、相手には当たらない。少年の刃はブンブンと宙を切るだけで終わる。

 少年は恨む様な視線で自分の手を見た。

 

「なんで、なんでッ、虎だって、なんだって殺せるのに……!」

 

 ボロボロと泣きながら刃を振るった。

 

「……少年、人を殺したことは?」

「あ、ぁ、ッ、僕、僕は……」

「殺したこと、あるね?」

「う、……………ッ!」

 

 ある、の反応だ。

 いやぁ懐かしいなぁ!1回人殺すとしばらくトラウマだよね!

 

 多分この少年は殺す時も感傷的に殺したんだろう。

 私の場合感情全て落っことした感じだったらしいしね。クザンさん曰くだけど。

 

「はい、おやすみ」

 

 薬品を気化させ吸い込ませた為、貧困民の男はおねんねした。

 いやー、ミホさんには効かなかったけど一般人には効果的なんだって。ほんと、ミホさんには効かなかったけど。なんで効かないんだ化け物め。

 

 

 

「少年、ちょっと話しよっか」

 

 

 ==========

 

 

 ボロボロの服が獣の血でパリパリになっている。

 海辺の風をその身に受けながら、少年は狩って来た鹿を吊り下げ血抜きを完了させた。

 

 私はその作業を岩に座って眺めていた。

 血抜きくらい手伝おうと思ったんだけどな。

 

 いくら歳が近いとは言え、12とか13くらいの少年にさせるのはなぁ。ま、肉体年齢よりもかなり多めに見積もってる年齢予想だけど。はたから見たら10歳くらいしかないよ。

 

「君は人殺しが怖い?」

 

 作業を止めもしない少年がピタリと固まった。

 

「素直な気持ちを口にしていいよ。海兵になりたいとか、そういうのは置いといて」

 

 少年は剥ぎ取りに使っていたナイフを片手に持ってこちらに歩み寄る。そして大きくナイフを私に向かって振りかぶった。

 

 ピタッ。

 

 眼前でそのナイフは止まる。

 

「怖い、すごく、怖い」

 

 狩りで培った戦闘の腕は確かなのだろう。独学だろうけど。

 

「──だろうね」

 

 普通なら殺しは1番クる。

 少年は私の横に座って膝を抱えた。

 

 これから歩むはずの人生を潰し、誰かに恨まれ、背負っていく命。私は、耐えられたのだろうか。未だに分からない。けど、私は誰かを殺したくはない。

 

「海兵になったら、多分いっぱい海賊を殺すんだ」

「うん」

「海賊は、嫌だ。僕は、海賊に怯えている。それは僕が弱いから」

 

 海賊は強さだ。

 だから弱いと怯える。

 

「──だから僕は、海兵になるんだっ、海賊を全部、弱い誰かが恐怖する全てを壊す為に……!」

「己が誰かを怯えさせる恐怖になっても?」

 

 答えなかった。

 答えられなかった、というのが正しいと思うけど。

 

「多分、キミの進む道は。救った数より殺した数の方が多くなる道だ」

「でもっ! 誰かを犠牲にして好き放題して、お金を搾取して!そんな理不尽な悪に手を染める悪い奴らのせいで、誰かを想える正しい人達が困って苦しんで死んでいくのを見るのは……! 耐えられない! 見て見ぬふりなんてできっこない!」

 

 

 ねぇ、過去の私。

 この少年を見てどう思う?情けない?それとも優柔不断?価値観をきちんと線引き出来てない未熟?考えが甘くて矛盾だらけ?

 

 私はね、自分みたいだと思うよ。

 

 世の中に『大切なものを全て守りたい』も『恐怖全てを壊したい』も、そんな綺麗事で出来た未来は存在しないんだよ。全てを手に入れようとしても、何かはこぼれ落ちてしまう。私の手は2つしかないから。

 

 

 

「──上等じゃない」

 

 その果てにあるのが幸せなら、私は必ずやり遂げてみせる。

 

「秘策を預けよう、少年」

「……え?」

 

 

 過去の私。海軍でグラッタを殺したばかりの私。

 貴女はその殺したという行為を、しばらく引き摺ります。殺した瞬間は覚えおらず、なんの感情も動かなかった薄情者。でも誰かの未来を奪うその行為が、自分本位な貴女は耐えきれない。

 

 その行為は未来で貴女を苦しめます。

 

 そして死からまた死が生まれる。

 

 

 猫ばかり被って本当の自分を隠していた私。

 貴女はそれが最善だと思っているでしょう。沢山の人から優しくされて、薄情になって。近付かせなければ傷つかないと、そう思っていますね。

 

 それは正解です。近ければ近い程傷は深い。

 

 そして結局は裏切られます。その猫は上辺だけだから。

 

 

「偽物になるんだ」

 

 貴女は狐です。

 誰かを騙して誑かす悪い女狐。

 

「偽物?」

「そうだよ、偽物。自分とは全く違う仮面を被って、別人に成るんだ。強くて、自分の苦手なんて全てやってのけちゃう、ぼくのかんがえたさいきょうのかいへい!」

 

 海賊の子供である私が本当に必要なのは、素で居れる味方だったというのに。

 

「影でどれだけ泣いたっていい。吐いたっていい。キミは恐怖すら恐れる男に成るんだ。──見ろ!ヤツが来た!ここから逃げろ。──しまった!ここはヤツの保護下にあるのか!」

 

 私の女狐は全てここから来ている。圧倒的なハッタリ。名前の大きさ。

 無名であった謎の大将からちまちまと評判を高めて行った。恨まれるという力を使って。

 

 海賊に恨まれ、政府に疎まれ。

 そうして偽物は本物になっていく。

 

 私の考えた最強の海兵。

 

()()()の予知ではね、絶対、ぜーーーったい」

 

 私はグッと親指を立てた。

 

「キミは誰よりも本物の偽物になれるよ」

 

 でもね、私はその偽物を超える偽物になってやる。

 

 

 未来の私。

 貴女は誰にも漏らせないような秘密を沢山抱えて苦しむでしょう。伝えたくても伝えられないジレンマと、沢山の後悔に押し潰される。きっと、これまでと変わらないし変えられない。

 

 でも自分本位で優柔不断のまま生きようと思います。

 

 変わらないまま世界を全て作り変えてしまえ。

 

 

 身勝手でわがままで自分の感情だけが最優先。私のせいで苦しんだ人は沢山いる、でもきっと私のお陰で救われた人も沢山いる。

 

 

 私は海兵になりたい。

 海兵として、海賊に。

 

 海軍大将女狐という座も、海賊堕天使としての地位も、そしてロジャー海賊団としての存在も。

 

 

「生きよう」

 

 誰よりも自分らしい偽物に。

 

 

 これは私の──誰でもない私の修行期間。

 

 

 

 

 

 ちなみにこの後5分も経たずに時空転移したことを記しておく。道理で気持ち悪いままなわけだよ!




〜完〜

いや冗談ですけど。
ハイ!2021.3.20、ついにこの日で4周年迎えましたー!わーい!

蛇足ですが、この『2度目』とそしてハリポタの世界にある『3度目』。そのふた作品の主人公をしてくれているリィンを。
ついに、一次創作として!連載開始することになりました!なろうだけどね!
https://ncode.syosetu.com/n9901gv/1/
2度目や3度目とは関係のない、リィンが主人公という共通点でしかないけど、よかったら応援してちょうだいね!


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第249話 泣きっ面に蜂

 

 どっぼーーーん!

 

 擬音語があるならそれ。

 私は毎度のことながら海へとダイブした。

 

「ブハッ」

 

 海面から顔を出して大きく息を吸う。

 

「ゲホ、ゲホッ」

 

 くっ、そ、海水鼻から飲んじゃった。頭が耐え難い痛みに支配される。

 こう、『痛たたた!』じゃなくて『イッッッッ……(数秒溜め込む)……たァ!?!?(ブチ切れ)』みたいな感じの痛み。とりあえず落ち着け私。

 

 しはしはする目を頑張って開けば、目と鼻の先に陸地があった。くっそ、もうちょっと落下地点がズレててくれれば。

 いや受け身もなしに陸地に落ちたら骨折れるかな。

 

 そうしてバシャバシャと泳いで(泳ぎなれてない)陸地に体を乗り上げると──そこにいた少年と目が合った。

 

「えっ」

 

 ちょっとまった。

 

 驚き固まる私に、怪我だらけで頬に泣き跡がある少年は決定的なことを言った。

 

「今……空中から……現れた……?」

 

 時間転移見られてた──!

 

 

 やばい。非常にやばい。

 何より自分の怪我の手当を早いとこやらないといけないのに。

 

「…………。」

 

 私は海から上がる。

 今更だけど私って本当に能力者じゃないんだなぁ。

 

 さて、どうしてしまおうか。

 

「あ、あの……」

 

 私はびしょ濡れのまま少年を見下ろす。

 冷静保っているが、実は微塵も冷静じゃない。

 

 ここは多分まだ過去だ。

 ということは、未来でどんな影響があるか分からないから人殺しは出来ない。そう、口封じが。

 空間にいきなり現れた瞬間を見てしまった少年。

 私が能力者である、と嘘ついても、海を泳げてしまった以上騙されもしないだろう。いや、この瞬間は騙されるかもしれないけど結局常識外だとバレるのは時間の問題。

 

 どうしよう。

 

──ガサガサッ

 

 

 

「い゛────!」

 

 動いた瞬間背中がズキンと傷んだ。

 その傍らで少年が後ろにきゅうりを置かれた猫の様に驚き跳ねて、身を守る様に体を小さく丸めて蹲った。

 

「わん」

 

 草むらから出てきたのはただの人面犬だった。

 良かった、人間じゃなく……いま何が出てきたって????

 

 2度見しても何も居なかった。怖っ。

 

「兄上……兄上ぇ……」

「……。」

 

 よく見れば怪我だらけどころか、火傷も刺傷も擦り傷も鬱血も、栄養失調気味でなにかに怯える姿も。

 

 あーーー。虐待の気配を察知。

 

「よし」

 

 私は少年を小脇に抱え込んだ。

 ぶっちゃけ私も身長高いってわけじゃあ無い、いやむしろ低い方だから年下の少年でも抱えるの精一杯だけど。

 

「???(???)」

「飛ぶか」

 

 とりあえずこの島に居るのはまずいな。一旦でもいいから場所を変える。

 

「舌噛むなよ」

「え、っ、う! うわあああああああ!?!??!」

 

 暴れてないけど叫ばれるととても迷惑!

 

 

 ==========

 

 

「は、母上ぇぇえうえぇん……!」

 

 結構離れていたけど1時間くらいで隣の島に着いたに着いたので適当に人気の無さそうな場所で下ろす。

 今更だけど客観的に見たら人攫いみたいなことしてるな……。

 

「んで、坊主。お前には2つ道が残されている」

「ひっく、ひっく」

「俺のことを黙っておくか、そのまま死ぬか」

 

 一択しか残されていないような質問を『ション(エース)』のまま投げかけると、嗚咽を漏らしながら少年はブルブルと震えだした。ぐすぐすと泣いているのを静かに待つ。

 素直に考えて誘拐犯が急かすと逆効果だしね。

 どうせ私には時間があるんだから。

 

 

「死にたい……母上も父上もいないなら死んでも良い……」

 

 1時間くらいだろうか。ようやく少年が答えを出した。

 これは予想外。

 目を見開く私に少年は言葉を続ける。

 

「でも兄上が、兄上が生きてるから、……生きなきゃ」

「なぜ?」

 

 私が疑問を問いかけると前髪に隠れて見えない瞳が丸くなった気がした。

 

「なぜ?」

「お前の兄上の為に、なんで生きる? 義務感や依存で生きると、生き方を見失うぞ」

 

 これは私の自論。

 他人を想えば想うほど、同時に死にやすい。

 

 この少年の場合死んでもいいと思っているからこの言い方は無意味だけど。

 

「なんで兄上の為に生きなきゃならないんだ?」

 

 愛してるから? 健やかであれと願っているから?

 誰か他人のためになんで生きる? それだけを生きる理由にする?

 

「とめ、なきゃいけないから? 兄上のことは、好き、だから……兄上が父上を殺したの……許せない。これから兄上が、いっぱい人を殺し始めちゃったら……」

 

 あぁ、義務感か。

 唯一の肉親が壊れていく。その肉親を止めるのは同じ唯一の肉親。つまり自分。

 ディクティター・グラッタが親殺しをしたように。

 その義務感は達成した瞬間行き場を失うよ。多分待ってる先は自殺。

 

 はーーーーめんどくさいな。人間って。

 私みたいに生き足掻けばいいのに。

 

「ま、だろうな」

 

 兄のために生きてはいないけど、兄を人生目標の括りに入れている私が言えたようなもんじゃないか。

 

「少年、誰かのために生きるのはいい」

「う、うん」

「誰かのために死ぬのも別にいい」

 

 この世界には、命を賭ける人が多すぎるから。

 命は、他人にしか賭けられないから。

 きっとこの少年も、生粋の住人だから。

 

「でも生きる理由を失って死ぬのは駄目だ」

「えっ、殺そうとしてるのに?」

「…………。」

 

 凄く純粋そうな顔で言われた。

 はい、そうですね、少年に殺す選択肢を提示した人間の言うことじゃないですね。はい。

 

 

──ぐぅうう……

 

 

「あっ」

 

 お腹の鳴る音。

 少年が顔を赤くした。

 

 はーやれやれ。

 

「仕方ないな」

 

 私はアイテムボックスからポーーンと保存食を取り出した。フゥ、数年持つ保存食くん助かるぜ!

 できればこのアイテムボックス、時間停止の機能が付いてたらいいんだけどなぁ。物の腐敗を止めるというイメージが出来ない為か普通に時間経過する。無念。

 

 海軍産保存食を少年に渡すと、前髪で隠れた表情が喜びに染まった気がする。

 

「あ、ありが、とう」

 

 ……所詮私は冷酷にはなり得ないんだろうなぁ。

 

 どっかの星組とかいう存在が『は?????お前何を言ってんだ頭イカれたか????』みたいな感じで脳みそに直接語りかけて来た気がするが多分気の所為だろうね。

 

 もそもそと食べ始める少年を見ながらよっこいせと地面に座る。

 

「そんで、お前どうする」

 

 私が問いかければ少年が再び顔を上げた。

 

「親が居ないんだろ」

「…………うん」

「俺がお前をこの島に連れてきたが、別に向こうの島に戻ってもいいんだ。……ま、様子を見る限りその虐待はパパとママじゃなくて兄上か誰か他の大人かもしれねぇがな」

「兄上じゃ、無い」

「へー、そいつは悪かったな」

 

 ション(エース)の演技をしながら興味無さそうに聞く。

 

 オロオロと行く末を迷っている様だった。

 申し訳ないけれど、私は過去の人間である少年の行動指針をあまり勝手に決められないので。

 

 それで現在改変なんてものが起こったら震える。バタフライエフェクト怖いよぉ。

 まぁ、フェヒ爺と違ってガッツリ命に関わるわけじゃないだろうから神経張り巡らせなくていいけど。にしたって海賊王の団体は非常に疲れた。

 

「お、おれ。どうしたら……いぃ──」

 

 ボソボソと項垂れる少年が語尾を小さくした。最後の方は本当に微かだった。

 でも聞こえた。

 

「──ぇ……」

 

 独特な語尾。

 

 多分聞かせるつもりは無かったんだと思うし、それは癖だったんだと思う。

 

「天竜、人?」

 

 私が疑問符を浮かべれば少年はハッとなり口を塞いだ。

 怯えるようにズザザザと足をもたつかせ転がるように後ろに下がる。

 

「ちが、違う、おれは誰も傷つけてな……! 違う、違っ」

 

 ふるふる震えながら頭を抱えて身を守る。

 のを気にかけず、私はずいっと近付いた。

 

「名前は」

「えっ、うっ」

「名前は?」

 

 ずいずいと近付けば虚をつかれた少年は観念したように名前を零した。

 

「ドンキホーテ……ロシナンテ……」

 

 その瞬間私は喜びに任せて抱きついた。

 

「なんだシーナじゃん!!」

「あばばばばばばばばば」

 

 ビビって損した!!!

 ようやく、よーーーーうやく過去で味方らしい味方に会えた!

 

 

 ==========

 

 

 

「えっと、つまりお兄さんはお姉さんで」

「うん」

「お姉さんは未来でおれと知り合いで」

「うんうん」

「お姉さんは未来から過去に時間旅行しちゃった、と」

「うんうんうん」

 

 小さな脳みそのキャパは少ないだろうからざっくりとした説明をすると、言葉自体は分かったらしい。

 

 シーナリリィがそっと目を閉じる。

 

 溢れ出る想いを込めて、彼は言葉を放った。

 

「分かんない──!」

 

 そりゃそうだ。

 

「全部分からない。え、おれ、こんな物騒な人と付き合いあるの?そもそも、未来から過去に時間旅行しちゃった、ってなに!?」

 

 私よりシーナの方が何倍も物騒だと思う。

 私はとても優しいので言わないでもおいてあげるけど、ドフィさんへの報復、シーナが色々やらかしているせいでとんでもない事になってる。

 即席で報復を計画したクロさんの目じゃない。

 

 いや、うん、思わず合掌したよね。ここまで嫌がるポイントポイントを徹底的に踏むかぁ、って。

 

 正直実行犯になるのは私だから勘弁してもらいたかった。

 

「シーナ今何歳?」

「は、はち……」

 

 シーナの年齢は37だったから現在からみて29年前か……。

 エッド・ウォー海戦の少し前辺りだね。ガープ中将が英雄と呼ばれ、そろそろ海軍の組織形態が整ってきた辺り。

 

「よし、シーナ行くか」

「え……どこに?」

 

「ぶらり旅」

 

 海軍本部にお届けコース入りまーす!




書き方を忘れてしまっている……!
というか、この話4000文字も行ってなくて、今までの話6000とか余裕でオーバーしてて。1万行く時もあって。いや自分ヤベーなって思っている最中。自分ヤベーな。

あ、前の話のあとがきでお知らせしたなろう作品。
アルファポリスでも連載初めました。『最低ランクの冒険者』『何度目』『恋音』のどれかで検索してもらったらすぐ繋がるかと。


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第250話 立つ鳥跡を濁さず

 

 前回までのあらすじ。

 おっす、おらリィンだけどションという名前の男の子でエースって呼ばれてる女の子だ!今分からないって言ったそこの君!私も分からないから安心して欲しい!

 そう、ともかく今誰が誰だか分からない私はセンゴクさんに嵌められて時間旅行をしている。死と隣り合わせの。

 

 時間旅行ってなんだろうな……。本当に。一体いつになったら帰れるんだろうか。

 

 60年前、人身売買をしていたらしいマザーカルメルの羊の家で世話になり。

 50年前、海賊王のクルーが東の海から偉大なる航路に突撃した辺りまでえんやこら胃の壁をすり減らしながら頑張り。

 40年前、幼い頃の赤犬らしき少年と生きるって辛いわーって話をして。

 

 ここまでは曖昧な年代しか分からないので細かい数字は割愛する。

 

 そして現在、私が生きていた時代から年齢逆算して29年前。まぁ約30年前の話。

 

 私の設立した情報屋組織、青い鳥(ブルーバード)の秘書的ポジションでもあるシーナことドンキホーテ・ロシナンテ君と奇跡的に邂逅したのだった。

 

 [完]

 

 

 

 

 ……ってそれで解決するほど簡単な話ではなく。まだまだ旅は続くどこまでも、である。

 

 羊の家事変ではリンという名前の金髪の女の子に。

 帝国滅亡事変ではエースという名前の黒髪の男に。

 赤犬事変ではカナエにとっても似てる謎の人物に。

 

 ここまでで共通する人間がいねぇ!!!!(シャウト)

 

 第2回目の時空移動で閃いたんだけど、海賊王にエースと呼ばれる黒髪の男。彼を未来で生み出される真女狐として利用しようと思っている。

 旧女狐でもある堕天使リィンと、それを影武者に使う完全別人である真女狐。1番拙い事は一人芝居だとバレること。

 その点、この時間旅行は都合がいい。だってリィンはどうやったって過去が決まっている。生まれてから成長する軌跡を多くの人の目についている。それより過去の存在には遡れない。なり得ない。

 

 一体誰が想像出来ただろうか、この伏線(かこ)に。

 素振りを少したりとも見せなかった私のリアルな反応に、一体どこを疑えというのか。

 

 

 

 

 なんてことをもしゃもしゃシャボンディ饅頭を横でたべるシーナを見ながら考えていた。

 

「お姉さん」

「シーナ、一応俺今はお兄さん」

「あ、そっか、お兄さん。おれ、これからどうなるの?」

「……その質問の意図は、どっちだ?」

「んぇ?どっちって、何が?」

 

 シャクシャクと独特な踏み心地のシャボンディ諸島。とりあえず困ったらここに行けってじっちゃん行ってた気がするから来てみたけど、シーナは大分ここの景色が気に入った様子。

 

「『今のお前の行先』か『未来のお前の現状』か、どっちだ?」

「み、未来に現状って付けるのおかしいと思う……。えっと、どっちも」

 

 私が見下ろして問いかける。

 シーナは前髪で隠れている瞳を逸らしながら答えた。

 

 そう、だなぁ。うーん、どこまで説明すべきか。

 

「とりあえず未来から言うな。お前はまぁ、海軍に入って将校になり、んで、兄のドフィさんを止めるために潜入するんだ」

「おれが、海軍に?」

「おう」

「ど、どんな海兵だったの?おれ泣き虫で……それに弱いから」

「あー、悪いけどお前が海兵だった頃はまだ生まれてねぇんだわ俺」

「??????」

 

 実は結構年齢離れているんですよシーナさん。

 親子と言っても問題無い位には。

 えーっと、確か潜入時が22歳って言ってたから私の時代から遡って約15年前?

 

 うん、生まれてないわ。もし会えてたとしてもそれはドンキホーテファミリーの幹部ロシナンテだろうから。

 

「あ、そっか。お兄さん歳下なんだおれより」

「そーそー。んで、お前は死んだ……フリをして、情報屋青い鳥(ブルーバード)で。ま、要するに俺のところで潜伏してる最中」

「そこでシーナって呼ばれてるの?」

「あぁ、ドジっ子名無しのピエロ。略してシーナ」

「どういうこと!!????!?」

 

 ただしキャラブレが激しい。

 

 コロコロ驚く姿に笑みが零れる。普段は私より背が2、3倍も高いけど、今は私の方が高い。低い位置にある頭を撫でようとして手を伸ばし…──。

 

「ッ(ビクッ)」

 

 シーナは肩を震わせると手から避けるように数歩後ろへ下がった。

 

「……ぁ、あ、っ、ごめ」

 

 自分の動きに驚き、自分の足や私の手を見て、そして私の表情を目で追う。かくつくようにぎこちなく足を動かすこと2歩、動揺した声色で謝罪をしようとした。

 

 のを、私は思いっきり手を伸ばして両手で頭を掴む。

 

 

「わっわっ、あわーーー!!」

 

 私はそのままの勢いで髪の毛をわちゃわちゃともみくちゃにし始めた。

 

「いい、シーナ!」

 

 湧き上がってくる感情が、よく分からない。心が締め付けられるほど痛くて、泣くのを我慢するせいで喉の奥がチクチクして。食いしばった歯の奥はギリギリと音が鳴る。

 

「私は、絶対お前を傷つけない。絶対に、何があろうとも!」

「お、にい、さ」

「絶対、絶対にっ!」

 

 何よりシーナに怯えられるのは、プライドに傷がつく。

 

「よくも、よくも私のものに傷つけてくれたな………。あの島、バスターコールしてやろうか…………」

「えっちょ、なん、なんか、物騒な気配」

「政府加盟国だともみ消しが大変だけど非加盟国ならどうとでもなる…………もしくは天竜人にリークするか……? 今すぐ滅ぼしてもいいがシーナが恨まれてはたまらない……未来で覚えとけよ……」

「おに、お兄さんーー!?」

 

 事情なんか知らない。例えシーナの親がやらかしてシーナを傷つけた人間が被害者だとしても、私は自己主義の自分本位な人間。私が大事に思う人間傷つけた時点でそこにあるのが加害者だろうが被害者だろうが知らない。絶対許さない。

 

 まさか私がこんなに激情するとは……。

 

「おち、落ち着いてよ」

「心から落ち着いてる」

 

 心は常に凪の帯(カームベルト)の様に穏やかだよ。

 

「──とりあえずシーナ、旅の準備をするぜ」

「おれ、お兄さんのそのコロコロ変わるやつ、ついていけない」

「なれるなれる」

 

 出来る限り、シーナのそばに居てあげよう。

 ……時間転移が訪れるまで。

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

「ん、上等」

 

 

 シーナをボロボロの服から着替えさせ、靴を新調。後、宿の風呂にぶち込んで泡まみれにした。

 身だしなみを整えていると日はとっぷり沈み、夜も深くなっていた。

 

「飯でも食い行くか」

「あ、おれ、ここで待っ」

「一応言っとくがお前も来るんだからな?」

 

 おずおずとベッドに座ったシーナを不機嫌そうに見ながら告げる。

 私の予想通りの事を言おうとしたのだろう、シーナはギクッと動揺した後、言葉の意味を理解して嬉しそうに微笑んだ。

 

 おっ、初めての笑顔だ。

 

「で、前の話の続きだけど。俺は未来で海軍大将女狐って名前で通ってる」

「……? うん」

 

 将校の仕組みが分からないのだろう、首を傾げながらもとりあえず頷いた。

 

「一応海兵が情報屋やってるってのは聞こえが悪い。まぁその分シーナの隠れ家としては目が向けられなくてやりやすいんだが」

「よくわかんない」

「まぁここら辺は覚えなくていい。ただ俺が海兵だって覚えとけば」

 

 出来れば女狐の噂も流しといて欲しいもんだけど、それはまぁ置いておこう。無理にやりすぎると矛盾が生まれる気がする。

 

「んで、今のお前の方針を発表する」

 

 

 適当な飯屋を探す為にブラブラ歩き始める。てとてと、とシーナが早足気味で歩いた。

 

「我らがホームグラウンド、海軍本部へご案内だ」

「海軍本部?」

「そう、この偉大なる航路(グランドライン)にある海軍本部だ。身寄りのない子供なら公の組織の下に入るのが1番生きやすい」

「難しい言葉だけどロクでもないってのは分かる」

「わかるなばぁか」

 

 効率がいいって言え効率がいいって。

 

「んで、直接本部に行くのもありだけど、(時間の許す限り)周辺を散策するのもいいなと思っている。──行きたい所とかあるか」

「おれ、よく分からない」

「だろうなぁ」

 

 シーナは意見自体は結構口にしてくれる。意見を言うことに怯えがない。精神的な虐待だったり、指導からの虐待であれば意見を言い難い形で成長したのだろう。

 ただ普通に、自分の意見を言うまでもなく暴行を受けた感じだ。

 

「……!」

 

 そろ、と左手に何かが触れる感触。

 

 バッと反射的に左手を見たら中途半端に右手を伸ばして硬直したシーナが。私と目が合った瞬間顔を真っ赤にして右手を自分の後ろに隠してしまった。

 

「…………じー」

「あ、あはは」

「じー」

「へ、へへ」

「じー」

「あ、はは……」

 

 誤魔化すように引き攣った笑みを浮かべている。

 見つめあいが続く中、思わず吹き出したのは私だった。

 

「あっはっはっ! ……シーナ」

「あ、う」

「シーナ。手、出して。ね、シーナ。私の可愛い可愛いシーナ」

「…………絶対からかってる」

 

 今からかわずして一体いつからかうというのだ。未来に戻ったって可愛げの欠けらも無いスレスレシーナだぞ。

 

 シーナはムスッとした表情で手を伸ばしてきた。

 

 私は子供が本当に嫌いだと思っていたけど、案外そうでも無いのかもしれない。いや、達観して大人びざるを得ない子供、限定かなぁ……。

 

 ま、少なくとも海兵らしくさ、子供は守るべきものだってのは思ってるよ。状況によりけり。

 

「お兄さんはここに詳しいの?」

「んー。あまり、だなぁ。2年間任務で通ってた位だから」

 

 一瞬しか通過しない海賊よりは詳しいと思うが、駐屯する海兵よりは詳しくない。

 

 そしてそんなことを考えていたせいか、いつもの癖で13番GRへ来てしまい。

 

 

 ──顔を見上げた瞬間根元の建物に気付いた。

 

『シャッキー’sぼったくりBAR』

 

「………………おう」

 

 

 襲い来る胃痛に思わず蹲った。

 

「えっ、えっ、お兄さん!?」

「シーナ……」

「どうしたの? お腹痛い?」

 

 まさか。

 まさかこんな時代からあるとは思わないじゃん!!!!!

 

 うぅっ、どうしよう行きたいような行きたくないような。

 

 今の世界情勢確認するんだったらあそこが1番いいのは分かってるけど、ううん、うーん。

 ……今ならどう足掻いてもバレないし、未来でもそんな素振り無かったし、あとシャッキーさんのご飯は普通に美味しいから行こうかな。

 

 

 行くか行かないか迷うのはバレるバレないではなく面倒事が起こるか起こらないかのどちらかなんだよ。

 

 

 

 ええいままよ! 問題が起こった時は起こった時だ!

 

 

「シーナ、あそこ行くぞ」

「あそ……こ……行っていいの?」

「ぼったくられりゃその時だ」

 

 あの人のぼったくりするしないのラインは分からないので、運頼みだけど。というかこの年代で使える現金が無いから宝払いになるだろう。

 

「シーナ……って呼んでも別に問題はねぇか……? いやあいつなら多分引っかかるな……このトリックを見破られると困るし……」

 

 綻びは作らないに限る。

 シーナと結んだ手をぎゅっと力を入れながら、私は魔界へと足を踏み入れた。

 

 

「ちは……」

「──にゅう!? 人間!」

 

 手が沢山生えたクリーチャーがこちらを見て慌ててカウンターの中に逃げ込んだ。

 

 

「……………………はーーー」

 

 そういう所だからな、災厄くん。

 シーナがギョッとした顔をして、消えていった生物と私に交互に視線を向けている。

 

「いらっしゃい。何にする?」

 

 壁紙は緑。記憶にある装飾はピンクで若干温かみをあったけど、今の時代はデザインが少し違うようだ。

 バーカウンターや椅子の配置などは変わらないみたいですごく見慣れている。

 

 そして問題のシャッキーさん。

 あの………………タイムスリップでもしました……?

 

 顔の違いが判別しにくいという欠点のある私ですが老けとかそういうのはわかるんですよ。さすがに。あの、どこが変わっておいでで? 人じゃない?

 

「もしもーし、聞こえてる?」

「あぁ、聞こえてる。魚人の子が普通にいるとは珍しいな」

 

 カウンターに腰掛けるとシーナもうんしょうんしょと椅子に座った。

 

「酒はいい、これが食べれる様な……。さっきの魚人がいつも食べてる飯を作ってくれ」

 

 これ、と言いながらシーナの頭にポンと手を置く。

 それとなく魚人の食べる物が人間と変わらないの知ってるよってアピールをしながら、会話のネタを振り撒いた。

 

「えぇ分かったわ。お嬢さんは何にする?」

「……。女顔で悪かったな。あんたよりは歳上で男だ」

「あら、私よりも歳上なの、お兄さん」

「そんでこれは俺の子供」

「えっ!? そうだったの」

「そーそー。そうだったんだよ」

「あらあら、子持ちはモテないわよ」

「残念ながらコブ付きでもモテちまうんだよな」

 

 ガビーンと言いたげにシーナが驚いているけど、そんなわけあるかい。

 うーん、子供の反応って素直だな。

 

「ボーヤ、辛いもの食べられる?」

「えっ、あ、食べたこと、ない、かも」

「そう。じゃあ甘めに作りましょう」

 

 シャッキーさんがそう言いながらご飯を作り始める。ミンチを取り出して炒めているみたいだけど、何が作られることやら。

 ま、当たりしかないけど。

 

「はっちゃん、この子達大丈夫そうよ」

「はっちゃん?」

「あぁ、さっきの魚人か?」

 

 うーん、気のせいかと思ったけど、タコ足の魚人でぼったくりバーに来たことがあるって時点で怪しんでいたけど、いやまあちょっとくらいは現実逃避していたかったな。

 

「うにゅぅぅぅう…………」

 

 カウンターの裏からぴょこっと顔を出したのは口が特徴的な魚人。うん、ルフィ達に助けられたとかって言ってた魚人ですね。

 

「魚人の子供つーと目的はシャボンディパークか?」

 

 私がカウンターに頬をついて首を傾げる。サラッと流れる髪の隙間からドヤ顔だ。

 私の発言にはっちゃんはぎょぎょっと目を見開いた。

 シャッキーさんがくすくすと笑っている。

 

「ガキンチョ、良かったらうちの坊ちゃんとも話してやってくれ」

「お、にいさ、あれ、な、なに」

「んあー?」

 

 そういえば、フィッシャータイガーの奴隷解放って確か私が生まれた頃、だったよね。

 それよりも10年以上前。少なくともシーナが外界に降りてきて2年以上はたってることから、まだ魚人の奴隷は主流になってなかったんだろうか。

 

 人間オークションの様子見ておくんだったな。いやでも教育に悪いしなぁ……。

 

「魚人島は今誰の縄張りだ?」

「ニュー……誰の縄張りでもないぞ……。今、海賊がいっぱいいるんだ……。友達は皆攫われて……」

「あー」

 

 つーことはシーナの家族……ドンキホーテ聖はとことこん奴隷に関わらせなかったのかもしれないな。買ったとしても家事をしたり、そういう雑多に使う奴隷。コレクターとしてでは無いってのは確かだろう。

 

「これは魚人。海の底の、あー、まー……めちゃくちゃ深い所で暮らしてる種族だ。他にも一応人魚ってのもいる。国王の家系が人魚多めだったか」

「魚人! おれ、はじめてみた!」

「……だろうなぁ」

 

 怯えることも無く、興味津々と言った様子で椅子から降りて近寄っていった。

 

 怖いもの知らずというか、未知に対する探究心、すごいな。

 

「おれ、ロシナンテ! お前は?」

「はっちゃんだ! ニュー!」

「なぁなぁ、それ、手は何本あるんだ。全部バラバラで動かせるのか?」

「ロシナンテって長いな、ろっちゃんって呼んでもいいか? 腕2本でどうやって生活するんだ?」

 

 見たところ歳も同じくらいな様だし、違う種族だから質問は互いにポンポン出てくる。

 楽しそうに話しているし放置しておいて大丈夫だろう。

 

 ……問題はシャッキーさんだ。

 

 昔は分からなかったんだけど、この人めちゃくちゃ強いな。気配が隠しきれない。

 多分昔(未来)が弱くなったとかじゃなくって、隠し方が上手くなったんだと思う。私は気配がわかるとかそういう超人的なあれは無いので、気配と言うよりは威圧感だけど。

 

「お兄さん達はどこから来たの?」

「さぁな。名前は知らん。だがま、俺もあれも、外と隔離された場所にいたから世界情勢はちっとも分からん。そろそろ海軍は滅んだか?」

「残念ながらピンピンしてるわ。ガープなんかは特に元気いっぱいだったわ」

「ガープ…………?」

「あら、まさかゴッドバレー事件をご存知じゃないのかしら。ここ近年の大事件なのだけど」

「あー、あれだろ、知ってるぜ、神々の住まう土地で100年に1度の大会があるってあれ」

「…………絶対違うってことだけは断言出来るわね」

 

 私はお冷を飲みながら鼻で笑った。

 

「どうせ政府にもみ消される事件だろ。史実と歴史が違う案件は首突っ込むと後々異端だとかどーとか言われて肩身が狭くなるんだよ」

 

 私の時代にゴッドバレーなんて名前は残ってない。ガープ中将が関わっているのなら後で聞けば済む話だろう。

 私はあまり歴史に詳しくないけど、出生があれだからこれ以上政府に睨まれる訳にはいかなかったしね。大人しく『歴史(都合のいい感じに仕立てた記録)』の範囲内しか触れてこなかったよ。

 

 ま、要するにそんな私が知らないんだったら世界政府の不都合な案件。

 

「まぁいい。今の時代は何が力を増してるんだ?」

「随分と視点がお爺さん臭いわよ」

「ははっ、どうだろうな」

 

 私はちょっと調べたいことがあったので、目を細めて聞いてみた。

 

「──ロックス、とか言ってたな」

 

 ロジャーの時代の前はロックスの時代、と言われていた。

 ロックスを指すのが人名だと分かった状態、その組織も、なんなら海賊かすらもわからん。うん、全くわからん。

 

 だからそれかなぁー、なーんて思ってたんだ。

 

 適当に意味深な雰囲気出して『俺は強いやつとかわかってるぜドヤァ』みたいな。この世界、カッコつけるの好きだからさ。

 

 

 

 するとシャッキーさんは思わずヘラを止めてこちらを見た。

 

「人が悪いわ。最悪よ」

「なんの事だかさっぱり分からんな」

 

 いやほんとに分からんな。

 なんかよく分からないけどこれ踏み込みすぎるとボロが出る話題だな。気をつけておこう。

 

「知らないフリするのも大概にしとかないと、ぼったくられるわよ」

「ぼったくられりゃ体で返すさ。極楽浄土に案内してやるぜ。…………ただ」

 

 じー。じー。

 

 4つの視線が私に鬱陶しく絡みつく。

 

「──ガキがいなけりゃ」

「あっはっはっ! 子守りも大変ね!」

「ナンパもままならねぇから参るもんだ」

 

 下にある頭を2つ、わしゃわしゃと掻きむしる。

 子供2人はバランスを崩しながらもそれを受け入れた。

 

「はっちゃん、ろっちゃん、出来たわよ」

「わーい!」

「ニュー!」

「……そのろっちゃんっての似合わねぇな」

「え、そうなの?」

 

 シーナがきょとんと驚いた瞳で私を見る。

 ロシナンテのことはシーナって呼び続けているからね、馴染みがない。

 

「あら、じゃあローちゃんって呼びましょうか? これなら似合うんじゃなぁい?」

 

 吹くな私。吹いたら未来でバレるぞ。

 今吹き出したら未来で何かしら突っ込まれるぞ。我慢、我慢だ。

 

 未来でシーナが助ける子供の名前がローだなんて名前は今思い出すな。

 

「な、だな。なっちゃん。かーわいいだろ」

「えー! おれ可愛いのよりかっこいい方がいい」

「なっちゃん!」

「なっちゃん、タコライスよ」

「うい゛ーーーっっ」

 

 なんか足をバタバタしながら嫌がっている。女の子っぽいけど、性別使い分けできると便利だぞ。

 ……将来アバウト3mには無用な知識だろうけど。

 

「つーか、タコの魚人がタコライス……」

「洒落てるでしょ」

 

 元々タコスという料理があって。タコスはトルティーヤという生地に炒めた具材とかを乗せて巻き寿司みたいに巻いて食べる軽食。その中の具材をご飯の上に乗せたのがタコライス。ドライカレーに違い食べ方。

 トマトベースのサルサが主流なんだけど、シャッキーさんのはチーズ多めで甘めだった。

 

 ──この料理にタコは、入っていない。

 

「たこ焼きくらい食わせてやれよ」

 

 確かはっちゃんの好きな食べ物ってたこ焼きとか言ってたはず。というかたこ焼き屋台がどーとか言ってたから。

 

「たこやき?」

「なぁ、たこやきってなんだ?」

「知らねぇか? まぁ時代も違うからな……」

 

 どの時代に栄えたのかは知りません。多分感覚的にワノ国だと思うけど。

 

「こう……薄い鉄板に、指で丸作った円周くらいか。その大きさの半円型のくぼみがあって……。熱したそれに小麦粉のサラサラした生地を注ぎ、中にたこを入れて楊枝というかアイスピックというか竹串みてーな長めの錐でひっくり返して円形にすんだよ」

「説明は分かりやすいのにびっくりするほど想像ができないのね……」

「んでそこにたこ焼きソースとマヨネーズと鰹節と青のり」

「たこ焼きソースって?」

「それ用に調合した甘めのソースだな。焼きそばとかの味にちけーやつ。ま、細かいレシピは俺も知らねぇな」

 

 というか説明が難しくなるし、細かく知っていると『作って』と言われそう。ポイズンクッキングは勘弁。

 

「ふぅん、貴方、物知りなのね」

「どうだかな」

 

 私の情報は決して断定させない。過去も語らない。話の節々から、そうじゃないかという予想を立てさせる。確信に近い予想を。

 

 でも私が断定しなければ後でどうとでも言い換えれる。

 

「はァ、平和な世の中になったもんだな」

「……そうは思えないけど?」

「ハハッ」

 

 物騒極まりない過去で果たしてどうやって生きていこうか。

 はっちゃんと仲良くなったシーナには悪いけど、あまり1箇所に留まり続けるのは良くない。

 

「明日はどこに行くか」

「え、もう出るの!?」

「あぁ、別にシャボンディ諸島は船も結構出てるし、後からでも来れるしな」

 

 諸島だからログはないけど、定期便が出ている。シーナが海軍本部に行くならより一層通いやすい位置だろう。

 私だって海兵現役、海賊(ゴミ)処理任務は通いだったんだから。

 

「ニュー……もっと居ないのか……? また会えるか……?」

「さてな。一応保護者だが、俺ァ未来のことを約束しない主義なんでな、約束するならそいつにしとけ」

 

 わざわざ私に許可を取ろうとしている。非常に残念ながら私は時間転移があるから。

 ちゃんと食事終わりの挨拶を終わらせて、会計をする。ぼったくられはしなかったけど、サファイア1粒渡した。すまん、現金がない。

 後で換金……いや……うーん……過去で換金しても発行年数的には問題ないか、換金して来よう。

 

 さて、次は本格的にどこに行こうか。

 

 

「そうだ、貴方名前はなんて言うの?」

 

 私が悩んでいるとシャッキーさんが思い返したように質問をしてくる。

 

「──俺は、ただの通行人Aだ」

 

 俺はそう言って笑った。

 

 

 

 

 

 

 

「それにしてもなっちゃん魚人怖くないのね」

「初めて会った時のお兄さんの方が怖かった」

「……一体何をしたの?」

 

 何もしておりません。




普通に跡を濁しまくったよね。
お久しぶりです、私です。
ようやく乗ってきました。ただし次回が決まってません。
シーナとのぶらり珍道中、アニオリか映画で出てきた島に行ってみようかと思います。まだ決めてません。
次回、懐かしのあの海賊の登場。シーナ、実はコミュ力高い? の2本です。お楽しみに。


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第251話 犬も歩けば棒に当たる

 

 

 

 夢の中、私はフラフラと過去を飛び回っていた。

 世界の過去ではない。私の歴史の、過去だ。

 

 出会いと、別れ、再会と、災厄。

 何年も積み重なってきた軌跡。

 

 

 

 ……ん? あれ?

 

 

 パチリ。

 

「ッあああ〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!!!????」

 

 

 大声で声をあげた私に、寝起きのシーナがベッドから飛び起きた。

 

「なに、なに!?」

「そういう事か!!!!」

 

 突然飛び上がった私。

 シーナはベッドの振動でボヨンボヨンと跳ねていた。

 

 

 

 現在、過去です。

 シーナの幼少期と出会ったので時間転移が来るまで適当にブラブラしようと思って新しい島に来たはいいんだけど、夜中だったから宿を取って休んだ。

 

 そして朝。

 私は夢の中でひとつの事に気付いてしまった。

 

「そういう……事!」

「えっ、何が?」

 

 センゴクさんの先読み恐るべし、という事。

 

 センゴクさんは過去で『俺』と会った。そして頂上戦争後、私が新しい雑用として変装した段階で気付いたんだ。過去に出会った『俺』は、私が過去に飛んで出来た存在なんだ、って。

 

 ……いや、その段階でセンゴクさんは確信に至った。それ以前に予感はしていたんだ。

 

 センゴクさんはどこからか情報を入手していた。

 『過去に飛ぶ悪魔の実』と『真女狐の正体』と『シラヌイ・カナエの正体』を。それら全てを合わせて真実に気が付いた。

 

 そしてこのトリック。

 私とセンゴクさん以外には解けない。

 

 過去に飛ぶ悪魔の実の結果を知っている人間は、私がシラヌイ・カナエの子供だと知らない。そしてシラヌイ・カナエの秘密を握っている者は……海賊、知ることも無い。

 

「で、えっと、どういう事?」

 

 シーナがキョトンとした顔で私を見上げた。

 

「……えっ、と」

 

 どういう事って、どういう事だっけ?

 ああ、そうだ。夢の中で走馬灯を思い返しながら、私はひとつの真実に辿り着いたはず。

 

 それはセンゴクさんの知っていた事と。

 

「………………やべぇな、忘れた」

「ええええぇええええぇえッッ!」

 

 夢の中での出来事なんて覚醒した頭で覚えてられるものか。

 ガビーン、とした表情でシーナは叫んだ。うるさいから叩いた。

 

 

 ==========

 

 

 

「ひどい。おーぼーだ」

「横暴くらいまともに発音出来るようになってから言え」

 

 たんこぶ出来た頭を抱えて涙目で訴えかけるシーナを連れて街へ出る。

 

 仕方ないじゃん。夢って普通覚えられるわけないじゃん。夢現のあの境目では覚えているんだけど、覚えているという記憶があるだけではっきりなんて覚えられない。

 それに今回の夢はカナエさんに分けられた予知夢ではなく、ただ純粋な走馬灯。走馬灯を純粋と言っていいのかはさておき。

 

「気になるじゃん……どういう事なの……」

「知るか」

「思い出したら言ってよ!」

 

 分かった分かった。

 

 シーナは約束をすると打って変わってニコニコ笑顔に戻った。単純というか純粋というか。今までのシーナのスレ具合は欠片もない。子供は苦手なんだけど素直に可愛いなと思わせてくれる。

 

「それでお兄さん、ここはどこ?」

「プッチ」

「説明少ないよ」

 

 ここは美食の町。

 海列車でウォーターセブンと結ばれている町の一つで、四方から現れる食材と腕を振るう職人達の都である。

 

 ……というのは未来の話です。

 確か私が生まれたすぐかその後かぐらいにフランキーさんの出身でもあり海賊王の船を作ったとされる造船会社「トムズワーカーズ」社長トムが開発した海列車。それの開通によって「カーニバルの町」サン・ファルド、「春の女王の町」セント・ポプラ、「美食の町」プッチ、「司法の島」エニエス・ロビーとの間に定期便が開通され、ウォーターセブン近辺は造船・観光都市として豊かになった。

 

 ただ、今は過去。

 美食の町、とはまた違った模様である。

 

「治安、悪ぃな」

「なんで来たの?」

 

 興味です興味。

 やはり観光地ともなった場所って、遥か昔から栄えている方が珍しいんだ。私の知ってる観光地で、海軍本部飛行1時間圏内って言ったらここでした。

 

 プッチの過去は観光地になる前の様相を見せていた。

 

 大海賊時代は私の生まれた時代だけど、過去も大概海賊で溢れているような気がする。

 

「こ、怖そうな人いっぱい」

「俺より?」

「全然怖くなくなっちゃった…………嬉しいような悲しいような」

 

 余程第一印象最悪だったらしい。うーん、やっぱり可愛いリィンちゃんじゃなくて性格の悪いジョンだとそんなもんだよね!

 

「さーて、なっちゃん。ここでの目標を発表する」

「なっちゃんかっこよくない」

「黙らっしゃい」

 

 ピシャリと発言をぶった斬る。

 

「ひとまず、うまい飯屋を見つけること」

「……お兄さんって食い意地はって」

「その次、情報を集めること。いいかなっちゃん、お前は今後、どういう道に行こうとも情報は集める事になる。ぶっちゃけ、俺はお前が今ここで俺と出会って、俺に嫌気がさして、未来が変わったとしても……後悔はない」

 

 シーナは首を傾げた。

 未来が変わることへの重要さが分かっていないようだ。だって彼は過去の人間だから。未来なんて知らないのだ。

 

「いいか。よく覚えておけ。お前は──このままだと死にかねないぞ」

「えっ」

「用心深さと、腹黒さと、大胆さを手に入れろ。未来で私と、女狐と出会える日が来るまで。絶対生き延びろよ」

 

 死亡フラグを無駄に立てていく。

 ドフィさんへの裏切りで罰されるドンキホーテ・ロシナンテ。未来で、歩む道が一歩でも踏み外せば死んでいたに違いない。ほぼ高確率で。

 

 ドフィさんのおもしろさと、それを上回る恐ろしさを知っている私は、確信していた。彼は、実の弟であろうと殺す事が出来る。

 シーナは逆に、実の兄を殺せない優しさを持っている。

 

 覇王色の覇気の有無の違いかなー。それとも、人間味の違いかなー。

 

「ま、今の間に俺が育てるって事だ」

「それ、厳しい予感がするえ……」

「その『え』ってのは禁止だ。自己紹介してる様なもんだ。後俺は部下が涙流して血反吐と恨み節吐いても外周を走らせた経験がある」

「お、おれ磨けば光るから厳しいのいいよ!」

「磨く行為を怠慢してる今はただの石っころ」

「ぴょえ」

 

 潰れた蛙みたいな声をしてシーナが鳴き声を発する。はっはっはっ、喜ぶな喜ぶな、

 

「さ、シーナ。早速仕事だ。そこら辺にいる海賊からうまい店を聞き出してこい。なぁに、逃げ足もついでに鍛えれるから一石二鳥だな」

「それもう襲われる事前提じゃんかああ!」

 

 シーナは地獄とはここですみたいな顔して悲鳴を上げた。

 隠しきれないお坊ちゃん感は、海賊にとって餌に見られるだろう。

 

 ま、私はシーナの逃げ足を信じてカフェテラスでコーヒーでも飲むとしよう。

 

 あっ、お姉ちゃんコーヒーひとつ。砂糖とミルクたっぷりでね。うんそうそう、ホットミルクと変わらないくらいの。

 

 

 

 ==========

 

 

 

 一時間後。

 

「……で」

 

 私は新聞片手に足を組んでドン引きの表情を見せた。

 

「どういう事だよ」

「お、お友達ができたよ!」

「フリッツ・ヘイヴだ」

「……どういう事だよ」

 

 純粋に分からなさが突破してるしフリッツ・ヘイヴって言ったら未来の王下七武海じゃねぇかボケ。

 

 うまい飯屋を聞いてこいと頼んだ未来の手駒は、何故か海賊を連れてきた。言っている意味が分からないと思うが、私も分かってないから安心して欲しい。

 

「あー、えー、顔色泥の蝙蝠野郎さんは」

「悪口じゃないか」

 

 心外だ、と言いたげにフリッツ・ヘイヴが私を見下ろす。

 

「ロシナンテ。こんな子供がお前の保護者なのか?」

「てめぇよかずっと年上だ敬称を使え」

「そうか」

 

 ディスコミュニケーションの塊かよ。

 というか。文句を子供に言うな。納得するならもっと感情を顕にしろ。

 

 フリッツ・ヘイヴの見た目はツヤッツヤの黒髪を長く垂れ流し、そして痩せこけた姿と、めちゃくちゃ顔色の悪い感じで……。うん、すっごく不健康そう。

 記憶の隅っこのさらに隅っこにあるフリッツ・ヘイヴの姿と見比べても……ちょっと不健康がすぎるな。目の下に隈が出来てるし。

 後、七武海時代の彼にあった鼻につく獣の血液臭さが全く無い。あるのは海の匂いと、カビ臭さ。

 

「一応こんななりだが、こいつの保護者やってる。俺は……あー、好きに呼べ」

「なんだ。名前が無いのか」

「一応あるっちゃあるが、好きではねぇ」

 

 どこかでロジャー海賊団のエース君という男の本名が『ションなのだ!』って、情報を巻いておきたいんだけど。

 この男は将来、ドフィさんの手によって殺される存在。真女狐が現れた状況では彼の証言など無意味だ。

 

「じゃあ、ロシナンテの親御」

「長ぇよ」

「……略してロシオヤ?」

「いや、それ、……はぁ、もういい。てめぇの質はよぉぉく分かった」

 

 ディスコミュニケーションとディスネーミングセンスの塊って事がね!

 

 ……えっ、ロシナンテの恐らく初めてであろう友達が兄に殺されるの? 精神、大丈夫?

 私、胃が痛くなってきたんだけど。

 

「…………はぁ」

 

 私はため息をひとつ吐いてシーナを見た。シーナは肩をビクリと震わせる。

 

「えっと、ご、ごめんなさ」

「それは何に対しての謝罪だ?」

「……その、期待に添えなかった、から」

「ちげぇよばぁーーか。お前が、予想以上に『やる』奴だと認識したから、安心したんだよ」

 

 シーナの頭をグリグリと撫で回す。

 わわわ、とバランスを一生懸命保つシーナの踏ん張り声を尻目に私はフリッツに向き直った。

 

「ロシナンテ。いい魚を釣り上げた。こいつは近い将来でかい看板を背負うぜ」

「……なんだと?」

 

 私が思うに、情報屋で最も必要な事は『価値のある人間を見つけること』だと思っている。

 情報のある人間をそもそも見つけださなければ意味が無い。シーナはその直感で、未来の七武海をぶち当てた。

 

 フリッツ・ヘイヴは訝しげに眉を寄せている。

 

「ははっ、気分がいい。情報は手に入れたな?」

 

 これは課した『うまい飯屋の情報』だ。

 シーナは課題を忘れなかったようで、うん、と頷く。

 

「腐った蛆の道、の三番地、『ヘドロのスープ』だって」

「ネーミングセンスがクソかよ」

 

 どこかの世界でお前が言うなと言われた気がするけど気のせいだろう。不可避キック、分かりやすくっていいじゃん。

 

「ついて来いよフリッツ・ヘイヴ。お前のオススメのメニューもついでに教えろ」

 

 昼飯に彼を誘うと、困惑したままの様だったがシーナをちらりと見て頭を縦に動かした。

 

 

 

 目玉が浮かぶ正しくヘドロみたいなドロッドロの灰色のスープを出された瞬間、絹をさく悲鳴を上げたシーナと、思わず顔を引き攣らせた私を尻目に。花をふわふわ浮かばせてフリッツ・ヘイヴはスープを両手で抱え込んだ。

 

 

 

 

「あ、意外と美味いな」

「……!そうだろ!」

「な゛ん゛で飲める゛の゛!???!?!?」

 




おひっさしぶりでございますと同時に2度目の人生はワンピースでの5周年となります!!!
去年、3話しか書いてないって、まじ?

こ、今年はかけるといいなぁ……(震え声)

ところでですが、実は皆様大好き(笑)なこの作品の主人公、リィンなのですが。
──ニコニコ動画で踊っております。
ま、正確に言うと1次小説『最低ランクの冒険者〜胃痛案件は何度目ですぞ!〜』の主人公リィンの二次創作なのですが。ぜひ『最低ランクの冒険者』で検索してみてください。


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番外編16〜【IF】あったかもしれない世界のつづき〜

IF物です


 

 

 これはほんの少しだけリィンが頑張れば、あったはずの世界。

 

 

「あ、もう時間ぞ」

 

 幼い頃、初めてリィンはフーシャ村に来た。祖父であるガープに兄がいるという話を聞いて突撃隣のフーシャ村しちゃったのだ。

 そこで出会ったのは後の船長である兄のルフィ。そして初めてフーシャ村に訪れてた海賊、後に四皇として名を馳せる男、シャンクス初邂逅したのである。

 

 本来であれば。リィンは帰るはずだった。

 本来であれば。その後ルフィはとある少女と出会うはずだった。

 

 だが、その本編(れきし)と違う出来事が起こった。

 

 

「──ん?」

 

 シャンクスがリィンの幼少期クソムズ言語に首を傾げた。ちょっと言葉の意味が分からなかったので聞き直すも、これまた難しい言語で答えが帰ってきたのだった。

 

「住処はこるぼ山故に闇夜は危険ぞ。危険物多大に存在す、急速に帰還すべしぞ」

「よし、よし、信じ難いが理解した」

 

 言語的な意味でも。

 

「……お前、ここの子供じゃないのか」

「肯定ぞ、私は森、だ、ぞ、よ?」

 

 

 ここで分岐点が起こったのだった。

 

「分かった、リィンお前今夜はここに泊まれ。明日の朝イチで送って行ってやる!」

「えっ、でも帰宅願望せぬばお家で顔面凶暴共ぞ心臓負担ぶっかけるぞり!」

「ごめん結構わからん。だけど俺の主張に反対したことは分かった」

 

 シャンクスは流石に譲れない、と言わんばかりに主張を押し通す。

 

「山は危険だ。お前の住処がどこら辺にあるのか知らないが、帰らせる訳には行かない」

 

 そこでリィンは考えた。

 木の影からこんにちはしてくるコルボ山が誇る数々の獣達を……。うん、やめよう。明らかに強そうな人達がいるんだから。エースとサボが心配する? するっちゃするだろうけど自分の身の可愛さには勝てないのだ。

 

「了承致すすたなり助!」

「返事のくせが強えな……。まあいいや、あいつも女の子が居た方が喜ぶだ──」

 

 あいつ?

 

 リィンがその言葉に首を傾げたその時、酒場の扉がバン!と開かれた。

 

「シャンクス! 全然戻って来ないじゃん!」

 

 子供の声であった。

 その場の流れでリィンがその方向へ向けるのは至極当然だろう。

 

「おおウタ! 来たか!」

「来たか! じゃなーい! 赤髪海賊団の美少女音楽家をほっといて宴会するダメな海賊が何処にいるって言うの!?」

「ここだな!」

「笑い事じゃないー!!!」

 

 ギャハハと大笑いするシャンクス及びその船員。慣れた様子なのか澄まし顔でウタと呼ばれた少女は肩を竦めた。やーれやれ、この男どもは。そう言いたげだ。

 

「ん?」

「うぇ?」

「お?」

 

 宴会の最中に見覚えのない、要するにルフィとリィンの姿が目に付いた。

 

「ねえシャンクス、こいつら誰?」

「ルフィとリィンだ。あー、そういやお前ら何歳だ?」

「俺6歳だぞ!」

「わたひ、えっと、さんしゃい」

 

 ルフィは元気良く、リィンは食べていた食べ物をゴクリと飲み込んで媚び媚びに。

 

 ちなみに心の中でリィンはこう考えた。

 

 うわ、半々だ。半分だ。

 

 失礼極まりない。

 

「ふーん。私はウタ、赤髪海賊団の音楽家! 私の歌は、みーんなを幸せにするの。ちなみに8歳!」

「俺より数が多い! ずるいぞ!」

「いや何よずるいって……。年齢にずるいもへったくれも、あるもんですか!」

 

 ウタはリィンを一瞥して眉をひそめた。

 

「それよりガキンチョ。その服何? 仮にも女の子なら、もっとまともな服着なよ!」

 

 そう言われてリィンは自分の服を確認する。

 ありえない! なんてプンプンしているウタの言い分もそのはず、リィンは山暮らし。日々猛獣と終われ山賊達と一緒に嵐が来たら吹き飛びそうな小屋で野性味溢れる生活をしていたのだ。挙句ゴミ捨て場と呼ばれる場所でフェヒター(ばけもの)に虐められる生活。

 

 おしゃれ? それより生き延びることの方が重要なのだ。

 

「りぃ、服無い」

「無い!?」

「にぃにの服ぞ、ちぎってはぽいすて頑張るすてる」

 

 その瞬間ウタはリィンの手を取って立ち上がった。

 

「かんっっっがえられない!!!来て!私の服分けたげる!」

 

 バタバタとリィンを引っ張って駆け出したウタに、無骨な男共はポカンとした顔をして見送った。

 

「女の美容には口出さねぇのがルールだぞ、ルフィ」

「???」

 

 

 ==========

 

 

 

「はいこれ、私が小さい時に着てた服。それとこれ、これも。あっ、宝石があったんだった。これとこれとこれも、あとこれは私には似合わなかったから使って、靴も小さくなったんだっけ、まだ大きいかもしれないけど」

「わぷぷぴぴぴび!」

「え、今の何?」

 

 ウタの部屋にて。ウタが振り返ればそこには衣装に埋もれたリィンが不思議な悲鳴をあげていた。衣装の山からリィンを引っこ抜いたウタは、大事そうに持っていたボロい箒が目につく。

 

「ねえ、リィン。それ何?」

「足!」

「足??????いや箒じゃん……」

 

 呆れた顔するウタに、リィンはちょっと自慢げにふふんと笑顔を浮かべた。

 どう見てもドヤ顔である。

 そしてリィンはエースやサボにもまだ見せたことの無い飛行技術というものを自慢したくてしたくてたまらなかった。ぶっちゃけフーシャ村まで来たのは箒なのであるが、やはりまだ不安定。

 あんなにアグレッシブに動き回るエースやサボに移動手段を見られると、そりゃもう巻き込まれること必須。何にって、命のやり取りにである。

 

「ウタちゃん」

「ちゃん?」

 

 短い名前万歳。そう思いを込めてリィンは手を差し出した。

 

「お空ぞビューンヒョイしましょ!」

「どういうこと!?」

「心配ご無用不用心!」

 

 そしてウタはリィンの手を握った。

 甲板に出たリィンは箒に跨り、その横をウタのために空けた。

 

 まさか乗れって? そう言いたげなウタの顔にリィンは語らず頷いた。

 

 グン。

 箒は空へ舞い上がる。それはちょびっとだけかもしれないけど、少女達にとっては偉大なる距離だ。

 ゆっくりとノロノロと、箒全盛期の海軍所属リィンからは想像もつかないような安全運転。

 

 だけどウタは喜んだ。

 

「す、すごい!」

 

 ちょっと怖いし、落ちないか、って不安はある。

 でもいつもの海なのに、こんなに綺麗な海を見たことがなかった。初めて見た景色だ。

 

 潮の匂いが鼻にくすぐる。

 

「すごい、すごい! どうして浮かぶの!?」

 

 空を飛ぶのって、すごい。地面と遠くなって、飛び回るのがこんなにも楽しいのか。

 ウタは結構、アグレッシブな性格だった。恐怖や不安はいつの間にか吹き飛んで行った。

 

「へへへーん、これぞわたしゅの、さいきょーへいき! 名付けるすて、お空ビュンビュン(未来図)でござるぞり!」

「うーん、ネーミングセンスがダメ」

「ガビーン!」

 

 服が潮風を孕む。そう、まさに踊り子みたいに。

 2人繋いだ手が月明かりに照らされていた。

 

「ねえリィン、歌いなよ!」

「ぴ?」

「ほんとは私が歌いたいところだけど。私が歌うと、リィンは寝ちゃうから、リィンが歌って!」

 

 なるほど、子守唄ってことかぁ。

 悪魔の実を知らないリィンは純粋な気持ちでそう納得しながら、やれやれ子供のお世話って大変だなぁ、と心の中でお姉さんぶって口を開いた。

 

「──♪」

 

 風が吹いた。どんちゃん騒ぎしている海賊には届かない歌声が、静かな海の上で隣の女の子に届いた。

 

 リィンが歌い終わる頃には、ウタは眠っていた。寝苦しいのかううっ、と唸り声を上げるウタを横目に、リィンは箒を慎重に下ろした。

 

 ちなみにウタは普通に落っこちたのだった。

 

 

 

 ==========

 

 

 

 暗い、何も無い島。焼け落ちた島。

 音楽の国と呼ばれたあの島で、寂しい歌を歌いながら。

 

「私の最強(リィン)……。会いたいよ……」

 

 その呟きはさざ波に溶けて消えた。

 

 

 

 

 

 ==========

 

 これはあるはずのない物語。出会わないふたりがであった世界の物語。

 

 




お久しぶりです。
皆さん、映画、見ましたか?
恋音見ました……めちゃくちゃ泣きました…………………もうほんとに辛かった……面白かった……プリキュアとかアンパンマンみたいな展開で今までのワンピース映画とちょっと違うかんじだったけど、新時代的なワンピース映画でもう良かった……………。


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第252話 可愛い子には旅をさせよ

 

 

 未来のシーナことロシナンテが連れてきたのは未来の王下七武海(実兄に殺される)でした。

 

 というわけで、シーナへ課した海賊から情報を得るという任務を彼は無事に果たし、腐った蛆の道の三番地、『ヘドロのスープ』という見た目クソゲロ中身まじうま飯屋でシーナ以外が腹を満たした。

 

「さて、フリッツ・ヘイヴ」

「なんだロシオヤ」

 

 私が声をかけると未来の七武海であるフリッツ・ヘイヴが振り返った。

 呼び方、ロシオヤで安定するのね、そうですか。

 

 フリッツ・ヘイヴは恐らく30歳かその寸前くらいだろう。ただキョトンと首を傾げる姿は幼く見える。

 

「ちょっと待ってくれ、太陽光が酷い。紫外線対策をさせてくれ」

 

 そう言いながらバッと開いたのは日傘。

 しかもフリフリである。

 

「…………。」

 

 ツッコミ所すぎてツッコミすら出来んわ。

 

 頭を掻きむしりたい衝動に駆られるが、一息ついてこころを落ち着かせると、再び向き直る。

 

「この時代の観光地を探してるんだが、このご時世だ。現地の海賊に聞くのが一番だろうと思ってな」

「不思議な言い方をするんだな」

 

 どうせろくに交流せずに死ぬ七武海に時空転移ネタを仕込んでも意味が無いかもしれないが、ボロが出る方がまずい。徹底的に『ロジャー海賊団に居て悪魔の実の能力により時空転移が出来た未来で女狐と呼ばれる性格と口の悪い男』なりきる。

 

「死ぬ前なら、どこに行きたい?」

 

 フリッツ・ヘイヴは無言で考えた後、聞いた事のない地名を口にした。

 

 

 

「──〝音楽の国〟エレジア」

 

 

 

 ==========

 

 

 

 東の海(イーストブルー)よりの偉大なる航路(グランドライン)の端にその島はあった。

 

  煉瓦造りの建物がならぶ美しい国で、至る所から音が鳴り止まない場所だった。

 

 私の生きていた時代より29年前。ふと耳をすませば聞いたことのあるメロディーなどが存在する。あれです、いわゆる昔の曲。海兵の上の世代の人達が聞いてたなぁ。

 

「しっかし意外だな。まさか後の七武海(ただのかいぞく)が賑やかで……」

「普通の国、か? ロシオヤ、俺はな、音楽鑑賞が趣味だ」

「はぁ」

 

 興味がないので私は空返事をして周りを見渡す。

 島は角度の高い山が中央にあり、あとは緩やかな傾斜の土地が広がっていた。そんな島のそばに明らかに大型海王類と思わしき存在が白骨化されてる状態で海に生えてるんだけど、どういうことなの。

 

「やぁ、これはまた珍しいお客人じゃあないか」

 

 ヘッドホンをつけ、サングラスをかけた、頭髪はげなのに両脇の髪だけを長く伸ばした頭の形が明らかにおかしいやつだった。頭、え、何その頭。

 

「お前は……」

「私はゴードン、この国の王だ。あぁ、王と言ってもまとめ役の様なものだから身分などは気にしないで欲しい」

 

 そりゃおかしな頭した男がバリバリの国王なら第1村人みたいな感じで話しかけやしないよ。

 

 この世界、骨が1番のミステリーだと転生者はしみじみ思うな。

 

「久しぶりのお客人だ。国をあげて歓迎しよう!」

 

 

 

 そう言われて案内されたのは国で一番大きな建物だった。

 舞踏会のような雰囲気の会場には食べ物が並ぶ……という訳ではなく、所狭しと言わんばかりにたくさんの楽器や楽譜が置かれていた。

 国民もドレスを来てその場に集まっており、そこらから音が溢れ出てくる。

 

 隣を見やるとキラキラした顔をするシーナとフリッツ・ヘイヴの顔。私はため息を吐いた。

 

 この世界の戦闘技術は平均が高すぎて見劣りするから論外だけど、なんでも多彩にこなしちゃう超天才の私が食指の動かないジャンルがある。

 

「あほくさ」

 

 それが芸術だ。

 だいたい有名になるのって死後の人間だし。芸術は分かりにくいし、まあ凡人の私にはちょっと理解できないんだよね。

 

 天才とか言ってなかったって? それはそれ。これはこれ。沢山の顔を使い分けるんだから平気で自己矛盾してくよ!

 

「2人とも、俺はテラスで酒でも飲んでるから適当に楽しめよ」

 

 見上げるシーナと見下ろすフリッツ・ヘイヴの頭を軽く撫でて会場外へ行く。

 お酒は当然飲めないので、こんなこともあろうかと用意していた酒瓶(天然水)をラッパ飲みする。アルコール臭が無いのは消毒液を香水にして誤魔化すよォ!

 

 夜風に吹かれ、音楽が絶えず耳に運搬される。よっこいせどっこいせ。もうちょっと静かになんないかな。

 好きな人には好きなんだろうけど、申し訳ないが私には頭が痛くなって──

 

「──だーれだ」

 

 背後からむぎゅっと耳を塞がれた。

 

「……、あのなぁ、そういうのは目を塞がないと意味ないんだぜ」

「え、でも耳を塞げば声も聞こえないし誰か分からないんじゃ無いかな……あれぇ?」

「いや聞こえてんだろ。それに振り返られたらどうす……」

 

──ガシッ

 

 振り返ろうとしていたら頭を掴まれたようで振り返られなくなる。

 

「……これで振り向くのは無理になる」

 

 思わずため息が溢れた。

 

 

「おいこらなっちゃん、フリッツ・ヘイヴ。手を離せ」

「バレてた!」

「バレてるな」

 

 手を離した2人はイタズラな笑顔を浮かべていた。

 

「お前ら音楽は?」

「楽しんでいる。ロシオヤの様子が気になっていただけだ」

「僕歌ったの初めて! いっつも聞いてばっかりだったから」

 

 シーナが笑顔を浮かべて報告をしている。まあシーナが喜んでるならいいかぁ。

 

「ロシオヤは音が嫌いなのか」

「別に、好きでも嫌いでもねぇよ。ただまぁ……俺ァ耳がほかより良いんだよ」

 

 別にそんなことは無いです。私の耳は普通の人間くらいです。もしくはそれ以下です。

 でも折角なら強者アピールしておきたいじゃん?

 

「流石に頭痛くなってくる……」

 

 フリッツ・ヘイヴに弱点を晒すのもどうかと思うけど別に他より優れてるわけじゃ無いので弱点にはならないからいいかぁ。

 

 するとシーナが私に手を伸ばしてもう一度、今度は正面から耳を塞いだ。

 

「これで聞こえない?」

 

 聞こえます。ちんまい手で防げると思うなよ。

 今日何回目かのため息を吐いたあと、ニヒルな笑みを浮かべてシーナの頭を軽く撫でた。

 

「オーオー、聞こえねェな」

「良かった!」

 

 こいつアホだ。もしくはバカだ。会話が出来てる時点で気付け。

 

「ロシオヤには音楽よりこっちの方が良さそうだな」

 

 フリッツ・ヘイヴは私に新聞を渡してきた。

 

「あ?」

 

 日付けが今日の物で合ってるのか分からないけど、年代は私の時代より29年前。つまり過去(いま)の新聞だろう。

 

 新聞を読む。まあ読むまでもなく一面に乗ってあるのは。

 

「……元海軍大将、海兵育成学校教官黒腕のゼファーとロジャー海賊団、平和な島で激突」

 

 詳細は戦闘の様子ではなく被害状況の方が割合が多い。

 他の記事は……ガツルバーグの滅亡、神聖国アンティゴネの建国、四皇の縄張り変化、海軍本部内部革命のその後、コラム、等など。

 

 いやぁ、荒れてるなぁ(死んだ目)

 私この時代じゃなくて良かった。生まれてきたのが大海賊時代で良かった。

 

 ざっと目を通し見上げたらそこにフリッツ・ヘイヴが近い距離で見下ろしていた。

 

「何この海賊」

「長く海で名を馳せる大海賊だな」

 

 その人たち、のちのち海賊の王とその一味になります。超エキセントリックな海賊団です。

 

「そういえば……俺が海賊見習いだった頃に会ったことがあるな……。昔の船長が今も自慢げに言っている」

「ふーん」

 

 平常心を装っているが驚きまくりである。後の王下七武海は後の海賊王とエンカウントした事あるのね。しかも互いに名を馳せてない状態で。

 

 やっぱり持ってる海賊は違うな。

 

 ……まあ、持ってる持ってないで言えば私はめちゃくちゃ持ちすぎて荷物に潰されてる感否めないけど。

 

「あぁ! お客人、ここに居たのか」

 

 おかしな頭の国王、ゴードンが現れた。うーん、頭どうなってんの。

 

「我が国自慢の音楽は楽しまれてますかな」

「あぁ、充分過ぎるほどにな」

 

 はっ、と鼻で笑いながらだったがゴードンは特に気にした様子もなかった。

 

「そうだ、黒髪の客人……えっと、名前は」

「好きに呼べ」

「…はぁ、それではお客人と。お客人もよろしければ歌を歌いませんかな」

 

 ばさり、と取り出されたのは楽譜。

 

「これは私が作曲したものなのです! あ、作詞はお任せして……」

 

 どこにこだわったとかつらつら言い重ねる頭がおかしい、オット間違えた、おかしな形をした頭のゴードン。

 

 楽譜読めること前提かぁ。

 いやまあ読めるけど。一応、読むことは出来る。

 

 ふと隣を見れば期待するようなシーナの顔とフリッツ・ヘイヴの顔。

 ため息をひとつ。

 

「………………後悔すんなよ」

 

 語り続けているゴードンの口を塞いで、渋々。真剣な顔して睨んだ。

 

 私の歌声は、最強だ。

 

 なんせ鼻歌でも人々を卒倒させ、同じ雑用部屋の月組には『リィンちゃん、まじやばい。人前で歌ったらガチめに』『これ以上聴くとほんとに歌声に狂わされる』と言わしめた歌声。

 

「──♪──♬」

 

 私の口から響き渡る音。その音は。

 

「頭が! 頭がおかしくなる、」

「ロシオヤもういいやめろ! 止まれ!」

「は、母上ええええうええぇん!」

 

 ──そう、不協和音(・・・・)

 

 

 

 

 

 

 

「ぜえ……ぜえ……」

「ぐすん……グズグズ……」

 

 息も絶え絶えなギャラリー。遠巻きに悪魔を見るような顔で私を見る室内の国民。レコード系のでんでん虫から流れる音楽だけが虚しく音を鳴らす。

 恐れている。中には怯えたり逃げ出した人もいるだろう。

 

 そう、私は芸術が苦手。

 

 ──だって芸術音痴なんだよッッッ!(ドーン)

 

 表現って、難しい。

 

「あ、悪夢だ!」

「僕魔王が一瞬見えたよ……王冠とシッポが生えてた」

「霧かなんかだろ」

 

 失礼な奴らに冷ややかな目を送る。

 魔王がなんだよ、将来ピエロになるお前とどっこいどっこいだな。

 

「ぶくぶくぶくぶく……」

 

 自分の音楽を汚されたゴードンは泡を吹きながら気絶しているようだ。

 

「だから後悔するなよっつったんだよ……」

 

 

 頭をかきながらふと先程まで座っていた椅子を見ると、そこには古ぼけた楽譜があった。

 

「……?」

 

 この世の音楽とは思えないだとかなんだとか芸術好きの2人が嘆いている中楽譜をぱらりと見てみる。

 

 

「Tot musica」

 

 ムジカ……音楽。トット……小さい子供、いやたくさんの。ってとこか。

 

「……歌わす気ないだろ」

 

 歌詞ついてるけど初っ端古代語入れてるあたり趣味悪いわ。

 ふっふっふっ、これでもロビンさんから歴史の本文(ポーネグリフ)の解読知識を急ぎ足で詰め込まれている。

 

 古代語と似ている参考文書を取りだして読み合わせて。

 

 

 うん、よっし、やめとこ。

 

 最初の1文読んだだけでアイテムボックスに入れた。

 

「…………あぁ、Totって〝死〟の方か……」

 

 厄災に好かれる才能を持ってるのか私。今更だな。知ってる。

 ちっ、誰だよこんなの置いたやつ! 古代語読めねぇと思っただろ! 残念でしたぶぁーーーか! そう簡単にてめぇの策略に乗ると思うなよ! ……誰がやったんか知らんけど!!!

 

 

 

──ぐるり

 

「……っ!」

 

 心の中で中指を立てていると視界が回った。

 

 腹の底からせり上がってくる吐き気。乗り物酔いに似た、私の心底嫌いな体感。

 

「……や、ばいな」

 

 時間、及び空間転移の時間だ。

 

 ほんっっとになんで私がこんな目に……!

 

「? どうしたの?」

 

 シーナが心配そうに見上げた。

 

「次の旅行先が決まったなと思ってな。なっちゃん、行くぞ」

「えっえっ!?」

「あばよフリッツ・ヘイヴ。仲良しはここでおしまいだ」

 

 嵐のようにがしりとシーナの腰を掴んだ私はフリッツ・ヘイヴに目をつけた。

 彼は驚いた顔をしていた。

 

 フリッツ・ヘイヴ、後の王下七武海。

 ドンキホーテ・ドフラミンゴに殺された、リィンが最初に出会う七武海の1人。

 

「また会うか会わねえかはテメェの命運次第だ。未来で、会おうぜ。無理だろうがせいぜい頑張って生き延びろ、吸血鬼よ」

「うえええええ!? なになに急! えっ、ほんとに行くの! あああっ、えっと、またね!」

 

 シーナが小脇に抱えられた状態で別れの挨拶をすると、私はすぐに海軍本部の方向へと飛び立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数年後の未来。

 

「ハァ……ハァ……」

「フッフッフッ、流石は王下七武海。雑魚じゃねぇとは思っていたが……。想像以上にもった(・・)じゃねぇか」

 

 とある島。とある舞台。

 吸血鬼と呼ばれる男と、天夜叉と呼ばれる男が睨み合っていた。

 

 吸血鬼は片腕が切り落とされ、足元に血溜まりを作っている。それに対して天夜叉は空中に座りながら余裕綽々な表情だ。

 

「てめぇは負ける。その運命は変えられねぇ。さっさと諦めろ」

 

 歴史の強制力とも言うべきだろう。

 天夜叉はそれが当然と言わんばかりの顔でそう言い放った。

 

「自分が負ける。実に不服だ、が、認めざるを得ない」

 

 吸血鬼は恨むように太陽を見上げた。

 

「何が、何がせいぜい頑張って生き延びろだ。無茶を言うな。諦める方がカロリーを使わない」

 

 脳裏に浮かんだのは不思議な親子(ゆうじん)

 こんな時に浮かぶのは昔の船長でもなく家族でもなく、たかが数刻共にした友人だとは。

 

 名前は、確か。

 

「先に逝っている。ロシオヤ、ロシナンテ」

「……ッ! 今、なん」

 

──ブスリ

 

 殺されるくらいなら、自分から死んでやる。

 生き延びろと呪われた自分の、最期の足掻きだ。

 

「…………………………ロシオヤ(・・・・)、なぁ」

 

 災厄が愛し子の名前を呼んだ。

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

 

 着きました。(ドーン!)

 

 

「うわ、おっきい建物」

 

 シーナが感嘆の声を漏らす。

 そこには頂上戦争で見る形も無くなった海軍本部がそこにあった。

 

「ここは?」

「海軍本部」

「今日は何をするの? 海軍に紛れて海賊退治? この前のお兄さん凄かったなぁ、土下座してもカツアゲ?許さなかったんだもん」

「去勢しただけだろ」

「容赦がない」

「ほら、俺将来海軍大将女狐なんて名前を貰う男だし?」

 

 雑魚相手に容赦なんて気遣いしてられるか。物理的に全力でかかっても敵わない敵ばっかだってのに。

 

「シーナ」

「んえ?」

 

 私は振り返られる前にシーナの頭にポンと手を置いた。

 

「足元チョロチョロするサイズの超可愛〜い女の子は、だぁいじにしろよ」

 

 それ、多分私だから。

 

「え」

 

 シーナが振り返る寸前、私は再び転移したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「……お兄さん? どこ、どこ行ったの」

 

 ひとり、海軍本部の物陰で人影を探す。

 

 どこに行ったの。

 おれを置いて、どこに行ったの。

 

「お姉さん?」

 

 本当の性別を呼ぶ。

 

「……ぁ」

 

 名前を呼びたくて。

 あの人の名前を知らないことを思い出した。

 

 じめっとした空気が肌にひっつく。

 

「う……うぅ……」

 

 ポツリ

 

「うわああああああああん!」

 

 迷子は親を探すように、大きな声を上げて泣き始めた。

 天へと届け、未来へと届けと言わんばかりに。

 

「わああああああ!」

 

 呼ぶ名を持たない叫び声に引き寄せられる人もいた。

 

「なぜここに子供が……!」

 

 そう、センゴクである。

 

「おい坊主、お前親は?」

「うわあああああああああん!」

 

 顔中の穴という穴から液体を垂れ流し、怒りを顕に叫び続ける子供。センゴクはその様子から察するものがある。

 

「身寄りがないのか……!」

 

 ドンキホーテ・コラソン。

 

「──じゃあ俺と来るか?」

 

 散々人を振り回して起きながら愛情を注ぎ数十年も放ったらかしにするろくでもない家族を、今度会ったら許してやらねぇと胸に誓った。

 

 もう二度と、居なくならないように。

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

 

 青い空。青い海。

 

 空中。

 

 

──ドッシーンッッッ!!!!

 

「いっっっってぇな!!!!」

 

 奇跡的に海ポチャはしなかった代わりに襲いかかったのは鈍い痛み。

 まるで筋肉ダルマの上に落っこちたような感覚だ。

 

 痛みを耐えて目を開くと、そこには眼力だけで人を殺せそうな大男がそこに居た。

 

 

「…………てめぇ、どこから」

 

 

 

 私はその顔を見て思わずめちゃくちゃ固まった。

 

「ち、」

「あぁ?」

 

 

 

 がやがやと上の方がうるさくなる。

 

「おい船長! またあいつ脱走してんぞ! あんたくらいしか連れ戻せねぇんだか頼むぞ!」

「な、何ー!!!!!! またかよ! そんなに俺の事嫌──」

 

 そんな騒音を流しながら、眼前の風景に全身からドバっと汗が吹き出てくる。

 

 明らかにやばい匂いがして、明らかに過去最大級の災厄の気配がする。

 

 

「ちぎ……れ…耳……」

 

 全身に火傷を負ったちぎれ耳の男が。

 インペルダウンで見かけたあの男が。

 

 

 ──私の下敷きになっていた。

 

 

 突如鳴り響く胃痛。

 ………………あ、死んだかも。




語りたいこといっぱいあるけど、ひとまず言いたいことはひとつ。



お待たせしました!ちぎれ耳のご登場です!
やつが出てくるということは、あいつも出てくるに決まってる、ヨネ!

いやぁ、せっかく過去にいるんだから事件が起こる前に潰せば悲劇はおきねぇんだよ。さよならフィルムレッド。起こさせねぇぞ。


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第253話 鬼に金棒

 

 

 かつてインペルダウンを大脱走した時に最下層のレベル6で目撃した男が目の前にいます。

 

 

「ちぎ……れ…耳……」

 

 

 あのクロさんがこいつだけはやめとけと言わんばかりに関わり合いを拒否させた人物。

 

 私はこいつの正体を知らない。インペルダウンで見た時も思ったけど、素人目に見てもやばいくらい強そうだった。

 そして過去である今も、私より遥かに強いだろう。

 

「おい聞こえねぇのか、どけ」

 

 時間転移をして現在、海に落ちるかと思いきや私は小舟の上にいたこのちぎれ耳の上に落ちたのだった。

 そして周りは一面海。そして近くに大きな船がある。恐らくそこから逃げてきたのだろう。船はガヤガヤと騒がしいから恐らくあと数分で……。

 

 ちぎれ耳は大きな手で私を吹き飛ばそうと悪意の無い攻撃をしようとした。

 ……私はまず負けるので搦手を使う。

 

「さっさと消え──」

 

 

 

「──へぇ。お前、なかなか好みじゃねぇか」

 

 

 

 相手の頭を働かせないこと──っっ!

 

「…………………………は?」

 

 理解の範疇外の事が起これば人間は自然と理解に時間をかけようとする。

 むしろ理解をせずに動く人間はほんとーーーに稀だ。例えそれが0.1秒であったとしてもまず認識して理解しようとする。

 

 それに結論が出なかったとしても、だ。

 

「肉付きもいい、瞬発力もありそうだ。いや、どっちかって言うと持久力か。そそるなあ、これだけ上玉の男は久々に見た」

 

 う、唸れ私のBL知識(輸入先は秘匿しますがV様としておきます)!

 

「…………? は、お、お前何言っ──」

 

 これで稼げた時間は10数秒。でもこれで!

 

「──てんめぇええー!! まぁた俺の船から逃げ出そうとしてんな!?」

 

 ズドン。

 小舟に大男が降ってきた。

 

 ちぎれ耳と比べて小柄ではあるけれど、とに比べるとだいぶ大きい。

 

 小舟の近くに大きな船があったって事はそこから出てきたってことだろうし騒がしかったからすぐ気付く可能性の方が高い。私はそのための時間を、ほんの数秒稼げたらセーフだった!

 

 ミッションクリア、私の命は矛先を変えるという手段で守られ

 

「バレット! 今度という今度は許さねぇからな! 無断で俺の船を降りんな! よーしそうだそうしよう、俺の仲間にな」

「なるか!」

「どわっ!」

 

 ちぎれ耳の上に乗っかってた私は、ちぎれ耳が上半身を起こす勢いにすっ飛ばされ小舟の上をゴロリと一回転した。

 

 いったぁ……後頭部打った……。

 私の体重がいくら軽いからって存在を忘れるな平均身長激高世界……。

 

「ん?」

「はぁ……なんで軽い体に生まれたんだ…………か……」

 

 小舟に降りてきた男と目が合った。

 

「…………お前」

 

 鼻の下というか最早鼻から生えてるんじゃないかと思うくらい長い髭。パッチリとしたつり目。見るからにThe海賊とアピールしている帽子とコート。

 

 その小柄な大男はがばりと私の脇に手を伸ばした。

 

「──エースぅうう!!! エースだろお前ぇ!」

「お前……ま、まさか」

 

 私はわなわな震える唇で自分をエースと(そう)呼ぶ男の名前を予想して叫んだ。

 

「ロジャーかよ!!!」

 

 おぉ、神よ。

 ちぎれ耳が海賊王一味とは聞いてねぇぞ(なぜおまえはいつもそうなんだ)

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

「それじゃあ聞いてくれ! こいつが、カナエにめちゃくちゃそっくりでめちゃくちゃ強くて失踪してたエースだ!」

「………………よぉ」

 

 ここはロジャー海賊団の船の上。

 私はすごく不服そうな顔をしながら、ちぎれ耳と一生に並んで座っている。

 

「まじでカナエに似てんだけど」

「これが噂のエースか」

「思ってたより怖くないよな……?」

 

 ザワザワと船内が喧騒に溢れる。言っているのは恐らく初期以外の海賊団員。ロジャーお前、何を言い回ってたんだ。

 

 それより、いやそんなことより注目すべきことはですね。

 

「(ニコニコ)」

 

 悲しき運命を背負った親子2代に渡りお世話になった調教用の副船長の鞭(現役の姿)に、ちょっとお世話されそうな現状なんですよね。

 

 え、もっとわかりやすく?

 

 シルバーズ・レイリーに鞭で拷問受けそうです。

 

 

「さて、エース君。君に聞きたいことはいくつかある」

「スリーサイズか? 大胆だなこんな所できくなんてよ」

 

──ドゴンッ!

 

 ……これは振るった鞭で甲板に穴が空いた音。

 

「おま、鞭でこの威力は馬鹿だろ……」

「やろうと思えば切れるぞ」

 

 嘘でしょ。

 

「本題に入ろう。エース、君はなぜあの時消えた? そして何故姿が変わってない?」

「消えてねぇな。正確に言うと眠った、だ」

 

 さぁ、頼むぞ私の口八丁!

 今こそ真女狐の能力を確立させる時だ!

 

「人生で2度も同じ人間に遭うとは思っても見なかったからな……。まず言っとくが、俺は悪魔の実の能力者だ」

「なるほどな、道理で」

「まて、悪魔の実の名前を思い出す……。あー、なんだっけ」

 

 そんくらい覚えろ、とツッコミが飛ぶ。

 

「あっ思い出した。イデアだイデア。イデイデの実のイデア人間」

「いであにんげん……?」

「内容はどうでもいいだろ。お前が知りたいのは。俺の能力は特殊でな、ある程度一定の時間が経つと長い冬眠に入るんだ」

 

 そこからは私の一人語りだった。

 

「もう数えるのも億劫になるくらい昔から生きてる」

 

「いつ眠りについて起きるのかは不明だ」

 

「数日しか起きれなかったり、数十年も起き続けたり、眠るのも何時間か何年か」

 

「睡眠と冬眠は全くの別物」

 

「眠ってる間は姿は見えず海に浮いて漂ってるようなもん」

 

 ざっと説明をした私。

 ロジャーは首を傾げていたけど、レイリーは納得した様子。ああいいさ、長生きするのはお前の方だ。

 

「ちょっとそこ避けて〜! よいっしょっと、あ、ほんとにエースだ! フェヒター、本物だよ!」

「ほんとにあのクソ意味深女顔野郎が生きてんのか!?」

 

 人混み掻き分けて現れたのは今の私と同じ顔。そしてやや若めだけど見慣れた顔。

 

「カナエ……と……」

「あ? ん、だ、ょ……俺を見ん……いや、ま、僕……えーっと……」

「何まごついてるの?」

「うるせぇな! 生きてるとは思ってなかったんだよこっちは!」

 

 見慣れた栗色の頭。

 口調は荒いけども、(わたし)は分かった。

 

「まさか……カトラス・フェヒター……?」

「(ビクッ)」

 

 私の指摘にめちゃくちゃ嫌そうな顔をして顔を背け、何も触れてくれるなと言わんばかりのオーラを発している。

 

 そうかそうか。

 

 俺 は 面 白 い 事 が 好 き だ

 

「おま、なんだその口調〜〜〜〜! ギャハハハ! おうおう可愛いじゃねぇか、僕僕言ってた幸薄少年がまさかお前」

「やめっ、」

「俺の真似でもしてんのか〜!!!!! アッハッハッハッハッ! そんなに憧れてたかそうかそうか」

「ちげーーーーーよこの、死に損ない…っ!」

 

 カトラス・フェヒター。

 本名ディグティター・グラッタ。であった当初は線の細い美少年と言っても過言ではなく、一人称も『僕』で気高い感じがあった王族だ。

 それが今となっては口調も荒く、そう、まるで俺の真似をしているよう。

 

 ……まあ私が最初フェヒ爺の真似した口調してたから卵が先が鶏が先かちょっと複雑な問題になっては来ますけども。

 

 エース(おれ)は間違いなくからかって笑うでしょう。

 

「再会ってのもわりかし面白いもんだな!」

 

 キャラを守りながら周辺を観察する。

 

 ロジャー海賊団は随分人数が増えていた。

 今までいた面々とか顔の把握出来てないし、なんだかんだ言って把握出来てるの初期4人組くらいだし。

 

 ただまぁ、隣にムスッとした顔で座っている私のせいで脱走に失敗したちぎれ耳は覚えたよね、生命の危機が危ない。ベリベリ危ない。

 

「にしても、やっぱカナエとエースって似てるよなあ」

「後ろ姿は……同じくらいか。より一層めんどくさいな」

「うるせぇな……」

 

 ロジャーとレイリーの文句。

 めんどくさいけどそれはそう。私は仕方なくフードを被った。

 

 これで見間違えることは無いだろ、と視線で訴える。

 白いフード付きのコートだ。女狐っぽくていいでしょう。

 

「俺達はお前を認めてねぇからな!」

 

 子供の声が私の耳まで届いた。

 

「いくら船長が認めたからって、よく分からねぇ存在を認めねぇからな! ね、ギャバンさん!」

「いや俺はエース知ってっから」

「えーーーー!! 裏切り者ーーーー!!」

 

 やんややんやと騒ぐ少年達は赤い髪に麦わら帽子。そして青い髪に赤っ鼻だった。

 そうだと騒ぐ情けない大人達もいるけれど、私はそれを知っている。

 

 赤髪のシャンクスとなんたらかんたらのバギーだ!!!、

 

「(ニッコー!!!!)」

「「なっ、なんだよ」」

 

 満面の笑みに2人はビクッと肩を震わせた。

 

「よろしく頼むな、見習い♡」

 

 クックックッ、弱点探してやる。

 レイリーとかカナエとかフェヒターはほんとに進んで絡めないから。この船に捕まってしまった以上、未来でリィンと絡まない相手となるべくいたいけど、それってロジャーなんですよね。

 

 嫌に決まってんじゃん。海賊王だよ?

 

「んで、ロジャー。こいつは?」

「ん? バレットか?」

 

 ちぎれ耳はバレットと言うらしい。

 

「こいつはダグラス・バレットだ。俺の仲間!」

「ちげぇよ!」

「バレット、こいつはエースだ! こいつも仲間」

「果てしなく違ぇな。俺はな、ロジャーに誘拐されたんだよ。俺はただの通行人A」

 

 ロジャーの言葉を押しやる。

 逃げなくてもいいセンゴクさんから逃げた結果海賊船に乗っちゃった哀れなエース君(本名ション)だよ。

 

 そうだよ、あくまでも通行人Aのことをエースって呼んでるだけでこの俺にはションって名前があるんだよ。

 

 

 しっかしまぁ。

 

「…………なんだ」

 

 バレットがこちらを見下ろして顔を歪める。

 

「惜しいことにロジャーは見る目しかねぇからな」

 

 知らんけど。

 知らんけども、未来で成果をあげている海賊団。その一員の肩書きは大きい。

 

 それに将来インペルダウンの最下部でクロコダイルに「こいつはダメだ」って言わせるような大物になるんでしょ。

 くぅ、クロさんの弱点になりうるかもしれないじゃん!

 

 過去って、最強……!

 探っても未来のことだから痛くないもん!

 

 

 嫌そうな顔をするバレットに深堀して質問しようとした瞬間。

 

──むぎゅ

 

 足元を何かが掴んだ。

 

「……は?」

 

 それは元気な赤ん坊だった。

 えー、子供の年齢なんてわかんないけど3歳? 4歳? え、わかんないけどようやく歩けましたレベルな子供がくっついてた。

 

 なんで、

 

 なんでエキセントリック海賊王の人員は癖しかないんだよ!!!

 

「モモの助」

 

 野太い男の声が、恐らくその子供の名前を呼んだ。

 声の主をたどると、なんかお盆を乗せたかのような髪型をした和服の大男がいた。

 

 サイズ感はバレットの方が大きいけど。

 

「ちちうえ!」

「侍がいんのかよ」

 

 あの、あれですよね。ワノ国。

 政府非加盟国、噂だけでやべぇと言われる。

 

 女狐(うち)の部下にもワノ国出身者いるけど、頭ウルトラハッピーサボり魔自由野郎だから。

 青い鳥(うち)もワノ国に手を伸ばさないといけないかな……。いやでも鎖国国家だし交流が難しいんだよなぁ。

 

「これは面妖な。確かにカナエとそっくりだ」

「引きこもりの国から出てきた侍がいるとはな」

「おれの国を知ってんのか! いやはや、海は広いな!」

 

 侍は腰に手を当てて豪快ににかりと笑った。

 

「俺は光月おでんだ! その子は俺の子のモモの助、そんであっちにいるのが俺の嫁のトキと日和だ!」

「おっ、べっぴんさんじゃねぇか。お姉さん、今夜どう?」

「「「人妻だど阿呆!!」」」

「俺の嫁を口説くとはいい度胸だな! 見る目がある! やらん!!」

 

 それよりモモの助って子供が私の足から離れないんですが。

 歩いても取れない……!

 

「……ふん」

 

 足を思いっきり振り上げて振り下ろしてを繰り返してもキャッキャと笑うだけで振り剥がせないのなんなの。接着剤でもついてる?

 

 おでん、と言っていた侍に視線で訴えても無視された。お前の息子だろ。

 

 

 

「あ、ところでよエース」

 

 ロジャーがニッコリ笑顔で言い放った。

 

「この非常時にバレットとっ捕まえてくれてありがとな。ここで逃がしたら絶対逃げられるからよ」

 

 ぐらりと船が大きく揺れた。

 

 

 

「細かい自己紹介は後だ! さぁ、行くぞ野郎共!! ──空島だあ!」

 

 ゴオオオオオ、と大きな音を立て続けた海は、垂直だった。

 麦わらの一味で空島回避したのにまさかロジャー海賊団で空島に行くとか聞いてな──!!!

 

 

「……ッッ!!!」

 

 

 気絶入ります。3、2、1。

 

 

 

 

 高いところはためだっつってんだろ世界。

 




6周年〜〜〜〜!(細かく言うと3/20なので昨日〜!)

はい。入りました。
出てきましたよ。
ダグラス・バレット、こいつは本来この時空にはいないんですけども、リィンが脱走邪魔しちゃったので脱走タイミングがズレると思ってください。
そして出会いましたよ、ワノ国!


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第254話 光陰矢の如し

 

 

 あぁ、これは夢だな。

 

 夢だと分かる夢のことをなんというんだったか。

 

 場所はコルボ山だ。

 私の兄は3人。エースとサボとルフィ。

 ぼやけた視界から考えるにどうやら私はコルボ山の日差しの強い場所でお昼寝をしているようだった。

 

「こんなところで眠るなんて」

 

 金色の髪がサラサラと視界に入る。青い空と金髪ってやっぱり似合うなぁ。

 子供の頃ではなく、成長した様子のサボが呆れたような声色で言っていた。

 

「だけどそろそろ起きてもらわなくちゃ──」

 

 同じく成長した様子のエースがそう言えば、視界を埋め尽くす様に麦わら帽子が突撃してきた。

 

「おい! 起きろ! おーきーろー!」

 

 まだ被るにはちょっと大きい麦わら帽子。甲高い子供の声で私の体を揺する。

 

 ルフィ、重たいよ。

 

「起きろよエース!」

 

 うるさい……。エースを起こしたいんだったら私から退いてよ……。

 

「おい、そろそろ起きろエース」

 

 サボ、言ってる暇があるんだったらルフィ除けて……。

 

「おーい起きろ! ひとりだけサボんなよ!」

 

 エース……さっきまで寝てた癖に私を攻める側に回るの卑怯だと思わない?

 

「なぁ、おいエースぅ!」

 

 麦わら帽子がズカァン、と顔面に当たる。

 

 うるっさい……。

 

 だからエースに直接言ってって。

 

「エース起きろ!」

「おい! エース!」

「……るさい」

 

 

 

「──起きろ!」

 

 

「うるさいって……言ってんだろうが!」

 

 

 

 

 

 

「あっ、こいつ寝起き悪いタイプだ! シャンクス避けろ!」

「へ?」

 

 

 麦わら帽子頭を掴んで空に向かって投げ捨てた。

 か弱い乙女の腕力じゃもちろん足りないので風使って……。

 

「え、エースこのやろぉぉおおお!」

 

 大丈夫大丈夫、ルフィはゴムだから。まぁ海ぽちゃしても非能力者が回収してくれるし……。

 

「んぇ?」

 

 景色が違った。

 

 白い雲と、船と、よく分からん海獣と、白い海。

 白い海……??

 

 ふと麦わら帽子を見てみると、赤髪の少年だった。

 

 あ、やべ。

 あれ見習いタイプの赤髪のシャンクスじゃん。

 

「エースお前何やってんだよ!」

「俺の眠りを妨げる方が悪い」

 

 おでんと言っていた侍が軽い足取りでタコみたいな?魚?獣?の触手を足場にシャンクスの足を掴んだ。

 

「着地は任せたぞ」

「うおああああ! なんで俺ばっかりこんな目に!」

 

 どべーんっ!と下手くそな着地をした。

 

「〝おでん二刀流〟」

 

 おでんは独特な二刀流の構えをすると、勢いのまま刀をクロスさせた。

 

「〝桃源十拳〟!」

 

 大技だろう。雷のような炎のような技がタコにぶつかると、風船が破裂するような衝撃音が響いた。

 

「わははは! どうだ新米! いや俺より先に入ってたみたいだがちょっと位は先輩風を吹かせたい」

「おでん、どうやって戻る気だ」

「泳げばよかろう! 俺は能力者では無いからな」

「いやそうではなく。白海は浮力が無いから沈むぞ」

「ほへ?」

 

 どぷん。

 おでんはレイリーの言葉の通り沈んで行った。

 

「しゃーねぇな……。俺が行ってやるよ」

 

 元より原因が私にあるし、ロジャー一味に実力を見せておくのも悪くない。実力(過剰表現)を。

 

 

 

 

 不思議色の覇気を使って無事救出出来ましたとさ。

 

 

 

 ==========

 

 

 

 空島。

 積帝雲と呼ばれる分厚い雲の表面にあり、それぞれ7000m上空の白海と10000m上空の白々海というふたつの空層に分かれている、空に浮かぶ海のことだ。

 

 雲はふたつの性質が存在し、「海雲」と「島雲」に分けられるが、空島の人々は島雲を加工して道具を作って生活をしていた。それが(ダイヤル)とよばれる物だ。

 

「それで空島には大地が無いから、土のある所は大地(ヴァース)と呼ばれている。分かったか?」

「はい副船長!」

「なんだねバギー。質問か?」

「他にも色々と聞きたいことがあるけど、どうして空島の人はへそって言うんだ?」

「それでは明日は大地(ヴァース)に乗り込むからきちんと休むように。さぁ解散」

 

 ここは空島にある街、スカイピア。

 宿の中でレイリー(恐らく空島経験者)が説明している中、私は実際行ったことがないけれど知識上はあるのでスカイピアの宿のベランダで夜風に当たっていた。

 

「エース」

 

 ロジャーが声を掛けた。

 

「よォロジャー」

「お前はあっち混ざらねぇのか?」

 

 ギャーギャー騒いでる奴らを横目にデッキチェアに体を預けると、ロジャーも横並びで座った。

 

「騒がしい連中に付き合うつもりはねぇんでね。それよりロジャー、ここは前半の海だろ?」

「ん、あぁそうだよ」

「お前の年齢なら後半の海でだってやって行けるだろ。なんでわざわざ、簡単な方に来たんだ」

 

 ちょっと気になっていたこと。

 ロジャー一味って20代くらいで偉大なる航路(グランドライン)入ってとっくに後半に進んでると思った。ルフィだって1年経たずにシャボンディ諸島にたどり着いたんだし、指針(ログ)が貯まるのを待つって言ったって。

 果たして、数十年たっていたロジャー一味が未だに前半の海で停滞してるだろうか。

 

「あぁ、そういやエースは知らないんだったな。俺余命1年なんだ」

「はぁ……それが質問となんの関係が………………。……? ……は?」

 

 今サラッとなんて言ったこいつ。

 

「俺余命1年なんだ」

 

「──俺余命1年なんだ!!!???」

 

 同じ言葉を繰り返してしまった。部屋の中でおでんがうんうんそうなるよな俺も経験したさみたいな顔でこっちみてる気がするけど多分気のせいだろう。

 

「やり残しがあってさ。偉大なる航路(グランドライン)の最後の島を探してるんだ」

「最後の島……」

 

 って言うと。世の海賊達が目指してる……。

 

「──ラフテルか」

「らふてる?」

 

 私の呟きにロジャーが顔をこちらにバッと勢いよく向けた。

 

「そんな名前の島なのか!エース詳しいな!」

「ーっ!」

 

 やってしまった。

 やらかしの気配を察知した。

 

「悪いけどエース、その先は言うなよ。どんな島で、どんな冒険が待っているのか……!俺は知りたいんだ、自分の手で。それが海賊、ゴール・D・ロジャーの最期の航海なんだ」

 

 それはすごくルフィに似ててよろしいけれど、私はそれどころじゃない。しまったよ、ほんとしまったよ。『ラフテル』の名前が存在してなかった時間軸に、名前をつけてしまった責任感に打ちひしがれてる。

 困る。めっちゃ困る。

 

「はあああああ」

「うっわ、でかいため息」

 

 人の気も知らずに呑気な面するランキング一位に上るねこれ。

 

「んで、D。具体的には?」

「んー? ああ、そういや話してなかったな」

 

 ゴホン、と咳払いをしてロジャーは語った。

 

「この空島にもだけど歴史の本文(ポーネグリフ)があるんだ。知ってるだろ?」

 

 ちょっとだけ。

 なんだったらちょっとだけ読めます。

 

記録指針(ログポース)の最終地点、水先星島(ロードスターとう)にたどり着いた。その先は針が乱れて先は示さねぇ。だが、赤い歴史の本文(ポーネグリフ)の4つを読み解けば、その先にすすめる。……世界政府が読むのを禁止して行くな、つってんだ。その『先』。お前の言うラフテルに莫大な財宝が眠ってるっていう噂も真実味が湧く」

 

 ロジャーは手に持っていた酒をグビりと飲み干して言った。

 

「俺は──」

 

 ロジャーは言ったんだ。

 

『俺はよ、リィン』

 

 ──ルフィと同じ、夢の果ての話を。

 

 

 

「……って言ったら大概のやつはバカにするか笑うかなんだけど。お前のその反応は初めてだよエース」

 

「いや、ほんと、なんて言うか」

「なんでそんな『やっぱりな』って感じで納得してんだよ」

 

 ため息吐きました。

 

「いや身の程を弁えろ案件はとっくの昔に通り過ぎてんでな。もう海賊になった時点で」

 

 世界の常識に向かって『うるせえ俺が常識だ』とぶん投げる輩の相手に驚くのはもう一回だけでいいんだよ。悪魔の実に驚くのももう一回だけでいいんだよ。

 そもそも生きるか死ぬかの冒険をしたり強者との戦いとか事件に自分から突っ込むとか、個人の意見としては正気の沙汰じゃない。

 

 そんな正気じゃないことをする輩相手だよ? 正気じゃないことの方が当たり前。

 逆に常識的なこと言ってたら驚く。

 

「とにかく、俺はもう一度世界を一周して、ラフテルを見つけ出す。その島に眠る財宝を探し出した時、俺は初めて海賊の頂点に立てるだろう」

 

 そうだな。

 お前は絶対そうなるよ。

 

 決められた仕組みのように、未来から来た人間は過去にある事象を『当たり前』と思う。だけど過去で生きる人間はすべからく今なのだ。当たり前ではなく、未知なのだ。

 

 その非常識な冒険に、私は驚くのではなく。呆れ果てた。

 

 

 

 ==========

 

 

 

 大地(ヴァース)。てっぺん。

 

「すげ〜!!!黄金だ!!なあ船長どうやって持って帰る!?」

 

 バギーの興奮した声を聞きながら私は自己催眠をしていた。

 

 ここは平地ここは平地ここは平地ここは高くない下は見ない高くない。

 

「うるっせぇな赤っ鼻……」

「誰が赤い鼻だゴラァ!エースてめぇ!俺の頭を肘掛にするんじゃねぇよ!派手にいてこますぞ!」

 

 チビバギー、厚底はいた私より背が低いので丁度いい。

 

「エースどうしたんだ?顔色悪いけど」

「…………二日酔い」

「うわぁ、ダメな大人だ」

「あぁ?赤毛のクソガキ。俺のどこを見てダメって抜かしてんだよ。俺ほどのパーフェクト大人はいないだろ」

「パーフェクト大人はバギーを杖代わりにしない」

「見せてやろうか、パーフェクト大人のパーフェクトなだらけ方ってやつをよ」

 

 見習い2匹と戯れながら目の前にある黄金の鐘を見る。純金だろうに重量感えげつない。柱1本で国ひとつ買えちゃわないかこれ。

 

 そしてその鐘を支える土台の中に打ち込められているのが、ロジャーの目的である歴史の本文(ポーネグリフ)だ。

 

「やっぱりここは声が強いな」

 

 ロジャーの言葉はひとまず無視して、ロビンさんに習った古代文字を読み解く。

 海の、王、海賊王?あ、いやこれは人を表す文字かな。

 

「古代兵器ポセイドンの、在り処……魚人島?」

 

 私が呟いた瞬間、先頭で見ていたおでんとロジャーが同時に振り向いた。

 

「「読めるのか!?」」

「あ?」

 

 つかつかと詰め寄って来るのはおでんの方。

 

「この文字は!我ら光月家に代々伝わる文字!それをエースお前が読めるのか!」

「……お前の家に伝わるとかは別に興味無いが。空白の、あの100年間で政府から隠したかったあいつらがこの文字を扱うのは当たり前の話だろ」

 

 適当ぶっこく。

 このエース(本名はションのつもり)君は、能力で過去から旅してる旅人。今のところ10年単位くらいで飛んでるから、設定もそれに合わす方がいいだろう。

 

 ただ裏付けが足りないので、意味深ムーブをかましたかったのだ。

 

 ……うそです。せっかく少し読めるようになったんだから考古学者ニコ・ロビンのドヤ顔がない空間でドヤ顔したかっただけです。

 

「にしても……『我、ら、歴史を作るもの』」

「? 紡ぐ、では無いのか」

「そっちの解釈も出来るがな」

 

 やっべ、翻訳間違えた。

 難しすぎるんだよな……。

 

「大鐘楼。この鐘と共に守護する空島人が敵対する連合国……世界政府との敗北を悟り、真実を書き示し未来へ伝えたってことだろ」

 

 文章そのままを読むとボロが出るので分かりやすく説明するふうにしてふわっと伝える。

 

 それにしても……。

 

 古代兵器ポセイドンの在り処が魚人島になってるんだけど……。嫌だなぁ。どうせ行くんでしょ。

 

 いや待てよ。過去だから純粋に私は何もしてない。つまり素直に魚人島観光が出来るのでは……?

 

「よぉしおでん、ここにこう彫ってくれよ。『我ここに至り、この文を最果てへと導く』ってよ」

「仕方ないな、任せろ」

 

 かんこんかんこんと土台の金を削り始めた。

 言われた通りの文字を。

 

 それを尻目に、バギーに体重かけて遊んでいた私に声をかけたのがひとり居た。

 

「ねぇエース」

 

 カナエだ。

 

「エースは、もしかして100年間の歴史を知ってるの?」

「知ってる」

「え……」

「…………。って、言ったらどうするつもりだ?」

「えぇ……(こいつめんどくさいって感情の顔)」

 

 やれやれと首を横に振って私は答えた。

 

「俺みたいに長く生きてるとなァ、歴史と体験が違うんだよ。下手なこと言って追われ続ける人生も勘弁してもらいたいとこただな。ちなみに俺はその100年間で20年は最低でも生きてた。俺に罪を負わせるんじゃねぇよ」

 

 秘技、知らないけど知ってるフリの術。

 

 説明しよう。そのままの意味である。

 細かく詰められるとボロが出るので『あの時秘密にしてくれと命をかけて頼まれた約束があるから』とか『重大な秘密を握っている匂わせ系キーパーソンキャラ』見たいな感じに絶対真実を言わないけど知ってるキャラ路線で行く。

 

 な? 簡単でしょ?

 

「カナエは、何知ってんのかわかんねぇが」

「うん?」

「悔いの無い様にこの(・・)世界を生きろよ」

 

 シラヌイ・カナエは零れる様な笑顔を見せた後、あったりまえじゃん!と言って胸を張った。

 

「〝戦神〟シラヌイ・カナエ、ロジャー海賊団の羅針盤!あたしは、あたしのやりたい様に、命をかけて後悔のない道を進むと、誓うから!」

 

 ニヒルな笑顔は悪い海賊の者で。

 俺のいなかった何年間かのうちに随分悪に染まったらしい。

 

 

 

「王を見つけて狂ったあたしは、何を犠牲にしても決めた目標の為に、己の道を進むの。もう迷わない」

 




リィンをここで空島に連れていきたいが為に、原作軸で麦わらの一味と共に空島には行きませんでした!!!!やっと回収だぜ!!!!ほんとに。いやほんとに。
全話バレット出たのに今回空気なんで次の話は海賊団メンツメインにしますね。


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第255話 秋の鹿は笛に寄る

 

 空島の次の記録指針(ログポース)は麦わらの一味と同じく、ウォーターセブン。

 

 ロジャーやおでんといった冒険好きが上陸する中、私は船に残っていた。

 理由? 船酔いです。

 

 もちろん船酔いだとバレてはならないので必死にポーカーフェイスを保っているが。

 

「ぎゃーー!! 本物だーー!! ありがとう幼少期!! スゥーパァーー!!!!」

 

 ……なんか陸でカナエとかいう女の悲鳴が聞こえた気がするけど気の所為だろう。

 

「なんじゃァ、エースも残っとったがか」

「あー……」

 

 私は一瞬思い返すような顔をして、にっこり笑顔を作った。

 

「……あんたか」

「絶対名前覚えてにゃーわコイツ!」

 

 そう言いながらネコが私を指さしてチクるようにイヌに顔を向けた。

 おでん一家のことについて改めて思い返す。

 

 光月おでん。トラブルメーカーであり侍。

 光月トキ。その嫁。

 光月モモの助。2人の息子。

 光月日和。2人の娘。

 

 モモの助は小僧って感じの歳だけど、日和に関しては赤子からギリギリ抜けたくらいの年頃。

 

 そしてその家臣。

 ネコマムシとイヌアラシ。

 

 これは獣人というかまんま猫と犬。

 

「居ねえのはおでんだけか」

「そうだ、我々はトキ様の護衛だからな」

「おでんは強すぎるから護衛なんざ必要ねぇわな」

 

 イヌアラシの発言に私は納得したように頷いた。

 

──ギィィ

 

 船内から出てきたのはダグラス・バレットだった。バレットは不機嫌そうな顔して起きてきた。うるさかったらしい。

 

「よぉバレット。酒でも飲むか?」

「……お前となんか飲むかよ」

「んな冷てえ事言うなって。そういや碁盤遊びっつーか遊戯はワノ国の独壇場だよな。イヌ、ネコ、教えろ」

「偉そうに」

「偉いんだよ」

 

 そんなこといいながらイヌアラシの説明を聞く。ふんふん。花札ね、花札。

 

「大昔にやった記憶はあんだがな。やっぱり変わってやがる」

 

 なんて大ボラ吹きながらルールを覚える。役が多すぎて一瞬では覚えられないからトキを召喚。手札の補助をしてくれることになった。やったぜ。

 

「バレット、賭け事は好きか?」

 

 我ら初心者同士、秘蔵の酒でも賭けようや。

 

 

 

 ==========

 

 

「ただいまー!……あれ?何やってんだ?」

「バレット君8連敗中」

 

 ロジャー達御一行が船に帰ってきて、ひょっこり顔を覗かせると私とバレットは花札中。点数は私のぼろ勝ちだ。ふっふっふっ、ポーカーフェイスが足りないんだよ。

 

「バレット、今桜の札は手持ちにあるか?」

「……。」

 

 誰が言うか、とかねぇよ、とか下手な駆け引きに乗ってしまえば私に手の内バレるとわかってるので無言になってしまった。場に出してある手札と山場にある手札で計算する。

 

「はいサクッと揃えるぜ、たん」

「ぐ……」

 

 このまま逃げさせてもらうとしよう。

 

「なんもルールわかんないけどエースが勝ってるの?」

「あぁ。20文は流石に何度も出せないがな」

「うーんわからん!わからんけど動物可愛いね」

「一勝も譲らんとは、やるなエース」

 

 十二戦で一試合計算してるから何個か負けてもいいんだけどイカサマ使わなくても勝てちゃうんだよね。きつくなったらイカサマ使お。

 

「おっ、猪鹿蝶。うーん、まだ行けるな。こいこい」

「はぁ!?」

「うっわ追い打ちだぁ……」

 

 花札のルールを知ってる奴らは私の行為にドン引きをしている。勝利は圧倒的じゃないと。たねまで揃えてフィニッシュだ。

 

「……。」

「おいバレット?どうした?」

「…………。」

「シカトしてやがるこいつ」

 

 花札を片付けながら十月の札を拾う。ちょうどカナエが可愛いと言っていた鹿のイラストがかかれた札だ。

 

「そういえばシカトの語源はその札なんだぜ」

 

 おでんがそう言う。

 

「紅葉は十月の札なんだ。(とう)に鹿がそっぽ向いてるだろ。だからシカト」

「ほへー!なんか、可愛いのに可愛くないな。無視されるの嫌い」

 

 おでんの説明で子供のようにむくれるカナエ。私はその言葉に、ふとあの空の出来事を思い出した。

 

 

 

 

 

「じゃあ女狐君とやらに伝言お願いできるかな」

『……ほう、女狐の名がお前の口から出るとはな』

 

「まぁね、あたしの予想が合ってたら、だけど」

 

 

「──『だから紅葉は嫌いだよ、後はよろしく』と」 

 

 女狐への伝言に心当たりが無ければ。

 女狐(わたし)が知らない女狐(だれか)が居る。

 

 

 

 

「……。あぁ、そうか。自分(おまえ)だったのか」

 

 小さく呟いた言葉は誰かに聞かれた気がしたけど、問題ない。もう、何も問題ない。

 

 良かった。女狐(だれか)女狐(わたし)だった。心の底から安堵している。

 これでもう問題ない。私はセンゴクさんと共にこの世界を生きる覚悟を決めた。何も怖くない。

 

 

「カナエ、お前は本当に色んな人間引っ掻き回すよな」

「なんでぇ!?急になんで!?」

 

 このアホ面に悩まされるなんて呆れて物がいえなくなるわ。

 

「未来でお前が困っても俺はシカトするから」

「無視されるの嫌いって言ったばっかじゃん!?」

 

 

 

 ==========

 

 

 バレットとはあれからよく賭け事をするようになった。と言っても賭け事オンリーで馴れ合いはしない。プライドが高いのか分からないが、私に勝てるまで挑み続けるような気がしている。

 

 ジャンルは様々ではあるけど、ある意味懐かれたな。

 

「チィッ!」

 

 嘘です懐かれるにしては殺気の籠った舌打ちすぎます。物騒。

 

「エース、お前気配消すからこれやるよ」

 

 橋の上の国、テキーラウルフという場所で色々起こったんだけどその時気配消しすぎてめちゃくちゃ驚かれた経験があるから鈴を渡されたシャボンディ諸島の宿です。ぐぬぬ。一週間程シャボンコーティングで滞在する予定。

 

 ロジャーは私の不機嫌な視線での訴えを華麗にガン無視して渡してくる。

 

「鈴なぁ」

「おう、絶対着けとけ」

 

 仕方なく身につける。つけるところないから髪の毛でいいか。

 ざっくりと結んだポニーテール。カナエとおそろいにはなるけど仕方ない。

 

「今からシャッキーの所行くんだよね?」

「あぁ、彼女に前回のツケを請求されてるからそろそろ払わないと。匿名で海軍に通報されかねない」

「それもそうだ」

 

 うわ。行きたくない。

 私、子供シーナと一緒にぼったくりバー行ったんだよね……。

 

「エースも一緒に来るか?」

 

 ロジャーがついでとばかりに肩を組んでくる。

 のを、しゃがんで避けた。

 

「ぎゃ!」

「うわあ!?」

 

 小脇に抱えるチビシャンクスさんとチビバギー。うごうごと抗議する二人を無視して窓の縁に足をかけた。

 

 いやぁ、流石に他人がいる中でぼったくりバーは流石になぁ。それに過去のうちに色々集めたい情報あるし。

 

「ぼったくりバーの店主に伝えとけ。たこ焼きのレシピならおでんにでも聞け、ってよ」

 

 さらばだー!

 

「エース酔う酔う!!!降ろして!」

「うぎゃぁぁぁぁああああ!?」

 

 それにしてもこの荷物うるさいなぁ。

 

 

 

 

「酷い、酷い……。シャッキーさんのご飯食べたかった」

 

 チビシャンクスさんがうなだれる。

 ここはシャボンディ諸島でも特に治安がいい場所である。私はまだ指名手配はされてないけど、顔はカナエに似ているからいざとなればカナエのフリする予定だ。

 

 単独行動しても良かったんだけど、怪しまれる要素は減らしておきたいからエース君の気まぐれで一番御しやすい子供を確保した。

 

「さーて。意気込んだはいいが」

 

 使える情報屋の伝手は少ない。

 私は情報屋もしているけど、ほぼ運営を任せているから基本的に収集寄りのポジションだ。だから様々な情報屋……まぁ東の海で言うスコッパーギャバンとか、そういった伝手も持ち合わせている。

 

 この過去の時代に置いて存在するシャボンディ諸島の情報源。ぶっちゃけていい?シャッキーさんです。あるにはあるけどこの時代だと新しすぎる。

 

 怪しまれても困るしね。

 

「つまりやること無いんだよな」

 

 情報はすごく欲しい。特にこれから麦わらの一味は後半の海を渡る以上、事前情報によって生死の確率が激しく操作されると言っても過言じゃない。

 

 ただまぁそこまでの余裕があるかと言われると、正直ボロが出ないように必死ですから、ええ、無いです。余裕。

 

「おーしガキンチョ共。遊ぶぞ。ひとまずバキーは金持ちから金スってこい」

「外道!!」

「畜生!!」

「お前腕だけ切り離したら余裕だろ、行ってこい」

「船長助けて!!」

 

 半泣きになりながらバギーが訴えるけど知らないね。

 

「死か、金か」

「まだ生きたいです」

 

 駆け出して行ったバギーを笑顔で見送って適当なカフェに座りかけた。コーヒー、ミルクと砂糖たっぷりでよろしく。

 

「シャンクス、聞きたいことがあるんだが」

「な、なんだ?」

「お前が知ってる範囲でいいんだが、五老星とカナエに何かあったか?」

「五老星と?」

 

 割とずっと気になっていたことがあって、そんな重要なことじゃないだろうと思って調べるの後回しにしていた事象がある。

 

 それは五老星なんか私に甘くね?問題だ。

 私が入隊した当初だってそう、『カナエの娘ならOK』みたいな軽い感じで海賊の子を許されたし、なんなら大将の地位にまで押し上げられた。

 

 結構謎なんだ。

 解明しなくても問題ないからいいんだけど。

 

「確か副船長が『五老星のじじい共をまたカナエが助けた上に誑かした!』とか血を吐く勢いで言ってたけど」

「…………誑かす、なぁ」

「姐さん褒め殺しが得意だから…。あ!あとベガパンクがどーたらこーたらってのも言ってた。ベガパンクは政府の科学者だろ?影響あるんじゃない?」

 

 又聞きになるから情報の精度は落ちるけど、やっぱカナエはカナエだ。

 カナエって、ちょっとオタク気質っぽいもん。

 

「お前も五老星に会い始めたら言っとけよ」

「えっなになんで会う前提なんだ?俺が?なんで?」

「カナエは海賊の中でも無害な部類だからなぁ海賊に囲われたカナエの如く、あいつの子供は海軍で囲うのがいいだろうなぁ。ありゃ政府のたまじゃねぇし」

「ねぇなに怖い!話が微塵も通じてない!怖い!」

 

 キャンキャンと吠えているけど、お前はどうせ五老星と会います。小さい頃、おたくに後半の海から前半の海まで運搬してもらったことがありますがお前にはレッドラインを超える方法が二種類ありました。魚人島か、マリージョアか。

 

 あの時はどっち選んでも胃は削れたな。きっと。

 

 今のキャパでもマリージョアは限界なのに小さい頃なら尚更海賊INマリージョアはキツいって。

 

「海賊って育児に向かないよな」

「ほんとに!話の!流れが見えねぇんだよ!」

「──ぎゃあああああ!」

「っ!」

 

 遠い目をしていたらチビバギーの叫び声が聞こえた。

 

 咄嗟にそちらを見ると。首を掴まれて宙ずりになっているチビバギー。

 

「……チビシャンクス、行ってこい」

「無理だよ!相手誰だと思ってんだ!?」

 

 分かってるから言ってるんです。

 

「七武海入りは確定している──あのクロコダイルだぞ!?」

 

 大丈夫大丈夫、未来の七武海だろうと未来の四皇には勝てないって。行ける行ける。7と4だもん。4の方が希少だよ。

 

「てめぇ、この俺から財布を抜き取ろうとしたのか?あぁいいぜ殺してやる」

「え、エースぅぅぅぅ!!」

「ちっ!」

 

 バギーの叫び声と共に駆け寄って若クロさんに適当な角材でぶん殴った。

 

──サラッ

 

「あぁ?」

 

 砂になるのは承知の上。そうすれば持っている物は落とす。

 潰れたチビバギーの声を尻目に手から水を噴射した。

 

 ベッチョリと濡れたクロさんは拳を握りしめた。

 

「〝武装〟」

「……!?」

 

 手が黒く染る。

 なんで!?お前覇気使えないんじゃなかったの!?

 

 よし、遊ばず逃げよう。

 

「うぎゃ!」

「エース!」

「……お前らロジャー海賊団か!」

 

 チビバギーとチビシャンクスさんを抱えて屋根の上に飛び上がり、クロさんの拳から逃げた私は心臓がドッドッドッドッと爆走している中、さらにスピードをあげた。全力である。

 

「未来の七武海中々だな」

 

 私が知ってるルフィに敗れたクロさんより強い気がするんですけど!?

 ぐぅぅーーー!!ほんとは心から叫びたい!

 

 

 この世をば!クソ!

 

 

 

 

「……なんで赤いのと青いのが目を回してるんだ?」

「バレットおおおこいつ酷いんだあああ!」

 

 逃げることなく留守番していたバレットの疑問はご最もですが、私も目を回しています。

 うぇえ、全力すぎて酔っちゃった。




お久しぶりです。ほんとはクロコダイル出すつもりなかったけど尺余っちゃったからバレット繋がりで登場させちゃった。


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第256話 子の心親知らず

 

 

 リン……チリン……。

 

 鈴の音が響いた。

 

 

 

「ヨホホホーヨーホホーホー」

 

 海賊は歌うのが常らしい。どの海賊も、ってほど海賊船に常駐していたわけじゃないから予想でしかないけども。

 

 現在、ロジャー海賊団は魚人島に向かっています。

 

 ビンクスの酒は割りと世間的に見るとマイナー寄りの曲なんだけど海賊ではドメジャーな歌だよね。

 

 そんな海賊達のテーマ曲を聴きながら私は相変わらずバレットと遊んでいた。

 ほんとはブラックジャックとかの方が得意なんだけど、トランプ系はディーラーが必要なことが多くてワノ国の遊びばかりをしていた。花札はもちろんの事だけど、囲碁や将棋も。ここら辺はイカサマが効かないから全力でやったよね。

 

「お前なんでそんなに強いんだよ」

「生まれながらの才能」

「……」

「そんなドン引きって顔すんなよ坊主」

 

 最初に比べたらコミュニケーションを取ってくる様になったけど個人的にはもうちょい喋れよとは思う。ポーカーフェイスが出来ないから勝負事で無言になる癖やめて欲しい、探れないから!

 

「バレットは、どこの軍隊出身だ?」

「……は?な、んで軍隊だと」

「分かるだろ。特にお前って名前に執着ないタイプだろうし、どうせその名前は本名じゃないんだろ?」

 

 うっそでーす。本当は知ってまーす。

 えぇ。カナエに聞きました。

 

 ダグラス・バレット。ガルツバーグって軍の少年兵だったらしい。

 

「死にてぇのか?」

「やってみろ。こんな札遊びで俺に勝てねぇ様な、こんな弱っちい男に誰が負けるかよ〜。ほら、チェックメイトだ」

 

 キングを倒して終わりだ。

 バレットはどうやら強さにこだわっている男の様で、時々隠しきれない殺気をぶん回してくる。

 

 ただまぁ絶対A型。負け越しは気になるし放置しておけない質らしい。

 そんな遊び程度でも勝てない相手をぶん殴れば、それこそプライドに触るのだろう。

 

 

 つまり、私、勝負に勝ち続けなければ、物理的に死ぬ。

 

 胃が痛いよォ……。短気は短気だけど、癇癪起こして当たってこないだけマシ……。この体格でぶん殴られたら私ぺしゃんこだぞ。

 

「えーしゅー」

「うお、ビックリシター」

 

 本当にびっくりしたので悲鳴を上げたかったのだけど、それを押し殺して演技してますよって感じにビックリした。後ろに張り付いていたのはモモの助だった。このクソガキめ。

 

「しゅー!!」

 

 日和まで足元にハイハイでよってきた。やめろ、初ハイハイだろお前。

 

「……お前子供好きなのか?」

「真逆に等しいが、正直ここまで生きてると年下しか居ねぇ」

「あぁそう」

 

 自分から聞いてるくせに興味無さそうなのほんとに!お前が強くなかったらケッチョンケッチョン似してた!いや強くても関係ない直接私が手を下さなきゃいいんだケッチョンケッチョンにしてやる。

 

「あなた達、エースさんの邪魔でしょう?」

「トキ」

「ごめんなさいねエースさん。ねぇ、バレットさんとの遊びが終わったらまたお話聞かせてくれる?」

 

 トキに言われた言葉に内心ひきつる。

 トキは俺と同じく過去から飛んできた人物で、同郷(むかし)の人間だからと結構懐かれてしまった。幸い、『俺』の設定上適当に答えても済むから。

 

 さらに幸いなことにトキは世間知らず。俺があることないこと適当に言っても、当たってたら『そうですよね、懐かしい』と答えるし、当たってるか分からなくても『へぇ、外ではそうだったんですね』なのだ。

 『嘘だけどな』って時々言ってるし、真実がどうであれエースくんは適当しか言わない人間なのだ。

 

 まぁもちろんボロが出ると困るので何をするかと言うと……。

 

 

「美人に誘われちゃ仕方ねぇな。俺の部屋で教えてやるよ、ナァニ、膨大な思い出だ、朝方までかかるけど夜更かしの準備だけはたーんとするんだぜ?」

「──ゴルァてめぇエース人の嫁に何ちょっかいかけてんだ!!!」

「失敬な、俺は誘われただけだ」

「トキ!もうこんな奴に関わるんじゃない!関わるならカナエ挟め!」

「あたしを巻き込まないでくれる!?」

 

 こうやっておでんの危機感を煽れば面白いことになる。

 

 追求を逃れたい私と面白い状況が好きな俺の意見が合致しました。ビクトリーです。

 

 トキはワノ国に向かう途中でおでんと出会い、そのまま結婚した。おでんはゾッコン。トキもゾッコン。はー、リア充リア充。

 

 

「……。」

 

 なんですかバレット君。その目は。

 

「わざとだから質が悪いよな」

「わるいよなー!」

「んなぁっ!」

 

 こら、子供が真似しちゃいけません。

 

「なんの事やら」

 

 知らんぷり知らんぷり。

 

「皆は子供が産まれたらなんて名前にするつもりなの?」

 

 カナエが突然そう問いかけた。突然じゃなくて何か会話があったのかもしれないけど、聞いてなかったよね。

 

 

「子供なぁ。俺らの中じゃ全員が全員子供いる訳じゃねぇし、そもそも子供が出来るか分からねぇ奴もいるだろ」

「ん?フェヒター、何か用かな?」

「いーやなんでも〜?」

 

 含みのある笑みを浮かべたフェヒターだったけど、レイリーは木の根っこかな?って勘違いしそうなレベルで青筋浮かべていた。うーん相性がクソ。

 

「……だがまぁ。私ならキティ一択だ」

「うわ……」

「副船長ってセンスないんじゃ」

「シャンクス黙ってろ」

 

 一気に周囲がドン引きした。ネーミングセンスの無さに。

 

「男なら?」

「男でもキティだろ。何を言ってるんだ?」

「お前が何を言ってるんだ?」

 

 もっと言ってやってくれフェヒター。私に関わる。

 

「ほんとにやめてやれ子供が可哀想。俺!の、知り合いなんてなぁ、太郎二郎三郎のノリで名前付けられたやつだっているんだぜ?子供の立場になれよ」

「最高だな」

「〜っ!これだからセンスねぇ鬼畜は!」

 

 グラッタ、グラッジ、グラッサ、……あとなんだっけ。なんかそんな感じの名前だったよね。正直グラッタならまだしもディグティター兄妹はグラッジくらいしか名前覚えてないんだ。

 

 キラキラネームじゃないにしろ、ある程度子供の立場になって考えないとこまるよね。子供が。

 

 

「俺なら子供には1番って名前つけるなぁ」

 

 ロジャーがむしゃむしゃおはぎを食べながらこのくっっだらねぇようで重要な話し合いに参戦した。ちなみにこのおはぎはイヌアラシの監修である。

 

 美味しい。

 声を大にして言いたい。

 

 美味しい。

 

「一番って雑すぎない?」

「そうだぜロジャー。お前は雑」

「えー、なら、俺は自分の息子には──エースって名付ける」

 

 知ってはいたけど、視線が俺に向いた。そうです。どうも古い方のエース君です。私基準だとこっちの方が新しい方です。

 卵が先か鶏が先か、考えちゃいけない。

 

「おいおいロジャー、それは俺のことが大好きってことか?」

「うん、好きだぜ」

「…………。」

「エースが負けた」

「負けたな」

「まけー?」

「けぇ!」

「おい糞ガキ共……一列に並べ」

 

 ひねくれた俺はロジャーのストレートな言葉に敵わない。無言で子供たちに八つ当たりした。

 

 モモの助と日和ならともかくシャンバキお前らは普通に許ないからな!?

 

「まぁエースが好きってのもあるけど、エースって言葉の意味はトランプの1だろ?」

「スペードのエース?」

「ん?あぁ。カナエの言う通り。だからエース。いいだろ」

「女だった場合は?」

「男がトランプの1だから女も1にしたいよなぁ」

 

 カナエは答えが分かっているのかニヨニヨと笑っている。

 スペードの1にこだわる必要ないと思うけど、カナエは予知があるからね。

 

 ……それにしても、予知、かぁ。

 

「カナエ〜、1の別の言い方ってないか?」

「んー。ワンとかアンとかかな」

「犬の鳴き声みてぇ。でも、アンっていいな……。よし、女ならアン!」

 

 よーし決まったー、と言わんばかりにおはぎをバクりと食べたロジャー。

 頬にあんこがついてるけど誰も指摘しないあたりロジャー海賊団って、こう、お互いがライバル寄りなんだよなぁ。

 

「それにしてもアホ女、アホの癖になんでアン?って言葉知ってんだ?」

「えー、そりゃバレエとかならフランス語でアン、ドゥ、トロワでしょ。親友にフランス語教えて貰って……」

「親友?」

「は!な、なんでもないなんでもない!」

 

 誤魔化すの下手すぎ選手権ぶっちぎりでナンバーワンのカナエが両手を振ってフェヒター相手に誤魔化している。フランス語、ねぇ。

 

「はい、チェックメイト」

「あっ!?」

 

 余所見してるなぁバレット。そんなに子供に興味があるのかい?

 

「カナエならなんて名前をつけるんだ?」

 

 レイリーが意気揚々と問いかける。恐らくカナエが異世界人だということを誤魔化すための助け舟も兼ねているのだが、傍から見ればただの色ボケ海賊にしか見えないので周囲はまたいつもの事かと言わんばかりに肩を竦めた。

 わざとだなぁ。カナエと話したい、カナエから矛先を背けたい、両方の目的を果たしている。

 

 

「う〜ん。考えたことも無かったけど、なんかこう、すごーい名前を付けたいよね」

「ほう?」

「この世界の歴史を変えることができる様な、神様にあやかるような。エンジェル?」

「ほー、いいセンスだな」

「??」

「?」

「???」

「お前らある意味お似合いだよ……」

 

 あかん。こいつら2人揃ってネーミングセンスがクソ。

 周りははてな浮かべてるのに気づきゃしない。

 

「男か女かはさておき、女神つながりならアティウスとか」

「ふむ、太陽や月、はたまた星の軌道を定めた女神か」

「もしくはベリアル!天使繋がりできたか。堕天使の一人で悪とされる名前だな。海賊にピッタリだ」

 

 キャッキャと盛り上がる2人。

 や、やめてくれ……やめてくれ……。カナエは横文字ならいいと思うなよ。この世界基準で言うとそういうのは『子供の名前はキリストです』って言ってるようなもんだぞ。もしくはクシナダヒメって名付けますって言ってるようなもんだぞ。

 

「あーあ、あの二人の元に生まれる子が可哀想だな。なぁバレットさん」

「……なら赤いのでも青いのでもいいから修正してやれよ」

「馬に蹴られる」

「無理です無理です」

 

 頭が痛い。ついでに胃も痛い。

 このまま放置しておけば2人の子供の名前は歴史通りになるかもしれない。

 だが私は可能性の低い方にかけるギャンブラーじゃないんだ。イカサマは使ってなんぼ。

 

「──リィン」

 

 私の発した言葉に2人が振り返った。

 

「何度でも生まれ変わる。リィンカーネーション」

 

 いいだろ。と、2人に訴えた。

 何枚もの仮面を持って別人になりすましてこの世界に生まれた振りをする。改めて思うけど、私はこの名前を気に入っている。

 転生者、っていうのも含めてね。

 

 今はもう既に忘却の彼方への消え去ってしまった前世。

 

「エースってネーミングセンスあるのかないのかわかんないよな」

「技名クソなのに」

「んだと?俺の不可避キックにケチつける気か」

「お前のセンスにケチつけてる」

 

 良かったー、未来の子供これで安心。そう言わんばかりにロジャー海賊団の面々はやんやと騒ぎ始める。

 

 

「……カナエ?」

 

 レイリーの声に釣られカナエの姿を見ると、彼女は大きな目を見開いて涙を溜めていた。

 

 えっ!? え、何!?

 

「……っ、鈴音(りぃん)!」

 

 ここでは無いどこかを見て、彼女は懐かしそうに名前をこぼした。

 

 

 

 ──リィン。

 

 鈴の音が響く。遠く、青い海の底で。




リィンの名前候補はあれです、インペルダウンでバギーがリィンの名前出なくて口走っていたやつです。

次回、カナエの過去


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第257話 親の心子知らず

 

 魚人島。

 色々あったものの、概ね問題なくたどり着いたロジャー海賊団。海の中で声が聞こえるなどと言ったやり取りや、魚人島で占い師の人魚に王に姫が生まれるなどとのやり取りが行われた。

 

 普段であれば、聖地巡礼とまでは行かずとも冒険に心躍らせるカナエが1人静かに沈んでいる最中に。

 

 

 

 エース。

 そう名付けられた我らが主人公は『次麦わらの一味が到達するのこの島だしな!』という心情の元、現時点での情報を集めに回った。

 

 カナエが調子を狂わせた原因であり、引っかかるのは『りぃん』と呟いた自分の本名である。

 

 気になりはする。気になるに決まっているけど、知らないふりをして放浪した。

 

 リィンとしては極力、カナエに近寄りたくない。リィンの世界では死んでる人間であり、この世界の出身者では無いからだ。これが生きていたのなら利用するが、そうではないなら優先事項は低い。

 

 これ以上、リィンは冥王のヘイトを買いたくないのだ。

 そうして闇夜に消えていった。

 

 

 

 カナエをフェヒターに託して。

 

 

 ==========

 

 

「んで、落ち着いたか?」

「皆は?」

「海賊の楽園魚人島で、好き好んで船に残ってるのは俺とお前くらいだよ」

 

 暖かい飲み物を片手にキッチンでカナエとフェヒターが向かい合って座った。

 

 カナエはズズ、っと猫舌をかばいながらココアを飲む。

 濃くて甘ったるく、子供っぽい陳腐な味が今はありがたかった。

 

 無言の時間が続く。

 フェヒターは語りかけるでもなく、聞くでもなく、ただただそばにいた。

 

「……。」

 

 それがありがたかったし嬉しかった。

 

 

「……忘れてたんだ」

「んー?」

前の世界(こきょう)に居た、親友の事。ここに居るのが楽しくて、あたしは忘れちゃってた。未来のことばかり考えて、過去の事を」

 

 ポツリポツリと、カナエが口を開いた。

 

「あたしは、海賊になる前はちょっと変わった出身のごく普通で平凡な人間だったの」

 

 ココアを傾けようとしてもそこに淡く黒い液体がゆっくり動くだけだった。飲みきってしまった。

 仕方なくカナエはコップを持つだけに留めた。

 

 

「普通に学校行ってさ、親友とずっと一緒に居たんだ。時々バイトとかして」

 

 天井の揺れる光をじっと眺めた。

 あぁ、あの炎は彼女の髪色の様だ。

 

「りぃん。って名前だったんだ」

「……!」

「そ、エースに言われた名前。鈴音(りぃん)はあたしと同じ平凡な人間だった。運動神経はいいけどどこか抜けてて、頭はいいのにケアレスミスが多い、そんなすごく普通の女の子」

「はっ、まるでどっかの馬鹿とそっくりだな」

「……でしょ?」

 

 カナエは『まるで君たちは魂の双子だね、』と呼ばれた記憶を思い出した。そっくりだった。見た目こそ違えど、価値観も笑い方も鏡合わせのようにそっくりだった。

 親しい人の行動はつられて一緒になる、と聞いたことがある。

 

「(あたしとりぃんも、そうだったんだろうな)」

 

 自分が真似したのか、親友が真似したのか、一緒になってしまえば最早どちらでもいい。!

 

「あたしの生まれた世界はちょっと冗談抜きでスペック飛び抜けてたからなぁ」

「ふーん」

 

 聞いているのか聞いていないのか。どちらでも取れるような曖昧な返事にカナエは苦笑いを浮かべる。

 

 フェヒターのそのどうでもいいと言わんばかりの反応は、突かれたくない場所を沢山持ってるカナエにとって有難かった。

 

「あたしの親友はすごいんだよ。皆に溶け込んで、笑顔が素敵で──」

「──お前と一緒じゃねぇか」

 

 キョトン。

 目を見開いた。

 

「そっかあ、一緒かあ……」

 

 懐かしそうに微笑む。思い出に浸る。

 

 

「あそこであたし、は目の前でこぼれていく命を沢山見てきた」

 

 カナエは目を閉じた。

 この楽しくて大変で、苦しくて美しい世界で過ごした時間を遡って思い出した。

 

 もう、忘れたかったのかもしれない。

 失敗作を。

 改変出来なかった世界を。

 

「誰一人、救えやしなかった。まぁ、あたし知識が乏しかったから基本的なことしか知らないんだけど。……それでも、目の前で事故に遭うお兄ちゃんくらいは救いたかったなぁ」

 

 あの時驚き躊躇して伸ばした手が、それこそルフィの様にのびたのなら。

 

「本当に、世界は残酷であたしは大馬鹿者だ。言って嫌われる、警戒される、そんな自己保身の為にこの世界でだって予言しか出来ない」

 

 この世界は漫画の世界で、あなたは死にますよ。なんて、誰が言えよう。

 

 嫌われたくない小心者なのだこちとら。

 

「この海は本当に楽しいよ」

 

 カナエの平凡な日々は進化した。

 喜びの色、悲しみの色。屈辱も味わったし、幸せも敗北も、苦痛も甘さも優しさも。普通の日々では得られない感情がいくつもあった。

 

 沢山の色が重なり合って、折り重なって。黒になる。

 海賊が掲げるジョリーロジャーの黒は、カナエにとって人生の集大成の色なのだ。 

 

「あたしは自分勝手だし、痛いのも嫌だし怖いのも嫌だ。自分の背丈以上の崖から飛び降りるのもめちゃくちゃ怖い」

「雑魚かよ」

「そうだよ!?ちょっと武術齧っただけの、ほんとに普通の女の子。知識もなければ長所もない。自慢できるのは予知くらい。そんなあたしをロジャーは拾い上げた」

 

 ズブズブと後悔の沼に沈んでしまう時、必ず手を引っ張るのはロジャーだった。

 だからカナエは前の世界の事なんて忘れてしまえた。

 

「ここで親友の名前を、聞くとは思ってなかったな……」

 

 この世界でもありそうなキラキラネームだから困る。

 あぁ、もしかしたらあの世界でのイレギュラーは

自分以外にあの親友だったのかもしれない。日本人離れしたあの青い瞳は特にそう思えた。

 

「あたしは子供が産まれたらリィンって名付けるよ。あたしの親友にあやかって。この世界をぶち壊せる様祈って」

 

 我が子を愛するために産むんじゃない。

 カナエの夢は平凡に生きることでも、幸せな家庭を築くことでもない。

 

 あぁ、あたしの夢を叶えることができるのなら、べてを捧げよう。

 

 

 

 

 

 シラヌイ・カナエには、叶えたい夢がある。

 

 

「──ロジャーの息子は、エースは必ず助ける。あたしの全てをかけて」

 

 

 

 ピシリ。コップにヒビが入る。

 

 強く握りすぎたようだ。前世の感覚ではありえないことだけど、自分も随分変わったようだ。前の世界では周囲にそこそこいたけど。

 

「ロジャーには息子が生まれるのか」

「そうなの」

 

 カナエはニヒルに笑った。

 もう迷ってない。この航海で、カナエは王様を見つけたのだ。

 

「スペードのエースでも白ひげのエースでも、主人公の兄でもない。ロジャーの息子だから」

 

 不知火叶夢は自己本位な人間だった。エースを助けたいという漠然とした目標はあったが、目の前で兄を失うという自分とルフィを同一視して、自分の罪を払拭したいが為に掲げた目標であった。

 

 だけど、シラヌイ・カナエはエースに出会った。

 エースに言われた『狂う程の王を見つけろ』という言葉。

 

 その言葉通りカナエはロジャーに心酔した。惚れただの愛だの、そんじょそこらの話じゃない。

 

 何を利用してもいい、この男に従われたい。この男を王とし己は傅くのだ。

 

 

 大事な友達で、大事な王様。

 カナエはロジャーの息子だから助けたい。

 

「ロジャーの事正直舐めてた。ほんとに。流石は初代海賊王」

「なっては無いだろ」

「もうすぐ、きっとなるよ。予知が無くても分かる。──ラフテルに言って、彼は世界を手に入れる」

 

 カナエはニコリとフェヒターに笑った。

 

「ねぇフェヒター。あたしに子供が生まれたら、貴方に預けてもいい?」

「嫌だが?自分で育てろよ」

「あたしが育てるよりちゃんと強いひとが育てる方が勝率いいから……。いや待てよ……タイミング見計らってガープが1番いいか……」

 

 エースの年齢を計算して、ロジャーが処刑された後なら多少の前後差あっても似たような年齢になるだろう。

 

 

 カナエは逆算していく。まぁ、現実問題、カナエも不治の病に倒れ子供云々の話が可能になるのはロジャーが処刑されて数年経った後だったが。

 

 

 ==========

 

 

 

「はじめまして、リィン。あなたのお母さんだよ」

 

 カナエは蝕んで行く体の痛みにグッと耐え、我が子を愛しげに抱いた。

 

「あたしは貴女の親にはなれないけど、母親失格だけど。……今この時だけは、ガープが迎えに来させるまでは、母親で居させて。なんの企みもない、ただ純粋な母娘に」

 

 母親失格だけど、そこにあったのは微かな母性だった。

 

鈴音(りぃん)。どうか……力を貸して」

 

 変えられない『私』の、人生最期の足掻きで最大の伏線(きぼう)だ。

 

 

 

 

 ──あたしの2度目の人生の、最終章だ。




転移前の世界で過ごした叶夢と鈴音の人生は、何色だったのでしょうか。ただひとつ言えること、それは前世が探偵蔓延る殺人だらけの場所だったと言えば答えはひとつです。めっちゃ大変。


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第258話 三つ子の魂百まで

 

 恐らくだが、過去に来て合算1年くらいはたっただろう。

 

 俺になって半年はたっただろうという感じだ。

 

「エース、今日こそは勝ってやる」

「ハンっ、言ってろ1238敗」

「1237敗1引き分けだ!」

「どっちみち弱いじゃねぇか」

 

 旅も終盤に差し掛かり、魚人島を抜け適当な島にいくつか立ち寄った。歴史の石(ポーネグリフ)を探して、と言ってもロジャーにはあらかた目星が付いている様でサクサク進路が決まっていく。

 

 今回は補給地ということで治安が比較的いい島を選び、とりあえず海軍支部をボコボコして無力化した後、羽を伸ばすという海賊全盛期世代あるあるのやり方で停泊中だった。

 

 この支部の『将来は中将クラス』の少将・大佐達が『誰かと戦う最中を見て覚えた戦法』が使える人達だったから本当に良かったよ。おかげで先頭の癖がわかるわかる。

 お前の見聞色ヤベーなという評価は貰った。うるせえ。努力の塊だ。

 

「エース風呂入ってくるか?」

「あ?もうンな時間かよ。じゃあなバレット君、また明日だ」

「相変わらず規則正しいなテメェ」

「一緒に入ってやってもいいんだぞおいガキ。いややっぱタンマ。てめぇはデカすぎだ風呂が壊れる」

 

 勝負途中だったカードをぶん投げて宿の風呂に向かう。俺が入るのは比較的最初の方、そして絶対一人風呂だ。

 中には効率がいいからと何人かで入ったりするが、俺はごめんだね。

 

 脱衣所に鍵かけて服を脱ぐ。背中の傷が服に擦れる度にピリピリと未だに傷んでいる。フェヒターなんぞを庇わなきゃよかった。

 

 早々脱ぐことの無いシークレットブーツを脱ぐと視界が変わる。約15センチは低くなるだろう。

 靴下を脱いだら、アンクレットがチャリっ、と音を立てる。ネックレスを改良して作った、指輪が着いたチェーン。錆加工をしてあるため外すことなく浴室に向かう。

 

 シャワーを捻って冷たい水が流れる。湯が出るまで時間がかかりそうだ。

 

 だが、俺は冷水のまま頭からシャワーを被った。シャワーのうるせえ音が俺を世界から隔離させる。

 

「……ふぅ」

 

 俺は、いや、私は、私。

 

「私は……リィン……。金髪で……ツインテールで……ルフィと、エースと、サボの妹……。私は、リィン……おんなのこで……それで……」

 

 シャワーが流れる。

 温度がどんどん上がっていき、お湯が出てきた。

 

 冷えた頭がだんだん暖かくなっていく。

 

「はぁ〜〜〜〜〜〜〜〜きっつ」

 

 疑われる要素が無いとは言えど、ほんとは呟くことすら危ない『私』の言葉。

 放置したら私の人格がだんだん俺になっていってしまう。

 

 

 

 思考に言葉に変わり、言葉は行動に変わる。

 

 

 言葉は習慣に変わり、習慣は性格に変わる。

 

 

 そして性格が変われば、もはや他人だ。

 

 

 ひとつも油断出来ない強大な遺物達を目の前に、自分はエースだと思い込むことで逃げ切っている。

 その代わりに自分を見失ってしまうのが難点だけどね。難点どころの話じゃないんだが。

 

 適当にぱぱっと全身洗って夢見る幻くんが外れないことを再確認して。

 

 

 バスタオルで髪の水分を粗方拭き取ると肩にかけた。さーて、俺はエース俺はエース。

 よし、出るぞ。

 ──そんな時に悲劇が起こった。

 

 

 

「──俺が先だぜ!」

「てんっっめぇ、ロジャー!お前は後に水消し飛ばすから最後に入れって言っただろ!」

「おいフェヒター、俺船長なん……だ??」

「???」

 

──カポーン。

 

 今世紀最大でまずいエンカウントをした。

 

「カナエ……?じゃねぇな!お前エースか!なーんだエース、お前カナエより背ぇ低いんだな。いやー焦った焦った。これでカナエだったらレイリーに殺されるところだった」

「……おいロジャー」

「もしかしてエースが風呂皆と入りたがらないのって背ぇ低いのがバレな──ぶべら!!!」

 

──ガコーン!

 

 これは私が桶をぶん投げた音。

 

「よぉくわかったよロジャー」

 

 お前が私の裸を見ても女だと思わないってところがな!!

 

「…………フェヒター」

「は、はい!」

「その髭野郎をフルチンのまま海軍に放り投げとけ」

「それは流石にやりすぎなんじゃ」

「お前含め俺が直々にしてやってもいいんだが?」

「直ぐに行ってまいります」

 

 やってしまった。

 やってしまったあああ!

 

 ロジャーは性別誤魔化せる事が出来たけど、フェヒターは完全にアウトだろこれ!

 

 ダメだ、胃が、胃がキリキリ悲鳴上げてきた。ここで女バレは、全ての要素を無駄にしかねない。リィンと対極に位置する様にする為に男にしたし、未来でも過去でも男の伏線を大量に入れてきたって言うのに。

 

 ……いや逆になんでロジャーはアウトじゃないんだ?なんでセーフなんだ?分からないよセンゴクさぁん!エースぅ!

 

 

 今、エース君とリィンちゃんでキャラ設定もグラグラしている。

 

「よし、家出しよ」

 

 そうしようそうしよう。現実逃避だ!

 そうと決まればさっさと出よう!あばよロジャー海賊団!

 

 

 

 

──30分後

 

 

 見聞色には敵わなかったよ。

 

「見つけたぜエース」

「フェヒター……」

 

 寄りにもよって女バレ(そっち)の方かよ。

 

「焦って飛び出したのかと思いきや、普通に酒飲んでるじゃねぇか。心配して損した」

「いやぁ、ここの酒50年物のビンクスの酒なんだよ。飲みたくってな」

 

 ビンクスの酒ってのは漂流した酒、って意味。種類は問わず、酒蔵は年に一回『この酒を大いなる海にくれてやる!』って意味で年代を書いて樽ごと海にぶん投げるのだ。

 割れず漏れずたまたま流れ着く。

 海を航海した酒は、本当にレアリティが高いし値段も張る。

 

「俺にも寄越せよ」

「はんっ、てめぇで頼め」

 

 流石に飲みもしない酒に何千万ベリーも使う気は無いからさ。グラス一杯しか頼まなかったよね。

 

「ロジャーはクソドアホだ」

「実感してる」

「……あいつと違って、残念ながら俺はちゃんと気付いた。何が背が低いだあのクソ髭」

 

 酒、とフェヒターは適当に注文した。生ぬるいエールが間髪入れずに出される。

 

「なんで黙ってた?」

 

 フェヒターは口パクで『おんな、って』と告げた。どうやら秘密を守ってくれる意思はある様だ。

 

 ……とは言えど、正直先に死ぬロジャーならともかく現代でも元気に生きてるフェヒ爺が知ってるのはまずいんだよなぁ。

 フェヒ爺、昔と比べてなんか逆にハツラツと元気になってるし。

 

「……。俺が生まれた時代から数十年はな、男尊女卑が激しい時代だったんだよ。今でこそ、女の海に進出する可能性が高くなってるが……海軍を見りゃよく分かる。まだ強ぇよ」

「確かに、女海兵は珍しいな。それだけじゃない、政治だって殆どが男だ」

「治安だって今ほど良くねぇ。今後もっと治安が良くなるとしても、過去は酷い。女だからと舐め腐る」

 

 俺は自分の胸に手を当てた。

 

「馬鹿にされるのは向いてねぇ」

 

 フェヒターは耐えきれないと小さく笑った。

 

「そこで自衛とか言わねぇのがいいとこだ」

「かよわーく過ごしてざまあする、それも考えたさ。でも耐え症じゃねぇんだよ。無理無理、辛抱ってモンに殺すほど向いてねぇ」

 

 リィンは『言いたいやつは言わせとけ』『ネタばらししてざまあ』『トラブル回避のためか弱く過ごして舐めて貰う』がモットー。と言うから安全策。

 

 この俺は、そういうんじゃ無いんだよな。

 

「殺すほどって……っ、ハハッ」

「流石に何百年と過ごしてっと分からんなるぞ?」

「お前時々おんな抱きに行くじゃねぇか、っ、それは?」

「おうガキ。教えてやるよ。俺レベルになるとな、1枚も服を脱がずに満足させることも出来るんだぜ?」

「ハハハッ!っ、ほんとっ、変なやつだなっ!」

 

 体を折り曲げてフェヒターは小刻みに震え始めた。

 

「あ、エースいたいた!」

 

 ロジャーだ。

 笑い崩れているフェヒターを一瞥して首を傾げた後、笑いかけた。

 

「飯行くぞ飯」

「もう食ったっての」

「えー、まだ行けるだろ。ほら、2軒目2軒目」

「面白い芸でも見せてくれるんならいいぜ?おいフェヒター、いつまで笑い崩れてんだ」

「ロジャーのwwww大マヌケwwwwwww」

「なんで急に俺に飛び火来た!?」

「妥当だな」

「妥当だなぁ」

 

 仕方ないから会計だけバッと置いて店を出る。今までに見たことないくらい笑ってるフェヒターは不気味だけど放置しとこう。

 

 道端で靴磨きをしていた赤褐色の少年と目が合った。

 

「お兄さん達靴磨く?」

「おーうガキ、悪い鬼に食われちまうぞ」

「えぇ〜お兄さん達いいひとじゃないの?」

「悪〜い鬼だぜ。なぁ?」

「世界で最も」

「だろだろ」

「安心しろロジャー、お前が処刑される日は休日だ。めでてぇからな」

「言えてる」

 

 フェヒターがその度胸に免じて少年にいくつかベリーを握らせていた。

 

「もっと観察眼磨けよっ、ハハッ、気分がいい海賊で良かったな、ブククっ、気を付けないと死ぬぞ〜」

 

 未だに笑い死んでるフェヒターを蹴り飛ばして歩きを促す。

 

「蹴んなよこの馬鹿っ」

「誰が馬鹿だ」

「エースはあのアホ面と似ても似つかねぇな〜」

「……上機嫌だな、ほんと。あの能天気無鉄砲引っ掻き回しトラブルメーカー女と一緒にすんじゃねぇよ。傍から見りゃおもろいが」

 

 どうなることかと思ったけどある意味レイリーとかじゃなくてフェヒターでよかったかもしれない。

 

「ハハハッ……っとに、馬鹿(・・)だなぁ」

 

 ほら、俺って命と国の恩人だし?

 口調も態度も真似するくらい好かれてるみたいだし……。

 

 

 

 チラリと脳裏に走馬灯に似た何かが駆け巡る。

 

 

 小さい頃、ゴミ捨て場。

 

『今頃何をしてるのか知らないがどーせ馬鹿やってんだろうよ』

『………………しゅき?』

『…………は?』

 

 不自然な間と、腑抜けた返事。確かその前の会話は、変な女には気をつけろ、って忠告だった。

 

『おいおい何を言ってんだ小娘。誰が、あの、馬鹿を、好き、だって?』

『ふぇひぃじーが、へんに、おんにゃを、しゅき?』

 

 拙い言葉で、弱点を見つけたと、おちょくった。

 

 

 

 ──馬鹿を。

 

「………………なぁフェヒター。お前ってカナエのことバカじゃなくてアホつってたよな」

「ん?そりゃアホだろ。あれは馬鹿じゃなくて絶対アホだろ。抜けてるっていうか」

 

 

 ぶわっ。

 背筋から冷や汗がえげつないほど垂れてきて、血の気が引く。

 

 き、気付きたくなかったことに気付いてしまったかもしれない。

 

「………………俺、湯冷めした。もっかい風呂入ってくるわ」

「はあ!?店の前まで来て!?」

「風邪引いて移すんじゃねぇぞ」

 

 センゴクさん、胃薬手配してください。




回想は第11話より抜粋

ちなみに赤褐色の少年は土埃を被ってる赤毛の少年でした。魂の性質をちゃんと視て海賊に接客しましたよ。なんて名前だろうね。


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第259話 百聞は一見にしかず

 

 

 ロジャー。

 

 色んなところから彼の名前を呼ぶ声が聞こえる。

 

 

 海賊王ゴール・D・ロジャー

 身なりは決して清潔な訳ではなく、ボサボサの髪の毛にタレ目の三白眼、鼻の下から大きく広がる特徴的な口ひげと、短く不潔にも見える無精髭。血の色の様なコートを好み、ロジャー海賊団のマークが入った帽子をかぶっている。

 

 戦闘狂で大胆不敵。カタギには手を出さないが、仲間が苦しむなら国さえも滅ぼす残虐性。

 戦闘スタイルは腰に差したカトラスと銃。もっぱらカトラスばかりで覇気を3種類使える。

 

 彼の愛刀、カトラスの名前は『最上大業物12工 エース』だった。後に白ひげ海賊団の二番隊隊長になる彼の息子は、彼が一等愛する武器にちなんだ名前になるはずだったのだろう。

 

「『エース』の名前はロジャーにとって特別なんだろうな」

 

 副船長のレイリーが言う。

 偽物のエースは、小さく笑った。

 

「ロジャーはあたしにとって特別なの。だから、彼にとってのエースをあたしも守りたいんだ」

 

 船員のひとりがそう言う。

 偽物のエースは、小さく笑った。

 

 

 偽物の黒い髪が、嘘で汚れて見えた。

 ……同じ、鬼の子なのに。

 嫉妬の炎が渦巻くのを感じて、偽物は小さく笑った。

 

 

 お前はこんなにも愛されているのに。ずるいよ。

 

 

 

 

 

「トキ、大丈夫か!?」

 

 トキが倒れた。ワノ国の近海でのことだ。

 彼女はワノ国に向かうことを目標として旅をしていた。船医のクロッカス曰く、緊張の糸が切れたのだろう、と。

 

 布団の周りにへばりつくおでん及び家臣一家をベリベリ剥がしていく。病人のそばで騒ぐなお前ら。休めないだろ。

 

「ごめんなさいエースさん……」

「いい。それよりトキは休むことを第一に考えろ」

 

 医者に命じられて俺がトキの世話係だ。カナエという案も出たのだが、あいつは押しに弱い。飛び込んで来そうなおでん達を抑え込める実力が無いという点から選ばれてしまった。

 

 氷嚢を作り替える。氷を取りに行くのはめんどくさいからぬるくなった水を再度自分で凍らせた。

 

「エースさん、お願いがあるの」

「ん?なんだ、言ってみろ」

「もうすぐ、ワノ国に着くわよね。おでんさんが降りようとするのを、止めて欲しいの」

 

 想定外のお願いに少しだけ目を見開いて、考えたあと納得する。なるほど、たしかに。

 

 おでんが船に乗っている理由は、ロジャーが読めない歴史の石(ポーネグリフ)の古代文字を読めるからだ。

 たった1人だけなら、問題があっても無くてもおでんは船に乗り続けることになっただろう。

 

 異物(おれ)がいる。

 まだまだ読み解けない文章はあるけど、皆からすると完璧に読める人間が。

 

「なぁ、トキ」

「?」

「ワノ国は、大変だぜ。予言しといてやるよ。……お前、長生きは出来ねぇ」

 

 彼女の能力。トキトキの実。

 悪魔の実というのは必ず限定的で、この世に2個も無い。

 

 私はトキトキの実を食べた無機物で未来から過去に飛んできた。今からざっと20年後。

 研究自体はもっと前から行われていただろうから、長くても10年生きられるか……という感じだろう。

 

「知ってるわ」

 

 覚悟の決まった瞳で、トキは私に微笑んだ。

 目の前がぐらりと揺れた。あぁ、気持ち悪い。

 

 

 

 

 数刻後、ロジャー海賊団はワノ国に到着する。

 

「おでん様!お久しゅうございます!懸命に預かってまいりました、九里は……。っ、今、ワノ国は……」

「待って!あなた方がおでんさんを想うなら……お願いです、彼をこのまま海に……!」

 

 おでんの帰国におでんの家臣らしき者たちがおでんを引き留めようとする。

 揺らぐおでんと、必死になって止めるトキ。

 

「だがトキ、ここにはエースもいるし俺も」

「おでんさん!今、あなたが私に着いてくると言うなら。私は離縁を申し込みます!」

 

 ぜーぜーと赤い顔で訴えるのを見て、おでんの天秤が傾いたその瞬間。

 

 

 俺はトキと、あとモモの助と日和を抱き上げ上陸した。

 

「悪ぃなおでん?かわいーいトキには俺が付いてるからよ。お邪魔虫……ゴホン、お前はロジャーについていけ」

「エーステメェ!!!!!おいごら!!!」

「エースお前!お前も行くんじゃねぇのかよ!」

「おいエース!」

 

 俺の予想外の動きに全員が目を丸くする。

 ウンウン、驚くよね。

 私も出来るならロジャー一味について行ってラフテルまで先に行ってみたかったよ。

 

 ちょっとね。気付いたら胃痛案件みたいなことに気付いちゃったからさ。

 

「悪い。ロジャー。俺はタイムリミットだ」

「それって…!」

「俺ァおねむの時間なんだよ」

 

 エースの悪魔の実の設定を改めて振り返る。

 

 ・肉体年齢が止まる代わりに時間転移(眠る)する

 ・眠る期間は様々。数分だったり数年だったり

 ・起きてる時間も同上

 ・彼らの前では使ってないが割となんでもあり

 ・悪魔の実はイデイデの実のイデア人間

 

 うん、こんな感じだったね。

 

「……なぁロジャー。俺さ、お前と知り合えて良かったよ。もうお前が生きてるうちに会えねぇとは思う。お前が死ぬのは、宿命で、絶対だ。だけど、だがな」

 

 ロジャーと過ごした時間は短いけど、それでもやっぱり寂しい。なんで死ぬんだよ。お前が死ぬからエースは苦しむし、人々は悲しんだ。

 お前が死ななければ良かった。

 

 

 

「──そんな泣きそうな顔をするんじゃねぇよ、エース」

 

 

「っ!?」

 

 勢いよく顔を上げた。

 この数ヶ月で聞き慣れた声が正面から聞こえ、向かい風が走った。

 

 冷たい、海の匂いが含んだ風だ。

 

「お前、俺のダチだろ?しっかりしろよ」

「ロジャー……」

 

 偉大なる海賊王。ゴールド・ロジャー。

 

「……──なぁぁぁにが泣きそうな顔するなだテメェギャン泣きじゃねぇかよ」

 

 穴という穴から液体垂れ流してる成人男性の姿に偉大もクソもあってたまるか。

 

「うるせぇえ!!お前男だろ男なら別れは涙なんか流さねぇんだよ!舐めんな!」

「支離滅裂じゃねえか」

「いいかエース!お前はな、俺にとっちゃ、初めて出会った憧れで、ダチなんだよ!それこそてめぇの刀や息子に同じ名前つけるくらいの大親友(マブダチ)なんだよ!舐めんなコラ!」

「ハハッ、くだらねー」

「今ここでお前を殺して時間差心中してやろうか!!!!????」

 

 それは心中とは言わないのでは?

 

「悪ぃな、俺にとっての王様はもういるんだ。仕方ねぇからマブダチに妥協しといてやるよ」

「それは初耳だが!?」

「そりゃ、この世に(まだ)存在してない(リィンが)幼い頃からの王様だからな。誰も(未来のことなんて)知らねぇよ。特にお前もうすぐ死ぬし」

「神経逆撫で祭り君か!?神経逆撫で祭り騒ぎわっしょい君なのか!?」

「おうとも」

 

 カラカラと笑う。この男の別れに湿っぽいのは似合わない。

 

「死ぬ時ですら、笑って逝け」

 

 未来と同じ現象になる様に、特別な言葉を掛けた。

 

「あぁ、そうだカナエ」

「んぇ!?あたし?」

「お前の名前の漢字、なんて書くんだ?」

 

「かんじ?」

「カンジってなんだ?」

「ワノ国独特の文化っつーか文字の一種だよ」

 

 船の上がザワザワと騒がしくなる。

 外海では漢字なんてものは早々存在しないからねえ。

 

「知らない火、怪火の不知火に。叶う夢、だよ」

「不思議な名前だな」

「分かる」

 

 不知火、叶夢

 

「ずっと気になってたんだ、ありがとな」

 

 産まれた頃から、ずっと。

 叶夢は不思議そうな顔をして首を傾げた。

 

 チリン。

 髪の毛につけた鈴の音がなる。

 

「あと言っときたいことがあるがアブソリュートは吸収じゃない。アプソルベ、な?」

「は、はぁああぁ!?今更言われてももう言い慣れちゃってるやつなんで訂正するの!?」

 

 ほんとに、相変わらずやかましいなこの女。

 このふたりはもう、未来に居ない。会うのは最期だ。

 

 

「じゃあなA」

「墓参りにだけは行ってやるよ、D」

 

 

 ログが塗り替えられないうちにロジャー海賊団はワノ国から出なければならない。

 時間は、もうなかった。

 

 

 

「──ロジャー海賊団!近い未来、どでけぇことを成し遂げて世界をひっくり返す世紀の大馬鹿者たちよ!将来は俺と敵対するやつ敵対しないやつ出てくるかもしれねぇが、これだけは告げておく!」

 

 トキを抱えたまま俺は、にやりと笑った。

 

「バーーーカ!」

 

 中指を立てた。

 

「「「「ふざけんなエースーーーーっ!!」」」」

 

 遠ざかる船に背を向けて、トキの体を家臣に預けた。

 

 

「エースさん……」

「さて、今の見てもわかる通りトキはおでんの嫁だ。丁重に扱えよ」

「しょ、承知した」

「んで、ワノ国が大変なんだったか。俺にはあいにく時間が無いもんで、情報だけよこせ。未来で何とかしてやる」

 

 トキを急いで療養させなければならない。

 グラグラと揺れる気持ち悪さを必死に押し込めて、道中にワノ国の現状を聞く。カイドウがワノ国を縄張りとしていることしか理解できない。ごめんワノ国の文化や組織には詳しくないんだ。1文字残らず覚えておくから大根オロシだとかスキヤキだとか食べ物の名前出さないで貰っていい?あ?名前?……っかー、おでんの名前も食い物だったなクソッタレ。

 

「エースさん、あなた、は、急いでるんでしょ」

 

 真っ赤な顔したトキが私に声をかける。

 

「あぁ」

「いい、ワノ国のことは、私が、おでんさんが何とかするから。っ、いつがいいの?」

 

 トキは察しがいい。

 私が、トキの力を借りて未来に行こうとしてるのがわかったらしい。

 

 

 

 私は、この時間転移で一つ疑問がある。

 

 『リィンが産まれた時、俺はどうなるのか?』

 

 魂というのは転生しても変わらない。

 私は異世界からの転生者だから、リィンが生まれるより前に、同じ魂が存在することは無い。そう仮定した。

 

 リィンが生まれるのは今から約10年後。

 時間転移の周期はだいたい10年前後。

 

 次、時間転移したら同じ命が同時空に2つ存在することになる。

 

 

 実験は無理、専門知識がないから計算も無理。

 だけど……──奇跡的に前例があった。

 

 電伝虫だ。

 

 電伝虫は人に飼われる特性上かなりの長寿種だ。500年くらいは簡単に生き続ける。私の愛用の電伝虫は100年くらいは生きていただろう。そして寿命が尽きることもまず無いくらいには若かった。

 

 でも電伝虫は過去に転移してアイテムボックスから取り出した瞬間、死んでしまったのだ。

 

 だからもう、こう考えた。

 

 『同じ時間に同じ魂が存在したから死んだのではないか?』と。

 

 うん、その瞬間胃が悲鳴を上げ始めたよね。気付いて良かったけど良くない。そんな人災じゃなくて天災レベルの死因、聞いてないです。

 

「24年後の夏、細かい時間は」

 

 私がセンゴクさんと訪れた時期より念の為5日ほど遅らせた指定をする。トキは心得た、とばかりに頷いた。

 

「トキ、未来で会おう」

「……そう、ね。そうなることを、願っているわ」

 

 約束はされなかった。

 ワノ国。歴史の石(ポーネグリフ)がこの国にある限り、麦わらの一味として切っても切れない航路だ。

 だからルフィも、私も、必ずたどり着く。

 

「俺の王様はな、麦わらの帽子を被ってんだ。それを頼れ。あぁ、シャンクスのことじゃねぇぞ?」

「エースさん……」

「過去から来た俺たちは、未来でまた会うんだ」

 

 嘘をついた。

 トキと同じ時を歩んだわけじゃない。未来で悪魔の実の成れの果てを見た。これは、少しでも彼女を安心させるための、エース(おれ)の嘘だ。

 

「……ありがとう、エースさ、ん、えーす、兄様」

 

 トキは高熱で意識が失いかけていながらも、正確に、私を未来へ飛ばすことが出来たのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 富、名声、力、この世の全てを手に入れた男。

 

 〝海賊王〟ゴールド・ロジャー

 

 彼の死に際に放った一言は人々を海へ駆り立てた。

 

『おれの財宝か?欲しけりゃくれてやる、探せっ この世の全てをそこに置いてきた』

 これは、大海賊時代の話。

 

 

 

 

「────リィン」

 

 随分久しぶりに声を聞いた気がする。

 センゴクさんだ。

 

「あ、ぁ、仏の」

「リィン」

「せんご、く」

 

「リィン」

 

 仏の顔をした大きな大きな海兵。

 対して私はロジャー海賊団に乗った小さな咎人。

 

「センゴクさ、っ、センゴクさん!」

 

 私はセンゴクさんの胸ぐらを掴んだ。

 

「ロジャーは!?」

「やつは死んだ。22年前、海軍がやつの産まれ故郷で処刑した。やつの一味は未だにほとんどが逃げ仰せている。カナエは頂上戦争で死んだ」

「頂上戦争は!?」

「予定通り海軍の敗北。白ひげも火拳も生きている。正確に言うと1度死んで舞い戻ったのが火拳。頂上戦争に乱入したのはインペルダウンからと、サボ、トラファルガー、そして冥王と剣帝」

「リィンは!?」

「お前がやらかしたことは多すぎる、ので、お前が機会に呑まれた時点から約5分間、書き出してある。確認しろ」

 

 箇条書きに書き込まれた経歴。

 推定で生まれた日から海軍入隊。大まかな出来事が時間軸順に並べられてある。

 

「…………かわ、って、ない」

 

 小さく息を吐いたけど、急いで振り返って機械を見る。動いていた。

 トキトキの実を食べた機械は、流動していた。

 

「変わってねぇっっ!」

 

 トキが死んだ。じゃないと説明がつかない。トキが悪魔の実を食べてたんだから。死ななきゃ悪魔の実は新たに生まれない。

 

 変わらないことに安心して、変わらないことに勝手に絶望した。

 

「リィン」

「センゴクっ、お前」

「お前は誰だ?」

「……、おれは、私は、リィン。です」

「あぁそうだ。リィン。お前は私の娘だ。冥王シルバーズ・レイリーと戦神シラヌイ・カナエの実子で、愛しい、私の子供だ」

 

 娘。子供。

 

 

「さて、一言でまとめろ、どうだった?」

 

 

 センゴクさんを見上げて、私は胸に抱いた言葉を宣言した。

 

「うん、ロジャーは死んで欲しい」

「安心しろ、もう殺した」

 

 もう2、3回殺す必要ありそうだから怖いんだよね。

 

 

 

「あと!所詮アイツらはエースと同じ名前だとかロジャーの息子だから特別視してるに違いない!」

 

 どん!と胸を張った。

 

「アイツらと違って等身大(ありのまま)(エース)を愛してるのは私だし白ひげ達だ!」

 

 身代わりでしか愛せない不器用な奴らと違って、全身全霊かけて愛してる。

 あぁ、本当にずるい。

 ずるいやつだ。

 

 こんなにも愛されている、あのエース(エース)って(やつ)は。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──大丈夫、お前は気付いてないだけでもう誰かを愛することを知ってるよ」




表現にクソ悩んだので解説します。最後のエースは、『幻のエース君』として演じたリィンであり、『火拳のエース』として現代で愛されるエースであり、どちらのエースも、愛されているということです。
リィンとエース君の思考がごったごった入り交じってますけども、えー、皆さんおまたせしました。表紙にあるもう一つの顔が本格始動します。

過去編は番外編をひとつ挟んで、新章突入します。まだシャボンディじゃないよ


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