ダンジョンに鉄の華を咲かせるのは間違っているだろうか (軍勢)
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第0輪

オルフェンズ=孤児
ある女神様=孤児の保護者

という発想を元に勢いで初めてしまった。
原作は希望のあるエンドでしたが、散ってしまった彼らが悲しくて書き始めました。
相変わらずのドン亀更新ですがよろしければよろしくお願いします。



――パンパンパンッ!!!--

 

人通りのなくなった都市、クリュセに発砲音が鳴り響く。

 

「はぁ……なんだよ、結構当たんじゃねぇか」

 

男は襲撃を掛けてきた殺し屋三人の内一人の脳天を銃で撃ち抜き退散させた。

だが男はその襲撃が行われた際にとっさに団員を庇い、その背に何発もの銃弾を受けていた。

 

「あぁ……ああぁ……」

 

「なんて声…出してやがる…ライドォ!」

 

少年、ライドが声を洩らすのも無理はない、男の姿は誰が見ても死に体。

穿たれた傷からは命の水が止めどなく溢れ出して地面に赤い池を作り出していた。

 

「だって…だってぇ!!」

 

「俺は鉄華団団長…オルガ・イツカだぞ…こんぐれぇなんてこたぁねぇ!」

 

虚勢だというのはこの光景を見れば誰しも理解出来るだろう。

だが虚勢であろうとも男は最後まで団長である事を止めはしない。

 

「そんなっ…、オレなんかのために……!」

「団員を守るのがオレの仕事だ。いいから行くぞッ!みんなが、待ってんだ。」

 

ベチャリと自分から流れ出した血の池を踏みしめ歩き出す。

血は繋がっていないが、それ以上のもので繋がった家族たちの為に。

 

一歩が重い、体が鉛になった様に上手く動かない。

血を失い、意識が朦朧としていると不意に色々な顔を思い出した。

 

(ユージン、アキヒロ、ダンジ、おやっさん、……)

 

次々と浮かんでくるのは掛け替えのない家族の顔。

その中には既に死んでしまった顔も含まれて居た。

 

(名瀬の兄貴、アミダ姐さん、ラフタさん、シノ、ビスケット……)

 

そして最後に浮かんでくるのは当然あの顔だった。

それと同時に『約束』を思い出した。

 

―――謝ったら許さない。

 

(ハッ、最後まで…あぁ、そうだ、そうだよな!ミカァ!)

 

己の親友である三日月・オーガスの声が、瞳が死の淵で弱気になった己に活を入れた。

時に脅されるように。時に決断を尋ねるように向けられた三日月の眼に自分は背中を押されてきた。

 

それがどうしようもない程の重荷と感じる事があった。

あの眼で見られている事に怯えていた事もあった。

 

だがそれでも、その目のおかげで自分は鉄華団の団長 オルガ・イツカになれた。

いつでも粋がってて、最高にカッコイイ姿で家族を引っ張っていく…そうあれと自分に誓ったのはやはりあの目があったからだ。

 

そして死の間際になってやっと、オルガは自分の答えを見つけた。

 

(ミカ、やっとわかったんだ、俺たちに『たどり着く場所』なんていらねぇ。ただ進み続けるだけでいい!とまんねぇ限り、道は…続く!)

 

だからこそ伝えよう。自分が得た答えを伝えるために……

どこまでも、どこまでも、遠く遠く見果てぬ先へと進み続けろと。命ある限り叫び続けろと。

 

それは宛ら蝋燭が燃え尽きるその直前に激しく燃え盛るが如く。

命を振り絞りながら彼は叫んだ。大きく、力強く、嗚咽を洩らす団員達にしっかりと聞こえる様に。

 

「オレは止まんねぇからよ。お前らが止まんねぇ限り、その先にオレはいるぞ!!」

 

自分の居る場所こそが自分たちの居場所だと言ってくれた家族たちに、

例え離れてしまっても、生きる場所が変わろうとも、進み続ける限り俺達は変わらず家族のままだという思いを込めて…男は倒れた。

 

 

「だからよ…止まるんじゃねぇぞ…」

 

最後の最期まで、家族を想い、家族を考えた男はその言葉を最後にその命を散らした。

仰向き(後退)ではなく、往生(停滞)でもなく、その言葉通り前のめりに先を指さして。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう、散らした筈だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょ、ちょっと君!大丈夫かい!?」

 

 




プロローグなので短めです…


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第1輪

話を組み立てるのが難しい……自分の国語力の無さが恨めしい。
そして公式、なんで色々と炎上してしまう様な発言繰り返すんですかねぇ


目を開けると、所々傷んだ板張りの天井が見えた。

 

「どこだ……ここ?」

 

霞みがかったようなフワフワした頭ではあったが、現状を把握すべく周りを見渡した。

むき出しになった石づくりの壁や所々に使用された木製の柱、どれもこれもが見覚えの無い景色だった。

 

「うお―――ッ!ってえ!?」

 

立ち上がろうとしたが足に力が入らずそのまま顔面から落ちる事となった。

だがその代わりに眠気が吹き飛び、記憶が戻ってきた。

 

「俺は……そうだ、俺はあの時撃たれて死んだはず!?」

 

慌てて体を確認してみるが、そこには傷跡すらなかった。

 

「傷も痛みもねぇ…それにスーツにすら血の跡どころか穴も開いてねぇってどういう事だ!?」

 

混乱するのも無理はない。

アレは確実に致命傷であり、出血量からしてもあの状態から自分が助かるとは到底思えなかった。

 

幼少時から命の危機など数えるのが馬鹿らしくなる程あった。

人を殺したし、仲間も殺された。鉄砲玉紛いの扱いをされた事も一度や二度ではない。

だからこそ死と生の境界はなんとなく理解していたし、撃たれた時に自分は助からないと認識していた。

 

 

 

―――だが

 

「……いや、何で生きてるかなんて今はどうでもいい、生きてるならみんなの所に帰るだけだ。」

 

疑問も思考も全て後回し、生きているならば家族の元に帰る。

希望が見えたとは言え未だに状況は最悪。じっとしているという選択肢は最初から存在していなかった。

 

(助けてもらったってのに挨拶もしねぇですまねぇ)

 

この部屋の主に対して感謝の言葉を言わずに出て行く事に申し訳なさを感じるが、今は一刻一秒が惜しい。

全てが終わったあとで必ず挨拶に戻ろうと誓って出口に向かう。

 

オルガにとって少々低い天井を気にしながら出口と思う通路を歩いていくと唐突に行き止まりになった。

しかしよく見ると扉となっている事が分かり、押してみると少々重いが扉が動いた。

 

ズズッと石の擦る音を立てて石の扉を開けるとそこはボロボロになった建物の中だった。

 

「廃墟の隠し部屋か、確かに…犯罪者を匿うのには打って付けだな」

 

自分で言って悲しくなるが兎に角出口へと向かうことにした。

 

地面に転がっている崩れた壁の一部や椅子の残骸を避けて進んでいく。

 

 

 

そして扉の無くなった出入り口から出て……愕然とした。

 

「……何処だよ、此処は」

 

廃教会から出てみればそこは全く見覚えの無い町並みだった。

少なくともクリュセではない、寧ろあんな特徴的なバカデカイ塔がある町を自分は知らない。

 

周りも廃墟だらけだが、どれもこれもがクリュセには…いや、火星では見かけないものばかり。

 

「クソっ!マジで一体何なんだここは…まさかとは思うが地球じゃねぇだろうな」

 

それともやっぱり自分は死んでいて、ここは死後の世界だったりするのか。

不安と焦燥と疑問がオルガの中で膨らんでいく中、

 

「あっ!よかったー気が付いたみたいだね」

 

「―――ッ!?誰だ!」

 

不意に掛けられた言葉に思わず構えを取ってしまう。

そしてこの時三日月から借りていた銃が無い事に気が付いた。

気が動転していたとは言え迂闊すぎるだろと思わず自分を罵りたくなるが、その考えは声の主を見て霧散した。

 

(子供……?)

 

声の主は14、5歳程の少女と呼べる程の年齢だった。

 

しかし、その格好は少々異彩を放っていた。

髪をツインテールにして、首にリボンを着けており、服は胸元の大きく開いた白いワンピースを着ている。

……だが、何故か手袋をはめているのにも関わらず足は裸足な理由がわからない。

 

だが、オルガにとっては相手の格好よりも重大な事があった。

 

(なんだ…?見かけはどう見ても子供なのに何か違和感みてぇなモンがある)

 

目の前の少女が放つ普通の人間とは違うナニカがオルガに違和感となって感じさせている。

強いて近いものを言えばテイワズのトップであるマクマードに少し似た様なナニカだった。

 

「む、誰だとは失礼じゃない?一応倒れていた君を助けたのはボクなんだけど?」

 

「俺を……助けた?じゃあアンタが俺を此処まで?」

 

「そうだよ、ちょっとどころじゃない程に大変だったけど……」

 

その時の事を思い出したのか少し遠い目をする少女。

確かに、鉄華団の飯炊き係だったアトラと同じぐらいの背丈の少女が200はありそうなオルガを背負って移動するのは重労働以外の何者でもないだろう。

 

「恩人に失礼な真似しちまった、すまねぇ。そして礼を言わせて欲しい」

 

パンッ!と両膝に手を置き、頭を下げて謝罪と感謝の意を示すオルガ。

例え相手が年下であろうと誰であろうと受けた恩義が変わるわけではないと、筋を通す事を信条としているオルガは迷いなく目の前の少女に頭を下げた。

 

(助けてくれた事に嘘はねぇと思う、それに今はこの状況を知る為に余計な不興を買うのは得策じゃあねぇ)

 

目の前にいる少女が今の自分にとって恩人である以上に貴重な情報源であると考え冷静に努めるオルガ。

正直に言えばすぐにでも此処がどこか、鉄華団はどうなったのか、あれからどれだけ時間経ったのかを問い詰めたいとすら思っている。

 

それら全てを押し込めて一つ一つ聞いていくことにした。

 

「それとすまねぇが教えて欲しい事がある……ここは一体どこなんだ?」

 

その質問の意味に少女は疑問を浮かべながらもこの場所の事を答える。

 

「変な事聞くんだね、此処は迷宮都市オラリオだけど……」

 

「迷宮都市…オラリオ……?」

 

オルガは頭を必死に探したがそんな場所は聞いたことがなかった。

少なくとも自分の知っている限り、クリュセの周りにはそんな都市なんて無い。

 

目の前の少女がデタラメを言っているのかとも思うが、本人が嘘をついている様にはとてもではないが見えない。

寧ろ何を当然な事を言っているんだ?とキョトンとした表情をしている。

 

「ど、どうしたんだい!?そんな怖い顔して」

 

「い…いや、すまねぇが……ここは地球だったりするのか?」

 

確認と、ある種の願いを込めて聞いてみるが、

 

「何言ってるんだい?そんなの当然じゃないか」

 

返って来た答えはやっぱり自分が望んだものではなく。

分かったことは自分は地球の迷宮都市オラリオという都市で倒れていたという事実だった。

 

 

「一体…何がどうなってやがる」

 

今まで後回しにしてきた疑問も一気に吹き出し思わず頭を抱えてしまう。

 

 

 

 

 

彼はまだ知らない、この世界が自分の居た世界とは全く別の世界であることを。

 

 

 

 




文章をこうしたら良いなどありましたらどんどん書いて頂けると非常に助かります!
ちょっとマジで自分の文章能力の低さが悲しいんでお願いします。

皆さんの感想こそが私の動力源です。


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第2輪

いやぁ…難しい。
結構描写不足だし、色々変じゃね?とは自分でも思いますが。
それでも此処でモタモタしてエタるよりかは…と考えて投稿させて貰います。


 

(地球……此処が地球だって……?)

 

自分でも薄々そうじゃないかという考えはあった。

この廃墟の建築様式だけではなく、そこかしこに樹木が生えているのだから。

 

だが、

 

 

「どうしたんだい!?ホントに顔色が悪いよ君!」

 

 

 

「教えてくれ、鉄華団はどうなった!ギャラルホルンの報道はなんて言ってた!?」

 

 

 

今まで押し殺していた焦燥と不安が抑えきれなくなった。

火星から地球まで2週間掛かる。つまりオルガが地球に居るという事は、あれから少なくとも2週間以上は経過している事になる。

それだけ時間が経っているなら十中八九事態が終了してしまっているだろう。

だからこそ、鉄華団がどうなったのかが知りたかった。

 

 

 

 

 

 

―――だが

 

「ちょっと待ってくれ!ギャラルホルン…ってヘイムダルの角笛がどうかしたのかい?」

 

「……は?」

 

帰ってきたのは全くの見当はずれな答えだった。

鉄華団の事は兎も角として、ギャラルホルンを知らないという事はありえなかった。

人類が絶滅の危機に晒された厄祭戦以後三百年に渡り世界の治安を担ってきた巨大組織だ。

その成り立ちと今までの実績、良くも悪くも有名であり常識と言っていいその組織を知らない?

 

「な……なぁ、ホントに知らねぇのか……?」

 

「てっかだん?の事は知らないし、ギャラルホルンってヘイムダルの角笛以外に何があるのさ」

 

その返答を聞き何かがおかしいと感じた。致命的なナニカがズレているような……。

 

その感覚を振り払う様に……いや、振り払いたいと思って目の前の少女に質問を繰り返した。

怪訝な顔をされるが、必死なのが伝わったのか目の前の少女は素直にオルガの質問に答えていった。

 

質問の内容は各経済圏やモビルスーツにリアクターや火星やコロニー自分の思いつく限りの事を聞いていく。

だが少女は知らないと首を横に振るばかりで、逆に少女の言うこの町の事やモンスターの事もオルガは理解できないでいた。

 

そんな応酬を続けていく内に少女も何かがオカシイと感じて廃墟の並ぶ通りから町中へとオルガを一度案内することにした。

百聞は一見に如かずという言葉が有るように、口で説明するよりも見せた方が早いという考えだったのだろう。

 

 

そして事実として、ソレは正しかった。

オルガがオラリオの街中で見たものは自分の中の常識とは違ったものだったからだ。

 

往来には剣や槍を携え鎧などを着た人々の姿があり、その人々の姿の中に明らかにオカシイものがあった。

耳の長い人間は居るだろう、少年少女の姿をした人が成人男性相手に年少者の対応をしているのもいい。

だが、獣の耳や尻尾を持つ人間は居るハズがなかった。

 

流石に触る事はしなかったが、それよりも目の前を檻に入れられた怪物が運ばれていくところを見れば問答無用で理解させられる事になった。

 

 

 

 

―――ここは自分の知っている地球ではないのだと。

 

その時オルガはガラガラと自分の中の何かが音を立てて崩れた音が聞こえた。

同時に体も崩れ落ちそうになる所を少女に支えられて元の廃教会の隠し部屋に戻った時にはすっかり日が沈んでいた。

 

「大丈夫かい?」

 

「あぁ……すまねぇな、また迷惑かけちまって」

 

椅子に掛けながらそう返すオルガの姿には覇気がなかった。

落ち込む……と言うよりも呆然としていると言った方が正しいのか、この現状を受け止めきれていないのだ。

 

「ん、んんっ!そういえば自己紹介がまだたったよね、ボクはヘスティア」

 

「あ……あぁ、そういやそうだったっな」

 

思い返せば礼を言った後は質問ばかりだった事を思い出す。

それと同時に、目の前の少女、ヘスティアが自分の事を知らない事を改めて知った。

 

(ここが別の世界ってんなら…名前を隠す必要も無いよな)

 

鉄華団の名前は世界中に報道されていた、悪の組織として。

そして当然の事ながら団長である自分の名前も知られている、だからこそ当初は挨拶だけしてここを出たかったのだ。

恩人を巻き込みたくないという思いもあった。

 

だが、ここが完全な異世界だと判明した今となってはその必要もなかった。

 

「俺は鉄華団 団長、オルガ・イツカだ。」

 

「うん、よろしくオルガくん。」

 

 

 

 

 

「それでさ…聞いてもいいかな?そのてっかだんの事、君が生きてきた世界のこと」

 

「……あんま面白い話じゃねぇと思うぜ?」

 

「大丈夫、これでも聞き上手なんだよ?ボクは」

 

ムンと豊かな胸を突き出しながら言う少女、ヘスティアを見ていて何となく…何となく話してしまおうという気がした。

身の上話をするという事は今までの人生でも殆どないことだったのにだ。

 

 

「……鉄華団ってのは、鉄の華…決して散らない鉄の華って意味だ。」

 

するりと言葉が零れた。

出会って間もない赤の他人の筈なのに、オルガは不思議に思いながらもポツリポツリと話し始める。

 

大人に虐げられ、利用されていたCGS時代の事。

 

クーデリア・藍那・バーンスタインから始まった鉄華団創設の事。

 

始めて出会った尊敬できる大人である兄貴分、名瀬・タービンの率いるタービンズの事。

 

色々な事を話した。

 

道中で無茶した事や仲間が死んだこと、色々な犠牲を払って仕事を成し遂げた事。

それからの二年の月日の出来事や最近の出来事まで気が付けば話していた。

 

自分たちの辿ってきた道のりを、オルガは様々な感情を堪えながら話していった。

 

そしてマクギリス・ファリドの要請に従い参加した革命で大敗を喫したこと。

その所為で自分たちが犯罪者として見せしめにされる事となった事や、そこから旧友達の助けもあり一縷の希望が見えたこと。

 

そしてその帰りに襲撃を受けて……死んだこと。

 

そこまではなして、トンと衝撃が走った。

 

「え…?」

 

オルガはヘスティアに抱きしめられていた。

突然の事で反応が遅れてしまうが、女性特有の匂いやら感触やらで状況を判断させられた。

 

「ちょっと何を――「大変だったんだね…もういいんだ、君は泣いても良いんだよ?」…え?」

 

それは思ってもみない言葉だった。

そして、理解できない…したくない言葉だった。

 

「な、何言って…」

 

「此処には君を知っている人は居ない、逆に君が知っている人も此処には居ないんだ」

 

グサリと、それは急所を突くかの様な言葉だった。

此処は君の居た世界ではない、君は一人ぼっちなのだと宣告されたも同然の言葉だった。

 

「お……お…れは……っ!!」

 

オルガ・イツカの心はまだあの世界に有った。

事態は何一つとして収束していなく、旧友達の手により希望は見出せたが未だに地獄の真っ只中だ。

それなのに自分は死んでしまって、気が付けば異世界に居るなどという意味の分からない事態に陥っている。

 

本音を言えば今直ぐにでも駆けつけたい。

だがそれは出来なくて、自分に出来ることはただ家族たちが生きて欲しいと願うことだけだった。

 

「でも…ううん、だからこそ君は泣いて良いんだ。だって…悲しいのは当たり前に辛いじゃないか」

 

何故だと自分でも分からない、この人は恩人ではあるが出会ったばかりの赤の他人だ。

なのに…なのにどうしてこんなにもこの人の言葉が心にくるのか。

 

それ程までにヘスティアの言葉は優しく、温かかった。

分からない…分からない……でも、もう抑えきれなかった。

 

「俺の所為で!俺が間違った所為で家族を死なせちまった!!」

 

「兄貴が嵌められたのだって俺の所為だ!兄貴の危機だってのに俺は…俺は…ッ!」

 

堰を切った様に感情が溢れ出す。

積もりに積もった悲しみと怒りと自責の念がヘスティアの言葉を切っ掛けに流れ出した。

 

此処には誰も居ない、仲間も、親友も、家族も知り合いすら誰もいない。

 

だからこそ、一度此処で全てを吐き出させるべきだとヘスティアは確信していた。

でなければ、彼はそう遠くない未来に潰れてしまう…泣きたい時に泣けない事はとても辛い事だから。

 

 

 

実の所、ヘスティアはオルガの話の全てを理解出来ている訳ではなかった。

火星、阿頼耶識システム、モビルスーツ、ガンダム、ギャラルホルン……偶に知った単語が出てくるがどれも聞いていると自分の知っているものとは別のモノ。

それでも途中で聞き返したりはせずに、ヘスティアはひたすらに聞き役に徹した。

 

―――ヘスティアは神である。

ヘスティア神とは家庭生活の守護神、祭壇・祭祀の神であり、そして同時に『全ての孤児たちの保護者』である。

例え神としての権能は地上に降りてくる時に封印し、人間と変わらぬ脆弱な体と力しか持たなくなったとしても自分の根源であるソレは変わらない。

 

そもそも、保護者である事…即ち親であるという事に権能など必要ないのだから。

 

辛かったときは優しく慰めてあげればいい。

 

間違ったときは叱ってあげればいい。

 

成功すれば喜び、悲しい出来事があった時は泣けばいい。

 

 

 

ヘスティアはじっと抱きしめ続けた。

 

 

オルフェンズの涙が止まるまで。

 

 

 




そんな訳で第2輪でした。
こんな初心者がシリアス系文章書くなんて無謀も良いところだったのだろうか…でもヘスさんの設定見た時にピンと思いついた箇所なのでそれでも書きたかったんだ

と言うかまだファミリアになってないってどういう事なんでしょうねぇ。
こんな作品ではありますが、批評感想をお待ちしておりますのでよろしくお願いいたします


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第3輪

出会ってからファミリアになるまで3話掛かる小説ってウチ位じゃね?


 オルガが落ち着いたのは、三日月が東から幾分か登った頃だった。

 

「すまねぇ、みっともねぇ真似しちまった……」

 

「気にしないでいいよ、と言うよりボクがそうさせちゃったからね」

 

 褐色の肌にほのかな朱色を浮かべてバツの悪そうな表情で謝罪するオルガに対してヘスティアはまるで自分がそうするのは当然だと言うような態度と表情で返す。

 だがオルガにしてみれば会って間もない……それも少女と言っていい姿のヘスティアに自分の醜態を曝してしまったのだからそう簡単に割り切れるものでもないだろう。

 だが相手が気にしていないと言うのにこれ以上何か言うのも違うと思い、オルガはその話を打ち切る事にした。

 

「けどコレだけは言わせてくれ……その、ありがとよ」

 

「ふふっどういたしまして」

 

 素直に感謝を述べようとしたがどうにも恥ずかしさが入ってしまい少々ぶっきら棒な言い方になってしまう。

 その姿は何処にでもいる大人になり切れていない青年のものであり、そんなオルガからの感謝を聞いたヘスティアは笑顔でその感謝を受け取った。

 

「さて、オルガくんの事は聞いたから次はボクがこの世界の事について説明するね!」

 

「あぁ、よろしく頼む」

 

 

 そこからはオルガの全く知らない世界の話だった。

 ひょっとしたら娯楽の中にはそういった内容の書物もあるのかもしれないが……孤児であり、鉄華団の団長として全力疾走していたオルガには娯楽というものは縁のないものだった。

 それ程までに夢物語と言っていい程にオルガの常識からは乖離していた。

 

 ダンジョン、モンスター、魔石、超越存在(デウスデア)眷属(ファミリア)神の恩恵(ファルナ)、冒険者、ギルド。

 聞けば聞くほどに摩訶不思議としか言いようのない存在と概念、元の世界とのあまりな差異にありえないと思うが、先ほど自分の眼でその一端を見てしまったのだから現実と受け入れるしかない。

 だがレベルが上がればあの巨大な怪物も一人で斃せるという事実には頭を抱えたくなってしまうのは仕方ないことだと思いたい。

 

「――っと大体の説明はこれでいいかな? ……ってオルガくん大丈夫かい?」

 

「あぁ、大丈夫だなんでもねぇさ……あぁ、大丈夫だ問題ねぇ」

 

「いやいやいや! 目が死んでるよ!? なんか答えも投げやりになってるし!」

 

 説明が終わる頃には色々と尽き果てた様な、自棄になったような状態となったオルガだった。

 今まで色々と決断を迫られたり厄介な状況になったりを経験してきたオルガだったが、流石に許容オーバーとなってしまったのは誰も責められないだろう。

 だが、その後約10分程で気持ちを切り替えられたのは流石と言っていいかも知れない……まぁ、ただ単に開き直っただけかもしれないが。

 

「冒険者にダンジョン……本当に全然違うんだな」

 

「ボク達からすれば木星まで君たちが自由に行き来してるのが信じられないけどね」

 

 お互いに世界の話をしても信じられない、信じがたい事は山ほどある。

 住む世界が違えば常識すら違う、如何に信じがたくともそれがお互いの生きてきた世界なのだからそこは割り切る方が建設的だ。

 それよりもヘスティアはオルガに聞きたいことがあった。

 

「さて、お互いの世界の話は終わったけど……一つ聞いてもいいかい?」

 

「ん? なんだよ聞きたい事ってのは」

 

「君はこれからどうするか……いや、何をしたいと思ってるのかな?」

 

 時期的に言えば、その問は余りにも早すぎる問だろう。

 目が覚めてみれば全くの別世界に放り込まれており、その事を先ほど知ったばかりの人間にこれから何をしたいのかを問うのは些か性急に過ぎると言うものだろう……だが、それでもヘスティアは問いたかった。

 

「何をしたいか……か」

 

 当然ではあるが、その問にオルガは即答できなかった。

 突然別世界に放り込まれた事もあるが、此処にはそれまで自分の根幹となっていた鉄華団という家族が居ない事が大きい。

 家族の為なら頑張れた、彼らの為ならどんなにキツイ仕事もやり遂げられると突き進んできた。

 

 だがそれが外された今、何をしたいのかと問われれば何もなかった。

 ただ、進み続けるという死に際に悟り、家族たちに残した言葉だけは強烈に今も自分の中にあった。

 

(何をしたいか……思いつかねぇ……あいつらには進み続けろって言った俺がこの様とは情けねぇ)

 

 オルガの夢はたどり着いた場所で皆でバカ笑いをしたいというものだった。

 だがその夢は破れ、自分もまた凶弾に倒れてこの世界に来ている。オルガの夢は鉄華団そのものだった。

 

(こっちに来てるかもしれねぇシノ達を探す? ……それは家族を理由に逃げてるだけじゃねぇのか?)

 

 居るなら探し出したいというのが本音だ、だが居るか居ないか不明な状態でしかも伝手も何もない状態で探し出せるのは不可能に近いだろう。そして、そんな状態でただがむしゃらに世界を放浪するなんていうのは逃げだ、進んでいるとはとてもではないが言えたことではない。

 他ならぬ自分が死に際に行ったのだ、進み続けろと……立ち止まるなと。ならそれだけは死んでも通さねばならない筋だとオルガは思っている。

 

 そして何よりもだ、

 

(そんな俺じゃ胸を張れねぇよな)

 

 情けない姿を見せたくはない、例えもし再会出来たとしてもそんなオルガを彼らは喜ばないだろう。

 

(そうだ……俺はアイツ等を見つけた時、アイツ等が俺を見つけてくれた時に俺は胸を張って言いたい)

 

ここ(・・)がお前達の新しい居場所だってな。)

 

 例え見つからなくても、例え会えなくとも……あの世に行った時に胸を張ってアイツ等に自慢できる場所を作る。

 それがオルガのやりたい事(・・・・・)だった。

 何だかんだと言いながら結局はソコに落ち着くのかと内心オルガは自嘲したが、それが自分なのだと諦めることにした。

 

 

 

「もしよかったら、提案があるんだ」

 

 そんな思考の海に沈んでいたオルガを引き上げたのは、質問をしたヘスティアだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 悩んでいる。目の前の青年、オルガ・イツカはこれからの事を悩んでいる。

 それは分かりきった事だった、けど彼は下手に時間を掛けるとダメな気がした……彼は進み続けなければ死んでしまう生き物に似ているから。

 歩くような速度でも良い、だが止まってはいけないというちょっと面倒な気質の持ち主であるというのがオルガにヘスティアが抱いた印象だ。だから尚早とは分かっていても問いかけたのだ。

 

 そしてもう一つ、ヘスティアは思ったのだ。

 目の前の青年、オルガ・イツカとならいいファミリアを築いていけると。

 

 少なくとも他のファミリア(眷属)を蔑ろにするような事はないと確信していた。

 それは先ほどの話からも家族を大切にし、いつも家族達の事を考えて行動していた事がにじみ出ていた。死なせたくなかった、幸せにしてやりたかったという彼の思いは彼が意図せずとも伝わって来るほどに強い。

 

 だから、すこし卑怯だが誘う事にした。

 

「もし良かったら、ボクのファミリアに入ってくれないかい?」

 

 だが、これは提案だ。自分の手を取るのも撥ね除けるのも、全ての決断は目の前の青年の意思に委ねる。

 

「まだ眷属(ファミリア)の数はゼロ、資金も無いし、拠点だってこの朽ちかけた教会跡だ……それでも、もし良かったらボクの家族(ファミリア)になって欲しい」

 

 そう言って、ヘスティアはオルガに手を差し出した。

 

 嘘は一切吐かない、今の状況も包み隠さず全て打ち明ける。

 例えソレが原因で断られようとも、自らが庇護すべき対象を騙すなどヘスティアの神としての矜持が許さない。

 

 

 少々卑怯な真似をしてしまったが、それがオルガに向けるヘスティアなりの誠意だった。

 

 

 そして、そんな覚悟で出された手を……褐色の手は握り返した。

 

「……えっ?」

 

「なんて顔してんすか、ヘスティアさん」

 

「いや、まさかすぐに手を取ってくれるとは思ってなくてね……?」

 

「おいおい、俺はそんなに薄情者に見えたのか?」

 

「でも、自分で誘っておいて言うのもなんだけど……この世界に居るかもしれない鉄華団の人達を探すとしたらもっと大きなファミリアに入った方が良いんじゃないかな?」

 

 正直言ってオルガがこの世界に居るかもしれない鉄華団を探すという目標は大手のファミリアの方が有利だろう。

 資金も組織力もある大手のファミリアで実力を付ければその権力もある程度行使出来る可能性だってある。

 少なくとも無名以前に、まだ立ち上げてすらないファミリアで一から成り上がるよりは余程現実的だ。

 

「……デカイ組織に入れば、その分しがらみも多くなる」

 

 それはテイワズに入っていた頃に痛感した事だった。

 勿論小さい組織が自力でやっていく大変さも知っているが、それでも身内に足を引っ張られるという厄介さと憤りはオルガの中で強烈に残っている。

 

「それに、そのファミリアが鉄華団の団員を受け入れてくれる保証は何処にもねぇ」

 

 例えそのファミリアで名を上げたとしてもオルガは団員の一人に過ぎない。

 オルガが言ったように鉄華団の団員が見つかったとして、それを受け入れられるかどうかは不明だ。

 他にも入ったファミリアがCGSの様な奴らだったら目も当てられない、第一ヘスティアの説明で下界に来ている神は暇潰しで降りて来た碌でなしが多いと聞いたためにオルガの中でファミリアへの警戒心が高い。

 

「それだったら自分で立ち上げる方が何倍も良い……それにヘスティアは信用できるしな」

 

「ははっ、そう言ってもらえると凄く嬉しいよ」

 

 まだ一日と経っていない間柄だが、オルガはヘスティアの事を信じられる神だと思える様になっていた。

 兄貴と慕っていた名瀬・タービンとは少し違うが、大きい大人……いや、この場合は大きい神と言うのか? 少なくともヘスティアは自身の状況を誠実に伝えた後にオルガへ提案という形で選択を委ねた。

 それがオルガには新鮮で……この神とならやっていけると思えた理由だった。

 

「それで、君のやりたい事は決まったかな?」

 

「……そうだな、取り敢えずはオラリオ一のファミリアにする事でどうだ?」

 

 ヘスティアの質問に対し、片目を瞑りながら悪戯小僧の様な笑みを浮かべるオルガ。

 人材も、資金も、設備も無い無い尽くしな文字通りゼロからのスタートではあったが、二人はそんな事は知ったことかとでも言うような笑顔だった。

 

「これから頼みますぜ? 主神」

 

「当然! 嫌って言ったってもう離さないからね!」

 

 

 

 

 この日、オラリオの片隅で一人の女神の下で一人の眷属(ファミリア)が生まれた。

 この二人から始まった物語がどの様な結末となるのか、どの様な道筋を行くのかはまだ誰も知らない。

 

 

 

 

 




はい、まだ四話な癖に三週間近く掛かるとかアホじゃねぇの?と罵られても何も言い返せない作者です。


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第4輪

やって分かる日刊更新の凄まじさ…彼らはいったいどんなスピードで打ってるんだ……?



オルガが神ヘスティアの眷属(ファミリア)となってから早くも一週間が経とうとしていた。

冒険者となったオルガはダンジョンに潜り、モンスター達と戦い魔石を取り出してギルドで換金をするという一般的な冒険者として過ごしている…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――事はなく、未だにダンジョンに一度も潜っていなかった。

寧ろまだ正式にファミリアの設立をギルドに申請しておらず、公式的には未だヘスティアファミリアは立ち上げられていなかったりする。

 

では何をしているのか、現在のオルガは―――

 

 

「おう、新入り!精が出るじゃねぇか」

 

「ウス!まだまだ行けますよ?おやっさん」

 

「ハッハッハ!その調子でやってくれんなら報酬に色付けといてやるよ!」

 

「あざっす!それなら尚更気合が入るってもんですよ!」

 

角材を肩に乗せながらせっせと労働に勤しむオルガ…その姿は正に―――労働者だった。

そう、オルガは今ダンジョンに潜らず労働に精を出しているのだ。

 

「兄ちゃん!あんま張り切り過ぎて腰痛めんなよ!」

 

「そうそう、コイツみてぇにギックリ腰になっちまったらつれぇぞ?」

 

「うるせぇ!テメェだってこの間余所見してた所に頭ぶつけた上にバケツに足突っ込んでひっくり返ったじゃねぇか!」

 

「おまっ!それは内緒って言っただろ!?」

 

「「「「ギャハハハハッ!!!」」」」

 

そんなやりとりに他の労働者達の笑い声が響く。

馬鹿を言って怒られて、そんな労働者達を見ながらオルガはこう思った。

 

(あぁ、なんか良いな…こういうのもよ)

 

嘗て目指したモノに近い光景、そしてこれから目指していく光景にオルガは自然と口が緩んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――さて、何故オルガが労働者として働いているかだが、

それというのもオルガがヘスティアの眷属(ファミリア)となった時に遡る。

 

 

「はい!これがオルガくんのステイタスだよ」

 

ピラリとステイタスが記入された紙をオルガに渡すが、それを受け取ったオルガは目を走らせて一言、

 

「……なんて書いてあるかサッパリわからねぇ」

 

 

 

当然の事だが世界が違えば文化も違う、即ち文字も違うということだった。

そんな当然な事をうっかり忘れていたオルガとヘスティアは冒険者としてダンジョンに潜る前に、ファミリアを正式に設立させる前に先ず足元を固める事を決めたのだ。

 

尚、この事実に気づいたオルガは必死に覚えた文字と知識の大半が無駄になった事に凹んだ。

勿論今も使える知識もあるので丸々無駄になった訳ではないがそれでもやはり、元々学の無い孤児だったオルガが支払った努力と時間を思えばその落胆は察するに余りあるだろう。

 

そんな事もあり、冒険者となる前にオルガは文字やこの世界の常識について学ぶことを優先した。

また、当然の事だがオルガは現在無一文でありヘスティアもまたバイトをしているとはいえ資金は殆どないので装備を買う資金にも困る状態だった事もあり、まずは最低限の準備をするべく労働に精を出すこととなった。

 

装備を整えるのはギルドに借金をするという選択肢があったが、流石に新しい出発から直ぐに借金まみれというのは避けたかった。

鉄華団という企業を経営していたオルガにとっては借金というものは不倶戴天の敵である……かと言って全てを自前で調達するまで冒険をしない訳にはいかないので一月だけファミリアの設立を遅らせての労働と勉強という二重生活を送る事となった。

 

 

尚、この後36時間労働どころか72時間労働なんてものをしたオルガに対してヘスティアは珍しく激怒した。

…とは言え怒鳴るとか暴力を振るうとかではなく子供に聞かせるように懇切丁寧な口調で、だが目が一切笑っていないという怒鳴られる事もしつけという名の暴力も散々受けてきたオルガとって未知な叱り方をされた為にあえなく陥落した。

 

反論も言い訳も淡々と返されて逃げ道を失わせていくというその姿にオルガはある種の恐怖を抱き、出来るだけ怒らせない事を心に決める程だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しかし生き生きと仕事をするよなアイツ」

 

「装備を買うために仕事してるって話しだが、一切手抜きもねぇからな」

 

精力的に働くオルガを見て、他の労働者も感心してしまう。

オラリオに来るのは皆冒険者を目指す、ファミリアに入ってダンジョンに行くのが大多数だ。

ただ、その前に装備を買うために働くという選択をする輩は殆どいない……殆どの者はファミリア内の中古品を渡されるか、ギルドに借金をして購入するかだ。

冒険者になりに来たのに労働に精を出すというのが気に入らないのだろう。

 

…そして、そんな奴らがいる中でオルガの様に労働を楽しんでいる奴は稀だ。

 

「冒険者かぁ……アイツはどうなるかねぇ」

 

「さぁな、夢を見てオラリオに来て無残に散った奴らなんかゴマンと居る……だがまァ、応援はしとくのは勝手だろ?」

 

「そうだな、成り上がったら酒ぐらいは奢ってもらうか!」

 

毎年オラリオに来て敗れていく者達を見てきた彼らだが、気に入ったヤツを応援位はする。

ダメだった時は酒に付き合って愚痴位は聞いてやろう、上手くいったら酒を奢ってもらおうという位だが……それでも頑張っている奴を嗤う事はしない。

 

こういう場所で働けているのもオルガにとっては幸運なことだった。

 

 

「テメェら何グダグダ喋っててやがる!給料差っ引かれてぇのか!?」

 

「「スンマセン親方ッ!それは勘弁して下さい!!」」

 

時折響く親方の怒声と悲鳴、そしてそれを見て笑う人達。

オルガの労働は思いの外心地よい時間となっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

空が赤く染まり、太陽が夕日となって西の空に落ちていく時間。

オルガよりも一足早くヘスティアはバイトから帰っていた。

 

ただいまと言っても何も返ってこないが、それでも寂しいとは感じなかった。

今は一人ではない、たった一人だが家族(ファミリア)が出来たのだから。

 

「オルガくんはまだかな~、今日はジャガ丸くんが何時もよりひとつ多いんだぜ♪」

 

鼻歌を歌いそうな程に機嫌がいいヘスティアだったが、ふと机の上に置かれていた用紙が目に入った。

そして、それまでの機嫌の良さに陰りが差した。

 

それはオルガをファミリアにした日にステイタスを記載したもの…それを見て、ヘスティアはオルガの背中に刻まれたステイタスを思い返していた。

 

オルガ・イツカ

Lv.1

 力:I0

耐久:I0

器用:I0

敏捷:I0

魔力:I0

 

《魔法》

《スキル》

【苦心惨憺】

・逆境時に経験値増加

・守る対象の数によって効果上昇

 

魔法こそないが、スキルが既に一つ発現していた。

逆境に立ち向かい続けたオルガの経験がそのままカタチになったかの様なスキルだった。

 

……だがただ一つ、スキルの効果についてヘスティアは一つだけ意図的に記載しなかった事がある。

ソレは余りにも悍ましい内容だったが故に、ソレは余りにも悲しい内容であったが故に……。

 

 

 

その効果の内容は――

 

・守る対象が死亡した場合、一時的に全アビリティ能力超高補正

 

 

「大切なヒトが犠牲になることで発動するなんて……悲しすぎるよ」

 

スキルはその人物の経験から形を成したモノだ。

言い換えるならばそのヒトの人生とも言っていいかもしれない……だからこそ、ヘスティアは悲しかった。

オルガの辿った道筋は本人から聞いていたが、こうしてカタチとなった事でその道筋がどんなに険しかったのか突きつけられた様な気がした。

 

この効果について本人には話すべき事なのかもしれない。

だが、ヘスティアは告げなかった……それが不義理と承知しつつも。

 

何故ならコレは悪魔の誘惑だから。知れば必ず頭を過る……悪魔の囁き。

ヒトは弱いが強い……困難を乗り越える強さを持っているが、時に容易く道を誤る弱さも持っている。

 

だからこそ、このスキルの効果は危険だった。

自己の生存の為に仲間を犠牲にするという最悪の選択を突きつけてくるのだから。

しかも、それを行えばその窮地を脱せる可能性が高いという事実がその誘惑を強くする。

 

例え拒絶しても、その誘惑による無駄な思考は決定的な隙を生んでしまう可能性が高く、万が一ソレを選んでしまえばあとに残るのは深く重い罪の意識に苛まれる日々だ。

 

どの道待っているのは碌でもない結末。

だからこそ、本人にも伏せるべき内容とヘスティアは判断した……知らなければ選択肢は存在しないのだから。

 

「ハァ……家族(ファミリア)を持つって大変なんだね」

 

唯一の眷属(家族)に対しての後ろめたさに思わずため息と弱音が零れる。

どこか楽観していたのかもしれない自分に説教の一つもしたくなる、『家族を持つのは軽いことではない』と。

 

「…っと、もうすぐオルガくんも帰ってくるかな……よし!それなら落ち込むのは終わり!!」

 

パンッ!と両頬を叩いて気合を入れる。

家族が帰ってくるのに沈んだ顔でなどいられない、笑顔で明るく『お帰りなさい』と迎える。

下界で出来る事は少ないが、それでもソレから始めようとヘスティアは決めていた。

 

 

 

 

 

 

『ただいま』と『お帰りなさい』という挨拶が廃教会で交わされたのはこの少しあとの事。

 

 

 

 




他の鉄華団の人達について感想があったのであとがきに一応記載します。
他の鉄血の人達も出したいなぁと思ってます、でも冒険はオルガくんに暫く頑張ってもらう事にしました。
”彼”とは再会するにしても、オルガくんには成長してからの方がね。


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第5輪

三ヶ月以上も空けるとは何事かと思われても仕方ない筆の遅さの軍勢です。
書いていて、いやこんなダラダラと話してたらいつまで経っても冒険者にならんわ!と書いてた内容を破棄して大幅に短縮する事にしたら無理やりっぽい描写に…(涙

あとホント更新遅くてごめんなさい。


日中の労働が終わり、夜になると今度はヘスティアによる勉強会が始まる。

オルガにとって救いだったのは文字が読めない、書けないだけで言葉は問題なく通じる事だろう…それに、全く学のなかった状態から始めた前回と比べれば大分マシとオルガは考えるようにした。

 

ちなみに最初に行った書取りでヘスティアに読めない発言をされていたりする。

文字の造形が違うとはいえまさか読めないとまで言われるとは思わなかった文字の酷さはそこから何度も何度も繰り返し書き取りを行うことで解読不能から少し読みづらい程度までには成長していた。

 

また、勉強は文字だけではなくダンジョンの学習も手を着けている。

やり過ぎじゃないのかとヘスティアも苦言を漏らしたものの、オルガの熱意に負けてヘスティアが折れる形となった…まぁ、ここで下手に意地を張った場合72時間労働の様な無茶な行動に移る事をヘスティアが予想した事が理由として割と大きな割合で存在していたが。

 

教本は『ダンジョンのすすめ』と書かれた一冊の本であり、中身はダンジョンに関する注意事項やアドバイス、上層から中層での発生する魔物等のデータが記載されている。

制作元はギルドであり、一時期は冒険者の生存率を高めるために無料配布をしていたのだが…大多数の冒険者は無鉄砲というか自意識過剰と言うべきか、所謂『そんなものがなくても俺は死なねぇ!』という根拠のない自信と分厚過ぎて読むのが面倒という理由でおざなりな利用をされていた。

酷い時は火の薪代わりやティッシュ代わりに使用する者までいる始末。

そんな事があり、今ギルドで配布されているのはダンジョンに潜るならコレだけは読んどけと言わんばかりに簡略化された冊子の様な薄いものとなっている。

 

ヘスティアの持つ本は改訂される前の初期のもので、神友であるヘファイストスから貰ってきた代物だ。

最初は借りる気だったのだが…複数所持している事と、神友が遂にファミリアを得た事に対する祝いとして気前よく渡された。

辞典程の分厚さを持つソレは縦に振り下ろせば立派な凶器になりそうな代物だが、その内包された情報量が製作者達の熱意を表している。

 

 

 

ちなみに絶版への経緯を知ったオルガは心底呆れた様子で一言「馬鹿だろ」

百歩譲って読まないのは理解できるが、ソレを馬鹿にしたりぞんざいに扱うのは理解できなかった。

色々な鉄火場を経験してきたオルガからすれば情報の大切さは身に染みていたからだ。また、読まないという選択については学の無かった自身と仲間達に大分思い当たる節があったからである。

 

 

…とそんなこんなもあり、日々オルガへの教育は行われていた。

ちなみに、全くの初心者であるオルガに教えるべく奮起したヘスティアがそこらの冒険者よりも余程ダンジョンに対する知識を得ていたりする。

ぐーたらなニート時代のヘスティアを知る某神友に聞けば「別神だって言われたら信じるかもね」というお言葉が聞けるかも知れない。

 

 

 

そんな日中はバイト、夜は勉強というオルガの生活サイクルが変化する事になったのは期限としていた一月を五日残した日の事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぁ…っと、いけねぇ」

「どうしたオルガ、また徹夜か?」

 

思わず出てしまった欠伸に周りの労働者達は仕方ねぇなぁとばかりに苦笑する。

オルガのワーカーホリック振りは既に周知の事実と化していたのでたるんでるとは思っていない。

 

「まぁ…でも寝落ちとかはしないんで大丈夫ですよ」

 

「お前の場合その大丈夫ってのがあんま信用出来ねぇからな、三日三晩寝ずに働き通しとかやるから」

 

「そん時の言い訳が動いてないと鈍るってんだから呆れを通り越して笑ったなあの時は」

 

だっはっは!とその時の事を思い出して笑う労働者達。

オルガもオルガで労働者達の言っている事が何も間違っていないのでグゥの音も出ない。

 

「テメェ等……くっちゃべってねぇで仕事しろ!!」

 

「「「「はい!スンマセン親方ッ!!」」」」

 

そして親方にどやされて全員で謝るのも既に日常の光景と化していた。

 

「あとオルガァ!仕事が終わったら話があるから来い」

 

「…?わかりました!」

 

「なんだ、なんかヘマしたのか?」

 

「親方の饅頭でもくすねたのがバレたか?」

 

「そりゃ前にお前がやらかした事だろ…まぁ何にせよ心当たりがねぇなら堂々としとけ」

 

「ウス」

 

親方は怒ると手が出るが、無意味に暴力を振るうような人じゃないだろと意味を含ませる先輩。

CGS時代は無意味に殴ってくる大人達に溢れていたなと思い返すが、親方はそんな人ではないので直ぐに頭の中から削除した。

 

 

「じゃあ仕事だ、ボヤいてると親方の雷が拳骨と一緒に落ちる」

 

「そりゃ勘弁だ」

 

「仕事仕事っと」

 

 

仲間の一言で今度こそ、それぞれの仕事に戻っていく。

話はそれまでとばかりにそれからこの話題を口に出すことはなく労働の時間は過ぎていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おう、来たか」

 

「なんの用で……」

 

理由を聞くオルガの声を遮り、布に覆われたモノを目の前に差し出された。

疑問に思うオルガだったが、早く持てと目が訴えていた為受け取るとソレは意外な重量を持っていた。

 

「なんすかコレ、結構重いんですけど」

 

「お前にやるよ」

 

「は?」

 

「倉庫の整理をしてたら見つけてな、売ったところで二束三文にしかならねぇからオメェにやるよ」

 

「……?」

 

言っている意味がよく分からないので正体を確かめるべく巻かれた布を解く。

 

「こいつは…!」

 

「ロクに切れもしねぇ剣だが、駆け出し冒険者にゃ似合いの代物だろ」

 

巻かれた布から現れたのは一本の剣。

剣の長さから片手剣の部類に入るだろうが、柄の部分は詰めれば両手で持てる程広い。

ただ、普通の片手剣を数本重ねた様に剣身は分厚い。大きさに比べて重いのはその所為だろう。

 

どちらかというとミカの駆るバルバトス・ルプスの主装備だったソードメイスに近い。

 

「やたら頑丈な代わりにさっき言ったように切れ味なんざ鈍以下、それと鞘は使いもんにならねぇから捨てちまった」

 

流石にそこまでは面倒見れんとばかりに親方は言う。

言葉通り見つけたからやると言う事なのだろうが……

 

「親っさん、いいんですか?」

 

「あ?不用品を見つけたからお前にやるってだけだ。必要ねぇってんなら二束三文でも売るが?」

 

「い、いや!…ありがたく頂戴します」

 

「なら話はそれだけだ、約束の期日まであと4日だが気ぃ抜いてっと張っ倒すからしっかり仕事しろよ」

 

それだけ言うと親方は荷物をまとめて歩き出す。

用は済んだのだからあとはいう事もないらしい。

 

 

「親っさん、この恩は忘れません」

 

去っていく親方に向けて両膝に手を乗せ頭を下げるオルガ。

 

「バカ野郎、んな事で恩に着てんじゃねぇ!

まぁ、どうしてもってんならオメェが冒険者になって稼いだら【豊饒の女主人】で一杯奢ってくれや」

 

それでお釣りが来ると言って親方は帰っていった。

 

 

 

この日からオルガの一日のスケジュールに剣を振る時間が新たに入ることとなった。

 

 

 




一応補足しておきますが
オルガの貰った剣は頑丈で重いただの剣で、曰くも謂れもありません。
親方も有名な元冒険者という訳ではありません。


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第6輪

不定期すぎるだろと思いながらも投稿
己の文才の無さが恨めしい…そして年末に向けて時間が削られ悲しい…

亀どころかナメクジのような遅さですみません
そして多分その内ひっそり加筆修正します。


「今日で終わりか…まぁ、冒険者頑張れよ!」

 

「お前が居ると仕事が楽だったんだがなぁ」

 

「冒険者やるよりこっちの仕事やってほしい位だ」

 

「嫌になったら戻ってこいよ!こき使ってやるから」

 

労働者仲間が帰り際にオルガに声をかけていく。

今日は期限と定めていた一月の最後の日、つまり労働は本日で終わりとなる。

 

「親方、このひと月世話になりました」

 

「お前はよく働いてくれたからな、おかげでこっちも結構助かった」

 

頭を下げて感謝の言葉をするオルガに親方も助かったと返す。

事実、恩恵を持つオルガがいる事で仕事の効率は上がっていし、他の連中もオルガの働きに触発されたのか前より精力的になっていたのは親方にとって嬉しい出来事だった。

 

だから、これから『冒険者』となるオルガに親方は一つだけ忠告をした。

 

「死ぬなよオルガ、名を上げるのも死んじまったらオシメェだからな」

 

「…ウス、ありがとうございます」

 

その言葉はことのほかオルガに刺さった。

前は名を上げること、成り上がる事に重点を置き過ぎ最短を突き進んだ結果『あの結末』になったのだから。

 

「じゃあなオルガ、偶にでもいいから忙しい時に手伝ってくれると助かるぜ」

 

「給料出してくれるなら考えときます」

 

「ハッ!そんじゃ頼んだぜ」

 

そんなやり取りをして親方は去って行った。

 

 

「死ぬな、死んだら終わり……か、いてぇな」

 

誰もいなくなった仕事場で一言ポツリと言葉が零れた。

 

「今度は間違えねぇ、今度は必ず守っていく……」

 

ギリッと拳を握り締めて再度言葉が紡がれる。

それが決意か、誓いか、願いかは不明だがオルガはソレを改めて胸に刻んだ。

 

こうして、オルガの労働者としての日々は一旦の終わりを迎えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、ファミリアの設立とオルガが冒険者となる為の登録を行う日がやってきた。

天気は快晴、雲一つない青空が広がり東の空から登った太陽がオラリオを照らしている。

 

そして早朝にオルガとヘスティアはある建物の前に来ていた。

 

 

 

その場所の名前は――ギルド

 

外見は白い柱で作られた万神殿パンテオン。

ダンジョンの管理機関であり、オラリオの運営を一手に引き受けている。

オラリオの住人として一定の地位と権利を約束する冒険者登録、迷宮から回収される利益を都市に反映させるため、ダンジョンの諸知識・情報を冒険者達に公開、探索のサポート等も行われている場所だ。

公平性を期すためにギルドで働いている者達は神の恩寵は存在していないが、主神としてウラノスがいるので実質ウラノス・ファミリアとも一部では呼ばれている。

 

そこでオルガとヘスティアはファミリアの設立の申請を行った。

 

 

 

 

結論から言えば、特に問題もなく手続きは完了した。

書類と説明、そして様々な注意事項を聞きながら行われたソレは結構な量が存在したものの鉄華団時代の経験があるオルガからすれば特に問題ない量だったためだ。

 

(何処の世界でもこういう事は共通なんだな)

 

というのがオルガの感想だ。嘗て鉄華団を立ち上げた時も色々申請やらサインやらを要求された事を思い出した。

正直あの時のサイン地獄に比べればどうということはないと思える量ではあった…まぁ、鉄華団立ち上げの時のそういった諸々の大半はデクスターとビスケットの尽力があってこそと言える。

 

 

 

「ん~~~!やっと終わったぁ……でもこれでようやくだね」

 

「あぁ、そうだな……此処から始まるんだ」

 

何かが劇的に変化した訳ではない。

アジトは依然として廃墟となった教会の隠し部屋であり、眷属ファミリアもオルガ一人のまま。

 

だが、この日確かに『ヘスティア・ファミリア』は正式に立ち上げられたのだ。

 

 

 

 

「それじゃ次は買い物(デート)だね」

 

「ん?あぁ、そういや装備を買うんだったな」

 

「むぅ…少しは反応してくれてもいいんじゃないかな?」

 

一瞬何の話かと思ったが、オルガは昨日ヘスティアが自分の装備を一緒に買いに行くと言っていた事を思い出した。

その様子に一応美少女ではある自分(ヘスティア)からデートと言われても特に反応のない様子に少し乙女のプライドが傷ついたヘスティアだったが、まぁ仕方ないかと流す。

 

 

「で、何処に行くんだ?」

 

「ふっふっふ、それは……あそこさ!」

 

オルガの疑問に意気揚々とヘスティアが指をさしたのは空高くそびえ立つ塔…『バベル』だった。

 

……………………………………

 

……………………

 

………

 

 

 

 

「へぇ、見かけ通り中も結構デカイんだな」

 

「あれ?オルガ君はバベルの中に入るのは初めてかい?」

 

「あぁ、中に入るのは初めてだな…服やなんかを買う時は街の服屋だったし」

 

「まぁ、バベルで出店出来るって事は一流の証みたいなものだからね」

 

「一流って…おいおい、大丈夫か?」

 

「そんな心配しなくても大丈夫だよ、ここには駆け出し冒険者も買いに来るんだ」

 

バベルに出店しているとは言え全てが高額な品物で揃えられている訳ではない。

上を見ればキリがないが、ちゃんと駆け出しや一般の冒険者にも手が出せる値段のものもキチンと存在している。

それでも一応資金の事を気にしてしまうのは経営者としての経験であろうか。

 

装備に関してはヘスティアの強い推薦からヘファイストス・ファミリアでの購入となった。

鍛冶を生業とするファミリアではトップであるという実績もさる事ながら、一時期世話になっていた事でファミリアの人達の事は信用できると考えたからだ。

 

……まぁ、『神友としてちょっと位おまけしてくれるかも』という打算的思考は全くないとは言わないが。

そんな訳で現在二人はヘファイストス・ファミリアの店に向かいバベルの中を移動していた。

 

早速ダンジョンへと向かっていく冒険者達を尻目にバベル内に設置されているエレベーターに乗り目的地へと向かう。

そしてチンと目的の階層へと着いた事を知らせる音が鳴り、ガラガラと扉が音を立てて開かれた先には

 

「此処が僕の神友が主神をしているヘファイストス・ファミリアの購買所さ!」

 

「あ~……ヘスティアさんよ、言いたかねぇけど……流石にコレは俺達場違いだろ」

 

エレベーターの扉が開いた先にあったのは通路の向こう側にまで広がる店だった。

展示されている武具の数々は素人目でも分かるほどの業物、少なくとも駆け出しですらない自分たちには到底手が出せない代物である事は金額を見なくても分かる。

 

「まぁ、此処は高レベルの鍛冶師が扱うエリアだからね!目的の場所は別のエリアだけど、一流の装備を見ていくのも勉強の内と思って覗いて行こう」

 

「なんかやけにテンション高いな……けど、確かに一通り見て回るのも良いか」

 

トテトテと小走りで先に行くヘスティアを歩きながら追う

そう言えばこうやってゆっくり物を見るのは無かったなと思いながら

 

 

こうして二人は束の間のウィンドウショッピングと洒落込むこととなった。

並べられた品は様々な種類があり、武器だけではなく、防具やアクセサリーも存在していた。

 

「やっぱ色々種類があるんだな……ってこの剣たけぇな!3000万ヴァリスって書いてあるぞ」

 

「3000万ヴァリス…一体じゃが丸君何個買えるんだ」

 

「いや、その例えはどうなんだ?」

 

庶民的と言うか、貧乏性と言うべきかなんとも形容し難い例えにオルガも反応に困る。

そんなやり取りをしていると、カランカラン鈴の音を鳴らしながら横の戸が開いた。

 

「どこかで聞いたことがある声だと思ったら、やっぱりヘスティアじゃない」

 

中から出てきたのは眼帯で片目を覆った赤い髪をした女性。

 

「ん?ヘファイストスじゃないか、君も来てたんだね」

 

「そりゃ此処は私のファミリアが運営してる店だからね…それよりその子が?」

 

「あぁ、紹介するよ!ボクの眷属(ファミリア)オルガ・イツカ君だ。オルガくん、彼女がボクの神友のヘファイストスだよ」

 

そう言ってヘファイストスを紹介するヘスティア。

その言葉に、この店を経営しているヘファイストス・ファミリアの主神である事と現在も世話になっている教本を快く譲ってくれたという相手だと察したオルガ。

 

「ヘスティアの眷属(ファミリア)をやらせてもらってるオルガ・イツカです…あなたに頂いた本には助けられてる、礼を言わせてください」

 

「ふふ、良いのよまだ何冊か在庫があるから…そういえば、ファミリアは立ち上げたの?」

 

「うんついさっきだけどね、今はオルガ君の装備を買っておこうと思って来たんだ」

 

「言っておくけどお金は貸さないわよ?」

 

「失礼だな、ボクがそんな事をするように見えるのかい?」

 

「……………」

 

あっけらかんと言うヘスティアにヘファイトスは無言となった。

 

「……なんか凄く言いたげな表情なんだけど?」

 

「はぁ…折角出来た眷属の前で恥をかかせない様に配慮してあげてるの」

 

察しなさいと若干疲れたように言う。

今迄の自分の行動を言葉にして突きつけたくなるが武士の情けならぬ神の情けとして飲み込んだ。

そして苦笑いを浮かべながらオルガの方に向き直る。

 

「こんな神だけど、見捨てないであげてね」

 

「その心配は無用です。家族を見捨てられる訳ありませんから」

 

「ふふっなら安心して任せるわ…でも、泣かせたら承知しないわよ?」

 

こんなんでも神友だからねと笑って赤髪の女神は踵を返して去っていった。

 

「あれ?もう行っちゃうのかい?」

 

「これでも主神ですから、色々やることがあるのよ」

 

神に嘘は吐けない、オルガの言った言葉にひと欠片の嘘がないことに安心してヘファイトスは去っていった。

 

「なんかいい人…いや、いい神だったな」

 

「ふふっそう言ってくれるとボクも嬉しいよ。それじゃそろそろ目的の場所に行こっか!」

 

 

 

 

ガチャンと扉が開いた先の光景を見たオルガは一言、

 

「…さっきの場所とはまた随分違うな」

 

先ほどの階層では通路であっても天井から証明が照らして明るかったが、こちらは随分と薄暗い。

商品もガラス張り等はされておらず、壁に立てかけてあったり棚に置かれていたりする。

 

「こっちは初級冒険者用だからね、値段もホラ!」

 

ヘスティアが指さした装備の値段を見ると、確かに自分たちでも十分手が出せる値段が記載されていた。

理由を聞いてみれば、この場は新米鍛冶師の作品であり彼らの評価を上げるための修行場所のような所らしい。

 

「成程、安い理由ってのはそういう訳か」

 

「新米とは言っても作るモノは最低でもちゃんと実戦で耐えられるからハズレは無いと考えていいよ?」

 

でなければヘファイトス・ファミリアの看板を掲げている店で商売が出来る筈もない。

生産系ファミリアでは品物への信用が命となる。だからこそこの場にいるのは現場に出しても大丈夫だと判断された実力を持っているのだ。

 

「その辺は心配してないな、信用出来ない商人に先はねぇのはよく知ってる」

 

「そうだったね、君には余計なお節介だったかな?」

 

「いや、これからも言ってくれると助かる」

 

お節介でも、何かを言ってくれるのは有難いことだ。

鉄華団でそれを行っていたのはただ一人、二年前に死んだビスケット・グリフォンだけであった。

 

「ふふ、わかったよ。それじゃこれからも色々お節介するね」

 

「ああ、頼んだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ~…変じゃねぇか?」

 

「大丈夫、似合ってるよオルガ君!」

 

胸当、篭手、脛当て、鉢金を装備したオルガは少々気まずそうにしている。

だがそんな事はそんな様子のオルガに気づかずに似合っていると嬉しそうに言っている。

 

それがまた妙にこそばゆくてどうにも落ち着かない。

鉄華団はアトラとメリビット以外は男性しかおらず、他の女性関係と言えば名瀬の奥さんかクーデリア達位であり身近でこういった風に素直に褒める女性と言うのは居なかったのが一因だろう。

 

「似合わねぇモンを売りつけるわけねぇだろ?それより緩かったりキツ過ぎるなら今の内に言ってくれ」

 

逆だった金髪につり上がった三白眼のどう見ても不良とかチンピラという印象を受ける青年。

彼の名はボルス・シェリフスター、ヘファイトス・ファミリアの若手の職人である。彼はヘスティアがヘファイトス・ファミリアで居候をしていた時の知り合いだった事もありヘスティア達への助言と自分の商品のアピールも兼ねて二人を接客していた。

 

「あ、あぁ…よっと」

 

その言葉を受けて色々と体を動かして確認していくオルガ。

軽くその場で跳んでみたり、屈伸や体を伸ばしたりとしていくが特に問題は感じられない。

 

「背中…つか首のソレも問題ねぇか?」

 

背中のとは言わずと知れた阿頼耶識のプラグ部分の事である

気を利かせた男により剥き出しとなっていた阿頼耶識のプラグ部分もしっかりとカバーが被さっており、動きに干渉はされていない。

 

「あぁ、大丈夫みてぇだ…それとコレのカバーまで付けて貰っちまっていいのか?」

 

「何言ってんだ、客のニーズに合わせるのが職人の腕の見せどころってもんだろ」

 

ニヤリと犬歯を覗かせて笑う顔は悪童という感じだが、同時に自分の腕に対しての自信を宿していた。

 

「ボルス君って顔が恐い割には親切で気が利くよね」

 

「うるせぇ!この顔は生まれつきだ!!それに商人なんだから気を利かせるのは当たり前だろ」

 

後半につれて顔が赤くなり声も小さくなっていく

 

「まぁ…アレだ、恩に思ってんならまた俺の作品買ってくれれば問題ねぇよ」

 

「そうか、なら次の商品も期待していいんだな?」

 

ボルスの言葉にオルガが片目を閉じてニヤリと笑いながら問いかけた。

その言葉と表情にボルスもオルガの言葉を挑戦と受け取り、犬歯をむき出しにして笑いながら答える。

 

「ハッ!お前が是非買わせてくれと頼む様なモンを用意しといてやるよ」

 

そんな二人のやりとりにヘスティアはどうにも吹き出してしまいそうになる。

似た者同士だな、仲が良いなと言葉が出そうになるが言葉には出さない、出すのはちょっと野暮だと思った。

 

 

 

兎も角、準備は整った。

ギルドに手続きを行い、装備も揃えた。

 

これからが、ヘスティア・ファミリアの本当の始まりとなる。

ヘスティアはただ一人の眷属を見ながらこれからの日々に思いを馳せていた。

 

 

 



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第7輪

ゴソコソ…ポソリと投稿


唐突ではあるが、オルガ・イツカという男の人生は決して幸運に恵まれたものではない。

 

幼少期から死ぬような目に遭ったことも両手足の指の数などというレベルではなく、CGS時代では理不尽な扱いや暴力で無駄に命の危機を彷徨った事もある。

 

団内の裏切りやとあるお偉いさん(エリオン家当主)の部下によって団員が戦争に巻き込まれたり、空気の読めない馬鹿(クジャン家当主)によって災厄が目を覚まし採掘場が滅茶苦茶になったりと…一々数えていると悲しくなるぐらいには不運やらなにやらに塗れた人生であった。

 

 

 

 

 

そんなオルガだが、オラリオに来てからは信頼できる主神と出会えたり、陽気な仕事仲間達に恵まれた。

最低限の資金を貯める事ができ、装備も不良品ではない信用できるものを用意できた。

 

順調に物事がうまく運んでいる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、これだけは言わせてほしい。

 

オルガ・イツカという男の旅路は何時だって困難が付き物だという事を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オラァ!」

 

バベルの地下にあるダンジョン、その一階層のとある場所で戦いが繰り広げられていた。

 

気合と共にブオンと重たい風切り音を唸らせて剣が振るわれる。

叩きつけられた(鈍器)によってモンスターの肉が潰れ、骨が砕け――

 

「――ギッ!?」

 

――そして断末魔の声を上げて絶命する。

 

「グギャ!!」

 

「チッ!うざってぇんだ…よッ!!」

 

続けて襲いかかるゴブリンを潰れた肉に埋まる様な形になっている剣を振り上げて迎撃、顎をカチ上げる。

剣で間に合わない場合は殴り飛ばし、蹴り飛ばす。そうして出来た隙に剣を叩き込み群れるゴブリン達(・・・・・・・・)を屠っていく。

 

そう、群れるゴブリン(・・・・・・・)をだ

 

ダンジョンの一階層とは、当然一階層と言うだけあって初心者にも比較的安全に敵を倒せる階層だ。

トラップ類も存在せず、モンスターの数も少なく、居るのは特殊な能力も持たないゴブリンやコボルトなどのモンスター位で、しかも殆どが単体(・・・・・)でしか出現しない言ってしまえばチュートリアル階層である。

 

だが、いまオルガが戦っているのは少なくとも20以上は確実に存在している。

第一階層にしては似つかわしくない状況だ。

 

 

しかし、答えとしてはいたって単純だ。

 

怪物の宴(モンスターパーティ)が発生したからである。

 

 

 

 

 

 

 

一応言っておくが、上層のそれも第一階層で発生し巻き込まれるなど宝くじの一等を当てるより低確率だ。

そして、そんなある意味大当たりを引いたオルガは孤軍奮闘を強いられる事となったのが現在の状況である。

 

物事の始まりには何故か多大な苦労を伴うのが運命なのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「チッ、一階層だってのにモンスター多過ぎだろ…」

 

骸となって横たわるモンスターは既に10を超えているが、ギラギラと殺意に目を光らせたモンスターたちがまだまだ存在していた。

オルガとしては余程運が悪いのか、一階層で大量に経験値(エクセリア)を貯められる状況を幸運と捉えれば良いのか判断に迷う所である。

 

 

「ギャギィイイッ!!」

 

「―――ッオラァ!!」

 

一瞬の気の緩みを察知したのか飛びかかってくるゴブリンをバットの如く打ち返す。

ゴシャッと何かが砕ける感触と共にゴブリンは一瞬で灰となって崩れ去った…魔石を砕いた事で発生したモンスターの末路に気味の悪さを覚えながらも、まだまだ居るゴブリン達に向けて剣を振るっていく。

 

 

ゴブリンを斬殺ではなく撲殺していく姿は(ソード)というより、剣のカタチをした打撃武器(ソードメイス)

ソレを振っているオルガの剣の扱いが素人同然というのもあるだろうが、持ち手の技量以前に切れ味が悪すぎるので斬りるよりこっちの(叩きつけた)方が殺傷力があるという悲しき事実のせいである。

まぁ、正直オルガにとっては剣の扱いなど三日月の扱っていた太刀以外は力任せに叩きつける印象(主に鉄華団でのMS戦闘)が強すぎるので、普通の剣でも似たような扱いをしていた可能性は高い。なので耐久値が高いこの武器で正解だったのかもしれない。

 

とは言え、勿論この乱闘で無傷とはいかず、結構な頻度で攻撃を受けていた。

頭に受けた傷からは血が流れており、体も痣がそこらに出来ている。

もしも防具が無ければオルガはこの場で死んでいた可能性もあっただろう、時間をかけてでも装備を整えた恩恵が早くも出ていた。

 

しかし、普通の冒険初心者であれば、この絶望的状況に泣き叫ぶか自棄になるかの行動を取っていただろう。

恩恵は肉体面の補強は行ってくれるが、精神は自分自身のモノでしかない。ある意味こういう場面でこそ冒険者を続けていけるかどうかが試される。

 

そして、殺意に濡れた異形に囲まれながらもオルガは止まらない、諦めない。

 

「ハッ、今更この程度で…止まるわけねぇだろうがッ!」

 

その目には微塵も恐怖の感情は浮かんでいない。

何故ならこの程度の恐怖に竦む程温い修羅場を潜ってきてはいないのだから

 

十数メートルの鋼鉄の巨人(モビルスーツ)に嬲られる恐怖を知っている身からすればこの程度は逆に可愛いものだ。

何しろ殺せる、生身でも剣を叩き込めば殺せる相手なのだから。

 

「こんなところで終われねぇ、そうだろミカ」

 

此処には居ない親友に尋ねる様に言葉が零れた。

そして『当然でしょ?』と、なにを当たり前な事を言っているのかと言う声が聞こえた気がした。

 

「はっ、やっぱお前ならそう言うんだろうな!」

 

ギリギリと再度剣を握る力を込めてオルガは再び敵に向かって剣を振るった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オォオオオオオッラァ!!」

 

―――グシャリ

 

気合を込めた一撃がコボルトの頭蓋を砕き潰し絶命させる。

 

 

「ハッ…ゼェ…次……!」

 

油断なく周囲を見回すが、そこに生きたモンスターの姿はなかった。

あるのは通路上に折り重なるような死骸がそこらに転がっているだけだ。

 

後に残るは静寂…いや、オルガの荒い息遣いだけだった。

そして絶望を脱した事を悟ったオルガは剣を床に突き立てながら達成感と共に言葉を吐き出した。

 

「ぜっ…ハッ…はっ……どうだ、やってやったぞ……!」

 

息は切れ、流れ落ちる汗は同じく流れでる血と混ざりながら床にシミを作っていく。

数の暴力を無傷で蹴散らせる程の実力は今のオルガにはなく、全身に打撲を作り頭部からは赤い血が流れ出ていた。

体力も底を着いたのか、足はガクガクと震え、剣を床に突き刺してどうにか体を支えている始末。

満身創痍と誰が見てもひと目でわかる状態である。

 

このままであれば少しもしない内に疲労で倒れるだろう。

そうなれば折角窮地を脱したのが水の泡である、ここまできてそんな死に方は絶対にゴメンだ。

 

「ギリギリ…無事みてぇだな」

 

腰のポーチを探ると奇跡的に割れずに済んだポーションを取り出す。

とはいえ罅が入っている所を見るに本当にギリギリだった、もう少し衝撃が強ければ割れていただろう。

 

「マジで効くんだろうな……頼むぜ?」

 

若干の不審を声にだしながらもグイっとポーションを一気に呷る。

美味い…とは言えないが不味いとも言えない味だったが、乾いた喉にはよく染み渡る

容器に入っていた液体はオルガの喉が動くと共に減っていき、あっという間に空になった。

 

「ぷはぁっ!……すげぇなこいつは…本当に怪我が治っちまうし体力も回復しやがった」

 

先程までズキズキと傷んでいた打撲箇所はキレイに無くなり、頭部からの出血もなくなった。

そしてなにより先程までの満身創痍状態から歩いても問題ない位には体力も戻った事に驚いた。

 

「こいつは確かに必需品だな、正直半信半疑だったけどよ」

 

流石に飲むだけで傷が治るという説明にはオルガも不審を拭い切れていなかったが、体感してようやくその効果とありがたみを実感する事が出来た。

少なくとも、今後ダンジョンに潜る際には絶対に購入しておこうと決意する程度には。

 

 

「っと、そういや魔石を取り出さねぇといけねぇんだよな」

 

息が整い、体も動かせる程に回復したオルガは次にやらなければならない事を思い出した。

そして辺りを見回した後、うんざりした様に言葉が零れた。

 

「こいつは…早めにサポーターってやつを雇った方が良いかもしれねぇな」

 

目の前の山となったモンスター達の屍から魔石を取り出さなければならない事実に、これからの冒険者生活にできるだけ早くサポーターを雇える様になろうと誓うオルガであった。

 

 

 

 

 

 

………………………………………

 

…………………

 

………

 

 

「これで最後…っと」

 

最早慣れた様な手つきで魔石を取り出し、モンスターの体が灰となって崩れ去っていく。

 

「やっと終わったか…しっかしホントに魔石を抜いたら消えちまうんだな」

 

オルガは魔石の一つを見ながらそう零した。魔石を抜いた途端に灰となり消えるモンスターはオルガの常識からは外れ過ぎた現象であり、何とも気味が悪いと感じていた。

あと死骸は消えるのに返り血はそのまま残るのかがどうにも納得できない

試しにモンスターの一部を取ったあとに魔石を抜いてみたが同じく塵になった時はうまい話はねぇかと落胆した。

 

「まぁ、今回はそこそこレアドロップってやつは出てきたからよしとするか」

 

上層の上層なだけあり、魔石も魔石というよりは欠片というような大きさで価値は低い。

だが、オルガが言ったように今回はドロップ品もそこそこあり、はじめてのダンジョン探索としては良い儲けだろう。

 

「まだやれそうだが…いや、今日はもうやめといた方が良いか?」

 

体力は回復したとはいえ、今から下の階層に行って似たような場面に出くわしたらお陀仏だ。

悪い時には悪いことが重なる、今までの経験から安易に行くのは危険だとオルガの本能が警告したのだ。

だが同時に、まだ戦えるという思いも湧いてきていた…相反する思いだが、両方ともオルガ自身の思いだった。

 

「いや、焦る必要はねぇ…また明日から潜りゃ良いだけだ」

 

無意識に言葉が零れた。

自分に言い聞かせるような言葉を吐いて、オルガは出口に向かってきびすを返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして、初日から波乱万丈な思いをしたオルガのダンジョン探索は終わった。

 

 

 

だが、この後受付嬢からボロボロな姿と短時間での魔石やドロップ品の量についてジト目で聞かれる事になるのをオルガはまだ知らない。

 

 




恥ずかしながら半年ぶりに投稿させて頂きました。
本当ならこの後の話も書きたかったけど…これ以上遅筆はちょっと…

あぁ、書きたい事があるのにそこまで話を組み立てるのが長い…


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第8輪

ぐああああ!平成最後に間に合わなかったァ!!
しかし新年号となりました、皆様おめでとうございます!!


ダンジョン探索を終え、集めた魔石やドロップアイテムを換金して帰るだけの筈だったオルガだが…彼は現在、ギルドの一室で一人の女性と向かい合うように座っていた。

 

彼女の名前は『エイナ・チュール』

この度、オルガの担当受付嬢となった若手のギルド職員である。

メガネを掛けた知的な美人だが、彼女は現在、そのメガネの奥にある目蓋をピクピクと震わせていた。

 

オルガがダンジョンから持ち帰ってきた魔石とレアドロップの多さに、自分の忠告を無視して奥まで行ったのかと思いお説教をしようかと思ったのだが…話を聞けば、まさか初めてのダンジョン探索で、それも第一階層で怪物の宴(モンスターパーティ)なんてものに遭遇したある意味大当たりを引いたという…

 

その凄まじいオルガの不運さに少なからず戦慄したのである。

 

 

「一階層で怪物の宴(モンスターパーティ)…ですか」

 

「あぁ、お陰で初探索で死ぬかと思ったぜ…まぁ、幸い草臥れ損にならずには済んだけどな」

 

換金された魔石と爪や牙等のドロップ品の代金が入った袋を見ながら疲れた様に言うオルガ。

ダンジョン初日という点で言えば破格の報酬だろう…但し労力もそれに見合ったハイリスクの上でのハイリターンだが。

 

そんな様子のオルガに若干目を吊り上げながらエイナはオルガの行動を咎めるように問いかけた。

 

「なんで逃げなかったんですか?」

 

「……情けねぇ話だが周りを囲まれちまってな、逃げ出す暇がなかった」

 

壁に背を向けていたのもあるが、初めてのモンスター討伐に浮かれていたのかもしれない。

知らぬ間に腑抜けていたらしい自分を恥じながら、目の前の受付嬢の責めるかのような視線を受け止める。

 

「………」

 

「………」

 

「分かりました、ですからそんな睨まないで下さい」

 

「いや、睨んでるつもりはねぇんだが…」

 

数秒間見つめ合いの後、先に折れたのはエイナだった。

野生の狼の様な鋭くギラついた威圧感を持つオルガの眼力の前に屈したのだ…本人としては全くその気はないので言い掛かりも良いところだと悪態も吐きたくなったが…

 

…よく見ると若干涙目になっていたので睨んでいない事だけを伝えるに止めた。

 

「ですが、くれぐれも無茶はしないで下さい。『冒険者は冒険をしてはいけない』んですよ」

 

「あぁ、俺も無駄死にはしたくねぇからな」

 

ここまで親身になってくれるギルド職員の言葉を無下には出来ない。

とは言え、必要があれば無茶も無理もするんだろうなと半場確信じみた思いがあるので少々あやふやな返事でかえした。

 

「貴方が帰って来なかったら悲しむ人がいるのを忘れないで下さいね」

 

「あぁ、肝に銘じておくさ」

 

そのやり取りを最後に、今回のお説教?は幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さってと…これからどうするかねぇ」

 

ギルドから出ると真上からやや傾いた太陽が照らしていた。

少し前に鐘の音が聞こえていたので今は昼を過ぎた辺りだと当たりを付ける。

 

「今は昼過ぎか…時間が余っちまったな」

 

本当は夕方頃まで潜っている予定だったが、怪物の宴によって切り上げた影響でまだ日は高かった。

流石に今からダンジョンに再び潜るなんて選択肢はない、防具もダンジョンから出た時に確認してみたが、あれだけ叩かれたがガタつきも目立つ凹みもないので調整に出す必要もない。精々明日のダンジョン探索の為にポーションを買って武器の手入れと素振りでもしておく位だろう。

 

そんな事を考えていると、何処かで聞いた声が後ろから掛けられた。

 

「おう、オルガじゃねぇか」

 

「ん?あぁ、あんたか…昼飯にしちゃ少し遅くねぇか?」

 

「風邪引いて寝込んだ馬鹿が居てな、ちっとばかし遅れてんだよ」

 

声の主である土木作業の現場で働いていた時の同僚は、やれやれとばかりにため息をこぼす。

それからはやや強引な誘いを受け、オルガは彼らと一緒に昼飯を食べる事になった。

 

「これからダンジョンに潜るのか?」

 

「いや、もう行ってきた所だ」

 

「なんだ随分とはええな、今日は様子見程度だったのか?」

 

「まぁ、初っ端から深く潜ってそのまま…なんてのも偶に居るからな、慎重に越したこたぁねぇさ」

 

「……」

 

元同僚の言葉になんと言って返せば良いのか分からずオルガは口を閉ざした

真実を話せば間違いなく二人は腹を抱えて笑うだろうからだ、沈黙は金である。

 

「…ん?探索が終わったって事はオメェ暇か?」

 

「予定が空白になって意味ならそうだな」

 

オルガの言葉を聴いてニヤァと口角を上げる二人

その顔はどう見ても悪巧みをするおやじであり、ぶっちゃけ女性に対してだったら即通報レベルのワルい顔だった。

 

「そうかそうか!なぁオルガ君、そんな君に折り入って話があるんだ」

 

「ちゃんと給料出すし、鍛錬にもなる非常にタノシイお仕事があるんだがどうだね?」

 

まるで似合ってない、いっそのこと不審者として憲兵に突き出したい暗いに気持ち悪い丁寧口調と笑顔で迫るおっさん二人。

流石のオルガもこの時の二人の表情と言葉遣いには鳥肌が立ってしまったらしい…無理もない。

 

「まずその詐欺師みてぇな気持ちわりぃ顔すんのやめて話せ!」

 

ぶっちゃけそんなことしなくても給料出すから手伝ってくれと言えば首を縦に振ったんだがなぁとオルガは心の底で思った。

そんな訳で彼の午後の予定は半強制的に決まることになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから勝手に話を進めたバカ二人に親方からの拳骨が落ちるということもあったが。

オルガを含めた作業は無事に進み。太陽が西に傾き、辺りを赤く照らす時間となる頃には終りを迎えた。

 

「助かったぜオルガ」

 

「親方達には世話になりましたし、ちゃんとその分給料くれますから」

 

給金が入った袋を片手で弄びながらながら答えるオルガ。

彼としては労働に見合った給金を出してくれるなら問題はないのだ。

 

「ハッ!そう言ってくれるのはオメェ位なもんさ」

 

「そうそう、『俺はもう冒険者なんだ』とか言って断るやつも多いんだ」

 

「それまではウチの労働にひーこら言ってた奴がな、腹立つ前に笑いを堪えるのが大変だったぜ」

 

ガハハハ!と笑うおっさん達。

実際、基本的に冒険者として活動しだした者がまた労働に励む事は殆ど無い。

冒険者としてのプライドか、普通の労働に勤しむのがカッコ悪いと思うのかは分からないが…

 

「まぁな…ったく、どうせなら労働派遣でもやるファミリアがありゃ楽なんだがな」

 

「……労働派遣ですか」

 

「あぁ…まぁ無いものねだりだがな、それじゃなオルガ今日は助かったぜ」

 

「また頼むぜ」

 

「ははっ考えとくさ」

 

オルガと労働者は冗談を交わすように喋りながら自分たちの家の方へと帰っていった。

 

 

 

 

…………………

 

…………

 

……

 

 

「冒険者の労働派遣…か」

 

ホームへの帰り道、ふと先ほどのやり取りが口に出た。

何気ない会話だったが、その内容はオルガの耳に残り続けていた。

 

今は自分しかいない零細ファミリアだが、組織が大きくなるにつれてシノギについても考えなくてはならない。

 

ダンジョン探索一本で行くファミリアは多い…だが、中には冒険者としてはやっていけないのが出てくるのも確かだ。

スキル、ステイタス、或いは精神的にかはそれぞれだが冒険者を諦めた者達…サポーターだ。

全員がそうではないが、やはりその割合は大きい…ならば、ファミリアの将来のことを考えればそういうことを請け負うのをファミリアの事業として取り入れる価値は高い。

 

「何にせよ今は絵に書いた餅だな」

 

今のヘスティア・ファミリアの眷属はオルガ一人、事業を始めようにも時間も人もカネもない。

なら今は強くなること、金を稼ぐ為にダンジョンに潜って帰ってくることだけを考える方が堅実的だろう。

 

そうこう考えている内に廃教会に着き、そして

 

 

「おっかえりー!オルガ君!!」

 

「うおっ!!?」

 

廃協会の入口から黒い影がオルガへと文字通り飛んでいった。

 

「っと、なんだヘスティアさんか」

 

ロケットの如く抱きついたソレは主神であるヘスティアだった。

小柄とは言え十分に勢いのついたタックルにオルガは若干バランスを崩しかける。

とはいえ体格差が大きく筋力もあるので容易に持ちこたえる事ができた。

 

「いきなり抱きつくのは勘弁してくれよ…」

 

「まぁまぁ、これが僕なりの愛情表現ってヤツなんだからさ!」

 

愛情表現にしては少々危ないと思うも、特に実害の無いこともあり言うのはやめた。

なんだかんだとこの小さな主神のこういうところに救われているとオルガは思っていた。

 

「ちょっとオルガ君に見せたいものがあってね、こうして待ってたんだよ」

 

「見せたいもの?」

 

「そうさ!ホントは君が行く前に見せたかったんだ!ちょっとそこに居てくれよ?」

 

そう言ってヘスティアは教会の段差の上に登ると、入口に置いてあった布を抱えた。

 

「見て驚いてくれ!これさっ!!」

 

掛け声と共にバサリと広げられ、陽の光に照らされる白地の布。

 

その白地の中央にヘスティアが見せたいと言っていたモノが描かれていた。

 

 

 

 

 

――――それは”炎の中で咲き誇る鉄の華”。

 

 

 

 

 

 

 

 

「こいつは……」

 

「ふふん、どうだい?これがボク達のファミリアのエンブレムだよ!」

 

オルガの驚いた顔にヘスティアはイタズラが成功した様に笑いながら告げた。

これがヘスティア・ファミリアのエンブレム、このエンブレムこそがヘスティア・ファミリアの証だと。

 

 

 

 

 

「………」

 

「?」

 

 

 

「ハッ…クッハハハハハハッ!」

 

「ど、どうしたんだい?オルガ君」

 

黙り込んだかと思えば今度は大声で笑いだしたオルガの奇行にヘスティアも思わずどうしたのかと聞いてしまう。

確かに、同じ様な行動を目の前でされればヘスティアと同じ行動を取るだろう。

 

 

「……ったく、ヘスティアさん。アンタは最高の主神だぜ」

 

本当に、オルガは心の底からそう思った。

 

 



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第9輪

前の投稿から一年以上経過とか…
ホント感想いただいている方々には申し訳ないです…

まだまだコロナで大変な時期ではありますが、この作品が暇つぶしの一助となれたら幸いです。


オルガが冒険者になってひと月が経った。

幸いなことに初回の様な怪物の宴が発生する様な事もなく

上層の4、5階層のモンスター相手にではあるが比較的安定して魔物を倒せるようになっていた。

 

まぁ、ステイタスを上げるために態とモンスターに袋叩きに遭うなんて事を繰り返した事がバレて主神(ヘスティア)に一週間ダンジョン禁止を発令されかけるなんて事もあったが…

 

ヘスティア曰く、流石に他のステイタスに比べて耐久だけ三倍位の数値で伸びていたらバレるに決まっているとの事。

流石にそれだけ差があれば何かしらやらかしているのは一目瞭然であろう。

因みにダンジョン禁止令は三日に短縮され、その間はバイト三昧となり人手不足の現場や商店なんかからは感謝されていたのだが…そのあまりの仕事中毒者(ワーカーホリック)っぷりにヘスティアは頭を抱える事になった。

 

ヘスティアとしてはこの機に休んで欲しかったらしい。

 

 

 

 

 

そんなオルガではあるが、現在ある事に頭を悩ませていた。

眉間に皺を寄せ、苦悶に満ちた表情をしながらオルガは言葉を吐き出す。

 

「金が…足りねぇ…ッ!」

 

目の前にある用紙に書かれた金額は、今のオルガには到底払えるものではなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、ここだけ見れば借金に首が回らなくなった経営者にしかみえないだろうが、オルガを悩ませている用紙は借用書ではない。

いつもバイトでお世話になっている土方のおやっさんに教会の修繕費を見積もって貰ったものである。

 

流石にいつまでもこのボロ教会を本拠地にするのはどうかと思ったが、意外とこの辺りは治安も悪くなく、更に土地代やら何やらが掛からない事をヘスティアから教えてもらったオルガが移転よりも修繕に方針転換するのはある種当然であった。

 

実際、中央の通りやら何やらとは離れてはいるが車が必要になる様な長距離ではないし、教会の敷地面積自体は広めな上に作りはしっかりしているので修繕すればホームとして問題なく機能できるという利点があった。

 

そして、その修繕費用を見積もってもらったら予想外に高かった事にオルガは頭を悩ませる事になったわけである。

 

 

 

 

 

「大体一日の稼ぎがこれぐらいで?それをひと月分に合計してからギルドに上納する金額と生活費の他に、武器や防具の修繕費にポーション類の費用を差っ引くと…」

 

残った金額に思わずため息が出る。

このままではこの廃教会を立て直すのには軽く10年は掛かるだろう計算だ。

 

「もっと下層で稼いだほうがいいか…?いや、流石にそれは無謀だな」

 

今の階層でもようやく狩れるようになってきただけで、まだまだステイタス的にも実力的にも素人に毛が生えたようなものに変わりはない。

これ以上先には新米殺しのウォーシャドウも出現してくるのを考えると、これ以上階層を下げるのは自殺行為となる。

 

リスク以上のリターンがあるならば無理もするだろうが、明らかにハイリスクローリターンの手段を選ぶ程オルガの危機管理意識は甘くはない。

それに――

 

「あんま無理して、またダンジョン禁止にされたら元も子もねぇか…」

 

今の階層でも若干責めるような目で見てくる担当受付の顔を思い出す。

オルガは冒険者は冒険してはいけないを事あるごとに口酸っぱく言ってくる彼女の事が若干苦手だった…それは純粋に彼女がオルガの事を心配して言っているからである。

 

オルガはそういう人の言葉を蔑ろには出来なかった。

前の世界でオルガのそういう所を気にかけてくれていたのが兄貴分の名瀬達位だったため、余計にそう思うのかもしれない。

 

「暫くはこのままやるしかねぇか…今の実力じゃサポーター雇うのもリスクがあるしな」

 

サポーターは冒険者のサポートを行い、冒険者はサポーターを守る

実力が足らず、危険な状況になれば見捨てるなんて事はオルガは許さない。

筋を通せないなら最初からサポーターを雇うなんて真似はできないと言うのがオルガの考えである。

 

「後は自分で出来るトコは修繕すりゃあ、ちったぁ修繕費も削れるか?」

 

今度親方達にそこんところの作業を教えてもらうべきかと考える

現場仕事を通して段々と冒険者には似つかわしくない技術を習得しつつあるオルガである。

 

「ま、やるだけやってみるか」

 

 

そう言って部屋の壁に飾られたファミリアのエンブレムを見ながらオルガは決意を新たにした。

 

 

 

 

 

オルガ・イツカの貴重な休日より

 

 




見てくださってありがとうございます!
全然話自体は進展してない事に発狂しそうだァ

次回こそ考えてたネタをカタチにしたい…


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第10輪

前回から1年以上空いて年末になってしまった…orz
スランプで全然書けずに放置してしまってて申し訳ございません!

今も待ってくれてる人とか居るんですかね?



オルガの最初の冒険からひと月余りが経った。

 

最初こそ一階層で怪物の宴(モンスター・パーティ)に遭遇するという不運という一言では片付けられない様な目に遭ったが、それ以降のダンジョン探索(・・・・・・・)では特に問題は起こってはいなかった。

 

 

…そう、ダンジョン探索においては(・・・・・・・・・・・)だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

ヘスティア・ファミリアのホームである廃教会では今、ちょっとした修羅場…の様な状況だった。

瞼をピクピクとさせ、如何にも怒ってます的な雰囲気を出すファミリアの主神である神ヘスティアに対し、現在その唯一の眷属であるオルガ・イツカは床に正座していた。

 

「さて、オルガ君…どういうことか説明してもらえるかな?」

 

瞼をピクピクとさせながら、ファミアリアの主神ヘスティアは目の前に正座をさせたオルガを見下ろ…うん、まぁギリギリ見下ろしながら問いかける。

残念なことに、圧倒的身長差の所為で目線の高さがそんな変わらないのである。

 

「どういうことかってのは、やっぱコイツ(・・・)の事か?」

「そうだよ!なんでモンスターを持ち帰ってきてるんだい!?」

 

「グギャ?」

 

ダンジョンの上層でよく出会うモンスターであるコボルトが首をかしげた。

今回の修羅場の張本人…いや張本獣?は実際分かっていないのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ことの始まりは数時間前、日課となったダンジョン探索の最中での出来事だ。

 

 

それはここ最近狩場にしている第4階層を探索している時に起こった

 

「なんだ?モンスター同士の仲間割れ…か?」

 

視線の先には、同族である筈のコボルトに集団で襲いかかっているコボルトの集団。

モンスターが他のモンスターを襲って魔石を食べる、所謂強化種という輩なのかと思ったがどうも違う様に感じた。

仮に強化種であった場合、その強さからやられるのは襲いかかっている集団の方であるべきだからだ。

だが、目の前の光景はどうみてもやられているのは一匹の方だった。

 

…別にモンスター同士の仲間割れを見たところで「珍しいな」といった感情しかない。

人間だって時折人間同士で殺し合いをすることだってあるのだから、モンスター同士が殺し合ってもおかしくはないだろう。

 

それに、どうせ殺すのだから仲間割れをして勝手に消耗してくれるのは有難いとさえ言える事だ。

 

 

 

…だが

 

「なんか、気に入らねぇな…」

 

自分でも分からない不快感をオルガは感じた。

アレはモンスター、自分が今まで散々殺して回ってきた奴らと同じだ。

だがそれでも、目の前の光景に不快感が募る。嘗て理不尽な暴力を受けていたCGS時代の事を重ねたから?

そこまで考えて、自分が無意識に何をしようとしているのかに気が付いた

 

「ハッ、何を馬鹿な事を…」

 

モンスターを助ける(・・・・・・・・・)

 

オルガのやる事を他の冒険者が知れば、大体100人中100人が呆れるだろう。

オルガ自身も、もし仮にこの場に他に仲間がいればこんな選択など最初っから存在せずにあのコボルト含めて殲滅をしていただろう…だが、この場には自分ひとり。

 

「ま、偶には馬鹿なことの一つでもしてみるのも面白いか…?」

 

仮に問題が起こるとしてもそれは自分だけに帰結する問題、もし助けた上で襲ってきたなら何時もの様に殺して魔石を回収するだけの話になる。

そう、だからこそこれは気の迷いだ。偽善ですらないただの気まぐれだ。

 

 

そしてオルガは、止めを刺そうとしているコボルト達に向かって剣を投げつけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結果を言ってしまえば楽勝だった。

今更コボルト程度に苦戦する程ヤワな鍛え方をしていないし、ステイタス的にも問題ない。

態と攻撃を受け続けるという主神を怒らせる行動をしていた事もあり、頑丈さにおける成長率は他より伸びているからだ。

 

「それで、お前はどうする?」

 

一応、助けた形にはなった相手であるコボルトに声をかける。

ここで攻撃してくるようなら、速やかに頭をかち割って稼ぎの足しにするつもりである。

 

「ぐぎゃぁ…」

 

受けたダメージの所為か、ヨロヨロと立ち上がりながら不思議そうな顔をするコボルト

他のモンスター達とは違い、その目からは敵意も害意も感じられない。

ただ不思議そうにオルガを見ているだけだ。

 

その後、助けられた事を理解したのか頭を下げ始めた事にオルガは驚いた。

 

「モンスターが頭を下げるって…聞いたことねぇな」

 

それだけの知能や感情を持っている等と言う情報はオルガの知る限りなかった。

このコボルトが特別なのか、テイムされる様なモンスターってのはこんな感じなのかは分からない。

 

更にコボルトは助けられた事に、命が助かった事に安堵したのか涙まで流し始めた。

ここまで来ると最早オルガも殺す気など失せてしまって、逆にどうしたらいいか分からなくなってきた…元からどうするかなど考えていなかったが。

 

そして、どうにもボロ雑巾の様なナリをした姿にオルガはある行動に出た。

 

「はぁ…本当に、何やってんだろうな俺は」

 

貴重な回復手段であるポーションをモンスターに使うとか、いよいよ以てヤキが回ったか?と自嘲すら零れる。

本当に、今日は自分らしくない…この所口癖の様に主神(ヘスティア)から働きすぎだと言われていたが、本当に疲れているのかもしれない。

 

「ぐぎゃ?」

 

「怪我は治してやったからさっさとどっか行きな

 折角助けたんだから早々に冒険者に狩られるんじゃねぇぞ?」

 

今日はもうこのままダンジョンに潜る気分ではなくなってしまった。

変な気まぐれの事もあり、明日明後日は本気で休もうとオルガは決心した。

 

「んじゃな、あばよ」

 

次に会う時は容赦なく狩るかもしれねぇけどな。

言外にそう思いながらオルガはダンジョンの出入り口に向かって歩きだした。

 

 

 

 

…………………

 

……………

 

………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、何で付いて来てんだ?」

 

「ぐぎゃ?」

 

オルガの後を当然の様に付いてきているコボルトは、首を傾げた。

何で?と言うかのように尻尾を振りながらオルガを見るその姿は、正しく犬であった。

 

「これって…テイムした事になるのか?」

 

その後、ある種当然ではあるが受付嬢から呆れと愚痴と小言と怒りを受ける事になったオルガであった。

 




何かもう小難しい事考えんのやめだ!
その場のノリで書いてった方が私にはあってる!!

下手に細かいこと考えるとドツボに嵌る事が分かったので、もうノリで書いてきます。
ライブ感で行くぞ…って言ったら何かダメな予感しかしないけど(原作的にも)。


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