幼馴染がガチ勢だったので全力でネタに走ります (銀鈴)
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旧番外編
番外編 バレンタイン


色々ガバガバだけど許してね。そして予約ミスぅ……
一応70話くらいまで読んでる事想定の内容です

※本編とは一切の関係がありません
 本編とは一切の関係はありません!!
 本編は本日正午に普通通り投稿します


 バレンタインの話をするとしよう。

 

 

 今の日本では女性が男性にチョコレートを贈る日となっているこの日の起源は、実は遠くローマの時代にまで遡る。

 

 

 バレンタインの名前の起源となっている聖バレンティヌスは、西暦3世紀のキリスト教が迫害されていた頃のローマの聖職者だ。当時の皇帝であるクラウディウス二世の『若者が戦争に出たくない? 愛する家族と離れたくない? じゃあ結婚禁止な』という勅令でいいのだろうか、それに反して可哀想な兵士をこっそり結婚させていた。けれどそんなこと、バレない訳がない。

 多分ネロ帝(断じて赤セイバーではない)の時代辺りから、キリスト教はローマでは迫害されていた。そんな情勢でバレたのだから、もちろん聖バレンティヌスは投獄されてしまう。クラウディウス二世はバレンティヌスにローマの宗教に改宗させようとしたが、バレンティヌスはそれを拒否。処刑されたのが2月14日という訳だ。

 

 

 では、どのようにバレンタインが始まったのか。これもまた、ローマとなる。

 ローマではルペルクスという豊穣の神のために、ルペルカーリアという祭が何百年もの間行われていた。その内容は、毎年2月14日の夕方に若い未婚女性たちの名前の書いた紙を入れ物に入れ、祭が始まる翌日の15日に男性たちがその紙を引く。そして、当たった娘と祭の間……時には1年間も付き合いをするというもの。

 因みにこの祭りも、当時の教皇に禁止されてしまう。祭りによる風紀の乱れを憂いて、教皇は別の籤を引かせたのだ。その代わりとなった籤には女性ではなく聖人の名前が書かれていた。そして祭りは従来の引いた娘との付き合いではなく、聖人に倣った生き方を1年間するように励ますものとなった。

 そしてこのお祭り(変わる前)の始まりの頃に殉教した聖バレンティヌスを、新しい祭りの守護聖人にした。そして次第に、この日に恋人たちがカードや贈り物を交換するようになったらしい。

 

 

 バレンタインカードは? これもまた聖バレンティヌスから来ている。

 投獄されたバレンティヌスは、そんな状況であっても、恐れることなく看守たちに引き続き神の愛を語っていた。そんな中、看守の1人に目の不自由な娘がいたらしい。バレンティヌスと親しくなった彼女のためにバレンティヌスが祈ると、その娘の目は奇跡的に見えるようになった。ここで終われば美談なのだが、これがきっかけとなりバレンティヌスは処刑されてしまう。しかし死ぬ前にバレンティヌスは、「あなたのバレンティヌスより」と署名した手紙を彼女に残したらしい。

 そして、その内若い男性が惚れた女性に愛の気持ちを綴った手紙を、2月14日に出すようになったんだとか。これにはその内カードが使われるようになり、アメリカではクリスマスカードの次に交換されてるとかなんとか。

 

 

 なら、チョコレートは?

 現代日本においてバレンタインの象徴とも言える、チョコレートの起源はどうなのか。

 ここだけ、一気に近代の日本が発祥となる。聖バレンティヌスや皇帝や教皇や、それらの歴史が基本的に一切関係ない。

 

 単に、バレンタインセールでチョコレート業者が行ったキャンペーンらしい。浸透しているのだから成功したのは分かるが、興醒めもいいところだ。

 同様にホワイトデーだって、ぶっちゃけると起源はただの販売戦略だ。「バレンタインデーに男性ばかりがチョコレートを貰いっぱなしなのは不公平だ」という記事が原因で、ホワイトデーは始まったとか。

 

 

 何故、俺がこんなことを話しているのか。それは『今日がバレンタインデーだから 』という一言に尽きる。前述の通り、バレンタインデーは成功した商業戦略だ。つまり、乗っかってイベントを起こせば売れるのだ。それの法則は当然、UPOにも適応される。

 

「ほんっともう、無理。疲れた」

 

 ログインして早々、俺はチョコではなく爆薬が香る自室に突っ伏していた。

 

 リアルでもチョコ!

 ソシャゲでもチョコ!

 VRでもチョコ!

 

 という黒い三連星に突撃された俺のスタミナはもう0に近かった。

 加えて、学校で当てられたイチャイチャと殺気にもう食傷気味である。硬すぎる謎の男子ガードの所為で、実は毎年貰っていたのだが沙織からも貰っていない。それに、

 

「『刃連多隠(バレンタイン)デス・バトルロイヤル』とか、運営も何を煽ってるんだか……」

 

 メニュー画面に表示されたイベントバナーを見て、1人ため息をつく。

 イベントの内容としては、第1回イベントとほぼ変わりはない。

 出現するmobが全てチョコレートになり、倒せばポイントとチョコレート・砂糖・生クリーム・料理道具がドロップする。ポイントではリボンや箱等の小物が交換でき、ドロップ品には、屑・低・中・高・最高の品質がある。そしてチョコレートを作り、NPCやプレイヤーに渡す(贈り手受け取り手は老若男女問わない)のだ。すると、NPCからは何かしらお返しがあり、プレイヤーに渡した場合は本人同士でどうぞという感じだ。

 しかし、イベントはこれで終わらない。このイベント期間中だけ、PK(プレイヤーキル)をする事でお返し品と所持金を強奪できるのだ。一度チョコを送った相手には同一人物はもう贈れなくなるので、今日開始したイベントだと言うのに既に一部で醜い争いが勃発していた。運営の怨念が滲み出ている。

 

「暫く街かギルドに引きこもろう」

 

 一応イベントなので、俺もスルーしたりはしない。けれど現実の疲れから、ついつい《偃月》を抜いてしまった。そのお陰で、森1つが尊い犠牲になったが手持ちのアイテムに最高品質の素材が溢れかえった。その素材は今、全てギルドの倉庫にぶち込んである。

 普段お世話になっている人達へのチョコは完成してるのだが、もうそれ以上にやることがない。普段根城にしているダンジョンも、高品質のチョコ狙いのプレイヤーが多いから行けないし。

 

 

 そして、それよりも何よりも大きな問題がある。

 

 それは、下手しなくても俺が刺されるということだ。

 普段俺がよく一緒にいるギルドの皆は、言わずもがな可愛い。極振りの人たちも、性格はともかく見目麗しい人が多い。そんな人達から複数個、俺みたいなのがチョコレートを貰ったとしたらどうなるか? 当たり前にPKの対象だ。ポイント交換に、チョコ製の武器(イベント期間、圏内の建物外であればプレイヤーに攻撃可能)とかあるし。

 

 けれど、何もやらずに引き篭もっているのも癪だ。

 

「手伝いに行くか」

 

 意を決して立ち上がり自室(聖域)の扉を開けた。そしてお店エリアに出て、過剰供給した最高品質チョコのお陰で普段の3倍程繁盛するお店のサポートに入った。

 

 

 怒濤の勢いで押し寄せるお客さんを捌きった時には、既にもう夕方6時を回っていた。NPCとれーちゃん、つららさんと俺だけで回すのは非常にしんどかった。

 

 席に座ってぐでーと伸びていると、コートの裾がくいくいと引っ張られた。なんだろうとそちらを見れば、れーちゃんが小さななにかをこちらに突き出していた。

 

「ん」

「ありがとう、れーちゃん」

「ん!」

 

 きちんと姿勢を正して、そのチョコレートを受け取った。小さな箱か黒い紙で包装され、フリルの付いたリボンが付いている。そして一緒に付いていたメッセージカードには『いつもお兄ちゃんとなかよくしてくれて、ありがとうございます。あと、いつもたくさんのレア素材ありがとうございます』と書かれている。

 

「はい、お返し」

「ん」

 

 いい機会なので、れーちゃん用に用意していたチョコを渡す。65%とはいえ料理スキルがあるから、味は安心だし形状も綺麗なはずだ。

 

「あ、じゃあ私もあげるよ。いつもランがお世話になってるし、サブマスの仕事もやって貰っちゃったりしてるし」

「ではありがたく」

 

 貰ったのは銀色の模様がある水色の包装の、小さめの箱だった。因みにサブマスの仕事というのは、ウチの場合ギルド関連の会計だ。赤字の時は私財を投じてるし、多分それだろう。

 

「つまらないものですが」

「あらあら」

 

 同じく用意していたお返しを渡す。この調子なら、一応用意していたものは全部渡せるかもしれない。

 そう思っていた時、バンと入り口の扉が開かれた。

 

「たのもー! ユッキーはいませんか!?」

「はいはーい」

 

 雑に返事をして入り口へ向かうと、にゃしいさんが堂々としたポーズで待っていた。その手に何個かチョコレートと思われる箱を持っている。

 

「極振り一同から後輩へのチョコレートを持ってきました! あと私から、同好の士として爆裂チョコを進呈します!」

 

 大きめの箱と、今にも爆発しそうなオーラを放つチョコの箱を貰った。爆裂チョコってなんだろ……

 

「食べると口の中で破裂するので、注意してくださいね?」

「危険物じゃないですか……あ、お返しです」

 

 まあ、一応用意はしてある。見た目が時限爆弾のチョコをお返しで渡す。ちゃんとした時限爆弾から型を取った力作だ。食べるとちょっと強力なパチパチで、口の中で小さな爆発が起こる。付属のカカオパウダーをかけると勢いは倍になる仕様だ。

 

「それでは私は爆裂道を極めてきますね! あっと、その前にギルドのみんなに渡して来ますね! アデュー!!」

 

 そう言ってにゃしいさんは、マントからブースターの様に炎を吹き出して去って行ってしまった。相変わらずなんというか、嵐みたいな勢いだ。

 

 それでもとりあえず見送ろうとギルドの外に出た瞬間、右側からチョコの銃弾が飛来して綺麗に俺の頭を撃ち抜いた。

 

 暗転。

 

 即座にギルド内でリスポーンし、外に出た筈なのにギルドの奥から現れるというマジック地味た不思議な現象が成立してしまった。

 

「ん?」

「え、ユキさん、なんでそっちから?」

「ギルド出た瞬間殺されましたので」

 

 犯人は99%ランさんだけど、言及はしないでおく。予想は出来ていたことだし。寧ろこの2人から義理とはいえチョコを貰っておいて、ランさんになにもされない方が信じられない。

 

 でもまあ、とりあえずランさんの顔は拝んでおこう。そう思って、ギルドからもう一度出た直後のことだった。

 

「……へ?」

 

 ズブリ、と音が聞こえた気がした。胸に異物感を感じ下を見れば、チョコレート色の刃が装備を突き破って胸から覗いていた。今更ながらスキルを発動させたことで、逆に自身の状況がよくわかってしまった。肋骨の隙間から滑らかに侵入したチョコの刃が、恐らく心臓があるであろう部分を完璧に貫いている。

 

「儂の愛しい娘から、チョコをもらうんじゃ。これくらいの八つ当たりは、受けてもらうぞ」

 

 HPが勢いよく減少していく中、そんな老齢の男性が発する声が聞こえた。そして刃が捻られ、俺のHPは0になった。

 

「まさかアゾられるとは……」

 

 お外怖い。2度目のリスポンから再登場しつつ思うのは、それだけだった。

 建物内が安全で良かったと納得していると、何かメッセージを受信した音がした。発信者は藜さんで、内容は私の部屋まで来てくれますかというものだった。

 

「ちょっと呼ばれたので、後は2人に任せていいですか?」

「ん」

「問題ないわよー」

 

 2人に頭を下げて、出て来たばかりのギルドの奥に引っ込む。行き先は勿論藜さんの部屋。……なんとなく恥ずかしいな、これ。とりあえずノックしてみると、ちゃんと返事が返って来たので入る。

 

「えっと、お邪魔します」

 

 そうして入った部屋は、俺の部屋とは全くの別世界だった。まず、室内の色が明るい。後大きなヌイグルミとかがある。その、こう、なんというか、セナとも違う女の子の部屋って感じだ。

 

「その、バレンタインです、から……チョコ、作って、みました。どうぞ! 本命です、から

「ありがとうございます」

 

 赤い顔の藜さんから、ピンク色の包装のチョコを受け取った。……なんというか、さっきのが聞こえちゃったから俺もすごく恥ずかしくなってきた。

 

「それじゃあ、お返しです」

 

 出来る限り平常心に抑えて、予め用意していたチョコレートを手渡した。セナと藜さんに渡すチョコだけは、本気を出して作っている。

 

 セナに渡す予定のものは、綺麗に並んだデフォルメしたイヌ型の小さなチョコレート。藜さんに渡すのは、その鳥バージョンだ。付属品のフォークは、普段藜さんが使っている槍の形をしている。……あまり良くないってことは分かってるけど、味とか色々違うから許して欲しい。

 

「ありがとう、です」

 

 喜んでくれた様で何よりだ。さて、これからどうするかと思案していると、グッと強い力で引っ張られた。俺の幸運以外貧弱ステータスではそれに耐えきれず、ボスンとベットに腰掛ける形になってしまった。

 そして、藜さんがすぐ隣に座って言った。

 

「今日は、もうちょっと、ログインできる、ので、一緒に、食べません、か?」

 

 もしここで断れる男子がいるとしたら、それはホモか極めて藜さんが嫌いな人だけだろう。座高差的に仕方ないけど、上目遣いには勝てなかったよ……

 

「夜ご飯の準備があるので後1時間くらいしかいられませんけど、それなら喜んで」

「やた」

 

 小さく藜さんがガッツポーズをしていた。それを見られてあわあわと手を振って弁明しようとしてる姿は、やっぱり可愛いなぁと思うのだった。

 

 

「ふぅ……」

 

 ゲームからログアウトした時、部屋は暗く静まり返っていた。まだ冬場の7時なのだから当然といえば当然なのだが、ついさっきまでとの落差に風邪を引きそうになる。因みに藜さんのチョコはもの凄く美味しかった。

 

「料理作らないと」

 

 ご飯はそろそろ炊き上がるからいいとして、主菜副菜汁物は如何ともしがたい。通る場所の電気を付けつつ台所に行き冷蔵庫を開けると、朝は無かった母からのチョコが堂々と鎮座していた。それは後で食べるとして冷蔵庫を漁ってみると、一応肉も野菜も残っていた。うん、これなら適当に何か作れそう。

 

 ・

 ・

 ・

 

「よし、後は盛り付けをすれば──」

 

 卵と豆苗で適当に作ったスープの味見を終えた時、ピンポーンと呼び鈴が鳴った。返事をして玄関に向かうが、こんな時間に誰だろうか? 折角作った料理だし、冷めないうちに対応できればいいなぁと扉を開けた。

 

「こんな時間に誰ですかー」

「えへへ、来ちゃった」

 

 扉を開けた先にいたのは、鞄を下げた沙織だった。夜になって冷え込んでいるかるか、着込んでもっこもこだ。なるほど、大体は予想ができた。

 

「晩御飯は?」

「折角だから食べて来いって」

「りょーかい。入っていいよー」

 

 外で待たせるなんて有り得ないし、とりあえず沙織を家に招いた。一応チェーンを掛けて、と。

 

「今から食べようと思ってたからもう出来てるけど……沙織は?」

「食べるー!」

「ん。じゃあ荷物はそこら辺置いといていいから待ってて」

 

 面倒だし鍋敷きの上に直でフライパン置こうと思ってたけど、沙織がいるならお皿ださないと。ご飯はまあ、多少余るように炊いたから大丈夫か。1人の晩飯は、寂しいし。

 

 ・

 ・

 ・

 

「「ごちそうさまでした」」

 

 自分用に作った適当な料理だったが、表情から見るにご満悦だったらしい。それを見て胸をなでおろしつつ食べ終わった食器を片付けていると、棚から2枚お皿を沙織が引っ張り出していた。

 

「何に使うの?」

「んっとね、多分ユキくん普通のチョコレートは、ゲームとかで飽きちゃっただろうなーって思って、簡単なケーキ焼いてきたんだ。だからデザートにどう?」

「食べる食べる。ちょっと洗い物終わらせるから待ってて」

「はーい」

 

 今日の夜は、普段よりかなり賑やかになりそうだ。

 どうせ泊まっていくだろうし。

 



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記念番外編 れーちゃんと翡翠のどきどき☆くとぅるふくっきんぐ

本当は明日次話投稿予定だったけど、総合評価が10,000超えたのでこっちを優先して投稿。

時期的には73話以降なのでご注意を


 時間の針は少し巻き戻り、極振りがその力を見せつけたレイドボスバトルから数日後。貸切の表札が掛けられた【すてら☆あーく】のお店の中では、極めて珍妙な空間が広がっていた。

 

「ん」

「ん!」

「「ん、ん……ん!」」

 

 れーちゃんと翡翠。何が共鳴したのか「ん」一文字で会話することの出来る2人が、お揃いのエプロンを着けてキッチンを占領していた。その他にこの場にいるのは俺とザイルさんのみ。

 セナは料理の内容を知って藜さんを巻き込み逃げ、ランさんとつららさんは予定が合わず【すてら☆あーく】組は俺だけに。【極天】組はそもそも付き合おうという雰囲気すらなく、見届け人としてザイルさんだけが。そんな感じの組み合わせだった。

 

「なあ、今のなんて言ってたんだ?」

「最初に翡翠さんが『クトゥルフ』、次にれーちゃんが『3分クッキング!』、最後に2人揃って『ギルド【すてら☆あーく】と、【極天】の提供でお送りします』って言ってますね」

「マジか……」

「マジです」

 

 運ばれてくるであろう料理に戦々恐々としつつ、とても楽しそうな雰囲気の2人を見てまあいいかと納得する。なに、たかがSANが減るだけなんだ。trpgと違って週末にはMAXまで回復するんだし、どうってことない。

 なんてことを考えながら、銃の強化案と俺の専用装備のような物の設計案を組んでいく。れーちゃんが匙を投げた加工難易度の素材があるので、あとでザイルさんに送りつける予定だ。

 

「ん!」

 

 『今日の食材はこれ』と翡翠さんが言って取り出したのは、タイトルコール通り明らかにヤバイ物体だった。

 

 ドロリとした粘液を纏う、よく見てしまうと吸盤が存在することのわかる触手。未だ死ぬことが出来ていないのだろうか? 時折大きくビグンと動く小さくうねる触手が、翡翠さんの小さな手の上に出現した。

 

「ん」

 

 れーちゃんの『鮮度がいいですね』というツッコミに、はやくもこちらの精神は追い詰められる。現にSANの値がもう1減った。目を曇らせるこちらとは対照的に、目を輝かせるあちらはなんなのだろうか。コワイ。

 

「訳します?」

「いや、大体分かるからいい」

「さいですか」

 

 何か大変なものを引き合わせてしまったという後悔を他所に、目を輝かせる2人は調理に入っていく。

 といっても、触手とはいえ多分タコ足。最初は刺身にするようで調理自体は簡単なものだった。茹でて、どす黒く濁ったちょっと甘い香りのする液体から赤く茹で上がった触手を取り出し、れーちゃんが包丁でいい感じにカットする。

 

「ん!」

 

 れーちゃんがこっちに手を振ったので、象牙色の魔導書を1冊飛ばし、お皿と醤油と箸を2膳置いてもらい持って帰ってくる。2人はキッチンを離れずに済むし、こっちは動かないで済む素晴らしい手段だ。

 そうして手元まで運ばれてきたシャークトゥルフの刺身は、恐ろしいことに普通のタコの刺身にしか見えなかった。おかしい……何かきっと裏があるはずだ。同じ考えに行き着いたのか、醤油を垂らした小皿を持ち箸を構え、ザイルさんと俺の視線が交錯する。

 

「お先にどうぞ」

「いやいや、お前のギルドの看板娘が作ってくれたんだぞ? そっちが先なのが道理だろう」

「いやいや、材料提供はそっちじゃないですか」

 

 そう、始まるのは押し付け合い。どちらが先に人柱になるかという、醜い争い。勢い余ってAC(アーマード・コア)の新作が出てもいいくらいの静かな闘争。けれどそれは、俺の禁じ手によって決着が着いた。

 

「最初はぐー、じゃんけんぽん!」

 

 結果は当然、俺の勝ち。ははは、5000オーバーの幸運を舐めるでないわ。ついじゃんけんに応じてしまった時点で、勝ち目などザイルさんには存在しないのだ。

 

「くっ、謀ったな……!」

「それでも勝ちは勝ちですから、どうぞどうぞ」

 

 笑みを浮かべて俺が言うと、ザイルさんは震える箸でシャークトゥルフの刺身を摘み、醤油を潜らせ、口元に運ぶ。食べる直前一時停止し、けれどすぐに再起動して目を瞑り意を決したように口に含んだ!

 

「うっ」

 

 瞬間、胸を押さえて机にザイルさんは倒れ込んだ。ほらやっぱりだ、基本的に虚弱な極振りが耐えられる訳がなかったんだ。だけど、食べないわけには……

 

「嘘だろ、なんでこんなに美味いんだ……」

 

 そう葛藤している中ザイルさんが放った言葉に、動かなかった箸が僅かに動くようになった。嘘かもしれないが……その時はその時だ。刺身を食べて死ぬか、食べずにランさんに殺されるか俺にはその2択しかないのだから。

 

「ふぅ……」

 

 意を決して、シャークトゥルフの刺身を口に入れた。瞬間、味覚を圧倒的な情報が駆け巡った。そんなに高級品を食べたことのない俺でも分かる程の、圧倒的な新鮮さと濃厚な味がするタコ足。俺の貧弱な語彙では到底表現できない、圧倒的な味の暴力。気がつけば俺も、机に突っ伏していた。

 

「ん!」

「ん!」

 

 意図せずザイルさんと共鳴し、溶鉱炉に落ちるターミネーターの如くサムズアップすると、キッチンで2人がハイタッチしている姿を見ることが出来た。あれは良いものだ……

 

「ん!」

 

 なんて事を思っているうちに、『次は私が』と今度はれーちゃんが料理を始めた。卵(レア泥)を割り、よくかき混ぜたのち小麦粉(レア泥)、水(レア泥)、砂糖(レア泥)、塩(レア泥)、醤油(レア泥)などを入れ更にかき混ぜて行く。そしてどこからかたこ焼き機にしか見えないものを引っ張り出してきて、油(レア泥)を引き生地を流し込んで行く。そこに紅生姜らしきもの、ネギ(レア泥)が入り、天カスと桜海老(レア泥)が入り、シャークトゥルフが投入される。

 

「んー、ん!」

 

 そう、完成したのはたこ焼き。しかもレア度の暴力のおかげか、遠目にもかなり美味しそうに見える。それを先程と同じように魔導書で運び、今度は押し付け合うことなく食べる。そしてまた先程のリピートのように、極振り(虚弱)体質では耐えられない旨味の暴力に撃沈した。

 

「ゲテモノっぽい癖に……」

「うめ……うめ……」

 

 外はカリッと、中はトロッと、レア度と料理スキルの相乗効果によって恐ろしい程の旨味が口の中で暴れまわっている。料理漫画の主人公であれば違ったのだろうが、ヤベエ美味えとしか表現できない。

 

 そんな余韻に浸っている中、禍々しい邪気を感じて急ぎキッチンの方を見る。俺とザイルさんはこういう非常時のためにいるのだ。自分で言うのは恥ずかしいが、超反応超精度防壁の俺と、超精密弾幕のザイルさんがいれば大抵どうにかなる筈だ。が、その心配は杞憂に終わった。

 

「ん」

 

 邪気の原因と思われる翡翠さんの取り出した肉厚の鮫部分の切り身は、『邪魔するな』と翡翠さんが数秒展開した【終末】の天候により、その邪気を消し飛ばされていた。

 

「ん」

 

 『これでよし』と満足げな翡翠さんのアクションは速かった。かなり手慣れた動きで包丁を動かしシャークトゥルフの切り身をスティック状に。生姜を卸し、絞り汁と醤油(レア泥)、酒(レア泥)にその切り身を漬け込んだ。そして片栗粉をまぶし、カラッと揚げる。それで、シャークトゥルフの唐揚げが完成した。

 

 れーちゃんと翡翠さんが向こうで食べる序でに作ってもらっているのだが、これまた美味しい。カリッとした衣の下の身は柔らかくてふわふわ、臭みもなく淡白な白身の感じが本当に美味しい。現実世界の一部の地域でサメを食べることがあるのは知っていたが、こんなに美味いんだ食べないわけがない。

 

「「ん!」」

 

 再びハイタッチしたれーちゃんたちは、もう既に一品作り終わっていた。メインディッシュであると思われるシャークトゥルフのフカヒレの姿煮。黒くとろみのある餡の中に浮かぶフカヒレは非常に美味しそうで、美味しそうな匂いがし、食べれば確実に美味しいことは確実の筈だ。そう、筈なのだが……

 

 食べたら死ぬ

 

 ゲームの世界であるが故本物なのかどうか知らないが、生存本能のようなものが全力で警鐘を鳴らしているのだ。それは目の前のザイルさんも同じなようで、この料理から感じる圧に冷や汗が流れる。

 

 シャークトゥルフなんか目じゃないプレッシャーに、箸を持つ腕が震えた。ちょっとテケリ・リなんて音が聞こえた気がするが幻聴だろう。美味しそうな匂いと、湧き上がる恐怖心に唾を飲み込む。

 

 喰うか、喰われるか

 殺すか、殺されるか

 食べるか、食べないか

 

 グルグルぐるぐると思考が空回りする中、どこからかフルートのような音も聞こえ始め、薔薇のような香りも漂い始めた。あっこれあかんやつだ。というか、一体何をどう料理したらこんな神格を招来しそうな劇物が錬成できるのだろうか。

 

「ん!」

「ん」

 

 なんて戦々恐々としていると、美味しいものを食べた時によく聞こえる声が聞こえた。青い顔をしてそちらを見れば、れーちゃんと翡翠さんがお互いにあーんをしていた。あれはなんだろうか、聖域かな? あれを見てるだけで、このプレッシャーも忘れられる。

 

 けれど、食べなければいけないという現実は変わらない。冷めてしまったら確実に悲しまれる、序でにランさんとかに殺される。ああ、そうだ。やるしかないのだ。例えピギュッとなったあとキボウノハナ-することが分かっていても、止まるわけにはいかないのだ。きっとその先に何かがあるから……!

 

「ああ、安心した。アイツらは、私やお前がいなくてもやっていけるな……」

「答えは得たんですね、ザイルさん。なら俺も、もうゴールしてもいいんですよね」

「そうだな」

 

 最早一周して、プレッシャーは通り抜け清々しい気分を感じる。ああそうか、この視界の端に写るSAN05/99とかいう数値も最早意味がないんだ。もうこの美味しいものを食べたいという衝動に身を任せ、一時の享楽で身を滅ぼしてしまおう。

 

「「いただきます」」

 

 箸でフカヒレを切り、口に運ぶ。そうして広がるのは、予想通りの素晴らしさ。

 口の中に広がる宇宙的な旨味は最早人知を超越しているのではないかと錯覚させ、鼻に抜ける香りは料理の深淵から溢れ出ているようだ。五感を冒涜的なまでに凌辱したのち、それは喉を通り、胃に辿り着き、それでもしかしそこに在ると存在を主張し続ける。嗚呼、これほどの料理は、もう未来永劫2度とない。食べることが出来ないだろう。

 

 満足だ

 

 そんな感想が思い浮かんだ瞬間、視界の端に表示されていたSANが0になり、決して広くない店内にカシャンというガラスの砕けるような音が2つ響いた。

 

 その日の【すてら☆あーく】には、女の子の笑い声が夜遅くまで響いていたという。それを覗いていた者は漏れなくSANが消し飛び、大変なデバフに襲われたのだとか。また、不気味な影や不可思議な光、風、音などが聞こえていたという噂もあるが、真実は2人以外誰も知らないのであった。

 



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番外編 ハロウィン

投稿場所間違えたので再投稿
103話以降を想定してます

※本編には全く関係がありません


 ハロウィーンの話をするとしよう。

 

 今の日本では仮装を楽しんだり、お菓子をもらったりする日となったこの行事。Trick or Treat(いたずらか、ごちそうか)の言葉で有名なこの日の起源を辿ると、アメリカではなく古代ケルトにたどり着く。

 

 古代ケルトという括りも非常に大雑把なものなのだが、まあそれは置いておいて。

 ハロウィーンの起源は、古代ケルトで行われていた収穫祭及びその際に現れるとされる悪霊を追い出す行事である。ケルト人の1年の終わりは10月31日とされており、この日の夜は秋の終わりであり、冬の始まりでもあり、更には死者の霊が家族を訪ねてくると信じられていた。

 

 古代ケルトにおけるドルイドと呼ばれた、社会における重要な役割を果たしていた人物達。彼らが主体となって、10月31日の夜にハロウィーンの収穫祭は始まる。

 日が没し、この世とあの世の間を自由に行き交うことのできる見えない門が出現すると信じられている時間。ドルイドの司祭たちは、作物と動物の犠牲を捧げ、焚いた篝火の周りで踊る。この火を用いて住民たちは家の暖炉に新たな火を灯し、家に悪い妖精が入らないようにするのだ。

 現在のハロウィーンにも受け継がれている仮装は、この際現れるとされる有害な妖精や魔女から身を守るためのものだ。ジャック・オー・ランタンもこの当時はカボチャではなく、カブをくり抜いて作られていたとされている。

 

 ここまでが、伝統的なハロウィーン

 そしてここからが、現在日本で普及しているハロウィーンに繋がる話である

 

 日本にハロウィンの文化が広まった源流である、アメリカにおけるハロウィン。それが正式にアメリカの年鑑に祝祭日として記録されたのは、意外にも19世紀初頭頃であるとされている。原因は、その時期にあったアイルランド及びスコットランドからの大量移民。しかし文化としてハロウィンが受け入れられるのは、もっと後の20世紀初頭頃である。

 

 19世紀半ばまで、特定の移民共同体の中でのみ行われていたハロウィン。それは徐々に、アメリカの主流社会に受け入れられるようにして広がっていった。定着したと言えるであろう20世紀初頭では、驚くことに社会的、人種的、宗教的背景に関係なく、アメリカのほとんどの人々に受け入れられていたらしい。

 この時代に生まれたのが「トリック・オア・トリート」の言葉である。テレビや製薬会社、映画会社などの仕掛けもあり爆発的に広まった。これは古い英語から来ているとされていたはずだけど、詳しい部分は忘れた。

 

 そして、世界各国で活躍するアメリカ人が増えるにつれ、様々な国にハロウィンは広まったとされている。

 

 

 ハロウィンの扱いも、国によって千差万別である。

 

 多神教故かオールオッケー、唯一神ですら「それは別のディメンジョン」として納得出来てしまえる変態国家日本。そこでは純粋に、仮装を楽しんだり、お菓子をねだったりする日となっているのは周知の事実だ。東京の、どこだっけ? 交差点では、毎年毎年尋常じゃない人混みが出来ている。

 

 主な英語圏でもにたようなものであるらしい。実際に見たことはないけれど、差異はあれど基本的にアメリカのハロウィンがベースとなっている。

 

 源流であるケルト人の国であったアイルランド。そこでは10月最後の月曜は祝日となっており、所謂ハロウィン祭りとやらが残っているらしい。

 

 逆に一部のキリスト教の色が強い国では、「キリスト教由来の行事ではない」として実施を禁止している国もあるとか。

 

 

 さで、ここまで長くなってしまったが。変態国家(褒め言葉)である日本の国民が製作したUPOでも、当然のようにハロウィンイベントは行われている。やはり商業戦略か、私も同行しよう……

 

 で は な く !

 

 誰もが折角のイベントなのだし、広く浸透しているアメリカ式ハロウィンがベースとなると思っていた。いや、源流のケルト式ハロウィンを知らない人は、当然そのハロウィンのために準備を重ねていた。

 

 だが、運営(やつ)は弾けた

 

 その日、プレイヤーは思い出した。極振りをボスにする運営の凶行を。バレンタインにもやらかしてくれやがった前科を。そう、プレイヤーの予想を盛大にルラギリ、UPO運営はイベントのベースとしてケルト式を選んだのだ!

 

 イベント名は『怒鬼☆怒鬼☆覇露勝利!〜ポロリもあるよ!』

 

 その内容も、実に弾けたものだ。何せ、街が安全圏ではなくなったのだから。『篝火を焚いているとされ、ジャック・オー・ランタンを入り口に設置した建物』『復活地点のポータルの半径20m』以外の場所で全て、モンスターがPoPするようになったのだ。

 街中に出現するのは、主に幽霊や小鬼、偶にバンシーのような精霊が殆ど。市外にはジャック・オ・ランタンや死神、デュラハンなど恐ろしげなモンスターはなんでも出てくる。余談だが、俺が街を出歩くと、出現しないはずのそいつらが街中に現れる。

 

 そしてその全員が、倒すと特別なアイテムをドロップする。武器、防具、衣装、お菓子、お菓子の材料を始めとして、装備扱いされない所謂スキンなども含まれる。

 例の如く森1つを伐採&デイリービル爆破で素材をコンプし、大量に確保した結果。我らがギルド【すてら☆あーく】は大盛況となったのだった。

 

「あ、ユキさんそろそろ休憩どうぞ。ずっと働き詰めでしょ」

「ありがとうございます、つららさん」

 

 一時避難場所兼バフをかける場所兼回復場所となった結果、とんでもなく盛況となった【すてら☆あーく】のギルド。NPCだけでは手が足りず交代で接客していたのだが、客足も落ち着き始め抜ける余裕ができたらしい。

 

「それじゃあ、遠慮なく」

 

 そう言い残して、俺はバックヤードに引っ込んだ。因みにうちのギルドの仮装は、見事に誰も重ならなかった。

 

 つららさんは、無難に吸血鬼。

 れーちゃんは、どこぞのフォウフォウ鳴きそうな小動物のコスプレ。

 ランさんは、元々RPしてる人だから変化なし。吊ってる武器に、パンプキンのストラップが追加されてはいたけれど。

 俺は頭装備に帽子なしのカボチャスキンを装備し、他は死界装備で身を固めたジャック・オ・ランタン風。

 

 そして──

 

「ユキくん、トリック・オア・トリート!」

 

 がおー!といった感じのポーズで登場したセナの仮装は人狼。ルウガルウではない。フサフサの狼耳に尻尾が生えていて、いつもの狐耳狐尻尾とは違った印象を感じる。いつも通り、千切れそうなくらい尻尾は振られているけど。

 

「セナもお疲れ。イベントがイベントだけに、すごい人数だったよね」

「そだね、流石に私も疲れちゃった」

 

 因みにセナと藜さんに不埒な真似をしようとした奴は、ちょっと魔導書から《萎縮》と《破壊》を使って痛い目を見てもらった。れーちゃんとつららさんに不埒な真似をしようとした奴は、ランさんにコンマ数秒以内に撃ち抜かれていた。セクハラなんて許さないのである。

 

「そうじゃなくて!」

 

 そう誤魔化そうとしていたところ、失敗して話を引き戻されてしまった。

 

「お菓子くれなきゃイタズラしちゃうぞ!」

「……持ってないです」

 

 さっきまで接客対応に追われていたせいで、手持ちのお菓子は尽きている。つまり、イタズラルート確定である。爛々と目を光らせ、手をワキワキとさせているセナを見れば、逃亡が不可能であることも容易に理解できる。

 

「私、れーちゃん経由の翡翠ちゃん情報からね、ユキくんがカキ氷味ってこと知ってるんだ。でもって、ずっとお菓子作りを続けていたユキくんの手には、きっと味が染み込んでいる……」

「ちょっ、まっ」

「問答無用!」

 

 飛び上がり天井を蹴ったセナが、目にも留まらぬ速度で飛んできた。腕をクロスしたものの、その速度に耐えきれず俺は倒れ込んでしまう。

 

「ふぇへへ、おいひぃ……」

 

 リアルならこうはいかないのだけれど、このゲーム内での俺はクソ貧弱なわけであって。馬乗りになってなんか指をアムアムしてくるセナに抗う方法はないのだった。100倍以上筋力差がある相手に抗うなんて到底不可能である。

 

「ねぇ、ユキくん(ゆひふん)ユキくんの手(ゆひふんのへ)、おいひぃへ」

「いやあの、セナさん? 喋られるとくすぐったいし、なんか慣れてるとはいえ恥ずかしいんですけど。それと、確か交代ってセナじゃなかったっけ?」

 

 さっきお疲れといった身ではあるけれど、確か交代はセナと聞いていた。だから、ちょっと時間が心配だった。

 

「うん。これでユキくん成分補給できたし、頑張ってくるね!」

「いってらっしゃい……」

 

 まるで今思い出したかのように、セナは慌てて表のお店部分に出て行った。何故かお店で接客すると、経験値が入るし売上が上がるんだよね。

 

「休憩したいし、ちょっと外で爆破してこようかな……」

 

 そんな事を言いながら立ち上がり、腰のカラビナに接続された爆弾を触っている時のことだった。

 

「トリック・オア・トリック、です」

 

 外に繋がる扉から入ってきたのは藜さんだった。その仮装は魔女。魔女帽に箒のスキンが貼られた槍、ローブと完璧な魔女スタイルだった。

 

「イタズラされるしか選択肢がない、だと!?」

「ユキさんって、お菓子、持ってないん、です、よね?」

「くっ」

 

 セナとの会話を聞かれていたらしい。物資の補給前に攻めてくるとは策士である。これはもう、戦略的撤退しかありえない。そう思って紋章を展開したところで──ビットで俺は壁に縫い付けられた。

 

「逃げられない、だと」

「遠慮なくやる、です」

 

 そして、ふわりと良い匂いがした。いつのまにか壁から降ろされていた俺のすぐ隣に、藜さんの顔があった。

 

「えへへ、相合帽子、です」

 

 現状を簡単に説明すると、今俺は巨大化した魔女帽を藜さんと一緒に被っていた。息が触れ合う距離で密着しているので、なんかこうドギマギしてくる。

 

「このまま一緒に、外、行きません、か?」

「拒否権ないですよね……」

 

 ガッシリと掴まれいつのまにか抱き込まれたその腕は、俺に拒否権がない事をハッキリと示していた。まあ、腕なんて使わないでも戦闘は出来るから良いけどさぁ。

 

「これで、今日は、独り占め、です」

「なんか言いました?」

「なんでもない、です、よ?」

 

 聞こえた気がした不穏な一言は胸にしまって、俺はしばらく藜さんと街の中で敵を倒していたのだった。

 

 その日の夜、例の如く噂を聞きつけたセナがリアルで我が家に訪問。なんやかんやで泊まりになったのは、また別の話。

 

 

 そういえば、先輩方の中で仮装をしていたのは、ナース姿の翡翠さんだけだったらしい。

 




2時間クオリティだから、ヤンデレエンドはないの……許して


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番外編 クリスマス

急いで描いたからクオリティ不安かも?

-追記-
位置をずらしました


 やあ。ようこそ、季節イベント短編へ。

 この番外編はサービスだから、まず読んで落ち着いて欲しい。

 

 うん、「また」なんだ。済まない。

 仏の顔もって言うしね、謝って許してもらおうとも思っていない。

 

 でも、このタイトルを見たとき、君は、きっと言葉では言い表せない「ときめき」みたいなものを感じてくれたと思う。

 殺伐とした世の中で、そういう気持ちを忘れないで欲しい

 そう思って、この項目を作ったんだ。

 

 じゃあ、クリスマスの話をするとしよう。

 けれど今回ばかりは、宗教が絡む以上『俺が調べられた範囲での話』と最初に断りを入れておきたい。

 

 クリスマスという行事は、12月25日に行われる言わずもがなな行事である。一般的にはキリストの誕生日として認識されていて、プレゼントの交換を行ったり、ケーキを食べたり、クリスマスソングを歌ったりする日だ。子どもにとっては、自分の欲しいものをサンタさんからプレゼントしてもらえるのがメインになるだろうか。

 基本的に現代の暦であるグレゴリオ暦では12月25日にクリスマスを祝うけれど、ユリウス暦を使用している場所ではグレゴリオ暦でいう1月7日に該当する日に祝うんだとか。

 

 ただし、正確にはクリスマスはキリストの誕生祭ではない。

 

 なにせ新約聖書には、イエス・キリストの誕生日を特定する記述は存在しないのだから。キリスト教においてもクリスマスは「降誕を記念する祭日」と位置付けられている。けれどローマで行われていた最も大きなお祭りが冬至に行われていた為、この日に祝うことになったそうな。

 

 それよりも個人的に面白かったのは、サンタクロースについてである。

 クリスマスイブの夜に煙突から家に潜入し、子供の欲する物を枕元に置いて脱出するという、完璧なスニーキングミッションをこなす超人。しかしその詳細が、各国でかなり違うのだ。

 例えば、イギリスではサンタの服の色は緑色であり(近年は赤が主流らしいけど)、ロシアでは青い服を着て孫娘を連れており、オランダではそもそもクリスマスが2回あり、イタリアではクリスマスの期間が長く訪れるのは魔女だという。ドイツには悪い子を罰するブラックサンタが居て、有名な話だがオーストラリアではサンタはサーファーである。きっと鮫が襲ってきても安心なようにとの計らいだろう。

 

 サンタクロースの起源は、聖者ニコラウス(言語によって名はブレる)の伝説が起源である。

 その伝承というのが「貧しさのあまり三人の娘を身売りしなければならなくなる家族の存在を知ったニコラウスは、真夜中にその家を訪れ、窓から金貨を投げ入れた。このとき暖炉には靴下が下げられていており、金貨はその靴下の中に入ったという。この金貨のおかげで家族は娘の身売りを避けられた」というものである。これはネットからの引用であるが。

 

 ちなみに、サンタクロースの一般的なイメージとして、トナカイが引くソリに乗って空を飛ぶ、白い大きな袋を背負った、赤い服とナイトキャップを被った恰幅のいいおじいさんというものがある。

 そのソリを引く8頭のトナカイに、それぞれ名前があるのは知っていただろうか。ダッシャー、ダンサー、プランサー、ヴィクセン、ダンナー、ブリッツェン、キューピッド、コメット……どれも、なんとなく強そうなイメージのある名前である。赤鼻のトナカイで有名な9頭目の先導役、ルドルフもその例にもれない。

 

 さて、ここまで書いたならわかるだろう。

 

 UPOの運営は、またやらかした。

 

 

「追えー! ヤツが逃げたぞー!!」

「バイクがトナカイなんかに負けるはずがないんだ!!」

「アイエ!?ニンジャ!?ニンジャナンデ!?」

「お前は誰だ!」

 

 クリスマスイブ、街の様子は極めて賑やかな様相を呈していた。その原因は当然、運営が実装した期間限定のイベント。リア充vs独り身のPvPイベントかと思われていたそれは、予想外の形として実装された。

 

 イベント名【聖夜の果てに】

 その内容は、レイドボスの期間限定実装である。レイドボスだ。唐突に運営は、馬鹿げた強さのレイドボスを突っ込んできた。

 HPが3000万もある9頭のトナカイと、4000万のソリ、5000万のサンタクロース本体に、2000万の巨大な袋からなる空を飛ぶレイドボス。飛行できるプレイヤーがいないと詰むクソ野郎である。

 

「いやぁ、賑やか賑やか」

 

 そう俺が呟くギルドの中も結構な賑わいである。今日は貸し切りとはいえ、少し前までレイドボスをリスキルしていたトップギルドの面々が集まっているのだから。

 【極天】からは常連の翡翠さん、コタツに埋まりに来たアキさん、ストッパーとしてザイルさんが。【すてら☆あーく】は全員。【モトラッド艦隊UPO支部】からはトップ3のイリアステル組が。【空色の雨】からは足場の構築と逃亡妨害で活躍した、イオくんとアークさんが。

 そんな人数で打ち上げが始まったのだから、飲めや騒げやの大騒ぎである。

 

「それにしても、また倉庫が変なので埋まったよほんと」

 

 即死耐性が甘かった故にリスキルされた哀れなレイドボスは、様々な物を落としていった。イベント限定武器防具から、蘇生用アイテム、自動でD()が溜まるアイテムに果てには料理まで。この賑やかさは、最後の料理を消費しきることもあってのものだった。

 

「ねえ、ユキくん」

 

 無駄に満腹になったので外を見ていた俺に、同じく抜け出してきたらしいセナが話しかけてきた。

 

「今日の夜、時間空いてる?」

「毎年の如く空いてるよ。ケーキも用意してある」

 

 うちの両親は、いつもよりも増して家に帰ってこない。クリスマス商戦にお正月商戦、制作に会議にバグの修正にでほぼ泊まり込みになるのだ。それで小さな頃から、俺はセナと一緒にクリスマスを過ごすことが大半だった。

 

「そう対応されると、ちょっと勇気出してみた私の立場がないんだけど」

「ほぼ毎年一緒だから……」

 

 泊まりに行ったり泊まりに来たりはまちまちだったけど、それでいてプレゼントは毎年律儀に枕元にあるのだから不思議である。徹夜してみた時にも、トイレに行った隙に気がつけば置いてあった。

 うちの両親は、暗黒メガコーポ勤めのニンジャではないかと疑い始めたのはその時からである。

 

「でもいっか! 今年もユキくんと一緒だし」

 

 そう話す俺たちの言葉は、喧騒に紛れてどこに届くこともなかった。

 

「「メリークリスマス!」」

「そろそろ戻ろうか」

「そだね!」

 

 何度目かの乾杯にあわせて、俺たちは再び宴会の席に戻っていった。

 

 

 そして時間は変わり、現実の我が家。

 ゲーム内と比べれば随分と質素だけど、ここでも2人だけのクリスマスパーティーが開かれていた。正確にはもう終わったので、過去形になるのだろうけど。

 

「ふわぁ……」

「眠いなら、ちゃんとベッド行ってからにしろよなー」

「ふわぁい」

 

 2人して引っ張り出して来たコタツに潜り、ダラダラとクリスマス特番を見る。いつもの年末の光景だけど、今年はUPOではしゃいだこともあってか既に沙織はうとうととし始めていた。

 

「んー……とーくん、はこんでー」

 

 もう寝るつもりなのか、コタツから出た沙織は両手をこちらに向けてそんなことを言ってきた。その目は半分以上閉じられていて、今にも寝そうな感じである。

 

「はいはい」

「ん、えへへぇ」

 

 ため息1つ吐いてから、仕方ないと沙織を抱き上げた。ふわりと香る甘い匂い、暖かい体温に、触れれば折れてしまいそうな華奢さと、それに相反するような柔らかさ。

 それは、嫌じゃない。寧ろその逆なのだが……そのまま抱きつかれると、少し落ち着かない。手を出すことは死んでもしないけれど、これでも一応年頃の男子なのだから。

 

「ベッド着いたぞー」

「ふぁーい」

「おやすみ」

 

 寝惚けた沙織をベッドに寝かせて、冷えないようにちゃんと毛布と掛け布団を掛ける。癖で沙織の頭を撫でた後、誤魔化すようにそう言って俺は部屋を出た。

 

「さて、洗い物しますか」

 

 テレビでも世間でも、性なる夜とか言ってるけど知ったことか。

 実質一人暮らしな以上、やることは山積みなのである。

 



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番外編 Twitter企画短編

活動報告にちょっとアレなSSをあげたせいで、2個目の話がちょっと要望満たせてないかも。全体的に急いで書いたし……その、許して
活動報告のSSは健全な人は見ちゃダメですからね!!

※番外編時空は、本編とは一切の関係がございません。
※多分よく似たパラレルワールド


【翡翠レストラン開店記念SS】

 

 UPO内において、1つの噂がある。

 第3の街【ギアーズ】には、1つの奇妙なカフェが存在していると。

 曰く、そのカフェには一定の条件を満たさないと頼めない裏メニューがある。

 曰く、そのカフェはプレイヤーを食べるプレイヤーが集まっている。

 曰く、その主人は極振りのヤベー奴。

 曰く、曰く曰く曰く……ゲーム内の掲示板を探せば、ある時期より大量にヒットするようになるその情報。それは、ほぼ全てが布教班による真実である。

 

『Café du jade』

 

 見た目はおしゃれなカフェだが、裏はちょっとアマゾン御用達なヤベーイ店である。別名『(店主にとって)注文しないでも料理が来る料理店』高難度イベントの翡翠食堂に満足できなかったプレイヤーの有志と、翡翠ちゃん本人の意思で作られた聖地である。

 

 そんな場所が完成した経緯を、ほんの少しだけお見せしよう。

 

 

 少女は、どこか物足りない気持ちでUPOにログインしていた。

 あの高難度イベントが終わってから、何かが物足りない。あの時味わったプレイヤーの味は忘れられない。

 

 ひたひたと散歩する。

 ゆらゆらの頭はからっぽで、

 きちきちした目的なんてうわのそら。

 くぅくぅおなかが鳴りました。

 

 やっぱり解決するには、自分であの場所を作るしかない。そう決心したのが数日前。それなのに何故か、建設予定地には資材が山のように積まれていた。

 

「どうしてでしょう?」

 

 見覚えのない最高級品の山。それも、何故か自分宛に使って欲しいと書かれたメッセージカード付き。

 

「何故ですかね……どうでしょう、良いですね」

 

 圧縮された独り言を呟き、どこか納得した様子で少女は頷いた。理由は知らないけれど、とりあえず利用することに決めたらしい。

 

 翌日にも、翌々日にも、更にその次の日も、毎日毎日同じように素材の山が届けられていた。

 

「助けましたっけ?」

 

 特に鶴か地蔵辺りを。そんなことを考えている間にも素材は溜まり続け、気がつけば同類(仲の良い)のザイルから店の設計図の相談までされてくる始末。

 

「おかしいです」

 

 こう何度も自分に都合の良いことが起これば、誰だってその異常性に気がつく。それは極振りだって例外じゃない。

 

「まあいいです。作りましょう」

 

 しかし、欲望に忠実であってこその極振りだった。僅かな迷いは秒で切り捨てられ、ここに自身の望む空間の建造が決意された。

 

 そうして始まるのは、トントン拍子という言葉すら生ぬるい程の爆速建築。ザイルと呼び集められた隠れファンによる、ゲーム特有の超速建築だった。されど一切のやっつけ仕事はなく、毎時完成度が上がっていく様は正に変態の所業。

 

 そして数日も経たず、店は完成した。

 

「完璧です……」

 

 佇まいはお洒落なカフェで、内装とメニューも(常識的範囲で)完璧、大通りに面した姿はプレイヤーの目を引くこと間違いなしだ。

 そうして真っ当な収入源を得つつ、地下の土地を買い取って作った階層には別の施設を作ってある。あの高難度ダンジョンの再現は出来ないが、運営に申請してフリーで対戦ができる空間が設定されてある。同類からの有難い計らいであった。

 

 実は開店以降、裏の賑わいと共に表のカフェ業が『UPO内で美味しい飯屋ランキング』のトップ争いをすることになるのだが、それはまた別の話。

 

 


 

【ユキセナ藜でちょっとえっちなSS】

 

 ことの発端は、空さんがうちに泊まりに来たことだった。高校に進学してから稀に起きるようになったのは、すでに沙織がそうだったから構わない。でも問題なのは、そのタイミングが重なったことだった。

 

「あ、とーくん一緒にお風呂入ろ?」

「なら、私も……」

 

 でもって、沙織がふざけて言ったその言葉に空さんも乗ってきてしまったことが、最大級の問題だった。普段なら冗談で流せるそれが、空さんの対抗心によって現実化する。してしまう。

 

「えー、あー、不純異性交遊になるし、流石にマズイでしょ」

「私は水着持ってきてるし」

「実は、私も」

「なんでそんな、準備いいんですか……」

 

 何故このタイミングで持ってきている……あ、いや、そういえば今日はプールあったっけ。そこから逆算するに、これは計画的な犯行で間違いない。計ったなぁ!

 

「いや、でも、3人で入れるほどうちの風呂は広くないじゃん。物理的に無理だって無理」

「なに言ってるのとーくん? ここのお風呂、昔からものすごく広いよね?」

「え?」

「私も、初めて来た時、びっくりした、です」

「あれぇ?」

 

 何か記憶違いが起きている。額に手を当てて考えてみるけど、うちの風呂は至って一般的な風呂だったはずだ。断じて広いものではない。

 

「そんなに疑うなら、直接見て来たら?」

「そうだね、一応見てくる」

 

 もし広かったら、一緒に風呂に入ることが出来ない言い訳が本当になくなってしまう。だからそんなことはない、そう思っていたのだが……

 

「うっわマジで広くなってる」

 

 具体的に言うなら、アニメ版の○物語シリーズの風呂場並みに。そのくせ湯船はいつものサイズ。絶対におかしい。いやこれやっぱり空間捻じ曲がってるでしょ。

 

「ほらほら、大丈夫だから早く入ろ、とーくん」

「逃がさない、です」

「ファッ!?」

 

 驚愕に固まっていると、いつの間にか両隣に水着に着替え済みの2人がいた。2人ともイベントで見たのと酷似した水着……というか、あのイベントの時そのものの格好をしていた。

 目のやり場に困る肌色の多さと、掴まれた手から伝わる柔らかさがヤバイ。

 

「とーくんが頼むなら、前だって洗ってあげるよ?」

「恥ずかしい、です、けど。もし、そう言って、くれるなら……」

 

 あっ(察し)このまま風呂に入ったら確実に喰われる未来が見えた。サンキューモナド。サンキューシュルク。某大乱闘叩き込み兄弟達でも助かってます。

 

「捕まってたまるか!」

 

 そう思って駆け出す。そのままいつものように、加速紋章を使おうとして……ゲーム内じゃないのにそれが出現した。

 

「は?」

 

 しかも真っ当に作用した。

 何てことだ……射出された体は止まらない、加速する! そうして何故かそこにあったステンドグラスを突き破りアイキャンフライ。飛び出した先は崖だった。

 

「はぁッ!?」

 

 あまりの意味不明さに叫びつつ、唐突な落下する感覚に襲われた。その時、脳裏に電流が走る。ああつまり、この支離滅裂なコレは──

 

「……夢か、やっぱり」

 

 地面に叩きつけられる直前、目が覚めた。

 見慣れた天井だ。あの事件以降、沙織に加え空さんが泊まりに来ることも増えたから、微妙に女の子の匂いが混じるようになってしまった自室だ。

 

「んぅ……とーくんのえっち……」

「確かに、あんな夢を見てる辺りそうかもな……」

 

 いつも通りベッドに潜り込んできていた沙織の寝言に、思わずそう呟いた。欲求不満なのかもしれない。ビルの資材は腐るほどあるし、今度また第四の街……は無理だから、第五の街でも爆破しよう。事前にアナウンスしてからだけど。

 そんなことを考えながらスマホを見れば、時刻は既に午前4時過ぎを示していた。

 

「ご飯作ろう……」

 

 お弁当も、一応沙織の分まで作るか。昨日そんな話は聞いてないし、どうせ持って行くだろうから。

 

「ん、やぁ……」

「はいはい」

 

 抱き枕にされていた腕を引き抜き、ベッドから降りる。その後、なんか不満そうな顔をしていたので、軽く頭を撫でてから毛布をかけ直した。

 

「ご飯……作る前に、軽くランニングしてこよう。うん。そうしよう」

 

 さっきの夢を見る前に、もっと過激な夢を見ていた気がする。そのせいか、なんというか、男子特有のムラっとした感じがするのだ。そういう時は、全力で走って雑念ごと吹き飛ばすのが一番である。

 

「あー……起きた時いないとアレだし、書き置きしとくか」

 

 1時間もかからないとは思うけど。『ランニングに行ってきます』くらい書いておけば問題ないだろう。

 

「行ってきます」

 

 そうして俺は、日も昇り切らない街中に駆け出した。




作者はスマブラクソ雑魚ナメクジ勢です。
使えるキャラ?ピット・ブラピ・シュルク・ガノンおじさんです


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番外編 爆破系美少女配信者しらゆきちゃん

なんか感想欄から書いてって怨念が飛んで来たので書きました。
いつかぶりのクリスマス短編です。
当然IFですよ?


 世の中には生主、配信者、或いはゲーマー、或いはDotuberと呼ばれる職業がある。その中でも、バーチャルなガワを被って楽しくゲームなどを配信する者を略してVtuberという。

 

「えーと、今回はちゃんとミュートになってませんね。こんボム〜です!」

 

『こんボム〜』『こんボム〜』『鼓膜の変え買ってきた』『ミュートになってるよ』『なってないよ』

 

「だ、大丈夫ですよね? いえ、大丈夫だと信じて今日も配信していきたいと思います!」

 

 つまり、今の()の職業がそれだった。しかもユキとしての姿じゃなくて、しらゆきちゃんとしての姿で。

 

 ことの発端はれーちゃんが作った性別反転装備と、割と有名なVtuberに出会ったこと。そしてギルドのみんなとVの者に乗せられて、しらゆきちゃんとして配信をしてしまったこと。そして何の因果かバズってしまったことと、何だかんだで収益化が通ってしまったことにある。

 そして、2、3回釣られて配信したら完全にハマったという訳だ。なおセナと藜さんというか、ランさん以外は何故かノリノリだった。

 

「前回は今開催中の【探索!従魔大森林-β版-】を配信したので、今回は通常サーバーですね」

 

『やったぜ』『蜂も悪くないけどやっぱりこっち』『ゆきセナてぇてぇが見れるからな!』『あかゆきだルルォ!?』『やっぱり爆破のクオリティが高いからな!』『虫系実は苦手だったんだよね……』『は?』『は?』『は?』

 

「私は大丈夫でも、虫が苦手な人って多いですからね〜」

 

 そんなことを話しながら、さて今日は何をしようかと考える。雑談配信をして欲しいとか言われてたし、いっそそういうのもありなのかもしれないけど、少しそれはプレイ時間が勿体ない気がするし……そもそも待ち合わせまでの時間潰しでもあるし……

 

「ところで今日、配信内容が思いつかなかったんですけど、何かやってみて欲しいこととかありますか?」

 

『爆破』『一心不乱の大爆破』『ミスティニウム爆破したい……したくない?』『第四の街、また爆破したくないです?』『そりゃあもう、爆破祭りでは?』『密林で鼓膜補充してくるわ』『ん?今何でもするって……』

 

 瞬間、いきなりコメントが湧き立った。そしてその殆どが爆破予告に近い内容だ。配信にハマった今でも、毎日のデイリーボーナスで第3の街にあるビルを爆破してるからだろう。

 

「何でもはしませんよー、出来ることだけです。……でも、見事に爆破ばっかりですね」

 

『前言ってたレッサーラビットとの1on1が見たい』

 

「あ、それいいですね。折角ですし、当時の装備……防御力は今の方が低いですし、初心者の杖に変えてやってみましょうか」

 

『レベルカンストでVit0』『変わらない布装備』『それ以外の性能はあるのにね』『初心者のデコピンで瀕死』『初心者装備でも実質Vit2だゾ』『初心者の杖だと、Str実質1なのにやれるの……?』

 

 レッサーラビット戦で計算に使われる能力はVitのみ。そしてVitの値は初心者用装備が5、今の装備が0である。問題はAglが今は20もあること。それじゃあ検証とは言えないから……

 

「やれてないと、今の私はいませんよ〜? あ、でも、Agl20もあったら検証にならないので、靴脱いじゃいますね」

 

『おみあし!』『おみあし民歓喜』『グローブ取ってくれてる!?』『おてて民も忘れるな!』『言うて中身男やん』『中身が割れてる分ガチ恋できる安心感』『だからこそでしょ』『セナゆきに混ざりたい』『←百合に割り込む男だ!処せ!』

 

 火がついたコメント欄を苦笑いで眺めつつ、久し振りに移動でエド・フェニックス(動詞)する。イヤッッホォォォオオォオウ式爆発紋章スケボーで一気に加速、始まりの街東側の森に到着した。

 

『また変な移動してる……』『ああ見えて超高等技術なの笑うしかない』『流石紋章術のトッププレイヤーだ』

 

「まあ、これはいいじゃないですか。それよりも、やっと出てきましたよ。レア個体ですが」

 

 久し振りに握る初心者の杖の感触を確認しながら、森の中から現れたレッサーラビット……ではなく、レア個体のホーンラビットを見据える。

 

「軽く初期並みの紋章も用意しましたし、やって出来ないわけはないですって」

 

『負けそう』『フラグがビンビン』『しらゆきちゃん敗北シリーズが増えるのでは?』『※ご覧のプレイヤーはLv80です』

 

「それじゃあ行きますよー。って言っても、作業画面になっちゃうので、軽く雑談でもしましょうか」

 

『負けフラグ』『紋章使っても良いのよ?』『慢心せずして何が王か()』『出来ればどうやって戦ってるのか教えて』

 

 そんなことを言いつつ、初心者の杖を構えて相手の動きを待つ。軽く手をくいくいと動かせば、案の定挑発に乗ってホーンラビットが飛び掛かってきた。

 少しだけ予想より早いけれど、軌道が単純すぎる突進に合わせて当時使っていた倍率で全種のデバフを付与。序でに杖のアーツの《奪撃》を起動。突進の動きに合わせて突き出した杖を引き、ホーンラビットを巻き込むようにして地面に叩きつけ、全力で蹴り飛ばした。

 

「どうやって戦ってるのか、ですか? 私がゲーム始めた頃にも同じような質問されて答えたんですけど、意味不明って言われちゃったんですよね……それでも良いならしますよ?」

 

『あっ(察し)』『しらゆきちゃんは感覚派だから……』『知ってた(当時民)』『やっぱり極振りだなって結論だった筈』『でも改めて聞きたい味もある』『分かる。それが出来れば極振りプレイヤー増えそうだし』『増えてない意味』

 

「じゃあ、懐かしですけど説明しますね」

 

 良い感じに実践も交えながらやれば、あの時よりは理解者も増えてくれるかもしれない。

 

「まずはこうやって、集中して相手を見ます。うさぎさんの一挙手一投足を見逃さないように」

 

『うさぎさん』『かわいい』『リスナーの名前火薬子なのに』『スパチャの名前が発火剤なのに』『私が育てた』『←清楚に育ってるじゃねぇか!』『お客様! 電磁発火剤を投げるのはおやめください!』『うさぎさんって誰だよ』

 

「で、立てた予測通りにうさぎさんが飛び掛かってくるので、出を魔法で潰します。それで動きが止まるので、適当に杖を突き込みます」

 

『どうして予測立てられるんですかねぇ?』『なおここまで素の能力』『リアルチートやんけ』

 

 まちぼうけの歌のように、すってんころりん転んだホーンラビットの目に杖を叩き込んだ。ここまでで減ったホーンラビットのHPは2割〜3割の中間ほど。

 

「実際、空間認識能力を限界ぶっちぎって使ってたらこうなっただけなので、リスナーの皆でもなる可能性はありますー」

 

『リアルチート育成ゲーム』『ナニカサレタヨウダ』『このゲームの上位陣はみんな使ってる……つまり?』『まあリアルで、ゲーム用剣術道場出来てるくらいだし』『←何それきになる』

 

「で、そのあとは蹴り飛ばすか、杖で掬い上げて投げ飛ばすか、自分で距離を取るかをして、動きを見るところに戻ります。空間認識能力が無くても、これくらいはやれますよね?」

 

『かわいい顔しても無理』『出来ない』『控えめに言って頭極振り』『懐かしい空気だ…』『やれますよね(むり)』

 

 話しつつ、さっきは蹴り飛ばしたので杖で掬い上げ投げ飛ばす。丁度木にぶつかってくれたお陰で、さらにHPバーがいい感じに減少する。その後の落下ダメージも含めれば、大体減らしたゲージは3割。

 

「でもやっぱり、Luk値の暴力でオールクリティカルなのが効いてますね。当時よりずっとダメージが出てます」

 

『これでダメージ出てるの?(震声)』『ホーンラビットのHPって確か50……』『これだけの攻防で20ダメージも出てない件』『12ダメージと見た』『初心者の攻撃ってダメどれくらいだっけ?』『一般的な戦士がアーツ使ったら20くらい』

 

「……え、そんなに火力出るんですか? 初心者戦士で?」

 

『出る出る』『大剣とかならもっと』『……純魔でもまだ威力は高いゾ』『素手格闘でも……うん』

 

 嘘でしょ……? 感心しながらも手と足の動きは止めることはない。自覚はしてたけど、それほど私の火力は致命的にないらしい。

 

「……慰めてください」

 

『よしよし』『膨れっ面かわいい』『よっ、トッププレイヤー』『シラユキチャンカワイイヤッタ-』『シラユキチャンカワイイヤッタ-』『シラユキチャンカワイイヤッタ-』『シラユキチャントヒスイチャンカワイイヤッタ-』『フォロワーのいない極振り!』

 

「途中から煽ってますよねそれ」

 

 ぶーたれながら、軽く雑談をこなしつつホーンラビットのHPバーを削りきる。

 いつかの経験を生かしてその後は、すぐに装備を変更してバックアタックラビットを爆殺。っと、ファンサービスも忘れちゃいけない。カメラの視点に合わせて満面の笑みを浮かべて──

 

「爆破しますよ?」

 

『ひぇっ』『ひえっ』『ゆるして』『ゆるして』『花火ルに縛り付けられるのはもう嫌だ……』『ぼすけて』『たすてけ』

 

「後この方法、ちょっと相手の防御力が上がると通じないので、私としては爆弾をお勧めします。爆弾。いいですよ爆弾。爽快です。それになんと、第二の街に到達してすぐに着く【すてら☆あーく】のギルドホームに来れば、現時点最高性能のものが売ってますからね!」

 

『流れるように爆弾推し』『本性表したね』『まさに爆破卿』『伊達にビルを花火にしてない』『自然なステマ』『自然な導入』『自然薯挿入』『おい誰だ今の』『頭に火薬でも詰まってそう』『いい匂いしそうって言って近づいた奴が、火薬臭しかしなかったって言ってた』『なおそいつは念入りに爆破された模様』

 

 そうやって30分ほどウサギと戯れていたお陰で、合流までの時間が稼げた。知覚できる範囲内にはもう入ってきてくれてるし、そろそろ話題を振っておこう。

 

「まあ、それはそれとして。今日は実はゲストを呼んでるんです」

「美味しいご飯が食べれると聞きました」

 

 カメラの位置を調節した途端、隠密とステルスを解除してその人は現れた。そう、呼んだコラボゲストとは他でもない極振りの先輩……その中でも、飛びっきりにヤバイ人。翡翠ちゃんである。

 

『ひえっ』『ヒスイチャワカワイイヤッタ-』『ヒスイチャワカワイイヤッタ-』『ヒスイチャワカワイイヤッタ-』

 

 途端に爆速で流れ始めるコメント欄。それを楽しく見ながら、配信画面を操作してタイトルを変更する。元のタイトルから【お散歩】ぶらり途中捕食旅【翡翠ちゃんと一緒】に。

 

「それじゃあ、張り切っていきましょうか!」



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番外編 爆破系美少女配信者しらゆきちゃん②

本当は文字が動くやつもやりたかったんですが、クソ面倒だったのでスパ茶だけ実装しました


 世の中には生主、配信者、或いはゲーマー、或いはDotuberと呼ばれる職業がある。その中でも、バーチャルなガワを被って楽しくゲームなどを配信する者を略してVtuberという。

 

「今回もちゃんとミュートになってませんね。こんボム〜です!」

 

『こんボム〜』『こんボム〜』『試聴しに参った』『鼓膜ないのでミュートです』『コンビニで買ってこい、390円だぞ』

 ¥500

 爆破代

 

「私の家の近くではワンコインでしたね。ということで、今日も始めていきますね!」

 

 そして、それこそが今の俺の職業だった。なんだかんだで大神ツミさんの所属する会社の人ともコラボしたりして、着々とチャンネル登録者数が増えていっている。

 結果、悲しいかなやめることは出来なくなってしまった。なんだかんだでUPO以外のゲームにも手を出すことになってしまったが、それなりに収益が出てしまっているので寧ろプラスだった。

 

「今回も前回に引き続き、新大陸にこさえた拠点の整備と探索をしていこうと思います! うへへ……良いですよねここ。まさしく桃源郷です」

 

『なおここは即死マップである』『涎助かる』『そう思うのはしらゆきちゃんだけ定期』『流石爆破卿』『誰だよこんな場所しらゆきちゃんに教えたの』『運営最大の誤算』『誰がこんな、全体に大縄跳び強要させるマップを買収すると考えたか』

 

「ちょっとお値段は張りましたけど、頬ずりしたくなりますよね!」

 

『(黙って首を横に振る)』『ちょっと(数千万)』『ちょっと(1億)』『そのちょっとで市場崩壊させる女』『いつもの極振り』『カジノで目押しでフィーバーする女』

 

 新大陸にある【悉燼の燎丘】と【尽焼の燎森】というこのマップは、もう視聴者さんも理解している通り最高だ。こんな場所を作ってくれていた運営には感謝しかない。

 

「本当ならもっともっと語りたいところですけど、それは後回しにするとして」

 

『後回しである』『語りはするのか』『また犬耳つけて?』『ブンブン回る尻尾が見える見える……』『ねこゆき見たい』

 

「前回視聴者さんの意見も取り入れて、完成した部屋がこうなってます!」

 

 満を持して、配信ユニットにプレイヤーホームの内部を移す。私から見て右を見れば火薬が詰まった棚が。左を見れば爆薬が並べられた棚が。天井には朧の巣が。そして床には、秘密の地下室へ続く隠し階段を収めた、床下収納のような扉が。

 

『人の暮らす環境じゃなくて草』『可愛さのかけらもない』『←朧ちゃん可愛いダルルォ!?』『自爆機能ありそう』『凄く楽しそうで笑う』『火 気 厳 禁』『冬場は出入りできなさそう』『信 貴 山 城』

 

「ふふふ、対策はもう万全です。前回配信で吹き飛んだ反省から、プレイヤーホーム自体は耐爆性。飾ってある棚も、ちょっとお値段が張りましたがアイテムボックスです。これで自爆スイッチを押さない限り、2度と前回と同じ轍は踏みません!」

 

 胸を張って宣言すると、窓の外で大爆発が起きた。ナイスタイミング。ビリビリと響く衝撃波が気持ちいい、部屋に立ち込める香りと合わせると、顔がにやけるのがやめられそうにもない。

 

『自信満々でかわいい』『ナイス爆破』『今日も今日とてオリジナル笑顔』『今日もいい爆破日和』『ぷはー☆今日もいい天気!』『誰かが踏み込んだんだな……』

 ¥1000

 挑戦失敗代

 

「スパチャもありがとうございます。

 とまあ、プライベートなスペースは見せませんけど、お部屋はこんな感じになってます。けど、やっぱり皆さん、外の環境見たいですよね!」

 

『このマップの探索方法は気になる』『採取アイテムがダメージアイテム強化に便利でなぁ……』『原材料が、採取難度的にほぼ極振りが独占という』『せめて寡占かカルテル組む程度にしやがれこの野郎』『女の子やぞ』『男の子やぞ』『男の子だろうと女の子として扱えば女の子なんだよ!』『法律どこ……ここ?』

 

 わっとコメントが加速する。案の定、この新大陸での攻略動画というのは気になるものらしい。実際UPOの動画配信は数あれど、私以外に新大陸を攻略しているのは1つ2つくらいしかない。到達難易度と攻略難易度が旧大陸をぶっちぎってるから、仕方ないと言えばそうなのだけど。

 

「ということで! 今回は特別に、このマップの必勝法を教えたいと思います。因みにこれは、ちゃんと他の人に教えてもいいと許可とってきたので安心ですよ」

 

『おお!』『マジか!』『やっぱりしらゆきちゃんは天使だな(掌クルー)』『まあ自分以外のレシピも欲しいだろうしね』『寧ろ爆破系レシピをどんだけ開発してるのやら』

 

 つまり私の言っていることは実質、旧大陸での活動圏を広げることに他ならない。そういう風に頼み込んだのと、私1人だと需要に供給が追いつかないのだ。だからこそ、秘密の攻略法を大公開する。

 

「先ずは魔導書を取り出します」

 

『ふむふむ』『あっ(察し)』

 

「次に魔導書を開いて、【嵐天】に天候をパパパッと書き換えて終わりです! 書き換える天候は、一番手軽なのはこの嵐天。通常プレイで入手可能な物だと、【大海】【深海】【宇宙】辺りでも問題ないですね」

 

『解散』『役に立つ役に立たない情報』『どの変更アイテムも、ドロップ率5%切ってるんですがそれは』『レア泥必須環境は草』『よし、これでいける』『これでいけるニキは頑張って?』

 

 手元にその天候書き換え装備は10個くらいあるのだが、それは言わないておいたほうがよさそうだ。コメント欄の落胆は止まらない……加速する!

 

「えっと『他の天候じゃダメなんですか?』ですか。そう思って私も、雨の天候試したんですけど……無事残機を1個減らすだけでしたね」

 

 そう、それがこの場所の攻略が進んでいない元凶の1つでもあった。ただの天候・雨では、ぶっちゃけ燃える。寧ろ爆鳴気でも生成されるのか、普段よりもかなり勢いの良い爆発が起きる。グリフィンドールに+1000点。

 

「『空を飛んだら侵入できないのか?』お仕置きモンスターみたいな、爆破の固定ダメが入らない敵に撃ち落とされちゃったんでダメですねー」

 

『新大陸攻略させる気あるのかないのかわからん』『全然わからない(恐怖)』『実際、エンドコンテンツ感はある』『いつかはこっちにも街ができるんやろなぁ』

 

 だがそう簡単に攻略をさせてもらえる訳でもない。燎丘は嵐天でも攻略出来るが、燎森は大海レベルで発火を抑えないとどうにもならない。グリフィンドール-1000点。

 

 なんて話している間に、聞こえる雨音がいい感じに強くなってきた。これなら自分から火でも付けない限り、外で動いてもマップが爆発することはないだろう。

 

「さて、雨足も強くなってきたし頃合いですね。ちょっと外を探索していきたいと思います。おぼろー、護衛おねがーい!」

 

『待ってた』『雨足強くなるの待ってたのか』『雨足強くないとマップごと爆ぜるから……』『戦闘はないようですね。爆裂に期待してたのですが』『爆裂娘だ! 隔離しろ!』

 

 寄ってきてくれた朧の分身を撫でながら、今回は装備のフードを被る。これで視聴者側にはフードを被った自分しか見えないが、敵mobには視覚的ステルスと隠蔽効果も働いた。

 

「これでよし。では行きましょう!」

 

 言って、プレイヤーホームの扉を開けた途端、吹き込んでくるのは強い雨足の中吹き荒れる暴風。それが一気に私を濡らしていく。UPOの仕様として、所謂濡れスケや過剰な肌への張り付きは発生しないから、エロに引っかかって垢BANされる心配もない。

 

「いい塩梅の天気ですね。これなら、燎丘は攻略でき……っくし!」

 

『助かる』『くしゃみ助かる』『助かる』『やっぱり女の子じゃないか!』

 ¥250

 くしゃみ代

 ¥500

 くしゃみ助かる

 ¥10000

 ¥250

 くしゃみ

 ¥500

 Bless you

 

 思わず我慢出来ずくしゃみをした途端、大量のスパチャが流れてきた。Vtuberリスナーには、くしゃみとかお水を飲んだり、お腹が鳴ったりするだけで反応するから怖い。というか何故1万スパチャが紛れ込んでる。

 

「気を取り直して。このマップでの注意点は、こうして雨が降ってても下手なことすると爆発するんです」

 

『草』『暴風雨程度じゃダメなのか……』『草(燃)』『森羅万象が弾け飛ぶマップだからなぁ』『えっ、滅尽滅相?(∴)』『節子それ違う、うんこマンや』

 

「例えば……これでいいですかね」

 

 近場にあった、綺麗に咲き誇る花。平時であればこの時点で爆発するこれも、この暴風雨の中ではまだ爆発しない。周りに妨害する要因がないこと、そして朧に警戒をしてもらいながら、花を摘む為にしゃがみ込む。

 

「ふんぬぅぅうぅぅ………!!」

 

『顔真っ赤で可愛い』『力よっわよわ』『S t r 0』『非力すぎる』『花を摘むのに全力を尽くす』『花を摘む?』『閃いた』『通報した』『雉を撃つ方が正確では?』『つまりホモでは?』『可愛ければどっちでもいいだろ!?』

 

「抜け、たぁ! ぁぁっぶな()ったぁ!?」

 

 うっかり尻餅をつきかけたのを朧に助けられつけつつ、球根ごとひっこぬけた花を掲げる。状態は、割と悪くはない。土が付着していたら危なかった。

 

「んっ、こうやって抜いても、土が大量に付いてたり、気を抜いて草の上に置いたりすると爆ぜるので気をつけてくださいね」

 

『みえ』『みえ』『撮影班に抜かりはない』『使える』『使えない』『切り抜いた』『助かる』『はいセンシティブ』

 

 と、気がつけばコメント欄にはそんな似たり寄ったりなものばかり。何か失言でもしただろうか? まあ、警告来てるわけでもないしいいや。

 

「因みにこの植物、コーラ味なので極振りのにゃしい先輩と同じ味です」

『ガタッ』『ガタッ』『うせやろ行ってくる!』『何バラしてるんですか!?』『食べ……えっ、たべ?』『成長しましたね』『度し難いぞ!』『素晴らしい……これが祝福なのですね』『ボ卿、ステイ』

 

 とりあえず危険物をアイテム欄に入れ、次の目標を採取するべく歩き出す。見えてるのに遠い、なんか会話を保たせなければ。

 

「そういえばこの前、リアル幼馴染と一緒に買い物行ったんですよ。女装させられて」

 

『!?』『リアル幼馴染』『百合営業していけー?』『でた、セナ=サンとの百合営業だ!』『待ってた』『ノーマルカプでは?』『ひすゆきください』『ねこゆきくだざい』『セナゆきダルルォォ!?』

 

「ちょっとウィンドウショッピングだったんですけど、まだ絶滅してなかったんですね。ナンパしてくるチャラ男って」

 

『死刑』『百合に挟まる男は死ね』『俺も混ぜてくんない……?女同士でヤってるとこ』『あれは確かどっちも男じゃなかったっけ』『百合に挟まるべからず』『観葉植物になって見てるくらいが丁度いい』

 

 実際、昨日セナと一緒にアイスを食べてたら絡まれたのだ。俺が巻き込まれるのは珍しいが、昔からこういうのは慣れてるから一蹴したが。

 そんなことを思い出しつつ、明らかに不審に絡まれたこと。私がセナに伸ばされた手を払ったことから、カッとなった向こうが襲いかかってきた(のちに勘違いと判明)こと等を話していく。

 

「それで取り敢えず撃退したんですけど、最終的に幼馴染を抱えて逃げることになって……あっ、採取物見つかりましたね」

 

『待ってくだされ!もっと、もっと見せてくだされ!』『なっつ』『話の続きぃ!』『そこで切る!?』

 

 と、丁度話が終わることになってお目当ての竹やぶに辿り着いた。その後、なんかコメントが引き止めてくるけど、チャラ男'sの片方は私に、もう片方がセナを誘い始めて、セナにキスされて決着がついたことは秘密だ。

 

「因みにこの竹、良い素材になるんですよねー」

 

 なんて話に話題を切り替えて、適当に雑談しながら配信を続けていく。事の顛末を気にしている人が多いから……まあ、後で某SNSアカウントにでも上げればいいか。

 




本編ユッキーも女装は似合います


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第0話 設定集

という名の、感想に寄せられた疑問を解決するためのコーナー
これメインじゃないから、規制に引っかからない…よね?

本編は1話から

※この設定は現時点のものです
※恐らくこれからも追記されていきます


更新 2019 12月8日

 

《防具の平均的な性能》(順次更新)

 

防具 : 服(市販最高級)

【体】Vit +30 Min +25

【手】Vit +20 Dex +25

【足】Vit +30 Min +20

【靴】Vit +25 Agl +30

 

防具 : 服(プレイヤーメイド最高級)

【体】Vit +50 Min +50

【手】Vit +40 Dex +45

【足】Vit +50 Min +45

【靴】Vit +40 Agl +50

 

・特徴誰でも装備する事が出来る

・ただし性能は極めて低い

・大体ファッション用

・見た目重視の人は装備してるかも

 

防具 : 軽鎧(市販品最高級)

【体】Vit +70 Min +60

【手】Vit +50 Dex +60

【足】Vit +50 Min +60

【靴】Vit +50 Agl +60

 

防具 : 軽鎧(プレイヤーメイド最高級)

【体】Vit +120 Min +100

【手】Vit +80 Dex +100

【足】Vit +90 Min +100

【靴】Vit +80 Agl +100

 

・装備には、素のVitのステータス値が最低25必要

・性能はピンキリ。ただし服とは比べ物にならない

・皮や金属等々素材はバリエーションに富む

 

防具 : 重鎧(市販品最高級)

【頭】Vit +95 Min +100

【体】Vit +200 Min +150

【手】Vit +150 Min+50 Dex -30

【足】Vit +100 Min +80

【靴】Vit +100 Min+60 Agl -20

 

防具 : 重鎧(プレイヤーメイド最高級)

【頭】Vit +200 Min +175

【体】Vit +400 Min +250

【手】Vit +250 Min +150 Dex +50

【足】Vit +200 Min +180

【靴】Vit +200 Min +160 Agl +25

 

・装備には、素のVitステータスが最低60必要

・とても高性能。しかしAglとDexが低下する事が多く、慣れない人の場合行動が阻害される事もままある。

・大体が金属系。装備難度も、製作難度も高く、NPCの販売価格もとても高い。

 

《特殊装備(ユニーク系)について》

 販売・譲渡不可のユニーク称号に付属するアイテム

 

《特殊装備(強化外装系)について》

 性能は完全に製作者に依存するが、基本的に極めて高性能で自由なカスタマイズが可能。

 装備中、特殊装備と重なる範囲の武器防具の効果は打ち消される。

 制作とは別に、戦闘中に装備変更したい場合は召喚具と呼ばれるアイテムとアクセサリー枠を全て消費しなければいけない。

 稼働時間があり、10分〜1時間程。性能が高ければ高いほど、稼働時間は短くなる。1度稼働時間をオーバーした場合、稼働時間と同じクールタイムを経なければ装備出来ない。メンテナンス・維持費として、相応の金額を毎年支払わなければいけない。

 

 例外として、傀儡師のユニークアイテムから取れる物を素材として使った場合、1時間の壁を突破することが出来る。

 

 制作必要Dex値 500

 基本制作必要金額 100万D

 別途消費素材 多数

 

 

《防具価格》

 

 第1の街NPC

 服 : 500〜10,000D

 軽鎧 : 1,000〜20,000D

 重鎧 : 5,000〜100,000D

 

 第2の街NPC

 服 : 1,000〜15,000D

 軽鎧 : 2,000〜30,000D

 重鎧 : 10,000〜150,000D

 

 第3の街NPC

 服 : 2,000〜20,000D

 軽鎧 : 3,500〜40,000D

 重鎧 : 15,000〜200,000D

 

 第4の街NPC

 服 : 3,000〜25,000D

 軽鎧 : 5,000〜50,000D

 重鎧 : 20,000〜250,000D

 

 第5の街NPC

 販売なし

 

 第6の街NPC

 服 : 3,000〜30,000D

 軽鎧 : 6,500〜60,000D

 重鎧 : 20,000〜300,000D

 

 第7の街NPC

 販売なし

 

 職人プレイヤー

 要相談。人による

 

・左端の金額は装備の1番安い部分の中で、最も安い物の値段

 

《スキル》

 AS(アクティブスキル)とPS(パッシブスキル)が存在している。

 最低で10,000D

 種類により、値段はまちまち

 

 スキルは各プレイヤーの基礎ステータス、持つスキル、戦闘スタイルによって取得できるものが変化する。また、プレイヤーからは確認出来ないが熟練度があり、進化可能なスキルであっても進化させずに使い続けることで、稀に別の進化先が出現することがある。

 

《ステータス》

 Str : 物理的なパワー。獲物を振るスピードにも影響

 Vit : 物理的な防御力。スタミナにも影響

 Int : 魔法的なパワー。魔法の成功率にも影響

 Min : 魔法的な防御力。状態異常への耐性にも影響

 Dex : 器用さ。様々な行為の成功率、遠距離戦の命中率に影響

 Agl : 速さ。移動速度、攻撃速度に影響

 Luk : 幸運。クリティカル発生率、アイテムドロップ率に主に影響。その他様々な行為に対して代用ロール化

 

《称号》

 ありがちなやつ。

 何か特定の行動をした場合に取得できる可能性がある。称号によって、様々なステータス補正などのボーナスを得ることが出来る。

 一度取得したら、永続的に効果を発揮する。

 

《極振りのデメリット》

 初期のステータス割り振り時に割り振ったステータスが0で発生

 

 初期HP・MP半減(全ステ中、2箇所に振れば回避可)

 Str : 物理攻撃力低下・攻撃速度微減少

 Vit : 被物理ダメージ増加・スタミナ低下

 Int : 魔法威力・成功率低下

 Min : 被魔法ダメージ増加・被状態異常確率増加

 Dex : 遠距離攻撃命中率低下・道具作成成功率低下

 Agl : 移動速度低下・回避スキルの無敵時間消失

 Luk : クリティカル発生率低下・アイテムドロップ率低下

 

《一般的なプレイヤーのステータス》

 戦士的なタイプ

 Lv 1

 HP 100/100

 MP 50/50

 

 Str : 50  Dex : 20

 Vit : 40   Agl : 35

 Int : 5   Luk : 10

 Min :40

 

・ステータスのどれかが100を突破するのは、満遍なく育ててれば多分20に到達する頃。どれかを尖らせるなら、15付近で到達すると思われる。

・HP&MPの補正云々は、計算式作りました。

 

《ギルドについて》

 月ごとに一定のゲーム内通貨(以下D)を支払う事によって手に入る、内装外装共にプレイヤーが自由にカスタム可能な建物。カスタムにはDが必要。またDを支払う事によって、街に存在するギルドでNPCを雇う事もできる。維持費はカスタムの具合によって変動する。

 

「店舗として経営することでの一定の収入」「ギルド毎のイベントへの参加権」「活動拠点の確保」「メンバーの個人で使用・カスタム出来るルームの取得」「宿屋としての機能(ゲーム内通貨を使用し、状態異常やHPMPの回復)を無料で使用可能」「多数のアイテムを格納出来る倉庫の解放」「銀行システムの解放」

 

 等のメリットが、ギルドに加入すると発生する。基本、維持費はプレイヤー個人で賄える物ではないので、積極的にプレイヤーを勧誘し交流を楽しもう! ギルドメンバーは、最大20人である。

 

 

《街について》

 第1の街【始まりの街】

 ・モチーフ : 中世

 ・特徴 : 特に際立ったものは無し

 

 第2の街【メフテル】

 ・モチーフ : 和風

 ・特徴 : 食べ物が美味しい、ほのぼの

 ・解放機能 : ギルド関連

 

 第3の街【ギアーズ】

 ・モチーフ : 近現代

 ・特徴 : ジャンクフード、裏社会的サムシング、転換点

 ・解放機能 : 機械関連、クエスト機能

 

 第4の街【ルリエー】

 ・モチーフ : ファンタジー

 ・特徴 : 水路、魔法、ファンタジーフード

 ・解放機能 : なし(レイドボス戦開催地)

 

 第5の街【シェパード】

 ・モチーフ : 遊牧民

 ・特徴 : ペット、発酵食品

 ・解放機能 : ペット

 

 第6の街【グルーヴェド】

 ・モチーフ : SF

 ・特徴 : スチームパンク風

 ・解放機能 : 機械製作関連のテコ入れ

 

 第7の街【ミスティニウム】

 ・モチーフ : ファンタジー

 ・特徴 : エルフ的建築物

 ・解放機能なし(レイドボス戦開催地)

 

《武器の種類の1部》

 片手剣

 ・戦士タイプとしては最も一般的な武器。ビームは出ない。

 

 大剣

 ・重さとパワーで敵を圧殺する武器。使う人次第で山をも斬れるぞ!

 

 刀

 ・サムライブレード。斬撃は飛ばせる。

 

 短槍・長槍

 ・手頃な取り回しと乱撃が得意な武器

 ・取り回しに難がある分、一撃の威力が高めの武器。大剣より防御に秀でる。

 

 短剣

 ・手頃な取り回しと、クリティカル威力が自慢の武器。ただしリーチは短い。

 

 斧

 ・マッスルゥゥ

 

 長杖

 ・魔法使いタイプとしては最も一般的な武器。

 

 短杖

 ・取り回しが楽な分、長杖より射程・威力・正確さが劣る武器。魔法戦士タイプに人気。

 

 魔導書

 ・短杖と長杖の中間くらいの性能の武器。ただし使用する魔法の種類をあらかじめ設定しなければいけない。鈍器にもなる。

 

 指環

 ・短杖よりさらに射程と威力が落ちる分、装備枠ではなくアクセサリー枠を消費する装備。大抵発動できる魔法は1つ。

 

 銃

 ・取り回しが楽、レベルに関わらず一定のダメージ、長めの射程と便利。しかしその分、残弾、故障、破損による使用不可、暴発と面倒さも揃った武器。

 派生として、拳銃、機関銃、狙撃銃、アンチマテリアルライフル等様々なものがある。

 

 爆弾

 ・固定ダメージアイテム。主人公の愛用品。

 ・爆竹は爆弾ではないので、1スタック99個。イイネ?

 

《天候・地形効果について》

 イベント中、若しくはボスフィールド等の特別な場所でのみ適応。指輪での書き換えは、後者の“特別な場所”に該当する。

 尚、感じる不快感と効果は別である。

 

・死界 ※イベント限定地形

 腐食・獄毒・祟り・汚染

・天上 ※イベント限定地形

 妖精・リジェネ・加護・耐性

 

・嵐天

 確率装備解除・転倒確率上昇・属性効果低下(炎)

・猛吹雪

 HPスリップダメージ(氷)・確率行動不能・属性効果低下(地)

・砂嵐

 HPスリップダメージ(熱)・渇き発祥速度2倍・属性効果低下(氷)

・濃霧

 攻撃命中率低下・スキルリキャストタイム増加・MPスリップダメージ

・火山

 HPスリップダメージ(複合)・渇き&空腹発症時間2倍・属性効果低下(水)

・高山

 運動機能半減・属性効果増加(水・風・氷・炎)

・墓地

 確率移動阻害・属性効果低下(闇)・MPスリップダメージ

・快晴

 ダメージカット15%

・森林

 空腹発症時間1/2

・浜辺

 渇き発症時間1/2

・草原

 なし

・あられ

 HPスリップダメージ・確率装備解除(極低)

・聖堂

 光属性効果上昇・闇属性効果低下・リジェネ

・宇宙

 範囲内の重力と慣性をカット

 隠し効果として狂気神話系呪文を強化

 HP・空腹にスリップダメージ

 発声不可

・大海

 範囲内を腰くらいまで浸かる海水で埋める

 装備耐久率減少(大) 水・風属性強化

・深海

 行動阻害(大)・HPスリップダメージ・発声不可

 視界不良(2m)・火属性使用不可

・終末

 風化(極大)

 HPスリップダメージ(その時点での3%/2s)

 MPスリップダメージ(その時点での3%/2s)

 属性効果低下(全)

 道具耐久値損耗(100/2s)

 2秒ごとランダムに空間に状態異常を付与

 天候制圧

 汚染残留

 

《天候の書き換えについて》

・基準

 通常の運営が設定した天候。優先度【0】

 

・変化

 優先度【1】市販アイテム、又は製作されたアイテム

 優先度【2】魔法、魔導書から発動されたもの。又はスキルか、レアドロップ(該当者 : ユキ)内訳はレア泥>スキル>魔法・魔導書

 優先度【3】天候制圧の効果があるスキル(該当者 : 翡翠)

 

・優先度

 数が大きくなればなるほど、優先度が高い

 

・拮抗

 同じ優先度の効果がぶつかり合った時、発動者のInt + Min 値の合計で対抗ロールが発生する

 

 

 

《イベント》

 公式

 第1回『灰の魔物と失われた王冠』

 第2回『夏だ!海だ!いいや山だろ?なんだ手前?うるせぇサバイバルだ!』

 特殊 : 第4の街ボス戦闘(レイド・防衛)

 第3回『十の王冠、不敗の巨塔』

 第4回『ミスティニウム解放戦』

  +非公式『極振りレイド戦』

 第4.5回『探索!従魔大森林 -β版-』

 第5回『正月礼賛、餅つき兎は最強の夢を見るか』

 

 番外編

 第1回『刃連多隠(バレンタイン)デス・バトルロイヤル』

 第2回『怒鬼☆怒鬼☆覇露勝利!〜ポロリもあるよ!』

 第3回『聖夜の果てに』



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本編
第1話 始まり


※基本的にふざけてるので、完成されたゲーム性とかは期待しないでくださいな
※気に入らないならプラウザバック、良い作品は他にごまんとあります


 キーンコーンカーンコーン。

 そんな慣れ親しんだ音を目覚ましに、俺は目を覚ました。未だ靄がかかった頭で見上げた時計は午後3時35分を差し、近くの黒板には数式が書き連ねられていた。先生は既にいないようだ。

 大体10分くらい寝てた計算か。まあ、多分それくらいなら大丈夫だろう。そこまで苦手な教科じゃないし。

 

「ふわぁ、眠」

「眠、じゃないでしょとーくん!」

「ふぐっ……」

 

 ベシリと頭を叩かれ、机に顎を強かに打ち付けることとなった。痛い、実に痛い。寝起きの微睡みタイムを吹き飛ばすくらいには。

 

「なんだよ沙織……ちょっと寝てただけじゃん……」

 

 授業をサボったという背徳感と寝起きのレムレムした多幸感をぶち壊してくれた女生徒の名は、瀬名(せな)沙織(さおり)。一応俺の幼馴染で、なんていうかとてもちんまい。具体的に言うと、160台後半の俺から見て結構低いので、身長は大体150付近といった所だろう。

 腰に手を当て、ぷんぷんという擬音が似合いそうな感じで怒りながら、こんなことを言ってきた。

 

「ちょっとでも大変だったんだよ! とーくん先生に指されても起きないし、揺さぶられても起きないし、先生カンカンだったんだからね?」

「マジ……?」

「マジだよ」

 

 それは…少し不味くないということがあるだろうか? いや、不味い(反語) でも今から行っても間に合わない、ナンテコッタイ。

 

「まあ、そんなことはどうでもいいの」

「おい」

 

 結構これって重大な事だと思うんですけど。や、確かに寝てた俺が悪いと言われれば何の反論もできないのだけれど。

 

「とーくんも知ってるよね? 明日、あの『Utopia Online』の第二陣が発売するんだよ!」

 

 因みに、とーくんというのは俺の愛称だ。お察しの通り、そう呼ぶのは沙織だけだが。ちゃんとした名前は幸村(ゆきむら)友樹(ともき)。両親が職場に泊まり込む日が大半で、ほぼ一人暮らしなことくらいしか特徴のない高1だ。

 

「まあ、一応はな。アレだけニュースでも話題になってるんだし、知らない方が珍しいだろ」

 

 『Utopia Online』――フルダイブ技術が一般にも解禁されたせいで発生したVRブーム。そのお陰で氾濫したゲームの中、造形とかの作り込みが1段階違うと噂のゲームだ。

 内容は、よくある感じの剣と魔法のファンタジー物。だけど所謂ラスボスは、今のところ見つかってないとのこと。そして、開発陣の趣味で、一部では機械関連の物品が当たり前のように使われてもいると特集されていた。

 ……どこへ行ったファンタジー。戦車や爆撃機部隊に蹂躙される魔王なんて悲しい現実、俺は見たくないぞ。

 閑話休題

 けれど、その謎を上回って有り余るディティールの作り込みと、様々なスキルによるやり込み要素が相まって人気が爆発したとか何とか。確か朝のニュースでそうやっていたと記憶している。

 

「ふっふっふ、とーくんはやりたい?」

「んー、まあまあ?」

 

 やりたいかと聞かれればやりたいが、今となっては遥か昔のゲームに嵌ってる今、何が何でもやりたいとまではいかない。昨日も盛り上がったせいで徹夜するまでやっていたのだ。至高の天は怒りの日にあった。

 

「それじゃあやろうよ! VRゲームの機械は持ってたでしょ?」

「持ってるけど、今は他のゲームを……」

「やーろーうーよー!」

 

 机をバンバン叩き、子供のように駄々を捏ねてそう言ってきた。うん、身長的にも正に子供ですね。しかも涙目。これは、このまま拒否ったら泣き出される。明日明後日は土日だし……泣き出されるのは嫌だし…仕方ない。

 

「わかった。けど、俺はソフトを持ってないぞ? 確か予約も取れないし第二陣なのにもう徹夜組がいるとかで、店頭販売でも購入は絶望的って聞いたんだが?」

「ひれ伏すが良いんだよ!」

 

 スッと机の上に置かれたのは、そこそこの大きさがある箱。つまり『Utopia Online』のパッケージだった。なんて物を学校に持ってきてるんですかねぇ……

 

「ははぁ……って、何でここに? というか、何で?」

「とーくんと遊びたいからに決まってるじゃん!」

 

 ふふん、と満面の笑顔で沙織は言う。

 

「それは分かったけど、正直こんな高いもの受け取れないんだが……というか、俺に渡したら沙織の分がないんじゃないか?」

「いや、これはロボット掃除機目当てで出した懸賞の外れだから特に問題ないよ? むしろ、とーくんと一緒に遊べるからwin-winだね!」

 

 どこからどう見ても幸せといった表情で、鼻唄まで歌い始めた。そろそろ他のクラスメイトからの視線が痛い。リア充爆発しろという意思がひしひしと伝わってくる。別にそういう関係ではないのだけれど。

 簡単に言えば、非常にこの場から立ち去りたい。

 

「分かった、受け取る。受け取るから場所変えような?」

「いぃぃやったー!!」

「ちょっ、いきなり抱きつくな、周りの目が凄いから!!」

 

 それと、いくら幼馴染でもこういうことを人前で、衆人環視の中堂々としていい年齢じゃないから、ないから!

 

 

「……来週から、学校行きたくないなぁ」

 

 それじゃあ私は部活があるから、とパッケージを俺に押し付けて去っていった沙織のせいで、気分が若干憂鬱だ。幾ら幼馴染って公言してる(勝手にされてる)とは言っても、アレは流石に弄られる。

 

 第一なんだかんだ言って沙織は人気者なのだ。低い身長、長い黒髪、胸とかはお察…スレンダーな体型だけど部活もやっている。見事に日本人男子(一部)の好みに嵌ってますね。

 対する俺はイケメンと言えるほど顔が整ってるわけでもなく、中肉中背。勉強もできるはできるがトップとは言えない点数で、中学のときに燃え尽きたので部活は帰宅部だ。

 はい、どう考えても不釣り合いです。しかも今の俺は例のゲームを受け取っていて、その光景を色々な人に見られてるわけで…

 

「闇討ち案件ですね分かります。よし、早く帰ろう」

 

 安易に「貴様、見ているな!」なんて言って本当に闇討ちされても困る。徒歩じゃ逃げ切れないだろうし、早く家に帰るに限る。

 

「ん?」

 

 そう思って足を早めたとき、ポケットに入れていた携帯が振動した。足を止め開いてみれば、どうやらSNSでメッセージが送られてきたようだった。

 

『今日の夜10時に、始まりの街の噴水前で待ち合わせね!』

 

 表示されている文を見れば、誰からのものかは一目瞭然だった。

 現在の時刻は午後4時。キャラメイクやVRに慣れるのには、そこそこの時間がかかる。そして、リアルでやることを色々済ませなければいけないとして、大体使える時間は4時間。

 

「……走るか」

 

 家はそこまで遠くないとはいえ、使える時間が多いに越したことはないだろう。

 料理、風呂、洗濯、情報集めetcetc……軽く挙げただけで、やるべきことは山積みだった。折角手に入れたとても古い積みゲー達の消化は、暫く諦めるしかなさそうだ。



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第2話 ログイン①

 久し振りに取り出した、VR用の機械であるヘッドギアの埃を払った。シャワーは浴びたし、ベッドも準備を終えた。夕飯はカレーを作っておいたし問題はないだろう。

 

「よし、とりあえずこんなもんだな」

 

 パンパンと手を払って俺は呟く。

 少し弄ってみたけれどどこも壊れてないようだし、いよいよゲームの世界に旅立つ時だ。とは言っても「リンクスタート」などと言う必要はない。 ヘッドギアを装着し、側面にあるボタンを押すだけだ。

 ごめんなさい見栄張りました、音声認識が搭載されてるやつを買えなかっただけですはい。高級品は、学生がお小遣いで買えるほど安くないのだ。

 

「戸締まりはした、父さん達は帰ってくるとしても深夜。準備は整った!」

 

 ゲーム中、自分の身体を無防備に晒すことになるのだから、注意はいくらしても損はない。ゲーム機側にも様々な安全装置や緊急時の強制ログアウト機能はあるが、それでもゲーム中の空き巣は多い傾向にある。特に俺の家のような一軒家の場合は。その点、沙織の家はマンションのそこそこ高層階だから心配はないだろう。

 話が逸れた。

 ゲーム内からでもネットに接続はできるようだし、早めにログインしてしまおう。ヘッドギアを装着し、ベッドに寝転がる。

 

「ふぅ……バーストリンク!」

 

 スイッチを入れて、小声で叫ぶ。

 言葉を話す必要はなかったんじゃないかって? それはもう、徹夜テンションが悪い影響を出してきたとしか言えない。

 そんな無駄なことを考えているうちに、俺の意識はスッと遠のいていくのだった。

 

 

 気がつくと俺は、特に何もない空間に1人立っていた。多分ここが所謂チュートリアル空間なのだろう、俺は詳しいんだ。wikiを見ただけだけど。

 

「ようこそ『Utopia Online』の世界へ

 先ずは、あなたの名前をお教えください」

 

 1人で脳内会議を開いていると、そんな明らかに合成された声が聞こえた。うん、まあ不特定多数を相手にするにはこれくらいで丁度いいのだろうね。

 

「名前、名前か……ユキと」

 

 表示された画面に、カタカナでユキと打ち込む。幸村だからユキ……安直だけど、これが最初に思いついたし良いだろう。他のゲームでも使ってるし。

 

「ではこれより、チュートリアルを開始します。

 この世界についての説明は必要でしょうか?」

 

 そう問いかける声とともに、手元に薄青色のウィンドウが展開された。そこにはYes/Noのボタンのみが存在していた。

 百聞は一見にしかず、躊躇なくYesのボタンをタッチする。

 

「それでは、説明を開始します」

 

 そうして説明してもらったことは、大体は事前に調べた通りのものだった。世界観や、所謂職業が存在しないこと、そして大まかなストーリー。

 けれど、色々と新しい情報を得ることもできた。

 それはネットでは調べきれなかったステータスやスキルについて。

 このゲームではステータスは、HP・MP・Str・Vit・Int・Min・Agl・Dex・Lukの9種類に分かれている。基本的な意味は、Strが物理攻撃、Vitが物理防御といったようにテンプレートをなぞっているから説明の必要はないだろう。

 けれど、そこに若干の追加効果があった。Strを上げれば瞬発的な速度が上がるし、Vitを上げなければ持久力がなくなる。後は…Lukがクリティカル率にも多少関係がある。そして、それらの割り振りによってボーナスがあるとのことだった。

 

「説明は以上です。キャラメイクに移行します

 アバターデータの存在を確認しました。使用しますか?」

 

 そんな音声とともに、目の前に自分の姿が投影された画面が現れた。当然Yes。それはこの世界で活動するための身体。全く弄ってないから、現実の身体と何ら変わりはないけど。

 どうやら髪や眼、耳などのパーツは細かく弄れるようだが、身長や体型はほぼ弄れないようだ。現実との差があり過ぎると問題があるのだろう。

 

「まあ、特に弄ることもないか」

 

 髪色を弄っても違和感しかないし、身長もシークレットブーツ程度しか変化できない。…少しだけ、後ろ髪を長くしてみるか。

 決定を押した瞬間、一瞬だけ俺の体を光が包んだ。触ってみれば、その通りの変化が起きていた。現実でもできないわけじゃない変化だし、これで問題ないだろう。

 

「続いて、ステータスの設定に移行します。チュートリアル中は幾らでもリセットが可能なので、ご自由に設定してください」

 

 そんなチュートリアル音声さんの声に合わせて、Yes/Noしか存在しなかった画面が切り替わった。

 

 

 ユキ

 

 Str : 0  Dex : 0

 Vit : 0   Agl : 0

 Int : 0   Luk : 0

 Min :0

 

 残存ポイント 200

 

 

 所謂ステータスの割り振り画面である。

 ここで自分のキャラとしてのこれからを決めることになる。基本的には満遍なくポイントを振り、その中で個性を出していくことになる。StrとVitに多く振れば能力は筋肉モリモリのマッチョマンの変態に、Intに多く振れば正統派魔法使いに。とても重要な作業なので、やり直しができるのはありがたい。

 何せ、このゲームで自動で上がってくれるステータスはHPとMPのみなのだ。他の値は、レベルアップ時にもらえる10ポイントを割り振るしか伸ばす方法がない。

 更に言えば、HPやMPの上昇値も他のステータスに影響されるのだ。基本レベルが1上がる毎にHP・MPは50ずつ上がり、そこに様々なステータスによるボーナスが入るらしい。詳しい計算式は知らない。

 

 たとえステータスが0でも何もできないわけではないが、それはできても『よく動ける人』程度までだ。そんな現実と同じ身体能力じゃ、この仮想空間では致命的な弱点にしか成り得ない。

 

 つまり何が言いたいかと言うと、極振りする人はマゾ。

 ネットに転がっていた記事を漁った限り、極振りの成功例は今のところ0。デメリットが大きすぎでまともなプレイができず、全員がキャラのクリエイトをし直したという。

 そんなネットの力全開で調べた知識を基に、割り振った俺のステータスはこんな感じだ。

 

 

 ユキ

 

 Str : 0  Dex : 0

 Vit : 0   Agl : 0

 Int : 0   Luk : 200

 Min :0

 

 残存ポイント 0

 

 

 いやぁ、極振りって浪漫ですよね。

 ほぼ全員に馬鹿と言われるような構成だけど、俺だって何の考えもなしにこう割り振ったわけじゃない。極振り系の記事を漁ったのはいいが、どこを探してもLukのものだけはなかったのだ。二番煎じとか嫌だし、前人未到とか何か憧れる。

 それに、たとえStrやIntが0でもダメージが与えられないわけではないのだ。武器や魔法の威力が最低値になり、後者は暴発しやすくなるだけだから何の問題もない。だから決して、徹夜テンションで決めたなんてことはありはしないのだ。

 

 そしてその過程で、俺は面白い副産物をゲットしていた。それは、沙織がどうやらβ版からプレイしてるトッププレイヤー……所謂廃人様だということ。そんなガチ勢に、今から始める俺がまともなプレイで追い付けるだろうか? 答えは否だ。どうやったって無理ですありがとうございました。

 

 というわけで、全力で遊びに走る。最低限戦えれば俺としては文句はないのだ。最低限すらないとか言っちゃいけない、試してみないとわからないだろ……(震え声)とりあえず割振りは終わったので、決定して次に進む。

 

「続いて、武器の選択に移行します」

 

 音声さんの声によって、手元の画面が変化しズラッと大量の武器の名前が画面に表示された。その大半が暗くなり、装備ができないと表示された状態だったが。

 

「やっぱりか……」

 

 オーソドックスな片手剣から鎖鎌なんてものまで選択できる中、俺が装備できるのはほんの数種類だった。

 短剣・短杖・長杖・短槍、そして弓。片手剣すら装備させてもらえない悲しみ。極振りさんの受難その1だね。

 

「仕方ない、ここは長杖一択かな」

 

 短剣や短槍での超接近戦はできるはずもなく、弓は弓道をしているわけでもないので当たるわけがない。たとえ【スキル】の補助があっても、そこはさして変わらないだろう。

 だから短杖か長杖かの二択になるわけだが、短杖はいわゆる魔法戦士のようなプレイスタイルの人向けの武器らしい。ゆえに長杖一択だ。

 

「うん、十分いけそう」

 

 念じると手の中に光が生まれ、ずっしりとした木の感触を感じられた。出現したのは、いかにも魔法使いが持っていそうな木の杖。なんの飾りもない、初心者感が溢れるものだった。

 

【初心者の長杖】

 Str +3

 Int +10

 耐久値 無限

 

 性能は剣とかに比べれば劣るけど、これで殴ればそこそこはいける気がする。壊れないし。

 




説明回的なのは、もうちょっと続きます。

アジリティ(Agility)の略称表記がAgiではなくAglなのは仕様です


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第3話 ログイン②

【耐久値】
 ありがちなやつ。
 アイテム毎に設定されていて、0になると壊れる。
 0になっても下着にも全裸にもなりません。きわどい感じでボロボロにはなります。
 


「続いて【スキル】の選択に移行します。スキルのセット可能数は最大10、ここでは5つまで選択可能です」

 

 そして武器の名前が書かれていた画面から、武器の数の倍以上の【スキル】が書かれた画面に切り替わった。

 【スキル】というのは、大抵のゲームと同様に自分を強化したり、魔法を使うために必要な…装備品とか才能とかそういう系統のものだ。そして、これが『Utopia Online』のやり込み要素らしい。

 【スキル】は、どうやらプレイヤーの行動によって、強化・派生していくとのことだった。単に小→中→大のように成長するだけでなく、名称が大きく変わったり、類似したスキルに進化したり色々あるらしい。

 

「ソート機能は……よし、あった」

 

 最大10個セットできるうちの5つではあるが、この莫大な量から選ぶのは骨が折れる。トコトン親切仕様でありがたい。

 この場での選択以外でスキルを取得する方法は『売られている物を買う』『特定の行動を起こす』『取得チケットを入手』の3種類が基本らしい。最後のはほぼイベント限定らしいし、俺には関係ないね、きっと。

 

「最低限戦えるようにするのと、お巫山戯スキルに走るとして……」

 

 余談だが【スキル】を10個以上取得している場合、任意の【スキル】を外して控えに置いておくことができるらしい。変更は戦闘時以外はいつでも可能で、控えておける数は最大10だとか。

 控えの枠を増やすことはできるが、課金か課金アイテムが必要らしい。まあ、そこら辺はゲームだから仕方がないか。

 

 

 うんうんと悩むこと十数分、極振りということもあって、そこそこ早く決められた方だと思う。そして選んだスキル群がこれだ。

 

【幸運強化(小)】

 Luk上昇 5%

 

【長杖術(小)】

「長杖」装備時、魔法のリキャストタイムを5%カット

 耐久値減少を半減

 

【投擲】

 物を投げて攻撃するスキル

 スキルレベルとステータスによって、射程・威力・命中率上昇

 

【付与魔法】

 自身及び敵味方に魔法を付与するスキル

 使用可能魔法

 ・基礎ステータス強化系

 ・基礎ステータス弱化系

 

【愚者の幸運】

 愚か者のみが手に入れることのできるスキル

 自身のLuk以外のステータスを強化する際、必要なポイントが通常の4倍になる

 自身のLukの値を2倍にする

 

 

 最後のは、極振りさん専用のスキルと調べがついている。全員がキャラを作り直してるとはいえ、ここは先達に倣おう。

 回避系のスキルは入れないのかって? 調べた限り、Aglが0の場合『徒歩と同じスピードで、無敵時間が無く、勝手に身体が動かされる』という非常に残念なものに成り下がるらしいから無しだ。

 そして見てわかる通り、物を投げつけて倒す。近付いてきたら杖で殴る。付与魔法のバフとデバフで頑張ろう。そんな戦い方が丸見えの構成だ。卑怯とかかっこ悪いとか言うなし、言うなし……

 

 もうどうにでもな〜れという気分で決定のボタンをタッチし、このチュートリアルを終わらせにかかる。

 

「続いて、防具の選択へ移行します」

「知 っ て た」

 

 さっきと同じように切り替わった画面。そこに表示される文字は、やはりほぼ全てが暗くなっていた。

 少し前に挙げた重戦士タイプが装備するらしい鎧類は当然装備不可。一般的な剣士タイプが装備する軽鎧の類も装備不可。唯一残ってる物は、服系統のみ。極振りさんの受難その2だね。

 

「ああうん、選べるのは3箇所だけなのか」

 

 このゲームでは、装備は【頭】【体】【手】【足】【靴】の5箇所。武器や装飾品(アクセサリー)は別枠での装備になる。

 ここで選べるのは、そのうちの【体】と【足】【靴】の3箇所のみ。それは、全員が変わらない部分と書いてあった。鎧と服とじゃ、性能に雲泥の差があるが。

 

 一先ず性能については置いておくとして、俺が選んだのは白っぽいローブだ。黒だと何か攻撃魔法を使いそうなイメージがあるしね。

 

【初心者のローブ(白)】

 Vit +2

 Min +3

 耐久値 無限

 

【初心者のズボン(白)】

 Vit +2

 耐久値 無限

 

【初心者のブーツ】

 Vit +1

 Agl +2

 耐久値 無限

 

 性能はお察しのようだけど、壊れないというのは非常にありがたい。どうせうんざりするほど死ぬだろうし、装備が壊れて…なんて目には遭いたくない。

 決定を押すと俺を一瞬光が包み、次の瞬間には灰に近い白色のローブを纏っていた。フードもあるんだ、これ。中々いいじゃん。

 

 アバターのクリエイトをし直しますか? という最終確認でNoを選択し、ようやく俺はチュートリアルを終わらせた。

 

「これにてチュートリアルは終了です。お疲れ様でした。ようこそ『Utopia Online』の世界へ」

 

 そんな音声を最後に強い光が俺を包み、エレベーターに乗っているような浮遊感が俺を包み込んだ。

 

 

 

 そして次に目を開けた瞬間俺は、いかにも中世といった雰囲気の街に立っていた。そして、このゲームの謳い文句が間違っていなかったことを認識した。

 

「凄いなこりゃ……」 

 

 ガヤガヤとした喧騒、現実の世界と見分けがつかない空、何処からか焼いた肉の匂いが漂い……つまり、五感が現実と同等だった。

 振り向いてすぐの場所に存在する噴水も、キチンと液体とわかるほどリアルで、じっと見つめてもポリゴンなんて見えはしない。この分だと、味覚もしっかりと再現されているだろう。

 なるほど、人気になるわけだ。今までのVRゲームとは一線を画している。

 

「さて、メニューはどうすれば開く……って、音声か」

 

 メニューという言葉を口に出した瞬間、先程まで弄っていた物と同種の画面が現れた。時刻と所持金が表示され、他にはボタンが7種類存在した。

 

《ステータス》

 ここでは今の自分のステータス、スキル、装備、称号が確認できた。長くなりそうだから、確認は後回しにする。

《アイテム》

 所持アイテムを確認できる所。入っていた物は『初心者用ポーション』が5つだけだった。効果は、自分のHPを100回復する(Lv 10まで使用可能)

 所持枠が30個で、何個まで重ねられるかはわからない。

《フレンド》

 当然空欄。フレンドができれば、メッセージを送ったりログインしてるかの確認ができる。

《マップ》

 地図。今は街の中しか描かれていない。場所の検索もできるっぽい。

《ギルド》

 クランとかとも言われるアレ。ギルドに加入していると、色々な恩恵が受けられるらしい。多分、俺は受け入れてくれる所は無いだろうから無視していいだろう。

《オプション》

 色々な設定ができる場所。ここからネットに接続できるようだが、他の機能までいちいち確認してたらキリがないのでカットする。

《ログアウト》

 これが無ければデスゲームだし、ちゃんと目立つ所にあった。

 

 

 

 さてと。長々と確認していたけれど、そろそろ動かないと怪しい人物になる。マップを開き、一先ず歩き出す。

 

「うわ、おっそ……」

 

 そして気づくAglの重要さ。

 俺が徒歩程度の速度で歩いているのに対し、速い人は自転車並みの速度で走っている。街中でさえこれなのだから、戦闘時はもっと凄まじい速度なのだろう。

 

「あと大体3時間、沙織が来るまでに少しは慣れておかないとだし……」

 

 噴水もあったから、ここがおそらく『始まりの街』だろう。3時間もあれば、自分の限界も把握できるし、調べきれなかった部分も大半は調べられる。

 

「それじゃあ先ずは、戦闘と行きますか」

 

 そうやることを決めて、俺は石畳で整備された道を歩いていくのだった。Luk…つまり幸運が実質400台なのだ、きっと何かいいことがあるに違いない。




 Name : ユキ
 称号 : なし
 Lv 1
 HP 50/50
 MP 25/25

 Str : 0(3) Dex : 0
 Vit : 0(5) Agl : 0(2)
 Int : 0(10)Luk : 200(420)
 Min :0(3)

《スキル》
【幸運強化(小)】【長杖術(小)】
【投擲】【付与魔法】【愚者の幸運】

( )内は、装備・スキルを含めた数値


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第4話 初戦闘

夜中コッソリ解除したので初投稿です


 テクテクと、圧倒的な遅さで歩くこと数分。俺はようやく、初心者向けのエリアである街の東側に到達した。

 

「結構、人多いなぁ……」

 

 サービス開始からそこそこの時間が経っているとはいえ、まだまだこのエリアに留まる人は多いのだろう。街を囲む高い壁に作られた門、そこから広がる草原には結構な数のプレイヤーが確認できた。

 

「少し奥に行った方が良さげかな」

 

 流石に極振りしてる事を知られたくはないし。メニューから装備欄を弄って【初心者の長杖】を実体化させる。収納と違って、念じればすぐにできる訳じゃないのがもどかしい。

 けれど何か、気分的はとてもワクワクしてくるのもまた事実。ちょっとした旅行気分で、俺は近くに見える森へ歩いていった。

 

 

「よし、ここなら丁度いいだろ」

 

 見上げる先には黒く巨大な木によって作られた森。ここら辺にはまだプレイヤーもおらず、たとえ即死したとしても変に思われることはないだろう。

 

「来やがれツラ見せろ……チェーンガンが待ってるぜ……」

 

 勿論大嘘である。けれどその声に反応してか、森の中から一匹のモンスターが姿を現した。白い毛皮、赤い目、長い耳、額には短いツノが存在し、俺の膝くらいまでの大きさであるそのモンスターは…

 

「最初の相手は、レッサーラビット(ベルくん)か」

 

 長杖を両手で槍のように構え、相手の出方を窺う。HPのゲージは見えるし、きっとなんとかなる。

 どうせ攻撃しにいっても当たらない、ダメージも出ない。だったら近接でやれることは、相手の動く先を予測すること! 大丈夫、隙を作って襲わせるのは剣道の授業で習った。去年。

 

「はぁっ!」

 

 大きなウサギが恐ろしい速さで迫ってくる直前、思いっきり長杖を突き出す。そして、同時に全身に衝撃が響いた。

 

 その衝突の結果を見て思った。これは酷い。

 

 今の一撃で、減った相手のHPは1割以下。対して、俺のHPも1割強減少している。なんの補正も無しだと、何をどう考えても勝ち目がない。もう笑うしかないね。

 だけどそれを補うためにここで出てくるのが【スキル】だ。【スキル】はいわゆる才能みたいなもので、装備していると魔法やアーツと呼ばれる技を使うことができるようになる。それらはMPを消費することによって発動され、自分に有利な結果を齎してくれること請け合いだ。

 因みに魔法や技の増やし方は熟練度をあげることらしい。プレイヤーには見えないらしく、通知で知るしかないとのことだったけど。

 

「あっ」

 

 長々と考え事をし過ぎていたようだった。腹部に衝撃を感じ視線を下げると、俺の腹部に大きなウサギが思いっきり衝突していた。そして、視界の端にあった自分のHPゲージが一瞬にして0になった。

 

 暗転。

 

 

 

「なるほどね……ここがリスポーン地点か」

 

 体感時間では数秒後、俺は初めてログインしたときに降り立った噴水前に戻ってきていた。まあ、一先ずは無事死亡ということで。俺の防御力は、金箔レベルみたいだ。

 

 先ほどと違い観光の必要はないので、走ってあの森まで移動することにする。それでも非常に遅いのだが、そのあいだに再確認することがある。それはデスペナルティ、死んだ際の制限みたいなものだ。色々なネトゲにあるものでこの『Utopia Online』にも存在する。が、それはかなり軽いもので、死亡後30分間取得経験値半減というものだった。ついでにLv 10まではデスペナは存在しない。つまりは挑み放題ということだ。

 

「というわけでリベンジだ!」

 

 戻ってきた森の入り口、そこで声をあげウサギが現れるのを待つ。今度試すのは【付与魔法】によるバフ・デバフ、そして【長杖術】の最初から使えるアーツ《吸撃》だ。アーツの方は、MP吸収+強めの攻撃らしいから期待している。

 

 待つこと数秒、ガサリという音とともにレッサーラビットが再び現れた。HPは勿論満タン、やり甲斐があるね。

 

「《フルカース》!」

 

 先手必勝。先ほどと同じように杖を構えつつ、魔法を発動させる。

 文字の通り効果は弱化、対象は相手の基礎ステータス全て。1つに集中してない分効果は低いけど、どっちにしても直撃=死なのだから気にしない。残りのMPが一気に5まで減り、ウサギの動きが僅かに遅くなった。

 

「《吸撃》!」

 

 多分この遅さなら当てられないことはない。そう判断して、アーツを放つ。残りのMPが4となり、動きの鈍ったウサギに突き出した杖が直撃した。

 

「お、結構いけそうじゃん」

 

 キュッ、と小さな鳴き声をあげながらウサギが後退した。そのHPのゲージは今度は1割ほど削れており、俺のHPは削れていなかった。ついでにMPも9まで回復している。単純計算で後9回…アーツのクールタイムはあるけど、なんの問題もないね!

 

「《ディフェンスカース》!」

 

 更に駄目押し。増えたMPを使い、ウサギの防御力を更に低下させる。同じステータスへの重ねがけは2回が限界だが、その分ダメージが上がるのは嬉しいことだ。本当に。

 

 せいっ! と気合いを込め、追い討ちで2撃。杖を叩きつける攻撃で、ウサギのHPがもう1割ほど削れる。ここでアーツのクールタイムが終了した、意外に短いのは初期の初期アーツだからかな。

 

「《アタックエンハンス》《ラックエンハンス》そしてもう一丁《吸撃》!」

 

 怯んで動きを止めているウサギに、もう一撃アーツを叩き込む。雀の涙以下の効果しかない攻撃強化と、きっと凄い効果のあるはずの幸運強化が相俟って、今度こそ2割方HPを削り飛ばす。

 

「残り6割…いけるいけrぬわっ!?」

 

 相手の速度の弱体化が解除されたのか、今までの怒りを込めてかウサギがこちらに突進してきた。慌てて横っ跳びに回避するけれど、後一瞬でも遅れればまた死んでいた。

 

「《スピードカース》《ディフェンスカース》! そい! そい! 《吸撃》!」

 

 今できる最高の弱体化を掛け直し、長杖で叩き更にアーツを叩き込む。ウサギのHPは残り1割、ここまで削っておいて死ぬなんてできない。

 ウサギの突進を回避し、もう一度弱体化を掛け直す。その際に距離が開いてしまったけど、半分くらいは思惑通り! 足元に転がっていた石を数個拾い、ウサギに向き直る。

 

「そいや!」

 

 考えてたことは、つまるところ石投げである。

 1発、2発、3発……投擲スキルのお陰か、その全てがウサギに綺麗に命中した。そこ、相手が殆ど動いてないからとか言っちゃいけません。

 

 そして手持ちの石を投げ切り、相手のHPがまだ残っているのを見て思わず舌打ちをしてしまう。

 本当は投擲だけで倒しきりたかったのだが、投げることのできた石の少なさと威力の低さが合わさって、ほんの僅かに残ってしまった。

 

「これで、トドメ!」

 

 仕方なく、唯一の武器である長杖を全力で投げつける。

 若干回転しながら、けれど一直線に杖はウサギに向かって飛んでいき……見事僅かに残っていたHPを削りきった。

 カシャンという儚い音を残して、ウサギは光の欠片となって消えていった。

 

「よし、勝った!」

 

 投げつけた杖を拾った辺りでピロンという通知音が聞こえ、戦闘に勝利したことを改めて確認することができた。ウサギ……レッサー(小型)なくせにかなりの強敵だった。

 でもまあ、極振りだって戦えないことはないじゃないか。運に全振りした俺ですらこうなのだから、きっと他の人だって――

 

 そこまで考えたとき、ドンッと背中に衝撃が走った。

 

 急激に減っていくHP。初戦闘に勝ったお陰で失念していたけれど、今俺の背後に存在するのは森。つまり……

 

「きゅっ」

「仇討ち……だと」

 

 倒れてしまった状態で聞こえた声に、どうにか振り向く。俺を踏みつけこちらを見下しているのは案の定、第二のレッサーラビット(ベルくん)。その攻撃は浮かれていた俺にクリーンヒットし、満タンだったHPを一撃で0まで持っていったのだった。

 




戦闘中、モンスターの頭上には名前とHPのバーが表示されます。しかし詳しい数値は、専用のスキルやアイテムがない限り見れません。


レッサーラビット
初級モンスター。
少し攻撃的な、ただのデカイ兎。
一般的なプレイヤーなら、大体3発程度攻撃すれば倒すことができる。


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第5話 やっと合流

 一瞬の暗転後、俺は尻餅をついた状態で噴水の前に実体化していた。うん、まさかバックアタックで死ぬとは…どんなときでもチェック・シックスとは言ったものである。

 

「……うん、切り替えよう。とりあえず、レベルとか確認して」

 

 確か上がってたみたいだし。

 そう思ってメニューを開いていけば、振れるポイントが10確かに増えていた。その全てをLukに躊躇なく振って、ドロップアイテムが有ったか確認するためにアイテムの画面を開く。

 

「うさぎのしっぽ……?」

 

 そこには、戦闘前には存在しなかったアイテムが存在していた。

 

 

【うさぎのしっぽ】

 Luk +3%

 獲得経験値 +3%

 

 

 種別はどうやら装飾品らしく、個人的にはなんとも嬉しい性能のアイテムだった。なるほど、Lukはアイテムのドロップ率にも影響してくれるらしい。

 装備できるアクセサリーの枠は基本10。〜枠消費と書いてあるものはそれだけ場所を食うが、このしっぽはそれがない。つまり10個集めればLukが30%上昇することになる。

 唯一気がかりなのは、見た目と動きやすさ。その2つが壊滅的なら夢のLuk爆上げ計画は潰えることになる。腰とかに付かないでくれよ…そう思いつつ装備画面を操作し、アクセサリーの枠にうさぎのしっぽをセットする。

 

「あれ? どこいった?」

 

 立ち上がり全身を確認してみるが、うさぎのしっぽらしき存在は何処にも確認できない。つまり、アクセサリーは見た目には反映されない? そんな考えが頭をよぎるなか確認を続け、遂にフワフワとした触感の物を見つけた。

 

「えぇ……そこかよ」

 

 うさぎのしっぽが装着された場所はローブの一部、肩口から背中にかけて着いてるヒラヒラした部分の裾だった。確かにファンタジーな魔法使いがゴテゴテした装飾品を付けてそうな部分だけど、なんでそこなのさ…

 

「まあ、ローブも白いし問題ないだろ」

 

 これで黒いローブだったら残念だったけど、今の色ならそこまで問題ないと納得させる。そして、見た目も動きも問題がないと分かったのならばやることはただ1つ。

 

「さあ、うさぎ狩りの時間だ」

 

 スキル上げ、極振り、戦闘経験、アイテム集め…その全てが同時に賄えるなんて素晴らしいじゃないか。残り2時間弱、あの森でうさぎを狩り続けることにしよう。

 さっきは弾切れの憂き目に遭ったことだし、道中可能な限り石を拾っていくのも忘れなければ完璧だ。

 

 

「ふぅ……って、もうこんな時間か」

 

 休憩時間(夕飯)を挟みつつ、うさぎだけを狩り続けること約2時間。ドロップしたしっぽが10個を超え、レベルが5になった頃には、もうメニューの時計は9時54分を示していた。熱中していたから気にしていなかったが、周りもかなり暗くなっている。

 このまま走って行っても、待ち合わせの時間には確実に遅れる。それならばやることは決まりきっている。

 

「さあ来い!」

「きゅっ!」

 

 両手を広げ、うさぎの突進を抱擁する。この威力、このモフモフ感はまさに圧政。叛逆しないと()そんなしょうもない事を考えながら、俺は何度目か分からないゲーム中の死を経験した。

 

 暗転

 

 

「よし、間に合った」

 

 ただの力技とか言っちゃいけない。デスワープはれっきとした移動手段だ。デスペナが発生するまでは、の話だけど。

 再び降り立った噴水前、そこは夜の10時だというのにまだまだ賑わっていた。時間が時間だし、そろそろ沙織の方も来ていておかしくないだろうけど。

 

「やめてください、私は人を待ってるんです」

「別にいいだろ? そんな奴より、俺と一緒に来た方が楽しめるぜぇ?」

 

 そう思って軽く周りを見渡すと、口論するような声と野次馬の姿が見えた。…というか、絡まれている方の声にとても聞き覚えがある件について。

 

「すみません、ちょっとどいてください」

 

 野次馬を掻き分け(退いてもらい)、俺は最前列へと躍り出る。そこで繰り広げられていたのは、ゲームの世界特有のものであった。特に髪色とかが。

 

「だから、あなたなんかとは行かないって言ってるじゃないですか!」

「その待ってる奴も来てねえみたいだし、いいじゃねえか」

 

 この状況を簡潔に言い表すならば、声かけ事案&誘拐未遂。

 

 嫌がる銀髪碧眼の幼い女の子の腕を、金髪のどこか顔に違和感を覚えるイケメンが掴み連れて行こうとしている。ステータスという概念が存在するゲーム内でなければ、確実に憲兵=サン案件である。とりあえずGMコールの画面を開いてスタンバイ。

 

 そしてまあ、その女の子の方が沙織だった。声と色以外の見た目が変わらないから一瞬で分かる。いや、なんかそれだと変態くさいから「幼馴染だから」にしておこうそうしよう。長い付き合いだから忘れそうになるが、沙織はいわゆる美少女だ。偶にああいうタチの悪い輩に捕まることがあるのはよく知っている、今回もそのパターンだろう。

 

「あっ!」

 

 そんなことを思ってるあいだに沙織も俺のことを見つけたらしく、イケメン金髪()の腕をフ゛ン゛ッと振り払ってこちらへ走ってくる。……力強いっすね。

 そしてそのまま、俺の背中に隠れてしまう。ローブの裾をぎゅっと握ってる辺りあざとい、実にあざとい。これで素だから、あざとさは倍率ドン!更に倍!! 相手がヒテンミツルギスタイルじゃない限り勝ち確ですね。

 

「一応5分前には来たんだが、待たせたみたいだな」

「ううん、別に大丈夫だよユキくん!」

 

 そういう沙織……セナは、明らかに初心者装備でないどころか、戦闘用でもなさそうな洋服を着ている。恥ずかしいから口には出さないけど、暗めの青がとてもよく似合っていると思う。時間も時間だし。

 とまあ、それは一先ず置いておくとして。

 今まで自分が必死に声をかけ誘っていた美少女、それがポッと出の、俺みたいな平凡な男に掻っ攫われたらどうなるだろうか?

 その結果は明白だ。

 

「ああ? なんだお前」

「見ての通り、待ち人ですが何か」

 

 こうやって絡まれるに決まっている。なんかこちらをバカにした言い方だから、むっとして言い返したけど少し失敗だったかもしれない。無駄に装備が上物だし。

 

「はっ、お前みたいな冴えない奴が待ってる奴だったとはな!」

「別にユキくんはむーむー!」

「はいはい落ち着いて」

 

 何か反論しようとしたセナの口を手で押さえる。何か、トンデモナイことが暴露されそうな気がしたからこれが正解だ。前やらなかったせいで「小さい頃(幼稚園の頃)一緒に風呂に入ったことが何度もある」という事実が暴露された実例があるんだから間違いない。

 だけど、諸々自覚してることとは言え他人に言われると不快だな。野次馬に囲まれてる今、逃げるのはみっともないし………煽るか、徹底的に、敬語もどきで。

 

「そんなことを言うなら、貴方だって同類じゃないですか。

 よっぽど現実の顔が気に入らないのか何だかは知りませんが、顔面のパーツとか骨格とか、弄りすぎて気持ち悪いですよ?」

 

 俺の言い放ったその言葉に、金髪のイケメンがビクリと反応した。俺みたいな素人でも分かる反応をするとか、弄りすぎって暴露してるようなものじゃん……

 ゲームを始める際に分かった通り、このゲームでは体格はほぼ弄れないが各パーツはかなり自由に弄ることができる。それは造形師とか上手い人が弄れば上手くいくのだが、普通の人が下手に弄ると目の前の金髪さんのように、動いて喋る1/1マネキンのような気持ちの悪い物になる。原因は、多分不気味の谷現象だろう。知らんけど。

 

「それのどこが――」

「別に悪いとは言ってませんよ」

 

 顔を怒りに染め怒鳴りかけた金髪さんの、先手を封じる形で言い返す。実際、そこは個人の自由だしね。俺が口出しするような問題じゃない。

 

「ですけど、そんな『ぼくのかんがえたさいきょうのイケメン』みたいな状態で相手の容姿を罵るのは、失礼ながら大爆笑ですね。諸々自覚はしてるので俺を罵るのは良いですけど、現実の顔で出直してきてください」

 

 真顔で、語調を荒だてもせず俺はそう言い切った。

 言いたことも言えたし、相手も煽れたし、絡んできた奴も黙ってくれた。これは勝ち組ですね『A.コロンビア』ポーズをとりたいくらい。

 

「手前、よくも散々コケにしてくれたな……」

「あ、決闘(デュエル)は先にお断りしておきますね」

「あ゛あ゛!?」

 

 よくあるPvPのシステムを起動しようとしていた金髪さんが、怒鳴り返してくる。いや、やるわけないじゃん。どう考えても俺が負けるし。

 

「考えてみてもくださいよ。見ての通り始めて間もない俺と、βテスターか自宅警備員かそれ以外かは知りませんが、明らかに質のいい装備で全身を固めた貴方。考えるまでもなく俺の負けです」

 

 初心者装備とウサギのしっぽしか装備してない俺が、あんな豪華な鎧(緑の下地に色々な装飾がされてる)を着た相手に勝てるわけがない。もとい、ウサギに一撃で殺される奴がPvPなんてできるわけがない。

 

「だから、運勝負にしましょう。それなら、かなりのレベル差があってもギリギリ平等です。例えばコインの裏表とか」

 

 そう言って俺は所持金をコインとして実体化させた。単位はD(ディル)とか言うらしい。剣が交差したマークと、城のマークが描かれた2面の金色の丸い硬貨だ。カッコいいとこ見せましょ。

 ポーカーフェイスを保ってるけど、押さえてる左手を舐めるのはやめてくれませんかねぇ沙織さん。折角格好良さげに決めたのに、これバレたら完全に変な空気になるから。あと地味にくすぐったいし。

 

「チッ、仕方ねえ」

「剣が交差してる方が表、城が描かれてる方が裏で。

 本当はこんなこと、やる必要ないんですけどね……もし俺が負けたら今日は帰りますよ。でも勝ったら、貴方が帰ってくださいね」

「むー!」

 

 バシバシと腰の辺りを叩かれるけど、この勝負はもう勝ってるようなものだから問題ない。運極振りを舐めちゃいけない。

 

《ラックエンハンス》じゃあ俺は表で」

「なら俺は裏だな」

 

 はぁ……と溜め息を吐きつつ、俺はコインを弾く。【投擲】スキルで調整しながら、ではあるが。

 つまるところ、全力全開のイカサマである。極振りによる馬鹿げた値の幸運値とスキルによって、俺が投げる限りこのコインは確実に表になる(多分)

 バレなきゃなんの問題もない。十の盟約にもそう書いてある。アッシェンテアッシェンテ。

 

「はい、それじゃあ俺の勝ちですね」

 

 綺麗な放物線を描いて石畳に落下した1Dコインは、3回ほど跳ねて表面を出して動きを止めた。

 ふっ、計画通り。

 

「ふざけるなぁ!」

 

 ジャランと音を鳴らし、顔を真っ赤にして怒る金髪さんが、これまた豪奢な剣を抜きはなった。決着はつけたのに、ああ面倒くさい。

 というわけで、ずっと待機させていたGMコールを発動させる。音声じゃなくメッセージ形式なのが幸いした。隙を生じぬ二段構えである。……つまり、俺がヒテンミツルギスタイルを使う側だったということか。勝てて当然だな。

 

「それじゃあ行くか、なんだかんだで遅くなってゴメンな、セナ」

「むー、なんであんな真似をしたのか説明してもらうんだからね!」

 

 剣を振り上げた状態で動きを停止させられた金髪さんを無視し、退いてくれた野次馬の人達のお陰でできた道を歩いていく。舐められてたせいで一部濡れている左手はローブで拭ったし、きっと誰にもバレてはいないだろう。

 完 全 勝 利。あいあむヴィクトリー。

 

「ん?」

 

 内心歓喜の声を上げていた俺の耳に、ピロンという何かを受信した音が聞こえた。気になってメニューを開くと、何があったか即座にわかった。

 

 

 称号《詐欺師》を取得しました

 取得条件 : 相手を欺いたまま勝利する

 効果 : 敵の情報解析系のスキルの効果を受けづらくなる。Luk +5%

 

 

「どうかしたの? ユキくん」

「いや、なんでもない」

 

 なんだか、最後の最後で後味が悪くなった気がした。ありがたく称号は使わせてもらうけどね!




《うさぎのしっぽ》
 兎系モンスターから、稀にドロップするアイテム
 敵のレベルが高ければ高いほど、種族が強力であれば強力である程ドロップ率上昇する

 レッサーラビットからのドロップ率は、数%
 10個も集めて使う奴は変態



 Name : ユキ
 称号 : 詐欺師
 Lv 6
 HP 300/300
 MP 275/275

 Str : 0(3) Dex : 0
 Vit : 0(5) Agl : 0(2)
 Int : 0(10)Luk : 250(700)
 Min :0(3)

《スキル》
【幸運強化(小)】【長杖術(小)】
【投擲】【付与魔法】【愚者の幸運】

( )内は、装備・スキルを含めた数値
 小数点以下は切り捨て


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第6話 ほぼ掲示板回

fgo新イベ…
1つの章並みのボリューム
新クラス・ムーンキャンサー&アルターエゴ
リップ・鈴鹿御前?が☆4で、メルトが☆5…これは、林檎カード案件?


「それじゃあ、なんでさっきあんなことをしたのか白状してもらうんだから!」

 

 人混みの中から離れて歩くこと数分、殆ど人通りがない通りのベンチに俺は座らされ説教を受けていた。罪状はさっきの大立ち回り、はっきり分かんだね。

 

「絶対に勝てると思ってたし、ああするのが一番早い解決方法だと思ったからだけど?」

「確率なんだから、絶対なんてあるわけないじゃん。それにあの人、β版のときからいる人だからかなり強いんだよ?」

 

 むーっと唸りながら、俺に向かって文句をぶつけてくる。そういう話なら、俺のステータスを知らない限りこうなるか。

 

「それでも勝ってたよ。俺のステータス、Lukに全振りしてるんだし」

「へ?」

「だから、万が一にも負けない勝負に持ち込ませてもらった。流石に実数値700の幸運を突破できる奴はいないだろ」

 

 超頑張って集めたうさぎのしっぽ×10、元のスキル、さっきゲットした称号を合わせると、今の俺のLuk値は700まで上昇している。そこに小細工を加えてたんだから、確実に勝てた。

 

「とーくん、今、なんて?」

「ゲーム内なんだから、本名はあんまり言わないでくれよな。それで、実数値700の幸運を――」

「ううん、その前」

「Lukに全振りしてるんだしってところか?」

「そう、そこだよそこ!」

 

 ガシッと肩を掴まれ、セナが顔をズイッと近づけてきた。うん、近くで見ても銀髪も碧眼も似合ってるんじゃないかと思う。

 

「別に極振りするのはいいんだけど、なんでLuk(幸運)なんかにしたの!? 他にStr(筋力)とか、Vit(耐久)とか、色々あった筈なのに」

「いや、だって二番煎じって嫌じゃん」

 

 その質問に俺は堂々とした顔で即答した。特に隠すことでもないし。流石に、沙織に追いつけなさそうだから一芸特化にした…なんて事情は伏せるけど。

 

「むぅ、確かにそれはそうだけど…一緒に冒険したかったのに…」

「足の遅さだけはどうしようもないけど、一応、戦えないことはない……ぞ?」

 

 ウサギと延々と戯れていたお陰で、どの程度この身体で無茶ができるかは把握したのだ。ついでに、投擲以外の遠距離攻撃も会得した。火力も無いわけじゃない(当社比)

 だからもう、足の遅さを除けば初心者と同列にはなったはず! その割にレベルが低いのは、ウサギばっかり倒していたからだ。

 

「ふーん、それじゃあ私が見てあげる! これでも私、β版のときはそこそこ有名なプレイヤーだったんだから!」

「知ってる、よろしく頼むよ。

 けど、それはそれとして…顔近くないか?」

 

 ここまでの会話は全部、息も触れ合うほど近くで交わされている。となると、いくら慣れているとはいえ恥ずかしい。何か分からないけどいい匂いがするし。

 美少女にここまで迫られて何も思わないのは、薔薇の道を走っているか不能しかいないだろう。

 

「ひゃあっ!」

 

 言われて初めて気がついたのか、セナは顔を赤くして飛び退った。随分と速いっすね…

 

「それじゃあ行くか。といってもまだレベル5だから、東かその少し上の南にしか行けないけどな」

 

 ここ数時間ずっと握っていた長杖を出現させ、肩に軽く担いで言う。買い換えた方が良いんだろうけど、まだ最初の街じゃ良いものはないだろうから無視だ無視。

 

「もう、ユキくんのばか…」

 

 そうボソッと呟かれた言葉は、覚えておくけど聞かなかったことにする。気づかないほど鈍感ではないつもりだが、こういう問題には迂闊に突っ込んじゃいけないのだ。

 

「さて、どこまで戦えるやら」

 

 ウサギと時折出てきたフォレストドッグ以外、未だにモンスターと実は戦ってないのだ。そこで通じた戦法が、果たして他の敵にも通じるのか…まあ、試してみるに限るよね!

 

 

【極振りスレ】第七の使徒襲来

 

 1.名無し@ニンジャ

 いたぞぉ、いたぞぉぉぉぉ!

 

 2.名無し@片手剣使い

 何を見つけた?

 

 3名無し@魔法戦士

 アイエエエ!?ニンジャ!?ニンジャナンデ!?

 

 4.名無し@気持ち的にナイト

 そうか、遂に現れたか。第七の同類が

 

 5.名無し@魔法使い(炎)

 βテスト振りだね

 

 6.名無し@ニンジャ

 ああ、間違いない。極振りだ

 

 7.名無し@鞭使い

 プレデターとエヴァとニンジャスレイヤーが混ざって、これもうわかんねぇな

 

 8.名無し@片手剣使い

 なんでホモが湧くんですかねぇ…

 

 9.名無し@武闘家

 まあこんなネタはいいとして、正式版稼働以来初めての極振りプレイヤーがいたんだ。β版の惨状を知っててやってるなら、勇者としか言いようがないぜ…

 

 10.名無し@片手剣使い

 で、何に振ってるんだその新しい奴は

 

 11.名無し@気持ち的にナイト

 >9

 β版の惨状って言うけど、あれはあれで楽しかったんだからな。そのお陰で今も似たような構成だし

 

 12.名無し@ニンジャ

 >10

 ……よりにもよって、Lukらしい。軽く盗み聞きしてきたところ、実数値は既に700だとか

 

 13.名無し@魔法戦士

 700wwww

 

 14.名無し@気持ち的にナイト

 なんだその数値wwいくら極振りでも頭おかしいww

 

 15.名無し@魔法使い(炎)

 そんなにLukがあれば、レア泥が捗りそうだね……勝てればだけど

 

 16.名無し@鞭使い

 なあ、それってもしかしてこいつか?

 っ【写真】

 

 17.名無し@ニンジャ

 >16

 そうそう。というか、いつ撮ったんだよそんな写真…

 

 18.名無し@魔法戦士

 >16

 それなら俺も知ってるぞ。確か始まりの街で大立ち回りしてた奴じゃないか?

 

 19.名無し@鞭使い

 おかわりもいいぞ!

 っ【動画】

 

 20.名無し@片手剣使い

 うめ…うめ…

 というか、煽りスキル高いな。みんなが黙ってたことを言って、的確に心を抉ってやがる

 まあ、この勝ち方は9割詐欺じゃねえかと思うけど

 

 21.名無し@ニンジャ

 >20

 勝てばよかろうなのだぁぁぁ!! 

 極振り相手に、同じ土俵で戦ったあいつが悪い

 

 22.名無し@短剣使い

 >21

 汚い。流石ニンジャ汚い

 けど、あいつオベロンとかいう多少上級プレイヤーだろ? 実際勝つ方法はあれしかなかったんじゃね?

 

 23.名無し@魔法使い(炎)

 それはそうとしてちょっといいですか?

 運極振り君にしがみついてるの【銀閃】さんじゃないですかね?

 

 24.名無し@気持ち的にナイト

 え? あっ…セナって呼んでるし間違いないぞ…

 

 25.名無し@魔法戦士

 しかも、待ち合わせをしていたってことは、リアルか何かでかなり親しい関係のはず…しかも凄く楽しそうだし

 

 26.名無し@武闘家

 チクショウ、こいつリアルラックまで高いじゃねえか。爆ぜろよ。

 

 27.名無し@短剣使い

 オベロンザマァと思いつつ、運極振り野郎にも爆ぜろと祈りを捧げよう……美少女と親しいとかもうね

 

 28.名無し@気持ち的にナイト

 俺らと同じく、きっと第2の街で詰むんだろうな…そこを乗り越えてくれることを祈る。そして爆ぜろ。

 

 29.名無し@鞭使い

 確か最後まで生き残ってたのがVit極振りだったか?第2は普通のプレイヤーでも苦戦するからなぁ。あと爆ぜろ

 今気づいたんだが、極振り野郎の初期ローブに付いてるの、うさぎのしっぽじゃないか? しかもご丁寧に10個。

 

 30.名無し@魔法戦士

 ひいふうみい…マジだ、10個ある。つーことは、Lukと獲得経験値が30%増? 極振りなら愚者の〜〜を取ってるだろうし、頭のおかしい数値になるのも納得だな。

 

 31.名無し@ニンジャ

 一先ず、今のところ判明してる情報はこれくらいか。

 またなんか詳しいことが分かったら書き込むわ

 

 32.名無し@鞭使い

 乙ー

 それはそれとして、煽りの中にあった「失礼ながら大爆笑ですね」って部分、クッソ昔のアニメの名台詞のパロなんだろうが…

 

 33.名無し@片手剣使い

 乙ー

 ガン×ソードだろ? 話してたら懐かしくなってきた…【UPO】に蛮刀ってあったっけ?

 

 (以下雑談が続く)

 

 

 



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第7話 極振りの使い道

今期のアニメ、キチンと見ようと思うのはすかすか・レクリ・ひなこのーとくらいかなぁ。

HP・MPの数値が合ってなかったので、前回のあとがきを僅かに修正してます。HPなんて飾りなんですけどね!


「まさか、こんな簡単な移動方法があっただなんて…」

 

 街の活気からは外れ、星の光のみが照らす闇に沈んだ草原。そこで俺はorzの姿勢でボソリと呟いた。

 

「Aglが低い人の移動手段としては、結構有名なんだよ?」

「知識不足ですみません…」

 

 そう隣のセナが呆れたように言った。

 現在位置は、始まりの街の西のフィールド。私がいるんだし折角だから! という意見に押し負けて到着したここには、今までの俺からすればあり得ないスピードで移動ができていた。

 

「まさか、態々門を潜らなくても、中央のポータルから移動できたなんて…」

 

 その街の中央にあるポータルという場所から、今まで行ったことのある他の街に移動できるという話は聞いていた。けれど、街の四方の門にも移動できるなんて聞いてないよ…

 

「それよりも、時間が勿体無いし早く狩りに行こうよ!」

「ソウデスネ…」

 

 確かに時間は勿体無い。そう自分の中で答えを出し長杖を支えに立ち上がる。どうせどこ行っても攻撃が当たる=即死なんだ。だったら適正レベルを遥かに超えたここだって、特に何も変わらないじゃないか。カッコつけた手前、酷い無様だけは晒したくないけど。

 なんだかんだ言いつつ、最悪の場合は頼るけどね! 現状の最高レベルが40の中、34とかいうセナさんに頼るけどね!

 

「ん、来たよユキくん!」

「よっしゃやってやるぜ!」

 

 自分を無理やり奮い立たせて、長杖を構える。

 現れた敵は一体。大きさは大人の男がヨツンヴァインになった程度、毛並みは夜の闇に溶け込むような漆黒、僅かに開かれた頬からは鋭い牙が覗き、こちらを見つめる赤い目は爛々と輝いている。

 今表示された名前は《シャドウウルフ》あ、これダメなヤツですわ。

 

「うーん、大丈夫かな。危なくなったら助けるから!」

 

 少しの逡巡の後、とてもいい笑顔でセナがサムズアップしてきた。見事に退路を塞がれましたね。ふ、ふふ…即死なんか怖かねぇ! 野郎ムッコロしてやる!

 

「《フルカース》《マインドカース》《ラックエンハンス》《スピードエンハンス》!」

 

 先手必勝、安定のデバフをかける。これで、この最悪な状況も少しはぁ!?

 

「ちょっと、あんさん速すぎやしませんかい?」

 

 心臓がバックバクいってる状態の俺は、先ほどまでとは正反対の方向にいる狼に思わずそう問いかけた。勿論心臓云々は比喩だけれど。口調ごと絶賛大混乱中である。

 とりあえず今起こったことを3行で纏めると、

 

 突進された

 ギリギリ躱せた

 マジやばくね?

 

 これで全て説明できる。うん、これ勝ち目ありませんわ。派手な啖呵をきった手前流石に恥ずかしいから、せいぜい足掻かせてもらうけどね!

 手近な地面に長杖を刺して手放し、俺はこちらを狙う狼に右の掌を向ける。食らうがいい、ウサギを叩き倒すのが嫌になって編み出した必殺技を。

 

「《フルカース》」

 

 呪文を発動した途端、こちらに踏み出しかけていた狼が7連続で爆発しHPゲージがごく僅かに減少した。キャウンって、なんか随分ギャップがあって可愛らしい鳴き声ですね。

 それはそれとして、爆発を起こした原理は簡単。()()()()()()()()()である。

 このゲームでは、魔法の使用を失敗した場合爆発(ダメージ有)する。それを利用して武器を手放し補正がなくなった状態で魔法を放つと、この通りボンである。しかも相手への付与魔法だからなんと必中。ただし威力は1爆発が俺のステータスで放つ《吸撃》より僅かに上程度だから、とんでもなく非効率だろう。

 《フルカース》の効果は相手のすべてのステータスの減少(HP・MPは除く)だからか、爆発は7つ。多分それがクリティカルしてくれてるから、ギリギリダメージが出てるんだろうね。

 

「《フルカース》もう一丁《フルカース》!」

「がんばれー!」

 

 最大火力である《フルカース》が使えるのは、後9回。対して《シャドウウルフ》の残りHPは残り8割強。ざっと計算しても、遠距離で削りきれるのは3割弱まで………あっ(察し)

 

「これで最後の《フルカース》!」

 

 察した未来から目を背け攻撃の出を潰すこと計9回、遂にMPが0になった。石がないから手持ちに投擲できる物は杖しかないし、ここから先はオール物理で戦わないといけない…それなんて無理ゲ。何でもするから助けてセナさん。まだダメですかそうですか。

 

「グルァッ!」

「せいやッ!」

 

 無茶だと認識しながら、再び突撃してきた狼に対してカウンター気味に杖を突き出す。瞬間、全身に桁違いの衝撃が響いた。

 ウサギのときと違い衝撃に負けて吹き飛ばされる視界の中、僅かに削れた狼のHPと全損寸前にまで減少した自分のHPが見えた。武器越しで被ダメが減ってるとは言え、攻撃を受けて即死してない…だと!?

 

「《アサシネイト》」

 

 驚愕しつつゴロゴロと転がっていく中、狼の首筋に暗い紫色の線が走り、儚いカシャンという音を残して光になって消えていった。

 

 回転が止まりどうにか起き上がった俺は、けれどその場から一歩たりとも動くことも、回復アイテムを使うこともできなかった。別に何かの状態異常にかかったわけではない。只々…見惚れていた。

 

「うーん、やっぱりこの辺じゃこれくらいかー」

 

 長めの銀髪が差し込んできた月明かりに煌めき、透き通るような碧眼は妖しい光を放っているように感じる。右手に持たれた黒い銃剣が鈍い光を反射させ、纏う影のような黒い外套がそれらの印象を際立たせている。その非現実的な光景は俺の保つ乏しい語彙では表現できないほど、なんというかこう、美しいものに思えた。

 何せレベルアップの音を聞き流し、無意識にスクリーンショットを撮ってたほどだ。究極に近づくほど、形容する言葉は陳腐になるもの……なるほど至言だね。

 

「ユキくん、回復しなくていいの?」

「はっ!」

 

 セナからかけられたその言葉で、俺の意識は漸く現実に帰還した。転んだだけでも消えそうなHPを見て、慌てて初心者用ポーションで回復を図る。今の俺のレベルは7、まだ初心者の適用内で本当に良かった。

 そして、俺が回復しきったのを見計らってセナが話しかけてきた。

 

「えっと、ユキくんはステータス、幸運に極振りしてるんだよね? 幸運以外のステータスは壊滅的なんだよね?」

「装備分しか他のステータスはないな。今も、これからも」

 

 満面の笑みを浮かべてサムズアップする。それと同時に、開いたステータスの画面で得たポイントを全てLukに振り分けた。壊滅的だろうが知ったことか、目指せLuk4桁だ。

 

「あのねユキくん、そんなステータスじゃ、普通あそこまで戦えないから!」

「いや、魔法が使えるなら誰でもできると思うぞあれくらい。攻撃の出を読んで魔法で潰せば、MPの保つ限りはなんとか…」

「それ初心者がやることじゃないよ…」

 

 先程の神々しい雰囲気は何処へやら、リアルと同じいつも通りの雰囲気(ポンコツ感)を纏ってセナが項垂れる。四足歩行相手なら、今日飽きるほど戦ってるからある程度分かるだけなんだけどね。魔法とか使われたらアウトです。

 その頭をポンポン撫でて、俺は誤魔化すように言う。

 

「まあ、1対1ならギリギリ戦えるのは分かったんだ。きっと冒険だってできないことはないさ」

 

 そもそも使っているスキルが【付与魔法】だから、誰かを支援してこそ本懐とも言える。寄生って言われるだろうから、よっぽどのことがない限りやりたくないけど。ちょっと待ってこれなんて矛盾。

 

「む〜」

「それは一先ず置いておいて。あの狼も何かレアドロップとかあったりするのか?」

 

 努力次第できっとどうにかなるだろうし、冒険関連は一旦後回しにしておく。それよりも、1ゲーマーとしてはそっちの方が気になる。

 

「…通常ドロップで牙と毛皮。レアドロップは、夜に出現するモンスターが共通して落とすやつしか無いよ? それも道具の強化とか素材にしかできないやつ」

「なるほど…」

 

 ちょっとムッとしたセナに頷きながら、俺はアイテムを確認する。ほぼ空のアイテム欄には通常ドロップらしい牙と毛皮、そして夜の結晶なる謎のアイテムが存在した。きっとこれがそのレアドロップなのだろう。

 

「夜の結晶…セナは使う?」

「うん」

「じゃあはい」

 

 今の俺には投げる以外使い道がないし、実体化させて軽く握らせる。夜の結晶っていう割には紫水晶みたいだけど、まあこれはこれで綺麗だと思う。

 

「あ、うんありがとう…って、えぇ!?」

 

 俺が手渡したアイテムを見て、大袈裟にセナが驚いた。何か、そんなに驚くことがあっただろうか?

 

「不思議そうな顔してるけど、これレアアイテムなんだよ!? 入手し易い方のやつだけど、1500Dくらいはするんだからね!?」

「初期の所持金の半分か…ならあんまり問題ないな」

「大有りだから! もう、ユキくんには相場とか教えないと、多分大変なことにーー」

「大丈夫だよ、セナくらいにしか売らないし」

 

 そう断言すると、何故か口をパクパクさせて固まってしまった。もし何かを手に入れても卸す先もツテもないし、自分で使えもしないならセナにプレゼントした方が圧倒的に有益だろう。

 

「もう、すぐそういうこと言って…

 よし分かった、これでも私ギルドマスターだから買い取る!」

「ただで良いのに…」

「買 い 取 ら な き ゃ ダ メ な の !」

 

 これはもう引いてくれないパターン入りましたね。無料プレゼントにしようと思ってたのに、絶対にお金と引き換えになるだろう。仕方ない…こうなったら、可能な限り安く買い叩いてもらおう。

 

「じゃあ500Dで」

「安すぎるよ!」

「これ以上高くはしないからな」

 

 安く仕入れて安く提供するのが俺のモットーなんでね。という冗談は置いておいて、半額以下で買い叩いてもらうのにはちゃんと理由がある。セナの手を借りることができる(多分)この事実だけで、俺にとっては普通にお釣りが来る。

 そして睨み合うこと数秒、結局セナが折れた。

 

「はぁ…仕方ないなぁ」

「毎度ありー、かな?」

 

 トレードが成立し、アイテムとお金が交換された。多少貯まってるし【頭】と【腕】の装備を買うのもアリかもしれない。dexを0から1くらいにはしたいし。

 

「それじゃあ、もうちょっと狩りに行こうよユキくん!」

「えっ」

 

 満面の笑みを浮かべたセナが、俺の左手をきゅっと握る。頼るのではなく、逃さないように。

 

「だって強化素材だから、1個だけあっても仕方ないんだもん。それに、戦えないこともないんでしょ?」

「ソウデスネ」

 

 墓穴を掘った先にマグマがあって、逃れ得ぬダイブをした気分だった。そうですよね、気が済むまで周回ですよね…

 

「れっつらごー!」

「おー…」

 

 結果だけ言うならば、途中から引きずり回されてたり、それが原因で死に戻りしたりしながら、レベルが10まで上がるほど数を狩ったところで俺はようやく解放されたのだった。

 正直、始めて1日でこの情報量はないと思うんだ。幸運強化が小から中に変化してたのが救いだとは思うけど。

 

 




Q.セナさんの銃剣はどんなやつ?
A.盗賊アーサー。弾も撃てます。


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第8話 吉報は悲報と共に

fgo、無事爆死。魔性菩薩が2枚からとか何?嫌がらせですかキアラさん……

GW中に一回も投稿しないのはどうかと思い投稿


 飽きるほどにウサギを倒し、長杖を振り回し、最後にセナにフィールド引き回しのうえレア泥ランニングの刑に処された俺は、なんだかんだ言いつつ翌日も『UPO』にログインしていた。帰宅部だから土日は実に自由である。

 

「評判に偽りなしってね」

 

 そんなことを呟きながら、俺は相も変わらず綺麗な中世風の街を歩いていく。

 今日の目的はバトルじゃない、買い物だ。昨日の出来事のお陰で、ちゃっかり所持金は20,000Dを超えている。だから少しは装備を整えようと思うのだ。【スキル】は値が張るらしいから後回しだけど。

 

「けどまあ、このまま正道を走るのは何か違うんだよな…」

 

 言葉で言い表すのは難しいが、正道装備で全身を固めるなんてことは、何処か違う気がするのだ。

 そんなことを考えながら、NPCが経営していると思しき装備屋を素通りする。そして、その奥に存在した裏路地への道を覗き込んだ。こういう場所になら†闇の売人†みたいな人がいても……

 

「なんだ坊主? ここはお前みたいな奴が来る場所じゃねえ、帰んな」

「ビンゴっ」

 

 暗がりに座り込み、フードを目深に被った人物から声をかけられ、俺は小さくガッツポーズを取る。広げられたマットの上には様々な小物が乱雑に置かれており、声が男か女かわからないようになってるのも非常にナイスだ。プレイヤーかNPCかは知らないが。

 

「いえ、一応俺は買い物に来ました。何か面白いもの…できれば装備品なんかありませんか?」

「はっ、俺みたいな奴から物を買おうなんて風変わりな奴だな。だがいいだろう、そんなお前にオススメの品がある」

 

 そう言って浮浪者風の…名前はザイルというらしい…人が、アイテム化されて陳列されている茶色のコートを指差した。フードも付いてていい感じに思える。

 

【試作トラベルコート 改二】

 Vit +10

 Min +7

 全天候ダメージ無効

 耐久値 500/500

 

 名前に突っ込みは入れないぞ…試作なのに改二とか凄い違和感だけど突っ込まないぞ…

 そう自分を抑え込む俺に、胡散臭い笑みを浮かべてザイルさんが説明をしてくる。

 

「こいつはある職人が『どんな環境でも快適な旅を』というテーマで製作したコートだ。当初の目的であった丈夫で快適という点は達成したが、代わりに性能が著しく低下した欠陥品だな」

「買いで」

「ははっ、気前がいいなあんちゃん。5,000Dだ、払えるか?」

「勿論」

 

 多少財布に痛いが、これくらいなら問題はない。即座に購入を決定した。装備してみると黒いジャケットもセットで装備され、コートの若干草臥れた感じがいい味を出している。これは掘り出し物ですわ。

 

「ならこっちはどうだ? 同じ職人が製作したブーツでーー」

「買いで。ついでに他の部分もあるならそれも」

 

 ザイルさんが勧めてきたメンズの黒い編み上げブーツ、その隣に置かれた黒いズボン、これ見よがしに置かれている指ぬきグローブ、明らかにセットとして纏めてあるそれらを纏めて購入する。軽く12,000Dほど吹き飛んだけどまあ良しとする。

 惜しむらくは、うさぎのしっぽとの見た目の相性が絶望的なことくらいだろう。

 

「悩んでるあんちゃんに朗報だ。俺は一応その手の技術に精通していてな、装飾品を透明化できる。システムの都合上、装飾品以外はできないがな」

「なん…だと…」

 

 なんて素晴らしい能力だろうか。一も二もなく頷きたいけれど、ついさっき張り切ってセット買いをしたせいで残金が心許ない。こんなことになるなら、もっと値切…金策しておけばよかった。そしてこんなタイミングで提案してくるってことは、この人が製作者のプレイヤーだろう。

 

「そうだな…10個纏めて1,000Dでどうだ?」

「お願いします」

 

 即答してしっぽを全て手渡す。手持ちが1,000Dになるけど、まあなんとかなるだろう。

 時間がかかるだろうことを見越して目の前に座り込むと、フードの奥から肉食獣のような金色の目がこちらを睨みつけてきた。

 

「俺、何かしました?」

「いいや、ただ有名人の顔を拝んでおきたかっただけだ」

「有名人?」

 

 まだ始めて1日目が終わったくらいなのに? 

 

「一番人口の多い街であんな大立ち回りをして、夜中にあんな惨い行為をされてたんだ。不思議じゃないだろう?」

「あっはい」

 

 言われてみればネタは沢山あった。けれど、1日でそこまで情報が広まるっていうのは驚きだ。何か掲示板にでも晒されてたのだろうか?

 

「そら、できたぞ」

 

 そんな俺の思考を遮るように、何も載っていない()()()()()()手を差し出された。お金を払い受け取ると、キチンと10個全てがアイテムの欄に戻ってきた。早速装備し直しておく。

 

「はい、確かに。それではまたいつか」

 

 立ち上がり、頭を下げてお礼を言う。さてと、今日は暫く金策に耽るかな…そう思い踏み出した俺に声がかかった。

 

「まあ待てや、あんちゃん」

「あれ、まだ何か…っと」

 

 振り向いた俺に向かって飛んできた光を反射する何かを、どうにか右手でキャッチする。すぐにその感触が消えたことから、恐らく飛んできたのはアイテムだと思われる。

 

「えっと、今のなんですか?」

「見たところ、頭装備は決まってないだろ? 先輩からの贈り物ってやつだ」

 

 僅かに見える口元がニヤッと笑っている、とても怪しい。懐疑的な目を向けつつアイテム欄を開くと、増えていたアイテムの名前は【幸運の耳飾り】怪しい、とても怪しい。

 

「何が、目的なんです?」

「ただの親切心だ。気にするな」

 

 そう言ったザイルさんは徐に立ち上がり、腰に吊っていた何かを勢いよく引き抜いた。それは鞭。しかもそれは、先端が蛇の頭になってる明らかにヤバ気な物だった。

 無謀だってことはわかり切っているけれど、こちらも長杖を取り出して臨戦態勢をとる。裏路地ファイト…多分頭部を破壊されたら失格で、街がリングだろう。

 

「またいつか逢おう、俺たちの後輩よ」

 

 そう宣言しつつ振るわれた鞭の軌跡が複雑怪奇な紋様を描き、次の瞬間カッと閃光を放った。あっ、駄目だこれ死んだと早々に勝負を諦めたのだが、いつまでたっても死に戻りの感覚が訪れない。

 

「ええー…」

 

 決してアイヌ語ではない。

 疑問を解消するため目を開けると、そこではザイルさんやその周囲に置かれていた商品類が、跡形もなく消え去っていた。

 

「まあ、いいか」

 

 こっちは特に被害を受けてない、向こうはなんだか楽しそう、だったらまあいいやと思う。けれど気が抜けたままなのもアレなので、腹を両手で叩き気持ちを切り替える。

 

「とりあえず貰い物を装備――って、何これ?」

 

 金策するのにもLukは高い方がきっといい、そう思いメニューを開くと、フレンド欄の右上に②という数が付いていた。装備は後回しにしてそちらを開いてみる。

 

「ちゃっかりフレンド申請来てる…だと」

 

 通知の理由の片方は、先程まで話をしていたザイルさんからのフレンド申請だった。特に断る理由もないので、普通に承認しておく。まさかセナ以外にフレンドができるとは……

 しみじみとそう思いつつ、もう片方の通知…セナからのメッセージを開く。そこに書かれていたのは、嬉しいけど絶望的なニュースだった。

 

 

 ====================

《セナ》

 再来週の月曜から、大型のイベントが始まるんだって!

 詳しくは公式ページを見てねってしか言えないけど、参加条件が第2の街に到達だからファイト!

 手伝いたかったけど、部活とかで忙しいからごめんね。

 ====================

 

 

 つまりこれは、自分1人でボスを倒して次の街へ進めということだった。パーティを組めばいい? 初対面の極振りなんて極大の地雷を受け入れてくれる人なんて、常識的に考えているわけないだろ。

 

 だからこその単騎。幸いボスはデカイ猪らしいし、作戦次第でどうにかなるだろう……多分、きっと、メイビー。不安な考えはこの際置いておくとして、そうなればやることはただ一つ。

 

「お店の人いますかー?」

 

 全力で金策に走るに限る。

 初心者装備じゃない杖、あるかわからないけど固定ダメージを与えるアイテム、MPを回復するアイテム、あればいいな状態異常にするアイテム。全部を揃えるとなると、とんでもない出費になるだろう。

 

「ここからここまで、全部売却で」

 

 どうせプレイヤーメイドなんて作ってもらえないだろうし、アイテム欄の肥やしになるだけのただの素材アイテムを売却する。

 一番良さげな長杖を購入し、その足で俺はボスがいるフィールド……始まりの街の北へと向かうのだった。1on1なら多分死なないだろうしね、最高難度に挑んでもなんとかなるでしょ。

 




ちゃっかり登場する鞭使いの人でした。
※HP・MP・Luk以外はほぼ飾りです

 Name : ユキ
 称号 : 詐欺師
 Lv 10
 HP 500/500
 MP 475/475

 Str : 0(7) Dex : 0(8)
 Vit : 0(24) Agl : 0(10)
 Int : 0(15)Luk : 290(884)
 Min :0(8)

《スキル》
【幸運強化(中)】
 Luk上昇 10%  
【長杖術(中)】
「長杖」装備時、魔法のリキャストタイムを10%カット
 耐久値減少を半減
【投擲】【付与魔法】【愚者の幸運】

( )内は、装備・スキルを含めた数値
 小数点以下は切り捨て

【古木の杖】
 Str +7
 Int +15
 耐久値 100/100

【試作トラベルコート 改二】
 Vit +10
 Min +7
 全天候ダメージ無効
 耐久値 500/500

【試作トラベルブーツ 改二】
 Vit +7
 Agl +10
 全地形ダメージ無効
 耐久値 500/500

【試作トラベルパンツ 改二】
 Vit +5
 Min +1
 状態異常耐性上昇
 耐久値 500/500

【試作トラベルグローブ 改二】
 Vit +2
 Dex +8
 弱体耐性上昇
 耐久値 500/500

【幸運の耳飾り】
 Luk +15
 耐久値 50/50

【うさぎのしっぽ ×10】
 Luk +30%
 獲得経験値 +30%


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第9話 ボス戦に備えて

(あれ、うちの主人公パッシブスキルばっかりでアクティブスキルなくね…?)


 ランペイジ・ボア、直訳すると暴れ回る蛇…だけど調べた限りは猪。それが、俺があれから軽く調べた結果判明した、第1のボスだった。どうやら綴りが違った様だ。

 

「《フルカース》」

 

 アナコンダ級の大きさの蛇の突進(の出)を魔法で叩き潰しつつ、回想を続ける。

 

 ボスの攻撃パターンはいたってシンプル。突進、速い突進、牙での岩投げ、範囲攻撃のストンプの4種類。HPはボス相応に高いけれど、それだけの楽なボスというのが大体の攻略サイトでの総評だった。

 

「《吸撃》《フルカース》」

 

 大口を開けて突っ込んできた蛇の口に長杖を突き入れ、内側から大爆発を引き起こす。敵の気配はまだある、油断はせずに自分に強化をかけ直す。

 

 けれど、俺にとってはそれでも十二分な脅威だった。こちらはゴミの様な火力しか持たず、回避力もなく、防御力もない。だからこそ目をつけたのが、ダメージを与えるアイテム類だった。

 

「シャアッ!」

 

 新たに現れた蛇が吐き出した毒液をコートで受ける。毒状態にはならなかった…違う、防御力が下がってる。一瞬にして瀕死になったHPもそのままに、流れる様に長杖で刺突→魔力吸収→手を離す→内から爆ぜろ→クリティカル! の汚ねぇ花火だコンボで蛇を仕留める。名前は今決めた。

 

 流石に始まりの街では種類が少なく、威力もそこまで期待できる物ではなかった。だから俺は結局、失敗前提で自作…もとい改造する事にした。レシピは攻略サイトに載ってたし。

 

「これで、ラスト!」

 

 最後の蛇も汚ねぇ花火だコンボで仕留め、俺は近くの木に寄りかかって休憩する。

 

 というわけで、素材集めや実戦経験を積むなど色々な目的の為に、俺はここ東の森の奥地で1時間程休まず狩りをしていたのだった。移動時間は勿論含めていない。

 

「よし《蛇の毒液》は……集まってるな」

 

 ここで戦っていた第1の理由は《蛇の毒液》という名前のアイテムを集めるため。偶然にも《パラライズマッシュ》とか《スリープマッシュ》とか言うキノコ系アイテムの群生地を発見もしたのは、とてもラッキーだった。流石Luk極振り。

 そしてアイテムを改造する為に、50,000Dという大金を払って【スキル】を購入したのが昨日の深夜のことだった。後回しとか言ってて何故買った俺。

 

 取得したスキルの名前は【サバイバル】

 気配感知・投擲・水泳・料理・クラフト系のスキルの複合スキル。

 それぞれのスキルを最大50%の性能で発揮する事ができる。

 その出力は、5つ全て発動させているとそれぞれ10%、1つなら50%といった様に変動する。

 細かい振り分けが可能かはプレイヤーに依存する。

 

 効果を詳しく説明するなら、自分周囲10mに存在する物を感知できる【気配感知】・様々な物を作れる【クラフト系】・元々持っている【投擲】・上手く泳げる様になる【水泳】・食べ物の詳細を調べられ料理もできる【料理】の5つのスキルを、()()()()()()()()()()()()発揮できるという不人気スキルだ。

 不人気な理由は、同じ値段でケチらないで5種類をゲットした方が性能もつかいやすさも圧倒的に上だかららしい。

 俺がコレを選んだ理由? 別に本腰入れてやる訳じゃないし…という理由で、まだまだあるスキル枠をケチっただけですはい。

 

「こほん」

 

 長々と言い訳が続きそうだったので、咳払いをして気持ちを切り替える。

 そういうわけで一石五鳥くらいの気持ちで森に篭り、必要なアイテムが揃ったのが今というわけだ。何度も死に戻りしてるけど気にしちゃいけない、20からは数えてないから俺も知らないし。因みに今も絶賛デスペナ中である。

 

「帰るか」

 

 俺はそう言って、自分の装備を全て初心者の〜〜に戻す。デスペナでステータスは下がらない。徒歩で街まで帰るには30分は最低でもかかる。死んでもアイテムを落とす心配もない。つまりはそういう事だ。

 

「さあ来い! ゔっ…」

 

 すしざんまいのポーズで敵を待ち構え、無抵抗で頭上から強襲してきたフクロウの攻撃を受けとめる。当然HPが0になり暗転、次の瞬間には俺は始まりの街へと転移していた。流石デスワープだ、(移動時間が)なんともないぜ。

 

「確かフクロウって、幸運を呼ぶ生き物だったような……ちょっと損したかもしれないなぁ」

 

 転移直後、いつもの噴水前で俺は1人そう呟く。

 数日前は感慨深かった街並みも、今では見慣れたリスポーン地点である。それはつまりウンザリするほど死に戻りしてると言うわけで…

 

「あり得ない紙耐久、俺でなきゃキャラメイクし直してるね」

 

 若干ゃ頭がおかしくなってきてる気がしないでもないが、なんだかんだこのゲームは楽しいのだ。

 周りがみんな超人級の身体能力の中、現実とほぼ変わらない能力で冒険ができるのも個人的には気に入ってる。こっち(ゲーム)でできることをあっち(現実)でもできると勘違いして失敗、痛い目で見られるなんて事件もニュースで間々放送されてるし。これは別に負け惜しみではない。ないったらない。

 

 それはさておき。どこか落ち着いて作業ができる場所が欲しい。

 所持数限界の10個まで何故か売ってた()()()()を買ったのはいいけれど、今のままじゃ失敗前提とはいえアイテムの改造ができない。時間はまだ昼、普通に人は多いのだ。流石に衆人環視の中、座り込んで作業して失敗とか恥ずかしい。

 

「となると、やっぱりあそこかな?」

 

 候補として浮かぶのは、ザイルさんと遭遇したあの裏路地。あそこなら人目も少ないし、この5,000Dもした爆弾達をボロクソにしても恥ずかしくない。

 

「イベントまではまだ時間もあるし、まったりやりますか」

 

 そう言って俺は、相変わらず遅すぎる速度で歩いて行くのだった。

 

 

 そんなこんなで到着した裏路地。そこに座り込み、頭の中で例のBGMを流しながら3分クッキング……もとい、3分改造の始まりである。例のBGMで座ったからと言って、テ-レッテ-は出来ないので安心してほしい。

 

「サバイバル : クラフト」

 

 サバイバルのスキルを取得した際、特典としてついてきたサバイバルナイフ(攻撃力は皆無)を手に俺はスキルを発動させる。振り分けるのはクラフト系一択。スキルの説明が不安だったけれど、少し集中すれば特に問題なく能力値を分配することができた。某盧生の破段をイメージすれば誰でも…って思ったけれど、今じゃ相当な古いゲームだから誰も見向きもしないんだろう。

 

 閑話休題

 

 能力値の割り振り以外にも、サバイバルで使えるクラフト系スキルには欠点がある。

 1つ目は、勿論出力。普通のクラフト系スキルと比べて元々のスペックが半分程度なので、普通に物の作成に失敗することが多々ある。

 2つ目は、レシピ。普通の物と違って、レシピがスキルに保存されず手動でしかアイテム作成できない。無論失敗も増えるし、時間もかかる。

 

 他の能力にも欠点は纏わり付いており、正直誰が買うんだこんなのという感じだ。…………買う奴いたよここに。

 

「♪♪♪〜」

 

 鼻唄を歌いながら、実体化させた小型爆弾……見た目・大きさは花火の4号球?くらい……にザックリとナイフを突き入れ半分に切断する。本当の職人プレイヤーはもっとマトモなんだろうけど、俺みたいな半端者には多分これが1番早いと思います(ソースはwiki)

 

「でもこれ、絶対失敗するよな……」

 

 そんな事を呟きながら、一口大まで切り刻んだ《パラライズマッシュ》を爆弾の黒い断面にぶちまける。街の外でやったら自分が麻痺になる事請け合いである。

 そのままかき混ぜ、小型爆弾の片割れを元の形になる様に乗せ、上手くいってれば成功らしい。失敗したらゴミになるらしい。

 

「よしっ、成功!」

 

 出来上がったアイテムを収納すると、そこには《パラライズボム》との表記があった。どうやら1個目は成功したらしい。次の物も、躊躇なく同じ方法で製作を試みる。

 

「…ちっ、今度は失敗か」

 

 今度完成したのは《危険なゴミ》というアイテム。99個まで持てるから良い弾になる。アイテムを変えて試したその次は《スリープボム》その次は《危険なゴミ》といった様に、俺の幸運値があっても中々製作が安定しない。

 

「お金ないし、また狩りかなぁ」

 

 そうやって、10個あった小型爆弾は全て適当な改造の素材になった。内訳は《パラライズボム》に化けたものが4つ、《スリープボム》に化けたものが3つ、そして《危険なゴミ》に変化したのが3つ。それぞれ小型爆弾とは別に10個・10個・99個まで持てるので、ボス戦で頼れる物になってくれる事間違いなしだ。

 

「とりあえず、お昼食べなきゃな」

 

 メニューの示す時刻は15:34。

 良い加減お昼を食わねばなるまい…いや、軽い間食でいいか。そしたら掃除もしなくてはいけないし、冷蔵庫の中身を補充もしておかねばいけないだろう。何だろう、リアルのことを思い出したら急にそっちが気になってきた。

 

「再ログインは…多分夜か」

 

 そんな計算を頭の中でザックリ済ませ、俺はリアル世界へと帰還した。…ボスの攻略動画とかあるかな、ガッチガチに縛ったやつ。

 

 イベント開始まで、あと9日

 




【極振りスレ】第七の使徒襲来

 225.名無し@ニンジャ
 ひでぇ、あんまりだぁ…これが人間のやる事かよぉ…

 226.名無し@武闘家
 おぉ、どうしたのですかリューノsニンジャよ…

 227.名無し@短剣使い
 どうした?

 228.名無し@魔法戦士
 何があった?

 229.名無し@ニンジャ
 極振りしてた時よりマシになったステータスで俺は、いつもの様にレベル上げに出た西のフィールドから帰ってくる途中だったんだ。
 だけど俺はそこで見てしまった、あの悍ましい光景を。

 230.名無し@片手剣使い
 前置きが長い。3行でよろ

 231.名無し@ニンジャ
 幸運極振り君
 引き摺り回されてた
 【銀閃】に

 232.名無し@短剣使い
 !?

 233.名無し@魔法戦士
 !?

 234.名無し@魔法使い(炎)
 !?
 それは、フィールドでですよね?

 235.名無し@ニンジャ
 勿論、手を繋がれて雑巾の様にズルズルと。しかも途中で死んでも、街からまた連れて来られる鬼畜ぶり。そのまま影ワンコと戦闘させられてた。レア泥ランニングに付き合わされたんだろう……可哀想に

 236.名無し@鞭使い
 なんて、酷い扱いなんだ……
 俺、今度あったら優しくするわ。厳しく当たってゴメンな後輩…

 237.名無し@魔法使い(炎)
 未だにAglがほぼないので移動速度は分かりますけど、幾ら何でもそれは……
 まあ本人たちが同意の上なら、私達は関われませんが

 238.名無し@片手剣使い
 なるほど…つまり【銀閃】ちゃんはSという事か

 239.名無し@気持ち的にナイト
 1人だけ目の付け所が違う…
 流石です、先輩!

 240.名無し@魔法使い(炎)
 という事は、後輩君はM…?

 241.名無し@鞭使い
 閃いた!

 242.名無し@短剣使い
 >鞭使い
 通報した

 243.名無し@鞭使い
 なんでや!?

 244.名無し@武闘家
 なんでディア○ルはんを見殺しにしたんや!

 245.名無し@気持ち的にナイト
 あとは頼む、極振りさん。
 みんなに、笑顔を…

 246.名無し@魔法使い(炎)
 なんなんでしょう、この茶番劇……別作品混ざってるし

 ・
 ・
 ・

 301.名無し@鞭使い
 幸運極振り君と遭遇したから、お古の装備を売ってきたった

 302.名無し@魔法使い(炎)
 あー…そういえば鞭使いさんって、ちゃっかり露天売りしてましたよね……誰も来なそうな裏路地で

 303.名無し@片手剣使い
 ふむ…野外プr

 304.名無し@短剣使い
 >片手剣使い
 通報した

 305.名無し@片手剣使い
 対応早すぎィ
 で、売りつけたのはなんの装備なんだ?

 306.名無し@鞭使い
 試作トラベル改二シリーズを一式。ついでに幸運の耳飾りをプレゼントして、うさぎのしっぽを透明化してきた。後フレンドにもなった。

 307.名無し@魔法戦士
 おおぅ、アレか……(鞭使いの自作の…)
 相当搾り取ったんだろうなぁ

 308.名無し@片手剣使い
 搾り取った(意味深)

 309.名無し@鞭使い
 >片手剣使い
 バラバラに刻むぞ
 ところがなんと、一律2万Dで売りつけてきた

 310.名無し@武闘家
 安!?
 大出血サービスじゃないか!!

 311.名無し@魔法使い(炎)
 えっ、でも鞭使いさんって私と同性だったんじゃ…

 312.名無し@鞭使い
 いや、アレは男女指定なしの装備だから。
 それに、70くらい前のレスで、あんな事をされてたって聞くとさ…優しく接してあげたくなるじゃん?

 313.名無し@魔法戦士
 確かに。暴力系とは恐れ入った

 314.名無し@片手剣使い
 つまり、ここのスレ民になら鞭使いは安く装備を卸してくれる…?

 315.名無し@鞭使い
 >片手剣使い
 お前には作らん、売らん、買い取らん

 316.名無し@片手剣使い
 最近の姉御、きついや…

(以下雑談)


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第10話 ランペイジ・ボア①

主人公が延々と死に続けるシーンとか書いててつまらないし、見ててもつまらないと思うのでかなり割愛されてます。戦えてるように見えるのはそのせいです。

-追記-
警告タグが必須タグになって、しかも増えるんだ…


 キーンコーンカーンコーンとチャイムの音が響く。漸く6時限目の授業が終わったようだ。起きようかと思ったけれどまだ眠気が取れない、どうせ放課後なんだしもうちょっと……

 

「起きてとーくん!」

「むごっ」

 

 机を叩かれた衝撃で頭を支えていた腕が外れ、俺の頭は机に叩きつけられた。半ば眠ってる無防備な状態にこれは些かキツイ。そして学校でこの呼び方をしてくる相手は1人しかいない。

 

「今回は何さ……沙織」

 

 半眼で軽く睨みつけながら俺は言う。起こしてくれるのは嬉しいのだけれど、毎度毎度痛みを伴うのはやめてほしい。

 そんな俺の気持ちを華麗にスルーし、ぽわぽわとした雰囲気を漂わせ、若干の逡巡の後沙織は話しかけてきた。

 

「【UPO】の話なんだけどさ、とーくんってギルドに入ってたりする?」

「ギルドか……特に考えたこともなかったなぁ……」

 

 土日はお金を稼いでアイテムを買って、合成しての無限ループをこなしていたのだ。レアアイテム以外のドロップ品は全てNPCに、レアアイテムは仕方なく一部をザイルさんに売り、ザイルさんから第2の街以降に売ってるアイテムを仕入れ、漸く準備が整ったのが今朝だったりする。はいそうです、また徹夜です。若いって良いね。

 イベントまで今日を含めて7日……ボスは可及的速やかに始末してイベントの準備に入りたい。流石に今日は偵察しかしないが。

 

 ごちゃごちゃと考えたけれど結論は、ギルドなんか考えてる暇がなかったということだ。多分何か恩恵もあるんだろうけど、はっきり言って知らない。

 

「それじゃあさ、次のイベント期間中だけでもいいからウチに来ない? 結構小さいギルドだし」

「ウチって、沙織がマスターやってるギルド?」

「うん」

「別に構わないけど、何か理由でも?」

 

 そもそも俺がソロでやってるのは極振りだからってこと以外に理由はないし、ギルドに誘われたのなら断る理由はない。ノルマとかの面倒くさい何かがない限りだけれど。

 それにしても、なんでこのタイミングなんだろうか? 最初に会ったときに誘ってもらっても全然構わなかったのに。そう疑問に思っている俺に、沙織はキョトンとした顔で逆に聞き返してきた。

 

「イベントの告知、見てないの?」

「うん、全く。擬似とは言え、1人暮らしはやることが多いから…」

 

 料理・掃除・洗濯・勉強は基本として、週末は親が置いていく大量の洗濯物と格闘する必要があるし、そこに加えてUPOをしていたのだから余力なんてない。

 ながら仕事はミスに繋がり死に直結……するのはゲーム内だけだが、リアルでも火傷とかはするかもしれない。正直それは御免である。コラテラルダメージ認定はできない、死か自由かではないのだ。

 

「そっか……そうだよね……うん、説明してしんぜよう!」

「ははぁー」

 

 なんとなく(こうべ)を垂れるような動作をしてみる。

 断る理由はないし、ここで教えてもらった方が実際早い。多分アブハチトラズなんだろう。

 

「今回のイベントはね、イベント中に現れる特定のモンスターを倒して、そのときにドロップするアイテムを集めるやつなんだ。勿論、集めたアイテムは色々な物と交換が可能だよ!」

「ふむふむ」

「それで、そのドロップアイテムの個数とモンスターの討伐数で、ギルドのランキングがあるんだけど……」

「なるほど、流れが見えた」

 

 俺の4桁に届きそうなLuk値があれば、ドロップアイテムが多くなったりするとかそういうことだろう。俺もゲーマー、報酬は欲しいし断る理由はやっぱりない。

 

「あ、そう? 告知で、極々稀に大量のポイントとレア素材を抱えたボスモンスターが出現するって話だったから、とーくんには参加してほしかったの!」

「え」

 

 英語にするとWhat?  いや違うそうじゃない。や、これはこれで線が繋がった。第1の街のボスをソロ討伐しろってあのメッセージは、多分この為だったんだろう。燃えてきた。

 そんなことを思っていると、沙織に声がかかった。曰く、そんな奴に構ってないで早く部活に行こうとのこと。一瞬恐ろしい気配が沙織から漏れ出てたけど、知らぬ知らぬ聞こえぬ見えぬ。

 

「それじゃあ、よろしくねとーくん! 暇を見て申請は送っておくからー!」

「おー、部活頑張れよー」

 

 さてと、そこまで言われたらやらないわけにはいかなくなった。本番は明日の予定だけど――別に、倒してしまっても構わんのだろう?

 

 

「さてっと」

 

 ログインして降り立った噴水前。そこで一先ず状況を確認しようと思う。

 ボスモンスターであるランペイジ・ボアがいるのは、この始まりの街から北に広がる草原の先。出てくる敵はいなすことはできるけど、時間が勿体無いから避けるべし。聖水ってアイテムで、エンカウント率は下げられるからそれで良し。体調は土日の金策マラソンのせいで悪いけど、今日のうちにボスの攻撃は全部見ておくべきだろう。

 

「百聞一見」

 

 そんないつか読んだ略し方のことわざを呟きつつ、長い杖を持って俺は北の草原に向かうのだった。あ、聖水使わないと。

 

 ・

 ・

 ・

 

 特にエンカウントをするでも無く歩くこと10分、俺はボスがいるらしい場所へと到達していた。していた、のだが……

 

「人、多くね……?」

 

 そう、夜の7時だというのに何故かとても人が多いのだ。その誰もがPTの勧誘をしている。PTの人数上限が確か6人だから、ここで不足分を勧誘するのも不思議ではない……のかな?

 

「まあいいか」

 

 どうせ今回はソロ討伐を目指すのだ。今回は偵察目的だけど、特にPTを組む理由もないだろう。そう思っていた俺に、思ってもいなかった声がかけられた。

 

「あの、ちょっといいでしょうか?」

「はい?」

 

 声をかけてきたのは、沙おr……セナ並に背の低い男子。装備品は軽鎧、小盾、片手剣。一般的で、どう考えても俺より強そうだ。俺みたいな服装備の奴に話しかけてくれるなんてね…きっと優しいんだろう。

 

「僕たちのパーティには魔法を使える人が居ないんです。杖を装備してるし、あなたは魔法を使うタイプの人ですよね? どうか手伝ってくれませんか?」

 

 そういうこの子の後ろを目で追ってみれば、確かにぱっと見魔法での攻撃ができそうなメンバーはいなかった。槍を持った紫がかった銀髪の女性、弓を背負った黒い髪の女性、大きな盾を持った男性がパーティだろうか? うん、混ざる余地なしだね。

 

「ゴメン。俺は攻撃役(アタッカー)でも回復役(ヒーラー)でもなくて、支援役(バッファー)だから」

 

 申し訳なさそうな顔をして、俺はその誘いを断る。露骨に残念そうな顔をしてるけど、ここから死にながら敵の行動を覚えるのには実際邪魔だ。というのは建前で、俺はガチで足手まといだからお邪魔したくない。

 

「じゃあそれでも……」

「それに、俺は今日はボスに勝つつもりはないんだ。だから、多分邪魔になるんじゃないかな」

「そうですか……すみません」

「いや、こっちこそ誘ってくれてありがとう」

 

 とても落ち込んだ顔をして去っていく男の子を見送り、俺は人が流れていっている先に向かって歩く。

 こんな大人数でボスを狩って、リポップとかどうなっているのだろうか……そんな俺の素朴な疑問は、即座に解決された。

 

「なるほどね」

 

 草原のど真ん中に、堂々と刻まれた魔法陣っぽいもの。そこにパーティが載るたびにシュンッという音と共に何処かへ消え去っている。いんすたんすさーばー? みたいなところにボスを出現させて、プレイヤーがいくら同時に押し寄せても別個に戦える様な配慮だろう。

 

「それじゃあ、いよいよご対面っと」

 

 魔法陣(推定)に足を乗せた瞬間出現した、

〈ボスモンスター【ランペイジ・ボア】に挑戦しますか? Yes/No〉

 というメッセージウィンドウの、Yesボタンを勢いよく押す。

 刹那、全身を包む死に戻りの時と同様の浮遊感。その後、即座に視界が切り替わった。即座にサバイバルを気配探知で起動、敵の場所を探る。見事に探知圏外、残念。

 

 ブモォォォオオォォォオッ!!

 

 それが敵対行動とみなされたのか、そんな叫びが轟いた。

 開いた目に映ったのは、最低10mは離れた場所で明らかに突進のモーションに入っている大猪。《フルカース》は射程外だし……あっ、これマズイやつだ。

 

「《スピードエンハンス》とうっ!」

 

 予想通り一直線に、凄まじい勢いで走ってきた大猪を全力のダッシュで回避する。ランペイジ・ボア……長いしらんらんでいいや。らんらんは俺のかなり後方で土埃をあげながら停止し、再び突進のモーションに入る。

 

「《フルカース》!」

 

 今度は射程内だったため、いつもの暴発で突進の出を潰す。これで少しは考える余裕ができた。

 相手は、成人男性程の長さと太さの双牙を持った巨大な大猪。今のところ、突進から次の突進までは多少の猶予あり。全クリティカルの《フルカース》で減ったHPバーは、バーは……うん、多分減ったと思う。

 

「《フルカース》!」

 

 もう一度突進を潰す。バーは減った、減ってるんだ!(現実逃避)

 やっぱり、ソロ討伐とか無茶があったのかもしれない。いくら固定ダメージを与えるアイテムがあっても、これは中々以上にきつい。これは手のひらクルーテオ卿からの待たれよ卿のコンボを決めて、協力を要請するのも……

 

「あっ」

 

 そんな俺の思考は、目の前一杯に広がった茶色の所為で掻き消された。あぁ、これが例の岩投げなんだろうなぁ…と思いつつ、俺のHPはなんの抵抗もなく0になったのだった。

 

 

「到着までの聖水は必要経費と割り切るとして……」

 

 噴水前(リスポーン地点)で、俺はさっきのまま頭を回す。

 あのHP量の敵に勝つ方法があるとすれば、突進は躱して、岩投げを潰して、まだ見ぬストンプを潰してが最低条件だ。それさえできれば、毒・麻痺・睡眠・出血を始めとした状態異常を与えるアイテム類を駆使して、無理すれば勝てないこともないわけではないかもしれない。……自分でも何言ってるのか分からなくなってきた。

 

「とりあえず実戦あるのみだよなぁ」

 

 自分のスペックはよくわかっているけれど、相手のことを情報でしか知らないままじゃ勝てるものも勝てない。多分使い方がおかしいけど、彼を知り己をしれば百戦危うからずって言葉もあるくらいだし、相手を知らないとダメなのだ。

 

 というわけで。これから明日の実戦のために、時間の許す限りボス相手に戦って死に戻る事を続けようと思う。

 

「よし、先ずは30戦!」

 

 心の中でファイトーッ! と叫び、俺は再びボスの待つあの場所へと足を運ぶのだった。明日の晩御飯は牡丹鍋にしてやる……猪でも出荷よー。




現在のユキの持ち物
・小型爆弾 ×10 ・パラライズボム ×10
・スリープボム ×10 ・HPポーション ×10
・MPポーション ×10 ・ただの石 ×99
・ポイズンポーション ×10 ・金属片 ×99
・スリープポーション ×10 ・危険なゴミ ×64
・中型爆弾 ×10 ・毒々しい木片 ×58
・聖水 ×21 錆びた金属片 ×43


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第11話 ランペイジ・ボア②

書く場所間違えたけど、そのまま続行



【極振りスレ】第七の使徒襲来

 426.名無し@長杖使い
 初めまして。鞭使いの人から聞いて、来てみました

 427.名無し@
 長杖さん、お初ですー

 428.名無し@ニンジャ
 ドーモ、長杖=サン。ニンジャです

 429.名無し@鞭使い
 歓迎しよう、盛大にな!
 それで、装備はどうだ? 見ていた限りじゃ問題はなさそうだが

 430.名無し@長杖使い
 アイエエ!?ニンジャ!?ニンジャナンデ!?
 自分でも耐久値の回復はできますし、一式売って下さり本当にありがとうございます

 431.名無し@片手剣使い
(ノリいいな…)
 ちょっと待て? 姉御から装備を一式売って貰った…? まさか!

 432.名無し@長杖使い
 一瞬で正体がバレてしまった…(´・ω・`)

 433.名無し@短剣使い
 !!

 434.名無し@魔法戦士
 !!

 435.名無し@気持ち的にナイト
 自分の(半ば)晒しスレに本人を連れてくるなんて…

 436.名無し@片手剣使い
 流石姐さん、俺たちに出来ないことを平然とやってのける!

 437.名無し@ニンジャ
 そこにシビれる!

 438.名無し@片手剣使い
 あこがれるゥ!

 439.名無し@鞭使い
 とまあ、普段からこんなテンションだ。気楽に吸…気楽に話すといい (゚∀。)y─┛~~

 440.名無し@魔法使い(炎)
 そうですね。【銀閃】さんから逃げたければ、いつでも言ってください。ここにいる人はみんな先輩ですし、できる限り力になりますよ?

 441.名無し@長杖使い
 >鞭使いさん
 それって、阿片じゃ…
 って、逃げ出すってどういう事です…?

 442.名無し@気持ち的にナイト
 詳しくは200くらい前のレスだな

 443.名無し@鞭使い
 お前がそう思うならそうなのだろうよ。お前の中ではな。それが全てだ

 444.名無し@長杖使い
 >鞭使いさん
 確信犯じゃないですかやだー
 見てきました。えっと、アレは外面だけ見れば間違ってないんですけど、内情がかなり違うというか…

 445.名無し@片手剣使い
 kwsk

 446.名無し@魔法使い(炎)
 あ、私も聞きたいです

 447.名無し@長杖使い
 それじゃあ、少し長くなりますがよろしくお願いします

 448.名無し@武闘家
 おうおうー

 449.名無し@長杖使い
 先ず始めに言っておくと、例の雑巾掛けが云々って話は、大体俺の自業自得ですね。
 引き摺られたのは、ちょっとした好奇心とプライドがせめぎ合った結果でして…

 450.名無し@魔法使い(炎)
 つまりどういうことですか?

 451.名無し@長杖使い
 普通の戦闘に飽きて超高速の戦闘を体験してみたかったけど、自分より小さい女の子に背負われるのはプライド的にアウトだったので、折衷案として手を繋ぐ事になりました。結果は雑巾というか、はしゃいで暴れる犬に引き摺られる飼い主?

 452.名無し@鞭使い
 犬www

 453.名無し@片手剣使い
 ナンテコッタイ/(^o^)\
 そういうプレイかと思ってたら、まさか立ち位置が逆だっt

 454.名無し@短剣使い
 >片手剣使い
 通報した

 455.名無し@長杖使い
 普通に戦ってる時は怠かったんですけど、引き摺られながら戦う内に何か漲ってきて、異様なテンションで死に戻ること数回。それで冷静になったんですけど、色々とキリが悪かったのでそのまま続行して、少し経ってからようやく解放された感じですね。
 最後の方の俺が結構いやいややってたせいか、その後から色々と遠慮させちゃいまして…

 つまり、この話はニンジャさんの主観による報告が原因だったんだ!

 456.名無し@片手剣使い
 ΩΩΩ<な、なんだってー!?
 いや、これって姉御は知ってたんじゃ…

 457.名無し@気持ち的にナイト
 これは誤った情報を流した、ニンジャ=サンのケジメ案件では?
 ハイクを詠むがいい…

 458.名無し@鞭使い
 勿論知ってた。素材を売却してもらう時に雑談はしてるからな。

 459.名無し@ニンジャ
 ……サヨナラー!

 460.名無し@長杖使い
 ナムアミダブツ
 長々とお話しを聞いて下さり、本当にありがとうございました。
 それでは私も、今日こそはソロでらんらんを狩りに行きたいので、ここら辺でお暇させていただきたいと思います。

 461.名無し@武闘家
 乙乙ー。
 ん? らんらんソロ…? らんらん=ランペイジ・ボアだよな…?

 462.名無し@長杖使い
 はい、そうですね。それじゃあ今度こそ。またいつか遊びに来ます。

 463.名無し@魔法使い(炎)
 また来て下さいねー ノシ
 ……えっ? ソロ?

 464.名無し@片手剣使い
 ……この中で、らんらんソロ討伐できる人挙手
 ノ

 465.名無し@気持ち的にナイト
 ノ

 466.名無し@魔法使い(炎)
 ノ

 467.名無し@ニンジャ
 ノ

 468.名無し@鞭使い
 これだけしかいないのか…まあ俺も無理だが
 まさか最近買っていった物の使い道がそれだとは…

 469.名無し@短剣使い
 ……幸運極振りだったよな? 最新の後輩は

 470.名無し@魔法戦士
 とりあえず幸運を祈ろうぜ。意味ないだろうけど

 471.名無し@片手剣使い
 Luk極振りに幸運を祈るwww

 472.名無し@魔法使い(炎)
 ネタですね


 チャットを閉じ、俺は別のウィンドウのYesボタンを叩くように押した。

 

 何度経験しても変わらない浮遊感が身体を包み、ボスフィールドに転移が完了する。

 

 ブモォォォオオォォォオッ!

 

 そして、昨日のうちに聞き飽きた大音声がボスフィールドに響き渡った。けれどそこには緊張も興奮もなく、俺の心は完全に冷めきっている。慣れって本当に怖い。

 

「《スピードエンハンス》」

 

 自分を強化して、1回目の突進を避ける。距離をきちんと取っておけば、突進という攻撃の都合上俺でも余裕を持って避けられる。なお強化は必須の模様。

 そして、走り去っていくらんらんの背中に向けて《毒々しい木片》を2つ投げつける。残念、毒状態にはなってくれなかった。

 

 ブモッーー

 

「《フルカース》!」

 

 全弾クリティカルのうえ、多分連鎖(チェーンボーナス)で威力の上がっている7連の爆発で、らんらんの攻撃をキャンセルさせる。

 再び杖から手を離し《毒々しい木片》を2つ投げつける。今度こそ毒状態になってくれた。これがないと倒せたもんじゃない。

 

 ブモォ

 

「《フルカース》!」

 

 もう一度、前足を掲げストンプの準備に入っていたらんらんの行動をキャンセルさせた。【投擲】スキルフル活用で、今度は《錆びた金属片》を2つ投げつける。小ダメージと出血付与を確認。

 

 ブモォォ

 

「させないっての!」

 

 巨大な牙を地面に埋め、岩(地面)を抉り飛ばそうとしてきたらんらんに《パラライズボム》を投げつける。麻痺が通り、ここから10秒行動不能になった筈。

 

「さてと、削りあいといこうじゃないか」

 

 そう俺は、頭を半ば地面に埋めたまま痺れ固まっているらんらんに対し宣言するのだった。

 

 ・

 ・

 ・

 

「そーれっ!」

 

 突進を躱し、残弾が残り32個になった《金属片》を投げつける。アイテムを使い切りながら奮闘すること1時間強、漸くらんらんのHPが2割を下回った。そろそろ疲れで頭がおかしくなりそうである。

 でも、ここまで来たからにはやるっきゃない。相手のHPはごく僅かだし、毒・出血の状態でドンドン減っていく状態だ。こっちが集中力を切らさなければ、勝ち目は十分にある。

 

「ははは! 《フルカース》!」

 

 岩投げを潰す。アイテムを投げる。突進を躱す。アイテムを投げる。突進を躱す。アイテムを投げる。スタンプを潰す。アイテムを投げる。

 

 そんな無限ループの中、1つ気がついたことがあった。ポーションは飲んで効果を発揮させるアイテムというのが普通だ。だが効果自体は、体に振りかけても、踏み砕いても何ら変わらなかった。なんと素晴らしい時間短縮ジツ。

 というわけで、最後のMPポーションを踏み砕き減ったMPを回復させる。そこからはまた無限ループの始まり始まり。

 

 躱す。投げる。潰し。投げる。躱す。投げる…………

 

「これでトドメ、《フルカース》!」

 

 ブモォ……

 

 最後の爆発に呑み込まれたらんらんが、そんな寂しそうな声をあげて光に還って(出荷されて)いった。苦節2時間弱。涙ぐましい努力と発狂しそうな無限ループの末、俺はどうにからんらんことランペイジ・ボアを倒すことができたのだった。そう、できたのだが……

 

「……豚は出荷よー」

 

 大きな溜息を吐き、俺はどっしりと腰を下ろす。何というか、盛り上がる戦闘と言うよりはHPを削る作業みたいな感じだった。そのお陰(せい)で勝てたのだが、なんだかとても疲れてしまった。うん、ゲームでこれは良くない。俺自身ペルソナを被って

(´・ω・`)らんらん♪とか言い出しかねない。

 

 そんなとき、ピロンという何かを受信した音が聞こえた。

 気分転換の意味も込めて開いたメニューに届いていたメッセージは、簡単に纏めると大体こんな感じの内容だった。

 

・ランペイジ・ボアを倒したので、第2の街に進めるようになりました。おめでとうございます。

・初回討伐ボーナスとして『スキル取得チケット』を1枚プレゼントします。

 

 ついでにレベルが1つ上がって12となり、Lukの値が今のところの目標である4桁に迫った。できればイベント開始までに4桁の大台に乗せたいけど、流石にそれは無理だろうと諦める。

 

「スキル取得は……後回しでいいか」

 

 事前に調べた限りでは4つほど気になるものがあったけど、今の精神状態じゃ変なミスをしそうだからパスする。

 淡々と作業をこなすだけの戦闘だったけど、身体も頭も酷使した際で疲れ切っている。なにせHPを削るだけの行為で……あれ? これさっきも考えたような気がする。

 

 うん、素直に休もう。

 

 改めて考えてみると頭も痛い気がするし、それが良いに違いない。あ、猪肉はちゃんとドロップしてる。明日は牡丹鍋でパーリーだ……って、調味料買わなきゃ。

 

「あー、ギルド申請…」

 

 使うことがないだろうと思っていたそのボタンをタッチし、何か文言が書かれていた気がしたけれど気にせず加入ボタンを押す。

 

「第2の街……いいや、ログアウト」

 

 このまま強行軍しようかと思ったけれど、さっきまで考えてたことを思い出し却下する。明日でも特に問題はない。

 とりあえずボスフィールドから脱出し、俺はそのままゲームからログアウトしたのだった。

 

 

「というわけで、らんらんは無事倒したから第2の街にはいけるぞ」

 

 翌日の学校での昼休み、俺はある程度掻い摘んで昨日のボス戦のことを沙織に自慢していた。……いいだろ自慢したって。頑張ったんだから。

 そんなことを考えながら笑顔でサムズアップすると、沙織はそのままがくりと膝から崩れ落ちてしまった。周囲から、殺意の篭った視線が集まる……解せぬ。

 

「そんな…ここ数日の、私の努力は…」

「えっと、大丈夫か?」

「全然大丈夫じゃないよー…そもそも、らんらん? を1人で倒してくるなんて予想外だもん…1人でやってもらう予定なんて無かったし」

 

 連結した机の向こう側で突っ伏してしまった沙織が、くぐもった声でそう答える。こっちとしては、ある程度サプライズのつもりだったんだけれど……

 

「折角ギルドのみんなに協力を取り付けられたから申請したのに……協力してもらえるまで長かったのに……そもそも加入を認めてもらうまでも長かったのに……メッセージだけでの説得、凄く難しかったのに……」

「えっと…なんかごめん」 

「まあいいや!」

 

 とても気まずく、謝っていた俺の前でガバリと沙織は起き上がった。立ち直り早いですね…

 

「とりあえず、かんぱーい!」

「乾杯」

 

 テンションの高い沙織に合わせて掲げたペットボトルが、鈍い音を鳴らしてぶつかる。お互い校内の自販機で買った物だったけれど、それでも決して悪い気はしなかった。

 

 周囲からの、圧倒的なまでの殺意の篭った視線は増えたけど。




長すぎた部分は一部カットしました。

イベント開始まで、あと1週間


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第12話 すてら☆あーく

もう5月も終わりか…
と、急いで書いたから少し雑かも?


 低い草が生える草原を、俺はのんびり歩いていく。

 空ではよく分からない鳥っぽいモンスターが旋回してる中、敵にエンカウントしないのは幸運値が関係してるに違いない。そんなことを思う俺の手元には、数枚のウィンドウが開きっぱなしになっている。ファンタジーなんて、すべて壊すんだ(違

 

「とりあえず、第2の街に着いたらこのスキルを買うとして……あぁ、アイテム類も補充しておかなきゃ」

 

 幸運に頼るだけではなく聖水を使い、敵との遭遇率を下げながら歩く俺が見ているのは【UPO】の攻略まとめサイトだ。本当はあまり頼りたくないのだけれど、目的地である第2の街の品揃えや、出現するモンスターは調べるのには活用させてもらう。さっきあの鳥の不意打ちで死んだし。

 情報集めは重要、ながら歩きは危険、はっきり分かんだね。備えよう。

 

「ということは、また暫く金策中心かぁ…」

 

 目の前のサイトに書かれている品物の相場と、今の俺の所持金を考えてみる。結果、頭の中でソロバンが弾き出した結果は赤字。余裕のよっちゃんで予算オーバーであった。今ばかりは火力が欲しい、切実に。

 まぁ、そんな愚痴は一先ず置いておいて。

 

「ここが第2の街の……えっと、メフテルか」

 

 始まりの街から北にまっすぐ(俺の足で)1時間。そこに第2の街である【メフテル】は存在している。

 そんなことを考えつつ開いていたウィンドウを全て閉じ、どの街も共通しているであろう街を覆う壁を抜ける。するとそこには、始まりの街とは全く違った景色が広がっていた。

 

 それを一言で言うのであれば、和風。

 城がないのに城下町という感じが一番しっくりとくる。時代は江戸時代くらいだろうか? 実際に団子とか和菓子とかもあるそうなので、結構人気の街らしい。ゲーム内なら誰でも最低限は美味しく作れるし、いくら食べてもリアルのお腹は膨れないしね。

 ただしここでも付き纏う金の問題。同情するなら金をくれ。やっぱ虚しいからなしで。

 

「で、ここがセナのギルドホームか……」

 

 そんなことを考えつつ街に入り歩いていくこと数分。俺は一軒の建物に到着する。

 外観が寺子屋というか、和風な喫茶店。それが、ギルド名からは全く想像さえできなかったセナのギルドであった。なんだかんだ言ってたが、俺がこの街にきた一番重要な理由がこれ。セナのギルドへの挨拶だ。

 因みに、第2の街にギルドホームを構えた理由はセナの独断らしい。始まりの街は味気なさすぎて、第3の街は無駄に近代的すぎて、第4の街は水路が多くてお気に召さなかったらしい。

 

 

 そんな現実で聞いた小話を思い出しつつ、『喫茶すてら☆あーく』という看板がかけられたお店?に入ってみる。

 そこは、外観通りお店のような空間だった。一番手前にレジのような物が置いてあり、長いテーブルと座布団が数個置かれている座敷席が一箇所存在している。

 

「いらっしゃいませー! 何か御用でしょうか?」

 

 意外としっかりしてるんだなぁ…と立ち尽くす俺の前に出てきたのは、群青色の髪をした活発そうな女の子。

 手にはメニュー表を持ってることから察するに、ここは見た目だけではなく普通に営業してるようだった。というか、和服とメイド服が合体したような制服がなんかヤバイ。製作者さんとは、一度ゆっくりお話がしたいものである。

 

「あ、じゃあ三色団子を二本」

 

 メニュー表は読めなかったので、勘でありそうな品物を注文する。そしてそのときにふと思った、これって話す話題としてはいい機会なんじゃないのかって。思い立ったが吉日ともいうし、丁度いいタイミングなのでギルド加入に関して話してみることにする。

 

「それと、セナ…さんの紹介で、暫くの間このギルドにお世話になるユキといいます。短期間かもしれませんが、よろしくお願いします」

 

 普段通りセナと呼び捨てしそうになったが、ギリギリ踏み止まり失礼のないようさん付けする。そうして俺は、失礼のないように頭を下げた。第一印象はとても重要なのだ。

 

「れーちゃん、三色団子2本――って、え?」

 

 指示を出し終えた女の子の動きがピタリと止まった。そしてこちらを向いた薄緑色の目が、俺のことを足元から観察していき、最後に目があった。メトメガアウ-いやなんでもない。

 

「ん」

 

 何かを言おうとしてるのか口をパクパクさせて固まってしまった女の子と、何ができるわけでもなく固まってる俺が作り出していた空気を壊してくれたのは、団子を持ってきてくれた小さな影だった。

 セナより小さいこの子が、多分れーちゃんなのだろう。差し出された団子を受け取った俺をジッと見つめ、踵を返しすぐにお店の奥へと戻っていってしまった。

 

「えっと…立ち話もなんだし、ギルドで話さない? ここに辿り着いたってことは、どうやってかボスを倒したみたいだし」

「そうですね。折角のお団子ですし」

 

 硬直した奇妙な空気を壊してくれたれーちゃん? に心の中でお礼を言いつつ、俺はその誘いに乗る。立ち食いは行儀が悪いし、何より変な空気のままイベントに参加はしたくないからな。

 

 

「それでですね、もう残りアイテムもMPも少ない状況なのにギルマスが『へーきへーき、本気でやればいけるって! もっと熱くなろうよ!』とか言って暴走し始めて…」

「うわぁ……いかにも言いそう。セナがいつもすみません」

「いえいえ、ユキさんが謝る必要はありませんよ。それにあのときは結局多数決で行くことになりましたけど、みんな本気でやったらどうにかなったので大丈夫でしたし」

 

 あの衝撃的な出会いから30分程度、意外なほど簡単に俺はこのギルドに打ち解けることができていた。話題は勿論セナのこと。どうやら俺がさっきから話しているサブマスのつららさんも、相当苦労してきたようだった。

 因みに、俺のボスの突破方法は「流石ギルマスの幼馴染。頭おかしいですね」と言って笑われた。解せぬ。

 

「ユキさんこそ、大変なんじゃないんですか? ギルマスがいつも楽しそうに話してくれますけど、聞いてる限りユキさんの被害がとんでもない気がするんですけど……ほら、例えばフィールド引き摺り回し事件とか」

「あー…アレは俺の不注意とセナのテンションが重なった事故ですね。それに小さい頃からの付き合いですから、いつの間にか慣れちゃいました」

 

 具体的な部分こそぼかしているが、俺がこうしてリアルの話を持ち出してるのにも理由がある。

 セナの言っていた通り、このギルドは俺を含めても5人でかなり人数が少ない。その中の女子3人で、攻略に出ないときは所謂ガールズトーク的な話で盛り上がってることも多いらしい。無論そこではリアルの話も出る。なら俺が既に明かされてる情報を利用しても問題はないだろう…? ということだ。

 

「お互い、随分と苦労してるみたいね…」

「そうですね……セナにはもうちょっと落ち着いてもらいたいです…」

 

 はぁ…とお互いのため息が重なった。けれどそれは完全に嫌というものではなく、呆れを含みつつもどこか…こう、上手く表現ができないけれど、決して悪いものではないのは確かだ。うん、沙織は随分良い人に恵まれてるみたいだ。安心安心。

 

「あ、そうそう。ギルマスから幸運極振りって聞いてるけど、ユキさんってどんなスキル構成なんですか? 私はヒーラー兼水と氷の魔法で攻撃する後衛なんですけど…」

 

 一瞬それはタブーなんじゃないかと思ったけれど、向こうもある程度明かしてくれたうえ、極振りなんて大体似たようなものだから別にいいか。

 

「投擲とサバイバルで命中率を限界まで底上げして、Luk値に頼ったクリティカルですね。まあ付加魔法がメインなので、多分バッファーですかね」

 

 状態異常をかけまくったり、相手の攻撃を潰したり、固定ダメージを与えたり、パーティを組むなら付加魔法で補助したり……ほら、どこからどう見ても支援役だ。『スキル取得チケット』でゲットしたヤツを含めそうだから、俺は何も間違ってない。

 

「バッファーかー。聞いてた限りまだ変化してないみたいだけど、どういう方向性にするつもりなのかな?」

「方向性とは?」

「ふふん、折角だからお姉さんが相談に乗ってあげようか?」

「それじゃあお願いします」

 

 そっち方面に関しては、正直何も考えていなかった。ネットで調べるよりは確実だし、話をしてもらう方がいいだろう。

 

「付加魔法で支援役を選んだ人はね、大体3つの方向に分かれるみたいなのよ。デバフと攻撃に特化した呪術、広域化と繊細化に特化した紋章術、一点集中の多重付加術って感じでね」

「なるほど」

 

 もしその3つなら呪術は却下だな。当たらない火力がない怯まないとか、無い無い尽くしの現状を悪化させるだけだ。多重付加は…火力こそありそうだけど、一点特化型とか事故の予感しかしない。となると、使うとしたら紋章術とかいいのかも?

 

「それが効率良いってだけで、どういう風に育てるかは個人の自由だから、参考にしてくれるだけで大丈夫かな」

「色々便利そうなので、一先ずは紋章術の取得を目指しますかね」

 

 全体強化、全体弱体、(多分)無属性爆発(メギドラオンでございます)。一番俺の戦い方にマッチしている気がする。無論、それより良さげな物が見つかったのなら話は別になるけれど。

 

「なるほどなるほど……イベント後に居残ってもらうのもあり…かな?

「何か言いました?」

「何も言ってないですよ?」

 

 考え事をしてたせいか何かを聞き逃した気がしたけれど、何も言ってないならきっとそうなのだろう。もしくは、聞き逃しても問題がないこと。それなら今更聞き返す必要もないだろう。

 

「それじゃあ、今日は長々とありがとうございました」

「うんうん。新しいメンバーさんには……あっ」

 

 そこまで言ってから、つららさんは何かに気がついたようでピタリと停止した。そして改めてこちらに向き直り言った。

 

「遅くなっちゃったけど、ようこそ『すてら☆あーく』へ。しばらくの間、宜しくね」

「こちらこそ、宜しくお願いします」

 

 こうして俺は、ギルマス(セナ)がいない状況ではあるものの、ちゃんとギルドに合流することができたのだった。

 さて、今日の残りは金策金策っと。

 

 イベント開始まで、後は6日。

 




構成人数4人というほんと極小ギルドでした。
セナ Lv 36
??? Lv 33
つらら Lv 32
れー Lv 28
ユキ Lv 12

ユッキーの運命や如何に

もう書く事ないし、ダイジェストでイベントまで飛ばすのもあり…かな?


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第13話 すてら☆あーく②

投稿遅れてすみません。許してくださいなんでも…これ以上いけない

まさか、バレーで満身創痍になるとは思わなんだ(右足首軽捻挫・左膝激痛・肩の痛み・筋肉痛)


 ① ログインする。

 ② ギルドホームから外に出撃する。

 ③ 死に戻る。

 ④ ドロップしたレアアイテムをギルドの倉庫に放り込む。

(因みに倉庫というのは、ギルドに存在するアイテムを大量に保管できる場所の事)

 ⑤ 通常素材を売り払う。

 ⑥ 外に出撃する。

 ⑦ ③に戻り以後ループ

 ⑧ 時間をみてログアウト

 

 俺がギルドに加入してから4日、何をして過ごしていたのかを纏めると大体こうなる。多少色んな人と話したりもしたが、殆どやっていたのはこの作業だけだ。

 なんでレアアイテムをギルドに放り込んでいるか? 手持ちのアイテム欄の枠を爆弾やら状態異常誘発アイテムに食われてる以上、折角のレア泥も枠を圧迫する邪魔物でしかないからだ。

 

「ふぅ…」

 

 売り子のNPCさんしか気配のないギルドホーム、そこで俺はため息とともに腰を下ろした。さっき考えてたようなことを、基本的には一人でずっとこなしていたのだ。偶につららさんが手伝ってくれたけど、それでも疲れもする。

 

 因みに、そうまでして集めたお金はもう2,000Dしか残ってない。スキルは高いし、アイテムないと戦えないし……難儀なものである。セナや最後のギルメンさんと協力できればもっと楽なのだろうが、ログイン時間と狩場が噛み合ってないため、最後のギルメンさんに至ってはゲーム内で会ったことすらない。

 

「ん」

「ありがとう、れーちゃん」

「ん」

 

 立ち去る小柄な姿にお礼を言い、俺は持ってきてくれたお茶に口をつける。

 数日このギルドで過ごし、れーちゃんについて俺がわかったことは殆どない。セナより小さく髪も瞳も黒く、服装まで白黒ドレスのこの子は、なにせ「ん」としか喋ってくれないのだ。幸い表情の変化もジェスチャーもあるからできないことはないけれど、意思疎通が非常にし辛い。

 

 故にわかったことは「呼び方はれーちゃんじゃないと不機嫌になる」くらいのものだ。教えてもらったことを含めると「お兄さんと一緒にギルドに入った」のと「生産職系のプレイヤー」というのもあるけれど。

 

「さてっと。それじゃあ行きますか!」

 

 湯呑みをNPCのお姉さんに渡し、長杖を手に立ち上がる。そうして外へ踏み出そうとしたとき、じっとこちらを見つめる視線を感じた。何かと思い振り返ると、れーちゃんがジッと俺のことを見ていた。

 

「えっと、何かしちゃったかな…?」

「ん」

 

 れーちゃんは首を振り、俺の持ってる杖を指差す。

 

「この杖?」

「ん」

 

 コクコクと頷き、後ろを指差し、ついでに手をバタバタさせる。そしてゴトリと、カウンターの上にハンマーが置かれた。

 

「もしかして、作ってくれる…ってこと?」

「ん」

 

 またしても正解らしく、首が縦に振られる。そして背後にある倉庫を指差し、次いで手が大きく円を描くように動かされる。

 

「沢山素材…多分レア素材? がある……いや、持ってきてくれたから?」

「ん!」

 

 どうにか読み取れたことは合っていたらしく、頷きながらとてもキラキラした目を俺に向けてくる。いや、そんな期待した目を向けられても、俺はそんなに正確には読み取れないからね…?

 そんな俺の気持ちは伝わらず、何かをジッと目で訴えてきながら必死に倉庫の方向を指差している。これは……

 

「素材を、どれくらい使っていいかってこと?」

「ん!」

 

 凄いぞ俺の想像力。なんて冗談は置いておくとして。

 どれくらいかと聞かれても、実際どれくらい使うのかを俺は知らない。【レアハンター】なんて称号をゲットする程色々集めてきたけれど、それらの使い道が売却くらいしかないのもまた事実。

 

「折角だし、俺が持ってきたヤツなら全部使っていいよ?」

「ん!!」

 

 結果、全部好きに使っていいよと言うことにした。

 森の中を散策してるときに拾ったなんか良さげな木(神秘の木材)とか、嵌め殺したデカイ蜂の針(女王蜂の猛毒針)とか、ヤバげな蛇の寝ぐらからの盗品(蟒蛇の酒)とかetcetc… そんなアイテム群を売るなんて勿体無い。活用してくれるに越したことはないだろう。

 そんな思考を巡らす俺の前から、嬉しそうな様子で倉庫の方向へれーちゃんはとててーと走っていってしまった。なんだろう……れーちゃんの俺への評価が、凄い高くなってる気がする。

 

「まあ、悪いことではない…のかな?」

 

 杖を作ってくれるっていうのは嬉しいことに違いないし、仲良くなるのも悪いことなわけがない。

 

 そう思いながらギルドを出た瞬間、チャキッという音とともにこめかみに何か冷たい物が押し付けられた。えぇ…今度は何さ。

 

「新しくギルドに加入した奴というのは、お前か?」

 

 視線を動かし確認すると、初めに見えたのは刀が納められていそうな柄。だけど俺の体と平行になっていることから、用途が通常とは異なっているのが分かる。そして次に見えたのが、白を基調とした和服。そして、悪そうな目つきと1つにまとめられた長い白髪。

 事前情報と合致。誰だかわかったけど、理由は全くわからない。

 

「そうですけど……何か御用ですか? れーちゃんのお兄さん?」

「ほう、そこまでわかっているのか」

 

 あ、やっぱり心当たりが1つあった。つららさんが言っていたれーちゃんのお兄さん…ランさんの特徴はもう1つ『シスコン』らしいという事もあった。もしかしたら、俺の行動の何かがそこに引っかかったのかもしれない。

 奇妙な硬直が続くこと数瞬、スッとこめかみに当てられていた何かの感触がなくなった。

 

「何、最近リアルでれーがよく話すからな。いったいどんな奴なのかと気になって見に来ただけだ」

「なるほど、そういうことですか。なんで銃を向けられたのかは知りませんが」

 

 どうにもれーちゃんが会話してる状況を思い浮かべられないが、自称兄がそう言うのならばきっとそうなのだろう。そんな風に考えつつ、俺は若干の不満を乗せて返答する。街中だからダメージは発生しないとは言え、銃を突きつけられていい気分がする人はいないだろう。

 

「すまないな。半分RPで、半分お前を試した」

「何を試したんですか……」

 

 はぁ…と溜息を吐き、俺は頭を切り替える。イベントまで日がもうないというのに、実はまだ欲しいスキルが買いきれていないのだ。レア素材を売却してないぶん、非効率ここに極まれりである。

 つまり、今ここでぼんやりしていたら、間に合わない可能性が極めて高いということだ。

 

「レベル上げか?」

「ええまあ。皆さんレベル高いですし、少し欲しいスキルもありますし」

 

 そういう面もあるので、特に否定もせずに頷く。

 第2の街であるメフテルの敵の強さの分布は、始まりの街とは多少異なる。簡単に表すなら、西>北>東>南となっている。それぞれ街の周囲の草原を抜けた先は、湿地帯、低い木の森、荒野、草原となっており、普段俺が狩りに行ってるのは森だ。湿地帯は足場が悪くて、動き辛いし気持ち悪いしで嫌いだからね。

 

「茶番に付き合ってくれた礼だ。俺も付き合おうか?」

「いいんですか? それじゃよろしくお願いします」

 

 ランさんは銃がメイン武器らしいし、そういうことなら湿地帯へ行くしかないだろう。1人で行くよりも、かなり心強い。

 結論だけ言えば、俺は最低でも普段の10倍は早く狩りをすることができたのだった。銃の掃射で敵が全滅って何さ…

 

 

「ん」

 

 イベント前日となった翌日、団子(有料)とお茶(無料)で寛いでいると、そんな一言と共にれーちゃんがひとつのものを渡してくれた。

 黒っぽい木製の長い柄の頭には宝珠を象った金色の輪形の構造物が存在し、そこに6つの輪が通されている。それの長さは大体170cmほどで、先端の部分以外は特にこれといった装飾がないシンプルな錫杖だった。素材が99%レア素材ということを除けば、であるが。

 

「ありがとう、れーちゃん」

 

 そう言っていつものように頭を撫でてから気がついた。セナにはいつもこうしてるけれど、たとえ小さい子相手であっても普通は失礼かもしれない。

 

「ん!」

 

 もしそうなら兄さんに撃ち殺されかねないと内心戦々恐々としていると、最悪の予想に反してれーちゃんは、そのまま嬉しそうな雰囲気を出しつつカウンターの奥へと向かっていってしまった。これは……セーフ、だったのかな?

 

「あれ? ユキさん、いつの間にれーちゃんと仲良くなったんですか?」

「昨日ちょっと話す機会がありまして。この杖も、そのときにお願いした感じですね。溜め込んでたレア素材全部放出して」

 

 俺の返答に驚いたような、呆れたような顔をしてるつららさんを横目に、受け取ったばかりの錫杖を軽く振ってみる。ちゃんと俺にも装備できる重さだし、地面に突くとシャランと良い音が鳴る。加えて属性と状態異常も設定されている。

 パーフェクトだ、れーちゃん。

 

「私、ふっかーつ!」

 

 カウンターの向こう側にいるれーちゃんにサムズアップをしていると、すぐ近くでそんな聞き慣れた大声が聞こえた。つららさんが大きくため息を吐くのが見え、ギルド内の空気が切り替わった。

 

「元気なのは良いけど、流石にうるさいよ…セナちゃん」

「えー…久しぶりにみんなと同じ時間に遊べるんだし、テンション上げていきたかったのにー」

 

 振り向いたら、捕まる。

 今まで積み重ねてきた俺の経験が、全力でそんな警鐘を鳴らした。今セナに捕まったら、恐らくきっと面倒な事が起きる。ならば逃げるべし。

 

 即座にそう判断し、買い集めたスキルのひとつである【潜伏】のスキルを使う。これは名前の通りのスキルで、敵からのヘイト値を抑えたり姿を隠したりするスキルだ。街中の、明るい建物内ということで効果は微妙だけど、少しで良いから保って――

 

「あ、折角だしユキくんも一緒に行こうよ!」

 

 くれなかった。こうもあっさり見つかるとか……働いてくださいよ【潜伏】さん。熟練度が足りない? あっはい。

 

「バレちゃったんなら仕方ないか。どこに行くんだ? セナ」

 

 諦めて振り向くと、そこには目をキラッキラさせたセナと、同類を見つめる目をしているつららさんがいた。うん、これはもう逃げられませんわ。

 

「んー…ウォーミングアップだし、湿地帯で!」

 

 ウォーミングアップとか言ってるくせに、この街基準で一番敵が強い場所を選ぶとか……流石としか言いようがない。

 

「分かったわ。でもあそこ、ジメジメしてて嫌いなのよね…」

「了解。でも出発前にひとつだけ」

「何かあるの?」

 

 そんなセナの疑問に答えるように、俺はひとつのアイテムを実体化させる。見栄を捨てて、便利さを追求したならこれに辿り着くのだ!

 

「また雑巾掛けされるのはごめんだから、全力で移動するなら俺のことはこれで運搬してくれると助かる」

「……絵面がとんでもないことになりそうですね」

 

 つららさんがそういうのも理解できる。なにせ俺が取り出したアイテムは、なんの改造もされていない、ただのリアカーだったのだから。

 

 イベント開始まで、あと十数時間。

 




主人公のイメージ図→旧キノ(古いキノの旅の方)
ランのイメージ図→兄さん!(ガン×ソード)

Name : ユキ
 称号 : 詐欺師 ▽
 Lv 14
 HP 700/700
 MP 675/675

 Str : 0(35) Dex : 0(8)
 Vit : 0(19) Agl : 0(10)
 Int : 0(57)Luk : 330(956)
 Min :0(25)

《スキル》
【幸運強化(中)】【長杖術(中)】
【投擲】【付与魔法】【愚者の幸運】
【サバイバル】
【ドリームキャッチャー】(チケット)
 AS(アクティブスキル)
 自身の組んでいるPTメンバーの弱体効果を全て吸収する
 Luk上昇 5% ×(吸収した弱体効果の数)
 戦闘中一回まで発動可能
 効果時間 : 戦闘終了まで
【潜伏】(購入)
 潜伏する。敵からターゲットされにくくなる
【固定ダメージ強化(大)】(購入)
 固定ダメージを強化する
【ノックバック強化(中)】(購入)
 ノックバックを強化する

 -控え-
 なし

【錫杖〈夜天〉】
 Str +35  Min +17
 Int +57
 属性 : 闇
 状態異常 : 毒
 耐久値 480/480

 レア素材の暴力()

 称号《レアハンター》
 取得条件 : レアドロップ150回
 効果 : レアドロップの確率が僅かに上昇する。レアモンスターとの遭遇率が僅かに上昇する。


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第14話 第1回イベント

レクリエイターズの世界に獣殿とコズミック変質者が降臨して、アルタイルが「ナニコレ」ってアホ面にズレた帽子で固まってる夢を見た…


 同級生の男子の恐ろしい視線を背に、部活が休みになったらしい沙織を送り届け、ようやく帰宅し落ち着いた月曜日の大体午後4時頃。イベント開始から既に4時間、はやる気持ちを抑えてログインする。

 

 見慣れた店内に到着した俺の手元で、勝手にウィンドウが展開した。

 

 ====================

《!開催中!『灰の魔物と失われた王冠』》

 現在のpt

 個人 : 0

 ギルド : 57420

 順位 : 12位

 ====================

 

 春の大暴走についての詳細は、

 

 ☆期間中「灰」と名のつくモンスターが出現する

 ☆特定の敵を倒す&そのドロップ品をゲットするかで、敵の強さやドロップ品のレア度に応じたポイントをゲット

 ☆ドロップ品は色々なものと交換可能

 ☆個人ポイントは、貯めた数値によって色々なものと交換可能

 ☆ギルドポイントは、ギルメン全員の獲得ポイントによってランキング

 ☆ランキングによって、特別報酬あり

 ☆特別なモンスターもでるよ!

 ☆第2の街に到達してる人のみ参加可能

 

 流し読みした公式ページの内容を纏めると、大体こんな感じだ。5つ目のヤツから察するに、既につららさんとかが本当に頑張っているようだった。カウンター辺りにいつも居るれーちゃんすらいないのも、多分そういうことなのだろう。

 

「さて、確認も終わったしそろそろ行くか」

「そだねユキくん。それじゃあれっつごー!」

 

 そんな声とともに、右手に生まれた小さく温かい感触。あ、これダメな(吹き飛ぶ)やつだと覚悟完了し……

 

「どしたの? ユキくん。行こ?」

 

 予想とは違い、軽く手を引かれるだけで終わった。流石に予想外すぎて頭の回転が追いつかない。

 

「えっと、大丈夫かセナ? 変なものでも食べたとか、熱とかあったり? なんなら作りに行こうか?」

 

 手をほどきしゃがんで、自分とセナの額に手を当て……あ、ここVRだから意味ないや。そう少し後悔してると、ちょっと赤くなった顔のセナに目を逸らされた。

 

「い、今から急いでもそんなに意味ないし、ゆっくり行こうかなーって思ってただけなんだけど……来てくれるのは嬉しいけど」

「そっか、それなら良いんだが」

 

 自分の言ったことを誤魔化すように、セナの頭を撫で立ち上がる。セナやれーちゃんが怒らないからいいものの、この癖っぽいものは治さないといけないな……

 

「も、もう! 早く行くよ!」

「はいはい」

 

 さっきセナが自分自身で言ってたことと矛盾してるけど、揚げ足取りになるので黙っておく。あんまり長く話して、参戦が遅れるのも嫌だしね。

 

 

「到っ着!」

「ごふっ」

 

 そんな声とともにリアカーが急停止し、運ばれて(んでもらって)いた俺は、慣性の法則か何かでバランスを崩し頭を打った。そして、当たり前のようにHPが3%ほど削れる。これはさすがに、セナに頼らない高速移動手段を考えなくちゃいけない。

 

「それにしても賑わってるな」

「そうだねー」

 

 バチャリと、跳ねる水を感じながら降り立った湿地帯。リアカーをアイテム欄に戻しつつ見渡したそこには、普段と比べて3割り増し程度人が増えており賑わってる……気がする。そしてそれぞれ灰色のモンスターと戦っており、それが特定の敵なのだろうと推測できた。

 

「それじゃあ俺たちも」

「始めよっか!」

 

 その声を合図に2つの破裂音が響いた。

 1つは上空から降下してきた数匹の灰色の鳥(アッシュコンドル)の一体を、セナの銃剣から放たれた弾丸が撃ち抜いた音。もう1つは、泥沼から飛び出してきたハゼっぽい敵(灰鯊)を俺が爆破した音。いや、それっぽいじゃなくてやっぱりハゼだった。

 どっちも【サバイバル】のスキルで感知できてたから、特に奇襲でも何でもない。鳥は完全にセナに任せて問題ないだろうし、安心して錫杖を足元に突き入れ灰鯊に手をかざす。

 

「《エンチャントサンダー》」

 

 その特徴的な腕で飛んでこようとした灰鯊の全身に、バチバチと電撃が走った。減ったHPは《フルカース》に届かないまでも、かなり高い。何だか魔法使いっぽくて良いなこれ。

 この魔法のタネは、【付与魔法】の熟練度的なものが上がり使えるようになった《属性付与》。普通はこんな短期間で使えるようになる代物ではないらしいのだが、数日前あっさり解放された。

 

「《エンチャントウィンド》」

 

 電撃から抜け出した灰鯊を、今度は緑色の風が(うっすらと)切り刻んだ。

 この《属性付与》の効果は名前の通り様々な属性を味方や敵に付与する魔法だ。発動を失敗させると、勿論その属性が対象を襲う。そして、このスキルが解放されたのはきっとアレだろう。一般的なプレイヤーと比べて、【付与魔法】の使用回数が段違いだからだろう。9割が失敗させての爆発だけど。

 

「そいや!」

 

 そんな考え事をしているあいだに、空から降ってきたセナの攻撃が、灰鯊のHPを1割弱まで持っていった。レベルを上げて物理で殴ればいいとはこのことか…(違)

 

「《フルカース》!」

 

 そして最後に、俺の爆発がHPを削りきった。パーティを組んでるので経験値は同じだし一人のときより時間もかからないし、いやぁ本当にやりやすい。

 錫杖を手に取り感心している俺に、泥を跳ね飛ばしながら着地したセナが聞いてくる。

 

「ここら辺の敵、凄い弱いけどどうする? もっと奥行く?」

「まだ見切れるし、それが良さげだな。今の敵、ドロップもそんなに良くないみたいだし」

 

 俺のアイテム欄に表示されてるアイテムは、灰の欠片×5・灰の鱗×1・灰の翼×1となっている。最後の物がそこそこレアなだけで、他は二束三文なアイテムだ。灰の〜〜がイベントアイテムらしいし、折角ならもっとギリギリまで攻めてレアドロを狙いたい。

 

 そういうことで意見が一致し、今度は徒歩でフィールドの奥……つまりボスが待ち構える方向へ向かって進んでいく。リアカー? さっきはほぼ入り口までだから平気だったけれど、今は乗れるわけがない。何せここは湿地帯、何かの弾みに俺が荷台から発射されて死にかねない。

 

「そういえばセナは【紋章術】ってスキル知ってるか?」

「んと…確か全体バフがかけられるやつだったっけ?」

「そうそれ」

 

 会話の途中で飛び出してきた灰鯊に、錫杖を突き出しそのまま内側から《フルカース》で爆散させる。今の攻撃の反動でHPが半分をきったので、足元にポーションを落とし踏み砕いて回復する。

 

「調べた限り、今の俺の状態だといつ進化してもおかしくないはずなんけど、なんかいつまで経ってもそんな兆候がないんだよ。そういうスキルが進化する条件とかヒントみたいなの知らないか?」

「私としては、ユキ君が戦えてることの方が分からないよ…」

 

 俺の一連の流れを見て大きくため息を吐いたセナは、けどまあと前置きして続ける。

 

「βテストのときに【召喚術】ってスキルがあるって噂されてて、そのときに初めてスキルをゲットした人の方法が、ひたすら地面にそれっぽい法陣を書き続けることだったんだー。だから、案外紋章っぽいものを書いてれば、進化するんじゃないのかな?」

「不確定だけど、教えてくれてありがとうな沙織」

「ふふん」

 

 上機嫌なセナの隣を早歩きで進みつつ、俺はメニューのオプション欄からメモを起動する。このメモ欄は、携帯にメモアプリがあるのと同等の理由で実装されてるんだろうと思う。というか、ネット通せば音楽を流しながらプレイもできるし、自由過ぎるだろこのゲーム…

 サバイバルの気配感知を全開で使い警戒しつつ、俺はその真っ白なメモ欄に指で線を走らせる。

 

「何描いてるのー?」

「紋章っていうから、ちょっとスワスチカを」

「なんでそんな物騒なの書いてるのさ…」

 

 まあいいじゃんと返事して、別の場所に線を走らせる。因みにスワスチカっていうのはアレだ、簡単に言えば逆卍だ。初めに書いた理由はお察しである。

 次に書き出してみたのはジオン軍のエンブレム。けれど、流石に2個じゃ何も起きないようだ。がっかりしつつも、とりあえず探知圏内に降りてきた鳥に《エンチャントサンダー》を浴びせる。そして、落下した鳥は即座にセナの銃剣の錆になった。

 

「お見事」

「ユキくんの迎撃の方が凄いよ…」

「いやいや、俺は足止めくらいしかできないし」

 

 紋章を描きながらだからセナの姿を追わないと歩いていられないし、それでも気をぬくとバランスを崩す。加えて半径5m圏内でしか反応できないうえに、火力はお察しである。たかが三つ程度の並行作業……現実ならともかく、ゲームでなら無茶じゃない。嘘ですごめんなさい、前回の教訓を活かしてるだけですはい。

 

 壊滅的なAglの速度で進行しながら、紋章を描くこと十数個目。不定形な五芒星形の内側に炎の目を描いた物を完成させたとき、それは起こった。

 

 ピロンという小さな音が耳に届く。それは何かを受信した音。この状況でそれが示すことは限りなくひとつに近く……

 

「…まじかよ」

「どしたのー?」

「いや、本当に進化可能になった」

 

 一旦メモを閉じたメニュー欄。そこで①という数の付いていたステータスの欄を開くと、こんなメッセージが届いていた。

 

 ====================

 条件を満たしました

 【付与魔法】が進化可能です

 候補

 ・呪術

 ・紋章術

 ・多重付加術

 ・召喚術?

 ====================

 

 個人的には、非常に一番下のヤツが気になるし興味も引かれる。だけど、?マークがそれを上回るほど不安を掻き立てる。なんか召喚するたびにSAN値チェックが入る気配がする。

 

「それで何にするの?」

 

 いつの間にか足を止めていたセナが、こちらの画面を覗き込むようにして聞いてくる。何が起こるか分からない最後の進化先については、わからない以上考えても仕方ない。だったら選ぶのはひとつしか残っていないだろう。

 

「やっぱり【紋章術】かな」

 

 なんせ俺は対抗ロールなんて自動失敗になる貧弱ステータスだ。好奇心を優先して戦えなくなったら、最悪としか言いようがない。

 そっかー、というセナの声を聞きつつ俺は【紋章術】を選択し、【付与魔法】を進化させた。

 

「さて、これで準備も終わったし……え?」

 

 【紋章術】の説明を読んでいた俺の耳に、セナのそんな驚いたような声が届いた。その声につられて目線を上げると、そこには明らかに場違いな存在がいた。

 

「お姫…様?」

 

 セナの言う通り、そこにいたのはお姫様だった。

 ただし全身が灰色一色で、顔にあるだろう部分はマネキンの様にノッペリしている。身に纏うボロボロのドレスも、跳ね放題の髪の部分も、灰色に染まっている。灰に染まってない部分といえば、頭に飾られた王冠のティアラとーー

 

「アレがお姫様なら、随分と物騒な……いや、日本じゃ普通か」

 

 足……いや、脚部に存在する半透明の大型ブレード。舞踏会じゃなくて、武闘会にでも出席するんじゃないだろうかってレベルの、攻撃的なデザインだ。

 

 見てわかる通り、現れた敵の名前は『灰被り姫』

 分かりやすく言えば、シンデレラだった。

 そして情報を加えるならば、このお姫様(戦闘民族)が、公式広告にシルエットが載っていた、目玉のレアモンスターだった。

 




威力
大なり小なりの向きを間違えてたので修正

Before
カース=エンハンス<ユキの通常攻撃<(極振りの壁)<一般の通常攻撃<エンチャント<<フルカース<一般の下級魔法

After
ユキの通常攻撃<(極振りの壁)<カース=エンハンス<<一般の通常攻撃<<エンチャント<<フルカース≦一般の下級魔法


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第15話 第1回イベント②

前話の入れなかった部分と掲示板っぽいものの合成話
フィリピン爆竹はいつ登場させるべきか……


「【潜伏】」

 

 突然の登場に微妙に硬直した戦況の中、最初に行動したのは俺だった。ソロほど自由に行動できないPT戦で俺の役割があるとしたら、それは【紋章術】によるバフ・デバフ、そして暴発による足止めがせいぜいだろう。因みに一番優先するのは死なないことだ。

 だけどこの武闘派シンデレラを足止めするのは、なんとなくできない気がしてならない。だったら補助に回るしかないし、どちらにしろ俺がヘイトを集めたら意味がない。何より紙装甲だし。

 

「【赤蜻蛉】【ブレイクファング】!」

「ッ!」

 

 そしてそれを契機に戦闘が始まった。

 武闘派シンデレラが滑るように移動しガラスの(やいば)で切り上げ、赤い燐光を纏い加速したセナがそれに銃剣を叩きつける。うん、やっぱりこれ俺が介入できる戦いじゃないわ。

 

「《フルカース》《フルエンハンス》ついでに《ラックエンハンス》」

 

 だからコッソリ支援する。

 セナには+が描かれた小さな円が、相手側には-が描かれた小さな円が出現した。自分にも出てるんだろうけど、紋章って言う割にショボいなこれ。

 残念な紋章を半目で見る俺の前で、灰被り姫は見る間にボロボロになっていく。銃剣に斬られ、撃たれ、最初と比べ明らかに精彩を欠いた蹴りは、更に加速したように見えるセナに回避される。

 

「《バーストショット》!」

 

 そして、銃剣の先で起きた爆発が大きく灰被り姫を吹き飛ばした。うわぁ、酷いダメージ。1発で3割消しとばすってどうなのよさ。

 

「あ、ごめんユキくん。そっちにタゲ行っちゃった」

 

 やっちゃったという声音でセナが言った通り、確かに瀕死の灰被り姫はこちらに向かって跳躍していた。そして空中で身体を丸め、綺麗なライダーキック姿勢に移行。因みに白だった。ライダーキックの速度は十分で、壊滅的なAglに加え足元がぬかるみなこともあって俺は回避できそうもない。

 

 さて、ここでせっかくだから【紋章術】について少し説明しようと思う。そもそもこのスキルは【付与魔術】の延長線上にあるもので、基本はバフ・デバフを自分・相手を基点に範囲展開するものだ。だけどそれとは別に、ひとつ新たに使えるようになったものがある。

 

「《障壁》多重展開。防ぎます。ーー以上!」

 

 昔のアニメキャラの真似をして言った俺の目の前で、ライダーキックの軌道上に5枚の紋章が展開された。

 今度は円の中に、えらく達筆な文字でと書かれててなんとも言えない気分が俺を襲う。因みにこの障壁は、最低値こそあるが基本的に硬さはプレイヤーのステータスを加算して考えるらしい。マイナスはされないらしいけど、俺のは無論最低値である。

 よって多少の抵抗はあれど、ライダーキックの直撃に晒された障壁はパリンパリンと砕けていく。

 

「だけど残念」

 

 最後の1枚も砕けたけれど、そこでライダーキックの威力は完全に殺しきれたようだった。ギリギリすぎて笑えないなこれ。

 

「《吸撃》《フルカース》」

 

 とりあえず冷静に、錫杖で落下してくる灰被り姫の胴体を勢いよく突き、回収したMPで爆発を起こす。HPバーはロクに削れてないが、俺は死んでないし相手の体勢を崩すことはできたからなんの問題もない。

 

「《アサシネイト》!」

 

 なにせ今は、隣にセナがいる。レベルの暴力で、与ダメージが俺なんかとは桁が3つは違っていそうな……いや、やっぱり訂正する。武闘派シンデレラの首が勢いよく飛んだし、4つくらい違うかも。

 

「なんでユキ君、そんなに戦闘慣れしてるの?」

 

 灰になって崩れていく灰被り姫の残骸を挟み、開口一番そんなことを聞かれた。俺はそんなに変なことでもしたのだろうか。

 

「いや、むしろあれくらい普通じゃないのか?」

「幾らVRで痛みがないって言っても、敵意を持って攻撃してくる人型に落ち着いて対処なんて、普通は無理だよ…」

 

 確かに、あらためて振り返ってみればそう思う。けれど、理解はできてもなぜか共感ができない。敵は敵って思ってるのは恐らく違うだろうし……あぁ、でもあらためて考えると思い当たることがあった。

 

「分かった。ログイン初日から毎日、最低でも10回は死に戻りしてるからだ」

「死にすぎだよぉ……」

 

 セナががっかりと項垂れるけど、仕方ないじゃないか。ソロで遊んでると、結構すぐにアッサリ死ぬのだ。不意打ち斬殺刺殺圧殺爆殺毒殺轢殺絞殺撲殺溺死落下死捕食……まあ、色々あった。この感覚は、ゲーム内に留めないと大変なことになるな。

 

「まあそんな事は良いとして、何かドロップしたか?」

「んー…灰の宝珠ってアイテムと、ガラスの靴だけだね」

 

 ふむふむと頷きながら、俺の方もドロップ品を確認する。ちょっと待って何これ多い。

 

「ユキ君はー?」

「灰の宝珠が5つ、ガラスの靴が2つ、灰の衣1つに、なんか黄金のティアラなんて物まである」

 

 因みにポイントは、18,000増えていた。………いちまんはっせん!? ポイントマジやばくね? というか、少し目を離した隙にギルドポイントが6桁突入してた件について。

 

「…いや、そんなことよりポイントがヤバイ。セナの方も大量に貰えてるんじゃないか?」

「うわ、ほんとだ。11,000も増えてる」

 

 もしかしたら、今回のイベントはLuk極振り(おれ)の独擅場かもしれない。ウィンドウを覗きながらそう思った瞬間、俺の探知圏内に何かが凄い勢いで突入してきた。

 

「っ! 《障壁》!」

 

 苦し紛れに張った障壁が砕ける音が聞こえ、衝撃とともに俺の胸から透明な刃が生えてきた。うん、安定の即死だ。

 

「あー、回収頼んだ」

 

 そう言って、俺の視界は暗転した。

 最後に見えた灰被り姫2号の頭には、金ではなく銅色のティアラが載っていた気がした。

 

「さてと」

 

 見慣れた喫茶店の内部で俺はリスポーンした。

 ……障壁、やっぱり最低値だけあって脆いなぁ。重ねないとコレあってもなくても……いや、MP消費する分無駄だわ。

 

「それじゃあセナが来てくれるまで、ゆっくり行きますか」

 

 また【紋章術】の説明でも読みながら、ゆっくり湿地帯を目指そうと思う。Aglが死んでるから、どうせ来てくれるのに間に合わないだろうけどね!

 

 え、あ、はい。なんです?

 私がどうやって戦ってるのか知りたい……ですか?

 まだギルマスが来るまで時間はありそうですし、丁度いいので付き合ってくれませんか?

 はぁ…掲示板に。まあ別に良いですけど。スキル構成は教えませんし、一応ボカしてくださいね?

 

 

【イベント】最新情報 part3

 

 1.名無しさん

 で、今のところ一番ポイント効率の良いところはどの辺りなんだろうな?

 

 2.名無しさん

 ……最前線は、来ない方がいいぞ

 

 3.名無しさん

 一番ポイント取れそうだと思ったんだが……何でだ?

 

 4.名無しさん

 考えてみるといい、最前線はガチ勢の巣窟だ。奴らは、イベントにも本気で取り組んでいる。後は分かるな?

 

 5.名無しさん

 なるほど、世紀末か

 

 6.名無しさん

 ジョインジョイントキィ

 

 7.名無しさん

 テ-レッテ-

 

 8.名無しさん

 トキ…病んでさえいなければ。でもそれ世紀末違い

 まあ大体あってる。魔法とスキルと同速のプレイヤーが乱れ舞う修羅の国になってる

 

 9.名無しさん

 トップギルドが暴れまわってるのか…

 よし止めよう。他だ他!

 

 10.名無しさん

 それなら、第3の街【ギアーズ】辺りかなぁ?

 

 11.名無しさん

 ああ、あそこのダンジョン辺りなら丁度よく稼げるだろうな

 

 12.名無しさん

 そもそも俺氏はまだ第2の街で足踏みしてる件

 初イベントなのに、これ町中探してもストーリーっぽいクエストがないんだが

 

 13.名無しさん

 それなら第3の街にあるな。

 なんか変な王様が「国の秘宝である王冠が、灰でできた魔物に盗まれた。取り返してくれ」って依頼出してくる。ポイント交換の方に『王権の象徴』なんてアイテムがあるからそれだろ

 

 14.名無しさん

 情報早スギィ…でも情報ありがとナス!

 

 15.名無しさん

 ホモは帰って、どうぞ

 

 16.名無しさん

 お前もじゃねえか!

 

 17.名無しさん

 お前もだったのか

 

 18.名無しさん

 暇を持て余した

 

 19.名無しさん

 ホモ達の

 

 20.名無しさん

 遊び

 

 21.名無しさん

 息ぴったりじゃねえか!

 やりますねぇ!

 

 22.名無しさん

 流れ切って悪いんだが、ちょっと聞いてくれ…

 

 23.名無しさん

 おっ、どうした?

 

 24.名無しさん

 いやな、極振りスレってあるだろ? 最近あそこでLuk極振りが出たって騒いでたんだ。それで今回のイベントは、Lukが高ければ高いほどドロップがしやすいって話だろ?

 

 25.名無しさん

 お前、まさか…

 

 26.名無しさん

 ああ、そのまさかだ

 別アカウントで極振りしてみた。そして、地獄を見た

 

 27.名無しさん

 地獄を見た? 確かあっちのスレじゃ、戦えないことはないってことになってなかったか?

 

 28.名無しさん

 まあ、VitもMinもなんだかんだ戦えてたしな

 

 29.名無しさん

 うむ。確か本人も、中々楽しいとか言っておったな

 

 30.名無しさん@2号

 アレは……本人が極度のマゾか、異常なプレイヤースキルがあるかのどっちかだ。じゃなきゃこんな真似できやしねぇ

 

 31.名無しさん

 説明はよ

 

 32.名無しさん

 俺もそれ考えてたしな。ちょっと教えてくれ

 

 33.名無しさん@2号

 ほいほいそんじゃ問題点を

 

 ①そもそもウサギが倒せない

 攻撃がどう足掻いても当たらねぇし、当たっても1割もダメージを与えられやしない。寧ろ反動でこっちのHPが消し飛ぶ。そして死ぬ

 

 ②魔法が使えない

 ならばと頼った攻撃魔法は、手元で爆発して俺のHPを消しとばした。明らかにふざけきってる。誰だよ魔法ならいけるとか言ったの。そして死ぬ

 

 ③回避ができない

 当たらなければどうということはない。しかしAglが0なため回避ができない。そして死ぬ

 

 ④敵の動きが見えない

 速い、追えない、そして死ぬ

 

 34.名無しさん

 ………

 

 35.名無しさん

 うわキツ

 

 36.名無しさん@2号

 まあそれでも、本データのギルメンに頼んでPTを組んでもらったんだ。けどそこでも問題が起きた。

 

 ⑤PTメンバーに追いつけないで死ぬ

 壊滅的なステのせいで、全力で走ってもギルメンに追いつけない。そしてエンカウントして死ぬ

 

 ⑥巻き込まれて死ぬ

 なんとかPTで戦闘になっても、不意打ちや味方の余波でHPが蒸発する。

 

 ⑦レアモンスターで死ぬ

 死ぬ気で頑張ってレアモンスターと遭遇。灰被り姫っていう、広告に載ってたモンスター。金冠だったからこりゃ良いと思って挑んだら、PTごと全滅。

 

 37.名無しさん

 ん? まあ無残なことにはなってるが、灰被り姫ってそんなに強いのか?

 

 38.名無しさん

 そら金冠ならそうなるわな……

 

 39.名無しさん

 プラチナが出なかっただけ良いだろ…

 あいつら、王冠で強さもポイントも変わるんだよ…銅→銀→金→プラチナって感じで(全滅した奴)

 

 40.名無しさん@2号

 おう、やばいぞ。HPを3割くらいまで削ったところで、ライダーキックで後衛が全滅してオジャンになった。ヒーラーが消えたそこから総崩れ。

 そして一人になって今に至る(´;ω;`)

 

 41.名無しさん

 っハンカチ

 涙拭けよ……そしてこう唱えるんだ

 (そんなデータは)存在しないと

 

 42.名無しさん

 博士は永遠にフルステルスしててどうぞ

 

 43.名無しさん

 ちょっといいか? 俺、さっきLuk極振りの本家さんと遭遇してちょっと一緒に狩りしてきたんだが

 

 44.名無しさん

 ほうほう

 

 45.名無しさん@2号

 なん……だと。あなたの情報によって、俺の別アカウントの生死が決まる。

 

 46.名無しさん

 2号さんの言う通りだった。アレは頭おかしい

 一応本人が教えて良いって言ってた範囲だからな? いや、言ってることが完全に意味不明だったが

 

 47.名無しさん

 kwsk

 

 48.名無しさん

 戦闘開始→敵を見る→敵の動きを見る→予測する→出を魔法で潰す→繰り返す→何もさせない→死なない→勝つ。異常。

 あ、魔法は【付与魔法】だってさ。暴発させて使うらしい。

 

 49.名無しさん

 ちょっと訳がわかりませんね

 つーか誤字wwwいや、誤字じゃないのかも

 

 50.名無しさん

 そうか……極振りスレの奴ら、全員どこかしら頭のネジが外れてるけどこいつもか…

 

 51.名無しさん

 なんだそれ……俺には無理だな。素直に枠食うからリセットしてくる

 

 52.名無しさん

 いてらー。だから、アレほど極振りはやめろといったのに…(言ってない)

 ……因みに、その後Luk極振り君が、とても親密そうな『すてら☆あーく』のギルマスと狩りに出て行ったことをここに記しておく

 

 53.名無しさん

 ガタッ

 

 54名無しさん

 ガタッ

 

 55.名無しさん

 落ち着けお前ら……

 (魔女)裁判の準備だ

 

 56.名無しさん@2号

 有罪にする気しかねーじゃねーかww

 れーちゃんprpr

 

 57.名無しさん@ラン

 ほう、良い度胸をしてるな。

 特定したぞ?

 

 58.名無しさん

 ニーサン、ニーサンじゃないですか!

 さよなら2号

 

 59.名無しさん

 死んだな2号…お前のことはきっと忘れない

 

 60.名無しさん@2号

 はっ、イヤイヤまさか。いくらなんでもこ

 

 61.名無しさん

 途中送信…あっ(察し)

 

 62.名無しさん

 慈悲など要らぬ!

 

 63.名無しさん

 残酷なことだ(便乗)

 

 64.名無しさん

 はいはい、彼氏面さんは大人しくカルデアに帰りましょうねー

 

 65.名無しさん

 さぁ、首を切りましょう、おさらばです(更に便乗)

 

 66.名無しさん

 千魔眼、解放(便便便乗)

 

 67.名無しさん

 ◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎ッ!(唸り声)

 

 68.名無しさん

 いつからここは、アヴェンジャーの集合場所になったんだ…

 

 69.名無しさん

 さぁ…?(バースデイに乗りつつ)

 

 70.名無しさん

 チェス……

 

 71.名無しさん

 うるせぇぇえぇぇぇぇぇぇぇえええぇぇぇ!!

 

 72.名無しさん

 おっ、そうだな

 そんじゃ、マトモな話にもどるぞー

 

(以下通常の会話が続く)

 




ポイント内訳

灰被り姫(プラチナ)12,000
灰被り姫(金冠)9,000
灰被り姫(銅冠)3,000

黄金のティアラ 3,000  灰の衣 1,500
ガラスの靴 1,000  灰の宝珠 500

アッシュファルコン 200
灰の欠片 20
灰の翼 75

灰鯊 100
灰の鱗 50


そして意味不明なスキルの説明を追加
【赤蜻蛉】
 AS
 消費MP 50
 反応速度上昇
 攻撃を交わした回数×3%Aglを上昇
 冷却時間 : 30秒
 効果時間 : 敵の攻撃に当たるまで


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第16話 第1回イベント③

言ってたことはすぐやるスタイル。ハッチャケます。以上。
諸事情により少し早めに投稿


 ご飯の時間を除きあれから狩りを続けて良い時間になった頃、俺たちはギルドホームへと戻ってきていた。

 

「イベント1日目、お疲れー!」

「お疲れー!」

 

 お互いの湯呑みがカチンと音を鳴らす。別にお酒とかではないが、乾杯したかったから別に良いのだ。そして今ギルドホームには、俺とセナの2人しかいない。れーちゃんは少し前に目をこすりながらログアウトして、ランさんとつららさんは今日のうちにもう少し最前線で狩ってくるそうだ。

 それにもかかわらず俺たちがこんなことをしていられるのは、合流後に出会ったモンスターが原因だ。

 

「いやぁ、まさかこんなに早くプラチナと遭遇できるなんてね!」

「そしてそれに負けるとは思わなかったよな……」

 

 テンションの高いセナと対照的に、俺は多少沈んだ気分で答える。俺たちが今日倒した灰被り姫の数は4。内訳は金冠2体、銅冠1体、そしてプラチナが1体だ。そのお陰で60,000はポイントを稼いだのだが、最後に遭遇したプラチナの灰被り姫が問題だった。

 

「実質相打ちだからノーカンだよノーカン! 後ポイントもゲットできたんだし!」

「そう言われちゃそうだけどさ……」

 

 金冠相手に余裕余裕と言って遊んでたのが悪かったのかもしれない。キラッキラしたプラチナは、金冠なんて目じゃないほど強かった。

 金冠を即座にボロボロにしたセナと接近戦を延々と続けるし、最初の方から【潜伏】でヘイト値を下げてる俺にも稀に攻撃してくるし、AIじゃなくて中に人がいそうだったし、怯まないし、挙げ句の果てには10枚重ねの障壁を貫通してきた。俺の手持ちの回復薬が尽きて、セナのHPが2割を切ったところで漸く向こうのHPが5割を切ったほどだ。

 

「一応俺、自爆特攻したんだし? 俺の主観としては負けかなーって」

「でもユキくんノリノリだったじゃん。『ヅダはゴーストファイターではない!』って。…そういえば、ヅダって何?」

「ガンダムってアニメに出てくる、俺の好きな機体だよ。知ってる人は少ないんじゃないかなぁ…」

 

 昨今珍しくなったガンダムが好きと言う人に聞いても、知ってる人は殆どいなかった。確かに旧ザクも好きだけど!

 

 いや違う話が逸れた。

 つまり俺がやったのは、リミッター解除(バフ全開)してからの全力攻撃……簡単に言えば持ってるダメージアイテムを全部抱えての特攻……だ。そして爆発する俺ごとセナがプラチナを撃ち抜いて戦闘終了という流れだった。

 俺はアイテムが消えはしたが、敵も倒せたし、レアアイテムもドロップしたし、ポイントもゲットできたしでハッピーエンド(?)だったから問題ない。

 

「まあそんなことは良いとしてだ。明日からはどうする?」

「勿論狩るよ! 今度こそプラチナにリベンジするんだから! 油断も慢心も捨てて、最前線の気持ちで戦うよ!」

「キャ-セナサンカッコイ-」

「ものっそい棒読みだよ!?」

 

 なんとなくノリで言ってみたけど不評だったらしい。

 それはそれとして、セナは時間は大丈夫なのだろうか? メニュー開いて見たら11時をもう越えてるんだが。

 

「うぅ…そろそろ落ちないと部活と勉強に支障が……そういうユキくんは、明日からどうするの?」

「そうだな…」

 

 なんだかんだで欲しいスキル分のポイントは既に確保できている。1週間のイベント中1日目でこれなのだから、もっと頑張って何か良い感じのものが欲しい。俺自身がないない尽くしだから、探せばきっと欲しいものは見つかるだろう。いや、やっぱりここは先達に聞く方がいいか。

 

 ・

 ・

 ・

 

 夜の闇に沈んだ街中を歩く。普段はかなり静かな場所であるが、イベント中であるためか人の声が絶えない。

 と言うわけで、例の極振りが集まってるあそこで質問した結果、予想通り頭のおかしい返答を返してくれた。気まずい気分になったギルドから出て、フラフラと徘徊しながら情報を纏める。

 

「大丈夫大丈夫、俺は何も見てない。何も見てない」

 

 あの帰ってきた2人の間に仄かに漂う甘い空気、俺でなきゃ見逃しちゃうね。初めは倉庫に隠れてたけど、空気に耐えられなくて【潜伏】して逃げ出しましたはい。

 

 いや違うこうじゃない。

 

 頭のおかしい元極振りさん達が教えてくれたスキルは、どれひとつとしてポイントで取得できるようなものではなかったが、濃ゆい物のはずなのに共通点が存在していた。それは、“自分の長所をとことん伸ばす”こと。勿論デメリットはありまくりだったが。

 

 例えば、HPを1にして物理火力を馬鹿上げするスキルとか、0レンジの攻撃に限りAglの値をStrの値に加算するスキルとか、VitとMinを0まで下げる代わりに魔法の火力を跳ね上げるのとか色々あった。

 

「で、俺の長所と言えばLukのみ…」

 

 如何に素の状態での実数値が4桁に突入したとは言え、Lukは他のステータスに比べて扱いが非常に面倒だ。なにせ戦闘に及ぼす効果がクリティカル・ドロップ・出現率の3つしかない。他のステが死んでるのにどう転用しろと。

 だからこそ今まで、クリティカルダメージを刻むという戦い方をしてきたのだが…

 

「明らかに足手まといですねわかります」

 

 今日のセナとの共闘でそれがハッキリとわかった。足止めと支援をしてるとは言え、このままじゃ明らかに寄生だ。それをどうにかしたいのだが、取得できるスキルは何の役に立ってくれそうにもない。

 

 ====================

 ラッキーパンチ

 AS

 消費MP : 20

 効果時間中10回まで、確率で与ダメージを2倍か2分の1にする

 冷却時間 : 1分

 効果時間 : 40秒

 ====================

 ラッキーガード

 AS

 消費MP : 35

 効果時間中5回まで、被ダメージを確率で無効か2倍にする

 冷却時間 : 1分

 効果時間 : 40秒

 ====================

 

 例えばこんなものもあるのだが、本音を言えば全く欲しいと思わない。

 前者は周りがダメージを100出すとして、1とか5を倍にしてどうするって話だし、後者は障壁のお陰で遠距離はどうにかできる俺としては、攻撃を食らう距離に寄られたら連撃になるから無意味なうえ、範囲攻撃はほぼ全て多段ヒットするらしいから意味がない。さすがに全部無効化なんてできないだろうしね。

 

「……」

 

 ウィンドウを5枚ほど開きながら歩き続ける。イベントの交換できるスキルの情報、さっきまで見てた極振りスレ、ネットに転がってた良さげなスキル集、考えを纏めたメモに、自分の取得可能なスキル。そんなデータの海で溺れている俺に、ひとつの天啓が舞い降りた。

 

 辛いなら

 ネタに走れば

 いいじゃない

 極振りだもの

 

 そもそも俺がLuk極振りを選んだのは何でだ? 

 ガチ勢と同じ場所に立って戦うためか? いいや違う、面白おかしくゲームをやるためだ。なら、そんなに戦闘力に拘る必要があるだろうか? いや、ない(反語)

 

 そうと決まったのならば話は早い。『ハイリスク・ハイリターン』で、ポイントでゲットできるスキルにソートをかける。

 

「これでもないし、これでもこれでもないし…」

 

 夜道で立ち止まって、ブツブツ呟きながら何かをしてる青年……リアルなら通報→補導案件ですねわかります。そんな場違いなことを考えながらポイントを度外視して探すこと数分、中々に使う人が少なそうなスキルを絞り込めた。

「よし、よし。モチベ上がってきたぁ!」

 

 暗い夜道で突如奇声をあげる青年。だからこれさっきからリアルなら通報→補導案件()

 そして見つけ出したスキルは、悉くポイントが高い。具体的には1個10万pt。元々欲しかったスキルが3万ptなので、全部の取得を目指して後1週間頑張らねばなるまい。イベント終わりの交換タイムが待ち遠しい。

 

「FoFoo!」

「あの……大丈夫ですか?」

 

 錫杖を持ち出し今にも走り出しそうな俺を、幼い男の子の声が呼び止めた。何事かと振り返ってみると、そこにはらんらんと戦いに行ったときに遭遇したショタっ子が心配そうな目で俺を見ていた。

 

「ん、はい?」

「いえ、さっきから凄く変な動きをしてたので……」

「気が触れたとかそういうのじゃないので、心配はしないで大丈夫ですよ。あ、ボスの所ではすみませんでした」

 

 このショタっ子は、今はどうやら1人らしい。全く、良い子は寝る時間だというのに。俺? 二徹くらいは正気でいられるから何の問題もないね。とても悪い子ですねわかります。

 

「はぁ…それならいいんですけど」

「そういえば今日はお一人みたいですけど、どうかしたんですか?」

「僕はもうちょっと狩りたかったんですけど、みんな用事があるとかでログアウトしちゃって……強制するわけにもいかないですし」

 

 何だか恥ずかしそうに頭を掻くショタっ子。何この子優しい。絶対この子コミュ力高い。なるほどそれであんなPT組めたのか……

 でもそうか。もうちょっと狩りたかったのにPTがいないのか。

 

「……うーん、良ければ、一緒に狩りに行きます? レベル16なので、そこまで良い戦力にはならないかもですけど」

「わぁ! いいんですか? ありがとうございます。僕のレベルは15なので、十分ありがたいです!」

 

 よし言質とった。

 

「あ、でも10回に1回くらいの確率で灰被り姫と遭遇するので、気をつけてくだいね?」

「え。あ、はい? あぁ、流石に2人じゃ倒せないでしょうし逃げるんですね!」

「いや、普通に倒しますけど?」

「え」

 

 ショタっ子が見事に硬直する。まあそうだよね、普通そうなるよね。だけど俺は我が道を行く。そのために倉庫でアイテム整理をしてきたのだから。

 

「今夜中に……いや、せめてもの報酬として、あなたと一緒に狩りをしてるあいだだけで3体は倒します。さすがにプラチナは逃げますけどね?」

「当たり前ですよ! それに僕は前衛ですし、貴方は確かバッファーなんですよね? 絶対無理ですって!」

「足止めして爆破すれば問題ないですね」

「でも、」

「問題ないです」

「いやあの、」

「問題ないです」

「ですけど、」

「爆発物は全部私持ちです」

「は、はい?」

「問題ないです」

「……はい」

 

 押し切った。完 全 勝 利。

 今俺の手持ちには、ギルドの倉庫に安置させてもらっていた『フィリピン爆竹』というアイテムが1スタック99個で計3スタックほど存在している。

 作り方はいたって単純。この街に売ってるいたって普通の爆竹を3スタック購入します。ザイルさんから、最前線で供給過多になって価値が暴落した爆薬を5スタック格安で仕入れます。自前のサバイバル内のスキルで改造します。はい終了。

 お金はかかるけど改造自体は1スタック単位でやっても1分だから、大して手間でもない。それなのに火力は中型爆弾より上、大型爆弾より下程度。素晴らしいな。

 

「さてと、今夜はお祭りだ! FoFoo!」

「僕、なんでこんな人に声かけちゃったんだろう…」

 

 ボソッと聞こえた言葉は無視して、Aglに結構振ってるのか移動速度がかなり速いショタっ子に付いて走り出そうとしたところで、ふと頭に面白そうな考えがよぎった。逃さない。

 

 調べた結果、移動手段については次の街で目処がつきそうだから保留となったが、今現時点での高速移動はできないのだろうか? 結論、できないわけがない。常識なんて、枷なんて\全て壊すんだ!/

 

「《障壁》展開、《カース》《カース》《カース》《カース》《カース》」

 

 舞い降りた天啓によってネジが外れた俺に、【紋章術】はきっちりと応えてくれた。

 デフォルトだと直径200cmの円で、硬度は最低値、展開時間30秒の障壁。それをスノーボードレベルまで収縮、空間固定でなく足裏に追従するようにし、硬度と展開時間はそのままにした。そして、展開時間を極限まで短くしたことによって、自動的に暴発するようになった火力増強カースによって、俺はエド・フェニックス(動詞)する。

 

「はぁっ!?」

「イヤッッホォォォオオォオウ!」

 

 困惑したショタっ子の声とガリガリと削れていくMPゲージを尻目に、俺は街の北側。低地林から森へと繋がるフィールドに向けて飛んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 その日の夜、マップから第2の街北の森の約半分が爆炎と煙に包まれ焼滅した。

 30分くらい緊急メンテが入ったのは、多分これが原因だったのかもしれないけど、俺は悪くねぇ! 燃え易かった森が悪いんだ!(?)




 ー通知ー
 新たな称号を取得しました

 狂人 New!
 取得条件 : 発狂レベルの行為をする事
 効果 : 状態異常にかかりにくくなる

 デストロイヤー New!
 取得条件 : 一定以上の地形オブジェクトの破壊
 効果 : 地形オブジェクトを破壊しやすくなる。爆破ダメージを上昇する。

 デストロイヤー → エリミネーター New!
 取得条件 : 称号【デストロイヤー】を所持。さらに一定以上のオブジェクトの破壊
 効果 : 地形オブジェクトを更に破壊しやすくなる。爆破ダメージを更に上昇させる


【紋章術】
 自分・相手を起点に、紋章を描くスキル
 効果・時間・範囲を一定内でならば操作可能
 紋章の設定可能範囲はプレイヤーに依存する

 使用可能紋章
・基礎ステータス強化系
・基礎ステータス弱体系
・属性付与
・障壁

【召喚術】なら呼び出しや回復に寄った構成に、【呪術】ならもっと攻撃とデバフに寄って、【多重付加術】なら基礎ステータス系2種類しか使用不可。


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第17話 第1回イベント④

apoモーさんの兜の解除のされ方が死ぬ程カッコいい1話でした。あとアストルフォカワイイヤッター。

速度差分
通常ユキ<(超えられない壁)<うさぎ<<<平均プレイヤー<<イヤッッホォォォオオォオウ!≦速度重視型<<<<速度特化<(超えられない壁)<極振り


 俺がショタっ子(名前はイオというらしい)を引き連れて300個のフィリピン爆竹を北の森でばら撒き、あそこを焼却というか徹底的に破壊し尽くしてから6……いや、やり遂げた時刻から考えれば5日。

 イベントの期限が迫ってる中俺は……

 

「ヒヒィーン!」

「ガボボボボ」

 

 大きな川に繋がってるのを発見した例の湿地帯で、絶賛溺死中だった。出力50%の水泳スキルじゃ、軽い大波(?)に巻き込まれただけで終わりらしい。

 さて。俺がこんな事をしている理由は、ここ数日狩りに来ているモンスターと関連がある。そいつは鳴き声からしてわかる通り馬、しかし下半身が魚な神話ではヒッポカンポスとかそんな感じで呼ばれるモンスターだ。この敵も灰と名の付く限定モンスターなのだが、森を1つ焼き落としてポイントに余裕がある為それが理由ではない……って、あっ

 

 暗転

 

「げほっ、酷い目にあった。もう飽きたけど」

 

 先ほどまで溺れてた名残で咳払いをし、濡れてもいない頭を振って幻想の水滴を振り払う。うん、ギルド内が無人で良かった。

 

 話を戻そう。

 

 俺がヒッポカンポス…正式名称《灰馬魚》を倒してる理由は、1つのレア泥にある。薄々察せるかもしれないが、俺が求めてるアイテムの名は【幸運の蹄鉄】。今俺が装備している【うさぎのしっぽ】の上位互換アイテムだ。具体的には性能がLuk上昇性能が1%上でVitも+1される。

 

「目標まで残り2つか」

 

 何日もやってるのに少ないと思うかもしれないが、これでもかなり頑張った結果なのだと理解してほしい。だってこの馬逃げるし。セナが寝てから狩ってるし。しかも途中途中、武闘派シンデレラさんが殴り込みをかけてくるのだ。そっちにかまけてると、馬に確実に逃げられるかそもそも俺が死ぬ。しかもレア泥はイベント由来の物が優先されるらしく、中々落ちてくれない。そんな中8個も集められたのだから、誰か褒めてほしいものだ。そんな人居ませんね知ってます、俺は詳しいんだ。

 

「正直、また森を燃やせば1発なんだけどなぁ……」

 

 例の俺とショタっ子で焼却した森。あのとき森を焼いた炎は、俺が《エンチャントファイア》で着火したからか、俺が使った炎という判定になっていた。燃えろよ燃えろと目の死んだショタっ子とマイムマイムしてる中、グングン増えるポイントと足元に溢れていくアイテムを見たときは笑いが止まらなかった記憶がある。そのとき残念なことに経験値はなかったけれど、その中に【幸運の蹄鉄】が含まれていたのだ。

 

 因みに翌日、ログインしたら運営様からメールが届いていた。意訳すれば『もうあんなことはしないでください。直すの面倒なんです。後、昨日の森への放火行為で得たポイントは、他ギルドとのバランス調整のため半減させていただきます。ドロップ品はそのままにしてあげるから許してね。これだから極振りしてる奴は嫌なのよ……頭沸いてるんじゃないのかしら? あ、これまだ繋がってる!? やっぱこれ無』とのこと。送った人はドジっ娘かな?

 

「まあ、ぼちぼちやるしかないか」

 

 要するに、貴方はやり過ぎたということだ。次やったらスローネが飛んできてアカウントを消し飛ばしていくことだろう(偏見)とか言いつつ、いらない素材を売っ払って5ダースほどフィリピン爆竹は作ってあるんだけどネ!

 そして今更だけど、よく付いてきてくれたよねイオ君。あんなヨグ様かクトゥルフ辺りの電波を受信して発狂モード入ってた俺に。これは絶対将来大物になりますわ。

 

「《障壁》《カース》」

 

 そんなことを思い返しながら、ギルドを出て例のエド航法で街の外を目指す。狩場に着くまでにMPはそこそこ回復するだろうし、あの夜のイヤッッホォォォオオォオウ!で尋常じゃなく有名になっちゃったからね! 

 結局『なんだ極振りか』で終わってくれたからいいけど。森のことを見てた人もいたらしく、緊急メンテとの繋がりがあるんじゃないか、あることないこと噂されてたりもした『まあ待て。あいつは、極振りだ』の一言で解散したからいいけど。ラッキーだね。それらを含めるとまあ、黒歴史とまでは行かないが少し自戒しなければいけないと思う。

 

 そしてそこまでして確立したこの移動方法。目立つのとクソみたいな燃費以外にももう1つ、落下ダメージという欠点を持っている。そこまで高い高度でもないし速度でもないのだが、上手く受け身をとって3割、取れないと5割はHPが削れてしまう。だけど、一応対策がないわけでもない。

 

 街からフィールドへと出陣し、即座にモンスターを探す。……名前的にとてもやりたくないが、仕方ないか。発見した灰色のスライム(灰粘体)に目を合わせてターゲットする。

 

「《障壁》《フルカース》《吸撃》!」

 

 そしてそのまま、杖を持ってライダーキックする。落下ダメージと速度と加速とゴミ以下の攻撃力とが相まって、なんと一撃でスライムが爆散する。ぱっかーんと、セル○アンのように。

 そして勿論俺へのダメージは0。色んなダメージを攻撃にして全部敵に押し付けようってことらしいけど、よくこんなの思いついたよね俺。こんな意味不明な理屈がまかり通ったシステムもシステムだけど。

 

「まあ、やってやるさ! 存分に!」

 

 どうせ明日、学校に行ったら自動的にイベント終了になるのだ。なら、若さに任せた2徹で最後のスパートをかける他ないだろう。学校を休めばいい? 流石にそれはちょっと。俺、授業は寝てばっかりだけど休んだことは無いし。

 

 

 学校帰りに眠気覚ましを兼ねたランニングをした後、ギルド内は既にお祭り騒ぎと化していた。

 

「みんなイベントお疲れ! と言うわけで祝勝会だー!」

「「いえーい!」」

「ん!」

 

 まあ、何があったのか聞いてみるしか無いだろう。そう思いハイテンションで騒いでる女子3人組から一先ず目を逸らし、比較的落ち着いた様子で壁に寄りかかって立っていたランさんに話しかける。

 

「なんでこんな大騒ぎになってるんですか?」

「ポイントと順位を見れば分かるさ。俺もこれでかなり嬉しい結果だったしな」

 

 言われてみれば、確かにランさんも口角が上がってる気がする。徹夜のせいで洞察力が鈍ってる気がする。そんなことを考えつつ開いたイベントページを見て、俺も俺で固まってしまった。

 

 ====================

《!終了!『灰の魔物と失われた王冠』》

 最終ポイント

 個人 : 753,950

 ギルド :1,803,910

 順位 : 1位

 ====================

 

 ちょっと待って何この数字頭おかしいんじゃないだろうか? アレか、半減食らったとはいえ森か。原因は森なのか。森だな(確信)

 

「見て分かる通り頭のおかしいポイントで1位だ。これでも2位との差が僅かって辺りが狂ってると思うが、ポイントの大部分はお前だろう? 感謝する」

「いえいえ、セナがいないと成り立ちませんでしたし。このギルドにお世話になれたからの結果ですぐふっ」

 

 言葉を言い終わる前に、突然の衝撃に襲われて俺は吹き飛んでしまった。そしてそのまま後頭部を何かにぶつけて停止する。ほぼ痛くないはずなのに、地味に痛い。

 

「現実では何でもなくても、ゲーム内じゃ身体能力が天と地ほど差があるからこうなるの、分からなかったんですかねぇ……」

「あ、そうだった!」

 

 俺に乗っかったまま、セナはしまったという顔をする。いつものようにしたかったんだろうが、残念ながらもう手遅れだ。

 別に、現実ならいいんだよ現実なら。抱きつかれて尻餅をつくなんて非常にカッコ悪いことにならないように少しは鍛えてるし。だけどゲーム内じゃ、人間と乗用車並のパワー差があるから無理ですはい。

 ちょっと辺りの雰囲気が萎えちゃったし、流石に俺も怒った。折角の雰囲気をぶち壊した責任は取ってもらおうじゃないか。

 

《フィジカルエンハンス》

 

 そうボソッと言った俺の背中に、見えてないけど丸の中にプラスの描かれた紋章が展開された(はず)。名前がちょっと変わってるけど、効果は要はStr、Vit、Aglの三種同時バフだ。今からやることには、どうしてもパワーが必要だからね!

 

「ふふふ、その歳になってたかいたかいは辛い辛かろう!」

 

 ゆらりと幽鬼のように立ち上がり、容赦無くセナの脇を抱えたかいたかいへ移行する。因みにバフが切れたら俺は支えられず潰れることになる。ははっ、貧弱貧弱ゥ!

 

「え、ちょ、ユキくん!? これダメ、恥ずかしいって!」

「ははは、答えは聞いてない!」

 

 バフが切れて崩れるまでの30秒とまでは言わずとも、できる限りくるくるしてたかいたかいして遊ぶに決まってる。徹夜明けの奇行を舐めるでないわぁッ!

 

「うぅ、あぅ、うぅぅ…」

「たかいたかーい、たかいたかーい!」

 

 段々と朱に染まっていくセナをたかいたかいしつつ、スキルをフル活用して誰にも何にもぶつからないようくるくる回転する。いやぁ照明に銀髪がキラキラ光って綺麗だなー()

 

「ハッ! ダメですよユキさん! いくらセナちゃんが小さいからってそんな扱いは……あれ、満更でもなさそう?」

「ち、違うから! すっごい恥ずかしいし嫌だから!」

 

 ジタバタし始めてしまったのと、明確に拒否されてしまったので仕方なくセナを地面に降ろす。後10秒は残ってたのに……無念。セナがポカポカと俺を叩く手から鈍い打撃音が響いてくるけど、これくらいは踏ん張れば耐えられるしセーフセーフ。

 

「いくら仲が良くても、同意もなしにああいうのはダメですよユキさん! 雰囲気をどうにかしてくれようとしてたのは分かりますけど」

「なんでわかったんです? エスパーですか」

 

 いえ、なんとなくですって返されたけど、実はつららさんって凄い人なのかもしれない。

 

「それで、幸い第2の街には美味しい食べ物屋さんも多いですし、祝勝会もそこでしようと思ってたんですが、その前に」

「その前に?」

 

 何かしないといけないことはあっただろうか。少し考えてみるけれど、特に何も思いつくことはない。大事な事を忘れてる気もするけど。

 

「ユキさんはこれからどうするんですか? 他のギルドにお邪魔するなら、派手に活躍されてたようなので引く手数多だと思いますけど」

 

 …………完璧に忘れてた。そういえば、まだ仮所属だったんだった。他に行きたいギルドって言われても、ギリギリ極振りが集まってるところしか掠らない。そこから拡大解釈すれば、イオ君の所も入るけど。

 

「このままここにお邪魔してても、いいですか?」

 

 拒否されたらしょうがないけど、やっぱりここが一番いい。今更他のギルドに移っても、極振りのところ以外つまらないだろう。よく考えたら、選択肢が今回のイベントの1位2位と、とんで8位のところな件。何この贅沢な考え。

 なんとなく審判を受けるような心境で答えを待っていると、まだ顔を赤くしたままのセナが立ち上がり手を突き上げて言った。

 

「それじゃあ、祝勝会はユキくんの歓迎会も合同っていうことでー!」

「それがいい感じですね! あ、ユキさん何か食べたいものとかあります?」

 

 意外とアッサリ受け入れてくれた。やっぱりこのギルドを選んで正解だったと思う。

 

「あ、いえ特に。普段自分で作ってると、誰かが作ってくれた料理って凄く美味しいので」

 

 いやほんと、毎日作ってたら飽きるのを実感した。自分しか食べないから適当で良いものの、それでも飽きるっていうんだから献立考えてる人はほんとすごいと思う。

 

「それじゃあれっつごー!」

「おー!」

 

 そんなことを思いつつみんなが移動するようなので続こうとすると、コートをくいくいと引っ張られる感覚があった。何事かと思い下を向いてみると、そこには何かとても期待してるような目のれーちゃんがいた。

 

「ん」

 

 そしてこちらが気づいたことが分かると、こちらに両手をピンと伸ばして何かを主張してくる。くっ、唸れ俺の読解力、天地天空大回転。いや違うそれ虹霓剣。

 

「……もしかして、さっきセナにやったたかいたかい?」

「ん!」

 

 コクコクと激しく頷かれる。最悪の事態が起きないようランさんに目を向けると、小さい頷きとともにいいからやれという意思がハッキリと伝わってきた。アッハイ、ヨロコンデー!

 

 

 この後、滅茶苦茶れーちゃんをたかいたかいした。

 




イベント結果

1位 : すてら☆あーく
構成員 : 5/20
総合pt :1,803,910

2位 : 極天
構成員 : 8/20
総合pt : 1,683,520

3位 : モトラッド艦隊UPO支部
構成員 : 20/20
総合pt : 1,050,710


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第18話 イベントを終えて

強化回
ユッキー(のLuk)が超強化されます。それ以外? ………元々オワタ式だから関係ないよネ!

最後にスキルの効果説明がありますが、そこは読み飛ばしても問題なし………かも?


 イベント後の祝勝会兼歓迎会が終わった翌日、俺は利用できるようになったギルドの個人ルームでウィンドウを開いていた。

 目的は、なんだかんだで昨日弄ることのできなかったイベントの報酬関連。交換期限はまだまだあるけど、早くやるに越したことはない。

 

「さて。まずは目星をつけてたスキルを取得っと」

 

 有り余るだろうポイントの使い道は、そこら辺のスキルを取得しきってから考えても十分だろう。

 

 速攻で交換したスキルのひとつは【激運】

 これは他のステータスにも共通で存在する、その数値を1.3倍するスキルだ。特にデメもなく効果はパッシヴな、イベントなどで限定入手のスキルらしい。必要ポイントは10万。

 

 2つ目は【空間認識能力】

 これは掲示板で『気配感知と併用したら情報の密度がヤバすぎて吐いたwww』とか言われてたスキルだ。これがあれば、もしかしたら奇襲にも対応できるようになるかもしれない。必要ポイントはこちらは5万。

 

「で、後はこれを取って……、思ったより残りポイント減ったなぁ」

 

 そんなことを呟いた原因は、今しがた大量入手したアイテムが原因だ。消費したポイントはちゃっかり20万。理由としては、実はあのたかいたかいの後、れーちゃんが「ん」と突き出してきたウィンドウに『ユキおにいさんのそうびを強化したいので、しょう品の《三界の紋章》を20個おねがいします』と書いてあったのだ。何か(たかいたかいじゃないのは確か)が相当恥ずかしかったのか、顔を朱に染めて……るのは非常にランさんから殺意が飛んできてたからいいとして、そう頼まれて交換しないのはクソ野郎ですね。

 

 明らかに楽しそうな【マネーパワー】のスキル(10万pt)を断念することになったのは残念だけど、まあ許容範囲だろう。代わりに入手した【オーバーチャージ】(20万pt)と【生命転換】(10万pt)のおかげで少しは戦闘能力が底上げできた(気がする)し、あまり問題はない気がする。どうにもガチスキルっぽいから微妙な気分ではあるけど。

 

「平時は控えかなぁ…スキル枠も問題だし」

 

 けれど、ちゃっかり問題になってくるのがスキル枠。10個しか装備できない中をどうにかやりくりしなくちゃいけない。……あ、いいこと思いついた。

 

 スキルを合成したりして、スキル枠をどうにかできる物はないだろうか。そう思ってソートをかけると、ひとつだけ検索にヒットした。【スキル合成釜】という、ふたつ以上のスキルを合成して新しいスキルにできる使い捨てアイテムがひとつだけ交換できるようだ。必要ポイント、これまた高い…

 

「…残り28,950pt、減ったなぁ」

 

 アレだけあったポイントが一瞬でコレである。後悔はしていないけれど、こう、何か虚しいものがある。余ったポイントなんて存在しない、イイネ?

 少し探したが特に欲しいものもなかったので、残りのポイントは全部爆発物とMPポーションに交換してウィンドウを閉じる。これでもう、結構イベントが終わったなという感じがするなぁ。

 

「ふぅ……さて、気合い入れ直しますか!」

 

 頬を叩き、俺は早速【スキル合成釜】を取り出す。って、ちょっと待ってこれ見た目がかなりカマエルなんですけど。某RPGで大成功を悉く失敗しやがってあいつめ……しかも使い方がわからない。

 

「そらっ!」

 

 思い出した不安を込めて、釜の蓋部分に思いっきり拳を打ち下ろす。

 微妙に痺れるだけというのは、VRらしい不思議さだと思う。ダメージが全部そのままだったら、俺はとっくに発狂して……森を燃やすのとは別に発狂してただろうね。

 

「ふっ、この手に限る」

 

 とりあえず叩けばどうにかなるってじっちゃんが言ってた(捏造)

 そんなこんなで起動した【合成釜】の前に現れたウィンドウには、こんな感じで文字が映し出されていた。

 

 ====================

 ベース

 【】

 素材

 【】【】【】【】【】

 ====================

 

 非常に分かりやすくて良いね。そして、俺の所持スキルで合成しても矛盾しないようなものは【サバイバル】【投擲】【固定ダメージ強化(大)】【潜伏】の4つ。何かこう特殊部隊的なスキルができそうな気がする。つまり俺もコマンドー……は無理か。無駄な思考を巡らせつつ【サバイバル】をベースにれっつ合成。

 

『ガガガー、ピー、ザーッ』

「……大丈夫か、コレ」

 

 壊れたテレビのような音を出している暫定カマエルは、見てるこっちが何か心配になってくる動きをしている。爆発しそうだし、動いてるせいで叩くに叩けない。よし、こうなったら爆竹で……

 

「ッ! 《障壁》!」

 

 そんな考えがフラグになったのか、突然停止したカマエルは白煙を吹き出して爆発した。咄嗟に障壁を張ったから無事で済んだけど、これ下手したらHPかなり持っていかれたと思う。あ、街中だからセーフか。

 いやそれよりもスキルはどうなった。そう思う俺の目の前で、白煙の中から光の塊が飛び出して俺の胸に吸い込まれていった。

 

「合成、できてる…よな?」

 

 恐る恐るステータスの欄を開くと、そこにはちゃんと合成されたものであろうスキルがその存在を堂々と主張していた。

 

【レンジャー】

 多数のスキルが複合されたスキル

 気配感知・騎乗・水泳・料理・クラフト系スキルを最大65%の性能で発揮することができる

 サバイバルと同様、振り分け設定はプレイヤーに依存する

 潜伏が可能になる

 固定ダメージがかなり上昇する

 投擲ダメージがかなり上昇する

 

 よし…よし、ちゃんと大成功している。Luk極振りは通常プレイにおいて最強。まあこれ、多分Dex辺りの成功判定を幸運で塗りつぶした脳筋な気がするけど。

 

「それじゃあスキルをこうこうこうしてっと」

 

 一先ずPTプレイでしか使う用のない【ドリームキャッチャー】を控えにすれば全部収まるし、Lukの実数値がとてもいい感じになるだろう。【ドリームキャッチャー】のスキル、使役Mobとかいたら10個のデバフの代わりにLuk値を70%上昇させるぶっ壊れスキルになるのになぁ。ふむ……

 

「………あるかな? ないか」

 

 そして残すは残り交換の処理。元々さして期待してなかったアイテムの交換を見てみるが、そこにあるのは大半が装備類で、良さげなスキルも使役Mob系列の何かがヒットすることはなかった。

 装備品は……あ、《幸運の耳飾り》の上位アイテムがあった。名前が《黒蛋白石のピアス》で、Lukは+30とな。対価は《灰の宝珠》がひとつ……特に上位互換はないし、宝珠は軽く3桁を超えてるし即交換ですね。

 

 他に交換できるものはないかと思いっきり画面をスクロールしていく。

 武器は正直、れーちゃんの作ってくれた物から乗り換える気は一切ない。もし乗り換えて悲しそうにされたら確実に殺される。色んな意味で。故に選択肢から除外。

 防具は頭部装備だけは変えたけど、他はれーちゃんがこれから強化してくれるっていうんだから、これも除外。それにザイルさんにも悪いしね。

 アクセサリは《幸運の蹄鉄》を超える性能のものがなかったので却下。もっとLukを寄越せこんにゃろー。

 そして最後に行き着いたアイテム欄で、とても興味を唆るアイテム群を発見した。

 

「ほほう…」

 

 そこは固定ダメージアイテムが並ぶ場所。

 TNTにC4、地雷やパイプ爆弾なんて物騒なものに始まり、毒や魔法的な固定ダメージアイテムまでなんでも御座れだ。

 

 神は言っている「買え」と。

 

「……」

 

 無言でボタンを連打。キャンプファイヤー(森の焼き討ち)の副産物である有り余る素材を用いて、交換限界まで危険物を交換していく。うん、多分これを少し使えば、第3の街に行くためのボスも爆殺できるだろう。やるにしてもあくまで少ししか使う気は無いけど。

 

「一切使わなかったガラスの靴やらティアラは……ギルドに寄付しておけばいいか」

 

 だって使い道ないし。使わないなら、他の人にあげて有効活用してもらった方がいいだろう。爆発物もう残ってないし。

 

「後は装備をれーちゃんに渡して……スキルの試運転して今日は終わりだな。うん」

 

 やることも終わったし、部屋の扉を開けてれーちゃんの待つお店ゾーンへと進んでいく。さて、やりますか!

 

 

 というわけでやってきた湿地帯。元の装備はれーちゃんに預けてきたので、今はそこら辺のNPCのお店で適当に買った黒っぽい服装備だ。

 イベントの時とは違い閑散としてるここなら、まあ何をしても大丈夫だろう。ファンブル的なミスで吹き飛んでも水溜りにしかならないだろうし。

 

「ギョォォォ!」

 

 なんてことを考えていると、沼の中から奇妙な叫び声をあげてモンスターが飛び出してきた。

 

「《カース》【生命転換】」

 

 見た目が完全にヤツメウナギなモンスターの攻撃を潰しながら、俺は手に入れたスキルを使ってみる。アクティブスキルは初めて使ったけど、使い方はこれで間違ってないようだ。

 俺の足元に光る魔法陣が展開され、HPが減り【オーバーチャージ】の効果で上限の上がったMPが増えていく。HPなんて元々あってないようなものだし全く気にならない。【レンジャー】のスキルで半径6.5mまで広がった探知圏内といい、今回のイベントの成果は素晴らしかったと思う。

 

「《奪撃》《フルカース》!」

 

 【幸運強化】とついでに成長した【長杖術】で使えるようになった《吸撃》の上位スキルでウナギっぽい敵を仕留めた後、錫杖をついて集中をし直す。普通はこんなことしないが、例のスキルを使う都合上こうせざるを得ない。説明欄に中々怖いこと書いてあったし、流石に吐いたなんて感想があるスキルをやすやすと使うなんてできない。

 

「まあ使うんですけどね!【空間認識能力】ON!」

 

 瞬間、世界がガラリと変わった。

 効果はバッチリ6.5m、その圏内でのことが手に取るようにワカル。自分の姿、足の沈んでる深さ、足下に広がる波紋、水溜り、草、泥、空気の流れ、その他諸々の情報がどっと押し寄せてくる。視界がチカチカと明滅し、足元の感覚が覚束なくなる。若干動きがゆっくりになった気がするし、これはヤバイ。ヤバイ、形容する語彙が足りない。

 6.5mの球形でこれなのだから、本家の10mで吐くと言うのも納得だ。今でも情報過多で頭が痛くなってくるし、いつもより余計に頭が回転してる気がする。

 

「でも、いいな、これ」

 

 敵が来た、動きを極めて詳細に見た、ならば後は勝つだけのこと。使い過ぎは毒な気がしないこともないけど、多分常時使っていれば慣れるだろう。ゆくゆくは黄色い死をもれなくプレゼント、送料無料でね!

 またも飛び出してきたヤツメウナギを半歩動いて避け、沼地に飛び込まれる前に暴発させた《エンチャントサンダー》を3回ほど叩き込む。姿勢を崩して泥の上をウネウネしてるウナギに爆竹を4つほど投げ爆発させる。爆炎の向こうから飛んできた胃液っぽい物を障壁で防ぎ、小型爆弾を追加で放ってトドメを刺す。

 

「これはパーフェクト」

 

 自画自賛だかそう思わざるを得ない。これはもしかしたら、もしかするかもしれない。

 

「「ギョォォォ!」」 

 

 そう思った矢先のエンカウント。

 敵はヤツメウナギが×3に、灰色じゃないコンドルが1匹。周囲にプレイヤーは勿論いない。

 あっ、やべこれ詰んだわ。

 

「や、やってやらぁ【生命転換】!」

 

 そう意気込んで威勢良く叫んだはいいが、十数秒後俺は呆気なく死に戻りをすることになったのだった。……敵を1体たりとも道連れにできず。




強くなった(一定の強さまでのタイマンのみ)
戦えるようになった(タイマンのみ)

色々出したスキル詳細
ここはテキトーに読み飛ばしてもまあ

【幸運強化(大)】
 Luk上昇 20%

【激運】
 Luk値を1.3倍する

【空間認識能力】
 指定範囲内の空間認識能力を強化する
 ※プレイヤーによって、稀に想定を超えた効果が発揮される場合があります。もしもの場合は運営にご連絡下さい。

【オーバーチャージ】
 魔力を過剰に保持するスキル
・MPを100%余分にチャージ可能になる
 Str -65% Vit -65%
・MPが100%以上の場合
 Int +15% Min +15%

【生命転換】
 命を捧げ、魔力に変換するスキル
 AS
 毎秒自身のHP1%を消費し自身のMPを1.3%ずつ回復する
 途中停止不可。この効果でもHPは0になる
 冷却時間 : 10秒
 効果時間 : 30秒


 ボツスキル

【マネーパワー】
 これが金の力だ
 AS
 自身の所持Dを好きなだけ支払う
 払った金額×0.001%制限時間内の行動を強化する
 冷却時間 : 1分(Dを支払う事により短縮可能。最大10秒)
 効果時間 : 1分(Dを支払う事により延長可能。最大3分)



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第19話 イベントを終えて②

天使の3Pのアニメを見て、ロリコンが悪化していく今日この頃


ギルドランキング報酬1位
・500,000 D
・記念トロフィー(金)
 ギルド維持費軽減《大》




 ちょっとした慢心を一瞬で消滅させられた翌日。気を取り直してログインした俺は、2通の通知が届いていることに気が付いた。

 

 ひとつはギルドランキングの報酬が配布されましたというもの。結構内容がしょぼい気がしたけど、今回は素材やらポイントやらで交換が大量にあるからだろう。というかギルドに銀行システムなんてあったんだね。

 そしてもうひとつは……

 

「イベント『灰の魔物と失われた王冠』における、仕様変更について……?」

 

 長くなりそうなので、座って胡座をかく。で、えっとなになに?

 

 この度は、イベント『灰の魔物と失われた王冠』開催中における、一部の仕様変更(一部オブジェクトの耐久設定の変更・一部フィールドへの不壊オブジェクトの設置)に伴う緊急メンテナンスについてお詫びします?

 

「そんでもって、D(お金)を配布と。まあ、ソシャゲみたいな課金ガチャがないし妥当だろうな」

 

 課金アイテムはあるにはあるけど、おいそれと全員に配布なんてできない物だしそうするしかないだろう。

 そんなことを考えつつスクロールしていった先に【重要】PN ユキ 様へ と書かれた文が続いていた。どうやらここからは、俺へのメッセージだけに追記された部分らしい。

 

「ええと、イベント中に行った運営の都合によるポイントの操作、誠に申し訳ありませんでした。お詫びとして、操作したポイントと同等分のアイテムを贈らせていただきます。と」

 

 そしてその下に書かれていたアイテム名は、アイテム枠拡張チケット×5とスキル控え枠拡張チケット×5……ちょっと待ってこれ、おいそれと配れない方のアイテムじゃないですかやだー。

 

「つまりアイテム枠が5スタック増えて、控えスキルも同様と」

 

 ……森マジやばくね? 控えスキルの奴は今のところ必要ないと思うけど、アイテム枠5スタックは爆弾が約500個増えるに等しい。つまりはやりたい放題ということだ。

 でもそうなると、アイテム枠が35スタックという微妙に気持ちの悪い数になる。どうせなら40まで増やしてしまいたいが、このアイテムは今回みたいな事がない限り課金限定品だ。値段は1枚300円。ラノベ等にも手を出してる身で1,500円もの大金を払っても良いのだろうか?

 

「……引っ越しとかそういう単発系のバイト、探してどうにかするか」

 

 僅かな逡巡の後そう決めてウィンドウを操作、自分の中の悪魔の囁きにのって課金のボタンをポチッと押す。……形容し難い背徳感とか後ろめたさとかが相まった何かで、なんだか背筋がゾックゾクするなこれ。なるほど、これが廃課金に繋がるはじめの一歩か。間違ってもそっちに走らないように、電子なマネーは空っぽにしておこうそうしよう。

 そんな風に一人百面相をかましていると、コンコンと自室のドアがノックされた。今考えるとドアって……どこ行った和風。

 

「どうぞー」

「ん」

 

 外開きのドア(申し訳程度の和風要素)を開け、いつも通りの口調で入ってきたれーちゃんの手には、見慣れた色合いの折り畳まれた布があった。胡座のままじゃ行儀が悪いし、ちゃんと正座しておこう。そしてこのタイミングでれーちゃんが来るということは……

 

「えっと、もしかしてもう終わったとか?」

「ん」

 

 どうやらその通りだったらしく、俺の装備を持ってない方の手がサムズアップの形になる。そして、そのままズイと両手で装備を差し出してくる。

 

「ありがとう」

「ん!」

 

 若干気恥ずかしいけどお礼をいい、つい癖で頭を撫でると満面の笑顔を浮かべてれーちゃんは去っていった。守りたいこの笑顔。俺のステータスじゃ守れないよこの笑顔。誰か守ってあげてこの笑顔。

 

「さて、何が変わったんだろなっと」

 

 一度に装備し直し、【空間認識能力】も併用して自分の姿を確認してみるけど、見た目は全く変わっていない。各装備の使い込まれた感やコートの草臥れた感じもそのままだ。流石れーちゃん、分かってる。

 ステータス面での変更点は、名前が全て【トリニティ〜〜】に変わっており能力値が僅かに変化していた。今まで奇数だった数値が全部偶数になっており、とても綺麗に纏まっている。そして驚くことに、どの装備にも新たにスキルが追加されていた。

 

「全環境適応、特殊地形効果無効、落下ダメージ軽減に、簡易ポーチ?」

 

 前からコート、ブーツ、グローブ、パンツ(下着に非ず)といった並びでの変化で、中々頼もしそうだ。因みにこの簡易ポーチは、ズボンの両サイドに5スタックずつの計10スタック分設置されているようだ。

 そうかそうか、こんなに作為的と思えるくらいタイミングが重なるってことは、運営()が何が何でも爆弾魔になれと言ってるってことか。いいねいいねェ、最ッッ高だn ごほん。やってやるさ、存分に!

 

「区切りもいいし、ボスに挑戦するのもありか? 早く3つ目の街には行きたいし」

 

 到着すれば機械類が手に入るとのことから、環境が色々ガラリと変わるだろうし、ボスを倒すためのアイテム(多数の爆破系アイテム)も一通り揃ってる。だけど、やっぱり環境がガラッと変わる分ボスも強めに設定されてるらしい。余談ではあるが、この装備のお陰で問題はないらしいけど極振りには鬼門とかも聞いた。魔法使い(炎)さんは、なんか条件さえ整えば確定1発で蒸発させられるって言っていたけれど。

 

「……先ずは情報収集からだな」

 

 よし、やろう。

 そして決めたからには思い立ったが吉日。今日1日で情報を集めて、明日ゆっくり吹き飛ばしに行こう。

 

 

 振り下ろされた巨大なハサミが、5枚重ねの障壁をぶち抜いて俺を押しつぶした。

 口から吐き出された泡が弾け、HPを10割削り取っていった。

 避けた突進の余波でHPが消し飛んだ。

 ()()()()()()に気を取られ、大波に押し流されて溺れた。

 ウォーターカッター的なブレスに三枚におろされた。

 ムシャア…と捕食された。

 ハサミでイオク様みたいに潰された。

 突進を避けきれずに綺麗に轢かれた。

 ブレスに輪切りにされた。

 障壁を突き破った尻尾に、サッカーボールのように吹き飛ばされた。

 

「さて、これで……何回目だっけ、死んだの」

 

 その他様々なやられ方を繰り返し味わった俺は、日が落ちてしまったためギルドで一人今日のことを思い返していた。いやぁ強いね【ヘイル・ロブスター】とかいう、あの青と白のでかいザリガニ。強いとは聞いていたけど、それ以上にストレスフルな相手だった。

 

 殺傷力の高い巨大なハサミによる打ち下ろし&それによる振動で微妙な移動妨害、口から吐き出す泡による移動速度デバフ、ビグ・ザム宜しく横に薙ぎ払う遠距離用の水ゲロビ、中距離用の大波、対バックアタック用の尻尾、高めの耐久と物理耐性。しかもそれに加えて、降っている霰によって集中が乱される。本来ならここに、霰による固定ダメージが継続で入るっていうんだから、バランス調整がおかしいとかそういうレベルだと思う。あと全部俺にとっては即死ダメージだし。

 

 ちゃんとPT組んで役割分担すれば余裕とか、魔法耐性は低いんだからそっちで攻めろとか、そもそもソロでボスに挑むのが自殺行為だとか、極振りじゃなきゃ問題ねーよとか、そんな本当のことを言っちゃいけない(戒め)

 

「プライドを捨てて協力を頼むか、意地でどうにか倒すか……」

 

 暴発させた《エンチャント》は微妙にダメージが通るし、属性耐性を下げる《ウィーク》を使えば更にダメージが通る。爆弾系統のアイテムも普段通りのダメージは通ってくれたし、ダメージを与える手段は十分に揃っている。けれど、圧倒的に耐久力が足りない。流石極振り、命が羽毛レベルで軽いだけはある。

 どうにかして回避できれば良いんだけど、ちょこまかしてると余波で死ぬ。イヤッッホォォォオオォオウ!してもゲロビでやられる。背後に回っても尻尾にやられる。どうにも八方ふさが……

 

「いや、んん? もしかしたら、できないこともない…か?」

 

 死に続けてるときは思いつかなかったけれど、もしかしたら行けるかもしれない方法を思いついた。

 

 障壁の展開半径と展開時間をできる限り減らしてMP消費を激減させて、ついでに色々とやっておけば消費MPを1〜20内に収められる。そんでもって俺の実質的なMPは1750だから、発動回数と発動時間はそこそこ稼げるはず。MP回復アイテムも多数持っていくので、更に活動限界に+補正を入れて修正。となると、問題はその制限時間内にボスを削りきれるかだけとなる。

 

「爆竹500発もあれば、多分十分に削りきれるだろ。うん」

 

 馬鹿につけるなんちゃらはないって言うし、爆竹の大バーゲンでドンパチしてお祭り騒ぎをしてればいけそうだ。アイテムとお金が消し飛ぶけど、まだ楽に補充できる範囲内だからセーフだ……って、ああ忘れてた。地対空攻撃があった場合、この作戦は全くの無意味となる。

 

「確認してくるとしますか!」

 

 折角差し込んできた一筋の光明を逃す理由はない。今日だけで飽きるほど死んでるし、今更1キルされたところでなんの問題もないよネ!

 




 ボスのイメージは、某ゲームのギロスター

 Name : ユキ
 称号 : 詐欺師 ▽
 Lv 18
 HP 900/900
 MP 1600/875(1750)

 Str : 0(13) Dex : 0(10)
 Vit : 0(14) Agl : 0(10)
 Int : 0(57)Luk : 370(1716)
 Min :0(32)

《スキル》
【幸運強化(大)】【長杖術(大)】
【紋章術】【愚者の幸運】【激運】
【レンジャー】【生命転換】
【ノックバック強化(大)】
【空間認識能力】【オーバーチャージ】

 -控え-
【ドリームキャッチャー】

( )内は、装備・スキルを含めた数値
 小数点以下は切り捨て

比較として称号補正なしの、れーちゃんの暫定ステを

 Name : れー
 称号 : 呪術師▽
 Lv 31
 HP 1704/1704
 MP 1771/1771

 Str : 30(50) Dex : 145(284)
 Vit : 50(122) Agl : 55(83)
 Int : 110(216)Luk : 50(50)
 Min : 60(83)


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第20話 ボスと機械とキチガイと

アストルフォとかモーさんとか、エル君とかエルフナインくんちゃんが可愛いので今期は満足です。

跡今更ですけど「君の膵臓を食べたい」ってなろう産だったんですね


 僅かな浮遊感とともに、いつも通り飽きるほど訪れた霰の降るボスフィールドに俺は降り立った。昨日まではここで散々死んだけれど、今日は違う。

 

「そーれッ!」

 

 ギシャアァッ!?

 

 泥の中から【ヘイル・ロブスター】が現れた瞬間、俺が出力150%【投擲】で投げた2つの《パラライズボム》がボスの目の前で爆発した。前回のらんらんと違ってこのザリガニはこっちがフィールドに入ってから出現するタイプだったので、出現場所さえ把握しておけばこんな感じで起き攻めを……って、あまり時間がないんだった。

 

「《障壁》《障壁》《障壁》更に《障壁》!」

 

 ボスが麻痺で動けない10秒程度の間で、俺は可能な限りMP消費を減らした《障壁》で作り出した()()を駆け上がっていく。元々障壁が空間設置だからこそ出来た芸当だ。

 この時点で分かるだろうが、今回俺が考えた作戦は至って簡単。遠距離攻撃のないボスを、安全圏から爆殺しよう。これに尽きる。この世界で空を飛ぼうとするなら、バリスタ的なもので射出されるか魔法で吹き飛ばされるくらいしか方法はない。それ故に、ボスの対空性能は全く存在しないようだった。

 え、魔法? 銃? プレイヤー? 当てられるに決まってるじゃん(真顔)

 

「そーれ2回目!」

 

 麻痺の効果が切れたザリガニの目の前で、今度は4つの《パラライズボム》が爆発する。多分これで拘束できるのは6秒、まだハサミでの振り下ろしが当たる高度なので、もっと高さを稼がないといけない。

 

「これでラスト!」

 

 ハサミを振り上げこちらを威嚇し始めたザリガニの口元で、再び4つの《パラライズボム》が爆発する。最後のこれで拘束できるのは4秒。全く耐性というのは面倒なものである。

 

「さて、ここまで来れば十分だな」

 

 ギシャア! ギシャア!!

 

 遥か下でザリガニがハサミを振り上げ、振り下ろし降りてこいと叫び声をあげている。折角安全圏まで来たっていうのに、降りるわけないじゃないですかやだー。落ちたら落下ダメージで死ぬし。足場が直径100cmの円だから下手したら落ちるけど。

 だけどもう、ここまで来たなら後は作業だ。

 

「本日の天気は、霰時々爆竹。特に意味もない暴力に襲われたくない方は、該当地区に近寄らないようにしましょう。……自分で言っておいてないなコレ」

 

 腰の簡易ポーチから取り出した爆竹を、下に向けて放り投げる。ヒュ〜という気の抜ける音を伴い落下していった爆竹は、寸分違わずザリガニに命中し大きな爆発を引き起こした。よし、これなら適当にやっても十分に当たるだろう。

 

「たーまやー! うん、こっちはしっくりくる」

 

 どこぞのマフィアの10代目の右腕風に、簡易ポーチから取り出したフィリピン爆竹を下に向かい投擲する。不自然なまでの誘導で、全弾命中。

 

「さて、後何個で沈むのかな」

 

 簡易ポーチ内の10スタックが空になっても、本来のアイテム欄にまだまだ大量の爆薬は詰まってるからどの道終わりではある。MPが保てばの話だが。

 

 よし、切り替えて偶には派手に歌でもかけながらやろう。かけるだけで歌わないのかって? 歌うこと自体は好きだけど、色々と察してほしい。いやちょっと待て。別にここには俺1人しかいないんだし、歌ったって問題はないんじゃ……

 

「それじゃあちょっと失礼して。♪〜」

 

 ギシャァァァッ!!??

 

 流している歌に合わせて軽く歌い始めた途端、下から断末魔の叫びみたいな音が聞こえてきた。あーあー、そんな声爆音で聞こえませんー!

 

 ・

 ・

 ・

 

「っとと、終わったかな?」

 

 気持ちよくアニソンを歌うこと十数曲。フルだから大体1時間もしない程度の時間、変に誘爆しないよう注意して爆竹やら毒薬やらを落とし続けていると、気がつけば下からは何の音もしなくなっていた。使用したアイテム数は大体3スタック、森を焼き払ったのと同等の地味に痛い出費である。

 

 下を覗いて確認しても、そこには滅茶苦茶に抉れた地面しか残っていなかった。あ、いつの間にか霰やんでるじゃん。落ちたら死ぬのは確定的に明らかなので、登ってきたとき同様《障壁》で階段を作りながら地上へと降りていく。

 

 ボスを倒した割には、らんらんを出荷したときのようにメッセージが来てないと思っていたが、地面に降り立った時点でピロンという受信音が鳴った。俺の行動がイレギュラーだったのか、システムがガバガバなのか……

 

「まあ、別にいいか」

 

 内容は前回と同様、討伐に成功したから第3の街に進めるようになったこと。そして、なんかレアスキル取得チケットを貰った。スキルかぁ……今はそこまで必要じゃないから扱いは保留ってことで。

 

「それじゃまあ、とっとと第3の街……なんだっけ、ギアーズ? に行くとしますか!」

 

 第3の街は、地理的にはここから西南西……始まりの街の、真西に位置している。辿り着く方法は、このまま湿地帯を進むか、始まりの街西部奥に存在する謎の遺跡を踏破すること。無論俺はここから南下する。無理に時間をかけたくないし。

 

 MPはあんまり残ってないけど、多分到着はできるだろう。小さな川を1本渡る必要があるし、ガチな沼地もあるけど……まあいけるいける!

 

 

 行けませんでした。

 

 沼地を越え小川を渡り、背の低い草が生え、街道が整備されている場所に出た瞬間、何か途轍もない衝撃を横からくらい、回転しながら吹き飛び頭から着地して普通にリスポンと相成った。

 そして、再び時間をかけて第3の街付近まで来たのは良いのだが……

 

「さっせんしたぁぁぁ!!」

「えぇ…? いや、その、とりあえず頭を上げてくれません?」

 

 なぜか俺は、軍服っぽい装備の人に土下座されていた。土下座している人の隣には大きなバイクがあり、頭を上げてくれる気配が一切ない。こ、これが本物のDOGESA……

 

「とりあえず、何がなんだかわかりませんけど話は聞きますので……というかあなた誰ですか?」

「あざっす!」

 

 何だろう、体育会系のにおいを感じる。苦手なんだよなぁ……こういうタイプの人。沙織(セナ)だけで俺のキャパシティはいっぱいです。

 そんなことを思っていると、彼?は土下座から立ち上がりビシッと敬礼をして言った。ん? ちょっと待って。この人の性別、どっちだ? 骨格で判別とか無理なんで。声も……うん、どっちとも判断できる。よし保留。

 

「オレはリシテアっす。ギルドは――」

「もしかして、モトラッド艦隊の?」

「なんで分かったんすか!?」

 

 いや、だって名前がまんま同型艦のアレだし。あのイベントで3位入賞してるギルドだったし。まあ、覚えてたのは個人的な部分もあったりするけど。

 

「まあ分かり易かったので。それで、いきなり土下座をしてきた理由はなんですか?」

「それはさっき、オレがあなたを轢いたからっす」

「ははぁ」

 

 なるほど、さっき吹き飛んだのはそれが原因か。現実じゃなくてよかったなぁ、本当に。魔法込みならともかく、身体能力だけでバイクを躱すなんてことさすがにできないしね。

 

「……怒ってないんすか?」

「まあ特には。死んでリスポンとか慣れてますし。だから気にしないでもらって大丈夫ですよ?」

「いえダメっす! 意図しないPK(プレイヤーキル)をしておいて、何もしないままだなんて色々とダメっす!」

 

 律儀な人だなぁ。正直今更1回轢かれた程度じゃなんとも思わないし、大丈夫って言ってるのに気にしてくれる。良い子だなぁ……(謎の年寄り並感)

 まあそれはいいとして、なんか適当なことをお願いしてチャラにしてもらおう。

 

「あー、じゃあアレです。ちょっと乗ってみたいので、街までバイクで送ってもらうことはできますか?」

「お安い御用っす。でも【騎乗】スキルがないと、ちょっと速度を出しただけで振り落とされるっすよ?」

「それなら一応持ってるので大丈夫です」

 

 よかった、【レンジャー】のスキルがあって本当によかった。元々俺が考えていた高速移動の手段は、ギアーズで手に入る()()()だったのだ。バイクがこうという事は、恐らくその全てが【騎乗】のスキルがないと十全に扱えないのだろう。この巡り良さは、確実にLuk極振り。

 

「珍しいっすねー。よっと、それじゃあ乗ってくださいっす。えっと……」

 

 そう言いながらリシテアさんはバイクに跨り、背後のシートをバンと叩き、そのまま言葉に詰まってしまった。そういえば、俺自己紹介してなかったじゃん。

 

「あ、俺はユキって言います。短い間かもですが、よろしくお願いしますね」

「よろしくっすユキさん!」

 

 それで得心がいったようにリシテアさんは頷く。そして、俺がシートに座ったことを確認するとバイクのエンジンをかけた。途端に腰に大きな振動が伝わり、耳には心地の良い排気音が聴こえてくる。

 

「それじゃあ行くっすよ!」

「っ、《障壁》!」

 

 予想を超えた加速で吹き飛ばされそうになる上半身を、初対面の人に抱きつくわけにはいかないので《障壁》で支える。それから数秒は身体を支えることに集中するはめになったが、それが終わったときに見えた風景は圧巻の一言だった。

 

「速い……」

 

 全身に響く振動、目まぐるしく変わる風景、うざったいほど押し寄せてくる風。そのどれもが、今までの俺のUPOには存在しないものだった。

 今までのプレイも十分楽しかったが、これはヤバイ。嵌りそうだ。こういうのを一粒で二度美味しいとかいうのだろうか? 元々考えていたことだったが、今決めた。買おう、バイク。

 

「すみません! ギアーズで、バイクを扱ってるお店で良さげなところ知りませんか!?」

「それならウチのギルドに寄るといいっす! 店売りより割高で手間もかかるっすけど、その分性能は段違いっすから!」

「それは良いですね!」

 

 走行中なので声が大きくなってしまったが、それもまた醍醐味的なものだろう。いや、本来はヘッドセットとかが必要なんだったっけ? そもそもヘルメット被ってない時点で比較に意味はないか。

 というかそんなことより、ウチは喫茶店、支部はバイク屋、元極振りさんたちのところは露店販売だし、上位ギルドはどこも副業とかをやってるんだろうか?

 

 そんなことを考えながら乗っていること数分、あっという間にバイクは第3の街に到着していた。徒歩とは比べたらいけない速さだねこれ。

 

「それじゃあ、送ってくれてありがとうございました」

「いえいえっす! これからも機会があればよろしくっすよ!」

 

 そして機械仕掛けの街に入ってすぐ、俺とリシテアさんは別れることになった。なんかギルドの方でやることがあるらしい。バイクに乗って凄い速度で去っていくリシテアさんは、フレンド欄で確認したらちゃんと男の人だった。ギルメンと元極振りの人達を除いたら、二人目のフレンドという悲しさ。

 

「さってと」

 

 そう言ってコートを羽織り直し、俺は手元に浮かべた地図に表示されているひとつの施設に足を向ける。

 その施設の名はカジノ。普通のプレイヤーにとってはただの娯楽施設やロールプレイの場所程度の価値しかない場所だろうが、俺にとっては十分に主戦場たり得る。

 

「目標金額まで、一先ず稼ぐのを目指しますか!」

 

 移動中に聞いたバイクの値段は、現実を基準に色々と調整しているらしいが馬鹿みたいに高い。その中でも大型の部類の物を買うには財布が心もとないし、運が勝負を握る場所に行くことを強いられているんだ!(集中線)

 

「目指せ100億!」

 

 極振りしたLukが一番輝くのは、そういう場所に他ならない。それじゃあ一丁、本気でやりに行くとしようか。




ユッキーの歌の下手さ? レイン上将軍くらいかなぁ(分かる人にしか分からないネタ)


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閑話 それっぽくしたい掲示板回

分割した末のオマケ話なので短め
時系列は少しバックしてます


【極振りスレ】イベントお疲れ様

 

 1.名無し@気持ち的にナイト

 先ずはおつかれー

 

 2.名無し@ニンジャ

 乙ー

 

 3.名無し@魔法戦士

 乙ー

 

 4.名無し@鞭使い

 お疲れ様

 

 5.名無し@魔法使い(炎)

 お疲れ様です

 

 6.名無し@片手剣使い

 乙カレー

 

 7.名無し@長杖使い

 お疲れ様でした

 

 8.名無し@気持ち的にナイト

 とまあ、初めてのイベントが終わったんだが、お前ら何をやらかした?

 

 9.名無し@魔法使い(炎)

 いやですね、なんでそんなに決めてかかってるんですか?ナイトさん(目逸らし)

 

 10.名無し@長杖使い

 そうですよ。決めつけるのは良くないかと思います(下手な口笛)

 

 11.名無し@鞭使い

 そうだな。誰も彼もがやらかしたなんて思うんじゃない()

 

 12.名無し@ニンジャ

 やらかさない健全な奴も多分いるんだぞ!()

 

 13.名無し@片手剣使い

 なぁにこれぇ…全員やらかしたって自白してやがる

 まあ俺もだが

 

 14.名無し@気持ち的にナイト

 まあまあ、そう言うな。どうせみんなやらかすに決まってるんだ。だからまあ、ちょっと互いに何をしたか話し合わないか?

 因みに俺は、例のバイク集団をずっと妨害して遊んでいた

 

 15.名無し@魔法使い(炎)

 ……沼地を消しとばしました。ついでに勢い余って、川の支流も完全に蒸発してました。まったくもう、ちょっと全力出しただけでこれですよ

 

 16.名無し@鞭使い

 色々なアイテムを暴利で貸し、最終的には売りつけてたな。ああ何、ちゃんと相手方とは合意してるさ。不正なんてない。

 

 17.名無し@ニンジャ

 色んなプレイヤーの写真を撮ってたゾ。

 大丈夫、ローアングルなんてないから不正でも何か言われることもないがな!

 

 18.名無し@魔法戦士

 エサ撒いてモンスターを狩ってたら、迷い込んできたPTが巻き込まれて結果的にMPKになってたなぁ……

 

 19名無し@片手剣使い

 技が空振りして、ダンジョンが3階層分ブチ抜けたな。直後に緊急メンテが入って助かった

 

 20.名無し@長杖使い

 知り合いを誘って、爆破アイテムを300個ほどばら撒いて森を1つ燃やし尽くして、それをキャンプファイヤーに見立てて歌いながら、死んだ目のその子とマイムマイム踊りました

 

 21.名無し@気持ち的にナイト

 聞いておいてなんだが、お前ら頭おかしいな!(褒め言葉)

 

 21.名無し@魔法戦士

 特に魔法使い(炎)と長杖使いが頭一つ抜きん出てるな。次点で片手剣使いだが……こう、二人と比べると規模が足りない。あとキチガイ度も

 

 22.名無し@魔法使い(炎)

 >魔法戦士さん

 き、キチガイだなんて酷いですよ! というか、今は大人しいけどβ版で山を切り飛ばしたあなたに言われたくないです!

 運営に「またあなたですか…」とか言われましたけど!

 

 23.名無し@長杖使い

 >魔法戦士さん

 なんか降りてきた天啓に従っただけですしー。別に俺がやったことって、お金さえあれば誰でもできることですしー。

 運営からお叱り受けましたけど。

 >ニンジャさん

 因みにその写真に、うちのギルドの人の物はあったり?

 

 24.名無し@鞭使い

 >長杖使い

 まさか俺から買ってた爆薬がそんなことになってるとはな……いいぞもっとやれ! 因みに弾はどれくらい残っている?

 

 25.名無し@ニンジャ

 >長杖使い

 勿論あるぞ!

 

 26.名無し@片手剣使い

 くそぅ…こんなことなら、こんなことなら俺ももっとぶちかましておくべきだった……

 

 27.名無し@短剣使い

 全員正気で狂ってやがる……

 この会話を目撃した人はSAN値……ってダメだ。発狂なんてしようものなら悪化する未来しか見えないっっ

 

 28.名無し@気持ち的にナイト

 俺もシールドバッシュでバイクを吹き飛ばして遊んでるんじゃなかったな……

 >短剣使い

 そらそうよ。極振りしてる奴も元々してた奴も、正気でやってられるわけないんだから

 

 29.名無し@長杖使い

 >鞭使いさん

 残弾は…えっと、メインのが10スタックと他の爆弾も多数ありますね。第3の街に到達できそうなので、仕入れの目処が立ちましたし。

 >ニンジャさん

 ちょっと後でお話が

 

 30.名無し@気持ち的にナイト

 おっ、ついに長杖もそこまできたのか。

 (ボスは爆殺されるんだろうなぁ…)

 

 31.名無し@鞭使い

 歓迎しよう、盛大にな!

 

 32.名無し@魔法使い(炎)

 えー、呼んでくれたら手伝ったのに。

 ともかくおめでとうございます。そこから色々増えるので楽しくなりますよ!

 

 33.名無し@片手剣使い

 あのボスを確定1発で蒸発させる人と、爆弾魔が合わさって最強に見える()

 

 34.名無し@短剣使い

 科学と魔術が交差するとき、ボスは粉微塵となる!

 

 35.名無し@長杖使い

 確定1発……だと。

 爆弾で粉微塵になった後、徹底的に焼却されて跡形もなくなりそう(小並感)

 

 36.名無し@魔法戦士

 くっ、物理耐性さえ高くなければ今の俺でも確定1発なのに

 

 37.名無し@ニンジャ

 そういえば、長杖さんはそもそも1人じゃないかもしれないぞ?

 ほら、今回は我々のギルドを抑えて1位になったあそこ所属ですし

 

 38.名無し@気持ち的にナイト

 あー、それもそうだな。ということは、俺らが手を貸す必要はなしか?

 

 39.名無し@長杖使い

 あ、今回は1人で行きますかね

 もう飽きるほど死につつ情報収集はしましたし、完封してきますよ!

 ちょっと制空権を握って爆弾の大バーゲンです。

 

 40.名無し@ニンジャ

 汚い。流石ニンジャ汚い。いや、俺はニンジャだし、いや、む? んん? 

 オイラはビィ!(錯乱)

 

 41.名無し@魔法戦士

 おーい、誰か精神分析用意してくれ(槍を構えつつ)

 

 42.名無し@片手剣使い

 まあ1%でもいけるだろ(剣を構えてチャージしつつ)

 

 43.名無し@魔法使い(炎)

 魔法使えるしいけますよね!(詠唱しつつ)

 

 44.名無し@長杖使い

 なら俺も魔法使い枠ということで(爆竹を取り出しつつ)

 

 45.名無し@気持ち的にナイト

 じゃあ俺は余波を防いでおくか(盾を構えつつ)

 

 46.名無し@鞭使い

 じゃあ俺はドーピングアイテムを撒いておこう(ナイトの裏に隠れつつ)

 

 47.名無し@短剣使い

 折角なんでニンジャさんにデバフかけときますね(ナイトさんの裏に隠れつつ)

 

 48.名無し@ニンジャ

 えっ、ちょっ、俺今回こんな終わり!?

 

 49.名無し@気持ち的にナイト

 大きく吸って、せーの!

 

 50.名無し@魔法戦士

 そりゃあっ!

 

 51.名無し@魔法使い(炎)

 えいやぁ!

 

 52.名無し@片手剣使い

 そいやぁ!

 

 53.名無し@長杖使い

 うりゃっ!

 

 54.名無し@ニンジャ

 サヨナラー!(しめやかに爆発四散)

 

 55.名無し@鞭使い

 ハイクも読めなかったか……

 

 56.名無し@短剣使い

 おかしい人を亡くした…

 

 57.名無し@気持ち的にナイト

 ナムアミダブツ!

 

 58.名無し@魔法使い(炎)

 ショッギョムッジョ

 

 59.名無し@長杖使い

 相変わらず、一体感すごいなぁ…ここ

 

 60.名無し@片手剣使い

 惜しい人じゃなくて、おかしい人なのか……惜しい!

 

 61.名無し@鞭使い

 【審議中】 ( ´・ω) (´・ω・) (・ω・`) (ω・` )

 

 62.名無し@気持ち的にナイト

 ダメみたいですね(諦め)

 

 63.名無し@片手剣使い

 そんな…嘘だああぁぁぁ‼︎

 

 64.名無し@魔法戦士

 はいはい、コラテラルコラテラル

 

 65.名無し@長杖使い

 本当に、ここの一体感すごいなぁ…

 

 66.名無し@鞭使い

 せめて追悼くらいはしてやるか

 

(以下追悼会)




ニンジャさんの撮ったれーちゃんの写真は無事全てお兄さんに回収されました。ちゃっかりユッキーも誰かのを購入した模様。


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第21話 敗北の幸運

設定集が若干更新されました



 俺の両肩をガタイの良い黒いおっさんが掴み、2人がかりで俺をとある場所へと引きずっていく。その行く先は、カジノの出口の大扉。

 はいそうです、何を隠そうカジノに出禁をくらいました。

 

「ぐふっ…」

 

 黒服達にとっぷりと日が暮れた街に投げ出され、大扉を勢いよく閉められた俺を見て、数人のプレイヤーが可哀想な人を見る目で俺を見つめる。違う、俺は全財産をスッたとかそういう理由でやられたわけじゃない。ただちょっと、稼ぎすぎて出禁をくらっただけなんだ。

 

「はぁ……」

 

 深くため息を吐き、立ち上がりコートの埃を払う。

 一応今回のこれは、元々システム上設定されていたものらしい。『市場の崩壊を防止するために、カジノで一定以上の額を稼いだ場合その分のD(お金)を使い切るまでカジノの利用を不可とする』まあ妥当って言えば妥当だろう。現に、俺も稼いだ5,000万Dをばら撒けば色々ぶち壊せるだろうし。

 

「ま、あんまり気にする必要もないか!」

 

 兎も角、お金を十二分に稼いだならば次は散財だ。

 好みの高速移動手段(バイク)も欲しいし、この街から解放されるらしい銃にも手を出してみたいし、この街自体の散策もしてみたい。嗚呼、とてもブルジョワな気分。

 

 街の中だけで収まっているが、道にはアスファルトが敷かれ、街の中心部には高層ビルが群れを成している。ゴミの溜まった裏路地にはザイルさんのようなRPをしている人がおり、他の街と違い電気の灯りが煌々と街を照らしている。どちらも行ったことはないが、東京とかニューヨークとかそういう感じなのではないだろうか?

 中世→和風ときて、ガチな現代の街。ここを探索しないという選択肢が存在するだろうか? いいや、ない!(反語)

 

「だけどまあ、バイクは明日に回すしかないよなぁ」

 

 現在時刻は、既に23時を回っている。こんな時間に押しかけたりするのは、迷惑でしかないだろうし印象も良くないだろう。だったら暫く街をブラブラして遊ぶのが一番だ。

 スロット回したり、ポーカーで毟ったり今日はもう疲れたんだ……

 

「あ、クレープ1つ下さい」

「はいよ。300Dだ」

 

 屋台を出してたNPCからクレープを購入し、食べながら歩いて目的の場所を探していく。あ、このクレープ地味に美味しい。いや違うそうじゃない。

 

「んー……」

 

 探しているのは、武器屋というかガンショップ。折角なんだから、夜の非合法っぽい雰囲気の中で銃をどうにか手に入れてみたい。そして撃ってみたい。

 

「お、やっと見つけた」

 

 周りを見渡しながら歩いていると、路地の向こう側にガンショップなんとかかんとかという看板が下がったお店を見つけた。電灯……いや、この場合はネオンか? それでギラギラと輝いているお店だ。なんとかかんとかの部分は、銃弾の貫通跡で読めない部分だ。

 

 特に車が通ってるわけでもないのに信号機がある道を歩き、ドアを開けそのガンショップに入店する。クレープはアイテム欄に仕舞った。カランカランという低めの鈴の音が耳に届き、そして――

 

「らっしゃい、能力が壊滅…いや、それを通り越して破滅的な兄ちゃん。このご時世に、あんたどうやって生きてるんだ?」

「ゴフッ…」

 

 そして、うっすらと漂う硝煙の臭いとともに俺を迎えたのは、店主のNPCが放った無慈悲な言葉だった。あまりに正鵠を射た言葉の刃に、耐えきれず俺は床に崩れ落ちた。

 

「だが不思議と同業者の臭いがするな。何が目的だ? 銃か? 弾か? それとも……爆薬か?」

「店主さん……全部です」

 

 差し伸べられた手を掴み立ち上がり、ニィッと笑顔を浮かべる店主さんと握手を交わした。それはそうとして。そんなに火薬の臭いが染み付いてるなら、後でコートを洗濯した方がいいのかもしれない。

 

「全部って兄ちゃん……多分兄ちゃんに銃は使えないぞ? 相当な運がなけりゃ、そもそも撃つことすらできないだろうな」

「カフッ」

 

 唐突な死刑宣告に、俺は再び崩れ落ちる。

 酷いよ、こんなのってないよ……いいやまだだ! 店主さんの話が本当なら、相当な運があるなら問題ないはず。

 

「まあ、言葉だけじゃなんだ。裏に試射場があるから、そこで撃ってみるといい」

「いいんですか?」

「ああ。ついてこい」

 

 そう言って店主さんが案内してくれた場所は、とてもひらけた空間だった。手前には何箇所かに分かれた撃つための場所、その奥には人型の的。

 意外に本格的だなぁと思っていると、店主さんが革っぽいホルスターに収まった拳銃を放ってきた。なんとかキャッチしたけど、相当今の行為は危ないんじゃ……

 

「ほれ、撃ってみるといい。そいつはとある国で警察機関が採用してる銃でな、それで当てられなかったら諦めるんだな」

「それじゃあ遠慮なく」

 

 そう言って俺が引き抜いた銃は、どこか見覚えのあるリボルバーだった。装弾数は5発、多分ニューナンブなんとかかんとかってやつかな?

 そんな考察をしながら射撃レーンに立つ。感知能力に引っかからないから、的は6.5mより向こう側。イヤーマフを装着し、ドラマの見様見真似で銃を構える。

 

 しっかりと的を狙い5連射。

 再装填(リロード)

 今度は片手で構えて5連射。

 再装填(リロード)

 最後にもう1度両手で構え5連射。

 

 なるほどなるほど、そういうことか。ならばもう、こうするしかあるまい。イヤーマフを外し、銃を持ったまま両手を困ったように広げ言い放つ。

 

「駄目だぁドク、当たらん」

 

 15発中15発全部が外れ。掠ったものすら有りはしないという、非常に無残な結果になった。店主さんが目を丸くしてるのも、多分それが原因ーー

 

「まさか撃てるとはな……あと、俺はドクじゃない、ボブだ」

 

 じゃなかった。俺が発砲できたこと自体が驚きらしい。

 

「撃てるって……そこからなんですか?」

「ああ。あまりに能力が足りない場合、銃を撃とうとすると暴発する」

「恐ろしい話ですね」

 

 あくまで他人事として話を聞きながら、俺は銃は使えないということを認識した。こんな実戦投入したら誤射姫もかくやな命中精度じゃ、普通に金の無駄でしかない。

 

「で、どうする? この結果を見ても銃を買うか?」

「意地の悪いこと言わないでくださいよ。流石に買いませんって」

 

 諦めと切り替えは大切、ハッキリわかんだね。

 だけどまあ、これだけ撃たせてもらって何も買わないでサヨナラするのはあまりにも失礼だ。

 

「でも、ちょっと入り用なので爆弾を買っていきたいんですが……何かオススメはありますか?」

「フッ、そうこなくっちゃな! オススメは、こいつだ!」

 

 射撃場の入り口とは反対側にある、【火気厳禁】【関係者以外立ち入り禁止】と何故か日本語で書かれた扉。勢いよく開かれたその扉の向こうには、銃火器に混ざり大量の爆発する系のアイテムが揃っていた。

 

「マスター、ここからここまでの爆薬、買いで」

 

 このときの俺の行動が店主さんの奇妙な好感を生み、しかも値段が安かったのでここを愛用することになるのだが、そのことを俺はまだ知らない。

 

 

「と、まあそんな感じで、結構簡単に第3の街に到達できたぞ」

「なんでギルドに入ったのにソロ討伐しちゃうのとーくん……」

 

 最早恒例になりつつある、翌日の昼休みでの事後報告。憎悪力の変わらない多数の視線に晒されながら、やっぱり沙織が机に突っ伏した。

 

「バカなの…? マゾなの…? 死ぬの…?」

「どうしよう、全部否定できない」

 

 Luk極振り(バカ)で、キャラを作り直さないでプレイ(マゾ)し続けていて、よく死んでいる。うん、全く否定する要素がないな!

 

「それに、イベントのとき殆どセナに戦闘任せてただろ? それなのに今回も手伝ってもらったんじゃ、流石に悪いなって」

「むうぅ〜」

 

 そう言って突っ伏したまま頬を膨らませ、上目遣いでこちらを見るのはずるいと思う。あざとい、実にあざとい。

 

「それに俺の本来戦い方って、致命的なまでに前衛との相性が悪いじゃん? 沙織に銃撃ってもらうだけってものなんかアレでな」

「それでも、誘ってくれるだけで嬉しいのにー」

 

 あ、ちょっ、高校生にもなって机の下で足バタバタさせない。そこが沙織らしいって言えばそうだけど、流石に問題だから!

 

「それに、UPOで空を飛んだのって多分とーくんが初めてだよ? 他の方法なんて、大体跳躍か吹き飛ぶだけだもん」

 

 こちらを見る目が、いいなーいいなーと訴えてきている。確かに空からの景色ってよか……あれ? 景色見てた記憶がないぞ?

 

「それなら、今度タイミングが合ったときにやろうか?」

「ふぇ?」

「足場の狭さ的にそこそこ密着することになるだろうし、都合のいいタイミング的に多分夜だろうから暗いだろうけど。沙織ならなんの問題もないしな」

「え、ぁ、うん

 

 多少MPがかさむけど、まあ人が後1人増えたところで大した負担にしかならないだろう。頭の中でそんな計算をしていると、突っ伏していた沙織が顔を赤くして固まっていた。そしてそのまま何を考えてたのかは知らないが、煙でも吹き出しそうな勢いで再び机に墜落した。だけどまあ、嬉しそうに笑ってるから平気だろう。

 

 周りから舌打ちやら悪口やらが聞こえてくるけど、実に平和だなぁ……




抜き打ち☆ユッキー持ち物チェック!

簡易ポーチ
・フィリピン爆竹×99(10スタック)

アイテム欄
・HPポーション×10 ・MPポーション×10
・小型爆弾×10 ・中型爆弾×10
・大型爆弾×10 ・特大型爆弾×10
・パイプ爆弾×99 ・手榴弾×50
・C4爆薬×20  ・対戦車地雷×20
・セムテックス×20 ・雷管×99 
・三尺玉×10 ・五尺玉×10
・ハンドアックス×30 ・ダイナマイト×20
・パラライズボム×10 ・スリープボム×10
・ポイズンボム×10 ・マジックボム×10
・爆薬×99 ・錆びた鉄片×99 
・猛毒袋×99 ・小麦粉×99

 etc…


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第22話 バイk……バイク!?

 翌日の夕方、マップを開きながら俺はギアーズの路地をふらふらと彷徨っていた。行き先は勿論リシテアさんの所属ギルドであるバイク屋……正式名【モトラッド艦隊UPO支部】のギルドホームだ。

 

「分かりやすいって言ってた割に、全然見つからないし分かりづらいな」

 

 リシテアさんから受け取ったメモを見ながら、俺はフラフラとギアーズの路地を彷徨う。マップと照らし合わせると矛盾しかないし、ほんともうちょっと正確なメモはなかったのかなと思ってしまう。

 

「もういっそのこと、ここら辺の邪魔なビル全部をケリィ式爆破解体術で……っと?」

 

 そんなことを言いつつ簡易ポーチに手を突っ込んだと同時に、ふっと建物に圧迫されていた視界が開けた。なんだっけ? こういう場所って確かギャップとか言った気がする。ビルの森とも言えなくもないし。

 そんなぼんやりとした知識は置いておくとして。その開けた場所に存在していた建造物に、俺の目は釘付けにされていた。あぁ、確かにこれはわかりやすいし覚えやすい。

 

「艦橋そのものじゃん……これ」

 

 なんとなくそんな気がして調べてみたら、検索にヒットした画像と目の前の建造物は完全に一致していた。砲塔こそないけど、眼前に某バイク艦隊の艦橋。これは凄い作り込みだ。

 その天を衝く異様に感心しながら扉を開け、入店した俺を迎えたのはさらなる異様な存在だった。

 

「いらっしゃいませ」

 

 逆立った灰色の髪に、右眼を覆う∞のマークが刻まれた眼帯。 片手剣がバイクに突き刺さるように収納され、そこから緑色に光る小さめの盾が展開されている。だが、何よりも目を引くのはその下半身だ。そこに本来あるべき人としての下半身は存在せず、替わりに鈍い鋼の色を反射する二輪駆動車……つまりはバイクがその存在を堂々と主張していた。巨大なマフラーが4つ付いたそれと背中から伸びた4つのチューブで接続されたその姿は――

 

「パシr、プラシドだとぉ!?」

「ハッ、俺好みの答えだ…」

 

 殆ど音を出さず接近してきた……名前はシドさんらしい……とがっちり握手を交わして、その表情から俺と大体同類の人間だと察することができた。趣味に生きてる人だこれ。

 

「リシテアさんに紹介してもらってお邪魔しましたユキです。よろしくお願いします」

「このギルドのサブマスターのシドだ。こっちこそ、リシテアが迷惑をかけたようで悪かったな」

「いえ、もう済んだことですから」

 

 お互いの握手をする力が強くなる。こういう高度なやり取りをしてる気分になる感覚、嫌いじゃない。いやそうじゃなくて、今はそんなことより本題を切り出さないと。そんなことを思っていると、向こうから話を切り出してくれた。

 

「それで、ここに来たってことはお前はバイクを買いに来たんだろう? ステータスさえ上げれば、軽くバイクより速く動けるこの世界で」

「ええ、勿論。何せ俺のステータス、Luk以外全部0ですからね! それに何よりも浪漫がありますし」

「やはり同類だったか。俺は極振りじゃないが」

 

 そう言って、そこそこな大きさのタブレットが放り渡された。

 

「カタログだ、好きに選ぶといい。割引きはしないがな!」

「はは、そこはまあ大丈夫ですよ。予算はありますし」

 

 そう言って受け取ったタブレットの画面には、機種を選ぶ前にまず分類を選択する必要があるらしく3種類の選択肢があった。1つ目は史実、これは現実のやつと同じものが選べるようだ。2つ目は創作、これは多分ゲームとかアニメとかのものを選べる所。そして3つ目がオリジナル、これは態々区別してるってこともあり、本当にオリジナルのバイクが羅列されていた。地雷か当たりかの二択しかなさそう(小並感)

 

 とまあ、そんな考察をしてみてはいるけれど、はっきり言って俺はバイクはそんな詳しくはない。スーパーカブとかニンジャとかカタナとか、後はアニメとかの知識しかありはしない。だから地の知識が必要そうなオリジナルは勿論なしだ。

 

「……なにかオススメってあったりします?」

「そうだな……Dホイ――」

「あ、すみません大丈夫です。もうちょっと見てみます」

 

 失礼だとは思うが会話を遮る。専門家に聞くのは意味がないようだ。気がついたら俺も究極完全体とか獣輪態に変身させられる未来が見えたからね!

 正味速度はそこまで要らないのだ、処理しきれなくなったら意味ないし。それならやっぱり耐久性を優先すべきで……

 

「いや、ケッテンクラートってバイク……なのか?」

「小型装軌式オートバイ。勿論バイクだ」

「アッハイ」

 

 高い耐久性能を優先して探し、トップでヒットしたケッテンクラート。あの特徴的すぎるフォルムのアレも、一応バイクの分類らしい。他の追随を許さない耐久性能だし一応候補に入れておきながら、他の恐らく軍用バイクと思われる文字列を眺めていく。

 

「あ、これって……」

 

 アルファベットの文字列ばかりが並ぶそこで、1つだけ目にとまるモノがあった。いや、正確には見覚えのある名前が1つ存在していた。

 ZundappKS750……某怒りの日の白騎士(Albedo)の愛車である。最近はずっとUPOにかまけていたけれど、厨二センサーは未だに衰えてなかったらしい。後で成分補給してこないと。

 

「ふむ、そいつに決めたのか。ならば早速会計に」

「なんて、いきませんよね?」

「ほう?」

 

 そこに気づいたか、とでも言いたげな顔でシドさんがこちらに向き直る。なんだこいつという目じゃない時点で何かあるのはバレバレだ。

 ここは、データとして設定されてるものならなんでもありのゲームの世界。それなのに、そんな世界の趣味アイテムと言われるものの買い物が、この程度で終わるはずがない!(偏見)

 

「他に何があると言うのだ?」

「そう、ですね……」

 

 素直にそのナニカを示してくれる訳ではないようだ。

 これは所謂、裏メニューに相当するサービスなのだろう(適当)だからこそ、こっちがその答えを明示しない限り手を貸してはくれない。けれどそんな縛りがある以上、その効果は保証されてると言って過言ではない。ならば何が何でも引きずり出すべき。

 だけど、それを交渉でどうにかするには、残念なことに俺の知識は不十分と言うに他ない。こちらも事前に調べたとはいえ向こうは専門家、同じ土俵で戦うことなんて馬鹿げている。勝ち目なんてありはしない。なればこそ頭を回せ、本気で当たればなんとかなるはず!(光の亡者並感)

 《空間認識能力》を無言で発動、シドさんの動きの一挙手一投足を見逃さないようにしてから俺は組み立てた推論をぶつける。

 

「調べた限り、バイクを1つのアイテムとして完成させるには、職人プレイヤーがパーツを組み立てる必要があるそうですね?」

「そうだな、それがアイテムとして異常に高額な理由の1つでもある」

「となると、俺の【紋章術】のように『バイク自体に特殊な効果を付与する』じゃ、ありませんか?」

 

 まず考えつくのがそれだ。

 現実の世界じゃありえない、後付けの特殊能力。この世界がファンタジーがベースになっている以上、あって然るべき物のはずだ。

 

「それだけか?」

 

 口の端をニィッと吊り上げて、シドさんはそう言った。

 まだ何かある。こんな上辺だけの、誰にでも考えつくようなありふれた考えなんかではまだ届かない。厨二力と今まで貯めてきた無駄知識を回せ、回転数が全てだ。ターキー食べたい。特殊効果……魔法、人、魔法陣…?

 

「パーツの配置や組み合わせを調整して、特殊な効果を発現させる。違いますか?」

 

 俺が自信を持って返答した答えに、ほんの僅かな驚きと、そして失望にも似た感情を浮かべ、こちらを物理的に見下してシドさんは言い放つ。

 

「足りないな」

「へえ、『足りない』ですか」

「ああ、そうだ」

 

 成る程、考える方向はこちらで間違ってはないらしい。ならばもっと思考を厨二の海に沈めよう。きゅーそくせんこー。

 紋章術、つまりは何かを刻印して付与は既出。それらの配置と組み合わせの相性も既出。ならば次は素材だ。ファンタジー由来の何か、その素材の厳選、素材の時点からの効果付与、製作工程や経験なんかも色々あるだろう。

 

「……素材1つ、パーツ1つまで拘って厳選。そこに魔術や錬金術辺りのファンタジー要素も融合。つまり、選択した機種と全く同じではあるけど、性能だけは完全なカスタムメイド…?」

「そこまで知ってる奴はギルメンにしかいないはずなんだがな……リシテアの奴にでも聞いたのか?」

「いいえ、独力での推測です。確認してもらっても大丈夫ですよ?」

 

 どうやらちゃんと答えに行き着いたらしい。

 安心するのと同時に頭痛の源である《空間認識能力》を解除する。ほんともうこのスキル無理、未だに慣れる気配が一切ないもん。使いすぎるとなんか眠くなるし。

 

「どうやら本当に自力で答えに行き着いたようだな。いいだろう、気に入った。望みを言うといい」

 

 とても満足気な表情で、シドさんがこちらにそう言った。殺すのを最後にされなくて良かった良かった。

 速さは要らないって言ったけど、このバイクを選んだ以上……

 

「サイドカーの着脱を自由に。後、速度と耐久性能を限界まで上げてもらえますか?」

「承知した。壁面走行は必要か?」

「忘れてましたが勿論」

 

 その後、話しながら色々な追加していく間にとんでもないゲテモノになった気がするけど、まあそんなに気にすることでもないよね! 攻撃的な改造はキッパリ断ったし。

 

「さて、ここまで話しておいてなんだが、予算は足りるのか?」

「ええ、まあ多分。……どれくらいします?」

 

 カジノでヒャッハーした分の貯金はあるとはいえ、もしかしたら予算がオーバーする可能性もなくはない。そんな懸念のもとに聞いた俺の前で、そうだなといいシドさんが計算機を弾きこちらに差し出した。

 

「元の値段も含め、大体この程度だな」

 

 そこに表示されていた金額は1,000万D。なんだ、大したことないじゃないか(?)所持金の五分の一が削れるけど、特に問題を感じないので即金で支払う。

 

「即金で……だと!?」

 

 カン☆コーンというSEを幻聴するような顔で、シドさんが固まる。だがそれも一瞬で、すぐに通常の対応に戻った。

 

「完成するのは……そうだな、3日後と言ったところか。でき次第リシテアを通して連絡しよう」

「はい、それじゃあ宜しくお願いしますね」

 

 こうして俺の、これからも愛用することになるバイクの購入は終わったのだった。




バイク
製作には、プレイヤー(NPC)が専用のパーツを組み上げなければいけない。完成後は1つのアイテムとして成立する。
燃料アイテムを消費しなければ作動させる事は出来ない。
現実に比べ、操作は簡略化されている。

-追記-
キャラ案は、キャラ案はちゃんと3つくらい決めてたんだ……だけどダイスがついファンブって…(96)


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第23話 イベントの予兆

リクエスト貰ってたキャラがやっと出せる…(まだ数話先だけど)
そして今回、増えたお気に入りをキャッチアンドリリースしそうな気がする()


 いつも通り、不快な視線を受けながら過ごした学校。それはいつも通りのことなのでどうでもいいのだが、俺は今、別の強大な問題に直面していた。

 

「ぶーぶー」

 

 その問題とは、足をジタバタさせて、頬を膨らまして不満を主張している幼馴染様である。そんな見た目相応な行動をしなk……目の前からヤバイ級アトモスフィアを感じたから考えなかったことにする。

 

「そんな膨れても、メンテなんだからしょうがないと思うぞ? 沙織」

「そーれーでーもー」

 

 こんな状態になっているのは、今言った通りUPOが大規模メンテナンスに突入したからだ。そろそろ夏に突入しかけてるし、大きなイベントがあるからだと思うんだが……開始した日にちが最悪だった。沙織がとても楽しみにしていたらしい、例の空中散歩の当日だったのだ。

 

「メンテの時間が長すぎるんだよとーくん!」

「まあまあ。大きいイベントが待ってると思えばいいんじゃないかな」

 

 どうどうと沙織を宥めるが、まあその理由は分からなくもない。なにせ昨日の深夜0時から始まったメンテが、13:00を僅かにまわった今もなお続いているのだ。メンテが明けるとどうなるのか? メンテが始まるのさ(諦め)

 そんな冗談は置いておくとして、メンテナンスの終了予定時刻は今日の深夜0時。そんなに楽しみにしてたものを、狂気の24時間メンテで潰されたらそりゃあ文句も出るってものだ。

 俺はどうなのか? 昔のソシャゲには48時間メンテとかがあったらしいからなぁ……プレイできた伝説の18分とか、奇跡の2分とかがあったらしいけど。後まあ、やってなかったゲームを並行プレイできるしあまり気にはならない。

 

「あっ、またメンテ延長だって」

「むきゅう……」

 

 携帯で調べてみれば、公式がまたメンテの延長を発表していた。明日、つまり土曜日の正午まで延長するらしい。これで36時間……いやほんとどうした運営。そんな文句を頭に浮かべていると、目の前で沙織が力尽きたように机に落ちた。流石にこのまま放置するのは、こう、なんかなぁ……嫌だ。

 

「あーその、なんだ。予定が空いてれば、明日気晴らしにどこか出かけるか?」

「ふぇ?」

 

 ざわ、と一気に周りが騒がしくなった。全く何がそんなに気になるんだか。でも沙織も微妙に難しい顔をしてるし止めにした方がいいか。励まそうと思って言ってみたけど、やっぱり慣れないことはするもんじゃないな。

 

「まあ予定が空いてなければ仕方ないけどな。急に話を振って悪かった」

「え、いや、ううん! 行く! 絶対行く!」

 

 言い方は悪いかも知れないが、すごい食いつきようにビックリする。いや、まあ元気になってくれた様でなによりだしいいか。だからみんな、ナズェミテルンディス!?

 

「わ、分かった。けど、流石にこのまま衆人環視のなか話を続けたくはないし、続きは後ででいいか?」

「あ、…うん」

 

 俺が苦笑いを浮かべながら言うと、周りを見渡して沙織は状況に気づいたようだった。顔を赤くしてゆっくりと元の位置に戻り、ぷしゅ〜という効果音が聞こえてきそうな感じで撃沈した。

 ゲームと違って、リアルじゃ豪遊なんてできない。1万円吹き飛ぶだけで致命傷だ。一応そこら辺、改めて気を引き締めておかないとな。

 

 

「ふふ〜ん、ふんふふ〜ん」

 

 というわけで、翌日のお昼頃。俺はテンションの高い沙織と共に、具体的な店名は伏せるが大きなショッピングモールに来ていた。そして、このテンションの理由にも昨日気付かされたから分かっている。

 

 昨日の帰り道、同じ制服を着た男子数名に囲まれたのだ。『さおりんとデートとか羨ましいんだよこの野郎!』とかなんとか、血涙を流す勢いで言ってた。そんでもって邪魔だから押し通ろうとしたら、1人が周りの制止を振り切り喧嘩をふっかけてきたのだ。パンチもキックも、正直ゲームのうさぎ並の遅さだったから何の苦労もなく撃退できたけど。というかゲーム内とほぼ同じ動きができたんだけど、どういうことなの……?(困惑)

 

 まあ何が言いたいかと言うとだ。この歳の仲が良い男女が2人きりで出かけるとか、どこからどうみてもデートですありがとうございました。結構小さい頃からの付き合いだから忘れてたけど、そう言われると意識せざるを得ない。俺とは不釣り合いなくらい可愛いわけだし。

 

「どうかしたの? なんか難しい顔してるよとーくん」

「今の放送を聞いて、家の冷蔵庫がすっからかんなのを思い出したからかな?

 それよりも、今のところ適当にぶらついてるだけだけど、大丈夫か? 楽しい?」

「うん!」

 

 内心をそのまま言うわけにはいかないので、丁度流れていた放送を利用して誤魔化した。実際に空だから嘘でもないが。

 そして自然な流れ()で変えた話題に、即座に笑顔の返事が返ってきた。眩しい。

 

「んー、でもそろそろどっか寄りたい……あ、とーくんあのお店行こ!」

「りょーかい」

 

 普段の下校時と同じで並んで歩いてるだけのはずなのに、認識が少し変わっただけでこうも色々と変わるとは思わなかった。こんな変に考えが飛躍してる今、いつものようなスキンシップがきたらもう、色々と変な方向に思考がイグニッションしてオーバードライブ間違いなしである。と、言うことで!

 

「それじゃあ行くか」

「あっ……」

 

 先手必勝。沙織と手を繋ぎ俺は歩き出す。口に出せはしないけど、そこそこの人混みだしね! 手を繋がないとはぐれるかもしれないからね! 沙織の背は低いからすぐ見失ってしまうだろうしね!

 俺は何に言い訳をしてるんだろうか(賢者タイム)

 

「うん、今日は目一杯楽しむぞー!」

 

 そう言って隣を歩く沙織が、ちゃっかり繋いだ手を恋人繋ぎに変えてきた。やっぱりこうなるよね、知ってた(大嘘)だから不意打ちとして、ちゃんと握り返すことにする。

 

「ああ、そうだな」

「うん!」

 

 伝わってきた反応的に、今は勝ったと確信する。

 この後はもう振り回される以外ないのは目に見えてるし、今のうちに精一杯楽しむとしますか!

 

 あ、でも帰りにちゃんと買い物して帰らないと。朝炒飯作ったせいで冷蔵してた余りの米も、卵も、ベーコンもないのだ。買っていかないと今日の晩飯は白米と沢庵のみだ。買わなきゃ(使命感)

 

 

「じゃあねとーくん! またゲームで!」

「おう」

 

 そう言って沙織を送った帰り道、リアル気配感知(自意識過剰)に引っかかる気配がいくつもあったので、わざわざ大通りを歩いて家路を急いだ。どうせ昨日の残りだろうけれど。

 一先ずなんの問題もなく帰宅し、荷物を整理してからUPOにログインした俺を待っていたのは、衝撃の情報だった。

 

「うせやろ……?」

 

 そんなどこの方言とも知れない言葉が口をついて出てしまったけど、それも仕方ないだろうと思える程の情報だった。

 

 ====================

 【予告】夏だ!海だ!いいや山だろ?なんだ手前?うるせぇサバイバルだ!

 ====================

 

 明らかに喧嘩してるイベントの名前は、下手に言及すると戦争が始まるので置いておく。きのこたけのこ論争と同じで、夏の海山は関わらないが吉だ。

 

 イベントの開催は2週間後の日曜日正午からで、サバイバルと銘打ってはいるもののリスポンは3回までありらしい。事故死を予防ということだろう。

 内容としては第1回イベと同じでポイント制。特定のモンスターを討伐だけでなく、今回は生産など色々な行動でもポイントは加算されるようだ。そしてギルドランキングはなし、完全に個人戦ということだろうか? 広大な特別マップでイベントは行われるらしいが、マップのデータは開催してからのお楽しみとのこと。けれどそんなことよりなにより、最後の最後に書かれている一文が衝撃だった。

 

 ====================

 このイベントは特別サーバーにて行い、体感時間が加速されます。緊急ログアウトを除き、イベント中にログアウトした場合イベントへの復帰はできません。

 ====================

 

 体感時間の加速、フルダイブ型のゲームが実現した今ですら空想の産物とされていたそれが実装されたのだ。そりゃあ36時間メンテも必要なはずだ。何が起こるか分からないし、運営も色々やってたのだろう。

 その下にあった詳細を見ていくと、その異常性がはっきり分かった。このイベントの現実での経過時間は6時間。けれどイベント内で経過する時間は120時間。つまり、体感時間を20倍にして4泊5日を過ごすというものだった。明らかにオーパーツ級のキチガイスペックである。世の中には天才っているんだなぁ……

 

 因みに緊急ログアウトというのは、停電やコンセント引っこ抜き、もしくは使用者又はその周囲の異常が危険性アリと判断された場合、安全のために強制的にログアウトさせる機能の事だ。それの対策してくれるのは確実に良運営。

 

「だけどなぁ……」

 

 このイベントは、残念なことに俺向きとは言い難い。レアモンスター、レアドロップ、サバイバルと俺が活躍できそうな素材は揃っているのに、ほぼ死ねない。そう、死んで覚えてからが本番なのに死ねないのだ。

 誰かと合流、若しくは協調ができれば良いのだが、広大なマップのという時点でそれも無理そうだし……くそぅ運営め、極振りに対して殺意が高すぎる。

 

「ま、もうちょっと情報上がってきてから判断するか」

 

 そろそろ約束の時間だし、考えるのはやめてお店部分に出よう。折角デートの続きのようなものなのに俺はいつもの旅人スタイルだが、それは許してもらうしかない。

 そんなことを考えながらお店の方に出ると、約束通りセナが待っていた。

 

「待ったか?」

「ううん、今戻ってきたところ」

 

 約束……例の空中散歩のアレだ。セナが凄く楽しみにしてたのは忘れてない。恥ずかしいのは今日の昼で慣れてきたし、精々カッコつけさせてもらうとしよう。

 

「早く行こ! その、例の空中散歩!」

「承りました、お姫様」

「ふえぇ!?」

 

 顔を真っ赤に染めたセナに対し、某黒い執事をイメージして礼をする。こちとらもうね、実は恋人繋ぎの時点で羞恥心はオーバーフローしてるんですよね! ならもうとことんやってやるしかね!

 

「ふ、ふん。それじゃあエスコート、お願いしようかな!」

「仰せのままに」

 

 セナの小さな手を引いてギルドの外に出て、【生命転換】を使いつつ《障壁》で階段を展開する。HPが自動的に10%まで減るけど、まあ街中だし何の問題もない。

 

「それじゃあ狭いし、ちょっと寄ってくれ」

「きゃっ」

 

 後で気まずくなるとかのことを些事と切り捨て、脆くて狭い足場なので俺の方に寄ってもらう。身体能力的には俺が極めて格下とか言っちゃいけない。

 お互い特に何かを話すことも無く短い階段を登りきり、俺は尽きかけのMPを振り絞ってセナの分の足場も展開する。

 

「すっごい……」

 

 そう呟くセナの言うとおり、改めて見ればここは中々に良い眺めだった。中途半端に位置が高いお陰で星の光る空は近いし、眼下に広がる街のポツポツとした光も風情があるような気がしないでもない。

 そうだよなすっごいよなー……チャラい感じだったり、覚悟決まってる感じの人ならこういうタイミングで告白とかできるんだろうなー。

 

 けど俺には無理だ。他に好いた人がいるとか、沙織のことが嫌いとかそういう話じゃない。別に幼馴染みとしてありきたりな、家族としてしか見れないとかいうわけでもない。けれど、沙織が色々とそういう感じなのは、今日のお昼出掛けたときにお洒落をしてたことからも明白だ。互いの関係を気のおけない親友のように思っている俺が、それに応えていいのか分からない。

 

 まあ、要するに俺がヘタレということだね!

 

「喜んでもらえて何より」

 

 だから今は、精々そっと手を繋ぐくらいが限界だ。ロマンチックな場面かもしれないけれど、ヘタレメンタルの俺にはもうね……吹っ切れてきたとは言え無理なのだ。だからこれで、どうにか我慢してほしい、なんて。

 

 




「体感時間を加速させる」なんてキチガイ装置を実装するのに、メンテナンスがないなんておかしいダルルォ!? ということでキチガイメンテ。
下手したらSAOのアリシゼーション編の最後みたく、加速しすぎでログアウトに不調をきたすとか、そのままゲーム内に取り残されるとか、その他諸々の危険要素があるのにポンポン実装する運営は確実にSAN値が0。
え、装置の製作者? APP18の誰かさんなんじゃないですか?


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第24話 私の愛車は凶暴です

文字打ってる時間が1番楽しい不思議
fgoやってるみなさんは、英霊正装誰をお迎えしましたでしょうか? ジャンヌ・デオンくんちゃんと迷ったけどアナにしました。


 色々なことがあった翌日の日曜日、俺は注文していたバイクを取りにギアーズに来ていた。やることがあるのと迷惑を考えて、一応時間は正午だ。

 

「すみません、注文していたバイク取りに来ました」

「応、よく来たな。全て完璧にできているぞ」

 

 そう言う究極体じゃないシドさんの隣には、見た目はいたって普通のバイクが存在していた。サイドカー付きのその見た目こそ軍用という感じの素晴らしいものなのだが、バイクが放つ存在感のようなものが何段も違って見えた。

 見惚れていたのだろうか、動きを止めた俺に、自信満々といった様子でシドさんが話し始める。

 

「このバイクの能力の話といきたいところだが、先ず始めに操作方法を教えよう。乗らなきゃ話にならないからな」

「はい」

 

 こういう場合、素直に教えを請うのが一番だ。聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥っても言うしね。

 

「【騎乗】スキルがあれば感覚で乗れるんだが、一応だ。右手でアクセル、左足でギアチェンジ、ブレーキは自転車と同じと覚えておけば大抵どうにかなる」

「え、そんな適当な感じで良いんですか…?」

「ああ、現実ほど難しくもないしな。倒れた場合も、ゲーム内では普通にどうとでもなる」

「アッハイ」

 

 その点だけは、現実並みの身体能力しかない俺は魔法の補助が必須だろう。乗り方もまあ、ゲームだからということで納得するとしよう。基本は60%【騎乗】さんに頑張ってもらうことでどうにかできると思う。残りの5%? そりゃあ【気配感知】パイセンに振るに決まっている。

 

「問題は……なさそうだな。ならば、次に元の値段の倍ほどの金をかけて行った強化についてだ」

 

 頷いて説明の続きを聞く姿勢をとる。というか、本体代より強化代の方が高かったんだ……

 

「注文にあったサイドカーの脱着自由の機能は、一度アイテム欄に仕舞えば自由に可能だ。そして速度と耐久性についてだが、そちらについても太鼓判を押そう。耐久値は普通は10,000程度のところを堂々と倍の20,000、最高速度は分かりやすくステータスに換算すれば900ってところだな」

「モンスターマシンじゃないですか…」

 

 聞けば、ちゃんと舗装された道限定の速度らしく、外のオフロードな道だと450程度まで落ちるそうだ。いやそれでも十分過ぎるわ。

 

「作ったのはお前だからな。それに壁面も余裕で走行可能なうえ、操縦士をサポートする能力が追加されている。なんの問題もないだろう?」

「言われてみれば」

 

 改めて考えればその程度、いつも戦闘でやってることに比べればなんでもない普通のことだった。実際に乗ってみないことには、正確には分からないけれど。

 

「ここからが、俺らが追加した装備だな。

 さっきの補足になるが、1つ目は操縦士保護機能。乗ってる奴が風圧で吹き飛ばされる、振り落とされるとかの運転を妨害する現象から乗り手を保護する能力だ。

 2つ目は、自動防御。バイクの運転中のみ乗り手の受けるダメージを耐久値で肩代わりする能力だな」

「なるほど……」

 

 2つ目が地雷な気がしたけれど、ダメージ計算前に相手の攻撃が与えるダメージの数値で計算するから問題ないらしい。しかもバイク自体の防御力も計算に入るんだとか。この面倒さ、コンマイの臭いを感じる。 つまりこのバイクはDホイールだった?(迷推理)合体しなきゃ(使命感)

 

「3つ目が簡易ポーチの追加だ。10スタックの物をサイドカーに3つ、本体に2つ増設した。だがまあ、最後の1つが本命だ」

 

 そう言い溜めを作るシドさんの言葉を待ち、ゴクリと唾を飲む。今までのですら十分おかしな性能だったというのに、それを置き去りにする本命とはいったいなんなのだろうか?

 

「最後のギミックの名は、加速装置。サイドカー無しの状態でしか使用できないが、要するにニトロチャージャーみたいな物だ。使用すれば、10秒だけ速度が200%に上昇する。1時間に1回しか使えないがな」

「ファッ!?」

 

 時間限定だが900の2倍だから1800。純正極振りである俺の今のLukの値が1800。これだけでもう、どれだけ頭のおかしい数値かというのは言うまでも無いだろう。かねのちからってすげー。

 

「まあ口で説明するより、実際に動かした方が理解しやすいだろう。燃料は限界まで積んである、存分に乗ってくると良い」

「ありがとうございました」

「なら、今後ともうちを贔屓にしてくれ」

 

 バイクを受け取り、笑みを浮かべながら返事をする。店の外までバイクを押し、跨ったと同時にエンジンが入った。サイドカーがついたままだからかバランスも取れるし、腹に響くこの音は何だかとても好きだ。

 

「それじゃあ一丁、走らせてみますか!」

 

 調子に乗ってアクセルを回した途端殺人的な加速が俺を襲った。しかし、確かに吹き飛ばされることはない。これは良いものだ……風もすごいが目は何故か開けてられるし、処理能力さえ追いつけば後10年は戦える(?)

 そんなことを考えながら更に加速したせいか、あっという間に街から飛び出してしまった。そして目の前には機械で作られた蟹っぽいモンスター。

 

「やっば!?」

 

 そう呟いた俺に蟹から発射された銃弾が直撃し、直後蟹は撥ね飛ばされ空中でスクラップと化した。徐々に減速し、停車。轢くダメージは高かったようだが、一撃で仕留めることはできていなかった。HPが数ドット残っていた蟹に《奪撃》でトドメを刺し、一度バイクをアイテム欄に仕舞い状態を確認する。

 耐久値の減少は10。俺のHPも減ってないし、成る程キチガイスペックだ。

 

「今度はサイドカーを外してっと」

 

 単車状態で取り出したバイクに騎乗する。サイドカー付きのときと比べて、若干取り回しが違うけれど感覚的にどうすればいいのか分かる。スキルの恩恵って本当に凄い。

 アクセルを全開にしてぶん回してみるけれど、今度はモンスターもプレイヤーも轢くことなく快適に運転することができた。嗚呼、本当にバイクに嵌りそうだ。大体セナの全速力と同じ速さだけど、サイドカーがあるし一緒に……駄目だ。昨日から偶に思考がのぼせてる。

 

「こういうときは、何かに集中するに限るな。うん」

 

 アクセル全開で発進し、左のハンドル部分にあからさまに設置してある小さなカバーを指で開く。どうみても加速ボタンですありがとうございました。

 

 今から突入するのは極振りの領域。今まで15%ほど割り振ってた《気配感知》への数値を5%まで低下させる。目印は……うん、ギリギリ見えるくらいの場所にある木でいいだろう。そしてさあ今だとボタンを押した瞬間、世界が加速した。

 

「へ?」

 

 異常な高音を発するエンジンに気を取られた2秒で、目印にしていた木がすぐ目の前に来ていた。

 身体を倒して全力で曲がろうとするけれど間に合わない。そして激突しかけの木が万が一、不壊オブジェクトであった場合確実に全てが壊れる。

 

「《障壁》!」

 

 それは流石に遠慮願いたいので、即興の道を作り出す。木を避けるように配置した《障壁》を砕きながら進路を強引に変えられ、俺はバイクごと回転しながら空中に放り出された。

 どうにか空中でアイテム欄に仕舞い、ぐるんぐるん大回転する視界にこれはリスポンだと確信する。そんな中、再度65%まで引き上げた《気配感知》に敵影が1つ映った。

 

「飛鳥、文化、アタァァァック!!」

 

 どうせリスポンならばと、《障壁》と《カース》を駆使して俺の回転と軌道を微修正。こちらに気づいていない大型ロボットに着弾する。

 当然のごとく消し飛ぶ自分のHP。そしてそれの代わりに、大型ロボットもリスポン直前の俺の前で爆発を起こした。やったぜ。

 

 ・

 ・

 ・

 

「ふぅ…」

 

 そしてリスポンしたギルド内、誰もいないかれーちゃんがいるかの二択だと思っていたその場所には、なんとも間の悪いことにセナがいた。気まずい。明日会うことになるのは分かってても気まずい。

 

「ん? どしたのユキくん?」

 

 そんな俺の心情を知ってか知らずか、今までと一切変わらない様子でセナが話しかけてきてくれた。

 

「ちょっとバイクに乗ってたらお星様になりかけて、マズイと思ったから飛鳥文化アタックでロボを粉砕しながらリスポンした」

「ごめん、ユキくんが何言ってるのか分からない」

 

 困りきった顔でセナがそう告げた。おかしい、俺は真実を言っただけなのに。そうか、爆弾使ってなかったしそりゃそうか。いやそうじゃない、本題に移らないと。

 

「俺が言うのもなんだけど、こんなに普段通りでいいのか? 昨日、まあ、あんなに色々とあったわけだけど」

「あー…そだね」

 

 困ったような表情のまま、セナは続ける。

 

「私としてはもうちょっとって思うけど、とーくんだもん。例え誰かに入れ知恵されてても、すぐにどうこうならないって知ってる。だって、私はとーくんの幼馴染だから」

 

 ある意味酷い言われようだが、事実なので何も否定できない。そしてそんな、綺麗な笑顔を向けられたら何も言えなくなってしまうじゃないか。

 

「そっか……そうだよな……」

 

 でもここまで言ってもらえて何もしないんじゃヘタレを通り越してもう別の何かだ。流石にそこまで落ちぶれる気は無い。

 

「よし。これからセナはどっかにレベリングにでも行くのか?」

「え、うん。あんまり張り付いてやらないから、ギアーズのダンジョンだけど」

「なら俺も付いていっていいか? ついでに送る、折角バイクも手に入れたことだし」

 

 そんな俺の提案に、キョトンとした顔でセナは答える。

 

「別に私は大丈夫だけど……ユキくんってマトモに戦えたっけ? それにバイクって、多分私が走るより遅いと思うんだけど…?」

「最近は爆弾祭りしてるけど、あくまで俺のベースは支援役だし……あとバイクはAgl換算900まで速度出るから大丈夫だ。しかも最高速度は、俺の今のLukと同じくらいだぞ!」

 

 俺はぐっとサムズアップして答える。匠こだわりの速度に耐久性だ、ガチ勢と比べても何ら遜色ないはず。だからそんな引いた目をしないでくださいお願いします。

 

「……ちなみに何Dかかったの?」

「カジノで5,000万稼いだうちの1,000万かな。しかもバイク艦隊のギルドの人とサブマスさんとフレンドにもなってきた」

「ユキくん頭おかしいよ……」

 

 セナがそのままガックリと項垂れる。

 いやそうじゃなくて。大分本題から外れてきてるけど、なんの考えもなくバイクの話題を振った訳じゃない。

 

「話を戻すけど……乗るならサイドカーか二人乗りか、どっちがいい?」

「じゃ、じゃ二人乗りがいいかな!」

「OK!」

 

 ズドンなんて幻聴は聞こえない。

 一先ず今回のことを気に、少しは俺からも距離を縮めてみよう……そう思った故の行動だ。下手にギクシャクしたりするより、やっぱりこっちの方が良いよね。




ZundappKS750(ユキ仕様)

攻撃力 中  スピード 極高
燃費 普通  ハンドリング 良好
防御力 極高  オフロード 高
サイドカー 有り(着脱可能)
簡易ポーチ ×5  ターボチャージャー
操縦士保護  自動防御

耐久値 20,000/20,000


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第25話 第2回イベント1日目①

時間はユッキーに爆破が爆破していきました。ネタ成分が暫く薄め。

ジュラシックワールド見てて思ったんですけど……ラプトル可愛い()


 ちょっとした決意をしたあの日から2週間の時間が経った。

 イベント当日である今日までにできる限りレベル上げに励んだのだが、どうも20から上がることはなかった。経験値テーブルが一気に広がったのか、死にすぎなのが原因なのかは知らないけれど。

 ついでに、アイテムを少し買い足した。主に回復系のポーション類を。大量消費しないと、生き残る未来が見えないからね!

 

「けどやっぱり、れーちゃんですら30突破してるのに1人だけ20って、流石に低レベルなのはよろしくないよな……」

「ん?」

 

 対面の席に座り首を傾げるれーちゃんのレベルは33。セナが46、つららさんが40、ランさんが42というギルド内では見劣りするものの、それでも俺を軽く10は上回っている。

 

「ん!」

「そうだよね……イベント開始直前なのに、凹んでたら駄目だよね」

 

 身を乗り出して肩を叩いて励ましてくれたれーちゃんにほっこりとしつつ、気を引き締め直す。

 風が吹いても痛いどころか、風が吹いても死ぬ俺の貧弱スペックじゃリスポン可能な回数が制限されたイベントはかなりキツイ。しかも時間が無駄に大量にあるせいで、かなりの高確率で途中脱落の可能性がある。

 

「とりあえず、できる限り頑張りますか!」

「ん!」

 

 その調子というかのごとくサムズアップするれーちゃんに、尊さのようなものを感じた気がする。頭を撫でたりすると、個人ルームで休んでいるランさんが謎センサーで察知して、般若面みたいな顔で飛んでくるからやらないけど。因みに個人ルームにはつららさんもいる。まあ、察しよう。

 

「ユッキくん! 準備できてる?」

「まあな。とは言っても、持ち物は大体爆弾だけど」

 

 背後からセナが、勢いを加減して抱きついてきた。あんなことがあっても、俺たちの距離感は大体こんなものだ。一歩踏み込みはしたけど、そこまで劇的には変わっていない。

 そんなことをしている間にメニュー画面に表示させていた時計が12時となり、ポーンという聞いたことのない電子音が響いた。

 

「えっと、なになに?」

 

 新しくきていた通知の題名は、第2回イベント特設ページ。開いてみればそこには簡単な注意書きと1つのボタンが存在していた。

 

 ただ今より、第2回公式イベントを開始します。

 準備ができましたら、参加者は下記の開始ボタンを押してください。各自特設フィールドにランダムに転送されます。

 転送後、詳細なルールの示されたメッセージを送信するので、それをよく確認してお楽しみください。

 

 詳しいルールはいつでも確認できるし、これだけで十分だろう。そんなことを考えていると、コートの袖をセナがくいくいと引っ張ってきた。

 

「ランさんとつららさんは仕方ないけど、出発する前に!」

 

 そう言ってセナとれーちゃんが手を重ね合わせる。3人だけだけど、円陣を組むらしい。多少の気恥ずかしさを無視して俺も手を重ね合わせる。

 

「合流できたら一緒に、出来なくても楽しく、目一杯イベント楽しむぞー!」

「ん!」

「おー!」

 

 セナもちゃんとギルドマスターやってるんだなぁ…という的外れな感想を抱きながら、俺はイベントの特設フィールドに転送されたのだった。

 

 

 僅かな暗転と浮遊感。いつも通りの転送される感覚が過ぎ去り、目を開けた俺がまず感じたのは冷たさだった。

 

「うそん……」

 

 そう呟いた自分の声すら聞き取りにくい。それもそのはず。俺が転送されたこの場所には、下手なゲリラ豪雨を超える滝のような雨が降っていたのだから。これは特別警報レベル。

 慌ててフードを被るも、既に全身がびちゃびちゃに濡れていて気持ちが悪い。しかもこの雨じゃ、ここだと一部の爆弾はまともに使えない気がする。

 

「【潜伏】」

 

 こんな状態で襲撃なんてされたらたまらないので潜伏し、錫杖を取り出す。マップには?としか表示されていなかったので、現状確認のため辺りを見渡す。

 

「……駄目だこりゃ」

 

 雨と風の勢いが強すぎて景色が煙っており、周囲の風景が殆どまともに確認することができない。太陽が見えないから暫定的な方角も分からず、分かることと言ったら足元が草地であることと、前方に森のような場所があるということだけ。遭難だね? 分かるとも!

 

「とりあえず、雨の当たらないところに行かないとダメか」

 

 こんな天気の中バイクを運転しようとは思えないし、無駄にシステムウィンドウが雨を弾いているので新しくお知らせを読めもしない。

 ため息を吐きながら歩き、森に足を踏み入れる。これで少しは雨も遮られて楽になるはずだ。

 

「確認確認っと」

 

 少しはマシになった雨の中ウィンドウを開き、新しく送信されていたメッセージを確認する。そこに記されていた今回のイベントの内容をざっと纏めると、大体このような感じになった。

 

 ☆このイベントは体感時間を加速させ、4泊5日の日程で行われる。現実での所要時間は6時間

 ☆リスポンは3回まで

 ☆通常ネット、通常フィールドとの連絡は取れない

 ☆ポイント制。ポイントの取得方法は、敵の討伐、アイテムの入手、アイテムの作成etc…。多岐にわたるその中で目を引いたのは、特定の敵との戦闘から生還すること

 ☆稼いだポイントは、イベント特設フィールドから出てから交換可能

 ☆臨時インベントリをイベント中だけ追加

 ☆イベント参加中にポイントの確認は不可

 ☆各所にレアアイテムの入った宝箱が存在している

 ☆各所にボスを配置してある

 ☆このフィールドは、様々な環境が設定されている

 ☆食料を食べず活動し続けた場合、空腹・飢餓・渇きなどのデバフが段階的に付与される。要するにサバイバルしろ

 ☆第2の街到達者のみ参加可能

 

「嫌な予感しかしないんだよなぁ……」

 

 特に特定の敵との戦闘から生還することが。多分ボスとは別に、某ゲームのF.O.Eみたいなキチガイ染みた強さの敵がいるってことだろう。抜け道はあるんだろうけど、死ぬ未来しか見えない。

 

「一先ずは、この森を散策するしかないか」

 

 そう決めて俺は、フードを目深に被り森の奥へ歩いていく。

 それにしても、モンスターともプレイヤーとも遭遇する気配がない。このままでは非常につまらないことになってしまう。

 

「王の話をするとしよう。なんちゃって」

 

 場所と格好的にふざけてみたけど、なんだかしっくりこない。過労死しそうなのと、隣にランサー枠がいないからか。セナかれーちゃんがいれば丁度良かったかもしれない。

 

「それにしても、ほんとここどこ…?」

 

 全体重を込めて折ってアイテム化した木の枝も『トネリコの枝』『杉の枝』『ヤドリギの枝』『桜の枝』とバラバラになっており、微妙にモチーフの特定も場所の判別もつかない。へし折った枝が光って『蓬莱の玉の枝』とかいうアイテムに変わったのはビビったけど。

 

 頭を捻りながら探索しアイテム収集を続けていると、前方からバキバキバキという破砕音が聞こえてきた。まだ探知圏外であるが、嫌な予感しかしないので近くの木に身を隠す。更に聖水も使い潜伏度を上昇させておく。

 

「さて、鬼が出るか蛇が出るか……」

 

 ちゃんと冷静沈着に状況を判断しないと、即死の危険しかないモンスター戦はリタイアに直結しかねないのだ。

 姿を隠して状況を窺うこと数秒、雨のカーテンの向こうから長い槍を担いだ女の子が吹き飛んできた。そして、背が低く紫がかった銀髪を持つその子を追うように、1匹の巨大なモンスターが光る眼と共に姿を現した。そのモンスターは──

 

「シカでした」

 

 捩くれた巨大な1対の角、しなやかな筋肉の鎧を纏った脚、赤く光る眼に、何らかの紋様が浮かんでいる黒褐色の毛皮。果てには名前が【The Hades horn deer】と英語表記で、運営の気合の入れようがひしひしと伝わってくる。

 多分あの女の子が戦ってたんだろうけど、鹿のHPバーは1割も減ってない。長槍、軽鎧、籠手、袴、靴……装備を見る限り、かなり強そうな人なのに、だ。うん、これ戦っちゃダメな奴ですね分かります。

 

「かと言って、見捨てるのは流石に嫌だしね」

 

 幸い木はそんなに密集していない。これならバイクで森から脱出できるだろう。サイドカーつけてたら勿論アウトだけど。

 

「くっ!」

 

 そうバイクを取り出して準備している間に、藜…? とりあえず名前は読めないけどそのプレイヤーが、再び吹き飛ばされていた。原因は恐らく、あの鹿のかちあげだろう。直撃はしてなさそうだけど、瀕死レベルまでHPが減ってしまっている。時間の猶予はなさそうだ。

 

「目を瞑って、耳を塞いで!!」

 

 そう大きな声で叫びながら、買い足しておいた《スタングレネード》を鹿の目の前に投擲する。こちらをギョッとした表情でプレイヤーが見つめ、すぐに俺が投げた物を理解してか目を瞑り両耳を塞いだ。

 それを確認し俺が取り出したバイクに跨ったのと、スタングレネードが炸裂するタイミングは殆ど同じだった。キィンという耳障りな高音が鳴り目が眩む閃光が発生し、その後に鹿の悲鳴が続いた。

 

「乗ってください!!」

 

 ぶっちゃけ自爆してて耳が聞こえにくいし、鹿の方なんて見ていないけれど感知の反応がある方向に手を伸ばす。

 

「───せん!」

 

 こちらの手を掴み、後ろのシートに藜さんが乗ったのを確認しアクセルを回した。木の根などで凸凹の道を、障壁で無理やり舗装してアクセルを全開にする。

 流石のキチガイスペックによって数秒で草原まで辿り着き、そこでドリフト気味に停車、バイクから降りた。うん、耳もちゃんと聞こえるようになってる。

 

「すみません、勝手に助けさせてもらいました。えっと……」

 

 名前の読めない人がバイクを降りたのを確認してから収納し、錫杖を取り出してから謝る。いや、だってこの人ハイライトないから怖いんだもん。

 

(アカザ)、です。初見の人は先ず読めないから、あまり気にしないでください。それに、こんな天気のせいで、アレと戦って危なかったことも事実です。むしろ、ありがとうございます」

「いえ、勝手にやったことには違いないですから。それよりも、こんな天気って何かありますかね?」

 

 確かに酷い天気だけど、何の状態異常も出ていない。あるとしたら精々視界が悪い程度だろうけど、森の中じゃそれほどでもなかった。アレくらいなら気にせず俺は戦える。

 

「この天気……嵐天って言うらしいんですけど、色々バッドステータスを引き起こす、みたいです」

 

 なるほど、それを俺は装備の効果で弾いてるということか。

 

「例えばどんなのです?」

「武器を取り落としやすくなったり、転びやすくなったり、炎属性ダメージが10分の1になる、らしいです。後、これは違いますけど、稀に雷も落ちるとか」

「なるほど、ありがとうございます」

 

 その情報をどこで手に入れたのか聞きたかったけれど、出かかった言葉はそれどころじゃない事態によって掻き消された。

 嵐天の中響く、バキバキバキという破砕音。聞き間違えようもないその音にギョッとして振り向くと、僅かに離れた森から例の鹿が姿を覗かせていた。その目は明らかに怒りに染まっており、地面を掻く前脚からしてこちらを狙っているのは明らかだった。

 

「藜さん、ところでアレ、俺たちを逃してくれると思います?」

「無理、だと思います」

 

 やっぱり駄目みたいですね(諦観)

 

「さっきのバイクで、逃げたりできません?」

「さっきみたいに道を舗装できないから、横転事故でHP全損する可能性が極めて高いですけど、それでもいいなら」

「駄目、みたいですね」

 

 どうやら同じ結論にたどり着いたようだ。

 観念して武器を構えた俺たちに向かって、ハデスな角鹿(ガバガバ訳)は一鳴きして襲いかかってきた。




空腹 移動速度低下・攻撃速度低下・攻撃威力低下・HPMP自然回復停止
飢餓 移動不可・攻撃不可・HPMPスリップダメージ
渇き 魔法使用不可・HPMPスリップダメージ

ユッキーの追加アイテム
・HPポーション改 ×10 ・MPポーション改 ×10
・HPハイポーション ×10 ・MPハイポーション ×10
・スタングレネード ×20 ・TNT爆薬 ×20
・鉄串 ×99 ・聖水 ×99


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第26話 第2回イベント1日目②

主人公が初の主人公ムーブをしたらお気に入りが爆破される……あれ、主人公ってなんだっけ?

1話の適切な文量ってどれくらいなんでしょうね?


 ああいう相手には大体スーパーアーマーとかいう俺殺しの能力が備わっているので、ステータス欄を弄り【ノックバック強化(大)】のスキルを外して【ドリームキャッチャー】のスキルをセットする。

 そして漸く陽の目を見る【ドリームキャッチャー】さんを活かすには、もう1つ乗り越えないといけない壁がある。

 

「藜さん、一時的にパーティー組みません?」

「それが、良さそうですね」

 

 パーティーを申請、即座に承認された。そのうえで藜さんの表示を見れば、確かに3つの状態異常が表示されていた。確率武装解除・転倒確率上昇・属性効果低下(炎)……なるほどこれじゃマトモに戦えないだろう。

 そんなことを考えてしまっていた間に、俺たちに向かって例の鹿は突進してきた。藜さんも減ったHPを回復しきれてないし、ああもう時間が足りない!

 

「それっ!」

 

 俺はフィリピン爆竹3つを鹿の進路上に投擲し、まとめて爆発させる。結果、そこにできるのは普段より小さいがそこそこ深い大穴。けれど突進で下を向いてるし、これであわよくば……

 

 ギュオオォォ!?

 

 俺の企みは上手くいったようで、突進中の前脚をその大穴に突っ込み鹿は地響きを立てて転倒した。足を思いっきり挫いたはずだから、かなり辛いだろう。これで時間が稼げた。

 

「《フルカース》《フルエンハンス》《フルエンチャント》【ドリームキャッチャー】! どうぞ!」

「はい!」

 

 鹿のステータスを全て下げ、藜さんのステータスを全て上げ、全ての属性を付与して、藜さんの受けていた状態異常を全部引き受けた。かなり久しぶりにマトモなPTプレイというか、支援役(バッファー)(大本営発表)の本懐を果たした気がする。

 

「《オールディクリーズ》《ラックエンハンス》【潜伏】!」

 

 加えて鹿の全属性耐性を下げ、自分のLuk値を底上げし、自分のヘイトを低下させる。MPがゴッソリ減ったのでMPポーションを1つ踏み砕く。これで準備は万端だ。そして、俺が補助を撒き終わったタイミングで鹿が起き上がった。早いなこいつ。

 

 誰かに戦闘を任せてるのは情けないけれど、ここから俺ができることはもうあまりないだろう。バフデバフの維持と、障壁での支援と、必要があれば隙を見ての回復、全属性でのゴリ押しじゃなくてちゃんとした弱点の解明……ってあれ? 前言撤回、思ったよりかなりある。

 

「《障壁》!」

 

 身の丈を超える槍を振るう藜さんに振り下ろされようとしていた蹄を、展開時間を1秒直径を20cmまで削り耐久性を爆上げした障壁でどうにか防ぐ。そこまでした障壁も一瞬で砕けてしまったが、回避する時間が稼げたので良しとする。

 

 次に俺がやるべき事は弱点の解明。けれどとりあえず、この天候効果のせいで炎の選択肢は除外、同じ理由で風・水も弱点とは言えないだろう。ならば残るのは、地・雷・氷・光・闇の5つ。

 

「《エンチャントアース》!」

 

 勿論暴発させ、鹿の頭に土煙色の爆発が起こる。HPバーは全く減ったように見えず、鹿もどこかこちらを馬鹿にした目で見ているような気がする。二文字目なくせして生意気な。

 そんなことを考えてる間に、藜さんの突き出した槍の3連撃が鹿に直撃した。光ってたから何らかのスキルだろうか? 俺の暴発魔法とは違い、ハッキリとHPバーが削れる。

 

「《パニッシュレイ》《ストライクスタブ》!」

「《障壁》」

 

 そして鎖分銅→槍から魔法のような光が発射される→3連続の突きのコンボが放たれた。何アレカッコいい……じゃなくて、障壁を展開して振り下ろされようとした鹿の頭を妨害する。

 

「《エンチャントサンダー》!」

 

 そして、続けざまに鹿の頭部に雷風味の爆発が起こる。HPが目で見てギリギリ分かる程度は減り、けれどまだヘイトは低いのか目の前の藜さんに攻撃を再開した。障壁でサポートしつつ残り3つも撃ってみたけれど、結局一番効果があったのは雷だった。

 

 ギュオオォォォォォォ!!

 

「きゃっ」

 

 突如、鹿が天に向かって咆哮し、それによって藜さんの動きが強制的に中断させられたように見えた。なんかデバフが全部剥がされてるし、貯め技のモーションっぽいし、退避も防御も間に合いそうにないし、これは実際とてもマズイ。パーティ即hage案件である。

 

「《フィジカルエンハンス》、届け!」

 

 ()()()()()()咆哮し、その立派な双角に黒い光という矛盾した何かを集めていく角鹿。明らかに放たれたら即死ものの気配はするけど、キャンセルしてしまえばなんの問題もない。

 そんな狙いやすい弱点に、雷管を突き刺したC4を、強化された身体能力を以って全力で投擲する。スキルの後押しもあり、咆哮に押されながらもC4は鹿の口に易々と侵入した。そしてそのまま見えなくなったため、恐らく飲み込んだと思われる。有害だけど甘いって見たことがあるし、きっと食べやすかったんだろう。とっておきだ、存分に食らうと良い。

 

「起爆!」

 

 そのことを確認した俺は、音声認識なので投げきったフォームのまま叫んだ。瞬間、鹿の喉元が内側から爆発した。内から弾けて血がドバーなんてグロい演出はなかったけれど、角の光も霧散し今までと違いHPバーがゴッソリと削れた。

 それでも鹿の残りHPはまだ7割もあるが、こういう弱点狙いの戦い方なら、もしかしたらいけるしれない。そう思った矢先、俺に鹿が怒りに狂った目を向けてきた。た、食べないでください!(懇願)

 

「フッ」

 

 いいや、まだだ!(自棄)

 実際まだやれることはある。バフデバフ、それに妨害だけは幾らでもできる自信があるのだ。だったら勝機はいつか巡ってきてくれるはず! 一先ず初めに鹿に《フルカース》そして次は藜さんへ《フルエンハンス》&《エンチャントサンダー》、そして最後に!

 

「《ディクリーズサンダー》!」

 

 鹿の雷属性耐性を低下させたとき、それは起こった。

 突然発生した爆音と閃光によって、視界が真っ白に塗りつぶされた。《スタングレネード》で慣れてなかったら即死だった……

 

「いった!?」

 

 ギュオオォォッ!?

 

 すわ新種の爆弾かと思い警戒した俺だったが、3割ほど消えた自分のHPバーと鹿の叫び声、そして僅かに耳に届いたゴロゴロゴロという低い音を聞いて何が起きたのかを確信する。そう、雷が落ちたのだ。それも、恐らくすぐ目の前にいるあの鹿に対して。

 

 眩んだ視界と探知が元に戻ると、そこには全身から煙を上げ所々焦げている鹿が起立していた。鹿の残りHPバーは4割、けれど未だに此方に怒りに狂った目は向けられており、少々…いやかなりマズイ。死神の鎌が首にかけられている気分である。リスポンは3回できるとは言え、ここでリスポンは早すぎるのでしたくない。

 

「《障壁》!」

 

 嫌な感じがして障壁を展開すると、鹿に再び()()()()落雷が突き刺さった。再び急激に減少する鹿のHP、焼き尽くされる鹿の叫びが轟きHPバーが残り1割程にまで落ち込んだ。改めて近くで見ると、化け物みたいな大きさだなこの角鹿。

 

「《ストライクスタブ》!」

 

 俺と対面している鹿の背後から、3連続の突きが再び放たれた。その攻撃で残り1割を削りきることはできなかったけれど、一瞬だけでも動きが止まってくれたのならやりようはある。

 

「とどめ!」

 

 両手で瞬時に持てる最大数、8つの爆竹を鹿の顔面に投げつけた。チェインダメージによって火力の上がった爆発は、幸運にも近くにいた俺をすり抜けながら炸裂した。

 

 ギュゴ、ォォ、オォ……

 

「倒……せた?」

「みたい、ですね」

 

 ドスンと地響きを立てて倒れ伏した鹿は、間も無く光の欠片となって散っていった。恐らく戦ったらいけない系の敵だったはずなのに、勝ててしまった。実質ダメージソースがほぼ雷とか言っちゃいけない。俺が1割弱、雷が6割、藜さんが2割強、とかいうダメージの割合だけど、言っちゃいけないったらいけないのだ。

 

 安心する前に、忘れてはいけないのが周囲の索敵。最悪の場合、今の音を聞きつけて新たなモンスターが現れるかもしれない。森の中、見える範囲に敵影なし。空、見える範囲になし。地面、分からないけど反応なしとしておく。……よし、多分大丈夫だろう。

 

「イェーイ」

「い、いえーい」

 

感極まってハイタッチ気味に手を出してみたら、若干遠慮気味ではあったけれど返してくれた。ハイライト無いからヤバイ人かと思ってたけど、普通に良い人なのかもしれない。

 

「《障壁》」

「あ、ありがとうございます」

 

 自分はともかく女の子を雨にうたれるままにする気はないので、障壁を傘がわりに展開しておく。そのままじゃ、話だってし辛いしね。後流石に、天候を変えるパワーを持ってる人なんて………1人心当たりがあったわなんでもない。

 

「あー、一先ずの危機は脱しましたけど、これからどうします?」

 

 固まってしまった会話をどうにかするために、俺から話題を振ってみる。いや、流石に初対面の人とレアドロの話題とかし辛いしね? 因みにドロップ品は『鹿肉』『冥府駆ける蹄』『紋章の毛皮』『嵐天乱す双角』となっていた。強そう(小並感)

 

「えっと、私は、森の奥にあった遺跡を、探索してみたいんですけど……もうちょっと、一緒に冒険してくれますか?」

 

 なんだか申し訳なさそうな感じのする表情で、そんなことを提案してきた。まあ、ソロよりはPT組んだ方が楽だしね。1人より2人、攻撃役(アタッカー)のソロより支援役(バッファー)(大本営発表)とのコンビだ。

 それより遺跡って多分、結構な閉鎖空間だよな……爆弾使って崩れないかな? まあ、心配点こそ多々あれ断る理由はない。

 

「俺じゃ足手纏いになるかもしれませんけど、こちらこそよろしくお願いします」

「はい!」

 

 ということで、俺は暫くのあいだ藜さんとパーティを組むことに相成ったのだった。それにしても森の奥か……俺の素の機動力じゃ、確実に足手纏いだ。そんなことを思いながらポケットから……もとい、アイテム欄からサイドカー付きでバイクを実体化させる。障壁で舗装する分のMPより、転倒しない安全を取るのが良さ気だからね。

 

 そうやってバイクに乗った俺を、藜さんはなんだか……くっ、目から感情が読めないせいでボンヤリとしか意思が分からない。驚いた感じな気はするけど分からないし……何だこれ地味に悔しい。当てずっぽうは嫌だけど、話が進まないから仕方ない。とりあえず聞いてみる。

 

「……乗りますか?」

「あ、はい」

 

 若干の逡巡の後言った言葉は、どうやら的外れではなかったらしい。普通に返事をして、藜さんはサイドカーに乗り込んだ。

 大体創作物ではペットやら彼女やらを乗せてるサイドカーだけど、俺の場合初めて乗ったのはれーちゃんだしなぁ……因みに2番手がセナである。それに、普段はアイテム欄から溢れたドロップ品を詰め込む場所だし正直そういう有り難みは一切感じない。

 

「それじゃあ、出発と行きますか!」

 

 操縦士保護の能力のお陰で、デバフこそ受けはすれこの豪雨でも濡れることはないのだ。これはアレだ、普通にサイドカーに招待したのは正解だったかもしれない。

 なんてことを考えながら、俺たちは森の奥の遺跡に向かうべく、あの鹿が壊した道を進んでいくのだった。




常時バフをかけ、デバフは回復し、敵には状態異常&デバフをプレゼントし、非常時には1度は確実に防御してくれ、敵の攻撃を妨害し、爆弾のお陰で火力も無いわけじゃないという、字面だけ見たらネタ成分のない主人公。

なお実際は(※今回の戦闘中も実は数歩しか動いていません)


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第27話 第2回イベント1日目③

※申し訳程度の常識人アピールタイム
水着ガチャ? ああ、爆死したよ


「ここ、です」

「へぇ……これは」

 

 あの角鹿が破壊し尽くした道を、素材を回収しながら進むこと数十分。俺たちは、例の森の奥にある遺跡に到着していた。

 

 崩れた塔と思われる建造物が、四方に建っていた原形を僅かに残した瓦礫の山。残った基部にもツタのような植物が巻きつき、崩れた瓦礫は苔()して長い年月が経過していることを窺わせる。そして、その瓦礫の山に埋もれるようにして文字は読めないが大きな石碑が存在し、その足元にはポッカリと大きな穴が口を開けている。その大穴は侵入することはできそうだが、その中は深淵のような暗闇で満たされている。

 

「俺は最悪なくても大丈夫ですけど、光源ってあったりします?」

「一応、松明なら何個か。湿気っちゃうので、今は出せませんが」

「なるほど、じゃあ俺も作らないとですね」

 

 6.5mまでの距離なら目を瞑ってでも把握できるけど、それ以上となると俺はただのカカシですなになってしまう。サポート役としてはそれじゃ不十分だし、装備の耐久値回復以外に使わない製作系スキル(65%)を活用する機会にした方が良いだろう。

 

「再分配してっと」

 

 バイクに乗ったまま【レンジャー】のスキルを再分配し、散々拾った…えーあれだ《トネリコの枝》でいいや。枝を数本取り出し、サイドカーに設置された簡易ポーチから燃料を1つ取り出す。

 実体化した赤い灯油タンクに入った燃料の蓋を開け枝を全て突っ込み、燃料を染み込ませる。いい感じの布がないので仕方なく枝に炎属性をエンチャントし、製作を完了する。

 

「《魔法の松明》……なんか無駄に高性能なんだけど」

 

 完成した松明の数は6本。その点灯時間は12時間と表記されていた。長すぎる点灯時間に困惑しつつも、消耗してない燃料を簡易ポーチに戻し準備を完了する。

 

「それじゃあ、いきま、しょう?」

「ですね。行きますか!」

 

 バイクを仕舞い、魔法の松明を取り出して俺たちは大穴に進入していく。階段じゃなかったら即死だった……という本当のことは置いておいて、【レンジャー】の能力を感知特化に割り振り直す。

 メニューに表示されているゲーム内の時間は大体午後3時、今はまだその程度の時間だが夜になれば何が起こるか分からない。いち早く物事を察知できる力は必須だろう。1日目リタイアとか御免被る。

 

 パチパチと燃える松明の明かりに照らされた遺跡の壁にはびっしりと読めない文字が刻まれており、漂う石の臭いが歴史のようなものを感じさせる。石で組まれた壁は崩れかけてたり緑が覆って読めない部分もあるけれど、片っ端からスクリーンショットして保存しておく。後で何かの役に立つかもしれないし。

 そんな特に何の工夫もない一本道を歩いていくと、数分で地下へと続く階段へ到着してしまった。

 

「ここ、モンスターとか出ないんですかね?」

「多分、私の装備のお陰かも、しれません」

「えっ?」

 

 なんでも通常エンカウントが低下して、レアエンカウントが上昇する効果があるとのこと。そして通常mobに攻撃したとき、極低確率ではあるけど即死効果もついてるんだとか。因みに、普段はもっと通常エンカウントもするらしい。すみません、多分通常エンカウントしないの隣のLuk極振り(へんたい)が変な影響出してるせいです……

 

 そんなことを話しながら階段を下ると、先程まで歩いていた通路と比べて格段に広い部屋へと到着した。どうにも四方に通路が続いてるようだが、敵の気配はない。

 なんて、気を抜いた瞬間だった。ゾクリと背中に氷を入れられたかのような、嫌な予感がした。

 

「こっちに! あと松明仕舞ってください!」

「えっ?」

 

 とりあえずこういう感覚には従っておいた方が吉なので、松明を仕舞い藜さんの手を引いて階段の裏側に身を隠す。何かメッセージを受信したみたいだけど無視し、聖水を2つ砕いてそのまま【潜伏】を発動させる。

 

「あの、何を?」

「すみません、少し静かに」

 

 暗闇、密着、連れ込みと字面だけ見れば、自分の行動が完全にダンケダンケする犯罪者で笑いそうになる。けれど、そんな殺される案件の事をしでかした甲斐はあった事が、数秒後に判明した。

 

 俺たちが隠れた階段の前方の通路、そこから音もなく空中を滑るように1体のモンスターが現れたのだ。

 

 三脚を逆さにしたような三又に分かれた人の胴ほどの棒の中心に、金魚鉢を逆さにしたような悍ましい蒼をぼんやりと放つ物体が固定されている。そこに灯る黄色い1対の光はまるで人間の目のようで、先が三叉に分かれたしなる棒の下、胴体的な棒を中心に回転する、青白い生気を欠いた鬼火と相まって冒涜的な雰囲気を放っている。

 

「ひっ」

 

 ここでボウケンシャーにSANチェックの時間……なんてお巫山戯は置いておいて、藜さんの視線を広げたコートで遮る。あんまり、見ていて気持ちのいいモノでもないしね。

 そんなことを考えている間にも、回転しながら宙を滑る……【The heavenly will‐o'‐the‐wisp】というらしい……は、何かを探すようにその眼を其処彼処に向けている。俺たちを探しているのは確実だろう。あの姿だし、探知の方式は音か光のどちらかだろう。視界だったらファッ○ン。

 

 ゴヴォ…?

 

 一度、そんな粘度の強い液体が泡立つような音を立てて俺たちが隠れる階段裏を凝視したモンスターだったが、それからまもなく宙を滑り俺からみて右側の通路に消えていった。

 右には行かない方が良さげだな。だってあの鬼火(ウィル=オ=ザ=ウィスプ)、鹿と同じモンスターのやべーやつの臭いがするんだもの。雷が落ちる確率が0な以上、勝てる気配が全くしない。

 

「あ、あの、そろそろ手を……」

「あ、すみません」

 

 【潜伏】に巻き込むためとはいえ、今までずっと握ってしまっていた手を急いで離す。なるほど嫌われましたね(確信)潔く首を出そうじゃないか。胡座はかいた、セルフ晩鐘の準備はできている。背中を押せ。

 

「何をして、るんですか?」

「いえ、非常時だったとは言え失礼なことをしたので、首を斬られる準備を」

「そんなこと、しません……けど?」

「え?」

 

 首を傾げる藜さんに俺も疑問で返す。リスポン権を最低でも1つは消す覚悟をしていたのだけれど。

 

「誘ったのは私から、ですし、助けてもらいました、から」

「いや、その……はい。了解です」

 

 錫杖を持ち直し、胡座から立ち上がる。釈然としない気持ちのまま《魔法の松明》を取り出そうとして、さっき自分で考えたことを思い出して中断した。

 うん、こうやって話してても来てる感じはしないし、アレの探知方法は光っぽい。ぽいっぽい。

 

「ということは、この暗闇の中でか……」

「何が、です?」

 

 そう頭の上に?を浮かべている藜さんを見て、結論をなんとなく自己完結しただけで話してなかったと気づく。視界を遮ったの、情報が分からなくなるから無駄な気遣いだったかもしれない。

 

「いえ、ちょっとさっきの奴がどうやって俺たちを探し当てたのかを考えてまして。こうして話してても寄ってくる気配がないので、多分光が原因だったんだろうなと思ったんですよ」

 

 そこで一旦区切ったが、コクコクと頷いてくれるのを見て話を続けることにする。勿論、周囲の確認も同時に並行している。

 

「それで、光源がないままでも俺はなんとかできますけど、藜さんは大丈夫なのか少し心配になりまして」

 

 あの鬼火が去ったことで完全に真っ暗になったここをみれば、夜目が利く程度じゃ限界があるのはありありと見て取れる。だからまあ、撤退するのも有りかと思ったのだけれど……

 

「ユキさんが見えるなら、大丈夫だと、思います。私も、少しは見えますし」

「本当に進んでも?」

 

 くどいと言うかの如く、藜さんが小さく頷く。あんまり、頼ってもらえるような能力持ってないんだけどなぁ……俺。

 

「それじゃあ、ゆっくりと行きますか」

 

 片手でマップを開き、錫杖をつきながら進んでいく。通常エンカウントが減ってくれるのは、戦闘を避けられるから正直とても嬉しかったりする。

 そうして慎重に進むこと十数分。何度か行き止まりにぶつかったり、分かれ道を確認しながら進んだ先で、俺は再びあの嫌な気配に襲われた。気配の源は、今から進もうとしていたひらけた場所。【潜伏】して、こっそりと部屋を覗いてみればそこに奴はいた。

 

「部屋の真ん中に陣取って、動きそうもないですね」

「どう、します?」

「進む手は、あるっちゃありますけど……」

 

 あの鬼火が光に反応して追いかける前提だから、正直なんとも言えない。普段ならとりあえず1回死んで確かめるところだけど、3回しか死ねないサバイバル中なので却下である。

 なんてことを考えていると、再び背筋に走る嫌な予感。しかも後方から。あの鬼火F.O.Eは少なくとも巡回型のようだ。ふぁっき○。

 

「行くなら右と左、どっちがいいですか?」

 

 前門の虎、後門にも虎。挟撃からの即hageルートまっしぐらな今の現状、勝手に俺1人で判断することはできない。鬼火の向こうに見える右ルートか、深い闇色の左ルートか、藜さんの意見を仰ぐことにする。

 

「右に、行ってみたい、です」

「了解です。後ろからも来てるので、一先ず全力で右ルートに行ってください。【隠蔽】ありなら、遅過ぎる俺でも多分間に合いますから」

 

 頷いてくれたのを確認して、暗闇の中狙いを定める。後は壁が壊れやすい素材じゃないことを祈るのみ!

 

「《エンチャントライト》!」

 

 ギリギリ見える左ルートの壁に、光属性の紋章を描く。光属性なだけあって輝く円の中にと達筆で書かれた紋章は、予想通りあの鬼火の目を引き──

 

「きゃっ」

「行ってください!」

 

 スッと移動した鬼火の胴体を中心に回る火の玉から、大きな青白い火球が連続で紋章に向かって放たれる。この閃光と轟音なら、俺は兎も角藜さんなら駆け抜けられる。

 そんな推測通り、俺に歩調を合わせる必要のない藜さんはものの数秒でこのかなりの広さのホールを駆け抜けていった。俺も全力でダッシュしているけど、到底追いつけそうにない。

 

「って、うっそだろお前」

 

 俺の遅過ぎる移動速度が仇となってか、部屋の中程まで俺が到達したときにもう1体……いや、2体が背後から現れた。しかも見事に俺をターゲットしている。

 

「《障壁》!」

 

 4連続で放たれた火球を例の硬度だけを極限まで上げ他を低下させた障壁×4で防ぎ、ピンを抜いて《スタングレネード》を投擲する。鬼火達の前で閃光が生まれ、反響を重ねに重ねたキィンという高音が耳の機能を一時的に停止させた。

 

「《障壁》展開、《カース》!!」

 

 このままでは間に合わないと判断して、エド式航法を解禁する。けれど、直前の《スタングレネード》の使用も相まって藜さんが進んでいった角に到達したときには、3体のターゲットは俺に向いてしまっていた。

 そして、通路の突き当たりで藜さんが首を横に振っていた。行き止まりだ。だけど、正直どうしようもない。迫る鬼火は3体、道に貼ってきた障壁10枚も間も無く破れられるだろう。

 

「どーーまーーう?」

 

 隣に着地した俺に、多分どうするかという旨の言葉が向けられたが、実際どうすれば良いのか皆目見当もつかない。これは無能。

 

「ほんと、どうしましょう?」

 

 そう呟いて手をついた壁に、何か違和感を覚えた。見れば、そこにはビッチリとあの読めない文字が刻まれていた。天井、床、他の壁面には刻まれていないってことはきっと何か今がある。

 

「……隠し扉?」

 

 戻ってきた聴覚に、ズズズと何か重いものが動く音が目の前から聞こえた。隠し扉関連の何かがキーワードになってるのだろうか? そして、背後の障壁が砕かれる音も同時に耳に届く。いよいよ時間がないようだ。スクショしてる暇じゃない。

 

「合言葉、ですかね?」

「ですかね」

 

 できるだけ平静を装って答えながら、頭をフル回転させて有名な合言葉的サムシングをピックアップしていく。

 

「山、川?」

 

 グルグルと頭を回転させ続ける俺の隣で、藜さんが呟いたその言葉に隠し扉は明確に反応した。文字が光り、壁が歪み、人が1人通れる程度の大穴が現出する。

 互いに頷きあい、見えた鬼火の影から逃れるように俺たちはそこに侵入するのだった。




ー通知ー
新たな称号を取得しました

野生の感 New!
取得条件 : 目視外からの敵の接近をスキルを使わず察知し、その後その敵に一定時間発見されないこと
効果 : 気配感知系のスキルの効果にボーナス。潜伏系のスキルの効果にボーナス。スキル範囲外からの敵の接近が、なんとなくわかる事があるかもしれない(Luk依存)


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第28話 第2回イベント1日目④

けもフレの再放送が始まったので、ストックが尽きるまで連続投稿

海底47mを非常に見にいきたい……


 俺たちが逃げ込んだ先は、そこもまた暗闇に覆われていた。けれど、どうやらここはあまり広くはないようだ。俺で感知しきれるのだから、6.5m四方もありはしない。

 振り向くと俺たちが入ってきた穴はなく、この小部屋が完全な密室になっていることが分かった。感知を信じれば、どこにも繋がっていない完全な密室のようだ。

 一先ずの危険性はない。そう判断して松明を取り出すと、この小部屋がどんな場所であるのかが判明した。

 

「わぁ……」

「なるほど。宝物庫でしたか」

 

 3.64m×4.55m四方のこの部屋の壁はそれぞれ大きくくり抜かれ、巨大な宝箱が鎮座していた。金色の縁取りに赤色と、いかにも高級そうな感じだ。ほんと範囲内なら【空間認識能力】さんの便利具合が半端じゃない。範囲超えて拡張して使ったら? できなくはないけど、脳の酷使で吐きますor鼻血出して倒れますが何か?

 そう気を抜いてしまったからだろう。本来ゲーム内では聞くことのない腹のなる音が2人分、ハッキリと耳に届いた。ああ、そういえばあったね空腹度。

 

「……休憩、しますか」

「……はい」

 

 なんとも居た堪れない空気の中、座ってアイテム欄を操作する音だけが響く。水は暴発エンチャントで生み出すか聖水でも飲めばいいけど、アイテム欄が爆弾ばっかりで食料が一切見つからない。ソートしてみても鹿肉とポーション類しかヒットしないとか、サバイバルする気あるのか俺よ。

 

「そういえば、ユキさんって、食料とかあるん……ですか?」

「まあ、一応鹿肉くらいは。水も一応ありますよ」

 

 そのくせ持ってた鉄串に鹿肉を打ちながら答える。ハンドアックス持ってきててよかった……ぶつ切りにできる友情仕様に感謝しかない。

 有り余ってる枝……今度は桜のものを取り出して焚き火のように組み、暴発エンチャントで着火する。作った串を火に当たるように並べていると、なんだか不機嫌そうな藜さんがこちらをみていた。

 

「肉ばっかりは、めっ、です」

「アッハイ」

 

 こういう場合にゴネたり嫌がったりしても、男は絶対に勝てない。嫌というほど実際に体験してきているので、沢山の山菜らしき物を持った藜さんに逆らうなんて選択肢は、俺の中にはハナから存在していないのだった。

 

 

「ごちそうさまでした」

「おそまつさまでした」

 

 そうしてご飯を食べ終わったとき、メニュー画面の時計は既に午後6時を指していた。まさか聖水飲んでいたらハーブ入れられてお茶にされたり、障壁がフライパン扱いされるとは……この海のリハクの目を(ry

 

「それじゃあ、落ち着いたことですし。そろそろお待ちかねの、宝箱の確認といきますか」

「です、ね!」

 

 宝箱を開ける瞬間のドキドキやワクワクは万民共通のものだろう。でも鎖の音がする宝箱は開けちゃいけない(戒め)

 

 なんだかんだ考えつつ、揃って開けた1つ目の宝箱。そこに入っていたのは、長い杖だった。形を例えるならば、ドラクエのオーロラの杖だろうか? 中心の宝珠の色こそ透き通る蒼だが、それを飾る羽のようにも見える装飾はとてもよく似ている。

 

「長杖……それじゃあ、これは、ユキさんのですね」

「残念なことに、要求値が足りてませんけどね。ありがたく頂戴します」

 

 装備条件 : Intの値が75以上 ってどういうことだよおい、とツッコミたくなる。どうせ俺が持ってても使えないし、後でれーちゃんにでもプレゼントしようそうしよう。

 次に開けた宝箱には、白い鞘に納められた1本の長刀と巻物が2つ入っていた。

 

「えっと【無垢なる刃】使用者の最も高いステータスの値がこの武器の攻撃力となる、ですって。要ります?」

 

 憎悪の空より来そうな名前だと思いつつ隣を向けば、巻物の片方をぎゅっと抱いた藜さんの姿が。タイトルは会心の極意……俺には一切の関係がない感じですね分かります。多分スキルを習得するタイプのものだろうし。

 

「……さっき杖を譲ってもらいましたし、取ったりはしませんよ?」

「え、あう、はい。ありがとう、ございます」

「ところでこの刀は……」

「つ、使わないので、どうぞ」

 

 またも貰ってしまった。いやまあ確かに、俺が使うと威力1900とかいう約束された幸運の剣(当たらない)になるんだけども……もう片方の居合の極意と書かれた巻物も貰ってしまって、非常に申し訳ない気持ちになってくる。

 

 そんな気持ちを抱えながら開けた3つ目の宝箱。そこに入っていたのは、棘の生えた朱色の長い槍だった。よくステータスは見てないけど、これは確実に強い。ついでに何かよく分からない牙型のペンダントも入ってた。

 

「これは全部藜さんの物ですね」

「ふふっ、ですね」

 

 これで釣り合いが取れたとは言わないけれど、少しは気持ちが軽くなった。やっぱり誰でも笑顔が一番だ。みんなに、笑顔を……

 そして最後に開けた宝箱。そこに入っていたのは装備でも、巻物でも、アクセサリーでもないものだった。

 

「これは……カード?」

「凄く、不気味です」

 

 入っていた物は、全身を鎖に縛られ頭巾を被らされ首を吊られた人型が描かれたカード。

 猟銃のような物が6つ、鎖に雁字搦めにされたカード。

 巨大なハンドキャノンの下に刃を取り付けたような武器が、文字の書かれた帯で縛り上げられたカード。

 そして、また読めない文字で延々と文が綴られた1枚の整形されていない羊皮紙。それもボロボロなせいで文字が虫食い状態になってしまっている物の、合計4つだった。

 

 今の場所や状況、そしてこれらがここにあった意味を考えるに……

 

「ボスの情報、です、かね?」

「恐らくは。ですけど、文字が読めませんしね……」

 

 ボスが縛られた人型、武器がガンブレと6つの銃なのだろうことは予測できる。けれど、肝心の文字が読めないため如何ともし難い。俺が極振りしてるのが、火力関係ならゴリ押しで行けたと思うけれど。

 

「ゲーム内なら繋がりますし、掲示板の人たちに、任せればいいんじゃ、ないですか?」

「いや、でもそれだと無駄に時間がかかっちゃいます。今が大体6時半ですし……多分、夜までかかるでしょう。それだと、夜だし眠気もあると思うので戦えませんし……多分この部屋に泊まることになっちゃいますよ?」

「私は別に、構いません、けど?」

 

 何の躊躇いもなく言われたその言葉に、俺はずっこけてしまう。いやいやいやいや、流石にこれはないでしょ。沙織でもあるまいし。

 

「見ず知らずの男子と、個室で1晩過ごすんですよ? 普通あり得な……なるほど、俺が出ていけば万事解決ですね」

「い、いえ、外は危ないし、ここに居てもらって大丈夫、です」

 

 まさかのOK宣言に、俺は額に手を当てて天を仰ぐ。いやほんと、これどうすればいいんですかね。

 

「藜さんみたいな可愛い人と一緒にいて、男が何もしないとでも?」

「でも、ユキさんはそういうこと、しません…よね?」

「そりゃしませんけど……」

「なら、大丈夫、です」

 

 俺の溜め息混じりの返答に、笑顔でそう返された。信頼してくれるのはありがたいけど、流石にこれは無防備が過ぎるんじゃないですかね?

 

「はぁ……じゃあアレです。俺は所謂ステータスを極振りしてる奴なんで、不快に思ったときには槍で一突きしてください。それで撃退できますので」

「むぅ、分かりまし、た」

 

 そんなやりとりから大体1時間。お互いに色んな伝手で調べていたはずなのに、隣からはすぅ…すぅ…という寝息が聞こえてきていた。幸いにして俺じゃなく宝箱に寄っかかって寝ているけれど、ほんと無防備が過ぎやしませんかねぇ!!?

 ゲーム内だから意味があるかは分からないけど、とりあえず毛布代わりに俺のコートでもかけておく。火薬の臭いが染み付いてる気もするけど。

 さーて今夜は徹夜だぞぅ。

 

 

【極振りスレ】おうイベントだぞ喜べよ

 

 ・

 ・

 ・

 

 76.名無し@長杖使い

 すみません、みなさんの中に読めない文字を解読できたり、そういうのができる知り合いがいる方はいますか?

 

 77.名無し@鞭使い

 そういうのは解読スレの方で頼め。

 って言いたいが、いいだろう。可愛い後輩の頼みだ、俺が直々に解いてやる

 

 78.名無し@気持ち的にナイト

 そうだな……あそこはあんまり雰囲気良くないうえに、解いたら解いたで金を要求してくるからな……しかも情報すぐバラすし。

 俺も手伝おう

 

 79.名無し@長杖使い

 2人とも、本当にありがとうございます。

 多分これ、イベントのダンジョンボスに関する情報なので、あんまり晒したくはなかったんですよね……

【写真】

 

 80.名無し@鞭使い

 ふむ……虫食いだらけだな

 

 81.名無し@気持ち的にナイト

 ボス情報ってお前さん……サラッとトンデモナイ情報置いていきやがって……

 

 82.名無し@鞭使い

 ……長杖、今はお前1人か?

 

 83.名無し@長杖使い

 いえ、1人一緒に行動してる人が。レベルも同じくらいの人です

 

 84.名無し@鞭使い

 それじゃあ言っておく。このボスに挑戦するのはやめておけ。無駄死にからのイベント中断まっしぐらだ

 

 85.名無し@気持ち的にナイト

 解読完了っと。って、これは確かにな……

(炎)と俺ならなんとかできそうだが、流石に勧められないなこいつは。というか、どうやってこんな情報手に入れたし

 

 86.名無し@長杖使い

 えっ、えっ、どういうことです?

 情報はダンジョンの隠し部屋で見つけました。F.O.Eが闊歩する中の安全圏、見つけられたのは偶然ですけどね

 

 87.名無し@鞭使い

 このボスの名前は【The Sealed criminal】

 推奨レベルは65だそうだ。現状UPO最高レベルの、ここの魔法戦士ですら届いてないな

 そのうえ魔法、物理共に化け物みたいな火力だそうだ。防御面と移動速度はさほどでもないらしいが、勝ち目はないぞ

 

 88.名無し@気持ち的にナイト

 もう1人の火力が不足してるなら、今すぐに撤退をお勧めする

 因みにその謎言語は、一番解読が楽なやつだ。早見表があるから置いておくぞ

【写真】

 

 89.名無し@長杖使い

 …………ここに来たいって言ってたのは、今寝てるもう1人なので、起きたら相談してみようと思います。

 早見表ありがとうございます

 

 90.名無し@鞭使い

 まあ、頑張るといい。楽しめよ

 

 91.名無し@片手剣使い

 因みにその隣で寝てる子は美少女か?

 

 92.名無し@気持ち的にナイト

 どうしてもってときは、ここで誰かを呼ぶといい。もしかしたら誰かが駆けつけてくれるやもしれない

 

 93.名無し@長杖使い

 ありがとうございますm(_ _)m

 >片手剣使いさん

 ええまあ。とても可愛い人ですけど?

 

 94.名無し@片手剣使い

 隠し部屋……密室……閃いた!

 

 95.名無し@長杖使い

 通報した

 

 96.名無し@気持ち的にナイト

 通報した

 

 97.名無し@鞭使い

 通報した

 

 98.名無し@片手剣使い

 (´・ω・`)

 ハッ、まさか長杖使いはホm

 

 99.名無し@長杖使い

 あ゛? 爆破しますよ?(にっこり)

 

 100.名無し@片手剣使い

 あ、いえなんでもないです

 

(以下雑談)




ーピキーンー
セナ「ポジションの危機を感じた!」


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第29話 第2回イベント2日目①

進路って、怖いね……(胃痛ヤバイ)


 結局一睡もせず迎えた翌日。翻訳表を見ながら入口やこの部屋の扉に書いてあった文字を読んでいたら、いつの間にか朝の6時になっていた。まさか隠し扉の文字が『にんじやのかくしとびら』だとは思わなかったけど。

 

「すぅ…すぅ…んっ」

「それにしても、よくこんなに安心して寝てられるよなぁこの人」

 

 俺のコートを毛布代わりに包まって、藜さんはとても気持ちよさそうに眠っている。今更ながら、アレ着るの恥ずかしいな……

 

「とりあえず、徹夜の成果を纏めておかないと」

 

 起きて何も分からないままでしたじゃ、失望ものだしね。新しいメモ欄を作り、大体の情報を纏めていく。

 

 先ずは第1階層の文字群について。

 あれは簡単に解読すれば、この(フィールド)について書かれていた。小難しい言葉を変換するとこうなる。

 曰く、旧暦の時代この島は、罪を犯した罪人を閉じ込めておく場であった。

 曰く、新暦の時代この島は、人が様々な環境に適応する為に数多の環境を作り上げ、先ずは人ではなく動物を用いて実験を行っていた研究施設であった。

 曰く、魔歴の時代この島は、魔獣の跋扈する危険地帯となった。

 そして現在は、魔物達が独自の進化を遂げたガラパゴス的な魔境と化している。

 

 なんのこっちゃと思ったけれど、要するに人が原因で出来た最悪の島という事で納得した。

 

 次に、今俺たちがいるダンジョンについて。

 なんでも、ここは元はそういう系の研究所だったらしい。けれど生み出してしまった禁断の生物によって研究員は殺し尽くされ、残った数名の魔法師が100年の封印に成功したとのこと。決して封印を解く可らずとも書いてあった。

 ついでにあの鬼火は、研究所を守る為に放った遺伝子操作した生物で守護プログラム的なものらしい。階層毎に結界が貼ってあるから、魔物はその階層にしか居られないらしいけど。

 そして在りし日の研究所の説明も書いてあった。この島には同様の研究所が点在し、それぞれで何かを競っていたらしい。そんでもって、今こそ地下だけど元は地上に研究所はあったらしい。施設の形状は1階と思っていた場所は屋上、今いるここは円形の1階、これから進むのは正方形の地下らしい。

 

 要するにそいつがボスで、生み出したやつらは自業自得で滅んだという事で納得した。余計な事しやがってとも思ったが、情報残してくれたのはナイス。

 

 最後に、あのボス【The Sealed criminal】について。

 姐御こと、ザイルさんが調べてくれた以上の事はあまりない。本体の人型には光属性特効、周囲に浮かぶ猟銃ファンネルには打撃と火属性特効、ファンネルは1度撃墜したら補充されない程度だ。

 

 調べた情報をまとめ終え、時間を見てみれば6:30。焚き火に火を入れ直し、朝ご飯として串を火に掛けていると藜さんが目を覚ました。

 

「んぅ……おはよう、ございましゅ…」

「おはようございます」

「ふわ……ぁふ」

 

 寝惚けた藜さんが焚き火に突っ込み掛けたのを止める時に、抱きとめるとかいう、このラノベ主人公!(cv藤○ 茜)な事が起きたけれど割愛しておく。

 

 ・

 ・

 ・

 

「という感じで、正直勝ち目はかなり薄いと思います。それでも行きますか?」

 

 朝ご飯を食べながら俺が話した内容に、うーんと藜さんは悩むように動きを止める。俺はどっちを選んでも同行する予定だ、今更一人旅とか寂しいしね。因みに、コートは未だに藜さんが羽織ったままだ。

 

「そのボスって、あの鹿とか、浮いてるのとかと、同じか少し強いくらい、なんです…よね?」 

「多分、ですけどね。もし俺の考えてる通りならそうかと。ストーリー的にも、封印が解けた場合に時間稼ぎをするとかの役割を果たす為にはそんな気がします」

「それに、防御力も移動速度も、さほどでもないん、ですよね?」

「ここにあった文献によればそうですね」

 

 信用はできないけれど、書いてある通りならそういう事になる。まあ今回に関しては、俺1人じゃないから使える策もあるし、やれない事はないと思う。

 

「ん、多分ユキさんとなら、倒せると思います」

「策がないわけじゃないですし、藜さんがそれでいいなら行きますよ」

「ありがとう、ユキさん」

 

 謎の信頼が重い。運が良いだけで、俺って全く強いわけじゃないんだけどなぁ……それでも、なんだか嬉しそうにしてるのを見ると応えたくなる。

 

「なんにしろ、下の階への階段を見つけないとですね」

「そう、でした……それに、ここからの脱出も」

「あ、それは問題ないです。ちょっと絶叫マシーンみたいな事にはなりますけど」

 

 廻廊状になってるらしい研究所だから、壁を全開の速度で走れば振り切るのは造作もない。ただ、その場合単車状態前提だし、階段が見つからないと絶望的な事になるけど。

 

「準備が整ったら言って下さいね」

 

 俺はそう言って、食事に使用してた諸々をアイテム欄に仕舞い変わりに単車状態のバイクを取り出す。女子の準備には時間がかかるとつい最近沙織が言っていたし、整備して適当に時間を潰そう。

 

「う、大丈夫、です。それと、これ…」

 

 そう思いバイクに向かいしゃがんだ俺に、即座にそんな声がかけられた。振り返った俺の視界には、こちらにコートを差し出す藜さんの姿が。ず、随分決めるの早いっすね。

 

「まあ、羽織ってもらったままでもよかったんですけどね。ありがとうございます」

 

 そう言って受け取ったコートを羽織り直したけれど、なんか仄かに暖かいし良い匂いがして落ち着かない。思春期男子には辛いぞこれ……鉄の意志と鋼の強さで耐えるけど。

 なおその数秒後。当然のタンデムからのこっちの腰に腕を回すというコンボで、思いっきり覚悟がぐらついたのは心の内に秘めておく。

 

「振り落とされない様に、気をつけて下さいね!」

「はい!」

 

 返事を確認してから、山川と暗号を唱え隠し扉を開く。エンジンを吹かせ、ライトも点灯させる。どうせ見つかるの前提だし、もうなにも怖くない。

 アクセルを少し解放し、ブレーキを使いドリフト。あの鬼火がいる広間に続く細道に出る。

 

「行きます!」

 

 直線が確保出来たので、掴まる力が強くなったのを確認しアクセルを全開にする。瞬間、世界が加速した。鬼火の脇を通り過ぎ、通路を壁すれすれで走り抜け、かなり大きな広い道に到達した。

 解読した情報を信じるなら、ここが研究所の外苑部。つまりは研究所を一周できる道という事になる。

 

「《障壁》!」

 

 かと言って素直に床を走っていたら、何かトラップ的なサムシングにやられかねない。なので障壁で坂道を作り、壁に着地してそのまま走行する。壁面走行様々です。

 

「階段探し、お願いします!」

「はい!」

 

 壁と垂直に走行しながら、鬼火の火球を防ぎ、階段を探すのは流石に無理だ。脳が震えるどころじゃない。なので、階段を探す事だけは藜さんにパスする。

 左右に蛇行して火球を回避し、間に合わないものは障壁で防御する。すでにトレインしてる鬼火の数は6……やりますねぇ!(絶望)

 

「もってけ全部だ!」

 

 腰の簡易ポーチの蓋を開き、ヒャア我慢出来ねえとフィリピン爆竹をばら撒いていく。ああ、久しぶりに聴くこの爆音が気持ちいい。1日の禁爆明けの心が、いい感じに燃え上がる。C4を1回とフィリピン爆竹数個じゃ満足できる訳がなかったんだ。ついでに鬼火にもダメージ入ってるし、完璧じゃないか!

 

「あり、ました! 前!」

 

 全力での壁面走行を開始してから大体5分程経った頃だろうか、ようやく後ろからその声が聞こえた。確かに注視してみれば、ライトの照らす範囲よりも先ではあるが、黒い大穴が壁に空いている。床部分に段差が見えるし、確実に階段だろう。

 

「了解です! 舌噛まないでくださいね!」

 

 背後に迫る鬼火達にスタングレネードを2つ投擲し、耳をダメにしつつ、登った時と同様の下り道を形成して床に降りる。そのまま後輪を滑らせながら方向転換、階段に向かって突撃する。ついでに背後に爆竹を投げつけるのも忘れない。

 

 耐久値任せの乱雑な運転で、ガタンガタンと車体を揺らしながら階段をそのまま下っていく。なんで障壁を使ってないのか? バッテリー(MP)切れです……走行中にポーションなんて使える訳ないだろマヌケェ……

 

「って、ここは……」

 

 どうにか階段を下りきり、着地に成功したそこには薄暗いが驚くことに光があった。足下が見えるか見えないか程度のものではあるが。

 そして謎の液体で満たされたガラスっぽい円筒が、無数に、延々と規則正しく並び淡い光に照らされている。そこから床に向かいコートが伸びており、未だにその何かが稼働してることが分かる。まさに研究所という感じだ。

 

「ひどい、です」

 

 事前情報もあり、この時点で俺は何があるのか察せていたが、藜さんはそうではなかった様だ。液体の中に浮かぶ、妙にグロテスクなモンスターのパーツを見てとても嫌そうな顔をしている。脳髄、眼、心臓、腕や脚に血管などなど……こんな物を浮かべて喜ぶか変態どもめと言いたくなる。人の業は深い……特に日本人は。色々な方面に。

 冷静に考えればプレイヤーも……特に俺はレアドロップの関係上、そういう系のアイテムは多々獲得している。だけどこういう風にディスプレイするのは気に入らないあたり、人って傲慢だと思う(謎の悟り)

 

「壊しますか」

 

 無言で頷きが返ってきた。これでもう何も遠慮する必要はないので、全力で錫杖を振り抜いて円筒を壊していく。壊す度に経験値と中に浮かべられていたレア素材が手に入るけど、とても微妙な気分だ。

 

「これで全部、ですかね?」

「多分、そう…かと」

 

 ガラスが散らばった部屋の中を見渡して、2人して納得する。もうこの部屋に、壊れてないガラスの円筒はありはしない。持ち主がいないんだから、何かを言われるいわれもない。

 休憩を挟み、少しだけスッキリした気分で次の部屋に繋がっているであろう扉を開き……そこに広がっている光景に絶句した。

 

「っ!」

「爆破しましょう。幸い爆弾なら腐る程もってます」

 

 先程の部屋と同様に、立ち並ぶ円筒円筒円筒円筒円筒。いやはや、よくもまあここまでやるよね。やっぱりマッドな科学者にはロクな人物がいない。そんな奴でもあれだし一言謝っておく。

 勿論ウソだ、本当に申し訳ない。いい的を置いといてくれてありがとうマッドな博士。お詫びにボムをくれてやろう。

 

 と言うことで、スタイリッシュに部屋を爆破していくこと9つ。ようやくマトモと言える部屋に到着した。

 

「宿直室……みたいな場所かな?」

「宿直、室?」

「学校とかで、先生とか警備員さんが仮眠したり待機したりする場所ですね」

 

 部屋の端に朽ちたベッド、床には破れたり千切れた紙が散乱し、部屋は嵐が過ぎ去った後のような崩壊具合だ。今までと違うその原因と思しきものは、恐らくボロボロになってもまだ付いている金属扉の向こう側にいるのだろう。

 扉の向こうからは背筋がゾワゾワとする気配がし、すっごくヤバイ感じもする。コイツはヤバイクマ!

 

「ここからが、正念場ですね」

「です、ね」

 

 だけど挑む前に、俺にいい考えがある!

 いい感じに戦いが進められそうな策がね!




こっちでポワポワした話を書いてる反動で、真逆の性質のオリジナル小説を執筆中(1万文字程度)……寝る時間ががが。


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第30話 第2回イベント2日目②

明日おまけを投稿予定
支援絵って、実在したんですね…(感動)


 多分扉を開けるだけじゃ襲ってこないから、色々とやる事が出来るはずだ。真正面から戦っても勝ち目がないなら、それくらいのボーナスはあっても良いだろう。

 

「何、してるんです、か?」

「正攻法で戦ったら勝ち目がないっぽいので、少し小細工をしようと思いまして」

 

 俺が用意してるのは、ありったけの爆弾だ。雷管を刺して爆薬を用意し、他の爆弾も起爆準備をせずに並べていく。

 

「とりあえず部屋の中に爆弾をありったけ投げ込んで、爆破してボスのHPを限界まで減らそうかと思いまして」

「え、えぇ…?」

 

 開いた鉄扉から、俺は適当に爆弾を投げ入れていく。なんか鎖が見える辺りに落ちてってるし、吊られた人型が見えるから多分大丈夫だろう。

 

「手伝い、ますか?」

「出来ればお願い致します」

 

 そうやって続けること数分、とりあえず火力の高い爆弾は大概投げ入れ終えた。流石に五尺玉とかは転がしたが。これでも既に十二分なダメージだとは思うが、最後に1つ仕上げが残っている。

 

「それ、は?」

「小麦粉ですね」

「ご飯のとき、出してくれれば、良かった、のに」

「あはは……すみません」

 

 謝ってから大量の小麦粉を投げ入れて、部屋の中に濛々とした白い煙を作り出す。現実世界じゃ起きにくい事だけど、この結構設定が甘い運営と俺のLukのゴリ押しでなんとか出来るはずだ。

 分かってない様子の藜さんの手を引いて1個前の部屋に戻り、扉を閉めて部屋の隅に座り込む。

 

「起爆したら戦闘開始なので、近接戦闘は任せちゃいますけどよろしくお願いしますね」

「勿論、です」

 

 仮称タニキの槍を持って、藜さんは頼もしい返事をしてくれた。自分でもこんな量の爆弾を扱ったことは無いから、ダメージもこちらに対する被害も想像できない。

 

「耳を塞いで口をあけて」

 

 一拍おいて、起動キーを叫ぶ。

 

「起爆!」

 

 瞬間、キュガッ!!!! という訳のわからない爆裂音が響き、扉を吹き飛ばしながら爆風が目の前を駆け抜けていった。よし、今回は耳もおかしくなってない。

 爆風が落ち着いたのを見計らって確認のため頷き、宿直室を抜け最後の扉を開いてボス部屋へと進入した。

 

 そこにいたのは、解読した通りの悍ましい生物だった。

 尋常な人の2.5倍程の体躯、ボロボロのコートを纏い、被らされている頭巾には血が滲み黄色い獣の眼光が1つだけ覗いている。首には金属の枷が嵌められ、そこから千切れた鎖がだらんと垂れている。同様に手にも枷と鎖が存在しているが、脚はそもそも存在せず宙に浮いており、ポタポタと何か赤い液体を零している。その周囲にはクロスして回転する鎖が存在し、そのさらに外側に巨大な猟銃が6つ宙を舞っている。そしてその両手には、鈍い輝きを放つ銃剣。

 ああこりゃ勝てないわ。そう納得してしまいそうな圧を感じるモンスターだった。なんてったって、半分消し飛んではいるものの、HPバーが3段もあるのだから。

 

「◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎ッ!!!」

 

 そしてこちらを認識したボスが、身の毛もよだつ咆哮を放った。瞬間、次々と俺と藜さんに状態異常が付与されていく。火耐性消失、氷耐性消失、雷耐性消失、風耐性消失、防御力低下、攻撃力低下、移動速度低下、会心率低下、命中率低下、即死耐性低下、恐慌と、その数12個に及ぶ大量のデバフ。ちょっと訳がわかりませんね。

 

「【ドリームキャッチャー】《フルカース》《フルエンハンス》《フルエンチャント》《オールディクリーズ》《ラックエンハンス》【潜伏】!」

 

 システム的なアシストでもあるのか、かなりの早口でも噛まずにバフデバフをかけ終える事ができた。けれど多分、これでも足りない。MPハイポーションを踏み砕き回復しながら歯噛みする。

 推奨レベル65相手に、レベル30にすら届いていない2人で挑もうというのだ。無い無い尽くしが当たり前だ。

 

「《パニッシュレイ》《ストライクスタブ》!」

 

 宙に浮かぶボスに鎖分銅と光と3連閃が突き刺さり、僅かにHPを削り取る。ストライクスタブという技の効果で状態異常の相手に対するダメージが約2倍、バフモリモリで更に2倍の計4倍程のダメージでこれだ。

 無論俺も、観戦してるだけなんて情けない真似はしていない。

 

「っ!」

 

 既に【生命転換】を使用しつつ、障壁での全力サポート中だ。ファンネルの様に動く猟銃が藜さんを狙撃しようとする度に、展開時間も面積も極限まで削った障壁で逸らす。なんらかの魔法陣が猟銃に浮かべば爆発で魔法の矛先を壁や天井にずらし、本体が振るう銃剣のグリップ辺りに障壁を発生させあわよくば武器を奪おうと画策している。

 爆弾に頼らない戦闘が、ここまでやる事が多いとは思わなかった。言葉を発する余裕もありはしない。

 

「くはは!」

 

 防ぐ、守る、逸らす、護る、妨害する、MPを補充、バフデバフをかけ直す……どれだけの時間そうやっていたか分からないが、遂にその瞬間がやってきた。

 

「1本目!」

 

 開始時は半分ほど残っていた2段目HPバーが、空になった。そして、ボスが銃剣を持ったまま頭を掻き毟る様な動作をしつつ後方に下がっていく。ファンネル猟銃も同様だ。何か、途轍もなく嫌な予感がする。

 

「《障壁》!」

 

 藜さんの目の前に障壁を設定したコンマ数秒後、プレッシャーの様なものが放たれ藜さんを俺のいる辺りにまで吹き飛ばした。そしてボスは悠々と、空中に浮かび猟銃を正六角形の頂点に並べてこちらを照準する。8つそれぞれの銃口に別色の光が灯り、段々と大きくなっていく。

 

「藜さん、遠距離出来ます?」

「1発、だけなら」

「なら本体をお願いします!」

 

 短くそう言って、無理矢理頭を回して回転率を上げる。6つの銃口を照準、それぞれに15枚ずつ障壁を展開待機、真ん中は藜さんに任せた!

 

「◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎ッ!!!」

「《キャノンスピア》!」

「《障壁》!」

 

 ファンネル猟銃から光が放たれる直前に、それぞれのファンネルの内部に障壁を展開する。5つまでは、銃の内側で放たれた魔法(推定)を暴発させて爆破に成功した。

 けれど最後の1つは失敗してしまった。タイミングのズレた障壁を砕き、放たれた闇色の閃光が俺を貫く。その数瞬後、発射され突き刺さった槍など意にも介さずに本体が放った暗い二重の波動が、俺たちを直撃した。

 

 結果。

 あっけなく、余りにも簡単に俺たちのHPは0になった。

 

《コンティニューしますか?》

 回数 残り2回

 Yes/No

 

 灰色の視界にそんな表示が現れる。けれど迷う理由はありはしない。

 

「まだ、です!」

「ここまでやって、諦める訳ないでしょうが!」

 

 藜さんに数瞬遅れて俺も復活する。サポーターが先に1人だけ復活してもドルベ(固有名詞に非ず)するだけだからね、仕方ないね。

 

 切り替えよう。集中しないといけない。

 

 デバフは健在。バフはかけ直す。相手のHPバーは残り1段、しかも2割くらいは削れてる。猟銃ファンネル撃退ボーナスかな? ラッキーだ。残りの回復アイテムは少数。何故か【ドリームキャッチャー】の効果が残っている。誤差の範囲ではないが僥倖。

 結論、戦闘続行は問題なし。

 

「ふぅ…」

 

 集中再開。

 身体を動かすところまで手が回らない代わりに、一気に障壁を再展開してサポートを再開する。防いで逸らしてバフをかける、基本だね。

 そんな事を続けている間に【潜伏】の効果があっても流石にヘイトが溜まり過ぎたらしい、ファンネルがこちらに銃口を向けていた。

 

「よっと」

 

 銃口の向きから射線を予測、その地点にMPポーションを投擲する。発射された銃弾がポーションを砕いた事で消失し、俺にポーションブチまけるだけの被害に終わる。

 

「これで王手」

 

 本体と死闘を繰り広げる藜さんから意識を逸らさずに、右手で鷲掴んだフィリピン爆竹を6個ファンネルに向けて投擲する。そして起爆。中途半端な暴発で耐久値にガタがきていたのか、地面に落下してファンネルは沈黙した。

 

 これで漸く労力が別の事に割ける。新たな敵の追加を警戒しつつ、【生命転換】が原因で瀕死に陥っていたHPを回復させ、MPも同様にポーションを踏み砕き補充する。これでMPポーションは品切れである。

 

「◼︎◼︎◼︎◼︎ッ!!」

「やぁっ!」

 

 横薙ぎに振るわれた銃剣を躱し、槍が突き入れられる。まだボス本体のHPバーは6割強、防御力はさほどでもないとはなんだったのか。っと、人体的にあり得ない方向に腕を曲げて振るわれようとした銃剣を障壁で妨害する。

 そこに、例の3連コンボが突き刺さりHPを削り飛ばす。そしてスキル後の硬直を狙ってか、天井に向けられたボスの銃剣に障壁を展開。先程までファンネルに割いていた集中力で、漸く暴発させる事に成功した。

 

「◼︎◼︎ッ!」

「残念」

 

 グリンと梟の様に回転しこちらを向いたボスの顔を、唯一露出してる眼球を狙って《カース》で爆破する。いとも容易く行われるえげつない行為で、目を抑えてボスが後退した。けれど、その方向には藜さんがいる。

 

「《ストライクスタブ》ッ!」

 

 再度突き刺さる例のコンボ。ボスの最後のHPバーが5割を切り、そのダメージに追い立てられる様に高度を上げていく。そしてそれに同期して、今まで気にも止めてなかった撒き散らされている液体が淡い光を放ち始めた。んっんー、よくないよくないよくないなぁ!!

 

「きゃっ」

「すみませんね!」

 

 嫌な予感に従い単車状態のバイクを取り出し騎乗、そのまま掻っ攫う様に藜さんを回収する。そのままアクセルを全開にして部屋の端に到達してターン、より一層光を強める液体の上を走行し──

 

「ニトロ!」

 

 即座に倍の速度に到達し、障壁をジャンプ台にしてI can fly。一斉に大爆発を引き起こした地面のあおりを受けながら、ボスの土手っ腹に横に倒したバイクで突っ込んだ。

 

「◼︎◼︎◼︎!?」

「着だーん、今!」

 

 ぎゅっと強く抱きつかれながら、俺たちはボスを壁に叩きつけこの研究所自体を激震させる衝撃を引き起こした。さしものボスも、男女1人ずつ・魔改造で重量なんか知らないバイク・純正極振りレベルの速度での事故は応えた様だ。ミシミシバキグチャと、生物が鳴らしちゃいけない音を立てながらHPバーが減少していく。

 そんな中ふとバイクの耐久値を見てみると、まさかの5,003/20,000まで低下していた。元々1,000程削れていたとは言え火力が頭おかしい。慌ててバイクを収納、空中(に瞬間的に張った障壁)を蹴って地面へと着地する。

 

「これでもまだ生きてるのか……」

 

 どちゃ、と地面に落下したボスのHPバーは削れに削れて2割。しかもボスはピクピクとして、スタン状態と言えるだろう。

 

「やぁっ!!」

「《奪撃》」

 

 そこに叩き込まれる2人分の全力攻撃。一気にHPバーが1割程削れ瀕死の状態まで落ちる。恨めしげに獣の眼光を向けてくるボスの目に、もう一度《奪撃》を叩き込む。

 そして最後に藜さんのコンボが叩き込まれ、このボス【The Sealed criminal】はカシャンという儚い音をたてて砕け散った。

 

「これでやっと、トドメです……ね?」

「ですね……良かった」

 

 気が抜けて、張りつめていた思考が急速に普段の状態に置き換わっていく。そしてそのまま振り向こうとして、ガクリと膝が落ちた。全身に何故か力が入らず、意識が遠のいていく。

 

「ーーーー!?」

 

 何かが聞こえた後、全身をフッという浮遊感が包み……原因がハッキリとわかった。

 

 ただの寝不足と脳の酷使のし過ぎだわこれ。

 

 そんな思考を最後に、プツンと俺の意識は途絶えるのだった。




多分この状態のユッキー、目が充血して赤くなってると思うんだ……


抜き打ち☆ユッキー持ち物チェック!

簡易ポーチ
・フィリピン爆竹×99(9スタック)

アイテム欄
・HPポーション×6 ・HPポーション改×2
・HPハイポーション×3 ・小型爆弾×10
・中型爆弾×10 ・パイプ爆弾×70
・手榴弾×50 ・対戦車地雷×20
・雷管×59 ・ハンドアックス×30
・ハンドアックス×30 ・ダイナマイト×20
・パラライズボム×10 ・スリープボム×10
・ポイズンボム×10 ・マジックボム×10
・爆薬×99 ・錆びた鉄片×99 
・猛毒袋×99 ・小麦粉×59
・鉄串×99 ・スタングレネード×18

臨時インベントリ
・虹霓の杖 ・無垢なる刃
・居合の極意

・多数のドロップ品


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閑話 運営の絶叫

今回はギャグ回
イイネ?


 これは丁度、ユキが気絶した辺りの時間での出来事。

 プレイヤー達と同様に時間を加速して、働き詰めとなっている運営は、既に阿鼻叫喚の地獄となっていた。

 

「あぁぁああぁッ!! チーフ! 迷宮が、迷宮が蒸発しました!!!」

「森の前例があるから慌てるな! 落ち着いてキチガイを報酬取得空間に転移、その間に再構成しろ!」

 

 例えば……それは、キチガイ馬火力の魔法使い

 

「こっちでは、ボスのデュラハンの胴体と頭と馬と武器を、両手に大楯でお手玉してるキチガイが!」

「直接的な害はない! 放置しておけ!!」

 

 例えば……それは、キチガイ防御力のナイト希望者

 

「嫌がらせで構築したトラップゾーンが、カメラを持った全身黒タイツの変態に攻略されました! 気持ちの悪いダンスをしながら、カメラ目線で『他愛なし』とか煽ってきてます!!」

「それも実害は無しだ! どうせいつかは攻略される、そう思って諦めろ!」

 

 例えば……それは、キチガイ速度のカメラマン

 

「キチガイみたいな量の状態異常がばら撒かれて、ボスごとエリアが汚染されました! 腐ってやがる、早過ぎたんだ!」

「ふざけてる場合じゃないぞ! とっとと隔離して修復しろ!」

 

 例えば……それは、汚染した環境を我が物顔で闊歩する盗賊

 

「チーフ!! 私が頑張って設定したボスが、即死しました!! あの槍持ったきちがいが! 極振りがぁ!」

「よし、お前は30分程休憩を入れていい。交代要員は補充しておく!」

 

 例えば……それは、槍と魔法の狂戦士

 

 そう、運営が地獄絵図と化している原因の大半は、元極振り勢の大暴走が原因だった。上司は(極振りを相手にする)部下の気持ちが分からない…(ポロローン)至言である。

 

「はぁ!? うっそだろおい! 研究所が攻略されてやがる!?」

「冗談だろおい!? 簡単とは言え文字が読めなきゃ入れない隠し部屋多数、モンスターのステを強化する炉が12基、猟犬として単独撃破が不可なモンスターを群れで配置、無数のトラップ、一部は異界化もしてあるんだぞ!? その絶望をとっくり味わってもらうんじゃなかったのか!?」

「おいおまそれ死亡フラグ」

「それよりもだ。誰だ! 誰がやらかしやがった!」

 

 対応に追われながらも、他の職員も気になるのかその映像を見ようと身体を向ける。誰の目にもクマが浮かんでおり、一端のホラー映像として通用するまである絵面だ。

 

「映像、出ました!」

 

 男の研究員がキーボードを弄ると、モニターに映像が映し出された。

 SAN値を削りそうな宙に浮かぶ生物と、それに対峙する小さな女の子とそこまで目立つ特徴のない男子のパーティが映し出される。

 

 ま た 極 振 り か !

 

 その時、運営の心が1つになった。

 

「いや、ちょっと待て? ユキは確か幸運担当だぞ? いくらなんでも火力が足りる訳がない」

「銀閃と一緒なら分からんでもないが、見た所ただのプレイヤーだぞ!?」

「当時の記録、再生します!」

 

 そんな中、比較的冷静な職員Dくらいの奴がボス戦の映像を再生した。そして始まった瞬間、この場にいる誰もが度肝を抜かれた。

 

「まともに攻略してる……だとぉ!? バイクは兎も角として」

「【潜伏】して手を繋いで効果を共有して、偶然隠し部屋を見つけて……主人公か! バイクは兎も角として」

 

 ユキが行なっていたのは、案外普通の攻略。他の極振り(キチガイ)共に比べたら、あまりにも普通であった。

 だがしかし、ボス戦の映像になった時にその評価は一変した。

 

「ハッハッハッ、こりゃ一本取られた」

 

 映し出された映像がホワイトアウトし、気がついた時にはボスの膨大なHPは既に半分にまで落ち込んでいた。

 

「いやそうじゃないでしょうチーフ!! 誰ですかあんなに爆弾を持ち込むのを許した馬鹿は!」

「私だ」

「お前だったのか」

「暇を持て余した」

「運営の」

「「遊b「いいからお前らは修正を早くやれ!!」イエッサー!」

 

 誰もが元極振り勢(愛すべき馬鹿共)の対応に追われる中、問題しかないシーンが流れていく。

 

「元々火力が出しやすいレイスタブが、サポートを受けてダメが4倍になってやがる……こりゃダメだわ」

「そうだな、40くらいはレベル差があるのにこのダメージはあり得ない」

 

 だが、誰もが口に出さない事があった。まだ映像は中盤、しかしその時点で十二分に理解できる異常点が1つだけある。

 

「なあお前ら、1つだけいいか…?」

「なんだ?」

「ユキって、あれもう人じゃなくて高性能AIって事でいいよな? なんだよあの動き、反射神経、あははは」

「おい待て! それ以上はマズイ! ちっ、コイツ目が逝ってやがる! 誰か精神分析、誰でもいいからこいつを助けてやってくれ!」

 

 目をグルグル回転させながら倒れた職員を、筋肉モリモリのマッチョマンな職員が介抱しようとする。が、逆効果だった様で、された側が強制ログアウトで天に召されていった。

 そんな地獄の中、チーフが頷いて呟く。

 

「今まで俺たちは、極振りの奴らは総員頭がおかしいと認識していたが、甘かったらしい」

「一体どうやったら展開時間1秒、直径20cmの障壁なんかで戦闘が維持できるの? 今日は厄日だわ!」

「説明書を読んだんだろうよ……きっと」

 

 映像では、障壁と呼んでいいかも分からない小さな何かが、至る所で僅かに姿を見せては消えていく光景が映し出されていた。しかも展開される度に、何かを弾いて前衛を完璧に防御しているのだから訳がわからない。

 

「特異なスキルって、ユキの構成にはないよな?」

「ふえぇ…はんようすきるがおおいんだよぅ…」

「んんwww汎用なんてあり得ないwww時代は特化した極振りですぞwww」

「要するに、ピーキーな物が多いだけでバランスブレイクはしてません。他の極振りと比べても、やけに爆弾を使う以外の特徴も被害もありません」

「ということは、アレが、素の能力って事か?」

 

(いや、絶対【空間認識能力】が原因だろ…)

 

 運営の空間に、静寂が満ちた。数名こうなった心当たりがついた者はいたが、正直手が離せないので口を開くこともない。

 けれどそんな静寂も、件のユキがバッタリ倒れた事で大騒ぎに変貌する。

 

「やっぱり無茶だったんだ。急いでユキの脳波調べろ! 異常があった場合救急車を呼んで手厚く保護だ!」

「ち、チーフ……これ見てください…」

 

 そういう女性職員の手元には、みょんみょんと動く謎の波形データが存在していた。半霊ではない。更に残念ながら、チーフには何が何だか分からない。

 

「これは……どういう事だ?」

「非常に言いづらい事なのですが………熟睡しています」

 

 ズコッと伝統芸の様に誰もが滑った。身体的に何か悪影響があったのかと思っていたら、ただ気持ちよく寝ているとか肩透かしも甚だしい。なんの不自然さもなかった。

 再び静寂に包まれる運営ルーム。けれどその平和をぶち破ったのは、またしても馬鹿どもが原因だった。

 

「極振りの短剣が、不快感しか感じない様に設定した空間を抜け、取れない様にしていたレアアイテムを奪取しました!」

「ファッ!?」

「チーフ! こちらも異常です!! 拳の極振りが、空中でボスの飛行系モンスターとドッグファイトしています。ですが、どちらも女なので実はキャットファイトでもあります!」

「ファッ!?」

「チィィィィフ!! 通常サーバーの方で、市場が崩壊しそうです! 下手人は極振りです!!」

「ファッ!?」

「チッフー! 海が割られました!! 下手人は片手剣の極振りです!!」

「ファッ!?」

「リーダー! バイクの変態共が編隊を組んで変態的に砂漠地方を均してロードローラーが変態です!!」

 

 チーフ!チーフ!チーフ!チーフ!チッフー!チーフ!と、今まで頑張りすぎていた事が災いし、チーフを呼ぶ声は止まらない。

 

「ふ、くくっ、くはははは!!」

「どうしたんですかチーフ! 早く指示(オーダー)を下さい!」

「ぼくもうわかんにゃい。ざんこくなことだ!!」

 

 チーフの姿が煙に包まれ、ブカブカの今まで来ていた服を纏った可愛らしいショタへと変化する。ガッデム、チーフは逃げたのだ。チーフは自分にのしかかるあまりの重圧に耐えかね、精神を退行させることによっては心を守ったのだ!! 職業としては大失態だろうが知ったことかと言う覚悟を感じる。

 

「ヒャッハー! ショタだ! 新鮮なショタだ!」

「ウホッ、いい身体してんねぇ!」

「かーわーいーいー!!」

「お姉さんと良いことしない?」

「ヒィッ」

 

 だがなんということか。退行した精神では、こんなカオスワールドに耐えられる筈もない。新鮮なネタを投下されて馬鹿騒ぎする女性から、ショタチーフは逃げ出した。おおブッダよ、あなたは今も寝ているのですか!?

 

「うわぁぁん、おうちかえるぅぅ!!」

「逃すか! お前ら、ジェットストリームアタックをかけるぞ!」

「ラジャ!」

「捕まえたらprprhshsし放題だぜおらー!!」

 

 睡眠なしでの労働とは、かくも人を狂わせる。

 運営ルームに残された男の職員は、だいたいそんな事を考えていた。

 

「なあ、そう言えばなんだが。研究所の報酬授与システム、確か幸運で決めるんじゃなかったか?」

「そうだな……総取りか」

 

 はぁ……と溜め息が小さく響く。

 

「なあ、俺らはどうすれば良いんだろうな?」

「バグとか対応して、後上に連絡して補充要員回してもらおうぜ……」

「そうだな……それまでは可愛いプレイヤーでも見て癒されてようぜ」

 

 男性陣も大概な模様だった。

 

「じゃあ俺リシテアくんちゃんで」

「体育会系男の娘か……良いセンスしてるじゃないか」

「じゃあ俺はつららちゃんで」

「苦労人系お姉さんか……中々良いじゃないか」

「じゃあ俺はれーちy」

 

 瞬間、ズドンという鈍い音が響き職員Cの額に大きな穴が空いた。ゲーム内じゃなかったら即死である。運営とてプレイヤーの一部……HPがあり、死ぬこともあるのだ。他のプレイヤーや、モンスターの攻撃で。

 

「誰だ! 誰がこんな事を!」

 

 そう騒ぐ職員の手をとって、額に大きな穴が空けられた職員は最後の力を振り絞って伝える。

 

「俺は止まんねぇからよ、お前らが止まんねぇかぎり、その先に俺はいるぞ! だからよ、止まるんじゃねぇぞ……」

「サタデーナイトフィーバーじゃねえかこの野郎!」

 

 満足気な表情でログアウトしていく額に大穴が空いた職員。立派な敵前逃亡である。恐らく次回ログイン時には、筋肉の海に揉まれる地獄に送り込まれる事が今ここに確定した。

 

 これから人員が戻ってくるまでの数十分、この男の職員2人が延々と職場を回していたことは言うまでもない。

 

 これは、舞台裏の物語。本筋ではなく、きっと明かされることもない他愛もない馬鹿話。誰も知る事のない、大いなるイベントの裏話だ。




……何書いてんだ私


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第31話 第2回イベント2日目③

連続更新ラストぉ!


 チリ、と何かが繋がる感覚がして、意識が戻って来た。どうやらこれがゲーム内環境での覚醒らしい。随分と不思議な感覚だ。

 なんか頭の下に柔らかい枕があり、なんかいい匂いもするしこのままもう少し寝ていた──待った、ここはあの研究所の筈。この最下層にそんな物はなかった筈だ。このままじゃまずいとゴーストが囁いてきた気がしたので、とりあえず目を開ける。

 

「あ、おはよう、ござい、ます」

「おはようございます」

 

 再起動していくスキル群と脳。物凄く近い距離で見つめ合うこと数秒、俺は今がどんな状況なのかを完全に理解する事ができた。

 

 Q.(この事がバレたら)何が始まるんです?

 A.大惨事大戦だ

 

 こんな膝枕をされて頭を撫でられていた状況をセナが見たら、確実にAクラスの狂化が付与されるのが見えている。バーサーカーな沙織はちょっとマズイ、主にリアルの方が。これが身バレの恐ろしさか。

 

「いたた……なんか、すみません。膝枕なんてしてもらっちゃって」

 

 流石に気恥ずかしさもあり、立ち上がろうとしたけれど強烈な頭痛によって倒れかけた。錫杖がなかったら思いっきりすっ転んでただろうなこれ。

 

「辛いなら、もうちょっと、休んでも……いいん、ですよ?」

「いえ、気持ちだけ受け取っておきます。いつまでも女の子の膝を借りる訳にはいきませんし、杖を突けば歩けますから」

「むぅ……」

 

 俺は別にシャア(意味深)じゃない。保身の意味もありはするけれど、それよりも普通に恥ずかしいのだ。セナの立ち位置が特殊なだけで、俺の感性はいたって普通なのだから。だからそんな残念そうな顔をされたら、ないとは思いつつも勘違いしそうになるじゃないか。

 

「そう言えば、俺ってどれくらい眠ってました?」

「多分、1時間くらい…です」

「あー、そんなに……ほんとすみません」

 

 突然ぶっ倒れたから心配かけただろうし、本当に申し訳ない。戦闘中、勝手にバイクで攫ったりもした訳だし。あれ? 俺相当クズじゃね?

 

「あの、気にして、ませんから。それより、こっちに」

「はい…?」

 

 なんだか分からないが藜さんに手を引かれて付いていくと、そこにはいつからあったのか分からない豪奢な扉が鎮座していた。

 

「えっと、これは…?」

「ボスを倒した後、出てきたみたいです」

 

 なるほど。と言うことは……

 

「多分、お宝とか、沢山あると思います」

「ですね。もしかして、俺が起きるの待っててくれたとかですか?」

「一緒に倒したのに、先取りなんて、嫌ですから」

 

 なんとなく聞いてみると、当たり前の様に頷いて返された。成る程つまりは鴻門の会ということか(意味不明)

 つまらない冗談は1度頭から追い出し、一緒に扉を押し開ける。そこから現れた光景は、中々に壮観なものだった。

 

「わぁ…」

「これは、凄いな」

 

 明らかに材質の変わった真っ白な床には天に届きそうな程の金色の物体が積まれ、周囲の壁には剣や弓や槍などの武器が透明なケースに入れられ保管されている。本がギッシリ積まれた本棚も複数あるのだが、同じ様なカバーが張られており簡単には取り出せなさそうだ。

 

 そして、目の前にはこれ見よがしに円柱が浮かんでいた。幾重にも円が重なって出来ている様で、それぞれに細かく数字が刻まれている。イメージとしては、某死ぬ気の炎な漫画のジャイロルーレットだ。更にその隣には、小さなウィンドウが展開されていた。

 

「なんて、書いてあるんです?」

「『我が財宝を欲する者よ、天運に身を任せよ』ですって。多分Lukの値を加味して、運次第でしかこの財宝は持ち帰れないって事ですかね?」

「折角、頑張ったのに」

 

 藜さんが若干不機嫌になり、僅かに俺も不機嫌さが表に出てくる。つまりこれは、(Luk極振り)に対する挑戦と受け取っていいんだな?

 

「藜さん、ちょっと協力してくれませんか?」

「藜で、いい。協力も、ぜんぜん平気」

「よろしく、藜。それじゃちょっと失礼して、《カースフィジカル》《カースマジック》《フルディクリーズ》【ドリームキャッチャー】《ラックエンハンス》」

 

 やるからには全力で挑まねばならない。元のLukの値である2058に、【ドリームキャッチャー】の効果で14個の状態異常を請け負ったので70%を加えて3498に。そこにエンハンスで40%増加するから、最終Lukステータスは4897となる。ふふっ、怖いか? 俺は怖い。

 

「準備も出来ましたし、一丁ルーレットを回──」

 

 下からの視線を感じ、伸ばした手を戻す。そして藜には微妙に高い場所に円柱は浮いてるので、錫杖で円柱を押し下げる。

 

「一緒に、せーの! で回しますか」

「はい!」

 

 円柱に当てた俺の手の上に藜さんの小さな手が重ねられ、準備が完了する。2人分のLukを合わせたら、もしかしたら5000の大台に乗ったかもしれない。

 

「「せーの!」」

 

 息を合わせて手を動かし、ルーレットが勢いよく回転し始める。そして段々と速度が落ち、7箇所存在する数字が表示される欄が完成していく。

 

「これは酷い」

 

 表示された数字は全て7。最大値を知らないのでなんとも言えないけれど、大きな音を立ててカバーが外れていっているんだから草も生えない。

 

「これ、全部貰っちゃっていいんでしょうか…?」

「持てる限りなら大丈夫だと思いますよ」

 

 これに関しては、俺は全くの無実だ。極振りに同じ土俵で挑んだ、しかも臨時インベントリなんてものを用意してくれた運営が悪いのだ。嬉しそうに走っていく藜さんを見ながら、俺も頭痛を堪えながら置いてあるものを見て回る。

 

 とりあえず長杖と銃は回収するとして、服装備が一切ないとは何事か。あのボスからコートはドロップしたとはいえ、この宝物庫的な場所にないとは運営の服装備の扱いが知れる。

 

「頭装備も……特にないか」

 

 姿隠しの兜なる物は回収するとして、俺が装備できる頭装備に現在装備中の物を超えるLuk値を持つ物はなかった。やすやすと上げさせてはくれない様だ。藜さんに聞く訳にもいかないし、変形とか成長する様な面白い物もなかったので素通りする。

 

「うわ、何このアクセサリーの量」

 

 それに比べて、アクセサリーの量が尋常じゃなかった。指輪にネックレス、腕輪やよく分からないものまで様々な物がディスプレイされている。

 

「何か、あったんです…か?」

「!?」

 

 突如傍から聞こえてきた声に、危うく変な声を出すところだった。ビクッとなってしまったのは許して欲しい。

 

「え、えぇ、凄く良いものが」

 

 前回イベント時に頑張って集めた蹄鉄を上回るアクセサリーが、そこには大量に放置されていた。名称は【ウロボロスの脱け殻】性能的にはLuk+5% Min+3で、見た目は小さな白い∞の物体だ。早速透明化している蹄鉄を入れ替える。着いてるだろう場所も、蹄鉄同様腰の様だ。

 

「ふふっ」

「えっと、俺何かしました?」

「いえ。やっと、楽しそうに、笑ってくれたので」

 

 そう告げられた言葉に、カッと頬が熱くなる。男の赤面とか誰得だよ、セナですね分かります。後、何か嬉しそうだし藜さんもかもしれない。いやなんでだし。

 

「でも、本当に、凄い量……」

「小型化にでも力を入れてたんですかね? 研究所だったらしいですし」

 

 確かそうだった気がする設定を思い返しつつ、良さげな物を物色していく。おっ、1分間だけ特定ステが4倍とかいうキチアイテム発見。調味料とパンもあった。確保確保。

 そんな事を続けていく内に、トンデモナイ掘り出し物を発見した。

 

「綺麗、ですね」

「効果も十分おかしいですよこれ……」

 

 見つけたのは、開かれたアタッシュケースに納められた5個の指輪。中央に六角形の結晶があしらわれたそれの効果を見てみると、それぞれが共通して『MPを消費して天候を変える』という能力を持っていた。嵐天・猛吹雪・砂嵐・快晴・濃霧と言った感じだ。天候効果はそのままだろうから、十分に壊れ装備な気がする。MP消費にもよるが。

 

「でも私は、使ってる余裕も、意味もない……です。だから、ユキさんのです」

「正直、俺にも過ぎた物ですけどね」

 

 今すぐ装備という訳にはいかないのでアイテム欄に仕舞いながら、苦笑して俺は言う。ほんと、極振りにこれをどう使いこなせと。

 そんな風に和やかに進んだアクセサリー集めも終わり、揃って最後に残った本棚へ向かう。アレだけの本だ、さぞ良いものがあると期待していたのだが……

 

「まさか、大半が白紙だとは…」

「びっくり、です」

 

 本棚に納められていたのは、大半が『無記名の本』や『白紙の魔導書』だった。やる気になれば新しい物を作れるから、一応回収はしたけど。

 手に入ったマトモな本は数冊。無記名の本に紛れていた『無銘祭祀書』、『キメラの研究』とかいう用途が謎の本、最後にその近くにあった存在の圧が違う白と黒の本の合計4つだけだった。

 

「俺は白紙のやつがあれば満足ですけど……どうします?」

「私も、要らないです…」

「ですよねー……」

 

 何せ読めない、意味ない、分からない、と欲しい要素が一片たりとも無いのだ。知り合いに欲しそうな人もいないし。

 

「じゃあ、戻しておきますか」

「誰か使うかも、ですしね」

 

 なんて話しながら、近くにあった黒の本に手をかけた時だった。

 

 ブゥンという何かの起動する様な音が鳴り、小さな魔法陣が床に展開された。俺の目線の高さほどに本が瞬間移動し、バラバラバラとページが捲られていくと共に、新たな魔法陣が現れ巨大な魔法陣を描いていく。

 しかも金縛りにでもあったかの様に身体が動かせない。頭痛も何故か再発している。SAN値が削れてってるんじゃないだろうか……何これマジやばくね?

 

「ユキさん!」

 

 魔法陣が床を覆い尽くす直前、藜さんの手が動けない俺に届いた。

 次瞬、身体が重力の軛から解き放たれたかの様な浮遊感が俺を襲った。新手の転移ではない。純粋に床が消失し、何処とも知れぬ場所へと落下しているのだ。プレイヤーである俺たちだけが、ではあるが。

 

「ッ!」

 

 既に落下時間は数秒。とりあえず俺が死ぬ事はこの時点で確定したので、せめて藜さんが残機を減らさない様俺がクッション代わりになる様に抱きしめる。

 それから数秒経っても墜落は訪れず、衝撃を認識するよりも早く唐突に意識がブラックアウトしたのだった。目が覚めてから1時間足らずでまた気絶って、どういう事なの……?

 




【嵐天の指輪】
紅赤の六角形の結晶があしらわらた指輪
MPを消費して天候を嵐天に変更する
【氷雪の指輪】
雪色の六角形の結晶が(ry
MPを消費して天候を猛吹雪に変更する
【砂塵の指輪】
小麦色の六角形(ry
MPを消費して天候を砂嵐に変更する
【太陽の指輪】
紺碧の(ry
MPを消費して天候を快晴に変更する
【濃霧の指輪】
菫色(ry
MPを消費して天候を濃霧に変更する


要するに色違いボンゴレリング(未来編ver)


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第32話 第2回イベント3日目①

安定の体調不良……_(:3 」∠)_

ユキ 残機-1


 意識が接続される謎の感覚を感じ、意識が急激に覚醒していく。今回は、膝枕してもらってた時の様に安心して気絶していられないのだ。そう認識し、無理矢理眠気を吹き飛ばす。

 

「えぇ…?」

 

 そう思い目を開けた俺の視界に映ったのは、あり得べからざる光景だった。殆ど黒と言って問題ない濃紺の空に浮かぶ、まるで皆既日食でもしてるかの様な真っ黒な太陽。そのお陰か、暗いのにある程度見通せる闇に世界は包まれている。そして何処からか花のような甘い香りが……んん?

 

「ん……」

 

 視線を下げれば、大の字に転がる俺の上に覆い被さるように、ぐったりとしている藜さんの姿があった。そしてそのHP表示は、今俺が動いてから急速に減少を始めた。更にバーの近くには5つの状態異常のアイコンが──ってマズイじゃん。

 慌てて起き上がってみたけれど、俺には誰かの状態異常を回復する手段があるにはあるけど、どうせ環境依存の状態異常だから1回回復させてもすぐに元に戻る事になる。それじゃあ意味がない。

 

「なら、半分賭けだけどやるしかないか」

 

 『全天候ダメージ無効』と『全環境適応』の効果を持つコートを装備解除し藜さんに掛け、ボスドロップのコートを装備する。これにも一応『環境適応(闇)』なるスキルが……って、今はそんな場合じゃないんだった。

 

「【ドリームキャッチャー】」

 

 引き受けた状態異常の名称は、腐食・獄毒・祟り・汚染。装備効果のお陰ですぐに点滅して消えたけれど、確実にこちらを殺しに来ていてもう笑うしかない。状態異常がまた付く様子はなし。心なしか寝顔が安らかになった気もするし、一安心と言ったところか。

 

「いやいや、そうじゃないだろう俺」

 

 周囲を確認しても、そこに見えるのは何もない不毛の大地。地面が薄い紫色に染まってる事しか特色はない。長居するにはよろしくないのは明らかだ。それに、

 

「どうにかしないといけないとはいえ、寝ている女の子にどうこうするのは限りなく犯罪者に近い何かだし……」

 

 今俺にも点灯している空腹の状態異常は、何かを食べない限り消える事はない。先程装備をいじる為に開いたメニューで見た時間は朝の7時で、昨日物理的(?)に落ちた時間が8時前。大体半日食べ物を口にしないと、状態異常になる様だ。

 だからと言って揺すっても起きる気配がないし、某もののけの姫みたいに食べさせるなんて以ての外だ。水も同様。それにいつまでも膝を枕として提供してても、男の膝枕とかゴツゴツしてるだけでアレだし。

 

「バイクの回復、か」

 

 やれる事は、藜さんが目を覚ますまで探索準備をしながら待機が最善だと思う。サイドカーなら、多少は寝心地もマシだろうし。その間にバイクの耐久値を回復させて、ご飯の用意をして、周囲の確認をして、藜さんが起きるのを待てばいい。こういうのなんて言うんだっけ? ただの働きすぎか。

 そんな考えを断ち切りサイドカー付きバイクを取り出し、どうせ寝てるんだしとお姫様抱っこで藜さんを持ち上げる。セナなら猫的な持ち方も考えたけど、流石にね。

 

 

 なんて気を抜いたのが間違いだった。

 いやぁ、こんな丁度いいタイミングで目が覚めるなんて普通思わないよネ!

 

 そのまま無言で見つめ合うこと数秒、補助をかけてなかった俺の腕に限界がきた。ポーカーフェイスは崩さないし口が裂けても言わないけれど、超重い。無理、もうダメ腕が死ぬ。伊達にStr()Vit(スタミナ)も数値が0じゃないのだ。軽鎧とはいえ、鎧と籠手を付けた気を失った女の子を持ち上げるのは無理があった。

 

 今更バフをかけるのも情けないし、死力を振り絞ってシートにご案内する。ふぅ、下手なボス戦より疲れた。

 

「えっと、今のは……」

「忘れて……いえ、やっぱりあまり気にしないでください」

 

 目を逸らしながら俺は言う。忘れて下さいだと失礼だから、ちょっと下げて妥協点にしておく。

 

「それよりもご飯食べましょうご飯。状態異常付いちゃってますし、折角パンも手に入ったんですから!」

 

 全力で話題を切り替えにかかる。これでも一応思春期なんだから、恥ずかしいし照れるのだ。普段のプレイスタイルがキチってるのには目を瞑って貰おうか。

 

「です、かね?」

 

 物凄く不満気な雰囲気だが、納得はしてくれたらしい。

 諸々の事は、まずご飯を食べてから考えようそうしよう。場所的に、物凄く不味そうだけどね!

 

 

「それで、ここはどこ、なんでしょう?」

「俺も目が覚めた時間は大差ないので、正直何が何やら……」

 

 昨日の昼ご飯より格段に良くなった朝ご飯を食べ終わり、現状の確認へと移る。とは言ったものの、“何もわからない”が今出せる答えの全てだ。

 今までは繋がってたイベント内ネットにも繋がらないし、見渡しても何もない以上地平線までは何も無いことになる。幸いにもモンスターは出てこないけれど、5kmくらいは移動しないとどうしようもない訳で。

 

「すぐにバイクで移動できれば良かったんですけどね……時間取らせちゃってすみません。それに、そのコート火薬臭いでしょう? 状態異常的な問題とはいえ、ほんとすみません」

「別に、気になりません、よ?」

 

 そう言ってブカブカのコートを着た藜さんが袖の臭いを嗅いでるけど、いやほんと何でこうなってるんでしょうね? 食事中にコートを脱いで状態異常に襲われるアクシデント以降こうだけど、羽織ってるだけで効果はあるっぽいのに何で着てるんでしょうねぇ!?

 

 頭の中の大混乱をダストシュートしながら、65%という縛りの中バイクの耐久値回復を進めていく。即席の盾として使ったせいで、下手したら壊れてロストしかねないのだ。いや、文句を言うべきは、このキチバイクの耐久値を14,000程削る即死技を撃ってきたボスか。

 

「今、どれくらい、ですか?」

「漸く7,000超えた辺りですね。せめて10,000ないと、何かの拍子に大破しそうで……ほんとすみません」

 

 回復率は5分で650ジャスト、偶にクリティカルな感じで1,300。後20分くらいは欲しいのが現実だ。本職のプレイヤーならもっと上手くやるんだろうけど、器用貧乏の俺にはこれが限度である。そこらの地面を爆破したら高速修復材とか湧いてこないだろうか? 無理ですね知ってた。

 

「そういえば、ユキさんって普段、何してるんですか?」

「普段って言うと、ゲーム内でですかね?」

 

 そして、そんな時間無言なんて事はあり得ず、必然的に会話が始まる。苦じゃないし、俺としても無言とかは辛いから文句は一切ない。

 

「そうですね……ギルドで駄弁ったり、ギルドの誰かと狩りに言ってますね。あまり大きくないギルドなので、みんな仲が良くて楽しいです」

 

 まあ、俺は1番雑魚なんですけどね。前衛を巻き込む攻撃手段しか持ってなくて、敵の数が2体を超えると抑えきれなくなる後衛とか草も生えない。まあ、それでも楽しくやっていけてるんだけどね。

 なお、廃人基準での「あんまり張り付かない」は2度と信用しない事をここに記しておく。ここってどこだし。

 

「へぇ……それじゃあ、何で、極振りを選んだんです、か?」

「俺を一緒にやろうって誘ってくれた幼馴染が、なんというかまあガチ勢でして。隣に並べない分、目一杯楽しみたくてですね」

 

 キチバイクのお陰で多少はマシになったとは言え、うちのギルドのみんなに混じってバトルが出来るなんて思えない。今は楽しむ事より生存を優先してるけれど、出来ることならもっとふざけて楽しみたい。

 

「なら、最後に。ユキさんは、誰か好きな人って、いるんです、か?」

 

 その質問は、微妙にゴチャゴチャしている俺の心を抉るようで。どうしようもなく、心に突き刺さった。

 

「Likeの方ならまあ、沢山。でも惚れた腫れたとなると、正直何とも言えません」

「どうして、です?」

「明らかに好意を寄せてくれる人がいるんですけど、どうしていいのか分からないんですよね……立場が特殊なせいで、微妙にそういう目で見きれないというかなんというか。ヘタレって言われたらそれまでですけど」

 

 言ってからなんだけど、あまり喋るのに適切な内容じゃなかった気しかしない。あ、修理がクリった。改めて顔を向けると、藜さんはなんとも言えない表情をしていた。

 

「俺だけ聞かれるのもアレなんで聞きますけど、藜はどこかギルドに入ってたり?」

「イベントの時だけ、短期で。強いところの、ノルマみたいなのが、合わなくて」

 

 成る程と納得しつつ、自分の知る限りのギルドにノルマなんてものがあったか考えてみる。うちのギルドはなし、極天もなし、モトラッドもなかった筈だ。ショタっ子もとい、イオ君のところもないと聞いた。まあ、9割変人のイベントTOP3ギルドと中堅ギルドを同列視はいけないのかもしれないけど。

 

「ノルマって、レベルとか素材とかです?」

「後は、Dを取るところも、ありました」

「ビックリする程クズ」

「でも、ソロでも、十分楽しいです」

 

 とりあえず、そのギルドの上層部は見かけたら爆破しよう。おっと爆弾が滑った作戦でいけるだろう。ギルドは出来れば誘いたいけど、俺に決定権がない上に本人がソロでもいいと言うなら何も言えない。

 

「でもここまで一緒にいるのも何かの縁でしょうし、もしギルド毎の参加したいのがあれば相談に乗りますよ。確かフレンドなら連絡出来ましたよね?」

「いいん、ですか?」

「ええ」

 

 精一杯の笑顔で俺は答える。一応伝手があるには越したことはないしね。こうして、漸く藜さんとフレンドになったのだった。

 そんなこんな話しながら過ごしている内に、2回目のクリティカルで耐久値が10,000の大台に届いた。なんとも都合がよろしいようで。

 

「とまあこんなところで。バイクも直りましたし、行くとしますか」

「了解、です!」

 

 時間のロスは痛いので修理はもう切り上げ、単車の方に乗り込む。その後藜さんがサイドカーに乗り込んだのを確認し、バイクを発進させる。

 微速から半速、半速から原速、そして強速へ。段々加速していきアクセルは全開に。速度の数え方が船舶とかいうツッコミは置いておいてもらおうか。こっちの方がなんかカッコいいじゃん!

 

「どうにか脱出、出来たらいいなぁ……」

 

 この暗い世界を爆走しながら呟いた俺の言葉は、風に溶けて消えていくのだった。

 




入った瞬間から最上位の毒をくらいHPが減り
腐食のせいで装備品の耐久値が、使う度にアホみたいに減り(装備してるだけなら問題なし)
祟りで状態異常耐性が極振りレベルまで下げられ
汚染の効果で状態異常の効果が倍加する
なんというクソフィールド

-追記-
※主人公は、運良く同行者に自分の装備の効果を発揮させられただけであって、常人がやった場合基本成功しません。Lukは今日も地味に働いてます。


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第33話 第2回イベント3日目②

 全速でバイクを走らせる事小一時間、漸く地平線の辺りに巨大なものが見えてきた。土や岩などはちゃっかり回収している。

 

「大量の鳥居に、空から生える木か……」

「嫌な、感じがします」

 

 太い物以外枝のない禍々しい巨木が天から生え、その枝を封じるかの様に大量の鳥居が刺さっている。なんだか色々混じり過ぎて判別つかないけど、良くないものって感じはする。登って行ければ地上に出られる気がするが、強引な突破は得策じゃないだろう。

 

「あらあら、ようこそおいでなさいませ。我が領域、日の届かない常闇の国へ」

 

 現にこうして、気配はボスな上に言語を解するなんて明らかに強キャラと対面しているのだから。突然バイクの前に出現したこのNPCと思われる女性のせいで、やむなく停止を余儀なくされている。

 

 対面してるのに名前の表示は????。背丈は大体俺と同等、長い黒髪と整った容姿。茶色を含んだ濃い緑がベースになった和服に血の様な赤い帯を締め、簪を刺し煙管を手に持っている。けれどその気配はギリギリ倒した【The Shield criminal】が雑魚に思えるほど強大で、敵対したら死しかあり得ないだろう。

 

 藜さんに合図して揃ってバイクから降り、無駄かもしれないけれど単車状態に戻す。保険は出来るだけ掛けておくべきだ。

 

「あら、そんなに警戒しなくても良いのよ? まだ、妾は何もする気はないのだから」

「へえ、『まだ』ですか」

 

 微笑む奴に対して、俺も適当に笑顔で答える。これは選択肢を間違えたら即BADエンドになる気配しかしない。けれどそれは、好感度的な何かが悪くない間は対話が成立するという事でもある。

 

「それで、貴女の事はなんと呼べばいいですか?」

「姫でもお姫様でも、なんでもいいわ」

 

 まだ機嫌は良さそうだ。即座に何かをされる事はないだろう。そう綱渡りな交渉擬きをしようとしたところで、藜さんが爆弾(比喩)を投げ込んだ。

 

「我が領域って事は、姫様は、ここから出る方法を、知ってるん、ですか?」

「ええ、勿論よ。彼処に大量の鳥居に封じられた木があるでしょう? あそこを登れば無事に地上に出られるわ」

 

 自称姫様の口が悪辣に歪む。はい交渉タイム終了、逃走に頭の中をシフトする。まあ、あと1回くらいは質問できるだろうけど。グダグダ交渉擬きをするよりはこっちの方が早いし、まあいいとするか!

 開き直る俺を揶揄う様な目で見ながら、自称姫はいやらしい笑みを浮かべたまま話を続ける。

 

「勿論、何も条件がないとは言わないけれどね?」

「その、条件って?」

 

 藜さんが質問を投げ返した。けれどその答えは、俺の予想が当たっていればきっと──

 

「「貴方達(俺たち)の内どちらか1人を、我が領域(ここ)に置いていくこと」」

「え?」

 

 目の前の自称姫様と俺の言葉が重なった事に、びっくりした様に藜さんが長めの髪を揺らして振り返る。

 

 蓬莱の玉の枝と桜の枝が日本。トネリコの枝とヤドリギの枝で北欧。杉は……ウルクとかだろうか? 地下に落ちた事とそれらの共通点、そして先程の日の届かないという言葉と数々の状態異常を考えるに、ここが死後の国をイメージしてるのは容易に想像がつく。

 そんな場所からの2人での脱出といえば、片方が代償だと想像するのは余裕のよっちゃんだ。うろ覚えだけど、オルフェウスとかイザナギとかそんな話だった気がするし。サブカルに漬かった日本人を舐めるでないわぁ!

 

「妾、貴方の様な勘のいい人間は、嫌いだわ」

「《障壁》!」

 

 自称姫が手を振り、その後に続く様に足元から巨大な骨がこちらを目指して突き出された。爪の生えた3指それぞれに10枚障壁を展開し、どうにか初撃は防ぎきった。

 

「逃げますよ!」

「はい!」

 

 近くに置いたままのバイクに乗り込み急発進。置き土産として《スタングレネード》を4つ投げ捨てていく。ウィリー状態になってしまっているが、藜さんは振り落とされていない。これなら問題なく使える。

 ウィリーが終わり前輪が地面を掴み、アクセルはフルスロットルのままなのでエンジンが爆音を鳴らして莫大な加速を齎す。背後ではグレネードの炸裂音が響き、自称姫の叫びが爆音混じりに耳に届いた。ああ、やっぱり爆弾は素晴らしい!

 

「逃さないわぁ!』

 

 そんな妙に反響した声の号令によって、有りとあらゆる地面からゾンビや白骨や人以外のそれらが、さながらコミケに来たファンの様に無尽蔵に湧き出てくる。なるほど。姫は姫でも、オタサーの姫だったワケダ。

 そんな俺の思考が読み取られたのか、背後から漆黒のビームが連続で照射されてきた。無論全部躱したが。

 

「あははは! たーのしー!」

「笑ってる場合じゃ、ない、です!」

 

 久々の爆弾ブッパのせいかテンションがMAXになっていたが、確かにこのペースでモンスターをポップさせられ続けたら逃げ切れない。何か良い手はないだろうか。

 

『死霊共よ!』

「「「◼︎◼︎◼︎◼︎ッ!!」」」

「《エンチャントライト》!」

 

 実体のないスペクターと呼ばれる類の幽霊の壁を光属性を付与したバイクで突き抜け、背後から照射された闇色の光線を体を倒してカーブし避ける。その軌道のままゾンビを轢殺し、射かけられた矢を障壁で防いだ時にそれは起こった。ピロンという聞き慣れた受信音。開いたままのマップの上部に出現したメッセージは、愛用する《紋章術》の機能が解放されたというものだった。

 

 本来ならすぐに確認したい物だが、一先ずそれは置いておく。回避と操縦と防御を並行してる今、読む余裕なんて欠片も存在しない。周りを見ても見えるのは敵敵敵敵、骨やらゾンビやらが壁になって迫って来ているのだ。

 しかもこれ、今完璧に包囲された。ちょっとでも思考を逸らして、位置取りを間違えたのか誘導されたのだろう。これは圧殺される感じですわ。やられる気はさらさらないけどね!

 

「足下の鞄の蓋、開けてください!」

「はい!」

 

 後部の簡易ポーチが開かれたのを確認し、バイクを思いっきりターンさせ予備燃料をばら撒く。全方位に飛び出した赤いタンクに入った燃料群は、モンスターの壁にぶつかり中身を四散させた。それに、使わず放置してた『魔法の松明』を投げつけ着火する。

 

「せーの!」

 

 炎上する壁を障壁を使って大ジャンプし、おまけとして爆竹の雨を降らしながら乗り越える。

 着地の衝撃で体を持っていかれそうになりながら背後を見ると、初めてやった手段だったが存外効果は高かった様だ。火を恐れてか、モンスター達の動きがかなり鈍くなっている。もしかしたら、火というか光がダメなモンスター群なのかもしれない。あ、それなら。

 

「ユキさん、あの、指輪を!」

「了解です!」

 

 藜さんも恐らく同じ考えに辿り着いた様だ。防御に回す意識をアイテム操作に振り分け、『太陽の指輪』を取り出し藜さんに手渡す。

 そして折角できた隙なので、運転しながら新しく解放された紋章術の機能を流し読みする。表示されたアシスト画面を斜め読みし、最後のチュートリアルも時間短縮の為スキップ。新しく解放された機能の名前は《紋章創造》、既存の紋章をベースにしたり全くの新規でオリジナルの紋章を作れるらしい。今は無理ですはい。

 

 この間に経った時間は10秒程度だが、前方に魔物が再召喚され始めたため考えを中断し……降り注いだ日光がそれらを焼き払った。日光が射す元は、暗いこの空の中突如現れた晴天。バイクを中心に結構な範囲に現出した、雲1つない快晴の空だった。

 

「どう、です?」

「最高ッ!」

 

 こんな現実的にもシステム的にも狂った現象の原因は、俺が藜さんから譲り受け、今は渡してある指輪に他ならない。

 塗り替えられた晴天から降り注ぐ日光にはゾンビが近寄って来ず、幽霊は姿を溶かし、骨のゾンビは遠巻きから攻撃をしてくるだけ。そんな今までと比べ格段に行動しやすい状況の中、アクセルを吹かし晴天を引き連れて爆走する。

 

『オノレ……小癪ナァ!』

 

 けれど、流石にオタサーの姫は止まらないらしい。矢を回避がてら振り返れば、そこには半分ほど身体を溶解させながらも四足歩行でこちらに迫るあのボスの姿があった。カサカサドロドロしていて、着火されたゴキブリの姿を幻視する。

 

「それなら!」

 

 迷宮では使うことのなかった《対戦車地雷》を5つ投下する。地を這う敵ならこの手に限る(この手しか知りません)

 

『アァアアァァァッ!!』

 

 背後から轟く爆音に身を震わせつつ、どこかへ飛んでいきそうな意識を抱きつく藜さんが引き戻す。なんて完璧なチームワー……頭を冷やそう、今のは俺がどうかしてた。

 

「MPは?」

「長くは、保たない、です。10分くらい!」

 

 一旦気持ちを落ち着けて、冷静に状況を考える。

 恐らくまともなゴールであろうあの逆さ大樹に辿り着くまで、キチバイクの全速力を以ってしても最低30分。燃料は十分あるが、妨害される以上それより長く見積もる必要があるだろう。藜さんのMPが途中で切れる以上危険は大で、敵の数は無尽蔵な上行動は未知数。爆弾の残量は微妙で、活路を切り開くには足りない。よって、この場を打開するに足る残りの手段は……

 

「ニトロチャージャーと、その後の惰性航行」

 

 ニトロでの加速は、別に時間が切れたら即座に減速する様なものではない。ブレーキ無しなら効果時間後大体10秒ほどかけて、最高速から段々と減速するものだ。ならば、減速中に更に加速をブチ込めれば速度は保てる。そしてこんな意味不明な理屈を罷り通らせる方法を、1つだけ俺は知っている。

 

『オノレ、オノレオノレオノレェ! 逃サヌゾ生者風情ガァ!』

 

 後方から飛んできたヘドロや骨の塊、ゾンビやビームを無茶苦茶な操縦と障壁でどうにか回避する。そう、知ってはいても実行出来ないのだ。止まったら追いつかれて負け、意識を別に集中すれば被弾してバイクが壊れて負け、避けたり防ぎ損ねて掠っても横転事故で負け。どうしろと。やっぱりもっと爆弾は持ってくるべきだったと、遅すぎる後悔が頭をよぎる。誰かタクヌークを下さい。

 

「ユキさん、どう、します?」

 

 要は《紋章術》で1、2秒程度でいいから200%くらいまで加速する物を作れれば解決なのだ。消費MPが低いに越したことはないが、まあ俺が【生命転換】で無理矢理供給し続ければその問題は無視できる。問題はそれを作る余裕が無いということで……待てよ?

 

「藜って、手先が器用だったりします?」

「? 多分、人並みには」

 

 それなら、ちょっと環境は悪すぎるけど出来ない事もないかもしれない。まあ、流石に俺と同じ効率を他人に求めるのはおかしいって理解してるし、10分は余裕で待てるから問題なしと判断する。

 先程のメッセージを再度開き、ウィンドウを後ろ手で藜さんの目の前まで移動させる。

 

「なら、ちょっと頼み事があるんですけど、いいですか?」

「なん、でしょう?」

「この状況を打開する為の、切り札を作って貰おうと思って」

 

 そう言って俺は、1つの賭けに出た。

 ちょっと考えれば、俺のステータスとか全部見れるのに気づくだろうし。藜さんはそんな事をしないと見込んでの事だけど、若干の不安はある。要望は伝えて、作ってくれるのを待つしかない。

 このやり取りをしてる間も攻撃が止む事はなく、未だに逆さ大樹は彼方にある。B級パニック映画ばりのカーチェイスは、未だ終わらない。

 




和平とか交渉タイムは爆破されました。
強制的な戦闘タイム。


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第34話 第2回イベント3日目③

どうでもいいけど書いてきたキャラで聖杯戦争が出来そうな事に気付いた。一応キャラ被りなしで、バーサーカーはいないけど。


 藜さんに例の要望を伝え、このなんちゃってカーチェイスに意識を引き戻す。頭上に燦然と輝く太陽のお陰でボスクラスの敵しか近寄ってこないけれど、それはそれで辛いのだ。高難度の弾幕ゲーの様な物だと思ってくれれば良い。]-[|/34<#!とかの弾壁よりはマシだが。

 

『叩キ潰シナサイ!』

 

 晴天を突き破る様に、幾本もの巨大な人の腕が、勿論骨だけで形作られているが落下してくる。地を揺らす振動がバイクの走行を妨害し、必然的に蛇行を要求され距離を詰められる。やってられないったらありゃしない。

 

『突キ刺シ、穿チナサイ!』

 

 次に襲って来たのは、地面を穿ってせり上がって来た骨の槍。超高速再生した竹林の様に続々と生える骨の槍は、勿論モロに食らったら死亡必至である。けれど、一度出てきて攻撃判定が無くなりさえすれば!

 

「そらっ!」

 

 大口を開けて俺たちを食い殺さんと前から迫る腐ったワームを、骨の槍をジャンプ台に見立ててそのまま飛び上がる。けれどそれを狙っていたのだろう、自称姫の号令が響いた。

 

『焼キ尽クシナサイ!』

「《障壁》!」

 

 前方上空に爆弾を投げ、バイクを中心に追随設定で障壁を展開、爆破の衝撃でバイクを地面に叩き落とす。その衝撃に耐えている数秒の間に、直前まで俺たちがいた空間は青い炎に焼き尽くされていた。

 乱暴すぎる運転で本当に申し訳ない。けど逆さ大樹との距離が詰まっていくにつれて、攻撃が凄く激しくなってきてまして。

 

『◼︎ァ◼︎◼︎ェ◼︎ッ!』

「【生命転換】《障壁》《エンチャントライト》!」

 

 この攻撃だってそうだ。視界を埋め尽くすほどの、瘴気を纏った蝿の大群とかほんとどうかしてるとしか思えない。けれど突破しない訳にはいかないので、車体と手に持つ5つのパイプ爆弾に光属性を付与、宙に放り投げ爆破。焼き払い浄化しながら突っ切っていく。

 バイクの残りの耐久値は6,000程度、これは些か以上に不味い。気を抜いたら最後、空中分解して事故死する事になる。運転を任せてもらってる者として、それは最低としか言いようがない。

 

『堕チナサイ!』

「《障壁》!」

 

 迫る黒いビームを感知し、身体ごと大きく倒しターンする。次々と背後の空間を黒が貫いていき、回避しきれなかった最後の一本を障壁で防ぎ、時間を稼いでどうにか逃げ切った。

 そして体勢を立て直して走る事数秒、待ちに待った時が漸く訪れた。

 

「出来、ました!」

「ナイスタイミング!」

 

 随分と久しぶりに思える自分のウィンドウには、認証という文字が書かれた新たな紋章が描かれていた。

 その効果は移動速度+150%、効果時間は1秒、条件は紋章を通過、消費MPは紋章の大きさによる、そしてキーワードは……

 

「《加速》!」

 

 バイクの目の前に直径1m程の紋章を手始めに展開する。円の中にと達筆で描かれている。そして『これでまあ大丈夫だろう』そんな甘い予想をぶち壊すかのように、バイクごと俺たちは発射された。

 

「ぐっ……殺人的な加速だ!」

 

 モンスターに衝突する事で普段の速度まですぐに低下したが、予想以上の大加速に驚かされた。抱きつく藜さんの手も、心なしか握る強さが強まってる様に感じる。これならニトロと合わせれば逃げきれる。そう思った矢先の事だった。

 

『逃サヌ、最早妾ガ直々ニ討チ取ッテクレル!』

「◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎ッ!!」

 

 目の前を大きな影が通り過ぎ、次の瞬間その全容が露わになった。進路を妨害され、必然的にバイクを停止させられた。

 所々が腐り落ち骨を露出させた、1枚だけの翼を持った巨大なクサリヘビの様な化物。それが目の前に降り立ち、身の毛もよだつ悍ましい咆哮を発する。名前は【Hunter Farewell】いかにもこちらのSAN値を削ってきそうな見た目だ。

 

 けれどそれよりも目を引くのは、その頭部に存在するあの姫の成れの果てと思しき化物の姿だった。

 遭遇した時は整っていたその顔は正中線から右はグズグズに溶け落ち、左は完全に白骨化している。右の眼は獣の様な黄色に染まりギョロギョロと動き回り、左はポッカリと眼窩に黒い穴が空いているのみで元の名残は存在しない。綺麗だった和服もボロ切れの様になり、手の先から得体の知れない液体をボタボタと落としている。堪えようのない腐臭が漂ってくるし、はっきり言って吐き気を催すボスだ。

 名前も???から【伊邪那美之姫】に変わっており、表示されたHPバーは10段。あ、これあかん奴や。

 

「うっ……」

「多分、藜はこれは見ない方が……遅かったみたいですね」

「いえ、大丈夫、です…」

 

 背後で藜さんが深呼吸している音が聞こえる。火薬か腐臭だったら、火薬の臭いの方が圧倒的にマシだろうしね。

 目の前には最上位(推定)のボスが2体、背後及び周囲には大量のF.O.E級の敵&雑魚モブ。逆さ大樹までの距離はあと僅か、無茶をすればここを脱出する事は出来るだろう。

 

「藜、絶対振り落とされない様に、捕まってて下さい」

 

 そう言って俺は大きく深呼吸をし、意識を限界まで集中させる。周りの音が遠くなり、感覚が鋭敏化していく。ボス共が何かを言ってくるけど聞こえない、目指す場所は地上。天を貫くドリルはないけど、運と速さは持っている。

 

「3、2、1……」

 

 エンジンが唸りを上げる。HPMP共に満タン。バイクの残存耐久値は6,000。準備は、整った。

 

「Go!」

 

 アクセルを全開、最高速に達したと同時に障壁で大ジャンプをかます。攻撃を感知。方向は6時、4時、7時。加速の紋章を展開、空中で加速しバイクごと自分達を射出する。

 

 伊邪那美之姫の騎乗する化物の尻尾が迫っていることを確認。

 車体を倒し、尻尾を一時的な壁面として走行し再加速。

 車体の傾きをカースの暴発で調整……躱した尻尾とは逆側面からの攻撃を確認。

 車体の傾きを変更し、迫る巨大な骨腕を壁面走行を応用し再加速の踏み台とする。

 回避を確認、衝撃を伴い地面に着地する。未だに頭上の晴天が健在な事を確認、ニトロのスイッチを入れる。

 

「【生命転換】《加速》!」

「くぅっ」

 

 後ろから微妙に辛そうな声が聞こえたが、それもそうだろう。倍速中に更に加速を重ねている現状、感じるGは体感だが旅客機の離陸時を超えている。操縦士保護機能がなければ、とっくに吹き飛ばされている事だろう。

 俺と同レベル帯の極振りすら超えた速度にボス共との距離が急激に開いていき、対照的に逆さ大樹との距離はあり得ない速さで短くなっていく。

 

 ボス共からの攻撃が届いてない今こそが好機。数秒毎に加速の紋章を必要最小範囲で展開し際限なく加速、障壁でよくアニメとかに出てくるマスドライバーの様な()()()を形成する。

 

「このまま振り切って、脱出します!」

 

 そしてそのまま、勢いよく俺たちは射出された。空中での加速も忘れない。

 その軌道は、大樹に対する漸近線の様なものが1番近いだろうか? 俺はそこまで数学に詳しい訳でもなく、そもそも大樹の幹に着地するのだから間違いだが多分これが1番適切だろう。

 

「ぐ、ぬっ……」

 

 そして、着地した大樹の幹を地上と何ら変わりない速度で駆け上って行く。所々にある節くれを避けながら進んで行くが、正直もう集中が限界だ。2度とあんなスレッスレの走行なんかするもんか。

 

『巫山戯ルナァ!』

 

 最後の足掻きかバリバリと幹が捲れ上がり、こちらの走行を妨害しようとしてくるけど甘い。練乳にグラニュー糖を混ぜたレベルで甘い。この程度の道を抜ける事程度、さっきまでと比べたら児戯にも等しいわ!

 

「ユキ、さん!」

 

 幹を駆け上がって行く最中、ふと藜さんが声をかけてきた。一体なんだろうか? 何か落としたとか?

 

「もっと、速くが、いいです!」

「了解です!」

 

 そんな事を言われたらもっと先に、もっと速く、もっともっと加速するしかない。恐らく境界だと思われる、少し先にある空間を隔てる様に揺らめく幕。全開でそこまでぶっ飛ばして上げようじゃないか。

 

 紋章を0.5秒毎に突き抜け、加速中に更に加速を重ねに重ねていく。

 速度上昇、速度上昇、速度上昇──音速突破(オーバーヒート)

 いつの間にかタイヤは地面を掴まず、車体は空中を宛ら1つの弾丸の様に飛翔していた。私は1発の銃弾……と、どっかの決め台詞でも言いたい気分だ。

 そして飛翔する事数秒、揺らめく幕を俺たちはなんの抵抗も無く貫いた。けれど、妙に加速した認識の中で目の前に1つのウィンドウが開かれた。

 

====================

【警告】

 貴方達は、正規の脱出方法以外での脱出を試みています。

 賞賛すべき事ではありますが、フィールドボス【伊邪那美之姫】を説得or撃破していない為、ギミックとして幾つかのデメリットが発生します。

 ex)

 現在の装備中の装備を、デメリット付き装備に強制変更(イベント終了時まで変更不可)

 極大のデメリットがあるスキルの強制取得(イベント終了時まで強制装備)

 イベント終了時まで獲得経験値1/10

 

 複数人で引き受けた場合、デメリットの内容は分割されます。このデメリットはどちらか1人が引き受ける事で、もう1人は回避する事ができます。

 また、このデメリットを引き受けた者は、フィールド【死界】から脱出した報酬は消滅します。しかし脱出に成功した実績を加味し、配布される装備の性能は専用に調整されます。

====================

 

 ふむふむ。とりあえず、こんなのを女の子に背負わせる訳にいかないでしょう!

 

「デメリットは、俺が全部持っていく!」

 

 ー了承ー

 

 藜さんの驚く雰囲気を感じながら、閃光に包まれ──気がついたら、狂った様な雨の中に飛び出していた。

 

「うっそん」

「ッ!」

 

 眼下に見えるのは、一面ぐじゃぐじゃの地面。バイクの加速は未だ衰える気配もなく、耐久値は2,000まで落ちている。このまま着地したらバイクも俺も藜さんも纏めてお陀仏だろう。

 

「まだだァ!」

 

 残りのMPは200程度。再び集中した意識の中、あの紋章作成画面を開く。そしてベースに藜さん作の加速を設定、そして全パラメーターを反転させ決定ボタンを押す。即座にその紋章は認証された。

 その効果は、移動速度-150%な事以外は元にした加速と同じ。発動キーワードは……

 

「《減退》!」

 

 減速じゃないのかと思いつつも、大破寸前のバイクを収納して相変わらず達筆なの文字を突き抜け減速していく。そして、十二分に減速したところで気づいた。装備が変わっている。これが多分デメリットなんだろう。

 

 体装備はコズミック変質者が着ていた様なボロ切れ。一応、何かを下に着てる感覚はあるからセーフだ。手装備は右手にだけ禍々しい気配を発する黒い数珠。足装備は……多分このコートの中を見えない様にしている黒い闇だろう。靴装備は……名前的に、足首に巻かれた藁の残骸か。そして頭装備は、多分お札っぽい感触の小さな耳飾り。この分だと、長杖の方も変えられているだろう。

 

「すみま、せん!」

 

 そして、減速は完了した筈なのに、後ろから藜さんがぶつかった事により、俺のHPはあっけなく0になった。

 

 見た目はこの際いい。装備する事でのデメリットも、望んで引き受けた物だから許容するつもりだった。スキルのデメリットも、効果相当だと黙認したかった。

 

 だけどさ、運営さんよ。後1日は残ってるのに、合計で()()()()()()()()ってどうなのよ?




現在のユッキーの状態
・極振り
・被ダメージ25倍
・スキル効果でLuk以外のステータス-50%
・獲得経験値1/10
・残機 0

-追記-
主人公の難易度変化を分かりやすく。
虫姫さま→]-[|/34<#!

加速は、某カーレースゲームの赤キノコ。効果時間後の減速的な意味も。
減退は、もう少し対応範囲が広くなって消費が重くなってるが、上記の効果が反転したもの。


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第35話 第2回イベント3日目④

こっそり新連載(ダイマ)


《コンティニューしますか?》

 回数 残り0回

 Yes/No

 

 ため息を吐きながらYesのボタンを叩きつけるように押し、最後のリスポン権を行使する。どっかの語り部キャスター並に慎重を期しても、多分これ生き残れないよなぁ……

 

 さっきからずっと何かの受信音が止まらないけど、一先ずそれは意識の外に置いておく。怖いし。

 

「すみま、せん」

「いえ、元々俺の耐久なんてこんなものなので。藜が気にする必要はありませんよ?」

 

 なんだか申し訳なさそうにしょんぼりしてる藜さんの頭を、ポンポンと優しく撫でる。……あっ。やらかした。というか雨うざったいし障壁張っておこうそうしよう。

 

「デメリットも、全部、なのに……ふわっ!?」

 

 流れが良くない方向に傾きそうだったので、多少乱暴に頭を撫でる。折角通常フィールドに戻ってきたんだし、そういう話題は無しだ無し。

 それによくよく考えれば、デメリットはあまり意味をなしてないし。被ダメは元々当たる=死ぬだし、Lukが生きてるから行動は特に問題がない。経験値は普段からデスペナ中に行動してるくらい、ハッキリ言って気にしてない。いつかなるのが確定していた残機0以外、普段と何も変わらない。

 

「そんな事より、どこか落ち着ける場所でも見つけてご飯にしましょうよ。折角、あんな場所から脱出できた事ですし」

「むぅ……ユキさん、ずるい、です」

 

 両手で頭を押さえてこちらをキッと睨んでくるけど、身長の関係上上目遣いになってるし全く怖くない。寧ろ、可愛いといって憚ることはないだろう。

 

「ずるくて結構ですよ」

「うぅ……」

 

 頭を撫でてから周りを見渡してみるけど、今度は本当に何も見つからない。視界は相変わらず強すぎる雨で遮られ、この天候の場所に初めて降り立った時とは違い確認できるものは何もない。指輪での天候書き換えも範囲が足りないし、望遠の紋章とか作れないだろうか? 望遠したとしても見えないじゃん。馬鹿かよ俺……疲れてるんだなきっと。

 

 目頭を押さえて目と頭を軽く休ませていると、この頭のおかしい豪雨の中でもよく通る爆音が耳に届いた。

 

「暴走族、です?」

「いや、多分この音は……」

 

 目を凝らして周囲を探していると、多少遠くではあるが光の群れ……バイクのライトの光を視認することが出来た。その数14、これはもう確実にあの人達である。

 

「あっちですね。運が良ければ知り合いですけど、行きます?」

「仕方、ないですね。行きます」

「了解です」

 

 そう言って俺は藜さんの手を握る。バイクは大破しかねないから出さないけれど、使い勝手の良い紋章を2つも先程手に入れている。要するに、移動手段がないなら脚で稼げばよかろうという事だ。

 普段そんな高速移動をすることの無い俺は兎も角、藜さんの戦闘スタイルからして高速移動はきっと問題ない筈だ。

 

「えっ?」

「それじゃあ行きますよ。《加速》!」

 

 全力で踏み切り、加速の紋章を潜る。グッと加速による圧を感じ、俺たちは雨の中を鉄砲玉の様に飛び出した。尚、俺の全力の踏み切りと藜さんの戸惑い気味の一歩が同速だった事はここに記しておく。

 

 ・

 ・

 ・

 

「なるほど、そういう経緯で俺たちを頼ったという訳か。新手のモンスターかと思ったぞ」

 

 あれから数十分。シドさん率いるバイク艦隊に合流した俺たちは、拠点にしているらしい洞窟に招待してもらっていた。散々カスタムされて、最早中身は洞窟とは言えないレベルではあるが。

 ちなみにシドさんはバイクから分離している。流石にあのままだとご飯が食べにくくてしょうがないとの事だった。

 

「俺じゃなきゃ死んでましたよほんと。まあ、いきなり押しかけたこっちが悪いってのはわかりますけど」

 

 合流する時は、無事とは言えない接触だった。今シドさんが言ってた通りモンスターと思われ、銃やら魔法やらがかなりの量飛んできたのだ。減退と障壁で全部すり抜けたけれど。

 

「それにしても、人間とは思えない回避方法だったな。お前、ちゃんと人間だよな……?」

「失礼な。あれくらい誰にでも出来ますよ」

「はぁ……」

 

 化け物扱いされた挙句、ダメだこいつと言わんばかりの大きな溜息が返ってきた。解せぬ。

 

「スキルの補助込みで、銃弾を弾いて魔法を減退させて回避しただけじゃないですか」

「うちにも紋章術を使う奴がいるから聞くがな……その減退ってのは知らないが、障壁の設定を言ってみろ」

「展開時間1秒、直径30cm以下ですけど?」

 

 そうでもしないと硬さが足りないんだから仕方がないだろう。

 

「普通は、基準値から減らすなんてねーから! 減らしても展開時間だけで、それでも30秒くらいまでだ!」

「そんな怒らないでくださいよ。あのシドさんのロボットアームを防いで、無傷でやり過ごしただけじゃないですか」

 

 そう、遭遇時俺たちはシドさんにも攻撃されている。剣の装着された宙に浮かぶロボットアーム……具体的に言えばワイゼルアタック3で、思いっきり刺突されたのだ。ボスより火力が低いので障壁だけで軽く防御できた。流石に弾幕も、リーダーに超接近してればないしね。

 

「はぁ……あの一撃は、俺の最大火力に近いんだぞ?」

「レイドボスよりは火力低いじゃないですか」

「基準が狂ってんだよお前は……」

 

 色々情報を交換した結果、どうやら【The Shield Criminal】も【伊邪那美之姫】も所謂レイドボスに分類されるボスだったらしい。レイドボスを2人で撃破とか笑える話だ。

 

 そして、客人である俺とサブマスのシドさんがこうして話していられるのには幾つかの理由がある。1つ目は、この集団にいた女性陣が何故かある風呂に入っていること。藜さんも入ってるそうだ。2つ目は、残りの男手の半分くらいがバイクの修理を行なっていること。俺のバイクも混ぜてもらった。3つ目が、普通に索敵。そして最後が……

 

「Luk以外のステータスがマイナスな上、被ダメージが25倍なんだろ? それでまだ生きてるとか、化け物だろお前」

「普段から極振りですから」

 

 普通に憐れんで保護してもらった。

 とか言いつつも、一応保険はかかっている。装備の方はデメリット以外が???なので説明できないが、狂ったスキルの効果のお陰であと1回は確実に死ねるのだ。そのスキルの効果がこれだ。

 

 

【常世ノ呪イ】

 隠世から齎される無限の咒

 自身のHPが0になった時、確率で10%の値でHPを回復させ復活する。復活する度、蘇生確率は減少する

 復活後、自身に腐蝕・獄毒・祟り・汚染の状態異常を付与する。また、復活の度に移動速度を10%ずつ低下させる。この効果で移動不能にはならない

 

 Str -50% Vit -50%

 Int -50% Min -50%

 Agl -50% Dex -50%

 

 効果時間 : 戦闘終了まで/時間が30分経過

 

 

 復活後はあの【死界】の環境に置かれる訳だが、確実に狂っている。復活効果とか聞いた事もないし。だから、一応デメリットしか説明してない。

 

「それより、そろそろ俺は休ませてもらっていいですかね? 正直に言うと、集中のし過ぎで頭が痛いんですけど」

「ああ。俺たちはまた出撃するが、ここの一角を貸し出そう。ゆっくり休むといい」

「ありがとうございます」

 

 そう言われ俺は、ちょっとした個室に案内された。大きなベッドが1つあるだけの、特に何もない場所だ。

 

「さて、後は……返信だ」

 

 溜息を吐きながら、俺はウィンドウを開き続いてフレンドメッセージの部分を開く。そこには、25件の未開封メッセージがありますという表示。因みに、全て発信元はセナだ。

 

 大丈夫? という質問から、もしかしてもう脱落しちゃった? とかいう心配になり、ユキくん、ちょっと掲示板の事について聞きたいな? ちょっとユキくんとお話ししたいなー、と段々悪化していっている。コワイ!

 何もアクションを起こさず再会した場合、確実にアンブッシュからのインタビューを食らいしめやかに爆発四散する未来が見えている。

 

「えーと、とりあえず『今まで返信できなくてごめん。あと1日だし、帰ってからゆっくり話そう』って返しておけばいいか」

 

 何この完全に浮気がバレた夫の文面。そんな考えが頭に浮かぶが、先程言った通り過度の集中を続けたせいか疲れが酷い。気を緩めたからか、疲労がどっと押し寄せてきた。

 

「偶には、昼寝もいい文明……」

 

 メッセージの送信を確認後、ボフンとベッドにダイブする。ゲームだから気分以外に風呂に入る意味もないし、装備も乾いてるからなんの問題もないだろう……zzz

 

 

【雑談】イベントリタイアした奴が集まるスレ

 

 1.名無しさん

 さて、イベントも結構な時間が経ったしそろそろ脱落者も増えてきただろう。どうせ暇だろうし、死因上げていこうぜ!

 因みに俺は、でかい鹿に挑んですぐ死んだ

 

 2.名無しさん

 >1

 おまおれ

 

 3.名無しさん

 俺は蛇に丸呑みされたなぁ……

 

 4.名無しさん

 蝙蝠にバラバラにされました

 

 5.名無しさん

 火山で焼け死んだ

 

 6.名無しさん

 氷山でブリザード、吹き飛ばされてクレバスへ

 まさかの餓死

 

 7.名無しさん

 虫に負けて虫だらけの場所に連れ込まれて捕食された

 R指定がなかったら苗床エンド

 

 8.名無しさん

 >7

 うわえぐ

 

 9.名無しさん

 お前らはいいよな……俺なんて、ロクに冒険すら出来ずにリタイアだぜ?

 

 10.名無しさん

 >9

 kwsk

 

 11.名無しさん

 天候効果か? でも知ってる限り、即リタイアレベルの天候なんてほとんどないぞ?

 

 12.名無しさん

 嵐天での戦闘とかは遠慮したいな。あれは死ぬ

 

 13.名無しさん

 ブリザード舐めんなよてめえ

 

 14.名無しさん

 火山だっておかしいからな!

 

 15.名無しさん

 どこも死界よりマシだろ……開始10分で4killされたんだぞ俺

 

 16.名無しさん

 勿体ぶってないではよ、はよ

 

 17.名無しさん

 あくしろよ

 

 18.名無しさん

 かしこまり!

 まず転移完了前に『あなたは特別なフィールドに転送されようとしています。転送先のフィールドの難易度は極めて高いです。通常フィールドに変更しますか?』ってメッセージが来たんよ

 勿論こんなん俺TUEEEEE展開かと思ってNo押すじゃん?

 転移すんじゃん?

 死ぬじゃん?

 死ぬじゃん?

 死ぬじゃん?

 死ぬじゃん?

 リタイアじゃん?

 

 19.名無しさん

 おいちょっと待て何があった

 

 20.名無しさん

 今明かされる、衝撃の真実ゥ〜

 

 21.名無しさん

 転移直後から獄毒でHPがガリガリ削れるじゃん?

 腐食で装備の耐久値がゴリゴリ削れるじゃん?

 祟りがそういう耐性を削ってくるじゃん?

 汚染のせいで状態異常の効果が倍じゃん?

 出てくる敵は、ほぼボス級じゃん?

 じゃんじゃじゃーん!(死亡)

 

 22.名無しさん

 うわキツ

 

 23.名無しさん

 プレイヤー殺す気しかなくてワロタ

 

 24.名無しさん

 忠告無視したお前が悪いな

 

 25.名無しさん

 俺がいた天上とは全く逆の環境だな

 なんでここにいるのかって? ボスに鏖殺されたんだよ察しろ

 

 26.名無しさん

 地上・天上・死界……色々あったんだなぁ……どれも堪能できなかったよちくしょう……

 

 27.名無しさん

 フィールドにいる普通のモンスターがあのレベルとか聞いてないっつーの。戦闘中に乱入してきやがるし。クソかよ。バランス調整してねえだろここの運営

 

 28.名無しさん

 >27

 世界○の迷宮シリーズをご存知でない?

 準備も出来ずに戦いに挑んで死ぬのは恒例行事として、それを罵倒するのはなんかなぁ

 

 29.名無しさん

 そもそもイベント関連のページを読めって事だよな

 読んでおけばやべーやつがいるってのはわかったし

 

 30.名無しさん

 普通にパーティ単位で挑めば勝てないこともないしな(鹿は)

 

 31.名無しさん

 俺は極振りが一撃で蒸発させてるのをみたんだが

 

 32.名無しさん

 >31

 あいつらは変態だから

 

 33.名無しさん

 >31

 キチガイを引き合いに出しちゃダメです

 

 34.名無しさん

 >31

 山を斬るような奴らは比べたらダメよ

 

 35.名無しさん

 >31

 ダンジョンを1つ丸ごと消しとばす輩を出すのは、申し訳ないがNG

 

 俺も、極振りにしてみようかなぁ……

 

 36.名無しさん

 >35

 やめとけ

 

 37.名無しさん

 >35

 最近の極振りスレ見てこい。

 Luk極振りがやってる事が出来るんなら、やってみるんだな

 

 38.名無しさん

 諦めた

 

 39.名無しさん

 >38

 速えwww懸命だな

 

 40.名無しさん

 >38

 あいつら真性の変態共ですら、純正の極振りは幸運と……ちょっと前に戻ったIntの魔法使いだけだしな。

 

 41.名無しさん

 こうして俺たちは、変態に吊られてゲームを引退する奴を1人助けたのであった……

 

(以下雑談)




移動手段がない=アシがない って表現、差別用語らしいですね。同じ理由で、片手落ちとかもダメなんだとか。言葉狩りみたい
確かにほぼほぼ見ないと思ってたけど、中々面倒だなぁ…


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第36話 第2回イベント4日目①

 ユサユサと、寝ている身体が揺さぶられる感覚を覚えた。確か昨日はシドさんのとこのギルドに甘えさせてもらって、そのまま疲れてたから寝て……ああ、確かセナにメッセージを送ったんだったっけ。

 

「ごめんセナ……あと五分」

「ユキさん、起きて、ください」

 

 寝ぼけ頭で答えた俺に、いつもの様な返答(物理)は返ってこなかった。疑問に思って目を開けると、そこにいたのはセナではなく藜さんだった。その顔は、どことなく不機嫌そうに見える。

 

「ふわ…おはようございます」

「おはよう、ございます。それで、その、セナって子、誰ですか?」

「前に言った幼馴染ですね……偶に居眠りしてると物理で起こしてくれたり、なんだかんだ付き合い長いです」

 

 大欠伸をしながら、俺は答える。というか今は何時なんだろうか? メニューを開いて確認すると、時計は0:02を示していた。どうにも半日ほど寝ていたらしい。

 

「女の子、ですか?」

「女の子ですね」

 

 むっと明らかに藜さんの雰囲気が悪くなる。俺、変なことでも口走ったか? いやまあ、それは保留だ。

 

「そういえば、なんでこの時間に?」

「ギルドの人が、『ご飯を持って行ってあげて』と、言ってたので。多分、絶対喜ぶからって。なんで、ですかね?」

「さあ…?」

 

 適当に誤魔化したけど、明らかに支部の人達俺たちの関係誤解してるよな……言い逃れできないのも確かではあるが。多分絶対って、ちょっと考えてみたら物凄く矛盾してるんですが。

 とりあえず綺麗なサンドイッチを受け取り、ベッドの上に置いておく。食べながら話すなんて、行儀が悪すぎるからね。

 

「後、コートを返すのと、シドさん? が、準備が出来たら来る様にって、言ってました」

「マジですか……」

「マジ、です」

 

 丁寧に畳まれたコートを受け取り、話が一段落ついた気配を感じたのでサンドイッチに手を伸ばす。いただきますと手を合わせてから、いざ食べようと思った時に気がついた。

 

「えっと、藜はなんで隣に?」

「ダメ、ですか?」

「ダメじゃないですけど……」

 

 そんな聞き方されたら断れない定期。冗談は置いておいて、ベッドの隣に腰掛けられると普通に緊張する。何故かこっちをジッと見てるし。絶賛思春期中の高校生に、ちょっとこれは刺激が強すぎませんかねぇ?

 あ、このサンドイッチ普通に美味しい。ここ数日、単純に焼いた肉とパンと野菜だけだったから、宝物庫で拾った限られた範囲じゃない、多様な調味料の味が素晴らしいと思えてくる。

 

「どう、ですか?」

「えっと、凄く美味しいですよ?」

「やった」

 

 そんな言葉が小声ではあったが聞こえた。そしてパッと見分からない程度ではあるが、藜さんがガッツポーズをしてるのを確認できた。なんで分かるのか? 空間認識能力パイセンだよ。ここ数日、目を覚ましたら即座にスキルを全部再起動してるからね。周囲の事くらいは余裕を持って認識できる。

 

 態々表沙汰にする事ではないので、知らなかった事にして恐らく藜さん手作りであったサンドイッチを完食する。誰かと一緒にじゃなくて、誰かに見られながら食べるのってなんか凄く緊張した。

 

「ごちそうさまでしたっと」

 

 おきまりの文句を告げて、遅すぎる晩御飯を終える。よく視れば藜さんも、結構眠たそうにしている。

 

「くぅ……」

 

 というか寝ていた。俺にもたれかかり、コツンと頭が寄せられている。軽く頭を撫でてみるけど起きる気配はないし、藜さんは本当に無防備だ。

 

「普通なら、何されても文句言えませんからね?」

 

 俺じゃなきゃ、絶対に襲われてるだろう。サラサラとした髪、風呂のお陰か香る良い匂い、完全に無防備な寝顔。全く、俺じゃなきゃ襲うわこんなん。大事なことなので二回考えた。

 心の中で深く溜め息を吐き、藜さんをベッドに寝かせる。掛け布団も掛けておこう。

 

「それじゃあ、シドさんに会いに行きますかね」

 

 俺に出来るのはこれくらいだ。部屋のドアを閉め、適当にこの施設内をぶらつきながらシドさんを探す。あの人が俺を呼ぶとしたら……やっぱりバイクか?

 

「すみません、バイク置いてある場所ってわかりますか?」

「向こうですー!」

 

 近くにいた人に聞き、格納庫というらしい場所に進んでいく。数十分かけ漸く辿り着いた格納庫では、仁王立ちしたシドさんが待っていた。

 

「随分遅かったな」

「行き先を聞く前に、藜さんが寝ちゃいまして。後、Agl0を舐めないでください」

「お前は、そう言えばそうだったな……」

 

 頭に手を当てたシドさんが大きな溜め息を吐く。まったく、現在の俺の速度はシステム上の最低値なんだからな。加速を使わない限り、まともな速度を出せるわけがないのだ。

 

「それで、話があったそうですけどなんでしょうか? ここの使用料って言うなら、今すぐ藜さんの分まで払いますけど?」

「ああ、それは本題じゃないんだが……まあこっちが先でいいか。2人分で、合計10,000Dだ」

「どーぞ」

 

 とりあえず勝手に藜さんの分まで、料金を払っておく。今まで散々お世話になったからね。

 

「それで、本題だ。勿論、直してたバイクについての話だ」

「あー、確かに耐久度をアホみたいに減らしちゃいましたけど……それですか? 代金嵩みます?」

「そっちは50,000Dだ──って、そうじゃない。はぁ……お前と話してると、無駄にペースを乱されるな」

 

 一際大きな溜め息を入れてから、シドさんは話を続ける。勿論代金は払った。俺のゲーム内の資金力を舐めるでないわ。

 

「直してて気づいたんだがな、完全にこいつは呪物……悪い効果はないから、一応分類は魔導具になるか。殆ど生きてると言って過言じゃない状態になってやがる。お前は、一体どこでこいつを走らせてきたんだ?」

「地獄を」

 

 あの場所はそう言って過言ではないだろう。ガチで地獄みたいな環境だったし。食べ物? あれは元々の準備不足だからノーカンで。

 

「はぁ……深くは詮索しないが、あの子をあまり無茶に巻き込むなよ?」

「もしかして、何かありました?」

「ああ。うちの女性陣に囲まれながら『ずっと、頼りっぱなし、だったから』って言って料理してたぞ。随分とアレじゃねえか」

「俺としては、十分に頼ってたつもりだったんですけどね……」

 

 戦闘全般は藜さんに任せっきりだった訳だし。サポートしてたとは言っても、普段やってる事をちょっと本気に変えただけだし。

 

「それに、別に俺たちってそういう関係じゃないですよ?」

「は?」

 

 シドさんが、心底分からないといった表情に変化した。実際、彼氏彼女とか惚れた腫れたの関係じゃないのは確かだし。……無視する訳ではないけれど。

 

「よし、1発殴らせてもらう」

「いやいや、困りますよ死んじゃいます」

「知るか! 問答無用だおら!」

 

 そこは俺の範囲内だから、簡単にそんな攻撃を食らったりはしない。長杖を取り出し、意識を集中する。

 シドさんの踏み出した右足が降りる直前に、右足の下に脆い障壁を精製、ワザと微妙な抵抗で踏み砕かれる事でバランスを崩させる。打ち出されそうになっている拳を減速、バランスを崩した足の後ろに流れる動きを加速。

 結果、確実に人体に良くない格好でシドさんは転ぶ羽目になった。

 

「うぐぉ……」

「俺の残機、もう残ってないんですから。全く」

 

 そう言って何気なく取り出した長杖を見て、これはあまり人目に触れさせられないなと嘆息する。

 

 本来なら様々な素材で作られている筈の支柱の部分は明らかに人か、人に類する生物の前腕部が組み合わさり捻れ形成されている。杖の形状自体は至ってシンプルだが、頭頂部に頂く燻んだ紫の宝珠の設置方法がまたいけない。大口を開けた蛇の頭部、その骨が噛み付く様に固定しているのだ。非常に精神的に悪い杖である。

 

 必要に迫られない限り取り出すまいと決心し、即座に仕舞い封印する。これでよし。

 

「で、バイクが変化してたって言ってましたけど、何がどう変わったんですか?」

「耐久値が微妙にではあるが自然回復するようになり、特定のエンジン音にダメージと状態異常判定が追加された。その代わり、燃料は食う様だがな」

「いつも満タンなので関係ないですね」

 

 勝手に予備燃料から補充してくれるから問題ない。今はかなり減ってるけれど。それにしても、随分と便利になったなぁ。因みにシドさんは、未だに床冷てぇ状態だ。アレか、ブチン状態リスペクトということか。

 

「そして、名前を付けてやるといい」

「名前?」

「ああ、名前だ。誰しも、種族名で名を呼ばれたくはないだろう?」

「なるほど」

 

 確かにその意見は一理ある気がする。確かに俺も、ヒトだなんて呼ばれたくはない。バイクに感情がある事前提な話だが。

 選んだ元ネタそのままという訳にはいかない。かと言ってフェンリルじゃ元ネタに辿りつかれかねないし、そういうモンスターがいそうで困る。後他にネタになりそうなものと言えば……ヅダ、デュバル少佐、土星エンジン、クロノス、袋小路阿修羅さん……やっぱりやめておこう。

 

「なら……ヴァンで」

 

 元ネタから離れてないけど、まあこれでいいだろう。音の響きもワンに似てるし。夜明けだったり鋼鉄だったり、調味料ジャンキーにならない事を祈ろう。

 

「よし、これでお前のバイクのぐぼぁ!?」

 

 名前を決めてから数秒後、思ってもみなかった現象が起きた。少し遠くの場所でエンジン音がし、俺のバイクが何故かこちらに向かってきたのだ。シドさんを轢いて俺の前に停車した愛車は、どことなく生き生きしてる様に見えた。我が愛車ながら、たまげたなぁ。

 呼ぶと来るバイク……いいね、ロマンがある。けど今このままにしておくのはアレなので、アイテム欄にお帰り頂く。

 

「シドさん、大丈夫で……ダメみたいですね」

 

 ヴァンに轢かれたシドさんは、見事に白目を剥いて気絶していた。すげぇよシド……ここまで元ネタに忠実だなんて、中々出来る事じゃないよ。

 

「よっこらせっと」

 

 ならばもっと忠実にする為に、再現する事に手を貸そうじゃないか。

 シドさんの体をひっくり返し、腰に佩いていた剣を抜く……のは無理だった。仕方ないから長杖を取り出し、床にプラ/シドさんと文字を刻みこの場を立ち去る。いやぁ、良い仕事した。

 

「さて、帰りま……あ」

 

 このまま自分の部屋に帰ろうと思い、部屋の現状を思い出して足が止まる。今までは不可効力で言い訳が出来るにしても、流石にこのまま帰って同じ部屋で寝るのは外聞が悪い。

 

「今日も徹夜かぁ……」

 

 結論として導き出される最善策は、今日も徹夜で何かをして時間を潰す事。ドロップ品の整理もしてなかったし、ある意味ちょうど良いかもしれない(自己弁護)あ、ファンネルドロップしてる。部位破壊ボーナスか、やったぜ。

 

「虚しい……」

 

 なんか悲しくなったので、頭の運動がてらギルド内を加速で走り回ってみた。翌日、深夜に幽霊が出たという話を聞いたけど、俺は悪くねぇ!

 



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第37話 第2回イベント4日目②

投稿ペース戻ります


 ドロップ品を確認したりニュルンとギルドを徘徊したりして遊び、時間を潰す事数時間。イベントの最終日が始まった。

 

「ふわぁ……おはよう、ございます」

「おはようございます」

 

 充てがわれた自室の扉の近くで待機していた俺に、小さく欠伸をする藜さんが挨拶してくる。瞼を擦って眠そうだし、もしかして朝に弱いとかだろうか。

 

「ふひゅう……」

「おっと」

 

 空気の抜ける様な声を出し、倒れそうになった藜さんを抱きとめる。うわHP減った。それはそれとして、ゲームでも寝癖とか出来るんだね。その寝癖で跳ねた髪を押さえれば、そこにはなんとあら不思議。美少女を抱きとめる全身襤褸ローブの変態の姿が!

 ちょっと待ったそこの女の人。そんなにキャーって感じの表情でこっちを見ない。見世物じゃないんですよ! 加速で転ぶがいい。

 

「みゅ……ユキ、しゃん?」

「そうですよー」

 

 寝癖を優しく撫でつけながら、なんとなくそう答えてみる。その状態で固まり、眠そうなトロンとした目で見つめられること数秒。目がカッと開かれ藜さんの顔が急速に赤くなっていく。

 

「な、なっ……」

 

 多分ビンタ1発で砕け散る俺の現状を知っているからか、藜さんはフリーズしたかの様に動かない。よし、寝癖も直った。

 

「あぅ……」

「大丈夫ですか?」

 

 頭から湯気が出そうな感じで見事に機能を停止してる藜さんは、目の前で手を振っても反応がなかった。重症ですね。

 

「朝ごはん行きますよー」

「ふぇ……」

 

 再起動までまだまだ時間がかかりそうなので、仕方ないから手を引いて食堂まで歩いていく。だから、そんなキャーキャーしないで下さいよギャラリーの人達。

 

 ・

 ・

 ・

 

 朝ご飯が始まってからも藜さんはフリーズしたままだったが、周囲に急かされて俺があーんをしている時、漸く戻ってきた。

 因みにシドさんからサムズアップを貰ったので、その時煽ってきた男性陣は加速爆竹の刑に処してある。女性陣は藜さんが直々に手を下していた。

 

「い、いきなり、あんな事されたら、びっくりします!」

「ですけど、避けるわけにもいかなかったですし」

「だって、頭……」

 

 そう言って藜さんは、丁度寝癖があった場所……俺が撫でていた場所を触り涙目で言ってくる。負けました。

 

「すみません、俺が悪かったです」

「ユキさんなら、いい、です。けど、お詫びに、ちゃんと撫でて、ください」

 

 そう言ってずいっと頭を突き出してくる。……改めてやろうとすると、普通に恥ずかしいなこれ。やるけれど。

 

「ん……」

「あー、お前ら。ここに俺がいるって忘れてないか?」

「「忘れてませんけど?」」

「タチが悪い……」

 

 シドさんが心底嫌そうな顔でこちらを見る。まあ、襲ってこられようが昨日みたいに撃退するけど。にしても髪の毛サラサラだなぁ。

 

「ふざけるなテメェら!」

「シドさん、それⅣですから。ファンサービスファンサービス」

「すみま、せん?」

 

 こうしてシドさんが発狂する事と、揶揄ってた人達が死屍累々な状況になってる以外は平和に時間は過ぎていったのだった。

 

 

「もう残り1分ですか……長かった様な早かった様なですね」

「私は、凄く楽しかった、です」

 

 昨日までの事で、2人して疲れてたのだろう。俺たちは、シドさん達が出撃した後も拠点をお借りして時間を潰していた。この天気で外に出て狩るのは、正直もう懲り懲りだ。

 

「それじゃあ後数秒ですし、向こうに帰る準備をっと!?」

 

 そういって立ち上がろうとした俺に、藜さんがギュッと抱きついて来た。ファッ!?

 

「どうせ、最後、ですから!」

 

 そんな嬉しそうな声が聞こえ、いつもの浮遊感が俺たちを包んだ。そして一瞬の暗転が訪れ、切り替わった視界はいつものギルド内だった。

 

「ふぅ、やっぱり落ち着く」

「ここが、ユキさんの……」

「え?」

 

 ふと、耳元でそんな聞こえるはずのない声が聞こえた。顔をそちらに向けると、触れ合いそうな距離に藜さんの顔がありお互い硬直してしまう。

 とりあえず顔を背け、藜さんが離れた辺りでゴトンという音がした。恐る恐るそちらに顔を向けると、銃剣を持ち、菩薩の様な笑みを浮かべた幼馴染様の姿があった。

 

「ユーキー君。最終日まで生きてられたんだね」

「あ、ああ」

 

 ヤバいぞ……この気配、【伊邪那美之姫】にすら匹敵する。

 そして我が幼馴染様の目からは、完璧にハイライトが消えていた。オイオイオイオイ、死んだわ俺。

 

「それで、その子、誰かな?」

 

 現実だったら冷や汗が止まらない様な、あまりにも圧倒的な圧に言葉を紡ぐ事すら出来ない。そんな俺の左手が、いつの間にか藜さんに抱き抱えられていた。

 

「藜、です。イベント中ずっと、ユキさんに、お世話になり、ました」

「へぇ、そうなんだ」

 

 ずっと、という言葉が強調されて言われた。

 セナの目が、まっすぐにこちらを見つめてきている。ふ、ふふ。こ、怖かねぇぞ!

 

「すてら☆あーくのギルマスで、ユキ君の現実の幼馴染みのセナです。宜しくね、藜ちゃん」

 

 今度は現実の幼馴染みという単語が強調されていた。

 そう言ってセナが差し出した手は()()。あ、あれ、なんでだろうな。胃に穴が開きそうだ。早起きしたからかな? アレ? アレ?

 

「宜しく、お願いします」

 

 藜さんも藜さんで、躊躇せずにその手を取って握り返しているのはちょっと怖い。なんか握手された手が互いに間違いなく全力だし。

 

「もしギルドに入ってないなら、うちに来る? 歓迎するよ?」

「良かったら、宜しく、お願いします」

 

 ピリピリとひりつく空気の中、藜さんがうちのギルドに加入する話がまとまった。ワー、マスターがいると話がハヤーイ。すっごーい(胃痛)

 そんな空気の中、藜さんが口を開いた。

 

「マスターは、幼馴染って、言ってましたよね?」

「うん。ユキくんの、唯一の幼馴染だよ?」

「ユキさん。私たち、相性、バッチリでした、よね?」

 

 首を傾げられて、藜さんにそう問いかけられた。まあ、それは言うまでもないだろう。

 

「まあ、そうじゃなきゃ途中で力尽きてただろうね」

「幼い、よく馴染む、女の子。これも、幼馴染じゃ、ないですか?」

 

 なんて斬新な解釈!?

 内心驚愕していると、空いていた右腕にセナが抱きついて来た。両手に花とはこのことかな(白目)

 

「もしあなたが幼馴染でも、ユキくんは渡さないもんね!」

「でも私、ユキさんと、寝ましたよ?」

「んな!? ユキくん本当?」

 

 右腕から変な音がなったんですがそれは。

 

「い、一緒の部屋では寝たけど? やましい行為はしてない」

「へぇ……」

 

 右腕にかかる圧力が、ギリギリと強くなっていく。なにこれ死にそう。拷問ですか? 拷問だYo! そして俺は、密告されて哀れ毒壺の中へ(錯乱)

 

「膝枕も、しました」

「本当?」

「い、いえす」

「へー」

 

 腕が折れそう(直球)

 実際手が辛いから、セナさん手を離してくれませんかねぇ?

 

「一緒にバイクも、乗りましたし、あーんも、してもらいました」

「へぇー。へぇー、ソウナンダ」

「寝顔も、見られたし、コートも、かけてもらいました」

「タノシソウダネ」

 

 あー、れーちゃんは可愛いなー(現実逃避)

 

「それに、これも、あります」

「んな!?」

 

 壊れたブリキ並みの速度で藜さんの方を見れば、渡したままになっていた太陽の指輪が右手の薬指に嵌められていた。あっ、死んだわこれ。

 瞬間、ふっと右腕にかかっていた力が抜けた。そこに既にセナの姿はなく、恐らくログアウトしたのだと推測出来る。あっ、死ぬわこれ。

 

「すみません藜、リアル貞操の危機だから!!」

 

 自由になった左手でウィンドウを操作、ポイントやその他諸々のメッセージを無視してログアウトボタンを叩きつける様に押す。いつものログアウトの感覚が身体を走り、現実の身体に意識が帰還した。

 

「うぇ、げほっ、ごほっ。うわこっちはこっちでマズイことになってる!?」

 

 ヘッドギアを外して起き上がり、息を吸った時に鉄臭い匂いが鼻を抜けていった。微妙に鼻も詰まっている。手元を見れば、血に濡れた枕カバーと服が存在している。多少枕を高くしてた事が災いした。

 

「冷水! 洗剤! 漂白剤!」

 

 枕カバーを外し小脇に抱えて階段を降り、玄関の鍵を閉めチェーンで施錠して、そのまま風呂場に駆け込む。その際鏡に映った自分の顔は、鼻血が流れた跡があり中々に酷いものだった。

 

「時間との勝負!」

 

 血液染みは時間が経てば経つほど落ちなくなるのだ。一先ず顔の血を洗い流してから、早速洗浄に取り掛かる。これはこれとしてチェーン以外の沙織への対応も考えないといけないし、色々とマズイ。

 そして洗う事十数分、出来る限り落とし終わり漬け込んだ時にその音はなった。絶望のチャイムの音。そして、即座にガチャリという音がした。

 

「あれ? チェーンかかってる」

 

 なん……だと。玄関扉が突破された。チェーンをかけてなかったら即死だった。何がかは知らないけれど。急いで玄関に戻れば、半端に空いた扉から首を傾げる沙織の姿が見えた。

 

「あの、沙織さん? なんで、玄関開けられてるんです?」

「とーくんのお母さんが、スペアの鍵の場所教えてくれたから!」

 

 今だけは言わせてもらおう、ふぁ○きんマイマザー。なんて事しでかしてくれやがったうちの母さんはぁぁっ!!

 

「そろそろ夜なのに、女の子が一人歩きは良くないと思うんだけど?」

「大丈夫! 今日はとーくんの家に泊まるから!」

 

 ……今、沙織は何て言ったのだろうか?

 

「One more please」

「とーくんの家に泊まるから、何の問題もないよ!」

 

 どうやら聞き間違いじゃなかったらしい。問題しかない。

 

「着替えはどうするんだよ」

「持ってきたから平気!」

「明日学校だぞ? 頭大丈夫か?」

「制服持ってきたもん!」

「教科書は? 取りに行くのは面倒だぞ?」

「置き勉してるからね!」

「未成年の男女が親がいない1つ屋根の下。公序良俗に反するぞ?」

「ママが、そういう時用にって持たせてくれたのがあるけど?」

「手は出しませんけどねぇぇぇ!!!」

 

 どうしよう、詰んでいる。八方塞がりだ。いや、だがまだやれる事はある筈だ。どうにかして諦めてもらうネタを引っ張り出せ俺!

 

「晩御飯の用意、俺の分しかないんだけど?」

「作りに来たから大丈夫!」

「寝る場所がないぞ?」

「来客用の布団があるって、私知ってるよ?」

「何だと!?」

「それとも、そんなに私は嫌なの?」

 

 扉の向こうの沙織が、涙目になるのが見えた。

 俺はそういうのには滅法弱いけど、襲われない確証がない限り流石に怖いのだ。

 

「別にそうじゃないんだけど……ご訪問の理由は?」

「あの藜って子が羨ましかったんだもん!」

「襲わない?」

「襲わない」

 

 じっと見つめ合い、真意を探る事数秒。本当に襲われる可能性はないと、何となく判断する事が出来た。

 

「チェーン開けるからちょっと閉めさせて」

「分かった」

 

 ここまで来たなら、もう腹をくくるしかないだろう。チェーンを外して、沙織を受け入れる。お邪魔しますと入って来た沙織は、大きなバッグを1つと食べ物の入ったビニール袋を持っており、非常にラフな私服姿だった。

 

「ふんふふんふふーん♪」

 

 まあ、元気になってくれたから良いとしよう。心情的にも、ついでに外聞的にも玄関で泣かれるのは嫌だ。

 

「はぁ……そう簡単に泣くなよな」

「……本心だもん」

 

 この後膝枕されたり料理をしたり、大体ゲーム内でやった事をリアルでもやる事になったのは是非もないよネ! 料理は……うん、カレーだったから判別はつかない。

 

 そんな事よりも、自分の部屋で寝てた筈なのに朝起きたら沙織と同衾してたんだけど、どういう事なの…?

 一応、何もやらかしてなかった事だけは明記しておく。

 



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第38話 異次元コミュニケーション

日刊1位、感謝の投稿
なんでそんな位置にいるのか、全く理解出来てないけどね!


 朝起きたら同衾してた(やましい事はない)なんてアクシデントがあったものの、結局今日はいつもとほぼ変わらない1日だった。

 かなりの不安はあったが、隣で寝ている沙織を起こさずそのまま放置し顔を洗い、キッチンに立ちそのまま弁当を作り始める。いつもは冷食を詰め込んでサボる事が多いが、流石に2人分だしマトモに作る。

 弁当が完成した辺りで起きて来たので、とりあえず顔を洗ってくるよう指示。その間に朝食を作っておく。戻って来た沙織と2人で朝食を食べ、学校に行く準備。歯ブラシは仕方ないから予備の新品を渡した。

 

 そして2人揃って登校したのを殺意の篭った目で見られ、散々弄られて放課後に。非常に疲れる1日だった。

 

「最初と最後で矛盾してるな俺……」

 

 そんな事を呟く俺は今、いつも通りの直帰ではなく沙織の家から帰ってきたところだった。昨日沙織が風呂に入ってる間に親御さんに連絡しておいたものの、ちゃんと1度会いに行って話をしておかないとマズイと思ったからだ。幾ら幼馴染とはいえ、同衾(やましい事はない)してた訳だし。

 

「本当疲れた。はぁ……」

 

 一切の隠し事なく事実を話したのに『別に友樹君なら、同意の上なら手を出しても良かったのよ? 勿論、その場合はきっちり責任を取ってもらうけど』とか返されるんだもん。流石にビビるわ。

 

「即ゲームって訳にはいかないし、洗濯と夕飯の準備と、後は掃除でもして時間潰さないと」

 

 下着とかで色々言われるのは本意じゃないし、洗濯はやっぱりやめておこう。とりあえず沙織のことだから晩ご飯は食べていくって言うだろうし、帰りは送っていけばいいか。でも材料がもうあまりないから買い物に行って……今日はゲーム、ほぼ参加出来ないか。

 

 

「ん」

「ありがとうれーちゃん」

 

 リアルの方の諸々の問題を片付けた翌日、イベントの報酬を受け取りもせず俺はギルドで寛いでいた。4日間脳を酷使して遊び、その後リアルの襲来をどうにかし、学校に行ったりして疲れた頭には甘味と癒しが必要だった。団子とお茶って素晴らしい。

 

「あ、忘れてた。れーちゃん、はいこれお土産」

 

 そう言って俺は、首を傾げるれーちゃんに取り出した【虹霓の杖】を手渡した。臨時ポーチに入れていた素材は全てギルドの倉庫に行ったが、【無垢なる刃】を始めとした武器類はアイテム欄に残っていた。だから渡すのが遅れたのだけれど、まあ誤差の範囲だろう。昨日は結局ログインしなかったし。

 

「ん!」

「流石にこれは貰えない? じゃあ、まだ何本かあるからそれから……」

「ん」

 

 どうにもお気に召さなかったらしく、れーちゃんが選んだのは宝物庫で回収したお祓い棒の様な杖だった。あぁ、れーちゃんもそういえばデバッファーだったっけ。

 

「ん?」

「新しい装備とか、装備の改修はしないでいいかって? 今は皆んなの分でれーちゃんも忙しいだろうし、考えてるのはあるけど実現出来るか分からないから俺のは後ででいいよ?」

 

 回収した長杖とか、銃やファンネルで出来たらいいなと考えてる事はあるのだ。けれどそれは発想がそもそも変態的だし、使いこなせるかも分からない。だから一応、今回は俺の同類に手を貸してもらう約束をしてもらった。だから、れーちゃんに依頼するのはそっちで話がまとまってからで良いと思うのだ。

 

「ん!」

「欲がない? 何か1つくらいは作りたい? じゃあ、持って帰ってきた【姿隠しの兜】をコートに組み込めたりする?」

「ん〜、ん!」

 

 どうやら出来るらしい。改めて、れーちゃんの技術力がヤバイとしか表現出来ない。だって、フードがあるとはいえ頭装備と体装備を合体出来るんだよ? 

 

「ん!」

「えっと、でも効果は付けられても、性能はあんまり上がらない? それは大丈夫。だって俺、そもそも攻撃が当たったら即死だし」

 

 無論、当てられない様に努力はしてるしこれからも続けていくけれど。極振り(ご同類)に相談しにいくのも、それが理由だったりもする。

 

「ん」

「ちょっと待っててくれれば、すぐに完成させられる? それじゃあ暫く待ってるよ、休みたいし」

「ん!」

 

 コートと兜をれーちゃんに渡し、ボス泥のコートを纏って背もたれに体を預ける。騒がしい事もないし、対処すべき問題もないし、あーほんと楽。

 

 ギルドの皆んなは出かけてるかログインしてないかで居らず、時間的にお店も閉めてるのでお客さんもいない。そんな静かな空間でボーッとして過ごす事どれくらいか。2杯目のお茶を飲み終わった辺りでれーちゃんは戻って来た。早い。

 

「ん」

「ありがとう。急かしたみたいで、ほんとごめんね」

「ん」

 

 れーちゃんの持って来た、所々に僅かな金属パーツが追加されたコートを羽織る。やっぱりこれが1番だ。あ、ステルスの発動はフード被るのが条件なのね。

 つい癖で頭を撫でちゃったけど、嫌そうじゃなかったから良かった良かった。流石に失礼ってのは自覚してるし、3人くらいにしかやらないけどね。

 

「それじゃあ、俺も行ってくるよ」

「ん」

 

 立ち上がった俺に、いってらっしゃいと書かれたウィンドウを見せてれーちゃんが手を振ってくれた。それじゃあ俺も、やる事やって来ますか!

 

 ・

 ・

 ・

 

 景気良くエンジンを吹かして辿り着いた第3の街の一角、何もなさそうな裏路地で俺は足を止めていた。時間は23:30、時間はピッタリだ。途中で爆弾を買い足してたのに間に合うもんだね。

 事前の約束通り、一見背景にしか見えない扉をノックする。すると僅かに扉が開き、問いが投げかけられた。

 

「合言葉は何だ?」

「ナン」

「いいだろう」

 

 完全にトンチな合言葉を答えて開いた扉の奥には、如何にも異世界のギルドといった様子の場所が存在していた。

 木製の床の上に点在するテーブルや椅子、紙が張ってあるボードがあり、カウンターには数人のNPCの女性が立っている。そして、その中でたった1人のプレイヤーがこちらに手を伸ばしていた。

 

「ようこそ、我らがギルド【極天】へ。一時的な訪問だとしても、俺は歓迎しよう。俺たちの、最新の後輩よ」

「改めてそう言われると、何か感慨深いものがありますね。ザイルさん」

 

 こちらに伸ばされたザイルさんの手を取り、俺は極振りの先輩が集まって作られたギルドに足を踏み入れる。今更だけど、外は近現代で中は異世界……あれか、雰囲気に極振りしてるのか。窓から見える景色もそうだし。そんな中手近な椅子に座ったザイルさんの姿は、前見た浮浪者風の物ではないけれどかなりボロボロに見える。その赤く長い髪と金色の目は、どこか危険な臭いがした。

 

「あれ、魔法使いさんはいないんですか?」

「ああ。待ち時間が暇だからとかいって、何処かに飛び出していった。多少地形が変わってるだろうが、まあ明日には直ってるから気にすることはない。連絡をしたからすぐ戻ってくるだろう」

「アッハイ」

 

 さらっとこんな言葉が出てくる辺り、もうここは極振りの巣窟と言うに他ないだろう。地形が変わるって、ゲーム内でそんな頻繁に起きてたんだね……俺の時緊急メンテが入ったのは、消滅したか炎上したかの違いだったんだろう。

 

「それで、俺に相談ってのは何だ? 流石に行き詰まったとかか?」

「いえ、ザイルさんの情報のお陰でボスも倒せましたし特にそういう訳じゃないです。リアルで鼻血出すレベルで苦労しましたが」

「ほう、よくやったな」

 

 そういうザイルさんは驚きこそすれ、信じられないという雰囲気ではなかった。周りが極振りだから慣れてるんだろう。

 

「それで、装備関連で聞きたいことがあって来ました」

「ふむ。だが俺に聞かずとも、お前のギルドにも専属の職人プレイヤーがいるだろう?」

「居ますけど、流石にいきなり無茶振りをしたくはなくて。その点、ここなら常識が要らないでしょう?」

「それもそうだな」

 

 ザイルさんが納得したように頷く。蛇の道は蛇、極振りの武器は極振り。頭のおかしな発想なら尚更だ。

 

「そういう事なら、相談に乗ろう」

「では、お言葉に甘えて。まず、このゲームで仕込み杖って作れますかね? 銃とか刀とか」

「問題ない。俺も自作した蛇腹剣を使ってるからな。だが、仕込んだ武器をまともに運用するなら、対応したスキルが必要だぞ?」

「そこは問題ないです。良かった、こっちは頼めそうです」

 

 射撃(投擲)も居合も所持している。まあ、前者は当たらないのだが。2、3本の長杖を常時携帯する事になるけど、それは許容範囲内だ。

 

「で、こちらが本題です」

 

 そう言って俺は、相場していたボスドロップの猟銃ファンネルを実体化させた。俺の周囲を回る6つの猟銃を見て、ザイルさんが何か感心した様に頷いている。

 

「この武器と、俺が持っている4つの指輪アイテム。それと魔導書。これを組み合わせて、魔導書のファンネルの様な物を作れませんかね? 攻撃性能は捨てていいので」

「ふっ、中々クレイジーな事を考えるじゃないか」

 

 ザイルさんが、堪らないといったようにニヤける。自分でも中々に狂ってると自覚してるし、だからこそれーちゃんには一言も言わなかった。更に脳を酷使する戦闘方法になるのは待った無しだけど。

 

「つまり、ファンネルの機能だけ残して飛ばすものを魔導書に変える。そこに、指輪も使える様にして組み込めと?」

「そうなりますね」

「結論から言えば、不可能ではない」

 

 ゲンドウポーズのザイルさんは言う。流石極振り……相談しに来て本当に良かった、出来るって確証が得られただけで十二分の収穫だ。

 

「まあ、俺でもないと組む事は出来ないだろうがな」

「あー、やっぱりです?」

 

 無茶振りの代償という事か。やっぱり製作難易度は異常に高くなってしまっている様だ。予想通りとは言え。

 

「当たり前だ。幾ら攻撃性能を捨てて良いとは言え、そんな組み合わせで物を作るなんざ狂気の沙汰だぞ? 製作に要求される値は、必然的に大きくなる」

「なるほど……で、依頼したとしてお値段は如何程に?」

 

 俺がそう聞くと、メニューを開いてザイルさんは何か操作を始める。アレか? 計算機か何かだろうか?

 

「そうだな……多少の割引を適応するにしても、100万は頂こうか」

「あ、その程度ですか。それなら問題ないです」

 

 俺の現在の所持金は、未だに3,000万を切っていない。カジノパワーで貯めたお金は、爆弾とか燃料とかに消えてはいるものの尽きる様子を見せないのだ。なくなってもカジノに行けば良いし、資金繰りは盤石である。

 

「今すぐ渡しても良かったんですけど、まだ魔導書の方がどうともなってないんですよね……だから確実に使ってて、しかも特化した変態的な使い方をしてる魔法使いさんを頼ったんです」

「同じ極振り同士、そういうところは通じ合うんだな……」

 

 ん、ちょっと待て。同じ極振り同士?

 

「ちょっと待ってください。同じ極振り同士って? 全員リメイクしたんじゃ……」

「ああ。あいつな、今はギルドがあるからって言って極振りにキャラメイクし直したんだよ。お前が活躍し始めた頃に。触発されたんだろうな」

「ファ!?」

 

 俺が頼ろうとしていた人は、予想以上の強靭な精神の狂人だったらしい。俺が【ヘイル・ロブスター】と戦っていた頃には既に極振りに戻ってたとか、確実にネジ外れているよあの人。

 

「極振りの中でも、StrとIntは1番レベル上げがしやすいからな。特に苦労もないんだろうよ」

「え、なんでですか?」

「ちょっと地形が変わってるって言っただろ? お前も爆弾で色々やってる様だが、あいつは自力で全て吹き飛ばすからな……その分経験値もがっぽりなんだよ」

「なにそれ怖い」

 

 極振りの中でも格差があるとは思ってなかった。やっぱり火力こそ正義なのか……俺はこれを変えるつもりはないけど。

 

「ただいま帰りましたー!」

「噂をすれば、だな。帰ってきたぞ」

 

 振り返れば、そこにいたのはいかにも魔法使いといった風体の女性だった。背は大体俺くらい、特徴的な三角帽子にローブとマント、長杖に眼帯……この人、出来る!

 

「ほほう、あなたが幸運の」

「はい、ユキと言います。よろしくお願いします」

 

 とりあえず立ち上がり、丁寧に礼をする。アイサツは実際大事、古事記にもそう書かれている。

 

「我が名はにゃしぃ! 第三の極振りの使徒にして、Intのステータスを司る者!」

 

 後ろにバーンという効果音の出ていそうなポーズで名乗られてしまった。うわぁ……また、濃い人が出てきたなぁ……




れーちゃんが意思を伝えるときは、基本的にジェスチャーでパタパタしてます。


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第39話 異次元コミュニケーション②

MND極振り小説を見つけてなんだか嬉しくなる今日この頃。……中身は極振りじゃなかったけど。



「ふっ。我が名はユッキー! 第七のkもがぁ!?」

 

 余りにも紅魔族な名乗りに面食らって固まる事数秒、俺もコートを翻して答えようとして──普通にザイルさんに止められた。

 

「ちぇっ、止めないで下さいよザイル。折角ユッキーもいい感じに対応してくれそうだったのに」

 

 ザイルさんに椅子に押し戻された俺と入れ替わるように、黒髪赤目の人がザイルさんに掴みかかった。

 

「お前それが良い感じに通ると煩くなるだろうが!」

「なんですとぅ!!」

「事実だろうが!」

 

 挨拶しようとしたら、目の前で喧嘩が始まった件について。けれど極振りと準極振りなだけあって、2人の動きは現実とほぼ変わらない。俺の腕が折れそうになったり、胃が取れそうにもならない。

 

「平和だなぁ……」

 

 そう呟く俺を放置して、喧嘩は激化していった。

 

 ・

 ・

 ・

 

「さて、確かユッキーは私に魔導書の事を聞きたいんだとか」

 

 頭に大きなタンコブのエフェクトを貼り付けたまま、魔法使いさん……もとい、にゃしぃさんが話し始める。締まらないなぁ。

 

「はい、知り合いに使ってる人なんて……正確にはマトモじゃない使い方をしてる人がいないので」

「なるほどなるほど、そういう事ならにゃしぃにお任せなのです!」

 

 ドンと胸に手を当て言ってくれたけど、微妙に頼りない様に思えてしまう。ザイルさんも『疲れた、寝る』と言って帰っちゃったし、この人止められる気がしないんだよなぁ……ほんと。

 

「では、分かってるとは思いますが魔導書の説明から入りましょう。魔導書は、それ単体として扱う場合は長杖と短杖の中間程度の性能しかない、数種類の魔法しか使えないつまらない鈍器です。ですが、長杖や短杖と組み合わせるとガラリと効果を変えます」

 

 そう言ってにゃしぃさんは、一冊の赤い装丁の本を取り出した。ハードカバーで、如何にも魔導書といった感じだ。魔導書という部類の効果は知ってるし、にゃしいさんのもどんな効果なのかは予想がついてるけれど、一応軽く頷く。

 

「その場合は、選択したスキルの効果を強める礼装となります。そしてその強める内容は、素体とした本の設定できる数によってまちまちですね。私は【爆炎魔法】に威力強化を上限まで突っ込んでます」

「あれ、範囲は良いんですか?」

「ああ。それは威力が上がれば比例して広がるので」

「アッハイ」

 

 成る程、それで色々焼却出来るのか。やはり極振りに常識を求めちゃいけなかったらしい。

 

「勿論、作るって話だったから本は持ってきてるんですよね?」

「ええ、勿論持ってきてます」

 

 そう言って俺は、10冊程【白紙の魔導書】を取り出す。そこそこな厚みがある所為で、結構な高さになってしまった。数十冊は回収してきた内の一部だから、失敗しても幾らでも作れるだろうね。

 

「成る程それが……って、ええ!?」

「どうかしたんですか?」

「え、ちょ、これどこで手に入れて来たんですか!? 設定できるスロットが、これ全部10個までありますよ!」

 

 とても驚いた様子で、にゃしぃさんは詰め寄ってくる。これ、そんなに凄いものだったんだろうか?

 

「良ければ1冊あげますよ? この前のイベントでボスを倒した後の宝物庫で掻っ払ってきたのでまだまだありますし。これそんなに良い物なんですか?」

「え、いいんですか? 上限ですよ?」

「手間賃というか、情報料というか。どうぞどうぞ」

「やったー! やったー!」

 

 深夜だっていうのに、渡した白紙の魔導書を持ってにゃしぃさんは大はしゃぎしている。テンション高いなぁ……深夜テンション突入してるんじゃないだろうか?

 

「それじゃあ私も更新したいし、今から魔導書作っちゃいましょう! ユッキーは製作系のスキルは?」

「一応、65%程度ですが使えますね」

「【サバイバル】の派生ですね。私も同じ系統のだから問題ないですよ!」

 

 そう言って、にゃしぃさんは白紙の魔導書を開いた。それに倣って俺も開くと、何やらよく分からないウィンドウが展開された。1番上にあるのがスキルの選択欄、その下にある10個のがスロットだろう。多分。

 

「見てわかる通り、1番上の部分にスキルを選んで下に好きな物をセット、そして閉じて爆発しなければ成功です!」

「爆発!?」

「ええ!」

 

 めっちゃいい笑顔で返事をされた。嫌な予感しかしないんですけどそれは……

 そんな考えを一旦頭の中から追い出し、【紋章術】を1番上の欄にセットする。そしてスロットを選択しようとして、その量に圧倒された。

 

「そりゃ確かに、色々派生が有るからそうなるだろうけどさ」

 

 まさか補助1つにつき、色々設定できるとは思わなかった。全体の単純な強化も出来るけど、単体で設定した方が効果は高いっぽい。同種の上限は5つまでなんだとか。

 取り敢えず《障壁》の固定値上昇は上限まで入れるとして、他はMP消費軽減を詰め込み……いや、それじゃあ芸がない。

 

「あ、そうそう忘れてた。ザイルが『魔導書を作るなら、指輪の効果を移しておけ』って言ってました」

「ちょっ、それ先に言ってくださいよ!」

 

 慌てて指輪を取り出し、6つ製作中の魔導書の内4つの上に置く。多分これで選択肢に増えてるだろう。増えていた。そして増えたスキルを選択すると指輪は綺麗に消え去った。

 同時に、4つの未完成の魔導書がそれぞれ紅、小麦、雪、菫色に染まり大きな菱形の結晶が表と裏両方の表紙に現れる。余った2つは真っ白なままだ。

 

 全部に障壁の固定値上昇をガン積みするのは変わらないが、そこに《天候変化 : 〜〜》というスキルが追加された為5つ全部に消費MP軽減を積むとなんだか気持ちが悪い。

 

「となると、これが1番いい感じか」

 

 完成間際の魔導書を見て、俺はそう呟く。スロットにセットしたスキルは、全部に共通しているのは《障壁固定値上昇》×5《紋章消費MP軽減》×4の合計9つ。指輪の能力を移譲した魔導書にはそれぞれ前述のスキルが追加され、残りの2つには《紋章展開高速化》をセットした。

 

「よし、そっちも完成したみたいですね!」

 

 そんな俺を見て、にゃしぃさんが満足そうに微笑む。そして、スイッチが切り替わるように真面目な顔へと変化した。

 

「それじゃあ、手本として私がやりますから!」

 

 そう言って、コォォォとウォーズマンの様な息を吐き出し、勢いよくにゃしぃさんが魔導書を閉じた。

 

「《障壁》!!」

「うにゃぁッ!?」

 

 そして盛大に大爆発を起こした。成る程、失敗するとこうなる訳だね。魔導書も綺麗に燃え尽きている。障壁で防いだから良いものの、これは非常によろしくない。万全を期す必要がありそうだ。

 

「あー、にゃしぃさん。もう一冊魔導書上げるので、ちょっと手伝ってくれませんか?」

「問題なしですよ!」

 

 煙の向こうからカムバックしてきたにゃしぃさんとPTを組み、例の【ドリームキャッチャー】を利用したドーピングでLukを爆上げする。5,411にまで到達したLukに、恐れるものなど何もない!

 

「そいやぁ!」

 

 バフの効果が持続してる間に、6つの魔導書を連続して閉じていく。閉じ終わった姿勢で動きを止めること数秒。爆発する気配は、1冊もなし。パーフェクトだウォルター……いや、ただ運が良かっただけか。

 

「おお! 私のもやって下さいお願いします」

 

 不備なく完成した事に安堵し、それぞれをアイテム欄に仕舞っている俺に、驚く程の早さで土下座を決めてにゃしぃさんがお願いをしてきた。DOGEZAには、勝てない。されなくてもやったけど。

 

「いえ、あの、頭を上げてください。というか、そこまでしてもらわないでもやりますよ?」

「いやぁ、何から何まですみませんね!」

 

 この後にゃしぃさんの超火力特化魔導書を完成させたのは俺だけれど、深夜に入ったサーバーメンテには関係ないから! ログアウトしてたから関係ないから!

 

 

「くくく。ほら、約束のブツだ」

「ありがたく使わせていただきます」

 

 翌日の夕方、俺は再び【極天】のギルドホームに訪問していた。理由は勿論、改造して貰った元猟銃ファンネルを受け取るためだ。

 

 ====================

【陸式 浮遊魔導書】

 Int +10 Str +10

 Min +10

 魔導書 ▽

 耐久値 1,000/1,000

 ====================

 元々の性能から極めて性能が下がっているが、注文通りの完璧な改造である。

 

「【陸式 浮遊魔導書】……ザイルさんって、漢数字入れるの好きですよね」

「ロマンがあるだろう?」

「ええ!」

 

 熱い握手を交わしてから、受け取ったファンネルを装備する。この装備は片手剣持ちで言う盾に相当するものらしく、長物では装備出来る物は多くないらしい。けれどこれは、その物珍しい物の部類だ。

 

「ほう、中々に似合ってるじゃないか」

 

 装備した事によって、俺の肩辺りの高さに浮遊する6冊の本が現れていた。1m程体から離れた場所で、何もしてないと閉じたままゆっくりと俺の周りを回転していく様だ。

 

「使い勝手はどうだ?」

「いいですねコレ。手足のように動かせる」

 

 ちょっと試してみる限り、魔導書は探知圏内なら自由に動かせる。ページを捲るのも、適当に回転させるのも自在。障壁の展開も、前より素早く正確になっている。更に脳への負担を多少肩代わりしてくれているのか、今なら100…いや、120枚くらいなら同時展開出来る気がする。

 

「しかも脳波コントロール出来る!」

 

 態々《障壁》と言わずとも、脳内で設定を変更した障壁を自在に張る事が出来る。多分今なら、むざむざ藜さんを死なせてしまったあの攻撃も防ぎきれる気がする。ふはは、怖かろう。

 

「はしゃいでるところ悪いが、ここに入り浸ってて良いのか? イベントの報酬の取得も終わってないとの話だったし、そちらの職人プレイヤーと話をする時間も必要だろう?」

「言われてみれば。無理を押してこっちに来て、魔導書作って貰った訳ですし……」

 

 れーちゃんに俺が頼んだ事は、現在も着てるこのコートの改造のみ。つららさんもランさんも多少装備の更新を頼んでるし、セナも何か色々頼んでいた。藜さんですら、れーちゃんの「ん」の圧力に負けて装備を強化して貰っていた。

 そんな中で俺はコートのみだ。信頼してないと受け取られても、なんら不思議ではない。もし泣かせでもしたら、精神的にも物理的にも死ねる。

 

「改めて考えてたら、色々ヤバい気がしてきました。すみません、失礼します。魔導書、本当にありがとうございました!!」

「今後とも、贔屓にしてくれ」

 

 そう手を振ってくれるザイルさんを背に、俺は街に飛び出す。そして車道に出るなり、アイテム欄を開いて叫ぶ。

 

「来い、ヴァン!」

 

 俺の呼び出しに応じ、アイテム欄から飛び出してきたバイクに騎乗する。そのままニトロのスイッチを入れ、加速を含めたあの時に使ったマスドライバーの様な発射台を障壁で形成する。

 

「地に増え、都市を作り、海を渡り、空を割いた」

 

 打ち上げバイク、上から見るか、横から見るか。それともはたまた下から見るか。俺がなるか!

 3尺玉を2つサービスでこぼしながら飛翔した俺は、雲の中に突入し、遂には雲を突破することに成功した。マップで方向はわかっている。バイクは既に仕舞った。ならば、やる事はもう決まっている!!

 

「Are you ready?」

 

 内心で「うん」と親指を立てるサムズアップのイメージで返事をしながら、サーフボード状の障壁を精製する。足場には、指輪の力を引き継いでない魔導書付きだ。

 

「Go!」

 

 暴発させたカースと、新たに加速も複合して第2の街の方向に発進する。態々雲を抜けた理由は、完璧に再現をする為!

 

「ウォオォォォッ!!」

 

 雲の中を移動する間、気持ちを高める為に雄叫びをあげる。そして雲を抜けた瞬間、全力で俺は叫ぶ。

 

「イャッッホォォォオオォオウ!」

 

 これはバイクの様な制御できる安定した速度ではないし、MPが切れた瞬間落下する飛翔だ。だがやっぱり言えるのは、完全版エド・フェニックス(動詞)するのはとても気持ちがいい。

 

 嗚呼アレだ。減退で減速して着地したら、水泳スキルに全振りしてクロールでもしてみようか。バタフライでもいいけどね! フィリピン爆竹パーティーだ!!




おめでとう! 主人公の障壁(デフォルトサイズ)は、一般プレイヤーの障壁(デフォルトサイズ)と同じ程度の硬さになったぞ!


 Name : ユキ
 称号 : 詐欺師 ▽
 Lv 28
 HP 1400/1400
 MP 2750/1375(2750)

 Str : 0(16) Dex : 0(10)
 Vit : 0(11) Agl : 0(10)
 Int : 0(67)Luk : 470(2274)
 Min :0(47)

《スキル》
【幸運強化(大)】【長杖術(大)】
【紋章術】【愚者の幸運】【激運】
【レンジャー】【ドリームキャッチャー】
【空間認識能力】【オーバーチャージ】
【生命転換】

 -控え-
【抜刀術(極)】【常世ノ呪イ】
【ノックバック強化(大)】

( )内は、装備・スキルを含めた数値
 小数点以下は切り捨て


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閑話 続・それっぽくしたい掲示板回

ネロ祭フィナーレ、聖杯スパPが全てを吹き飛ばしてくれてクリア

今回はおまけ話です


【どうみても】極振り共の異常性について語るスレ Part27【キチガイ】

 

 1.名無しさん

 ここは極振り達について話すスレです

 誹謗中傷は無しでお願いします

 マナーを守って楽しくデュエル!

 次スレは>>980を踏んだ人が立ててください

 

 2.名無しさん

 スレ立て乙。

 しっかし、毎度話してるとはいえ今回はアレだよな

 

 3.名無しさん

 スレ立て乙。

 なんで、イベントでほぼ全員生き残ってるんだよ……

 

 4.名無しさん

 ほんとそれな。あいつらの中で脱落したのって、元Dexのザイルだけだろ? しかもリタイア原因は、味方の暴発に巻き込まれて

 

 5.名無しさん

 いや、なんでお前そんな事まで知ってるんだよ……

 

 6.名無しさん

 俺も被害者だからな! 謝ってもらったから許したが

 

 7.名無しさん

 ドンマイ……俺は途中でボスにやられた。ソロプレイって、怖いな

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

 118.名無しさん

 あの、ログ切り失礼します

 極振りは不遇ってよく聞くんですけど、どうしてですか? 今極振りしてる人たちは、みんな強い様に思えるのですが。

 

 119.名無しさん

 おっ、新人か。歓迎しよう、盛大にな!

 

 120.名無しさん

 そうだな……久し振りに貼っておくか

 

 121.名無しさん

 キチキチ☆極振り紹介ターイム!

 

 122.名無しさん

 誤字だろうけど、間違ってないから何とも言えねぇ……

 

 123.名無しさん

 先ず、初期ステを振らないことによるデメリットとか、基本的な極振りのデメは割愛するぞ? それを前提としておいてくれ

 

 124.名無しさん

 なら先ずはStrだな

 鈍足紙装甲で、物理のみ超火力。一応遠距離も対応出来るが、命中率は低いな。範囲攻撃で基本どうにかなる。

 

 現状生き残ってる2人

 ・アキ(男プレイヤー)

 装備は、片手剣とサブウェポンで短いガ○アンソード

 生半可な攻撃はガ○アンソードで撃ち落とされるし、範囲攻撃はなんか剣圧で吹き飛ばしてくる。近距離は余波で死ぬし、魔法をぶった斬りする暴挙に出た1人

 ダンジョンに穴が空いてたら結構こいつが原因。二つ名は剣聖(狂)

 

 ・センタ(男プレイヤー)

 装備は、長槍と腕時計型の短杖

 長物なお陰で、片手剣より防御力があったりなかったり。多重付加術の所為で「レベルを上げて物理で殴ればいい」を地でいってる。素のセンスが狂ってて下手な遠距離攻撃は回避かパリィ、範囲魔法でも物理で両断された。

 過去、山をぶった切った張本人。二つ名はケルト人

 

 125.名無しさん

 次はVitか

 鈍足で火力皆無、ただし前述の奴らと打ち合える防御力がある。βの時はまあ、魔法で沈められた。

 

 生き残ってる1人

 ・デュアル(男プレイヤー)

 装備は、両手にスパイク付きの大楯

 全身重鎧な所為で魔法防御も普通にある上、狂った防御の実数値に任せて自爆してくるし、盾から爆弾が発射されるのが目撃されている。珍しいバイクホルダーの1人。

 比較的マトモな1人。二つ名はビッグシールドガードナー

 

 126.名無しさん

 Intは俺が引き継ごう

 要はStrの魔法版。ただこっちは、普通近距離が致命的にダメだな。

 

 生き残ってる1人

 ・にゃしぃ(女プレイヤー)

 装備は長杖と火力増加の為だけの魔導書

 現状2人だけの真性極振り

 少し前、真の極振りに戻るにあたってweb○んからアニメ版に成り果ててしまった。纏う赤い変な熱波で近距離戦でも死ねるようになった。絶対紅魔族

 深夜メンテはこいつのせいという噂。二つ名は、再決定がまだ。詳しくは二つ名スレへ

 

 127.名無しさん

 Min……そうか、俺が戦犯担当か

 Vitの魔法防御版。しかも装備が出来ないせいで、ガチの雑魚な筈だった。

 

 戦犯紹介

 ・翡翠(女プレイヤー)

 ちょっともう全部が全部理解出来ないです

 装備は目立つのは短剣のみ

 戦闘中は……なんだろう、エリアが腐海に沈む。フィールドを徹底的に汚染していく子。それを突破しても怪電波に染まった言葉が飛んでくる。カワイイロリッコダヨ!

 二つ名は、電波系幼女

 

 128.名無しさん

 よっしゃ常識人だ!

 Dexはアレだ。製作系と、命中精度とかに異常な補正がかかる。が、火力と耐久と移動速度が壊滅してる上当たりすぎて気持ち悪いとかなんとか

 

 生き残ってる1人

 ・ザイル(女プレイヤー)

 狂人の中で唯一の常識人。

 自分で作った武器や装備で近づけさせず、遠距離からガトリングを撃ち込んでくる。弾丸の固定ダメージで死ねる。だが残念ながら、戦闘中はトリガーハッピーしてるところが多々目撃されている

 二つ名は、姉御

 

 129.名無しさん

 相変わらず濃いよなぁ……

 Aglは、速すぎて脳の処理が追いつかないで吐くんだとか。攻撃も当てられないし火力も装甲もない。クーガーの兄貴に憧れて始めた人も多いが、数時間で止めるレベル。

 

 生き残ってる2人

 ・ザイード(男プレイヤー)

 装備は投げナイフとカメラ

 極振りの速度域に完璧に適合してしまった猛者。全力で疾走されると正直見えない。珍しく空間認識能力にも適合してるキチガイ。

 話題のプレイヤーや、新イベ等のスクショを提供してくれる人。戦うと状態異常とzeroハサンダンスでこっちを殺しにくる

 二つ名は、他愛なし

 

 ・レン(女プレイヤー)

 装備は特筆すべきものは無し。全身が武器のインファイター

 同じく極振りの速度域に完璧に適合してしまった猛者。ザイードよりは戦闘よりの頭をしている。遠距離攻撃こそないが、気がついたら目の前にいるから問題ない。噂では、Agl分のダメージボーナスを得るスキルを持ってるとか

 二つ名は、姐さん

 

 130.名無しさん

 お、なら俺が最後か。

 Lukは、レア泥確率が異常なのと色々判定に成功し易くなるだけ。戦闘は壊滅的……の筈だった

 

 生き残ってる1人

 ・ユキ(男プレイヤー)

 装備は長杖と、最近魔導書が増えたらしい

 真性極振りの変態。ロリコン疑惑がある期待の新人

 紋章術の障壁で下手な単体攻撃は防がれ、暴発魔法による爆発でノックバックしてくる。が、特筆すべきはアイテムの使用頻度。事あるごとにオリジナル爆弾を笑顔でばら撒き、バイクで爆走したり、空から降ってきたりする。噂では、レイドボス級じゃない攻撃は余裕で防げるんだとか

 二つ名は、審議中。詳しくは二つ名スレへ。

 

 131.名無しさん

 装備制限があるから、ほぼ全員服装備なんだよな……

 

 132.名無しさん

 ほぼ全員振り直して準極振りだけど、デメリット回避の為にしか振ってないって話だからなー

 

 133.名無しさん

 なんで、全員戦えてるんですか?

 

 134.名無しさん

 さあ? 全員頭のネジが緩んでるか外れてるか、そもそも作りが違うかだしな

 

 135.名無しさん

 装備は服だから気にしなくて良いだろうけど、いつかスキル構成は見てみたいよな……考察が終わってないユキのやつ

 

 136.名無しさん

 愚者のと激運、幸運強化に紋章術と長杖は確定として……謎だな

 

 137.名無しさん

 爆弾投げてるから投擲系統のやつ、バイク乗ってるから騎乗もか? あと空間認識能力適合者だろ絶対に

 

 138.名無しさん

 というか、Lukの人のロリコン疑惑ってどういう?

 

 139.名無しさん

 あいつ1人だけ、所属ギルドが【極天】じゃないんだよ。

 【すてら☆あーく】いいよな……メンバー可愛いし

 

 140.名無しさん

 でも今回のイベントで1人増えたらしいし、パーティ上限いったんじゃないか?

 

 141.名無しさん

 そうだよな……もう無理かー

 

 142.名無しさん

 でもあそこ、ギルドにしては珍しく盾役が1人もいないんだよな

 

 143.名無しさん

【鬼いさん】と【氷の魔女】のアタッカーカップルに、【銀閃】がサブとれーちゃんがサポートに入ってるだけで十分な気がするんだが

 

 144.名無しさん

 そこにキチガイがサポートに追加で入るんだよな?

 ひえっ(白目)

 

 145.名無しさん

 ※ここは極振りスレです。関係ない話題は控えめに

 

 146.名無しさん

 おっ、そうだな(便乗)

 

 147.名無しさん

 それで、実際ユキの戦闘能力ってどれくらいのもんなん?

 

 148.名無しさん

 そうだな……PvPしてくれないからなぁ

 少なくとも、第1第2のボスをソロ討伐してるのは確かだが

 

 149.名無しさん

 ああ、うん。なんだいつもの極振りか

 

 150.名無しさん

 ショタを引き連れて森を焼き討ちするわ、あのバイク艦隊と仲良くなるわ、カジノで稼ぎすぎて追い出されるわ……なんだ平和か

 

 151.名無しさん

 だな。別に毎日の様にやらかしてはないんだ。狂ってるけど、まだ他のに比べたら常識人だな

 

 152.名無しさん

 狂った常識人とは、また凄いパワーワードが……

 たまげたなぁ

 

 153.名無しさん

 申し訳ないがホモはNG

 

 154.名無しさん

 カメラ-ドォ

 

 155.名無しさん

 そろそろ運営も、大規模PvPイベントやってくれないもんかねぇ?

 

 156.名無しさん

 アレだけのイベントが終わったばかりだから無理だろ

 

 157.名無しさん

 だよなー……

 

(以下微妙に的外れな考察が続く)




これで映るのかな?
結構前にネギ丸さんより支援絵を頂きました
デフォルメっていいですね

【挿絵表示】




【空間認識能力】のスキルについて色々言われてるから、少しここで弁明をば。
まず、主人公はこのスキルを半ばズルして使っています。取得したスキルに『異常があれば報告しろ』と書いてあるのに無視して使い続け、尚且つそれを誰にも言ってません。家に泊まりに来ていたセナについても、到着までに洗ってますし認識出来てません。そんな異常を抱えているのを認識しているのは、現状主人公1人のみなので修正もクソもありませんね。



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第40話 異次元コミュニケーション③

後数回でリザルト回は終わり……


 今の俺が出来る全開の速度で飛行する事10分程だろうか、HPをギリギリまで減らした俺はどうにか第2の街に墜落する事が出来た。周りにいた人から物凄い変な目で見られたけど、まあ気にする事じゃないよネ!

 

「ただいまーっと」

「ん」

 

 出迎えてくれたれーちゃんが、一瞬でムッとした顔に変わった。そりゃ、見慣れない装備を追加してたらそうなるか。

 

「ん!」

「いや、俺としてもれーちゃんに頼みたかったんだよ? けど、これは流石に極振り仕様だから頼めなくて……」

「んー!」

「本当にごめんって」

 

 ポカポカ叩いてくるれーちゃんを甘んじて受け入れる。悪いのは俺だしね。因みにフィールドで受けた場合、俺のHPは軽く吹っ飛んでいた事は間違いない。

 

「ん」

「だったら何か作らせてって? それなら何個か頼みたいものがあるんだけどいいかな?」

「ん?」

「素材は持って帰ってきたやつはなんでも使っていいから、ちょっと仕込み杖を3つ。全部使うし、お願いしたいかな」

「ん!」

「それじゃあ、後で案とかは纏めて送るからー!」

 

 話を聞き終わったれーちゃんは、嬉しそうな顔のまま来店したお客さんの方に向かって行った。今接客されてる人、確実に幸せだろうね。

 やる事が山積みだと小さく呟き、個人ルームに戻ろうと振り返るとそこには目を丸くした藜さんが立っていた。和服とメイド服が合体した様な服装を着てる辺り、れーちゃんを手伝ってくれてるのだろう。俺? 俺とランさんは基本裏方ですが何か。不快な事をしたお客様には、ちょっと鉛玉と爆弾が待ってるぜ……

 

「今ので、意味、分かってるん、ですか?」

「表情とジェスチャーで、まあ大体分かりますね。流石に兄……ランさんには勝てませんけど」

 

 一言「ん」とれーちゃんが言えば全てを察して行動してるし、れーちゃんに対する変質者には容赦無く即死弾を撃ち込んでるし。しかもあれ、恐ろしい事に追尾してくる上防御貫通ダメージなんだよね……流石ウチのメインアタッカー。

 

 それはそれとして注文は聞こえていたので、魔導書を2冊飛ばしてお茶と団子を準備しておく。物も掴めない事はないし、ほんと便利だなこれ。

 

「そういえば、その、本は?」

「藜と倒したボスのドロップ品を、知り合いに魔改造してきてもらいました。使っててすごく楽しいですよ?」

 

 指輪の力を移譲した4つを目の前に持ってきてクルクル回転させてみる。これ、普段は邪魔だしコートの裾にでも隠しておかないとなぁ。

 

「私も、ドロップして、ました。でも、そんなに上手く、使えません」

「多分、戦い方の違いじゃないですかね?」

 

 前線で回避しながら戦うのと、現実で鼻血出すレベルまで脳を酷使してる後衛との違いとかだろう。だってほら、前衛とか、後衛より頭使わないで済むじゃん?

 

「むぅ、納得、行かないです」

「俺も感覚でやってますから……アドバイス的な事、出来る気がしないんですよね」

「うぅ……」

 

 戻ってきた魔導書をコートの裾に隠したのは良いものの、項垂れる藜さんになんて声をかけていいのか分からない。頑張れとかじゃ無責任だし。もしかしたらって事は言っておくか。

 

「多分【空間認識能力】ってスキルのお陰だとは思うんですけど……あんまりオススメは出来ないんですよね。いや、寧ろ絶対お勧めしません」

「どうして、です?」

「あのスキルって、プレイヤーによって効果が出すぎる事があるっぽくて。普通はないみたいですけど、俺は無茶した後に鼻血出しましたし」

 

 ボス戦か脱出か。どっちかは定かではないが、確実にそれが原因で枕カバーを漂白する羽目になったのだ。血涙こそなかったが、自分以外があんな絶唱顔になる必要は感じない。

 

「大丈夫、だったんですか?」

「ちょっと染み抜きが大変だったくらいですね。だから、もし取るにしても気をつけてくださいね? 1人暮らしの俺なら兎も角、心配されちゃうと思いますから……いや、やっぱり取らない方が良いかもです」

 

 前衛にとっても有用なスキルではあるだろうし、取る事自体は良いんじゃないかと思う。用途用法を守って……というアレだ。守らないと俺みたいな事になる。

 

「むぅ。……あ」

 

 そう思っている俺の前で、藜さんは頬を膨らませる。やっぱり勧めないってのは良くなかったか。そんな考えが浮かんだ頃、思い出した様に声を洩らし、藜さんはとあるアイテムを取り出した。

 

「忘れて、ました。借りたままだった、ので」

 

 それは【太陽の指輪】俺の持ってた指輪の最後の1つにして、藜さんに渡したままにしていた物だった。

 

「んー……正直、俺は要らないんですよねそれ。快晴の効果って、被ダメカット15%だから致命的に合わないですし」

 

 もし魔導書に組み込んでも、どうせ即死するから枠を無駄にするだけなのだ。だったら、ギルドの倉庫に突っ込んでおくか誰かにあげた方が良い。

 

「使うなら持ってて良いですし、使わないならギルドの倉庫にでも」

「便利、ですけど、悪いです」

 

 俺としては貰ってくれて良いのだが、引いてくれる気はなさそうだ。でも返して貰っても扱いに困るし……

 

「あー、じゃあアレです。もし使うなら上げるので、いつか幸運系のレアアイテムを手に入れたら交換って事で」

 

 微妙に不服だが、落とし所としてはここら辺で良いだろう。別にお金は要らないので、レアアイテム同士でトレードという事で。

 

「むぅ、でも」

「じゃあ、それまでは預けておきますので。それじゃあまた!」

 

 そう俺は会話を切る。今まで色々あった分、これくらいの我儘は許してくれるよね?

 

 ・

 ・

 ・

 

 そんな疑問を浮かべながら戻ってきた個人ルーム。俺はそこにあるベットに腰掛け、今の今まで放置していたイベントの報酬ページを開いた。魔導書は適当に頭の上で旋回させている。

 

「今回の合計ポイントは、859,920か。また多い」

 

 前回の様に森を焼いていないのに、10万もポイントは前回を上回っている。しかも今回はスキルをあまり必要としないし、前回と比べて確実にポイントは余る事になるだろう。

 

 まず最初に75,000ptの【スキル合成釜】を回収。【消費MP軽減】も10万ptで回収しておく。【マネーパワー】は、惜しいけど邪魔になるし取らなくて良いだろう。

 

「これでもうスキルは要らな──いや、あれだけ取っておこう」

 

 これからの予定の為に【狙撃】スキルを20万ptで回収する。回収したのは良いのだが、その後何か操作をするよりも早くメッセージが現れた。

 

 ====================

《お知らせ》

【狙撃】は【投擲】の上位互換スキルです

【レンジャー】内の投擲を更新しますか?

 Yes/No

 ====================

 

「勿論Yesで」

 

 元々使うつもりだったのだ。スキル枠を勝手に使わない様にしてくれるなら、断る理由は何もない。変化した部分以外【レンジャー】に変わったところのないことを確認してから操作を続ける。

 

 残りのポイントの使い道といったら、もう装備はアイテムしかない。けれど特に欲しい物もない。そう思っていた時期が俺にもありました。

 

「折角だし、買いだぁぁ!」

 

 それが、俺が現在異様なハイテンションになっている理由だ。前回第3の街に到達してなかった所為で選択出来なかった、銃アイテムのバリエーション。その中に1種類だけ、非常に欲しい物があった。

 

 種別は対物狙撃(アンチマテリアル)ライフル。あまり種類はない中の、更に装備制限がない物を探し出して交換した。30万とかいうバカみたいなポイントを使ってしまったけど、一切後悔はしていない。追加で命中率を上げるオプションを上限(10万pt)まで交換しておく。

 だってゲーム内でしかあり得ないけど、アンチマテリアル仕込み杖って死ぬ程面白そうじゃん。隠れてない? 細けぇ事はいいんだよ!

 

「残り84,920……何に使おうかな」

 

 折角作ってもらうから最高の素材を。そう思ってアイテムを少々確保してみたけれど、それでも消費したポイントは1万。うんうんと唸っていると、そういえばと思い出した事があった。

 なし崩し的にではあるが、【太陽の指輪】は俺が藜さんにプレゼントした事になっている。なのに現状、セナに何も渡してないのは如何なものか。

 

「よし、これだな」

 

 選んだのは、小さな吠える狼の装飾が付いたペンダント。残りのポイントほぼ全部を使ったが個人的なセナのイメージにピッタリだし、効果も与ダメ上昇と被状態異常確率減少でなかなか良い。シルバーのチェーンに、狼のメタリックな青色が更に良い。

 後でというか、ログインしたら渡しに行こう。

 

「後は釜でスキルを合成処理してっと」

 

 残った微妙なポイントはMPポーションに変えて、前回と同様に【スキル合成釜(どうみてもカマエル)】を取り出す。今回もこのアイテムがあって本当に良かった。スキルを圧縮出来るから、交換必須アイテムなんじゃないんだろうか、これ。必要ポイントは高いけど。

 

「ソイヤ!」

 

 前回を思い出し天頂を叩いてみると、今回も目論見通りアイテムを起動する事に成功した。そして開かれたあの画面、俺はそこに、【生命転換】【オーバーチャージ】【消費MP軽減】の反発しそうにないスキルをセットする。そうやって起動された釜は、相も変わらず壊れたテレビの様な音を出し稼働を続け──爆発を起こして新たなスキルが生成された。

 

「名前は【魔力の泉】か。効果は混ぜたもの全部がちゃんと乗っているし、変なデメリットも出ていないと。間違いなく成功だな、うん」

 

 納得して頷いていると、バンといきなり扉が開け放たれた。ギルメンしか開けられない扉を、こんな乱暴に開け放つとなれば、あり得る人物は1人しかいない。

 

「そんなに慌てて、どうかしたのか? セナ」

 

 予想通り、扉を開いたのはセナだった。ぜぇぜぇと肩で息をして、酷く焦った様子でこちらを指差し聞いてくる。

 

「さっき藜ちゃんから、イベントの時ユキくんのサポートが凄かったって自慢された! ずるい! っていうか、何その本凄い!」

「どうどう」

 

 どったんバッタン大騒ぎなセナを優しく宥める。セナは自慢って言ってたけど、多分主観が混じった意見である事は容易に推測できる。藜さん、そういう事をする性格じゃないだろうし。魔導書に関しては……うん、後で適当に説明しよう。

 

「それで、何を相手にしに行くんだ?」

「この前ユキくんと行ったけど、倒してないダンジョンのボス!」

 

 思い出したくもない廃人基準の張り付き狩りに付き合わされた場所のボスが、今回の討伐対象らしい。でも、藜さんの時のサポートって1回1回が全力だった所為で、現実にまで影響出すんだよなぁ……また鼻血出すのは嫌だし、サポートのレベルは少し落とす他ないだろう。

 

「ああそうだ、その前に」

 

 忘れる事のない内に、先ほど思っていた事をやっておこう。兵は神速を尊ぶ……は意味が違うか。何にしろ、速いことは良い事だ。

 

「ちょっとしゃがんで」

「ほぇ?」

 

 何が何だか分からないといった様子のセナに、先程取得したばかりのネックレスを付ける。その時、顔の距離が近くなるのは許してもらうしかない。まだ装備としての効果はないだろうけど、結構似合ってる似合ってる。俺の見立ては間違ってなかった。

 

「ふぇ、これって?」

「プレゼントだけど?」

 

 セナの顔が赤く染まっていき、動揺が手に取るように分かる。あれ? この言い方、なんだか悪役にしか感じない。取り消しておこう。ネックレスの意味って……とか聞こえたけど、そこまで考えてはない。どんな意味だろうか?

 

あり、がとう

 

 消え入りそうな声で呟くセナの頭を撫でる。やってしまった感はあるけど、誤魔化せそうだし、今までと比べて特に何かが変わる事もなさそうだしセーフラインだろう。

 

「それじゃあ行きますか! バイクは乗る?」

「乗る」

 

 そのまま借りてきた猫の様な大人しさのセナを連れて、俺は例のダンジョンまでバイクを運転していくのだった。

 因みにダンジョンのボスだが……ハッキリ言ってしまえば【The Sealed criminal】より弱かったので、俺のサポートを受けたセナが数分で軽く撃滅してしまった。南無。




【魔力の泉】
 溢れ出る魔力の泉、その代償は己の命
 PS/AS
①MPを100%余分にチャージ可能になる
 Str -65% Vit -65%
②MPが100%以上の場合
 Int +20% Min +20%
③毎秒自身のHPを1%消費しMPを1.5%ずつ回復する。途中停止不可。この効果でもHPは0になる
 冷却時間 : 10秒 効果時間 : 30秒
④消費MPを15%減少する


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第41話 くるくる回る杖3つ

計算してみたら、れーちゃんの補正込みDexのステがユッキーの補正なしLukを追い越してた……あれ? 何かおかしい


 セナとボスを撃滅した翌日、意気揚々とゲームにログインした俺を待っていたのは一通の運営からのメッセージだった。今更、何かあったんだろうか? そう思って開いた内容は、こんなものだった

 

====================

【警告】空間認識能力のスキルについて

 貴方の今までの行動を精査した結果、スキル【空間認識能力】が本来の効果を遥かに超えて発動している事が発覚しました。

 確実に健康被害が発生する域での効果発動が数回観測された為、誠に勝手ながら、他の異常を感知したプレイヤーの方々と同様に効果に上限を設定させていただきました。

 今後、健康被害が確認された場合は必ず運営に報告して下さい

====================

 

「鼻血出たし、まあそりゃそうか」

 

 一応、この対応には自分も異存はない。現実にまで影響を及ぼすのは、明らかにおかしいと認識するくらいの常識は持っている。極めて便利だったから報告はしてなかったけど、流石にバレたらしい。

 

「弱体化はどこまでかなっと」

 

 そんな事を呟きながら、スキルの効果をONにする。そのまま全開で集中してみるけれど、広がった感覚はある一定の所からうんともすんとも言わなくなった。あくまで感覚的な評価だが、イベント中のレイドボス達と戦った時の数歩手前が効果の限界になったらしい。

 まあこれなら、普通に行動する分には問題はなさそうだ。落ちるであろう障壁の展開精度も、多分魔導書のお陰で元と同じくらいにはなってくれる筈だ。それなら何の問題にもならない。

 

「ちょっと慣らしがてら、お店で休憩かなぁ」

 

 今打てる最善手はそれだろう。そんな事を思いつつ、俺は個人ルームを出るのだった。

 

 

 障壁の慣らし運転をしつつお茶を啜っていた俺のコートを、れーちゃんがくいくいと引っ張ってきた。我ながらジジ臭いと思ってたけど、まさかそれだろうか?

 

「ん」

 

 首を傾げる俺に、れーちゃんがとても不機嫌そうに返事をした。どうやら、何かがあるらしい。もしそうなら、考えられる事といえば……

 

「もしかして、もう杖が完成したとか?」

「ん!」

 

 今度は正解だった様だ。満面の笑顔でサムズアップを返してくれた。他のみんなの装備もあった筈なのに、本当にありがたい。ついこう、頭を撫でそうになってしまう。収まれ俺の腕……

 

「ん!」

 

 そう俺が自問自答している間に、れーちゃんは自信満々に3本の長杖を取りだした。

 

 受け取った1本目の杖は、大きな半月刃とスコップの様な刃の付いた長杖だった。性能的には前の杖と比べ若干下がった様に思えるが、他の機能を優先してもらったのだから問題ない。何せこの半月刃にはチェーンが装着されており、かなりの距離を飛ばす事が出来るのだ。しかも引き戻し機能付きな上、一応拘束効果も持っている。飛ばしてからの方向変更は流石に素の状態では無理だが、それを持って有り余るロマン能力だ。

 

 2本目の杖は、先端が木ノ実や葉で飾られた、蔓の巻き付いた枝を成形した様な不思議な反りのある杖だった。全体的に太めな長杖の形をしているが、これの本体は仕込まれた『無垢なる刃』だから問題ない。3つの中では1番典型的なタイプの仕込み杖で、そのまま使っても当たらないロマン武器である。因みに杖の反りは、【抜刀術】のスキルを不自由なく使える様作ってもらった。

 

 3本目の杖は、ここまでの杖の中で1番異質な杖だった。先ず見た目が、長杖の枠から大きく外れてメカメカしい。具体的に言えば、銃口を下にして立てた巨大なライフルに様々な外装が付いた感じだろうか。元々ヘカートⅡに似ていた賞品のライフルは魔改造され巨大化、ストック部分に冒涜的な紋様が刻印され、引き金の近くに杖として扱う為のグリップが存在している。が、スコープとマガジンが非常に大きいので、見る人が見なくてもわかるだろう。

 

「れーちゃん」

「ん?」

「完っ璧!」

 

 ざっと目を通して、握って確かめてみた限り、そのどれもがカタログスペックは完璧な性能だった。ならば、後は俺が使いこなせる様に練習するだけである。長杖が3つに、今も天井付近で遊ばせている魔導書。やる事が一杯だなぁ……

 って、今はそれはどうでもいいんだった。

 

「それで、いっつも作ってもらって悪いから、れーちゃんのやりたい事があれば手伝いたいんだけど……何かあるかな?」

「ん」

 

 いつも作って貰うだけ。それは嫌だったので聞いてみたが、ふるふると首を横に振られてしまった。……仕方ない、こうなったら今までの倍のペースでレア素材を確保するしかないか。ギルドの倉庫をレア素材で飽和させてみせようじゃないか。

 

「話は聞かせてもらったよ、ユキくん!」

「っとと、どうしたんだよセナ」

 

 いきなりどこかから現れて、背後から飛びついて来たセナに耐えながら俺は聞き返す。障壁がなかったら、何時ぞやの時みたく吹き飛ばされてただろう。全く、危ないし耳元で喋られると擽ったいったらありゃしない。

 

「れーちゃんって、ずっと装備を作ったりしてるから第3の街のボスを倒してないんだ。私たちが誘っても、今はいいって言ってて」

「それって本当?」

「ん」

 

 どうやら本当の事らしく、れーちゃんの首が縦に振られた。てっきりれーちゃんも第4の街に到達してると思っていたけれど、予想違いだったらしい。

 というか、そろそろセナを背負っているのが辛くなってきた。もうちょっと頑張ってくれよ俺のVit……元が0だから無理ですかそうですか。

 

「それで、ユキくんも藜ちゃんも確か討伐してないでしょ?」

「藜は兎も角、俺は倒してないな」

 

 これから新装備の試運転がてら、死に戻りしてパターン覚えてこようとは思ってはいたけれど。初心忘るべからず。鼻血吹いて倒れる程の全力を出して、誰かの手を借りないと、俺はボスの撃破なんて出来ないのだ。全部読みきって、潰して倒す。これが唯一にして最善の策だ。

 

「だからさ、今度倒しに行こうよ。ギルドのみんなで」

「みんなって事は、フルPTか……」

 

 遊撃役のセナ、アタッカーらしいランさん、完全にアタッカーの藜、魔法攻撃役のつららさんに、支援型のれーちゃんと俺。……ちょっと待って、ギルドに盾役が1人もいない件について。

 

「ボス撃破も、レア素材確保もれーちゃんの為になるし、いいんじゃないの?」

「れーちゃんはそれでいいの?」

「ん!」

 

 首を縦に振りながら、れーちゃんもサムズアップをしてくれた。どうやら、これで決まりの様だ。俺としては物足りないから、後でレア素材を大量に倉庫に放り込んでおく事にする。

 

「セナ、1つ気になる事があるんだけどいいか?

 うちのギルドってさ……メイン盾、どこ?」

 

 いるといないとで、俺の労力が即死級か瀕死級かくらいには変わる。魔導書のお陰で多少はマシになった筈だけど、ボス戦はボス戦。端的に言って死ぬ。

 

「当たらなければ、何の問題もないんだよ!」

「アッハイ」

 

 労力は即死級になる事が確定した。さて、久々の死に戻りループをしながら、装備に慣れて来ないと。後は攻撃パターンというか、方法を少なくとも全部対処出来るようにして来ないと。

 

「ところでユキくん、私も聞きたい事があるんだけどいいかな?」

「いいぞ。俺はこれから脳死周回タイムに入るから、メッセージ飛ばされても返信出来ないだろうし」

 

 あわよくばソロ攻略も目指したいけど、まあ全員でぶつかる時まで全力は温存するしかないから無理だろう。どっちにしろ、ボス戦前の脳死周回死に戻り記憶タイムは必須だ。そんな時に何か書かれても、変な返答しか出来ないだろう。

 

「うん! じゃあさ、その対戦車ライフルは何?」

 

 そう言ってセナが指差したのは、受け取った3本目の長杖である【銃杖《新月》】。だがこれは対戦車ライフルなんかじゃない。あくまで仕込み杖である。

 

「れーちゃんに頼んで作ってもらった仕込み杖だな」

「いや、でもこれってどう見ても対戦車ライ……」

「仕込み杖だな」

「いやいやいや!」

「仕込み杖だな」

「いやこれ撃てるよね?」

「そうだな」

「ならやっぱり対戦車……」

「対戦車仕込み杖だな」

「訳がわからないよ……」

 

 セナは頭を抱えてしゃがみ込んでしまった。確かに、対戦車仕込み杖とか言ったのは俺も悪かったかもしれない。自分で言ってて意味がわからないし。

 空中をくるくるさせて遊んでいた魔導書をコート内に戻し、受け取った杖を全てアイテム欄に仕舞っておく。

 

「さてと。それじゃあ俺は行ってくるから」

「……どこ、いくの?」

「ちょっと試運転に。後ボスに死にに行く」

 

 そう言って俺はこの場を後にしたのだった。

 

 

 ギルドを出てバイクを走らせる事数分。現在俺が居る場所は、何時ぞやか完全燃焼させたあの森の入り口だった。ここのモンスターなら、大抵読み切ってるし試運転にはピッタリだ。

 

「そんじゃ、まずは」

 

 アイテム欄から1本目の杖こと【錫杖《三日月》】を取り出す。相対する相手は、珍しい人型であるワーウルフ。動きがどう足掻いても人間の延長線なので、読み易さがMAXの相手だ。

 

「せーのっ!」

 

 長杖を勢いよく振り抜き、その勢いでチェーンで繋がれた半月刃が発射された。そこそこの勢いでワーウルフに半月刃が直撃し、僅かにHPを削り取る。そしてそれが引き金となって、戦闘が始まった。

 

「《加速》」

 

 まあ、俺にまともな戦闘なんてする気は無い(出来ない)。チェーンが半月刃を引き戻している間に、ワーウルフの駆け出した足だけを加速する。片足だけ後方に異様に速く動いたせいで、ワーウルフはバランスを崩し転倒した。

 

「《奪撃》」

 

 そして本命、遠距離からの《奪撃》でMPの吸収を試す。【レンジャー】に複合された狙撃スキルが乗って発射された半月刃は、当たったワーウルフから確かにMPを奪い取った。

 

「こっちの判定も成功っと」

 

 ワーウルフに鎖が絡みつき、行動不能にすると共に半月刃による継続ダメージが発生。更にまだ効果の残る《奪撃》によってMPが回復していく。よしよし、完璧だ。ボスに拘束は効かないけど。

 

「コンテンダー」

 

 勿論大嘘である。三日月を仕舞い、瞬時に3つ目の杖こと【銃杖《新月》】に切り替える。そして銃としてのグリップを握り、魔導書を1冊支えにして片手で照準を定める。

 

「《減退》《加速》」

 

 紋章を展開し引き金を引いた瞬間、発射直後5枚分の加速を受けた銃弾はステータス不足で曲がる前にワーウルフに着弾、そのHPを消しとばした。排莢された薬莢の大きさにビビる。

 

「でも基本の《加速》で200《減退》で275……連発は出来ないか」

 

 一応5枚で反動は殺しきれたが、このままでは連射が出来ない。もう1回試してみよう。取り敢えず加速はなしで、1枚減退を減らす。

 

「4枚でも、セーフか」

 

 結構な反動があったが、耐えられない程ではない。両手撃ちなら、取り敢えず安定して撃てるだろう。加速なしだから外れたが。

 

 暗算だけど、1発撃つだけでMP消費はどれだけ減らしても200〜300程度。今の俺のMPが2750だから、消費がかなりキツイ。実戦じゃ、使える機会はそこまで多くなさそうだ。薬莢を拾い、杖を2番目こと【杖刀《偃月》】に変更する。

 

「スキルも付け替えてっと」

 

 藜さんに譲ってもらったスキル【抜刀術(極)】をセットする。使える技は……うわ、何これ多い。普段から爆弾と紋章しか使ってないからなぁ、俺って。取り敢えず勝手が分からないし、初期スキルっぽいのを使ってみよう。

 仕込み杖を腰だめに構え、技名を唱える。

 

「《抜刀・鎌鼬》」

 

 仕込み杖を構えた身体が勝手に動き、即座に元の体勢に戻っていた。不思議に思っていると、直線上にあった森がずり落ちた。

 

「……は?」

 

 そして、同時に自分のHPも0になった。

 そうしてわけも分からないまま、身体はカシャンと砕け散り、俺はリスポン地点へと送り返されたのだった。

 

 後で調べて分かった事だが、この現象は身の丈に合わない武器を使用した場合の反作用らしい。近接武器ではダメージがそのまま反射され、射撃武器なら滅多に当たらない上自傷。魔法はよく知ってる通り、暴発するとの事だった。盛大な自爆である。

 

 ……お蔵入りかなぁ、コレ。




 色々まとめ

《抜刀・鎌鼬》
 抜刀術の初期スキル。斬撃を飛ばして遠距離攻撃をする
 射程は威力に、属性は武器に依存する
 消費MP1+現状のHPの3%


 基本のサイズでの比較
 加速 : 消費MP40
 減退 : 消費MP55



【錫杖《三日月》】
 Str +46 Min +20
 Int +47
 属性 : 光
 状態異常 : 拘束
 射程延長
 耐久値 500/500

 要するに最遊記の悟浄の降妖宝杖

【杖刀《偃月》】
《納刀中》
 Str +5 Min +56
 Int +30 
《抜刀中》
 Str +10 Dex +30
 Agl +30
 属性 : 無
 抜刀時ダメージボーナス
(所持者のステータスの最高値)
 耐久値 300/300

 特にモチーフは無し。使うと死ぬ

【銃杖《新月》】
 Str +47 Dex +23
 Min +15
 属性 : 無
 口径 : 20mm(ダメージボーナス200)
 装弾数 : 10
 命中率強化
 耐久値 370/370

 要するにラハティL-39 対戦車銃。減退なしで撃つと死ぬ。


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第42話 ボス戦前

カッターで指をザックリ切った所為で、微妙に執筆速度が落ちてたり。たつきショックもありますが。


 例のボス、正式名称【機天・アスト】の討伐は、数日後の今週の土曜日という事に決まった。セナのこの人を纏めるというか、話をつける能力はとても俺は真似出来そうにもない。流石はギルマスと言ったところか。

 

 そんな事を考えながら、俺はリスポン場所のギルドホームを出る。無論デスペナ中ではあるが、基本この状態がデフォルトなので気にする事はなくなった。

 

「おい」

 

 そう歩く俺の肩が引き止められた。

 珍しい事もあると思い振り返ると、そこに立っていたのは怪訝な顔をしたランさんだった。

 

「えっと、お久しぶりですランさん。つららさんとはどうですか?」

「久しぶりに会った奴に聞く話題じゃないだろう、それは……」

 

 額に手を当て、溜め息を吐いてランさんはそう呟いた。切り口となる話題がこれしか思い浮かばなかったとはいえ、流石に無神経が過ぎたかもしれない。ちぃ、覚えた。なんちゃって。

 

「まあいい。そんな事より、俺が聞きたい事は1つだ。何が目的だ?」

「……はい?」

 

 いつでも動ける様な、所謂臨戦態勢でランさんが言ってきたが、正直全く意味が分からない。いや、何かを心配しているというのは分かるのだが、実際に心当たりがない。れーちゃん絡みで特に何かをした……してるな。成る程それか。

 

「今回の討伐、ことの発端はお前と聞いている。れーを動かしてくれた事には感謝するが、目的が分からん」

「目的って言われましても……日頃の恩返しと、手伝いとしか。自分の為でもありますけど」

 

 第3の街を突破して最前線に行く事で、一応ガチギルド(自称)のうちに貢献しようとかそういう考えもある。まあ、俺が加わったところで何かが変わるとも思えないが。

 

「成る程な。だが、お前は既に第4の街に到達してるだろう?」

「あれ、バレてましたか。確かに俺は【ルリエー】に到達してますけど、目的は変わりませんよ?」

 

 そう俺は笑顔で返す。ボスの行動パターン把握のために、戦いに行っている時、半分くらいズルをしていると思う方法で戦っている時の事だ。本気を出したら、あっけなくボスを倒してしまったのは事実である。しかも何度か。だけど、藜さんやれーちゃんを支援する目的は変わる事はない。だって俺支援役だし。

 

「それに、多分ランさんが思ってる様な事にはならないと思いますよ?」

「ほう?」

「だってれーちゃんって、うちのギルドの妹的な立ち位置じゃないですか。誰かに違う風に思われてようと、俺はそう思ってますよ」

 

 俺がそう言うと、ランさんは数秒警戒は続けたものの、僅かな間でまた柔らかい笑みに戻ってくれた。案の定、れーちゃん絡みの心配だったらしい。

 

「そうか、それなら安心だ。だが、1つ聞いても良いか? どうやってあのボスを倒した?」

「どうやってとは? PT組んでた可能性もありますけど」

「いや、お前の事だからソロだろうな。そしてステータスは極振りだろう? どうやって、取り巻きと本体を倒した?」

 

 好奇心の様な、疑っている様な目でランさんがこちらを見つめてくる。そういえば、これを知ってるのはれーちゃんだけか。

 

「企業秘密ですね。それにあんな戦い方、腕も頭も腐っちゃいますし、何よりゲームに飽きそうです。なので、表には出しませんよ」

 

 ちょっと遠くを見ながら俺は言う。

 あんな、ゲームじゃない戦い方は絶対にやりたくない。敵がすぐに溶けて、こちらは負けないなんてアレは完全に別ゲーだ。あの呪いの装備は、まさしく人を駄目にする呪いの装備だった。

 

「お前がゲームを辞めたら、れーが悲しむからな」

「ランさんって、とことんれーちゃん好きですよね……」

「兄だからな」

 

 誇らしげにランさんは言うが、一般的にそれはシスコンと言うのではないだろうか。れーちゃんが嫌がってない様だし、悪いシスコンではないようだが。

 

「あ、そうだ。ランさん、こっちも質問良いですかね?」

「なんだ?」

「ぶっちゃけ、どうしてつららさんと付き合う事になったんですか?」

「んゴフッ!?」

 

 ちょっと質問を投げて見たところ、目の前でランさんが噎せた。やはりつららさん関係の話題は、ランさんにとっては鬼門らしい。

 

「見ていて、そんなに分かるものか?」

「そりゃあもう。死に戻りして来た時、良くイチャイチャしてるの見ますし」

 

 そう言う時はフードを被りスキルを使い、二重のステルス状態でそくささとギルドを出ているが。見ていて感じるのは、なんというか、落ち着いてて楽しそうな雰囲気なのだ。ちょっと目星と聞き耳に成功しちゃっただけだから、これは許して欲しい。

 

「はぁ……そこまで見られてるなら良いか。言いふらすなよ?」

「それは勿論。噂話好きな女子でもないですし」

 

 多分セナ辺りに言ったら、すぐにギルド中に広まるだろう。けど、俺は俺で修羅場を目撃されてる事もあるしそれはしない。迷惑をかけるのもアレだしね。

 

「元々つららとはリアルでも知り合いでな。偶然ギルマスにスカウトされて再会して、結構そういう雰囲気が続いてる時にれーに『ハッキリして。しないなら嫌いになる』って怒られたんだ。そういう流れで付き合う事になった」

「えぇ……?」

 

 聞いてみれば、あまりにもつららさんが可哀想な理由だった。というかれーちゃんってリアルでは喋っ……いや、脳内変換の可能性が高いか。

 俺が困惑に満ちた目を向けていると、大きく溜め息を吐いてランさんは話を続けた。

 

「だがまあ、付き合ってみたら色々とアレでな。惚れた。改めて告白した。和解して付き合って今に至る。これで良いか?」

「はい! 満足です」

 

 色々とアレの部分が気になるけど、誰にでも探られたくない部分はあるので我慢しておく。いやー、やっぱり他人の恋バナは良いものだ。

 

「で、ここまで話したんだ。お前も何か、追加情報はくれるんだろう?」

「そうですね。なら、俺のも他言無用ですよ?」

 

 そう言って俺は《偃月》を取り出してランさんに渡した。やっぱり、使うならこれとスキルの組み合わせまでが良いと思う。

 

「それで斬ってきました。一応俺の切り札ですね。まあ、スキルやらなんやらを組み合わせはしましたが」

「成る程な……確かにこれなら出来るだろう。察するに【抜刀術】か?」

「そうですね。使ったら反射ダメージで死にますけど」

 

 抜刀して使った場合、空振りでもない限りどう足掻いても俺のHPは0になってしまった。だからこそ工夫はするのだが、やりすぎたせいでチート級になってしまった。アレは俺の主義に反するから問答無用で封印指定である。

 

「極振りはマゾって噂は本当みたいだな……」

「俺もここ数日で、パターン把握のために100回は死んでますしね」

 

 でもそのお陰で、攻撃は8割くらいは防ぐことが出来るようになった。HPが残り僅かになった時の物はキツイが、多分アタッカーだらけのウチのギルドならすぐに終わるだろうから気にしない。

 

「……楽しいのか? それ」

「ええまあ。じゃないと、こんな縛りつきでゲームをやってませんよ」

「それもそうだな」

 

 そんなあまりにも基本的なことを聞かれて、俺は笑いを浮かべながら答えた。脳を酷使しつつ、爆弾パーティーしたりエド・フェニックス(動詞)る……これをどう見れば、ゲームを楽しんでないという事になるのだろうか?

 

「お前は今日、これからどうするんだ?」

「そうですね……本当はもう少しボスに殺されて来ようと思ってましたけど、萎えたので支援役の本分を果たしますかね」

 

 ランさんと話した事によって、ちょっと戦闘意欲が消えてきている。なので、ギルドに戻って新しい紋章の開発でもしようかと思う。

 ちょっと、色々と作ってみたい効果のものが多いのだ。自分に使う事は無いようなものも結構あるけど。

 

「そうか。なら、俺の出番はなさそうだな」

「いえいえ。お話ありがとうございました。後は存分につららさんとイチャついて来てください」

「しないからな!?」

 

 一礼してから、俺はギルドホーム内に戻り自分の個人ルームへと直行する。そうして開いたのは、紋章の作成画面。自分で一から作るのは初めてだが、まあきっと何とかなるだろう。

 

 ・

 ・

 ・

 

 そんな考えで、寝転がりながら画面を弄る事に2時間程。俺の手元には、新しく2種類の紋章が出来ていた。いや、反転した効果の物も含めれば4つという事になるが。

 

「《加重》と《軽量》、エンチャントとカースの《クリティカル威力》バージョン。一先ずはコレでいいかな」

 

 何せ、やれる物事の幅がかなり広がった。重さの変更は地味に嬉しいし、クリティカルを弄れるなら更なる火力サポートも出来るだろう。攻撃&防御&クリティカルバフ……孔明……過労死……うっ、頭が。

 

「ちょっと遠隔verになるけど『故に侘助』とか『破段・顕象』とか。後は他にも、新しい組み合わせで錫月杖の軌道変更とか……」

 

 寝転がりながら天井に手を広げ、色々と考えを巡らしていくだけで面白そうな事が次々と湧き上がってくる。が、実践するにはちょっとばかり時間が足りない。流石に寝ないと生活に支障をきたす時間が近づいてきている。

 

 出来る事は、精々が魔導書に魔法をかけて遊ぶ事くらいだ。重くしても浮いたままだし、真に手足のように動かせるようにする為の練習と考えれば良いのかもしれないが……酷く虚しい。

 鈍い音を鳴らしてぶつかり合う魔導書を見ていると、何だか寂しい気分になってくる。ついでにこれ、脆い障壁でも混ぜたらもう少し綺麗になるだろうか?

 全く。こんな気分になるのも、あの呪いの装備が原因に決まってる(こじつけ)

 

「でもほんと、狂ってるよなぁ……」

 

 少し前に届いた『再調整が遅れて申し訳ありません』という旨の運営のメッセージと共に、?マークが取れ使用可能になったあのデメリット装備。被ダメの効果はそのままだけど、その他の効果が狂っていた。専用に調整と言っても無理があるくらいには。

 

【穢土ノ呼ビ声】

 Luk +50

 属性 : 闇

 状態異常 : 常世

 使い魔 : 骸ノ鴉 ×5

 状態異常付与、被付与確率上昇(極大)

 被ダメージ4倍

 耐久値 : なし

 

【常世ノ襤褸切レ】

 Luk +43

 属性耐性が減少(極大)

 骸ノ身体(HP変動効果反転・環境適応(闇))

 被ダメージ4倍

 耐久値 : なし

 

【擦リ切レタ草鞋】

 Luk +42

 空間侵食 : 常世

 被ダメージ4倍

 耐久値 : なし

 

【朽チタ闇】

 Luk +44

 状態異常効果反転

 彼岸ノ夢(幻惑 : 質感・映像)

 被ダメージ4倍

 耐久値 : なし

 

【怨霊ノ数珠】

 Luk +45

 状態異常範囲拡大

 被ダメージ4倍

 耐久値 : なし

 

【咒ノ耳飾リ】

 Luk +66

 自動MP回復

 被ダメージ5倍

 耐久値 : なし

 

 スキルとこの装備、そして仕込み杖を組み合わせると、戦闘がただの蹂躙になってしまう。しかも一度慣れたら最後、ズブズブと使ってしまうだろう。まさしく、人をダメにする呪いの装備である。

 

「使い魔とか、そろそろ実装されるって噂はあったけど初めて見たし」

 

 骨だけの鴉で、ただいるだけで鳴く事しかせず、加えてパーティ枠を消費する困り者だが。ソロプレイが基本の俺にとっては、あまり問題ではないが。むしろ【ドリームキャッチャー】が使いやすくなるだけだった。

 

「もうちょっと練習したらやめるか」

 

 呪いの装備は後回しとして、ログアウトして寝た方が健全だ。何事も、用途用法用量を守ってが1番に違いないのだから。……極振りしてるやつに説得力がないとかは、言わないでほしい。

 




Diesのアニメ、12話+配信か……配信の方まで見れたらいいなぁ

-追記-
イベ報酬装備の効果わからん……全然わからん。と、感想欄にジャガー姉貴が沢山いたので追記。

長杖
ただそこにいるだけの、ペットモンスター×5召喚
自分が状態異常を受ける確率が極大上昇
相手に状態異常を負わす確率が極大上昇
被ダメージ4倍

胴体
被属性ダメージが極大上昇
回復ポーションの効果がダメージポーションへ
一部地形のスリップダメージが回復へ
HP変動効果は、直接的なダメージは良く通る。反射ダメージでとか反転できません
闇っぽい環境に適応
被ダメージ4倍


条件を達成する度に、自身の周囲の環境を【死界】に変更していく。初期は自身の周囲10cmくらい。最大は不明。
被ダメージ4倍


自身の受けている状態異常の効果が反転する
相手の攻撃を食らった時、リアルな触感と映像を自分と相手にプレゼント! 送料無料!
被ダメージ4倍


自身が使ったり、自身に掛けられた状態異常の効果範囲が拡大する。
単体毒→範囲毒
被ダメージ4倍


そこそこの勢いで自動でMPが回復する。
細かい数字は決めると問題しかなさそうなのでカット。
被ダメージ5倍


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第43話 初めてのPT戦

気楽に主人公の最大火力を計算してみたら、特定条件下で1発限りの超大技とはいえ100万オーバーなんて狂った数値が出てきたんじゃが……


 特に何かが進展することもなく日数は刻まれ、ついに来たボス戦当日。地下にダンジョンがあるこの場所、打ち捨てられ朽ち果てた機械群が散らばるこの場所こそが、第3の街のボスフィールドへの転移場所だった。

 

「それじゃあ、ギルドの全員でのボス戦始めるよー!」

 

 一歩引いた俺とランさんを除いた4人が、おー! と声をあげ手を合わせてた。いや、れーちゃんの声は聞こえないのだが。まあ特に険悪な雰囲気もないし、本当に安心である。

 

「どうかしたのか?」

 

 うんうんと頷いていた俺に、ランさんがそんな事を聞いて来た。

 

「いえ、こうして大所帯のPT組むのって初めてだから、少し緊張してまして」

「普通は、これくらいの人数で攻略するんだぞ?」

「まっさかぁ」

 

 そう冗談めかして言ってみたが、事実だったらしい。こんなに大人数とか、意見合わせるのも大変だしないと思ってたんだけど……ソロの方が珍しいだけか。まあそんな事もあってか、全員の戦闘時の装備を揃って見るのも初めてだったりする。

 

 俺やセナ、藜さんの格好は変わりないので置いておくとして、ランさんは武士のような服装に落ち着いた青色のマフラーを装備しており、武器は一見刀のように見える長身の銃だ。一応全装備、服ではなく軽鎧に分類されているらしい。

 つららさんの戦闘装束は、こちらはこちらで色々と思うところのあるものだった。某ゲームの若奥様とそのリリィの装備を足して2で割った様な防具群に、水晶から削り出した様な透き通る杖を持っていた。

 

 この2人とは数回一緒に戦っているから良い。だが、初めて見たれーちゃんの装備は、とても特徴的なものだった。

 

「れーちゃん装備って、ランさんの入れ知恵ですか? あれってどう見ても……」

「みなまで言うな。もしかしたら、俺の本棚に有るのを読んだのかもしれん」

 

 頭には大きな赤いリボンの付いたヘッドドレスを装着し、右肩の落ちた黒いドレスを鎧の腰あてで止めて着用している。また袖に隠れて見にくいが手には鎧の手甲が装備され、靴も同様の鎧の装備だ。首に枷も大きな錠前のネックレスも存在しないが、身の丈の半分を超える本を携えたれーちゃんの姿は、どう見てもとあるキャラに酷似していた。鍵守はランさんだな(確信)

 

 男衆でボソボソと話し合っていると、セナがこちらを向いてびしっと俺を指差して話し始めた。どうやら向こうの会話はキリがついたらしい。

 

「ほんとは今すぐボスに凸りたいんだけど、ここにロクなPTを組んだ事がない人が約1名いるからちょっと説明しておくね!」

 

 遠回しにされる訳でもなく、普通にdisられた。私は悲しい……(ポロローン)

 いやまあ、確かに基本1人で他はデュオを組んでま……もとい、2人くらいでしか戦ったことはないけど。

 

「うちは基本的に、誰かの邪魔をしない範囲なら何してもいいよ! 誰かが危なくなったら、誰かがフォローする感じで!」

「うわぁ」

 

 あまりにも適当だけど、それでも成り立っているんだろうか? いや、実際成り立ってたんだろう。そこに完全にアタッカーの藜さんは兎も角、風が吹けば死ぬ様な俺が混ざって平気な訳があるまい。最近でこそ、死ににくくなったとはいえ。

 

「あ、もっかい言っておくけど、私の事は守らなくていいよ!」

「りょーかい」

 

 セナのその言葉に、軽く手を上げて返答する。釈然としないけども、守るべき対象が1人減るのは労力的に嬉しい事でもある。この前のボス戦の時から知ってたけど、やっぱりなんかモヤモヤするんだよなぁ……

 

「それじゃあ、今度こそれっつごー!」

 

 そんなセナの掛け声と共に、俺たちの身体は転移の感覚で包まれたのだった。

 

 

 俺たち6人が転送された場所は、馬鹿でかい聖堂の様な場所だった。ただし、光の差すステンドグラスは割れて散らばり、床の上にある物は全て爆発があったかの様に薙ぎ倒されている。壁や床はそのお陰で綺麗で、動き回るに十分な空間は確保されている。

 ここの空間の名前はそのまま【かつての聖堂】その効果は、光属性の効果が20%上昇すること、闇属性の効果が20%減少すること。そして敵味方全員に30秒で1%のリジェネがかかること。だが、ボスの姿はまだない。

 

「各自散開!」

 

 そのセナの号令に反応して、前衛の3人は各々の武器を構えて疾走した。後衛の俺たちは、互いに多少の距離を上げて杖を構える程度だ。

 

「【潜伏】」

「えっ!?」

 

 そんなある程度安全圏の中で、俺はフードを被り更に潜伏も使用しておく。コートのお陰で姿まで透明になったからか、つららさんが驚いてるけど気にしない。そんな事を考えている間に、奥の方の空間に天から光が差し込んだ。

 

「来るよ!」

 

 そして、その光の中から1人の少女が降りてきた。胸に関しては、PTのメンバーがメンバーなので言及は避けておく。色素が抜けた様な白い髪に、真紅の目。その手先から二の腕、足先から太腿辺りまではゴツい機械で武装されている。だが、真紅の宝玉が埋められた胸当てよりも、纏う奥が透けそうな服よりも目を惹くのは、背中から生える1対の機械の翼。それは機械的な寒さを感じさせつつも、どこか神々しいものだった。

 

 しかし、これだけでボスの登場は終わらない。

 

 追加で更に光が差し込み、ボスの背後に巨大な2対の翼が追加で出現した。浮遊するそれらが発光し、ボス本体と他の翼にバフをかけてボスの出現は完了した。正直とっくに見飽きた登場だが、名前の通り【機天・アスト】はまるで天使の様だった。

 

「《フルエンハンス》《エンチャントライト》《クリティカルアップ》」

「《氷面鏡》!」

「ん」

 

 前衛の3人にバフを盛ったのと同時、前衛から炸裂音が轟いた。セナはゼロ距離射撃、藜さんは光→3連突きのコンボ、ランさんはマシンガンの様な射撃。そしてワンテンポ遅れて、別の翼が鏡のような青い氷に覆われ、巨大な稲妻がその氷塊に直撃した。

 

「なん……だと」

 

 実はれーちゃんも、かなりの攻撃力を持っていたらしい。ヤバい……俺も爆破しないと。いや、今はPT戦だった。自重しないと。藜さんとランさんに放たれた攻撃を防いでおく。

 

 因みにそれらの攻撃全てが巨大な翼に集中しているが、その理由はこのボスの特性に関連している。本体たる少女のHPバーはそこまで多くないのだが、最初の時点じゃ一切の攻撃が通らないのだ(※極振りを除く)4つの翼がそれぞれダメージカットなどのバフを大量にかけているせいで、それらから破壊しないといけない。

 

「っと《障壁》」

 

 だが、翼も本体も同じ場所に留まってはくれない。しかも、今のように当たり前に攻撃だってして来る。序盤は翼1個につき10のホーミングビームと、本体からは極太の光線だ。俺たちの側に飛んできた20と太い光線を見もせずに防ぎつつ前衛の様子を見れば、何か凄いことになっていた。

 

 キラキラとした燐光を撒き散らすセナに向け21の光線が発射され、その全てをギリギリで回避していく。そしてその直後セナの動きが急激に増し、三点バーストで放たれた弾丸が翼のHPを大きく削り取った。直後、跳ね上がった翼を同様に飛び跳ねたランさんが連射で撃って高度を下げ、待っていたかのような藜さんの3連突きがそれを粉砕した。

 凄いなぁ……ランさんの銃。連射する時は、ちゃんと鍔の部分回転させるようになってる。流石れーちゃん、作り込んでるなぁ。

 

「はい《障壁》」

 

 再びこちらに飛んできた光線を防ぎつつ、前衛の3人にバフを盛り直す。

 残りの翼は3つ、そう思って周囲を確認しようとした瞬間、爆音が轟いた。慌ててそちらを見れば、砕け散った細氷が紅蓮の炎に照らされキラキラと煌めいていた。勿論、直撃を受けた翼は撃沈している。

 

「いや、テヘペロじゃないでしょつららさん」

 

 こちらを向いたランさんにそんな顔をしてるけど、2枚撃墜したら多少パターンが変化するからそんな場合じゃないんですよねぇ。

 その証拠に、ボスの本体が悲鳴を上げて身をよじった。そして、目に大粒の涙を浮かべて戦闘が続行される。

 

「はっはー《障壁》《障壁》!」

 

 ボス本体の翼からそれぞれ20の羽型ビットが射出され、巨大な翼のホーミングビームに合わせる様に照射型のビームが発射された。翼の方は2枚、ビットの方は1枚あれば防げるから楽なものである。まあ1秒のみなので、後衛の方のは多少手間がかかるが。

 

「【魔力の泉】」

 

 減ったMPを回復させつつ、このままじゃマズイと思い杖を《三日月》から《新月》に持ち変える。少しくらいは活躍しないと、申し訳が立たないからね。

 断続的に放たれる光線を防ぎつつ、魔導書を1冊使い《新月》を支えて翼に照準する。両手で構えた先にあるのは、上下から氷に押しつぶされている巨大な翼。この距離で動かない相手なら、外すわけがない。

 

「ファイア」

 

 轟音と共に放たれた1発の弾丸が、5枚の加速陣を潜り抜けた事による埒外の速度で翼を撃ち抜いた。そして、それによって翼のHPバーは0になり爆発する。よし、決まった。

 

「のわっと!?」

 

 なんて油断していると前衛側からも爆発音が聞こえ、翼が撃墜された事を感じ取ることが出来た。どうしようこれ……早すぎてちょっと笑えない。まだちょっと、俺の心の準備が整ってないんですが。

 

「最後の攻撃変化くるよー!」

 

 セナが良く通る声でこちらにも情報を伝えてくれた事によって、俺はちゃんと落ち着いた思考を取り戻すことが出来た。翼を全部落としたボスは、ぶっちゃけ最初から最後まで発狂モードだ。しかも、初っ端には「は?」としか言いようのない攻撃をしでかしてくる。

 防がないと後衛は確実に死ぬ感じの。

 

「れーちゃんはあんまり動かないでね」

「ん」

 

 フードを脱ぎ、透明化を解除してから俺はれーちゃんの数歩前に立つ。ついでに、予めセットしておいた曲の再生準備を始める。

 

「え、私は?」

「要ります? 多分相殺とか出来ますよね?」

 

 ちょっと前線に目を向ければ、黒いマントを羽織ったランさんがタイミングを伺っていた。多分、あのマントの効果って元ネタ(ヴォルケイン)準拠だろうし問題ないだろう。

 

「確かに出来るけど……」

「彼氏さんも守ってくれるでしょうし」

 

 何せほら、後衛にはれーちゃんもいるし。俺? 俺はオマケ。

 

「な、な、なんで知って!?」

「いやだって、ギルドの共用スペースで話してましたし。リスポンポイントなのに」

「えぇー……」

 

 つららさんが、微妙に落ち込んだような声で肩を落とした。後でフォローしとかないと。

 

 まあ、それは一先ず置いておいて。

 

 ボスが絹を裂いたような悲鳴を上げて、機械の翼からパラパラとパーツが落ちては浮かび上がっていく。浮かんだパーツの総数は……ちょっと多くて分からない。全く、後光ビームみたいなのとか何故入れたし運営。

 

「で、ユキさんは、アレ防げるんですか?」

「半分くらいはセナが持っていくっぽいので、それなら普通に。ああ、勿論つららさん含め全員やりますよ?」

 

 良く分からないけど、ジャスト回避を決める度に全ステータスが上昇するスキルをセナは持っているらしい。上限は350%とか言ってたっけ?

 

 ダンジョンボス戦の時を思い出していると、ボスの上げていた悲鳴が止んだ。そして翼を広げ、パーツを伴い浮かんでいき……静止した。ガクンと項垂れた頭上に光が集まり円環を形作った所で、パーツ群がこちらを照準する。全く、なんでここに無敵判定が入ってるんだか。

 

『実行──ステラ、レイ』

 

 やれやれと1人でため息をついていたのと同時、機械音声と共に一斉に光線が放たれた。本当は、もっと喋るボスの筈なんだがなぁ……

 

「さてと、やりますか」

 

 ボソリと呟いた俺は、音楽のスイッチを入れ全力で集中を開始した。アップテンポな曲だし、テンション高めでやりますか!

 




流してる曲は通し道歌 高嶺舞Verのつもり

※透明化は街中でも使用できますが、使用中は自分以外のメニュー画面等の文字入力画面を視認することは不可能になります。
また、どの状況でも透明化中はハラスメント的な設定が通常より遥かに強く設定されます。


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第44話 初めてのPT戦②

Diesの0話見れない……見れない……
でも動くニートはウザさが倍増してるのは分かった(部分視聴)


 発射された光線の数は膨大だが、ホーミング性能は皆無に近く威力もそれ程でもなく、当たり判定も小さい。代わりに、1度当たり足を止めてしまえば、2回3回と続く射撃でHPはタンク役でもない限り尽きてしまう。そんな性能のフルバーストが5回、これから開始される。

 だがそれならば、幾らでもやりようはあるというものだ。

 

「《障壁》」

「《アイススフィア》」

 

 ステップを踏み、身体を回し、自身の防御は最小限で他の皆の所に障壁を展開していく。セナ以外の前衛と、俺以外の後衛全員分で計100枚。これが今の俺の限界だが、都合よく相手の光線の総数も100程度だ。

 その半分ほどをセナが引き受け、完全に当たらないものを取捨選択していけばカバーなど容易だ。しかもつららさんが厚い氷の壁を展開してるし、遠坂スタイルで防御に専念できる。常に余裕をもって優雅に!

 

「余裕余裕」

 

 やはり、問題なく防ぎ切ることが出来た。だがそれだけでは、前から何の成長もしていない。それだけでは、ただ使えるだけで変化がない。ならば何が出来るか? 強化する為の答えは、元より手の中にある。時間を、更に減らせば良い。

 

「ハッ」

 

 2回目の射撃に合わせて、展開時間を1秒から0.7秒にまで減らした障壁を展開する。一見何も変わってない様に見えるが、地味にズレがある以上前よりは辛い。最低限の障壁と足捌きで踊る様に光線を躱し、全員分のカバーをするのは難しい。

 だがまだ足りない。足りないぞぉ! クーガーの兄貴の発言を借りるまでもなく、速さが足りない!

 

「ハハッ」

 

 3回目の射撃に合わせて、頭上にMPポーションを3つ投げつつ舞いと障壁サポートを継続する。確か人間の反応出来る限界が0.2〜0.1秒。今の速度にはもう慣れた、1秒付近なんて甘えはここで捨てていこう。

 つららさんの張った氷の防壁には、未だ被弾はほぼ無し。ならばもっと攻めていくしかないだろう。

 

「ハハ、ハハハッ!」

 

 4回目の射撃。全身をMPポーションで濡らしたまま、踊りつつ展開時間を更に削る。展開時間は、一気に削って0.3秒。そこまで削った弊害か、やはり光線に対して展開を失敗している部分が一気に増えた。

 

 ちょっと距離があるせいで、前衛組の防御が非常にやりにくい。なにせ後衛組と違って、もの凄い勢いで動き回ってるし……いや、これは甘えか。仮にも支援役と名乗っているのだから、前衛の道を切り拓いてこそだろう。

 

「ラストぉ!」

 

 そして、最後の一斉射撃。無理矢理感覚に合わせた障壁を連続展開、先程とは比べ物にならない精度での防御に成功する。心の内でほくそ笑みながらも、集中は切らさずボスを見る。

 するとそこでは、攻撃後の無敵時間も終わり、本体だけとなったボスに赤黒い色の鎖が纏わりついていた。そのどれもが、なんというか【死界】で感じたのと似た様な雰囲気を発している。

 

「ん」

「ナイスれーちゃん!」

 

 そんな事を言いながら、セナが銃を乱射しながら突撃。下段から振り上げた銃剣が、ボスの翼を切断した。……うん、あの鎖はれーちゃんの仕業という事で良いのだろう。よくよく見れば、デバフっぽい感じもするし。

 とりあえず俺の役割は終わったと思うので、再びフードを被り支援に徹することにする。前衛組にバフをかけ直し、れーちゃんの後ろ辺りに陣取って補助を続ける。

 

「まあ、その必要もなさそうか」

「ん?」

 

 何かを感じ取ったらしきれーちゃんを尻目に、前衛を観察しているとそうとしか思えなかった。

 

 飛び上がり天井を蹴って降りて来たセナがもう片方の翼を切断し、藜さんの槍が足を突きボロボロに穿ち尽くした。そこにランさんの銃撃が入り腕を粉砕し、つららさんの魔術による氷の牙が残った足も氷漬けにし食いちぎっていった。

 それらのお陰で恐ろしい勢いでHPは削れていっているのだが……やはり、見ていて気持ちの良い光景ではない。だからこそ俺がソロで来た時は、なんの感情も見せる間も無く一刀で全て吹き飛ばしたのだし。

 

「さてと」

 

 念の為れーちゃんの前に出て、地面に伏せてスコープを覗き込む。どアップで苦痛に歪むボスの顔が映った、止めよう。地面に伏せたまま、今度はスコープを覗かず狙いをつける。装弾数は残り9発……よし、今回はここで使い切ってしまえ。

 

「狙い撃つ」

 

 ボスの光臨から発射される攻撃をタイミングを合わせ封殺しつつ、本体の体を加速10枚分の速度を乗せた射撃で撃ち抜いていく。

 途中でヘイトが溜まりすぎたのか、ステルスが解けるというアクシデントこそあったものの、俺が全弾を撃ち終える頃にはボスのHPは残り極僅かとなっていた。ものの数分でこの始末……前衛の火力が本当におかしい。いや、6人中4人がアタッカーだからか。

 

「《バーストショット》!」

 

 そして残っていたそのHPも、セナが放った爆発で敢え無く0へと落ちた。人型ボス、やっぱりあまり相手にしたくないなぁ……やるからには一撃で仕留められるように努力しよう。

 そう意思を再確認してる間に例のメッセージが届いたらしく、藜さんはセナと、れーちゃんはつららさんとハイタッチしていた。俺はもう何回か来てるから特に新しい報酬などは何もない。強いて言うなら、既に何個か持っているレアドロップの素材である【機天の光輪】くらいだ。

 

「これで一応、全員が最前線に仲間入りか」

「そう言うことになるな」

 

 いつのまにか近くにいたランさんが、ボソッと呟いた俺の言葉にそう返した。ボンヤリといるのは分かってたとはいえ、気が抜けていると結構ビックリするものである。あ、そうだ(唐突)

 

「そういえば、障壁邪魔じゃありませんでした?」

「ん? 最初は邪魔と言えば邪魔だったが、最後の方は特に気にならなかったな」

「なるほど、やっぱり1秒もあったら邪魔でしたか。0.3秒まで削って正解でしたね」

 

 事実を言っただけなのに、なんだか信じられないものを見る目で見られた。解せぬ。【空間認識能力】にリミットが設定されてなければ、多分0.1秒まで迫れた気がするから尚更解せない。

 

 悔しさにぐぬぬと唸っていると、セナ達女子組がこちらを手招きしていた。どうやらこっちに来いという事らしい。

 

「行きますか」

「そうだな」

 

 こういう時は、後手に回った方の立場が低くなるのである。古事記には書いてないが、自明の理だ。

 幼馴染様(ギルドマスター)の意向のままに全員とハイタッチをして、ボスフィールドに留まったまま作戦会議の様なものが始まった。

 

「先ずはみんなお疲れー! かなり相性が良いボスだったけど、こんなに早く倒せたのは初めてだよー」

「ほぼ全員がアタッカーだからな」

 

 ランさんが、頷きながらそう言う。確かに我らがギルドは、俺以外全員がアタッカーと言っても過言じゃないとかいう、超脳筋思考だった。いや、一応れーちゃんはデバフ強いっぽいし、セナも回避盾染みた事はしてるんだけどね?

 

「正直、俺のサポートとか要らなかったんじゃないかなぁ」

「それは、ない、です」

 

 はぁ……とため息を吐いた俺を、藜さんがキッパリと否定した。

 

「躱す手間が、省けますし、安心感が、全然違い、ます!」

「そうですよ! あんな狂った防御ができるのって、ユキさんしかいないじゃないですか!」

「えぇ……?」

 

 褒められてるのか貶されてるのか分からないつららさんの答えに、微妙に悲しくなる。まあ、何回か受けてもう慣れたから気にしない気にしない。

 

「まあいいか、うん。

 それで、このまま第4の街まで行く予定で?」

 

 少し疑問に思ったので聞いてみる。

 第4の街【ルリエー】に行くには、湿地帯とかなり広い川を渡って、追加で沼地も通る必要があった気がするのだ。バイクは俺含め3人乗りだし、結構な距離の割に高速移動手段がない気がする。

 

「んー、別にあんまり時間もかからないし……あ、ユキくんはAgl無いから……」

「そうそう」

 

 バイクにでも乗らない限り、俺の鈍足に合わせてもらうか置いていかれるかになる。前者は泥はねが迷惑になるし、後者はそもそも御免である。

 

「セナちゃん、それだと私もAgl足りないかも」

「ん」

 

 ランさんの隣にいるつららさんが、恐る恐るといった雰囲気でそう言ってきた。そして2人の足元でぴょんぴょんと跳ね、れーちゃんも自己主張している。紛う事なき癒しだ。

 因みにAglのステータスで比べると、セナ>(特化型の壁)>ランさん≒藜さん>つららさん>れーちゃん>(極振りの壁)>俺 となる。最近セナのAglの値、補正込みだけど夢の700代に乗ったとか話してたっけ。

 

「お前のバイクは、確か3人乗りだったよな?」

「ですね。んー、あー、なるほどそういう事ですか」

 

 後衛3人がバイク移動、他は普通に移動すれば保つという事だろう。見た目と立場的に、俺が運転するのはあまりよろしくない気がするけれど。

 

「……ランさんって運転出来ます? スキルが無くても、最低限は乗れる様になってますが」

「サイドカーを運転した経験はないが、一応リアルの運転免許は持ってるぞ。だがお前はどうするんだ?」

「障壁で座席作るので、それで」

 

 お互いに目を合わせ、問題ない様なので固い握手を交わす。問題なく交渉は成立した。こういう時、ランさんは話が早くて助かる。

 

 話がまとまったので、俺は立ち上がって距離を取り、そのまま《偃月》を勢いよく抜き放った。そしてくれぐれも何かにダメージを与えない様に、白刃をV字に振るう。

 

「ウェイクアップ……ヴァン!」

 

 目を丸くするランさんの前に、上空に展開したアイテム欄から愛車(ヴァン)が落下して停止した。良いブレーキ音とスライドのおまけ付きで。我ながら、完璧な登場の仕方だな。

 

「みんな準備出来たみたいだし、れっつごー!」

 

 そんなセナの声が引き金となって、俺たちは【ルリエー】に向かって出発したのだった。追従設定で張った障壁の上に体育座りする実に怠惰な飛行方法は、実に脳が震える結果だった。

 

 余談だが、途中から俺がセナと藜さんに両脇を固められ、微妙に居心地の悪いけれど良い状態に陥ったのは言うまでもない。最後まで2人分の障壁に3人で座ってたけど、リアカー出せばよかったかもしれないなぁ……いや、それでもダメか。後々でいいけど、最低でも座席になる様に改造しないと。




幸運89くらいをマイナス補正入れて代用ロールしてます。


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第45話 ルリエーへ

 湿地帯を走り抜け、馬鹿でかい川に架けられたプレイヤーメイドの橋を抜け、職人が最低限整備した沼地を越えた所に第4の街【ルリエー】は存在している。だが、俺は正直この街があまり好きではなかった。

 

「到着〜!」

「酔いそう、でした」

 

 その理由は、この街の周囲の地形である。北西方面に広がる尋常じゃない広さと深さの湖のせいで、先程まで走っていたプレイヤーが最低限整備した場所以外は例外なく水に沈んでいるのだ。つまり、湖、北東の腐った木の集まった腐林、南東から南西にかけて広がる沼地の全てで、ロクにバイクを走らせることが出来ないのだ。ならば街中ならと思うかもしれないが、それも不可能だ。街中にはヴェネツィアや某漫画のウォーターセブンの様に水路が走り、歩道は人が2人並んだらもう狭い程しかない。そんな所でバイクを走らせたら、水路に一直線である。

 

 今だって、街の大門の端に僅かに存在する陸地にバイクを停めている状況だ。お疲れ、と泥だらけのバイクに一声かけてからアイテム欄に仕舞う。

 

「街にはついた。俺たちは俺たちで、好きな様に動いてもいいか?」

「いいよー。寧ろ、今日は付き合ってくれてありがとうね!」

 

 そう言ってセナが手を振る先、ランさんとつららさん、れーちゃんが係留されてたゴンドラに乗って街の中へと向かっていった。この街の中での基本的な移動手段は、50D払ってあのゴンドラに乗る事だ。

 

 まあステータスのゴリ押しで飛び回ったりも出来るし、俺は俺で障壁を張れば水面を歩けるのであまり関係ないが。後は、あんな風に物凄い良いフォームで走る良い体格のおじいちゃんみたいな人も……おじいちゃん!?

 

「フハハハハ!」

 

 ガションガションと非常に機械的な足音で水路ダッシュをし、そのままフィールドに出て行ったおじいちゃんを見て固まってる藜さんを放置し、ランさんに『デート楽しんでくださいね』とフレンドメッセージを送っておく。

 少し……いや、かなりビックリしたけどあの人は間接的な知り合いだし。シドさんの所のギルマスの特徴と完璧に一致してるからね、仕方ないね。名前はハセさんだったっけ。

 

「ゆ、ユキさん、今の! 今の!」

「あー、まあ知り合いですから慌てなくても大丈夫ですよ?」

 

 俺の袖をくいくいと引っ張り、震える手で走り去るハセさんを指差す藜さんにそう答える。頭を撫でるのは最近はもう我慢できる様になって来たから──

 

「え、嘘。ユキくんアレの知り合いだったの!?」

「あー、うんそうだね」

「なんか私の扱い酷くない!?」

「はいはい」

 

 気がついたらセナの頭をポフポフとしていた。馬鹿な……克服したと思っていたのに。藜さんからの視線が痛いのですぐに止めることが出来たが、これは非常に危ない。あーほら、セナもなんか勝ち誇った様な顔しない。

 結局目の前で、バッチバチ火花が散り始めた。休戦してるのはボス戦とかの間だけだったらしい。ヤバイナー、イガイタイナー。しかも逃げたら地獄の果てまで追われること請け合いである。

 

「よし、堂々と逃げよう」

 

 小さくそう呟いて、俺は水路に飛び降りた。一応ある程度泳ぐ事も出来るが、遅いので障壁で一歩分の足場を作っての移動である。

 そして対岸に着いた時には、目の前に2人がいた。アイエェ!?

 

「どこ行くつもりだったの? ユキくん」

「置いてけぼりは、いや、です」

「アッハイ」

 

 いや、その、さっきまであんなにバチバチしてたのに連携早くないです? どっちにしろ、俺が逃げられる訳もなかったという事だ。

 そして、2人で俺の周りをぐるぐる回りながら話を始めた。俺は神父でも麻婆好きでもマスターでもないのに……あ、黒鍵はいつか欲しいけど。基本的に投擲物は俺の主な攻撃手段な訳だし。

 

「ふふふ、この街に来たからには、ユキくんには私達の買い物に付き合ってもらうんだよ!」

「嫌な予感がするんですが」

「ここは、周りが全部、水浸し、です。それで、今は夏、です」

「あっ」

 

 察した。

 

「それに、そろそろ夏休みだもんね! ずっと戦いっ放しなんてのは、女子としてダメだと思うんだ!」

「そして、ここは、最前線ですけど、観光地にも、なってるそう、です」

 

 オーバーレイでもするかの如く回転する2人の言っている事から、これから俺に何が要求されるかという事を察することが出来た。マズイな……セナなら見慣れてるから良いとして、藜さんの場合はとても宜しくない。俺の貧弱なボキャブラリーじゃ、褒め言葉とか陳腐なのしか出てこないぞ……

 

「つまり?」

「「ユキくん(さん)には、私達の水着の買い物に付き合ってもらう/います!」」

知 っ て た

 

 だが、予想通りの展開だったが故に『それは違うよ!』って感じでその言葉、斬らせてもらう!

 

「俺としては別に付き合っても良いよ?」

 

 ここでにべもなく断る様だったら、俺はとっくにリアルで刺されている様なことが沢山ある。誰にとは言わないが。まあそれは良いとして、藜さんはどうか知らないがセナと俺には重大な問題があるのだ。

 

「まあ、リアルの話を持ち込むのは無粋だって分かってはいるんだが……セナって勉強してるか? 俺の知る限り、部活とUPOに全振りして課題すらやってなかったりする記憶があるんだが。

 確か、1週間もしないうちに期末テストだった筈だぞ? 補習とか入ったら目も当てられないんじゃないか?」

「……あっ」

 

 完全に忘れていたという顔で、セナの動きが止まった。セナの苦手教科は数学と社会系統だ。この分だと、ロクに勉強してなかったな。苦手教科を知ってる理由? 課題見せたりなんだり色々あるからに決まってる。因みに俺は、逆に英語に関しては沙織に頼ってるのでwin-winである。

 

 さて、藜さんはどう言いくるめようかと振り向くと、こちらもこちらで固まっていた。え、藜さんの方でもテスト? でも時期が同じとか地味におかしい気がしないでもない。

 

「ちょっと作戦たーいむ。ユキくんは動かないでね!」

 

 そう言ってセナは、藜さんの手を引いてコソコソと話し始めた。アレは混じれそうにない。

 暇だから魔導書を水車みたいに回して待っておく。そういえば最近、暗記科目とかの成績が右肩上がりなんだよなぁ……なんとなく、無茶な使用をしてた【空間認識能力】のお陰な気がする。気のせいかもしれないが。

 

 そんな下らない事を考えているうちに、2人の密談は終わったようだった。2人してこちらにずんずんと近づいて話し始めた。

 

「テスト終わったら、付き合ってくれるん、ですよね?」

「そりゃまあ、勿論」

「言質は取ったからね!」

 

 そう言って2人はログアウトしてしまった。

 そのまま数秒放心して固まっていると、何人かのNPCから同情する様な目を向けられていた。それでも話しかけてこないあたり、ゲームなんだなぁと……いや、痴話喧嘩に関わりたくないだけだな(確信)

 

「さて、何しよう」

 

 差し当たりの目的だったボス討伐が終わり、なんだかんだで俺を引っ張ってくれる人がいなくなった今、完全に俺は暇になった。いつもならフィールドに出て爆弾パーティーの流れなのだが、さっきまで外を走っていた為そんな気分にもならない。かと言って、街の大通りは既に回った事があるので別にいいやと思える。

 

「……あ、アレがあったか」

 

 思い立ったが吉日とも言うし、俺は踵を返し街という安全圏から外へ踏み出した。そして、そのまま守衛さんに笑顔でサムズアップし自分にフィリピン爆竹を叩きつけ爆発させた。

 瞬時に身体は砕け散り、HPは0へと落ちてリスポン場所への転移が始まる。ポータルに行くより、多分これが1番早いと思います。

 

 

「さて」

 

 リポップしたギルドの個人部屋の中で、ベッドに腰掛けて大きく息を吐いた。因みに、ギルド内のどこをリスポン地点にするかは自由なので、ランさんからの訴えによって(デフォルト)の場所から変更してたりする。

 そして、態々ここに戻ってきた理由は、今まで放置してアイテム欄の肥やしになっていたあるアイテムを使う為である。

 

「完璧に忘れてたよなぁ……これ」

 

 そのアイテムの名前は『レアスキル取得チケット』と『Sレアスキル取得チケット』。それぞれ【ヘイル・ロブスター】と【機天・アスト】の初回討伐ボーナス品である。正直新しいスキルとか要らないと思って放置していたが、取得可能なスキルを見るだけでも時間を潰すのにはもってこいだろう。何せ前のとは違い、レアとSレアなのだ。さぞ良いものがあるに違いない。

 

 そう考えレアスキルの方から見ていくが、要らないものばかりが陳列されているだけだった。幸運が上がるものもほぼ上位互換は無いし、不遇スキルやネタスキルも突き抜けた物がなかった。はっきり言って、期待はずれである。

 

「れーちゃんに相談しても使い道がなかったら、こっちは完全にゴミ箱……いや、誰かに売るか」

 

 そう割り切って、実体化させていた銀色のチケットをアイテム欄に仕舞い直す。残っているのは、金色のSレアチケット。こっちこそ期待して良いだろうと選択画面を開く。

 アホみたいに出現するスキルをソートし、お目当の物を探していく。あ、【マネーパワー】の上位互換があった。

 

「ぐぬぬ……流石Sレア。欲しい物が多い……」

 

 それでも欲しいものが3つという俺は、案外欲張りなのかもしれない。普通の強スキルをバッサリカットしてるだけとも言う。まあそれはいいとしてだ、欲しいのはこの3つとなる。

 

 1つ目は【豪運】という、強化倍率が1.3→1.5倍になった幸運の強化スキル。

 2つ目が【儀式魔法】という、無駄に準備と発動に手間がかかる上発動率が安定しないが、したらなかなか強いらしい魔法スキル。

 3つ目が【大富豪】という、マネーパワーの強化倍率が0.003%に変わった上位互換スキル。

 

 重複するなら1つ目なのだけれど、どうにもそこは怪しいから決断できない。後下2つが、後々後ろ髪を引かれる思いになるのが見えるということもある。

 

「こういう時は、ダイスに限る」

 

 どれにしようかなと指先で決めても良かったのだが、この歳にもなってという考えが浮かんできたので変えることにした。そして、ゲーム内のLukが影響しない(筈の)ゲーム外ネットにあるダイスアプリを起動する。3つだし、1d6振って4以降を2で割ればいいだろう。割り切れない5は1扱いで。

 

「せーのっ」

 

 目を瞑り実行のボタンを押すと共に、コロコロという電子音が響き……ピタリと止まった。ゆっくりと目を開けると、そこに表示されていたのは4。ということは、選ばれたのは綾鷹もとい【儀式魔法】という事になる。

 

「よし、取得っと」

 

 使うタイミングは限られそうだが、良い買い物をした。やり込み要素が増えるのは良いことに違いない。

 なんかこう、盛大に爆発を起こす魔法とかあればいいなぁ……威力はお察しだろうけど。




【儀式魔法】
 儀式を行い魔法を発動するスキル
 このスキルは、MPを消費しない
 術者の技量によって、範囲・効果・強度などが全て変動する

 使用可能魔法
 ・大規模HP・MP回復
 ・大規模魔法攻撃
 ・大規模ステータス強化


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閑話 続々・それっぽくしたい掲示板回

おまけ


【雑談】紋章術師交流スレ【転載禁止】

 

 1.名無しの紋章術師

 他の2種類と違って、問題が非常に多いから建ててみた。折角だから、明かせる範囲でみんなで紋章共有しようぜ!

 

 なんせ紋章術だけ、幾ら練度を上げても作らないとバフもデバフも増えないクソ仕様からな! 作れる幅は広いけど

 

 2.名無しの紋章術師

 >1乙

 でも、なんかその辺が、セクシー……エロイ!

 

 3.名無しの紋章術師

 >2

 おっ、(頭が)大丈夫か大丈夫か?

 

 4.名無しの紋章術師

 あのさぁ……こ↑こ↓は紋章術のスレなんだから、これじゃ台無しだぁ

 

 5.名無しの紋章術師

 あー、もう滅茶苦茶だよ

 

 6.名無しの紋章術師

 唐突なホモの絨毯爆撃に草も生えない

 で、実際のとこどう思ってるのさね? イベント2つ越えて、そこそこ人も紋章も増えたと思うんだが

 

 7.名無しの紋章術師

 障壁を弄って遊んでるけど、中々上手くはいかないな。あれを伸ばせばこっちが足りないになったり、MP消費がばかにならなかったり

 

 8.名無しの紋章術師

 ワカル。そんなんばっかで、自作紋章とか微妙な出来のやつばっかだよな

 

 9.名無しの紋章術師

 強化倍率やら範囲やら、ほんと面倒だよな……あとフォント

 

 10.名無しの紋章術師

 なんで無駄に達筆なんだろうな

 

 11.名無しの紋章術師

 障壁のフォントをドルベにするくらいしか出来なかったよ……

 

 12.名無しの紋章術師

 >11

 ちょっwwおまww

 

 ・

 ・

 ・

 

 223.名無しの紋章術師

 自作紋章の自慢をして良いと聞いて

 

 224.名無しの紋章術師

 良さげなくせに実在しなかったら怒るからな!

 

 225.名無しの紋章術師

 効果 : 対象の語尾に強制的に「ニャ」を付ける。ついでに全ステが微上昇

 効果時間 : 30秒

 消費MP : 100

 

 査定のほど、よろしくお願いします

 

 226.名無しの紋章術師

 草

 

 227.名無しの紋章術師

 流石に草生える

 

 228.名無しの紋章術師

 猫耳と尻尾がない、-114514点

 

 229.名無しの紋章術師

 犬派なんだよなぁ……

 

 230.名無しの紋章術師

 >228

 所謂獣化みたいなスキルを実際に見ない事には流石に……そこは知り合いに良い職人がいるから、そっちで我慢してもらうしか

 >229

 語尾が「ワン」になる犬verも用意してたり

 

 231.名無しの紋章術師

 合格

 

 232.名無しの紋章術師

 合格

 

 233.名無しの紋章術師

 ちくわ大明神

 

 234.名無しの紋章術師

 合格

 

 235.名無しの紋章術師

 誰だ今の

 

 236.名無しの紋章術師

 >225

 ちょっと拝借して、喋る言葉が全部忍殺アトモスフィアに汚染される紋章も作ってきたゾ

 

 237.名無しの紋章術師

 職人速スギィ!

 

 238.名無しの紋章術師

 でもそろそろ、ちゃんと実戦に耐えられる効果のやつが欲しい……欲しくない?

 

 239.名無しの紋章術師

 くっせぇなこのスレ

 でも実際ネタばっかだから、久し振りにそういうのは欲しかったりするのは事実

 

 240.名無しの紋章術師

 ここに上げられてる紋章って、持って帰って自分で使っても良いんですよね?

 

 241.名無しの紋章術師

 そうだね、探してるのがあるならお兄さんに頼ってくれたまえ

 

 242.名無しの紋章術師

 >241

 花の屑だ! 過労死させろ!

 

 243.名無しの紋章術師

 えっと、じゃあ遠くを見れる望遠的なものって既出ですか?

 

 244.名無しの紋章術師

 確か出てたわね。だけど、もしやタダで教えてもらえるとお思いなのかしら? 与えられたモノには須くそれに見合うだけの代償、対価が必要なのよ

 

 つまり、あなたもどんなものでも良いから自作紋章を1つ置いていきなさい。あなたが最も自信があるものをね!(1スレにある通り、嫌なら別の物でもいいわ)

 

 245.名無しの紋章術師

 >244

 えぇ……じゃあ1番頼りにしてるの投げます

 効果時間 : 0.3秒

 範囲 : 20cm円

 硬度は……とりあえず何枚か重ねればレイドボスの攻撃も防げるとしか

 

 246.名無しの紋章術師

 怒涛の長文ネキに草生えるww

 なるほど。随分硬……えっ?

 

 247.名無しの紋章術師

 望遠は100辺りに確かあったな

 ちょっと待ったそれは色々とおかしい

 

 248.名無しの紋章術師

 あ、ありましたありました。ありがとうございました

 そういえば、ここってオリ紋章投げるとこでしたね。既出かもしれませんが、適当に投げておきます。

 

 効果 : クリティカル威力40%増

 効果時間 : 30秒

 消費MP : 25

 

 249.名無しの紋章術師

 なんだ今のキチガイ!?

 

 250.名無しの紋章術師

 とりあえずクリ威力は更新されたな。えらい効率いいなこれ

 0.3秒障壁? 俺には使いこなせる気がしないっすわ

 

 251.名無しの紋章術師

 うう、俺の30秒30%が……

 障壁は、やってみたがこれを運用するのは辛いなぁ

 

 252.名無しの紋章術師

 というか、効果時間1秒未満に設定出来たんだな……俺はなんか知らんが無理なんだが、何でだ?

 

 253.名無しの紋章術師

 >252

 俺は出来るから、多分練度の問題だろうな

 因みに効果時間延ばす方向にも拡張されるゾ

 

 254.名無しの紋章術師

 そっかー、精進だな。使えるとは言ってないが

 

 255.名無しの紋章術師

 それな。硬さには憧れ……なくもないが、使うとなるとなぁ

 1秒なら使……使えるか?

 

 256.名無しの紋章術師

 >255

 思ったより1秒って長いし行けるんでね?

 なおサイズ。デフォルトまで戻したら正直微妙だった

 

 257.名無しの紋章術師

 ……つまりこれは虚偽報告の可能性?

 

 258.名無しの紋章術師

 貰った望遠の紋章を改良してきたから戻ってきたら、虚偽報告の疑いをかけられてる……だと!? 

 

 259.名無しの紋章術師

 ここの職人、みんな仕事速ない?

 

 260.名無しの紋章術師

 嘘じゃないってんなら、証拠動画を持ってくるのが当たり前だよなぁ?

 

 261.名無しの紋章術師

 おっ、そうだな(便乗)

 

 262.名無しの紋章術師

 あくしろよ

 

 263.名無しの紋章術師

 一瞬でレスが汚染されたんだが……

 まあ、実際見てみたいのはある

 

 264.名無しの紋章術師

 まあ、ボスを倒さなくても良いなら

 今水の底だから、ちょっと時間かかりますけど

 

 265.名無しの紋章術師

 ファッ!?

 

 266.名無しの紋章術師

 たまげたなぁ……

 

 267.名無しの紋章術師

 待ってる

 

 ・

 ・

 ・

 

 313.名無しの紋章術師

 まだかな?

 

 314.名無しの紋章術師

 逃げたんじゃね?

 

 315.名無しの紋章術師

 ホモはせっかち(確信)

 

 316.名無しの紋章術師

 お ま た せ

 

 317.名無しの紋章術師

 ほんへ

 

 318.名無しの紋章術師

 ほんへ

 

 319.名無しの紋章術師

 お前のことを待ってたんだよ!

 

 320.名無しの紋章術師

 なんでホモの巣窟みたいになってるんですかねぇ……

 

 321.名無しの紋章術師

 なんか色々とアレですけど、まあいいか

 っ【動画】

 

 322.名無しの紋章術師

 ファ!?

 

 323.名無しの紋章術師

 ………

 

 324.名無しの紋章術師

 ( ゚д゚)

 

 325.名無しの紋章術師

 ( ゚д゚)

 

 326.名無しの紋章術師

 ( ゚д゚)

 

 327.名無しの紋章術師

 ( ゚д゚ )

 

 328.名無しの紋章術師

 こっちみんなww

 

 329.名無しの紋章術師

 うそん……全部防いでやがる。

 

 330.名無しの紋章術師

 キラキラキレイデスネ

 

 331.名無しの紋章術師

 (100枚くらい同時展開してる異常事態は黙っておこう)

 

 332.名無しの紋章術師

 しかもなんか踊ってるというか、射撃と障壁の壊れる音に混じってBGMが聞こえてる気が……ノリノリだなぁおい!

 

 333.名無しの紋章術師

 金属パーツ付きになってるが草臥れた茶色のコート、黒髪、長杖、そして紋章術……まさかあいつは!?

 

 334.名無しの紋章術師

 何、知っているのか、>333!

 

 335.名無しの紋章術師

 左様。奴の名前はユキ。このゲーム屈指のキチガイ集団の一角を担う変態で……極振りだ

 

 336.名無しの紋章術師

 極振り……?

 

 337.名無しの紋章術師

 ああ。極振りだ。

 

 338.名無しの極振り

 伝えておこう。これが俺の《障壁》

 

 339.名無しの紋章術師

 ……まさか

 

 340.名無しの紋章術師

 …まさか

 

 341.名無しの極振り

 やる気があれば理論上誰にでも使える壁。理論障壁

 俺の《障壁》は、10枚もあればレイドボスの一撃すら防ぎ切る。すなわち……

 

 342.名無しの紋章術師

 誰にでも……

 

 343.名無しの極振り

 そうだ。俺の《障壁》は、理論上完璧な防御性能を発揮する……

 

 スキルの詮索とかいうマナー違反をした人には、もれなく爆破テロがデリバリーされますけどね!!

 

 344.名無しの紋章術師

 ひぇっ(ティーガーを捻じ込まれなくて安心)

 

 345.名無しの紋章術師

 気持ちよくネタ鑑賞してたら、さらっとテロ宣言していきやがった

 

 346.名無しの紋章術師

 いかん。このままじゃ、ここは変態と変人とホモの巣窟としか見られなくなってしまう

 

 347.名無しの紋章術師

 >346

 手遅れなんだよなぁ

 

(以下挽回すべく多少マシな開発が続く)




(久しぶりにシャークネード見たせいでプロットが崩壊した顔)


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第46話 だが、奴は弾けた

 最近、爆破が足りない

 

 テストを控えている中UPOにログインし続けている俺の頭には、ここ最近ずっとそんな考えが渦巻いていた。新装備の開発と慣らしで満足な爆破が出来ず、ギルドの皆とのボス戦でも爆破が出来ず、最後に満足の出来る爆破が出来たのは、かなり前のイベント時が最後だ。

 

 故に、二徹の頭で実行した。

 

「つまりこれは、精神衛生上仕方のない事だったんですよ!」

「そんな理由で、ビルを爆破解体するんじゃない! 大騒ぎだったんだぞ!」

 

 そう、第3の街にある高層ビルの1つを盛大にケリィった(動詞)結果、俺は即座に犯人を特定したザイルさんにより確保されたのだった。まあ、ケリィほど上手くはないから他のビルにもかなりの被害を出したけどね! そして現状、【極天】のギルド内で両手を後ろで縛られた状態で拘束されている。……何故かにゃしぃさんと一緒に。

 

「まあまあ、いいじゃないですかザイル。逆に、今までのユッキーが何もなさ過ぎたんです……これで彼も、名実ともに我々の同類ですよ!」

「そうですよ。春先のつくしんぼみたいに大量に生えてるやつを、たった1本爆破する事の何が悪いんですか」

「全部だ阿呆が!」

 

 目の前で肩で息をするザイルさんは無視し隣のにゃしぃさんに目で訴えて見たが、何の問題もないと帰ってきた。流石ににゃしぃさんの様にフィールドを消しとばす様な事はまずいと思うが、こちらはたかがビル1本程度である。被害も規模も下なのに、何故怒られるのか全く意味不明である。

 

「はぁ……ザイルさん、それにこれは完全犯罪なんですよ? あらかじめ雷管付きC4を“設置”するんじゃなくて“置いて”きて、周りにちょーっと導火線を敷いてきて、1つにまとめたところにフィリピン爆竹を配置。そして起爆して、ビルも発破……それら一連の出来事にかなりの時間をかける事で落としてきた全てのアイテムから所有権を消した事によって俺は、幸運にもNPCからのヘイトを稼ぐ事なく世紀の大・爆・破に成功したんですよ! ついでに買ったキープアウトのテープで周囲を囲っていたので、プレイヤーへの被害もゼロなのです!」

 

 笑みを浮かべながら、俺は高らかに犯行を謳い上げる。隣のにゃしぃさんを見れば、素晴らしい事を聞いたと目を輝かせていた。

 

「そんな阿呆らしい事に、無駄な労力を使うな!」

「へぼッ!?」

 

 スパァンと、勢いよく巨大ハリセンで頭を叩かれた。余りにも綺麗に頭頂部に直撃させる辺り、流石はDex極振りと言ったところか。おぉう……痛くはないけど、徹夜頭にこの衝撃は響く……響く……

 

「大丈夫ですかユッキー? 一緒に爆裂しますか?」

「お前もお前だにゃしぃ!」

「イイッ↑タァイ↓アタマガァ……」

 

 にゃしぃさんはハリセンの衝撃で倒れ、あぁ……あぁ……と痙攣している。あ、また頭打った。

 

「ゴッフゥ!?」

「で、さっきからソワソワしてるそっちもこうなりたいのか?」

「手を出してから、言わないで下さい。ゴツンって鳴りましたよゴツンって」

 

 吹き飛ばされて頭を打ちながら俺は愚痴る。実際の痛みはないけど、頭に響くなぁ……これ。ははは、ログアウトして眠りたくなるじゃないか。

 だが、まだだぁッ!!

 

「まあそれはいいんです。それよりも、ここのギルドの皆様って大体β版からやってる人達ですよね?」

「まあ、そうだ。元々は、全員その道の最先端を行く先駆者だったぞ。今ではまあ、ほぼ全員こんなざまだが」

 

 ザイルさんが冷ややかな目で見つめる先には、ユカキモティ…とうねうね蠢くにゃしぃさんがいた。先駆者が、ここまで拗らせちゃったかー。

 

「ならちょっと、この前取得したスキルについて聞きたいことがあるんですけどいいですか? 魔法系のスキル「私にお任せをッ!!」

 

 フラフラと身体を起こしながら言うと、すぐ隣で一本釣りされたマグロの様ににゃしぃさんが飛び跳ねた。両手を縛られたまま、器用にテーブルの上に着地し、腰をエビの様に曲げてこちらの顔を覗き込んで聞いてくる。顔近い近い。

 

「なんですかなんですかそのスキルというのはレアスキルですよねそうですよね私に聞くということは勿論そうなのですよね私としては大規模破壊する系統の魔法ならより嬉しくてそうじゃなくてもそれはそれでとーっても教えてもらいたいので──」

「ぬんッ!」

「イイッ↑タイ↓メガァァァッ↑」

 

 にゃしぃさんがテーブルから転げ落ちて、凄い音を立ててテーブルを巻き込んで飛んで行った。顔面にハリセンとか、絶対痛いよなぁ……

 

「それで? そのスキルってのはなんだ?」

「《儀式魔法》ってスキルなんですけど──」

「儀・式・魔・法ッ!!」

 

 跳躍し何回転もしながら、再びにゃしぃさんが戻ってきた。未だ両手を縛られたままなのに。この人の身体は、一体全体どんな構造をしてるのだろうか。

 

「MP消費なしで大規模な魔法を発動できる代わりに発動条件が陣の設置や舞などを行わなければいけないという地味にレ ア ス キ ル ゥ ッ!!」

 

 聞きにきたのは、にゃしぃさんが全て説明してしまったがそのスキルについてだった。ここ2日、寝ずに色々と試してみたのだが残念なところが見えてきたのだ。MP消費なしで魔法を発動できる点は素晴らしい。発動条件が見本と寸分の狂いもなく陣を描いたり、魔力で紋様を作ったり、舞やダンスを行わないといけない点も、まあ妥協しよう。けれど、相変わらず攻撃だけが上手くいかないのは妥協出来ない。

 

「説明ありがとうございますにゃしぃさん。で、ぶっちゃけこれって発動には問題なくても、攻撃威力ってInt依存であってます?」

「ええ勿論! 私は面倒なので使いませんが、最低値を超えるダメージは出なかったと記憶しています!」

 

 はぁ……と大きな溜息を吐き項垂れる。なるほど、何度も発動させて見たけれど、広範囲ではあるがフィリピン爆竹1つ分程度の威力しかなかったのはそれが原因らしい。

 

「でも確かユッキーは、Intの値は0ですよね? なのに範囲攻撃魔法を取って、何が楽しいんですか?」

「いえ、俺にとっての本命は回復と補助系統の方ですから」

「ああ、そんなのもありましたね!」

 

 にゃしぃさんにとって、攻撃以外はそんなのという認識らしかった。いやぁ、考え方が非常に分かりやすくてグッドだね。

 

「でもユッキーユッキー、あれって発動難易度が相当高くありませんでしたか? だから、強くてもβ時代から嫌われてたスキルだったと記憶しているのですけれど?」

「あー、確かに俺も最初は凄いイライラしましたよ。完全な手書きで真円なんて描けないし、魔力を操るとか知りませんし、舞もダンスも出来ませんモン!」

 

 鮭延(走狗)気分で話すと気が楽でいい。

 スキルの練習を始めた1日目は、大体正攻法の事を試し続けて終わった。それではやはりまともに発動せず、効果もヘボく、なんだこのゴミスキルと思っていた。けれど、2日目に入った深夜帯に気がついたとある方法でそれは解決した。

 

「でもほら、俺にはこれがありますモン《加速》」

 

 そう言ってコートの下から魔導書を1冊呼び出し、加速させて小さめの紋章を描き終えた。するとその紋章が淡く輝き、同様にギルド内を優しい緑の粒子が漂い始めた。

 

 誰もHPもMPも減ってないから効果のほどは分からないが、一応これが1番簡単な大規模回復である。この範囲と出来ならば、毎秒50回復で継続時間は5秒程度だろうか。因みにこれは、さりげなく発動例1と2の複合技術だったりする。この2日間、寝ずに検証に検証を重ねて練習をした訳ではないのだ。まあ、まだ舞とダンスはロクに検証してないが。

 

「おおっ!」

「まさか俺の改造した魔導書が、筆みたいに扱われるとはな……ショドウフォンにでもするか?」

「遠慮しておきます。まあ、練度が足りないのか使える魔法は6つだけなんですけどね」

 

 ランさんに聞いてみたところ、2日もぶっ通しで同じスキルを使っていたら、本当はもっと使える術技は増えるものらしい。多分これ、練度も上がりづらいスキルなんだろうなぁとは思う。

 

「っと。話が逸れてしまいましたね。それでユッキーは、私に何を聞きたいのでしょうか?」

 

 首を傾げるにゃしぃさんを見て、聞こうと思っていた事を思い出した。いかん……楽しくなって、完全に忘れてしまっていた。

 

「ほら、中国に『春節』ってお祭りがあるじゃないですか」

「はい」

「あれって、爆竹を大量に鳴らしますけど、そも爆竹って厄祓いとかめでたい時に鳴らすやつじゃないですか」

「らしいですね」

「で、爆竹は神を迎えるって意味で使用される事もあるって、どこかで聞いたことがあるんですよ」

「なるほど、つまりはそう言うことですね!」

 

 概要を説明していると、得心がいったのかにゃしぃさんはポンと手を打った。やはり同類……非常に理解が早くて助かる。

 

「おい待てコラ。お前ら狂人2人で勝手に納得してないで、こっちにもちゃんと説明しろ」

「全くもー、察しが悪いですねザイルは! つまりユッキーは、爆破で儀式魔法を使えないかと言ってるんですよ!」

「そう言うことです」

 

 趣味と実益を兼ねた、最良の発動方法である。爆竹鳴らすのは1種の儀式って言えなくもないからね、仕方ないね。例え鳴らすのが通常の爆竹じゃなくて、火薬たっぷりのフィリピン爆竹だろうと変わらないに決まってる。

 

「それで、隠れて練習出来る場所知らないかなと思いまして。最前線じゃセンタさんに巻き込まれるし、ダンジョンじゃアキさんに巻き込まれるし、森だとにゃしぃさんが吹き飛ばすでしょう?」

「そうだな……ほぼ全員、ある種縄張りみたいな物を持ってるしな」

「私みたく、1日1回は最大火力をブッパしないと、ストレスでおかしくなっちゃう人種ですからねぇ」

 

 やはりそう言うことだったか。というか、縄張り持ってるとかどこの野生動物なんだろうか……野生の狂人か。俺も同類じゃないと言えなくなって来てるので、あんまり貶すのはやめておこう。

 

「放浪してる奴らは翡翠以外放置で良いとして、どうだろうな? 心当たりはあるか?」

「そうですね……広さはダンジョンと同等で最前線ですが、ルリエーの地下迷宮とかどうでしょう? 練習序でに、何かレアアイテムや未発見クエストを見つけられるかもしれませんよ? それに、まだ誰の根城でもないはずです。センタは最近、水の中ですし」

「おお! ありがとうございますにゃしぃさん!」

 

 最前線と言うことで、未処理のクエストがあり、未発見の敵がいて、未発見の宝箱やアイテムも山積している。今までの攻略済みの場所を探検する事と違って、本当に冒険すると言う感じがする。そう、そんな事で憧れは止められないってやつだ。

 

「また狂人の根城が増えるのか……」

「さっきから狂人狂人言ってますけど、銃を持ったザイルだって似たようなものじゃないですか」

 

 お礼をして帰ろうと思った瞬間、そんな爆弾発言によって空気が凍りついた。あ、これとっとと帰った方が良いやつだ。

 

「あ、じゃあここにお礼の品は置いていくのでありがとうございましたー!」

 

 フードを被りステルス、序でに足音も殺して出口へと向かう。手は縛られたままだが、この程度ならなんの問題もない。逃げ出すけれど、アストからのレア泥置いていくから許してほしい。

 

「今、なんて言ったにゃしぃ」

「あ、これヤバイスイッチ入っちゃってます。今のは言葉の綾です! それにどうせ私達の同類なんだから大人しくそれを受け入れギャーー!!」

 

 全速力で逃走しドアノブに手をかけた辺りで、前方から恐ろしい密度の銃撃音が聞こえ始めた。見たくないので目を瞑る。見ない、見ないぞ俺は……

 

「野郎、ブッ殺してやるぁぁぁ!!」

「あー! ごめんなさい撃たないでください! 痛、ちょっ、やめっ…ヤメロォー!!」

「お邪魔しましたー」

 

 後ろの状況がいよいよ激しくなって来たので、勢いよく扉から脱出する。これで漸く安心して行動ができ──

 

「やってやりますよ《エクス・プロージョン》ッ!!」

 

 ギルドが、内側から盛大に爆発した。建物の外観は無事だが、内側は滅茶苦茶だろう。

 

「俺はしーらない」

 

 ……俺、もしかしたら連続爆破犯扱いされるかも? まあ気の所為だよね!




爆発オチなんてサイテー


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第47話 春眠暁を覚えず

キャラがやる気がなくダラけてるだけの話
数合わせとか言っちゃいけない


 カチ、カチ、カチと、時計の針が小さな音を奏でる。

 いつも通りの光景。いつも通りの日常。それは、今がテスト中であろうと特に変わる事はない。違う点があると言えば、誰も彼も無言だという事と、それによってカリカリというペンの音がよく聞こえるという事くらいだ。

 

 それに、先日【ギアーズ】でテロったお陰で爆破欲の解消された頭は冴えに冴え渡っている。結局一夜漬けとなってしまったが、これがまあ解ける解ける。英語? 英語だけは勉強してるけどなんだろうね、知らない子ですね……因みに今日の教科は世界史と現代文。暗記とフィーリングで何とかなる上、この2つしかない楽な日である。

 

 そうして解き終えた答案を前にぼーっとする事数分、チャイムが鳴り響き本日の分のテストは終了した。多分65〜90の間くらいは取れただろう(適当)テストが終われば、もう特に学校でやる事は無いので帰るのみである。

 本来、ここで同級生のグループに混じり駄弁ったり、一緒にファミレスなどで昼食を取ったりするのが正常な高校生と言うものなのだろう。だが悲しいかな、なんだかんだセナがやらかしたり俺が否定しなかったりしていた事が重なって、俺にそこまで仲の良い友人はいない。一緒に飯を食べたりする友人はいない。大事な事なので2回言った。

 

「……帰るか」

 

 だけどまあ、普通に話す程度の友人はいるからボッチではない。余は、余はボッチではないのだ(ヴラド公並感)

 男子(おれ)だと一線引かれるのに、女子(沙織)だと快くグループに引き込んでもらえる辺り格差社会である。今になってイラっときた。ハブってきたあいつら、今度クラッカーで……いや、やっぱ無しか。今でさえやべーやつ認定されてるのに、これ以上悪化したら堪らない。

 

 そんなくだらない思考を振り切り席を立つ。ここで何もしてないより、帰って勉強なりゲーム内で何かをするなりをする方がよっぽど建設的だ。

 

「とーくん、一緒に帰ろ!」

「はいはい」

 

 荷物を詰めたリュックを背負う直前、背中に重みが生じた。振り返らずとも、声と匂いと雰囲気で分かる。全く、この頃暑くなってきたと言うのに。転ばないし支えられる様に鍛えたとは言え、我が幼馴染様にはどうか自重を覚えて欲しいものである。

 

「でもこれじゃ目立つし、俺が荷物を背負えないんで降りましょうねー」

「ぶー」

「ぶーたれても譲りませんよっと」

 

 沙織が降りるのを待ち、自分のリュックを背負う。男子からの『イチャつくんじゃねえよクソが』という目も、女子からの色々な目線も変わらない。よく考えてみれば、こんな目で見てきたり囲んで棒で叩く様なことをしてきたりする男子と仲良くなる必要ないな、うん。

 

「さて、じゃあ今度こそ帰るか」

「うん! あ、でも私、家帰っても誰も居ないからお昼……」

 

 結局いつも通りの帰りとなった。もう2人は付き合ってると認識されているのは確認出来ているが、一応違うと弁明したい。外堀も内堀も埋められてる上完璧に包囲されてるが、まだ本丸は落ちてないのだ。

 

「買ってく? 作る?」

「んー、じゃあ作る!」

「そこまで美味しくないと思うんだけどなぁ……」

「いいの!」

 

 文句を言いつつも、なんだかんだ断れないのは甘いなぁとは思う。まあ実際、沙織の親から頼まれてるという理由もあるのだが。食材を使わせてもらってる辺り、本当に頭が上がらない思い……で、いいのかなこの場合。まあそんな事もあって、自分で食べる分は限りなく少なくしている。

 

「リクエストは?」

「オムライス!」

「りょーかい」

 

 ざわざわ……ざわざわ……と男女2種類のザワつきが聞こえてきたが、気にする事じゃないとシャットアウトする。確か、沙織は卵焼きは甘いのが好きだったっけ。作るの久々だけど、上手くふわとろな感じに出来るだろうか?

 

 

 

 後にこの場面を見ていた同級生友人男子Aはこう語った。

 

『あ…ありのまま、あの時起こった事を話すぜ! オレが彼氏彼女の関係だと思っていた奴らを煽ろうとしたら、最早関係が夫婦級にまで進展していた……何を言ってるのかわからねーと思うが、オレも何があったのかわからなかった……頭がどうにかなりそうだった。学生恋愛だとかイチャラブだとかそんなチャチなもんじゃあ断じてねえ、もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ……』

 

 と。誰が夫婦だ誰が。後本人は兎も角、便乗して煽ってきた奴には後でキチンとお話しなければ。

 

 

「ごちそうさまでした」

「お粗末さまでした」

 

 結局沙織の家にお邪魔し、いつも通り料理をして一緒に食べた。満腹になったのか、沙織は万歳の体勢で後ろのクッションに倒れ込んだ。マンションだが、椅子じゃなく座って食べる感じだからこそ出来る芸当である。兎も角、満足してもらえた様で何よりだ。

 そのまま自然な流れで食器洗いに移行しながら、にへらぁとした顔で寝転がる沙織に問いかける。

 

「勉強は?」

「明日の教科は楽だし、折角2人きりだもん」

「そっかー」

 

 それで会話が途切れた。テレビがお昼のニュースを垂れ流す中、ゴソゴソという音がしていると思っていたら、沙織が隣に来ていた。今まで制服だったのが、ラフな私服へと変わっている。俺も着替えたいなぁと思いつつもここは慣れで、いつも通り2人で流れ作業的に洗い物をこなしていく。

 

 この時点で、友人Aが『夫婦じゃねえか!』とツッコミを入れてくる事なぞ、この時点での俺には予想する事は出来ていなかった。

 

「何かやる事は?」

「特に何もー」

「ほいほい」

 

 食器洗いが終わると、特にやる事もないので元の場所に座って寛ぐ事になる。並んで座り、他愛もない事を話すこと十数分。気がつけば沙織が隣でコクリコクリと船を漕いでいた。

 

「とーくん、ひざまくらー」

「ん」

 

 れーちゃんではないが、そう一音だけで返事をして膝をポンポンと叩く。すると数秒もせず、ぽすと沙織の頭が乗せられ、そしてそのまますぅすぅと寝息が聞こえ始めた。大方、一夜漬けみたいな勉強で睡眠時間を削っていたのだろう。

 

「まあ、静かに寝させてあげますか」

「ん……」

 軽く頭を撫でてから、自分のバッグを引き寄せて教科書類を取り出す。こういう状態もとっくに慣れたものだ、このまま本を読んだりなんだりをする事なんて造作もない。

 

「ふへへ……」

「ああもう、口開けっ放しで涎垂らして」

 

 ティッシュの箱を手繰り寄せ、拭ってゴミ箱に放っておく。まだズボンは制服だからクリーニングとか面倒だし、臭いとかもね? だから放置は出来ないのである。無論投げたティッシュは、スキル無しでも余裕でゴミ箱にホールインワンだ。

 

「とーくん……(しゅき)

「はいはい」

 

 やっぱり起きてるんじゃないだろうかと思うが、頬を突っついてみてもなんの反応もない為違うのだろう。というか、こうやって無防備に寝てる状況だけを見れば明らかに役得だし、

 

「可愛いんだけどなぁ」

 

 考えているだけのつもりが、気がついたら口に出してしまっていた。危ない、本人に聞かれたら一体何をされるやら。

 

「勉強しよ」

 

 このまま時間を無駄にするのも嫌だし、勉強モードへと移行する。まあ、机を使うのは辛いので暗記か携帯で何かをする事しかやれそうにもないが。

 今が大体昼の2時だから……まあ、1、2時間は寝かせてあげますか。

 

 

 大体1時間ほどそうしていただろうか、ガチャリと玄関の扉が開かれる音がした。一旦顔を上げそちらを向けば、買い物袋を下げた沙織のお母さんの姿があった。

 こちらの目を見つめ、膝で幸せそうに寝ている沙織を見つめ、頬に手を当て沙織母は言った。

 

「あらあら、お邪魔だったかしら?」

「いや、なんでそうなるんですかいつもの事なのに!」

 

 幸せに寝ている沙織を起こすのも悪いし、小声で、だが全力で否定する。これ以上逃げ道を塞がれたら非常に困るし。

 

「座ったままで失礼しますが、お邪魔してます」

「どうぞごゆっくり。それで、沙織はどれくらいその状態で?」

「大体1時間ですかね」

「んぅ……」

 

 そんな事を話していると、何度目かの寝返りで沙織がこちらを向いた。ほんと、幸せそうな寝顔をしている。俺に何かされるとか微塵も考えてないんだろうなぁ……

 

「起こしますか?」

「出来れば寝かせておいて上げて欲しいわね。昨日は夜遅くまで勉強してたから。あ、でも友樹君が嫌なら起こしてくれてもいいのよ?」

「そういう事なら」

 

 元々後小1時間は寝かせてあげるつもりだったのだ。止められないのなら変える理由はない。人目が増えたせいか、恥ずかしいものは感じるが。

 

「友樹君は、気になる娘とかはいるのかしら?」

「はい?」

 

 荷物を片付け終わったのか、テーブルの反対側に座った沙織母が突然そんな事を聞いてきた。出来るだけ平静を保っているけど、いきなりとんでもない厄ネタを投げてきやがったこの人。

 

「だから、好きな娘とかはいるのかと聞いたのよ?」

「いやいやいや、なんで突然そんな話になったんですか」

「こんなに無防備に寝てる沙織に、本当に何もしてないんですもの。ついこの前も襲わなかったでしょう? 心配にもなるわよ」

「いや普通そうですから」

 

 寧ろ襲う奴は、それこそ盛った猿だろう。これでも男子だからそういう事は考えなくもないが、鉄の意志と鋼の強さで耐えているのだ。抱きつかれても『当ててんのよ』には絶対ならないのは、関係ないと明言しておく。

 

「男子高校生と言ったらもっとこう、寝てる女の子にはキスしたり胸を揉んだりするものじゃないのかしら?」

「どこのエロ同人の話ですかそれ……」

「少女漫画よ?」

「なん・・・だと・・・?」

 

 最近の少女漫画は、随分と前衛的なものに発展していたらしい。髪に芋けんぴとか柿ピーが付いてたり、肩にバナナが生えてたりするのは知ってたけど。そんな内容になってるとか、どっかのとらぶるな主人公もビックリだよ。

 

「で、結局どうなのかしら?」

 

 話を逸らすことは失敗したようだった。

 

「まあ沙織以外にも、明らかにそういうオーラの人は1人いますけど……」

「なるほど、友樹君はそっちの娘が好きなのね!」

「ちーがーいーまーすー!」

 

 だってそもそも、藜さんとはリアルでの接点が無いし。ぜぇはぁと息を整えてから気がついた。大声になってしまったし、もしかしたら起こしてしまったかもしれない。

 焦って膝元を見ると、沙織は薄っすらと目を開けていた。そして眼をこすりながら上体を起こした。

 

「えへへ、とーくんだー」

 

 そして俺に抱きつき、マーキングでもするかの様に頭を擦り寄せてくる。だが俺が完全に無抵抗なのが不満らしいので、軽く抱き締め返しておく。なんか物凄く見られてるけど。

 

「あったかーい」

「そりゃあエアコン効いてる中だしな」

 

 なんでこう、女子っていい匂いがするのだろうか。学校帰りで普通に汗かいた筈なのに……性別の違いって怖い。ついでに無言でこっちを凝視してる沙織のお母さんも怖い。超怖い。

 

「とーくんのにおいがする……」

「本人だし」

 

 腕どころか足も絡めてきた。俗に言う、だいしゅきホールドというやつではないだろうかこれは。非常に暑い。

 

「ふへへぇ……」

 

 そんな体勢のまま、力が抜けて全体重で寄りかかってきた。耳元で規則正しい息の音が聞こえてきた感じ、再び眠りに入ったのだろう。というか、沙織のお母さんがさっきから瞬き1つしてない所為で物凄い怖いのですが。

 

「今日はお赤飯かしら?」

「違いますよ!?」

 

 さりげなく投下された爆弾に、即座に切り返す。これは起爆させたら俺が死ぬ系の話題だ。

 

「だってそれ、絶対入ってr」

「言わせねぇよ!?」

「どう見ても対面z」

「だから言わせねぇよ!?」

 

 言葉が荒くなってしまったが、もう反論がそれしか思いつかないのだから仕方がない。なんでこんなにそっち方面にグイグイ来るのだろかここの家族。

 

「もうやだここ……」

 

 自意識過剰でなければ、大好きオーラ全開の本人と、外堀と内堀を埋め立てた沙織母に自分の母。

 やはり、3人に勝てるわけがないのだった。




ユッキーの受難?は続く




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第48話 儀式魔法

後書きにユキのステ書いてるので悪しからず
今年はハロウィンSSは無理だったよ……夏だもん


 特に変化もなく2日目は過ぎて到達した最終日。数名の女子グループに連れていかれた沙織に手を振って、俺は1人でUPOにログインしていた。

 場所は勿論、にゃしぃさんに教えてもらった【ルリエーの地下迷宮】だ。入口が分からなかったが『適当な水路を3mくらい潜れば突き抜けて入れますよ!』との事だったので、自身に10個ほど《加重》を掛け、ガイナ立ちで沈んだところ突入する事が出来た。落下ダメージでHPが半分消し飛んだのはご愛嬌である。そしてこの事から、ここが街中ではなくフィールド判定になっている事が確認できた。

 

「それにしても、暗いしジメジメしてるし人気ないだろうなここ」

 

 そう呟いた自分の声が、非常によく響く。しかしそれ以外に音は無く、真っ暗な闇が視界を覆い殆ど見通すことが出来ない。加えてどこからか香る磯の香りと、足元に僅かに張った水、自分がたてる音以外何もない静寂が不安を掻き立てる。

 練習するにしても、これは少し整備というか、少なくとも視界は確保しないと何も出来そうにない。

 

「確かどっかに《魔法の松明》を入れたままにしてた様な……」

 

 そんな事を呟きつつウィンドウをスクロールしていくと、かなり下の方の欄に松明は確かに存在していた。確か着火する為に持ってたんだっけと思い出しつつ6本全てと、序でに愛車(ヴァン)も取り出しておく。

 勝手に点灯したヴァンのライトと、六爪流風に持った松明が闇を照らす。そうしてある程度照らし出された空間は、巨大な柱が並ぶ地下神殿とでも形容すべき場所だった。

 

「こういう所、放水路って言うんだっけ」

 

 喋らないとおかしくなりそうなので呟きつつ、1番近くの柱に近づく。何かギミックがあるのではと思い探ってみると、俺の頭ほどの高さに火のついていない篝火の様な物があった。

 

「よしっ」

 

 ちょっとした確認のため、右手の松明を仕舞い篝火に全力のアッパーカットをかました。これが耐久値の設定されているアイテムなら、俺の虚弱ステータスではダメージを受ける。だが今回は、痺れの様なものは返ってきたものの、自分のHPは全く変動していない。

 

「不壊オブジェクト……イベントキーとか?」

 

 現状攻略中らしいダンジョンなのだから、その可能性もない事はないだろう。そんな事を思いついてしまったら、試してみたくなるのがゲーマーだろう。篝火の中に松明を1つ投げ入れて、数歩下がって【三日月】を構えた。

 

「何も、ない?」

 

 数秒警戒を続けるも反応がなく、気を抜きかけた時のことだった。目の前の篝火が勢いよく燃え上がり、炎の色が赤から薄気味悪い緑色に変色した。更にその篝火からいくつもの炎が弾け、他の柱に伝播し次々と火が灯されていった。そして全ての柱に篝火が燃え上がった時、1枚のウィンドウが目の前に現れた。

 

 ====================

 【鎮魂の儀式】推奨Lv 30

 湖底に沈められ、奉られ鎮められていた邪神の封印が解けかけている。復活を防ぐべく、鎮魂の儀式を行おう。

 

 MP蓄積値 0/80,000

 ※MPの蓄積は、柱に触れる・MP回復アイテムを使う・魔法などのスキルを使う等で可能です

 

 報酬金 10,000D

 経験値 80,000 

 ====================

 

 そしてウィンドウの上部には《クエスト実行中》と小さく文字が点滅していた。あの篝火は案の定クエストキーだった様だが……いきなり経験値を数値化されても、はっきり言って分からない。まあ、それはそれでいいとして、

 

「8万かぁ……」

 

 要求MPが非常に多い。俺のMPの最大値が3,000代といえばその多さが分かるだろうか? 特に期限がないとは言え、普通にやっていたらかなりの時間がかかってしまうだろう。特に俺は1人でやるつもりだし。

 

「まあいいか」

 

 スキルスロットに儀式魔法がある事を確認。完全な静音環境で寂しいので、BGMをかけてから魔導書を1冊上空に放り投げた。途端に天候が【荒天】に変わり、豪雨と暴風の中に緑の炎が燃え盛る気味の悪い光景が広がった。

 更に、自分の足先と、両手に持ったフィリピン爆竹、更に周囲に浮かぶ残り5つの魔導書全てに淡い光が灯った。そして視界の端に、7つの[empty]と[limit 60s]表示されたバーが現れたところで準備は完了する。

 

 儀式魔法は、発動する方法がいくつかある。

 1つは、この前【極天】のギルドで披露した、紋章を直接描く方法。アレは、紋章を描ききったと同時に発動する。だが、描く紋章自体に正確さと大きさが求められるので、大概失敗するかショボい。

 もう1つがこれだ。発動する術式毎に設定されたゲージを、時間内に溜めて発動させる方法。因みに逆にゲージをオーバーすれば、暴発してボンッだ。

 今回の場合、俺自身が下の方法、周囲を舞う魔導書が上と下の混ざった方法である。

 

「初手より奥義にて仕る!」

 

 やる事は簡単だ。6.5m半径という限られた範囲内に、踊りながら正確に爆竹を投擲して爆破させる。魔導書は自身の動きを高さをずらして追随させれば良い。ただそれだけの事で、儀式魔法が7つも同時に発動する。

 

 軽快なメロディに合わせて身体を動かしながら、手首のスナップと《加速》を使い爆竹を投擲する。天候のせいで微妙に小さくなってしまったが良い爆発音が連続し、1番上のゲージが1/5ほど上昇した。予想通り……いや、予想よりかなりいける。

 

 因みに儀式魔法の発動条件であるダンスや舞は、思った以上に他の方法より判定が緩かった。神楽舞や奉納の様なゆっくりとした動きでも、Daisukeやブレイクダンスの様な激しい動きでもゲージは上昇する。無論、後者の方が上昇速度は速いが。

 

「【魔力の泉】」

 

 天候変化維持のため削れ続けるMPに微量の回復を図りつつ、ダンスよりかは舞に近い事をしながら爆竹を投擲していく。だが、耳に心地よい爆裂音を聞きながらふと思った。

 

 暴風雨の中、気味の悪い緑の篝火に囲まれて、舞を踊りつつ、火薬の量を間違えた様な爆竹を鳴らし、浮遊する5つの本を従える、フードを被った茶色いコートの男。しかも謎の光の軌跡が、これまた謎の紋様を描いて光っている。

 

 どこからどう見ても邪教の司祭ですありがとうございました。

 

「♪〜」

 

 そうして続ける事ジャスト1分。良い夢は絶対に見れない様な光景は、魔法の完成によって終わりを告げた。全て9割程溜まっていたゲージが消え去り、直径15m程の魔法陣がそれぞれの場所に浮かび上がった。

 

「おおー、凄い回復量」

 

 7つもの儀式魔法が発揮した回復効果は、減った分のHP・MPを数秒で全快してくれた。一応かなり練習しただけあって、全部問題なく普通の水準で発動している様だ。

 

「で、こっちはどうかなっと」

 

 視界の端に追いやって無視していたクエストウィンドウをみれば、空だった表示が967/80,000まで溜まっていた。その数値が毎秒2ずつ増えているのは多分荒天の影響で、2秒に1回7になるのはまだ発動している儀式魔法の影響だろう。

 

「7つもあれば俺のステなら全快できるし……いけるか」

 

 大体1度で1,000くらいの魔力が溜まって、かつ減った分のHP・MPは補填出来る。なら、もうちょい紋章とかを色々使って試すのもありだろう。全部一通り試してから、効率良いやつをずっとやり続ければ……

 

「希望が見えて来た」

 

 晩御飯を作り始めるまで、大体4時間程は時間があるのだ。集中力しかどうせ疲労しないのだし、そんだけやり続ければ多分終わるだろう。

 

 

「ぜぇ、はぁ……」

 

 自分で定めた刻限まで残り約30分。メニューの時計が17時34分を示す時になって漸く、このクエストの終わりが見えてきた。MP蓄積量は78,987/80,000、あと1回、つまり今やっているこれが最後の儀式魔法だった。

 

「そいやっ!」

 

 カウントが0になり、頭上に7つの巨大な魔法陣が現れる。そして、一面に流星の様に光が叩きつけられた。その全てがフィリピン爆竹1本分程の火力しかないが、れっきとした攻撃魔法である。使ってる理由は、他の物と比べて1番MP回収効率が良かった為だ。

 

「あーもう疲れた」

 

 そう呟いて水の張った床に、俺は大の字で倒れ込む。ずっと正確な動作をする為酷使していた脳には、この冷水の冷たさが非常に心地良い。

 

「あ゛ー」

 

 意味のない呻き声をあげる俺の前に、congratulateと書かれたクエストの終了した旨の書かれたウィンドウが出現した。レベルが5つも上がったので、ボーナスポイントを全部Lukにぶち込んでおく。後ついでに、【激運】が【豪運】に変化したとのメッセージも来ていた。

 

 そんな事を考えていると、ゴゴゴゴという深く響く音が耳に届いた。なんというか、巨大な何かが蠢く様な恐ろしい音だ。たっぷり数十秒間続いたその音が突如途切れた。そして、その代わりとでも言うように新しいウィンドウが目の前に現れた。

 

 ====================

 【鎮魂の儀式Ⅱ】推奨Lv 35

 蓄積された魔力と真摯な祈りによって封印の強度は強まった。だがまだ安心する事は出来ない。邪神の力は、人など及びもつかないほど強大なのだ。復活を防ぐべく供物を捧げよう。

 

 機天の光輪 0/1

 聖なる魂 0/1

 聖水 0/20

 魔導書(種類問わず)0/1

 邪悪なもの 0/5

 

 報酬金 50,000D

 経験値 90,000

 ====================

 

 1つ目の時と同様に、クエスト実行中の文字が点滅していた。どうやらこれは、連続クエストだったらしい。けれどこれは、もうボーナスクエストである。1つ目と2つ目は【機天・アスト】からのレア泥で4つくらい所持してるし、聖水は99個携帯している。魔導書も、確かヴァンに数冊積んであるし、邪悪なもの……ヴァンに積んだままの、第2回イベントの残りを入れれば余裕だろう。

 

 そう気を取り直して立ち上がると、少し離れた場所に祭壇の様な場所が出現していた。装飾は特にないが、見ても触っても材質が気色悪い。1番的確な表現だと、緑がかった黒色に金色や玉虫色の斑点と縞模様の入った、石鹸の様に滑らかな石……だろうか。あまり長く出現させているのも嫌なので、投げつける様にアイテムを置いた。見る間にウィンドウの要求素材が埋まり、congratulateと表示が変化した。

 

「レベル42……一気に上がったなぁ」

 

 呟く俺の足下で、再びあの地響きが鳴り出した。

 だがどうせまだ終わらないのだろう? そう確信して待つ事数秒、音が止み案の定新たな画面が目の前に現れた。今度はなんだ? HPか? MPか? また何か素材か? そう思って見た画面は、度肝を抜かす事が書かれていた。

 

 ====================

 【鎮魂の儀Ⅲ】推奨Lv 40

 ーー準備中ーー

 このクエストは他のクエストと連動しています

 現在、このクエストは解放されていません

 ====================

 

 この日俺は、初めて運営への怒りを爆発させた。

 具体的には、ビル15本を爆砕した。

 




 Name : ユキ
 称号 : 詐欺師 ▽
 Lv 42
 HP 2100/2100
 MP 4150/2075(4150)

 Str : 0(20) Dex : 0(10)
 Vit : 0(16) Agl : 0(10)
 Int : 0(57)Luk : 610(3360)
 Min :0(50)

《スキル》
【幸運強化(大)】【長杖術(大)】
【紋章術】【愚者の幸運】【豪運】
【レンジャー】【ドリームキャッチャー】
【空間認識能力】【魔力の泉】
【儀式魔法】

 -控え-
【抜刀術(極)】【常世ノ呪イ】
【ノックバック強化(大)】

( )内は、装備・スキルを含めた数値
 小数点以下は切り捨て


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第49話 回復魔法

Diesあれ、既知かと思ったら未知じゃないですかやったー


 もう既にテスト期間は終わった。

 

 テストが明けたらどうなる?

 

 知らんのか?

 

 地獄(てんごく)が始まる。

 

「ユキくん、これはどう思う?」

「ハイ、トテモオニアイダトオモイマス」

 

 試着室から出て来たセナがクルリと回って見せて来たのは、白いビキニタイプの水着。『見てから貧乳回避余裕でした』な体型のため、ちょっと言及はし難いのだけれど。

 

「なら、これは、どうです、か?」

「スク水ハサスガニセメスギダトオモイマス」

 

 隣の試着室から現れた藜さんは、何を思ったのかスクール水着だった。ちゃんと平仮名であかざと書かれてる辺り製作者の(異常な)拘りを感じるが、流石に犯罪臭が漂うので無しだと思う。

 

 そう、この事から分かる通り俺は、約束どおりセナと藜さんの水着選びに付き合っていた。その時間は、なんと1時間オーバー。無論そんな長く買い物をした経験のほぼない俺は、案の定2人を誉めるための言葉を出し尽くしてしまっていた。語彙が尽きていた。それでも続いているせいで、少し前から俺の目にはもう、光は灯っていないだろう。

 

 考えてもみるといい。ちらほら女性プレイヤーがいる中、1時間近く別の言葉で褒め続けなくてはならない苦痛を。女性NPCから変態を見る目で見られながら、時折とんでもないことをしでかす2人に感想を求められる辛さを。まあ健全な男子としては眼福なのでプラマイゼロではあるのだが、何着目かも分からない今、最早言葉が限界である。

 

「俺は燃え尽きたよ、燃え尽きた……真っ白にね」

「駄目だよユキくん!」

「そう、です。まだ、だめです」

 

 もう無理だという意思表示のために試着室の前にある椅子に座り込んだのだが、2人は許してくれなかった。本当にそろそろ、団長命令を忘れて止まってしまいそうだというのに。

 その点、ランさんは彼女と妹に愛が溢れているから問題なんて何もないのだろう。やっぱりスゲェよランさんは……

 

「ユキくんがズバッと決めてくれたら楽なのにね、藜ちゃん」

「そう、ですね。やっぱり、それが嬉しい、です」

 

 というか、2人は微妙に仲が悪かった気がするのは気のせいだろうか? 今は関係ないですかそうですか。

 それにまあ、一応凄く似合ってるなーと思っているのはちゃんとある。1番精神的に虚無っていた時だから、顔には出てなかったと思うけど

 

「ユキくん、ちょっとその話詳しく」

 

 そんな事を考えていたら、ズイっとセナが詰め寄ってきた。いつ試着室から出てきたか、全く分からなかった。探知系のスキル、やっぱり発動させておかないとダメみたいだ。

 

「えっ、なんか声漏れてた?」

「ばっちり、です」

 

 試着室へ戻るコースだった藜さんにも聞こえていたらしく、凄く気になるという雰囲気でサムズアップしこちらを見つめている。相当大きな声で漏れてたんだろうなぁ……

 

「それでそれで! ユキくんがいいなって思ったのはどれ?」

「あ、その、私のも、教えて欲しい、です」

 

 もう答えるしかないと分かってはいるが、どう考えても公開処刑でしかない気がするのは気のせいだろうか? 一応店内には俺たちを除きプレイヤーはいないけど、半分くらい自分の好みを暴露する様なものだし。

 まあ、諦めるしかないのだろう。心を無に、けれどちゃんと心を込めて答えねばなるまい。

 

「セナは結構前の、水色ベースの……」

「ワンピースっぽいのだね! わかるとも!」

 

 間違ってないので頷く。けどなんで、俺の思考がここまで把握されてるんですかねぇ……? まあご満悦といった顔でレジに行ったしいいか。

 

「藜は、少し前の赤と黒の……」

「これ、ですか?」

 

 そうして藜さんが着替えたのは、黒をベースに赤や金に彩られた水着。詳しい名前は知らないが、セナのとは違い上下で分かれているもので、レースがふんだんにあしらわれている。

 そしてなにより、惜しげも無く晒されたへそが眩しい。少し恥ずかしそうな表情も相まって、なんだか元気が戻って来た気がする。そうか、これが噂に聞くへそフォルテ……間違いなく回復魔法だ。

 

「ユキさん、元気に、なりました?」

「お陰様でなんとか」

 

 男なんて、可愛い人が可愛い服を着てるのを見れば大概元気になる単純な生き物なのだ。沙織(セナ)に関してはとうの昔に麻痺しているが、それは俺だって変わらない。

 

「買い物、ずっと付き合わせちゃって、ごめんなさい。つまらなかった、です、よね?」

「いえ、元々付き合うって約束してましたし」

 

 女子の買い物を舐めきっていた俺の怠慢である。セナ1人の場合は、なんとか誤魔化すことは出来ない事もないんだけどなぁ……

 

「それなら、よかった、です。これはちょっと、恥ずかしいですけど」

「すみません、自分の考えだけだったので……所詮一意見なので、違うと思うなら、藜が好きなのを選んだ方がいいと思いますよ?」

「い、いえ! これで、問題なし、です!」

 

 一応変えても問題ない旨を伝えてみたのだが、逆に焦ったように否定されてしまった。何でこうなったのだろうか? わからん……全然わからん。

 

「あー! なんか2人でいい雰囲気になってる!」

「むっ」

 

 普段の格好に戻ったセナが、戻ってくるなりそんな事を言った。こちらを指差し、なにやら不満であるという雰囲気がありありと見てとれる様子だ。そして、先ほどまで平和であった2人の間にバチバチと火花が散る光景を幻視した。威嚇し合う動物のスタンドが見えるあたり、まだ精神的にそうとう参っているのだろう。何せ大型犬と鷹だし。

 

 そんな光景を諦めの境地で見ている俺に、NPCのお姉さんが厳しい目を向けてきた。要するに、迷惑だから止めろという事なのだろう。いや、絶対にそうだ。

 

「ともあれ、藜は精算して普通の服装に戻りません? ちょっと目のやり場に困るので……」

「え、あ、はい。わかり、ました」

 

 俺の指摘で、顔を赤くした藜さんがレジの方へ向かって行った。これでどうにか、決闘なんて事に発展する事はなくなっただろう。これで店員さんからのオーダーは達成した。残るは、ムッとしたセナをどうにか宥めるだけだ。

 

「藜ちゃんばっかり贔屓するんだ」

「いや、別にそういうわけじゃないんだけど……」

「じゃあ、選んだ水着の違いは? 私と藜ちゃん、体型殆ど同じだよ?」

「だってセナ、ああいうの好きだっただろ?」

 

 俺がそう言うと、セナの動きがピタリと止まった。純粋に似合ってるなと思ったのもあるが、それが1番の理由だ。確か去年の修学旅行で、自由時間にそんな感じの水着を着ていた覚えがある。ついでに、双方の両親揃って行った旅行の時もそんな感じだった筈だ。

 やめよう。これ以上考えると、普段とは別の意味での変態になりかねない。

 

「え、えと、何で?」

「そりゃ、何年も見てきたしな」

 

 結構小さい頃から家ぐるみの付き合いらしいし、少なくとも中学からはこんな感じの関係なのだから。……考えてて恥ずかしくなってきたなこれ。そんな自分の頬の熱を誤魔化すように、同様に赤くなったセナの頭を多少粗めに撫でる。

 

「ふ、ふん! それなら許してあげる!」

 

 目を細めてそれを受け入れていたセナだったが、すぐに離脱してそう言った。さっき見えた大型犬のスタンドが、千切れんばかりに尻尾を振っているのが幻視できる。この前回収したわん子化紋章とか、使ってみたら似合うんじゃなかろうか? やらないが。

 

「お待たせ、しまし、た?」

「あ、おかえり!」

「です」

 

 さっきまでバチバチしていたとは思えないほど柔らかくなったセナの態度に首を傾げつつも、戻ってきた藜さんは答える。服もいつもの状態に戻っており、目のやり場に困る事もない。

 

「そういえば、ユキさんは、水着、買いました?」

「え?」

 

 これで漸く休めると思っていた俺に、ふと藜さんがそんな事を聞いてきた。水着、水着か……

 

「買いはしましたけど、安全圏以外じゃ着てるとすぐに死んじゃいますね」

 

 こればかりは、ステータスの仕様上どうしようもない。環境適応(水)なるスキルの付いた高価な物を買ったが、普段の装備の補助がない分一瞬で死ぬこと請け合いだ。またユキ殿が死んでおられるぞ! と言われても不思議じゃない。

 まあ、男の水着なんて見ても楽しくはないだろうし。トランクスっぽいのだけど、どうでもいいだろう。

 

「最悪、一応【水泳】のスキルも使えるので、このままでも泳げますね」

「ユキくん、私達が遊ぼうとしてる所、安全エリアだよ?」

「それは知ってる。けどこの前行った時、湖の底歩いてたら突き殺されたから……」

 

 何となく見に行った時に、レバー(加速)入れ大ジャンプからの《加重》マシマシコンボで、湖底に行ってみたのだ。そうして真っ暗な湖底を光属性を付与した水着とチャット画面の光を頼りに歩いていると、気がついたら胸から三叉槍の先が突き出していた。まだ地図上では安全圏の中だった筈なのに、即座に死に戻りしてしまったのだった。

 故に多分、普通のプレイヤー同様に泳いだら俺は死ぬ。

 

「まあそれでも、浅瀬なら大丈夫だよね!」

「きっとそう、です」

 

 そんな意見に押し流され、なし崩し的に海水浴をする事が確定したのだった。

 

 

「とまあ、こういう感じです」

「自業自得な気もするが、よく頑張ったなお前……」

 

 その日の夜、諸々の事情説明を終えた時、ランさんが優しく肩を叩いてくれた。

 

「つららもれーも乗り気の様だし、勿論俺も行く。ヴォルケインとジングウが欲しいところだが、無い物ねだりは止しておこう」

「このゲームじゃ、いつか実現出来そうな気はしますけどね」

 

 現に、機皇帝を再現してる変態は2人確認出来てるし。そういえばハセさんは、ギルマスじゃなくてサブマスだとシドさんが言っていた。ギルマスはZ-ONEっぽい人(ゼフさん)らしい。物理近距離特化のシドさん、物理遠距離特化のハセさん、魔法支援が得意な時戒神を操るZF(ゼフ)さんが主要メンバーなんだとか。その3人が走る後ろを、アドラステアを始めとしたバイク艦隊が動く絵は非常にシュールとしか言いようがない。

 

 閑話休題

 

 まあそんな変態がこのゲームには溢れているのだから、巨大ロボの1つや2つはいつか作れるに決まっている。

 

「そうだな……いつか作ってみせるさ」

「知り合いにロボ使って戦ってる人がいるので、紹介します?」

「是非頼む」

 

 ここで繋いだ出会いが、きっといつかの実現を掴む事を願っておく。巨大ロボ用の爆薬とかあったら融通してもらおう。

 

「お礼という訳でもないが、愚痴があるなら言っていくといい」

 

 そう言って、ランさんが1つのコップを渡してきた。匂いを嗅いで見れば、お酒独特のあの匂いが漂ってくる。

 

「あの、俺未成年なんですけど?」

「全年齢プレイヤーが買える場所で買ったやつだから問題ない。酔えるのもあるにはあるが、それは二十歳になってからのコンテンツだな」

「さいですか……」

 

 無駄に充実してるなと思いつつ口をつけると、甘い様な苦い様な不思議な味が口の中に広がった。なんとなく、口が軽くなった気がしない事もない。

 

「それじゃあ遠慮なく──」

 

 こうして、夜は更けていくのだった。

 




ユッキーが、スピリタス《全年齢対象版》を、手に入れたゾ
なんでもう1個の方日刊に載ってるんだろ……(昼11時現在)


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第50話 オークション

シンゴジラ、思った以上にB級映画だったけど、サメ映画で鍛えられていたお陰で普通に楽しめました。あぁ、早くシャークネード5観たいなぁ…


 水着選びの数日後。相変わらず連続クエストが開始する兆候が見えない為、ギルドでお茶をすすっている時の事だった。

 

「ん」

 

 ぼけーっとしていた俺のコートを、くいくいとれーちゃんが引っ張ってきた。ここ最近、俺がいても放置だったのに何だろうか?

 

「ん」

「うん?」

 

 湯呑みを置いてれーちゃんの方を見れば、れーちゃんはこちらに向けて1枚のウィンドウを開いていた。えーと、何々? 運営からのメッセージらしいけどこれは……

 

 ====================

 全職人プレイヤーの皆様へ

 仲夏のみぎり、皆様におかれましてはますますご清祥のこととお慶び申し上げます。

 この度、今週末の土曜日正午から、小イベントとして運営主催『第4回オークション大会』が第4の街『ルリエー』にて開催されます。参加は各自ご自由ですが、自らのこれはというものを競う場でありたいと考えております。

 自らの作品を出展するもよし、自慢のドロップ品を出展するもよし、欲する物を買い求めるも良し。皆様のご参加を心待ちにしております。

 ※同行者は1人のみとなります

 ====================

 

 ここの運営にしては、えらく丁寧なメールだった。内容についてはそのままだから言うまでもない。それを見せながら、れーちゃんは何かを伝えるためにかパタパタとジェスチャーを続ける。そしてどこか誇らしげな顔で一言。

 

「ん」

「えーと……俺に一緒に来て欲しい?」

「ん!」

 

 コクコクと頷かれた。別に俺としては一向に構わないけど、なんでランさんじゃなくて俺なのだろうか。ああ、なるほど。多分アレだ。

 

「ランさんはヨロイ作りに忙しいから、俺が代わりに翻訳役って事? いっつも頼ってるから?」

「ん」

 

 この前俺がシドさんに紹介した結果、ランさんは巨大ロボという点で意気投合したらしい。正確にはヨロイだが。そしてそれは、残念ながらまだ設計図段階らしいけど、どうにか製作する目処がたったらしくて何よりだ。

 それに俺は、何故かれーちゃんの言葉の翻訳をランさんに次いで出来るから、そういう理由であるのならば納得だ。

 

「資金も腐るほど持ってるしね」

「んーん!」

 

 そう俺が言うと、全然違うと言わんばかりにれーちゃんは首を横に振った。

 

「資金は自分でって事?」

「ん!」

 

 自慢気にれーちゃんが見せてくれた画面には、どうやって集めたのか1,500万Dの文字が。確かにこれなら、きっと問題ないだろう。自分の画面を見ると資金額が未だに3,000万をオーバーしているのは気にしないでおく。

 

「なら、どうしてもって時は頼ってくれていいからね」

「ん!」

 

 るんるんという擬音が似合う様な雰囲気で、スキップしながられーちゃんは厨房的な方へ戻っていった。やっぱり、れーちゃんは素直で可愛いなぁ……ハッ、殺気!?

 

 

 ギルド内でヘッドショットを食らうとかいう稀有な経験をした後、時間は過ぎて土曜日。俺はれーちゃんの付き添いとしてルリエーへ来ていた。未だに連続クエストが再開する兆しもないし、気は楽なものだ。

 

「ん! ん!」

「ごめんごめん」

 

 先を行くれーちゃんに咎められ、加速を入れて追いつく。歩幅では俺が大幅に優っているというのに、れーちゃんと並走しようとすると追いつけずに遅れてしまう。Agl0の辛いところだ。

 

 そんな事もあったが、なんとか到着した会場。そこの見た目は背景の一部の様な、なんとも残念な感じの場所だった。だが入り口にカジノでも見たガードマンがいる為、ただの背景ではないということは明らかだ。

 

「品物は?」

 

 会場に入ろうとすると、ガードマンの人が道を塞ぎバリトンボイスでそう問いかけてきた。俺でも見上げる様な高身長で、禿頭黒スーツにサングラスの色黒マッチョマンが、だ。恐らくれーちゃんにとっては、相当怖い人物となるだろう。間違いなくセナなら俺に隠れるか抱き着いてくるし。

 

「ん!」

「承りました」

 

 が、れーちゃんは強かった。そんなガードマン達に怯えることなく、自分の作品と俺のレアドロをガードマンに渡した。セナというか、沙織の方が正常だよ……な? うん。

 

「おぉ……これは凄い」

 

 そうして入場したオークション会場は、思いの外賑わっていた。ざっとみるだけで100人くらいはいる気がする。そしてその全員が、同心円状に配置された番号の書かれた席に座っている。

 

「ん、ん!」

「ん、ああ、俺たちはそこなのね」

 

 手を引かれるままに、463番と書かれた場所に座った。463番……想像以上に人数は集まってるらしい。忘れがちだけど、一応俺も生産職に片足突っ込んでるんだし、そんな人数が集まっている光景は壮観だ。

 

「ん」

「欲しいものがあったら、手を挙げてレイズしていくってこと?」

「ん!」

「大丈夫だよ。俺もそこまで荒らすつもりはないから」

「ん?」

「きっといいものが見つかる? それならいいなぁ……」

 

 周囲のなんだこいつという視線を受けながら、話しつつ待つこと10分弱。がやがやざわざわと騒がしかった会場が、暗転と同時にシンと静まり返った。

 そしてスポットライトに照らされて、トマトの様なカラーリングの髪型でゴーグルを付けた少年が、マイクを持って現れた。

 

「Ladies and Gentlemen! それではみなさん、長らくお待たせ致しました‼︎──まもなく、第4回運営主催ミニイベント、ルリエー大オークション大会を開催したいと思います‼︎ 司会は勿論この私‼︎ 振り子メンタル、さぁかきぃぃぃ、ゆぅぅぅやぁぁぁ!!」

「「「「「Foooo‼︎」」」」」

 

 予想を遥かに上回る人気に、俺は驚かざるを得なかった。歓声に紛れてくたばれやら引っ込めやら、違うだろー!という罵声もあるが、まあご愛嬌なのだろう。実際名前はただの榊の様だし。

 

「今回は、第2回イベント後に開催されていなかった為、良き商品を大量に取り揃える事が出来ました‼︎ お好みのアイテムをお持ち帰り頂けます事を、心よりお祈りしております‼︎」

 

 そう言って司会者は、深いお辞儀をした。興奮収まらない様な観客の中、隣を見ればれーちゃんは至って冷静に司会者を見ていた。俺が見習うべき姿勢は、恐らくこっちだろう。

 

「それでは、早速オークションを始めましょう〜〜!!」

 

 司会者が指をパチンと鳴らすと、暗転が解かれ台が引かれてきた。台の上に載せられているのは、長弓と矢筒のセット。普通に強そうだが、俺には関係ないものだし興味ないや。

 

「エントリーNo1! ギルド『源氏バンザイ』出品、【与一っぽい弓セット】名前はアレですが、かなり高精度の命中補正と矢の回収能力の付いた、名品です! 先ずは5万Dから‼︎ 購入したい方は、手元のプレートを挙げて意思表示を‼︎」

 

 因みに性能は、商品の背後にあるスクリーンにデカデカと表示されるシステムの様だ。

 どうやられーちゃんもこのセットには興味がないらしいため、俺も周りの観察に留めることにする。だが不思議なことに、6万、8万と値段が釣りあがっていく。そして値段の上昇は9万5千で止まり落札された。

 

「そういえば、このオークションってどういうシステムなの? れーちゃん」

「ん?」

「いや、お金の支払い方法とか、品物の受け渡しとかはどうなってるんだろうなって」

 

 そう話している間に新しい品物が運ばれてきたが、なんらかのレアドロップ品と言っていたので後から俺が取ってくれば良いだろう。

 

「ん、ん。んー、ん!」

 

 れーちゃんの手が忙しなく動いて、俺に何かを伝えようとしてくる。唸れ俺の想像力、今回ばかりはちゃんと想像して答えを見つけないと問題だし。

 

「……なるほど。お金の支払いは出品した人に直接入って、品物の受け渡しは落札したのと同時に行われると。ありがとう」

「ん!」

 

 れーちゃんの笑顔が眩しい。思わずなんでも買ってあげたくなるくらいに。決して不健全な意味じゃないから鬼いさんとか憲兵=サンは呼ばないで欲しい。

 そんなこんなでオークションは、れーちゃんも俺も興味が引かれるものがないまま進んでいき、遂に50番代を突破した。そろそろ暇が顔を出してきたその時、大袈裟なリアクションで宣言した。

 

「ではここからが本番、目玉商品達のお披露目となります‼︎ エントリーNo60! 匿名希望、HN(ハンドルネーム)ノアさん出品、なんとも珍しいプレイヤーメイドの対物ライフル【フラウロス】です!」

 

 そうして現れたのは、どこか非常に見覚えのある様な気がするピンク色の一丁のライフルだった。なんとなく隣を見てみれば、れーちゃんが僅かに笑みを浮かべていた。

 

「では特別価格、50万Dからとさせていただきます!!」

 

 思った以上の高額に俺が驚いている間に、ドンドンと値段は釣りあがっていく。60万、70万……そして80万を軽く超え、100万もオーバーした。なるほど、れーちゃんの資金源はこれだったらしい。そして結果、この対物ライフルは136万Dで落札された。一瞬、なんだその程度かと思ってしまった自分に微妙な気分になる。

 

「では次に参りましょう。エントリーNo61! ギルド『メガネ、グッジョ部』出品、【メガネリオン】です!」

 

 そうして現れた装備は、俺の度肝を抜く物だった。

 形状としては片眼鏡(モノクル)、細い鎖が垂れている点がとてもグッドだ。しかもコスプレ用のブリッジ付きではなく、謎の技術でのっぺりとした頭のモデルの眼の前に固定されている本格?仕様。その効果は──

 

「しかもなんと、この片眼鏡は素晴らしい効果を持っています!! 自身のVitとMinを30%下げてしまう代わりに、Lukを50%も上昇させるのです‼︎ 更に更にぃ、攻撃の命中精度を上げる能力も付与されております‼︎」

 

 背後のスクリーンに表示されている性能はこうだ。

 

 ====================

【メガネリオン】

 Vit -30% Min -30%

 Luk +50%

 命中補正(中)

 耐久値 500/500

 ====================

 

 これは、この頭装備は、買うしかないだろう。性能が破格だ。俺のゴーストがそう囁いている。

 

「これは再び特別価格、50万Dからとさせていただきます!!」

 

 50、55、58万と段々と上昇していく値段を見ながら、俺は内心でほくそ笑む。行くぞ他プレイヤー、資金の貯蔵は十分か?

 

「100万」

「おぉーとぉぉお! ここでいきなり100万が出ました! これを超える値段は出るのでしょうかぁぁ!?」

 

 いきなり40万は飛ばして、俺は100万Dを宣言した。もし1,000万を超える様な金額になった場合はまあ、譲ってあげようじゃないか。

 

「105万!」

 

 そして数秒後、そんな値段が宣言された。誰だろうかと見れば、プレートを挙げているのはどこか見覚えのある金髪くんだった。まあ、その程度しか記憶にないのなら取るに足らない人だったのだろう。

 

「110万」

「115万!」

「120万」

「130万!」

「1つのアイテムを巡って、熱いデットヒートが繰り広げられるぅぅ!!」

 

 実況する司会者をよそに、視線を感じたれーちゃんの方を見れば、呆れた様な目で俺を見ていた。俺の資金残高を知ってるから、とっとと決めろという事だろう。だが俺は、某漫画の天竜人みたいにはなりたくないのだ。故に地味に負かすのみ。

 

「150万!」

「160万」

「くっ、162万!」

 

 相手の勢いが、微妙に弱まってきた。なんだ……案外速かったじゃないか。

 

「165万」

「ちくしょう……180万でどうだぁ!」

「200万」

 

 相手方が血走った目をこちらに向けてきたが、知ったことかと笑って返す。俺を相手にしたのが運の尽きだ。

 

「200万D‼︎ それ以上の方は!?」

 

 司会者の人がそう問いかけるが、誰もプレートを挙げる人はいなかった。

 

「どうやらいない様ですね。それではこの頭部装備【メガネリオン】は、463番の方が落札となります!」

 

 カンカンカンとハンマーが鳴り、競争は終了した。支払われた資金の代わりに届いたメガネリオンを装備し、無性に見覚えのある金髪くんに見せて自慢しておく。しなきゃいけない気がしたし。

 

「ん!」

「ああ、ごめんねれーちゃん。でもまあ、良い買い物だったよ」

「ん!」

 

 その後は特に白熱した競りもなく、オークションは進んで行った。しいて言えば、俺が提出した【機天・アスト】のレアドロセットが200万で売れたこと、なんだかんだれーちゃんが色々なものを買い漁り500万は軽く消費したくらいだろうか。

 

 こうして、初めてのオークションは平和に幕を閉じたのだった。ザイルさんの出品物は無かったようだが、個人的にはとても満足がいくものだった。

 




ユッキーの現Luk 4116
平均的な同レベルPLの40倍くらい


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第51話 新称号

本編には関係ないけど、なにやら光堕ちなる言葉がある様で


 オークションが終わり、特に何か面白いイベントが起きることもなく1週間程が過ぎた。時期としては夏休み直前、そんな時深夜1時から朝の7時までのメンテナンスが入った。

 極振りの誰かが原因かと思いネットで漁ってみたが、サーバーの強化やバグの修正を始めとした良くあるものだった。安心である。

 

「まあ、そんなもんだよね」

 

 ログインしてみても、特に何かが大きく変わっているという事はなかった。

 予想どおりなので、諦めてそのまま最近のノルマにしている1日3本のビル爆破をし、ギルドに帰還する。そして自室で数えていたビルの爆破レコードが50本を突破したのを確認し、結果溢れた素材を整理しているときの事だった。突如、耳に聞きなれない音の響きが届いた。例えるならば、笛だろうか? どこか、何かを讃えるような響きが聞こえたのだった。

 

「うん?」

 

 気になって見渡してみるが、俺の部屋にそんな音を立てるものはない。あるのはレアアイテムと爆弾と燃料と貰ったお酒だけである。なにこれ物騒だな。

 それは諦めるとして、ならば一体どういうことか。外でもなさそうだし、残る可能性はメニュー画面だろうか。確かめるべく開いてみると、そこに表示されていたものは予想外のものだった。

 

「うわ、何この無駄に豪華な画面」

 

 運営から来ていたメールを開くと、無駄に豪華に縁取られたウィンドウが展開された。金色の綺麗な枠と、広げた翼のような飾りのある明らかに特別なウィンドウ。そこにはこんな事が書かれていた。

 

 ==============================

【※重要】

 この度のアップデートにより、これまでの条件に追加で前人未到の業績を打ち立てた者10人に、実装した新たな称号を授けることが決定しました。他の称号と違い、この称号は唯一となるユニーク称号となっています。まあ、この新称号群の取得条件には、各プレイヤー間のバランスを考慮しステータスの値は含まれません。

 同等の条件の称号は、これからも逐次実装していく予定です。

 

 PN(プレイヤーネーム)ユキ様。貴方様は、全プレイヤー中最も爆破系アイテムを購入、製作、使用。また、魔法の暴発による爆破を引き起こしました。更に、多数の大型建築物オブジェクトの爆砕という実績がありやがりますので、検討の結果新称号《爆破卿》を進呈します。

 同時に配布されたユニークアイテムを使い、これからも爆破の未知なる可能性を運営に見せてください。出来れば、町の外側で。

 

 称号《爆破卿》を取得しました

 効果 : 爆破系統の攻撃威力が100%上昇

    爆破系アイテムを確率で消費無効

 報酬 :【無尽火薬(アタ・アンダイン)】を入手

               運営一同

 ==============================

 

「えぇ……」

 

 混乱する頭で何度も見返したが、表示されている文字は一切変わることがなかった。楽しんで今まで爆破していただけなのに爵位が授与されるとは此れ如何に。いや違うそうじゃない。先ずは、まあ街の外とか書いてあるし、ビル爆破の本数は減らしてあげようと思う。うん。そして落ち着こう。

 

 一度深呼吸して、もう一度開かれたウィンドウを見る。そこには相変わらず、頭のおかしいことが記されていた。

 

「流石ユニーク称号、効果がぶっ壊れてる」

 

 元々爆破アイテムの威力は然程でもないから、称号の効果込みで普通になる……で、いいのだろうか? いや、よくないだろう。ビルの爆破解体に必要な爆弾が、単純計算で半分になるのだ。火力2倍はおかしい(確信)

 それに、確率消費無効は本当にキチガイなんじゃないだろうか。Lukが判定に関係あろうがなかろうが、ほんとおかしい。こんなのをプレゼントしてくれた運営には、後でドンパチ感謝祭をするしかない。そうだ、ビルをパーティーの蝋燭的にファイヤーしよう(手のひらドリル)

 

「残りはユニークアイテムだっけ?」

 

 【無尽火薬(アタ・アンダイン)】なるアイテム名からは果てしなく興味が唆られるが、もしかしたら実態とは違う可能性もある。ここの運営に限ってそんな事はないだろうが、一度深呼吸をし、微かに震える指を動かしてアイテムを実体化させる。

 

 それで現れたのは、不思議な形状のアイテムだった。形は3つのリングの付いた、Dっぽい形の漆黒のカラビナが一対。リングにはそれぞれ1つずつ、ミニチュアのダイナマイトの様な物体が接続されていた。

 

 ====================

無尽火薬(アタ・アンダイン)

 無尽蔵の火薬

 収束爆弾(3/3)

 集約爆弾(3/3)

 耐久値 : なし

 ※このアイテムは装備枠を消費しません

  このアイテムの譲渡は不可能です

 ====================

 

「……は?」

 

 とりあえずポーチに手を入れる邪魔にならない場所に取り付けつつ、表示されたままの画面をじっと見つめる。詳しく調べてみると、集約爆弾というのは高火力の爆弾らしく、収束爆弾というのはその名前の通りクラスター爆弾である様だ。数の表示は、そのまま1日に使える個数。24時間で使える数はリセットされるようで、使い切るアイテムではないらしい。

 

 無尽蔵の火薬は、無尽蔵に高性能の火薬を生み出せるという能力らしい。火薬を出そうと思い手を振ってみると、黒い粉が舞った。ちゃんと加工しなければロクなダメージソースにはならない様だけど、これが例の高性能火薬なんだろう。

 

「運営よ、貴方が神か」

 

 渾名が爆弾魔とかテロリストとかいう奴に、無限に作れる爆弾を与えるとかここの運営は頭がおかしい(褒め言葉)

 元々お金は特に気にしてなかったが、フィリピン爆竹を始めとした爆発物の製造が更に安価になった。それに恐らく、市販品で製造するよりも単純に爆弾の性能だって上がることだろう。加えて3回だけだが範囲爆撃が出来るようになり、反動なしの高火力も手に入った。それに加えて称号の効果で、元の火力から更に増加する。

 

 こんな至れり尽くせりのサービスをしてくれる運営は、神と言って過言ではないだろう。ヒャッホイ運営様。お礼に愛の爆破をして──

 

「これはもう、感謝の爆破案件か……?」

 

 最早それくらいしなければ釣り合いが取れない気がしてきた。気を整え、拝み、祈り、投げて、爆破する。足らなくなるであろう爆弾は、この無限に生成される爆薬を加工すればいい。

 さあ、思い立ったが吉日だ。早速実行に移さねばなるまい。そう考えて立ち上がった瞬間、ドタバタという激しい足音が聞こえ、勢いよく部屋の扉が開かれた。

 

 とても急いで来たのだろう、肩で息をするセナがそこにいた。下を向いたせいで、貞子チックになっている長い銀髪を軽く元に戻し、息を整えてセナは、顔を上げて1枚のウィンドウを突き出してきた。

 

「ユキくん見て! なんかすっごいのきた!」

「はいはい、落ち着いて落ち着いて」

 

 どうどうと宥めつつ、バッサバサになっていた髪の毛を軽く整えてあげてからその金色のウィンドウを見る。俺のものと寸分違わぬデザインの外枠のウィンドウの中には、お巫山戯もなく文面も違うが、俺のところに届いたものと大体同じ内容が記されていた。

 

「ふふん、すごいでしょ!」

 

 それを読み終えた俺の目の前で、腰に手を当ててドヤァっとしたセナが言った。明らかに褒めてというオーラが噴き出している。

 

「全プレイヤー中最もジャスト回避だし、確かに俺のとは比べ物にならないな。すごいすごい」

 

 軽く拍手をしながら、多少棒読みになってしまったが褒めてみる。

 セナの貰った称号についてだが、俺の爆発物関連とは勿論違い『全プレイヤー中最もジャスト回避をした』という事らしい。取得した称号の名前は《舞姫》、効果は反応速度の上昇と一定速度到達毎に分身可能という事だった。因みに報酬は【サウダーデ/ドミンゴ】という武器。多分これは、フリーダムな感じの金の銃剣だろう。運営め、やりおる。

 

「むぅ、それ全然すごいって思って……え?」

 

 俺の手抜きがバレたらしく、何か反論しようとしていたらしいセナの動きが止まった。そして微妙にぷるぷる震える手で、首を傾げつつこちらを指差し聞いてきた。

 

「俺のって、もしかしてユキくんも何かあったの?」

「まあ、そうだな。俺にもこんな感じのがきた」

 

 立ったまま話すのもなんだし、腰掛けていたベッドに座り直してから先程まで見ていたウィンドウを開き直す。当然のように隣に座ったセナに、それを見えるようにし手渡した。うん、手渡したが1番近い表現だろう。

 

「ねえユキくん」

 

 そして長くもないその文を読み終わったセナが、呆れたような目を向けてきた。その口調からも、心底呆れかえっている事がひしひしと伝わってくる。

 

「ユキくんの持ってるアイテムってさ、どれくらいが爆弾なの?」

「消費アイテムは9割くらいかな。他に整理してないアイテム類はあるけどまあ、大体そんな感じ」

「馬鹿なの!?」

 

 真実を包み隠さず伝えただけなのに怒られてしまった。解せぬ。

 そしてどうしようといった感じで、セナは頭を抱えてしまった。やはり解せぬ。

 

「普通回復アイテムとか、補助アイテムとかあるんだよ?」

「そもそも俺、基本即死するから回復はほぼ要らないし。補助も基本的に自前で出来るから……」

「そーだったー……」

 

 それに加え、最近は儀式魔法のお陰で回復も出来る様になった。故に実は、手持ちのアイテムからHPポーションは消えていたりする。プチ富豪なのに貧乏性とかこれもうわかんねぇな。

 1人で勝手にそう納得している間に、撃沈した感じだったセナは立ち直っていた。そして、こちらの肩に頭を寄せて言った。

 

「でも、お揃いだしやっぱりいっか」

「名前だけ見れば死ぬ程不釣り合いだけど、それでもいいの? 《舞姫》さん?」

「別にいいの! 《爆破卿》さん?」

 

 調子に乗って言ってみたが、なんだかおかしくて笑ってしまう。それはセナも同じらしく、俺の背中をバシンバシンと叩いて笑っている。ダメージ判定があれば、Vitが3しかなくなった俺は容易く砕け散るだろう。

 ……超高速で動けるのに触れられただけで砕け散るとか、俺は一体どこの白騎士なのだろうか?

 

「お話、聞かせて、もらい、ました!」

 

 そんなことを考えていると、開いたままだったドアの方からそんな声が聞こえた。顔を上げると、いつかの鷹(幻視)を背負った藜さんが仁王立ちしていた。あっ、死んだわこれ。いやちょっと待て、なんで俺は浮気がバレた夫みたいな対応をしてるんだろうか? わからん……全然わからん。

 

「どうかしたの? 藜ちゃん」

「私には、お揃いの称号は、ない、です。でも、負け、ません!」

 

 完全に俺は置いてけぼりになってしまっている。とりあえず、ドヤ顔で頭を擦りつけてきたセナには軽くチョップをしておく。

 

「あいたぁ!?」

「さて、俺もお店の手伝いに行きますかね」

 

 叩かれた頭を抑えたセナの目をなんとか無視し、俺は立ち上がってセナの手を取る。優しくではあるが、手首を掴む形でだ。

 

「え、え?」

「ここって一応俺のマイルームだし……鍵閉めたら開かないよ?」

 

 個人ルームだが、自分が中にいる時は施錠しないでいるが、基本的に鍵は閉めて閉じきっているのだ。そうなるとシステム的に俺以外じゃ開けられないし、出られない。横領ではないが、倉庫に投げてない気に入ったレアアイテムとかもあるし、それはしたくないのだ。

 

「むぅ……しょうがないなぁ」

「それに、下手したら全部誘爆するし」

「さあ出よう今すぐ出よう! ユキくん待ってるからねー!」

 

 ボソリとそう呟いたところ、手を振り切ってセナは走ってどこかへ行ってしまった。来てから居なくなるまで、ほんとセナって──

 

「嵐みたいだった……」

「お疲れ様、です?」

 

 大きく息を吐いた俺の頭を、何故か藜さんが撫でてくれた。つま先立ちでぷるぷるしてるので屈んでおく。撫でられるのは、なんかこう、悪くないし。

 




露骨にプレイヤーを強化しだす運営

水着回は書きにくくて延期中……


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閑話 それっぽくしたい掲示板回 改

おまけ


【バランス】新称号について語るスレ【大丈夫?】

 

 1.名無しさん

 ここは新称号について語るスレです

 誹謗中傷は出来るだけなしでお願いします

 マナーを守って楽しくデュエル!

 

 2.名無しさん

 保守

 

 3.名無しさん

 スレ立て乙

 メンテ明けたと思ったら……マジやばくね?

 

 4.名無しさん

 スレ立て乙

 俺はまだ詳しくは見てないんだが、確か運営が称号渡したプレイヤーは公開してるんだっけ?

 

 5.名無しさん

 らしいな。これから増やしていくそうだが、今のところは10人だけだってさ

 

 6.名無しさん

 で、結局極振りは何人エントリーしてんの?

 

 7.名無しさん

 >6

 10人中4人だな。まあ、運営もバランス考慮して基礎ステのみで判断してないし。選ばれた全員納得出来る理由だしなー

 

 8.名無しさん

 とりあえず教えてクレメンス

 

 9.名無しさん

 公式発表見てこいと言いたいけど、まあいいか

 とりあえず選ばれた10人はこんな感じ

 

 極振り

 《裁断者》アキ

 《爆裂娘》にゃしぃ

 《爆破卿》ユキ

 《写術翁》ザイード

 

 一般プレイヤー

 《舞姫》セナ

 《提督》ZF

 《傀儡師》シド

 《大天使》イオ

 《大工場》ツヴェルフ

 《農民》ハーシル

 

 10.名無しさん

 思ったより知らない奴いて草

 でも極振りはいつも通りだな……

 

 11.名無しさん

 一般プレイヤーの方は確かにあんまり……

 極振りはいつも通りだが

 

 12.名無しさん

 称号の取得条件も上げておくゾ

 

 《裁断者》

 全プレイヤー中最も大きな物理ダメージ

 《爆裂娘》

 全プレイヤー中最も大きな魔法ダメージ

 《爆破卿》

 全プレイヤー中最も爆破系アイテムを購入、製作、使用。多数の大型建築物オブジェクトの爆砕

 《写術翁》

 全プレイヤー中最もスクリーンショット機能を使用

 《舞姫》

 全プレイヤー中最もジャスト回避成功

 《提督》

 全プレイヤー中最も特殊兵装を同時操作

 《傀儡師》

 全プレイヤー中最も特殊装備を装着

 《大天使》

 全プレイヤー中最も回復系アイテムを購入、使用。回復魔法使用回数トップ3

 《大工場》

 全プレイヤー中最もアイテムを製作(総合)

 《農民》

 全プレイヤー中最もフィールドを開拓

 

 13.名無しさん

 そういえば最近、ユキってギアーズで毎日お祭りしてたもんな……

 

 14.名無しさん

 そうそう、最初は力任せだったビル解体が、回を増すごとに段々と洗練されていって……いやほんとなんだアレ

 

 15.名無しさん

 >14

 考えたら負けだゾ

 

 16.名無しさん

 それはいいとして、結構ギルマスとサブマスが多いのな

 一般プレイヤー枠とか全員そうじゃん

 

 17.名無しさん

 マジで? 俺シドより下の人知らねえんだが

 

 18.名無しさん

 俺も俺も

 

 19.名無しさん

 ぶっちゃけ全員を知ってる人いるん?

 

 20.名無しさん

 >19

 イオくん以外基本的に有名人ですし……

 

 21.名無しさん

 ハーシルさんは、最前線が変わった時真っ先に開拓して街道敷いてくれる、【アルムアイゼン】ってギルドのギルマスゾ。そんな人を知らないなんて、謝れよ! 月s…ハーシルさんに謝れよ!!

 

 22.名無しさん

 ツヴェルフさんは、同じく【アルムアイゼン】のサブマスだな。新素材の使い道を調べて公表してくれてたり、ドロップとかマッピングとかしてくれてる人。普段は消費アイテムを大量生産して市場に流してくれてる

 消費アイテム→ツヴェルフ

 武器防具→れーちゃんorザイル

 だから、まあしゃーないんじゃね? 

 

 23.名無しさん

 お辞儀をするのだ……

 

 24.名無しさん

 マジ失礼しましたお辞儀します

 

 25.名無しさん

 急に名前を呼んではいけないあの人やら月島さんやらが出てきて草

 

 26.名無しさん

 驚きすぎて唇がめくり上がりました

 お辞儀するけど……結局イオって誰?

 

 27.名無しさん

 >26

 ユキの森焼き討ち事件で連れ回されてた可哀想なショタっ子

 

 28.名無しさん

 スッ

 っ【画像】

 

 29.名無しさん

 笑顔が、笑顔が眩しい……尊い

 

 30.名無しさん

 こんなに可愛い男の子が女なわけないだろいい加減に士郎!

 

 31.名無しさん

 ヌッ(急死)

 

 32.名無しさん

 因みにイオくんもギルマスな。片手剣と盾(魔道書)を持った、初心者支援ギルドの。盾役兼サポートらしい。

 あ、このギルドお姉さんっぽい人がかなり多いぞ

 

 33.名無しさん

 おねショタぁ!

 

 34.名無しさん

 大天使イオくん……あり、だな

 

 35.名無しさん

 もうちょっとで、もうちょっとで書き上がるんだ!

 

 36.名無しさん

 ファ!? 早すぎィ

 

 37.名無しさん

 フワッとした長すぎない黒髪、標準装備の優しさ、中性的で清々しい笑顔……爆弾魔とか紅魔族とか戦闘時のみ総統閣下とかの化け物どもの中で、唯一浄化してくれる……

 

 38.名無しさん

 でも怒ると爆弾投げつけてくるよ?

 原因は>27の出来事

 

 39.名無しさん

 流石爆弾魔……布教までしているとは

 

 40.名無しさん

 爆破……布教……宗教?……研究会……

 

 41.名無しさん

 >40

 それ以上いけない

 

 42.名無しさん

 そこら辺はまあいいとして、結局この称号ってどんな効果があるの?

 特別な感じだし、普通に気になるんですけど

 

 43.名無しさん

 公式見てくる方が早いんだよなぁ

 

 45.名無しさん

 まあまあ、説明してあげようじゃないか(菩薩スマイル)

 

 46.名無しさん

 しょうがないにゃあ……

 

 《裁断者》

 相手のHPが50%以上の場合与ダメージ1.5倍

 戦闘中4回まで防御無視攻撃が可能

 《爆裂娘》

 相手のHPが50%以上の場合与ダメージ1.5倍

 戦闘中4回まで魔法の効果範囲拡大が可能

 《爆破卿》

 爆破系統の攻撃威力が100%増加

 爆破系アイテムを確率で消費無効

 《大天使》

 回復系統の回復量が65%増加

 回復系アイテムを確率で消費無効

 《写術翁》

 スクリーンショット性能が100%増加

 特殊スキル【写真術】習得

 《提督》

 ギルド・PTメンバーの全ステータス15%増加

 特殊スキル【号令】習得

 《舞姫》

 反応速度上昇

 一定速度到達毎に分身可能(最大7)

 《傀儡師》

 特殊装備の操作性上昇

 特殊装備の性能50%上昇

 《大工場》

 アイテム製作にボーナス

 個人フィールド【大工場】取得

 《農民》

 特殊スキル【開拓魂】習得

 個人フィールド【大農園】取得

 

 ざっとこんな感じ。

 

 47.名無しさん

 面倒だから情報全部出しておくぞ。他になんか、限定アイテムも配布されたらしい。>12の並びで上から、剣・杖・爆薬・超高性能一眼レフカメラ・銃剣・旗・糸・回復薬・レンチ・鍬って感じで

 

 48.名無しさん

 見事にバラバラだなぁ……

 

 49.名無しさん

 というか、これバランス大丈夫なの? ああ、極振りはいつも通り壊れてるから知らないけど

 

 50.名無しさん

 んー、極振り勢も大体一撃当てられれば倒せるしそうでもなくね? まあ、インフレってまではいかないだろうな

 

 51.名無しさん

 >50

 お前それマジで言ってる? ただでさえ手がつけられない極振りが強化されたんだぞ? 後、すてら☆あーくのギルマスだって、今ですら攻撃当てるの辛いのに多分ヤバイだろ。

 

 52.名無しさん

 >51

 それな。でも俺的には1番ヤベーのはZFだと思う。15%はバカにならないって

 

 53.名無しさん

 そんなこと言っておきながら、実は勝てるし戦うのは楽しみなんでしょう?

 

 54.名無しさん

 そりゃあまあ、多少はね?

 

 55.名無しさん

 嘘つけ絶対勝てないゾ

 ユキ以外PvP喜んで受けてくれるから、行ってみるといいんでない?

 

 56.名無しさん

 おう行ってやるぜ!

 

 57.名無しさん

 あいつ死んだな……

 

 58.名無しさん

 冥福を祈ろう

 

 59.名無しさん

 なんでお前ら信じてくれないの!? ねえ! ねえ!

 

 60.名無しさん

 相手が悪いんだよ……

 

 61.名無しさん

 お前が帰ってくる頃には、大天使イオくんの絵を完成しておいてやるよ……

 

 ・

 ・

 ・

 

 108.名無しさん

 ただいまー……へへっ

 

 109.名無しさん

 おいみんな! 勇者が帰ってきたぞ!

 

 110.名無しさん

 おかえりー。どうだった?

 

 111.名無しさん

 ザイード、ハーシル、ツヴェルフの3名とは会えなかったけど、その他全員とは会ってきたぜ……

 

 112.名無しさん

 結果は?

 

 113.名無しさん

 極振り2人には瞬殺。磨きのかかったガンマレイと爆裂魔法には勝てなかったよ……シドには逆にブチンされて、ZFには普通に負けた。あ、特殊装備ってバイクのことだってさ

 

 114.名無しさん

 情報サンクス

 残りは? 後お前のレベル教えてヒヤシンス

 

 115.名無しさん

 セナには全部攻撃を躱されて蜂の巣にされたけど、大天使イオくんには勝った。うん、他の理不尽な奴らに比べるとほんと大天使だわ

 俺のレベル? 46だが

 

 116.名無しさん

 曲がりなりにもトッププレイヤーだからなぁ……お前も強いじゃん、頑張ったよ( *´Д`)ノ(´-ω-`)

 

 117.名無しさん

 そうだな、よくそのレベルで善戦した。武器壊れてたりしたら無料で直してやるよ

 

 118.名無しさん

 お前らの優しさで泣きそう

 

 119.名無しさん

 あれ? ユキはどうしたんだ

 

 120.名無しさん

 確かに。言い振りからすると、会えはしたんだろ?

 

 121.名無しさん

 あぁ、会えたぞ。対戦は断られたが。『Vitが3しかない俺じゃ、瞬殺されるだけですよ』だとさ

 

 122.名無しさん

 やっぱりユキはダメかー。ガードかた……え?

 

 123.名無しさん

 Vitの値が3www

 

 124.名無しさん

 3とかwwなにそれはらいたい

 

 125.名無しさん

 そりゃ確かに瞬殺だわ。多分初心者でも確1で倒せるぞ

 

 126.名無しさん

 だが、ちょっと待ってほしい

 ユキって、空間認識能力適応者だぞ?

 

 127.名無しさん

 あっ(察し)

 

 128.名無しさん

 それに、紋章術師スレで、アストのフルバーストを防ぎ切るとかいうキチ行動してたし……

 

 129.名無しさん

 ユキ強キャラ説

 

 130.名無しさん

 流れ切って悪いが、大天使イオくんの絵が完成したぞい!

 っ【画像】

 

 131.名無しさん

 お手並み拝見だ、名無しさん

 

 132.名無しさん

 これは……凄くね?

 

 133.名無しさん

 マジやばくね?

 

 134.名無しさん

 美しいものをみた……

 

 135.名無しさん

 やりますねぇ!

 

 136.名無しさん

 ちゃんと色塗りまで終わってる……だと!?

 

 137.名無しさん

 因みにこれ、私が落札した天使素材で作った装備を着てもらったのを想像したものだったり。伊達に漫画書いとらんわ!

 

 138.名無しさん

 よし、名無しさん今すぐその天使メイド服を渡してくるんだ!

 

 139.名無しさん

 ラジャ!

 

 140.名無しさん

 これで世界は救われた……

 というか漫画家さんだったんだあの人……

 

(以下雑談)

 




イメージは少年メイドのちーちゃん
輪っかと白い翼の付いたメイド服ぅ……ですかねぇ?


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第52話 ここはミズーギィではない

(無言の腹パン)

名前が分かりにくいって意見があったし、何処かで一回登場人物紹介みたいなの入れようかな……


 突然の特別称号授与事件より約1週間。その騒ぎも鳴りを潜めてきた頃、俺たちの学校は漸く夏休みに突入した。俺は基本的に問題なく、沙織は怪しい教科こそあったものの補習などもない夏休みが始まったのだった。藜さんも、テストは問題なく突破したと聞いた。

 因みに余談だが、あまりに対戦希望者が多かった為うちのギルドのメニューにセナとのPvPが追加されてたりする。多すぎて他の人の迷惑だったからね、有料にしても仕方ないね。俺? 俺のは勿論ない。

 

 まあそれはいいとして。夏休みに突入し、特に予定が立て込んでもいない。そうとなれば、セナ達が待ちに待ったアレが始まるのは自明の理であった。

 

「夏だ!」

 

「海だ!」

 

「湖、です」

 

「ん!」

 

「「海水浴だー!!」」

 

 雲1つない空から、燦々と照りつける太陽。その光を反射する白い砂浜。キラキラと煌めく青い湖面。そして視界のかなりの範囲を埋め尽くす肌色……いや、言葉を気にするなら薄橙かペールオレンジか? 面倒臭いし肌色でいいややっぱり。

 

 要するに、ゲーム内で海水浴に来ていた。

 

 第3の街北西方面に広がる広大な湖の内、僅かに存在する街中と同じセーフティエリア。海水浴に最適と言えるそこでは、男女入り乱れてそこそこの人数が来ていた。

 

「はぁ……」

 

 我先にと走って行ったセナとつららさん、その後に続いたれーちゃんと、さらにワンテンポ遅れて走って行った藜さん。全員を見送った俺は、パラソルを始めとしたセットを組み立てていた。下手に接触事故が起き死んでも困るし。

 

「それにしても」

 

 賑わっているビーチの中に、ランさんの姿は今のところない。つららさんに『1時間程遅れる』とメールが来ていたらしく、遅れるという事になったからだ。つららさんは文句はないと言っていたので良いのだが、こんなカップルかつトッププレイヤーの集団に囲まれる俺の気持ちにもなってほしいものである。

 

「はぁ……」

 

 と、大きく溜息を吐いた時のことだった。ギュィィィンという聞きなれない機械音と共に、振動が伝わってきた。何事かと長杖を引っ張り出すが、自分の今の格好的に即死は免れないだろう。

 

 そうして武器を構えた俺の前に出現したのは、巨大なタケノコだった。いや、訂正しよう。地面を突き破り現れたのは、人1人はすっぽり収まりそうな巨大なドリルだった。そして、目の前で動きを止めたドリルはぱっかりと割れ中身を曝け出した。

 

「ふむ、どうやら無事に到着したようだな」

「まさか完成してるなんて……いや、ランさん何やってんですか」

 

 中から現れたのは、普段の格好ではなく海パン一丁のランさんだった。言いたいことは色々あるのだが、ツッコミどころが多すぎて逆に何も言えない。

 

「何と言われてもな。試運転が思いの外上手くいって、この【ジングウ】が予定よりかなり早く完成したから来ただけだが?」

 

 そう言ってランさんは、閉じたドリルをポンと叩いた。それによってドリルは消え去り、大きな穴だけが残った。《障壁》じゃ微妙だし、どうしようこれ。爆破して埋めておこう。

 

「1時間ってそういう……つららさんは知ってたんですか?」

 

 新調した爆竹を数本大穴に投げ入れつつ、ランさんに問いかける。伝えていないのなら、それはそれで地味に酷い気がするし。他人の交友関係に口出しするのは烏滸がましいってのは分かっているけれども、聞かずにはいられない。

 

「当たり前だ。伝えていない訳がないだろう」

「それなら良かったです。ギルドがギスギスするのは見たくないですから」

 

 お前が言うのかといった目を向けられるのと、投げ込んだ爆竹が爆発して盛大に砂を巻き上げるのはほぼ同時だった。いやね、俺も分かってるんですけどね? セナ達は今も泳ぎで対決してるっぽいし。

 

「まあ、そうだな。俺はこれから泳いでくるが、お前はどうする? 見た所、特に泳いではいないようだが」

「もうちょっと整地したら行きますかね。大穴埋めないと……」

「すまん」

 

 一言お礼を言って、ランさんは去っていった。その姿を見送ってから、俺は新生フィリピン爆竹を取りだして両手一杯に持って振り返る。

 

「さっきから『見ちゃいけません』とか、『爆弾のやべーやつ』とか、『テロリスト』とか『ボンバーマン』言ってたみなさん。今から軽く爆破してこの大穴整地するので、ちょっと離れてくださいね?」

 

 そう笑顔で言い放ち、爆竹を全力で空に放り投げた。勿論スキルで狙いは完璧である。そんな俺の姿を見て、集まっていた野次馬は蜘蛛の子を散らす様に逃げていった。

 そんな奴らの足と自分の放った爆弾から、誰かが作ったであろう砂の城とパラソルなどを《障壁》で守りつつ《加重》と《加速》で地面にめり込ませた。

 

「爆ぜろー!」

 

 そんな俺の掛け声と共に全てが起爆し、砂が舞い上がってから気がついた。

 

 穴なら火薬で埋めれば良かったんじゃね?

 

 だが時既に遅し。セーフティエリアなのでHPは減っていないが、爆風と砂に煽られて俺は穴の中に落ちていくのだった。

 

 

 そこそこの時間が経ち、泳ぐのに飽きたセナがつららさんに頼んで凍らせてもらった湖面でスケートを始めたり、れーちゃんがランさんとつららさんと一緒に砂浜で超リアルな城を作り始めた頃。

 

「ユキ、さん。ちょっといい、ですか?」

 

 浮き輪代わりの《障壁》に身を任せ水面を漂っていた俺に、ふとそんな声をかけられた。立ち泳ぎに移行して周りを見てみれば、水面からひょっこりと顔だけを出した藜さんが手招きしている。

 

「はい、特に問題ないですけど……なんでしょう?」

「すごいの、見つけ、ました。来て、くれますか?」

 

 ちゃぽんという小さな音を立てて、藜さんが首を傾げる。

 後方で3人に分身しつつ10回転ジャンプを決めてるセナに目を奪われかけたが、常識外の事と割り切って返事をする。

 

「俺が行けるところなら」

「それなら、問題ない、です」

 

 そう言って、藜さんは俺の手を握った。なんだろうこれ、無性に恥ずかしい。これが水着マジックとかいうあれだろうか? そんな事を考えている間に、藜さんは大きく息を吸い込んで水中へ一気に潜ってしまった。そうなれば当然、手を繋いだ俺も一緒に潜る事になり──

 

「ガボッ!?」

 

 ステータス的に抵抗が出来ない俺は、なんの準備もする間も無く水中に引きずり込まれてしまった。なまじステータスによって速度がある為に、僅か十数秒でセーフティエリアの効果は消えてしまった。水面下10m程までが設定範囲だったらしい。

 みるみる減っていくHPゲージに冷静さを取り戻し、風と光を付与する紋章を慌てて展開する。それによりHPの減少が止まり、漸く俺は体勢を整えることができた。恐ろしいほどの勢いであるが、もう無駄に慌てる必要もない。

 

 そうすれば余裕を持って周りを見ることができる。かなり遠くまで見通せる程水は澄んでおり、セーフティエリアを越えた為にちらほらとモンスターの姿も見える。だが所謂ノンアクティブモンスターなのだろう、こちらを見ても何をするわけでも悠然と泳いでいくだけだ。

 丸々太ったマグロの様な大きな魚、群体型のモンスターらしい小魚の群れ、ネオンの様な光を放つ烏賊に、水を蹴って疾走してくる巨大牛と、まるで魚の天国の様な……え?

 

「ごぼ!?」

 

 藜さんに引っ張られるまま、迫る牛【The Water Caw】に向けて連続で《障壁》を展開する。だが、魔導書による強化がない今それは殆ど意味をなさずに砕けていき、《減退》による遅滞作戦もその巨体故にそこまでの効果は発揮していない。刻一刻と縮まる距離と、比例する様に無くなっていくMP。もうダメだと思うが一縷の望みに賭けて全MPを動員して全力で牛の行く手を阻んだ。

 

 その瞬間、不意に水を抜けた。

 

「は……?」

 

 ざばんという音と共に、僅かな浮遊感。【レンジャー】の振り分けを即座に水泳特化から気配感知に特化させる。判明した地面までの距離は6m、余裕の即死圏内だった。

 頭を切り替える。

 アイテム欄からMPポーションを取り出し軽く投擲、暴発させたカースで破損させて全身に降りかける。そして地面に落下する前に、僅かに回復したMPで《減退》を発動。ゆったりとした動きで砂浜に軟着陸に成功した。

 

「大丈夫、ですか?」

「死ぬかと思いました」

 

 残り2割弱まで減ってしまったHPゲージとほぼ0のMPゲージの向こう側から、屈んだ藜さんが上下逆さで俺を覗き込んでいた。見えないのはシステムに保障されているが、際どいその体勢から顔ごと目を逸らした。

 

「どう、しました?」

「無自覚ですか……」

「……?」

 

 一先ずMP回復の為、あのデメリット装備の耳飾りだけを装備して立ち上がる。見なかった事にはしないけど、心の内に留めておこう。

 

「って、そうだ!」 

 

 安心している場合じゃなかった。運営が解釈を間違えてる水牛が迫ったままだった筈だ。数秒は時間を稼げた筈だけど、ここに突入されたら十中八九轢き殺されるだろう。もう目の前に水牛は迫ってきているし、いざとなれば仕込み刀は抜くつもりだけど……

 

「大丈夫、です」

 

 杖を構えて応戦しようとした俺の手を、優しく藜さんが下げた。何を、と思ったがその結果はすぐに証明された。

 この場所を覆う半透明の膜に水牛が衝突した瞬間、膜の全体に幾何学模様や数字が走りその動きを止めたのだ。よくよく注視すれば《破壊不能オブジェクト》という表示があるのも見てとれる。

 

「ここは、一応、安全圏、ですから」

 

 俺たちを追っていた水牛は、何度か膜に衝突した後諦めたのかどこかへ走って行ってしまった。

 

「どうやら、本当にそうみたいですね……」

「でも、振り切れないと、ダメ、でした。急いで、すみません」

「いえいえ、こんな綺麗なところに案内してもらえましたし」

 

 なんだか申し訳なさそうにしていた藜さんに、優しく俺は言い返す。それに慣れることはないが、急発進はよく経験しているのだ。セナの引く台車に乗ってた時に。ドドンとなってパッと発射するジェットコースターみたいなあれに比べれば、今回はバイクの急発進くらいなのだから文句はない。死ななかったし。

 

「そう……ですか?」

「はい。寧ろ、こっちがありがとうって言いたいです」

「それなら、よかった、です。えへへ」

 

 若干涙目になっていた様子の藜さんだったが、それで笑顔を見せてくれた。なんだろう、最近の煤と硝煙で汚れた心が浄化されていく気がする。

 

「それにしても、本当に綺麗な場所ですね。ここって」

 

 半端な円柱状で横50m程の半透明の膜に覆われたこの空間は、ゲーム内でも殆ど見る事もない幻想的な光景を作り出していた。敷き詰められている真っ白できめ細かい砂から生えた珊瑚の様なものが点在しており、差し込む光がキラキラとした光で照らし出す。何故か空気のあるこの場所の中央には、珊瑚の森の様なものまで存在していた。

 

「はい! 折角だから、ユキさんに、見せたいなって」

 

 とりあえずここは、藜さんが写り込まない様にスクリーンショットで保存しておこう。それはそれとして……なんで前回俺が潜ったときには見つけられなかったのだろうか?

 

「ありがとうございます。でも、もしかしてここって、クエストの開始点だったりして」

「まさか、ですよ」

 

 そう言って藜さんは、何故か大きな深呼吸をした。そして意を決したように何かを言う直前、探知にモンスターが引っかかった。

 

「私は、ユキさんの事がひゃっ!?」

「失礼します」

 

 飛来してきた三叉の投げ槍から守るべく、完全に無防備になっていた藜さんを抱き寄せる。MPがもう少し回復していれば、ちゃんと《障壁》で防げた物を……舌打ちする俺の前に更に、1枚のウィンドウが俺の目の前に展開された。

 

 ====================

 【鎮魂の儀式Ⅲ】推奨Lv 40

 邪神の復活はすんでのところで引き留められている。そんな中、不安定な封印が再構築される起点である空間に敵が侵入した。復活を防ぐべく、敵を排除しよう。

 

 上級司祭(◼️ヴィ◼️プリースト) 0/1

 邪神の尖兵 0/30

 呪い師 0/10

 

 報酬金 70,000D

 経験値 90,000

 ====================

 

 今までと違うところは、今まで《クエスト実行中》と表示されてた部分が《クエスト参加人数 : 2》となっている事くらいか?

 

「ユキさんって、意外と筋肉、あるん、ですね」

「そりゃ、少しは鍛えてますからね!」

 

 腹筋あたりをペタペタ触るのは、擽ったいからやめて欲しい。切実に。そんな事を考えつつ、空いている左手でウィンドウを操作し普段の装備に切り替える。頭は自動MP回復付きなので変えていないが。

 

「すみません。フラグ立てたせいか、クエスト始まっちゃいました」

「えっ」

 

 今度は3本同時に飛んできた槍を、今度こそ障壁を張って逸らした。そうして足元に落ちてきた槍を見て確信した。この槍、この前俺の胸から生えてきたアレだ。

 

「装備って持ってきてますか?」

「すみません。ない、です」

 

 それは些か以上に不味い。知っての通り、俺の攻撃のメインは爆破だ。最近は無限に出来るようになってウハウハだが、それではこの場を壊すことになってしまう。勿論そんな事はお断りだ。 

 

「槍があれば、ここを壊さず戦えます? 防御はあの時みたく、全部俺が担当しますけど」

「それなら、多分なんとか」

「了解です」

 

 藜さんを抱き寄せたまま、儀式魔法を発動するためのステップを刻みながらウィンドウを操作する。選ぶのは、俺が65%という拙い技術で作った槍。故に品質は良いとは言えないが……1つだけ仕込みをしてある。

 

「まだまだ試作品もいいところな有り様ですけど、【無尽槌(ブレイズリーブ)】改めて【有限槍(ファイアフライ)】。お任せします!」

 

 笹の葉型の穂先に、全体的に機械チックな柄。その中に俺の【無尽火薬(アタ・アンダイン)】をかなりの量仕込んである。効果はまあ、某漫画の大戦槍+浪漫兵装パイルバンカーといったところだろうか。あと何故か衝撃波も発射できたりする、自分で使いたくて作ってみたのは良いものの、性能も微妙な上装備出来なくてお蔵入りしていた悲しい武器である。

 

「勿論、です!」

 

 儀式魔法の回復光が降り注ぐ中、藜さんが受け取った槍を構えた。そして物陰から現れるインスマス面の人型モンスター達と、その奥にチラリと見えたローブを纏う人型。地味に不利な状況の中、戦闘が始まった。

 




連続クエスト「お待たせ!」
因みにれーちゃんは紺のスク水だった模様

-追記-
良くも悪くも注目の的なので、ユッキーがほぼ弄ってないリアル体型なのはスレに掲載されてます。失言とネットには気をつけよう!(優作風)


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第53話 役得

 ヒュン、という小気味好い風切り音と共に槍が閃く。その先端では刺突や斬撃の後爆発が生じ、その軌跡でも小規模ながら爆発が発生する。その爆発は地形オブジェクトである珊瑚を破壊するには満たないが、モンスターのHPを削るには十分足りている。

 爆発する刺突や斬撃が敵の三叉槍を弾き、盾持ちには槍を押し当てた後杭打ち(パイルバンク)の機構で穿ち貫き粉砕する。爆破の軌跡は回避し損ねた敵を怯ませ、閃光とそれに続く高速の3連撃がHPを0に落としていく。時折ある物理や魔法での反撃も、俺が《障壁》で完全にカットして遮断しているから問題ない。

 

「ユキさん、この槍、おもし、ろい、です!」

「それは重畳!」

 

 その結果、生まれるのはある種の無双状態。俺自身の為に使い続けている【儀式魔法】のお陰で《障壁》による防御が途切れる事はなく、同時に藜さんのMPもほぼ無尽蔵となっている。敵の数は合計41とかなり多いが、負ける気が一切しない。まあ、俺が儀式魔法を使い続けることが出来ればの話ではあるのだが。

 

「やぁっ!!」

 

 そんな可愛らしい気合の声と共に、支援行動を続ける俺の前で、敵の数がみるみるうちに減っていく。インスマス面の尖兵が砕け散り、呪い師と思われるローブ姿は無残に千切れて掻き消えていく。

 

 装備を置いてきてしまったということで藜さんは水着のまま戦闘を行なっており、その姿が酷く眩しく見える。ヒラヒラと舞う鮮やかな布と肌色、襲いくる醜い(APP 3)化け物、序でにその周囲に舞う砕けた障壁の破片が日光を浴びてキラキラ光り、呪い師の残留物を吹き払っていく。実に場違いな考えであるが、綺麗だなと思ってしまった。ネットであるから確実に本物という事はないかもしれないが、見ている限り殆ど違和感を感じない為、9割方藜さんはリアルそのままだと思う。

 

 そんなことを考えているうちに、30体もいた《邪神の尖兵》とそれを支援していた10体の《呪い師》は、物の見事に殲滅されてしまっていた。残したかった珊瑚も、戦闘の余波を受け大きく揺れてはいたが、1つも折れることなく残っている。残りに文字化けした司祭がいた筈だが、一先ずは理想的な勝利と言えよう。

 

「……あれ? 何処に、行ったんです、かね?」

「確かに、何処に行ったんでしょう」

 

 藜さんの疑問に改めて周囲を確認してみると、残っていた筈の司祭の姿は消えてしまっていた。俺の探知圏内である半径6.5m内に反応はなく、目視で確認出来る範囲にも不思議と見当たらない。

 もしかして、逃げたのだろうか? そんな考えが頭を過ぎったが、それをすぐに否定する。普段の戦闘ならばそういう事もあると聞いた記憶があるが、今回はイベント戦闘だ。しかも、あの司祭は討伐対象となっている。であれば、余程特殊な場合でない限り逃走するという事はあり得ないだろう。

 

「なら、どうしてだ……?」

「はい?」

「いえ、ちょっと司祭が見つからないなって……あ」

 

 ふと、自分の言葉に天啓を得た気がした。見つからないには、逃げた以外の選択肢もある。もしかしたら司祭は『いない』のではなく、見つけられない……つまり『見えない』という事ではないか? 思い返せば、戦闘中も呪い師の姿は見たが司祭の姿は見つけることが出来なかった。何か大きな反応はあったというのに。単純に俺が目で見ていないというだけかもしれないが、これが正解な気がする。

 

「気をつけて下さい。多分あの司祭、ステルスか何かで姿を消してます!」

「えっ?」

 

 藜さんが驚いたように振り返った瞬間、探知に突然反応があった。藜さんを狙って、未だに視覚では確認できない細長い何かが計10本発射された。出現場所は俺から見て3.7m前方の空中、見えないが感じられるソレは恐らく触手だろう。

 

「《障壁》《減退》」

 

 長杖を振るい、約束に従いいつも通りの防御を展開した。が、その時異変が起こった。放たれた10本の触手のうち2本が、ピンポイントで展開される俺の障壁をすり抜けた。他8本と比べ一際長いその2本は空中でうねって軌道を変え、見事に妨害を回避したのだった。

 

「くっそ」

 

 追い障壁を以って意地でもう一本は止めることが出来たが、最後の1つは間に合わない。ギリギリ速度を落とすことには成功したか、そこまでだ。そして止めきれなかった触手は、透明故に藜さんは迎撃できずに直撃してしまった。

 

「ひゃん!」

 

 目では見えないが、スキルによる知覚が藜さんの右腕に触手が巻きついた事を知らせた。俺はこれで手が出しにくいし、本人による抵抗も片腕を塞いだことで難しくしている。こいつ、出来る。

 

「やっ、ヌルヌルで、んっ、気持ち、悪い」

 

 そんな妙に艶めかしい声と表情に平常心を大いに乱されつつ、これはマズイと唇を噛んでそれを押し殺す。1度頭を振って考えをリセットし、透明な触手めがけて【三日月】の鎖付き半月刃を振り抜いて投擲した。無論俺のステータスではロクなダメージを与える事には出来ないが、武具の効果は十全に発揮される。

 

 伸び蠢き藜さんの腕に絡みつく触手から、他の触手に始まり透明な胴体にまで、《拘束》の状態異常を示す鎖が巻きつき雁字搦めに束縛した。その鎖の色は本来の鈍色とは違い、黒一色で染められている。

 あまり使いたくない方法だし、恐らく珊瑚の枝が1つ折れてしまうが、背に腹はかえられない。

 

「爆導鎖!!」

 

 そんな掛け声と共に《エンチャントファイア》を暴発させ、最近増設してもらった【三日月】の新機構を解放した。先端から伸び半月刃に繋がり、更にそこから状態異常エフェクトとして相手を拘束している黒色の鎖。それが、一斉に爆発を起こした。藜さんの腕に巻きついている触手にはエフェクトが無かった為爆破は免れたが、他の部分はそうはいかない。

 巻きついた鎖によって全方位から襲いかかった爆圧が、藜さんに絡みついていた触手を木っ端微塵に粉砕する。それは他の触手についても同様で、一本の例外もなく全てが千切れ飛んでいた。加えて胴体のダメージも中々に深刻だったようで、全身を黒く焦がしてステルスも解除された様だった。

 ……それにしても、なんでタコ系じゃなくてイカ系列だったんだろう。

 

「うぇぇ……ネバネバ、汚い、です」

 

 涙目の藜さんが、触手に巻きつかれていた右腕をブンブン振っている。けれど付着した粘度の高い、透明に近いその液体は取れないようだ。ぬめりとてかりを持ったその粘液は、地味に臭うようで臭いを嗅いだ藜さんは顔をしかめている。

 

 申し訳ないなぁと思いつつ、手に持った杖を【三日月】から【新月】へと変更する。そして魔導書を使い支えて狙いを定め、回復したMP全てを使い全弾を加速し打ち込んだ。その全てが司祭に命中し、しかし弾が貫通することなく、撃ち込んだ6箇所が内側から爆発し粉微塵になった。

 自作だから心配だったけど、徹甲榴弾は上手く動作してくれた。1発大体3,000D程度と消耗品にしては地味に高価だが、無性に腹が立ったのでマーイーカ。Dなら使いきれないほどあるんだし。

 

「うぅ……ユキさん」

「油断しました、すみません」

 

 そう謝りながら、どうにか出来ないかと【ドリームキャッチャー】のスキルを発動させる。実際にできるかは不明だったが、結果として藜さんの右腕から粘液は消滅し、俺の右足元にべちゃりという汚らしい音を立てて出現した。うわ、これ何気にデバフ3種も持ってるじゃん。

 

「……折角案内してもらったのに、こんな事に巻き込んでしまって、なんか本当にごめんなさい」

 

 居た堪れなくて、キッチリと頭を下げた。

 防御を担当すると言いながら、それを全う出来ないとかいう失態もおかしてしまったし。

 

「い、いえ。タイミングが、悪かっただけ、ですから」

 

 藜さんはそう言ってくれたが、右腕をさすっているのを見ると、本当に自分は不甲斐ないと思う。防御(笑)と言える様な弱点も見つけてしまったし、駄目駄目じゃないですかやだー。

 クエストクリアのCongratulations! という文字と上がったレベルを見ながらそう自虐する。そしてため息を吐きかけたとき、カランと足に当たるものがあった。何かと思い拾ってみれば、それは折れた珊瑚の枝。優しい感じのピンク色だと思っていると、手に持った枝が突然光り輝き始めた。

 随分と久しぶりだと思う俺の手の中で、拾った珊瑚の枝が形を変えていく。それを目を丸くして見つめる藜さんの目の前で変化は終了し、手元には珊瑚色の掌サイズの容器が残った。円筒状のそれは、何時ぞやの木の枝と違って既に完成品となっているらしい。

 

 ====================

 【珊瑚軟膏】

 珊瑚で形作られた容器に入れられたハンドクリーム

 素晴らしい保湿能力を持ち、花の良い香りがする

 

 Vit・Min上昇 10%/10分

 水属性耐性上昇 50%/5分

 ====================

 

 とりあえず危険物ではない様なので、蓋を開けて匂いを嗅ぐため手で扇いで見る。乳白色の中身は、確かに何かの良い香りがした。まあ、フレーバーテキスト的にも純粋な効果的にも俺には無用の長物である。今回ばかりは、かなり役に立ってくれるだろうが。

 幸運にもこんなアイテムが手に入る辺り、だからLukは好きなんだ。後ついでに、色々と意味不明な配置をしてくれている運営にも感謝しておかないと。

 

「無害なものっぽいですし、どうか使ってください。俺には必要のない物ですから」

 

 俺はそう言って、蓋を閉め直したハンドクリームを手渡した。

 これで万事解決と、そう思った時の事だった。

 

「受け取れ、ません」

 

 そう言って藜さんはハンドクリームを返してきた。……もしかして、何かデリカシーのない事でもしてしまっただろうか? そんな想像が頭に思い浮かんだが、それは藜さんの次の言葉で即座に否定された。

 

「私はもう、ユキさんから、いっぱい、いっぱい、貰って、ます。そのお礼もできてない、のに、これ以上、貰えま、せん!」

 

 その理由に成る程と合点がいった。確かにその理由なら、押しつけになってしまうし俺がどうこう言うことは出来ない。

 

「でも、それは、使わせて欲しい、です」

 

 未だに臭うらしい右腕を見ながら、藜さんはそう言った。大っぴらに匂いを嗅ぐのはただの変態行為だから出来ないが、恐らく相当不快な臭いなのだろうと推測はできる。どうにかしたいと思うのは必然だろう。というか、そもそもその為に渡したのだから断る理由がある筈もない。

 

 そうして心の内で頷いている俺に、意を決した様にして藜さんは言った。

 

「だから、ユキさんに、塗ってほしい、です」

「えっ」

 

 今何か、とんでもない発言が聞こえた様な気がした。

 

「今、なんて?」

「ユキさんに、塗ってほしい、です。屁理屈かも、ですけど」

 

 どうやら聞き間違いではなかったらしい。確かにそれなら、俺が使ったと言う事になるし……まあ、そんな事はどうでも良いのだ。ぶっちゃけて言うと、セナ以外の女子を相手に何かをすると言うのは非常に気恥ずかしい。ハンドクリームを塗るとか、本当もうヤバイとしか言いようがない。

 

「だめ、ですか?」

 

 じっと見上げてくるその目は、何処と無く捨てられた子犬を連想させるものだった。馬鹿な……犬(のイメージ)を持っているのはセナのはず。まあそんな冗談は置いておくとして、そんな目で見られたら断れるものも断れない。

 

 そうして、意を決して俺は口を開いた。

 




(´・ω・`)そんなフェチいシーンはカットよー
(´・ω・`)そんなー


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第54話 紙装甲幸運幸村

ちょっとゲーセンではしゃいだら腕が筋肉痛になりました。


「ふふ、やり、ました」

 

 物理的にも精神的にもキラキラというか、ツヤツヤとしている藜さんが満足気にそう呟いた。だがそれとは対照的に、俺はぐったりと砂浜に倒れ込んでいる。何せ半分くらいは予想通りだったとはいえ、ハンドクリームを塗る範囲が絡みつかれていた場所全て……つまり、右腕全域だったのだ。

 ほんとね、やってる最中に理性を飛ばさなかった俺を褒めてほしい。こちとら思春期真っ只中なのだ、簡潔に言って死ぬかと思った。だって思ってたより手とか小さいし、柔らかいし、手とは別に良い香りがするし、時たま変な声は出されるし……何考えてんだろう俺、変態か。

 

「よし、自爆しよう」

 

 小声で呟き、【無尽火薬】の効果で額に当てた手から火薬を精製。エンチャントを暴発させて爆発させた。

 

「大丈夫、ですか?」

「ちょっとした気つけですので」

 

 驚いてビクッとした藜さんにそう返答しつつ、砂浜にめり込んだ頭を抜く。そして、口の中に入ってしまった砂をペッペと吐き出す。もうHPが1割くらいしか残ってないけど、その程度の代償で理性を取り戻せるのなら安いものだ。念のために1度大きく頬を叩いた俺の目の前に、空気を読まず新たに1枚のウィンドウが出現した。

 

 ====================

 【鎮魂の儀式Ⅳ】単独推奨Lv 65

         PT推奨Lv 55

 封印の起点に侵入した敵は排除された。しかし、彼らは1つの儀式に成功していた。彼らが召喚した邪悪な竜が迫っている。これを討滅し、安全を確保しよう!

 

 廃泥竜 0/1

 

 報酬金 100,000D

 経験値 90,000

 ====================

 

 予想通り、それは例の連続クエストの続きだった。しかも恐らく、これはボスモンスター級の相手だ。推奨Lvを見るとかなり怖いが、当たって砕ければ大抵の事は何とかなるのだ。まあ今回は? 羞恥心とかそういうのをぶつけるから、一撃で蒸発させるけど。

 そう決めて、首を傾げながらも満足気な藜さんに話しかける。

 

「ちょっとこれから、さっきのクエストの続きをやろうと思ってるんですけど……藜はどうします? 敵は廃泥竜とかいうボスモンスター1体だけみたいですけど」

「んー……折角、です。私も行き、ます」

 

 少し悩んだようだったが、藜さんは快い返事をしてくれた。

 今ふと思ったのだが、誰かが同行している状態で奥の手を使うのは初めてだ。つまり、藜さんは誰よりも先に俺の切り札を見る人になると。まあこれを使える様になったきっかけが、藜さんと出会った第2回のイベントだし……いいか!

 セナの影が脳裏をチラついたが自分を納得させ、何故か存在するクエストの開始ボタンを押す。するとすぐ近くの開けた珊瑚の隙間に、青い光を立ち昇らせる魔法陣が出現した。見た感じ、大きさは新しい街への移動時倒すボスと同型の様に見える。

 

「あ、そういえば。ボス戦に行く前に、1つだけお願いがあるんですけど……いいですか?」

「別にいいです、けど……?」

「これから見ることは、出来れば他言無用でお願いします」

 

 指でしーっとやるジェスチャーをして俺は言う。出来ればこれは、あまり広めてほしくはないものだから。……こんなのが使えるってバレたら、セナみたいにひっきりなしに挑戦されるかもしれないし。

 

「いい、ですよ」

「ありがとうございます」

 

 そうお礼を言って、俺は装備をあのデメリット装備に切り替える。手の中に現れたあの禍々しい杖も、ボロボロの装備も、何1つ変わらない。ついでに俺の強化された脆弱性も。

 

「《骸ノ鴉》」

 

 武器のスキル名を呟きながら、骨で組まれた禍々しいデザインの杖を放り投げる。すると杖は空中でバラバラになり、5体の骨で形作られた鴉へと姿を変えた。ギャアギャアと騒がしい声で合唱しながら上空を旋回するそれらによって、藜さんとのPT状態が解除された。代わりにPTの欄には、骸ノ鴉ABCDEの文字が出現する。

 実はこれ、PT枠を消費するのにPTを組んでいる事にはならないとか、この鴉の状態になると判定が副装備……つまりいつもは魔導書が装備されている場所に押しのけられたりするという、超謎の設定がされていたりする。因みにこの仕様は、運営に問い合わせたところ『試作モデルの為正常』と返ってきたのでセーフである。

 

 更に言えば、これのお陰で俺は最大火力を出すことが出来るようになったから感謝しかない。そんな事を考えながら、空いた手に新しく取り出した【偃月】を装備する。

 

「《フルカース》《フルディクリーズ》【ドリームキャッチャー】」

 

 興味津々といった様子の藜さんに見られながら、鴉達に最大限のデバフをかけてそれを自分で回収する。デメリット装備のお陰でデバフの効果は反転し、かつ15種のデバフを5体から回収したことによって、Lukがデバフ(バフ)の分も合わせて435%上昇する。5.35倍……素晴らしいネ。

 同時に装備によって体表面に展開された【死界】が反転し、急速にHP・MPを回復させ満タンにする。これで1番時間のかかる装填も終わったし、後は戦闘が始まってからバフを積めばロマン砲の発射準備は整う。

 

「それじゃあ、行きますか」

「は、はい!」

 

 スキル欄に【常世ノ呪イ】がセットされている事を確認し、魔法陣へ足を踏み入れた。一瞬の暗転と浮遊感が訪れ、次の瞬間には転移は終了した。そうして転送された場所は、激しい波の打ち寄せる夜の岩礁だった。

 しかし、ここはどう見ても尋常な場所ではなかった。中天に輝く月は血のように赤く、星は奇妙な配列で輝き、空気には磯臭さと鉄臭さが同居している。そしてどこからか、宇宙的と言えそうな恐怖を呼び起こす詠唱が、朗々と響いてきていた。

 

「ユキさん、私ここ、なんだか嫌、です」

「同感です。早く倒さないとですね」

 

 そんな風に答えた瞬間、ピタリと詠唱が止まった。そしてゴゴゴゴという地鳴りが響き渡る。そうして、海を割って1体の異形が姿を現した。

 

 屈強な四肢にはそれぞれ鋭い三振りの鉤爪があり、首の先に存在する鋭い牙の群れを持つ頭部には小さな角が9つ生えている。その灰色の体表は鱗が覆い、爛々と光る紅の眼は敵意を持ってこちらを見つめている。その至って基本的な西洋式ドラゴンには、異常な点が数点見受けられた。

 頭部で存在を主張する鯰の様な髭。鬣の様な多数の突起の間に膜のある背びれ。首筋に空いたサメの様な8つのエラからは、ゼラチン状の緑がかった液体をバチャバチャと吐き出している。そして尻尾には尾ひれが存在し、全体的に水棲生物感が醸し出されている。

 

 表示された名前は【廃泥竜】、あれで討伐対象は間違いない様だ。彼我の距離は目測50m。遠距離攻撃の気配はない為、安心してロマン砲を撃つ準備ができる。

 

「《明鏡止水》」

 

 仕込み杖を腰だめに構えて、【抜刀術】を習得して熟練度が一定に達すると解放されるスキルを発動させる。効果は、HPを20%減少(回復)させ、次の攻撃の与ダメを50%増加させるというもの。

 後名前が、気分的に集中力を上げてくれる。

 

磁装・蒐窮(エンチャント・エンディング)

 

 そう言った途端、仕込み杖がバチバチとしたスパークを纏う。いつか絶対、【偃月】に変形機構と肩部にマウント出来る機能を搭載してやる……

 

蒐窮開闢(終わりを始める)

 

 そんな言葉と共に発動させるのは、同様の専用スキル《外鎧一触》。自分のHPを最低1%から支払い、その支払った分自分が次に行う攻撃の与ダメを増加させるスキルだ。だが今回俺が使うのは、もう1つの方の効果。HPが80%以上の場合、残りHPを1になるまで支払って、自分が次に行う攻撃の威力を2.5倍にする方の効果である。戦闘中1回しか使えないが、どうせ一撃で死ぬのだから問題ない。

 

 簡単に纏めると、HPが1になったけど次の攻撃の与ダメが2.5倍になった。

 

終焉執行(死を行う)

 

 続いて発動させたスキルは《死々奮刃(ししふんじん)》。さっきの《外鎧一触》のMP版だ。追加で2.5倍である。

 デメリットが装備のお陰であってない様なものなのだから、最大限に活用していくしかない。

 

虚無発現(空を表す)

 

 最後に発動させるスキルは《殉教(まるちり)》。自身のVit・Min・Int・Aglの値を0にして、次の一撃の与ダメを3倍にしかつ防御貫通効果を付与させる。代わりに、その攻撃の後即死することになるのだが。

 

「ユキさん、どう、します?」

 

 槍を構え、戦闘態勢に入った藜さんが聞いてくる。そういえば、まだ何も説明してなかったっけ。

 

「藜さんはゆっくりしてて下さい。これ、実はただの八つ当たりですから」

 

 そう言って全力で踏み切り、竜に向かってジャンプする。減ったHPを横目に、俺は加速の紋章で作ったレールを高速で飛翔し始めた。久しぶりに、【空間認識能力】のスキルが上限まで働いているのを感じる。

 なんか藜さんが呼んだ気がしたけど、もうその声も耳に入らない。あるのは自分と敵の姿のみ!

 

「GAAAaaa!!」

 

 そう液体を散らしながら吠える竜を見て、抑えていた感情が戻ってくる。ああもう恥ずかしいったらありゃしない、ついでにクエストは進まないわ急に来るわでクッソタイミング悪いし、ああもうイライラする。

 

「吉野御流合戦礼法“迅雷”が崩し」

 

 勿論大嘘である。

 でもここまでやったからには、必殺技は最後まで叫びたい。電磁誘導とかそういう系統のはまだ開発中の為、加速の紋章のつなりで剣身の速度は補う。魔剣には遠く及ばないが、速度と威力は十二分!

 ついで言えば、使う技も《抜刀・孤狼》というものなのだが気にしてはいけない。

 

電磁抜刀(レールガン)ーー(まがつ)!」

 

 ドラゴンとの衝突寸前、自分でも認識不可な速度で抜刀術が行使された。気がついたら手が振り抜かれており、鋼の煌めきを示す白刃とそれが通り抜けた空間にはバチバチと帯電の名残が光っている。

 

「Ga──」

 

 そして肝心のボスのHPは0へと落ちていた。それも当然だ。何せこの必殺技は物理ダメージ約3300万、属性ダメージ約3000万のキチガイ技なのだから。細かいダメージボーナス分は知らない。

 しかしその代償は、自分に丸ごと帰ってくる。

 

 チンッと音を立て刃が納刀されると同時に、

 

 竜は逆袈裟から真っ二つに両断され、

 

 俺は盛大な爆発を引き起こして砕け散った。

 




竜「儂のHP、200万しかないんねん」
刈り「数万ですね」
鹿「1万ないです」
忌狩「1000万」
伊邪那美「1億よ」
!?

《抜刀・孤狼》
 抜刀術専用技
 消費MP1+任意のHP
 消費したHPの%×2、基礎与ダメ上昇
 射程は威力に、属性は武器に依存する
 自身がPTを組んでいない場合、威力を2倍にする


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第55話 始動

なぜうちの主人公は、勝手に自分の導火線に火をつけて爆発したがるんだろうか。


 落ちる。

 落ちる。

 落ちてゆく。

 反動ダメージで打ち上げ花火となって、加速の効果が切れた俺は夜の海に真っ逆さまに落ちていた。その最中、全身を黒い靄が包み込んだ。

 

『まずは1回』

 

 そしてそんな声が耳元で呟かれ、0になったHPゲージが回復した。これがスキル【常世ノ呪イ】による復活効果。色々とデメリットを背負う代わりに、確率で復活できるという破格の効果である。そんなことを考えているうちに、海面に叩きつけられた俺のHPが再び0になった。

 

『2回目』

 

 そう耳元で声がする。ちなみにこの声は、第2回イベントで遭遇した伊邪那美の声だったりする。音声の変更は、ONOFFボリューム含めて不可能らしい。無念。

 

「ガボ……!?」

『3回目』

 

 そして荒波に揉まれ、今度は溺死した。

 まあそれはいいとして、問題はスキルのデメリットのエフェクトだ。凍るような冷たさの女性の手の形という、なんだか“の”が多くなる様な表現でしか表せないものが脚に巻きついてくるのだ。実際とてもコワイ。

 俺の復活可能回数が平常時4〜6回、今は25〜7回なので最大おっそろしい量の手に足が覆われるのだ。加えて腕一本につき10%速度も下がる為、行動不能にはならないが元々ない機動性が目も当てられない程下がる。

 

『4回目』

 

 再度溺死したが、急流に乗ってくれたらしい。これは勝つる。何にかはわからないけれど。

 最後に問題なのは、死ぬ度に【死界】が広がること。初めは体表面10cm程度という小さなものだったのだが、今は某結界術の漫画に出てくる絶界くらいにまで大きくなっている。これでは誰も近づけないだろう。

 解除する方法は靴装備を外すことだが、それをしたらそれはそれで死ぬ。装備の付け替えは大きな隙だし、減った分復活回数が減る。故に、打ち上げられるまで待つしかない。

 

『5回目』

 

 そう適当に祈ると、高波が俺を攫って岩礁に叩きつけてくれた。当然死亡したが、陸地に上がれて一安心だ。とりあえず装備をいつものに変更して、発生していた【死界】を消滅させておく。これで誰かが近くに来ても即死ということは無くなった。

 

「ふぅ……」

『6回目』

 

 一息ついた勢いで岩礁に軽く頭をぶつけて死んだ。脆すぎるなぁと自分の耐久に呆れつつ、障壁を張って立ち上がる。ただでさえ被ダメが上がってるうえVit-160%なせいで、下手したら歩くだけで死にかねないからね、仕方ないね。ふふふ、やったね、夢のマイナスだよ(白目)

 

「ユキ、さん!」

 

 海水を身体を震わせて払うだけで減った自分のHPゲージに驚愕していると、藜さんが血相を変えた様子で文字通り飛んできた。

 

『7回目』

 

 その着地の際に飛んできた小石で死んだけど、まあそんなのは些細な問題だ。

 

「えっと、何かありましたか?」

「びっくり、しましたっ! でも、それよりも、これ、見てください」

 

 ちょっと涙目の藜さんが、ぐいっと1枚の画面を突き出してきた。

 

 ====================

 【運営よりお知らせ】

 このメールは全プレイヤーに送信されています

 只今、第4の街【ルリエー】にて実装されていた全てのストーリークエストがクリアされました。

 

 荒ぶる両腕《Ⅰ〜Ⅳ》complete!

 踏みしめる両脚《Ⅰ〜Ⅳ》complete!

 大怪魚の影《Ⅰ〜Ⅳ》clear

 Evil Rays《Ⅰ〜Ⅳ》clear

 フカヒレを追え!《Ⅰ〜Ⅳ》clear

 鎮魂の儀《Ⅰ〜Ⅳ》complete!

 

 よって、【ルリエー】における最終クエストが解放されます。

 クエスト参加可能対象者は【ルリエー】に到達した全プレイヤーとなります。

 開始時刻は8月13日(日)正午が予定されています。

 ====================

 【鎮魂の儀 Ⅴ】推奨レベル 50

 冒険者たちの善戦虚しく、封印を引き千切り邪神は復活した。それに伴い、活性化した眷属が大襲撃の準備を着々と進めている。

 

 レイドボス戦場 : フルトゥーク湖

 防衛戦場 : 外壁〜フルトゥーク湖間

 最終防衛ライン : 街中

 

 襲撃予定日時までに準備を整え、決戦に備えよう。

 

 勝利条件 : レイドボスの討伐

 敗北条件 : 街の陥落

 

 報酬 100,000D、Sレアスキル取得チケット

 経験値 100,000

 ====================

 

 ゆっくりと読み終え、顔を上げる。凄く楽しみ半分、やらかしたという気持ちが半分。いや、やっぱり後者の方が大きいか。

 イベントは今から大体1週間後、一応それまでに準備を整えろって事なのだろう。長いような短いような……まあそれはいいとして。

 

「……俺たちが──いえ、俺が引き金を引いたってのは2人だけの秘密って事でお願いします」

 

 そう言って俺は藜さんに頭を下げる。

 只でさえ、俺は色々とやらかしているのだ。これ以上何かやったとなったら、そろそろ吊るし上げられかねない。まあ煽ってきたら勿論抵抗するけど。爆弾で。

 

「良い、ですよ?」

 

 藜さんは、くすくすと笑ってそう言った。しかし、でもと言葉が付け加えられる。

 

「えっ、ちょっ」

「代わりに、これくらい、してもらい、ます」

 

 気がついたら、腕を持っていかれていた。言い直そう。水着姿の藜さんが、俺の左腕を抱くように持っていった。あ、これやばい。いやほんと、ちょっと本気でまずい。

 

「ふふ、役得、です」

 

 案の定出現したハラスメント行為の警告画面にNoを叩きつけつつ、しょうがないかと嘆息する。感触やら匂いやらで理性がガリガリ削られるし、セナに見つかったら大変な事になる気がするけど。まあ、ご満悦のようなので我慢する。

 

「それじゃあ、一先ずここから帰りますか」

「むぅ……はい」

 

 そう言って魔法陣に乗り、あの場所……マップ上では【泡沫の庭園】と表記されている場所に戻った。ここなら歩いてもダメージを受けはしないだろう。

 

「あっ」

 

 そして戻ってきた瞬間、何通かのメールが届いた。一通は数分前に届いたらしいセナからの『どこいるのー?』というメッセージ。そして残りが、運営からのものが2つだった。

 

「どうか、したんです、か?」

「いえ、ちょっとメッセージが少々」

 

 セナに『湖底に沈んでる』と返信してから、運営からのメッセージを開く。えーと、何何?

 

「一撃必殺ボーナスと、単独撃破ボーナス?」

「一応、私もいました、けど、実質、ユキさん1人、でしたし」

「憂さ晴らしに使ってすみません……」

 

 謝りつつ開いた画面には、要約するとこんなことが書かれていた。

 

 3つか? ボーナス3つ欲しいのか? このいやしんぼめ! いいぜ、持ってけ泥棒! 今日は厄日だわ!

 

 運営も大分正気度が削られてるとみえる。

 

「理性と一緒にSAN値も削ってくるとか……」

 

 配布されたアイテムは、宣言通り3つ。【無名祭祀書】【象牙の書】【ネクロノミコン】……あの、これ俺殺しにきてません? ついでと言わんばかりに《司祭》なる称号も貰ったけど、焼け石に水な気しかしない。

 

「何が、あったん、です?」

「運営が危険物送りつけてきやがりました」

 

 藜さんの疑問に冷静に答えつつ、比較的安全な【無名祭祀書】を出現させた。鉄の留め金がついた革製の装丁のそれからは、名状し難い悍ましい感覚が伝わってくる。そして、同時に1枚のウィンドウが現れた。

 

 ====================

 SAN 99/99

 SAN(正気度)は特殊なアイテムを装備したプレイヤーに追加されるステータスです。

 SANは特定状況下や、特定呪文のコストとして消費される数値です。減少分は1週間で全回復します。

 減り幅に応じて様々な事が発生します。

 ※SANが0になった場合でも、キャラクターロストは発生しません

 ====================

 

 そしてそっと【無名祭祀書】をアイテム欄に戻し、何も見なかったことにした。俺が貰ったのは称号だけ、イイネ? アッハイ(自問自答)

 

「さて、そろそろセナが探しにきそうですし上に帰りますか」

「もう、ですか?」

「俺が即死するので、かなりゆっくりになっちゃいますけどね」

 

 下手したら水圧で死ぬことが予想できるあたり、実は詰んでる気がしなくもない。モンスターは水着に拘らなければ、ステルス×潜伏コンボで無視できるから案外なんとでもなるのだけど。

 

「やっぱり、嫌、です」

 

 1人で頭を悩ませていると、ポツリとそんな言葉が聞こえた。それと同時に腕を捕まえる力が強くなり、HPが一気に半分を切った。脆いなぁ……俺。

 

「せっかく、2人きりなのに、もう戻るのは、や、です」

「そう、ですか」

 

 下手に答えることは出来ない。かといってなあなあに流すことも出来ないし、あぁ……胃が痛い。

 なんて思ってる間に、セナからメッセージが返ってきた。『助けに行く? イベントの事で話そうと思ってるから、出来るだけ早く来てほしいな! ついでに、藜ちゃん知らない?』

 

「ヒェッ」

 

 うちの幼馴染様は、千里眼でも持ってるんじゃないだろうか。そんな精度の質問に、変な声が出てしまった。そんな中、藜さんが物凄い勢いで何か文字列を打っていた。生憎システム的に読むことは出来ないが、タイミング的にセナからのメッセージへの返信だろう。

 

 そして数秒後、セナからのメッセージが届いた。内容は簡潔に『ふーんへー、とーくんそんなことしてるんだー』だけ。あっ、これあかんやつや。大変お怒りになっておられる。

 

「セナに何を送ったんですか…?」

 

 恐る恐る、勝ち誇った様子の藜さんに問いかける。すると、堂々と藜さんは言い放った。

 

「ユキさんを、連れ去ってデート中って、送りました。勿論、スクショ付き、です」

 

 そうして何回か操作したあと、そのスクリーンショットを藜さんが見せてくれた。そこには真っ青を通り越して真っ白な顔をしている俺と、見てるだけで楽しさが伝わってくる藜さんの、いわゆるツーショット写真が存在していた。

 はは、分身ってどうやれば出来るんだろう。そういうスキルとか紋章とかないかなぁ……ないなぁ、知ってた。

 

「死んだ……俺死んだ」

 

 いや待て、重力刀でハラキリすれば短期間は分身できるかもしれない。昔読んだ小説で、確かそんなキャラがいた気がする。抜刀術だからきっと相性もいいはずだ。

 

「どうか、しま、した?」

「いえ、何でもないです……ははっ」

 

 今回は潔く負けを認めよう。代わりに、後でザイルさんに発注して次回からは、次回からは──次回、あれば頑張ります。はい。

 

「? まあいい、です。戻って自慢、する、です!」

「あっはい、了解です」

 

 この後脱出時、水圧と精神的な痛みで数回死んだが、問題なく地上に帰還すること“は”出来たのだった。

 




称号《司祭》
取得条件 : ──
効果 : 消費SAN値減少

ー没ネター

「違うんだ沙織。俺は、決してやましいことはしてない。雰囲気に従ったまでだから!」
「いいよ。私は許そう」

「だがこいつ(サウダーデ)が許すかな!」ズガガガガッ!

ーーこの後のシーンはまだ死にたくないのでカットしましたーー



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第56話 備えよう

セ「質問でーす。さっき配信されたクエスト、みんなはどこで戦いたい?」
ラ「レイドボスだな」
つ「なら私も、レイドボスとかな」
れ「ん(同意の意)」
藜「レイドボス、です」
ユ「なら俺も」
セ「じゃあ総員一致でレイドボスで!! 解散!」


 ストーリークエストが配信されるなんてことがあった為、海水浴(湖)は皆満足していたこともあり終了した。ウチのギルドの方針としては、やっぱりレイドボスと直接戦うらしい。

 

 因みに沙織(セナ)の怒りは、翌日……というか今日現実(リアル)でデート(本人談)したことで沈静化した。正直、夏休みじゃなかったらヤバかった……何がとは言わないが。

 

「ま、それはいいとして」

 

 セナがやるぞーと大号令をかけたせいで、今ギルドはれーちゃんくらいしかいないNPCのみの寂しい空間となっている。そのれーちゃんも時間が時間の為ログアウトしており、爆弾の精製に邪魔が入ることはない。最近あまり残弾の補充が出来てなかった為、静かに出来るこの時間は本当にありがたかったりする。

 

「……?」

 

 どこかの危険なゾンビなやべー社長の様な笑い声を上げつつ爆弾を合成している時、ふと耳にメッセージが届いた音が聞こえた。時間は既に23:54を回っている。この時間だと、時折沙織(セナ)が寝惚けて電話してくるくらいしか心当たりはない。

 

「ザイルさん?」

 

 片手で爆弾を作り続けながらメニューを開いてみると、メッセージの送信主はそんな予想外の人物だった。不思議に思い開いてみれば、内容もとても珍しいと思えるものだった。曰く『お前が好みそうな珍しいアイテムが入荷した。少し話したいこともあるから、今から序でに会えないか?』とのこと。

 

「まあ、いっか。ヴァンには乗れなそうだけど」

 

 昼間リアルで色々あったから眠いが、まだ意識は問題なく保てている。事故る可能性しかない愛車(ヴァン)には乗れないが、移動するだけなら問題ない。

 そう判断して、爆弾精製の手を止めて立ち上がる。そして【火気厳禁】と赤い文字で張り紙をした自室の扉を閉めたところで、スキルが人を感知した。

 

「ぁふ……ユキさん?」

「こんばんは藜」

 

 目元を擦る藜さんは、これまで何かをしていたのかとても眠そうに見える。また無防備な……

 

「夜更かしは良くないですよ?」

 

 なんとなく、そう言ってみる。今日はもう沙織だって寝てるし、多分もう寝た方がいいんじゃないかと思う。余計なお世話かもしれないけれど。

 

「です、ね。おやすみ、なさい、です」

「おやすみです」

 

 多分、俺も寝惚けているのだろう。そんな適当なやり取りで会話は終わり、藜さんはログアウトしていった。

 

「……よし」

 

 このままでは多分、ザイルさんの所に行ってもこの調子になり兼ねない。と言うことでギルドを出て、出来立てホヤホヤのフィリピン爆竹改をタバコの様に咥えた。そして流れる様に着火して起爆した。

 

 夜の街に轟く炸裂音。

 

 地面に大の字に倒れ、意識が衝撃から立ち直った時には先程までの眠気は吹き飛んでいた。ダイナミック目覚ましがよく効いた。通行人からチベットスナギツネめいた乾いた目を向けられているが、知らぬ知らぬ聞こえぬ見えん!

 

「さて、行きますかぁ!」

 

 念のため頬を叩き、俺は【極天】のギルドがある【ギアーズ】へと歩き出した。正確には、そこに転移できる街の中心部へ。

 

 

「なあ」

 

 【極天】のギルド内、正座する俺の前で、明らかに苛立ちが含まれた言葉が発せられた。

 

「確かに俺は、お前のことを呼び出した。その事に少しは罪悪感を抱いてもいたんだ」

 

 そこでザイルさんは一度溜めを作った。そして次の瞬間、片方だけ見える金色の獣眼を見開いて叫んだ。

 

「だがなぁ、ギルドの扉が開かないからって、何故また貴様はビルを爆破したぁッ!!」

 

 バァンと大破しそうな勢いでザイルさんがテーブルに手を叩きつける。理由としてはまあ、フレンドメッセージに返信せずに来てしまったとか、連絡が面倒だったとかはあるのだが、本音は全く別だ、

 

「だって久しぶりに来てみたら、前爆破したビルがまた生えてきてるじゃないですか。ならもう、分かりません?」

「分かるわけあるかぁッ!!」

「ならアレですよ。そこにビルがあったから」

「名言風に言っても駄目に決まってるだろうがぁッ!!」

「ほらでも、最近は爆破解体の技術も上がってきてるんですよ?」

「何故そこに情熱を向けたぁッ!?」

「【儀式魔法】を使って、瓦礫も全て敷地内に落としてるんですよ?」

「よくやるなぁお前も!!」

「いやぁ、それほどでも……」

「褒めてねぇよッ!?」

 

 ぜえはあと荒くなった息をザイルさんが整えてるうちに、俺は最後の手札を切る。

 

「それに最近は、楽しみに待ってる人が結構いるんですよ?」

 

 俺がそう言った瞬間、演劇めいたタイミングでギルドの扉が開かれた。風もないのに翻るマント。顔に当てられた厨二ポーズの左手。そして魔女帽を被ったその姿は、分かりやす過ぎる程にその正体を示している。

 フィールドに《爆破卿》と《爆裂娘》が揃った……来るぞ! 何がかは知らない。

 

「そしてそう! 本日の火付け役はこの私です!!」

「ふざけるなテメェら!!」

 

 我慢の限界がきたらしいザイルさんの振るった剣鞭が俺たちを等しく直撃し、2人共空中へと吹き飛ばした。中を舞う中にゃしぃさんと顔を見合わせてサムズアップし、揃って床に叩きつけられた。

 大きな音を立てて床を転がり、テーブルなどを巻き込んで吹き飛んでいく中、どこか清々しい爽快感を感じた。このネタを入れればツッコミが返ってくる感じ……素晴らしい。

 

「さ、流石ザイル。今日もその、【なんたらカラミティ】のキレは最高ですね……ガクッ」

「それに加え、充実したファンサービス。ザイルさんは実質Ⅳだった可能性が微レ存……? カフッ」

「そう思うなら、豪華特典も食らってけぇぇッ!!」

「「アバーッ!」」

 

 激昂するザイルさんの振るった剣鞭が再び俺たちを強かに打ち、俺たちは再度ギルド内を吹き飛んだ。その際目で合図し、俺は簡易ポーチから旧フィリピン爆竹を2つ取り出した。そして着火してにゃしぃさんに手渡した。

 ならばやることは残り1つ!

 

「「サヨナラー!」」

 

 調度品を巻き込まない程度の爆発が起き、双方の称号にあるように爆発した。決まった感動をジーンと噛み締め、倒れたままにゃしぃさんと拳を突き合わせる。

 

 そんな俺たちの姿を見て、ザイルさんはとても大きなため息を吐いた。そして武器を収め、冷え切った目でこちらを見ながら呟いた。

 

「で、話は進めていいのか?」

「あ、どうぞどうぞ」

「私は別にいいですよ? ユッキーとは外で偶然合流しただけなので。では、アデュー!」

 

 そう言ってにゃしぃさんは、背中からロボットのスラスターの様に炎を吹かしてギルドの外へと滑って行った。合流した流れで誘っただけだったけど、いつの間にか狂気度が増してやがる……

 

「さて、今回俺がお前を呼び出した理由だが──」

 

 それをガン無視して、ザイルさんは話を進めようとする。ああうん、分かった。今のここではこれがもう日常と。

 

「ん? どうかしたか?」

「いえ、なんでも。続けてください」

「そうか。呼び出した理由はアレだ、少し頼まれごとをしてほしくてな」

 

 妙に勿体ぶってザイルさんが言ったのは、そんな事だった。いや、内容次第ではそんな事ではないのかもしれないが。

 

「その頼みごとっていうのは?」

「俺たちの【極天】、【すてら☆あーく】、【モトラッド艦隊UPO支部】……お前は色々なギルドと繋がりを持っているからな。端的に言えば、大手ギルドのパイプ役になってくれ」

「いいですよ」

 

 まあ、ある程度のギルドと繋がりがあることは事実だ。個人的にも、ギルドのお店に来てくれてる人的にも。だからまあ、特に苦でもないし断る理由にはならない。

 

「そうか、助かる。ご覧の通り、うちの奴らは制御なんて効かないからな。その分強いのは確かだが、確実に誰かに迷惑をかけるのは目に見えてる。当たり前の様にレイドボスとの直接対決だしな。その予防線くらいは張っておきたい」

「なるほど。凄い苦労してるんですね……」

 

 思わず同情してしまった。要するに、大量のにゃしぃさんが別ベクトルで騒いでるということだろう。100%胃が死ぬのが、容易に想像できる。

 

「全くだ。ここ最近、運営から苦情と感謝と労いが一緒くたになったメッセージが毎日届いてな……お陰でオペレーターの人と仲良くなった」

「うわぁ……ご愁傷様です」

「そう思うなら、お前もビル爆破をヤメロォ!」

 

 怒られそうだからナイスゥ!と言うのは心の中だけに留めておく。明らかに疲れ切ってる人にトドメを刺す程、爆破後の俺は悪ではないのだ。

 

「前向きに検討して善処します」

「はぁ……まあいい。こちらの連絡が後になるから、報酬は前払いで渡しておく。ほら」

 

 そう言って渡されたのは、真紅とスカイブルー色の菱形の結晶が存在する魔導書。効果はどうやら、俺の装備している魔導書の別天候verの様だ。効果は火山と高山……後で調べよう。

 

「で、ここからは頼みごとじゃなく商談だ」

 

 ザイルさんの目が光り、着席してゲンドウポーズを取った。

 

「その魔導書、お前の装備に加えたくはないか?」

「そりゃまあ、出来ることならしたいですよ」

「だろうな。そこでだ。魔導書1冊につき、こちらが素材を持った場合は10万、そちらが素材を提供するなら1万でお前のビット装備に追加してやろうではないか」

「阿漕な商売してますねぇ……」

 

 どっちにしろ俺の財布には響かないから、実際どちらでも問題はないのだが。それにドロップ品なら確保できる可能性が高いから、これは実質ファンサービス。

 

「で、その素材ってなんなんです?」

「この前お前が持ってきてくれた【機天の光輪】だ。あれ1つで、装備にビット系の能力を追加できる」

「なら、俺もちょっと頼みごとがあるんですけどいいですか?」

 

 素材を聞いてから、俺は質問を投げかけた。あのアイテム1つ程度で追加できるなら、もしかしたらあれも出来るかもしれない。

 

「なんだ?」

「俺も個人的に3冊ほど魔導書を手に入れたので、それも加えられます? 素材は今から全部持ってきますし」

 

 いっそのこと、クトゥルフ系の魔導書も全部突っ込んでしまえということだ。デメリットはまた背負うことになるけど、その分の楽しさは確保できそうだし。

 

「ああ、それなら問題ないぞ。殆ど性能は変わらないだろうが、それでもいいか?」

「ええ。装備できなくなったら、それこそ本末転倒ですし」

「商談成立だな」

「ですね」

 

 そうして、俺たちは握手を交わしたのだった。

 大規模レイド戦までまだ1週間……出来る限りの準備は重ねないとな。

 




【浮遊魔導書 拾壱式】
 Int +10 Str +10
 Min +10 Luk +10%
 魔導書数 11冊
 天候変化 : 嵐天・猛吹雪・砂嵐・濃霧・火山・高山
 障壁強化 : 固定値上昇
 紋章強化 : 消費MP軽減・展開高速化
 狂気付与
 神話呪文習得
 耐久値 1,576/1,576


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第57話 こんなのデュエルじゃない!

勿論アニメでもない(ZZ並感)


 突然だが、UPOには複数人のプレイヤーがリアルタイムで文字を交わす機能……所謂チャット機能が存在する。あくまでそれはフレンド間のみの機能だが、話す内容はそのスレッド?内で完結する為守秘性もある便利なものだ。

 

 詰まるところ、俺が橋渡し役としてやったのはそれの形成である。先にザイルさんが、直接のボス戦と一部の湖〜街間の防衛戦に参加表明しているギルドの情報を集める。次に、俺がそこに出向いてチャットに参加してくれるようにお願いする。大半が顔見知りではあったし、結構楽な作業ではあった。

 

 因みに、他の極振り勢に頼まない理由は『門前払いされるから』というのと、『確実に何か厄介ごとを抱えてくる』と、『若しくは絶対に喧嘩を売ってくる』の3つだったらしい。正鵠を射るとはこの事だと思う。

 

「さて、後はイオくんのところだけか」

 

 地図を表示してバイクを走らせながら、俺は独りそんな事を呟く。イオくんのギルドは初心者支援ギルドというだけあって第1の街にあり、ぶっちゃけかなり遠いのだ。俺が普段拠点にしてる第2や、最近よくいる第3の街からは、愛車でも10〜20分はかかる。

 紋章込みなら数分になるけれど、今回は使ってない。序でに転移すれば一瞬だが、走りたいから許して欲しい。

 

「えーと、問題なしと」

 

 風を浴びながら爆走する中、数分前にイオくんに送ったメッセージが返ってきた。曰く、今から会うのは問題ないとの事。アポイントメントを取るのは当然である。

 

「確かに、他の極振りしてる人達には頼めなさそうだよなぁ」

 

 多分にゃしぃさんはとりあえず爆裂しそうだし。この前遭遇した翡翠さんにはまず交渉は出来なそうだった。ザイルさんはそこら辺を纏める必要があるから動けないし、俺が適役なんだろう。

 

「残り1つ、頑張りますか」

 

 そう言って俺は、バイクを加速させるのだった。

 

 

「「「きゃぁぁぁぁっ!!??」」」

 

 それは、突然の出来事だった。

 俺が始まりの街にバイクで突入し、マナーとして速度を下げて数秒後突如悲鳴が上がった。何事かと爆弾を抜いてバイクから降りると、疎らに見えていたプレイヤーが蜘蛛の子を散らす様に逃げて行った。

 

「……え?」

 

 よくよく耳を澄ませば、何か逃げながら喋っている。その内容といえば──

 

「いやぁぁ、爆弾魔ぁぁッ!!」

「キチガイが、キチガイが出たゾォォッ!!」

「アイツは極振りだ!! みんな逃げろ! 爆破されるぞぉぉっ!!」

「誰か、誰か助けを呼べ!!」

「怖いわー、テロリストよー!」

 

 いや、あの、俺はそんなに正気削れてる訳じゃないんだけど……

 

「動け、動けってんだよこのポンコツが!!」

「イタゾォォ、イタゾォォォォ!!」

「何でもするから、命だけはぁ!」

「ミンナシンデシマウゾ-!」

「う、腕の骨が折れた……」

 

 ……

 

「そんな、嘘だぁぁぁっ!!」

 

 そう叫ぶも時すでに遅し。俺の周りには、人っ子一人居なくなっていた。慰めるかのように愛車(ヴァン)がエンジンを鳴らしてくれたけれど、それは気休めにしかならない。

 

「あの、大丈夫ですか? ユキさん」

「絶賛傷心中ですが何か」

 

 体育座りでバイクに寄りかかっていた俺に、聞き覚えのある声がかけられた。恨めしげに顔を上げると、そこにはメイドがいた。誇張でも何でもなく、メイド服を纏ったプレイヤーがいた。

 どこからどう見てもメイド服を纏った男性プレイヤー。恐らく盾なのだろう食器の並んだ銀のトレイ、槍と思われるモップを背負ったプレイヤーなんて俺は1人しか知らない。

 

「えっと、その」

 

 困惑顔で待たせるのも悪いので、一度頬を叩いて気を取り直す。軽く爆発したけどまあ無問題。逆に気が引き締まった。

 

「まあ、お久しぶりです」

「僕は会いたくなかったんですけどね……」

 

 こうしてドン引きしているイオくんと、俺は久し振りに会うことができたのだった。

 

「とりあえず、要件は聞きました。ギルドに帰るとみんなが五月蝿いので、適当に歩きながら話しましょう」

「お互い苦労してるんですね……」

「ええ、ほんともう……」 

 

 そう言うイオくんの顔には、濃い疲労の影が一瞬だけ浮かんだ。とりあえず、触れないであげよう。そろそろ愛車(ヴァン)にはアイテム欄に戻っておいてもらう。

 

「そういえば、片手剣使ってるって聞いてましたけど、変えたんです?」

「ええ、この前ちょっと惨敗しちゃって……やっぱりリーチがあった方がいいなって思いまして」

 

 そうして互いの苦労話を続けているうちに、街の中心である噴水広場にまで来てしまっていた。そこで先を歩いていたイオくんが振り返り、槍を手に持って言った。

 

「さて、お互いの苦労話はここまでにしましょう」

 

 そうして和かに笑いながらイオくんはウィンドウを操作し、俺の前にも文字の書かれたウィンドウが展開される。それは見慣れないものではあったが、ぱっと見で内容はよく分かるものだった。

 

 ====================

 決闘(デュエル)申請

 PN : イオ → PN : ユキ

 形式 : 全損決着

 制限時間 : なし

 範囲 : 半径10m球

 Yes / No

 ====================

 

 それは、今まで俺が無理だと避けてきたPvPの申請画面だった。まさかこんなタイミングで来るとは……

 

「これはつまり、受けろと?」

「まあ、そうなりますね」

 

 微妙に申しわけなさそうな顔をして、イオくんは続ける。

 

「ギルドの面子の問題らしいです。僕としてはユキさんのキチガイ具合は知ってるので、参戦も会議?の参加も気にしないんですけどね。ギルドのみんなが『そんなギルマスでもないキチガイに任せられるか』とか『来るなら発案者が来い』って言って聞かなくて」

「あー、そういう」

 

 何となく事情は読めた。

 ははーん、そいつら極振りのことを露ほども理解してないな? ストッパーなしの極振りを野に解き放ったら、サーバーがダウンすることになるぞ。

 俺は……うん、始まりの街って爆破してもつまらなそうだし無しで。第2はギルドのある場所だし無し。第3はお祭り会場。第4は……レイド戦終わったら爆破するかな。俺でさえこんな思考回路になってるのだから、他がいかに解き放ったらマズイかよく分かる。

 

「因みに、もし俺が受けなかったら?」

「意気地なしと見なして参加しない、だそうです。でも、勝ち負けはどうでもいいそうですよ。それに、受けてくれなくても僕は参加します」

「なるほど」

 

 随分と面倒な人達でギルドが固まっているらしい。周囲の建物の窓から覗き見してる人たちが、きっとそれなのだろう。でもまあ、勝ち負けが関係ないならいいか。

 

 それに、断られたとなると信用的な問題が起きかねないし。折角【アルムアイゼン】の人たちにビルの残骸(コンクリート・鉄筋・ガラス等)を渡したり、シドさんのところでお金を落として取り付けた協力が無駄になりかねない。

 

「いいですよ。やりましょう」

「すみません、うちの人達のわがままに付き合わせちゃって」

「いえいえ」

 

 そう話している途中で、俺はYesのボタンを押した。すると、半透明の壁が形成され俺とイオくんの間にカウントダウンの数字が現れた。序でに、頭上に互いのHP・MPゲージも表示されている。

 

「ああ、そうだ。始める前に1つだけ言っておきますね」

 

 開始5秒前。俺は【三日月】を取り出しつつ、ふとそんな事を呟く。

 

「はい?」

「俺、PvP初めてなんで。非礼があっても許してくださいね」

 

 そしてそう言い切った瞬間、カウントが0になった。

 初めてのPvPだけど、まあいつも通りやればなんとかなる筈!

 

「《ジェットスラス──うわぁっ!?」

「《加速》《障壁》《減退》」

 

 なんらかのスキルの発動と思われた槍を引く動作を、紋章3枚分で加速。槍をすっぽ抜かせてスキルの発動をキャンセルする。

 同時にバランスを崩しかけている足元に障壁を展開。それに引っかかり、躓いてイオくんはバランスを崩した。

 それと更に同時進行で、後ろに流れた右腕の動きを減退。実際にあったら大いに肩を痛める体勢で、イオくんを転倒させる。

 

「【潜伏】」

 

 そしてその隙にスキルを発動。序でにフードも被りステルス状態に移行。同時進行で、1冊の魔導書を起動する。

 

「あいたぁっ!?」

 

 立ち上がろうとしたイオくんの後頭部付近に障壁を展開。動きを止めて立ち上がる行為を妨害する。

 そしてそんな事をしている間に、周囲に霧が立ち込めてきた。その霧はみるみるうちに濃度を増し、フィールド全域を包み込んだ。装備で効果を無効化している俺と違い、イオくんのMPはジワリジワリと減少している。天候が【濃霧】に変わった証拠である。

 

「ふわっ!?」

 

 立ち上がり槍のある方向に歩き出したイオくんの、足が後方に送られる動きを加速。もう一度転倒させる。

 

「《加速》」

 

 その間に、俺は加速を使い大きく距離を取る。この天候下では、システム的に1m以上の距離は見通せないのだ。5mも離れてしまえば、【空間認識能力】でも持っていない限り相手の位置は把握出来ない。

 

「さて」

 

 念のため噴水の影に身を隠し、装備を【三日月】から【新月】へと変更する。そして銃杖を噴水の……なんて言うのだろうか、噴水の水が溢れないようにしている淵? まあそこに乗せて支えた。その銃口の向く先は、色々な方向を見渡しながら警戒し続けるイオくんだ。

 

「ちょっと計算っと」

 

 さっき確認したイオくんのレベルは43。と言うことは、HPは最低でも2,200。俺と違ってStrやVitにもちゃんとステータスを振ってるだろうから、多めに見積もって2,500〜700くらいとしておく。

 

 対して、俺がこの銃杖を使って与えられる素のダメージは、極振りのデメリットもあり大体20。懐かしいうさぎ1匹を倒せる程度のダメージだ。けれどそこに、武器自体のダメージボーナスである200と、通常弾のボーナスである50が追加される。単純ダメージは、計270という訳だ。

 

「弾種変更」

 

 それでは、幾らボーナスがあっても多分ダメージが足りない。

 故に弾を、通常弾から特注の徹甲榴弾(1発5,000D)へと変更する。こちらのダメージボーナスは250、追加効果で防御貫通30%と爆発ダメージが存在している。爆発抜きで、大体ダメージは500付近とみた。

 

「《クリティカルアップ》《フルカース》《ディフェンスカース》」

 

 自身のクリティカル威力を上昇し、イオくんの防御を60%ダウンさせた。これで準備は整った。

 

 クリティカルでダメージが2.6倍。紋章20枚で加速する事により50倍の速度となる弾丸は、ダメージボーナスが多分4倍。心臓狙いで更に倍。

 ライフル弾の速度ってマッハ2〜3らしいから……マッハ150とか。物理法則大丈夫?な感じの速度だけど、まあ気にしない気にしない。何せ、速すぎて空気摩擦とか知ったことかって感じで処理されるからね!

 

 話が逸れたが結論は、想定ダメージ3,500〜3,800。なんらかのスキルを使っているとしても、イオくんのHP吹き飛ばして余りあるダメージだ。そこから更に爆発するんだから万々歳。

 

「Feuer!」

 

 そして減退で反動を殺しつつ放った弾丸は、俺がそうと認識する前にイオくんに命中していた。頭上のHPが急激に減少を始め、それに遅れて銃声が鳴る。最後に、着弾したイオくんが爆発を引き起こした。

 その隙に装備を元に戻しておく。『PvPするなら、あんまり手の内を見せない方が多分良い』ってセナとかにも言われてるし。そうして開始時となんら変わらない状態に戻った後、魔導書の効果を解除した。

 

「いえーい」

 

 こうして俺は、初めてのPvPに圧勝したのだった。

 




敵の動きを妨害して、ステルスして、煙幕を張って、物理法則ぶっちした速度の弾を撃ち込んでくるキチガイ。ただしワンパンで死ぬ。下手したら銃の反動で死ぬ。
どうしてこうなった……
なお銃のキリングレンジは10mくらいだそう。


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第58話 極振りのやべーやつ

何人か低評価だったり高評価だったりを、定期的に同じ☆の数で付け直す人がいるけど、確かそれ意味ない行為だったような……
※作者としては嬉しいです


 初めてのPvPに勝利した事を喜んでいる間に、専用の空間は解除された。そして、姿形の見えなかったイオくんが目の前に再構成される。そのメイド服はかなりボロボロになっており、なんとなく申し訳なくなる。

 

「ちょっ、ユキさん! なんです今の!?」

「企業秘密です」

 

 衝撃から漸く立ち直れたらしいイオくんが驚愕の表情で詰め寄ってきたが、軽く言葉を受け流す。だってここでバラしちゃったら、せっかくの隠蔽の意味がなくなるし。

 

「別に負けたのはいいんです、予想してましたし。でも爆殺じゃなくて、なんというか、気がついたら死んでたんですけど!?」

「はっはっは。昔一緒に焼き討ちした同士を爆破なんてするわけないじゃないですか」

「アレは不本意でしたからね!?」

 

 膝をついて崩れ落ちたイオくんに、至る所からスクリーンショットの照準が合わせられている。やだ、ここのギルメン怖い。

 

「まあ、そこら辺に隠れてる人達にも言いますけど、チートとかそういうのではないんで。教える義理は、少なくともイオくん以外にはありませんが」

 

 その言葉を受けてにわかに周囲の建物が騒つきだしたが、誰1人として顔を出そうとはしない。なんか嫌だなこれ。

 

「で、こんなに普段から出てこないですか?」

「いえ、普段はみんな仲良く話したりしてるんですけど……まあユキさんがいるからかと」

 

 立ち上がるイオくんに手を貸しながら聞くと、そんな答えが返ってきた。どういうことなの……?

 そんな俺の困惑が伝わったのか、ポツポツとイオくんは語りだした。

 

「世間一般的には、極振りって頭のおかしいマゾキチガイ集団ですからね。関わり合いたくないって人が多いんですよ」

「何も間違ってませんね」

「なんで分かってるのにこの人は……」

 

 イオくんがそんな事を呟き額に手を当てているが、楽しいんだから仕方がないのだ。寧ろ、マトモなプレイをしている自分の姿が全く想像出来ない。

 

「まあいいです。そんな極振りの中でも、三大やべーやつっていうのが結構ネットに上がってまして」

「三大やべーやつ」

「【どう見ても紅魔族】にゃしぃ

 【メトメガアウ-シュ-ンカン爆破】ユキ

 【極振りでも制御不可】翡翠

 みたいな感じでして」

「なるほど?」

 

 ぶっちゃけその異名は心外だ。確かに俺は毎日一本レベルでビルを爆破解体してたりするけど、そんなに無秩序にヒャッハーしてるわけじゃないのだ。もっとこう、理知的で文明的な爆破というか、決して本能に従ってるだけじゃないというか……

 

「その中でもユキさんって、直接街をヒャッハーしてる上、他より被害が少ないから結構人気で有名なんですよね」

「なるほど」

 

 それが街に入った当初の反応とか、今いる人たちが顔を出そうとしない事に繋がっていると。因果応報というやつか。天罰覿面にならない事を祈ろう。

 

「その結果、近寄ったり目が会うだけで爆破されるって噂が一人歩きしてます」

「まあ、最近は握手を爆発とかも出来ますしね」

「えぇ……」

 

 困惑顔のイオくんを前に、人が隠れている反応のある建物に向け適当に加速してプラスチック爆薬を投擲する。それがいい感じに転がったのを見てから、隠れている人達に向けて大きな声で話す。

 

「このままイオくんとだけ話しててもしょうがないので、せめてサブマスさんくらいは出てきてくれませんか? 来ないと爆破します」

 

 そうして手元に現れた起爆スイッチを見せると、か細い悲鳴が聞こえたのを皮切りに一気に騒がしくなった。バリケードでも築いていたのか、なにかを慌てて片付ける音が聞こえる。

 

「ユキさん、何やってるんですか……」

「爆破準備」

 

 最早困惑を通り越して呆れに変わったイオくんを横目に、カウントダウンを開始する。まあ、いつか爆破する予定はあったんだし、それが今になってもモーマンタイだよね。

 

「10ー!」

 

「9ー!」

 

「8ー!」

 

 カウントダウンを進めるが、一向に出てくる気配がない。これはアレか、手間取ってるから爆破してくれという合図か。イオくんを見れば、もうダメだと頭を抱えていた。つまりは了承ということだね、分かるとも!

 

「0ー!」

 

 カウントダウンを一気に飛ばし、スイッチを押し込んだ。次瞬、爆弾が一斉に起爆し衝撃と轟音を発生させた。そして数名の悲鳴と共に、中世風の建物が倒壊する。

 うーん……30点くらいかなぁこれ。やっぱりビル爆破した方が、圧倒的に楽しいや。

 

「ウワーキレイデスネー。ケッコウナオテマエデ」

「それほどでも」

 

 こうなったらいつか、イオくんと一緒にビルの爆破解体をせねばなるまい。そう決意していると、巻き上がった粉塵に紛れ逃げ去る気配の中、1人がこちらに突き進んでくるのが探知できた。

 

「いきなり何をする!? 殺す気か!?」

「街中でそんな事ある訳ないじゃないですか」

 

 現れた人物の服装は、結構特徴的なものだった。

 薄い紫をベースに金や赤で装飾された軍服のようなコート。加えて編み込みのブーツにニーソにガーターベルト。腰には近未来風のマスケット銃と思しき武器がマウントされ、右腕の肘当たりにスチームパンク風の小盾が装着されている。肩辺りまで伸ばされた黒い髪が片目を隠しているが、アレは見えづらくはないのだろうか。

 

「紹介しますユキさん。この人がウチのサブマスのアークさんです。これでも男ですよ」

「なん……だと」

 

 そう言われて注視してみれば、確かに胸はない。普段関わる──背筋が凍りつく感じがした。それも2回。この考えは永久に凍結しておこう。

 

「そ、そそそうだよ、悪いか!」

「いえいえ、個人の趣味ですし。似合ってますしね」

 

 とても慌てて何故か赤面するアークさんは、やはり男プレイヤーには見えない。一見しただけで男と見抜けないのは、こちらの落ち度もあったのだろうが見事な女装という他ないし。それにまあ、ゲーム内だから基本は何をしようと自由だろう。

 

「じゃあ、お近づきの印にこれをどうぞ」

「あ、どうも──」

 

 笑顔で俺は、簡易ポーチから取り出したブツを相手に握らせる。というかこのギルド、もしや男の娘とか女装とかしかいないんじゃなかろうか。日本人って怖い。

 

「ってこれ爆竹じゃないか!?」

 

 そこからの一連の動きは、目を見張るものがあった。

 勢いよく手に持った爆竹を地面に投げ、爆発すると思ったのか足を使ってそれを蹴り上げ、転びながら銃で射撃して爆竹を上空で爆破した。

 

「やっぱり殺す気まんまんじゃないか!?」

「純粋に善意だったのですが……」

「初対面の奴に爆弾渡すような奴がいるか! いたわお前やっぱりキチガイだわ!!」

「そうですか……なら判断は、この場で1番地位の高いイオくんに任せましょう」

 

 大の字に転がって騒ぐアークさんの言葉を適当に流し、服の破れを気にしていたイオくんに話題を振る。別ギルドとはいえギルマスだからね、顔を立てないと。

 

「え、え?」

「第1問、デデン! 初対面の相手に自分の愛用するアイテムを渡すことはキチガイか否か!」

「え、えっと、普通……なんじゃないですか?」

 

 突然の無茶振りだったが、イオくんは答えてくれた。爆破後のハイテンションについてこれるとは、流石ギルマス。これはUTSUWA持ってますわ。

 

「お前、聞き方がずるいぞ……」

「なら、貴方も自分のギルマスに質問したらどうです?」

 

 立ち上がるのには手を貸しつつ、そんなことを言ってみる。華奢なその手が超震えている事には気づかなかった事にしておく。

 

「じゃ、じゃあ、次の──」

「第2問」

「だ、だだ第2問……」

「もっと声を大きく!」

第2問!!

 

 羞恥に顔を赤くしたアークさんが、目を瞑って涙を浮かべ、必死に声を絞り出した。どうしよう……相手を虐めるこの感じ、なんか気持ちいい。なんかこう、ゾクゾクする。

 こら、そこのイオくん。俺のことをそんな変な目で見ない。

 

「び、ビルを毎日爆破するような人は、常識人でしょうか!!」

「大丈夫です、それはキチガイですよアークさん」

 

 気遣うようにイオくんが答え、アークさんが涙を浮かび上がらせて座り込む。安心したのか、そのまま体育座りになって泣き始めてしまった。

 

「もうやだ……何このキチガイ。小ちゃい子ども抱っこしてよしよししたい……癒されたい……ぐす」

「はいはい。僕は小さくはないですけど、暫く抱っこしてもらっていいですから」

 

 女装(させられた)男子が女装(している)男子の頭を撫でている。その不思議な状況が数分続き、段々と泣き声が小さくなっていった。

 

「もう話しあってた通り、僕が決めちゃっていいですよね?」

「うん……」

 

 そんな中、慰め続けるイオくんがこちらをチラリと見た。俺にも何かをしろと言うことなのだろう。まあそう言われても、俺に渡せるものなんてないし……

 

「じゃあ俺からも。ケモ耳もふもふのイオくんを【写真術】で撮影したデータを、お望みのケモ耳のパターンの数×希望のポーズ分贈りましょう」

「ちょっ!?」

 

 精一杯の伝手を駆使して、出来る限り少ない労力で、最高の結果をお届けする。これに関しては真面目だから、爆弾は添えたりしない。

 

「うぅ……」

 

 涙目で見上げるアークさんでは、まだ1押し足りないようだ。ならば俺も、ちゃんと手札を切ろう。

 

「ああ、そうだ。その服の弁償分の代金として100万Dと、後でちゃんと素材も渡しますよ」

「いい、でしょう。でもユキさん、後からちょっと付き合ってもらいますからね!!」

 

 特に問題はないのでサムズアップしておく。レアドロでもなんでも、この幸運を好きに使うといい。そんな事をしているうちに話は進み、アークさんは現れた付き添いの人に連れられ恐らくギルドがある街へと転移して行った。

 

「さて、それじゃあ今回の話は、僕たちのギルドは参加するという事で」

「ではそういう事で」

「さっきの約束、忘れないで下さいよね!」

「それは勿論」

 

 こうして色々なことがあったものの、交渉役としての仕事は終えることが出来たのだった。

 




〜おまけ〜

 気持ちの良い達成感を持ってギルドに帰り、足を踏み入れた時の事だった。ガチャリと、硬質な音が右手から聞こえてきた。

「ガチャ?」

 何事かと手を持ち上げてみれば、そこには縄に繋がれた手錠が存在していた。片方の口が右手首にガッチリと嵌っている。

「ねー、ユキくん」

 息がかかるほどの耳元で、そんな声が聞こえた。そして振り返る前に、いつもの様に腕が回され抱きつかれる体勢になった。こんな事をしてくる人物はただ1人。

「あの、セナさん? 何を?」
「私も、います」

 疑問を口にしたのに合わせて、足にも飛来した手錠が噛み付いた。縄が繋がった先には、暗がりから現れた藜さんの姿。その目には、元々ないハイライトがヤバイ光を湛えていた。
 その姿に言い様のない怖気を感じる中、再び耳元で言葉が囁かれる。

「私ね、掲示板で見ちゃったんだ。
 ユキくんが女の子をデュエルでボロボロにして、服も際どいくらいまでボロボロにしたって。しかもその後、助けに来た女の子を泣かしたっても書いてあったんだ」
「それ、本当、ですか?」

 段々と狭められていく包囲網に、本能が全力で悲鳴と継承を鳴らしている。……無理みたいですね(諦め)

「いや、あの2人男だから。男の娘だから!?」
「へぇー、そんな嘘つくんだ」
「嘘はダメ、です」

 店内の温度が5度くらい下がったような感覚に襲われながら、必死の弁明を続ける。たが、全部本当のことを話しているのに2人は欠片も信じてくれない。

「ふふ、今だけはね、藜ちゃんと休戦してるんだ」
「今だけ、ですけど」
「ナンデ!?」

 ユキの助けを求める声は誰にも届かず、そのままギルドの奥に引き摺られていった。翌日げっそりとした姿で現れるまで、ユキを見たものはいなかった。


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閑話 それっぽくしたい掲示板回 改ニ

パパパッと書いて、終わり!
おまけです


【雑談】イベントとかはなしてけー

 

 65.名無しさん

 なんだかんだ話してるけど、ぶっちゃけお前らあのイベントどうよ? なんか戦う場所分かれてるっぽいけど

 

 66.名無しさん

 俺はレイドボスと戦うかな。見たいし

 

 67.名無しさん

 俺は街までの防衛かな。確か街が落とされたら問答無用で失敗なんだろ?

 

 68.名無しさん

 >67

 正確には街の中央にある、他の街へ移動できるのが陥落したらだな

 

 69.名無しさん

 情報さんくす

 なら街中の防衛ってのはどういう事なんだろうな。情報一切出てないけど

 

 70.名無しさん

 あーそれな。確かに謎だわ

 

 71.名無しさん

 今回のボス、クトゥルフ臭が強いからある程度予想はできるんだが……もし当たってたら嫌だなぁ

 

 72.名無しさん

 ん、どゆこと? つーかクトゥルフって何?

 教えてクレメンス

 

 73.名無しさん

 >72

 説明しよう!

 と、言いたいけど、クッソ長くなるから短くていい?

 

 74.名無しさん

 >72

 ggrks

 

 75.名無しさん

 見ただけで発狂する可能性のある邪神!

 見ただけで発狂する可能性のある化け物!

 見ただけで発狂する可能性のある人の内心!

 どこにでもいるニャルラトホテプ!

 SAN値ピンチ!

 いあいあ! ふぉうまるはうと

 

 76.名無しさん

 >75

 おいばかやめろ

 

 78.名無しさん

 でもこれ強ち間違いでもないよな

 

 79.名無しさん

 いぐな、いぐな、とぅふるとぅくんが

 

 80.名無しさん

 速さで負けたがまあいいか

 まあ要するに、見ただけでやべーやつが徒党を組んで襲いかかってくるんじゃね?ってこと

 

 81.名無しさん

 >80

 なるほど、そういうことですか!

 でもそれが、なんで街の中にまで関係が?

 

 82.名無しさん

 今回のボス、どうにもクトゥルフっぽいからなぁ……

 詳しい事は省くけど、子供のNPCとか、芸術家のNPCとかが夢を見て狂って襲いかかってくるかも

 

 83.名無しさん

 >82

 それって、街の中安全圏じゃなくならね?

 

 84.名無しさん

 だろうな。じゃなきゃ、わざわざ戦場に街中を指定しないだろ

 

 85.名無しさん

 そっか、じゃあ街中も防衛必要ってことですね

 なら俺は街中で待機しようかなぁ

 

 86.名無しさん

 因みに、もうある程度参加するギルドは意見表明してるっぽいぞ

 

 レイドボスが、【極天】【モトラッド艦隊】【すてら☆あーく】の第1回イベント突破勢を中心に後2、3個

 街までの防衛には【アルムアイゼン】【空色の雨】だけ。多分ここが1番人が欲しいと思うから、ここ2つじゃ危ないかも

 街中は小規模ギルドとか、突破したての人達が宣言してるな。突出した誰かがいないし平均レベルも低くなりそうだから、下手したらすぐ陥落するかも

 

 87.名無しさん

 あ、じゃあ俺レイドボスやめて防衛行くわ

 

 88.名無しさん

 あ、じゃあ俺も

 

 89.名無しさん

 俺もそうする

 

 90.名無しさん

 私もそうしますかね

 

 91.名無しさん

 なれば我は街中で奮戦しよう

 

 92.名無しさん

 お前ら【極天】が出てきた瞬間逃げすぎだろ……

 あ、俺も街中防衛行くわ

 

 93.名無しさん

 だってお前、下手しなくてもフレンドリーファイアで死ぬんだからな!?

 あ、俺は防衛かな

 

 94.名無しさん

 怒涛の逃走に草生える

 

 95.名無しさん

 >92

 お前も逃げてんじゃねーかww

 というか、極振りが参戦するなら案外早く終わるかもな

 

 96.名無しさん

 だな、あいつら頭逝っちゃってるし

 

 97.名無しさん

 でも運営も、極振りが相手って分かってんだろ?

 なら何か対策を講じてくるもんじゃね?

 

 98.名無しさん

 >97

 そしてそれを踏み潰されて泣くまで見えた

 

 99.名無しさん

 ありそうww

 ユキ以外はPvPの動画上がってるし、アレ見てるとなんでも出来る気がしてくるしな

 

 100.名無しさん

 そんなお前らに朗報だ

 遂に、遂にユキのPvP動画が上がってきたぞ!

 

 101.名無しさん

 ガタッ!

 

 102.名無しさん

 ガタッ!

 

 103.名無しさん

 ガタッ! アシクビヲクジキマシタ-

 

 104.名無しさん

 なんやて工藤!

 

 105.名無しさん

 待ってました!

 

 106.名無しさん

 今ここに、謎に包まれた幸運のベールが剥がされようとしていた……

 

 107.名無しさん

 ハリー、ハリーアップ!

 

 108.名無しさん

 おまいら急に元気になり過ぎだろ……

 っ【動画】

 

 109.名無しさん

 お手並み拝見だ、キチガイ幸運さん

 

 110.名無しさん

 はてさて、どんなバトルになるやら

 

 111.名無しさん

 やっぱり爆殺じゃないかしら?

 

 112.名無しさん

 あの、これ、あの、なに?

 

 113.名無しさん

 ……

 

 114.名無しさん

 ファッ!?

 

 115.名無しさん

 (´º∀º`)ファーw

 

 116.名無しさん

 (´^ω^`)ブフォwww

 

 117.名無しさん

 こんなん笑うわ

 

 118.名無しさん

 え、何、どういうことですか?

 

 119.名無しさん

 あの、私携帯からで見れないんですけど、どうなったんですか?

 

 120.名無しさん

 >119

 ん、ああそうだな

 まずこれは、ユキvsイオのやつでな

 

 121.名無しさん

 今北産業

 

 122.名無しさん

 ①イオの槍が吹き飛んで転んだ!

 ②霧が出てきたな……→銃声

 ③ユキ勝利!

 

 123.名無しさん

 もうこれわかんねぇな

 

 124.名無しさん

 見事なまでの暗殺ですね

 

 125.名無しさん

【速報】爆破卿はケリィでもあった

 

 126.名無しさん

 イオくん可哀そう

 

 127.名無しさん

【ニュース速報】爆破卿、始まりの街を爆破

 本人は気が向いたからやった、後悔はしていないなどと述べており──

 

 128.名無しさん

 つーかこれ、ダメージの発生おかしくね?

 銃声が鳴る前に減少してるんだが

 

 129.名無しさん

 あ、ほんとだ。確かにおかしいなこれ

 

 130.名無しさん

 みんななんで、イオくんが即死したことにツッコミ入れないんだ……

 

 131.名無しさん

 >130

 だって極振りだし

 

 132.名無しさん

 >130

 キチガイに常識を求めるな

 

 133.名無しさん

 >130

 極振りならよくあること

 

 134.名無しさん

 >130

 いつもの光景だし……

 

 135.名無しさん

 >130

 知ってるか、極振りの攻撃はな、掠っても死ぬんだよ

 極振りに攻撃したらな、掠っても倒せるんだよ

 

 136.名無しさん

 怒涛の否定に草

 

 137.名無しさん

 それにしても、この霧なんだろうな

 

 138.名無しさん

 あ、それは天候【濃霧】ゾ

 第2回イベの時にあった天候ですね。何も見えないわMPはスリップダメ食らうわでクソ天候

 

 139.名無しさん

 そっかー。あっおい待てぃ(江戸っ子)なんでそんなの発生させられんだよ

 

 140.名無しさん

 そりゃあほら、多分レアドロだろ(てきとー)

 

 141.名無しさん

 ユキのMPも相当減ってるし、連発は出来なさそうで安心したよ

 

 142.名無しさん

 ユキの幸運はぶっ壊れだからなぁ……何持ってても不思議じゃない

 

 143.名無しさん

 それよりも、さすが俺たち紋章術師の頂点……紋章捌きが尋常じゃねぇぜ

 

 144.名無しさん

 え、何、そんなあだ名もあるの?

 

 145.名無しさん

 ひいふうみい……5枚ってそんな凄いのか?

 

 146.名無しさん

 5枚くらいなら、やれる人はやれそうに見える

 

 147.名無しさん

 いや、あれは無理

 ただでさえ展開時間クッソ短くしてる紋章(0.3秒)を5枚、超小規模で、完璧なタイミングで展開とかマジ無理

 

 148.名無しさん

 改めて文字に起こされると、ユキも極振りの一員なんだなって

 

 149.名無しさん

 爆破が目立つけど、こっちも相当だよな……

 

 150.名無しさん

 ちょいと質問

 それって、具体的にはどれくらいの難易度なの?

 

 151.名無しさん

 そうそう、それわいも気になってた

 紋章術使わない身としては分からないんだよな

 

 152.名無しさん

 確かにそれ気になる

 わかりやすく例えてくれるとありがたい

 

 153.名無しさん

 あー…そうだな……

 両手で同時に綺麗な鏡文字で文書くくらい?

 

 154.名無しさん

 そいつはヤベエな

 

 155.名無しさん

 息をする様にそれをしてるのか……

 

 156.名無しさん

 Vit3しかないのにな

 

 157.名無しさん

 それが出来る>153も凄い定期

 

 158.名無しさん

 ちなみにユキはイオくんの服をボッロボロの際どい格好にした後、爆破で炙り出したアーク(サブマス)を羞恥責めして泣かせたんやで(ボソッ)

 

 っ【画像】

 

 彡サッ

 

 159.名無しさん

 何だと!?

 

 160.名無しさん

 うっ、ふぅ……

 

 161.名無しさん

 首を出せぃ

 

 162.名無しさん

 クォレはマズイですねぇ

 

 163.名無しさん

 くっ、是非見たかったっっ

 

 164.名無しさん

 激しく同意

 

 165.名無しさん

 有罪が増えた件について

 

 166.名無しさん

 ヤメロ-! シニタクナ-イ!

 

 167.名無しさん

 ……あ、ユキ発見。ちょっと行ってくるぜ!

 

 168.名無しさん

 オイオイオイオイ死んだよあいつ

 

 169.名無しさん

 ヤムチャしやがって……

 

 170.名無しさん

 だけどよぉ、止まるんじゃねぇぞ……(キボウノハナ-)

 

 171.名無しさん

 何やってんだよ団長ぉ!

 

 175.名無しさん

 オルガニキはさっさと成仏してどうぞ

 

 (以下雑談が続く)

 




今年はこれで最後!
皆さま良いお年をー


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第59話 作戦会議 on 掲示板

各ギルドから2名ずつ

ザイル→超器用 アキ→裁断者
セナ→舞姫 ユキ→爆破卿
ZF→提督 シド→傀儡師
ハーシル→農民 ツヴェルフ→大工場
イオ→大天使 アーク→剣魚
モブA→戦車長 モブB→砲撃長 
モブC→コバヤシ モブD→アオギ


【作戦会議本部スレッド】

 

 ・

 ・

 ・

 

 超器用『さて、もうイベントまで殆ど時間がない状況だがどうする?』

 

 大天使『確か、全員町からスタートでしたよね』

 

 裁断者『そうだな。果てしなく面倒だ』

 

 提督『折角戦場が3つに分かれているというのに、何を考えているのでしょうね』

 

 大工場『考えるまでもなく、ボス戦までにこちらを弱らせる策でしょう』

 

 傀儡師『俺たちのギルドは問題ないが、基本的に機動力のない【極天】の極振りを封じる為か。面倒な』

 

 超器用『それもあるし、先ずはここに集まってくれた人達の分担を再確認しよう。私たち【極天】は全員がレイドボスとの戦闘希望だ。他にウチのキチガイどもがいてもFFで迷惑をかけるだけだからな』

 

 舞姫『【すてら☆あーく】もレイドボス希望だよ。数が少ないし、私以外範囲攻撃持ちだから他だと中間防衛以外邪魔になると思う』

 

 提督『【モトラッド艦隊UPO支部】は私以外がレイドボスですね。3箇所の戦域で1人ずつリーダーを立てて、その下に人が何十人も付く性質上、私の称号は便利ですから。1番戦力の低い場所の支援に回ります』

 

 農民『うちら【アルムアイゼン】は中間防衛やな。爆破卿が供給してくれた大量の資材もあるし、軽く砦みたいなもん作って防衛するわ』

 

 大天使『僕たち【空色の雨】も中間防衛ですね。僕の回復とサブマスの移動速度低下攻撃で、倒せずとも遅滞なら出来ますから』

 

 戦車長『私たち【戦車はいいぞ】はレイドボス志望だ。7両しかないが、やはり戦車の相手は大きくなければな』

 

 コバヤシ『俺たち【クロイカラス】もレイドボス志望だ。戦闘機1機だけでの参戦だが許して欲しい』

 

 剣魚『あの、結局集まったギルドはこの7つだけなんですか?』

 

 爆破卿『残念ながら。個人参戦の人は沢山いるから、FFがない程度に担当のギルドの人が纏めてくれれば。あ、レイドボスは個人参加いないそうです』

 

 裁断者『極振りの名前を見た途端、蜘蛛の子を散らして逃げたからな』

 

 大工場『私たちとしては、その分戦力が回ってくるので有難いですね』

 

 傀儡師『で、結局【極天】の連中はどうするんだ? 流石に歩幅は合わせられんぞ』

 

 大天使『僕たちも、そんなに突破力はないですし……』

 

 超器用『そうだな……最悪ウチの頭のおかしい爆裂娘が焦土にすれば突破するまでの時間は稼げるだろうが……』

 

 提督『火力役の消耗はいただけませんね』

 

 舞姫『私のとこみたく、バイクに相乗りするのは?』

 

 傀儡師『多分、全員拒否するぞ?』

 

 超器用『だよな……流石に』

 

 戦車長『ならば、うちの戦車に乗るか? 数も恐らく足りるだろう』

 

 爆破卿『キューポラの上にガイナ立ちでもしたら、貫禄もあるんじゃないですかね?』

 

 砲撃長『いいんじゃないか?』

 

 超器用『ちょっと待て、確認を取る』

 

 アオギ『因みに戦車の速度は如何程?』

 

 戦車長『Agl換算で大体70くらいだ。あくまで最高速度だから、少し低下して60と見てくれ』

 

 傀儡師『それでは、俺たちのバイク部隊が突出しそうだな。露払いは任された。まあ、これで話が纏まればの話だが』

 

 アオギ『そういえば、他のギルドは移動速度は大丈夫なのか?』

 

 舞姫『私たちはさっき言ったとおり、爆破卿のバイクで移動するから大丈夫かな。私ともう1人は走る事になるけど』

 

 農民『うちらも車持ってるから問題はないと思うで』

 

 大天使『僕達は多分走ることになるかと思います』

 

 剣魚『少しは僕が頑張れば、何人かは早めに送れると思いますけど』

 

 超器用『確認を取ってきた。特に問題はないらしい』

 

 裁断者『俺や爆裂娘がいれば、万が一の場合にも対応出来るだろうしな』

 

 爆破卿『ということは、クエストが始まったら傀儡師率いるバイク艦隊が先行、その後ろを戦車on極振りが進む感じでいいんですかね?』

 

 超器用『逆だ馬鹿』

 

 舞姫『私のギルドは、バイク部隊に入るよー』

 

 コバヤシ『俺たちは距離を見て戦闘機で発進するから問題ないぞ』

 

 超器用『ということは、これで一応案はまとまったか?』

 

 大工場『ですかね?』

 

 戦車長『なら、他の2地域の皆さまお願い致します』

 

 戦車長『こちらが戦っている間、宜しく頼みます』

 

 裁断者『無論だ。宣言しよう“勝つ"のは俺たちだ』

 

 爆破卿『それでは皆さま、宜しくおねがいします』

 

 舞姫『指揮って大変だと思うけど、頑張って下さい』

 

 ◇

 

「さて」

 

 そう呟いて俺は、今の今まで操作していたウィンドウを閉じた。俺だけあの場でサブマスじゃないんだけど、よかったのかなぁ……

 

「結構早く終わったね、ユキくん」

「そうだなぁ……一仕事終えた感じが凄いよ」

 

 バイクで色々な場所を巡って、話をして、時には賄賂を渡して橋渡しして。それで集まったギルドの今回のイベントについての会議が、漸く終わったのだ。疲れもする。

 グッタリと脱力して背もたれに寄りかかっていると、投げ出したままの左腕に腕から絡められた。

 

「えへへー」

 

 本当なら多少は嫌がるところだが、まあ幼馴染様が御満悦なのでいいとしておく。現実なら緊張で汗をかいていた感じの手があったかいし。

 

「あー、そうだ。セナって今日これから予定あったりする?」

「特にないけど……どうかしたの?」

「や、ちょっと付き合って欲しいなって」

 

 俺がそんなことを言った瞬間、空気が凍りついた。何か不味いことを言ったかと思い顔を上げると、セナは顔を真っ赤にして固まっていた。

 

「わひゃあ!?」

 

 ツンツンと頬をつつくと、悲鳴を上げてセナは飛び退った。そして真っ赤な顔のままふぇぇ……と気の抜ける声を出している。

 

「念のため言っておくと、ゲーム内でちょっと一緒に行きたい場所があるってだけだからな?」

「わ、分かってるよ? でも、ユキくんが誘ってくれるのってすごく珍しいから……えへへ」

 

 髪の毛をクルクルと弄るセナは、しばらく動けなそうだ。まあ、ちょっと強引にやるしかないか。決戦まで今日含め2日、あんまり時間もない訳だし。

 

「システム的に落ちないだろうけど、ちゃんと掴まってろよー」

「うん!」

 

 セナの手を引いてギルドを出て、愛車(ヴァン)に二人乗りする。まだボンヤリしてるみたいだったけど、返事はしっかりしていたし掴む力もしっかりしてるから平気だろう。そう判断して、俺は全力でバイクのエンジンを吹かしたのだった。

 

 ・

 ・

 ・

 

「ここが、一緒に来たかった場所?」

「そうそう」

 

 バイクを停止させた場所は、第3の街【ギアーズ】の一角。看板が斜めになり、明らかに廃業してますという風態のオペラハウスだ。近代化の波に揉まれた様なここは、1回爆破をミスって出てきた街の警備隊から逃げる時に見つけた場所だ。

 

「軽くNPCから話を聞いた限り、ちょっとしたレアスキルがゲットできるっぽいんだけど、ここって男女2人のPTじゃないと入れないみたいでさ」

 

 しかも一度のクエストでは、どちらか片方しかそのスキルはゲット出来ないというイライラ設計。信頼し合ってる人じゃないと、多分問題が起きそうだ。

 

「知らなかった……でも、藜ちゃんじゃなくて私なの? 別に男女2人なら、そっちでも良かったんじゃない?」

「クエストの内容がちょっとね……流石に藜とじゃ恥ずかしくて」

「ふぇ?」

「貰えるスキルは【歌唱】ってやつで、クエスト内容は名前の通り歌を歌わなくちゃいけなくてね。流石に、藜に聴かれるのは恥ずかしいからセナがいいなって」

「あー……ユキくん、得意なのアニソンだもんね」

 

 セナが納得したように頷く。藜さんとの付き合いも長くなってきたけど、流石にアニソンを熱唱するのは控えたい。だから普段、儀式魔法で歌う時も適当に鼻歌とかなのだし。

 まあ、普通の歌を歌うと超音波というかなんというか、悲惨なことになるからという理由もあるのだが。演歌で喉を震わせるか、アニソンで高音出すかしないとアレなのだ。致命的なのだ。

 

「それじゃ、行こ! ユキくん」

「そうだなー」

 

 そう手を繋いで扉を開けると、ブワリと生暖かい風が沸き起こった。妙な埃っぽさと不気味さに、珍しくセナが反射的に抱きついてくる。

 

「と、とーくん、本当にここで?」

「そうそう」

 

 そのまま壊れ朽ちた座席の間を進みステージに立つと、青白い人魂の様なものが無数に周囲に出現した。それと同時に一枚のウィンドウが目の前に展開される。

 

 ====================

 【忘却された歌姫の為のアリア】 推奨Lv 10

 かつて栄えたオペラハウス。その跡地に漂うのは、この場所で命を終えた歌姫の亡霊。彼女の魂を送るべく、鎮魂の歌を奏でよう。

 

 成功 90点以上

 失敗 90点未満

 

 報酬 レアスキル【歌唱】

 経験値 1000

 ====================

 

 Yes/NoのボタンのYesを押しつつ隣を見れば、青い顔をしてセナは俺の腕にしがみ付いている。

 

「歌い辛いから離れてって言っても……」

「む、無理ぃ」

「知ってた」

 

 やっぱりかと納得しつつ、ネットで検索した曲の再生準備を始める。実を言うと、基本的にアニソンでは判定に極めてマイナスボーナスがかかるのだ。OPやキャラソンだと特にそれが顕著で、EDだと逆に少ない。

 それ故に、選んだ曲はアレだ。花の名前の、某止まりそうにない曲。一切マイナス判定がないどころかプラス判定があり、且つ歌いやすいアニソンなんてこれしかなかったのだ。他に俺が高得点を狙えるのなんて、ギリギリ津軽海峡冬景色くらいのものだし。

 

「♪〜」

 

 傍にセナが引っ付いているまま、伴奏に合わせて歌い終える。その時には大分腕の拘束も弱まって、結構余裕を持つことが出来ていた。それで漸くウィンドウを見れば、表示されている点数は90ぴったり。ギリギリの勝利だった。

 

「お、終わった?」

「ばっちし」

 

 congratulateの表示が浮かび上がり、人魂はキレイに消え去った。心なしか、劇場自体も明るくなった様に思える。

 

「じゃ、じゃあもう行こ」

「はいはい」

 

 セナに手を引かれるままに、メニュー画面の表示を一旦無視ししてオペラハウスを脱出する。ほんの数分ぶりに日の光を浴びてようやく、セナは俺の腕を解放してくれた。

 

「んー! やっと出れたー!」

「そんなに怖いものでもなかったと思うけどなぁ……」

 

 そう愚痴を零してみるが、晴れ晴れとした顔をしたセナにとっては馬耳東風だったらしい。気分一転、気持ちの良い笑顔でセナはこちらに聞いてきた。

 

「それで、さっきのスキルってどんなのなの?」

「あー、それなんだけど」

 

 さっき取得した【歌唱】スキルは、その名の通り歌を歌うことによって発動するスキルだ。それによってバフやデバフを発生させるの、だが……

 

「つまりはこういうことなんだよね」

 

 そうして俺の見せたウィンドウには、こんな事が表示されていた。

 

 ====================

 スキル【高等儀式紋章】取得条件を満たしました

 ・【紋章術】の練度が限界値 : clear!

 ・【儀式魔法】の練度が限界値 : clear!

 ・製作紋章数50 : clear!

 ・魔法系スキルを2つ以上所持 : clear!

 ・上級魔法系称号を所持 : clear!

 スキルを統合し進化しますか?

 Yes / No

 ====================

 

 体感的にあまり多くはない、アイテムに頼らないスキルの進化。決戦前に俺が手繰り寄せたのは、そんなものだった。

 

「えっと……つまり?」

「紋章と儀式が合体して、更に歌が良い効果になった感じ?」

「おぉー」

 

 パチパチと気の抜けた拍手と共に、そんな感嘆符が紡がれた。多分セナには分かってないのだろう。まあ分からなくて良いのだけれど。Yesを押しながらそんなことを考える。

 

「用事も終わったし、この埋め合わせにどこか──って言いたいところだけど、もう一個用事があるんだ」

「何? 今度はオバケとか出ない?」

「勿論」

 

 なにせこれからすることは──

 

「だって、今からやるのはビルの爆破だからね!!」

「いぇー!!」

 

 この街に来たからにはやらなければならない、楽しい楽しいビル爆破というデイリー任務なのだから。

 




新年明けましておめでとうございます。今年も宜しくおねがいします。爆破します。

新年も止まるんじゃねぇぞ……


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第60話 開戦

新年ラッシュ


 レイドボス兼防衛イベント当日、開始直前の【ルリエー】の北門には、異様な空気が漂っていた。その理由は明白、ここの光景が余りにも異様だからだ。

 

「壮観だね、ユキくん!」

「現物見ると確かになぁ……」

 

 俺のを含めてバイクが……シドさん究極体とハセさん獣輪態を含めるなら20台。某アニメで見たことのある戦車が4、現代風の戦車が2、SF的戦車が1の合計7台の戦車。その上に腕を組んで立っている【極天】の人たち。なんか黒い風がシャッター音と共に動き回ってるのは、多分ザイードさんなのだろう。

 その後ろで何やら円陣を組んでいるのが、多分【クロイカラス】の人たちだろうか。一輪バイク(キングのDホイール)が3台とは珍しい。イオくんや【アルムアイゼン】の人たちの姿は見当たらないが、それは第2陣の方にいるからと話は聞いている。

 

「それにしても、バイクのメンバーはこれで良かったの?」

 

 愛車(ヴァン)の整備をしながら、昨日言われた配置を思い出してセナに問いかける。バイクの操縦者が俺、後ろのシートにランさん。サイドカーにれーちゃんを抱えたつららさん。そしてセナと藜さんは2人で並走するという話だったのだ。再度確認せずにはいられない。

 

「うん。だって私、素のAgl大体1,000だし」

「私も、大体900、です。それに、無駄な争いは、望みま、せん」

 

 すると、そんな答えが返ってきた。確かにまあ、そんな能力があれば付いてくるのは余裕だろう。その代わり2人とも紙装甲らしいが、まあなんとかなるとのことだった。

 それにしても、素のステがそこまで行ってるとは……4倍くらいのステータスがあるとはいえ、俺も強化を考えないとな。

 

 そんなことを考えていると、何処からかボーンボーンと低い音が鳴った。そして、空が星の並びが狂った夜空へと書き換えられた。多くのプレイヤーが大騒ぎする中、珍しく音声で運営からのメッセージが発進される。

 

《イベント非参加者の皆様へ。本日正午より大規模イベント開催の為、現時点でクエストを受注している者以外、第4の街【ルリエー】の勢力圏への侵入が不可能となります。また、勢力圏内の時間は5倍に加速される為、直接の視認は不可となります》

《イベント参加者の皆様へ。本イベントは、レイドボスが討伐されるまでの間敵性mobは無限にポップ致します。経験値やアイテム等は通常通りの為、鋭意討伐に励んで下さい。また、激戦が予想される為、現在発動可能な参加プレイヤー全員に【蘇生魔法】のスキルを一時的に付与、水面での自由な行動を可能なバフを付与します》

 

 クエスト開始5分前、繰り返されるそんな放送の中殆どのプレイヤーが自分のメニュー画面を開いて付与されたスキルの存在を確認し始めていた。かく言う俺もその1人で……

 

「あった」

 

 水上行動解放なるバフと共に11個目のスキルとして、俺のステータス画面にも【蘇生魔法】のスキルが追加されていた。内容は使える魔法が1つ増えるだけのものだった。

 

「ユキくんユキくん、どんな効果なの?」

「私も、気になり、ます」

 

 ランさん達はつららさんとれーちゃんが両方使える様で、そちらで確認しているから問題ないだろう。

 

「消費MP300で、パーティー内の死亡してから30秒以内の指定したプレイヤー1人をHP25%回復させて蘇生。クールタイム30秒だって」

「んー……厳しくない?」

「でも、万が一の備えには、なると思い、ます」

 

 その意見に最もだと頷く。微妙に条件は厳しいけど、保険として存在してるだけでありがたい。何せ、俺以外は基本一度死んだら終わりなのだ。戦力の損耗は喜ばしい事ではないのだし。

 

 繰り返された放送が終わり、イベント開始1分前。その時点でもう、この北門では準備が完了していた。唸るエンジン音だけが響き、イベントの開始が静かに待たれる。

 

《只今より、イベントが開始されます》

《只今より、イベントが開始されます》

《皆様の健闘を祈ります》

 

「全軍、出撃!!」

 

 SF戦車の上に立つ金髪の軍服を着た男が、7本ある鞘から一振り剣を抜き放って叫んだ。その声に呼応して勝鬨の声が上がり、エンジンがより一層唸りを上げ進撃が始まった。

 

「来い! ワイゼル!」 

「来たれ、グランエル!」

 

 飛び出したバイク艦隊が矢印の形を描き、その先端にいるシドさんとハセさんの姿が一回り大きくなった。

 

 シドさんが呼び出したのは、滑らかな流線型の白いフォルムのパーツ。右腕側には光る巨大な盾、左腕側には竜のオーラを纏った刺突刃を保持した巨大な両腕。バイクの両脇には勾玉型のブースターが追加され、頭の辺りには∞マークの形をしたパーツが追加。その上に赤い光を灯す頭部が設置された。

 

 ハセさんが呼び出したのは、重厚的なオレンジのゴツいパーツ。右腕側には同じく巨大な盾、左腕側には竜のオーラを纏った砲塔が出現した。バイクの両脇には半月型のブースターが追加されて、同様に頭の辺りに∞マークの形を描いたパーツが追加。その上に赤い光を灯す頭部が設置された。

 

「凄いですね……ランさんのは、完成したんですか?」

 

 その少し後方を走りながら、俺は背後のランさんに話しかける。海水浴の時に会って以来だけど、なんだかさっき満ち足りた顔をしていたので聞いてみる。

 

「ああ。と言っても、あの2人のとは違って、全力稼働はまだ時限式だがな」

「それでも頼もしいです」

 

 多分、今回のボスは幾ら攻撃役がいても足りない気がするのだ。だから、時限式だろうと嬉しい。……一応、何か文句をつけられようと【偃月】を抜く覚悟だけはしておく。

 

 

 傀儡師『敵影視認、地上50空10だ』

 

 超器用『了解した』

 

 

 そのまま進むこと数分、湖まで半分といった距離でようやく敵が出現したとの報告が入った。

 

「《望遠》」

 

 運転をヴァンに半分任せ、片眼鏡の上に2枚ワンセットの《望遠》の紋章を出現させる。

 地上には三叉の槍を構えたインスマス面の……もう面倒だから深き者どもをベースにしたと思われるモンスター群。空には、何故か漆黒の蛸が浮遊していた。名前は地上の方が【邪神の尖兵】、空の方が【邪神の航空兵】というらしい。

 

「SANチェックはなし、と」

 

 これくらいなら、俺もほかの人にもSANチェックはないようだ。そう納得している間にバイク艦隊の人達が迎撃態勢に入り──

 

 

 超器用『ウチの馬鹿が1発ぶちかますそうだ。逃げろ』

 

 裁断者『爆裂娘は押さえきれなかった。すまん』

 

 

 メッセージが届いた瞬間大きくバイク艦隊は散開した。そして何処からか流れ出したBGMと共に、朗々と詠唱が響いてくる。

 

「黒より黒く闇より暗き漆黒に、我が深紅の混淆を望みたもう。覚醒のとき来たれり。無謬の境界に落ちし理。無行の歪みとなりて現出せよ!」

 

 そして念のため俺も大きく速度を下げた時に、我慢の限界だったらしいにゃしぃさんが爆発した。

 

「長いから中略して、行きます! 我が最強の攻撃魔法《エクスプロージョン》!!」

 

 瞬間、遥か前方で馬鹿げた範囲の大爆発が生じた。轟音と暴風を撒き散らしたそれはモンスターを全て飲み込み、一撃で蒸発させるという極振りらしい廃火力を示した。

 

「これは開戦の号砲に過ぎない!! 手柄を俺たちだけに取られたくなくば、全員限界まで戦い抜け!!」

 

 凛と響く声に歓声が上がり、士気がドンドン上がっていくのを感じる。とてもいい流れだけど、レイドボスの姿が見えないことに不安を感じる。

 

 

 傀儡師『再び敵影20だが、今度はこちらに任せてもらおう』

 

 爆破卿『なら、少しだけ支援しますね』

 

 

 片手で文字を打ち込んだ後、換えが効く魔導書ビットのウチの一冊を取り出して放り投げる。そして一度深呼吸し、ヴァンに操作系統を全て任せた。

 

「♪〜」

 

 軽くアニソンの鼻歌を歌いながら、目を瞑り魔導書の操作に集中。全く同じ10秒のタイミングで、歌唱と儀式の2種類のバフを完成させた。【紋章術】でいう《フィジカルエンハンス》と【歌唱】専用の状態異常耐性上昇が発動したのを感じ、目を開けて運転に戻る。

 

 すると、地面から湧き出した何本もの緑がかった触手が前方に出現していた。そしてその群れに向かって、機械の巨人とバイクの艦隊が突撃していく。

 触手でふと思い出して隣を見れば、藜さんはしきりに腕をさすっていた。……悪いことしたなぁ。

 

「「うおぉぉぉっ!!」」

 

 運転に集中し直し前を見れば、触手の半数が消し飛んでいた。その元凶は機皇帝装備の2人。シドさんの一閃で中央の触手が根元から切断され、宙に舞ったそれらをハセさんの射撃が粉砕したのだった。

 

「やることが派手だなぁ……」

「お前……それ本気で言ってるのか?」

「ユキくん、鏡見て言お?」

「ユキさん、流石にそれは……」

「ユキさん、鏡、見ません、か?」

「ん!」

 

 軽く呟いた筈の独り言は、何故か周りの全員に聞き取られ総スカンを食らってしまった。まさかれーちゃんにすら言われるとは思わなんだ。

 項垂れため息を吐く間にも、戦況は動いていく。具体的に言えば、残っていた触手の群れにバイク艦隊が思いっきり突っ込んだ。

 

「あっ」

 

 誰かがそんな言葉を漏らしたが、次の瞬間には無傷のバイクが飛び出して触手の群れは爆散した。物理的に人が乗ってるとは言え、流石モトラッド艦隊……これなら地球ローラー作戦余裕ですわ。

 

 

 傀儡師『空中に敵影10だが……これは報告するまでもなかったようだな』

 

 コバヤシ『ああ、速度の問題故遅参になったが』

 

 アオギ『空の戦いは任せてもらおうか』

 

 

 チャットにそんな文字が流れると同時に、大気を劈く爆音と共に灰色が襲来した。それは瞬く間に空中のmobを撃破し、速度を合わせるためか一度大空へと舞い上がった。

 

「アレは……F-15でいいのかな?」

「いや、少し違うぞ。ゲーム内だからか、本来ないパーツが追加されている」

「アッハイ」

 

 即座に修正が入れられる辺り、やっぱり凄えよランさんは……

 

 それはそれとして、よくよく考えたらかなり凄い状況なのではないだろうか。先を行くモトラッド艦隊、その後方を駆ける戦車部隊とその上に立つ極振り、中間点にいる俺たち、空には戦闘機。ゲームを始めるときに危惧していたことが現実になっているが、間違いなくここにいるのは、現状のゲーム中最高戦力と言って過言ではないだろう。

 

 だが……

 

「ねえユキくん、なんか順調過ぎない?」

「やっぱりセナもそう思うかー」

 

 順調過ぎるというか、ここの運営にしては捻りがなさ過ぎるというか。言葉にするなら、ついに狂ったか運営となりそうな感じだ。何か足んない。

 

「ちょっと今まで簡単過ぎると思うんですけど、そこんとこ皆さんどう思います?」

 

 そう喋りつつ、右手でチャットにも書き込んで聞いてみる。自分1人じゃ結論が出ない故の行動だったのだが……

 

「もしそうだとしても、気合いを入れるしかないだろうな」

「レイドボスがよっぽど強いんでしょうか? でも、私たちにはどうしようもないと思います」

「ん」(分からないの意)

「私は、どんな時でも、頑張ります、よ?」

 

 ◇

 

 裁断者『確かにそうかもしれないな。だが、何があろうと俺は勝つ』

 

 超器用『少し引っかかるが……いや、気をつけておこう』

 

 戦車長『何が来ようと、我がレオパルド2で粉砕するのみだ』

 

 砲撃長『ギルマスには私から注意を促しておきますね』

 

 コバヤシ『……クトゥルフだもんな。嫌な予感はするぞ』

 

 アオギ『間違っても、俺に叫ばせるなよ?』

 

 提督『貴方の言うことです。こちらでも注意を促しておきましょう』

 

 大天使『一応中距離の防衛隊には、僕が防壁を張っておきますね』

 

 農民『そうやな。キチガイ共の直感には従っておくべきやな』

 

 大天使『念の為、僕のアイテムでそっちにも防壁張りますから、コバヤシさんよろしくお願いします』

 

 コバヤシ『承った』

 

 ◇

 

 そんな三者三様の、頼れるような頼れないような言葉が返ってきた。一安心している間に戦闘機が後方へと飛び去って、直後に超高速で戻ってきた。そして光る何かを全体に振り撒いた。

 

 視界の端を見れば、戦闘終了時までという時間制限で大量の防バフが追加されていた。流石爆破卿の専用アイテムの【無尽火薬(アタ・アンダイン)】と対をなす、大天使の【無尽癒薬(イスラ・アンダイン)】なだけはある。

 

「総員武器を構えよ! これより、レイドボスとの戦闘区域に突入する!」

 

 そうして多少の不安を抱えたまま、アキさんの号令で【ルリエー】のゆうに数十倍の広さはあるフルトゥーク湖へと足を踏み入れたのだった。

 




運営バフ(クエスト終了まで)
水上行動解放

ユキのバフ(60秒)
Str +40% Vit +40%
精神攻撃耐性 +50%

イオの防バフ(戦闘終了まで)
物理防御上昇 +30%
魔法防御上昇 +30%
特殊攻撃耐性 +30%


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第61話 激突

(まともなクトゥルフ期待してた人は)
ここまでだ! 残念だったな(メタルマン風)
沼がフカ過ぎたんだ。本当に申し訳ない。

警告はしました、サメ始めだよジョ-ジィ……


 走る場所が地面から水面に変わり、走行音が変わること数分。湖は未だに異様な静けさに包まれていた。敵もなく、妨害もなく、ただ全身を這いずり周られる様な気配だけが存在している。

 

 

 大天使『今こっちすごい大変なんですけど、前線はどうなってます?』

 

 傀儡師『ボスの姿すら見えない。前方で探ってるが、何も探知出来ていない』

 

 超器用『こちら後方、こっちも何もなしだ。誰か爆裂娘抑えるの手伝ってくれ』

 

 コバヤシ『空からも何も見えない。本当にボスはここであってるのか?』

 

 爆破卿『中間からも何も見えないですね。ボスはここであってる……はず』

 

 裁断者『とりあえず、爆雷でも投下してみてくれ』

 

 爆破卿『あいあいさー』

 

 

 そうして軽く10個ほど爆弾を湖に投げ込み起爆させてみたが、何の反応もなく数分が過ぎて今に至る。誰もが足を止めて、周囲を見回している。戦闘機は上空を旋回しているが。

 

「さて……」

 

 1人だけ即死の危険があるためヴァンに乗ったまま、軽くため息を吐いた。このままじゃ士気も下がる一方だろうし、ちょっと不味いかなぁ……

 

「あ、お久しぶりっす」

 

 突然並走してきたバイク乗りの人がそう話しかけてきた。軍服っぽい服装で、性別が判別しにくい容姿……ああ、リシテアさんか。ちょっと待て。俺の知り合い、まともな男、いない……?

 

「お久しぶりです、リシテアさん」

()の爆破卿に覚えてもらってるだなんて光栄っす」

「煽てても爆弾しか出ませんよ?」

「それは御免っすね」

 

 一頻り笑った後、声を真面目なトーンにして話しかける。

 

「リシテアさんは何か思いつきます? この状況をどうにかするのを」

「ちょっと分かんないっすね。今回のボスは、えーと、クトゥルフ神話? ってのがベースなんすよね?」

「多分そうだと言われてますね」

「何か特徴的なものはないんすか? ネットで調べても、ちょっと何書いてあんのか分かんなかったんすよ」

 

 少し悩む様にしてリシテアさんは言った。1回その点からは当たってるけど、もしかしたら何か見えてくるかもしれない。そう思って、ある程度噛み砕いて説明する。こういう時、全盛期(直喩)の知識があるのはありがたい。

 

「ほえー、よくは分かんなかったっすけど、ヤバイのは分かりました。それで、その旧支配者のキャロルって1回聞いてみたいんっすけど」

「歌えってのは無理ですよ」

 

 下手したら、耳にした全員に強制SANチェックが発生しかねない。アニソンとか鼻歌でもないと、俺の歌は酷いものだとセナからすら言われているのだ。

 

「いえ、流石にそんなことは望まないっすよ。でもオレはバイクを片手で運転は出来ないっすから」

「なるほど。じゃあ流しますねー」

 

 そういえば、片手を離して運転するのは難しいんだった。愛車が優秀過ぎて忘れていた。そんな考えを巡らせつつ、いつもゲーム内でBGMを再生しているサイトから『旧支配者のキャロル』もとい『The Carol of the Old Ones』を最大音量で再生する。

 結構な人数のプレイヤーがこちらに振り向く中、リシテアさんが神妙な面持ちでボソッと呟いた。

 

「英語で分かんねえっす」

 

 しかし次の瞬間、ハッとした顔になって慌てて弁明を始めた。

 

「い、いや、オレもアレっすよ? 最初の空を見ろくらいは聞き取れたし分かってるんすよ!?」

「空を見ろ……?」

 

 そういえばクトゥルフって正しい星辰が揃うとかあったはずだし、クエスト開始時にも夜空に変わってたっけ。そんなことを思って空を見上げて、ふと何かが引っかかった。

 

「空、何か変じゃありません?」

「え?」

 

 そんなことを言った瞬間のことだった。 

 空に浮かぶ星が不気味に光り、突然の地鳴りが発生した。

 

「全員退──」

 

 誰かがそう叫び終える前に、少し離れた場所にそれは水面を突き破って現れた。

 それを見て思った第1の印象は、鼠色の柱。同時に2つ顕現したそれは、よく見れば緑色のゼラチン状の物質を纏っている。そしてその先端には、鋭い5つの鉤爪が存在していた。

 

「《減退》《障壁》!」

 

 まだ何もない。そのことに安堵しつつ、振り下ろされる最中の両腕に対して防御を試みる。数名のプレイヤーが巻き込まれそうになっていたからだ。展開した紋章は、ボスの攻撃くらいなら余裕で弾ける防御の筈だった。だが、

 

「うっそだろおい」

 

 減退数枚、障壁10枚はそんなものはないかの如く突き破られ水面に腕が振り下ろされる。それだけで、逃げ遅れたプレイヤーのHPはゼロになった。即座に蘇生魔法が飛んで復活したが、そのアホみたいな攻撃力の高さは最早極振りでもないと耐えられないのではないだろうか?

 

 やはり出現するのは御大だったか。そう思っている間にも顕現は進行する。と、思っていたのだが、

 

「ふぁっ!?」

 

 腕が引っ張り上げる様にして出現したのは、超巨大な()()()()()()()

 異界の深淵の様な漆黒の眼に、連続した鋭い歯の並んだ口部。磨き上げられたブレードの様な背ビレが出現し、同時にその傍に存在する細長い蝙蝠の様な翼が大きく夜空に開かれた。ゴム質ではなく鮫肌の胴体がズルリと引き揚げられ、ゼラチン状の物質を纏った鉤爪のある後脚も出現し、しかと水面を踏みしめた。よく見ればそれらは人の手足を無理やり獣の手足に変形させた様な、宇宙的な悍ましさを放っている。最後に、明らかにサメのものと思われる尻尾と尾ビレが──否、触手で編まれたサメの尾と尾ビレが水中から引き抜かれた。

 

 こうして『メガロドンにクトゥルフの手足と羽根を付けた』としか言いようのない、色んな意味で名状し難い化け物が顕現したのだった。

 

 表示された名前は【Sharcthulhu】、無理やり読むならシャークトゥルフだろうか? 二重の意味で混乱する頭を、追い討ちする様に10段という恐ろしい量のボスのHPバーが真っ白にした。

 

「ばっかじゃねぇの!?」

 

 運営に向けて絶叫した俺の前で、例のシャークトゥルフが足を踏ん張り大きく息を吸い込んだ。山の様な巨体が鳴動し、明らかに咆哮の準備を行なっている。サメは吠えないとか言っちゃいけない。それよりもこれは、正直マズイ。

 

「全員! 耳を塞げぇぇっ!!」

 

 片手で高速タイピングしながら叫んだ瞬間、そんな俺の声を搔き消す様な冒涜的な大音声が轟いた。バイクの運転をヴァンに任せ耳を塞ぐ中、99あったSANの数値が一気に92まで減少し、メニュー画面が勝手に閉じた。

 

「ふ、ふふひ、爆弾って素晴らしいよな……もっと爆破しないと」

 

 自分では『俺でこれなら、他の人たちって……ヤバくね?』と言った筈だったのだが、口が勝手に動いてそんな言葉を紡いだ。本心ではあるけどこれ、俺も一時的発狂しているらしい。

 

爆破を、一心不乱の大爆破を(これは、かなりヤバイかも)!!」

 

 察するに《偏執症》でも発症したのだろう、爆破が対象の。そんな自己分析をしている間に、隣を走っていたリシテアさんが突然バランスを崩した。そして転倒し、バイクごとスピンして何処かへ吹き飛んでしまった。

 

 それを見て慌てて周りを見渡せば、色々なところで炎が上がっていた。原因はバイクや個人個人のスキルの暴発。それに加えて絹を裂くような悲鳴や、倒れて動かない人、逃げ出す人に、自分の武装で自分を貫いている人などが溢れて、阿鼻叫喚の地獄絵図となっていた。

 

「そおいっ!!」

 

 自分の両頬を全力で叩き爆破。精神分析(こぶし)を頼めないので、精神分析(爆破)でバグった言動を無理やり元に戻した。とりあえずこれで、チャットもきちんと使える筈だ。

 

「ユーキくん!」

「ひゃ……!?」

 

 突然、背後から抱きしめられて耳を食べられた。耳の形に沿って生暖かいものが這い回り、ピチャピチャと淫らな水音を立てている。走行中のバイクに追いついて飛び乗って耳舐めとかいう正気を疑うこと、やめてくれませんかねぇセナさん。あ、発狂中か。

 

「お、おーい、セナさん?」

「ふぇふふふぃふふぇ?」

「ひぁっ!?」

 

 耳をあむあむされながら喋られたせいで、よく分からないゾワゾワとした感覚が走った。これはダメですわ、放置してないとこっちが変になって死ぬ。

 

「被害状況は……」

 

 パーティの欄を確認すれば、全員の状態異常の欄に一時的狂気及び不定の狂気の文字が存在していた。セナは一時的発狂、藜さんがなし、つららさんが不定の狂気、れーちゃんも不定の狂気、ランさんが一時的発狂。……ガチでまずいなこれ。

 

 とりあえずセナを正気に戻すのは諦め、チャット画面を開き直す。するとそこには、散々な被害状況が報告されていた。

 

 

 超器用『うちの馬鹿どもは全員正気に戻した! 他のところの損害はどうなってる!』

 

 傀儡師『すまない、うちは殆どやられた。まともに動けるのは、俺とハセ含めた5名だけだ』

 

 戦車長『俺たちもだ。動ける戦車は……俺単騎を含め3両ってところだな』

 

 コバヤシ『こっちもだ。3人戦闘不能で、4人が身動きが取れない。残りは俺を含め3人だけだ』

 

 農民『なんなん今の声!? こっちの戦線、とんでもないことになってるんやけど!?』

 

 大天使『序でに僕の結界が全部壊れたんですけど!? というか、みんな頭おかしくなってます!!』

 

 爆破卿『うちも動けるのは3名だけです』

 

 超器用『随分やられたな……撤退も考えるか?』

 

 爆破卿『とりあえず軽く時間を稼ぐので、ダメになった人達の退避を!』

 

 コバヤシ『俺たちも支援しよう』

 

 傀儡師『というか、爆破卿が舞姫に耳を食べられてるように見えるんだが。耳舐めって実質セッ**じゃないか』

 

 

 そんな文字が見えたと同時、上空を覚束ない動きで旋回していた戦闘機がシャークトゥルフに向けて進路を取った。が、その速度は遅い。まだ攻撃まで時間がかかりそうだ。

 

 シドさんの発言は見なかったことにしておく。

 

「来て藜!」

「はい!」

 

 走るバイクに並走する形で、藜さんが隣に現れた。まさか本当に来てくれるとは思わなかったけど……これならいける。

 

「いけますか?」

「問題ない、です。でもその、セナさんは?」

 

 そう聞いた俺に、非常に訝しげな目で藜さんが問いかけてくる。目線の先には、当然俺の耳をあむあむとしているセナの姿。舐められてる耳が変わったから、凄く舐められてたほうがすーすーしますはい。

 

「にゃふふー」

「ひん……下手に動かすとクラッシュするので、正気に戻るまでこのままで」

「むぅ……分かり、ました」

「後で何か、出来る限り言うことは聞きますから」

 

 物凄く不服そうだが、後で何か埋め合わせをするということで納得してもらう。

 

「言質取った、です」

「あはは……とりあえず、猛吹雪出すのでこれ羽織って下さい」

「あ、はい」

 

 まるで第2回イベントの時の様だと思いつつ、俺自身は呪い装備の襤褸切れを装備する。流石にこの状態では射撃も斬撃も出来ないが、支援と爆撃くらいなら出来ないこともない。

 

 そして発動させた魔導書の効果で、シャークトゥルフの足を半分覆うほどの猛吹雪が現出した。HPバーの減少は見られないが、範囲内の足が凍りつき行動不能の効果が発動されているのは見える。

 

「突入します!」

 

 濃霧とは別ベクトルで真っ白に染まった空間の中に、俺たち3人は突入したのだった。

 




1d10/1d100
64中38人発狂
あ、一応呪文でSAN消費した場合は発狂なしの方で。


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第62話 一方その頃

一時的発狂と不定の狂気の説明必要……?
後書きちょっと書きなぐってる所為で長く見えるかも


 前線で顕現したシャークトゥルフの異様な威容は、当然のように防衛部隊にも届いていた。コンクリートと鉄筋で形作られた即席の要塞に防御陣地、援護を貰いながら前線で戦っていたプレイヤー全員が、呆然とその姿を目撃し、咆哮を聞いていた。そして見えてしまった、聞こえてしまったということは、当然こちらにも莫大な被害を齎すことになる。

 

 突如動きを止め倒れたプレイヤーがいた。訳の分からない言葉を叫び続けるプレイヤーがいた。自分の腕を只管に掻き毟るプレイヤーがいた。金切り声を上げ、逃げ出すプレイヤーがいた。近くのプレイヤーに攻撃を始める者もいた。

 

 街までの防衛に名乗りを上げたプレイヤーは、殆どがレイドボスとの戦いを拒否したメンバー。つまりはレベルが不足しているか、精神力の不足しているプレイヤー達だ。最前線の士気が最高だったプレイヤー達でさえ半数が狂気に堕ちた咆哮に、耐えることが出来たのは両の手の指で数えられる程度しかいなかった。

 

「なんですこれ!? ほんとなんなんですか!?」

「僕に聞くな!」

 

 モップが凄まじい速度で閃き、邪神の尖兵を数体纏めて大きく吹き飛ばす。それに追い打ちをかけるように銃声が鳴り、心臓(クリティカルポイント)を撃ち抜かれた尖兵は経験値を残して霧散した。だがそんなものは知らぬとばかりに、後から後から尖兵は押し寄せる。

 

 数少ない正気を保ったプレイヤーであるイオとアークは、間違いなく最前線であっても実力の通用するプレイヤーだ。しかし9割以上も味方が行動不能になった今、通用する程度の実力では戦線の維持は不可能であった。2人が戦っていた場所以外は総崩れとなり、次々と奥の陣地へ敵が攻め込んでいく。

 

 シャークトゥルフ顕現と同時に大量に出現した尖兵の数は今や総数500を超え、空を埋め尽くす様に航空兵も出現している。極振りの1人でも居れば違ったのだろうが、ジリ貧どころか敗北の2文字が浮かぶ様な光景だった。

 

「僕が時間を稼ぐ! だからイオは、アレを使って早くみんなを回復させろ!」

「わかった!」

 

 そう短くしてイオは、腰に付けたユキとは正反対のカラーリングのカラビナに付いた試験管を一本外し引き抜いた。右腰側のバフ用である薄青色ではなく、それの色は薄緑。全体に回復を振り撒く物だ。

 

「さて、ご退場願おうか!」

 

 それに並行して、犇めく邪神の尖兵に向けて6発ずつの間隔で銃弾が放たれる。即座にリロードしながら、片手で乱射された弾の着弾点から黒い波動が広がり、ガクンと多くの尖兵たちの進行速度が低下した。

 

「8秒しか持たないぞ!」

 

 着弾点から半径2.4m内の敵の移動速度を60%低下させるという破格の効果を持つ銃弾だが、威力は極めて低く効果も8秒間と長い様で短い。けれど今は、それでも十分だった。

 

「大丈夫! ぃやあっ!!」

 

 モップが勢いよく上空に向けて振り抜かれ、試験管が幾つかの黒い物体と共に打ち上げられた。しかし、それに向かって航空兵が殺到する。効果が分かっているのか、効果を発動させまいと殺到するその姿はまるで砂糖に群がる蟻のよう。そのまま効果発動前にアイテムが破壊される寸前。

 

「爆破!」

 

 ズンと腹に響く音を伴って、空に光の模様が描かれる。試験管と同時に打ち上げられた4つの花火が、化物犇めく空を明るく照らし出した。

 そして、花火の光を突き破る様に超巨大な薄緑の魔法陣が空に展開される。広大な防衛戦域の大凡6割を範囲に収める魔法陣から緑色の粒子が降り注ぎ、範囲内にいるプレイヤーのHPを回復し状態異常を打ち消していく。

 一時的発狂は快方へ、不定の狂気はその場限りの正気へ。《大天使》という称号とユニークアイテムの力をまざまざと見せつけて、一気にプレイヤー側に勢いが取り戻されていく。

 

「特に狙いはつけへんでもええ! 弾のある限り撃ち続けるんや!」

「撃てば当たります。ですから出来る限りの支援を!」

 

 そんな似非関西弁と落ち着いた声とともに、背後から弓矢や砲弾、スキルや魔法等多種多様な攻撃が飛来する。炸裂の轟音と閃光が至る所から発生し、群がる尖兵や航空兵を砕いていく。それに加え、ある程度の人数が正気に戻ったこともあり、対応できる人数が増え、崩壊しかけていた戦線が徐々に徐々に回復方向へと向かっていく。

 

 そんな最中のことだった。

 

 地鳴りの様な音が響き渡り、立っていられない程の振動が発生した。振動する大地は敵味方問わず足を縺れさせ、どうしようもなく移動を制限させる。

 

「ひっ!」

「ああ、イオはそうだったっけ」

 

 腰砕けになって縋るようにアークにしがみつくイオ達の周囲で、間欠泉の様に黒と灰色の何かが噴出した。その合計8つの噴出点は、振動と共に絶え間なく黒と灰色の何かを噴き出している。

 

「……は、鮫?」

「え?」

 

 その噴出物の正体は、鮫。ホオジロ、イタチ、シュモク、ノコギリetc……様々な種類の鮫が、群れを成して上空へと噴出している。そして邪神の航空兵を食らいながら、1つの塊の様に収束していく。

 

「なんだよ、あれ」

「あ、アークさん……」

 

 そうして鮫の塊は、今まで地と空を占領していた兵を喰らい尽くして、ある1つの形をとった。

 

 唸り声を上げ牙を鳴らす生きたままの鮫が寄り集まり、1本人間3人分はあろうかという、極太の触腕を8つ形成。同様に袋状の頭部も形成され、目に当たるであろう部分の鮫が悍ましいライムグリーンに発光した。

 

「しゃ、シャークトパス……」

 

 誰かのそんな呟きを嘲笑う様に、堂々と表示されたものは【Charitas OktoShark】という名前と5段のHPバー。慈愛という名前と対照的に、殺意しか感じられないボスモンスターの表示だった。

 

 

 時を同じくして、街の中でも同等の惨劇が起こっていた。

 

「いあ! いあ!」

「くするうー? たいん!

 くするうー? たいん!」

「デン! デン! デデデン! デデデデン! シャーク!」

 

 発狂したNPCが、老若男女問わずプレイヤーに向けて襲いかかる。それを迎撃するプレイヤーの数は、最前線より少なかった防衛部隊よりも尚少ない。最初は片手の指で数えられる程しかいなかった正気のプレイヤーは、回復により多少は生き残りが増加した。しかし未だその数は20を超えることはないでいた。

 

「遠距離武器や攻撃が可能な人と防御担当の人で2人! 近接主体の人は遊撃として1人入って、3人組で迎撃に当たってください!」

「了解!」

「消耗したらローテーションで後方で待機しているメンバーと交代! 回復は私が担当します!」

「了解!!」

 

 しかし、それでもまだ戦況は拮抗していた。それは一重に、微妙に浮遊するアンモナイトもとい、【モトラッド艦隊UPO支部】ギルドマスターZFの功績であった。

 

「《無限光(アイン・ソフ・オウル)》再展開」

 

 微動だにしないアンモナイト風の装備に収まったZFが厳かに呟き、陣取った転移門の真下に3つの円がそれぞれ接している陣が広がった。アンモナイト型の外装に雑に取り付けられたユニーク装備である4色の旗(Z旗)同様、バフ効果を持つ陣が本人と迎撃に出ているパーティを支援する。

 

「《知恵(ダアト)ーーセフィロン》

 《王冠(ケテル)ーーメタイオン》

 《王国(マルクト)ーーサンダイオン》!」

 

 それだけに留まらず、不動のZFから援護の魔法が次々と発射される。自身の背後に光の翼型のバフが展開され、火球が乱舞し、雷撃が迸る。それらが殺到した航空兵や、航空兵に騎乗した尖兵(邪神の航空騎兵)を次々と撃ち落としていく。

 

「《勝利(ネツァク)ーーハイロン》!」

 

 それでも続々と補充されるモンスターに、鋭く尖った岩が連続して射出される。その魔法の効果によってMPを吸収し、回復したZFからさらに魔法がばら撒かれる。尋常ではない敵がいるため魔法の発動より吸収するMP量が上回り、ZFはある種の永久機関の様になっていた。

 

「提督! 一時的発狂で倒れていたプレイヤーを回収して来ました!」

 

 そんなやる事が多過ぎて手が足りていない状況の中、回収されてきた数名の縛られたプレイヤーが足元に投げ出された。

 

「了解しました。《慈悲(ケセド)ーーサディオン》」

 

 そのプレイヤーを中心に、薄緑の旋風が巻き起こった。そこまで回復量は多くはないが、状態異常を回復させるその風によってある程度の人数が正気に戻る。そうして、狂気のままに這い寄るNPCに対する迎撃に参加していくのだ。だが──

 

(このままでは、随分と不味いですね)

 

 ZFの考えは、現状を的確に見据えていた。現状、需要に供給が全く追いついていない。対空戦闘が自分1人になっている事が、それを明確に表していると。加えて、自分はそれなりの戦闘力を持ってるが、あくまで人だ。集中が途切れて仕舞えば何もかもが破綻する事が目に見えている。

 かと言って、今NPCを相手してもらっているプレイヤーをこちらに回せば、必ずどこかに穴が開く。現状防衛が6班、回収に2人でギリギリ回っているのだ。どうしようも、ない。

 

 しかし、最前線でレイドボスが出現し、防衛地点でも出現したというのに、街で出現しない道理があるだろうか? いいや、ない。

 

 テケリ・リ

 

 それは初めは、極めて小さな聞き取ることすら危うい音だった。

 

 テケリ・リ! テケリ・リ! テケリ・リ!

 

 しかしその鈴を転がす様な声はすぐに、輪唱する様に大きく至る所から聞こえ始めた。

 

 テケリ・リ! テケリ・リ テケリ・リ! テケリ・リ!

 

 そして、敷き詰められた石畳の隙間、水路の中、その他あらゆるところから湧き出したコールタールの様な液体が寄り集まって、生物が形作られる。

 

「テケリ・リ!!」

 

 表示されたものは【Shoggoth】という名前と3段のHPバー。最悪の状況で、顕現したボスが転移門に向かって進行を始めたのだった。

 




残念だったな!シャークトパスはこっちだ!(お目目ぐるぐる)
序でに説明不足だろうと思うのを投下

【無尽癒薬《イスラ・アンダイン》】
 無尽蔵の癒薬
 治癒の粉塵(2/3)(大規模回復)
 護法の粉塵(1/3)(大規模バフ)
 耐久値 : なし

【還らずの旗】提督
 パーティーStr・Int +10%
 パーティーVit・Min +8%
 パーティーAgl・Dex +6%
 パーティーLuk -10%
 ダメージ請負(1,000/1,000)
 耐久値 : なし

無限光(アイン・ソフ・オウル)
 MP消費 800
 効果時間 90秒
 発動中移動不可
 効果範囲半径10m
 消費MP軽減 15%
 自動MP回復 1.5%/30s
 自動HP回復 1.5%/30s

知恵(ダアト)ーーセフィロン》
 MP消費 400
 効果時間 60秒
 物理攻撃・防御強化 30%
 魔法攻撃・防御強化 30%

王冠(ケテル)ーーメタイオン》
 敵にダメージを与え移動速度低下
 火球

王国(マルクト)ーーサンダイオン》
 相手物理・魔法大ダメージ&麻痺
 雷撃

勝利(ネツァク)ーーハイロン》
 自分と相手のHPの差×2のダメージ+与えたダメージ分MP回復
 尖った岩の形成射出

慈悲(ケセド)ーーサディオン》
 HP・状態異常回復
 風の渦


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第63話 激突②

ハァイ、クトゥルフなんて知るかボケェ!っていう読者の皆様に、本文の前に超軽い適当気味の説明だよ。
知ってるわボケェ!って人は生暖かい目で見守るかスキップしてね。

Q.なんか地の文厨二臭えんだよオオン?
A.ぶっちゃけその通り。細かい演出というか地の分は「あっ、ふーん」と軽ーくながして、ボスの描写とかは「へー」で済ませると気が楽です。そんでもって敵は、見ただけでヤベーやつ強いやつと軽ーく思っておけばいいと思うよ。

Q.発狂とか知るかいな
A.一時的狂気っていうのは、超簡単に言うとやっべーの見ちまった(感じた)よヤベエよ……「アイエエエ!!ナンデ!?」って感じで軽くヒステリーする感じだよ。ちゃんと落ち着かせるか、荒療治で殴ったりすれば治るよ。偶に失敗するけど。

不定の狂気っていうのは上の一時的狂気のヤバイバージョンで「大きな星が点いたり消えたりしている。アハハ、大きい...彗星かな。イヤ、違う、違うな。彗星はもっとバーって動くもんな」みたいな感じだよ。精神学的なものでちゃんと治療しないと治らなくて、それでも後遺症が残るよ。

Q.結局元ネタなんだよ?
A.ある程度有名な古典SF。あと発狂の内容に関しては、ネットに転がってるクトゥルフ神話trpgのやつから引っ張ってきてるから、詳しく知りたかったらそっちを見て「そっかー」って思えばいいと思うよ。

でも、あくまでゲームなので色々スケールダウンはしてます。特に不定の狂気とか。なんせ基本的にガバガバですからね!

以上、微妙に喧嘩腰のふざけた説明でした。
それでは本編をどうぞ


 ホワイトアウト同然の吹雪の中に突入した直後、相変わらず耳を舐めていたセナがビクンと動いた。一瞬だけ動きを止め頭が離れ、即座に耳舐めが続行される。

 

「で、正気に戻ったのなら、セナにはちょっと降りてほしいんだけど?」

「ふぇー」

 

 明らかに抗議の色が強い声が耳を咥えられたまま発せられ、ゾワゾワと得体の知れない感覚が背筋に走った。しかしそれを我慢して、変な声にならないよう言葉を絞り出す。

 

「全力でバイクを走らせたら、セナか極振りしてる人以外追いつけないからさ!」

「ん、分かった! 藜ちゃん、ユキくんの後ろに乗って!」

「はい!」

 

 水っぽい音を鳴らしてバイクからセナが飛び降り、代わりに背中に別の暖かさが加わった。なんかすごい視線を感じるけど今は放置。舐められてた方は凍ったし。

 

「それでユキくん、どうするの?」

「発狂した人たちを避難させるまでの足止め」

 

 平然とAgl換算800程度で走るバイクに並走するセナに、一先ずの目標を伝える。FF(フレンドリーファイア)の可能性がなくなれば、多分【極天】の人たちが本気で動き出す。だったら、まず必要なのは時間だ。

 

「でもユキ、さん。どうやって、です?」

「戦闘機の支援もありますけど、虎の子使って脚を一本へし折ります。シャークトゥルフの脚に穴を開けるのに藜、設置が俺、直掩としてセナ!」

「うん、いいよ」

「了解、です」

 

 この吹雪は俺のMP的な問題でそこまでもたないから、今一番楽に出来る足止めがそれなのだ。2人の承諾が取れたところで、隣を走るセナを見る。

 

「ん、何? ユキくん」

「野暮だけど聞いておく。これから飛ばすけど、セナはついて来れるか?」

「ふふん、ユキくんの方こそ、クラッシュしないでついて来てよね!」

「よしきた」

 

 コートの下に隠す為に、割に続けてた魔導書への集中を解除する。それによってデフォルトの位置でクルクルと、11冊の魔導書が回転を始めた。これでもう、何かを気にする必要は無くなった。

 

「吼えろヴァン。死の世界を突き破った疾走、もう一度見せるぞ!」

 

 瞬間、エンジン音が変性する。バイクに備わった加速装置が起動したのだ。音は数秒で高音へと変化し、車輪の回転速度が馬鹿みたいに上昇。同時にギアを変更、更にバイクとセナを覆うほどの大きさの《加速》紋章を展開。マップ確認、空間認識能力全開!

 

「Go!」

 

 そうして、音の壁を軽々と突き破って俺たちは加速した。愛車の効果と物理的に発生した衝撃波が、水面を叩きつけ邪魔な吹雪を蹴散らしていく。結果、数秒もかからず目的のものと接敵した。

 人間でいう、手首あたりまでが氷漬けになった右脚。それが今目指している目的地だ。そして、待っていましたとばかりに体表と同じ色で同じ粘液を纏った触手が殺到する。

 

「邪魔はさせないんだから!」

 

 しかしその触手は、セナが抜いた金色の双剣銃から放たれた銃弾が全て撃ち落とした。正確には、銃弾が直撃したと思われる触手は痛みに悶えるかのように次々と引っ込んで行った。

 

「《障壁》」

 

 その間にいつかと同じようなスロープを作り出し、粘液を吹き飛ばし体表に裂傷を刻みながら腕を走って上昇する。肘の辺りに到達したところで後輪を滑らせ、辺り一帯の粘液を全て吹き飛ばし障壁を張って静止する。

 

「《パニッシュレイ》《ストライク、スタブ》!!」

 

 バイクから飛び降りた藜さんが放った光が、シャークトゥルフの表皮に直撃爆発を引き起こす。続く爆炎を穿つ3連突きが、大きな穴を穿ったのを確認した。

 

「ユキ、さん!」

「《障壁》」

 

 藜さんの何かを訴えかける目を信じて障壁を展開した直後、目の前がいきなり大爆発を引き起こした。その爆炎が晴れた先には、非常に生物らしくない3つの傷口が、少し想像は超えていたが目論見通り存在していた。それと同時に、何本かの触手も迫って来ていたが。

 

「やぁっ!」

「助かります」

 

 藜さんがそれを迎撃している間に、3つの穴それぞれにカラビナから取り外した『集約爆弾』を設置した。そしてそれが落ちない様に、雷管を付けたプラスチック爆弾もセットする。

 

「後ろに!」

 

 それらを撒くべく、バイクに飛び乗ってアクセルを全開にする。車輪を空転させつつ呼びかける。それから数秒後、衝撃と背中に温もりを感じた。藜さんが飛び乗ったのは、スキルでも確認した。

 

「飛び降ります、舌噛まないで下さいね!」

 

 ぎゅっと抱き着かれる感触を感じ、ブレーキを離した。強烈な加速感と共に、浮遊感が訪れる。真っ白で先が見えない場所に自由落下というのを見てしまったのか、後ろから自分を掴む力が強まった。

 

「《減退》」

 

 しかし見えなくとも、分かってはいる。着弾寸前に紋章で減速し、出来るだけ振動を小さくして着地した。それでも相当な衝撃だったが、本来のビル何階分もの衝撃にはならなかったから良しとしておく。

 

「セナ、撤退!」

 

 再びアクセルを全開にして走りながら言ったが、探知圏内にセナの反応はない。仕方がないか。1度大きく息を吸い込んで、最大限の大声で叫ぶ。

 

「セナ、ハウス!」

「わん!」

 

 次の瞬間、そんな返事と共に残像を残しながらセナが隣に現れた。しかしすぐにハッとした表情になって、慌てて訂正を始める。

 

「ち、違うよユキくん。これはそういうのじゃなくて、そ、そう! この一時的発狂ってやつのせいで!」

「はいはい、色々後でね」

 

 とりあえず軽くそう言って、紋章で加速し吹雪を抜けた。これなら、多分もう問題ないだろう。

 

「爆破!」

 

 再ターンしてシャークトゥルフの方を向き、取り出したスイッチを押し込んだ。

 

 キュガという耳馴染みのない爆発音。

 

 シャークトゥルフの半身を飲み込む大火球。

 

 吹き散らされる吹雪と水飛沫。

 

 僅かに遅れて訪れた、尋常じゃない爆発による衝撃波がバイクごと俺たちを吹き飛ばした。あ、これ死ぬやつだ。

 

「《被害をそらす》」

 

 右手を落下方向に突き出し、非常に使いたくなかった呪文を使用する。SAN値が1減少し、そこそこのMPを消費してダメージを無効化した。そのままゴロゴロと転がり、見上げた先にはこちらに向けて落下してくる愛車の姿。

 

「もう1回《被害を逸らす》!」

 

 SAN値が90になり、直撃しかけたバイクがするりと滑って近くの水面に落下する。残りMP3割しかなくなったけど、2人を巻き込んで死ぬよかマシだろう。

 

「【魔力の泉】」

 

 1度愛車を仕舞いサイドカーを装備させて取り出しつつ、シャークトゥルフのHPを見た俺は愕然とした。今の大爆発によって削れたのは10本あるHPバーの内1本目、その4割程度だけだった。いや、セナや藜さんの攻撃を含めればもっと少ないか。

 

「いたた……ユキくん、大丈夫?」

「俺はね。でも、ちょーっと不味いかなぁ」

 

 MP回復ポーションを浴び【魔力の泉】で回復しているが、猛吹雪を維持するMP消費の方が僅かに大きい。そもそもが──

 

「◼️◼️◼️◼️◼️◼️ッ!!」

 

 そんな思考を断ち切る様に、名状し難い狂気の咆哮が轟いた。同時に、俺たちに向けて巨大な何かが飛来して来た。バイクでは間に合わない。多分セナ単独ならともかく、俺と姿の見えない藜さんを同行していたらさらに間に合わない。

 

「《被害をそらす》!」

 

 さらにSANを消費し、もう一度呪文を行使する。それにより、残りのMP全てを消しとばす羽目になったが飛来して来たものは近くに着水させることに成功した。

 

「セナ、藜がどこにいるかわかる?」

「んと、少なくとも周りにはいないよ?」

 

 周りに姿がないということは、可能性は1つ。MPポーションを再び浴びながら《望遠》を使って水面下を見渡す。すると、水中で邪神の尖兵と見られる敵に囲まれている藜さんの姿を深いところで発見した。

 

「《加重》《加速》!」

 

 取り出した【三日月】の刃を下に向け、ギリギリのMPを振り絞って射出する。多分あの状況じゃ、上がるに上がれないだろうし引っ張り上げる寸法だ。

 

「セナ、引っ張り上げるのお願い!」

「いいよ!」

 

 何やら騒がしくなっている作戦会議チャットから変更し、掴んでと簡潔な一文をフレンドメッセージで藜さんに送る。直後、こちらを見上げた藜さんが錨の様に垂らした【三日月】の刃を掴んだ。無論刃のない方である。

 

「せーの!」

 

 いつもより動作の遅い鎖の巻き取りと合わせて、渾身の力を込めて杖を引っ張る。俺のパワーはクソ雑魚(Str : 20)だが、セナの場合はかなりある(Str : 553)。その力があれば、人1人を引っ張り上げることなど造作もなかった。

 物凄い勢いで引っ張り上げられた藜さんが、水面に叩きつけられる前に《減退》を使ってキャッチする。バランス的に所謂お姫様抱っこになってしまった。許して。

 

「えほ、けほ」

 

 水でも飲んだのか、咳き込む藜さんを抱えたままバイクに飛び乗る。うわ槍重い、サイドカーに入れとこ。時間が惜しいし、死ぬ程疲れるけどアレで行くか。

 

「セナは後ろに、今度こそ逃げるよ!」

「合点!」

 

 ハンドル操作に2冊、ブレーキに2冊、アクセル操作に1冊魔導書を使って無理やりバイクを操作する。背中合わせにセナが座り、後ろに向けて発砲を始めた。

 

「ユキ、さん?」

「ちょっと死にそうなんで、掴まっててください!」

 

 ビチャビチャの冷えた手が首に回されゾワっとしたが、これで右手は使える様になった。適当に爆弾をばら撒きつつ、チャット画面を開く。

 

 超器用『ちょっ、今の爆破なんだ!?』

 

 超器用『いや、聞くまでもなかったな。無事か?』

 

 傀儡師『今脱出を確認した。それと、吹き飛んだシャークトゥルフの右腕もな』

 

 コバヤシ『足止めの筈が、大手柄みたいですね』

 

 戦車長『どうやら、HPの削れ具合は微妙の様だがな』

 

 爆破卿『ですので、制空支援おねがいしま』

 

 アオギ『了解した。ディアボロⅡ攻撃を開始する』

 

 超器用『大半の避難は完了した。戦闘機の攻撃が終わり次第、うちの馬鹿どもを投入する!』

 

 爆破卿『了解』

 

 コバヤシ『了解』

 

 戦車長『了解』

 

 

 雰囲気で制空支援って打っちゃったけど、同じく雰囲気で伝わったから良しとしておく。

 そうしてチャットを見終えた頃、丁度MPが尽きた。だがそれを無視して走行しつつ、後写鏡で後ろの様子を確認する。すると、吹雪の晴れた先には中々の光景が広がっていた。

 右前脚の肘から先がなくなったシャークトゥルフが、歯を鳴らして足元の氷を砕いている。怒りでこちらしか見えていなさそうなそれの後ろから、幾らか勢いを取り戻した戦闘機が迫っている。

 

「セナ、追手は?」

「んと、下からきてる!」

「了解!」

 

 爆竹をばら撒くことを続け、ものすごく近い藜さんの顔を意識から無理やり外し、後写鏡で戦況の確認を続ける。

 

 その時にはもう、戦闘機から恐らくミサイルと思われる何かが切り離され、シャークトゥルフに直撃したところだった。爆炎と轟音が発生し、ボスのHPが削れていく中戦闘機からさらに米粒の様な何かが連続して発射される。多分機銃か何かなんだろう。

 

「よし」

 

 絶叫して身を剃るシャークトゥルフのHPバーは、その攻撃で漸く1本目が消失した。爆破で負けて悔しいが、強いのはいいことだ。仕方がない。

 

 

 コバヤシ『かなりの効果を確認。残弾を撃ち尽くすまで攻撃を続行する』

 

 アオギ『個人で携行できない武装の分、これくらいじゃ終わらせられないしな』

 

 超器用『待て、こちらとしては有難いがそれは』

 

 コバヤシ『どの道、車輪を担当していたやつらをパージした今、着陸は出来ない』

 

 アオギ『1度合体を解除したら、1時間は合体できなくなるしな。時間稼ぎは俺たちが引き継ぐから、避難を優先してくれ』

 

 超器用『ちっ、仕方ない。簡単に死ぬなよ』

 

 コバヤシ『勿論だ』

 

 

 そんな熱い宣言と共に、再びミサイルが発射された。その一撃はまたもや大きくシャークトゥルフのHPを減らし、悲鳴を上げさせた。しかし、仮にもレイドボスがこの程度で終わるなんてことがあるだろうか?

 そんな俺の不安は、直後に的中した。

 

「◼️◾︎◼️◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◼️!!」

 

 身の毛もよだつ咆哮が迸り、戦闘機の進路に竜巻が発生した。否、竜巻は反対側にもう一本存在している。戦闘機はそれを避けることが出来ず、突っ込んで回転に巻き込まれてしまった。それに加え、竜巻は水を吸い上げ水竜巻となった。

 

 そして全体が水竜巻になった瞬間、竜巻に飲み込まれていた戦闘機は大爆発を引き起こした。

 




小林ぃぃぃぃ!!


藜ちゃんボーナスタイムなう


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第64話 激突③

 

 超器用『おい、どうなった!? いったい何が起こってる!?』

 

 アオギ『鮫だ。鮫がいる。そこいらじゅうにびっしりと……』

 

 大工場『あ、生きてたんですね』

 

 戦車長『とにかく、状況を説明してくれないか?』

 

 爆破卿『爆破要ります?』

 

 コバヤシ『要らんわ!』

 

 アオギ『水の竜巻の中に、鮫の群れがいる。しかも一匹一匹がmobとして成立してやがる……』

 

 裁断者『無事なのか?』

 

 コバヤシ『一応、全員蘇生は出来た。だが、合体は解除されたから暫く出来ないな』

 

 爆破卿『シャークネードは爆破しないと……クラスター爆弾要ります?』

 

 約全員『要らんわ!!』

 

 

 戦闘機が大爆発を引き起こした直後、チャットに文字が打ち込まれた。どうやら、アオギさんは死んではいなかったらしい。いや、復活したのか。

 

「くしゅっ」

 

 そんな事を考えていると、すぐ近くでそんな音が聞こえた。後方の確認を中断して下を向けば、赤い顔の藜さんと目がバッチリ合ってしまった。

 

「あぅ……」

「なんか、すみません」

 

 一先ず謝って、妙な恥ずかしさのせいで集中が緩んでバイクの速度が若干低下した。その直後、両耳の脇を銃弾が爆音と共に通過した。そのまま、背中側から銃剣が突きつけられた。

 

「人が頑張ってる間に、なぁにラブコメしてるのかなぁ? ユ キ く ん ?」

「ごめん、許して。わざとじゃないから。死んじゃう、死んじゃうから。ほんと許して」

 

 グリグリと押し付けられる銃剣に、スキルの効果で僅かにしか残っていないHPがガリガリと削られていく様に慌てて謝る。ちょっと待って、なんでヴァンさん効果発揮してないんです? あれか、もしやFFは対象外なのかこの効果。

 

「ええー? ほんとにござるかぁ?」

「ほんと。本気と書いてマジになるくらいほんと」

「なら許してあげる」

 

 バックミラーから見るセナの顔は、普通に許してくれそうな顔だった。しかしその後、耳元でボソッと「後で何か付き合ってもらうから」と言われた。まあいいかと頷いてしまったけど、確か俺ってそんな約束藜さんともしてなかったっけ? 俺のプライベートどこ……ここ?

 

「というか、多分そろそろ止まっても問題ないよユキくん。追手とかもうきてないし」

「ん、了解」

 

 そう軽く返事をして、魔導書を操作してバイクを停止させた。確かに言われてみれば発砲音はもう止んでおり、追撃ももう来ていなかった。

 

「藜ちゃんも、いつまでもユキくんに抱っこされてるのは迷惑だよ?」

「むぅ……」

 

 そうセナに諭され、藜さんが悔しそうに一度頬を膨らせ手から地面に降りた。とっくに限界が来て魔導書で支えていた俺にとっては、嬉しい様な残念な様な、まあアレである。なんか名残惜しい気がする。

 

 そんな事を思っていると、藜さんが膝から崩れ落ちてペタンと座った。そして、縋るような目をして言ってきた。

 

「わざとじゃ、なくて……腰が、抜けて、立てない、です」

 

 ジッと目を合わせていると、もう一度小さなくしゃみをして藜さんは目を逸らしてしまった。とりあえず、嘘はついてない気がする。バイクで飛び降りたの辺りが原因だろうか? いやでも、アレより高い場所から、第2回イベントの時に飛び降りてるし……まあいいか。

 だから弱々しく伸ばされた手を取ろうとして──

 

「だからラブコメ禁止ー!」

 

 その手をセナが横から掻っ攫って、あっという間に藜さんをサイドカーに座らせてしまった。恐ろしく速い行動……俺でなきゃ見逃しちゃうね。

 

「それでユキくん、これからどうするの?」

 

 有無を言わせぬ笑みを浮かべて言うセナのはるか後方では、2つの灰色の竜巻を従えたシャークトゥルフが何をするわけでもなく突っ立っている。いや、吹き飛ばしたはずの腕に粘液が集められていっているから、何もしていないというわけではなさそうだ。

 

「ちょっと待って、チャットが来てる」

 

 いっそ爆破するのもありだと思うのだが、それを口にする前に来たチャットに中断させられた。チャットはなにやら、結構切羽詰まった感じの様相だし。

 

 

 剣魚『なんか忙しそうなところ悪いが、救援をくれ。正直もう保たない』

 

 大天使『ボスが強すぎて無理です!』

 

 提督『言いにくいですがこちらも。私と数名で支えている状況ですが、いつ突破されて拠点を落とされてもおかしくありません』

 

 超器用『ああもうあちこちで!』

 

 農民『うちらも頑張ってるんやけど、流石に無理っぽいわ。頼むわ』

 

 超器用『分かった、Agl極振りを1人ずつ向かわせる。こっちも壊滅寸前だから許してくれ』

 

 剣魚『了解』

 

 提督『なるべく早くお願いします』

 

 爆破卿『あ、なら街に行く方の人俺のところまで来てくれませんか? 渡したいものがあります』

 

 超器用『ロクでもない物な気しかしないんだが』

 

 爆破卿『HAHAHA! まさか。ちゃんと役に立つ物ですよ』

 

 超器用『……心配だが、了解した』

 

 

 まあこの目で見れないのは残念極まりないが、非常事態だし仕方がない。後でもう一回やり直せばいい訳だし。

 チャットを打ち終わりそんな事を考えた、たった数秒後の事だった。

 

「写術のハサン、参上しました」

 

 それは突然現れた。黒いボロボロのマント、白い髑髏の仮面、そして恐ろしいまでの静音性能と速度。表示された名前はザイード。間違いなく極振りの1人だ。

 

「して、ユキ殿。渡したい物というのは?」

「これです」

 

 そう言って、取り出した1つのアイテムを手渡した。それの見た目は、某ロボットアニメのGコンが一番近いだろうか。しかしその実態は、数日前からコツコツと頑張った俺の集大成。

 

「俺が街に仕掛けた、戦勝祝い用爆弾群の起爆スイッチです。広場のブツだけは発動しない設定にすれば、街ごと敵を一掃できる筈です。……出来れば爆破した写真下さい」

「忝い。ユニーク称号の名にかけて、写真もお約束しましょう」

 

 そう言ってザイードさんは、まるで初めからそこに居なかったかのように消え失せた。速すぎて、空間認識能力ですら捉えきれなかった。……つくづく、極振りは化物だなぁ。俺? 俺は常人だから。

 

 まあそんなどうでもいい話題は置いておいて。

 

「藜さんは休んでてもらうとして……セナ、ちょっと警護お願い。多分、暫く俺完全に無防備になるから」

「うん、いいよ!」

 

 そんな快い返事を貰ってから、意を決して俺は流れ続けるチャットに文字を打ち込んだ。

 

 

 コバヤシ『そういえば、避難状況はどうなっている?』

 

 裁断者『漸く完了したところだ。だがこれからどうする、ここの組にはロクな回復役はいないぞ?』

 

 戦車長『1度殺して復活させるのが速いんじゃないか?』

 

 アオギ『いや、それは流石に効率が悪いだろう』

 

 砲撃長『ですが、それ以外に方法はないのでは?』

 

 爆破卿『いるじゃないですかここに……支援特化の極振りが』

 

 戦車長『えっ』

 

 砲撃長『えっ』

 

 コバヤシ『えっ』

 

 アオギ『えっ』

 

 シド『えっ』

 

 超器用『今しがた、街を吹き飛ばす爆弾を設置してた事を暴露して、そのスイッチを持たせた癖して何言ってるんだ?』

 

 爆破卿『ああ、分かったよ! 連れてってやるよ! 連れてきゃいいんだろ!! お前を、お前らを俺が連れてってやるよ!!(意訳 : 場所教えてくれたら範囲回復します)』

 

 シド『なんでオルガなんだ……』

 

 コバヤシ『また懐かしいものを……』

 

 超器用『場所はマップに映ってる筈だ、頼んだぞ』

 

 砲撃長『……なんで、極振りって濃い人多いんでしょう』

 

 裁断者『性分だ』

 

 

「さて」

 

 チャットを打ち終わり、1度大きく深呼吸をした。魔導書は全て健在、敵影はなし、身体の調子も万全。これで失敗したら、練習の成果がないし何より恥ずかしい。

 

「一丁、本気でやりますか」

 

 【空間認識能力】最大出力。爆弾は両手に持った。準備完了、後はぶちかますのみ!

 

「♪〜」

 

 足で陣を刻み、投げた爆弾で陣を打ち込み、歌でバフを奏で、魔導書でも紋章を描く。並列発動している儀式魔法は、その数15。目視していると陣が狂うため目を瞑り、その状態で全力で儀式を遂行する。

 発動している魔法は、歌・足・爆弾で4つの効果範囲拡大。残りの11個で回復効果。イオ君には速度で負けるけど、範囲と回復なら俺だってそこそこのものなのだ。

 

「ジャスト1分だ」

 

 いい夢は見れなかったが、儀式魔法は全て順当に起動させることに成功した。

 

 それぞれ発動された儀式魔法の陣が浮かび上がり、上空で正十角形に並び新たな精緻な紋様の刻まれた紋章を紡ぎ出す。これがこの前スキルが融合した事により可能になった、儀式魔法を踏み台にして発動する儀式魔法。名付けて大儀式魔……やっぱりやめておく。ぶっつけ本番だが、案外上手くいったものだ。

 合体した陣は素の大きさよりも2回りは巨大化し、戦場の半分程を覆い尽くす。そして効果範囲内のプレイヤー全てに、等しく淡い光を灯した。

 

 1人ジーンとその成果を噛み締めていると、幾つかの激音が空気を震わせた。何事かと振り向けば、シャークトゥルフの側面から黒煙が上がっていた。逆側面もそちらはそちらで、シドさんとハセさんからの砲撃がされたようだ。

 

「◼️◼️◾︎◾︎◾︎◾︎◼️██!!」

 

 叫び声を上げるシャークトゥルフが背の翼を羽ばたかせ、2つの竜巻を差し向けたが全員危なげなく回避していた。

 

 

 コバヤシ『……すげぇ、実は爆弾だと思ってたのに、本当に回復してやがる』

 

 超器用『……すまん。俺も爆弾で解決すると思ってた』

 

 戦車長『同じく。だが、お陰でうちのメンバーが回復した。これより火力支援に入る』

 

 砲撃長『戦車の火力、見せてあげます』

 

 アオギ『信じられなくて悪かった』

 

 シド『……ウチのギルドも、全力で支援させてもらう』

 

 爆破卿『俺って信用ないんだ……』

 

 超器用『普段の行いだな』

 

 爆破卿『そんなー(´・ω・`)』

 

 

 頭の休憩の為に文字を打ち込んでいると、なんとも言い難い視線が2つ俺に突き刺さっていた。

 

「……なに?」

「ううん、ユキくんもこうしてみると、極振りなんだなって」

「極振りをキチガイの代名詞にするのはやめてくれませんかねぇ……」

 

 セナにはそう返事をしたが、実際9割キチガイに半身突っ込んでる様な人たちだから完全否定は出来ないのが悔しい。

 

「その、流石に、これは……」

 

 藜さんもそんなことを呟いて、中空を見ている。……方向から察するに、多分バフの内容でも見ているのだろう。

 

「別に、それほど大したものでもないと思うんだけど……」

「ユキくん、1回ちゃんとやらかしたこと見よ?」

「ふぁい」

 

 セナに両頬を引っ張られながら、既に効果は知っている儀式魔法の内容を改めて確認する。

 HPを1,000即時回復し、状態異常もある程度回復。その後紋章の範囲内の味方プレイヤーに200/5sのリジェネ。効果時間は……30分か。ほうら大したことない。

 

「なんでもない様な顔してるけど、今までの全体回復スキルを根底から覆してるんだからね?」

「いやぁ、その分難易度超高いし?」

「だったら、こんな簡単に出さないでよぉ……」

 

 半分ほど泣き言になっているセナの声を聞きつつ、軽く叩きつけられる手を障壁で防御する。こんなところで死ねないし。

 

「██████◾︎◾︎◼️◾︎◾︎!!」

 

 そんな緩みきっていた空気を、劈く悍ましい咆哮が断ち切った。見れば、吹き飛んだ足の部分に粘液が集まり腕を象っている。どうやら完成してしまったらしい。

 

「セナ、さっきと同じで。いつでも離脱していいけど」

「りょーかい!」

 

 意識を切り替えバイクに跨り、エンジンを再始動させる。それに合わせて背中にセナがピタリと張り付いた。断じてダジャレではない。

 

「藜さんは……」

「大丈夫、です!」

 

 そんな返事を聞いてサイドカーの方向を見れば、そこには予想外の光景が展開されていた。

 本来銃座がある場所には藜さんの槍が固定され、バウの様に突き出ている。加えて藜さんの周囲には、見覚えのある6つの銃剣が浮かんでいる。セナの持つタイプとは違いマスケット銃に着☆剣されているそれは、間違いなく第2回イベントの時に見たものだ。

 

「これなら、動けなくても、戦え、ます」

「ですね。頼もしいです」

 

 藜さんも、アレをいつの間にか使える様になっていたらしい。俺も精進しないと。

 

「それじゃあ、行きます!」

 

 こうして、全体から見れば初の大規模戦闘。俺たちにとっては2回戦が始まった。

 




超器用『今こっちにかかってる回復、そんな感じらしいぞ』
大天使『僕の、僕の十八番の筈なのに……やっぱり極振りなんて、なんて……』
剣魚『キチガ*に関わるとこれだから……』
裁断者『おい、なんでこっちに飛び火した』


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第65話 極振りの宴

自分の下手さを痛感しながら投稿



 ヘイト値がリセットされたのか、戦車やバイクを見ているシャークトゥルフを中心に円を描いて移動しつつ、こちらの戦力を頭の中で分析する。

 復活したらしい戦車が7車両、バイクが10台と機皇帝2機、極振りが6人で、うちのギルドも全員健在。戦闘機は失われているが再合体は恐らく可能だろうし、戦力的には結構いい感じに戻っただろう。

 

「突出はマズイよな」

 

 バイク艦隊と戦車が移動しながら攻撃を続けているが、9本あるHPバーは小揺るぎもしていない。巨体に見合ったHPといえばそれまでだが、膂力等も考えると迂闊な行動をしたら死ぬのは分かる。

 

「ユキくんどうする? 撃つ?」

「やり、ます?」

「……やめたほうがいい気がする。もうちょっと様子を見ないと」

 

 シャークネード(仮)を操るだけで移動しないというのが、極めて怪しい。小山みたいな大きさなのだから、腕を一振りでもすればこちらには大打撃だろうに。しないということは、何かあるに決まってる。

 

 

 爆破卿『ここからどう攻めます? 爆ぜさせますか?』

 

 超器用『待て! なんだこの範囲回復、頭おかしいだろ!?』

 

 コバヤシ『鏡を見て言おうか』

 

 戦車長『だがなぜHPなんだ? MPにすれば楽になると思うのだが』

 

 爆破卿『状態異常回復効果がこっちにしかないからです。一応言っておくと、ここから大規模な儀式魔法は重ねられませんので悪しからず』

 

 アオギ『というかこいつ、なんで動かないんだ?』

 

 砲撃長『十中八九、何かを隠し持ってるでしょうね』

 

 傀儡師『攻撃する度に、こちらをちゃんと視認してるしな。というか、HP多過ぎだろうこいつ。どれくらいあるんだ?』

 

 超器用『ちょっと待て、もう少しで解析がある程度終わる』

 

 舞姫『攻撃がないって思ってたけど、成る程ねー』

 

 超器用『とりあえず、一旦攻撃をやめて離脱してくれ。HPを見る』

 

 傀儡師『了解』

 

 戦車長『了解』

 

 爆破卿『了解』

 

 コバヤシ『了解』

 

 

 チャット画面を開いたまま、ハンドルを切ってシャークトゥルフから距離を取る。攻撃をしていた全プレイヤーがそうして後退する中、7本もの刀を装備した金髪のプレイヤーが恐ろしい速度でシャークトゥルフに突撃した。

 間違えようもないその姿は、Str極振りのアキさんだったか。成る程、確か称号で回数限定だが防御貫通攻撃を使えたし、うってつけだろう。

 

「おぉぉッ!!」

 

 裂帛の気合いと共に、視認不可能な速さで双刀が抜刀、納刀された。直後、暴風が吹き荒れ水面が大きく波打つ。しかし、その結果減少したHPは9本目の1割程度だった。

 

「うっそー……」

 

 セナのそんな呟きも理解できる。何せ、このゲーム内での物理最高火力ホルダーの攻撃であの程度の減少なのだ。本気ではないだろうが、それでも絶望感が半端じゃない。

 すぐに離脱するアキさんを横目に、こちらはこちらでチャットを確認しておく。一応、さっきから藜さんにも見えるようにはしているから、刺される心配はない。

 

 

 裁断者『案ずるな、固定100万の峰打ちだ』

 

 コバヤシ『良かった……』

 

 傀儡師『本当だ、全く』

 

 超器用『解析結果、出すぞ』

 

 ====================

 RAIDBOSS【Sharcthulhu】

 HP 87,045,423/100,000,000

 MP ∞

 

 耐性 : 即死無効

 弱点 : 爆発・火・打撃

 装甲 : オーバーダメージ無効・全ダメージ半減

 破壊可能部位 : 頭、、脚、尾、翼、背びれ

 ====================

 

 超器用『読み取れたのは、残念ながら以上だ。まあ、1本1000万ってところか』

 

 シド『は、1億だと?』

 

 戦車長『よもやと思っていたが、まさかここまでとはな……』

 

 コバヤシ『成る程な……無理ゲーじゃね?』

 

 アオギ『そう言うな。まあ、確かに無理に近いだろうが』

 

 舞姫『それにこれ、多分1億超えのダメージ無効化されちゃいそう』

 

 砲撃長『幾ら極振りがいるとはいえ、キツくないか?』

 

 超器用『とりあえず、もう攻撃は再開してもらって構わない』

 

 

 とりあえず、攻撃許可は下りた。なら、俺も参戦しなければいけない。

 

「セナ、藜、射撃お願い」

「うん!」

「了解、です」

 

 ハンドルを切ってシャークトゥルフに接近、発射される触手をハンドリングと速度だけで避けつつ、出来るだけ車体を安定させる。

 

「《アサルトショット》」

「全機、てーッ!」

 

 結果、俺なんかよりよっぽど火力のある2人が弾幕を形成する。ビットから放たれる黒いレーザーと、セナの銃剣から放たれる弾丸が、シャークトゥルフの左脚を穿っていく。序でに、愛車(ヴァン)の効果で発生する衝撃波が水面を打ち鳴らしダメージを与える。だが、

 

「あんまり削れてないよなぁ……」

 

 遥か上空にあるボスのHP6バーは、戦車の砲撃やシドさん達の突撃を受けて僅かずつ削れているものの勢いは微々たるものだ。

 1本1000万。それはそれだけ膨大な数値なのだと実感する。やっぱり、偃月を抜くしかないか。

 

「《障壁》」

 

 避けきれそうになかった触手を防がず逸らし、離脱しながらそんなことを考える。俺とて学習はするのだ。藜さんのことから、触手は二度とすり抜けさせないと決めている。

 成果に納得して運転する中、チャットに再び動きがあった。

 

 

 超器用『一応、全員の出せる最高ダメージを教えてくれないか? ああ、相手の防御値は考慮しなくていい』

 

 コバヤシ『俺とアオギは戦闘機前提なんで除外してくれ』

 

 傀儡師『幸いやつの力を奪えているから、1万弱程度は出せる。ハセも同様だが、どちらも連続して攻撃出来るぞ』

 

 砲撃長『通常弾が20,000、通常徹甲弾で25,000、劣化ウラン芯弾で50,000、焼夷弾が20,000と継続ダメージ、対戦車弾が30,000と、射手による補正ダメージだ』

 

 戦車長『私の車両は基本40,000だが、一発限り50万を撃てる。その後、行動不能になるがな』

 

 舞姫『特殊武装持ちは違うなぁ……私は出せて6,000弱かな』

 

 傀儡師『馬鹿げたレベルの製作費、整備費、維持費、弾薬費、人員の練度、故障の多さ、操作性の悪さ、近距離での弱さ、命中率の悪さetc……尋常じゃない量の問題を乗り越えた先にある、ロマンの火力だな』

 

 爆破卿『最後に撃った時は6300万だったので、多分今は6500万くらいだと思います。自爆技ですが』

 

 超器用『爆裂娘 : 私は実は1000万くらいですね。無論、そこのぐーたら裁断者と違って範囲が化物ですけど』

 

 超器用『ケルト : あー、俺は大体1800万くらいだな。愚者スキルがねぇのが辛いわ』

 

 戦車長『後ろの電波が、私もいけるとか言ってて怖いんだが』

 

 裁断者『……4億2935万4000に、追撃ダメージ2億1467万7000が最高記録だ。同じく自爆技だがな』

 

 約全員『!?』

 

 

 ブフォと、後ろに座っているセナが吹いた。後頭部が冷たいから勘弁してほしい。そして、慌てた様子で肩を叩いて聞いてくる。

 

「いつの間にユキくん、そんなバ火力出せるようになったの!?」

「第2回のイベントが終わった頃かな。ほら、仕込み刀ゲットした頃から」

 

 因みに藜さんに見せた時から、刀と鞘の保持以外効果のない展開機能を追加してもらってたりもする。見た目だけの変更なので、装備制限にも引っかからない安心タイプだ。

 

「なんで藜ちゃんは驚いてないの?」

「1回だけ、見せて、もらいました、から」

 

 どことなく自慢げに藜さんが言った。ちょっと背後でバチバチ火花散らすのやめて。ほんと怖いからやめて。

 ま、まあそれはそれでいいとしてだ。

 

「セナ、ちょっと頼みごとあるんだけどいい?」

「ん、いいけどなに?」

「多分、シャークトゥルフのHP吹き飛ばすのに俺も動員されるからさ、俺のこと回収してくれない? これ装備して」

 

 今自分が装備しているコートを指差しながら言う。藜さんは今動けず、Agl極振りの人達も救援に行っていなくなってしまった。そうなると、安全に俺を回収できるのはセナくらいしかいない。

 

「りょーかい!」

「フィールドが書き換えられるから、絶対に外さないでよね」

「うんうん、分かってるよとー……ユキくん!」

 

 テンションが上がっているセナが、思いっきり背中に身を寄せてきた。それを見た藜さんからの目線が非常に怖い。これやっぱり、俺っていつか刺されるんじゃないだろうか。

 銃剣でアゾられて風穴を開けられるか、槍で串刺しにされた後爆発するか……どちらにしろ地獄じゃないですかやだー。

 

 “不運(ハードラック)”と“(ダンス)”っちまった幻影を見ている間に、阿鼻叫喚の地獄絵図となっていたチャットが落ち着いてきていた。

 

 

 超器用『全員落ち着いたようだし、作戦を発表させてもらう。うちの馬鹿どもが大半を占めることになるが、火力ゆえ許してくれ』

 

 超器用『反対は、特にないようだな。戦法は至ってシンプルだ。バ火力で障害を焼き払い、バ火力をぶつけ、環境破壊兵器を投下する。以上だ』

 

 コバヤシ『身内からも、極振りの扱いってそんななのか……』

 

 裁断者『その道のエキスパートが狂った奴らの中、ほぼ唯一の正気だからな』

 

 傀儡師『大体は分かるが、もう少し分かりやすく頼む』

 

 超器用『にゃしぃの爆裂でバッと吹き飛ばして、アキ・センタ・ユキの3人の極振りで大ダメージを与えて、環境破壊兵器翡翠を投下する。馬鹿どもの移動は戦車長、傀儡師達が担当する。以上だ』

 

 戦車長『もっと難しく言ってくれ……』

 

 超器用『てつはうの如き魔なる力に邪なる神へ従ひし紐の如き生き物をバッと吹き飛ばし奉りて、みたりのいとけやけし者に大きな損害を与へ奉り、草木をいと壊したる兵杖翡翠なる者を下ろす。をこどもの移動は戦車長、傀儡師達が担当す。以上なり』

 

 傀儡師『やっぱりコイツも正気じゃないじゃないか』

 

 アオギ『だがまあ、分からんこともないしいいだろ』

 

 コバヤシ『貴様、もしやと思っていたが文系か!』

 

 超器用『文句の多い奴らだな……開始は、俺が閃光弾をあげるからそれを目印にしてくれ。1回目で退避、2回目で開始だ。戦車やバイク部隊は、巻き込まれない様に始まったら待避だ。準備はいいな!』

 

 全員『応!(はい!)』

 

 

「案の定か」

 

 やりたくはなかったが、やはり抜くしかないらしい。だがそれはそれとして、対策を先んじて打てたのは良かった。

 

「藜は動けます?」

「まだ、無理です」

「了解しました」

 

 やっぱりまだダメらしい。まあ仕方ないと割り切って、メニュー画面を切り替えてフレンドメッセージを送る。

 

「なら、頼みます。ランさん」

『そうだな、戦力になれなかった分、力は尽くそう』

 

 制裁(sanctions)突撃(charge)──ヴォルケイン

 

 機械を通した様な音声で聞こえた言葉と共に、バイクと並走するように水面から機体が浮上してきた。

 

 赤銅色の無骨なボディ、各部に走る青いエネルギーライン、そしてそれを包み隠す様な黒いマント。それは、ランさんの3周り程大きいというサイズを除き、紛れもなくヴォルケインと言える姿だった。

 肩部につららさんとれーちゃんが座ってなければ、完璧だったと思う。

 

『行ってくるといい』

「では」

 

 藜さんが反対の肩部に移動したのを確認して、障壁で作った傾斜を乗り越えさせた愛車を一度収納する。それにより勢いよく空中に投げ出される中、メニュー画面を操作する。

 

「セナ!」

 

 ツーカーで話が伝わり投げ渡したコートをセナが羽織る中、俺は呪い装備に装備を変更する。そして、無茶な姿勢だが仕込み刀をV字に振り抜く。ヴォルケインを見せられたら、こちらもやるしかなかろうよということで。

 

「ウェイクアップ、ヴァン」

 

 相変わらず間違ってるタイミングだが、問題なく愛車(ヴァン)は反応した。単車状態で勢いよく発射された愛車に飛び乗り、水面に着地し走行を継続する。平然とセナがそれに並走し、ランさんが距離を置いた。

 

 そしてタイミングよく何かの発射音が聞こえ、僅かに空が明るくなった。見上げれば、明るい光がゆっくりと降下している最中だった。かなり後方だが、照明弾だということは分かった。

 

 作戦が、始まる。

 




大天使『なんか向こう、最大ダメージ4億とか言ってるんですけど』
剣魚『そんなことよりこっち集中しような、な!』
農民『あいつらはあれや、鏡か水面でも通して見んと頭おかしうなるわ』
大工場『マスター、そういう自分もすごく動揺してるじゃないですか。言葉おかしくなりかけてます』


-追記-
極振り2名が出してるキチガイダメージは、普通の人でも使える手法で 出されています。そこそこの一般人(総合Str500)が使うと、43万程度のダメージになります。

条件としてHPMP1、Vit・Int・Aglが0のまま、接近しなければいけませんけど。しかもその後確実に死亡します。

あと色々アレなので、Str極振りの火力の元を活動報告に上げておきます


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第66話 極振りの宴②

翡翠が登場すると言ったな、あれは嘘だ(多分3話くらい後になってしまいましたすみません)
乱発する誤字の訂正本当にありがとうございます


 よかれと思って展開した紋章が、装備効果で反転し俺のHPを削っていく。しかし死界の反転効果によるリジェネがそれを上回ることにより、それは実質意味がないものと化している。そんな中俺がしていることは、至ってシンプルだった。

 

「ちょっと待てこれ。俺も1億ダメージ超えるじゃん」

 

 それは予想外に強すぎた自分の最大火力の調整だった。ほんの少しレベルが上がっただけだというのに、計6000万程から物理が2億弱属性が1億強とかいう訳の分からない上がり方をしていたのだ。もう既に【ドリームキャッチャー】でのバフは終えてしまったので、後戻りは出来ない。

 

 試算したところ、億を超えさせない状態に今から出来る調整は【明鏡止水】を発動させない場合。その火力は物理4518万5985と属性の2711万1591。相手の特性から考えると、これで入るダメージは2259万2992と属性の1355万5795となった。

 詰まる所、ゲージ3本と半分弱。どうしよう、強い言葉は使ってないのに弱く見える。

 

「ねえセナ、火力3600万って少ないかな?」

「私の最大火力の6000倍なんだけど?」

「ごめん、俺が間違ってた」

 

 むっとしたセナに即座に謝る。そうだよ、普通のプレイヤーの火力からしたら、こっちがキチガイ火力なんだった。

 

 そう納得し、顔を上げた先にあるのはシャークトゥルフの右側面。にゃしいさんの魔法に巻き込まれない様にある程度距離を置いて、突撃のタイミングを今か今かと待っている最中だ。戦車やバイクからの遠距離攻撃は今も続けられており、雀の涙ほどの減少値だがシャークトゥルフのHPを削っている。

 

 反対側にはアキさんが待機しており、センタさんは正面から一足早く攻めるそうだ。センタさんがセンターから……なんちゃって。

 

 

 超器用『準備はいいな? ではこれより、作戦を開始する!』

 

 

 チャットにそんな文字が流れたと同時、破裂音とともに閃光弾が打ち上げられる。それを合図に、後退したバイク・戦車群が放つ砲火の中から2つの影が飛び出した。

 

 1つは近未来的な戦車と、そのキューポラの上に仁王立ちする青タイツの人影。某エロゲの兄貴のRPをしているセンタさん、一番槍担当だ。本人自体は、ただのバトルジャンキーなので安心できる。

 

 もう片方は、一言で言えば鎧武者だった。全身を覆う金の飾りがある濃藍の装甲に、顔までを覆い尽くす兜。兜の立物には不思議な形のものが前面に付けられている。脹脛辺りから下ろされたと思われる無限軌道(キャタピラ)により疾走するその鎧武者が、背部にラックされていた2枚の巨大な大盾を両腕に装備したあたりで、漸くその正体に気がついた。

 

「相州正m……んんっ、あれがデュアルさんか」

 

 行進間射撃で極太のビームを発射する戦車と、その隣を中腰姿勢で疾走する鎧武者。実にシュールな光景だ。そこにさらに、混沌の要素が加えられる。

 

 ゆっくりとした動きで、黒と赤の魔女服が鎧武者の上に登ってきたのだ。そしてバランスよく両肩に立ち、装飾の少ない赤い宝珠の付いた木製の杖をにゃしいさんは構えた。否、よく見るとその杖の上部にある宝珠の隣に、紅の魔導書が固定されていた。

 あれが、例のユニーク武装なのだろう。俺の【無尽火薬】と同種の気配を感じる。

 

『DAAARAAAAAHHHHHHHHHH!!』

「だーっはっはっは!!」

 

 そんな体勢で、こちらにまで届く大音声の笑い声を響かせた。もう1つ重なって聞こえたのは、きっとデュアルさんの声だろう。ちょっと加工された感のある、男性の声だった。

 

「いきますよデュアル!」

『応!』

「エクスプロージョンじゃないのが残念ですが、そんなの知ったこっちゃありません。無理を通して道理を蹴っ飛ばして押し潰すのみです!! 音楽を流しましょう!」

『了解だ御堂!!』

 

 そんな色々突っ込みどころしかない会話の後、戦場全域に届く音量で例の爆裂魔法のBGMが流れ出した。ああ、うん、もういいや。諦めよう。

 半眼となって見つめる先、ノリノリでにゃしいさんが詠唱を始めた。

 

「無窮の項、原初の竜王

 零と壱の狭間より顕現し、六翼の暴虐を以て蹂躙せん

 其は天の落涙、無謬の宇宙(そら)に掛かりし虹霓

 偉大なる劫火、滅びの光輝はここにあり、永劫の鉄槌は我がもとに下れッ!

 エクスプロォォォォォジョン(テラフレア)!!」

 

 それは、儀式魔法の陣より上空で展開された。

 魔導書を総動員しても描ききれなさそうな、複雑怪奇な幾何学模様の連続、重なり合い。そこから、虹を纏う火球が堕ちてきた。

 

「うっわー……多段ヒットしてる」

 

 その後は簡単だ。シャークトゥルフの直上で、大爆発が生じた。そうとしか言い表せないし、それ以上なにかを言うこともできない。それでも強いて言うなら、爆破の外縁部に青白い稲妻が走ってると言うことくらいだ。

 

「ああ、脳が、震えます……ガクッ」

 

 望遠で覗く視界の先では、実に幸せそうな表情を浮かべてにゃしいさんばたんと倒れた。

 

 ダメージとしては、セナの呟いた通り多段ヒット。6割強残っていたシャークトゥルフのHPバーの8段目を、ガリガリと削り取っていく。本人の申告通りなら、残り1割までは削りきるのだろう。

 

「ビュ-ティフォ-……これは100点満点の爆裂ですわ」

 

 同じ爆破を志す者として、これは見習わねばなるまい。アレだ、街の爆破で対抗しよう。あっちに仕掛けた爆弾も相当な量だし、ザイードさんに期待だな。

 

「ユキくん、なにを納得してるのか分からないけど……そろそろ爆発来るよ?」

「うん? まあ、多分大丈夫だよ。そこら辺、ザイルさんが対策してない訳ないし」

 

 そう言った途端、薄青の何かが通り過ぎた。正確に言えば、突撃準備で僅かに突出している俺たちをカバーする範囲で、デュアルさんを中心に防御フィールドとでも言うべきものが広がったのだ。

 直後爆圧が到来したが、そのフィールドに阻まれダメージは1たりとも貫通しなかった。防御極振りの真髄を見た感じだ。その、すぐ後のことだった。再びデュアルさんの大音声が戦場に轟いた。

 

『因果応報、天罰覿面!!』

 

 それをトリガーに、拡散していく最中だった爆圧が収束を始めた。光を放ち収束するそれの先にあるのは、何らかの発射台を備えた左の大盾。それを紅蓮に発光させ、デュアルさんはシャークトゥルフに突きつけていた。

 

『ではゆくぞ、第2撃! カウンター : テラフレア!』

 

 そんな掛け声と共に、その盾からにゃしいさんが放ったものと同様の虹を纏う爆球が発射された。それは未だ衝撃から復帰出来ていないシャークトゥルフに再び襲いかかり、直前のものと何ら遜色のない極大の爆発を引き起こした。威力についても同様のようで、シャークトゥルフのHPバーを7本目の半分程まで削り取った。

 

「信念が足りない。70点」

「ごめん……私、ちょっとユキくんが分かんない」

 

 セナの頭を優しく撫でてる間に、爆圧は通り過ぎた。防御フィールドは相変わらず健在のようだが、カウンターはやはり1発限りの技だったのだろう。デュアルさんが動く気配はない。

 

「行くぜぇ!」

 

 しかし、その代わりとでも言うかのようにセンタさんが動いた。金属がぶつかり合う激音が轟き、その姿が何処かへと消え去った。慌てて探すと、遥か上空に青の点が存在している。望遠で覗いてみると、それは案の定槍を持ったセンタさんだった。はぇーすっごい。

 

 どうしてそんな上空に? と疑問が浮かんだが、力任せにジャンプしただけなのだとすぐに思い至った。多分落下ダメージで死ぬだろうけど、必殺技の演出はそんなものより優先度が圧倒的に上なのだ。よく分かる。

 

「分裂機巧は再現できてねえが――」

 

 そのジャンプが頂点に達した時、センタさんが手に持った朱槍を軽く上に放った。そしてどうやっているのか分からないが身体を回し、オーバーヘッドキックの要領で足を振り上げた。そこに、槍の石突きが噛み合った。

 

「ゲイ・ボルク=アイフェ!」

「██◼️◾️◼️◾︎◼️ッ!!??」

 

 そうして放たれるは、Str準極振りの全力とスキルが乗った槍撃。放たれた彗星のように紅い尾を引く槍は、シャークトゥルフのサメヘッド、しかもその鼻っ柱に思いきり突き刺さった。減少が止まったのは6本目の6割程、 運が良ければいけそうだ。

 

「さて、行くか。回収は頼んだよ!」

「りょーかい!」

 

 その結果を見届けて、バイクのエンジンを吹かした。既に使ってしまったからターボはないが、それでも十二分な速度でシャークトゥルフに吶喊する。そして速度が最大になった時、障壁のジャンプ台を使い自分をシャークトゥルフの脇腹に向けて射出した。バイクはこの時収納する。

 

磁装・蒐窮(エンチャント・エンディング)

 

 飛翔する中、仕込み杖を右肩に担ぐように構える。すると、それをトリガーにして鞘に当たる部分が展開した。鞘を構成するパーツの一部がパージされ片側が空いた奇妙な形となり、パージされた部分がそれを固定した。

 

蒐窮開闢(終わりを始める)

 

 前回同様、スキルを重ねがけして威力を高める。

 

終焉執行(死を行う)

 

 加速の紋章による超加速レーンを選択。更にそこに、初速を得るための磁力の紋章による反発込みの抜刀準備を重ねる。

 

虚無発現(空を表す)

 

 発動準備が整った時、異変が発生した。眼前のシャークトゥルフの周囲に、狂った幾何学模様が点滅する半透明だが暗緑の結界が発生したのだ。全方位に張り巡らされたそれを間に挟み、こちらに疾走するアキさんに目配せをする。

 

 こんな無粋な壁、New必殺技で吹き飛ばす。だから、本命の一撃は少し後に!

 

電磁抜刀(レールガン)――穿(うがち)

 

 気がつけば、俺は刀を振り切っていた。その反動で回る体。その視界の中で、シャークトゥルフが張ったと思しき結界が粉微塵に砕け散るのを見た。そしてその向こうから迫る、金色の裁断者も。

 当然のように俺も砕け散ったが、セットしてあるスキルによって再構成される。同時に僅かに【死界】が広がった。俺が減らせたHPは、5本目の9割程まで。だけどまあ、アキさんならやってくれるという確信にも似た信頼がある。だからこそ――

 

「セナ! 一緒に退避!」

 

 全力でこの、アキさんの()()()()()から逃走する。ここにいたら、問答無用で蒸発する。それを事前に共有したこともあってか、無駄口の一切ないガチモードのセナが俺を抱えて逃走を開始した。

 そんな中、凛と通る声が耳に届いた。

 

特化付与(オーバーエンチャント)――閃光(ケラウノス)

 

 地面を飛ぶアキさんの武装から漏れ出たのは、闇を滅ぼす様な圧倒的な光だった。爆発直前の超新星と言っていいほどに、アキさんの刀が収まった鞘がカタカタと揺れその僅かな隙間から、他の追随を許さない黄金光が溢れ出る。

 

「◼️◼️◾️████ッ!!!」

「―――、――――――――、――――」

 

 漏れ出た光が掠ったシャークトゥルフがあげた絶叫と、アキさん自身から放たれる帯電のような、何かの収束するような、破滅を予感させる異音がその技名を搔き消し──

 

 全てを呑み込むように、極光の斬撃が放たれた。

 




デュアルさんのイメージは村正の正宗だったり。脚部の脹脛以降だけFAの轟雷だけど。


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第67話 一方その頃②

(時折0話も追記してるよ)
タイトル親友の部分幼馴染にでも変えようかなぁ


 時間は、少しだけ遡る。

 ボスモンスターである【Charitas OktoShark】が出現した防衛戦線、そこでも戦闘は行われていた。しかし、その勢いは最前線とは比べることなどとてもできない。はっきりと言ってしまえば、一方的に戦場は展開されていた。

 

「俺たちが時間をかせぐわああああ!!」

「マスターとサブマスは逃げぐわあぁぁぁぁ!!」

「ふっ、情けないね。ここは僕がぐわあああぁぁあ!!」

 

 足止めに向かったプレイヤーは、明らかに極振りかそれに類する存在を想定された攻撃力に磨り潰される。実のところ攻撃1発の火力は高くないのだが、それが鮫の数分多段ヒットすることにより膨大なチェインダメージが発生しているのだ。

 

「撃ち続けるんや! 削れてはいる、無駄にはならへん!!」

「蘇生が使える人は出来るだけボスから離れてください! 最悪、蘇生役を肉壁にして時間を稼ぎます!」

 

 しかし、こちらの攻撃では中々HPが減ることはない。的が大きいお陰で大半の援護攻撃は命中しているのだが、それでも今まで減らせたHPは1本目の半分強だった。それもこれも、凶悪なステータスが原因だった。

 

 ====================

 RAIDBOSS【Charitas OktoShark】

 HP 8,975,762/10,000,000

 MP ∞

 

 耐性 即死無効

 弱点 魔法攻撃・火・爆発

 装甲 オーバーダメージ無効・物理ダメージ半減

 ====================

 

 一千万などという馬鹿みたいに多いHPに、物理攻撃を半減する特性。何より蛸型の癖に移動速度がかなりあり、攻撃にも防御にも隙がない。代わりに突っ込んでも鮫の群れに食われる訳ではなく、1つのモンスターとして当たり判定があるが気休めみたいなものだ。

 

「全員、()()が来るぞ! 盾持ちは前に出て防御を固めろ!」

 

 ボスである巨大な鮫蛸が、まるで息でも吸い込む様に僅かに体を引いた。そこに、1発の銃弾が直撃した。当然なんの効果もない物ではなく、残り数発となったアークの停滞弾だ。

 

「イオ!」

「みんなに、天使の祝福を──!!」

 

 そうして作られた戦闘の間隙に、盾を構えたプレイヤーが前進しその上から柔らかな光が降り注ぐ。同時に後方のイオから大量の防バフが展開され、防護が一層強靭なものに変化した。

 

「BOOOOAAAAA!!!」

 

 しかし、それでも足りない。停滞の解除されたボスが回転を始め、長く太い蛸足を連続して叩きつけ始めたのだ。1発、また1発と攻撃が当たる毎に盾役に徹するプレイヤーのHPが削れ、数秒で消滅した。

 

「「《リザレクション》」」

 

 即座の蘇生が行われ、第2の盾役が前進しボスを押し留める。そして死亡する。立て直された第一陣が再度前進する。死亡する。その間に第二陣が──そんな作業がたっぷり30秒続けられ、ボスの回転は停止した。

 

「今や! 掛かれーッ!!」

 

 後方で指揮を執る農民ことハーシルの指示により、属性攻撃が可能な前衛がボスに群がりそれぞれ全力の攻撃を叩き込む。ボスが大技を出してから約30秒、一切の行動を起こさないことが分かった故の反撃だ。

 そして時間が過ぎれば蜘蛛の子を散らす様に逃走し、再度遠距離攻撃による足止めと少しでも街に到達されるまでの時間稼ぎを再開する。

 

 けれど、誰もがこの状況を負けイベントと同様に考えていた。何度攻撃しようが減らない敵HP、モロに食らったらその時点で即死の攻撃、遠距離攻撃こそないものの単純なデカさによる膨大なリーチ。既に開始時から数えて10を超えるプレイヤーが街に向けて逃亡していた。

 即席の要塞もボスがかなり接近していることもあり、1割ほどが砕けている。流石に分が悪くハーシルが撤退を宣言しかけたその時、イオが叫んだ。

 

「今、助けを呼びました! 極振りが1人来てくれるそうです、それまではどうか耐えて下さい!!」

 

 同時に回復とバフが降り注ぎ、それに応じて鬨の声が上がり崩壊しかけた戦線を震わせる。そうしてプレイヤーが動き始めて、僅か10秒後のことだった。

 

「訂正。遅滞不要。我現着セリ」

 

 そんな声を伴う暴風と雷撃が、戦場に顕現した。だが、プレイヤーの姿は一切確認出来ない。

 

「警告。撤退推奨。実行《(スラッシュ)》」

 

 そして追加の言葉を発した直後、不思議な事が起こった。鮫の群れで作られた8本の足が、ほぼ同時に切り離されたのだ。未だにプレイヤーの姿は見えず、分かることは精々切り離された部分に雷が纏わり付いていることだけ。

 こんなたった数瞬で、ボスのHPは3段にまで減っていた。誰もが驚愕に足を止め、動きを止めてしまっている。そんな中、再び声が響く。

 

「不可能判断。要求。被害者蘇生」

 

 これを行なっている当事者を除き誰にも何もわからぬまま、ボスが浮き上がった。

 

「【天翔怒涛】」

 

 最初は1mほどだったその高度が、見る間に上昇していく。ボスを押し上げているのは、莫大な量の雷風。一撃一撃が着実にボスのHPを削りつつ、雷と風が蝕んでいく。そうして20mを超えた頃、押し上げていた雷風が突如消滅した。

 

累積解放(チャージバースト)。実行《(ストライク)》」

 

 すわ救援の極振りが死亡したのかと思った瞬間、風と雷が墜落した。ダウンバーストの様な暴風が炸裂し、雷が爆ぜた。その気流の中央を物凄い速度でボスが落下し、風に裂かれ雷に焼かれながら周囲のプレイヤーを押し潰す。

 

 しかし、それではまだ被害は終わらない。

 

 風と雷が、拡散した。風が大地を削り地面に穴を開け、雷撃が拡散してプレイヤーにも大ダメージを与えたのだ。前線に出ていたプレイヤーは、そのFF(フレンドリーファイア)によって全滅した。後方にある砦も雷風に飲み込まれ、その8割を崩壊させてしまっている。さらにボスは痙攣する様に鮫を溢し、そのHPを残り1本と少しにまで減少させている程の攻撃だ。逆にプレイヤーが耐えられる方が不思議である。

 

 そんな死屍累々の大地に、ふわりと小柄な影が降り立った。それは少女。橙の長髪にサイドテール、黒いサングラスの奥から見えるアイスブルーの眼からはまだに戦意が満ち溢れている。速さを意識しているのか、どことは言わないが凹凸はない。携行している武器はなく、武器は拳や足などの肉体なのだとわかる。

 

「まったく、高速機動中は単語しか言えなくて困るぜ」

 

 その少女はそう嘆息してから大きく息を吸い、起き上がろうとするボスに指を指して宣言した。

 

「私が尊敬する昔のアニメキャラが言っていた。『大は小を兼ねるのか速さは質量に勝てないのか。いやいやそんなことはない速さを一点に集中させて突破すればどんな分厚い塊だろうと砕け散る』って」

 

 反対の手でサングラスをクイッと上げ、ポーズを決めて少女は言う。

 

「そう、つまりお前には『速さが足りない!!』」

 

 完全に、決まった。間違いなくそうと言える状態だが、折角のその姿を見ているのは僅か数人だった。何せ、ギルドマスターやサブマスター級のメンバー以外ほぼ全員が先ほどの攻撃に巻き込まれて死んでしまっているのだから。

 

「え、いや、あの、え?」

「君がギルド【空色の雨】のギルドマスター、イオだな」

 

 HPが赤ゲージまで落ちたイオにその少女が手を差し伸べた。それを取り立ち上がろうとするこの状況は、非常に絵になるだろう。

 

「私はギルド【極天】Agl極振りが1人、レンだ! 短い間だが、よろしく頼むぞ!」

「え、ええ。こちらこそ、よろしくお願いします」

 

 そうして立ち上がったプレイヤーの数は、僅か数人。戦況が始まってすぐの頃に逆戻りしていた。だが、

 

「ひい、ふう、みい……なぁんだ、生き残りは私含めて4人だけか。根性ないなぁ」

「それは、お前がやり過ぎだからや!」

 

 口を尖らせてそう呟いたレンに、背後から農業用と思われる鍬が振り下ろされた。黒い短髪に黒縁眼鏡、どこか幸薄そうな印象を与えるそのプレイヤーこそ、ギルド【アルムアイゼン】のギルドマスターであるハーシルだ。その胸は、豊満であった。

 が、鍬の振り下ろしを難なく交わし、数歩横にずれたレンが言い返した。

 

「なんだよ危ないなぁ。この状態の私じゃ、パンチ1つ食らったらお陀仏なんだからな」

「丁度ええわ、いっぺん死にさらせぇ!!」

「折角来たのにやなこった。でかい胸してる癖にちっせえな」

「ぐぇっ」

 

 神速で拳が動き、ハーシルの手から鍬が叩き落とされた。しかしそのレンの首に、巨大なモンキースパナがカチリと嵌められた。

 

「双方、やり過ぎです。矛を収めてください。ボスが健在なのですから、そちらに集中しましょう」

「ま、それが得策だろうな」

 

 その下手人は、長い鋼色の髪と瞳を持った女性だった。表情は氷のようで、この場で一番冷静と言えるだろう。名はツヴェルフ、ギルド【アルムアイゼン】のサブマスターだ。一撃でも食らったら即死亡のため、レンが両手を挙げて降参した。

 

「ああもう、2人とも瀕死なのに何やってるんですか! 蘇生も、前線の人たちみたく間に合わないかもしれないんですよ!」

「僕だけ、場違いだよなぁ……」

 

 慌ててレン・ハーシル・ツヴェルフに回復とバフを掛けるイオと、その後ろに控えるボロボロのアーク。この5人が、今この戦場で動ける戦力の全てだった。

 

「で、ここの指揮官は誰だ? 私が来なくても、結構戦えてたように見えてたけど」

「私やけど、あんたのさっきので壊滅したわドアホ!!」

「キレやすいのは良くないぞ。もっとカルシウムを……あっ」

「なんやその『胸に吸われて頭にいかないんだ』みたいな顔! 私やって好きでこんな胸しとらんわ!」

「そんなこと言って、同性の私から見てもキレやすいのは、ね?」

「るっさいわこの平坦が!」

「言っちゃいけないこと言ったなこのデカ乳!」

「あの……」

 

 平と凸の凄惨な戦いに割って入ったのは、そこら辺全く関係ないイオだった。おずおずと挙げたその手が、まっすぐ前方を指差した。

 

「ボス、復活してます」

 

 そうイオの言う通り、このゴタゴタの内にボスは態勢を整えきっていた。サイズが幾分か小さくなったものの、8本の生え揃った足に怒りの色が見て取れる双眼。HPこそそのままだが、万全と言って差し支えないであろう状態にまで回復していた。

 

「一旦、停戦やなキチガイ平坦」

「了解だ、デカ乳百姓」

「なんで、この人たちこんな話が早いんですかぁ……」

「諦めようイオ、多分そう言う人なんだ」

「うちのギルマスが、迷惑をかけます」

 

 こうして、1パーティ未満の人数によるボス討伐が再開されたのだった。

 



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第68話 一方その頃③

おまけだから短め


 平原の防衛戦線に動きがあったのと同時刻。レベルも士気も低く、ショゴスの侵入を押し留めることしか出来なかった街にも、動きがあった。

 

「テケリ・リ!」

「全員防御、もしくは支援に回ってください! でないと死にますよ!」

 

 休みなく魔法を行使し、スキルを行使し、指示を出し士気を保つ。それを1人でこなすZFがいるからこそ、なんとか維持できていた戦線。それは今、刻一刻と崩壊に向けて時計の針が進んでいた。

 

 最初帰還したり、発狂から蘇生したりした余剰プレイヤーの数は10。それが今は、4にまで数を減らしていた。生き残っている4人は必然的に防御を優先的に育てていたプレイヤーで、例えZFの称号やスキルによるバフがあろうと、HPが300万のボスに対して十分な火力があるとは言えない。

 

 第一、ZF本人ですら火力は1〜2万程度が限界なのだ。だが投げ出さないのは、ここが制圧されてしまえばクエストが失敗してしまうから。他の戦域に出現したボスよりは遥かに弱いのだから。そんな念あってこその戦いだったが、

 

「あっ」

「テケリ・リ! テケリ・リ!!」

 

 そんな短い言葉と共に、盾役の1人が丸呑みにされたことにより崩壊した。なし崩しに盾となって押し留めていた3人が飲み込まれる。それにより折角削ったHPが回復され、傷を癒したショゴスが歓喜の声を上げる。

 

「ふむ、どうやら予想以上に苦戦されている模様」

 

 瞬間、一陣の風が吹いた。同時にパシャリという、場違いなシャッター音。姿の見えぬその風は、ボソリと呟く。

 

「レイドボス【ショゴス】、HPは300万中290万ですか。耐性は即死無効、弱点は延焼と封印、装甲としてオーバーダメージ無効と物理ダメージ半減。HPリジェネを持ち、捕食による回復も持つ。まるで倒させる気がありませんな」

「あなたは?」

 

 魔法をとめどなく放ちながら、ZFが問いかける。それも当然だ、防衛に徹していた味方が全滅したと思ったら、謎の風がよく分からないことを話し出したのだ。聞かない方が不自然というものだろう。

 

「1度止まると加速まで時間がかかるので失礼。ギルド【極天】所属、Agl準極振りザイード。助太刀に参上した」

「なるほど、貴方が。では、どうやってアレを倒すのですか?」

 

 周囲を飛び回る黒い風の返答に、ZFはなるほどと頷いた。頼んでいた救援の到着、それは願ってもない好機だった。しかし、その返答は予想外と言えるものだった。

 

「アレを倒すのは、私では無理でしょうなぁ。せめてレンであれば、無理に倒すことも出来たでしょうが」

「では──!」

「ですが、封印なら出来ましょうぞ。恐らく、街から叩き出せば勝利となりましょう。元より、私の専門は状態異常と暗殺。その程度は造作もない」

「なるほど、了解致しました。ならば私は、足止め役ということですね」

 

 被弾しながらも迫るボスを目の前に、淡々と会話は進む。そうして数秒で打ち合わせは終わり、作戦は実行される。

 

「では、儀式に邪魔な街は全て破壊してしまいましょう。生存プレイヤーは、今この広場にいる者のみですな?」

「は? いえ、はい。この場にいる者たちが全てです」

「宜しい。ユキ殿から託された力を、今ここに」

 

 そんな呟きと共に、黒い風は消え去った。否、正確には遥か上空へと跳躍したのだ。そこにはセンタの様な無理はなく、しかしそれよりも高く飛翔する。

 

「ご照覧あれ!」

 

 そうして誰よりも高い天空で、ザイードの手に握られたスイッチが押された。

 

 戦火の光で照らされる街で、パンと、小さな爆発が起こった。

 続いて、もう1つ。

 さらに、もう1つ。

 もう1つ。もう1つ。もう1つ。もう1つ。もう1つ。もう1つ。もう1つ。もう1つ。

 爆破が爆破を呼び、呼ばれた爆破が爆破と統合され大爆発を起こし、大爆発が大爆発を呼び、何もかもが連鎖して爆発する。

 宿屋が爆ぜた。武器屋が爆ぜた。民家が爆ぜた。教会が爆ぜた。水路が爆ぜた。詰所が爆ぜた。水飛沫が舞い、水自体が爆発した。

 街の中央部にある、他の街への転移ゲートとその広場を除いた何もかもが連鎖して爆発していく。衝撃と灼熱と爆音が、1つの街を徹底的に完膚無きまで蹂躙していく。

 

「よもや、これ程とはっ!!」

 

 そんな街の写真を、ザイードは上空から撮り続ける。無論それはただ写真や動画を撮っているだけではない。【写真術】のスキルによる、敵性mobのスタンも狙っている。

 

 そうして爆発は、クライマックスに至る。

 

 街を外敵から守る壁が、不壊属性を付与されているのにバラバラと砕けつつ内側に向けて倒壊していく。まるでドミノ倒しの様に倒壊する理由は、偏に街の地下に存在するダンジョンが原因だ。ユキが仕掛けた爆弾は、街の表層部や水路だけでなく、ダンジョン表層部にまで及んでいたのだ。それにより土台を崩された街壁は、不壊属性同士が衝突し圧力が加えられ、errorを吐き出して砕け散った。

 一瞬の静寂が訪れ、しかし次の瞬間には外壁があった場所を火花が一周した。その火花は複雑な軌跡を描きながら街の中央部に向かって超高速で迫り、合流する。その結果、発生するのはやはり爆発。有終の美を飾るかの如く、地下にあるダンジョンの5点で巨大な花火が爆発した。

 

 キラキラ煌めく火花が降り注ぎ、それが終わった後には最早“街”と呼ぶことの出来る建造物の集合体は、何処にも存在していなかった。残っているのは、陸の孤島と化した元街の中央部のみ。ここが、ユキが事前に運営に問い合わせて確認した、街と呼べるクエストが失敗しない最低限に少し余裕を持たせた量だった。

 

「ふっ、他愛なし」

 

 一連の流れ全てを完璧に映像に収め、ザイードは驚愕に固まったプレイヤーの中に着地する。漸く視認することができたその姿は、異様の一言に尽きた。貌には髑髏の仮面が装着され素顔を隠し、全身黒タイツには鍛えられたしなやかな筋肉が浮き出ている。その上から羽織った裾が擦り切れた黒のマントは、全体のシルエットを妙に暈していた。そしてその印象に不釣り合いな、本格的な一眼レフカメラが首からベルトで下げられている。

 

 そして着地して間髪入れず、黒く煙るその腕が閃いた。

 

「テケリ・リ!?」

「なるほど、どうやら毒は効く様子。であれば、儀式の前に少しやるとしましょう」

 

 次の瞬間、ショゴスの身体に30本程の黒塗りの投擲剣(ダーク)が突き刺さった。ダメージはほぼないが、麻痺・猛毒・移動速度低下・攻撃速度低下・衰弱etc……様々な状態異常がショゴスに付与されていく。

 

「……ハッ、全員攻撃を!!」

 

 ショゴスに向け飛来し続ける投擲剣(ダーク)を追って、気を取り直したZFの号令が響く。それにより生き残っているプレイヤーの全力攻撃が、ショゴスに向け襲いかかる。それは相変わらず十分なダメージにはならないが、それでも進行を押し留めるには十二分な効果を発揮していた。

 

「それでは、指揮は任せましたぞ。ZF殿」

「承知しました」

 

 髑髏の仮面と機械の仮面が目線だけ交錯し、再びザイードの姿が搔き消える。そして次の瞬間には、街の元外壁と広場を繋ぐ空中に出現した。空中ではなく、足場として反射光のない糸が展開されている。

 

「この程度、他愛ない」

 

 そうして、極めて真面目だが不思議な光景が展開されることとなる。

 陸の孤島でコールタール状のボスに様々な攻撃の煌めきが集中し、その隣で、空中に自力設営したステージで単独ダンスをする変態。

 

 重ねて言うが、極めて真面目にボスの打倒を目指している。だがどうあがいても、湖の最前線、平原の防衛戦線に負けず劣らずの混沌具合であるのは明らかだった。

 




戦闘で幸運生かすのって、やり過ぎご都合主義になりかねないからなぁ……と、指摘があったので考えるも苦悩中。


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第69話 極振りの宴③

前回までのあらすじ!

シャークトゥルフ「再生中……再生中……」
超器用「突撃ぃぃぃぃ!!」
爆裂娘「エクスプロージョン!」残り7本と1割
シャークトゥルフ「ちょっ」(ノックバック)
デュアル『因果応報、天罰覿面!!」6本と半分
シャ(ノックバック)
センタ「ゲイ=ボルク!」5本と6割
シャ(ノックバック)
ユキ「電磁抜刀ーー穿!」バリア破壊&4本と9割
   ユキ死亡カウント1(ノックバック)
アキ「特化付与ーー閃光!」???
   アキ死亡カウント1



 担がれて移動する俺の目と鼻の先を、黄金の爆光が通過した。まるで空間ごと切断する様なその光は数秒で途絶え、カシャンという微かなガラスの砕ける様な音が耳に届いた。俺と同様かは知らないが、反動か《殉教(まるちり)》の様なスキルの反動でHPが0になったのだろう。

 

「ボスは!?」

 

 恐らく数秒後には蘇生魔法で復活するだろうが、その犠牲を経て得たものは確認したい。セナの声に同意し、展開した《望遠》の紋章の先には、絶望感を漂わせるボスのHPが表示されていた。

 

「残りHP、1本目の3割!」

 

 極振りの総攻撃を以ってしても、制限のせいかボスのHPを削りきることは出来ていなかった。そしてボスというものは大抵、HPが低くなると何かしら特殊能力を使い始める。所謂発狂モードというやつだ。当然このシャークトゥルフにもそれは搭載されている筈で、今この場は、これまでで最も危険な時間に突入した。

 

 そんな俺の想像を裏付けるが如く、爆光が晴れた先にいるシャークトゥルフはその姿を変貌させていた。

 双眸は真紅に染まり、破れた翼膜代わりに非幾何学的な並びで魔法陣が展開されている。尾は触手が縒り合わさりふた回り以上巨大化し、不気味なオーラを発している。四肢は太さを増し、爪は大きさと鋭さを増し、エラからは黒い煙を吐き出し、背ビレも禍々しいラインが走っている。そして変貌したシャークトゥルフが、宙天に座す満月を見上げ──

 

『させるか!! 行ってこい翡翠!』

「ようやく私の出番ですか。では行ってきますね」

 

 その顔を、極太の青白い光が呑み込んだ。その光量に、望遠の紋章がエラーを起こして消滅した。それでも閃光の発生源を辿れば、そこにあったのは近未来的な戦車とその砲身の周囲に展開されたパーツ群だった。

 赤熱したそれらは明らかにオーバーヒートしており、宣言通り暫く使うことは出来ないのだろう。ハッチを開いて中から黒い制服のプレイヤーが現れ、戦車をアイテム欄に戻して走り撤退していく。

 

「ユキくん、着地するよ!」

「了解!」

 

 そのまま着地すれば俺が即死することを知っていたセナは、何度も空中で減速してくれていた。それが今、漸く水面へと降り立った。HP減少はなし、転んでも死ぬ要介助状態なので非常にありがたい。

 

「《アポルオン》《終焉の杖(レーヴァテイン)》」

 

 そう気が緩んだ瞬間、遥か上方からそんな声が届いた。そして、灰色が炸裂した。シャークトゥルフの頭部から翼の付け根、前足の肘部分辺りまでを、緩く回転するテレビの砂嵐の様な球体が飲み込んだのだ。そうして砲撃で残り2割5分まで減っていたHPが、さらに減少を始めた。

 

 これを、俺は見たことがある。確か翡翠というMin極振りの人の仕業だ。確か【終末】とかいう特殊天候の展開が効果だった筈。……もしかして、さっきのビーム砲撃に乗り込んでたとかかな?

 

「ありえる、か」

 

 少々頭がおかしいと思うけれど、まあ合理的だし。極振りならやりかねないという、謎の安心感がある。寧ろ確信と言ってもいい。

 

「全員、翡翠が足止めしている間に全力で攻撃を仕掛けろ! ここで削りきらないと、発狂モードが来るぞ!!」

 

 そこに、拡声器で拡大された声が響き渡った。ザイルさんだ。自身も全力で長銃で射撃しながら、生き残っているプレイヤーに仮の司令官として命令を出していた。

 

「セナ、俺はもう大丈夫だから攻撃お願い」

「そう? りょーかい」

 

 全力で走っていたセナが急ブレーキをかけ、停止したところで降ろしてもらった。それですぐに攻撃に行くものだと思っていたのだが、セナはこちらを見て1つ疑問を投げかけてきた。

 

「ねえユキくん、さっきのやつってもう1回撃てたりしない?」

「無理。スキルの発動条件が満たせてないし、よしんば撃っても刀が壊れる」

 

 抜刀術系統のスキルは、何個か微妙に発動条件を満たしてないから火力のブーストが満足に出来ない。それに正式な刀じゃなく仕込み刀だから、さっきの1発にはギリギリ耐えられる程度の耐久性しかないのだ。装備の反転効果で回復してきているものの、今撃ったら確実に砕け散る。替えがない以上、それは容認出来ない。

 

「そっか。じゃあ行ってくるね」

「いってらー」

 

 無言でセナに大量のバフをかけて見送った後、俺は大きく深呼吸をした。俺が確実に復活出来る残り回数は33回だが、多分今は転んだだけでその数が消費されるガラスもビックリの脆さしかない。

 死ねばそれだけ、現在半径1mの【死界】の環境は広がるし、確かにそれはボスのHPを削るのに貢献出来るだろうけど……無為に数を減らしたくはない。

 

「なら、出来るのは射撃と爆撃くらいか」

 

 そう判断し、愛車(ヴァン)を取り出して武装を《新月》へと変更。副装備と化した骸ノ鴉5羽を呼び戻した。そうして新月のバイポッドを展開し、愛車のシートに乗せて《新月》を構えた。

 

 

超器用『あいつは脆い訳じゃないが、物理で攻められたら簡単に落ちる。だから各々、出来る限り削ってくれ』

 

 

 チャットにもそんな文字が流れ、了承の意が込められた返信が流れていく。

 幸いにもセナが運んでくれたここは、シャークトゥルフからもプレイヤーからも距離のある尻尾側の方だ。誰にも邪魔されない場所なのだし、色々と本気でやらねばなるまい。

 

 そうと決まれば、やるのみだ。一旦《新月》から手を離し、カラビナにセットされている残り3本の爆弾を腕に留めた骨だけで出来た三羽の鴉に掴ませる。そして、その鴉に言い聞かせるように言う。

 

「シャークトゥルフの上空で、その爆弾を離して戻ってくる。OK?」

 

 それを理解してか、ガァと1つ鳴いて鴉たちは飛び立った。セナと同様それを見送り、本気で狙撃する為に《新月》のスコープを外した。

 

「《望遠》」

 

 右目を瞑り、片眼鏡に重なる様に2枚の紋章が展開された。紋章の効果により僅かに天候の壁が透け、拡大された先に映された光景は……実にイイ笑顔でシャークトゥルフを燃やして食べている女性というか、女の子の姿が映った。クリーム色のフワッとしたセミロングくらいの髪に、限りなく白に近い菫色の目、腰の装甲がついた長いスカート以外は普段着の様な、セナくらいの低い背。見た目だけならおっとりとした雰囲気が伝わってくるが、明らかな凶行のせいでそれは霞んで見える。

 表示された名前は翡翠、極振りの1人でMinの人だった。しかも【空間認識能力】のお陰なのか、その口の動きと表情からなんと言っているのかなんとなくわかってしまった。

 

「『ふふ、シャークトゥルフなんて言っても、本物の御代じゃないんです。なので焼いて食べます。ショゴスが食べられるんだから食べれます』……えぇ?」

 

 左手のステッキから炎を吐き出して焼き、右手の短剣で切断してシャークトゥルフを食べている。もう、なんかこう、凄く、頭がおかしいです。翡翠さんに迫る何本かの触手は本人に到達する前にボロボロと風化した様に崩れて消えていく辺り、通常プレイヤーよりも耐久性は高そうだ。

 けれど、だ。触手の本数は灰の結界内で時間と共に増え続けている様で、撃破されるまで時間の問題の様に見える。

 

 深呼吸。そして紋章の倍率を下げ、射線を通す。尾の付け根から頭部にかけて、動きが止まっている今しか狙えない最大HITの軌道だ。今の状態で射撃したら、どれだけ反動を殺しても死ぬので減退の紋章は最低限銃が跳ねない程度の展開で済む。

 

魔銃(まがん)解凍……なんちゃって」

 

 俺にそんなに色の知識はないし、銃だって砲身は一本しかない。けどまあ、なんとなく思い出したから気分で言っただけだ。

 

 紋章展開準備。反動制御に減退1枚、残りMPを全て加速へ。加速紋章の大きさは銃口から1mまでは銃弾の直径、それ以降はブレを想定して僅かに拡大。500倍の加速と推定。

 弾種変更。徹甲榴弾から離脱装弾筒付翼安定式徹甲弾……所謂APFSDSの擬きに変更。これは趣味で作ってたザイルさんに感謝しかない。

 威力試算。試算不能。性能からのダメージ計測不能。実射経験なし。されど威力は大と推測。

 

「撃ち抜きますーー以上」

 

 砲火や魔法が舞う硝煙弾雨の中、シャークトゥルフに向けて一直線に達筆なの文字の並びが貫いた。その加速の紋章で作られた射線からズレないように、即座に引き金を引く。

 

 瞬間俺の身体は粉々に砕け散り、地上から空に向けて一条の流星が駆け抜けた。無論放たれた銃弾は多段ヒットの、全段クリティカル。多分Lukに極振りでもしなければ出ない火力の筈だ。

 

 蘇生された身体が到来した衝撃波で再び砕け、3度目の蘇生で復活直後跳ねた《新月》が直撃して再び身体が砕けた。4度目の蘇生を迎え、漸く環境が落ち着いた。そうして見たシャークトゥルフのHPは……

 

「まだ、1割強残ってるか」

 

 その膨大なHPからすれば残り僅かだが、200万……実質400万のダメージを即座に与えられるメンバーはもういない。いや、いるにはいるが1人は満足感でビクビクしてるし、アキさんは多分冷却中、センタさんは……多分水中、俺も冷却中だし、極振りは全員ダウン中だ。

 

 それに加えて、望遠で見る先に翡翠さんの姿がなくなっている。代わりに存在するのは、団子のように固まった触手塊。物量に負けた、そういうことだろう。そして発動者がいなくなったことで、封印になっていた灰色の空間が薄まっていく。

 つまりは、時間切れだ。

 

「だけど!」

 

 まだ、俺の爆弾が残っている。タイミングよく鴉たちがシャークトゥルフの上空に到達し、爆弾を投下した。その爆弾は投下された時点から一部が展開されたプロペラの様になり、ホバリングを開始する。そしてホバリングする本体を中心に、大きな円形のマーカーが展開された。そうして始まったのは、絨毯爆撃だった。

 

 マーカー内に、小さな炎の塊が出現しては雨霰と落ちていく。爆撃の火力は低いようだが、確実にそのHPを削っていき──振るわれた尾によって、効果終了前に撃墜された。残りHPはほぼ変わらず1割と半分程、壁は厚く高かった。

 

「◼️██◼️◾︎◾︎◾︎◾︎◼️!!」

 

 爆弾と灰色の残滓を鬱陶しがったのか、シャークトゥルフがその背の翼を大きく羽ばたかせた。翼膜代わりの魔法陣がしっかりと風を掴み、湖全域に恐ろしいまでの暴風が吹き荒れる。また身体が砕けて再構成された。

 その直後俺が目にしたのは、水の壁だった。シャークトゥルフを爆心地として、10mを超える水の壁がプレイヤーを悉く呑み込んでいく。

 

「せい!」

 

 バイクも戦車も何もかもを巻き込むそれを前に、俺は舌を思いっきり噛んでHPを0にした。そこから蘇生されるまでの僅かな無敵時間で波を通り抜け、波立って立つことすらままならない水面の代わりに障壁を足場に膝をついて耐える。

 

 そんな暴風と水飛沫が舞う中、ゴギ、ベギ、グチャ、などと普段耳にすることのない異音が耳に届いた。骨が砕けるような、肉が潰れるような、皮が裂けるような、浮囊が破れるような、只々不快な音が連続する。同時に漂ってくるのは、堪え難い悪臭。腐った水のような、鼻を突き刺す毒のような、腐敗した生き物のような、集積されたゴミの中のような、吐き気を呼び起こす臭いが炸裂した。

 

 それを気合いで堪えて目を開けば、陥ち窪んだ爆心地に、更に姿を変えたシャークトゥルフが存在していた。

 

 獣の様だった両腕は姿を変え人かそれに類するものへと変貌し、脚には触手が巻きつき肥大化。その巨体を支えられるであろう重厚感を漂わせている。胴体は非常に前傾であるが確実に鮫の頭を支えており、破れた翼は巨大化してシャークトゥルフを浮遊させていた。爆弾を撃墜しやがった尾は健在で、縒り合わされた触手が蠢き鳴動している。

 

 いつの間にか紫色に染まった月が妖しく発光し、人型となったシャークトゥルフが、山のような巨体を捩らせ、行動を開始した。

 




シャークトゥルフ「やっとこさ行動出来た」



 特殊天候【終末】について
 風化(極大)
 HPスリップダメージ(その時点での3%/2s)
 MPスリップダメージ(その時点での3%/2s)
 属性効果低下(全)
 道具耐久値損耗(100/2s)
 2秒ごとランダムに空間に状態異常を付与
 天候制圧
 汚染残留


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閑話 運営サイド小話

おまけなので短め。
あと前回うっかり翡翠の描写を忘れてたので追記しておきました


 これは、プレイヤーがやりたい放題やっているボス戦の裏側であった出来事だ。

 今回のイベント管理側は第2回イベントでの反省を生かし、プレイヤーよりも何倍も時間を加速して運営されていた。

 

「極振りを封じ分散させるための、完璧な仕掛けだ。

 シャークトゥルフのHPは1億、シャークトパス亜種のHPは3000万、ショゴスには容易に倒すことの出来ない異常な再生能力。それぞれのボスには即死を無効化し、即死するダメージは0にする機能も設定した。準備は完璧だ、この極振り対策チームの作り上げたボス討伐イベント、とっくり味わっていくがいい」

「何言ってるんですかチーフ。そんなゲンドウポーズして言う暇あるなら、こっち手伝ってくださいよ」

 

 しかも、監視する人員は奇跡的に前回イベントの時から変更が成されていなかったのだ。あんな醜態を晒そうが、ショタコンやロリコンが多かろうが、男の娘スキーだろうが、対極振りとしては限りなく経験を積んだプロフェッショナルなのだ。

 

「残念ながら、こっちもこっちでGMコールに対応があってな……」

「そうですか、じゃあ頑張ってください」

 

 そうして作業に戻る運営Aくらいの職員。そちらはそちらでコンソールに向かって、逐一送られてくる映像のチェックを続けていた。

 

「そういえばチーフ、使えるプレイヤーを選別はしましたけど、蘇生魔法なんてチート使わせて良かったんです? GMコールにも、何件かこんなのありかって来てましたけど」

「ああ、問題ない。寧ろ、無い場合は勝てない調整になっている。何せどのボスも、対極振りとして調整されているからな!! ダァぁぁぁッはっはっはぁぁぁ!!」

「それ、倒せるんです?」

「極振りがいれば、な」

 

 高笑いの後白い歯をきらりと光らせてチーフが言った。しかしそのすぐ後、極めて真面目な顔になって話を始めた。

 

「オフレコで頼むが、実は運営側の方から『もう極振りはこっちから頼んでボスになって貰った方が良くね?』とかいう意見も出て来ててな。このボスたちをあっさり倒したら、それがかなりの確率で通ることになる。次回か次々回かは知らないが」

 

 その言葉に、ざわざわとした空気が流れた。それもその筈だ、プレイヤーをボスとして設定するなんて前代未聞過ぎる。それに、ある意味極振りとこの対策室の面々は親しいのだ。少しは不満の声が上がるのは当然だった。

 しかしそれを制したのは、チーフの声だった。

 

「だが、よく考えても見ろ。『街はどれくらい爆破してもクエスト失敗になりませんか?』とか、『ボスは一撃で死なないんだろうな』とか、『超全力で爆裂しても怒りませんよね!よね!』とか、『対応の速さが足りない』とか、『資金繰りに困ったから市場操作していいか?』とかその他諸々。そんな事を平然と言ってくる輩だぞ? それにほぼ全員1つとはいえ4000オーバー、にゃしぃに至っては万越えのステータスを持っている。これを一般プレイヤーと同じ括りには、流石に入れられないだろう。入れたのが今の状況だしな」

 

 納得するしかない情報だった。要するに、やり過ぎたのである。空から擬似太陽炉を積んだガンダムが来て、連結ビームをぶちかますくらいには。

 

「さて、ゆっくり話せるのはここまでだ。ボスが出るぞ!」

 

 その宣言の元、対策室に緊迫感が取り戻された。

 

「チィィィフ!! 猛吹雪が発生したと思ったら、シャークトゥルフが爆破されて足が吹き飛びましたぁ!」

「想定内だ! 少し行動再開まで時間はかかるだろうが、それくらいじゃアイツはビクともしない!」

「チーフ、ユキがラブコメしてます! 爆ぜやがれクソが!」

「ようし、後で何秒かだけユキにターゲットを集中させる権利をやる!」

「ヒャッハー!!」

 

 極振りも極振りだが、運営も運営だった。その間にあった戦闘機云々も、ユキの大儀式魔法も、最早運営の眼中にないようだ。

 しかし、前回イベントの時と比べて遥かに異常行動が少ない。大規模な戦闘なくせにやらかしが少ないのは、運営としても暇で仕方がなかった。 

 

「なんか、つまらないですね」

「まあ、足枷としての意味もあるレイド戦だからな。それに、本来俺たちが走り回る方がおかしいんだ。だから──」

「極振り散開、行動を開始します!!」

 

 瞬間、モニターの中でシャークトゥルフが爆炎に包まれ、極振りの攻勢が始まった。

 

「……爆裂、綺麗ですね」

「ああ、そうだな。普段より、加減がないようで何よりだ」

 

 普段、にゃしい担当の職員2名は、その普段よりも生き生きとしたにゃしいの、幸せの頂点にいそうな笑顔と爆裂の輝きに目を奪われた。ハイライトごと。

 

「お、やるなぁ」

「思ったより派手に活躍しましたね、彼」

 

 デュアル担当の職員2名も、普段目立った動きをしない担当者の貢献に何か暖かい物が目から流れ落ちた。ハイライトごと。

 

「兄貴のRPしてるだけあって完成度高いなぁ……蹴りボルグの」

「あれ、本人はいいんですか?」

「ああ、どうしようもないからな」

 

 センタ担当の職員2名も、普段通りの超火力を穏やかな心で見つめていた。山を切断したりアトゴウラするよりマシなのだが、ハイライトは既にない。

 

「お、流石爆破卿。チーフ自慢の防御壁、一瞬で消しとばしてら」

「そうですね……私たちは、後は爆破を警戒してましょ」

 

 なんだそれだけかと、ユキ担当の職員2名はハイライトのない目で見つめていた。

 

「キャー! 閣下ー!」

「落ち着け馬鹿」

 

 アキ担当の職員2名は、冷え切った目とハートにでもなっていそうな目で英雄の活躍を見つめていた。

 

「馬鹿な、ゔぁかなぁぁぁぁ!!?」

 

 そんな中、いつかの焼き直しの様にチーフだけが発狂していた。見事にSANチェックに失敗している。手塩にかけたボスのHPが尋常ならざる勢いで削れると共に、チーフの残り少ない髪が張り付いた頭部に搔きむしりの痕が走り毛が散っていく。

 その様は、まるで起源弾を撃ち込まれたケイネスの様。自信満々にボスの解説をするからこうなるのだ。

 

「あ、レンちゃん決めポーズ決まってるなぁ」

「おっ、そうだな。序でにボスのHPを味方ごと消しとばしてる。手が早い」

 

 レン担当の職員2名も、その活躍を微笑ましいものを見る図で眺めていた。ハイライトはサラマンダーよりずっと早くどこかへ消えている。

 

「あー、他愛なし」

「他愛なし」

「「ユウジョウ!」」

 

 ザイード担当の職員2名も、始まった謎のダンスを楽しげに鑑賞していた。ハイライトは街と共に爆破されている。

 

「おお、芸術(爆破)でロールしたみたいな爆破」

「流石俺たちの爆破卿。期待を裏切らない」

 

 えらく気合の入った爆破に、爆破卿担当者もご満悦だった。一から爆破卿の暴走を見てきたせいか、妙な嬉しさまで浮かんでいる。何を隠そう、この2人こそ第2回イベントの時、ユキに大量の爆弾所持を許可した張本人だった。

 

「あ゜あ゜あ゜あ゜あ゜あ゜あ゜あ゜!!」

 

 対照的に予告はあったとはいえ、破壊不能と設定してあるはずの街壁が吹き飛んだ事の修正にチーフは奇声を上げながら取り組んでいた。またもSANチェック失敗である。

 ツチノコのフレンズの様な叫び声を上げながら、搔きむしりは喉辺りに移行した。視線だけでコンソールを操作しているのは流石としか言いようがない。

 

「翡翠射出、汚染が開始されました!」

「おい待て、今日は修正する必要ないんだぞ?」

「あっ、そっかぁ」

「そうだぞぉ」

「りんごたべる?」

「ばなな」

 

 人としての姿から、“あたまのわるいひと”の様な線で構成された人型になった翡翠担当の職員2名。ハイライトなんて既にドットになって消え去っている。

 

「……俺たち、ザイル担当でよかったな」

「ああ、本当に。市場崩壊にさえ気を付けていれば、あいつらと違って1番楽に違いない」

 

 そして、そんなプレイヤーよりも発狂している運営群を見つめるザイル担当の職員2名。この対策室で極振りによる強制SANチェックを逃れたのは、この2名だけだった。

 

 だが、誰も彼も手だけはまるで別の生き物の様に稼働していた。エラーや細々としたバグの消滅を目指し、全力全開でコンソールを操作し続ける。

 

「 おっほー!! 」

 

 それは、発狂したチーフにも言えることだった。否、寧ろチーフこそが1番よく働いている。最早正気の世界には(このイベント中は)帰ってこれまい。肌色の頭でスピンアヘッドスピンアヘッドスピンスピンスピンしているチーフだが、その状態で四肢と目線でコンソールを操作している。

 

「ふえーやぁぁぁ!!」

 

 異常な技量、狂った行動、インパクト。どれを取っても、今のチーフは極振りに比類するキチガイだった。業務はちゃんと、必要以上の速度と精度でこなしている以上、ここにいるメンバーにとってはある種見慣れている光景なので何事もなく流されていく。

 

「チーフ、俺らの中でも1番心が弱いもんな……可哀想に」

「実は、部署変更を上司に頼み込んでたらしいぜ。お前しかいないって突っ撥ねられたらしいけど」

「社会って、残酷だな……」

「ショッギョ、ムッジョ」

「案外、極振りボス化計画って正しいのかもしれないな。倒せるかはともかくとして」

「俺たちの負担、減るもんな」

 

 ポツリポツリと、微妙に悲しそうな職員の声が続く。

 

「でもそうだとしたら、これが極振りのプレイヤー側で参戦する最後のイベントか?」

「有終の美を飾るしかない」

「ワカリミニアフレル」

「あ、翡翠がシャークトゥルフ食べてる」

「ふぁっ!?」

「今『タコみたいな食感の、モロみたいな味と匂いで美味しいです。醤油下さい』ってメールが。モロって?」

「ああ!」

「栃木とかで食べられてるサメのことだよ」

「そっかぁ」

「醤油って?」

「ああ!」

「送るのは無理だなぁ……」

 

 段々と別の方向へ逸れていく職員の会話。そのお陰か、先程までの深刻な話題の形は影も形も無くなっていた。

 

「というか、誰だよシャークトゥルフに味の設定とかした奴。容量重くなるのにバカ?」

「あんたバカァ? ショゴスにメロンソーダ味を、オクトシャークにフライドチキン味を付与した以上、やるしかないじゃない!」

「馬鹿みたいな味付けしてやがる……」

「神話生物に味付けとか此れ如何に」

「ショゴスがプレイヤーを食べながら、プレイヤーがショゴスを食べる……此れ則ち生命循環のウロボロス。始まりと終わりの同居する究極生命体」

「何言ってんだこいつ」

「ああ、こいつ丸呑み系好きなんだよ」

「うっわ深い沼」

「食生活の螺旋で無理と道理を蹴っ飛ばすんだよ!」

「アンチスパイラル不可避」

「翡翠がシャークトゥルフ口いっぱいに頬張りながら、満足そうな笑顔で燃え盛る触手に包まれて逝った」

「どうしよう……エロさを欠片も感じない」

「禿同」

「今『とても美味しかったです』とかメッセージ来たんだけど」

「確かバフだったかステータス上げの効果もあったし、実は無意味じゃないよな」

「ほんそれ」

「正確には……シャークトゥルフなら、この戦闘中だけの超バフだな」

「オクトシャークは、スキル熟練度上昇だったっけ」

「ショゴスはあれ、難易度高いから地味に強いんだよな。StrとVitに+1、自己再生スキルが手に入るっていう。生きてる間に食わなきゃだし」

「おい、そんなこと言うと食われるぞ」

「やっべフラグ立てちまった。わりい」

 

 ……

 

「よし、俺はここでユキに対する強権を使用するぜ!」

「何!? 5秒まて録画準備だ!」

「行くがいい、深きものども。喰らえ我が宝具、カズィクル・ベイ!」

「ヴラドなのかプレラーティなのか」

「あー……ユキが串刺しに」

「やったぜ狂い咲きィ!!」

「あっ、【死界】」

「あっ」

「よっしゃ、喋れないから意思が伝えられなん……だと?」

「うっそだろ、ハイパーモードのシャークトゥルフの防壁、ユキが相殺しやがった」

「序でにヴォルケインの攻撃地味に痛え。誰だよ特殊装備実装したやつ」

「企画を通したのは私だ」

「お前だったのか」

「RP不足を感じた」

「運営の」

「「遊び」」

「「「「「Foooooooem!!!」」」」」

 

 不定の狂気に陥ったチーフの発狂ボイス、正気の担当職員たちの会話と操作音が対策室に響く。

 

「誰か反応しろよ!」

 

 そう叫んだチーフは、チベットスナギツネの様に乾いた目で見られたことをここに記しておく。

 

 今日も極振り対策室は平和だった。

 平和だった。

 平和だった!!

 




チーフ「新規メンバー絶賛募集中!」


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第70話 極振りの宴④

 ふと、意識が一瞬断裂した。

 自分の意思とは関係なく視界に砂嵐が走る。ゲーム機の異常かと思える程の砂嵐の中、自分のSAN値が一気に39まで転落した。

 つまりこれは、SANチェックだ。今まで廃火力で押し続け、何もさせなかったことの反動だろう。状態異常耐性のバフも、幸運も何もかもを貫通してSANが削り飛ばされた。そして、

 

「──!?」

 

 言葉を、発することが出来なかった。しかも、チャットに文字を打つことも出来ない。これが発狂によるデバフだと認識するまで10秒、そんなに時間があれば何が起こるかは明白だった。

 勝手に《三日月》へと装備が変更され、自分の腕が勝手に動いて杖を自らの胸部に突き込んだ。当然HPは0となり、発動者のいなくなったことにより障壁が消え去り、俺は荒れ狂う水面に落下する。

 

「──ッ」

 

 蘇生された直後、波によって再びHPが0になる。そうして、死亡カウントが10に達した辺りで、漸く平常心を取り戻して気がついた。

 

 この状況は、非常にマズイ。

 

 思った以上に深く沈んだらしく上下左右すら覚束ないため、落ち着いたからどうにか紋章は使えるが脱出の見込みは低い。且つ、水の中にいるだけで俺は死ぬのだ。残り23回復活できるとはいえ、このままじゃ削り殺されるのがオチだ。

 

 そう覚悟を決めて、杖を抱き寄せた時のことだった。探知の圏内に、10と少しの影がよぎった。あ、と思ったのと同時に、同じ数の三叉槍が俺に向けて突き出された。

 いつも通りそれを障壁で防ぎ、自分との位置を固定していたことにより一気に加速する。更にそれに加速の紋章を重ね、運良く一気に水面から飛び出すことに成功した。

 

 しかし、赤い月を見た瞬間再び意識が一瞬だけ飛んだ。SAN値は38、運良く1減少で済んだがこの隙は大き過ぎた。空中にいる俺に、追撃の槍が殺到する。

 これは体のいい見せしめですわぁ。全身串刺しにされ砕けながら周りを見渡せば、そんな事を言っていられる状況でもないことに気がついた。

 

 湖の上には8本に増えた水竜巻が縦横無尽に駆け巡り、今まで平らだった水面にはいくつもの渦潮が発生し戦車やバイクが飲み込まれている。プレイヤーたちはかなり数を減らし、数名ずつ水面から湧き出るmobと戦闘を行なっている。

 そして、最大戦力の極振りは──

 

『なんの!』

「邪魔ですデュアルさん、燃やしますよ」

『好きにするがいい! 頭以外ならな!』

 

 シャークトゥルフ相手に、防戦一方となっていた。幾度となく振り下ろされる爪を大盾を持った鎧武者が燃えながら防御し、同時に飛来する水の槍や氷の波濤、薄緑の風刃などを翡翠さんが何やら六角形の障壁で防いでいる。

 

「ああもう、なんで私がMPタンクなんですか! 爆裂を、もっと爆裂をしたいのですけれどぉ!」

「折角均衡してる状況を壊したいのかテメェ! あ、失敗した。すまん」

「ちゃんとしてくれよお前ら!?」

 

 その絶対の庇護圏内では、槍を水面に突き刺し何かルーン的な文字を垂れ流すセンタさんと、なんか凄く光ってるにゃしいさんがいた。うっわぁカオス。さらにその後ろでは、全身を黒い何かに雁字搦めにされたアキさんを、ザイルさんが回復させようとしていた。呪いじみてて怖い。

 

 助けに行きたいが、既に【死界】が水面に出たことで広がってしまっている。しかも最大範囲の半径50m、さっき俺を串刺しにした敵が水面から出てきて数秒で死んだことから危険性はよくわかる。因みに経験値は入ってこなかった。

 

 相変わらず声は出せずチャットも打つことが出来ない。どうしたものだろうか。《偃月》は耐久値回復中。《新月》は撃っても銃本体ではなく弾の耐久値が【死界】の範囲を出るまでに削れてしまう。かといって《三日月》じゃ有効打には程遠く、呪い装備を脱いだら俺は問答無用で死ぬ。せめてセナたちがどこにいるのか分かれば、装備変更しても守ってもらえると思うけれど……

 

 そう思った矢先、紅のビームがシャークトゥルフに直撃した。さらに追撃として黒水晶の様な氷の塊が、シャークトゥルフに直撃する。その光景を見て固まっている俺の肩を、誰かがぽんと叩いた。当然のように砕けながら振り返れば、そこには引き攣った笑いでセナが固まっていた。

 

「えっと……ユキくん、その、ごめん?」

 

 返事をしようとして、相変わらず言葉が出ないことに歯噛みする。チャットも打てないし、やるなら手話とかだろうか? そもそも自分の名前以外示せないから無理ですはい。紋章描くみたいにやろうにも、紋章じゃないと軌跡が残らないし……ここは幼馴染の勘に頑張ってもらうしかない。

 

 れーちゃん式ジェスチャーでそのことを伝えようとすること数秒、ポンとセナは手を叩いた。

 

「喋れない?」

 

 そのセナの発言に頷き、サムズアップする。言葉が伝えられないのはこんなに面倒だとは。やっぱり手話とか点字とか、五十音くらい頑張って覚えてみようかな?

 

「うーん、チャットもダメ?」

 

 頷く。意思疎通の手段が徹底的に妨害されているのだ。多分手話とか点字みたいな特例はあるけど。障がいがある人が伝えられなくなったらことだし。

 だからセナさん、今なら襲っても抵抗できない? とか危険なことを呟くのやめません? 確かに基本的に誰も侵入できない場所だし、俺も助けは呼べないけどさ。いやその、ちょっとゲーム内じゃまともに抵抗できないし。

 

「すっごい惜しいけど、強引になら兎も角、ズルして抜け駆けは嫌だし……いっか。ユキくん、脱いで!」

「!?!?」

 

 ど う し て そ う な っ た

 味方だと思っていたセナは敵だった、別の意味で。自衛のために杖を構え、紋章の発動準備をする。い、いいだろう。喋れないけど、視認できる程度の速度なら、7人程度いなしてみせる。

 

「そんなに警戒しないでも、装備変えたらって話だよ?」

 

 油断は怠慢即ち怠惰。そんな状態になれば、幾ら頑張ろうと防ぎきれない。そうしたら多分、やられる。そうして既成事実を作られた後は多分、親が結託してる(偏見)以上ジェットコースター式に決まる。

 けど、流石にこの状況なら幾らセナだってそんな凶行を強行しないだろう。うん。多分。きっと。メイビー。

 

 装備を解除し、セナから受け取ったコートを羽織りいつものスタイルに戻る……と言いたいところだが、そうともいかない。体装備を外した瞬間、俺は状態異常に殺されてしまう。

 いつものコートの効果が発揮できないのは残念だが、死に続けたくはないから仕方ない。とりあえず羽織るだけ羽織っておくが。

 

 呪い装備から変更されたことで反転していた大量のデバフが正しく発揮され、ステータスが劇的にダウンした。無事なステータスは……Lukだけか。これなら多分、やれないことはないだろう。

 

 そんなことを考えている間に、ローラーの駆動音と共に赤銅色の影が現れた。

 

「ユキくんもランさんに乗って! それで足回りはなんとかなるから!」

 

 頷き、差し出されたランさんの手に乗ってヴォルケインの肩に向かう。途中で藜さんとハイタッチし、砕けて再生しつつ入れ替わる様にマントに覆われた肩に騎乗した。反対側にはれーちゃんとつららさんが座っており、物理・魔法共に火力は十分だろう。

 そう納得していると、下からセナが大きな声で言った。

 

「多分ウチだけじゃ無理だけど、ボスを倒すよ!!」

「おー!」

「ん!」

『了解した』

「了解、です」

 

 俺はまだ喋れないので、握り拳を突き上げる。というか、本当によく全員正気で生き残ってたと思う。もしかしたら、2回目の多分1d100のSAN値チェックは、変身を見たからだったのかもしれない。

 

『発進する。振り落とされるなよ』

 

 そう考察している時、忠告と共に思い切り後ろに引っ張られる感覚がきた。障壁で即席の背もたれを作り転落を回避して、真っ直ぐに前を見つめる。

 視線の先にいるのは、未だ極振りの結界に攻撃を続けるシャークトゥルフの姿。そのHPはようやく1割を切ったところであり、浴びせかけられる攻撃を、まるで俺の様な障壁の展開で防いでいる。

 

「《アイシクルレイン》!」

 

 つららさんが放った氷柱の雨による攻撃も、一瞬だけ展開された狂った幾何学模様に防がれてしまった。

 

 今の半人型シャークトゥルフを見た限り、物理攻撃力はデュアルさんを唸らせていることからアキさん……じゃ行き過ぎか。多分、センタさんと同様か少し低いくらい。魔法攻撃力は、同じく拮抗しているところからにゃしぃさん……も行き過ぎか。多分、平常な極振り相当。つららさんの魔法攻撃、時折空中で曲線を描くザイルさんの弾幕を完全に防いでることから、俺の様な瞬間的な防御術を持っている。速さに関しては腕の動きしか見てないから不明だが、一般的なボスの攻撃速度は大幅に上回っている。防御系は……調べてみないと分からないか。

 

 全開で思考を走らせていた俺に、キラキラとした光が降り注いだ。

 

「つまり──あ、喋れる」

 

 ヴォルケインヘッドの向こう側で、れーちゃんがグッとサムズアップしていた。有難い。これで今まで言えなかったこととかが言える様になった。

 

「ランさん、1番弾速が速い武装ってなんです?」

『少しチャージの必要があるが、コイツだな。それがどうかしたのか?』

 

 そう言って取り出して見せてくれたのは、生身のプレイヤーからすれば大きすぎる拳銃だった。むう、性能が見えないから判断が難しい。……後で、解析とか出来る系の紋章、探すか作るかしてみようかな。

 

「ここからシャークトゥルフまで何秒で届きます?」

『1秒あれば届くな』

「了解しました。ありがとうございます」

 

 それくらいなら、ギリギリ保つか。自分の限界を考えそう判断する。更にチャットを開き情報収集を試みようとしたが、救援要請などで埋め尽くされておりとても読んでもらえるような状況ではなかった。仕方なくフレンドメッセージでザイルさんに質問を投げる。

 

 

 爆破卿『そっちで、この状態のシャークトゥルフについて分かってますか? 特に速さと防御力』

 

 超器用『何も分からん。うちの奴らとまではいかないが速いし、防御はお前みたいに防いで1発も届いてないから知らん。何やらHPは勝手に減っていってるみたいだがな!』

 

 爆破卿『ありがとうございます』

 

 

 まだ確定じゃないが、ある程度相手の情報は集まった。最後にザイルさんに『合図をしたら5秒くらいフルバーストお願いします』とメッセージを送り、集中を削ぐメニュー画面を消し去った。

 

「つららさん、さっきの魔法まだ使えますか!?」

「問題ないわよー!」

「合図としてバフかける紋章出しますんで、それ見たら攻撃お願いします。どうしても確認したいことがあるんで! できればれーちゃんも」

「分かったわ!」

「ん!」

 

 2人からの快い返事を受け取り、自分たちの図上で魔導書を使い紋章を描き始める。予想が正しければ、シャークトゥルフのあの防御方法は俺と同じだ。手前味噌だが硬いし万能ともいえる防御方法だが、あれには処理する対象が増えれば増えるほど弱体化するデメリットがある。例えば、俺なんかは100〜120が処理の限界だ。

 

『つまり俺は、その一瞬の防御の隙間を狙い撃てば良いわけか』

「流石、話が速いですね」

『ふっ』

 

 自慢気な笑いが返ってきた。これなら、なんの心配もないだろう。

 一度深呼吸をして気を引き締め直した時、描き続けていた紋章が完成し、光を放った。

 

「《アイシクルレイン》!」

「ん!」

 

 瞬間、シャークトゥルフを攻撃の雨が襲った。ザイルさんの放つ散弾の雨が、弾の壁となってシャークトゥルフの前面を穿たんと迫り全てが弾かれ続けている。背面から迫る氷柱の雨も同様に弾いており、更に降り注ぐ雷光まで防御している。マジですげぇとしか言葉が出ない。俺だったら防御を抜かれて即死亡だろう。

 

「《望遠》、ランさん!」

『delete!』

 

 【空間認識能力】を限界まで使用、僅かに遅くなった気がする視界の中、構えられた拳銃からエネルギー弾が発射された。真っ直ぐに突き進むそのエネルギー弾の先で、シャークトゥルフがあの障壁を発生させようとし──

 

「《障壁》」

 

 処理の限界が近かったのか、展開されようとしていた障壁たった20枚を、全く同じ座標に障壁を展開し暴走させる。結果、シャークトゥルフを守る防壁は1枚足りともなくなり、本体にエネルギー弾が直撃した。

 減少したHPはごく僅か。このことから、推定だが防御能力も正当な極振りに相当しているだろうことが判明した。

 

 つまり、今のシャークトゥルフの状況を端的に表すとこうなる。全ステータス極振り。但しスリップダメージを受けているので、凌ぎきるだけで倒せる。残り時間は……6分と言ったところか。

 

 けど、折角のボス戦、折角の遥か格上だ。そんな倒し方は、勿体ないにも程がある。挑むのは馬鹿としか言いようがないが、馬鹿やってこそのゲームだ。全力で楽しまねば、そんなのクソゲーとかゲー無の同類になってしまう。

 

「バカがヨロイでやってくる……なんちゃって」

『丁度いいんじゃないか? ここで死ぬ気は毛頭ないがな!』

 

 ランさんのローラー走行の車輪が唸りを上げ、並走していたセナと藜とともに、ギルド全員での攻勢が始まった。さて、それじゃあ決着を始めよう。

 



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第71話 決着

やっぱり今期は三ツ星カラーズが好き



「ん!」

 

 最初に動いたのは、持っている大きな魔導書を開いたれーちゃんだった。普段俺が使わない様な基礎ステ以外のバフを、いとも簡単にギルドの全員に付与した。ヴォルケインヘッド越しに見える横顔が、どこか自慢気なのは気のせいじゃないだろう。

 同じ補助特化としては張り合いたいところだが、今はそれに処理能力を割けるほどの余裕がないので断念する。ザイルさんに射撃支援のお願いをしつつ、マントにしがみ付きながら全開で頭を回転させる。

 

「行くよ藜ちゃん。一気に削る!」

「勿論、です!」

 

 なにせ、俺たちなんかを遥かに上回る速度で突撃した2人の攻撃の補助をしなければいけない。多分あの障壁を妨害出来るのって、手前味噌だが俺しかいないだろうし。

 

「普段サブマスの仕事を任せっきりな分、ここで私もしっかり働かないと!」

『俺も、れーやつららに負けていられないしな!』

 

 つららさんが手数が多く範囲の広い吹雪の様な魔法でシャークトゥルフを攻撃し、ランさんは三連装のガトリングライフルから弾を吐き出し始めた。その全てがシャークトゥルフの紋章に防がれる中、先行したセナと藜さんがシャークトゥルフの足を登りつつ攻撃を開始した。

 

「七ツ身分身!!」

 

 セナと藜さんが左右別々の脚を登る中、セナが7人に分身した。そしてそれぞれ光の灯った双銃剣を構え、攻撃が予測される点に障壁が発生──

 

「《障壁》」

 

 させない。1人あたり10枚の計70枚展開されかけた障壁を、同様に障壁を発生させて暴発させる。これくらいなら問題ないのだが、天井がつけられてこれ以上上がらない認識能力にもどかしさを感じる。なんというか、あと少しで限界を突破出来るような気がするんだけど……

 

「舞姫!!」

 

 そんな俺の思考とは関係なく、防御を剥かれた脚にセナの全力攻撃が炸裂した。光を纏った銃弾群と、7人のセナによる多重斬撃。普通のプレイヤーなら見切れず、縦しんば見えたとして対処しきれず倒されるであろう攻撃を受け、しかしシャークトゥルフのHPに大きな変動はなかった。

 やはり、最低でも万単位の攻撃でないと通らないのだろう。まあ、見えない程度には変動があるのだろうが。

 

「シッ!」

 

 セナの攻撃から遅れること数瞬、短い気合の声と共に藜さんが槍を高速で突き出した。当然シャークトゥルフ側の障壁を暴発させた時、限界ギリギリの集中の中凄い光景を見ることができた。

 藜さんの放った攻撃は普段よく見る3連突きと全く同一の動きだが、その実全く別物の威力を秘めていた。普段なら3度聞こえるヒット音が何故か6つ鳴り、その後シャークトゥルフの足が6度の爆発を引き起こした。

 

 ドット単位だが、僅かにシャークトゥルフのHPが削れた。やはり槍の方が銃より火力が出るらしい。まあ、銃って攻撃力が足りてない人が使って強い武器だから仕方ないといえばそうだろう。

 

「さて、お次はっ──ランさん、緊急回避左!」

 

 2人が去り際に放っていった銃弾も丹念にシャークトゥルフに届かせていると、足の向こうに黄金の光が見えた。酷く見覚えのあるそれを前にして焦った俺の声に、ランさんが全力で左に跳んだ。

 

 そして、シャークトゥルフに対し逆風に黄金光が振り抜かれた。

 

 望遠の倍率を上げて見れば、爆光の先にある二重の障壁の向こうでアキさんがザイルさんに支えられて立っていた。未だアキさんには黒い何か……呪いとしておこう、それがほぼ全身に纏わり付いていた。無事なのは左目とその近辺の金髪、そして左腕だけだ。それでもこの状態のシャークトゥルフに一撃を入れ、剰え残りHPの1割を削るとかやはり頭のおかしい火力をしている。

 

 これで恐らく、このハイパーモードシャークトゥルフの生存時間は5分……いや4分半くらい。

 

「まだだ!」

 

 アキの裂帛の気合いと共に振り下ろされる黄金光。それがさらにシャークトゥルフのHPを削り飛ばし、残り生存時間を大きく削り取った。殆ど0に近いHPから予想するに、生存時間はのこり90秒ほど!

 

「あと少し!」

 

 ここで状況に気がついたらしい他のプレイヤーが攻撃を仕掛けるが、圧倒的な攻撃力も俺のような中和方法もない以上一切のダメージが通っていない。これなら、ギルドの誰かがラスアタを取ることも出来るかもしれない。それでボーナスがあれば万々歳だ。

 

 そのことにほくそ笑み、脳が焼き切れんばかりに障壁を中和しギルドのみんなの攻撃を通していく。それでもまだ、届かない。あと少しなのに、手が届かない。

 

「きゃっ」

『ぬぉう!?』

 

 そして、極振りを守っていた結界が破られた。突き込まれた拳と爪にセンタさんが声を上げる間も無く消滅し、にゃしいさんも同様貫かれて砕け散った。翡翠さんは瀕死の状態で大きく吹き飛ばされ、爪を大盾で受け止めたデュアルさんは衝撃で甲冑が内側からバラバラに弾け飛んだ。

 

「よくやった、デュアル。この戦い、俺たちの勝利だ」

「ええ、そうですねアキ」

 

 そして聞こえて来たのは、全く聞き覚えのない男性の声だった。それもそうだ、何せ砕けた鎧甲冑の中から出てきたのは予想外も甚だしい姿の人物だったのだから。流れるサラサラとした金の長髪、閉じられて細い線のようになっている眼と黒い眼鏡。その長身に、黒い男の物のカソックは異様にマッチしている。

 

 俺は、その人物を知っている。無論声は違うし、現実での知り合いでもない。けれどその姿は、つい最近まで俺がやっていたゲームの──

 

「親愛なる白鳥YO☆」

 

 朗々と、聞き覚えのありすぎる詠唱が始まった。どうして鎧甲冑の中身があのキャラのRPなのかは知らないが、このままじゃボスのラスアタを取られるというのだけは分かる。

 

「ふぅ……」

 

 集中のため深呼吸をした後、俺の周りから僅かに音が遠くなった。集中がかなりしやすく、これなら多少の無茶だっていける!

 

 ランさんの放つガトリングガンの着弾先に発生した障壁を中和する。つららさんの魔法に対して発動する障壁を中和する。れーちゃんが気を使ってかMPを分けてくれた、本当にありがたい。こちらの負担が分かったのか、同じ脚を狙い始めたセナと藜の周りの障壁を50枚割り当てて中和し続ける。

 

「足りない」

 

 HPにぱっと見の変化はなく、詠唱をBGMに障壁を中和し続ける。けれど足りない。圧倒的に中和の数と火力が足りていない。手を広げすぎたせいか、各部で1、2枚ほど取りこぼしが出来てしまっている。それではマズイ、99%の攻撃が入っても1%分で負けたとか、極振りの名折れだ。

 

「だから、もっと!」

 

 ピロンというメッセージの着信音が届いた。

 

 ====================

 条件を満たしました

 【空間認識能力】が進化可能です

 ・空間認識能力(改)

 ・空間認識能力(深)

 ・招き猫の幸運

 ・龍倖蛇僥

 ====================

 

 直感に従って【龍倖蛇僥】のスキルを選択する。流し読みした効果は空間認識能力と幸運上昇20%、そして半透明の小さな鱗型防壁の展開だった。掌程の大きさだが、これならいける!

 

「追加!」

 

 上限が結構上昇した空間認識能力のリソースを全て使い、新たに50枚分スキルの防壁を追加する。自分にMPポーションをブチまけながら相殺を続け、少なくともギルドのみんなの攻撃は全て通る様になった。先程までと違って無理もなく、逆に今まで放置していたシャークトゥルフ側からの反撃も防ぐことが出来ている。

 

「最強の筋力で、最硬の弾丸たるお前を撃ち出す。行くぞ」

 

 けれど、

 

「Briah─」

 

 あと少しだったのだが、

 

Vanaheimr(神世界へ翔けよ)――

 Goldene Schwan Lohengrin(黄金化する白鳥の騎士)

 

 間に合わなかった。

 

 軍服の短金髪がカソックの長金髪を撃ち出すという、非常に不思議な光景が展開された。さながら黄金の槍の様に発射されたデュアルさんは、展開された障壁をティッシュかなにかの用に引き裂き突き進んでいく。

 

「くたばりなさい、化け物」

 

 そして、デュアルさんが両手を組んでハンマーの様に撃ち下ろした。それは鮫の鼻っ柱を打ち据え、残り僅かとなっていたシャークトゥルフのHPを0へと叩き落とした。

 

「あっ……」

 

 誰かのそんな呟きと共に、シャークトゥルフの名前表示とHPバーが消え去った。そして、ゆっくりとした動きでシャークトゥルフが水面に崩れ落ちた。

 振動と爆風、水飛沫が襲ってきたのを障壁で防ぎ、ヴォルケインに掴まって耐える。それが収まった時、倒れ伏したシャークトゥルフの上にデュアルさん(本体)が着地した。

 

「聖餐杯は壊れない、ですよ」

 

 髪の毛を掻き上げて言うその台詞は、悔しいがとても似合っている。というかこれ、ラストアタック取られたよね……ちくせう。そういえば、スレッドでのデュアルさんの名前『気持ち的にナイト』だったっけ。元ネタを考えれば、ある意味面目躍如か……

 

 ヴォルケインから落ちかけながら唸っていると、生き残っているプレイヤー全員の前に1枚のウィンドウが展開された。

 

 ====================

 【鎮魂の儀 Ⅴ】推奨レベル 50

 RAID BOSS

 【Sharcthulhu】撃破

 ラストアタック : デュアル

 【Charitas OktoShark】撃破

 ラストアタック : ハーシル

 【Shoggoth】封印

 

 以上の戦績を以って、第4の街ボス戦を終了と致します。

 

 現在死亡しているプレイヤーは、各々のリスポーンポイントに送還。同時に蘇生魔法のスキルを回収致しますことご了承下さい。生存しているプレイヤーは、これから1時間後の封鎖解除までの間、討伐したボスからアイテムを5回まで採取可能です。

 また、レイドボス討伐の経験値は、各自の貢献度を基礎値に加味しクエスト参加者全員に後日改めて配布致します。貢献度については、決してボスに与えたダメージで判断するものではないのでご安心下さい。

 

 また、本日0時から明日0時までの24時間、大規模メンテナンス及びアップデートを行います。当該時間中は本ゲームをプレイ出来ないことをご了承下さい。時間が延長される場合、公式HPにて連絡します。

 ====================

 

 メッセージが届いた数秒後、大きな歓声が轟いた。天上を覆っていた夜空も消え去り、差し込んで来た斜陽の光がプレイヤーを照らしたのだった。当初参戦していたメンバーの4割程が蘇生不可だったようだが、チャットに流れる惨憺たる報告を見る限りかなり生き残った様だ。

 

 というか、他のところのボスってそんな名前だったんだ。

 




デュアルの名前の通り二重RPでした

-追記-
(改・深)→そのまま正当進化
招き猫の幸運→1番高いステータスの影響
龍倖蛇僥→馬鹿みたいに高いステータスの影響

主人公が運任せに選んだスキルは完璧な造語です
龍は幸運とかも司る生き物
蛇も幸運を司る生き物
あと状況的に僥倖……(カイジ並感)な感じを全部入れたかったので、ひっくり返して分割して入れました。


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第72話 一方その頃④

高機動試験型ヅダFB(フルバーニアン)みたいな、操縦者の安全性とか完璧に無視した、馬鹿げた機体見てみたい。

あ、本日2回目です。0時にバレンタインSSを1話に投下しております。


 時はシャークトゥルフ討伐より少しだけ遡る。

 平原の防衛戦線でも、たった5人でのボス討伐が再開されようとしていた。

 

「じゃ、私は先行して速度を貯めるから少し宜しくな!」

 

 そう言うなり、全速で移動したレンの姿が風雷と共に掻き消える。宣言通り速度を上げながら、勝手にボスを掠める軌道で移動し出したレンにハーシルが頭を抱えた。

 

「誰やねん、こんな頭のおかしい奴寄越したんは。こんなのの手綱を握るなんて、無理ゲーに決まっとるやないか……」

「すみません……僕の、せいで」

「ええよええよ、あんたは何も悪くあらへん。悪いんは、悪いんはあのキチガイやから」

 

 そう言ってハーシルは、申し訳なさそうにしていたイオの頭をポンポンと優しく撫でた。疲労の影こそ抜けていないが、ハーシルのその陽気なニカッとした笑みは、イオを安心させるのに十分な働きをしていた。撫でられて頬を染めているが、少しは気が楽になった様だ。

 何処と無く立ち位置が逆な気がするが、あまり気にするものでもない。

 

「これは、そういう雰囲気と見て良いのでしょうか?」

「とりあえず、僕たちは準備だけしておきましょう。もしそうだとしたら、申し訳ないですし」

 

 アークとツヴェルフは、いつでも戦闘を再開できる準備を整えながら2人から距離をとった。その後たっぷり数秒も時間をかけて、ようやく4人が行動を再開した。

 

「イオはあの貧乳とうちらに回復とバフ! アークはあの鮫蛸に牽制がてら銃撃しといてくれ! ヴェルはうちと一緒にとっておきの準備して支援砲撃や!」

「とっておきとは?」

「もう銃弾も砲弾もないんやから、弩砲(バリスタ)に決まっとるやないか! 肥やしになってる武装、撃ち続けるで!」

「了解した」

 

 それからたった数秒で、傷だらけの地面に巨大な弩が固定された。そして大槍を始めとした武装が次々と射出されていく。

 

「俺たちも、負けてられないな!」

「そう、だね!」

 

 大天使専用装備の最後のバフが使用され、イオ本人からも多数のバフが5人に掛けられる。それにより火力と防御力が底上げされ、4人の援護射撃は確実にボスのHPを削っていく。

 

 最前線のシャークトゥルフと比べると、このオクトシャークはかなり弱いのだ。具体的には、十分な力を持った、所謂回避盾と呼ばれる戦闘スタイルのプレイヤーが1人いれば、このボスとは渡り合える。何せ行動が、鮫の群体である身体を使った肉弾戦と、対遠距離の鮫射出程度しかないのだから。

 例えば【すてら☆あーく】のセナがいたのなら、楽勝とまでは行かずとも容易に辛勝までは持っていくことが出来ただろう。だが悲しいかな、この場に集まった盾役は名前の通り大きな盾を担いだ者ばかりだった。で、あればこそ、前衛の敗北は必然であった。

 

「クソ平坦! 範囲攻撃行くから回避しいや!」

「否。配慮不要。命中不可能」

「はっ、言いよる。全員、放て!」

 

 バリスタから放たれた大槍が空中で分裂、無数の矢となってボスに降り注ぎ、括り付けられていた爆弾が炸裂する。

 

「《トライショット》!」

「《ホーリーレイ》!」

 

 弧を描く様な弾道の銃3連射がボスを穿ち、鋭い光の雨が魔法としてボスを射抜く。

 

「実行《(ピアス)》」

「BoAAAAA!?」

 

 それらの攻撃全てを掻い潜り、一陣の風がボスを貫いた。外皮は攻撃に焼かれ、内側から風と雷に焼かれボスが絶叫する。HPを0に落とすには至らないが、それでも削り続けていることは確実だった。

 

 そしてちょこまか動くレンをターゲットしたことで、先ほどのたらればが少々歪んだ形だが実現する。前衛の距離で暴れまわるレンに翻弄されオクトシャークは後衛にまで手が十分に届かず、しかしプレイヤー側の攻撃は一方的に届く。

 

「GURAAAAAA!」

「《ビッグシールド》《受け流し》!」

 

 何故か吠える遠距離鮫砲弾も、直衛として待機していたイオが盾で受け流して回避することができる。暴れまわるレンに攻撃は届かない。ここに、前衛が生存する限り続く、はめ殺しの様な状況が成立していた。

 

「◼️◼️◼️◼️◼️◼️ッ!!!」

「発狂来るで! 気いつけや!」

「認識済。忠告不要」

 

 それは、瀕死のボスが発狂モードになっても変わらない。発狂モードに入ったことによって行動全般が加速・強化されたオクトシャークだが、Agl換算5桁の最高速度に到達したレンに攻撃が届かない。

 さらに後方から、オクトシャークに安定した攻撃が降り注ぐ。システム的にヘイトが溜まりに溜まったレンからターゲットを移すことも出来ず、レンに引きつけられる。

 

 そして、順当に結末は訪れる。

 

「終幕宣言。累積解放(チャージバースト)。実行《(ストライク)》」

「とっておきを食らえダボが!」

「終わりです」

「《ショットランサー》!」

「《スナイプショット》!」

 

 超高速の風雷を纏った蹴撃が、

 攻城兵器級の二連装の大槍が、

 回転しながら飛翔する長槍が、

 ジグザグの弾道を描く銃撃が、

 

 殆ど同時に、残りHPが僅かだったオクトシャークに殺到した。そして呆気なく、オクトシャークのHPは0になった。何故か群体化は解除されず、一般的なボスの様に消え去ることもなくオクトシャークは倒れ伏した。

 

「だー、つっかれた。もうこんな戦いやりとうないわ」

「同意です。私たち生産職は、前線に出て戦うべきではありません」

 

 疲れ切ったと言わんばかりに、弩砲にハーシルとツヴェルフがもたれかかる。それによって、どことは言わないが2人の豊満な部分がむにゅんと変形する。

 

「チッ」

 

 その光景を見、自分と見比べてレンが思いっきり舌打ちをした。しかしすぐに切り替えて、同様に互いに寄りかかり背中合わせに座っているイオとアークの元に歩いて行った。

 

「お疲れさん。回復とかバフ、ありがとな」

「いえ、僕に出来るのはそれくらいですから」

「援護射撃もな」

「僕のレベルで助けになれたなら幸いです」

 

 HPを削りながら笑顔で2人とハイタッチし、無言で嫌々ながらもう2人ともハイタッチする。

 

「にしても、他のところはどうなってんだろうな」

 

 勝利を告げるウィンドウが現れたのは、その数分後のことだった。

 

 

 一方、街で行われていた対ショゴスの戦闘は最も地味に、簡単に決着がついた。

 

「他愛なし」

 

 ショゴスといえば、倒す方法は封印。

 封印といえば、神楽舞。

 神楽舞ならダンスでも平気だろという、少々おかしな理論によって実行された封印作戦。それは、予想を上回る効果を発揮していた。

 

 特設空中ステージ(糸)の上でダンスを踊りきり、ザイードにより魔法としての封印が発動される。生き残っているプレイヤーの総攻撃を受け止め移動が出来ないでいるショゴスに、虚空から射出された銀の鎖が絡み付いていく。

 

 魔法発動封印。スキル発動封印。移動封印。三重で発動された魔法により、ショゴスに3つの状態異常が追加される。効果時間は60秒と長めで、それにより行動の大半が封印される。

 

「テケリ・リ!」

 

 しかし、それでも諦めないとばかりに巨大な触手がハンマーの様に振り下ろされる。そして不幸なことに、今この街中というマップに18歳以下のプレイヤーは存在していない。故に、普段は削除されている多少グロい表現が解禁されていた。

 

 触手ハンマーが直撃したプレイヤーは、盾ごとその粘液の中に取り込まれた。そして消化の為か少し透けた触手内部で、段々と溶けて消化されていく光景を数人のプレイヤーが目撃してしまった。早回しで身体が溶け、骨になって分解されていく光景は、ラインギリギリを攻めていた。

 

「うっ……おぇ」

「マジかよ……」

 

 その表現はあくまでCERO : C〜D、SAN値チェックでも0/1d3相当。しかしそれでも、突如目の前で見せつけられた惨劇にプレイヤーの動きが乱れた。そして、それはボスの付け入る格好の隙になる。

 

「あっ──」

「させません」

 

 再度振り下ろされる触手、そこに拳大の浮遊するパーツが割り込んだ。それはZFの操る特殊装備の一部、これ以上数を減らさせてたまるかと壁になったそれは確かな防御力を以って触手を弾いた。

 しかし完全に防ぐことは出来ず、ZFに触手の一部が直撃した。オウムガイ型の特殊装備が弾き飛ばされ、回転しながらギリギリ残っていた建物の残骸に衝突する。その際顔を覆っていたバイザーが砕け、片眼だけが露出する。

 

「終わらせはしません」

 

 その青い瞳がショゴスを居抜き、数多の魔法がショゴスに殺到する。移動したことによりバフが解除され火力は下がったが、それでも一線級のプレイヤー。周囲のプレイヤー数人分の火力でショゴスを押し留める。

 

「まだまだ行きますぞ」

 

 追加で鎖が射出され、新たに状態異常が追加される。物理攻撃封印。特殊攻撃封印。計5つの封印を付けられ、さあ後はダンジョンである街下に叩き落とすのみとなった時のことだった。

 

 ジャラリ、と黒く禍々しい鎖がショゴスに巻きついた。

 

 ZFがザイードの方を振り向くが、ふるふると横に首が振られた。

 

「ならば、これは一体誰が……」

 

 参戦しているプレイヤーの誰もがそう思う中、鎖の数は際限なく増殖していく。そうして鎖で雁字搦めにされたショゴスは地面から引き剥がされ、いつのまにか出現した街の廃材で組み上がった棺桶の様な箱に吸い込まれていった。

 そして棺桶は、重力に従って下へ下へ落ちていく。そして、今まで表示されていたショゴスの名前とHPバーが消滅する。

 

 3体のレイドボスの中で、最もあっけない終わりだった。

 

「「「おおおぉぉぉぉ!!」」」

 

 暫しの静寂の後勝利を告げるウィンドウが現れ、歓声が上がった。しかし、記されていた文字を読んでいくたびその歓声は静まっていく。

 

「ちょっと待て……俺たち、ここからどう脱出すればいいんだ?」

 

 誰かが呟いたそんな言葉から、ざわつきが広がっていく。そう、現状この第4の街跡は、ユキの爆破によって完全な陸の孤島となっている。今ここから脱出出来るプレイヤーは、ZFとザイードの2人くらいしかいなかった。

 

 そんな時、低くくぐもったズズンという音が響いた。

 

 すわユキの爆破かと身構えた大半のプレイヤーの予想を裏切り、起こったのは街の外周の土砂崩れだった。それにより沼地が決壊、水と土砂、木や人工的な石畳などがダンジョンの上になだれ込む。

 

 そうして完成したのは、浮遊物が大量にある底なし沼。正確には底はダンジョンなのだが、あまり関係はないだろう。この運営の自棄っぱちの計らいにより、脱出路は確保されたのだった。

 

 余談だが、この運営の自棄がメンテ時間延長を呼んだことをここに記しておく。

 




被害状況
シャークトゥルフ戦
約60%生存
オクトシャーク戦
99%死亡
ショゴス戦
約20%生存(発狂中含む)

……オクトシャーク戦だけ一般プレイヤーが楽しめなかったことが判明。


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第73話 決着の後は

日本人と違って外国の人って、平均体温が1℃くらい高いらしいですね。


 戦闘が終了したことにより、【ドリームキャッチャー】で引き受けていたものを含め、大量のデバフが消滅した。これなら大丈夫だろうと、つららさんとれーちゃんに続いてランさんの肩から飛び降りる。

 

「《障壁》」

 

 無論そのままではダメージを受けるのは必至なので、一旦障壁を挟んで水面に着地した。うん、まだ水面に立つことは出来るらしい。

 

「やったねユキくん! 勝っ……とと」

 

 凄い勢いで戻ってきたセナが、ハイタッチのポーズのまま目の前で急停止した。バランスを崩したセナを、抱きしめて受け止める。

 

「あれ、ユキくん、砕けない?」

「まあ、戦闘が終わったからデバフ解除されたしね」

 

 安心したようにセナが力を抜いてもたれ掛かってきた。後は銃剣を仕舞ってくれれば、俺としては安心できるんだけどなぁ……

 

「リアルと違って、そんなに支えられないから立って立って」

「しょうがないにゃあ」

 

 だらーんとしているセナを(無理して)持ち上げしゃんとさせていると、なんだか妙にソワソワしている藜さんの姿が目に入った。セナがちゃんと立っていることを確認し、そちらに向けあるいていく。

 

「えいっ!」

 

 ハイタッチしようポーズだった俺に、意を決したように藜さんが飛びついてきた。正確には抱きつこうとする動きだったのだが、貧弱ステータスで耐えきれず倒れてしまった。おぅふ、残りHP5%……

 

「あぅ、ごめん、なさい?」

「いえ、支えきれなかった俺も悪いですし」

 

 必然的に押し倒される形になり、物理的な距離が極めて接近した。そのせいで熱くなった頬を冷ますために、取り出したHP回復ポーションを頭にドバドバとかける。キンキンに冷えてて気持ち良い……

 

「ラブコメ禁止!」

「むぅ」

 

 そうしているうちにセナが藜さんを退かし、色々な意味での危機を脱することができた。水滴を払って立ち上がると、片腕でれーちゃんを抱っこしたランさんがいた。いつのまにか、特殊装備(ヴォルケイン)は解除され生身になっている。

 

「お疲れ様、だな」

「ええ、本当に。ヴォルケイン、見事でした」

「お前の障壁もな。正直人外だろ」

「ははは」

 

 拳を合わせて笑い合い、人外発言は誤魔化しておく。ぶっちゃけシャークトゥルフに負けてたから、誇れるようなものでもないしね。

 

「ん」

「れーちゃんもありがとう」

 

 普段とは逆に、れーちゃんに頭を撫でられた。思った以上に擽ったいんだね、頭撫でられるのって。でも、悪い気分はしない。ランさんの射殺さんばかりの視線を除けば。

 

「それで、素材の採取ってどうすれば良いんですかね?」

 

 つららさんが、ランさんと手を繋ぎながらそんなことを言った。ぽわぽわとした幸せの波動が、溢れんばかりに伝わってくる。こういうのを見ると彼女は羨ましくなるけど……まあ、うん。俺の場合は、ね。

 

「某狩りゲーみたいに、ナイフか何かで剥ぎ取るんじゃないか?」

「ん!」

「でもランにれーちゃん、それじゃあ入手できる素材に問題が起きない? 一部がいいとこ取りとか」

「んー、私はもっと簡単に、特定の行動をしたらランダムで取得だと思うなー。ユキくんは?」

「ランさんとセナの意見を合わせた感じかな。剥ぎ取ってランダム取得」

「私は、触れたらランダム、かなって、思い、ます」

 

 そんなことを話していると、ワァと歓声が上がった。どうやら、素材の採取に成功した人が現れたらしい。プレイヤーが群がるシャークトゥルフに近づき話を聞いてみれば、何かしらの手段で剥ぎ取るとアイテム取得になるらしい。ランダム性はわからないとのこと。

 

「みんな剥ぎ取るぞー!」

「「「おー!」」」

「ん!」

 

 意気揚々と突撃して行ったセナ達はいいとして、俺のステータスじゃ人混みに揉まれただけで死にかねない。であれば、目指す場所は1つだ。

 

「《障壁》」

 

 いつぞやのロブスター戦の時の如く、障壁で階段を生み出しシャークトゥルフの背に登っていく。流石にここまで登ってくる酔狂は殆どいない様で、殆ど人は居らず安全に作業が出来そうだ。

 

「さて」

 

 下で聞いた通りなら、何らかの手段でシャークトゥルフから剥ぎ取りをするとアイテムを取得できるらしい。例となるものを見てないから何とも言えないけど、とりあえず切除すれば何とかなるだろう。そう思って《三日月》で切り取り採取した瞬間のことだった。

 

「えぇ……」

 

 キュイーンという謎の音と閃光が発生し、切り取った肉片が別のアイテムに変化していた。見た目は、子供の頭ほどの大きさのある球形のアメジスト塊。しかし、内側に宇宙が見える。奇妙な星辰の並びが入り乱れる宇宙だ。煌めく宇宙と奥から溢れ出る漆黒の光は、こちらを奥に奥に引きずり込む様な魅力を放っている。

 

「明らかにアウト案件じゃんこれ」

 

 念のため確認して見たSANの値は、1減少して37になっていた。アイテム名は【特級邪神の神核】、これ明らかにダメなアイテムだわ。レア度は最高級なんだろうけど。

 

 2回目の剥ぎ取りも【特級邪神の神核】

 

 3回目、4回目、5回目も【特級邪神の神核】だった。おいちょっと待て。なんで某狩ゲーで例えるなら、〜〜の碧玉とかに相当するだろうアイテムがこんなにポンポン出てくるのさ。

 そのあんまりな結果に頭を抱えていると、聞き覚えのある声が耳に入ってきた。

 

「きゃっ」

「ん」

 

 振り返って見てみれば、れーちゃんと翡翠さんがぶつかって尻餅をついていた。

 

「大丈夫ですか?」

「ん!」

「ん。ん?」

「ん?」

「ん」

「ん?」

「ん。ん?」

「ん?」

「ん」

「「ん!」」

 

 そして、まさかの「ん」1文字だけで意気投合していた。まさかれーちゃんと初見で会話できるなんて……流石極振りの先輩だ。

 

「なあユキ、あれ何がどうなったのか分かるか?」

「ザイルさん。まあ、一応は分かりますよ」

 

 どこか遠い目をしたザイルさんがそんな事を聞いてきたが、れーちゃんの言葉をランさんの次くらいに読み取れる俺には、ある程度は容易い事だ。

 

「最初に翡翠さんが『大丈夫ですか』って聞いて、れーちゃんが『大丈夫』って感じで答えました。ここまではまあ、分かりますよね」

「それくらいならな」

「その後翡翠さんが『それなら良かったです。ところで、私はこのボスをどう食べればいいのでしょう?』と言って、料理……いや、この場合は『お刺身とか?』ってニュアンスでれーちゃんが答えました」

 

 ここのれーちゃんの答えにはちょっと自信がない。多分ランさんなら完璧に訳せたんだろうけど。

 

「それで翡翠さんが『それはさっき食べました。お醤油が欲しかったですね。美味しかったです』って答えて、『食べてみたいかも?』ってれーちゃんが答えて、翡翠さんが『それはいいですね。一緒に食べましょう。ところでどう食べればいいのでしょう?』、れーちゃんが『私のギルドに来てくれたら料理するよ?』、翡翠さんが『それじゃあお邪魔しますね』って答えて、意気投合してました」

「悔しいが、殆ど正解だな」

 

 いつのまにか背後に立っていたランさんが、感心する様に言った。良かった、一応ちゃんと訳せてたらしい。

 

「なんでお前ら、あれだけからそこまで分かるんだよ……変態か」

 

 ホッとする俺と仁王立ちのランさんを見て、ザイルさんがドン引きしていた。心外な。俺は普段よく話してるからだし、ランさんは兄だからに決まってるじゃないか。

 

「ん!」

「ん」

 

 半保護者側がそんな事をしている間に、れーちゃんと翡翠さんは更に仲良くなっていた。何か通じるものがあったのだろう。お互いやっぱり「ん」の一音だけだが、今では手と手を繋いで歩いている。非常に優しい光景だ。

 

「まさか、正気で翡翠と親しくなれる奴がいるとはな……」

「うちの自慢の妹だ」

「あー、ちょっといいですか?」

 

 れーちゃんたちが歩いていくのを感動するように見ている2人に話しかけた。お願いするなら今しかないだろうしね。

 

「なんだ?」

「2人って、剥ぎ取ったアイテムどんな感じでした?」

「鮫肌、目、翼、鱗、粘液だったぞ」

「フカヒレ、爪、尾、翼、鱗だな」

 

 前者がランさん、後者がザイルさんだ。案の定、あの神核なるアイテムは最高レア度のものだったらしい。そう確信して、無駄に手持ちにある神核の1つを取り出した。

 

「多分これ最高レアのドロップ品なんですけど、フカヒレと交換してもらうのって出来ますか?」

「ッ、お前! そう易々とそんなもの──」

「剥ぎ取ったら全部これだったので」

「あ、うん。なんかごめんな」

 

 同じ極振りだからか、一瞬でこちらの心境を察してくれたようだ。多分これは、極振りした人たち共通の悩みだろう。方向性は違うだろうけど。

 ランさんは笑顔のれーちゃんに見惚れている。多分スクショが連射されているだろう。

 

「だが、本当にいいのか? 5つしかないうちの1つだろう?」

「ええ、別に。だって、多分これを使った改造を頼むことになりますから。先行投資的な感じですよ」

「ふ、了解だ」

 

 固く握手を交わして、トレードが成立する。予約も取り付けられたし、これはいい交渉だった。トレードしたアイテム名は【特級邪神の背ビレ】、素材にするとしても食べるとしても良い物だろう。

 

「ん」

「ん!」

 

 そんなことを話しているうちに、仲良く散歩していたれーちゃんたちが帰ってきた。そして手を振って、それぞれの保護者的な立場の2人の元に戻ってきた。

 

「ん」

「ああ、分かってる」

 

 れーちゃんが両手を広げランさんに抱っこをせがみ、片腕で抱き上げられていた。向こうはどうかと見ていれば、もぎゅもぎゅと口を動かす翡翠さんをザイルさんが手を繋いで引っ張っていた。うん、平和そうで何より。

 

「帰りますか」

「ん」

「そうだな」

 

 途中数回着地しながらランさんは降りて行ったが、俺がそれをやったら死ぬのでまた障壁で階段を生み出し降りて行く。死なない為にやってることなんだから、『うわ、爆破卿がラスボスムーブしてやがる。逃げろ』とか言わないで欲しい。爆破するぞおめー。

 

「そういえば、お前幸運値どれくらいになったんだ?」

 

 水面に降り立った時、ふとランさんがそんなことを聞いてきた。そういえば、最後変化したスキルで少し上がったんだったっけ。

 

「えーと、5124ですね」

「他はどうなんだ?」

「最低3、最高が57ですね」

「頭おかしいステータスしてるな」

 

 否定はしない。けど確かアキさんのStrは9000超えてる筈だし、にゃしぃさんに至っては万に届いていたはずだ。それに比べると、俺なんてまだまだである。それに、

 

「そんなこと言うなら、ここでヴォルケインを完全再現しようとしてるランさんだって十分アレですよ」

「そうか? 好きなものを再現しようとするのは普通だろう」

「ですね。だから極振りの人たちも、自分がやりたいRPしてるんでしょうし」

「正気を疑うがな」

 

 そんなことを話している間に、人混みの中からセナたちが生還してきた。そしてそのまま俺たちは移動して【Charitas OktoShark】の素材も採取して、そのままメンテナンス兼アップデートと相成った。

 

 因みに、そっちの素材も【ヌークリア・シャークコア】なる最高レア度のアイテム5個であった。解せぬ。

 



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登場人物紹介

キャラ多いから欲しいってリクエストあったので投稿。
ステータス乗せたせいでごっちゃごちゃだけど許して。ユキだけ逆なのは仕様です(面倒だから修正してない)



==============================

 Name : ユキ

 称号 : 爆破卿 ▽

 Lv 48

 HP 2400/2400

 MP 4750/2375(4750)

 SAN 37/99

 Str : 0(20) Dex : 0(10)

 Vit : 0(3) Agl : 0(10)

 Int : 0(57)Luk : 670(5124)

 Min :0(35)

 

《スキル》

【幸運強化(大)】【長杖術(大)】

【愚者の幸運】【豪運】

【レンジャー】

 多数のスキルが複合されたスキル

 気配感知・騎乗・水泳・料理・クラフト系スキルを最大65%の性能で発揮することができる

 サバイバルと同様、振り分け設定はプレイヤーに依存する

 潜伏が可能になる

 狙撃が可能になる

 固定ダメージがかなり上昇する

【ドリームキャッチャー】

 AS

 自身の組んでいるPTメンバーの弱体効果を全て吸収する

 Luk上昇 5% ×(吸収した弱体効果の数)

 戦闘中一回まで発動可能

 効果時間 : 戦闘終了まで

【龍倖蛇僥】

 PS/AS

 Luk +20%

 空間認識能力

 MPを消費して、掌大の障壁を発生させる(発生可能最大数はプレイヤーに依存する)

【高等儀式紋章】

・紋章術

・儀式魔法

・歌唱

【魔力の泉】

 溢れ出る魔力の泉、その代償は己の命

 PS/AS

①MPを100%余分にチャージ可能になる

 Str -65% Vit -65%

②MPが100%以上の場合

 Int +20% Min +20%

③毎秒自身のHPを1%消費しMPを1.5%ずつ回復する。途中停止不可。この効果でもHPは0になる

 冷却時間 : 10秒 効果時間 : 30秒

④消費MPを15%減少する

【ノックバック強化(大)】

 -控え-

【抜刀術(極)】【常世ノ呪イ】

 

《武器》

【錫杖《三日月》】

 Str +46  Min +20

 Int +47

 属性 : 光

 状態異常 : 拘束

 射程延長

 耐久値 500/500

【杖刀《偃月》】(非適応)

《納刀中》

 Str +5 Min +56

 Int +30 

《抜刀中》

 Str +10 Dex +30

 Agl +30

 属性 : 無

 抜刀時ダメージボーナス(所持者のステータスの最高値)

 展開装甲 抜刀補助

 耐久値 300/300

【銃杖《新月》】(非適応)

 Str +47 Dex +23

 Min +15

 属性 : 無

 口径 : 20mm(ダメージボーナス200)

 装弾数 : 10

 命中率強化

 耐久値 370/370

【浮遊魔導書 拾壱式】

 Int +10 Str +10

 Min +10 Luk +10%

 魔導書数 11冊

 天候変化 : 嵐天・猛吹雪・砂嵐・濃霧・火山・高山

 障壁強化 : 固定値上昇

 紋章強化 : 消費MP軽減・展開高速化

 狂気付与

 神話呪文習得

 耐久値 1,576/1,576

 

《防具》

【トリニティコート改】

 Vit +25

 Min +15

 全天候ダメージ無効

 全環境適応

 ステルス

 耐久値 650/650

【トリニティブーツ】

 Vit +10

 Agl +10

 全地形ダメージ無効

 特殊地形効果無効

 耐久値 500/500

【トリニティパンツ】

 Vit +5

 Min +5

 状態異常耐性上昇

 簡易ポーチ(5枠×2)

 耐久値 500/500

【トリニティグローブ】

 Vit +5

 Dex +10

 弱体耐性上昇

 落下ダメージ軽減

 耐久値 500/500

【メガネリオン】

 Vit -30% Min -30%

 Luk +50%

 命中補正(中)

 耐久値 500/500

 

《アクセサリー》

【ウロボロスの脱け殻 ×10】

 Luk +50%

 Min +30

 

《特殊装備》

【無尽火薬】

 無尽蔵の火薬

 収束爆弾(3/3)

 集約爆弾(3/3)

 耐久値 : なし

==============================

 

 この作品の主人公であるキチガイ。もとい、見た目はそこまで特徴のない黒髪黒目のプレイヤー。純正極振りの1人。その実態は、作者が気紛れに爆弾を持たせた結果キチガイと化した爆破卿。どうしてこうなった。毎日一本ビルを爆破するのが日課らしい。そしてちゃっかり、ゲーム内与ダメランキング2位のプレイヤーだったりもする。が、プレイヤーのデコピン1発で死ぬ。一番最初の敵であるウサギの体当たりなら40回くらい受けても死なない。

 

 Lukにステータスを極振りしたお陰で、代用ロールで大概失敗はしないが十分にできもしない器用貧乏(※高笑いしながらバイクに乗って爆弾をばら撒く者を指す)となっている。ヘタレ鋼メンタル。

 

==============================

 Name : セナ

 称号 : 舞姫▽

 Lv 64

 HP 3250/3536

 MP 3200/3304

 Str : 160(567) Dex : 100(258)

 Vit : 60(255) Agl : 250(1204)

 Int : 20(20)Luk : 100(150)

 Min : 60(132)

 

《武器》両手銃剣

【サウダーデ/ドミンゴ】

 Str +200 Agl +150

 Dex +106 Luk +50

 属性 : 聖/無

 口径 : 14mm(ダメージボーナス140)

 装弾数 : 40/40

 弾種変更《実弾⇔ビーム》

 自動耐久値回復

 電磁シールド

 回避率上昇45%

 耐久値 1,000/1,000

 

《防具》

 頭 回避性能強化 Agl +38

 体 Vit +60 Min +40 Agl +53(軽鎧)

 手 Vit +46 Dex +52 Agl +30(軽鎧)

 足 Vit +48 Min +32 Agl +45(軽鎧)

 靴 Vit +41 Agl +52(軽鎧)

 

《アクセ》

・射程延長

・回避性能強化

・回避性能強化

・スキル威力上昇

・スキル威力上昇

・クリティカル威力上昇

・クリティカル威力上昇

・クリティカル威力上昇

・被ダメ軽減マント

【賢狼のペンダント】

 与ダメージ +5%

 被状態異常確率 -10%

 

《スキル》

【敏捷強化(大)】【ガン・カタ】

【筋力強化(大)】

【暗殺者の心得】

 ①潜伏

 ②潜伏中クリティカル威力上昇25%

 ③暗殺者の技が使用可能

【鳳蝶】

 PS/AS

 回避率+30%

 ジャスト回避時、相手に確率で幻惑を付与

 自身のヘイト値を上昇させる

 消費MP : 10

 冷却時間 : 10秒

【遁甲】

 PS/AS

 Agl +10%

 自身のヘイト値を減少させる

 消費MP10

 冷却時間 : 10秒

【空蝉】

 PS

 戦闘中3回まで発動可能

 MPを100消費し、ダメージを回避する

【陽炎】

 AS

 消費MP50

 発動中自身の回避率+50%

 射撃・魔法の場合さらに+10%

 効果時間 : 30秒

 冷却時間 : 1分

【薄刃蜻蛉】

 AS/PS

 ①反応速度上昇

 ②MPを消費して、空中歩行可能

 ③ジャスト回避した回数×3%全ステ上昇

  上限150%(戦闘終了まで)

【銀閃】

 ①Agl ×1.5倍

 ②Str ×1.5倍

 ③回避率 +20%

 ④ジャスト回避した回数全ステ+5%

  上限200%(戦闘終了まで)

 ⑤空間認識能力

 -控え-

 色々

==============================

 

 一応メインヒロイン予定のロリぃ女の子。ユキのリアル幼馴染。ギルド【すてら☆あーく】マスター。ゲーム内では銀髪碧眼。ユキをこのゲームに誘った張本人。幼馴染を自分のギルドに取り込めたし万々歳……の、筈だった。今はなんかもう手がつけられないとの談。一緒にハメを外してヒャッハーしてる姿がごく稀に目撃される。一応トッププレイヤー……の、筈だった。色々と思い通りには進まず、多少いじけている。その為、お泊りデートの計画を練っているらしい。

 

==============================

 Name : 藜

 称号 : 黒染▽

 Lv 52

 HP 2650/3232

 MP 2600/2684

 Str : 200(1008)Dex : 100(130)

 Vit : 25(279)Agl : 200(1032)

 Int : 10(28) Luk : 120(141)

 Min : 55(114)

 

《武器》

【死棘の烈槍《有限(ファイアフライ)》】

 Str +180 Agl +45

 Dex +20 Vit +30

 属性 : 闇・爆破

 装弾数 50/50

 極めて低確率で即死効果

【ソードライフルビット】

 Str +100 Agl +50

 Dex +10 Vit +15

 属性 : なし

 ビット数 6

 透明化(刀身)

 

《防具》

【黒染の耳飾り】

 Int +18 Luk +15

 Agl +29

 回避率 +5%

【黒染の軽鎧】

 Vit +61 Agl +36

 Min +59

 回避率 +5%

【黒染の籠手】

 Vit +46 Str +5%

 Agl +37

 回避率 +5%

【黒染の袴装束】

 Vit +49

 Agl +32

 回避率 +5%

 移動速度上昇 15%

【黒染の靴】

 Vit +40

 Agl +46

 回避率 +5%

 移動速度上昇 15%

※装備ボーナス

 通常エンカウント率低下

 レアエンカウント率上昇

 通常mobへの攻撃に、極低確率で即死効果

 

《アクセサリー》

【旋風の護符】

 Agl +35

 風・土属性耐性 -10%

【会心の証】×4

 クリティカル威力上昇 20%

【波濤の牙】

 クリティカル威力上昇 15%

【短縮の護符】×3

 詠唱時間短縮 15%

【太陽の指輪】

 天候変化 : 快晴

 

《スキル》

【移動速度上昇(大)】

【回避性能強化(大)】

【会心威力上昇(極)】

【旋風槍(大)】【投擲】

【金剛力】

【韋駄天】

【空間認識能力】

【天元(小)】

 クリティカル威力上昇 50%

 攻撃のヒット数を倍化、ヒットあたりの威力は減少する

 消費MP 100

 効果時間 45秒

 冷却時間1分

【戦闘本能】

 ①Str +25%・Vit +5%・Agl +25%・Luk +5%

 ②1.3%/30sリジェネ

 -控え-

 粗鍛治 制作技能

==============================

 

 突如現れたメインヒロインかもしれない。紫がかった銀髪にハイライトのない紫眼の女の子。第2回イベントの時ユキと遭遇し、なんやかんやあって合流した。セナとは時々対立するが、基本的には悪い関係ではない模様。度々ユキを連れて狩場に行く姿が目撃されている。なんでも言うことを聞かせられる権限は、まだ取っておくつもりらしい。実はリクエスト頂いたキャラクター。

 

==============================

 Name : れー

 称号 : 呪術師

 Lv 49

==============================

 

 ダイスの女神様が決めたダイスを振って新キャラとして決めたら、なんか色々とクリティカルにストライクした女の子。黒髪黒目無口系ロリ。ヒロインレースに乗ることは決してない(断言)

 ユキがギルドに加入してからレア素材とお金が使い放題も同然になった為、ユキのことはlike的な意味で結構好きらしい。装備はダンタリアンの書架のダリアンのような感じ。ステータスは割愛。

 

==============================

 Name :つらら

 称号 : 氷結▽

 Lv 49

==============================

 

 最近ユキにサブマスとしての仕事を掻っ攫われているせいで、存分に彼氏とイチャイチャしているギルドのサブマスター。群青の髪をサイドテールにした薄緑目の女性。時折セナや藜からの相談に乗ってたりするらしい。ランの彼女。

 見た目イメージは、メルストのステラとアズレンのポートランドを足して2で割った感じ。ステータスは割愛。

 

==============================

 Name : ラン

 称号 : 鬼いちゃん▽

 Lv 51

==============================

 

 れーちゃんの鬼いちゃん。れーに手を出す不届き者は殺すの精神で、画面の向こうをロックオンして今日も銃弾を撃つ優しい兄。ブラコン気質なのは許してほしい。つららの彼氏。

 見た目も装備もガン×ソードのレイそのもの。RPとまでは言わないが、ヴォルケインやジングウまで再現する気合の入りよう。ステータスは割愛。特殊装備であるヴォルケインの稼働時間は15分。

 

==============================

 Name : アキ

 称号 : 裁断者 ▽

 Lv 62

 HP 3,150/4,201

 MP 3,100/3,101

 Str : 809(8982) Dex : 0(150)

 Vit : 0(17) Agl : 0(340)

 Int : 1(1)Luk : 0(0)

 Min :0(0)

《スキル》

【筋力強化(大)】【抜刀術(極)】

【愚者の筋力】【金剛力】

【肉斬骨達】Str+20%与ダメ+500

      被ダメ+50% Vit・Min -50%

【狂笑の斬撃】30s 与ダメ+50%

       被クリティカル率100%

【英雄の意思】HPが10%未満時 Str +30%

       確率でHP1で攻撃を耐える

【抜刀納刀速度上昇(大)】

【特化紋章術】【空間認識能力】

 

《武器》

【装刀オリハルコン】(ユニーク装備)

 All ーー(+100)

 属性 : ーー

 状態異常 : ーー

 抜刀・納刀速度上昇

 刀剣装填

 復活(1回/HP1)

 耐久値 : なし

【蛇腹刀 アマツ】(装填中 : 能力適応)

 Str +150 Agl +50

 Dex +50

 属性 : 風

 状態異常 : なし

 射程延長

 思考操作

 耐久値 450/450

【雨呼】(装填中 : 能力適応)

 Str +120 Agl +90

 属性 : なし

 状態異常 : 防御力低下

 空間把握能力補佐

 武器破壊確率上昇

 耐久値 300/300

【硝子刀】その他適応外

 Str +250

 属性 : なし

 状態異常 : なし

 耐久値 1/1

 

《防具》

 頭【耳飾】Str +5%

 体【軍服上衣】Vit +10 Str +20

  全天候ダメージ無効

  全環境適応

 手【手袋】Vit +6 Str +7%

 足【軍服下衣】Vit +8 Str +10

 靴【軍靴】Vit +9 Str +10

 アクセサリ【コート+ベルト+飾り】

 Str +50% Min-20%

==============================

【特化紋章術】

 同時発動できる術は1つまで。基礎ステータスのバフデバフ紋章の効果にメリットとデメリットを付与し、改造することができる。

 

・特化付与 : 閃光

 属性付与 : 光・獄毒

 詠唱時間 : 60秒

 効果時間 : 戦闘終了まで

 

 改造効果

《メリット》

 物理攻撃威力上昇2000%

 自身のHPが少ないほどクリティカル威力上昇(最大100%)

 自身のHPが少ないほど基礎Str上昇(最大100%)

 クリティカル発生率上昇

 特殊効果でのHP全損無効

《デメリット》

 HPスリップダメージ発生(1000/1s)

 Vit・Min低下100%

 発動中武器以外のスキル封印

 武装耐久値減少 200%

 痛覚減少深度低下 Lv3(最大10)

(Lv3 = ダメージ発生時殴られてもプラシーボレベルでしか痛くなかったのが、タンスの角に足の小指をぶつけたくらいの痛さに変更)プレイヤーが操作可能な範囲は5まで

 

・特化付与 : 風伯

 属性付与 : 風・雷

 詠唱時間 : 60秒

 効果時間 : 戦闘終了まで

 

 改造効果

《メリット》

 攻撃範囲拡大(大)

 物理攻撃威力上昇 100%

 物理攻撃の3割を魔法ダメージとして追加

《デメリット》

 HPスリップダメージ発生(500/1s)

 防御力低下 50%

 発動後スキル封印 60秒

 痛覚減少深度低下 Lv3

==============================

 

 キチガイその1。筋力に何もかもを振り切った馬鹿。ゲーム内最高ダメージの記録保持者。とりあえず、殴って、殺す。全力攻撃はマップが割れるくらい。愚者の筋力スキルは、スキルを色々合成釜でちゃんぽんしてたら偶然発生した。ギルド【極天】のマスターだが、じゃんけんで決まっただけなのでお飾り。

 RP元は分かりやすくシルヴァリオの総統閣下。だからか、困難にぶち当たってもクソ眼鏡のセリフを引用して突破する精神性を獲得してしまった。が、日常時はOVAの如くだらけきっている。

 

==============================

 Name : センタ

 称号 : 蛮族 ▽

 Lv 70

 HP 3550/4694

 MP 3500/3506

 Str : 880(3646) Dex : 0(40)

 Vit : 0(10) Agl : 5(108)

 Int : 5(25) Luk : 0(0)

 Min : 0(0)

 

《スキル》

【ケルト式槍術】【ルーン魔術】

【筋力強化(大)】【金剛力】

【敏捷強化(大)】【韋駄天】

【フライハイ】

 ジャンプ移動に限り、Strによる補正を3倍にする。その際の落下ダメージは、素のStr/100%分軽減される

【自己再生】

 20s/1.5%リジェネ

【偽りの不死身】

 確率でHP1で攻撃を耐える

【空間認識能力】

 

《武器》

【偽槍・グリード】

 Str +190 Agl +45

 Dex +20 

 属性 : 闇・水・地

 極めて低確率で即死効果

 HPが多いほどStr上昇(最大200%)

 HPが多いほどクリティカル威力上昇(最大200%)

 耐久値 200/200

【ドルイドウォッチ】

 Int +20 Dex +10

 魔法発動成功率上昇

 耐久値 200/200

 

《防具》

 頭【耳飾】Str +5%

 体【青タイツ】Vit +10 Str +25

  全天候ダメージ無効

  全環境適応

 手【腕輪】Dex +5 Str +8%

 足【ベルト】Dex +5 Str +7%

 靴【鉄履】Agl +10 Str +10

 アクセサリ【飾り】Str +50%

==============================

 

 キチガイその2。その1よりもマイルドなキチガイ。色々なステータスに割り振ってるせいで、レベルの割にステータスは高くない。が、戦闘力は相応以上に高い。プレイヤースキルで避けて弾いてとりあえず殺す。火力はないが、ルーン由来の攻撃と補助は出来る。万能型の極振りで、現状レベルは全プレイヤー中トップ。

 RP元は分かりやすくFateのクー・フーリン。狗って言っても怒らない。

 

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 Name : デュアル

 称号 : 機動殻

 Lv 61

 HP 3100/4133

 MP 3050/3056

 Str : 0(8) Dex : 0(0)

 Vit : 795(6108) Agl : 0(10)

 Int : 0(0) Luk : 0(0)

 Min : 5(1971)

 

《スキル》

【頑強強化(大)】【大盾術(大)】

【精神強化(大)】

【対魔力】魔法被ダメ-20%

【城塞】物理被ダメ-20%

【聖杯《ホーリーグレイル》】

 ・Vit・Min ×1.5

 HP50%以下の場合Vit分のダメージボーナスを得、自身のVitとMinの値を同じにする

 ・発動時武器制限 素手

 ・発動時防具制限 服装備

【魔力防御】Vit・Min +20% Str・Int -20%

 AS 被ダメ-500(消費MP100毎+100)

 効果時間 : 60秒 クールタイム30秒

【陣地防御】Vit・Min +10%

 AS 範囲上昇 2m(消費MP100毎+1m)

 効果時間 : 30秒 クールタイム15秒

【強化外装性能上昇 防】

 特殊装備Vit・Min値上昇30%

【天罰覿面】

 発動時間内に受けきった攻撃を、物理魔法問わず反射する

 効果時間 : 30秒 クールタイム 50秒

 

《武器》

【無手】非有効化状態

 

【金剛石の壁盾】有効化状態

 Vit +200 Min +70

 属性 : なし

 被物理ダメージ軽減 15%

 被魔法ダメージ軽減10%

 ターゲット集中

 耐久値 2,000/2,000

【ミサイルシールド】

 Vit +150 Min +50

 属性 : なし

 弾数 : 20

 弾種 : 誘導弾

 自動装填

 射程延長

 ターゲット集中

 耐久値 1,500/1,500

 

《防具》非有効化状態

 頭【眼鏡】

 体【カソック】

 手【手袋】

 足【ズボン】

 靴【ブーツ】

 アクセサリ 特殊装備召喚装置

 

《特殊装備》有効化状態

 頭【機動兜】Vit +100 Min +100

   探知範囲強化

   全環境適応

 体【機動鎧】Vit +200 Min +150

   カウンター

   自傷攻撃1

 手【機動腕】Vit +105 Min +100 Str +10

   筋力累積

   自傷攻撃2

 足【機動脚】Vit +100 Min +100

   速度累積

   自傷攻撃3

 靴【機動脚】Vit +100 Min +100 Agl +10

   無限軌道

   自傷攻撃4

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 キチガイその3。見た目は村正の正宗! 中身はDiesの神父! とかいう二面性が酷いプレイヤー。特殊装備なので最大防御力は30分ほどしか維持できないが、その状態で防御を固めればアキの全力にも耐えられる触れ込み。また、防御範囲も街1つ分程はカバーできる。

 RP元は装甲悪鬼村正の正宗とDiesの白鳥YO。βテスト開始時は邪なる聖人RPをしていたが、βテスト終盤で特殊装備が出現した為二重襲名もとい二重RPを行うことになった。今回特殊装備が全損した為、作り直すまでは大人しくしているらしい。

 

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 Name : にゃしい

 称号 : 爆裂娘 ▽

 Lv 65

 HP 3250/3250

 MP 3225/4317+863+100(10560)

 Str : 0(0) Dex : 0(4)

 Vit : 0(1) Agl : 0(5)

 Int : 840(10412) Luk : 0(0)

 Min : 0(6)

 

《スキル》

【知能強化(大)】【魔力強化(大)】

【長杖術(大)】【愚者の頭脳】

【神通力】【火属性魔法】

【魔法威力強化(大)】

【コンセントレーション】

 AS 次回の魔法与ダメージ2倍

 詠唱 : 30秒(被ダメで中断)

 効果時間 : 60秒 クールタイム60秒

【アナザーサバイバル】

 空間認識能力・5種の能力

 Str -20% Int +20%

【マナの海】

①MPを100%余分にチャージ可能になる

 Str -65% Vit -65%

②MPが100%以上の場合

 Int +25% Min +25%

③消費MPを20%減少する

 

《武器》

【爆裂の杖《エクスプロードロッド》】

 All ーー(+100)

 属性 : ーー

 状態異常 : ーー

 魔法火力上昇 20%

 杖装填

 魔導書装填(0/10)

 魔力解放弾(1回/MP全消費)

 耐久値 : なし

【紅の魔杖】(装填中 : 能力適応)

 Int +200

 属性 : 炎

 魔法火力上昇 15%

 耐久値 320/320

【爆裂の魔導書】

 Int +50

 MP+100

 魔法火力上昇 50%

 耐久値 500/500

 

《防具》

 頭【魔女帽子】Int +5%

 体【クロクローク】Int +8% Min +5

   全天候ダメージ無効

   全環境適応

 手【厨二グローブ】Int +10 Dex +4

 足【ふわりスカート】Vit +2 Int +7%

 靴【冒険ブーツ】Agl+5 Int +10

 アクセサリ【飾り】Int +50%

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 キチガイその4。リアルRP紅魔族。爆裂大好きなヒャッハー勢。ユキが現れた辺りで、準極振りから真性極振りに転身したプレイヤー。やる気になればエリア1つ丸ごと焦土にできる。これから毎日森を焼こうぜぇ……という謎の心情から、毎日森を焼き討ちしている。サーバーに微妙に負荷をかけている為、運営から数回苦情が来ている模様。

 知っての通りRP元はこのすばのめぐみん。が、特にRPを意識してやっているわけでもない為、ストレスフリーで爆裂ライフを過ごしている。

 

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 Name : レン

 称号 : 疾風 ▽

 Lv 60

 HP 2950/3050

 MP 2950/3001

 Str : 0(0) Dex : 0(20)

 Vit : 0(20) Agl : 789(3696)

 Int : 1(1) Luk : 0(0)

 Min : 0(0)

 

《スキル》

【敏捷強化(大)】

【高機動戦闘術】

 拳術・蹴術・マーシャルアーツ・アクロバット

【疾風迅雷】

 Agl ×1.5

 速度100毎Agl10%上昇(最大200%)

【電光石火】

 Agl +20%

 移動中帯電。速度100毎に5%速度・電撃の威力上昇(100%)

【即断即決】

 Agl +20%

 反応速度上昇

 空間認識能力

【天翔怒涛】

 MPを消費して空中歩行可能

 移動中帯風。速度100毎に5%速度・風撃威力上昇(最大100%)

【スロウスタート】

 戦闘開始時から2秒毎に全ステータスが1%上昇(最大200%)

【コッキングローチ】

 最大速度到達時間減少

 速度100オーバー時、加速Agl分のダメージボーナス付与

 速度500オーバー時、スーパーアーマー付与

 速度1000オーバー時、現Agl分のダメージボーナス付与

 速度2000オーバー時、スタミナ消費無効

【累積加速】

 Agl上昇20%

 敵1体撃破毎Agl上昇5%(最大100%)

【ハイステアリング】

 空間機動補助(大)

 立体機動

 加速度保管

 

《武器》

【迅雷の腕甲】

 Vit +10 Agl +60

 雷属性強化 

 

《防具》

 頭【サングラス】Agl +5%

 体【旅装 改二】Dex +10 Agl+31

  全天候ダメージ無効

  全環境適応

 手【風のミサンガ】Dex +5 Agl +10%

 足【疾風の脚甲】Vit +10 Agl+60

   風属性強化

 靴【旅装 改二】Dex +10 Agl+5%

 アクセサリ【飾り】Agl +50%

==============================

 

 キチガイその5。欲しかったスキルにIntが必要だった為、極振りを泣く泣く断念した女性プレイヤー。橙の長髪にサイドテール、黒いサングラスにアイスブルーの眼の女の子。好きなキャラクターはクーガーの兄貴。サングラスと蹴り技メインなのはそのせいだが、自慢の拳も持ってたりする。絶影は持ってない。お察しの通りゲーム内最速プレイヤー。

 特にRP元はないが、髪型のイメージはアズールレーンのクリーブランド。

 

==============================

 Name : ザイード

 称号 : 写術翁 ▽

 Lv 61

 HP 3100/3100

 MP 3050/3050

 Str : 0(10) Dex : 1(200)

 Vit : 0(0) Agl : 799(4188)

 Int : 0(0) Luk : 0(50)

 Min : 0(0)

 

《スキル》

【敏捷強化(大)】【暗殺者の心得】

【暗器術(大)】

【疾風迅雷】【天翔怒涛】

【コッキングローチ】

【超直感】

 空間認識能力

 直感力強化

 反応速度強化

【写真術】

 写真として撮影相手をスタンさせる

 撮影対象(敵)にダメージ

 撮影対象(味方)に回復効果

 高解像度確保

【基底の舞踏】

 舞踏魔術発動可能

 ・基礎ステ バフ・デバフ

 ・魔法攻撃

 ・状態異常

 ・回復

【死霧を纏う者】

 AS/PS

 Agl +20%

 攻撃にランダムの毒・低確率即死を付与

 潜伏率上昇

 

 効果時間 90秒

 冷却時間 100秒

 

《武器》

【超高性能一眼レフカメラ】

 Agl +250 Luk +50

 Dex +150

 属性 : なし

 状態異常 : なし

 ステータス閲覧(撮影)

 射程距離延長(極)

 動画撮影可能

 耐久値 : なし

【暗器束】

 Str +10 Dex +50

 Agl +100

 属性 : 闇

 状態異常 : なし

 射程延長

 投擲補正

 耐久値 150/150

 

《防具》

 頭【髑髏の仮面】ステルス Agl +8%

 体【暗殺者の襤褸】ステルス Agl +25

  全天候ダメージ無効

  全環境適応

 手【黒染めの布】ステルス Agl +5%

 足【消音の布】消音 Agl +40

 靴【溶闇のアンク】ステルス Agl +7%

 アクセサリ【飾り】Agl +50%

==============================

 

 キチガイの中の常識人枠その1。速度特化のうえ暗殺特化とかいうとても相手にしたくないプレイヤー。黒塗りの短剣の投擲、糸、毒等のダメージは低いが状態異常を与える武器を好む。序でにダンスをしたりもする。スクリーンショットを多く撮影しアップロードしていたため、ユニーク称号を貰った。

 RP元は基底のザイードをベースに色々なハサン。ユキによる街の爆破を手助けし撮影したものは、本人に大層喜んでもらえたらしい。

 

==============================

 Name : ザイル

 称号 : トリガーハッピー ▽

 Lv 66

 HP 3350/3350

 MP 3300/3300

 Str : 0(150) Dex : 849(3705)

 Vit : 0(0) Agl : 0(0)

 Int : 0(0) Luk : 1(81)

 Min : 0(0)

 

《スキル》

【器用強化(大)】【技巧の場】

【鞭術(大)】【長距離狙撃】

【マスタースミス】

 Dex +30%

 全武装製作可能

 全防具製作可能

 アイテム製作ボーナス(極大)

【自動装填】 PS

 装備武装にアイテム欄から自動装填

【ミリオンコントロール】

 Dex +20%

 念動制御

 ストレージ拡張(10スタック)

 空間認識能力

【人型武器庫】

 Dex +20%

 アイテム展開速度上昇

 ストレージ拡張(20スタック)

【憑霊術 : 荒御魂】

 AS

 自身に正気喪失Ⅴ・憤怒Ⅴ・狂乱Ⅴ・暴走Ⅴ状態を付与

 発動中全ステータス+200

 攻撃に空間破壊を付与

 発動中 HP/MPスリップダメージ(500/2s)

 効果時間 : 60秒

 冷却時間 : 300秒 

【アイテムストレージ】

 ストレージ拡張(30スタック)

 銃弾専用枠(20スタック)

 重量制限無効

 

《武器》

【銃蛇鋼鞭ヨルムンガンド】

 Str +100 Luk +20

 Dex +150

 属性 : 闇/光

 口径 10mm(ダメージボーナス100)

 装弾数 50/50

 弾道補正

 射程延長

 音声発射

 耐久値 500/500

【三羽烏 飛穿】

 Str +100 Dex +150

 Luk +20

 属性 : 闇

 口径 15mm(ダメージボーナス150)

 装弾数 20/20

 弾道補正

 射程延長

 浮遊

 立体機動

 耐久値 200/200

 

《防具》

 頭【技呪の呪符】Dex +10% Vit -10%

  全天候ダメージ無効

  全環境適応

 体【汚らしい着物】Dex +10% Luk+10

  被物理ダメージ+10%

 手【血塗られた数珠】Dex +5% Luk+10

  被魔ダメージ+10%

 足【擦切れた袴】Dex +10% Luk+10

  移動速度-10%

 靴【罪染め素足】Dex +10% Luk +10

  移動速度-10%

 アクセサリ【呪い血染】Dex +50%

==============================

 

 キチガイの中の常識人枠その2。トリガーハッピーが発症しない限り、1番マトモに話が通じる極振りの良心。鞭であり銃である特異な武器を使うが、基本的には生産職のため火力はそこまでない。ユキのビット装備を再三に渡ってメンテしているため、3つという半分以下の数だが、オールレンジの武器を開発できている。銃を持たせなければ基本的には良い人。ギルドサブマスター。

 武装の元ネタは境界線上のホライゾンより、三十六歌仙と八咫烏。

 RP元は特になし。見た目は百鬼空亡だが、普段は頭装備だけ別のものでサッパリしている。

 

==============================

 Name : 翡翠

 称号 : 局地的大災害 ▽

 Lv 63

 HP 3200/3201

 MP 3150/3408(6816)

 Str : 0(50) Dex : 0(0)

 Vit : 1(401) Agl : 0(0)

 Int : 0(60) Luk : 0(0)

 Min : 819(3856)

 

《スキル》

【精神強化(大)】【短剣術(大)】

【不動心】【対魔力】【呪術】

【魔力暴走】AS/PS

 MP100%オーバーチャージ可能

 魔法暴走確率上昇(極大)

 OC中Vit・Min +100

【アポルオン】

 Min +30%

 MPを消費して特殊天候【終末】を展開

 天候は1秒10cmの速度で範囲を拡大する

 ※天候【終末】について

 風化(極大)

 HPスリップダメージ(その時点での3%/2s)

 MPスリップダメージ(その時点での3%/2s)

 属性効果低下(全)

 耐久値損耗(100/2s)

 2秒ごとランダムに空間に状態異常を付与

 天候制圧

 汚染残留

終焉の杖(レーヴァテイン)

 Min +20%

 毎秒自身のHPを1%消費しMPを1.5%ずつ回復する。この効果でもHPは0になる

 冷却時間 : 10秒 効果時間 : 任意

 効果時間中ダメージフィールド(200/3s)展開

 効果時間中他スキル効果200%上昇 

【吸魂】Min +10%

 敵撃破毎に5%MP回復

 攻撃時与ダメの1%MPを吸収

【精神結界】AS/PS

 Min +20%

 空間認識能力

 MP100消費毎、自身を中心に最小半径1m(最大50m)の空間にVit・Min合計値の障壁を展開する 

 

《武器》

【封印された短剣】

 Str +50 Min +100

 Vit +50

 属性 : 混沌

 状態異常 : 混合

 状態異常付与確率上昇

 対武具特効

 耐久値 600/600

【マジカル☆ステッキ】

 Int +60 Vit +25

 Min +100

 属性 : 光・炎

 状態異常 : 燃焼

 消費MP20%カット

 耐久値 450/450

 

《防具》

 頭【こだわりのスカーフ】Min +10%

  全環境適応

 体【白いふわふわ】

 Min +50 Vit +65

 手【炎のミサンガ】

 Min +10% Vit +52

 足【アーマースカート】

 Min +10% Vit +60

 靴【茶色のローファー】

 Min +10% Vit +48

 アクセサリ【飾り】Min +50%

==============================

 

 キチガイその6。スキル全開で移動するだけでフィールドを汚染する女性プレイヤー。1番話が通じない人。実はIF主人公。特に理由があるわけではないが炎を好む。なんか電波を受信してる感溢れる娘。クリーム色のフワッとしたセミロングくらいの髪、限りなく白に近い菫色の目のロリ……より少しはお姉さん。

 RP元は特になし。元ネタは色々ごちゃ混ぜなのでなんとも。

 

==============================

 Name : ZF

 称号 : 提督 ▽

 Lv 58

 HP 2950/3160+1000

 MP 2900/3355+671+500

 Str : 20(59) Dex : 100(360)

 Vit : 100(880) Agl : 100(204)

 Int : 250(1033) Luk : 100(165)

 Min : 100(880)

 

《スキル》

【知能強化(大)】【神通力】

【召喚術】【騎乗】【号令】

【魔力強化(大)】

【空間認識能力】

【強化外装性能強化 攻】

【強化外装性能強化 防】

【強化外装性能強化 技】

 

《武器》

【無手】

 

《防具》

 頭【∞の眼帯】

 体【ライディングジャケット】

 手【皮の手袋】

 足【ライディングスーツ】

 靴 【革の靴】

 アクセサリ【特殊装備制御装置】×10

 

《特殊装備》

【還らずの旗】提督

 HP +1000

 MP +500

 パーティーStr・Int +20%

 パーティーVit・Min +10%

 パーティーAgl・Dex +15%

 パーティーLuk -10%

 耐久値 : なし

 

【アーマードアンモナイト EX】

 Str +30 Int +280

 Vit +600 Min +600

 Dex +200 Agl +80

 Luk +50

 

 属性 : 複合

 状態異常 : なし

 

 自動回復

 射程延長(大)

 魔法威力強化(大)

 全天候ダメージ無効

 全環境適応

 浮遊(落下ダメージ無効)

 空間認識能力補佐

 傀儡師の糸(稼働時間ブースト)

 

 浮遊魔法核 ×20

 ※魔法核は、起点にして魔法を発動させることにより、その威力を50%上昇させる。

 

==============================

 

 ギルド【モトラッド艦隊UPO支部】マスター。ギルド結成当初は赤いバイクに乗って駆け巡っていたものの、いつのまにかオウムガイ的特殊装備に騎乗していた。半特殊装備であるオウムガイ型外装の稼働時間は制限なし。基本的には後方支援型で、貰ったユニーク称号もそのような効果。見た目は遊戯王よりzone。

 

==============================

 Name : シド

 称号 : 傀儡師 ▽

 Lv 58

《特殊装備》

【絡繰鋼糸】

 無尽蔵の鋼糸

 絡繰人形

 精密機動

 耐久値 : なし

==============================

 

 同ギルドの一般構成員。基本的にバイクと合体している。半特殊装備であるバイクの稼働時間は制限なし。特殊装備の機皇帝の稼働時間は1時間。近距離戦がどちらかといえば得意で、高機動で圧倒でき……なくもない。カウンターでブチんされることも多々ある模様。ユニーク装備である糸のお陰で、同ギルドの特殊装備は稼働時間がかなり伸びている。

 分かりやすくRP元は遊戯王からプラシド。

 

==============================

 Name : ハセ

 称号 : ランナー ▽

 Lv 59

==============================

 

 同ギルドのサブマスター。基本的には走ってる、速い。半特殊装備であるバイクの稼働時間は制限なし。特殊装備の稼働時間は1時間。遠距離戦がどちらかといえば得意。ギルドの維持費やらなんやらの算盤を弾く担当。

 分かりやすくRP元は遊戯王からホセ。

 

==============================

 Name : イオ

 称号 : 大天使 ▽

 Lv 43

《特殊装備》

無尽癒薬(イスラ・アンダイン)

 無尽蔵の癒薬

 治癒の粉塵(3/3)

 護法の粉塵(3/3)

 耐久値 : なし

==============================

 

 ギルド【空色の雨】マスター。ヒーラー男の娘。装備はメイド服とモップとお盆。見た目の割に実はそこそこ強い。ユキの爆破布教被害者第1号。お陰で地味に爆弾の使用頻度が高い。ユニーク称号大天使の持ち主で、ヒーラーとしてはかなりのもの……のはずが、本人は前線で戦うので実際はそこそこ。地震にトラウマを持っている。

 元ネタは特になし。

 

==============================

 Name : アーク

 称号 : 常習犯 ▽

 Lv 42

==============================

 

 同ギルドのサブマスター。射撃系アタッカー。中堅レベルのプレイヤーだが、持っている能力は結構便利。ロリコン。

 元ネタはアズレンのアークロイヤル。

 

==============================

 Name : ハーシル

 称号 : 農民 ▽

 Lv 43

《特殊装備》

農民(ファーストデベロップ)

 Str +100 Dex +150

 Vit +100

 属性 : なし

 状態異常 : 防御力低下

 開墾速度極大上昇

 育成速度大上昇

 耐久値 : なし

==============================

 

 ギルド【アルムアイゼン】マスター。どことは言わないがデカイ。新天地の整地や街周辺の環境整備など、開拓魂を発揮しているエンジョイ勢。お陰で農民のユニーク称号を取得している。黒い短髪に黒縁眼鏡、どこか幸薄そうな印象を与えるエセ関西弁の女性。豊満。

 元ネタは特になし。

 

==============================

 Name : ツヴェルフ

 称号 : 大工場 ▽

 Lv 44

《特殊装備》

大工場(オーバーレンチ)

 Int +100 Dex +150

 Min +100

 属性 : なし

 状態異常 : 拘束

 製作速度極大上昇

 製作品品質大向上

 耐久値 : なし

==============================

 

 同ギルドのサブマスター。整地よりは新しい素材の活用方法などを発見、発表しているエンジョイ勢。そのお陰で大工場のユニーク称号を取得している。名前はドイツ語の12だった気がする。長い鋼色の髪と瞳を持った女性。表情は氷のよう。

 元ネタは特になし。




ちなみに不自然な金髪さんは、レイドボス戦では街の中でユキに爆殺されたとかなんとか


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第74話 アップデート

なんでハーメルンでオリジナル書いてると、時折「なろうで書け」が湧くんでしょうね?


 カリカリと、エアコンを効かせた自室にペンの走る音が響く。

 UPOがメンテナンス兼アップデートをしている間、俺は夏休みの宿題を消化していた。どうせ夏休みはゲームに溺れるのが目に見えてるし、今のうちにこなしておく方が明らかに良いだろう。始業式まで後3週間に少し足りないくらいはあるのだが。

 

「ねえとーくん、ここは?」

「公式使ってやればすぐに解けない?」

「え、あ、ほんとだ」

 

 そして、この場にいるのは俺だけではなかった。今日は月曜日、俺の両親はいつものこと、沙織の両親も仕事である。そうなると、結構小さな頃からどっちかの家に集まって何かしていた。泊りになることは珍しいが、今回もそんな感じである。

 

「そういえばとーくん、なんか頭痛いって言ってたけど大丈夫なの?」

「駄目、普通に頭痛い。けどまあ、普通に生活する分には問題ないかな」

「そっかー、それなら良かった」

 

 こんな風に話している中でも、二徹したくらいの頭痛が襲ってくる。原因ははっきりとしている。昨日のボス戦中に変化したスキル【龍倖蛇僥】、アレの限界を試すべく色々無茶したことしか考えられない。

 

 元々の制御限界である120枚の障壁に、スキルで展開できるようになった50枚の防壁。それの完全制御の為に、ザイルさんにボス戦終盤で行なっていた散弾の超連射をお願いしたのだ。10万DをPON☆と払ったら快く引き受けてくれた。

 

 1回目は1秒保たずに死亡

 2回目も1秒保たずに死亡

 3回目でようやく1秒を超えて

 10回目でようやく3秒になった

 そして追加料金を払い、50回目。ここでようやく、10秒まで生き残ることが出来るようになった。吹き飛んだ金額計100万Dは必要経費と割り切った。

 

 1時間くらい170枚とかいう巫山戯た数の障壁を、限界まで【空間認識能力】を使って精密展開し続けたのだから、脳が疲れて当然だった。

 因みに新スキルの防壁だが、障壁と同様MPを消費する。大きさは掌程から変更不可だったが、展開時間と硬さは変更可能だった。硬さは手製障壁の一歩手前程度だったのでほぼ変更せず、展開時間を障壁同様0.3秒まで短縮している。

 結果、展開に必要なMPが2とお手頃になった。障壁が3なので、それ以上のコスパだ。呪い装備の耳飾りを着けてれば毎秒10くらいは最低でも回復するので、安心設計となっている。

 

「ねぇとーくん、なんかぼーっとしてるけど本当に大丈夫?」

「ちょっと考え事してただけだから」

「そんなこと言って、宿題も私より進んで──る!?」

「障壁展開するより楽だし」

 

 0.3秒しか展開しない120の障壁(直径30cmの円)と掌くらいの防壁を雨の如く飛来する散弾に合わせて展開するより、何か考えごとをしながら勉強する方が数段楽だ。いい頭の体操になる。

 

「なんか納得いかないんだけど……」

「普段の行動の差だから、なんともいえない気が。あ、そこ間違ってる」

「あ、ほんとだ」

 

 そんな風に勉強を続けること大体1時間。くぅ、と小さな音が部屋に響いた。発生源は……

 

「そろそろお昼にするか?」

「する!」

 

 この通りだ。気がつけば時間も正午を回っている、お昼時だし休憩にも丁度いいだろう。キッチンは1階だしエアコンの効いてない場所で火の前に立つのは苦行だが、やらないわけにはいくまい。

 1階にもエアコンを効かせればいい? 電気代の無駄だからやるわけないだろ。

 

「それじゃあ何か作ってくるけど、リクエストはある?」

「ううん。それに、今日は私が持ってきてるから大丈夫だよ!」

 

 そう言って沙織は、俺のベッドの上に無造作に置かれていたバスケットに手を伸ばした。微妙に届かずプルプルしていたので手渡すと、満足気な笑みでテーブルに置いて蓋を開けた。

 

「一応食中毒怖かったからサンドイッチにしてみたんだ。ユキくんの好きなたまごサンドもあるよ!」

「ありがとう。それじゃあ、しばらく休憩ってことで」

「「いただきます」」

 

 

「「ご馳走さまでした」」

 

 昼ご飯を食べ終わり、一段落がついた。テレビがある一階にでも行けばもう少し話題があった気がするが、夏にエアコンの魔力に勝つことなんて出来ないのだ。

 

「美味しかった?」

「勿論」

「いえーい」

 

 そんなことを言いながら、沙織がボスン、とベッドに飛び込んだ。あの、それ俺のベッド……まあいいけど。伸ばしかけた手を戻し机の上を整理していると、枕を抱き抱えた沙織が言った。

  

「そいえばとーくん、UPO案の定メンテナンス延長だって。明日の朝8時までだって」

「知ってた。やっぱり街1つ、NPCごと全て吹き飛ばしたのはやり過ぎたかも」

 

 ザイードさんから貰ったスクリーンショットには、仕掛けた爆弾が完璧に作動して街を吹き飛ばす工程が全て残っていた。我ながら実に素晴らしい出来だった。それにあれは、所謂コラテラルダメージに過ぎない。ボス戦勝利のための、致し方ない犠牲だ。

 そんなことよりも、前回よりメンテ時間を4時間も短縮させるつもりでいる運営に尊敬の念を抱く。

 

「普段から森とかダンジョンとか、ビルとかを誰かしらが壊してるからそれはないんじゃない? 次の日には戻ってるし」

「それもそっか」

 

 足をパタパタさせながら言う沙織の言う通りだ。よくよく考えれば、普段から極振りの被害に遭い続けている運営がたったあれくらいでへこたれる訳がない。

 

「多分、延長したのはアップデートの内容が原因だよ」

「確かに」

「だってほら、あー……」

 

 そう言いかけた沙織が、手にした携帯の画面を見てなんとも言い難いため息を零した。

 

「とーくん見てこれ」

「はいはい?」

 

 沙織が突き出してきた携帯の画面のページは、UPO公式ページ。そこのアプデ兼メンテの内容だった。

 

 ==============================

 【ゲームアップデートのお知らせ】

 平素よりご利用ありがとうございます。

 「Utopia Online」運営チームです

 現在本ゲームはアップデート及びメンテナンス中です。

 アップデート直後はアクセス集中が予想されるため、回線が不安定になる場合がございます。誠にお手数ですが、その際には暫く時間をおいてお試しくださいますようお願いいたします。

 

 《アップデート内容》

・新規マップの解放について

 フルトゥーク湖より西方面に新マップ森丘、海岸、浜辺を実装予定です。また、川を越えた先には侵入できないのでご容赦ください。

 第1、第2の街東方面に存在する山脈を越えた先に、新マップ王国領を実装します。

 

・第5の街【シェパード】の実装について

 第1、第2の街東方面に存在する山脈を越えた先に、第5の街【シェパード】を実装予定です。この街に関しては第2の街のボスまで討伐したプレイヤーであれば誰でも行くことが可能なので、プレイヤーの方々は是非目指してください。

 

・テイミングシステムの調整について

 今回のアップデート後【テイミング】系統のスキルを所持していない場合でも、特定の条件を満たした場合極低確率でモンスターが懐くようになります。仲間として戦うことは出来ませんが、場合により協力してもらえるかもしれません。

 その変更に伴い、スキルを所持している場合のテイミング確率を上昇しました。及び、モンスターに懐かれている状態でスキルを取得した場合、即座にテイミングが可能になります。テイミングしたモンスターは、PT枠を消費して共闘する事ができます。

 

・新システム《ペット》について

 テイミングとは別に、PT(パーティ)メンバーの枠を消費せずモンスターや人を連れ歩き、戦わせたりアイテムを持たすことが出来ます。ペットはプレイヤーのレベル/10(小数点以下切り捨て)匹所持できますが、街の外に連れ歩くことのできるペットは1匹だけとなります。ペットは、第5の街で購入することが可能となります。

 また第5の街実装に伴い、到達者全員にランダムで1匹ペットを配布致します。このランダム配布にゲーム内ステータスは関与しません。

 

・課金アイテムについて

 アップデート後より、今まで存在したアイテムに課金アイテムを追加します。

 《追加内容》

 ペットガチャ・ペット用アイテム・プレイヤー用アイテム数種類

 

・新称号について

 追加はまだ未定ですが、現在鋭意開発中です。

 

・ゲームシステムについて

 兼ねてよりプレイヤーの方々から寄せられていた『通常サーバーでの時間加速』を実装します。第2回イベント時に発生したアクシデントにより実装が危険視、延期されましたが、今回のレイドボス戦までの積み重ねにより安全性が確認されました。倍率は2倍となります。

 また、第2回イベント時に限定実装された空腹・飢餓・渇き・脱水の4種類の状態異常を恒常化します。VR空間での食事をより一層お楽しみください。ですが、VR空間での食事はあくまでデータであり現実での食事にはなりません。しっかりと、現実でも食事をしましょう。

 

 《メンテナンス内容》

・第4の街【ルリエー】について

 今回のレイドボス討伐戦で、第4の街は壊滅的な被害を受けました。即時復興は可能ですが、暫くは廃墟の街として復興クエストの配布地点とします。復興終了まで、安全地点としての効果は消滅します。

 

・第4の街エリアボスについて

 レイドボスが撃破された為、第4の街エリアボスは消失します。新規到達者は、町長のNPCから受けるクエストをクリアすることにより次のマップがアンロックされます。

 

・ギルドについて

 第4の街【ルリエー】にギルドハウスを構えていた5ギルドについては、ギルドマスターにメールを送信しますので仮移転先を指定して運営へと送信して下さい。仮移転先の内装は元のギルドそのままとなります。そして復興が完了次第、ルリエーへ戻るか、今の場所で続けるかの確認を行います。

 

 メンテナンス後ゲーム内で確認したうえで不明な点があれば、気楽にGMコールを行なってください。

 ==============================

 

 ……これ、2個は完全に俺が原因じゃね? いや、うん、色々気になることはあるけどこれ、言い逃れが出来ねぇ。自意識過剰かもしれないが、変なプレイヤーに付き纏われる気がしてならない。

 『なんでお前みたいな害悪がプレイしてるんだ、ゲーム辞めろ!』みたいな感じの。自警団気取りの熱血なイメージが浮かんでくる。別にプレイヤーが出来る範囲の事を、ちょっと派手だけどやってるだけなのだから俺は悪くない。今回だって、ちゃんと運営に確認入れてるんだし。

 

「どしたの? なんか難しい顔してるけど」

「いや、これから極振りに絡んでくる輩が増えるんだろうなって」

 

 そうなると……あ、ダメだ。ザイルさん以外まともに取り合うことすらしない気しかしない。俺だって爆破する。

 

「すごく活躍してたもんね。ユキくんでも私の6000倍の火力出してたし。ふざけてるの?」

「いやぁ……実はあれ加減してて。実は俺も大体3億ダメくらいは出せたり……」

「りーふーじーんー!」

 

 ベッドでジタバタするのは埃が舞うからやめてほしい(切実)あと枕押し潰すのと足をバッタバッタするのも。枕潰れちゃうし、畳んである毛布グチャグチャになるから。

 仕方ないなぁと思いつつ、枕に顔を埋めてジタバタする沙織を撫でる。疲れとかストレスも溜まってたんだろうし、少し甘いけどいいだろう。

 

「そういえば、今年は夏祭りどうするんだ?」

「ふぇ?」

 

 ジタバタが落ち着いた頃を見計らって、そう話題を振ってみた。一応俺たちが住んでいる場所の近くで、今月の終わり頃有名ではないが花火大会があるのだ。俺が男子だけで行ったのは小学校が最後で、それ以降は大体沙織と一緒だったが。

 

「んー……そだね、折角だからギルドのみんなを誘いたいかなー。ランさん、つららさん、れーちゃんとはリアルでも面識あるし。藜ちゃんは分からないから、住んでる場所次第かなー」

「へー」

 

 確かにいつもの面子だし、結構楽しそうだ。

 って、ちょっと待て。

 

「あの3人とリアルでも面識がある? なんで?」

「んっとね、駅地下でお店探してる時にれーちゃんみたいな娘を見つけたられーちゃんで、一緒に来てた2人に芋づる式に会った感じ」

 

 確かにそれなら納得できる。できるが、心情的には微妙に納得できない。

 

「リアルバレした理由は?」

「れーちゃんが何かに気づいたみたいで、ランさんが受信してバレちゃった」

「沙織と誰か一緒に居たりはした?」

「ううん。でも、悪いことにはならないかなって。それでその後スタバに寄って少し話して帰った感じ。ランさんたち、一駅先のとこに住んでるんだって 」

 

 枕から上目遣いで見てくるけど、これはダメだ。アウト案件だ。

 

「沙織」

「なに?」

「説教」

 

 開きかけてた教科書とノートを閉じ。正座して沙織と向き合う。ネットマナーとか危機感のなさとか、これは改めて色々言っておかないといけない。

 どっかの映画で言ってた『フォロワーが皆んな良い人とは限らない』みたいな台詞が真理だ。安易なオフ会とか死にたいのかと思う。ネカマが出来ない分安心ではあるが、確実にアウトである。VRが普及した今となっては一昔前の考えかもしれない。だが許さん。

 

「えっと……優しくしてね?」

「駄目です」

「そんなぁ……」

 

 この日の勉強は、これ以上進むことはなかった。

 お祭りの件は、まあ俺も同行するし予定が合えばということで。

 




どっかの映画
→ロボシャークvsネイビーシールズ


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第75話 メンテ明け

ジャコウネコを惜しげも無く媚薬扱いするアニメがあるらしい


 メンテナンスが終了してから1時間後。家事全般を終えてログインしたUPOは、かなりの賑わいとなっていた。というか、うちのギルドの客足が倍以上になっていた。ゲーム内時間で考えるとメンテ終了から2時間経ってるので、小腹が空いたとかそんな感じなのだろう。

 

「なにこれすっごいカオス」

 

 犬。鳥。亀。リス。そんな動物を始めとして、色々よく分からない小さな生き物が、大量に店スペースには存在していた。掌くらいの大きさなので空間の占領は起こってないが。ザッと視た限り、ほぼプレイヤーと1:1で存在しているらしい。つまりは、これがペットとやらなのだろう。でも、流石に小さすぎるから何かあるとみた。

 

「ん!」

「ああ、ごめんれーちゃん。手伝うよ」

 

 両手にお盆を持ってパタパタと走るれーちゃんを避けつつ、こっそりステルスと潜伏をしつつバックヤードに入る。

 残念だったな、これから来るプレイヤー諸君。ここからは、NPCのお姉さんが作る既製品の料理ではなく、何個に1個か俺が用意する少し美味しい料理だ……

 

 ・

 ・

 ・

 

「お疲れ」

「ん」

 

 それからお客さんを捌くこと大体30分。押しかけてきていたお客さんが一段落したので、バックヤードで休憩に入ったれーちゃんとハイタッチする。まだお客さんはいるが、もうNPCの人たちだけで対応可能な範囲だし。

 

「そういえば、れーちゃんは他のみんながどこに行ったか知ってる?」

「ん! ん」

「なるほど、セナと藜さんは第5の街に行ってから、湖の向こうに遊びに行ったと」

「ん」

 

 声とジェスチャーから察したその答えに、こくこくとれーちゃんが頷いた。最近、れーちゃん語の翻訳確度が上がってきた気がする。無論精度を上げるのを怠る気はないが。

 それにしても、2人とも随分速い。多分メンテ直後からずっとヒャッハーしてるのだろう。いや、藜さんはそんなタイプには見えないし……テンションはセナに引き摺られる感じとみた。

 

「それで、ランさんとつららさんは」

「ん」

「お出かけ……リアルかな?」

「ん!」

「じゃあ邪魔は出来ないね」

「ん」

 

 あの2人のリアルのことは知らないからなんとも判断できないが、下世話な想像をすればデートか何かなのかもしれない。ランさんにしては珍しいことだと思うが、VR空間があるおかげでれーちゃんがあんまり寂しくないのは良いことだと思う。

 

「ざっけんなてめぇ!!」

 

 そんなことを考えていると、ガシャンという何かの砕ける音ともに、そんな野太い大声が聞こえてきた。

 それに驚いたのか、れーちゃんは目をギュッと瞑って耳を塞ぎ、座り込んでしまった。僅かに涙を浮かべるれーちゃんの頭を優しく撫でつつ、店の方に耳を傾ける。

 

「この皿とその皿、明らかに俺の方だけ味が悪いじゃねぇか!」

「そんなことはありません。当店でお出しする料理は、全て同一の素材から作られております。以上」

 

 ああ、NPCの人対応してくれたんだ。有難い。

 

「なら食ってみろよ!」

「一度提供したお客様のものに手を出すことは、提供者としてあり得ません。以上」

 

 プレイヤー名はLion。スクショ撮って、今はいないけどランさんに『れーちゃんを泣かせた奴。すごく怖がってました』として送信っと。これでよし。

 近くのNPCさんを呼び止めてれーちゃんを任せつつ、俺も店スペースへ出る。

 

「何でもかんでも以上じゃねえんだよ!!」

「これは、ここで働くNPC全員に設定されている共通の仕様上、仕方のないことです。以上」

「他の人の迷惑なんで、静かにしてもらえません?」

 

 ぎゃーぎゃー怒鳴り散らす赤髪の男プレイヤーに、さも何事もないかの様に気配を消して俺は言った。すると振り返った赤髪は、髪と対照的に顔を真っ青にして後ずさった。

 

「なっ、ひっ、極振り!?」

「それに、なにうちのれーちゃん泣かしてくれてやがるんですか。爆破しますよ?」

 

 一応接客用スマイルで言ったのだが、恐怖以外の効果はなかったらしい。けれどわざわざ残っているプレイヤーに聞こえるように言ったお陰で、一気に店内の雰囲気がLion批難に傾いた。

 多分俺が作ったやつが原因だし、俺が収めないといけないだろう。ったく、普通にNPCの人が作ったやつも十分美味しいってのに。というか、50%の料理スキルじゃ味の違いなんて誤差だっての。

 

「はっ、爆破が怖くてクレームが付けられるか! そっちが謝るまで、何されても頭なんて下げねぇかんな!」

「へぇ」

 

 そうは言いつつ、足がブルブル震えてる件について。全く情けない。それはそうと、NPCの人は他の接客に回ってもらう。もうコイツに構う必要はないしね。俺1人で十分である。

 

「それじゃあ爆破してもいいんですね」

「あ、いや、それは、ちょっ」

「《加重》」

 

 逃げようとしたLionに向けて、杖の一撃と共に紋章を叩き込む。序でに障壁で進路も妨害しておいたせいで、俺の遅い一撃でも十分に当てることができた。無論当てなくても紋章は使えるのだが。

 そして倍になった重量のせいか、Lionの移動速度が目に見えて遅くなった。

 

「斬り付けたものの重さを倍にする」

 

 再び紋章を叩き込む。

 

「二度斬れば更に倍、三度斬ればそのまた倍。そして斬られた相手は重みに耐えかね、必ず地に這いつくばり、詫びるかのように頭を差し出す」

 

 途中から飽きて普通に紋章を計20枚程叩き込んだところ、見事記憶にある台詞と同じことが起こった。開発初期に想定していた使い方ができて、俺としては非常に満足だ。

 

「故に侘助」

 

 こんなことなら、れーちゃんから侘助風の剣を貰ってくればよかった。と、時間制限付きなんだった。【空間認識能力】様々の紋章精密展開で、コイツの上顎と下顎に同じ極の磁力の紋章を付与する。

 

「それじゃあお言葉に甘えて、宣言通り爆破しますね?」

「ふ、ふぁが!?」

 

 反発してこじ開けられたその口に、4本程フィリピン爆竹を捻じ込んだ。ついでに顎とは違う極の磁力を付与させてるから抜けることはない。更に追加で雷管付けたC4も隙間に埋め込んでおこう。無論、爆竹は全部点火済みだ。

 

「まあ、今から謝ってくれたら許さないこともないですけど……」

「ふぁが! あがぁ!?」

「まあ、喋れないから無理ですよね」

 

 そう、笑顔で宣告する。泣きながら謝ろうとしているが、口に爆竹を突っ込まれているから喋れるわけがない。吐き出せないから謝れない。窒息しないから死ぬこともない。つまりは詰みだ。

 

「それに、もしここで爆発なんてさせようものならさっきの皿代に加えて……どうなるか、分かりますよね?」

 

 指で金のマークを作って、笑顔で見せつけた。

 泣きながら必死に首を縦に振る姿は、実に実に愉悦味を感じる。脳が震えますわこれ。爆破で被害者の脳が震えて、爆破で加害者の脳も震えて実に勤勉。……完璧じゃああらせんか。どこの方言だこれ。

 ここで《加重》の紋章の効果が切れ、Lionは涙を流して逃げて行った。その後ろ姿に、声を掛ける。

 

「10」

 

「9」

 

「8」

 

「7」

 

 おお、速い速い。もう結構遠くまで行ってるじゃないですか。これなら、もういいだろう。

 

「ヒャア我慢できねぇ、ゼロだ!」

 

 取り出したスイッチを握り込むと、遠くで大きな爆発が起こった。残ってるお客さんと今から来ようとしていたお客さん、更にはNPCまでもがドン引きしてる気がするけど気にしない。俺は悪くねぇ。

 

「いやぁ、ここにいたのが俺でよかったですね皆さん。もし俺じゃなくてれーちゃんのお兄さんが居たら、こんなんじゃすみませんよ? きっと」

 

 実際、俺のこれよりランさんなら色々凄いことやりそうだし。多分あのLionも、ランさんがログインしたら悲しいことになる気がする。まあ、うん。アレはれーちゃん泣かせたからギルティ。

 

「当店では、同一の材料から料理は作られています。作る人によって僅かに出来の個人差はありますが、ほぼほぼ誤差です。それじゃあ、皆さんマナーを守ってお楽しみくださいね。ああなりたくなければ

 

 笑顔で言ったお陰か、全員猛烈に首を縦に振ってくれた。いやぁ、極振りのネームバリューの力は凄いなぁ。

 

「これは最早脅迫だと判断──いいえ、なんでもありません。以上」

 

 うっかり口を滑らしかけたNPCの人を睨んだ途端、意見が変わった。いやぁ、極振りのネームバリューの力は凄いなぁ。あくまで極振りの力であって、爆破の力なんて関係ない(大本営発表)

 

「っとと」

 

 なんか流れでギルドから出てしまったから、一応れーちゃんに連絡しておこう。さっきれーちゃんも休む感じだったし、一応お疲れ様的な風にして送信っと。

 

 そうして戻したメニュー画面の広告バナーに、例の追加された課金要素が流れていた。

 ペットガチャ……は、まだ使えないらしい。多分第5の街までお預けか。ペット用アイテムは、装備もあるが装飾品も結構混ざってるようだ。まだお預けだが。

 そしてプレイヤー用アイテムだが、不思議と装備は存在していなかった。ベッドやソファーなどを始めとした家具、取得経験値を上げる消費アイテム、デスペナ時間軽減アイテムetc……あったらかなり役に立つけど、課金しなければ絶対に課金プレイヤーに追いつけないというアイテムは存在していなかった。

 

 まあ課金をする気が一切ない俺には関係のないことだ。課金アイテムに興味をそそるアイテムが一切ないのだから仕方がない。そんなどうでもいいことは忘れるとして、お陰で次に目指す場所が決まった。

 

「行くか、第5の街」

 

 ひっそりと取り出した愛車(ヴァン)に乗り込みつつ、左手でまとめサイトを開く。セナたちがあっさりやってるから心配はないけど、一応山越えだしね。運転をほぼヴァンに任せながらバイクを走らせつつ探せば、案の定もう既に第5の街関連の情報は纏められていた。

 

「ふぅん、王国領って、敵の強さはそんなでもないんだ」

 

 レアモンスターに関しては不明としか書かれていないが、ほかのモンスターは基本的に第1〜第3の街付近までの強さらしい。ロブスター倒したら行けるって話だったはずだし、残当と言えよう。

 

「山越えのルートは大きく分けて2つ」

 

 1つは第1の街からまっすぐ東に進み、森を掻き分けて進むルート。行軍が楽でモンスターが弱いが、代わりに敵がワラワラ湧くルート。

 

 もう1つが第2の街から東に進み、岩壁を登り高い山を越えて進み風雷轟く山越えルート。こちらは敵はあまりでないが、かなり強いモンスターが湧くらしい。

 

 因みに後者は、よくAgl極振りのレンが目撃されるルートなんだとか。敵の出現率が少ないのは、出現するそばからレンに狩られてるからと推測されていた。……案外当たってそうだ。

 

「行くなら後者かなっと」

 

 アクセルを全開にして街から飛び出す。愛車(ヴァン)でなら崖を駆け上がれるし、上手くいけばレンさんにも挨拶できるかもしれないし。極振りの中で唯一接点ないから、挨拶はしておきたいんだよね。

 

 それに、山の上からなら……街にエド式イヤッッホォォォオオォオウ突撃か、カイト式ハルトォォォォォォォォ突撃出来そうじゃない?

 




極振り生息地
アキ : ダンジョン
デュアル : 不明
センタ : フルトゥーク湖 : 湖底
レン : 王国領までの山脈 : 頂上
翡翠 : 不明
にゃしい : 森
ザイード : 不明
ザイル : 〃ギルド本部
ユキ : すてら☆あーくギルド本部・第3の街


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閑話 新装版それっぽくしたい掲示板回

(タイトルに意味なんて)ないです



【どうみても】極振り共の異常性について語るスレ Part59【キチガイ】

 

 1.名無しさん

 ここは極振り達について話すスレです

 誹謗中傷は無しでお願いします

 マナーを守って楽しくデュエル!

 次スレは>>980を踏んだ人が立ててください

 

 2.名無しさん

 >1

 スレ立て乙

 にしても、今回も酷かったな……いや、寧ろ生き生きしてたというか

 

 3.名無しさん

 スレ立て乙

 そうだな。パンピー置いてけぼりで怪獣大決戦やってたな……

 

 4.名無しさん

 スレ立て乙

 俺なんて、目の前で邪魔だって理由だけで街が爆破されるのを見たぜ……頭がポルポルしたぜ

 

 5.名無しさん

 >2

 ワイトもそう思います

 

 6.名無しさん

 >4

 AAがない-114514点

 

 7.名無しさん

 なんでここの奴らはすぐそう舵を切るのやら……嫌いじゃないけど

 

 8.名無しさん

 そんなこと言ったら、俺なんかアレだかんな。レンちゃんにFFで消し飛ばされたからな。パンツは、見えなかったっ……ふざけるな! ふざけるな! バカヤロォぉぉぉぉぉ! うわぁぁぁぁ!!

 

 9.名無しさん

 なんかケリィが発狂してるんですけど。

 

 10.名無しさん

 空色だったゾ(大嘘)

 

 11.名無しさん

 ピンクだったゾ(便乗)

 

 12.名無しさん

 白だったゾ(便乗)

 

 13.名無しさん

 オレンジだったゾ(便乗)

 

 14.名無しさん

 黒だったゾ(本当)

 

 15.名無しさん

 電マ切嗣……いや、なんでもない

 

 16.名無しさん

 汚い

 というか11〜14の投稿がほぼ同じタイミングで草

 

 17.名無しさん

 >14

 有能

 

 18.名無しさん

 >14

 有能

 

 19.名無しさん

 >14

 ギルティ

 

 20.名無しさん

 同性の私であれば、見上げてチラッと見えたその光景を見ることなど容易。つまりスクsy

 

 21.名無しさん

 >20

 死んだな

 

 22.名無しさん

 >20

 狩られたか

 

 23.名無しさん

 >20

 速さが足りない

 

 24.名無しさん

 >20

 惜しい奴をなくした……

 

 25.名無しさん

 毎回このスレ見てて思うんだけど、なんでこんなに早く対応してくるん……?

 

 26.名無しさん

 そりゃあ密告者がいるからやろ

 れーちゃん専用スレ勢とか。最近某プレイヤーの行動に炎上してたなぁ……

 

 27.名無しさん

 極振りレーダーに限界はないんだよ……多分鬼いちゃんレーダー並みに

 あれは泣かしたからしゃーなし……

 

 28.名無しさん

 ぶっちゃけレンとランってどっちが対応早いんだろうな

 

 29.名無しさん

 誰か人柱行ってどうぞ

 

 30.名無しさん

 こういうのには言い出しっぺの法則ってのがあってだな?

 

 31.人柱

 くっ、仕方がないか……俺は今、ユキの爆破した第4の街跡にいるから確認したい人は来てどうぞ

 

 32.名無しさん

 >31

 了

 

 33.名無しさん

 コテハンww

 

 34.人柱

 俺はれーちゃんにもレンちゃんにも、えっちなイタズラがしたい!! そして恥ずかしがって、顔を真っ赤にしてるのが死ぬほど見たい!!!

 

 35.名無しさん

 コイツ……やりやがった。勇者だ。人柱の勇者だ!

 

 36.名無しさん

 さてどうなる?

 

 37.名無しさん

 こ、こちら現場……信じられないことが怒ってます

 

 38.名無しさん

 誤字ってるけどそんなにヤバイのか

 

 39.名無しさん

 あ、ああ。人柱は投稿から1分くらいで蒸発した。けど、その経緯がな……

 

 40.名無しさん

 どこからか極太ビームが飛来して、同時に雷音と暴風が到来して、2つが衝突して弾けて人柱は消し飛んだ

 

 41.名無しさん

 そうそう。それでその後、リスキルしに行く流れだったんだが……どっちがやるかで鬼いちゃんとレンちゃんが激突した

 

 42.名無しさん

 それで現在進行形で、第4の街跡で戦ってる。嗚呼、せっかく復元され始めた街が、街がまた壊れて……私は悲しい(ぽろろーん)

 

 43.名無しさん

 これは俺たちの責任だなぁ……ユキ呼んできて資材貰おうぜ

 

 44.名無しさん

 あー……高層ビル毎日爆破してるしな。ビル何本分あるんだろう、素材。

 

 45.名無しさん

 木材だけは俺たちでなんとかするとして、コンクリにガラスは充分足りそうだな

 

 46.名無しさん

 ここの極振りへの信頼感すごいよな。普通ならチート使ってるんじゃないかって疑いそうなもんだけど。

 

 47.名無しさん

 何人かはLv1の時から見守ってるからなぁ……何もしてないで、素面でキチってるのが分かるというか

 

 48.名無しさん

 理解したくないけど理解しちゃってるというか

 

 49.名無しさん

 被害被っても「ああ、またかぁ」「成長したなぁ」って感じ

 

 50.名無しさん

 訓練されてやがる……

 

 ・

 ・

 ・

 

 326.名無しさん

 極振りとかいうバグ使いのチート野郎を垢BANさせよう!

 専用スレッドはこちら!↓

【********】

 

 327.名無しさん

 お、なんか変なの湧いたな

 

 328.名無しさん

 バグでチートってどこからそんな確証を得たんだか

 

 329.名無しさん

 というか何人か野郎じゃねえし

 何言ってんだか

 

 330.名無しさん

 スレッド飛んで見たけど過疎ってて草

 保守コメしかねぇ

 

 331.名無しさん

 一人相撲wwww

 竹生える

 

 332.名無しさん

 お前漢字間違ってるぞい

 正確には独りだ

 

 333.名無しさん

 他のスレに貼ればいいのに、よりにもよってここに貼るとかバカだなぁ……せめてアンチスレにでも貼ってこいよ

 

 334.名無しさん

 うるさい! 全員見ただろうがあの馬鹿みたいな攻撃力! あんなのバグだチートだ!

 

 335.名無しさん

 顔真っ赤にしてて草ww

 

 336.名無しさん

 草に草を生やすな

 

 337.名無しさん

 確かに修正案件が何個かある気がするけど、まあ特別なことは極振りしてる以外何もないからなぁ……

 

 338.名無しさん

 >337

 ほんそれ

 アキにしたって、ちょっと基礎ステータスがおかしいだけで、ただの抜刀術だしあれ。ユキもレア泥の剣が加わっただけでそうだって

 

 339.名無しさん

 同じ方法使えば、俺たちでも……というか、Str500あれば50万は軽く出せるしな

 問題は俺たちのステータスが特化型で1000台なのに対して、奴らは5000とかいってることだ

 

 340.名無しさん

 それもあれだよな、極振り専用スキル以外特に特別なスキルはないという

 

 341.名無しさん

 あるとすればユキの【常世ノ呪イ】とザイードの【写真術】くらいだけど、アレもステータスには関係しないしな……あ、いや、ユキのはLuk以外65%ダウンだったか

 

 342.批判主

 そんなこと言って、復活とかチートじゃないか!!

 

 343.名無しさん

 うわコテハンになった

 やる気あるなぁ

 

 344.名無しさん

 あれ、ガッツ回数だけはあるけど、立ってるだけで死ぬって本人が言ってたゾ。というか実演してもらったら、普通にHPが削れてって死んでた

 ついでにあれ第2回イベントを最後までデメリット付きで生存した正当な報酬だし。被ダメ50倍で生き残るとか何それ怖い

 

 345.名無しさん

 俺としては、アキとかが魔法切断してくる方がチートだわ

 いや、そういう技が各武器系のスキルに1つはあるの知ってるけど

 

 346.名無しさん

 そんなこと言ったら、特殊装備着たデュアルにバイクで追突したのに1ダメしか入らなかったからそっちの方が……硬いのは知ってたけどショックだったわ

 

 347.名無しさん

 追突……車両……黒塗りの高級車……うっ、頭が

 

 348.名無しさん

 疲れからか、不運にも>346は黒塗りの高級車に追突してしまう

 スレ民を庇い全ての責任を負った>346に対し、車の主、デュアルが言い渡した示談の条件とは……

 

 349.批判主

 それ見たことか! やっぱりみんなチート使ってるんだ!

 

 350.名無しさん

 あれ普通に防御貫通系の攻撃すればダメ通るゾ

 俺やった時は100くらいだったけど

 

 351.名無しさん

 >350

 そこまでダメ通すとかやりますねぇ!

 

 352.名無しさん

 ちょっ、まっ、なんで俺がこ↑こ↓の奴らを庇ってそんなことを!?

 

 353.名無しさん

 >346……お前が何もせず、ここでの出来事を忘れて過ごすのは勝手だ。けどそうなった場合、誰が代わりに責任を取ると思う?

 

 ……万丈だ

 

 あいつは今回の暴走について負い目を感じている。お前が責任を取らなきゃ、あいつは勝手に自分から始めるだろう。けど、あいつはMURの代わりにはなれない。そうなれば東都の連中はよってたかってクローズを責める

 

 354.名無しさん

 万丈万能すぎて笑う

 

 355.名無しさん

 また万丈か壊れるなぁ

 

 356.名無しさん

 全ての責を負わされるエビフライ

 

 357.名無しさん

 何気に仮面ライダー民多くてウレシイ…ウレシイ…

 

 358.批判主

 うるさい!うるさい!うるさい!

 

 359.名無しさん

(cv : 釘宮理恵)

 

 360.名無しさん

 くぎゅぅぅぅううぅぅぅぅぅ!!

 

 361.名無しさん

 くぎゅううぅぅぅぅぅぅ!!

 

 362.名無しさん

 くぎゅうぅううぅううぅうぅう!!

 

 363.名無しさん

 重症者だ! 隔離しろ!

 

 364.名無しさん

 発作だ! ドクターを呼べ!

 

 365.名無しさん

 この組み合わせはベストマッチではないな

 

 366.名無しさん

 だが完璧な流rくぎゅぅぅぅううう!

 

 367.名無しさん

 パンデミックが起こってしまっtくぎゅぅうぅううう!!

 

 368.名無しさん

 誰かCRに連絡を! ハイパームテキの力さえあれbくぎゅぅぅう!

 

 369.名無しさん

 まさか釘宮病ウイルスが拡散されるなんて……

 

 370.名無しさん

 神に抗体作って貰わないと

 

 371.名無しさん

 我が(プログラムを)書き換えたのだ

 

 372.名無しさん

 絶対に許さねえ!

 ドン・サウザンドぉぉぉぉぉ!

 

 373.名無しさん

 この流れすこ

 心が震える

 

 374.名無しさん

 流れ切るが、まあここはこんな感じだから批判主の考えは成功しないと思うぞ。それに批判スレの連中だって、修正こそ望んでるが垢BANまでは望んでないしな

 

 375.名無しさん

 それにぶっちゃけると、時期的に少し前のになるがほぼ全員の極振りのステータス載ってるし

 

 376.名無しさん

 スキルに関する細かい説明もな

 つーか多分、会って事情話せばある程度は説明してくれると思うぞ

 

 377.名無しさん

 ※会えない奴と話が通じない奴は除く

 

 378.名無しさん

 やったな、ザイル・アキ・ユキは確定だぞ!

 

 379.名無しさん

 後は山登ればワンチャンレンとは会えるかもしれない

 

 380.名無しさん

 後運営に聞いたけど、垢BANはガチでチート使うか電子ドラッグでも使わない限り無理らしいな

 

 381.名無しさん

 ちょっとユキは空間認識能力に頭開発され過ぎな気もするけど、運営に聞いたら『第2回イベントの時は本当に焦った』って返ってきたから、元は常人だろうし今もウェヒヒってるだけでチーターでもドラッカーでもないな

 

 382.名無しさん

 限界までヒャッハーしたら鼻血出してヤバかった云々の話を聞いたことはある

 それで運営がストッパー付けたとも

 

 383.名無しさん

 それにユキには嫁がいるからそんな非道には手を出させないだろ

 

 384.名無しさん

 >383

 それは戦争の引き金だ、発言には注意しろ(ハザ-ドオン!)

 

 385.名無しさん

 それでもユキの障壁展開速度・精度って、条件付きだがコンピューター(シャークトゥルフ)と張り合えるレベルだからな

 他の奴も他の奴だが、ユキも相当キチってるよ

 

 386.名無しさん

 そういや批判主消えたな

 

 387.名無しさん

 そだねー

 

 388.名無しさん

 さてさて、ではさっきの戦争発言を消すために新たな話題を……

 たけのこの里って美味しいですよね

 

 389.名無しさん

 貴様! 里の者か!

 

 390.名無しさん

 貴様こそ山の者か!

 

 391.名無しさん

 ああ、大戦争が始まってしまった……

 

(以下きのこたけのこ大戦争)

 




銀髪ボクっ娘ロリに釣られて天華百剣始めました
岡田切かわいいよ岡田切


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第76話 山道にて

 第2の街を出て東はしばらくの間草原が広がっている。懐かしい【ランペイジ・ボア】がボスとして君臨するマップだ。あの時は爆弾が満足に手に入らず苦労した記憶がある。

 気持ちの良い風を浴びながらバイクで爆走すること数分。段々と植物の姿は少なくなり、乾いた地面が露出する荒野へと地形は移行する。ここはフレーバーテキストでは、山から生まれた毒が云々と書いてあり、微妙に汚染されたアイテムが手に入る貴重な場所だ。

 

 そしてここからかなり先にあるのが、第5の街に行くために乗り越える必要のある山脈だ。垂直に切り立った崖で、ろくに植物も自生していない正に壁である。だが確か、一部の登山してぇ! とかクライミングしてぇ! とかいう人たちには人気だったはずだ。

 俺には興味のないことだが、そういう人たちにとっては落ちてもリアルの命に関わらないとか結構なメリットなのだろうと思う。

 

「まあ、俺には関係ないけど」

 

 愛車(ヴァン)で岩壁を登るだけだし。第2回イベで【死界】から脱出するときもそうだったけど、壁面走行さまさまである。

 愛車がなかったら……今なら出来そうな気がしないでもないが、まあ無理だと思う。崖くらいは障壁と加速で登れるけど、あのモンスターの群れは絶対に無理だ。あの頃と違って【空間認識能力】には天井付けられちゃったし。170枚の障壁じゃ、些か以上に心許ない。こう、せめて1000枚くらいは欲しいと思うのは欲張りだろうか。

 

「……後で、今出せる限界は測定して見たいな」

 

 制御をほっぽり出せば、500……いや、350くらいまでは1度に出せる気がするがどうだろうか。どこかに計測できる様な何かがあればいいのだが。

 そんなことに考えを巡らせながら走っていると、ドンという音が聞こえ強い衝撃が走った。同時にバイクのバランスが崩れ、仕方なく停車する。そうして振り向いた先には、男の人が倒れていた。

 やっべ轢いちゃった。幸いにもHPゲージは4割しか減ってない。この人結構高レベルだな。

 

「大丈夫ですか?」

 

 パパっと魔導書で紋章を描き回復させながら、バイクに乗ったまま声を掛ける。逆恨みで攻撃されたら、ちょっと居辛いギルドに逆戻りしてしまう。それはちょっと勘弁したい。

 

「大丈夫なわけ無いだろうが!」

「おっと」

 

 案の定振るわれた武器を障壁で防ぐ。片手剣……いや、細いし刀? でも反りがないし……レイピアか。銃弾よりは遅いし線での攻撃だから余裕で防げるけど。

 

「回復したから許してくれません?」

「誰が許すかこの極振りが!!」

 

 紫短髪の男性、細身、動きからしてAgl偏重、筋力(Str)はそこまで高くないと推測、武器はレイピア、サブ武器に短剣……マン=ゴーシュ的なものを確認。

 ザイードさんじゃないが敢えて言わせてもらおう。他愛なし。

 

「危なっ」

 

 《障壁》《加速》《減退》の3種の紋章を展開し、襲撃者の動きを止めて、転倒させ、レイピアは何処かへ加速して射出した。極振り速度になると何も出来ないし、セナとか藜さんの速度になっても出来ないがこれくらいは余裕だ。シドさんより簡単だったし、おっそいなこの人……速さが足りない。いや速いけど。

 

「クソ極振りがぁ!」

 

 引き抜いた動きをそのまま加速して、先ほどの焼きまわしの様にマン=ゴーシュを吹き飛ばす。……? 何がしたかったんだ、この人。さっきので変に動かしたら吹き飛ぶって分かってたろうに。

 

「先を急いでるんで、行ってもいいですか? もうHPも回復しきったようですし」

 

 だけどそう、落ち着くんだ俺。ここで下手にコイツを爆破したりなんてしたら、『爆破卿は人を爆破するのも好き』なんてニュースになりかねない。別に俺はプレイヤーを爆破するのは………………好きじゃないし、それは少しだけ困る。

 昼間のアレはちょっと……いや、かなり気持ちよかったけど違うからね? ほんとはあんなこと、俺は望んでないんだからね?

 

「あぁぁぁっ!!」

 

 返事もなく殴りかかってきたので、とりあえず紋章で転ばせておく。こちらとしては対話の意思はあるんだから、ちゃんと要件話せばいいのに。なんだろうこの、話が通じないタイプの女子に絡まれた感じの感覚。

 

「クソがクソがクソがぁ!」

 

 何か血走った目で睨んでくるけど、俺が何かしたのだろうか? ビル爆破は運営にしか迷惑かけてないし……可能性といったら、第4の街を爆破したアレ? 若しくはついさっきの爆破?

 念の為プレイヤーネームを見たがタマスと表示されていた。別人の様だ。となると本当に、街爆破くらいしか原因が思いつかない。

 

「もしかして、ルリエーに拠点を置いていたギルドの方ですか?」

「違う!」

 

 定期的に立ち上がるのを妨害してすっ転ばせながら、考えを巡らせる。多分正解を言わないと、延々と突っかかられる気がするんだよなぁ……こういうタイプって。言ったら言ったで満足いくまで付き合わされるだろうけど。でもこうなると、ぶっちゃけ心当たりが全くない。

 

「俺が轢いたのに謝ってないから?」

「ちげぇよ!!」

 

 あ、転んで顎打った。舌も噛んだのか地面をゴロゴロとのたうち回っている。それにしても、本当に面倒だ。早く俺に絡んでくる理由を言えし。

 そう思って、一旦転倒地獄を解除する。

 

「これで、なんで絡んでくるのか話してくれる?」

「うがぁぁっ!!」

 

 殴りかかってきた。紋章で転んだ。学習能力が無いのだろうかコイツは。もう面倒だし爆破していいかな……MPの無駄だし。

 

「あっ」

 

 そんな俺の内心を感じ取ったのか、愛車が操作に反して反応した。エンジンを吹かし、前輪が大きく持ち上がった。システム的に平気ではあるが車体から振り落とされないように必死にハンドルを握り、その間にバイクの位置が僅かにズレる。

 そうして前輪が降りた……否、振り下ろされた先は倒れ伏した紫髪の首元から頭部にかけて。そこは所謂クリティカルポイントに分類される場所で、タイヤは見事に車体の重量を込めた一撃となって直撃した。

 

「かぺっ」

 

 そんな潰れたカエルの様な声を漏らして、紫髪のプレイヤーは砕け散った。まあデスペナは軽い方だし、事故だから問題ない。後多分正当防衛にも出来るはず。

 

「ならいいか」

 

 そうしてここ数分のことをなかったことにして進むこと10分程、例の崖の麓に辿り着いた。見上げれば、結構な人数がクライミングに挑戦していた。中にはトゥ!ヘァ-ッ!など叫び声を上げて駆け上がってる者もおり、地味なステータスの差を実感する。

 

「せーの!」

 

 そんな彼らを追いかける様に、障壁で作ったスロープを使い崖面に接地する。そのままアクセルを全開にして、一気に崖を駆け上がる。結構ガタガタ揺れるけど、第2回イベの大樹よりは楽に走れる。

 

「お先失礼します」

「あ、ちょっ、ずるいぞバイク!」

 

 根気よくクライミングしている人に挨拶しつつ、登りきった先にあるのは木が一切生えていない岩だらけの山道。そこにバイクを止め、遥か先にある山の頂上を見つめる。そこには薄っすらと雪化粧が施されており、同時に暴風と雷が渦巻いている。時折大きなスパークが発生しており、登頂は無茶だろうなと思う。

 

「《望遠》」

 

 山越えのルートはもっと低いところを通るのだが、何となく好奇心が優った。紋章を展開して見てみれば、馬鹿でかいシロクマの群れが何かに滅多打ちにされていた。なんか極振りセンサーが反応してる……ああ、アレきっとレンさんだわ。

 

 そんな風に納得している間に、シロクマの群れは全滅していた。あまりにも速い所業……俺でなきゃ見逃しちゃうね。南無。

 

「俺も行くか」

 

 紋章を解除して、エンジンを吹かす。

 ガタガタする斜面を走り続け、ちょっと酔いそうだなと思っていること10分ほど。登りの斜面が終わり、一気に視界が開けた。

 

「うわ、すっご……」

 

 そこから見えた景色は、一面の草原。近くの山裾には森が、その他の見渡せる限りの中にも転々と緑の濃い場所がある。更にプレイヤーと戦うモンスターや、恐らくペットと思われる何かと一緒に戦うプレイヤーが見受けられた。

 

 そして恐らく第5の街【シェパード】と思われる街……いや、村としか思えない建造物群も発見した。木製の柵と、モンゴルのゲルの様なものが10数軒。実に爆破しがいがなさそうな村だ。

 同時に一角の羊みたいな動物、竜と馬の混血みたいな動物、牛などを始めとした生き物が多く飼われているのが確認できた。遊牧民族的な設定なのだろうか?

 

「えーっと、距離は」

 

 マップを開いて確認すれば、大体第1の街から第2の街を直線で繋いだ程度らしい。であれば、余裕で空からアタックは出来る……のだが。もしそれで『NPCからの好感度が下がってペットを売らない』なんて言われてしまったら、目も当てられない。

 

 仕方ないから1回目はこのまま行くかと決めた時のことだった。

 ピロンと何かを受信した音が鳴った。

 

「うん?」

 

 メニューを開いて確認すれば、運営から3通のメールが届いていた。

 1つ目はメンテ延長のお詫び。特に何か配布とかは無い様だ。

 2つ目はレイドボス戦の経験値及び報酬の配布。多少のお金と、Sレアスキル取得チケット。後討伐による莫大な経験値。結果、俺のレベルは3つ上がって51になった。

 そして最後が……

 

「スキル【抜刀術】の威力調整について、か」

 

 詳しく読んでみれば、運営をして遥かに想定外の火力が出たためスキルの計算式を変更したとのこと。そりゃあまあ、アキさんが6億、俺が3億なんて廃火力出してたから当然の判断だろう。

 火力落ちるのは悲しいけど、どっちかっていうとアレはおまけだからいいか。爆破・爆弾に専念すれば良いってだけのことだ。銃だってあるし。

 

「ボスの高速周回も問題だったかなぁ……」

 

 第3の街のボスを10回ほどやって強化素材を回収した以外はやってないけど、それも問題だった気がする。

 

 だけど言ってしまえば、それ含め完全にゲームシステムの範囲内のことしかしていないのだ。時折アンチスレで色々言われてるけど、俺は悪くない。そういえばさっきの轢いちゃった人も、そっち関連だったのかもしれない。それならあの話の通じなさも納得だ、『極振りとまともに会話したらやってられない』的なこと書いてあったし。

 

「実質正解だよなぁ……」

 

 例えばアキさんの場合。

 ダンジョンで戦ってる時は英雄然としているが代わりに近寄れず、ギルドにいる時は『怠い……』って感じで電池が切れてるからアウト。

 例えばセンタさんの場合。

 最近は大体フルトゥーク湖の底で、四肢の浅瀬なる魔法とモンスター寄せのアイテムを使って近寄れないからアウト。そもそも話せない。

 例えばレンさんの場合。

 山の上まで行けない。行ってもいないか戦ってるかで話しかけられない。

 例えば翡翠さん。

 近寄れない。終わり。

 例えばにゃしいさん。

 口を開けば爆裂なので、同類か同好の士でもない限り話が爆裂に変わる。まともに会話したらやってられない筆頭かもしれない。

 例えばザイードさん。

 どこにいるのか分からない。見つけたら話は聞いてくれるとは思うけど、ほんとどこにいるのか分からない。

 例えばデュアルさん。

 どこにいるのか分からない。話してたら……多分いつのまにか全く関係ない話になってる。アウト。

 残りは俺とザイルさんだけど、さっき俺も存外短気って分かったしアウトかもしれない。ザイルさんはやっぱり極振りの良心だった。

 

 と、そんなどうでもいいことを考えてる場合じゃなかった。体感時間が倍速とはいえ、時間を無駄にはしたくない。

 

「今度こそ、行きますか」

 

 そうして俺は、メニューにはマップだけを残し愛車で山道を駆け下り始めた。

 



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第77話 ペット

 第5の街【シェパード】には、山向こうと違いなんのトラブルもなく到着することができた。何もなさすぎて、逆に心配になったくらいに何事もなかった。

 そうして街に入って愛車を仕舞い、マップを見ながら歩くこと数分。どれも一律の色形大きさのゲルの様な建物群で、FFのチョコボの様な看板がかけられたところに到着した。看板に書かれている店名と思しき文字は【eciov tahw ride on】……どうしよう、ride onしか意味がわからない。

 

「とりあえず、入店すれば分かるか」

 

 そうして入った建物の中は、外見上となんら変わりない大きさの空間だった。入り口の脇を含め、四方に天井まで分厚い本棚が覆っているのにだ。

 その光景にある種の恐ろしさを感じ……はしないな。シャークトゥルフで慣れた。特に何も思うことなく、建物の中心で胡座をかく伝統衣装感あふれる服装の老人に話しかける。

 

「ここはペットを売ってる店であってますか?」

『如何にも、異邦よりの来訪者よ』

 

 頭に響くような不思議な声に、視界の端のSAN値が1減少した。あと1週間は回復しないのに、夢の20台が見えてきてしまっている。0になったら宇宙が見えそうだ。

 そのことにちょっと嫌な感じを覚えていると、老人の手元に現れた卵ほどの大きさの透明な塊が、1人でに動きだしフワフワと浮かび俺に向かって移動してきた。そして、目の前で静止した。

 

「これは?」

「異邦よりの来訪者にのみ与えられる、種子のようなものだ。それは1度砕かれることにより、共に歩む仲間を産む。如何なる手段でも壊れるが故、壊した手段と来訪者の行いにより産むものを変える。それが、汝の始まりとなる」

 

 要するに、どんな手段でもいいからこれを壊せばペットが生まれるってことだろう。それで生まれるペットは、破壊した方法とプレイヤーの行い?を考慮したものとなる。

 

 事前の情報を考えれば、つまりはピックアップガチャということか。いいね、中々ワクワクする。

 

「そして、ここで壊せば儂が判定を請け負おう」

「えっと……ここで何やっても大丈夫ですか?」

「無論だ」

 

 何やっても大丈夫なのか。であれば、俺がやることは1つしかない。

 

 Q.どうやって壊すの?

 A.爆破ですよぉ

 

 ということで、宙に浮かぶ透明卵の下に適当に台座として障壁を張る。そして卵を囲むように障壁の限界までフィリピン爆竹を設置し、空いた卵の上下スペースには【無尽火薬(アタ・アンダイン)】産の高性能火薬を詰め込んでいく。序でに爆破の影響が広がらないように、囲い込むように障壁も設置して……指パッチンと共に《エンチャント・ファイア》の暴走で着火、爆破する。

 

 轟音

 閃光

 そして衝撃 

 

 障壁で囲んでいた為爆炎が広がることはなかったが、建物の中をそれらが駆け巡った。余裕の音だ……馬力が違う。まあ、ここが圏内じゃなければ余裕で俺も死んでいるのだが。

 

「生まれたようだな」

 

 それに全く動じずに、NPCの老人が言った。

 やっぱり、30点相当の爆破じゃNPCの心は動かせないようだ。せめて75〜90点台のビル爆破か、120点満点のルリエー爆破相当の点が必要らしい。

 

 そう唸っている間に、目の前に光が集まり形を成した。

 

 それは、掌サイズの黒い蜂だった。

 それは、一対の複眼だけが深紅に光っていた。

 ただそれだけの虫だった。

 

「【爆薬蜂】、見事に汝の本質が現れたようだな」

「ですね……」

 

 俺の本質は、やはり爆破だったらしい。ステータスは関係ないのなら幸運はあり得ず、紋章か爆破なら後者の方が印象強いようだ。さもありなん。

 

 それはそれで満足なので良いとして、初のペットたる【爆薬蜂】は黒いビー玉となった。確認すれば、どうやら【ジュエル : 爆薬蜂】というアイテムらしかった。多分召喚用アイテムといったところだろう。 

 

「汝の【爆薬蜂】は、最上位からは2段は格が下のようだ。だが上手く育てれば、必ずや汝の力となろう。決して、止まるでないぞ」

 

 そう最後に呟き、NPCの老人は目を瞑り沈黙してしまった。えっ、これだけ? という疑問を抱えつつ、何をしても起きそうな気配がないので仕方なく店から退出した。すると、そのタイミングで運営からのメールを受信した。

 

「なるほど?」

 

 近くの切り株に座って、その内容をじっくりと読み込む。

 そこにはアップデートの時に公開されていた情報を含め、ペットシステムについての諸々が細かく記されていた。それを簡単に言い直すと、こんな感じとなる。

 

 ・PT枠を消費せずに連れ歩ける

 ・あまりにも大きな奴は、戦闘時以外はデフォルトでサイズを縮小できる

 ・プレイヤーのレベル/10 匹所持できる

 ・ペット用装備がある

 ・ペット専用スキルがある

 ・条件を満たせば進化する

 ・スキルは進化しても継承する

 ・死亡したらゲーム内で24時間再召喚不可

 ・経験値はプレイヤーと共通

 ・経験値は召喚時のみ獲得できる

 ・レベルがあって成長する

 ・成長の方向性は、ある程度定められる

 ・成長には個性がある

 

 とまあ、盛りだくさんだ。色々ありすぎて逆に困る。なんでこんなにも自由度が高いのか。そう悲嘆するより、確認した方が早いだろうと【爆薬蜂】のステータスを開いてみた。

 

 ====================

 Name : 爆薬蜂

 Lv 1/25

 HP : 80/80

 MP : 100/100

 

 Str : 5 Dex : 10

 Vit : 5 Agl : 20

 Int : 1 Luk : 10

 Min : 5

 

《ペットスキル》

【状態異常攻撃 : 毒】【自爆】

《スキル》

【】【】

【】【】

【】【】

 ====================

 

 すでに俺、装備込みでVit・Aglで負けててDexが同じ値なんですけど。レベル1のペットにすら負ける主人のステータスって……泣けてくる。Lukだけ500倍くらいあるけど。

 それはそれとして、昆虫型だからなのかペット用装備というものは装備できないらしい。代わりにスキルが4つではなく6つセット出来るようだが。

 

「どう成長させるか……ねぇ」

 

 成長傾向設定なる項目はあるのだが、1度設定すると進化しても変更できないらしい。200ポイント分振り分けることができ、1つのステータスには100まで振り分けられる。10ポイントにつき1ステータスが成長しやすくなるとか。

 となると、まだ何も知らない状態で設定するのは下策も良いところだろう。出来れば、1回進化まで持っていってどんな感じのステータスなのか見てからやってみたい。

 

 スキルについても同様だ。wikiで軽く情報を漁ってみた限り、取り直しは無理でコストを払って上書きすることになるから、最初に面白そうなのを1つくらいとって様子見が良いらしい。

 

 そう思ってスキル選択画面を開いてみると、懐かしい膨大な量のスキルが表示された。【牙術】【虫術】などプレイヤーには見られないスキルが多々あるもの、気になるスキルは特に見当たらなかった。【○○強化】系列のスキルはプレイヤーと違い存在しないみたいだし。

 

「これなら、こっちも後回しかな?」

 

 そう思ってソートをかけてみるが、【状態異常攻撃 : ○○】と【爆薬生産】くらいしかない。と、思ったが《ペットスキル》にある【自爆】の文字を見て1つだけ良いと思うものがあった。

 

 そのスキルの名前は【影分身】

 自分のMPを1割消費して、自身のステータスの半分(HPMP含む)の実体を持った分身を2体、戦闘終了まで作り出すという効果だった。クールタイムは15秒、結構簡単に使えるようだ。

 自爆は固定ダメージ(自分のHP値)なので、きっといい感じに効果を発揮してくれるだろう。

 

 

「ふぅ」

 

 というわけで、第3の街のボス【機天・アスト】を軽く両断してみた。反動で死んだけど、《殉教》の効果で防御バフを無視できる以上ワンパンである。【抜刀術】の威力は体感で10分の1になっていたが、それでも3000万はあるし。

 

 ====================

 Name : 爆薬蜂

 Lv 25/25(進化可能 ▽)

 HP : 200/200

 MP : 340/340

 

 Str : 53 Dex : 34

 Vit : 30 Agl : 90

 Int : 13 Luk : 50

 Min : 30

 

《ペットスキル》

【状態異常攻撃 : 毒】【自爆】

《スキル》

【影分身】【】

【】【】

【】【】

 ====================

 

 そして、レベル1だった爆薬蜂はレベルがカンストしてこのようになっていた。ステータスは……多分、Intが低くAglに尖ってるんだと思う。そして、ペットにも《爆破卿》の効果が及んでいることも確認できた。ほかの称号の効果は及んでないが、流石ユニーク称号である。

 

 それで、育成方針が決まった。これからキミはファンネルミサイルだ。序でに状態異常も与えられればなお良し。

 

「で、あれば」

 

 成長傾向設定はAglとHPに限界まで割り振る。

 そうしたことで選択できる進化先にも変化していた。恐らく単純強化のボムホーネット、影分身が原因と思われるシャドウワスプに加えて、Aglが原因と思われるライトニングホーネット、HPが原因と思われるファットビーが追加された。

 

「戦いは数だよ兄貴! なんちゃって」

 

 残念ながら俺は一人っ子だが。まあそういうわけで、シャドウワスプに進化させる。しかし胸部がふわっとした以外、進化による見た目の変化は殆ど無いようだ。

 

 ステータスは据え置きでレベルが1に、レベル上限が30まで上がっており【分身】と【状態異常攻撃 : 移動速度低下】というペットスキルが増えていた。効果としては後者は文字通りで、前者は『自身の最大MPを半分にして発動。自身のステータスの半分(HPMPは含まない)の実体を持った分身を作り出す』というものだった。効果も分身が消えるまで再発動不可らしいが、逆にそれまではずっと展開できる。中々良さげじゃん。

 

 目論見通りの成長をしてくれて嬉しいのだが、掲示板とかを見ている内に気がついた気になることがあった。

 

「喋らないのかな?」

 

 無駄に静かな音でホバリングするペットを突っついてみるが、首を傾げられるだけで喋ることはなかった。ネットで確認した限りでは、虫型のペットでも何らかの方法で喋るとあったんだけど……

 

「まあ、今はいっか」

 

 よく見れば、“動き”は結構可愛い感じがしないでもないし。それに関しての情報も特にないし。

 

 そうして昼飯を作る時間まで、延々と【機天・アスト】の5分周回を続けたのだった。そのお陰でペットは2段階進化したが、俺のレベルは1上がっただけだった。

 

 そして、俺のIntとLuk以外のステータスは、ペットに完全敗北したのだった。

 




ユキ「せめて痛みを知らず安らかに眠るがよい」(テ-レッテ-)

次回そこには、分裂して数を増やし、高速で突撃して、状態異常をばら撒き、最後には自爆する害悪ペットの姿が──!!


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第78話 ペット②

雨の音ってなんか好き


 雑に作った昼ご飯を食べ終え、UPOに再度ログインする。というのも、ペット育成が予想以上に楽しいのがいけないのだ。いつか誰かから聞いた『ペットは本編をほっぽり出して嵌る深い沼』という言葉が身に染みる。

 

「なー」

「?」

 

 ギルドの自室で座りながら、ホバリングするマイペットの蜂をツンツンと突っつく。相変わらず掌くらいの大きさしかない黒い蜂だが、首を傾げる動作“は”慣れると可愛く見えてくる。

 

 まさかこんな小さな蜂が、開幕252体に分裂して高速で自爆攻撃(デバフばら撒き)をしてくるなんて思わないだろう。しかも20秒毎に更に増える。……まあ、あれだ。正直、既に自分でも相手にしたくないペットに仕上がってる。

 

「はいご飯」

 

 無限に湧き出す高性能火薬を食べさせつつ、これからどうしようかなとボンヤリ考える。第5の街のボス情報とかも出てないし、俺1人じゃルリエーの先のマップに行く気も特にないし……

 

「そういえば今日、まだビル爆破してなかったっけ」

 

 どこからか悲鳴が聞こえた気がするが、いつものことなので無視する。あ、それで思い出した。【アルムアイゼン】の人たちにプレゼントしたけどまだまだあるビルの残骸、あれ第4の街に投棄しに行こう。

 確か復興クエストを受けると、大容量の運搬アイテムを一時的にくれるらしいし。

 

「そうと決まれば!」

 

 花粉玉ならぬ火薬玉をつけたマイペットと共に、俺は第3の街経由で第4の街に向け出発した。

 

 

【悲報】大容量運搬アイテム、ビル1つ分しか入らない

 

 なんて悲しい事実はいいとして、行き掛けの駄賃に爆破したフレッシュなビル素材を納品したことで1つのことが判明した。

 

 このクエスト、経験値効率がめっちゃいい。

 しかも、俺にとっては街と街を移動するだけで完了するのだ。そもそも新市長と思われるNPCからの印象が最悪だったり、運搬袋を5つ欲しいとか言って訝しまれたりはしたけれど。

 お陰で今まで溜め込んでいた使い道のないビル素材の7割を消費出来たし、ペットのレベルが進化直後で1だったのが19も上がって20となった。実に素晴らしい。

 

「ユーキくん!」

 

 まだまだペットの育成が足りないしアスト周回に戻ろうか、そう思った時のことだった。聞き慣れた声とともに、とてつもない速さで何かが飛び込んできた。

 障壁と減退を使ってダメージを負わないようにしつつ、背後からの抱き締めを受け止める。

 

「あれだけ圏外での抱き着きは止めてって言ってるのに……」

「でも、ユキくんと会うの久しぶりな感じがして」

「全く……えっ?」

 

 手を解いて背中から降りてもらい、振り向いた先のセナは普段とは全く違う姿だった。ぴょこんと飛び出した髪と同色の獣の耳、重心が大丈夫なのか心配になるほどブンブン振られる白銀の尻尾。いつのまにか、幼馴染に属性が1つ追加されていた件について。

 

「びっくりした?」

「びっくりした」

 

 どことなく自慢げにそう言った後、こちらに見せつけるようにセナがクルリとその場で回った。驚いたけど、実際凄くマッチしている。

 

「可愛いでしょ」

「可愛いんじゃない?」

「えへへー!」

 

 満面の笑みで尻尾の振りが加速した。なまじAglが1000を超えているせいで、もはや風切り音が聞こえてくる速度となっていた。俺に当たったら問答無用で即死だろう。怖い。

 まあ、それはいつものことなのでこの際どうでもいい。

 

「察するに、それがセナのペット?」

「うん! コンって言うんだ」

 

 そうセナが言うのに続いて、突然湧き上がった炎が『よろしく』と文字を形作った。なるほど、これがペットが喋るってやつか。いいなぁ。

 

「そういえばユキくんは【シェパード】行った? ちょっと遠いけど、ペット貰えるし楽しかったよ!」

「俺も朝のうちに行ったよ。バイクなら結構速く移動できるし」

「そっかー。それで、ユキくんはどんな子がペットに?」

 

 ぴこぴことケモ耳を動かしながら、セナが聞いてきた。まあ沙織(セナ)なら蜂を見ても大丈夫だろうし、丁度いいから相談してみるのもありか。

 そんなことを思っている間に、火薬が敷き詰められたフードの中からマイペットが這い出てきていた。どうにも火薬があると落ち着くらしいことは、れーちゃん語翻訳の応用で薄っすらと分かる。

 

「……爆発する?」

 

 その姿を見て、セナもなにかを感じ取ったらしい。流石幼馴染、大正解だ。

 

「するね。超爆発する」

「行動参照だもんね……ユキくんの場合、爆破か紋章術関連以外ないよね……」

 

 呆れたように、セナがどことも知れない遠くを見て呟いた。実際、俺から幸運を取り上げたらそれしか残らない。あ、幸運ないから判定失敗してどっちも使えないか。

 

「それはそれとして、セナに聞きたいことがあるんだけど良い?」

「ん、いいよ? ユキくんが私を頼るなんて珍しいね」

「たしかに」

 

 けど、今は些細な問題だ。

 

「ペットってどうやったら喋るの?」

「名前付けてあげたら喋るよ?」

 

 まさかの即答だった。

 そっか……それだけか。それだけだったのか。そもそも、ペットに名前って付けられたんだ。いや、ペットとして考えるなら当然だけど。

 

「名前、かぁ」

 

 何がいいか蜂に振ってみるけど、首を傾げるだけで何も返ってこない。そりゃそうか。そう納得していると、セナが目をキラキラさせながらコートの裾を引いてきた。

 

「名前が決まってないなら、『クロ』とかどうかな!」

 

 蜂から猛烈な拒否の意思が伝わってきた。

 

「嫌だって」

「えー、残念……って、え? ねえユキくん、れーちゃんのもだけどなんで分かるの?」

「何となくというか、勘というか、そんな感じかな」

 

 正直、何で分かるのかは私にも分からん(博士風)

 一旦それは置いておくとして、最優先すべきは蜂の名前だ。自分が思いつく中で、蜂に気に入ってもらえそうなもの……それでいて特徴を捉えて……

 

「サルファ」

 

 嫌らしい。

 

「エクス」

 

 微妙に靡いたけど拒否。

 

「ナハト」

 

 あと一歩足りない感じの拒否。

 

「影」

 

 完全な拒否。

 

「朧」

 

 完全な了解の意思が伝わってきた。同時に嬉しいとか楽しいとか、そんな感じの感情も一緒だ。なんとなく思いついた名前だったのだが、お気に召してもらえたようで何よりだ。

 

『謝』

 

 そして、景気良くブンブン周りを飛ぶ朧の羽音がそんな風に聞こえた。昆虫型の喋るって、こういう風になるのか。意思疎通が出来るようになるのは良いことだ。

 

「ねぇユキくん。その朧ちゃんって、何が出来るの?」

 

 問題が解消されて気分の良い俺に、少しだけムッとしたセナが聞いてきた。今のは、俺が悪かった。ちょっと朧と話すのに時間を使い過ぎた。

 

「爆発関連を色々と、かな。セナのコンは?」

「炎とか念力とか色々ー。この子は狐だしね!」

 

 心当たりの1つとしては考えていたけれど、セナのペットは狐だったらしい。一体普段、どんなプレイスタイルでゲームをしてるのやら。俺が言えたことじゃないが。

 そう言い終わったセナは、まだ何か言いたそうな顔をしていた。これはきっと、何かあまり良くないことに繋がるに違いない。

 

「それでね、今ペットを持ってる人の中で、お互いのペットを戦わせるっていうのがあるんだけど……」

「ごめん、朧とセナのコンを戦わせたくないかな」

 

 だって朧の能力、エグいとしか言いようがないし。セナ本人なら回避できるだろうけど、ペット同士という前提が付くと無理というか、そんなエグい真似をしたくない。

 

「ぶーぶー」

『ご不満?』

「そうじゃなくて……あ、丁度いいや」

 

 どうしようかと悩んでいると、二重で不満を漏らすセナたちの向こうにモンスターが丁度よくポップした。真っ白なエミューの様なレアモンスターは、ばっちりこちらをターゲットしている。

 

「セナは手を出さないでね」

 

 そう前置きしてから、今は静かに飛ぶ朧に指示を出した。

 

「朧、Go!」

『了』

 

 次の瞬間、黒い蜂が無数に出現した。その数、本体の朧を含めて252体。1体1体の力は強くないが、《爆破卿》由来の強化が乗った結果それらは恐ろしい力を発揮する。

 

 朧を除いた分身体のステータスはあまり高くない。けれど、HPの値は最低で350。つまり700の固定ダメージということになる。それがAgl250、紋章術のバフ込みならもっと速く突っ込んでくるのだ。我ながら、恐ろしいというほかにない。

 

 更に、別のスキルで『攻撃のヒット数を3増加する(1ヒット辺りの威力は4分の1に減少』というものもあり、状態異常抵抗判定を4回行わなければいけない。そんな相手にダメージカット、もしくは一定値以下のダメージ遮断スキルもなしに挑んだらどうなるか? 結果は明白だ。

 

『終』

 

 10匹。たったそれだけの数の分身体が起こした自爆によって、エミューのHPは0になっていた。恐らくレア泥と思われる嘴を取得したが、使い道がないし後でギルドの倉庫に放り込んでおこう。

 

『休』

 

 そんな算段をつけているうちに、分身を全て消した朧はフードの中へ戻っていってしまった。ギルドのマイルームに、火薬詰めた巣でも作っておこうかなぁ。

 

「とまあ、こんな感じだから」

「飼い主に、よく似たペットだね」

『こわい』

 

 またも遠い目をされてしまったが、わかってくれたようで何よりである。

 

「あ、そうだ。ユキくんってこれから用事ある?」

 

 リアルにでも行ってしまってるんじゃないかという様子のセナだったが、すぐに正気を取り戻してそう言った。

 

「特にないけど?」

「だったらさ、この先の新しく解放されたマップに行かない? 朝は藜ちゃんと一緒だったんだけど、リアルの用事でログアウトしちゃって」

 

 なるほど、だからいるのはセナだけだったのか。それに最近、セナと一緒にどこか冒険するって無かったし良いかな。ボス周回は飽きたし。

 

「いいけど、多分俺とだとウンザリするほどレアモンスター出てくると思うよ?」

「そのくらいどんとこいだよ!」

『余裕』

 

 どんと胸を張るセナを見るに、相当自信があるようだ。一緒に行くからには、相手に何もさせるつもりもないけど。

 

「それじゃあ行きますか」

「うん!」

 

 このあと滅茶苦茶レア狩りした。

 




====================
 Name : 朧
 Race : レギオンワスプ
 Lv 20/40
 HP : 1400/1400
 MP : 1000/1000

 Str : 120 Dex : 100
 Vit : 70 Agl : 500
 Int : 30 Luk : 60
 Min : 70

《ペットスキル》
【状態異常攻撃 : 猛毒】
【状態異常攻撃 : 移動速度低下】
【状態異常攻撃 : 呪い】
 状態異常耐性低下
【状態異常攻撃 : 魅了】
 低確率行動不能・低確率自傷
【自爆】
 HPを0にし、現在のHP分の固定ダメージを与える。範囲は半径威力/100m
【レギオン】
 自身の最大MPを半分にし、自身のステータスと同等(HPMPは半分)の実態を持った分身を20体作り出す。
 効果時間 : 分身が全滅するまで

《スキル》
【真・影分身】
 自身のMPを1割消費して、自分の半分のステータス(HPMP含む)の実体がない分身を5体作り出す。
 効果時間 : 戦闘終了まで
 冷却時間 : 20秒
【ドッペルゲンガー】
 自身と同じステータスを持つ扱いの実態のある分身を作り出す。分身の維持には毎分100のMPを支払う。
 また、分身出現中に受けたダメージは全て分身が受ける。分身のHPが0になったとき、このスキルは解除される。
 冷却時間 : 20秒
【多重存在】
 攻撃のヒット数を3増加する(1ヒット辺りの威力は4分の1に減少)
【状態異常攻撃 : 裂傷】
 HPスリップダメージ
【状態異常攻撃 : 最大HP減少】
【状態異常攻撃 : 最大MP減少】
==================== 

-追記-
この蜂、SSR、SR、R、UC、Cで言ったら
(Rよりの)UC→R→SR→SSRと進化して、ここで進化は終わりです。


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第79話 運営からのお誘い

Twitter見てると、他の作者さんって結構自作品の告知してることを知ってビビる作者。私更新予定と報告しかしてねぇ


 メンテが開け、セナと新マップを冒険した翌日。

 偶然遭遇したアキさんと朝っぱらから【機天・アスト】TA(タイムアタック)勝負を繰り広げたことで、俺の朧とアキさんのペットである付喪神(刀)のエスペラントのレベルがカンストした。

 因みに俺の最高タイムは1分48秒で、アキさんが1分30秒だった。悔しい。それはそうと、突入時間のズレでほぼ毎分ワンパンキルされてたボスには黙祷を捧げておく。

 

 そんなこともあり、ご褒美的な感じで巣の作製が決定したのだった。

 

「朧はどんな感じが良い?」

『告。六角』

「はいはいっと」

 

 ギルドの自室で朧の巣を作っている昼下がり。紋章で鑑定系のものが作れなかったので、第1の街で買った【鑑定】と【看破】のスキルを使い続けている時のことだった。何かのメッセージを受信した音が鳴った。

 

「朧、ちょっと巣作り任せる」

『了』

 

 21匹の朧が飛び回って巣を作る横で、受信したメッセージを確認する。するとそこには、想像を遥かに超えた情報が記されていた。

 

 ====================

 【運営よりお知らせ】

 このメールは、PN アキ、センタ、デュアル、にゃしい、翡翠、レン、ザイード、ザイル、ユキの9名のプレイヤーにのみ送信されています。

 通称極振りと呼ばれるあなた方には、9月上旬に開催を予定している高難度イベント『十の王冠、不敗の巨塔』におけるダンジョンボスを依頼したいと考えております。

 無論、現実世界での都合が悪い場合は無理にログインする必要はありません。非ログイン時はボスルームを閉鎖するか、代役を配置する予定となっております。

 もし引き受けてくださる場合は、運営にメールを折り返してください。

 

 

 引き受けてくださることが決定した場合、全10階層からなるダンジョンを、割り当てられたリソースの限りで自由に作り上げることが可能となります。但し、常人にもクリア可能かどうか、運営がテストプレイを行います。クリア不可能と判断された場合、再構成して頂きます。

 ダンジョンの構成は、サンプルをそのまま使用、プレイヤーの特色を反映してランダム設定なども可能です。

 ボスを引き受けた場合、イベント期間中はボス部屋・各街内のみ移動が可能となります。

 ボスルームにおける戦闘では、ボス側にデスペナルティは発生せず、戦闘後全て、使用したアイテムを含め戦闘開始直前の値まで回復します。但し、HP・MP回復アイテムの使用は禁止となります。存分に戦闘を楽しんでください。

 通常プレイヤーと違い、ボスを担当するプレイヤーのイベント報酬はポイント制となります。ダンジョンを通しての、通常プレイヤーの滞在時間、撃退数などがポイントとなります。

 

【最重要】

 この情報を他プレイヤーに漏洩しないで下さい

 この時期に連絡したのは、あくまでダンジョン製作の時間を確保するためであって、一般プレイヤーへの公開はまだ先を予定しています。もし情報漏洩が起きた場合、厳罰となりますのでご注意ください。

 

 PS.幸運担当

 お前らやり過ぎなんだよ……

 朝っぱらからアスト1分周回なんてしやがりまして……アスト作った担当の人泣いてましたよ!?

 あとユキ、あなた今全プレイヤー中ぶっちぎりでナンバーワンの死亡数ですからね。例のスキルがあるとは言え死に過ぎです。それと、ボス担当になった場合復活は12回までとなりますのでご注意を。

 7時半に空手の稽古があるの! 付き合えないわ。

 どうせ受けるんでしょうけどね!

 ====================

 

「これは……」

 

 追伸の部分が遂にはっちゃけたのは、普段の対応してくれてる人が出てきただけだから良いとして、結構な厄ネタがきたものだ。極振りとしてダンジョンボスかぁ……これはちょっと予想外だ。

 まあ受けるんだけど。そう思って極振りの先輩が集まっているスレを開けば、受けるともう受けたの2個しか報告はなかった。やっぱりダンジョンを好きに弄れるってのは魅力的なんだろう。かくいう俺も物凄く楽しみだ。

 

『疑』

「うん? いや、なんか……ほら、こう書いてある通りの感じ」

 

 うっかり口に出そうとしてしまったが、途中で見せる方向に変えたからセーフセーフ。そう思ったのだが、朧は首を傾げてしまった。理解出来なかったらしい。

 

「まあ、強い人と戦えるってことだよ」

『喜』

 

 嬉しいらしい。意味はわかるけど、自分のペットの考えが理解できないのは少しだけ悔しいと思った。

 というか、【鑑定】はともかくさっきから使ってる【看破】が【空間認識能力】の下位互換で辛い。なんか落ちてるアイテムや罠が分かるとか書いてあったけど、ぶっちゃけ近場なら全部見えるし。

 

『急』

「まあ、いっか。続き続き」

 

 部屋全体を鑑定しつつ看破しながら作業をしているから、きっと熟練度はすぐに溜まるだろうし。良い感じに進化してくれることに期待しておこう。

 

 そうやって朧が満足する巣を作っていること大体1時間。極めて高速で部屋に接近してくる反応を感じた。そして、バンと勢いよく扉が開け放たれた。

 

「とーくん! あの、あのね! やっばいクエスト見つけちゃった!!」

『ほんとすごい』

「《障壁》!!」

 

 慌てて駆け込んできたセナに、リアルのあだ名で呼ぶことの注意をするより、早く対応しなければならないことがあった。それは、セナの首元にいる銀の狐が発した炎の文字。

 

 忘れているかもしれないが、俺の部屋は()()()()なのだ。急いでMP消費を度外視した障壁で封じ込めたから良いものの、あと少しでも遅れたら部屋が爆発して吹き飛ぶところだった。

 

「セナ、リアルのあだ名で呼んだことは何も言わないから、もうコンには喋らせないで……ギルドが吹っ飛ぶ」

「あ、え、あ! そだね……ごめん」

 

 そこで漸く、現状がいかに危険だったから理解してくれたようだ。今俺の部屋に引火でもしたら、誇張なしにギルドが吹き飛ぶ。それだけの量、爆薬と花火とその他諸々爆発物が俺の部屋にはあるのだ。

 セナがコンを白銀の石に戻して、今度こそ話し始めた。

 

「あのね、さっきまで藜ちゃんと湖の向こう探索してて、なんかすっごいクエスト見つけたの!」

「どんなやつ?」

「クリア報酬が、スキル枠1拡張だったの! 初回クリア限定だけど」

「それって、どっちの?」

「使える方!」

 

 それは、本日2度目の特報だった。

 使用可能スキルが1つ増えるクエストとか、ちょっとどころじゃない重要情報だ。例え難易度が高くても、このクエストは誰もがこぞってクリアしたがるはずだ。

 まあ、ここから店スペースに音は聞こえないから良いとして、開けていた窓からは聞こえてしまったかもしれない。焦ってたのは分かるけど……

 

「凄い情報だけど、多分今ので思いっきり外に聞こえたよ?」

「別に良いもん、もうちょっとしたら公開する予定だし」

「そっか」

 

 じゃあ俺も、もうちょっとしたら極振りの先輩方に教えることにしよう。……更に手がつけられなくなるだろうけど、頑張れ運営。

 

「クエストの内容は?」

「えっとね、なんか自分と戦うんだって。同じレベル、アイテム、スキル、ステータスの」

「うわぁ」

 

 脳内に思い浮かんだ数名の極振りが通い詰める姿が容易に想像できた。自分と戦うとか、自分が強くなればなるほど相手も強くなるし絶好の修行場じゃないか。

 

「それでね、折角だしみんなでPT組んで挑もうと思ってるんだけど……」

「先に言っておくと、俺はいない方がいいね。絶対」

「えー!」

 

 そんなセナから「超不満」といった感じの気配とともに、そんな声が挙げられた。これまで何回もギルドで一緒に何かをやる機会を逃しているから、それは分からないでもないのだが……

 

「だってセナ、よく考えて見てよ。俺が、全力で妨害してくるってことだよ?」

「あっ……」

 

 セナが、何かを察したように固まった。それはそうだろう、なにせセナと藜さんの2人は、あのレイドボス戦で俺がやってたことを全部間近で見ていたのだ。あの防御力でこちらを邪魔してくるとなると、考えたくもないだろう。それに爆弾が加わるとなると、俺はもうクソゲーとして投げたくなる。

 

「だから、一緒には行くけど挑むのは1人の方がいい気がする」

「そうだね……ぐぬぬ。でも次のイベントではやろうね!」

「あはは……そうだね」

 

 残念ながら、俺はまた参加できないが。それはそうと、極振りにパーティ単位で挑むとか勝てるのだろうか? ザイルさん相手なら、まあ何とかなる気がするけど……

 だからきっと、またパーティ単位で挑めるボスは【第5の街】のボスになるんじゃないだろうか。随分と遠い話だ。

 

「むぅ、なんかユキくん乗り気じゃない?」

 

 そんなことを考えていたからか、セナに内心を見透かされてしまったようだ。流石に付き合いが長いしバレるか。ツーカーで話が通じる(こともある)のは、やっぱり隠し事には不向きだ。

 

「いや、そうじゃないけど。パーティで挑むと、なんか俺だけ何もしてない感じがして……痛っ」

 

 本音を言っただけなのに、ペシリとデコピンをされてしまった。この衝撃、街の外だったら確実に即死してたね。

 

「あのね、ユキくん。私とか藜ちゃんみたいな紙装甲アタッカーにとって、ユキくんの防御方法って喉から手が出るほど欲しいものなんだよ?」

「うっそだー」

「ユキくんは自分のこと過小評価し過ぎ! あの障壁って、もう頭がおかしいというか、変態的な技量なんだからね!」

「そっかー……」

 

 幼馴染にまで変態扱いされてしまった。自覚がなければ確実に凹んでいただろう。

 それはそうと、俺以外にも誰か1人くらいはあの防御術を使えるとは思うのだが。たかだか0.3秒しか展開しない障壁を相手の攻撃に合わせて割り込ませるというだけなのに。

 

「あ、でもユキくんが変態ってわけじゃなくて、でももしそうでも私はいいかなって思ってたりもして……」

「セナー、脱線してる」

「はっ、確かに!」

 

 危うく変なことを口走ろうとしていたセナを止める。ちょっとヤバめな本心が漏れてた気がするけど、今回は気にしない気にしない。

 

「それで、そのクエストにはいつ出発する?」

 

 私も同行しよう。

 

「んー、あと少ししたらみんな集まるみたいだから、先に行って待ってたいかな?」

「了解」

 

 そうして俺たちは【第4の街(復興中)】のポータルに飛び、クエスト開始地点へと向かった。

 




NPC極振りを試験するなら、ここしかないと思った


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第80話 虚構舞踏会

からくりサーカス、私は好きだけど結構批判意見多いみたいだなぁ……


 まわりに防衛線を築くんだ。

 地雷を張り巡らせろ。

 50mおきにワイヤーも仕掛けるんだ。

 

 クエスト開始地点である小さな祠に着いた俺は、脳内に響くそんな声に従ってその通りのことを実行した。お陰で、小さな丘とその頂上にある小さな祠の周りは、下手に歩こうものなら即座にぶっ飛べという悪意溢れる場所となっていた。

 

 時折人型モンスターがポップして、叫び声をあげて吹き飛ぶくらいしか被害はないから安心だ。そんなこんなでセナと待つこと数分、先ずは藜さんと合流することができた。

 

「これ以上、2人っきりは、させない、です!」

「藜ちゃん、そこ地雷埋まってるよ」

「ぴゃい!?」

 

 息を切らした藜さんが一歩を踏み出し、ワイヤーがそれに引っかかり、ピタゴラスイッチ的に埋まっていた地雷が起動した。それを障壁(藜さんを基点に座標固定)で安定して防ぎ、自分の設置した対戦車地雷を無力化する。結果、ダメージは消え衝撃だけが残る。これで移動時間の短縮にもなるだろうと、そう思っていたのだが……

 

「きゃっ」

「お見事」 

 

 俺自身がよくやる手なので忘れていたが、そういえばボムで移動は普通の行動ではないのだった。非常に不満気なセナの声から半分以上は察せられるだろうが、今起こったことを改めて説明するとこうだ。

 

 爆破の衝撃で藜さんがそらをとぶ。

 飛んだ方向に俺(とセナ)がいる。

 銃剣を持っていたセナ、行動が遅れる。

 紋章を併用して俺が受け止める。

 いつも通りパワーが足りず押し倒される。

 

 ということで。HPを2割程吹き飛ばされた状態で、超密着状態で見つめ合ってるに等しい状況となっていた。まあ、流石に少し恥ずかしい。

 

「どやぁ、です」

「ぐぎぎ……」

 

 とりあえず両手を挙げて無罪を証明していると、藜さんがギュッと強めに抱きついてセナに渾身のドヤ顔をかましていた。ああ、空気がバチバチしてる。そしていつか見たスタンド(幻視)の代わりに、白銀の狐と白と灰色の鷹が威嚇し合っていた。

 

「ユキくんもなされるがままじゃなくて、もっとこう……何かないの?」

「今、俺Str3しかないんでガチで動けません」

 

 俺と戦うなら杖はいらないと思い、今の装備はメイン武器に魔導書ビット、副武装に呪い装備の杖(鴉)となっている。その結果がこの、女の子1人で圧死しかけていけるのに退かせない貧弱パワーである。

 まあ【魔力の泉】と【常世ノ呪イ】を同時にセットすると、Str : 3どころか-130%されてマイナスに突入するのだけれど。そうなると現実より力は出ないし立ってるだけで死ぬのだけれど!

 

「そっか」

 

 それだけ言って、セナが躊躇なく銃剣を振り下ろしてきた。とりあえず障壁で防いだけど、1枚目破るとかセナさんスキル使ってません……?

 

「やめてユキくん。藜ちゃん刺せない」

「えぇ……」

 

 まさかゲーム内でその台詞を聞くことになるとは思わなかった。リアルでならあり得ると思ってたんだけど。

 というか、なんか遠くでペットが勝手に勝負してる音がしてる件について。止めなくていいのだろうか。

 

「今それを振り下ろされたら、俺も死ぬんだけど」

「大丈夫」

 

 笑顔で言ってるけど、一体何が大丈夫だというのか。いや、確かにリスポンするだけだから無事っては言えるだろうけど。というか、そもそも藜さんが離れてくれれば解決……しないね、うん。目を見たらわかる。

 斯くなる上は最終手段!

 

「さっき、セナのせいで地味にリアルバレの危機だったんだけど」

「うぐっ」

「俺の場合、髪型くらいしか弄ってないから結構な危機なんだけど」

「うぐぐっ」

「この際ギルド内ならいいけど、通行人に聞こえてたら大変なんだけど!」

「ごめん、ユキくん」

 

 なんとか、落ち着いてくれたようだ。今にも振り下ろさんとされていた銃剣を、ホルスターに仕舞ってくれた。これで一応話は通じるだろう。

 

「どういう、ことです?」

 

 これで安心していいだろうと一息ついていると、未だガッチリ俺をホールドして離さない藜さんがそんなことを聞いてきた。まあ、言いふらすつもりはなかったけどいいか。

 

「さっきセナが、うっかりリアルのあだ名で俺のこと呼びまして。幸い、本名に繋がるようなものじゃないんですけどね」

「いえ、そうじゃない、です。なんで、ギルド内なら良いん、です?」

 

 コテンと首を傾げて、不思議そうに藜さんは言った。これまさか、セナが夏祭りの件伝えてない? そう思ってしょぼくれてるセナを見たが、横に首をふるふると振った。伝えてはいるらしい。

 

「いや、セナはギルド内で藜以外にはリアルバレしてますから。それに、予定が合えば今度リアルで会いますし」

「確かにそう、ですね。予定は、空けました、から」

 

 セナが『迷子だと思ったられーちゃんだった、バレたのはれーちゃんだから仕方ない』的な発言をしてるけど、アウト案件なので庇うことはしない。1回怒ったからこれ以上何か言うつもりもないが。

 

 そんな微妙な空気が流れる地雷源の中心に、突如として機械の作動音と振動が伝わってきた。それに即座に2人は臨戦態勢になったが、この音と振動は既知のものだ。

 とりあえず立ち上がると予想通り、地雷を爆破しながら地面を突き破り鋼の筍(ドリル)もとい、ランさんのジングウが生えてきた。

 

「ん!」

「あらー」

『修羅場か?』

 

 4つに割れたドリルから現れたのは、案の定ヴォルケイン+2名のギルドの3人。これで、PT全員が揃ったと言うことだ。

 

「そ、それじゃあ揃ったし、みんな行こー!」

 

 誤魔化すようなセナの声は、虚しく響いただけだった。

 

 

 それから言い訳タイムという名の説明時間を経て、セナたち5人+5匹のPTはクエストを受けて何処かへ転移して行った。藜さんが少し俺が別行動ということに渋っていたが、セナの説明でことなきを得た。

 

「さて、俺たちも行こうか。朧」

『了。嬉』

 

 先に行ったセナより時間がかかるか早く終わるかはわからないが、俺も俺で存分に楽しんでくるとしよう。そう思って小さな祠に手を合わせ、クエストを受領する。

 

 ====================

 【虚構舞踏会(マスカレードパーティー)】推奨レベル 50

 これより始まるは鏡合わせの物語

 どうしようもなく偽物で、どうしようもなく本物の舞踏会

 

 勝利条件 : 敵の撃破

 敗北条件 : パーティ全員の戦闘不能

 

 報酬 : スキル枠拡張 +1

 経験値 : 10,000

 ====================

 

 迷いなく受注したクエスト画面が消え、コンマ数秒後視界が暗転した。そして、僅かな浮遊感と共に視界が切り替わる。

 

 転移した場所は、墓標のような、魔王の部屋のような様相を呈していた。石造りの微妙に薄暗い室内を壁に設置された松明達が照らし、窓からは荒れに荒れた天候が見えている。そして、その部屋の中央に俺は立っていた。天井には骸ノ鴉が5匹止まっており、本人の周りには11冊の魔導書が旋回している。

 

 本当に、何から何まで俺と同じか。面白い。

 

 それは即ち、もうこの距離は必殺の間合いということだ。今すぐにでもやり合いたいが、その前に少し確認するくらいは許されるだろう。

 

「なあ俺、もしこっちが【常世ノ呪イ】を使わないならそっちも使わないか?」

『そうだな。そもそも俺は、基本的にそちらと同じスキル構成になるように設定されている。だから、そっちが使わない限りセットはされないさ』

「なるほどね」

 

 ということは、俺が俺を34回爆散させる必要もないってことか。それならまあ、少しばかり楽さは増す。

 

『質問は終わりか?』

「いや、最後に1つだけ」

 

 力は全部同じということは分かった。なら次は頭の方だ。どれだけ精巧に再現されているのか、それが分かれば色々やりやすい。やっぱりそれを確かめるなら、この場のノリで思いついた何かをぶつけるのが早いだろう。

 

「俺はお前、お前は俺だ」

 

 そう言って笑い軽く右手を上げ、ボタンを押すように僅かに親指を動かす。もしこれに対応してきたら、ちょっと技術力狂ってるんじゃないの? という疑惑が現実になるわけだが……

 

『そうだな。それで間違いない』

 

 返ってきたのは、そんな平凡な答えだった。まあ、あれだけの動作で『マイティブラザーズXX!!』とノリノリで返してきたなら、逆に怖いが。体感時間操作なんて技術をポンポン使い出したから或いはと思ったが、そこまでオーバーテクノロジーじゃないらしい。

 

「それじゃあ」

『勝負を始めよう』

 

 俺と向こうの俺が全く同じタイミングで笑みを浮かべて、両手にフィリピン爆竹を握った。そして、傍らの朧も最大数まで分身する。

 

「『朧、Go!』」

 

 そして、双方の朧が双方を撃滅するべく突撃した。さあ、ここからが勝負だ。本人と偽物、どっちが強いかやってやろうじゃないか。

 

 まあ、まずは双方力試しだ。

 

「『《障壁》』」

 

 朧の行く手を阻むように展開された紋章をこちらの紋章で妨害し、こちらが展開しようとした防壁も紋章で妨害される。それが、251匹の朧全てでタイミングをずらしつつ行われる。

 双方、同時に展開している障壁の数は170。初っ端から、操作できる限界数だ。キッツイな、これ。

 

「はは、まだまだァ!」

『こっちこそ!』

 

 潰し合いに入った50匹の朧の分、双方処理能力に余りが出来た。それに合わせ、お互い5つの儀式魔法を作り始め、完成させた。その内容は双方範囲回復×2範囲攻撃×3。

 そして、お互い範囲攻撃の防御に障壁を使った。それにより攻撃は防いだが、双方の朧が一部防御線を抜けた。

 

「『ははっ』」

 

 手にした4つずつ計8つの爆竹を投げつけ、抜けてきた朧の分身を始末する。その爆発と、踊るように踏むステップで儀式魔法を刻み始める。

 

「『はははっ』」

 

 ステータス強化×2が朧にかけられ、さらに爆弾を10ほど山なりに投擲する。双方10匹の朧がそれに突進し、自爆したことで20個分のスタングレネードがこの密室で炸裂する。

 

「『ははハハッ!』」

 

 目も耳も聞こえなくなったが、お互いに笑い合っているということは分かる。何も見ずにお互いの障壁を中和しつつ、儀式魔法をして、笑い声で歌唱魔術を使い、爆弾を投げつけ合う。互いに全く同じ技量、全く同じ回復タイミング、全く同じスキル使用タイミング、同じ同じ同じ同じ……

 

「『ああ、楽しいなぁお前は!!』」

 

 真っ白な視界の中、HPとMPが急速に減っていく。けれどそれは攻撃のヒットが原因ではなく、スキルと障壁の使用による現象だった。

 

「『加速レーン設置!』」

 

 視覚と聴覚が正常に戻った時、朧は本体が双方の肩付近にホバリングしているだけだった。そして、お互いに《新月》を構えて加速の紋章でレーンを設置していた。

 

「『ファイア!』」

 

 同時に発射された超加速された銃弾は、幸運にも同じ軌道を描き衝突した。そして幸運にも、飛び散った破片と衝撃波はお互いを傷つけることはなかった。

 

「『磁装・蒐窮(エンチャント・エンディング)』」

 

 舌の根も乾かぬうちに肩にセットした《偃月》を双方構え、呪い装備に武装が変更される。そして最大のバフが掛かり──

 

「『吉野御流合戦礼法“迅雷”が崩し』」

 

 お互いに突撃。

 

「『電磁抜刀(レールガン)――穿!!』」

 

 必殺の一刀で斬り結んだ瞬間、何もかもが消し飛んだ。

 

 勿論結果は相打ち、クエストは失敗した。

 



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第81話 虚構舞踏会②

当ててんのよ
って、男女逆になると犯罪臭が漂い始めるのは何故なのだろうか。


 2回目のクエストも、相打ちで終わった。

 3回目、4回目も同様で、5回目に引き分けた時にセナ達も負けて戻ってきたようだった。それにて今日の攻略は一旦休みとなったらしい。

 

 セナは防具の破損と弾切れ。

 藜さんは槍の耐久度が壊れる寸前。

 ランさんは弾切れとヴォルケインの破損。

 つららさんは長杖をロスト。

 れーちゃんは焦げたり凍りついたり、ボロボロ。

 

 全員、自分のNPCと戦って負けてしまったんだとか。最も、そのことに関しては相打ちの俺も何も言えたもんじゃないが。

 

「よし、これで耐久値は全回復っと」

「ありがとう、です」

 

 そして各自がそれぞれ不足の補填に動いた為、今ギルドに残っているのは俺、藜さん、れーちゃんの3人だけだった。更にれーちゃんはみんなの装備の修繕をしているため、実質俺と藜さんの2人きりだった。

 

 それでもって、俺だって一応耐久値を回復させることは出来る。なのでれーちゃんの負担軽減も考え、自室で藜さんの槍を整備していた。丁度今それは終わったが。

 

「不具合とか大丈夫ですか?」

「はい。特にない、です」

 

 手渡した槍をくるくると動かし、藜さんは問題ないと言ってくれた。嘘はついてないようだし、俺の65%しかないスキルでもちゃんと直ってくれたらしい。

 満足したように藜さんが槍を仕舞い、ポスンとベッドに座った。俺が机の椅子に座ってるから仕方ないが、自分が使っている寝具に座られるのは微妙に恥ずかしい。セナがリアルで布団に潜り込んでくるのは慣れてるが、それとはまた別だ。因みに断じて手は出してない。

 

「そういえば、ユキさんは、ボス戦どう、でした?」

「5回やって5回引き分けですね。ほんと楽しいです」

「えぇ……?」

 

 藜さんが非常に怪訝な目を向けてくるが、戦っていて本当に楽しいのだ。行動を邪魔し邪魔され相殺して、そんな相手といつでも戦えると思うと心が躍る。

 

「まあ、俺の同類の人たちはほぼ全員クリアしちゃったみたいですけど」

「やっぱり、あの人たち、おかしい、です」

 

 話を聞いた限り、忙しくてクエスト自体を受けてないザイルさん、鎧修復中のデュアルさん以外は全員、極振りの人たちはクリアしたらしい。早すぎる。

 

 ああ、言い忘れていた。俺たちが全員負けて帰還した時に、クエストの情報は掲示板に投稿してある。負けたという情報付きで。爆弾も処理したことだし、きっと今頃あの場所には結構な人数のプレイヤーが押しかけていることだろう。

 

「藜はボス戦どうでした?」

「惨敗、です。槍の狙いが正確で、スキルも早くて、ビットの操作も、負けてました。うぅ」

 

 しょぼんとした藜さんの頭を撫でようと動き出した右手を、自前の障壁で妨害してやめさせた。セナなら気にしないしれーちゃんなら仕方ないが、他の場合は失礼だとちぃ覚えた。

 微妙に葛藤が起きる中、藜さんが顔を上げて聞いてきた。

 

「ビットの操作、どうやったら、上手くなります、か?」

「四六時中【空間認識能力】使うとかですかね? でも、俺もボスにビット操作負けてますからね……果たしてどこまで通じるのやら」

 

 魔導書をぶつけ合ったりもしたが、結局相殺されるだけだった。NPC(コンピュータ)と同じ時点でおかしいとか言われても、そんなこと知ったもんか。

 

「ユキさんでも、です、か?」

「相打ちにしかなりませんでしたね」

「それでも、十分おかしい、です」

「そうでもないですよ」

 

 幾ら凄かろうと、勝てないなら結局それまでだ。楽しいけど教えられるようなことはないし、ダメダメである。

 まあ、それはそれとしてだ。

 

「アレ相手に、どうすれば勝てると思います?」

「アレって、ボスの、ことです?」

「ええ」

 

 まだ誰も戻ってこないようだし、今のうちから話し合っておくのに損はないと思う。一応勝てるかもしれない方法はあるけども……

 

「ユキさんは、何か意見、あります、か?」

「藜たちはパーティ組んでるから、自分が勝てそうな相手と相対すれば行けると思うんですけどね……」

「厳しいと、思います」

「ですよね……」

 

 定石通り相性の良い相手と戦えばどうにかなる。そう思ったのだが、そう上手くいくものでもない。

 

 先ず、回避盾風のビルドをしているセナが7人に分身するせいで超ウザいらしい。続けて藜さんの単体火力が非常に高く、ランさんのヴォルケインでも数発受けるので限界。そんな中にれーちゃんのバフデバフがかかり、足を止めたらつららさんの範囲魔法で凍らされる。しかも俺と違って、味方と敵を見分ける必要まで出てくる。

 

 回復役と防御役が不足しているのに、非常に厄介そうに思える。そう考えると、1人の方が楽かもしれない。

 

「ユキさんの方は、NPCの、意表をつくしか、ないんじゃ、ないです、かね?」

「ですよね」

 

 そう、俺が1対1で俺を破るのにはそれしかない。そして実は、俺を破る秘策は既にザイルさんに製作を依頼してある。それでも最後は運次第となるが、まあそこは極振りした幸運を信じよう。

 

 そう思っていると、メッセージを受信した音が聞こえた。開いてみれば運良くザイルさんからのメッセージで、内容は『ザイードを使いに出した。すぐに届けるから代金はちゃんと払えよ』とのこと。

 

「何か、あったん、ですか?」

「ええ。ちょっと秘策として注文していたアイテムが完成したらしくて」

 

 因みに注文していたのは、例のシャークトゥルフとオクトシャークのレアドロだ。どっちも数は余っているのだし、1つずつなら《新月》の強化に回しても良いかと思った末の判断だ。

 軽くそう振り返っていると、突然窓から差し込む光が遮られるのを感じた。遅れてスキルがプレイヤーの存在を探知し、最後に視界に見慣れた仮面と黒衣の姿を確認する。

 

「おや、邪魔でしたかな?」

「いえ、別に。代金は?」

「150万ですな。しかし、浮気は刺されますぞユキ殿」

 

 今朝のセナの姿が頭をよぎった。いや、うん、大丈夫。リアルじゃない。そもそもまだ付き合ってもない。そう思いながら、代金をポンと支払い《新月》とレア泥を加工したマガジンを受け取った。

 

「では」

「よろしくお伝えください」

「御意」

 

 たった数秒の取引が終わり、ザイードさんは霞の如く消え去った。また、見えなかった。最近、最高速のセナも見えなくなってきたし【空間認識能力】の再鍛錬が必要かもしれない。

 

「ユキさんって、どれだけ資金、あるんです?」

 

 帰ってきたアイテムが自分の物だと確認していると、ふと藜さんがそんなことを聞いてきた。その声音は、どちらかといえば呆れているような感じがする。

 あっ、そういえば150万Dって大金だった。ローン組むわけでもなく、大金を一括でポンはおかしいのか。それに、無駄に増えるお金はギルドに寄付もしてるし。

 

「最近無駄にボス狩りしてたから、2500万くらいですかね? そのせいで未だにカジノから出禁食らってます」

 

 ついでに最近、遂にビル爆破が限界に達して第3の街で指名手配されたことも追加しておく。お陰でステルスなしじゃ第3の街で行動出来なくなってしまった。爆破にスニーキングミッションが追加されただけなので、デイリービル爆破をやめるつもりはないが。

 

「ばかじゃないんですか?」

「褒め言葉ですね」

 

 極振りは馬鹿じゃないとやってられないって、それ1番言われてるから。次点で正気じゃやってられない。基本的に頭のネジが外れて……俺含め外れてるのしかいないからね、極振りって。

 

「さてっと」

 

 呆れてしまった藜さんが放つ空気を切り替えるように、パンと手を叩いて立ち上がった。

 

「それじゃあ俺は、もう一回ボス戦行ってきますね」

 

 準備は整った。デスペナ期間中ではあるが、まあそんなの何時ものことなので気にしない。

 

「勝てるんです、か?」

「ええ、運次第ですけど」

 

 そう言って俺は、たった今帰ってきたばかりの《新月》を肩に担いで見せる。

 

 ====================

【二式銃杖《新月》】

 Str +50 Dex +25

 Min +15

 属性 : 混沌

 口径 : 20mm(ダメージボーナス200)

 命中率強化(大)

 フルオート射撃

 ダブルマガジン

 装備制限 : レベル50・狙撃スキル所持

 耐久値 400/400

《クトゥルフマガジン》

 装弾数 : 50発

 ダメージボーナス100

 付与 : 正気減少・属性ダメージ(風・水)・防御貫通50%・弾速上昇(大)・命中率強化

《ヌークリアマガジン》

 装弾数 : 50発

 ダメージボーナス200

 付与 : 極大爆発・環境汚染・環境制圧・汚染残留・防御貫通30%・弾速上昇(大)・命中率強化

 ====================

 

 重めの装備制限を科すことにより、本体性能は拳銃以下なのに吐き出す弾は極振りに相応しいキチ具合の銃となった仕込み杖。これがあれば、運が良ければ勝つことができる。

 鈍い鉄の光沢を放つ仕込み銃に差し込まれた『緑がかった黒色に金色や玉虫色の斑点と縞模様の入ったマガジン』と『鮫のような黒にライムグリーンの電光が走るマガジン』が、その意思に呼応して脈打ったように感じた。あっ、SAN値1減った。

 

「それじゃあ、いってらっしゃい、です」

「行ってきます」

 

 そう軽く手を振って、俺は部屋を出発した。

 

 

『また性懲りもなく来たのか?』

「お前も俺なら、俺が死に覚えすることくらいは知ってるだろ?」

 

 そう言い合う俺たちの肩には、それぞれ骸ノ鴉が留まっている。お互いに【ドリームキャッチャー】でLukを強化し終えた証だ。

 

『それもそうだ』

 

 くっくっくと互いに笑って、お互い担いでいた《新月》を相手に構える。因みに、今回は朧はお留守番だ。巣の中でユックリと休んでもらっている。今朝からずっと頑張ってもらってたからね。

 

 そして、ここからが勝負。相手が想定もしない行動をすれば、紙耐久の俺は砕け散る。さあ、開戦だ。

 

『加速レーン設置!』

「《減退》!」

 

 敵の俺が銃弾を加速させる為の紋章レーンを設置したのに対して、俺は鴉に支えさせた《新月》を片手で持ち真上に掲げ反動を殺す減退の紋章を展開する。

 

『なっ!?』

 

 その行動に敵の俺が面食らってるあいだにレーンからずれ、引き金を引き絞った。

 

『はっ、馬鹿が! そんなもの当たる訳がない!』

「そうだな。まあ、運が悪ければの話だけどな!」

 

 幾らスキルの補助があるとは言え、当然のように俺が撃った銃弾は空中で軌道を歪曲させる。ダメージがあるほどの反動は殺してるとはいえ、フルオートで射撃しているのだから尚更だ。だから、それを利用する。

 

(まが)れ」

 

 ブレにブレた銃から乱雑に吐き出され続ける銃弾が、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。90度以上急激な方向転換をする銃弾もあり、我ながら運が良いが気持ち悪い。

 

『ちっ、《障壁》!』

「残念、《障壁》」

 

 敵の俺が張ろうとした障壁を【空間認識能力】と【鑑定】【看破】のスキルを併用して、1つ残らず相殺する。そしてこの戦い、後手に回った方が負けとなる。

 

「やれ鴉」

『鴉!』

 

 先行させていた鴉が、持たせていた【収束爆弾】を敵の俺に投下した。相手側の骸ノ鴉がそれを迎撃するが、間に合う訳がない。

 

『ちぃっ!』

 

 その拡散した爆弾に相手の《障壁》のリソースが割かれ、こっちの障壁に50ほど空きが出来た。そのリソースで敵の俺がステップで刻もうとした儀式を障壁で妨害し、同時に切り替わった魔導書ビットの動きも障壁で妨害する。

 

「《カース》」

 

 そして、それでもまだ20ほど空きがある。それを全て、必中の暴走紋章へと変換した。同時に空になったマガジンを入れ替えて射撃を継続する。腕がしっちゃかめっちゃかに暴れてるけど、知らないことにして引き金を引き絞り続ける。

 

「ははは! テメェは老いぼれだぁ!」

『ふざけやがってぇぇ!!』

 

 いい感じに名言会話が成立したが、筋肉が足りないから敵の俺に逆転は出来ない。

 そうして互いが障壁を張り、MPポーションを踏み潰し、空爆し、俺が一方的に射撃すること数分。遂に凶弾が敵の俺を貫いた。

 

「それじゃあ、今度は勝ち負け気にせずに来るから」

『2度と来んな』

「嫌だね」

『知ってた』

 

 こうして、ギルドのメンバーより一足先にクエストをクリアしたのだった。極振り内じゃビリから3番目だけど、まあ俺は戦闘力最下位に近いしそれを考えれば及第点だろう。

 




先手で自分を殺し得る攻撃をすれば勝ちでした。
新しいマガジンの大きさは元の対戦車銃のマガジンと同じサイズ。
Luk50,000の主人公じゃないとジャムるし当たりません。

-追記-
二式が弐式じゃないのはワザとです

おまけ
【ユキへの好感度 : 各街のNPC】
最低0 最高100
第1の街 : 50(平均 : 特に何もない)
第2の街 : 90(高 : お店やってるいい人)
第3の街 : 0(指名手配犯)
第4の街 : 0(指名手配犯)
第5の街 : 45(平均より下 : ヤベー奴)


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閑話 それぞれのミラーマッチ

ダイジェストです(活動報告におまけ短編上げてたり)


 数多の剣閃が、音速を超えて唸り飛ぶ。

 

 数多の斬撃が、空を引き裂き震撼する。

 

 全く同一に見える剣の動き、全く同一に見える戦術。双方ともに気迫は満ち溢れており、交差と激突を繰り返す。

 

 Str極振りプレイヤーアキと、そのコピー体が刃を交わし始めてから僅か数分。戦場となっているクエストのインスタントマップは、既に不壊の壁を除きアイテムは1つ足りとも存在していなかった。

 素で5桁に届かんとするStr(筋力)で振るわれる刃が交錯する毎に生じる衝撃の余波が、大気すら薙ぎ払っていく。

 

 一合毎に悲鳴をあげる運営とは対照的に、両者の身は全くの健在。しかし、コピー体のアキにだけは無数に細かな傷が刻まれていた。

 

『はぁ……はぁ……がっ』

「最新の後輩が負けたと聞いて期待していたが、所詮は絡繰。生身には及ぶべくもないか」

 

 膝をついたコピー体に向けてアキが言い放ったのは、紛れも無い失望だった。高まっていた期待に対する反動。英雄(ばけもの)ではなくあくまで人間(RPプレイヤー)であるアキにとって、それはロールプレイが綻びるほどの残念だった。

 

「だが、これまで刃を交えた相手の中で上位に食い込む腕前であることもまた事実。際限なく、万全の状態で手合わせが可能と考えるのであれば、有用といったところか」

『ふざ、けるな。何を値踏みしている。この勝負、“勝つ”のは俺だ!』

 

 コピー体が憤怒と共に立ち上がり、抜刀術を発動した。

 しかしそれは、数瞬早く発動された同じ技により中断、刃が砕かれた。

 

『まだだ!』

 

 刀の柄を投げ捨て引き抜かれた刃が、アキを捉える前に再び砕かれる。

 

「己の信念が乗っていない」

 

 砕かれる砕かれる。

 

「相手を殺す意思がない」

 

 砕かれる砕かれる砕かれる砕かれる。

 

「全てが、俺の焼き増しに過ぎない」

 

 砕かれる砕かれる砕かれる砕かれる砕かれる砕かれる砕かれる砕かれる砕かれる砕かれる砕かれる砕かれる砕かれる砕かれる砕かれる。

 

 発射速度も、射程距離も、破壊力も、全てが同値の筈の斬撃は一方的に砕かれていく。取るに足らない塵のように砕かれていく。

 硝子のように光を透かす刀身は、ユニーク装備に届く程の火力の代償として元より一度振るえば砕け散る耐久性しか持っていない。しかし、逆に言えば火力だけで言えばユニーク装備に匹敵するのだ。それを自分の装備に一切の被害を出すことなく砕くアキの技量は、常軌を逸していると言って過言でない。

 

「そのような鈍刀で、俺を破れるとでも思っていたのか?」

 

 そうしてコピー体に残った刀は、7本全てが健在の本人に対し僅か1本。既に、決着はついているも同然だった。

 

『いいや、まだ、まだだァ!

 特化付与(オーバーエンチャント)――閃光(ケラウノス)!』

 

 しかし、諦めることなくコピー体が咆哮する。そしてそれに呼応して、破滅を予感させる異音が発生し刀身が爆光を纏う。

 その特化したバフの内訳は、他のバフとは比べ物にならないほど破格だ。攻撃が掠れば死に、使った武器は即座に砕け散り、痛覚が増大するデメリットこそあるが、正しくその一撃は掠るだけでタンク型プレイヤーを10度殺して余りある威力を秘めている。

 

『奥義抜刀ーー』

「凄まじい威力なのだろうな。だが、無意味だ」

 

 そうしてコピー体が必殺の一刀を放つ直前、その身体を硝子の様に透明な刃が薙いだ。何のスキルを発動したわけでもない、現実のスキルで行われた抜刀術。その一撃は最大火力に拘ったコピー体よりも、圧倒的に早く斬撃を届かせた。

 

『バカ、な』

「換えの効かない愛刀を躊躇なく使い捨てる輩には、負けるつもりなどない。さらばだ、俺の劣化コピーよ」

 

 カシャンという微かな音と共に、コピー体が砕け散った。同時にアキの握る透明な刃も耐久限界で砕け散る。しかし、次の瞬間ユニーク装備の効果である【刀剣装填】により、アイテムボックスから全く同じ硝子刀が装填される。

 

 それを鞘に納め、コートを翻し立ち去るアキの手元にはクエストクリアのウィンドウが出現していた。

 

 アキ : クエスト挑戦回数1

    クリアタイム 05 : 27

 

「そらそらぁ! 俺のコピーってんなら、もうちっと気張れや!」

『ちっ、痛ぇじゃねえか!』

「そんなの知ったことかよぉ!」

 

 突き、払い、引き、穿ち、叩き、蹴り、薙ぎ、殴り、魔法が飛び交う。センタとそのコピー体の戦闘も、開始直後から激化の一途を辿っていた。しかし、その戦闘は一方的な様相を見せ始めていた。

 

 コピー体の攻撃は、躱され、いなされ、受け流され、受け止められ、何一つとしてセンタに対する有効打になっていないのだ。代わりに、加減された一撃が次々とコピー体に叩きつけられている。その差は双方のHPゲージに如実に現れていた。

 

「ったく、うりぼうはいい感じだったから期待してたってのによ。本体がコレとか興醒めだぜ。確かに俺の動きだから強えけどよぉ」

 

 センタ本人が移動時の自傷ダメージで削れているものの9割を維持しているのに対し、コピー体は既に3割を下回っている。

 前哨戦で行われていたペット同士の対決が互角、最新の極振りが敗北したという前情報を楽しみにしていた身としては、実際の力が拍子抜けするほど低く既に飽きがきていた。

 

『馬鹿な……ペットも、幸運の極振りも、俺たちは倒せた筈』

「あん? うりぼうは可愛いがあくまでNPCで、ユキだってVR始めてそんなに経ってねぇんだぜ? そんな奴らに勝ったところで、何が自慢できるんだっての」

『ゲイ=ボルク!』

 

 落胆しきった様子でやれやれとしているセンタに対し、不意打ち気味に黒いオーラを纏った槍が突き出された。それは、シャークトゥルフ戦で見せた所謂蹴りボルグと違って、刺しボルグと呼ばれるタイプのセンタの必殺技。

 連発可能な代わりにタンク型プレイヤー3人分程の火力を持つ筈のそれを、センタはこともなげに二本の指で掴み取った。ダメージ判定のある刃部分ではなく側面を保持し、腕の速度を槍の速度と完璧に合わせる凄まじく丁寧な荒技だった。

 

「せめて俺なら、これくらいはできねぇとな?」

 

 そして、カウンターとして放たれた槍の一閃がコピー体を貫いた。その結果HPは恐ろしい勢いで減少していき、スキルの効果で1だけ残して止まった。

 

「やっぱ呆気ねぇなぁ、お前」

 

 しかしそれも、槍が捻られたことによるダメージで0へと落ちた。開いたクエストのウィンドウを閉じ、センタは口笛を吹きながら歩き始めた。戦闘開始から、3分と42秒の出来事だった。

 

 センタ : クエスト挑戦回数1

     クリアタイム 10 : 35

 

『アンタは私、私はアンタだ』

 

 同時刻、Agl極振りのレンも自身のコピー体と向かい合っていた。お互いいつでも最高速に達することができるよう、利き脚を僅かに後方に下げている。

 そんな状態で、自身のコピー体をジッと見つめ確認したレンがぼそりと言葉を零した。

 

「なんだ、私より遅いのか」

 

 普通のプレイヤーであれば、まず聞き取ることなど出来ない声量。しかし、不運なことにコピー体には聞き取ることが出来てしまっていた。

 

『私が遅い!? 私がスロウリィ!? 冗談じゃ──』

「その言葉を、軽々しく使うな」

 

 そして、ついうっかり使用してしまった言葉がレンの逆鱗に触れた。劣化した自分が、自分に負けたことを認めたくないが為に使った尊敬するアニメキャラの言葉。レンの主観では、軽々しく、みっともなくその言葉を使われるのは非常に不愉快と言えるものだった。

 

『だったら試してみろよ、私ィ!』

「言われなくても」

 

 今まで上げていたサングラスを下ろし、鏡写しの動作で本人は右腕を、コピー体は左腕を地面と水平に掲げた。

 

「『来て、ヒエン』」

 

 その声に合わせ、青い燕がその手に留まった。主人と同様、速さを突き詰めたペットがお互いを視認し静かに睨み合いを始めた。

 

「『ユニオン』」

 

 しかしそれは、お互いの主人からの命令ですぐに中断された。名前の通り合体、それも装備と合体するスキルによって、お互い主人が装備する翠の脚甲にヒエンは合体する。

 そうして完成するのは、外側に1枚羽の様な飾りのある膝から下を覆うブーツ。燕の装飾が飾るターコイズブルーのそれは、上空の空気の様に冷たい風を纏っていた。

 

『いざ尋常に、勝負!』

 

 そして、コピー体が駆け出し──

 

 start-up。小さな電子音と共に、そんな合成音が鳴った。

 

「おっそーい」

 

 次の瞬間には、全身を刻まれ砕け散っていた。コピー体は最後まで、何が起きたか一切分からない様な表情だった。

 

「そんな速さじゃ、私にもあの人にも届かねえよ」

 

 time-out。再び鳴った音と共に、レンの手に装着されていた腕時計の様なアイテムがパージされる。データに分解されていくそれは、コピー体も所持していた筈の『自身の時間を加速することでスキルのチャージを終わらせる』課金アイテム(100円)。

 それを使うそぶりもなかったコピー体は、結果として何倍もの速度差で消し飛ばされたのだった。

 

 レン : クエスト挑戦回数1

    クリアタイム 00 : 26

 

『我は汝、汝は我。我は影、真なる我……?』

 

 ザイードのコピー体は困惑していた。自分はザイードがクエストを受け、このエリアに足を踏み入れたことで生まれた存在だ。

 しかし、そのコピー元である筈のザイードが見えない。自身の探知にも反応しない。あり得ないことだが、既にこの空間にいないのではないかと思えるほどだ。

 

妄想心音(ザバーニーヤ)

 

 そして次の瞬間には、自身のHPが0になっていることを確認した。馬鹿な。そう思うことすら許されず、コピー体は即死した。

 

「他愛なし」

 

 それをクエストクリアのウィンドウが出現したことで確認したザイードが、スキルを全て解除して出現した。その姿には、普段のRPではあり得ないものが1つ追加されていた。

 それは腕。

 長い腕。

 黒い腕。

 悪魔の腕。

 

「しかし、やはり本物の再現とは中々難しいですな。シャン」

 

 了承の意思を表す様に、黒く長い腕に赤い光が明滅した。これこそがザイードの右腕一体型ペットである、シャンという悪魔の右腕だった。

 

「だが、再現できるだけで儲け物というもの。再現率を上げるならば、我らの精進のみでしょうなぁ」

 

 呵々と笑うザイードと、光を放つその右腕は搔き消える様に去っていった。

 

 ザイード : クエスト挑戦回数1

      クリアタイム 00 : 30

 

『行きますよ!』

「ええどうぞ、こちらも行きますとも!」

 

 また別のインスタントマップでは、何もかもを消し飛ばす爆炎が吹き荒れていた。にゃしいとそのコピー体は、珍しく意気投合しはしゃいでいた。

 

『「エクスプロージョン!」』

 

 爆炎が広がる。

 

『「エクスプロージョン・改!」』

 

 爆炎が溢れる。

 

『「真エクスプロージョン!」』

 

 爆炎が吹き荒れる。

 

『「ハイパーエクスプロージョン!」』

 

 プレイヤーを10人は消し飛ばして余りある爆炎が吹き荒れる。本来はペットも同伴していた筈なのだが、とっくに消し炭と化してしまったことに2人とも気づいてはいない。

 

『「黒より黒く、闇より暗きエクスプロージョン!!」』

 

 再度吹き荒れる爆炎が、互いの攻撃を相殺して部屋を焼き焦がす。その惨状とは裏腹に、2人の顔は恍惚として今にも達しそうなほどだった。

 

「ああ、やはり爆裂は最高です」

『まさか自分が2人いるだけで、こんなにも素晴らしい爆裂が出来るとは……』

 

 全く同じポーズで、大の字ににゃしいとそのコピー体は倒れこむ。スカートの中身がモロに見えてしまっているが、この場にいるのはにゃしいのみであるので何も問題はない。

 

「ですが本来、私たちは殺し合う定め。こんな遊んでいて良いのですか?」

『何を言いますか私。私たちにとって、爆裂こそ優先度不動の1位であって、勝負事など二の次ではありませんか』

「それもそうですね!」

 

 そしてとても下品な高笑いを上げる2人。欲望がそのまま解放されているせいか、パンモロなのにも気付かず非常に満足気だった。

 

『ですが、私とあなたが更なる爆裂の高みを目指すには、私が1度は打倒されることが必須。であれば、私は潔く自害しましょう』

「マジですか。まるで私とは思えない言い草ですね」

『勿論、条件はありますとも。これからも、ここに来てくれますか?』

「あったりまえじゃないですか。ダブル私システムの快感を知った以上、来ないなんて選択肢はありませんよ!!」

『愚問でしたね!』

 

 再びとても下品な高笑いを上げる2人。相変わらずパンモロである。

 

『では、最後に窓の外に向けてダブルでエクスプロージョンを撃ち、フュージョンさせてオーバーレイからのエクシーズしましょう』

「いいですね、乗ったぁ!」

 

 ノリノリで飛び跳ねる様にダブルにゃしいは起き上がり、肩を組んでるんたるんたと窓際に向かう。そこから見える風景は、どうしようもない大嵐。ツインエクスプロージョンを試すには、絶好の天候と言えた。

 

「『空蝉に忍び寄る叛逆の摩天楼。我が前に訪れた静寂なる神雷。時は来た! 今、眠りから目覚め、我が狂気を以て現界せよ!』」

 

 勝手にBGMをにゃしいがネット経由で流し始め、ノリノリの詠唱が開始される。全く同一の動き、魔法陣、スキル使用タイミング、それが今1つに交わり極大の魔法を作り上げていく。

 

「『穿て! エクスプロージョン!』」

 

 そうして解き放たれたエクスプロージョンは、全ての雨雲を吹き飛ばして空に青を取り戻した。否、それだけではない。空に巨大な虹のアーチを掛けたのだ。

 火力点満点、芸術点満点、見栄え点満点、誰がなんと言おうと完璧なエクスプロージョンだった。

 

『それでは、まあいつか会いましょう私』

「明日にでも来ますよ、私」

 

 それを見届けたコピーにゃしいは、頬に朱が差した状態で内側からエクスプロージョンしたのだった。

 

 にゃしい : クエスト挑戦回数1

      クリアタイム 01 : 42 : 32

 

 そこは、終わりを迎えたとしか言いようのない風景だった。

 

 そこは、今尚終わり続けている場所だった。

 

 そこは、終わりが終わり続けている場所だった。

 

 床は、ある場所はぐずぐずに溶け、ある場所は冷凍された様に固まり、ある場所は溶岩が吹き出し、ある場所は光の反射が0となり不気味な様相を呈していた。

 壁も同様、様々な状態異常のテクスチャが貼り付けられ吐き気を催すマーブル模様を描いている。

 窓から覗く空も同様だ。本来あった大嵐という天候設定が書き換えられ、虹色の天蓋に緑の雪が舞うという意味不明な光景となっていた。

 

 その全ての中心たる部屋の中では、色彩が七色に変化し続ける12羽のひよこに囲まれて同じ姿の少女たちが組んず解れつしていた。傍には、魔法少女感が溢れるステッキが転がっている。

 字面だけ見れば、多少自分の頭を疑うだけで済む話のそれは、近くに寄るとよりその異常性が認識できた。

 

 短剣を逆手に構えた双方の右腕を、双方が噛み付いて動きを止めているのだ。そんな状態で、相手を先に殺さんと上下を入れ替えながら戦闘が継続されていた。

 

 コピー体翡翠が『流石私ですね。実力もさることながら、よもや美味しいとは』とでも言いたげな目を本人に向ける。

 対抗して本人も「そうでしょう。まさか私も、自分がコーヒー味とは思いませんでした」とでも言いたげな目をコピー体に向ける。

 

 上下が入れ替わる。

 

 コピー体翡翠が『それを言うなら、コーヒー漬けチャーシューじゃないですか?』とでも言いたげな目を向ける。

 本人翡翠が「肉ですし、それもそうですね。いただきます」とでも言いたげな目を向けた。

 

 因みにこのUPOというゲーム、運営の謎の拘りにより殆どのアイテムに味が設定されているのである。

 

 そして、お互いがお互いの噛み付いていた部分を喰いちぎり、一歩下がったところでペットのひよこを踏みすっ転んだ。その衝撃で、握っていた短剣もどこかへ飛んでいった。

 

 そのことを確認しつつ、もきゅもきゅと口を動かしながら立ち上がり互いを睨みつける。

 その目は「しかし、そろそろ限界でしょう。潔く負けてください」『いいえまだまだ。あなたこそ私に食べられてください』そんな風な意思が籠っていた。

 

 自身のペットの効果により、お互い既にSAN値は夢の20台に突入、そろそろ10の大台に突入しようとしていた。

 

 そんな中、本体翡翠が咀嚼していたモノを飲み込むために、一瞬目を瞑った。その瞬間を、コピー体は逃さない。足元のペットであるひよこの力も借り、本人に対し凄まじいスピードで突撃したのだ。

 

 本体翡翠が目を開けた時には、既にコピー体翡翠は目と鼻の先。あわやこのまま押し倒され捕食(そのままの意味)されると思われた時、本体翡翠がコピー体翡翠の腕を掴んだ。

 

 『そんなことで今更』とでも言いたげなコピー体。

 「それだからダメなのです」とでも言いたげな本体。

 

 どちらが正しかったのか。それは直後に明らかになった。

 

 本体翡翠がコピー体翡翠の腕を掴んだまま身体を回転させ、腕を巻き込んで行く。ここでコピー体が「しまった」とでも言いたげな顔になったが、時すでに遅し。

 妙に上手い投げ技によって、コピー体翡翠は地面に叩きつけられていた。そして、残り僅かとなったコピー体のHPを天候と待ってましたと言わんばかりのペットのつつきが削っていく。

 

「さあ、これで終わりです」

 

 トドメとして、馬乗りになった本体翡翠がコピーの心臓(クリティカルポイント)目掛け、真っ直ぐに掌打を突き入れた。

 

『か、は』

「それでは、また」

 

 満面の笑顔を浮かべて翡翠がそう言い、クエストをクリアしたウィンドウを伴い去っていった。噛みちぎられたままの右手をチロチロと舐めながら。

 

 翡翠 : クエスト挑戦回数1

    クリアタイム 2 : 12 :56

 




おまけ 各極振りのペット

アキ
==============================
 Name : エスペラント
 Race : 付喪神・真
 Lv 40/40
 HP 1500/1500
 MP 2000/2000
 Str : 600 Dex : 50
 Vit : 80 Agl : 50
 Int : 100 Luk : 130
 Min : 80
《ペットスキル》
【完全憑依 : 器物】
 ペット取得時発動
 主人の持つアイテムのうち何か1つに憑依する。憑依したアイテムに自身のステータスを全て加算する。
【スキル共有】
 自身の所持するスキルを主人と共有化する
【憑依物性能強化】
 自身が憑依したアイテムの性能を30%強化する(自身の加算分は除く)
【自律駆動】
 主人の意思とは関係なく活動することができる。その場合、毎分10のMPを消費する
【変化物】
 対霊性を獲得する
【妖刀】
 使用時主人のHPを確率で5%消費する。また、同種族(主人・ペット共通)を討伐する度正気度を1減少させる
《スキル》
【自暴自棄】
 毎秒自身のHP・MPを50消費し続けることで、全ステータスを2倍にする。
【抜刀補助】
 刀剣類憑依時限定スキル
 主人のStr・Agl合計分抜刀速度を上昇する
【刀剣ノ理】
 刀剣類を用いて攻撃する場合、与ダメージ+20%、クリティカル発生率+30%
【忠誠ノ誓イ】
 主人と自分のMPを共通化する。また、主人のHPが0になった場合、自身のHPを0にして復活させることができる。

《武器》
 憑依 : 【装刀オリハルコン】
==============================
にゃしい→狐火(別枠)
==============================
 Name : みゅいみゅい
 Race : キメラキャット
 Lv 40/40
 HP 2500/2500
 MP 900/900
 Str : 500(500) Dex : 100(100)
 Vit : 100(125) Agl : 200(215)
 Int : 60(60) Luk : 50(50)
 Min : 100(100)
《ペットスキル》
【キメラ】
 複数のモンスターの能力を共存して保有することができる
【守護獣】
 主人の半径10m以内にいる場合、全ステータスを20%上昇する
【龍の心臓】
 HPを100/60s回復する
 MPを50/60s回復する
【獣の眼光】
 MPを500消費して、20秒間自身の速度を2〜3倍にする
【闇の翼膜】
 MP消費なしで飛行を可能にする
 夜間行動時、飛行中の音を消去する
【自爆】
《スキル》
【防護ノ理】
 自身が防具装備時、被ダメージ-20%、主人の被害を100%肩代わりする
【聖なる印】
 対霊特効を獲得する
 自身の攻撃に任意で光属性を付与
【忠誠ノ誓イ】
【状態異常攻撃 : 猛毒】
《武器》
 装備不可
《防具》
 頭【十字印】Vit +5 対霊特効
 体【てんしのはね】Vit+20 Agl+15
 手 装備不可
 足【毛並みヨクナール】毛並みが良くなる
 靴 装備不可
==============================
デュアル
==============================
 Name : ロアーネ
 Race : 針山鼠
 Lv 40/40
 HP 2000/2000
 MP 1000/1000
 Str : 20(20) Dex : 50(50)
 Vit : 500(500) Agl : 80(80)
 Int : 80(80) Luk : 40(40)
 Min : 300(300)
《ペットスキル》
【守護獣】
【転がる】
 転がっている間、Agl+50
【デア・フライシュッツ】
 針を誘導付きで射出することが出来る。針の威力は150固定
【パンツァー】
 地面に接している限り、StrにVitの値を加算する
【天下針山】
 物理ダメージを35%反射する
 より多彩に針を発射することが可能になる
 針が直ぐに生えてくる
【極限硬化】
 針の強度を耐久値600相当まで上昇させる。また、全被ダメージを20%カットする
《スキル》
【防護ノ理】
【カウンター】
【悪食】
 遠距離攻撃系ダメージを無効化、想定威力の30%HPを回復する。
【針風船】
 MPを消費して近距離攻撃のダメージを50%、遠距離攻撃として計算する。残りの50%のダメージを相手に反射する。
《武器》
 装備不可
《防具》
 頭 装備不可
 体 装備不可
 手【ふわふわの手袋】対寒暖
 足 装備不可
 靴【ふわふわの靴下】対寒暖
==============================
レン
==============================
 Name : ヒエン
 Race : 山風燕
 Lv 40/40
 HP 800/800
 MP 2100/2100
 Str : 10(10) Dex : 100(100)
 Vit : 5(5) Agl : 600(620)
 Int : 50(50) Luk : 150(150)
 Min : 5(10)
《ペットスキル》
【疾風の翼】
 風を纏い減速をしなくなる
【追い風】
 戦闘開始から60秒毎にAgl+10%
 初めから最高速を出すことが可能になる
【ユニオン】
 主人の装備と合体する(合体時、ステータスを3つまで選んで装備に加算する。HPMPスキルは共有されない)
【サターンエンジン】
 MPを消費することで、際限のない加速を可能にする。
 速度がHPとLukの合計値を超えた場合、このスキルは暴走し最終的に自爆する。
【雨分身】
 周囲の水分を利用して、実体を持った同ステータスの分身を1体作り出す。
【タイム・ジャンプ】
 戦闘中1度だけ発動可能
 自身のMPを100%消費することで、自身及び主人の全てを3秒前に巻き戻す。
《スキル》
【チャンバー】
 エネルギーのチャージ・解放ができる
【氷の理】
 氷の魔法を使用可能になる
【クロックアップ】
 MPを15/2s消費することで、自身の速度を倍にする
【風切羽】
 飛行中、自身全体に斬属性を付与する
《武器》
 装備不可
《防具》
 頭 装備不可
 体 装備不可
 手 装備不可
 足【風のリボン】Agl+20
 靴 装備不可
==============================
センタ
==============================
 Name : うりぼう
 Race : ケルティック・ボア
 Lv 40/40
 HP 5000/5000
 MP 100/100
 Str : 500() Dex : 80()
 Vit : 100() Agl : 200()
 Int : 5() Luk : 10()
 Min : 100()
《ペットスキル》
【巨大化】
 巨大化する
【守護獣】
【魔法喰らい】
 魔法ダメージの30%を吸収する
【毒の衣】
 攻撃に状態異常 : 毒を追加する
 主人以外の触れた物に状態異常 : 毒を付与する
【野性解放】
 HPを500/60s消費することで、自身に状態異常 : 憤怒・狂乱・暴走を付与し全ステータスを2倍にする
【勇猛果敢】
 戦闘中Str・Vitを15%上昇させる
《スキル》
【悪食】
【野性の理】
 自身が防具を装備していない場合、与ダメージ+20%、移動速度+20%
【爆走】
 MPを消費し加速する
【運搬】
 アイテムをいくつか運搬出来るようになる
《武器》
 装備不可
《防具》
 頭 装備不可
 体 なし
 手 装備不可
 足 装備不可
 靴 装備不可
==============================
ザイード
==============================
 Name : シャン
 Race : 悪魔の右腕
 Lv 45/45
 HP 666/666
 MP 3000/3000
 Str : -- Dex : --
 Vit : -- Agl : --
 Int : -- Luk : 300
 Min : --
《ペットスキル》
【我ハ汝汝ハ我】
 召喚時主人と同化する。その際、HPMPを共有化する
【悪魔の右腕】
 同化した右腕を用いての攻撃に、確率で即死する効果を付与する
【力ハ不要也】
 Strの値を存在しない状態にする
 即死確率を上昇させる
【知恵ハ不要也】
 Intの値を存在しない状態にする
 即死確率を上昇させる
【護リハ不要也】
 Vit・Minの値を存在しない状態にする
 即死確率を上昇させる
【速サハ不要也】
 Aglの値を存在しない状態にする
 即死確率を上昇させる
《スキル》
【即死確率上昇】
【状態異常攻撃 : 呪い】
【状態異常攻撃 : 即死】
【霊体化】
 実体を消すことが可能になる
 その状態では、即死は対霊昇天攻撃としても扱う
《武器》
 装備不可
《防具》
 頭 装備不可
 体 装備不可
 手【罪ノ血染】即死確率上昇
 足 装備不可
 靴 装備不可
==============================
ザイル
==============================
 Name : ナキリ
 Race : 万能型自動人形
 Lv 50/50
 HP 2500/2500
 MP 2500/2500
 Str : 100(520) Dex : 500(640)
 Vit : 100(455) Agl : 100(170)
 Int : 100(250) Luk : 100(100)
 Min : 100(360)
《ペットスキル》
【精密稼働】
 元々のステータスに加え主人の50%程の精密稼働が可能になる
【自動修復】
 HP・MPを毎秒5回復する
【補助行動】
 補助AIスキルを装備可能になる
【戦闘補助AI】
 戦闘行為が可能になる
【生産補助AI】
 生産行為が可能になる
【運搬補助AI】
 アイテム運搬容量が増加する
《スキル》
【絡繰式剣術】【絡繰式銃術】
【絡繰式生産術】【絡繰式魔術】
【絡繰式防御術】
【補助腕】
 武器装備枠が2つ増加する
《武器》
【黒蓮銃剣 拾式】
 Str +150 Agl +20
 Dex +70
 属性 : 闇
 状態異常 : なし
 口径 : 12mm(ダメージボーナス120)
 装弾数 : 20/20
 射程延長
 耐久値 400/400
【白蓮盾剣 拾式】
 Str +100 Dex +20
 Vit +120
 属性 : 光
 防御範囲上昇
 耐久値 400/400
【蒼蓮槌剣 拾式】
 Str +150 Vit +20
 Min +70
 属性 : 水
 防御貫通(中)
 耐久値 400/400
【碧連杖剣 拾式】
 Int +150 Str +20
 Min +70
 属性 :風
 詠唱短縮
 耐久値 400/400
《防具》
 頭【微金の釵】
   Vit +20 Min +10
   周辺探知
 体【山吹の振袖】
   Vit +60 Min +60
   魔法ダメージ -10% 
 手【黒の肩衣】
   Vit +40 Dex +50
   物理ダメージ -10%
 足【白の袴】
   Vit +50 Min +50
 靴【天狗下駄】
   Vit +45 Agl +50
   移動速度上昇 +10%
==============================
翡翠
==============================
 Name : ひーこー
 Race : コズミック・インサニア
 Lv 45/45
 HP 1900/1900
 MP 2500/2500
 Str : 60(60) Dex : 80(80)
 Vit : 120(120) Agl : 90(90)
 Int : 100(100) Luk : 50(50)
 Min : 600(600)
《ペットスキル》
【異次元の色彩】
 身体が不規則に、七色に変化する。任意で発動は止めることができる。
 主人を除き、自身を見たプレイヤー・ペット・モンスターにSANチェックを発生させる(1/1d6)
【正気喪失】
 主人を除き、自身から半径10m以内に存在するプレイヤー・ペット・モンスターへ一定時間毎にSANチェックを発生させる(1/1d6)
【感染拡大】
 主人を除き、自身から半径20m以内に存在するプレイヤー・ペット・モンスターへ一定時間毎にランダムで状態異常を付与する
【遺伝子汚染】
 主人を除き、自身から半径20m以内に存在するプレイヤー・ペット・モンスターは一定時間毎に対抗判定を行う。
 対抗判定に失敗した場合、身体の一部がランダムで狂気的ナニカへ変質する。変質した場合SANチェック(2/2d6)が発生し、その部分は非常に脆くなる。
【隕石招来】
 小型の隕石を呼び出して攻撃する。
【殺戮ノ宇宙(そら)
 自身の半径20m以内に存在するプレイヤー・ペット・モンスターは一定時間毎に対抗判定を行う。
 対抗判定に失敗し、且つレベルが45以下の場合100%の確率で即死する。45以上の場合低確率で即死する。
《スキル》
【真・影分身】【ドッペルゲンガー】
【防護ノ理】
【状態異常攻撃 : 狂気】
《武器》
 装備不可
《防具》
 頭 装備不可
 体【毛並みヨクナール】
 手装備不可
 足【毛並みふわふわる】
 靴 装備不可
==============================


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第82話 準備中

あと1、2話リアル話


 俺が卑劣な手段でクエストをクリアしてから1日と少し後。セナたちは、戦う相手を入れ替える方法でクエストをクリアしたようだった。何回かリトライしてからの、辛勝だったらしい。

 俺がそんな風に伝聞調でしか言えないのには、2つほど理由がある。

 

 1つ目は、俺自身もあのクエストに入り浸ってたこと。腕試しと鍛錬も兼ねて自分自身とやり合い続けていたことで、その時間はあまり他のことに集中力を割くことが出来なかった。まあ、お陰で障壁の制御できる限界展開数は200まで増えた。丁度いいので制御なしで展開できる数を測ってもらった結果、そちらの限界は500枚だった。

 自分の限界が見えた分、もっと精進しなければ。

 

 2つ目は、例のダンジョン製作を始めたこと。ボス部屋はありがちな感じで適当に。9層はお試しでランダムにしたら【死界】が出たのでそれで決定。現在は8階層を製作中だ。迷路を作ったりトラップを配置したりが中々に面倒だが非常に楽しい。朧を含めたトラップを考えたりしてると、時間があっという間に過ぎていくのだ。

 

 その2つの理由によって、結果的にセナからの報告が2日ほど遅れたのだ。夏休みじゃなかったら毎日会うので少しは違ったのだろうが、正直少し悪いと思っている。

 

 と、そんなことをうっかり吐露してしまったからだろうか。

 

「とーくん、このお皿って仕舞う場所どこだっけ?」

「食器棚の2段目。多分同じの重ねてあるから」

「はいはーい」

 

 沙織が再び我が家に訪れていた。

 それも結構な荷物を持って。話を聞くに、今度は2泊予定だとかなんとか。確かに、1人でやるより洗い物とか掃除を始めとした家事全般が楽だし、ご飯も1人よりは楽しい部分があるけども……

 

「1泊ならともかく、2泊とかちゃんと親の許可取って来た?」

 

 残りの食器を洗いながら、そう問いかけた。

 多分うちの親も長居はしないだろうけど帰ってくるし、結構な問題になるんじゃないかと思う。だってほら、一応年頃の男女な訳だし。俺は怖い……沙織が俺を狙っている(自意識過剰)、正気ではない。

 

「うん! それに、とーくんのお母さんからも良いよって言われてる」

「えっ」

 

 どこぞの映画のセリフを思い出していると、食器を仕舞う沙織があっさりとそう答えた。

 そうだった……うちの親はだめなんだった。お父さん? お父さんがマイマザーに勝てるわけがないから、必然的に味方は消えた。我が家なのに逃げられない包囲網が完成してる件について。まあ……うん、いっか。真綿で首を絞められてる感しかないけど今更だし。追加で言えば最近、更に包囲網が狭まって来てる気がするけど。

 

「それで? 今回来た理由は?」

 

 最後の食器を洗い終え、気を取り直してそう聞いた。こういう風に突然くる場合、きっと何か目論見がある。……ただ単純に会いたかったなんてのもありそうだが。

 

「んーとね、本当はゲーム内で話そうと思ってたことが何個かあるんだけど、ユキくんいつ会いに行っても、何処か行ってて会えないんだもん。だから、リアルの方で来ちゃった」

「さいですか」

 

 これに関しては、俺が悪い気がしないでもない。四六時中一緒ってのもおかしい気はするけど、ずっとダンジョン製作で引きこもってたのも事実だし。

 そんなことを考えながら、台所から脱出しソファーに腰掛け脱力する。疲れたなぁとと思いボーってしていると、ぽすと沙織が股の間に座って寄りかかって来た。あの、なんで今日はこんなにグイグイくるんですかねぇ……

 

「それで、話そうと思っていたことって?」

「昨日ね、リアルの方で藜ちゃんと会ってきたんだ。ちゃんととーくんにも教えてあるから怒らないよね?」

「そりゃあね」

 

 ゲーム内でのメッセージじゃなく、丁寧にリアルの携帯電話の方に連絡が来ていたから見逃しもしなかった。確か『そんなに遠くじゃないなら行ってくればいいと思う』って感じで返信したはずだ。

 

「よかった。それで、2駅くらい離れてたけど、思ったより近くに住んでたし普通に仲良くなってきたよ。なんか変なおじいちゃんに絡まれかけたけど、藜ちゃんが顔見知りみたいで追い払ってくれたから大丈夫!」

「なるほど。いや、不審者が出るのか……となると、夜遅くに1人で帰すのは危ないかな?」

 

 因みに2駅と言っても、都会というよりは田舎な地域なのでかなりの距離がある。上りか下りかわからないが2駅も離れたところだと、夜10時にでもなればもう頼りない街灯くらいしか明かりもなくなる。畑なんかがあれば尚更だ。

 半分くらい偏見も入ってるが、不審者もいるとなると女の子を1人で帰して良い道じゃない。俺が送るのはありだと思うけど、男だからなぁ……俺。一時的なTSアイテムでもあれば良いのにと思ってしまうのは、流石にゲーム脳が過ぎるか。あ、でもTSトラップは面白そうだからダンジョンに作れないか考えておこう。

 

「それなんだけどね、女の子同士ならって私の家に泊まって良いって向こうの親御さんが言ってたよ。とーくんも来る?」

「まさか。態々そんな死地に行くわけないし、第一に俺が行ったら寝る場所無くなるじゃん」

 

 沙織の家はマンション、一軒家のうちとは違ってそんなにスペースが余っているわけではない。2人も増えたら余裕のキャパオーバーである。一緒に寝れば良い? そんなの実質、後戻り出来ない既成事実じゃないですかやだー。しかも2人分。

 

「それはそうだけどー。偶にはとーくんがうちに来てもいいじゃん」

「確かに偶にはって思うけど、沙織のお母さんグイグイ来るんだもん……」

 

 親公認というのが恐ろしいと思ったことが何度あったことか。なんで親が娘と同じベッドに俺を放り込もうとして来るんですかねぇ? あぁ、今気がついた。沙織がグイグイきてるのは遺伝か。

 

「それより、よく泊まりなんて許してもらえたよな」

「どこの高校だとか、変な薬やってないかとか、色々聞かれたけどね」

 

 それくらいは当然って言えば当然か。ネットで知り合った人のところに泊まるとか、薄い本の書き出しそのままだし。幾ら車で行ける距離とはいえ、心配するのは親として当然だ。俺と沙織の関係が世間一般の幼馴染にしても異常なだけで。

 

「だから、みんなで夏祭りに行くのには何も問題ないよ!」

「そうだな」

 

 満面の笑みで頭をぐりぐり擦り付けて来る沙織に、やはり大型犬の姿を幻視する。最近獣っ娘モードを見たせいか、その幻覚に拍車がかかってきた。

 ああもう、夏場だから暑いってのに……楽しそうだから良いけどさぁ。

 

「ちなみに今回ゲームは?」

「持ってきてるよ!」

 

 そう言って沙織が指差した先には、既に大きめのバッグから取り出されているヘッドギアの姿が。UPOやる気満々ですねはい。やるにしたら電気代……

 そう思った時、携帯が某緑色アイコンのSNSを受信した音を鳴らした。見れば発信元はお母さんで、内容は『b』一文字。問題ないのは分かったけど、エスパーかよマイマザー。

 

「やるなら俺の部屋使ってね。1階でやると何かと怖いし」

 

 盗撮空き巣その他諸々。別にそんなことが起こると決まった訳じゃないが、念には念を入れておく。もし空き巣が入ってきた時、ゲーム中で意識がないのが俺なら兎も角、沙織だと考えるとおちおちゲームなんてやってられない。だから過保護かもしれないが、これで良いのだ。

 

「りょーかい。ふっふっふ、とーくんの部屋であんなことやこんなことを──」

「したら許さないぞー」

 

 そんなこちらの心配を知ってか知らずか、そんなことを宣いやがった沙織の頭をわしゃわしゃとして続きを妨害する。ははは、安心しきってそんな場所に座ったのが運の尽き。満足に逃げることも出来なかろう。

 

「やーめーてー」

「その割には楽しそうじゃない?」

「だって楽しいもん」

 

 尻尾がぶんぶんと振られていそうな声音に、手の動きを止めた。これくらいじゃ無意味な行動だったか……

 後もうやらないから、もっともっと的な感じで催促してくるのやめて。精神面は長年の付き合いと鉄の意志に鋼の強さで耐えられるけど、刺激による生理現象だけはどうしようもないから。

 

 この状況から脱出するには、無理やり話題をすり替えるしかない。それでいて沙織の気を引けるものとなると……

 

「あ、そうだ。今日の晩御飯、沙織に任せて良い? 夏場の台所って──」

「いいよ! なんなら明日の朝も作るけど?」

 

 こちらが全部言い終わる前に、食い気味に沙織が返事をした。何この待ってましたと言わんばかりの超反応。ちょっと怖いんですけど。

 

「お、おう。それじゃあお願いするかな」

「腕によりをかけて作るんだから!」

 

 ハイテンションの沙織が立ち上がったのを見計らって、なんとか俺も立ち上がり埃を払うように服の裾を整えた。よし、逃げ出すならこのタイミングだ。

 

「ちなみに俺はそろそろゲームしに行くけど、沙織はどうする?」

「じゃあ私もやる! とーくんの部屋使っていいんだよね?」

「そうそう。序でに俺のも持ってきてくれると助かる」

「はいはーい!」

 

 バタバタと階段を駆け上って行く沙織を見送り、戻ってくるまでの時間で家の戸締りを確認する。玄関、リビング、トイレの窓、一応全てを施錠し戻ってくると、俺の安物ヘッドギアが机の上に鎮座していた。沙織のは音声認識も出来る高級品なので間違えようもない。

 

「もしかしたら、ゲームの筐体変えたらやりやすかったりして」

 

 埃被ってたくらい古いマイゲーム機より、最新の物の方がスペックは確実に高い。だからきっと、空間認識能力の処理限界だって上がるんじゃないだろうか。まあ、そんなもの買う金の余裕なんてないのだけれど。

 

 薄い自分の財布を思い出しながら、ヘッドギアを装着してソファーに身体を預ける。……微妙にさっきまでいた沙織の残り香が。これ、いくら1番安全だからって、俺の部屋使ってもらったのは間違いだったかもしれないなぁ。

 

「気を取り直して」

 

 雑念を払いヘッドギアのスイッチを押し、UPOの世界へログインした。

 ……襲われないよね?

 




晩御飯は肉じゃがだったそうな


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第83話 夏祭り

スギ・ヒノキ花粉とかこの世から消し飛べばいいと思う。
すまない……爆破、できなかった……


 特に大きな出来事もなく、ほぼほぼ普段通りの日常を過ごして数日が経った。そう、つまりうちの地域の夏祭り当日である。

 

「確か、待ち合わせは5時だったっけ」

 

 そんなことを呟き腕時計を見る俺は、待ち合わせ場所である駅近くにある謎のモニュメントの下にいた。微妙に時間が遅いのは、ランさんたちの電車の都合である。

 

「早く来すぎたかなぁ……」

 

 だが、現在時刻はまだ16 : 50を回ったばかり。駅から真っ直ぐ続く道に展開されている屋台や、そこを歩いていく着物やお洒落な格好をした老若男女を見ていると、早く行きたい気持ちが鎌首をもたげ始める。

 因みに、俺の服装は多少お洒落に気を使ってはいるが非常にラフなものだ。ドライTシャツと適当な半ズボンに、腰につけられるサイズのポーチ。あとは腕時計。お洒落に興味のない男子高校生にはこれが限界である。いやぁ涼しくて楽だ、だから笑いたくば笑え。

 

「見つけた!」

 

 特にやることがあるわけでもなし、UPOの掲示板でも覗こうかと携帯を取り出した時そんな聞き慣れた声が聞こえた。顔を上げれば、浴衣姿の沙織が見知らぬ女子の手を引いてこちらへ向かって来ていた。そちらも当然のように浴衣を着ている。

 

「えへへ、待った?」

「いや、まだ来たばっかり。それより、察するにその子が……」

 

 やたらと上機嫌の沙織は一旦置いておき、藜さんに顔を向ける。さっきは見知らぬ女子と言ったが、髪色などを脳内で修正すれば藜さんその人であった。

 

「きゃっ」

 

 返事代わりなのか沙織が、おずおずと手を出したり引いたりしていた藜さんの背をドンと押した。それにより若干足を縺れさせなが、藜さんはどうにか立ち止まった。俺の目の前、至近距離と言えるべきところで。

 微妙に恥ずかしく、硬直した空気。それを打ち破ったのは藜さんだった。

 

「えっと、初めまして、です、かね?」

「ですね。初めまして」

 

 とりあえず、VRの中では知り合いだが現実(リアル)では初対面だ。そしてこのままというのも何か収まりがつかないので、握手でもしようと手を差し出した。それに一瞬ビクッと反応したものの、すぐに藜さんと握手をすることが出来た。けれど、僅かに震えているからあまり長くこうしていない方が良いだろう。

 考えてみれば、初対面の女性と握手するのも結構不味かったかもしれない。仮想世界で知り合いな前提があるせいか、沙織との距離感がベースになりかけてる。修正しなければ。

 

 そうこう考えている間に、藜さんが沙織に肘で小突かれていた。それにより、一歩を踏み出し兼ねていた様子の藜さんが口を開いた。

 

「リアルだと、赤座(あかざ) (そら)って、言い、ます。えっと、出来れば、ですけど……気軽に、空って呼んでくれると、嬉しい、です」

「ちょっと、流石にハードルが高いですね……」

 

 ゲーム内での呼び捨てですら、地味に俺にとってはハードルが高かったのだ。それをリアルで突然となると、精神的なハードルは兎も角同級生男子から締め上げられかねない。いやまあ、そもそもやられるつもりも毛頭ないしやられたら陰湿に倍返しするけど。最近成績上がり始めた勉強熱心(大嘘)な子と、ちょっとした不満で嫌がらせをする奴のどっちに味方が多くつきますかねぇ? 後は、結構前に大袈裟に言えば襲撃して来た奴ら、あそこら辺を使ってちょちょいとね?

 

 まあ、そんなことはどうでもいい。それよりも、名乗られたんだからこっちも名乗らねば。

 

「俺はリアルだと幸村 友樹って言います。まあ、好きなように呼んでください、空」

 

 と、調子に乗って言ってみたはいいものの凄く恥ずかしい。うん、やっぱり沙織以外を名前呼びは結構くるものがある。けれど赤くなっていたのは俺だけじゃなく、藜さんも……いや、空さんも同様だった。双方自爆、痛み分けですね。

 

「それじゃあ、宜しく、です。とーくん、さん

 

 赤く染まった顔を下に向けながら、消え入りそうな声でそう言われた。……再度、自爆だこれ。但し俺にもかなりのダメージが来てる。

 とりあえず、ニタニタしている男がいたので殺気を飛ばしておいた。あと顔は覚えた、要警戒。それに、無粋なそいつのせいで羞恥心が引っ込んでしまった。何か話題を振らねば場がもたない。

 

 気づかれぬようそっと周りを見渡すと、丁度よく映画の広告があった。これなら、話題にも出来るしれーちゃん達を待つことも……無理そうだ。なんだよ『マッシュ・シャークvsゾンビ・ワスカバジ』って、クソ映画の匂いしかしないじゃないか。次も『リターン・オブ・ザ・ヒトラー2017』って……果てしなくB級の深淵というか、Z級の匂いがする。後で見に来よう、勿論1人で。

 

「ねぇねぇとーくん。それより、浴衣どうかな?」

 

 ゲーム内もかくやと言う思考速度でそんなことを考えていると、沙織がそんなことを言ってくれた。有難い。

 改めて説明すると、沙織の着ている浴衣は水色の地に赤い金魚の柄があり、濃い青系の帯をしていた、若干子供っぽいが、沙織に非常に似合っていると言えよう。

 対して空さんの着ている浴衣は、黒系の地に紫や赤紫の花柄で、赤系統の帯をしている。初対面の俺が判断していいのか分からないが、俺の知っている藜さんの雰囲気にも合っているし似合っていると思う。

 

「空さんはなんというか、落ち着いてる感じがするし、綺麗だし凄く似合ってると思います。まあ、ゲーム内の空さんしか知らない俺が何を言うかって感じですけどね」

「あぅぅ……」

 

 赤くなっていた空さんが更に赤くなり、きゅっと縮こまってしまった。しまった、順番逆にしておけば良かった。

 

「私はー?」

「はいはい似合ってる可愛い可愛い」

「雑ゥ!?」

 

 悩んでいる状態だったのもあり、沙織の言う通りかなーり雑な受け答えになってしまった。反省。一度思考をリセットしていると、膨れっ面の沙織がぶーぶーと文句を言ってきた。

 

「幾ら私でも、そんなに雑な対応されると悲しいんだけど……」

 

 それは長い付き合いだし知っている。だけど沙織さんや、貴女とても大切なことを1つ忘れてはいませんかね?

 

「このまえ、その浴衣にエプロン装備した状態で朝ご飯作ってたじゃん。その時に感想全部言ったから流石に残ってないって」

「あっ……」

 

 今気がついたみたいな顔をして、沙織が固まった。一泊した翌日、朝起きたらそれだったから俺は印象にかなり強く残ってたんだけど。かためのご飯と甘い卵焼きとか、好みが完全にバレてて何割り増しかで美味しかったですはい。

 寝て起きたら誰か(家族かそれに準ずる仲の人)がいて、ご飯作ってくれてるっていいよね。異論は認めない。

 

 こんな感じのことを始めに色々と話していると、時間は気がつけば17 : 00を超えていた。ならもうそろそろ来るかな? と思っていると、ドンと腰辺りに衝撃が走った。

 下を見ると、子ども用のピンク系の浴衣を着た幼女と言うべき女の子。その子が、元気よく手を上げて言った。

 

「ん!」

 

 れーちゃんだった。

 

「こんばんは、れーちゃん。でも人違いだったら危ないから、あんまりこういうのはしない方がいいと思うよ」

「ん!」

 

 しゃがんでれーちゃんに目線を合わしつつそう言ったのだが、『当たり前。ギルドのみんな以外にはやらない』と言われてしまった。確かに、子供扱いし過ぎたかもしれない。

 

「ん?」

「似合ってると思うよ。それより、ランさんとつららさんは?」

「ん」

 

 そう言ってれーちゃんが指差したのは駅。どうやら、れーちゃんが先に俺たちを見つけて1人で先行してきた形らしい。全く、逸れたらどうするのだろうか。あとランさんはもっとちゃんと見張ってて、どうぞ。

 

「ん」

「抱っこか肩車? ランさんとつららさんに知らせたいから? ごめんね、俺が殺されるから無理」

「ん……」

 

 とてもれーちゃんをがっかりさせてしまったが、背に腹はかえられない。誰だって命は惜しいのだ。

 軽くれーちゃんの頭をぽんぽんとして立ち上がると、不思議なものを見る目で2人に見られていた。普段から見慣れているだろうに……解せぬ。

 

「ねぇ空ちゃん。れーちゃんが何言ってるかわかった?」

「全然、です。なんで、とーくんさん、は、理解できるん、です?」

「昔からちょっとズレてたらしいから、私はそれで納得してる」

「じゃあ、私もそう、しておきます」

 

 そんな風に言われると、俺も少しは傷つくんですが。普段の行いが悪いのかなぁ……

 落ち込んだ俺を撫でてくれようとしていたれーちゃんのお誘いを丁寧に断っていると、人混みを掻き分けて一組のカップル?が現れた。

 

「ん! ん!」

 

 その姿を見てれーちゃんがぴょんぴょんと跳ねながら手を振り、そのカップルは安心したように胸を撫で下ろしていた。小さな子どもが保護者を置いて飛び出していったのだから、さもありなん。

 

 頷いて納得していると、ランさん(と思われる人)が近寄ってきて、れーちゃんの頭をペシリと叩いた。あまり痛くないよう加減されてるところに優しさを感じる。

 

「勝手に、1人で行くんじゃない。心配だろうが」

「ん! ん」

「『ギルドのみんなだから大丈夫』じゃなくてだな……世の中には、れーのことを狙う危ないやつらが沢山いるんだぞ」

「ん?」

「俺が助けてくれるから大丈夫? ゲームと違って、俺の手にも限界があってだな……」

「まあまあ、そのくらいにしてあげましょうよ。みんなも困ってますし」

 

 そのやりとりを見ているしかなかったこちらを気遣ってか、つららさん(推定)が此方に話題の方向を振ってくれた。

 

「見てわかる通りランだ。れーが迷惑をかけた」

「見てわかる通り、つららよ。宜しくね」

「ん!」

 

 こうして、(ユキ)沙織(セナ)空さん(藜さん)、ランさん、つららさん、れーちゃんと、いつものメンバーが揃った。花火が上がるのは凡そ19 : 00頃。それまではみんなと巡ることが出来るだろう。

 

「それじゃあ、花火大会楽しむぞー!」

「「「「おー!」」」」

「ん!」

 

 ランさんを除いた全員が沙織の号令で返事をし、ギルドのオフ会とでも言える夏祭りが始まった。

 




君の身体がそう(爆破を求めるように)なったのは私の責任だ。だが私は謝らない。

ついでにユッキーの服装が終わってるのは家庭環境が終わってるからです


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第84話 夏祭り②

今期のselector、一期からのメンバー勢揃いじゃないですかやだー(歓喜)


 るんるんしながら沙織が先陣を切り、その後を右からランさん・れーちゃん・つららさんが並んで手を繋ぎながら続く。そうして残されたのは、俺と未だ遠慮が抜けきってない様子の()さん。

 

「それじゃあ、俺たちも行きますか」

「沙織さんと、行かなくて、いいん、です、か?」

 

 結構恥ずかしいのを堪えてそう言うと、空さんは不安気にそう言った。まあ確かに、リアルでの実情を沙織なら確実に話してるだろうしそう言う反応になるのも頷ける。けど、だ。

 

「お祭りの時に沙織と手を繋いだりしたら、興奮する大型犬に振り回される飼い主みたいになりますからね……」

「納得、です」

 

 実際昔なった。手綱を握るなんて無理だと分かったから、それ以降は近くで見守るだけに努めている。俺にはあっちへこっちへ人混みを突き抜けて走り回る程の元気はないのだ。

 

「来ないのー?」

 

 だってほら、今もぴょんぴょんしながらこっちに手を振ってるし。

 

 

 あっちへこっちへ人混みを掻き分け歩いていく沙織を追いつつ、お祭りを巡ること10分弱。案の定と言うべきか、予想通りのことが起こった。

 

「逸れた……」

「逸れ、ました、ね」

 

 僅かに離れて歩いていたせいか、人混みに押し流され俺と空さんは皆から逸れてしまっていた。というか、空さんとも咄嗟に手を繋がなければ逸れていたと思う。

 

「どうします? 一応スマホは持ってきてるので、連絡すれば集まれると思いますけど……」

「そう、ですね。折角です、し、みんな一緒で──」

 

 そう空さんが言いかけた時のことだった。

 

 ボンッ!!

 

 と、花火が始まってもいないのに、そんな爆発音が聞こえた。聞き慣れたフィリピン爆竹のような音ではなく、何か高い圧力がかかっていたものが一気に解放された感じの音だ。

 

 俺としては懐かしいなぁと思う音なのだが、空さんは怖かったのだろう。繋いだままの手がきゅっと強く握られた。そして、不安に揺れる目で問いかけてきた。

 

「なんの音、です?」

「多分、ポン菓子じゃないですかね?」

 

 最近全くと言っていいほど見なくなったけど、今の音はきっとそうだ。昔はこれで大興奮してた記憶があるけれど、今ではもう懐かしいなぁと思うだけになってしまった。一瞬ポケットを漁ってしまったのは許して欲しい。

 

「ポン、菓子……?」

 

 そんなことを考えていると、首を傾げて空さんは不思議そうにしていた。この様子から察するに、知らないのかもしれない。確かに最近じゃ駄菓子が売っている場所でしか見ないし、そもそもそんな場所に行く人は少ないだろう。当然といえば当然なのかもしれない。

 

「せっかくだし買いますか。ポン菓子、結構好きですし」

「美味しい、です?」

「甘いし美味しいですよ」

 

 そう言うと、空さんは少し悩むようにしてから頷いた。決まりだ。沙織に連絡するのは一先ず後にして、人混みの奥に見えた屋台に向けて歩いていく。

 

「おっちゃん、1つください」

 

 そう言って財布を取り出した時、クイと空さんが服の裾を引いて言った。

 

「私も、払い、ます」

「いえ。呼んだのはこっちですし、俺が払いますよ」

 

 そんなことをを言いつつ代金を払い、ポン菓子の入った袋を受け取った。1人で食べきるに辛い量だが、2人や3人、合流した後であれば余裕だろう。

 

「むぅ……」

 

 けれど、空さんはどこか不満気に頬を膨らませていた。どうしてなのかは、残念ながら察することができない。このまま放置は最悪の選択肢なのでどうしようか思考を巡らしていると、屋台のおっちゃんが優しい声音で言った。

 

「まあまあ、彼氏にカッコつけさせてやれって。若干ショボいけどな」

「それは……ふふ、そう、です、ね」

「彼氏じゃないですけどね」

 

 空さんが納得してくれたのは良かったが、小声で否定しておく。仲は良い……と信じてるが、そこまで深い仲ではない。

 

「じゃあ、行きま、しょ?」

 

 祭の喧騒に紛れて、そんな細やかな抵抗は誰の耳にも届かなかったらしい。先程までとは逆に、俺が手を引かれる形で人混みを歩いていく。そうして少し開けた場所に出て、落ち着いて座ることが出来た。

 

「確かに、美味しい、ですね」

「それなら良かったです」

 

 一旦ここで休憩ということで、さっき買ったポン菓子や道中に買ったかき氷を並んで食べていた。俺が作っているわけでないので言っていいのか分からないが、気に入ってくれたようで何よりである。

 

「ところで、こっちから誘っておいてなんですけど……つまらなく、ないですか?」

「え?」

 

 何だかんだ俺は楽しんでいるが、空さんはどうなのだろうか。それが、少しだけ心配だった。半分こちらの都合で来てもらったのに、つまらないなんて思われてたなら……申し訳ないの一言に尽きる。

 

「そんなこと、ない、です! その、珍しく、2人きり、です、し」

「そう、ですね」

 

 流石に、恥ずかしくて顔を反らす。そして、気まずい沈黙の帳が降りた。祭の喧騒が響く中、終始無言の時間が続く。……なんとか打破したいけど、どうしようこれ。

 

「……溶ける前に、食べちゃいますか」

「……はい」

 

 そうして、それぞれのカキ氷に手を伸ばす。因みに俺はブルーハワイで空さんはレモン味だ。実際はどのシロップも味は完璧に同一らしいが、色の違いはやはり絶大な効果を発揮している。

 

 けど、この時に限っては絶妙にタイミングが悪かった。

 近くにいたカップルが、甘々しい空気を出しながらお互いにあーんなんてことをやっていたのだ。それもカキ氷で。俺も空さんも、ばっちりそれを目撃してしまった。

 

よしっ

 

 なんてバットタイミングと思っていると、僅かに逡巡した後空さんがカキ氷を乗せたストロースプーンを突き出して来た。駄目だこれ、覚悟が決まった眼をしてらっしゃる。

 

「えっと、これって、その、間接キスになるんじゃ」

「えっ、あっ……」

 

 とても大切な疑問点を挙げたところ、耳まで赤くなって空さんはフリーズしてしまった。いや、だってほら、そう言うのって大切じゃん? うちの幼馴染様は男友達レベルの気軽さで飲みかけのペットボトル飲んでくけど。

 

 と、そんなことを考えたからだろうか。

 

ひふへは(見つけた)!」

 

 浴衣姿の見慣れた人物が、こちらに駆け寄って来た。

 右手にイカ焼きを持ち、左手にビニール袋を2つ提げ、とても満喫してる感が溢れている。逸れて10分くらいなのにたまげたなぁ……

 

はへへはへはら(食べてあげたら)? わはひほはひふほひへふひ(私とはいつもしてるし)

「あんまり強く否定はできないけど、とりあえず口の中の物飲み込んでから話した方がいいと思うぞ」

ほはへー(そだねー)

 

 もぎゅもぎゅと口を動かして、沙織は食べていたもの(恐らくイカ焼き)を飲み込んだ。そして一度舌舐めずりしてから話し始めた。

 

「空ちゃん、一口カキ氷頂戴!」

「え? あ! どうぞ」

 

 沙織が耳打ちしてから、空さんの差し出したカキ氷を食べた。

 

「とーくんも食べたら?」

 

 なんだろうと思っていると、そんな言葉を投げかけて来た。ここで断った場合2人に恥をかかせることになるし……諦めよう。覚悟が決まってない状態ではやりたくなかったのだが、不可抗力ということで。

 

「あ、あーん」

 

 差し出されたカキ氷を今度こそ食べた。なんか、同じ味のはずなのな甘酸っぱい感じがした。

 

「じゃあこっちも、お返しで」

 

 ええいもうヤケだ。こっちもカキ氷を差し出す。いやぁ、なんだろうねこのカップル感。

 こうなるのは分かってたと思うから、その「策士策に溺れる」みたいな表情をするのはどうなんですかね沙織さん。あとそんな期待と羨望に満ちた目で俺をロックオンしないでも、あとであげるから。

 

「わたし、今、すごく楽しい、です。誰かと、一緒に、お祭りに、くるなんて、思ってもなかった、です!」

 

 けどまあ、こんな笑顔を見れただけ恥ずかしい思いをした甲斐はあったと思う。それは奥からこっちをロックオンしている沙織も同じようだった。

 少し気になる部分こそあったが、そこを今突っ込むのは野暮というものだ。

 

「そういえば、ランさんたちはどこに?」

「花火見る場所取りしてるから、ほかのみんなを呼んで来てってランさんが……あっ」

 

 沙織が、しまったという顔をした。

 あっ(察し)

 

「急ぎましょうか」

「ふふ、です、ね」

「わざとじゃないもん! イカ焼きの屋台が悪いんだもん!」

 

 半分ほど溶けていたカキ氷を掻き込み、ゴミをゴミ箱にしっかりと叩き込む。そして3人駆け足で、ランさんの待っているであろう場所へ向かって行った。

 

 

 結局俺たちが到着したのは、花火が始まる予定時刻の約10分前だった。けれどその時点では、その場にいたのはランさん1人だった。

 

「花火が始まるかと思ったぞ」

「ん……」

「ごめんなさい、れーちゃんがどうしても綿あめを──」

「許す」

 

 そして俺たちに遅れること数分、つららさんに手を引かれたれーちゃんが合流した。その手には何か可愛らしいキャラクターの書かれた袋と、ふわふわの綿あめが握られている。

 

「口元がべたべたになるから気をつけるんだぞ」

「そうね、私も昔はよくなってたわ……」

「ん!」

 

 ランさん、つららさん、れーちゃんが楽しそうにそんな会話をしている。3人の後ろ姿を見ていると、どうにも家族感が拭えない。あ、そういえば実質家族だからいいのか。

 

「あ、とーくんたこ焼き食べる?」

「ポン菓子にたこ焼きは合わないかなぁ……」

「じゃあ空ちゃんにあげる」

「あむ……おいひいれす」

 

 そんな感じのことをしている間に、花火が上がり始めた。

 

 ズンと腹に響く爆発音。

 僅かに漂う火薬の香り。

 あ、後夜空を彩る綺麗な光。

 

 あぁ…やっぱり素晴らしきかな爆発音。VRと生とじゃ、やっぱり色々と違う。無限の可能性を感じる。あぁ^〜爆破の音〜〜!

 けどリアル花火師は正直無理があると思うので、VRでまじめに花火打ち上げてみようかなぁ。ビルから打ち上げて、その後ビルを爆破したら楽しそう……楽しそうじゃない?

 

「たーまやー!」

 

 大きな花火が上がり、どこからかそんな声が聞こえて来た。

 

「かーぎやー!」

 

 次の大きな花火が上がり、そんな声が対抗するように聞こえて来た。

 

「エクスプロージョンッ!!」

 

 そして最後に、聞き慣れた声が2つと遜色ない大音量で聞こえた気がした。しかも気のせいでなければ、打ち上げをしてる対岸から。

 十中八九幻聴だろう。ギルドのみんなから「どうにかしたら?」って感じの目を向けられたけど、これは幻聴なのだ。幻聴って言ったら幻聴なのだ。

 

 夏の終わりを飾る花火は、いつもよりなんだか綺麗に見えた。

 




お客様を優先するホスト側なので、沙織=サンはいつもよりかーなーり落ち着いていました。なおユッキーは後で大変だった模様。


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第85話 夏休みは明けて

 夏祭りオフ会が終わり、夏休みが明けて9月に入った。

 それはつまり自由にゲームが出来る時間が減るということ。ちょっと問題はあったがダンジョンを完成させて満足していた俺はともかく、学校で沙織は不満げな雰囲気をずっと放出していた。

 

 新学期が始まってから、それも原因となって幾つかリアルで変わったことがあった。

 

 1つは、その沙織と俺の態度が原因で、倦怠期だどうのと双方からかわれるようになったこと。真偽は本人から違うのにと相談されたので間違いない。正直言ってクソ迷惑な行為だった。

 

 2つ目は、男子のグループに体育館裏とかいう古きテンプレに則った場所に呼び出されたこと。彼ら曰く罪状は『瀬名さんという彼女がいるのに他の女子と夏祭りデートを楽しんでいた死ね二股クズ野郎』とのこと。

 彼女じゃないし全員の合意の上での話だったのだが説明するほどの義理もないし、1発殴らせろ君のパンチが怖かったくらいしかなかった。勝手に内ゲバ始めてくれたから楽に逃げられたし。

 

 最後に、1、2のことが原因で担任に呼び出された。結果としては……うん、教師ってやっぱりクソだなって。こっちの言い分なんて一切聞かずに、某ゲームの聖人みたいに強制冤罪()使ってくるし。

 

 まあ、そんな俺のクソみたいなリアル事情はどうでもいい。

 

 それよりも、月が変わったことでゲームの方にも1つ新たな告知があった。そう、俺含め極振りが作っていたダンジョンが関係する、あのイベントだ。

 

 ==============================

【予告】超高難度イベント 開催!

 

 『十の王冠、不敗の巨塔』

 

【開催期間】

 イベント開催期間 9/3(日)〜9/17(日)

 

【イベント概要】

 別次元に繋がる、10個の迷宮(ダンジョン)が出現した。

 まるで何かの戴冠を祝福するかの如く、円を描いて並び立ち、天を貫く十の巨塔。

 それぞれが計10層の構造をしており、煌めく最上階には恐らく相当な宝が安置されていると思われる。当然、道中にはこれまでにない困難が待ち受けているだろう。

 各自、自分が得意である塔を登り、財宝を手に入れよう!

 

【イベント参加条件】

 第2の街に到達したプレイヤーのみ

 

【イベント詳細】

 このイベントは特別サーバー(体感時間3倍)で行われます。

 特別サーバーのため、サーバー内から通常ネットに接続することは出来ません。

 また、このイベントはあくまで超高難度イベントです。無理して参加する必要はありません。

 本イベントのダンジョンは、運営が制作した物が1つ、運営が依頼した極振りが制作した物が9つとなっています。

 また運営塔を除き、ダンジョンのボスは極振りプレイヤーが担当しています。担当プレイヤーがログインしていない場合は、クエスト『虚構舞踏会』と同様の再現NPCがボスを担当します。

 

 ダンジョン入り口には、各ダンジョン推奨スキル及び運営のテストプレイによる攻略タイム(ボス部屋前まで)が掲示される予定です。ぜひ参考にしてください。

 ==============================

 

 この告知が掲載された時の、掲示板の阿鼻叫喚具合は正直見ていて楽しかった。というか、現在進行形で阿鼻叫喚の地獄絵図なので見ていて楽しい。

 

「暇だ……」

 

 俺が今何故こんな話をしているのかというと、その一言に尽きた。そう、

 誰も! ボス部屋に! 辿り着かないのである!!

 

 それはそれで報酬が増えるので嬉しいのだが、クッッッッソ暇なのである。お陰でデイリービル爆破が、1本から3本に増えてしまった。序でにスキルの成長を目指して練習もしているのだが、時間が余って仕方がなかった。

 

 というわけで。

 

「ん」

「はいはい」

「ん!」

「了解」

 

 そんなわけで俺は今、ギルドに戻って給仕兼調理役としてせっせと働いていた。もしボス部屋に誰かが到達したら呼び戻されるらしいし、安心してギルドで働くことが出来る。

 

「それにしても、れーちゃんは行かなくて良いの? イベント」

「ん」

「ああ、レベルがあっても実戦経験はあんまりないからってこと?」

「ん!」

「そっかー」

 

 まあ、よくよく考えたら確かにそうだ。俺やセナたちと違って、れーちゃんのレベル上げの方法の大半はアイテム作成によるボーナスだという。俺以外のダンジョンがどんなもんなのかは知らないが、超高難度と銘打ってる以上キツイものだったのかもしれない。

 

「でも、普段回復役の俺がいないし、サポート役のれーちゃんもいないとなると……ちょっと辛くない?」

「んー……」

 

 問いかけてみると、確かにそうだけど……といった感じの意思が返ってきた。俺のダンジョンみたく、予算不足で1〜4階層がデフォルトそのままでもない限り、補助も回復もなしじゃ辛いところがあるだろう。

 

「というかずっと気になってたんだけど、俺が来る前って回復役いた?」

「ん! ん。ん……」

「れーちゃんがやってたんだ。でも俺が来てやる必要が無くなったし、つららお姉ちゃんみたいに攻撃を始めたと」

 

 中々難儀なものだ。というか、れーちゃんが補助役に復帰してくれれば、俺が尋常じゃなく頑張る必要がない気がしてきた。

 

「俺はイベントの都合上いけないけど……行ってあげたら? れーちゃんは。多分みんな喜んでくれるよ?」

「んーん」

「その時使ってた武器がもう無いから、行きたくても無理?」

「ん」

 

 どうやらそれが、れーちゃんが今ギルドに留まっている理由のようだった。その少し寂しそうな目を、どうにか出来る手段があるのに無視することは出来なかった。

 

「だったら、俺の部屋に中身が空の最高級の魔導書が何冊か余ってるから、あれ使っていいよ」

「ん?」

「大切なギルドの仲間の為だし、その気になればまたいつかゲット出来るだろうしね。あと、正直誰もボス部屋にたどり着かなくて暇で暇で……」

「ん!」

 

 ぴょんぴょんとして楽しそうなれーちゃんを見ると、身銭を切ったのは間違いじゃなかったと信じられる。そしてれーちゃんは、指を3本立ててから去って行った。

 3冊貰うなのか、3分で作るなのかは分からないが、いつも装備を作ってもらったりしている分の恩返しだ。だから、お店は俺とNPCの人だけでやれるし楽しんで来てほしいと思う。

 

「というわけで、料理以外出来ないので他をよろしくお願いしますね」

「了承しました。なお、爆発物を取り扱う行為は非推奨です。以上」

「ハハハ、使うわけないじゃないですか」

 

 別にれーちゃんが泣かされたりするような事態が発生しない限り、店の中で爆弾を取り出したりなんてしない。まあ、ユニーク装備の6個はどうしようもないから外気に晒されてるけど。

 

「虚偽答弁の可能性大。以上」

「……爆破しますよ?」

「ヒッ」

「嘘に決まってるじゃないですかやだー」

 

 そのまま笑ってみるが、シンと静まり返った店の空気に虚しく響くだけで終わってしまった。むぅ、ちょっとしたジョークのつもりだったのだが。

 けどこれも、有名税というやつなのだろう。その渾名が爆破卿なのだし、甘んじて受け入れる他ないということか。であれば、とことんやるのも良いだろう。

 

「俺としても、楽しく食べて行って貰うのは嬉しいことです。

 しかし、規律が全てだ。最低限のマナーさえ守れない奴は、罰を受ける」

 

 火の付いていないフィリピン爆竹を手で遊ばせつつ、お客さんに向けてそう言った。空気が一気にピリピリとして緊張状態になって来た。話を聞いてくれるのはありがたいことだ。

 

「ま、皆さんはこの前れーちゃんを泣かした人がどうなったか見てるはずですし、そうそう変なことはしませんよね。OK?」

 

 ズドンという幻聴が聞こえた気がしたが、まあそんなものは気のせいな筈だ。単なる映画の見過ぎだろう。……最近幻聴が多いし、今日からちゃんと寝よ。

 

「それにしても」

 

 料理と給仕を1人である程度賄いながら、ボスとしてダンジョンを確認できるウィンドウを開く。

 

 それによると、現在中ボス部屋である第5層を突破したプレイヤーは3人のみ。その人たちも第7層でまごついているようで、本命の8層に到達することは出来ていないようだった。

 

「暇だなぁ……」

 

 折角だからと思って第7層を、強い奴弱い奴入り混じってはいるけれどレアモンスターしか出ない階層にしたのは間違いだっただろうか。運営のテストプレイの人たちからは、1番分かりやすいし楽って言われてたから大丈夫だと思ったのだけれど。

 

 因みにそのテストプレイチームは、第8層のトラップ地帯でイラつきが限界に達して、第9層にさりげなく実装されてる【死界】を見て死んだ目になっていた。そんでもって待ち構えている俺を見て、口から魂が抜けていた。お疲れ様としか言いようがない。

 

「ん!」

「ああ、れーちゃん。行ってらっしゃい」

 

 普段持っているものと違って、白と緑の魔導書を抱えたれーちゃんがこっちに手を振ってくれていた。それに手を振って行ってらっしゃいを返し、特設サーバーに転送されるのを見送った。

 

 あ、さっきまで第7層にあった反応が1つを除きロストしてる。レアモンスターの暴力に勝てなかったようだ。このままじゃ暫く俺の出番も朧の出番もなさそうだし、もっと頑張って欲しい。

 諦めんなよ、諦めんなよお前! どうしてそこでやめるんだそこで!もう少し頑張ってみろよ! ダメダメダメダメ諦め(ry

 

「……ダメか」

 

 どこぞの太陽神式声援を送ろうとした直後、呆気なく反応はロストしてしまっていた。確かに、パーティで勝てなかった相手に単独で勝てるわけないよね普通。

 

「はぁ……」

 

 大きくため息を吐きながら、魔導書を操作して作業は続ける。

 実際のところ、アキさんのダンジョン以外は極振り全員が暇している状況なのだ。全部のダンジョンに、プレイヤーからの苦情が出ているのを確認したし。

 

 また暇だと口にしようとした時、ピロンと何かのメッセージを受信した。差出人はにゃしいさんで、内容は……花火作りましょう。火薬はお前持ちな! とのこと。なにそれ楽しそう。

 

「それじゃあ俺も用事が出来ましたんで、よろしくお願いしますね」

「了解しました。以上」

「早く何処かへ行ってください。以上」

 

 無表情でそんなこと言われると、微妙に傷つくような傷つかないような……まあ正直どうでもいいか。けれどこれで暫くは、暇をいい感じに潰せそうだ。

 



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閑話 それっぽい掲示板回っぽい

【新イベ】超高難度イベントについて語るスレ part32【無理ゲー】

 

 1.名無しさん

 ここは新イベについて話すスレです

 誹謗中傷はできるだけなしの方向で

 マナーを守って楽しくデュエル

 次スレは>900あたりを踏んだ人で

 

 2.名無しさん

 >1

 スレ立て乙

 にしても、まさかこういう形式のイベントになるとは

 

 3.名無しさん

 だよなぁ

 まさか、極振りがボスになってるとか思いもしなかったわ

 

 4.名無しさん

 いや、俺はダンジョン製作者が極振りって聞いた時点で察してたね

 正直無理ゲーな気しかしない(´・ω・`)

 

 5.名無しさん

 >4

 同意だわ

 少なくとも、1対1じゃ勝てる気がさらさらしない

 

 6.名無しさん

 >4

 同じく

 まあ、これはこれで懐かしき高難度イベントって感じもするけど……

 

 7.名無しさん

 それはそうと、ダンジョンの構成ってどうなってるん?

 これから挑もうと思ってるんだけど、どこが一番楽なのかなって

 

 8.名無しさん

 >7

 どこも楽な場所なんてないゾ

 

 9.名無しさん

 >7

 どこも地獄だぞ

 

 10.名無しさん

 >7

 地獄へよぉうこそぉ

 

 11.名無しさん

 どこも地獄なのには変わりないが、まあ紹介してやろうじゃないか。

 参考までに言っておくと、ルリエー周辺の敵が大体40レベ、湖の先が50付近、【機天・アスト】が60な。でもって、中ボス倒したら次からは出発地点そこにできる

 

 《運営塔》

【1F】暗くてジメジメした石造りのダンジョン。敵の平均レベルは30、罠少なめ。有志のメンバーによって地図が作成中

 

【2F】同上。敵の平均レベルは35、罠が少し増える。有志のメンバーによって地図が作成中

 

【3F】同上。敵の平均レベルは40、罠が少し増える。有志のメンバーによって地図が作成中

 

【4F】同上。敵の平均レベルは42、罠が多く感じられる。有志のメンバーによって地図が作成中

 

【5F】中間ボス部屋のみ(レベル50)

 

【6F】明るい吹き抜けとかのある塔の内部のようなダンジョン。敵の平均レベルは45、罠の量は変わらず

 

【7F】同上。敵の平均レベルは50、罠の量は変わらず

 

【8F】敵、罠含め同上。ただし、第2回イベの時にもいた、逃亡推奨のモンスターが少し徘徊。隠れるか逃亡推奨

 

【9F】同上。敵の平均レベルは55、いやらしい罠が沢山、逃亡推奨モンスターが増加

 

【10F】ボス部屋のみ(レベル75)

 

 一番攻略進んでる運営塔がこんな感じ。

 ボスの討伐報酬は【踏破の証《運営》】で、効果は渋って誰も明かしてくれないけど凄いらしい

 

 12.名無しさん

 そら誰も、高難度報酬の効果を明かしたりはせえへんよ

 自分の切り札になるのかもしれへんし

 

 13.名無しさん

 >11

 感謝……圧倒的感謝……!!

 

 14.名無しさん

 じゃあ、俺はアキのダンジョンについて

 

 《アキ塔》

【1F】ボス部屋(レベル40)

【2F】ボス部屋(レベル45)

【3F】ボス部屋(レベル50)

【4F】ボス部屋(レベル55)

【5F】ボス部屋(レベル60)

【6F】ボス部屋(レベル65)

【7F】ボス部屋(レベル70)

【8F】ボス部屋(レベル75)

【9F】ボス部屋(レベル80)

【10F】ボス部屋(アキ : レベル64)

 

 清々しいまでのボスラッシュ。あ、階段で回復と休憩は出来るから、多少余裕はあるぞ。まだ誰もアキを倒せてないけど

 

 15.名無しさん

 じゃあ僕はセンタさんので

 

 《センタ塔》

【1F】草原。敵の平均レベルは40、罠なし。ただし敵は全員武装した人型

 

【2F】武器が突き刺さりまくって、防具もばら撒かれてる墓場みたいな平原。敵の平均レベルは42、罠はなし。ただし、敵に物理無効の幽霊が出現するし、たまにギミックで動きを止められる

 

【3F】光が一切ない沼地。敵の平均レベルは42、罠なし。光源か暗視が必須だが、前者を使うとモンスターがわらわら寄ってくる

 

【4F】大時化の大海原。敵の平均レベルは45、罠なし。空中移動か水上移動の方法が必須だが、後者の場合転覆して死ぬ確率がそこそこ

 

【5F】ボス部屋(レベル56)

 

【6F】一本道の橋。敵なし。まあ、うん、色々あるが頑張って渡りきれ。それだけだから

 

【7F】城壁と9つの柵に怪物の首。敵の種類は【ダン・スカー・サーペント】(レベル60)のみだが、えげつない量popする。突破報告なし

 

【8F】城壁?

【9F】城壁?

【10F】ボス部屋(センタ : レベル71)

 

 どうみても影の国ですねわかりません(白目)

 あ、8Fと9Fは僕の想像ですので悪しからず

 

 16.名無しさん

 >15

 あり

 いやぁ、女王さまとかいそうで怖いなー(棒)

 

 17.名無しさん

 じゃあ俺はデュアルので

 

 《デュアル塔》

【1F】剣道場的な雰囲気が漂うダンジョン。敵の平均レベルは35、トラップなし。但し、敵が無茶苦茶硬く移動速度は遅い

 

【2F】城の中みたいな雰囲気。敵の平均レベルは40、トラップ少量。但し、敵が無茶苦茶硬くて移動速度が遅い

 

【3F】同上。敵の平均レベルは42、トラップ少量。敵の硬さはそのままに、移動速度が普通になった

 

【4F】同上。敵の平均レベルは45、トラップ中量。敵の硬さが上がったうえに、高速移動を始めて、物理無効の幽霊タイプまで出てきた。突破報告なし

 

【5F】ボス部屋(推定)

【6F】???

【7F】???

【8F】???

【9F】???

【10F】ボス部屋(デュアル : レベル63)

 

 敵はクッソ硬いけど、経験値はその分中々良いからみんなそっち方面を重視してるっぽい

 

 18.名無しさん

(無言の投稿)

 

 《にゃしい塔》

【1〜4F】完全吹き抜け。敵の平均レベルは40、移動阻害タイプの罠・爆発するタイプの罠が多数。敵のタイプは、爆発か爆裂する武器を持った機械か、そういう攻撃をしてくるモンスターのみ。壁を駆け上がってく中でそれ食らったら、確実に1階にまで落ちて死ぬ。

 

【5F】ボス部屋(レベル50)

 

【6〜9F】完全吹き抜け。敵の平均レベルは55、同じような感じのトラップに敵だが、AIはこっちの方が上らしくいやらしい攻撃ばっかりしてくる。落ちたら死ぬ。【※重要】爆裂あり

 無論突破報告なし

 

【10F】ボス部屋(にゃしい : レベル67)

 

 彼女はロリではない(腹パン)

 

 19.名無しさん

 速さが足りない!

 

 《レン塔》

【1F】遺跡風ダンジョン。敵の平均レベルは35、罠の量は普通。敵の速度が速いくらい

 

【2F】足場が脆く崩れやすくなる。敵の平均レベルは40、罠の量は普通。敵の速度は速い

 

【3F】足場が崩れてる。敵の平均レベルは40、罠の量は普通。敵の速度は速い

 

【4F】足場は脆いし崩れてるし、時折吹き込んでくる突風で下手しなくても1Fに真っ逆さま。こっちをビビらせたり、突風が吹いてくるような罠だけになる。敵の速度ははっやーい

 

【5F】ボス部屋(レベル50)

 

【6F】天井にも穴が空いてくる。敵の平均レベルは50、罠の量がちょっと多め。敵は強くて速い。突破報告なし

 

【7F】今までと同じような構造が、穴の空いた天井から見えている

【8F】???

【9F】???

【10F】ボス部屋(レン : レベル62)

 

 なんか頂上にレックウザがいそうな感じの作り。止まると落ちるから気をつけろよ

 

 20.名無しさん

 他愛なし(大嘘)

 

 《ザイード塔》

【1F】ダンスホール。敵の平均レベルは35、罠多量、赤外線センサー的なアレがある

 

【2F】ダンスホール。敵の平均レベルは40、罠多量、赤外線センサー的なアレがある

 

【3F】拷問部屋。敵の平均レベルは45、罠超多量、ハサンダンス推奨

 

【4F】どこかの屋敷と崖。敵の平均レベルは50、即死罠少量、転移罠少量、モンスターハウス罠少量、普通の罠大量。

 踊れ──!

 

【5F】ボス部屋(レベル50)

 

【6F】罠が罠を呼ぶ薄暗い階層。正直罠とアイテムを奪ってくるモンスターとかに気を取られて、詳しいことが分からない。

 でもただ1つわかるのは、あの紫色のトカゲは殺す

 突破報告なし

 

【7F】???

【8F】???

【9F】???

【10F】ボス部屋(ザイード : レベル62)

 

 21.名無しさん

 と、ここまでがとりあえず、ちゃんと判明してるダンジョンの中身だな!(目そらし)

 

 22.名無しさん

 あの……残り3つは?

 

 23.名無しさん

 爆破卿と良心と一番ヤベーののダンジョンが無いんですがそれは

 

 24.名無しさん

 いやぁ……翡翠のはそもそもの問題では、残り2つは、特別サーバーなこともあって難易度が跳ね上がっていまして

 

 25.名無しさん

 通常ネット及びノーマルサーバーに繋がらない場所で、どうやって趣向が凝らされたリドルを解けと

 

 26.名無しさん

 普通のダンジョンなら、そうでもない仕掛けなんですけどね?

 

 27.名無しさん

 ユキの方は何パーティか突破したらしいんだけど、階層の情報は明かしてくれたけど答えは教えてくれなくてなぁ……

 

 28.名無しさん

 というわけでユキのダンジョンを

 

 《ユキ塔》

【1〜4F】

 驚きの運営ダンジョンと99%一致

 但し、罠が爆発系に変更されているのと、宝箱の中身がしょぼくなっている。『予算不足』『天国と地獄』と書かれた扇子とか、『金欠』や『貧乏神』書かれた木刀が出てきたことも。

【木刀・貧乏神】は刀アイテムの中でそこそこ強い方の性能とかいう、なんとも言えない感じでした

 

【5F】ボス部屋(ボスが2体、双方レベル50)

 それと小部屋が13個あるのと、ここから先に進むには何種類かあるリドルに答える必要がある。突破報告、数パーティ

 

【6F】黄金郷……らしい。金塊ざっくざくでお金になるし、敵のモンスターも強いが効率がいいらしい

 

【7F】レアモンスターだけしかPOPしない……らしい。情報提供パーティはここで全滅したとかなんとか。

 

【8F】???

【9F】???

【10F】ボス部屋(ユキ : レベル52)

 

 後半に予算詰め込みすぎて、前半が残念になったんだろうなって

 

 29.名無しさん

 なにそれ悲しい。でも後半エグそう

 

 30.名無しさん

 金塊かぁ……取り行きたいなぁ(ボス倒せないだろうけど)

 

 31.名無しさん

 案外良心的に見える不思議

 

 32.名無しさん

 というわけで、ギミック的に最高難度2人の紹介に移りまーす

 

 33.名無しさん

 極振りの良心だけど今回は一番辛いネキのダンジョン

 

 《ザイル塔》

【1F】洞窟タイプのダンジョン。敵の平均レベルは35、罠の量は普通、ギミック大量。ギミックは大半が謎掛け

 

【2F】遺跡タイプ。敵の平均レベルは40、以下同文

 

【3F】森林タイプ。敵の平均レベルは45、以下同文

 

【4F】砂漠(夕方)。敵の平均レベルは45、以下同文。ただし、敵のモンスターが大体ピンク色なので、極めて見つけ辛いので注意

 

【5F】ボス部屋(スフィンクス : レベル60)4Fの謎掛けから推定

 

【6F】???

【7F】???

【8F】???

【9F】???

【10F】ボス部屋(ザイル : レベル67)

 

 ネット、ネットにさえ繋がっていればっっ!!! もしくは通常サーバーの奴らとメッセでも話し合えればっ!!!

 

 34.名無しさん

 ユキの方はまあ後ででいいとして、ザイルの方ってどんな謎々があるん?

 

 35.名無しさん

 簡単なので

 

 Q.どんなに頼んでも売ってくれない人の職業は?

 

 とか。因みに宝箱開けるのも、扉を開けるのも、階段に入るのにも謎掛け答えるのが必須だぞ。報酬は良いのが多いけど

 

 36.名無しさん

 ?

 

 37.名無しさん

 ??

 

 38.名無しさん

 あっ、占い師……

 

 39.名無しさん

 >38

 正解(エサクタ)

 売らないしで占い師らしい。検証班が死にそうになってるらしい。

 

 40.名無しさん

 あーそういう。ネット検索ができないとなると、ほんとクッソ面倒なダンジョンだなぁ……

 

 41.名無しさん

 BLEACHネタとかwwなっつww

 

 42.名無しさん

 ならユキのは?

 

 43.名無しさん

 こっちも結構種類があって、どうにもパーティ単位で設定されてるらしい。因みに俺のところが出されたのはこれ、原文ママね。

 

 てとてをつなぎ

 よぞらをみあげ

 ながれるほしは

 たてからよこへ

 てんとてんとが

 ことばをつむぎ

 よつえのまなこ

 まことをうつす

 

 入力する文字は五十音表通りに並んだひらがなから7文字だけど、正直分からなくて投げた。どこかの誰かが答え出してくれるの待ちですわ

 

 44.名無しさん

 ファッ!?

 

 45.名無しさん

 なんだこれ

 

 46.名無しさん

 まるで訳がわからんぞ

 

 47.名無しさん

 縦読み……じゃないし、斜めでもないし……そのままの意味も分からないし……んんん?

 

 48.名無しさん

 寧ろ突破したらしいパーティがいる方が不思議ですわ

 

 49.名無しさん

 ユキの出題、やっぱり変態じゃないか……

 

 50.名無しさん

 極振りは変態か……

 

 51.名無しさん

 あれ? 翡翠のは?

 

 52.名無しさん

 >51

 一番クソ難度

 

 53.名無しさん

 はいはい、じゃあ判明してる分出しますね

 

 《翡翠塔》

【1F】食堂。もう、なんというか食堂。敵もトラップも宝箱もないけど、調理器具と調味料だけは極めてふんだんにある謎の場所。偶に翡翠が料理して孤独のグルメしてる

 

【2、3F】5分ごとに一定範囲内(10m×10m×10m)の道の繋がる先、天候、がランダムにチェンジする。変更中に境界線にいると即死する。恐らく4Fもこれ

 

【5F】ボス部屋(推定)

 

【6〜9F】不明

 

【10F】ボス部屋(翡翠 : レベル66)

 

 54.名無しさん

 えぇ……(困惑)

 

 55.名無しさん

 なぁにこれぇ。というか、ラスボスが1階でご飯してるとか謎いんですけど

 

 56.名無しさん

 でもそんなこと言いつつ、幸せそうにご飯を頬張ってる翡翠ちゃんはみんな好きなんだろう?

 

 57.名無しさん

 否定、でき、ない!

 

 58.名無しさん

 翡翠タソー

 

 59.名無しさん

 翡翠チャンカワイイヤッタ-

 

 60.名無しさん

 いやほんと黙ってると可愛いのになぁ……

 

 61.名無しさん

 だが頭がアレだ

 

 62.名無しさん

 ギャップ萌え……合法ロリ……

 

 63.名無しさん

 おっと誰か来たようだ

 

 64.名無しさん

 さて、それじゃあ攻略問題について話戻しましょうねー

 

 65.名無しさん

 こう、りゃく……? できるの……?

 

(以下攻略談義)

 




ユキ・ザイル「ネットに繋がると思って作ってた」
運営「ネットに繋がってなくても平気だと思った」


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第86話 高難度ダンジョン(運営)

三人称ってやっぱ苦手だわ


 ズズンと重苦しい音を立てて、山羊頭の巨体が地面に倒れた。頭部にあった渦巻いた角は無残に折られ、悪魔のような翼は穴だらけとなり意味を成さず、蛇の尾は凍結の跡が残るのみで砕かれ、胴体には無数の切り傷と貫通跡。

 

 運営ダンジョン中間ボスモンスター【キメラティック・グラディエーター】は、ギルド【すてら☆あーく】と交戦を開始してから僅か数分でそのHPを0に落としていた。

 5人パーティ中4人がアタッカー、最後の1人も回復役をメインとしながらもアタッカーとかいうふざけた編成故の、常識ではあり得ない速度での戦闘終了だった。

 

「みんなお疲れ! 一旦きゅーけーしよー!」

 

 ボス戦終了直後の束の間の休息時間、そこにギルドマスターであるセナの声が響き渡った。運営製作の高難度ダンジョンに突入してから経過した時間は、なんと未だ1時間ほど。恐ろしい攻略ペースだが、代償としてそれ相応の疲労が溜まっているのは当然だった。

 

「さんせーい」

「む」

 

 その言葉に反応して、ずっと後方から魔法で攻撃を行っていたつららがヴォルケインの展開を解除したランに寄りかかった。FFに気をつけながら攻撃するのは、好き勝手に動き回る前衛のせいもあってかかなり集中力を削っていたらしい。

 

「ん!」

 

 そこに遅れて合流したれーちゃんが抱きつき、仲良く団子状になって休憩に入った。騒がしいように見えるが、それはそれでつい数分前までの切った張ったから考えれば和やかなひと時だった。

 

「お疲れ藜ちゃん」

「そっちこそ、です」

 

 その家族的関係とは対照的に、こちらの2人はハイタッチだけで終えていた。お互い座り込み隣に座ってはいるものの、その距離感は精々が仲の良い友人程度のものだった。

 

「そういえばさ、最近にしては珍しくユキくんがいないボス戦だったけど、藜ちゃんはどう感じた?」

「どう、って?」

「私と藜ちゃんって前衛じゃん? 1番ユキくんとれーちゃんの補助受けてると思うんだ。だから、ちゃんと何時もとのズレを直しておかないと、これから大変になりそうだなって思って」

「なるほど。確かに、そう、ですね」

 

 笑顔のままセナが言ったその言葉に、藜は神妙そうに頷いた。いくつか思うところがあったのだろう。むぅと数秒考えるようなそぶりをした後、指折り数えながら話し始めた。

 

「まず、いつもより、攻撃に集中、できません、でした」

「あー……ユキくんの防御無いもんね。確かに私も、タゲ取りが普段よりも多かったかも」

「あと、バフが足りない分、火力がいつもより、少しだけ減ってた、気がします」

「それも確かに。ユキくんもいれば、多分もうちょっと早くこのボス倒せたよね」

 

 普段さりげなくユキが掛けているステータス40%上昇バフや、クリティカル威力60%上昇バフ。爆破のせいで影が薄く忘れられがちだが、紋章術の正しい使い方で行われていた強化は欠ける事でその存在を明確に主張していた。

 あくまであればかなり便利というだけであって、決してなければならないと言うほどのものでもないこともまた事実であるのだが。

 

「そういうセナさんは、何かないん、ですか?」

「私? 私は良くなったことこそあるけど、悪くなったことはあんまりないかなー。悪くなったのも火力だけだから、もう言われちゃってるね」

「じゃあ逆に、良くなったことって、なん、ですか?」

 

 不思議そうに首を傾げて藜がそう言った。パーティが1人欠けたことによる穴、それを気にしないで良いメリットとはどんなのものなのか思いつかなかったらしい。

 

「バカスカ支援と障壁を使ってくれるユキくんがいない分、タゲ取りが楽なんだ。狙われないようにユキくんも立ち回ってるけど、流石に使用量的にどうしてもかなりターゲットされちゃうからね。その度に私はタゲ取りしてるんだけど……いないと、dps的にずっと私と藜ちゃんに集中するじゃん?」

「なるほど、です。トップギアにも、入りやすい、です?」

「そうそう。私ってビルド的に、ちゃんとバフ積まないと同レベル帯の人たちと比べたら数段火力下だし」

 

 銃剣での接近戦なら兎も角、銃撃となるとその性質上火力が接近戦攻撃よりも下がってしまう。両手も埋まってしまうそんな武器を使い続けているのは、偏に浪漫ゆえだったりする。

 

 自分で話題を振っておきながらそんな話をしているのにも疲れたのか、アイテム欄からバスケットを取り出してセナは言った。

 

「ところで、ここにユキくんが作った料理アイテムがあるんだけど、藜ちゃんも食べ──」

「食べます」

「……だね!」

 

 食い気味に返答した藜に若干引きつつも、自分に当てはめたらあまり変でもないことに気づいたらしい。和やかな休憩時間が始まった。

 

 

「きゅーけーしゅーりょー!」

 

 それから大体の10分弱の時間が経った頃、再びギルマスであるセナの声がボス部屋に響き渡った。休憩が入ったことで空腹などを始めとする状態異常の発生が抑えられ、準備は万全と言えるだろう。

 

「でもどうするの? ここからは地図もないでしょう?」

 

 ボス部屋の奥にある扉を開け、次の階層へ進みながらつららが問いかけた。現在自分の彼氏は絶賛妹を肩車中であり、戦闘区域でもない為この長い階段は暇なのであった。

 

「それねー。元々私、盗賊とか斥候みたいなスキル構成でやってたから、その時のやつを流用しようと思ってたんだけど……」

 

 チラリと後ろを見ながら、正確にはピンクのイルカのぬいぐるみを抱えて肩車されているれーちゃんを見てセナが言う。

 

「れーちゃんが合流してくれたし、そっちがメインになるかなーっと」

 

 そんなことを話しているうちに階段を登りきり、目の前には重厚な扉が堂々とその存在を主張していた。これを開けば第6階層、今までのような補助のない未知の階層。

 

 その扉が、今勢いよく開かれた。

 

 そうして広がるのは、朽ちた古塔の内部のような光景。床や天井の一部は崩れそこから見える空から光が差し込み、ダンジョン内部の樹木や瓦礫などを優しく照らしている。そこかしこにある浮遊する足場は一定方向に一定の間隔で移動しており、プレイヤーがそれを活用している姿がチラホラ見かけられる。

 

「れーちゃん、いける?」

「んー、ん!」

 

 ランに肩車されていたれーちゃんが、少し悩むようにした後頷き、抱えていたイルカのぬいぐるみを両手で天高く掲げた。

 

『キュッ!』

 

 それに合わせて、れーちゃんの抱いていたぬいぐるみが鳴いた。生き物の声とも、合成された声とも言えない不思議な声がフロア中に響き渡り、反響を重ね奇妙な調べを奏でる。10数秒に渡るそれは余韻を残して消えていき、次の瞬間れーちゃんが開いていたマップに様々な情報が一気に記入されていく。フィールドの形、浮遊床の移動方向・距離、敵の居場所、宝箱の配置されている位置。自身を中心として半径400m以内の全てが、実際に歩いたわけでもないのに完全に記入された。

 れーちゃんのペットである『てぃな』は、こと探索という事柄に関しては恐ろしいまでの性能を誇っていた。

 

「れーちゃん、階段は?」

「ん」

 

 しかし今回は、次の階層への階段を見つけることは出来なかったらしい。れーちゃんは残念そうに首を横に振るだけだった。それを確認し、全員とアイコンタクトを交わしてからセナが言った。

 

「敵にあんまり遭わないで、端まで行けるルートお願い。あと、出来れば近くの宝箱のある場所も」

「ん!」

 

 元気なれーちゃんの返事の直後、全員が慣れたものだと言わんばかりに動き出した。

 

制裁突撃(サンクションズチャージ)、ヴォルケイン」

「《アイスピラー》!」

 

 ランがヴォルケインを展開し、つららが魔法で生み出した氷柱を足場にしてその肩部に騎乗。セナと藜もそれぞれの得物とペットを呼び出し、戦闘態勢を整えた。ユキがいたとしたら、確実に取り残されていること間違いなしである。

 

「それじゃあ、レッツゴー!」

 

 そんなセナの音頭を合図に、れーちゃんのナビのもと全員が高速で移動を始めた。何事かと目を剥く他のパーティを通り抜け、モンスターからのターゲットは振り切って、避けられないモンスターは銃撃斬撃槍撃魔法といった多種多様の攻撃で粉砕し、トラップは発動前に凍結するか銃で撃ち抜かれて動作を停止する。

 そうして僅か1分程で、れーちゃんがスキャンを終えたマップの端に到達していた。

 

「れーちゃん!」

『キュイ!』

「ん」

『見つけたそうだ』

 

 そして2回目のスキャンで、運良く階段を見つけることができたらしい。ランがこっそり伝え、れーちゃんが指差す先は……宙に浮かぶ島のようになっている場所の、中心に聳え立つ満開の桜だった。

 

 本来であれば、浮遊する足場を乗り継ぎ乗り継いだ果てに辿り着ける場所。けれど、何事にも例外というものはある。

 

「あんまり長くは保たないから、急いで渡って欲しいわ、ね!」

 

 全員がいる場所から対岸の浮遊島まで、太い氷の橋がかかる。バイクが天井を走ったり、日常的にビルが爆破されたり、森が焼失する世界なのだ、別に正攻法で挑む必要はない。

 無論、この方法はグレー判定だが裏ワザということもあり、大きなデメリットも抱えている。それは、モンスターからのターゲットを非常によく集めてしまうこと。渡っている最中、普通であれば大小構わず襲いかかってくるモンスターに撃墜されるのがオチだ。だが、

 

「《盗賊の加護》!」

「《ミラージュ》!」

 

 それも今回は意味を成さなかった。セナが使用した、盗賊の加護というパーティ全体に対する潜伏技。つららが発動した、指定したプレイヤー全員を透明化する魔法。その2つにれーちゃんのペットが持つ隠蔽強化系のスキルがシナジーし、ターゲットは通常時と同程度まで低下していた。つまり、ほぼ自由に通行ができるということである。

 

 れーちゃんがマップ情報を取得し、

 セナが罠を発見&全体潜伏を使い、

 つららが罠を凍結&道を作り、

 ランが機動力と防御力を補い、

 藜がそれでもエンカウントした敵を蒸発させる。

 

 全員がなんかいい感じに噛み合い、ここにダンジョンRTAが実現していた。

 




==============================
 Name : てぃな
 Race : ぱぺっとどるふぃん
 Lv 40/40
 HP 1000/1000
 MP 2500/2500
 Str : 10(10) Dex : 200(200)
 Vit : 90(100) Agl : 60(70)
 Int : 320(330) Luk : 100(100)
 Min : 90(100)
《ペットスキル》
【音響探査 : 地形】
 MPを消費し、自身のLv×10m半径内の地形をマップに記録する
【音響探査 : 宝物】
 MPを消費し、自身Lv×10m半径内に宝箱がある場合マップに記録する
【音響探査 : 階段】
 MPを消費し、自身のLv×10m半径内に階段がある場合マップに記録する
【不協和音 : 遭遇低下】
 自身のHPが50%以上の場合、自分のレベル以下の敵とのエンカウント率を著しく低下させることが出来る
【不協和音 : 音波迷彩】
 自身のHPが50%以上であり、自身または主人が潜伏系統スキルを使用・効果対象になった場合、敵からの発見率を低下させることができる
【和音 : 音響砲】
 MPを全て消費することで発動
 自身の前方に全てを破壊する音波砲を放つ。ダメージは自身のLv×消費MPが最低値となる(スキル等による減衰は可能)
《スキル》
【忠誠ノ誓イ】【防護ノ理】
【ぬいぐるみボディ】
 物理ダメージカット80%
 回復系効果上昇50%
 水属性ダメージ吸収。但しその後、予測ダメージ×30秒重量倍加、Agl低下100%
 風属性被ダメージ上昇50%。但しダメージ判定後、被ダメージ×30秒重量半減、Agl上昇100%
 火属性ダメージ上昇80%
 強化系統効果無効
【この身を捧ぐ】
 主人が死亡時、自身のHP・MPを0にすることで主人を蘇生させる。その際のHP・MPは捧げた自身の値と同じになる(上限突破は不可)
《武器》
 装備不可
《防具》
 頭 フェルトの帽子 Vit+10 Int+10
 体 フェルトの浮輪 Agl+10 Min +10
 手 装備不可
 足 装備不可
 靴 装備不可
==============================

【速報】ユキ、爆破の炎の色を変更可能に!


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第86話 高難度ダンジョン(運営)②

祝100話!


 瞬く間に6層を抜けたセナたちすてら☆あーくは、同様に高難度ダンジョンを駆け抜けていく。最速で、最短で、真っ直ぐに。

 

 敵のレベルが上がっただけで代わり映えのしない7層は、6層の時同様数分で駆け抜けられた。

 

 8層は強力な敵mobが徘徊を始めたが、ルートが決まっているため回避。そのままこちらは10分経つか経たないかといった時間で攻略された。

 

 そして9層も、徘徊ボスのパターンが変わっただけ。一定のルートを周回するタイプ・プレイヤーを見かけたら一定距離まで延々と追いかけてくるタイプ・不意打ちで現れるタイプ。そのどれもが本来であれば強力な障害となり得た筈なのだが、悉くれーちゃんの探知によって避けられ障害としての役目を果たすことが出来なかった。

 大量にあった筈の罠も、カモフラージュごと凍結させられ機能不全を起こしたり、銃弾を撃ち込まれて誤作動を起こしたりして無力化された。

 

 普段極振り(異常者)と関わり合うことのない職員が涙を流して頭を掻き毟り、極振り対策室の連中からは言わんこっちゃないと呆れられる所業でダンジョンが攻略されていく。

 

「これで、最後!」

 

 そしてたった今、最後の10階層へ続く階段の扉が解放された。これまでの経過時間は、休憩を含めて40分程。ユキなんていなくても余裕だと言わんばかりに、一応トップギルドとしての威信を示した形だ。

 

 最早ボス以外攻略を阻む手立てがなくなった運営が、涙と共に崩れ落ちた。それを極振り対策室の連中が笑い、軽く暴動になったのはまた別の話。

 

 安全地帯である階段に入り、全員が一息ついたところでセナが言った。

 

「折角ここまで速くダンジョン攻略してきたし、いっそタイムレコード狙っちゃわない?」

 

 ダンジョン入口の立て札に記載されていた運営側の記録タイムは【02 : 32 : 43】。プレイヤーサイドとして掲示されていたパーティ『モトラッド艦隊』の攻略タイムは【01 : 23 : 50】。次のボス戦次第では、十分に記録更新を狙えるタイムだった。

 

 無論悠長に休憩していては間に合わない時間だ。

 だが、最低限の休息を入れるだけなら間に合うかもしれない。

 最速の記録を更新出来るかもしれない。

 何か報酬が貰えるかもしれない。

 

 なにもかもが『かもしれない』だが、目の前に届きそうな記録があるのだ。オンリーワンが狙える場所にいるのだ。で、あるのならば。挑戦しないということがあり得るだろうか?

 

「いいです、ね」

「ん!」

「いいんじゃないかな?」

「いいだろう」

 

 いや、ない(反語)

 ゲーマーというのは大抵そういう人種だ。ましてや、高難度ダンジョンをRTA(リアルタイムアタック)なんてする連中であれば言うまでもない。

 

「まあ、超レベル差あるから、勝てるかは分からないけどね……がんばろー!」

 

 何せボスのレベルは85であるのに対し、すてら☆あーくの平均レベルは60。現状プレイヤーの最高レベル(センタ)が72である以上仕方のないことだが、20というレベルの差は非常に大きな隔たりとなって立ち塞がることは目に見えている。

 だが、それでもクリアしたパーティがあるのだ。されば突破は不可能ではなく、ただの難題でしかない。高難易度、そう冠された名前に相応しい。

 

 ピリピリと緊張を孕んだ空気の中、各々が回復と軽く気を休めながら階段を登っていく。パチパチと階段を照らす松明の音が静かに響く中、階段の果てである踊り場に到達する。

 そこにあったのは、豪華絢爛な装飾を施されながら、どこか不気味でおどろおどろしさを感じられる重厚な扉。ユキが居れば適当なことを言って雰囲気をぶち壊しかねなかったが、残念ながらここにはいないので全く問題がない。

 

「それじゃあせーので開けるよ!」

「ん!」

「「「「せーの!」」」」

 

 全員で扉を押し、相当な重さのそれをゆっくりと開いていく。そして半分まで扉が開いた時、一気に抵抗が無くなり大きく開かれた。

 

「わぁ……」

 

 そうして眼前に広がったのは、とても美しい森だった。黄金に透き通る素材で出来た森が風に揺れ、扉からその先にあるひらけた広場のような場所まで一直線に道が続いている。

 

 そして広場の中心に、どう見ても景観にそぐわない異物が存在していた。

 

 風に揺れる闇を濃縮した様なローブ。

 三重の王冠の様な装飾がある円錐形の魔女帽。

 そしてエジプトのファラオが持つ様な形状の杖。

 それら一式を装備した、黒人の人よりも黒い肌の成人男性。

 

 それがジッと、侵入してきたセナたちを見据えていた。ただそれだけでなにもしないのは、恐らく戦闘エリアがひらけた広場の内部だからであろう。

 セナが全員を見渡し、頷き足を踏み出す。そうして全員が広場の内部に入った時、黒い男がその口を開いた。

 

「貴様らが、此度の挑戦者か」

「喋った……?」

「如何にも。我には貴様ら挑戦者と言葉を交わす権利が与えられている」

 

 会話が成立するボスモンスターに遭遇したことのないセナたちがその言葉に騒つき、藜が1人息を飲んだ。ああ何せ、決して短くはないこのゲームのプレイ経験の中で、会話の成立するボスモンスターなんて代物は、あのイベントの【死界】の主であった伊邪那美しか遭遇したことがないのだから。

 

「だが、急いでいるのだろう? 多くを語ることはあるまい」

「そう、ですね。では!」

 

 ボスが杖を付き、全員が武装を構え、双方が如何にもな戦闘態勢に入る。そして大仰な身振り手振りをしながらボスが告げる。

 

「我は暗闇。千変万化の恐怖の具現。いと小さき挑戦者よ、存分に挑むが良い。そしてその果てに待つ煌めく栄華を夢想し、無念のまま散るがいい!!」

 

 そして暗い波動が吹き荒れ、セナたちに掛かっていたバフが全て消滅し戦闘が開始された。敵のHPバーは3本、名前の表示は【Unknown】。格好から見れば魔法使いタイプだろうが、それだけで終わることはないだろうと誰もが直感していた。

 

「《ピアッシング》」

 

 そして誰よりも速く動いたのはセナだった。

 最高速ではない為3人と控えめだが分身し、それぞれがそれぞれの双銃剣から防御貫通攻撃である銃撃を放つ。1発1発の威力は4分の1まで低下しているが、それでも確実にHPを削り取る筈の一撃だ。

 

「なるほど、《舞姫》か。確かにこれは躱せないな」

 

 それを一切回避しようとせず、ボスは銃弾を体で受け止めた。心臓などの急所を狙って放たれた為クリティカルが発生し、僅かにそのHPが減少する。

 次いでローラーダッシュで周囲を旋回しながら、ガトリングガンを連射するランの射撃がボスを襲う。これも一切避けようとせず、軽く身体を揺らしてボスは動かない。

 

「だが、これらは陽動だ。本命は次の──」

「やぁっ!!」

「これだろう」

 

 そんな銃弾の雨を掻い潜り、最高速で放たれた3連突きをボスは全て回避した。更には空間に走る爆破の軌跡も見切っているようで当たることがない。

 

「舐めるな、です」

「ぐっ」

 

 けれど、槍の延長線上に発射された爆破の衝撃波は回避しきれなかったらしい。結果としてダメージは殆どなく、軽く体勢を崩すだけに終わってしまった。

 

「ん!」

「《フォールンダウン》!」

 

 だが、それで生まれた隙は大きかった。

 体勢を崩したボスをれーちゃんの放った炎の鎖が拘束し、次の瞬間つららの放った大氷塊を墜落させる魔法が炸裂する。その直撃を受けたボスのHPが減少し、フィールド全てが凍てついた。

 まるでアイススケートのリンクの様に凍りついた地面は、何の補助もない場合真っ当に動くことすら叶わない場所へと変化した。

 

「《アイスエッジ》、行くわよ!」

「ん!」

 

 そんなフィールドで、つららは自分の足裏に氷の刃を生成して動き始めた。れーちゃんは全員に風属性のグリップを保つバフをかけ、自分も金属防具であるブーツで滑りながら移動を開始する。

 

「ん!」

「《プリズムレーザー》!」

 

 そして高速移動をしながら2人は更に魔法を重ねる。大氷塊に押し潰され凍結し行動不能となっているボスを襲うのは、氷のレンズを通して収束した青白いレーザーと雷霆。それらは確かに命中したようで、ボスのHPが更に減少する。

 

「フィールドそのものの書き換え、それによる高機動と移動妨害、元よりの高火力。成る程、寒冷効果によるデバフも発生するのか。これは確かに不利に──」

 

 瞬間、黒い風が吹き荒れ大氷塊が木っ端微塵に砕け散った。そしてその中心から、所々が凍りついた黒い男が現れた。

 

 そしてそれ以上の言葉を紡ぐ前に、無言かつ気配を殺して放たれた7×2の斬撃がボスを斬り裂いた。その全てがクリティカルヒットとなり、ボスのHPを大きく削り取った。ランの銃撃にわざわざ当たりに行き、それを数人分でジャスト回避することで即座にバフを全開にしたのだ。

 

「《フルオート》」

 

 そしてその斬撃を行った張本人であるセナが、空中で回転し方向を変えてから追い討ちを放った。左右それぞれに残った十数発の銃弾を、銃スキルで一気にボス目掛けてばら撒いたのだ。計200発を超えるその弾の7割強がクリティカルヒットとなり、更に大きくボスのHPを削り取る。

 そして空中で本体のセナが銃弾をリロードし、氷の大地に着地する。滑ることなく全員が着地した時には、本体の設定が反映され分身体の銃もリロードが完了していた。

 

「ぐっ」

「隙だらけ、です」

 

 そのダメージ量にノックバックが発生してしまったボスの胸の中心に、藜の3連突きが《天元(小)》のスキルでヒット数が増加し且つクリティカルで叩き込まれた。甚大なダメージが発生したが、今度はボスにノックバックは発生しなかった。

 

 だが、ここは氷の大地だ。何の補助もない場合、受けた衝撃を受け流すことなんて出来はしない。踏ん張ろうとボスが踏み出した足がスリップし、転倒した。

 

「Delete」

 

 そこに、狙い澄ました様な銃撃が直撃する。実弾の嵐の中、黄色のエネルギー弾がボスの頭を吹き飛ばす様に直撃する。それを行ったのはランで、右手の3連装ガトリングガンが煙を上げ、左手に持った巨大な拳銃は次のエネルギーのチャージを開始していた。

 

「畳み掛けるわ、《フロスト》」

「ん!」

 

 さらに倒れたボスが再び凍結した。数秒で解かれる拘束だが、れーちゃんの攻撃が命中するまでには十分な時間稼ぎとなる。天から落ちてくるピラミッドの様な三角錐が、その角をボスへと突き刺した。

 

 1段目のHPはそこまで多くなかったのだろう。鈍い音が響き、ボスのHPの1段目が静かに消滅した。

 

「みんな気をつけて! 多分第2形態が来るよ!」

 

 そんなセナの忠告が響き、直後空が闇に包まれた。

 




因みに運営ダンジョン、最終ボスは何種類かいるうちからランダム一体です。あと極振りが参戦出来た場合レンがソロで10分台を叩き出します。



【速報】ユキ第3の街で逮捕も札束ビンタで釈放!

「ビルを花火にしただけなのに訳が分からない。いつもやってることじゃないか今更御託を並べるな!」
 などと、意味のわからない証言を繰り返していた模様


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第87話 高難度ダンジョン(運営)③

【悲報】第2花火ル製作中、レーションと間違えC4を食べユキ死亡。即座にスキルで蘇ったが、「ちょっと甘かった」「爆破の真理の一端を見た」「宇宙が開闢していた」など意味不明な証言を続けている模様。


 闇の帳が降りた空の下、れーちゃんが放った光の三角錐が内側から迸った黒い閃光により砕け散った。そしてその残滓である光がキラキラと輝く中、攻撃の中心点から奇妙なエコーの掛かった声が響く。

 

『点や線での攻撃であるならば、面積を減らせば良い』

 

『環境効果が発動するなら、その対象から外れれば良い』

 

『足場が凍結するのであれば、地から開放すれば良い』

 

『呪われるのであれば、呪いに身を浸せば良い』

 

『身体を凍てつかせるのであれば、完全に凍結する前に砕けば良い』

 

 その言葉が告げられた瞬間、黒い色のついた風が吹き荒れすてら☆あーくの全員がフィールドの端にまで吹き飛ばされた。同時に、視界の端にある自身のHP・MPゲージの下にSAN99/99という表示が滲み出るようにして追加された。

 

『さあ、第2幕だ。気張れよ、挑戦者』

 

 そうして露わになったボスの姿は、異質の一言に尽きた。

 

 まず、服装はそのままだが全身がミイラのように乾き、細く小さくなっていた。

 さらにその両手には、明らかに保持出来ていることがおかしいと思える、常に動き続ける精密な歯車仕掛けの大剣が握られている。

 ローブを突き破り肩部から生えた、身体とは対象的に瑞々しい4本の触手の先端には鉤爪が生えており、触れたらただでは済まない様な濃紫のオーラを纏い伸縮している。

 最後に、血走った右目と猫に似た緑の瞳が2つある左目がセナ達を射竦め、一対の黒い羽根が大きく開かれた。

 

 まるで色々な生物を無理やり1つに纏めて接合したような、冒涜的で、吐き気を催す気味が悪い姿。

 

「ん!」

 

 レイド戦での大惨事を覚えていたのだろう。れーちゃんが咄嗟に対正気度防御のバフを発動させたが、あくまでれーちゃんのスキルは攻撃とデバフに特化した呪術師。これが支援特化の紋章術だったら違ったのだろうが、それでは格上のデバフを完全に防ぐには足りるべくもなかった。

 

 セナのSANは3、藜は1、ランが5、れーちゃんが2、そしてつららが4減少。つい最近逮捕されていた補助役(爆破卿)が欠けており、減衰しかできなかった結果がこれだった。

 いや、寧ろこの場合はよく減衰したと言うべきであろう。何せ本来であれば数人は失敗判定で2D10になっていたものを、1D6判定にまで落とし込んだのだから。

 

「つららさん!」

「《アイスコフィン》!」

 

 それでも、ランにはデバフが発生してしまった。それはTRPGで言うのであれば殺人癖。最大3分程度の効果とはいえ今の状況では致命的と言えるそれは、つららが発動した氷に閉じ込める魔法により未然に防がれた。

 だが、フルメンバーでないパーティから1人が抜けるということは、大幅な弱体化を意味する。そのまま全滅ということもありえるだろう……普通であれば。

 

「ん!」

 

 れーちゃんが使い捨てアイテムで確認したボスのステータスが、今までこちらが行なってきた攻撃に対してメタを張った状態になっているのを確認した。それが凍結されているランを除いた全員に伝えられ、全員が小さな宝石のようなアイテムを取り出す。

 

「来て、コン!」

 

 セナが宝石を握りしめた手から焔が迸り、絡みつくような螺旋を描きセナの身体を覆っていく。そうして形成されるのは、白銀の狐耳と尻尾。更に髪飾りのように焔による装飾が追加され、纏う黒いマントにも複雑怪奇な紋様が焔で描かれていく。最後に余分にまとわりつく焔を吹き散らして、ペットの能力による憑依変身が完了した。

 

 藜は手に持ってた空色の宝石を放り投げ、名前を呼んだセナとは対象的に一度大きく指笛を吹き鳴らした。それにより、宝石を中心とした空間から刃の様な翼を持つ雪色の鷹が勢いよく飛び出す。

 

「ニクス!」

 

 そのどこか機械的な印象も感じさせる鷹は、藜が空へ突き上げた槍の先に留まり、なんとその身体を粒子に変えて槍と一体化した。それにより槍の炸裂機構がある部分に『歯車を背景に翼を広げる鷹』のエンブレムが追加され、飾り紐の様に一対の大きな翼が追加された。大きく鷹の鳴き声が響き、仮想の羽根が舞い踊り強化が完了した。

 

「キーン」

 

 凛とした声音でつららが手の内の宝石に呼びかけ、氷の結晶が周囲に降りていく。そんな中、つららの頭の上に小さな雪だるまが出現した。

 

 そしてそんな3人に向けて飛翔するボスに向けて、れーちゃんのペットによる攻撃が放たれた。固定値10万、ただし今回はボスが銃や槍などの刺突系の攻撃に対する耐性獲得のため打撃系の攻撃が弱点となっているため、倍の20万。もし対人戦で放った場合、過剰としか言えない火力の攻撃が3人の間をすり抜け炸裂する。

 

『ぐっ、ぬぅ……』

 

 移動中で防御姿勢をとることが出来なかったボスは、そのHPバーの2段目を20%程減少させ地面へと墜落した。

 

 そして、そんな隙を見逃す3人ではない。

 

「凍てつきなさい、《アイスエイジ》!」

 

 ボスの墜落地点に、つららの言葉をキーにして白い靄が立ち込めた。次の瞬間それはダンジョンの天井へ届くほどの巨大な氷柱となってボスを包み込んだが、常に稼働し続ける歯車仕掛けの大剣がそれを粉砕してしまう。

 地面との接点を砕かれだるま落としの様に落下してくる巨大氷柱に対応するボスの周りで、氷とは本来相入れる筈のない()()()が舞った。

 

「7人同時、《狐火》!!」

 

 そして、ボスを覆い尽くして余りある巨大な爆炎が発生した。本来のセナのInt値は20。スキルの効果で3.5倍の状態になったところで、分身により7分割されるステータス(Str・Int)の為10という心許ない数字にしかならない。

 が、ペットの憑依によるステータスの上昇は別計算だ。スキルのバフによる上昇もない代わりに、分身しようがそのままの数値が加算される。即ち、Int値510というそこそこ上位のステータスで放たれる、最上級一歩手前の魔法が7重ね。水や氷に対する耐性の代わりに炎や熱への耐性を失ったボスに、それは大きな打撃となる。

 

『小癪な……!?』

 

 ボスとしての矜持があるのだろう、4本の伸縮する触手を地面に突き刺しボスはその攻撃を耐えきった。魔法による防御も間に合ったのか、削れたHPは5%がいいところだった。

 

「ニクス! やり、ます、よ!」

 

 そして油断しきったボスが言葉を告げる直前、ボスの背後からペットが融合した槍が連続して突き出された。融合した槍の効果で、飛翔して背後に回った藜だ。風と衝撃波を纏い、仮想の羽根を散らす槍は旋風槍とでも呼ぶべきか。

 融合により著しくステータス補正の上昇した旋風槍の一撃は、当然のように全段クリティカルヒット。防御に回された2本の触手を、問答無用で断ち切った。同時に撒き散らされる仮想の羽根が、本来の自動攻撃の役割を果たし細かなダメージを刻んでいく。

 

『ヌゥン!』

 

 しかし、ボスの近くで大ダメージを出し続けていた弊害として藜はボスにターゲットされてしまう。双方空を飛びながら、逃げる藜にボスが大剣を振りかぶり追いすがる。

 

 歯車が回り、蒸気が吹き出す。秘められた機構が開帳される。チクタクチクタクと時計が廻る音が鳴り、歯車に秘められた中身が衆目に晒され──

 

「《鳳蝶(アゲハチョウ)》!」

 

 る寸前、セナのヘイトを上昇させるスキルが発動し、大剣から歯車の刀が抜刀された。

 大小の歯車が複雑に、立体的に絡み合い組み合わされた刀を全員が目撃した瞬間、()()()()()()()。正確にはプレイヤーの意識はそのままに、一切の行動が出来ない状態にフィールドが変化した。

 

『一刀両断』

 

 そんな静止した時間中で、時計の音と共にボスが行動不能になった藜に右薙ぎで斬撃した。

 

『二刀兎月』

 

 次に狙われたのは、セナの分身体。銃撃を放つ直前の無防備な姿に、唐竹割りと逆風の軌道で歯車刀が振るわれた。

 

『三刀屠殺』

 

 次に狙われたのも、セナの分身体。狐火を放つ直前の姿に、袈裟・逆袈裟の斬撃と刺突が放たれた。

 

『四刀幻想』

 

 スキルによりヘイトが上がっていたお陰で、狙われるセナの分身体。走りだそうとしていた背後から、四肢を狙う斬撃が放たれた。

 

『五刀夢葬』

 

 最後に分身体が、訳の分からない軌道で振るわれた歯車刀に輪切りにされた。

 

 刀が大剣に納刀され、そして時は動き出す。HPバーが1段目に突入した場合発動するボスの必殺技。発狂モードの代わりに存在したそれを受けて、無事でいられる訳がなかった。

 

 Vit値がバフのおかげで800弱あったセナの分身体が、急速にHPを減少させ、呆気なく消滅した。当然ステータスが劣る藜が耐え切れるわけもなく、HPは0になる。

 しかし、墜落し砕けてリスポーンする直前、鷹の鳴き声と共に藜のHPが極僅かに回復した。それは藜のペット、ニクスの最後のスキルによるもの。後一回に繋げられるチャンスだった。

 

「任せ、ます!」

「もっちろん!」

 

 れーちゃんの回復魔法でHPを回復してもらいながら、藜が戦線から後退する。本職のヒーラーではない分、即座にHPが回復するわけではないのだ。

 無論、最大バフがある状態のセナは一筋縄では撃破不可能だろう。だが、HPゲージが1段目に突入したことによって相手の行動にも変化が起きていた。

 

『夢に呑まれよ!』

「つららさん!」

「《アウェイク・ミスト》!」

 

 藜と違い、空中には長く止まれないセナの足元に霧が這い寄る。再生させた分身体がそれに触れ、早速視界を失い強制移動させられたのを見てセナがヘルプの声を上げた。

 対応してつららが状態異常回復効果のある氷の霧を生み出し中和していくが、焼け石に水のような状況となってしまっている。それはセナ自身が使う狐火や、ペットの補助もあり使える念動力があっても同じだった。

 

『クハ、クハハ、クハハハ!!』

「にゃろっ!」

 

 振るわれる大剣と2本の触手を紙一重で回避しつつ、双銃剣で斬撃と銃撃と刺突を、加えて狐火や念動力でダメージを与えていくセナだが、やはりその勢いは芳しくない。

 システムの補助が大いにあるとはいえ、七人の自分を同時に複雑な操作を重ねているのだ。回避できているだけで普通は御の字と言ったところのものに、これ以上を求めるのは無理だった。

 

「状況は見ていた。射線を開けろ、ギルドマスター」

 

 鈍い機械の駆動音と共に、そんな男の声が戦場に響いた。同時に何かが収束するような音も聞こえ始め、今まで機を伺っていた男が復活する。

 

「了解!《バーストショット》!」

 

 6人のセナが同時に最大火力に近しい攻撃を放ちボスをノックバックさせ、最後の1人が羽交い締めにして行動を妨害する。

 

「Delete」

 

 直後、極太の赤い光線がセナの分身体諸共ボスに直撃した。

 ランが放った、付喪神型ペットであるヴォルケインの強化込みの大射撃。タケノコ砲もとい、背後に突き出た移動可能整備ベースと直結させなければ使えない上チャージ時間も必要な、超高火力ビームランチャー。

 ヴォルケインの残り稼働時間全てを使いきり放ったそれは、減少していたボスのHPゲージを残り1割にまで吹き飛ばす大手柄を遂げた。

 

「やはりこれで限界のようだな。だが、まだ終わるわけはないだろう!」

 

 ヴォルケインがパージされ、武装が実用性は兼ねられたRP用の刀のような銃1つになったランが、嬉々としてボスへ向かっていく。

 ターゲットを取って、最大火力を放つことのできるセナと藜からボスを引き離しにかかったのだ。それに追従するように、氷のリンクを滑ってつららがランを追いながらボスに攻撃を浴びせていく。

 

 耐性が付けられている攻撃ゆえ、本当に微々たるダメージしか与えられていないが、それでも攻撃は攻撃。しっかりとターゲットを奪って釘付けにしている。

 

「藜ちゃん。大丈夫そう?」

「なんとか、平気、です」

 

 そんな中、後退していた藜の隣に分身を解除したセナが降り立った。藜のHPは8割ほどまで回復しており、確かに問題ないであろうことが窺える。

 

「じゃあ、ラストアタックはあげるからボーナスあったら教えてね!」

「了解、です」

「れーちゃんは、あいつの動きを一瞬だけでいいから止めてほしいな。できる?」

「ん!」

 

 自信満々に手を挙げたれーちゃんにほっこりしつつ、セナが再度7人に分身して黄金の双銃剣を握りしめる。同時に藜が姿勢を低くして槍を構え、双方にれーちゃんが出来る限りのバフを重ねていく。

 

「れーちゃん、今!」

 

 そして、つららさんのスピンジャンプと共に放たれた斬撃とランさんの銃による打撃が重なりボスが揺らいだ瞬間、セナが合図を出して走り出した。

 

「ん!」

 

 炎を纏ったセナを追って藜も走り出し、ボスが光で編まれた鎖に絡め取られて動きを制止させた。

 

「舞姫・炎!」

 

 そこに、炎を纏った7人のセナが突撃する。行う攻撃は全て斬撃、周囲の氷の破片を蹴り飛ばして空中で方向転換し、限界ギリギリまでボスを切り刻んでいく。

 

『小癪ナァ!!』

「きゃっ」

 

 そして、ボスが拘束を破壊して歯車の大剣を振り回した。それにより分身が消滅し、セナ自身も大きくダメージを受けて吹き飛ばされる。

 

『これで、』

「トドメ、です」

 

 セナの追撃に向け無防備な背中を晒したボスに、藜が肉薄する。そして放たれる槍の連撃。ボスの身体に半分以上突き刺さり、静寂に包まれたその状況で、静かにボスのHPが減少していく。

 

『残念だったな』

 

 減って減って減って減って、けれどそのHPの動きは、残り数ドットのところで削り切ることができず止まってしまった。

 首を180°回転させ笑うボスに、ダメだったかという空気が流れ始める。けれどそんな中、藜だけは1人笑ってた。

 

「知って、ます、か?」

『なんだ』

「爆発オチは、最高の、様式美、なん、です、よ?」

 

 カチ、という小さな音。

 それを聞き届けた藜は、槍の本体である『死棘の烈槍』を引き抜いて大きくボスから距離をとった。そうすると残るのは、ユキの持つユニークアイテムから生成された火薬を、専用に加工して作られた槍の爆破部分。

 曲がりなりにもユニークアイテムから生み出された高性能の火薬を、よりにもよって爆破卿(ユキ)が専用に調整して組み込んだ爆薬である。その火力は、推して知るべしだ。

 

「チェックメイト、です」

 

 フロアを揺るがす轟音が鳴り響き、火薬と硝煙の香りが漂う戦場に、祝福のファンファーレが鳴り渡った。

 

 攻略タイムは【01 : 09 : 32】

 

 文句なしの最速タイムだった。




使 い 捨 て 変 身 パ ン ク

後本当は

触腕、鉤爪、手が自在に伸縮する無定形の肉の塊。咆哮する顔のない円錐形の頭部という冒涜的な姿が目に飛び込んできた!!(1d10/1d100)

になる予定だったけど、それはレイド仕様なのでカットされました。

セナ
==============================
 Name : コン
 Race : ポゼッションフォックス
 Lv 40/40
 HP 1500/1500
 MP 2350/2350(2702)
 Str : 50(50) Dex : 170(170)
 Vit : 80(98) Agl : 100(100)
 Int : 500(530) Luk : 60(60)
 Min : 120(130)
《ペットスキル》
【憑依】
 マスターに憑依する(憑依時、ステータスを4つまで選んでマスターに加算する※HP・MPは共有化されない)
 憑依中は30秒ごとに、ペットのMPが減少する。MPが0になると同時に憑依は解除される
【狐火】
 MPを消費し火を操る(現在のレベルは火属性魔法第3進化・武器系スキル(大)程度)
【変化】
 MPを100消費して、ダメージを1回無効化する
【金運】
 戦闘で獲得するD(ディル)を10%増加する
【吸魔】
 接触してるマスター以外の相手のMPを1%/10s吸収する
【吸命】
 接触してるマスター以外の相手のHPを1%/10s吸収する
《スキル》
【魔力核】MP15%
【火炎の力】火属性強化15%
【念動力】
 MPを消費して念力を行使する
【天気雨】
 火属性攻撃に対する耐性を得る
《武器)
 装備不可
《防具》
 頭【狐のお面】Vit +5 Int +30
 体【便利弾帯】Vit +10 Min +10
   自動装填・装填数+5
 腕 装備不可
 足【ガンベルト】Vit +3
   抜銃速度上昇
 靴 装備不可
==============================


==============================
 Name : ニクス
 Race : セイバーホーク
 Lv 40/40
 HP 2000/2000
 MP 1300/1300
 Str : 550(550) Dex : 65(65)
 Vit : 90(100) Agl : 300(330)
 Int : 50(80) Luk : 60(60)
 Min : 50(70)
《ペットスキル》
【劔之身体】
 攻撃全てに斬属性・状態異常 : 出血を付与する。また、刺突系被ダメージを20%カットする
【空ヲ翔ケル】
 MPを消費することにより、飛行速度を上昇する
【不朽不屈】
 自身が戦闘不能になった場合、1度だけ5%のHPで復活する
【融合炉心】
 自身のMPを10/ 1s回復する
 主人の持つアイテムと合体することができる(合体時自身のステータスを4つ、スキルを全て合体したアイテムに追加する)
 合体後、戦闘終了まで解除は出来ない。また、HPが0になった場合合体は解除される
【疾風ノ祝福】
 遠距離武器の被命中率を30%ダウン、威力を10%ダウンする
 自身及び主人の風属性耐性を大きく上昇させる
【劔ノ結界】
 一定範囲内の相手に、舞い散る羽で自動攻撃を行う。
《スキル》
【チャンバー】
 力をチャージ・解放することができる
【斬れ味強化】
 攻撃の鋭さ(クリティカル率)、出血の与ダメージを増加する
【風の理】
 風の魔法を使用可能になる
【疾風の力】風属性強化15%
《武器》
 装備不可
《防具》
 頭 装備不可
 体【ラピスの首飾り】Vit +10 Min +20
 手 装備不可
 足【駆爪】Agl +30
 靴 装備不可
 ==============================


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第89話 高難度ダンジョン(運営→幸運)

 祝福のファンファーレが鳴り響き、ベストレコードとしてクリアタイムが表示される。それを追って取得経験値とD(ディル)、ドロップ品が表示されていく。

 そうして大量の文字が流れていく中、デカデカと藜のウィンドウにのみLA(ラストアタック)ボーナスという画面が表示された。

 

「……?」

 

 ボーナスとして配布されたアイテムの名前は【Kleidung ohne Aussehen】、設定者は何を思っていたのかドイツ語だった。藜が首を傾げること数秒、溢れた悔しさの涙が広がるように、ジワジワと文字が日本語に変化していく。『理解されないよりは、理解されて使って欲しい』そんな身を切るような思いが、ひしひしと伝わってくる変化の仕方だった。

 

「【無貌の衣】?」

 

 ドイツ語から日本語への変換が終わり、藜が疑問符が付いているが装備名を呼び上げる。

 ステータスと共に装備モデルとして表示されているのは、ボスの第1形態が纏っていた黒いローブの様なもの。正確に言えばケープに近いだろうか? 分類は体装備で、男女で装備した際の中の服装は変わるようなプレイヤーに優しい装備だった。

 その能力は、ダンジョンのラスボスのLAボーナスということもありかなり優秀だ。Vit+85 Min +89 Agl+46 耐久値1000/1000 といった具合で、服装備であるが軽鎧の最上位に匹敵するか、ともすれば上回るスペックを誇っている。無論効果はそれだけでなく、ステルス・ダメージカット15%・MPを消費して4本の伸縮自在な鉤爪のついた触腕を生成・操作可能という破格も破格な特殊効果を持っていた。

 

「セナさん、これ、どうぞ」

「えっ」

 

 しかし藜はそれをアッサリと手放し、セナに押し付けた。驚きのあまり操作をしなかったせいで、シュンという小さな音と共に装備が移譲される。

 数秒セナがフリーズし、正気に戻って目を白黒させながら藜に問いかける。

 

「え、いや、その、え、いいの?」

「私は、絶対、着たくないです、から」

 

 藜が何処か遠くを見ながらそう答えた。ハイライトの消えたその瞳からは、絶対に装備なぞして堪るかという、謎の断固とした意思が感じられる。

 それでもと、セナが藜に詰め寄って問いかけた。

 

「で、でもこんなに強い装備だよ?」

「槍を使うのに、邪魔、ですし、装備効果も、消えちゃいます、から。それに、あれから、触手って苦手、ですし……」

 

 右腕を摩りながら、キッパリと藜が答える。そう、そこはかつて気持ちの悪い触手が絡みつきうねっていた場所。うら若き乙女にとってあれはやはり、多少なりともトラウマに近いものを植え付けられるに十分な経験だったようだ。

 結果、装備としては惜しいが、やっぱり嫌だという気持ちが優ったらしい。自分が持っていたとしても確実に死蔵される、であればちゃんと使える知り合いに上げるのは、然程おかしくない考えだ。況してや同じギルドの仲間なのだ。

 

「でも、代わりに、今度何かください、ね?」

「もっちろん! ユキくん引っ張り出してでも用意するよ!」

 

 セナがそう元気にサムズアップし、笑顔で答える。憐れユキは、本人がいない場所で周回への同行が決定したのだった。

 

 そんなこんなの内に、セナが現在の装備から【無貌の衣】へと装備を変更する。元々の装備が黒いクロークという似たような装備であった為、その見た目はあまり変わったようには思えない。けれど中は軽鎧からノースリーブのジャケットへ変更されており、動きやすさが増し無骨な印象が薄れている。加えて格段に着心地が良くなったようで、傍目から見てもわかるほどセナの機嫌は良くなっていた。

 

 自分の尻尾を追うように何回かくるくると回ってから、ハッと気がついたようにセナが動きを止めた。そして慌てた様子でアイテム欄を操作し、1つのアイテムを実体化して頭上に掲げる。

 

「ジャジャーン! 高難度ダンジョン、制覇記念アイテム〜」

 

 そのまま何処ぞの国民的猫型ロボットのような声で見せつけたのは、大きな黄金のトロフィーだった。台座の部分には、えらく達筆な文字で運営と刻まれている。その文字は見る人が見れば、紋章術に使われている物と同質であることが分かっただろう。

 

「セナちゃん、それ何?」

「ふっふっふ、なんとギルドに飾っておくだけで、所属メンバーの全ステータスが5%上昇するアイテムなのだ!」

 

 つららの疑問に、自信満々にセナが答えた。たかが5%、されど5%。5%を笑う者は5%に泣くはずだ。

 全ステータスがそれだけ上昇するというのは、細かいことに見えてかなり強力な効果と言えよう。それも何か特別な条件があるわけでもなく、ただ飾っておくだけでギルド全員が対象なのだ。もう1つのギルド維持費軽減25%も相当有用な効果ではあるが……まあ、それはジャンルが別なので今は良いだろう。

 

「戦力も増強されたし、今度は他の塔に行きたいけど……少しは準備期間の方が良さそうだね」

 

 そう言うセナ自身も、双銃剣の残弾は心許なく、防具の耐久値もかなり減少している。これに関しては、他の皆も同じような状態と見て間違いないだろう。更に全員が精神的に疲れており、藜に至ってはペットが自身と共に死亡した為明日まで再召喚は出来ない。また、あの一刀をまともに受けた為、装備の損傷もかなりのものだ。

 

 そんな状態で挑んだとして、中ボスに勝てるかどうかといった戦果にしかならないだろう。何せ今回のイベントは高難度。それぞれのダンジョンの製作者は、悪名高き極振りなのだから。

 

「というわけで、今日は解散で! また明日……ランさんたちって大丈夫?」

「ああ、問題ない。17時頃にはその気になればログイン出来るだろう」

「私も大丈夫かな」

「ん!」

「問題ない、です」

「それじゃあ、何処を攻略するかは明日ってことで!」

 

 そうしてセナが解散の音頭をとり、本日の攻略は御開きとなったのだった。大学生とは、思っているよりも自由に時間が使えるのである。

 

 その日は運営塔の製作陣が集まり、酒の席で「上位プレイヤーのスペックを見誤っていた」と泣きながら酔い潰れていたとかなんとか。なお極振り対策室は、打ち上げ花火ルを酒の肴に飲み会をしていたという。

 

 

 時間は流れて翌日。再び集合したメンバーからは、前日の名残なんてものは綺麗さっぱり消えてなくなっていた。しかし、それぞれ少しづつ変化はある。それは細かな装備品だったり、準備してきたアイテムだったり、槍が直っていたり。けれどそんな中で1人だけ、明確な変化があった。れーちゃんが装備している武器が、大きな本から金色のランプへと変わっていたのだ。

 

「ん!」

 

 れーちゃんの、これ好き! といった感じが翻訳せずとも伝わる雰囲気に、攻略前とは思わない和やかな空気が漂う。

 

 それは楕円形の小さな壺のような形をしていて、一方には曲線を描く取っ手がとりつけられ、もう一方には灯心に火をつけるための口がついている。表面は奇妙な模様に飾られ、文字や絵が組みあわされて単語をつくりだしているのだが、ランプに刻まれた言葉は未知のものだった。

 

 もう一目でヤバイブツだとわかるそれは、昨日のボスのドロップ品である『刻の歯車』というアイテムから作られた魔導書に分類される装備らしかった。

 雰囲気通り強力な装備で、名前は【アルハザードのランプ】。ユキがいれば何らかのツッコミが入ったと思われるが、特に誰かクトゥルフに詳しい訳でも無かった為、れーちゃんお気に入りのランプとして落ち着きスルーされるのだった。

 

「それじゃあ、うちのギルメンが作ったダンジョン、攻略するぞー!」

「「「おー!」」」

「ん!」

 

 ・

 ・

 ・

 

 と、そんな掛け声が掛けられてから、僅か5分。すてら☆あーくはとっくに、しかも無傷で第5層のボス部屋前に到着していた。

 既に有志のプレイヤーにより階段までの最短ルートが判明している運営ダンジョン1〜4層と構造が全く同じであった為、ユキのダンジョン前半は秒と保たずに攻略されてしまっていた。

 

「凝ってるね……」

「凝ってますね」

「ユキさん、らしい、です」

「無駄に拘る辺り、実にらしいな」

「ん!」

 

 そうして到着した5層。ボス部屋ということで当然ある扉は、今まで見てきたのっぺらな物と違って、そんな感想が溢れるような完成度であった。

 

 内開きの大きな、石のような材質の扉。その右側には崖の上で月に向かって吼える狼を中心とした精緻なレリーフが、左側には両手に槍を構えた鎧姿の騎士の精緻なレリーフが、それぞれ組み合わさって1つの絵になるように刻まれている。それは製作者が無駄に拘りぬいて、けれど目一杯楽しんで彫り込んでいることがありありと伝わってきた。

 

 雄々しくも美しく、明らかに容量を食っていそうなそれに誰もが息を吐く。呆れか感動かはともかくとして。

 

「みんな準備は良い?」

 

 そうセナが確認すると、誰もが問題ないと頷いた。

 今まで歯応えが無さすぎたのだ。集中力を削るような敵も、罠も道中存在しなかった為、全員力が有り余っているのだ。今度こそ骨のある相手が出てきて欲しい、けれどあのユキがこの程度で済ますわけがない。そんな雰囲気が、すてら☆あーくの面々からは漂っていた。

 

 頷き合い、意外にも軽い扉を押し開ける。その先に広がっていたのは、かなり広いが明かりのない真っ暗な空間だった。数メートル先も見渡せぬ暗闇。足元は成形された石であることは分かるが、逆に言えばそれだけしか分からない。

 しかしそこにプレイヤーが足を踏み入れた途端、壁に並んだ青い松明がボ、ボ、ボ、と連続して灯っていく。5秒程して全ての松明が灯り、部屋に明かりが齎された。まるで歓声のように松明が燃える音が響き渡り、雰囲気が演出される。

 

 そうして判明したことは2つ。

 

 1つは、この場所が古代の円形闘技場(コロッセウム)の中心のような場所であること。

 

 もう1つは、舞台の中心に座すボスの姿。

 

 美しい毛並みで、鎖が千切れた足枷のある巨大な白銀の狼。

 その背に跨る、紫水晶の全身鎧を纏った両手にランスを構えた双槍の騎士。

 それぞれ表示された名前は【ヴォー・ディファイアンス】と【Crystal the Harddying】の2つ。レベル50のボス2体がフロアボスという、この高難度イベントの中でも特異なボス戦が始まった。

 




【速報】ユキ、Hazard on!(テレレレ-テレ-)
    ヤベーイ!


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第90話 高難度ダンジョン(幸運)

 最初に動いたのは、狼に跨る紫水晶の騎士だった。小規模な魔法の暴発を引き起こし、槍を突き出しつつ狼の背から飛翔したのだ。騎乗しているという利を自ら捨てるかの如き突飛な行動に、全員の行動が一瞬だけ遅れた。狼も目を丸くしている。

 セナのスキルも間に合わず、自身の回避すら間に合わない筈の後衛への急襲。残り僅かで双槍によりつららとれーちゃんが刺し貫かれんとした瞬間、赤銅色がその間に割って入った。

 

『ぐっ、コイツ……』

 

 クロスした両腕を貫かれたランのHPが、一気に4割まで減少した。ヴォルケインを纏い、付喪神型ペットのサポートも万全で、防御姿勢を取っていたのにだ。普通のボスであればあり得ないそんなダメージに、パーティが騒然とする。そして同時に、ユキという極振りに接し続けていたギルドの面々は直感した。

 

 このボスは、ステータスがかなり特化している。それこそ極振りに近いくらいに。

 

 突撃からワンテンポ遅れてセナのスキルが発動し、紫水晶の騎士のターゲットが切り替わった。そうして放たれる双槍の乱舞を、ワザとギリギリのタイミングでセナは回避していく。

 

「みんな跳んで!」

 

 そんな中、つららの忠告がボス部屋に響き渡った。それに数瞬遅れて狼の遠吠えが轟き、ボス部屋の全てが凍りついた。決してスケートリンクとは違う、凸凹としてたり氷柱が突き出たりする氷のフィールド。そんな場所を、我が意を得たりと狼が駆け出した。

 

「させない、です!」

 

 その狼の横っ腹に、連続して槍が突き込まれた。滑る場所での攻撃故最大威力ではないが、クリティカルなクリーンヒット。しかし、ボスの減ったHPは1割程度だった。

 

「硬い、です、ね」

 

 後衛2人からのバフが間に合い、藜が反撃の爪撃を回避した。舌打ちしながら下がりつつ、自身をターゲットした狼をなんとかあしらっていく。

 

「あっ、ぶな!」

 

 空中に逃げ凍結を避けたセナに向けて双槍が放たれるが、【無貌の衣】の効果で生成した触手を使い回避。ペットと融合しつつ、返す刀で炎を纏った双銃剣をボスに叩きつけた。

 

「やった……!?」

 

 その攻撃で減少したHPは3割。あり得ない減り方だが特化しているなら納得出来る、なんて思った時のことだった。セナの銀の尻尾に、数個の紫水晶の結晶が生えた。そしてそれにより、最大HPが5%減少した。

 バランサーにしていた尻尾に余計な重さが加えられ、跳び回っていたセナのバランスが崩れ氷の舞台に墜落した。そのままゴロゴロと転がりながら、氷霧の向こうから追撃してきた騎士の攻撃を回避する。

 

『ィィィィング!!』

 

 追撃がない。そのことを確認して、セナが飛び起きつつスキルを使う直前だった。よく分からない奇声を挙げた紫水晶の騎士が持つ槍を中心に、氷に閉ざされた部屋が紫水晶に閉ざされた部屋に変化した。

 

 それに伴い煌めく紫の光が舞い始め、全員に先程セナに発生した症状。状態異常【結晶寄生】が付与される。効果は最大HPの減少と余計な重量の増加。それは後衛にとってはあまり気にするような効果ではないが、前衛として接近戦を行うプレイヤーにとっては致命的だった。

 

「くっ」

「面倒、です。ビット!」

 

 2度目の結晶寄生で左腕が使い物にならなくなり、セナは防戦一方となってしまった。掌に寄生した結晶のせいで片腕で槍を振るわざるを得なくなった藜も、ビットでの攻撃に攻め手を変化させたが、構えた槍から放つ衝撃波含めイマイチ攻撃の威力が足りていない。

 

 挙げ句の果てに減ったはずの騎士のHPが、MPがゴッソリと消えた代わりに再生しているではないか。そのMPも、狼のMPが減少する代わりに回復していっている。

 

「チッ」

 

 舌打ちしながら、水晶に侵食され機能不全を起こしかけているヴォルケインを動かし、ランがガトリングガンを乱射していく。確実に直撃し減っていくボスのHPだがその減少幅は決して大きなものではなく、現状は一言ジリ貧と言える。

 

 自己再生能力を持った騎士型ボスが、防御が低い代わりに高い攻撃力と高速移動が両立しており、最大HPを減らす状態異常をばら撒く。

 攻撃力は低いが高い防御力を持った狼型ボスが、フィールド環境を変更し相手を妨害しつつ、騎士型を回復させる。

 

 極振りが作ったに相応しいいやらしいボスだが、本当にこれだけだろうか? あのユキが、一切ボスに爆破を絡めないなんてことがあるだろうか? いいやない。そんなことがある訳がない。なにせ、アレは、白昼堂々とビルを爆破したり、ビルを打ち上げて爆破したり、森を爆破して消しとばすような奴なのだ。爆破がないなんてことは、決してあり得ない。

 

 

 そんな予感を裏付けるように、お互いの相手から一旦距離をとったボスは最初の騎乗形態へと変化した。そして騎士が双槍を交差して天に掲げ、キィンという高い音が鳴った。

 反響し、増幅され、部屋の全てと共鳴していくその音が、紫水晶を輝かせていく。そしてそれが引き起こすだろうことに気づき、回避手段を持たない藜が後退する。

 

「《アイスバリア》!」

「ん」

 

 逆に回避手段を確保しているセナが吶喊する中、つららとれーちゃんが4人を取り囲むように防壁を発生させた。直後、部屋の壁や各自に寄生した結晶が全て大爆発を引き起こした。

 

 爆散

 

 崩壊

 

 煌めき

 

 ガラスが砕け散るような大音声と共に紫の破片が乱れ舞い、まるで紫色の嵐のように何もかもを削り取っていく。防壁の外にいたら、全員が致命傷を負ったことは想像に難くない。だから防壁の中で起こったことは、幾分かマシとして受け入れるしかなかった。

 

 全員に寄生していた結晶が外と同様砕け散り舞い踊り、防壁の中はまるで手榴弾でも爆発したかの如き状態へと陥った。幸いにして18歳以下のプレイヤーが過半数を占めていたためグロい描写の発生はなかったが、それでも鎧の一種であるヴォルケインを纏うラン以外のHPは危険域(レッドゾーン)へと落ちていた。

 

「ん!」

 

 れーちゃんの魔法による回復と、各自のアイテムによる回復が行われる中、耐久限界を超えた防壁がカシャンと儚く砕け散った。

 

「この瞬間を、待っていたんだ!!」

 

 紫水晶の破片がデータへ還元されていく中、セナのそんな叫びがボス部屋に響く。スキルによる3回の絶対回避の権限も使い切ったセナだが、延々と回避を続けたおかげでバフは全開。先程までとは格段に違う速度で、7人が紫水晶の騎士へ向けて突撃した。

 

「舞姫・炎!」

 

 そうして放たれる、セナの最大火力の攻撃。直前に触手で狼の動きを止められ、大技直後の硬直でロクに回避行動を取れない紫水晶の騎士には、それを回避する方法は存在しなかった。直撃を受け、凄まじい速さで騎士のHPは減少していく。その勢いはとどまるところを知らず、遂に0へ辿り着きその身体を砕けさせた。

 

 してやったりと笑みを浮かべるセナとは対照的に、わふぅと狼は悲しげに鳴いた。それに合わせて再び部屋の凍結が始まるが……大切な相棒を欠いたボスに、彼女らを止めることは出来なかった。

 

 

 congratulations!の文字と勝利のファンファーレが鳴り響く中、経験値やD、ドロップ品の表示が大量に流れていく。

 

「いえーい!」

 

 ハイタッチして喜ぶ中、入り口とは反対側の何もなかったはずの壁に、豪奢な扉が出現した。けれどその扉は開くことなく、その口を閉ざしている。代わりに扉の前には聖書台のようなものが存在しており、文字を入力するためのキーボードが浮かび上がっていた。

 それは五十音表そのままの並びをしており、それと五十音表からは離れた場所に、空白・濁点・半濁点のボタンが存在していた。

 

 事前情報通りの光景に、全員が武器を仕舞い入力台に近づいていく。そしてと一定の距離まで近づいた時、入力台との間に文字群が出現した。

 

 ==============================

        《ヒント》

 

       てとてをつなぎ

       よぞらをみあげ

       ながれるほしは

       たてからよこへ

       てんとてんとが

       ことばをつむぎ

       よつえのまなこ

       まことをうつす

 

 ※第6層への扉はパスワード式です。これより先はモンスターの出現はありませんので、上記のヒントを元にひらがな7文字の答えを入力台で入力してください。

 ==============================

 

 全員が文字を読みきった辺りの時間で、ガコンという音が鳴り右横の壁に通路が出現した。

 

「それじゃあ行こっか!」

 

 薄暗いその通路に向けて、セナが先頭に立って進んでいく。幸いにして通路はそこまで長くはなく、すぐに小さな円形の小部屋に出た。

 

「ん!」

「どうした? れー」

「ん!」

 

 その部屋の状態に初めに気がついたのは、ランに肩車してもらっていたれーちゃんだった。しきりにれーちゃんが天井を指差すので見上げれば、そこには満天の星空が広がっていた。

 

「また、凄い作り込みだよね……」

「こんなの、作ってたから、前半が、コピペに、なってたり?」

「ありえるわね……」

「ん」

「そうだな……入口のレリーフといい、馬鹿なんじゃないか?」

 

 自然の夜空と何ら変わりないような、けれど実際には存在しない綺麗だがその筋の人が見れば気持ちの悪い空。そこには、一際大きく11個の星が光り輝いていた。

 部屋の中心には、ご丁寧に足の向きが描かれたパネルが存在しており、そこから見上げた星の並びはこのような感じだった。

 

 ・・  ・・・

 ・   ・

・・  ・・

 

 それは有名などの星座にも該当しない、奇妙な星辰だった。

 

「誰かわかる?」

 

 セナが問いかけるが、全員が首を横に振った。未だ誰も答えが分かっていない謎は伊達ではなかった。誰にも分からないまま、とりあえずスクリーンショットだけは確保して次の部屋へと進んでいく。

 

 少ししてたどり着いた部屋も、1つ前の部屋と全く同じ構造をしていた。ただし、星の並びだけが違う。

 

 ・・  ・ ・

 ・・  ・・・

・・  ・・

 

 誰もが疑問に思いながら、次の部屋へと進んでいく。そこもまた、星の並びだけが違っていた。

 

 ・・  ・・

 ・ ・ ・

・・  ・・

 

 次も、

 

 ・・・ ・ ・

 ・   ・・・

・・  ・・

 

 その次も、

 

 ・・・ ・・

 ・   ・・

・・  ・・

 

 次の次も、

 

 ・・  ・ ・

 ・・  ・・・

・・  ・・

 

 そのまた次も、

 

 ・・  ・・・

 ・ ・ ・ ・

・・  ・・

 

 さらに次も、

 

 ・・  ・・

 ・・  ・・・

・・  ・・

 

 更にまた先も、

 

 ・・  ・・

 ・ ・ ・・

・・  ・・

 

 その次も、

 

 ・・・ ・ ・

 ・   ・・・

・・  ・・

 

 次の次も、

 

 ・・  ・・

 ・・  ・

・・  ・・

 

 次の次の次も、

 

 ・・  ・・・

 ・ ・ ・・・

・・  ・・

 

 次の次の次の次も、

 

 ・・・ ・ ・

 ・   ・・・

・・  ・・

 

 計13の全く同じ構造で、夜空だけの違う部屋が続き、最初のボス部屋へと戻ってきた。ボス討伐までは快調だった全員の顔は、当然のように曇っていた。何せ延々と同じような部屋を巡らされた挙句、何も分からないのだ。

 

「なにか分かった人ーー!」

 

 大の字になって転がりセナが声を上げるが、返事は一切ない。嫌な沈黙が続くこと10分、セナがガバリと起き上がって叫んだ。

 

「もうやだぁ……お家帰るぅ……」

「さんせーい」

 

 弱々しいそんな返事が上がり、順調だったはずの探索は中断となったのだった。

 




ユキ : ログアウト中

-追記-
文章整形で「点」が「三点リーダ」になってると多分解けないです


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第91話 高難度ダンジョン(幸運)②

 ビルを花火にして遊んでいたことでレベリングなどが出来ないストレスを発散して、ログアウトしてから数時間。手抜き晩御飯を作っていると、珍しく携帯に着信があった。かけてきたのは沙織のようで、珍しいなと思いつつもスピーカーモードにして電話を取った。

 

「もしもし?」

『とーくんの変態』

「えぇ……?」

 

 開口一番告げられたそんな言葉に、思わず困惑の声が出た。なんか最近、沙織にこう言わせるほどの酷いことをしただろうか? 花火ルがバレた? いや、でもあれは沙織たちはダンジョンに潜ってた筈だし……どうするべきか悩んでいると、こうなった原因はすぐに沙織の口から語られた。

 

『なにあのボスと暗号! あんなの検索エンジン使えない状態で解けって、無茶も甚だしいんだけど!?』

「どうどう」

 

 今にも押し掛けてきそうな語調の沙織を宥めつつ、怒りように納得する。きっと点字のアレでも引き当てたのだろう。シャークトゥルフ戦で学んだことを生かすべく練習中の点字を使ったあれは、他のクロスワードや数独と違って完全にオンライン前提のものだったのだ。

 

『エレベーターで点字見て、そこからスクリーンショット見て、取り敢えず点字だってことは分かったけどさぁ……』

「ごめんごめん。アレはこっちもちょっと想定外でね……元々オンライン前提で考えてたのに、提出していざ話を聞いてみれば検索エンジン使用不可だとか言われて」

 

 あれは本当に困った。だからどうにかしようと似たような問題を抱えていたザイルさんと一緒に掛け合ったけど、『やめてくれ極振り、大幅な仕様変更は私に効く。ほんと、マジでやめてお願いだから……死んじゃうから……』との返信を貰って、ヒントを改造するだけしか出来なかった裏話があったりする。

 

「因みに答えはわかった?」

『ううん。数字までは分かったけど。だから、ちょっとヒント教えてくれないかなーって』

「そこまで行けば多分大丈夫だし、攻略サイト以上のことは言えないかなぁ」

 

 一応口止めはされてるのだ。プレイヤー間で判明している情報以上のことを、俺は口にすることができない。誰にでも分かるようなというか、かなり分かりやすく元のヒントから改変もしてるんだし。

 

『むぅ……』

「そう言われても……それに、出題者から答え聞くとか、ちょっと謎解きとしてはアレじゃない?」

『そうだけどさー』

 

 ポスポスと電話越しに聞こえる音から、足をバタバタさせているのが用意に想像することができた。でもまあ、ここで諦められるのもなんか寂しいし……

 

「じゃあ、問題とは関係ないけど1つだけ」

『なに!』

 

 まあこれくらいなら、攻略サイトに乗ってる情報となんら変わりないしモチベーションも上がってくれるかもしれない。そんな情報を選別して口にした。

 

「次の階層は、噂通りの場所だから結構美味しいと思うよ。それに、面倒な仕掛けはこれからないし、全員で力を合わせれば多分ボス部屋までは来れる筈だし」

 

 面倒な仕掛けはないが、罠がないとは一言も言ってないから問題ない。それにあの攻略方法を見るに、【すてら☆あーく】の足止めは結構厳しいんじゃないかと思うのだ。容量喰いの【死界】だって、藜さんの装備が……というか、装備の効果があれば脅威度は半分以下になる。

 

「だから、1番のりを楽しみに待ってるよ」

 

 実際のところ、今日確認した限りでの最高到達階層はまだ7層である為、最初に俺のところまで到達するのが【すてら☆あーく】の可能性は極めて高いのだ。だって他の奴ら、たかがレアモンスター程度に負けてるし。俺も勝てないとか言っちゃいけない。

 

『分かった!』

「まだ誰も来てないからボーナス関連は全部残ってるし、俺に勝てたら総取りかもね」

『やってやるぞー!』

 

 そんな元気な返事と笑い声が聞こえるから、発破はかけられたとみて良さそうだ。自分のギルドと戦ってどうなるかというのは分からないが、切り札を切れば良い勝負にはなる筈だ。刀、銃、そのどっちもが知られてるけど、最後のアレだけはまだ誰も知らないのだから。

 

 それじゃあ、幼馴染のよしみとして最後に1つ忠告しておこう。

 

「ボスは倒したらしいから、次はちゃんと5層スタートできるだろうけど……1つだけ忠告」

『なに?』

「ダンジョン入口の立札、ちゃんと見たほうが良いよ」

 

 あそこにはちゃんと、細やかな攻略法も書いてあるのだ。具体的には、『天候対策必須』と『ボス戦は銃火器非推奨』の2文が。それが出来ていなければ、そもそもボス部屋まで辿り着けないし来ても圧勝する自信がある。

 

『そう? よく分かんないけど分かった!』

「はいはい、それじゃあね」

『おやすみー』

「おやすみ」

 

 そうして通話が終わり、茹でていた冷やし中華の麺をザルにあけつつ、はぁ……と大きなため息を吐いた。

 

「ボスのモチーフ、バレなくて良かった……」

 

 モチーフが2人だとバレたら、正直また街を爆破でもしないと羞恥心が抑えられない。というかそもそも、あのボス部屋自体答えも含めて【すてら☆あーく】関係の内容が多かったからなぁ……

 

「よっと」

 

 そんなことを思いながら、麺をしっかりと締め、適当に具材を盛り付け通話の切れている携帯をポッケに突っ込んだ。

 

「さて、晩飯晩飯」

 

 沙織と話してたせいか微妙にぶり返した寂しさを振り払うように、テレビの音だけが虚しく響くリビングに俺は帰っていくのだった。

 

 

『ボスのモチーフ、バレなくて良かった……』

 

 電話を切る直前大きな音に紛れて聞こえたその声に、ベッドの上でジタバタしていた沙織の動きは止まっていた。それもその筈、紫水晶の騎士と超近距離で戦い続けていたセナには心当たりがあったのだ。

 

 全身を覆う鎧で分かり難かったが、紫水晶の騎士は実際の性別は兎も角女性型。そして槍を持ち、結晶を感染させるオールレンジ攻撃を持ち、防御力は低く高機動。思えば、背丈だって似ている。つまり……

 

「藜ちゃん?」

 

 紫水晶の騎士は、極めて藜に似ていると言わざるを得ない。

 であれば、白銀の狼は誰がモチーフなのか。防御役で、回復ができ、機動力も高く、信頼されている。そこから導き出される答えは、遺憾ながら1つしかない。幼馴染としての直感も交わり、出た答えというのは──

 

「……私?」

 

 その答えに辿り着いた瞬間、沙織の頬が若干朱に染まり口元がにやけた。何だかんだそっけない対応をされることが多いが、実はちゃんと意識されてる事実が本人のいない場所で勝手に暴かれた。自分だけじゃないというのはちょっと不満だがそれはそれ。脈なしではないのだ、押せばいける。

 

「えへへぇ……」

 

 枕に顔を埋め、恥ずかしさを隠すように足をジタバタさせる。

 一度そう考えてしまえば、ボス部屋の関連性は連想ゲームのように簡単に繋がっていった。狼が凍らせてくるのはつららが元、MPのシェアは多分れーちゃんが元、ランさんは紫水晶の騎士が行なっていたスラスターを吹かすような移動方法だろうか。視点が変わればなんと単純なことか。

 

「なら、もしかして!」

 

 そこまで自ギルドが関係しているのであれば、暗号にも何か関係性があるのかもしれない。そう思うのは当然だった。

 

「えーと、確かこれがこうで……」

 

 謎の星座のスクリーンショットを点字に当てはめ訳していくと、その数字は13・20・51・30・32・20・54・28・52・30・21・57・30の計13個。正確には1と3、2と0といった感じだが、この並びで正解なのだろうということは半ば確信している。

 

 相変わらずなにも分からないが、ふと頭の中に入力キーボードが思い浮かんできた。確かあれは五十音表そのままの配列だった。それを念頭において改めて数字を見ると、あることに気がついた。並ぶ13の数字は、一の位が0〜8まであるにも関わらず、十の位は1〜5までしかない。

 そしてヒントにあった『ながれるほしはたてからよこへ』の文。カチリと、頭の中で歯車が噛み合った様な音がした。

 

「これをこうして……」

 

 五十音表の『あ』を1として、あいうえおの順に1〜5の数字を、あかさたな〜の順に1〜10の数字を割り振る。そして数字に当てはまる部分を読むと……

 

「さ・お・く・と・し・い?」

 

 全く意味のわからない文字列が出現した。しかし、文字が出現したのだ。方法は間違っていない。そこで改めてヒントを見ると、変に強調されたみあげの文字が目に入る。

 

「みあげ……とーくんが考えそうなこと……」

 

 ぐぬぬと唸りながら天井を見上げ、ユキが行なっていたビルを打ち上げ花火にした打ち上げ花火ルの幻影を垣間見つつ、その衝撃映像のお陰か何かが頭の中で弾けた。

 

「みあげ……上を見る……繰り上げ?」

 

 サムズアップするユキの幻影が自爆とともに消え去りお星様となる。そんな中、沙織は点字から訳した数字を1つ繰り上げて、先程と同じように五十音表に当てはめていく。

 そうすると数字は、14・21・52・31・33・21・55・29・53・31・22・58・31となり、対応する文字は……

 

「た・い・こ・う・す・い・の・り・そ・う・き・よ・う?」

 

 文としては成立しているが、なにを指し示しているのかよく分からないものが出現した。けれど、後半の文字は辛うじて読むことができる。

 

「たいこうすいの理想郷……理想郷……たいこうすいだし、大洪水?」

 

 即ち『大洪水の理想郷』。それに加え、よつえのまなこやその他のヒントを踏まえて考えれば、出てくる答えは2通りで、同じ文字数の同じ物を指し示す。『のあのはこぶね(ノアの方舟)』か『のあず あーく(Noah's Ark)』、答えはこのどちらか又は両方だ。ギルド名である【すてら☆あーく】は雑に訳せば星の方舟、謎解きの答えにもギルドが思いっきり関わっていたのだ!!

 

「いやったぁ!」

 

 ネットを駆使して暴いた暗号の答えは、どこか胸の内に清々しい達成感を与えてくれた。けれど、これは誰かに態々教えたくないと思える。けれどそれでは答えの確認が出来ない。なら、答えがあるなら出題者に叩きつけてしまえばいい。

 そうと決まれば話は早い。投げ飛ばしそうだったスマートフォンを引き戻し、リダイヤルしてユキへの電話を繋げる。

 

「もしもしとーくん、なぞなぞの答えわかったよ!」

『うっそ、こんな短時間で? さっき俺何か言っちゃった……?』

「ううん、ちょっととーくんと話してたら閃いたの!」

 

 心配そうなユキにそう声をかけ、言葉を一旦打ち切って乱れていた息を整える。

 

『答えは?』

「ノアの箱舟か、空白も一文字ならNoah's Ark!」

『おお、本当に正解してる』

「やった!」

 

 どちらとまでは明言していないが、正答であることが分かり沙織が小さくガッツポーズを決める。苦労して導き出した答えが当たっていた、それ程嬉しいことはない。逆に外れていれば紙を破り捨てたくなること請け合いだ。

 

「じゃあさじゃあさ、当てられたから今度一緒にお出掛けしようよとーくん!」

『いや、暗号解いただけだし……うん、まあいっか。特に何か予定があるわけでもないし』

 

 渋々というか、まあ沙織とならいいかといった感じの雰囲気での返事に、再び小さなガッツポーズを沙織は決める。恋する乙女は貪欲なのだ。墓地からカードを5枚回収して2枚ドローするくらい。

 

「じゃあ今度の日曜……はまだイベント期間だったっけ」

『だね。一応いなくても大丈夫らしいけど、戦ってみたいし籠るかな』

「じゃあ、その次の週末で!」

『了解』

 

 そして、ナチュラルにデートの約束をしながら夜は更けていくのだった。

 




ユキの電話帳
・父
・母
・祖母(母方)
・祖父(母方)
・祖母(父方)
・祖父(父方)
・沙織
・沙織母
・藜

           以上!!


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第92話 高難度ダンジョン(幸運)③

 ボスの居なくなった5層の部屋。そこでは今、入力キーを叩く静かな音だけが響いていた。

 

「のあのはこぶね、っと!」

 

 メンバーを代表してセナが入力し終えると、小さな開錠音が響き、重苦しい音を立てながら扉が開き始めた。セナが暗号を解読したその自信のほどと言えば、無言のドヤ顔から嫌という程に伝わってくる。

 

 だが、意外にもパーティ内で悔しそうな顔をしているのは藜1人であった。れーちゃんは自分を肩車するランの頭をペシペシと叩いているし、つららも肘でツンツンとランのことを突っついていた。当の本人は目を瞑り、難しい表情を浮かべて黙っている。

 そうして目を瞑ったまま動こうとしないランの代わりに、はぁ……とため息をついてつららが話し始めた。

 

「ラン、後一歩のところまで行ってたのよ。暗号の解読。でも、今日小テストで……」

「あー、後回しに……」

 

 困ったように言うつららと、あるあると言った風に受けるセナの会話を聞いて、藜がガーンという表情と雰囲気を放ち始めた。年下であるれーちゃんなら兎も角、他全員が何らかの糸口を見つけていたのに自分だけ特になにもなかったのだ。当然である……と言いたいが、基本的に点字に触れる機会なんてものが少な過ぎる以上、分からない方が当然である。

 

「ん」

「ありがとう、です」

 

 体育座りでイジイジとしている藜の頭を、れーちゃんが優しく撫でていた。なんとか励まそうとしてくれているらしい。

 そんな微妙としか言いようのない雰囲気の中、セナが1度大きく柏手を打った。そして、漂う湿っぽい空気を吹き飛ばすように言った。

 

「折角進めるようになったのに湿っぽい空気はナシナシ! なんか6階凄いらしいし!」

「セナちゃん、それ解読した本人が言っても……」

「ん」

「あっ……」

 

 つららの言葉により失言に気づき固まるも、時すでに遅し。漂う微妙な雰囲気の払拭が成されることは難しいように思えた。

 

「ほら、ランもいつまでも拗ねてるんじゃないわよ。藜ちゃんも、私たちだってエレベーター乗って気がついたんだから、気づかなくたって普通よ。だから、あんまり気にしないで平気よ」

「でも、悔しい、です……」

「それじゃあ、次は負けないようにしないとね」

 

 年上の面目躍如といったところか、そんな空気を解決したのはつららだった。話を聞き、発破をかけ、彼氏には蹴りを入れ、攻略どころではなかった雰囲気を叩き直していく。こればかりはセナにも、勿論ここにいないユキにだって出来ないことだ。同年代ではあるが、拗ねているランは論外である。

 

「とりあえずこんな雰囲気にした元凶は、この塔の頂上にいるユキよ! ちゃっちゃと駆け上って、一発ぶん殴りましょう!」

 

 そうして、いつのまにかパーティ全体のモチベーションは向上していた。不仲の人間も共通の敵がいれば団結するという話は、本当であったのかもしれない。

 

 なんとか士気が回復した5人が出現した階段を登って行くと、そこには今までと同様の作りの門が安置されていた。5階層の入り口では精緻なレリーフが刻まれていた門であるが、ここには特に何も描かれてはいない。けれど、所々に金色の装飾が施されていた。

 

「さあ、開けるわよ!」

 

 つららが音頭をとって、全員で扉を押し開ける。石臼を回すような音を立てながら開く扉、僅かに開いたその隙間から煌めく光が5人の元に差し込んでくる。噂は本当だったかと込める力が心なしか増え、扉が開く速度も加速していく。その甲斐もあってか、数秒後に完全に門は解放されて目に眩しい光景が飛び込んできた。

 

「うわぁ」

「確実に目に悪いわね……これ」

「眩しい、です」

「ん」

 

 それを一言で表すならば、『金』の他はあり得ない。

 

 前を見ても金

 

 上を見ても金

 

 横を見ても金

 

 下を見ても金

 

 金、金、金、金金金金金

 

 足を踏み入れたプレイヤーを除く何もかもが、この階層では金色一色に染められていた。挙げ句の果てに、入り口すぐ近くの場所に『ご自由にお取り下さい』と書かれた立板と金の延べ棒の山。

 5階層もそうであったが、どう見ても製作者の頭を疑うダンジョン設計である。今時成金趣味の人であろうと、ここまで全てを金に染めはしないだろう。

 

「でも、やっぱりモンスターは特にいないね」

「多分、私の装備の効果、です。ごめん、なさい」

 

 落胆したようなセナの声に、申し訳なさそうに藜が答える。藜の装備効果である通常mobのエンカウント率低下により、基本的にモンスターとの戦闘が減っていることは寂しいが攻略上かなり優位に働いているのもまた事実だった。

 

「その分攻略は楽だし、気にしてないからへーきへーき!」

 

 そう言った後、セナが藜に何事かを耳打ちすると、神妙な顔をして藜は頷いていた。何かに納得したらしい。その視線が天井に向けられている辺り、きっとユキに関する何かであったことは容易に想像できる。

 

「それじゃあ、いつもの感じでいっくよー!」

 

 そんなこんなで一悶着あったが、逆に言えばそれ以外何もなく、普段通りの高速攻略が始まったのだった。

 

 そしてそれから、僅か10分後。

 

「とうちゃーく!」

 

 ただ全てが金色で、多少迷路っぽい作りになっているだけのフロアは攻略されていた。即落ち2コマレベルの高速である。それでいて、この短時間で10万Dという大金を稼いでいる。このままでいけば親切な階層であるという一言で終わったのだが、そうは問屋が卸さない。

 

 入り口にあったものと同様の立て札が、出口のすぐ隣にも存在していたのだ。書いてある文言は『欲深きもの、この先死あるのみ』であり、隣にはATMのような機械がその存在を主張していた。100,000Dという金額が表示されている画面の外枠上部に、安全祈願の4文字が踊っている辺り白々しいことこの上ない。

 

「これはつまり……お金払えってことなのかしら?」

 

 首を傾げ不思議そうに言うつららの前で、れーちゃんがATMをべしと叩いた。画面に高さは足りなかったが、それでも効果は発動したようで表示される金額がみるみるうちに減少していく。れーちゃんにとって10万は、頑張って作った武器1つ分ほど。未だにカジノから出禁を喰らっているユキ(3000万オーバー)には及ばないが、富豪には違いないのだ。

 表示されていた金額はやがて0になり、ファンファーレが鳴った。同時に特にバフが掛かったりすることはなかったが、綺麗な光がれーちゃんをパッと照らした。

 

「あれ、終わり? 爆発は?」

「ん」

 

 セナが頭にハテナを浮かべながら言うが、特にそれ以上何か変化は起きなかった。一見無駄にしか見えないこの装置だが、ここの製作者はユキだ。何かあれば爆発するだろうという予測は、最早周知の事実だった。

 

「後でなにかが爆発するんじゃない?」

「扉辺りが怪しそうだな」

「階段、かも、しれません」

 

 そう言って全員が、それぞれ装置に触れて稼いだ分のお金を払っていく。こと幸運と爆破に関しては、全プレイヤー中1と言えるほどの信頼がユキにはあるのだった。逆にそれ以外は平均以下か評価なんて一切ないのは、それもまた極振りらしいのだろうか。

 1つだけ確かなことは、この様子をモニターしていたユキがショックのあまりビルを1ダース程爆破した事だけだった。因みに爆発がカラフルになったことで、いつもよりギャラリーにウケていたらしい。

 

「まあ、全員やったし問題ないよね?」

 

 全員に確認を取ってから押し上げられた扉。その先の通路には、今までとはひと味違った光景が広がっていた。

 

 上層へ続く階段の両脇に、無数の人影があったのだ。しかしそれは、無論プレイヤーではない。ただのオブジェクトでもない。それは、所謂レアモンスターであった。

 

 金属の装甲板の重なり合いによって、高い防御力と重厚な見た目を確保した『アーマード=ケサ』を羽織り!

 装甲板と歯車の重なり合いで出来た、高い防御力と状態異常耐性を付与する『スゲカサ=ギア』を被り!

 右手には一見ただの木材にしか見えないが、実は触れた相手を高確率でスタンさせる『コンゴウ=スティック』を持ち!

 左手にはその連なる珠の1つ1つがレーザーを放つ『ハイパワード=ジュズ』を握り!

 両脚にはどんな悪路ですら踏破するという『オフロード=ジカタビ』を履き!

 首からは『コンゴウ=スティック』に巻くことでエネルギーの刃を発生させ薙刀とすることが可能で、且つ防御装備としても優秀な『エネルギー=ワゲサ』を掛け!

 低HPのまま長期間放置すると『コンゴウショ=オーバーロード』を使用し、『クリカラ=ソード』を抜き放ち暴れまわった後に自爆して大爆発を起こし!

 頭部の『スゲカサ=ギア』を展開して放つ『トクトウ=フラッシュ』が必殺技の、僧侶型男性アンドロイド。その名前を【テンプルナイト】と言った。

 

 このモンスターは通常、第3の街西方にあるダンジョン奥深くの中ボスとして配置されるか、第1の街と第3の街の間に存在する遺跡群を極稀に徘徊していることが見られるだけのレアモンスターである。ユキを同行させることができれば、確実に会えるだろう。

 正確な分類をするならばは【テンプルナイト=SOURYO】や【テンプルナイト=SOUHEY】、【テンプルナイト=JUNRAY】【テンプルナイト=SOUJO】などの分類があるが、詳しくなりすぎるのでここでは一旦省くことにする。

 

「ぶふっ」

 

 その光景を見たセナが、笑いを堪えきれず吹き出した。そんな1匹見ることすら珍しいレアモンスターが、数え切れないほど階段の両脇に陣取っているのだ。しかもそれぞれ神妙な面持ちで、ピクリとも動かず。その姿はまるで、サンジュウサンゲン=テンプルの如し。笑ってしまうのも無理はない。

 続く他のメンバーも、どうにか堪えたラン以外そのシュールな光景に耐えることが出来ず大なり小なり肩を震わせていた。

 

「もしかしたら、お金を払ってなかったらこれ全部に襲われてたのかしら?」

 

 つららが言ったその言葉に、全員がうへぇと言った嫌そうな顔を浮かべた。何せこのテンプルナイト、物理防御も魔法防御もカッチカチで、近距離は薙刀かコンゴウ=スティックによる範囲攻撃、遠距離にはジュズから放つレーザーを放つことで対応し、挙げ句の果てに自己回復までしてくるのだ。ライトン=ジツでのアンブッシュや、囲んで棒で叩く以外の方法では、実際酷く手間取る相手なのだ。コワイ!

 

 たった一体を相手にするだけでも面倒な相手が、まるで雑魚敵のように湧いてくる光景は絶望の一言だろう。

 

「襲ってこない、です、ね?」

 

 しかしその脅威は、全員がキチンとお金を払っていたことにより消滅している。こちらから明確な攻撃を仕掛けない限り、このノンアクティブの『タクハツ=スタイル』からアクティブの『イッキ=スタイル』に変化することはない。

 

 そうして、不気味に佇むだけのテンプルナイト達に見送られ、【すてら☆あーく】のメンバーは7階層に辿り着く。他のパーティの最高到達階層。そして前情報では、レアモンスターしか出ない階層。そこに、今足が踏み入れられた。

 




因みに金を払わないと、扉を開けようと手を掛けた瞬間手足が接着されて大爆発して、金を払ってない人ばかりか払った人まで死ぬというトラップ。
先に開けてもらって通り抜けることは可能だけれど、階段と次の層でステルスしようが何しようが目視の範囲内のレアモンスターがターゲットしてきます。


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第93話 高難度ダンジョン(幸運)④

 その階層に足を踏み入れた途端感じたのは、柔らかい風と草の匂いだった。開けた視界にソコソコの大きさの草原が点在している、それが今感じたものの元凶と見て間違いはなさそうだ。

 

 しかし、見える景色は異様の一言に尽きた。

 

 ある場所を過ぎた瞬間そこは猛吹雪の空間となり、またある場所を過ぎれば砂塵が舞い上がる砂漠へ。またある場所は夜になっており、遺跡になっており、どこもかしこも天候どころか時間帯さえバラバラだ。まるでパッチワークされた様な環境は、極めて不自然で不気味としか言う他ない。

 

「うわぁ……」

 

 しかもその区切られた環境内に、最低10匹のレアモンスターが出現していた。これが本来のこの階層の姿……と言うわけではない。本来であれば、1区画に数匹程度しかモンスターは配置されない。

 しかし今の藜の装備には、『通常モンスターとの遭遇率を下げ、レアモンスターとの遭遇率を上げる』効果が備わっている。今までは攻略を容易くしていたその効果が、今ここでは完全に裏目に出ていた。

 

「ごめん、なさい。多分、私の装備のせい、です」

「今まで助けて貰ってたのに、今更そんな事言うわけないじゃん!」

 

 肩を竦めしゅんとした藜に、笑顔でセナがそう声を掛ける。それに同意するように全員が頷き、れーちゃんはグッとサムズアップまでしている。そもそもユキと一緒に行動している時点で、爆破と奇行とレアな物は見慣れた光景でしかない。

 そんなのが今更ちょっと増えただけで、あーだこうだ騒ぐ必要がどこにあると言うのだろうか? 確かに普通であれば大ごとではあるが。

 

「それに見た感じ、この階層の感じなら簡単に攻略出来そうだしね! まあ、この階に私たち以外誰もいないことが前提だけど」

 

 むふーと胸を張って答えるセナの発言に皆が頭に?を浮かべる。上層への階段もどこにあるのか分からず、強力なモンスターが徘徊するここをどう簡単に攻略すると言うのだろうか?

 それに最上階でこの映像を見ていたユキが気づき、爆弾の製作判定に失敗して最上階が吹き飛んだのはまた別の話。

 

「それって、どうやるのかしら?」

「私が分身して、モンスタートレインして、本人私とみんなでいつも通り駆け抜ける! かんっぺきでしょ!」

 

 製作者側も想定外のごり押しを、自信満々にドヤ顔でセナは語る。確かに言ってる事は至極まともであり、他プレイヤーのいない現状では最善に近い選択肢だろう。

 

「それに、この層ってぶっちゃけ、うちのギルドにとってなんの旨味もないからね! ぱぱぱっと済ましちゃおうよ!」

「あー……確かに、言われてみればそうよね」

 

 セナが言い放った身も蓋もないそんな言葉に、つららがなんとも言えない表情で頷く。レアモンスターしか出ない階層、確かにそれは厳しくも素晴らしい階層だ、普通であれば。

 

 しかしぶっちゃけたセナの言う通り、蠢くレアモンスター達は全て、ギルドの倉庫にその素材が最低でも10個はぶち込まれているものばかり。たった今最上階で花火になった男がギルドから抜けでもしない限り、寧ろここはデメリットしかない階層だった。

 

「ちょっと、いい、ですか?」

 

 そのまま出発し、哀れ描写全カットで終わると思われたその時。おずおずと手が挙げられた。その主である藜は、少し申し訳なさそうに言った。

 

「こんな状態にした、私が言うのも、あれ、ですけど……ちょっとだけ、その、狩りたい、モンスターが。良いです、か?」

「あれ? なんか足りない素材でも?」

「はい。その、ユキさんは今、動けない、ですから」

 

 藜の言う通り、現在ボスとして拘束されているユキを連れ出すことは出来ない。故にこそ、この機会を逃せばレアモンスターのドロップ品は、イベント期間中は通常通り中々手に入らない物となる。

 

 昨日倒した紫水晶の騎士から2つドロップしたアイテム。何時ぞや貰ったままの【太陽の指輪】の御礼になるかもしれない、ドロップ品の派生先。それを作るため少しずつ素材を捻出したものを、完成させられるチャンスが目の前に転がっているのだ。それを不意にするのは、少しばかり勿体ないと思ってしまうのは必然だった。

 

「それもそっか。それじゃあ、みんな欲しい素材があったら言ってね! 適当に狩りつつ進もー!」

「ありがとう、です」

「ん!」

「了解!」

「異議なしだ」

 

 そうして、10分ほどで攻略される予定だった7層は、3倍の30分で攻略されたのだった。

 

 

「さて、到着!」

 

 特に何事もなく攻略された7層を超え、辿り着いた8層の扉。今回は1〜4、6階通りで何も変わらなかった階段の中、最後の扉だけに極めて僅かな変化があった。なんの変哲も無いドアノブと、蜂を模したドアノッカーが付いている。たったそれだけ。

 

「罠……だね、これ」

 

 極めて自然に捻り兼ねないそれを、じっと見つめセナが呟く。いまいち確証が持てないのは、あくまでセナの罠発見能力は過去使っていて放置していただけの物だからである。

 これまではその中途半端なスペックでも罠を看破できていたが、無駄に本気になった極振り(変態)監修のソレには100%の確信を持つことが出来ないようだった。

 

「つららさん、お願い」

「はいはーい」

 

 運営と極振り共の高笑いが聞こえてきそうなそれに、手持ちの銃ではなく氷の魔法が炸裂する。『どうせユキのことだから爆弾だろう』そんな予測の元いとも容易く行われたエゲツない行為は、入り口である門を全面的に凍結させた。

 

 直後、氷の向こうで誤作動した罠により門が爆発する。あまりにもらしいソレには、今までのワンパターンな爆発と違い爆炎に七色の色が付いていた。そしてその煙が移動し、ある1つの文を作り出す。

 

 歓迎しよう

 

「「「……」」」

「ふっ」

「ん……」

 

 空気がしんと静まり返った。ユキ渾身のネタは、ランとれーちゃんには伝わったが、全体的に見れば確実に滑っていた。因みに計3500ダメージという即死トラップであることも相まって、本格的に受けたのは数日後に到達したロボ系の装備を揃えたパーティだけであった。

 

 後にユキと相対して『あんな物を浮かべて喜ぶか、変態共め』と発言したそのパーティは、上位ギルド【アーマード・コジマ】に成長するのだが、それはまだ遠い未来の話。

 

「とりあえず、進もっか」

「ん」

「そうだな」

 

 比較的冷静なランとれーちゃんの兄妹が率先して発言し、凍りついた扉の残骸を開く。

 

「えっ、ここ、もしかして」

 

 そうして解放された第8階層の光景は、この場にいる約1名を除きゲーム内で初めて見る光景だった。

 

 頭上には蛍光灯が連続して道を照らし、綺麗に磨かれた床を照らしている。一直線に続く通路の左右には、謎の液体で満たされたガラスっぽい円筒が、無数に、延々と規則正しく並び淡い光に照らされている。そこから床に向かいコードが伸びており、未だにその何かが稼働してることが分かる。その奥には明らかに自動ドアと思われるドアが鎮座しており、まさに研究所といった感じだ。

 

 そう、具体的にいうならば『第2回イベントで、ユキと藜がボス戦を行った研究所』の在りし日の姿だった。

 

「どしたの藜ちゃん? 置いてっちゃうよ?」

「あ、はい。ごめん、なさい」

 

 動きを止めていた藜を追い抜き、自動ドアの向こうにいたセナが手招きする。それに従って歩く中、藜がその音に気づけたのはいくつかの偶然のお陰だった。

 

 1つは、直前にあのイベントを思い返していたこと。

 1つは、ソレとの初遭遇時にユキが壁ドン+密着という記憶に残りやすい行為をしていたこと。

 最後は、それが余りにも特徴的な見た目と気配、そして音を立てていたこと。

 

 通路に出ようとした藜を、氷を背筋に入れられたかのような、冷たい悪寒が襲う。そして、ゴヴォ……と粘度の高い液体が泡立つような薄気味悪い音が聞こえた。

 

「走って! 逃げる、です!」

 

 そしてセナたちの進行方向から、かつて見た異形が姿を現した。

 

 三脚を逆さにしたような三又に分かれた人の胴ほどの棒の中心に、金魚鉢を逆さにしたような悍ましい蒼をぼんやりと放つ物体が固定されている。そこに灯る黄色い1対の光はまるで人間の目のようで、先が三叉に分かれたしなる棒の下、胴体的な棒を中心に回転する、青白い生気を欠いた鬼火と相まって冒涜的な雰囲気を放っている。

 

 回転しながら空中を滑るように移動するソレの名は、【The heavenly will‐o'‐the‐wisp】。SAN値(正気度)の減少という新たな脅威を伴い、かつてのフィールドボスが姿を現した。

 

「うっそ」

「ん!」

「チィッ、行くぞつらら!」

 

 セナがそんなことを言いながら銃剣を連射し、ランが舌打ちをしながらヴォルケインを纏い、ランの肩に登りながられーちゃんが魔法で通路を封鎖しようとし、目を見開き動きを止めたつららをランが担ぐ。

 

「ニクス!」

 

 そして藜は自らのペットを呼び出しつつ、1つのアイテムを実体化させて投擲する。甲高い鳴き声を上げながら現れたペットの魔法により、藜が投げつけたアイテム……ユキが持つ物と同じ《スタングレネード》が封鎖されかけている通路の向こうに到達する。

 

 直後発生した高音と閃光にニクスがダウンし、強烈すぎるそれによりつららが正気を取り戻す。直後に氷による通路の完全封鎖が行われ、ニクスを召喚前に戻した藜にセナが駆け寄る。

 

「藜ちゃん、何か知ってるの!?」

 

 焦りを浮かべたセナの質問に、神妙な顔で藜は頷く。

 

「ここは、私とユキさんが、初めて攻略した、ダンジョン、です。それも、多分、その時より強い、です!」

 

 焦りによって、事故は連続する。

 

 藜がそう言い切った次の瞬間、ランがガコンという音と共になにかを踏み抜いた。ジリリリリリと緊急のベルが鳴り響き、通路に点在する赤色灯が回転を始める。

 

 微かに、虫の羽音が聞こえた気がした。

 



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第94話 高難度ダンジョン(幸運)⑤

 回転する赤色灯と、緊急事態を知らすべく大音量の騒音を撒き散らすベル。その2つに彩られた通路を、【すてら☆あーく】の5人は疾走する。

 

「ちょ、ちょ、ほんとこれなに!?」

「わから、ない、です!」

 

 ユキと攻略した時には発生し得なかったこの現象。もしかしたら仕掛け自体はあったのかもしれないが、バイクで壁を走るとかいう意味不明な攻略法で無視された仕掛け。それが今、本来の姿を取り戻し牙を剥いたのだ。

 

『……すまん』

「ん!」

「私が言えるかは分からないけど、さっきのはどうしようもないわよ」

 

 頭を下げたランさんの頭部をれーちゃんがポコンと叩き、一時的発狂から回復したつららもそう言葉を紡ぐ。そう、今回は誰も悪くないのだ。強いて言えば最初に徘徊ボスと遭遇する運の悪さがあるが、それはそれ。意識しなければ気付かず、踏んでしまうような位置にスイッチを設置するユキが悪いのだ。

 

 そうして、話がまとまり掛けた時のことだった。

 

 前方の天井に配置されていた通気口と思われる場所、その蓋が勢いよく落下した。甲高い音を鳴らして床に叩きつけられたそれを見て、誰ががヒッと息を飲む。

 

 次瞬、黒が、現れた。

 

 その正体は、黒く、ミツバチの様な小さな蜂の群れ。

 更に詳しく言うのであれば、この階層で現在放し飼いにされている、ユキのペットである朧。更にスポーンさせている、朧と同スキルを持つレギオンワスプの群れだった。

 

『発見。殺』

 

 何重にも重なった羽音が、そんな言葉を鳴らしたように聞こえた。

 それは、確殺という意志の発露。

 それは、初めての来訪者に対する害意。

 それは、主人の命令に応じる歓喜。

 

 何重にも重なった感情が爆発する様に、10匹いたレギオンワスプの数が、252倍に膨れ上がった。

 

「ヒッ」

 

 あくまでここは、Utopia onlineというゲームの中であって現実ではない。魔法による炎を浴びたり武器で負傷したりしても魔法やアイテムで無傷に戻り、怖いものを見たところで基本的になにも問題ない世界だ。心臓が弱い方は強制ログアウトさせられることもあるが。

 

 だが、そんな世界であってもだ。

 

 2520匹の蜂が、自分たちに敵意を持って迫ってくる光景に正気でいられるだろうか? いや、ない。キチガイ共(極振り)一部のガチ勢(上位陣)は嬉々として駆除に走るだろうが……普通、足が竦む。

 

「ん!!」

 

 この中でユキのペットである朧の脅威を正確に知っているのは、セナと藜のみ。知っているが故に動きが止まった2人に変わって、最年少のれーちゃんが最初に動いた。広範囲殲滅能力を持つつららの背中を叩き、自分の兄の頭を叩き、正気に戻させる。

 

「つらら、やれ!」

「《ブリザード》」

 

 そして2人の硬直が解ける直前、蜂の群れに向かって吹雪が放たれた。ポン、ポン、と軽い音を立てて弾けている朧の分身。たった1,000という低いHPしか持たない分身であるが、そのAglは600。少しずつ吹雪を抜けて盾となっているランに直撃していく。

 そのHPの削れ具合は緩やかだが、恐ろしい数の状態異常アイコンが出現している。保って10〜30秒が限界だろう。

 

「ここは私たちに任せて先に行って! よしっ、死ぬまでに言いたいセリフNo.1が言えたわ!」

 

 小さくガッツポーズをとりながらつららが魔術を連発し、ランも手持ちの銃器の弾を使い切る勢いで乱射する。そんな風景の向こうで、新たに10匹のレギオンワスプが通気口から出現した。

 

『チッ。れーは任せたぞ。先に行け! どうせ俺は、アイツとの戦いでは役立たずだ』

「は、はい!」

 

 ポーンと飛び跳ねたれーちゃんがセナの腕の中に収まり、藜と頷きあって隣の通路に飛び込む。直後シャッターが降り、爆発音が連続した。セナの視界では、パーティ欄にあった2人の名前とHPゲージが急速に減少して0に落ちたことが確認できた。同時に枠が灰色になり、もう一度合流しない限り復活しないことがわかる。

 

「どう、しま、す?」

 

 なんの音も聞こえない、一先ず安全と言えそうな通路。そこで藜が首を傾げながらそう呟いた。『パーティが欠けたから攻略を中断する』それは簡単だが同時に、もう一度黄金の階層とレアモンスターの階層を抜けなければ行けないことを示している。それに、先に行けとつららが言葉を残しているのだ。

 

 どうするかは、ギルドマスターの決定に委ねられている。

 

「……行けると思う?」

 

 セナが、微妙に不安そうな声で聞いた。

 

「確かに本人の言う通り、ユキくん相手にするならランさんは……その、何も出来ないかもしれない。でもつららさんがいないのは、結構痛いと思うんだ」

 

 セナの持つ銃剣と違い、ランの武器はほぼ全てが銃だ。連携を乱さないと言うことを考えると、ランはユキにほぼ完封される可能性が高い。

 対してつららは、先程も行なっていた通り広範囲に対する攻撃が出来る。ユキの致命的な弱点であるそれを行えるつららが抜けるのは、少しばかり辛い面があるのは事実だった。

 

「私は、いいと、思います、よ? つららさん、カッコつけてました、から」

「ん」

 

 躊躇い気味に藜が言った言葉に、れーちゃんがこくこくと頷く。あれだけいい感じに台詞をキメたのに、帰ってこられちゃ興醒めである。

 

「そっか。なら、出来る限り進んでみよっか」

「ん」

「了解、です」

 

 小さくおーと声を合わせて、女子3人での探索が始まった。

 

 

「ん」

「そこ罠」

「ん!」

「ちょっと待って、罠解除してくる」

「ニクスが、蜂の巣、見つけまし、た」

「んー……じゃあ、迂回だね」

「ん」

 

 それからの攻略は、特に何も問題がなく順調に進んで行った。

 些細な罠でもセナが見つけては解除し、れーちゃんのナビゲートにより安全なルートを進み、藜のこの中で唯一飛行できるペットが危なそうな時は偵察する。音が聞こえれば影に隠れ、脅威が去ったのを確認したら進む。そのお陰でゆっくりと、しかし着実に階段までのルートを進むことが出来ていた。

 

 けれど、ここはそこまで単純にクリアできる階層でない。

 

「だめ、です。完全に、動かない、です」

「そっかー……」

「ん……」

 

 大凡あれから1時間。セナたちは次の階層に向かう階段と思しき場所を見つけたところで、足を止められてしまっていた。その理由は簡単。その大扉が存在する部屋の中心に、あるモンスターが陣取っているのだ。

 

 尋常な人の2.5倍程の体躯、ボロボロのコートを纏い、被らされている頭巾には血が滲み黄色い獣の眼光が1つだけ覗いている。首には金属の枷が嵌められ、そこから千切れた鎖がだらんと垂れている。同様に手にも枷と鎖が存在しているが、脚はそもそも存在せず宙に浮いており、ポタポタと何か赤い液体を零している。その周囲にはクロスして回転する鎖が存在し、そのさらに外側に巨大な猟銃が6つ宙を舞っている。そしてその両手には、鈍い輝きを放つ銃剣。

 

 そう、ユキと藜が相当な暴挙の果てに討伐した【The Sealed criminal】である。あの時より強くなり、メンバーは増えている。だがアレと相対するのは、どこか良くない気配がするのだ。

 

「因みに、前回も居たんだよね、あのボス」

「はい。2人で、なんとか倒し、ました」

 

 コクリと藜が頷く。それほど時間が経っているわけでもなし、あんなことを忘れられる訳がない。こっそり扉を開けて覗くだけでこちらを威圧するその姿を見てしまえばなおさらだ。

 

「因みにその時はどうやって?」

「ユキさんが、しこたま、爆弾を投げて、ボスのHPを、半分くらい、消し飛ばしてから、でした。それから、一回コンティニュー、して、それでも、負けそうで、なんとか」

「そっか……それはちょっと無理そうだなぁ」

 

 セナが肩を落として落胆するように言う。よくよく考えれば、そんな意味不明な攻略をした張本人がこのダンジョンを作っているのだ。それくらいは許容範囲内だろう。

 

「ん」

「倒せばいいって? うーん、やってもいいけどなんかやな予感がね」

 

 渾身のジェスチャーで意思を伝えたれーちゃんに、頭を捻りながらセナが答える。ユキやランほどではないが、セナと藜も翻訳能力が強化されたのだ!

 

 それはさておき。この時点ではユキ以外知る由もないが、実はセナの懸念は当たっている。ここで大規模な戦闘なんてしようものなら、その音に惹かれて徘徊ボスが集結、圧殺されるクソみたいな仕掛けである。

 

「ん!」

 

 そんな沈黙の中、れーちゃんがボスの周囲に浮かぶ猟銃を指し、次に藜を指差した。その上で首をコテンと傾げたならば、親しい人なら何を指しているのか一目瞭然である。

 

「私のビット、は、あのボス、からの、レアドロップ、だよ?」

 

 その言葉に、セナが耳敏く反応した。

 ユキの装備は浮遊する11冊の本。藜の装備は6つの浮遊する猟銃。更にはレアドロップという単語。第2回イベント。全ての要素が繋がりヘキサコンバージョン。セナの灰色の脳細胞にフォニックゲインが吹き荒れる。……多分。きっと。メイビー。

 

 詰まる所、それから導き出される結論はたった1つである。

 

「いや……うん。とりあえず、ユキくん殴ってから考えよ」

 

 お揃いの装備という妬みと自分も欲しいという欲望。それと、ゲーマーとしての勘が全力で鳴らす警鐘。打ち勝ったのは、後者だった。

 

 後で問い詰めれば済む話だし、第2回イベントのボスからのレアドロップ限定品アイテムなんて、今倒したところでドロップするとは限らない。そもそも自分の武器とは相性が悪い。互換アイテムもそろそろ出てくる筈。きっと作れる人もいる。そんな数々の理論武装は本能を打ち負かすことに成功した。

 

「? なにか、言い、ました?」

「ううん。ちょっと対ユキくんの切り札使えば、突破は出来そうだなーって思ってただけ」

 

 聞こえていたらしいれーちゃんがジッと見つめる中、セナがそんなことを言った。突如齎された回答に固まる藜を他所に、扉の隙間から部屋を覗き、部屋の天井を見上げ指折り数えたセナは、改めてもう一度頷く。

 

「うん。切り札用のマガジン、4本中2本は使っちゃうだろうけどね」

「因みに、どんな、方法、なんです?」

 

 製作者であるが故にこれから起こる何かを察したれーちゃんの隣で、藜が問いかける。

 

「んーとね。まず私の切り札なんだけどね、壁とか天井に弾を打ち込んで、そこからワイヤーが出てくるの。何個か集まると合体して、私には丁度いい感じの足場が出来てね? 全方位から7人で全力攻撃すればいけるかなーって思ってたんだ」

「エゲツない、ですね」

「えへへ、それほどでもー」

 

 照れたようにセナが頭を掻いた。別に誰も褒めてないどころか最上階のユキは冷や汗をかいていたのだが、それでもどこか嬉しいようだった。

 

「で、突破する方法に話を戻すね。ここからサイレンサー着けてスキルで天井に狙撃するでしょ? 足場が出来るでしょ? そこをステルスして駆け抜ければバレなさそうと思って。天井高いし」

「ん。ん?」

 

 成る程と言った感じにれーちゃんが頷き、次に自分を指差して首をコテンと傾げた。わかりにくいが、意訳すれば『生産職で運動能力が高くない私はどうすれば?』と言ったところだろう。

 

「私は両手が塞がっちゃうから、藜ちゃんに背負ってもらわないといけないんだよね……ビットもあるしいけるかなって思ってたけど、実際どう?」

「多分、問題ない、です。それに、やってみる価値は、あると、思い、ます」

 

 現状それ以外の手が実行できない状況下なのだ。やれることをやってみることに誰も異論はなかった。

 

「それじゃあ、頑張るぞー!」

「「おー」」

「ん」

 

 静かなえいえいおーが響き、次の階層へ向かうためのボス突破が始まった。

 



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第95話 高難度ダンジョン(幸運)⑥

昨日1分くらいミスって投稿してたので初投稿です


「さて」

 

 そう呟いて、セナが双銃剣の片方をホルスターに戻す。そしてジャキリと金属が動作する音を鳴らし、もう1つの銃剣からマガジンが外された。そして剣部分も外され、入れ替わるように数個のアイテムを取り出し装着していく。

 

「銃って、やっぱこういう風に出来るから便利だよねー」

 

 笑顔でそう言いつつパーツ換装で作り上げたそれは、元の銃剣とは似ても似つかぬものだった。上部にはスコープが、側面には照準器(レーザーポインター)が、先端には抑制器(サプレッサー)が、下部にはなにやらデカイ筒が。

 ただでさえ大きく無骨な銃剣だったものが、ゴテゴテでメカメカしい、取り回しという概念をどこかに捨ててきたかのような形になっていた。そこに新たに取り出したマガジンを叩き込み、ドヤァと効果音がなりそうな顔でセナがポーズを決めた。

 

「でも、銃って、火力ない、じゃない、ですか」

「なにおう!?」

 

 自信満々なセナに対し、ぶっきらぼうに藜が言った。セナの場合は銃剣である為近接攻撃も可能だが、銃の火力が基本的に低いことは真実だった。廃れないのは、デメリットを上回るロマンと性能があるからなのだが。

 

「そんなこと言ったら、藜ちゃんの槍だってこの狭い場所じゃ、すっごく取り回しが悪いじゃん」

「むっ。突き主体で、問題ない、です」

 

 長槍の火力は高い。しかし閉所での取り回しは悪い。それもまた覆りようのない真実だ。どちらの武器も一長一短、けれど煽りあったせいで微妙に空気がひりつき始める。

 

「ん!」

 

 そんな空気をぶち壊したのは、魔法は使うがそもそもの話生産職であるれーちゃんだった。一触即発の空気が霧散し、直前までの攻略の雰囲気が戻ってくる。

 

「ンンッ! それじゃあ、私が足場を作るから。藜ちゃんはれーちゃんをお願い。足場が持つ時間は200秒だから、それまでにお願いね!」

「200……3分と20秒、了解、です」

「ん」

 

 咳払いしたセナが言ったその言葉に、指折り計算して藜が言う。そうして槍を背負い、背負った槍を足場にしてれーちゃんが藜の背に乗った。セナがそれを見て頷き、僅かに開いた扉を覗き込む。

 

 そこから覗けば、ボスの姿は変わりなく部屋の中央に鎮座しているのが見える。どうやら作戦遂行に問題はなさそうだ、そう判断し、セナは両手で愛銃を構えた。

 

「いくよ。私の後に続いて」

 

 セナはそう言った後、スコープを覗き込みトリガーを引いた。

 

 プシュッ、という気の抜けたコーラが開封されるような音が連続して響く。そうして限りなく消音された弾はボスに気づかれることなく飛翔し、天井へと命中していく。

 着弾点からは細いワイヤーのようなものが数本垂れ、近くの物と結合し、蜘蛛の巣のような糸で作られた足場を形成していく。5発分でおおよそ2つの足場となり、計16個の足場を形成したが、まだそれでは部屋の半分程までしか届かない。

 

「次」

 

 40発を撃ち切り空になったマガジンをアイテム欄に放り込み、セナがもう1つのマガジンを銃に叩き込む。そして再び連続する噴出音。

 

「最後」

 

 役割を果たしたポインターの電源を落とし、セナは銃下部に存在する大きな筒に手を当てた。そこに存在するセレクターを切り替え、ボスの足元を狙ってスコープを覗く。

 

「これが炸裂したらいくからね!」

 

 そしてトリガーが引かれる。放たれた大きな塊は、ボスの足元とはいかずその手前も手前に落下したが、コロコロと転がりながらその効果を十全に発揮した。

 ガスの抜けるような音とともに展開される白い煙。スモークだ。もしかしたらボスに見つかるかもしれない、そんな心配を杞憂にするべく放たれた最終手段である。前回の話を聞く限り、ボス部屋に入らなければターゲットされないということを確信しての行動だった。

 

「Go!」

 

 そして、ミッションは始まった。小声での宣言とともに扉を開き、セナは己のスキルで空中を歩き天井まで登り、藜はビットを足場として操作することによって天井へと登っていく。

 

 そうして辿り着いた天井、部屋の下にはスモークが充満し、ボスの姿を覆い隠している。これならば突破できるだろう。そう思い、飛び地のようになっている足場を跳んでセナたちは進んでいく。

 

 声を殺し、スキルで気配を殺し、足音を立てずに進んでいき、辿り着いた最後の足場。そこで、下を覆っていたスモークが完全に晴れた。

 

「藜ちゃん、回避!」

 

 セナが咄嗟に言ったその言葉に反応して、藜が大きく体を動かす。直後そこに、銃弾が殺到した。ターゲットされている、その事実を事実として認識するまでの1秒程に、猛烈な勢いでビットの猟銃剣が飛翔してくる。

 

「くっ」

 

 れーちゃんを背負っていることで、藜は両手を使うことができない。その代わりに呼び出したビットを使い、致命的な軌道となり得るビットだけをどうにか逸らすことに成功する。けれどその代償は、足場から落ちるという致命的なものだった。

 

 待ち受けるボスが両手の猟銃剣を構え、クロスして両断せんと構える。そのボスを、セナの分身1が全力の蹴りでよろめかせた。その間に分身2が落ちる2人をキャッチし空中を踏み、地面に投げ捨てた。

 

「逃げるよ!」

 

 同時に突き刺さる猟銃剣。分身2と1がほぼタイムラグなしで消え、新たに生まれた分身3が挑発系スキルを使いながら叫んだ。目的地である扉の方を見れば、もう半分身体を奥に押し込んだセナが早く早くと手を振っている。

 

「了解、です!」

「ん!」

 

 藜がそうやって走り出した直後、ブゥンという羽音が聞こえた。マズイ、そう思った時には既に遅かった。自分たちがここに入ってきた扉から例のウィル・オ・ザウィスプが数体雪崩れ込み、上部にあったらしい換気口から蜂の大群が出現する。

 

「うっそぉ!?」

 

 セナが残りの分身を全て出現させ、挑発スキルで引きつけながら本人も爆発する弾を連射して援護する。部屋の中は既に、さながらモンスターハウスのよう。しかしそれでも、蜂と鬼火の増加は止まらない。

 故に、駆除が追いつくはずもなく……100匹程の蜂が、藜たちに狙いを定めた。門までは、残り15歩。

 

「ん!」

 

 れーちゃんが炎の魔法を連発して時間を稼ぐが、無駄に頭のいい蜂は回避を重ね狙ってくる。そこをセナが撃ち落とし、ビットが斬り裂き、残り5歩のところで、蜂の自爆が1つ、藜たちを捉えた。

 

「っ!」

「ん!」

 

 減少する500HPと、点灯する多数の状態異常マーク。爆破の影響で安全な扉内部に転がり込むことは出来たが、手痛いものを残されてしまった。

 最大HP・MP減少、移動速度低下、状態異常耐性低下の呪い、低確率行動不能&自傷の魅了、HP減少の猛毒と裂傷。どれも時間経過で治ることのない、いやらしい状態異常だ。

 

「ちょっ、マズ。とおりゃぁ!」

 

 その表示を確認したセナが目を丸くし、アイテムを2つ取り出して2人に向けて投げつけた。それを持っていたままの銃で撃ち抜き、壊して中身を2人にブチまける。するとなんということか。状態異常マークが全て消滅し、HPやMPの減少も全快してしまった。

 

 全身びちゃびちゃのまま、指に残ったそれをペロリと舐めた藜が目を見開く。そしてそのまま、驚愕の表情でセナを問い詰めた。

 

「これ、万能薬、です、よね?」

 

 そう藜が言ったのには当然理由がある。何せ一般的な認識では、万能薬は1本1万Dもする高額な回復アイテムなのだ。状態異常全快、HPMP1000回復という凄まじい効果故の値段だ。

 そんなものを簡単に2つも使うなんて、普通では考えられなかった。

 

「うん。この前ユキくんが倉庫に5スタックくらいぶち込んでたから、何本か拝借してきちゃった」

 

 てへ、という感じで謝罪するセナを見て、上層でユキは頭を抱えていた。いや別に、適当に敵を狩ってたらポロポロ落ちたから使われるのは良いのだが、今回自分じゃ使えないし。でもなぁ……と。

 

「えぇ……」

「大丈夫、私も私物で10本くらいは持ってるし」

 

 逆に言えばそれだけしか手に入らないものを惜しげもなく使ったのだが、大分ユキのせいで価値観が壊れてきているらしく誰にも疑問を持たれることはなかった。

 

「れーちゃんも大丈夫?」

「ん!」

 

 藜の背に顔を埋めていたれーちゃんが、顔を上げ元気に手を挙げ返事をした。実はこの3人の中で1番防御力が高いれーちゃんなので、被害も小さかったらしい。

 

「みんな無事だね。よし! 突破!」

 

 ちょっとした力押しがありはしたが、無傷での階層突破。色々な要因が絡み合った結果ではあるが、その事実が成されたことに嘘はない。それが1番わかりやすい形のハイタッチとして現れるのは当然と言えた。

 

「案外、無事に、来れましたね」

「ん」

「ふふん、私はユキくんに1発かますまでは死ねないからね!」

 

 ごつい銃を振り回しながら言うセナに、どこかで冷や汗が流れる感じがした。そもそもここにいる誰であろうと、ユキを軽く叩くだけでHPを消し飛ばせることは秘密である。

 

「まあ、本気の冗談はさておき。さっさと次の9層も攻略しちゃおう! あんまり2人を待たせるのも嫌だしね」

「ん!」

「でも、一筋縄じゃ、いかない、気がします」

 

 階段の続く先を見て、藜がそう呟いた。なんら変わりのない次層への階段、けれど足下に漂うひんやりとした空気には何か嫌なものを感じる。どこかで浴びたことのある気配なのだが、藜はまだそれを思い出すことができないでいた。

 

「へーきへーき! 私達なら突破できるよ」

 

 そう言ってセナは、一足飛びに階段を駆け上がっていく。それを追って2人も階段を登り、扉が鎮座する踊り場へ到着する。

 

「罠もなし、スイッチもなし、普通に開けて問題なしだね」

 

 セナが触れて調べていたのは、本当になんの特徴もない扉だった。黒一色で、飾りも彫りも何もなし。けれもそれが、より一層不安を増長させていた。

 

 誰かがゴクリと生唾を飲み込み、扉に手を掛ける。互いに視線を交わし、頷き合い、ボス前最後の階層へ繋がる扉が開かれる。

 

「……あれ、何もない?」

 

 そんなセナの言葉の通り、そこから見える階層の風景には本当に何もなかった。ただ余り明るいとは言えない階層で、濃紺の空に真っ黒な太陽が浮かんでいる。地面は一面紫で、扉の先からは優しい花の香りが漂い始める。

 

「なら、なんの問題もない、かな?」

「だめ、です!」

「ぐえっ」

 

 首を傾げつつも足を踏み出したセナ。その首筋をひっ掴み、藜が後ろに引き倒した。潰れたカエルみたいな声を出したセナと違い、れーちゃんは様子見をしているだけだったので無事だった。

 

「いてて……なに? もしかして、藜ちゃんこれ知ってるの?」

「はい」

 

 ゆっくりと藜が頷き、真剣な面持ちでセナに言う。

 

「ここ、は。この階層、は、【死界】、です」

 

 それは、ユキと藜が第2回イベントで閉じ込められた異界。入ってきたやつは死ねば? と言わんばかりの、最悪の天候だった。

 



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第96話 高難度ダンジョン(幸運)⑦

「【死界】? なんだっけ、それ」

 

 セナが引き倒された格好のまま、首を傾げて藜に問いかける。何処かで聞いたような感じはするけど、どこでだったかまでは思い出せない。そんな感じの表情だ。

 

「えっと……」

 

 その疑問に、藜が答えに行き詰まる。ただでさえ色々なことがありすぎた第2回イベ、その中でも最も濃かったと言える3日目が【死界】攻略日だったのだ。加えてイベント開催期間もかなり前で、詳細な情報を思い出そうとすると難しい。けれど、それでも1つだけハッキリしている事実がある。

 

「入ると、死にます」

「死ぬ!?」

 

 単純明快なその答えに、セナが驚きを表して答える。

 

「はい。なんの、対策も、しないと、ですけど」

 

 実際あの時攻略することが出来たのは、偶然が重なった奇跡に他ならない。何か1つでも選択を間違えたら、行動が遅れたら……それだけで、3乙からのイベント強制退去となっていたことは疑いようもない。

 

「じゃあさ、具体的にどんな場所なの? そこ」

「ん!」

 

 セナが投げかけた疑問に答えたのはれーちゃんだった。メニュー画面から飛んだメモ欄に、多くの文字がタイピングされている。それは、【死界】を経験した当事者ではないが、ユキの装備をよく整備しているが故の情報だった。

 

 ==============================

 【死界】

 ・獄毒…HPスリップダメージ(50/1s)

 ・腐食…使用武具耐久値減少(50/1s)

 ・祟り…状態異常耐性0化

 ・汚染…状態異常効果倍加

 

 ・アンデット系モンスター(下級・中級)無限湧き

 ・アンデット系モンスター全能力強化(200%)

 ==============================

 

「うへぇ……どうやって攻略したの? こんなの」

 

 その文字列を何度か見返して、物凄く嫌そうな顔をしてセナがそう呟く。今明らかになっている情報を見る限り、正に「入ったやつ死ねば?」と言わんばかりのクソ環境である。

 

「私は、ユキさんのコート、借りて……バイクに、一緒に乗って、空飛んだり、爆発したり、木を登ったり?」

「ユキくんの攻略法、やっぱり参考になんないや。でも、藜ちゃんの装備のお陰で、アンデットは湧き潰しされるから楽……なのかな?」

 

 寝転がる中でも、冷静に頭は回っているらしいセナがそう呟いた。因みに、どさくさに紛れて思いっきりスカートの中を覗かれていることを、藜はまだ知らない。

 

「きっとそう、です?」

「多分ね。後中級は、アンデットって言うなら光とかが良く効きそうだし……レーザーに変えとこ」

 

 そうして寝転がりながらスマホを弄るように、セナは銃剣の設定を変えていく。特殊称号とともに配布されたアイテムの中で、唯一耐久値が設定されている代わりに、汎用性が最も高いのがセナの持つ双銃剣の特色だった。

 

「じゃ、他に何か、先達として言っておくべきことってある?」

 

 ピョンと起き上がったセナが藜に問いかける。その眼は既に覚悟が決まっており、真っ直ぐに藜のことを見つめていた。

 

「倒せないボスが、いるかも、です。この前の、レイドボス、みたいな。後……あの樹が、ゴール、です」

 

 因みにセナたちは知る由も無いが、今回の【死界】にはあの伊邪那美は実装されていない。リソース不足でカットされた敗北者である。

 

「よっし、オッケー。れーちゃん、例のブツを!」

 

 銃を上に投げ、カッコつけて指を鳴らしたセナがそう言った。そして銃をキャッチしたのと同時、れーちゃんが1つのアイテムを取り出した。

 それを一言で表すならば、深い青の宝石が埋め込まれたブローチだろうか? 金で作られた精緻な装飾が縁取るそれは、どこか神秘的な雰囲気を放っている。

 

「それ、は?」

「散々天候について注意されてたからね。れーちゃんが倉庫にある豊富な素材を使って5分で作った、使うと10分間天候と地形の影響を遮断できる使い切りアイテム!」

「それはまた、便利、ですね」

「ん!」

 

 自信満々のれーちゃんとセナとは対照的に、ボス部屋で待つユキは悟りの境地に達していた。良かれと思って積み重ねてきた、ギルド共有財産にレアアイテムを大量投棄するという行為が、当初の予定通りの効果を発揮しているのだ。悪いわけがない。ただ、その攻略力が自分の作り出したダンジョンに向けられているという点を除けば。

 普段よく苦情をくれる対策班の幻影が、ユキの肩にポンと手を置いた幻影が見える。

 

「でもまあ、流石に3人で走るのもアレだし……」

 

 そんなボスのことはいざ知らず、【死界】に入る直前の場所でセナが1つのアイテムを取り出した。それは、いつかユキを運んでいた荷車……が、微妙に改造された物。両手で持たずとも、腰部に勝手にアタッチメントで接続される優れもの。それを見れば、セナのやりたいことは口に出さずとも理解できた。

 

「私のスーパーカー、乗ってく?」

「スーパーじゃ、ない、ですけど」

「ん!」

 

 そうして、金に煌めく双銃剣を構えた少女が引く、意味不明な戦車が【死界】を踏破すべく発進した。

 

 

 黄金の閃光が、幾条も伸び暗い世界を照らし出す。

 黄金の剣線が、ソレに寄る有象無象を刻んでいく。

 浮遊する銃剣が、鉛弾と斬撃で雑魚を寄せ付けず。

 時折刺す太陽光が、大物の死霊たちを蒸発させる。

 荒れた大地には、厚い氷が張られ走行を安定させ。

 ソレを一直線に、第2回イベントの際鎮座していたものと同様の逆さ大樹へ向けて疾走させる。

 

「はーはっはっは! その程度の物量で、私たちを止めようだなんて100年早いわー!」

 

 そう叫びながら全力で脚を回すセナが基本的な雑魚を散らし、荷台から藜がビットを操作&指輪の力で太陽光を呼び寄せ中ボスを弱体化、トドメにれーちゃんの全体的な補助。

 それらが熟練の連携に寄って組み合わさった今、この場に【すてら☆あーく】戦車を止められるものは何一つとしてありはしなかった。そしてさりげなく、ユキのバイクより倍近く速度は速かった。

 

彼方にこそ栄えあり(ト・フェロティモ)!」

 

 しかしこの、天下のクリスティー式で走行するBT-42並に快速なこの戦車にも、たった1つの、けれど重大な欠陥が存在していた。

 

「AAAALaLaLaLaLaie!」

 

 セナのテンションが高い──これはさしたる問題じゃない。

 けれど、引いているのがセナ……人型のプレイヤーであるということが問題だった。高いAgl値からその時間は短いが、走る為脚を入れ替える時、車体は僅かに上下する。それが、連続するのだ。

 

「うぷ……」

「ん……」

 

 そう、極めて酔うのだ。しかもVR空間であることが災いして、リバースして楽になることもできない仕様である。それでいて敵の攻撃を迎撃し続け、補助をし続けなければならないのだから、それはもう地獄のような時間である。

 対してセナも、気にしなければいけないことは山ほどある。揺れるとは言ったが、最大限これでも揺れないように努力して走っているのだ。更に回避や旋回、転倒や急停止などしようものなら大クラッシュを起こすことは想像に難くない。

 

 そんな薄氷の上で成り立っている戦車は、その努力相応の力を発揮する。平均台の上でタップダンスするかのような暴挙で、【死界】という環境が踏破されていく。ユキとはまた別のスタイルで、RTAが成されていく。

 

「多分あと5分くらいで着くから!」

 

 セナのそんな声に、2人は手を挙げるだけで答える。話せば舌を噛む、やはり環境は最悪だった。

 そうして走ること数分、逆さ大樹に迫るところあと僅かになった時のことだった。大地を震わせる振動と共に、伊邪那美(敗北者)が残した最後の置き土産が目を覚ます。

 

「WRAAAAA!!」

 

 走るセナたちと並走するように地面を突き破り、蛇行しながらその巨大な蛇体をくねらせてセナたちの前に立ち塞がった。

 

 所々が腐り落ち骨を露出させた、1枚だけの翼を持った巨大なクサリヘビの様な化物。それが目の前に降り立ち、身の毛もよだつ悍ましい咆哮を発する。名前は【Hunter Farewell】いかにもこちらのSAN値を削ってきそうな見た目だ。

 

「藜ちゃん!」

「分かって、ます!」

 

 どう見てもそのモンスターはボス級。しかも三段あるHPバーから見るに、まともに戦っていたらアイテムの効果が切れて御陀仏なのは明白だ。故に、取れる手段は逃走ただ一つ。

 

 本来であればそれも不可能に近いことなのだが、この3人であれば別だ。擬似的に晴天を作り出せる藜がいる。光属性の攻撃を乱射できるセナがいる。デバフ特化のれーちゃんがいる。更にフィールドに雑魚敵がいないことも相まって、それは現実となる。

 

「WRAAAAA!?」

 

 【死界】の暗い空の一部が突如晴れ渡った空に変わり、その光を浴びたボスの身体が煙を上げて融解していく。猛烈なHPの減少に合わせ閃光が走り、れーちゃんが放った鎖が幾重にも重なってボスを拘束する。

 そして、『戦闘が始まった』ことでセナのスキルが十全に機能を始める。シャゲダンとしか言いようのない動きでスキルの条件である『ジャスト回避』の回数を溜めたセナが、急激に加速する。2,000を超えたそのスピードで、逆さ大樹へとセナが牽く戦車が突撃していく。

 

「うぷっ……」

 

 乗客が死にそうになることを代償に得た加速は、残り5分と予定していた距離を瞬時に詰めた。けれど、大樹の何処にも階段への入り口らしきものは存在しない。間違っていたのかとセナが思った時、後方から檄が飛んだ。

 

「登って、下さい!」

 

 そう、これがこの階層を突破する正解だった、何せ、製作者が正式な突破方法を知らないのだ。あの時と同じような無茶をする以外、突破方法はない。事実、木の根や樹皮には所々に登っていくよう示す矢印が刻まれている。

 

「それじゃあ落ちないように、捕まっててね!」

 

 そうして、空中を歩くスキルを併用してセナ戦車は逆さ大樹を登っていく。所々にある出っ張りを足掛かりに、それがないところはスキルで踏みしめ、しなる枝をジャンプ台に駆け登っていく。

 

 そうして一際大きな枝を抜けた瞬間、視界が暗転し、縦と横の感覚が入れ替わった。

 




次回、漸くユキ戦

なので今回はアッサリと。


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第97話 高難度ボス戦(幸運)

 無の境地で突っ立っていたボス部屋。締め切られた扉の向こう側から、盛大なクラッシュ音が聞こえた。多分、さっきまで凄まじい勢いで登ってきていたセナ達だろう。

 

「やっとだよ、ボスとして戦えるの……」

 

 そうボヤきつつ、ボーってしていたせいで鈍っていた身体をほぐすべく準備運動を開始する。バキバキと身体を鳴らしながら、セナ達が来る前までの散々な結果を思い出す。

 

 9層の【死界】は良い。あそこをそうやすやすと突破させる気は無かったし、他の極振りに倣ってある程度俺のところまで来れるプレイヤーを選別するつもりだった。

 8層の【研究所】もまだ良い。あそこはちょっと、朧を活躍させるべくかなり頑張った階層だから。

 

 だけどなんだ、他の階層での挑戦者の散々な結果は。主に6層から7層に進む階段。ちゃんと金は置いてけって言ってるのに、何故かそこそこの割合で持ったまま進む人がいるのだ。それでレアモンスターに圧殺されて、クレーム付けてくるってこの、この……

 

 まあいいや、理解しようとしない人のことは忘れよう。

 

 まあ一部そんなのもいるが、攻略サイトに色々情報が纏められて5層以降に進む人が増えてきて、俺としても満足ではある。というかぶっちゃけ極振りサイドとしては、攻略してもらわないと色々とアイテム貰えないし。だから本音としては、8〜9層で死にまくってほしい。

 

 そんなことを思いつつ準備運動を終えると、タイミングよく扉が開き始めた。そうして入ってくるであろうセナたちを待とうとし──

 

「っと、危ない危ない」

 

 突然の狙撃を障壁で防御した。ゲーム内でという前置詞がつくけど、最近拳銃の弾くらいなら余裕で見切れる様になってきて困る。まあ、どこぞのゲームみたいなバレットラインがない以上、自力で見切らないと死ぬだけなのだが。

 

「一応こっちにも、ボス戦前に説明する必要がある話があるんだから、あんまりこういうのはやめて欲しいな」

「いやぁ、真顔で防いどいて言うことじゃないよ、ユキくん」

 

 そんなことを言いながら、セナを先頭によく知る3人が扉から現れた。セナと、藜さんと、れーちゃんか。初戦には十分すぎる相手だ。

 

「それで? ボス戦前にする説明って?」

 

 油断なく武装を構えるみんなを見つつ、頷き運営から説明しろと言われていたことを指を立てながら説明する。

 

「1つ。まず10層到達おめでとう。もしここで負けても、次からは10層をスタート地点に設定できるから頑張れ」

 

 露骨にムッとされたけど気にしない。

 

「2つ。ボスは一戦ごとにステータスとアイテムがリセットされるから、一戦で倒すよう頑張って」

 

 更にムッとされたけど、運営側の仕様なんだから俺は悪くない。

 

「3つ。通常のボス戦と同様、挑戦者側が使用したアイテムは消えるけど、装備の耐久値は戦闘後全回復するから安心して壊して欲しい」

 

 そうでもなきゃ、俺はともかくアキさんやにゃしいさんを始めとした廃火力勢は相手にできない。あの人たちの攻撃を食らったら、基本1発で装備全壊確実である。

 

「4つ。ボス部屋にいるボスは、この話が終わってから5カウントのあと開始されるバトルじゃないと倒せない。それ以外のダンジョン内なら倒せるけど、基本的には翡翠さんくらいだと思う」

「えぇ……出歩いてるんだ……」

「掲示板に色々書いてあるから、後で見てみると良いと思うよ」

 

 ちょくちょくエゴサーチみたいなことをしてみている結果、1番面白いダンジョン攻略スレは翡翠さんの塔だった。食べてもらって幸せとか、消化されたいとか、自分の味は○○だったとか、俺はスープになりたいとか、正気を失った言葉が延々と続く有様には恐怖を覚える。それでいて質問すると恐ろしい精度の答えが返ってくるからまた怖い。

 

 まあそれはそれとして。

 

 いい加減、待たせるのはやめてバトルを始めるべきだろう。俺だって戦いたいし、向こうもその気で来てるのだから悪い。

 

「そして最後に。もし他の極振りの人たちに挑むとしたらの話だけど……俺は、極振りの中じゃ最弱だから。相性とかはあるだろうけど」

 

 そう言って俺は、両手を広げコートを翻す。

 その開始の合図に従って双方の間に5と大きな数字が現れ、カウントを始める。それに合わせて俺も簡易ポーチを全開にし、いつでも爆竹を投げつけられるように準備し──

 

「上等!」

 

 セナのそんな掛け声と共に、戦闘が始まった。

 

 

 頭上に掲げられていたカウントがゼロになったと同時に、私と藜ちゃんは地を勢いよく蹴った。ユキくんのAglの数値は、最後に見たときには10。対して私も藜ちゃんも数値は1200を超えている。単純計算で120倍の速さだ。これならば、いくらユキくんであろうとどうとでも出来る。そう、思った瞬間だった。

 

「ッ!?」

 

 私の行く先に、狙い澄ましたように爆弾が転がり込んで来た。それを回避した先にも、爆竹は飛来し、それをさらに回避した先が突然爆発した。

 

「きゃっ」

 

 その衝撃に吹き飛ばされ、空中で体勢を整えながらHPゲージを見ると……満タンで3500を超えていたHPが一気に2000台にまで落ちていた。

 

「うっそ」

 

 壁に足をつけ衝撃を吸収していると、ユキくんの背後から藜ちゃんが飛び込んでいくのが見えた。けれどその突撃は、数瞬だけ出現した障壁が完璧に防御してしまう。更にはカウンターとして8個の爆竹が投げつけられ、藜ちゃんは大きく後退することになる。

 更にれーちゃんの方を見れば、魔法を使おうとする度に文字通り目の前で炎や氷、雷や風が弾けて上手く魔法を行使することができないようだ。

 

 このメンバーの中で確実に最遅であるのにこの処理速度、正直化け物みたいに感じてしまう。同時にこんな相手が今まで味方にいてくれたことに感謝しつつ、ユキくんよりも強いという極振りに俄然興味が湧いて来た。

 

「来て、コン!」

「ニクス!」

 

 だからこそ、最初からもう出し惜しみは無しだ。

 藜ちゃんと顔を見合わせて、互いのペットを呼び出す。そのまま私は憑依を、藜ちゃんは合体を行い能力を上昇。

 

「合わせて!」

「はい!」

 

 再度の突撃を敢行した。

 まだ速度の足らない私は3体の分身を引き連れて。藜ちゃんは、今まで見たこともない、6つのビットを浮かせペットが憑依した槍も浮かせた徒手空拳の状態でユキくんに向け疾る。

 

「甘い」

 

 次の瞬間、私はいつのまにか地面に転がっていた。分身も同様で、何をされたのかが分からないままゴロゴロと地面を転がっていく。そんな中藜ちゃんは飛行することで転倒を免れたようで、殆ど棒立ちに近いユキくんにあと少しで触れられる距離まで接近に成功していた。

 

「《チャンバー》!」

 

 そしてその一言と共に、周囲に浮かぶ槍が射出された。炭酸飲料のペットボトルを開けた音を何倍にもした様な音が響き、ユキくんに向けて時間差で6槍が飛ぶ。

 

「《障壁》《減退》」

 

 しかし、それは瞬間的に出現した5枚の障壁と1枚の紋章で、呆気なく全てが止められた。確か紋章の展開時間は0.3秒だったっけ。頭のおかしい絶技だ、ユキくんは人間を辞めてるんじゃないかとさえ思える。

 

「まだ、です!」

 

 そこで捻りを入れた最後の槍が飛び、今度は10枚の障壁がそれを止め……先端から衝撃波が放たれる。それと同時に舞い散る羽根のエフェクトが、一斉にユキくんに降りかかる。

 

「危なっ」

 

 けれど、そう呟いたユキくんは何個かの爆弾を足元で爆破させ、なんとその場を無傷で乗り越えた。やっぱり私の幼馴染は人間辞めてしまったようだ。

 

「でも」

 

 何もさせないように集中力をれーちゃんに割き、目の前の藜ちゃんの猛攻にも意識を割いて防御している。そんな今なら、私だってきっといけるはず。そう思って分身と自分の計8丁の銃剣で、円形に走りながらユキくんに狙いを定める。

 

「だめ、です!」

 

 巧みに槍を繰り、自分の四肢でユキくんを打撃せんと戦っていた藜ちゃんがそう忠告を私に飛ばした。しかし、もう遅い。引き金にかけた指は引かれ、トリガーは引き絞られる。そして──私達が持っていた銃剣が、全て同時に暴発した。

 

「いった!」

 

 実際は痛くないのだが、ついそんな言葉を口走り愛銃を手放してしまう。ユキくんのニヤついた顔が目に入り、イラッとしながらもダンジョン入口の看板に書いてあったことを思い出す。

 

 非推奨武器 : 銃火器

 

 なるほど確かにその通りだし、この分だとランさんはもしかしたら役立たずになってしまう未来が見えた。銃を使おうとしたら絶対に暴発させるとか、どんな集中力と神経があれば出来るのか。

 

「それなら!」

 

 1人増えた分身と同時に、コンの力を使って火球を作り出す。1人3つの計18個、バスケットボール程の火球をユキくんに向かって撃ち放った。

 

「まだまだ」

 

 爆竹を大量にばら撒きながら、青い色の付いた障壁が火球を迎え撃った。ジュッとまるで水に激突したような音を立て、段々と火球は萎んで小さくなっていく。

 

「《加速》」

 

 そのことに目を見開いた瞬間、分身と私本体。そしてれーちゃんと藜ちゃんに向けて、それぞれ10個の爆弾が超高速で投げつけられた。

 

「《空蝉》!」

「くッ」

 

 分身体の分までは間に合わなかったが、私本体はスキルで回避。藜ちゃんも、ビットと槍をクロスして爆破をある程度防いでいた。けれど、視界の端に映っていたれーちゃんのHPゲージが、一気に0に落ちる。

 即座に復活したが、直後、起き攻めのように飛ばされていた爆弾が再度そのHPゲージを爆破した。これでもう、残るは私と藜ちゃんの2人だけ。

 

「固定ダメージ6000を突破してくるとか……えぇ……」

 

 困惑しきったユキくんの声に、こっちがちょっと理解が追いつかなくなる。どーゆーことだー! 固定ダメージ6000ってー!

 内心フシャーと毛を逆立てるイメージでユキくんを睨みつけていると、こちらの内心を見透かしたかのようにユキくんは語り始めた。

 

「ゲーム内で本職の花火師の人に知り合ってね。爆竹の威力が固定ダメージ200まで増加したんだよ。それがこの腕装備で50%強化されて300に。爆破卿の称号効果で600に。クリーンヒットしないと最大ダメはでないけど、それでも俺には十分過ぎる火力だよ」

 

 そう言って笑うユキくんの両手には、8つの爆弾が火がついた状態で握られている。確かに、私の通常攻撃は4桁ダメージだけど、そんな威力の固定ダメはちょっと壊れてると思う。無制限に分身してる私が言えたもんじゃないけど。

 

「まあ、普通に避けられるから安心でしょ」

 

 なんてことを言いながら、延々とユキくんが爆弾を投げつけ始めた。至る所で上がる爆音、何故かカラフルになっている爆炎、サーカス染みた不思議空間の中、HPが3割を切った藜ちゃんが飛び出した。

 

「頼み、ます!」

 

 そして再度の超接近戦を挑みながら……一瞬だけこっちに目を向けた。何をして欲しいのか、短い付き合いだがそれはよく分かった。

 

「はいはい!」

 

 大声で返事して、火球を乱射しながら分身を全てステルス状態で突撃させる。更に装備の触手でユキくんの周囲に足場を生み出し、全力で跳ぶ。

 前後上下左右斜め、立体的な空間をステルス状態のまま縦横無尽に動き回る分身。そこに藜ちゃんが加わり、私も加わり、直立不動だったユキくんを何とか動かすことに成功する。そうして集中が乱れてしまえばきっと……

 

「やっぱり、これくらいならまだ余裕かな」

 

 そんな淡い希望を打ち砕くように、大爆発が起きた。全てを吹き飛ばすそれは無慈悲にHPを削り飛ばし、私のHPも1割を下回った。HPが減少していた藜ちゃんは、もろに攻撃を受けことでHPを全損し……

 

「取り、ました!」

「こふっ」

 

 ペットのニクスの効果で復活し、その腕をユキくんの胸に突き立てていた。一瞬で0になるユキくんのHP、これで私達の勝──

 

「なんてね。残念ながら、あと12回は復活するんだ」

 

 そんなユキくんの言葉とともに、再度部屋が大爆発を起こし、ユキくんのHPごと私達を吹き飛ばした。

 

 




爆発祭


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閑話 それっぽい掲示板っぽいぽい

【新イベ】超高難度イベントについて語るスレ part65【無理ゲー】

 

 1.名無しさん

 ここは新イベについて話すスレです

 誹謗中傷はできるだけなしの方向で

 マナーを守って楽しくデュエル

 次スレは>900あたりを踏んだ人で

 

 2.名無しさん

 >1

 スレ立て乙

 さて、イベント始まって結構経ったし、マッピングも進んできたわけなんだが………極振り's強すぎね?

 

 3.名無しさん

 >2

 分かるマン。アキに絶賛30連敗中ですわ

 

 4.名無しさん

 >2

 ワイトもそう思います。何せ俺もにゃしいに負けっぱなしだからな!

 

 5.名無しさん

 >2

 俺も俺も。走るンガーダッシュで登ったのはいいけどレンに勝てない

 

 6.名無しさん

 >2

 せやな。私もなんとか突破したけどザイードさんにかてないれす

 

 7.名無しさん

 ここには同士が多いな

 俺もセンタに延々と負けてるわ……

 

 8.名無しさん

 >7

 いけると思って突破したのはいいけど、延々とザイルに蜂の巣にされてる俺の話でもしようか?

 

 9.名無しさん

 >2

 なんか私は最近、翡翠ちゃんのダンジョンに攻略というか食べられに行ってばっかりかなぁ……

 

 10.名無しさん

 >9

 翡翠勢だ!囲め!隔離病棟に送るんだ!

 

 11.名無しさん

 病院「いやです」

 

 12.名無しさん

 隔離病棟「来ないで」

 

 13.名無しさん

 病院が逃げ出してて草

 

 14.名無しさん

 あの、俺>2なんだけど、俺がおかしいのかな?

 なんでみんな最終層まで突破してるの……? 化物なの……?

 

 15.名無しさん

 >14

 安心しろ、俺みたいにユキ塔の9階を延々と彷徨ってるのもいるから……

 

 16.名無しさん

 >15

 いや、お前もあれ突破してるとか十分ヤベエから……

 

 17.名無しさん

 もうやだぁ……おうちかえるぅ……

 

 18.名無しさん

 オ○二ーから始まる恋もある

 

 19.名無しさん

 露骨なエロゲの宣伝やめーや。好きだけど

 

 20.名無しさん

 とりあえず、各ダンジョンの進行状況でも書いて仕切り直そ……ね?

 

 21.名無しさん

 おっそうだな

 

 22.名無しさん

 すいません許してくださいなんでもしますから!

 

 23.名無しさん

 ん?

 

 24.名無しさん

 ん?

 

 25.名無しさん

 ん?

 

 26.名無しさん

 ん?

 

 27.名無しさん

 今、なんでもするって

 

 28.名無しさん

 >22

 また君かぁ……壊れるなぁ

 

 29.名無しさん

 はい! 仕切り直しですからね!

 仕 切 り 直 し !!

 

 30.名無しさん

 じゃあまあ、詳しい攻略情報は別スレとか攻略サイトを参照してもらうとして……

 

 じゃ、俺は運営ダンジョンから

 

【1〜4F】

 マッピング完了。1層分5,000Dで売ってる店が入り口にできた

 

【5F】

 ボスの攻撃パターン、弱点、ステータス等全解析済み

 入り口のお店で10,000Dで販売中

 

【6、7F】

 マッピング完了。一層分15,000Dで販売中

 

【8、9F】

 絶賛マッピング中。多分あと数日で完成

 

【10F】

 ボスの特性でなにに変化するか判断できないから、そこら辺は各自頑張って。偶に時間停止とかしてくるけど、ここまで来れた奴ならいけるいける。

 

 以上、入り口のお店の管理人でした

 

 31.名無しさん

 あこぎな商売してんなぁ……買ったけど

 

 32.名無しさん

 >30

 テメェ……基本有志なんだぞ……?

 

 33.名無しさん

 あっ、【※お代はすべてデータ提供者に分配しております】って追加してなかった。

 

 34.名無しさん

 >33

 聖人かよ

 

 35.名無しさん

 ちょっとヤベーくらいの功労者は後で労うとして、俺はアキ塔の……つってもなにも変わりないけど。

 

 《アキ塔》

【1F】ボス部屋(レベル40)

【2F】ボス部屋(レベル45)

【3F】ボス部屋(レベル50)

【4F】ボス部屋(レベル55)

【5F】ボス部屋(レベル60)

【6F】ボス部屋(レベル65)

【7F】ボス部屋(レベル70)

【8F】ボス部屋(レベル75)

【9F】ボス部屋(レベル80)

【10F】ボス部屋(アキ : レベル64)

 

 最速でプレイヤーと闘い始めた極振りだけど、未だ無敗とかいうキチガイクオリティ。掠ったら即死とかやめてくれませんかねぇ……

 

 36.名無しさん

 じゃあ俺はセンタのところで

 

 《センタ塔》

【1F】草原。敵の平均レベルは40、罠なし。ただし敵は全員武装した人型

 

【2F】武器が突き刺さりまくって、防具もばら撒かれてる墓場みたいな平原。敵の平均レベルは42、罠はなし。ただし、敵に物理無効の幽霊が出現するし、たまにギミックで動きを止められる

 

【3F】光が一切ない沼地。敵の平均レベルは42、罠なし。光源か暗視が必須だが、前者を使うとモンスターがわらわら寄ってくる

 

【4F】大時化の大海原。敵の平均レベルは45、罠なし。空中移動か水上移動の方法が必須だが、後者の場合転覆して死ぬ確率がそこそこ

 

【5F】ボス部屋(レベル56)

 

【6F】一本道の橋。敵なし。まあ、うん、色々あるが頑張って渡りきれ。それだけだから

 

【7F】城壁と9つの柵に怪物の首。敵の種類は【ダン・スカー・サーペント】(レベル60)のみだが、えげつない量popする。

 

【8F】城壁 (New!)

 7層と同じだけど、蛇のレベルが70に上がってた。起訴

 

【9F】闘技場(New!)

 まだまだ若いしいけてた。17サイデシタ

 

【10F】ボス部屋(センタ : レベル71)

 

 なんでセンタはこっちの剣を指で挟んで止めてくるんですかねぇ……ダメージ発生どこ? ここ?

 

 37.名無しさん

 ふえぇ……かたくておっきいよぅ

 

【1F】剣道場的な雰囲気が漂うダンジョン。敵の平均レベルは35、トラップなし。但し、敵が無茶苦茶硬く移動速度は遅い

 

【2F】城の中みたいな雰囲気。敵の平均レベルは40、トラップ少量。但し、敵が無茶苦茶硬くて移動速度が遅い

 

【3F】同上。敵の平均レベルは42、トラップ少量。敵の硬さはそのままに、移動速度が普通になった

 

【4F】同上。敵の平均レベルは45、トラップ中量。敵の硬さが上がったうえに、高速移動を始めて、物理無効の幽霊タイプまで出てきた。

 

【5F】ボス部屋(Lv50)

 

【6〜9F】ヴェヴェルスブルク城。敵が黄金の骸骨な時点で察してくれ……ここにいる奴らなら分かるだろ……な? 怒りの日に迷い込んだ感じがして楽しいよ。クッソ敵は硬いし強いけど

 

【10F】ボス部屋(デュアル : レベル63)

 

 デュアルに関してはアレですわ。防御貫通攻撃とかいうクッソ珍しい技以外基本的に物理ダメは通らない感じ。魔法ならいけないこともないけど、それでも硬いからキツイ。確か今【討伐までは何マイル? 道成寺ごっこしようぜ! お前安珍な!】ってシリーズが放送してる。

 

 38.名無しさん

 なんだそれはたまげたなぁ……

 

 39.名無しさん

 あっ、じゃあ私は姉貴の塔の状況を

 

 《にゃしい塔》

【1〜4F】完全吹き抜け。敵の平均レベルは40、移動阻害タイプの罠・爆発するタイプの罠が多数。敵のタイプは、爆発か爆裂する武器を持った機械か、そういう攻撃をしてくるモンスターのみ。壁を駆け上がってく中でそれ食らったら、確実に1階にまで落ちて死ぬ。

 

【5F】ボス部屋(レベル50)

 

【6〜9F】完全吹き抜け。敵の平均レベルは55、同じような感じのトラップに敵だが、AIはこっちの方が上らしくいやらしい攻撃ばっかりしてくる。落ちたら死ぬ。【※重要】爆裂あり

 

【10F】ボス部屋(にゃしい : レベル67)

 

 ボスがNPCの時なら結構簡単にボス部屋まで辿り着ける。ボス? エクスプロージョンってかっこいいよね!(投げやり)

 

 40.名無しさん

 ネキがログインしてる時は、あの塔5分に1回は爆裂してるからなぁ……

 

 41.名無しさん

 この前60秒間隔で爆裂してたゾ

 

 42.名無しさん

 つくづく極振りは化物だなぁ……

 ということでレンのを。ピンクじゃないよ!

 

 《レン塔》

【1F】遺跡風ダンジョン。敵の平均レベルは35、罠の量は普通。敵の速度が速いくらい

 

【2F】足場が脆く崩れやすくなる。敵の平均レベルは40、罠の量は普通。敵の速度は速い

 

【3F】足場が崩れてる。敵の平均レベルは40、罠の量は普通。敵の速度は速い

 

【4F】足場は脆いし崩れてるし、時折吹き込んでくる突風で下手しなくても1Fに真っ逆さま。こっちをビビらせたり、突風が吹いてくるような罠だけになる。敵の速度ははっやーい

 

【5F】ボス部屋(レベル50)

 

【6F】天井にも穴が空いてくる。敵の平均レベルは50、罠の量がちょっと多め。敵は強くて速い。

 

【7F】今までと同じような構造。天井はスッカスカ。平均レベルは60くらい

 

【8F】足元も天井もスッカスカの場所。飛ぶか跳べないと進めないうえ、敵は飛行してるし65レベだしキッツイ層。

 

【9F】コロッセオみたいな場所。喜べみんな、レック○ザだ!

 正確には緑色をベースに黄色の紋章と黒いラインが入ってる機械仕掛けの空飛ぶ竜。70レベだしクッソ強い

 

【10F】ボス部屋(レン : レベル62)

 

 因みに10層までたどり着いた諸兄らなら分かると思うけど、レンは気を抜くと姿すら見えないし気を張ってても見えないぞ。

 

 43.名無しさん

 なら恨みを込めてザイードコピペぽいぽい

 

 《ザイード塔》

【1F】ダンスホール。敵の平均レベルは35、罠多量、赤外線センサー的なアレがある

 

【2F】ダンスホール。敵の平均レベルは40、罠多量、赤外線センサー的なアレがある

 

【3F】拷問部屋。敵の平均レベルは45、罠超多量、ハサンダンス推奨

 

【4F】どこかの屋敷と崖。敵の平均レベルは50、即死罠少量、転移罠少量、モンスターハウス罠少量、普通の罠大量。

 踊れ──!

 

【5F】ボス部屋(レベル50)

 

【6F】罠が罠を呼ぶ薄暗い階層。正直罠とアイテムを奪ってくるモンスターとかに気を取られて、詳しいことが分からない。

 紫色のトカゲは殺され続けてるので消えた。もういない!

 

【7F】猫とリスが沢山いる癒し空間! 敵のレベルも1! 気がついたら手持ちのアイテム全部ロストしてるからファッキン。偶に紫トカゲも湧くからさらにファッキン

 

【8F】突然雰囲気が一転して、濃霧天候の山。敵のレベルは60で、気配を殺して攻撃してくるからすごい面倒。あと猫とリスと紫トカゲが偶に湧いてる。ファック

 

【9F】霊廟。鐘の音が響いてるだけでなにもない……と思ってたけど、実は挑戦者を観察するための部屋らしい

 

【10F】ボス部屋(ザイード : レベル62)

 高速! ステルス! 拘束! 即死攻撃!

 アビャー。うん、はい、これ以外感想ない……

 

 44.名無しさん

 こう見ると、最初はクソ難易度だと思ってたけどクリアできるもんだなぁ

 

 45.名無しさん

 人って怖ひ

 

 46.名無しさん

 後の3つは……だれかー

 

 47.名無しさん

 呼ばれて飛び出てコピペマン!

 

 《ザイル塔》

【1F】洞窟タイプのダンジョン。敵の平均レベルは35、罠の量は普通、ギミック大量。ギミックは大半が謎掛け

 

【2F】遺跡タイプ。敵の平均レベルは40、以下同文

 

【3F】森林タイプ。敵の平均レベルは45、以下同文

 

【4F】砂漠(夕方)。敵の平均レベルは45、以下同文。ただし、敵のモンスターが大体ピンク色なので、極めて見つけ辛いので注意

 

【5F】ボス部屋(スフィンクス : レベル60)魔法使わなきゃ勝てる。

 

【6F】山脈(濃霧)同上

 

【7F】水中。同上。ついでに息継ぎできる何かがないと溺死する

 

【8F】一面の溶岩。しかも謎解き。マグマダイブが必須な辺り悪意を感じる。勿論対策しないと死ぬ

 

【9F】天界。半分くらいボーナスステージだけど、謎は相変わらず死ぬほどあるし敵のレベルは70

 

【10F】ボス部屋(ザイル : レベル67)

 

 ぶっちゃけ攻略サイト開きながら専用サーバーに飛べば、9割くらいの謎々は答えが乗ってるから余裕になった。9層だけは知らないと厳しいけど……ま、それでもボスまでは辿り着けるでしょう。

 待っているのは極振り最弱()の一角だけど、パンピーにはいやーキツイっす

 

 48.名無しさん

 あ、じゃあついでにユキのとこを

 

 《ユキ塔》

【1〜4F】

 運営ダンジョンと99%一致。割愛

 

【5F】ボス部屋(ボスが2体、双方レベル50)

 それと小部屋が13個あるのと、ここから先に進むには何種類かあるリドルに答える必要がある。楽しみたければ普通に攻略、先を急ぐならサイト見とけ。

 

【6F】黄金郷。金塊ざっくざくでお金になるし、敵のモンスターも強いが効率がいい。でも次の層に進むには大金を払う必要がある。払わないと、次の層に行くまでの階段で死ぬ。詳細は攻略サイトで

 

【7F】レアモンスターだけしかPOPしない層。ついでに環境もごちゃ混ぜレベルもごちゃ混ぜで、対応が死ぬほど面倒な層。モンスターからのドロップ率は、普通より数パーセント低下してるらしい

 

【8F】第2回イベントプチ復刻版。研究所の中を、基本勝てないボスが十数体徘徊してる(レベル100)もう1種類徘徊している蜂は、500の固定ダメージとクッソ多い状態異常を食らわせてくる。でもって門番として、刈り取るものみたいなのがいる(レベル100)頑張って避けて!

 

【9F】死界。うん、死界。やりやがったよユキ。ファッキン。突破報告は、今のところゴリ押しが出来た【すてら☆あーく】の3人だけって話

 

【10F】ボス部屋(ユキ : レベル52)

 

 この爆破系抜刀儀式魔法使い、極振り最弱とか抜かしてるけど正直対戦した人の話を聞く限り1番戦法がウザい。流石我ら紋章術師の制御力トップですわぁ……

 

 49.名無しさん

 はいはい、質問質問。私あの鮫御大の頃から始めた新規なんですけど、死界とか天界ってなんですか?

 

 50.名無しさん

 あ、それ俺も思ってた。多分天候だと思うけど、聞いたことないなーって

 

 51.名無しさん

 あー……そっか。そういえば新規さん増えてきてるし、第2回イベント知らない人もいるっちゃいるのか……

 

 52.名無しさん

 >51

 そもそもの話、あの頃のスレ追ってないと当時プレイしてた人でも知らない人もいるしね

 

 53.名無しさん

 というか、あの時【死界】と【天界】に踏み入った奴らって100人いないって話だろ? 知識としては知ってても、経験者少なすぎるだろ……

 

 54.名無しさん

 まあ第2回イベント自体は復刻待ちとして、例の2つの天候は高難度ステージって設定でね……

 

 55.名無しさん

 面倒だから、公式の効果説明投げとくゾ

 

 【死界】

 ・獄毒…HPスリップダメージ(50/1s)

 ・腐食…使用武具耐久値減少(50/1s)

 ・祟り…状態異常耐性0化

 ・汚染…状態異常効果倍加

 ・アンデット系モンスター(下級・中級)無限湧き

 ・アンデット系モンスター全能力強化(200%)

 ※出現モンスターはアンデット系のみ

 

 【天界】

 ・妖精…武具耐久値リジェネ(50/1s)

 ・リジェネ…HP回復(50/1s)

 ・加護…プレイヤー全ステータス+150%

 ・耐性…プレイヤー、モンスター双方状態異常無効

 ・天使系モンスター(下級・中級)無限湧き

 ・天使系モンスター全能力強化(150%)

 ・取得経験値×1.2

 ※出現モンスターは天使系のみ

 

 前者は非正規の方法でユキが突破、被ダメ50倍のデメリットを負ったけどイベント最終日まで生き残る極振りスペック。俺が知ってる限り、死亡報告は多数あれど突破報告はユキと、一緒にいた藜って【すてら☆あーく】にその後加入したプレイヤーだけ。

 後者は突破者なし。だって、レベル上げの場として丁度良すぎたんだもん……かくいう俺もずっと篭ってた勢。

 

 56.名無しさん

 うへぇ……死界とか絶対行きたくねぇ

 

 57.名無しさん

 っユキ塔9F

 

 58.名無しさん

 ああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!ブリブリブリブリュリュリュリュリュリュ!!!!!!ブツチチブブブチチチチブリリイリブブブブゥゥゥゥッッッ!!!!!!! )

 

 59.名無しさん

 どこにでも湧くなぁ……流石フリー素材

 

 60.名無しさん

 汚いのは置いておくとして、そういえば翡翠ちゃんのダンジョンがないやんけ

 

 61.名無しさん

 あそこは、ほら、ここで聞くより本スレで聞いた方が良いから……ヤベー奴しかいないけど

 

 62.名無しさん

 なにそれkwsk

 

(続く……)

 




ヒスイチャンカワイイヤッタ-は別の話で


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閑話 翡翠塔ダンジョン攻略板

取り敢えず需要がありそうだったので書いた


【攻略】翡翠=チャン食堂を合法的に訪れられる神イベについて語るスレ part 69

 

 1.名無しのお肉

 ここは新イベの中でも、翡翠のダンジョンについて話すスレです

 誹謗中傷はやめて欲しいけどしても喰われるだけなので当スレは責任を一切負いません

 1部強く不快感を感じるかもしれない描写がありますが、自己責任でどうぞ

 ルールを守らない奴は、罰を受ける……

 次スレは>900踏んだ人辺りで

 

 2.名無しのお肉

 基本情報

 

 《翡翠塔》

【1F】食堂。DX翡翠食堂。

 敵もトラップも宝箱もなく、調理器具と調味料だけは極めてふんだんにある場所。偶に翡翠=チャンが降りてきて、料理して孤独のグルメしてる。襲うことはできるけど、その場合3分クッキングがア゛マ゛ソ゛ン゛ッ゛!!!クッキングになる。ご褒美です。

 ※ここで部位欠損が発生した場合、再生させない限りパーツはその場に残留します

 

【2〜4F】5分ごとに一定範囲内(10m×10m×10m)の道の繋がる先、天候、ポップする敵、敵のレベルがランダムにチェンジする。変更中に境界線にいると即死する。

 

【5F】ボス部屋(特別拷問器具シリーズ Lv50)

 第3の街ダンジョン最下層のレアモンスターである、特別拷問器具シリーズの敵と10連戦。中ボスラッシュだけど、キルされる以外解除不能の状態異常をそれぞれかけてくる以外、他の塔のボスと比べても弱い。ダンマスの優しさが垣間見える。

 

【6F】気が狂いそうになる真っ白い砂漠。風と砂と自分と仲間の音しかしない中で、前情報を知らないと延々と探索することになる。敵もトラップもなし。あとこの砂漠は食べられるしバフが付くの!!

 砂漠の中央の流砂に飲み込まれると7層にワープすることができる

 

【7F】何故か落ちない砂漠の砂を全身につけたまま、無臭の白濁した液体の降り注ぐ謎の空間を探索。前情報を知らないと、また延々と探索することに……トラップとして黒胡椒が顔面に噴出してくるものがある。あとこの雨飲んだらバフが付くの!!

 

【8F】何故か落ちない汚れを纏いつつ、特にデバフでもないので進む暖かい猛吹雪の空間。前情報を知らないと、これまた延々と探索することになる。敵もトラップもなし。あとこの暖かい雪は美味しいし腹にたまる。

 

【9F】透き通った黄色の、いい匂いがする雨が降りしきる階層。当然のように汚れは落ちない。ここは普通に一本道というか、上層に向かう螺旋階段がこの層の全てなので普通に歩いていけば問題ない。

 なお、階段で足を滑らせて転落したら死ぬ模様

 

【10F】ボス部屋(翡翠 : レベル66)

 我らが翡翠=チャン。翡翠=チャンの使う炎系の魔法を食らうと、その部位に特殊な状態異常【天麩羅化】が発生する。一定時間行動不能、スリップダメージ、部位損傷後パーツ残留、デス後パーツ残留etc……後揚がった場所から凄くいい匂いがする。

 

 3.名無しのお肉

 さっき食べられに行ったけど、傷1つ付けられず食材にされました。いつも通りチョコミント味だったらしいです。やったぜ

 

 4.名無しのお肉

 チョコミントニキまた負けたのかぁ

 因みに俺も行ったけど、結局負けて天麩羅にされた。エビ味だったらしく、すごい笑顔で美味しくいただかれました(物理)

 

 5.名無しのお肉

 エビニキ強く生きて。さりげなく10層到達してる剛の者だから

 

 6.名無しのお肉

 ちなみにこいつを見てくれ……

 っ【画像】

 わさび味のプレイヤーを思いっきり食べたせいで、涙目になってる翡翠のスクショだ

 

 7.名無しのお肉

 わさびニキ有能

 あとやっぱり翡翠ちゃん可愛い

 

 8.名無しのお肉

 有能わさびニキ

 でも腕千切られて食われてるのって軽くショッキング画像

 

 9.名無しのお肉

 えっ、今日はスクショ上げてもいい日なんですか!?

 っ【画像】

 黒胡椒味のプレイヤーに噛り付いた結果、涙目になって噎せてる翡翠ちゃん(数秒後撮影者は《終末》に巻き込まれ死亡)

 

 10.名無しのお肉

 無言の投稿

 っ【画像】

 揚がった部位を切断して食べたのはいいけど、ブドウみたいな味で合わなかったから凄く微妙な顔をしている翡翠ちゃん

 

 11.名無しのお肉

 っ【画像】

 小さな手で一生懸命作ったプレイヤー産の、アマゾン式ハンバーグを頬張って満足げな翡翠さん

 

 12.名無しのお肉

 因みにみんな自分が何味だったか覚えてる?

 俺?タコわさ

 

 13.名無しのお肉

 わざわざ教えてくれるあたり天使

 僕はカレイの煮付け

 

 14.名無しのお肉

 そうそう、他の極振りとは違う方向性

 イカ天って言われた

 

 15.名無しのお肉

 翡翠ちゃん見習って、数人の協力の元アマゾンズプレイ始めたけど、確かにモンスターは美味しいわ()

 俺はクジラ肉らしい

 

 16.名無しのお肉

 協力者1号です。いやほんと、俺たち観るとプレイヤーが逃げていって笑います。

 私は強いて言うならクラゲみたいな味らしいです

 

 17.名無しのお肉

 ドライバー作れないか試行錯誤中の2号です。この前襲ってきた初心者狩りプレイヤーを、取り敢えずみんなでワイワイ食べてから通報しました。運営の対応はやぁい

 私は象……?と呟かれただけだった件

 

 18.名無しのお肉

 鶏肉味の3号参上。最近投げ技強化始めました。だって使える技のツリーの先に、ハヤニエって技あるんだもん!

 

 19.名無しのお肉

 『薔薇の香りがしてグッド』だったらしい4号です。第四の町【ルリエー】でギルド【アマゾンズ】やってます。よろ。

 

 

 20.名無しのお肉

 プレイヤー全員に対して味を設定している狂気的な運営に感謝しかない。というか絶対運営にアマゾンいるでしょこれ

 

 21.名無しのお肉

 私の最高傑作はどこ?

 

 22.名無しのお肉

 マッマ自重して

 

 23.名無しのお肉

 トラロックの時期も近そうだ……

 

 24.名無しのお肉

 えっと、その、初見なんですけど質問いいですか?

 他のスレで聞こうとしても、ここの方が正確だって聞いたんですけど……

 

 25.名無しのお肉

 いつもあんな感じで狂ってるけど、基本誠実だから問題ないですよー

 

 26.名無しのお肉

 1〜4層を除く全マップデータ、ボスモンスターの種類・レベル・分布・攻略法なんでもござれ

 

 27.名無しのお肉

 1〜4層に関しても、天候に対応した出現モンスタータイプと分類、特性、攻略法等聞かれれば全部答えられるぞ

 

 28.名無しのお肉

 俺らは基本的に1層から動かないか10層に凸してるだけだからな!!

 

 29.名無しのお肉

 翡翠ちゃんに食べられるの良い……良くない?

 

 30.名無しのお肉

 翡翠ちゃんに消化されたい

 

 31.名無しのお肉

 ウミガメのスープってあるやん?俺の味ウミガメやん?つまり二重の意味でスープになれる以上、俺以上にスープ役が適してる奴がいるのだろうか?いや、ない(反語)

 

 32.名無しのお肉

 なにこの人たち、正気じゃない……怖い……

 

 33.名無しのお肉

 正気を失った訳じゃあないんだ。正気なのに周りからは狂気と言われてるだけなんだ。翡翠ちゃんに食べて貰えば翡翠ちゃんの血肉となれる訳で、これはもう実質翡翠ちゃんになれると言っても良いと思うのです(純粋な目)

 

 34.名無しのお肉

 食べてもらえて幸せだった。どうやら自分はメロン味らしい(遅)

 

 35.名無しのお肉

 おいお前らぁ! 新規さんが萎縮してるだろ静かにしルォ!!

 

 36.名無しのお肉

 逃げルォ!!

 

 37.名無しのお肉

 ちなみにこの惨状が耐えられないなら、ここに質問文だけ残して別のページへのリンクを作ると恐ろしいほど精密な情報が流れていくよ。翡翠村を出たら基本みんな狂人だけど常識人だから

 

 38.名無しのお肉

 あ、はい。それじゃあお願いします!

 ここの中ボスラッシュが突破できなくて困ってます!

【https://*****】

 

 39.名無しのお肉

 よしみんな、もう解放していいぞ!

 

 40.名無しのお肉

 それじゃあみんな、これから集まれる奴は集まって注文してないのに出てくる料理店ごっこやろうぜ!

 

 41.名無しのお肉

 賛成! 俺見た目コックだからわかりやすいと思う

 

 42.名無しのお肉

 翡翠ちゃんはまだ一階をウロウロしてるぞ!

 

 43.名無しのお肉

 のりこめー^ ^

 

 44.名無しのお肉

 わぁい^ ^

 

 45.名無しのお肉

 わぁい^ ^

 

 ・

 ・

 ・

 

 885.名無しのお肉

 えっと、随分遅くなっちゃいましたけど、>38の者です

 なんとか突破して、10層まで行くことが出来ました! 残念ながら勝てませんでしたけど……

 

 886.名無しのお肉

 おめでとう

 

 887.名無しのお肉

 おめでとう

 

 888.名無しのお肉

 こんぐらちゅれーしょん

 

 889.名無しのお肉

 ああ見えて、普通に翡翠ちゃん強いから仕方ない

 

 890.名無しのお肉

 それよりも、ボス戦中に香ばしく揚がった自分の腕が、なんだか気になってかぶりついてみたんですよ。美味しかったです

 

 891.名無しのお肉

 落ちたな

 

 892.名無しのお肉

 堕ちたな

 

 893.名無しのお肉

 誰だ溶原性細胞撒いた奴

 

 894.名無しのお肉

 千翼ルォ!! 逃げルォ!!

 

 895.名無しのお肉

 取り敢えず、同志が増えたことに乾杯!

 

 896.名無しのお肉

 乾杯!

 

 897.名無しのお肉

 乾杯!

 

 898.名無しのお肉

 よっし次スレは祭りだな!

 

 899.名無しのお肉

 あっ、じゃあ俺作ってくるわ

 

 900.名無しのお肉

 サンクス

 

 901.名無しのお肉

 心が躍るな

 

 902.名無しのお肉

 これはマグマが迸る

 

 903.名無しのお肉

 いぇーー!!

 

 904.名無しのお肉

 урааааааааааа!!

 

 905.名無しのお肉

 すまねぇ、ロシア語はさっぱりなんだ

 

(次スレはお祭りだったらしい)

 



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第98話 高難度ボス戦(幸運)②

【悲報】セナたち以外、俺を殺せてない件について

 

 セナたちがボス部屋に到達してから1日。なんと数パーティが連続してボス部屋に到達したのだが、セナたちと違って俺を1度も殺すことができずに爆死してしまった。非常に残念だ。

 

「というわけで、早く殺しに来てよ」

「何言ってるのユキくん?」

 

 土曜の真昼間のギルド。真剣にセナに相談してみたところ、そんな返答が返ってきた。しかも、心底呆れたような表情で。

 

「いや、だって歯応えがある人こないんだよ……1回でも俺を殺したパーティ、セナたちだけだし」

「そんなこと言うなら、少しは手加減してくれ……はしないよね」

「当たり前じゃん」

 

 手加減して戦ったところで、何も楽しくなんてない。それに、ボスが簡単に負けてしまっては興醒めも良いところだ。だからこそ、ワンパンで俺は死ぬのだから頑張って欲しいのだけど……

 

「だけど5回くらい残機を消してくれないと、こっちも全力出せないんだよー」

「私たちを軽く全滅させておいて、どの口が言うのかなー?」

「痛い痛い」

 

 明らかに怒った表情で、セナがほっぺを摘んでグイグイと引っ張ってきた。痛くないけど痛い、千切れそうだ。多分町の外なら死んでましたねクォレハ。

 

「とりあえず明日! 明日フルパーティで挑むから、首洗って待っててよ!」

「了解、楽しみにしてる」

 

 それまでは、偶には第4の町でも爆破して遊んでこようか。1回隅から隅まで調べ尽くしたから、今度は狙った一部だけを吹き飛ばすことができるかもしれない。

 

 

 ユキくんが第4の町を爆破して、札束ビンタで逮捕を破却したという報告を受けた翌日。私たちはユキ塔の最上階の扉の前に、宣言通り全員で立っていた。前と違って全員揃っている今ならば、必ず前より良い結果を得られると確信して。

 

「それじゃあ、ユキくんを倒すぞー!」

「「「「おー!」」」」

「ん!」

 

 事前に事情は説明した。作戦も立てた。ならばもう、話すことはなし。やれることをやれるだけ、全力でぶつけるしかない。

 再度私たち【すてら☆あーく】の前で開いていく扉。その向こうは何も変わりなく、魔導書を浮かべただけのユキくんが堂々と待ち構えていた。

 

「さて、準備はいいかな?」

「そっちこそ」

 

 確認するように聞いてきたユキくんに、ギルドを代表して一応ギルマスの私が堂々と答える。それに了解とユキくんが頷き、両者の間にカウントの数字が出現した。

 

「《アイスエイジ》!」

 

 そして、カウントが0になった瞬間。──部屋が、全面的に凍結した。ヴォルケインを纏ったランさんの背中に隠れ、ユキくんの視界から逃れていたつららさんの不意打ち。それは事前に知っていた私たちにとってはなんの問題もないものだったが、ユキくんには致命的なものだった。

 

 カシャン

 

 そんなガラスの砕けるような音と共に、ユキくんの身体が砕け散った。ワンパンで死ぬと公言して憚らないように、本当に一撃で砕け散った。妨害できず、避けきれない、そんな状況を整えることこそが、多分ユキくんを倒す為には必須のことだ。

 

「お返し!」

 

 けれどそれは、ユキくんに限れば残機が1減っただけのことに過ぎない。黒い靄に包まれ復活したユキくんは、お返しに大量の爆弾をばら撒いた。当たれば600の固定ダメージを与えてくる恐るべき爆弾。

 

「れーちゃん!」

「ん!」

 

 けどそれも、最初に限っては大きな隙になる。まだ本気じゃなくて、楽しんでいるだけのユキくんになら、れーちゃんのペットが持つ必殺技はとても有効だ。

 

 れーちゃんのペットがスキルを発動し、音の暴力が数多の爆弾を爆発させながらユキくんに迫る。例え障壁を使われても、余波でユキくんのHPが0になることは明白だ。

 

「あっ」

 

 そしてそんな予想通り、ユキくんは再度HPを0に落とす。これで残機は11、気が遠くなりそうだけど、道筋は見えている。

 

「各自散開! 私と藜ちゃんで近接やるから、ランさんは2人を守って2人は援護!」

「『了解!』」

 

 最初に速攻をかけてから、復活したユキくんをリスキル。なんとも面白みのない作戦だけど、これくらいしなければユキくんを倒すなんて、私に出来るとは思えなかった。

 

「不意打ち、広範囲、リスキル……随分とまあ、メタを張ってくれたねセナ」

 

 そうして走り出そうとした私たちは、地面に転げながらそんな声を聞いた。さっきよりも早く復活したユキくんが、紋章を使って何かをしてきたらしい。

 

「コン!」

 

 立ち上がりながらペットを憑依させ、スキルの念力で支えながら立ち上がる。そして、既にペットと合体し飛翔する藜ちゃんの後を追うように、私は分身しながら走り出した。

 

 

「ハハッ」

 

 楽しい。

 楽しい。

 楽しい。

 

「あははっ!!」

 

 5人のギルドメンバー+3体の分身に囲まれて、メタを張られて、2回も早々に残機を減らされて。それでも、俺は楽しかった。今までの、1度も俺の残機を減らせなかった相手と比べるべくもなく、セナたちは強い。自分のギルドは強い。だからこそ、

 

「簡単に負けるのは、つまらない」

 

 転ばせようと《加速》と《障壁》の紋章を使っても何故か転ばなくなったセナと、飛んでいるから体勢が崩れてもあまり意味のない藜さん。後衛からの広範囲魔法を妨害しつつ、ランさん・セナ・藜さんの持つ銃火器に注意を払いつつ、迫る2人に10枚ほど加速の紋章を付与した。

 

「《加速》」

 

 何倍もの速さですっ飛んで行く2人を見送りつつ、2回死んだことで解放された魔導書を1冊手に取った。そしてそれを天井に向け放り投げつつ、ボスらしく宣言する。

 

「さて、第2形態だ」

 

 運営の人に、『第2形態とかボスらしい何かがあると嬉しいです。え、必殺技? 残機10個減らされるまで使わせませんよ!』と言われて作った必殺技。元ネタとはあんまり似てはいないけど、効果だけは似せた必殺陣。

 

「大結界『トラロカン』」

 

 そしてボス部屋が、大嵐に包まれた。これがどれくらいプレイヤーに効くのか、試させてもらう。

 

 

 気がついたら、私は壁に激突していた。そして何故か、全身に冷たい雨と風が吹き付けてきている。なんでこうなったんだっけ?

 

「藜ちゃん、分かる?」

「いえ。分からない、です」

 

 頭を振って気を引き締め直す。それから近くにいた藜ちゃんに聞いてみたけれど、やっぱり分からないらしい。ええと、確か最後に『トラロック』とか『トラロカン』みたいな言葉を聞いた記憶はあるんだけど……

 

 そう思って見渡したボス部屋は、ほんの少し前までとは環境が激変していた。部屋を覆っていた氷を全て砕かれ、1m先も見えないほどの豪雨が降り注ぎ、暴風が吹き荒れ雷が鳴っている。

 

「来ます!」

 

 その光景に少し呆然としていると、そんな藜ちゃんからの忠告が耳に届いた。何事かと空を見上げれば……そこには、雨に紛れ私たち目掛けて降り注ぐ、無数の爆弾の姿があった。

 

「逃げな──ぷぇっ」

 

 逃げようと足を踏み出した瞬間、念力による補助も追いつかずに転倒してしまった。同時に握りしめていた筈の愛銃もすっぽ抜け、なんとも無様な格好だ。

 そういえばこの天候って【嵐天】だっけとか、効果が 確率装備解除・転倒確率上昇・属性効果低下(炎)だったっけとか、今さら感溢れる情報が頭の中に浮かんでくる。後多分、このままじゃ負けるなということも分かった。

 

「藜ちゃんは逃げて!」

「っ、わかり、ました!」

 

 どうにかできるかもしれない方法はあったけど、それだと五分五分くらいでしか生き残れないだろうから、飛んで逃げられる藜ちゃんは逃す。これでアタッカーは生き残るし、私もFF(フレンドリーファイア)を気にせずぶっ放せるから賭けに出られる。

 

「コン、MP全部使って狐火!」

 

 目の前まで爆弾が迫ってきた頃、私はペットにお願いする。この天候の中で炎を使うのは、無茶な気しかしないけれどそれでもチャンスはある。

 そして、爆炎が吹き荒れた。MPが0になった代わりに、普段の半分程度の火力しかないが炎が吹き荒れ、私に迫っていた爆弾の7割近くを暴発させることに成功する。よし、これで生き延び──

 

「えっ?」

 

 次の瞬間、白い光に包まれ私のHPは0に落ちていた。

 

 

「まずは1人」

 

 二重のステルスで姿を隠しながら、俺は紋章で誘発した雷が()()()()セナに落ちたことを確認して頷いた。フィールドボスのHPを3割も吹き飛ばす雷だ、プレイヤーが受けたらひとたまりも無い。

 

「次」

 

 残りの相手は4人。その中でも比較的近くにいるのが、れーちゃんたち3人組。その中でも、俺にとって1番厄介な相手はつららさんだ。

 

 れーちゃんよりも魔法の発動が早く、範囲が広く、威力は……まあどっちも掠っただけで死ぬからあんまり関係ないか。ともかく、いくらステルスで隠れてるとはいえ、広範囲魔法を連打とかされたら俺はあっけなく死ぬ。だから、そのことに気づかれる前に早く倒す。これに限る。

 

「せーのっ」

 

 とりあえず爆弾を20個くらい上に投げ投げ、10個くらいの手榴弾をボーリング感覚で投擲する。

 

「《ディクリーズサンダー》」

 

 上下の爆破によって倒せればよし、倒せなくてもそのあとの雷で倒せればよし。しかもつららさんの雷属性耐性を低下させて狙い撃ち。我ながら完璧な作戦だ。

 

「起爆!」

 

 大雨の音に声はかき消されたが、聞き慣れた気持ちの良い爆音はよく耳に届いた。同時にバリバリと空気を破る音が轟き、一条の雷が3人の元に落ちる。

 

 大結界『トラロカン』

 そんな大層な名前を付けはしたが、実際にやっていることは今までと然程変わらない合わせ技である。魔導書で天候を【嵐天】に変更し、潜伏スキルと装備効果の二重効果で姿を消し、相手の魔法発動と攻撃を手動で無効化しつつ、爆弾を投擲したり雷を誘発する。霰でダメージを与えるバリエーションチェンジもできる。

 

 けれどまあ、実際行なっていることはそれだけだ。別に自在法ってわけでもないし、元ネタのようにワープしたりもできない。上空に投げた魔導書を壊されたら終了だし、大規模魔法を乱発されて俺が死んでも即解除される脆い結界だ。

 

 でも、俺がこんなことを言えるのは製作者で、使用者で、攻略法も欠陥も知り尽くしているからだ。

 何も知らない相手からすれば、【嵐天】という厄介な天候の中で、見えない相手が爆弾を乱発し、雷や雹が何故か自分たちを狙って来る地獄に他ならない。

 

「《エンチャントサンダー》《ディクリーズサンダー》」

 

 避雷針代わりに魔導書を一冊、未だHPの残る3人の上に差し向け、追い討ちとしてれーちゃんとランさんの雷属性耐性も低下させる。

 直後、狙い通り3人に極太の雷が魔導書を経由して直撃し、そのHPを全て吹き飛ばした。れーちゃんは復活したようだけど、守りのない後衛1人なら魔法発動の妨害は容易い。

 

「でも、念には念を──っ!」

 

 もう一度、運良く雷を落とそうと思った瞬間だった。空が、晴れた。【嵐天】が解除され、雨が上がり、風が止み、眩い【晴天】が訪れる。

 

「見つけ、ました!」

 

 そして、聞き慣れた爆発音の直後、俺のHPが再び0に落ちた。

 



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第99話 高難度ボス戦(幸運)③

数日書いてなかったから筆が、進まぬ……


 即座に復活しながら衝撃波の来た方向を探知、上方からと判断して空を見上げ……若干の後悔をした。中天に燦々と輝く太陽を背に、6本の銃剣ビットと槍を携え藜さんが急降下して来る。どこか天使的な雰囲気を感じる藜さんの攻撃は、逆光でかなり見づらい為普通であれば成功するであろう。普通であれば。

 

「やぁっ!!」

「《被害を逸らす》」

 

 迫り来る6連撃と3連撃に対し手をピンと突き出し、3回殺されたことで解放された1つの魔法を発動する。《被害を逸らす》、それは特定のクトゥルフ系の魔導書を装備している者のみ発動可能な魔法。その効果は、非常に簡単に言えば『相応のMPを支払って攻撃を逸らして無力化する』というもの。

 

「残念」

 

 極振りの攻撃であれば全MPを支払っても死ぬけれど、普通のプレイヤー相手であればその効果は十全に発揮される。連撃が悉く逸れ地面に突き刺さり、藜さん本人も降下の勢いをそのままに逸らされていく。

 同時、9個になった魔導書を総動員して陣を描きもう1つの魔法を発動させた。

 

「《ナーク=ティトの障壁》」

 

 システムの都合上100mから10mに変わっているそれを、れーちゃんに対して発動した。これを簡単に説明すれば、『MPとSANを消費して発動できる非常に頑丈な結界。壊すには相当な力が必要』だろうか。

 視界の端のSAN値が8減少してMPもかなり減ったけど、これで暫く藜さんだけに集中できる。あとUPOでは、本人が使う呪文の代償として減った場合一時的発狂はしないらしい。

 

「やぁっ!」

 

 7本の槍をそれぞれ5枚の障壁で逸らしつつ、突撃して来た藜さんも加速・減退・障壁の3種の紋章で逸らして通過させる。その間に1冊魔導書を手に取って再び投擲。今度は部屋が猛吹雪に包まれた。

 残機が4まで下がらないと【新月】も【偃月】も解放されないから瞬間火力はちょっと不足気味だけど、それでも爆弾があるからほぼ問題ない。

 

「そーれっ!」

 

 迷いなく飛来してきたビットを障壁で止めつつ、藜さんの反応がある地点に20個ほどの爆弾を投擲する。それらは加速の紋章に乗って一直線に飛んでいくものと、幸運にも吹雪に乗って弧を描く軌道の爆弾に分かれ、逃げ場を塞いで爆破を引き起こす。

 今まで挑んで来たパーティの奴らならこれで終わりだ。けれど今戦っている相手は違う。自画自賛だがトップギルドの、それもメインアタッカーだ。

 

「緩い、です!」

 

 当然、この程度で終わる訳がない。さらに追加で言うのであれば、ビットというある種異常な装備を使いこなせる程【空間認識能力】のスキルを使えているのだ。むしろこれ位で倒れたら、それこそ興醒めである。

 3次元的なジグザグ軌道で爆風を全て回避して行く藜さんに若干の感動すら覚えつつ、ならばと爆弾を倍プッシュする。これで戦闘開始から使った爆弾は既に2スタック。これで残る爆弾……正確にはフィリピン爆竹改の数は8スタック。他の種類のはまだまだあるが、出来れば使い切る前に決着をつけたいところだ。

 

「なら、これで」

 

 そう言って俺は、左腰の簡易ポーチを取り外して爆弾と共に投擲した。当然それは躱されたが、小さな爆発と共にポーチが耐久限界で消滅する。

 

「なっ!?」

 

 そして、容れ物が壊れたことにより、正常なシステムの動作に従い中身が溢れ出た。

 吹雪の視界を埋め尽くす茶色。片方だけなので4スタックの、数に直すと396個の爆弾が爆発するように出現し……最初の爆弾の残り火で着火する。

 

 連鎖、連鎖、連鎖に連鎖が繋がりその全てが着火し、吹雪ごと何もかもを吹き飛ばす爆風として顕現する。自分が死ぬガラスの砕ける音を耳にしながらその光景を見て、満足しつつ蘇生する。

 

「残り残機9。結果はこんな感じか」

 

 蘇生後を狙って突き出された槍を、障壁で止めながらそう呟いた。今回の藜さんはどうやってか蘇生なしに生き残ったみたいだけど、1回蘇ることを知っていれば警戒は怠ったりしない。そして知っていれば対処出来る。

 生き残ったのは多分、今燃え尽きたように消えたお札が関係していると見た。一定以下の被ダメを無力化する系の使い捨てアイテムだったりして。

 

「油断、ですね」

 

 舞い降りてくるダメージ判定のある羽根と突き出され続ける槍、その2つを防ぎながら、考え事をしつつ軽く儀式魔法の為のステップを踏んでると、笑いながら藜さんがそんなことを言ってきた。

 確かに考えすぎだと反省していると、周りにビットの反応が出現した。その内3つは壊れかけのようで、目の前の攻撃と羽根よりは危険度が低いと判定する。無論それでも死ぬのでちゃんと防壁は振り分けて──防壁を突き抜けてきたビットに貫かれて死亡した。

 

「なるほど、そういう」

 

 障壁はちゃんと相殺できる分は展開していたしあり得ない。そう思い蘇生までの僅かな時間で確認すれば、至って簡単な仕掛けで障壁は突破されたことが分かった。

 ビットを壊れかけのビットで叩いて加速させたのだ。かっとばせホームラン的な感じで。それで2倍くらいまで強化して突き破ったらしい。

 

「でも、それが分かれば」

 

 倍の障壁で止められる。そう思って展開した障壁ごと貫かれた。なんというか、回転していたような気がする。

 

「私の攻撃のダメージで、止められる、なら、普段の、倍の速度で、2倍! 普段かけない回転を、かけることで、さらに倍!」

 

 復活直後、速度がさらに上がったビットに貫かれて死亡した。

 

「そして、銃撃で、さらに加速して倍、です!」

 

 そう、それはまさかのウォーズマン理論だった。

 

 最後のビットが砕け散り、打ち出された3つもボロボロになって使えなくなった。けれどその代わりに残機を3つも持っていくなんて、中々侮れない。まあ、折角だからって事で残機を減らした面もあるけど。

 

「残り残機6、か」

 

 とりあえず周囲一帯を爆破して、藜さんに距離を取らせる。よし、これで必殺技その2を使う準備が整った。残り残機6で解放されるのはペット、そして現時点でもう制限されていた障壁の枚数は限界まで使用できるようになっている。

 

「来て、朧」

『了』

 

 蜂の巣状の紋章を突き破り、呼び掛けに答えて朧が出現した。8層に蜂の分隊を残し本体だけで現れた朧は、久し振りに呼んだからか嬉しそうに周りを旋回し始めた。

 

「今更、増えたところで!」

「折角だから、日の目を見なくなるかもしれない必殺技を、使おうと思いましてね!」

 

 藜さんを障壁で誘導しつつ加速して吹き飛ばし、体勢を取り戻すまでの間に朧を左腕に留める。そしてポーズを決めて、一言。

 

「変、身!」

『HENSHIN』

 

 そうして、装備を切り替える。蜂の巣状の紋章を作り出しつつ、今までの装備から装備をあの呪い装備へ変身する。全部変えると【死界】が出てしまうからそれは除いている。

 

「キャストオフ」

『Cast off』

 

 更に朧に向きを変えてもらって、軽く爆風でカッコつけながら紋章を吹き飛ばして演出する。今となっては遥か昔のライダーだけど、なんだかんだ結構好きなのだ。だから、朧と練習して完成させたこれは、紛れもなく俺の必殺技である。

 

「くっ」

 

 空中で障壁の叩きつけを受け、僅かに藜さんの体勢が乱れた。これでもうワンアクション時間が稼げる。本当は最初から全部省略できるけど、そこは様式美ということで。

 

『Change WASP』

 

 しかもザビーも嫌いじゃないし、ホッパー系も好きだからどう転んでも役得である。朧がいなくなると考えると、それはそれで寂しいが。そんなことを言いながら、分身した朧が四肢と背中にしがみついたのを感じた。これで、準備は完全に整った。

 

「クロックアップ」

『Clock UP!』

 

 そして、世界は加速する。クロックアップしたライダーフォームは、人間を遥かに超えた速度で活動出来るのだ(大嘘)以下は、吹き飛ばされた藜が壁に激突するまでの時間での出来事である(本当)

 

 まあ実際は自分に200枚分の《加速》を使いつつ、相手に100枚分の《減退》を使う事でなんとかクロックアップ(偽)しているのだが。しかも自分ではこの速度を制御できないから、四肢と背中の朧に全部動きと攻撃を任せる残念仕様だったりする。

 

 そんなことを考えているうちに、ゆっくりと動く藜さんに(朧が)拳を打ち込んでいく。1発、2発、3発、4発……与ダメは0に等しいが、確殺出来る域になるまで状態異常を重ねがけしていく。一応、パンチは顔と胸は除いているから安心だ。

 

 そして計20回移動速度減少、最大HP・MP減少を重ねがけしたのち一旦動きを止めて左手を振りかぶる。

 

「ライダースティング」

『Rider Sting!』

 

 タキオン粒子とか難しい原理は何もなく、拳の接触直前に増殖した朧が自爆する事でこの必殺技は完成する。大爆発により俺と藜さん双方のHPが0になり、同じタイミングで復活する。けれど状態異常の差で、生き残っている朧の方が早く動き自爆。残り残機5の時点で全滅と相成った。

 

「9.8秒、それが……えっと」

 

 お前ではないし……まあいいか。

 

「絶望までのタイムだ。なんちゃって」

 

 最後にそうかっこよくポーズを決めたところで、装備とステータスが全て戦闘前の状態に戻った。やっぱりれーちゃんは、ポーチ大爆発の時にHPが0になっていたらしい。

 

 それにしても、だ。最後の方は必殺技を使いたいが為にやられた部分もあったけど、これはもしかしたら次はもしかするかもしれない。あんまりにも早く負けるのは先輩方に申し訳ないけど、倒して貰いたいのも事実だし。

 

「結構手の内をバラした事だし、次はどう攻めてくるやら」

 

 願わくば、俺を最初に倒すのがうちのギルドでありますように。幸運また上げられるし。

 




因みにこのクロックアップ擬き、消費に回復が追いついてないので10秒くらいしか保ちません。


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第100話 高難度ボス戦(幸運)④

 【速報】極振り、敗れる

 

 証拠映像付きでその情報が拡散された時、UPO界隈に衝撃が走った。

 あの極振りを倒したのは誰なのか、そもそも誰が倒されたのか。誰もが気になって添付動画を再生して……あぁうんと納得した。その動画のタイトルは【討伐までは何マイル? 道成寺ごっこしようぜ! お前安珍な!】というもの。そう、NPC版デュアルさんを延々と焼いていたあの動画だ。リアル時間換算で計2日、それだけの時間焼き続けて漸くNPCデュアルさんは倒れたのだった。

 そしてそれにより、討伐報酬が開示されて挑戦者が増加した。やっぱり無条件で10%ステータス永続アップと、その極振りの性質に応じたレアアイテムは目を眩ませるには十分だったようだ。

 

 さらにもう1つ、挑戦者側のプレイヤーが散々クレームをつけたお陰で極振りのボス戦で変わったことが1つある。

 

「俺の復活回数が、13回から9回まで減らされた件について」

「妥当だと思うよユキくん」

「それなら、多分、倒せます、し?」

「運営が正しいわね」

「当たり前だろう」

「ん!」

 

 ボス戦直前、俺を打倒せんと集まったギルドのみんなにボヤいたが、総ツッコミを食らってしまった。解せぬ。

 

「いや、だってアレだよ? ぶっちゃけ俺のステータスって、基本のHPMPと極振りの幸運を除けばゴミだよ? MAX72だよ? 被ダメ倍だから実質36の奴に、酷い仕打ちだよ……」

 

 100倍くらいの差があるのは日常茶飯事なのに、これ以上か弱い俺を虐めてどうするつもりなのか問いただしたい。

 

「しかも本気出したらアレだよ? 幸運以外のステータス実質マイナスだよ? 取り柄の復活を奪うなんて」

「障壁とか爆破とか、もっと他にあるじゃん」

 

 正論で殴られてしまった。うん、まあ、まだ使ったことのない第11スキルの効果でもない限り、幸運あんまり活躍しないけどさぁ……

 

「それより、折角来たんだから早くやろうよ」

「そうだね、うん」

 

 こうしていまいちテンションが上がらないまま、今回のボス戦は始まったのだった。

 

 

「っとと」

 

 戦闘が始まってから数分。つららさんとランさんは道連れにしたものの、さも当然のように4回殺されて復活することになった。

 幾らテンションが低くてやる気が控えめとはいえ、普通の相手ならよくて1殺される程度なのだ。それを毎回、最低2回は持っていくって凄い……凄くない?

 

「まあこれで残機は5、朧!」

 

 まあ、それはそれとしてだ。今まではなあなあで戦っていたけど、朧を呼んだ手前そんな戦いは出来ない。気合いを引き締めていかねば。

 

「変、身!」

『HENSHIN Change Kick hopper!』

 

 腕ではなく、なんの装飾もないベルトに留まった朧が変身音を鳴らし、装備を変更する。けどまあ、改めて(Wasp)(Kick hopper)を名乗るのは不思議な構図だ。因みにパンチホッパーは必殺技被りなので不採用にした。

 

「腕じゃ、ない?」

 

 一瞬そう呟いた藜さんだったが、次の瞬間首を振ってその疑念を払ったようだった。

 

「例のアレが、来ます!」

「分かった!」

「ん!」

 

 そう言って、セナ達と藜さん、れーちゃんが散開する。前回初めて使った技だったけど、どうやら既に弱点が見抜かれたし対策も立てられてしまったらしい。けど、ここから中止するのはかっこ悪いし、期待に応えてこそのボスだろう。それになにより、今回はザビーじゃない。

 

「クロックアップ」

『Clock UP!』

 

 クロックアップしたライダーフォームは、人間を遥かに超えた速度で活動出来るのだ(2回目)

 そんな懐かしいナレーションは置いておいて、今回も紋章と集中力をフル活用だ。自身の加速用に200枚、各員に12枚ずつ、多分同じ速度くらいにまでは加速して減速させて俺は地面を蹴った。

 

「ライダージャンプ」

『Rider JUMP!』

 

 1対1ならザビーでもよかったのだが、今回は些か相手にするべき数が多い。ライダースティングなんてしていたら、すぐに残機が尽きてしまう。だからこそ、積極的にネタにしていく!

 

 腰部の朧をタッチし、その力も借りて大きく飛び上がる。散開した9人の中心辺りで全員を捕捉し、再度朧をタッチする。

 

「ライダーキック」

『Rider kick!』

 

 そして爆発で加速し、狙い撃つのは1番厄介なセナ。その分身したセナAに向けてライダーキックをかます。当然ノーダーメージだが……それでいい。10個ほどポーチから爆弾を零しつつ、3匹朧の分身を置いていく。そこから空中でバク転しながらセナBに向けてライダーキック。更にC、Dと続けていく。

 

『Clock over』

 

 その作業を続けること7回目、加速と減退が時間切れとなった。それにより8回目のライダーキックは躱されてしまったが、ばら撒いた朧の分身と爆弾は十二分に効果を発揮する。

 一斉に起爆した爆弾と朧の分身が、甚大なダメージと状態異常をばら撒いていく。ざっと見た限り、全員が大なり小なり状態異常とダメージを負っている。

 

「きゃっ」

 

 爆発の余波をもろに受けたセナが吹き飛ばされ、藜さんは全てを躱しきり、れーちゃんは使い切りダメージカットアイテムで耐え、俺は反動で死亡する。これはもう、ある種パーフェクトハーモニーではないだろうか。

 

「まあいいか《破壊》」

 

 即座に復活しつつ、リスキルを狙っていたれーちゃんに向けて魔導書由来の魔術を発動する。今回はまだ10冊残っている魔導書で速攻で陣を描き、幸運にも対抗に打ち勝って効果が発動される。

 

「!?」

 

 例のR-18フィルターのお陰で見た目の変化はないが、効果はそのまま。スリップダメージ・呪文の発動妨害・視界の消失・行動の妨害・SAN値の減少。5つの複合効果で身動きの取れなくなったれーちゃんを一先ず放置し、残り2人に意識を集中させる。

 

「せやぁ!」

「シッ!」

 

 セナは7人分の火球による範囲攻撃、藜さんはダメージ判定のある羽根を飛ばすことによる広範囲攻撃を。まるで俺を殺すためだけにあるような攻撃方法に辟易としつつ、どこか嬉しさも感じながら全てを防ぐ。

 

 それにしても、喋ることすら億劫な程忙しい。攻撃にかすらないように移動しながら、障壁で攻撃を防ぎつつ、ステップを踏んで自己回復を行いつつ、朧に指示を出しながら、敵の位置を常に把握し、行動を予測しつつ、爆弾をばら撒く。ああ忙しい忙しい。

 

「ああもう! ユキくんウザい!」

「うぐっ……それが、特徴だからね!」

 

 感情的にそんなことを叫んだセナに良心が痛んだが、ゲームだと割り切って動き続ける。嗚呼、思ったより結構キツイなぁ……これ。涙が出そう。だって……特に何でもないな俺。

 

「あっ」

 

 そう、思いっきり動揺したからだろうか。儀式魔法のステップを失敗して、障壁を展開する分のMPが少し減ってしまった。それは同時、この攻めと防御の均衡が崩れるということでもあり……

 

 カシャンと、呆気なく俺は死亡する。原因は、風に乗ってフワリと舞ってやってきた藜さんの放った羽根。やってしまったという反省と共に復活しつつ、リスキルを防ぐために大爆発を引き起こす。

 

「ああ、もう残機3か」

 

 爆煙の匂いを吸い込みつつ、事実確認を行う。そう、残機3だ。本気の必殺技が解放される、最後のセーフティが外れたのだ。うん、悪くない。

 

 

 私たちが最初に聞いたのは、狂ったような笑い声だった。爆炎の中、残機を3にまで減らされたユキくんが、額に手を当てて高笑いをしていた。なんというか、ものすごく似合ってない。

 

「残機3つ、よくここまで減らしてくれたよ。お陰で、なんの枷もなく俺は、漸く全力で戦える」

 

 負け惜しみじゃないことは、昔からの付き合いだしよく分かった。あれは、相当よくないことを考えてる時のとーくんだ。

 

「藜ちゃん、ストップ。多分、今行ったら確実にやられる」

「なんで、です?」

「幼馴染の勘、かな」

 

 藜ちゃんの手を止めながらそう言ったが、そうとしか言いようがないのだから仕方がないじゃない。そして私のユキくんに関する勘は、結構な確率で的中する。

 

「そう、今ならなんだって出来る。例えば、こんな努力の結晶を出したりね」

「────ッ」

 

 ユキくんが頭上に手を翳すと共に出現したものを見て、私と藜ちゃんは揃って息を飲んだ。抜刀術とか銃撃とか、そんなのよりもよっぽどヤバイものをユキくんは出してきた。

 

「リ○ルボォォォイ!!」

 

 いや、違うでしょ。そんなツッコミを入れる間も無く、天井を崩壊させながらソレは降ってきた。光を乱反射するガラス、窓枠、磨き上げられた壁面。それはユキくんが、ほぼ毎日打ち上げているビルを花火にしたもの……通称花火ルだった。

 

「コン!」

「ニクス!」

 

 私たちがペットと己のスキルに頼ってなんとか回避しようとする最中、ユキくんはただ只管にこちらの移動を妨害してくる。ああもう、自分は残機が減るだけだからって厄介な! そう舌打ちした直後のことだった。

 

 音が消えたような大爆発と、目を焼くカラフルな閃光がフロアに満ち溢れた。

 

「──!」

 

 空蝉のスキルで回避して尚、キーンという耳鳴りと白く染まってしまった視界の中。スキルが、私に向けて飛来する無数の物体を探知した。

 一緒に退避していたことで生きててくれたコンが、炎による自動迎撃を実行する。それによって反応は消え、衝撃を感じたから多分爆弾だろうと予想をつける。

 

「──」

 

 まだ耳は本調子とはいかないけれど、目の調子だけは戻ってきた。まだちょっと白いままだけど、その視界には私・藜ちゃん・れーちゃんの3人分のHPバーが瀕死の状態で表示されていた。どうやら、全員なんらかの方法で生き残ってはいたらしい。

 

 そう安堵する私の視界に、見たくないものが映り込んだ。散乱する瓦礫の向こう。最早天井に近い高さまで積もったその場所で、再びユキくんがその手を天に翳していた。

 

「藜ちゃん、私の後ろに!」

 

 今かられーちゃんのいる場所まで行くには、どう考えても時間が足りない。だから、あとで謝るから今は勝ちをもぎ取れる可能性を優先させてもらう。

 

「コン、《変化》!」

 

 藜ちゃんが後ろに来たことを確認し、私はペットのスキルを使用する。変化というMPを100消費することで、どんなダメージも一回だけ無効にする切り札。それを、私と藜ちゃんの2人分……MP200を払い使用した。

 

 直後空に現れたのは、第4の街【ルリエー】にそっくりな、いやそのものだった。そういえば、話に聞いたことがある。ユキくんは、第4の街を1度、粉々に爆破したと。

 

「ルリエー・ボンッバァァ!!」

 

 ユキくんのその掛け声で、パンと、街に小さな爆発が起こった。

 続いて、もう1つ。

 さらに、もう1つ。

 もう1つ。もう1つ。もう1つ。もう1つ。もう1つ。もう1つ。もう1つ。もう1つ。

 爆破が爆破を呼び、呼ばれた爆破が爆破と統合され大爆発を起こし、大爆発が大爆発を呼び、何もかもが連鎖して爆発する。

 宿屋が爆ぜた。武器屋が爆ぜた。民家が爆ぜた。教会が爆ぜた。水路が爆ぜた。詰所が爆ぜた。水飛沫が舞い、水自体が爆発した。

 街の中央部にある、他の街への転移ゲートとその広場を除いた何もかもが連鎖して爆発していく。衝撃と灼熱と爆音が、1つの街を徹底的に完膚無きまで蹂躙していく。

 

 そしてそれにより生まれた衝撃と、熱と、光と、音と、何もかもが直下にいる私たちに向けて解放された。

 




【必殺技小話】
※必殺技は、ボス本人にはダメージを発生させません

極振り's「必殺技が欲しい? 結構。ではちゃんと考えますよ」

1日後

極振り's「さあさどうぞ。お望みの必殺技です。」

極振り's「素晴らしいでしょう? んああ仰らないで。威力が過剰、でもただの必殺技なんて見かけだけで夏は熱いしよく滑るわすぐひび割れるわ、ろくな事はない。伸び代もたっぷりありますよ、どんな耐久の方でも大丈夫。どうぞ(画像を)回してみて下さい、いい音でしょう。余裕の音だ、馬力が違いますよ」

運営「1番気に入ってるのは…」

極振り's「何です?」

運営「火力だ(使用制限ポチー)」

極振り's「ああ、何を!ああっ待って!ここで動かしちゃ駄目ですよ!待って!止まれ!うぁあああ… 」



《花火ル》
普段は勿論アイテム化は不可だけど、ボスとしての必殺技ならいいでしょお願いしますと、ユキが懇願して実現した必殺技。
多数の爆弾による固定ダメージ10000の爆発、散らばる瓦礫による追い討ち、散らかった瓦礫によってボス部屋が埋まり実質屋上ステージ化と様々な効果がある。

《ルリエー・ボンバー》
花火ル採用したならこれもっしょ。Foooooo!!夜は焼肉っしょ!
と、ハイテンションになった運営側が実装した即死攻撃。かつてユキが行なった、ルリエー大爆破を頭上に出現させる。ぶっちゃけ大いなる破局。


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第101話 高難度ボス戦(幸運)⑤

 閃光

 轟音

 衝撃

 

 事前のスキルにより、最初の爆発は私たちのHPを削ることなく透過した。けれど、ユキくんの放った大技はまだ終わっていなかった。降りしきる瓦礫の雨、濁った水に樹木のかけら。私たちを容易に押しつぶす大きさのそれらがゲリラ豪雨のように降り注ぐ。

 

 私たちが必死にそれらを回避する中、そんなユキくんの声が聞こえた。どこかと見渡せば、降りしきる瓦礫を紋章で逸らしながら、こちらに銃を向けているユキくんの姿が見えた。

 

神の杖(ロッズ・フロム・ゴッド)は出来ないから、これで我慢して欲しいな」

 

 その銃口が見当違いの方向を向いたとき、私は言い知れない悪寒を感じた。このままここで躱してたら、殺られる。改めて測ってみれば、彼我の距離は10m程。ここは、あの銃の射程圏内だ。

 

「バァン」

 

 そんな軽い声とは対照的に、お腹に響く爆発音のような銃声が部屋を貫いた。直後、チチチチと耳障りな音がなり、私の左腕が愛銃と共に爆発した。

 撃ち抜かれた。そう認識した時には既に、私の周りには10を超える銃弾が()()()()()迫っていた。正直に言って意味不明だが、避けないことには先がない。

 

「コン!」

 

 藜ちゃんなら上手く避けてくれるだろう。そんな信頼を寄せて、私は私だけが助かるように全力で回避運動を開始した。けれど、腕一本を持っていかれた所為でバランスが崩れて上手くいかない。掠るたびにHPはガリガリと削られるし、スリップダメージなどの状態異常のアイコンも点灯し始めた。これはもう、私は限界だ。倒されるまでは秒読み段階になってしまっている。

 でも、お陰でこの全方位からくる銃弾の仕掛けはわかった。単純に、ユキくんはその馬鹿みたいな空間認識能力で跳弾させているのだ。瓦礫と、障壁と、その他諸々を全て利用して。弾が爆発する理由は知らない。

 

「でも、やるしかないか」

 

 ちょっと癪だけど、ユキくんを攻略するには私より藜ちゃんの方が相性が良いらしい。現に今、瓦礫の雨を縫うように飛翔する藜ちゃんには一切銃弾も瓦礫も当たっていない。これなら安心して任せられる、癪だけど。癪だけど!

 

「藜ちゃん、残り2回任せた!」

 

 そう合図して、私は走り出した。全力も全力、バフのお陰で3000を超え、私の制御が出来ない全開だ。瓦礫を踏み空中を蹴り、極振りの人にも迫る勢いで加速してユキくんへと突撃する。

 

「電磁シールド!」

 

 そして、今まで殆ど使ったことのない愛銃の機能を解放した。金属系の遠距離武器だけを一定時間無効化するという、極めて限定的な防御効果。今だけはそれが、決定的な切り札となっていた。片銃しかないので時間は5秒と短いが……ユキくんを攻撃範囲内に捉えるには十分だ。

 

 そして効果時間切れと同時に、計算通り私はユキくんのすぐ近くまで辿り着いた。

 

「ユキくん、一緒に死んでくれる?」

 

 そうして口にした台詞は、自分でもちょっとうわぁと思うものだった。でも、ちょっと思ったより忌避感はないかも。

 

「いいよ、セナが殺せるなら」

 

 答えは聞いてないって言おうとしたけど、思っていたよりもずっとまじめに返されてしまった。それにちょっと頬が熱くなるのを感じながら……コンに最後の指示を送った。

 

 

「全く、セナも無茶をする」

 

 残機を減らして復活しながら、炎に包まれた舞台で俺は思わずそう呟いた。だってそうだろう、あんな病んでそうなセリフの後自爆とか。

 まあそれはそれとして、だ。

 残っているのは、空を飛翔しているから無事だった藜さんのみ。流石に遠すぎて跳弾で狙撃なんて真似も出来ない、やはり厄介だ。だからこそボスとして、自分のキメワザでCritical Strikeからのゲームクリアといきたいものだ。

 

「だから、時間稼ぎさせてもらいますよっと」

 

 そう言いつつ、両手で俺はちょっとした工夫を凝らした爆弾を投擲した。爆弾1つ1つを導火線で結んだ擬似爆導索。俺を中心に放射状に広がったそれらが同時に起爆して、地面に降り積もった瓦礫を打ち上げた。

 その量と勢いはさながら対空砲火の様で、きっと藜さんを足止めしてくれること間違いなしである。そしてその数秒があれば、別に誰が見てるわけでもないけど演出が満足にできる。

 

「《明鏡止水》」

 

 銃身が焼け付いた【新月】を手でくるりと回して【偃月】に換装し、腰だめにして抜刀術の体勢をとる。本当なら肩に担ぎたかったのだが、今の呪い装備じゃできないから諦めた。

 同時に『HPを20%減少(回復)させ、次の攻撃の与ダメを50%増加させる』というスキルを発動。第1段階の準備が完了する。

 

磁装・蒐窮(エンチャント・エンディング)

 

 そんな宣言をしながら、俺はできる限りのバフを自分にかけていく。

 抜刀術専用スキル《外鎧一触》により、HPを1にして与ダメを2.5倍に。

 《外鎧一触》のMP版である《死々奮刃(ししふんじん)》で、更に与ダメを2.5倍に。

 最後に発動させるスキルは《殉教(まるちり)》。自身のVit・Min・Int・Aglの値を0にして、次の一撃の与ダメを3倍にし、かつ防御貫通効果を付与させる。代わりに、その攻撃の後即死することになるスキル。

 

蒐窮開闢(終わりを始める)

 

 これこそが俺の最大ダメージ。【抜刀術】スキルの修正によって少々火力は下がってしまったが、それでもまだ全プレイヤー中5本の指くらいには入ってる自爆技!

 

終焉執行(死を行う)

 

 瓦礫の対空砲火を抜け、藜さんが姿を現した。けれどもう遅い、今からこれを止めることなんて不可能。ついでに攻撃範囲も広いためかわすことも不可能!

 

虚無発現(空を表す)

 

 加速の紋章による超加速レーンを選択。更にそこに、初速を得るための磁力の紋章による反発込みの抜刀準備を重ねる。

 まあ今回はろくにダメージ計算はしていないけれど、どうあがいても1000万は軽く超過してるから問題ない。

 

「吉野御流合戦礼法“迅雷”が崩し」

 

 バチバチと帯電を始めた愛刀を構えて、一度深呼吸して心を落ち着ける。そう、さっきのルリエー大爆発で藜さんの復活も使わせていたはずだ。故にこそ、これで決着である。

 

電磁抜刀(レールガン)ーー(まがつ)!」

 

 雷光一閃。プレイヤーに向けて放つには過剰すぎるダメージの一撃が、こちらに向けて迫る藜さんに向けて放たれた。

 

「ふぅ」

 

 息を吐きながら、残心を残して納刀する。自分でも認識できない速度で振るわれた必殺技は、間違いなく藜さんに直撃した。それは、この一面何もなくなったフィールドが証明していた。同時に俺も砕け散り復活、残機が0に落ちたがまあいいだろう。

 

「これで終わりっと」

 

 更に、残機が0になったことによって、自動的に装備が換装され一面全てが【死界】に包まれた。これにて終幕。もし生き残っていたとしても、あと少しで退場することになるだろう。

 

 そんなことを思っていた時のことだった。ボロボロになり、朽ちかけた飛翔体が6つ俺に向けて迫ってきた。どうやら藜さんは、今の今まで残機を使わずにいたらしい。どうやって生き残ったのかとても気になるけど、既にこちらも残機0。余裕をかましていられるほど余裕がない。

 

「《障壁》」

 

 大技の連発でガス欠気味のMPと集中力を振り絞り、朽ちかけた飛翔体を全てブロックする。が、次の瞬間だった。心地の良い爆音と共に、視界が全て白に包まれた。

 

「煙幕?」

 

 こんなもの、ほとんど意味が無いというのに今更? そんな疑問が湧き上がるが、警戒するに越したことはない。藜さんの武装はなくなり、こちらのMPも尽きかけの痛み分けの状況だ。なにが起こるか分からない。

 だからこそ、過敏に反応してしまった。

 

「ダミー!?」

 

 視界0の中こちらに向けて迫ってきた人型の物体。それを紋章で対応して、すぐにミスを悟った。動きが明らかに人じゃない、人形じみたその動きはどう見てもダミーだった。

 同時、反対側と上方に似たようなものを探知した。どちらかがダミーでどちらかが本体だが、どっちも防いでしまえば問題ない! そう判断して、爆弾を投擲する。これで本当の決着、接戦になったが俺の勝ち──

 

「なっ」

 

 否、だった。気がついた時には既に、予想外の方向から迫る藜さんに噛み付かれていた。首筋を、もうガッツリと。あっなんかいい匂い。

 

ほれへ(これで)わはひはひほ(私たちの)はひ(勝ち)へふ(です)

 

 最初のダミーだと判断した人型こそが、藜さん本人だったとすぐに察することができた。空間認識能力の欠点にも気がついたが、時既に遅し。HPは0になり、俺の敗北は決定していた。

 そのまま勢いで押し倒され、後頭部を激しく打ち付ける感覚が走った。相変わらず痛みはないのが不思議だ。

 

「ふふん、やり、ました!」

 

 馬乗りになったまま藜さんが笑顔を見せるが、改めてその姿を確認して俺は全力で顔を逸らした。何せ、今の藜さんは何1つとしてアイテムを装備していないのだ。破壊した張本人が言うのもなんだが。

 

 まずUPOでは決して裸になることはない。ないのだが、何も装備していないと他ゲーム同様UPOでもインナー姿になるわけで。インナーって、下着よりは少しマシ程度の露出なわけでして。お上品な言葉で言えば扇情的で、ぶっちゃけすごいエロチズムを感じる。

 

「むぅ、なんか、おめでとうとか、ないんです、か?」

 

 藜さんがそう言ってくるけど、ここは知らぬ存ぜぬで通そう。なに、ここはあくまで電脳空間。五感はあるが生理現象はない、もしあっても鉄の意志と鋼の精神で乗り越えられる。

 だが、現実はそんなに甘くなかった。両手でガッチリと頭をホールドされ、藜さんを直視する状態にさせられてしまった。筋力差1000倍には……あっ、俺今0だから倍でも何でもないじゃん。0になに掛けても0だっての。茶葉生える。

 

「少しくらい、お祝いして、くれても、いいじゃ、ないですか」

「えっと、それはそうなんですけど……」

 

 あっ、この妙な恥ずかしさ思い当たるものがある。中学の頃遊びに来たセナが、寝ぼけてパジャマをはだけたまま出て来たのを注意したアレだ。

 

「その、格好が……」

「格好?」

 

 首を傾げた藜さんが自分の姿を見て、ピシリと凍りついたかのように固まった。加えて今俺は抵抗せず(出来ず)押し倒されてるわけで。いやー、そんな格好で首に噛み付くなんてスゴイっすね。

 

「あ、ぅあ、あぁぅ……」

「やばっ、時間ない。とりあえず、初極振り突破おめで」

 

 急速に赤くなっていく藜さんを見ていたら、ボス討伐後の捨て台詞タイムが無くなっていた。ギリギリおめでとうも言い切れなかったし、なんか締まらないなぁ……

 後しばらくは塔に籠ろう、そうしよう。

 




ヘタレ


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第102話 祝勝会

 俺が討伐されてから約一時間。第2の街にある【すてら☆あーく】のギルドでは、祝勝会が開かれていた。

 

「と、言うわけで!

 極振り塔の攻略を祝して! 乾ぱーい!」

「「「「乾杯!」」」」

「ん!」

 

 セナが音頭をとって乾杯し、全員揃って乾杯する。祝勝会なのに、倒されたボスが同席しているとは此れ如何に。まあどうでもいいか。

 因みに、ボス部屋でトドメを刺された時の一件は、当然のように俺と藜さんのみが知る秘密となった。何気バレたら、リアルで進撃のセナが「フハハハ!見つけたぁ!ウハハハハ!!」とか言いながら、オリジナル笑顔で我が家に来るのが目に見えてるし。つまり俺は鉤爪の男だった……?

 

「それじゃあ、ボスから一言!」

「お疲れー」

 

 頭の中で良い感じにジュワッ……キィン!テレレレ!と某アニメのOPが流れている時に聞かれたので、そんな雑な返答しかできなかった。でも実際、それくらいしか言うことがないのだ。

 全力……ではないけど、やれる範囲内での全力で戦って負けた。これ以外に、特に言うべきことがあるわけではないのだから。

 

「幾ら何でも、軽すぎるよユキくん……」

「いや、だって俺から話すこと特にないし……あ、おめでとう」

 

 そういえば、これ藜さんにしか言ってなかったし必要だった。でももう言ったし、本当にもう特に話すことはない。Lukも10%上がったし完璧だ。

 

「じゃあ逆に、質問があるなら答えられる限り答えるけど?」

 

 必殺技とか、自分でも最高の出来(無駄に理不尽)だと思っていたから、出来心でそんなことを言った直後だった。無駄に高いAglを駆使して、目の前でまっすぐに手が挙げられた。

 

「はいはいはーい! それじゃあさ、最後どうやってユキくん負けたのか教えて!」

「どうどう。そんなぴょんぴょんしないでも普通に話すから」

 

 ぴょんぴょん跳ねるセナを手で押さえながら、チラリと藜さんに目配せをする。そう、進撃のセナが獣のセナになって我が家の外壁を登って侵入して来るかは、この一瞬にかかっているのだ。

 

「えっと、セナが自爆した後だから……」

「ユキさんが、自爆技で私と相打ち。その後、お互い復活して、私が先制して、ドーンって」

「MP切れで、虎の子の抜刀術はスカになって、死界も抜かれて。即死した感じかな。うん」

「ふーん」

 

 事実しか言ってないから、これで誤魔化せるはずだ。なんかものっ凄い懐疑的な目で見られてるけど、嘘は言っていないのだから!

 

「でもま、そっか。ユキくんMPないと何もできないもんね」

「ぐはっ……」

 

 的確に的を射た容赦のない真実によって、俺は崩れ落ちた。幼馴染が笑顔で言い放った口撃が精神を襲う──

 

後で、ちゃんと教えてもらうから

 

 あっ、ダメだこれバレてるやつやんけ。耳元でセナが囁いた言葉に、絶望感が溢れた。でもとりあえず、今すぐ何かやられるわけじゃなさそうだ。その点は安心……安、心、なのか?

 

「なら俺からも1ついいか?」

「あっはい。何ですかランさん」

 

 項垂れている俺に、ランさんはそう問いかけてきた。この小細工が無意味と化した、哀れな極振りに一体何を聞こうと言うのだろうか?

 

「バイクはどうした? あのバイク……ヴァンがあれば、もっと上手く立ち回れた筈だ」

「ああ、愛車は使うなって運営に言われてまして」

 

 だから、仕方なく愛車は今回お休みなのだ。やりたかったんだけどなー。詠唱してリングヴィ・ヴァナルガンドとか色々。その為ならウィッグとかも用意したのに。

 

「運営が?」

「ええ。だって考えてみてくださいよ。自分で言うのもアレですけど、あんな馬鹿みたいな強さのボスに機動力が加わるんですよ? しかも2万のHPと高い防御力。流石に同類じゃないと勝てねぇよ馬鹿って言われて」

 

 事実愛車(ヴァン)を使った時は、攻略に来た運営チームを残機を1つも減らさずに全滅させてたりする。あっ、そっかぁそれが原因か。

 

「確かに、運営の英断だなそれは」

「ん」

「アレに耐久つくって考えると、確かに萎えるわね……」

 

 セナと藜さんは特にそうは思わなかったようだが、他3人には納得してもらえたようだ。よくよく考えたら、俺でもその俺倒せないのは実体験済みだし。

 

「それでも、俺が一番雑魚って言うのは本当なんですよ? 必殺技も、別に回避できるようなものですし」

「ん!」

 

 ふとそうボヤいたら、れーちゃんが猛烈な抗議の意思と共に反論してきた。でも『アレが理不尽じゃないなら、どんなのがあるのか』って言われてもなぁ……

 一応全員の必殺技は知ってるけど、言っていい人なんていな……いや、1人いたか。wikiに載ってたし、喋っても問題ないだろう。

 

「例えば、アキさんの必殺技はHP10%以下で常時展開する感じのやつ。素で無敵貫通してくる上、必殺技の効果でダメージが超過……つまり、残機ごと消し飛ばしてくる。しかも開始60秒後の攻撃は全部それ」

 

 1回ボス戦の動画を見せてもらったけど、アレはまさしくガンマレイだった。広範囲、高速、当たったら即死、掠ったら即死、余波でタンクのHPを2割は持っていって、獄毒を問答無用で付与する。そこに必殺技で、残機にまでダメージ貫通ときた。

 基本的に本人のHPが常時1とはいえ、1回はペットの力で、2回目は本人のスキルで、3回目以降も運が良ければ復活する辺り本当に理不尽。俺と違って、魔法は斬って消滅させてくるし。

 

「うわぁ……確かにそれなら、ユキくんの方がまだ楽だね。でも、そんなに情報出しちゃっていいの?」

「うん、別にこれ検索すれば出てくる範囲だし」

 

 そこらへんは一応、ちゃんと締めている。だって与えられたデータで全部が分かってしまうなんて、ゲームとしてつまらないし。未知すぎるのもアレだけど。

 因みに、システム的な必殺技は全員2種類。つまりアキさんは、まだ1度覚醒を残しているのである。

 

「でも、1回くらいは、戦って、みたい、です」

「確かにそうかも。それじゃあ、次は比較的簡単にボス部屋に行けるアキ塔で!」

「はぁ……なんでうちのギルド、こんなに戦闘狂ばっかなのかしら」

 

 つららさんが大きくため息を吐く中、祝勝会兼攻略会議はそれなりの長さ続いたのだった。そして、夜が訪れる。

 

 

「それで、なんで当然のようにうちで晩御飯食べてるんですかねぇ……沙織さん」

「えー、食材は私持ちなんだからいいじゃん」

 

 ギルドでの祝勝会も終わり、リアルに戻って晩御飯時。何故か俺は、沙織と2人きりで晩御飯を食べていた。因みに今晩の夕食は、夏野菜カレーである。あとサラダ。

 うちの両親? また会社に泊まりでデスマーチだってさ。パッパからやばいテンションの電話が掛かってきたから知ってる。

 

「それに、こんな美少女と一緒にご飯食べられるのに、そんな言い草はないんじゃない? とーくん」

 

 フォークをこちらに向けくるくると回しながら沙織が言う。なんだろう、すごく似合ってない。

 

「フォークを人に向けちゃ駄目でしょ。あと凄く似合ってないけど、熱でもあんの?」

 

 疑問に思って沙織の額に手を当ててみたけど、特にそういうわけではなさそうだった。頬はちょっと赤いけど、それくらいか。大丈夫そうではあるので手は引いておく。

 

「あの本に書いてあること間違いじゃん……」

「あの本って?」

「堅物な男を落とす100の方法」

 

 そうか、沙織にもついに恋の季節が……なんてトボけるつもりはない。でも、こう、うーん……そもそも、なんで沙織は俺みたいなのを好きになったのだろうか?

 

「というか! 本題はそこじゃないんだよとーくん!」

 

 バァンと音が鳴りそうな勢いで沙織が机に手を叩きつけ、立ち上がった。実際は超低威力なので机は揺れもしていない。

 

「どうどう。ご飯粒ついてるし」

「え、どこ?」

「ここ」

 

 自然にしゃがんだ沙織の口についていたご飯粒を取る。あ、ちょっとカレーついた。まあティッシュで拭けば──

 

「えいっ」

「食べないで」

 

 そんなことを思っていたら、拭った親指が沙織に咥えられていた。なんで今日はこんなにアレなんです? あっ、ちょっ、舐めるなこの。

 

「んむ。それで本題なんだけど、絶対ボス戦の最後、藜ちゃんと何かあったよね?」

「……因みに、なんで分かったか教えてくれたりは?」

「女と幼馴染の勘」

「あー……」

 

 なるほど、そりゃあ対策しようがないしバレますわ。正々堂々自白するしかなさそうだ。

 

「で、何があったの?」

「例の抜刀術あるじゃん。レイド戦の時にも使ってたやつ」

「うん」

「アレを撃って藜さんが復活した結果、武器防具にアイテムの耐久度が消し飛んだ訳でして。更にそこに駄目押しの【死界】も合わさって、藜さんは初期装備どころかインナーだけになりまして」

「ふーん」

 

 段々と沙織の目が細められ、不機嫌なオーラが滲み出てくる。湧き上がってくる感情を否定しないと、手足が痺れてきそうな雰囲気だ。

 

「それで、刀振り抜いた直後の場所を突っ切って、突っ込んできた藜さんに首噛まれました。はい。で、そのまま馬乗りにされました」

「そーなんだー。あっ、振り解くとかは無理なの分かってるから、特に弁明いらないから」

 

 先にこっちの逃げ道を塞いでくる辺り、本当に幼馴染って感じがする。手の内が、全て読まれているッ!

 そんなことを思っていると、空になった皿をそのままに沙織が立ち上がった。そしてこちらの手を引いて、リビングの方へと歩いていく。

 

「とーくん、しゃがんで?」

「はいはい」

「それっ!」

 

 何かとしゃがんだ瞬間、軽く肩を押されて転倒した。いつものフライング抱き着きよりはマシかなと思っていると、ズシリと重さがきた。そう、例えるならこれは人1人分……

 

「これであいこかな」

 

 腰辺りに体重をかけ、こちらの胸に手をついて、ドヤ顔のセナがこちらを見下ろしていた。クォレハ生理現象が起きる前にどうにかしないと不味いですね。

 

「取り敢えず。こっちじゃ多少鍛えてるから、なされるがままってことはないですよっと」

 

 正確には、怪我しない為に鍛えざるを得なかっただけど。

 セナの手を引いて抱き寄せ、そのまま起き上がってなんとか立ち上がる。所謂抱っこの形だ。というかなんでこう、同じカレー食べてた筈なのにいい匂いがするのやら。

 

「私はこのまま、ベッドに直行しても構わないんだけど?」

「馬鹿なこと言っていないで、明日学校なんだから家にお帰り」

 

 そう言って抱っこしていた手を離したが、しがみついていて中々離れそうにない。コアラか俺の幼馴染は。

 

「全部置き勉してるからお泊まりしたい!」

「はぁ……着替えは?」

「実は、とーくんの部屋にある箪笥に2泊分くらい仕込んでたり。流石に下着はないけど」

 

 マジか……マジか。普段着は一箇所に固まってるし、箪笥は基本的に衣替えの時しか開けないから分からなかった。

 

「で、でも、とーくんが欲しいなら、その、置いていっても構わないし、好きに使ってくれても……」

「はいはい、馬鹿なこと言ってないて降りてくださいねー」

 

 とんでもないことを言われたけれど、あまり気にしたら余計反応されるので軽く流す。はぁ……明日学校だってのに。

 



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閑話 それぞれの極振り攻略戦(vsアキ)

 極振りの1人、Str極振りのアキが創造したダンジョンは、他の物と比べても単純明快で、それでいて異質だった。1層から本人が待つ10層まで、全てがボス部屋。それでいて大抵のボスが群体や複数体ではなく単体で、高レベルに揃っている。

 そして、本来ギミックなどに使うべきリソースをモンスターに全投入した為、ボス部屋と階段以外存在しない勝ち抜き戦形式のダンジョンになったのだった。

 

 1階層のボスレベルは40

 攻略に来る猛者にとっては、軽く倒せる相手だ。

 

 2階層のボスレベルは45

 まだ余裕と言って差し支えない程度の相手だ。

 

 3階層のボスレベルは50

 

 4階層のボスレベルは55

 

 5階層のボスレベルは60

 漸くここで、現行の常設ボス【機天・アスト】にレベルが追いつく。ボスの特殊行動も増え、なかなかキツくなって来る。

 

 6階層のボスレベルは65

 

 7階層のボスレベルは70

 ここで、中途半端な気持ちで挑んだプレイヤーは振り落とされる。膨大なHPと高い防御と攻撃性能。更に特殊行動の増加で、プレイヤーは篩にかけられる。

 

 8階層のボスレベルは75

 更にボスが強化され、現時点では1パーティでは攻略不能とされている。

 

 9階層のボスレベルは80

 この塔特有の10PT同時参加が前提の難易度で、少しでも戦線が崩壊すれば敗北は免れないクソ難易度。

 

 だが、それでも突破して来る変態(ガチ勢)は沢山いる。それはつまり、他の趣向と嫌がらせを尽くしたダンジョンに比べれば、プレイヤーとの接敵も撃破される可能性も高くなる。それに加え、最大60人のプレイヤーを1人で相手にしなければならない。事実、全極振り中アキは最も早くプレイヤーとの戦闘を開始している。

 

 しかし、未だ無敗。

 

 イベント期間も折り返しを過ぎ、ユキは本体が【すてら☆あーく】に、デュアルがNPCをそれぞれ撃破された今も、本人もNPCも黒星をつけられてはいなかった。

 

 

「急いで戦車を出せ! 60秒以内に潰さない限り、俺たちに勝ち目はないぞ!」

「了解!」

「弾は焼夷榴弾だ! 少しでも継続ダメージで可能性を増やせ!」

「了解!」

「圧裂弾を……出せ!」

「誰だ今の!?」

 

 中央に空のポッドが配置され、鋼鉄の床と配管の通ったドーム状の屋根になっているボス部屋。そこで今、大勢の人間が忙しなく動いていた。

 プレイヤー29人による7台の戦車。プレイヤー7名による戦闘機1台。そして12人の遠距離武器で固めたプレイヤー。12名の脱落者を経て、たった1人のボスを倒す為だけにこの数のプレイヤーが集まっていた。

 

「なあ、おい。本当にいいのかよ」

「ああ、構わん。俺は、ここまで来た猛者達と本気の戦いを望んでいる。それに、勝つのは俺だ」

 

 アキを取り囲んでいたプレイヤーの1人が問いかけ、アキが堂々とそれに答えた。それはボスとしては、間違いのない確かなものなのだが……当然、不満に思う者もいる。

 

「けっ、自分が強いからって嫌味ったらしい。見下しやがって」

「見下す? 冗談を言うな。ここまで来たお前たちを尊敬することはあれ、見下すことなどあり得ない」

「これだから極振りは」

 

 あまりにも強い力。運営からボスにされる信頼。その他諸々特別と判断できる何かを妬み、僻み、貶そうとする者は尽きない。

 

「この力は、あくまで俺がゲーム内で、システムの範疇で鍛えたものだ。何も恥じることはない」

 

 けれど、それくらいは弾き返してこその極振りだった。何か1つの能力だけに特化して、それしか使えないなんて正気じゃやっていられないのである。正気でしかいられない奴は極振りを辞め、発狂に適合した変態だけが生き残るのだ。

 

「おい、そこの! そんな場所にいたら即死するぞ!」

「はいよ」

 

 そうこうしている間に、挑戦側の準備が整ったらしい。アキを包囲して、集中砲火で消し飛ばすような配置が完成していた。

 

「準備は整ったようだな」

 

 その配置を見渡して、アキは7つある鞘から2本だけ刀を抜き放った。その片方には複数の分割線が存在し、もう片方は通常より僅かに短い形状だった。同時に、戦車とアキの間にカウントが出現する。

 

 5

 4

 3

 2

 1

 

 カウントが0になった瞬間、爆炎と魔法の嵐が現出した。火を噴く銃、炸裂する魔法、戦車砲が作り出す鏖殺の地獄。並のガチプレイヤーなら10度殺しても十分お釣りがくる大火力。

 

「さあ、ここに始めよう。最後の戦いを。

 創生せよ、天に描いた星辰を──我らは煌めく流れ星」

 

 やったか?と安心したプレイヤーの頭上から、全プレイヤー中最強の火力を降臨させる詠唱(ランゲージ)が紡がれた。

 遂に極振りの全身全霊が、かつては億にすら届いた力が、レイドボスではなく矮小なプレイヤーに向け解放される。

 

「巨神が担う覇者の王冠。太古の秩序が暴虐ならば、その圧政を我らは認めず是正しよう」

 

 砲撃の嵐を避けた方法は簡単。単純に、飛び上がっただけだ。けれどそれを、10,000を軽く超えるStrで行えばどうなるか。それは、並のプレイヤーを置き去りにする速度となる。ロスを考えるとしても、その最高速度はAgl換算で7,500に達する。力1つを突き通し、突き抜けてなお進むからこそ到達した境地だった。

 

「勝利の光で天地を照らせ。清浄たる王位と共に、新たな希望が訪れる」

 

 当然、そんな無茶を行うには莫大な代償が必要となる。現に、アキのHPは既に残り1。発動準備中の《特化紋章術》の効果である『特殊効果によるダメージ無効』で生き長らえているに過ぎない。

 加えて言えば、攻撃力+2000%などというふざけた効果の代償に、毎秒1000ダメージと自ら痛覚減少レベルを下げたことによる痛みさえ伴っている。具体的には普通のプレイヤーが感じる痛みがプラシーボ効果のようなものに対し、アキがスキル中に受ける痛みは箪笥の角に小指をぶつけた程度。それが毎秒、連続して全身を襲うのだ。極振り以外はやることのないそれを、アキは気合と根性だけで耐え実行している。

 

 故にこそ、それは、至高。

 それは、最強。

 それは、究極。

 それ以外に、形容すべき言葉なし。

 

「百の腕持つ番人よ、汝の鎖を解き放とう。鍛冶司る独眼(ひとつめ)よ、我が手に炎を宿すがいい。大地を、宇宙を、混沌を──偉大な雷火で焼き尽くさん」

 

 退避地にされた空を舞うF15擬きが、プレイヤーごと17に分割された。

 地を駆ける戦車が、銃火器を乱射していたプレイヤーが、戦車から逃げ出したプレイヤーが。落下してきたアキが振るった、日本刀型の蛇腹剣に触れた瞬間砕け散った。

 

「聖戦は此処に在り。さあ人々よ、この足跡へと続くのだ。約束された繁栄を新世界にて齎そう」

 

 そして生まれ出ずるのは、闇を滅ぼすような圧倒的な光だった。爆発直前の超新星のように、刀が収まった鞘がカタカタと揺れその僅かな隙間から、他の追随を許さない黄金光が溢れ出す。

 

特化付与(オーバーエンチャント)──閃光(ケラウノス)

 

 戦闘開始から60秒。遂にスキルが完全発動する。

 Str以外全てを代償に生まれた、己の敵を余さず全て焼き払う絶対の炎。アキが憧れRP(ロールプレイ)を目指す、某ゲームの光の英雄。総統閣下の超新星。至るべく、掲げる永遠の目標。その名は──

 

超新星(Metalnova)──天霆の轟く地平に(Gamma-ray)、闇はなく(Keraunos)

 

 アキの持つ刀が、蛇腹剣と小太刀から双方耐久値が皆無なガラスの刃に変わる。瞬間、刀剣が纏っていた僅かな輝きが爆発的に膨れ上がった。

 あのレイドボス戦の中。絶望の渦中にいたプレイヤーたちが仰ぎ見た、キチガイどもが放った埒外の力の1つ。参戦していたプレイヤーが記憶に刻んだ、その中でも一際印象に残る黄金光。それが今、自らを滅ぼす光となって襲来した。

 

「全員退避! 掠っただけで、残機があっても消し飛ばされるぞ!」

 

 戦車のキャタピラが唸る。乗り捨てたプレイヤーが逃げ惑う。僅かな希望を込めて放った攻撃は、自動的に鞘から抜け出た刀剣が迎撃した。

 そうして放たれた極光斬は、戦車3台を蒸発させた。同時に、空間に残った残滓に触れたプレイヤーが4人HPを0に、斬撃の余波を浴びた8人のプレイヤーが蒸発した。

 

「たった一撃で、殆ど全員吹き飛ばしやがった」

 

 40名以上いたプレイヤーの数は、現時点で残り13。

 しかもHPが即死直前に陥ったことで、無敵・回避・()()貫通という単純明快な必殺技が発動している。60秒以内に倒さない限り勝てない、挑戦プレイヤーの指揮官が言っていた言葉の理由がこれだった。

 

「吹き飛べ! 極振り!」

 

 誰もが諦める中、指揮官……近未来的な戦車に乗る、レイドバトルにも参戦していたプレイヤーが叫んだ。直後、アキに向けて極太の青白い光が照射された。それは、最大50万ダメージの多段ヒット攻撃。しかも残り12人のプレイヤーのうち6名の乗り込んだ、戦車による護衛兼壁付き。

 

「そうくると思っていた。だからこそ、まだだ!」

 

 ニヤリと笑みを浮かべたアキが、もう一度刀を振るった。

 結果、青白い光の砲撃と、絶光の斬撃が正面からぶつかり合う。ほんの僅か、コンマ数秒の単位でそれらは拮抗し──すぐに絶光の斬撃が全てを飲み込んだ。更に横薙ぎの斬撃に飲み込まれプレイヤーがほぼ全員、直撃・余波・残滓に触れて消滅する。

 

「そうだな、まだだ!」

 

 そんな中、黒い制服の少年がアキに飛びかかった。右手に短剣を握り、空中を蹴り飛びかかる。オーバーヒート前提の砲撃を行った戦車の戦車長だ。レイドバトル時には殆ど活躍はなかったが、即座に戦車を乗り捨て攻撃範囲から脱し、剰え反撃を入れるその動きは紛れもなくトッププレイヤーだった。

 

「ああそうだ、だからこそお前は面白い!」

 

 アキの両手の剣は、既に反動で砕け散っている。故に、本来であれば反撃の手立てはないが……あいにく、アキの持つ剣は通常のものではない。ユニーク称号のおまけとして手に入れた、武器を装填し続け損耗を無視するという異質な武器だ。

 結果、反撃が間に合う。再装填されたガラスの刃が、振り下ろされた短剣を両断して砕け散る。それによりダメージ計算が発生し、戦車長のHPが吹き飛ぶことは確定した。

 

「プッ」

 

 しかしその計算が発生する直前、戦車長の口から鉄球が発射された。超至近距離で放たれたそれは、狙いを過たずアキに直撃しそのHPを奪い去る。

 

「さあ、道連れだ!」

 

 そして置き土産として、戦車長の胴体に巻かれていた大量の手榴弾が炸裂した。それはペットの犠牲により復活した直後のアキを襲い、再びそのHPを0に落とすかに思えた。

 

「次回を楽しみにしている」

 

 確実に手榴弾が直撃したはずのアキだが、そのHPは不動。確率で1耐え、よくゲームである根性スキルの効果だった。最低、あと1回。それがアキを倒すために必要な討伐回数である。

 




因みにアキの使ってるスキルに関しては、登場人物紹介を参照してくれよな!

【必殺技】
《英雄出撃》
HP10%以下で発動
相手の無敵状態・攻撃回避状態を無視する
相手が復活又は蘇生手段を付与していた場合、その効果発動後のHPを現在のHPに含めてダメージ計算を行う。

《???》


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閑話 それぞれの極振り戦(vsセンタ)

フブキchを見つつ、魔女の旅々を読んだり、古戦場を走ってたら遅れました。だが私は謝らない。


 極振りの1人、もう1人のStr極振りであるセンタが創造したダンジョンは、自身がRPするキャラクター……その元となった神話に準えた物だった。アキと違い1〜9層まで全てをRPに捧げている。その為、ボス・ギミック・形状全てに平等にポイントは使われているバランスの良いダンジョンとなったのだった。

 

 1層の敵平均レベルは40

 影の国への道、その最初を再現するように作られた草原。草木は枯れ果てたここでは、白骨化した骸骨系モンスターが襲いかかってくる。

 

 2層の敵平均レベルは42

 かつての戦士が残したような武器が突き刺さり、闇の深い森のような様相を呈している平原。1層の敵に加え、幽霊やプレイヤーを行動不能にするギミックが追加されている。

 

 3層の敵平均レベルは42

 一切の光がない沼地で、足を止めれば食われてしまうステージ。この層を進むのであれば、暗視系のスキルやアイテム、又は光源を発生させることが必須となる。だが、基本的に光源には敵が怒濤の勢いで寄ってくる仕様となっている。

 

 4層の敵平均レベルは45

 フィールド全てが大時化の海となっている、初見殺しのステージ。空中、水上、水中の何れかのルートを辿る必要があるが、どのルートでも絶え間無くモンスターが襲いかかってくる。

 

 5層はボス部屋

 ボスのレベルは56。テント以外特に障害物もない、薄暗い崖に面した平地。ボスは筋骨隆々の戦士が10人。まあ、4層までを突破したプレイヤーなら工夫すればどうとでもなる相手だ。

 

 6層は一本橋

 ボスやモンスター、トラップなどは基本的に一切ない。が、普通に渡ろうとすると中心が船のマストのように立ち上がり、跳ね返される。無論、橋から落ちたら即死である。正攻法で突破するのなら、Aglが500は必要という無駄に高難易度のギミックだ。

 

 7層の敵平均レベルは60

 怪物の首が括られた9つの柵と、1つの城壁があるステージ。【ダン・スカー・サーペント】というモンスターのみが出現する。ただし、その出現速度は並のモンスターハウスを遥かに凌駕している。

 

 8層の敵平均レベルは70

 城壁と城壁の間のステージ。基本的な仕様は7層と同じとなっている。

 

 9層はコロシアム

 ダンジョンの全体的な軽量化によって実現したもう1つのボス部屋。そこで待っているボスのレベルは90。その正体は、紫タイツで紅の呪槍を2つ構えたあの人である。

 

 同じStr極振りであるアキとは、似ているが非なる構成のダンジョン。場合によっては個人での突破も不可能ではなく、逆にフルレイドでの参戦も不可能ではない。しかし、徹底的にプレイヤーを篩にかける仕様から、センタがプレイヤーとの戦闘を始めたのは速くはないが遅くもない時期だった。

 アキのダンジョンよりは難易度がまだマシなだけあって、当然10層のセンタへたどり着くプレイヤーは少なくない。同時に、センタは極振りの中で見るならステータスが1番低い。つまり、1度くらい撃破されてもおかしくはない筈なのだ。

 

 しかし、未だ不敗。

 

 その原因は、センタを極振り足らしめているプレイヤースキルだった。

 

 

 センタ塔10F

 極振りが待ち受けるボス部屋となっているそこでは今、2種類の爆音が轟いていた。

 片や、灰と黒の2頭が牽く鎌戦車(チャリオット)が掻き鳴らす轟音。例の青タイツを纏うセンタが地面を削るように駆るその戦車は、防御が低いプレイヤーなら轢き潰せる破壊力と、高速プレイヤーに追いつくことのできる速度を持っていた。

 片や、その戦車に食らいつき時折追い越しすらしているケッテンクラートの鳴らす爆音。たった1人の挑戦者が駆るその戦車は、数度の交錯を経て尚破壊されず唸りを上げていた。鹿撃ち帽にインバネスコートを纏い、マスケット銃を担ぎパイプを咥える挑戦者。その名はシルカシェンと表示されていた。

 

「へっ、相変わらずやるじゃねぇか!」

「何度もこうして打ち合っているからね。自ずと癖も読めてくるさ」

 

 双方が駆る愛車の交錯に合わせ、センタの朱槍と挑戦者の持つマスケット銃が交差する。通常であれば、負けるのは間違いなく通常プレイヤーである。しかし、弾き飛ばされたのは()()()()だった。

 

「それに、貴方たちに憧れて組んだこのビルド。そう易々と負けてやるものか!」

 

 挑戦者がセンタに拮抗することができているのは、偏にそれが理由だった。

 極振りに憧れ、極振りを参考にし、最終的に薬でもキメてるんじゃないかという変人の領域に辿り着いた。StrとLuk以外を捨て、空間認識能力という最大の関門を突破した気狂い。バイクという補助装置、ペットというブースターによって極振りと拮抗し得る領域まで辿り着いたプレイヤー。それは、準極振りとでも言うべきだろう。

 

 鎌戦車が弾き飛ばされ2頭の馬がたたらを踏み、ケッテンクラートは回転しながら大きく弾き飛ばされていく。地面との間に火花を散らしながら、あり得ないことに2人の駆り手の視線が交錯する。

 

「《パワーショット》」

 

 直後、ケッテンクラートの駆り手が発砲した。努力の果てに実現した、Str値8640という本家に迫る数値。数秒しか実現不可能な理論値ではあるが、武器スキルによる強化も乗ったそれは必殺の一撃となる。

 

「舐めんな!」

 

 しかし、手が届くことと、手にかけることは別物だ。況してや、その相手が培った技術1つで極振りに食いつく化物であれば尚更である。

 一直線に飛翔した魔弾は、ルーン文字で綴られた障壁に激突する。当然それは破られるが、一回の着弾を介した為に威力と速度が僅かに殺されていた。そうなってしまえば、センタにとって対応は容易だった。

 飛来した銃弾に朱槍を合わせ、掬い上げるように跳ね上げる。なんでもないことのように行われた絶技で、必殺の一撃は見当違いの方向に逸らされた。

 

「お返しだ!」

 

 直後、センタが反撃を放った。極振りとしてのStrで放たれた投げ矢は、同じく必殺。しかしそれを、必殺の銃弾が相殺する。こうして、必殺が連続する奇妙な戦闘が幕を開けた。

 

 戦車とケッテンクラート

 朱槍とマスケット銃

 投げ矢と銃弾

 魔法と散弾

 

 連続する必殺の攻撃は、互いの愛車とステージを加速度的に崩壊させていく。

 

「そらぁ!」

「吹き飛べ……!」

 

 何度目かの愛車同士の衝突の時、漸くそれは訪れた。耐久値の限界によって、2つの愛車が崩壊する。砕ける愛車を見送って、2人の変人が大地に降り立つ。

 

「行くぞカプノス、全開だ」

「全呪解放、加減は無しだ」

 

 シルカシェンが己のペットであるパイプを思い切り吸い、センタはペットを召喚しつつ自身にバフをかける。一触即発の空気が漂う中、先に動いたのはシルカシェンの方だった。

 無言での散弾発射。1発でも当たれば即死の極振りにとって、これ以上ない攻撃。ユキやザイルなら、恐らくこの一撃のみで倒すことが出来ていた攻撃。けれどそれは、センタに限っては大きなチャンスだった。

 

「うりぼう!」

 

 センタの声に応じて、ペットのうり坊が巨大化。その一定時間に1度遠距離攻撃を無効化するスキルによって、センタを完全に庇い盾となった。その隙に足下を抜け、低い姿勢でセンタが疾走する。

 

「ゲイ・ボルク!」

 

 そして、朱槍が跳ね上がりシルカシェンの胸を貫いた。が、そのHPの減少は残り1の時点で停止する。【偽りの不死身】という、簡単に言えば食いしばりスキルのお陰だ。

 

「フッ!」

 

 胸に槍を突き刺されたまま、シルカシェンがそのマスケット銃を跳ね上げる。無論掠っただけでHPが消し飛ぶその一撃は、スウェーして避けられてしまう。だがそれこそが、狙いでもあるのだった。

 

「《バーストショット》」

 

 センタの顔前を銃口が通過する直前、その銃口が爆発した。当然、直撃したセンタのHPは0に向け急速に落ちていき……同じく1で耐えた。同じ【偽りの不死身】スキルを持つ以上、それは当然の帰結だった。

 

「チッ」

 

 舌打ちしながら、センタの吹き飛ばされるままに槍が引き抜かれる。その瞬間、シルカシェンの咥えていたパイプが身代わりとして砕け散った。そして、スキル発動後で隙だらけのシルカシェンにうりぼうが突進した。

 

「デカブツが……!」

 

 巨体×十分な速度=殺傷力の計算によって繰り出された突進は、Strゴリ押しの加速によって回避され、銃を叩きつけられたことによって終幕した。カシャンと音を立てて崩れたうりぼうの欠片が舞う中、視界を戻したシルカシェンの目にセンタの姿が映ることはなかった。左右を見渡しても姿はなく、背後に移動するには時間が足りていない。そこから導き出される結果は──

 

「上か!」

「ゲイ・ボルク=アイフェ!」

 

 空を見上げた直後、朱色の流星が降ってきた。それも、30の鏃として分裂して。槍一本なら迎撃の手段はあった。その為に、1発しか装填出来ない銃には弾も込めてある。

 

「クッ!」

 

 苦し紛れに放たれた弾は、数個の鏃を蹴散らしはしたが見当違いの方向に弾かれる。そして、破滅が訪れる。無数の鏃が直撃し、外れたそれらが起こす衝撃で食い縛りスキルが連続して発動する。残り10数秒しか残ってないとは言え、2850というLuk値が無理やりに生存させる。

 

「とっておきをくれてやる。焼き尽くせ木々の巨人、『灼き尽くす炎の檻(ウィッカーマン)』! 」

 

 終わったと、思った直後のことだった。床を突き破るような演出と共に、燃え盛る木々で作られた腕がシルカシェンを掴んだ。同時に点灯する『拘束』と『燃焼』の状態異常アイコン。

 

「悪りぃな、今回も俺の勝ちだ」

 

 そんな風に不敵に笑うセンタの姿を最後に、MPが切れたことによるバフ切れでシルカシェンのHPは0に落ちた。

 




センタの必殺技
『蹴りボルグ(分裂)』
『ウィッカーマン』

今回登場した、読者様と話してて生まれた準極振りさん
==============================
 Name : シルカシェン
 称号 : リスペクター▽(Str・Luk+10%)
 Lv 60
 HP 3050/3960
 MP 3000/3000
 Str : 700(2400) Dex : 0(50)
 Vit : 0(40) Agl : 0(0)
 Int : 0(0) Luk : 100(315)
 Min : 0(0)

《スキル》
【ガンマスター】【筋力強化(大)】
【幸運強化(大)】【金剛力】
【豪運】【偽りの不死身】
【空間認識能力】【肉斬骨達】20%
【レンジャー】
【月ノ兎】
 Luk上昇20%
 アイテムドロップ確率+10%
【銃弾製作(大)】

《武器》
【マスケティーア】
 Str +300 Dex +50
 属性 : 無
 装弾数 1/1
 クリティカルヒット確率上昇(大)
 射程延長
 装弾遅延(小)
 弾種制限解除

《防具》Vit +40 Str+10% Luk +10%
 頭 鹿撃ち帽子
 体 インバネスコート
 手 幸運の指貫グローブ
 足 剛健のスラックス
 靴 幸運のブーツ
 アクセサリ Luk +50%
==============================
愛車
==============================
【ケッテンクラート】
 攻撃力(低)スピード(極高)Agl 1000
 燃費(最悪)ハンドリング(悪)
 防御力(極高)オフロード(高)
 操縦者保護  自動防御
 道路作製(MP消費)
==============================
ペット
==============================
 Name : カプノス
 Race : 付喪神・真
 Lv : 40/40
 HP 1000/1000
 MP 2500/2500(2875)
 Str : 150 Dex : 50
 Vit : 50 Agl : 100
 Int : 80 Luk : 600
 Min : 50
《ペットスキル》
【完全憑依 : 器物】
【スキル共有】
【パイピング】
 5秒ごとにMPを10消費して発動。自身のステータスをどれか1つ、ランダムに主人に加算する
【ドーピング】
 5秒ごとにMPを10消費して発動。自身のステータスをどれか1つ、ランダムに30%上昇する
【変化物】
 対霊性を獲得する
【ガンギマリタイム】
 HPが80%以上の時自動発動
 正気度が10減少し、全ステータスを20%上昇する
《スキル》
【自暴自棄】
【忠誠ノ誓イ】【魔力核】
【オーバードーズ】
 自身の最大HPを30%減少させて発動
 自身の全ステータスを60秒間1.5倍にする
==============================
理論最大値
Str 8640
Luk 2850
==============================
クリティカル・レア泥・廃火力・高機動・高防御を(多大な金を代償に時間限定で)実現した人。凡人がやるには、最初期のクソ期間と空間認識能力に適応できるかの高すぎる壁があって、それ以降もユキでもないと破産するレベルで金がかかるのでやっていけないビルド。ついでにコネも必要。
因みにペットスキルを見るとヤバイもの吸ってるようにしか見えないけれど、実際は紅茶のいい香りがする。つまり紅茶ガンギマリ。=パンジャンドラム。体験したみんなには空を見上げたパイとウナギのゼリー寄せをプレゼント。今なら早期特典としてマーマイトも付いてるぞ


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閑話 それぞれの極振り戦(vsレン)

デュアル戦(中身入り)はあまりに見応えがない(延々と攻撃を弾きつつ1人1人潰していくだけ)のと、最初に脱落した罰でカットされました


 極振りの1人、Agl極振りであるレンが創造したダンジョンは、朽ちた古塔とでも言うべき様相を呈していた。それ故にギミックは多いがトラップは少なめの構成となっており、敵の強さもそれほどではない為、十分なAglを持っているプレイヤーにとっては比較的攻略しやすいダンジョンとなっていた。ただし、バイクなどの乗り物は実質使用不可能なため、生身で高Aglを持っているプレイヤーに限るが。

 

 1Fは至って普通な、遺跡風ダンジョン

 敵のレベルは35程で、Agl150程の脚が速くアイテム強奪や状態異常を発生させる敵がメインの階層。

 

 2Fも1Fと同じ遺跡風ダンジョン

 敵のレベルは40程度、敵のAglが200になってる以外、大体1Fと同じような構成だ。しかし、床が崩れやすくなっているため、そこを踏みぬいたら1Fに落下する。

 

 3Fも遺跡風ダンジョン

 但し、1、2Fとは趣が少々異なる。床は所々が崩れ落ち、突風などの罠によって落下しやすくなっている。敵のレベルは40と変わらないが、Aglは250まで上げられている。

 

 4Fも3Fと同じ形式

 但し、塔の壁にも所々穴が空いており、時折突風が吹き込んでくる。勿論塔の外へ落ちれば1Fからやり直しである。敵の平均レベルは45となり、Aglも300まで上昇している。

 

 5Fはボス部屋

 柱以外壁のない拓けた空間で、Agl500のコンドル型ボスが待ち構えている。想像以上に速く攻撃力は高いが、その分装甲は薄くHPは低めとなっている。

 

 6Fからは古塔形式

 下がボス部屋故ここには床がちゃんと存在しているが、それ以外は凄惨の一言に尽きる。壁は崩れ、上層への階段も壊れ飛び乗っていかなければならない。敵の平均レベルは50、Aglも500となり、罠もプレイヤーを吹き飛ばすもののみになる。

 

 7Fも同様

 至る所が崩れ、植物が侵食し、上層が見えてしまっている。まあ、正規のルートでなければ上がれはしないのだが。敵の平均レベルは60、Aglも600の大台に乗り上げていく。

 

 8Fはさらに酷い

 壁はなく、床は足場としか呼べない大きさで点在するのみで、それでいて遮蔽物がない為敵と風に襲われやすい。大体の敵が飛行を始め、平均レベルは65となり、Aglは650となる。とても辛い。

 

 9Fは実質ボス部屋となっている

 壁はなく、天井は遥か高くに見えるコロッセオの様な階層。出現するモブは、レベル70の【タワーロックドラゴン】一体のみ。緑色を基本色に、黄色の紋章と黒のラインが入ったその姿は、一部のプレイヤーにとって懐かしいナニカを想起させる。Agl700とかいう数値のせいで、無駄に強くて嫌気がさしてくる。

 

 そこまでの敵を討伐し、辿り着くことのできる10F。そこで待つレンは、それなりに早く戦闘を開始したが当然の如く無敗。しかも同類2人が負けたことで気を引き締めた結果、最初の名乗り以降姿が見えないなんてこともザラになっていた。

 

 

 レン塔9F、そこには今複数のエンジン音が鳴り響いていた。右を見ても左を見ても、今この層にはバイクが溢れていた。【タワーロックドラゴン】は討伐されその姿を次層への階段へと変じ、挑戦者たちを最上階へと誘っている。

 

「ふむ……随分と、減ってしまいましたね」

「すみません、僕が不甲斐ないばかりに……」

 

 最初に残存メンバーを数えていたのはZF、次に頭を下げていたのはイオ。2人のギルドマスターがいることから察せる通り、今レン塔を攻略しているのは【モトラッド艦隊UPO支部】と【空色の雨】の合同部隊だった。

 

「無理を言ったのはこちらなんだ、気にしないでいい」

「これで前よりも、被害は少なくなっとるしのう」

 

 この2つのギルドからレン塔を攻略していた理由は簡単。前者は全ギルドメンバーが、ボス手前までは追いつけることが出来たから。後者は、レイドバトルで助けられた縁があったから。更に前者のギルドでは回復役を求めていて、後者のギルドでは火力を求めていた。この2つの理由によって、一時的な同盟関係は成立していた。

 

 因みに至って普通に会話しているが、Dホイールの究極の姿となっているシド、走り出して合体したハセ、どう見てもアンモナイトなZFが男の娘メイドのイオを囲むという情報量の多い絵面となっている。

 

「それで、これから挑むレンさんなんですけど……ぶっちゃけ、勝算はあるんですか?」

「0ではないと、言いたいですね」

 

 イオの問い掛けに、ZFが落ち着いた声音で答えた。

 元々フルレイド揃っていた連合だったのだが、ここまでの行軍でその大部分がいなくなってしまっていた。現状残っているのは数名。

 

 UPO支部側は6名

 ギルドマスターのZF

 サブマスターのシド

 同じくサブマスターのハセ

 モトラッド艦隊のバイクに乗ったプレイヤーが2名

 どう見てもマキシマムドライブしている、『俺自身がバイクになることだ』と悟った赤いバイクのプレイヤー。

 

 空色の雨側は1名

 ギルドマスターのイオ

 

 その合計7名が、現状残っている戦力であった。それを貧弱と見るか少数精鋭と見るかは人それぞれだろう。だが少なくとも、そこらのボスであれば圧倒できる面子であることは確かだった。

 

「少なくとも、1分は保つんだ。だが今までは、ヒーラー役がいなくてな……結局削り負けていた」

「それが理由で僕を呼んだんですね。一応、大天使なんて称号貰ってますから」

「ええ。次の戦いこそ本命です。極振り戦で消費したものは全て戻ってくるので、気兼ねなくお使い頂きたい」

 

 そう言ってZFは、器用に魔法を使ってイオをシドの背中……背中? 接続されてるバイクに乗せた。

 

「それでは、総員出撃です」

「「「「「おおォォォォォ!!」」」」」

 

 エンジン音と雄叫びが木霊し、巨大な音となってフロアを揺るがした。そしてその勢いのまま、ボスが変化した階段を駆け上がっていく。

 そうして辿り着いた場所は、単純に綺麗な空間だった。塔の天辺なだけあって、障害物が一切存在しない平らで広い空間。時間的に夜な為空には満天の星が輝いており、十分な明かりは確保しつつも幻想的な雰囲気を醸し出している。

 

「また来てくれたのか。諦めず挑戦してくれるのは、私は嬉しいぞ」

 

 そしてそこでは、1人のプレイヤーが腕を組んで待ち構えていた。橙の長髪にサイドテール、黒いサングラスにアイスブルーの眼の女の子。特徴で分かりやすいのは、まずサングラス。その次に、燕の装飾が飾るターコイズブルーの、外側に1枚羽の様な飾りのある膝から下を覆う冷たい風を纏うブーツ。

 ペットとのユニオンも果たし、全力のレンは不敵に微笑んでいた。

 

「ん、新顔が1人いるのか。なら、改めて名乗らないとな。

 私が極振りの1人、Agl担当のレンだ。以後お見知り置きを頼むぞ」

「ええ、これで会うのは2回目ですけどね」

「そうだな。レイドボス戦以来だが、楽しみにしているぞ」

 

 笑顔でサムズアップするレンを見て、イオは内心気分が上がっていた。覚えていてもらえたことと、敵として見てもらえていること。そして久しぶりのPvPの気分に心を踊らせ──

 

「それじゃあ行くぜ。追いつけよ?」

 

 そう言ってレンが、腕時計のようなアイテムを装着した瞬間、そんな気持ちはどこかへ消え去った。訪れたのは、どうしようもない戦闘の緊迫感。

 

「来るぞ、備えろ!」

 

 そんなシドの号令と共に、レンが動き出す前にバイク艦隊が動き出した。アクセルは全開、限界を超えた速度での爆走が始まる中、イオの耳は1つの小さな電子的な合成音を捉えた。

 

 start-up

 

 瞬間、レンの姿が何処かへと消え去った。そして遠くの方から、バイクの爆発音が轟く。パーティメンバーの欄を見れば、驚くことに既に1名が脱落していた。そして、この場にいる全員が確信する。今までと違い、張り切って確実に殺しに来てると。

 

 この場ではレン以外知る由も無いが、腕時計型のアイテムは『自身の時間を加速することでスキルのチャージを終わらせる』課金アイテム(100円)だ。容赦なくそれを使った今、レンの速度は最初からクライマックスであり、攻撃力も最高潮だった。

 

「ありったけの攻撃を!」

 

 ZFが自身も最大限の攻撃を全方位に放ちながら指示を飛ばし、全員がそれに応じて空間が破壊に染まる。どれか1つでも触れた場合、極振りなら即死し兼ねない殺意のフィールド。

 

「【沈黙の日曜日】」

 

 普通なら躱しきれないダメージの雨を、レンは更に速度を上げることで無理矢理に回避することに成功していた。

 【沈黙の日曜日】という、発動57.4秒後に自身のHPを0にする代わりにAglを2.5倍にするスキル。パッシブスキルとしてAgl20%増加の役割も担うスキルが、レンのAgl値を36万オーバーという意味の分からない数値まで跳ね上げていた。

 

 疾風一陣

 気がつけば、ZFが嵐のような風と雷に飲まれ消えていた。

 

 雷光一条

 気がつけば、ハセが半身を捥がれ赤いバイクが消し飛んでた。

 

 疾風迅雷

 ハセが完全に消し飛び、呼び出した外装は嵐に呑まれスクラップと化した

 

「クソッ!」

 

 背のイオを投げ出すように、シドが攻撃を繰り出した。呼び出された機皇帝も相まって、それは十分に強力な攻撃となるはずだった。

 

 紫電一閃

 けれど、結果は無情にも訪れる。僅かにダメージを減少させたからか、シドの上半身がバイクから剥がされ千切れ飛んだ。手に持っていた剣もカラカラと音を鳴らし、回転しながら何処かへ飛んで行く。

 

「滅」

 

 投げ捨てられ、未だ空中を漂うイオもそれに続いた。振り下ろされる、ニーソに包まれた脚。そしてその奥に一瞬だけ見えた白いもの。余りに速すぎる速度が、システムの補正を追い越した瞬間。それが、イオがこのボス戦で見た最後の光景となった。

 

 3、2、1

 Time-out

 

「REFORMATION、なんちゃって」

 

 そして、誰もいなくなったボス部屋にレンが姿を現した。爆発する風に髪をたなびかせ、スーパーヒーロー着地で止まる様はまさにヒーローのそれだった。行った所業はともかく。

 

「やっぱり、私をまともに相手できるのってアキくらいなんだよなー……ザイードは遅いし、あと1人くらい増えないもんかね」

 

 電光石火の勢いでボス戦が終わった部屋で、夜空にそんな声が吸い込まれていった。

 

 




レンの必殺技
【衝撃のファーストブリット】(未使用)
 HP30%以下で発動可能。
 1秒間エネルギーをチャージし、蹴り込んだ相手に向けて解放する。同時に、この際の反動ダメージを無効化する。
【フォトンブリッツ】(未使用)
 HP10%以下で発動可能。
 戦闘終了時まで、自身のAglを倍加する。同時に、自身の思考を加速する。


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閑話 それぞれの極振り戦(雑談)

 極振りの1人、もう1人のAgl極振りであるザイードが創造したダンジョンは、全極振り中最もトラップの多いダンジョンとなっていた。とは言っても致死性のものはそう多くなく、防具に破損テクスチャを張ったり自身のHPが見えなくなったり、そういう地味にウザいものが大半を占めている。

 何故ならば、その方がゲームらしい良いスクリーンショットが撮れるから。因みに運営からの監査が入るため、あまりにアレな写真は即刻削除される安心設計だ。ボス戦前に頼めばデータを貰えるので、其処彼処に配置されている監視カメラにポーズを決めることも楽しみ方の1つとなっている。

 

 そんなダンジョンの1F、2Fは吹き抜けを通し繋がったダンスホールのような構造となっている。

 敵の平均レベルは1Fは35、2Fは40。それよりも大変なのはトラップ。あからさまな赤い線や、気づきにくい場所に貼られたワイヤーを始めとして、最初からプレイヤーをイラつかせてくる。

 

 3Fは拷問部屋。

 2Fのトラップを使い、シャンデリアの上方にある隠し扉からそこには辿り着く。敵の平均レベルは45。暗い、汚い、(血生)臭いの3Kが揃ったその階層にも、いい加減にしろよと言いたいほどのトラップが仕掛けられている。見てはいけないものを見てしまったような感じに囚われていると、即刻モンスターが群がってきてリスポンの憂き目にあうだろう。

 

 4Fは崖と屋敷のセット

 崖の上からスタートし、屋敷の中にある優雅なマネキンの背中に、同じ屋敷の中で見つける短剣を突き刺すと上層へ進むことが出来る。敵の平均レベルは50となっている。

 但し、屋敷の中も外も大量のトラップが仕掛けられており、全てを回避するには奇妙なダンスのような動きをしなければいけない。その中には振り出しに戻らされるトラップや、モンスターハウスもありプレイヤーをイラつかせること間違いなしである。

 

 5Fはボス部屋

 薄暗い部屋の中、白い仮面を付けただけの人型が大量に出現する。一体一体の強さは大したことないので、他愛なく倒せることだろう。

 

 6Fは薄暗く、霧の出ている樹海

 うんざりするほど大量のトラップ、アイテムを盗んでいくタイプの敵、透明化している上攻撃と同時にアイテムを盗んでいく紫トカゲ……その他諸々の要因に邪魔され、誰もその全容を把握出来ていない。ただ分かっているのは、樹海中央がゴールということだけである。

 

 7Fは森の中にある、花畑のような場所

 敵性mobはおらず、レベルも1。猫とリスのような生き物が沢山いる不思議空間となっている。花畑中央の光の柱に乗れば、すぐさま8層へ行くことができる。偶に湧く紫トカゲも、基本は丸まって寝ているだけなので問題ない。

 ……そんな優しい場所に思えるが、実態はまるで違う。擦り寄ってくる猫はアイテムを強奪していき、リスはアイテムを強奪していき、紫トカゲもこっそりアイテムを拝借していく。素寒貧になった後の絶望顔をスクリーンショットするあたり、感情の鮮度がよく分かっていると評判だったりする。

 

 8Fは雰囲気が一転し、霧深い高山。

 天候の特性として運動機能半減・属性効果増加(水・風・氷・炎)が付与された状態で、探索することになる。

 敵の平均レベルは60で、大体の敵が気配を殺して襲ってくる。序でに付いてきたように、猫とリスと紫トカゲは湧いてくる。

 

 9Fは何もない霊廟

 厳かに鐘の音だけが鳴り響き、一直線の道をプレイヤーは進むことになる。とてもスクリーンショットを撮られる。

 

 そうして辿り着く10F。星明かりのない夜空を仰ぐそこは、気がつけば死んでいるキリングゾーンとなっている。

 

 

 極振りの1人、Vit極振りであるデュアルが創造したダンジョンは、本人同様前半後半でガラリと変わるものだった。

 

 前半となる1〜4Fは、武家屋敷というか日本の城風の構造を持つダンジョン。トラップは少なく、硬く経験値をよく落とす敵が大量に出現する階層となっている。後半になると物理無効の幽霊が出現するが、それさえ除けば比較的楽で効率も良いダンジョンとなっている。

 

 5Fは他のダンジョンと変わらずボス部屋

 単純に高スペックの、巨大なラーテルがボスとして鎮座している。防御力が物理・魔法共に高く、HP・耐性も十分にあり、攻撃力も高い難敵だ。けれどまあ、牙の鋭い方が勝つから問題ないはずだ。

 

 後半となる6〜9Fは、前半とは真逆で金ピカの西洋風の城風の構造を持つダンジョン。トラップは少ないが、全体的に敵の強度が若干脆くなっている。が、敵として出現する黄金の骸骨は、幾ら倒しても復活してくるためかなり厄介。一部検証班の証言によると、ヨーロッパにある某城とほぼ同じ構造をしているらしいが、定かではない。

 

 さて、そんなダンジョンの主人であるデュアルだが、極振りの中で一番最初に黒星が付けられてしまっている。本人ではなくNPCではあるが、それでも十分な戦果を挙げられてしまったと言えるだろう。

 

 拘束で移動を封じられ、壁によって貧弱な遠距離攻撃を封じられ、近接攻撃も高速で封じられる。そんな状況の中、延々と蒸し焼きにされた為仕方がないと言えないこともないが……本人にとっては、断じて納得がいくものではなかった。

 

【討伐までは何マイル? 道成寺ごっこしようぜ! お前安珍な!】

 

 そんなふざけたタイトルの、しかもPart48まで延々とデュアルを拘束しつつ焼き上げる動画。そんなあまりにも動きのない攻略動画は、某動画投稿サイトにアップされそこそこの再生数を稼いでいた。当然そんなものを見せられてしまえば、気合いも入るというものだった。

 

 

 しかし、だ。

 片や、防御貫通攻撃や高火力の魔法攻撃でしかダメージを与えられず、必殺技で全回復も完備しているVit極振り。しかも鎧を剥がした場合、跳ね上がったStrによる暴力が待っている。

 片や、ステルスしながら超高速で移動し、ダガーの投擲で状態異常を大量に付与した後写真術で動きを止め、ペットによる高確率の即死攻撃を仕掛けてくるAgl極振り。しかもボス戦の暗いフィールドも相まって、もしステルスを暴いても単純に見つけにくい。

 

 前者はNPCでの撃破報告こそあるものの、そんな相手と戦おうと思うプレイヤーがどれだけいるだろうか? その答えは、否である。

 

『とても恐ろしい 集団心理である……』

 

 挑戦者!! 挑戦者はまだかーー!!!

 なぜ来ないー!!! 一体どうなってるんだーー!!!

 挑戦者が!! 遅すぎるぞォォーーーー!!!

 早く……来てくれ……ダンジョンが……

 

『なぜなら!!! もうお分かりだろう!!!』

『誰も・・・ 挑戦をしようとしないのである!!!』

 

 例の消防車コピペの改変。それを書き上げたメモページを今、ザイードはデュアルに見せつけていた。お互い、ボス部屋までプレイヤーが来てくれないダンジョンマスター同士、何か考えがあってのことだろう。

 

「それで、私にどうしろと言うのです?」

「余りにも、暇で……」

 

 第3の街にある極天ギルドホームでは、2人のプレイヤーが哀愁漂う雰囲気でコップを傾けていた。中身はお酒、飲んでなきゃやってられないのである。デュアルは装甲悪鬼な鎧を脱ぎ神父姿に、ザイードも普段纏う衣を脱ぎ捨てた状態で。因みに双方20歳を超えているので問題ない。

 

「そうですか……飲みます?」

「はい……」

 

 既に消費された酒アイテムは一升瓶3本。電子世界である故現実の身体は酔わないが、2人はもう既に出来上がっていた。

 

「幾つか固定のパーティーは来てくれるんですよ、でも新規の人が来ないんですよ……」

「私なんて、既に飽きられてボス部屋に来てくれる人すらいませんよ……」

 

 その原因は、他のダンジョンに比べて極めて挑戦者が少ない現場だった。ザイードのダンジョンは特定プレイヤーが周回する以外挑戦者がおらず、デュアルのダンジョンは経験値効率の良い下層だけが賑わっていた。

 

「何が悪かったんでしょうね……」

「他の人たちと、変わらないはずなんですがね……」

 

 にゃしいが居たら即座に爆裂させられそうな陰気な雰囲気の中、トクトクとお酒が注がれる音だけが静かに響く。

 

 現状、一番挑戦者が多いのはセンタのダンジョン。2番手がにゃしい、3番手が翡翠となっている。どこも個性が強いダンジョンで、自分たちが作ったものとそう違わない筈なのに何故……そう疑問に思うのも当然だった。

 人気がない理由は、デュアルに関しては単純に倒す労力と倒したことによるメリットが釣り合っていないから。ザイードに関しては倒せるわけねぇだろという諦め、そして挑戦者になるプレイヤーに一番近くで実力を見せつけたことがあるから。しかし2人とも、酔いが回ってそこまで考えが巡っていなかった。

 

「やることないですし、一戦やります?」

 

 お猪口を傾けていたザイードが、白の仮面を若干赤く染めて問いかけた。明らかに酔っ払った演出だが、謎原理である。先程から仮面の目の部分に空いた穴も変形しているとか、コレガワカラナイ。

 

「構いませんが……私と貴方のビルド、相性最悪じゃありませんでしたっけ?」

「なぁに、お互いここまでべろんべろんなら関係ないですよ」

「それもそうですね!」

 

 そう一頻り笑った後、立ち上がった2人は既に千鳥足となっていた。重ねて言うが、現実の身体には一切の影響はない安心設計である。

 

「場所はどこにします?」

「いつも後輩が爆破してるあそこでいいでしょう、どうせ爆破するんですからね!」

 

 路地裏でそんな会話が交わされた数十分後、第3の街にあったビル街は綺麗さっぱりと消滅することになった。

 

 その後、デイリー消化のため意気揚々とやってきたユキが、その惨状を見て『これが人間のやることかよぉぉぉ』と嘆くのが戦闘終了から10分後。街中で警察とカーチェイスを繰り広げるのが15分後。捕まって牢に入れられるのが20分後。札束ビンタで脱出したのが30分後のことだった。

 




>生命の粉塵を盗まれました<
>秘薬を盗まれました<
!ああっと!
アリアドネの糸を盗まれてしまった!


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閑話 それぞれの極振り戦(vsザイル)

風邪で死んでて遅れました


 極振りの1人、Dex極振りのザイルが創造したダンジョンは、難易度は然程でもないが、システムのミスマッチにより最も攻略に時間がかけられた。1層から9層まで、ほぼ全ての行為に何かしらの謎を解く必要があったからだ。

 宝箱を開けるならナンバープレースパズル。扉を開けるならなぞなぞ。階段への扉を開けるにはクロスワード。その他にも魔方陣や詰将棋、エイトクイーンなど様々な謎が完備されている。階層が上がれば上がるほど難しく、又は中身が良品な宝箱ほど難しくなるそれは、考えとしては何の問題もないように思えた。

 

 しかし、運営とザイルの間で致命的なすれ違いが起きていた。

 ネットに接続すること前提でダンジョンを製作していたザイル

 ネットに非接続の状態前提でダンジョンを実装した運営

 その2つがオーバーレイしてエクシーズした結果、『ネットに非接続の状態でネット接続前提の問題しかないダンジョン』という問題がエクシーズチェンジしてしまった。

 

 1階層は洞窟

 敵の平均レベルは35で、謎の難易度は低めとなっている。

 

 2階層は遺跡

 敵の平均レベルは40で、謎はまだ簡単な部類だ。

 

 3階層は森林

 敵の平均レベルは45で、偶に難しい問題が出てくる。

 

 4階層は夕暮れの砂漠

 敵の平均レベルは45と変わらないが、出てくる敵が総ピンクの為不意打ちで死ぬことが多い階層となっている。問題は若干難しい。

 

 5階層はボス部屋

 魔法をバフ含め全反射してくるボス。自身にバフをかけると相手も同じバフがかかり、相手にデバフをかけると同じデバフが返ってくる。因みに相手にバフをかけるとデバフが返ってくる。

 レベルは50とそこまで高くはないので、物理で殴れば基本的に問題ない。

 

 6階層は霧の深い山脈

 敵の平均レベルは60で、謎は難しくなってくる。攻略ルートから外れた谷底に行くと、良いアイテムの入ってる宝箱が高確率であるとか。

 

 7階層は完全に水中

 突入前の扉の前や、内部の所々に設置されている、水中呼吸用アイテムを使用しながら進む階層。宝箱にはそれなりに良いものが多いが、気をとられると溺れてアボンしてしまう。敵の平均レベルは65で、謎は難しい物が多い。

 

 8階層は溶岩流れる火山

 7階層と同じように配置されている、耐熱・溶岩内活動用アイテムを使用しながら進まなければいけない。宝箱の中身は良いものが殆ど。しかしその分謎も複雑な為、あまり熱中していると溶ける。

 最大の特徴として、次の階層への階段を解放する為のスイッチ(当然謎付き)が溶岩の池の内部にある。敵の平均レベルは65で、度し難い難度の謎が偶に紛れ込んでいる。

 

 9階層は天界

 第2回イベント時に、【死界】の対として設定された特殊ステージ。詳細は省くが、簡単に言えば天使系の敵が強化状態で無限湧きする代わりに、自身には永続的な強化及びリジェネと取得経験値1.2倍が付与される。敵の平均レベルは70で、攻略法を知らないと突破出来ない謎ばかりとなっている。

 

 今は攻略も進み、このダンジョンが位置する特設マップに『攻略サイトを開いたまま突入する』という荒業によって、基本誰でも10層までたどり着くことのできる難易度となっている。

 つまりそれは、出現する敵を倒すための実力と、謎を解くための頭さえあれば、誰であろうと極振りと戦えることを示していた。

 

 

 ザイル塔9階層。神聖さを感じさせる光が降り注ぐそこでは今、絶え間ない戦闘の音とともに言い争いの声が響いていた。

 

「ごめんツムちゃん、無理! マジで! 1人じゃ戦線支えられないって! にゃぁ!? 死ぬ、死んじゃうって!」

 

 そんな風に叫びつつ大鎌を振り回し、襲い来る天使型モンスターを1度に3体は撃破しているのは、日本式のフリッフリなメイド服を着た小柄な女子。黄緑の短髪をなびかせ橙色の眼光を散らすその女子は、何を考えているのか首から頬にかけて禍々しいタトゥーを入れており、ギザ歯を見せながら実に楽しそうに傷だらけで笑っていた。

 

 つまり、冥土服のヤベー奴である。

 

「そう言いながら、タタラのHP半分と満タンでピストン運動してるじゃない。それに、タタラはそういうの好きでしょう?」

 

 そう言い返しつつ扉を開けるための操作をしているのは、これまたメイド服を着た背の高い女性。右腕部分はバッサリ切り落とされノースリーブになっているが、その他は所謂ヴィクトリアンメイドと呼ばれるタイプのメイド服だ。矢筒と弓を背負い、長い青紫の髪をヘアピンで留めた彼女は、銀の瞳で出された問題と向かい合っていた。

 

 つまり、メイド服のヤベー奴である。

 

「ピストン運動なんて、ツムちゃんの え っ ち」

「……」

「無 視 ! ああ! そういうツンツンしたツムちゃん、嫌いじゃないわ!」

 

 そんなことを言いつつ、タタラと呼ばれた少女は天使型モンスターを斬り伏せていく。その小柄な身体には幾本も弓矢が刺さっているが、攻撃を受け減少したはずのHPはスキルによる回復で帳消しとなっている。更に、矢が刺さったままというのは、僅かな痛みとそれなりの異物感、不快感があるはずなのだが……その表情は恍惚としていた。

 つまり、ドMのヤベー奴である。

 

「……よし、解けた」

 

 相方に放置プレーをかまして問題を解いていた、ツムちゃん……ツムギというプレイヤーは、相方の反応をBGMに面倒な難題を解き終えていた。解いていたものは『エイトクイーンを8回解くとパネルが全て解放され、解読が可能になるナンバープレースパズル』という嫌がらせのような代物。

 つまり、頭脳派のヤベー奴である。

 

「そんな木偶と遊んでないで、早く行くぞタタラ」

「えー、もうちょっとレベル上げていきたいー」

「元はと言えば、タタラが極振りを制覇したいって言ったから付き合ってるんだぞ? まあ、誰にも勝ててないが」

 

 どことなく女性体に見える天使型モンスターと遊んでいるタタラを見て、ツムギが不機嫌そうにそう言った。少し照れていて、目を逸らしているのが高ポイントである。

 そんなツムギの様子を、戦闘中にも関わらず目敏く見つけたタタラは、ニマニマとした笑みを浮かべながら言い返す。

 

「私、そういうツムちゃんのこと好き!」

「ッ、馬鹿。援護するから、早くこっち来なさい」

 

 そう言うが早いか、ツムギの左眼に様々な数値が表示された画面が表示される。同時に、5本の矢が番えられた弓矢がギリギリと引き絞られる。

 

多重照準(マルチロック)……シュート!」

 

 そして、放たれた弓矢は蛇のような軌道を描いて天使型に突き刺さった。それによってHPの減っていた天使型は消滅し、生まれた隙を使ってタタラが脱出する。

 次層へ続く扉を閉じ、安全圏を確保して2人はハイタッチを交わす。

 

「ナイスシュート!」

「そっちこそ、ナイス」

 

 手と手が打ち合わされる乾いた音が響き、すぐにその手は繋がれて、次層へ向けて2人は歩き出す。この2人が登頂していないのは、残るはこのザイル塔とレイド戦前提のアキ塔のみ。通じ合ってる2人で、前衛後衛で別れた構成であるからこその戦績だった。未だ誰からも白星は得られてないものの、十分な成績だろう。

 

「さて、みんな個性的だったけど、ザイルって人のボス部屋はどんなだろう?」

「さてな。Dexの極振りって言うんだから、きっと綺麗な何かではあるんじゃないか?」

 

 そんな風に2人が、期待を募らせたどり着いたザイルのボス部屋。そこには、全く予想外の光景が広がっていた。

 

 そこは、まるで嵐が過ぎ去った直後のような場所だった。

 以前は綺麗であったのだろうステンドグラスは、砕け散り地面に散乱している。

 優美な絵が描かれていたであろう額縁は、真っ二つに叩き折られ絵画は無残にも引き千切られ。

 如何にも高価そうな調度品も残らず砕かれ、見せつけるかのようにばら撒かれている。

 

 そんな破壊跡に1人、赤い縮れた髪を無造作に伸ばし、ボロを纏ったヒトガタが座っていた。裸足で、肩からは五文銭を繋げたような飾りを下げ、顔には右眼以外を覆い尽くすように呪符が貼られている。

 

「……ああ、来たのか」

 

 そんな異様な風体で話すものだから、2人は瞬時に臨戦態勢で武器を構えた。それを見て大きく溜息を吐きつつ、死んだ様な目でザイルが立ち上がった。

 その都会の薄汚れた語彙でしか表現できない様な、暗く濁った目を見てメイドのヤベー奴らは確信する。あ、これ普段の自分たち(社畜)と同じ目だ、と。

 

「なら、さ、俺の話も聞いてくれよ……その後で、ちゃんと戦いはするからさ、な?」

 

 そのあまりにも鬼気迫る様子に、さしものメイドのヤベー奴らも無言でコクリと頷いた。このままじゃ危ないと、直感が囁いていたのだ。その様子に雰囲気を柔らかくしたザイルは、ポツポツと悩みを吐き出し始めた。

 

「俺な、いっつもいっつもあの馬鹿どもの尻拭いさせられてるんだ……β版から。やれ山を斬った、やれ湖に穴を開けた、やれ森が焦土になった、やれフィールドが汚染された……期待の新人は街を爆破して遊びだすし、大人しいと思ってた奴らは街を吹き飛ばすし……毎回だ。毎回俺は、運営と話して愚痴を聞かなきゃいけない」

 

 ザイルが吐き出す呪いの様な言葉に、メイドのヤベー奴らの脳裏に伝え聞いた極振りの奇行が浮かんだ。それに気づいたせいで、目の前のザイルに対して同情にも似た感情が湧いてくる。

 

「それでいて周りから浴びせられるのは、『極振り最弱』『極振りの良心』を始めとして俺の自由を拘束する物ばかり。憂さ晴らしに突破しやすく作ったはずのダンジョンは、運営とのすれ違いでクソダンジョン呼ばわり……」

 

 心の底から吐き出しているのがわかる溜息が、ボス部屋に静かに響いた。

 

「アイツらとつるんでるのは、普段の疲れを飛ばしてくれて楽しいからいいんだ。事後処理が私に回ってくるだけで」

 

 私と言うぽろっと溢れた一人称に首を傾げるも、一振りの刀に見える物を携え、3丁の浮かぶ長銃を従えたザイルが立ち上がったことにより、改めて戦闘態勢を取ったことで忘れ去られた。

 

 直後、双方の間に10のカウントが出現した。

 

「だからさ、ここまで来た奴らには毎回謝ってるんだ……イメージ壊して悪いなってことと、今から八つ当たりの対象にして悪いってこと。そして最後に、β版での極振り最強を、あまり舐めるなよってなぁ!」

 

 ザイルの狂ったような笑い声に合わせて、カウントが0になった。

 

 同時に駆け出したタタラと、矢をつがえたツムギの前で、ザイルが宙に浮かんでいた銃を手にとって言った。

 

「《Advent》」

 

 瞬時に地面に描かれた魔法陣から召喚されたのは、ザイルのペット。実装されている中で間違いなく大当たりの、人型の従者(サーヴァント)。アンドロイドと言うよりは絡繰に近い、4本腕に4色の武器を構えたソレは、マグナという名が付けられていた。

 

「こういうゴチャゴチャしたの、吹っ飛ばしたら気持ちいいよなぁ!」

 

 そう言ってザイルは、何処からともなく取り出したカードを長銃に差し込み、マグナの背中に突き刺した。そう、これこそがザイルの必殺技1。他の極振りと違い使い切りであるため、初っ端から使用を許されたヤケクソ技。

 

 FINAL VENT

 

 何処からともなく、システム的に合成された音声が響いた。

 

「タタラ! 止まって全力防御!」

「ふぇ!?」

 

 マグナの全身が変化していく。絡繰仕掛けが稼働し、各部のパーツが開き、ミサイルポッドやレーザー砲が露出する。ソレを見てツムギは警告を発したが、時既に遅し。

 

「もう遅い《エンド・オブ・ワールド》」

 

 銃弾砲弾光線が乱舞し、破壊跡のようなボス部屋に破壊の嵐が吹き荒れた。しかも発射された全てが、気味の悪い軌道を描いて2人に迫る。本来外れるような軌道の物も、Uターンするように飛来する。

 

「え、ちょ、わっ」

「チッ、くそ!」

 

 それを迎撃するのは、乱れ振るわれる大鎌と、乱射される弓矢と魔法。ギリギリで拮抗したそれらは、必殺技の時間が短かったお陰でメイド服のヤベー奴らのHPを3割削るだけで終わった。

 

「Go!」

「援護頼むね!」

 

 大破壊の所為で粉塵が舞い上がり、視界がろくに取れなくなった戦場。そこで唯一活動できる《空間認識能力》の持ち主であるタタラを先行させ、ツムギが後方支援を担当する。これが、ヤベー奴らのいつもの必勝パターン。それに持ち込んだのだから、僅かなれど勝機があるように思えた。

 

「生産職が、素材の消費を無しとされたらなぁ、そこらの戦闘職に負けるようなこたぁねえんだよぉ!」

 

 が、しかし。粉塵を抜けた先に広がっていたのは、迫り来るマグナと、20を超える銃器を積んだドローンの群れだった。

 

「えっ」

 

 タタラとマグナが互いの得物で斬りむすんだ直後、自身のペットを巻き込んでザイルの操作するドローンが銃弾を吐き出した。恐ろしいことに反動で逆方向に飛んで行くそのドローンは、弾を撃ち尽くすと同時に自爆して破片をばらまいて行く。その間隙を3本の長銃の射撃がカバーし、その間に次のドローン群が生産される。

 

「増産、増産、更に増産! そうだな、空だけじゃ寂しいから戦車も呼ぼうか」

「は?」

 

 ドローンの撃墜に精を出していたツムギがそんな声を漏らすより早く、僅か数秒でミニチュアの戦車のようなものが多数出現した。しかもそれらは、今度はツムギに対して狙いをつけて攻撃を開始する。

 

「《スプラッシュ》《フリーズ》《アローレイン》!」

 

 水を飛散させてから凍結しドローンを落とし、弓スキルによる雨のように振らせる一撃で戦車を撃破して行くが、ザイルのワンクリックで増産されるそれらの生産速度に撃破が追いつけない。

 

「よっし倒したぁ!」

 

 焦燥がツムギの心を焼く中、頼れる相棒のそんな声が聞こえた。機械の群れから目を離して確認すれば、そこでは装備などでブーストされた即死を引き当てたのか、ザイルのペットを両断したタタラの姿が。

 

 いくら極振りとはいえ、ザイルは見たところ近距離型ではない。腰に佩いている刀こそ不安要素だが、ワンチャン自分の相棒なら倒せるのではないか。大鎌を振りかぶりザイルに向かって行く相棒を見て、そんな考えが浮かんだ直後だった。

 

「撃ち抜け」

 

 爆発音と共に、タタラはツムギの元まで吹き飛ばされた。ダメージこそ軽微だった為、きっとスキルか何かなのだろう。そう思い、迎撃しながらザイルを見て、そこで蠢くものを見てツムギの頭は一瞬硬直した。

 

「なに、アレ?」

 

 ザイルがその手に持っていたのは、異形としか言いようのない武装だった。

 ザイルの周囲に蠢くそれは、蛇のように動くが柄を有している。腕の振りに応じて波打つそれは、銃身のみとも言える銃が、フレームで幾つも繋がれ、玉簾状になっているものだった。またその先端部の銃身のみが、精緻な龍の顔となっている。

 それは愛称が鈍器と呼ばれるライトノベルにおいて『銃鎖刀』と呼ばれた異形の武器を元に、鞭として使えるまでその長さを伸ばしたゲテモノだった。

 

「それじゃあ、連射いくぞ」

 

 そうザイルが宣言した瞬間、数えて50の砲身が火を噴いた。一斉ではなく、手元から順に先端部に向けて。ザイルの高笑いに合わせて、弾丸が四方八方に撃ち出されていく。

 

 当然その全てが、ものによっては90度以上のターンを見せて2人への直撃コースに捻じ曲がる。

 

「タタラ、突っ込め!」

「ツムちゃんは?」

「どうにかする」

 

 そんなやり取りを交わし、銃弾を一身に受けつつも疾走するタタラだったが……

 

「残念だが、そこは地雷を埋めてあるぞ」

「ぎゃー!?」

 

 狙い澄ましたかのような爆発と銃撃で再び押し戻される。その間もあくまでドローン&戦車の増産は止まず、戦場の流れは決まってきていた。

 

「このまま削り倒すのはなんか違うしなぁ、俺もいっちょ必殺技で締めるか」

 

 絶え間なく銃撃と製作をこなしつつ、ザイルがそんなことを呟いた。

 

「なあ、今回の挑戦者。丁度いいから昔話をしてやるよ。なに、そっちにデメリットはほぼないから聞いていけ」

 

 そういってポツポツとザイルは語り始めたが、正直なところ2人にはそんな余裕なんてなかった。

 

「まだこの本サービスじゃ実装されてないみたいだが、β版ではステータスが補正込みで8000を超えるとな、そのステータスに対応した自分が所持しているスキルを1つ、自分だけのスキルに進化させられたんだ」

 

 βテスト期間終了目前だったせいで、仲間内でしか試せなかったけどな。そう言ってザイルは自嘲気味に笑った。そんなもの見てる余裕は誰にもなかったが。

 

「でもって、俺の必殺技のもう片方はソレだ。今のリソースじゃ首一本が限界だが、折角だし見ていくといい」

 

 そう言ってザイルが自身の首に、注射器のようなものを突き刺した。その自傷よりHPが10%まで減少し、注射したDexブーストアイテムによってステータスが跳ね上がる。

 

「オン・コロコロ、センダリマトウギソワカ──」

 

 そしてザイルが真言を唱えた瞬間、ソレは一気に形を表した。散らばる瓦礫や機械の破片が組み上がって生まれていくのは、蛇の……否、龍の首。それも、腐敗したような肉に骨の様な外殻と所々に鱗が付着しているようなもの。それが橙色の目を光らせ、グパァという生々しい音を立ててその口腔を晒した。

 

「六算祓エヤ滅・滅・滅・滅・亡・亡・亡ォォォ!」

 

 その直後、龍の首が向いていた方向にあったもの一切合切が消滅した。『アイテムを任意の数消費しその数と質に応じたモノを召喚、自身に憑依させ使役する。その際付与されるステータス、状態異常、特殊効果等は呼び出したものに対応する』という、かつては【廃神招来】という名で呼ばれたスキル。現行の【憑霊術 : 荒御魂】の上位互換のそれが、ザイルの持つもう1つの必殺技だった。

 

「いやぁ、久しぶりにやってさっぱりさっぱり」

「こん、のぉ!」

 

 晴れ晴れとした表情のザイルに向け、黒い大鎌が振るわれた。しかしその一撃は、龍の首がブレることなく受け止めた。ペットスキルによる蘇生。今はまだ1部にしか認知されていないが、それは非常に有用なものだった。

 

「悪いな。ユキと違ってこいつ、半自動(セミオート)なんだ」

「あの人、普通に不意打ちを防御してきましたが」

「なんなんだよあの後輩……」

 

 この頃件の後輩は、投獄されて札束ビンタの準備中なのだが、そんなことは誰も知る由がなかった。

 

「とまあ、あれだ。全塔制覇頑張れ、応援してるぞ」

「それはどうも!」

 

 大鎌を引き戻す間も無く、多数の銃器が火を噴いた。どこぞの団長並みに被弾したタタラのHPはそれで0になり、勝利はザイルに輝いたのだった。

 




ザイルの必殺技
【エンド・オブ・ワールド】
ザイルの趣味
ごちゃごちゃした説明は嫌いなんだよ……

【廃神招来】
ザイルのβ版スキル
他の極振りを相手にしても、全開なら引き分けか勝ちに持ち込めていた。見た目からして、その、ね?


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閑話 それぞれの極振り戦(vsにゃしい)

なんかスランプ気味なので微妙かもしれない


 極振りの1人、Int極振りのにゃしいが創造したダンジョンは、極振りしているステータスが Int(知力)であるにもかかわらず、最高に頭の悪いダンジョンだった。

 何故ならば、そのダンジョンは底である1階層、中ボス部屋である5階層、にゃしい本人の待つ10階層を除き、ダンジョン製作を放棄したと思える完全な吹き抜けになっているのだから。

 

 1階層から4階層は、完全なる吹き抜け

 上層へ登っていくための通路は壁に設置されており、プレイヤーは各自その入り組んだ通路を登っていくことになる。敵の平均レベルは40ほどであまり強くないが、爆発か爆裂する武器を持った機械か、そういう攻撃をしてくるモンスターのみとなっている。壁を駆け上がってく中でそれ食らったら、2階層以上の高度だと確実に1階層にまで落ちて死亡する。仕掛けられている罠も、プレイヤーの移動を阻害するものか、爆発してプレイヤーを空中に投げ出すものばかり。

 ボス層まで飛んでいけば簡単なんじゃないか。そう言ってペットと空に飛んで行ったプレイヤーは、モンスターの集中砲火にあって墜落した。このことから、空を飛んで上昇した場合ヘイトが急上昇することがわかった。

 

 5階層は中ボス部屋

 後方に伸びる長い角、口外に露出した鋭い牙、そして赤い鬣を持つ頭部が特徴の、四足歩行で翼を持つドラゴン。ぶっちゃけ某ゲームの某古龍と極めて似通っている。が、商標的な問題で各部大きく印象変更が加えられていたりする。

 にゃしい曰く「爆発(スーパーノヴァ)が気に入りました」とのことで、その点だけがなぜか強化されている。レベルは50なので、それなりのプレイヤーなら特に問題なく突破できることだろう。

 

 6階層から9階層までも、完全なる吹き抜け

 基本的には1階層〜4階層と変わらない。しかし壁の通路は銃のライフリングのように設置されており、敵のレベルも55まで上昇してAIの行動は非常にいやらしくなっている。

 最大の特徴が、にゃしい本人がこのフロアのギミックを担当していること。AIの場合は一切発生しないが、フロア全てを焼き尽くすエクスプロージョンが発生するのだ。ぶっちゃけこれでモンスターもギミックも焼失するので、これが一番の難関と言って差し支えないだろう。

 にゃしいの気分次第で、30秒に1回から5分に1回のペースで爆裂する。申し訳程度の退避スペースはあるものの、にゃしいのテンションが上がってくると大抵次の退避スペースには間に合わない。ので、基本的にはAIがボスを担当しているときに攻略することが、攻略サイトでは推奨されている。

 

 しかし、だ。そんなダンジョン(本人入り)に挑もうとするのであれば、方法はないこともない。爆裂を20発撃った後に、爽快感からかは知らないが5分ほどインターバルが空くのだ。その隙に塔を登っていくのであれば、本人と相見えることも不可能ではない、かもしれない。

 

 

「急げ急げ! もう次の爆裂まで時間がないぞ!」

「Go Go Go Go!!」

 

 にゃしい塔8F相当。そんな場所で、数名のプレイヤーが声を張り上げていた。その理由は叫ばれている通り。早く移動しなければ、つい先ほどまでダンジョンを焼いていた爆裂が再び発生するから。そう、今この場にいるパーティは、にゃしい本人に挑もうとしているのだ。

 

「了解っす。掴まっててくださいっす!」

「敵の動きは、いざとなったら僕が止める!」

 

 爆裂ではなくバイクのエンジン音が鳴り響き、僅かなインターバルを使って2つのパーティが塔を駆け上がっていく。

 攻略しているのは、リシテアを筆頭とするレン塔に登っていないギルド【モトラッド艦隊UPO支部】の面々と、同じくアークを筆頭とするギルド【空色の雨】の合同部隊。その中でも、何らかの理由でIntを上昇させんとしている面々だった。

 

 2パーティ12人の彼ら彼女らは、機動力を補うために総じて2人乗り。アクセルも全快。マキシマムドライブはしていないが、全てを振り切るように塔を駆け上がっていく。唸りを上げるエンジン、轟く排気音、ついでに数名の悲鳴。モンスターもギミックも全てが爆裂により蒸発した今、彼らを止めるものは何一つ残っていなかった。

 

 そうして、彼らが辿り着いた10層のボス部屋。そこには、にゃしいが作ったなんて欠片も思えない不思議な光景が広がっていた。

 

 構造的には、単純な円柱状の広い空間。けれどその壁は全て、ギッシリと本が収められた本棚となっていた。

 この空間の所々には光源と思われるランプや、浮遊する光が舞っており、柔らかな光で照らし出している。

 極め付けの特徴は、空の見える天井間際に浮かぶ立方体。壁面と同様本棚となっているそれは、くるくると向きを変えつつ回転していた。

 

「くっふっふ、よくぞここまできましたね! 挑戦者の諸君!」

 

 そしてその直下で、精一杯の大きな声でにゃしいが声をあげた。

 右手に長杖を持ち、左手を魔女っ子的な三角帽にかけている。眼帯を付けていない眼をギラギラと輝かせ、頬を紅潮させ、笑みを浮かべているその姿は、何かがキマっているようにしか見えない。どう考えても爆裂ですありがとうございました。

 

「我が名はにゃしい!!! 極振り随一のInt(知能)を誇る者にして、爆裂をこよなく愛する者!」

 

 そんな宣言と同時、登ってきたプレイヤー群とにゃしいの間に10のカウントが現れた。同時ににゃしいのペットである、翼の生えた巨大な黒猫が直衛として出現する。

 

「全員散開! 加速をつけて吹き飛ばすぞ!」

「「「了解!!」」」

 

 1度目じゃないのに変わらないにゃしいのテンションに辟易としながらも、各プレイヤーがアクセル全開でバイクをかっ飛ばし始めた。どうせ固まっていても、開幕の爆裂(小)で全滅する。であればこそ、最速の波状攻撃が不意打ちが最も有効手段と判断されていた。

 

「さあ、矮小なる挑戦者たちよ。我が究極の爆裂にひれ伏すが良い!!」

 

 戦闘は、そんなにゃしいの芝居がかった厨二セリフとともに始まった。台詞とともに放たれた爆裂(小)によって、壁面には焦げ一つ残さずバイクが1台蒸発したのだ。

 

「予定通りっす!」

「総員、一斉射!!」

 

 しかし、そんなこと知ったことかと5台の疾走するバイクから攻撃が放たれた。炎、氷、雷、水を始めとした様々な属性の魔法。銃弾や弓矢などの射撃。ガチ勢と言われるプレイヤーであろうと、無傷では切り抜けられない破壊のカーテン。

 

「ふっ、甘いですね。極振りたる者、全体攻撃程度、軽く捩伏せられるのですよ!!!」

 

 そんなにゃしいの言葉とともに広がった爆炎が、その全てを相殺して焼き尽くした。それは、なんてことないただの防御魔法。ただし、10倍を超える出力差で相性の悪さすら覆す力技だった。

 

「吹き飛べぇ!」

 

 馬鹿げた火力の防御魔法にも、その単純さゆえの欠点が数個ある。1つは、展開すれば視界がふさがれること。もう1つは、強度を求めた結果展開時間が少ないこと。

 つまりタイミングを見計らえば、ユキほど精密でない防御のため誰でも突破が可能なのだった。それを数度の挑戦で理解したプレイヤーが、バイクに乗って特攻した。

 何せ、一撃当てれば勝ちなのだ。刺し違えてでも倒すことが出来れば、それでパーティとしては勝利なのだから。

 

「にゃぁ」

 

 けれど、その突撃は控えていたにゃしいのペットによって阻まれた。羽の生えた巨大な黒猫による一撃が、バイクを大きく弾き飛ばして主人を守る。

 ユキのように本体がみみっちい火力しかない代わりにペットが高火力なタイプと違い、本人の火力が突き抜けているからこその防御専門のペット。それがにゃしいのペットであるキメラキャット、みゅいみゅいの役割だった。

 

「ありがとうございますよ、みゅいみゅい。

 では私も、なんか勝手に負けてくれやがった同志の弔いのために、1発大きな爆裂をするとしましょう!」

 

 そして、そんな都合の良い理由をこじつけて、大きくマントを翻らせてにゃしいが動き始める。

 

「まずは、チョロチョロ動くバイクが邪魔ですね……《星火燎原》!」

 

 瞬間、部屋全体が燃え上がった。にゃしいが使ったのは『時間経過で魔法威力が上がる状態を自身に付与する。序でに威力はInt依存のダメージフィールドを展開する』魔法。それによってボス部屋は紅蓮の炎に包まれた。

 

「バイクが……! 悪いっすね」

 

 その炎によって、一瞬にしてバイクのタイヤがバースト。燃料タンクに引火してスクラップと化した。乗り手の誰もがクラッシュに巻き込まれることなく脱出したのは流石と言うべきか。

 

「まだだ! あと60秒、まだチャンスはある!」

「諦めるのはまだ早いっすよ!」

 

 だがそれでも、攻撃は届かない。炎熱のカーテンの向こう側にいるにゃしいに届く前に、燃え盛る炎が全てを焼却してしまう。

 加えて、展開されているダメージフィールドも問題だった。スキルとしての上限まで届いているその火力は1000。プレイヤー側のステータスに応じて多少の減衰はあるものの、確実に挑戦者側の時間をすり減らしていた。

 

「そうです、我が爆裂を受ける前に負けるなんて、神が許しても私が許しません!」

 

 挑戦者側の攻撃の悉くを焼却しながら、炎の中心でにゃしいは叫ぶ。そして不敵な笑みを浮かべながら、幾層にも重なった魔法陣を展開しながら詠唱を始めた。

 

「黒より黒く闇より暗き漆黒に、我が深紅の混淆を望みたもう。抑止の輪より外れ、天秤の理を破却し、七天を須らく焼き尽くさん」

 

 足元に1つ、頭上に1つ、胴の周りに1つ。計3つの魔法陣を起点として、外周部に新たな魔法陣が綴られていく。

 

 10人の挑戦者の放つ攻撃なんて知るかとばかりに、目を瞑ったにゃしいは1人炎の中で自身の最大を放つ準備を続けていく。

 

「創世の火を灯せ、さすれば不死の象徴たる光が、無明の闇を駆逐せん。遍くモノを灰燼へ帰し、尊き銀河をも焼却せよ!」

 

 そう詠唱が一区切りつけられた時、にゃしいが懐から取り出した毒々しい液体が入った注射器を、己の首に突き刺した。中身を注入しきったアイテムが消えると同時、HP・MPが急速に減少し、にゃしいのステータスアイコンに髑髏のマークが点灯した。

 

「第零術式起動、代償確認、火力上限の撤廃を確認。さあまだまだ行きますよ! MPリチャージ、そして全てを爆裂に!!」

 

 それは、にゃしいが選択した必殺技。『HP・MPを強制的に1にする事で、次の攻撃のダメージ上限を撤廃し、MPをつぎ込めば突き込むほど火力を上昇させる』『使用時、MPをMAXまでチャージする』2種類。つまり、爆裂の威力を上昇させることしか考えていない物だった。

 

 因みに詠唱も厨二がかった台詞も、本来ならば必要のないものである。でも本人がカッコいいと思ってるから必須の要件なのだ!

 

「さあ、見るがいい。レイド戦の時より遥かに上昇し、高みに踏み入れた我が爆裂を!!」

 

 完成した積層魔法陣が、火の粉を散らして光り輝く。ここまできてしまえば、もう攻撃も間に合わない。万が一を狙って攻撃を続けてこそいるが、挑戦者側の心は諦めで一致していた。

 

「もっとです。もっと輝いて! 私の自慢の爆裂!!

 エクスプロージョン・バァァァァスト!!」

 

 そうしているうちに、魔法は完成した。

 

 爆発する炎。熱。衝撃。紅蓮の焔が世界を舐め、渦巻いてどこまでも広がっていく。ボス部屋を焼却し、階下にまで進出した焔が何もかもを燃やし尽くし、反射して帰ってきた焔が再度ボス部屋を焼き尽くした。

 純粋な極振りが放った一撃は、その程度ではまだとまらない。調度品を焼き尽くし、本棚を灰にして、ボス部屋に留まった爆裂はどうなるか。蟠り溜め込まれたエネルギーはどうなるか。

 

 答えは簡単。潰れて流れて溢れ出る。

 

 外から見ていたプレイヤー曰く、溢れ出た爆炎はまるで火山が大噴火を起こしたようだったという。

 



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閑話 極振り大トリ戦(vs翡翠)

ここまで読んでくれた人なら分かると思うけど、一部不快に感じるシーンがあるだろうから注意をですね? 一応しないと思いまして。

(執筆 : 翡翠組に身体を乗っ取られた作者)



 極振りの1人、翡翠が創り出したダンジョンは何もかもが異質だった。ダンジョンの構成も、フロアの難易度も、ボスとしての立ち位置も、そしてその挑戦者さえも。

 

 1階層は食堂

 敵もトラップも宝箱もなく、調理器具と調味料だけは極めてふんだんに存在しており、1フロアが丸々食堂になっている。偶にボスである翡翠ちゃん自身が降りてきて、食材を調理して美味しそうに食べている姿が目撃されている。一応この場で戦闘することも出来るが、ボス部屋という縛りも何もない場所であるため勝利は非常に困難である。

 

 なお、この階層は『部位欠損が発生した場合、再生させない限りパーツはその場に残留する』特殊な状態となっており、翡翠ちゃんに挑む場合は食べられることを考えた方が良いだろう。

 

 また、この階層は『プレイヤーに味が設定されている』『食材(プレイヤー含む)を調理したい放題』等のことに気付き、実践しだしている中々にヤバイプレイヤーがたむろしている。同好の士の集まりである為、基本的に民度は恐ろしい程高い。

 それでいてかつ、端的に言えば翡翠ちゃんが大好きな連中である為、翡翠ちゃんのお楽しみ中に攻撃しようものなら即刻隣のプレイヤーに叩き潰されること間違いなしである。ア゛マ゛ソ゛ン゛ッ!!されてハンバーグにされたり、脳を吸われたり、頭部をバッサリやられない為には、ルールを守るか10層に行くことが推奨される。

 

 2階層から4階層は、全く同じ構成となっている

 この階層は10m×10m×10mの立方体空間が幾つも組み合わされて形作られており、5分毎に道の繋がる先、天候、ポップする敵、敵のレベルがランダムにチェンジする。

 何もかもがランダムであり、本当に運が良ければ2つ目の部屋が次層の階段だったりもする。運が悪ければ、1時間近く彷徨っても階段が見つからないこともザラである。そういう時は、諦めて1階層のパーティにでも参加すると気が紛れるだろう。

 

 5階層はボス部屋

 ただし、第3の街付近にあるダンジョンの最下層に出現するレアモンスターとの連戦である。レベル50の中ボスラッシュだが、近くの連中に攻略法を聞けば特に問題なく倒せるだろう。肉叩きや刺身包丁、その他諸々の調理道具がモチーフのボスで、元々『キルされる以外解除不能の状態異常をそれぞれかけてくる』以外特に強くもない為だ。翡翠ちゃんの優しさが伝わってきて感謝の気持ちが溢れる。

 

 6階層は真っ白な砂漠

 風と砂と自分と仲間の音しかしない中で、前情報を知らないと気が狂いそうになりながら延々と探索することになる。敵もトラップも存在しないが、付着した白い砂はダンジョンを出ない限り落ちることはない。因みに砂を飲み込むと最大HPが増えるバフが付く。

 次の階層に進むためには、流砂に巻き込まれてフワフワな砂塗れになる必要がある。

 

 7階層は白い雨の降る市街

 無味無臭の白濁した雨が降りしきる中、黒胡椒が吹き出るトラップ以外存在しない空間を歩き続けることになる。設置されてる宝箱からは最高級の食材アイテムが出現する。ここで付着した雨も、ダンジョンを出ない限り落ちることはない。砂と合わせて中々に不快な気分になってくるが、雨を飲むと最大HPが増えるバフが付く。

 次の階層に進むためには、屋外を一定時間探索する必要がある。個人差はあったが、必要時間は大体5〜10分程度。

 

 8階層は暖かい猛吹雪の山

 前2つの階層と違って特に雪を食べてもバフはかからないが、相変わらず雪は付着するとダンジョンを出るまで落ちない。お腹には溜まる。高低差のあるフィールドで、配置されている宝箱からは野菜系統の高級アイテムがドロップする。崖から滑落する以外死亡する要因もなく、山を登頂すれば次の階層に進むことができる。

 

 9階層は黄金の雨が降る一本道

 なんとなく良い匂いがする雨を一身に浴びながら、上層へ向かうための螺旋階段を上っていくことになる。本当にそれだけの階層だが、階段で足を滑らせて落ちれば死亡する。

 

 そう、ここまでの道のりを通ってきた皆々様はお気付きのことだろう。自分たちが明らかに、注文の多い料理店と同じ状況に陥ってることに。

 実際に、10階層で待つ翡翠ちゃんが放つ炎魔法に触れると、特殊な『天麩羅化』の状態異常が発生する。一定時間行動不能、スリップダメージ、部位損傷後パーツ残留、デス後パーツ残留etc……あと揚がった場所から良い匂いがする等の、それなりにキツイデバフが発生する。

 

 だが、こんな時こそ逆に考えるのさ。食べられるのが嫌だではなく、食べられちゃってもいいさと。

 

 

 翡翠塔10階層、ボス部屋に入る手前の空間。そこでは今、1つのパーティが程よく衣をつけられた状態で円陣を組んでいた。

 赤いピラニアの擬人化の様なプレイヤー、緑のトカゲを擬人化したようなプレイヤー、天然痘の擬人化その2人を足して2で割ったような容姿の青いプレイヤー。全員が腕輪と特徴的なベルトを装備したその集団は、いつかのスレッドで騒いでいたギルド【アマゾンズ】のメンバーに他ならなかった。円陣を組む残り3人である、全身に薔薇の意匠が散りばめられた男性プレイヤー、クラゲの意匠が散りばめられた女性プレイヤー、白衣を纏い象の様な頭部装備をつけたプレイヤーも、同好の士であることは間違えようもなかった。

 

 全員の共通の悩みとして、慈善事業をしても助けたプレイヤーが逃げ出すというものがあったりする。初心者狩り(イチゴ味)をア゛マ゛ソ゛ン゛クッキングした影響なのだが、彼らは一切気づいていない。

 

「おいみんな! 食材は持ったか!」

「「「イエッサー!」」」

「下味は十分か!」

「「「イエッサー!」」」

「では、イクゾ-!」

 

 デッデッデデデン、カ-ンなんてBGMが流れそうな勢いで、扉を開けて彼らはボス部屋へ突入していく。そうして施錠された扉は、凡そ10分程度で開かれた。

 最近黎明卿似の仮面を手に入れたらしい某爆破卿がビルの爆破をデイリーミッションとしている様に、彼らは翡翠に挑戦するのが日課となっているのだ。できるならば打倒を、無理なので食べて貰うために。誰も彼も正気じゃないのだ。

 

「よし、ようやくここまで来れたな」

 

 次に現れた集団は、先程の様に一致した特徴のない不思議なメンバーだった。

 1人は濃紺と黒の配色の重装甲を身に纏い、十字に動く単眼のヘルメットを装着し、大きなバズーカと黄色い刃の刀剣を担いだプレイヤー……ぶっちゃけ、某ツィマッド社の傑作モビルスーツそのままの姿だった。

 1人は、ヤンキー風の格好をした女性プレイヤー。金属バットの様な杖を持っていることから、魔法をメインにしていることがわかる。その胸は、平坦であった。

 1人は、近未来的な装甲を身に纏い、単発式の銃と短刀を構えてる男プレイヤー。

 1人は、いつか掲示板でお祭りを起こしたプレイヤー。

 1人は、金属バットが腐った様な武器を持つ男性プレイヤー。

 そして最後の1人は──ニンジャ! 燻んだ緑色のニンジャ装束に身を包み、そのメンポには狂気を煽る字体で「翡」「翠」の2文字がレリーフされていた。

 

 要するに、全員が手遅れな奴らだった。因みに彼らは、上から順に「しろくまアイス」「松茸」「鯨肉」「調味料」「腐った饅頭」「チョコミント」の味が設定されている。

 

「縁も所縁もなかった私たちだが」

「その心はただ1つ」

「ヴォン」

「日本語でどうぞ」

「スシを食べている」

「お爺さん、この場にスシ味はいないでしょ」

 

 そんな風に協調性がカケラもない様に見える6人だが、何だかんだここに来れる辺り実力は高く、先に突入した奴らと何ら変わりない心情を持っていた。

 

「ま、何でもいいからイクゾー!」

「のりこめー!」

「わぁい」

 

 掲示板のノリと殆ど変わらないママ乗り込んだ翡翠のボス部屋は、常人では長時間は耐えられない様な場所だった。白、白、白、どこを見ても白。天井から見える空の曇天を除き、一面の白のみがそこには広がっていた。

 そんな空間の中ポツンと、中央に女の子が立っていた。クリーム色のフワッとしたセミロングくらいの髪に、限りなく白に近い菫色の目、腰の装甲がついた長いスカート以外は普段着の様な装備で、低い背。それだけを見ればおっとりとした雰囲気が伝わってくるが、その実態は極振りの中でも最もヤベー奴であった。

 

「こんにちは、それじゃあ始めましょう」

 

 そして、両者の間に10のカウントが出現した。常連である6人には最早不要な説明はカットされ、最速で最短で一直線に戦闘が開始される。

 

「《アポルオン》《終焉の杖(レーヴァテイン)》」

 

 戦闘が開始された直後、灰色が炸裂した。テレビの砂嵐の様な色彩が爆発的に広がっていき、白の世界が灰色に塗り替えられた。そんな世界に、蛍光グリーンの光が降り注ぎ始めた。

 スキル《アポルオン》によって発動する、特殊天候【終末】。2秒毎にHP・MPからその時点のHPの5%を削り、武装の耐久値を削り、ランダムに状態異常を付与し、属性ダメージを低下させ、発動時天候を強制的に切り替え、それでいてその効果が一定時間残留するもの。それが《終焉の杖》スキルによって、効果が倍化しつつ余計なダメージフィールドまで展開されていた。

 

「いってください、ひーこー」

「ひよ」

 

 それに躊躇なく突入する挑戦者を前に、移動の制限をかけられている翡翠は動けない。しかし、その代わりという様にペットが姿を現した。

 髪の中からひょっこりと姿を現した、七色に色が変化し続けるひよこ。それを見た瞬間、ニンジャと近未来装備の2人が音もなく即死した。レベルは45を超えていたものの、運悪くペットのスキルに引っかかってしまったのだ。

 残った4人も、無事とは言い難い状態となっている。既に堕ちた初心者の子は両足が灰色になり痩せ細り転倒し、ドムの人も突如肥大化した身体が装甲からはみ出ている。

 魔法使いの人は目の焦点が合っておらずその場に蹲ってしまい、暫く正気度喪失によって行動は出来ないだろう。

 

 多数の洗礼から無事に生き残ったのは、金属バットが腐った様な武器を構えるプレイヤー1人だけ。いや、そのプレイヤーも正確には無事とは言えない。何せそのステータスには既に『攻撃力減少』『火傷』『猛毒』の3種の状態異常アイコンが点灯しているのだから。

 

「覚悟!」

「うーん、あんまり美味しくないんですよね……あなた」

 

 振り下ろされたバットは、透明な六角形の板に受け止められていた。それは、ユキのスキルの方の防壁と同質の盾。しかも、ユキと同等の硬度で長時間展開できるものだった。小回りや汎用性で言えばユキ、継続的な防御のコスパで言えばこちらが上回る。

 

「まあいいです」

 

 そして、動きを止められた腐食バット君の周りに防壁が展開し、筒の様なカゴを形成する。そうなってしまえば、長物である得物を十分に使うことはできず──

 

「《ナパームアウト》」

 

 焼かれるだけだった。一応最高位の炎魔法が短い筒状の空間内でのみ炸裂し、腐食バット君のHPをガリガリと削っていく。数秒間炎に晒された後の底には、こんがりと揚がった腕っぽいナニカしか残っていなかった。

 

「ひーこー」

「ひよ」

 

 己のペットが蹴り飛ばして来たそれに、翡翠ちゃんは躊躇なく噛み付いた。まるでトウモロコシでも食べる様に1分程で食べきった後、涙目で舌を出して、うぇぇと翡翠ちゃんは変な声を漏らした。

 当然だろう。腐った饅頭味なんて、綺麗に揚がっても美味しくないなんて誰でもわかる。けれど、お残しはしない主義の方が上回ったのだ!

 

「ひーこー、口直し」

「ひよ」

 

 直後、分身した七色に光るひよこが1匹、開けられた翡翠ちゃんの口に飛び込んだ。直後翡翠ちゃんのHPが半分まで減少したが、とても美味しいものを食べたような、満足気な表情となった。お気に召す味だったらしい。

 

「さて、これで動けます」

 

 そしてHP減少により、範囲制限されていた【終末】と翡翠自身の移動不能が解除される。それは、もう全員が逃げることが出来なくなったことを意味していた。

 

「確かこの方、松茸なんですよね。楽しみです」

 

 今日も翡翠塔は、どこまでも平常運転だった。

 




ひーこーのスキル判定
【殺戮の宇宙】(即死スキル)
ドム→(成功)
魔法→(成功)
近未来→(失敗 : 死亡)
初心者→(成功)
腐食バット→(成功)
ニンジャ→(失敗 : 死亡)

【遺伝子感染】(身体のパーツ異常化スキル)
ドム→(ファンブル! : 肥大化)
魔法→(失敗 : 盲目)
初心者→(ファンブル! : 両足萎縮)
腐食バット→(成功)

【感染拡大】(状態異常付与スキル)
ドム→(失敗 : 麻痺)
魔法→(成功)
初心者→(成功)
腐食バット→(失敗 : 火傷)

【異次元の色彩】&【正気喪失】(SANチェック2/2d6)
ドム→一時的発狂
魔法→一時的発狂
初心者→一時的発狂
腐食バット→2減少の正気


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第103話 イベントの終わり

 思っていたより、イベントの終了はあっけなかった。プレイヤーサイドは悲しむわけでもなく、惜しむわけでもなく、終了時刻に達しようとしている。ダンジョン攻略中のプレイヤーも多々いるみたいだけど、まあもうボスとして戦うことはあるまい。

 

 けれど、せっかくの初高難度イベントの終わりが、こんなつまらないもので許されるのだろうか? こんな普通のイベントと変わらない終わり方で良いのだろうか? 無論、否。断じて否である。

 

 というわけで。意気投合したにゃしいさん、デュアルさん、センタさん、ザイードさんと共謀してある計画を実行したのだった。

 

 

「俺の商品が!」

 

 大雨が降りしきる第3の街。その一角で、ザイルの手から溢れた銃アイテムが側溝に流されていた。なお、雨を降らせたのも、今現在銃を流しているのも俺である。

 そして、現在俺がステルスしながら篭っているこの場所は、排水溝の中。もう勘のいい人はお分かりだろう。それが見えたら終わりなアレだ。

 

「あぁ、ダメか……ロボットアーム作る素材、携帯してたっけ……」

 

 アイテムを暗がりに押し込んだと同時、ザイルさんが排水溝を覗き込んでそんなことを呟いた。諦めてくれそうだけど、ここでスキルを使われたら茶番が一気に終わるので早めに声をかける。

 

「ハァイ、調子いい?」

「ひっ」

「ダンジョンボスとしての最後の時間、楽しんでます?」

 

 ザイルさんが素と思われる悲鳴をあげ一歩下がり、ふるふると首を横に振った。

 

「えぇー……それは勿体ない。爆弾あげるので、最後くらい楽しみましょうよ」

「そう言って、また俺の胃に穴を開けるつもりだろう。騙されんぞ」

 

 普段からビルを毎日爆破してることも相まってか、案の定信用してはもらえないようだった。けれどここで諦めたら、せっかく実行役として出張ってきた意味がない。

 

「確かにいつも、俺はビルを爆破したり無茶な注文をしてザイルさんの胃を痛めつけてます。でも今回は違うんです。イベントの終わりを盛大に祝おうって、ただそれだけ。ザイルさんの技術力が必要なんです」

「確かに面白そうだな。だが嫌な予感がする、じゃあな!」

「ストップ!!」

 

 危うく逃げられかけたので、仕方なく紋章を使って立つこと自体を妨害する。

 

「行っちゃっていいんですか? こちらには、コレと、これがあります」

 

 そう言って俺が持ち出したのは、さっきザイルさんが落とした商品と購入用のお金を入れた袋。ふはは、これで逃げられまい。

 

「くっ、俺の商品……」

「Ex-actly! この2つを返す代わりに、手伝ってください」

 

 見せびらかすようにして見たけれど、なんとなく嫌そうな顔をしてザイルさんは手を伸ばして来ない。だが、もう一押しという確信はあった。

 

「そんな嫌な顔しないでも……実はもう、翡翠さん以外の先輩には話をつけてきてるんですよ。ザイードさんとかも、面白そうだからOKだって」

「くっ、常識的なやつが軒並み……本当に安全なんだな?」

「えっ、あ、はい」

 

 ぐいっと詰め寄るように言ってきたザイルさんの行動に動揺して、思わず動揺した返事をしてしまった。それによる不信感をなんとか押し流すべく、全力で話を畳み掛けにいく。

 

「きっと楽しいですよザイルさん。運営が塔を繋げて王冠化するのに合わせて、全員で花火を打ち上げるんです」

 

 そこまで言ってようやく、ザイルさんは手を伸ばしてきた。内心ほくそ笑みつつそれを見て──

 

「だからそう、こっちに手を伸ばして……」

「私たちと変わらない、極振りとしての扱いを受けてもらいましょうかぁ!!」

 

 突然足元から生えてきたにゃしいさんが、伸ばされた手をガッと掴んで引き込んだ。目を光らせるオプション付きで。

 

「キャァァァァァァッ!?」

 

 ・

 ・

 ・

 

「ザイルは死んだ。既知のキチがキチって行った凶行に、穴が開きそうな胃と女子としての精神が耐えられなかったのだ」

 

 笑い転げるセンタの隣で、カソックに身を包んだデュアルが何も書いてない本を開きながらそんなことを言った。因みに現在位置は、ザイルが引き込まれた排水溝のすぐ近く。つまり、一連の流れを余さず見ていたのだ。

 

「途中から何が起こるか理解しても、最後までこの茶番に付き合ってくれたザイルは本当に良い人だと思う。序でにユキも死んだ」

 

 集まった極振り同士で話し合って行われた、ペニーワイズ式引き込み作戦は成功した。けれど、そのことをセナと藜に知られたユキは死んでしまった。排水溝という極めて狭い空間で、にゃしいと長時間密着していたことがバレたのだ。

 後に本人が、これに関しては俺悪くなくない? などと口にしていたが、どう考えてもギルティである。

 

 

 とまあ、そんな茶番を経た協力を取り付けて、ついに来てしまったイベント終了当日。今ボス部屋には、不機嫌そうに見えるセナと藜さんが居座るという、胃を締め付けるような状況が展開されていた。

 

「あの」

 

 無言の圧力を2人が放っている理由は、にゃしいさんが楽しそうに話していたペニーワイズごっこが伝わったことらしい。残機が4になるまでボコられたからそれは分かってる。でも、アレに関しては俺悪いことしてないのに……あっはい、ダメですかそうですか。

 

「えっと、一応運営が最後に色々やるけど、下で見なくていいんですか?」

「ここからの方が、綺麗に見れそうだもん」

「同じく、です」

 

 苦し紛れに言い訳してみたけど、やっぱり逃してくれる気はないようだ。謝りはしたけど許してくれないし……なんで俺、こんな浮気がバレた夫みたいな状況に陥ってるんだろ。

 

「……もしかしたら、まだ挑戦しようと思うパーティが」

「いないよ。みんな、6・7層で遊んでるから」

「そもそも、こんな時間に、ユキさんに、挑む人なんて、いない、です」

「アッハイ」

 

 一応確認して見れば、2人の言う通りプレイヤーは大体6〜7層に集まっていた。イベント終了までの時間も残り数分、確かに長期化が確定してる俺と戦う人なんていないだろう。というか、そもそも挑戦者いなかったし……

 なら、ボスとしては失格だけど2人を優遇しても良いのかもしれない。

 

「なら、俺もやることあるし……見やすいように、上まで行きます?」

 

 震える手を差し出して、一応聞いてみる。ザイルさんを引き込んでまでやろうとした作戦を実行するためにどうせ上がるのだから、2人も連れて行ってしまえ。

 そう思って塔の天井に登れるように、割れた窓から塔の外壁に向け障壁を展開した。誰だよボス部屋の天井塞いだの……俺でした。

 

「ユキくんが、どうしてもって言うならいいよ」

「ん、私は、行きます」

 

 伸ばした手を、藜さんが掴んで引っ張った。HPが結構な勢いで減少するのをハラハラしながら見ていると、セナが藜さんに裏切ったなとでも言いたげな表情を向けていた。どことなく藜さんが勝ち誇ったような顔をしている辺り、俺の知らないバトルがそこで繰り広げられているのだろう。

 でもどうしてだろうか。今日は疲れたからか、いつもは見える威嚇しあう幻影が見えない。うん? 幻覚が見える方が異常だから、今の俺は正常……? どしよう、分からなくなってきた。

 …………まあいっか。

 

「ほら、お願いするから。セナも行くでしょ?」

「うん!」

 

 セナの手を取った瞬間のことだった。ギリっと、藜さんに抱き寄せられた腕にかけられる力が強まった。同時にHPが0に落ちる。ああ、何故ランさんたちは、「上手くやりな」って助言をするだけして別行動なのだろう。身体がもたないですよ……

 

「あっ、ごめん。もうちょっと、優しく触るね……」

「気にしないで大丈夫。それより、間に合わなくなるから早く」

 

 これ以上殺される訳にもいかないので、急いで2人の手を引いて塔の上に登って行く。そうして何もない塔の上部に到着した時には、視界の端に表示してた時計の針は進み、イベント終了まで約1分程となっていた。

 

「わぁ……」

 

 間に合ったことに嘆息していると、後ろからそんな声が聞こえた。振り向けば、セナはそうでもなさそうだったけど、藜さんは目を輝かせて眼下の景色を見ていた。満天の夜空に、下では一般プレイヤーが各々の光源を持って空を見上げている。高所から見下ろすその様は、思ったより綺麗に見えた。

 

 そんなことを思っていると、開きっぱなしにしていたダンジョン管理メニューが強制的に閉じられた。同時に、ひゅ〜とどこか気の抜けたような音が耳に届く。

 

「始まるみたいですよ」

 

 下を見ていた藜さんにそう言った直後、18点くらいの爆発が3回鳴った。よく現実で、何かイベントの開始を告げるアレだ。もう少し爆発しても……なんて思っていると、変化はすぐに来た。

 

 上から見れば、正十角形状に配置された高難度イベント塔。その全てが同時に、金色の輝きを纏った。まるで自身はレアだと主張するようなその光は、同類を求めるように横に伸び、逆アーチ状になりながらも結合する。結合した面には宝石のようなパーツが浮かび上がり、装飾のようなものも刻まれていく。

 

 そうして完成するのは、マップ1つ丸々使った王冠。下の方からは歓声も聞こえてくるし、見ずとも完成度はかなり高いことが伺える。

 

「とー……ユキくんユキくん、凄い綺麗だよ!」

「特等席、です、ね」

 

 連れて来てしまったセナたちも喜んでるようで何よりだけど、極振り全員で決めたことはここから始まるのだ。王冠の中央で花火が上がる中、全体の指揮役であるザイルさんからのメッセージが飛んで来た。

 

 『作戦実行。第1段階は10秒後、第2段階はにゃしいの魔法の完成に合わせろ』

 

「了解です」

 

 返事と同時、俺は花火を眺めている2人を守れる位置に移動する。どうやらまだロスタイム扱いで、戦闘中って判定は継続してるみたいだし。

 

「どしたの? ユキくん」

「いや、折角のめでたい日だし、極振り(俺たち)でも花火を上げようかなって」

 

 セナの顔が真っ青になった。

 

「藜ちゃん、早くこっちに! 回避スキル張るから!」

「えっ」

「コーン!」

 

 わちゃわちゃし始めたセナ達を気にせず、右手を天高く掲げる。本当なら別の爆発にする予定だったけど、セナ達が残機を削りに削ってくれたから、見納めの必殺技でいこうじゃないか。

 

「たーまやー!!」

 

 カウントが0になった時、9つの塔から一斉に力が空に昇った。

 

 アキさんの塔からは、極光の斬撃が。

 センタさんの塔からは、紅に煌めく鏃の群れが。

 デュアルさんの塔からは、何やら燃える剣のようなものが。

 にゃしいさんの塔からは、赤い爆炎が。

 翡翠さんの塔からは、灰色の柱が。

 レンさんの塔からは、緑の暴風が。

 ザイードさんの塔からは、黒い光と鐘の音が。

 ザイルさんの塔からは、連射された曳光弾が。

 そして俺は、いつもの花火ルを。

 

 それぞれが立つ王冠の頂点で、それぞれの象徴のような力が解放された。いやぁ、こうして見てみると壮観だなぁ……

 降り注ぐ破片を障壁で完全ガードしながら見ていると、全力で防御態勢を取っていたセナ達はどこか呆けたような表情をしていた。

 

「ああ、うん。最近ずっと戦ってたから忘れてたけど、ユキくんってこんな感じだったね……」

「です、ね……」

「いいや、まだだ!」

 

 どうせ今後言うこともないだろうし、精一杯カッコつけよう。そう思って、第2段階の為に左手を王冠の中央に向けた。

 

 上がる花火の中に形成される、逆さになったルリエーと極大の魔法陣。その巨大な的目掛けて、全員の攻撃の狙いが集中する気配がする。

 運営には(ザイルさん経由で)連絡した。だからこそ、極振りの全力をぶつけ合って花火にするなんていう、最高にサーバーに負荷のかかる遊びが出来る。

 

「最悪緊急メンテだけど、まあいいよね!」

「「よくないよ(です)!?」」

 

 なったらなった。事前連絡はしたんだから、俺は悪くねぇ! というかそもそも、極振り全員で話し合ってやろうぜってことになったやつだから、悪いのは極振り全員である。

 

「せーの、かーぎ(ry」

 

 そして案の定、特設サーバーはダウンした。

 



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第104話 イベントリザルト

昨日の深夜にハロウィン短編を投稿してます


「はぁ………」

 

 イベント最後の緊急メンテが開け、通常のログインができるようになった翌日。俺はまだ閑散としているギルドで、盛大な溜息を吐いていた。

 

「どしたの? ユキくん、なんか嫌なことでもあった?」

「まあ、そんな感じ。ほら」

 

 心配して話しかけてくれたセナに、通常ネット経由で開いた某有名動画投稿サイトのページを見せた。動画のタイトルは『極振りが爆破をオススメするようです』。つまりはこの前のアレを、録画していたザイードさんが動画化してアップしたやつだ。

 そこまでは予定通りだった。だが、やつはバズった。某SNSで謎のバズりを引き起こした結果、なんか異様なまでに再生数が伸びているのである。

 ついついそこで見てしまったコメント欄で、まあ色々なコメントを見たわけで。更に、無駄に拡散されたせいで、リアルの学校でも注目を集めるわけで……ちょっと、疲れてしまったのだ。

 

「あぁー……これは。おつかれ?」

「はぁ……」

 

 なんでUPO界隈以外の方まで、反応が波及して行ってるんですかねぇ……訳がわからないよ。

 

「ユキくん、火薬漏れてるよ火薬」

「ん、ああ、ごめん」

 

 気がつけば手から垂れ流しになっていた火薬を、適当に収納欄に投げ込んで回収しておく。いくら無制限に作れるとはいえ、勿体ないからね。

 

「そんなに疲れてるんなら、ゲームやめて休んでたら? 付き合うよ?」

「いや、寧ろゲーム内の方がまだストレス発散できるから……」

 

 隣に座ったセナがそう言ってくれるけれど、実際そうなのだ。リアルに戻っても別のゲームをやるくらいしか、ストレスの解消は出来る気がしない。だったら、UPOの中で爆破してた方がまだ楽しい。今はこう、なんかその気力も湧かないだけで。

 

「そ、それじゃあさ。幸いお客さんもまだいないし、ちょっと話そうよ。最近、あんまりユキくんと話せてなかったし」

「まあ、それもそっか」

 

 最近は確かに先輩たちとしか絡んでなかった気がする。あの超天変地異みたいな日常も悪くないけど、やっぱりこの安心できる空気が一番だ。

 

「いいよー。何話す?」

「高難度イベント! あれって、私たち挑戦者側にはメリットだらけだったけど、ボスやってた側って何かメリットあったの?」

「あったよ、ほんと色々」

 

 まあ約2名の挑戦者がほとんど来なかった塔に関しては、メリットはかなり少なくなってしまったようだったけれど。それは自業自得ということで。

 

「まずはレベルがかなり上がったかな。一気に62まで」

「えっ。どうしよ、私追いつかれそう……」

 

 微妙に固まってしまったセナにステータス画面を見せたら、うわぁという表情をされてしまった。そりゃあまあ、大体8くらい一気にレベルが上がったのだから、さもありなんといったところか。

 

「他には、挑戦者の人数とか倒した人数、トラップを使わせた回数とか色々な要素でポイントが手に入ってね。それでアイテムとか交換できるものもあったかな」

 

 俺の場合はポイントはそれなりで、上位3人に比べたら雲泥の差だった。それでも良いものが手に入ったから個人的には満足だけど。

 

「ユキくんはどんなのを交換したの?」

「これ」

 

 そう言って俺が操作したのは、数が跳ね上がった魔導書群。今朝ザイルさんに100万Dポンと渡したら、5分くらいで完成させてくれた新しい装備だった。

 

「……ねぇユキくん。なんか数、増えてない?」

「11個から20個まで増やしたからね!」

「馬鹿なの?」

 

 呆れたような目で見られたけど、今回ばかりはそうかもしれない。障壁300枚と魔導書20冊を同時操作すると、その場から一切動けなくなったし。

 

「いや、まあそう言われても仕方ないけど……この前セナたちに負けたから、強くならなきゃと思って」

 

 顔見知りで戦法が分かりきっている相手に、たった1パーティ相手に負けてしまったのだ。今の場所で胡座をかいて待つのではなく、精進しようと思うことの何が間違いなのだろうか。

 因みに、防御性能は跳ね上がったし、色々考えてた攻撃方法とかも練習中だ。完成すれば、初めて火力の(少しは)ある代償なしの遠距離攻撃が出来るはずなのだ。瞬間的に構築できるよう練習しなければ。

 

「トップギルドのパーティを軽く殲滅出来るのに、まだまだ上を望むとか……」

「トップギルド、ねぇ」

 

 困惑気味のセナを他所に脳裏によぎるのは、同じボスを務めていたヤベー奴しかいない先輩方の姿。現状俺が勝てそうなのは、ザイルさんくらいか。ボス戦で使ってたようなヤベースキルは今はないとのことだし。

 

「普通、個人でうちのギルドとか、バイク艦隊のところとか相手できるのって、それこそ化け物なんだからね?」

「はっはっは、そんなまさか」

「私が1人で、んー……例えば、バイク艦隊の人たちを全滅させられると思う?」

「無理でしょ」

 

 セナなら半分くらいは倒せそうな気がするけど、全滅となると、こう、難しいとしか答えようがない。逆に自分だとどうだろう……やってみなきゃ分かんないなぁ。

 考えてみてから気がついた。これ、勝てると僅かでも考えた時点で異常だ。なるほど、セナが言いたかったのはそういうことか。

 

「それが普通だから。その、ユキくんはもう十分強いと思うよ! だから元気出して」

「そう、らしいね。元気出たかも」

 

 そう考えるとちょっと元気が出てきた。ヤバイ奴らと比較してたから弱く見えてただけで、強い方なのか俺って……

 

「よかった。そういえば、交換したのってその本だけなの?」

「いや、仕込み刀の予備として【無垢なる刃】2本は取ったよ。交換したのは本当にそれだけ」

 

 あまりポイントがなかったから、それだけでもうポイントが尽きてしまったのだ。7冊くらいクトゥルフ系の魔導書を増やしたから、というのが一番の理由だろうけどそれは秘密である。

 

「ふーん、それじゃあボス側のリターンって結構少なかったんだ」

「俺の場合はそうだけど……どうだろ。上位3人は結構リターン大きかったっぽいよ」

 

 アキさんが俺と同じ【無垢なる刃】を取得して、にゃしいさんが同系列の【無垢なる杖】を取得して、火力が跳ね上がったとか何とか。

 耐久値的に一撃で壊れるから、そうそう使えないのが唯一の救いだ。【死界】の反転効果があるからこそ、俺は連続して使えてるわけだし。じゃなきゃStr・Int30,000付近とかいう化物が爆誕するからね、仕方ないね。

 

「嫌な予感しかしないんだけど……」

「たかが火力カンストくらいだろうし、多分何とかなるよ」

「ならないよ……!」

 

 元からデュアルさんが即死レベルの火力だし、きっと何も変わらないと思うんだけど。

 

「あれ、でもそしたらもう1人は? トップ3って言うんだから、最後の人も何か凄いもの貰ったんでしょ?」

「あぁ、最後の1人ね。翡翠さんって言うMin極振りの人なんだけど……なんか、個人所有できる土地を買ったとか聞いたよ」

 

 なんか、レストランを作るとか言ってたような気がする。具体的な場所は聞いてなかったけど、近づかないでおこうとは思っている。

 

「そっか。なら1週間、暇にはならなそうだね」

「1週間?」

 

 あの翡翠さんがレストランを作るのだから、その程度で騒ぐとは思えないのだけれど。実際前回の高難度イベじゃ、最初から最後まで行列が出来てたし。

 

「1週間後、新マップとかが解放されるんだって。あとは私の『舞姫』とかユキくんの『爆破卿』と同じ、ユニーク称号も実装されるとか」

「楽しそうだけど、1週間虚無かぁ」

「ちょっとは休みになるから、それはそれでいいんじゃない?」

「それもそっか」

 

 あの動画による好奇の視線も、きっとそれまで我慢すれば治るだろう。練習してたら1週間なんてあっという間だろうし、希望が出てきた。

 

「それじゃあ、メンテ明け記念にパーっとどっかで一狩りして来ようよ」

「ごめん、ちょっと予定があるから無理」

「ふぇ?」

 

 ワクワクしていたセナの顔が、露骨に悲しそうに変わっていく。それにとても申し訳なくなってくるけど、先に約束しちゃったことは覆せない。

 

「因みに何の予定?」

「ん、藜からビットの操作を練習したいって言われてて。俺も自分の練習がてら付き合おうと思ってて」

 

 昨日の夜に、リアルの方で連絡貰ったのだ。多分、UPO内で一番ビット使ってるの俺だからだろう。教えられるかと言われるとアレだけど、まあ精一杯頑張ろうとは思っている。藜さん、何気にビット使うの上手かったし、きっとすぐコツは掴めるだろう。

 

「えー! ズルイよユキくん!」

「いや、そう言われても……セナって特にビット持ってないじゃん?」

 

 確か俺の記憶では、セナはそんな装備は持っていなかったはずだ。しかもこのビット装備、ネット情報じゃまだ3〜4個しか発見されてないっぽいし。ザイルさんが製法を秘匿してるって噂もあったっけ。

 もしかしたら、ビット系装備の解放も1週間後の更新内容だったり? 新しい街の解放もご無沙汰だしあり得そう。

 

「うぅ……探してくる!!」

「多分まだ実装されていないよ!?」

 

 凄まじい速度で飛び出して行ったセナに声をかけてみたけれど、どうやら届いていなかったらしい。あっという間にその姿はどこかへ消えてしまった。

 

「おまたせ、しました」

 

 そうして挙げた手を下ろす暇もなく、後ろからそんな声がかけられた。振り返れば、くぁと欠伸をしている藜さんの姿があった。

 

「いえ、そんなに待ってはいないですよ」

「だったら、良かった、です。でも、朝、早いん、ですね」

「今日はまあ、ちょっと現実から逃げたくて」

 

 藜さんが?マークを浮かべて首を傾げているけれど、まあ詳しく話す必要はあるまい。練習中、話題がなくなったときにでも話せば良いだろう。

 

「まあ、いいです。よければ、話してください、ね?」

「ええ、今日はかなり一緒にいることになりそうですし」

「そう、ですね!」

 

 嬉しそうに藜さんが浮かべた笑顔は、とても眩しかった。その笑顔を直視できず、思わず顔をそらしてしまう。

 

「どうか、しました?」

「いえ、なんでもないです」

 

 その日は結局、殆ど一日中藜さんと一緒に行動したのだった。



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閑話 それっぽぽい掲示板回

【高難度イベ】超高難度イベントについて語るスレ2 part34【お疲れ様】

 

 1.名無しさん

 ここは新イベの感想を話すスレです

 誹謗中傷はできるだけ無しの方向で

 マナーを守って楽しく爆破

 次スレは>900を踏んだ人で

 

 2.名無しさん

 >1

 スレ立て乙

 極振りイベントも終わったけど、まさか倒せたのが2人だけとはなぁ……

 

 5.名無しさん

 確かLuk担当のユキ(本体)とVit担当のデュアル(NPC)だけだっけか?

 

 7.名無しさん

 >5

 そうそう。それ以外はイイとこまで行った人はいるらしいけど、結局誰も倒せてないんだよなぁ……

 

 12.名無しさん

 なんであいつらあんな強いの?

 

 16.名無しさん

 >12

 空間認識能力のスキル。アレ鍛えれば鍛えるほど便利だゾ

 

 17.名無しさん

 空間認識能力……ゔぉえっ

 

 20.名無しさん

 やり過ぎると情報の海で溺れてリバースか、あんまりにも酷いと回線切断

 

 23.名無しさん

 >20

 これが大半の反応である

 

 26.名無しさん

 ならなんでユキはあんなこと出来るのさ

 

 30.名無しさん

 あいつに関しては、初期の頃にあったうん十倍も体感時間を加速させるイベントで、空間認識能力のリミッターぶっちして脳がいかれたって噂がもっぱら

 

 33.名無しさん

 本人に聞いたら、鼻血出たって話。それで一応、運営がそこまではいかないようにリミッターつけたらしい

 

 34.名無しさん

 ユキってクソかよ

 

 39.名無しさん

 大丈夫だ……極振りレベルまで行っても、ユキくらいしかリミッター発動してない(アンケート済)偶にレンちゃんが発動するくらいだって

 

 42.名無しさん

 ザイルネキも今回イベの必殺技使ってる時は発動してたらしいよ

 

 44.名無しさん

 >42

 あっ……(察し)

 

 45.名無しさん

 >42

 なんだユキが狂ってるだけか

 

 47.名無しさん

 ユキ狂う

 

 51.名無しさん

 ビル爆破始めたのも、あのイベント後だから……

 

 53.名無しさん

 あっ(察し

 

 55.名無しさん

 パンピーの俺らには関係ない話だった

 

 56.名無しさん

 ユキは頭がいかれたんだ……

 

 60.名無しさん

 ※しかし今回イベで、本人の申告通り最弱と判明

 

 67.名無しさん

 なんであいつら、同じシステムで動いてるのにインフレ酷いんだろ……せいぜい違うのってペットくらいだろ?

 

 75.名無しさん

 ステがおかしいのはユキ・アキ・にゃしいの愚者スキル持ち(5桁)

 瞬間最高値が狂ってるのはレン(今回イベで36万overを計測)

 純粋に狂ってるのが翡翠ちゃん

 

 77.名無しさん

 >75

 ユキってまだ7,000くらいだったと思うんだが?

 

 80.名無しさん

 >77

 そこまでいってるなら五十歩百歩だろ?

 

 82.名無しさん

 おっ、そうだな

 

 83.名無しさん

 さんじゅうろくまん!? うせやろ……

 

 86.名無しさん

 ほんとだぞ。パンツ観測班が限界を超えて観測しようとした結果、パンツのというか、レンちゃんのポリゴンデータがブレッブレになってることがわかった

 

 87.名無しさん

 因みにパンツのお色は?

 

 88.名無しさん

 黒の紐だっ

 

 90.名無しさん

 情報提供してくれた勇者に、敬礼!

 

 91.名無しさん

 ( ̄^ ̄)ゞ

 

 92.名無しさん

 (`_´)ゞ

 

 93.名無しさん

 (`・ω・´)ゝ

 

 94.名無しさん

 <(゜∀。)

 

 95.名無しさん

 おい今レ級いたぞ

 

 97.名無しさん

 気にしちゃいけない

 

 99.名無しさん

 とりあえず今回のイベントはお疲れ様ってことで

 

 102.名無しさん

 でもなんだかんだ、極振りが俺たちと同じ人間って分かったから良かったわ

 

 105.名無しさん

 同じ……? にん、げん……?

 

 109.名無しさん

 何気にこの板にいる奴、修羅の民だったり廃人だったりするからなぁ……

 

 113.名無しさん

 ユキと同じこと目指してるけど、流石に障壁300枚と魔導書20冊の同時操作とかしてるのは人間辞めてるとしか……

 50枚が限界だわ

 

 115.名無しさん

 >113

 展開時間はユキ式?

 

 118.名無しさん

 >115

 おうよ。0.3秒しかないから、タイミング外すと大変だよ

 

 119.名無しさん

 お前も人間卒業試験中なのか……

 

 120.名無しさん

 化物しかいねぇ

 

 122.名無しさん

 ここの人たち、大半が最上階まで行ってた変態ゾ?

 

 124.名無しさん

 でもって奴らと戦い続けた結果、PSが底上げされて変態度が増してるんだよなぁ……

 

 126.名無しさん

 変態度って?

 

 127.名無しさん

 ああ!

 

 128.名無しさん

 伝説上の生き物さ

 

 131.名無しさん

 運営が今回のボス戦ハイライトの動画あげてるんだよ。ボスも挑戦者側も変態的な動きしかしてない

 

 133.名無しさん

 紅茶キメてる化け物もいたしなぁ

 

 135.名無しさん

 なのに乗ってるのはケッテンクラート

 

 136.名無しさん

 英国紳士たるものロイヤルエンフィールドが常識ダルォ!?

 

 137.名無しさん

 >136

 なーに言ってんだパンジャンに決まってるだろ

 

 139.名無しさん

 ここにもパンジャンの民がいたのか……

 

 140.名無しさん

 うるせぇハギスぶつけんぞ

 

 141.名無しさん

 ひぇっ

 

 

 799.名無しさん

 プレイヤーがボスとか狂ってる!

 アイツらはBANされるべきだ!

 チート使いを許すな!

 

 801.名無しさん

 おっ、また来たな

 

 804.名無しさん

 こいつまだゲームやってたのか

 

 806.名無しさん

 赤髪ツンデレ系極振りアンチくん

 

 809.名無しさん

 アンチくん……?

 

 810.名無しさん

 思い出してくれ、君の使命を!

 

 811.名無しさん

 アクセスフラッシュ!

 

 812.名無しさん

 グリッドマンンンンンッ!!

 

 814.名無しさん

 うるさいうるさい!

 話を聞け!

 

 815.名無しさん

(cv 釘宮)

 

 816.名無しさん

 くぎゅくぎゅしてきた

 

 817.名無しさん

 ダメだよー、くぎゅくぎゅし始めちゃー

 

 820名無しさん

 まあぶっちゃけ、ユキに関してはちょっと怪しいよな。負けたの自分が所属してるギルド相手だし

 

 823名無しさん

 >820

 運営が投稿してる動画見てくるといいゾ

 速攻でユキが潰しにいく後衛組は分からないけど、前衛組の動きは俺たちからしたら化物だから

 

 830.名無しさん

 あの三次元機動は真似できないわ……俺は酔う

 

 840.名無しさん

 しかも銃器の使用が原則不可だから、攻め手の手札結構致命的に削られてるのよな。

 

 842.名無しさん

 やっぱりユキは極振りの恥晒しよ……(でも勝てない)

 

 846.名無しさん

 なんでユキ相手だと銃器使えないの?

 

 848.名無しさん

 どう頑張っても暴発させられる。フルレイドで挑んで全員で同時発砲しても、全部一斉に暴発するレベル

 

 850.名無しさん

 我ら紋章術師のトップ様は、今日も実に狂っておられる

 

 854.名無しさん

 ユキって、リアルでもトチ狂ってそうだよな

 

 856.名無しさん

 でもユキって、話してみるとザイルネキと同じレベルで話が通じるんだよな……

 

 859.名無しさん

 爆弾も売ってくれるし

 

 861.名無しさん

 紋章のことも結構気楽に相談乗ってくれるし。加と減の紋章だけは、どう頑張っても教えてくれないけど

 

 865名無しさん

 ぶっちゃけお前らの中で、一番話が通じる極振りと通じない極振りって誰なん?

 

 866.名無しさん

 通じるのはユキ、通じないのは翡翠ちゃん

 

 868.名無しさん

 通じるのはザイルネキ、通じないのは翡翠

 

 870.名無しさん

 通じるのはザイル、通じないのはアキ

 ユキは金で買収できないから嫌い

 

 873.名無しさん

 10万DくらいならPON☆と出せるからなアイツ

 

 874.名無しさん

 まだユキってカジノ出禁らしいよ

 

 875.名無しさん

 草

 

 876.名無しさん

 草

 

 879.名無しさん

 茶葉

 

 882.名無しさん

 所持金5000万D超えてるらしいよ

 

 884名無しさん

 ビル爆破って金になるのかな(錯乱)

 

 887.名無しさん

 >884

 あれ金掛かるだけゾ

 しかも、ユキのは無駄に精錬された無駄な爆破だから飛散物少ないけど、俺らがやるとNPC下手したら殺すことになる。

 ソースは俺(絶賛独房なう)

 

 890.名無しさん

 やめてくれよ……(絶望)

 

 892.名無しさん

 そういえばアンチくん消えたな

 

 894.名無しさん

 やっぱりいじり倒した後、徹底的に無視が安定なんやなって

 

 895.名無しさん

 蟲の仕業か……?

 

 896.名無しさん

 蟲師さんは座ってて

 

 897名無しさん

 いいや、ゴブリンだ

 

 898.名無しさん

 ゴブリンスレイヤーさん!

 

 899.名無しさん

 ダイス振らせて

 

 900.名無しさん

 ゴブリンか

 

 901.名無しさん

 あっ、俺次スレ建ててくるは

 

 903.名無しさん

 サンクス

 

 次スレに続く

 




前回掲示板っぽい話を投稿した時に、『番号離したほうがそれっぽいんじゃね?(意訳)』との意見を貰ったのでやって見たけど、どうなんでしょうこれ?


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閑話 例のアレな人たちの掲示板

ここしかぶち込むタイミングがなかったんや…


【皆で】翡翠食堂プレイヤー店【食べられよう】

 

 1.名無しの食材

 極振りの中で唯一縄張りが不明な我らが翡翠ちゃんに、イベント以外で遭遇することは困難を極めます

 よってザイルネキに仲介を頼み通常サーバー内に翡翠食堂を建設することを打診したところ、既に翡翠ちゃん本人が建設に向け動き出していることが判明しました

 

 さて、あとは分かるな?

 

 2.名無しの食材

 なんだって、それは本当かい!?

 

 3.名無しの食材

 ガタッ

 

 5.名無しの食材

 ガタッ

 

 6.名無しの食材

 ガタッ

 

 8.名無しの食材

 つまり、また、食べてもらえる……?

 

 12.名無しの食材

 翡翠ちゃんと触れ合える……?

 

 14.名無しの食材

 翡翠食堂再開店?

 

 17.名無しの食材

 これは祭が始まる……!

 

 20.名無しの食材

 イベント報酬でもらった土地らしいから、それは実質翡翠ちゃんの領地なのでは

 

 24.名無しの食材

 貴様天才か

 

 26.名無しの食材

 つまりそこは翡翠ちゃんの法が最優先…

 

 27.名無しの食材

 一般プレイヤーからの苦情が入ることもない?

 

 30.名無しの食材

 かんゆうしほうだいです?

 

 32.名無しの食材

 おいしいぱんにするのです?

 

 35.名無しの食材

 きゃろっとぱんなのです?

 

 38.名無しの食材

 せんどだいいち?

 

 40.名無しの食材

 きょうふというものには、せんどがありますです?

 

 42.名無しの食材

 なんか妖精さん湧いてるんだけど

 

 44.名無しの食材

 まあここみんなアレだし……かく言うわたし含め

 

 46.名無しの食材

 甘いもので増えるから、食材として最適なのでは

 

 48.名無しの食材

 プレイヤーの妖精さん添え?

 

 50.名無しの食材

 よし、お前ら準備するぞ!

 俺たちで、俺たちのアヴァロンを作るのだ!

 

 52.名無しの食材

 でも今回のこれって、運営も被害地域が限定されるならって感じで了承してるよなきっと

 

 53.名無しの食材

 急に真面目にならないで

 

 56.名無しの食材

 ぶっちゃけ再開店してくれるならなんでもいいのでは

 

 58.名無しの食材

 ワカル

 

 60.名無しの食材

 でも結局どう言う形態になるんだろ?

 

 64.名無しの食材

 何!? 翡翠ちゃんのレストランなのだから、我々を食べてくれるのではないのか!?

 

 66.名無しの食材

 実は翡翠ちゃんすてら☆あーくの常連さんだし、通常のレストラン形式もありえる……?

 

 68.名無しの食材

 お待たせしました(蟹アマゾン

 

 70.名無しの食材

 わぁいハンバーグ

 

 72.名無しの食材

 腐ったお菓子みたいな味とわさびとなんとも言えない固い肉の味がコラボレーションしてぐぼぁ……

 

 75.名無しの食材

 付け合わせは迷い込んできたスライムです(メロンソーダ味)

 

 78.名無しの食材

 そういえばいつかもお酒の味したスライム迷い込んできたよな

 

 80.名無しの食材

 数日しか経っていないのに既に懐かしい

 

 82.名無しの食材

 何気にプレイヤーがやってる料理系のお店って少ないから、俺は作ってくれるのでも食べられるのでも嬉しい

 

 84名無しの食材

 同意。全都市合わせてえっと、5件だっけ?

 

 87.名無しの食材

 わざわざVRで料理やる奴なんて……まあいてもUPOには来ないしな

 

 90.名無しの食材

 というかここに書き込んでて準備間に合うのか?

 

 94.名無しの食材

 掲示板しながらボス戦とか普通だろ?

 

 96.名無しの食材

 ……?(心底意味がわからないという顔)

 

 99.名無しの食材

 ああ、そういやここ修羅の民ばっかだったな……

 

 ・

 ・

 ・

 

 450.名無しの食材

 よしお前ら! 準備はいいな!

 

 453.名無しの食材

 こちらチョコミント

 ユキと交渉した結果、ビルの建材を10棟分くらい確保したぞ!

 

 454.名無しの食材

 こちらわさび

 オークションで半分ほど買い占めて、最高級の調味料を確保しました!

 

 455.名無しの食材

 こちらエビ

 生産職の名にかけて、最高級の家具類を確保したゾ

 

 456.名無しの食材

 こちら黒胡椒

 調理用具も問題ない

 

 457.名無しの食材

 こちらたこわさ

 第1から第4の街まで、鉄道の敷設が完了した

 

 459.名無しの食材

 こちらアマゾンズ

 最高給の食材の供給権を確保した

 

 462.名無しの食材

 思った以上にヤベー奴らがいて草

 

 465.名無しの食材

 食材の供給権ってどうやったら手に入るの……?

 

 467.名無しの食材

 愛ですよぉ……

 

 469.名無しの食材

 何故そこで愛ッ!?

 

 472.名無しの食材

 まあ分からんでもない

 

 476.名無しの食材

 翡翠ちゃんへの愛あればこそ

 

 478.名無しの食材

 この力があれば、ナンドデモォ!

 

 479.名無しの食材

 スッ(扉そっ閉じ)

 

 481.名無しの食材

 ループに囚われたか……哀れな

 

 486.名無しの食材

 食べられて救済……?

 

 488.名無しの食材

 それより、俺としては鉄道が敷設されたのがここの奴らの仕業ってのが驚きだわ

 

 491.名無しの食材

 というより、かなり上位ギルドにまでここの奴らが潜り込んでる方がビビるんだが?

 

 493.名無しの食材

 少なくとも上位ギルド全部に関わりあることは事実

 

 495.名無しの食材

 翡翠ちゃんだから当たり前ダルルォ!?

 

 497.名無しの食材

 >457

 あれ?第五の街は?

 

 500.名無しの食材

 >497

 敷設中。アキに頼んで山脈ぶった切って貰ったから、明日には完成予定

 

 503.名無しの食材

 さりげに意味わからないこと言ってね?

 

 505.名無しの食材

 マップ兵器こわい

 

 509.名無しの食材

 それはそれとして、どうやって渡そうかこのアイテム群

 

 512.名無しの食材

 単純に食べられに行くのが良いのでは

 

 514.名無しの食材

 ストレージをパンクさせてしまうわ

 

 516.名無しの食材

 ならどうしろと

 

 518.名無しの食材

 さらに言えば、自然ドロップだと翡翠ちゃん返しにきてしまうのでは

 

 521.名無しの食材

 優しいからね

 

 522.名無しの食材

 どうしてこんなに優しいのに、巷ではキチガイとか話が通じないとか……

 

 524.名無しの食材

 啓蒙が足りてない?

 

 526.名無しの食材

 脳に瞳を……?

 

 527.名無しの食材

 味が劣化しそうなのでギルティ

 

 529.名無しの食材

 逆に珍味になるのでは

 

 563.名無しの食材

 ちょっと啓蒙高めてくる

 

 564.名無しの食材

 獣の血を入れないと

 

 570.名無しの食材

 話を戻すと、渡すには素直に送るしかないか?

 

 572.名無しの食材

 人間性を捧げよ……

 

 574.名無しの食材

 となると、ザイルネキ辺りが有力か

 

 576.名無しの食材

 ぶっちゃけ翡翠ちゃんの領域、コジマが舞ってるようにしか見えないのじゃが?

 

 579.名無しの食材

 なら一箇所に集まるべきか

 

 580.名無しの食材

 アマゾンズのギルドでええやろ

 

 581.名無しの食材

 ところで、死ぬ気で頑張った結果コイツを開発したんだが……どう思う?

 っ自身の味を変化させるアイテム

 

 583.名無しの食材

 なっ、

 

 586.名無しの食材

 ちょっ!?

 

 587.名無しの食材

 天才か!?

 

 590.名無しの食材

 運営に『プレイヤーに設定されたデータを運営側から変更することはできません』なんて返答を食らってからの努力が、遂に実った……!

 

 591.名無しの食材

 これで、翡翠ちゃんに食べられる際に見られるバリエーションが増える?

 

 593.名無しの食材

 神がかってますわ

 

 594.名無しの食材

 よし囲め!

 量産するぞ!

 

 596.名無しの食材

 囲め囲め!

 

 599.名無しの食材

 逃すな!

 

 601.名無しの食材

 ところで開発者さんは何味なので?

 

 603.名無しの食材

 腐ってるってさ……

 

 605.名無しの食材

 今は?

 

 609.名無しの食材

 腐ってなかった(腕かじりー

 

 610.名無しの食材

 涙、拭けよ

 つハンカチ

 

 612.名無しの食材

 ありがとう……

 

 こうして、なんやかんやで翡翠レストラン開店は、本人の予測より数週間早まったとかなんとか

 



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閑話 (一部だけ)進化した運営

古戦場回ってたのとSW2.0のリプレイ見てたら遅れました


 これは、高難度イベントが終わって数日後の出来事である。

 例によって例の如く、プレイヤーには封印した30倍加速の中、運営は働き詰めとなっていた。時間加速型VR事務所with会議室、実はこの会社のUPOに次ぐ売れ筋商品である。

 VR空間であるが故に自由にお金をかけることなく自分のデスクをコーディネートでき、資料制作も容易であり、態々出社することなく会議などが可能であるそれは、続々と業界に取り入れられているらしい。

 

『満員電車で苦労する必要がなくなりました』『家族との時間を大切にできるようになりました』『無能な上司を排除できました』『VR嫌いの無能が消えたおかげで業績が回復しました』『逃げ場がなくなったぜチクショウ!』『やはり会議か、いつでも出社しよう……(白目)』などと大好評である。

 

 して、そんなVR事務所(UPO運営)には現在、死屍累々としか言いようのない光景が転がっていた。

 

「うう、まだ苦情メールが……」

「誰ですか極振りをボスにしようだなんて考えたアホ」

「あ、ラッキー賞賛メール」

「また翡翠関連でしょ知ってる」

 

 目元にクマが出ている職員が複数名、VRのキーボードを叩きながら延々と作業を行なっていた。即ち、GMに対するメール対応。極振りをボスにした結果、殺到した批判がまだ返信しきれていないのである。

 さしもの極振り対策室といえど、新人はリアル2徹分篭っているせいでチームの勢いはへにゃってしまっていた。

 

「ああ、また極振りにパッチ当てろって来たよ」

「無駄だっつってんの。アイツらあくまでプレイヤーが出来ること逸脱してないんだし」

「言ってみるなら、グラップラー15の癖に他の技能一切ない冒険者みたいな」

「なぜTRPGで例えたし」

 

 愚痴を言いながらでもないとやっていけない、連日のメール対応はその領域にまで到達してしまっていた。

 

「そうそう。CoCで言うなら、パンチ・キック・武道・マーシャルアーツは99なのにそれ以外の技能がないような感じの」

「それそれ。どうせアイツらSANは0でしょ知ってる」

 

 ヒッヒッヒッヒッと魔女のような笑い声をあげる新人達を横目で見ながら作業しているのは、歴戦の対策室の勇者達。けれどその体は、もう人とは呼べないような形に変化していた(VRだからいくらでも治せるが)。

 

 かつてアキ担当だった2人は、6腕2面の阿修羅のような姿に。

 かつてセンタ担当だった2人は、なんか両腕が蛇っぽい何かに。

 かつてデュアル担当だった2人は、サブアームが複数装着され。

 かつてにゃしい担当だった2人は、妖精的な変な生き物が舞い。

 かつて翡翠担当だった2人は、不定形の蠢く名状し難い生物に。

 かつてレン担当だった2人は、質量を持った残像を持って動き。

 かつてザイード担当だった2人は、なんか分身して働いており。

 かつてザイル担当だった2人とユキ担当だった2人は、360°に配置したキーボードを連打している。

 

「はっはっは、なんで態々人型でやってるのやら」

「折角のVR空間だというのに、人型でいる方がおかしいですよ」

 

 そしてこの場に、そんな変態達にツッコミを入れられるほど気力の残っている人は残っていなかった。寧ろ対策室組は、一人で大体10人分くらいの仕事を余裕でこなしているのだ。文句を言える訳がなかった。

 

「人外型の方が圧倒的に効率がいいのに……」

「あなた方みたいに、完全にスライム形態なのは如何なものかと」

 

 普通の人型の隣で笑い合う、なんかポコポコ泡が湧いてたりテケリリ言ってる不定形に蠢く名状し難いスライムと、阿修羅っぽい奴。常人からはかけ離れたその姿と、10枚分のモニターとキーボードを余裕で動かすその姿を見ればSANチェック必至である。

 

「人型もいいものですよ、サブアームの操作楽なんですよね」

「妖精っぽいこれも、人型じゃないと反応してくれなくて」

「ぶっちゃけ速く動ければなんでもいいかと」

 

 そんな風にわいのわいのしている変態的な奴らを他所に、一般的な運営の者はがっくりと項垂れていた。

 

 

「突然集まってもらってすまない。ではこれより、緊急会議を始める」

 

 同時刻、電子的に隣り合った空間でそんな言葉が響き渡った。照明の落とされた暗い部屋の中、中心には大きな円卓が鎮座している。今の声は、円卓の端、この部屋唯一の光源の真下にある場所から響いているようだった。

 

「議題は、メンテ後実装予定だった新称号について」

 

 光源に照らされ、そう言葉を紡ぐ議長。その姿は、どこからどう見てもメロンパンのそれだった。そう、メロンパンだ。メロンパンなのだ! 円卓の上に! 喋るメロンパンがあるのだ! ヘケッ!

 

「議長。しかし、それは先日の会議で決定したはず。上も納得したと聞きましたが」

 

 そう答えるのに合わせて、もう一つの光源が円卓の一部を照らし出す。そこにあったのは、美少女フィギア。もうお分かりであろう。ここの開発陣の頭はとっくにやられていた。いや、正気で狂気なのだからもっとたちが悪い。

 

「現在実装に向けて最終調整の段階ですが」

 

 次に照らし出されたのはエロ本。会議の場に何持ってきてんだこのアホはと、誰もが思うが誰もツッコミを入れることはなかった。

 

「……まさか」

 

 おおっと、ここで我らが極振り対策室の室長が、哺乳瓶姿で登場だ。中に満たされているのがミルクではなく、禁断の海外産エナドリな辺り闇が深い。当人曰く、バブみを感じつつおギャって目がエナドリでギンギンになるらしいけれど、正直人としてどうなんだろうか。

 

「……ああ、仕様変更だ」

 

 告げられたるは地獄の宣言。お上からの絶対命令。まるで崩れ落ちるかのように、本がくしゃりと曲がって倒れ伏した。

 

「『どうせ時間が30倍に加速できるんだから、1週間もあれば余裕でしょ』とかへらへらと抜かしてきた。運営は人の心がわからない」

「ああ、まだ極振りの奴らの方が理解できる」

「いやあれはあれでちょっと……」

 

 実際、24時間×7×30の為時間は腐るほどあると言える。だけどそれを実現できるかといえば、否であると言えよう。現在まともに動くことのできるメンバーは、既に極振り対策室のみ。真っ当なプログラマーはとっくにダウンしているのだ。

 

「実装予定だった新称号10個のうち、5つがボツ案にされてしまった」

「そんな……!」

「ファッキンクレイジー」

 

 暴言を交わし合う本とメロンパンと哺乳瓶。あいも変わらず意味不明すぎる光景ではあったが、そこに込められている呪詛は本物だった。

 

「残っている称号は『ラッキー7』『マナマスター』『オーバーロード』『限定解除』『初死貫徹』の5つだ。どうか手を貸して欲しい」

「勿論です。我が子を殺された恨み、はらさでおくべきか……」

 

 本が怨みに満ちた言の葉を紡いだ。消された称号のうち3つは、何を隠そう本が作り出したものであったのだ。しかも10個のスキルを既に実装準備に入っていた本にとって、ここにきての仕様変更はフィールドが全て翡翠汚染されるよりも許されざることだった。

 

「了解です、奇跡を見せてやろうじゃないか……!」

 

 逆に燃え上がっているのは極振り対策室室長(哺乳瓶)だった。消された1つは彼の創造したものであったが、それくらいで動じていてはあの狂人たちの相手なんて出来っこないのである。それでもいっけなーい、殺意殺意とはなってしまうのだが。

 

「助かる……!」

「ところで、そんなふざけたことを言いやがった奴はどうなったのですか?」

 

 本がメロンパンにそう聞き返した。本の脳内のイメージがチャラ男で固定されたその伝達役が、憎くて憎くて仕方なかったのだ。人に頼みごとがあるっていうなら、もうちょっと態度というものがあるだろうに。

 

「問題ない、50倍加速時間に放り込んで迷惑メールの処理をさせている」

 

 口はないにもかかわらず、メロンパンがニヤリと笑った気がした。ぶっちゃけ敵軍の使いを生首にして返すような所業なのだが、やっぱりツッコミ役がかけたここではそんなこと気にされるはずもなかった。

 

「ところで。結局新称号を配布するメンバーはどうなるのですか? 通常プレイの限界を極めてるような極振りがいる以上、偏らずに分配というのはそれなりに面倒かと推測できますが」

「奴らに餌を与えるな、本性を知っちゃいけない……閉じ込めるんだ!」

 

 哺乳瓶がガタガタ震えながらそんなことを言いだしたが、誰にも取り合ってもらえなかった。きっと帰ったら強制オネショタタイムなのでなにも問題ないことが知れ渡っているのだ。

 そんな哀れにもショタ化が継続している室長を無視して言葉は続く。

 

「それについては、今後も一度称号を獲得したプレイヤーは運営側からの付与は出来ないことに決定した。極振りから称号を強奪することは実質不可能であるから、いい鎖になるだろう」

 

 そういうメロンパンの顔?はどこか誇らしげだった。極振りのこれ以上の横暴を封じた事実は実際、偉大。なお現時点でこれ以上ないほど暴走していることは、言ってはいけない真実である。

 

「では、明日の正午に企画会議だ。全員解散!」

 

 議長のその言葉とともに、完全に会議室から光は消え去った。

 

 その後、現実に戻った代表者たちは揃ってこう口にしたという。「なんで他の奴らはあんな変なアバターだったんだろう?」と。




ということで、5つくらい募集します。活動報告に作っておきますね。
全部採用は無理だろうことは言っておきますの。


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第105話 新称号2

本当に沢山の称号の案ありがとうございました
実際短時間だったのに60件オーバーって一体どういうことなの……?(困惑)
取得条件を拡大解釈したり、名前を英語っぽくしたのもあるけど許して[懇願]


 極振りがボスを務めたイベントも終わり、なんか唐突に敷設された鉄道のことも相まって。運営がついでにとでも言わんばかりに発生させた、大型アップデート。事前告知されたその内容は、大体このようなものだった。

 

 ・第6及び第7の街解放

 ・各種スキルの(大)から(極)への進化実装

 ・一部スキルの進化先実装

 ・新ユニーク称号10種実装

 ・プレイヤーが敷設した鉄道の公営化

 ・一部不正行為を行ったプレイヤーのアカウント停止

 

 ユニーク称号については後ででいいとして、公式が初めて行った垢BAN報告にネットは騒然となった。当然極振りは誰1人としてBANなんぞされなかったのだが、どうやら挑戦者側にチーターが複数名紛れ込んでいたらしい。

 

 言われてみれば、なんかシャゲダンみたいな動きとかゲッダンみたいな動きしてる人とか、異様に耐久力がある人がいた気がしないでもない。けど、ぶっちゃけセナたち含めたガチ勢の方々の方がよっぽど強かったし……

 先輩方にも掲示板で聞いてみたけれど、変な動きしてた奴らしか覚えてないそうだった。ああそういえば、翡翠さんは『生ゴミみたいな臭いと味でした』とか言ってたっけ。なんでそんなもの判別できたんだろ本当に。

 

「というわけで。特にチーターは活躍することもなく、ボス側の印象に残るのは数名しかいなかったみたい」

「うわぁ……」

 

 メンテも終わり、かなり変化したスキルを整理して表に出てきて早々のことだった。一番身近な極振りということで、俺はセナに垢BANチーターについて根掘り葉掘り話を聞かれていた。

 因みに、藜さんはまだスキルの調整中、れーちゃん・つららさん・ランさんも3人で半ばリビルド中らしい。

 

「いや、そんな引かないでよ」

「だって、ユキくんこれで公式チートってことじゃん」

「俺だけじゃなくて、先輩方もね。でもネット上でも言われてたけど、なんでほんとそうなるの……」

 

 そう。そんなことがあったせいで、極振り全体にそんなあだ名が追加されたのだ。曰く、『チーターよりチート』『PSオバケ』『チートやチーターや! ビーターや!』『公式チート』などなど。俺自身はそこまでではないと思うけど、PSオバケくらいしか当てはまってないと思う。

 

「だって、全ステータス10000とかいう相手勝てるわけないよ!」

「いや、爆弾の火力って固定値だし。真っ直ぐにしか動かないから、冷静に当てれば、ね?」

 

 プレイヤースキルの伴ってない高ステータスの相手なんて、記憶にも残らないレベルの雑魚でしかない。だから、適当に足止めしつつ600の固定ダメージを連発で勝ち確なのだ。固定値は裏切らないってそれ一番言われてるから。

 

「でも、速度10000なんて、ユキくんからしたら1000倍くらいだろうし見えないんじゃ……」

「セナさんや、自分の最大バフ時の速度覚えてます?」

「うん。えっと、確か10000と……あっ」

 

 そこでセナがハッとした表情になった。ぶっちゃけ万くらいなら、極めて身近にいるからなんとも思わないのだ。

 

「それに、反応して防御するだけならAgl30万までなら……ギリギリいけるかな。見るだけなら60万」

「ユキくんもやっぱり、極振り側の人間だったと」

「否定できないのが辛い」

 

 先輩方に比べたらクソ雑魚でしかないけど、皆に色々と言われてそこら辺は一応認知している。そこまで強くはないけど、異常側。そのせいか最近距離を取られることが増えてきたけど、変わらず接してくれるギルドの皆には感謝しかない。

 

「俺としてはそんなことより。改めて、うちのギルドがほぼトップギルドってことを実感したよ」

「どゆこと?」

「だってほら──」

 

 と、そう言葉を続けようとした時のことだった。扉が開く音と共に、藜さんが表のスペースに現れた。噂をすれば影というか、なんとまあ。

 

「藜さんにれーちゃんと、またうちから2人ユニーク称号取得者が出たじゃん」

「ふふん。ついに、セナさんと、並び、ました!」

「むぅ」

 

 同じテーブルに着いた藜さんが、笑顔でそう言った。これでギルド【すてら☆あーく】は、6人中4人がユニーク称号を持っているという、 魔境じみた環境になった。

 

「藜ちゃんの称号ってどんなのだっけ?」

「【オーバーロード】、です。多分、過負荷とか、そっちの意味、です」

 

 オーバーロードの取得条件は確か、全プレイヤー中最大の連撃数だったっけ。双剣使いとかじゃなくて槍メインの藜さんが選ばれたのは驚きだけど、それ故に純粋に凄いと思う。

 

「確か効果は、『1戦闘にアクティブスキルをそれぞれ一度ずつ、消費をn倍にしてスキルの効果をn回分重複させることができる。また、パッシブスキルの効果を連撃数が10増える毎に0.5%強化する』でしたっけ」

「はい! 扱いづらい、ですけど、楽しみな、能力です!」

「私とユキくんとかの第1段と比べて、藜ちゃんのも含めて第2段のユニーク称号って、確かに玄人向けな感じだよねー」

「確かに」

 

 セナがぽろっと言ったその言葉に、言われてみればと頷いた。

 

 レア泥最多が条件の【ラッキー7】

 魔法ヒット回数最多が条件の【マナマスター】

 連撃数最多が条件の【オーバーロード】

 移動距離最長が条件の【限定解除】

 防御抜き回数最多が条件の【初死貫徹】

 敵討伐数最多が条件の【スローター】

 捕食回数最多が条件の【頂点捕食者】

 夜間ログインに関する諸々が条件の【ナイトシーカー】

 ペット関連の諸々が条件の【牧場主】

 取引金額最多が条件の【大富豪】

 

 公開された情報によれば10人中7人と顔見知りだったけど、まあそれはそれとして。第1段は【爆破卿】を筆頭にして曲者揃いだったけど、こっちもこっちでピーキー揃いだった。

 

「あれ? そういえば、藜ちゃんって『火力下げてヒット数を倍にして、クリティカル威力を上げる』感じのアクティブスキル持ってなかったっけ?」

「消費が、重い、ですけど、10回くらいは、重複できる、です」

 

 2の10乗倍ヒットとか、最低1024ヒットとかちょっと止められる気がしない。あ、いや、確か3連突きがあるから3072ヒット?

 

「特殊装備で、16ヒットに、出来るので、もっと、ですよ?」

「ひぇっ」

「それ、とんでもない組み合わせなんじゃ」

 

 今計算したところ、藜さんの槍は一撃で最大で49,152ヒットする。そんなの極振りでも聞いたことの無いヒット数だ。連撃することを重視した人が居ないのも理由だけど、逆にそれはヒット数だけで言えば極振り級ということである。

 つまり──

 

「ワンチャン、藜が原因のサーバーダウンが発生する……?」

「えっ」

「もしくは、同じ座標にものが重なり過ぎてバグるとか? ユキくんが第四の町を爆破した時みたく、破壊不能オブジェクトが砕けるとか」

「えっ」

 

 サーバーを落とした経験のある男()と、その幼馴染のβテスターによる冷静な分析を聞いて、藜さんは固まってしまっていた。セナの考えの方も、下手したらありそうで怖いんだよなぁ。運営さん仕事の時間です。

 

 気まずい沈黙が場を満たした。個人的には鯖落ちなんて慣れ……てはいないけど経験済みだから、そんなに衝撃的ではないけど普通はこうなるということなのだろう。

 

「ん!」

「すまない、遅れた」

「ちょっと3人でやってたら、思った以上に白熱しちゃって」

 

 そうして新ユニーク称号マジやばくね?と、脳内のドラゴンっぽいものが騒ぎ始めた頃だった。奥の方から、調整が終わったと思しき3人が出てきた。

 

「うわぁ」

 

 コッソリ鑑定してステータスを覗いてみたけど、どうしようこれ。多分現時点だと、俺もう1人で自分のギルドに勝てないんですけど。寧ろ普通に戻れた……のか?

 

「ん!」

 

 悲しめばいいのか喜べばいいのか、微妙に分からないまま固まってると、れーちゃんが満面の笑みで右手を掲げた。その手には、燦然と輝く黒いクレッジットカードの様な物体が。

 

「えっと、『みんなでお祝いしたい』?」

「ああ。俺とつららは取り残された形になったが、祝うべきことだろう?」

「なんかそう言われると、ちょっとズルしたみたいな気分になるね……」

 

 ランさんが言った言葉に、申し訳なさそうな顔をしてセナが答えた。そう言われてしまうと、確かになんかちょっと気分が良くない。しかしそうは言っても、ユニーク称号なんてそうそう手放せるものでもないし……

 

「大丈夫よ。私もランも、次の機会には取れるように色々頑張る予定だから」

「それって、例えば、どんなの、です?」

「私は、マップ1つくらい凍結させてみようかなって」

 

 さらっとそんなことを言うあたり、つららさんも“こちら側”というか、ガチ勢側の思考回路らしい。でも、マップ1つ焦土にしたりキャンプファイアーなら前例があるけど、凍結だと前例もないしいける気がするから怖い。

 

「俺はまだ考え中だがな」

「RPとの兼ね合いもありますからね」

 

 なんでもやりたい放題な代わりにスタイルを一から決める必要のあるプレイヤーと違って、最初から方針が決まっているRPプレイヤーはキャラを逸脱したくない為行動が縛られる方向にある。先輩方は例外だけど。

 RPなんて愛がないとやれないのだし、例えすぐにやれることがあっても飛びつくわけにはいかないのだろう。

 

「もう復讐に固執することもなく、愛する者は隣にいて、大切な妹も元気だからな。中々に難しい」

「もう?」

 

 どことなく嬉しそうにそう言ったランさんの言葉に、思わず反応してしまった。理解こそできるけどれーちゃん語のこともあるし、何かあるだろうと踏んでいたのに。

 

「ああ、“もう”だ。なんだ、興味でもあるのか?」

「いえ、別に。思わず反応しちゃっただけなので、気にしないでください」

 

 過去は過去と割り切れる人もいるけど、寧ろ出来ない人の方が多い……と思う。だから、何かあったと思われる過去なんて進んで聞くものじゃない。

 

「気を使う必要はないんだがな。ありふれた話でしかないのだし」

「ははは……」

「ん、んー、ん!!」

 

 そんな話をしていると、れーちゃんが間に割り込んできてそう言った。翻訳すると、『そんな話してないで、折角パーティするんだから、楽しもう』みたいな感じだろうか。久しぶり過ぎて、随分直訳っぽくなっちゃったけど。

 

「そうだな」

「折角のお祝いなのに、辛気臭い話しててもアレですしね」

「ん!」

 

 そんなこんなで、新たに2人ユニーク称号持ちが増えたことをお祝いするパーティが始まったのだった。なお、未だにれーちゃん語を理解できるのは、うちのギルドではランさんと俺だけだった模様。

 




>49152ヒット!<
>クリティカル火力オバケ!<
>デュアルでも溶ける!<
>まじ過負荷(オーバーロード)<

運営A「うせやろ……」
運営B「これだから突貫工事は!」
運営C「ここにも、エラッタの波が……」
運営B「この話は早くも終了ですね」
運営A「神の才能が欲しい」
運営C「死のデータ注入したろかテメェ?」


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第106話 ボス?ああ、いい奴だったよ

 新称号獲得おめでとうパーティー(意訳)の翌日。俺とセナが危惧したことが起こる前に、どうやら藜さんにお詫びと共にメールが送られてきたらしいことが分かった。それもどうやら、いつも幸運極振り()の対応をしているらしい職員から。

 

「メールの最後に『同じギルドで仲良いのは分かっているので、この先は是非クソや……幸運極振りのユキと共に閲覧してください』なんて、私怨丸出しな文があったから、一応俺のところに来たと」

「滅茶苦茶、ですけど、一応、運営の、メール、ですから」

 

 第6の街のボスに挑戦する準備をしている時、そう言って藜さんが話しかけてきた。普通ならどうかと思うけど、ここの運営ならこんなクソメールでも許される、のかなぁ。肝心のメールの内容は、大体こんな感じだった。

 

 ==============================

【※重要】

 称号【オーバーロード】の誤設定について

 PN藜様。申し訳ございません。運営側の不手際によって、新称号の設定が不十分なまま実装・配布してしまいました。意図を遥かに超えた挙動が発生した為、誠に申し訳ありませんが称号効果の一部を修正、意味が分かりづらい部分に追記させていただきました。

 

 旧オーバーロード

 1戦闘にアクティブスキルをそれぞれ一度ずつ、消費をn倍にしてスキルの効果をn回分重複させることができる。また、パッシブスキルの効果を連撃数が10増える毎に0.5%強化する

 

 修正後オーバーロード

 1戦闘にアクティブスキルをそれぞれ一度ずつ、消費をn倍にしてスキルの効果を10n(0≦n≦10)倍強化することができる。また、パッシブスキル(PS/AS複合スキルは含まない)の効果を連撃数が10増える毎に0.5%強化する(上限500%)

 

 つきましては、補償として下記のアイテムを配付致します。こちら側の不手際でご迷惑をおかけしたこと、重ねて謝罪致します。

 

 ・予備スキル枠拡張チケット×5

 ・所持アイテム枠拡張チケット×5

 

 この先は、同じギルドで仲良いのは分かっているので、この先は是非クソや……幸運極振りのユキと共に閲覧してください。

 ↩︎

 ==============================

 

 なんか俺も、昔似たようなものを貰った記憶がある。所持アイテム拡張側しか活用してない気がするけれど。そして、最後に意味深なエンターキーのマーク。タップして開けということだろう。

 

「それはそうと、これで藜さんの攻撃のヒット数、最大で9600ヒットですか。パッシブ強化も……一回で480%、上限ギリギリまで行きますね」

「です、ね。計算、早過ぎ、です」

「いやいや、それ程でもないですよ」

 

 こんなの障壁の操作と比べたら、チョロいとしか言いようが無い。空間認識能力のスペックが上がれば上がるほど、単純計算とか暗記科目が無駄に得意になっていく副作用?もあるし。

 

「そして、ここからが問題の部分ですか」

「はい。ちょっと、怖くて」

 

 基本的に良心的なUPOの運営だけど、極振りが関わるとはっちゃける癖があるからなぁ……何が書かれていてもおかしくない。そう覚悟して開いたそこには、予想通り愚痴が詰め込まれていた。

 

 ==============================

 先ずはここから先は、運営個人の愚痴であって先述の部分とは別物と考えていただけると有難いです。

 

 拝啓、幸運極振り野郎ユキ殿。

 本来このような形での連絡は遺憾でしたが、事態が事態だけにこういう形での連絡とさせていただきます。

 ということで。極振りどもがイベントの最後にやらかしたアレ、あのクレーム対応のせいで運営の大半が精神擦り減らしてダウンしたぞおい。私ら対策室は慣れてるけど、他の奴らは慣れてないんだから自重しろよな?な? お前が発端となってアレをやらかしたのは知ってるんだぞ?

 というか、今回のオーバーロードのミスも、白目向いてコード打ち込んでた運営側の過労によるミスですし! 修正が遅れたのも、弄れるプログラマーが燃え尽きたからですし! まあ全面的に私らが悪いんですが!ですが!! 

 

 コホン。さて、藜様。

 調整による弱体化は、原因を作ったユキをお恨みください。

 それはそうと貴方には、ぜひ1つ頼みたいことがあります。

 どうか【すてら☆あーく】全体で協力して、そこの馬鹿の凶行を少しは減らしてくれないでしょうか。他の極振りどもと比べれば、まだ我々の負担が減るのです。なあに、その【オーバーロード】があればユキなんて一撃ですよ一撃! 何せアイツの障壁は、現時点のシステム的限界が500枚ですからね! 9100ヒット分勝ってますからね! ブチ抜いちまえば良いんですよ! FoFoo!!

 ==============================

 

 ………………これは。

 

「酷い、ですね」

「いつも通りですね」

「「えっ?」」

 

 全く同じタイミングで正反対の言葉が出て、お互いに顔を見合わせた。運営からのメールって大体こんなもんだと思うのだけど……寧ろ拗ねてばーかばーかとか言い出さない辺り、まだ良い部類なのでは。

 

「こんな、メール、なのに、です?」

「だって、別に暴言とかもないですし……」

「えぇ……」

 

 藜さんが困惑したように呟いた。もう慣れたからどうも思わないけど、他のゲームやってみるとここの運営がおかしいんだよなぁ。しみじみとそう思う。

 

「まあ、畳まれてた部分に関しては、特に気にすることはないと思いますよ?」

「そう、です、かね?」

「送るならちゃんと俺宛にしろとは思いましたけど、それくらいですし」

 

 逆に言えば、まだ運営は回復しきれていないのだろう。楽しかったけど、流石にあのイベントの終わりにやらかしたのはやり過ぎだったのかもしれない。

 

「むぅ」

「ん? 2人してどうしたの?」

 

 そんな話をしていると、いつのまにか現れたセナが藜さんとの間からひょっこりと顔を出した。何やらステルスしてたみたいだけど、俺も藜さんも空間認識能力持ちだから意味ないよ……?

 

「運営の、メールで、ちょっと」

「キチメールの対処。ほら、ここの運営って極振りとか、最近は称号持ちにもハッチャケてきてるじゃん?」

「あー、うん。私にも経験ある」

 

 目を瞑ったセナが、コクコクと頷いた。ああ、やっぱりセナのところにも似たようなテンションのメールが行ってたか。この分だと多分、他の人達も同様の扱いを受けてそう。

 

「それよりユキくん、準備終わった?」

「ん、うん。バイクに水上走行は実装したから、もう特に問題はないかな」

 

 すっかり話し込んでしまっていたけど、そう言えば今はボス戦の準備中だった。まだまだ情報は少ないが、今回のボスはフルトゥーク湖から流れる太い川の中央に待ち構えており、水上で戦闘することになるらしい。だからその為の装備を付けているところだったのだ。

 因みに連絡をくれたザイルさん曰く、『アキの攻撃1発で沈んだ。即死耐性もない雑魚だな』とのことだった。アストから周回対象をこっちにすることも見えてきた。

 

「藜ちゃんは?」

「問題なし、です!」

 

 要するに、今の俺たちは負ける気がしねぇ! そんな感じだった。

 

 

 いやぁ、ボスは強敵でしたね()

 出発してから20分後、俺たちはすでに第6の街【グルーヴェド】に到着していた。この街は川の中州に存在する第7の街に相対するように、川を挟んでフルトゥーク湖側の森林に接して存在している。

 機械関連の技術が随分と盛んな街であるようで、けれど第3の街とは差別化する為か、メインは電気ではなく蒸気機関のようだった。つまり、男の子心擽ぐるスチームパンク的な街である。

 

「なんか、煙い、です」

「うーん……」

「これは、ちょっと」

「けほっ、けほっ。ん!」

 

 それは案の定というか、俺とランさんには大受けだったのに対し他の皆には不評だったらしい。

 セナは、見てるぶんには好きだけど体感はするものじゃないねと。

 藜さんは、雰囲気は嫌いじゃないけど長居はしたくないと。

 つららさんは、単純にあまり好みじゃないらしく。

 そしてれーちゃんは、目を輝かせていたけど咳き込むようになって撤退してしまった。

 

「ボス戦は快調だったのに、なんだか寂しいですね」

「こればかりは仕方ないだろう。あまり期待できないが、次の街に期待だな」

 

 そんなことを話しながら、珍しく俺はランさんと第6の街をぶらぶらと歩いていた。まだプレイヤーも疎らな街を歩いていると、自然についさっきまで行っていた一方的な蹂躙ボスとの戦闘を思い出してしまう。

 

 ボスの名前は【水竜戦車・ミヅチ】。その姿は名前の通り、水上を縦横無尽に動き回る2頭の竜が引く戦車に騎乗した、両手に竜の装飾があるランスを構えた鎧姿の巨躯だった。

 このボスは驚くことに、2頭の竜それぞれと戦車本体、それに騎乗している本人全てにHPバーが存在していたのだ。更に竜は魔法が効かず、戦車本体はクリティカルが発生せず、これらを潰さない限り騎乗する本体には攻撃が効かないという鬼畜っぷり。きっと多くのプレイヤーを、これから泣かすに違いない。

 

 が、戦闘は5分も経たず終わりを告げた。

 

 まずつららさんが、初手でフィールドを全面凍結。足場を作りつつ、戦車の機動力を大幅に減少させた。

 

 次に俺が、それでも愚直に突撃してくる戦車の片側に、減退と障壁を多重展開することで片側のみ動きを強制停止。結果、戦車が勢いよくすっ転んだ。

 

 その次に、セナと藜さんの前衛アタッカーが突撃。7人に分身したセナの猛攻に呆気なく竜が撃沈。オーバーロードの影響か、質量を持った残像状態になった藜さんの猛攻により、もう片方の竜も撃沈。

 

 追い打ちにランさんの銃撃や砲撃、つららさんとれーちゃんの魔法によるコンビネーションが炸裂し、セナと藜さんの猛攻も加わり戦車本体が崩壊。

 

 ボスが水中に逃げたけれど、全員に行われた直下からの攻撃を防ぎつつ、爆雷的に爆竹を大量投下。地上に出てきた本体は、氷漬けにされた挙句悍ましい勢いでHPを0にされた。

 

 こうして運営自慢のボスは、ものの数分で素材とお金に変わったのだった。これでも一撃で終わらせないあたり、先輩方よりは随分優しいから許して。

 

「それにしても、順当に強化されてきてるセナは兎も角、10秒で竜を吹き飛ばした藜さんの火力ヤバかったですよね」

「だな。プレイヤー相手だと、もう一撃必殺なんじゃないか?」

 

 運営は何やらヒット数を下げて安心していたようだが、藜さんの火力が補助役の『クリティカル確率上昇』のサポート込みだと異次元の領域に突入していたのだ。

 

 藜さんのヒット数増大の大役を担っているスキル【天元(大)】。その効果は『クリティカル威力上昇 100%・攻撃のヒット数を倍化、ヒットあたりの威力は20%減少する』というもの。クリ威力は倍率固定のようだが、威力20%減はスキル効果の対象内であったらしく、下限の99%減まで行ってしまったらしい。

 しかしそれでも、一撃の威力は大体10。それが9600ヒットするのだから、単純計算で96,000ダメージ。無論クリティカル抜きでの数値だ。そこに所持スキルとペットと合体時の追加効果で、一撃毎にそれなりの追撃ダメージ。結果、ボスが秒で溶ける事案が発生した。

 

 代償として、デュアル先輩が持つ様な『○○ダメージ以下のダメージを○回カットする』アクティブスキルや『○○ダメージまでのダメージを無効化する』パッシブスキル持ちには、十中八九無効化されてしまうだろう。しかしそれを鑑みてなお、十分過ぎる火力と言わざるを得なかった。

 

 

 思考の片隅で、そんなことを考えている時だった。

 

「ん?」

「あれ?」

 

 俺とランさんは、通りの真ん中で突っ伏して動かない、奇妙なプレイヤーを発見したのだった。

 




ボスステータス

【水竜戦車・ミヅチ】
《水竜A・B》
 それぞれHPバー2段(一本500万)魔法効果無効。
 本来なら水属性のブレス、水中からの攻撃、高速起動を駆使しプレイヤーを苦しめたはずだった。
 その正体は、崩壊した機械群に何者かが竜の魂を封じ込めたもの。本編では秒速で破壊された為、結局触れられることはなかった。

《水竜戦車》
 HPバー2段(一本500万)クリティカル無効。
 本来なら、大波の発生、水竜を切り離しての行動、飛行や潜水などでプレイヤーを泣かせるはずだった。
 水竜と同様に、自動車の車体に何者かが悪魔の魂を封じ込めたもの。結局触れられることはなかった。

《ミヅチ》
 HPバー3段(一本400万)実は状態異常に強耐性。
 本来なら、高威力の2つのランス、河の水を操ることによる範囲攻撃、無差別呪い攻撃、水中からの奇襲などで活躍するはずだった。
 実は鎧の中には、呪われた黒い骨が収納されている。だがこの騎士風の鎧も、何者かに荒ぶる魂を入れられただけの模様だ。


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第107話 ナイトシーカー

 解放されたばかりの街で、往来に突っ伏し動かないプレイヤー。これが先輩方とか、翡翠さんのレストランに入り浸ってるプレイヤーなら理解できるのだけど……見た感じ、あのヤベー奴特有の雰囲気がこの人にはない。

 

 しかしその格好もまた、どこか不思議なものだった。機械感マシマシのゴツいブーツとベルト、それとは対照的に、裾の方に星の様な淡い光を放つ意匠のある黒いコートを羽織っている。右手には黒の革手袋とゴツい手甲が嵌められているが、左手には逆に色とりどりの指輪が装着されていた。

 

「えっと……どうします、ランさん?」

「俺に振るな。こういうのはそっちの領分だろう」

「えぇ……」

 

 俺としても、この別ベクトルでヤベー人に関わりたくはないんだけど……まあ、仕方ないか。大きく息を吐くことで抗議の意を表しつつ、【三日月】を取り出して突っついてみた。

 

「うぅ、ボクは……」

 

 一応攻撃の判定になったらしく、突っつきは思った以上に大きく倒れていた人を動かした。紫のグラデーションの髪が、短いながらもその拍子で揺れる。そして本来の狙い通り、一応目を覚ましてはくれたらしかった。

 

「……? わ、けむ。というか、どこですかここ」

 

 そのまま起き上がって周囲を見渡し、首を傾げてそんなことを呟いている。そのあと眠たげに開かれた蜂蜜色の目が周囲を見渡し、心底不思議そうに首を傾げた。

 そして、俺たちの姿を見つけるとその目を見開いて、地面をズリズリと這い寄ってきた。怖い。

 

「水、水を、水をください……あと食料もあると嬉しいです、お腹すいて倒れそうですというか気絶してましたへるぷみー」

 

 そしてランさんにしがみついて、そんな死にそうな声で話しかけていた。その姿を見て評価を改める。ああ、この人もこっち側のヤベー人だ。

 だからこっちに助けを求めないで下さいよランさん。俺の手持ちアイテムなんて、9割9分爆弾でしかないんですから。残りはMP回復アイテム。

 

「まあ、これしかないが…」

 

 絶望したような表情で、ランさんが我がギルドの商品を手渡した。お茶とお団子3本、美味しいけど一番安い料理である。

 でもどうしてそんな、『普段は嗜好品でしかないもの』を?という疑問に従ってスキルでステータスを見ようとしたが、完全には成功しなかったらしい。しかしそれでも、名前・称号と共にHPMPバーが状態異常と共に表示された。

 

「【飢え】と【渇き】の併発って、えぇ……?」

 

 飢餓まで行ってないだけマシと思えばいいのか、この2つの状態異常が出るほど長時間プレイしてるのに、おそらくポーションすら口にしていないことを驚くべきか。

 

「ぷはぁ! 美味しかったですおやすみなさい」

 

 そのことを聞く前に、完食したプレイヤーことカオルさんはパッタリと倒れ寝息を立て始めた。往来のど真ん中で。大の字になって。

 ランさんが、困惑ここに極まれりとしか表現できない表情でこちらを見ていた。まあ、うん、気持ちは分かります。超天変地異みたいな狂騒に慣れてるからなんとも思わないけど、普通の人はそうなりますよね。

 

「ランさん、退いてください。爆破しますんで」

 

 故にこそ普段は見捨てるけど……俺もまあ、ちょっと聞きたいことはあったし助けることにする。無言でランさんが頷き、寝息を立てるカオルさんだけがその場に残った。

 えっと確か、この前汚い爆弾を目指して作った香辛料が撒き散らされる爆竹がここら辺に……

 

「ほーれっ」

 

 放り投げた爆竹は山なりの軌道を描き、見事カオルさんの顔面直上で爆発、さらにハザードグローブの効果で規模の小さな副次的爆発が発生。俺とランさんのすぐ手前までの空間を、灰色の煙が包み込んだ。

 因みにこの煙の主成分は、塩コショウと唐辛子系列の香辛料である。翡翠さんに頼まれて制作した、プレイヤーの耐性すらぶち抜いて効果を発揮する悪魔の兵器だった。

 

 爆発から数秒後、煙の中で表現することが憚られる声が響いた。さらにその数秒後、極振りより少しはマシな程度の速度で、死にそうな足取りで煙の中から脱出してきた。

 

「げほっ、うぇ、うぅ、ひっぐ……じごぐをみまじだ…」

「すみません、手荒い起こし方で」

 

 なんてことを言いつつ、腕装備のもう1つの効果である『爆弾系アイテムを1つ消費して、爆破範囲の状態異常を1つ解除する』能力を使って、香辛料の地獄を消し去った。

 状態異常アイコンは出ないし防御も貫通するのに、時間経過(30秒)とアイテムで回復は可能って、本当に謎の判定なんだよなぁ……これ。問い合わせた結果、バグではないって言われたけど。

 

「本当ですよ! なんですかあの地獄!! こんな可哀想なボクに対しては、普通あの人みたいにするでしょう!!」

 

 そう言って俺に詰め寄って来たものの、男性か女性か分からないこの人は触れようとはしない。何というか、触れるのを恐れているような感じがする。

 

「いや、仮にも称号持ちがその態度ってどうなんでしょう……? 【ナイトシーカー】さん」

「げっ」

 

 そう言った瞬間のことだった。まるでエビか何かのように後退したカオルさんは、左手をこちらに向け──そのMPが僅かに減少するのが見えた。

 

「私は捕まるわけには! 《ナルコレプ」

「《障壁》」

「ぎゃん!?」

 

 何か危なそうな魔法が使われそうになったから、久しぶりに障壁を割り込み暴発させて発動を妨害した。火力不足で封印してた技だけど、プレイヤーなら眼球の近くでやればイケるらしい。

 

「ああう、目が、目にとてつもない衝撃が……」

「《障壁》」

 

 ゴロゴロと転がり回るカオルさんは、暫くは回復しないだろう。いくらUPOの『痛みの感覚』が、普通デコピン程度とは言っても眼球に直だし。閃光の分目も眩んだことだろう。……これ、対人戦じゃ封印かな。先輩方は除いて。

 

「すまないが、これはどういう状況になったんだ?」

「話を聞こうと起こして、スキルですっぱ抜いた称号で呼んだら、魔法を使われそうになったから妨害した……としか」

「まるで訳がわからんぞ」

「俺もそう思います」

 

 単純に話を聞きたかっただけなのに、どうしてこうなったのか。頭を捻っていたせいか、カオルさんに対する注意が薄れてしまっていた。

 

「ふふふ、必殺《スリープクラウド》!!」

 

 あっと思った時にはもう遅かった。辺りに薄緑色の煙が溢れて、ランさんががくりと崩れ落ちた。そのステータス上には、睡眠という状態異常のアイコンが点灯していた。

 

「危なかった……絶対追手ですよねこの人たち。まだ捕まるわけにはいかないのですよ……」

「何から逃げてるのかは知りませんけど、随分と大変そうですね」

 

 まあ、俺の場合装備を変えてしまえば状態異常は反転できる。街中だから被ダメもあんまり関係ないし。これがあるからハザードグローブの能力が1つ死んでるのは内緒だ。

 

「ほんとですよ。なーんでギルド抜けたくらいで、ボクが追われる目に……え?」

 

 目と目を合わせて答えたところ、カオルさんは目を見開いて固まってしまった。こちらを指した指と、魚か何かのようにパクパクと動く口は、見ていて面白いものがある。

 

「あと追手って言ってますけど、よく見れば違うって分かりません?」

「はい? そんな自意識過剰な、こ……と……あっ」

 

 爆弾をチラつかせてそう言ってみれば、カオルさんはみるみるうちに顔を青く変えていった。

 

「アッハイソウデスヨネ。極振りが他人の意見で動くなんて、アリエナイデスヨネーハハハ」

「そうですよ、はっはっは」

 

 爆弾をしまってから、相手に合わせて笑ってみる。なのにどうしてだろうか、カオルさんが冷や汗をダラダラと流しているのは。

 

「あの、土下座しますんで、爆破は見逃してくれませんか?」

「良いですよ?」

「はははそうですよねダメで──はい?」

 

 再びカオルさんが固まった。

 

「そんな誰彼構わず爆破なんてしませんし、土下座してもらわなくても見逃します。それに、手助けするのも吝かではないですが」

「嘘ですよね? いくらボクが称号持ちでも、そんな簡単に極振りの協力が得られるわけが……」

 

 そんなことをブツブツと言っているけれど、ここで会ったのも何かの縁。しかも同じ称号持ちな訳だし、手助けしたくもなる。まあ一番の理由は、

 

「だって貴方に味方したら面白そうじゃないですか」

「アッハイそうですか、ボクにとっての一大事が面白いイベント扱いですか……でもいいです! 極振りが味方してくれるなら百人力!」

 

 まだ時間帯的には夕方なのに、カオルさんの勢いは深夜テンションのそれだった。確か【ナイトシーカー】は夜間ログインが最長最頻なプレイヤーに贈られる称号、そう考えれば不思議ではない……のか?

 

「さあ! そうと決まれば逃げますよ逃げましょうどの街に逃げればいいんでしょう?」

「うちのギルドがある第2で。それより、ランさん起こしてくれません?」

「無理です。ボク、眠らせる技はあっても起こす技はないですからね!」

 

 何をするにせよ、ランさんをここに置いていく訳にもいくまい。そう思っての提案だったのだが、胸を張って自信満々に否と答えられてしまった。ランさんを爆破するのは躊躇われるし……

 

「しょうがないですね……《軽量》《濃霧》」

 

 寝ているランさんに軽量化の紋章を叩き込み、魔導書数冊を担架代わりにして浮かせた。序でに濃霧も展開しておけば、誰にも気づかれることなく街の中央にたどり着けるだろう。

 

「あのあの、ボクの時と扱い違くないですか?」

「そりゃあ、ギルメンと初対面の人ですから違いますよ」

「普通対応、逆じゃありません!?」

 

 そんなことをギャーギャーと言っていたけれど無視する。というか逃げるというのに、そんなに大声を出していていいのだろうか。

 とまあ、そんな風に話しながら、俺たちは第2の街へと向かっていったのだった。

 

 尚、ギルドに着いた途端『ユキくんがまた女の子を連れてきた』と言われ、セナと藜さんに連行されたのは割愛する。



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第108話 ナイトシーカー②

クリスマス番外編は4話に移動しました


 俺の必死の弁明と知っている限りの情報を吐いたお陰で、連行されきる前に2人は俺のことを離してくれた。そうして誤解が解けたことに安堵しつつ戻れば、そこではカオルさんがカウンターの1つを占領して寝こけていた。

 寝息が静かなお陰か邪魔にはなっていないようだが、好奇の視線を集めているのは間違いなさそうだ。VR空間で寝てもリアルの身体が休まるわけじゃないので、ゲーム中に堂々と寝ているプレイヤーが珍しいのだろう。

 

 ログアウトしてしまったのか、確認してみればランさんはオフラインとなっていた。同時にれーちゃんもオフラインになっており、ピークの時間が過ぎていなければ営業が危ぶまれていたことだろう。

 しかし、お客さんからの要望もあってお店部分を拡張した結果、手は足りない。故に俺は、戻ってきて早々バックヤードで魔導書を飛ばすことになったのだった。

 

「それで、結局ユキくんは、なんでうちにあの子を連れてきたの?」

「追われてるって、話、でしたけど」

 

 裏手で作業しながら、同じく作業中のセナたちが話しかけてきた。

 

「いや……だってぶっちゃけ、一時避難所として最適じゃん?」

 

 そもゲームの中で逃げるというのが無理がある。フレンドなら場所を追うことくらい出来るし、違う場合でも聞き込みすれば大体分かる。であれば、見つかっても容易に手を出せない場所に行くしかない。

 

「流石に先輩方の所とか、某レストランには連れていけないし……だったら、初心者からヤベー奴まで入り乱れてるうちならって思って。俺も気兼ねなく爆破出来るし」

 

 個人単位で追っていようがギルド単位で追っていようが、こんなプレイヤーが入り乱れる場所で嫌がるプレイヤーを連れていった場合、評判はガタ落ちする。そして迷惑行為なので、ことを起こした瞬間お帰り頂ける。完璧な作戦だった。

 

「んー……確かにそうだけど、最終的に【すてら☆あーく】に加入させて解決って訳にはいかないよ?」

「外聞が、悪い、です」

「まあ、それくらいは分かってるよ」

 

 すでに【すてら☆あーく】は6人中4人がユニーク称号を持っている。新たにそのメンバーが称号を獲得するならともかく、新たに称号持ちのメンバーを加えるとなると批判が殺到するだろう。

 例えば『称号持ちを独占する気か』とか『ズル』『チート』『買収』とかいう言葉が投げ掛けられるのは、想像に難くない。例え新たに加入するプレイヤーがどんな事情を背負っていようが、こちらもあちらにも良いことが1つも存在しない。

 

「あと、こういう問題持ち込むなら、一言相談が欲しかったかも」

「ごめん……」

 

 それを言われると立つ瀬がない。そうだよなぁ……このギルドのマスターはセナなんだし、一言相談すべきだった。お店の経営権はれーちゃんと俺で大半を独占してるとは言え。

 

「でも、あのh」

 

 そう何か言葉を発しようとした藜さんの姿が、いきなり消え去った。そして藜さんが居た場所に、黒と黄色の警告模様で彩られた《回線緊急切断》と書かれたプレートが現れ、数秒間存在を誇示したのち消滅した。

 

「私、緊急切断って初めて見た」

「同じく」

 

 確か緊急切断は、『電源の切断』『ネットワークの切断』『VR機器を第三者が外す』『装着者の異常状態』等の原因でしか発生しなかった筈の機能だ。それが起こったということは、確実に何かあったということだろう。

 万が一ということが頭をよぎったと同時に、俺はある1つのことを思い出した。

 

「あっ……そういえば朝の天気予報で、夕方辺りから嵐って言ってたかも」

 

 なんか台風とか言ってた気がする。となれば、雷でも落ちたのかもしれない。流石に2駅分も離れてれば変電所が違うだろうけど……そう考えると俺たちも、実は緊急切断の危険が迫っているのかもしれない。

 

「ごめんユキくん、ちょっと私もログアウトしてくる。手遅れかもだけど」

 

 俺がボソッと呟いた言葉を聞いたセナが、何か重大なことに気がついたような顔をした。

 

「洗濯物?」

「うん。多分お母さんまだ帰って来てないし。じゃあ、後は任せるよユキくん!」

 

 そう言ってセナも、ログアウトして行ってしまった。つららさんはそもそもいないし、任された以上はやるしかなさそうだ。そもそもの目的でもあった訳だし。

 

 そんな感じの自己弁護を重ねつつバックヤードから出ると、今の今までワイワイとしていた雰囲気が一瞬だけ凍りついた。いつも通りの光景を無視して、俺は寝こけているカオルさんの隣の席に座り──

 

 そのまま普通の爆竹を爆破した。

 

 当然、障壁で周りへの被害は完全にシャットして。

 

「ぴぎゃぁ!?」

「Guten Morgen」

「ひぃ、悪魔ぁ!?」

 

 椅子から転げ落ちて、俺を指差し震えるカオルさんを見て、店内の雰囲気がいつものソレに戻った。最近、店内で爆破しても驚かれることがなくなって実に寂しい。

 

「起こして早々質問なのですが──」

「ゲームだからって何してもいい訳じゃないんですよぉ!?」

「街の中はダメージ発生しないし、いい目覚ましでは」

「ダメだ、この人頭おかしい……」

 

 目の前で、orzの体勢になってしまったカオルさんを見下ろしつつ言葉を続ける。

 

「目も覚めたでしょうし質問なのですが──」

「ああ、いいですよ答えますよ!」

「今貴方は元ギルドのメンバーに追われてるそうですが、その経緯を教えてくれませんか?」

 

 そう言った瞬間、カオルさんの雰囲気が切り替わった。今までの言ってしまえばアホの子的な雰囲気から、目を細めてよく見るガチ勢に相当する雰囲気へ。

 

「それを聞いてどうするんですか?」

「単に俺個人だけが協力するか、ギルド単位で協力するか、周りの人達も巻き込めるかですね」

 

 そう俺が言葉にした直後、シンとお店が静まり返った。その雰囲気に気圧されることなく、カオルさんは滔々と語り始めた。

 

「ことの発端は、ボクの【ナイトシーカー】の称号が示す通り、ボクがこのUPOをプレイしている時間です。今日は有給取ってinしてますけど、普段は深夜しかプレイできなくて……まあ、ギルドの人たちと全く噛み合ってなかったんですよ」

 

 無言で頷いて続きを促した。うちのギルドの場合は全員学生だから問題ないけれど、他のギルドではそういう問題もあるのだろう。

 

「それで1週間くらい前に、メンテ明けにお前は除名するって宣告くらいましてね。20人いる中でボクだけ完全にプレイ時間が外れてて、新しく入りたいって人の邪魔だったんだそうです。それで貸してたアイテムとかお金を回収しつつメンテに入って……まあ、この【ナイトシーカー】のユニーク称号を得まして。もう未練はなかったのでサヨナラしようとしたら、謝りもせず『どうか行かないでくれ』とか懇願されたんですけど……」

「1回放逐宣言されてるのに、戻ってやる義理はないですよね」

 

 お前が邪魔だ→お前が欲しいなんて、手のひらジクウドライバーかよ。しかも謝罪なしだとしたら、尚更戻ってやる義理はないだろう。俺が【すてら☆あーく】を去ることなんて無いだろうけど、もし俺が同じことされたら街ごと爆破して埋める。

 

「そうなんですよ! それなのにアイツらってば、ボクのことを執拗に追い回してギルドに戻ることを要求してきて……訳わかんないです。そう思いませんか!?」

 

 今までの真面目な雰囲気とは打って変わって、出会った時のようなアホの子モード全開でカオルさんが店内に問いかけた。そして、店内に声が轟いた。カオルさんの意見に賛同する声が。

 

「女の人を集団で。力尽くで意のままにする……まるで強姦魔の所業ですよ!」

 

 そうだそうだとヤジが飛び、場に熱が波及していく。カオルさん、中々に扇動の才能……いや、経験がある? この分だと、手助けは一切必要なさそうだ。

 

「で、そこの極振りさんはどうなんです?」

「俺自身は協力するって言ってるじゃないですか。ギルドについては……ログインしてるのが平メンバーの俺だけなので、今すぐには。でも協力はしてくれると思いますよ」

 

 今聞いた通りの話でかつ全てが真実なら、セナたちは快く協力してくれることだろう。使えないクソ雑魚の頃の俺も受け入れてくれたくらいだし。

 

「ということで、しばらくカウンター1つ指定席にしていいですよ。どうぞ存分に寝てて下さい」

「ええ! 存分に寝ますよ! 貴重な休日貴重な有給、睡眠時間も2倍ですからね!!!」

 

 そう言って俺は席を立った。後ろからそんな大声が聞こえた気がするけれど、すぐに寝息に変わったから気にしないでおく。これから、少々忙しいけど楽しくなりそうだ。

 外から店を覗き見た相手を爆破したし、ちょっと黄金の蜂蜜酒を使ったけど俺は悪くない。

 

 

 UPOからログアウトした時、外は天気予報通りの嵐が訪れていた。時期外れの台風だとかなんとか言ってた気がするけれど、朝のニュースなんて一々覚えてないから記憶が確かではない。

 

「とりあえず、夜ご飯作り始めよ」

 

 ゲームにログインしていた時間はそれなりなのに、現実ではまだ夕方。時間加速は実に便利な機能である。これを実装した運営は、普段はアレなクセに本当に有能としか言いようがない。

 なんてことを、思っていた時のことだった。

 

 ピンポーンと、チャイムの音が鳴った。

 

「誰だろ、こんな日に」

 

 ガスを止め、長杖代わりのクイッ○ルワイパーを持って玄関に向かう。我が家に来る人物なんてうちの親と沙織、沙織の親くらいのもの。沙織の親御さんはこんな時には来ないだろうし、沙織も合鍵がある以上チャイムは鳴らさない。

 つまり、今玄関先にいるのは、不審者の可能性が高いのだ。爆弾がないのは心許ないけれど、110番も待機してるし準備は万全である。

 

「どちら様ですか?」

 

 そう言ってチェーンを掛けたまま、玄関扉を開く。そんな俺の目に入ったのは不審者などではなく、しかし衝撃的な人物の姿だった。

 

「あの、家出、して、来ちゃいました……」

 

 何せそこにいたのは、大きなリュックを背負い、全身ずぶ濡れで立ち尽くす藜さんだったのだから。

 




【ナイトシーカー】
条件:ログイン時間が8割以上夜、かつ夜間のログイン時間がプレイヤー中最長
効果:夜間全基礎ステータス2倍、昼間全基礎ステータス半減(イベント参加時は夜間の効果を適用)
称号報酬:処女の生き血(特殊アイテム)
効果
※一日に三回のみ使用可能
・夜間使用時、全ステータス+10%、HPMPリジェネ5s/10%。効果60s
・昼間使用時、称号の効果を夜間のものに変更。効果600s


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第109話 家・出

グリッドマンの影響で荒ぶるサブタイ
あっ、一応クリスマス短編も投稿しております


「ッ、とりあえず早く中に!」

 

 ポタリ、ポタリと雨水を滴らせる藜さん……空さんを見て、俺は一先ず事情とかは後回しにして家に迎え入れた。

 

 優先すべきは事情より体調。雨に濡れたまま放置なんてしようものなら、普通はすぐに風邪を引いてしまう。だからこそバスタオルを渡し風呂を入れ始めて戻れば、まだ少し寒そうにする藜さんがリビングで待っていた。

 

「とりあえず、あったかいものどうぞ」

「ありがとう、ございます」

 

 用意しておいたホットミルクを渡しつつ、バスタオルに包まった空さんの対面に座る。

 

「……何も、聞かないん、です、か?」

「ええ。家出してきたってことは、何か事情があるんでしょうけど」

 

 少しの間そうしていると、不安に揺れる顔で空さんがそう聞いてきた。突然来たことには驚いたし、このご時世に家出なんて珍しいとは思ったけど、別に断る理由もない。この天気で追い返すなんて鬼畜の所業は出来ないし。

 

「そういうのは落ち着いてから、話したいときに話してくれればいいですよ」

「……はい」

 

 空さんの目元に見えた雫は、涙なのか雨なのか。追求することはしない。心が危ういときは、迂闊に触れることの方が危険なのだ。経験則から、嫌という程それはよく知っている。

 

「今お風呂を入れてます。風邪でも引いたら問題ですし、ゆっくり浸かって来てください」

「はい……!」

「この時間だと、夜ご飯もまだですよね? お風呂に入ってる間に、作っておきます」

 

 元々自分1人用だったとはいえ、ご飯は一合は炊いてるからなんとかなる。お味噌汁も明日の朝分を無視すれば足りるだろう。茄子とほうれん草のやつだから、チューブ生姜を入れても美味しいのは幸いだ。あとはまだ手をつけてないおかずだけど……

 

「空さんは、何か嫌いな食べ物ってあります?」

「いえ、特にない、です」

 

 冷蔵庫の中にあるものが使えなかったら、台風の中出かけないといけないところだった。それにあまり、今の空さんを1人にすることはあまり好ましくない。

 

「なら、逆に好きな食べ物はあります?」

ハンバーグ、とか……

「はい。じゃあそうしますね」

 

 消え入りそうな声だったけど、ちゃんと言葉は耳に届いた。ハンバーグって手で捏ねる以上、他人に任せるには中々に難易度が高いと思うのだけど……まあ、そこは信頼されてるって納得しておこう。

 

 そう思って料理を始めれば、何故か空さんが驚いたようにこちらを見ていた。なにか珍しいことでもしていただろうか? そんなことを考えていると、オフロガワキマシタと風呂が貯まった音が鳴った。

 

「じゃあ、入ってきます、ね?」

 

 そう言って空さんはお風呂へと向かって行った。これで残る問題は、俺が未成年者誘拐で通報される可能性くらいのもの──

 

「着替え、どう用意しよう」

 

 空さんが持ってきていた荷物は、VRギアに財布と携帯くらいのもの。背負ってたバッグを今干してるから分かる。

 取れる選択はそう多くない。今までの経験の中で、一番の危機がすぐそこに迫っていた。

 

 

 チャポンと、水が落ちる音が浴室に響いた。

 

「んー……」

 

 少しだけ知っている人の、見知らぬ家の筈なのに、何故かここは今の家よりも安心できる気がした。最近はあまり聞かないけど、懐かしい、料理の音が聞こえているからなのかもしれない。もしくは、台所で料理するユキさんが、まるでそういう風に見えたから……

 

 冷え切った身体に染み入るように、お湯が身体を温めていく。その感覚に、いつしかそんな思考も溶けていっていた。

 

「本当、に、優しかった、な」

 

 気がつけば、私はそんなことを口にしていた。

 ユキさん……友樹さんは、私の好きな人は、何か裏があるんじゃないかってくらい優しかった。1回しか現実では会ったことがないのに。突然押し掛けてきたのに。それなのに家に入れてくれて、あったかい飲み物とお風呂を用意してくれて、夜ご飯まで作ってくれている。

 

「友樹さんは、どう、思ってるん、でしょう……」

 

 面倒くさい子だと……は、思われてるんだろうなぁ。迷惑だとも、多分思われていそう。それでも私が頼れるのは、友樹さんの他にはセナさんくらいしかいない。

 

「はぁ……」

 

 知らず、ため息が漏れた。本当ならセナさんの家に行くべきなのに、私は友樹さんの家に来てしまっているのだし。それでも来てしまったのは、雨の中もう歩きたくなかったのと、少しの下心。それで嫌われたら、元も子もないのに。

 

「あの、空さん。ちょっと良いですか?」

「ぴゃ!?」

 

 風呂の扉がノックされそう聞かれたのは、そんな時のことだった。突然の訪問に、私は逃げるように湯船の中に逃げ込んだ。カッと頬が熱くなっていくのを感じながら、恐る恐る声を返す。

 

「あ、あの、なん、です、か?」

「驚かせちゃってすみません。ちょっと、着替えのことで相談しないとと思いまして」

「え……? あっ」

 

 そういえば、私は着替えなんて一着も持って来ていなかった。それなのにお風呂に入って、どうすればいいんだろう。もしかしてという考えが頭に浮かぶけど、そんなことはされない筈だと頭を振る。

 

「晴れてたならセナに頼む手があったんですけど、この雨ですしダメみたいです」

「そう、ですよね……」

「それでちょっと聞きたいんですけど、今うちにある服、俺の普段着くらいしかないんですけど大丈夫ですか? 洗濯してあるので、匂いとかはしないと思うんですけど……」

 

 ピクンと身体が跳ねた。そのせいでバチャリと水が弾けて、私の動揺する心を写すように水面が揺れていく。

 

「すみません、嫌ですよね。でも、その……とか、濡れた服のままってのも問題なので。明日の朝には、セナに頼んで新品のやつを持ってきてもらいますから」

「……嫌じゃ、ない、です」

 

 申し訳なさそうに言う友樹さんに、私は思わずそう反論していた。着替えを一着も持ってこなかった私が悪いのに、迷惑かけているのは私の方なのに、友樹さんが謝る必要はない。

 

「えっ」

「あっ……」

 

 驚いたように声をあげた友樹さんの語調に、私もあっと気がついた。嫌じゃないのは本当だけど、これじゃあまるで……

 

「そ、そろそろ、上がり、ます、ので!」

「あ、え、はい。じゃあここに何着か置いておきますね」

 

 そう言って、扉の近くから友樹さんの気配が離れていく。

 

「あぅ」

 

 完全にその気配を感じなくなった時、私はズルズルと湯船の中に沈んでしまった。隠し事を期せずして暴露してしまったような感覚に、ただでさえ熱かった頬に更に熱が集まっていく感じがした。

 

 誤魔化すように吐いた息が、プクプクと泡になって弾けていった。風呂を出れるまでには、もう少し時間がかかるかもしれない。

 

 

 やってしまった。

 何かいい匂いがする気がする風呂場から脱出した俺は、頭を抱えてうずくまっていた。俺は馬鹿なんじゃないか。

 

「実質変態だろ……」

 

 沙織にヘルプを求めたところ、『私の服はダメだけど、明日の朝にはどうにかする』って言われたから仕方ないのだが……親の服はサイズが絶対に合わないから仕方ないのだが……女性用下着とか買いに行けないので仕方ないのだが……

 間に合わせとはいえ、この、うん。変態だろ俺。沙織に関しては泊まりに来たらいつものことだけど、普通自分の着替えとかダメだろ……洗濯はしてあるけど。

 

「せめて、美味しい料理で挽回しないと」

 

 信頼度は地に落ちても我が心は不動。

 ご飯に味噌汁、小さめにしたハンバーグに付け合わせでサラダ。普段1人で食べる時よりかなり豪華な内容だった。来客用の食器に箸、コップはさっきのを洗っておこう。

 そんなことを考えつつ準備を整えていると、ガチャリとリビングの扉が開けられる音がした。ふわりと、自分とも沙織とも違う匂いが部屋に広がった。

 

「お風呂、ありがとう、でした」

「いえ、なんか……すみません」

 

 現れたのは、見慣れた自分の服を着た空さんの姿だった。サイズが合ってない為、所謂萌え袖になってしまっており、なんだか申し訳がなかった。

 

「私は、大丈夫です、よ? これは、これで、嫌いじゃない、です」

「それなら、いいんですけど……」

 

 さっきは扉越しだからわからなかったけれど、今の空さんの表情を見る限り本当に嫌そうな雰囲気はかけらも感じない。寧ろ、どちらかといえば嬉しそうなものすら感じる。

 弱みに付け込んでるみたいで釈然としない気分だけど、一旦それは他所に置いて配膳を進めていく。そんな中、空さんから声がかけられた。

 

「あの、私、邪魔じゃ、ない、ですか?」

「え?」

「とも……ユキさんの、両親も、帰って来る、でしょうし」

 

 今気づいたのか、目を伏せて空さんはそう言った。確かに普通の家だと、そういう心配も出てくるか。

 

「大丈夫ですよ。うちの両親、深夜にでもならないと帰って来ませんし」

 

 というか帰って来るかも怪しい。この台風だし、会社に泊まり込んでる気配しかしない。帰ってこないのは普段からだけど。

 そう思って連絡してみれば、『帰れないから残業してくる。帰れても残業だがな!』とテンションの高い返信が即座に返ってきた。やだ、うちの親怖い……

 

「ですから、安心してください。ここにいても、誰に何を言われることもないですから」

「はい……!」

 

 未成年を家に泊める時点で未成年者誘拐として扱われるから、そこだけは本当に怖いけれど。子ども同士で友達ならワンチャン問題なしだと思うけど、そこのところどうなんだろうか。

 最悪の場合、落ち着いた頃空さんに承諾を取ってもらうしかないだろう。けど、家出の原因によっては悪手でしかないし……まあ後で考えよう。

 

「せっかくですから、冷めないうちにご飯食べちゃいましょうか。飲み物はお茶とジュースと牛乳がありますけど、何にします?」

「じゃあ、緑茶がいい、です」

「分かりましたー」

 

 冷めた料理ほど不味いものはないし、日本人らしく問題の解決は後回しにすることにした。何せ、時間はまだまだあるのだから。

 台風の夜は、まだまだ続きそうだった。

 




お風呂シーン難しい……難しくない?


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第110話 家・出 ②

色々な感想をもらったので、色々なキャラに色々なものが生えました。やったねたえちゃん、1話増えるよ!

あ、活動報告の方でちょいとアンケートしてます


 晩御飯を食べ終われば、もうやることは特に何も無い。いつもなら部屋に戻ってUPOにログインするのだが、今日はもうログインはしないと決めている。

 因みに風呂は、空さんが別にそのままでいいとのことだったのでそのまま入ってきた。匂いとか色々と、非常に気まずかったのは言うまでもない。その後も、並んで歯磨きをするなんて奇妙な感覚だったけど、歯磨きは予備の歯ブラシを渡すことで恙無く終わった。

 

 あとは洗濯するくらいしかやることがないけど、この天気で洗濯機を回しても部屋干しにしかならないし、そもそも洗うのは空さんが自分でやりたいだろう。

 

「あの、ユキさん、ちょっといい、です、か?」

「はい? 良いですけど……どうかしました?」

 

 テレビを惰性で聴きながらどうするか悩んでいると、空さんがそう声を掛けてきた。風呂から上がってきた辺りから、明らかに勉強しているみたいだったから触れないでおいたのだけど。

 因みにノートと筆箱は、普通に空さんのバッグに入っていたものだ。VRギアと一緒にビニール袋に包まれていた。失礼だから表紙くらいしか見ていないけど、クラスと出席番号に名前が書いてあったから学校関連のものだろうとは思う。

 

「この問題、ちょっと、わからなくて」

 

 空さんは隣に座って、その手に持ったスマホの画面を見せてくれた。そこに表示されていたのは、俺も去年まで習っていた数学の問題集の一部。内容は仇敵『長方形の辺上を動く点P』であった。……貴様、乗り越えたと思ったらこんなところに。

 

「あー……これって、実際は三角形が形を変えてるだけなので、1回気づいちゃえば早いと思います」

「……なるほど、です」

 

 UPOで空間認識能力なんてものを使っている以上、1回気づいてしまえば割とどうとでもなる。あのスキルをガンガン使うようになってから、急激に理数系と暗記系の科目の点数が上がった俺が言うんだから間違いない。

 

「そういえば、空さんって今年受験でしたっけ?」

「はい。模試は、A判定、ですし、推薦も、貰いました、けど」

 

 思っていた以上に、空さんの頭は良かったらしい。確実に同じ頃の俺より頭がいいのは間違いない。

 

「マジですか。本当にすごいですね。俺なんかB〜C判定で一般入試でしたよ?」

「そうでも、ない、です、よ? 覚えちゃえば、じょじゅつ系以外、楽です」

 

 そう言う空さんは、どこか嬉しそうな雰囲気を纏っていた。何やらスマホの画面に文字を書き込んでるみたいだけど、楽しそうに画面を滑る指先を見ればそれは明らかだった。いや、そんなのに気づく俺はどうかしてるのでは。

 

「そうですか。でも、それだけ結果が出てるなら、もう少し気を抜いても良いんじゃないですか? 時折UPO内でもやってるの見ますし」

 

 俺自身もよく利用しているのだが、時間が2倍に加速されているUPOはそういう作業にめっぽう相性がいいのだ。噂に聞くVRオフィスとやらは、加速倍率がもっと高いらしいから重宝されることだろう。

 

「いいえ。ちゃんと、続けてこその、勉強、です」

「ほんと、偉いと思います」

 

 最近どの教科でも80〜90点を叩き出せるようになったけど、基本的に俺のサボりがちな勉強スタイルは変わってないし。授業をしっかり受け取ったノートを改めて書き写すのと、直前までの暗記なんて方法は教えられるわけがない。

 

「それと、もし合格、できたら、よろしく、です」

 

 確かにここら辺にある高校は、そんなに多くないから可能性はあった。けどそっかぁ……空さんがうちの高校くるのかぁ。どうしよう、絶対荒れる。胃も一緒に。

 

「先輩」

「うぇっ!?」

 

 耳元で囁かれ、なんか変な声が出た。そんな俺の反応を見て楽しそうに笑いながら、空さんは勉強に戻っていった。

 

 そのままカリカリと、ペンの走る音が聞こえること約10分。それなりの時間になってきた頃、ペンの置かれる音とノートの閉じられる音が聞こえた。どうやら勉強は終わったらしい。話しかけるなら今のタイミングがベストだろう。

 

「そういえば、寝る場所どうします?」

「えっ?」

「いつもなら来客用の布団があるんですけど、今ちょっと使えなくて……」

 

 布団カバーが洗濯中だったけど、この雨のせいで乾いてないのだ。それと取り込んであった洗濯物を干してあるせいで、来客用の部屋も使えない始末。空さんが来ることを想定してなかったから、仕方ないっちゃ仕方ないことなのだけど。

 

「それで使えるベッドが、俺の部屋あるのと両親の部屋にあるのの2つだけでして……」

「なら、ユキさんの、部屋のがいい、です」

「了解です。2階に登ればすぐ分かると思うので、自由に使っていいですよ。でも、箪笥はあんまり弄らないでくださいね」

 

 返ってきた予想通りの答えに、そうなるかと納得して返事をした。親の布団とか、ねぇ? 必然的に俺の部屋に入ることになるけど……まあ、やましいものは何もないし問題ないだろう。

 唯一問題なのは、しまってた筈の服が消えたり増えたりするうえ、何故か沙織の服が入ってる奇妙な箪笥くらいのものだ。かなり昔だけど、おもちゃの手錠が出てきたときは腰を抜かした記憶がある。

 

「むぅ、私、そんなこと、しない、です」

「そこらへんは信じてますけど、一応言っておこうかなって」

 

 そうだった。よく色々やらかしていく沙織とは違うのだった。咄嗟に取り繕いはしたけど、多分アウトな気がする。治ってきてると思ってたのに、まだ基準が随分とズレてることが嫌に実感できる。

 

「本当に、何も、聞かないで、くれるん、です、ね」

「最初に言った通り、話したくなったらで良いですよ」

 

 そう自戒していた俺に、目を伏せて空さんがそう言った。でも最初から言っている通り、事情を追求する気はない。とは言っても、冷静に考えて余り長くは匿えない。どれだけ手を尽くしても、数日から1週間が限界だろう。だからそれまでには話してくれると嬉しいし、色々と助かる。こんな不安を煽ること、口に出したりはしないが。

 

「ありがとう、です。気持ちの、整理が、出来たら、話します、から」

「無理は、しないでくださいね」

 

 無理をしたら、俺みたいな羽目になる。珍しく沙織がずっと沈黙を保ってくれている、あの事件のときみたいに。

 

「大丈夫、です。でも、今日は、先に失礼、しますね」

「分かりました。おやすみなさい」

「おやすみ、です」

 

 そうして空さんは、扉を開けリビングを出て行った。階段の軋む音は聞こえたし、多分問題ないだろう。ベッドは……この前シーツも毛布も干したばっかりだし、変な匂いとかしてないよね?

 

「大丈夫だと信じよう、うん」

 

 唐突に過ぎった不安をなんとか握り潰し、先程からずっと文字を打ち込んでいたスマホをスリープ状態に戻した。報告書っぽい形式になっちゃったけど、急遽書いた日記としては及第点だろう。ようは何時ごろ何があったのかが知れれば良いんだし。

 

「寝る……にしても、もう少し後かな」

 

 自分の部屋を提供してる以上ベッドは親のものしか無いけど、ぶっちゃけ俺も親の部屋で寝たくはない。毛布は諦めて親のを引っ張り出してきたので、リビングで寝るつもりだ。

 それはそれとして、やっておきたいことが少し出て来たのだ。

 

「明日の学校……どうしよう」

 

 1日仮病で休むくらいは出来るけど、その場合沙織にも先生方にも迷惑かけることになる。かといって一応家を預かるものとして、空さんを1人にするのもアレだし……

 

 どうしようかと思いつつ台所へ向かっていると、ポケットの中の携帯が震えた。誰だろうかと開けば、受信したのはタイミングよく学校の一斉メール送信だった。その内容は、明日休校にしますよとのこと。上辺程度の付き合いしかないクラスメイトは知らないけど、沙織はきっと小躍りする勢いで喜んでることだろう。……あっ、本当に連絡きた。

 

「明日はゆっくりするとして……」

 

 沙織に返信を打ち、返しながら、空いてるもう片方の手で冷蔵庫の扉を開く。割と中身はまだ残ってる。明日ゆっくりと出来るというなら、朝ご飯を少し凝ってみるのもありだろう。

 

「折角、誰かに食べてもらうんだし」

 

 いつものコピペみたいな、目玉焼きor卵焼き&ベーコンorハムを出すわけにもいくまい。同じように、残った米を炒めたチャーハンとか、残り物をレンチンしただけの物もなんかやだ。うーん、悩ましい。

 あぁ、いや待て。まだ別の可能性もある。そもそも朝ご飯を食べないとか、軽く済ませたいとかいうタイプもいる筈だ。偶に時間がないときに世話になる、シリアル派も忘れてはいけない。

 

「……聞いておくべきだったかも」

 

 沙織の場合はもう慣れたから問題ないが、寝ている女の子の部屋に後から男が入っていくなんて、そういう関係か変態の所業だ。信頼度ガタ落ち(推定)の今、そんなことをしたら即座にポリスメンが飛んでくる。

 

「時間あるんだし、飾り切り……うん、アリだ」

 

 とりあえず軽いサラダなら、シリアル派と飯抜き派以外にならフィットする。うんよしそれで行こう。

 

 主菜を考えていなかった為、俺は翌朝頭を抱える羽目になるのだか、それはまだ未来の話。

 

 

 自由に使っていいと言われた友樹さんの部屋は、普段の様子からは想像もつかない寂しさを感じさせる場所だった。

 部屋の中にあるものといえば、机にパソコン、本棚、服の積んである小さめの箪笥、そしてベッドと側に置かれたVRギアくらいのもの。カレンダーも時計も、この部屋には見当たらなかった。でも、

 

「友樹さんの、匂いがします」

 

 私の匂いともセナさんの匂いとも違う、男の人の匂い。お祖父ちゃんの以外嫌いなはずのそれなのに、今感じてるこれは不思議と嫌じゃなかった。

 

「ふふっ」

 

 ちょっとだけ浮き足立ったような気分で、なんとなく机の方に行ってみた。卓上には使い込んでそうなノートパソコンが置いてあるだけで、他のものは本当に何もない。失礼だから見ないけど、多分教科書とかは引き出しの中にあるんだと思う。

 あんまり触れて欲しくないと言ってた箪笥は、綺麗に畳まれた着替えが積み上がっていた。箪笥の引き出しには夏や春物でもしまってあるのかもしれない。

 次に見た本棚には、ぎっしりと物が詰まっていた。上段から中段にはライトノベルと言われる種類の本が沢山あり、下段には少量の漫画と爆破○○とか力学○○という表紙の本が数冊。無機質に感じる部屋の中で、ここだけはパッと見て趣味に染まっていた。

 

「ふわぁ……」

 

 一通り見て回ってからベッドに腰掛ける。すると何故か、急に眠気が顔を出してきた。今日は、今まで考えたこともないほど疲れた。殆ど衝動的に家を飛び出して、電車に乗って逃げて、友樹さんのところに逃げ込んで。迷惑を、かけて。

 

「うぅ……」

 

 明日には、事情を話さないと。そんな考えは、私の頭が枕に沈んだ時に崩れ去った。今なら、少女漫画とかで見るヒロインの行動がよく分かった。これは、すごい。

 毛布を被ってみれば、暖かさと一緒にその感覚はグッと増した。でもその感覚を堪能する前に、疲れ切っていた私は眠りに落ちてしまったのだった。

 




感想でエロ同人エロ同人言われるから書いてみたものがあったけど、ユキの理性の城塞を築き崩せなかったのでボツになりました。冷静に考えて何を書いてるんだ私は



※この主人公は、第2回イベントで藜に膝枕されたり実質同衾したりしてます

※幼馴染がアップを始めました


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第111話 理・由

あ、タイトル僅かに変わりました


 空さんが泊まりに来て一悶着あった翌日。雨の勢いが弱まった朝方に、事前に連絡しておいた通り沙織がやってきた。

 

「おはよ、とーくん。言われてたもの、持ってきたよ」

「おはよう。とりあえず入って」

「はーい」

 

 さしていた傘を慣れたように傘立てにいれ、雨を払うようにふるふると首を振る姿に、何故か犬の耳と尻尾を幻視した。

 

「それで、空ちゃんの様子はどう?」

「とりあえずまだ起きて来てないから、多分ぐっすり」

 

 俺単独で寝ている女の子の部屋に忍び込むのは、やっぱり犯罪臭しかないから俺の部屋には入っていない。でも、1度も起きてきてないからそうなのだろうとは思っている。

 

「俺は距離がわからないからアレだけど、家からここまで台風の中来たらしいし。疲れてるんだと思うよ」

「そだね。家出って聞いてるけど、あの距離を歩きで来たのは凄いと思う」

 

 キッチンに戻り手を洗ってから料理を再開しつつ、そんな話を聞いた。俺は空さんの家がどこにあるか詳しくは知らないけど、沙織がそう言うんだからそうなのだろう。

 

「あ、沙織は朝ご飯どうする?」

「食べて来たからだいじょーぶ。あ、でもその豪華なサラダは気になるかも」

 

 ととと、と早足で駆け寄って来た沙織が、今盛り付けていたボールを覗き込んだ。思ったより早起きしてしまったので、気合いを入れて作っている力作だ。

 

「いや、朝から味気ない何時ものご飯じゃ、なんか申し訳ないじゃん? だから、少し豪華にしてみようかなって」

「えー、空ちゃんだけずるーい」

「沙織はもう、特別じゃないご飯を一緒に食える関係じゃん。でも、食べたいなら今度作るよ」

 

 思った通りのことを言っただけなのに、沙織は顔を赤くして黙ってしまった。……何か変なこと言ったか? いや、言ってしまったのだろう。昨日からやらかしてばっかりだな……はぁ。

 

「そうだ。空さん起こして来てくれる? そろそろ9時だし、朝ご飯のタイミング逃しちゃう」

「え、うん。でも、それならとーくんも一緒に来た方がいいと思う」

「なんで?」

 

 意味がわからない。沙織からは別にいいって言われてるけど、普通女子が異性に寝顔を見られるなんて最悪というほかないだろう。

 

「多分とーくんが考えてるようなことはないと思うよ。寧ろ空ちゃんからしたら、とーくんが起こしてくれる方がいいんじゃないかな?」

「えぇ……」

「そもそもとーくん、空ちゃんと会ったイベントで寝顔見てるじゃん」

「えぇ……」

 

 寝癖とか色々あるだろうし、そんなことは絶対にないだろう。どれだけ親しくてもあくまでゲーム内の話なんだし、リアルとは分けて考えるべきだと思うのだが。

 

「いいから! 何かあっても私が責任取るって」

「……そこまで言うなら、行くけどさ」

 

 料理の準備を一旦取りやめ、沙織に手を引かれるままに俺は自分の部屋へ向かう。出来るだけ音を立てないように入れば、そこでは予想通り空さんが静かに寝息を立てていた。

 

「すごく安心して寝てるよ。とーくん、信頼して貰ってるね」

「いやいや、昨日信頼は地の底に落ちたはず……」

 

 小声でそんなことを話していても、空さんが起きる様子は一向にない。確かにこれは起こすほかなさそうだ。

 なんて思っていたら、沙織が肘でこちらを突っついて来た。ニヤついている顔からして、やれということなのだろう。仕方ない。

 

「空さん、起きてください。朝ですよ」

 

 そう言って軽く空さんを揺する。沙織よりも軽いその感覚に不安になるが数秒続けると、身じろぎする気配と共に空さんの目が開かれた。

 

「んぅ……ぁ、おはよぅ、ございます」

 

 やっぱり空さんは朝に弱いのだろう。いつだったかと同じように、緩慢な動作で起き上がった。眠そうに目をこすり、段々と目が覚めていくに連れて、現状の認識が進んで行ったらしい。そうして空さんの目が完全に開いたところで──

 

「そう、でした……ここ、ユキさんの」

 

 漫画とかUPO内なら顔が真っ赤に染まりそうな勢いで、声が小さくなるとともに完全に動きが止まった。

 

「えー……こんなタイミングで聞くのもアレですけど、よく眠れました?」

「そうそう。とーくんのベッドで寝た感想は?」

 

 ひょっこりと顔を出した沙織が、起き抜けの空さんにそう話しかけた。それを見て一瞬悲しそうな表情を浮かべた空さんだったけど、すぐにそれは消え毅然とした表情に変わった。

 

「ぐっすり、でした。泊めて、くれて、ありがとう、です」

「いえ、それなら良かったです」

 

 こんな時間まで寝ていたのが、寝れずに夜更かししてしまっていたとかじゃなくて本当に良かった。

 

「私は──んー!!」

「そういえば、空さんは朝ご飯はどうします? 時間はあるので、好みがあればそれにしますけど」

 

 何故か張り合おうとしていた沙織の口を手で塞ぎつつ、そんなことを聞いてみた。今このタイミングで学校のことを聞くのは野暮だし、着替えとかもあるだろうしね。

 

「えと、あんまり、重くないもの、なら」

「了解です。それじゃあ俺はこれで」

 

 そう言って俺は自分の部屋を後にした。正直に言えば、寝起きの顔を見てしまうという罪悪感と、このままここにいる事の不都合から逃げただけなのだが。

 

 

 降りて来たときの空さんが着ていた服が昨日貸した物のままだったこと以外、特に何か問題かあるわけでもなく。

 要望通り軽めに作った朝ご飯は終わり、学校もないので結局ダラダラと3人で過ごすことになった。因みに豪華に盛り付けただけあってサラダは好評だった。何だかんだ沙織も摘んでたし。

 

 そうして3人でボーッとしていることに違和感がないことに違和感を感じ出した頃、意を決したように空さんが口を開いた。

 

「あの、友樹さん、沙織さん。少し話を、聞いてくれません、か?」

 

 その様子に、なんとなく話題の察しはついた。沙織が私がいて良いの?と目で聞いてきたけど、空さん自身が良いって言ってるんだから問題ないだろう。そう判断して頷きを返しておいた。

 

「無理をして話すなら……って思いましたけど、そういう訳じゃないみたいですね」

「はい。友樹さんの、好意に甘えてただけ、です。ごめんなさい」

「大丈夫だよ、とーくんから言ったことなんでしょ? 許してくれるよ。ね?」

「だね。俺から言ったことなんですから、謝るなら俺の方ですよ」

 

 頭を下げた空さんに、2人でそう言った。自分が責任を持って言ったことを、相手に負わせるなんてとんでもない。そんな奴は屑だ。

 

「私が、家出をしてきた、原因を、聞いてもらえます、か?」

「ええ、どうぞ」

「うん、いいよ」

 

 沙織とハモって答えたその言葉に、安心したように空さんは嘆息した。そしてありがとうございますと、もう一度だけ謝り、滔々と語り始めた。

 

「原因は、簡単に言うと、今の家族と、喧嘩したから、です」

 

 今のという言葉がやけに気になったけれど、話を遮る訳にもいかないので頭の隅に留めておくだけにしておく。

 

「理由は?」

「ゲームを、UPOを、辞めろって、言われたこと、です」

 

 沙織の質問に対して空さんが発した答えは、予想から大きく外れるようなものではなかった。でなければ、VRギアなんて家出の荷物に入れないだろうし。

 

「私も、一応受験生、です。だから、受験が終わるまでなら、覚悟してましたし、そうするつもり、でした」

「でも、それが違ったと」

 

 コクリと空さんが頷いた。

 

「あんな野蛮なゲーム、2度とやるなって。VRゲームも、危ないから、これからずっと禁止するって」

「あー……そういう」

 

 沙織は否定気味にそう言ったが、俺としては『同意は出来ないけど、理解出来ないこともない』という印象だった。

 

 何せVRとはいえ、年端もいかない子供や未成年が、平然と武器を握り怪物を殺していると言えないことはない世界だ。それにPvPなんてその危険性を訴えるには、最もな例だろう。人と人とが、武器を持って殺しあう。見方を変えればゲームはそういう風に捉えることもできる。

 危険性については、世間一般で言われてる「ネットに意識が取り残されて云々」は否定派だけど、それ以外は実体験がある。イレギュラー(何十倍もの思考加速)にイレギュラー(想定されてなかったシステム限界までの脳の酷使)が重なった結果だが、だばっと鼻血出してるわけですし。

 

「んー……私はそんなこと、ないと思うけどなぁ。とーくんはどう思う?」

「まあ、理解出来なくもない。同調は出来ないけど」

 

 だからこそ、裏切られたような顔を向けられても、俺はそうとしか答えられなかった。

 

「そんな……」

「危険なことをやってたりやらかしてる1人としては、否定だけはしちゃいけないと思うんですよ」

「確かにとーくん、何でもかんでも爆破するもんね」

「そこまで節操なしじゃないつもりなんだけど?」

 

 俺にだって、爆破するものを選ぶ権利がある。無論、拘りや好みだって。

 

「でもそれなら、『そんなこと嫌だー!』って反対すればいいんじゃないの? 話そうとしてみた方が、私は良い気がするけど」

「そこは同感です。ゲーム感覚とは言いませんけど、ボスをぶん殴る気分で言葉をぶつければ伝わるんじゃないでしょうか」

 

 沙織のその言葉に同意した。ぶっちゃけ空……藜さんなら、それくらいは出来そうなものなのだけど。

 

「それは……いえ、秘密にしてる、訳にもいかない、ですね。今まで、誰にも言ったこと、なかったこと、です。絶対に秘密、ですよ?」

「とーぜん!」

「秘密をひけらかすほど、口の軽い男ではないですよ」

 

 ほんの少しの逡巡の後、空さんは衝撃的な真実を口にした。

 

「私は、今の両親の、子供じゃない、です」

「それって……」

「はい、養子、みたいなものです。元々は、お爺ちゃんの所で、暮らして、ました。でも、お爺ちゃんが、大きな病気になって……」

 

 空さんの顔が暗くなっていくのをみて、地雷を踏み抜いた感じがした。けれど死んでいく空気を察してか、空さんが言葉を続けた。

 

「今は、元気です、けど。万が一って、ことで、親戚に、引き取ってもらった、感じです」

 

 思わず、沙織が口籠った。そこまで重い内容だとは思わなかった、そんな感じの雰囲気がありありと感じられる。

 今までずっと仲良くしていた人の両親が既に故人か、親権を放棄してると聞いたのだからさもありなん。こういう時は、俺の出番である。

 

「えっと、つまり、だから強気に反対ができないと?」

「……はい。本当の、子供じゃない、のに、養って貰ってる、立場、ですから」

 

 とても辛そうな表情で、空さんはそう言葉を零した。確かにそれは、俺や沙織では想像もつかない問題だ。平凡……うん、比較的平凡な家庭で育った俺たちにとっては。

 

「そう、ですか。でもそれを抜きにすると、空さんはどうしたいですか?」

「そんなの、勿論、続けたい、です……ゲーム自体、好き、ですし。勉強も、ゲーム内の方が、楽に沢山、出来ますもん」

 

 空さんがそう言ったことで、沙織が再起動した。

 

「なら、真正面からそう言えばいいと思うよ! この中で、一番私は何も経験してないけど……絶対、そうに決まってるよ!」

 

 そして、いつもの様に自信を持ってそう言った。堂々としたその態度は、根拠も無いはずなのに信じたくなる。

 

「でも、そんなの、言っていいことじゃ、ない、です」

「それは違います」

 

 だからこそ俺も躊躇なく、そう告げることが出来た。

 

「ワガママは言っていいと思います。俺もまだガキなのでアレですけど、空さんはまだ子どもです。でも、だからと言って親の言うことを全部が全部、そのまま受け入れる必要なんて無いです」

 

 親が受験期の子供からゲームを奪う。よくある話ではあるけれど、ぶっちゃけそれで勉強時間が増えるなんてないだろう。況してや空さんの場合、ゲーム内で勉強もしてるのだ。

 そりゃあ印象は悪いだろうが、寧ろ奪い取ることのメリットより、そのまま使ってもらうメリットの方が大きい気がする。

 

「少しくらい反抗して、妥協点を見つけるくらいはしても許されます……というか、それを許さないならクソ親ですよ」

「でも……」

「昨日の話の通りなら、結果は十分以上に出てるんですよね? 自信を持っていきましょう」

 

 昨日聞いた限りでは、志望校合格には十分以上の実力と実績がある。それを見せつければ、少しは向こうにも考える選択ができるだろう。

 

「とーくん、それってどういうこと?」

「いやね? 昨日聞いた限りだと、空さん凄いんだよ。来年のうちの推薦枠勝ち取ってるし、そもそも通常受験でも模試でA判定は取れてる」

「えっ、それ私より……うん、それなら絶対大丈夫! それに、いざってなったら私もとーくんも、説得の助けには入るよ。ね?」

「当然」

 

 ここまで言った責任もあるし、家出先の提供だってしてるんだ。当然それくらいはするに決まってる。

 

「そういえば、全員から反対されてるの?」

「いえ、今のお母さんは、賛成、してくれて、ます」

 

 どうやら味方は0ではないらしい。そう分かった時に、1つ昨日後回しにした大切なことを思い出した。

 

「あー……綺麗に纏まりそうなところ悪いんですけど、1つお願いしても良いですか?」

「? なんでしょう」

「保護者の同意なく未成年者を家に泊めた場合って、最悪犯罪になりまして……」

 

 昨日は台風からの緊急避難ってことで、学生なこともプラスして平気だろうけど、流石に今日は誤魔化せない。その事を盾にされたらどうしようもないし、出来れば助けてほしいのが本音だった。

 

「んと、一応、昨日の夜、友達の家に泊まるって、連絡して、OK貰い、ました」

「よかった……それなら、安心して家出先として使ってください」

 

 保護者からの同意が得られてる以上、恐れるものはあんまりない。これでこの問題は丸く収まるだろう、この時はそう思っていた。

 




元々藜はリクエストで、リクエストしてくれた人が設定(+2次創作?)で『養子』って言ってくれてたけど、調べれば調べるほど現代で『養子』が厳し過ぎたので、そこの変更だけは許してください……


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第112話 邂逅

 なんだかんだで、家出に関する話がある程度まとまった翌日。空さんは学校を休むようだったけど、俺と沙織はそうもいかず。軽く話した結果、まあ問題ないだろと俺たちは登校することになった。

 

「それじゃあ、私たちは学校に行ってくるから」

「留守番、お願いしますね」

「私と、しては、2人がここから、登校するのが、不思議、なんです、けど……」

 

 困惑顔の空さんを背に、何故か昨日、いつも通り泊まっていった沙織と一緒に玄関を潜った。いつも通りの日常、いつも通りの風景。もしかしたら来年は、電車通学なら空さんもここに加わるのだろうか……あ、ダメだそれ、完全に俺が刺される。nice boatしちゃう。楽しそうなのは間違いないけど。

 

 そんなことを考え沙織と駄弁りつつ、普段と変わらない通学路を歩いている時のことだった。近くの路地に繋がる道、そこに不審な人影を見つけた。何のつもりかサングラスをかけ、こちらをずっと見ている人影を。

 

「沙織、警戒」

「ん、どしたの?」

「不審者。サングラスを掛けてて、ずっとこっちを見てる」

「え……?」

 

 件の人物を探そうとした沙織を、手を握り止める。今気づかれたら、ちょっと面倒なことになるし。

 普通なら気付くようなものではないけど、流石に数分間ずっと移動しつつ見られたら分かるというものだ。でもって、だ。こちらを見てるということは、狙いは俺みたいな一般人ではなく十中八九沙織だろう。

 

「とりあえず、合図したら学校まで。ダメそうならそこら辺の民家にでも逃げ込んで」

「とーくんは?」

「いつも通りどうにかする」

 

 昔から、ごく稀にだけどあったことだ。全裸コートの変態とかの通報案件の襲来は。なにせ、普段のらりくらりとかわしてはいるけど、事実沙織は可愛い。すごく。美少女って言って過言じゃない。

 だからこそ、そういうのが狙うよねという話。高校に入ってからは初めてだけど、まあもう慣れたものである。いつも通り無事に済むかはともかくとして。

 

「行って」

「分かった!」

 

 パタパタと走っていく沙織に合わせて、俺はその姿に背を向ける。そしていつでも110番できるようポケットの携帯を開きつつ、恐らく歳はほぼ同じ不審者に声をかけた。

 

「さっさと出てきたらどうです? バレバレなんですよ」

 

 ゲーム内と同じレベルまで素で集中して、姿を現した人物を観察する。体格は同等。足運びは一般人……でも、どこか慣れている。手を握り締めて、眉間にシワが出来てるから怒っていると推測。

 

 総括、危険人物と推定。

 

「死ねぇ!」

 

 そこまで判断出来ていたから、いきなり殴りかかられても対応できた。ゲーム内の誰と比較しても遅すぎる拳を、いつも通り回避する。ゲーム内より寧ろよく動く身体に感謝しつつ、足を掛けて転ばせようとする。

 

「いきなり往来で『死ね』とは穏やかじゃないですね。通報しますよ?」

「お前、誘拐犯の分際で……」

「はぁ?」

 

 こいつは何を言っているのか。まるで訳がわからんぞ。一切集中を切らさず、その挙動も読み取るため少し距離を取る。無論、沙織が追われないような方向に。

 

「人違いじゃないですか? こちとら普通の高1のガキですけど」

「間違いない。お前がユキとかいう奴だろう!」

「別人なんですけど……」

 

 指を指してそう言われても、誰が好き好んでリアルバレなんかするもんか。呆れて返すも、この御仁は話を聞くつもり自体無いらしい。

 

「いいや間違いない。お前が空を、妹を誑かした犯人だな!」

 

 この時点で、狙いが沙織でなかった安堵と共に、空さんの元家族への評価が地の底へ落ちたのは言うまでもあるまい。だからポーズを決めてる自称兄を無視して、スマホを取り出した。

 でもって沙織にSNSで『何も問題ない』と連絡。次に、電話帳から我が家の番号を選択して──

 

「あ、もしもし警察ですか?」

「なっ──」

 

 自称兄が絶句してるけど知ったことか。突然殴りかかってくるやつに、表面上だけでも遠慮はいらない。

 

『えっと、幸村、です』

「事件です。私のことを誘拐犯だと決めつける、謎の自称兄と名乗る人物が、突然道端で殴りかかってきました」

 

 空さんの息を飲む音が聞こえた。色々訂正したいことはあるけど、警察に電話しているようにみせる為に少し我慢。それよりも、推定空さんの兄がリアル義兄である確認を取らねば。

 

「髪は黒、身長は160台後半から170前半、太ってはいません。服装はジーパンにポロシャツ、灰色のパーカーを羽織ってます」

「ちょっ、ちょっと待て!」

 

 伸ばされた手を払い、いつも通りの足捌きで躱しつつ電話を続ける。初対面の人間に暴力を振るうような相手、まともに相手するに値しない。

 

『友樹、さん。それ、多分、兄、です』

「そうですか、分かりました。どうすれば良いですか?」

「電話を、やめろ!」

 

 この時間だし、そろそろ何とかしたいところだ。というか、今の状況わかってるんだろうかこいつ。

 

「この、二股野郎が!」

「そもそも、俺は誰とも付き合ってないですって」

 

 どうしよう、本当に110番してやろうかこいつ。あとなんで空さんも驚いてるんですかねぇ。もし、もし俺が誰かとそんな関係にあったら、そも空さんのことを泊めないでしょうに。

 

「嘘をつくな!」

「嘘なんて言ってないんですが……」

 

 自意識過剰の可能性は大きいけど、好意に気づいてないとは口が裂けても言わない。それでも、いやだからこそ、俺は一切手を出してない。押し倒されても手を出さない自信がある。

 

「さっきのを見て、信じられるとでも思ってるのか!」

「幼馴染ですが」

「お前みたいな奴に、大切な妹を任せておけるか!」

 

 黙ってしまっている空さんの心配をしつつ、適当に目の前の奴をあしらってるとその言動から気づいた。この自称兄って、もしかしたらただシスコンでしかないのでは?

 いや、ないかと首を振って否定する。道端で突然殴りかかってくるやつがそんな訳ない。シスコンならこう、ランさんみたいにあるべきだ。妹の為なら物理法則をブッチする勢いで動くような。

 

『友樹さん、変わって、ください』

 

 そんなことを考えていると、通話先から冷え切った声が聞こえた。単純に「あっ、これヤベェ」としか判断できない声が。

 

「す、スピーカーフォンでも?」

『問題ない、です』

 

 聞き終えると同時、電話のモードを切り替えて目の前にかざした。

 

『兄さん』

「空か!」

『帰れ。2度と、顔、見せるな』

 

 吐き捨てるような冷え切ったその言葉は、俺のどんな言葉より効いたらしい。自称兄は、凍りついたかのように固まってしまった。確かにこれは、俺も言われたらキツイわ……

 

「だ、だがな」

『ユキさんの家まで来たら、本当に通報する』

 

 心なしか普段よりも饒舌な空さんの声は、完全に自称兄の精神を粉砕しているように見えた。崩れ落ちてるし。

 

『もういい、ですよ、友樹さん』

「ん、ああ、はい。それでは」

 

 バッサリと切り捨てた空さんの意外な一面を覚えつつ、俺は通学路に崩れ落ちた変人を見なかったことにした。沙織にも心配かけただろうし、早く学校行こう。

 

 うん、今日ここでは何もなかった!!

 

 

 帰りには何事もなく下校し、1日ぶりにログインしたUPO。リビングからのログインだけに、多少の不安はあるが少しゲームにinしたい理由があった。

 

「と、言うことで。そんななんちゃって義兄が出たんですよ。ランさんとしてはどう思います?」

「論外だな。仮にも兄であるなら、何をおいても妹を優先するべきだ」

「ですよね」

 

 これがシスコンというものだろうと、内心しきりに頷きながら答える。うん、やっぱりシスコンってのはこうであって、朝見たアレはただの変質者だったのだろう。間違いない。

 

「だが、そういう奴は簡単に手は引かないだろうな。必ずまた、自分の意見を押し付ける為どこかで接触してくるだろう」

「粘着ですか……面倒ですよね。ストーカーにもちゃんと、警察動いてくれればいいのに」

「なんだ、経験があるのか?」

「ええまあ、昔ちょっと」

 

 ついでに高校入ってから、セナと親しくしてるからか俺が付き纏われたりしてるし。実害がないから、どうしようもないんだよなぁ……

 

「とりあえず、これから暫く警戒して──む」

 

 そんなことを話していた時だった。外からこのギルドに向けて、何かが物凄い勢いで迫ってくるのを探知した。またそこで寝てる人(カオルさん)への来客だろうか? そう思っていた俺の耳に届いたのは、予想外の声だった。

 

「ここに極振りのユキはいるか!」

 

 入り口に立ちそう宣言した人物の声は、今朝聞いたものと同一のそれだった。噂をすれば影とはこのことかと思いつつ、即座にステルスしながらその訪問者を観察する。

 体格はほぼ同一、髪の色は黄緑が一番近い感じ、装備は1/3くらいが既製品とその強化品っぽい。乗り換え前提なら確かにそっちの方が安上がりだし性能そこそこだから、まあそこは普通か。

 

「はいはい、ここにいますよ」

 

 少しだけ普段とは声を変えて答えた。同時に鑑定と看破の複合(11個目の)スキルで、少しだけステータスをすっぱ抜く。成る程、Lv57で【剛槍術】持ち……藜さんとは違うタイプの槍使いっぽい。

 本職じゃないのとステータス不足でほぼ見えないけど、武器か魔法スキルくらいはすっぱ抜けるのだ。現実での動きがアレなのは、ゲーム内の動きに慣れてるからだろう。

 

「俺とデュエルしろ!」

「別に良いですけど……いつやります?」

 

 その提案を断る理由は特にない。あの高難度イベント以降、それなりにPvP申し込まれる機会が増えたのだ。最初は断っていたけど、最近はちゃんと受けるようにしているし。

 

「今すぐにと言いたいが、明日の午後6時でどうだ」

「特に予定ないし良いですよ」

 

 それにここ最近、厄介ごとばかり舞い込んできて鬱憤晴らしをしたいのだ。勝つにしろ負けるにしろ、作業ゲー染みた戦闘以外を久しぶりにやりたい。そんな魂胆を抱いていると、推定自称兄……推定自称兄ってなんか気持ち悪いな。PN(プレイヤーネーム)レウスとやらはニヤリと笑みを浮かべた。

 

「勝った方は、互いのギルドから1人移籍してもらおうか」

「は?」

 

 相変わらず意味のわからないことを言う。いや、藜さんをうちから切り離したいんだろうけど。

 

「いや、こっちに受けるメリットが微塵もないんですが。それにそもそも、俺ヒラ団員なんで決められませんし」

「は……?」

 

 今度は向こうが固まる番だった。え、いや、もしかして俺がギルドのマスターとかサブマスと思ってたとか? 最初からずっとヒラ団員なんですけど。

 

 固まった空気の中、何処かで烏が鳴いた気がした。

 

 どうしよう……そう思っていると、視界の端でムクリと今の今まで寝ていたカオルさんが起き上がった。そしてこちらを見ると、目を見開いて叫ぶ。

 

「サブマス3号じゃないですか!」

「えぇ……」

 

 予想外のところで、2つの問題が重なった。世間って、こんなに狭かったっけ……?

 




書けてなかったリハビリリハビリ


推定自称兄(話をする気がない)
ユキ(話されないから聞かない)
ファイッ!


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第113話 殴り合ってから考えよう

IKEAのサメかわいいよね


 元々受けるメリットもなく、断ろうとしていたこのPvP。けれど断る直前、カオルさんが発した言葉で流れが変わった──

 

「サブマス3号じゃないですか!」

「ん、ああ、ここにいたのかお前」

 

 なんてことはなかった。少し驚いたようにはしつつも、それだけで推定自称兄はこちらに向き直った。うん、まあ、今は関係ないしそうなるか。妙な納得とともに、俺もそれに倣う。

 それにしても、温まった場の空気を平常時まで落とすなんて流石ですわ。多分これからは、もう少し落ち着いた交渉になるだろう。

 

「ちょぉぉっと待ったぁぁ! なんで! ボクを! 無視するんですかぁ!」

 

 そうして言葉を発しようとした瞬間、カオルさんが割って入ってきた。物理的に、スライディングをしながら。

 

「ぴぎゃぁ!?」

 

 そしてそのままカウンターに足をぶつけ、死にそうな声を上げてその場に崩れ落ちた。なんだこれ……なんだこれ?

 

「折角貴方のギルドから逃げてる私を見つけたのに、何ですかそのアッサリとした反応は!」

「そもそも、俺は何も追うまでは必要ないと思っててな……」

 

 そう渋い顔をして、推定自称兄さんは言った。うん? リアル凸には驚いたけど、もしかしたらある程度話が通じる常識人なのでは。

 

「それならそれで、ボクもこの話1枚噛ませてもらいますよ!」

 

 いいですよね、とカオルさんがこちらを睨みつけてきた。まあ、あんまりにもアレなら介入すれば良いだけだし、とりあえず頷いておく。

 

「ふふーん。おっけーも貰いましたし、そっちが理不尽な要求をするなら、ボクだって1つ要求させて貰いますよ!」

「あ、ああ」

「ボクも爆破卿サイドで参戦します。そして勝ったら、もう追ってくるのは金輪際やめて貰います!!」

 

 ドヤァと、決まったとでも言いたげに、推定自称兄を指差したポーズでカオルさんは言い切った。まあ、便乗して要求するには問題ないくらいのことなんじゃないだろうか。その後どうなるかはさておき。

 

「構わないが、多分お前が関わるとなるとギルド総がかりになるんだが……」

「ハッ、称号持ち2人を相手にするんです。それくらいで丁度ですよね、爆破卿!」

「えぇ、まぁ、そうですけど……」

 

 こっち側の趣旨がブレるけど……まあ、誤魔化せそうだしいっか。最悪、その後もう一回やりゃあいいんだし。

 

「あー……訂正だ。デュエルの日、明後日にしてもいいか?」

「俺は構いませんよ」

「すまん……」

 

 カオルさんの介入によりもうなんか、さっきまでの雰囲気は那由多の向こうへと消え去ってしまっていた。仕切り直し、とても大切。

 

「え、なんです? なんですかこの空気? ボクが悪いんですか!? ボクは何も悪くへぶ!?」

 

 とりあえず、事態をさらにややこしくしてくれやがったカオルさんは爆破しておいた。いろいろ相談の余地は残ってるとはいえ、結局やることになったし……やるからには、全力で勝ちに行こうか。

 

 

 翌日はリアルもゲームでも何事もなく、至って平穏な時間が流れた。こういう決闘騒ぎは稀によくあることだし、せいぜいがあの時ギルド内にいた人だけの話で終わった。

 

「先ずは、この状況を謝る。俺は1対1で決着を付けたかったんだが、ギルドの方針は止められなかった」

 

 時間は進みデュエル当日。決闘場所として指定された第5の街周辺の草原で、俺は推定自称兄に頭を下げられていた。その理由は、推定自称兄の後ろに控える30人のプレイヤー。

 昨日目一杯の謝罪文とともに送られてきた『デュエルの仕様変更』に書かれていた通りの状況だった。

 

「昨日のメールでそれは散々聞きましたので、別に構いませんよ」

 

 仕様変更の内容は、PvPの内容をバトルロワイヤルに変更すること。それに伴い、実質このPvPはギルドvsギルドになるだろうこと。そしてカオルさんの参戦が確定した為、開始時間が22時にズレたこと。勝利条件は、最後まで残っていたプレイヤーがいた組の勝ち。

 

 お互い頭の冷えた状態で、関係者を交えて話し合った結果の条件だから、否応もない。どうやら、カオルさんがいることが分かった時点で、サブマスじゃどうしようもないギルド全体の意識が……という流れらしい。一応止めようとはしてくれたっぽい。

 

 ちなみにその後軽く話すことで、自称兄は話が通じる人と分かったのだけど、それはそれ。お互い血が上った勢いで、もう引くに引けなくない状況になってしまってる。

 

「でも、こうもあからさまになるとは思いませんでした」

 

 彼我の戦力差は、数字だけでいえば31vs3である。1人で10人くらい倒せばいける、マルス理論の通り何も問題はない。が、それでもよくそんなに集めたと言いたい。

 

「別にボクと爆破卿、それに藜ちゃんまでいれば負けることはないと思いますけどね!」

「ぶっ潰し、ます」

 

 それに対して、こちらは俺とカオルさん、そして藜さんのみ。

 セナは「私までいるとオーバーキルになるから」って言って辞退して、れーちゃんは眠気に負けてログアウト、つららさんとランさんは「お前がいるなら余裕だろ?」と、れーちゃんと一緒にログアウト。そうして残ったのがこの惨状というわけだった。

 

「分かった。俺が言えた立場じゃないのは重々承知しているが、言わせてくれ。せめて、悔いのない勝負にしよう」

「ええ。良いバトルにさせて下さいね?」

 

 そう言って、送られてきたデュエル申請を承認した。直後、この場にいる全員の中心に、カウントの数字が浮かび上がる。

 

「爆破卿、事前の作戦通りに行きますよ」

「ええ、有象無象と邪魔する奴は、俺たちに任せてください。だから」

「私が、アレと、直接やります」

 

 夜空に浮かび上がる数字が減っていく中、俺たちはそんな会話を交わした。

 散開して武器を構える31人に対し、俺とカオルさんが水平に並び一歩下がった場所に藜さんがいる。そんな即席の陣形だったけど、この分だとまあ問題ないだろう。

 

磁装・蒐窮(エンチャント・エンディング)

「蒸気、充填開始」

 

 戦闘開始5秒前

 

 俺が何時もの通り抜刀術の構えを取る隣で、カオルさんもその奇怪な武器を腰溜めにして構えた。俺の仕込み刀と違って、その形状は正真正銘の刀だ。

 1つのタンクから歯車と配管が這うように広がるその鞘は、柄を握るゴツい籠手は、夜空の光を鈍く反射するそれらは、何処か男の子のソウルを刺激する。

 

 4秒前

 

 紋章を展開していくこちらに対し、カオルさんは機械っぽい装備のある部分から白い蒸気を噴き出していく。

 事前に聞いた話では、カオルさんは基本抜刀術メインで少し魔法も使うタイプのスタイルらしいかった。しかも俺やアキさんと違って、攻防一体のちゃんとした。

 

 3秒前

 

 後ろで藜さんが、既にペットを召喚・合体した状態で大きく後退する。それは逃走ではなく助走。俺とカオルさんで有象無象を吹き飛ばした後、一騎打ちに持ち込む為のものだ。

 

 2秒前

 

 こちらの準備が完了した直後、カオルさんの足元からズドンと重い音が響いた。見れば、一部から蒸気を噴出する靴から、地面に向けて杭が打ち込まれていた。いいなぁ、それ。

 

 1秒前

 

 こちらが何をするつもりなのか、分かったプレイヤーがいたのだろう。だがもう遅い。推定自称兄がいる線を除き、そこは全て射程圏内だ。

 

 0秒

 

電磁抜刀(レールガン)──(まがつ)!」

「蒸気抜刀──紫電一閃!」

 

 戦闘開始と同時、解放された2つの抜刀術の技が炸裂した。

 

 片や、紋章の力で爆発的に加速された、稲妻を纏う一撃

 片や、蒸気の力で爆発的に加速された、紫電を纏う一撃

 

 ともにプレイヤーが受ければ即死する火力の、威力増大により範囲攻撃と化した圧倒的な指向性を持った暴力。それらが草原を砕き、抉り、切断し、吹き飛ばしながら、直進していく。

 

 それぞれの一撃は、大きく地形に2条の線を深く深く刻みつけた。そして合流した電撃を纏った威力は、混ざり合ってヴォルテックスを形成する。25人、それが巻き込まれて蒸発したプレイヤーの数だった。

 

 俺の方の火力は、加減したこともあって大体500万くらい。それから比較してみるに、カオルさん方は100〜200万くらいはありそうだ。流石は称号持ちかつ、その力が一番発揮される時間である。

 

「いやぁ、我ながら壮観ですね」

「やっぱり夜のボクの抜刀術は最強ですね!」

 

 中々に危ないカオルさんの発言は無視して、お互いにサムズアップをする。

 

「では」

「約束通りに」

「行き、ます!」

 

 そしてその中間を、羽撃きと共に藜さんが突撃していった。多分これで、邪魔が入らなければ話し合うくらいは出来るだろう。俺も推定自称兄も、1日経って頭も冷えたし。運良く残った4人も、多分藜さんなら問題なく倒せるだろう。

 同時にカオルさんが大きく飛び、俺から距離を取った。まだ探知圏内にはいるし、いつでも援護はできる態勢である。

 

 そんなことをした理由は何故か。決まっている。あの斬撃を自主的に躱した2名の邪魔を、一切入れさせないためである。

 

「さて、噂には聞いてますよ。ケッテンクラートに乗った、紅茶決まったヤベー奴がいるって」

 

 そう言って、俺は目の前に着地した異形のバイク……ケッテンクラートに乗ったソイツに話しかけた。

 

「いやはや、私も先駆者と対面出来て満足だよ」

 

 そう語るのは、鹿撃ち帽とインバネスコートを纏い、マスケット銃を担ぎパイプを咥えたプレイヤー。先輩方が話していた、シルカシェンという名の準極振りのプレイヤー。それも、ステータスはStrとLukの2極だという。

 

「それにしても、私は貴方があのギルドの味方をするとは思いませんでした。話を聞く限り、思考回路は先輩方に近いようでしたので」

「カジノに出禁を食らってから、些か懐が寂しくてね。分かるだろう?」

「ええ、とても」

 

 俺も同じく、カジノから国外追放を受けた身だ。あんな手早くお金をポンポン稼げる場所から、普通の狩場で何かをするとなるとかなりキツイ。

 

「故に、だ。200万Dポンとくれた奴らに、気紛れに味方することにした。装備の維持費がな、嵩んで仕方なくてな……」

「同じバイク持ちですし、そこも痛いほど分かります。金かかりますもんね……」

 

 お互いに深くため息を吐き、同類なのだと認識した。バイクの維持費、消耗品の購入、武器の整備、やり出したらお金はすぐに飛んでいく。普通はレベル上げでもすれば採算は付くが、極振りだとそうもいかない。

 まあ、俺の場合お金には困ってないのだけど。5000万Dを超えて、まだ増え続けてるし。貯蓄も500万D分くらいはある。あと制作系のスキルもあって、最低限それが使えてるのも大きい。

 

「でも、今はそんなこと置いておきましょう」

「こちらとしても、幸運極振りの先駆けと戦えるのを楽しみにしていましてね」

「俺も、自分以外の幸運振りと戦うなんて初めてで、楽しみです」

 

 そう言ってから、何時ものようにカッコつけることなく愛車(ヴァン)を召喚する。そして、目の前のケッテンクラートに対抗するかのように吹かす愛車に乗り込み、こちらも【新月】を構える。

 

「やりますか」

 

 夜の草原に、エンジンが吼える爆音が響き渡った。

 



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第114話 火薬 × 紅茶 = ?

 お互いにアクセル全開のスタートダッシュ。俺の方はタイヤが、向こうは履帯が勢いよく回転し、揃って鉄砲玉のように飛び出した。

 

「うっそ!?」

 

 最初の数秒は拮抗したものの、すぐに俺は追い抜かされ前方を取られてしまった。マシンの基本性能は、どうやら向こうが上回っているらしい。ターボを使えば追いつけないこともないだろうけど、多分向こうもそれくらいは搭載しているだろう。

 一体マシンに幾ら注ぎ込んだのか……後で気になるから聞こう。

 

「《ラピッドファイア》!」

「《障壁》」

 

 素直に感心していると、身を捻ってシルカシェンさんがこちらに銃口を向けてきた。その引き金が引かれる前に、いつもの癖で銃口を障壁で塞いだ。先輩方の話によると、あのセンタさんと互角に撃ち合っていたというので、念の為50枚。

 

 結果、48枚まで銃弾が喰らい破ったところで、決して散ることのない鉄の華が咲いた。

 

「ガァッ!?」

 

 どうやらゲームシステム的に作られたライフルではなく、ハンドメイド品であったらしい。市販品と違い爆発し腕ごと吹き飛ぶのではなく、砲身部分だけが華が咲くように裂けていた。あれなら換装して再使用できそうだ。

 HPも、どうやら3割くらい持っていかれているようだ。俺の場合、愛銃が暴発したら即死するのに……

 

 というわけで、諸々の感情を込めて爆破を開始した。

 

「イヤッッホォォォオオォオウ!!」

 

 最近、ストレスが溜まりに溜まっていたからだろう。抑圧されていた感情を燃やし尽くすように、思わず歓声を上げてしまった。

 

 運転を愛車に完全に任せ、両手で爆竹を投擲する。今回は愛車にも積んであるので、このデュエルに限っては実質残弾無限。戦場の外周を走りながらする爆破は、速度も乗ってるし久し振りに快感だ。

 

「くっ、本職はここまで……!?」

 

 何か言ってるみたいだけど聞こえない。

 ああ、今なら懐かしきガトリング・オーガの気持ちがわかる。固定値の乱れ打ちほど楽しいものはない。香る火薬の芳香、耳に轟く炸裂音、最近は大仕事とかで忘れかけていたけれど、俺のUPOの原点はやっぱりここにある。

 

「なーにが紅茶ガンギマリだ、それならこちとら火薬ガンギマリじゃい!! FoFoo!!」

 

 平原を炎上させながら、捕まったら終わりのデッドヒートが始まった。なに、どうせ装備は壊れても元に戻る設定にしてあるんだ。燃え上がっていこう!!

 

「後で一緒にパンジャン作りましょうよパンジャン!」

「イかれてる……!」

「こんな感じでどうですかねぇ!?」

 

 障壁で車輪、軸を再現しつつ、爆竹をしこたま積んで作った仮想パンジャンを突撃させる。ロケット推進の代わりに加速の紋章で進むそれは、急造だった所為かすぐに転倒して大爆発を引き起こした。

 

「ああクソッ、無駄に再現度が高い!」

「Yeah!」

 

 紅茶ガンギマリ勢から、造形だけはOKサインが出た。ということは、これをベースにちゃんとパンジャンを製作するのもありかもしれない。ネタ抜きで、基本動けない俺からすると自走式の爆弾って嬉しいし。

 

「ワンチャン、火薬から燃料精製できるか……?」

 

 ユニーク装備なら、きっとそれくらいの無茶は応えてくれるだろう。つまりパンジャンドラムや、それ以降の兵器……ミサイルとかも作れるかもしれない。ここら辺は、あの飛行機乗りの人たちに話を付けてみないとだけど。

 

「ふむ……これから毎日、ノルマンディー?」

「何故そうなった!」

「全然分からない。俺は、フィーリングで爆破をしてる」

 

 ノリと勢い、あとテンション。何をもって爆破の対象にするかは、基本的には楽しいか否かでしかない。現に、ほぼ全ての街を爆破してる俺も第2と第5は爆破してないし。6と7は後で吹き飛ばす予定だから問題ナッシン。

 

「くそッ、火薬キマってる相手に話が通じるわけがなかった!」

「それを言うなら、紅茶キマってるそっちもでしょう? あ、どうぞスターゲイジーボムです」

 

 パイ状にしたプラスチック爆弾に信管を刺し、空を見上げるように爆竹を刺した代物を投擲した。紋章で加速したから、間違いなく正確に奴の手元に届くことだろう。

 そう思っていたのに、向こうは大きくハンドルを切って避けてしまった。むぅ、折角凝って作ったのに。食べ物を無駄にするなんて許せない、郷土料理のパイだってのに……待てよ。パイ、パイだよなこれ……

 

「どーもシルカシェンさーん、知ってるでしょう~?

 ユキでございます。

 おい、パ イ 食 わ ね ぇ か」

「本物なら、検討するのだがね!!」

 

 よっし。人生で一度は言ってみたいセリフが言えた。無論スターゲイジーボムを投げるのは辞めない。思った以上に火力にも期待できるしこれ。

 

「ハッハッハ、なら本物のマーマイトもプレゼントぉ!」

 

 この前偶然ドロップしたけど、使い道がなくて……あとその、食えなくてアイテム欄の肥やしになってるやつ。サルミアッキは特に問題なくいけたんだけどなぁ……

 

 早々に向こうの攻撃手段を潰せたからか、少しはこんな風に遊ぶ時間ができた。この間に、藜さんが色々と決着をつけてくれると良いんだけど。

 

 

「あっちはあっちで始まりましたし、こっちも始めましょう元ギルマス」

 

 辺り一面を爆破しながらレースをするキチガイ共を横目に見つつ、継ぎ接ぎの格好の少女が、ゆったりとしたローブに身を包み長い杖を持った男性にそう告げた。なお杖は、ユキの持つ物と違って明らかに強そうな逸品だ。

 

「これまで散々ボクを追い回してきたツケ、熨斗つけて返してやりますよ!! 自分から何処か良いところを見つけてって言ったくせに!」

 

 ユキたちには煽る為に言っていなかったが、元はと言えば脱退騒ぎはそんな話だったのだ。それが、いざ脱退したとなると追いかけて復帰を強要してきた。結局、ブチ切れ案件なのは間違いない。

 

「はは……サブマス4号じゃ、権力的に止められなくてね」

「はい? サブマス4号?」

 

 肩を竦めて答えた男性に、カオルは頭に疑問符を浮かべて答えた。それもそうだろう、何故なら諸悪の根源と思っていた相手が実はその下っ端になっていたのだから。

 

「いつの間に格下げされたんです?」

「今のギルマスに、タイマン挑まれて負けちゃってね……いやぁ、流石に魔法耐性ガッチガチの剣士はキツかった」

 

 朗らかに笑う元ギルマスのスタイルは、見ての通りガチガチの後衛。しかも魔法使いである。前衛が抜かれた際の対策として最低限の近接戦は出来るが、決して本職には及ぶことはない。そんな相手に全力でメタった前衛が突っ込めば、さもありなんという話だった。

 

「ということは、これまでボクを追い回してきたのは現ギルマスですか?」

「まあ、止められなかった俺も悪いけどね。1・2・5番目のサブマスが無理矢理に進めててね……俺は反対したし、あそこのは途中から傍観派になったけど、まあ大勢は変えられなかった」

「ボクが抜けてから、そんなことなってたんですか……」

 

 うわぁと、気の毒そうな顔でカオルは言った。ギルドマスターの交代でギルド全体の方針が変わる、なんてことはよくあることだ。それが良い方向に向くかはともかく。

 

「ということは、元ギルマスはボクと戦う理由がない……?」

「基本的にはまあ、そうなるね」

 

 首を傾げたカオルに対し、元ギルマスも頷いて答える。ギルド全員が動員された為仕方なく参加しているが、実際戦う理由がないのだ。だがそれも、基本的にはである。

 

「とは言え、勝利条件的には戦う理由になるね」

「ですねぇ。でも、なんか燃えないとい──にゃあ!?」

 

 不満げなカオルに、突如飛来した黒い針状の魔法が飛来した。危なげなくそれは切り捨てられたものの、突如行われた攻撃に批難の声を上げた。

 

「い、今の流れはもうちょっと、名乗りとかしてから戦いますよねぇ!?」

「こうした方が、カオルにやる気を出してもらうには手っ取り早いと思ってね」

「いや、確かにそうですけどねぇ!?」

「それに」

 

 カオルの言葉を遮って、元ギルマスは言葉を続ける。

 

「個人的に、カオルと決着は付けておきたかったからね。1ゲーマーとしては、降参なんて論外だし」

「それは、確かにそうですけど……ぶっちゃけ夜のボク、装備的にも元ギルマスの天敵ですよ?」

 

 称号効果での夜間強化は、昼にクソ雑魚になる代わりに倍率は高い。それによる単純な高ステータスの暴力と、攻防一体の抜刀術は単純に強い。それに加えて魔法や装備ギミックまであり、それを使いこなしているのだから相当である。

 昼はクソ雑魚で、プレイヤー自体もポンコツだが。夜は頭も回るのだ、夜は。どうあがいてもポンコツだが。

 

「それならもう、対策は練ってあるから大丈夫」

「へ?」

 

 再度飛来した針を切り捨てながら、カオルは首を傾げた。何故なら、先程切り捨てたものと合わせて微量だがHPが減っていたのだから。

 

「この前のイベントで、あそこのユキに挑んだ時に思い知ってね。やっぱり、固定値は正義だなって」

「へ?」

 

 次いで射出された5本の針を避け──ることができず、連続で直撃する。減ったHPは先程までの攻撃を含めて7%程。微々たる数字だが、無視できない減少値でもあった。

 

「寧ろあの件で、元々の魔法から召喚魔法に切り替える算段がついてね。さあ、削りあいといこうか!」

 

 誰も説明する人間がいないが、それは《血の杭》という名の初級魔法。消費MPは20、威力は固定で50(クリティカル時70)ダメージの必中攻撃で、与えたダメージの半分HPとMPを回復させる魔法だった。

 普通なら精々数本が同時発動の限界で、回復手段としか認識されてない魔法。しかしそれを、連射する為の能力が備わっていたらどうなるか?

 

「……あの、元ギルマス。もしかして、ですけど。ボクが知ってる頃より、対人性能爆上がりしてません?」

「当然」

 

 そんな言葉に合わせて、視界いっぱいに出現する黒い針。一応、必中魔法の対策として相殺はあるが、極振り(キチガイ)共でもなければ捌き切れない量だった。

 

「お、お、お、やったりますよコンチクショー!!」

 

 こうしてこちらでも、固定値の暴力に走った者と一撃の火力を求めた者の、遥か昔から続くバトルが始まった。



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第115話 義兄と義妹

 ユキが爆竹を鳴らしながらシルカシェンを追い回し、カオルが必中固定値の雨を必死に捌き始める少し前、1対1にお膳立てしてもらった(義妹)レウス(義兄)の戦闘も、同じように火蓋を切っていた。

 

「シッ!」

 

 ペットと合体しスキルもフルブースト状態の藜が、羽根を散らしながら超高速で義兄に向け突撃する。その速度はどこかのキチガイ(極振り)共と違い、拳銃弾を超えた程度。速度偏重の高レベルプレイヤーならありふれた速度だ。

 故にこそ、回避も迎撃も本来であれば容易。それはレウスにとっても同様で、地面を蹴って跳び大きく距離を取──

 

「舐めるな、です」

 

 ることが出来なかった。底冷えするような藜の声とともに、突き出された槍に合体したペットの翼が羽撃き、その進行方向を捻じ曲げたのだ。冷たく細められた藜の目も相まって、それは獲物を喰らう捕食者のそれを幻視させた。

 

「っそだろ!?」

 

 反射的にレウスが槍を突き出せたのは、曲がりなりにも高難度イベントに挑戦できたギルドのサブマスと言ったところか。しかしその迎撃としては十分過ぎるはずの一撃は、直後()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()槍ごと消滅した。

 

「はぁ!?」

「遅い、です」

 

 飛び退いたレウスが着地した時には、藜の姿は既にその背後に回っていた。幾らユニーク称号のバフがあるとは言え速すぎるその動きは、ユキが見もせずに意図を理解して設置した障壁の足場と加速の紋章が原因だった。

 

「ちょっ、まっ」

 

 問答無用で薙がれた穂先がレウスの装備に直撃した瞬間、再度チェーンソーが直撃したような異音が響いた。本人に掠らないよう調整された絶妙な一撃は、今度はレウスが装備していた鎧を消滅させた。

 

「大体、いつも、義兄さんは、過保護が、過ぎるんです、よ!」

 

 その後も思考を読んだように、無駄に正確に入る紋章のサポートと妨害。それによって、まともに動くこともままならないレウスの周囲で、目にも留まらぬ速度で縦横無尽に槍が疾走する。

 

「いい加減、ウザい、です!」

 

 レウスが動こうが槍と振り落ちる羽の結界は破れることなく、瞬くほどの間に全装備が喪失するという恐ろしい結果だけが残ったのだった。

 地面を削るように着陸した藜と、対照的にインナーのみで砕けた地面に倒れ込んだレウス。傍目から見てもその結果は歴然。戦闘開始から、僅か20秒程度の出来事だった。

 

「でも私も、頭は冷えました。家出はちょっと、やり過ぎかも、でしたし」

「でも、家に戻って来る気は無いんだろう?」

「当然。私をちゃんと見ないのに、口だけ出す父親は、嫌いです。ゲームの中に、家族問題を、持ち込む人も」

 

 冷えきった眼差しで見つめる藜に、呻き声のようなものを漏らしてレウスは沈黙してしまう。

 

「でも、お母さんは、嫌いじゃないです。だから、父親さえどうにかなれば、帰っても良い、です」

 

 1日の時間が流れて頭が冷えたことと、つい先程溜め込んでいた鬱憤を一部とはいえ吐き出せたこと。その2つによって、少しは藜も冷静になっていた。そうして考え出した妥協案が、最低限父親を説得することだった。

 

「義兄さんも、ここで勉強するの、便利って、知ってますよね?」

「ああ。それで、なんだが……母さんのお陰で、殆ど収まってる」

「へ……?」

 

 しかし義兄がさらりと零した言葉によって、藜は固まることになった。正座状態で固まった義兄は、その様子を見て言葉を続けた。

 

「流石に藜が4日帰ってこないことに、母さんが業を煮やしてだな。こう、雷が落ちたというか」

「確かに、ちょっと、長居しすぎです、よね」

 

 ユキもセナも基本的に何も言わないから忘れていたが、すでに藜が家出をしてから5日も時間が経過している。ユキの言っていた限界時間にも近づいており、割と本気でタイムリミットが迫っているのは確かだった。

 

「あと母さんから伝言が。『インフルエンザ扱いにしてあげてるから、今週中には帰ってきてね』だとさ」

「分かりました。早めに帰ります、ね」

 

 そう頷いて、一直線に振るわれた槍がレウスを爆散させた。一切の容赦がないその一撃は、私怨かそれとも早くデュエルを終わらせたいからか。真実を知るのは藜1人であった。

 

 

 空間認識能力全開で見守っていた藜さんの戦いは、どうやら無事に決着したようだった。話の内容までは聞き取らなかったけど、話しあった様子のあとでデュエルを終えていたから問題はないのだろう。

 であれば、残るは俺が相手しているシルカシェンと、カオルさんが相手している人を倒せばこのデュエルは勝利ということになる。

 

「なら、とっとと勝負決めるか」

 

 チキチキ爆破レースのお陰で大分ストレスも解消できたし。そう思いつつ、全速力で逃げるケッテンクラートの車輪と履帯のすぐ前方に傾斜をつけた障壁を配置した。

 高速走行中の車両の車輪が、乗り手の意図しない障害物に……しかもジャンプ台のような形状をしている物に乗り上げたらどうなるか? そんなものは、考えるまでもない。

 

「ぬがっ!?」

 

 目の前で、回転しながらケッテンクラートが空を飛んだ。

 けれど、俺の愛車と同様に搭乗者保護機能が付いているらしく、紋章で回転を加速させてもシルカシェンさんが射出される気配はない。落下ダメージ狙いだったんだけど、目論見が外れた形だ。

 まあ、これはこれで悪い結果じゃない。バターにでもなったら面白いけどそれはそれ、軌道が安定したことの方が重要だ。動きが予測できるのならば、最大火力の狙撃が出来る。

 

「照準固定」

 

 愛車の運転は愛車自身に任せ、代わりに担ぐようにして【新月】を構える。そしてその銃身に加速の紋章を多重展開し、銃弾のように飛ぶケッテンクラートを照準。

 

発射(Feuer)!」

 

 反動を殺しつつ放った銃弾で、そのまま貫いた。更にはマガジンに付与された効果で直撃後の弾は内部で大爆発を起こし、ケッテンクラートも連鎖して爆発を引き起こす。そうして保護が切れてしまえば、通常プレイヤーなら兎も角、準だろうと極振りに耐えきれるわけもない。連鎖した爆発の炎に飲まれ、紅茶がキマってたヤベー奴は爆散したのだった。

 いやぁ、滅多に当てられないしコストも高い攻撃の分、相変わらず新月の火力は高いこと高いこと。……ああ、シルカシェンさんが金欠って言ってたの、弾代も嵩むからか。銃使いに共通する悩みだけど、世知辛いなぁ。

 

「さて、残るはカオルさんのところだけか」

 

 新月をしまいながら愛車を止め、もう1つの凄いことになっている戦場を見る。そこには、無数の黒い針で作られた半球が存在していた。あの物量は流石にどうしようもない、そう思ってしまう程の弾幕だ。カオルさんの相手がギルマスなのだろうか。

 

 そう思った直後のこと。突如、黒い半球に十重二十重の斬閃が走った。なんだっけあの技、抜刀術の何かで見た記憶がある。俺のステータスだと発動条件を満たせないから使えないけど……

 

「確か、《奥義抜刀・百刀繚乱(ひゃっかりょうらん)》とかそんな感じだったような」

 

 百花繚乱ではなかったのは覚えてるけど、漢字には正直自信がない。でもその代わり、数少ない奥義抜刀だったから効果はよく覚えている。

 消費がHP10%とMP200、威力200%+追撃ダメージ50%の25連撃で、自分を中心に(レベル÷2)mの球状範囲内ならどこでも狙える攻撃だとかなんとか。でもアレの発動条件、基礎Str・Dex・Aglが共に300以上が前提だったはず。

 

「ヤバイね、うん。間違いなくヤバイ」

 

 どうやらもしかしなくても、夜間バフ込みのカオルさんは本当に強いプレイヤーらしい。そう思っていると、黒の半球の中から()()()プレイヤーが飛び出してきた。相手の方もアレを耐えきったとか間違いなく強い……というか、見覚えがあるような気がしないでもない。

 

「まあ、気のせいか」

「助けに、行かなくて、いいんです、か?」

 

 不意に背後からかけられた声に、思わず体を縮こまらせる。聞き慣れた声だと思い直し、心を落ち着かせて振り返れば、そこにはペットが合体した槍を持った藜さんがほぼ無傷で立っていた。

 

「あっちはあっちで、何かあるみたいですし」

 

 カオルさんと推定ギルマスが何か口論していたのは知っていた。だったらそれを邪魔するより、しっかり話し合ってもらった方がいいと思うのだ。禍根を残して粘着されてもアレだし。

 

「それより、そっちの話し合いは?」

「纏まりは、しました。詳しくは、リアルの方で、話します、ね?」

「分かりました。ならそういうことで」

 

 結局、空さんはまだ我が家に家出してきてる訳だし。沙織と話すのは……まあ電話でなんとかなるでしょ。夜分遅くだからちょっと迷惑かもしれないけど。

 そんなことを考えつつ話している時のことだった。

 

「2人ともぉッ!! ナズェミテルディス!? オンドゥルルラギッタンディスカー!!」

 

 そんな必死な叫びが聞こえた。見れば、再び黒い半球が形成されようとしている中から、助けを求める目でカオルさんがこちらを見ていた。

 

「貴方達とボクは! 仲間じゃなかったんふぎゃぁ!?」

 

 見覚えしかない長杖のMP吸収攻撃で、カオルさんは台詞をある意味完璧に言って吹き飛ばされた。そして直後、再度黒い半球が完成してその姿が見えなくなった。例のサイレン鳴らさないと(使命感)

 

「えっと、助けに、行かなくて、いいんです?」

「行く、行きますけどちょっと待ってください。どっかにフリー音源でサイレンがあったはず……よし見つけたぁ!」

 

 直後、手元のウィンドウから例のサイレンの音が鳴り響く。半分くらい死界装備な俺をアンデットと定義すれば、それなりに場は整ってると言えるのではないだろうか。なんか……いける気がする!

 

「よし、それじゃあ行きますか! とっととこのデュエルを終わらしに」

「用も、終わりましたし、ね!」

 

 そう言って、黒い半球の中に俺と藜さんは突入した。

 

 その後必中固定ダメージの嵐に3回ほど死んだり、かなり苦しまされはしたものの、3人に勝てるわけもなく。デュエルは俺たちの側の勝利と相成ったのだった。

 



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第116話 戦後処理は適当に

 あのデュエルが決着した後、交渉は思った以上にトントン拍子で進んだ。何せ現ギルマスも含まれていたという、最初に俺とカオルさんが斬滅した20余人。その全員がショックなのかなんなのか、無言で棒立ちしたままになっていたのだから。

 

「いやぁ、久し振りに良い仕事をしました」

「こちらこそ、あそこまで正確な爆破は初めて見ましたよ」

 

 カーンと勢い行くコップを打ち合わせ、力負けして弾かれながら中身を一気に飲み干す。

 

「ハッハッハ」

「フッフッフ」

 

 そう言葉を交わすここは、ほんの2時間前に完成した新ギルド【ボクと団長と酒と愉快な仲間たち団】。名前はふざけ切ってるが、称号持ちとそれに比肩する実力者が2トップの強ギルドである。

 

 というか正確に言うと、上手くあのギルドから離脱したカオルさんと元団長だったというブランさん。そしてブランさんがサブマスとして率いていた元々の団員、ついでに藜さんの自称義兄の計8名で作られたギルドだ。

 

「それにしても、俺より多く弾幕を展開する人に初めて会いましたよ」

「こっちもまさか、600発展開したのに500発防がれるとは思いませんでした」

 

 その経緯というものは割と簡単だ。結局こちらが勝利したことにより得た、ギルメンの1人引き抜き権限。こちらとしては誰も要らないので無用の長物であったそれを、体良く利用した形になる。

 こっちが引き抜いたのは、今ハイテンションで飲み交わしている元ギルマスだった人。この人の「今のギルドとおさらばして、新ギルド立てちまおうぜ」という計画に乗ったのだ。

 

「「ははははは!」」

 

 ブランさんとは、思ったより話が合ったし弾んだ。互いに弾幕、互いに固定値、長杖がメイン武器、共通点がかなり合ったからか。それとも、互いに傾けているグラスの中身(酒アイテム)場の雰囲気(酒場調のギルドホーム)が原因か。

 まあなんにせよだ。話が合えばテンションが上がる、テンションが上がれば話が弾み、雰囲気に酔い始めたらもう手がつけられない。酔っ払いは怖いのだ。何するかわかんねぇから。それに素面で付き合う奴も怖いのだ。何するかわかんねぇから。

 例えばなんとなく気分が良くなったので、例のギルドをサブマス公認で発破解体するくらいには。

 

「汚い花火でしたねぇ」

「地上の星でした」

 

 そんなことが起きた理由は、本当にテンションでしかない。ただなんとなく爆破したくなり、元ギルマスがそれを承認した、元サブマスも承認した。それだけの話である。

 

 無論、遊びだけど真剣なので手は抜かない。藜さんの自称義兄の手引きにより、ギルドの物理破壊無効設定を解除、各所に爆弾を仕掛け、サブマス権限でギルド内に発破を通達。直後に発破した。爆弾魔を手引きした罪状で自称義兄はギルドを脱退、ついでとばかりに転がり込んだというわけだ。

 決して、どこかで見たことあるちょくちょくちょっかい掛けてくる金髪が現ギルマスだったからとか、ギルド名が【m9(^Д^)】だったから煽られた気がするとか、だから爆薬を増量したなんて事実はない。ないったらない。存在しない(メタルマン)我々の勝利だ(大本営発表)

 

「イェーイ!」

「うっうー!」

 

 スパァンと快音を奏でてハイタッチ。腕が後方に勢いよく吹き飛んだけどモーマンタイ。圏内だから千切れない。

 

「んぅ……ユキさぁん!」

「ギルマスぅ! 飲んでますかぁ!?」

 

 そんなことを思いつつお酒(未成年フィルターでただの苦めの水)を飲んでいると、向こうのギルマスと全くの同タイミングで絡まれた。

 向こうには100%酔っ払っている酒瓶を持ったカオルさんが、俺には雰囲気で酔ってる藜さんが。確かにこう、8人くらいが酒飲んでドンチャン騒ぎしてるから分からないこともないけど。

 かく言う俺も、【酩酊】の状態異常アイコンないのに気分がフワッフワしてるし。マイ火薬美味しい、胡椒味。

 

「全然飲んでないじゃないですかギルマスぅ! ボクと一緒にもっと飲みましょうよ!」

「ガボボボボボ」

 

 目の前で、口に一升瓶の口を突っ込まれて溺れ始めるブランさん。あれさっきカオルさん口つけてたけど、こんな状況じゃ気にしている暇はないのだろう。

 待てよ、このテンション俺にも向くのでは。一気に頭が冷えた。向こうは推定だけど成人同士、対してこっちは未成年同士。前者はセーフでも後者はやらかしたらBANである。決してぶち飛ばしていくぜなんて出来ない。

 

「なんで! 5日も、同棲してるのに、少しも手を、出して、来ないん、ですかぁ! 頑張って、アピールしてたん、ですよ!」

「ははは……」

 

 そんなことを考えてる俺も、BAN以外にも割と余裕はない。

 リアルならこうやってポカポカと叩かれるくらいなんの問題もないけど、ここはゲームの中。数値的に見れば、1000倍近くの力を持つ相手にポカポカされてるのだ。圏内だからダメージは発生しないけど、衝撃はそのまま貫通する。障壁で一々合わせて防御しないと、吹き飛ばされること請け合いである。

 

「リアル世界に離脱したい……」

 

 切実にそう思うが、少なくとも藜さんが冷静さを取り戻すまでは俺は帰れない。だって今のこのテンション、ゲームシステム性の状態異常じゃない高揚みたいだし。であればきっと、これはリアルの方にも引き継がれるだろう。それはその……ちょっと困る。

 

「ゆーきーさーん!」

「はいはい。今のうちに、寝たら自動ログアウトに設定変えておいてくださいね?」

「むー!」

 

 軽く溜息を吐きながら、ペシペシとこっちを叩こうとする藜さんを冷静に対処する。いっそ酔えたらいいのに……そんなことを考えつつ、こんなカオスな状態になってしまった現状に大きく溜息を吐くのだった。

 

 

 と、そんなことをユキたちがやっている頃。第6の街【グルーウェド】では1つの動きが起こっていた。

 それは、いつまで経っても渡ることの出来ない第7の街への通行ルート開拓。つまり、メインストーリー進行クエストの探索。第6の街に到達したプレイヤーが合同で、霧深い蒸気の街を練り歩いていた。

 

 当然そのメンバーの中には、とっくに到達していた上位ギルドの面々も含まれている。しかし、その結果は不発。ボスモンスターの情報どころか、次の街へ進む手がかり1つ見つけることは出来なかった。極振りも複数名参戦し、称号持ちも半数が参戦しているのにもかかわらず、だ。

 

 全くの同時に実装された街として、それは明らかな異常である。プレイヤーを先に進ませる気のない街なんて、ゲームとして破綻しておりクレーム案件でしかない。そして何より、つまらない。

 

 そうして過ごすことになった1週間。なんの反応も示さない運営に、既にプレイヤー側のフラストレーションは限界に達しようとしていた。そんな中誰かが「今日も空振りか」と呟き、現実の時計の針が0:00を示したその時だった。

 

 ーーWARNING!ーー

 ーーWARNING!ーー

 ーーWARNING!ーー

 

 けたたましいサイレン音を伴いそれは出現した。ログイン中の全プレイヤーの前に、黒と黄色の警告表示に囲われた()()()()()()の通知が。

 

 ====================

 【運営からのお知らせ】

 このメールは全プレイヤーに送信されています

 解放予定だった第7の街【ミスティニウム】が、設置していたエリアボス及びエリアボスの率いるモンスターにより完全占拠されました。これにより【ミスティニウム】は完全圏外となり、街としての機能が一切消失しました。

 

 よって11月4日(日)の正午より、イベント【ミスティニウム解放戦】を実施します。

 クエスト参加可能対象者は【グルーウェド】に到達した全プレイヤーとなります。

 時間加速は通常時の2倍から10倍にまで増加します

 

 【備考】(※重要)

 戦力バランスの調整のため、前回イベント『十の王冠、不敗の巨塔』にボスとして参加したプレイヤー9名は、【ミスティニウム解放戦】において戦闘行為へ参加することは出来ません。街への侵入は可能ですが、敵のターゲッティング自体は通常と変わりません。

 『戦闘行為の種類』

 ・パーティへの参加

 ・ダメージを与える行為

 ・味方のデバフ、ダメージを引き受ける行為

 ・配置オブジェクトの破壊行為

 ・ターゲットの引き付け

 ====================

 【ミスティニウム解放戦】推奨Lv 90

 第7の街ミスティニウムが、モンスターたちに占領された。

 余計な言葉を語るつもりはない。目標はただ1つ、ミスティニウムをプレイヤーの手に取り戻せ!

 このクエストは、メインターゲットを達成した時点でクリア扱いとなります。サブターゲットの達成数に応じて、報酬が変動します

 

 戦域 : 第6・第7の街勢力圏全て

 

 勝利条件 : ミスティニウムの解放

 敗北条件 : 第6の街【グルーウェド】の陥落

 

 報酬 : 1〜500,000D、SSレアスキル取得チケット

 経験値 1〜500,000

 

 メインターゲット

・『??????』の討伐 0/1

・街内のモンスターの全滅 0/1

・魔物発生装置の破壊 0/1

・街内の浄化 0/1

・人質の救出 0/1

 

 サブターゲット

・市壁の無力化 0/100

・市壁の破壊 0/100

・司令塔の破壊 0/10

・『?????』の起動 0/20

 etc……

 ====================

 

 前回のイベントを鑑み、運営が下した決断は極振りの出禁。

 その条件の下開催される、現在のプレイヤー最大レベルが80(記録者 : センタ)のところ開催される、推奨レベルが90というクエスト。

 極めて一部のプレイヤーしか経験のない市街戦。

 一部のプレイヤーのみが経験した防衛戦。

 全プレイヤーが経験したことのない制圧戦。

 

 確実にプレイヤーを巻き込む、大きな大きな嵐はすぐそこまで迫っていた──

 

 が、しかし!

 運営は1つだけ、重大な見落としをしてしまっていた。

 どうして極振りを封じた程度で、プレイヤーの動きを封じることが出来るだろうか。否、断じて否である。

 

 例えばそれは、バイクをこよなく愛する者たち

 例えばそれは、戦車をこよなく愛し走る者たち

 例えばそれは、愛する戦闘機と1つになった者たち

 例えばそれは、牙を抜き死力を尽くした生産者たち

 

 今まで極振りの影に隠れて表に出ることのなかった、手のつけられない愛すべき馬鹿ども。彼らとて決して、彼ら(極振り)に劣ることのない頭のネジが外れた奴らであるということを、運営は誰1人として認識していないのだった。

 



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第117話 敵を知り己を知れば(ry

一瞬リアルユッキーを女装させて突撃を考えたけどボツになりました。


 どんちゃん騒ぎのあった翌日。名残惜しそうにしながら、空さんは我が家から帰って行った。()の家に泊まっていたのは万歩譲っていいとして、本人が行ったら拗れそうなので沙織が同行して。

 数時間後、無事問題は解決した旨の連絡を空さんから、沙織からはお母さんがマジやばかった旨の連絡を貰ったから安心である。義兄の方からの情報漏洩は、事前に否定しきってるからセーフだろうし。あんな騒動にまで発展した割には、呆気ない幕切れだった。

 

 大切なことだったけど、それはそれとして。

 

 目下最大の問題は、次回イベントで極振りメンバーが実質出禁なことだ。運営からのクエスト発生ではないもう1つのメールに、『イベント終了後、報酬が確定した時点で補填も決定する』って感じのことが書いてあったけど……正直、やってくれたなとは思う。どっちの意味でも。

 

 先ず、面倒臭いことをしてくれたと思う。戦闘と破壊行為が禁止されたのなら、出来ることがグッと減る。爆破もできないから魅力が半減だ。

 でも同時にこうも思う、運営はよくやったなと。今回のイベントは街の攻略だ。であれば、街をマッキーパンチしてしまう廃火力持ちは規制して当然だろう。そんな奴らを野放しにしてたら、企画倒れになってしまうし。

 

 だからこそ、今回のイベントはゆっくり出来るかなと思っていた。そう、思っていたのだが……

 

「ユキもっと火薬だせ!」

「いやいやいやいや、これで全開ですって!」

 

 現在地は、第3の街にあるギルド【極天】地下。ザイルさんの工房で俺は、弾薬の製造に着手していた。材料提供係として。

 周囲に存在しているものは、その全てが弾薬。銃弾砲弾に始まり、ミサイルや馬鹿でかい砲弾まで存在している。ザイルさん曰く、稼ぎ時に仕事をしないでどうすると。どうせ暇な俺も巻き込まれた形だ。

 

「あんな面白いものが見れるって言うんだから、生産者として手加減するわけにはいかねぇよなぁ!?」

「テンションおかしいですよザイルさん……それで、面白いものってなんなんです?」

「ん、ああ言ってなかったか。戦闘機、戦車、飛行船、戦艦、列車砲、色々だよ」

「……はい?」

 

 弾薬を製造する手を止めず、さもなんでもないことの様にザイルさんは言った。

 ちょっと待って。戦闘機と戦車は分かる。この目で見たこともあるし、使い手の数名はゲーム内のフレンドでもあるし。でも他の存在、コレガワカラナイ。

 

「ギルド【クロイカラス】を中心とした、戦闘機を再現した数ギルドの連合から戦闘機が5機と、装甲飛行船が1機、武装ヘリが4機。

 ギルド【戦車はいいぞ】を中心とした、戦車乗り数ギルドの連合から戦車が合計20両。

 ギルド【アルムアイゼン】中心の商業系の連合が、まだ調整中とのことだが列車砲を1両。川からはダウンサイズしてるが、大和ベースの戦艦を突撃させるらしい。

 後は確か【モトラッド艦隊UPO支部】の奴らが、『今こそ地球浄化作戦実行の時』とか張り切ってたから、何か隠し球はあるんじゃないか?」

「冗談みたいな戦力ですね」

 

 最早笑うしかなかった。運営は、この頭のおかしい戦力を把握しているのだろうか? しかも今回のイベントは、前回と違って区域封鎖はなく初期配置は(第7の街内部を除き)自由なのだ。

 

 第7の街【ミスティニウム】は、フルトゥーク湖から続く超巨大な川の中州に配置されている街だ。当然戦車が進むための陸地も、戦艦が通れるのかは知らないけど川に周囲を囲まれている。侵入方法は推定だけど、対岸に巨大な跳ね橋が上がっているのが目撃されている。

 第6の街【グルーウェド】からはそれなりに離れているけど、道はすでに【アルムアイゼン】の人達が舗装してたから完璧だ。線路は確か、グルーウェドの勢力圏ギリギリまでは来ている。

 

 要するにアレだ。ただの案山子ですな。

 

「因みに、これが現時点で決まっている街攻めの戦力だ。防衛組はまた別にいるぞ?」

「ファッ!?」

「《大天使》のイオが率いる、ギルド【空色の雨】

 《牧場主》のしぐれが率いる、ギルド【わんにゃんぱらだいす】

 後は有名どころだと、個人で《ラッキー7》のシルカシェンと、うちからアキが参戦するって話だ」

「うわぁ……」

 

 イオくんのところはいいとして、しぐれって人は初耳の人だった。けど、《牧場主》のユニーク称号持ちってことは相当強いのだろう。シルカシェンさんは、あの時は初っ端に武器破壊出来たから一方的だったけど、普通に考えるなら真面目に強い。

 

「でも、アキさんって戦えないはずじゃ……」

「そうでもないらしいぞ。極振りサイドもペットは参戦OKらしくてな。アイツのペットは、なんというか付喪神みたいなアレで、武器に宿ってるんだ」

「それって、確かユニーク称号について来た装備のです?」

「ああ、それだ」

 

 俺の【無尽火薬】と同じ分類で、確か名前は【装刀オリハルコン】。装填した武器の性能を強化して使う刀型の武器だ。そしてその武器には今、7本全てに【無垢なる刃*1】が装填されているとのこと。

 

「普段はやらないが、ペットだから自律行動できるんだよ」

「うわぁ……」

 

 手に持っていても抜刀術のスキルを使わなければ、判定としては自律行動なのだとか。普段の単発で数万〜数十万の火力と比べれば型落ちだけど、1万ダメージはほぼ確定な時点で火力は十二分である。

 

「あ、すみませんちょっと手を止めますね」

 

 そんなことを考えていると、メールを受信した音が鳴った。一応断りを入れてから片手で操作すれば、差出人は珍しくセナだった。確か今日は、藜さんとつららさんと一緒に何処かに行くって聞いてたけど。

 

 えっと内容は……『ユキくんって、同時に撃たれた銃弾何発くらいなら止められる? 範囲は探知できる限界ギリギリの場所で、質量はプレイヤー1人くらい』というもの。

 

「うーん……」

 

 探知範囲の限界ギリギリってことは、後方も含めると視界外もだし……確実に安全に止めるってなると、そこまで多くはやりたくない。拳銃弾サイズなら500はいけるけど、大きさがプレイヤー並みでしょ? 障壁大きくしなきゃいけないし、MP温存と回復も考えると……

 

「まあ、これくらいかなっと」

 

 『完全に勢いを殺せるのは50、割と雑になっていいなら100くらいは出来るかも』と返信しておいた。まあ、これでもMPは半分切るだろうけど。あ、もう返信来た。『20個くらいならどう?』って?『それくらいなら目を瞑ってでも出来る』けど……

 

「はぁッ!?」

「どうかしたのか?」

「いえ、ちょっとギルマスから作戦司令が来ましてね……」

 

 セナが思いついたものなのかは知らないけど、どうなんだろうこれは。理にかなってはいるけど、運営の胃壁をガリガリ削る気しかしないんだけどこれ。

 

「これは……いいな、面白い」

 

 なんて思っていると、作戦が書かれたメールの内容をザイルさんも読み終えたようだった。見られていいようにしていたから問題ないけど、よく鏡文字なのに読めるよね……

 

「ザイルさん、折角だから爆弾作りません? 具体的に言うと500kg爆弾を」

「爆装か! 実質タダで儲けられる、完璧だな」

「「フッフッフッ!!」」

 

 何処ぞの天竜人崩れの国王みたいに笑いながら、明らかに過剰な火力の武装が量産されていく。しかしそれに歯止めをかける者は、誰1人としていないのであった。

 

 

 場所は変わって、復興した第4の街にある会議室。そこに集まっている各ギルドの代表の中で、手元に開いていたウィンドウを閉じてセナが言った。

 

「ということで、さっきの作戦は問題なく出来ると思います」

 

 その言葉に、円卓に座っているメンバーが口の端をニヤリと歪めた。

 

「極振りだけが危険でないことを、油断しきった運営に教えてやろう」

 

「レイドボス戦で味わった屈辱は、我々に限界を超えさせたことを教えてやりましょう!」

 

「うちらのとっておき、目に焼き付けたるさかい」

 

「街1つ程度、焼き尽くすのに1時間もいらない」

 

「なんで皆さん、そんな好戦的なんですか……僕も、加減する気はないですけど」

 

「この作戦は、先行突入する20人と1人の動きで全てが決する。内部で出来ることさえ終われば、我々の全力を振るうことができるのだから」

 

 先行突入組に課せられた任務は3つ

 ・人質の救出

 ・司令塔の破壊

 ・橋の開閉装置の破壊

 

 これらをこなすことができれば、情け容赦のない鉄の雨が降る。

 

 極振りの陰に隠れていたヤベー奴らが動き出す。

 剣と魔法が優勢な世界でも、なんら機械が劣ることはないのだと証明するために。

 各々が作り上げた、夢の結晶が歴史の表舞台に現れる。

 誰に馬鹿にされようと、それこそが己の誇る最優だと示すために。

 忘れ去られた過去の遺物が、データの世界に蘇る。

 かつて夢を見せてくれた思い出を、再び現実とするために。

 

 もう止まらない、誰にも止められない。人ではない機械の軍団が、襲い掛からんと全身に力を込め、唸り声を上げている。

 

「作戦名オペレーション・メテオ、やり遂げるぞ!」

 

 極振り封じによって焚きつけられた、プレイヤーたちのやる気は天井知らず。運営の明日はどっちだ!

 

*1
装備者の最高ステータスが攻撃力になる武器。28話登場




運営は己を知ってても敵を知らなかった


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閑話 それっぽぽい掲示板回っぽいぬ

【実は】ユニーク称号Ⅱについて語るスレ【良運営?】

 

 1.名無しさん

 ここは新称号Ⅱについて語るスレです

 誹謗中傷は出来るだけなしでお願いします

 マナーを守って楽しくデュエル!

 

 3.名無しさん

 スレ建て乙

 

 4.名無しさん

 そういや今回のユニーク称号どうよ?

 

 5.名無しさん

 数えてみた感じ、前回と合わせて男女同数だわ

 

 6.名無しさん

 あれだけやらかした極振りにどこまで通用するかワカンねぇけどな

 

 9.名無しさん

 それで結局、今回も公開されてんの?

 されてるなら教えてくれなんし

 

 13.名無しさん

 >9

 あいよ

 

 極振り

《限定解除》レン

《スローター》センタ

《頂点捕食者》翡翠

 

 一般プレイヤー

《ラッキー7》シルカシェン

《マナマスター》コバヤシ

《オーバーロード》藜

《初死貫徹》Chaffee

《ナイトシーカー》カオル

《牧場主》しぐれ

《大富豪》れーちゃん

 

 16.名無しさん

 今回は極振り3人だけか、少ないな

 

 18.名無しさん

 >16

 ばっか少しは考えてみろよ

 極振りでユニーク持ってない残りほぼいないってことだぞ

 

 20.名無しさん

 確かユニークなしは、もうザイルとデュアルの2人だけか

 

 22.名無しさん

 それも多分第三弾で埋まるだろうな。どっちも十分取れる実力はあるだろ

 

 24.名無しさん

 というか取って♡

 

 26.名無しさん

 とりあえず、取得条件アップおじさんしとくは

 

《限定解除》

 全プレイヤー中移動距離が最大

《スローター》

 全プレイヤー中モンスター討伐数が最大

《頂点捕食者》

 全プレイヤー中捕食回数が最大

《ラッキー7》

 全プレイヤー中レア泥が最大

《マナマスター》

 全プレイヤー中魔法ヒット回数最多

《オーバーロード》

 全プレイヤー中連撃回数が最大

《初死貫徹》

 全プレイヤー中防御貫通回数が最大

《ナイトシーカー》

 ログイン時間が8割以上夜、かつ夜間のログイン時間がプレイヤー中最長

《牧場主》

 全プレイヤー中最もテイミング成功かつ、全プレイヤー中最もペット所持数最多

《大富豪》

 全プレイヤー中取引金額最多

 

 1回目の取得者は対象外らしいよ

 

 28.名無しさん

 じゃなきやラッキー7はユキのものだろうしな

 

 32.名無しさん

 その他も色々前回取得者が掻っ攫ってくだろうし

 

 39.名無しさん

 それよりも俺は、個人的に【すてら☆あーく】がヤバイと思うんだが

 

 42.名無しさん

 >39

 わかるマン

 6人中4人ユニーク持ちだもんな。1人極振りだけど

 

 45.名無しさん

 やっぱり極振りいるからじゃね? 強過ぎんよ

 

 47.名無しさん

 言うてβ版の時からトップ走ってるギルドだし

 

 48.名無しさん

 藜って子とユキは新規参入だけど、元のメンツは強いよ単純に

 

 50.名無しさん

 気になるなら、あのギルド喫茶店だし行ってデュエル申し込んでくれば?

 

 51.名無しさん

 それが良いと思う。れーちゃんとユキ以外、基本的に頼めばデュエル受けてくれるし

 

 54.名無しさん

 >51

 それマ? 行ってくるわ

 

 56.名無しさん

 >51

 なんでその2人は受けねぇの?逃げ?

 

 59.名無しさん

 >56

 ユキはまあ、極振りだし基本誰も挑まない

 れーちゃんは単純に生産職だから。並には戦えるけど、ぶっちゃけメイン張ってるのは探索だってさ

 

 62.名無しさん

 ほーん。探索かぁ……

 

 65.名無しさん

 改めて名前見てみたら、俺一般プレイヤーサイドろくに知らねえや。教えてエロい人

 

 68.名無しさん

《ナイトシーカー》のカオルに関しては、少し問題があったから知ってるけどそれ以外はなぁ

 

 70.名無しさん

 >68

 問題ってなんぞ?

 

 72.名無しさん

 教えてしんぜよう!

 

《ラッキー7》のシルカシェンは、例の高難度イベの時全塔で極振りと戦ってたヤベー奴。ケッテンクラート乗ってる金欠さん

 

《マナマスター》のコバヤシは、覚えてるやついるかな? レイドボスの鮫御大と戦ってる時、空飛んでた戦闘機の人。ギルマス

 

《オーバーロード》の藜は、すてら☆あーくの奴。まあ有名だから割愛する

 

《初死貫徹》のChaffee(ちゃーふぃー)は、マナマスターと同じでビーム出した戦車乗ってた奴。機銃に防御貫通載せてたらしいからそれじゃね?

 

《ナイトシーカー》のカオルは、深夜ログインしてる奴なら知ってるかも。夜な夜な何かに追いかけられて、街とかフィールド逃げ回ってる奴。見た目と言動のせいですげぇ幸子、腹パンしたい

 

《牧場主》のしぐれは、第3の街で動物喫茶開いてるギルドのマスター。俺動物アレルギーだから、あそこスッゲェ癒しなんだよ。本人は、テイマー系の構成してる

 

《大富豪》のれーちゃんは、まあすてら☆あーくの奴。偶にオークションに出る商品で、クッソ性能いいノアって人の作品あるだろ? れーちゃんがそのノア。取引金額が高いわけだよね

 

 76.名無しさん

 れーちゃん=ノア説は、公然の秘密だから本人に言っちゃだめだゾ

 

 78.名無しさん

 れーちゃんを泣かすと爆弾魔と鬼が飛んでくるから……

 

 81.名無しさん

 >78

 いたなぁ……クレームじゃなくて、単に不愉快だから突っかかって爆破された挙句PK集団に付け狙われるようになった奴

 

 85.名無しさん

 >70

 問題ってのはアレ。この前すてら☆あーくに乗り込んできた奴が、互いのメンバー1人掛けてデュエルしたやつ。>72の言う通り追い回されてたカオルがそこに逃げ込んでて、そのデュエルを利用して新ギルド建てたんだよ。

 

 89.名無しさん

 >81

 アイツは元々マナーなってねぇし素行悪かったしで、色々な場所から敬遠されてたからオッケー。街の中なら、口腔内でC4が爆発しても死なない良い見本になった

 

 95.名無しさん

 ここまで誰一人として、頂点捕食者について触れてない件について

 

 96.名無しさん

 >95

 おいバカやめろ

 

 97.名無しさん

 >95

 その名をここで出すな!

 

 98.名無しさん

 >95

 やつらが、奴らが来てしまう!

 

 99.名無しさん

 理由はわかるよね!

 以上!閉廷!解散!

 

 100.名無しさん

 翡翠ちゃんの話と聞いて

 

 102.名無しさん

 帰って

 

 104.名無しさん

 別の話してたから続けよーぜ!

 

 106.名無しさん

 そうそう!

 

 108.名無しさん

 実は前回の称号と今回の称号、合わせても男女同数なんだよね

 

 110.名無しさん

 それマ? 考えてやってたんならすげぇな運営

 

 113.名無しさん

 >110

 寧ろ考えてやってるのは忖度なのでは

 

 115.名無しさん

 つまり凄いのは我々だった?

 

 118.名無しさん

 俺らはそうでもないけどな

 

 120.名無しさん

 にしても、最近このゲームの古参プレイヤーどもがヤバくなって来てる気がしてならない

 

 125.名無しさん

 だって今回の大型イベント、揃いも揃って切り札のヤベーやつ出して来てるじゃん

 

 127.名無しさん

 戦闘機に戦闘ヘリ、装甲飛行船、戦車、列車砲、戦艦……ファンタジーどこ……ここ?

 

 130.名無しさん

 地球舐めんなファンタジー?

 

 135.名無しさん

 因みに戦闘機、黒塗りの5機編隊らしいよ

 

 137.名無しさん

 >135は疲れからか、不幸にも黒塗りの戦闘機に追突してしまう。

 後輩をかばいすべての責任を負った三浦に対し、車の主、暴力団員谷岡に言い渡された示談の条件とは…

 

 138.名無しさん

 \ラーズグリーズ!/\ラーズグリーズ!/

 

 140.名無しさん

 汚いのかカッコいいのかどっちかにしろ

 

 142.名無しさん

 \ラーズグリーズ!/\ラーズグリーズ!/

 

 145.名無しさん

 エスコン5いいよな……

 

 150.名無しさん

 というか装甲飛行船て

 

 152.名無しさん

 当然名前はグラーフ・ツェッペリンだよなぁ!?

 

 154.名無しさん

 だれか甲板に立って指揮してもらわないと

 

 156.名無しさん

 >154

 指揮を…しておられる!!戦争音楽…!!

 我々は楽器だ!!

 音色を上げて咆えて這いずる一個の楽器だ!

 

 159.名無しさん

 それより列車砲だぞ列車砲。なんでそんなのつくったの?

 

 162.名無しさん

 かっこいいから(小並感)

 

 164.名無しさん

 ロマンに決まってるダルルォ!?

 

 166.名無しさん

 達する達する!

 

 168.名無しさん

 戦艦……ベースなんだろ?

 

 170.名無しさん

 大和らしいゾ

 

 175.名無しさん

 お前ら、俺について来いよ……

 

 178.名無しさん

 >175

 ハイ!(^p^)

 

 180.名無しさん

 目標、東経一○五北緯二○、地点ロのニ

 

 182.名無しさん

 約束の地ベトナム

 

 185.名無しさん

 つまり、ミスティニウムはベトナムだった?

 

 188.名無しさん

 大和魂(米国製)を見せてやる!

 

 190.名無しさん

 総員、着剣せよ!

 

 192.名無しさん

 人人人

 >着☆剣<

 YYY

 

 194.名無しさん

 人人人

 >着☆剣<

 YYY

 

 196.名無しさん

 人人人

 >着☆剣<

 YYY

 

 198.名無しさん

 人人人

 >着☆剣<

 YYY

 

 200.名無しさん

 新称号の話どこ……ここ?

 

 202.名無しさん

 敵の翡翠組を発見!

 

 204.名無しさん

 >202

 駄目だ!

 

 206.名無しさん

 >202

 駄目だ!

 

 208.名無しさん

 >202

 Nein!

 

 210.名無しさん

 >202

 Negative!

 

 211.名無しさん

 >202

 Нет!

 

 215.名無しさん

 なんてことだ・・・レスの暴走は止まらない、加速する・・・!

 

 217.名無しさん

 >215

 おはアイン

 

 220.名無しさん

 もうこれ(なんのスレだか)わかんねぇな

 

 ー以降、雑談ー

 



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第118話 ミスティニウム解放戦

今回これ半分くらい戦力説明会ですね()


 来たる【ミスティニウム解放戦】当日。戦闘区域となる第6・第7の街勢力圏には、剣と魔法が全盛であるとは思えない光景が広がっていた。

 

 平らに均された路面に鎮座する、巨大な装甲飛行船。

 その周囲に留まっている、4機の武装ヘリ。

 跳ね橋が降りたら進軍可能なよう、アイドリング状態で戦列を組む20輌の戦車。

 第6の街後方には、敷かれた線路に堂々と巨大な列車砲が鎮座している。

 視線を動かしフルトゥーク湖の方に向ければ、戦艦の威容が否応にも目に飛び込んでくる。

 

 いつかのようにバイク艦隊の面々は存在しないが、それでも鉄色の軍勢はゲーム内に異様な空気を漂わせていた。第6の街寄りに集まっているプレイヤーも事前に知ってはいても、目の前にするとどうしようもないらしい。普段よりも、明らかに口数が少なくなってしまっていた。

 

 そんな面々が対峙するのは、巨大な川の中州に鎮座する1つの街。霧に包まれ、ボヤけて見える第7の街。狙撃などを行う目が良いプレイヤーであれば、彼の街の周囲に多数のモンスターが整列している様が見えるだろう。

 

 街の上空を旋回する竜の群れ、地上で騒ぐ得体の知れない姿の化け物達。その奥にある、要塞化している第7の街。本来であれば機械文明に特化した第6の街と対照的に、魔法文明に特化していた第7の街の名残はそこにはない。完全に、占領されモンスターの根城と化していた。

 

 張り詰める緊張感の中、何処からかボーンボーンと低い音が鳴った。それは前回のレイドボスイベントと同じ、運営からのメッセージの合図。2度目ではあっても騒めきが起きる中、運営からの音声メッセージが響いた。

 

《これより、UPO内部時間の加速倍率を2倍から10倍に変更し、イベント【ミスティニウム解放戦】を開始します。本イベント開始後に第6の街【グルーウェド】に到達した場合でも、イベントに参戦は可能です》

《イベント中に死亡した場合、通常のデスペナルティに加えイベント中、その時点のステータスの1/3を喪失します》

 

 場所は変わって飛行船のブリッジ。そこはそんな外の空気とは違い、喧騒に包まれていた。

 

「MP供給開始、飛行船『試製アドミラル・グラーフシュペー』出航!」

「動作安定、上昇します」

「レーダーに感なし、地上型モンスターのアクティブレンジから離脱します」

 

 運営のアナウンスが響く中、ゴウンゴウンと低い音を轟かせ装甲飛行船が上昇を始めた。開戦まで飛行可能時間を消耗しないように地上で待機していたが、遂に空へと昇るのだ。さらに言えば、これが初の実戦投入。十数名の乗組員は、皆誰もが興奮してた。

 

「アクティブレンジ離脱完了、空中型モンスター未だ来ず」

「了解した。声を流せ!」

 

 レーダー役のプレイヤーの言葉に、艦長役のプレイヤーがノリノリで指示を飛ばした。それに応じて、外部に取り付けられた拡声器から声が響く。

 

『これより我が艦は先行し、作戦を実行する。繰り返す。これより我が艦は先行し、作戦を実行する』

 

 『試製アドミラル・グラーフシュペー』は、航空系ギルド【我らが科学は世界一チイイイイ!! 】の保有する最大戦力だ。

 運用に必要な搭乗人数は10名。MP負担率が最も多い艦長が1名、周囲の索敵を行うレーダー役が2名、火器管制役が2名、各部ギミックの操作を行うプレイヤーが2名、舵と高度管理が1名、MPタンク兼サポート役が2名。全員がMPを消費することで起動して、飛行可能時間は1時間。

 

 そんな装甲飛行船が、今回の作戦『オペレーション・メテオ』の核を担っていた。

 

「艦長、刻限です。イベントが開始します!」

「了解、前部ハッチ解放。彼らを出撃させろ!」

「前部ハッチ解放確認。カタパルト展開完了。

 You have Control!」

 

 艦長の指令でギミック担当が告げた言葉は、手元の菅を通り目的地である前部ハッチ内部にある格納庫へと届けられた。

 

「I have Control!」

 

 巨大なその空間には、漆黒の5機の戦闘機が僅かにズレた縦列で存在していた。流石にゲーム内とは言え完全にそのままとはいかなかったのか、それとも合体しているギルドメンバーの趣味か。100%そのものではないが、見る人が見ればここに存在する機体は区別出来るであろう完成度を誇っていた。

 

 1番機は、かつてもUPOの空を舞ったF-15イーグル

 2番機は、先駆者に憧れ空を舞うF-22ラプター

 3番機と4番機は、2機揃ってA-10サンダーボルト

 5番機はサーブ39グリペン

 

 1、2番機がギルド【クロイカラス】、3、4番機がその支部、5番機が本部と支部の空き人員が合体した姿だった。大体1機7人が合一する仕様だ。

 

 無論、そんな高コストな分スペックはそれ相応以上に高い。

 先ずはHPだが、機首、胴体、右翼、左翼、艦尾、エンジンの6箇所にそれぞれ設定されている。その数値は合一した全員分の和を1.5倍にした後、均等に均した分である。

 次にMPは、HPと同様合一した全員分の1.5倍だがそれが全体の総量となっている。

 その他ステータスは、単純に合一した全員分の合計値。並の攻撃を受け付けない装甲を持ち、並のボスを圧殺できる火力を持ち、何だかんだ極振りと追いかけっこができる速度を持っている。

 しかもペットやアイテムの使用、スキルの使用は合一した人がそれぞれ使用可能である。攻撃動作も、核となる1人が主導権を持つ戦闘機側に加え、当然のように各員が独立して自スキルを使用可能なのだ。

 難点と言えば、大型故の小回りの効かなさと、閉所への適性のなさ、範囲攻撃や状態異常を人数分受けることだろうか。

 

「1番機《マナマスター》、出撃する!」

「2番機《ディアボロⅠ》、行きます!」

「3番機《シュヴァルツⅠ》、出る」

「4番機《シュヴァルツⅡ》、発進する」

「5番機《ザイン》、出撃します!」

 

 話は戻り、飛行船の前部格納庫。

 並んだ5機の戦闘機は、勢いよくカタパルトから射出される。そうして彼らは、再現されたエンジン音を轟かせ大空へと飛び出した。

 

 綺麗なV字に編隊を組み、ハッチを閉め上昇していく装甲飛行船を尻目に、グングンと彼らは加速していく。その行き先は占領された第7の街上空。イベント開始により、敵モンスターの出現が始まった空間。

 

 

マナマスター『さて、5機での本格的な戦闘だ。変に気張らず、張り切って俺たちの力を見せつけてやろう』

 

ディアボロⅠ『俺たちが制空権を確保しないと、後の作戦が詰まっちゃいますからね』

 

シュヴァⅠ『とにかく撃てれば良いのですが』

 

シュヴァⅡ『自由に空爆がしたいです』

 

ザイン『話してる間に、敵が出揃ってきましたよー』

 

マナマスター『了解した。各員、ぶち飛ばしていくぞ!』

 

『『『Jawohl!』』』』

 

 

 チャット欄での会話が終わり、戦闘区域に侵入した直後。5機が散開しバラバラの方向へ向け、先程までとは桁の違う速度で飛翔した。

 

 周囲に出現しているモンスター群は、それぞれレベル80程度。その種類もドラゴン、ドラゴンライダー、グリフォンなどを始めとして、極めて強力な……所謂中ボス格の奴らばかりだ。が、しかし彼らを止めるに能わず。空を駆け抜けた5機の軌跡の周囲に、幾重にも幾つもの爆炎の花が咲いた。

 

 それは射出されたミサイルによる一掃による範囲攻撃であったり。

 それはヴーーッ!という極めて特徴的な音を伴う、圧倒的なガトリング掃射による敵を蒸発させる一閃であったり。

 それは投射した燃料気化爆弾を撃ち抜いたことによる、変態的な大規模爆殺であったり。

 

 爆風の後には、HPがゼロになり消滅したことによる、モンスターの消滅エフェクトのみが空には残っていた。その圧倒的な戦果に、地上からそれを見ていたプレイヤーから歓声が上がる。明らかにボス格の敵を秒殺、しかも複数したのだから当然だ。

 

 が、しかし。ここまでは当然、運営サイドにとっても想定内の戦果である。どっかの変態ども(ユニーク称号持ち)馬鹿ども(極振り達)と違って、あくまでこの戦闘機は逸般向けではなく、一般向けコンテンツ。スペック、軌道、戦果、何もかもがシュミレートが可能な範囲内だ。

 ……約1機、想定を打ち超えて行く変態が混じってはいるがそれはそれ、ご愛嬌だ。燃料気化爆弾の威力を設定した運営の1人(女性)が、白目を剥いてガクガク痙攣しているが些細なことである。その姿を肴に、いつもの面子(極振り対策班)が電脳ビールで一杯やってるのだが、些細なことである!!

 

 

ディアボロⅠ『あれ、俺たちって思ったより強い……?』

 

シュヴァⅡ『戦闘機ですし当然では? それより早く空爆』

 

シュヴァⅠ『落ちろカトンボ! フィーヒヒヒ!』

 

マナマスター『あって良かった念の為の爆装。頂き物の500kg爆弾はまだ使えないが、投げつけて起爆は楽しいなぁ!』

 

ザイン『盛り上がってる所悪いですが、雑魚POPが減った代わりに1匹、ヤバイのが出てきましたよ』

 

 

 そんな5機が蹂躙する空域に、空間の壁を破るように景色をヒビ割れさせながら、あるものが出現した。それは腕。黒い装甲板に光を反射させる、鋭い三爪に野生的なシルエットを持つ腕が、空を踏みしめて本体を引き摺り出そうとしている。

 変身・変形前の攻撃は御法度、なんてものは無視してミサイルが殺到するが無傷。もう1つの腕も出現し、引き摺り出す様にしてその姿を晒した。

 

 それは生物と機械が融合した様な、異形のドラゴンだった。

 メカニカルな光が灯る、命を感じさせない瞳。後方に向け反る双角。そのシンプルな鋭いフォルムとは対照的に、機械で固められているが生物的な口からは鋭い牙が覗いている。ぬるりと伸びた首はドラゴンにしては短いものだが、鬣がわりに複数の機銃が設置されている。逞しい胴体は装甲に覆われ、立派な四肢からは機械的な駆動音が響き渡る。広げられた双翼には、長大な砲身と翼膜代わりに電磁的な光が灯っている。伸びた長い尾には、同じように砲身と鋼の刃が接続されていた。

 

 表示された名前は【Dragon : Prototype 003】

 以前メガロドンとクトゥルフを悪魔合体させたり、サメとタコを超融合させたりしていた運営とは思えないほど真っ当なボスだった。

 




※極振り対策班がバックアップのみのため、今回のボスは担当がまともでした。当然レベルは90です。


因みに作者は、ルーデルとかそういう話を抜きにしてA-10が好きです。フォルムといい何もかもカッコいいですよね


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第119話 ミスティニウム解放戦②

このクソ真っ当なボスの味は、以前の奴とは味付けの違うこんがり上がったフライドチキンです


 現れたボス……言うなれば機竜の動きは、その巨体にしては俊敏なものの、プレイヤーから見れば緩慢なものだった。まるでまだ状況把握が出来ていないかのように、周囲を飛ぶ戦闘機たちと戦場を見渡しているだけ。

 

 表示されているHPバーは当然のように5段。このタイミングで現れたこと、パッと見からも相当の強さであることは見当がつく。

 それは普通なら、一旦撤退して様子見などをする相手ということだ。だがしかし、現状においてそれを実行するわけにはいかない。何せ後ろが詰まっている。いかに戦闘機より燃費の良い装甲飛行船とはいえ、そう長く飛ぶことはできない。時間をかけることはできないのだ。

 

 

ディアボロⅠ『様子見する時間はあると思いますか?』

 

ザイン『ぶっちゃけジリ貧ですよ。雑魚のpopはかなり減ってはいますけど、そもそも物量で負けてる以上長引けば長引くとほど我々の不利ですねー』

 

シュヴァⅠ『世紀末ヒャッハースマイル』

 

シュヴァⅡ『そろそろ空爆の発作が』

 

マナマスター『それしか言えないのかお前ら……まあ、とりあえず《マナマスター》《ディアボロⅠ》《シュヴァルツⅠ・Ⅱ》の4機でボスに当たる。《ザイン》は周りの雑魚敵の相手と、何かあった時は頼む。オーバー』

 

 

 その通話の直後、ボスを中心にして旋回していた5機が一斉に動き出した。1機は編隊から大きく外れ残敵掃討へ、残りの4機はそれぞれ《マナマスター》《ディアボロⅠ》と、《シュヴァルツⅠ・Ⅱ》に分かれて機竜に向けて左右から挟撃した。

 

 片面から迫るのは、ガトリングが奏でる特徴的な発砲音の二重奏。さらに追撃として放たれる多数のミサイル。

 もう片面から迫るのは、所謂サーカスが出来そうな量乱射されたミサイルの軍勢。

 

 すれ違うように4機が離脱した直後、その全てがほぼ同時に機竜に直撃した。爆発と銃撃の固定ダメージ、そこに上乗せされる元々の高火力、一応存在するバックアタックと先制攻撃によるボーナス、合体しているメンバーによるスキル、その全てが融合した絨毯爆撃。

 

 具体的に数値化するならば、第6・7の街に辿り着くためのボスである【水竜戦車・ミズチ】が2〜3匹蒸発する廃火力。それが直撃して減少した機竜のHPは……たった1本も削ることが出来ていなかった。1本目の8割程まで減少してはいるものの、たったのそれだけである。

 

『システム : スキャンモード』

 

 そして一度攻撃してしまえば、非活性状態のモンスターであろうと活性化する。それもまた、ゲームとしてのシステムだった。

 爆炎の中、一対の緑眼が光を発した。同時に戦場全域に、同心円状の波動が広がった。一切の害は存在しないそれだが、それこそがボスが動き始める合図だった。

 

『システム : 戦闘モード

 目標の脅威判定が更新されました

 AWAKENING : System - Lethal』

 

 炎が晴れていくにつれて、覗いていた緑眼の色が真紅に染まっていく。そして爆煙が晴れていくと同時に、その巨体がヌルリと空を泳ぐように滑り動いた。

 

 狙われたのは、より多くのダメージを与えていたA-10組のシュヴァルツⅠ・Ⅱ。機体の全速よりも速い動きで接近した機竜が、その双爪を勢いよく2機に向けて薙いだ。

 対する2機の行動は回避。機体を起き上がらせ急激に減速、機竜を追い抜かせて爪を躱し、そのまま左右に別れて離脱した。現実では不可能な挙動であろうとここはゲーム、ステータスさえあれば可能なのだ。

 

 さらには2機の離脱直後、再度機竜にミサイルが殺到した。それが戦闘機として持つ、最大火力にして最高精度の攻撃であるから。

 だが、2度も同じ手を無防備に食らう機竜ではない。

 発生したのは紫の雷壁。翼膜として展開していたそれが拡大し、大半のミサイルを誘爆、またはあらぬ方向へと逸らした。それでもすり抜けた群れによって与えられたダメージは大きく、今度こそ1段目のHPバーが綺麗に消失した。

 

 

ザイン『報告ですー。今すぐその空域から逃げて防御姿勢取った方がいいですー。ビームが来ますよー』

 

 

 周囲から警戒していたザインからの報告が届くとほぼ同時。今まで沈黙を貫いていた、機竜の鬣に存在する機銃群がその身を起こした。まるでイソギンチャクの様に蠢いた、それら1つ1つの銃口に仄暗い光が灯る。

 

『Lock-on』

 

 そして4機それぞれをロックオンした直後、光が解放された。狙う者と狙われる者の立場が逆転する。闇色の光線が幾条も空を走り、己を傷つけた主を仕留めんと空を駆ける戦闘機に迫った。

 

 その攻撃に、会話する余裕もなく4機は動いた。

 《マナマスター》はキラキラと光る金属片と火球を撒き散らしながら、機体を横滑りさせて直角に回避するという意味不明な挙動で回避し、

 《ディアボロⅠ》も同様にチャフとフレアを巻きながら回避しようとしたが、数発被弾してしまう。現実と違い誘爆こそないものの、バランスを崩して大きく高度を下げてしまった。

 残り2機はそれぞれ緊急回避の直後、半数以上の直撃を受けてしまう。しかし、異常な耐久性である元となった機体の特性を引き継ぎ、爆発の1つもなく健在だった。

 

 

シュヴァⅠ『流石A-10だ』

 

シュヴァⅡ『なんともないぜ!』

 

ザイン『それより、上から作戦司令降りてきましたよー。プランBを打診する、だそうです』

 

ディアボロⅠ『わかった。じゃあプランBで行こう……プランBは何だ?』

 

マナマスター『あ? ねぇよそんなもん』

 

シュヴァⅠ『あ? ねぇよそんなもん』

 

シュヴァⅡ『あ? ねぇよそんなもん』

 

ディアボロⅠ『あ? ねぇよそんなもん』

 

ザイン『割とピンチと見てますけどー、なんで皆さんそんなに余裕あるんですかねー?』

 

 

 そんなふざけた内容の通信が飛んではいるものの、実際にはちゃんとプランBは存在している。その内容は『戦闘機で対応出来ない存在が出現した場合、更なる火力で押し潰す』というもの。つまりは脳筋作戦だった。

 その作戦の実行を、マナマスターが上空に浮かぶ不吉な名前の装甲飛行船へ送信する。そうして伝えられた直後、雲に刻まれるように極大の紋章が展開された。

 

 

「さて。久し振りに使ったけどこれ、やっぱり庇護下の人には便利だよね絶対」

 

 そんなことを呟きながら、俺は飛行船の甲板での踊りを辞めた。同時に、眼下で戦闘機群の動きがあったのを確認した。俺とザイルさんで作った、某狩ゲーの単発式拘束弾と某ロボアニメのウミヘビを合体させたようななんちゃって拘束武装。

 4機合わせて20秒強相手を拘束可能なそれが、あの機竜に絡まって動きを拘束する。同時に空には俺が展開した、固定された大儀式術によるバフの極大紋章。つまり、固定された距離が測定できる指標。ここまで揃えば、何が起こるのか想像するに難くない。

 

「ユキくん、そこにいたら危ないよ! 次の作戦の要なのに、紙装甲なんだから!」

「いや、大丈夫だよセナ。それより、現状だとセナの方が危ないかも」

 

 ハッチからセナが顔を出し、そんなことを言った瞬間だった。大気を劈く爆音が、戦場全体に響き渡った。流石にかなり距離が離れているからダメージはないけど、内臓にまで爆音が染み渡る。偶には、こういうタイプの爆発も乙なものだね。

 

「ちょっ!? 何今のユキくん!」

「見てれば分かるよ」

 

 機竜が拘束されてから現時点で8秒。ちょっと間に合わなそうだし、少しだけ俺が後押しする必要がありそうだ。

 

「ほら、見えてきた」

 

 それは、回転する金属の塊だった。正確に言うならば、馬鹿みたいに巨大な弾丸。もっと正確に言うのであれば、第6の街後方に鎮座する『試作列車砲 No.81』が発射した800mm弾頭だった。

 その狙いは、照準を付けているのがザイルさんだけあって正確。既に第2射の音が聞こえたのは、装填をセンタさんが行なっているから。そして火力は、発射機構の一部ににゃしいさんが魔力を込めているから最大級。

 ダメージの発生は確認している以上、現在行える最大火力の砲撃だ。だが、引き金を引く人物だけ別なことか、風によるブレなのか、機竜の中心からは数cmほど軌道がズレていた。

 

「《加速》《加速》《加速》」

 

 スキル全開の感覚で捉えたその弾頭に、規約に抵触しないほどの紋章を使用する。行うのは軌道の微調整。属性エンチャントはダメージ0になるが、加速陣なら問題なかったのは当然確認済みである。

 加速した弾頭が通り過ぎたことによる暴風で、マントをはためかせながら銃の形にした指を拘束された機竜に向ける。

 

「フフッ」

 

 ああ、このセリフ1回は言ってみたかったんだよね。どうせ聞いてるのはセナと……気配的に藜さんもいるか。まあ、2人になら聞かれても良いだろう。どうせ同じ屋根の下で過ごした2人だし。

 

Hit(当たり)!」

 

 直撃を観測。直前で機竜が身を捻ったせいで、僅かに胴体を撃ち抜くルートから弾が逸れてしまった。が、金属を無理やり引き千切る音と共に、その背の翼が1つネジ切れる様に吹き飛んだ。

 

「うわぁ……」

 

 序でに機竜を撃ち抜いた弾頭は、直下にあった街の外縁部に着弾し爆発。地形を変える大きなクレーターを作成した。流石どっかの少佐曰く、『都市区画ごと木端微塵に粉砕した時など絶頂すら覚える』威力だ。

 下を覗くセナと、いつのまにか出て来てた藜さんが素で引いてるけど、まあ気にしないでいいと思う。

 

「《加速》《加速》《加速》」

 

 直後聞こえて来た第2射の飛来音。機竜の拘束は解けてしまっているけど、空を飛ぶ手段を失った相手の狙いを外すなんてない。墜落しているけど、軌道予測なんて見てれば出来る。

 先程と同様、加速陣によって軌道を微調整+加速によるダメージ増量をかける。結果、弾は機竜に吸い込まれる様にして──

 

Jackpot(大当たり)!!」

 

 先程の第1射とは違う、致命的な場所を撃ち抜いた激音。それが届くと共に、機竜のHPが0になったのが確認できた。序でにもう一箇所、街に巨大なクレーターが発生する。おまけに、動力炉でも爆発したのか機竜の残骸が降り注ぐサービス付き。

 ああ、なるほどこれは気持ちがいい。うっかり追撃で手持ちの爆弾を落としたくなる。

 

「ま、流石にやめておきますか」

 

 恐らくアレを撃破した以上、空にはもう大ボス格は出てくるまい。それが確認でき次第、次の俺も動員される作戦が実行される。あまり時間はないのだ。でも──

 

「なんで、いきなり、指揮、始めたん、です?」

「えーっと、確か……あった。

 音楽を奏でている、戦場音楽を……誰も……邪魔出来ない。指揮をしておられる、戦争音楽……! 我々は楽器だ! 音色を上げて咆えて這いずる一個の楽器だ」

 

 疑問符を浮かべる藜さんに対し、セナはなんとなく察したのだろう。ちょちょいとメニュー欄を弄って、例の台詞を言ってくれた。完璧……いや、この場合はこうか。

 

「パーフェクトだ、セナ」

「むぅ……」

 

 がっつりサムズアップをセナと交わしていると、付いてこれなかった藜さんが不満気に頬を膨らませていた。……おふざけが過ぎたらしい。

 

「やりたいことも済みましたし、戻って準備に移りますかー」

 

 というか、次の作戦こそが本命。この『オペレーション・メテオ』における要。ああ、楽しみだ。

 




戦艦「えっ、私は? まだ? そう……」


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第120話 ミスティニウム解放戦③

 機竜が撃墜される少し前に時間は戻る。

 戦闘機が出撃してからの飛行船ブリッジでは、ある1つの作業が継続して行われていた。

 

「レーダーに感なし、ハズレです」

「こちらにも感なし、人質見つかりません」

「クソ! 一体どこに人質がいると言うんだ……」

 

 それは、勝利条件の1つである人質の捜索。それさえ達成し、解放してしまえば後方に控えている暴力を情け容赦なく振るう事ができるのだ。その為にも上空から捜索しているが、未だ成果は出ていなかった。

 

「お困りのようですね」

「ひっ」

 

 直前まで憤っていた艦長が、悲鳴を上げて振り向いた。

 振り返った先にいたのは、1人の小さな女性プレイヤー。クリーム色のフワッとしたセミロングくらいの髪に、限りなく白に近い菫色の目、腰の装甲がついた長いスカート以外は普段着の様な、パッと見おっとりとした雰囲気を発している。

 

 つまりは翡翠であった

 

 笑みを浮かべて言う翡翠の頬には、持ち込みのお弁当を食べた直後だからかご飯粒が付いている。この場面だけを切り取れば至って普通のプレイヤーだ。だが、その実態を知る艦長が逃げ出したのは当然だった。

 

「失礼ですね。私はただ、助言しに来ただけですよ」

 

 少し不機嫌そうにそう言った翡翠は、腰が引けている艦長を無視して人質を探している方のレーダー担当の元へ歩いていく。そして、目の前のバツ印が大量に刻まれたモニターの一点を指差して言った。

 指差した先は、街の中央にある城。それっぽい街にある施設を完全に無視して、ただ一点そこを華奢な指が指していた。

 

「敵は人外です、つまりはご飯です。ご飯は手元にあります。つまりここ以外ありえません」

「え、は、え……?」

 

 怒涛の勢いで告げられた言葉に、そもそもの驚愕が抜けていなかったのかレーダー担当は動きを止めてしまった。

 翡翠が言いたかったことは、『敵は人外だから、NPCの扱いはご飯でしかない。ご飯はいつでも手を伸ばせば届くところにあるのが理想で、であればボスの手元……つまりは城以外にありえない』ということなのだが、どうやら伝わることはなかったらしい。誰もが「ん」一言で会話できるれーちゃんや、それが理解出来る人のようにはいかないのだ。

 

「いいから調べてください」

「わ、わかりました。だから、食べないでください……」

「食べませんよ」

 

 そんなどこかのアニメを彷彿とさせる会話をしながら、レーダー担当は震える手で探知を実行した。

 

「えっ、嘘、本当に反応が……」

 

 そうして返って来た反応は、人質と思われる集団の発見。街の中央に鎮座する城の最下部、そこに複数のまとまったNPCの反応があるとレーダーには映っていた。

 

「蛇の道は蛇……」

「……やっぱり美味しそうですね、あなた」

「ヒィッ!?」

 

 そんな予想外の発見と変わらぬ恐怖に、ブリッジが騒然とする中のことだった。突如として赤色灯が回り、艦内にアラートが響き渡った。

 同時にブリッジ前方に配置されたスクリーンに、大きく下空の状況が映し出された。暴れる機竜と逃げ惑うように見える戦闘機達、明らかにプレイヤーサイドが押されている光景だ。

 

「プランB発令、戦闘機側に打診だ!」

「了解!」

「戦闘機隊から返答あり。『どうぞどうぞ』とのことです!」

「はい! 列車砲に通信飛ばします!」

 

 目の前に大型肉食獣(翡翠ちゃん)がいるのに指示を出せたことは立派と言うべきだろう。幾らパニックになっていても、最低限役割を果たせれば次に繋がるのだから。

 あっさりと敗北した機竜戦の裏側では、こんなパニックが起こっていたりしたのだが、当事者以外知ることはないのだった。

 

 

 甲板から後部ハッチに繋がる倉庫に戻ってきた時には、まだ集まっている突入班のメンバーはいくつかの集団に分かれ盛り上がっていた。

 

 まずは我らがギルドである【すてら☆あーく】。探索重視のれーちゃんと、保護者兼範囲制圧担当のつららさんとランさん。単純火力最強格の藜さんに、オールラウンダーなセナ。斬り込み役兼人質までの案内をするらしい。

 

 次にザイードさん、レンさん、デュアルさん、誰かの腕を食べてる翡翠さんの極振り組。と、何故かそこに混ざっているカオルさんと、ブランさん。酒盛りをしているこの面子は、防衛担当だとかなんとか。

 

 その奥にいるのは、普段から市街戦をしているということで参戦している、ギルド【アマゾンズ】の面々。Ωからネオαまでヤベー奴が5人揃っている。コワイ。遊撃担当だと聞いている。

 

 そして、最後の面々。ボスをしている時に見かけたメイド服のヤベー奴らと、もう1人の女性プレイヤー。跳ね橋の破壊役の人たちだ。前者の2人はコンビで極振り塔をボス以外全制覇した猛者だから知っているけど、最後の1人にだけ見覚えがなかった。

 

「気になりますかな、ユキ殿」

「ええまあ。こう話してくるってことは、ザイードさんと何か関係が?」

 

 一瞬のうちに背後に立ってたザイードさんにそう返事をした。とは言いつつも、見知らぬプレイヤー……名前はSereneというらしい……の格好から、ある程度想像はついている。褐色の肌に鮮やかな紫の髪、多分下の格好がアレだからかザイードさんのと同じ黒衣を纏っている。ということは、白い髑髏の仮面が連想されるのは必然だ。

 

「ええ。まさか私以外にも、ハサンのRPをする人が出てくるとは」

 

 仮面をしていても分かりやすいほど、ザイードさんの言葉からは喜びが感じられた。念願の後輩だし、分からないこともない。俺の場合は、後輩なんて生まれないプレイスタイルだけど。

 

「見た感じだと静謐の? もしや極振りだったりします?」

「そうですなぁ。ですが、元の我らやユキ殿の様に極振りではないですぞ。IntとDexの準極振り、珍しく我らと近いタイプですな」

「へぇ、そんな感じなんですか」

 

 察するにプレイスタイルは、毒とか呪いとかそっち系等。アイテムの投擲もありそうだ。相手にするとしたら、状態異常は死界装備で反転できるから完封出来るかもしれない。けど、普通の相手だったら相当強そうだ。

 なんか笑顔で手を振られたから、ザイードさんと一緒に振り返しておく。今更ながら、ザイードさんペット装備状態だからか腕でっかいな。減速計算し直さないと。っと、それで思い出した。

 

「そういえばザイードさんって即死特化ですよね。今回通じるんですか?」

「問題なく。あくまで攻撃ではなく、状態異常ですからな」

「うわぁ……」

 

 これは酷い。俺が紋章関連を自由に使えるままだから薄々察してはいたけど、敵モブは出会い頭に即死する未来しか見えない。多分翡翠さんも全開だろうし……運営が用意してる抜け道、ガバガバすぎない?

 

《敵ボスの再出現、及び敵増援は現時点で未確認。制空権を確保したと判断します》

《繰り返します。敵ボスの再出現、及び敵増援は現時点で未確認。制空権を確保したと判断します》

 

 と、そんなことを話しているうちに、そんな艦内にアナウンスが流れた。それはつまり、ここにいる21人の出番が漸く回ってきたということだ。

 

《現在地はシステム限界高度。降下目標地点は敵城中心部の中庭。目標達成後は、最後まで好きなようにやって良いとのことです》

 

 その言葉に、空気が一変する。宴会のようだったソレから、戦闘前のソレへ。それもそうだ、何せ「どうせ更地にする」と言質を得たのだから。気合いも入るというものだ。

 

《後部ハッチ解放。では、ご武運を》

 

 倉庫の中に光が差し込む。風が吹き荒れる。雲1つない青い、青い空が一面に広がった。やることなんて、もうお分かりだろう。

 

 街に地上からの侵入は、正攻法で時間を多大にかけねば不可能。

 水路からの侵入は、人数と人質救出の観点から不可能。

 ならば空は? そこからなら、なんの問題もありはしない。

 

 この場に集まっていた全員が、所定の位置へ移動する。それぞれの役割通りに分かれ、カタパルトに足を乗せた。

 

「ギルド【すてら☆あーく】」

「ギルド【極天】」「とボク達!」

「ギルド【アマゾンズ】」

「私たちとセレちゃん!」

「「「「「行きます!(出る!)」」」」」

 

 そしてそれぞれのリーダーが宣言すると共に、カタパルトから空に射出されていく。つまりこの作戦は簡単だ。超高空から精鋭がスカイダイビングして、人質を救出しつつ暴れ回る。

 作戦立案をしたらしい人は本当はHALO降下をしたかったらしいけど、結局こんなものに落ち着いたんだとか。まあ何にしろ、俺は俺のやるべきことをやるだけである。

 

「パラシュート役兼弾除け担当ユキ、出撃する!」

 

 ワンテンポ遅れて、俺もカタパルトから空に射出された。

 そうして眼下の20人を見ながら、処理能力を全開にする。俺の役割は、あるかもしれない対空防御の対応と、地表ギリギリでの完全な減速。扱いが半分道具だけど、それ以降は自由だし何よりも、参加できないよりは圧倒的にましである。

 

 だからこそ、あんまり舐めないで欲しい。

 

 爆破爆破言われ続け、運営からも《爆破卿》の称号を貰ったけれど、本来の俺はサポート特化型の極振りだ。だから、たった30門の対空兵装程度、1発たりとも誰にも当てさせるわけがないだろう。

 

「俺が参加するのは予想できたろうに。銃火器とは舐めてくれる!」

 

 それに、殺到してきた銃撃は、突入のそもそもの性質上大半が見当違いの場所をすり抜けていく。高速落下してくる人型サイズの相手を狙って撃ち抜くなんて無茶もいいところだ。だから直撃コースにある弾なんて100と少ししかないし、その程度なら片手間で対応できる。

 

「もし本当に対策したいなら、この倍は持ってこい!」

 

 そう挑発した直後、視界に入った砲台全てに障壁を展開する。砲身内部に食い込むように展開したせいで、いつもの銃より規模が大きな暴発が発生する。それが引火でもしたのか、一斉に砲台は大爆発を起こした。

 

 ははーん。さてはこのイベント、いつもの(極振りに対応している)人たちがあんまり関わってないな? 普段の縛りに比べて、幾ら何でも対策がおざなりに過ぎる。

 

「計算完了、調整、《減退》多重展開!」

 

 でも、それならそれで都合が良い。案の定なんの妨害もなく、紋章で勢いを殺しきって全員が乗り込むことに成功した。半数以上のメンバーが、当然のようにスーパーヒーロー着地で。

 

「狩り、開s「カワイイボク、参j「ヤシャスィー「総員、突撃ーー!!」」」

 

 そして、やはり考えることは同じだったらしい。全員がポーズを決めながら、それぞれ高らかに何かを宣言した。混ざりに混ざってなんだか分からなかったけど。

 

「めちゃくちゃだなぁ……」

 

 出撃と同様ワンテンポ遅れて着地しながら、思わずそんなことを呟くのだった。

 



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第121話 ミスティニウム解放戦④

 城の中庭に降り立ったメンバーの号令は、どうしようもないくらいにバラバラだった。けれどそのことと、どれだけそこから動けるかというのことは別の話になる。

 そしてその動きは実際、機敏。思わずゴウランガ!と忍殺語が出そうなほど、彼らは俊敏に且つ破壊的に動いた。

 

多重照準(マルチロック)……《ボウ・オブ・オティヌス》!」

「吹っ飛べ!」

 

 跳ね橋破壊役のメイド服を着た2人が、役割を果たす前の準備運動とでも言うかのように斬撃と多重射撃で壁をぶち抜いた。一瞬で跳ね橋が見える程度に、中庭は無残な光景になってしまった。なんということでしょう、悲劇的ビフォーアフター間違いなしである。

 

「れーちゃん!」

「ん!」

 

 同時にれーちゃんがイルカのぬいぐるみ……ペットを掲げてスキルを発動。確かれーちゃんのレベル×10m半径が地図記録範囲内だから、効果範囲はこの城1つを余裕で覆っている。しかもそれは、既存のシステムでこの場の全員に共有された。運営は泣いていいと思う。

 

 しかし当然、ここまで派手に動けば敵も動く。半鐘の音が鳴り響き、通路ごとぶち抜かれた部分や中庭に無数の敵が出現する。が、その全てが秒で経験値へと変わった。

 

 無言で処理したアマゾンズ所属の5人。城の一角ごと凍結させたつららさん。ガトリングの掃射で高所に現れた敵を撃ち落としたランさん。いつのまにか、さっきまでモンスターだったものが辺り一面に転がるSereneさん。以上8人で雑魚は全滅。

 

 次に中ボス格。空から降りて来ようとしたヤギ頭は、ブランさんの固定値の嵐により消滅。花畑の中から出現した醜悪な……例えるなら、某ゲームのモルボルだろうか? それはカオルさんの、城ごと切断した抜刀術により即死。そして今、最後に残った最も強い鎧騎士がセナと藜さんにより消滅した。咄嗟だったけど、加速と障壁の足場でサポートするくらい見なくてもできる。つまりは秒殺だった。

 

 最後に残った、極振りの先輩方。レンさんとザイードさんは、既にその姿はどこにも存在しない。けど遠くから嵐のような音がする為、既に街中へ出撃したと推測できる。翡翠さんは……結界を残して姿が見えないし、2人のどっちかに連れて行って貰ったっぽい。最後にデュアルさんは、ガイナ立ちで結界を展開していた。見た目装甲悪鬼なのに。

 

「作戦開始!」

 

 再度訪れた静寂の中で、セナが良く通る声でそう告げた。

 そして再び戦場は動き出す。この場に残っていたメンバーの内、跳ね橋破壊役の3人と、アマゾンズの5人は大穴から街へ向けて飛び出した。デュアルさんは動きがなく──

 

「みんな行くよ! ユキくんは掴まってて!」

「「「「了解」」」」」

「ん!」

 

 こちらはこちらで、全員揃って行動を開始した。いつも通りれーちゃんとつららさんをランさんが背負い、隣をセナと藜さんが並走するスタイル。今回俺は、流石にバイクは使えないので、走行しているランさんの左手に座らせて貰っている。

 

「速いなぁ……」

 

 それにしても速い。れーちゃんのお陰で丸裸になったマップを、人質が集まっていると思われる大部屋目掛け、最速で最短で走り抜けているのだ。それに加えて、つららさんが凍結や暴発させてトラップを処理し、一応俺が他の通路を障壁で封鎖して不意の遭遇を潰しているせいで、ここまで一切の戦闘がない。

 モンスタートレインになるかと思いきや、単純に敵に追われる範囲からすぐに離脱している為トレインにはならず、たまに居る延々と追跡してくるタイプもつららさんとれーちゃんが処理していく。

 

 自分の作ったダンジョンを爆速で攻略された時も似たような感じだったけど、実際に攻略側として体感するとまるで違って見える。例えるなら、こう、RTAしている気分だ。しかも、俺がいてもいなくても誤差程度しかタイムが変わらないパターンのやつ。うわっ……俺の存在意義、低すぎ。

 

「うん、多分ここら辺でいいかな」

 

 しばらく黄昏ていると、ふとセナがそんなことを言って歩みを止めた。全員が合わせるように動きを止めたここは、どうやら食堂のような場所らしい。テーブルクロスの掛かった長机や、壁にある燭台からそんな感じの雰囲気を感じる。

 

「ん、んー、ん!」

「『ここから2階分下に穴を開けると、丁度人質の部屋の前に着く』だそうだ」

「ありがとうランさん、つららさんやれる?」

「うーん、ちょっと厳しいかも。れーちゃんも一緒なら、多分届くかな?」

「ん!」

 

 つまり、ここから2階分ぶち抜いて、直接人質の救出に向かうらしい。……多分、ダンジョンの床が破壊不能じゃなかったら似たようなことやられてたんだろうなぁ。

 

「……そうだ。ユキくん、紋章で威力ブースト!」

「了解」

 

 爆破が出来たらまた違ったんだろうけど、今の俺に出来るのはそれくらいしかない。だからその役割を全うすることにしよう。

 つららさんとれーちゃん双方にInt上昇と水・氷属性の威力上昇バフ、床にMin低下と水・氷の耐性弱化デバフを掛ける。無論、一階下の床にも同様に。

 

「せーの! 《アイシクルフォール》!」

「ん!」

 

 そうして放たれた、普段より倍近い威力となった魔法。降り注ぐ氷柱によって目論見通り床は砕け──予想以上の火力によって、部屋ごと崩落した。

 

 

 侵入組がそんなことになってる一方その頃。迎撃と街の防衛を行う側でも、戦闘が勃発していた。いや、正確にはそれを戦闘と呼ぶことは適切ではないなもしれない。なにせそれは、戦闘と呼ぶにはあまりにも一方的なのだから。

 

「ウソ見たいだろ? これ、剣と魔法の世界のゲームなんだぜ……?」

「俺らの方が単純火力は高い。けど、なぁ?」

 

 数多のプレイヤーが呆然とする先。湧き出た敵を打ち破り橋のすぐ近くまで迫ったそこに広がっているのは、剣と魔法なんてほぼ残っていない光景だった。

 

 地上を進むは、20輌からなる戦車隊。機銃によって敵の足を止め、主砲が唸りを上げて大地を抉る。舞い上がった敵モンスターや土は、数輌編成されているSF戦車の放つ光線が薙ぎ払う。

 空を舞うのは、全4機のうち半分の武装を満載にしたヘリコプター2機。鉄の羽根が空気を叩く音を響かせ、無数のミサイルと弾丸が凄惨な音楽を奏でている。魔法攻撃という辛うじて息をするファンタジー成分も相まって、一匹の取り逃がしもなくモンスターが消滅していく。

 

 そちら(運営側)が物量作戦を取るなら、こちら(プレイヤー)もやることをやるまで。言外にそう告げるような、圧倒的な殲滅戦だった。

 

『8号車損傷軽微、戦闘続行に問題ありません』

『16号車被弾! 被害甚大、一度後退します!!』

『4号車カバー入れ! その分の処理はこっちが引き受ける!』

 

 とは言うものの、いかな戦車とは言え限界というものは存在する。長時間の戦闘で砲身の耐久値が限界を迎えてたり、砲撃を突破してきた敵によって被害を受けたり、そもそも運動能力の低さから長距離攻撃をモロに受けたり。そんな限界が、ヒシヒシと迫ってきていた。

 

『隊長! 《初死貫徹》殿! まだ進軍してはいけないのですか!』

『まだだ! 迂闊に跳ね橋に侵入して、橋を上げられでもしたら全滅する!』

『くっ……!』

 

 そんな半分怒号と化している通信が飛び交う中、それは霧の奥から姿を現した。

 メカニカルな光が灯る、命を感じさせない瞳。前方に向け反る双角。空に現れた物と比べて、遥かに凶暴な顔と鋭い牙の生え揃った巨大な顎門。翼はないが、代わりに全体のシルエットが最低でも2回りは大きくなっている。大木の様な四肢には無数の刃が連なり、胴には空の物と同様に銃器が無数に備え付けられている。そして何より特徴的なものはその尾。連接剣の様に、刃と刃を接続した様な蠢くそれが光を鈍く反射していた。

 

 表示された名前は【Dragon : Prototype 002】

 城の上空に現れた機竜と同様のボス。タイプ分けするのであれば、あちらは空戦型、こちらは陸戦型と言うべきか。先程までの雑兵とは、明らかに格の違うボス格の登場に、戦車隊に緊張が走る。

 

『待て。まだアイツはアクティブじゃない。落ち着いて後退し、十分に距離を──』

『う、くそ、死ねぇ!』

 

 そう隊長が指示を飛ばすより早く、1輌の戦車が周囲を観察していただけの機竜に向け砲撃した。結果、砲弾は回避され、ノンアクティブであった状態は終わりを告げた。

 瞳の色を紅に染め、咆哮しながら機竜は跳躍する。そして宙でその身を回し、伸びた刀尾が遠心力のままに薙ぎ払われる。機竜にとっての味方であるモンスターごと放たれた一閃は、5輌の戦車を巻き込み爆散させた。

 

『くっ……全車砲撃しつつ後退!』

『正気ですか!? それじゃあ勝ち目なんてないですよ!』

 

 そんな通話をしている間に、大きくその顎門を開いた機竜の口に赤色の光が収束していく。見る人が見れば、レーザー系統の砲撃の前準備だと分かるその光景を前に、一台の戦車がその動きを止めた。

 隊長……つまり《初死貫徹》の称号を持つプレイヤーが乗る、SFスタイルの戦車だ。こちらもまた同様に、砲身の先に青白い光を収束させていく。通せば間違いなく、街に致命的な被害が発生する一撃だ。妨害するのは当然だが、相殺の為に放つのはたった一度のみ放てる切り札だ。

 

『これから先、こちらはもう動けない。だが、それでも同志の皆ならやってくれると信じている!』

 

 その通信の直後、双方の砲撃が衝突した。機竜の放つ真紅の閃光、戦車が解放した青白い閃光。殆ど同等の出力のそれらはせめぎ合い、混ざり合い、堪えきれなかったかの様に大爆発を引き起こした。紫色の爆発の後に残ったのは、ひしゃげた戦車と対照的に無傷な機竜の姿。

 

『もう、だめだ……おしまいだ……!』

『勝てるわけがない、やっぱり俺らは極振りとは違うんだ!』

 

 絶望の空気が広がる。列車砲の砲撃は間に合わず、戦艦の砲撃は範囲が広すぎ、手持ちの火力ではこのボスを突破できない。

 

「いいや、まだだ」

 

 そんな空気を吹き散らすように、軍服を翻し1人のプレイヤーが姿を現した。金に輝く頭髪と、腰に佩いた計7本の刀剣。その特異な姿は見間違えよう筈もない。

 封じられた筈の最大戦力が、極振りが、威風堂々と参戦した。

 




機竜001は出番もなく秒殺された模様


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第122話 ミスティニウム解放戦⑤

 少し時間は巻き戻り、ミスティニウム上空にて【Dragon : Prototype 003】が撃墜された直後。他の場所よりは幾分かファンタジーをしていた、第6の街周辺。そこでも同様に、変化が起こっていた。

 

「全員、街に敵を近づけるな! 入れたら一巻の終わりだぞ!」

「総員、一斉射!」

「ハイマットフルバースト!」

 

 戦場に煌めくのは魔法の輝き。炎、風、水に氷、土から雷を始めとしてその種類は無数。十人十色に煌めく魔法が、街から放たれ周囲を埋め尽くしていた。

 そうまでして攻撃をしなければならない理由はただ1つ。急激に敵の出現速度が上昇したことにある。この場のプレイヤーは知る由も無いが、それは機竜が1機撃墜されたことによって、イベントが進行したことを示していた。

 

 そんな飽和攻撃で侵攻を凌いでいる街の周辺より、僅かに離れた地点。そこでもプレイヤーはパーティを組み戦っているのだが、4箇所ほど討伐速度が桁違いの場所が存在していた。

 

「ヌルい、この程度!」

 

 1箇所は、パイプに紅茶を詰め始めたケッテンクラート乗りのヤベー奴。彼が愛銃を一振りする度に、10を超える敵が致命的なダメージを負って宙を舞い、ピンボールのように敵中を跳ね回っていた。

 すでに弾薬は尽きかけているものの、単純な暴力と足の速さは健在。準極振りという王道からはかけ離れた暴力が、《ラッキー7》というユニーク称号持ちの旗を建て、無双という結果を伴い燦然と輝いてた。

 

「全員、何かにしがみ付きや!」

「主砲、発射します」

 

 2箇所目は、第6の街後方に鎮座する列車砲周辺。当然1ギルドの最大人数を超えて乗員がいる暴力装置は、それだけで十分な迎撃能力を誇っている。それに加え、自動攻撃する設定の機銃などが複数設置されているのだから言うまでもない。

 そして特筆すべきは、その口径800mmという規格外も規格外の巨砲。当たれば中ボスすら即死させる廃火力の一撃は、プレイヤーのスキルという後押しを受け、列車砲の周囲に五月雨の如く鉄の雨を降らしていた。その殲滅速度たるや、突出した4点の中でも最速。リロード時を除けば、リポップ直後に敵が即死する極めて狂った破壊力を示していた。

 

「ッ!」

 

 無言で剣を振るうのは、たった一人のプレイヤー。金に輝く頭髪と、腰に佩いた計7本の刀剣が特徴的な極振り(アキ)は、縦横無尽に戦場を駆けていた。本来の力は格段に制限されているが、その輝きは衰えを知らず並いる敵をボス格ごと両断していく。

 ああ何せ、システム上の制限を彼はユキと同等に受けていないのだから。

 スキルの抜刀術が使えない?──知ったことか。そもそも主武装の極光斬からして、紋章術の強化の産物でしかない。

 自身の攻撃ではダメージを与えられない?──なら愛刀に勝手に攻撃して貰えばいい。

 敵の攻撃がかすりでもしたら死亡する?──なら攻撃される前に殲滅すればいい。

 ロクなダメージがそれでは入らない?──笑止、筋力極振りとその能力を基準としている愛刀に何を説く。ただの通常攻撃であろうと、数百万のダメージ程度が最低値だ。

 その程度の障害で止まるほど、彼のRP愛は脆くない。乱戦だというのに常時HPを1から増減させることなく敵を薙ぐその姿は、筋力極振りという事実を忘れさせるほど個の戦力として逸脱している。その姿は、正しく《裁断者》の称号をしていた。

 

「ふふ。皆さん、もっともっと増えてくださいね。そして、敵さんを喰らってしまいましょう」

 

 そして最後の1箇所。ここが最も異様だった。

 どこを見ても黒、黒、黒、黒、偶に茶色、あと赤。他の4点では複数の敵が存在していたというのに、この場所では大半の空間を黒色が占めているのだから。薄々気付いた人も、気付かない人もこの場を見れば、空間の支配者は一目瞭然だった。

 即ち、蟲。地表には蜈蚣の群れが、低空には蝗の軍勢が、中空には蜜蜂型と雀蜂型の2種の蜂が。高空には、鱗粉振りまく黒アゲハ、線の細い蜻蛉、音を掻き鳴らす蝉の群れが。

 無数の昆虫の群れが敵を見つけるや突撃し、圧倒的物量で蒸発させては数を増やしている。

 

 その黒の波濤の中心に立つのは、その光景とはあまりにも場違いな女性だった。ベージュの短髪に絵描き帽を被り、全身を鎧とセーラー服が融合したような不思議な衣装で身を包んでいる。手に武器は持っておらず、薄荷色の瞳を写り込ませる眩い銀のフルートを鳴らしていた。

 

 彼女こそ、しぐれと呼ばれるユニーク称号《牧場主》の持ち主。普段は犬や猫、栗鼠を始めとした可愛い動物に囲まれ、第3の街で動物カフェを営んでいる少女だった。

 フルートの音によって、一律で動き出す蟲の軍勢。普段の可愛さ全振りの子たちは出せない為引っ張り出してきた彼女の虎の子は、領域制圧という面では他の誰よりも抜きんでていた。何せフルパーティ分に加え、ユニーク称号でペットが2体分参戦できるのだ。単純に、物量が違う。

 

 

 そして、ここで問題だ。

 

 未だ他の戦闘区域に出現していない【Dragon : Prototype 001】は、当然この第6の街付近に出現する予定だった。翼竜をベースに空を戦場とした003、西洋竜をベースに地上を戦場とした002、ならばこの001は?

 コンセプトは東洋の竜。地中を進み奇襲を仕掛け、戦場を混乱させることだ。いや、だった。本来ならば、そのようなトリッキーな戦闘を行う予定だったのだ。

 

 だが、最初に顔を出した場所が、この四人の近くであった場合どうなるか? 結果は、他のボスより悲惨な末路という結果で現れた。

 

「金の竜か。相手にとって不足なし!」

 

 始めに【Dragon : Prototype 001】が顔を出したのは、《ラッキー7》が駆け巡っていた戦場だった。黄金のボディを惜しげも無く晒し、登場演出として天高く機竜001は咆哮する。そう、してしまう。プログラムからは逃られないのだ。例え目の前に、紅茶の香りを漂わせた英国面のヤベー奴が迫っていたとしても。

 

「はぁッ!」

 

 速度は十分、威力は元から十二分、スキルの火力も大盛りで、クリティカルも発生した。そんな一撃をモロに食らった結果、機竜のHPバーは1段目の6割を消失するという結果を迎えてしまぅた。

 

『Error!Error!Error!』

 

 あまりの大損害に、Errorと叫びながら機竜は逃走した。けれど嗚呼悲しいかな、プログラムには逆らえない。戦場をかき乱すべく、あからさまな暴力が満ちたその場所に、機竜は顔を出してしまった。

 

 地中から浮上した直後機竜を出迎えたのは、爆音と鉄の雨だった。最悪のタイミングで顔を出したことにより、列車砲という化け物から放たれたスキルという魔弾が直撃する。

 地面に叩きつけられるように、鋼の豪雨が容赦なく機竜の身体を打ち付ける。与えれた被害はまたも甚大。今度こそ、5段あったHPバーの一段目が綺麗に消失した。

 

『Error!Error!Error!』

 

 悲鳴のようにErrorを叫びながら、残り2箇所のモンスターが劣勢の空間に機竜は設定された通りに顔を出す。

 

「あら、いらっしゃい。今日だけはワンちゃんたちじゃなくて、虫さんと一緒なの。楽しんでいってね?」

 

 瞬間、金が黒に穢された。

 顔を出した機竜に虫の群れが取り付いては攻撃、攻撃、攻撃攻撃攻撃。ユキのペットである朧同様、分裂体の虫達が特攻と自爆を繰り返していく。蜈蚣が装甲をかじり自爆、蝗が装甲を食い破り自爆、蜂達が内部に入り込んで自爆、蝶がデバフを撒き終え神風、蜻蛉が蜂の開けた穴に突撃して自爆。

 そして傷つけた内部から、機竜のリソースを喰らって再誕する虫の軍勢。ペットを率いて戦闘することに特化しているしぐれによって、敵がいる限り無限に増える悪夢の軍勢がここに存在していた。

 

 戦闘……否、蹂躙の結果は言うまでもない。

 一撃一撃の威力は低くとも、塵も積もれば山となるように、攻撃する暇もなく機竜のHPは削れていく。数え切れないほどの状態異常を、繰り返し繰り返し付与されながら。

 

『Error!Error!Error!』

 

 内部を黒の軍勢に食い尽くされながら、再度機竜は逃亡する。HPバーは既に2段と半分、最後に命令を果たそうと、自爆を前提に機竜が最後に出現する。街のすぐ側は飽和攻撃で近寄れない、そう判断して出現してしまったそこは──

 

「そうか。最後が俺か」

 

 アキの目の前だった。光を纏う二刀を構えた、金髪の偉丈夫。その眼に射抜かれた瞬間、機竜は偶然か否か敗北を直感した。当然吐き出されるErrorは何ら変わることはない。

 

「そのまま虫に食い尽くされるのは屈辱だろう」

 

 けれどどこか、機竜は安心したような気持ちをトレースして……

 

「安らかに眠るといい」

 

 一閃。二閃。三閃。四閃。五閃。六閃。七閃。

 スキルに寄らない抜刀術による神速の斬撃が、機竜のHPを3秒で0へと叩き落とした。

 

 

 チン、と憐れなボスにトドメを刺した刀を納刀し、アキは戦場を一望した。落ち着いて見れば、あまりにもプレイヤー側に有利な戦況がそこには広がっていた。

 

「街が気がかりではあるが、奴らがいれば問題ないだろう」

 

 今もその領域を広げ続ける黒の軍勢に、ピンボールのように敵を排除するラッキー7、固定砲台であるが圧倒的な火力を誇る列車砲。戦力としては、十分以上と言うものであろう。

 

「ならば、向こうの加勢として俺は動くべきか」

 

 視線をずらせば、見えるのは劣勢に陥っている戦車部隊。今しがた幕を下ろした機竜とは別型の機竜の登場により、ボス以外には圧倒的な殲滅力を誇る戦車部隊は壊滅の危機に陥っていた。

 

「間に合うか? いや、間に合わせる!」

 

 言葉の直後、地面を爆発させながらアキは駆けた。その姿はまさしく、地表を進む煌めく流れ星。

 そうして駆ける先、機竜と戦車がそれぞれ放った砲撃が衝突した。機竜の放つ真紅の閃光、戦車が解放した青白い閃光。殆ど同等の出力のそれらはせめぎ合い、混ざり合い、堪えきれなかったかの様に大爆発を引き起こす。

 

 そこから始まるのは、明確な潰走の流れ。隊長を失ったことによって、流れ始める絶望の空気。戦況としては良くないことだが、壁が高ければ高いほど俄然気合いは入ると言うもの。ならばこそ、ここで口にするべき言葉は1つしかありえない。

 

「いいや、まだだ」

 




ユニーク称号《牧場主》の保有者、しぐれさんについてのちょっとした説明。

普段は本編で書いた通り、第3の街で動物カフェを営んでいる女性。実は動物アレルギー持ちなので、VRをやってる第1目標はそこだったりする。ただし普段連れ歩いているワンニャンコ達は、可愛さ優先で強さは全く無い。

戦闘スタイルは、自身が補助をしつつテイミングモンスター(5体)とペット(2体)の組み合わせて変化する。今回は戦闘区域が非常に広域ということから、一番ヤバい奴らを引き連れてきた。

基本的にはいたって優しい普通の子


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第123話 ミスティニウム解放戦⑥

古戦場から逃げるな(逃げられない)


 颯爽と雄々しく、ピンチに現れるヒーローのように現れたアキだが、彼とてあくまでルールの中活動する1プレイヤー……やれることには限りがある。今回に限っては、さらに活動が縛られているのだから尚更だ。

 

 と、普通は考える。

 

 だが、だがだ。その程度で止まるほど、極振りとして歩んできた経験は安くないし、RPの重さだって軽くはない。さらに言うのであれば、アキのプレイの根底にあるのはやはり気合と根性。それで通る道理であるなら、出来ないなんてことこそあり得なかった。

 

「!!」

 

 そしてアキを視界に入れた瞬間、猛威を振るっていた最後の機竜がその動きを止めた。まるで蛇に睨まれた蛙のような勢いで、全ての活動を止め、アキただ一人に向けて己の最大の武器である尾の狙いを定めた。

 

特化付与(オーバーエンチャント)──閃光(ケラウノス)

 

 アキも同様に、先程の戦闘終了に伴い切れていた付与を掛け直す。同時、引き抜かれるのは極光を纏いし二刀。普段の1/10程度にまで制限されて尚必殺の威力を誇る双刀は燦然と輝き、臆することのないアキの姿は真っ向からそれに相対することを言外に語っていた。

 

「来るがいい、機竜よ」

 

 そして、静まり返った戦場にアキの声が響き、機竜がその場で旋回した。機竜が選んだのは横薙ぎ。目の前のコレは倒せないと判断して、せめて他の敵を撃滅しようという一手。

 機械的判断としては何も間違っておらず、実際伸びた蛇腹剣尾の速度はAgl換算にして4000オーバーの超速の範囲攻撃だ。

 

「そうか、残念だ。止まって見えるぞ?」

 

 しかし、あわよくばアキの撃破を狙ったことが間違いだった。最速の一撃が届くより速く、振るわれた尾は空を千切れ飛んでいた。

 一撃目で難なく尾剣を切断、二撃目で後方へかち上げた。言葉にするとただそれだけの行為で、機竜の必殺撃は打ち破られていた。

 

『GA、GAGAa!?』

 

 ならばと機竜が顎門を開き砲撃態勢へ移った瞬間、集中し始めていたエネルギーが口元で爆散した。否、よく見ればその口腔には一振りの刀剣が突き刺さっていた。それはよく見れば、離れた場所に立つアキが先程まで握っていた刀剣の片割れだった。

 

 カツカツと軍靴の音を鳴らし歩いて来る姿は、他のプレイヤーとは比べ物にならないほど遅い。しかしその歩みが、機竜にとっての死神の歩みであることは紛うことのない真実だった。

 

『GA!?』

 

 結果、機竜が()()()()()()のは逃走。しかし何故か、四肢全てが動かない。構造上機竜には見ることができないが、既に四肢はアキの投擲した刀剣によって地面に縫い付けられていたのだから。

 

「やはりダメだな。俺程度では、猿真似にしかならない」

 

 暴れる機竜の前に辿り着いたアキは、誰にも聞こえないような声でそう呟いた。その直後、首を振ってその言葉を否定する。

 

「いいや、それではお前に対して礼を欠くことになるな。謝罪しよう」

 

 頭を下げたアキに対し、そんなことは知らぬと機竜が吼えた。そして唯一動かせる短くなった剣尾を、己の誇る武装たる四肢を引き裂きながら振るったのだ。

 そういうボスでもないのに行われた異常な行動は、普通のプレイヤーであれば即死させるに足る不意をついた攻撃だった。

 

「だが、“勝つ”のは俺だ」

 

 そう、あくまで『だった』。アキに刃が触れる前に振るわれた光刃が、尾剣を今度はバラバラに分解した。許容できるダメージ値を大幅に超過してしまったのだろう、ボスでさえも一瞬固まって動きを止めてしまう。無論、そんなあからさまな隙をアキが逃すはずもなく──

 

「次があるならば、俺たち破綻者(極振り)がいないイベントで活躍してくれ」

 

 極光の斬撃が、一切の抵抗なく機竜の身体を縦に割った。

 当然HPバーは消滅。この一連のロールプレイに付き合っていた、ピンチだったのかピンチじゃなかったのか分からない周囲のプレイヤーから歓声が上がる。

 

 これにて障害は取り除かれ、ファンタジーに対して鋼鉄の進撃が再開した。

 

 

 所変わってミスティニウム内部。ユキたちが落下し、橋の袂で勝利の声が上がっている同時刻。真っ先に降下地点から脱出し目標へ向かった、橋の制御装置破壊班。彼女らも対岸の彼らと同様に、歓声を上げながら戦闘を行なっていた。

 

「そぉれ、吹っ飛べ経験値ぃ!」

「バカ、前に出過ぎよタタラ。セレナさんごめんカバー!」

「承知」

 

 ここは橋の開閉制御を行っていた制御塔。すでに内部は氷の毒で破壊尽くされているものの、戦況は残敵に囲まれ窮地に陥っていた。数にして表すなら、3:50の割合は間違いないほどの敵が、落とされた塔を奪還せんと集まっていた。

 

 極振り塔攻略組である冥土服のヤベー奴ことタタラと、メイド服のヤベー奴ことツムギとはいえ、流石に多勢に無勢。普通であれば時間と共に押し潰され、塔を奪還されてしまっていただろう。

 

「苦しみを……」

 

 それを拮抗という状況まで持っていけているのは、偏に完全にステルス状態で戦場を駆けるSereneというプレイヤーのお陰だった。

 ユキが察していた通り、彼女の本来のスタイルは呪術とアイテムで複数のデバフを相手に与え、隠密で隠れて継続ダメージで殺す時間のかかるもの。しかし今はその、多数のデバフによる継続ダメージと行動制限が戦場を支える一手となっていた。

 

「どっ、こいしょー!」

 

 独楽のように回転するタタラの周りで、交通事故にでもあったように敵モブが吹き飛ばされていく。動きが鈍れば攻撃は届くし、攻撃さえ当たればHP吸収持ちのタタラは倒れないのだ。

 当然そんなことをし続ければヘイトは彼女一人に集中する。それでも倒れない辺り、たった1人の前衛としては十分な働きをしていた。

 

「タタラ、セレナさん、戦車隊が進行を再開したらしい! もうちょっと持ち堪えれば終わりよ!」

 

 飛行船経由の通信を受け、魔法と弓矢を放ちながらツムギが叫ぶ。実際問題危険なのは物量だけで、攻略難度も討伐難度もよっぽど極振り塔の方が高かったのだ。

 

「はい」

「えー、折角こんなに楽しいのにー」

 

 加えて言えば、タタラの即死攻撃もSereneの状態異常も問題なく入り、かつツムギの広範囲攻撃もロクに狙わずとも十分以上にヒットするのだ。スリーマンセルでカバーも容易であり、どこかの戦車組と違い雑談する程度には余裕があった。

 

「ボスもいなかったし、ハズレ引いちゃったなー」

 

 一応存在していた中ボスを、雑魚と一緒くたに倒して気づかないくらいには。

 

 

 更に時を同じくして、ミスティニウム内部を駆け回る3つの影があった。そう、言わずもがな極振り組のレン・ザイード・翡翠だ。

 

「うし、ここはこんなもんだろ。翡翠ー、次はどこ行きたい?」

「そうですね……あちらからいい匂いがします」

 

 一応防衛組と役割は振られているものの、彼女らのやっていることは自由そのものだった。なんとなく気になる場所に行って、食事……もとい殲滅する。それだけのことを、最高速で、連続して行い続けていた。

 

「わかった。おいザイード、速く行──ダメだなありゃ」

 

 よじ登ってきた翡翠をがっちりお米様抱っこ体勢にしつつ、レンがザイードにそう言いかけ、すぐに諦めて首を横に振った。

 

「ふふ、フフフ、我が世の春が来た!」

 

 その視線の先にいるのは、黒い風と時折見える赤、そしてそれらが通り抜けた瞬間消えて行く敵の群れだった。橋の方で出現する敵と同様、即死耐性なんて敵は持っていないのだ。そんな場所に速度特化兼即死特化プレイヤーを送り込んだらどうなるか、現状はそれを明確に示していた。

 

「うし、行くか」

「速くしてください。ご飯がなくなります」

「はいはいっと」

 

 背中をペシペシと叩いて翡翠が催促した瞬間、最速でレンは飛翔した。バサバサと翻るスカートを抑えつつ、気の抜けた「あー」という声を漏らしている翡翠を横目に、広がる街並みを見てレンがポツリと呟いた。

 

「この後更地になると考えると、ちったぁ感傷的になると思ったんだがなぁ……」

 

 風を切って移動しながら、思い浮かべるのは毎度同類が引き起こすトラブル群。具体的にいうならば、焦土になったマップや夜空で花火になるビル、真っ二つに裂けた山、蒸発する湖やバグのようなエフェクトを残す環境兵器。

 流石にそこら辺と比べれば、街1つが更地になる程度思ったよりなんてこともないのかもしれない。今回のように、自分を含めロクに参加できない極振りが大半なのは英断だった。そんなことまで思えてくる。

 

「レン、レン」

 

 そんな風に意識を飛ばしていたレンの思考を、てしてしと背中を叩く翡翠の声が引き戻した。

 

「どうした? もしかして通り過ぎたか?」

「さっきから見えてますけど、今日はしましまですね」

 

 感傷も心配も、何もかもを翡翠の言葉がぶった切った。思考が停止すると同時に、レンの疾走も停止する。そうなれば当然動きは無くなり、半ば墜落するような形でレンは着地することになった。

 

「ちょ、ま、おま!?」

「水色と白のしましま、飴が食べたいです」

 

 抱っこされた状態で、ペロンとスカートをめくりながら翡翠が言った。翡翠を抱えていない方の手でそれを必死に戻しつつ、目撃者がいないかレンは周囲を必死に見渡す。そして誰もいないことを確認すると、肩を撫で下ろして翡翠に反論した。

 

「いいだろ可愛いし」

「もぐ……」

「もぐ?」

 

 お米様抱っこをやめレンが翡翠を抱えてみれば、七色に光っているひよこが翡翠の口に突撃している謎の光景が目の前に広がった。

 

「よし、私は何も見なかった。場所に着いたら教えて──いや、囲まれてるか」

 

 現実逃避は一瞬。目的地へ向け走り出そうとしたレンだったが、極振り中随一の空間認識能力で敵を察知した。戦闘力が皆無の現在、本来であれば逃げることが最適解だ。その筈、なのだが……

 

「ひーこー」

 

 つい先程口の中に消えて行ったはずの翡翠のペットが、呼びかけに応じて翡翠の髪の中から再出現した。そして翡翠の頭の上に陣取ると、スキル使用により10体に分裂。

 

「ぴよ」

 

 そう一鳴きする、と本体である一匹を残して素早く周囲に散っていった。そこから10秒もせず、今度は虹色に光りつつ帰還し、頭部の一匹も含め髪の中に戻っていった。

 

「ぴよ?」

「お疲れさまです。さあ、行きましょう」

「いつ見てもえげつねぇペットだよな……うちのヒエンとは大違いだ」

 

 そう言い残して2人が去った場所では、異様に変質した植物や、ベースすらわからないほど異質に変形したモンスターが同士討ちを繰り広げていたのだが、そのことは下手人以外誰も知ることはなかった。

 

 




メイドのヤベー奴らに関しては
『閑話 それぞれの極振り戦(vsザイル)』を

翡翠ちゃんのペットことひーこーに関しては
『閑話 それぞれのミラーマッチ』のあとがきにステータスが

載っているので!ので!


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第124話 ミスティニウム解放戦⑦

 様々な動きが起きているミスティニウム内部。警戒とリスポン狩りという地味だが有用な働きをしているアマゾンズらと違い、最後に残ったこの2人も、他のメンバーに負けず劣らずの活躍をしていた。

 

「ふむ……困りました」

「そうですね……困りましたね」

 

 街灯の灯ったミスティニウムの道でボヤくのは、《ナイトシーカー》のカオルと固定値の鬼であるブランの2人。彼女らは今、四方を自身のレベルを10程上回るモンスター数十体に取り囲まれていた。

 中身のない鎧に、機械と生体が融合したようなイッヌやネコ、明らかに実体のないゴースト系から頭の悪いタイプのゴブリン等々……数えるのも億劫ない程の敵群が、現在進行形で増えつつあった。

 

「いやまさか、敵弱体化のギミックを起動してたら取り囲まれるなんて。流石のボクも予想外でした」

「むしろ最後の一個を起動した瞬間これですし、割と運営の罠にはまっただけでは?」

「運営がバカじゃないとか驚きですよ」

「「はっはっは」」

 

 敵陣の只中で笑う2人に釣られて、周囲を取り囲むモンスターも下卑た笑い声の合唱を響かせる。明らかな嘲りの意思が込められたそれに、今まで笑っていた2人の顔つきが変わる。

 

「さて、ギルマス。10秒時間稼いでください。6倍にして返します」

「わかった。こっちも久々に、召喚術師として働くことにする」

 

 直後、2人以外全てに赤黒の雨が降り注いだ。今まで会話していたことは、決して暇だからということが理由ではない。ただでさえ連射性能が異常値のブランが、魔法の発動ストックを作るための時間だったのだ。

 降り注ぐ、固定値初期魔法の超連射によるゲリラ豪雨。本来は微々たる威力しか持たないソレが、格上を十秒程で蒸発させていく様は異様の一言に尽きた。

 

「蒸気充填、完了」

 

 豪雨の中心で、白い蒸気を纏うのは《ナイトシーカー》のカオル。普段ならこの時間はクソ雑魚化している彼女だったが、今はイベント中……つまり、称号効果が最大限に発揮されていた。

 ゴツい籠手が握る蒸気刀からは、圧縮限界を超えた漏れ出た蒸気が揺らめく。同時に先程摂取した専用アイテムのブーストで、抜刀術及びスキルのコストとして支払ったHP・MPが全回復した。

 

「抜刀術スキル、居合抜きから飛燕まで混成接続」

 

 魔法の豪雨を抜けるモンスターが現れ始めたがもう遅い。夜の補正を受けた《ナイトシーカー》は、その程度では止まらない。

 

「行きますよボクスペシャル。蒸気抜刀──吸血漣蒸(きゅうけつれんじょ)!」

 

 瞬間、裏切上の軌道で振り抜かれた刃が、街ごとモンスター群を一撃で蒸発させた。かつて彼女が使った、《紫電一閃》という技の下位互換技だ。その反動でカオル自身は、地面に杭打ちを行わなかった為後方へ吹き飛ばされた。計算通りに。

 次に行われたのは、身体を無理矢理に捻っての横薙ぎ。《飛扇》という技を、反動と遠心力を使い無理矢理に発動。扇状に広がるダメージエフェクトが、後方の敵を殲滅した。

 次に発動したのは、《鳴閃》という繋ぎ技。スクライド式着地をしながら刃が納刀され、スキル効果による音の刃が拡散する。

 

「我が名は──」

 

 隙が出来たと思ったのか、思わせぶりな登場をした黒騎士と表現できるモンスターが斜めにズレ落ちた。放たれた技は《燕返し》、《鳴閃》の効果によって威力と速度のブーストされた二閃が、中ボスを抵抗なく両断し即死させるどころか、発生したエフェクトが再度街ごとモンスターの群れを両断する。

 相当数が減った敵群の中で、カオルが悠々と《鳴閃》で刀を納刀。脚部のバンカーで速度をブーストし、最後の敵群の中に飛び込んだと同時に抜刀。単純な斬撃で切断した相手から、青い燕のエフェクトが吹き出し大半の敵を蒸発させた。

 

「四天王が我を残して全滅したか……」

 

 そうして一気に廃墟と消滅エフェクトだらけになった戦場に、一体の影が舞い降りた。ソレを一言で表すなら、竜人というのが簡単かつ真意を表せるだろう。緑暗色の鱗に覆われた、大柄な竜の人型。呟いた通り、この街に配置されていた中ボスたる彼は──

 

「ふふふ、行きますよ! ボクの必殺技、パート2!」

「弱体装置まで起どゴブァッ!?」

 

 何かを告げるその前に、カオルが放ったライダーキック式顔面蹴りに言葉を遮られた。減少したHPはごく僅か、代わりに鱗が逆立ち、青筋が浮き出てくるようなエフェクトまで見える。

 

「よくもこの我を虚仮に──」

「させません、ボクの必殺技パート3!」

「カペッ」

 

 怒髪天を突くといった様子のボスの顔面にもう片足が叩きつけられ、左右の蒸気式パイルバンカーが僅かにタイミングをずらして打ち込まれた。流石の中ボス最強格といえどこれには堪えたようで、HPを急激に減少させながら尻餅をついてしまう。

 そんなボスから「ヤベッ」とでも言いたげな表情で逃走しながら、カオルは全力で叫んだ。

 

「ギルマスゥゥゥゥ!!」

「はいはい。まあ偶には、召喚術の極致を使いますか」

 

 直後、ブランを中心に地面に描かれる極大の魔法陣。消滅するモンスターたちのエフェクトを吸い込みながら、3箇所の空白を残し魔法陣は完成した。

 そして実は今回決め台詞を1つも言っていないブランが、ノリノリで詠唱を開始した。

 

「お前にふさわしいソイルは決まった!」

 

 杖を片手に、顔面の再生を行なっているボスに向けてポーズを決める。その姿に興奮しながら、刀をブンブンとカオルが振り回していた。

 

「『全ての源』マザーブラック!」

 

 宣言と共に、欠けていた魔法陣の一部が黒系統の色で埋まる。

 

「『全てを灼き尽くす』ファイヤーレッド

 そして、『全てなる臨界点』バーニングゴールド」

 

 赤系統、金系統と続けて魔法陣が埋まり、完成した魔法陣が地形を無視して回転を始めた。

 

「凄まじい気の流れ……!!」

 

 ノリノリで加担するカオルがそう告げる中、ブランのHPの30%が蒸発した。最高位の、それもカスタムした召喚術の代償だ。

 そんな中、急速に魔法陣が縮小していく。そして魔法陣が消滅して、あわや不発かと思ったその時、銃を構えるように持ったブランの長杖に三色の、円軌道を描く小さな光球が出現した。

 

「燃えよ、召喚術──フェニックス!」

 

 そうして、長杖の先で照準する中ボスに向け、光球は放たれた。しかしその速度はあまりに遅く、着弾前に中ボスの腕の一振りで消し飛ばされてしまった。

 

「く、くく……何が来ると思えば、その程度か!」

「いいや?」

 

 顔の再生が終わり、そう嘲笑する中ボスの身体が突如膨張した。元の数倍にまで膨れ球形に変わっていくボスは、その変形の影響か苦悶の表情を浮かべつつも言葉1つ発せない。

 そしてその目が限界まで見開かれ、ボスのHPは0になり爆散した。そのエフェクトの中から現れるのは、不死鳥の名を冠した燃え続ける鳥。敵のHPとMPをリソースに、召喚術における火属性最強格がボスの体内から出現したのだった。

 

「いやぁ、いつ見ても壮観ですね」

「まだまだだよ。特に杖とか」

 

 一鳴きした後、身体の維持が出来なくなって消えて行くフェニックスを見送りながら、敵の消えた元戦場で2人はそんなことを呟いた。

 

「本当にやるんですか、あれ?」

「借金してザイルさんに杖を依頼してある以上、やめられないさ」

「うへぇ」

 

 昔と違って心底ゲームをエンジョイしているギルマスを見て、カオルは複雑な表情を浮かべてそんな声を漏らした。なんというか、自分のギルマスがどこかの爆弾魔や爆裂狂いの方向に進んでいるような気がしてしまって。

 

「あ、それで思い出したんですけど。人質救出随分遅くないですかね?」

「言われてみれば。ユキさん達なら、とっくに終わっていてもいい頃な気が──」

 

 と、ブランが言った時のことだった。王城から天高く紋章が出現し、次の瞬間には1人の鎧武者が空へと打ち上げられた。展開している結界の下部に、乱雑に積み上げられた人質らしき塊を引っ掛けながら。

 

「「えぇ…」」

 

 人影と塊が雲の向こうへ消えて行く光景を見て、2人から困惑した声が思わず出てしまった。

 なぜこんな奇妙なことが起こったのか。それはほんの数分前に遡る。

 

 

 想定以上の魔法の破壊力によって、部屋が崩落し階下へ落ちて行く中。予定とは違ったものの、結局降りれることに違いない現実に気がついた途端全員に冷静さが戻った。結果、特に問題なく階下への侵入へ成功したのは良かったのだが……

 

「どうやってこの人数の人質運ぼう?」

 

 セナが言った通り、最大の問題はそれだった。人質と言うのだから、いてせいぜい数十人。50もいないと想定していたのだが、現実はどうだ。どう見ても、100人を超えているではないか。

 

「誰かいい案ある人!」

 

 見張りは秒で抹殺したので何も問題はなく、人質も全員なんらかの効果で動けないようなのでそこだけは救いか。だからこうして、呑気に話が出来ていたりする。

 

「ん!」

「『全員を縄で繋いで連れて行く』だそうだ」

「うーん……ちょっと無茶があるかなぁ」

 

 真っ先に手を挙げたれーちゃんの意見は、ちょっと無茶があるものだった。まあできるか出来ないかで言えば、出来ないわけではないのだが。

 

「なら、壁をぶち抜いて運ぶのはどうだ? 俺なら中庭まで砲撃でぶち抜ける」

「人質がどれだけ減って良いのかわからない以上、敵を呼びそうなのはちょっと実行し難いわ」

 

 ランさんの案はつららさんが首を振った。つららさんの案も確かに一理あるというか、事実その通りだ。どれだけ救えば良いのかわからない以上、迂闊に人質を危険には晒せない。

 

「なら、私と、セナさんで、ランさんの開けた穴を通って、運ぶのは、どうです、か? 穴は、つららさんに、氷のトンネルに、してもらえれば」

「半分くらいはそれでいけると思うけど……うーん、それが1番早いかな?」

 

 手持ち無沙汰で天井に障壁と《平凡の見せかけ》を掛けながらその話を聞いてる限り、どうやらその方向で話が纏まるらしい。となると、敵が侵入してこないようにしてたこれは無意味になりそうだ。

 

「んー……ん!」

「なるほど、その手があったか」

 

 割と手伝うことはないと思っていたら、そんなれーちゃんとランさんの声が聞こえた。

 

「ん?」

「いや、出来なくはないけど……人質が築地のマグロみたいになる気しかしないんだけど」

 

 確かに聞いてる限り、れーちゃんの案が多分1番早いし確実なものだ。けどNPCとはいえそんな雑な扱いを……そう悩んでいると、くいくいとコートの裾が引っ張られた。

 

「どういうこと? ユキくん」

「私達にも、分かるように、説明して欲しい、です」

 

 セナと藜がそう言って、つららさんもランさんへ視線を向けていた。相変わらずれーちゃん語を完全理解できるのは、ギルド内では俺とランさんだけらしい。

 

「えっとですね……」

「大体の案は、藜が提案したのと同じだ。ただ、人質の脱出方法としてユキの紋章を使う」

 

 どう話したものか迷っていると、ランさんが要点だけを言ってくれた。

 要するに、ランさんがブチ抜き、つららさんが道を作り、俺がそこを射出台にして、全員で人質を投げ込み中庭のデュアルさんへ届ける。その後、デュアルさんを上空で待機してる飛行船が回収する。そういう、個々の能力に頼りきっているが簡単な作戦だ。

 

「多分時間だけを考えるなら、藜さんのより少しだけ早くなると思うけど」

「異論ある人いる?」

 

 少し悩んだようにしたあと、セナが全員を見渡しながらそう言った。結果、反論はなし。思わぬ方向で、作戦は纏まったようだった。

 

「よし、それじゃあ決定。さっさと実行して、作戦を次の段階へ進めちゃおっか!」

 

 結果、作戦は何の妨害をされることもなく成功。デュアルさんは空へと飛び立って行った。

 

 後で聞いた話なのだが、この時点で街の中に配置されていた中ボスは全滅。場内はアマゾンズの連中によって雑魚がリスキル状態にあったらしく、邪魔が入るわけがなかった。

 

 そして、大本命の作戦が動き始める。

 




運営「用意した四天王、どこ行った?」
突入班「君のような勘のいい運営は嫌いだよ」

水の四天王→気づかれずに処理
土の四天王→即死(ザイード)
火の四天王→即死(抜刀術)
風の四天王→焼死(召喚獣)



《鳴閃》
簡単に言うと、クイック納刀+バフスキル
2回連続までならクールタイムなしで使用できる
※ユキもアキもAglが無いため使用不可


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第125話 ミスティニウム解放戦⑧

『こちら、旗艦アドミラル・グラーフ・シュペー。当艦が人質を回収したことにより、イベントフラグの達成が確認された』

 

 空へ発射されたデュアルさんと人質を回収した飛行船が、ミスティニウム上空から離脱しつつ外へ向けてそう放送する。同時に各方面へと同様の通信を飛ばし始めていた。

 

《これにより、作戦を最終段階へ移行する。

 退避可能な人員はミスティニウムから退避してください。

 繰り返す、作戦を最終段階へ移行する。

 退避可能な人員はミスティニウムから退避してください》

 

 それを聞いて、街の各所で動きが起きたのを感じた。

 門の近くでは戦車隊が撤退を始め、2名の反応が周囲の建造物に手当たり次第に攻撃をしながら撤退を開始。最後の一箇所では、感知のできない結界のような何かが展開された。そして同様に俺たちも──

 

「みんな、逃げるよ!」

「「「「了解」」」」

「ん!」

 

 人質の射出を終えた牢屋から、壁を壊しながら全速力で脱出を始めていた。探知できた空の戦闘機たちの動きからして、もう時間的猶予は殆どない。

 セナと藜は、ペットと合体しての最大速で。俺もターボ込みの愛車の最大速で。速度に劣るランさん・つららさん・れーちゃんの3人は紋章で加速した最大速で。荒れ果てた街の中を、1つしかない城門目指して駆けていく。

 

「ユキくん、状況は!?」

「現状街の中に残ってるのは、うちと翡翠さんだけ。フルトゥーク湖に待機してた戦艦も動き出してるし、壊滅まで秒読みかな!」

 

 なんてことを言った直後だった。右前方に広がっていたミスティニウムを囲う壁が、爆炎に包まれ崩壊した。噂をすれば影がさすとはこのことだろう、ミスティニウムの存在する中洲の上流まで進んできた商業系ギルド連合の戦艦からの砲撃だ。

 爆破の点数としては60点くらいかなぁ……やっぱり大口径でも榴弾じゃだめだ。爆弾じゃないと、なんか気持ち良い爆発にならない。

 

「敵集団、前の方で、リポップ、します!」

「わかった。れーちゃんつららさん足止め!」

「ええ!」

「ん!」

 

 藜の言葉でセナが指示を出し、2人が足止めし、直後セナと藜が突撃。少し遅れてバフとデバフを掛けた直後、2人の最大火力によってモンスター群は消し炭になった。

 

 だが、そんなこちらの様子は知らぬとばかりに、砲撃の第二射が再度壁を崩壊させた。かと思えば、今度は後方で土埃が柱のようになり大地が震撼する。多分これは列車砲の砲撃だ。もう剣と魔法の世界がめちゃくちゃである。

 更にトドメとばかりに、大量の爆弾を搭載した戦闘機隊の姿が見えた。V字に編隊を組んでることから、爆撃する気満々なのは嫌が応にも理解できてしまう。

 

「よし、抜けた!」

 

 けれど、どうにかその一斉攻撃が始まる前に俺たちは全員門を抜け、ミスティニウムから脱出することに成功したのだった。

 

 

 同時刻、上空。

 

『《マナマスター》から各機へ。【すてら☆あーく】の連中の脱出を確認した。これでもう枷はない、ショータイムだ』

『ディアボロⅠ了解。さあ、地獄を楽しみな』

『シュヴァルツⅠ了解。ブチかましていくぜぇぇ!!』

『シュヴァルツⅡ了解。音割れワルキューレの騎行を流せ!』

『ザイン了解。でもシュヴァルツⅡ、そこはコンギョでは?』

『なんか再生ダメだって……』

『そっかぁ』

 

 今まで制空権の確保に専念していた戦闘機群が、そんな会話を交わしながら動いた。ロックの外れる音と共に、懸架していた爆弾が爆撃機もかくやという勢いで落下していく。ゲーム特有の、アイテムをデータとして持ち歩けるという特徴が最悪の結果を生み出していた。

 

 轟音。衝撃。破壊。ミスティニウム上空を旋回する5機の爆撃によって、見る間にミスティニウムは爆炎に包まれ崩壊していく。

 

 どこぞの爆破卿に言わせれば65点、爆裂娘からすれば論外の点数でしかない物だが、それでも効果は覿面というほかないだろう。城を含め壊れない建造物も多々あるが、少なくとも概算7割は有象無象のモンスターと共に崩壊していく。

 

『マナマスター、残弾0』

『ディアボロⅠ、残弾0』

『シュヴァルツⅠ、残弾0だ』

『シュヴァルツⅡ、同じく残弾0』

『ザイン、残弾0です』

『了解した。一時帰投し装備を補充する』

『『『『了解!』』』』

 

 時間にして僅か1分ほどの空襲を行った5機は、そう通信を交わしながら撤退した。であればもう、これ以上ミスティニウムはプレイヤーの暴虐に晒されることはないのだろうか?

 いいや、否。断じて否だ。こんなイベントに参加しているようなトッププレイヤーどもが、この程度で止まるわけがなかった。

 

「主砲っ、てーッ!!」

 

 次にミスティニウムを襲ったのは、河川から吹き付ける鉄の暴風だった。堅牢を誇る筈の壁が、まるでゴミか何かの様に削り飛ばされていく。

 フルトゥーク湖から河川を降ってきた、商業ギルド連合の大和型を模した戦艦。ダウンサイジングこそされているものの、律儀に再現した主砲の巨大な三連装砲は1プレイヤー*1が出し得る限界を超えた火力を連射し続けている。

 しかも戦闘機隊と違って、こちらの乗員は通常プレイヤーだけではなく職人プレイヤーも多数含んでいる。つまり、実質弾切れの懸念が無い化物であった。

 制空権が失われたことによる散発的なモンスターの襲来も、主砲由来の衝撃波と専用の場所から攻撃を行うプレイヤーによって迎撃が可能。運営から見れば、悪魔としか言いようのない暴威が今ここに解放された。

 

「戦車隊残存全車両に告げる! こちらも負けてなどいないことを、船の奴らに思い知らせてやれ!!」

『『『『『Jawohl!』』』』』

 

 対し、陸の戦力も当然負けてなどいない。機竜に数を減らされたとはいえ、戦車という戦略は未だ健在。重装甲にてモブの攻撃を弾き、主砲で壁を吹き飛ばしていく。周囲のモブに機銃の迎撃が追いつかない場合は、共に侵攻してきたプレイヤーが経験値へと変えていく。

 

「さて、大仕事だよツムちゃん」

「分かってる。しくじるなよタタラ」

「私も、微力ながらお手伝いを」

 

 瞬間、炸裂する大火力。つい先程街を脱出したばかりのツムギ・タタラ・Sereneの3人も攻撃を開始した。

 壁が毒によって腐食し、大鎌の斬・打撃によって崩壊し、弓矢と水の大渦(ボルテックス)によって押し流される。それは当然、戦車隊に負け劣る様なものではない。

 

「だったら私たちも! 行くよ、藜ちゃん!」

「当然、です!」

「目標確認……delete開始」

「行くわよ、れーちゃん。氷系統最上級魔法……《ジュデッカ》!」

「ん!!」

 

 さらにその近くで、更なる破壊力が壁を吹き飛ばした。

 合体を継続した炎を纏ったセナにより振るわれるは、双剣双銃の乱舞と魔法の乱射。それに遅れじと空を舞う藜の、処理落ち寸前まで重層化された槍撃と副次効果による斬撃の嵐。追い討ちをかけるのは、つららによる超範囲凍結破砕の魔法と、追随するれーちゃんによる不可視の大打撃。更には蜂の大群が、群がってくるモブに自爆特攻を行いその邪魔をさせない。

 当たり前のようにユキがバフを最大限にかけているため、他とはまた一線を画した火力をたった6人で齎らしていた。

 

「貴方と肩を並べて戦えるのは光栄です。《裁断者》」

「こちらもだ。《初死貫徹》」

「では、行きますか」

「ああ」

「「すべては、勝利をこの手に掴む為ッ!」」

 

 放たれる極光斬と、周囲の敵を蹴散らす鋼の拳。

 全プレイヤー中最大火力を誇るアキと、元戦車長であり現初死貫徹である彼も参戦しないわけがない。あまりにも高い攻撃力によって、バターでも切るかのように壁が裁断されていく様は異様を通り越して、こいつならこうなると納得せざるを得ない域にまでたどり着いてしまっていた。

 

「我が爆裂の力を貸してるのですから、遅れるなんて許しませんよ!」

「応ともさ、俺が装填する以上嬢ちゃんはトリガーを引き続ければいいのさ!」

「案ずるな。自画自賛だが、ゲーム内最高のDexが付いている。外しはしない」

「ふぇぇ……」

 

 そうなると黙っていられないのが、第6の街後方に陣取る列車砲運用組だ。街の周囲全てが黒い蟲たちの海に覆われた今こそ、迎撃の必要すらない絶好の攻撃チャンス。

 

 しかしそれは、極振り由来の思考。トリガーを握るただの少女はもう精神が限界だった。それもそうだろう。頭のおかしい3人に包囲され、自分が攻撃を担う車両の周囲は蟲に沈み、偶にそんな狂気の海の中から綺麗なお姉さんが楽しそうに手を振ってくるのだ。

 少女は頭がどうにかなりそうだった。催眠術だとか超スピードだとか、そんなチャチなもんじゃあ断じてない、もっと恐ろしいものの片鱗を味わい続けていた。

 

「あぅあぅあ……」

 

 地獄への道は善意で舗装されているとはよく言ったものだろう。トリガーを引く少女の周りには害意はなく、善意しか存在しないのに少女は涙目になっていた。上がり続ける少女のレベルと、反比例して減少していく正気。それでもトリガーを引く指だけは、まるで別の生き物のように動き続けていた。

 

 結果、次々と都市区画ごと爆散して行くミスティニウム。最早かつての姿は秒毎に崩れていき、無残な塵へと変わっていく。地下であろうとその暴虐からは逃げられない、地面ごとひっくり返され衆目に晒され、次の瞬間には壊れていく。

 

「ミッションの達成率の、急速な上昇を確認。やれます!」

 

 それら全てを観測する飛行船の中で、そんな歓声が上がった。何せメイン/サブ問わず、殆どのターゲットが恐ろしい勢いで埋まっていくのだ。残っているメインターゲットは『??????』……推定イベントボスの討伐のみで、サブターゲットもたったの数個。ほぼ攻略が完了したと言っても過言ではない状況だった。

 

 そうして暴虐の限りを尽くすこと数分。ミスティニウムは王城を残し、他の全てを徹底的に破壊し尽くされ、街としての機能を陵辱され尽くした。

 かつての魔城の影は見る影もなし。たった1つ取り残された王城だけが、どこか哀愁を漂わせていた。

 

*1
極振り等の一部例外は除く




運営(極)「これテイミングは修正案件ですね」
運営(普)「*+$☆>○☆ア゜ッ」

因みに翡翠ちゃんは最後まで堪能してデスペナになりました。
「私なら問題ないと思いました」などと供述しており……


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第126話 ミスティニウム解放戦⑨

体調不良やらなんやらで2週間ぶりなのでリハビリがてら投稿

許して……


『人質を解放して即この有様とは、とんだ腰抜けの集まりじゃのうプレイヤー諸君』

 

 荒地を通り越し、更地になったミスティニウム跡地。灰燼が舞う中、そんな若い男の声がフィールド全域に響いた。発信源は、考えるまでもなくあの鉄の雨を乗り切った最初で最後の建造物である城。

 

『トップがトップ……それも仕方ねェか………!!

 “極振り”は所詮、先の時代の"敗北者"じゃけェ……!!』

 

 そこから滔々と、嘲るような声音で続けられた言葉に、俺を含めた極振りが反応しないわけがない。そしてここまでフリを良くされれば、返答はただ1つ以外あり得ない。

 

「ハァ…ハァ… 敗北者……?」

「取り消せよ……!!! ハァ…今の言葉……!!!」

 

 アキさんと言葉が重なり、思わず吹き出しそうになりながらも堪える。というかアキさんが付き合ってるなら、先輩方も全員ノッてくれてるのだろうことが分かる。翡翠さんは分からないけど。

 そしてこの、こっちの遊びたい心理を読み取って、いい感じに乗せてくるこの感じ。明らかにさっきまでの運営とは違う。きっと、いつもの奴ら(極振り担当)が遂に出てきた。

 

『極一部の変態を除いて、極振りから逃げた永遠の敗北者が今の“極振り”じゃァ。どこに間違いがある……!!』

 

 確かに現状、本当に極振りと呼べる馬鹿ビルドをしているのは俺とにゃしいさんのみ。一応アキさんもスペック的には同等以上だけど、1ポイント別にステを振ってる以上純粋な極振りとは言えない……と、認識できないこともない。

 

『極振り極振りとプレイヤー共に恐れられ、曲芸紛いの茶番劇でゲームにのさばり……β版からトップに君臨するも、仲良しごっこを続けるばかりで「王」にはなれず、何も得ず……!!』

 

 なんとなく悔しい気がするけれど、そもそも王ってなんなのだろう? 新参者には分からないような特別な──あ、普通にアキさんもわかってないらしい。運営もこれ勢いで言ってるな。

 

『終いにゃあ後発のユニークに追いつかれ、プレイヤースキルだけで優位性を保っている。実に空虚じゃありゃせんか? プレイが空虚じゃありゃせんか?』

「「やめやめろ!」」

 

 アキさんに合わせ一歩前へ出つつ、飽きてきたっぽい運営に合わせて返答を返す。流れを察したらしい周りのプレイヤーの「乗るな極振り! 戻れ!!」の大合唱の中、思考を巡らせ運営の悪ふざけに全力で乗っかっていく。

 

「「極振りは俺に火力(幸運)をくれた、俺にロマンの塊くれた!」」

『ゲームバランスがなきゃ価値なし! お前ら極振り生きる価値なし!』

 

 気にしちゃいけない。今ボスの方から微かに聞こえてきた、一発芸やりまーすなんて言葉なんて俺は聞いてない。絶対運営酒盛りしてるけど、そんなことは知らないったら知らないのだ。

 だってこんなクライマックスまで来て、最後までやりきらないわけにはいかないから。殴りかかることはできない代わりに、アキさんは抜刀術の構えを、俺は朧の加速射出態勢を取った。

 

『“極振り”“極振り”敗北者! ゴミ山大将敗北者!』

「極振り……いや、どうする?」

「最強でもないですしね……なんか大って語呂悪くなりますし」

 

 そこまで準備したのはいいものの、なんかいい感じの返しが思いつかなかった。アキさんもそうだったらしく、お互いに顔を見合わせてそう言った瞬間、大勢のプレイヤーがギャグ漫画のごとく転けたイメージが脳裏に浮かんで来た。実際に感知した光景として。

 

『ククク、時間稼ぎに付き合って貰い感謝する!』

「あっ、やば」

 

 そんな微妙な雰囲気の中、口調を変えた声が不気味に笑いそう告げた。同時に警鐘を鳴らす直感に従って、溜めていた攻撃を解放する。それに遅れることコンマ数秒、再度あの飽和攻撃が城に殺到した。

 

『貴様らは散々前口上を無視してボスを倒してくれたようだが、違うだろう、本来ボスとは。見せ場だろう、戦闘直前の会話が』

 

 濛々と立ち込める煙の中から、何1つ変わらない調子の言葉が続けられる。それは間違いなく、ボスに何1つダメージが入っていないということだった。

 

『だからこそ、見せてやるさこの姿を。叩き潰すのさ、完全に!』

 

 そうして響く機械音と重低音。粉塵の中で城の影が動き出し、形を変えていく。尖塔は横へ伸長し、接続された地面から巨大な何かを引き抜いた。そしてその引き抜いた何か……腕のような影が地面に手をつき、城の直下部分を同様に引き抜いていく。

 

 そうして()()()()()()のは、頭のない巨人としか言いようのないものだった。城のある胴体、そこから接続された岩石の巨腕、城の下部に続く無駄にくびれた腰と、そこから伸びる……人として例えるなら丸太のような足。わかりやすく例えるなら、某有名カードゲームか有名RPGの漫画の鬼岩城だろうか。普段俺が爆破しているビル程の高さのそれが、戦場に出現した。

 

 そして同時に、常時使っている鑑定&看破の複合スキルに先程までと違って反応が入った。そして、その看破できたステータスを見て愕然とする。

 

「名前も、HPもMPもないとか……えぇ……」

 

 似たような声が周囲から上がる中、その体躯には不釣り合いなほど俊敏な動きで拳が天高く振り上げられる。ちょっと、それはマズイんじゃないだろうか。こいつとのサイズ比較対象は、いつぞやの人型シャークトゥルフしかいないのに。

 

「全員逃げろ!」

 

 そう言ったのは誰だったろうか。分からないけれど、その一言で地上に展開していた全員が動き出した。戦車隊や足の速いプレイヤーは直撃範囲から逃げるように後退し、それが間に合わないと見たプレイヤーは最大火力を拳に向ける。

 

『潰れるがいいさ、蟻のように! チィッ』

 

 巨大な拳が振り下ろされる直前、させぬとばかりに戦艦の砲撃が巨人を襲った。それによりぐらつく巨人の姿に、僅かながらの歓声が上がる。

 

『効かないなぁ、そんなもの』

 

 しかし爆炎の向こうに佇む巨人は、当然のように無傷。それどころか、直撃した腕は焦げてこそいるものの欠けてすらいないという有様だった。

 

『レプリカの戦艦、先に沈め!』

 

 そして当然行われる反撃。腕を切り離してのロケットパンチという、ロマンと質量の暴力が、重力に引かれつつも飛翔する。必死の抵抗として放たれる砲撃やプレイヤーの攻撃なんてどこ吹く風。全てを打ち砕いて進むその姿は、まさしく男子なら誰でも一度は夢見た必殺技。

 戦艦をブチ抜き爆散させ、その腕が帰還し、手を掲げたポーズで再接続されるまでの合理性をかなぐり捨てた流れは、完璧としか言いようがない。その無駄に洗練された無駄のない無駄な動きは、明らかにこのギミックだけは製作者の違いを感じさせた。

 

「ビュ-ティフォ-……」

「いや、それじゃ済まないでしょユキくん!」

「だってアレ! あんなのって! 超かっこいいと思うんだけど!! 私の語彙じゃ言い表せないんだけど!」

「わかる。超わかる」

 

 パタパタと全身で感情を表すセナと握手をする。小さい頃から一緒にいるだけあって、やっぱりセナはロマンがわかる。というかこの戦場にいるプレイヤーの大半が、あのロマンがわかるんじゃないだろうか。

 

「ランさんもわかりますよね、この感動!」

「当然だ。俺がヨロイを纏っている時点で愚問だろう」

「ん!!」

 

 想像通りランさんの目は輝いていたし、それ以上にれーちゃんの目もキラキラとしていた。つららさんと藜さんは頭にクエスチョンマークが浮かんでいたけど、そこは趣味の違いということだ。

 

「それはそれとして、どうすれば倒せると思う? あの戦艦の砲撃で無傷だったから、多分まともじゃないと思うんだけど」

 

 そうセナが指差す先に存在するのは、ロケットパンチ以降動きを止めたままの巨人。数えだから少しのズレはあるかもしれないけど、現時点で約25秒ほど動きを止めている。

 

「HPもMPも、どころか名前すら表示されないからギミックだとは思うけど」

「ならば攻略法は内部突入だろうな。そうと相場は決まってる」

「なら、この必殺技後の硬直時間が侵入のための時間ってことだね!」

 

『仇となったか、緊急起動が。だが問題ない、この程度』

 

 同じ思考回路を持つが故の超速理解。それは巨人の停止からきっかり30秒後、巨人が再起動したのと同じタイミングだった。必殺技後の停止時間は30秒か……割と短いなぁ。

 

「そう、なんです、かね?」

「よじ登るか入口があるかは兎も角、一番堅実な手段ではあると思うわ」

「なら決まりだね! ユキくん、情報共有お願い。それから突撃するよ!」

「了解」

 

 胸を張ってセナがそう言ったことで、微妙に懐疑的だった2人も頷いていた。それを横目で確認しつつ、知り得た情報を飛行船の方に連絡する。

 けれどそれは、少しだけ遅かったらしい。爆音とともに帰還した戦闘機隊が、急降下軌道で巨人へと迫っていく。

 

『蚊トンボども、五月蝿いんだよぉ!』

 

 アッパー軌道で振り抜かれる巨腕。直撃前に4機は辛くも回避に成功していたが、1機だけ間に合わず直撃してしまっていた。小さな爆発に「小林ィィィィ!!」という幻聴を聴きながら、セナたちに遅れないようにバイクへ騎乗する。

 

『言ってるだろう、効かないと!!』

 

 ミサイルの雨に打たれながら、巨人が再びロケットパンチを放った。その方向は戦闘機ではなく上空。何かと思い見上げれば、遥か上空で拳と馬鹿でかい砲弾が激突していた。弾の大きさから見るに列車砲、こちらの誇るほぼ最高火力すらロケットパンチは撃墜してみせた。

 しかしそれは予想できていたことであり、チャンスを呼び込むものだ。列車砲には先輩方が乗ってるから、流石に判断が早くて助かる。

 

「みんな行くよ!」

 

 ロケットパンチが帰還して、巨人が動きを止める。それに合わせて、セナの号令で俺たちは巨人に向け走り出したのだった。

 直接城に侵入出来れば楽なんだけど、多分させてくれないよなぁ……

 



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第127話 ミスティニウム解放戦⑩

 セナの号令に反応して動き出したのは、俺たちを含めて片手で数えられる程度の組数だった。というよりも、反応した全員は今回の作戦での突入組だった。

 

「ん!」

「侵入可能場所は4箇所だ! 左右脚部先端、左右の肩。胴体に直接侵入は出来ない!」

 

 僅かに遅れて戦車隊が動き出す中、れーちゃんが一瞬で暴いた情報を知らせるため珍しくランさんが大声を出した。俺も運転しながら、それを半ば司令部とかしている飛行船へメッセージとして送信。声の聞こえていないプレイヤーにも情報を拡散する。

 

「成る程、理解した。ザイード、脚を貸せ」

「御意に」

 

 そんな中、近くを走っていた筈のザイードさんとアキさんの姿が掻き消えた。僅かに捉えた黒金の陰からして、右肩部分から侵入するらしい。

 

「ではボク達は右脚にしましょう」

「誰かと被って、旨味が減るのは嫌だしね」

 

 別の場所ではカオルさんとブランさんが、召喚したと思しきペガサスっぽい何かに乗って飛んで行った。行き先は聞こえていた通り右脚部、姿が消えるようにして突入していく姿をはっきりと確認できた。

 

「はぁーーっ、ハッハッハ。私、降臨! 満を持して! 体内で爆裂の爆裂による爆裂のための爆裂を炸裂させてやりますよぉーッ!!」

「お残しはしません」

「全く、介護する俺達の身にもなれってんだ」

「槍置いて来てまで来たんだ、目一杯暴れるぞテメェら!」

『良いではないか。童はやはり元気でなくてはなぁ! ところで、そろそろ着弾だが構えないで良いのか?』

「え」

「はい」

「あたぼうよ」

「はぁッ!?」

『善哉善哉』

 

 次の瞬間、そんな騒騒しいナニカが巨人の左肩に着弾した。否、それはナニカではなく5人のプレイヤー。そう、見間違えようもなく先輩方だ。序でに着地ではなく着弾だ。恐らくデュアルさんと翡翠さんの2人で結界を貼り、自分たち自身を砲弾として来たと思われる。

 冷静に考えると何を言っているのか分からないけど、俺も何を言っているのか分からない。チートとかそんなチャチなもんじゃねぇ、もっと恐ろしい先輩方の何かを感じる。なんか鎧武者が跳ねて落下しているけど、きっと大丈夫だろうと信じたい。

 

「ということは、ウチは左脚の攻略かな?」

「そだね。態々他の人が一番槍に入った場所に入る必要もないし」

 

 全力気味に吹かしていたバイクに、平然と並走するセナがそう頷いた。まあそれは予想通りだからいいけど、今この大規模クエストの敗北条件を見た限り……それじゃあ現状、ちょっとどころじゃなくマズイ気がしてきたのだ。下手したら、クエスト失敗になりかねない。

 

「なら質問だけど。俺は勘定に入れないとして、左脚から入って中央に到達、ボス討伐までどれくらいかかるか分かる?」

「ふぇ?」

「ごめん、聞き方を変える。セナから見て、5分10分でボス戦まで終わると思う?」

「んー……多分無理かな。ユキくんがいるなら、多分それくらいまで短縮出来るけど。他のとこの人達は、正直分からないから除いて考えてるかな」

 

 ぐるりと周りを見渡し、指折り何かを数えてセナはそう言った。何を考えていたのかはわからないけど、とりあえず無理という事で結論づけて良さそうだ。

 

「大体だけど、すてら☆あーく単独だと最短で2、30分だと思う。もし他の人たちと合流できても、10分はきれないと思うな。連携出来ないし」

 

 こちらとしても同感だった。今までのボスなら兎も角、今から待ち受けるのは普段極振りを対応している連中が調整したボスなのだ。一筋縄でいくと考える方がおかしい。

 

「分かった、ありがとうセナ」

「うん。でもどうしてそんなこと?」

「多分、誰かが巨人の動きを外で止めないといけないから」

「あ、そういう?」

「そういうこと」

 

 昔から一緒に過ごしてるだけあってか、それとも長いことこのゲームをやっているからか。セナにはそれだけで、こちらの言いたかったことは通じたらしい。

 

「どういう、こと、です?」

「実質無敵の巨人だから、誰かが足止めしないと街壊されてゲームオーバーしちゃうかもってこと」

「なるほど、です」

 

 そんなセナと藜さんのやりとりを聴きながら、動きが止まったままの巨人に1つの紋章を使ってみる。これが効くなら、最悪俺とデュアルさんだけで足止めもできるはずで──

 

「よし」

 

 一瞬巨人全体が帯電したのを見て、内心でガッツポーズを決めた。とりあえずこれで、壊せないにしても最低限の時間稼ぎはできる。後は突入組がどれだけボスを早く倒せるか、その一点にかかっている。

 となると、少しでも攻撃手段は多い方がいいわけだ。そしてボスの制作者も考慮するとしたら……

 

「そういえばみんな、アイテムの所持枠って1スタックくらい空いてたりしません?」

「私は空いてるよ?」

「私も、空いて、ます」

「同じく」

「ん!」

「私も空いてるわよ?」

 

 いつもほぼ全てが爆弾で埋まってる俺と違って、普通はアイテム欄には空きがあるらしい。この場合好都合だから良かったのだけど。

 

「よかった。ならなんか嫌な予感がするから、後でこれみんなに配っておいて」

 

 そう言いながら、自分の手身持ちからセナのアイテム欄に特製の爆竹を5スタック分移動させた。どの市販品よりも威力の高い、固定ダメージ200の爆弾だ。それが計5スタック……つまりは固定9万9千ダメージ分、それだけあれば不測の事態でもなんとかなる気がする。

 

「んー……持ってて損はないし、分かった。ユキくんも足止め、お願いね!」

「当然」

 

 セナにサムズアップを返し、障壁越しに藜さんとハイタッチしながらバイクのハンドルを切った。急速にギルドの皆から離れていく中、向かう先はデュアルさんの落下地点。

 

『いやはやこれは困った。まさか立てないとは』

 

 あの高さだ、もしかしたら大ダメージでも受けているんじゃないか。そんなことを考えていたけれど、頭がアレな先輩にそんな心配は不要だったらしい。俺を待っていたのは、脚を太腿の辺りまで地面に埋め、身動きの取れなくなっていた鎧武者(デュアルさん)のすがただった。

 

「ヘイ先輩。ちょっとあのデカブツのパンチ、一緒に受け止めてみません?」

『思えば、幸運のも防御が得意であったな! よかろう!』

 

 呵呵大笑するとその姿に頭を抑えつつ、バイクから降りデュアルさんの手を取った。そしてそのまま、軽量化の紋章を10数個叩き込みながら引き揚げる。

 よく考えれば、街の外でこうも簡単に他人の手を取れるなんて感動ものな気がする。何せ、触れれば壊れてしまうから。俺が。

 

「さて、とはいえ鎧も限界です。私も久しぶりにこの姿を晒しましょう」

 

 そんな、どこかの黄金の獣殿を連想していたからだろうか。目の前で引き上げたばかりの鎧武者が消え、現れたのは長い金髪の男性。目は閉じられて細い線のようになっているが、掛けられた黒い眼鏡が特徴的だ。その長身に、黒い男の物のカソックは異様にマッチしている。

 

「少し防御力は下がりますが、まあ問題ないでしょう。機動力はないので、任せましたよ後輩」

「任されます。ところで先輩は、タンデムとサイドカーどちらがお好みで?」

「タンデムは嫌なのでサイドカー一択ですね」

 

 愛車をサイドカー付きで再出撃させた後、デュアルさんが乗ったことを確認する。多分そろそろ巨人の行動が再開する、それまでにどうにか進行方向には辿り着いていたい。

 

「振り落とされないでくださいね!」

「落ちても無傷なので平気です」

 

 そんなことを言ってる先輩を尻目に、アクセルを全開にして走り出した。普段より速度が出ないのは、間違いなくデュアルさんの重量の所為だろう。しかしそれでも、愛車はこちらの要求に応えてくれた。

 

『鬱陶しいな、未完のシステムが。忌々しい、侵入を許すとは』

 

 巨人が動き出すその前に、無事俺たちは進行方向へと先回りすることができた。そしてお互いに距離を取り、巨人を見上げながら会話する。

 

「さて、やりますよデュアルさん。準備はよろしいですか?」

「ええ、いつでも」

「では不詳ながら」

 

 一言断りを入れてから構えるのは、愛杖(銃)である新月。それも、普段は使わないクトゥルフとヌークリアの2つの専用マガジン付きだ。

 それを愛車に乗せて射角を取り、展開した魔導書で銃身を支え、更に肩を支えにして巨人の城部分を照準する。

 

『だが関係ない、そんなこと。殲滅すれば良い、帰るべき場所を!』

「ロックオンアクティブ」

 

 砲身に重なるようにして極小の《加速》の紋章を、展開時間を長く設定しつつ多重展開。対照的に、ストック側には展開枚数を超える《減退》の紋章を展開。追加で見栄えが良くなるように、射線にも5枚ほど大きさの異なる《加速》紋章を展開。

 

「スナイプ」

 

 そして息を整え、引き金を引き絞った。

 射出されるのは最早弾丸に非ず。単純計算で2の20乗倍程に加速された弾丸は、レーザービームのような光となって巨人の城部分に直撃した。そして大爆発を引き起こす。

 当然無傷だが、10発ほど打ち込んだところ気は引けたらしい。巨人のヘイトが、明らかにこちらに向いたのを感じた。

 

『煩わしいんだよ、人間風情がぁ!』

 

 言葉の最中にも狙撃を継続していたのが、余計に癪に触ったのだろう。大した脅威でもないこちらに向けて、その拳が向けられた。

 

「デュアルさん、来ます!」

「ええ、わかっていますとも」

 

 本当なら防御バフに攻撃デバフを使いたいところだけど、生憎と1発目はデュアルさんから素で受けたいと言われている。だから、万が一の競り負ける可能性も考えてバイクをアイテム欄へと返した。

 

『潰れろ、羽虫のように!』

 

 そして、流星の如く墜落してくる巌の巨拳。それに対抗するように、初めて見る薄金のフィールドがデュアルさんから展開された。その詳細を確認する前に、激音が轟き衝撃波が俺のHPを3割ほど削りながら駆け抜ける。

 

「ふむ、この程度ですか」

 

 そうして巻き上がった粉塵の中、そんな何の感動もないような呟きが耳に届いた。

 

「やはりアキにも、それどころかレンにも及びませんね」

 

 継続するロケットパンチの噴射により晴れていく砂塵。その全てが消え去った時現れたのは、片手でロケットパンチを受け止めているデュアルさんの姿だった。

 

「残念ですがその程度で、聖餐杯は壊れない」

 




ユッキーが使うと、爆破の威力を50%上昇する壊れ装備で威力が固定300に。スキルで2倍になって固定600になります。序でに副次爆破(固定50くらい)も追加で発生します。
参考 : セナのHP 約4000
※ただし基本ユキの膂力じゃ当たらない


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第128話 ミスティニウム最終戦

 巨人の外でユキとデュアルが理不尽な足止め……もとい、巨人をオモチャにして遊んでいる頃。巨人の内部でも、同じような理不尽が炸裂していた。

 

 紅の長腕が疾る。極光斬が駆け抜ける。その間にいたはずの敵たちは、攻撃を認識するより早く余波で経験値へと還元されてゆく。

 ここは巨人の右肩。極振りきっての最高火力であり今イベントでも全くの自重がないアキと、超速即死攻撃が制限されていない為キルレートが爆速で上がり続けているザイードに突入された哀れなダンジョンだった。

 

「しかし、何時ぶりだ? 俺とザイードだけで攻略するのは」

「そうですな……少なくとも、この正式サービスが始まる前が最後の記憶ですな」

「そうか、もうそれ程までに時間が経ったのか」

「ははは、まだ1年も経っておりますまい」

 

 そんな会話を交わしながらも、振るわれ続ける規格外の暴力と即死の嵐。外装と違って破壊可能であったせいで、辺り一面が吹き抜けになる勢いで敵ごと全てを破壊し、2人は歩みを進めていた。

 

「それにしても、なんだ? この敵の弱さは」

「ですな。我らの参戦は予想出来たはず。であるというのに、状態異常や環境効果への耐性1つなく、ステータスも貧弱極まる。何か裏があるのでしょうな」

 

 尚且つ、出現した瞬間蒸発していくモンスターはワンパターンだ。俗にスライムと呼ばれる不定形のモンスターと、寄せ集めのジャンクで作ったような粗末なロボット。その2種類とそのマイナーチェンジ版以外、一切のモンスターが今まで出現していない。

 決して極振りだから殲滅できるということではなく、このクエストに参加している大半のプレイヤーが殲滅できるような弱さなのだ。明らかな異常、若しくは誘いかギミックなのだろう。仮にもβ版からプレイしている2人には、その程度の予想は出来ていた。

 

「まあ、いいか。何が来ようと、真正面から当たるのみ」

「変わりませんなぁ、アキ殿は」

 

 しかし2人とも極振り、たった1つを突き詰めた存在である。故にこそやれることは変わらない。アキであれば最大火力で薙ぎ払うこと、ザイードであれば最高速度で即死を齎すこと。極振りが振るう力とは、それ以外の道を全て閉ざして掴み取ったものなのだから。

 まあどこかの爆発爆裂コンビを始めとして、大体全員何かしら別の変な手札をゲットしているのだが。

 

「む?」

「おや」

 

 そんな鋼の進撃を続ける中、2人がピタリと足を止めた。それはこれまでの道中にはなかった、2人の攻撃を受けても壊れなかった物が出現したからだった。

 最早何がそこにあったのか分からない域にまで崩壊した場所の中、無傷で回転しながら浮遊する3つの立方体。取っ手のようなものが付いた一面があるため、辛うじてそれが宝箱か何かであると類推できた。

 

「貰って行くか」

「1番乗りの特権ですからな」

 

 その宝箱に手を伸ばした瞬間、内側から光を零しながらアイテムが出現する。1つ目の宝箱からは金色の刀の鞘が。2つ目の宝箱からは上質そうな黒くて長い布が。そして3つ目は、そもそも開くことがなかった。

 

「成る程、個数制限か」

「それにどうやら、これらはイベントアイテムのようですな」

「であれば納得だ。特定個人が占有しては、進行上不具合でも生まれてしまうのだろう」

 

 そう言って手に取ったアイテムを収納し、その説明文を見たアキの表情が僅かに変わった。ザイードは仮面に包まれているから分からないが、アキと同じように動きを止める。

 

 ==============================

 【黄金の鞘 : 模造】

 かつて一振りで山を斬り、空を斬り、邪神すら両断せしめたという、力の到達点たる刀の鞘の模造品。内に収められていた刃は、模造品だが本物にも劣らぬ力を誇っていた。

 ※イベント専用アイテム

 ※イベント終了後このアイテムは自動的に消滅します

 ==============================

 【黒き封印布 : 模造】

 いつかの時代、触れただけで生命に終わりを齎したという、速さの到達点たる骸骨面の悪魔の腕の封印布の模造品。封じられていた腕は、死の力こそ失ったが本物にも劣らずの俊敏さを誇っていた。

 ※イベント専用アイテム

 ※イベント終了後このアイテムは自動的に消滅します

 ==============================

 

 そう、明らかに自分たちを連想するアイテムなのだ。他のプレイヤーがいないため検証出来ないが、嫌な予感がする。何故鞘と封印布なのか、それだけで嫌な推測というのは出来てしまうものだから。

 

「急ぐぞ、脚を借りる」

「御意に。ならばこちらは力を」

 

 瞬間、黒と金の風がフロアを駆け抜けた。問答無用で触れたものは即死か崩壊する暴虐の風。他者から見ればそうとしか評価できない2人の内心は、嫌な予感とは別のことでかなりの割合が埋まっていた。

 

(山を斬ったのは俺ではなくセンタのはず……)

(無駄に「の」の多いテキストでしたなぁ……)

 

 そんな当人たちの内心を知る者は、本人たち以外にいる訳もなかった。そんな破壊の権化たちを、再生した3つの宝箱だけが見つめていた。

 

 

 突入班の人たちが巨人内部に侵入してから数分。早くもクッッソ単調な巨人の動きに飽きた俺とデュアルさんは、早速周囲も巻き込んで巨人をオモチャにして遊び始めていた。

 

 いつだったか覚えた、猫耳と尻尾を生やし語尾に強制的に「ニャ」を付けさせる紋章で巨人と声の主を煽ったり。

 いつの間にか近くにきた紋章術使い総出で、そこからさらにロケットパンチを猫の手と肉球に変えて見たり。

 乱入してきた絵師プレイヤーが、動きの止まった巨人にペイントして「痛車」ならぬ「痛巨人」に仕立て上げたり。

 語尾がわんにゃんコーンの謎生物にしてみたり。

 猫耳紋章製作者の最新作である、恋○のような強制女性ボイス変換紋章を使ってみたり。

 その他にも、強制のじゃロリ化とかマインドクラッシュ、SAN値を減少させたりと一通りは満足するくらい遊ばれていた。

 

 中では恐らくシリアスなバトルが繰り広げられているのだろうけど、外の様子は大体そんなものだった。シリアスシリアスシリアス、3回唱えてもシリアスにはならない。

 それもこれも、ロケットパンチを向こうの最大火力であるイナズマ○ックのような蹴りを、両手で受け止めたデュアルさんが悪いのだ。デュアルさんが。

 

「これなら、まだレンの蹴りの方が強いですね」

 

 とかなんとか胸まで地面に埋まりながら宣って、深く頷いていた光景が脳裏に蘇る。思えば流れが変わったのはあそこからだった……

 そんなことを考えつつ遠い目をしていた時のこと。常時展開していたステータス看破的なサムシングのスキルが反応した。

 

「あ、右肩と左肩、壊せますねこれ」

 

 唐突にそこの2箇所にだけ、何故かHPバーが出現したのだ。そのどちらも先輩方が突入した場所から続く部位。ああ、攻略したんだなぁとなんとなくの察しがついた。そして、ここまで浮かれきった戦場になってしまったのなら、何が起こるかは言うまでもあるまい。

 

「みんな、祭りの時間だ!」

「壊された船の恨み!」

「私の戦車を壊した恨み!」

「Arrrthurrrrrr!!」

 

 殺到する無数の攻撃、攻撃、攻撃。施されたデコレーションを剥がしながら、恨みのこもった一撃が急速に腕のHPを蒸発させていった。なんてことはなく、5段あるHPバーは小揺るぎもしていない。無駄に強いんですけど……

 

「「「「ぎゃぁぁぁぁッ!?」」」」

 

 そんな中、左肩から突如見覚えのあるノイズが走る灰色の球体が出現した。近くにいたプレイヤーを巻き込んで致命傷を負わせながら、その内部は瞬く間に外装を崩壊させてゆく。

 

「翡翠もはしゃいでいるようですね」

「あ、やっぱりアレそうです?」

「ええ、ギルドで使っているチャット欄に味のレビューが押し寄せてますから」

 

 頑張って1人でデュアルさんを掘り出していれば、何か文字列が高速で流れ行く画面を見せてもらえた。

 …………取り敢えず、あの巨人の内部にスライムがいることはわかった。あとそのスライムが、あげた餌によって味と食感が変わって美味しいことも。

 

「なんですこの1人食べログ」

「いつもの翡翠ですね」

「さいですか」

「あ、なんかテイミングスキル取得してテイミング始めました」

「マジですか」

「ギルドで飼うと言ってます」

「マジすか」

「テイミング成功しましたね」

「えぇ……(困惑)」

「ザイルが拡張を決めましたね」

「手が早い」

 

 そんな雑談を続けていると、突然デュアルさんが高速で文字を打ち始めた。

 

「どうかしたんです?」

「にゃしいがどさくさに紛れて爆裂場を要求してたので、私も訓練場という形で増設依頼を」

「成る程」

 

 にゃしいさんもどうやら平常運転らしい。流石趣向は僅かに違えど極振り(どうるい)の中の爆破仲間(どうるい)。同じ爆破が封じられている中なれど、テンションが爆裂して紅魔る(動詞)状況が想像に容易い。

 

「それにしても、壊れませんね。あの巨人」

「ええ、まるで防御力が私並みです。アレでは相当時間がかかるでしょうね」

 

 先程から一切変わらない猛攻が続けられているというのに、巨人の両腕のHPバーはほぼ減少すらしていない。一応1段めの1割には届きそうだけど、あくまでそれだけだ。ルールの穴はガバガバなくせに、ボスだけ無駄に強いとか訳がわからないぞ運営。

 

「ところで、まだ私は掘り出せないんですか?」

「これでも頑張ってるんです。寧ろ、岩場の自然薯みたいに埋まったそっちに文句を言いたいんですけど」

 

 半目で文句を言いながらも、障壁で簡易的なスコップにした杖で地面を掘る。まさかこの三日月を作ってくれたれーちゃんも、スコップとして使われるなんて思うまい。

 

「爆破できたら早かったんですけどね……」

「それは煙たいのでちょっと……むせます」

「炎の匂い染み付くまで爆破しますよ?」

 

 というか、こっちがここまで頑張ってるんだから、誰か1人くらい手伝ってくれても……あっ、極振りには関わりたくない。アッハイ。

 

「食う者と食われる者、そのおこぼれを狙う者」

「牙を持たぬ者は生きてゆかれぬ暴力の街

 あらゆる悪徳が武装するウドの街」

「ここは百年戦争が産み落としたゲームUPOの第7の街」

「極振りの躰に染みついた硝煙の臭いに惹かれて、

 危険な奴らが集まってくる」

「……途中からウドから第7の街に変わりましたね」

「硝煙の臭いが染み付いているのは貴方では?」

 

 そんな雑談を再開させていると、ボスの両脚にもHPバーが出現した。セナ達とカオルさん達も攻略が終わったらしい、問題なのはこっちが一切壊せそうにないことくらいか。

 

「それもそうですね」

「苦いコーヒーが飲みたいです」

 

 そうしてくっだらない会話をして、ようやくデュアルさんを引っ張り上げた時のことだった。第3の街がある方向から放たれた、ビームのような射撃が直撃したのは。

 




真面目・シリアス「じゃあの」


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第129話 ミスティニウム最終戦②

「初弾命中確認! 但し被害はなし!」

「クエスト受注出来てないですからね」

 

 戦場となっているミスティニウムから遠く離れた第3の街ギアーズ。そこでは今の今まで静寂を保っていたギルド【モトラッド艦隊UPO支部】が動き出していた。

 ここは彼らのギルド本部。その最上階にある、これまでは飾りでしかなかった艦橋だ。今そこでは、10人程度のプレイヤーがそれぞれ、忙しなくモニターや機材を操作していた。

 

「エンジンルーム、今ので試作エンジンはどうだ?」

『後部ギアエンジン問題なし!』

『前部リモートエンジン問題なし!』

『『ファンキーマッチ! 潤動!』』

 

 ノリノリでエンジン担当達がビートを決め、それに合わせて船体の各部から白い煙が吹き上がる。フィーバーでパーフェクトな完成度だった。

 

「了解しました」

 

 艦長としての席に存在しているのは、機械のアンモナイトのような異形のプレイヤー。実際にはそういう装備をしているだけの、ギルドマスターであるZF。隣に控え機材を操作するのは、半人半バイクの究極体となっているシド。その対面でモニターを誰よりも素早く操作するのは、半人半セグウェイのような獣輪態となっているハセ。

 実はイベント以外では滅多にない、ギルドトップの揃い踏みだった。スケボーでデュエルするような奴はいない(無言の腹パン)

 

「というかギルマスにサブマス、これ間に合うんですか? もう最終局面っぽいですけど」

「ああ、問題ない。大きく出遅れたが、今が巻き返しの時だ」

 

 シドがそう告げると共に、建物全体が大きく揺れた。そして、全方位のモニターが点灯し周囲の景色を写し始める。

 

「アンカーボルトの解除を確認!」

「いつでも発艦出来ます!」

 

 また、同時にギアーズの街にも1つの異変が発生していた。

 

《ギルドが発進します。ギルドが発進します。進路上の一般車両は退避してください》

《ギルドが発進します。ギルドが発進します。進路上の一般車両は退避してください》

 

 そんなアナウンスと共に、モトラッド艦隊のギルド本部直線上のビル群が地面に沈んで行く。

 そうして作られたコースはKEEP OUTと書かれたグラフィックにより縁取りされ、終点である街壁にはビルが一棟ジャンプ台となるようにもたれかかっていた。

 

「では行きましょう、皆さん。我らがギルドの技術の粋、遅ればせながら見せつけに行きましょう」

 

 ZFの宣誓に艦内が沸き立つ。そうだ、この日の為に無理を押して完成させたこの艦、誰にも見せつけることが能わず終わるなど許してなるものか。幸いにも相手は十分に強く、こちらの艦の敵足り得る。

 

「モトラッド艦隊UPO支部、旗艦アドラステア。出撃!」

 

 号令の下、ギルド本部が動いた。周囲の地面が開き、格納庫たる内部構造を晒し、第3の街内部で密かに建造されていた戦艦が顔を出す。

 モトラッド艦隊というのは、とあるガンダムシリーズにおいて、地球ローラー作戦というバイク艦で地球上の建造物を踏み潰し、住人を虐殺するという作戦を実行した艦隊だ。

 当然、たった今タイヤを回し、動力炉を唸らせ、地の底から現れたこの艦も、戦艦をバイクにしたような異形。列車砲やレプリカ大和にも劣らぬ馬鹿騒ぎの産物だった。

 

 このギルドがバイク生産をメインにしていた理由?

 ──全てこの旗艦を建造する為だ

 このギルドが装備開発も行なっている理由?

 ──全てこの旗艦の武装を製造する為だ

 バイクをプレイヤーに布教していた理由?

 ──それは単純にバイク好きが多いからだ

 ギルドトップが遊戯王に被れている理由?

 ──彼らの趣味だ、いいだろう?

 

「速度最高速で安定、飛びます!」

 

 そして、本物のバイク戦艦が空を飛んだ。ビル製のジャンプ台に乗り、勢いよく空へ向けて戦艦が跳ぶ。実際にはフォームチェンジして空を飛ぶ事もできるのだがそれはそれ。今はロマンに身を任せる瞬間だ。

 

「全砲門開け! 掃射開始!」

『掃射開始!』

 

 元の姿に戻りゆく第3の街を背に、UPO初の移動型ギルド本部でもあるアドラステアは走る。平原にタイヤ痕を残し、崖の上に建つダンジョンを踏み均し、彼方に見える巨人に向け砲撃をしながら進軍する。

 その姿はまさに……まさに、なんだ? なんなのだこれは? 列車砲や戦艦もびっくりの異形の偉業に、目撃しているプレイヤーは皆なんと表現すればいいのか言葉に詰まっていた。

 

「イクゾ-!」

「ダガボスノウゴキ、コレガワカラナイ」

 

 そんな外とは裏腹に、自慢のギルドの象徴を動かせている内部は大盛り上がりだった。ダンジョンを超え、崖を飛び越え、草原に到達すればそこはもうミスティニウムの目視可能地点。Aglにして3000程に達している巨大バイク戦艦には、街と街の間などその程度の距離でしかないのだ。

 

「ビームシールド展開、総員何かに捕まってください」

「これより当艦は、ラムアタックを敢行する!」

 

 本来ならそれは敵側の艦のものの筈だが、表現としては間違っていない筈だった。そして、大河を難なく水上走行で踏破した戦艦がついに中州に到達する。

 逃げ遅れたプレイヤーで轢殺の轍を築きながら、目指す先は巨人ただ一点。当然低速の巨人には避けることなど出来ず、バイク戦艦のダイレクトアタックにより跳ね飛ばされた。

 

「艦首に被弾!」「左舷に被弾!」

「右舷に被弾!」「艦尾に被弾!」

「艦首大破!」

「潜望鏡が、壊れてしまいました……」

「第一砲塔、破損」

「第三砲塔、機能停止!」

「ええい、落ち着けお前ら! 砲塔しか報告があっていないぞ!」

 

 途端、館内で祭りが始まった。一体いつから、このギルドのトップだけが狂っていると錯覚していた。こんなものを走らせて喜ぶ変態どもなのだ、こうなるのは必然だった。

 

「大和魂を見せてやる!」

 

 調子に乗った操舵役の1人により戦艦がウィリー、吹き飛ばされた巨人を踏み潰すように前輪が振り下ろされた。そうして削られてゆく、金城鉄壁であったはずの巨人。みるみるうちに削れてゆく腕と脚は、交通事故の悲惨さをプレイヤーに訴えかけている……ような、気がしないでもなかった。

 

 

 それは、あまりに唐突な出来事だった。

 巨大な戦艦のバイクが飛んできて、ボスである巨人を轢き、現在進行形で紅葉おろしにしようとミスティニウム跡地を元気に暴走している。何を言ってるかわからねーと思うが(略。俺を含めたプレイヤーはまさにポルナレフ状態に陥っていた。

 

『この、舐めるなぁ!!』

 

 意外にも、1番早く正気に戻ったのは紅葉おろしにされつつあるボスの巨人だった。既に大幅に削れきった両手足が保たないと見るや、地面に両腕を突き刺しバイク艦ごと減速。半壊状態の足をバイク艦に絡め、地面から引っこ抜くようにバイク艦を宙へと放り投げた。

 

「あ、終わりましたね」

「ええ。もうちょっと遊んでいたかったのですが」

 

 デュアルさんとその光景を見上げる中、バイク艦が変形する。船体における、タイヤとそれを支える部分が2つに割れ展開。X字を描くような形に開き、船へと変化したバイク艦は空を飛んだ。

 

 そして、備え付けられた無数の砲塔が火を噴いた。

 当然防御を突破できない梨の礫のような攻撃だが、攻撃の目的が違うのだからなんの問題もない。

 

『くっ、何故だ。何故動かない!』

 

 発射されたのは白くて粘性の高いものをブチまける弾。つまりはとりもち弾、ゲーム的に言えば行動阻害デバフを発生させる弾。それ単体ではさしたる意味のない弾だけど、俺とザイルさんが探知しているあれがあるなら話は別である。

 

「スイカバー外装を付け足す紋章……は、間に合いそうもないですねこれ」

「残念ですね……あぁ、でも依頼しても?」

「何故です?」

「胸からローエングリンを、胸からスイカバーにしたら面白いじゃないですか。ソシャゲキャラみたいで」

「解釈違いです……作りますけど」

 

 そんなことを話している間に、砲弾が墜落して来た。ようやく極振りが抜けての再装填が終わった、列車砲のものだ。言わずもがな威力は折り紙つき。さらに言えば射手のスキルにより防御貫通も付与された砲弾は、残り僅かとなっていた巨人の四肢のHPを吹き飛ばした。

 

 なんか恨みのような黒いオーラに見える、エグい数の昆虫さえなければ完璧な一撃だったと思う。

 四肢が『それっぽい形の建造物がついている』というレベルにまで壊され、横たわる巨人。その姿を見て、内部ダンジョンに踏み込んだみんなは大丈夫なのかと、パブリックダンジョン的サムシングとは理解しつつもはたはた疑問だった。

 

「さて、これでもう巨人の脅威は無くなりましたけど、デュアルさんはボスどんな奴だと思います?」

「さあ、しかしロクでもないボスであるとは思います」

「案外レイド戦並だったりするかもですね」

 

 バイク戦艦がバイクに戻り走る姿を見つつ、そんな話をしていた時のことだった。滅多に聞かない受信音が鳴り、一通のメッセージが届いていた。差出人はセナ、そしてその内容はと言うと……

 

「デュアルさん、ちょっとバイクの後ろ乗ってもらっていいですか?」

「ボスのことですよね」

「そっちも似たようなのが?」

「ええ、恐らく」

 

 即座にデュアルさんを乗せ愛車を走らせながら、送られてきたメールの内容を思い返す。

 れーちゃんが看破したらしい敵ボスの名前は【Mistinium Old Geist】。HPバーが10段+折り畳まれたものが複数、そしてステータスが全てオーバー7000の化物。要するに、全てのステータスが極振り相当とのことだった。

 

 更に城内部に取り残されずっと探索をしていたらしいアマゾンズの人達によると、攻略ギミックとして四肢のダンジョンにアイテムが配置されているらしいとのこと。時間稼ぎで全滅してしまったらしいが、本当に地味に有能な人達だった。

 

「じゃあ、行きますよ!」

「いつでもどうぞ」

 

 デュアルさんが結界を展開したのを確認して、1つ思いついたことがあった。折角の車種、折角のタイミング、やるなら今しかない。

 

「さらばヴァルハラ 光輝に満ちた世界」

 

 アクセル全開、ターボ点火、紋章加速。

 最初から最高速を超えて愛車が唸りを上げ、気分で口ずさむ詠唱に乗せ吹き飛ぶ様に加速する。そうして、まだ辛うじて原形を保っていた、右脚のダンジョンに突入するのだった。

 



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第130話 ミスティニウム最終戦③

長過ぎと苦情が入ったのでちょっと巻きますね
20人近く動かしてるといやぁ長くなる


 時間は少し遡る。

 ユキたちに連絡が行く少し前。巨人の中心部にある居城に最速で到達したのは、意外なことに【すてら☆あーく】の面々だった。この面子には極振りも準極振りもいない為、宝箱はガンスルー。迷路のような地形も、れーちゃんのお陰で一切意味をなさない故の最速到着だった。

 

「さて、と。ダンジョンを抜けたのはいいけど……れーちゃん、どう?」

「ん」

 

 ふるふると、セナの言葉にれーちゃんは首を横に振った。それは今までダンジョン内では可能だった、地形探査がこの場では出来なくなっているということ。つまり、この居城内部全てがボス部屋判定となっていることを示していた。

 

「厄介だな……」

「そうね、でも巨大じゃない分私達には楽かしら?」

「何か、来ます!」

「ん!」

 

 ランとつららが言葉を交わす中、この中で探知の範囲が広い藜とれーちゃんの2人が同時に警告を発した。そして直後、光の爆発が壁を消し飛ばした。それに遅れるようにして、1人の異形がその姿を現した。

 それは、一言で言い表すなら緑のトカゲの人型だった。つり目型の複眼に両手にある鋭いウィング、この場で理解できたのはランだけだが、要は地上波で放送できなかったライダーだった。

 

「すてら☆あーくッ。今すぐ逃げてください! バラバラに! そして誰でもいいから、外の極振りを!」

『ひい、ふう、みい。7人か、プレイヤーは』

 

 しかしその姿は、追って放たれた黄金の爆光斬の中に掻き消えた。そして、このイベントの最終ボスであり、この空間の主であるボスが姿を現わす。

 

 そのボスはひたすらに黒かった。パッと目を引くのは、背部に浮遊する3対6翼からなる大型の翼型加速装置(ウイングスラスター)と、プレイヤーと何ら変わりないサイズの人型が纏うには大きすぎる脚部装甲だろう。その2つが、明らかにボスの印象を3回りほど大きくしていた。肩部、腰部、股間部には僅かな装甲しかないが、その代わり黒いインナーにつや消しの金属パーツによって一切の露出がない。両腕には黒と濃紺、紫の三色からなる巨大なガントレットが装着されており攻撃が通るイメージが湧きにくい。頭部は西洋の騎士甲冑の様なものから尾のようにケーブルが伸びており、スリットから覗く青褪めた色の双眸は恐ろしさを感じさせる。

 しかし何より恐ろしいのは、その両手に持つ武装だろう。右手に持つのは、黄金の光を収束したような輝きを放つ大剣型のビームソード。左腕が発生させているのは、紫の光で形成されたビームシールド。いきなりズレた世界観は兎も角、ビームソードからは触れるだけで即死する気配が漂っている。

 

 表示された名は【Mistinium Old Geist】

 HPバーは10段+折り畳まれたものが複数。

 そしてステータスは全てオーバー7000、そこからボスにも搭載されているスキルや装備の能力が乗るとは考えたくもない。

 

「ん!」

「全員散開! 勝ち目なし、撤退!」

 

 れーちゃんが解析した、ユキとは比べ物にならない精度のステータス解析。それによって出た、全振りとでも言うべき意味不明なステータス値を見た瞬間、セナ達は逃走を決定した。

 

「逃すと思うのかい、この僕が!」

 

 6方に向け即座に分散したすてら☆あーくの面々だったが、ボスの方が比べ物にならない程速かった。最初に狙われたのは、最も足が遅いれーちゃん。その体を一切の抵抗なく黄金の刃が通り抜け、HPを瞬時に0へと落とし込んだ。

 

「ん!」

 

 が、しかし、金色の硬貨が飛び散りれーちゃんのHPは最大値で復活した。ユニーク称号【大富豪】の効果だ。そしてその隙を逃さないよう、ティナの砲撃が轟き、れーちゃんの魔法が複数同時に発動する。

 

 全MPをコストに発動された音波砲撃は、微塵もボスのHPを揺らがせずに背後に続く空間を崩壊させた。発動された1つ目の魔法は、暴風にて相手を吹き飛ばすだけの魔法。2つ目の魔法の名は《消滅》。詳細は省くが、予め用意しておいた箱という固有アイテムの存在する地点に、自身を空間の繋がりを無視して飛ばす術である。

 

「ん」

 

 じゃあね、と告げてれーちゃんの姿が消滅する。風に乗って城の遥か彼方に飛んだ箱の地点に飛んだのだ。よってターゲットは変更される。次にこの場で無力なつららへ。

 

「そんなこと!」

「させるか!」

 

 が、その前に銃撃がボスに殺到する。一切HPの変動は発生しないが、分身したセナがターゲット集中スキルを使ったこともあり、そちらへタゲが移行する。

 

『鬱陶しいな、ユニーク風情が!』

 

 瞬間、今までの恨みが篭ったかのような怒りを滲ませて、刃がブレた。そして瞬く間に、5回のダメージ無効を持つ分身が消滅した。当たれば即死する火力と、避けられない速度、それを扱い切る技術力、3点揃った結果の化け物だった。

 

「チッ……俺が時間を稼ぐ。その間に逃げろ」

「ごめん!」

 

 その無残な結果を見て、セナが分身を残して逃亡する。既に藜はつららを抱えて逃亡に成功、逃げなければいけないのはこの場にいる2人だけだった。そして、逃げられるのはどちらか片方だけなのは明白であった。

 

『言っているだろう、逃がさないと!』

 

 だがしかし、そんな予想を上回るようにボスが動く。閃かせるは黄金の刃、動きを補助するは巨大な黒翼。厄介なセナ分身体を塵のように消しとばした刃が、遂にはセナ自身を捉えようとし──

 

「吼えたな、新参」

「ほほ、全てを特化するというのは、逆に凡庸と化しますぞ」

 

 黒い風に乗って現れた全く同種の黄金の刃が、真っ向からそれを弾き飛ばした。更には黒い風が吹き荒れ、ボスの黒翼に漆黒の布を巻きつけ動きを封じていた。黄金の鞘は黄金刃の中に溶けたが、明らかに黄金刃の出力を低下させる役割を果たしていた。

 

『諸悪の根源め、ここまでの到達を許すとは。忌々しい、封印も確立するとは』

「抜かせ。全振りなどという、意地も矜持もない貴様よりはまともな自覚があるぞ」

「そうですな。それはあまりに品がないというもの」

 

 極振りギルド【極天】ギルドマスター、Str極振りアキ。Agl極振りのザイードを供に推参。ヒーローは遅れてやってくる。

 

「はーハッハッハ、私も忘れてもらっては困りますよ!!」

「応よ、俺も忘れるんじゃねえぞ!」

「翡翠、あいつは食べていいやつだ」

「当然です。霊体も食べられるのは実証済みです」

「もう、胃が痛い……」

 

 さらに遅れて、【極天】の面々が続々と現れる。

 爆裂キチのInt極、にゃしい。

 今回は杖を持ったケルトなStr極、センタ。

 実は自前の脚で追いついていたもう1人のAgl極、レン。

 さっきまではスライムパーティだったMin極、翡翠。

 もう俺の胃はボロボロなDex極、ザイル。

 

 一人の敵に対し、ほぼ全員の極振りが集結する。しかも各々が、イベント専用アイテム……先程のボスの失言から、弱体アイテムとバレたアイテムを携えている。

 

「道が空いて助かりましたね」

「ええ、ほんと。直線なら加速出来ますから」

「道中も、私の結界のせいで直線でしたがな!」

「「ハッハッハ」」

 

 笑いながら、音の壁を超えたバイクがボスに直撃した。否、正確に言うのであれば直撃したのは展開されていた結界。そこから導き出される下手人とはつまり……

 

「お呼びに与り参上。それにしても、セナのタイピング早くない……?」

「いやはや、同好の士と面白い行軍が出来ました」

 

 バイクを収納しこの場に降り立ったのは2人。

 物理無敵な変態神父なVit極、デュアル

 一見貧相に見えるLuk極、ユキ

 これにて、極振りが勢揃いするという異例も異例な状況が完成する。極振りには極振り、全振りには全振りという最高にクレバーだが頭の悪い戦略だった。

 

『はは、ハハは、ハハハハハハ──!! 勢揃いか、極振りが。だが良いのかい、僕を封印して! 代償があるというのに、己が力と命という!』

「え、マジ?」

「おやおや」

 

 センタとデュアルが言葉に反応した直後、ザイードとアキのHPが0になる。全員が全員イベントフラグをかっ飛ばして進んで来ていた為、誰にも理解できていないことだ。

 だが本来明かされるはずの情報*1には、このような文字が刻まれていたのだ。

 

 ==============================

 その者、悪意の総集たる霊。極めし力の武具を身に纏い、あり得べからざる力にて、街を支配下に置く。彼の力に抗するは、同種の極めた力を持ちし者。我らが城に秘めし宝珠を用いて、封印を行わねば抗うこと能わず。彼らの宝を引き換えに、悪意の霊は力を削がれん

 ==============================

 

 要は全振りボスの弱体化は極振りにしか出来ず、極振りも専用アイテムとイベント中のステータス封印を代償にのみ、封印が可能ということだ。それがイベントアイテムの全容だった。

 

 そして、それが理解できないほど頭の回転が遅い極振りは、数人しかいない。

 

「足留めを頼むぞ、後輩」

「分かりました。ということでセナ、どうにも運営はこっち側(極振り)にボスを倒してほしくないらしいからさ。後は頼むよ」

 

 一方的にそう言って、極振りの集団が動き出す。

 格段に速度が低下しているが、極振りにとっては目にも留まらぬ速さである筈のボスが、紋章に包まれ墜落した。《停滞》と《重量化》の20枚近い重ねがけ、数秒しか保たないが確実にハメ殺す為の布石だった。

 

「久しぶりの出番がこれとは……納得がいきませんが納得しましょう。さあみなさんご一緒に、エクスプロォォォォォジョン!!」

「呪いの朱槍をご所望……だぁぁぁうっせえぞにゃしい!」

 

 叩き込まれたのは、魔法少女チックなステッキと凶々しい気配の朱槍。黄金刃の中にそれらは溶け、大剣程度の大きさがあった黄金刃を刀程度の細さにまで減少させた。

 結果にゃしいとセンタは、システムに定められた通り蒸発した。

 

「さて、この場合はなんて言おうか……私よりも速い奴は要らないんだよ……これだ!」

「頂きます」

 

 動きの止まったままのボスに、円錐状のオーラを纏った蹴りが叩き込まれた。その動きすら留められているボスの兜に空いたスリット、そこに翡翠が持つフォークが差し込まれた。

 

「レモンソーダですね。味がしっかりしててグットです」

「なんでこう、俺の時だけ締まらないんだ……」

 

 もっきゅもっきゅと、満足そうに引きずり出したボスの目玉(に相当する部分)を食べる翡翠の隣。反対側の兜の隙間から、ザイルが頭部内に銃弾を撃ち込む。

 

「ご馳走様でした」

「はぁ……俺も、後で街を本能寺しようかなぁ」

 

 そして2人も消え去る。異例の極振り集合からまだ1分強。それだけの時間で、7/9が消滅するという異例の戦果を挙げていた。

 

「来て早々ですが退場しますか」

「トンボ帰りしましょう」

 

 そんな会話を交わしながら、ユキは爆弾を、デュアルは胸からニョキッと生えて来た槍……にユキがスイカバー外装追加紋章を向けた結果、ニョキッと生えているスイカバーをボスに向ける。

 

「親愛なるスイカバーよ」

「あ、これあずきバーにも対応させられますね」

 

 そして馬鹿会話をしながら消滅した。

 極振りアッセンブル、集結までが30秒弱。

 極振りボスのデバフ成功、全滅までが30秒弱。

 

 どうしようもない予測不能のツイスターの様に、たった1分で雰囲気を「ふ」の字以外蹂躙し尽くして極振りは去って行ってしまった。同時に紋章の能力が解除された結果、ボスもいつの間にかどこかへ逃亡してしまっていた。

 

「……なに、今の?」

「戦場の、妖精、です……かね?」

 

 嵐の中心にはいたものの、何もわからず仕舞いでセナ達は呆然とするのだった。いつの間にか戻って来ていた、藜を気にするそぶりすらなく。

 

*1
街のギミックだったので空爆と絨毯爆撃で灰燼に帰した




最後の方ショートカットしました

本当は
極振りを介護しながらボス部屋へ→弱体化→バトルだ!となる予定だったらしいです


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第131話 ミスティニウム最終戦④

 一瞬にして全能の力を剥がれたボスは逃げていた。

 ふざけるなと叫びたくなる気持ちを抑えて、ボスは逃げないという定石すら無視して。落ち着くために心の中で素数を数えながら逃げていた。

 これが今までのボスと同じ、完全AI型であれば違った。あの場で混乱するすてら☆あーくの面々を鏖殺することなど、欠伸混じりで行えた。だがこれまでのボスより柔軟性を求めた結果、セミオートとでも言うべき状態になっているボスには、想定通りのメリットと同時に精神状態に左右されてしまうデメリットまでもが追加されていた。

 

『やってくれる、極振り共め。だが力は削いだ、確実に!』

 

 壁に拳を叩きつけながら叫ぶボスの姿は、ほんの少し前までとは様変わりしていた。

 3対6翼からなっていた大型の翼型加速装置(ウイングスラスター)は1対2翼へ、ビームシールドは消失し、大剣ほどあったビームソードも刀程度の細さへ。傷1つなかった全身には爆風による傷が刻まれ、左目はそもそも消え去っている。折り畳まれていた莫大なHPも、ステータスの大幅減少に伴い消滅。

 

 単純に数値化して表すのなら、ほんの数分前と比べて10分の1近くまでボスは弱体化されてしまっていた。

 

「お、これはボク達が一番乗りですかね? ふっふーん、流石は可愛いボク。運も持っているみたいですね!」

「いや、見た感じボロボロですし出遅れてると思う」

「ふ、ふふん。それはそれで、漁夫の利を取れますから問題ないですね!」

 

 そんなボスの前に現れた2人分の影。言わずもがな、カオルとブラン組である。2人とも割となんでも出来るスタイルではあるが、やはり傾向としては攻撃偏重。

 やれないことはない。そう判断して、ボスは己が武器を構えた。

 

「あ、これマジでやばいタイプですギルマス。可愛いボクの攻撃も通じるかどうか」

「なるほど。手は?」

「10秒」

「稼ごう」

 

 瞬間、ボスから見れば視界の全てが赤黒に染まった。それは、呆れるほど多重展開された召喚術の基本魔法。必中+固定ダメージ+MP吸収という単純なそれが、500という限界まで一気に展開された。

 

『効くものか、この程度の攻撃』

「だろうね、だからこうする」

 

 無数に展開され放たれ続ける黒い固定値の魔法群の中、3つの魔法陣がボスを中心に展開される。重なり合うそれらが急速に回転縮小を始め、魔法の壁の向こうから言葉が告げられた。

 

「趣味じゃないんだ、本当はこういうの。でもまあ、時間稼ぎには上等だろ?」

 

 そして指がパチンと鳴らされると同時、魔法陣が消え去り極致の召喚術が起動する。

 

「燃えよ、出でよ、そして焼き尽くせ。フェニックス 、テュポーン、イフリート!」

 

 次瞬、ボスのリソースを食いながら燃え盛る不死鳥が体内から出現し、動き出そうとするボスが空間ごと圧縮されダメージとデバフを受け、外側からも爆炎に包み込まれた。

 

『もう三体呼ぶべきだったな、止めたければ!』

「うわぁ……なるほどこれはやばい」

 

 しかし黒い針も三重の召喚獣も無視して、ボスがスラスターを広げた。そして腰だめにビームソードを構えて、減少してもなお破格のステータスによる突撃を敢行した。

 

「砕け、タイタン!」

『硬いだけの壁など!』

 

 それを防ぐべく召喚された高い防御力を誇る石の巨人は、そんなことは知らないとばかりに一撃で、ずんばらりんと両断された。大人気ない威力だが、2人だけで挑んだのが運の尽き。そう判断し始末にかかったボスが見たのは、笑みを浮かべたブランの顔だった。

 

「ボクの必殺技、特別版!」

 

 そしてボスに向け、天井から十重二十重に重なった斬撃が飛来した。

 

「一人称被り滅殺斬り! 厳密には違いますけどね!」

 

 トドメに床を切り裂いて、ボスを階下に叩き落としたカオルがブランの隣に着地した。

 ユニーク称号である【ナイトシーカー】とは何の関係もなく、単に仕込みパイルを天井に突き刺して立ち放った最高火力。全武器スキル中最も単純火力の高い抜刀術、それを受けて無事でいられるボスはそう多くないのだが……

 

「3割ですか……このままじゃ割に合いませんね」

 

 ここまでやって、1段目の3割。レイド級一歩手前の相手に破格の戦果といえばそうだが、実際割に合わない成果でもあった。

 

「了解。とりあえず他の奴らと合流が先決かな」

「ですねー。すてら☆あーくの人たちがいれば、幾らか楽になると思いますけど」

 

 そんな軽口を叩きながら、カオルが追跡防止用の霧を、ブランも同様の使い捨て壁モンスターを召喚し撤退した。ボスが階下から戻ってきたのは、2人が姿を消してから10秒ほど後のことだった。

 

『やられてしまったな、たった2人に。漸く冷えたよ、僕の頭も』

 

 軽く頭を振りながら、ボスは独り言葉を零した。そこには先程までの動揺しきった様子はない。セミオートの都合上口調が変にズレているが、それを除けば完璧な精神状態に戻っていた。

 

『さて。始めようか、ボス戦を。この場所で、奴らが来ない間に!』

 

 ボスがそうカッコよく1人で台詞を決め、1人でいい感じに哄笑をあげる演出を聞きながら、2人は全力でその場に背を向け逃走していた。

 

「……これ追って来てない?」

「追って来てますねぇ!」

 

 そしてそんな2人を、かなり惑わされながら足留めされながらも、ボスはしっかりと追って来ていた。しかもAglの地力がかけ離れているため、あまりにも追いすがるまでが早い。カオルが足の遅いブランを背負い走っていてこれなのだ、追いつかれるまでは秒読み段階だった。

 

「というか、薄々感づいてましたけど中に人入ってるじゃないですかあのボスぅ!」

「ならカオルの霧は完全に無意味だね」

 

 ブランの召喚している壁モンスターと違って、カオルが撒いていた霧はモンスターやNPCからの認識を誤魔化す為の物。つまり、今相手にしているボスには一切の効果がない代物だった。

 

「フ○ック! おっと、ボクとしたことが。言葉遣いがくずれぎゃんっ!?」

 

 悪態をついたカオルの髪を、背後から飛来した光の斬撃が掠めた。

 

「あぁっ!! 髪の毛が! 可愛いボクの髪の毛が!」

「カオルはいちいち反応が面白いなぁ」

「何言ってるんですがギルマッぴぃ!?」

「はっはっは」

「笑い事じゃないですってぇ! 私たち、割と単体戦力じゃトップなんですから!」

 

 極振りが実質戦闘不能に陥った今、実際2人の戦力は最上級。2人がここで倒されデスペナルティを受けるのは、確実な痛手と言えた。そしてそれが分かってるのは、ボスを含めた当人達だけではない。

 

「見つけ、まし、た!」

「2人とも、早くこっちに!」

 

 今カオルが走る道から少し外れた狭い通路。そこから、セナと藜の2人が手招きをしていた。

 

「流石ボク! 運も持ってほこゃぁッ!?」

「カオル、今から隙を作るからそれでお願いするかな」

「やっとギルマスが働いてくれるぅ!」

 

 それを見てガッツポーズをしたカオルを再度斬撃が掠め、それを見てこれまでとは打って変わった様子のブランが背後に杖を向けた。

 

「本当はあんまり他ギルドには見せたくないけど、仕方ない」

 

 直後、霧も壁モンスターも全てを覆い尽くすように、赤黒い壁が通路を塞いだ。否、それは通路全てを埋め尽くすほどの量を誇る魔法群だった。

 

「ユキ君と相対して、俺はまだまだ未熟だと学んだんだ。装備で強化し、技術も磨いたこの必殺技、受けるがいい!」

 

 ユキか極振りの1人でもいれば、放たれた魔法の数が800個という意味不明な数字にまで上昇しているのが分かっただろう。本来の固定ダメージ50(クリティカル時70)から固定ダメージ75(クリティカル時110)にまで上昇した魔法が、800個だ。

 最低6万ダメージの必中+与ダメージの半分を回復するという、まさに塵が積もって山になったような必殺技がボスに殺到した。女の子におんぶされていなければ、きっと様になったに違いない。

 

「ナイスですギルマス!」

 

 そんな必殺技を見ることもせず、カオルがゴツい手甲に包まれた右手を前方に突き出した。直後、銃弾程度の速度で手甲から何かが発射された。発射されたそれはセナと藜を通り過ぎ奥の壁に接触すると、その地点とカオルを繋ぐようにピンとワイヤーを張った。

 

「巻き取り!」

 

 そして、蒸気を噴き出しながら手甲がそれを巻き上げAglの限界を超えてカオル達を移動させた。

 

「助かりました、次ボク達はどうすれば!?」

「逃げるよ! こっち!」

「戦略的撤退、です」

 

 サムズアップするセナ達に一瞬白目を剥きかけたカオルだったが、それでも次の瞬間には足を動かしていた。しかし速度特化型のセナと藜よりは、お荷物1人抱えている分速度が遅い。

 

「結局、このままだと、ぜぇ、追いつかれますよ!?」

「ごめん、ポイントまでもう少しなんだけど」

「そこまで、行けば、なんとか、なり、ます」

「やったりますよ!! どこですか!」

「このまま真っ直ぐ!」

 

 後ろで通路の破砕音が響く中、再度カオルがワイヤーアンカーで擬似的な飛翔をした。途中通り抜けた中規模の部屋の中身を見て目を剥きながら。

 当然のように2人を追い抜かした藜が障害物を破壊し、セナが中規模の部屋に分身を1人残してカオルを先導するように走る。そして、すてら☆あーくのメンバーが揃った、巨大な穴の空いた部屋に辿り着いたたところで。

 

「今からこのフロア消し飛ばすので、飛び降りて避難します!」

「ふぁっ!? 普通の人だと思ったのに、彼氏に染まってません!?」

「ゆ、ユキくんとはそういうのじゃないですから!」

「そう、です。まだ違い、ます」

 

 これは馬に蹴られるな等と背負ったギルマスに煽られながらも、とりあえずカオルが穴に飛び降りた。同じようにセナと藜も飛び降り──

 

「れーちゃん、Go!」

「ん!」

「《アイシクル・コフィン》!」

 

 れーちゃんが握っていた起爆スイッチを押し、ヨロイを纏ったランさんが2人を抱えながら飛び降り、穴を極厚の氷が塞ぎ切った。そしてその直後、ボスが分身に足止めされていた中規模の部屋を中心にして、フロア丸1つが爆弾によって吹き飛ばされた。

 

 

 

 

 




この爆破を間近で体験した少女Kの後の証言
「ええ、間違いなくアレはプロの仕業でした。幸運極振りの手だけじゃない、明らかにそっちに精通した何者かの介在が感じられるほど完璧な爆破でした、ええ」
(ろくろを回すポーズ)


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第132話 ミスティニウム最終戦⑤

「それで、結局どうするんですあのボス」

 

 爆破による稼ぎに稼いだヘイトを下げるため、一旦全員で退避した小部屋。ようやく落ち着けるようになったそこで、カオルが口を開いた。

 

「当たってみた感じ、かなり物理も魔法面も硬かったですけど」

「一応アレでも、かなり弱体化された後だから……」

「元はあのボス、ステータスが全部極振りだったのよ」

「ん」

「うへぇ……」

 

 露骨に嫌そうにカオルが顔を歪める。何せ弱体化されていて尚あの面倒さだったのだ。そんな相手とこれから戦おうと言うのだから、そう言う顔になるのも仕方がなかった。

 

「というか、セナさん藜さんれーちゃんは兎も角、そこのお2人と話すのは何気に初めてですね」

「む、そうか? いやそうか、あの時はユキにほぼ任せていたからな」

「そういえばそうね。その、私は正直避けてたし」

「すてら☆あーくに行く時は、大抵カオルのテンションはおかしいからなぁ。というか、俺に至っては藜さん以外初対面では?」

「そうですねぇ。では、軽く自己紹介と行きましょう!」

 

 座っていたカオルが立ち上がり、ドンと胸を叩いて言った。当然防具と手甲がぶつかり合うだけだが、それでもドンと良い音が鳴った。

 

「ではまずボクから。ボクの名前はカオル、《ナイトシーカー》のユニーク称号を持っています。スタイルは攻撃偏重、近接物理偏重の魔法剣士ですね。抜刀術スタイルなので、一応タンクも出来ないこともないです」

「なら次は俺か。俺はブラン、そこのカオルも所属してるギルドのマスターをさせられている。スタイルは攻撃偏重、遠距離固定値特化の召喚術師にあたる。バフも……出来ない、ことはない」

 

 堂々としたカオルに対し、どこか気まずそうにブランが言う。大半の極振りや特化型に言えることだが、自己完結してしまっている以上方向性によってはパーティ戦に恐ろしく向いてないこともあるのだ。

 

「あ、じゃあ次は私。《舞姫》のセナです。スタイルは回避特化の万能型、かな? 基本的には回避盾やってます」

「藜、です。《オーバーロード》で、近接の、攻撃特化、です」

「んー……、ん!」

「あ、れーちゃんは大丈夫ですよ。探索と製作メインで、戦闘はそこまで得意じゃないってボクに話してくれたじゃないですか」

「ん!」

 

 ニコニコしたれーちゃんを見れば、カオルに意味が完璧に伝わっていることは明白だった。そのことに僅かにショックを受けているセナを尻目に、軽い自己紹介は続いて行く。

 

「なら私ね。つららよ、特に称号はないわ。スタイルは水と氷属性特化の魔法使い、後衛兼回復役ね」

「ランだ。特に称号はない。基本的に中距離から遠距離、遊撃などをやっている」

「遠目だが見たことがある。いいヨロイに乗っている……」

「こちらも召喚を見させてもらった。そちらこそ、いい風が吹いているな」

「「フッ」」

 

 何かシンパシーを感じたのか、固く握手を交わすランとブラン。ユキもいれば確実に参加していたその輪を見ながら、困惑した顔でカオルが呟いた。

 

「つまり、この場に居る7人中5人がアタッカー……? 脳筋……圧倒的脳筋編成ッッ!!」

「いいやその話、待ったをかけさせてもらおう」

 

 そう告げて、特徴的なエンジン音を響かせ部屋に飛び込んでくる巨大な影が3つ。

 バイクと合体した変態──もとい《傀儡師》のシド

 セグウェイっぽい物と合体した変態──もといハセ

 何処から見てもオウムガイ──もとい《提督》のZF

 ギルド【モトラッド艦隊UPO支部】のリーダー格が揃い踏みだった。

 

「そこに私達が入れば、少しはマシになるのではないでしょうか?」

「何せこれでも、儂は遠距離型であるからな」

 

 確かに、と場の全員が手に持った武器を下ろし頭を回し始める。

 【提督】ZFは、味方になってくれるだけでステータスにバフがかかり、彼自身もサポートもこなせる魔法アタッカー。シドは高機動近距離アタッカー兼タンク、ハセも高機動中遠距離アタッカー兼サポーター。丁度パーティを5:5で分けられることもあり、布陣としては完璧だった。

 

「いや、結局脳筋パーティじゃないですか!」

 

 ツッコミを入れるようにカオルが叫んだ。

 

 回避盾兼アタッカーが1人に、タンクも出来なくはない前衛アタッカーが2人、攻撃特化の前衛が1人。

 攻撃偏重の中〜遠距離アタッカーが2人

 固定値攻撃特化の後衛が一人、サポートもできる後衛アタッカーが2人、サポート寄りだけど攻撃もできる後衛が1人。

 

 現在の面子を纏めるとこうなり、文字に起こすと理解できる清々しいまでのフルアタッカー脳筋編成であった。そもそもプレイヤー上位陣に、補助や防御型がいるのか疑いたくなるような占有率である。

 

「でも、多分この編成が現状最強編成だと思うよ?」

「だな。外は雑魚mobが大量湧きしている以上、《牧場主》と《ラッキー7》、《大天使》は街から動かせん」

「《マナマスター》や《初死貫徹》は戦車や戦闘機に乗るスタイルからして室内戦には不向きでしょうし、《大工場》と《農民》はそもそも戦闘型ではありませんし」

「あ、外そんな状況になってるんですね」

 

 シドとZFが言った外の状況にセナが反応した。殆ど外の状況を知ることが出来ない以上、今の会話は割と貴重な情報なのだ。である為にイベント後、外を走り回るアドラステアを見て驚く羽目になるのだがそれはまた別の話。

 

「と、一先ず自己紹介も終わったので作戦会議にでも移りますか?」

「でもボク達ほぼほぼ初対面ですし、連携なんて出来たもんじゃないと思います。全員、戦闘スタイルも尖りに尖ってますし」

「前衛は簡単だろう。この中でスタイルを熟知していないのは俺だけ。つまり俺がタンクに徹すれば良い」

「あ、じゃあ私も回避盾やります。藜ちゃんとカオルさんは共闘経験あった筈だし」

「なら、コンビ、です、ね?」

「ボク、基本的に鈍足型なんですけど……まあ対応してみせますとも!」

 

 それだけの会話で、前衛組はもう話が纏まったようだった。

 

「ハセと言ったか。得物はなんだ」

「大口径主砲と盾を。そちらは」

「基本はガトリングライフルと、高エネルギーの銃だ。切札もあるが、今回は不要だろうな」

「成る程。足止めは任せましょう」

「そうか。機を見て撃て」

 

 銃使いの中衛も、口数少ないそんな会話だけで纏まったらしい。その他にも一応、後衛を守るという役割があるのだがそれについては話すまでもなかったらしい。

 

「あっちは良いわよね……簡単に話が纏まって」

「前で戦う方々は、後衛の苦労は一切知りませんからね」

「ん!」

「れーちゃんは、味方の支援と回復、相手の弱体が楽かしら?」

「んー……ん!」

 

 元気に手を挙げてれーちゃんが返事をする。問題ないということらしい。そんな、慣れてない人からすれば異常な光景のまま話は続く。

 

「では私も、攻撃もしつつ基本的にバフとデバフを担当しましょうか。幸い、《提督》の称号はその方面への適性が高いですから」

「でしたら私も、同じようなスタイルで。正直、今動ける称号持ちが全員揃ってる以上、下手に私が攻撃する必要はなさそうですしね」

 

 つららがそう言う通り、現状この場にいるのはほぼユニーク称号持ちなのだ。その火力は、単体に向けるには過剰であると十分言える範囲にあった。

 ボスはまだ知らない。オーバーダメージ耐性がなければ即死することを。

 ボスはまだ知らない。耐性があってもあまり意味がないことを。

 ボスはまだ知らない。人型にまでサイズを落としたことで、従来のボスより若干下がった耐性が致命的な欠陥になっていることを。

 

 

 一方その頃、第6の街でリスポンした極振りたちも似たような会議を行っていた。

 

「それでは第1回、緊急極振り会議を開始する! 議題はどうやったら最終決戦に介入出来るか!」

「近づいて切る。それで事足りるだろう」

「ステータス封印されてなきゃな! 却下、次!」

 

 先程までのストレスを発散するべく、テンションを上げに上げたザイルがアキの案を却下した。ゲームというシステムに縛られている以上、気合いと根性だけではどうにもならないのだ。結果、やる気のなくなったアキはどこからか取り出した炬燵に潜り込んでしまった。

 

「爆裂を打ち込みましょう! なに、ストックはあります!」

「皆殺しにする気か! 却下!」

 

 ウッキウキで挙手して発言したにゃしいも、攻撃範囲が広すぎる理由で却下された。そもそも今の極振りでは、街から出られないので不可能であるのは誰も指摘することはなかった。

 

「お腹が空きました……」

「翡翠はウリ坊でも食べていてくれ」

「ウリ坊──ッ!」

 

 センタのペットであるウリ坊に翡翠が思いっきり齧り付き、勝手に己のペットを食料にされたセンタの悲鳴が鳴り響く。ここは列車砲内部、狂気の連中から解放されたと思った途端フルメンバーで大元が帰ってきてしまった地獄であった。

 

「ふへ、ふへへ……」

 

 列車砲内部、砲撃を司るここにいる極振り以外のプレイヤーは1人。燃え尽きて眠っていたせいで、逃げ遅れてしまった射手子だけだった。彼女の目と笑いは虚ろであった。

 

「つーかよォ、そういうザイルは何か良い案あるのかよ?」

「よく聞いてくれたセンタ! ユキ、ザイード、例の物を!」

「「ここに」」

 

 いつからスタンバイしていたのか、ザイルが手を叩くと同時に2人が巨大な弾を取り出した。その赤く紅い弾は、明らかに異質な雰囲気を放っている。

 

「この弾の名前は『滅殺焼却激痛弾』」

「滅殺焼却激痛弾」

 

 場に満ちる雰囲気と名前に男子の心を持つ者は誰しも息を飲む。

 

「別名は極振り弾だ」

「極振り弾」

「因みに殺傷力極振りだ」

「殺傷力極振り」

 

 爛々と目を輝かせ、両の腕を広げて力説するザイルの演説は続く。

 

「アキの特化紋章術による耐性貫通能力、センタと槍の技術の結晶であるクラスター爆弾式の増殖展開、本体耐久度はデュアルの硬さ、レンとザイードの速度、にゃしいの爆裂を納めた使い切り魔法アイテムによる火力、それらを一点に止める翡翠のフィールド形成能力、それら全てを1段階引き上げるユキの紋章強化、そして俺の器用さによる全ての能力の統合。

 それによって生まれた化け物弾丸だ。ただし口径的に列車砲でしか放てず、撃った瞬間砲身内部で自爆する」

 

 4人の外国人の画像の如く、一気に場の興奮が冷める。どれだけ凄いものでも、使えなければ意味はないのだ……

 

「だが、この弾を十全に使える方法はあり、それを使える人材がここには居る」

「ですが我らはステータスを剥奪されている身。そのような人材は何処に?」

「そこに、射手子という希望が存在する!!」

「ピッ!?」

 

 突然名前を呼ばれた射手子が、半ば悲鳴じみた声をあげた。そして錆び付いたネジのような速度で振り向けば突き刺さる、明らかにキマッてる極振り(へんたい)たちの目線。

 

「ここにある最上位のスキル獲得チケットで獲得できるスキルに、【魔弾の射手】という物がある。スキル発動後から5発分の弾丸は、障害物など全てを無視して敵に命中、クリティカルヒットする。これを使えば、この極振り弾は確実に命中する」

 

 6発目を撃った瞬間即死するのだが、今回それは関係ない。

 光り輝くチケットを持ったザイルが、一歩、また一歩とトリガーの前に座る射手子に迫る。止める者は、悲しいかな誰もいない。助けてくれる人もいない。

 

「私たちは面白いものが見れる、射手子は強スキルが無償でゲットでき、このイベントのラストアタックボーナスが取れる。悪い取引ではないだろう?」

「あ、あぁ……」

 

 極振りにロックオンされた時点で、哀れ射手子の命運は決まってしまっていた。

 




戦闘が得意じゃない(れーちゃん)
・大規模範囲魔法
・(一般目線で)高火力攻撃
・バフデバフ・回復完備
・確定スタン持ち
・7回蘇生
・ペット砲(超火力)
れーちゃんは戦闘は得意ではありません(繰り返し)


因みに過剰火力なので、ボス戦はあっさり予定だったりします


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第133話 ミスティニウム最終戦⑥

 ボスは苛立つ心を抑えながらダンジョンの内部を進んでいた。

 何せつい先ほど、追っていたプレイヤーを逃したばかりか、攻撃を全てジャスト回避するという全力の煽りを食らった挙句、煽ってきたプレイヤーを倒したとおもった瞬間フロアごと爆破させられたのだ。しかも倒したと思っていたのは分身……これに心乱さずにいられようか。

 

『いいや、落ち着け僕。優っている筈なんだ、単純性能は。勝てる性能なんだ、冷静ならば』

 

 だが、それではいけない。向こうのペースに飲まれた時点で、幾ら性能が優っていようが勝ち目は無くなってしまう。それを理解しているから、ここまで最低限の錯乱で終わっているのだ。錯乱してる時点でペースは崩されているのだが。

 

『むっ』

「あっ、ごめんなさ──あっ」

 

 そんな考えを振り払うようにしながら、まだこのダンジョン内にいるはずのプレイヤーたちを捜索している時だった。

 入り組んだ道の角。そこでさながら少女漫画の冒頭のように、ばったりボスとセナが遭遇した。尤も、どちらもパンを咥えてるなんてことはなく、両手に武器を持っているのだが。

 

『……』

「……撤退!」

 

 硬直すること数秒、先に正気を取り戻したのはセナだった。速度特化型と閉所という最高の相性を生かし、分身をデコイとして残しながら超高速かつ不規則な機動で通路の先へと逃亡する。

 

『逃すものか、今度こそ!』

 

 それを完全に見送ってから、漸く再起動したボスが声を上げた。そして背部のスラスターを点火し、加速しようとした一歩目を分身の斬撃と射撃が妨害する。

 当然火力が足りない為、本格的な足止めにはならない。しかしそれでも、相手の攻撃を全てジャスト回避しながら、くすくすと笑いつつ反撃していれば効果は覿面としか言いようがない。

 

『巫山戯るなぁぁぁッ!』

 

 そうして結局ペースを崩されたボスが、分身を引き連れながら進む中。先行しているセナは、耳につけた連絡用イヤホンで探索に散っていたメンバーへ通信を飛ばしていた。

 

「こちらセナ。ボスを発見、大部屋に誘導中!」

 

 通信の向こうから了解の意が次々と伝わってくる中、セナの後方で大きな爆発音が轟いた。分身に持たせていた、ユキの爆弾が爆発した音だ。それも1人ではなく全員分。

 

「チッ」

「こちらZF。そちらのれーちゃんの尽力で、全員布陣に着きました。もう時間稼ぎは必要ありません」

「了解!」

 

 時間稼ぎがこれ以上は不可能なことに舌打ちした直後、そうZFからの通信が入った。これでもう加減する必要はないと、今まで必要最低限に抑えていたスピードを完全解放する。迫る気配を急速に引き離しながら、10秒もせずにセナは大部屋に辿り着く。

 空中で回転し着地したそこは、正しく決戦場だった。フィールドにはZFの己の移動を封じることで発動する、2種の大支援魔法とユニーク称号及び装備のバフが。臨戦態勢の前・中衛はいつでも攻撃を開始できるよう入り口に向き、後衛はボスが入ってきた瞬間牽制とデバフを使う態勢に整っている。

 

 そして、待っていても精々爆弾程度だろうと思考を停止させていたボスが、固定ダメージならと防御姿勢すら取らずに部屋に侵入した。

 

「全魔解放、一斉射!」

「凍てつきなさい《エターナルコフィン》!」

「ん!」

「輝け、召喚獣《カーバンクル》!」

 

 結果、全ての魔法を素の耐性のみで受け止めることになり、当然9割方抵抗に失敗した。そうして食らった状態異常の数は無数。

 物理魔法共に魔法で下げられる下限にまでデバフをくらい、氷による致命的な移動制限、れーちゃんのクトゥルフ系魔法による左腕の萎縮と一時的発狂、最大HP・MPも減少させられ、半分はあったはずの7段目のHPバーが消し飛んだ。挙句、プレイヤー全員にダメージ反射とリジェネを付与させてしまう始末。

 

「Delete!」

「吹き飛ばせ、機皇帝!」

 

 直後ボスを襲ったのは、ランとハセの一斉射撃。極太の赤い閃光がHPを1割ほど吹き飛ばしつつ、敵の力を吸収しつつ放たれた実体弾が追加で1割を吹き飛ばす。その間にも後方から、必中の赤黒い針や絶対零度の氷などのデバフや高火力魔法が乱発される。

 

「藜ちゃん、合わせて!」

「合点、です!」

 

 そんな魔法の集中砲火を食らうボスに向けて、セナが7人に分身しながら駆け、藜が翼を羽撃かせながら接近する。既に2人ともペットとの合体状態であり、最大火力を発揮できる状態にあった。

 

「乱舞姫!」

 

 先に動いたのはセナ。途切れた魔法の嵐の中に、炎を纏い7人全員で突撃した。そして、銃撃斬撃炎撃の華が百花繚乱と咲き誇った。

 双剣系スキル由来の十重二十重の多重斬撃が3人分、上昇したステータス由来の超高クリティカル率+威力で繰り出され刻まれる。銃由来の射程を代償に威力をあげる砲撃が3人分、ステータスによる補正を受けて防御を抜き爆発を起こす弾で放たれ抉られる。空中に足場を作れるユキがいない為数段型落ちの連撃だが、それでも最後の1人がサポートに回ることで致命の威力を誇っていた。ボスのHPバー6段目を削り切るくらいには。

 そして最後に、セナ本人だけがその殺戮の輪舞曲から抜け出し、最大級の炎撃を放つ。それによって、分身が抱えていた無数の爆弾に着火。大爆発を引き起こした。

 

「貫き、ます! 銃剣、展開」

 

 その中でも消えないボスのシルエットに向け、藜が突撃した。

 事前に発動していた槍由来の、HPを犠牲に攻撃を上げるスキル、HPを犠牲に遅れて攻撃が発生するスキル、そしてユニーク称号と装備により、ビットを含めた姿が陽炎のように揺らめいていた。

 

「《レイ・スタブ》螺旋!」

 

 そして響く、異様な音。千の揚げ物が一斉に天麩羅にされるような、万の工作機械が同時に作動したような激音。揺らめく銃剣ビットが螺旋を描いて槍をさらに武装し、ボスの鳩尾に激突する。数秒の拮抗もなくそこに大穴をぶち上げて、無数の舞い散る羽根を残しながら藜は通り過ぎた。時には、撃槍が4段目を残り1割まで綺麗に消し飛ばしていた。

 

「クリーンヒット、です」

 

 直後、2度目の激音が響いた。舞い散った羽根による自動斬撃と、遅れて発生した槍撃だ。その威力は本命の一撃とは比べ物にならない程低く1割も削れないが、その役割はあくまで足留め。

 

「2撃、目!」

『させるか、そんなことぉ!』

 

 ビットを穂先から外し、自分も身を回しビットに着地したところでビットが杭打ち(パイルバンク)。反動も込め水泳のクイックターンの様に再加速した藜に、激昂したボスの斬撃が振り下ろされていた。

 幾らバフとデバフが重なっているとはいえ、防御力を犠牲に速さと火力を得ている藜には一撃で全損級の火力。避けられない軌道で振り下ろされたそれは──

 

「俺の存在を、忘れないで貰おうか」

 

 差し込まれた白い機械の腕が、半壊しながらも受け止めていた。シドの操る機皇帝の盾を持った腕部分だ。本来なら最も防御力の高い腕を一撃で半壊させたことに驚くべきなのだが、今はそれにあまり意味はない。

 

「《トリアイナ》!」

 

 直撃した2撃目。スキルが切れて威力が激減したそれはボスのHPを3%ほど削り、本命の移動停止デバフを掛けることに成功した。

 

『くぅっ。おのれ!』

「カオル、さん!」

「感謝します!」

 

 そこに、既に全身の装備から蒸気を溢れさせるカオルが飛び込んだ。狙いは当然首。そしてSTR値が500を超えている今、解放された単純威力最強の抜刀術スキルが炸裂する。

 

「《奥義抜刀・王道楽土》!」

 

 一閃。振り抜かれた刃が、ボスの首を切り裂き、HPバーを一段まるっと斬滅した。遅れて発生した追撃ダメージによって、2段目も2割ほど削り切り──使っていたスキル《殉教(まるちり)》の代償として、カオルのHPが全損した。

 

「死なせません」

 

 間髪入れず放たれたZFの蘇生魔法により復活する。古式ゆかしき侍運用に、絶句したボスの四肢に触手と氷の枷が巻きついた。分身したセナの装備と後方支援のつららによる妨害であり、トドメを刺す為のはめ殺しの陣。

 

『お──ッ!?』

「喋らせはしない。スキルを使われたら面倒だからな」

 

 何かを喋ろうとしたボスの顔面に、シドの操る機皇帝の巨大な剣が突き刺さる。ダメージは軽微だが、喋らせないにはこれで十分だった。

 そんな全てを封じられたボスを、遠距離攻撃の嵐が飲み込んだ。セナの銃撃と炎、藜のペットが使う風系の魔法、カオルも威力は低めだが魔法を、ランとハセは銃撃を放ち、後方からは無数の魔法。

 

「ッ、みんな一旦下がって!」

「なにか、おかしい、です!」

「HPの減少が止まりました!」

 

 そうしてHPバーも残すところ1段となり、このまま削り切れるかと思った時のことだった。最も近距離にいたセナ・藜・カオルの3人がそう叫んだ。

 そう言われて飛び退けば、固定値減少のはずの魔法ですら1段目のHPバーを削れていない。そんな事実が判明した直後、くつくつと笑うボスの声が響いた。

 

『やってくれたね、好き放題。だがボスにはあるだろう、最終形態が。故に見せよう、この姿を!』

 

 瞬間、ボスの身体が光り輝いた。そして毎秒毎にどんどんその姿を巨大化させて行く。

 

『乗っ取ってやるさ、この城を。無敵だからね、僕の城は! 蹂躙してやるさ、違えた予想ごと!』

 

 恨みのこもった叫びをあげながら巨大化して行くボスは、遂には天井すら突き破り巨大化して行く。試しに攻撃してみてもダメージがない辺り、変身中は無敵ということなのだろう。

 そんなことを突入組が考えている中、逆に外は大騒ぎになっていた。このあと素材をどうするか、復興をどうするか打ち合わせていた中、突然倒れた巨人の中から巨人が現れたのだ。ウルトラマン式成長で。辛うじて見えるHPバーからボスと気づけたのは一体何人いただろうか。

 

『踏み潰してやろう、蟻のように。今度こそォ!』

「撃て、射手子」

 

 まあ気づけなくても問題はない。ボスの顔に紅い弾が直撃した時点で、プレイヤー側の勝利は確定したのだから。

 




セナはユキとなら少女漫画的衝突をしてたり(両者合意の上)(ジャムでワイシャツが1着お亡くなり)


ボスのHP減少内訳
10段目(半分くらいまで色々なことで減少後、フロア爆破で消滅)
9段目(フロア爆破で全消滅)
8段目(フロア爆破で全消滅)
7段目(デバフの後、HPを半分にする魔法&相手とのHPの差分威力が上がる魔法により消滅)
6段目(魔法集中砲火+セナのガチアタックで消滅)
5段目(爆弾で3割減、藜により消滅)
4段目(藜により蒸発)
3段目(一閃)
2段目(追撃で減少、集中砲火で消滅)
1段目


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第134話 ミスティニウム最終戦⑦

 極振り弾と勝手に命名された紅い弾。それは着弾と同時に弾け、その秘められた能力を十全以上に発揮した。

 最後のHPバーの1割を着弾の衝撃で消し去り、砲弾自体は分解。しかし着弾した地点から、ボスを覆うように《極》と描かれた赤い紋章のような物が大量に発生し、増殖分裂しながらある1つの形を作っていく。そうして完成したのは、ボスを中心として天高く伸びる紅の円柱。その極小の殺戮空間(キリングフィールド)の中に落ちて来た巨大なルビーの宝石が、まず1つ炸裂した。

 

『──ッ!』

 

 そして、ボスの叫びすら搔き消す極大の爆裂が解放された。円柱の外にまで伝わる衝撃波と共に、天高く伸び上がる紅蓮の火柱。その中でも唯一視認できるボスのHPは、凄まじい速度で減少を始めていた。

 

『分かったぞ絡繰が。砲身の中だな、この結界は!』

 

 火の勢いが僅かに弱まった瞬間、弾ける2つ目の宝石。無我夢中でボスが暴れるが、ボスと共に円柱も移動するため結界の破壊には至らない。ただ歩いた場所が全て、ガラス質に変質する結果だけを残していた。

 

「チェックメイトだ」

 

 遠く彼方、列車砲内部でザイルが指を弾き、最後の宝石が結界内で弾ける。それを最後に、ボスのHPが焼却される。1mmの雑念も塵も残さず、イベントボスは紅の円柱内部で焼き尽くされた。

 

「きゅう……」

 

 自分の放った弾がもたらした結果を見て射手子が気絶したり、足下にいた突入班だったり、ボスが苦痛にのたうち回った場所でのプレイヤーが焼却されたが……まあ些細な問題だ。それは所謂、コラテラル・ダメージというものに過ぎない。

 そんなこんなで、多大な犠牲を出しながらイベント【ミスティニウム解放戦】は終幕したのだった。ミスティニウムは原形すら残ることはなかったが。

 

 

 イベント終了と同時に、極振りのステータス封印は解除された。また30分後にサーバーメンテナンスが実施されることが運営からのメールで通達され、それまでがイベントのロスタイムという運びになった。

 そこで、だ。最後の最後に全てを焼き尽くし、漁夫の利を掻っさらった連中はどう扱われるか? そんなもの、言わずもがなである。

 

「突 発 レ イ ド 戦 の 開 始 じ ゃ ぁ ぁ !!」

 

 そう最初に声を上げたのは誰だったか。だがその声をきっかけにして、このプレイヤーの全戦力が揃い且つ全力を発揮できる場所で、以前の高難度イベントがプチ復活を果たした。この場の全員が参加するマルチバトル、ただ実際は極振り対その他全員だが。

 つい先程まで味方だったセナたち突入班、戦闘機隊、再生した戦艦、列車砲、バイク艦に戦車隊、その全てが極振りに……俺たちに向けられた。その反応は様々で、例えばアキさんやセンタさんは

 

「相手にとって不足なし。全力で行かせてもらう」

「暴れ足りなかったんだ、都合がいいぜぇ!」

 

 などと言いながら2人は、押し寄せる黒い虫の波濤と、プレイヤーの波の中に突っ込んで行った。当然の如く一刀で虫を8割斬滅するアキさんや、集団の中に馬が引くチャリオットで突っ込んだセンタさんは、文字通り物凄く楽しそうだった。

 

「おお、これですよこれ。やはり私の目には狂いはありませんでした」

 

 デュアルさんは我慢が効かなかったらしく、鎧を纏い兵器の群れに突っ込んでぶつかり合いを始めていた。兵器へっちゃらとでも言いたいのか、アドラステアと真正面からぶつかって無傷だったのには流石に驚いた。

 

「満腹なんですよね。でも違うんです。ひよこ」

 

 そんな先輩方の中でも最も異質だったのは、案の定翡翠さん。何か色々意味が圧縮されてるっぽい言葉を呟きながら、7色に変わり続けるひよこを周囲に嗾けていた。その結果、あたり一面に小型の隕石が降り注ぎつつ、プレイヤーの一部が気持ち悪い色と形に変異したり、同士討ちを始める怪奇現象が起こっていた。

 

「スリリングな味ですね」

 

 変異したプレイヤーに噛み付きながら、そんなことを言いつつ一喜一憂していた。何故か食べられているプレイヤーは恍惚とした表情だったことは、まあ言うまでもない。

 

 次に、姿は見えないけどレンさんとザイードさん。所々で嵐が巻き起こっていたり、プレイヤーの空白地帯が生まれているからそこだろう。

 

「あぁぁぁぁあああ、ユッキーもっと速度さげ、下げろぉ! 世界がやばいです、グルグル回りすぎて私の胃が爆裂します! 減速しなきゃ吐きますよこらぁ!?」

「ダメだぞユキ。もっと速度を上げろ、追いつかれる、追いつかれたら紙装甲の俺たちは一巻の終わりだ」

「どっちも無茶なんですけど、分かってくれやしませんよねぇぇ!?」

 

 ではこんな叫び声を上げている、プレイヤーに追われるサイドカー付きバイクに乗る極振りは誰か。そう、俺たちです。

 

 既にハンドリングとコースは愛車(ヴァン)任せ、運転で俺のやっていることはアクセルを全開にしておくことだけだ。とはいえ俺も暇じゃない。軽く数百は飛来する攻撃を防ぎつつ、爆弾をばら撒かないといけない。

 

「はっはっは、脚を手に入れた俺に勝てると思うな。お前もそう思いだろう?全肯定にゃしい!」

「そうですね! 全くもってその通りです! はーはっはっはぁ! テンション出てきました。行きますよ、エクスプローぉrrr」

 

 飛び交う銃弾、行き交う魔法、後方では爆裂が弾け、足元では爆弾が破裂し、その衝撃でいつの間にか運営が実装していたゲロ(虹色モザイク付き)が撒き散らされる。因みにゲロはスリップダメージ付きだった、使用者にも被害者にも。

 

 阿鼻叫喚、地獄絵図、時折歓喜する剛の者。この世の地獄が、バイクの轍には顕現していた。後でチューンアップがてら、ちゃんと洗車に出そうと思う。愛車も不機嫌だし、何よりこの後乗りたくない。

 

「主犯格ども、覚悟!」

「恨みを晴らす!」

「射手子の仇ぃ!」

 

 そうして走る中、3人のプレイヤーか回り込むようにして現れた。装備から察するに速度偏重型、ならやれないことはない。

 

「ザイルさん!」

「あいよ!」

 

 合図をすれば、サイドカーに取り付けられたバリスタから3つの爪を持ったクローが射出され、現れたプレイヤーの中マントを装備していた男の子を拘束、引き寄せた。

 

「ふむ、自爆しかありますまい!」

 

 拘束していられる時間は長くない。だから手際良く、男の子の全身に可能な限りの爆弾を搭載する。五月蝿いから口にテープを貼って、序でにテープでもうちょっと爆弾を巻き付けよ。でもって、障壁で良い感じに身体を固定すれば準備完了。

 

「射出お願いします! まさかまさかの、擬・掎角一陣!」

「あいよぉ!」

 

 気の良い返事と共に、バリスタから男の子が射出される。そして狙い通り敵陣の真ん中に着弾し、問答無用の大爆発。結構なプレイヤーを巻き込んだはずだ。

 

「苦渋の決断です、分かりますよね?」

「ファッハッハー! もっとやろうぜ相棒ッ!」

「どうしましょう、私2人のことが理解できなくなって……あ、ダメですこれおrrrrr」

 

 ネジの外れたハイテンションバカ2人に、ゲロと爆裂を撒き散らすキチ1人。字面と行動があまりにも酷いし非道威のは自覚しているけれど、このロスタイムレイドバトルを生き残るにはこれが一番効率的なのは明確だった。戦わなければ生き残れないのである。

 

「「ユキくん、覚悟(です)!」」

 

 なんてことを考えている間に、何度目かのセナと藜さんに追いつかれた。確かにこの隙を突かれるのは痛い、爆弾も咄嗟に出せる量には限りがあるし。けど、

 

「朧、ここで自爆です!」

 

 紋章で加速させた朧を、それぞれ50匹ほど嗾けて自爆させる。どうせリアルに帰ったら怒られるのは、何回か戦っているうちに判明している。だったら生き抜くしかない。特に何か報酬があるわけではないけど。

 撃墜した2人にはちゃんと障壁で壁を作りつつ、アクセル全開で振り切っていく。そんな中、白い影が進路上に割り込んできた。

 

「貴様にライディングデュエルを申し込む!」

「ガトリングファイヤー!」

 

 走ってきたのはシドさん。しかし今は戦闘中、特に理由もなく紋章で強化した《新月》を連射する。そしてそのまま、爆発する弾頭はシドさんを完全体から引き裂きシ/ドへと変える。

 

「貴様、デュエリストではないのか!」

「リアリストだ」

 

 やりとりが綺麗に決まり、互いにサムズアップをする。直後、ばら撒いていた爆弾に巻き込まれ、シドさんは後方で大爆発を引き起こした。偶にはこんな雑な戦闘も悪くない。

 

「む、ユキ。妨害し損ねた。大規模魔法が来るぞ」

「にゃしいさん、なんか燃やす系のフィールドを!」

「ええ、《星火燎原》! うぷっ」

「共鳴強化、《アイスエイジ》!」

「ん!」

 

 ザイルさんの警告に合わせてにゃしいさんに貼ってもらった、対魔法用の炎熱ダメージフィールド。それごと見渡す限りを凍結させる大魔法が、フィールドのほぼ全てにフレンドリーファイヤを発生させながら炸裂した。

 そして、攻撃を中和・防御できなかったということは、極振りにとって当たり前の結果が訪れる。

 

「はしゃぎ過ぎたか……」

「あっ……」

 

 急停止したバイクから吹き飛ばされた俺たちは、それぞれ凍った大地に叩きつけられHPを全損した。

 ストレスを晴らし切ったような清々しい顔をしたザイルさんが消滅して、対照的に口元を押さえて絶望し切った様子のにゃしいさんも消滅する。俺だけはスキルで蘇生したけれど、愛車(ヴァン)が動かない以上勝ち目はもうあるまい。

 

「……折角だし、ボスらしく武器変えよう」

 

 どうせお祭り騒ぎで、負けることのデメリットも特にないのだ。ならばと、右手に《新月》左手に《偃月》を持ち、普段はしまっている魔導書を最大限に解放する。専用領域的な【死界】も展開してるし、中々にこれボスっぽいのではなかろうか。

 そんなこんなで、俺たちの戦いはこれからだ!式の戦闘をしている間にタイムアップ。強制ログアウトが実行され、経験した中では過去一騒がしい中、イベント【ミスティニウム解放戦】は終了したのだった。

 



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①回板示掲いぽっれそ 話閑

【レイドイベ】ミスティニウム解放戦について語るスレ【焦土不可避】

 

 1.名無しさん

 ここは新イベに間に合わなかった奴らが実況するスレです

 誹謗中傷はできるだけなしの方向で

 マナーを守って楽しくデュエル

 観測方法は飛行船から

 次スレがあれば>900あたりを踏んだ人で

 

 2.名無しさん

 >1

 スレ立て乙

 

 4.名無しさん

 それよりも見たかアレ?

 列車砲に戦闘機に飛行船に……ミスティニウム、形残らなくね?

 

 5.名無しさん

 禿同

 

 6.名無しさん

 極振りが大人しくしてるとも思えねぇしなぁ

 

 8.名無しさん

 お、始まるっぽい

 

 9.名無しさん

 にしてはモトラッド支部いなくて困惑

 

 10.名無しさん

 装甲飛行船が飛んだぞ!

 我らが科学は世界一チイイイイ!!

 

 11.名無しさん

 >10

 回しもんだなてめぇ……?

 

 12.名無しさん

 試 製 ア ド ミ ラ ル ・ グ ラ ー フ シ ュ ペ ーwwwwww

 

 13.名無しさん

 草生え散らかしますわこんなん

 

 17.名無しさん

 墜落しそうで草

 

 19.名無しさん

 機関に問題抱えてませんかそれ……?

 燃料パイプ剥き出しだったり

 

 20.名無しさん

 そんなこと言ってる間に飛行船から発艦しましたね、戦闘機たち

 

 23.名無しさん

 どれも細部はちょっと違うけど

 F15、F22、A-10が2機、最後がグリペンっぽい

 

 24.名無しさん

 >23

 どれも戦闘爆撃機ですね

 

 25.名無しさん

 >24

 あっ(察し)

 

 26.名無しさん

 >24

 あのさぁ……

 

 27.名無しさん

 >24

 ダメみたいですね(諦観)

 

 28.名無しさん

 >24

 次回、ミスティニウム死す!

 デュエルスタンバイ!

 

 29.名無しさん

 綺麗なV字の変態ダァ……

 

 30.名無しさん

 >29

 誤字だけど誤字じゃなくて草

 

 33.名無しさん

 なんかドッグファイト始めたんですけど(困惑)

 

 35.名無しさん

 ミサイルとか機銃とかは良いんだけどさぁ……

 燃料気化爆弾を投げつけて起爆ってなにさ?

 

 37.名無しさん

 >35

 変態だよ

 

 40.名無しさん

 それよりA-10が戦闘機動してるのみてると胸熱なんだが?

 

 42.名無しさん

 あのA-10乗り達とフレンドだけど、しょっちゅう牛乳飲んでたから余裕だろそれくらい

 

 44.名無しさん

 >42

 あー……うん

 

 45.名無しさん

 >42

 足吹っ飛んでも出撃しそう

 

 46.名無しさん

 >42

 それなら納得だわwww

 

 48.名無しさん

 剣と魔法の世界(哲学)

 

 50.名無しさん

 なんかヤバそげなドラゴン出てきた

 

 52.名無しさん

 システム・スキャンモード

 うっ……頭が

 

 53.名無しさん

 >52

 このスレが盛り上がる

 鉄と油の匂いが充満する

 身体は闘争を求める

 アーマード・○アの新作が出る

 

 55.名無しさん

 チャフとフレアで攻撃回避してる辺り、まだちゃんと戦闘機してるなぁ

 

 58.名無しさん

 A-10無傷で草

 

 60.名無しさん

 流石A-10だ、なんともないぜ!

 

 63.名無しさん

 なんかクソデカ紋章出た

 

 65.名無しさん

 ユキだなこれ

 

 66.名無しさん

 こんな変態行為ユキしかやんないだろ

 

 69.名無しさん

 戦闘機から単発式拘束弾!?

 

 71.名無しさん

 電撃も流れてる。拘束武器かあれ

 

 72.名無しさん

 踊っておられる……>ユキ

 

 73.名無しさん

 音楽を奏でている、戦場音楽を……誰も……邪魔出来ない。指揮をしておられる、戦争音楽……! 我々は楽器だ! 音色を上げて咆えて這いずる一個の楽器だ!

 

 75.名無しさん

 少佐殿は草

 

 76.名無しさん

 ユキはガリだぞ

 

 79.名無しさん

 >76

 えっ、ガリィ?

 

 80.名無しさん

 >78

 オートスコアラーは帰ってどうぞ

 

 81.名無しさん

 ああああああああ!!!

 

 82.名無しさん

 ほぁぁぁぁぁぁぁ!??

 

 83.名無しさん

 爆☆散

 

 85.名無しさん

 ここで列車砲ですか……やりますね

 

 88.名無しさん

【悲報】早くもミスティニウム一部崩壊

 

 89.名無しさん

 2発目で確実に仕留めにきやがった

 

 90.名無しさん

 ミスティニウム、多分復興から始めないとダメだなこりゃ

 

 101.名無しさん

 親方ァ! 空から人が!

 

 103.名無しさん

 名だたるトップギルドじゃねぇか……

 止まるんじゃねえぞ

 

 104.名無しさん

 極振りも存在を確認!

 

 105.名無しさん

 >104

 ファッ!?

 

 109.名無しさん

 いや、割と真面目にあの縛りじゃ戦えるやつ多いし行けるのでは?

 

 114.名無しさん

 城が……城が爆発してる

 

 116.名無しさん

 しばらく内部戦だろうから、視点移ったな……?

 

 119.名無しさん

 あの、この。なに、この?

 

 120.名無しさん

 パンツァー、ふぉー!

 

 122.名無しさん

 壮観だなぁ……あと破壊力タケェ

 

 123.名無しさん

 剣と魔法のファンタジーとは(2回目)

 

 125.名無しさん

 でもこっちにも機械のドラゴン出てきましたね

 

 127.名無しさん

 うわぁ、しかも無双されてる……

 

 128.名無しさん

 >127

 戦闘機と違って小回り効かないからなぁ……

 

 130.名無しさん

 でも俺たち単体じゃ蹂躙される戦力だからな?

 あの戦車ひとつひとつ

 

 132.名無しさん

 第六の防衛の方もいい感じやん

 

 135.名無しさん

 準極が沢山いるからね、安心だわ

 

 136.名無しさん

 ドーラも接近したら蜂の巣にする仕様だから、いつでも砲撃出来るあたりエグくて笑った

 

 138.名無しさん

 それよりもさぁ……

 な ん で ア キ は 無 双 し て る ん ?

 

 139.名無しさん

 >138

 極振りだからさ……(理解放棄)

 

 142.名無しさん

 解説すれば、アレペットを力任せに振って、攻撃判定をペットステータスに置換してるからだね。ああ見えて技術の粋

 

 144.名無しさん

 やっぱり変態じゃないか!

 

 146.名無しさん

 そろそろさ、みんな目を背けてるあそこを見ない?

 

 147.名無しさん

 蟲蔵

 

 149.名無しさん

 見たくない……やだよぅ

 

 150.名無しさん

 うっ、ふぅ……

 

 152.名無しさん

 >150

 通報した

 

 154.名無しさん

 やっぱ称号持ちって頭おかしいんやなって

 

 156.名無しさん

 普段はもふもふをもふもふしてるもふもふのお姉さんがもふもふ

 

 157.名無しさん

 動物アレルギーにとっての神様だぞ!

 

 159.名無しさん

 い、嫌じゃ。人の子など孕みとうない!

 

 160.名無しさん

 い、嫌じゃ、人の仔など孕みTo Night!

 

 161.名無しさん

 蟲○っていいよね

 

 163.名無しさん

 >161

 台無しじゃねぇか!!

 

 165.名無しさん

 というより、街にも龍湧いたっぽい

 

 166.名無しさん

 モグラ叩きゲームだけどな!

 

 168.名無しさん

 機械の竜×蟲とかいう>161が喜びそうな状況

 

 170.161

 うっ、ふう

 

 171.名無しさん

 >161

 通報した

 

 173.名無しさん

 アキに葬られてよかったね機械のドラゴン

 

 174.名無しさん

 これは英雄ムーブ

 

 178.名無しさん

 そんなこんなしてるうちに、戦車隊の方がヤバイ

 

 181.名無しさん

 なんの光ィ!?

 

 184.名無しさん

 喰らえ戦車ビーム!

 

 185.名無しさん

 ドラゴンビーム!

 

 186.名無しさん

 姉ビーム!

 

 187.名無しさん

 おい待て今変なの混ざったぞ?

 

 188.名無しさん

 聖女(鮫)はお帰り下さい

 

 190.名無しさん

 あー、やっぱりこりゃダメだ

 

 193.名無しさん

 くっ、今日出勤でさえなければ……

 

 195.名無しさん

 >193

 涙拭けよ

 っハンカチ

 

 196.名無しさん

 お、お? 金色の光が

 

 200.名無しさん

「いいや、まだだ」

 

 201.名無しさん

 来た! 極振り来た! これで勝つる!

 

 203.名無しさん

 これは機械ドラゴンの死亡が確定的に明らか

 

 206.名無しさん

 はい予定調和

 

 207.名無しさん

 これだから英雄は……

 

 209.名無しさん

 おい英雄

 

 210.名無しさん

 ちょっといい加減にしろよ

 

 215.名無しさん

 戦車20両<<<機械のドラゴン<超えられない壁<アキ(ステータス封印)

 なぁにこれぇ?

 

 216.名無しさん

 俺たちはこんな化け物に、前回延々と挑戦してたのか……(絶望)

 

 218.名無しさん

 おい、ミスティニウムの方見てみろ!

 入り口あたりがすげぇことになってる!

 

 224.名無しさん

 氷河の中で、なんかヤベー大鎌のキチロリと、褐色っ娘が暴れてる……

 

 225.名無しさん

 ガタッ

 

 226.名無しさん

 褐色と聞いて

 

 227.名無しさん

 キチロリと聞いて

 

 229.名無しさん

 おちつけ

 

 230.名無しさん

 おちけつ

 

 231.名無しさん

 はえーよホセ

 

 239.名無しさん

 あっ、翡翠ちゃん美味しそうに食べてる

 

 240.名無しさん

 >239

 おいばかよせ!

 

 241.名無しさん

 >239

 ソレに触れるんじゃあない!!

 

 243.名無しさん

 いや、あのヤベー奴らは今はほぼ全員フィールドにいるから平気なはず……

 

 245.名無しさん

 翡翠ちゃんに食べられて血肉と化したい

 

 246.名無しさん

 >243

 何が大丈夫だって?

 

 247.名無しさん

 >243

 ダメみたいですね

 

 248.名無しさん

(´・ω・`)

 

 250.名無しさん

 見えた!

 

 251.名無しさん

 水のひとしずく?

 

 254.名無しさん

 気持ち的には明鏡止水

 見えたのはパンツさ!

 

 256.名無しさん

 >256

 観測班パイセン!?

 

 257.名無しさん

 >256

 なんだって!? それは本当かい?

 

 260.名無しさん

 白と水色のシマシマ模様だった……では、後は頼んだ……

 

 261.名無しさん

 お疲れっした!

 

 268.名無しさん

 あっ、【ナイトシーカー】と見たことない男も戦ってるっぽい

 

 271.名無しさん

 霧が出てきたな……(蒸気)

 

 273.名無しさん

 確かナイトシーカーって、イベント中は夜のステータスが適応なんだっけ?

 順当にクソ強いな

 

 276.名無しさん

  人人人人人人人

 >夜のステータス<

  YYYYYYY

 

 279.名無しさん

「お前にふさわしいソイルは決まった!」だとぉ!?

 

 281.名無しさん

 えらい懐かしいもんを……

 

 283.名無しさん

 マザーブラック……フェニックスか

 

 285.名無しさん

 特定早すぎィ!

 

 286.名無しさん

 凄まじい気の流れ……

 

 288.名無しさん

 体内から焼き尽くすとかえっぐ

 

 290.名無しさん

 ドラゴンステーキ美味しそうじゃない?

 

 291.名無しさん

 ドラゴンステーキになっちゃうぅぅ!!

 

 292.名無しさん

 >291

 何度も出てきて恥ずかしくないんですか?

 

 298.名無しさん

 ちょっと待って。なんか城の方、冷凍マグロみたいに人質が運び出されてるwww

 

 300.名無しさん

 これは草wwww

 

 301.名無しさん

 草に草を生やすな

 

 304.名無しさん

 いやぁ、なんかこう、こう、出荷だなこれ

 

 305.名無しさん

 冷凍マグロは出荷よー(´・ω・`)

 

 308.名無しさん

 お? なんか紋章と結界が出て

 

 310.名無しさん

 !?

 

 311.名無しさん

 !?

 

 312.名無しさん

 !?

 

 315.名無しさん

 飛んだぁぁぁ!!

 

 316.名無しさん

 そしてキャッチしたぁぁぁ!!

 

 317.名無しさん

 あ、飛行船が消えるってことはこれ見れなくなるんじゃ……

 

 319.名無しさん

 なんか運営が中継してくれるらしいよ?

 

 320.名無しさん

 運営有能

 

 322.名無しさん

 流石俺たちの運営だぜ!

 

 325.名無しさん

 ミスティニウムへの集中砲火が始まった……

 

 326.名無しさん

 一番手、戦闘爆撃機隊の空爆!

 

 327.名無しさん

 二番手、大和型戦艦レプリカ主砲

 

 328.名無しさん

 見る間に壁がなくなっていく……

 

 330.名無しさん

 街が、街が瓦礫に変わっていく……

 

 333.名無しさん

 三番手、戦車隊の砲撃!

 

 335.名無しさん

 四番手、列車砲!

 

 337.名無しさん

 城以外更地になりましたとさ(震声)

 

 340.名無しさん

 運営無能

 

 342.名無しさん

 流石は俺たちの運営だぜ!(バグに定評がある)

 

 345.名無しさん

 熱い手のひら返しに笑うしかない

 

 347.名無しさん

 ん? なんか動くみたいだぞ

 




1話に収まりませんでした
続きます


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②回板示掲いぽっれそ 話閑

 348.名無しさん

 海ww賊wwラwwッwwプww

 

 350.名無しさん

 極振りも乗ってるし

 

 352.名無しさん

 大合唱に草不可避

 

 354.名無しさん

 会社で見るもんじゃないわこれ

 もう会社中草塗れや

 

 355.名無しさん

 このカオスの権化みたいなゲームのイベント中継を会社で見るとか剛の者すぎじゃない……?

 

 359.名無しさん

 そして最後までやらないラップバトル

 

 362.名無しさん

 燃やし尽くされる城(壊れない)

 

 364.名無しさん

 というか言葉が全部統治法になってない?

 

 368.名無しさん

 貴様、統制局長!

 

 369.名無しさん

 急に歌ったり歌わなかったりしろ

 

 370.名無しさん

 城が変形した、だとぉ!?

 

 372.名無しさん

 今週のだとぉ!?だとぉ!?

 

 375.名無しさん

 これは鬼岩城

 

 377.名無しさん

 急にドルオーラしたりドルオーラしなかったりしろ

 

 379.名無しさん

 くらえギガデイン(バリバリー

 

 381名無しさん

 ロケットパンチだぁぁぁ!!

 

 383.名無しさん

 戦艦ぶち抜いたぁぁぁ!!

 

 385.名無しさん

 ビュ-ティフォ-……

 

 388.名無しさん

 動き止まったってことは、これ多分ギミックボスやな(名推理

 おまんもそう思うやろ工藤!

 

 389.名無しさん

 そうなのだ!

 全くもってその通りなのだ!

 

 392.名無しさん

 ハムタロサァン?

 

 395.名無しさん

 工藤ハム太郎?

 

 400.名無しさん

 クォレハ壊獣大決戦

 

 402.名無しさん

 誤字ぇ……

 

 405.名無しさん

 破壊耐性がなんぼのもんじゃい!

 

 407.名無しさん

 どうやら右肩からアキ&ザイードペア

 右脚からナイトシーカー&黒き風ペア

 左肩から着弾した極振りたちが

 左足にはすてら☆あーくが

 侵入するっぽいぬ

 

 409.名無しさん

 俺は怖い……ボスに列車砲が直撃して、爆散して現れた極振りがボスに乗り込むなんて頭のおかしい行為を、当たり前のように受け入れてる自分が……

 

 411.名無しさん

 >409

 ビールでも飲んでリラックスしな

 

 413.名無しさん

 デュアルが地面に埋まってて草

 

 416.名無しさん

 ユキもユキでそれを掘り出して……あれ、ユキ外にいるんだ

 

 419.名無しさん

 あれを足止めするためじゃね?

 確か第六壊されたら負けだし

 

 422.名無しさん

 ああそれで。ユキもダメージ与えられないのにちょっかい出してら

 

 424.名無しさん

 というより、あの2人が一緒に行動とか珍しくね?

 

 427.名無しさん

 それより、さっきのバイクから手を伸ばす構図良き

 

 428.名無しさん

 幸運極 × 物防極?

 

 430.名無しさん

 ナマモノはヤメロォ!

 

 433.名無しさん

 皆さん。クリム・スタインベルトです。

 

 私は仮面ライダーの、生みの親。

 このたびは皆さんに、残念なお知らせがあります。

 

 極振りのデュアルは、ノンケではない。

 

 私の性癖の、捨て石だったのです。

 

 435.名無しさん

 なんでこんなところにいるんだ……

 

 441.名無しさん

 それならユキはいいのかよ

 

 443.名無しさん

 >441

 だってあいつ嫁いるじゃん2人も

 

 444.名無しさん

 >441

 だってあいつ両手に花じゃん

 

 447.名無しさん

 なおその花は肉食な模様

 

 450.名無しさん

 あ、ボスがユキたちの方向いた

 

 451.名無しさんさん

 確かタゲ取りできないんじゃなかったっけ?

 

 452.名無しさん

 >451

 動きよく見ろ、あのボスAIじゃないぞ

 明らかに人入ってる

 

 457.名無しさん

 てことは、初めての中身運営ボス?

 やるぅ

 

 459.名無しさん

 ファッ!?

 

 460.名無しさん

 はぁ?

 

 463.名無しさん

 なんで片手でロケットパンチを受け止めてるんですか?

 

 465.名無しさん

 戦艦<ロケットパンチ<超えられない壁<デュアル

 

 469.名無しさん

 しかもノーダメとか……この前倒した奴ら修行僧かなんかかよ……

 

 470.名無しさん

 巨人、渾身のフリーフォール・グラッツェ

 デュアルは無傷

 ひえっ

 

 475.名無しさん

 巨人がおもちゃにされ始めたんですけど(困惑)

 

 477.名無しさん

 あ、両肩にHPバー出た

 やっぱギミックボスかコイツ

 

 479.名無しさん

 翡翠色が見えますね(灰色)

 

 480.名無しさん

 巨人内部の中継も見て見ろよ、こっちも酷いぞ(歓喜)

 

 482.名無しさん

 アキとザイードが通ったあと、瓦礫しかない……

 

 483.名無しさん

 そっちじゃなくて、今ラスボスと戦ってるアマゾンズの方

 

 485.名無しさん

 俺の目が確かなら、一方的に殺されてるように見えるんだが?

 

 490.名無しさん

 ネオRPの人が本体晒して負けてるとこ初めて見た

 

 493.名無しさん

 村長逃走。まあ残当だわな

 

 495.名無しさん

 おいヤベーって!

 外でモトラッド艦隊が!

 アドラステア乗ってきた!

 

 497.名無しさん

 クォレハ地球ローラー作戦

 

 499.名無しさん

 交通事故ってこわいね!

 

 500.名無しさん

 これから俺、運転気をつけるわ……

 

 501.名無しさん

 俺もSAKIMORI式運転自重する……

 

 503.名無しさん

 此のスレ適合者多くない?

 

 505.名無しさん

 ユキとデュアルも中に行くみたい

 

 507.名無しさん

 ああ!あとちょっとだったのに村長が!

 

 509.名無しさん

 これはすてら☆あーくもやばいか……?

 

 511.名無しさん

 ボスステータス出たぞ!

 

【Mistinium Old Geist】

 HPバーは10段+折り畳まれたものが複数

 そしてステータスは全てオーバー7000

 スキル搭載!

 

 ???????

 

 513.名無しさん

 は?

 

 514.名無しさん

 これはクソ運営

 

 516.名無しさん

 勝てないやろ困難

 

 518.名無しさん

 あいつれーちゃんやりやがったクソ!

 蘇生してるけど!

 

 519.名無しさん

 げぇっ、音波砲も効いてねぇ

 俺全損したんだけどアレで

 

 521.名無しさん

 あ、でも逃げれたみたい。何アレ、転移?

 

 524.名無しさん

 >521

 クトゥルフ系魔法の《消滅》

 準備必要だしコストもかかるうえ、特定アイテムないと使えない魔法。

 ざっくりいえば転移

 

 525.名無しさん

 はえー、さんがつ

 

 527.名無しさん

 さり気に舞姫の分身も即殺してるあたりほんと

 あの分身、普通にクソ強なうえに7回くらい被ダメ無効持ちなのに

 

 529.名無しさん

 !!

 

 530.名無しさん

 極振り、アッセンブル!

 

 532.名無しさん

 極振り、自爆!

 

 524.名無しさん

 翡翠ちゃんに目玉食べられるの羨ましい

 

 526.名無しさん

 極振り、全滅!

 

 528.名無しさん

 あー……これ、極振りもギミックだな?

 ボスのステータス見てたんだけど、急にクソ下がってる

 

 530.名無しさん

 本来の予定だと、戦闘のできない極振りを介護して、ボスのステータスを下げて行く的なアレだったのかもな

 

 全部極振りがぶち壊したがな!!!!!

 

 532.名無しさん

 やはり運営無能

 

 535.名無しさん

 運営「アワワ、アワワ……」

 

 537.名無しさん

 ナイトシーカー組とボス遭遇してんじゃん

 

 539.名無しさん

 ゔぉえ(集合体恐怖症)

 

 541.名無しさん

 酷い固定値の暴力だ……同じ召喚術師として怖い

 実際、最高位の召喚ポンポンしてるからヤバイ人だけどこれはなぁ……

 

 543.名無しさん

 うおっ、3割持ってった

 

 546.名無しさん

 流石ナーフされたとはいえ、UPO中最も火力が高い武器スキルだわ

 

 548.名無しさん

 攻撃にいちいちHP消費するから、攻撃系の技とかロクに使えねぇピーキースキルだよあんなん……

 

 551.名無しさん

 即死技まで含めれば、俺らでも数千万はダメージ出せるけどな

 なおナーフ前は億まで届いた模様

 

 553.名無しさん

 でもこれ、逃げ足遅いから追いつかれるくさくね?

 

 555.名無しさん

 ファイズアクセル(課金装備)が渡せれば……

 

 558.名無しさん

 ゔぉえ(本日2回目の集合体恐怖症)

 

 560.名無しさん

 恐怖症ニキはもっと自分を労って

 

 563.名無しさん

 と、ここですてら☆あーくと合流か

 

 565.名無しさん

「フロアごと消し飛ばします」

 

 569.名無しさん

 火薬にやられたか……

 おのれユキぃ!

 

 570.名無しさん

 カッ!(ボスのHP2本と半分)

 

 573.名無しさん

 火薬ガンギマリはこれだから怖いわ……その火力固定値だし

 

 575.名無しさん

 というかYo、運営カメラがすてら☆あーく見失ってるじゃん

 

 578.名無しさん

 運営やはり無能では?

 

 580.名無しさん

 そんなことを言ってる間に、モトラッド艦隊の決闘者がボスの体内にエントリー

 

 582.名無しさん

 そして三人にくっつく運営視点

 

 583.名無しさん

 運営有能

 

 586.名無しさん

 だから手のひらジクウドライバーかよ……

 

 588.名無しさん

 それ360度回転しない?

 

 590.名無しさん

 お前らのUPOって、見にくくないか……?

 

 592.名無しさん

 見にくい(確信)

 醜い(確信)

 

 596.名無しさん

 そして全員が合流し、完成した脳筋パーティ……

 

 597.名無しさん

 勝ったな風呂入ってくる

 

 600.名無しさん

 トッププレイヤーが揃うと圧巻だな

 

 601.名無しさん

 それにしても、ほぼほぼサポーターがいないフルアタ編成にUPOの現状がはっきりわかる

 サポーターはクソ、はっきりわかんだね

 

 603.名無しさん

 >601

 すてら☆あーくに関しては、多分ユキとれーちゃんだけで足りてるからな気がするが

 

 604.名無しさん

 >601

 いや、全員攻撃メインでもあるけどなんでも出来る構成だったはずだし……

 

 606.名無しさん

 絶滅危惧種なのは直受けタンクだけ

 サポーターもヒーラーも現役ゾ

 

 612.名無しさん

 誘導役はセナと藜か、速いししゃーない

 

 625.名無しさん

 こういう時、舞姫は分身できるから安心して逃走出来るよな

 

 627.名無しさん

 言うてお前、あれ空間認識能力というか並列思考前提の能力だし……

 

 629.名無しさん

 アレ使ってると気持ち悪くなるよな

 極振りは常時展開してるらしいけど

 

 632.名無しさん

 そんなことしてたら、いい感じに脳が開発されて現実でもやべーことになりそう

 

 639.名無しさん

 >632

 極振りほどじゃないが、半径2m展開をひと月くらいしてるんだけどさ、なるぞそれ。凄く気配とかに敏感になるし、なんか凄く見える

 

 642.名無しさん

 空間認識能力には目覚めても語彙は目覚めなかった男

 

 643.名無しさん

 つまり最大範囲を常時展開してる極振りは

 

 645.名無しさん

 ひえっ

 

 649.名無しさん

 ボスに追われてセナが逃げ込んだ先、ボスを滅多打ちにする気満々の布陣じゃん

 

 652.名無しさん

 そしてセナも反転してそこに加わると

 あっ(察し)

 

 660.名無しさん

 ん?ボスこれ無防備に突っ込む勢いでね?

 

 662.名無しさん

 さっきのフロア爆破の時、これと同じ逃げ方で固定値爆破されたからきっと……

 

 664.名無しさん

 用意周到で草

 軍師がいますねこれは

 

 665.名無しさん

 オイオイオイ、死ぬわアイツ

 

 668.名無しさん

 知 っ て た

 

 670.名無しさん

 間違いなく人間入りボスの弊害

 

 672.名無しさん

 あーあー、HPガリガリ削られてるし、エグい量のデバフ食らってるやん

 

 675.名無しさん

 集中砲火怖い

 HPの削れる勢いが悍ましいんだけど

 

 676.名無しさん

 流石舞姫やなぁ……

 

 678.名無しさん

  ( ゚д゚)

 _(_つ/ ̄ ̄ ̄/_

   \/   /

     ̄ ̄ ̄

 

  ( ゚д゚ )

 _(_つ/ ̄ ̄ ̄/_

   \/   /

     ̄ ̄ ̄

 679.名無しさん

 藜ちゃんやばない?

 

 682.名無しさん

 一撃でHPバー2本くらい持ってった気がするんだけど

 

 684.名無しさん

 オーバーロードこわひ

 

 685.名無しさん

 なんかアバターがブレてたしほんこわ

 

 687.名無しさん

 ナイトシーカーも一本斬り飛ばしたみたいだけど、なんというかこう、こう、迫力負けしてる

 

 690.名無しさん

 それな

 

 695.名無しさん

 お、ボス無敵時間入った?

 

 699.名無しさん

 運営有能

 

 703.名無しさん

 ボスが巨大化とかヤメロォ!(建前)ナイスゥ!(本音)

 

 706.名無しさん

 さりげなくウルトラマン式巨大化なのが腹立つ

 

 709.名無しさん

 怪人巨大化はやっぱり、ん?

 

 712.名無しさん

 なんか赤い弾が、頭に

 

 715.名無しさん

  /|_________ _ _

 〈  To BE CONTINUED…//// |

  \| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 

 718.名無しさん

 わぁい(白目)

 

 720.名無しさん

 天を焦がしてる……

 

 723.名無しさん

 燃えろよ燃えろ

 

 725.名無しさん

 炎よ燃えろ

 

 728.名無しさん

 火の粉巻き上げ

 

 730.名無しさん

 天まで焦がせ

 

 800.名無しさん

 これでイベント終わりかぁ……

 

 802.名無しさん

 よく考えたら、時間加速してるとこを実況中継って意味わかんねえな

 

 806.名無しさん

 今日帰ったらログインしようと思ってたのにメンテ入るのか

 はーつっかえ

 

 810.名無しさん

 ミスティニウム更地なんだから仕方ないじゃん

 

 813.名無しさん

 解放戦(焦土作戦)

 

 824.名無しさん

 >813

 現世からの解放かな?

 

 850.名無しさん

 ひと段落したと思ったら、なんかまだプレイヤー動いてるくさくね?

 

 852.名無しさん

 確かに

 

 854.名無しさん

 第二次極振りレイド戦とかwwww

 

 860.名無しさん

 最後横からかっさらったの極振りだったのかよ!

 

 862.名無しさん

 だっはwwwそりゃこうもなるか

 

 870.名無しさん

 もう我慢できねぇ!(職場ログイン)

 

 872.名無しさん

 俺も俺も(車内ログイン)

 

 875.名無しさん

 こんな面白いの乗り遅れてたまるか!(校内ログイン)

 

 878.名無しさん

 なんでみんなそんなところでログインしてるんですかねえ

 

 884.名無しさん

 そら高価なギア持ってるからよ(帰宅ログイン)

 

 920.名無しさん

 あ、じゃあ俺感想スレ建ててくる

 

 924.名無しさん

 サンクス

 

 926.名無しさん

 よっしゃ感想戦だ!

 のりこめー^^

 

 930.名無しさん

 わぁい^^

 



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閑話 通常運営、暁に(辿り着かず)死す

あんまり筆が滑らなかったので短めです。
あくまでオマケですしいいよね!


「よーしお前ら、気を引き締めて取りかかれ!」

「カカレェ……カカレェイ!」

 

 ミスティニウム解放戦開始前。プレイヤーが最大戦力を結集させていたように、運営も最高戦力を結集させつつあった。最近はゾンビの様に働いていた極振り(キチガイ)準極振り(キチガイ2号)対応班……否、規模が拡大して正式に対策室(トラブルシューター)になった結果問題対応以外彼等は出張ることがなくなり、極振りをゲームイベントの根幹に抵触しかける縛りで能力制限し、不安定要素を限りなく減らしたイベントなのだ。

 いつものように、問題が発生したからと言って、1つの部署だけに負荷を集中させてはいけない。自分達の力を結集して乗り越える。そう思っていた。そうなる筈だったのに……

 

「かんぱーい!」

「休みだー!」

「Foooooo!!!」

「実況スレ立ってんじゃーん」

「マ? 俺も潜る潜る」

 

 何なのだ、この状況は。運営スペースのすぐ隣、恐らく自宅から接続してるであろう対策室の連中が、これ見よがしに酒盛りを始めていた。まるで『絶対に自分たちが出張らなくてはいけなくなる量の問題が発生する』とでも言わんばかりに。しかも連中、その有り余った技術で自分達を顎で使っていた特定の相手以外には、姿も音声も見せない様に設定してあるらしい。

 朱に交われば赤くなる。諺の通り、彼らは既に後戻り出来ないところまで来てしまっていた。いや、既に人の形を失っていた頃から、こうなってしまうことは必定だったのかもしれない。

 

 その上司に給仕するお茶にクッソ汚い雑巾の絞り汁を入れるかの如き悪業は、その実極めて悪辣かつ精巧。イベントに手一杯なこちらとは違い向こうは完全フリーの為、こちらから完全に空間など繋げられない。こちらが騒ぎ立てても認識できているのが極めて少数な為、気違いとして見られるばかりか電子ドラッグをキメてるとでも言われかねない。そして向こうはイラつくこちらを肴に、適当な合いの手を入れたりしながら酒盛りが出来る。腹立たしいほどに完璧だった。

 

「イベント開始のアナウンスを!」

「デュエル開始の宣言をしろ磯野!」

「デュエル開始ィ!」

 

 悪ノリがひどい合いの手にイラつきつつも、あくまで想定通りにイベントは進んでいく。完璧な進行だ。そんな余裕が粉々に打ち砕かれたのは、中ボスである機竜が全て無惨に、一方的に破壊し尽くされた時のことだった。

 

「馬鹿な……なんで極振りが!?」

「なんでアキが止まってないのよ!?」

「ああ…大きな星が点いたり消えたりしてる……あはは、大きい。英雄かな? いや、違う、違うなぁ。英雄はもっとHPゲージがバァーって動くもんなぁー」

 

 極振り対策室では多発する、所謂『おい英雄、ちょっといい加減にしろ』案件である。かつてのようにうっかりダメージがオーバーフローして虚数になり、エラーが吐き出されまくるようなことは無くなったものの、依然ダメージは文字通り桁が違う。

 そんなもの相手に、普段対応をぶん投げている通常運営が対応出来るはずもなかった。何人かは白目を剥きガクガクと痙攣し、何人かは精神的に大ダメージをくらい行動不能に陥ってしまった。ここは現実ではなくVR界、感情を消そうと努めない限り、心情がダイレクトに反映される世界だから。

 

「あっ、城にトッププレイヤーがHALO降下を……」

「いやぁ……」

「街が、燃えている……」

「見ろ、私たちの努力がゴミのようだ!」

「ふふふ、君は運営の御前にいるのだぞ」

 

 着々と削られて行く運営の正気。努力の結晶がゴミのように削り散らされ、更地に変えられていく現実に誰もが目から光を失っていく。次第に口数は減り、ホロキーボードをタップする小さな音だけが響くように変わっていく。

 

「いいや、まだだ」

 

 だが、だがだ。彼等とて、極振り共の輝きに焼かれる者。届かぬ星を追い続けるもの。届かぬ故にバグは増え、バグるが故に会社から離れたくない。されど運営は、ここまで幾つもの修羅場を乗り越え踏み越えて来た。そう、言うなれば歴戦王運営だ。

 身体は、不屈の闘志で出来ている。血潮は流れず、心は硝子。しかし、幾度のメンテを越えて不敗。唯の一度も敗走はなく、唯の一度もその苦労は理解されない。彼等は常に一丸で、電気の消えた会社で勝利に酔う。故に、今の絶望に意味はなく。その身体は、無限の意志で出来ていた。

 

「Fooo!!」

「カッコイイ!」

「さっすが一般班のリーダー!」

「ブラボー!!」

 

 リーダーの一喝で復活した通常運営に、横から要らない野次が入る。キチガイに毒された奴らも、働かずに済むのならその方がいいのだろうか。なんて、数秒目を離した瞬間のことだった。

 

「リーダー! 街が完全に更地になりました!」

「リーダー! 人質がマグロのように出荷されています! これでは人質に施した細工が意味を成しません!」

「リーダー!」

「リーダー!」

「リーダー!」

 

 一瞬で、彼等の処理能力はパンクした。それは、間が悪かったとしか言いようがない不幸。彼等は物語の英雄でも、画面の向こうの英雄でもないのだ。気合いと根性なんてもので、心1つだけで、突然何かが変えられたりはしないのだ。そうやって、持ち直したはずのモチベーションは粉々に砕け散った。

 

「やはりこうなるか」

「対策室、チーフ……!」

 

 そんな彼等の前に現れたのは、自身の周囲に10枚ほどのモニターを浮かべた白衣に青髪のショタ。不機嫌さを声に醸し出しながらも、既に業務の代行を始めるその姿は、まさにやれやれ系主人公。

 

「どうせ止められないのさ、全部は。好きなように壊させてやればいい、ボス周り以外なら!」

 

 ただしチーフは、既にほろ酔いだった。口元から漂う酒精の香りが、そのことをどうしようもなく証明している。

 

「補強入るぞお前ら!」

「「ウェーイ!!」」

 

 だがそれも、対策室のメンバーの中ではまともな方だった。元より彼等は爪弾き者、最早モラルなど知らぬとばかりに出来上がった状態でキーを叩き始めたのだ。

 そんなふざけた状態で、自分たちより修正の効率が良いのが腹立たしい。しかも何故か匂いだけは近寄らない限り遮断されている。そんな見た目もスペックも人外な連中を束ねるチーフは、よく幼児退行することを除けば正気で人型で、相対的に極めてまともな人物だった。

 

「よし、確かこのイベントボスは半自動操作の試金石でもあったな。リーダー、情報を寄越せ」

「あ、ああ」

 

 そう言ってリーダーが、本来ボスを操作する予定だった人物を探し──当人を発見して、愕然とした。彼は白目を剥いて、泡を吹いてガクガクと痙攣していた。そう言えば彼は機竜の3号も担当してたっけ、なんて記憶がリーダーの脳裏を駆け巡る。

 

「成る程把握した。リーダー、ボスの操作は出来るか?」

「い、いいや無理だ。いや無理ではないが、想定された通りの動きは出来そうにもない」

「チッ、仕方ない。ならば俺が出る」

 

 テキパキと仕事を部下に割り振り、自身も多数の情報を並行処理する中宣言したチーフに、リーダーは涙が浮かんだ。そして自分はなんてダメなんだろうと思い──

 

「俺はガンダムで行く。つまりは俺がガンダムだ。私は誰だ?」

 

 直後そんなことはなかったと思い直した。同時に、こんな酔っ払いに1ミリでも感動しかけたことに後悔の念が湧いて出る。とはいえ、唐突に痴呆になったチーフを利用しない手は無かった。

 この空間の管理者権限を用いて、自分だけにゲームと同等のステータスを適応。固まるチーフに、ボスと接続用のベルトを目にも留まらぬ速さで巻き付ける。

 

「チーフ……貴方の仕事は、プレイヤーを殲滅することだ……」

 

 何故かバチバチと電撃を発し始めたベルトとチーフに、リーダーは耳を当て囁くように言葉を滑り込ませた。

 

「ううっ……出来ない! 私の仕事は、極振りに対応してバグを潰してプレイヤーを笑顔にする事だから……!」

「違うよ? 君の仕事は、イベントボスになってプレイヤーを殲滅して、その強さを見せ付ける事なんだよ」

「うわーッ!! ……酒漬極振.netに接続」

 

 直後、チーフが変質した。まるで変身するかのようにベルトからベルトが発生し、部屋の奥に設置されている操作ブースまで移動する。そしてその扉が閉まり、チーフはボスとして完成した。

 実のところチーフが正気に戻っていて、ボスになる為のいい口実に使われたことをリーダーはまだ知らない。リーダーがチーフに心の健康をゼツメライズされるまで、あと5秒。



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第135話 忘れ去られた学校行事

久々にリアルの方書くな……?


 ミスティニウム解放戦の後、予告通りにUPOはサーバーのメンテナンスに入った。そのメンテ終了予定時刻は、明日の朝8時頃。まあ何時もの通りならば、明日の正午くらいまでは伸びるだろうか。

 

「……味、締まってないなぁ」

 

 そんなだからか、いつもに増して夕食の味付けは適当になってしまっていた。最近沙織は割と忙しそうで家には来ないだろうから、さして問題ではないけど。そういえば、なんで沙織は最近忙しそうにしてるんだったか。

 

「あぁ、学園祭あったんだっけ」

 

 チラリとカレンダーを見て思い出した。正直ほぼほぼ関わってないから忘れてたけど、来週の金曜土曜で学園祭をやるらしい。うちの高校。

 言われてみれば、いつだったか回された調理係の練習に呼び出されたような記憶がある。俺含め男子2人、女子6人の計8人でパンケーキ屋をやるとか言ってた筈。UPOの所為で、何だか時間感覚が相当に狂ってる。

 

「そうと決まればー」

 

 某密林の通販から取り寄せてる青森県の方の醤油で、ちゃちゃっと料理の味を締めてガスを切る。火の元の安全を確認したら、ポケットから取り出したスマホを操作した。

 登録数が1桁の連絡帳から電話番号を呼び出して、1年ぶり位に親に電話を掛けた。とっくのとうに定時の時間は過ぎてるし、今なら連絡しても問題ないだろう。何時もの通り残業だろうけど。

 

「もしもし」

『友樹か、どうかしたのか? ちょっと父さん今ハイパー残業タイムかつ地獄のデスマーチ中なんだが』

 

 待つこと数コール、漸く電話に出てくれたお父さんの声はガラガラで、今にも死にそうな気配を漂わせていた。酒焼けか、或いはエナドリを決め過ぎているのか。分からないけど、案の定デスマーチに入ったらしい。これではもう望みは絶望的だろう。

 

「いや、来週の金・土に学校祭やるっぽいんだけど、いつも通り来ないよね?」

 

 さっき思い出したことだけど、ウチの学園祭は部外者を呼ぶ場合チケット制らしいのだ。なんだかんだ融通は利くらしいけど、来場者管理兼出し物の人気投票に使うんだとか。でもって、生徒1人に配られるチケットは2枚。もしお母さんとお父さんが来るなら、どうせ使う予定もないし渡そうと思ったんだけど……まあ無理だろう。当然期待はしてない。今まで来た試しもないし。

 

『……すまん。多分行けない、行けてもゾンビみたいな顔にしかならないと思う』

「だよね、知ってた。母さんもでしょ?」

『そうなると思う』

「分かった。じゃあ仕事頑張ってね」

 

 何処までもいつも通りの結果に、特に何も思わず電話を切った。昔はこれで、一々泣いてたなぁなんて思い出が蘇ってきたけど、それはさておき。

 問題なのはチケットが余ることだ。既にクラスから干され気味なのに、これ以上変に付け入らせる隙をくれてやりたくはない。でもあげる友達がいるわけでもないし、誰か誘う人がいるわけでも……

 

「あっ」

 

 いた。セナは両親分でチケットを使い切るだろうから、俺が動かない限り来れない人が。一般公開は土曜日だから、多分問題なく来れるだろうし。

 

「そうと決まれば」

 

 今度はSNSのアプリを起動して、そっちの無料通話で藜さん……空さんに電話を掛けた。わざわざランさんやつららさん、れーちゃんを呼ぶ理由はないけど──

 

『も、もしもし』

 

 なんてことを考えていたら、2回目のコールが鳴り切る前に通話状態に入った。早い……早くない?

 

「ちょっと相談があって電話したんですけど、今ちょっと時間あります?」

『大丈夫、です。それで、相談って、なん、です?』

「確か空さんの志望ってうちの高校でしたよね? 来週の土曜日に文化祭あるんですけど、良かったら来ます?」

 

 うちの高校、推薦入試は確か12月だけど、進学予定高校の学園祭なら観に来ても何の問題も、誰の文句もないだろう。

 

『えと、いいん、です、か? 確か、入るには……』

「うちの両親は来ないので。空さんと……1人じゃダメそうなら、誰か保護者の方とでも」

『いえ、1人で、大丈夫、です!』

「あ、はい」

 

 食い地味に大丈夫と言われて、こちらは頷くしかなかった。多分関係性としてはwin-winなんだろうし……まあいいか! うん、そういうことにしておこう。

 

『それに、しても、本当に、沙織さんの、言ってた通りに、なり、ました』

「それってどういう?」

『友樹さんは、きっと、私を、誘うって。昨日』

「あー……沙織なら言いそ、えっ」

 

 流石にそれは予想外だった。そこまで俺、沙織に交友関係とか把握されてたっけ……? 何だ……何だこの、真綿で首を絞められてるような危機感は。早くしないと手遅れになるような焦燥感は。

 

『その感じ、だと、グルじゃ、ないんです、ね』

「え、ええ。文化祭があること自体、思い出したの今さっきですから」

『それはそれで、いいん、でしょうか?』

「ダメなんじゃないですかねぇ」

 

 一応勉強という学生の本分は果たしてる、役割だけは果たしてる。けど、クラスの付き合いがないのはどうしたものかという話だ。正直知ったこっちゃないけど。イジメも沙織への飛び火もない分、何も苦じゃないし。

 

『じゃ、じゃあ、当日は、一緒に、遊びましょう、ね』

「はい、こっちこそよろしくです」

『よしっ』

 

 そんなこんなで数分雑談して、空さんの方が晩御飯だからということで電話は切れた。家出してきた時より、少しはいい関係になってるらしい。安心した。

 何か最後の言葉が引っかかるけど、まあいいかとキッチンに戻る。そうしてガスコンロの摘みを捻り、ボッ!と着火した時にさっき感じた疑問の答えを、空間認識能力で鍛えられた脳が弾き出した。

 

 今のは、少し見方を変えればデートの誘いなのでは?

 しかも中々に面倒くさい、歪曲した誘い方の。

 

 気がついた瞬間、動きが止まった。いや、いやいや待て待てちょっと待て。どう考えてもさっきのはデートの誘いでしょ。10人に聞いたら8人くらいは頷くレベルの。アウトですね分かります。沙織とは前夜祭一緒に回る約束して? 当日は空さんと?? 傍目から見れば美少女と??? 2日連続で???? それぞれの日一緒に文化祭を巡る?????

 

 客観的に見ればこれ二股なのでは(名推理)

 

「……アレク○! 刺されない方法を教えて!」

《すみません、よくわかりません》

 

 反射的に叫んだ声に返ってきたのは、そんな無機質な合成音声。広大なアーカイブにアクセスして検索しても、答えは404 not foundだったらしい。いや待て違う何を考えてる。

 

「そう、こういう時はこっちだ。ヘイSir○! 刺されない方法!」

《すみません、よくわかりません》

「ならなんか歌ってて!」

《プレイリスト1を再生します》

 

 落ち着こう、ちょっと気が動転してる。いい感じのアニソンも流れてるし、深呼吸しよう深呼吸。

 

「スゥゥゥ……げほっげほっ」

 

 噎せた。落ち着けてない証だ。ただ少しだけ時間を確保できたお陰で、なんとか頭を働かすことが出来た。

 さっき空さんはなんて言っていた? そう、「沙織さんの言ってた通り」だ。それなら少なくとも、こうなることは予想出来ているはず。というかされていると確信できる。であればきっと、ここまで織り込み済みの筈。というか、俺抜きで既に談合が成立してる可能性まである(自意識過剰)これは完全無欠のボトル野郎になるしかない。

 

 なんて茶番は置いておいてだ。

 

 今からやっぱりなしで、なんて言うのは有り得ない。そんな妻に浮気がバレた夫ムーブを全力でかますのは、素直に嫌だ。だったらハッキリ答えろって話なんだけど、諸々の装飾を剥ぎ取れば俺自身に覚悟がないという言葉に尽きる。つまり情けないけど、今すぐには決断できないということだ。

 とはいえこのまま筋書き通りに進むと問題が……問題、が……問、題、が? 問題ある……か? 俺の名誉が消し飛んで、多分さらにクラスから干されるくらいしかなくないか……?

 

「取り敢えず確認取るか」

 

 脳内で『お前のその根性、醜くないか……?』と煽ってくる幸村 TOTOKIを無視しながら、再度スマホを開いて沙織にSNSで連絡。文面は要約すれば「仕組んだ?」という言葉のみで、秒で来た返信には「バレた?」の一言。その後煽りスタンプが送信されてきてるから、嘘だったり、無理をしてるわけでもなさそう。

 

「はぁ……」

 

 大きく安堵の息を吐く。いつのまにかキリキリと痛んでいた胃も、この分だと持ち直してくれそうだ。まあ、うん。無くなるのは俺の名誉だけだしいいよね、うん。不純異性交友な訳ではないから、評価に響くこともあるまい。

 

「あ、味噌汁煮立ってる」

 

 考え込み過ぎたせいか、味噌汁は沸騰していた。即座にガスは切ったけど味が……いや、これはアレだ。所謂コラテラルダメージというものに過ぎない。目的の為の致し方ない犠牲だ。死か自由かの選択だったから、うん。

 

「お前の言い訳、醜くないか……?」

 

 自分の苦しい言い訳を自分で煽り返しながら、さっき雑に味を調整したおかずの方を温めなおし始める。ここまで適当に茶化せるようなら、まあ精神的に落ち着いたと言っても問題なさそうだ。

 

「取り敢えず誘った手前、全額奢りができる準備は前提として……」

 

 元々は微塵も興味がなかったけど、お店の並びとラインナップもある程度予習しておこう。後は……当日のシフトから合流時間を合わせないと。

 シフトの時間は確か、沙織とは絶対に一緒に行動させないって意思が透けて見える、俺が午前中全部が調理時間/沙織が午後全部が接客って感じになってた記憶がある。普通顔の邪魔者には労働させて、美少女には客の掻き入れどきに接客させる……合理的だ。

 

「確かメインイベントは午後に揃ってるし、今考えるとそれも当てつけか」

 

 でも逆にそれが、空さんを案内するには好都合になったなんて誰も思うまい。……あっ、いや、なんか寒気がしたから誰かの目論見通りな気がしてきた。




作品開始168話で漸く喋った主人公パッパ(対策室所属)
そして鋼のムーンサルトを決めてる主人公の自制心を崩す為に手を取った2人


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第136話 学園祭(前夜)

ポケモンカードにはまって投稿が遅れたので初投稿です
リアルはもう少し続きます


 UPOではメンテが開け、第七の街ミスティニウムの復興イベントが開始された以外の変化はなく、日時は流れて学園祭前夜祭当日。外部の人間を招いて大々的にやる明日とは違い、学生と教員だけで騒ぐ前夜祭。

 

「とーくん、一緒に回ろ!」

「りょーかい」

 

 軽いホームルームが終わった直後、予定通り俺は沙織と一緒に出店してるお店を時間まで見て回ることになった。いつものように手を繋いでいるせいで、いつも通り凄まじく注目を集めて。序でに俺の方にだけ、男子連中から足や手や肩も出されてる。

 

「んー、やっぱり大体のお店やってないね」

「そりゃあ明日がメインだろうしね」

 

 ついさっきまで尻尾が千切れそうな程動いてそうだった沙織のテンションが、目に見えて下がっていた。耳も尻尾も力無く下がっている強めの幻覚が見えるくらいには。

 ステージ発表がある為体育館に強制招集されるという時間制限がある中で、楽しめる物が少ないのは確かに悲しい。食べ物関連の扱いは難しいから仕方がないといえば仕方ないことだけど……

 

「でも、お化け屋敷とかはリハーサルしてるらしいよ?」

「そうなの? じゃあ行こ!」

 

 一気にテンションが上がった沙織を引き留める為に、少し強めに手を握って引いた。夏祭りの時もそうだったけど、俺に人混みを突き抜けて走り回る程の元気はないのだ。

 

「いつも言ってるけど、そんな勢いで走ったらぶつかるから」

「そうだけど、楽しみなんだもん」

 

 むっと頬を膨らまして沙織が抗議してきて、周りの男子連中から一斉に舌打ちが聞こえた。やっぱりこう、実害はないとはいえずっとこの調子だと少しイライラする。そこら辺のモップでど突けないかなぁ……いや、沙織と一緒にいる以上やらないけど。

 

「それで、何年生の所に行く? 1年から3年まで1つずつあるっぽいけど」

 

 あからさまに転ばせようと出された足を踏み付けながら、特に何事もなかったように沙織に聞いた。

 

「んー、それなら3年生のとこ行ってみたいかも。正直1年生のは中身知ってるし」

「おっけー。確か3階だっけ?」

 

 学園祭のお化け屋敷といえば、低コストで人気と人入りの見込める人気出店らしく、話を聞くに毎年どの学年にも出来るんだとか。それで1回全てがお化け屋敷になって、学年ごと1つになったらしい。故にどの学年のも、勝ち残るだけの何かがあるとかないとか。

 

 なんて会話をしながら階段を登って、2年/3年生のスペースである校舎の3階が近づいて来た頃。見えた光景に、明らかな異常が()()()

 

 空中を泳ぐ魚の群れ。廊下自体は水が張られたように光が揺らめき、床は砂地のようになり海藻が揺れている。鼻を利かせれば、学校や隣の沙織の匂いに混じって、磯っぽい海の香りまでしている。辺り夏にUPO内で飛び込んだ湖の中を思い起こす、異世界がそこには広がっていた。

 

「ぶい……あーる、じゃないよね」

「多分AR……?」

 

 その光景に見とれて、それなりの人数が動いてる最中だというのに、2人揃って動きを止めてしまった。ちょっとどころじゃなく、技術レベルが違いすぎる。俺たち1年はダンボールとかを切り貼りしていたのに、たった1年差なのにこれ程までに違うのか。

 

「ARって確か、拡張現実ってやつだよねとーくん」

「そうそれ。でも今がVR全盛ってことを考えても、学生でどうこうできる様な機材でも資金でもないはず……」

 

 少し前マイファザーが深夜に家に帰ってきて、哺乳瓶で酒を摂取しながらそんなことを愚痴ってたはず。アヒージョ作らされたから覚えてる。

 それ以前に、そもそも俺たち受け取り手がなんの器具もつけてないのに、ARを見ることが出来ているとはどういうことなのだろうか。デタラメすぎて正直寒気がするのだが。

 

「後輩……?」

 

 そうして2人で呆けていた10秒ちょっとの間に、幽鬼のような足取りで歩いていた先輩と思しき男子がボソリとそう呟いた。その乾きぎょろついた目は、いつも両親がしている物と全く同一の気配を感じた。

 

「後輩だ……」

「後輩?」

「本当に後輩だ……」

「マジで来てるの?」

「後輩じゃん……」

 

 そして、その男子の呟きにつられるようにして、ボソボソとと言葉を呟きながら無数の人影が集まってくる。お化け屋敷に行く予定だったけど、既に状況がホラーの様相を呈してきている件について。

 

「ひっ」

「大丈夫。最悪、いつも通りなんとかするから」

「……うん」

 

 ゾンビのように集まる先輩方から隠れるように、沙織が手を握ったまま俺の後ろ側に回った。UPOじゃもっとヤバいのと渡り合ってるのにリアルではダメらしい。まあ、最悪抱えて……お姫様抱っこで逃げればなんとかなるだろう。

 

「カップルだ……」

「カップルだ……」

「新鮮なカップルだ……」

「しかもこの信頼感、長い付き合いだ……」

「それでいて甘酸っぱい気配を感じる……」

「ペロッ、これは幼馴染カリ」

「ご馳走じゃないか、たまげたなぁ……」

 

 集まった集団から発せられる“圧”としか言いようのない異様な雰囲気に、ますます沙織が小さくなり隠れてしまった。しかしそれすらも先輩方にとってはいい餌だったらしく──

 

「幼馴染はいいぞ……」

「怯える女の子……庇う男の子……閃いた」

「書いた」

「描いた」

「製本した」

「1部300円で」

「通報した」

「テンプレはいいぞ……」

「これは†ナイト†」

「流石ナイトは俺らとは格が違う」

「このイチャイチャには俺の怒りが有頂天」

「お前ら馬鹿にするなよ……」

 

 妙な興奮に包まれた先輩方に、そう簡単に逃げられないように俺たちは取り囲まれてしまった。お陰で折角のARがブレブレになっている。ARの映像自体には、ちゃんと実体はないらしい。

 

「よーしお前ら! ご案内して差し上げろ!」

「「「Sir,yes,sir!」」」

 

 しかしそんな状態は、廊下の奥の奥の方から響いたその一喝によって撃ち払われた。そしてまるで、神話のモーセが海を割ったように人の波が真っ二つに割れた。その奥に現れたのは、不気味な極彩色に輝く廊下と、2つの入り口に続く人の道だった。嘘、うちの高校……ヤバすぎ……?

 

「我らが2年のお化け屋敷は深海の恐怖を呼び起こす……ええ、生徒どころか先生まで失禁しましたよ。ふひひ。心臓に弱い方は注意でござる……いあいあ」

「我ら3年生のお化け屋敷は宇宙の恐怖を呼び起こす……作った手前、我らも耐えられない出来に仕上がりました。ああ、薔薇の海が見える……いあいあ」

 

 それはもうお化け屋敷じゃない気がするのは気のせいだろうか。しかもARに紛れて、どこからこの解説する2人が喋っているのかも分からない。それにそんなことを言われたからだろうか? 騒めきがこう、ヤバめの神様を讃える呪文にすら聞こえてくる。

 

「ふんぐるいふんぐるい?」

「ふたぐんふたぐん」

「うがなぐるうがなぐる」

「「あぁッ!?」」

 

 冗談で振ってみたら即座に言葉が返ってきて、なんか知らないけど向こうが勝手に仲間割れを始めた。……あれだろうか、音楽の方向性の違いならぬ信仰の方向性の違い的な。

 

「どうする、沙織? この状態なら突破できると思うけど」

「ううん、大丈夫。とーくんもいるし、折角だから体験してみたいな」

 

 一応そう提案してみたけれど、当初の予定通りお化け屋敷には行くことになった。ただし、繋いだ右手はいつのまにか所謂恋人繋ぎに、絶対に離すものかとこっちが痛いほど握り締められている。

 

「モンスターみたいな奴なら、ゲームで散々見てきたからね! 多分楽しめると思うんだ」

「そっか。じゃあ行きますかー」

 

 少しだけど沙織の前を歩きながら、元々できていた人の道を縫って3年生のお化け屋敷の入り口にまで辿り着いた。隣のお化け屋敷の入り口が……こう、明らかにルルイエモチーフな非ユークリッド幾何学的模様の門なのに対し、こちらは少し銀色がかった門となっていた。

 入り口のすぐ隣には、机とその上に置かれたハンドベルのような大きさの鈴があった。持ち手に銀塗装された鍵の意匠がある辺り、モチーフは明確か。そして「ギブアップの時は全力で鳴らせ」と書かれたメモが、鈴の隣に貼り付けられていた。

 

「鈴はどっちが持っておく?」

「私だとすぐ鳴らしちゃいそうだし、とーくんのほうかな」

「はいはい」

 

 これで両手が埋まったけど、まあなんとかなるでしょ。そう判断しながら、沙織と一緒に門のような扉に触れ──引き戸のはずなのに何故か奥に向けて門が開き、異界のような光景が広がった。

 まるで氷河のクレバスの中にいるような、何処までも続くように見える一直線の氷の道。左右の壁であろう場所は青褪めた氷に覆われ、上方の遥か彼方に見える空は荒れ狂っている。

 

「それでは、これより当迷宮の説明をさせていただきます」

 

 沙織と一緒にそんな光景に見惚れていると、突然目の前からそんな声が聞こえた。慌てて視線を向ければ、そこには今の今まで居なかったメイド服の人の姿があった。……あ、いや、これ人じゃない。映像だ。

 

「お願いしまーす」

 

 沙織はそのことに気がついてないらしく、気軽に話しかけていた。多分これもギミックの1つだろうけど……まあ、いっか。ネタばらししても興醒めだし。

 

「はい。当迷宮の目的は、この世界よりの脱出です。舞台内を探索して、化石、ノート、何かの入れられた試験管の3つを見つけ出してください」

「はーい」

 

 沙織が俺の手ごと手を挙げて返事をするのを見ながら、そこら辺はちゃんとお化け屋敷をしているんだなと再認識する。というかやっぱりこれってモチーフ……(アイデアロールクリティカル並感)

 

「そレではお楽シみクダSaいiiiiiii!」

 

 そして説明が終わった直後、メイド服姿の人間だったものはドロリと溶けて、コールタールのような色をして液体となって地面にぶちまけられた。そしてそこに無数の口や目が浮かび上がり、特徴的なテケリ・リ!と言う言葉を輪唱するように響かせながら、風景の奥の方向へ滑って消えていった。

 

案の定こうなるよねと隣を見れば、真っ青に染まった沙織の顔が。痛いほど握られた手も震え、あ、これ悲鳴が来る。

 

「きゃあぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 鼓膜の替えが必要みたいですねクォレハ。俺自身も、いきなり来る系はマズイしなぁ……人じゃないから分からないし……割と正気も削れそうだけど楽しそうだ。




謎のAR機器の出所は、趣味でそういう機械いじりをしてる内藤ホテプ君です。黒い肌が特徴ですね。


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第137話 文化祭(前夜)②

 着替えることはなかった。お互いの名誉の為に内部での詳しい状況は語らないけれど、思っていた以上にクオリティが高過ぎるお化け屋敷だったとだけは言っておく。

 特に途中で出てきた神話生物達。テケリ・リと鳴くコールタールみたいなアレとか、五芒星型の頭を持った謎生物とか、渦巻き状の楕円形の頭を持ったピンクの甲殻類とか。沙織は気づかなかったみたいだけど、一部明らかに人じゃない気配してたのに動いてたし。もううっかりタイムマシンが欲しいなんて言えなくなった。

 

 と、そんなアクシデントはあったものの。なんとかお化け屋敷を脱出して教室に。時間が来て、体育館で本格的に前夜祭が始まったのだった。

 

「「お前らー!! 盛り上がってるかーーッ!?」」

「「「「「Yeeeeeah!!」」」」」

 

 司会の先輩2人組のコールに返すレスポンスで体育館が震えた。本来指定された席から大半の人が立ち上がり、入り乱れて興奮が高まっている。そんな中何故か、俺は沙織を膝の上に乗せてそれを観ていた。

 

「大丈夫とーくん、見えてる? 重くない?」

「どっちも大丈夫。沙織こそ高さ足りてる?」

「ばっちり!」

 

 それなら良かったとホッと胸をなでおろす。同級生の目じゃなくて先生の方からの目が痛いけど、まあこれくらいは許容範囲だ。……嘘だ。ぶっちゃけお互いの家に泊まったり云々がバレたら、指導される未来しか見えないから割と怖い。

 

「イかれたエントリーを紹介するぜぇぇぇぇ!!!

 エントリーナンバー1! 去年舞台上でマンマンミでガチホコなバトルをした結果、出禁を食らった彼奴らが戻ってきた! 美術部&書道部合同、大規模ライブペインティングだぁぁぁ!!」

「「「「「Yeeeeeah!!」」」」」

「しかも今年は、何やら先生方に許可を取り付けた模様。前列で見たい奴は、ビニール傘を受け取ってください。自己防衛ですよ自己防衛、しないとお母さんが泣きますからね」

 

 補足するように女子の先輩が説明するけど、それは高校としてOKなのだろうか。閉まった暗幕に、富嶽三十六景をバックにライブペインティングの文字がえらく達筆な文字で書かれていた。なんだろうあのフォント、物凄く馴染みがある気がする。

 

「エントリーナンバー2! 学年が上がる度に狂っていく我が校随一のヤベー奴ら、ハザードは今年も止まらない! AR技術を引っさげて、演劇部がそれぞれの学年で参戦だぁぁぁぁ!!」

「「「「「Fooooooo!!!」」」」」

 

 男子の先輩がテンションアゲアゲで叫ぶと同時、暗幕にデカデカと、某大乱闘して叩き込む兄弟ゲームのDLCの如く『演劇部 参戦!!』の文字が投影された。当然効果音付きで。さっきのお化け屋敷といい、なんでこんな無駄に技術力があるのだろうか。

 

「演目は

 1年【学校で起こる由無し事をそこはかとなくかきつくってみた感じの演劇】

 2年【異譚 人魚姫・嘲章】

 3年【「お前如きに使う金があるか」と予算枠から追放されたダム、歴代最強の台風を抑え込む】

 の、順番でお送りします。お前ら馬鹿じゃねぇのってくらい頭がキマってますね! というか実際に何本か頭のネジは外れてると思いますよ私は! 特に一年生は、変態じみた高学年にどこまで食いつけるのか、いやぁ、今から胸が踊ります!

 また、この演目終了後休憩時間が入りますので、その時に花を摘みに行ったり雉を撃ちに行ったりしてください」

 

 女子の先輩が興奮隠しきれぬといった様子で、どう考えてもおかしい内容を読み上げた。先程の参戦表記の下に文字が書き連ねられていくが、1年生は割と置いてけぼりを食らってる人が多数いる。当然ノリにノッてる人も、俺たち含めて多数いるけど。ここは山じゃないぞ! とかの野次が飛んでいることからもそれは明らかだ。

 

 いや待てそうじゃない。何で先生方はこの演目で誰もツッコミを入れなかったのか。

 

「エントリーナンバー3! 全国出場おめでとう吹奏楽部! でも俺らは知ってるぜ、お前らだってハッチャケたいことを! ブチかましちまえ、去年見たくなぁ!!」

「去年の演奏は、途中から唐突に歴代仮面ライダーOPメドレーに変わって、全員がベルトで変身を始めるサプライズがありました。全員がダンス部も顔負けなキレッキレの変身でしたね。今年はどんな演奏をしてくれるのでしょうか、楽しみです」

 

 そんな過去があったからだろうか。大体わかる感じの説教BGM(生演奏)をバックにして、マゼンタ色の文字で『吹奏楽部参戦!!』と投影されていた。学校祭とはいえ、そういう物の持ち込みは禁止だった筈じゃ……祭りの会場だから良いのか(カシラ並感)

 

「エントリーナンバー4! 今年もやってきたぜ軽音楽部! ペンライトの準備はできてるか? 俺は出来てる! 残念ながら今年は送風機を動かせないが、盛り上げていってくれよぉぉ!!」

「また、昨年同様軽音楽部以外の人員によるバンド演奏も予定されています。今年は去年のテスラコイルとバグパイプに続いて、また謎の楽器を購入したとのこと。楽しみですね」

 

 堂々と『軽音楽部&外部バンド参戦!!』と文字が投影される中、ハイテンションの男子先輩と落ち着いた女子先輩が軽く解説をしていた。「やっぱりそういう用途じゃねぇかッ!!」と先生方の席から野次が飛んでいるがそれで済んでる辺り、事実上の黙認とみた。……いや、うちの高校ハッチャケ過ぎじゃない??

 

「ねえとーくん。テスラコイルって、楽器じゃないよね……?」

「楽器として使う人も、いないことはない……かなぁ」

 

 このVRが席巻する時代でも曲は理解出来ない、コアなファンが大量にいる例の人(存命)を知っている以上、沙織からの疑問をきっぱりと否定することは出来なかった。例の人、何故か今でも若いし喉からCD音源レベルの声を出せているのが不思議でならない。

 

「エントリーナンバー5! ダンス部新体操部等の合同によるパフォーマンスだ! 奇抜過ぎて大会では順位を取れなかったその踊り、見せつける機会はここにあるぜ!」

「レギュラーを外された腹いせに暴露しますが、彼女たちの大半はイキってるだけの彼氏もいない奴らです。押し倒せばこっちのもんです。ほら男子、好みの女子がいたらアタックするんです。3人に勝てるわけないだろあくしろよ」

「ふ、不純異性交友は停学だから気をつけろよ!」

 

 隣に立つ男子先輩がちょっと引き気味になりながらも、目が死んでいる女子先輩にフォローを入れていた。俺たちの年頃の男子なんて性欲の塊みたいな猿なのに、ほぼ誰も歓声を上げない闇深案件だった。

 

「そ、そしてラストエントリィィィ! 不明! 正体不明! 思わず司会の私もぬえええんと泣きたくなります。でもまあそこは、教師も狂する我がきょうきょう……間違えました涙そうそう。それはそうと我が高校! 何が参戦するのだとしても、気持ちよく盛り上げてはくれるでしょう!」

「前夜祭は以上のプログラムで構成されています。とまあ、こんな堅っ苦しい話、もう飽き飽きですよねぇ!」

「そうだー!」

 

 マイクを観客席(こちら)側に向けて問い掛けられたことで、色々な場所から賛同の意見が上がる。沙織も叫んでいて、楽しそうで何よりだ。

 

「「それでは! 第67回学園祭、開会式をこれにて終わります!!」」

 

 歓声が巻き起こる中、一礼して先輩方が舞台上から降りて行く。お互いマイクを持っていない手を、恋人繋ぎに結びながら。それに目敏く気づいた誰かが口笛や指笛を吹き鳴らし、会場のボルテージかどんどん上がって行くのを感じた。

 

「楽しみだね、とーくん!」

「だね。やっぱり先輩が別次元に生きてる感じがして、割とすごく楽しみ」

 

 俺たちも来年にはああなってるのかと思うと、割と怖くもあり楽しみでもある。恋人云々の話ではない。なんというかこう「知識として常識を知ってるからこそ本性を抑えてる」みたいなあの先輩方の方だ。たった1年で、どうやったらあそこまでおかしくなるのだろうか。

 そんなことを思っていると、パシャリとカメラアプリのシャッター音が聴こえて、何故か頬を横に引っ張られた。

 

「沙織……!」

「ごめんね。でも、学校では絶対作り笑いしかしないとーくんが、久し振りに楽しそうに笑ってたんだもん」

 

 下手人に文句を言おうとしたら、その前にそんな豪速球が返ってきた。……やっぱり、沙織にはバレていたらしい。上手く隠していたつもりだったんだけど。受け取り損ねたそれに何かを返す前に、遠慮なく沙織がもたれ掛かってきた。高い体温が伝わってきて、何時ものどこか甘い匂いが広がる。

 

「私はいっつもとーくんに甘えて、助けて貰ってばっかりだから、本当は言っちゃいけないのかも知れないんだけどさ。私と出掛けてる時とか、ゲームの中みたいに、笑ってるとーくんが私は好きだよ」

「……そっか」

「でも! とーくんの笑顔は私と……まあ、空ちゃんはいいかな。2人だけで独占するもんねー。無理は、しないでね。まあダメそうだったら? 存分に私に甘えていいんだよ?」

 

 そう言って沙織は、ぐりぐりと擦り付けるように頭を押し付けてきた。いやそんなマーキングするみたいなことしなくても……ああもう、髪の毛ぐちゃぐちゃになってるし。

 

「大丈夫、もう昔ほど弱くはないから。それに、そんなこと言ったら俺の方こそいつも引っ張って貰ってばっかりだよ」

 

 流石に椅子のバランスが危ないので、ポンポンと軽く頭を撫でながら落ち着いてもらう。ああもう、足バタバタされたら倒れるでしょうが。それに気合いで耐えないと、生理現象で大変なことになってしまう。

 

「それよりほら、もうそろそろ始まるから。それに、こんなしんみりした話今は合わないじゃん?」

「うん……そうだね! 今からは目一杯盛り上がっていこう!!」

 

 なんとかそうして話題を逸らして事なきを得たけど、割と真面目に危なかった。胸を撫で下ろしつつ、頭のおかしい学祭が開幕したのだった。

 



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第138話 文化祭(当日)

TRPGに嵌ったので初投稿です


 正体不明枠で乱入した先生方がARによる特殊効果とロープアクション込みの殺陣をし、別れの挨拶がブレイクダンスしながらというサプライズで前夜祭は幕を閉じた。

 正直自分でも何を言っているのかわからないが、今でも信じられない。だがしかし、事実先生方はやっとうを振り回すタイプの演劇(多分忠臣蔵ベース)をやっていたし、校長先生はカツラを使って高速回転していたのだ。

 

 会場が大興奮するそんなことはあったがそれはそれ。

 

 一先ず熱狂はなりを潜め、一般的な高校っぽさを取り戻した我が校の文化祭は一般公開の日を迎えた。そしてそれは、空さんが文化祭に来ることも意味していた。正門で12時頃に待ち合わせである。だからこそ、早く仕事を終わらせなければいけないのだが……

 

「厨房供給薄いよ、何やってんの!」

「コンロが足らんのです!」

「あっ焦げた、まあいいでしょ!」

「3秒ルールは出せないって言ってんだろ!? 私たちのお昼ご飯だっての」

「ホットプレートが死んだ!」

「コレクッテモイイカナ?」

「あの、僕は何をしたら……」

「「「あんたは生地を作るんだよぉッ!」」」

 

 朝7時から入っている厨房は、午前11時を過ぎた今なお戦場だった。寧ろ荒れ具合は、昼に近づくにつれて増していってる気がしないでもない程だ。

 俺含め料理ができるメンツは、両手にフライパンとフライ返しと生地と油を持ちパンケーキを量産。料理が不得意なメンツもホットプレートでパンケーキを量産。出来たそばから販売組が持って行くせいで、トッピング組も悲鳴を上げている。

 

「これで沙織が午後の店担当じゃなきゃ、躊躇なく見捨てられるんだけどなぁ」

 

 そんなことを呟きながら手を動かし続けていれば、すぐに時間は経って12時少し前。厨房の忙しさはピークといっても過言じゃないけど、まあ頃合いか。

 

「あ、じゃあ俺そろそろ失礼しますね」

 

 一応の礼儀として一言そう断って、近くにいた適当な人に焼き上げる作業を押し付けた。そしてそのまま出口に向かいつつ、三角巾とエプロン&マスクとかいうクソ暑い格好を解除していく。本当はビニール手袋も着用義務があったけど、あんなものはとっくにガスの熱にやられて捨ててある。

 

「ファッ!? 一番の焼き手が!」

「引き止めろ! 生産体制が!」

「誰か、誰か手が空いてる奴はいないのか!?」

「……ダメみたいですね」

 

 そんな感じの会話が背後から聞こえてくるけど知ったことか。普段からされている仕打ちは、気にしてないとはいえストレスがないわけではないのだ。少しは仕返しを受けるといい。

 

「っ、寒」

 

 厨房とかしていた部屋から脱出すれば、少し汗をかいていたこともあってか結構肌寒く感じた。携帯を見れば表示されていた気温は16℃、季節はもう11月だ。空気はかなり冷え込んできていた。

 

「こんな中待たせるのは嫌だし、早く行こう」

 

 軽く制汗スプレーを吹き付けて臭いを打ち消しつつ、手早く制服を羽織る。エプロンとかは……どうせ後で回収するし、下駄箱にでも突っ込んでおけばいいか。

 そうして寄り道なく来たからか、腕時計が指し示す時間は12時5分前。最低限のマナーは守れたかなと思いつつ歩いていると、明らかな人だかりが感知……感知でいいやもう。とりあえず感知できた上に、バカ共のこんな会話が聞こえてきた。

 

「あの制服、○○中のだよな? なんでうちの高校にいるんだろう」

「それよりも可愛くね? ワンチャン告ってみようかな」

「お、いいんじゃね? あわよくば……までいけると思うぜ」

 

 田舎少年は……というより、男子高校生なんてこんなものなのだろう。俺も自制できてるだけで、本質は変わらない自覚は多分にある。とはいえだ。性欲に頭が直結してる連中がうちの高校、多過ぎやしないだろうか。先輩方は別の欲望に一直線だから、パッと見1年だけだけど。

 

「すみません、ちょっと通してくださいね」

 

 そんな不快な人混みの中を何とか通り抜ければ、校門の外で空さんを見つけることができた。ただし、金髪のチャラい男性グループに絡まれているという状況だったが。

 

「いいじゃんいいじゃん。そんな奴待つより、俺たちと一緒に回ろうぜ?」

「いや、です」

「そんなこと言わないでさぁ、俺たちここの学校にいたことあるんだよね。だから安心していいって」

 

 周りの人達は遠巻きに見ているだけで、空さんのことを助けようなんて人は1人もいなかった。剰え、スマホを向けて動画撮影をしている奴までいた。チンピラもスマホ撮影マンも顔は覚えた、後で証拠として貰っておこう。

 

「です、から、私は、待ってる、人がいるって」

「でもそんな奴いないじゃん?? それに、30分以上待たせてる奴なんかより、絶対俺たちの方が──」

「はい、ストップです」

 

 空さんに伸ばされた手を、無理矢理に割って入って掴み引き止めた。30分も待たせたとか最悪なのは俺だけど、一度掴んだら空さんじゃ振りほどけないだろうし、そもそもコレも離さなそうだし止める。

 ……というかコレとその連れ、タバコ臭い。しかも紙ではなく電子タバコの方。5人中3人くらいから同種の臭いがしている。香水で誤魔化してるみたいだけど、バレる人にはバレるくらい臭っていた。

 

「ああ? 横からしゃしゃり出てくんなよ」

「そうだぞ高校生のガキが」

「待ち人が私ですので」

 

 一応穏便に済ませるために、丁寧な言葉遣いを心掛けつつ手を下げさせる。……いつまでも力尽くでは抑えられないから、さっさと引いてくれないかな。

 

「すみません、そんな早く来てるとは思わなくて待たせちゃいました」

「大丈夫、です。私が、早く、来過ぎただけ、です、から」

 

 制服の上に厚手のコート、ニット帽、マフラーと手袋といったフル装備の空さんは、そう言って謝ってくれたけど釈然としない。連絡1つあれば厨房作業なんてすぐ切り上げて──いや、たらればの話だし、情けない言い訳だからこれは無しだ。

 

「……わかりました。じゃあ、行きますか」

「はい!」

 

 とまあそんなことを話しつつ、空さんを5人の囲みの中から連れ出した。しっかりと手を握って、男連中が手を伸ばしてきても大丈夫な様に俺の身体を盾に見立てて。

 

「では、失礼しますね」

 

 抑え込んでいた手を離し、出来るだけことを荒立てないために頭を下げる。これでよし、もうコイツらに拘うことなく空さんを案内できる──と、思ったのだが。

 

「チィッ、待てお前!」

「兄貴のメンツを潰しやがって!」

「はぁ……」

 

 いつのまにか、回り込まれてしまっていたらしい。周囲の人混みより更に小さい円状に取り囲まれていた。多分校内まで追いかけて来ようとしたら、チケット確認の都合上警備員が……ああいや、この人だかりから抜ければそれで大丈夫か。

 

「どう、しましょう」

「強行突破しますか」

「えっ」

 

 まあ所詮5人だし、普通に居場所も分かる。周りの人だかりも1人分くらいの隙間はあるし、多分これが一番都合が良い。俺の学校での扱いが悪くなる気がするくらいしかデメリットがない。

 

「失礼します、ね!」

「え、ひゃっ!?」

 

 そうと決まれば先手必勝。脱出の道が見えたのに合わせて空さんをお姫様抱っこ式で抱き上げ、囲ってる男どもが反応する前に駆け出した。

 

「くそッ!」

 

 一番近くの男が伸ばしてきた手は、身体の軸ごとずらして回避。そのまま一気に踏み込んで、膝から嫌な音がしたけど突破。野次馬の群れにある隙間を突っ切って、一直線に校門に向かう。

 

「すみません、後ろの5人をお願いできますか?」

「勿論。明らかな迷惑行為ですから、お任せ下さい。ナイト殿」

 

 そんな洒落に一礼してから、一先ずの安全圏と思われる校内に飛び込んだ。途端に注目が凄まじく集まるのは、予想出来ていたとはいえ流石に恥ずかしい。空さんが首に腕を回してきてるから、完全にお姫様抱っこが成立してるし。

 

「さて、ここまで来れば……まあ大丈夫だと思います。いきなりすみませんでした」

「い、いえ、だい、大丈夫、です」

 

 空さんのコートが長めの裾だったお陰で、ハラスメント的に問題のある状態ではない。とはいえ、いつまでもこうしてるのはなんだし、そろそろ降ろしたいのだけど……

 

「あの、空さん? 出来れば降りてもらえるとありがたいんですけど……」

「や、です」

 

 間近で、囁くように言われて変な感覚が走った。

 

「その、そろそろ腕がアレなので、出来れば降りてもらえると……」

「重い、です、か?」

「イイエソンナコトハ」

 

 寒気のする笑顔でそう言われては、否定する他なかった。実際あと数分なら抱えていられるだろうけど……先輩と思しき、ニンジャじみた軌道の人に写真撮られてるしなぁ。

 

「流石に邪魔になるので、もう少し混み合ってきたらやめますよ。それまででいいですか?」

「わかり、ました。それで我慢、します」

 

 少し不満気ではあるけれど、どことなく満足そうな顔で空さんはそう言った。顔が近い。笑顔が眩しいし、沙織とは違ったなんか甘くいい匂いがする。

 そんな煩悩に繋がりかねない思考は切り捨てて、校舎外に出ている出店を少し見渡してみる。近い順に焼きそば、たこ焼き、綿あめ……当然だが、どれも外でやる方が都合が良さそうな物が並んでいる。更に奥では、お好み焼き(広島風)とお好み焼きの屋台の人が取っ組み合いになってるけど、無視した方が良いとみた。

 

「大体、主食系統が外の屋台、デザート・ドリンク系統が校舎内、レクリエーション系が外か体育館になってますね。何か食べたいものとか、行きたい場所とかあります?」

「あ、それなら、昨日、沙織さんから、聞いた、おばけ屋敷、行きたいです」

「えっ」

 

 迷わず空さんが選択した行き先に、思わずそんな声が漏れてしまった。いや、確かに唐突に飛び出してくる系以外怖くはなかったけど、割とガチで刺激が強過ぎる感じが……

 

「怖い、なら、私が、守って、あげます、よ?」

「ゲーム内なら兎も角、流石に現実では逆ですって」

 

 まあ、空さんが自信満々だしいいか。因みにおばけ屋敷の人気は、上から順に1年、3年、2年となってるらしい。恐怖度は低い方から1、2、3年なんだけど、午前中に2年生のところでボヤ騒ぎがあったせいで逆転している。

 

 そんなこんなで、空さんと回る文化祭当日が始まったのだった。

 




UPOコソコソ話(本編に絡みも影響もありません)

九頭 宮阿ちゃん(無言の着火)
内藤 ホテプくん「ン=カイの二の舞耐えられない(パリーン)」(逃走)

フルダイブVRMMOの普及によって、割とゲームと現実の境界が小さくなった結果、割とゲーム内のノリをリアルに持ち込む輩が現実では増えている模様。大きな犯罪率は低下しているが、逆に今回みたいなものは増加傾向にあるとかなんとか。

ユッキーの二股疑惑が学内に拡散されました

ユッキーのヘイト(主に男子からの)が爆発的に上昇中です


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第139話 文化祭(当日)②

久しぶりに描いていたリアル編、今回で終わりです


「あんまり、怖く、ありません、でした、ね?」

 

 3年生のやつではなく、2年生の方のお化け屋敷を楽しんだ後。道中終始楽しそうにしていた空さんから出た言葉がそれだった。

 

「いや、あの落ち着きようはすごいと思います」

「褒められると、ちょっと、恥ずかしい、です」

 

 嬉しそうな空さんの様子の通り、決してお化け屋敷がつまらなかったわけではない。謎解きも良かったし、正直怖かった。だが空さん曰く、『UPO内でもっと怖いものは経験してる』から問題ないとのことだった。確かに言われてみれば、どこかの鮫御大と戦ってる以上、モチーフが御大に寄ってるこちらの方が怖くはなかった気がする。

 

「友樹さん、喉、乾きま、せん、か?」

 

 なんてことを考えていたら、手を引く空さんがそんなことを聞いてきた。ちょっと空気が乾いてるせいもあってか、言われてみれば確かにそうだ。

 

「お化け屋敷で色々動きましたし、言われてみれば。寄ってみたいお店ありました?」

「はい! えっと、その、タピオカ、飲んで、みたいなって」

 

 段々と顔を赤くしながら空さんが言った。タピオカ……確か2軒くらいお店はあったっけ。2年生のやつがスタンダードなメニュー、3年生のやつが変なメニューとお菓子類の同時販売だった筈。少なくとも昨日沙織と回った時には。

 

「それじゃあ行きましょうか。スタンダードなメニューと、マイナーなメニューのところがあった筈ですけど、どっちにします?」

「スタンダードな方で、お願い、します。初めて、ですから」

「なら普通のやつの方がいいですね」

「そう言うって、ことは、友樹さんは、飲んだこと、あるんです、か?」

「ええ、まあ何回か。駅前にお店がありますから」

 

 しかもあのタピオカ入り飲料店、最近のブームの頃に出来た新店舗ではなく一個前のブームの時に開店したお店だ。最近のブームで売り上げが前期の200%超とかいう、凄まじい売り上げを叩き出していた。

 当時短期でチラシ配りのバイトをしたから覚えている。羽振りが良かったのもあって。あと、今回の文化祭に出店してるタピオカ店のバックもここだったりする。

 

「それなら、友樹さんの、好きな味、飲んでみたい、です」

「邪道なココア派なんですけど、それでもいいなら?」

「らしいと、思います、よ?」

「あはは……」

 

 邪道が“らしい”らしい。……いやまあ、自覚はあるけど。改めて言われると少し自分を見つめ直したくなる。いつかやろう……無理だわ、UPO始めてからの記憶爆弾ばっかりだった。

 

「ん、友樹さんは、何に、するん、ですか?」

「偶には普通のやつにしようかなと思ってます」

「あ、なら、私のと、飲み比べ、出来ます、ね!」

 

 その何気ない空さんの一言で瞬間、辺り一帯が静まり返った。そしてザワザワと辺りにいた人達が騒ぎ始めた。

 

「無自覚だ……」

「無自覚シチュだ……」

「女の子2人を弄ぶなんて最低。死ねばいいのに」

「お前の目は節穴か? あの目をよく見ろ……」

「はぁ?」

「あれは女の子の方が捕食者、男の方が被捕食者だ」

「あっ、そっかぁ(納得)」

「目だけが光っていた……」

「無自覚じゃなかった……」

「無自覚シチュじゃなかった……」

「ん? でも確かあの男、昨日も肉食獣の目をした女子とうちのおばけ屋敷来てたような……」

「つまり奴は、幼馴染と無知シチュに狙われている……?」

「ちょうだいちょうだい、そう言うのもっと頂戴!」

「ペンが進むわ……!」

「お姉ちゃんな、そう言うの好きやで」

「こちらA部隊、不届きものの排除完了」

 

 幾つか変な言葉が聞こえたけど、流石は上級生。昨日と同じような狂し方をしていた。昨日も思ったけど、一体何があったらこんなになるんだ……? いや、うん、一先ずこれは後回しだ。

 

「流石にそれは、間接キスになるのでどうかと……?」

「でも、家出の時、寝顔、見られてる、から、今更、では?」

 

 やんわり断ろうとしたら、爆弾を投げ返された件について。おかしい、爆弾は俺の十八番だったはず……いや爆弾が十八番ってのもおかしいけど。

 それに何故だ、ヤバイ時の沙織と似たような雰囲気までしだしてる。なんやかんやで飲み物を交換することになった昨日と同じ雰囲気──!

 

「寝顔……だと!?」

「聞きました?奥さん。寝顔ですってよ」

「もうちょっと恥ずかしそうに言ってたらオラは死んでた」

「言ってることと対象が逆」

「絶対弱み握られてるってあれ。可哀想」

「それどっちが?」

「男」

「定期報告。タピオカ班へ、今からカップル(暫定)が行く。準備されたし。オーバー」

 

 しかも要らぬ風評被害が増えている。そして何故か俺が被害者になっているらしい。先輩方の思考回路は一体どうなっているんだろうか。

 

「それとも、私とは、嫌、ですか?」

「いえ、決してそういうわけじゃ……」

「なら良いですよね」

「……ハイ」

 

 押し切られてしまった。笑ってるのに笑ってない目には勝てなかったよ……なんか情報通りとか、作戦成功とか聞こえたり、一瞬見えた小さなガッツポーズとかはもう気にしないことにしよう。精神衛生上、その方がいい気がする。

 

 そんな諦観にも似た感情に半ば沈みながら、何故か異様に優しい店員の先輩と息の荒いパイセンコンビからタピオカ入り飲料を購入したのだった。

 天使っぽい仮装してたけど6枚翼とか重くないんだろうかという疑問や、その豊満な胸部をチラ見した瞬間二重の殺気に背筋が凍りついたことは忘れておく。そんな事実は存在しなかったのだ。

 

「ん、これ、どっちも、美味しいです、ね」

「そっすね」

 

 一応気を使ってくれたのか、もう1つどでかいストローは持っている。だから空さんが口を付けたストローに口を付けないでも問題はないし、そもそも一口は先に飲めてるから割と問題は大アリだけどない。

 

「友樹さんは、飲まないん、ですか?」

「下手したら刺し殺され──いえ、揉め事が起きそうなので、少し遠慮したいところですね」

 

 周囲の男子や女子の目線がヤバイのだ。下手なことをした瞬間、確実に空さんも巻き込んで大変なことになる。

 それに俺だって男子の端くれだ。全力で平静を装っているけど、間接キスとか正直ヤバイくらい恥ずかしいし、なんかいけないことをしてるみたいで背徳感が凄まじいのだ。される分には諦観が先行するけど、するとなると流石に恥ずかしいが過ぎる。

 

「それに、最近最低限しか運動出来てないので、カロリー爆弾的にも少し怖いですし」

 

 最近は家に帰って家事を済ませて、少し運動をして晩御飯、その後UPOにログインという形が多い。つまり、昔より若干体力は落ちてると言わざるを得ないのだ。そこに、一説によるとラーメン一杯分のカロリーに相当するタピオカミルクティーは、実際危険なのだ。

 なんてことを思い返していた時だった。ピタリと、空さんの足が止まった。

 

「運動系のところ、何か、ありませんか?」

「えっ。えー……確かストラックアウト、弓道体験、一風変わった物だと薙刀部と剣道部合同の立ち合いものがあった筈ですけど……」

「立ち合い、ですね。行きましょう」

 

 その声には、絶対的な意思のようなものが感じられた。カロリー爆弾が多分触れてはいけない爆弾だった。そう気づいても、時既に遅しとしか言いようがなかった。

 

「運動、しなきゃ、まずいです!」

「いえあの、空さん軽かったので大丈夫かと……」

「それは、その……あぅ」

 

 率直に感想を言ったのだが、空さんは俯いてしまった。何かまずい事でも言ってしまったのだろうか。精一杯のフォローをしたつもりだったのだけど。

 

「でも、腕試しも、兼ねて、行きます!」

「腕試しってことは、何かやってたんですか?」

「もう引退、してます。最近は、UPOでだけ、ですね」

 

 顔を上げた空さんは懐かしむようにそう言って、繋いだ手を引いて先に歩き始めた。藜さんの得物は槍だし、ということは薙刀か何かだろうか? それにしても部活か……よく考えたらロクにやったことないな。話を聞く限り憧れはしないけど、ふむ。

 

「折角ですし、俺も挑戦しますかね。剣か長物かで別れてたはずですし」

「でも、確か友樹さんは、杖じゃ?」

「実質使ってないようなもんですから、何を持っても変わりませんよ」

 

 ゲームの影響なんて、何故かちょっと気配察知が出来るようになったのと、目と記憶力が向上したくらいだろう。杖持ちとは言いつつ、やってることは振り回す*1か、刀扱い*2か、銃扱い*3程度だし。

 

「なら、勝負、しません、か?」

「勝負ですか?」

「多分、立ち合い、なら、勝ち負け、あります、よね?」

「確かあったはずですね」

 

 挑戦者側は面倒な防具は付けずに、得物も戦い方も自由。

 部員側は面も含めた防具をつけて、得物は普段通り。

 勝負は時間制限あり。挑戦者側は制限時間内に一本入れたと判定させたら勝ち。部員側は攻撃は禁止、制限時間まで生き残れば勝ちとか言った内容だった気がする。

 基本的に、経験者かVR組を相手にする専門に見えた。そんな感じのことを、やんわりと空さんに説明する。

 

「なら、勝った方が、負けた方に、1つだけ、お願いを出来るのは、どう、ですか?」

「公序良俗に反しないお願いなら」

「当然、です」

「なら受けましょう」

 

 それなら心配は杞憂にして勝負に望むことができそうだ。もし勝ったとしたら……UPO内で探索に付き合ってもらおうかな。最近海マップに深海が解放されたって話だし、他にも新マップが解放されてないか調べてみたい。

 

「その話、ちょっと待った! 勝ち:勝ちの場合が含まれてないし、負け:負けもないし、そもそも私も混ざりたい!」

 

 なら早速行こうと思った瞬間、ぜぇぜぇと息を切らしながらそんな声が掛けられた。振り向かずとも誰だかは分かる。どうして沙織さんここに居るので?

 

「幼馴染センサーが、危ない気配を感じ取ったから来てみれば……やっぱりとーくん押し切られてる! ヤメロォ! ナイスゥ!」

「それどっちが本音なんですかねぇ」

「どっちも!」

 

 そう言い切った直後、行く手を遮るようにメイド姿の沙織が前に──わぁお、メイド服じゃん。一回家で見たことあるけど、やっぱり完成度高いし可愛いと思う。

 

「その勝負、私も参加させてもらうよ!」

「上等、です。きやがれ、です!」

 

 おかしい、当事者の筈なのに置いていかれてる。それに何時もの幻影が、火花を散らしてるの姿まで幻視出来てしまっている。

 

「当然、お互いに命令権は残るよね?」

「当然」

「「さあ友樹さん/とーくん、行くよ!」」

「アッハイ」

 

 この流れに割って入る勇気は流石になく、成されるがままに事は運ばれて行ってしまったのだった(全敗)

 部員にも2人にも負けた結果、多分休日が消え去ったけど、それはまあ些細な事だろう。

 

*1
特に技術はない

*2
自爆武器なので技術はない

*3
同じく乱れ撃つだけなので技術はない




ユッキーは基本的に押しに弱いです(一線までは)

ユッキーが悪いんだよ。そんな女の子みたいな反応してるから。


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第140話 新イベの予兆?

そういえば、ユキのステータスとかって入りますか?
前文字数稼ぎやめろってクレーム入って以降、出してない気がするんですけど


 文化祭もなんとか無事に終わり、時間は流れて大体一週間。レイドボス戦で吹き飛んだ第7の街【ミスティニウム】が、プレイヤーの手によって地道に復興しつつある中の出来事だった。

 

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 【運営からのお知らせ】

 常日頃からUPOをプレイして頂き有難う御座います。

 先のイベント【ミスティニウム解放戦】において収集したプレイヤー、モンスターのデータにより人型以外のアバターを操作可能なシステムが完成致しました。その記念に新規アイテムを100種ほど実装しましたので、是非お探しください。

 

 また11/14(水)〜11/28(水)の期間、人外対応コントローラーを実験的に適応したミニイベントを開催いたします。

 安全性の認可は受けておりますが、細やかなバグの発生が予測されます。発見した場合、速やかに運営にご連絡下さい。

 クエスト参加可能対象者は、ペットを所持している全プレイヤーとなります。

 またこのイベントは、定期開催イベントに設定されています。

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 【探索!従魔大森林 -β版-】推奨Lv --

 異界より現れたプレイヤーに付き従う諸君。

 新たな力が欲しいか? 新たな力を望むか?

 是であれば連れて行こう、未知なる力を秘めた世界へ

 否であれば連れて行かぬ、力を恐れて怯えているがいい

 

 ※本イベントはプレイヤーが所有するペットorテイミングモンスターを、プレイヤー自身が操作する探索イベントです。

 ※付喪神系ペットの活動の為、全参加プレイヤーは本来のアバターが装備している装備を“1つだけ”装備条件を無視して装備できます。

 また本イベントは、通常サーバーとは別のサーバーで開催されます。

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 その他の細々とした注釈を見る限り、イベント趣旨としてはペットの強化及びテイミングモンスターの調整がメインのイベントらしい。でもって、モンスターの強化用のアイテムがゲットできるとか何とか。

 まあそれはいいとして、またここの運営は相当なことを仕出かしたことは分かった。何せ人外用コントローラーで安全認可を受けてる企業、少なくとも1社しかなかったと記憶してるし。

 

「このイベント、多分付喪神系が有利ですよね。アキさんのエスペラント然り、うちのランさんのヴォルケイン然りで」

「知らん……」

 

 そんなイベントを俺は、久しぶりに訪れた【極天】のギルドホームで見ていた。好意で入れてもらった炬燵(なんと掘りごたつ式)の対岸には、普段の威厳や気迫なんてものが抜け落ちたアキさんの姿。

 魔導書のアップデートの為に来たお陰で、かなり珍しい光景が見れた。某OVAを見たときのようなイメージ崩壊を受けたが。

 

「それにしても、新たな魔法の指輪はどこで手に入れたので?」

「れーちゃんがオークションで落札してきてくれました」

「ああ、なるほどそういう」

 

 右手側に座るデュアルさんの疑問に、特に包み隠すことなく答えた。実際バレても大した内容じゃないし、そもそもザイルさんに加工を任せている以上筒抜けも同然だろうから。

 

「デュアルさんも参加するんですよね、このミニイベント」

「ええ、ウチはいつも通りほぼ全員が参加ですね。ただにゃしいだけは断固として拒否とのことですが」

「爆裂出来ませんからね……」

 

 爆裂出来ないなんてつまらないと駄々をこねて、今日もどこかの森が燃やされる姿が容易に想像出来てしまう。いや、ゲームの楽しみ方は人それぞれだから文句を言うつもりはないけど。俺だってビル爆破の常習犯だし。

 

「草原、浜辺、森林、快晴、墓地、聖堂、大海、深海、宇宙、よくもまあこれだけの指輪に、強化に必要なアイテムを買い漁ったよなお前。ほら、注文の品だ」

「ありがとうございます、ザイルさん。こんなイベントが控えてる時に」

「上客の頼みだからな」

 

 表情自体は見えないけれど、苦笑するように言ってザイルさんは魔導書を受け渡してくれた。そして受け取ったそれを装備した瞬間、本が溢れ出した。

 

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【浮遊魔導書 参拾式】

 Int +10 Str +10

 Min +10 Luk +10%

 魔導書数 30冊

 天候変化 : 嵐天・猛吹雪・砂嵐・濃霧・火山・高山・草原・浜辺・森林・快晴・墓地・聖堂・大海・深海・宇宙

 障壁強化 : 固定値上昇

 紋章強化 : 消費MP軽減・展開高速化

 狂気付与

 神話呪文習得

 正気喪失

 耐久値 3000/3000

《魔導書内訳》

 天候変化 : 15冊

 ブランク : 2冊

 ネクロノミコン・エイボンの書・無名祭祀書・カルナマゴスの遺言・黄衣の王・グラーキの黙示録・ルルイエ異本・セラエノ断章・屍食教典儀・ナコト写本

 倉庫の書 ×3 (0/30)

 ==============================

 

 そりゃあ30冊も詰め込んでればそうもなるか。それもこれも、新規発見された大海、深海、宇宙なんて3つの環境変化アイテムが悪いのだ。そうに違いない。そうだよ(断定)

 頭の中で自己弁護を完璧にしながら、3冊ある倉庫の書の内1冊に魔導書を詰め込んでいく。そうすれば爆弾の詰まった残り2冊以外が消えて、スッキリした感じになる。ちゃんと取り出さないと効果は発揮されないけど、戦闘時以外は些細な問題だし。

 

「それじゃあお邪魔しました。軽く試運転して何かあったら、いつもみたいに報告に来ようと思います」

「まあ無いだろうとは思うがな」

「今までも特に何もありませんでしたしね」

 

 そんな軽口を叩きながら、一礼してギルドを出る。沙織も空さんもまだログインはしてないみたいだし、軽く機天・アスト30連くらいして調子でも確かめるか。

 そう思って愛車を飛ばし、辿り着いたボス戦開始地点。普段ならそれなりの行列が出来ていたりするのだが、何故か今日に限っては地面にへたり込んでいるプレイヤーが大多数を占めていた。何かがあったに、違いない……(画像略)

 

「何かあったんですか?」

「ひっ、爆破卿……! 助けてリーダー!」

「えぇ……」

 

 だからこそ原因を聞こうと話しかけたのだけど、全力で後退りして逃げられてしまった。解せぬ。ここではまだ、爆発事件を起こしたことなんて2、3回しかないのに。

 それにつられてか、大多数のプレイヤーに距離を取られてしまった。どうしようかと悩んでいると、あからさまなニンジャ装束のプレイヤーがこちらに近づいてきた。燻んだ緑色のニンジャ装束に身を包み、そのメンポには狂気を煽る字体で「翡」「翠」と描かれている。

 

「ドーモ、ユキ=サン。ジェイドです」

「ドーモ、ジェイド=サン。ユキです。それで、これはどんな状況なので?」

 

 オジギとアイサツを返しつつ、多分この人なら大丈夫だろうと判断して聞いてみた。何せこの人、翡翠さんのところのヤベー人だし。

 

「そうですね、端的に言えばボスが超強化されました」

「ほうほう」

「ボス戦開始時に踏む魔法陣が、どうやら一定周期でドス黒い色に変化するようになったようで。その色の時にボス戦を開始すると、段違いの性能のボスが現れるように」

「それで今がその黒色と」

「はい」

 

 サイレント修正なのか、次イベの布石なのか、それとも別の何かなのか。そこら辺はよくわからないが、そういうことらしい。

 なるほど、大体わかった(世界の破壊者並感)ボスを破壊する。

 

「じゃあ、元から30連戦するつもりで来たので、普通に倒してきますね」

「追加で言っておけば、未だに討伐者は0です」

「説明ありがとうございました」

 

 そんなに危険だというなら、あまり気は進まないけど装備を変えよう。魔導書も外して他も全て呪い装備へ。手持ちの武器は仕込み刀。普段通りならこれでどうとでもなるけど、さて如何に。

 

〈ボスモンスター【機装堕天・アスト】に挑戦しますか? Yes/No〉

 

 というメッセージウィンドウの、Yesボタンを勢いよく押す。普段の名前は【機天・アスト】だから、この時点でボスが別物だとわかる。

 が、しかし転送された場所は、普段通りの馬鹿でかい聖堂の様な場所。ただし、荒れ果てていたはずの教会の中は、この姿が本来の物なのだろう荘厳な姿に変わっていた。

 フィールド効果の名前も変わっている。【かつての聖堂】であったはずの名前は【荘厳なる大聖堂】へ。その効果は、光属性の効果が100%上昇すること、闇属性の効果が100%減少すること。そして敵味方全員のHPが回復不能(蘇生は可)となっている。

 

「蘇生可能ならまあ、何とかなるかな?」

 

 呟きながら見つめる先、いつもの出現場所に何時もの出現光が降りてきた。漆黒の羽を舞い散らせながら。

 そして、その光の中から1人の少女が降りてくる。薄い胸、烏の濡れ羽色の黒髪、変わらぬ真紅の目。その手先から二の腕、足先から太腿辺りまではゴツい機械で武装されている。普段よりも悪魔じみた、鋭利なパーツの多い機械で。胸当てに埋められた宝玉も真紅ではなく漆黒、纏う奥が透けそうな服も白から黒へカラーチェンジしている。背中から生える1対の機械の翼は、神々しさではなく醜悪なキメラじみた印象を与えてくる。

 追加で現れた翼も変わらず、バフが掛けられることも変わらない。簡単に言い表すなら、2Pカラーのようなボスがそこにはいた。

 

「グッバイ!」

 

 そしてそのまま、俺が放った自爆抜刀術で本体が両断された。そして俺自身も爆散し、スキルによる蘇生で復活する。抜刀術のスキル殉教(まるちり)は防御無視を付与する技。アストに関しては本体が倒れれば倒せる都合上、相性は極めて良い必殺技だった。

 

「Congratulations! って、えぇ……」

 

 せめて1発は耐えて欲しかったと思うのは、自爆技を連発できるという慢心からだろうか。そんなことを思いながら戦利品を確認すれば、見慣れているとも見慣れていないとも言える微妙な品々がドロップしていた。

 

「普段のアストのドロップ品とほぼ同じか」

 

 普段は機天の○○という名前のドロップ品が、機装堕天の○○という名前に変わっているのみ。爆破アイテム以外の素材には明るくないけど、多分相応に強力な素材なのだろう。けれど、ドロップ数は普段の大体二倍程度。

 

「光輪は使えそうだけど……ん?」

 

 肩透かしを食らったような感覚の中、1つだけ見慣れぬ名前のアイテムがドロップしていた。

 

 ====================

 アストの神臓

 機天・アストに搭載されている正十二面体の純然たる力の結晶

 純白に輝くそれはその力を解放する刻をただひたすらに待っている

 ※現バージョンでは観賞用アイテムでしかありませんが、後のアップデートで秘められた能力が解放されるかもしれません

 ====================

 

 これは……厄ネタ、ですねぇ。




なお人外用コントローラーの開発には、大いに極振り対策室が関わっていた模様


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長らくやってなかったステータス紹介じゃオラァ!

ということで、久々のステータス紹介です
もう文字数稼ぎとは言わせねぇぜ!(文字数稼ぎ)


すてら☆あーくステ

==============================

 Name : ユキ

 称号 : 爆破卿 ▽

 Lv 80(レベル上限)

 HP 4000/4000

 MP 3975/3975(7950)

 Str : 0(20) Dex : 0(20)

 Vit : 0(1) Agl : 0(10)

 Int : 0(68)Luk : 990(9206)

 Min :0(72)

《スキル》

【幸運強化(極)】30%

【仕込み長杖術(極)】

 長杖術/抜刀術(極)の複合スキル

【愚者の幸運】【豪運】

【戦術工兵】

 多数のスキルが複合されたスキル

 気配感知・騎乗・水泳・料理・クラフト系・工兵系スキルを最大70%の性能で発揮することができる。振り分け設定はプレイヤーに依存する

 潜伏が可能になる

 固定ダメージがかなり上昇する

 狙撃ダメージがかなり上昇する

 爆破・罠の威力を極めて上昇させる

【ドリームキャッチャー】AS

 自身の組んでいるPTメンバーの弱体効果を全て吸収する

 Luk上昇 5% ×(吸収した弱体効果の数)

 戦闘中一回まで発動可能

 効果時間 : 戦闘終了まで

【龍倖蛇僥】PS/AS

 Luk +20%

 空間認識能力

 MPを消費して掌代の障壁を発生させる(発生可能最大数はプレイヤーに依存する)

【コート・オブ・アームズ】

・紋章術/儀式魔法/歌唱

・自身の行動全てに紋章を描く力を与える

【魔力の泉】PS/AS

 溢れ出る魔力の泉、その代償は己の命

・MPを100%余分にチャージ可能になる

 Str -65% Vit -65%

・MPが100%以上の場合

 Int +20% Min +20%

 毎秒自身のHPを1%消費しMPを1.5%ずつ回復する。途中停止不可。この効果でもHPは0になる

 冷却時間 : 10秒 効果時間 : 30秒

・消費MPを15%減少する

【ノックバック強化(極)】

【運命のタロット】

 鑑定&看破 Luk+20%

 また、上記の効果が発動した場合、タロットカードがランダムに1枚選択できる。運次第でそのカードの効果が発動される

 -控え-

【常世ノ呪イ】

《装備一覧》

【錫杖《三日月》】

 Str +46  Min +20

 Int +47

 属性 : 光

 状態異常 : 拘束

 射程延長

 耐久値 500/500

【杖刀《偃月》】

《納刀中》     《抜刀中》

 Str +5 Min +56  Str +10 Dex +30

 Int +30       Agl +30

 属性 : 無

 抜刀時ダメージボーナス(所持者のステータスの最高値)

 展開装甲 抜刀補助

 耐久値 300/300

【二式銃杖《新月》】

 Str +50 Dex +25

 Min +15

 属性 : 混沌

 口径 : 20mm(ダメージボーナス200)

 命中率強化(大) フルオート射撃

 デュアルマガジン

 装備制限 : レベル50

 耐久値 400/400

▷《クトゥルフマガジン》

  装弾数 : 50発

  ダメージボーナス100

  付与 : 正気減少・属性ダメージ(風・水)・防御貫通50%・弾速上昇(大)・命中率強化

▷《ヌークリアマガジン》

  装弾数 : 50発

  ダメージボーナス200

  付与 : 極大爆発・環境汚染・環境制圧・汚染残留・防御貫通30%・弾速上昇(大)・命中率強化

【浮遊魔導書 参拾式】

 Int +10 Str +10

 Min +10 Luk +10%

 魔導書数 30冊

 天候変化 : 嵐天・猛吹雪・砂嵐・濃霧・火山・高山・草原・浜辺・森林・快晴・墓地・聖堂・大海・深海・宇宙

 障壁強化 : 固定値上昇

 紋章強化 : 消費MP軽減・展開高速化

 狂気付与 神話呪文習得 正気喪失

 耐久値 3000/3000

《魔導書内訳》

 天候変化 : 15冊 ブランク : 2冊

 ネクロノミコン エイボンの書

 無名祭祀書 カルナマゴスの遺言

 黄衣の王 グラーキの黙示録

 ルルイエ異本 セラエノ断章

 屍食教典儀 ナコト写本

 倉庫の書 ×3 (0/20)

【トリニティコート改】

 Vit +25 Min +15

 全天候ダメージ無効

 全環境適応  ステルス

 耐久値 650/650

【トリニティブーツ】

 Vit +10 Agl +10

 全地形ダメージ無効

 特殊地形効果無効

 耐久値 500/500

【トリニティパンツ】

 Vit +5 Min +5

 状態異常耐性上昇

 簡易ポーチ(5枠×4)

 耐久値 500/500

【ハザードグローブ】

 Dex +20 Luk +10%

 爆破ダメージ上昇50%

 爆破範囲強化(大)

 副次爆破追加 環境汚染爆破

 リアクティブアーマー(爆弾系アイテムを1つ消費することで、一定範囲の状態異常を1度無効化する)

 耐久値 500/500

【メガネリオン改】

 Vit -30% Min -30%

 Luk +50%

 命中補正(高) 弾道補正(高)

 耐久値 500/500

《アクセサリー》

【ウロボロスの脱け殻 ×10】

 Luk +50% Min +30

《特殊装備》

【無尽火薬】

 無尽蔵の火薬

 収束爆弾(3/3)

 集約爆弾(3/3)

 耐久値 : なし

==============================

 Name : セナ

 称号 : 舞姫▽(Str +15% Agl +25% 全ステ+5%)

 Lv 80(レベル上限)

 HP 4050/4544

 MP 4000/4143

 Str : 300(1125) Dex : 100(352)

 Vit : 80(467) Agl : 300(2289)

 Int : 20(21) Luk : 100(157)

 Min : 90(283)

《装備一覧》

【サウダーデ/ドミンゴ】

 Str +200 Agl +150

 Dex +106 Luk +50

 属性 : 聖/無

 口径 : 14mm(ダメージボーナス140)

 装弾数 : 40/40

 弾種変更《実弾⇔ビーム》

 自動耐久値回復 電磁シールド

 回避率上昇45%

 耐久値 1,000/1,000

【銀閃の髪留め】

 Agl +60

 回避性能強化(極)

【無貌の衣 カスタム】

 Vit +90 Min +95 Agl +50

 ステルス ダメージカット15%

 触腕生成

 耐久値 1000/1000

【銀閃の籠手】

 Vit +90 Dex +130 Agl +110

 リロード速度上昇

【銀閃のブレードスカート】

 Vit +90 Min +85 Agl +120

 ジャスト回避時、攻撃対象に攻撃の威力1/4の確定ダメージを反射する

【銀閃のブーツ】

 Vit +95 Agl +135

 回避率上昇

 ※装備ボーナス(銀閃)

  ジャスト回避タイミング延長

《アクセサリ》

【返る飛燕の証】×2

 回避性能強化40%

【業前の証 : 威力】

 スキル威力上昇20%

【業前の証 : 効果時間】×2

 スキル効果時間延長40%

【業前の証 : 判定時間】

 スキル効果判定時間拡張20%

 装備制限 : 1つのみ

【波濤の鋭牙】×3

 クリティカル威力上昇60%

【凛々しき賢狼の首飾り改】

 射程延長(極)

 与ダメージ +15%

 被状態異常確率 -20%

 天候効果軽減

《スキル》

【地走りの心得】30%

 敏捷強化(極) 筋力強化(極)

【銃剣闘術・天地鳴乱】

【暗殺者の真髄】

 潜伏・隠密行動ボーナス(極)

 潜伏中クリティカル威力上昇300%

 暗殺技が使用可能

【鳳蝶の惑舞】PS/AS

 Agl+20% 回避率+60%

 ジャスト回避時、相手に高確率で幻惑を付与する

 自身のヘイト値を上昇させる

 消費MP : 10 冷却時間 : 10秒

【真・奇門遁甲】PS/AS

 Agl +25%

 自身のヘイト値を減少させ、高確率で相手に暗闇と方位不明効果を付与する

 消費MP10 冷却時間 : 10秒

【忍法・虚蟬】AS

 戦闘中5回まで発動可能

 MPを50消費し、全てのダメージを回避する。

【ヒドゥン・ドレス】AS/PS

 Agl+20% 消費MP50

 発動中自身の回避率+75%

 射撃・魔法の場合更に+25%

 効果時間 : 30秒 冷却時間 : 1分

【真・薄刃蜻蛉】AS/PS

 Agl+20%

 反応速度上昇(極)

 MPを消費して空中歩行可能

 ジャスト回避した回数×3%全ステ上昇

 上限250%(戦闘終了まで)

【銀光一閃・乱舞】

 Agl、Str ×1.5倍

 回避率 +35%

 ジャスト回避した回数全ステ+5%

 上限300%(戦闘終了まで)

 空間認識能力・深

【水月】

 Agl +20%

 MP 100を消費し、物理ダメージを75%で回避する。魔法ダメージの場合、回避率+25%

 ※この効果はジャスト回避として扱われる

 -控え-

==============================

 Name : 藜

 称号 : オーバーロード▽(Str+25% Agl+15% 全ステ+5%)

 Lv 80(レベル上限)

 HP 4050/4609

 MP 4000/4091

 Str : 400(2251)Dex : 140(210)

 Vit : 30(483)Agl : 200(1876)

 Int : 10(42) Luk : 150(231)

 Min : 60(168)

《装備一覧》

【死棘の烈槍《伐折羅》】

 Str +260 Agl +70

 Dex +50 Vit +30

 属性 : 炎・風・光・闇・爆破

 装弾数 50/50

 極めて低確率で即死効果

 破邪顕正

【パイルバンクビット】

 Str +250 Agl +30

 Dex +10 Vit +10

 属性 : なし

 ビット数 6

 多段ヒット 穿孔

【黒染の耳飾り 改伍】

 Int +30 Luk +35

 Agl +50 回避率 +5%

【黒染の軽鎧 改伍】

 Vit +110 Agl +90

 Min +100 回避率 +5%

【黒染の籠手 改伍】

 Vit +90 Str +5%

 Agl +85 回避率 +5%

【黒染の袴装束 改伍】

 Vit +100 Agl +90

 回避率 +5% 移動速度上昇 15%

【黒染の靴 改伍】

 Vit +90 Agl +100

 回避率 +5% 移動速度上昇 15%

※装備ボーナス(黒染)

 通常エンカウント率低下(大)

 レアエンカウント率上昇(大)

 通常mobへの攻撃に、低確率で即死効果

《アクセサリー》

【波濤の鋭牙】×5

 クリティカル威力上昇 100%

【連撃の護符】×5

 自身の攻撃に10%の追撃効果×5回

【太陽の指輪】(非装備)

 天候変化 : 快晴

《特殊装備》

【十六夜の衣】

30秒間に1度攻撃の威力を8分の1にして、ヒット数を16に変更することができる

《スキル》

【飛燕の真髄】

 移動速度上昇40% 回避性能強化45%

【心眼(真)】

 Str +30%

 クリティカル発生率上昇35%

 会心威力上昇50%

【旋風槍(極)】

【青の剛翼】PS/AS

 Str、Agl ×1.5

 物理ダメージ強化20%

 MPを50消費して、30秒間攻撃に打撃属性を付与することができる

【鷹の目】AS

 自身の防御力を30%低下させ、MPを200支払い発動。次の攻撃の威力を50%上昇させ、防御貫通30%を付与する

 冷却時間 : 1分間

 狙撃 空間認識能力・深

【天元(窮)】AS

 クリティカル威力上昇 100%

 攻撃のヒット数を倍化、ヒットあたりの威力は15%減少する

 消費MP 250 効果時間 60秒

 冷却時間 100秒

【凶兆の禍鳥】AS

 発動後毎秒Luk値が1ずつ減少する。Luk値が0になった時この能力は強制解除され、その戦闘中Luk値は0で固定される。

 空間認識能力強化 全ステータス+30%

 HP/MPリジェネ 1%/2s

【敏捷な略奪者】PS

 Agl+20%

 自身の指揮下にあるモノの性能を10%強化し、自身を含めた揮下の攻撃に確率で追加ダメージ(出血属性)を発生させる

【梟の神威】PS

 Luk+20%

 状態異常耐性(大)

 暗闇でのバッドステータス無効

【ラジエータービーク】PS

 Agl+20%

 高速移動時、放熱による陽炎を発生させ低確率でダメージを無効化する

【不死の鳥】PS

 致死ダメージを受けた時、一度だけ灰になった後10%のHPで蘇生する

【八咫の羽根】PS/AS

 Agl +20%

 攻撃命中率・クリティカル発生率・自身の回避率上昇20%

 消費MP 50

 効果時間 45秒 冷却時間 50秒

 -控え-

 鍛治 制作技能

==============================

 Name : れー

 称号 : 大富豪▽(Dex+30% Int+10% 全ステータス+5%)

 Lv 80(レベル上限)

 HP 4050/4180

 MP 4000/4481

 Str : 50(84) Dex : 320(2674)

 Vit : 50(346) Agl : 100(126)

 Int : 260(793)Luk : 100(105)

 Min : 110(430)

《装備一覧》

【アルハザードのランプ・怪】(魔導書)

 Str +30  Min +150

 Int +200  Dex +90

 魔法枠 100/100

 属性 : 闇

 状態異常 : 幻惑

 狂気付与 MP自動回復

 戦闘録画/再生 魔法強化20%

 耐久値 1200/1200

【壺中天のヘッドドレス】

 Min +50 Dex +50

 アイテム保有枠拡張5

【鍵守のドレスアーマー】

 Vit +100 Dex +100 Min+60

 アイテム保有枠拡張5

【鍵守の籠手】

 Vit +60 Dex +120 Min+10

 アイテム保有枠拡張5

【鍵守のアーマースカート】

 Vit +65 Dex +100 Min+30

 アイテム保有枠拡張5

【鍵守のグリーヴ】

 Vit +55 Agl +20 Dex +90

 アイテム保有枠拡張5

 ※装備ボーナス(鍵守)

  魔法発動阻害無効

  アイテム保有枠拡張10

《アクセサリー》

【賢者の証 : 消費魔力】×2

 消費MP軽減 40%

【義賊の証 : 状態異常】×2

 状態異常成功率上昇 40%

【宗匠の証 : 品質】×5

 制作物品質向上 100%

【エルダーサイン】

 精神汚染効果無効

《スキル》

【生産者の魂(極)】Dex +50%

【生産者の真髄】Int、Dex ×1.5

 作成品の品質強化(極)

【神匠見習い】Dex +20%

 神器作成許可

【神器作成(武具)】【神器作成(防具)】

【神器作成(道具)】【神器作成(祭具)】

【神器作成(憑代)】

【顕現:宇宙的恐怖】

 特殊魔法技能。どことも知れぬ異空間から加護を得る。

 前提 : 冥府魔導(極) 召喚術(異貌)

 装備制限 : エルダーサイン

【冥府魔導(極)】

 特殊魔法行使技能。二つの魔法を代償なしに使用可能にする

 専用 : 顕現 : 宇宙的恐怖 召喚術(異貌)

 装備制限 : エルダーサイン

【召喚術(異貌)】

 特殊魔法技能。どことも知れない異空間から僕を召喚する。

 前提 : 冥府魔導(極) 顕現 : 宇宙的恐怖

 装備制限 : エルダーサイン

 -控え-

==============================

 Name :つらら

 称号 : 白銀の魔女▽(Int+30% Min+10% 全ステータス+5%)

 Lv 80(レベル上限)

 HP 4050/4138

 MP 4000/4819(9638)

 Str : 10(4)  Dex : 100(200)

 Vit : 50(100) Agl : 100(147)

 Int : 500(2773)Luk : 100 (105)

 Min : 130(567)

《装備一覧》

【銀世界の錫杖】

 Str +10  Min +150

 Int +220

 属性 : 氷・水・光

 状態異常 : 凍結・破邪

 MP自動回復 魔法強化20%

 水・氷属性魔法強化30%(累積可)

 アンデッド特効

 追加MP 1000/1000

 耐久値 1000/1000

【白銀氷結晶の耳飾り】

 Int+50 Dex +10

 水・氷属性魔法強化10%

【絶対零度のローブ】

 Vit+30 Min+100 Int+20

 魔法ダメージ減少20%

 水・氷属性魔法の場合さらに50%

 炎・地属性魔法の場合減少はしない

【絶対零度の手袋】

 Vit +40 Dex+50 Int+5%

 水・氷属性魔法強化5%

【絶対零度のニーソックス】

 Vit+60 Min+40 Int+40

 水・氷属性魔法強化5%

【白銀世界のアイスブーツ】

 Vit+70 Agl+40 Int+30

 水・氷属性魔法強化5%

 ※装備ボーナス(絶対零度)

  水・氷属性魔法詠唱時間-50%

  水・氷属性の天候効果無効

  火・土属性被ダメージ上昇20% 

《アクセサリー》

【賢者の証 : 消費魔力】×4

 魔法消費MP-80%

【白銀世界の主人の証】×3

 水・氷属性魔法強化90%

 火・土属性魔法弱体90%

【賢者の証 : 詠唱時間】×3

 魔法詠唱時間-60%

《スキル》

【白銀魔法】

 水・氷属性特化魔法

 光・風属性も並みには使える

 前提 : 白銀の魔力

 前提装備 : 杖あるいは魔導書

【白銀の魔力】

 白銀魔法行使技能。白銀魔法をデメリット無しで行使できる。

 専用 : 白銀魔法

 適正 : 光・風魔法系列

【魔杖術(極)】

 杖使用時消費MP-20%

【魔力の泉】PS/AS

・MPを100%余分にチャージ可能になる

 Str -65% Vit -65%

・MPが100%以上の場合

 Int +20% Min +20%

 毎秒自身のHPを1%消費しMPを1.5%ずつ回復する。途中停止不可。この効果でもHPは0になる

 冷却時間 : 10秒 効果時間 : 30秒

・消費MPを15%減少する

【白銀のオーラV】PS/AS

 Int+20%

 毎分100MPを消費する事で、自身のInt/10mに水・氷属性のダメージフィールドを展開する。相手が抵抗に失敗した場合、状態異常 : 凍結を付与する。

 空間認識能力・真

 フィールド展開中、自身の魔法のみ消費MPが20%軽減

【絶対零度】PS

 Int、Min×1.5

 水・氷属性魔法強化100%

 火・土属性魔法弱体100%

【魔法拡大の達人】PS/AS

 Int+20%

 魔法の射程、範囲、効果時間を消費MPをn倍にする事でn倍に拡大することができる。また、これらを組み合わせることも可能。

【賢者のお墨付き】PS

 Int+20%

 発動するの魔法の威力乱数を、詠唱失敗を除き一定以上に確定する。

【梟の神眼】PS

 Dex +20%

 パーティメンバーへの誤射無効

 暗闇でのバッドステータス無効

【マナリサイクル】PS

 魔法で消費したMPの30%を再度MPに加えることができる

【MPリジェネ(極)】

 1%/1s

==============================

 Name : ラン

 称号 : 鬼いちゃん▽(Str+25% Dex+15% 全ステータス+5%)

 Lv 80(レベル上限)

 HP 4050/4622

 MP 4000/4065

 Str : 400(1392)Dex : 250(1734)

 Vit : 40(346)Agl : 150(409)

 Int : 10(11) Luk : 100(105)

 Min : 40(231)

《装備一覧》

【カスタムハンドガン+25】

 Str +180 Dex +100

 属性 : 無

 口径 : 14mm(ダメージボーナス140)

 命中率強化(大) フルオート射撃

 耐久値 400/400

▷《ロングマガジンDU》

  装弾数 : 100発

  ダメージボーナス200

  付与 : 防御貫通50%・弾速上昇(大)・命中率強化(大)

【復讐者の組紐】

 Vit+10 Dex+40

 被ダメージ毎にStr上昇(最大5%)

【復讐者の着流し】

 Vit+100 Min+70 Dex+60

 被ダメージ毎に20HPを回復

【復讐者の鋲打ち袖】

 Vit+50 Min+40 Dex+100

 被ダメージ毎にDex上昇

【復讐者の装甲袴】

 Vit+70 Min+60 Agl+50

 被ダメージ毎に20MPを回復

【復讐者の鋲打ちブーツ】

 Vit+60 Min+10 Agl+60

 被ダメージ毎にAgl上昇

 ※装備ボーナス(復讐者)

  被ダメージでHP/MPを回復する

《アクセサリー》

【特殊装備召喚装置】×10

 装備名 : ヴォルケインの装備許可

 ヴォルケイン(使用制限Dex500)

 連続展開可能時間 : 5時間

 冷却時間 : 5時間

《スキル》

【銃聖の真髄】【傀儡の真髄】

【鬼の血脈】PS/AS

 Str、Dex×1.5

 毎秒自身のMPを1%消費しHPを1.5%ずつ回復する。途中停止不可。

【心眼(真)】

 Str +30%

 クリティカル発生率上昇35%

 会心威力上昇50%

【心眼(偽)】

 Dex +30%

 回避率上昇25% 命中率上昇40%

【梟の神眼】PS

 Dex+20%

 パーティメンバーへの誤射無効

 暗闇でのバッドステータス無効

【強化外装限定召喚】

 強化外装を一部位だけ、操作時間の消費なしに召喚できる

【強化外装操作時間延長】

【強化外装性能上昇 攻】

 特殊装備Str・Int値上昇30%

【強化外装性能上昇 防】

 特殊装備Vit・Min値上昇30%

【強化外装性能上昇 技】

 特殊装備Dex・Agl値上昇30%

 

【特殊装備】被有効化状態

【超長距離狙撃エネルギー砲】

【中距離用ガトリングガン】

【近距離用高エネルギー銃】

【ヴォルケインヘッド】

 Vit +110 Min +120 Str+20

 照準強化(極)

 全環境適応

【ヴォルケインボディ】

 Vit +180 Min +130 Agl+90

 防弾加工 防魔加工 

【ヴォルケインアーム】

 Vit +100 Min +100 Str+200

 起動中Str累積強化

 起動中Dex累積強化

【ヴォルケインレッグ】

 Vit +100 Min +100 Agl+200

 起動中Agl累積強化

 ローラーダッシュ

【潜行型移動拠点ジングウ】(限定召喚)

 Dex+100 Agl+100

 HPMP装備耐久自動回復 1%/1s

 オートリロード リロード時間短縮

 自動反撃(銃・光線・地属性魔法・火属性魔法)

 クイックチェンジ(武器・防具)

 空間認識能力・深

==============================

 

 

極天ステータス

==============================

 Name : アキ

 称号 : 裁断者 ▽(計 Str+40%)

 Lv 80(レベル上限)

 HP 4050/5335

 MP 4000/4001

 Str : 989(30000) Dex : 0(150)

 Vit : 0(17)     Agl : 0(340)

 Int : 1(1)    Luk : 0(0)

 Min :0(0)

《スキル》

【抜刀術(極)】【古流体術(極)】

【抜刀納刀速度上昇(極)】

【特化紋章術】【動作制限解放】

【装備制限解放(武器)】

【捨てがまり】

 Str+30% 与ダメ+100%

 被ダメ+300%

【英雄の斬撃】

 与ダメ+100%

 被クリティカル確定

 効果時間 : 30秒 冷却時間 : 25秒

【英雄の進撃】

 HPが10%未満時 Str +50%

 中確率でHP1で攻撃を耐える

【悪の敵】

 Str+50%

 戦闘対象がモンスター、あるいはカルマ値が悪のプレイヤーの場合与ダメージ1.5倍

 空間認識能力・剛

【力の求道Ⅲ】

 Strの補正後値を30,000で固定します

 このスキルは自身および他プレイヤーが条件を満たすことで成長します

《装備一覧》

【装刀オリハルコン】(ユニーク)

 All ーー(+100)

 属性 : ーー

 状態異常 : ーー

 抜刀・納刀速度上昇

 刀剣装填

 復活(1回/HP1)

 耐久値 : なし

【蛇腹重刀 アマツ】(装填中 : 能力適応)

 Str +180 Agl +80

 Dex +90

 属性 : 風

 状態異常 : 重力増加

 射程延長 思考操作

 耐久値 450/450

【雨呼】(装填中 : 能力適応)

 Str +120 Agl +90

 属性 : なし

 状態異常 : 防御力低下

 空間把握能力補佐

 武器破壊確率上昇

 耐久値 300/300

【硝子刕 : 薄刃蜻蛉】×5(装備中 : 能力適応)

 抜刀時ダメージボーナス(所持者のステータスの最高値)

 属性 : なし

 状態異常 : なし

 耐久値 1/1

 頭【耳飾】Str +5%

 体【軍服上衣】Vit +10 Str +20

  全天候ダメージ無効

  全環境適応

 手【手袋】Vit +6 Str +7%

 足【軍服下衣】Vit +8 Str +10

 靴【軍靴】Vit +9 Str +10

 アクセサリ【コート+ベルト+飾り】

==============================

【特化紋章術】

 紋章を改造可能

 ただし同時発動できる術は1つまで

 

・特化付与 : 閃光

 属性付与 : 光・獄毒

 詠唱時間 : 60秒

 効果時間 : 戦闘終了まで

《メリット》

 物理攻撃威力上昇2000%

 自身のHPが少ないほどクリティカル威力上昇(最大100%)

 自身のHPが少ないほど基礎Str上昇(最大100%)

 クリティカル発生率上昇

 特殊効果でのHP全損無効

《デメリット》

 HPスリップダメージ発生(1s/1000)

 Vit・Min低下100%

 発動中武器以外のスキル封印

 武装耐久値減少 200%

 痛覚減少深度低下 Lv3(最大10)

(Lv3 = ダメージ発生時殴られてもプラシーボレベルでしか痛くなかったのが、タンスの角に足の小指をぶつけたくらいの痛さに変更)プレイヤーが操作可能な範囲は5まで

==============================

・特化付与 : 狂飆

 属性付与 : 風・雷

 詠唱時間 : 60秒

 効果時間 : 戦闘終了まで

《メリット》

 攻撃範囲拡大

 Agl上昇600%

 物理攻撃威力上昇 50%

 物理攻撃の3割を魔法ダメージとして追加

 特殊効果でのHP全損無効

《デメリット》

 HPスリップダメージ発生(1s/500)

 防御力低下 30%

 発動中武器以外のスキル封印 60秒

 武装耐久値減少 80%

 痛覚減少深度低下 Lv2

==============================

 Name : センタ

 称号 : スローター ▽(計Str +30%)

 Lv 80(レベル上限)

 HP 4050/5324

 MP 4000/4006

 Str : 980(10000) Dex : 0(40)

 Vit : 0(10) Agl : 5(5000)

 Int : 5(25) Luk : 0(0)

 Min : 0(0)

《スキル》

【ケルト式槍術】【ルーン魔術(真)】

【力の求道Ⅰ】【速の求道Ⅰ(偽)】

【鮭跳びの秘術】【自己再生(極)】

【偽りの不死身】【空間認識能力・深】

【動作制限解放】【投擲術(極)】

【適応移動(極)】

《装備一覧》

【殻槍・グングニール】(ユニーク)

 All ーー(+100)

 属性 : ーー

 状態異常 : ーー

 貫通・投擲力上昇

 槍鎌装填

 復活(1回/HP1)

 耐久値 : なし

【偽槍・グリード】

 Str +500 Agl +45

 Dex +20 

 属性 : 闇・水・地・光・混沌・呪い

 低確率で即死効果

 HPが多いほどStr上昇(最大200%)

 HPが多いほどクリティカル威力上昇(最大200%)

 耐久値 800/800

【ドルイドウォッチ】

 Int +20 Dex +10

 魔法発動成功率上昇

 耐久値 200/200

《防具》

 頭【耳飾】Str +5%

 体【青タイツ】Vit +10 Str +25

  全天候ダメージ無効

  全環境適応

 手【腕輪】Dex +5 Str +8%

 足【ベルト】Dex +5 Str +7%

 靴【鉄履】Agl +10 Str +10

 アクセサリ【飾り】Str +50%

==============================

 Name : デュアル

 称号 : 機動殻(Vit +30%)

 Lv 80(レベル上限)

 HP 4050/5330

 MP 4000/4006

 Str : 0(8)     Dex : 0(0)

 Vit : 985(20000) Agl : 0(10)

 Int : 0(0)     Luk : 0(0)

 Min : 5(20000)

《スキル》

【大盾術(極)】【重鎧術(極)】

【対魔力】魔法被ダメ-20%

【城塞】物理被ダメ-20%

【守の求道Ⅱ】

【被ダメージカット(物理)】

 威力3000以下の物理ダメージを受けない(固定ダメージは減衰50%)

【被ダメージカット(魔法)】

 威力3000以下の魔法ダメージを受けない(固定ダメージは減衰50%)

聖杯(ホーリーグレイル)

 Vit・Min ×1.5

 自身のVitとMinの値を同じにする

 HP50%以下の場合、Vit分のダメージボーナスを得る

  武器制限 素手or拳武器

  防具制限 服装備

【魔力防御】AS

 Vit・Min +20% Str・Int -20%

 被ダメ-1000

 効果時間 : 60秒 クールタイム30秒

【陣地防御】AS

 Vit・Min +10%

 AS 範囲上昇 2m(消費MP100毎+1m)

 効果時間 : 30秒 クールタイム15秒

【強化外装性能上昇 防】

 特殊装備Vit・Min値上昇30%

【天罰覿面】

 AS

 発動時間内に受けきった攻撃を、物理魔法問わず1.3倍にして反射する

 効果時間 : 30秒 クールタイム 50秒

《装備一覧》

【無手】(非有効化状態)

【金剛石の壁盾】(有効化状態)

 Vit +200 Min +70

 属性 : なし

 被物理ダメージ軽減 15%

 被魔法ダメージ軽減10%

 ターゲット集中

 耐久値 2,000/2,000

【ミサイルシールド】(有効化状態)

 Vit +150 Min +50

 属性 : なし

 弾数 : 20

 弾種 : 誘導弾

 自動装填 射程延長

 ターゲット集中

 耐久値 1,500/1,500

 頭【眼鏡】

 体【カソック】

   全環境適応

   全天候ダメージ無効

 手【手袋】

 足【ズボン】

 靴【ブーツ】

 アクセサリ 特殊装備召喚装置

 

【特殊装備】有効化状態

 頭【機動兜】Vit +100 Min +100

   探知範囲強化 全環境適応

 体【機動鎧】Vit +200 Min +150

   カウンター 隠剣

 手【機動腕】Vit +105 Min +100 Str +10

   筋力累積 自動反撃(炎)

 足【機動脚】Vit +100 Min +100

   速度累積  十征矢

 靴【機動脚】Vit +100 Min +100 Agl +10

   無限軌道 ハラキリブレード

==============================

 Name : にゃしい

 称号 : 爆裂娘 ▽(Int +30%)

 Lv 80(レベル上限)

 HP 4000/4000

 MP 3975/5262+1192+10000

  (49362)

 Str : 0(0) Dex : 0(4)

 Vit : 0(0) Agl : 0(5)

 Int : 990(30000) Luk : 0(0)

 Min : 0(6)

《スキル》

【魔杖術(極)】【魔法威力強化(極)】

【爆裂魔法】【爆裂の魔力】【魔の求道Ⅲ】

【爆裂魔法強化Ⅲ】【魔力強化(極)】

【精神統一(爆裂)】PS/AS

 指定魔法の威力1.5倍(爆裂魔法)

 次回の魔法与ダメージ2倍

 魔法の威力をMP消費をn倍にすることでn倍に強化できる

 詠唱 : 30秒

 効果時間 : 60秒 クールタイム60秒

【アナザーサバイバル】

 空間認識能力・6種の能力

 Str -20% Int +20%

【マナの大海】

①MPを100%余分にチャージ可能になる

 Str -65% Vit -65%

②MPが100%以上の場合

 Int +25% Min +25%

③消費MPを20%減少する

【魔力の泉】PS/AS

 溢れ出る魔力の泉、その代償は己の命

・MPを100%余分にチャージ可能になる

 Str -65% Vit -65%

・MPが100%以上の場合

 Int +20% Min +20%

 毎秒自身のHPを1%消費しMPを1.5%ずつ回復する。途中停止不可。この効果でもHPは0になる

 冷却時間 : 10秒 効果時間 : 30秒

・消費MPを15%減少する

《装備一覧》

【爆裂の杖《エクスプロードロッド》】

 All ーー(+100)

 属性 : ーー

 状態異常 : ーー

 魔法火力上昇 20% 杖装填

 魔導書装填(0/10)

 魔力解放弾(1回/MP全消費)

 耐久値 : なし

【紅蓮の魔杖】(装填中 : 能力適応)

 Int +200

 属性 : 炎

 魔法火力上昇 50%

 耐久値 320/320

【爆裂の魔導書】×10

 MP+1000

 爆裂魔法威力上昇 150%

 耐久値 500/500

《防具》

 頭【魔女帽子】

   爆裂魔法威力強化10%

 体【クロクローク】Min +5

   全天候ダメージ無効

   全環境適応

   爆裂魔法威力強化20%

 手【厨二グローブ】Dex +4

   爆裂魔法威力強化10%

 足【ふわりスカート】Vit +2

   爆裂魔法威力強化10%

 靴【冒険ブーツ】Agl+5

   爆裂魔法威力強化10%

 アクセサリ

 爆裂魔法威力強化 +100%

==============================

 Name : レン

 称号 : 限定解除 ▽(計 Agl +30%)

 Lv 80(レベル上限)

 HP 4050/4050

 MP 4000/4000

 Str : 0(0) Dex : 0(20)

 Vit : 0(20) Agl : 989(20000)

 Int : 1(1) Luk : 0(0)

 Min : 0(0)

《スキル》

【高機動戦闘術】【動作制限解放】

【速の求道Ⅱ】

【疾風迅雷】

 Agl ×1.5

 速度100毎Agl10%上昇(最大200%)

【電光石火】

 Agl +20%

 移動中帯電。速度100毎に5%速度・電撃の威力上昇(300%)

【即断即決】

 Agl +20%

 反応速度上昇 空間認識能力・真

【天翔怒涛】

 MPを消費して空中歩行可能

 移動中帯風。速度100毎に5%速度・風撃威力上昇(最大300%)

【スロウスタート】

 戦闘開始時から2秒毎に全ステータスが1%上昇(最大200%)

【コッキングローチ】

 最大速度到達時間減少

 速度100オーバー時、加速Agl分のダメージボーナス付与

 速度500オーバー時、スーパーアーマー付与

 速度1000オーバー時、現Agl分のダメージボーナス付与

 速度2000オーバー時、スタミナ消費無効

【累積加速】

 Agl+20%

 敵1体撃破毎Agl上昇5%(最大100%)

【我が身は飛燕】

 空間機動補助(極)

 立体機動 加速度保存

 空間認識能力・深

《武器》

【迅雷の腕甲】

 Vit +10

 雷属性強化(極)

《防具》

 頭【サングラス】

 体【旅装 改二】Dex +10

  全天候ダメージ無効

  全環境適応

 手【風のミサンガ】Dex +5

 足【疾風の脚甲】Vit +10

  風属性強化(極)

 靴【旅装 改二】Dex +10

 アクセサリ【飾り】

  自身に斬撃・刺突属性付与

  自身に10%の追撃効果×8

==============================

 Name : ザイード

 称号 : 写術翁 ▽(Agl +20%)

 Lv 80(レベル上限)

 HP 4050/4050

 MP 4000/4000

 Str : 0(10) Dex : 1(200)

 Vit : 0(0) Agl : 989(20000)

 Int : 0(0) Luk : 0(50)

 Min : 0(0)

《スキル》

【速の求道Ⅱ】【暗殺者の神髄】

【疾風迅雷】【天翔怒涛】

【コッキングローチ】【我が身は飛燕】

【超直感】

 空間認識能力・真

 直感力強化 反応速度強化

【写真術】

 写真として撮影相手をスタンさせる

 撮影対象(敵)にダメージ

 撮影対象(味方)に回復効果

 高解像度確保

【基底の舞踏】

 舞踏魔術発動可能

 ・基礎ステ バフ・デバフ

 ・魔法攻撃

 ・回復

【死霧を纏う者】AS/PS

 Agl +20%

 攻撃にランダムの毒・低確率即死を付与

 潜伏率上昇

 効果時間 90秒

 冷却時間 100秒

【死の運び手】

 指定部位での攻撃に低確率即死とランダムな状態異常攻撃を付与する。この効果は他スキルと累積する。

 指定部位 : 右手

《装備一覧》

【超高性能一眼レフカメラ】

 Agl +250 Luk +50 Dex +150

 属性 : なし

 状態異常 : なし

 ステータス閲覧(撮影)

 射程距離延長(極)

 動画撮影可能

 耐久値 : なし

【暗器束】

 Str +10 Dex +50 Agl +100

 属性 : 闇

 状態異常 : なし

 射程延長 投擲補正

 耐久値 150/150

《防具》

 頭【髑髏の仮面】ステルス Agl +8%

 体【暗殺者の襤褸】ステルス Agl +25

  全天候ダメージ無効

  全環境適応

 手【黒染めの布】ステルス Agl +5%

 足【消音の布】消音 Agl +40

 靴【溶闇のアンク】ステルス Agl +7%

 アクセサリ【飾り】与即死確率上昇

 

==============================

 Name : ザイル

 称号 : トリガーハッピー ▽(Dex +30%)

 Lv 80(レベル上限)

 HP 4050/4050

 MP 4000/4000

 Str : 0(250) Dex : 989(20000)

 Vit : 0(0) Agl : 0(0)

 Int : 0(0) Luk : 1(81)

 Min : 0(0)

《スキル》

【銃聖の真髄】【技の求道Ⅱ】

【生産者の魂(極)】【生産者の真髄】

【神匠】【生産の頂に挑みし者】

【ビリオンコントロール】

 Dex +20%

 念動制御

 ストレージ拡張(30スタック)

 空間認識能力・真

【人型格納庫】

 Dex +20%

 自動装填

 アイテム展開速度上昇

 ストレージ拡張(40スタック)

【憑霊術 : 荒御魂】

 AS

 自身に正気喪失Ⅴ・憤怒Ⅴ・狂乱Ⅴ・暴走Ⅴ状態を付与

 発動中全ステータス+200

 攻撃に空間破壊を付与

 発動中 HP/MPスリップダメージ(2s/500)

 効果時間 : 60秒

 冷却時間 : 300秒 

【アイテムストレージⅤ】

 ストレージ拡張(60スタック)

 銃弾専用枠(100スタック)

 重量制限無効

《武器》

【銃蛇鋼鞭ヨルムンガンド】

 Str +100 Luk +20

 Dex +150

 属性 闇/光

 口径 20mm(ダメージボーナス200)

 装弾数 50/50

 弾道補正 射程延長 音声発射

 耐久値 500/500

【三羽烏 飛穿】

 Str +100 Dex +150

 Luk +20

 属性 闇

 口径 20mm(ダメージボーナス200)

 装弾数 20/20

 弾道補正 射程延長 思考操作

 浮遊 立体機動 砲撃モード

 超砲撃モード 

 耐久値 200/200

《防具》

 頭【技呪の呪符】

  被ダメージ-10%

  全天候ダメージ無効

  全環境適応

 体【汚らしい着物】Luk+10

  被ダメージ-10%

  認識阻害

 手【血塗られた数珠】Luk+10

  被ダメージ-10%

  ステルス

 足【擦切れた袴】Luk+10

  移動速度-10%

  攻撃威力+100

 靴【罪染め素足】Luk +10

  移動速度-10%

  攻撃威力+100

 アクセサリ【呪い血染】

  攻撃威力+100

  攻撃に出血属性を付与

==============================

 Name : 翡翠

 称号 : 頂点捕食者 ▽(Min +30%)

 Lv 80(レベル上限)

 HP 4050/4050

 MP 4000/5282+2000(14570)

 Str : 0(50)   Dex : 0(0)

 Vit : 1(20000) Agl : 0(0)

 Int : 0(60)   Luk : 0(0)

 Min : 989(20000)

《スキル》

【短剣術(極)】【対魔力】【城塞】

【護の求道Ⅱ】【聖杯】【捕食者の真髄】

【魔力暴走】PS

 MP100%オーバーチャージ可能

 魔法暴走確率上昇(極大)

 OC中Vit・Min +100

【アポルオン】AS/PS

 Min +30%

 MPを消費して天候【終末】を展開

 ※天候【終末】について

 風化(極大)

 HPスリップダメージ(2s/その時点での5%)

 MPスリップダメージ(2s/5%)

 属性効果低下(全)

 耐久値損耗(2s/100)

 2秒ごとランダムに状態異常を付与

 天候制圧

 汚染残留

【終焉の杖】AS/PS

 Min +20%

 毎秒自身のHPを1%消費しMPを1.5%ずつ回復する。途中停止不可。この効果でもHPは0になる 冷却時間 : 10秒 効果時間 : 30秒

 効果時間中ダメージフィールド(3s/200)展開

 効果時間中スキル効果200%上昇 

【吸魂】Min +10%

 敵撃破毎に5%MP回復

 攻撃時、与ダメの1%MP吸収

【精神結界】AS/PS

 Min +20%

 空間認識能力

 MP100消費毎自身を中心に半径1m(最大50m)に、Vit・Min合計値の障壁を展開する

《装備一覧》

【解き放たれた短剣】

 Str +50 Min +100

 Vit +50

 属性 : 混沌・捕食・拘束

 状態異常 : 混合

 状態異常付与確率上昇

 対武具特効 拘束確率上昇

 耐久値 600/600

【炙り用バーナー】

 Int +60

 属性 : 光・炎

 状態異常 : 燃焼・焼き目良好

 消費MP20%カット

 耐久値 450/450

《防具》

 頭【こだわりのスカーフ】MP+10%

  全環境適応

  環境ダメージ無効

 体【白いふわふわ】MP+10%

 手【炎のミサンガ】MP+10%

 足【アーマースカート】MP+10%

 靴【茶色のローファー】 MP+10%

 アクセサリ

【料理長の証明】

 NPCの友好度上昇(大)

【美味しいご飯を食べるための携帯セット】

【料理長の証 : 五感】×7

 ※注意 痛覚減少深度低下Lv3

==============================




ユッキーはまだ条件を満たしてないので【幸の求道Ⅲ】は習得していません


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第141話 運営「私が神だ」

因みにミニイベントが挿入された経緯としては、どこぞの馬鹿共の馬鹿騒ぎで第7の街が跡形もなく消し飛んだからです


 アスト自身が強化されていたり、何やら厄介事を呼び込みそうなレアアイテムがドロップしたりとアクシデントはあったものの。むしろそれを起爆剤として、出現の限界時間まで【機天・アスト】改め、【機装堕天・アスト】を乱獲した結果がこのアイテム欄だった。

 

 一般的な通常アストからドロップするアイテム群、それぞれ2スタック(1スタック99個)!

 通常アストのレアドロである光輪、1スタック!(99個)

 そして件のレアドロと思しき神臓! 7個!

 

 多分オークションに流せば凄まじい価値になるのが目に見える。しかも手に入れる過程で、レベルもカンストするというオマケも付いてきた。経験値の塊だったからね、仕方ないね。

 

「で、もう一つ問題なのがこれだよなぁ……」

 

 ステータス画面に燦然と輝く新スキル【幸の求道Ⅲ】の文字。機装……面倒だし闇アストでいいか。闇アストとの幾度目かの戦闘中、パターン分析を兼ねてLuk強化を行って挑戦しようとした時に発生したスキル。

 幸運強化系のスキルを色々食って生まれたこのスキルの効果は、Lukを3万に固定すること。この効果の倍率、コレガワカラナイ。フルバフのセナですら2万に届かないステータスだというの……あれ、もしかすると妥当?

 

 一先ずアストを推定70戦オーバー狩って時間切れになったところで先輩方に聞いてみたところ、どうにも【極天】メンバーは全員取得しているらしい廃スキルだった。

 推定取得条件は、①レベル80②特定ステータスが常態で10000を超えること、なのだとか。前例がなさ過ぎて不明とも言っていたけど。

 

「多分倒すごとに強化されるタイプのボスだったんだろうけど、火力がインフレし過ぎて検証の意味が消えたし……」

 

 一応分析した攻撃パターンと方法、その他諸々はあの場にいたジェイド=サンと一緒に動画込みで掲示板に挙げてある。とはいえ、どこまで通用するのかわからないんだよなぁ……

 

「ん*1

「ありがとう。でも、悩みの1つは大丈夫かな」

 

 れーちゃんからお茶を受け取りつつ返事をする。そう、ボスモンスターについてセナに根掘り葉掘り聞かれるのは、未来予知に等しいレベルで想像できるから別に構わないのだ。

 

「ただ、これをどう使えばいいか迷ってて」

 

 言って、れーちゃんに【アストの神臓】を手渡した。記憶違いじゃなければ、1体目、11体目、21体目と言ったように10の倍数+1の時にしか落とさないレアドロ品。ただ使い道が微妙によくわからず、かと言ってオークションに投げるのも勿体ないという扱いに困る感じなのだ。

 

「ん。ん……ん?*2

「願っても無い申し出だけど、良いの?」

「ん*3! ん、んーん!*4

「なら、お願いします」

 

 れーちゃんが出してきた手に、今装備している防具一式を手渡した。代わりに呪いの装備を身に纏っておけば、インナーのみの変態という烙印は押されないから問題ない。

 

「ん?*5

「はい。ちょっとした事情でメガネリオンを使うことはなく成りそうなので。Dex重視で、メガネと似たようなスキルだと嬉しいです」

「ん!*6 んー……ん!*7

「分かりました。神臓以外はギルドの倉庫に全部突っ込んであるので、好きに使ってください」

 

 追加で神臓を渡しつつお願いした。すると、とても楽しそうな表情でお店のバックヤードというか、プライベートな方のギルドハウスにれーちゃんの姿は消えて行く。

 そうして残されるのは、俺ことどう見ても呪いの塊みたいな怪しげな物体と、明らかに俺を見て怯えてるNPCの店員さんたち。

 

「……取り敢えず、置物しつつ手伝っておこう」

 

 最近30冊に増えた魔導書のオールマニュアル操作の練習も兼ねて。半分以上ヤバイ本だけど、強制的に中を読もうとしない限り平気平気(10敗)

 そこら辺のmobとか、盗賊NPCとかに読ませたらもれなく発狂したけど。序でにアストまでのボスも全員発狂済みである。

 

 

 魔導書で注文の品を提供したりしながら待つこと数分。ギルドホームに続く扉が開いた音を聞いて、閉じていた目を開いた。

 

「ん!*8

「あ、じゃあ早速」

 

 呪いの装備から受け取った新装備に変更する。けれど、特に見た目は前と比べて変わっていなかった。この全体的に草臥れたというか、使い込まれた感じの装備と、藜さんから貰った爆破用のグローブ。完璧である。しかしそれでもちゃんと全能力が調整されている辺り、もうほんと最高。パーフェクトだれーちゃん……

 

「ん!」

「ん!」

 

 翻訳を意識しなくとも、意思は通じ合っていた。こういうところ、多分れーちゃんはランさんの影響をモロに受けていると思う。

 

「ん! ん?*9ん!*10

「え、あ、はい。じゃあ、ちょっとお暇しますね」

 

 厨房の方に声をかけながら、れーちゃんに手を引かれて工房に案内される。……何気にこのギルドに長くいるけど、入るの初めてだなぁここ。

 

「ん!*11

「変身!」

 

 あっこれ魔法少女とか戦隊モノっぽい。そう感じた印象は、間違っていなかったらしい。言葉を告げた瞬間、装備が……いや、ユキというアバター自体が(ほど)けた。

 

 《人外用コントローラー type:Size changeを起動します》

 

 そしてそんな表示が目の前に流れ、アバターが組み直されていく。普段の自分より明らかに小さい、それこそ沙織くらいのサイズで。

 インナーのみの装備でアバターが再構成され、まるで魔法少女物の変身シーンのように各パーツが元の形を変えて全身に装着されていく。なにこれ凝ってる。

 

「アナウンスからほぼ時間経ってないのに、実装済みとか嘘で──えっ?」

 

 しょ? と続くはずだった言葉は、思わず出た困惑の声に塗り潰された。何せ今自分の口から出た音は、実現不可能と言われていた完全に女の子Voice。それも音声流用でも、男がボイスチェンジャーを使って出したり裏声で出すようなものではなくて、多分セナ辺りなら俺であると看破できそうなくらいには自分の特徴があるヤツ。

 

「いや、そもそもこんな声それこそ骨格ごと変えないと……あっ」

 

 なるほど、だからこその人外用コントローラーなのか。

 しかも軽く動いてみた感じ、気持ちが悪いほど違和感がないこの身体。一時期やってたことのある他社のゲームの人外コントローラーと比べても、数世代先行ってない……?

 

「ん!」

 

 UPOの運営会社……確かCrescent Moon社の超技術に感動していると、れーちゃんが全身が見えるような姿鏡を持って来てくれていた。そしてそこに移る自分の姿は──セナとか藜さんとかには劣るけど、それでもまあまあな美少女であった(配点 : 72)くっ。

 

 普段の男性ボディと違って、明らかにサラッサラで且つ(ひかがみ)辺り*12まである白い長髪。明るめの水色の瞳。

 モノクルは眼鏡に。黒いジャケットと茶色系統の草臥れたコートは、水色のカジュアルな服と謂わゆる萌え袖になってる丈の長い白衣に。ハザードグローブは白い宝石の付いたブレスレットになり、おてて民歓喜な小さなおててが晒されている。特に特徴がなかったズボンは丈が短めのスカートに。それなりにゴツかったブーツはローファーと黒い靴下に変わり、綺麗な脚が惜しげもなく晒されている。胸部装甲は皆無だ。セナたちに見られてリスキルされずに済む。

 

 なるほど、大体読めたぞ。でもそれはそれとして。

 空間認識能力全開。

 所作模倣。対象は沙織と空さん。

 所作融合。ちょっと男っぽい感じに。

 声のトーンとイントネーションを調整。

 第一声パターン1 ポーズを決めながら「好きなんだろぉ? こういう女の子がさぁ!」

 パターン2 鏡を見ながら「これが……俺?」のテンプレート

 準備完了!

 

「これが……俺?」

 

 レイドボス戦すら越える脳みその超速回転で弾き出した答えは、とりあえず最初はテンプレに沿うというものだった。成る程……TSっ娘の気持ちがわかった気がする。幼馴染枠がセナだから百合展開にしかならないだろうけど。

 

「ん」

「迷ったのがダメだったかぁ……」

 

 70点と厳しめの点数が書かれたボードを持ったれーちゃんにダメ出しされてしまった。くっ、流石にタメが長過ぎたか。

 

「それにしても、反転って特性をこんな感じにする辺り、パーフェクトだよれーちゃん!」

「ん!」

 

 再度のサムズアップの応酬である。ただ俺の見た目がハァイ、女子ィ化した為ここは百合の花園に変わる可能性がある。そしてこの技術が他社に渡った場合、薔薇で作った百合の花が乱立する可能性ももれなく存在する。実際コワイ。

 

 そんな冗談(ほんね)はともかく。

 

 性別反転。身長は……俺が平均的な身長だからかそんなに変動なし。そして装備の色調と、性別的な差異が反転してるのだから察せられる。

 

「それはそうと、これがバレるのはなんか癪……」

 

 だからこそ、さっきリビルドった時に取得したスキルが、必要だったんですね。

 なんか余ってたチケットで取得した最上級のヘイト減少スキル、その名も【存在偽装】の能力は簡単。色々なモンスターからのヘイト減少と、プレイヤーネーム&看破された時のステータス偽装&看破耐性である。色々と縛りは多いけど便利で、変身能力を得た今なんか変なシナジーが発生したスキルである。

 

「ん!?」

「これでよし」

 

 驚くれーちゃんの前で、名前をユキからしらゆきに変更。レベルも80から25くらいにまで下げて、純魔的なステ振りに変更する。持ち物は……偃月の非抜刀状態もいいけど、研究者っぽい見た目だから魔導書を一冊脇に抱えておこう。

 

「ん?*13

「ちょっと初心者に擬態して第1の街爆破してきますね!」

 

 この姿ならやれる。警戒されないからストーカーされないし、落し物も拾われない。そして制裁用クソ強NPCを呼ばれることも、脱出のために札束ビンタをする必要もない!

 そして意気揚々と、ステルスしながらギルドホームを飛び出し、ノンステルスして歩き出した時だった。

 

「小さくて、白くて、ふわふわ、かわいい。貴女、マシュマロみたいですね?」

「ひぁっ」

 

 翡翠さん(捕食者)に捕まった。

 そんな哀れなマシュマロ(俺か私か僕)の結末は、推して知るべしである。カシャ-ン(リスポンの音)

 

*1
悩んでいるようですけど大丈夫ですか?

*2
特性は大体分かったかも。魔導書の強化は無理ですけど、良ければ装備の強化させてくれませんか?

*3
当然

*4
服なら数分で終わりますし、ユキさんが気にいる出来になると思います!

*5
メガネの装備がないですけど、頭装備は新しく作りますか?

*6
OK、或いは任せて

*7
神臓を1……じゃなくて2個と、他の素材で作ってみますね!

*8
完璧に仕上がったので着てみて下さい!

*9
それよりも! 装備ボーナス使ってみてくれませんか?

*10
調整したいから、出来れば工房で!

*11
変身って言うか、変身したいと念じてみてください!

*12
膝の裏

*13
これからどうするの?




アスト、渾身の呪い

なおれーちゃんの言葉はユキによる意訳です。その為、本質的な意味は同じでも口調とかはユキの認識に依存してます。

==============================
 Name : ユキ
 称号 : 爆破卿 ▽
 Lv 80(レベル上限)
 HP 4000/4000
 MP 3975/3975(7950)
 Str : 0(20) Dex : 0(200)
 Vit : 0(0) Agl : 0(20)
 Int : 0(68)Luk : 990(30000)
 Min :0(36)
《スキル》
【幸の求道Ⅲ】【仕込み長杖術(極)】
【動作制限解放】【運命のタロット】
【ドリームキャッチャー】【龍倖蛇僥】
【コート・オブ・アームズ】【魔力の泉】
【戦術工兵】
 追加 : ノックバック強化(極)
【幸運は手指を助ける】
 Dexによる判定を要する被戦闘域での行動に、Lukの値に応じて確率判定を行う。
 成功すればLuk値を加えて判定することができる。失敗すればそのまま作業の判定を行う。
【存在偽装】
 モンスターと遭遇しても単独の場合アクティブ化しない。
 アクティブモンスターからのヘイト減少(極)
 自身の名前とステータスを一時的に変更することができる
 ※見かけ上でしかステータスは変化しない
 ※このスキルと同等かそれ以上のスキル以外の効果でしか看破されない
 ※PK行為中、或いはGMが他プレイヤーに損害が発生する行為中はこのスキルは発動しない
 -控え-
【常世ノ呪イ】【神匠の内弟子】
【特化作成 : 爆薬】
《装備一覧》
【錫杖《三日月》】(適応中)
 Str +46  Min +20
 Int +47
 属性 : 光
 状態異常 : 拘束
 射程延長
 耐久値 500/500
【杖刀《偃月》】【二式銃杖《新月》】
【浮遊魔導書 参拾式】
 Int +10 Str +10
 Min +10 Luk +10%
 (略)
【機装堕天のモノクル】
 Dex +60
 命中補正(極) 弾道誘導(極)
 マルチロックオン
 耐久値 500/500
【機装堕天の多機能コート】
 Dex +40
 全天候ダメージ無効
 全環境適応  ステルス
 簡易ポーチ(5スタック×5)
 耐久値 1000/1000
【ハザードグローブwithアストの神臓】
 Dex +40
 爆破ダメージ上昇50%
 爆破範囲強化(極) 副次爆破追加
 環境汚染爆破/環境爆破浄化
 オートリロード(簡易ポーチ)
 一定時間爆破に属性追加(属性と時間は捧げたアイテムに依存する)
 リアクティブアーマー(爆弾系アイテムを1つ消費することで、威力に応じた範囲の状態異常を1種無効化する)
 耐久値 1000/1000
【機装堕天のズボン】
 Dex +40
 低位状態異常無効
 中位状態異常無効
 簡易ポーチ(5スタック×6)
 耐久値 1000/1000
【機装堕天のブーツ】
 Dex +20 Agl +20
 全地形ダメージ無効
 特殊地形効果無効
 特殊地形効果任意適応
 耐久値 500/500
 ※装備ボーナス(機装堕天)
  任意のタイミングで性別を反転可能
  一度死亡するまで再発動は不可で、また死亡することで効果は解除される
《アクセサリ》
【賢者の証 : 消費魔力】×2
 消費MP軽減 40%
【多機能ベルト】
 被ダメージ軽減10%
 簡易ポーチ(5スタック×6)
【アイテム射出装置(腰)】×2
 指定部位の簡易ポーチに収められているアイテムを、任意の動作で前方に向けて射出する。
 ※射出可能数はプレイヤーに依存する
【アイテム射出装置(胴)】×2
【多機能ウェポンラック】
 装備していない武器を3本まで、装備補正を受けない代わりに形を消して携行することができる。
 簡易ポーチ(5スタック×6)
【最低の保険証】
 ステータス補正が0以下にならない(※ステータス振りにおけるペナルティは除く)
【仮称 : 機装堕天の神核】
 力を秘めた正十二面体の純然たる力の結晶をペンダントに加工したもの
 ※現バージョンでは装飾用アイテムでしかありませんが、後のアップデートで秘められた能力が解放されるかもしれません
《特殊装備》
【無尽火薬】
 無尽蔵の火薬
 収束爆弾(3/3)
 集約爆弾(3/3)
 耐久値 : なし
==============================


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第142話 朧「最近マスターが構ってくれない」

え、合体できるんですか……?


 出落ち(翡翠さんによる捕食)した悲しみを第1の街にぶつけて、自己採点75点くらいの爆破をしてきた後。れーちゃんとしらゆきちゃん用の装備をどうするか話し合ったり、セナや藜さんにしらゆきちゃんとして着せ替え人形にされたり、今まで使ってこなかった11個目のスキルの検証をしつつ新しい戦闘スタイルの模索をしたりして、時間はあっという間に流れイベント当日。

 

 諸々の家事を全て済ませUPOにログインすると、普段最初に目にするギルドホームの部屋ではない空間にユキの姿で立っていた。

 見渡した感じ室内はログハウス風。目の前にあるのは机とテーブル。そして対面の椅子に座ったメイド服の幼女。見た感じサポートAIとかそんな感じの存在だろうか?

 

「我々は私によって幼女趣味を理解した」

「なんでやねん」

 

 冷え切った目と声音で言われた言葉に、思わずそう突っ込んでしまっていた。瞳も金色だし、どことなくケイ素系の香りがするぞこの幼女。

 

「私は我々の創造者と35423番目のプレイヤーたるユキによって、男性には幼い少女の姿が、女性には幼い少年の姿が最適だと理解した」

 

 運営としてサポートAIがこんな状態でいいのだろうか? 間違った方向に学習して──いや、放置してるってことはこれで良いのだろう。

 

「そういえば、貴方のことはなんて呼べば?」

「私の開発コードはスフィンクス。故に私はスフィと呼称される」

 

 その割には受け答えにタイムラグなしで答えてくれるし、動きにも特に不自然さは感じられない。なんというか、チグハグな印象だ。

 

「我々はイベント概要を提示する」

 

 そんな風に考えを巡らせていると、業を煮やしたのか今回のイベント【探索!従魔大森林 -β版-】について新たな公開情報を加えた内容の画面が目の前に展開された。

 

 ・イベント開始直後はランダムに転送される

 ・マップの各地にセーブポイントが設置されている

 ・第2回イベント同様徘徊ボスが存在する

 ・所持しているペット6体までを1集団とし、6集団までPTとして扱える。つまりは少し特殊だが普段通りのPT編成が出来る

 ・同時召喚は不可。操作中のペットが死亡した場合、他の自身のペットに操作を引き継げる

 ・イベント期間中はログインするとこの場所に飛ばされ、イベント用サーバーに行くか通常サーバーに行くか選択できる。

 

 追加情報の中で特に重要そうだったのはこの6つほど。そういえばペットって、今の俺のレベルだと8体まで持てるんだったっけ。完全に忘れていた。

 それに普段と同じ人とのPTが組めないってことは、結構な問題な気がしてきた。野良PTが上手くいく試しってそんなに多くない気がするし。

 

「我々は単独行動を推奨しない」

「ですよね」

 

 ならやっぱり数体買ってくるべきだろうか? いや、それはそれで管理苦労が凄そうだしな……いや、最近セナも本気のスタイルの時尻尾が9本に増えてたし、割と皆持ってるのか。なら先達に倣おう。

 

「じゃあ一旦通常サーバー行ってきます」

「了解した」

 

 ということで仲間にして、30分程アストをコンスタントにしばき倒して最終強化してきたペット四天王。その内訳はこんな感じになっている。

 

 エントリーNo.1!

 仕込み刀に取り付いた真・付喪神の幻月!

 エントリーNo.2!

 仕込み銃に取り付いた真・付喪神の暈月!

 エントリーNo.3!

 降魔宝杖擬きに取り付いた真・付喪神の繊月!

 エントリーNo.4!

 ペット屋の人がくれた影型のペット朔月!

 

 そう、つまり俺はまんまと付喪神バブルに乗ってしまった訳だ。朔月はオマケで付いてきた。競り合いになったせいで、大体300万Dくらいの出費である。安い安い。

 実質一人暮らし勢として、本日限定と特売の文字には抗えなかったのだ……まあ、悪い結果ではないからいい。結果、ここに一番頼れる相棒の朧が加わり、計5体のペットを抱えることと相成った訳だ。

 

 お陰でユキとして戦う場合に、仕込み刀と銃と杖が魔導書同様周りを浮遊して、デフォルトで復活が3回、MPが9200ほど増え、少し防御性能が上がるという謎強化も入った。

 そして何より、初心者の攻撃を受けただけでHPが0にならなくなったという超強化。今なら多分、あの憎き兎*1も初心者の杖できっと倒せる。ペットだけでここまで強化されるとかうせやろ……?

 

「我々はユキによってゲテモノを理解した」

 

 今度のスフィの言葉には、自覚がある分何も言い返すことは出来なかった。何せ今の自分の姿は、合計30冊の魔導書が周囲をゆったりと旋回し、その内側に三振りの杖が旋回しており、時折影が蠢いているのだから。どう見ても敵方の存在である。

 

「それじゃあ、今度こそイベントに参加してきますね」

「了解した。我々は健闘を祈る──あっ、これキャラ作りの中でも不評だったタイプなんですけど、これから変えますか?」

「折角なんでそのままで!」

 

 いや、まともに喋れたんかい。唐突にスフィの言い放った言葉に、思わず本音と建前が逆になってしまった。けれど嗚呼、引き返す間も無く転送は始まっていく。

 

 《人外用コントローラー type:Size changeを起動します》

 《人外用コントローラー type:Insectaを起動します》

 

 そして何かを言い返す前に身体の分解が始まり……気がつけば俺は、鬱蒼と生い茂る大森林の中にいた。名前はWasp*2なのに身体はBee*3な朧の姿で。

 

「おぉ……」

 

 本来の自分の掌サイズから見る世界は何もかもが大きく、何もかもが新鮮に見えた。増えている6本の足も、翅を使った飛び方も、これまでずっとそうしてきたように動かせる。ある意味怖い。

 

「一応、普段通りメニューも開けると」

 

 開いたメニュー画面は、普段とさして変わらない状態だった。流石にステータスやお金、所持品の引き継ぎは無いようだけどそれは仕方のないことだろう。

 一応あるマップもほぼ白紙であり、他プレイヤーの姿も、徘徊ボスの姿も確認できない。さて、どうしようか。

 

==============================

 Name : 朧

 Race : レギオンワスプ

 Master : ユキ

 Lv 45/45

 HP : 2000/2000

 MP : 1500/1500

 Str : 150 Dex : 120

 Vit : 85 Agl : 600

 Int : 40 Luk : 65

 Min : 85

《ペットスキル》

【状態異常攻撃 : 猛毒】

【状態異常攻撃 : 移動速度低下】

【状態異常攻撃 : 呪い】【状態異常攻撃 : 魅了】

【自爆】

 HPを0にし、現在のHP分のダメージを与える。範囲は半径威力/100m

【レギオン】

 自身の最大MPを半分にし、自身のステータスと同等(HPMPは半分)の実体を持った分身を20体作り出す。

 効果時間 : 分身が全滅するまで

《スキル》

【真・影分身】

 自身のMPを1割消費して、自分の半分のステータス(HPMP含む)の実体がない分身を5体作り出す。

 効果時間 : 戦闘終了まで

 冷却時間 : 20秒

【ドッペルゲンガー】

 自身と同じステータスを持つ扱いの実体のある分身を作り出す。分身の維持には毎分100のMPを支払う。

 また、分身出現中に受けたダメージは全て分身が受ける。分身のHPが0になったとき、このスキルは解除される。

 冷却時間 : 20秒

【多重存在】

 攻撃のヒット数を3増加する(威力は4分の1に減少する)

【状態異常攻撃 : 裂傷】

【状態異常攻撃 : 最大HP減少】

【状態異常攻撃 : 最大MP減少】

《装備枠》

 なし

==============================

 

 少し表示が変わっているけど、特にエラッタとかはされていないらしい。見ての通り、朧のステータスは速度と状態異常特化型。この時点で普段よりマシな探索ができるのは確実だけど、戦うなら少し心許ない。

 

「……なら、マップ埋めしつつ合流を目指すのが一番か」

 

 そうと決めたらサクサクと進めよう。

 そこら辺の木の枝を走っていたリス(哀れな被害者)を捕獲。何度か足でペシペシと叩き戦闘状態に移行しながら、諸々の状態異常を付与する。これで準備完了である。

 

「分身の操作はセミオートにするとして……」

 

 リスが毒でお亡くなりになる前に、分身系のスキルを全起動。総勢252匹の群勢となった自分を、四方八方に全速力でばら撒いた。

 

 急速にマップから空白が消えていく。名前が見えるモンスターを発見。モンスター。モンスター。川。砂漠に到達。敵。敵。敵。採取ポイントっぽい場所。他の蜂の巣?自爆してよし。敵。水場。ダンジョン。岩石地帯に到達。森の深部。あっ、ゴリラさんちっす。えっちょっまっミ゜ッ。空。広い。鳥。食われた?自爆してよし。明らかに手の入った場所。巣。プレイヤーが複数名。

 

「よし、拠点っぽい場所見つけた」

 

 プレイヤーがいる場所以外の分身を、いい感じの場所で自爆。マップで残った最後の分身の座標をマップで確認。ここで、下敷きにしていたリスのHPが尽きたらしく、分身は消滅してしまった。

 しかし十分過ぎる程マッピングは出来たし、プレイヤーの拠点らしき場所も発見出来た。MPを消費しただけにしては、十分な結果である。

 

「行くか」

 

 そう一言自分に言い聞かせて、翅を広げ飛び立った。そのまましらゆきちゃん用戦闘スタイル模索で慣れた高速移動で、最後まで反応があった方向に全速力で飛翔する。

 

「すみません!」

 

 このイベントって、どんな感じで進んでいるんですか? と、聞こうとした瞬間だった。

 

「虫陣営発見! 小型高機動の蜂型!」

「チッ、もう見つかったのか!」

「遠距離攻撃持ち、てぇぇぇ!!」

 

 一切の警告も説明もなく、突然飽和攻撃に晒された。飛んでくるのは針、黒い球、魔法の数々による弾の壁。これくらいなら避けられるとはいえ、ちょっとこれはあんまりではないだろうか。

 

「一応話し掛けたんだけどなぁ……」

 

 こうも煩くなってしまっては、もう声なんて届かないだろう。しかもなんか戦闘態勢が整ってきてるし、スキルが発動できる辺りPvPがこのイベントでは解放されているらしい。リーダーらしき狼のヴォルフさん以外は爆破していいか。

 

「【レギオン】【真・影分身】【ドッペルゲンガー】」

 

 さっきと同様、分身体の制御はセミオート。セナは7人とはいえ全手動らしいから、明らかに鍛錬不足である。それでもなお、数の暴力というのは覆せないものである。

 

「各分身体、順次【自爆】開始」

「ひっ、なんだこの数!?」

「助けっ」

 

 地表付近。リーダーを除いた範囲で、目測7〜10mの爆発が連鎖する。相手の攻撃をすり抜けて自爆した分身体、つまり攻撃力700〜1000程度の範囲攻撃の連鎖だ。

 しかもその全てに猛毒、移動速度低下、状態異常耐性低下、確率行動不能と自傷、裂傷によるスリップダメージ、最大HPMP減少の効果が乗っているのだ。生半可なペットではリスキル確実だろう。

 

「こちらが話し掛けたのを無視して、いきなり襲いかかってきた説明してくれませんか? 分身(残弾)はまだまだありますけど」

「……はい」

 

 リーダー格以外が静かになったところで、分身を引き連れつつ地表に降りた。そして精一杯の笑顔(スズメバチの威嚇音みたいな音が鳴った)を浮かべながらヴォルフさんに問いかけると、丁度イッヌがお座りするような姿勢で返事をしてくれた。

 耳はぺたんと閉じ、尻尾は股のうちにしまい込み、小刻みに震えているけれど知ったことではない。最初からそうしてくれればよかったんですよ、そうしてくれれば。

*1
第4話くらいの兎。未だに爆破抜きだと中々倒せない

*2
スズメバチ系

*3
ミツバチ系




前話のEND、メス堕ちしらゆきちゃんが誕生する可能性があったので捕食シーンはカットしてたりしてます。TSした瞬間堕ちるとか、前々から受けではあったけどユッキー弱すぎない????

おまけ
ユッキーの本日限定特売ペット達
==============================
 Name : 暈月
 Race : 付喪神・真
 Master : ユキ
 Lv 40/40
 HP 1500/1500
 MP 2000/2000
 Str : 600 Dex : 100
 Vit : 100 Agl : 90
 Int : 10 Luk : 90
 Min : 100
《ペットスキル》
【完全憑依 : 器物】
 ペット取得時発動
 主人の持つアイテムのうち何か1つに憑依する。憑依したアイテムに自身のステータスを全て加算する。
【スキル共有】
 自身の所持するスキルを主人と共有化する
【憑依物性能強化】
 自身が憑依したアイテムの性能を30%強化する(自身の加算分は除く)
【自律駆動】
 主人の意思とは関係なく活動することができる。その場合、毎分10のMPを消費する
【変化物】
 対霊性を獲得する
【魔銃】
 使用時主人のHPを確率で5%消費する。また、同種族(主人・ペット共通)を討伐する度正気度を1減少させる
《スキル》
【主人追従】
 主人から半径10m以内までであれば、MP消費なしに移動できる(攻撃・防御不可)
【装填補助】
 銃火器類憑依時限定スキル
 主人のDex・Agl合計分リロード速度を上昇する
【銃火器ノ理】
 火器類を用いて攻撃する場合、与ダメージ+20%、クリティカル発生率+30%
【忠誠ノ誓イ】
 主人と自分のMPを共通化する。また、主人のHPが0になった場合、自身のHPを0にして復活させることができる。
《装備枠》
 憑依 : 【二式銃杖《新月》】
==============================
 Name : 幻月
 Race : 付喪神・真
 Master : ユキ
 Lv 40/40
 HP 1500/1500
 MP 2000/2000
 Str : 600 Dex : 120
 Vit : 80 Agl : 100
 Int : 10 Luk : 100
 Min : 80
《ペットスキル》
【完全憑依 : 器物】
 ペット取得時発動
 主人の持つアイテムのうち何か1つに憑依する。憑依したアイテムに自身のステータスを全て加算する。
【スキル共有】
 自身の所持するスキルを主人と共有化する
【憑依物性能強化】
 自身が憑依したアイテムの性能を30%強化する(自身の加算分は除く)
【自律駆動】
 主人の意思とは関係なく活動することができる。その場合、毎分10のMPを消費する
【変化物】
 対霊性を獲得する
【妖刀】
 使用時主人のHPを確率で5%消費する。また、同種族(主人・ペット共通)を討伐する度正気度を1減少させる
《スキル》
【主人追従】
 主人から半径10m以内までであれば、MP消費なしに移動できる(攻撃・防御不可)
【急所狙い】
 刀剣類憑依時限定スキル
 クリティカル時の威力が50%上昇する
【刀剣ノ理】
 刀剣類を用いて攻撃する場合、与ダメージ+20%、クリティカル発生率+30%
【忠誠ノ誓イ】
 主人と自分のMPを共通化する。また、主人のHPが0になった場合、自身のHPを0にして復活させることができる。
《装備枠》
 憑依 : 【杖刀 : 幻月】
=============================
 Name : 繊月
 Race : 付喪神・真
 Master : ユキ
 Lv 40/40
 HP 1500/1500
 MP 2000/2000
 Str : 300 Dex : 100
 Vit : 95 Agl : 100
 Int : 300 Luk : 100
 Min : 95
《ペットスキル》
【完全憑依 : 器物】
 ペット取得時発動
 主人の持つアイテムのうち何か1つに憑依する。憑依したアイテムに自身のステータスを全て加算する。
【スキル共有】
 自身の所持するスキルを主人と共有化する
【憑依物性能強化】
 自身が憑依したアイテムの性能を30%強化する(自身の加算分は除く)
【自律駆動】
 主人の意思とは関係なく活動することができる。その場合、毎分10のMPを消費する
【変化物】
 対霊性を獲得する
【魔杖】
 使用時主人のHPを確率で5%消費する。また、同種族(主人・ペット共通)を討伐する度正気度を1減少させる
《スキル》
【主人追従】
 主人から半径10m以内までであれば、MP消費なしに移動できる(攻撃・防御不可)
【射程延長】
 本来の武器より射程を延長する
【錫杖ノ理】
 錫杖類を用いて攻撃する場合、与ダメージ+20%、クリティカル発生率+30%
【忠誠ノ誓イ】
 主人と自分のMPを共通化する。また、主人のHPが0になった場合、自身のHPを0にして復活させることができる。
《装備枠》
 憑依 : 【錫杖《三日月》】
==============================
 Name : 朔月
 Race : デァ・ゲファッター・トート
 Master : ユキ
 Lv 45/45
 HP : 1500/1500
 MP : 2000/2000(3200)
 Str : 125 Dex : 200
 Vit : 150 Agl : 400
 Int : 50 Luk : 50
 Min : 150
《ペットスキル》
【影ニ潜ム】
 召喚時指定の影に潜り込みMPを共有する
【光属性脆弱】【自動反撃】
【状態異常攻撃 : 即死】【自動防御】
【マジックミラーボディ】
 表からは黒い身体に見えるが、裏からは周囲を映し出す身体を持つ
《スキル》
【魔力核】【魔力核Ⅱ】【魔力核Ⅲ】
【悪食】
 遠距離攻撃系ダメージを無効化、想定威力の30%HPを回復する。
【肉風船】
 MPを消費して近距離攻撃のダメージを遠距離攻撃として計算する。
【影の衣】
 影に潜り込んでいる間、対象が受けるダメージを全て自身に適応する。その際物理ダメージは半減して適応する
《装備枠》
 なし
==============================


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第143話 探索!従魔大森林 -β版-

異聞帯を踏破して遅れた挙句、昨日誤爆したので初投稿です


「成る程、今回のイベントはそういう風な流れになってるんですね」

 

 取り敢えず無力化したリーダーに対して、たっぷりと時間をかけて脅h……じゃなくて尋m……でも無くて、お願いをしたところ、最初の態度はなんだったのかと思うほど素直に話をしてくれた。

 

 曰く、最初はほんのちょっとした衝突だったらしい。

 名前は知らないけれど動物系のペットのプレイヤーが、俺のように虫系のペットを使っているプレイヤーに対して「気色が悪いから近寄らないで。PTを組んで一緒に冒険なんてしたくない」と言った。

 それに対して虫系のプレイヤーが「そんなことを言うお前こそ、他のプレイヤーとPTを組む資格なんてない。人の好きを馬鹿にする相手なんかとは、こちらこそお断りだ」と言った。

 

 そこまで聞いた限りでは虫系のプレイヤーに大賛成だし、その場にいたプレイヤーの空気も大半は虫系プレイヤーに傾いていたらしい。実際今震えてるヴォルフさんも、意見として虫側らしい。

 

 ただ間の悪いことに、動物系のペットのプレイヤー……チワワだったらしい……は所謂姫プレイヤーだった。更にそこには、大量の取り巻きがいた。しかも、あまり頭のよろしくないというか、自分に酔ってる連中だ。

 

 そこまで聞けばもう、結果は見ずにとも想像できる。始まったのは大乱闘。無機物系プレイヤーが出てきて仲裁を試みようとしても、姫が一切聞く耳持たず乱戦に。

 

 その場は圧倒的な物量差で姫側が敗北したけれど、姫側が掲示板とフレンド経由でデマをばら撒いたらしい。曰く、『虫プレイヤーに騙されてキルされた。無機物系プレイヤーもそれを見てるだけで助けてくれなかった』と。

 本来なら相手にもされないその噂は、プレイヤーをキルしても進化に必要な素材を落とすPvP仕様のイベントであることも重なり、尾ひれはひれが付きまくって拡散。組織立って動物系vs昆虫系、中立の無機物系という流れになったと言うことらしい。

 

 確認してみたら、結構な素材が俺のアイテム欄にも溜まっていたから、PKで素材ゲットが可能というのは間違いない。しかも常に窒息してる検証班が珍しく動いて、同レベルの敵モンスターと同等の素材が泥することまで判明してるのだとか。

 

「流石に普段通りのPTで動いてる奴らは別だが、集団で動いている奴は大体そんな考えになっている」

「厄介なことしてくれましたね、ほんと」

 

 つまり探索しようと意気込んで来たのに、探索イベという趣旨が完全に壊れていたという訳だ。こういうのが嫌で、ネトゲをあんまりやってなかったことを思い出した。

 

「まあ事情は分かりました。それで、一応話し掛けたんですけど、なんで俺は急に襲われたんですか?」

「今思えば分身なんだろうが、一回こっちを見に来てただろう? だから偵察だろうと思ってな」

「あー……そういうことですか」

「とんだ誤解だったがな。申し訳ない」

「いえ、それを言ったらこっちも、反射的にあなた以外をリスキルしちゃいましたし」

「反射的にリスキルって、マジかよ爆破卿……」

 

 お互い頭が冷えたからか、そんな感じで割と冷静な話をすることができていた。決してこれは脅しでも脅迫でもない、ちゃんとした対話なのである。

 

「それで、爆破卿はこれからどうするんだ?」

「そういう諍いは嫌いなんで、ギルドのみんなと合流を目指しますかね。なまじ有名なので、巻き込まれたら面倒だと思うんですよ」

 

 自分がゲームの中で有名なのは、重々承知している。極振りとしても、ユニーク称号持ちとしても。そしてそんな奴がどこかの陣営に加担したら、それだけで騒ぎは大きくなると別ゲーで経験済みだ。

 

 さすがだぞ 自分の 影響力を

 ばっちり わかって いるんだな!

 

 じしんかじょうな脳内の幻影は爆破処理だ。謎の思考に邪魔されたが、今回のイベントも結局、セナたちを頼るかソロで行くのが正解となる。……本当は普段絡みのない、避けられてたりする人とも遊べたらと思ったけど、諦めた方が良さそうだ。

 

「それじゃあ失礼しますね」

「いや、ちょっと待ってくれ」

「はい?」

 

 戦闘状態を解除するのは惜しいけど仕方ない。そう飛び去ろうとした時、何故か俺は引き留められた。

 

「なら、この後少しで良いから付き合ってくれないか? 元々、まだ誰も踏破していないダンジョンを見つけて、今から挑むところだったんだ」

「んー、別に良いですけど、何故? というか、割と俺まだ貴方のこと信用してないんですけど」

 

 暗にまだPKする気やろ、騙されんぞ(画像略)と伝えてみる。いやまあ、してきたならしてきたで返り討ちにする気しかないけれど。それでも事情を聞いてしまった以上、あんまり関わりたくないのが事実だった。

 

「なら、虫系ペットの進化に必要なアイテムを全部渡す。一番レア度の高いアイテムも入っていたはずだ。それで依頼ってことに出来ないか?」

「そういうことなら良いですけど、報酬高くないですか?」

 

 隠し事してるやろ、それじゃあな!と探りを掛ける。だが正直進化アイテムは欲しい。後ろ髪引かれている。だから素直に話してくれるなら良いのだけど……

 

「単純に、朧さんの能力からしてそれくらいの価値はあると思うんだよ。あの分身数なら、探索も戦闘も確実に楽になる」

 

 確かに分身数の上限が500匹までに制限されたとはいえ、虫系プレイヤーの分身能力は有用だろう。我ながら分身特化型は、特に探索において凄まじい活躍が出来ると現在進行形で認識している。何せもうすでに、この地域一帯のマップは完成しているのだから。

 序でに進化用アイテムと思しき物も、人海戦術ならぬ虫海戦術で根刮ぎ回収中だ。朧の進化分は、それこそ最後に必要な『虫入りの琥珀晶』なるアイテム以外はそろそろ集まると思う。

 

「それと、こっからは下心だから嫌なら拒否してくれて構わない。その上で相談なんだが、ちょっと配信に出てみないか?」

「はい?」

「一応これでも、動画配信者(ストリーマー)をやってるんだ。ヴァーチャルなガワを纏って」

「ははぁ」

 

 ヴァーチャルなってことは、確かDutubeとかそういう感じの名前のところだろう。偶にSNSでバズってる人くらいは俺でも知っている。過去のすったもんだはあったとはいえ、今は割と花形のポジションにいる人たちの筈だ。視聴者数が伸びれば、それ一本で食っていける人もいるとかなんとか。

 

「というか、UPOって配信に対応してたんですね」

「ああ。時間加速実装の時に一旦非対応になったが、最近復活したんだ。そのお陰でブームで、ソフトが品薄になってるらしいぞ?」

「へぇ〜」

 

 生返事をしながら気になったので外部サイトに接続。適当に検索してみれば、確かに色々と動画が上がっていた。長時間のミスティニウム解放戦の動画がある辺り、あのイベントの時点では既に配信が解放されてたらしい。

 

「再生数とかも稼げそうですしね」

「まあ、そういう狙いもないことはない。登録者数は10万と少しいてくれるから、元々困ってないけどな」

 

 多分それなりに有名な人だったらしい。知らないけど。

 あ、この動画のサムネ、デュアルさんを掘り起こしてる俺だ。誰だ盗撮してアップしやがった奴。というか極振り系の動画割と多いな。

 

「あ、割と極振りに挑戦してみた系の動画もあるんですね」

「俺含めて、全員挫折してるけどな」

「えぇ……」

 

 どうやら目の前のヴォルフさんも、挫折組の1人らしい。いやまあ、理由がわからないことはない。我ながら当初の装備だと、未だにうさぎに苦戦するし。

 

「因みに何のステータスを?」

「Strだった。お陰で今もStr偏重型でやってる」

「ということはペットもその強化系ですか?」

「ああ、こう見えて付喪神系で、変形して剣になる」

 

 言うと、ヴォルフさんの全身が折りたたまれる様に変形を始め、開いた狼の口から細長い両刃の刀身が伸びる剣に変わっていた。何これカッコいい……

 

「今は銀河一刀流をどうにかスキルで再現できないか、配信中でも配信外でも練習中だ」

「いつか百鬼夜行をぶった斬れると良いですね」

 

 分かってくれたのかとでも言いたげに目を光らせたヴォルフさんと、握手……は出来ないのでサムズアップ……も無理だ。ウインクすら出来ねぇ!

 

「まあ、そのなんだ。ありがとう。というか、随分古い作品なのによく知ってるな?」

「なんやかんやで今でもスーパーヒーロータイム観てますから」

 

 昔沙織とプリキュアから観てたせいで、今でも見続けている。ああいや、順番が変わったんだったか。なんでか昔とあんまり変わらない、隣に並んで見る構図だから気にしてなかった。……正直今の戦隊モノは趣味に合わなかったから観てないけど。

 

「それで、話は戻すが配信の方は……?」

「いくつか条件がありますけど、それでもいいなら」

 

 元々の趣旨からは若干外れたことになるけど、偶には知らないプレイヤーと遊びたいという目的は達成できる。火力特化プレイヤーなら、相性も悪くないし。

 

「分かった! 条件を教えてくれ!」

「PTは組まないで、このまま敵対状態で良いですか? このままの方が分身の管理が楽なので」

 

 一々分身を再開するのは、実際面倒極まりないのだ。その点敵対状態のままなら、分身管理が凄まじく楽なのだ。

 

「あと折角なんでフレンド登録と、チャンネル教えてください」

「PT組まないままは……まあ、仕方ないか。けど残り2つは、寧ろこっちからお願いする様なことなんだが? それくらいで良いなら、条件を飲もう。ドロップ品はどうする?」

「1段落ついたら話し合いってことで」

「分かった。じゃあ少し待ってくれ、今配信の準備とか告知とかの諸々を済ませる」

「はい、じゃあ俺は分身集めておきますね」

 

 フレンド登録……クルーガーさんというらしい……を済ませて、教えてもらったチャンネルを一応登録。準備をしている横で、片手間に動画を漁ってみる。うわ、普通に有名どころ所属だ。

 

「それにしても、よく時間加速してる中から通常速度のネット弄れますよね」

「そこが一番運営が苦労したポイントらしい」

 

 そんなことを言いつつ、件のダンジョンまでの道をクリアリング。それで必要な進化素材は8割型揃ってしまった。まあ、楽しめそうだから良いか!

 




デカレンジャーはいいぞ……そしてルパパトもいいぞ
サモーン・シャケキスタンチンの野望が1年越しで叶ったルパパトはいいぞ
\クリスマスにはシャケを食え/


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第144話 探索!従魔大森林 -β版-②

 偶然遭遇したプレイヤーに攻撃されたので、反射的にリスキルしたらVtuberの配信に出演することになった。ログインしてからの状況を簡単に総括するとこうなるのだが、我ながら意味不明DA☆と脳内のATMが叫びそうなほど状況は混迷を極めていた。

 

「なんか俺が手伝えることあります?」

「配信に関してはないな。ただ、警戒と遺跡に誰か入らないか見張っていてくれるとありがたい」

「もうしてるんですよねぇ」

 

 何やら悪戦苦闘しているヴォルフさんの横で、俺が出来ることといえばそれだけ。餅は餅屋なのだろうけど、ぶっちゃけ既に暇になってきていた。

 分身のうち400体は周囲と遺跡の警戒兼、道中のクリアリング要員。俺本体はここで待ち、残りの99体はただ待つのもなんだからマッピングと素材回収に回している。

 

「すまん……」

「いえ、俺も代価は貰いましたし」

 

 なお進化にはあと少し素材が足りていなかった。だからこそ、探しているのだが……まだ時間掛かりそうだしいっそ、どれだけフルマニュアル&セミオートのみで操作出来るかとか試してみようか。

 

「うーむ……」

 

 分かっていたことだが、やはり難しい。この本体が動けないとかいう、無限の成層圏な青い雫状態だというのに数が増やせない。フルマニュアルが10、セミオートが200が限界になってしまう。ああいや、でもこれ編隊とか組ませるならセミオートの方が割と楽か……?

 

「というわけで、さっき終わったばかりで悪いがゲリラ配信だ」

 

 そんな感じに暇を潰していると、いつの間に配信を始めたのかヴォルフさんのそんな声が聞こえてきた。ならそろそろ、話題を振られてもいいように備えておこう。

 

『やったぜ』『まだ配信見れる』『まだ舞える』『でもなんでゲリラら?』『あれ?さっきまで一緒にいたメンバー……』『なんか蜂飛んでるんですけど』

 

 こんな感じで、コメント付きで同時視聴しながら。さっきので操作限界は見えたし、ある程度ならコメント拾って反応もでき……女体化、配信……うっ、頭が。*1

 

「まずゲリラ配信を始めた理由は、偶然に有名人と遭遇できたからだな」

『有名人?』『有名人…蜂のペット……あっ(察し)』『え?誰?』『やべぇよ……やべぇよ……』『うっ(トラウマ)』

 

 コメント欄が一気にざわつき始める。やっぱりこれ荒れるよなぁと思いながら、取り敢えずカメラに向けて手を振ってみる。いや、待て、なんで俺はこんなことを……

 

「というわけで、極振りのユキさんこと朧さんだ」

「どうも、ご紹介に預かりましたユキ兼朧です。話しかけたら攻撃されたので、お仲間を反射的にリスキルした結果協力することになりました」

『でたわね(震声)』『デ デ ド ン』『悪の親玉』『なんか書いとけ』『火薬キチ』『\反射的にリスキル/』『ひえっ』『許し亭ゆるして』『ふぐぅ……』『トラウマが……塔でのトラウマが……』『1000匹の自爆蜂とかどうすればええの?』『もうれーちゃんにセクハラしないから花火ル括り付けの刑はゆるして……』『←見つけたぞ』『お前が悪いんだよ』『草』『鬼いちゃん早すぎんよ〜』

 

 と、事実をありのままに述べた瞬間コメントが爆発的に加速した。しかも何故か視聴人数まで伸び始める始末。まだ一言しか喋ってないのにどうしてこうなった。

 意図的なアンチコメは無視してこれな上にまだ加速するとか、回線壊れそうで怖いんだけど。

 

「ま、まあ色々あったが、虫系の進化素材を融通することで、さっきの放送で見つけたダンジョンの踏破に手を貸してくれることになった」

「取り敢えず、心配されるような確執も不和も起こらないよう話し合いは済んでますので、そこはご安心を」

『や っ た ぜ』『大戦力』『ハイパー無慈悲』『極振りを味方につけるとかやりますねぇ!』『ん?今俺たちのコメント読んで反応してなかった?』『勝ったな風呂入ってくる』『やっぱり見た目以外は虫系ヤバイしな』『見た目もヤバイだろ何言ってんだ』

 

 流れたコメントの中に、早速俺がコメントを追いつつプレイしているのを察した人がいた。そんな馬鹿な的なコメントも多いし、折角だから反応してみようか。

 

「折角なんで片手間に配信は見てますよ? 出させてもらってるので、チャンネル登録もしておきましたし」

「えぇ……」

『配信主もこれには困惑』『配信に出演しながら配信を見つつプレイ!?』『配信がゲシュタルト崩壊するからやめれ』『片手間にコメントって追えるものなのか……』『えぇ(困惑)』『流石極振りだわ』

 

 何故かヴォルフさんにまで引かれた。解せぬ。チャンネル登録と高評価は配信者にとっては死活問題じゃなかったのか。なんか現時点で、俺がいるせいか低評価多めなのに。

 

「趣旨に戻りません?」

「そ、そうだな。これからダンジョンに向かうわけだが、移動時間は雑談コーナーだ。何か聞きたいことがあったら書き込んでくれ」

 

 と、普通のペースで歩きながら/飛びながら、コメント返ししつつ進むこと数分。ヴォルフさんの言っていた、既になんども確認済みのダンジョンがようやく本体の目に入った。

 

「ここが名前はないが、軽く中を覗いた俺たち以外はまだ攻略の手が入ってないダンジョンだ」

「懐かしいですね……第2回イベントを思い出します」

『そういえばユキってほぼ初期組だったな』『2人目を引っ掛けたという噂の』『ユキの無限リスポンスキルをゲットしたとの噂の』『あれかぁ……復刻してくれないかなぁ』

 

 目の前にぽっかりと口を開けているダンジョンは、そんな懐かしい記憶を呼び起こすような造形をしていた。

 元は何かの神殿であったらしい、崩壊した建物。パルテノン神殿的な柱は既に苔生し蔦に覆われ、天井も崩れてその役目はとっくに失ってしまっている。かつて床であっただろう場所に開いた大穴が入り口らしいが、ここからでは見通せない暗闇に満ちている。

 

「ぶっちゃけアンデッド系のモンスターだらけな気配がします」

「朽ちた神殿だからな。それなら俺の得意分野だから、任せてくれ」

 

 ガシャンと剣に変形しつつ、ヴォルフさんが自信を持って答える。朧のボディじゃ看破も鑑定系のスキルも使えないけれど、きっと不死者特効とかそういうスキルを持っているのだろう。

 

『対カルマ悪に対する強化倍率高くて羨ましい』『悪即斬だからなぁ』『流石銀河一刀流目指してるだけはある火力してる』『なお百人斬りは失敗した模様』

 

 なんてことを思っていたら、コメント欄で言及されていた。成る程成る程、カルマ値が悪の相手特効と。カルマ値、探してみたけどマスクデータらしくてスキルの効果倍率からしか探れないらしいんだよなぁ……

 

「なら私は巻き込まれないようにしないとですね。カルマ値最悪らしいですから」

 

『毎日ビル爆破してる奴が何を』『あれで善とかありえないでしょ』『花火ルしてる奴に言われたくないんだよなぁ』『この前だってアスト30連してたし……』

 

「爆破しますよ?」

 

『ひぇっ』『ゆるして』『許し亭ゆるして』『許し亭って誰だよ』『助け亭たすけて』『増えた!?』『かつてここまで恐ろしい配信があっただろうか』『ほら、お前の後ろにはちさんが……』『はちさんとかいう隠しきれない育ちの良さ』

 

 何故かまたコメントが爆速になった。解せぬ。出番を食ってしまったからか、ヴォルフさんもなんか微妙な表情してるし。

 

「まあ本題に戻るとして。正直あんまりPTで探索したことないんですけど、こういう場合の定石って斥候が先行して罠を解除とか探索ってことでいいんですよね?」

「そうなるな。……頼んでおいて何なんだが、斥候出来るか?」

「なに、分身は500体いるんです。何とかなりますよ」

「うわぁ……」

 

 昔読んだ覚えのある小説から取って、名付けて【蜂型使い捨て装甲板作戦】。たとえ罠に引っかかっても、誘爆させて壊してしまえば勝ちなのだ。兵士は畑から取れるではないけれど、分身は無から無限に発生させられる。

 

『圧倒的ゴリ押し』『これは運営涙目』『ザ・ゴリラ(虫)』『ちょっとなに言ってるか分からないです』『こいつは蟲の仕業ですな……』『コイツは緋蜂……別モンになるか』『何でもかんでも蟲のせいにするのはちょっと』『でもこれは蟲の仕業』『虫系ペットとしては正攻法』

 

 コメント欄には、割と好意的な反応が多いようだった。やっぱり分身ができるなら生かさないと。探索もする、クリアリングもする、どちらもリスポンの危機なしに出来るのが分身のいいところだ。一部の生物系のペットしか覚えられないけど。

 

「というわけで、レッツ探索」

「……これ見ると、割とこの騒動の発端のプレイヤーの気分も分かる気がする……賛同はしないが」

『わかる』『分かる』『ワカル』『ワカラナイ』『ぶん、ぶん、ぶん』『そんな可愛い音じゃないんだよなぁ……』

 

 ドン引きされながら、400匹の蜂をダンジョン内部に突入させつつマッピングを開始する。持ち前のAglのお陰で数秒間で闇の中に消えた分身体を見送り、隣で青い顔をしていたヴォルフさんに声を掛ける。

 

「さ、俺たちも行きますか」

「……ゴキブリホイホイに入るゴキって、こんな気分なんだろうか?」

 

 そうは言いつつも、素直に飛び込んでくれるのは有難い。なんて考えつつ自分も突入すると、一瞬このマップに来た時のような浮遊感に襲われた。そして視界の端に、1つのメッセージが現れる。

 

 《ダンジョン『徘徊する残骸の聖堂』に侵入しました》

 《現在の当ダンジョンの踏破者 : 0》

 《現在のダンジョン内にいるプレイヤー : 2》

 《ダンジョン難易度 : 8/10》

 《ダンジョン踏破率 : 13%》

 

 朧の身体では反映されないけれど、思わず笑みがこぼれる。これは、結構そそる展開な気がしてきた。この放送中にもきっと他の挑戦者が来るだろうからその前に、隠し部屋もレアポップも全て狩り尽くしてしまおう。

 出来るかは分からないけど、そんなRTAじみた挑戦もたまには悪くない。攻撃特化の心強い味方もいることだし、久し振りに派手に行くとしようじゃないか。

 

*1
番外編 爆破系美少女配信者しらゆきちゃんをチェックだ!




これで今年の更新は最後!
また来年、良いお年を!!


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第145話 探索!従魔大森林 -β版-③

ポケモンダイレクトでキノガッサが確認できなかったので初投稿です。相棒がいないんじゃ始められないぞ剣盾……

あ、あけおめ!(激遅)


 《ダンジョン『徘徊する残骸の聖堂』に侵入しました》

 《現在の当ダンジョンの踏破者 : 0》

 《現在のダンジョン内にいるプレイヤー : 2》

 《ダンジョン難易度 : 8/10》

 《ダンジョン踏破率 : 13%》

 

 見渡した感じ、光は無くかなり視界が悪いダンジョンだった。それでもなんとか目を凝らせば、見えて来たのは積み上げられた髑髏。或いはそれらの残骸が撒き散らされたような、カタコンベめいたボロボロの通路だった。

 そしてその表示が見えた瞬間、にわかにコメント欄が沸き立った。

 

『新発見のダンジョンで難易度8!?』『ファッ!?』『さすが幸運極振りじゃん』『発見されてる中で最高難度とか草』『既に13%も踏破率してるのほんと笑う』『草』『どうしてこう、引きがいいんだ』『それよりホラーとか』『地下鉄走ってない?』『馬の骨ぇ』

 

 またもやコメント欄は爆速だ。正直高レアとかレア泥しかしないのはUPOに限って慣れているので良いとして、そんな高難易度ならもしかしたら2人だけでの攻略は無理くさいか?

 

「とのことですけど、攻略どうします?」

「滅多にない一番槍だ。当然潜れるところまで潜るさ!」

『一番槍ぞ!誉れぞ!』『島津は帰って、どうぞ』『了解、前方へ撤退する』『←関ヶ原ァ!』

 

 一応聞いてみたところ、ヴォルフさんはそんな気持ちいい返事をしてくれた。いやぁ、良かった良かった。それならマッピング範囲をゴリゴリに広げて、結果分かったこのやばい状況にも意味がある。

 

「ならアレですね、今すぐ移動しましょう」

「どうしてだ?」

「後ろ見ればわかると思います」

 

 そして耳に届く、ゴヴォ……という粘度の高い液体が泡立つような薄気味悪い音。その音にヴォルフさんがゆっくりと振り向き、遂に暗闇の中に浮かぶ敵を視認した。

 

 三脚を逆さにしたような三又に分かれた人の胴ほどの棒の中心に、金魚鉢を逆さにしたような形で、悍ましい紅をぼんやりと放つ物体が固定されている。そこに灯る青白色い1対の光はまるで人間の目のようで、先が三叉に分かれたしなる棒の下、胴体的な棒を中心に回転する、どこか神聖さを感じる鬼火と相まって冒涜的な雰囲気を放っている。

 

 そう、高難度ダンジョンにも配置したから覚えている徘徊型のボス【The heavenly will‐o'‐the‐wisp】君だ。厳密にはその亜種なのか上位種なのか、【The sacred will‐o'‐the‐wisp】なる徘徊型ボスが3体、編隊を組み変態的な軌道で迫って来ていた。

 

「うっそだろオイ!?」

「嘘じゃないですねー」

 

『ひぇっ』『SANチェック案件』『振り向いたらボス三体とかやめてクレメンス……』『これは詰んだな(確信)』『逃げてー!』『乗るな大咬!戻れ!』

 

「コメント欄も元気いっぱいですね」

「なんでお前そんな冷静なの!?」

 

 全力で逃走しながら適当に話しかければ、明らかに必死な形相で返事が返ってきた。大咬というのはヴォルフさんの配信者としての名前である。下の名前はツミ。でもこれが、そんな焦るような状況かどうかは疑わしい。

 

「普段からオワタ式なので別に……おっとっと」

「そういやそうだったぁぁん!?」

『クッソ情けない悲鳴で草』『翼有る無しの優劣がひどくて草』『こうして見ると、弱めの筈の虫が強そうに見える』『でもパンピーには獣型の操作が限界ゾ?』『ヨツンヴァインのイメージで獣型はやれるんだがなぁ……』『人外過ぎるのはちょっと無理だった』

 

 断続的に飛ばしてくる火球を適当に躱していれば、なんか情けないタイプの悲鳴をあげてヴォルフさんは逃げ惑っていた。やっぱり飛んでる上に的が小さいって便利の極みだ。

 

 なんてことを考えながら逃げること数十秒。追って来ている奴らの勢いが、急激に弱まり始めた。

 

「た、助かったのか?」

「いえ、これは追跡圏外に出たからですね。代わりに、他の奴らの追跡圏内に入ったっぽいですけど」

『は?』『へ?』『ほ?』『あ、地図に表示されてるやん……』

 

 そう、コメント欄にも出ている通り、このフロアのマッピングが100%になったボーナスらしく、敵シンボルがマップに表示されるようになったのだ。本来ならF.O.E、或いは徘徊ボス、又はワンダリングモンスターと呼ばれる類の強敵分は。

 そして今俺の表示しているマップには、夥しい数のシンボルマークが表示されていた。

 

「このダンジョンの名前『徘徊する残骸の聖堂』じゃないですか。これ多分3つに分けられて、徘徊する/残骸の/聖堂になると思うんですよ」

「人が必死こいてるのに、悠々と考察かよ……」

『なるほど、構わん』『続け給え』『攻略スレでもそんな感じのこと書いてあったよな』『ただ法則はバラバラなんで不明』『推測くらいしか出来ないらしい』

 

 三人寄れば文殊の知恵と言うのだ。ここに2人とコメント欄の人たちを合わせれば、この場の名前の意味くらいは判別できるだろう。集合知とかいうアレだ。

 

「まず『聖堂』ですけど、これは間違いなくこのダンジョンの入口があった場所だと思うんですよ。そういう名前の天候効果もありますし」

 

『うむ』『割とわかる』『納得できる』『せやな』『天候 : 聖堂は笑う』『お前アストちゃんと戦ったことねぇな?』『黒アストちゃん勝てないです……』『なおユキ』

 

「で、『残骸の』はこの通路の惨状でいいと思うんですよ。見るからに地下墓地の残骸ですし」

「俺もそう思う。走りづらいったらありゃしない」

 

 ヴォルフさんからそう肯定が入った。よく見れば足元はボロボロでヒビ割れ、タイルも欠け、歩きづらそうだ。というか俺では走れる気がしない。

 

「で、問題の『徘徊する』なんですが……」

 

 言葉を続けようとしたところで、ちょうど良くこの場を探知圏内とするボスが姿を現した。

 

「「「カカカカカカッ!」」」

 

 半透明に透けた骨の身体と、よく俺も着ている呪い装備のような襤褸。3つある頭蓋骨は回転しながら俺たちを見つけて嘲笑い、目の奥にある紫の炎を躍らせている。そして何より問題なのが、壁から半透明の上半身だけを生やしているということ。

 

「つまり裏では壁尻か」

「「「カッ!?」」」

「ごっふぉ」

『特殊性癖過ぎて怖い』『割と一般的では?』『SANチェック中断』『今のはずるい』『勝てない』『いやでもあり……いや、いや……うん、ないわ』

 

 ボソリと呟いたヴォルフさんの言葉に、シリアスは霧散した。噎せるような構造をしてない筈なのに、思わず咳き込むくらいに笑ってしまった。

 尾の生えた下半身を引っ張り出すボス、名前を【The great authority skeleton】というボスも何処と無く不満気な顔をしている気がする。威光もへったくれもあったもんではなかった。

 

「まあ話を戻しますが。『徘徊する』って多分、出現する敵が全部ワンダリングなボスってこと示してると思うんですよね。マッピング完了したマップにほら、こんなにカーソルが」

「嘘だろオイ……」

『クソみたいなダンジョンで草も枯れた』『オールボスww』『アキのダンジョンですらもっとマシだったゾ……』『運営の悪ふざけ』『極振りダンジョンですらマシだった気がする』『流石に草』『これで難易度8なら10とかどうなるんだよ』

 

 一階層のマッピングが完了した地図を見せれば、あからさまに絶望感の溢れる声でヴォルフさんは呟いた。寧ろ面白いと思うのだけど。まあ、それはそれとして。

 

「因みにそろそろ、多分ペットの体力だと即死の攻撃が来ますね」

「そういう! ことは! 早く言えぇぇぇ!!」

「「「カカカッ!!」」」

 

 直後、怨念としか言いようのない形をした黒い光線が、ヴォルフさんのすぐ隣を駆け抜けて行った。しかもかなりの長射程らしく、マップに一本の直通通路が出来てしまうくらいだった。

 

『マップ兵器で草』『さすがボス』『でもこれさっきよか良い状況な気がする』『やっちゃえやっちゃえ』

 

「とのことですが、どうします?」

「ああ分かったよ! 連れてってやるよ! どうせ後戻りはできねぇんだ、連れてきゃいいんだろ! 途中にどんな地獄が待っていようとお前を……お前らを俺が連れてってやるよ!」

「団長……!」

 

『団長!』『何やってんだ団長!』『なんだよ……結構当たんじゃねぇか……』『希望の花咲く? 咲いちゃう?』『なんか静かですね』『詠唱すんな』

 

 骨が放ってくる†闇のオーラ†としか言いようのない黒い何かを回避しつつ、コメント欄を見ながら様子を見る。ヴォルフさんにとってはやりやすい相手なのだろうけど、正直行って俺はあまり相手にしたくない状況だった。自爆の都合上、巻き込みかねないんだよなぁ……

 

 そうどう動くか迷ってる間に、剣へ変形したヴォルフさんは勢いよくボスを斬りつけていた。1コンボでのHP減少幅は数パーセント、特効込みとしても割と弱めのボスなのだろうか?

 

「あ、因みに自爆による火力貢献は期待しないで下さいね? このクソ狭い通路だと、何もかも巻き込むことになるので」

「アォォォーーン!」

『ここまで大活躍だったのにね』『まさに極振り』『自爆特化だしなぁ』『ただの置物じゃん』『お邪魔虫(真)』

 

 どこか哀愁漂う遠吠えが響き渡った。だが実際、それ以外の攻撃方法が無いからどうしようもないのだ。自爆特化、序でに探索も可能というコンセプトで育ったのが朧なのだから。俺にできることは何も無い、()()()()()()

 

「ただまあそれ以外なら貢献出来るので、火力貢献はお願いしますね?」

 

 言って、切札を切った。今回のイベント限定で持ち込め、装備出来る一品。愛用する【浮遊魔導書 参拾式】を30冊全てを展開する。

 そして、案の定分身にまで呪文習得の効果が及んだことを確認。笑みを浮かべることはできないが内心浮かべて、手持ち無沙汰になっていた25匹ほどの分身を自爆。再分身して目の前に呼び出した。

 

「蜂の踊りを知っているか?」

『あっ(察し)』『自爆しそう』『いつもしてるんだよなぁ』『ユ/キ』『どうしてバイクと合体しないんだ……』

 

 分身の1〜5番はヴォルフさんに《肉体の保護》、6〜10番はボスに《敵の拘束》、11〜15番はボスに《破壊》、16〜20番は《クトゥルフのわしづかみ》を命令。

 簡単に言えば、ヴォルフさんに一定威力まで耐えられるバリア付け、敵を拘束し、ダメージを与えつつ魔法発動を妨害し、念のためもう1つの拘束を追加した。だが腐ってもボスモンスター、その程度では止まらない。

 

「キャインッ!?」

 

 何故かとても犬科っぽい鳴き声をあげ、ボスの腕の一振りでヴォルフさんが弾き飛ばされた。それ自体はノーダメだから問題なく、ちょうど良い状況が整った。

 

「革命の火に焼かれて、散れ!」

『突然不審者になるな』『(無言の腹パン)』『瑠璃……』『《無言の飛翔)』『ハルトォォォォォ!!』『←コメント欄で叫ぶ兄さんは嫌いだ……』

 

 残り5匹の分身に《被害を逸らす》を使わせて壁を形成し、その後ろにMPを使い切った20匹のHPはMAXの分身を追従させ突撃。ヴォルフさんが自爆範囲外にいることを確認して、自爆した。

 

 ヴォルフさんが凄まじい勢いで削っていたHPが更に減少し、普段の半分ほどの数の状態異常がボスに点灯。効き目が悪いこととHPを削りきれなかったことに思わず舌打ちしながら、後退しつつヴォルフさんに声を掛ける。

 

「やってください!」

「必殺、ベガインパルス!」

 

 そして、光の刃が駆け抜け──ボスのHPが0へ落ち、その身体がポリゴンへ分解された。

 



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第146話 探索!従魔大森林 -β版-④

 キラキラとボスが分解されて生まれたポリゴンを浴びながら、酷使していた脳を休憩させるべく俺は無言でコメント欄を追っていた。

 

『うおおおおおお!!!』『2人でボスを倒しやがった!』『相性が良かったとはいえマジかぁ』『やっぱりこのゲームのトップ人じゃない』『←蜂と変形する犬だぞ?』『お前の目は節穴か?』『画面には人間なんて写ってませんねぇ』

 

 まだまだコメント欄の加速が終わる雰囲気はなかった。多分この相手なら、先輩方とかセナ……後は藜さんでもソロ討伐出来そうだし、そんなに凄いとは思えないんだけどなぁ。

 

「お、よっし揃った! 多分!」

 

 そんな俺の思考を断ち切ったのは、嬉しそうに声をあげたヴォルフさんだった。見ているのはメニュー欄……となると、手に入れた素材か進化辺りとみた。

 

「どうかしたんですか?」

「ああ! なあ、この《霊王のオーラ》ってアイテム泥ってないか?」

「ちょっと待ってくださいね」

 

 言われて獲得アイテムを見てみれば、思っていた以上に色々な物がドロップしていた。ボスを2人で倒したからなのだろう、明らかに一戦で手に入っていい数じゃない量が突っ込まれている。

 

「っと、有りますね。トレードします?」

「頼む。そっちは進化に足りないアイテムは何かあるか?」

「えーと、《女王の蜂蜜玉》ってアイテムですね。あります?」

 

 そういえばトレードするって決めていたっけ。そんなことを思い出しながら自分の朧のアイテムを見れば、欠けているのはそのアイテムだけだった。

 正確には、今まで出ていた進化先に加えてもう1つ新たな進化先が選択できるようになっていたのだ。その進化に必要なアイテムが、今言った蜂蜜玉ということらしい。

 

「ああ。ならトレード成立でいいか?」

「是非是非」

 

 ボス討伐によって生まれた束の間の安全地帯であれば、『徘徊する』のダンジョンでもこうしてゆっくり操作が出来るらしい。そんな感想を抱きつつ、メニュー欄を操作してアイテムをトレードする。

 

「ということで」

「一丁進化と行きますか!」

『やったぜ』『つよい』『配信で進化見れるとかヤッター!』『揃って進化とかめでてぇなぁ!』『現時点でコンビでボス狩りできるのにまだ強くなるん……?』『ワクワク』

 

 ハイタッチは出来ないので、お互い手を挙げる感じの動作をしつつ宣言すれば、コメント欄からは多数のお祝いの声が届いてきた。成る程、この一体感。配信者が配信を続けるわけだ。

 

「どうします? どうせなら一緒にやったほうが取れ高良い気がしますけど」

 

『ゲストに気を使われる配信者』

 

「うるせぇ! でもやろう! せーのののでボタン押す感じで」

 

『ののの』『ののの』『ののの』『のわの』『ζ*'ヮ')ζ』『今なんか違うのいなかった?』

 

「はいじゃあ、せーの!」

「えっちょっまオラァ!」

 

 騒がしいコメント欄にツッコミを入れるヴォルフさんに合図して、せーので進化先確認欄に出現していた進化ボタンを押した。なんか焦ってたけど間に合ったっぽいし、まあいいか。

 

 《ドミニオンワスプ【女王種】が選択されました》

 《進化を実行します》

 《ペットスキルが強化されました》

 《ペットスキル【分身体上限+1】を獲得しました》

 《進化特典としてスキル【状態異常累積】を獲得しました》

 《余剰獲得経験値を確認》

 《経験値プールより成長を実行します》

 

 ボタンを押した瞬間訪れる、ダンジョン突入時と同じ様な感覚。ただし暗転ではなく明転……真っ白な空間に文字と数字が流れる空間に、いつのまにか意識は移っていた。

 

 ただそれも、進化に関する情報が流れ体感数秒で終了する。そうして光が収まり、次の瞬間には元のダンジョンの光景が目の前には広がっていた。

 

==============================

 Name : 朧

 Race : ドミニオンワスプ【女王種】

 Master : ユキ

 Lv 50/50

 HP : 2400/2400

 MP : 2000/2000

 Str : 200 Dex : 170

 Vit : 125 Agl : 650

 Int : 70 Luk : 65

 Min : 125

《ペットスキル》

【状態異常攻撃 : 獄毒】

【状態異常攻撃 : 移動速度低下(中)】

【状態異常攻撃 : 呪詛】

【状態異常攻撃 : 畏怖】

【大爆発】

 HPを0にし、現在HP×1.3分の倍のダメージを与える。範囲は(半径威力/100)×1.2m

【ドミニオン】

 自身の最大MPを半分にし、自身のステータスと同等(HPMPは半分)の実態を持った分身を30体作り出す。

 効果時間 : 分身が全滅するまで

【分身体上限+1】

 分身体の上限を+50体する

《スキル》

【真・影分身】【ドッペルゲンガー】

【多重存在】 【状態異常攻撃 : 裂傷】

【状態異常攻撃 : 最大HP減少】

【状態異常攻撃 : 最大MP減少】

【状態異常累積化】

 同じ状態異常が被/与ともに累積するようになる。ただし状態異常攻撃による付与率を50%低下させ、効果時間を一律180秒へ変更する。

《装備枠》

 アクセサリー : 空き

(制限 : 能力上昇系を除く)

==============================

 

 即座にステータス画面を開いて確認をすれば、こんな感じに能力値が変化していた。変わっていない物の説明は除くとして、ペットスキルは順当に上位互換化。ただ問題なのは……

 

「朧お前、雌だったのか……」

 

『ペロッ、これは長年会ってなかった故郷の男の子と思っていた幼馴染の親友が再会した時に超絶に可愛い女の子になっていて、気になって見つめていたら昔のテンションで話しかけられてドギマギしつつ出てしまった心ない言葉──!!!!!』『うわっ』『ひえっ』『気持ち悪い(直球)』『長文ニキ落ち着きたまえ』『すごく落ち着いた』

 

 なんだか凄まじい長文が流れてきたせいで、問題だと思ってた意識がどっかに行ってしまった。レベルが上がってるのは、多分アスト500体くらい分の余剰経験値があるからだろうし問題外だし……なら問題なさそうだな!!

 ただし「2度目のTSは昆虫で」なこの状況。なんかラノベにありそうなタイトルだけど、実際に経験してる身としては御免である。

 

「よっし、毛並みが青色になったぁ!!!」

 

『おめでとう』『おめでとう』『おめでとう』『おめでとう』『こう見ると某アニメ最終回に見える』『草』

 

 そんな詮無い考えを巡らせていた思考を現実に引き戻したのは、感情を爆発させたように叫び、遠吠えするヴォルフさんの姿だった。

 一回り大きくなった体躯に、青と白のコントラストが綺麗な毛並み。それ以外は変わりないが、それでも理想に近づいたのはRP勢としては嬉しいことだろう。

 

「あ、俺は何か変わりました?」

「ん? ああ、そうだな……何か、変わったところ……ううむ」

 

『(変わって)ないです』『翅が黒くなった』『マジでそれしかねぇ……』

 

「えぇ……サイズも変わってません?」

「寧ろ小さくなってるな。見てみるか?」

「あ、はい。よろしくお願いします」

 

『これはクソ進化』『クソ進化(相手にする側として)』『いやでも、貴重な8枠を虫に使うのはなぁ』『闇の中で、眼だけが光っていた……』『なんだって?』『眼です大佐』

 

 コメント欄の寸劇を見ながら、刀状態に変形してくれたヴォルフさんの刀身を借りて、進化後の自分を見る。そこに反射する朧の姿は……確かに、殆ど一切何も変わっていなかった。

 

「まあ、ちゃんと強くなってるので安心してください。被弾面積は下がりましたし、爆破威力が上がりつつ、状態異常が強化されましたから」

「相手にしたくねぇなぁ……」

 

『自爆強化()』『禁断の組み合わせじゃないか……』『多段ヒット、高威力、良状態異常、累積可能……は?』『よく考えたら、ユキも支援役なんだよな……爆破に霞むけど』『つまり本体はステ面のバフデバフ、ペットは状態異常か……どっちも爆破するけど』『頭爆破卿』『おやおやおやおや』

 

 ヴォルフさんに関するコメントを抜いてもこの有様である。全員からドン引きされてしまった。この有様だと、装備枠にアクセサリーが1つ装備出来るようになったのは言わない方がいい気がしてくる。

 

 まあ、さっきの骸骨からドロップしたアイテムに良さげなものがあったから装備した後なのだが。多分さっきの骸骨は、魔法使いを封殺するタイプの敵だったのだろう。【沈黙の呪印】なる、沈黙の状態異常*1を通常攻撃に付与するアクセサリーをくれた。お優しいこと、多分外れアイテムだけど。

 

「まあ、今は味方ですし。これあげますよ」

「【King of 砥石】? うわ、無機物系の無条件強化アイテムじゃねえか」

 

 イベント限定アイテムだが次回ログインまで、無機物系ペットの全ステータスを+50するとかいうアイテムがドロップした以上、間違いなく呪印は外れアイテムである。

 

『何そのチートアイテム』『ボス泥だろうなぁ』『ま? クソダンジョンかと思ったら良き力?』『多分これ全種族分あるよね』『効果重複とかも気になる』

 

「味方が強くなる分には願ったり叶ったりですからね」

「助かる。貰いすぎでなんだか悪いな……これくらいしか渡せるものないが、いいか?」

 

 そう言って投げ渡されたのは、【生命の種】なるアイテムが20個。効果は……永続的にHP1上昇? 使用上限なし? 神アイテムなのでは??

 

「いいんですかこんな神アイテム?」

「当然だ、まあ適当に森をぶらつけば取れるアイテムだしな……コツはいるが」

「後でそのコツ、言い値で買います」

「よっしゃきた」

 

『やべえよ……やべえよ……』『トップ勢による魔改造蜂が生まれてしまう……』『\ハチだー!/』『そこはアリだろ』『]-[|/34<#!』『後光が見える見える……』

 

 コメントも白熱してきたところでだ。まだ恐らくリポップまでには時間があるだろけど、流石に安全の確保が怪しい時間になってきた。再度散開させた分身も、ボスの周回パターンに隙が少なくなっていることを知らせてくれる。

 

「その為にも、いつまでもくっちゃべってないで進むか」

「ですね。どうします? 多分ボス部屋まで直行で案内出来ますが」

「降りるか!」

「イェア!」

 

 随分と……というか、創作物の中でしか見ないような、同性でノリの良い友達と遊んでいる感覚。浮かれざるを得ないそんな感覚に浸りながら、俺たちは全力でボス部屋に向けて進軍を開始したのだった。

 

*1
一定確率で呪文の行使を失敗する



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第147話 探索!従魔大森林 -β版-⑤

拙者にときめいてもらうで御座る……このネタ令和の時代に通じるのだろうか?


「いやぁ、ボスは強敵でしたね」

「ああ、まさかボスエリアが固定されてなくて、フロア中を動き回るタイプのボスだなんてな」

 

『ボスの予習になった』『多分この2人じゃなきゃ負けてた』『ボスがボスをトレインする地獄』『それを通路ごと爆破する爆破卿』『そして前方を切り開くヴォルフ』『地獄のような状態異常で笑った』

 

 そう笑いながら話すこの場所は、徘徊する残骸の聖堂B()F()()。どうやらログアウトとリスタートができるようになっているらしい安全地帯で、ちょうど良いので結構な長さになってきたゲリラ配信を一旦止めるということになっていた。

 

「ということで。ゲリラ配信になっちまったが、付き合ってくれたお前らありがとうな!」

 

『いかないで』『イッテイイヨ!』『お疲れー』『お疲れー』『爆破卿も乙ー』『楽しかった』『いつも以上に破茶滅茶で良かった』『同接4万とか久し振りだったろうに』『掲示板も盛り上がってたしな』

 

 ヴォルフさんがそう締めの挨拶に入ると、コメント欄もお別れの流れになり視聴者数も若干下降を開始する。……えっ、4万もこの配信見てたの? マジで?

 

「あと次回の配信だが、UPOは明日の夕方6時からだ。また朧さんと、このダンジョンを攻略していきたいと思う」

「……なんか俺、過激派ファンに刺されそうですよね。一般人なのに2回目もゲストなんて」

 

『嫉ましい』『ぶち○したい』『でもそれはそれとして面白いからヨシ』『UPO内でなら幾らでもPKしていいが、リアル凸はダメだからな!』『そうだぞ! やるならUPO内でだ!』『ヨシ(現場猫)』『いつも通りPvPを拒否できると思うなよ!!』『ハーレムギルドだし』『でも強いんだよなぁ……』『有名税だよ有名税』

 

 思わす本音をこぼした瞬間、届いた大量のPK予告。いやぁ、民度が高いのか低いのか分からない。お店の営業妨害にならないように、どこか別の場所にいた方が良さそうだなぁ。

 

「なんか……すまん」

「予想は出来てましたから……」

 

 ヴォルフさんが頭を下げてくれるが、自業自得……とは言いたくないけどそのようなものなので別に構わなかった。PvPは爆弾の消費的にやりたくないけど、来たら来たで撃退する予定だし。

 

「それにうちのギルマスの予測だと、そろそろPvPイベントが来てもおかしくないとのことなので、ちょっと練習しておきたかったんですよね」

「極振りは多分、今までのイベント考えると別枠だと思うぞ?」

 

『そうだそうだ』『お前らに集団戦ならともかく、1対1で勝てるわけないだろ』『レイドボスを一般枠にするな』『プレイヤーの肉圧で圧殺する以外方法ないじゃねぇか』『そうすると極振りvs極振りが観れる?』『会場壊れそう(小並)』

 

「そんな全否定しなくてもいいじゃないですか……」

 

 実際そうなりそうな気しかしないけれど。それでも、先輩方を相手するに際して、PvPの経験が少ないのは問題だと思うのだけれど。そも、現状ギリギリ勝算があるのがザイルさんだけなのだし。

 

「まあ、今回はここら辺までとして。また明日な!」

「また明日もお邪魔させてもらいますね」

 

『来んな』『来い』『乙ー』『いかないで』『草』『楽しみにしてる』『実はこのダンジョンの場所バレてないから凸できない悲しみ』『マップ広過ぎんよー』

 

 ヴォルフさんが手を振って締めの挨拶をするのに合わせて、一応俺も手を振っておく。反応は様々だったけれど、どうやらまた遊ぶのに支障はないらしかった。

 

「今日はありがとうございました」

「こちらこそ、最初にリスキルしたところ含めてすみませんでした。また明日もよろしくお願いしますね」

 

 そして配信が切れたのを見計らって、ヴォルフさんに頭を下げてからログアウトした。

 

「……ふぅ」

 

 いい加減オンボロなヘッドギアを外して、適当に放っておいた携帯を手に取った。表示されている時刻は夜7時、楽しかったせいか随分と時間を忘れていたらしい。

 

「どうしようかなぁ、これ」

 

 それと、この携帯に溜まりに溜まった通知と連絡をどう処理するか、それを考えるだけでも憂鬱な気分になった。沙織と空さんのはいいとして。

 

 ◇

 

【ペットイベ】ペットイベについて語るスレ

 

 458.名無しのペット

 それにしても、極振りがVの者の配信に出るとはなー

 

 459.名無しのペット

 わかる。そういうのに興味ないと思ってた

 

 462.名無しのペット

 実際興味はないんじゃない?

 どうにも偶発的に遭遇したっぽいし

 

 465.名無しのペット

 Vとか滅びろよ気持ち悪い

 

 467.名無しのペット

 アンチくんおっすおっす

 

 469.名無しのペット

 >>467

 馬鹿、構うな

 

 475.名無しのペット

 UPO、Vの者とか配信者のプレイを見て始めたって人も結構多いらしいよ

 

 479.名無しのペット

 やっぱり配信が解放されたのがデカイよ

 時間加速した上で配信にも対応してくれるとかここの運営は神

 

 484.名無しのペット

 >>479

 ほかのゲームだと、時間加速はそもそも無いし配信にも対応してないの多いもんな

 

 486.名無しのペット

 かくいう俺も配信見て始めた1人でね……

 

 500.名無しのペット

 それはそうと、やっぱり今回のイベントマップクソ広大で笑うんだけど

 

 502.名無しのペット

 分かる、全然マッピングが埋まらない

 

 504.名無しのペット

 ほんそれ

 あのクソ姫プ野郎のせいで、イベントの趣旨も捻じ曲げられたし

 

 507.名無しのペット

 >>504

 女の子やぞ……

 それはそうと垢BANされたらしいよ

 

 510.名無しのペット

 マ?

 

 512.名無しのペット

 マ

 500人くらいから苦情とGM報告されたお陰で運営が動いたっぽい

 

 516.名無しのペット

 公式の垢BAN原因リスト見てきた

 最新のは5時間前で、多数のプレイヤーからのハラスメント報告だってさ

 

 217.名無しのペット

 ザマァねえや

 

 518.名無しのペット

 ハラスメント……? いや、アレも言ってしまえばハラスメントか

 

 520.名無しのペット

 やったぜ

 

 523.名無しのペット

 でもあと数日は続きそうだよな……この種族対立

 

 527.名無しのペット

 なんだBANされてたのか……俺のG部隊で追い回そうとしてたのに

 

 528.名無しのペット

 俺の蜘蛛子でリスキルしようとしてたのに……

 

 529.名無しのペット

 俺のモスキートで嫌がらせしようとしてたのに……

 

 534.名無しのペット

 この気持ち……どこにぶつければいい

 

 536.名無しのペット

 >>527

 >>528

 >>529

 >>534

 相撲しようぜ!

 

 540.名無しのペット

 なるほどそうか!!

 

 545.名無しのペット

 これいい感じにここでは纏まったし、各配信者とかが友好的な配信増やしてくれてるから良いものの、相当これ虫使いプレイヤーにヘイト溜まってたっぽい?

 

 549.名無しのペット

 >>545

 現場にいなかった組?

 あのクソ姫プ野郎、自分が世界の中心とでも思ってるレベルで散々に何もかもを貶してたから残当だと思う

 はい動画っ http//……

 

 552.名無しのペット

 動画SNSに拡散されてて草

 

 554.名無しのペット

 そらここまでやればしゃーなし

 やってしまいましたねぇ

 

 555.名無しのペット

 Exceed charge……

 

 557.名無しのペット

 >>555

 クッソwww

 

 560.名無しのペット

 そういえば今回のイベント、ダンジョン名が○○する○○の○○って感じじゃん? 名前で中身推察出来るけど、みんなどれがヤバいと思う?

 

 562.名無しのペット

 >>560

 徘徊する

 ただその話は専スレあるからそっちでな

 【考察スレ】ダンジョン名危険度一覧及び中身の推察 part1

 

 564.名無しのペット

 >>562

 サンクス。そっち行ってくる

 

 568.名無しのペット

 そういや、極振りも同じくらいイベント掻き回してるのになんの制裁措置もないのよな

 

 573.名無しのペット

 掻き回してるって言っても考えてみ?

 第一回は森燃やしたくらいで普段通り

 第二回も特に何もなし

 鮫御大戦も頼もしい味方

 第三回も勝てるようにはなってた

 第四回は味方だった

 考えてみりゃ、運営への不利益ってそんなに齎してないぞ極振りは

 

 576.名無しのペット

 まあ、偶に最前線が荒れてたり、毎日ビルが爆破されたり、定期的に森が焼森されるだけだしなぁ……しかも一応全員タイミングは見計らって

 

 580.名無しのペット

 一応奴ら、話は通じないけど常識はかろうじて持ってるぞ。ゲーム続けたいってのは一致してるし

 

 583.名無しのペット

 な お 翡 翠

 

 584.翡翠ちゃんのペットになりたい

 翡翠ちゃんの話をしていると聞いて

 

 586.名無しのペット

 うわでた

 

 589.名無しのペット

 だからあれ程話題にも出すなと言ったのに!

 

 ◇

 

【UPO】ゲリラでイベント攻略!!

 大咬ツミ

 

 コメント 31

 ○ 15分前(編集済み)

  ゲリラで慌ててきたら極振りは草だった

  3件の返信を表示 ♡いいね

 │○ 10分前               

 │ 分かる。妬ましいけど楽しかったからよし

 │○ 7分前                

 │ ボスも観れたしな

 │○ 2分前

 │ 削除されました

 

 ○ 20分前

  やっぱり複雑なペットを操作できる人ヤバい

 

 ○ 5分前

  間に合わなかった!! ゲスト誰だった?

  4件の返信を表示 ♡いいね

 │○ 4分前

 │ 極振りのユキ

 │○ 3分前

 │ マジで? 夜勤帰ってきたら見るわ

 │○ 25秒前

 │ ヤムチャ視点で楽しかったゾ

 

 ○ 17分前

  今までVRMMOなんてって敬遠してたけど、

  UPOならやってみるのも有りかもなぁ……

  34件の返信を表示 ♡いいね

 

 ○ 11分前

  この配信見て、2枠目のペットは虫にする

  って決めました。可愛い虫って何かいますか?

  19件の返信を表示 ♡いいね

 │○ 7分前

 │ オオスカシバとかどう?

 │ ○ 7分前

 │  可愛い……!

 │○ 9分前

 │ カイコはいいぞ……

 │ ゲーム内だから寿命も考えなくていい

 │ ○ 8分前

 │  もふもふ……!

 │○ 5分前

 │ ミツバチ系もいいですね。蜂蜜も仲が

 │ 良ければ貰えますし

 │ ○ 3分前

 │  蜂蜜!いいですね!!

 │○ 6分前

 │ じょうじ

 │ ○ 2分前

 │  きらい!!

 │もっと表示する

 

 ○ 17分前

  アーカイブ残った!感謝!

 

 ○ 1分前

  今回の見どころ

  00 : 59 開始

  01 : 07 爆破卿登場

  01 : 17 コメント拾う宣言

  もっと表示する

  4件の返信を表示 ♡いいね

 

 ○ 10秒前

  Blast Lord is Curazy!!

  Congratulations!!

           ♡いいね

 ○ 6分前

  妙にユキが配信慣れしてて草なんだが

  2件の返信を表示

 │○ 5分前

 │ 同じく。配信見てて、配信慣れし過ぎ

 │ じゃね?って。仕込み?

 │ ○ 4分前

 │  いや、ないでしょ。リスキルされてたし

 │  ○ 3分前

 │   それもそうか。リスクの方がでかいか

 │○ 4分前

 │ ユキも配信してたに5マルク賭ける

 │ ○ 1分前

 │  それはそれで面白そうだな

 

 ○ 15分前

  PvPイベントか……あっても俺にはなぁ

  ペットのスクショコンテストとかも欲しい

 

 ……




最後のところ、某動画投稿サイトっぽく見えますかね?


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閑話 いや待て、この孤独なSilhouetteは

ネタバレ
今回は前菜
翡翠ちゃんは濃すぎて次回になりました


 イベント【探索!従魔大森林 -β版-】、イベント最初期に一部のプレイヤーによって進行が妨げられ、趣旨までもが捻じ曲げられてしまったこのイベント。今でこそ元凶のプレイヤーがBANされたことで終息に向かいつつある騒動だが、大半のプレイヤーがその雰囲気に迎合し対立を深める状況となっていた。当然そんな雰囲気であったのだから、各々がすぐに協力プレイに切り替えることは難しい。

 

 ただそんな空気に協調することなく、プレイしていた層も一定数はいたのだ。ユキも所属する【すてら☆あーく】や、「大森林?しるか!地球ローラー作戦だ!」と張り切っていた【モトラッド艦隊UPO支部】などを始めとした、トップギルドの大半の面々。さらに多くのユニーク称号持ちも、下らないと切り捨ててソロや固定PTで攻略に勤しんでいた。

 

 では、そんなヤベー奴らの筆頭たる極振りはどうしていたのか? 

 無論例に漏れず、誰も彼もがやらかしていた。

 

 

 《ダンジョン『嘲笑う狡知の森林』》

 《現在のダンジョン内にいるプレイヤー : 1》

 《ダンジョン難易度 : 8/10》

 《ダンジョン崩壊率 : 79%》

 

「スゥゥ……エクスッ、プロォォォォォジョンッ!!!!

 

 そのダンジョン……否、正確にはダンジョンであった場所は、現在進行形で炎上していた。青々と生い茂っていたであろう大樹も、無数の果実を実らせていた果樹も、綺麗に咲いていた花も。一切合切の区別なく、()()とその余波に飲まれて焼却されていた。

 

「考えれば簡単なことでした。爆裂出来ないからとイベントは敬遠してましたが、爆裂が出来る新たなペットをお迎えすればいいだけだったんです。みゅいみゅい*1は可愛いですがそれはそれ、やはり爆裂こそ至高の魔法です」

 

 全ての爆裂の中心点に存在するのは、巨大な炎の塊としか表現のしようがない物体だった。辛うじて《ふぉうっと》という名前が表示されているおかげでペットだと判断できるその炎は、言うまでもなくにゃしいのペット。

 種族名称ファム・アル・フートという、区分するなら付喪神系統の上位個体。その構成はMPとInt特化、要するに主人と何も変わらない爆裂特化型のペットだった。

 

 《ダンジョン崩壊率81%》

 《ダンジョン『嘲笑う狡知の森林』の崩壊率が一定域を超過しました》

 《ボス戦が強制開始します》

 

「はっはァ! 知りませんねそんなこと。久し振りに、全力で爆裂出来ているんです。水を差す無粋は許しませんよ!!」

 

 そして当然、にゃしいが持ち込んでいる武装は己がユニーク称号についてきた【爆裂の杖】。であればこそ、次に起こった光景は必然であった。

 

 ファム・アル・フートというペットは元より魔法型であり、そのMPの総量は平均で5000というにゃしいの素ステ程もある。そしてペットは、大なり小なり主人の影響を受け成長するものなのだ。

 そう、極振りかつ爆裂にしか興味のない主人の影響を一身に受け、促成栽培されたペットがどのように変質するか。目を瞑っても分かることだろう。

 StrやVitといった物理ステータスは壊滅的、DexやAglといったステータスも種族平均の下限を突破。その代わりにMP総量は本家にゃしぃの半分ほどである約2.5万、IntやMinといった魔法ステータスは種族上限すら僅かだが突破している。

 

 そしてユニーク武装たる【爆裂の杖】には、ユニーク武装特有の能力として、必殺技が搭載されている。MP全消費による魔力弾攻撃、それがかつてのにゃしいを上回るMPを持つペットから解き放たれた。

 

エクスプロォォォォォジョン(テラフレア)!!!!!」

 

 燃え盛るダンジョンの空に描かれる、複雑怪奇な幾何学模様の連続。まるで細密画のようなそれは、かつてシャークトゥルフという規格外ボスのHPを耐性を踏まえてなお大幅に削り取ったにゃしいの切り札。

 そして当然、ボスの出現地点は魔法陣が組み上げた射出装置の直下。虹を纏う火球は、既にその威力を存分に発揮させることが確定していた。

 

 《ダンジョンボス : 闇に吠える異形神Lv80が討伐されました》

 《攻略履歴確認》

 《ダンジョン踏破率計測不能》

 《特記 : ダンジョン崩壊率100%》

 《報酬が確定しました》

 《内部プレイヤーを強制排出します》

 

 そして、折角のボスは日の目を見ることなく文字通り蒸発した。

 

「はふぅ……満足、しました……」

 

 即座に燃え落ち崩壊するダンジョンから、元凶たる炎の塊は弾き出される。ダンジョン名の最後が森であったように、弾き出された場所は森の中。何故か不思議と延焼はしないまま、MPを使い果たしたにゃしいは起き上がる。

 

「……いえ、ですがまだやめられません。やはりみゅいみゅい進化。そこまで区切りよく進めてから、本来の私による爆裂祭りといきましょう」

 

 爆裂における願望は何処までも。憧れは止められねぇんだとばかりに、ゆらゆらと揺らめく炎の身体で、ふわふわとにゃしいは新たなダンジョンへと向かって行った。

 

==============================

 Name : ふぉうっと

 Race : ファム・アル・フート

 Master : にゃしい

 Lv 50/50

 HP : 500/500

 MP : 15500/15500(24800)

 Str : 10 Dex : 10

 Vit : 10 Agl : 10

 Int : 600 Luk : -10

 Min : 600

《ペットスキル》

【恒星の輝き】

 物理・炎・爆裂・光属性ダメージ無効

 炎・光属性魔法使用可

 HP最大値をLv×10に固定する

【ふぉうまるはうと】

 浮遊する炎の身体を持つ(通常プレイでは延焼しない)

 接触にダメージ判定を発生させる

 Lukをマイナスに変更する

【水属性脆弱】【氷属性脆弱】

【我ハ汝汝ハ我】

 召喚時主人と同化する。その際、HPMPを共有化する

【信仰の力】

 一部スキルを主人が使用可能になり、自動でMPを回復する

【魔法強化Ⅳ】

《スキル》

【魔力核】【魔力核Ⅱ】【魔力核Ⅲ】

【魔法強化】【魔法強化Ⅱ】【魔法強化Ⅲ】

【魔力のベール】

 自身の現在MP以下の攻撃による被ダメージの最大値を、自身のHPの1割に固定する

《装備枠》

 なし

==============================

 

 

 《ダンジョン『徘徊する死神の古戦場』》

 《現在のダンジョン内にいるプレイヤー : 1》

 《ダンジョン難易度 : 10/10》

 《ダンジョンボス : 万象呪う亡霊姫Lv100が討伐されました》

 《攻略履歴確認》

 《ダンジョン踏破率 : 25%》

 《特記 : ダンジョン攻略時間01:05:46》

 《報酬が確定しました》

 《内部プレイヤーを排出します》 

 

 プレイヤーの自分を強化するために多数のペットを育てるにゃしいに対して、真逆のスタンスにいたのがアキだった。一番最初の仲間を、今出来る最大限まで。それによって全プレイヤー中最速で、ペットの2段階目の進化を達成していた。

 

「相性の問題か。肩慣らしにもならなかったな」

 

 そう呟くアキが浮遊する場所は、無数の武器が突き立った赤錆色に染まった大地。そこに存在していた、プレイヤーに最高難易度と目されていたダンジョンを単独踏破したのだった。

 ペットが付喪神系列であるため、アキの姿は普段腰に帯びている7本の剣と鞘。歴戦の雰囲気を放つその姿は、この場の雰囲気にベストマッチしていた。それこそ、この古戦場に出現する敵と見まごう程に。

 

「ハッハァ! 見つけたぜェ、付喪神系列のボスモンスターぁ!」

 

 だからこそ敵との誤認(こういうこと)が起こり、PvPも有りと前提を置かれている以上罷り通る。ネトゲとはリソースの奪い合いとはよく言ったもの。素材を奪えるのであれば、PvPが横行するのは必然だった。

 

「プレイヤーか」

 

 叫びながら突進してきた回転する錨を回避ながら、冷めた声音でアキは言った。だが同時に、いつでも戦闘に移れるよう7本の刀全ての鯉口が切られる。

 

「応ともさ! そう聞いてくるってこたァ、あんたもプレイヤーか?」

 

 それに応じたのは、アキに不意打ちを仕掛けてきた錨。錨を頭に見立てて、鎖で蛇の胴体のような形を作るプレイヤー。名乗らない以上プレイヤーネームは不明だが、その気質は明らかに歪められたイベントのものではなかった。

 

「ああ。それでも戦いを望むか?」

「断る理由がねェ!」

 

 最後のアキの確認に答えながら、付喪神系列のペットで有りがなら蛇そのものの様に錨のプレイヤーが突撃する。

 誰が知る由もないが、アタリハンテイ力学に従って運営が実装してしまったスキルによって、錨の当たり判定はほぼバグの域に達している。それに加え、正面限定のスーパーアーマーや防御貫通などを詰め込んだこの一撃はまさしく必殺。数多のプレイヤーとボスを屠ってきた、錨のプレイヤーにとっての最高の攻撃だった。

 

 例え2段階の進化を果たしたペットであり、かつアキのペットであることを差し引いても、直撃すれば当然即死。ないしは瀕死にまで追い込まれることは必定の一撃。

 

「そうか、ならこちらの調整にも付き合ってもらおう」

 

 だが、その程度で打ち倒せるほどタイマンでの極振りは易くない。

 本来のアキとは違いまだ目で追える速度で5本の刀が、言葉に反応し発射というべき速度で射出される。そうして抜き放たれた、そこに何も存在しないように見える硝子の刃は、一直線に錨へ向けて突撃する。

 

「しゃらくせェ! 蹴散らせ、サンタマリア!」

 

 その激突の結果は、アキ側の敗北。打ち付けられた硝子の刃達は、錨のHPを5割弱吹き飛ばしたものの全て砕け散る。鎖側はスーパーアーマーにより反動も怯みも受けず、寧ろ何故か速度を増して突進を続行する。

 勝った。そう確信し、歓喜の声を上げる錨マンの耳にアキの詠唱が届く。

 

「吹き荒べ、天罰の息吹。疾風雷鳴轟かせ鋼の誅を汝へ下さん

 ─────悪を討て」

 

 砕け散った硝子の刃片のカーテンを抜けた錨を待っていたのは、また刃の渦だった。アキが抜刀した6本目の刀は蛇腹刀。それが無数に分割し形成した刃のトンネル。

 何か恐ろしい生物の顎門にも似たそこは、刃片1つ1つが漏れなく紫電を走らせ、暴発寸前と一目で分かる謎の吸い込みを発生させている絶死の空間だった。

 

「おまっ、そんなナリで物理型じゃねえのかよ!」

「いや、物理型だ。単純にこれは、武器の性能だな」

 

 言って、顎門が閉じるように刃のトンネルが爆発した。全方位から発生する稲妻と暴風によって、突進する錨が削り取られて行く。それは数回のリポップが起きても同じで、寧ろリポップ後の方が急速にHPが削りられて行く。

 

「というかおま、極振──」

「気付くのが遅かったな」

 

 錨のプレイヤーは最後のペットになり、抜刀態勢を整えたアキの目の前まで辿り着いた瞬間、自分が戦っていた相手の正体に感づいたらしい。ペット故表情は読み取れないが、驚き半分納得半分の気配のまま真っ二つに両断された。

 

「またユキと、黒化アストタイムアタックを競うのも悪くないかもしれん」

 

 その様子に納得したようにアキは刃を納め、何処か遠くを見ながら呟いた。アキもユキ同様、黒化したアストを連続で討伐し続けて装備を強化されている。その結果がこの有様だった。

 

 また黒化しようとアストがTAされることも

 競い合った結果、最短レコードが10秒にまで縮められることも

 運営が泡を吹いて難易度を調整するのも

 全てはまだ少し先の話

 

==============================

 Name : エスペラント

 Race : 付喪神・真打

 Master : アキ

 Lv 50/50

 HP 2000/2000

 MP 3000/3000

 Str : 700 Dex : 60

 Vit : 100 Agl : 70

 Int : 100 Luk : 150

 Min : 100

《ペットスキル》

【憑依覚醒 : 大業物】

 ペット取得時発動

 主人の持つアイテムのうち何か1つに憑依する。憑依したアイテムに自身のステータスを全て加算し×1.4倍する。

【スキル共有】

 自身の所持するスキルを主人と共有化する

【憑依物性能強化(大)】

 自身が憑依したアイテムの性能を40%強化する(自身の加算分は除く)

【自律駆動】

 主人の意思とは関係なく活動することができる。その場合、毎分6のMPを消費する

【神妖の末席】

 対霊性を特効(大)を獲得する

【表裏一体】

 使用時主人のHPを確定で5%消費する、或いは5%回復する。また同種族(主人・ペット共通)を討伐する度正気度を1減少させる、或いは1回復させる。

【自己スキル強化+1】

【自己スキル強化+2】

《スキル》

【覚醒】

 毎秒自身のHP・MPを50消費し続けることで、全ステータスを2.15倍にする。

【抜刀補助(大)】

 刀剣類憑依時限定スキル

 主人および自身のStr・Aglの合計×1.2分抜刀速度を上昇する

【刀剣ノ真髄】

 刀剣類を用いて攻撃する場合、与ダメージ+30%、クリティカル発生率+40%

 その他の武器を用いて攻撃する場合、与ダメージ半減、クリティカル発生なし

【あなたと共に】

 主人と自分のMPを共通化する。また、主人のHPが0になった場合、自身のHPを0にして復活させることができる。その際回復するHPを100%にする

【禍払い】

 カルマ値 : 悪に属する相手に対して特効を獲得する(大)

【神も仏も無し】

 カルマ値 : 善に属する相手に対して特効を獲得する(大)

《装備枠》

 憑依 : 【装刀オリハルコン】

==============================

*1
にゃしいのペットの名前




錨の人のペット名はサンタマリアです。ドロップアンカーするかもしれない。

極振りペット内訳
ユキ
ー割愛ー

にゃしい
1.みゅいみゅい(キメラキャット)
2.はるーと(ファム・アル・フート)
3.まるーと(ファム・アル・フート)
4.ふぁろっと(ファム・アル・フート)
5.ふぉうっと(ファム・アル・フート)
6、7、8枠目は空き

アキ
1.エスペラント(付喪神・真打)
2〜8枠目は空き


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閑話 それは紛れもなくヤツさ

翡翠ちゃんです


 《特殊(・・)ダンジョン『異次元の色彩の草原』》

 《現在のダンジョン内にいるプレイヤー : 39》

 《ダンジョン難易度 : 10/10》

 《ダンジョン侵食率 : 90%》

 

 ()()は誰が見ても、どこをどう見ても、異常や狂気といった言葉が似合う空間だった。

 

「ぴよ」

 

 ひよこが鳴く。

 青々とした植物が芽を出し、育ち、実り、灰色になって枯れ朽ちるサイクルが60秒程を境に繰り返される。紛れ込んできた敵性エネミーは、瞬く間に気が狂ったように暴れ、奇形へ形を作り変えられる。

 

「ぴよ」

 

 ひよこが鳴く。

 奇形に変化したエネミーはひとしきり暴れたのち自傷ダメージで朽ち、生き残った極一部は極彩色のひよこが啄む“ご飯”へ変わる。また数秒ごとに切り替わる天気は雷雨を降らし、大地を干上がらせ、かと思えば秒で蕩ける降雪を生む。

 

「ぴよ」

 

 ひよこが鳴く。

 その移動するダンジョンの領域に触れた木々は異常な色を明滅させながら踊り出し、花は食虫植物のようにプレイヤーを誘う香りを生み、環境オブジェクトの一つでしか無かったはずの昆虫や小動物は巨大化して()()に付き従う。

 

「あ、これは美味しいですね」

 

 その狂気のパレードの中心に居る存在は、時折ぴよぴよと鳴き声を零す1匹のひよこだった。勿論、色が極彩色に変化し続けており、可愛らしいエプロンを着けているという見逃せない点があるが。

 

 イベント限定の新エリア。イベント限定の新アイテム。イベント限定のボスモンスター……そう、ここまで未知(の味)との遭遇が出来る条件が整っていて、彼女が動かないわけがないのだ。

 翡翠ちゃんとそのペットたる《ひーこー》参戦。本人曰くペットはちゃんと8枠全員分埋まっているそうだが、このイベントで姿を見せているのは最初のペットであるひーこーのみだった。

 

 閑話休題(まあそれはそれとして)

 

 何時もであれば、翡翠ちゃんによるフィールドワークはたった1人で行われる孤独のグルメ。正確に言えばお店の常連が食材になるために、虎視眈々と周囲に潜んでいるがそれはそれ。兎も角、そんな孤独のグルメに今回は1人、同行者がいた。

 

「いいですねぇ、それ。虫さんですか?」

「フグ刺しです」

「なるほどー」

 

 そんなどこかポヤポヤとした言葉を返し翡翠ちゃんと並ぶのは、赤々とした甲殻を持ち火の粉を纏う蜈蚣。ユニーク称号【大牧場】を持つしぐれと、そのペットである《ケンプファー》だった。

 一見なんの関連性もなさそうな人選だが、どちらも第3の街に飲食系のお店を構える人物。つまりご近所さんネットワークである。尤も、翡翠ちゃんと冒険するメンバーは両手で数えられる程度しかいないが。

 

「しぐれもどうです?」

「私ならいいですけど、この子のお腹を壊しそうだから遠慮しますね」

「そうですか……」

 

 やんわりと断ったしぐれに、ションボリとしながら翡翠ちゃんは呟いた。赤々と染まった紅葉の葉っぱを咥えながら。だが即座にその小さな嘴で食べ切るあたり、特に気にしているわけでもないらしい。

 

「あ、でもこれは美味しいですよ。今もぎった脚なんですけど」

「いいかりんとうです」

「ですよねー」

 

 和気藹々と楽しく話しているその内容は、まさしく女子会のそれ。周囲一帯に広がる光景と、2人の姿と、食べているものを除けばの話だが。

 

 《ダンジョン侵食率 : 99%》

 《ダンジョン『異次元の色彩の森林』の侵食率が一定域を超過しました》

 《ボス戦が強制開始します》

 

「ん、始まりますね」

「みたいですねー」

 

 そんなゲストを迎えたぶらり試食の旅が暫く続いた後、そんなアナウンスと共にダンジョンの空気が変化した。まるで最後の抵抗をするかのように空間をたわませ、このダンジョンにおける最終兵器、最大戦力たるボスを侵入者の前に吐き出した。

 

 それは透き通った翡翠色の瞳と、輝かんばかりな白磁の鱗を纏った日本風の龍だった。流麗たる肢体をくねらせるその姿は、その双眸を怒りに染めていたとしても、正しく清流の化身と言っても過言ではないだろう。

 

「蒲焼きですね」

「鰻みたいですからねー」

 

 だがそんなことは、2人にとっては気にするようなことでもなかったらしい。

 ぴょんっと燃ゆる蜈蚣(ケンプファー)の頭に飛び乗って、虹色のひよこ(ひーこー)が11匹に分裂しボスを瞳に映す。それだけで、()()()()()()ボスの運命はここに決定した。

 

「Bb*D#WDGGa!!!!???!?」

 

 一瞬でボスの目が狂気に濁る。美しかった白磁の鱗は汚らしい灰色に陵辱され、流麗な曲線を描いていた肢体はある場所は歪に膨れ上がり、ある場所は灰色に乾き枯れ木乃伊のように痩せ細る。更には全身に電撃が走るようなエフェクトが駆け巡り、麻痺による行動不能と共に継続ダメージまで発生させ始めてしまった。

 

「嗚呼、可食部が……」

「私たち、強くなりましたけどこういう部分は残念ですよね……」

「ですね……はぁ」

 

 そしてさっきとは打って変わって、心の底から残念そうに翡翠ちゃんから大きなため息を溢れる。因みにしぐれが言及した通り、当然のように2人とも現時点での最終進化へ到達していた。

 

 そんな会話をしていても、ボスが行動しない理由はひーこーの持つ能力に他ならない。本来であれば、プレイヤーという超級火力の闊歩するサーバーで生存率を上げる為の『変異した相手から敵対行動を取られない』という能力。それが今回のイベントに限っては、作用した時点でボスモンスターからも攻撃されないという壊れスキルへ変化していた。

 

「これ以上食べられなくなる前に、さっさと仕留めましょう」

「私は攻撃出来ません。お願いしますしぐれ」

 

 ただし分身や状態異常スキルなどを詰め込まれたひーこーには、攻撃手段がほぼ存在していない。1時間に1度のみ使える隕石攻撃と、ひよこの身体が持つお世辞にも強力とは言えない嘴と爪のみ。

 

「お任せあれー」

 

 だからこそ、しぐれが同行しているのだった。第7の街方面での乱闘が目立ち印象は薄いが、彼女こそあのイベントで多数のプレイヤーを強制ログアウトさせたあの光景を……蟲の群れによる黒い海を作り出した張本人。

 そして今表に出ているケンプファーは、あの蟲海を作っていた5体のテイムモンスターと、8匹のペットの1匹。であればこそ、多少のナーフを受けたとは言えこれから起こる光景は想像に易いものだった。

 

「総員、突撃ー」

 

 ゆるい声に導かれて、ゾワリと蜈蚣が増殖する。周囲の地面から続々と炎燃ゆる蜈蚣が這い出し、蟲系ペット特有かつ固有の分身スキルを最大限に発揮して、即座に分身上限である500体へ。

 そんな誰もが恐怖を覚える軍勢が、動きを止めたボスへ向け突撃。歪に禍ったその身体を這いずりまわり、部分部分で輪を作るように動きを停止。足を食い込ませてしっかりとその身体を固定した。

 

「爆破ー」

 

 そして、その全てが大爆発を引き起こした。状態異常特化型であるユキの朧とは違い、しぐれのケンプファーは爆破威力特化型。その威力は推して知るべしだ。

 

 《ダンジョンボス : 清流守護せし清白龍Lv100だったモノが討伐されました》

 《攻略履歴確認》

 《特記 : ダンジョン侵食率100%》

 《ダンジョン主をPN : 翡翠へ移譲します》

 《報酬が確定しました》

 《ダンジョンから退出しますか? Y/N》

 

「ゼリー寄せ……いえ、好き好んで作りたくはないですね」

「輪切りだと調理に困りますねー」

 

 即座に翡翠ちゃんがそうコメントしたように、瞬く間にボスは輪切りに変わったのだった。即座にボス権限で素材を残し、2人してぶつ切りになった鰻を眺めつつ動き出す。

 孤独のグルメから2人ご飯に変わっても、何も変わらない。何処かのいい匂いのするふわふわも言っている。そんなもんじゃ、憧れは止められねぇんだ。

 

==============================

 Name : ひーこー

 Race : ?????(ひよこ)

 Master : 翡翠

 Lv 55/55

 HP 2300/2300

 MP 3700/3700

 Str : 60   Dex : 80

 Vit : 200  Agl : 100

 Int : 100   Luk : 50

 Min : 600

《ペットスキル》

【宇宙からの色】

 身体が不規則に、七色に変化する。任意で発動は止めることができる。

 主人を除き、自身を見たプレイヤー・ペット・モンスターにSANチェックを発生させる(1d3/1d10)

【狂夢感染】

 主人を除く自身から半径20m以内に存在するプレイヤー・ペット・モンスターへ一定時間毎にSANチェックを発生させる(1d3/1d10)

【パンデミック】

 主人を除き、自身から半径25m以内に存在するプレイヤー・ペット・モンスターへ一定時間毎にランダムで状態異常を付与する

 付与した状態異常は、一定条件を満たすことで付与した存在から別の存在へ感染する

【遺伝子改変】

 主人を除き、自身から半径25m以内に存在するプレイヤー・ペット・モンスターは一定時間毎に対抗判定を行う。

 対抗判定に失敗した場合、身体の一部がランダムで狂気的ナニカへ変質する。変質した場合SANチェック(3/3d5)が発生し、その部分は非常に脆くなる。

 また、改変されたものはプレイヤーであればFF(フレンドリーファイア)が発生せず、NPCであれば敵対行動を取らなくなる

【天を焦がす光】

 大型の隕石を呼び出して攻撃する。

 使用制限 : 1時間に1回

【殺戮ノ宇宙(そら)+2】

 自身の半径20m以内に存在するプレイヤー・ペット・モンスターは一定時間毎に対抗判定を行う。

 対抗判定に失敗し、且つレベルが自身以下の場合確実に即死する。自身のレベル以上の場合低確率で即死、高確率で状態異常をランダムに付与する。

【状態異常判定回数+1】

【状態異常判定回数+2】

《スキル》

【真・影分身】【ドッペルゲンガー】

【防護ノ理】【状態異常攻撃 : 狂気】

【肉質変化】【状態異常付与確率上昇】

【状態異常耐性貫通】

【能力制御】

 PTメンバーにのみ、任意で自身の能力を適応させないことが出来る(最大人数2)

《装備枠》

 体【万能調味料】

 足【秘伝調味料】

==============================




残っている極振りの小話
センタ(もう1人のStr極振り)
デュアル(Vit極振り)
ザイード(Agl極振り)の男性組
センタの魔猪による機動力、デュアルのハリネズミによる鉄壁、ザイードの腕による自在な操作。そこにそれぞれの持ち込み物である、ユニーク称号に付いてきた槍、クソデカイ盾、カメラを装備した強行偵察高機動重戦車による(他の極振りと比べると優しい)蹂躙劇

レン(Agl極振り)
ザイル(Dex極振り)の女性組
現状確認出来る中で極めて希少な完全人型ペットであるザイルのナキリと、飛行能力と生存能力特化のレンのヒエンによる超安定的な探索


なので見所さんがね、見劣りするんですよね!!!


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第148話 探索!従魔大森林 -β版-⑥

 初めて配信に出演させてもらった翌日。朝から根掘り葉掘り沙織に話を聞かれ、その時にあの配信が某SNSでトレンド入りしていたことも知った。

 だがまあそれはそれ。学校で俺が話す人なんて、沙織と先生、あと文化祭以降絡んでくるようになった上級生の人程度。同級生とは事務的な会話しかしない以上、特に現実での日常に変化は起きなかった。

 

「えー、この放送が始まる前までに、皆さんが私を襲撃してきた回数は51回でした。同接4万していたらしいのに、先生は非常にがっかりです」

『開幕周回の時の先生は草』『先生ソシャゲしてるじゃねえか』『集会だったわ……』『51回とかそれはもう十分なのでは?』『今回も夕方なだけあってもうトレンド入りしてるゾ』『先生だってなぁ、エッチなランキング報酬キャラが欲しいんだよぉ!』『わかる』『ワカルマン』『えぇ……』『だが、マヌケは見つかったようだな』『嘘だろ承太郎!?』『やはりランキング報酬は悪い文明』

 

 ということで、約束通りヴォルフさんと合流して配信開始。折角なので放送が開始するまでの待機画面で、昨日からの襲撃回数について報告をしてみた。もうトレンド入りとか、時間のお陰もあるらしいけどどういうことなの……?

 

「というわけで、あー……冒頭にゲストがかましてくれたが、おはこんばんちは。昨日の続きで、突発ゲストの朧さんとダンジョンを攻略していきたいと思う」

「基本的には昨日と同じ感じで進むと思いますので、そこの所はご了承下さいね?」

『お前達を待ってたんだよ!』『まあ流石に人が増えはしないか』『1限凸体2匹だし、割と戦力的には十分やろ』

 

 困惑している中、ヴォルフさんが挨拶を始めた。どうやら画面の配信が開始したらしい。とりあえず刺されないために弁明しつつ、小さく手を振ってみる。

 朧の可愛げを見せて人気を稼ぐ。そしてなんか嫌われているらしい蟲系ペットをもう少し流行らせて、いろんなプレイヤーの個性的な爆破が見たい。心の中の野球選手も「そういうのちょうだい もっと」と言っている。間違いない。

 

「探索を再開する前に、昨日のうちに珍しくUPOの検証班が仕事をして判明した仕様があったからそこの確認だ」

 

 そう言ってヴォルフさんが説明した、本当に珍しく仕事をした検証班が明らかにした仕様は2つ。

 

・ダンジョンの階層数は難易度/2+ボス部屋

・ボスのレベルはダンジョンの難易度×10

 

 現在の時点では、全てのダンジョンが例外なくこの仕様になっているのだという。最低限それだけ判明していれば、攻略の筋道も立てやすくなるというものだった。

 

「つまりこのダンジョンは、俺たちがいる階層を含めて残り3階層とボス部屋ということになるな」

『検証班……生きていたのか!』『賢い』『あの雑な仕事しかしない検証班が……』『UPOの仕様が自由すぎるからダゾ』『どうして完璧に同一条件で同じスキルが発生しないんだ……』『相変わらずのクソ仕様やめちくり〜』『検証班は作業場に出荷よ〜』

 

 コメント欄の検証班が出荷される光景を眺めながら、改めてダンジョンの内容を確認する。

 

 《ダンジョン『徘徊する残骸の聖堂』》

 《現在のダンジョン内にいるプレイヤー : 5》

 《ダンジョン難易度 : 8/10》

 《ダンジョン踏破率 : 49%》

 《ダンジョン階層2/5》

 

 踏破率は昨日見た状態となんら変わらず、難易度も特に変動はしていない。2つほど、昨日とは違う点があった。片方はご親切に階層示してくれたこと。そしてもう片方は、

 

「あ、今俺たち以外にもここプレイヤー来てるんですね」

「なんだと!?」

『流石にバレるよな』『まさか見つけ出すリスナーがいたとは』『そもそも昨日のアレ見て入ろうと思ったのか……』『ここのコメント欄にいたりして』『ナイナイ』『たすてけ』『いたぞォ! いたぞおおぉぉ!!』『うるせぇ!』

 

 なりすましか本物か、そこの所はわからないが実際にカウンターは俺たち以外に3人のプレイヤーがいることを示している。これは、早めに進んだ方がいいか?

 

「初攻略を取られるのは癪だな……急ぐか?」

「ヴォルフさんが望むなら。俺はまったりでも良いですよ」

「なら言葉に甘えさせてもらう。少し急ぐ!」

「はいはいっと。イクゾ-!」

『デッデッデデデデン、カ-ン』『カ-ンが入ってる+114514点』『あのさぁ……』『ここ一般人もいるんだから』『大人しくして』『3人に勝てるわけないだろ』『シュバルゴ』『汚い』

 

 なんかコメント欄が汚いことになったけれど、コメントを拾うのも面倒だし無視。そのままヴォルフさんの頭あたりに着地する。そしてそのまま、鞭のようにしならせた脚で一撃。物理防御も状態異常も抜けず、意味がない一撃で敵対状態に移行した。

 

「じゃあ急ぎで分身呼び出しますね」

「えっ、ちょ、まお前そこで分身なんてするんじゃ──」

「【ドミニオン】【真・影分身】【ドッペルゲンガー】」

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 そして、発動条件を満たしたスキル群を一斉起動。足元から聞こえるヴォルフさんの悲鳴をバックコーラスに、最大限まで発生させた分身を一気に飛び立たせた。

 

『ひぇっ』『ほら、貴重な女の子の分身シーンだぞ』『ほら、貴重なTSっ娘の分身シーンだぞ』『ほら、貴重な極振りの分身シーンだぞ』『ネタ被りかひでえ』『親の顔より見た分身』『もっと親の分身を見ろ』『親の分身ってなんだよ……』

 

「くぅーん……きゅーん……」

「いやそんな、情けない声出してふて寝するアルマジロみたいなポーズしないでくださいよ」

 

 頭の上から飛び立ち、目の前でホバリングしつつ言う。面白いポーズだし偶にはスクショでもしておこう。

 

「冷静に考えて、自分の頭から大量の蜂がだな……いやどんなポーズだよそれ」

『すっげぇ独特な語彙』『ペロッ、これは少女漫画の味』『ユキも少女漫画を読んでいた……?』『いやこれSNSの漫画だぞ』『商業化してるぞ』『どうしてそんなに詳しいんだお前ら……』

 

 両前脚で目を隠すようにして、蹲ってしまったヴォルフさんの頭を叩く。だが悲しいかな。攻撃にも満たない判定なのか、一向に状態異常は発生しなかった。あと俺は漫画は買ってない、沙織の家では読んだだけど。

 

「雑にマッピングしつつ他のプレイヤーもしつつ、探索といきましょうか」

「まだなんか頭の上で蠢いてる気がするんだが……行くか!」

 

 立ち上がりそう言ったヴォルフさんの頭に、まだ2、3匹分身が残っていることを本人はまだ知らない……

 

『まだ付いてるぞ』『やったなヴォルフ、ハーレムだぞ』『TS複製っ娘のハーレムとか……唆るぜぇこれは』『性癖を拗らせた仙空やめて』『爆発しろ(反射)』『シャレにならない爆発で草』

 

「まだ付いてるじゃねぇか!!」

「ハッハッハ!」

 

 視聴者=サンによって企みは一瞬にしてバレてしまった。けれどまあ、やっぱりこう言う雰囲気は楽しいものだ。あっ、ボス部屋発見。それにしても、この階層1階より狭い気がする。

 

 

 《ダンジョン『徘徊する残骸の聖堂』》

 《現在のダンジョン内にいるプレイヤー : 6》

 《ダンジョン難易度 : 8/10》

 《ダンジョン踏破率 : 76%》

 《ダンジョン階層3/5》

 

 アストによく似た2階層にいたボスを、1限界突破した性能差で10分とかけずゴリ押し瞬殺して突破した後。俺たちは、明らかに1階層の半分程度しかない3階層を攻略していた。

 

 そして、そこで最大の問題に直面していた。

 

「ヴォルフさん! 6時方向から18、3時方向から5、8時と11時の方向からもそれぞれ3! 通路爆破して時間稼ぎますけど、猶予がもう無いです!」

「分かってる! だがこいつらも、一筋縄じゃ、ねぇ!!」

 

 ヴォルフさんが斬り結んでいる相手は、この狭い通路の中で器用に銃剣を咥えた狼達。10回ほど重ね掛けした獄毒のお陰で倒し、残り2匹となったヤツらの名前は【The religion's bayonet】。このモンスター達が、第3階層を牛耳るボスモンスター達だった。

 

 そう、ボスモンスター達である。徘徊するの名を持つダンジョンの例に漏れず、当然彼らも無数に存在する。第1階層の半分ほどの広さになっている、この第3階層に。それがどのような結果を招くか、それが俺たちの今直面している問題だった。

 

「だらっしゃぁぁぁ!! 後1匹、デバフ!」

 

 剣の状態に変形したヴォルフさんが、前に出張ってきていた1匹を両断する。

 

 高めの状態異常耐性、高耐久、中火力、高敏捷、全距離対応の物理型と平均的な性能のボス。ただそれが、狼の形をしているというせいか()()()()()()。今のようにたった2人のプレイヤーを追い詰める為に包囲もしてくれば、3匹で同時行動しながら深手を追えばその個体が後ろに下がり回復をはかる。

 端的に言って、死ぬ程厄介だった。コメントを読む暇もない。

 

「仕留めて下さいね!」

 

 それでも、仕留めなきゃリスポーンだ。だからこそ、なんとか捻り出した20匹の分身を突撃、自爆させる。ボスへのダメージは軽微、ただその代わりに無数の状態異常が点灯する。

 獄毒が18、移動速度低下も15、呪詛が28に、畏怖が15。最大HP・MP減少がそれぞれ20と少し、裂傷が5。状態異常重ね掛けの最大個数が400と少しなので、随分とレジストされてしまった。

 

「任せなぁ!」

 

 当然、爆発で怯んだ状態でそれほどの数のデバフを受ければ、これが3度目であろうとボスの動きを封じられる。そして動きさえ止まってくれれば、ヴォルフさんというダメージディーラーが遠慮なく動ける。

 

「ぶった斬る!」

 

 とっくにRP(ロールプレイ)など剥がれた口調で、動きの鈍ったボスにヴォルフさんが連撃する。ダメージ量は……足りている。スリップダメージ込みなら、凡そ40秒ほど時間を稼げばなんとかなる。

 

「でもそれじゃ、ちょっと時間掛かり過ぎる。分身行きます!」

「大技、溜め5秒!」

 

 追加でまた分身を20匹を捻り出しスーパーカミカゼアタック。更にほぼ同数の状態異常を重複させる。僅かに自爆の時間をずらして、ノックバックを増やしつつ数秒の時間を稼ぐ。

 同時に、迫ってくるボスに振り分けている400匹程の分身も、精密さは犠牲にして操作。通路崩壊で障害物を増やし、移動速度低下の状態異常で更に足を遅くさせる。本当ならもっと計算して綺麗な爆破にしたいのに、ああもう手も火力も足りない!

 

「インパルス、ベガッ、スラアァァァッシュ!!」

 

 だからこそ、火力に特化したヴォルフさんの存在が非常にありがたかった。光の刃を生やし、動きが非常にスロウになったボスの首を一閃。クリティカルヒット特有の大ダメージを発生させ、返す刀で素っ首を叩き落とした。

 

「よし、行きますよ!」

「ハッ、休む暇もねぇな!」

「現在進行形で足止めしてる俺に言いますそれ!?」

「違いねぇ!」

 

 そんな戦闘の名残を吹き飛ばすように、獣状態へ戻ったヴォルフさんと共に駆ける。駆ける。駆ける。既にこの階層のマップは共有済み、目指す場所は下層へ続く階段だ。

 

「階段まで行けば、偵察した限り安全地帯です!」

「間に合えばいいんだがなぁ!」

 

 この階層にはゲートキーパーとしてのボスはおらず、分身は行かせられなかったが多分次の4階層も同様だ。ボスとの連戦は流石にないだろう。つまり、実質ここと次を乗り越えればダンジョンクリア。先が見えてきた。

 今のところ、他のプレイヤーの姿もなし。追って来れるなら追って来るがいいの精神で、変形狼と蜂の姿で狼の階層を突き抜けて行くのだった。

 




毎日1個は新しいスキルが見つかるせいで、基本的に仕事をスキル名の一覧くらいしか作ってない検証班。その結果出来ている攻略サイトの一部がこれだ!

スキル名【大鎌】
《取得方法》鎌スキル+一定練度以上の長柄の武器スキル(長杖・槍・棒等)が合体して変化
《備考》自分が大鎌っぽいと思う動きで長柄武器を使っていると生えます。最短10分、最長記録は現在も更新中。
ただ、草刈りをしていたら前提条件を満たしていなくても生えた前例があるので戦闘が不要な獲得手段もあると思われる。
《注意》鎌スキルをそのまま使っていても発生しません。鎖付きブーメランなどの謎のスキルが生えます
《派生》現在調査中

 情報提供を強く望みます


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第149話 探索!従魔大森林 -β版-⑦

「あ゛あ゛ぁぉぁぁ↑……つっかれました……」

「同感だ……少し休もう、コメ返しとかしながら……」

「ですね……」

『お疲れ様』『遊びがなくてつまらなかった』『←ほならね、お前がやってみろって話』『リンクするボスラッシュとかマジぃ?』『俺、これ攻略できる気がしない』『よく二人で突破した』『へばってる朧ちゃん可愛い』『へばってるヴォルフ可愛い』『コメ欄、ヤバイの湧いてきてない?』

 

 遊ぶ余裕もコメ返しする余裕もなく、一気に狼の階層を駆け抜けて辿り着いた次階層へ続く階段。システムの都合上、実質的な安全地帯になっているここで、俺たちは完全に気を抜いて地べたに張り付いていた。

 低人数で攻略する時の筆頭たる問題である、火力不足と手数不足。久し振りに対面したそれに、本当に普通の攻略をしてしまった。無念としか言いようがない。

 

「と言う訳で、休憩時間中はコメ返し時間としまーす」

 

 ヴォルフさんがそう宣言した直後、一気にコメント欄が加速した。コメ返しして貰えるのが珍しいのか、珍しくはないが逃したくないのか……あ、俺宛てのやつ発見。

 

「えー、『朧さんはさっきの戦闘で何をしてたんですか?』ですかー。ずっと他の狼足止めしてました。爆破と状態異常特化じゃなきゃ突破されてましたね……へへっ」

『えっ、あのペースで足止め後?』『やりたくないダンジョンNo.1に認定』『異次元の色彩の草原をお忘れで?』『あっ(察し)』『その名前は出したらいけない(戒め)』『配信者さんに迷惑かけちゃダメだぞ各位』

 

 普段から障壁を500個くらい操作してなかったら、きっとここで詰んでいた。分身が550匹にまで増えたせいで、まだ割と操作が覚束ないんだよなぁ……ははは。ダメこれ、脳が疲れきってる。

 

「ほんと、有り難かったですよ朧さん……正面の敵に集中出来ましたし」

「安くないけどお安い御用でしたね。へっへっへ」

『ダメみたいですね……』『この極振り、そろそろ爆破が切れてません?』『爆破キメて普段の調子取り戻して?』『いよっ、爆破卿!』

 

 思ってた以上に外面も酷い状態になっているらしい。これは……今日は花火ル*1普段は1本だけど、3本くらいキメないとなぁ……

 

『そんな爆破卿にオススメ! 通常マップの最前線に生物とか作物全てが爆発か発火する極限環境マップが! 昨日発見されたのですけど知りたいですか?』

 

「配信終わったら速攻でギルドホームに戻るので、その話後で詳しく。ええ、情報料も弾みます」

 

 ぬかった、最近最前線に行ってなかったからそんな情報仕入れていない。なんだその桃源郷、行くしかない……いや、寧ろそこに住む! 絶対に住む! 無駄に5000万くらいある資金使えば、そこにプレイヤーホームとか建てられないかなぁ。

 

「次は俺だな。何かあるかー?」

 

 間延びした声でヴォルフさんが喋り出した。本業を邪魔しちゃいけないだろうし少し黙るか。それよりも今はプレイヤーホームの仕様確認が先だ。理想的すぎる立地の場所、誰にも取られるわけにはいかない。

 

「朧さんに質問だ『以前配信とかしてましたか? これからする予定あります?』だとさ」

「してませんね。どちらかといえば視聴者側です。これからする予定もないですね、知り合いに協力くらいならしますけど」

『残念』『人気出ると思うのに』『いつだったか、SNSでバズってましたよねあなた』『えー』『でも呼べば来てくれるのか』

 

 なんというか、配信は関わってはいけない気がするのだ。こう、平行世界の自分が、全力でやめておけと叫んでいる気がする。戻れなくなるぞと。そんな気がする。

 それにさっきから何故か、背筋がゾワゾワとしているのだ。まるで蛇に睨まれた蛙になったかの様な、捕食者に見つめられている様な恐怖感。そんな自分の直感には従っておく方が吉とみた。

 

「というわけで、10分くらいだったがコメ返しは終わりとする。昨日みたく、無駄に動画が長くなっても悪いしな!」

「脳も休まったので、俺も準備OKです」

『脳が休まった……?』『脳の問題なのか』『分身500体でしょ、わかるわか──いやごめん見栄張ったわ』『隙自語』『そうだよな……100体までで限界だよな……』『えっ』『えっ』『えっ?』

 

 同時にコメ欄も流し見できるくらいには、いい感じに頭も回り出した。というか、分身100体操作できる人いるのか。多分セナ超えてるし、その人最前線組なのでは?

 

 《ダンジョン『徘徊する残骸の聖堂』》

 《現在のダンジョン内にいるプレイヤー : 2》

 《ダンジョン難易度 : 8/10》

 《ダンジョン踏破率 : 80%》

 《ダンジョン階層4-5/5》

 

 そんな賑やかなコメント欄を楽しみつつ、階段を降りた先。想定なら3階層より少し狭い4階層が広がっている筈だったそこには、大きな1つの扉が鎮座していた。そして他に4人居たはずのプレイヤーは全滅していた。南無。

 

「つまりこれは……もうボス戦になるんですかね?」

「だろうな。触れば情報出てくるぞ」

 

 そうヴォルフさんが言うので大きな扉に触れてみれば、ここだけはゲームらしくウィンドウが展開された。

 

 《ダンジョンボス : 三界跨ぎし蠱独の蜈蚣Lv80》

 《現在のPT人数 : 1 挑戦しますか? Y/N》

 《注意 : このボスは超大型ボスです。10〜20人前後のPTで挑むことが推奨されます》

 

 予めプレイヤーに警告するほどのボス。それにどうやら今回に限っては、しっかりとパーティを組まなければ挑戦はできないらしい。

 

『うわ、面倒そう』『やっぱり外れダンジョンじゃないか!』『(やめても)ええんやで』『それでもやっぱり挑戦するよなぁ!』

 

「文面から察するに、多分これムカデ型のボスですよね。図体がでかい。ぶっちゃけカモでは?」

「奇遇だな朧さん、俺もそう思っていた」

 

 俺は何処に自爆特攻しようがダメージと状態異常を累積させられて、蠱毒と孤独を掛けているらしい名前からしてヴォルフさんの常時バフである悪属性特効が働く可能性も高い。であれば、挑まない理由なんてあるわけがない。

 

「じゃあちゃっちゃとパーティ組んで、3階層での恨みぶつけましょう!」

「そうだな! あの犬どもの落とし前つけてもらわないとな!」

 

 高速のパーティ勧誘、そして超速の承諾。今に限っては、ヴォルフさんと肩を組んで笑いあえるくらいには心が通じ合っていた。ランダムであろうと、あのクソ階層を作った運営に対する恨みは最高潮。今ならなんでもできるような万能感が、俺たちには満ち満ちていた。

 

 そう、つまり爆発してしまったのだ。

 内なる小学3年生ソウルが。友達と一緒にバカやって、遊び疲れたら眠るようなあの頃の何かが。

 

 ニィッと懐かしい笑みを浮かべて、揃ってボスへの挑戦ボタンを叩き込む。当然すぐさま転送が始まり、暗く広いボス部屋に辿り着く。暗くてそこまで遠くまでは見えないが、何か大きな存在が蠢いているのは感じられる。

 

『Gi──』

「こんにちは、死ね!」

『直球すぎて草』『最速で、最短で、一直線な殺意』『ひえっ(虫怖い)』『画面を直視できない』

 

 そのボスが口を開き、音を発した瞬間。その場所に向けて、最大限に生み出した分身を突撃、全てを大爆発させた。

 

 点灯した状態異常の数は、獄毒が1421個、移動速度低下がMAXの1650個、呪詛が1522個に、畏怖が942個。最大HP・MP減少がそれぞれ1244個、裂傷が1600個。畏怖の掛かり方が少し少ないが、一回の自爆としては最大限のデバフを重ねられたと思う。

 

『は?(恐怖)』『は?(畏怖)』『コメ欄まで状態異常で草』『草』『なぁにこれぇ』『状態異常マーカーが、見たことない数付いてるんですけど』『は?』『どうしろと?』

 

 コメントを見つつ即座に【ドミニオン】分だけ再分身。

 それに一歩遅れるようにして、広い階層に松明が無数に灯った。その淡い光によって現れたのは、大型ビル程の横幅はあろう巨大蜈蚣。その全長に至っては、この小さな身体では計り知ることも出来ない。

 

「初手フルバーストしたので、20秒は任せます!」

「待ってたぜ! 百鬼夜行をぶった斬る、今宵の俺は血に飢えているぜぇ!」

『ヒュー!』『ヒュー!』『虎徹かな?』『装甲悪鬼がいる世界線だしなぁ』『RPは何処へ』『↑いつものことだろ!』

 

 まあ、最大限にまで掛けられた移動速度低下と数は少ないものの掛かった畏怖のおかげで、その動きは余りにもトロいものだが。

 

「でも、ちょっとマズイかもしれませんね、これ」

 

 けれど流石はボスといったところか。重なりに重なったスリップダメージで凄まじい勢いでHPは削れているものの、毎秒10個くらいの勢いで状態異常が治癒されてしまっている。

 つまり一番長い移動速度低下が残り165秒、一番短い畏怖で94秒程しか状態異常が保たないことを示していた。……ん、いや、あれ? 分身のクールタイム20秒だし、割となんとかなるなこれ?

 

「やっぱり何とかなりますね。

 ヴォルフさん! 嵌めパターン入りました!」

「ヒャッホウ! プレイヤーの権限において、実力を行使する!」

「なら俺も言っておきますか。お前のお宝頂くぜ!」

『警察戦隊違いで草』『怪盗(爆弾魔)』『イメージ壊れる』『それよりさっきからボス固まってない?』『シャケ』『アレはもうサンドバックだから……』『状態異常には気をつけよう!』

 

 そうして童心回帰した精神で、ボスに恨みをぶつけること約30分。ほぼ全ての状態異常の累積個数が5桁の大台に乗った辺りで、ヴォルフさんの一刀によってダンジョンボスの……何だったっけ? まあいい、デカイだけの蜈蚣は一切の抵抗すら許されず、細かなポリゴン片へと変わったのだった。

 

 《ダンジョンボス : 三界跨ぎし蠱独の蜈蚣Lv80が討伐されました》

 《攻略履歴確認》

 《ダンジョン踏破率80%》

 《特記 : 累計状態異常個数50,000個Over》

 《報酬が確定しました》

 《ダンジョンから脱出しますか? Y/N》

 

*1
主人公が第3の街に存在するビルに爆弾を積載して打ち上げ爆発させる所業



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第150話 探索!従魔大森林 -β版-⑧

祝 150話
(他プレイヤーのイベント攻略シーン)
 これいる?



「お疲れ様でしたー!!」

「お疲れ様!」

『乙』『乙ウルフ〜』『乙ウルフ〜』『またコラボ待ってる』『コラボ面白かったー!』『UPO始めてみます!』

 

 ボスであったムカデ、正式名称『三界跨ぎし蠱独の蜈蚣』を一方的に嵌め殺……ではなく、こちらに被害をほぼ出すことなく倒したあと。30分程雑談に付き合って、丁度いいタイミングということで2回目の配信は終わったのだった。

 

「今思い出したんですけど、そういえばボス戦、テンション上がって装備使うの忘れてましたね……」

「そうだな……俺も折角、オーダーメイドの剣持ち込んでたんだけどなぁ」

 

 そして揃って、賢者タイムに近い何かに陥っていた。ボス戦の時は3層で溜め込まれたストレスも相まって、テンションがいい感じにトんで何かがキマっていた。

 俺の場合、明らかにただの自爆より魔導書で魔法を連射してからの自爆の方が。ヴォルフさんの場合、剣を取り出して手数を増やした方が。存在を忘れていたとはいえ、全力と言いながら全力でないという大失態である。

 

「火薬以外にキマるとは、我ながら未熟……修行が足りませんね。やっぱり、噂の新天地で火薬キメなきゃ……!」

「朧さんの何がそこまで火薬に心を掻き立ててるんです?」

「爆発するから」

 

 脳がスパークして着火した答えを即答する。まあ、こんな至極当然の答えは改めて確認するまでもないとしてだ。

 

「それより、配信中には確認しませんでしたけど……進化素材、揃ってますよね」

「ああ。いつ集まったのかは知らないが、いつの間にかな。多分あの犬っころ共だとは思うが……」

「まあ、進化できるならいいじゃないですか」

 

 こちらもさっきドロップ品を確認するとき、進化可能の表示が出ていて初めて気がついた。となるとやはり、素材が集まったのはあの犬と……若しくは、超大型ボスを2人で倒した特別報酬か何かか。

 

「いえーい?」

「いえーい」

 

 そんなことを話しつつも、いい感じに頭は空っぽである。だからこのように、ハイタッチ感覚で手を合わせようとした結果、ヴォルフさんの肉球に全身を押し潰される稀有な経験をすることになっている。

 肉球はひんやりむにむにで、ただでさえ麻痺している思考力が更に削り取られていく。

 

「取り敢えず俺は進化します。ヴォルフさんはどうしますか?」

「あー……ちょっと待て。何かに使えるかもしれないから、動画だけ取る」

「了解ですー。あ、次いでですし俺も画角に入っておきます?」

「どうせならそうするか。頼む」

 

 そう言って撮影の準備を始めたヴォルフさんを待ち、配信中にやったのと同じ段取りで進化のボタンに手を叩きつけた。

 

 《ドミニオンワスプ・クイーンが選択されました》

 《進化を実行します》

 《ペットスキルが強化されました》

 《ペットスキル【分身体上限+2】を獲得しました》

 《進化特典としてスキル【蜜集め(女王種)】を獲得しました》

 《余剰獲得経験値を確認》

 《経験値プールより成長を実行します》

 

 前回と特に何も変わらない演出に身を包まれ、なんの不備もなく進化が実行された。

 ただ前回と違ったのは、目を開けずとも自分の身体が……感覚的に言うのなら、四肢がもう一組ずつ増えたような不思議な感覚が増えたこと。ステータスを見る間もなく自分の姿を見ただけで、その原因は一目で認識できる変化だった。そしてそれはまた、ヴォルフさんも同様だった。

 

「なんか、ゾイドっぽくなりましたねヴォルフさん。コマンドウルフとムラサメライガーのニコイチみたいな感じの」

「そっちこそ、子分みたいな蜂が増えてるじゃねえか。PvPイベントがあっても、絶対に相手にしたくないんだが」

 

 俺の方は、少し翅が大きくなった気がする朧本体に、付き従うような小柄な蜂が5体常時追加されているように。ヴォルフさんの方は、より機械的になった狼が鎖を咥え、背中に一振り大きな刀を背負っているように変化していた。 

 また俺の方に限っては、またもや一瞬でレベルが上限の55にまで上がっていた。まだまだアスト貯金は尽きないらしい。

 

「まあ、直接ダメージは殆どありませんから。広範囲攻撃で全滅しますし」

「いや、あの地獄みたいな状態異常を見てそうは思わねぇよ」

「そんなこと言ったら、そっちだってプレイヤーが握る前提ならDPSヤバいことになると思いますよ?」

「当たらなきゃ意味ないんだよなぁ……」

 

 このままでは平行線にしかならない。なんとなくそんな雰囲気なので、取り敢えず会話を打ち切ることにした。まだ配信が終わってそんなに時間は経ってないけど、ギルドに来てるだろう情報提供者を待たせてもいけない。

 

「それじゃあ、今回は本当にありがとうございました」

「いえいえ、こちらこそ」

「また何かあったら呼んでください、タイミングが合えば行きますので」

「こちらこそ、また遭遇したらよろしくお願いしますね」

 

 そう最後はしっかりと締めて、俺はイベントサーバーからログアウトしたのだった。

 

 

 して。

 通常サーバーにすぐさまログインし、ギルドホームに来ていた情報提供者と接触。因みに戦闘機乗りギルド【クロイカラス】のランディングギア担当の人で、いつだったかからのフレンドだった。

 それはどうでもいいとして。例の極限環境マップの情報は、本来の相場だと50万程度で済むらしい。だが誠意として100万DほどPON☆と支払い、マップを共有させて貰った。

 

 結果、判明したMAP名は【悉燼(しつじん)燎丘(りょうきゅう)】と【尽焼(じんしょう)燎森(りょうしん)】という隣り合った2種類のマップ。

 場所は第6・7の街より西にある森と丘のマップを越え、その先にある海岸線と海を更に越えた先。到達した数少ないメンバーから新大陸と呼ばれている(らしい)場所に、この2つのマップはあるとのことだった。

 敵の平均レベルは日中95、夜間100という現在のプレイヤーの上限レベルを15〜20も上回った修羅のマップとのこと。そのうえ、ありとあらゆる物が爆発するか発火する性質上、攻略がここで詰まってしまっているとも聞いた。そしてそのプレイヤーたちが、普段は関わることのない所謂ゲームストーリー考察組で、相当な苦労をして新大陸に渡り、セーブポイントになる街を建設しているらしいことも。

 

「まあ、そんなこと関係ないか」

 

 新大陸に向かう為に必要らしい『大陸間往来許可証(100万D)』を特に苦労もなく購入し、本当なら行くのに必要である『大陸間輸送便(50万D)』を利用することなく、紋章で加速した愛車で海を突っ切り乗り付けた。そして新大陸で着々と作られている街で『無制限小規模プレイヤーホーム設置権(1回)(5000万D)』を購入し、今に至る。

 

 やはり金。金が全てを解決してくれる。金金金と言ったとしても、騎士じゃないから恥ずかしくなんてないのだ。プレイヤーホーム設置権で全財産が1万Dまで減ったけれど、カジノで追い出し限界全額レイズからの、ダブルアップを重ねて1ゲームで1億ほど巻き上げてきたから問題もない。

 

 まあ、つまり? 要はアレだ。

 

「テーマパークに来たみたいだぜ、テンション上がるなぁ~!!」

 

 この目の前に広がる光景を目にするのに、金の力で損を全て帳消しにしたということだ。

 

 なだらかな丘に生い茂るのは、背の低い草花と更に背の低い芝のような草。そこだけ見ればなんの変哲も無いマップだが……咲き誇る花は、例外なく毎秒爆発していた。

 適当な小石をマップに放り投げれば、芝に小石が飲み込まれた瞬間火の粉が吹き上がる。その吹き上がった火の粉が、爆弾になっているらしい花に着火し爆発。その爆風でまた火の粉が舞い上がり爆発。さらに別の花が爆発し──と、その無限連鎖が起きているらしい。

 

『喜、感動、理想、巣、造』

 

 奥にあるという【尽焼(じんしょう)燎森(りょうしん)】がどうなっているかはまた見えないが、この通り朧もご満悦だ。さっきまで不機嫌で喋らなかったのに、ブンブンと勢いよく飛び回り、このとおり大はしゃぎだ。

 

「【悉燼(しつじん)燎丘(りょうきゅう)】、完璧じゃないですかこれ」

 

 今のところ、パンダも笹食ってる場合じゃねぇと走り出すレベルだ。ここをキャンプ地とする! 天候も初めてみる名称の【燎原】という物が表示されており、採取できるアイテムから何から興味が湧いて仕方がない。

 

 急ぎのあまり、れーちゃんにしか話は伝えてないけど……まあ、毎日爆破してるビルの建材取りに帰るし、セナ達にはその時話せばなんの問題もないか!!!

 

「出現してるモンスターは……朧と同系統の蜂が無数、見え辛いけどしぐれさんの所にいた虫系も多数。多分ゴースト系の敵もいるか」

 

 燎森の方は兎も角、この燎丘は虫系+ゴースト系のモンスターが主流らしい。単純に高レベルで的が小さく、数も多く爆発する敵が多い。しかも自爆が一度発生すれば……いや、多分歩くだけで、花が無くなるまで無限の爆破連鎖が発生する。攻略が止まるのも納得の桃源郷(マップ)だった。

 

「さて。朧、警戒お願い」

『了』

 

 なんにせよ、動かないことには始まらない。

 朧に警戒を任せつつ、フードを被りステルス機能を作動させる。そのまましゃがみ込み、全身全霊の力を込め芝の一部を引き千切る。何故か飛び散らなかった火の粉に疑問を感じつつ、採取出来たアイテム名は【噴火芝】。掘り返した土は【爆薬土】、摘み取った花は【炎爆花】、どれも何とも直球で面白みのないネーミングだ。意識してない為かレアアイテムでもない。爆発するから文句はないけど。

 

「【空間認識能力】最大化」

 

 目を瞑って認知範囲を全開にすれば、その3種類のアイテムを基本にしてまだ無数のアイテムが存在していることが認識できる。

 充実感と刺激される冒険心、そしてこんなんじゃ満足できねぇぜ!と吼える爆破心をグッと抑え込み、息を潜めてガッツポーズを繰り返す。やっぱこの……爆破って、最高やな!!!

 

「すぅぅぅぅぅ………あ、メール来てる」

 

 火薬の香りを嗅ぎ、語彙力を燃料に爆発していた思考回路を現実に引き戻したのは、あまり聞くことのないゲーム内でのメール受信音だった。

 内容は……セナから、配信も終わったし一緒にイベントやらない? とのこと。一緒に遊ぶのは当然だけど、まだ暫くはここに居たいし、夜ご飯食べた後でいいならと返信しておく。

 

「いざ、プレイヤーホーム建築!!」

『助力』

 

 であればやることは1つ。また一からここまで来るのは面倒極まりないし、取り敢えずセーブポイントの建設に取り掛かろう。場所は燎丘と燎森の境目がやっぱり良い。

 高い買い物だったのだ、無駄にしてはいけない。そんな建前の元、この場所を独り占めする為、鼻唄を歌いながら物件の物色を始めたのだった。

 




カットされた諸々
ーゲームストーリー考察組ー
ユキは始まりの街での活動をブッチしてボス討伐に行ったので、これっぽっちも触れていない為本作でも触れてないが、一応存在するUPOストーリーの攻略最前線を走る奴ら。
下手をしたら検証班より正確な敵情報を挙げている。
ギルド的には、モトラッド艦隊UPO支部、クロイカラス、イオ君のところ等が大規模かつ考察組となっている。

ーゲーム自体を楽しんでる組ー
ストーリーを追ってる人もいれば、追ってない人もいる。単純に友人や知り合いと、超技術で作られたUPOを遊んでいる組
主にバグや不具合はこっちから発見される。
ギルド的には、すてら☆あーく、極天、しぐれさんのところ等が主だったもの。

ーカジノ編ダイジェストー
ユキ「俺は速攻魔法、ダブルアップチャンスを発動!(10連)」(1億ほどに資金が回復)
カジノ「カエレ! やっぱりお前出禁な(2度目)」



そして本文には載せなかった現時点での朧ちゃん
==============================
 Name : 朧
 Race : ドミニオンワスプ・クイーン
 Master : ユキ
 Lv 55/55
 HP : 3000/3000
 MP : 2400/2400
 Str : 200 Dex : 200
 Vit : 130 Agl : 650
 Int : 70 Luk : 70
 Min : 130
《ペットスキル》
【状態異常攻撃 : 壊毒】
 HPスリップダメージ(極大)
 確率でVit減少(極小)
【状態異常攻撃 : 足枷】
 移動速度減少(大)
 確率でAgl減少(極小)
【状態異常攻撃 : 祟り】
 状態異常耐性低下(大)
【状態異常攻撃 : 畏怖(中)】
 確率で行動不能・確率で自傷
 確率でStr・Int減少(極小)
【儚き栄華の灯火】
 HPを0にし、現在HP×1.5分の倍のダメージを与える。範囲は(半径威力/100)×1.5mまで(任意選択)
【ドミニオンⅡ】
 自身の最大MPを半分にし、自身のステータスと同等(HPMPは半分)の実態を持った分身を自身のLv体作り出す。
 効果時間 : 分身が全滅するまで
【分身体上限+1】
 分身体の上限を+50体する
【分身体上限+2】
 分身体の上限を+50体する
《スキル》
【真・影分身】
 自身のMPを1割消費して、自分の半分のステータス(HPMP含む)の実体がない分身を5体作り出す。
 効果時間 : 戦闘終了まで
 冷却時間 : 20秒
【ドッペルゲンガー】
 自身と同じステータスを持つ扱いの実態のある分身を作り出す。分身の維持には毎分100のMPを支払う。
 また、分身出現中に受けたダメージは全て分身が受ける。分身のHPが0になったとき、このスキルは解除される。
 冷却時間 : 20秒
【多重存在】
 攻撃のヒット数を3増加する(1ヒット辺りの威力は4分の1に減少)
【状態異常攻撃 : 裂傷】
 HPスリップダメージ
【状態異常攻撃 : 最大HP減少】
【状態異常攻撃 : 最大MP減少】
【状態異常累積化】
 同じ状態異常が被/与ともに累積するようになる。ただし状態異常攻撃による付与率を50%低下させ、効果時間を一律180秒へ変更する。
【蜜集め(女王種)】
 配下の蜂を常時5体呼び出す。ステータスは自身の1/6(小数点切り捨て)で、自身のスキルに連動して同スキルを発動する(同名スキル再発動時間は一律60秒)
 自身の巣(設置オブジェクト)から一定時間毎にアイテムが採取可能になる。アイテムは周囲の環境によって変化する。
 現在の採取可能アイテム : 2種
・高純度液体爆薬『女王の慈悲(ローヤルゼリー)
・高性能可塑性爆薬『働蜂の結晶(ハニカムボム)
《装備枠》
 アクセサリー : 沈黙の呪印 改
 ・状態異常攻撃 : 沈黙(中)
  確率で呪文の行使を失敗する


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第151話 バクハ……バクハ……バクハシタイ……

割といらないって意見多かったので、一般プレイヤー目線のイベント回は消えました(大嘘)書いててつまんなかったので消しました


 何故か配信に出演することになった初日と2日目以降。特に何か、特別だったり大きなイベントに巻き込まれることはなく、1週間という長いようで短いイベントの期間は終了した。

 当然その間、合流できたセナや藜さん、1日遅れたものの全員集合したすてら☆あーく全体でイベント攻略をしたりもしたがそれはそれ。工夫を凝らした爆破も出来たし、一気に攻略速度が上がって、全員の全ペットが現時点での最終段階に進化したくらいだ。

 

 まあ、そんなことはどうでもいい。イベントが終わろうと、あれ以降特にイベントが無かろうと。今の俺にはそう! この桃源郷があるのだから!!!!!

 

 たった一つの真理(爆発)に気付く!

 見た目は掘っ建て小屋!

 中身は火薬庫!

 その名も……その名も?なんだろう、特に決まってなかった。信貴山城(しぎさんじょう)にでもしようか、いや不敬か。

 

「右を見れば火薬、左を見れば爆薬、天上には朧の巣、床には地下室へ続く隠し階段! すぅぅぅぅ……ああ、秘密基地感、最高」

 

 配信でここの情報をリークしてくれたあの人には感謝しかない。よもやここまで、良い爆発物とその素材が採取できるとは思いもしなかった。

 これでも爆薬や火薬、爆弾の製作に関してだけは問題なく出来るのだ。そして誰に見咎められることもない。つまり、改良も魔改造もし放題である。

 

「それに、やっと完成したぁ……」

 

 そうして、まる2日ほど掛けて行っていた大仕事が、たった今完了した。ザイルさんから挑戦していると、話だけは聞いていたことを先んじて──かは知らないが成功させたのだ。我ながら鼻が高い結果だ。

 

「称号報酬の特別アイテムの改修……あとでザイルさんにも教えとこう、れーちゃんにも」

 

 結果に満足感を感じつつ、装備から外していた【無尽火薬(アタ・アンダイン)】改め、【無限火薬(ピース・プール)】を見る。見た目は以前から何も変わらず、カラビナに黒い中身の詰まった試験管が3つ接続されているものが一対。

 

【無限火薬】

 無限の火薬

 収束爆弾(3/3)

 集約爆弾(3/3)

 耐久値 : なし

 

 この通り、データとしても名前の表記が変わった程度だが、しかし、まるで全然! 元のスペックとは程遠いんだよねぇ!

 

 収束爆弾……つまりクラスターなタイプの爆弾は、範囲が3割り増。威力は元々が固定500くらいのダメージだったが固定700に。装備効果を含めれば当たれば固定1050ダメージ、十分すぎる火力だ。

 具体的には、集約爆弾の方は5段ヒットで“全段ヒットの場合”固定ダメージが3000。装備効果を含めれば4500……ある程度までのプレイヤーなら確定1発の火力だ。というか俺は即死する。自爆で即死するので、おいそれと使えなくなってしまった。

 

「あとこっちも随分改良できたけど……販売はしなくて良いかなぁ」

 

 満足感に溢れて頬ずりする程完璧に仕上がったそれは、見た目はもうしっかりとした現代的な爆竹ではない。ただの竹筒に見えるこれは、時代が戦国時代に戻っていると言って過言ではないだろう。

 

「……? いや、寧ろこれこそ本当の爆竹?」

 

 なんか頭が混乱してきたが、この爆竹……アイテム名【爆竹・平蜘蛛】の性能は本物だ。

 

 本来なら持ち運びに難があり、その場に設置して起爆する程度しか出来ない大型の樽に詰めた爆弾がUPOには存在する。通常プレイヤーが店売りで手に入れられる最強の爆弾の威力が、固定ダメージ800となっている。

 それに対して、この平蜘蛛の威力は650。俺の筋力でも難なく扱え、ある程度は投げられ、携行性の高いという特徴を持ちながらだ。序でに、俺の場合装備補正で威力は975の固定ダメージになる。当たった場合アドでしかなく、他プレイヤーが使ってはPvPが終わるようなアイテムだ。文字通りの爆アドだ、爆弾だけに。

 

 まあ、材料に無限火薬から創り出せる火薬、朧の巣から取れる女王の慈悲と働蜂の結晶、そしてこの【悉燼の燎丘】と【尽焼の燎森】で採取できるアイテムが必要だから、そうそう簡単に他人が作ることなんてできないが。

 

「惜しむらくは、外で使った瞬間マップごと爆ぜることだよなぁ……朧もそう思うでしょ?」

『呆』

 

 ダメだったらしい。ここの生態系は本当に素晴らしいと思うのだけれど、そこだけが難点だった。使うと……というか火花1つ、足を一歩踏み出すだけでマップが爆発する。

 お陰でこの2日でPK扱いまで受けてしまった。解せぬ。ちゃんと気をつけて歩いても爆発するけど、辺り一面に水か氷をぶち撒ければ燎丘はどうとでもなるのに。

 

「あー……堪能した。素材取って来なきゃ」

 

 こうして、俺だけの秘密基地に大の字で転がって、ただの出癖でアイテム作製を続けること十数分。採取してストックしておいたはずのアイテムが尽きたので、仕方がなく起き上がった。

 

「朧ー、ちょっと護衛お願い」

『呆、了』

 

 巣(爆薬)で蜂蜜(爆薬)を作っている朧に頼めば、渋々と言った様子で引き受けてくれた。ちょっと流石に、【尽焼の燎森】は俺単独では生存すらままならない環境なのだ。

 

 何せ【尽焼の燎森】の植生の大半を占めるのが、()()()()()なのだから。そう、言わずと知れたコアラの主食と、日本の風景でよく描かれる植物──などではない。

 ユーカリは自らの繁殖の為に自然発火するとかいう、意味不明な生態を持っている謎植物。竹だって意味不明な繁殖力と、焼けると爆ぜる性質を持っている。

 

 そんな元々危ない性質を持っている物が、この土地の全てが爆発か火を発するという性質で変異強化されている。相変わらず一歩無防備に踏み出すだけで、マップごと爆発炎上するように。

 因みに生息モンスターは、火を吹き爆ぜる蛇、ツチノコ、ムカデ、クモ等厄介な奴らばかりである。

 

「さあ、一丁採取に行きますかぁ!!」

 

 と、勢いよくプレイヤーホームの扉を開け放ち、一歩を踏み出した瞬間だった。ふわりと、火の粉が舞う。

 

「あっ」

 

 起爆。暗転。リポップ。

 

 朧の呆れきった声が聞こえた気がした。

 

 オイオイオイ、死んだわアイツ。早く耐爆仕様のプレイヤーホームにしなければ。ビルの残骸とか大したものじゃないけど使えそうだし。脳内のメガネもそう言ってる。

 

 

 所は変わって旧大陸(暫定)のギルドホーム。

 

「ねぇねぇユキくん。ユキくんは見た? 次のイベントの話」

「まだ。噂ではPvP形式っては聞いてるけど」

 

 爆破でヒビの入ったプレイヤーホーム強化の為、今日も花火ルの残骸運びに精を出すかーなんて、ギルドホームの机でアイテム欄を整理していた時だった。机の向こうから、そうセナが話しかけてきた。

 

 あくまで最近ずっと入り浸っていたペット強化イベントは、運営の告知ではミニイベントでしかない。次にある本イベントまでの繋ぎとして、急に実装したとかそんな話だったはずだ。

 そして他でもないセナ自身から、次のイベントはPvPじゃないの?という予想は聞いている。

 

「今までずっと、色んなイベントはやっててもPvPだけやってなかったからね。それでね、さっきアップデートの予告と一緒に次回イベントのお知らせが更新されてたんだ」

「ということはやっぱり?」

「うん、確定みたい。第7の街が元々開催予定だった場所で、今まで更地だったから実質中止だったけど、復興がようやく終わったんだって」

「文字通りの更地だったからね……」

 

 本当にほぼ何もない焦土に変わった第7の街だった場所は、今でもありありと思い出せる。そしてそこに、『プレイヤー自治区を作るんや!』と叫んで殺到していった生産職の皆々様方も。

 

「それで、今プレイヤーがほぼ占拠してる状態だから、最低限街としての活動ができるNPCを実装してイベント開催地にするって……ほら、これ!」

 

 そんなことを思い出していると、座る場所を隣に変えて、セナが携帯でUPO公式のSNSの画面を見せてくれた。まだゲーム内では情報が来てない辺り、まだ宣伝段階らしい。

 

 ==============================

《イベント予告!》

 遂にこの時がやってきた。

 プレイヤー同士が覇を競い、蹴落とし合う時が!

 プレイヤーの頂点が決まる時、世界が動き出すだろう

 PvPイベント【正月礼賛、餅つき兎は最強の夢を見るか】

 ※本イベントに限り、プレイヤー同士の戦闘場面を公式がPVとして採用する場合があります

 開催期間 12/7〜12/14

 開催場所 初心者・中級者の部『始まりの街』

      上級者・パーティの部『第7の街』

 ==============================

 

 文字数制限があるからかそんな感じに纏まっていて、リンク先で更なる詳細が見れるような形になっていた。こうもご丁寧に開催場所を分けてあるのは、多分戦力の足切りだろう。レベルが足りなければ基本的に上級の方には来られないが、逆に辿り着ける実力が有れば参加資格があると見做すみたいな。

 

「というわけで! 久し振りにデートしよユキくん。第7の街で!」

「いいけど……久し振りだっけ? 確か昨日も放課後──」

 

 遊びに行ったような。そう口にする前に、圧倒的なパワーの差で口を塞がれてしまった。元より特に異存はないけど、行くのはほぼ確定らしかった。元ミスティニウム、闘技場と賭場と闇市と遊園地やらなんやらが混ざり合ったカオスな空間になってるらしいから、行ったことないんだよなぁ……

 

「それでも、最近ユキくんと一緒に冒険してないもん。ずっと最近、噂の新大陸?に行ってばっかりだし」

「それもそっか。復興最初期以降、ミスティニウム行ってないから割と楽しみかも」

 

 まあ現実の遊園地なんて、行った記憶がそんなにないが。でもここはゲームの中、なんか知らないけど火薬と爆薬は定期的に売れてる所だし、きっと爆破関係の何かもあるに違いない。

 

「行くのは今から?」

「今から!」

「了解っと」

 

 プレイヤーホーム強化は急ぐことじゃない。なら良い機会だし行くとしよう。なんてことを考えながら、アイテム欄に詰め込んであったビルの残骸を全て破棄した。消す作業が面倒過ぎて、部屋にまだ99スタック以上はあるんだよなぁこれ。

 そんな操作をしていたからか、セナがガッツポーズらしき動きをしてたのは見えたが、何かを呟いてた内容は聴き逃してしまった。

 




何だかんだ、休日どころか平日も主人公とお出かけしてるヒロイン
ゲーム内でも外堀から埋めてきました


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第152話 偶には良いタイトルが出ないこともある

新しいデジモンが始まりましたね(激遅)不評ですが
でも私にとっては、やっぱりデジモンはクロスウォーズですね。
相棒はシャウトモンなんだ……批判多いですが

なんでPvPイベント前にデートイベント挿入したんだ過去の私よ……書きにくいぞ過去の私よ……(平成ボイス)

前書きにすらこんなに書くことがたまって! いやほんと申し訳ありません


 前略。なんやかんやで、アップデートが入る前に元ミスティニウムへ行くことになった訳だが。都市間の転移が生きている第6の街に飛び、個人的には好きだが煙たいそこから第7の街ミスティニウムに向けて出発する。そんな予定だったのだが。

 

「うわぁ」

「なにあれ? 聞いてた以上に発展してるんだけど……ユキくんは知ってた?」

「いや全く」

 

 何時ぞや攻め入った時と変わらぬルートを愛車で進み、目視でミスティニウムを確認した時。思わずそんな声がこぼれた。

 

 あいも変わらず大きな橋の先、巨大な川の三角州に位置する街の様子は様変わりしていた。その様子をどう例えるのが正解かは分からないが、こう、更地にされたエルフの森を人間が再開発したような、そんな雰囲気が漂っている。

 

 更地にする前のミスティニウムは、樹々と調和しつつも文明的な物を感じる素朴な街だった筈だ。焼き払ったが。しかし今ではどうだ、完全にテーマパークにしか見えなくなってしまっている。

 カラフルなコンクリ製の街並み、どうみてもジェットコースターに見えるコース、どでかい観覧車、闘技場と思しきコロッセオ、望遠で見てみればメリーゴーランドなどまで完備されている。よく見ればあの時の軍艦と列車砲も、専用の港と車庫らしき場所に存在している。

 

 各所にかつての名残らしき緑は散見できるが、最早それしか名残はない。魔法技術の街とはなんだったのか。一体、いったい誰がこんな酷いことを……(建前)それはそうと、再建してるっぽい王城はまた盛大に爆破したい。させろ(本性)

 

「ユキくん、爆破するならまた今度ね?」

「やっぱりセナには隠せないかぁ」

「とーぜん!」

 

 まあ実際、今はセナとの約束の方が重要だ。なんか寒気がするけど。爆破は後日、メンテナンス前にタイミングを見計らってやることにしよう。折角のお城だ、盛大な花火にしようじゃないか。

 そんなことを話しつつ、何故かセナたっての希望で乗っている愛車を再始動。そうしなくてもシステム的に大丈夫ではあるが、セナが腕を回したところでアクセルを開けた。

 

「そういえば、ユキくんのバイクって半分くらいNPCなんだよね? ペットじゃないのに」

「そうなるらしいね。第2回イベントからずっと、多分ペットのプロトタイプ的な感じだと思う。ヴァンはどう思う?」

 

 一応話しかけてみれば、とても嬉しそうにエンジンが唸りをあげた。どうやら当たっているらしい。最近あまり乗ってあげられていなかったから、機嫌を損ねてると思ったけど……思ったより機嫌が良さそうで安心する。

 

「ならさ、いっそユキくんのペットにしちゃえば? 確か枠はまだ空いてるよね」

「あー……考えてはいたけど、最近新大陸に入り浸ってたせいで忘れてた……ヴァン次第だけど」

 

 なんて考えていると、2回大きくエンジンが唸りを上げた。異論はないというか、是非お願いしたいとかそんな意思が伝わってきた。いいのか、それで。

 

「なりたいらしい」

「らしいって……やっぱりわかるんだ?」

「れーちゃん語よりは簡単だしね」

 

 そう、れーちゃん語の翻訳がある程度できるようになった今。前は難しかったヴァンの意思も、割と簡単に意思を読み取れるようになっていた。いや多分、朧の影響も多分にあるけど。

 なんて考えていると、1枚のメッセージが表示された。

 

 ==============================

 個体名 : ヴァンを種族 : プロトタイプとしてペットに加えますか?

 ヴァンが、仲間になりたそうにこちらを見ている

 Y/N

 ==============================

 

 セナが後ろに乗ってる以上、あまり片手運転はしたくない。どうするべきかと考えていると、後ろから伸びてきた手がYesのボタンを叩いた。

 

「ダメだった?」

「むしろ助かる」

 

 朧のように声は聞こえない。けれどエンジン音と風を切る感覚から、間違いなく気分も良く1段階強くなっていることが伝わってくる。そんな愛車を転がすこと数十秒。特に何か攻撃を仕掛けられるようなこともなく、あっさりと元ミスティニウムへ入ることが出来た。

 おかしい、セナと一緒にこんなところに出向いてるのに、誰1人としてPvPを仕掛けてこない。それならそれでいいのだが。

 

「多分ユキくんがこの前、Vtuberの人と配信してたお陰だね」

「ナチュラルに心読まれた……」

 

 言われてみれば、あれだけ襲撃者を返り討ちにしていたら来ないか。一応、そういうことで納得しておく。思ったより効果があるものなんだなぁ、と感心していると。ふと思い出したようにセナが聞いてきた。

 

「そういえばユキくんって、あの時以来遊園地って行ったことある?」

「ないなぁ。多分、大昔セナと行ったのが最後だと思う。基本的にうちの親、知ってる通り家に帰ってこないし」

 

 豪華な門を潜り、広がる混沌とした……もとい絢爛な街並みの中。いつも通り手を繋ぎ、並んで歩きながら答えた。

 遊園地どころか、正直そんな大型アミューズメント施設的な場所自体、家族で行った記憶がない。昔からパッパもマッマも会社が家なタイプだったし。学校の行事なら数回、その後1回沙織に頼み込まれて一緒に行ったのが最後だ。

 

「なら、今から目一杯回ろっか!」

「全力で走ったりはしないでね?」

「当然!」

 

 と、言ったそばからセナの速度は、付いていける限界を超えていた。Agl偏重と0(+マイナス補正)が、並んで歩けるわけがなかったんだ……とりあえず、障壁スケボースタイルでなんとかしておこう。

 

「最初はどこ行こっか!」

「遊ぶなら用事を済ませてからが良いし、イベント会場になるっぽい闘技場かな」

「OK!」

 

 ズドンと石畳みを踏み込み、セナが加速した。いや、周りの反応からするとそんなに早くはないらしい。どうやら圏内じゃないこの街の中で、俺のHPが減り始める程度には速い。気分はさながらジェットコースターだ、乗ったことないけど。

 

「到着!」

 

 なんて考えている間に、気がつけば見上げる大きさのコロッセオ型の闘技場に到着していた。コロッセオの完成度に比べて非常に雑な看板に書かれているのは、初回無料、1回500Dから始まる料金表のみ。非常に怪しい。

 

「ここ、PvPとかモンスター同士を戦わせたりしてるんだって。序でに賭け事もできるみたい」

「? どこにそんなこと」

「マップがパンフレット代わりになってるみたいだよ!」

 

 言われて確認してみれば、確かにマップの様子が普段とは違う。よくある案内パンフレット並みに、フォントから表示まで派手派手なものに変わっていた。どこぞの柱な忍者のRPでもしてる人がいたのだろうか。

 ただマップを拡大すれば、各アトラクション……施設?の名前まで表示してくれる親切仕様だ。この闘技場は『コロッセウム(仮)』、近くにあるサーカステントは『真夜中のサーカス』、闇市っぽい露店が並ぶ通りは『ノクターン横丁』、お土産(アクセサリー)店『エグリゴリ』、レプリカ大和専用港『三河』、列車砲専用車庫『ネフィリム返して』……違うなこれ、全員がやりたい放題名前つけただけだ。

 

「どうする?」

「タッグマッチがあるなら、一戦くらいやってもいいかも」

「ならやろっか!」

 

 いえーいと手を振り上げるセナを見て、どこか安心感を覚えつつ闘技場の入り口を潜る。ペット不可らしいのは残念だけど、折角の機会だ。新生した爆弾の力を見るがいい。

 

 

 楽しくなって2、3戦連続でやってしまったが、当然闘技場はお互いにノーダメージで連勝した。正真正銘トップランカーの回避盾兼全距離対応アタッカーと、安心してバフとデバフを使えるバッファー兼ディフェンダーが揃っているのだ。息もぴったりな以上、生半可な相手に負けるはずがない。

 

 大凡、普段と違う特別と言えるようなことはそれくらいだった。なんて言ってしまうのは、流石に失礼になるか。

 一緒に街を巡って、闇市っぽいところに迷い込んだり、メリーゴーランドに乗ってみたり、見覚えしかない翡翠色の屋台でクレープを食べたり。装備を物色したり、ジェットコースターに乗ったのはいいものの終点までに5〜6回リスポンしたり……いや、最後のは特別か。

 

「そういえばユキくんは、また何か配信する予定とかないの? 確かチャンネル自体はあるんだよね?」

「視聴用のなら。俺から何かを配信する予定は……ないかなぁ」

 

 何故かこう、配信を始めてしまったら後戻りができない感覚があるのだ。アキさんと一緒に黒アストRTAをしてる時の動画を30分だけ、その時した約束に従って上げてあるけど。軽く文字入れただけなのに、5000回再生ですってよ奥さん。

 

「そっか、ちょっと勿体無い気がするけど」

「偶に動画あげるくらいなら、やってもいいかなっては思うけど」

「じゃあ、今度は私も一緒に何かやりたいかも!」

「じゃあ何かネタがあれば、その時はお願いするかな」

 

 と、そんなことを話していると、2、3歩先に行ったセナがくるりと振り向いて、満面の笑顔を浮かべて言った。

 

「ところで、ユキくんは今日楽しかった? 遊園地……じゃ微妙になかったけど」

「楽しかったよ。セナは?」

「もちろん! ユキくんと色々出来たからね!」

 

 あんまり俺としては表に出せた気はしないけど、セナが楽しそうなので良かった。いい感じに爆破も堪能できたのもポイントが高い。

 

「じゃあさ、今度リアルの方でも一緒に──」

 

 そうセナが言いかけた瞬間だった。轟ッ!と風を引き裂いて、鳥のような影が駆け抜けた。何事かと警戒する俺の前で、ギャリギャリギャリと地面を削りながら減速し、着地したのは肩で息をする藜さんだった。

 

「抜け駆け、禁止、でした、よね?」

「むぅ、やっはり藜ちゃんには気づかれちゃうか。でもそっちだって、ずっとユキくんに勉強見てもらってるじゃん」

 

 事実を羅列されているだけのはずなのに、何故か2人の背後にバチバチと火花を散らす幻影が見える。放っておいたら取って食われるような、けれど手を出した瞬間食われるような気配。あと逃げ場もなさそうな感じがする。

 

「ちょうどいい、です。近く、PvPイベント、あります、よね。そこで、決着、つけましょう」

「そだね。その点ちょうどいいかも」

 

 そうして何故か、当人であるはずの俺の意思は関係なく、そんな約束が決まってしまったのだった。知らぬところで、全てが進んでいたっぽい。これもしかして、今なら「私のために争わないで!」ってセリフ、言えてしまうんじゃないだろうか?

 




王城「かなり恐怖を感じた」


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第153話 お前らはエキシビジョン行き(神の宣告)

運営がLP半分払いました


 俺の預かり知らぬところで、PvPイベントでセナと藜さんが戦う約束が成立した事件から数日後。一旦そのことは頭の隅に寄せ、王城を盛大に爆破した数時間後。ゲーム内でイベント【正月礼賛、餅つき兎は最強の夢を見るか】の詳細が発表された。

 

 ==============================

《イベント予告!》

 遂にこの時がやってきた。

 プレイヤー同士が覇を競い、蹴落とし合う時が!

 プレイヤーの頂点が決まる時、世界が動き出すだろう

 PvPイベント【正月礼賛、餅つき兎は最強の夢を見るか】

 ※本イベントに限り、プレイヤー同士の戦闘場面を公式がPVとして採用する場合があります

 開催期間 12/7〜12/14

 開催場所 初心者・中級者の部『始まりの街』

      上級者・パーティの部『第7の街』

 ==============================

 当該期間、現実時間で午前10時〜午前0時に2時間毎に、プレイヤーvsプレイヤーで戦い覇を競う一大イベントを開催します。相手と待ち合わせし同じ時間で戦うも良し、強大な相手を避けるも良し、自由にお楽しみください。

 また各会場、難易度についての目安。全体を通じてのルールを以下に記します。

 

【基本ルール】

 決着方法 : どちらかが戦闘場所外にリスポーンする(自力での復活、ペットのスキルでの復活は続行と見做す)

 戦闘空間(個人戦) : 50m×50m×50m

 戦闘空間(PT戦): 100m×100m×100m

 アイテム使用制限 : 復活アイテム、HP・MP回復アイテム全て(魔法等自力での回復、ペットによる回復は除きます)

 戦闘後の処理ついて : 戦闘終了後HP・MP、装備の耐久度、ペットのHP・MP、回数制限スキルの回数が回復します。ただし、使用したアイテムは復活しません。

 参加賞 : 称号【夢に挑みし者】

     効果はありません

 賞品 : 本イベントはポイント制です。優勝者、準優勝者、第3位が受け取ることが可能な特別称号を除き、イベント終了までにポイントを引き換えてください。

 

 初心者の部 : Lv1〜20

       ペット召喚禁止

 中級者の部 : Lv21〜50

       ペット召喚可能数1

 上級者の部 : Lv51〜80

       ペット召喚可能数8

 パーティの部 : Lv1〜80

       ペット召喚可能数8

       編成制限(後述)解除

 

【エキシビション戦について】

 また、本イベントを開催するにあたって『ある一部のプレイヤー達を通常プレイヤーの枠に入れないで欲しい』との意見を数多く頂きました。

 よって運営としては非常に不本意ではありますが、余りにも多くの意見であった為、ご本人達に了承を取りトーナメント形式でエキシビションマッチを別途開催することとなりました。

 

 日程 : 12/8(日)正午から

 

 ユキ━━━┓   ┏━━にゃしい

      ┣┓ ┏┫

 ザイル━━┛┃ ┃┗━━翡翠

       ┣┻┫

 レン━━━┓┃ ┃ ┏━━デュアル

      ┣┛  ┗╋━━センタ

 ザイード━┛    ┗━━アキ

 

 また極振りと呼ばれる9名については、エキシビション戦と、希望があればパーティ戦、バトルロイヤル戦にのみ出場が可能となっています。

 

【最終日について】

 12/14日(土)のバトルにおいてのみ、始まりの街でレベル、ペットの召喚数の制限を解除し、基本ルールに則ったバトルロイヤルを正午より開催予定です。マップはかつて第2回イベントで使用した特別サーバーとなります。

 特別報酬や称号も用意しておりますので、参加したいプレイヤーは是非是非暴れまわってください。

 

【その他】

 始まりの街と第7の街において映像中継を。公式サイトの特設ページにて、その日のハイライトを掲載予定です。

 

 同2つの街において、ゲーム内通貨を使用するギャンブルミニゲームを運営主催で開催します。一攫千金を狙ってみるのも一興でしょう。

 

 以前より要望があった、別の構成(ビルド)を体験する為の特設ルームをサーカステントの形で出店します。一部ユニークスキル、称号を除いて、全く新しい自分を体験することか可能です。同テントで、リビルドアイテムの販売も検討中です。

 

 折角の祭りである為、イベント期間中街中のNPCの活動が活発化します。それにより、複数の屋台が出店されることでしょう。()()()()()()何か、ユニークなイベントを体験することが出来る……かもしれません。

 

 同時に、NPC商店でのアイテムの買取価格が普段の1.5倍に、購入価格が0.5倍になります。多くのプレイヤーか訪れる場所で、普段戦うことのないプレイヤーの皆様も、遺憾なくその腕を振るっていただければ幸いです。

 ==============================

 

 と、大体こんな内容だった。今までのイベント告知に比べると随分と長いけれど、その分色々と情報が詰まっていた。

 

 エキシビションについては、事前に日時確認があったから知ってた。日曜日の正午になったことは、今初めて知ったけれど。

 

 開催期間が長いのと試合が分割されているのは、幾ら時間加速が出来るとは言っても、何十万といるプレイヤーを一纏めにしてはやれないということだろう。小学生……っぽい人は偶に始まりの街で見るし、逆に年上の人なんて探せば探すだけいる。

 だからこそ時間を小分けにして、人数もバラけさせようって考えと見た。引きこもっていたり事情がある人を除いて、大体戦うプレイヤーの年齢も固まるだろう。

 

「ザイルさんに勝てても……多分キツイよなぁ」

 

 とお知らせを読みながら、うへぇと悪態を零したくなる未来が頭をよぎる。ザイルさんに関しては相性有利だけど、レンさんにしてもザイードさんにしても、速度に乗られたら追い付けるはずがない。目で追えるだけでは意味がないのだ。

 

 そんな皮算用をしている俺が何をしているか?

 

 これでも早々に負けるつもりはない、出来れば勝ってみせたいのだ。だからこそ……普段は即殺かサンドバックになる黒アストを相手に、わざわざ発狂モードまで追い込み、黒い光弾の壁を気合い避けする練習をしている。

 

「これで被弾20回目……朧はこのままザイルさんとかち合って、大丈夫だと思う?」

『否。確証。無。推測。65%』

「そんなもんかぁ……」

 

 自分で思っていたよりは勝ち目がありそうなので、その点は良かったか。でも俺の知る限り、手軽に体験できる最高の弾幕で練習してこれなら……もう練習は要らないかもしれない。

 

「じゃあいつも通り」

 

 武装を仕込み刀に切り替え、最大火力になるようにスキルを全起動。加速の紋章を30枚ほど脚に重ね、刀にも30枚ほど重ねる。そのままポリゴンがぶれそうな速度まで一息に加速して、防御無視の抜刀術でバフを無視して黒アストの首を叩き落とす。

 反動でこちらも即死しながら、黒アストを撃破したことを確認して、着地でまた即死する。こんな即死大前提、1秒しか持たない加速を使ったとしても──

 

『目標。不足。30%』

「足元にも及ばないかぁ」

 

 過去のレンさんの速度の30%。それが俺が出せる最高速で、練習できる限界のラインでもあった。ますます初撃で決着させる以外、勝ち筋が一切見えない。

 けどきっと、なるようにしかならない。ちゃんと備えつつ、楽しみに待っておくことにしよう。

 

「ただなぁ……」

 

 それはそれとして、そんな楽しみなイベントより逼迫する問題があるのもまた事実だった。

 

 あの第7の街での出来事以来、セナと藜さんがバッチバチに火花を散らしているのだ。外から見ればゲームとして競っているようにしか見えず、その点以外は何も変わらないからギスギスしている訳ではない。

 ただこう、なんというか。危ない気配がするのだ。今まで埋められた外堀が最大限に効力を発揮して、一気に懐に攻め入られているような。そんな感覚が。

 

「まさに年貢の納め時……」

 

 外堀の埋められ具合的に夏の陣だろうか、今は絶賛冬だけど。いやそもそも、何もしなかった自分が原因なのだ。籠城作戦も限界である。潔く首を取られるか、出陣して討ち死にするかしかない。いや、本当にそうか……? まて、そうだ、今はクリスマス前だ。ちょっと休戦しよう(松永弾正久秀インストール)その隙に俺は平蜘蛛ごと自爆する!(歴史再現)なんだ、完璧じゃないか。

 

『失笑』

 

 カシャンと、HPが0になりアバターが砕ける音。そしてリスポン。

 どうやら、朧が一回殺してくれたらしい。危なかった……リスポンさせて貰えなければ、脳が変な方向に汚染されていたかもしれない。そんな逃げは、それこそ失笑もいいところだ。

 

「向き合わなきゃなぁ」

 

 改めてそう考えると、リィンリィンと幻聴まで聞こえてくる。カードデッキもミラーワールドも無いはずなのに。向き合え……向き合え……あっ、これは自分の声だわ。

 

「その前に。久し振りに自分とのミラーマッチに行くか」

 

 なんとなくその方が、考えも纏まってくれる気がする。運営が生み出すコピーとはいえ、自分と対話できるのだ。ナイスアイデアのはず。単純に新調した爆弾の評価とか、そっちの面も気になるし。

 

 ただ、まあ。何をどうするにしても、1つだけハッキリしていることがある。俺はもし沙織に「嫌い」や「もう近づかないで」とかを言われたら、昔ならヒッソリと失踪して首を吊っていた自信がある。

 我ながら気持ち悪いレベルのクソデカ感情なのは自覚しているけど、まあそこは事実だし。今でも失踪くらいは多分する。それはどうでも良いとして、告白して振られるのはそれくらいのショックになると……多分、思う。

 

 前置きが長くなったが。だからこそ、きちんと覚悟を決めろという話だ。それに尽きる。今までのようになあなあは許されないのだ。2人とも好きなどというのが許されるのは、小説の中の世界だけである。リアルでは二股クソ野郎にしかならない。

 

「はぁ……気が重い」

 

 なお、好いて貰ってるという予想が外れた場合、それはそれで失踪して完全にどこかに隠居する。UPOで獲得した技術を最大限活用すれば、死にはしないでしょ。うん。

 

『怒』

 

 などと思っていると、再び朧に爆破された。カシャンと、アバターが砕ける音。そしてリスポン。思考の海から戻って来れば、どうやら朧さんがお怒りだ。

 

『拒否』

「UPOに来なくなるのは許さない、と」

『同意』

「理想郷ではあるからね……はいはい了解しました」

 

 関係的な意味でも、戦闘的な意味でも、波乱の予感がした。

 




よく考えたら、感想返信以外でユッキーのクソデカ感情文にしたの初めてかもしれない。


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第154話 勉強なんかしてる場合じゃねぇ

今更ですが、ユッキーのバイクはツェンダップKS750です。

【擬人化朧ちゃんツンデレヒロインルート概念】
最近の感想を見てたら生えていた謎概念です
ご精査ください


「やっぱり、ずるい、です」

 

 いつも通りギルドホームで藜さんに勉強を教えつつ、爆弾の追加製作をしていた時だった。丁度やっていた部分がひと段落着いたところで、遂に堪えかねたようにして藜さんは言った。

 

「抜け駆けで、デートなんて」

「それはその、なんか、すみません」

 

 爆弾の作成は朧の分身体に任せて、頭を下げる。なんというか、そうしなければいけない凄みがあった。他の人には、感じられないような気がするけど。

 

「別に、ユキさんは、悪い、ですけど、悪くない、です。私と、セナさんとの、問題でした、から」

「それは、そうらしいですけど」

 

 それでも何処か、藜さんの不満気な様子は否めない。何とかしてあげたいけれど、俺に出来ることなんてそう多くない。時期が時期なだけに、というよりも一触即発な時期である以上、リアルの方で招く訳にもいかないし……

 

「じゃあ、どこか気晴らしに出かけま──」

「行きます!!」

 

 と、そんな苦し紛れの提案に、藜さんは食い気味で返事をした。提案しておいてなんだけど、いいのだろうか? それくらいのことで。

 

「なら何処にします? あまり高難度のマップだと、辿り着けないかもしれませんけど」

「えっと、なら、新大陸、行ってみたい、です。エルフが、見つかったって、聞いてて!」

「確かに、そんな噂は流れてましたね」

 

 昨日か一昨日か、なんとなく見ていたUPOの掲示板にそんな情報が出ていたような気がする。新大陸と聞いて飛びついたギルド……確か、【コンキスタドール】とか書いてあったっけ。顔面が土砂崩れを起こしているような、船の錨が武器のプレイヤーがギルドマスターと纏められていた筈だ。どうしてだろう、キャラクター性に既視感しかない。

 

「それに、ユキさんの、プレイヤーホーム、道中に、寄れます」

「俺以外が寄っても、あんまり楽しい場所じゃないですよ?」

 

 と一応言ってみるが、この程度で藜さんが折れる筈もなく。()()()当然のように持っていた渡航権利を手に、期待に満ちた目をされてしまえば……断れる筈もなかった。

 そうして、小雨が降り出した中。第6にまでは転移で向かい、障壁で風除け雨よけを作りつつ、アクセルを全開にした。移動速度重視の為に愛車(ヴァン)は単車状態である。

 

「こう、してると、なんだか、懐かしい、ですね」

「言われてみれば。最初に会った時も、こうバイクに乗りましたね。徘徊ボス相手で、必死でしたけど」

 

 天候に助けられてどうにか倒せた鹿型のボス。今ならもっと楽に倒せるだろうか。藜さんは。俺は相変わらず苦労する未来しか見えないけど。

 

「ふふ、ですね。そういえば、最後の、バトルロイヤル。あの時の、マップで、やるん、でしたっけ?」

「らしいですね。かなり広かった記憶がありますし、全プレイヤーが同接しても大丈夫なんでしょう」

 

 ……うん? あのマップが使われるってことは、普通に徘徊ボスいるんじゃ。しかも多分この運営なら、Lv80でも勝てないクラスにバージョンアップして。噂にだけ聞く天界と、懐かしい死界もそのままの筈。なんだろうか、何かこう、見えない地雷が埋まってる感じがする。

 

 なんてことを考えているうちに、街周辺のマップは抜けて、潮風の匂いがするマップへと切り替わった。本来ならここまで来るだけで多数の高レベルmobに絡まれるから、速度重視プレイヤーでもなければこうはいかない。ペット化しても愛車は優秀である。

 

「そういえば、船、乗るんですか?」

 

 上機嫌にエンジンを吹かす愛車を煽てていると、耳元で藜さんがそんな質問を投げかけてきた。ぞわぞわっと謎の感覚が走るけど、下手に動けば即クラッシュしてしまうのでなんとか抑え込む。念のため、愛車(ヴァン)をオートパイロットモードにしておく。

 

「いえ、このまま海を走って行きますね。船での行き来、結構揉めてるらしいので」

「そうなん、です、か?」

「元々運営が用意してた物だけじゃ間に合わないらしくて、幾つもギルドが乗り出してきたとか」

 

 そのせいで今は【モトラッド艦隊UPO支部】で、バイクの製造販売を行っていないとヴァンがペット化した報告をしに行った時に聞いた。曰く『交通手段として欲されるのは吝かではないが、転売屋が出たから中止した』とのこと。世知辛い物である。

 

「ギルマスがピンときた人には作ってるみたいですけどね」

 

 最近だと髪型が蟹っぽいプレイヤーの紹介で、髪型がトマト・ナス・バナナ・紫キャベツによく似た4人組に作ったらしい。全員が召喚術特化プレイヤーと聞いて、なんとなく理由は分かった。

 

「でも、私たちには、関係、ない、ですね!」

「ですね」

 

 れーちゃん以外の全員が、海を渡る手段を持っている辺り流石である。特に最近ランさんは、ASTNGエンジンと全地形対応エンジンという謎のパーツを積んだおかげで、試しに発生させた宇宙空間でも難なく強化外装で動けるようになったし。それはもう、ほぼオリジナル7なのでは。

 

「っとぉ!?」

「きゃっ!」

 

 そしてまたマップが切り替わり、一面の煌めく海が姿を現した。瞬間、目の前にポップした敵を愛車(ヴァン)が轢殺し、車体が大きく跳ねた。その弾みで藜さんが回した腕に力が入り、ギュッと強く抱き締められた。

 ……どうしよう、結構恥ずかしい。単車に相乗りしてる都合上仕方ないけど、思ったより密着度が高い。この前のセナとのアレのせいか、否応無く意識してしまう。脳内で都知事の「密です」警告が止まらない。ああ濃厚接触、Social distance……違うそうじゃない。

 

「今、セナさんのこと、考えて、ました、よね?」

「……なんでバレるんですかね」

 

「当然、です。だって、好きな人の、ことですから」

 

 誤魔化すように回していた思考が、一瞬完全な空白になった。

 

「ベタなことを聞きますけど。それは、Likeの方ではなく?」

「当たり前、です」

 

 そう、ストレートに好意をぶつけられて。何も言葉が出せなかった。覚悟を決めると決めたそばからこれだ。情け無い。

 本音を言えるのなら、嬉しいに決まっている。最低な発言ではあるけど、藜さんのことが……というより空さんのことが好きか嫌いか。そう問われたなら、好きだ。嫌える筈もない。そうでなければ、余計なお金、時間、手間、そして訴えられるリスクまで全部承知で、我が家に泊めたりするものか。

 

「正直、良くない恋だって、分かってます。

 不安な、進学の時期に、弱みを突かれた……結局、それだけかも、しれません。

 それでも、初めて、なんです。好きだなって、思ったのは。怖くないって、思ったのは。初恋、なんです。諦めたくない、諦めたくない、じゃないですか」

 

 背中から響く声は、途中から涙ぐんで。背中にはコツンと頭が当てられる感覚、ジンワリと広がる暖かくて冷たい感覚と、小さな揺れ。それだけが、海の上を走り始めた中感じられるものだった。

 

「………、俺は──」

 

 どう、答えればいいのだろうか。分かっているのは、簡単に好きと言ってしまうのは駄目だということ。そんなのは2人に対する侮辱である。もう1つは、もう否定はしまい。白旗を挙げる。俺自身は2人とも好きだ。

 だからこそ、どちらかを……いやこの言い方は烏滸がましい。どちらに答えるか、決められない。昔から隣にいてくれる沙織(セナ)か、セナ以外で初めて真っ直ぐに好意をぶつけてくれる()さんか。というか、2人とも俺には勿体無すぎる。

 

「答えは、まだ、いらないです。これは、私の、独り言、ですから」

「ですけど、」

「それに、これで、意識して、もらえたなら。それだけで、今は、満足です」

 

 聞こえてくる声からは、涙の震えは無くなっていた。そして藜さんの思惑通り、もう意識しないなんてことは出来ない。

 そんな、気恥ずかしい沈黙が満ちる中。丁度良いタイミングで、新大陸が見えてきた。旧大陸海岸から大体300km超、それを20分くらいで着くのだから早いもの……冷静に考えて、紋章の加速込みだと旅客機の速度が出てるのか。こわ。

 

「や、やっと見えてきました。あれが新大陸ですね」

「そう、ですね。あ、そうでした。エルフと言えば、ユキさんも、好き、なんですか? エルフ耳」

 

 ここで、そう話題を変えられたのは良いことだと思う。それにしても、エルフ耳かぁ……

 

「創作物としては、結構好きですね。分かりやすい特徴ですし」

「なら、やっぱり、胸は大きい、方が?」

「いや、なんでそうなるんです? ……そういうのは、好きになった人によりますね」

 

 中々に危険球なサーブはそう返しておく。本音のところはそうだし、何も嘘は言ってない。気にしてもいないし。ただ、昨今のエルフの森を焼くムーブは嫌いじゃないけど、巨乳エルフは正直如何なものかと思う。昔からエルフと言えば、金床のような胸が鉄板ではないだろうか(ドワーフ流ジョーク)

 

「なら、良かったです」

「あはは……」

「それじゃあ、最後に。少しだけ、後ろ、向けます、か?」

「それくらいなら」

 

 走ったままでも問題ないと、後ろを振り向いた直後だった。直ぐ目の前に、藜さんの顔。そして、口に柔らかな感触。時折リアルで会った時と何ら変わらない、花のような香り。そして視界に出現した、ハラスメント警告の表示。

 詰まる所、ファーストキスを奪われていた。男のそれに何の価値があるかは知らないけど。もうお嫁にいけない……? うん???

 

「ユキさんは、初めてじゃ、ない、らしいです、けど。私の、初めては、あげます」

「え、いや、その、そんな……うん? ちょっと待ってください。少なくとも、俺の知る限りこれまで、誰ともそういうことした記憶はないんですけど」

 

 驚きて思考がまとまらないし、頬を赤く染めた藜さんを否応にも意識してしまうし、いやでも、それより初めて云々の方が重要だ。どれだけ記憶を遡っても、俺からした記憶も、された記憶も……母親はノーカンとして、それ以外は無い。無いはずなのだ。まさか、いやそんなまさか。

 

「? でも、セナさんが、寝込みを、襲ったって」

「…………マジデスカ」

 

 え……? 何? 俺、寝込みを襲われてたの……?

 えっ……?

 えぇ……???

 可能性は否定しきれないと思ってたけど、マジで……?

 マジでしてたんですか沙織さん……?

 

 驚愕に包まれながら会いに行ったエルフには、まるで親の仇のような総攻撃を受け、帰り道に件の顔面土砂崩れギルドマスターと遭遇し、一応プレイヤーホームを紹介し、何故か朧に一回爆破されたが、その日は無事に幕を下ろしたのだった。

 

 翌朝、知らなかったのは俺だけであったことが判明した。

 




セナ「ムラムラしてやった。後悔はしていない」

全く関係ないですが、
ポッと出のヒロインに長年焦がれていた相手を取られて「私の方が先に好きになったのに」ってボロボロに泣いちゃう幼馴染系ヒロインっていいですよね。

そして全く同じくらい、
幼馴染が好きな相手との恋に破れて「やっぱりダメだった、勝てなかったぁ」って泣いてるのを親しい人に慰められる初恋系ヒロインもいいものですよね。


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第155話 開幕!PvPイベント

時期外れなうた

爆ーぜるんご 爆ぜるんごー
花火ル夜空に爆ぜるんごー
楽しい爆破で爆ぜるんごー
いっぱい爆ぜるんごー(ンゴ-

爆ーぜるんごー 爆ぜるんごー
花火ル夜空に爆ぜるんごー
あーまい火薬で爆ぜるんごー
もりもり爆ぜるんごー(ンゴー)

この子は朧ちゃん(ンゴー)


 イベント開始日である12/7日の1日前。その日の正午から深夜0時まで、UPOはメンテナンスに入った。当然イベント実装&運営の為に行ったのだろうと思い、特に気にしてはいなかったのだが……

 

「このタイミングで実装って……えぇ」

 

 翌朝ログインして自分のステータスを確認したところ、今までフレーバーテキストのみだったアストの神臓を利用した装備が、その能力とテキストを変化させていた。

 藜さんから貰った腕装備【ハザードグローブ】は【ジーニアスグローブ】に。【仮称 : 機装堕天の神核】だったアクセサリーは【天界の加護】に、それぞれ変化していた。見た目はそのままに性能的にはこんな感じ。

 

==============================

【ジーニアスグローブ】

 Dex +40

 爆破ダメージ上昇50%

 爆破範囲強化(極)

 副次爆破追加 副次爆破追加Ⅱ

 環境汚染爆破/環境爆破浄化

 一定時間爆破に属性追加(属性と時間は捧げたアイテムに依存する)

 オートリロード(簡易ポーチ)

 リアクティブアーマー・真(爆弾系アイテムを1つ消費することで、威力に応じた範囲の状態異常を1種無効化する併用不可)

 耐久値 1000/1000

==============================

《アクセサリ》

【天界の加護】

 部位 : 翼を追加する(出し入れ任意)

 翼展開中HPMP自動回復

《特殊装備》

【天界の翼(堕天)】

 飛行不可

 HP・MP+1600

 展開中被ダメ-30%

 着用者のIntに応じた光弾・ビーム砲撃機能

==============================

 

 どちらもステータス面での変化はなし。グローブの方は、副次爆破が追加という嬉しい能力。ペンダントの方は正直な話、半分くらいが死に性能だった。黒アストに生えているのと同じ翼が生えて、MPが1600増えたのは嬉しい誤算だったけれど。ただ、切り札を切った時ならば、使える予想外の一手にはなるかもしれない。

 

 そんな個人的で、大きな変化を齎すことは……多分、そんなにない話は一旦横に置いておいてだ。

 

 時は午前10時少し前、場所は第7の街。イベント開始時刻、試合中継用に展開されたモニターに、今まで一度も姿を見せる事のなかった運営がその姿を現した。

 

 そして彼等は、()()()()()()()()()()()()()

 

 ある者は6腕2面の阿修羅のような姿であり、ある者は不定形の蠢く名状し難い生物であり、またある者は全身にサブアームが複数装着されたサイボーグだった。

 そんな異形の集団が、病院の院長回診の様に列をなしてる。明らかに人の姿を捨てている奴らを……どうしてだろうか、何時もお世話になってる人だと直感できるのは。どうしてだろうか、後ろから3番目くらいの場所にいる腕が少し多い人の顔が、ほぼ同一人物レベルでマイファザーに似ているのは。あ、ピースしやがったアレ親父だわ。

 

 落ち着け(ユキ)、落ち着くんだ俺……否、(しらゆき)。今は潜入中、敵状視察の為の変装中なのだから。12時にみんなと合流する前に、どうせなら1回PT戦に出てみたり、個人戦を見てどんな相手がいるのか確認する為に、下手に(ユキ)とバレるわけにはいかないのだ。

 何だらしない顔でダブルピースしているんだ親父……変装用の装備とはいえ、最前線級の銃が手元にあるせいで撃ち殺──あぶない、マインドセットこわれる。

 

「どうかしたんですか? しらゆきさん」

「いえいえ、少し興奮してしまって」

 

 そう話しかけてくれたのは、隣に立つメイド姿の人物。初期の頃から実はフレンドのユニーク称号【大天使】持ち、イオ君だ。この切札であるTS変身に理解があって、このイベント中は秘密を守ってくれて、協力してくれるとなるとイオ君以外に協力者が思いつかなかったのだ。

 

「気をつけて下さいね? 今バレたらお終いなんですから」

「すみません、でもやっぱりワクワクしちゃって」

 

 そして実際、この通り快く協力をしてくれた。報酬としてこのTS装備の素材と作成方法を聞かれたけど、現状黒アストをソロで倒したのは(おれ)とアキさんのみ。パーティーで倒したのも確か【幕末抜刀隊】と【チェスト関ヶ原】【薩摩捨てがまり】【我が心は不動】とかいう刀キチギルド達だけだった筈だ。流石に第3の街のボス、少しずつだが討伐者も増えてきた。

 

 そんなことを思い出していると、漸く街のざわつきも治ってきた。それを運営陣も確認したのだろう。異形の軍勢の中から、来ている白衣が生物的なこと以外は普通な青髪ショタが、マイクを片手に一歩踏み出した。

 

 そして、反り返る様にして大きく息を吸い、

 

『Ladieeeees aaaand Gentlemen!! お前ら、盛り上がってるかぁぁぁぁ!!』

 

 クソ煩い音量と音圧で、そんなことを叫びやがったのだった。しかもこの声、ミスティニウム解放戦の時に聞いた覚えがある。

 

「「「「「いぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」」」」」

「ボスの声お前だったのかよ!!」

「うるせぇハゲ!!」

「くたばれ!」

 

 歓声と共に、罵倒と攻撃がモニターに向けて飛ぶ。音量設定を間違えているとしか思えない爆音だったのだ、然もありなん。ということで、こっそり親父のいる部分に狙撃をしておく。今度帰ってきた時問いただしてやる。

 そんな様々な音に紛れ込んでいる野次で、そういえばそうだったと思い出す。そうだ、この声はあれだ。ミスティニウム解放戦の時、最後の最後に出てきたギミックボスの中の人だ。

 

『ハゲては……10円ハゲしかない! 盛り上がってないなら、今から盛り上がってくれると嬉しい。鯖落ちは勘弁だがな!!』

「運営がそんな態度でいいのかー!」

『こういうのはなぁ、書類上でさえ真面目にしてりゃあなんとでもなるんだよ!』

 

 全体放送の筈なのに、不思議と放送と野次は噛み合っていた。というか、内容としてもこれは良いのだろうか。多分いいんだろうなぁ。

 

『さあさあ、これからリアルタイム換算で10分後にイベント開始だ。プレイヤーの全一を決める、基本なんでもありの戦いだ。基本的にトーナメント式でやるぜ。そして俺たち運営は、バグ以外にゃ基本介入しねぇ!

 全一の栄誉かぁ? 欲しけりゃくれてやる。探せぇ! 栄誉の全てをコロシアムに置いてきた。世はまさに、大決闘時代ってなぁ!』

 

 もしかしなくても、ワンピース好きだな?この人。

 

『最終日にはバトロワも用意したぞ! ドン勝つでもチャンポンでもビクロイでも呼び名は何でも構わねぇ、頂点(てっぺん)目指して駆け上がりやがれ!』

「当たり前だー!」

「極振りなんて敵じゃねぇぜ!」

「そうだそうだ!」

 

 白衣の青髪ショタ運営が取ったポーズは、まるでサタデーナイトフィーバー。或いは止まるんじゃねぇぞポーズ。大分サブカルに明るいと見た。いや、うちの親父があんな生き生きとしてるんだから、薄々と察せはするけど。

 

「言われてますけど、いいんですか?」

「はい、私は特に気にしませんから。弱いのは本当のことですし」

 

 ツンツンと肘で(おれ)を小突きながらイオ君が言う。多分極振りなんて敵じゃないって部分について何だろうけど……特に最強への拘りはないから良いのだ。そういうのに燃えるのは、一部の好戦的な極振りだけである。

 

『さあ、第5回公式イベント【正月礼賛、餅つき兎は最強の夢を見るか】開催だ!!!』

「「「「「Fooooooo!!!」」」」」

 

 そして、運営の言葉でまたもドンパチ賑やかになる第7の街。きっとこの雰囲気は、始まりの街にはないものだろう。この、ここまでネジが外れているような雰囲気は。

 

「さて、これで闘技場も解放されたみたいですし、1回くらい挑んでみましょう?」

「まあ良いですけど……本当に2人だけで挑むんですか? 確か今のユ……しらゆきちゃんって、確か純魔の構成ですよね?」

「はい。光属性と狂気神話魔法、後は常識的な範囲の紋章が使えるくらいです。あ、銃も撃てますよ」

 

 そう、イオ君のところの初心者支援ギルドに引っ張ってきて貰った風に見せかけたお陰で、しらゆきとしてのレベルも今は70。戦いに交じったとしても、あまりおかしくない強さに(見かけ上)なっている。あくまで全部偽装で、ステータス自体は特殊なデバフを自分で掛けて変動させているだけだが。

 

「確かに僕は前衛盾役(タンク)ですから、それなら相性は悪くないですけど……」

「参加するだけでも称号貰えますし、ね?」

 

 両手を合わせて頭を下げそう言ってみれば、顔を赤くしてイオ君は顔を背けてしまった。ははは、耐性のない輩には辛かろう。美少女上目遣いと誠心誠意のお願いは。

 

「中身は爆破卿中身は爆破卿中身は爆破卿中身は爆破卿中身は爆破卿」

「ダメ、ですか?」

「ああもう! 1回戦で負けても知りませんからね!」

「ありがとうございます!」

 

 イェーイとハイタッチ。うっうーとは言わないけれど、これで試合を体験しつつ時間を潰せるし楽しく遊べる。この身体の試運転にもなるし。そして恐らく、先輩方と戦う時には使わざるを得ないだろうから、慣れておくに越したことはない。

 

 あと、さっきからずっとこっちを見ながらスクショ連打してる奴。『文学少女とメイドの百合てぇてぇ』とか言ってたお前。中身は両方男だから、薔薇で作られた百合の造花だぞ節穴め。でもそのスクショは言い値で買おう。側から見た「しらゆき」としての自分は気になる。RPの精度は上げれば上げるだけ、その為の情報と研鑽もあればあるだけ良いのだから。

 

 

 そうして、意気込んで挑んだPT用のトーナメント。

 参戦してみて分かったことは、戦闘フィールド外部からは内部でバトルするプレイヤーの能力を、どんなスキルでも覗き見る事が出来ないという大きな欠点。そして(おれ)達が、大きな見落としをしていた点だった。

 

『第1回パーティ部門()()()! 奇しくも同じ2人組み、チャレンジャー達の入場だぁぁぁ!!!』

 

 (おれ)もイオ君も、お互いレベルカンスト勢。そして共にユニーク称号持ちのプレイヤー。今は秘策を実行中なお陰で極振りとして戦うことはできないとは言え、一応は最前線組である。

 しかも片や前衛盾役(タンク)兼嫌がらせのような攻撃を行うヒーラー、片やバフとデバフをばら撒きながら、今は後衛から魔法でまともな火力の攻撃もできる後衛。しかも最初期からのフレンドだから、お互いの呼吸もなんとなく合わせられる。そんな相手に、勝てる相手が何人いようか?

 

『白いフリルにメイド服、握ったモップと銀トレイはご主人様を守る誓い! 知ってる人も多かろう。まさに完璧なメイド、だ が 男 だ! 初心者支援ギルドからまさかの参戦。ギルド【空色の雨】所属、【大天使】イオ!

 一体どこにこんな逸材が眠っていた。強化も弱体も自由自在、狂気の魔法でマッドなパーティーにご招待! 文学少女然とした、華奢なポーズに惑わされるな。こいつは邪教の神官よ! 無所属、【司祭】しらゆき!

 パーティ名『百合花ァ!』の入場だぁぁぁ!!!』

 

 キャーキャーと、謎の歓声を浴びながら入場すれば、そんな散々なことを言ってくれやがる運営の声に出迎えられた。まあ盛り上がるなら良いか!!

 

『対するは、こちらも知っている奴は多かろう。

 まさかのメイド被り! ただこっちのメイドは甘くないぜ。白いフリルにメイド服、だが顔には死神の口付けが刻まれた! ご主人様より先に敵を刈る、ご褒美にムチが欲しい。無所属、【不吉の黒猫】バベル!

 私のメイドは私の物だ、他の誰にも渡しはしない。放つ弓は百発百中! だが氷の魔法も忘れるな? 触れたらただでは済まないぜ! 無所属、【不屈の白猫】Neko!

 パーティ名『ご主人様と下僕』の入場だぁぁぁ!!!』

 

 暇をしているらしい運営の実況と共に、ここまで来たらやってやろうとハイタッチしながら闘技場のステージに立つ。そう、(おれ)達は何故か、決勝戦にまで駒を進めてしまっていた。

 どうして(現場猫)

 




主人公のペットバフ込みのスペック。スキルとか装備内容は省略。
ちなみに幸運以外のステータスの実数値は半分です。
==============================
 Name : ユキ
 称号 : 爆破卿 ▽
 Lv 80(レベル上限)
 HP 4000/4000+1600
 MP 3975/3975+17300(25250)
 状態 : 憑依(朔月)
 Str : 0(20) Dex : 0(200)
 Vit : 0(0) Agl : 0(20)
 Int : 0(68)Luk : 990(30000)
 Min :0(36)

《スキル》
【幸の求道Ⅲ】【仕込み長杖術(極)】
【動作制限解放】【戦術工兵】
【ドリームキャッチャー】【龍倖蛇僥】
【コート・オブ・アームズ】【魔力の泉】
【運命のタロット】【常世ノ呪イ】
【存在偽装】
 -控え-
【幸運は手指を助ける】【神匠の内弟子】
【特化作成 : 爆薬】

《装備一覧》
【錫杖《三日月》】憑依 : 繊月
 ・装備ステータス適応中
【杖刀《偃月》】憑依 : 幻月
【二式銃杖《新月》】憑依 : 暈月
【浮遊魔導書 参拾式】
 ・装備ステータス適応中

 頭【機装堕天のモノクル】
 体【機装堕天の多機能コート】
 手【ジーニアスグローブ】
 足【機装堕天のズボン】
 靴【機装堕天のブーツ】

《アクセサリ》
【賢者の証 : 消費魔力】×2
【多機能ベルト】
【アイテム射出装置(腰)】×2
【アイテム射出装置(胴)】×2
【多機能ウェポンラック】
【最低の保険証】
【天界の加護】

《特殊装備》
【無限火薬】
【天界の翼(堕天)】

==============================

《ペット6/8》
 ・朧  ・暈月 ・幻月
 ・繊月 ・朔月 ・ヴァン
 (残り2枠)

ペット枠残機4
常世ノ呪イ枠残機 安定してるのは300くらい
紋章全般 消費MP1〜10
障壁(紋章) 消費MP1〜5
障壁(スキル)消費MP1〜5
自動HP回復1%/5s
MP自動回復10/1s + 15/2s + 1%5s


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第156話 百合(造花) vs 百合(SM)

観客席
彼女(彼)百合ではない(無言の腹パン)
vs
男だろうが女の子として扱えば女のコになる
ふぁいッ!

あと今回は、時たま感想欄で見た『極振りが普通のステータスでプレイするとどうなる?』の解答です。PSおばけめ……


 期せずして進んでしまったパーティ部門決勝戦。

 出来る限り(おれ)を演じながら、数回繰り返した舞台へと登っていく。周囲より一段だけ高くなっているそこは、さっきから何度となくPvPを繰り返した場所。

 脳内が宇宙猫している中、思い返すのはこれまで連続して勝ってきた5回戦。本当に、何でここまで勝ち進めてしまったのだろうか。

 

 1回戦目は、レベル70程度の4人組が相手だった。構成は剣を持ったパワーアタッカー前衛1、短剣持ちのスピードアタッカー前衛1、魔法アタッカー1、ヒーラー1のバランスが良い編成。

 前衛2人をバフを掛けたイオ君が足止めしている間に、魔法アタッカーとヒーラーをヘッドショット。消化試合だった。

 

 2回戦目は、レベル80の6人組。4人が前衛のアタッカー、2人が魔法アタッカーのフルアタ編成だった。

 バフ全開のイオ君が足止めしている間に、狂気系の魔法を発動。相手が対策をしておらず抵抗に失敗したお陰で、ズタボロになったところをイオ君が殲滅した。

 

 3回戦目は、同じくレベル80の6人組。回避盾1、パワーアタッカー1、スピードアタッカー1、ヒーラー、魔法アタッカー、サポーター完備の完璧な編成。

 当然イオ君や自分自身へのバフは全開、デバフや妨害系のクトゥルフな魔法も連発しながら、狙撃するという凄まじい手間を要した。今にして思えば、多分ここで負けておくのが正解だった気がする。

 

 そして4戦目が今だ。

 ため息を吐くなんてことはせず、気を引き締めて反対側から入場してきた相手を見る。大鎌を担いだメイドと、メカメカしい装備を着込んだ弓使い。……そういえば、塔イベントの時に戦った記憶があるような。

 

「しらゆきちゃん、先に謝っておきます。今回ばかりは僕、あの人を足止めしきれる自信がありません」

 

 これまでの戦績と言動からして分かる通り、イオ君はUPOに於いて絶滅危惧種どころかほぼ絶滅した能力構成(ビルド)をしている。

 即ち、直受け盾役(タンク)。高火力が溢れて防御貫通がそれなりにある高レベル帯だと、多分セナの影響も大なり小なりあり回避盾が優遇されている環境なのにだ。下手に攻撃を受ければ即死する可能性が秘められている環境上、直受け型のタンクは一部の変人か極まったプレイヤーにしか許されていない。

 

 防具やスキルによる補正限界であるダメージ70%カットに加え、槍と盾の(アーツ)を交互に使うことにより被ダメ90%カットを常態に。それでいて、ただの案山子にならないよう、攻撃に対応する為の速度(あし)も十分にある。無論それだけでは不十分だが、HPMP共に莫大なリジェネを誇っているため問題ない。

 

「大丈夫ですよ。ここまで来れただけでも、十分ですから」

 

 そんな、こちらが後衛に徹するには有り難すぎる前衛であるのだが。当人が止められないかも、と言った理由は相手にある。

 確か大鎌持ちの方は、被ダメージ毎にバフが掛かるスキルと、リジェネタイプの回復をしつつクリティカルでダメージを加速するタイプ。しかも大鎌という武器を使うからか、即死攻撃持ちだ。とことんイオ君との相性は最悪である。

 

 加えて後ろの弓使いは、マルチロックオンが可能な精密射撃をそれなりの火力でしつつ、水とか氷系の魔法を使うプレイヤーだった筈。即ち、(ユキ)の天敵だ。もぅマヂ無理、自爆しょ……

 確かに効果的なのだ、自爆って。とりわけ残機がほぼ無限にあれば。それこそやりたい放題である。今回は正体バレするから使えないが。

 

「全くもう、冗談言わないで下さいよしらゆきちゃん」

 

 そんな過去を思い出していると、そんな言葉とともにイオ君にガッチリと肩を掴まれた。どうしよう、全ステータスが平均化するデバフが掛かってるはずなのに動けない。パワー負けしてる。それにこの目は、イオ君のこの目はやばい。光が完全にない。

 

貴女が僕を巻き込んだんですよ? あの時みたいに。そうあの時みたいに。忘れてないですよね、ねぇ? 僕がこうなったの、貴女のせいなんですよ貴女の。なのに今更降りるってやめて下さいよ。ねぇ、しらゆきちゃん。冗談よね? ねぇ? ねぇ?

 

 正直セナと藜さんに比べれば劣るが、圧が、“圧”が凄い。こんなもの、耐えられるわけがないじゃないか。断れない。そしてそんな内心の動揺を読み取ったのか、なんか涙まで出てきた。

 

『おおっとここでチーム【百合花ァ!】にヤンデレ属性が追加だぁぁぁ!! 新進気鋭のプレイヤーしらゆきは押しに弱いと見た!』

『あれがヤンデレかは審議に値すると思いますが?』

「「そうだそうだー!!」」

 

 どうしてギャラリーは盛り上がっているのか(宇宙猫)

 どうしてイオ君は顔を赤くしているのか(ツインドライブ)

 そしてどうして、こんなにも背筋が凍るような感覚がしているのか。えっ、これもしかしなくても、セナと藜さんに見られてる? ま? ……この寒気、本当っぽい。

 

「ひっ、ぁ、はい。頑張ります」

「わかってくれればいいんです、理解(わか)ってくれれば」

 

 一体天使だったイオ君に一体何が。真相を確かめるべく、我々はアマゾンの奥地に……向かわなくても何となくわかる気がする。

 火薬と爆発の気配を感じながら、気を引き締める。無様な戦いはもう出来ない、ならば本当に優勝を目指して頑張るのみ。そんなことを考えながら、バトルフィールドに足を踏み入れた。

 

『それではこれより、決勝戦の開始を宣言する!』

 

 そんな思いを内に秘めながら、決勝戦の幕が上がる。

 まあ、あれだ。2人に見られているのなら、無様に負けることは論外だ。俺だって、情けない所とかっこいい所のどちらを見てもらいたいかと聞かれれば後者だし。

 

「《フルカース》《フルエンハンス》んー……今作りましょう。《デスレジスト》《ヒットレートダウン》」

 

 だからこそ、戦端が開かれた直後に仕掛けた。

 即座にバベルとNekoに掛かってしまえば全ステータス-40%という、驚異の弱体紋章を叩きつける。まあこれ【コート・オブ・アームズ】のデフォルトだけど。

 対しイオ君と自分には全ステータス40%上昇という規格外の強化。こちらもデフォルトだけど。

 更にイオ君には即死耐性を付与する即席紋章を、バベルには即死成功率低下の紋章をカップ麺感覚で作って投げつける。

 

「弾かれましたね……なら、掛かるまでいきましょう」

 

 当然彼らとて、最前線で戦うプレイヤー。デバフには全て抵抗し、10%程度の低下やそもそも完全抵抗にすら成功されてしまった。

 が、それくらいは想定済みだ。即座に追撃のデバフを連射。一瞬で己がMPを空にするまで連打するという普段なら絶対にしない暴挙で、全ステータス30%ダウン程度にまでは無理矢理持ち込んだ。

 

「にゃぁぁ! ストレス発散斬り!」

「《ファランクス》!」

 

 大鎌を持った刺青メイドであるバベルと、銀トレイと水モップを構えたメイドのイオ君が激突する。片やパッシブスキル全開の、クリティカル威力と即死攻撃特化型。片やアーツとスキル全開の、常時被ダメ9割カット&超耐性&再生の堅実なタンク型。

 

 その第1合の優劣の天秤は、当たり前にイオ君に傾いた。

 

「即死がなければ、この程度の威力は怖くない!」

「何をこのぉッ!?」

 

 大鎌の一撃を、モロに直撃して不動。余裕を持って一撃を受け止め、特にバランスを崩すことなく反撃の槍撃が突き出される。そしてその攻撃までの間に、9割カット状態で受けた僅かなダメージは完治している。

 しかしそれだけの堅牢さを誇る反面、イオ君の攻撃能力は低いとしか言いようがない。現に、バベルへ与えたダメージは精々300かそこら。回復速度的に多分同じリジェネスキルによって、その程度であれば3秒あれば完治するのがメイドの真骨頂らしい。メイドとは。

 

「……よし、鑑定完了」

 

 バベルとNeko双方のスキルとステータスを、耐性を突破して把握。なるほど、Nekoの方はダメージを負えば負うほど【被虐体質】のスキルで全能力が上昇すると。

 

「ボイスメッセ起動。『イオ君、その人持久戦特化型みたいです。被ダメ回数毎に全ステが5%上昇します』」

「了解です」

「この程度で、私を止められなんて──ぶっ」

「思ってませんよ、だからこうするんです。《ディスペル》《光牢》」

 

 我が意を得たりと、バベルが奮起した瞬間にイオ君が割り込んだ。出鼻をくじく為に顔をモップで打ち、バフを消去し、封印スキルにより移動を妨害する。

 

「《メイドによる別れの挨拶》《4連突き》」

「うわ、きゃっ!? しかもまた移動速度デバフじゃん!」

 

 その上で足払いを敢行し転倒させ、正確に四肢全てに槍撃を撃ち込んだ。その結果、低下を重ねる移動速度。こちらのデバフを込みで、通常時の30%にまで低下した速度で、無慈悲に打ち込まれるモップを避けられるはずもなく。

 

「こんのッ、《死閃──」

「《武器払い》《鹿威し》はい。嵌め殺しです」

 

 乾坤一擲で振るった大鎌は、モップに絡め取られるようにしてステージの端にまで吹き飛ばされた。おまけとばかりに大回転したモップがその左手までをも欠損させる。

 結果、残るのはDPS的に死ぬことがないだけのプレイヤー。回復アイテムがあれば別だが、残念ながら今は使用不可能である。不死身なんてもの、一定以上に実力が開けばサンドバックにしかならないということを、嫌という程に証明していた。

 

バベル(タタラ)!」

 

 無論そんな相方を前に、後衛の弓使いの……Nekoも何もしていなかった訳ではない。魔法で氷霧の煙幕を張り、自身と相方のデバフの消去を試みつつ、多重照準による連射で援護射撃を行いつつ敵対者を狙い、時には類稀なる強弓で(おれ)ごと撃ち抜かんと矢が走る。

 

 その対応に間違いはない。初動が僅かに遅れたことを除けば、正しいことを正しい時に、正しいままに行なっていた。(おれ)は後衛としては3流だから、正確に判断できていない気もするけど。

 

「まあ、対処できますけど」

 

 3点バーストで連射される大型ライフル。技系スキルによる補正はない。普段であれば使う紋章の補助すら最低限だ。ただそれでも、8割型の矢は撃ち落とせていた。

 範囲魔法に対しては《被害を逸らす》という狂気系の魔法で5指に入る使いやすい防御魔法で防ぎきり、お返しに《破壊》という大ダメージ&詠唱妨害の魔法を叩き込む。

 おまけとして、手慰みにディスペルされた直後に紋章によるバフとデバフを更新。これくらいなら標準的標準的。普段俺に接触してくる紋章術師も、大体これくらいは出来る出来る。

 

 なんてことを考えながら、淡々と。

 実況を聞かないくらい集中して、粛々と。

 普段はステータスの縛りでできないことを満喫しながら、精密に。

 イオ君の足止めと、攻撃を庇ってもらう事による安全性を最大限に活かしながら、いつもとは違う愛銃で撃ち抜き続けた。

 

 第1回PvPイベント

 初回パーティ部門優勝パーティ【百合花ァ!】

 メンバー : イオ(リーダー)

      しらゆき

 




しらゆきちゃん状態だとユッキーは常時、楽しいRPをしつつ『正義の逆位置』下にありますよ!

【運命のタロット】
 鑑定&看破能力
 必要MP10 リキャストタイム5s
 全てがランダムに選択されて判断され、全てに抵抗判定が存在する。そして、宙から舞い降りたカードをアバターのどこかで触れることで発動する。同じ効果を重ねがけは不可。
 ただ、流石にLuk3万もあれば自由選択。
 基本的に効果は、死亡するまで続く

正位置/逆位置
0愚者
戦闘終了まで自分のスキル枠1つ追加(相手任意)
戦闘終了まで相手のスキル枠1つ消失(相手任意)
剣  武器スキル1つ選択
聖杯 防御スキル1つ選択
杖  魔法スキル1つ選択
硬化 補助スキル1つ選択

1魔術師
相手のMPに魔法ダメージ
自分のMPに魔法ダメージ

2女教皇
味方の属性攻撃・スキル強化30%(重複不可)
相手の属性攻撃・スキル強化30%(重複不可)

3女帝
戦闘終了まで対象の攻撃のヒット数減少(1/3)
戦闘終了まで対象の攻撃のヒット数上昇(3倍)

4皇帝
所属PTメンバー全員のHPMPを回復
敵対PTメンバー全員のHPMPを回復

5教皇
味方の属性防御・状態異常耐性強化30%(重複不可)
相手の属性攻撃・状態異常耐性強化30%(重複不可)

6恋人
自身の攻撃に1分間10回の追撃効果
相手の攻撃に1分間10回の追撃効果

7戦車
発動後30秒間HPが0にならない
30秒間被ダメージ&ヘイトが極めて上昇

8力
相手のVit・Minを0にしStr・Intに加算する
自身のVit・Minを0にしStr・Intに加算する
※0にするのは基礎能力

9隠者
相手にスーパーアーマー(10秒)
自身にスーパーアーマー(10秒)

10運命の輪
自分のスキル発動までの時間加速(10回)
相手のスキル発動までの時間加速(10回)

11正義
相手のステータスを平準化
自分のステータスを平準化

12吊るされた男
相手に掛けられたバフ/デバフを全反転
自分に掛けられたバフ/デバフを全反転

13死神
相手に即死効果
自分に即死効果

14節正
相手の行動を5秒間全封印
自分の行動を5秒間全封印

15悪魔
相手のHPとMPを反転させる
自身のHPとMPを反転させる

16塔
相手のHPに魔法ダメージ
自分のHPに魔法ダメージ

17星
10秒間相手のStr・Intを0にしVit・Minに加算する
10秒間自分のStr・Intを0にしVit・Minに加算する
※0にするのは基礎能力

18月
効果発動から時間経過で全ステータスバフ
効果発動から時間経過で全ステータスデバフ

19太陽
30秒間真紅の太陽を発生させ、その光を浴びている間HPMP回復1%/1s
30秒間漆黒の太陽を発生させ、その光を浴びている間HPMP減少1%/1s

20審判
相手のスキル発動ストップ(1回10秒)
自分のスキル発動ストップ(1回10秒)

21世界
30秒相手のリキャストタイムが1/2
30秒自分のリキャストタイム1/2


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第157話 性癖を爆破する卿

お気に入り9,000人、本当にありがとうございます!!


 流石に何度も表彰式を行うなんてことはないらしく、決勝戦後に表彰台に上がったりなんてことはなく、決着と同時にアッサリと初回トーナメントは終わりを告げた。あったものと言えば、ちょっとしたファンファーレと、観客席からの声くらいだった。

 

「いえーい!」

「イェーイ!」

 

 それでも、極振りじゃない状態でここまでやれたのは嬉しい。称号も【PvPパーティ部門優勝者 1st】と簡潔でいい。込み上げる感情のままに、ピシガシグッグッとイオ君と互いに手を打ち鳴らす。そのまま勢いでハグまでいって、なんか顔を赤くしたイオ君を見て今はTSしていたことを思い出す。

 

「どうします? もう少しアピールしますか?」

「あ、いえ、も、もう大丈夫です」

 

 明らかに照れてるし、顔も赤くなっている。確かに(わたし)は可愛いと思うけれど、そんなになるものだろうか。……考えてみればセナっぽい行動だったし、普通はなるな。うん。

 

『さあてここで、優勝者カップルにインタビューだ!

 イチャイチャてぇてぇはもういいぜ、コメントかもーん!?』

 

 なんてことを考えていたら、テンション高めの司会をしていた運営の人が言ってきた。中継モニターはどアップ、多分マイクも既にONだから下手なことは言えないか。

 

「えっと、その、私は後ろに立ってただけなので、凄いのは全部イオ君だと思います」

「はぁ!? ちょっと待っ──」

『可愛い彼女さんを守りきったメイドさんから一言どうぞ!』

「彼女じゃないですけど!?」

 

 観客席側から無数に聞こえる指笛と歓声。そして背筋に走る悍ましいレベルの悪寒。ダメだこれ、やばい、ふざけ過ぎた。

 

「それにそもそも、後ろで突っ立ってただけなんてでまかせも良いところじゃないですか! 皆さんも見てましたよね!? あの精密射撃とエグいデバフに補助魔法!」

 

 そうだそうだ、もっと言ってやれと沸き立つ野次。反比例するように増加していく悪寒。あかん。それでもとりあえず、嬉しそうな、困ったような笑顔を浮かべて、観客席には手を振っておく。

 美少女流、困った時にとる対応その1。取り敢えず可愛い女の子は、困った時は笑顔を浮かべれば何とかなるのである。

 

「そう、ですね。ほんの少しは私も役に立ってたと思います。あ、でも、私は心に決めた人がいるので、彼女ではないですよ?」

 

 だが残念だったな、微妙に露出が多めの衣装に粘っこい視線を向けてきたおっさん達。手前らの脂ぎった視線は見慣れてるんだよ。こっちは、何年セナと一緒にいると思ってる。今は空間認識能力も全開な以上、顔とプレイヤーネーム覚えたからな〜? 要注意客のリストにぶち込んでやるぜ。

 あとそれとは別に純粋な視線を向けてきた、半ば巻き添えの人たち。そっちは夢を壊してごめん。でも可愛い女の子には大体彼氏がいる、それが摂理なのだ。少年よ、これが絶望だ……(おれ)じゃない誰かを見つけるといい。

 

「イオ君とは、理解があってかつ予定も無かったのと、戦法の相性が良かったので出てみただけですから」

 

 ここまで言って、ようやく背筋に走る悪寒は消えた。ただ、こう言ってしまっては何だが、この発言は燃えるだろう。だからこそ、まだ自分に流れがあるうちに先手を打つ。

 

「それでも、こうして勝ちあがれたことは本当に嬉しいですし、運も良かったと思います。映えある第一回を戦ってくれた皆様、それに応援してくれたみんな、本当にありがとうございました!」

 

 丁寧丁寧丁寧に頭を深く下げて、顔を上げたら満面の笑みを浮かべて大きく手を振る。このままイベントをエンディングに連れて行く……正直、12時まで割と押してきてるし。

 

『ということで、優勝パーティ【百合花ァ!】の2人のコメントでした! 次回以降も盛り上がってくれよな〜!!?』

「「「「「Yeah!!!」」」」」

 

 そんな意図は運営も読み取ってくれたらしい。良い感じに締め、綺麗にイベントを終わらせてくれた。ほっと一安心しつつ、内心ガッツポーズを決め、それら全てを外には出さずに闘技場から退出する。

 無論、隠れ蓑としてしらゆきちゃんの評判を悪くしない為に、笑顔とサービスは忘れずに。序でに危険そうな奴らの目星もつけておく。優勝してしまったのはこの際いいとして、本来の参戦した目標は偵察なのだから。そんな当初の目的を思い返しながら、闘技場から脱出する前にイオ君を細い通路に連れ込んだ。

 

「さて、イオ君。これ装備してください。逃げますよ?」

「え? あ、出待ちですか」

「そうです。なんたって優勝者ですからね」

 

 そして、普段ユキとして装備している外套を渡す。空間認識能力が全開な今、出待ちされているのが嫌でも理解できるのだ。わざわざそんなことで時間を取られたくはない。

 

「こうなるから、ユキさんには付き合いたくなかったんですよ……でもそろそろお腹空いたので、分かりました。装備すれば良いんですよね?」

「愛用品なんで性能はお墨付きです」

 

 しかも服装備だから誰でも装備できる。やっぱりれーちゃんは最高だ。なんてことを考えていたら、イオ君が見慣れた草臥れたコート姿に変わる。よし、案の定結構サイズがぶかぶかだ。

 

「失礼しますねっと」

「ひあっ!?」

 

 そしてそのまま、背中側に潜り込む。一回れーちゃんと検証した時に、この状態でステルスすれば巻き込んでステルス出来るのは実証済。これが脱出のための最善手である。

 

「このままフード被るとステルス状態になります。あんまり出てくるのが遅いと、逆に怪しまれるので早めに」

「え、あ、あっ、あの。凄い近いし、なんか女の子の匂いがするし当たってるんですけど!?」

「なにテンパってるんですか。元は俺ですよ?」

 

 なんか反応が面白かったのと、隠れ場所的な問題で囁くように言う。と言うかこのあと、二人羽織状態じゃ動けないからおんぶしてもらうつもりなのに、これでは困る。

 

「やめて下さいよ!? 僕をTSっ娘でしか勃たないようにするつもりですか?」

「……してあげましょうか?」

 

 だがしかし、そちらがそんなことを言うのならば、こちらも抜かねば……無作法というもの……元男ということは、相手のして欲しいことが分かるということ。ならば後は、それを実行する尺度の問題だ。それも本気でやれば解決する。つまりTS娘は最強、Q.E.D証明完了。

 

 ただし俺の場合は……気の許せる男子の友人より沙織の方が距離感近いし、藜さんにはストレートに好きって言われてしまった以上TS娘は刺さらないが。でも確か、TSした自分って理想の相手らしいし5本の指には入るんじゃなかろうか。知らないけど。

 

「くっ、ふざけるのも大概に……さっさと脱出しますよ!」

「引っかかりませんか……つまらないですね。じゃあ、二人羽織では歩けないんでおんぶお願いしますね」

「ええ分かりましたよ! 連れてってあげますよ! どうせ後戻りはできないんです、連れてけばいいんですよね!」

 

 因みに無事脱出には成功したが、後日イオ君の性癖は見事に捻じ曲がっていることが確認できた。TSっ娘×女装男子とか業が深いと思います(他人事)ただまあ、流石に悪ノリでやらかした気がするから……責任を取って、そういう同人誌を書く人の作家さんを数人紹介しておいた。存分に沼に沈むといい。

 

 

 そんなことはありつつも、取り敢えず街の外にまで脱出して爆弾を飲みこんで自爆。火薬の香りを漂わせながらリスポンして、状態異常とTS状態を解除しつつ気分良くセナと藜さんに合流した。そう、合流したのは良いのだが……

 

「ねぇユキくん。さっきのパーティ部門の優勝してた女の子なんだけど。あれ、ユキくんだよね?」

「それも、多分、私とセナさんっぽく、振る舞って、ました」

「はい、はい……弁明の余地もございません」

 

 絶賛、頭を下げていた。勝手にトーナメントに参加してたことに対しては特になにも言われなかったけれど、やっぱりあの変身はダメだった。多分ギルドメンバーには一発でバレると思っていたけど、案の定である。

 

「装備はれーちゃんの協力だと思うけど……まさかユキくんにTS願望があったなんて」

「どうりで、私たちに、靡かない、訳です」

 

 弁明しかできない。でもあれは半分れーちゃんとの悪ふざけで完成しただけであって、TS願望は……ないこともないけど違うのだ。というか男子なら一度はそういう願望はあるはずだ。ではなくて。

 

「でも、最後に心に決めた人がいるって言ってくれたから許す!」

「多分、私たちの、こと、でしょう、から」

 

 2人して仲よさげに「「ねー」」と笑い合う姿は、つい昨日までバッチバッチと火花を散らしていたとは思えない。多分この光景も、動画に纏められるんだろうなぁ……この前、某動画サイトで見たもん。【UPO】浮気がバレた極振りシリーズ part3まで。多い、多くない?

 

「とはいえ、今度久々にユキくんのリアル女装みたいかも?」

「あ、それ、私も、見たい、です」

「じゃあ今度、3人で出かけよっか!」

 

 拒否権はなかった。まあ、うん、諦めよう。レディースデーだったり、服とかのショッピングじゃないことを今から祈っておく。流石にレディースデーですよねと言ってくれる人に、面と向かって男ですと言うのは辛いし。あとナンパと痴漢とセクハラマン。どうしてセナだけじゃなくて俺にも来るのか。

 

「それはそうと、私は、しらゆきちゃんとも、一緒に、冒険、してみたい、です」

「んー……あんまりユキくんはバレたくないみたいだし、そっちは私は遠慮しようかな。ユキくんもそれで良い?」

「え、あ、うん。それで良いよ」

 

 良くも悪くも、セナは影響力が強すぎる。β版からやってて、昔も今もトップギルドのギルマスかつ、UPOの回避盾最強理論の体現者。目立ちたくないしらゆきとしては、正直一緒に行動はあまりしたくないのが本音だ。

 逆に藜さんの場合、なんだかんだで有名ではあるものの、すてら☆あーく唯一の本サービス開始後の参加メンバーである。もし一緒に行動しても、昔の知り合いで誤魔化せる。しかもその後なら、すてら☆あーくに入り浸っていても……あれ、逃げ道潰された?

 

 なおこの後ギルド全員で参加したパーティ戦トーナメントは、少数精鋭ギルドの面目躍如と言ったところか。特に一切印象に残るシーンもなく、ただただ圧倒的な蹂躙で終わったのだった。6人に勝てるわけないだろ!

 【PvPパーティ部門優勝者 2nd】、序でにゲット。

 




作者はTSしてみたいです


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第158話 過ぎたるは猶及ばざるが如し

どうあがいても、ユキがヒロインのどっちかを選んだところで両方に襲われる未来しか見えないのは……どうしてなんですかね


 【すてら☆あーく】フルメンバーで挑んだパーティ戦トーナメントを、大まかに表すとこうなる。

 

 試合開始

 →遠距離武器殺し(俺)と足止め(つららさん&ランさん)

 →味方バフ・デバフ、敵バフ・デバフの解除、妨害(後衛組)

 →藜さんとセナが出撃

 →試合終了

 

 あくまで今回のイベントはポイント制。だから出場して高順位に挑戦する事自体は吝かではないのだが……そう、ないのだが……相手がユニーク称号持ちでもなければ、張り合いがないのも実情だった。

 

 実際、何も悪いところはないのだ。遠近物魔強化弱体回復固定ダメ特殊ギミック対応性にメタをぶち抜く特化性……自画自賛じみてるけど、全部が高水準に整った少数精鋭パーティ。6人中4人がユニーク称号持ち、残り2人もやらかした行動的に次回ユニークがほぼ確定しているのだ。であれば、大規模イベントの時の様な物量戦なら兎も角、パーティ単位の競い合いではNo.1であってもおかしくない。

 

 そんな自他共に作られているっぽい評価のせいで、全力で挑んでくる相手と敬遠球でも投げるように適当する相手しかいないのだ。しかも割合としては、後者の方が圧倒的に多かった。

 

 長々と理屈は付けたけれど、つまらなかった。その一言に尽きる。

 半分自惚れも入るけど、多分モトラッド艦隊の人たちとしか勝負にならないんじゃないだろうか。あそこはギルマスのZFさんがいる限り、Luk以外のステータスが通常バフと別枠で常時1.5倍になってるし、バイク戦術で強制的に乱戦にさせられるから辛い気がする。

 

 

 ただまあ、そんな相手を待つよりは別に楽しんだ方が、圧倒的にゲームとして楽しいわけで。

 

 

「ねえユキくん! こっちの屋台、 ヘイル・ロブスター*1のフライが売ってる!」

「あっちは、ペット屋、みたい、です。正直、キメラ、みたい、ですけど」

 

 個人戦に出たりなんだりはあるものの、まずはイベントそのものを楽しもうということになった。自然と全員で回るのではなく、つららさんとランさんれーちゃんのグループと、セナと藜さんあと俺の2グループに分かれることになったのは幸いか。或いは、明らかに関わらない様に、巻き込まれない様に、哀れみの目を向けてきたランさんを恨むべきか。絶対何か事情知ってたってあれ。

 

「「ユキくん(さん)はどっちに行きたい!?」」

「エビフライ食べながらペット屋見たいですね」

 

 左腕はガッツリと藜さんにキメられて、右手は繋がれたセナの手が万力の様に固定している。被捕食者の気分。柔らかい、つまりこれ藜さん側にはハラスメント警告出てる筈。こっちにも出てるし。助け亭助けて。身動きが取れないんです。ヘルプ。抵抗権は、抵抗権は……ない? あ、無理ですか? そう……

 

 なんて、脳内に浮かんできたツインサムズアップクソ親父に全力で中指を立てながら、なんだかんだで楽しく街を回っていたそんな時だった。

 

「ざっけんじゃねェよクソ運営が! 金と時間返しやがれ!」

 

 能力の別構成(ビルド)が試せるサーカステント、それが設置されている方向からそんな言葉が聞こえてきた。暴言に関しては、リアルでもこちらでも聞き慣れてるからまあいいのだが……いや、やっぱり良くない。無駄なストレスになるし。

 

「別の機会にしますか」

「だね。わざわざ関わりたくないし」

「別の所、行った方が、楽しそうです」

 

 全員一致で、目的地に背を向けた。当然、手を繋いだりなんだりも既にしていない。面倒ごとに巻き込まれるのは慣れているが、好き好んで巻き込まれたわけでもない。

 

「もういいだろ? さっさとチケット買い直して、ビルド元のやつに組み直そうぜ、な?」

「うるせぇ!」

 

 だからさっさとトンズラしようとしたのだが……どうにも、そうは問屋が卸さないらしい。言い争う男の声。ズドムと響いた音は、アキさんのそれと同様の衝撃音。そして空間認識能力によれば、よりにもよってこちらに、何か人型の物体が超高速で飛んできていた。

 

「多分面倒ごとに巻き込まれるから、セナも藜さんも離れてたほうがいいかも」

「ん、りょーかーい」

「了解、です」

 

 衝撃音と会話からして、多分極振り関係のことなのだろう。ならとりあえずは自分だけ、セナ達と一緒にいて余計な火種を作る必要はない。そんな考えが伝わってくれたのか、人混みに紛れるようにして2人の姿が消える。これなら、よっぽどの相手じゃなきゃ巻き込まないだろう。

 

「《減退》《障壁》」

 

 念のため杖を装備して、減退で速度を殺したあと障壁で飛んできたものを受け止めた。やっぱりこれ、少し前までのアキさんと同じくらいの威力だなーと思いながら、一斉に避けた人混みの中を進んでいく。

 

「すみません、手荒な受け止め方になって。大丈夫でしたか?」

「ああ、ありが……極振り!? 悪い、今は隠れたほうが──」

 

 珍しく純粋に心配されたことに驚いていると、割れた人混みの向こうからそれは俺を見ていた。

 

「どうして、お前達だけ!」

 

 そして怒りの表情を浮かべ、非常にゆっっっくりとした速度でこちらに向けて歩き始めた。まるで爆弾が暴発しないように気をつけているような、或いは言動に微塵も合ってない情けない姿。そんなある意味見覚えのある姿を見て、大体の事情に察しがついた。

 

「なるほど、極振りにしちゃったんですねあの人。しかも多分筋力(Str)。それで大方、前のビルドにユニークスキルとかが含まれてた。で、戻せなくなって怒ってる。そんな感じでしょうか?」

「確かに合っているが……どうして、こんな一瞬で?」

「あの歩く速度、どう見ても極振り(どうるい)のそれなんで」

 

 これでも、未だに黒アストRTAをアキさんと更新し続けている仲である。最近、遂に80秒の壁を破ったばかりだ。10万再生行ってて地味に嬉しい。

 それはともかく、そういうこともあって筋力(Str)極振りについては世間話がてら色々聞いてるし、だからこそ大体想像できる。逆にアキさんにも、幸運(Luk)極振りについて相当知られてしまってるけど。

 

(同類なら分かるってマジかよ……)でも、なら分かるだろ!? 今本物が出てきちゃ、火に油を注ぐだけだって」

「そう言われても、もうどうにもロックオンされちゃってますし……」

「幸運の、極振りィ……!」

 

 なんかこう、もう手遅れな気しかしない。フルフルニィって感じのオーラまで出ちゃってる。まさに今にも暴発しそうな感じで──あっ、

 

「《減退》×30《障壁》×10」

 

 盛大に力加減を間違えたのだろう。足元を大爆発させ、勢いよくこちらに向けてカッ飛んできた。速度的には……アキさんの5分の1以下程度だろうか? 正直あっちに慣れた身としては、あまりに遅過ぎるので苦もなく目の前で停止させる。

 

「通常ステから極振りにするとこうなるんですね……まあ、筋力極振りならやり易いでしょうし、頑張ればいいと思いますよ?」

 

 まあ、戻らないものは戻らないのだ。自分のしでかしたことだし、受け入れるしかないと思う。極振りとしてのやりやすさは、多分一番やりやすいのが知力(Int)。次点辺りに物理防御(Vit)魔法防御(Min)があって、その次に筋力(Str)敏捷(Agl)。最後が器用(Dex)幸運(Luk)辺りだと個人的には思う。まあマトモな攻撃手段がある分、普通の人でもなんとかなるんじゃなかろうか?

 

「お前達は、お前達はまともに戦えるから! ボスみたいに強いからそんなこと言えるんだ!」

 

 そう思っての最低限の慰めだったのだが、逆ギレされてしまった。障壁の効果時間が切れてなければ叩かれてたかもしれない。解せぬ。

 

「まともに戦えるって言われましても……俺の場合、全身を最前線装備にして最上位スキルで攻撃してやっと、レッサーラビットを一撃で倒せる程度ですよ? 逆に攻撃が直撃したら、HP2〜3割消し飛びますし」

 

 取り敢えず目線を合わせて、今度は事実だけを言ってみる。実際のところ、極振りなんて言われても俺はその程度なのだ。正直凄く嬉しかったのだけど……聞いてないかぁ。

 

「爆破卿なんだから、爆弾使えばいいだろ!」

「あれ全部手作りなので……コスパ最悪ですよ?」

 

 爆弾は本当に、少し前まで全部手作りだった。今は朧のお陰でかなり楽になったけど、まだ手作りしなきゃ消費に生産が追いつかない。

 

「あの刀も! 銃も! 魔導書だって!」

「イベント限定装備こそあれ、誰でも手に入るものですね。称号を除けばスキルも」

 

 今回のイベントでも、魔導書以外は大半の装備が交換できる。あとは素材と練習あるのみな気がするのだが。

 

「敵だって、全部1発で!」

「一撃で倒せるのは全部自爆技ですね」

 

「どうかしたのか?」

 

 関わったことに若干後悔しながら、懇切丁寧に説明していた時だった。人混みを割って、その人は現れた。軍服に7本も佩いた刀、顔に大きな傷がある金髪のプレイヤーといえば1人しかいない。言わずもがなアキさんである。

 これ幸いと、知り合いらしきプレイヤーと一緒に事情を説明すれば、なるほどとアキさんは頷いた。

 

「──理解した、ならば先達として仔細教授しよう」

 

 どうやら今は、RPのスイッチがガンギマリらしい。よくよく観察すれば、うっきうきのままアキさんは極振りに成ってしまったプレイヤーを担ぎ上げた。

 

「例え極振りを続けるにしろ、元に戻すにしろ、多少の役には立てるだろう。こんな塵屑のようなビルド、勧めはせんがな」

 

 極振りに攫われる哀れな被害者の図。1ヶ月後、この連れ去られた男の子が炎を纏って自爆特攻する輩になることを、この時点ではまだ誰も知らなかった。

 

「すみません、なんか巻き込む形になってしまって」

「構わんよ。少々予定は崩れたが、俺たちのような運営に負担をかける輩が無駄に増えるよりは良い」

 

 それもそうですねと頷いておく。実際、今も先輩方のクレームを付けられたりしてるのに、増えたら溜まったもんじゃない。

 

「ではな、爆破卿。明日のトーナメントで相見えること、楽しみにしている」

「勝ち進めれば、ですけどね。こちらも期待してます」

 

 お互い切り札はあるとはいえ、相手も極振り。勝てる保証なんて全くないが、それでもそんな約束をしたのだった。

 

*1
第2の街ボス




※この後めちゃくちゃデートした

次回、極振り対戦開戦です


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第159話 開戦!幸運極振り vs 器用極振り

もう一作の方書いてて遅れました。だが私は謝らない。

極振り最弱 vs 最弱です


 そんなこんなで、多少のいざこざはあれど終わった12/7、イベント1日目。そして訪れた翌日は……そう、極振りエキシビジョンマッチの日である。

 本当ならこういう時、ギルドのみんなから送り出されたりするものなのだろう。だけど、今回ばかりはそうは問屋が卸さない。何せ第1回戦。何せ相手は器用極振りのザイルさん。俺に唯一まともな勝ち目がある相手とはいえ、集中を切らした瞬間負ける相手なのだから。

 

「装備の耐久度よし、爆弾はフル装填、みんなの調子は?」

『良』

 

 話しかけて見れば、ペットのみんなは全員問題ないと返事をしてくれた。それならよし。俺自身も10分くらい瞑想したお陰で頭も冴えている。これなら、きっといい勝負をすることくらいなら、きっと出来るはずだ。

 あと今届いたメールを見るに、セナと藜さん達は観客席の最前列にいるらしい。元々ただで負けるつもりはないとは言え、ますます無様な戦いは出来なくなった。

 

「さぁて、気合い入れていきますか!」

 

『さぁさぁ、やってまいりましたエキシビジョンマッチ!』

 

『どうせお前らも見たかったんだろう? お前ら自身が最強だと、気狂いだと、見上げた先にいる奴らのガチバトルが!!』

 

『極振りの野郎どもの本気の戦いが!!!』

 

 パシンと両頬を叩いて、再度気合を入れなおす。

 そうして見つめる入場門の先から、わあっと広がり聞こえくる歓声と運営の煽り。

 

『第1回戦は器用度(Dex)極振りのトリガーハッピーザイル vs 幸運(Luk)極振りの爆破卿ユキ!

 どちらも圧倒的な手数が特徴の、本来ならば非戦闘組に属する奴らだ!!

 実は昨日の時点で挑戦して挫折した50人くらいのお前ら、見て見てえよなぁ!?』

 

 こんな戦いづらいどころか、ほぼ戦えない構成にそんなに人気があったのか。まるで訳がわからんぞ。けど折角なのだから、ここまで煽られておいて、それに答えなきゃゲーマーじゃない。予定とは違うことになるけれど、火薬を使って、いい感じにド派手な登場をかまそうと考えを巡らせていた時だった。

 

「かーごめかーごめ」

 

 運営の解説を叩き斬るように、普段のザイル先輩からは到底聴こえるべくもない、幼子のような声が会場中に響き渡った。

 

「かーごのなーかのとーりーは」

 

 次に聞こえたのは、逆に低く唸るような男性の声。やばいぞ、あの人此処一番の晴れ舞台だからって、RPに本気を出してきた。

 

「いーつ」

「いーつ」

「でーあーう」

 

 しかも原理が全くわからない。TS変身なんて切り札は抱えているけれど、ボイスチェンジャーとかで出せる声音ではない。それに最後の出会うの部分に至っては、男女の声が混成だ。

 

「よーあーけーのーばーんにー」

 

 そして幼子のような声とともに、闘技場の空に紅の月が浮かび上がった。

 

「つーるとかーめがすべった」

 

 問答でもするかのように男性の声が答え、黒い雲が空に立ち込める。

 

「うしろのしょうめんだーあれ」

 

 そんな不吉極まる鉛の空が、縦にパックリと割れていく。生物的なぬめりを感じさせながら開いたそれは、巨大極まりない怪物の瞳。同時に視界に表示された【天候 : 百鬼夜行】という文字が、これがただの演出なんかではないことを明瞭に表していた。

 

「ぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ」 

「きゃァァきゃっきゃっきゃきゃァァァ――!」

 

 そうして、12の龍のような物を周囲に浮かべながら、ザイルさんは空から現れた。いつも通りのボロ切れのような服に、仮面代わりの無数の呪符、長く伸び荒れ果て放題の赤い髪。そしてそこから覗く、空に浮かんでいるのと同じような、怪物染みた瞳。

 明らかに徹夜明けかそれに等しい、ノリノリのテンションでRPを行いながら闘技場にザイルさんは降り立った。

 

『勝手な演出を出しながら、ザイルの入場だぁぁぁ!!』

 

 困惑と動揺に満ちていた観客席から、その運営の言葉によって歓声が上がった。だがプレイヤーがやるには良くても、公式が言ったら終わりだからなのだろう。RP元は一切触れていないし、ざっと見た限り観客席で理解してる人もほぼいない。まあVR全盛のこの時代に、わざわざPCで何十年も前のゲームをやる人の方が少ないから仕方あるまい。

 

 そんな僅かな寂しさはともかく、この状況は些かまずい。すぐに登場しなければ冷めて萎えてしまうし、かといってこういう特殊天候は使った側に必ず利があるものだから。だから仕方ない、こちらも初手より切り札にて仕る。

 

「装備変更してっと」

 

 パチン、と指をひと鳴らし。それをキーにして、入場ゲートから所定の位置までのルートが順々に爆発を始めた。その爆発の中を、全ての装備を展開したまま、()()()()()歩みを進める。その度に、今着替えた呪いの装備によって再度天候を塗り替えていく。

 

 黒雲の立ち込める鉛の空を、殆ど黒と言って問題ない濃紺の空に。

 怪物の目の向こうにある紅の月を、まるで皆既日食でもしてるかの様な真っ黒な太陽に。

 おどろおどろしい雰囲気と気配の闘技場を、暗いのにある程度見通せる静謐な闇に。

 

 ただ、流石に後出しでは分が悪かったらしい。普段ならすぐに切り替わる天候の表示は【百鬼夜行50% : 死界50%】という見たことのない表示になっている。実際空には黒雲は立ち込めたままだし、月は黒と紅で太極図のように染め上げられている。気配感もどちらにも染まりきってない曖昧なものだ。

 

『ザイルの演出に負けず劣らず、爆破卿の名に恥じぬ爆破の中から派手にユキの入場だぁぁぁ!!

 だからなんでお前ら勝手に登場シーン演出するの!!?』

 

 そんな司会と観客席からの声を背に受けながら、大物っぽく見えるように歩きザイルさんと向かい合う。

 

「態々こうやって環境を塗り替えるなら、キリスト教の聖歌でも歌った方が良い気がしたんですけどね。流石にアレを真似できる気はしませんし、やりたくもなかったので」

「いいや、いいさ。俺の演出(あそび)に付き合ってくれただけありがたい」

 

 なんて会話を交わした直後、俺とザイル先輩との中間地点にPvP開始のカウントが出現した。昨日のパーティ戦では司会の運営の掛け声で始まっていたはずなのに、10、9、8、7と減少していく様子は普段のPvPと代わりない。個人戦だとそうだったのだろうか?

 

「ところで、さっきの二重音声ってどうやるんです?」

「アレか。お前も良く知ってるだろうが、黒アストの素材を使えば作れるぞ」

「なるほど。俺には作れそうにないですけど、今度依頼しますね」

「毎度あり」

 

 カウントダウンが進む中、それはそれとして気になっていたことを問いかけてみる。予想外の出費が出ることになったけど、100万くらいならポンと出せるし平気だろう。

 

「では」

「ああ」

 

 そうして、カウントダウンが0になり──

 

「「いざ尋常に、勝負!!」」

 

 双方の全力が激突した。

 

 

「オン・コロコロ。センダリマトウギソワカ──」

「朧!」

 

 最初に動いたのは、瞬き一回にも満たない差ではあれどユキだった。

 ザイルの周囲に蠢く12本のそれは、蛇のように動くが柄を有している。意思を持ったように波打つそれは、銃身のみとも言える銃が、フレームで幾つも繋がれ、玉簾状になっているものだった。またその先端部の銃身のみが、精緻な龍の顔となっている。

 ザイル自身が作り出した【銃蛇鋼鞭ヨルムンガンド】というその武器は、かつてはその一本一本に搭載されていた銃口は50個。ただし今回はペットとの共闘を前提としたおかげで、1.6倍の80にまでその銃口の数を増やしている。

 つまり、()()9()6()0()()()()()()()()()。当然普通のプレイヤーがそんな武器を持ったところで、使いこなせないどころかまともな射撃すら行えるか怪しい代物だ。ただしザイルは器用度(Dex)極振り、普通のプレイヤーと違い威力の追加補正はない代わりに、弾道の補正能力は異次元の域に達している。

 

「六算祓エヤ、滅・滅・滅・滅・亡・亡・亡ォォォ!」

「ヴァン、全開で!」

 

 対しユキが展開することのできる障壁数は、こと銃口を塞ぐような精密動作に限れば未だ600個が良いところだ。つまり、360門分の射撃はフリーにせざるを得ない。少なくとも生存率を上げる為に、搭乗者を護ることの出来るヴァンに乗り込むが──もう遅い。

 

 Q.試合相手はあなたのメインウェポンである銃火器を対策して、完全に無力化してきます。どうしますか?

 A.銃火器で勝つ

 

 そんな何処ぞの霊長類最強じみた問答を、対処できる限界を突破するという答えそのままに旧極振り最強(ザイル)は貫き倒したのだった。

 

「《障壁》!」

『爆』

 

 ただ当然ユキも、ただそれを成されるがままでは終わらない。何せこうなること程度、ほんの少し考えれば想定できる範囲内なのだから。

 当然のように600門の銃口からの射撃を無力化しつつ、特製の爆弾を抱えた朧が発射された銃弾の群で爆発し、それでも爆風を当然のように突破し、自動追尾の如くホーミングして飛来する射撃を手元の杖で弾く。

 

 反撃として無数の爆竹を、腰部の簡易ポーチからアイテム射出装置を操作し発射しつつ、最大数まで分身した朧がザイルに向けて突撃する。

 

「旨そげな夢をくれろ。その爆弾をわいにくりゃしゃんせ、なんてなぁ!」

 

 それに対して、ザイルを守るように空から巨大な腐敗した腕が降ってきた。人間1人程度なら鷲掴みにできそうなそれが、ユキの朧と同様ペットの分身であると誰が信じよう。青黒く変色している腕が爆弾や朧の分身と激突、地面に叩きつけるたびにひしゃげ、粘っこい液体をデバフとともに撒き散らす。

 

「お買い上げありがとうございまぁぁぁす!!

 何ダースお買い求めで?」

 

 そのデバフを積極的に引き受け、爆弾の投射速度を上げていくユキ。対応するザイル。それに対応するユキ、対応するザイル……と次の次の次の次のと、最初のジャブから段々とギアを上げていく極振りの2人。

 

「1グロスお買い上げだぁッ!」

 

 確かに戦力は拮抗し、見た目は派手で、運営の筋書き通りの展開がそこにはあった。観戦するプレイヤーとしての問題点を強いて挙げるとすれば、一定のレベルを超えたプレイヤーからすれば動きが遅いこと。しかしそれも、見易さという点において問題にはなっていなかった。

 

 故に運営のマッチングは、間違いなく成功であったと言えるだろう。ただ。そう、ただ1つ問題があるとすれば、()()()()()()()()()()3()0()()()()()()()()()()()()()

 

『……』

『あー……えー……これは……』

 

 そして、情報密度が高過ぎるうえ高速で進行する戦闘展開に、本来であれば盛り上げと解説に徹するべき司会が、全てに微塵も間に合っていないところだった。

 




なお勝手にプレイヤーは盛り上がってます

ザイルネキのペット1号のマグナくんは、まだAdventもされてないのでお留守番中です。


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第160話 開戦!幸運極振り vs 器用極振り②

本作の二次創作が増えました。いえい。


 そんな極振り2人による怪獣大決戦が始まるほんの少し前。観客席……引いては実況をする筈だった運営の周辺で、一部のプレイヤー達による乱闘じみたことが発生していた。

 理由は、実況権の奪い合い。各所に中継、某動画投稿サイトでミラー配信もされているこのエキシビジョンマッチの解説をすれば、当然知名度も上がるし一躍有名人になれる。血気盛んなプレイヤーがそんなチャンスを逃すわけがなかった。

 

「と、言うわけで! 今回の実況は私が頂いた!

 我が名はにゃしい! 極振りを生業とし、爆裂魔法を操る者!」

「早く解説してくれない?」

 

 だが、それを平定してこその運営である。

 即座に自身もログインして遊んでいた極振り対策室の女性メンバーと、意気投合して遊んでいたにゃしいを見つけ中継コーナーへと放り込む英断を下したのだった。

 

「そうですね。折角面白い『爆裂プリン』なる屋台があったと言うのに、無理やり連行されて来ましたからね」

「チッ、折角の休暇をなんだと思ってんだよ上は……」

 

 どちらからも、怨念じみた怒りを向けられる羽目にはなったが。

 

「兎も角、状況が間に合わなくなる前に解説しましょう」

 

 そんな想いには一旦区切りをつけて、にゃしいが解説のマイクを取った。

 

「まずこの戦闘、先手を取ったのはザイルです。まあ、お互いが得意にする戦法の差なのですが。

 ザイルは天候《百鬼夜行》を展開して960門の銃口でのフルバースト。対してユッキーは《死界》を対抗展開し600門の銃口を紋章でリアルタイムに封じつつ、残った弾は爆弾で散らした形でしょうね」

「驚いた。何時もあれだけ気が狂ったように爆裂してるのに、ちゃんと説明できる頭があったなんて」

「失礼な! これでも私、頭いいんですからね!?」

 

 効果音を付けるなら、むきーッ!とでなりそうな態度でにゃしいが言った。運営とプレイヤーは、所詮意気投合しようと結局のところ敵である。アプデとバグの発見及び悪用という点で通常プレイヤーですらわかり合えないのだから、況してや極振りなら然もありなんということだ。

 

「まあ、いいです。ところでこの【百鬼夜行50% : 死界50%】とかいうフィールドの状況、運営として説明してくれます?」

優先度(プライオリティ)が拮抗している状態だとままあるの。偶にフィールドでもあるでしょう、大型ボスが縄張り争いとかしていると。きっと会場にいるプレイヤーならわかるんじゃない?」

 

 そう、この天候が拮抗する現象は、最近の最前線では割とよく見る光景でもあった。とは言っても、あくまでよく見るのは新大陸。まだそちらへ足を運んでいないプレイヤーにとっては、まだまだ物珍しい光景であった。

 

「因みに《死界》の効果は、範囲内全てに常時4つのバッドステータスを付与する形ね。腐食、獄毒、祟り、汚染……後ついでに、一定時間ごとにアンデッドのmobがポップした気がする。元がイベント限定の特別地形だから、簡潔に言って立ってるだけで死ぬね」

「ほうほう、ならばザイルの《百鬼夜行》はどんな天候なんでしょう?」

「効果は確か、腐食、吸魂、祟り、汚染……死界同様に、こっちは一定時間ごとに妖怪のmobがポップした気がする。純プレイヤー産の天候で、ここまで完成度が高いのは翡翠だけだった筈」

「成る程、ようはザイルとユッキーは戦型が同じということですか。ザイルは攻め、ユッキーは受け……私の爆裂には関係ありませんが、観客席では性癖が爆裂しそうですね」

 

 勝手に掛け算を始める観客席、彼らは誰もザイルが実は女性であることを知らなかった。

 

「おや、動くみたいですよ」

 

 会場の一部から凍てつく波動が発生している中、舞台上で大きな動きが起こった。

 

 

 お互いにジャブから始まった全力の戦い。

 器用度(Dex)幸運(LuK)という間違いなく最弱争いせざるを得ないステータスの極致は、何故か手数と手段を増やすという同一の方向性へ進んでいた。

 ザイル先輩は銃口の数と銃弾の数という手数を。対して俺は障壁の展開枚数と爆弾の投射可能数という手数を。その他にも双方、行える攻撃の種類も拡張を続けている。それが実用に耐えるかという点は、一先ず無視するが。兎も角だ。お互いにメインウェポンの特徴は数である。そしてザイル先輩は生産職の最高峰であり、俺も爆弾製作という一点のみは最高峰に近い……筈。能力値的には少なくとも。

 そんなプレイヤー同士が、(資金的に)後腐れなく、全力で(物を消費しながら)、戦ったらどうなるか? その結果が、ほぼ予想通りの形でここに具現していた。

 

「まん・まんぜろく。まんざらく。四方のヒクミを結ぶトコロは、気枯地にてミソギに不良(ふさ)はず」

 

 上機嫌のザイルネキが放ってきた攻撃は、器用度極振りの本懐を遂げたと言っても過言ではない異常攻撃だった。

 射撃を許した360門から放たれた弾丸は、全てが高性能の音響弾。音という振動を撒き散らすそれらは重なり合い、共振し、増幅され、まるで指向性を持った局所的な地震のようにこちらを揺さぶってくる。

 

「持ってけダブルだ!!」

 

 対抗してテンションのままに叫びながら、簡易ポーチを展開させ愛車の上に立ち上がり、1スタック分の爆竹を発射し起爆させる。そんなMEGAでDEATHなPARTYによって無理矢理に安全地帯を作りながら、右手で銃杖(新月)を構えて、受け続けたデバフが反転したバフによる幸運のゴリ押しに任せ、反動軽減の分だけ雑に紋章を展開して引き金を引き絞る。そうして吐き出されるホーミング付き手数の暴力を、1発1発正面から同じ銃撃で撃ち落としてくる挙句、跳弾に跳弾と跳弾を重ねて、こちらが放った銃弾をそのまま跳ね返してくるあたりマトモじゃない。

 どこの技のデパートか。

 内心そんなツッコミを入れながらもコンマ数秒で切り捨てて、予想通りの地点に跳ね返された銃弾も利用して紋章を描写。分類としては闇属性強化の範囲付与でしかないが、こと《死界》や恐らく《百鬼夜行》でに限っては別の結果を齎すそれを地面に叩きつける。

 

「グラズヘイムにご案内!!」

「滅・滅・滅・滅・亡・亡・亡!!」

 

 瞬間、大地(死界)からは無数の骸骨の群れが、天空(百鬼夜行)からは無数の妖怪の群れが、それぞれがそれぞれを目指して湧き出した。

 人の骨が、敵mobらしき鬼のような骨が、獣の特徴を持つ骨が、竜の特徴を持つ骨が、次から次へと天を奪うべく昇って行く。大百足が、山犬が、白骨化した馬が大蛇が、次から次へと火砕流のように天から逃げ地に殺到する。

 

 当然このmob達は、呼び出すだけ呼び出しはしたものの味方じゃない。倒して経験値が得られるかは知らないけど、ペットや召喚系のスキルとはまた別の独立したmobである。フィールドに出てくるものと何ら変わらず、基本的にプレイヤーにも敵意を向けてくる。が、

 

「良い壁が出来たなァ!」

「良い足場ですよねッ!」

 

 そんなもの関係ない。ザイル先輩は曲射や跳弾の壁として、俺は紋章なしに空中を走る為の足場として、全力で利用を始め戦場が拡大した。

 結果、辺り一面は更なる混沌の地獄絵図と化した。

 空から降るザイル先輩のペットである巨大な腕は敵味方問わず全てを叩き潰し、俺がばらまく爆弾も同様に敵味方問わず全てを吹き飛ばす。中空ではその間も銃弾と銃弾がぶつかり合う火花が散り、愛車(ヴァン)が描く軌跡で描く紋章は完成間近に崩される。逆にこっちはザイル先輩の必殺になりそうな動きは先読みして潰しているし、今正に爆破で12の龍のうち1つをなんとか吹き飛ばした。

 

「けど良いんですか? RP的には、俺が大切なものを差し出さなきゃ倒せない気がッ、するんですけど!」

「そりゃあ、拘りたかったがな。ここはゲームだ。一体どんなステータスを参照して、忠の心を判断すんだって話だ!」

 

 一気に80門銃口が減ったおかげで、数瞬前までと比べるとあまりにも全てがやり易くなった。こうして、まともな会話ができるくらいには。それに言っていることは一理も二理もある。RPは大切だけど、ステータスとして参照できない値なんてどうしようもない。

 

「だからこそ、俺自身が忠を置くものをトリガーにしてある」

「つまり?」

「そう、金だ!!」

 

 瞬間、跳ね上がる弾幕密度。銃口は80門確実に削ったはずなのに、さっきまでの、1.5倍程の銃弾が一気呵成に放たれた。いきなり加速した戦況に対応するのが一瞬遅れ、20発程の弾丸が直撃する。愛車(ヴァン)がダメージを引き受けてくれたおかげで死んでいないが、それでも爆発する弾丸のせいで大きく吹き飛ばされた。お返しで叩きつけたはずの爆弾は、近距離だったせいで龍首の1つに弾き飛ばされた。

 

「金はありとあらゆるモノの代用品になるからな、少なくとも俺にとっては一番大切だ」

「それ、別のRP混ざってません?」

「知るか。だが、よくやるなお前も。一定以上の金額がかかってない武器やアイテムじゃ、本来龍の首は落とせないんだぞ?」

「はっ、そりゃあ素材が全部ユニーク素材ですからね!」

 

 ただ、流石に反動があったのだろう。5秒ほど明らかに射撃の密度が低下して、遂にこちらのデバフが届いた。所詮極振り、状態異常への耐性なんてものは存在しないのだ。全ステータス-60%と命中率低下、そして暗闇の状態異常を掛ければ──

 

「みぃーつけたぁ、キヒ」

「ロールプレイの緩急ッ!」

 

 なんて予想は、当然の如く覆された。銃撃は逆に精度を増し、時に稲妻の様な軌道すら描いて飛来する。視覚に関しては、そもそも空間認識能力がある時点で期待していなかった。けれど、全ステータス6割カットの状態のはずなのに……いや、よく考えれば8000もあれば十分か。90度以上の角度で弾が曲がらなくなっただけありがたい。それだけで、この弾のカーテン(メタルストーム)の中での生存率は上がるのだから。

 

「とはいえ……流石に、厳しいか」

 

 そろそろ、決着を付けに行かないと不味い。爆弾のストックがかなり心許ない数になってきた。残りは大凡半分。一度ギルドホームかマイホームに帰れば補充出来るけど、割に合わない数値である。というかこのペースで消費していたら、もし勝ち抜けた場合に爆弾が使えなくなる。

 逆にMPとHPは常時高水準のリジェネが掛かっているのと同様だから、あんまり気にする必要はない。ただその消費先がほぼ銃の封じ込めに当てられているせいで、思うように一撃必殺が打てない。けれど封じ込めを疎かにしたら、リスポンの限界まで撃ち殺されるのは目に見えている。

 

 どう考えても長期戦ルートである。だかもしそうなれば、生産職としてアイテムの所持枠を拡大しているザイル先輩に分が上がる。これは……早速、後衛プレイヤーとしての切り札を切らざるを得なさそうだ。

 



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第161話 開戦!幸運極振り vs 器用極振り③

爆薬令嬢……?
それはそうと、ここすきボタンなるものが実装されたんだとか。
閲覧設定からONにして、スマホだと好きな行をスワイプ、PCだとダブルクリックでボタンが出るみたいなので、感想書くのは……って人でも応援できるらしいですよ!


 妖怪、銃弾、骨、破片、爆弾、銃弾……要素を上げることすら大変な、混沌の坩堝と化した地獄めいたこの戦場。その見た目の派手さに反比例して、どこまでも地味なアイテムリソースの削り合いの様相を呈している。

 このままでは間違いなくジリー・プアー(徐々に不利)、ツキジめいた惨状をさらに拡大するだけで、これ以上続けてはお互い次の2回戦にも支障をきたすことは間違いない。

 

 だが、その程度で止まるようでは極振りなんてやってられない。しかし同時に、そういうリソース計算が出来なきゃゲームなんてやってられない。極振りなんて尖りに尖った構築(ビルド)なら尚更である。

 

 結果、訪れるのは小康状態。

 

 数瞬前までが十割での殺し合いなら、今は精々が3割から4割程度の殴り合い。止まらない《百鬼夜行》と《死界》のぶつかり合いによる余波と流れ弾を蹴散らせる程度に留まっている。

 

「どうしたんですか先輩。随分とお可愛い弾幕になってきましたけどぉ?」

「それを言うなら手前こそ、頭の火薬が足りてないんじゃねぇかぁ!?」

 

 結果、お互いに必殺を繰り出す準備を行いながら、自然な流れとして軽いレスバへと発展した。無論お互いに、というか観戦している人達も、これが嵐の前の静けさでしかないことは重々承知している筈だ。

 

「そりゃあ今は、どちらかと言えば“いあいあ”してますからね。アキ先輩じゃないですが、『創生せよ、天に描いた星辰を──』ってやつですよ!」

「煌めく流れ星どころか、正しい星辰を揃えてるあたり最悪だがなぁ!」

「そっちこそ、銃弾を粒子加速器ばりに回してるじゃないですか。そろそろ目で追えない速度になってきたあたり、もう馬鹿なんじゃないですか?」

「旧必殺スキルの手動再現のために、どうしても数と速度が必要なんでなぁ!」

 

 何せ現在進行形で、空には魔導書の軌跡による不気味な発光を伴った星辰が描かれて続けており、この闘技場の壁周辺には帯のように連なった無数の銃弾が跳弾を繰り返しながら旋回しているのだから。

 

 ただ先程までと違うのは、お互いに妨害を差し込んでも最早意味をなしていないところ。射撃で妨害されようが魔導書を操作するリソースが十二分にあるから星辰は砕かせないし、逆に周回する弾帯に障壁を差し込もうが良くて10発程しか落とせない。

 よって、それぞれの必殺技が成立するまでの時間を競う程度の妨害しか、お互いに行わなくなっていた。なにせ嗚呼、必殺技は必殺技で打ち破ってこそだろう。

 

「Look to the sky, way up on high……見上げてごらん夜の星を!」

「残念ながら、RP元が大地の化身なもんでなぁ! あと死ぬ程音痴だが、大丈夫か……? 真面目に」

「くっ」

 

 自覚は出来ているせいで逆ギレも出来ない。真面目に心配されるレベルなのか……辛い。まあ、うん。それはもう、どうしようもないことだからいい。だけど、微妙に集中が乱された。

 

「考え事する余裕があるなんて、随分余裕かましてくれるじゃねぇか!」

「それはそっちが……おのれ盤外戦術!」

 

 うっかり牽制射撃を封殺しきれず、1発被弾してしまった。朔月のお陰でダメージはないけれど許すまじ。しかも一歩リードしていた必殺技の構築に並ばれてしまった。

 

 舌打ちをしながら視線を向ければ、かち合ったのは『抜け駆けは許さない』と言わんばかりの鋭い眼光。手招きしてくるその姿は、あからさまな挑発だった。ええいままよ。不意打ちじゃなくて、やればいいんでしょうやれば。

 

「お互い、準備は整ったみたいですね先輩」

「随分待たせて悪かったなぁ、後輩」

 

 天には不気味な星辰が描かれて、地には龍のように蠢く弾の群れ。そんな状況の中、一瞬だけお互いに手を止めて言葉を交わす。

 

 それが、開戦の合図だった。

 

「神には神をぶつけるって、相場は決まってるんですよ!」

「β版最強が今でも健在だってこと、見せてやるよ!」

 

 お互いに、まるで鏡合わせのように手で印を結ぶ。ああやっぱり、そのRPをしてるならそうくるだろうと思っていた。

 

「ふんぐるい むぐるうなふ くとぅぐあ ふぉまるはうと んがあ・ぐあ なふるたぐん いあ! くとぅぐあ!」

「オン・コロコロ、センダリマトウギソワカ──六算祓エヤ滅・滅・滅・滅・亡・亡・亡ォォォ!」

 

 かっこいい詠唱代わりに、お互いなんかそれっぽいものを叫ぶ。

 

「「終段顕象!」」

 

 そして最後、示し合わせたかのように同じ文言を口にする。いや、RPもしてない身としては烏滸がましいけれど、お互いに楽しむことが第一だから問題なし!

 

「【神格招来】、来たれクトゥグア!」

「【廃神招来】、来たれ百鬼空亡!」

 

 変化は一瞬、ソレは一気に形を表した。

 

 ザイル先輩の周囲、散らばる瓦礫や機械の破片、屍肉に骨片、そして周囲を旋回していた銃弾の群れを全て呑み込み合わさり組み上がって生まれていくのは、蛇の……否、龍の首。それも、腐敗したような肉に骨の様な外殻と所々に鱗が付着しているようなもの。俺自身が破壊した2本を除いた10本それぞれが橙色の目を光らせ、グパァという生々しい音を立ててその口腔を晒した。

 噂に聞く、【廃神招来】というスキルだろう。確か効果は『アイテムを任意の数消費しその数と質に応じたモノを召喚、自身に憑依させ使役する。その際付与されるステータス、状態異常、特殊効果等は呼び出したものに対応する』というもの。継続時間を伸ばすために、あの弾帯が必要だったのだろう。

 

 逆にこちらは、天に描いた紋章が大きく燃え上がった。そうして現れるのは、異界に通じる召喚門。一目で強大と理解させられる炎を背景に、()()()()中に三つの花弁状の炎を見せる宙に浮かぶ炎環が割り込むようにして現れた。表示された名前は【The Elder Thing Yomagn'tho】、確認できるHPバーが20段はあるレイドボスだった。

 紋章術の最高位である【コート・オブ・アームズ】というスキルは、ぶっちゃけるとアキさんの【特化紋章術】やれーちゃんの【召喚術】系列よりも遥かに弱い。バフやデバフでは特化紋章術に質で劣り、攻撃手段や手数は召喚術系列に叶うはずもない。ただその代わりに突出した、汎用性という点がこのスキルを他と同列にまで持ち上げていた。即ち、ミリ単位で正確に紋章を描くことによる【特化紋章術】や【召喚術】等の派生スキルの再現。スキルによる成功率の保証や結果の確定といった補正は0%、あるいはマイナスになるが知ったことか。そんなもの、幸運でゴリ押して無理やり成功させればいい。

 

「なっ、クソ。SAN消しとばしやがって」

「ヴァン、エンジンカット! 【ステルス】【存在偽装】!」

 

 後は現時点での全MPを捧げて召喚したレイドボスから、逃げ切りつつザイルさんが倒されるのを待つのみ。捧げたMPは約3500、召喚可能時間は17.5秒、当然制御は不可。こういう場合でもなければ使いたくもない切り札は、確実に意表をつくことが出来ていた。

 

「ぶっ殺」

 

 けれど、見誤っていたのはこちらもだったことを、次の瞬間に実感した。システム的に完全に正気を失ったザイルネキが、背負う龍の首から無差別に攻撃をばら撒き始めたのだ。隠れている俺も、無限に湧き出す妖怪や骨も、呼び出したレイドボスも関係ない。

 レイドボスを除いた全てが、一瞬のうちに砕け散った。有象無象、一切の区別なく、俺を含めて何もかもが地震のごとき振動に粉砕された。

 

「……えぇ。マジですか」

 

 毎秒毎に砕かれる中見えたのは、この数瞬でレイドボスのHPバーが10本キッカリ吹き飛ばされている異様な光景。この前のミスティニウム解放戦、正直ザイル先輩なら参戦しても問題ないんじゃ? と思ってたけど、やっぱり隔離されるべきなのかもしれない。

 というより、これは些か不味い気しかしない。予定変更だ。対ザイルネキはプランBに変更する。『ねぇよそんなもん』なんて事はなく、しっかりと考えてある。少しばかり蘇生回数が不安だけど──接近戦を行うしかない。

 

 残り12秒

 

『ENCs0MYurr!!!??!?!!』

 

 そんなことを考えている間にもレイドボス……クトゥグアと言いながら、想定通り召喚に失敗して出来たヤマンソはHPを削られ続ける。あっ、ヤバイ目が合った。ここで食われるわけには行かないので、いい感じにザイルさんに射線を重ねる。瞬間、プレイヤー換算でAgl2000ほどの速度で移動し一息にザイルネキを捕食した。

 

 残り7秒

 

 同時に空間が燃え上がり、奇妙な幾何学模様の軌跡を描いて行く。もはや結果は覆らない、確実にザイルネキのHPは吹き飛んで──

 

「────まだだァッ!!」

 

 初めて耳にする、気合いの入った咆哮。正気に回復したザイル先輩によって、よりにもよってレイドボスが内側から爆散した。10残っていた龍首のうち8本を犠牲に、燃え上がった空間ごと吹き散らしてザイル先輩が蘇る。

 20段あったHPバーは全て砕け散り、(プレイヤー)が呼び出した物とはいえ、単独でレイドボスを10秒で撃破するという偉業……或いは運営の修正案件を成し遂げていた。()()()()()

 

「《抜刀・蜜蜂》」

「ごふっ……!?」

 

 決着は、ザイル先輩の心臓にあたる部分を貫通した仕込み刀が示していた。召喚したレイドボスによる目眩し。スキル【存在偽装】による1回限りのアンブッシュまでの潜伏効果。握る仕込み刀は、極振りが握れば最強のダメージボーナス(装備者の最大ステータス)である一品。

 

「信じてましたよ。この程度は突破してくると」

 

 そして使った(アーツ)殉教(まるちり)*1を除いた抜刀術の全バフを込めた、ゼロ距離指定の代わりに蘇生効果を貫通するもの。最近、色んな武器に実装された蘇生貫通系*2の新技だ。これを直撃させた時点で、俺の勝ちは確定した。

 

「馬鹿、な……お前、何処から」

「本来の俺のスタイル、アンブッシュからの爆破なので」

 

 グリッと刃を捻ったことで、ザイル先輩のHPバーが完全に0へと落ちた。【存在偽装】に限らずスキルによる隠密状態は、いかな【空間認識能力】と言えど探知できない物が多い。それでも普段なら、不自然な風の流れや埃、草の動きなどで察知出来るけれど、このタイミングなら別である。全力を振り絞り、レイドボスを撃破した直後の気の緩み……それを利用させて貰った。

 

「まさか、アゾられるなんて思わなかったぞ……」

「元より飛行機の予約などしておりませんので……とか言えばいいですかね?」

「RPはガッタガタだが……まあ、いいか。汝、一切成就祓と成るやァァッ」

 

 最後に綺麗なRPをザイル先輩が決めたところで、こちらも礼儀として刀を引き抜き一欠のポーズを決める。直後、技の効果で発生する大爆発。

 頭上に燦然と輝いたのは《WINNER ユキ 》の文字。それが1回戦を勝ち抜いたことを、疑いようもなく証明していた。体感でリスポンは残り10回行かないくらい……まさか初手からここまで追い詰められるとは。

 ギリギリの勝利だったと噛み締めながら刀を掲げれば、ブーイング6割歓声4割の声がスタジアムを包み込んだ。

 

*1
自爆技。打点を3倍、防御と蘇生を貫通する代わりに自分が即死する

*2
大体ゼロ距離指定。蘇生後のHPにまでダメージを与える




実はれーちゃんの【召喚術(異貌)】は召喚術派生じゃなくて呪術師派生です。

《抜刀・蜜蜂》
 抜刀術専用技
 消費MP1+任意のHP
 射程はゼロ距離、属性は武器に依存する。蘇生効果貫通
 突き刺した刀身にエネルギーを流し込み対象を爆散させる
 使用条件 : なし

 抜刀術気味に放たれる突き技。
 要はリボルケイン。


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第161話(裏) それっぽい実況っぽい何か

そして祝200話です。いえい、びーすぴーす。
感想も嬉しいし、ここ好きボタン連打も嬉しいですね!


 舞台上で起こった大きな動き。それはザイルの放った振動攻撃がユキの残機を砕き、苦し紛れにばら撒いているように見える爆弾や銃弾すらも薙ぎ払う一方的な光景だった。ユキもバイクの上に立ち上がり可能な限り手数を増やしているが、どう見てもザイルに追いついていない。

 

「おおっと、ここでユッキー大ダメージです!」

「どうにも防戦一方ね。何もかもを利用して紋章を描いている辺り、十二分にトンチキだけど。自分の撃った銃弾が跳ね返された結果の軌跡を利用するなんて、まるで意味不明だわ。でもやっぱりあの子、受けよね」

「ユッキーは受けですね」

 

 その一言に、観客席は沸き立った。同じ極振りという同類と、その対応をサービス開始時から続けてきた人物によるお墨付きである。ユキは受け、その情報は確定的に明らかだった。

 

「っと、ここでなんか大量に沸きましたね。Hey!運営、アレの説明お願いできますか?」

「多分、ユキが使った魔法陣に誘発されて出てきたmobね。死界の方はアンデッド系列が、百鬼夜行は名前の通り妖怪が一定条件で無限湧きする天候なのよね。

 本来ならどちらも死ぬほど厄介よ。死界に関しては、第2回イベントで実装されていたし、超高難度でもユキが設定してたから知ってる人も多いんじゃないかしら?」

 

 事実この手の特殊天候の中で、死界はイベントに参加しているプレイヤーなら大体知っている程度には知名度が上がっている。最近はお店を構えてなりを潜めているお陰で、翡翠の展開する【終末】よりも有名な程度には。

 

「あんな天候を個人のプレイヤーが使えるなんてチートだ!」

「運営なんかやめちまえ!」

「極振りはチーター、狡い手を使ってイベント報酬を独占してる!」

 

 そんな中、観客席から口々にそんなヤジが飛んだ。こうして大々的に、運営としては不本意ながらもあからさまな特別扱いをした以上、避けようがない問題だった。極振りとして有名なプレイヤー達は、必ずといっていいほど素行が悪い。多くのものが事前に告知や警告を行なってからアクションを起こしてはいるが、それでも不平不満は溜まるものだ。正当なものも、そうでないものも。

 

「五月蝿いわね。これだから実況なんてやりたくなかったのよ」

 

 そして明らかにただの私怨でしかない罵声に、運営に属している女性がよく聞こえるようにマイクの前でそう言った。

 

「あなた達は本当にしつこい、飽き飽きする。心底うんざりしたわ。口を開けばチート、チーター、垢BANしろと馬鹿の一つ覚え。あなた達は運営が更新する垢BANリストも見れないのかしら? そも倒せると判明しているのだから十分でしょう。相手が特別だから何だと言うのかしら。自分達だって、特別を目指してゲームをプレイし続ければ済むことよ」

 

 舞台上で起こっている出来事は置いてけぼりに、明らかにキレた様子の運営の言葉は続く。

 

「いつまでもそんなことを喚いてないで、最前線にでも行って経験値やスキルを稼いだり開拓したり楽しめばいいでしょう。殆どのプレイヤーがそうしているわ。なのに何故あなた達は、不平不満を垂れ流すだけでゲームを楽しもうとすらしないのか。理由は1つ、極振りアンチは異常者の集まりだからよ」

 

 最早一部の高レベルプレイヤーしか目で追うこともできず、理解も出来ない混沌とした戦場には目もくれず。大多数のプレイヤーは、極振りアンチと運営の言葉の殴り合いに夢中になっていた。

 

「異常者の相手は疲れたわ。いい加減終わりにしたいのは運営の方よ。ええそう、貴方達に言ってるの。プレイヤーネーム、ぎりぎりギリー、赤巻青紙黄神、†暗黒皇帝†」

 

 その名前は、何時ぞやの姫プレイヤーと同じようにある界隈では知られた名前だった。所謂、迷惑プレイヤー。実害こそ多くはないものの、所謂俺TUEEEEの為ならマナーもモラルも知ったことじゃないと文字通りなんでもする連中だった。

 

「批判することが悪とは言わないわ。けれどせめて、自分達も極振りになって、同じようにやらかしてからクレームをつけることね」

「あんなの使い切れるか!」

「そうだ! チートで動かしてるに決まってる!」

「黙りなさい、発言権を与えた覚えはないわ」

 

 そんな話を聞くことすらなく身勝手な文句を囀るプレイヤーを、切り捨てるようにピシャリと運営は言う。

 

「でもそうね、使い切れないものを使い切ってるからこんなことになるの。それを理解しなさい。そして至って正常なデータで全てをぶち壊される、運営の気分も理解してから言葉を言いなさい。

 あなた達、言葉の意味は理解できなくても、考えることすら出来ないお猿さんではないのでしょう?」

 

 そうして指し示した先には、展開している龍首を1つ落とされたのにも関わらず、弾幕の密度が全く見劣りしないザイル。そしてあいも変わらず、弾幕の密度からするとあり得ないレベルの低被弾数で善戦を続けるユキの姿。

 

「そもそもの話、このUPOというゲームは他者の真似をしても大した意味はないの。仮に同一人物が全く同じ行動をしたとして、似通ってはいても完全に同一のスキルは生まれないわ」

 

 その一言が流れ弾となって、検証班スキル派生検証部は死んだ。彼らは耐えられなかったのだ。

 

「ああそれと。今だから言うけれど、ユキの持つ死界と幸運極振りによる実質的な無限残機に関しては、一時期運営でも問題になっていたわ。ただ貴方達と違って、手に入れても無闇矢鱈に使うことが無かったからお咎めなしだったの。序でに言うなら、今も経過観察中よ。分かるかしら? いえ、分からないわよね。

 NPCの殺害数No.1で全ての街が利用できなくなったことを、運営と他人に当たり散らすお馬鹿さん。それと、透明化スキルで盗撮とセンシティブな行為を繰り返して、スキルを剥奪されて透明化系統のスキルに縛りを作った変質者さん。最後に、気に入らないプレイヤーがいると、すぐに運営に通報するせいで逆に通報されているお子様じゃ、お里が知れるもの」

 

 くすくすくすと、笑顔で毒を吐く運営に何かが投げつけられた。それは剣であったり、槍であったり、魔法であったり、或いは爆弾であったり。何処かで見たことのある、しかし中身が伴っていない形だけの模造品だった。

 

「あらあらあら、私は事実を述べているだけよ。それにしても、垢BANを叫ぶ貴方達の方が垢BANに近いだなんてお笑いよねぇ。この数十秒で、あなた達に対する通報が数百件は溜まっているわよ」

 

 たおやかな笑みを浮かべて、しかしゴミでも見るかのような眼で言葉を続ける彼女に、一定数のファンが出来たことは言うまでも無かった。

 

「私が名前を出した手前この数百件は無視してあげるけど、それだけの恨みを買っていることを自覚なさい。ここはあなた1人のためだけのゲームじゃないの。楽しみ方は自由よ。けれど最低限、人との関わり方を学んでから出直してきなさい」

 

 実際、他2名は兎も角NPC殺害数No.1のぎりぎりギリーは、ゲームの楽しみ方として特に間違っているとは言えない。そろそろそういうダーティーなユニーク称号……【犯罪王】等も有りなのではと、一時は運営の議題に挙がったほどだ。

 事実NPC殺害数No.2のプレイヤーは、全ての街が使用不可能になった今でも、楽しく悪役ロールを続けている。故に仮に【犯罪王】が実装されたとして、ぎりぎりギリーではなくNo.2のプレイヤーに授与されるだろう。

 

「さて、実況に戻るわよ」

「ええ、そうですね! 舞台上は中々面白いことになっていますよ!」

 

 暇を持て余した結果、かっこいい爆裂のポーズを練習していたにゃしいがそう言った。目を離したのは、ほんの十数秒。なのに状況は一変していた。天には不気味に輝く奇怪な星辰、地には旋回する弾丸の群れ。

 代わりに戦闘自体は普通のプレイヤーでも認識できるレベルにまで落ちており、観戦しているプレイヤー全員に何かを予感させるには十分だった。

 

「へぇ、確かに面白い状況ね。お互いに次以降の戦いに備えて、一気に勝負を決めに来たってところかしら」

「そうですとも! 我らがザイルネキは恐らく【廃神招来】のスキルで一気に自己強化、ユッキーを捻り潰そうという魂胆でしょうね。幾らユッキーでも、10首のアレは耐えようもないでしょう」

 

 観客席で実際に体験したことのあるメイド服が、にゃしいがしみじみと言う言葉にしきりに頷いていた。この場において、スキルの性能を知るプレイヤーは多くない。正規版ではメイドコンビのみで、β版で接点があった人もそう多くないからだ。

 

「なら、誰も知らないであろうユキの方を解説しようかしらね。

 アレは狂気神話系呪文の【神格招来】、一定以上の格の魔導書を持っていれば誰でも使える呪文よ」

 

 莫大なMPとSANを消費するけれど、と運営の女性が続ける。

 

「勿論、魔導書を持っている数が多ければ多いほど召喚できる神の数は増えるわ。【廃神招来】は自身のステータスを短時間レイドボス級に引き上げる物だけど、色々と縛りはあるけれど【神格招来】はレイドボスそのものを呼び出すの。だってみんな見たいでしょう? 運営のレイドボスと、プレイヤーのレイドボスが殴り合う姿を」

 

 その言葉に、わあっと観客席が湧いた。大体このゲームをやっているような人は、怪獣プロレスは大好物だ。レイドボス同士の殴り合いなんて光景、見たくないことがあるだろうか? いいや、ない。

 実際に実行しようとした場合、同時に招来できる神格は1体のみ、招来のインターバルは60秒、そもそも招来した瞬間()()()()()()正気度を消しとばすなどの問題は山積みであるが。

 

『【神格招来】、来たれクトゥグア!』

『【廃神招来】、来たれ百鬼空亡!』

 

 そんな解説をしている間に、双方が大技を繰り出した。現れたレイドボスと、レイドボス級になるバフを受けたプレイヤー。ある種の到達点と言えるその姿に、スタジアムに歓声が巻き起こる。

 

「おや、ユッキーが消えましたね。幾らスキルの影響で探知出来るとは言っても、あの隠業は我々極振りでも見つけ難いですよ」

「抜かったわね、ザイル。恐らくユキの狙いは暗殺よ、逆転狙いの必殺ね」

『ぶっ殺』

 

 瞬間、激震するスタジアム。ザイルがスタジアムごと全てを蹂躙し、僅か十数秒でレイドボスを吹き飛ばした振動。そしてイベント出禁の片鱗を見せつけたザイルに対する歓声。その2つが合わさってスタジアムが揺れたのだ。

 

『信じてましたよ。この程度は突破してくると』

 

 だからこそ、そんな興奮に水を差すようなアンブッシュは非難轟々となったのだった。

 

「勝者、幸運極振りのユッキー! 我らがザイルネキをアンブッシュしてアゾったのは見事だったと思います。10爆裂ポイントを進呈しましょう」

「一体なんなの、そのポイントは。でもそうね、不意のつき方は良かったと思うわ。それまで同じスタイルで戦っていたところから、スタイルを切り替えて良いタイミングでの奇襲。あなた達の事だから二度目は通じないでしょうけど、違いを見せつける形での勝利だったわね」

 

 ユキがスタジアム内で刀を掲げている中、そんな形で感想戦は進んでいった。にゃしいも極振りとはいえ、爆裂さえ関係しなければ至って常識人。解説も当然出来るのである。

 

「さて、これで1回戦は終わり。2回戦は14時からね……あら」

 

 運営からメッセージを受け取ったのか、ウィンドウを開いた運営女性が目を丸くした。同時に、スタジアム状に展開されている対戦表が切り替わる。

 

「くくく、遂に私が爆裂を見せつける時間が来るようですね!!!!!」

 

 バサァと、かっこいい爆裂のポーズを決めたにゃしいの背後で切り替わった表示は──

 

『【爆裂娘】にゃしい

     vs

 【頂点捕食者】翡翠』

 

 どう足掻いても避けようのない、嵐と爆裂の予感が会場に吹き荒れ始めていた。




極振り対策室、にゃしい担当の女性(今回の実況者)
仕事中の姿。なんか妖精的なデバイスを数十個酷使しながら、死んだ目で働く銀髪ペタンロリ。裸足。
ゲーム中の姿も同じ。しかし靴を履いている。


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第162話 極振り戦インターバル

 精神と集中力を鑢で削り続けるような、楽しかったが地獄のような第1回戦だった。戦ってる最中は脳内麻薬でも出ていたのか気にならなかったけれど、終わってみればドッと疲れが襲ってきた。

 

「お疲れ、ユキくん」

「お疲れ様、です」

「おつかれサマー……」

 

 明らかに脳にエネルギーが足りていない。そんなことが自覚できるくらい疲弊していたせいか、観客席で観戦していたギルドのみんなの席に戻ってもそんな返事しかできなかった。

 頭が回らない。多分一昔前なら、リアルで鼻血を出していたくらいには脳を酷使してしまっている。あ゛ー、う゛ー(ゾンビのポーズ)

 

「そんな変なポーズしてないで、少しは休んだら? ほら、私の膝貸してあげるから」

「あー……」

 

 耐え切れず席に座り込むと同時に、有無を言わさぬパワーで頭をセナの膝の上に持っていかれてしまった。何故かリアルと同じセナの匂いがする。例えられないけれど微かに甘い、ずっと小さな頃から知っているあたたかい匂い。なんなら頻繁に潜り込まれているせいか、俺のベッドからも結構な頻度でする匂い。

 

「凄く落ち着く……」

「うそ……!? とーくん、普段は私が何しても靡かないのに」

 

 やっこい、ぬくい、いいにおい。なんか頭を撫でられてるし、思考が溶けてゆく。リアルの方の呼び方をされたことも、今は注意する気すら起きなくて……ぐぅ。

 

「うへ、えへへ……」

「独り占めは、禁止、です」

 

 意識が夢の世界に旅立ち掛けたその時、奪い去るように真逆の方向へ身体ごと頭を持っていかれた。そのままボスンと別の場所に着地するマイヘッド。This is the ふともも。Ooh! Majestic!

 

「告白、先にした、権限です」

「ぐぬ……確かに藜ちゃんに、その点では劣ってるのは事実……!」

 

 未だトップギアに入り続けて戻ってこない思考が、何かを喚いていたけど無視しておく。話の内容からして、多分今俺がいるのは藜さんの膝の上なのだろう。というか頭を抱え込まれてる。金木犀のようないい匂いがする。リアルと同じかは分からないけれど、多分同じなのだろう。

 ……これもしかして、俺もリアルと同じ匂いがしているのだろうか。身綺麗にはしてるけど、微妙に心配だ。

 

「──」

「──!」

 

 なんて、まあ悪いようにはされないだろうと、黙って身を任せていたのが悪かったのだろう。ギッタンバッタンと動くシーソーか何かのように、俺の上半身は有無を言わせぬパワーで取り合われていた。

 

「あいあむメトロノーム……」

 

 思わず口にしたそんな言葉に、どこかから吹き出す音が聞こえた。そんなに面白かったのだろうか。ではなくて。流石にこんな歯車の狂った頭のままでは、色々と不都合がありすぎる。

 

「……すみません、一旦ログアウトしますね」

「「あっ」」

 

 時刻は張り切って戦ったお陰か、予定よりも早い1時に入ってほんの少し。ならば一旦リアルに戻った方が早いと、メニューを操作して即座にログアウトする。

 

「ふぅ……」

 

 電脳空間から抜け出しても、思考は未だトップギアに入ったままだった。収まってくれることを期待しつつ、取り敢えずVR器具であるヘッドギアを外し、パキパキと骨を鳴らしながらベッドから立ち上がる。服は汗で嫌に湿気ってるし、これは着替えて今から洗濯かなあ。

 そんな家事の予定を頭の中で組み立てつつ、適当な服に着替えて汗を吸った服を洗濯カゴに叩き込む。糖分……エナドリ……いや、その前にどうせならお昼ご飯も食べておきたい。外にわざわざ出掛ける気にもなれないし、両親用に買っておいたシリアルとドライフルーツあたりで済ませよう。

 

「あっ」

 

 そんな風なことを思っていたせいか、シリアルとドライフルーツの混合物にエナドリを混入してしまっていた。緑色の液体に沈むシリアルとドライフルーツ……何とも言いがたい、久し振りにかなり不味そうな物体が目の前に出来上がっていた。

 

「……これは、そこまで不味くは、ない?」

 

 まず感じたのはエナドリの香り、その後口に溢れるシリアルの食感。何故入れてしまったのだろうという後悔が、段々と染み出してくる甘さのせいで強調されていく。序でにドライフルーツのフルーティーな成分も段々と染み出してきて……そういう食べ物だと思えば、食べられなくもないけれど、積極的に食べたい訳ではない味だ。

 

 とはいえ、生み出してしまった手前捨てるのは忍びない。気合いで掻き込み、なんとか胃の中に落とし込む。不味かったおかげか、普段通りの頭に戻ってくれたことだけは幸いかもしれない。

 

 なんて思っていた時だった。ピンポーンと、この時間になるはずもないインターホンが鳴った。

 

「はいはーい」

「心配だったから来ちゃった」

 

 誰だろうかとチェーンは念の為かけたまま玄関を開ければ、何となく申し訳なさそうな雰囲気の沙織がそこにいた。その手にはコンビニの袋が握られている。

 

「今開けるからちょっと待って」

「はーい」

 

 特に断る理由もないので迎え入れれば、いつもの様にセナはリビングに直行していった。玄関を施錠し直してから俺も向かえば、テーブルの上にはセナが買ってきてくれたらしいサンドイッチが並べられていた。

 

「これは……なんで?」

「あんなに疲れ切ったとーくん、すごく久し振りに見たから。あと私もお腹空いてたし、折角だから一緒に食べたくて」

 

 そう言ってくれるのは嬉しいけど、食べかけのサンドイッチを向けてくるのはやめてほしい。さっきまでなら危うかったけど、もう齧り付いたりはしないから。

 

「んー……あわよくばって思ってたけど、そう簡単にはいかないか。でも、もうとーくんも回復してて安心したよ。あ、これ食べる?」

「食べる。まあ治ったのは沙織が来るほんの少し前だけどね」

「むぅ、ならもうちょっと早く来た方が良かったかも」

 

 貰った卵サンドを食べながら、そんな他愛もない話をする。それだけでなんというか、とてもしっくりくるような。安心している自分がいた。

 

「台所見たけど、多分お昼シリアルとエナジードリンクで済ませたみたいだし。流石にあれじゃ、身体壊しちゃうよ?」

「その分、夜はしっかり作るつもりだったから。だって今日泊まりにくるでしょ?」

「うん。その為にVRデバイスも持ってきてるよ?」

「夕方、買い物付き合ってね」

「とーぜん!」

 

 ほぼ週一で沙織が泊まりにくる生活にも慣れたものだ。お陰で料理スキルも随分と成長したと思う。それでも凝った料理は滅多に、それこそ空さんが来た時くらいしか作らないけど。

 

「そういえば、俺がログアウトしてからどうなった?」

「取り敢えず、みんなお昼休憩だってログアウトしてったよ。2時までまだ時間あるしね」

 

 俺とザイル先輩の戦いがそんなに長引かなかったお陰か、時計の針はまだ午後の1時を指したばかり。ゲーム内で時間を潰そうとすれば、2時間以上ぶっ通しでやらなきゃいけない。エキシビジョンマッチが今日はメインなのに、それは疲れてしまうということだろう。

 

「運営も案外それを見越してたりして」

「かもね。じゃないと、わざわざこんなに時間空けないと思うなー」

「だよなぁ。と、それで思い出した。最初からずっと必死だったとはいえ、出来る限り派手に色々やったけど盛り上がってた?」

「んー……半々? うちのギルドとか、最前線にいる人たちは見えてたけど、結構な人が途中から何やってるか分からない感じだったよ。途中で……ほら、妖怪みたいなのが沢山出てきた辺りから」

 

 そこら辺から見るのを諦めた人が結構出てきて、観客席は観客席で相当面白いことになっていた話を聞いた。実況がまさかそんな状況になっていたなんて。動画サイトを探せばアーカイブみたいな物が残ってないだろうか?

 

 そうこう話している間にサンドイッチも食べ終わり、何となくテレビをザッピングしながらダラける時間に入ってしまった。この時間、やっているのは大体が再放送番組かニュースのみ。特に目新しい話もなく、ぼーっと過ごせる日常がそこにはあった。

 

「ねぇ、とーくん。今はもう素面だよね?」

「沙織が来てからはずっと素面のつもりだけど……」

「なら良し」

 

 反対の席からいつのまにか隣に来ていた沙織が、わざわざ改まってそんなことを聞いてきた。何だろうと重ねられた手を握り返せば、わざわざ恋人繋ぎで握り直された。

 

「私も、藜ちゃんと同じでとーくんのことが好き」

「知ってる」

 

 幾ら何でも、ずっとこうして過ごしてきて気づかない方が有り得ない。それ以前に、好きでもない奴の布団に夜な夜な潜り込んだり、寝込みを襲ってファーストキスを奪ったりしないだろう。

 

「因みに本音は?」

「今すぐにでもとーくんを襲って、既成事実を作って逃げられなくしたい。とーくんに嫌われたくないし、藜ちゃんにも不義理だからやらないけど」

「流石寝込みを襲ってるだけはありますね……」

「女の子にだって性欲はあるんだよ!」

 

 胸を張って堂々としたその態度に、何かもう一周回って納得してしまった。もう諦めていたけど、布団に潜り込まれるのは本当に貞操の危機かもしれない。

 

「……待ってとーくん。今、私の一世一代の告白がスルーされた気がするんだけど?」

「まあ、改めて言われると意識こそすれ、ずっと前から分かってることだし……」

 

 それでおいて、答えずにのらりくらりとしてた自分が本当に良くないと思う。簡単に好きとはいえないし、というか2人とも俺には勿体無すぎるし。

 

「でも、藜ちゃんはとーくんに告白したんだよね?」

「返事は……まだ、できてないけど」

「恋敵が告白したなら、取り敢えず私も言葉にしておかないとって」

 

 アドバンテージを取り戻すのだー、なんて言いつつ背中からしなだれかかるのはやめて欲しい。ここ椅子の上だから。危ないから。

 

「それで、やっぱり返事は保留?」

「頑張って結論は出します……」

「なら良し。今はマーキングするだけで許す!」

 

 うりうりと頭を押し付けられるたびに、部屋に甘い香りが広がっていく。精神的には落ち着くけど、心臓がまるで落ち着かないんだよなぁ……鉄の意志と鋼の強さで保ってる自制心が揺らぎかねない。こういう時は、三十六計逃げるに如かずである。

 

「さて。じゃあそろそろ俺はゲームに戻るかな」

「むー、逃げられた。でもまだ時間あるよね?」

 

 どことなく不満げな沙織の目線を追えば、まだ時計の針は1時半を指している。確かに今ログインしたら、ゲーム内で1時間は待つ羽目になるけど……

 

「さっきの戦いで爆弾使い過ぎたから、新大陸まで取りに行かないとなんだよね」

「大盤振る舞いしてたもんね。ね、それ私も付いてっていい?」

「いいけど、特に何もないと思うよ?」

「それでもいいの! ログインは何時もの場所使うね!」

 

 行って帰ってくるだけなんだけど……とは思いつつ、パタパタと荷物を持って走っていった沙織を見送る。まだ皿を洗ってないけど……まあ、水に浸けとけば大丈夫だろう。

 

「さて、あんまり遅れないようにログインするかー」

 

 家の戸締りよし。洗濯物よし。天気も崩れる予報はなし。最後に軽くストレッチをして──リンクスタート。先輩の本気(ガチ)バトルを楽しみに思いつつ、UPOに帰還した。

 



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第163話 汚染!精神極振り vs 知力極振り

 何だかんだあったとはいえ、今更そうそうセナとの距離感が変わるなんていうことはなく。いたって普通に爆薬を補充し街へ帰還し、ギルドのみんなで確保した席で第2回戦を観戦することと相成ったのであった。

 

 対戦カードは、同好の士に近い【爆裂娘】にゃしい先輩と、1回俺を捕食してくれた【頂点捕食者】翡翠さん。見方を少し変えれば、UPO内で最大魔法攻撃力のホルダー vs UPO内最大の魔法防御力を持つブロッカーという組み合わせだ。最大物理防御のデュアルさんが、バトルロイヤル形式である以上、これが今後のタンク系列の趨勢を決める一戦になる可能性も否定できない。

 

「ユキくんはどっちが勝つと思う?」

「最初に押し切れればにゃしい先輩の勝ちだと思うけど、それ以外じゃ多分翡翠さんが勝つと思う」

 

 にゃしい先輩は確か、極振り特有のスキルが求道ⅢだからIntの値が30,000。対して翡翠さんは求道ⅡだからMinの値が20,000。だからステータスだけで考えた場合、明らかに翡翠さんの方が不利ではあるんだけど……

 

「にゃしいさんって、1発特化型、です、もんね」

「ですね。対して翡翠さんは、近くにいるだけでリソースごと削れる上に遠近中距離全対応のオールラウンダータイプなので……」

「成る程な。近付ければ勝ちということか」

「多分そうなると見てます」

 

 頭上から聞こえてきたランさんの言葉に頷く。どう考えてもそう簡単に終わりはしないだろうけど、知っている情報だけで推測するとそうなる。正直、もし戦うことになったとしても決勝戦になるから、そこまで真面目に考えることが出来なかった。多分、2回戦には勝てずに敗退することになるだろうから。

 

 故にこそ、それよりも問題なのは周りからの目線だった。ギルドで確保している観客席は2段。上段にランさん、れーちゃん、つららさん、下段に藜さん、俺、セナといった順番で座っている。れーちゃんとの関係を疑うような輩は最近漸く消えたけれど、藜さんもセナも美少女である。明らかに席を詰めて、正確にはハラスメントコードが出る程度には近距離で座られていれば、それは目立つというものだった。被捕食者側の自信しかないというのに……!

 

『さぁさぁ、やってまいりましたエキシビジョンマッチ第2戦!』

 

 そんな微妙に肩身の狭い感覚を味わいながら待つこと数分。選手ゲートの中で聞いたものと同じ、大音声が響き渡った。

 

『昼飯は食ったか? 配信の順次は? イベントを楽しむ心の準備はOK? ここからがイベントの本番d』

『うるさいわ。黙りなさい。少しは隣にいる私に配慮しなさい』

 

 しかし俺の時とは違い、打撃音とともにその声は中断された。その下手人は銀髪のペタンロリ。午前中、実況で荒ぶっていた運営の人だった。一旦大音声が途切れても、彼女の再登場に観客席は沸き立っていた。それだけ、それだけだから、他意はないから。ですからその、太ももを思いっきり抓るのは、どうかやめてくれませんでしょうか?

 

『エキシビジョンマッチ第2戦よ。対戦カードは知力(Int)極振りのにゃしい vs 精神(Min)極振りの翡翠、どちらも極振りしているステータスからは考えられない行動をしている2人ね。そう、このくらいのボリュームで話しなさいな』

『【爆裂娘】のにゃしいは1発がどでかい爆裂特化! 【頂点捕食者】の翡翠は特殊天候の《終末》を展開しながら戦うプレデタータイプだ!

 ぶっちゃけ運営としては、もし極振りをするならInt極の固定砲台型が続けられるだろうからオススメだぜ!』

『意見に同意はするけど、うるさいわ。静かにしなさい』

 

 再び大音量で叫んだ運営に横から鞭が入る。運営としての許容できる極振りは、にゃしい先輩のInt極らしい。……まあ、少なくともDex とかLuk極振りより、相当戦いやすいだろうことは間違いないけど。

 

「ふっふっふ……ハーッハッハッハッ!!

 ユッキーにザイルがあんな派手派手な登場をしたんです。私が! そう! この私が! 中途半端な登場が出来る筈があり得ません!!!!!」

 

 そんなタイミングだった。聞き慣れた高笑いがスタジアムに響き渡り、同時に極太の火柱が無数に出現した。景気よく地面を爆裂させながら燃え広がる炎の中、カツコツと靴を鳴らし満を持して先輩はスタジアムに姿を現した。

 大きな三角帽子に黒いローブ、指ぬきグローブに赤を基調とした服……詳しく説明しないでも理解させられるほど、某ライトノベルの爆裂娘の格好。背負うは爆炎、握るのは先端に香炉の様なものが埋め込まれた身の丈を超える杖。天候……最近は環境の間違いなんじゃないかと思う欄にも、【星火燎原】なる見慣れない文字が出現した。

 

『気になるでしょうから、テンション馬鹿に変わって先に説明するわ。にゃしいが展開している特殊天候【星火燎原】は、MPをコストにダメージフィールド兼バフを展開するフィールドね。内訳は時間経過による炎・水系の魔法強化、風属性の被ダメ減少、土属性の被ダメ上昇あたりだったかしら。確か、一応新大陸には存在する天候よ?』

『ああ、しかも使い切りのアイテムとしても実装されてるぜ! 使用者のHPが0になるか、使用後1回目の戦闘が終わらない限り展開され続ける! プレイヤーが自由に開拓できる新大陸は、こんな面白くて強力なアイテムが盛りだくさんだ! 尤も、要求レベルは最低80だけどな!』

 

 天候の解説とともに、観客席が沸き立った。明らかに伏せられている情報もあるけれど、属性が一致してる魔法使いプレイヤーにとっては垂涎の品だろう。

 そんな物が手に入る可能性もある新大陸をさり気なく宣伝してきた。まだまだ無名なコンテンツで人口が少ない新大陸は、宣伝できるうちにしておきたいということか。このイベントが終わったら、確かレベルキャップの解放もあるらしいし。

 

「ユキくんは、プレイヤーホームのところの天候は使えるの?」

「使えないし、使えたところで使わないかなぁ……」

 

 あの【悉燼の燎丘】と【尽焼の燎森】という2種類の天候は、そんな類の天候である。俺がしたいのは爆破であって自爆ではないし、そもそも自分と周りを全て巻き込んでQuiet pleaseとかやってられないだろう。バランス崩壊も甚だしい。

 

「我が名はにゃしい! UPO随一の魔法の使い手にして、爆裂魔法を操りしもの。名実ともにこの名乗りを使える様になった今こそ、決着をつけましょう翡翠!」

 

 そんな話をしている間に、淡く燃え続けるスタジアムの中心に堂々と進み出たにゃしい先輩。轟ッ!と燃え上がる火柱を背に、対面するゲートに杖を向けて言い放つ姿は、動画の端に映っていたかっこいい爆裂のポーズに違いない。

 

「そうですね。良い機会です」

 

 それに対する返答は、テレビの砂嵐の様な白黒のノイズが走る領域だった。ジリジリと星火燎原を塗り潰しながら展開される、結果的に灰色に見えるフィールド。そんな異質さを引き連れて、堂々と翡翠さんは姿を現した。

 白いポンポンでゆるく纏めたクリーム色のフワッとした髪、限りなく白に近い菫色の目、低い背に、腰の装甲がついた長いスカート以外は普段着の様なドレスアーマー。その上から、以前はなかったエプロンを纏っている。更に右手には妖しい光を放つ包丁を持っての入場だった。

 

『翡翠の展開してる天候【終末】については、別に説明はいらないわよね? ……説明しろ? はぁ、仕方ないわね。始まりの街で見てる初心者に向けて、説明してあげなさい』

『にゃしいの展開している【星火燎原】とは違って、完全プレイヤーメイドの天候だ。先駆者だけあって効果はトンデモだぜ? 属性耐性が大幅に下がり、武器防具の耐久値が2秒毎に100削れる風化と道具耐久値を同様に削る損耗、HPMPはそれぞれ2秒毎にその時点の2%が消滅、挙句2秒毎に空間に状態異常をランダムに付与する。天候制圧が付いているせいで上から塗り替えられる。序でに影響は残留……さすが極振りって感じだな!!』

 

 改めて聞く限り、死界と比べても終末の方が厄介さでは軍配が上がるだろう性能をしている。それをMP消費だけで展開してくるのだから、本当にもう意味がわからない。

 

『どうせなら、天候の優先順位についても話してあげましょう。私たち運営が設定した天候を0とすれば、市販・制作アイテムで書き換える天候は優先度1。

 魔法、魔導書、ボスが使う書き換えが優先度2、これが一番多いわね。優先度2には内部優先度が設定されていて、レアドロップ品>スキル・ボス>魔法・魔導書になっているわ。《死界》《百鬼夜行》そして《星火燎原》がコレよ。

 そして最後、天候制圧、或いは天候蹂躙の能力が付与されている書き換え能力が優先度3になるわ。そんな天候がぶつかり合えばどうなるかは……まあ、見ての通りよ」

 

 そうして運営(ロリ)が指し示した先では、燃え上がっていたステージの1/3が既に灰色に侵されていた。星火燎原側の抵抗を一切気にせず、ゆっくりと、しかし着実にスタジアムを終末に汚染し尽くしていた。

 

「まったく、相変わらず出鱈目ですねそれは」

「ええ。コーラの準備は出来てます?」

「ふははは! もう勝った気ですか、そういうのは取らぬ狸の皮算用と言うんですよ!」

「美味しそうでしたので。たぬき汁とは合いませんが」

 

 些か圧縮された会話を交わした直後、2人の中間地点にカウントダウンの文字が出現した。しかし2人の間にある距離は、俺とザイル先輩の時よりも明らかに広い。基本的に同条件だった俺の場合とは違い、にゃしい先輩は完全後衛。1発も魔法を使えずに退場は興醒めも良いところだからの処理か。

 

「【精神統一(コンセントレイト)】、全スキル起動。さあ、受けてみるがいい!」

「お断りします」

 

 カウント9。堂々と杖を突きつけたにゃしい先輩を中心に、スタジアム全てを覆い尽くすほどの巨大な魔法陣が展開される。複雑怪奇なその幾何学模様は、あの鮫御大(シャークトゥルフ)戦で見たものよりも尚大きく、複雑化していた。

 

黒より黒く闇より暗き漆黒に、我が深紅の混淆を望みたもう

 無窮の項、原初の竜王、無謬の宇宙(そら)に掛かりし虹霓よ。天から降りしきる、憐憫の雫となりて顕現せよ

 偉大なる劫火、滅びの光輝はここにあり

 

 カウントダウンが減少する中、ノリノリで詠唱を始めるにゃしい先輩。初手から全MPを消費(ブッパ)した必殺技(マダンテ)に出るあたり、もう流石としか言いようがない。

 

龍の魂秘めし杖よ、その武威を我の前に示せ

 契約の下、にゃしいが命じる

 原初の崩壊、永劫の鉄槌をこの手の内に!

 

 対して翡翠さんは……何故か、クラウチングスタートの姿勢を取っていた。にゃしい先輩を見据えるその目は、見紛うことなき捕食者としてのそれ。

 

『さて、運営としての老婆心として言うわね。ここから数秒、瞬きは厳禁よ』

 

 カウント3

 

「展開、【終焉の杖】」

 

 ここでこれから30秒間、ダメージフィールド発生兼スキルの効果が200%上昇するスキルを翡翠さんが切った。同時ににゃしい先輩の最大火力である、虹色に光る火球が天に形成される。

 

 カウント2

 

「いちについて」

 

 翡翠さんが走る最後の準備を整え、にゃしい先輩は翡翠さんに砲塔というべき杖を向ける。

 

 カウント1

 

「よーい、」

「テラ・エクス、」

 

 カウント0

 

「どん」

「プロォォォォジョンッ!!!!」

 

 上空に浮かぶ虹色の火球が収束し、魔法陣を通して変形、敵を滅却せんとダウンバーストのようにスタジアム全体に照準を合わせる。完璧なフォームでにゃしい先輩に向かう翡翠さんが詰められた距離は、未だ当初の半分程度。

 

「【精神結界】」

 

 当然のように叩き落される虹焔の波濤。掠っただけでも蒸発必至のそれが到達する直前、六角形の集合体からなる半透明の壁が都合40枚、焔の波濤を阻むように出現した。

 そして当然、その防壁は俺の使う障壁とは違って簡単には砕けない。5枚目から焔の勢いが落ち、10枚目で目に見えて明らかに減少、15、20と5枚刻みで次々と焔の勢いを殺し尽くし……或いは、食べ尽くしていた。

 

 しかしそれでも、当然知力(Int)極振りの最大火力は止まらない。1枚、また1枚と展開された障壁を全て食い破り、破壊して、爆裂し──最後の1枚も僅か数秒の間に突破された。

 ただ、翡翠さんのスキル【精神防壁】で展開される障壁の強度はVit+Minの合計値。にゃしいのInt値30,000を超える40,000もの障壁だ。全てを焼き尽くさんと焔がスタジアムに直撃、爆裂を発生させるが……その勢いはあまりにも弱々しい。

 当然だ。あそこまで何段階にも渡って減衰された以上、本来の威力など発揮できるはずもない。たとえそれが、一般プレイヤーなら十数回は鏖殺できるような火力であったとしても、その程度であれば翡翠さん自身に耐えられないはずがない。

 

「いい速度です」

 

 それどころか、足元に展開した障壁で爆裂を受け凄まじい速度でにゃしい先輩に突撃していた。ただこの程度のことを……1番極振りとして若い俺ですら予測できたようなことを、俺以外の極振りが予測できない筈もなく。

 

「知ってましたよ、その程度。魔導書装填(カートリッジ・ロード)(ブレ)

「ひーこー」

『ぴよ』

 

 まるで銃を構えるかのように、にゃしい先輩が飛翔する翡翠さんに向けて杖を構える。そして何か攻撃を行おうとした瞬間、翡翠さんの髪の毛から分け出て来た1680万色(正確には16777216色)(ゲーミングカラー)に光る、数匹のひよこを直視して硬直した。

 ひよこによる致命的な変異こそ起こらなかったものの、対抗判定を行うために必須である一瞬の硬直は、このタイミングにおいては致命的な隙と化していた。

 

「いただきます」

 

 おててのしわとしわを合わせて、いただきます(南無)。先輩と翡翠さんか交錯した僅か一瞬の間に、先輩の左腕は綺麗に千切り取られていた。

 

やっはり(やっぱり)ほーらはひへふへ(コーラ味ですね)

 

 当然、左腕の行く先は翡翠さんの口。満足そうにもっきゅもっきゅと咀嚼しながら、明らかなバフを確保していた。

 戦闘はまだ始まったばかり。

 狂気と爆裂と食欲の宴(マッドパーティー)は終わらない。




天候【星火燎原58% : 終末42%】


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第164話 汚染!精神極振り vs 知力極振り②

 もきゅもきゅと、翡翠さんが腕の咀嚼を進めるたびにそのHPとMPが回復して行く。最初の爆裂による消費なんてなかったかのように。同時に点灯する複数のバフ。見える限りで知力上昇、MP自動回復、精神上昇、被ダメージ軽減(爆裂)、爆裂魔法強化……なんというか、実にらしいラインナップである。

 

『おおっと、ここで一本腕を取られた! スプラッタな光景に会場から悲鳴が上がってるぜ!』

『年齢制限モードは効いているから、私達みたいに血は見えてないのよ。その点は運営に感謝しなさい』

 

 実際、そこは運営の言う通りだった。18歳以下のプレイヤーも多数いるこのスタジアムにおいては、所謂視界のセーフティモードが作動している。18歳以上のプレイヤーのみの場合発生するチミドロフィーバーやお酒の効果、その他諸々年齢制限を発生させるセーフティ。それがなければどうなっていたかは、発生している赤いダメージエフェクトの量から明らかである。

 

「おかわりです。ひーこー」

『『『『ぴよ』』』』

 

 ひよこが鳴いた。

 翡翠さんの髪からびよびよと、12匹のゲーミングひよこが出撃する。見るだけで、そこにいるだけで、何もかもを致命的に破綻させ続けるひよこの形をした光る何か。翡翠さんのペット第一号が、左腕を失った先輩に牙を剥いた。

 

「翡翠と戦うとわかっていた以上、その能力に対策はしているんですよ!」

『『『『ぴよ』』』』

 

 ひよこが鳴いた。

 それならばこれはどうだと、空から12個の隕石が堕ちてくる。1時間に1度しか使えないひーこーの誇る必殺技。それが無防備なにゃしい目掛けて降り注ぐ。

 

「舐めるなと言いましたよね! 魔導書装填(カートリッジ・ロード)爆裂(ブレイズ)!」

 

 それに対し先輩が取った対応は、迎撃。銃の様に構えた杖を空に向けて、杖の先端から大爆裂が解き放たれた。杖から燃え上がる魔導書が排出された辺り、装備耐久値を犠牲にした攻撃と見た。

 その威力は、圧巻の一言に尽きる。M()P()()()()()()()()()()()というのに、天へ昇った爆裂は12の流星全てを焼き尽くしていた。後ろのれーちゃんがバタバタしている気配があるけど、振り向いたらランさんに殺されるので無視しておく。

 

「隙だらけです」

「誘ったんです! 爆裂(ブレイズ)!」

 

 ただ当然、そんなことをすれば隙が生まれる。隙が生まれるということは、捕食者に狙ってくださいと言っている様なもの。狙って作られた隙に翡翠さんが突撃し、砲口を真下に向けて先輩が第2射を解放した。

 

「食べていいですよ、エクレア」

「ぐっ……ッ!」

 

 果たして、又もや軍配が上がったのは翡翠さんの方。爆炎の晴れた後、立っていたのは翡翠さんだった。先輩の放った捨て身の爆裂は翡翠さんのHPを5割程までに削るも、同時に攻撃を受けていたのだろう。左脇腹辺りから、先輩は大量のダメージエフェクトを発生させていた。

 そうして折角削ったHPも、掴み取られた部分を美味しくいただかれることでギリギリ7割程度にまで回復してしまう。最初に予想した通りの展開が、そこでは繰り広げられていた。

 

「……なるほど、見えました。ペットですか」

「ッ、やはり気付かれますか……ええそうです。私のこの耐久力は、私のペット達によるものです」

 

 何の話だろうとHPバーを見れば、未だにゃしい先輩のHPは7割を切った程度。極振り同士だからと納得していたけれど、1度考えてみるとおかしな減少幅である。防御系の翡翠さんやデュアル先輩はともかくとして、基本的に極振りの防御性能はティッシュ紙レベルだ。始まりの街のウサギにワンパン……とまではレベル80の今なら言わずとも、それでも大ダメージを食らうくらいには。

 お互い手の内を隠している現状推測するしかないけれど、被ダメージを軽減する系の能力でもなければ説明がつかない。それも、相当な高性能なものが。

 

「そう簡単には倒されませんよ! 爆裂(ブレイズ)!」

「なら削り倒……ふむ。鰹節出汁、ひーこーで合わせ出汁にしましょうか。コーラならお肉も漬けられます」

『ぴよ?』

 

 先輩渾身の爆裂を障壁でさらりと防ぎつつ、反動で距離を取られることも気にせずに翡翠さんは言う。その姿からは、ある種の余裕すら感じることができた。

 髪の毛の間から『どうぞお使い下さい』とばかりに顔を出していたり、頭上で『鶏肉の自信』と胸を張っていたり、足元で『俺たちチキンチーム』とばかりにポーズをきめるゲーミングひよこ'sは……こう、もう触れたら負けな気がする。

 

「そんなもの、所詮飛ぶ鳥の献立だと教えてあげましょう! (ブレ)──」

「それにはもう慣れました。あまり美味しくもなかったので、壊しますね」

「──(イズ)!? ッ!!!???」

 

 その瞬間、発生したのは一際大きな爆裂の火焔。同時ににゃしいさんの手から、半分程の場所から砕け散り短くなった杖が弾け飛ぶ。それ自体は別段構わないのだけど、今のは──

 

「ねえ、ユキくん。今のって」

「ユキさんの、射撃封じ、です、よね?」

「多分。ついに真似されたかぁ……」

 

 2人の言う通り、間違いなく俺がよくやっている遠距離武器殺しのそれだった。間違いなく爆裂の発射直前に砲身の先端に展開され、爆裂を暴発させていた。精度はまだ俺の方が上だとは思うけれど、遂に再現されてしまったらしい。

 

「悔しい?」

「いや全く。遂にその時が来たかぁってくらいかな」

 

 実際、やっていることは単純なのだ。銃の場合は相手が引き金を引く瞬間に、暴発するように銃口に障壁で蓋をする。言ってしまえばそれだけのことでしかない。

 

「極論、射撃武器持ってれば誰でも出来ることでしかないから」

「私には出来ないんだけど???」

「まあ、うん……やらなくてもセナなら勝てるじゃん?」

「それはそうだけど……」

 

 そもそもこんな邪道の技を真似する暇があれば、単純な駆け引きとか身体の動かし方を練習したほうがよっぽど良いに決まっている。だが、そんなことよりもだ。

 

「何か、動く、みたいです」

 

 藜さんの指差す先。スタジアムの端に追い詰められたにゃしい先輩が、何か覚悟を決めた表情をしていた。

 

「ふっ、あまり使いたくはありませんでしたが、切り札を切る時が来たようですね」

 

 そうして、にゃしい先輩の纏う気配が一変する。炎のように猛々しく爆裂に満ちていたそれから、冷たく凍てついた、しかしノリは良さそうなまるで別人の気配に。

 

「私はAB型、つまり2面性を持つ人間。これが何を示すか、もうお分かりですね!」

 

 最後の言葉に金髪のギャングが頭をちらつくが、取り敢えず出来る限りそれは無視。杖がない以上魔法は使えず、天候も既に8割を終末に喰われてしまっている以上、にゃしい先輩の『覚悟』はきっと逆転に繋がるものだと確信した。

 

「私は爆裂を愛すると同時に、それ故に他者から遑れ迫害されし者。そう、迫害です。イジメです。であるならば、今の我が身は紅魔にあらず!」

 

 そう宣誓した瞬間、にゃしい先輩はトレードマークである大きな三角帽子を天高く投げ放つ。帽子なしの素顔が解放されると同時に、その黒髪は銀に染まり長く伸び始めた。

 

「来て下さいみゅいみゅい、そして起きなさいウォールパック。すごーく頑張るお仕事の時間です」

『にゃあ!』

『はいはーい』

 

 呼び掛けに応じて、2匹の猫のような何かが現れる。片方は獣の眼光を滾らせ、蝙蝠のような翼を持ち、首から十字を下げた黒猫っぽい何か。もう片方は、灰色の毛並みに包まれ肩掛けカバンを下げた、しゃべる猫っぽい何か。

 

『『『『びよ』』』』

 

 出現と同時に黒猫は、一身にひよこの視線を集めたせいで全てが()()()()。美しい毛並みは一気に爛れ、前脚は何故か異常に巨大化し、肥大化した翼がその全てをもって行動を阻害する。目からは一瞬で正気の光が消え去り、全身から緑色に泡立つ液体を吹き出した。ステージの床にあたって白い煙を上げたということは、恐らく猛毒の類か。

 

『再び会場絶叫! やっぱあのペットは公共の電波に乗せちゃいけねぇ類のやつだな!』

『わかっていたことでしょう。あのひよこ……ひよこなのかしら? アレの効果が発揮されていなかったのは、にゃしいが徹底的にメタっていたから。そうでもなければ、一瞬でああなるに決まってるわ』

 

 しかしそれでも、みゅいみゅいと呼ばれた先輩のペットは最後の役割を果たした。即ち、最高速で突撃することで、物理的に翡翠さんとチキンチームを引き離すというそれを。

 

「……あまり美味しくないんですよね。ひーこー、エクレア」

 

 当然それは翡翠さん側からすれば、予期していた通りのこと。呆気なく突撃は障壁で防がれ、巨大な口に齧られるかの様に即座にHPをゼロに落とされる。ただし、距離だけはしっかりと稼ぎ切って。

 

「ごめんなさいみゅいみゅい、後でご褒美をあげますから」

『スキル【精神同調】完了だよ。カウント60開始。さあ、やっちゃいな〜にゃしい』

「言われずとも!」

 

 瞬間、爆裂という炎の極点とは正逆に存在する事象が溢れ出した。それは即ち、白き大地の如き大凍結。爆裂と比べ全く同じ規模で、白銀の世界が爆誕した。

 

「我が名はにゃしい(セカンド)! ハーフエルフ随一の魔法の使い手にして、今日日使われない言葉を手繰る者!」

『油断してると勝てないよ? というか、あの子僕のこと食材としてしか見てない気がするんだけど?』

「合点承知の助! ですが当然でしょう、何せ翡翠ですからね!」

 

 上空に投げ飛ばしていた三角帽子をキャッチ。変異した姿でそれを被り、白銀の波濤が翡翠さんに向けて発射された。そう、そこには2つのRPが悪魔合体した姿があった。

 服装はどこからどう見ても、爆裂がキマってるやべーやつ。けれどそれを着こなしている本人は、全く別のキャラクター。公式もやっていたことだけど……簡潔に言うのであれば、同じ声優ネタの別キャラロールだった。

 

「モード《エネミー・リーサル・アイスエイジ》、かっ飛ばします!」

「カキ氷とは気が利いてますね。季節外れですが」

 

 対する翡翠さんはHP全開MPは7割程で、なんの調子を変えることもなくそう言い放った。手元の氷を食べながら。マイペース過ぎてなんとも言えない。

 

「私の誇る(アンチ)爆裂魔法、食べられるものなら喰らってみなさい。

 《大・氷・界・衝》

 《氷・結・海・嘯》

 《絶・対・零・度》!!」

 

 矢継ぎ早に先輩が放った魔法は、側から見ていて分かるほどに強大。空から落ちる巨大な氷塊に、大地を白銀に染めて行く氷の荒波、そして翡翠さんを中心に吹き荒れる銀の嵐。回復した先輩のMP全てをつぎ込んで放たれたそれは──

 

「ひーこーを乗せて食べると、カキ氷シロップが不要ですね」

『びよ!』

 

 ()()()()()()()()()()()H()P()()()()()()()()、その全てが効果時間を終了させた。当然だ。あくまで先輩は、最高のブーストアイテムたる杖を失っている。そんな状況では、精神(Min)極振りの牙城を崩すことはできない。

 

「もうおかわりはないんですか……」

『びよ……』

「いいえ、まだです!!!」

 

 だが、先輩がそこで終わるはずもない。まだだと吼えた通り、上空には深い青で形成された、爆裂とよく似た魔法陣が浮かび上がっていた。

 

「何処ぞの白い魔王ではないですが、見せてあげましょう収束砲撃。爆裂魔法の奥義を!」

『RPの仮面はすぐに剥がれたね〜。カウントは残り30だよ』

「やらいでか!」

 

 キラキラと光る、赤と青の2色の粒子。地面から湧き上がるそれは天へと昇り、2重3重に魔法陣を形成し彩ってゆく。

 

「なるほど、ここにきて単体魔法ですか。避けたいですが……ふむ、動けませんね」

「全力全壊なんです、オマージュは当たり前でしょう!」

 

 すっかり爆裂に戻った先輩の言う通り、翡翠さんの両手両足は分厚い氷に包まれていた。無論ひよこも一緒である。冷やしひよこ始めましたとばかりに、氷の奥で翡翠さんの持つスプーンの上に鎮座している。

 

「自身のHPが3割以下かつ、その戦闘中に消費したMPが自身の総MP量を超えている場合に使用可能な、防御値を無視する爆裂魔法の奥義!」

 

 回転を始める魔法陣。そしてその奥に顕現する、真紅と青の2色で形作られた巨大な球体。ドクン、ドクンと脈打つそれは、刻一刻と解放されるその瞬間を待ち続けていた。

 

「この爆裂はDNAに素早く届き、いつかはきっとガンにも効く!」

「これは……少し、まずいですかね」

 

 流石にそんなものをぶつけられては、耐えられるはずもないのだろう。翡翠さんが、数百枚の障壁を最終爆裂に向けて展開する。最初の全力の一撃と比べても、明らかに過剰すぎる防御体制。

 

終焉の爆裂(エクスプロージョン)ッ!!」

 

 そうして、人1人を包み込む程度の太さにまで圧縮された光線が、障壁に向けて叩きつけられる。

 

 結果は、一瞬で訪れた。

 

 まるでそこに障壁など存在しないように、一切の抵抗を許さず砕かれてゆく障壁。始まりの爆裂とは違い、終焉の爆裂は一切減衰を起こすことなく障壁を砕き、超え、そして──

 

 翡翠さんを飲み込み、大地に直撃した。同時に着弾点を起点に発生する、過去最大規模の爆裂。爆裂と氷獄の二重奏(デュエット)が、どこまでもどこまでも捉えて逃さず、生存を許さないとばかりに世界の蹂躙を開始した。

 その高過ぎる破壊力と派手すぎるエフェクトで、既にスタジアムの中の視界はない。けれど表示されているHPバーは、翡翠さんのHPをゆっくりとだが削り続けていることを示していた。

 

「翡翠、討ち取ったり!」

 

 その圧倒的な威力に、翡翠さんをして耐えることの出来た時間は僅か5秒。知力(Int)極振り最大最強の一撃は、間違いなく精神(Min)極振りの堅牢なる防御を焼き尽くし、ここに勝利を確定させた。

 

 

「ええ、そうですね。これで残機1つ。第2ラウンドといきましょう」

「……………は、へ?」

 

 吹き荒れていた爆裂の向こう、当たり前のようにそれは佇んでいた。防具に傷はなく万全で、まるでこれで余興は終わりだと言わんばかりに。負けたはずの翡翠さんが言う。0になった筈のHPバーは20%程まで回復して、消耗しながらも確実に復活していた。

 簡単な話だ。基本的に、今最前線にいるプレイヤーの大半はペットを複数持ち、同時に残機を数個は持っている。それは極振りにも当然当てはまり、翡翠もそうであったと言うそれだけの話。

 

 ただ、有り体に言ってこの状況は、絶望の2文字がふさわしかった。

 

「大体わかりました。ひーこー、エクレア、1つずつください」

『ぴよ!』

『ッ!』

 

 翡翠さんがそう告げた瞬間、髪の毛の中からひよこと、虚空から手元にエクレアが出現した。そしてひよこは口の中に直行し、もっきゅもっきゅと咀嚼される。呆然とするにゃしい先輩の前で、次はゆっくり味わう様にエクレアも食べ終わる。それだけでHPは60%まで回復し、様々なバフが点灯した。

 

「ちょ、ちょっと待ちましょう翡翠?」

「なぜですか?」

「私を食べる気でしょう!?」

「そうですね」

「だったらほら、その、できれば終末とかで目隠しとか、そもそも私今埃っぽいのでそういうのがですね!!」

「そうですか」

 

 必死の弁明も虚しく、ゆっくりと詰め寄る翡翠さんからジリジリと逃げていた先輩は、壁際に追い詰められ捕まってしまう。先輩はもう、終わりですね……

 

「いただきます」

「イイッ↑タイ↓ウデガァァァ↑!!?」

 

 そんな断末魔を最後に、頭上に輝いた【WINNER 翡翠 】の文字。こうして極振りエキシビジョン第2回戦は、アタッカー優勢のUPOにおいて珍しい、精神(MIN)極振りの勝利で決着は付けられたのだった。

 




※にゃしいのペットについては、結構前にステータスごとあげたので本編中に能力説明は割愛です。
 ですが説明すると、HPを最大レベル×10に固定して、被ダメージが自分のMPの最大値(50619)以下の場合、最大ダメージをHPの1割までに固定する能力があります。あと炎・光・爆発ダメージ無効。
 それを合体することでにゃしいも使ってるわけですね。


翡翠のペット2枠目
==============================
 Name : エクレア
 Race : ?????(鋼牙)
 Master : 翡翠
 Lv 55/55
 HP 2500/2500
 MP 3500/3500
 Str : 500   Dex : 35
 Vit : 200  Agl : 35
 Int : 100   Luk : 100
 Min : 200
《ペットスキル》
【喰らい貪る手】
 ペットとして顕現後、召喚者の口と一体化する。“口”で受け止めた攻撃を捕食し、HP・MPとして捕食できる。
 主人を除き、自身を見たプレイヤー・ペット・モンスターにSANチェックを発生させる(1d3/1d10)
【お菓子の体】
 自身の体を食べさせることで、ランダムなバフ・デバフを発生させる。
 主人を除くプレイヤーが口にした場合、SANチェックを発生させる(1d3/1d10)
【変幻自在(味)】
 味を変幻自在に変更する
【変幻自在(サイズ)】
 それは、エクレアの化け物だった
【びっくりマウス】
 大きく口を開くことができる
【符号 : 壱伍陸漆玖 +弐】
 第2第3の口を生成し、口での攻撃に低確率の即死判定を発生させる。自身のレベル以下の場合高確率で即死、即死に失敗した場合は状態異常をランダムに付与する。
 自身の半径20m以内に存在するプレイヤー・ペット・モンスターは一定時間毎にSANチェックを行う。(1d5/1d10)
【吸収+1】
【吸収+2】
《スキル》
【防護ノ理】【味覚共有】
【触覚共有】【嗅覚共有】
【状態異常付与確率上昇】
【状態異常攻撃 : 部位欠損】
《装備枠》
 なし
==============================
翡翠のペット3枠目
《不明》ただ、残機になれるスキル持ちではある。

にゃしいのペット7枠目
==============================
 Name : ウォールパック
 Race : 最上位氷精霊
 Master : にゃしい
 Lv 55/55
 HP 2000/2000
 MP 4000/4000(6400)
 Str : 20   Dex : 100
 Vit : 150  Agl : 100
 Int : 600   Luk : 50
 Min : 150
《ペットスキル》
【最上位氷精霊】
 物理ダメージを半減、自律行動を行い水・氷系統の魔法を使用可能
【浮遊】
 浮遊して移動する。
【精神同調】
 60秒間だけ主人にステータスを加算、スキルを共有する。同調までは2秒間の時間が必要。
【性質同調】 
 同調中、主人の武器・魔法スキルの性質を自身のものへと同調させる
【巨大化】
 一定時間巨大化することができる。その際のステータスは上昇する。
【雪化粧】
 同調中、主人の見た目に雪を降らせる。同調中MP消費半減
【同調時間+1】
【同調時間+2】
《スキル》
【防護ノ理】【信仰の力】【氷属性耐性】
【魔力核】【魔力核Ⅱ】【魔力核Ⅲ】
《装備枠》
 なし
==============================
パックです


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第165話 NEXT LEVEL

もう一作の方書いてて遅れました。
だが私は謝らない((ブレイド))(鳴り響く例のサイレン)


『決着ぅぅぅ!! 最後は少しアレだったが、勝者は精神(Min)極振りの翡翠だぁぁぁ!!』

 

 最終的に、某人造人間ロボットアニメのような捕食シーンが繰り広げられたせいで、シンと静まり返ったスタジアムの中。場違いなほど明るい男の方の運営の声が響き渡った。

 燦然と輝く【WINNER 翡翠 】の文字に盛り上がっているのは、一部の観客席と、翡翠さん本人の足下で蠢く名状し難いひよこのようなゲーミング発光する謎の生物だけ。翡翠さん本人は……あれは、食後の余韻を楽しんでいる顔だ。触れないでおこう。

 

『今回に関しては、ユキとザイルの戦いと違って予想通りの結末だった人がいたんじゃないかしら。それとも、最近のトッププレイヤーの傾向からして予想外? どちらにしても、中々に面白い試合だったわ』

 

 女性の方の運営の言葉は真実だろう。現在のUPOにおけるブームは回避盾、翡翠さんのようにガッチガチの防御でダメージを軽減するような構成ではないのだから。……まあ、正確には翡翠さんは前衛タンクと言うよりは、個人生存特化型な気がするが。

 

『やはり分水嶺は、最初の爆裂が完全に軽減されてしまったことでしょうね。あそこで翡翠の残機を1つでも削ることができれば、試合の趨勢は変わったと思うわ』

『俺としては、にゃしいがあれだけ拘ってた()()以外の魔法に手を出したことが原因じゃないかと思うぜ!』

 

 と、運営(男)がそんなことを言った瞬間だった。プチンと、どこかで何かの切れた音がした。

 

『あっ、馬鹿!』

「《障壁》!」

「エクスッ、プロージョンッッッ!!!」

 

 女性の方が引き留めるも時既に遅し。実況席が、()()の紅蓮に包まれた。轟き渡る爆発音、ハウリングするマイクにあがる悲鳴。

 爆裂を爆破と言い、横道に逸れたと言い、地雷を2つも踏み抜いたのだから残当である。こうなると分かって障壁を張った俺以外にも、予想が出来ていた人が複数名いたらしい。様々な広範囲防御系のスキルによる防壁が、実況席を取り囲むように展開されていた。

 当然のように一瞬の拮抗すらできず、防御を貫通し炸裂する爆裂は、拮抗と軽減のできていた翡翠さんがいかに異常だったかを示している。

色々と吹き飛んできているものが、俺含む何人かの張った防壁に当たって落ちる様は控えめに言って災害である。

 

「運営なら、ちゃんと感想戦してくださいよ! 私は爆裂魔法一筋、他の魔法なぞ一切使ってないですからね!」

 

 ぜぇぜぇと息を切らしながら、先輩が実況席に戻ってきていた。安全圏ではあるので、当然ながら被害はなし。地雷を踏み抜いた男性の方が目を回しているだけである。

 そうして、わーぎゃーとにわかに騒がしくなる実況。内容はちゃんとしているのでいいのだが、運営としてはいいのだろうか……?

 

「ユキくんが最初に予想してた通りの展開になったけど、もしかして知ってた?」

 

 なんてことを考えていると、不思議そうな顔をしたセナがそんなことを聞いてきた。

 

「まあ、半分くらいは? にゃしい先輩とは結構頻繁に遭遇するし、翡翠さんにはこの前、バラバラに分解されて食われたから……」

 

 食われたのは、しらゆきちゃんとしての姿での話だが。だが切り札は切り札。共同開発主のれーちゃん以外には、まだ伏せておくに越したことはない。

 

「ふーーーーん……」

 

 と、一部のことは隠しつつ真実を語ったのに、なぜかセナは凄まじく不機嫌になってしまっていた。解せぬ。あと、げしげし蹴られるのは痛いから、出来ればやめてほしいんですけど。あの。その。セナさん? 蹴るのやめてくれたのは有り難いんですけど、できれば抓るのもやめて下さいませんこと?

 

「つーーーーん……」

 

 助けを求めて振り向いた先、何故か藜さんもそっぽを向いてしまっていた。……益々解せぬ。何か悪いことしたのだろうか? いや、多分したんたろう。心当たりないけど。

 

「ユキさんは、もうちょっと、考えた、方が、いいと、思い、ます」

「一体何をです……?」

「そういう、ところ、です。乙女心、とか……

 

 最後の言葉は藜さんの口の中に消えたようで、戦闘状態のように意識を張ってないせいで何も聞こえなかった。わからん……全然わからん。脳内のジャガーとワイトも頷きながらそう言っている。あと多分デビルマンも。

 そんな理解しきれない不条理が展開されてるそのうちに、どうやら実況席のゴタゴタが片付いたらしい。いつの間にか消滅した男の方の運営の代わりに、すっぽりとにゃしい先輩がそこに収まっていた。

 

『というわけで、この私が実況です! 敗者は敗者らしく、楽しく実況していきますよ!!!』

『アレに負けず劣らず、貴女もうるさいわね……けれど貴女の方が幾分かマシかしら。よろしく頼むわね』

『ええ、手を抜くことはありませんとも!』

 

 聞こえてくる高笑いから察するに、先輩は負けたことをもう吹っ切ったらしい。爆裂、キメてきたんだろうなぁ。

 

『ここの状況も落ち着いたところで、第3回戦の発表よ』

 

 そんなテンションと一緒に理性までアガってしまっている先輩を他所に、女性運営の人が手元のパネルを操作する。そうして切り替わった、スタジアム状に展開されている対戦表。そこに映し出されていたのは──

 

『【写術翁】ザイード』

     vs

  【限定解除】レン』

 

 UPO最速のプレイヤー同士の戦いが始まることの証左だった。会場がにわかに騒めいたのはしかし、そんな最速の戦いが始まることへの期待や興奮などではない。

 UPOの掲示板を覗いている大体の男性プレイヤーと、あと一部の女性プレイヤーは知っている。ザイードとレン、同じAgl極振りの2人が日夜戦いを繰り広げていることを。即ち、()()()()()()()()()()()()()()()()()()。因みに、一応当人間で了承は得ているらしいが……まあそれはそれだ。

 

 その戦いの決着の1つが、この場でつく。

 最近『実はそれを口実にイチャついているんじゃないか?』という疑惑が浮かんでいる2人の関係に、何か進展が起きるかもしれない。そんな淡い期待が今、スタジアムには確かに渦巻いていた。

 セナも藜さんも何故か口を利いてくれないからみてる実況掲示板、思ったより面白いことが書いてあって為になるなぁ。

 

『本来ならば、この雰囲気を一蹴する為にすぐにでも3回戦を始めたいのだけど……問題があるのよね』

『ほう、問題ですか。それは一体?』

『速すぎるのよ、2人とも。貴女達極振りや、あとは一部の準極振りと呼ばれているメンバー以外には、恐らく目にも映らないわ』

 

 凄い速さで消費されるスレッドを流し見していると、実況席からそんなどうしようもない問題が投げかけられた。あの2人の戦闘時Aglは確か数十万、明らかに別ゲーレベルの2人の戦いを見ることができるかと言えば……

 

「セナはもし先輩方が全力で戦ったとして、見れる?」

「……私は多分見れると思うよ、残像くらいなら。バフが全盛りだったら普通に最後まで」

「セナでそれなら藜さんは……」

「私は、無理です、ね。多分?」

 

 最後が疑問系だけど、きっとその予想通りになることだろう。トッププレイヤー最速級でこれなのだから、一般トップ層に至っては言うに及ばず。極振りである俺自身、認識することはできてもきっと対応まではできない。エキシビジョンマッチというエンターテイメントとしては、そんなんじゃ大失敗もいいところである。

 

『だから全員が戦いを見れるように、スタジアムの戦闘空間だけ描写速度を変えようと思うの。ようは普段からやってる時間加速と同じ原理ね』

『成る程成る程、レンもザイードも速いですからね。実に良い選択なのではないでしょうか? ですがきっとその準備、時間がかかるのでしょう?』

『いいえ? 通常1時間のところ、今ならたったの5分間……って何を言わせるのかしら?』

『ノリツッコミできたんですね貴女』

 

 ただ分かることは、明らかにさっきまでより解説が楽しそうに、賑やかになっていること。心なしか先程までと違って、運営の人に笑顔が見える気がする。何てことだ……掲示板の流れは止まらない、加速する……!

 

『ですが運営なら、レンとザイードが戦うと決まった時点で手は打っていたのでは?』

『そうね。確かに元々、専用の描写システムは組んでいたわ』

『ではなぜ?』

『ユキとザイル、貴女と翡翠のせいで、同時にお陰でもあるわ。馬鹿なのかしら? やり過ぎなのよ極振りは。運営の想定を超えてくれるのは嬉しいのだけど、超えすぎてサポートできる範囲を超えるのは勘弁して欲しいわね。分かるわよね?』

 

 そんな言葉に、そうだそうだ! 同じゲームをしろ! と盛り上がる観客席と実況板。当事者としては、一応同じゲームをしてるだけである。ちょっとだけ弾幕ゲーになったり、お料理ゲーになったり、花火を爆裂させたり、刹那の見切りをしているだけなのに。

 

『さて、こんな話をしている間に時間も十分稼げたわね』

『思っていたより私たち、反りが合うのでは?』

『ごめん被るわ』

 

 会場は大盛り上がりだった。

 

『ん゛ん゛ッ、気を取り直して。システムの準備が整ったわ。さあ、両者素早さ(Agl)極振りの、UPO最速を決める戦いの幕開けよ』

『イカれたメンバーを紹介しましょう!

  極めようとした暗殺術。しかし手に入れたのは写真術。依頼があれば、例え火の中 水の中 草の中 森の中 土の中 雪の中 あのコのスカートの中!

  邪魔するものには即死をお見舞い! 真なるアサシン、ザイードの入場です!!』

 

 髑髏の仮面に黒いローブ、棒のような右手に首から下げた一眼レフ。不気味な外見をしているそんな姿が、瞬きをした瞬間に既にスタジアムの中に現れていた。

 

『対するは、スピードの世界に魅せられ、今日も今日とて世界を縮めるグッドスピード!

  この世の理は即ち速さ、速さを一点に集中させ突破すれば、大は小を兼ね速さは質量にさえ打ち勝ちどんな分厚い塊であろうと砕け散る!

  頻繁に空中分解するのが玉に瑕! 彗星の如く現れたスピードホリック、レンの入場です!!』

 

 ザイード先輩と同様、にゃしい先輩のアナウンスが終わったと同時に、スタジアムの中にその人物は現れていた。橙の長髪にサイドテール、黒いサングラスにアイスブルーの瞳。そして燕の装飾が飾る膝から下を覆う冷たい風を纏うブーツ。普段ならターコイズブルーのそれを紫がかったピンクに染めて、気合充実といった様子でレン先輩はそこにいた。

 

『さあ、いざ尋常に──』

『勝負!』

 

 女性運営とにゃしい先輩の掛け声と同時、カウントがゼロを示し開始する最速勝負。どちらか勝った方が、俺が次に戦う相手。一瞬たりとも見逃すまいと、集中していた視線の先──案の定2人の先輩は、その姿を掻き消した。

 




なんかVの方に紹介されてたらしいです。
嬉しいですけど、中々に恥ずかしいですね……こう、文章上じゃなくて声で拙作を好きって言われると。


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第166話 神速!敏捷極振り vs 素早さ極振り

『さあ、いざ尋常に──』

『勝負!』

 

 試合開始の合図が告げられ、戦いが始まった。途端に局地的大ハリケーンもかくやという勢いで、スタジアムに爆発音と共に暴風と雷雨が荒れ狂う。轟く雷鳴と吹き荒ぶ風音が全ての音を掻き消す中、コンマ数秒で最高速に乗った先輩2人の姿が()()()()()

 

 曲線の軌道を描きながら左腕の一撃必殺を狙いつつ、右手ではカメラを構えバフの吸収とデバフの付与を狙うザイード先輩。

 最早ドヒャアドヒャアとしか言いようのない、意味不明な軌道で加速に加速を重ね、時折シャゲダンしているレンさん。

 

 当然のように戦闘は三次元戦闘。空中を駆け、否、空を翔ける2人はさながら風神と雷神か。普段なら影を追うのが限界であるのに今は、最高速の2人が何をしているか、空間認識能力が全開でないにも関わらず見ることができていた。

 戦闘はレンさんにザイード先輩が追いすがる形。本来ならば飛び道具を使うザイード先輩だが、二重に吹き荒れる暴風にダガーが意味を成していない。故に狙えるのはカメラによる写真術の攻撃だけだが、それもレンさんがドヒャアドヒャアと意味不明な軌道を描くせいでうまく決まらない。

 

「私達といえば速さ、速さといえば力! 遂に私もこの技を名乗る時が来た! 1発で沈まないでくれよ、ザイード!」

 

 そんな中溌剌と、いつか試合った時とは違いレンさんが満面の笑みで告げる。瞬間、動きがドヒャアというものから、最早UFOのそれに切り替わる。余りにも加速し過ぎたスピードと、何故かそこから一切の反動なく静止する動きの連続により、減速のかかった映像下であってすら分身しているようにしか見えない。

 

「そうですなぁ。そちらこそ、うっかり死にませぬよう」

 

 ザイードさんは自身が纏う黒い霧を深く深く、本人の姿が見えないレベルにまで濃度を上げてゆく。

 

「衝撃の──」

「黒剡を纏え──」

「ファースト・ブリット!」

悲想巡礼(ザバーニーヤ)

 

 瞬間、無数のレンさんが全て彗星のような軌跡を描き黒い霧に突撃し、黒い霧の中からは巨大な獣や大蛇、巨人などが溢れ出す。紅のエフェクトを纏うレンさんに触れた途端、呼び出されたものは耐え切れず爆散するがしかし、肝心のザイードさんの姿はどこにも無い。

 

「チィッ、逃した。壊滅の、セカンド──」

「遅いですな。夜影を巡れ、狂想閃影(ザバーニーヤ)

 

 着地時に発生したレンさんの一瞬の静止。そのタイミングで反撃を許さず、レンさんの()()空間に黒い線が無数に疾った。蜘蛛の巣のように張り巡らされた髪の毛にも似た糸は、間違いなくキルトラップの一種。触れば最後、断ち切られて即死する類の技だった。

 何故かそれを当然のように回避しつつ、一瞬だけ止んだ暴風雷雨の中。レンさんの目が何も存在しないように見える虚空を、まるで見えているかのよう一点に見据えていた。

 

「そこ!」

 

 直後、再開した嵐の風に乗って、3段階に加速しながらその空間を一陣の風が貫いた。しかし綺麗なライダーキックのフォームが穿ち貫いたのは黒いローブのみ。装備品1つのみを代価に、完全なる隠遁をザイードさんは実現した。

 

 そうして一旦戦場が静止したことにより、今まで一切行われていなかった実況が再開した。

 

『おかしいわね……これでも最大限まで減速を掛けている筈なのよ。なのにどうして、見えないのかしら?』

『私には一応見えていましたけど、時折霞んで見えてますからね……やはり近接戦をする同類や、トップの方にいるプレイヤーと比べるとまだまだですね』

 

 頭を抱える運営と、しみじみと呟くにゃしい先輩。それにスタジアムに巻き起こるブーイングと実況板の意見からして、恐らく大半のプレイヤーが減速した映像を通して尚、ヤムチャ状態に陥っているのは明らかだった。

 

「因みにセナは見えてる? 先輩の意味不明な動き」

「んー……大体霞んじゃってるけど、なんとか。多分戦闘用のバフを最大までかければ、見ることは出来ると思う」

「私は、全然、霞んで、見えなかった、です。分身は、どれが本体か、見極められました、けど。ユキさんは、どう、でした?」

「一応、見るだけなら霞むこともなく。ただこれに対応できるかって言うと、流石に無理筋な気がしますね……」

 

 仮にもトップギルドの速度偏重の前衛と、自分で言うのは恥ずかしいがその動きに完全対応出来る自分でこれなのだ。しかも、最大限に減速した映像越しに。実際にはどれだけの速度が出ているのか、想像の範疇を大きく飛び越えてしまっていた。

 

『…………今、運営から情報が来たわ。なんで、なんでこう気がついたらシステムの限界に挑戦しているのよ』

『おや? まだ目で追えてる以上、システム限界には遠いものだと思っていたのですが。ほら、ユッキーの最大加速狙撃とか。これ以上の速度を出しているものは、片手で数えられるくらいはあると思いますよ?』

 

 確かに言われてみれば、あの狙撃だけは先輩2人と比べてもまだ速いかもしれない。正直そこら辺の識別が出来るほど、正確に速度の認識ができている訳ではないけれど。

 

『物体とプレイヤー……NPCも含まれるけれど、その2つでは限界速度が違うのよ。物体は1億、プレイヤーは5000万。一応補足しておくけれど、どちらも本来制御なんてできる代物じゃないわ』

『現に目の前に、2人ほど制御してる人がいますが?』

『今の速度は……大体2〜3000万程度だからよ。それに別種の空間認識能力を5重起動とか、流石に運営も想定してないわよ……使ったことがある人であれば分かるでしょうけど、アレの5倍よ? 正気の沙汰じゃないわ』

 

 ざわ…ざわ…ざわ…ざわ…と会場に満ちる動揺と騒めき。極振りの中でもぶっちぎりで脳に負荷をかけるような、意味不明なスキルの多重起動行使。それは最早明らかに別ゲーをやっているのと同義であり、同時に『そこまでやっているなら仕方がない』という納得をも生み出している──そんな時だった。静寂に包まれていたスタジアムに、動きが起きた。

 

「虚像を曝せ──夢想髄液(ザバーニーヤ)

「デバフなんてしゃらくせぇ!」

 

 一瞬だけレンさんのステータスに点灯した、幻覚と獄毒の状態異常。しかしそれは、吹き荒れる風雷が吹き散らした。ボッという音の壁を突き破ったような音が鳴り、レンさんの放った蹴りで3つの竜巻が発生する。

 まるで意味のわからない、けれど力技であることだけは直感できる状態異常の回復と旋風脚。それによって生まれた、ほんの僅か一瞬にも満たない隙。

 

「苦悶を溢せ──」

 

 そんな須臾にも満たない時間に、姿を消し何処にいるのかも不明なザイード先輩が打って出た。前口上から察するに、次に繰り出す技は間違いなく必殺。そして先輩のRP元の技だ。

 

「んなこたぁ読めてんだよ! 瞬殺の──」

 

 そして当然のように、漏れ出た殺気を読んでレンさんが超反応。一瞬で最高速にまで上り詰め、小さな竜巻のように高速回転しながら突撃する。何もない筈の、けれど間違いなくザイード先輩の存在する空間へ。

 

妄想心音(ザバーニーヤ)!」

「ファイナル・ブリッドォォォォォ!!」

 

 次瞬、虚空とぶつかり合って止まる脚撃。即死が発動し消し飛ぶレンさんのHPに釣られてか、これまで鉄壁を誇っていたそのスカートが捲れそうになり、

 

「ふん!」

「えいっ」

 

 どうなったのかを見る前に、左右から飛んできた指に目を潰された。どうして……脳内現場ネコも電話をかけている。いやまあ、どっちか勝った方が相手になる以上、一応補足だけはしているのだけど。

 

「遅い、遅いですなぁレン殿。運営がイベント後に上げる用のスクリーンショットが撮り放題ですぞ」

「ん? それ自体は私が何かいうことじゃ……もしかして、御膳立てしてくれてるのか?」

「当然ですとも。お互い、初めて最高速を出しての戦い。あの台詞を言わない方が勿体ない」

「なら期待に応えて、言わせてもらうぜ!」

 

 今まで額に上げていたサングラスを下ろし、レンさんがニィッと三日月型の笑みを浮かべる。

 

「私が遅い? 私がスロウリィ!? 冗談じゃ、ねぇ!!」

 

 そうして、爆発する暴雷の嵐。最早1箇所たりとも安全圏が存在しない筈スタジアムの中で、たった1箇所。風が逆向きに吹いている場所が存在していた。それは間違いなくレンさんの手によるものではない嵐。即ち、

 

「見つけたァ!」

「ぐぁッ!」

 

 その空間こそが、ザイードさんのいる空間である。そう認識するよりも早く、レンさんの蹴りはその空間を撃ち抜いていた。クリティカルにダメージを食らったせいで解除されるザイードさんのステルス。

 

「やはり速さに全てを注ぎ込む貴方に、速度では勝てませぬか」

 

 顕になったのは、赤く、紅く長い腕。蹴りを防御してなお折れも砕けもしていないそれこそ、ザイードさんの持つ最大の即死攻撃を放つペットである。

 

「私のバフを全部コピーしてるあんたも、速度は同じはずだぜ?」

「心構えの問題ですな。私はこちらも捨てきれない」

 

 カシャカシャカシャと10連写。蹴と腕が拮抗する瞬間が、ザイードさんのカメラに写される。カメラの写角からしてコンプライアンスに配慮したものが6枚、アウトなのが4枚と言ったところだろうか。

 

「別にいいと思うぞ。そもそも私は、最速を目指してるだけで後ろは気にするタチじゃないからな!」

「はっはっは、レン殿はそういうお人でしたなぁ」

「応さ! だからこそ最速で、最短で、真っ直ぐに、一直線に越えていく!」

 

 笑って言い、突進をやめてレンさんが距離を取った──刹那に。

 

「全スキル起動(ジェネレイト)。受けてみな、私の速さをッ!」

 

 ──宣誓と同時に、返答も待たずに全てが砕け散った。

 誓って瞬きなんて、況してや眼を閉じるなんてことはしていない。空間認識能力だってとうに全開。運営の減速だって正常だろう。だと言うのに、最後のレンさんの動きは目に映りもしなかった。

 

「ふぅ……これが、努力の成果ってやつだ!」

 

 スタジアム中央に出現しVサインを掲げるレンさんに遅れて、激音が響き渡る。観戦している全員が視線を向けた先には、プレイヤーの消滅エフェクトと崩壊し崩れ落ちたスタジアムの壁面と地面。

 

 頭上に燦然と煌めく【WINNER レン 】の文字のみが、当事者たち以外誰の目にも映らなかった勝利を証明している。Agl極振りの勝負は最速であるが故に、最速で終わりを告げた。

 




==============================
 Name : レン
 称号 : 限定解除 ▽
 Lv 80(レベル上限)
 HP 4050/4050
 MP 4000/4000
 Str : 0(0) Dex : 0(30)
 Vit : 0(20) Agl : 989(20000)
 Int : 1(1) Luk : 0(0)
 Min : 0(0)
《スキル》
【高機動戦闘術】【動作制限解放】
【速の求道Ⅱ】
【疾風迅雷・風鳴】
 速度100毎Agl10%上昇(最大500%)
 速度500毎Agl×1.2倍上昇(最大10回)
【電光石火・春雷】
 移動中、接触ダメージを発生させる電撃を展開する。
 速度100毎に10%Agl上昇(最大400%)
 速度500毎に電撃の威力上昇(最大20回)
【天駆翔翼・怒涛】
 移動中、接触ダメージを発生させる風を展開する。MPを消費して空中歩行可能
 速度100毎に10%Agl上昇(最大400%)
 速度500毎に風の威力上昇(最大20回)
【大器晩成スロウスタート】
 戦闘開始時から2秒毎に全ステータスが1%上昇(最大300%)
【黒く輝くトラウマの調べ】
 最大速度到達時間減少
 速度1000オーバー時、基礎Agl×1.2分のダメージボーナス付与
 速度5000オーバー時、被ダメージ70%カット及びスーパーアーマー付与
 速度10000オーバー時、現Agl×1.2分のアーマーバリア付与
 速度20000オーバー時、HPMP自動回復(1s/2%)及び、状態異常無効を付与
 速度30000オーバー時、攻撃にHPMP吸収(与ダメージの2%)及び、スタミナ消費無効を付与
 速度50000オーバー時、即死回避10(即死する攻撃を受けてもHP1で10回耐える)を付与 
【トップ・オブ・バースト】
 HPを99%消費することで、15秒間Agl値を2倍にする
 空間認識能力・閃
 空間認識能力・改
【慣性制御】
 Aglを0にし慣性を消去する
 反応速度上昇(極)
 空間認識能力・真
 空間認識能力・和
 効果時間 : 0秒 冷却時間 : なし
【我が身は飛燕】
 空間機動補助(極)
 立体機動補助(極)
 速度保存(最大1000万)
 空間認識能力・深
《武器》
【迅雷の腕甲】
 Vit +10
 雷属性強化(極)
《防具》
 頭【サングラス】
 体【旅装 改二】
   全天候ダメージ無効
   全環境適応
 手【アクセルウォッチ】Dex+10
   アイテム使用不可
   スキル再使用時間半減
 足【疾風の脚甲】Dex+10
   風属性強化(極)
 靴【旅装 改二】Dex +10
 アクセサリ
 【風切羽】自身に斬撃・刺突属性付与
 【追撃の証】×9 自身に10%の追撃効果
==============================
 Name : ヒエン
 Race : 山風燕
 Master : レン
 Lv 55/55
 HP 800/800
 MP 2100/2100
 Str : 10(10) Dex : 100(100)
 Vit : 5(5) Agl : 800(800)
 Int : 50(50) Luk : 150(150)
 Min : 5(10)
《ペットスキル》
【疾風の翼】
 風を纏い減速をしなくなる
【追い風】
 戦闘開始から60秒毎にAgl+10%
 初めから最高速を出すことが可能になる
【ユニオン】
 主人の装備と合体する(合体時、ステータスを3つまで選んで装備に加算する。HPMPスキルは共有されない)
【サターンエンジン】
 MPを消費することで、際限のない加速を可能にする。
 速度がHPとLukの合計値を超えた場合、このスキルは暴走し最終的に自爆する。
【雨分身】
 周囲の水分を利用して、実体を持った同ステータスの分身を1体作り出す。
【タイム・ジャンプ】
 戦闘中1度だけ発動可能
 自身のMPを100%消費することで、自身及び主人の全てを5秒前に巻き戻す
【反動ダメージ軽減 +1】
【反動ダメージ軽減 +2】
《スキル》
【クロックアップ】
 MPを全消費することで、10秒間自身の速度を倍にする
【圧縮解放】
 5秒間Aglを3倍にするが、効果時間後50秒間全ステータスを10分の1にする。
【魔法生物】
 飛行中、自身全体に魔法属性を付与
【幸運の翼】
 食いしばり(1回)
《装備枠》
 足【ピンクコーティング】
   自傷ダメージ無効
==============================
 Name : シレン
 Race : スペルブック・呪札
 Master : レン
 Lv 55/55
 HP 8/8
 MP 2000/2000
 Str : 10(10) Dex : 10(10)
 Vit : 10(10)  Agl : 10(10)
 Int : 10(10) Luk : 500(500)
 Min : 10(10)

《ペットスキル》
【本型呪物】
 HPの最大値を8に固定する
【呪いの解放】
 8枚ある札(HP)を千切ることで能力を起動する
【身代わりの呪札】
 主人のHPが0になる場合食いしばる
【強撃の呪札】
 Str・Intを利用した次の攻撃の威力が30%上昇
【回避の呪札】
 無敵(1回を付与)
【速攻の呪札】
 Agl上昇×2(1秒間)
《スキル》
【防護の呪札】
 被ダメージ-30%(10秒)
【貫通の呪札】
 攻撃の威力が30%貫通
【呪撃の呪札】
 呪い属性のダメージを与える
【回復の呪札】
 自身の周囲に(3%/10秒)のHP回復フィールドを展開する
《装備枠》
 なし
==============================
掟破りの空間認識能力5重起動
瞬間最高Agl 運営設定上限到達5000万




==============================
 Name : ザイード
 称号 : 写術翁 ▽(Agl +20%)
 Lv 80(レベル上限)
 HP 4050/4050
 MP 4000/4000
 Str : 0(10) Dex : 1(200)
 Vit : 0(0) Agl : 989(20000)
 Int : 0(0) Luk : 0(50)
 Min : 0(0)
《スキル》
【速の求道Ⅱ】【暗殺者の神髄】
【疾風迅雷・風鳴】【疾風迅雷・春雷】
【天駆翔翼・怒涛】【我が身は飛燕】
【黒く輝くトラウマの調べ】
【写真術・速写】
 写真として撮影相手をスタンさせる
 撮影対象(敵)にダメージ
 撮影対象(味方)に回復効果
 撮影対象のバフをコピー
 高解像度確保
 空間認識能力・真
 空間認識能力・写
 反応速度強化
【神足の舞踏】
 舞踏魔術発動可能
 ・基礎ステ バフ・デバフ
 ・魔法攻撃
 ・回復
 空間認識能力・舞
【死霧を纏う者】AS/PS
 攻撃にランダムの毒・低確率即死を付与
 潜伏率上昇・ステルス効果
 空間認識能力・忍
 効果時間 90秒
 冷却時間 100秒
【死の運び手】
 状態異常無効
 指定部位での攻撃に低確率即死とランダムな状態異常攻撃を付与する。この効果は他スキルと累積する。
 潜伏時間2秒毎にAgl 10%上昇(最大300%)
 指定部位 : 右手
《装備一覧》
【超高性能一眼レフカメラ】
 Agl +250 Luk +50 Dex +150
 属性 : なし
 状態異常 : なし
 ステータス閲覧(撮影)
 射程距離延長(極)
 動画撮影可能
 耐久値 : なし
【暗器束】
 Str +10 Dex +50 Agl +100
 属性 : 闇
 状態異常 : なし
 射程延長 投擲補正
 耐久値 150/150
《防具》
 頭【髑髏の仮面】ステルス Agl +8%
 体【暗殺者の襤褸】ステルス Agl +25
  全天候ダメージ無効
  全環境適応
 手【黒染めの布】ステルス Agl +5%
 足【消音の布】消音 Agl +40
 靴【溶闇のアンク】ステルス Agl +7%
 アクセサリ【飾り】即死確率上昇 ×10
==============================
 Name : シャン
 Race : シャイターン
 Master : ザイード
 Lv 55/55
 HP --
 MP 5500/5500(9075)
 Str : -- Dex : --
 Vit : -- Agl : --
 Int : -- Luk : --
 Min : --
《ペットスキル》
【我ハ汝汝ハ我】
 召喚時主人と同化する。その際、HPMPを共有化する
【悪魔の右腕】
 同化した右腕を用いての攻撃に、確率で即死する効果を付与する
【力ハ不要也】
 Strの値を存在しない状態にする
 即死確率を上昇させる
【知恵ハ不要也】
 Intの値を存在しない状態にする
 即死確率を上昇させる
【護リハ不要也】
 Vit・Minの値を存在しない状態にする
 即死確率を上昇させる
【速サハ不要也】
 Aglの値を存在しない状態にする
 即死確率を上昇させる
【運ハ不要也】
 Lukの値を存在しない状態にする
 即死確率を上昇させる
【我ハ命ニ非ズ】
 HPの値を存在しない状態にする
 即死確率を上昇させる(中)
【主人ノ僕ハ我1ツ】
 他のペット取得不可
 代わりにスキルを8つまで追加取得可能
《スキル》
【即死確率上昇】【即死確率上昇Ⅱ】
【即死確率上昇Ⅲ】【魔力のベール】
【魔力核】【魔力核Ⅱ】【魔力核Ⅲ】
【状態異常攻撃 : 呪い】
【状態異常攻撃 : 衰弱】
【状態異常攻撃 : 即死】
【霊体化】
 実体を消すことが可能になる
 その状態では、即死は対霊昇天攻撃として扱う
【】【】【】【】
《装備枠》
 手【罪ノ血染】即死確率上昇
==============================
掟破りの空間認識能力5重起動
瞬間最高Agl2〜3000万
レンと相対時のみ5000万到達


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第167話 乱闘!バトルロイヤル

(こっそりお気に入りとか評価とかしてくれると嬉しいと言ってみる)

予約投稿ミスぅ!


 シンと静まりきったスタジアム。その原因はどう考えたとしても最後の一撃、誰の視界にも捉えられる事のなかったスピードに他ならない。元々追いついていなかったとはいえ、完全に実況を置き去りにし、今という現実さえ飛び越えた最速の一撃。

 

『これは……レンの勝利で、良いのでしょうか?』

『ええ、そうね。見事にシステム限界を叩き出しての勝利だったわ』

 

 しかしそんな静寂も、戸惑い気味に呟いたにゃしいネキの言葉に対応した女性運営の言葉で崩れ去った。わぁっと湧き上がる歓声、口笛指笛に称賛の声。目の前でシステム上実現可能な最高速度を叩き出したことで、ある種のお祭り騒ぎのような雰囲気が形成されていた。

 

「……どうしようユキくん。私かなりスピードには自信あったんだけど、あれだけは越えられそうにないかも」

「俺もちょっと、対応もできる気がしないかも。次の対戦相手なのに」

「やっぱり、ユキさんでも、見えなかった、ですか?」

「全く見えませんでしたね……」

 

 尤もそれは同時に、俺が2回戦で戦う相手がそれだけ出鱈目という証明でもあるのだが。幾つか考えていた対策が全部ボツだ。あんな速度に対応する作戦なんて、もう2つしか残ってない。

 

『さて、解説といきたいところだけど……正直、ここで説明しても見えていた人以外には理解できないわよね?』

『そうですね。私だって半分くらいしか理解できてませんもの。アレを認識できていたのなんて、それこそ当事者と……アキやユッキーはどうでしたー!?』

 

 にゃしいさんの問い掛けに、大きく手でバツを描く。当然スタジアム中の視線がこちらに向けられて、途端に何割かがドス黒い感情に染まった。まあセナも藜さんも可愛いし仕方ないのかもしれない。ついさっき目を潰されたばっかりだけど。

 そんなことを考えつつ視線を巡らせれば、アキさんは手で三角を作っていた。さすが近接戦メインの極振りと言うべきか、最後のアレがある程度は見えていたらしい。

 

『というわけで、極振りすら理解できない速度だったらしいわ。だからこのイベントが終了後……いえ、エキシビジョン終了後辺りには動画を編集して公式サイトにアップしておくわ』

『それが無難でしょうね。気になるプレイヤーの諸君は確認しておくに限りますよ!!』

 

 ああ、残業が増えるわ……と死んだ目でボヤく運営の人(女性)の隣で、にゃしいさんがポーズを決めて言う。実際、最終的にそれが簡単でお手軽な結論だと思う。それ以外に手がないとも言えるが。

 

『そうね、そうしてくれた方が運営としても助かるわ』

『こうして話している間に、スタジアムの修復も終わったようです。つまり1回戦最後、我らがギルド【極天】のリーダーのバトルです!!!』

 

 サタデーナイトフィーバーめいたポーズを決める先輩の指先、スタジアムに展開されている対戦表へ新たな組み合わせが映し出される。

 

『【裁断者】アキ

     vs

 【スローター】センタ

     vs

  【機動要塞】デュアル』

 

 これまでとは明らかに別パターンであるバトルロイヤル形式。1vs1vs1という、トライアングルがそこには描かれていた。

 

『折角なので聞きたいんですが。この組み合わせ、学校で余った人を混ぜてやる体育の準備体操と同じアレですよね?』

『……貴方達が奇数だったから仕方ないのよ。それに、貴方達はシード枠を作ったところで納得するタチではないでしょうに』

『当然ですね。シード枠になんて当て嵌められたら、私なら運営に5発は爆裂したことでしょう』

 

 そうはならんやろと言いたいが、実際に言っている以上なにも反論ができない。俺自身はやらないにしても、半分くらいの先輩がやらかす確信があるし。

 

『恐ろしいこと言うわね……ただ、行動に移してない点だけは褒めてあげるわ』

『ふふん、これでも私は自制心がある方ですからね!』

『自制心があるというなら、さっきここに打ち込んだ爆裂はなんだったのかしら?』

『ゔっ、それは……』

 

 語るに及ばずだった。

 

『さて、にゃしい。早く次の3人をコールしなさい。彼らも会場もお待ちかねよ?』

『ぐぬぬ……もう少し弁明をしたいところでしたが、仕方ありません。コールに移りましょう!』

 

 悔しそうな言葉を溢しつつも、三角帽子の向きを直し、マイクパフォーマンスの様にマイクを持って先輩が立ち上がる。そうしてそのまま、司会席の机に足をかけ、大音声が響き渡る。

 

『エキシビジョンマッチ1回戦も遂に最終戦!

 スタジアムに染みついた硝煙の臭いに惹かれて、危険な奴らの入場です!!

 纏うは劔冑(つるぎ)、中身は砕けぬ聖餐杯。ドヤ顔ダブルシールドの硬さは伊達じゃない! でも道成寺式安珍焼きはご勘弁!

 私の爆裂すら余裕を持って防ぐ男、デュアル!!』

 

 ゲートから入場してきたのは鎧武者。全身を覆う金の飾りがある濃藍の装甲に、顔までを覆い尽くす兜。兜の立物には不思議な形のものが前面に付けられている。脹脛辺りから下ろされたと思われる無限軌道キャタピラにより疾走するその鎧武者が、背部にラックされていた2枚の巨大な大盾を両腕に装備して鉄壁の構えをとる。

 

『闘いたいからここに来た! 極振り唯一の2極特化型にして、その2つ名の通り実態は新大陸でも虐殺者(スローター)

 全身青タイツの姿から、赤黒い骨格鎧に着替えてやってきた。全呪解放限界突破、今宵の魔槍は血に飢えている!

 幸運Eとは言わせない! 狂戦士の魂を宿し、センタのエントリーです!!』

 

 反対側のゲートから現れたのは、槍ニキスタイルからタニキスタイルへ着替えたセンタさん。黒く禍々しい骨格じみた鎧や朱槍、何故か動いている尻尾は、獰猛な笑顔も相まってそれこそ正に怪獣や怪物の類にしか見えない。

 

『私達はあなたを待っていた! 耳を澄ませば聞こえてくるぞ、天に轟く雷霆が。素晴らしすぎるぞ不死身の勇者!

 全ての極振りはこの人から始まった、我々【極天】のギルドマスター!

 UPO物理ダメージ記録保持者(レコードホルダー)、アキの入場だぁぁぁ!!』

 

 ゆっくりと、しかし雄々しい姿でスタジアムに入場してきたのは、7本もの刀を佩き、顔に大きな斜め傷のある男性。たなびく外套、携えた七刃。金の髪に青の瞳。圧倒的な存在感を放つのは言わずもがなアキさんであり、つい最近までアストや黒アストTA(タイムアタック)を競い合っていたその人だ。

 

 さっきまでと同じであれば、すぐにでも試合が始まるはずの場面。だが今回は、明らかにおかしな動きが目の前で起こっていた。

 お互いがお互いに目もくれず、アキさんにのみ武器と視線を向けるデュアルさんとセンタさん。そう、形式はバトルロイヤルであるというのに、明らかなチーミングがそこには生まれていた。

 

「2対1か。考えたな」

「ああ。真正面からアンタと戦うには、コイツを持ち出しても足りる筈がねぇからな」

『ええ、筋力(Str)極振りの貴方と耐久(Vit)極振りの私では、相性は最悪も最悪。勝負にすらなりませんから、潰させていただきます』

 

 しかしそれを前にしても、一切表情を崩すことも、動揺を表にすることもなくアキさんは毅然とした態度を貫いていた。

 だけどそれに不思議はない。同じギルドのメンバーだからこそ、俺は黒アストTA中に実感させられたからこそ知っている、桁違いの強さを知っているから。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()圧倒的な反応力と、黒アストをワンパンで蒸発させる圧倒的な火力を。

 

「構わん。どうあろうと、"勝つ"のは俺だ」

 

 涼やかな音を立て、アキの両の手に引き抜かれる刀剣。アキとそのRP元の象徴である黄金の爆光は、まだその刀身に宿っていない。だがそれでも、抜刀したというだけで威圧感はまるで別物だ。目の前にいないというのに、それだけで空気が張り詰めるくらいには。

 

「やっぱりそうなるよな、RP中のお前は。そんなんだからこの前の奴みたいな追従者が生まれんだよ」

「アレは……事故だ。RPという間接摂取で、本当に光に盲いる奴がいるとは思わなかった」

 

 バツが悪そうに目を逸らしたアキさんは、完全に地金が出てしまっていた。この前のということは、極振りにリビルドしてしまったあの人のことだろうか。あの人、光堕ちしたのか……

 

『我々があなたに続いて極振りを決めたように、あの頃からその求心力は変わらないでしょうに』

「それはそうだが……いいのか、デュアル。RP(ロールプレイ)が乱れているぞ。それは鎧を脱いだ後の口調だと記憶しているが」

『そこまで余裕がないのですよ。貴方が相手となると』

「そうか。俺はそこまで評価される程ではないと思うが……仕方あるまい」

 

 ほんの少しの笑みを溢し、アキさんがそう言った瞬間。3人の中間地点に10のカウントが出現する。最早、待ちきれないということなのだろう。高まっていく緊張感に、実況ですら沈黙し生唾を飲む。

 

「終わらせよう、迅速にな。60秒で倒し切るぞ」

『ええ、手に負えなくなる前に倒しましょう』

 

 減少していくカウントの中、それぞれがそれぞれの得物を構えて気配を鋭く尖らせていく。そんな、踏み込んだ瞬間に断ち切られるような空の中──

 

「1つ、言い忘れていたが」

 

 アキさんが、思い出したかのように口を開いた。

 

「紋章術とは便利な物でな。街中でも使用可能な上、戦闘前に重ね掛けも可能だ。無論、戦闘開始時にはバフはリセットされるが……他スキル同様、チャージ時間はその対象から外れている」

 

 3者の間に浮かぶカウントの残りは1。既にどうしようもないタイミングで告げられた言葉の意味に、気付き対応することが出来たのはセンタのみ。

 

「チッ、守れデュアル! 死ぬぞ!」

『ぐッ!』

「2人で挑んできたことに敬意を評し、こちらも全力で行かせて貰おう。特化付与(オーバーエンチャント) : 閃光(ケラウノス)!」

 

 なんの予兆もなく、突然アキの握る刀身に宿る黄金の爆光。カウントが0になった刹那、全てを呑み込むように極光斬は放たれた。

 直進する絶光を前に、咄嗟に飛び退くことが出来たセンタ。己の守りを信じ、しかし一瞬だけ遅れて最大限の防御体勢を取ったデュアル。それが運命の分かれ目だった。

 

「臆したな、デュアル」

 

 結果として、結末など等に分かりきった、戦闘行動(よていちょうわ)が始まった。

 

 一合──絶光を受けグズグズに溶解した右盾を、デュアルさんが投げつける。内部に仕込まれたミサイルの誘爆を狙っての行為だったが、

 二合──逆側からの絶光がそれごと巻き込み蒸発させた。そしてまともに攻撃を受けたせいで、左盾も耐久値が0になり崩壊する。

 三合──鎧に仕込まれた炎による自動反撃、デュアルさんを内側から突き破り現れる突剣、脚部が展開して放たれる弩、その全てが二刀による斬り上げに巻き込まれ蒸発する。

 四合──纏う鎧が崩壊する。耐久(Vit)極振りの補正すら突き抜けて、強制的に露わにされる最終形態。かつては大いに活躍したその姿も、今ではまるで打ち捨てられた子犬のような儚さしか感じることが出来なかった。

 

「因果応報、天罰覿め──」

「遅い」

 

 反撃として放たれようとしたデュアルさんのカウンター。発動時間内に受けきった攻撃を物理魔法問わず1.3倍にして反射する必殺技は、挙動の出先を潰すような回し蹴りに発動自体を阻まれる。

 追撃として放たれる五、六、七、八合。何処までも何処までも連続して放たれる、七刀全てを使った異形極まる抜刀術。乱舞する絶光と衝撃が、センタさんの接近すら許さずに、一方的にデュアルさんを斬り刻んでいく。

 

「さらばだ、デュアル」

 

 燃え盛る太陽そのものを叩きつけるかのような斬撃に、いかな耐久極振りでも耐え切れない。限界が、訪れた。

 

「ええ、全く。案の定こうなりますか」

 

 極光斬が放たれる直前、この人であれば仕方がないと。諦めたように笑い、デュアルさんは蒸発した。試合開始から30秒、僅かそれだけの時間の出来事だった。

 頭上に存在するのは、HPが0になったことでグレーに変わったデュアルさんの表示。戦闘開始後から、MP以外一切変動していないセンタさんの表示。そしてHPバーが1ドットと、7割程度にまで減少したMPバーのアキさんの表示。バトルロイヤルは、まだまだ終わらない。

 

 




防具性能は意味がないので省略
==============================
 Name : アキ
 称号 : 裁断者 ▽
 Lv 80(レベル上限)
 HP 4050/5335
 MP 4000/4001
 Str : 989(30000) Dex : 0(550)
 Vit : 0(0)     Agl : 0(420)
 Int : 1(1)    Luk : 0(0)
 Min :0(0)
《スキル》
【抜刀術(極)】【古流体術(極)】
【抜刀納刀速度上昇(極)】
【特化紋章術】【動作制限解放】
【装備制限解放(武器)】
【轟破・山穿】
 与ダメ+250%
 被ダメ+300% Vit・Min -100%
【狂笑の斬撃】
 与ダメ+100%
 被クリティカル率 確定
 効果時間 : 30秒 冷却時間 : 15秒
【英雄の進撃】
 HPが10%未満時 Str×1.5
 中確率でHP1で攻撃を耐える
 空間認識能力・深
【閃光の勝利者】
 戦闘対象がモンスター、あるいはカルマ値が悪のプレイヤーの場合与ダメージ1.5倍。防御貫通30%
 空間認識能力・剛
【力の求道Ⅲ】
 Strの補正後値を30,000で固定します
 このスキルは自身および他プレイヤーが条件を満たすことで成長します
《装備一覧》
【装刀オリハルコン】(ユニーク)
 All ーー(+100)
 属性 : ーー
 状態異常 : ーー
 抜刀・納刀速度上昇
 刀剣装填
 復活(1回/HP1)
 耐久値 : なし
【天秤裁剣アストレア】(装填中 : 能力適応)
 Str +250 Agl +120
 Dex +100
 属性 : 風
 状態異常 : 重力増加
 思考操作 浮遊 立体軌道
 耐久値 500/500
【星辰斬剣コールレイン】(装填中 : 能力適応)
 Str +120 Agl +100
 Dex +250
 属性 : なし
 状態異常 : 防御力低下
 空間把握能力補佐
 武器破壊確率上昇
 耐久値 500/500
【断空剣ティルフィング】(装備中)
 Str+150 Agl+150
 Dex+150
 属性 : なし
 状態異常 : なし
 射程延長Ⅰ 射程延長Ⅱ 射程延長Ⅲ
 耐久値500/500
【神罰剣スティグマ】(装備中)
 Str+50 Agl+100
 Dex+200
 属性 : 聖
 状態異常 : ダメージ発生遅延(10回まで)
 打撃属性 1%追撃ダメージ×10回
 耐久値500/500
【邪竜剣ダインスレイフ】(装備中)
 Str+150 Agl+100
 Int+200
 属性 : 闇
 状態異常 : 粘着
 地属性魔法 精密操作 変形
 耐久値500/500
【呪怨剣ヨルムンガンド】
 Str+100 Int+100
 Agl+100
 属性 : 呪い
 状態異常 : 与ダメージ吸収1%
 攻撃ヒット時自身の全ステータス0.1%強化
 攻撃ヒット時相手の全ステータス0.1%弱体
 (最大10%)
【天空翔剣ハイペリオン】
 Str+150 Agl+200
 Def +100
 属性 : 炎
 状態異常 : 延焼
 飛行 逆境 自動反撃(炎)
 耐久値500/500
【薄刃刀 硝子】(通常時装備)
 Str +500
 属性 : なし
 状態異常 : なし
 耐久値 1/1

 頭【耳飾】
 体【軍服上衣】
  全天候ダメージ無効
  全環境適応
 手【手袋】
 足【軍服下衣】
 靴【軍靴】
 アクセサリ【業前の証 : 効果時間(対象限定)】×10
 効果時間+35秒
==============================
【特化紋章術】
※同時発動できる術は1つまで

・特化付与 : 閃光
 属性付与 : 光・獄毒
 詠唱時間 : 60秒
 効果時間 : 戦闘終了まで
《メリット》
 物理攻撃威力上昇2000%
 自身のHPが少ないほどクリティカル威力上昇(最大100%)
 自身のHPが少ないほど基礎Str上昇(最大100%)
 クリティカル発生率上昇
 特殊効果でのHP全損無効
《デメリット》
 HPスリップダメージ発生(1s/1000)
 Vit・Min低下100%
 発動中武器以外のスキル封印
 武装耐久値減少 200%
 痛覚減少深度低下 Lv3(最大10)
(Lv3 = ダメージ発生時殴られてもプラシーボレベルでしか痛くなかったのが、タンスの角に足の小指をぶつけたくらいの痛さに変更)プレイヤーが操作可能な範囲は5まで


・特化付与 : 狂飆
 属性付与 : 風・雷
 詠唱時間 : 60秒
 効果時間 : 戦闘終了まで
《メリット》
 攻撃範囲拡大(極)
 Agl上昇600%
 物理攻撃威力上昇 500%
 物理攻撃の3割を魔法ダメージとして追加
 特殊効果でのHP全損無効
《デメリット》
 HPスリップダメージ発生(1s/800)
 Vit・Min低下 50%
 発動中武器以外のスキル封印 60秒
 被クリティカル確率100%
 痛覚減少深度低下 Lv3
==============================
 Name : エスペラント
 Race : 付喪神・真打
 Master : アキ
 Lv 50/50
 HP 2000/2000
 MP 3000/3000
 Str : 700 Dex : 60
 Vit : 100 Agl : 70
 Int : 100 Luk : 150
 Min : 100
《ペットスキル》
【憑依覚醒 : 大業物】
 ペット取得時発動
 主人の持つアイテムのうち何か1つに憑依する。憑依したアイテムに自身のステータスを全て加算し×1.4倍する。
【スキル共有】
 自身の所持するスキルを主人と共有化する
【憑依物性能強化(大)】
 自身が憑依したアイテムの性能を40%強化する(自身の加算分は除く)
【自律駆動】
 主人の意思とは関係なく活動することができる。その場合、毎分6のMPを消費する
【神妖の末席】
 対霊性を特効(大)を獲得する
【表裏一体】
 使用時主人のHPを確定で5%消費する、或いは5%回復する。また同種族(主人・ペット共通)を討伐する度正気度を1減少させる、或いは1回復させる。
【自己スキル強化+1】
【自己スキル強化+2】
《スキル》
【覚醒】
 毎秒自身のHP・MPを50消費し続けることで、全ステータスを2.15倍にする。
【抜刀補助(大)】
 刀剣類憑依時限定スキル
 主人および自身のStr・Aglの合計×1.2分抜刀速度を上昇する
【刀剣ノ真髄】
 刀剣類を用いて攻撃する場合、与ダメージ+30%、クリティカル発生率+40%
 その他の武器を用いて攻撃する場合、与ダメージ半減、クリティカル発生なし
【あなたと共に】
 主人と自分のMPを共通化する。また、主人のHPが0になった場合、自身のHPを0にして復活させることができる。その際回復するHPを100%にする
【禍払い】
 カルマ値 : 悪に属する相手に対して特効を獲得する(大)
【神も仏も無し】
 カルマ値 : 善に属する相手に対して特効を獲得する(大)
《装備枠》
 憑依 : 【装刀オリハルコン】
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第168話 激突!バトルロイヤル

本当に感想とか評価とか貰えて嬉しくて泣いてます。
もっと泣かせてもいいのよ……?


 たった数十秒の攻防……いや、一方的な攻撃によって崩壊したスタジアム。瓦礫と残骸が散乱したその場所と、直前までの戦闘に誰もが圧倒されていた。

 

「蠢動しな、死棘の魔槍」

 

 そんな空気の中、動くことが出来たのはたった1人。普段とは違う黒い装備を身に纏うセンタさんのみだった。デュアルさんの戦闘に割り込むことが不可能だと判断すると、即座に切り捨て自己バフを積み重ねて最大限に自己強化。システム的には継続中だが、戦闘終了後の隙を突いて必殺の一撃を叩き込んだのは素晴らしいと思う。

 

「貴様ならば、そう来ると思っていた」

 

 だが当然のように、光刀がそれを迎撃する。絶光の放射こそないものの、真っ向から叩きつけられた攻撃の破壊力に必殺の槍は弾かれる。反撃で放たれる反対の刀による絶光を回避する為飛び退けば、それでもう仕切り直しだ。

 

「けっ、やっぱり当たらねえか」

「当然だ。同胞の中で最も警戒している人物を、戦闘中に意識から外すなど有り得ないだろう」

「へぇ……? 随分と期待してくれてるじゃねえか」

 

 凛と二刀を構えて告げるアキさんに、ペロリと唇を舐め上げ必殺の魔槍を構えセンタさんが言う。

 

「ああ。我々極振りの中で、完成した場合の最強は俺ではなくお前だろう。今でこそ俺やレン、にゃしいのような一点特化が冠を頂いているが、所詮俺たちはそこまでの存在だ。1つを極めているが故に強く、同時に単純で非常に脆い」

「付け込み易い穴があるってか? それこそお前、針に糸を通すような話だぜ」

「だがそれで実際、にゃしいは爆裂ではない魔法を手にした。新大陸に現れ、今後も出現し続けるであろう【炎属性無効】という特性持ちの敵が出現したことによってな」

「俺がいつか、極振りにとってのソレになるってか?」

「ああ、間違いないと断言しよう。今はまだだが、既に速度はザイードの半分、力は俺の半分、そして攻守支援回復全対応の魔法系スキルまで使えるとあれば、最早疑いようもない」

「イイねぇ、笑える話だ。浪漫とやりがいがある」

 

 呵呵大笑して、センタさんが槍を持ち直す。その横顔には、三日月形に裂けたような獰猛な笑みが浮かんでいた。知性や武威といったよりは獣の雰囲気を漂わせる、原点である獣が牙をむく行為を彷彿とさせるオリジナル笑顔。

 

「──うし。それじゃあ殺し合うとするか」

「是非もない。この場で競うべきは力量と、どれだけゲームを楽しめているかのみ──ならば雄々しく貫こう」

 

 そうして筋力(Str)極振りと、準極振り構築の極振りによる激突が始まった。

 

「シャァッ!!」

「ハァッ!」

 

 剣閃と槍の閃きが、Agl極振りにも劣らぬ速度で唸り飛ぶ。

 斬撃と刺突が、空を引き裂き震撼する。

 交錯と激突を繰り返し、互いの攻撃を互いの攻撃で相殺しながら、漸くまともな戦闘が成立していた。

 

「アキ、手前の馬鹿げた放射光の威力はあくまで威力補正。基礎Strの増強じゃねえ!」

「それがどうした!」

「さっきの通り、そこが付け入る隙と見た!」

 

 乱れ舞う斬撃乱舞、圧倒的な暴威を誇る2人が刃を交わし始めてから僅か30秒。それだけの時間で、戦場となっているスタジアム内部は余りにも無残な残骸を晒し始めていた。

 

「あくまで手前のStrは、力の求道Ⅲによる固定3万。ぶっ飛んだ数値だが、俺も固定値1万。少しばかり無理すれば、短時間であれば追いつける!」

「だろうな。紋章を使う以上、代償さえ釣り合いその気になれば、追いつかれることくらい理解している」

「だったら味わっていきな、呪いの朱槍の切れ味をな!」

 

 一合どころか、一歩毎に崩壊していくスタジアム。ただそれとは対照的に、2人の先輩のHPには一切の変動が見られない。何せどちらも、当たれば即死の必殺撃。互いに互いの攻撃を躱し、ズラし、相殺させることで戦闘を成立させている。

 そんな2人の戦闘スタイルは、同じ筋力極振りであっても、素早さ極振りの2人同様全く異なるものだった。

 

「力は逼迫、速度はそちらが上手、手数も多い。だがその上で言おう。俺は負けん」

「だったら無理矢理にでもぶち込んでやるぜ、光に憧れる英雄サマぁ!」

 

 その全てがHPを全損させる即死攻撃として働き、衝撃と防御貫通性能による削りを、極振りした筋力によって叩きつける圧倒的な剛剣のアキ。そのスタイルは間違いなく、異形の抜刀術を成立させるとてつもない技量からなる丁寧な力押し。昔ながらのオワタ式だがあたれば勝つという、赤い彗星理論の体現者。

 

 対するセンタさんは、それと比べれば些か技術を駆使する方向にある。剣道三倍段という言葉にもある剣と槍の相性差。それを確と示すように、一撃一撃を全て丁寧に捌き撃ち込み続ける。決して剣の間合いに入り込むことなく、放射光の射出を妨害しながら、しかし自分の刺突だけは急所を狙って放ち続ける。時には魔法を交えることで緩急を描く、堅実と確実性を追求した戦闘方法。

 

 ()()。そう、だが、その程度ではアキさんがどうにもならないことを、散々競い合ったおかげで俺は知っていた。

 魔法が叩き斬られる。緩急のリズムが光刀に斬り裂かれる。槍の攻撃も鋼を叩くような音を響かせ弾かれる。手数を消費させることで致命打は受けないが、代わりに何1つとして攻撃が決め手にならない。

 

「全く手前って奴は! 以前までのお前になら確実に当てられる密度で攻撃してるってのに、お得意の覚醒でもしてんのか!」

「いいや、ただの実力だ。以前までであれば確かに、何度か攻撃をもらっていたであろう場面はあった。だが、ユキと共にボスのTAレコードを刻んだお陰でな。随分とキレが増した」

「おいユキテメェ!」

 

 スタジアム内から罵声が飛んできたが、顔を横に逸らして見て見ぬ振り。聞こえてない振りを決め込む。アキさんがあの結果超強化されていようが、知ったことではないのだ。いつか我が身に返ってくる気がしないでもないけど。

 

「だが確かに、このままでは膠着状態もいいところだ。故に1つ、趣向を変えるとしよう」

 

 そんなことを考えている間に、絶光を投射しアキさんが距離を取る。態々刀の間合いからも槍の間合いからも外れるような行為に、センタさんが好機と突撃し──

 

「装填 : 神罰剣スティグマ。正義の味方の威を示せ」

「チィッ!」

 

 舌打ちと共に、即座に進路から外れて逃亡した。直後その直前に向け放たれる極光斬。しかしその攻撃は、つい数瞬前までとは違って一切の破壊を生まない。光が通り過ぎた後には、何も変わらぬ瓦礫の道があるのみだ。

 

「ダメージの発生遅延武器とかおま、お前! 手前が一番持っちゃいけないタイプの武器だろうがよそれは!!」

「ダンジョンアタックの成果だ。中々にいい物だろう?」

 

 次いで放たれる、第二第三、それに重ねて放たれる第四第五の極光斬。先程と同様それは致命の破壊を刻み……センタさんの言葉が正しいのであれば、そしてアキさんの宣言通りの代物であれば、刻一刻とセンタさんの首を絞めているに等しい一手を打ち続けていく。

 

「冗談じゃッ!?」

「上限10回。では、さっそく行こう」

 

 光刀を1本鞘に納め、パチンとアキさんが指を弾いた。瞬間、スタジアムの大地から発生する必殺の絶光。合わせて起こる震の波動と即死圏から逃れるために、鮭が飛ぶようにセンタさんが空へ跳ぶ。

 次いで逃げ場を無くすように、センタさんの着地場所から放たれる光の刃。まるで全てが計算づくとでも言うかのように、片手で絶光を投射しながら地雷を設置、起爆を繰り返して行く。

 

「ッ、チクショウ! こんな序盤で出すつもりはなかったが、やるしかねぇ!!」

 

 そんな悪態を吐きながら、センタさんが更に更にと上空へ跳んで行く。そうして数歩でスタジアムの限界高度にまで達し、そこで反転。手に持った朱槍をまるで、オーバーヘッドキックの要領で下へ向けて蹴りだそうと動き始める。

 

「ああ、この程度ならば突破されると予想済みだ」

 

 しかしそこはギルドメンバー。そう来るであろうことは予想済みであり、故にこそ対抗策も準備が完了していた。何せアキさんは7刀流。特別な刀は一振りでなくて当然なのだから。

 

「装填 : 邪竜剣ダインスレイフ。光の顎門で闇を喰らえ」

偽・突き穿つ死翔の槍(蹴り・ボルグ)ッ!!」

 

 上空から無数に分裂しながら、蹴りで撃ち出されるセンタさんの朱槍。どの破片1つが掠っても即死する広範囲攻撃に対し、アキさんが選択したのは迎撃。新たに装填した刀を大地に突き刺し、有り得ないことに魔法が行使される。

 記憶が確かなら、それなりに高位の《土石竜》という魔法。使用者本人を中心に竜の顎門が形成し、土石流のブレスを放つというもの。それが帯電するように絶光のバフを纏い、ドラゴンブレスとして放たれる。

 

 空中で激突する互いの必殺。

 その拮抗に競り勝ったのは、絶光のドラゴンブレスだった。

 

筋力(Str)極なのに魔法とか半分ズルじゃねえか!」

「ああ、幸運極振りの力を借りたドロップ品だからな。否定はできん」

「おいユキテメェ!」

 

 本日2度目の怒りの視線。さっきとは反対方向に顔を逸らして誤魔化すけれど、少しだけここに居辛くなってきたかもしれない。

 

「ふーん。私たちとは滅多にダンジョン行かないのに、アキさんとは行くんだ。へー」

「今度、一緒に、行きましょう?」

「はい……はい……すみません……」

 

 周りから『完全に尻に敷かれている』とか、『浮気がバレた夫の図』とか聞こえてくるけど、まさにその通りだから何も言い返せない。言い返すつもり自体無いとはいえ。

 

「いざ、鋼の光輝は此処に有り───浄滅せよ、ガンマレイ!」

「焼き尽くせ、ウィッカーマン!」

 

 そんな風に、わずか数秒目を離しただけで、試合は終局へ移っていた。空から振り下ろされる木組みの巨人の鉄拳ならぬ木拳に対し、地上から天へ昇る光輝の柱。何度目になるかも不明な極大火力の衝突に、スタジアムが激震した。

 

「はぁぁぁぁぁッ!」

「オラァァァァァァッ!」

 

 数秒の拮抗の果て。競り勝ったのは光輝の柱だった。木組みの木拳を光が蝕み、接触している面から順に崩壊させてゆく。初めは拳が、次は掌が、次は前腕が、順々に光に飲まれ崩壊していく。

 

「後でそのダンジョン教えやがれッ!!」

 

 直後、光が全てを呑み込んだ。

 

 そうして出現した、頭上に燦然と煌めく【WINNER アキ 】の文字。圧倒的な強さを見せつけ、堂々として勝利を収めたその姿は、RPを楽しめたからから、どこか清々しく晴々としていた。

 




ランサー(バーサーカー)(キャスター)(アサシン)が死んだ!


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第169話 最速vs最運/The Fastest

感想評価ありがとうございます!


 必殺技と必殺技のぶつかり合いという、一番側から見ていて盛り上がる展開で決着のつけられた1回戦最後の勝負。それは歓声とともに幕を閉じられた。

 

『決着!! 最後は互いの必殺技をぶつけ合い、筋力(Str)極振りのアキが勝利しました! いや、センタも筋力(Str)極振りではあるんですけど』

『そうね、少し思うところはあるけれど素直に称賛するわ。現在のUPOの環境で言われる「防御よりも攻撃に特化した方が良い」という話が、よく現れてしまった戦いだったかしら』

 

 まだ歓声も収まらぬ中、先輩と女性の運営が感想戦を始めた。先輩と翡翠さんの戦いの時も言っていたが、現在のUPOはタンク<回避盾という環境になっている。

 正直アキさんとダンジョンアタックしたことのある身としては、20発もアキさんの攻撃を耐えたデュアルさんも異常だ。いったいどんな防御力をしているのか想像もつかないほどに硬い。そう、硬いのだが……相手が悪かったとしか言いようがないだろう。

 

『何度か調整を入れているのだけど、もう少しタンク型について何か考えなければいけないわね、これは。しっかりと上に報告させてもらうわ』

『そうですね。アキや私は規格外ですから除外するとして、平均的なプレイヤーやボス相手にも効果を為していませんからね。まあ、どんな強化がされようと、私は爆裂するのみですが!』

『それで済むのが極振りの強みで、同時に弱点よね』

 

 そうして2人が解説している間に、頭上に浮かぶモニターの画面が切り替わる。

 

 ==========================

 ユキ━━━┓   ┏━━にゃしい

      ┣┓ ┏┫

 ザイル━━┛┃ ┃┗━━翡翠

       ┣┻┫

 レン━━━┓┃ ┃ ┏━━デュアル

      ┣┛  ┗╋━━センタ

 ザイード━┛    ┗━━アキ

 ==========================

 

 映し出されたのは、これまでの戦績が書き加えられたトーナメント表。こうして見ると、戦闘回数は全7回。もう半分の地点を通り越していた。3位決定戦をやるのならもう1回プラスされるから、折り返し地点となるけれど。

 

『さて、幾つか予想外の結果もあったけれど、現状はこんな感じね。次戦はユキvsレン、その次が翡翠vsアキとなるけれど……にゃしいの予想はどんなものかしら?』

『そうですねぇ……翡翠とアキの戦いは、余程のことがない限りアキが勝つでしょうね。物理防御特化のデュアルが耐え切れなかった以上、中々に厳しいかと』

 

 それに関しては、俺も同意見だった。それでも何かしでかしそうなのが翡翠さんではあるけれど、それをまだだ!と吼えて超えて征く気しかしないのもアキさんである。

 

「実際、ユキくんは勝てると思ってる?」

「全然。切り札を総動員すれば、勝ち目が0ではないかもしれない程度だと思う」

 

 そんなアキさん相手に、本来だったら使う予定だった変身。1発の火力で勝負する為の抜刀術。紋章術による5秒続けばいい程度の超速度。そして既に使った魔導書による大呪文に、幸運頼りの銃の乱射。最後にいつも通りの爆弾を使い尽くせば、勝ちをもぎ取れる可能性は0じゃないと思う。

 

「ワンパンで、負けても、慰めて、あげます、よ?」

「それはなんか情けないので、頑張ってきますね……」

 

 何だかすごく優しい目で、藜さんに言われてしまった。そんな風に言われて、ワンパンで負けたらそれこそ男じゃない。アンチやファン、知り合いの前ならともかく、好きな女の子の前では格好つけたいのが男という生き物なのだから。

 

 そうひっそりと決意を漲らせつつ、今度遊ぶことを指切りして入場ゲートの方に向かう。先輩と運営の人が、詳しい説明を交えて何か話しているけど今は関係ない。どうやって一矢報いるか、そこから勝つか。頭の中はそれでいっぱいだ。

 

『対して、ユッキーとレンの方に着いては分からないんですよね。ユキはユキでどうやら隠し球があるみたいですし、レンがそれすらぶち抜いてくれる可能性もあります』

『へぇ、中々面白い戦いになりそうじゃない。ということで、次の対戦カードはこれよ』

 

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  【爆破卿】ユキ

     vs

  【限定解除】レン

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 やっとこさ辿り着いた入場ゲートから見上げる先、今回は前口上がなくモニターが切り替わった。あそこまで盛り上げてくれたのだから、割と楽しみにしていただけに寂しさを感じる。

 

『あら、あの気持ちのいい前口上は言わないのかしら? 隣で聞いていて、かなり楽しい部類の話だったのだけれど』

『喉が疲れました。もう少し休憩すれば、あんな大声も出せると思います。すみませんね、2人とも! げほっげほっ』

 

 運営席から聞こえてくるのは、言われてみればどこか掠れたような先輩の声。咳き込む辺り本当にそうなのだろうけど、VR空間であるUPO内でそうはならんやろ。なっとるやろがいと、セルフでツッコミを入れながら深呼吸。

 

『そういう訳よ、サクサクと意地をぶつけて貰いましょう。

 来なさい。1回戦では圧倒的な手数でザイルを上回った想定外。幸運極振りのユキ、自称最弱の力は期待しているわ』

 

 凛と告げられたコールに、少し予想外に思いつつもスタジアムに足を踏み入れる。ザイル先輩との時は余裕があったから演出をしたけれど、今回は無しだ。

 代わりに、使うと決めた切札の為に準備を始める。ずっと使う機会がなく放置していた11個目のスキル【運命のタロット】。何処かのゲームの4作目のように、回転しながら降ってくるタロットカードを握り潰すことでランダムな効果を発揮するスキル。

 

正義(ジャスティス)は逆位置、教皇(ハイエロファント)は当然正位置、愚者(フール)は正位置で選ぶのは(ロッド)で……」

 

 本来なら完全にランダムな効果を発生させるスキルも、3万という幸運(Luk)の暴力の前には無力。9割9分好きな効果を選択して発動できる。今回みたいな場合を除いて、実用性は正直皆無だけど。

 

 正義が発生させるバフは基礎ステータスの平均化。正位置なら相手の物を、逆位置なら自分のものを。

 教皇が発生させるバフは重複不可の属性防御・状態異常耐性強化30%。正位置なら自分を含めたPTの、逆位置なら相手を。

 最後に愚者は次の戦闘終了まで任意のスキルを1つ、正位置なら取得し逆位置なら喪失する。獲得スキルによって、剣*1・聖杯*2・杖*3・硬貨*4のどれかが後ろに付く。

 

 要約するならば、幸運極振りの特性を生かしたたった一戦限りのスーパーモードだ。この程度で勝てるとは、正直微塵も思えないけれど。

 

『そしてもう1人。システム限界に到達した速度極振り。その執念には称賛をあげるわ、レン。その速度を見せつけなさい。勝負の時よ』

 

 一歩一歩ゆっくりと歩きながらスタジアムに向かった俺とは違い、つい数分前の焼き増しのように突然レンさんはスタジアムに出現した。

 ほぼ瞬間移動のそれだったけれど、まだちゃんと影は捉えることができている。これなら勝機は0ではないかもしれない。笑顔に対抗して笑顔を浮かべつつ、そう心の中では思っておく。

 

「まあ、アナウンスはなかったけど。全力全開、楽しくやろうぜユキ!」

「そうですね先輩。ずっと隠しておくつもりだった切札を切るんです、そちらこそどうぞ楽しんで下さい」

 

 言葉を交わした直後、先輩との中間地点にPvP開始のカウントが出現する。減少していくカウントの向こう側、笑顔を浮かべて先輩がサングラスを装着した。

 

「切札ねぇ。いいぜ、そっちがその気ならこっちも最初から最速だ。だが、速さが足りないお前に私が捉えられるかな?」

「そうですかね? ……そうとも、限りませんよ」

 

 同時にこちらも、展開していた魔導書と武器を一旦背後に待機。真横に突き出した左腕に、意味を察してくれた朧が合体する。

 

「変身!」

『HENSHIN』

 

 瞬間、眩い光(自前)を発しながらユキというアバター自体が解ほどけた。

 

 《人外用コントローラー type:Size changeを起動します》

 

 そしてそんな表示が目の前に流れ、アバターが組み直されていく。普段の自分より明らかに小さい小柄な女性型アバターへ。

 

 まずはインナーのみを装備した姿に。そこからドレスアーマーが着装され、次にはゴツい籠手、ドレスアーマーの内部に仕込まれたスカート、翼の煌めきがあるブーツと続いてゆく。次に左腰に佩く形で純白の刀が、右腰に吊るす形で大型の砲が、そして背負う形で翼のデザインが可愛らしい杖が。そして最後に、頭上に浮かぶアストの物をダウンサイジングした光の輪と、セット装備の効果であるアストと同じ純白の翼が出現する。

 最後に魔導書30冊と3種の仕込み杖を普段通りに展開すれば、平成後期仮面ライダーの最終フォーム然とした、全部のせフルアーマーの完成である。

 

『Change WAS……WASP? ……ANGEL!』

 

『え、は……はい?』

『女の子になったわね……?』

「え、ちょ、は……?」

 

 朧が困惑している。実況が困惑している。レンさんも困惑している。そして会場全体が困惑している。どうせ戦闘は10秒程度しか持たないのだから、やるならここしかない。

 

「降臨、満を持して!」

完全調和(パーフェクトハーモニー)満喫してますって顔しやがって……」

 

 ポーズもしっかり決めて言えば、笑いながらレンさんはそんな言葉を溢した。元ネタは伝わってくれてたらしい。いや、伝わったのかこれで。

 

「まあ、ちょっと見た目はアレですし、配役も真逆ですが。

 蜂のライダーとその腕時計をしている人が出会えば、やる事は1つでしょう!」

「ハッ、そういうことか。いいぜ、付き合ってやる」

 

 ゾワリと、背筋に悪寒が走った気がした。……気のせい気のせい、流石にこんなことで2人に何か言われる所以はない。それよりもなんというか、剥き出しになっている足とか肩、少し布の薄い胸元辺りに嫌な視線の方が気になる。見せ物じゃないぞ散った散った──いや、今に限っては見せ物だった。

 

『バ美肉おじさんなら安心してガチ恋できる……』『あれは爆破卿あれは爆破卿あれは爆破卿』『有識者ニキ、これは百合?』『……Not百合!』『合法!』『合法!』

 

 周囲から聞こえる言葉には聞かなければよかった言葉も多数混じっているけど、一旦意識から全部締め出していく。そうしないと、相手にすらならずに即死してしまうだろうから。

 

「クロックアップ出来ないお前程度、敵じゃないぜ」

「付き合いますよ、10秒だけなら!」

 

 とっくに終了していたカウントダウンを置き去りに、なぜか続いてしまっていた寸劇が終わる。そしてお互いに示し合わせることもなく──

 世界が停滞しながら加速した。

 

*1
武器スキル1つ選択

*2
防御スキル1つ選択

*3
魔法スキル1つ選択

*4
補助スキル1つ選択




忘れてはいけない……この作品はあくまで、ゲームとしての整合性をぶん投げたコメディだと(自戒の意味も込めて)


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第170話 最速vs最運/The Fastest②

30秒でガス欠する代わりの主人公最強です


 やったことは至って単純。試合が始まった瞬間、自分を含めたスタジアム全体に停滞の紋章を発生させ、同時に自分には俺自身が認識できる限界速まで加速の紋章を付与。減速を強要しつつ自分だけは強化されたステータスで加速するという、極めて効果的な最速への冒涜。

 

「クロックアップ!」

「ラディカル」

『Clock UP!』

「グッドスピード脚部限定!」

 

 そんな自爆特攻前提の広域デバフで、なんとか落とし込んだ速度は3〜500万。そのあまりに膨大な数値に追いつくべく、加速した自分の速度は精々が10万程度。これ以上は制御不可になるから仕方ないとはいえ、30〜50倍の差があるうえ毎秒MPが凄まじい勢いで減少を始めていく。

 そう、たがたが30〜50倍しか差がなくなったのだ。普段の俺自身のAglは貫禄の0。そんな状態で数千から数万のAglを持つ敵やプレイヤーを相手にしている以上、その程度の差であれば──対応できなくも、ない。

 

「衝撃の──」

「ライダースティング」

「ファースト・ブリットォォ!」

『Rider Sting!』

 

 だが先手を取ったのは、当然速度の上回るレンさん。速く、誰より速くと極められた極限速に、紛い物では追い付けない。故に先手を取ったのはレンさんであり、暴風雷雨を纏う脚撃は変わらぬ最速最強を誇っていた。

 

 そう、予想通りに動いてくれた。

 

 同様に加速しながら背中の翼を操作。身体から引き千切れるような勢いで急速旋回、彗星のような蹴りとの正面衝突だけは回避。余波の暴風雷雨で()()()()()、突き出した朧(分身)が衝突した。

 

「ッ、風も雷も効かない……!?」

「ダメージ減衰限界の70%に別枠で属性ダメカット30%……今の(おれ)は、属性ダメージに対しては無敵です!」

 

 そこに物理ダメージや魔法ダメージが入れば、普通に7割カットしかないので死んでしまうが。だがそうして向こうのダメージソースを回避できたのと同時に、こちらのダメージソースも無効化されていた。

 

「でもそっちこそ、状態異常が一切入らない上にノックバックもノーダメージじゃないですか」

「状態異常無効にスーパーアーマーにバリアだ。ユキには効果覿面じゃねぇのか?」

 

 悔しい程にそれは事実だった。バリアの値がどれほどかは分からないけれど、朧の自爆は火力不足で爆弾による固定ダメージも同様だろう。そして何より、バリアには再展開という簡単なリセット方法がある。そんなものを削るなんて、まともにやってられない。

 

「それはどうですかね? こっちはもう、描き終わりましたよ」

 

 向こうが最初から最速なら、こちらだって最初から全ブッパだ。先程の攻防の間に、余っている処理能力で加速をかけた魔導書で描いていた魔法陣。【神格招来】の為に描いていたそれを破壊しようとレンさんが動くが──今の速度なら、こっちの方が1手早い。

 

「【神格招来】、いあいあハスター!」

 

 ザイル先輩相手に召喚したクトゥグアがレイドボスを呼び出しての無差別全体攻撃。もう1つの召喚先であるクトゥルフがレイドボスを呼び出しての広域致命弱体。ならば今使ったハスターは?

 

 今纏っているフルアーマー装備の上から、黄色く足先を大きく超えるほどの衣が装備され、顔の半分を蒼白い仮面が覆い尽くす。そして、SANの値が唐突に50程吹き飛びながら、H()P()()M()P()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「おまっ、RP秒で放棄するのか!」

「パーフェクトもハーモニーも無いんですよ!!」

 

 即ち、自身のレイドボス化による超強化の他にない。ただその代償は莫大であり──お客様! 困ります! あーっ! お客様! あーっ! いけません! HPとMPが! 毎秒400回復とかいうクソ強バフが掛かっているのに! あーっ! ゴリゴリと! 

 

「せいっ!」

 

 そう思わず脳内で絶叫せざるを得ないほど重い。加えて代償として呼び出しから四肢を10秒は拘束されてしまう。普段ならそんな束縛は何ともないが、この見た目だとR指定が掛かりそうなので無理矢理に引き千切ることで解除。

 当然そんな隙をレンさんが見逃してくれるはずもなく、上空から設定されている重力までをも味方につけた、堂に入ったライダーキックが(おれ)目掛けて墜落してきていた。

 

 だが、これはこれで都合がいい。向こうがこっちの遊びに乗っていてくれた以上、今度はこちらが向こうのRPに乗っかるべきなのだから。

 

「壊滅のセカンドブリットォォォ!!」

「柔らかなる(けん)列迅(れつじん)」ッ!!」

 

 彗星のような蹴りを迎撃するのは、影から伸びた2条の鞭状の黒い物体。(おれ)のペットのうちの一体であり、現在進行形で憑依することによって遠距離攻撃に耐性をつけてくれている。

 そんな朔月と名付けた子のスキルのひとつである【自動反撃】に諸々のバフを限界まで乗せた一撃。全部のせモードである以上、その威力も跳ね上がっている筈、なのだが……

 

「ハッ、やっぱそれ相手には当たるもんだなぁ!」

「RPを間違えたみたいですね!」

 

 影の鞭を蹴り破り、到達しかけた蹴りを寸での所で障壁が防ぎ切った。反撃に放った一撃ごと綺麗に回避され、見事に距離を取られてしまった。やっぱり同じ土俵で争っていても、勝ち目なんてないらしい。

 

「だから、」

 

 無手だった左手に巨砲【天筒 : スノーホワイト】を、右手にはいつもの仕込み杖(銃)の【二式銃杖《新月》】を。それぞれに握り締め、腰部ポーチから爆弾をいつでも放てるよう展開、当たらなくていいから大雑把に狙いを付けた。

 

「鉛玉と爆薬の大バーゲンです!!」

 

 全部のせを喰らえと吠えながら、自分の誇る最大範囲攻撃を解き放った。腰のポーチからは爆弾を障壁で加速させながら投擲、右手に握る仕込み銃は特別性のマガジンからホーミングする弾嵐を、セット装備によって生える天使の翼から光系魔法の光弾を。更に今回で使い切る前提で、両腰に下げたユニークアイテム【無限火薬】から2種の爆弾を朧の分身に持たせて特攻してもらう。

 

 ザイル先輩と張り合った弾幕に加え、女性専用装備とランダムスキルの加護すら一身に受けて放つ+αのフルバーストだ。回避なんて生半可なことは許さず、火力もプレイヤー相手ならば十分すぎる物なのだが……当然のように当たらない。

 圧倒的なその速度に。纏う風雷の防壁に。最奥に展開されているバリアに。爆弾も爆風も銃弾も魔法も、こちらの打つ一切の手が阻まれる。有効打になり得ない。

 

「胸の歌勝負も、私の勝ちだぁッ!」

(おれ)は音痴ですからね!」

 

 だがそれでも、こちらへの侵攻ルートを一直線に絞ることはできた。お陰で左の大筒が狙いをつけられる。

 

「万里を駆ける翼を刻め!」

 

 左で構えた長大な大筒の根本、そこにまるでムカデの足の様な物体が何本も展開された。即ち、携行型ムカデ砲。普段は持てないし撃てもしない反動がでかい巨大武器。それをTS状態の今持つのは、れーちゃん案だが完璧がすぎる。

 

「瞬殺のファイナルブリットォッ!」

「打ち砕け、ホワイト・レクイエム!」

 

 宣伝のため武器名を叫びながらの砲撃。火薬×火薬×火薬×電磁加速×加速紋章という豪華ラインナップに加速された砲弾は、当たり前にシステム限界速に到達。プレイヤーやNPCの限界の2倍であるその速度が、遂にレンさんを捉え撃ち抜いた。

 

 一条の光線となって突き進んだ弾丸は、風雷のバリアを音よりも早く突破。レンさん本体を覆うバリアを粉砕。脚部に纏う装甲すら打ち砕き、アバター本体へ届きそのHPを瞬時に0へと落とす──寸前、1枚の古めかしいお札が宙を舞った。

 そしてそれに合わせて、レンさんのステータス表示に点灯する1回限りの無敵状態を示すアイコン。故にああ、こちらの砲撃は届かない。蹴りの威力を減退こそさせたものの、両の手に握っていた銃達を砕かれる結果になってしまった。

 

「おいおい、マジかよ。まさかそっちのネタまで拾ってくれるとは思わなかったぜ?」

「なんの話か、本当に分からないんですけど!!」

 

 内心舌打ちをしながら、両手を使用しての爆竹投擲。なんとかそれで弾幕を張りつつ距離を取ろうとして、全然間に合わない。爆風ごと薙ぎ払われて、無理矢理に接近される。

 

「切り拓いて白雪、《奥義抜刀・百刀繚乱(ひゃっかりょうらん)》!」

「それならそれで、運命的じゃねえか。私は嫌いじゃないぜ!」

 

 それに対処する為に、武器を【天刀 : 白雪】と【杖刀 : 偃月】に持ち替え。数少ないHPMPを消費して、白雪を使い今放てる最大威力の攻撃を解き放った。

 HP10%とMP200を消費して行う、威力200%+追撃ダメージ50%の25連撃。自分を中心とした(レベル÷2)mの球状範囲内の何処にでも、任意の座標に威力に応じた斬撃を発生させる正しく奥義といった技。

 

「しゃらくせえ!」

 

 幾ら爆竹と光弾による移動制限があったとしても、そんなものでは届かない。ドヒャアドヒャアする何処ぞの鴉かと言いたくなる動きで毎秒ごとに貼り直されるバリアに防がれ、バリア自体は斬り裂いているが本人にまで刃が届かない。だから──

 

電磁抜刀(レールガン)――(まがつ)!」

 

 左手で握った白雪を使い放っている奥義とは別に、右手で担いだ偃月で最大威力の斬撃を振り抜き始める。いつかレイドボスのHPすら吹き飛ばして見せた、(おれ)の自爆前提の最大火力がスタジアム内に炸裂し──

 

 フォ・ト・ン・ブ・リ・ッ・ツ

 

 と、刀を振り抜く直前に。レンさんの口が動いた様な気がして。

 

「……へ?」

 

 気が付けば、(おれ)はバラバラにされていた。30冊あったはずの魔導書は全てが紙吹雪となって舞っており、迎撃手段として残していた【天杖 :スノーホワイト】と【錫杖《三日月》】は叩き折られていた。

 一瞬遅れて、自分の身体もバラバラに砕かれていることを把握する。天使の輪は砕かれ、翼は毟られ、四肢は崩壊しダメージエフェクトを発生させるのみの機関となっていた。

 

「Time Out……ってな」

 

 地面に向けて落下しながら更に数瞬遅れて、苦しそうに呟くレンさんの声を聞いた。何とか顔を向ければ、土星の輪の様なエフェクトを両脚先に展開し、全身をピンク色のエフェクトに包まれた2人のレンさんが空を踏み締め立っていた。

 

「どう……やって?」

「こういうのは、本当はアキの領分なんだけどな。1/10まで減速されてるなら、こっちが100倍加速すればいいだけだろう! 実際は16倍しか出来なかったけど」

 

 笑顔でそうVサインまで出されてしまっては、俺にはもう何も言うことはできなかった。真正面からこっちの弄した策をぶち抜かれたのだ、素直に負けを認めるのみである。

 

「なるほど、それじゃあ仕方がないですね」

 

 わざと儚げに微笑んで、空を飛ぶ力を失い落下を始めた。ひらひらと木の枝から落ちた木の葉のように、真っ白な羽根をこぼしながら落ちていく。

 

 だからといって、()()()()()()()()()()()()()

 

 たかだかゲーム、されどゲーム。好きな人の目の前では、男は大抵カッコつけたいものだから。このまま一矢を報いることもなく、ただ敗北を喫するなんてことは許されない。故に──

 

「轟け、ヴァン」

 

 試合開始から隠し続けた手札である、愛車の召喚特攻を切った。当然のようにバイクの速度はシステム限界。ハンドル操作なんて一切聞かない愛車は、とっくに速度計をレッドゾーンに振り切って突撃する。

 同時に俺も、死亡したことで変身が解除。足に黒い影で作られた腕が絡み付きながら、四肢を再生させながら復活するが……こんなもの、ザイル先輩相手ならともかくレンさん相手じゃ意味がない。E缶なんてないのだから、後はもう身を切って特攻(ぶっこみ)あるのみだ。

 

「んなッ!? まだ生きて!」

「御生憎さま、残機はまだまだあるんですよ!」

 

 冗談じゃなくダメージはこれで限界。必殺の愛車(ヴァン)の突撃も、間違いなく直撃軌道であったのに腕一本を捥ぐだけで終わってしまった。そんな状態のレンさん相手に、けれど速度という点で致命的な弱点を背負っての第2ラウンド。つまりやることはただ一つ!

 

「ならその残機ごと──」

「空よ! 雲よ! 憐みの涙で命を呪え!」

 

 そうして俺は、抱えた大量の爆竹を使い自爆した。

 簡易ポーチ1つまるごとを爆破させたそれは、突撃してきたレンさんを巻き込んで吹き飛ばす。

 

「エターナル・ぐっ……」

「ぶち抜く!」

 

 が、案の定バリアを突破できずに胴体をぶち抜かれた。結果、纏う風雷をまともに受け復活と死亡が無限の連鎖を始める。狙い通りだ。そしてこれが、生き残るための最後の足掻き!

 

「この距離ならバリアは張れないな!」

 

 倍率ドン、更に倍。簡易ポーチを更に2つ起爆して、無理やりバリアの内側で自爆する。瞬間、ちぎれ飛びガラスのような音で砕けるレンさんの右脚。してやったりと笑顔を向ければ、すぐに復活の限界が来た。

 

「一矢は、報いましたよ」

「大事な時だけは勝ちやがって──だけど、私の勝ちだ!」

 

 そうして直撃する左脚に、何度かも分からないほど繰り返し、即座に全身が砕かれた。

 

【WINNER レン 】

 




ユッキーが今回、最後の最後まで無限残機を使用しなかったのは、普段は一切意味を成さないデメリットですが、復活するたびにAgl-10%が付与されるからです。
==============================
 Name : しらゆき(ユキ)
 称号 : 爆破卿 ▽
 Lv 80(レベル上限)
 HP 4000/4000+1600
 MP 3975/3975+17300(25250)
 状態 : 憑依(朔月)・正義(逆位置)・教皇(正位置)・愚者 : 杖(正位置)
 Str : 140(350) Dex : 140(600)
 Vit : 140(660) Agl : 140(650)
 Int : 140(150)Luk : 140(30000)
 Min : 140(660)
《スキル》
【幸の求道Ⅲ】【仕込み長杖術(極)】
【動作制限解放】【運命のタロット】
【ドリームキャッチャー】【龍倖蛇僥】
【コート・オブ・アームズ】【魔力の泉】
【戦術工兵】【常世ノ呪イ】
【存在偽装】【天光魔法】
 -控え-
【神匠の内弟子】【幸運は手指を助ける】
【特化作成 : 爆薬】
《装備一覧》
【天刀 : 白雪】
 Str +200 Agl +100
 Dex +110 Vit+10
 属性 : 無垢(エンチャント可能)
 状態異常 : 破邪
 属性切り替え アンデッド特効
 クリティカル時相手の防御値半減計算
 HP自動回復 MP自動回復
 耐久値回復(日光/月光)
 耐久値 1000/1000
【天杖 : スノーホワイト】
 Int +200 Agl +100
 Dex +110 Vit+10
 属性 : 光・氷
 状態異常 : 破邪
 属性切り替え アンデッド特効
 MP自動回復 魔法強化20%
 MP消費軽減 パルスレーザー
 耐久値回復(日光/月光)
 耐久値 1000/1000
【天筒 : ホワイト・レクイエム】
 Str +110 Agl +100
 Dex +200 Vit+10
 属性 : 闇・炎
 状態異常 : 破邪
 口径 : 40mm(ダメージボーナス400)
 属性切り替え アンデッド特効
 MP自動回復 ムカデ砲
 オートリロード
 耐久値回復(日光/月光)
 デュアルマガジン
 耐久値 1000/1000
▷《ホワイトマガジン》
  装弾数 : 20発
  ダメージボーナス100
  付与 : 防御貫通30%・弾速上昇(大)・命中率強化(大)・プレイヤー特攻(大)
▷《ブラックマガジン》
  装弾数 : 10発
  ダメージボーナス250
  付与 : 防御貫通40%・弾速上昇(極)・命中率強化(極)・弾分身Ⅱ

【浮遊魔導書 参拾式】
 Int +10 Str +10
 Min +10 Luk +10%
 (略)

【アストの光臨】
 Vit+15 Min+15 Agl+20 Dex +10
 魔法発動速度上昇(極)
 武器取り出し速度強化(極)
【アストのドレスアーマー】
 Vit+120 Min+120 Agl+90
 状態異常耐性(大)
 光の加護(魔法/物理ダメージ減衰15%)
【アストの抜刀籠手】
 Vit+125 Min+125 Agl+100
 抜刀/納刀速度強化(極)
 光の加護(魔法/物理ダメージ減衰15%)
【アストのフライトスカート】
 Vit+100 Min+100 Agl+100
 状態異常耐性(大)
 飛行性能強化(極)《前提 : ホバー移動》
【アストのフライトシューズ】
 Vit+100 Agl+100 Luk+20
 状態異常耐性(大)
 ホバー移動
《制限 : 女性専用装備》
《レベル制限 : 80》
 ※装備ボーナス(機装堕天)
  任意のタイミングで性別を反転可能
  一度死亡するまで再発動は不可で、また死亡することで効果は解除される
《アクセサリ》
【賢者の証 : 消費魔力】×2
【多機能ベルト】【アイテム射出装置(腰)】×2
【アイテム射出装置(胴)】×2
【多機能ウェポンラック】
【最低の保険証】【天界の加護】

《特殊装備》
【無尽火薬】
【天界の翼(熾天)】
 飛行可能
 HP・MP+1600
 展開中被ダメ-30%
 着用者のIntに応じた光弾・ビーム砲撃能力
==============================
《ペット6/8》
 ・朧  ・暈月 ・幻月
 ・繊月 ・朔月 ・ヴァン
 (残り2枠)

ペット枠残機4
常世ノ呪イ枠残機 安定してるのは300くらい
紋章全般 消費MP1〜10
障壁(紋章) 消費MP1〜5
障壁(スキル)消費MP1〜5
自動HP回復 400/s
MP自動回復 400/s
被ダメージカット70%(累積限界値)
属性ダメージカット30%
状態異常耐性+70%
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【運命のタロット】
必要MP10
リキャストタイム5s
全てがランダムに選択されて判断され、全てに抵抗判定が存在する。そして、宙から舞い降りたカードをアバターのどこかで触れることで発動する。同じ効果を重ねがけは不可。
ただ、流石にLuk3万もあれば自由選択。
基本的に効果は、死亡するまで続く

正位置/逆位置
0愚者
戦闘終了まで自分のスキル枠1つ追加(相手任意)
戦闘終了まで相手のスキル枠1つ消失(相手任意)
剣  武器スキル1つ選択
聖杯 防御スキル1つ選択
杖  魔法スキル1つ選択
硬貨 補助スキル1つ選択

1魔術師
相手のMPに魔法ダメージ
自分のMPに魔法ダメージ

2女教皇
味方の属性攻撃・スキル強化30%(重複不可)
相手の属性攻撃・スキル強化30%(重複不可)

3女帝
戦闘終了まで対象の攻撃のヒット数減少(1/3)
戦闘終了まで対象の攻撃のヒット数上昇(3倍)

4皇帝
所属PTメンバー全員のHPMPを回復
敵対PTメンバー全員のHPMPを回復

5教皇
味方の属性防御・状態異常耐性強化30%(重複不可)
相手の属性攻撃・状態異常耐性強化30%(重複不可)

6恋人
自身の攻撃に1分間10回の追撃効果
相手の攻撃に1分間10回の追撃効果

7戦車
発動後30秒間HPが0にならない
30秒間被ダメージ&ヘイトが極めて上昇

8力
相手のVit・Minを0にしStr・Intに加算する
自身のVit・Minを0にしStr・Intに加算する
※0にするのは基礎能力

9隠者
相手にスーパーアーマー(10秒)
自身にスーパーアーマー(10秒)

10運命の輪
自分のスキル発動までの時間加速(10回)
相手のスキル発動までの時間加速(10回)

11正義
相手のステータスを平準化
自分のステータスを平準化

12吊るされた男
相手に掛けられたバフ/デバフを全反転
自分に掛けられたバフ/デバフを全反転

13死神
相手に即死効果
自分に即死効果

14節正
相手の行動を5秒間全封印
自分の行動を5秒間全封印

15悪魔
相手のHPとMPを反転させる
自身のHPとMPを反転させる

16塔
相手のHPに魔法ダメージ
自分のHPに魔法ダメージ

17星
10秒間相手のStr・Intを0にしVit・Minに加算する
10秒間自分のStr・Intを0にしVit・Minに加算する
※0にするのは基礎能力

18月
効果発動から時間経過で全ステータスバフ
効果発動から時間経過で全ステータスデバフ

19太陽
30秒間真紅の太陽を発生させ、その光を浴びている間HPMP回復1%/1s
30秒間漆黒の太陽を発生させ、その光を浴びている間HPMP減少1%/1s

20審判
相手のスキル発動ストップ(1回10秒)
自分のスキル発動ストップ(1回10秒)

21世界
30秒相手のリキャストタイムが1/2
30秒自分のリキャストタイム1/2


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第170話(裏) 実況っぽい物、しめやかにエントリー

エターナル・愚ッには一才ツッコミがなかった前回のほぼ解説会です

感想・評価ありがとうございます!


「変身!」

『HENSHIN』

 

 極振りエキシビジョンの第二回戦。女性運営のアナウンスにより始まったその第一試合は、戦闘開始直前にユキがやらかしたことで大混乱に陥った。

 

 回転する無数の魔導書の中心で解けるユキのアバター。それが光に包まれながら、全く別のボディへ再構成されていく。(ひかがみ)辺りまである、サラサラとした長い白髪。明るめの水色の瞳。おててと評するのが正しそうな小さな手と、まっさらなおみ足。インナーのみに包まれた身体は、元のユキとは似ても似つかぬ幼気な少女だった。

 当然それだけでは終わらない。くるりと回転したユキの身体に、光が弾けるようにして、ボスが纏っていた物と同質の生地が僅かに透けたドレスアーマーが。ゴツくメカメカしい籠手が、うっすらと透けたスカートが、翼の煌めきがあるブーツが順々に装着されていく。

 

『Change WAS……WASP? ……ANGEL!』

「降臨、満を持して!」

 

 そうして最後に無数の武装が出現し、頭上には天使の輪っかが、開けたデザインから覗く肌が眩しい背中には機械と生体とが合一したような純白の翼が。極め付けに無意識なのか可愛らしい変身完了ポーズまで決められてしまえば、完全なる魔法少女モノの変身シーンに他ならない。()()()()()()()()()()()()()某対策室の所長も、会心の出来に満面の笑みを浮かべていた。

 

『え、は……はい?』

『女の子になったわね……?』

「え、ちょ、は……?」

 

 普段の魔王然とした装備の中心で、天使然とした装備で花が咲いたような笑みを浮かべるユキ。それは実に、実に絵になる光景だった。

 だがそんなもの、事情を知らない者たちにとっては関係ない話だった。観客席に潜んでいた百合スキー達以外、あまりに突然の蛮行に頭が追いついていない。

 

『せ、説明してもらいましょう運営!』

『ちょっと待って頂戴。私も突然過ぎて何がどうなっているのか──メッセージ?』

 

 観客席同様、目を白黒させていた実況席。そこに大元の運営から一通のメールが飛んで来た。いつものように50倍速の世界で運営をしている彼らにとって、その程度は容易なことであり──ぐしゃりと女性運営の手もとで、展開されていたホロディスプレイが握り潰された。

 

『……あの、大丈夫です?』

『ええ。あれは所謂黒化アストのドロップ品で作成できる、骨格から別物に変える性転換アイテムよ。男性が女性専用装備を、女性が男性専用装備を装備することを可能にするための物ね。一応あの装備に関して男性状態と女性状態、両方を使い分けられるような設定がされてるらしいわ』

『革新的な技術だと思うのですが、何か問題が? やはり厄介な輩の──』

『極振り対策室のチームの室長が、自分がTSしてみたいから作ったらしいわ』

 

 にゃしいの言葉に割り込むように呟かれた真実に、会場に衝撃が走る。両手で顔を覆う女性運営とは対照的に、観客席が沸き立った。

 お腐れ様も、百合スキーも、TS願望を持つ一般的な男性も。目の前でここまで完璧に組まれたシステムを見せられて、興奮しないはずもない。理想を抱いて溺死する前に、最新の希望が訪れた。

 

『ま、まあ色々と問題はあるようですが。私としては、今すぐに描写速度変更システムを最大出力で稼働させることをオススメします』

『面白い絵が撮れると思って既にしているけど……何故かしら?』

『ユッキーが戦闘開始直前に使っていたスキル、その効果がステータスに出ていますよね? その内訳が属性ダメージ軽減と魔法スキルの一時取得は良いのですが、最後の一つ。自身の基礎ステータス平準化が大問題です』

 

 神妙な顔で呟くにゃしいの言葉に、ハッと気が付いたように運営が顔を上げた。そして同時に、そんなまさかと思いながらも恐る恐るといった様子で予測を口にする。

 

『求道スキルの効果で極振りの値は保存されながら、他のステータスが軒並み上がって極振りのペナルティが消える……そういうことかしら?』

『全基礎ステータス140、そこに恐らく我々極振りの装備制限が無くなった強力な装備を加算。そして何より、ユッキーは爆弾魔ですが、本来は極振りの中でも異端なバフ・デバフ特化型です』

 

 音楽性の違いならぬ、爆破と爆裂の違いこそあれどにゃしいとユキは極めて近い思考回路をしている部分が多々ある。故にこそ、先程ザイル相手に見せなかった切札を切った以上何が起こるか……それが、朧げながらも予測できる。

 

『そんなスキル構築をしているユッキーが普通のステータスを得て、1vs1で、自分と相手にだけ普段ばら撒いている力を集中させたらどうなるか。きっと、面白いものが見れますよ』

 

 そうにゃしいが言い切った瞬間、戦闘領域全域を『減』と印された紋章が覆い尽くした。()()()()()()()()()()()()()()()レンに追い縋ろうとするユキは、対照的に全身を『加』と印された紋章が包み込んでいる。

 

「衝撃の──」

「ライダースティング」

「ファースト・ブリットォォ!」

『Rider Sting!』

 

 暴風雷雨を纏う脚撃と、拳で以って放たれる蜂の一撃が須臾の間に交錯する。その際にユキが無理な軌道で直撃を避けたのも、レンの蹴りが避けられたのも、ユキのペットが引き起こした自爆の連鎖にレンが包まれたのも、その全てを全てのプレイヤーが認識出来ていた。

 

『これは、凄まじいわね。そして何より、私にも実況が出来そうだわ』

 

 女性運営が言うように、凄まじい程にレンは速度を減退させられ、ユキは速度を加速させていた。未だその速度差は凄まじいものがあるが、対応できている時点でそんなものは考慮の外にある。

 

『ええ、流石はユッキーです。ですが……これは、時限式の強さですね』

『どう言うことかしら?』

『ユッキーのMPゲージを見ればわかると思いますよ』

 

 着々と飛翔する魔法陣が謎の紋章を描く中、会場の全員が頭上に表示されてるユキとレン2人の状態を示すアイコンに目を向けた。

 そこに存在しているのは、空中歩行を除いたコストを一切必要としないが故にMPが数%削れているのみのレン。そして回復し続けているのにHPが既に7割程度まで削れ、MPに至ってはバグっているのかと思う挙動でギリギリ6割を維持しているユキの状態だった。

 

『先のタロットスキルが一戦のみしか保たないことも前提とした、謂わば超々短期決戦フォーム。しかも見た限り、自分でも完璧に制御が出来ていないようです。ザイル戦で使わなかったのは道理ですね、ザイードやレンには有効でしょうが、ザイル相手だと嵌め殺されて終わりです』

『……私の解説する部分がないじゃない』

『HAHAHA! ユッキーが紋章を描き終わりました。来ますよ!』

 

 不貞腐れる女性運営に発破をかけるように、にゃしいが声を張り上げ──

 

「【神格招来】、いあいあハスター!」

 

 ユキの状態がまた変化する。外見的にはフルアーマー装備の上から、黄色く足先を大きく超えるほどの衣が装備され、顔の半分を蒼白い仮面が覆った程度。だがその変化の本質は、HPMP以外のステータスの極大強化だ。繊細さは放り捨てながら、出力だけがまた増大する。

 

『ユッキーの時間制限が縮まりましたね。勝負をかける気でしょう』

『クトゥルフ系魔導書の必殺技ね。まあ、あれだけ持っているならクトゥグア以外も使えて不思議ではないけれど……』

 

 そして当然の代償として、ユキのHPMPの拮抗ラインが低下した。7割であったHPは4割に、6割はあったMPは2割に。加えて全身を触手で拘束されるという年齢指定のかかりそうな光景は、自己バフではなく敵の妨害と考えた方が正しいような……素体が爆破卿であれ美少女ボディな今、どこか淫猥な雰囲気すら見てとれた。

 

えっちですね! 私にはあんな真似、到底やれません。蛙に丸呑みとかなら兎も角』

『それはそれでどうなのかしら……? 取り敢えず男ども、スクショタイムよ。アレくらいならフィルターは作動しないわ』

 

 当人達が死闘を演じている中、女性態のユキは大人気だった。

 

「鉛玉と爆薬の大バーゲンです!!」

 

 多数の残念そうな溜息を置き去りに、触手を力尽くで引きちぎり、巷で全身火薬庫と言われているユキの最大火力が解放された。フルオートで弾き出される無数の追尾する弾丸に、軌道を予測してばら撒かれる特製の爆竹、極め付けに天使らしい光線の弾幕までが幕ではなく壁として吹き荒れる。が──

 

『ザイードとの戦いが戦闘機のエース同士が行う超速のドッグファイトだとしたら、これは所謂サーカス軌道の方に分類されるハイスピードバトルね』

『側から見ている分には、この場面相当映える気がしますね! ユッキーの資金もレンの精神もゴリゴリと削れる音がしてますが!』

 

 そう実況している間に、次第に目で追い難いほど加速を始めたレンが遂にユキを捉えた。砲撃を受けた筈なのに何故か無傷のままユキの武装を蹴り壊し、追撃の爆竹すら無理矢理に道をこじ開けて突破する。

 

『……ああ、これはもうダメですね。ユッキーの勝ち目はありません』

 

 そんな決死の足掻きを見て、にゃしいがユキの勝ち目を否定した。これではもう手遅れであると、深紅の慧眼が光る。喉がやられたことで爆裂を封印した結果生まれた、時限式の超頭脳は戦闘の終了を既に脳裏に描いていた。

 

『それは、何故かしら? 私にはまだユキの勝ち目は少ないけれど、あるように思うのだけれど?』

『だからですよ』

 

 そう、まだ勝ち目が残っているから。だからこそユキに勝ち目が存在しなくなったと、にゃしいは断言する。

 

『ここまでレンを追い詰めて、かつ詰め切れてないからユッキーはダメなんです。あぁいえ、寧ろよくここまで保ったと言うべきでしょうか?』

『もしかして、切り札でもあるのかしら?』

『ええ、()()()()。瞬き厳禁です』

 

 にゃしいの予告と共に、スタジアム上からレンの姿が描き消え──一陣の風が吹いた。

 舞うは嵐、奏でるは最速の調べ。誰もが瞬きすることなく見つめていたスタジアムには、既に蹂躙され尽くした光景しか残っていなかった。舞い散る魔導書で作られた紙吹雪に、四肢と翼を蹴り捥がれた哀れな少女が1人。スタジアムに残っていたのはたったそれだけだった。

 

『うーむ……やっぱりこの速度、私の爆裂では捉えきれそうにないですね。残念ですが、私でも勝てない相手に分類されるでしょう』

『え……は……え……? どうしてあの子、システム限界速度に──ッ、もしかしなくてもペットかしら?』

『はい。減速された分を自力で加速してぶち抜いたみたいです。いやぁ、こんな根性論アキといい勝負ですよ!』

 

 ハッハッハと段々調子を取り戻した笑いを溢しながら、レンが無理難題をそのままに実行したとにゃしいが言う。一体いつからUPOは根性論がまかり通るようになったのか? そう言いたくもなるが悲しいことに、レンのスキル構築はユニーク称号と求道を除いて、全てが一般スキルで構成されていた。

 

 そうすれば後は、淡々と予定調和の如く戦闘は進む。実質無限復活という鬼札にして悪手を切ったユキの突撃は、レンのHPを削りこそすれ仕留めるまでには至らない。

 

【WINNER レン 】

 

 故にこそ、レンの勝利という結果で第2回戦初戦の幕は閉じたのだった。最後まで足掻き続け、一矢どころか二矢三矢と抵抗したのちの敗北で、速度が最後までものを言った勝利だった。

 

『決着ぅ!! 最後の最後まで、勝利を求めて足掻いたユッキーに拍手を!!』

『下馬評を覆す……とはいかなかったけれど、とても見応えのある30秒だったわ。とはいえ運営としては、色々と調整すべき案件が見えてきて憂鬱でもあるわね……私の肝臓、保ってくれるかしら』

 

 その哀愁漂う言葉からは、哀しいほどにデスマーチとエナドリの香りが漂っていた。

 

『気を取り直して、次の対戦カードはこれよ!』

 

 =========================

  【裁断者】アキ

     vs

  【頂点捕食者】翡翠

 =========================

 

 頭上で切り替わるモニターの画面。

 最強の盾 vs 最強の矛、その第2回戦が幕を開けようとしていた。

 



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第171話 ほこたて!(銃剣と矛と障壁)

感想・評価、恐悦至極にございます
聖天樹(サンアバロン)OCG化喜びの舞


 負けた。

 負けてしまった。

 我ながら良いところまでは持っていけたとは思うけれど、一矢報いることが限界で、それ以降の何に繋ぐことができなかった。

 最適手は選べたと自負しているし、これが今できる自分の最善だとも確信しているけれど……少し、センチメンタルな気分になっているのもまた事実だった。

 

「ユキくんお疲れ! かっこよ……可愛かったよ!」

「お疲れ様、です。カッコ良かった、です、よ?」

 

 そう声を掛けてくれた2人と会場に満ちる拍手の音に、何でかとてもホッとして、安堵のため息が溢れた。……いやなんか、セナのはちょっと違う気がする。気安いけどノーカンだわ。

 

「ありがとう……つかれた……あたまいたい……」

 

 そんな風に高速回転する思考とは反するように、口から出たのはそんな痴呆の様な言葉だけだった。こんな短期間で同じくらいに、頭を酷使し過ぎたのだろう。

 こう、上がったギアがそのままに戻ってこない様な。身体のスイッチは切れてるのに脳だけフルスロットルのままの様な、オーバーロードかオーバーヒートしている状態。端的に言うと、頭がフットーしそうだよおっっ(ガチ)

 

「ほらユキくん、こっち来て座って」

 

 何だかんだずっと一緒に過ごしてきたお陰で、セナには今の俺の状態がわかったのだろう。当然の様に自分の隣の席をぽんぽんと叩き誘導してくれた。意識と身体が分離した様なふわふわとした感覚のまま、セナに吸い込まれる様に夢遊病者のような足取りで俺は歩き出して──

 

「ん、掴まって、下さい。ユキさん」

「ぐわー……」

 

 席に辿り着く前に、藜さんがインターセプト。如何なる術理なのか足下を払う素振りもなく、こっちの体勢を崩して寄りかかるような形にされてしまった。ゴウランガ! 何たるワザマエ、なんて言ったら最後。手遅れになる気配しかしないので、なんとも言えない無力感に打ち拉がれておくことにする。

 思考と身体の動きの不一致。昔VRゲームに熱中しすぎた時や、そうではなくてリアルの方でも何回か経験のあるこの症状。ここまで戻ってくる間にそれなりに時間も経ったし、多分あと数十秒あれば普段通りの頭に戻ってくれるだろう。

 

「あと、1分くらいやすませて……」

 

 だからこそ、話を聞かせてもらうと両端からガッチリと拘束されたけれど、結局のところ"そう"としか言いようがないのだった。

 くぁ、と脳が足りない酸素を求めているのか、1つ大きな欠伸が溢れる。そんな感覚に逆らわずに、ゲーム内でして意味があるのかは知らないけど深呼吸。なんか両隣からすごく良い匂いが──ではなく、トップギアのままの脳細胞をクールダウンクールダウン……

 

「大丈夫、です、か? ユキさん」

「脈がない……ユキくん、ご臨終です」

 

 そんな様子を見かねてから心配してくれた藜さんに、手首を持って脈をとり、静かにセナが首を横に振った。心臓は熱いくらいに脈打ってるのに、ゲーム内だと反映はされないのか……?

 

「そん、な……」

「へんじがない ただのしかばねのようだ」

「ことは、ないん、です、ね。安心、しました」

 

 思ったより自制心がなかったのか微睡んでいるのか、そんなテンプレートな言葉が口から溢れた。あー……おー……よし、治ってきた。段々頭痛が顔を出してきているが、同時に意識と身体の感覚も一致してきている。

 

「よし、復活!」

 

 そうして目を瞑りつつ、深呼吸して休むこと凡そ1分。宣言通り体調を復活させた。OFFにし続けていたスキル群もONに戻そうとし……思っていたより周囲のことが把握できたので、効果を最大値にはしないでおく。

 

「あれ、まだ2戦目始まってない?」

 

 そうして目を開いた先に見えた光景は、未だに沈黙を貫いているスタジアムの状況だった。ここまで戻ってくるのに数分掛かったし、とっくに始まっていると思っていたのだけど。

 

「翡翠ちゃんの方が少し準備するって話で、ちょっとだけインターバルを取るんだって」

「なるほど? 嫌な予感しかしないなぁ……」

 

 アキさんのことだ。もしかしたら既に決着をつけてしまっているのではないか、そんな考えも一瞬頭を過ぎったけれど杞憂だったらしい。翡翠さんが準備をするという時点で、そこはかとなく嫌な予感しかしないけれど。

 

「そうじゃなくて! ユキくん、さっきのやつについて説明して欲しいんだけど?」

 

 即答してくれたセナに感謝していると、この場に机があれば台パンしそうな勢いでセナがそんなことを聞いてきた。

 

「さっきのやつって言うと、変身フォームのこと?」

「うん。普段使いしないのは今のユキくん見れば分かるけど、なんで態々女の子になってたのかなって。ユキくん、リアルでも女装が似合うから……そういう趣味でも目覚めちゃったのかもと思って心配で」

 

 辺り一体の、空気が凍ったような気がした。待って。違う。違うから。セナもそんな頬に手を当てるポーズ取らないで、絶対に誤解が生まれるから。

 

「えっと、ユキさんが、そういう、趣味でも、私は、気にしません、よ?」

「確かに昔取った杵柄ではありますけど、断じて趣味ではないです。ええ、本当に」

 

 食い気味に否定してしまい、藜さんにまで何故か優しい目を向けられてしまった。おかしい。さっきまでの戦い自体は、どちらかと言えばかっこいい風に終わらせた筈なのに。どうして……どうしてこうなった。

 

「TSしてたのは……まあ、女性専用装備状態の方が性能が良くて。素材が女性型ボスなのと、多分れーちゃんがそういう風に作ってくれたからだけど」

「ん!」

 

 すると、トンと肩に軽い物が乗る感覚と共に、自信満々なれーちゃんの声が聞こえた。ジェバンニが一晩でやってくれましたってそれ、今の時代に通用するのだろうか……?

 

「それって私とか藜ちゃんの装備にも出来たりする?」

「ん〜……ん!」

「素材が不足していて、あと1セット作るのが限界だそうだ。そして変身はセット効果である以上、あと1人分だけらしい」

 

 久々に聴いた気がする、ランさんのれーちゃん語解説。それで自分の読解力がまだまだ現役だったことを確認できて安心した。ああもう、無駄にまだ頭が回るせいで余計な事まで考えてしまう。

 

「なら、ランが女の子になる番ね」

「ん!」

「つらら……!?」

 

 上の席から、ランさんの絶望感に満ちた声が聞こえてきた。もしランさんがTSした場合、すてら☆あーくは女性だけのギルドになるのか……厄介な連中が湧く気しかしないなぁ。

 

「ユキからも何か言ってくれ。俺はそんなものに興味はな──」

「TSするなら、ファサリナさんとかいいんじゃないですかね? 似合うと思いますよ!」

「味方は、誰もいないのか……!!」

 

 セナの武器がサウダーデなことだけが心配な要素だけど、そこもつららさん一筋であるランさんであるからして心配がない。ホテル・バルバトスも、ホテル・サウダーデも現実には存在しないのだ。

 

「待て。待ってくれつらら、れー。にじり寄って来るんじゃない」

「ん!」

「素材は全部使っていいよ!」

 

 れーちゃんの質問に答えつつ、ランさんが逃げられないように軽く障壁を展開。それだけで、頭上で起きていた騒動はランさんの敗北という形で幕を閉じたのだった。

 なお後日、根負けしたランさんを含めたパーティで、女性プレイヤー専用クエスト及びダンジョンを攻略したことは言うまでもない。色々とハプニングはあって面白かったが、それはまた別の話である。

 

「そういえば、何ですけど」

 

 そんなやり取りをしていたのに、未だ始まらない2回戦を疑問に思っている時だった。ふと思い出したように藜さんが言った。

 

「さっきの、ユキさん。戦ってる、時、ずっと、隙だらけ、でした。女の子として、無防備、過ぎます」

「気にしてる余裕無かったんです……」

 

 少し怒っているような、呆れているようなそんな雰囲気。加えて咎めるように突っつかれれば、何だか微妙に申し訳ない気分になる。でも言われてみればあの装備は、胸元の布は薄いしスカートだしで、そっち方面の防御力は普段の俺の耐久力レベルでしかない。今度から気を付けねば。

 

「それなんだけどね、ユキくん。多分かなーり厄介なファンが、凄い沢山ついちゃったと思うよ。ユキくんえっちだったし」

「流石にそんなに、あの程度で誘惑されるほど男も単純じゃ──いや、我ながら美少女のサービスシーンだし、なるかぁ……? なるなぁ……」

 

 オタクに優しいギャルや委員長は存在しないのだから、異性に無防備な美少女も存在しない。しかしそんな空想存在が現実に現れたら、1発K.O.で落ちないということがあるだろうか? いいや、ない(確信)男なら大抵誰だってそうなる。俺だって沙織(セナ)()さんがいなかったらそうなる。

 

「VRのアバターだと、ムダ毛処理がないからあんなに気楽にユキくん……ううん、しらゆきちゃんは脇とか色々と」

「案外、メッセージ、来てる、かも、ですよ?」

 

 女装(リアル)の都合上、セナの言っていることは分からないこともない話だけど、少し生々し過ぎるのでNGである。それはそれとして、藜さんの言うことも尤もだ。そう思って確認してみれば──

 

「新着メッセージ25件……えぇ(困惑)」

 

 普段見ることのない量のメッセージが既に届いていた。数件はフレンドからの励ましだったけれど、それ以外は見知らぬ名前からの狩りとかダンジョンアタックのお誘いだ。

 こう話を聞くと下心しか見えないので、全て流し読みしてゴミ箱へ捨てておく。けどイオ君からのメッセージだけは『予定が合った時に是非』と返信しておいた。文面の様子が少し変だけど、貴重な同性の友人だし。

 

 そうやって、他にも遅れて届いたヴォルフさんからの配信のお誘いを快諾したり、消費した爆竹の整理をしたりしていること数分。漸く、スタジアムに動きがあった。

 

『さあさお待たせしました第6戦! あの翡翠が珍しく準備時間が欲しいとのことで生まれた空き時間でしたが、目の休憩には役に立ちましたか!!??』

『そういう貴女は、喉が万全に戻ったようね?』

『勿論ですとも! ここからは完璧な実況を確約しましょう!!』

 

 耳が痛くなる直前の大音声。スタジアムの人たちの目が休まったかどうかは分からないが、にゃしい先輩の喉は復調してくれたらしい。

 

『さあ、翡翠の準備も終わったということで、入場コールといきましょう。精神(Min)極振りと筋力(Str)極振り、あの試合を見ると防御側が不利に見えるけれど、それも明らかになるでしょうね』

 

 そんな女性運営のアナウンスに続き、にゃしい先輩が口上を述べる直前。片方の入場ゲートに人影が現れる。

 

ほははへひはひは(お待たせしました)

 

 そう、そこには──シャを咥え、ゲーミング発光するひよこを従えた翡翠さんが、堂々としたポーズで存在していた。

 




ありません?真剣に5〜6個何かを集中しつつ並行して考えてると、頭と心臓だけは熱いのに手足が冷たく感じて、なんか身体は上手く動かないし言葉はぼんやりする謎の現象。終わったら頭痛の反動が来る代わりのフィーバータイムなんですが。ないですか…そうですか…


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第172話 蛮族の狂宴 翡翠 vs 黄金

 世にも珍しいシャ。捕まえるのはかなり難しいであろうレインボーなフィッシュを咥え、ゲーミング発光するひよこを従えたその姿はまさに熊、多分クマ、きっとくま、メイビーベアー。そして恐らく森ガール。いや、俺は何を言ってるのだろうか。

 

『早速翡翠がやらかしてくれましたが、エキシビジョンマッチ6回戦!

 みぃぃどりコーナー!

 入場ゲートを見ろ! 熊だ! シャケだ! いいや、奴こそ我が爆裂を耐えきった好敵手! 【頂点捕食者】翡翠の入場です!!!』

ひょっほはっへふははい(ちょっと待ってください)

 ほのほはははのひゃへひゃはりはへん(この子はただのシャケじゃありません)

『ぴよ』『シャケェ』『ぴょ』

 

 喉が復活したらしいにゃしい先輩のコールに、何か不満を持ったのかモゴモゴと翡翠さんが反論していた。その周りを楽しそうに歩き回るゲーミングひよこはともかく、七色に光りつつ半分死んだような目をしてビチビチ跳ねているあのシャケは何なのだろうか。まるで意味がわからんぞ。なんか喋ってるし。

 

『……いや、本当に何なんでしょうねあのシャ。貴女は何かしりません?』

『知らないわ……考えたくもないわね。それ以前に、貴方一体どうやって喋ってるのよそれ?』

『気合を入れるんです。やってみたら出来ますよ?』

『それで出来たら苦労しないわ。シャなんて……なんか違うけど出来てたわ!!??』

 

 声が点滅していたり七色に聞こえたり、さっき限界を突破したせいで遂に頭がおかしくなったのかと思ったが違かったらしい。いや、うん、理屈も意味もまるで理解できない。UPO、恐ろしい子・・・!

 

『気を取り直して。続きまして、あ、黄色コーナー!

 物理防御極振りを斬り捨て、同類たるセンタすら超えた鋼の英雄! その手に宿した破滅の光は、翡翠の濁りをも掻き消すのか! でも実は好物がモンブラン、【裁断者】アキのエントリィィィィです!!』

「おい待て、にゃしい。なぜ貴様が俺の好物を知っている」

『負けた腹いせにってことで、意気揚々とセンタが教えてくれましたよ?』

 

 しっかりとサムズアップまでかまして言い放ったにゃしい先輩に、片手を額に当てるようにしてアキさんが大きなため息を吐いた。今度ギルドホームの喫茶店に、モンブラン追加の要望でも出しておこう。

 

「まあいい。準備は万端ということで相違ないな? 翡翠」

「ええ。もひほんひゅんひはんはんへふ(もちろん準備万端です)

「そうか。ならばこちらも、遠慮なくいかせてもらおう」

『ぴよ!』『シャケェ!』

 

 シャランと、涼やかな音と共に引き抜かれる双刀。鈍い鋼の反射を作る刀身は、光を反射して眩く澄んでいた。対する翡翠さんは普段身に付けている短剣や短杖を持たず、何故か両手にゲーミング発光するひよこをにぎにぎと握り、口にはレインボーシャケを咥えた野生解放(ワイルドブラスト)スタイル。

 これからどんな展開で戦闘が進むのか、全く予想すらできない中両者の間に浮かぶカウントだけが数字を刻み始めていた。

 

「ユキくんは、どっちが勝つと思う? 私は多分アキさんが、あの光でズバーッ!ってやって終わりだと思うんだけど」

「正直、翡翠さんが未知というか、想定外すぎて何がどうなるか分からないかなぁ」

 

 アキさんの猛威を目の当たりにし、競い合っていた以上普通ならセナのように考えることも分かる。だけど同時に翡翠さんの意味不明な行為のせいで、予想が本当に捻れてしまっている。

 両手でピヨピヨパタパタ楽しそうにはしゃいでいるゲーミングひよこに、口元でビチビチ跳ねながらシャケシャケ叫ぶレインボーシャケ、そしてにゃしい先輩を食べた謎の第3の口。戦闘中は俺以上のオワタ式であるアキさんに、それらが何か致命的な一撃を叩き込む気がしてならない。

 

「じゃあ、私は、翡翠さんを、応援、します、かね?」

「ん!」

 

 逆に藜さんとれーちゃんは、比較的常連さんである翡翠さんを応援するらしい。ランさんとつららさんは観戦の構え。これだと2対1だし、俺はアキさんを応援しておこうか。

 

 戦闘の幕が切って落とされるまであと3秒

 

 シンと静まり返った空気の中、両者が刀と拳を構えた。ひよこですらゲーミングカラーで発光するだけで無言、空気を読まないレインボーなシャケのみがビチビチしている。

 

 あと2秒

 

 恐らくこの前の試合を見るに、試合の決着か趨勢は最初の一撃で決まる。アキさんが翡翠さんを討ち取るか大きくダメージレースで優位に立ち試合の流れを握るか、或いはそれを翡翠さんが回避して何かをするか。

 

 あと1秒

 

 決して瞬きの許されない一瞬に、誰もが息を呑み──

 

特化付与(オーバーエンチャント) : 閃光(ケラウノス)!」

「【頂点捕食者】」

「シャケヲクエェッ!?」

 

 0秒。予想通り試合開始直後、無数の動きが連続した。

 だがその全てを端的に表すのであれば、たった一言で全てが説明できる。即ち、アキさんの武器が弾かれ本人は吹き飛ばされ、そのHPが0になったという衝撃的な現実だった。

 

「か、は……」

「しゃけしゃけ」

 

 満足そうにもごもごと口を動かす翡翠さんの手元には、例の見えない口で食いちぎったであろうアキさんの喉元が存在していた。

 

「素朴な栗の味、旬は過ぎましたが美味しいですね」

 

 起きた動きの順番としてはこうだ。

 まず初めに、試合開始直後アキさんの刀に黄金の爆光が宿った。デュアルさんですら斬滅させたその光は相変わらず健在で、間違いなく翡翠さんも直撃すれば一撃で斬滅せしめたのは間違いない。

 それと全く同じタイミングで、翡翠さんは咥えていたレインボーシャケを捕食した。目を見開いたシャケの轟かせた断末魔と共に、アキさんに向け発射されるレインボー・スプラッシュ(イクラ)。それに対抗するために、アキさんが左の極光斬で迎撃。

 その圧倒的な光量とダメージ範囲から逃れるように、身を低くして凄まじいバフを背負った翡翠さんが疾走していた。現在進行形で発生しているその圧倒的な量のバフは、間違いなく今も地面で力なく跳ねているレインボーシャケの能力だろう。

 

「クリスマス、シャケ、サモーン……」

 

 やっぱりシャケは見なかったことにする。

 兎も角、1度目の極光斬が通過した後には、既に刀の間合いの遥か内側に翡翠さんが滑り込んでいた。しかしそこはアキさんも()る者で、右の極光斬を手放し握りしめた拳で翡翠さんを迎撃。しかしいかなる術理か、翡翠さんは無傷でその拳を受け流しきった。

 最後のトドメとして見えない口が、咄嗟に飛びのこうとしたアキさんよりも早くその喉笛を食い千切る。一瞬後にアキさんの踏み込みが間に合い、後方へ下がるも時既に遅し。特化紋章の反動で1になっていたアキさんのHPは0へと叩き落とされた。

 

『これは……決着、でいいの、かしら?』

 

 訪れた静寂の中、戸惑うようにして女性運営の言葉がアナウンスされた。戦闘開始僅か1秒、刹那の見切り。たったそれだけで、勝負がついたように()()()この戦いは、それ程までに実況殺しでもあった。そう、これがもしも、本当に翡翠さんがアキさんを倒して見せていたのであれば。

 

『いいえ、まだです。アキはこの程度では終わりません!』

「おかか。まだです、食べ切れませんでした」

「やっぱり来ますよね、伝家の宝刀が」

 

 にゃしい先輩と翡翠さんと、言葉が重なった。この戦闘に決着が付いているのであれば、【WINNER ○○】という表示が出ていなければおかしいのだ。なのに今、何処を探してもその表示は存在していない。つまりまだ、何も終わっていない。

 

ああ、()()()。ここまで美しい無拍子を見せられて、倒れてなどいられるか」

 

 瞬間、飛び退いた際の震脚で舞い上がっていた埃が晴れた。今までよりも明らかに極太の極光斬が、ただの一撃で全てを浄滅させていく。

 

「全ては"勝利"を掴むために、今こそ俺は創世の火を掲げよう」

 

 そうして顕になった、35、34、33と減少し続ける数字を頭上に浮かべたアキさんの姿。だがしかし、その姿は数秒前までのアキさんとは異なったものだった。長く伸びた髪を一まとめにした金髪、顔から傷は消え、何処となく高くなったような声。そして何より、軍服然とした格好から変化した、太陽のような鎧具足。間違いなく、俺と同様黒アスト装備による変身が行われていた。

 それは既知の能力である以上不思議ではない。だが、だがだ。食い千切られた喉笛から夥しい量のダメージエフェクトを溢しながら、HPが0のまま、しかし何故か戦闘を続行する態勢で炎の様な黄金を宿した双刀を握っている。それがまるで意味不明だった。

 

特化付与(オーバーエンチャント) : 烈光星(アルカディア)!」

「やはりこうなりますか」

 

 頭上に減少し続けるカウントを浮かべながら、1/3爆裂程度の炎を巻き上げアキさんが飛翔した。俺がやった変身とは違って、恐らくやっていることは黒ボス装備による単純な能力増強。Str極振りの全力の踏み込みによる、自傷ダメージが発生しなくなったことに由来する超加速。そして恐らく、何かしらの特化紋章術が重ね掛けされたことによる異次元の火力。

 それらの要素が相まって、一歩踏み込むだけでスタジアムに大穴が空き、それでも収まらない火力が火焔として撒き散らされる異常自体が起きていた。

 

「【アポルオン】【終焉の杖】【精神結界】」

「ぴよ!」

 

 展開された【終末】が、振われた焔光刃に両断され天候として消滅する。

 発生したダメージフィールドが、さも当然の様に踏み込みで砕け散る。

 関節の動きを遮る様に展開された多重結界が、気合一つで粉砕される。

 ひーこーにより降り注ぐ無数の流星群が、たった2刀に全て切り刻まれる。

 何も何も何も、立ちはだかる全てアキさんの進撃を止めることが出来ない。両手の刀が何もかもを両断して消滅させている。

 

「ヤキジャケェ」

 

 シャケはこんがり焼けていた。

 




・特化付与 : 烈光星
 属性付与 : 炎・光・獄毒
 詠唱時間 : なし(自動)
 効果発動前提条件 : 特化付与 : 閃光発動後20秒以内に敵の攻撃で死亡
 効果時間 : 2秒(37秒)
《メリット》
 物理攻撃威力上昇3000%
 自身のHPが少ないほどクリティカル威力上昇(最大200%)
 クリティカル確定
 超過ダメージ計算適応(残機貫通)
 環境効果破壊
 装備制限撤廃
 HP全損無効
《デメリット》
 HPスリップダメージ発生(1s/2000)
 Vit・Min・Int値をマイナス計算
 被クリティカル確定
 遠距離攻撃不可
 特化紋章術・(任意の武器スキル)を除いたスキルの効果消去・発動不可
 効果時間終了後死亡(残機含む)
 デスペナルティ効果10倍
 デスペナルティ時間10倍
 効果時間終了後2日間《服》カテゴリ装備のみ防具装備可能
 効果時間終了後2日間《天候》効果1.5倍
 痛覚減少深度低下 Lv5(最大10)
(Lv4= ダメージ発生時カットされる痛みの感覚が、タンスの角に全力で足の小指をぶつけたくらいの痛さに変更)プレイヤーが操作可能な範囲は5まで


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第173話 蛮族の狂宴 翡翠 vs 黄金②

 不思議なことにアキさんと翡翠さんの戦闘は、奇妙な様相を呈しながらもまだ戦闘という形を保って続いていた。

 

「なるほど、無敵ですね?」

「ああ、そうだ。本来は速攻で勝負を決めにくるレンやザイードに対する切り札だったが、まさか翡翠に使うことになるとはな」

 

 爆砕しながら吹き荒ぶ床、荒れ狂う焔、煌めく焔光刃。

 世界を塗り替えんとするノイズ、六角形の障壁、広がるダメージフィールド。

 後者のみが一方的に粉砕されているにも関わらず、未だ翡翠さんのHPは8割程度の量をキープしていた。だがそれも、ある意味当然だろう。この戦闘は、噛み合っているように見えて噛み合っていないのだから。

 

「そちらこそ、おかしなバフの量をしている。ユキもそうだったが、極振りの枠を逸脱している。虹色の鮭が原因だと推察しているが」

「こいこいと言います。アイテムを捕食して、性質とステータスを溜め込んでくれる子です。他2人と比べて少しうるさいですが、いい子ですよ」

 

 翡翠さんが繰り出す見えない口による攻撃は、アキさんに何度も何度も直撃して翡翠さん本人にバフを供給。逆にアキさんの放つ必殺撃も、木の葉のように揺れる翡翠さんに掠りもしない。繰り返せど繰り返せど激突しない攻撃に、圧倒的な破壊の余波だけがスタジアムに撒き散らされていく。

 

「シャケェッ⁉︎」

 

 こんがりと焼け、いい匂いを漂わせる鮭が叫んだ。あの攻撃が吹き荒ぶ中、ペットなのにまだ生きてるのか……晩御飯はムニエルにしようかなぁ。シャケの。

 

『どうやらアキが切り札を使ったようですが、運営から何か説明できることはありますか?』

『そうね……スキル効果は端的に言って条件付きの不死身よ。あのおかしな特化付与を使った20秒以内に敵の攻撃で倒された場合、なんて条件がついているわ。

 本来のスキル時間は2秒、けれどそれをアクセサリー枠を全て消費して35秒時間を追加しているわね。本来なら40秒くらいまでは、もう少し工夫すれば伸ばせると思うのだけど……そんなに37って数字に思い入れがあるのかしら?』

 

 なるほど、今も減少を続けているアキさんのカウントはそういう理由だったらしい。それに多分、明らかに威力が上がってることからして何かしらのバフも付いてそうだ。37秒という時間は……まあ、あの作品のファンならそうするだろうからパスで。

 

『ならば翡翠の超強化はなんでしょう? 性質はアキと翡翠が喋っていた通り、半分強化アイテムのような扱いのようですが』

『なんでシャケが喋っているのかしらね? 本来あのサーモン型ペット、そこまでの知能があるAIは搭載されない筈なのだけど。一体どういう育て方したのよ……?』

『えぇ……?』

 

 どうやらあのシャケは運営にも想定外の存在だったらしい。まあ、うん、でも翡翠さんのペットだしそれも止むなしかもしれない。片やゲーミング発光するヤベーひよこ、片や透明な口と化している謎のサイズのエクレア。それに比べれば……いや、やっぱり異質だわ。

 

「なるほど、理解した。だが俺が"勝つ"、この勝負決めさせて貰うぞ」

「お断りします。速度の乗りに乗ったレンさん、美味しそうですから」

 

 そうしてアキさんのカウントが20を切った時、一気に戦局が動いた。

 

「装填 : 断空剣ティルフィング、天空翔剣ハイペリオン。無双の神剣に比翼の翼よ、暁へ飛翔し敵を断て」

「ひーこー、エクレア、分身を最大です」

 

 それは、一瞬の出来事だった。最大級に分身したゲーミングひよこと、恐らく見えない口が展開されている空間。その全てに、一筋の斬線が走った。ズバズバと放射される黄金の爆光とは違って、線状にまで収束された焔光刃。格段に跳ね上がった代償に減ったはずの遠距離攻撃が、武器の射程の延長という裏技で代償が踏み倒されていた。

 

「おやおや、これは詰みましたか」

 

 無論、それだけでは終わらない。翡翠さんの右脚が、気が付いた時には蒸発していた。記憶が確かなら断空剣ティルフィングの能力が射程延長なのに対し、天空翔剣ハイペリオンは飛翔と自動反撃、おまけに逆境時の補正。

 恐らく後者が直撃したのだろう。それにしては翡翠さんの攻撃が見えなかったうえ、アキさんの攻撃にしてはダメージ量が低過ぎる気がするけど……本人の言う通りこれは詰みだろう。それでも反撃の捕食でのバフや回復を阻害されたこと、そして脚1本という大きなディスアドバンテージを負ってしまったことは覆せない。

 

「やはり、1度そうなると手が付けられませんね」

「文字通り背水の、覚醒の真似事だ。本音を言えば、これでも足りないと思うがな」

 

 だというのに、器用にも片足で翡翠さんは怒濤の猛攻をひらりひらりと躱し続けていく。その姿は知識の神か、一本だたらか。後者は討伐されそうだから前者だろうなぁ。

 

「ですが、焼き栗を味わう前に倒れてはレストランオーナーの名折れ。いただきます」

「良いだろう、受けて立つ」

 

 アキさんがそう吼え2刀を構えると同時に、翡翠さんが極めて独特な構えをとった。今までひーこーを握っていた両腕の五指を開き、獣の牙のように、大きな口を形作るように構える。

 

 カウントが10を切る。その瞬間、蓄えに蓄えた無数のバフにより、強化された翡翠さんの姿が一瞬だけ霞み──

 

「暴飲暴食、決まりませんでしたか。予想はしていましたが、残機ごと斬られるとは」

「ああ。だが、不死身でなければ相打ちだった」

 

 次の瞬間には、両腕が燃え尽きつつある翡翠さんと、胸部から腹部にかけてをゴッソリと抉られたアキさんの姿があった。どちらも間違いなく致命傷、というかそれを通り越して絶命撃だ。

 しかしアキさんの方はまだ10秒、無敵時間が継続している。どんな内部処理が発生しているのかは分からないけれど、単純に考えてまだ生きてると判別できる。つまりは──

 

「ご馳走さまでした、焼き栗も乙なものです」

「ヤキジャケ……シオジャケ……ノーモアチキン、アスタキサンチン……」

 

【WINNER アキ】

 

 カシャンという儚い音を鳴らして、謎の鮭→翡翠さんの順にアバターが砕け散った。刀を納刀する涼やかな音を響かせて、元の男の姿へ戻ったアキさんが軍服の外套を翻して退場する。

 同時、今度こそ頭上に出現する勝利宣言。鬼のような活躍を見せ覇を唱えたアキさんが、HP0のまま勝利するという異例の結果を生み出した。

 

『決着!! 最強の矛と盾、またしても打ち破ったのは矛であり筋力(Str)極振りであるアキ! それにしても、レン戦以降みんな速さが異常じゃありませんかねぇ! 運営さんや!

『極振りさんや、それだけシステム限界速度とか、異次元の破壊力のぶつけ合いなのよ。もう極限値の試験として見た方が、精神的に安全なくらいにはね……』

 

 目を細く遠くを見るようにして、女性の運営は呟いた。よくよく耳を澄ませれば、実際かなり役に立っているから困るのよね……などとも。

 

『まあ、それはいいでしょう!』

『よくないのだけれど』

『良いことにしました! それよりもです。今回の一戦、色々と疑問も多いと思うのですが』

『そうね。特にアキに関しては、色々聞きたいことも多いでしょう。だからそうね、最低限明かせる情報だけは公開するわ。本人からも許可は貰っているから、そこは気にしないでいいわ』

 

 言うと、先ほどまで【WINNER】表示が出ていた画面がスキル説明へと切り替わった。それによればあの無敵モードの名称は《特化付与 : 烈光星》、その効果は──

 

『発動条件は実況の時に説明した通り、特化付与 : 閃光発動後20秒以内に敵の攻撃で死亡すること。効果時間は本来2秒しかないところを、無理やりアクセサリを使って37秒に延長しているわ。

 様々なバフやデバフが複合されたスキルなのだけど……まあ、簡単に言えば瞬瞬必生、力こそパワーって感じね。解説が必要なのはHP全損無効の裁定についてくらいかしら。この能力は先んじてペットスキルとして実装されているもので、今回の裁定は一般的なデュエル時の裁定を適応しているわ。

 即ち、HPが両者同時に0になった場合において、通常は引き分けとなる。けれどHP全損無効が一方に適応されている場合、そちらが勝者になるわ。単純に、最後まで立っていた方が勝ちということね』

 

 それはまたなんとも、頭部を破壊されたら失格になりそうなアトモスフィアを感じる裁定だ。だけど分かりやすくて良いのではないだろうか。などと、37秒ムテキゲーマーに数百残機のゾンビゲーマーが申しており……

 

『翡翠については──』

『私はあるがままを受け入れたわ。同僚の不憫が偲ばれるわ……』

 

 どうやら実況席の方からは、翡翠さんに関する情報が出てくることは無さそうだった。

 

『さて、気を取り直して決勝戦。景気付けに一丁爆裂を──と、思っていたところですが。どうやら一戦挟まるようですね?』

『ええ、このまま流れよく行っても構わないのだけど。その前に、3位決定戦と行こうじゃない。優勝が決まる前の方が、気持ちよく戦えるでしょう?』

 

 なるほど確かに、それは道理だ。優勝が決まった後に3位決定戦をしても、ぶっちゃけ盛り上がりには欠けてしまうだろう。それは間違いない、間違いないのだが……

 

「3位決定戦、今度こそ本当に勝てる気がしないんだよなぁ」

「ユキくんが最初から諦めるなんて珍しいけど、どうかしたの?」

 

 はぁ、と軽くため息をついていると、不思議そうにセナが話しかけてくる。俺だってそう簡単に、勝ちに行くことを諦めたくはないけど……

 

「いやぁ、あの感じだとスキル任せの抜刀は当たらないし、狙撃は威力不足でダメージが与えられない。魔法はデバフすら通らない。かと言ってペット方面から攻めるのは、ゲーミングなひよこがいるから無理で……流石に勝ち目がね」

「爆弾……は、もうすっからかんなんだっけ?」

「攻撃に使えるのは59個、半分ジョーク爆弾が40個くらいしか残ってないね」

 

 いつかも使った胡椒爆竹。カラーボール型爆竹。対人用に作ったは良いけど効果のなかった唐辛子爆竹。擬似ナパームの酒爆竹(スピリタスボム)。後は虫型mob除けの甘味爆竹……そういえば、翡翠さん曰く俺はカキ氷味だったとかなんとか言ってたような。

 

「うーん……確かにそれじゃあ、ユキくんじゃ難しいかも」

「知ってた。ところで話は変わるけど、セナの好きなかき氷はブルーハワイで合ってるよね?」

「確かにそうだけど……なんで今? 冬なのに」

「いやちょっと、負けるにしても面白い負け具合になってこようかと」

 

 最弱の極振り、また破れる。

 

 そういえば。景気良くクレオパトラアタック*1をかまし、爆散した後聞いたことだけど、藜さんはいちごシロップが好みだったらしい。

 

*1
自身を絨毯で包み込んで差し出すこと。転じて春巻きの意




おまけ

ユキ「クレオパトラアターック!」(PON☆)
翡翠「味付けありがとうございます。では、いただきます」(Clash!)
ユキ「」(死)(Clash!)
翡翠「ごちそうさまでした」(パッパッパッ!)

ユッキー、極振りランキング4位です。
この世の全ての食材に感謝しつつ「いただきます」と「ごちそうさま」は大切。古事記にも書いてある。

==============================
 Name : こいこい
 Race : ジェノサイド・レインボー・サーモン
 Master : 翡翠
 Lv 55/55
 HP 2000/2000
 MP 4000/4000(6400)
 Str : 200   Dex : 200
 Vit : 200  Agl : 200
 Int : 600   Luk : 200
 Min : 200
《ペットスキル》
【まな板の上の鮭】
 跳ねる、喋る、だから生きている。(自身ではそれ以外の行動ができない。例外として泳ぐことは可能)
【鮭身御供】
 捕食される際に発生する判定が、抱えているイクラの数に応じて増加する(現在10回)
【知識の鮭】
 自身が捕食された際、自身のステータス及び付与されていた能力を捕食対象が得る(効果時間等はリセットされる)
【木彫りの鮭】
 自身が捕食された際、特定のポーズ(クマが捕食するポーズ)であった場合、即座に破壊不能オブジェクトへ変化する。
【オーバー・ザ・レインボー】
 自身が捕食したモンスター、アイテムに応じて自身のステータスを加算する(上限値30000)
【オーロラ・アセンション】
 自身が捕食したモンスター、アイテムに応じて虹色に発光する。光れば光るほど能力が上昇している。また、イクラにダメージ判定が発生する。
【被捕食時効果上昇+1】
【被捕食時効果上昇+2】
《スキル》
【覚醒】【忠誠ノ誓イ】【貴方と共に】
【魔力核】【魔力核Ⅱ】【魔力核Ⅲ】
《装備枠》
 なし
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第174話 Champion Time

Q.ここの極振り勢がデスゲームに入ったら?(SAO)
A.準備が整った50層辺りで、アインクラッドを使っただるま落としをすると思います

更新遅れて申し訳ない


 自分に味付けをして特攻する春巻き型クレオパトラアタックをかまし、翡翠さんに盛大に捕食され帰ってきた観客席。セナと藜さんを始めとしたみんなに『もう勝てないからってネタに走ったな』と、弄られたから成功だったと思う。

 因みに翡翠さんの味評価は、10点満点中7.8点くらいはあったらしい。曰く『もう少し甘くて、白くて、ふわふわな方を食べたかったです』とのことだったけど、変身して戦わなかったお陰で助かったと本能が叫んでいた。

 

 とまあ、そんな数行で終わる3位決定戦はどうでもいいとして、だ。凄まじく長かった様に感じる極振りエキシビジョンマッチにも、最後の時が訪れた。

 

『さあさあさあさあ!!

 遂にこの時がやってきました、極振り最強が決まるこの時が!!

 極振りエキシビジョンマッチ最終戦!

 奇しくも残ったのは最初期組であり、筋力と速度に特化したこの2人!!』

 

 ==========================

 

 

 ユキ━━━┓   ┏━━にゃしい

         ┃

      ┣┓ ┏┫

      ┃┃ ┃

 ザイル━━┛┃ ┃┗━━翡翠

       

        

 レン━━━┓ ┏━━デュアル

      ┃┃ ┃

      ┣┛ ┗╋━━センタ

      ┃   

 ザイード━┛   ┗━━アキ

 

 ==========================

 =========================

  【裁断者】アキ

     vs

  【限定解除】レン

 =========================

 

 にゃしぃ先輩が仰々しい態度で手を振り上げた先、出現したのは2枚の画面。これまでの戦績を示したものと、これから行われる決勝戦の組み合わせを示したもの。間違いのない激戦の予感に、スタジアムは緊張に包まれていた。

 

『攻撃全てが一撃必殺、悪即斬で敵を討て。三千世界の鴉を殺す! 我らがギルド【極天】のマスターにして、言葉にするならウルトラトンチキ! アキの入場です!!!』

 

 軍靴を鳴らし、外套を翻し、何一つ恥じることはないと言った様子でアキさんがスタジアムに戻ってくる。瞬間、スタジアムから湧き上がる歓声。なんてことはないレベル×物理=最強論の最終形態、男の子なら誰もが憧れるその姿に興奮しないわけがない。

 

『疾風迅雷紫電一閃、飛竜乗雲となりて幻のTSUBAMEも超えて行く! 過激なまでの速度の地平を過ぎ去って、光の速さで敵を討て! レンの入場です!!!』

 

 対するレンさんはやはり最速。アキさんが現れると同時、スタジアムの中央に出現した。対峙したからこそ分かるあの理不尽な速度、それをひしひしと実感しながら、やはり歓声がスタジアムを包み込む。力 is パワーが熱狂的な人気を誇るのと同じくらい、スピード=パワー理論も人気があるのだ。

 

「ねぇユキくん。ユキくんはどっちに勝って欲しい?」

「実際に戦って負けた分、やっぱりレンさんかなぁ。いやでも、一戦交えようと思ってたアキさんを応援するのも……やっぱりレンさんにしておくかな。セナは?」

「私もレンさんかな。こう見えても私、一応速度偏重型で昔からUPOやってるからね!」

 

 ふふんと胸を張るセナに、それもそうかと納得する。レンさんのあの速度に慣れた今、もしかすればセナの速度も見切れるのかもしれない。いや、分身がある以上まだ無理な気がする。

 

「む、私は、アキさんを、応援、します」

「藜さんは確か、どちらかというと筋力(Str)に振ってましたもんね。それに、系統こそ違いますけど藜さんも一撃必殺型だったと思いますし」

「ふふ、そう、ですね」

 

 何故か楽しそうに藜さんが足をパタパタとして、微妙にセナが不機嫌そうになった。どうして……? 肘で脇腹突かれるの微妙に痛いんですけど、その。あの。

 

『さあ、これが泣いても笑っても、胃が死んでもサーバーが悲鳴をあげても最終戦よ。気張って行きなさい!』

 

 そんなことを考えている間に女性運営の言葉が掛けられ、先輩2人の間にカウントダウンが出現した。いや、それはどちらに対する応援なのだろうか……両方だろうなぁ。

 

「何時ぞや私は、速さが足りずにお前に斬られたことがあったよな? アキ」

「ああ。条件が整っていたとは言え、あの時俺の(つるぎ)はお前に届いた。それは間違いない」

 

 スタジアムの中央で向かい合いながら、レンさんは挑戦的な笑みを、アキさんは相変わらずの仏頂面で火花を飛ばしあっていた。レンさんの周囲には既に豪風と雷電が渦巻いているし、アキさんは名状し難い波導のような物がスタジアムをひび割れさせている。なにアレ。

 

「だからこれは、あん時の雪辱戦って訳だ」

「俺もお前も、かつてと比べて格段に成長している。勝負を決めるには丁度いい機会だろう」

「ならお互い最初から、最速で、全力だ。どうせお互い、長くは最大値でいられない身なんだ。出し惜しみは無しで行こうじゃねえか」

「……なるほど、そういう意味か。悪くない、そちらがその気ならこちらも全力を尽くすまでだ」

 

 既にそんな散々たる状態であったのに、また一段ギアが切り替わった。レンさんのブーツからは光で作られた翼が立ち上がり、霧のような粒子を吐き出し始める。アキさんが両手に構える剣は、明らかに別物へと切り替わった。片や奇妙な節が刀身に刻まれた長刀、片や狼の牙を思わせる形の短刀に。

 

()() : 天秤裁剣アストレア、星辰斬剣コールレイン。創生せよ、天に描いた星辰を───我らは煌めく流れ星」

「そいつらを抜いたってことは、完全にやる気か。良いねぇ、そそるじゃねぇか」

 

 アキさんが微かな笑みを浮かべ刀を引き、レンさんも右足を大きく下げた初速優先の姿勢になる。レンさんの方は俺が最後にやられた最大加速技、アキさんの方は……武器の名前からして、ロクなことが起きないのは間違いない。

 

『ええい、間に合ったのがギリギリじゃない。減退式観戦用減速処理フィールド展開、やっとこれでマトモな実況が出来るわ!』

 

 そうして、カウントがゼロになり──

 

「フォトンブリッツ!!」

特化付与 : 閃光(Gamma-ray Keraunos)!!」

 

 互いが互いの必殺を叫び、アキさんが競り負けた。壁のような二条の極光斬をすり抜けて、深紅の粒子を纏ったレンさんの脚撃がアキさんの頭を撃ち抜いた。

 

「獲った!」

「ああ、だが()()()!」

 

 結果、耐えきれず爆散しながら千切れ飛ぶアキさんの頭部。しかしそれは当然のように、馬鹿みたいな根性論(魔法の呪文)と共に砕け散った。直後、変身によって姿を変えつつ、五体満足の状態で蘇るアキさん。部位欠損中の変身、ああいう処理になるのか……

 

『この実況は無理ね』

『ええ、諦めて観戦しましょう』

 

 実況は放り投げられた。

 

特化付与(オーバーエンチャント) : 烈光星(アルカディア)!」

「待ってたぜ、お前がそいつを使うのを!」

 

 そうして37秒の無敵状態に入ったアキさんに対し、微塵も臆することなくレンさんは突撃した。アキさんが刀を振るうよりも目算数十倍は速く、そして鋭く突き込まれた蹴撃は──

 

「1度この身で経験した以上、乗り越えてこそだろう!」

 

 迎え撃った短刀の一撃が、蹴りを去なしながら左脚を包んでいた防具を粉砕。続いて右の長刀が展開されている筈のバリアを紙以下の扱いで切り捨て、無防備なレンさんの右腕を斬り飛ばした。

 

「ハハッ、お前なら絶対そうしてくれると信じてたぞ!」

 

 右腕を笑って見送りながら、サングラスを下ろしてレンさんが更に加速した。右腕の負傷によるダメージは例のペットで無効化しつつ、軽くなった分常態でシステム最高速へと到達している。

 だが、どうしてまるでアキさんから逃げるような軌道なのか? その疑問は一瞬と経たずに氷解した。

 

「Jackpot!」

 

 引き起こされたのは、下手をしなくても俺のユニーク装備を超える大爆発。よく思い出してみれば、さっきレンさんの右腕に装備されていたのは腕時計型課金装備じゃなかった。

 アレは別ゲーに例えるならメガンテの腕輪。自滅と引き換えに、極大の爆発を引き起こすタイプの装備。爆破を見れない以上、つまらないので俺は持っていないけど……使われると、ここまでの威力を発揮するのか。だが──

 

まだだ!」

 

 炸裂した暴風が、爆風と粉塵全てを吹き飛ばした。目を凝らせば分かる暴風の正体は、アキさんの右腕に先程まで長刀として握られていた()()()。気持ちの良い音を響かせながら長刀に再構成されたそれは、明らかにアキさんの取れる戦術が広がったことを意味していた。

 

「瞬殺のファイナル・ブリットォォォォォ!!!」

 

 しかしそれに臆するこなく、とても楽しそうな笑みを浮かべてレンさんが特攻する。回転しながら急降下しての回し蹴り。発生しているエフェクトも相まって、さながら某映画の竜の巣のような有様のそれを迎撃するときに、ありえない筈のことが起きた。

 

特化付与(オーバーエンチャント) : 狂飆狼(アストレア)!」

 

 アキさんが余剰として吐き出す炎が、深い闇を思わせるような漆黒に染まる。同時にアキさんからも発生する漆黒の暴風雷雨。既に特化紋章術は起動しているのに、新たな特化紋章術が起動された。しかも側から見て上書きではなく、加算されているのが分かる異常事態。

 解放された蛇腹剣が、吹き荒れる暴風に乗って宙を舞う。いつの間にかレンさんの風をも飲み込んだ漆黒の暴風雷雨は、その正体を天候欄に示していた。天候【嵐天改】、間違いなく俺も使う【嵐天】のカスタム品がそこには顕現していた。

 

「テメッ、ズルじゃねえか!」

「いいや、公式裁定だ。どうにも元は2秒の無敵スキルである以上、本来使用不可能な特化紋章の回数もリセットされるらしい」

「それでも、詠唱時間は無理できるもんじゃ──ッ!」

「正真正銘、最後の切り札だ。UPOの後衛であれば誰もが使う、プレイヤースキルとしての二重詠唱。それを俺も、少しばかり利用させてもらった」

 

 それが意味することはただ一つ。1つのバフですら手に負えない無敵モードのアキさんが、更に新たな力を加えて理不尽の領域に達したこと。新たな紋章の効果は分からないけれど、このタイミングで切った手札ということはこの状況への回答札のはず。ならばつまり、この紋章の能力は──

 

「すべては、“勝利” をこの手に掴むために───!」

「ッ、面白れぇ!」

 

 掟破りの2重紋章。ダメージ発生範囲の超拡大。本来成立することなどない、RP(ロールプレイ)というある種のパロディだからこそ許されるトリニティ。そんな俺の予想が合っていたことは、紙一重で回避した蛇腹剣の軌道に沿って、削り取れたレンさんの左腕が示していた。

 

 アキさんの残りカウント 15秒

 




つまり?
通常攻撃が(実質的な)即死攻撃で、(実質的な)MAP兵器なプレイヤーとかナーフ待った無しだと思います。重ね掛けとかなくてもアレですが。

==============================
・特化付与 : 狂飆狼
 属性付与 : 風・雷・闇
 詠唱時間 : 60秒
 効果時間 : 戦闘終了まで
《メリット》
 攻撃範囲拡大(極大)
 Agl上昇 600%
 物理攻撃威力上昇 500%
 物理攻撃の3割を魔法ダメージとして追加
 与ダメージの1割を耐久値へのダメージに変化
 特殊効果でのHP全損無効
 天候制圧【嵐天改】
《デメリット》
 HPスリップダメージ発生(1s/800)
 Vit・Min低下 50%
 発動中武器以外のスキル封印 60秒
 被クリティカル確率100%
 痛覚減少深度低下 Lv3


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第175話 Champion Time is over

クリティカルフェンサーを大回転させてボスの首を刎ねてたので初投稿です。この手に限る(この手しか知りません)


 アキさんの残り戦闘可能時間は15秒。たったそれだけの、僅かな時間しか残っていない今使われた特化紋章。それはアキさんの切札宣言を証明するように、圧倒的な力となって吹き荒れた。

 左腕を削り取られたレンさんから察するに、新たに展開された紋章の効果は──天候の展開と攻撃範囲の増強。通常攻撃がダメージ(即死)の人には、ダメージ発生遅延や射程延長同様に持たせちゃダメなタイプの能力だった。

 

「本来であれば【装刀オリハルコン】を改造した【調界星刀ヘリオスフィア】で使う技ゆえ、少々荒削りになるが許せ」

 

 14秒。

 アキさんの右手に構る蛇腹剣が解け、風に乗って螺旋状に姿を変える。同時に蛇腹状に解けた金属片1つ1つに、収束され漆黒に染まった炎ではない青白い光が灯る。セントエルモの火……なのだろうか、普通の天候【嵐天】では見ることのないそれが、数十の破片全てに灯り──

 

「天神の雷霆よ!」

 

 13秒。

 メインテーマのタイトルコールと共にその全てに墜落した雷轟が、夜空に描かれる星座のように空間自体に焼き付いた。アキさんの束ねられた金髪を黒く染めながら、一瞬ではなく電子回路の様に雷が走る道が空間に刻まれていく。

 

「応ともさ! そっちこそ、私の両手を奪った程度で満足してないよな!」

 

 12秒。

 対するレンさんの動きも、両腕を失ったとは思えない異常性に満ちたそれだった。何せそう、持続時間は僅か1秒のみだったとはいえ、レンさんは8人に分身したのだから。そう、分身したのだ。幻影による実体を持たない見かけ倒しのそれではなく、実体による実体を持った本当の意味での分身に。

 本来それは、セナの持つユニーク称号【舞姫】の特権であるはずだ。だというのに、ペットの持つ1体だけ分身を作るスキルと合わせ、システム限界速度を完全に制御し切るという無理難題を土壇場で実現させ、有り得ないを現実にしていた。

 

「無論、そうだとも!」

「そういうと思ってたぞ、アキならな!!」

 

 11秒。

 7体の本人+分身による8人が、アバターを形成するポリゴンを一部崩壊させながらもその両脚で雷電を撃ち砕く。

 それを捉えんとアキさんは闇に染まった極光を纏う蛇腹剣を振るい、対の手で暴風雷雨の波濤を切り拓く。

 交わされる蹴りと刃、暴風と暴風、雷雨と雷雨、極限速度の天地鳴動と極限収束の天地両断。アキさんの全力解放から僅か3秒、たったそれだけの時間で戦場は形容し難い混沌とした状況へと陥っていた。

 

 スタジアムはもう形さえ残っていない。システムに破壊不能オブジェクトとして設定されている建物の基礎を除いて、スタジアムとして設置されていたある物は蒸発し、またある物は瓦礫となりゴミのように風に舞っている。黒い旋風が渦巻くそこは、敢えて言葉にするなら天災と天災が覇を競う聖戦じみた空気さえ醸し出していた。

 

「これが限界を超えたお前の力か、アキ! だが、まだ足りない! 足ァりないぞォ!」

 

 10秒。

 アキさんの双刀と蹴り結んだ後、レンさんは後方へ宙返りしながら間合いを離脱。着地した瞬間に今度は10体へ分身し──

 

「お前に足りないものは、それは!」

「速さだろう。己の不得手くらい、自覚している!」

 

 9秒。

 燃え上がる炎が翼のように、アキさんへの反動を無視して弾き飛ばした。当然、振われる双刀の行き先は9体の分身。飴細工を砕くように分身が途絶え、制御を失ったレンさんがスタジアムの壁に着弾する。同様に制御できる限界速度を超えていたのか、アキさんも反対側のスタジアム壁に着弾した。

 

「速さが足りないッ!!」

「まだだッ!!」

 

 8秒。

 直後、スタジアムの中央だった場所から衝撃が轟いた。見ずともわかる原因は、鍔迫り合う満身創痍の先輩の姿。意趣返しとばかりに左腕を吹き飛ばされ、刀を咥えるアキさん。そしてついに両脚の装備を砕かれ素足となったレンさん。その2人が、雷を足場にするという意味不明な方法で連続して激突していた。

 

「脚の指ってのは、便利だよな!」

「見事だ。だがまだだ、止まりなどしない。必ず俺が勝つ!」

 

 7秒。

 あろうことか、蛇腹剣のワイヤー部分をレンさんが脚の指で絡め取った。当然そんなことをすれば、武器に生身で触った判定となり即死は免れない。けれどほんの一瞬、展開するバリアを貼り直し続けるという絶技を持ってすれば触れることは理論上可能で、実際アキさんの右腕から刀を弾き飛ばすという快挙を果たしていた。

 しかしその程度でアキさんは揺るがない。即座に右刀を手放し、咥えていた左刀へ持ち替え。装備破壊の能力が宿った暗黒の極光斬がレンさんに向け放たれた。

 

「1発きりの魔弾、使いどきはここだ! 【タイム・ジャンプ】!」

 

 6秒。

 闇の波濤がレンさんを飲み込み、その残り僅かなHPを刈り取る直前。レンさんの姿が描き消えた。それは超スピードや催眠術みたいなチャチな偽物とは違って、正真正銘本物の転移。話にだけ聞いたことのある、3秒前に自分の状態を巻き戻すというペットのスキル。それにより、アキさんの死角から3秒前の加速度とダメージを保持したまま、一条の流星の如くレンさんが襲撃する。

 

「EXCEED CHARGE! 沈みやがれ!」

「否、否だ!」

 

 5秒。

 攻撃直後のアキさんは、その唐突な襲来へ対しても振り抜いた極光斬を余分に放射することによって迎撃。しかし、流石にこの一撃に限ってはレンさんの方が何枚も上手だった。

 すり抜けるように極光斬は紙一重に回避され、代わりに渦巻く風と紫電、ダメージエフェクトで作られた半透明で赤い円錐状のマーカーがアキさんの周囲に無数に出現。同数まで瞬間的に分身したレンさんが、マーカーを打ち抜くようにしてライダーキックを放った。

 

「クリムゾン・スマッシュ!」

「まだだぁッ!!」

 

 4秒。

 レンさん渾身のライダーキックが直撃する直前、アキさんの最後の足掻きのように極太の落雷がアキさん本人を巻き込む形で天墜した。そしてあろうことが、残り数秒は無敵なのをいいことにアキさんが選んだのは迎撃。落雷でレンさんのルートを絞り、復活していたブーツごと頭突きでライダーキックを粉砕する。

 

「もう、1発!」

「遅い!」

 

 残り3秒。

 顔の半分を吹き飛ばされることを代償に、レンさんの片脚をアキさんは頭突きで吹き飛ばした。威力は相殺、双方のHPゲージは変動しない。アキさんは0のまま、レンさんも1割を切っているレッドゾーン。だというのに、双方のギアは最高速すら置き去りになっている。

 キックを破られた反動すら利用してレンさんが離脱、そして即座に反転して第二撃を叩き込もうと再度マーカーが出現する。しかし同時に、アキさんも新たな剣を使った抜刀術の構えを取っている。

 

「【サターンエンジン】起動!」

 

 残り2秒。

 片足となったことで揺らいだ極限速を、どう考えても自爆が待っていそうなスキルで補いレンさんがライダーキックを敢行する。残った片脚には素足とは思えぬ程の力が渦巻き、螺旋の軌跡を描いている。

 

「──ッ!」

 

 残り1秒。

 対して、まるで明鏡止水といったような静けさを湛えたまま、刀に手を掛けアキさんはそれを見据えていた。残った片目では距離感が掴みづらいのか、あるいは最後の一撃必殺を狙っているのか。

 

 残り0.9秒

 ライダーキックが突き進む。

 

 残り0.8秒

 アキさんはまだ動かない

 

 残り0.7秒

 鯉口が切られた

 

 残り0.6秒

 刀が閃き──

 

 残り0.5秒

 螺旋を纏うライダーキックと()()()()()()一刀が直撃した。

 

「なッ──!」

「シィッ!」

 

 それは正真正銘、最後の一振り。アキさんがこれまで一度も見せてこなかった、エナジードレインの剣。俺も取得に協力した【呪怨剣ヨルムンガンド】が、これまでの戦闘で削れた他の剣達とは違い万全の状態で、その性能を十全に発揮させた。

 

 残り0.4秒

 アキさんの刀がバリアとポインターに深く食い込む。

 レンさんの速度が落ちる。

 

 残り0.3秒

 バリアとポインターが砕け散り、必殺の一刀が剥き出しの脚に迫り──レンさんが慣性を一切感じさせることなく静止した。

 

 残り0.2秒

 必殺の一刀が余波を残し、けれどレンさん本人に掠りながらすり抜けた。同時に遂に0コンマ数%の値にまでHPバーが削れていき、レンさんが再始動。爆発的なバリアと暴風雷雨のカーテンが再展開される中、ライダーキックが再加速して撃ち出される。

 

 残り0.1秒

 そして、2人とも何処となく満足そうな笑顔を浮かべ──

 

 残り0秒

 スタジアム全てを巻き込む、大爆発が発生した。

 ズズンとお腹に響く重い衝撃音。巻き上がった砂埃が戦闘が終わったことで解除されたフィールドから巻き上がり、スタジアム全体を覆い尽くす。

 

『決着、の筈ですが。軍配が上がったのはどっちです!?』

『分からないわ。実況席(ここ)からでもまだ何も見えていなもの』

 

 咄嗟に障壁でここら辺一帯は覆ったけれど、砂埃のせいで視界が悪い。頭上に浮かんでいるはずの勝利者の名前も、実況席からも見えないときた。

 

「ユキくん。どっち!?」

「ユキさん。どっち、でした?」

「……ごめん。俺も最後までは」

 

 でも、分かることが1つだけある。それは──この砂埃が晴れた時、立っていた方が勝利者だということ。

 

「俺の方が、速かったな」

「ああ、私の方が遅かった」

 

 誰もが息を呑んで結果を見守る中、静まり返ったスタジアムにそんな2人の言葉が響き──

 

「だからこそ、私の勝ちだ!」

「ああ。見事だ」

 

 後に続いたのは、高らかに勝利を歌い上げるレンさんの声だった。瞬間、スタジアム中央から吹き荒ぶ一陣の風。砂埃を攫った風が吹き抜けた後には、快晴の空が広がる。

 

Congratulations!

【Champion レン】

 

 青空に映し出されるは、このエキシビジョンマッチで優勝した証明。運や相性差があったとはいえ、極振り最強を示す唯一無二の証。それを仰向けに見上げながら、力と速さの勝負に勝ったレンさんはやり切ったような、満足した笑みを浮かべ横たわっていた。

 両腕と片脚の部位欠損で撒き散らされるダメージエフェクトは痛々しいが当の本人は満足気で、運営が気をきかせたのか数値化されたHPバーの残りはHP 2/4050。正真正銘、紙一重での勝利だったことを示していた。

 




The people with no nameだったかもしれない
1フレーム差で勝利です


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それっぽい掲示板の刃【無弾幕編】

世界が変わった(多機能フォームの掲示板テンプレ)


【新次元戦闘】極振りエキシビジョンについて語るスレ【サーバー負荷テスト】

 

1:名無しさん ID:MbQrR+SCV

 ここは間違いなく理不尽と狂気が溢れることになる、極振りエキシビジョンマッチについて語るスレです

 誹謗中傷はしたところで無意味なのでやめましょう

 極振りの挙動はステータスの暴力を除けば理論上俺たちでも十二分に可能なものです

 ナーフは運営に祈りましょう

 

4:名無しさん ID:vC0+pHZY4

 >>1

 スレ建て乙

 それにしてもひっどいタイトルだこと

 

 

8:名無しさん ID:iqaOqlmDS

 よく見ろ最初の忠告も酷いゾ

 

 

11:名無しさん ID:8d+Vm4jN9

 第1回戦はDex極振りのザイル vs Luk極振りのユキだっけ

 正直なところ、かなり正気組だし本体性能はそうでもない奴らだよな

 

 

13:名無しさん ID:PVOnYhPnU

 せやな

 トリガーハッピー対爆破狂やで

 

 

14:名無しさん ID:cTBLBeb9d

 どう考えてもロクな組み合わせじゃねぇ

 

 

15:名無しさん ID:d+bZuxSzR

 ヒャッハァ! 祭りの会場はそこかぁ!

 

 

17:名無しさん ID:xUHYQzsFi

 落ちていく、落ちていく、(狂気の)夢の中へ

 

 

21:名無しさん ID:O24jwRxwJ

 起きろ! 攻撃されている!

 ああ、窓に、窓に!

 

 

26:名無しさん ID:tiERmO7Me

 お、始まった……は?

 

 

28:名無しさん ID:BD4DO9rT2

 なんか二重に声が聞こえてくるんですけど

 

 

29:名無しさん ID:XViS0lbai

 かごめかごめとか怖い、やめて……

 

 

31:名無しさん ID:pe8Skgt1Z

 どうやってんだこれマジで

 

 

35:名無しさん ID:o5N/ZM8G0

 百鬼空亡じゃねえか!

 

 

36:名無しさん ID:0Eol1MPIe

 天候【百鬼夜行】とか何それ、初耳なんですけど

 

 

41:名無しさん ID:ue5xkmBg8

 >>35

 ひゃっき……そらほろ?

 

 

44:名無しさん ID:35vWLszwK

 >>41

 おいやめろォ! 絶妙に危ねえラインを突くな!

 

 

46 : 名無しさん ID:Pea61NUtS

 >>41

 それは当時芸歴6年の豆類にすら許されなかったんだぞ!

 

 

49:名無しさん ID:DwYs0ffkv

 >>41

 炎(上)の呼吸 壱の型!

 

 

51 : 名無しさん ID:F4nnsJwG5

 >>41

 百鬼空亡(なきりくうぼう)

 全年齢版の板だから超簡単に説明すると、燃え系エロゲの敵キャラ

 ネタバレになるが不死身の神、人形+龍神からなる破壊神

 神は祀り、鎮めるものであるからして戦うことすらダメ

 万が一殺そうとしたら地球がぼんする

 Q.つまり?

 A.こんな自信満々にそのロールプレイをしてる極振りがマトモな戦闘をするわけがねぇ! 総員対SANチェック体制! あと某社名が右の会社のやつだから買え! 全年齢版もあるから!

 

54:名無しさん ID:/FaL3xU5T

 有能解説ニキじゃん

 全シリーズ持ってるんだよなぁ

 

 

55:名無しさん ID:Ir8MGDZby

 プレミアついてて買えないです(´・ω・`)

 

 

58:名無しさん ID:+M0JuFqy/

 ここまで誰一人としてユキの登場シーンに言及なし

 

 

59:名無しさん ID:pQYf7RDjV

 >>58

 いやだって、今更爆破卿が楽しそうに爆破しながら領域展開してきたところで……今更というかなんというか

 

 

64:名無しさん ID:wbHZT5gQZ

 完全に迫力負けなんだよなぁ、そこまでユキが強いイメージないし

 

 

68:名無しさん ID:JVB0xJjiW

 だよな。パーティ組まれると化けるけど、単独だと爆破にさえ当たらなければ何とかなるイメージがある

 

 

73:名無しさん ID:0/EBkQAmU

 >>68

 避けられましたか……?(震え声)

 

 

74:名無しさん ID:PzWvrNg5z

 >>73

 結果は……ナオキです

 

 

76:名無しさん ID:ZdFNSPoBD

 当たらなければどうということはないけど、それが出来たらあのボスイベの攻略率もっと上がったんだよなぁ

 

 

79:名無しさん ID:YHKI4mXz9

 そうこう言ってる間に始まるぞ

 

 

82:名無しさん ID:bu5QOqYYY

 ……あの、開幕10割では?

 

 

87:名無しさん ID:F1O/fzyAq

 960門同時射撃に対して600門同時射撃封じをしながら、お互い立ち位置を変えつつ他の攻撃の隙を狙ってる……魔剤ィ!?

 

 

90:名無しさん ID:RyT20/UvJ

 おまえらにんげんじゃねぇ!

 

 

94:名無しさん ID:uhYd+Fcv+

 やっぱり人外じゃないか……どんな味がするんでしょう

 

 

96:名無しさん ID:v6C3cJn0/

 やべーぞこのスレ翡翠組が沸いてる! 逃げろ!

 

 

101:名無しさん ID:8womfdPvh

 >>94

 っ【極振り】どさくさに紛れてプレイヤー捕食してみた【レビュアーズ】

 同時極振り塔攻略してた人のやつがあるからそっち行こうな、、、

 

 

106:名無しさん ID:ILgc0ngNq

 ザイルが思った以上にヤバイのは確かだけど、これユキも相当だよな

 バイク乗りながらペットに指示出しつつ爆弾ばら撒いて障壁展開して、なんで張り合えてるんだコイツ

 

 

111:名無しさん ID:luV1So6VY

 なんか空からゾンビっぽい腕が降ってきたんですけど(震え声)

 えっ、ペット?(絶句)

 

 

113:名無しさん ID:QdSrF/D6D

 何あれ、スタジアム砕くくらいの膂力あるのにデバフ死ぬほどばら撒くの? 地獄?

 

 

117:名無しさん ID:oEihcHOyg

 でもあれ、基本的にはホーミング以外のバフは乗ってない銃弾だから、最前線プレイヤーなら余裕で軽減できるんだよなぁ……あんなマシンガンみたいに撃たれなきゃ

 

 

121:名無しさん ID:CgVe4cnmy

 その点、今回は手数特化 vs 手数特化か

 派手になるし嫌いじゃないわ!

 

 

123:名無しさん ID:FU1HFXbjg

 なんかお互い、大量に変なの召喚し始めた件について()

 

 

127:名無しさん ID:ehOmTOwxD

 これもう無ゾ

 

 

130:名無しさん ID:rx8XbHGsw

 解説じゃ敵対ビーイングだって言ってるけど、こんな物量攻撃どうすれば良いんだよ……戦いは数なんだぞ

 

 

134:名無しさん ID:8ZNMre1uH

 【悲報】敵mob、障害物と道路扱い

 

 

135:名無しさん ID:W5uXARICT

 これ全年齢フィルターかけないと……キツいっすね

 ゔぉえ

 

 

140:名無しさん ID:GfD8oQspi

 >>135

 そら(妖怪を押し潰す腐った腕とゾンビと骸骨を諸共爆殺するのを見れば)そう(飛び散るいろんな液体や肉片を見て死にそうな顔)よ

 

 

143:名無しさん ID:IpdqAwObs

 だが、流石我らが紋章遣いのトップ

 かなり善戦してて我々は嬉しい……これでもう「器用貧乏」なんて言わせない

 

 

148:名無しさん ID:uIc0mvWpr

 >>143

 でも劣化ユキじゃん

 

 

152:名無しさん ID:YT6URyCNJ

 ああ! ユキが竜の頭を一個爆破した!

 さすが爆破卿! 俺たちに出来ないことを平然とやってのけるッ! そこに痺れるぅ〜

 

 

153:名無しさん ID:iGRbMbcvN

 途中から痺れデブになってて草

 

 

155:名無しさん ID:NPARo9Q5d

「一定以上の金額をかけた装備じゃないと龍の首は落とせない」

 それってズルじゃん!

 

 

158:名無しさん ID:L3GaY/kDM

 それにしても、どっかの真アキみたいな弾壁してんなこれ……90度くらいは余裕で曲がってくるし

 

 

159:名無しさん ID:su2wy1OHy

 これこの2人ならなら弾幕ごっこできそうだよな

 

 

164:名無しさん ID:3JYhnxM1w

 こちらスタジアム、一部のバカ共がチートだチーターや! と騒ぎ出した結果、無惨様が降臨

 

 

168:名無しさん ID:pwSkGZKAd

 銀髪ペタンロリ! 素足! 無惨様!! おみ足prprした

 

 

173:名無しさん ID:nHG1imqNW

 >>168

 おかしい奴を亡くした……

 

 

177:名無しさん ID:gtfzosARM

 つーか今の期間なら、ゲーム内通貨さえ支払えば自分も極振りに出来るのにな

 ユニーク称号は流石にどうしようもないが、それが適応されてる状態の体験なら出来るわけだし

 

 

182:名無しさん ID:SabXtNqXN

 ほんそれ。ほならね、自分でやってみろって話でしょ

 俺は無理だった。ピーキーすぎる車より使えない

 

 

187:名無しさん ID:QuJggHm3R

『あなた達は本当にしつこい、飽き飽きする。心底うんざりしたわ。口を開けばチート、チーター、垢BANしろと馬鹿の一つ覚え。あなた達は運営が更新する垢BANリストも見れないのかしら? そも倒せると判明しているのだから十分でしょう。相手が特別だから何だと言うのかしら。自分達だって、特別を目指してゲームをプレイし続ければ済むことよ』

 運営が無惨語録使い出して草

 

 

189:名無しさん ID:5zKIGL0f8

 おいたわしや……運営上

 

 

194:名無しさん ID:3+ZBqv6Ts

『いつまでもそんなことを喚いてないで、最前線にでも行って経験値やスキルを稼いだり開拓したり楽しめばいいでしょう。殆どのプレイヤーがそうしているわ。なのに何故あなた達は、不平不満を垂れ流すだけでゲームを楽しもうとすらしないのか。理由は1つ、極振りアンチは異常者の集まりだからよ』

 これは存在してはいけない運営

 

 

197:名無しさん ID:nwVdBfBol

 これはパワハラの呼吸と煽りの呼吸どっちなんだろうか

 

 

201:名無しさん ID:SNcfMDBNk

 というか、やっぱりユキのほぼ無限残機は運営も問題視してたんだな

 

 

205:名無しさん ID:1Zp7AKtV4

 当の本人が爆破しかしてないせいで忘れてたけど、あいつ死ぬほど残機持ってるもんな……使ってるイメージないけど

 

 

208:名無しさん ID:NfYuPOyIk

 爆破卿はほら、毎日ビルを花火にしてるだけだから無害

 

 

210:名無しさん ID:8woMBbf7Z

 >>208

 目を覚ませ、UPOの常識が極振りに侵略されてるぞ

 

 

212:名無しさん ID:A6JgNczz2

 バイク……侵略……うっ、頭が

 

 

213 : 名無しさん ID:vcXNNoH8k

 >>212

 ご臨終です(カマス)

 

214:名無しさん ID:1ZdHMqEv6

 終段・顕象で声が合うの草

 クッソゲーム楽しんでそうで羨ましいわ

 

 

217:名無しさん ID:M7NjOYfTP

 出ちゃったよ……(邪神)

 

 

222:名無しさん ID:6zi+O8EL8

 神には神をぶつけんだよ!

 

 

226:名無しさん ID:rWzxKJNx1

【悲報】ザイル、レイドボスと渡り合う

 

 

228:名無しさん ID:AUf2qNYO6

 レイドボスイベントで、極振りをギミックに組み込んだ運営は正しかったんやなって

 

 

229:名無しさん ID:ClGSOvSK6

 まあそっちでも死ぬほど大暴れしてたけど、それでもまだ優しい方だったんだなぁ……

 

 

233:名無しさん ID:RZiKOqT0e

 この2人、極振り最弱の筈なんだけどどうなってるの……?

 

 

237:名無しさん ID:k/NDjTRJy

 >>233

 つまりもっと戦闘してるやつらは、これよりヤバいってことだ

 

 

241:名無しさん ID:mv1SYYSdq

 これもう別ゲーじゃん

 

 

246:名無しさん ID:hhQVvR8Wu

 >>241

 一体いつから、極振りが同じゲームをしていると錯覚していた……?

 

 

251:名無しさん ID:Y97xrZlAf

 実際やってみるとまるで動けないもんな、極振り

 リリース時とβ版のスレでやらない方が吉って書いてある理由わかるもん

 

 

254:名無しさん ID:JiCED54Yw

 そうそう。序盤のうさぎすら殺せず、当たらず、逆に嬲られて終わるだけという

 

 

255:名無しさん ID:CObbChMk+

 Vit極にすると、あの白くて赤い目のふわふわした生き物が、沢山、沢山集まってきて、装備とかで覆われてない柔らかい部分……その、目とか口とかをですね? こうぶちぶちと噛みちぎっていってですね……兎怖い、多い……

 

 

260:名無しさん ID:MsHlMuKSS

 うっ(死に戻り)

 

 

264:名無しさん ID:+Ga7ode4F

 やっぱり小説みたいに上手くはいかないもんだなぁ……

 

 

268:名無しさん ID:eCLiqp/q4

 状態異常に対する耐性もMin極以外、文字通りマイナスだしな……耐性スキルなんて手に入らなかったゾ(5敗)

 

 

269:名無しさん ID:3rPDCxngw

 でも兎、こっちから噛みちぎると美味しいですし……ポップコーンの味がして

 

 

270:名無しさん ID:z3Wweaixb

 やべーぞ誘導先からもう帰ってきた!

 

 

272:名無しさん ID:E/ntDg34Q

 というか、ユキこれどこ行った?

 スタジアム内にまるで見当たらないんだが

 

 

276:名無しさん ID:V7yb9paFa

 うわほんとだ、どこにもいねぇ

 一瞬目を離しただけなのに 

 

 

281:名無しさん ID:frTl/P35/

 ユキ=さんのカクレミ=ジツだ!

 

 

282:名無しさん ID:jI4Iq09ZP

【速報】ザイルネキ、レイドボスを10秒キル

 

 

287:名無しさん ID:FJ1yhBt1S

 なんやこの化け物たち……

 

 

289:名無しさん ID:8pe3H7p7W

 この2人でこれって、アキとかにゃしいとかスタジアム壊れそう……壊れそうじゃない?

 

 

290:名無しさん ID:0aThHdlaU

 あっ

 

 

294:名無しさん ID:DWTnwc12o

 あっ

 

 

295:名無しさん ID:U+zg1tAHt

 あっ

 

 

299:名無しさん ID:3r1wOwCPq

 アンブッシュ! 実際汚い!

 

 

301:名無しさん ID:0LDx2V+a2

 水を差すような真似を……

 

 

303:名無しさん ID:7CkHfQWtu

 むしろ完璧にアゾってて俺は好きだぞ

 

 

304:名無しさん ID:vD2FEK9ZP

 古来より伝わる、由緒正しい勇者が魔王を倒す必殺戦法やぞ!

 

 

307:名無しさん ID:T+HWCyNJm

 >>304

 その勇者、爆弾魔なんですけど

 

 

312:名無しさん ID:UcyMFsmvI

 まあ最近は、勇者も多様化してるしへーきへーき

 

 

316:名無しさん ID:tqzGM0C9X

 異世界人ニキおっすおっす

 

 

320:名無しさん ID:譛ャ邱ィ縺ォ縺ッ髢「菫ゅ≠繧翫∪縺帙s

 なぜバレたし

 

 

323:名無しさん ID:/5/OlwVkM

 !?

 

 

326:名無しさん ID:DSw8ACxrr

 !?

 

 

327:名無しさん ID:ZYs0m1+ZQ

 !?

 

 

328:名無しさん ID:fMt7N84TG

 えっ、は? マ?

 

 

332:名無しさん ID:4rGceIcix

 コテハン付けて(はーと)

 

 

334:異世界人ニキ ID:逡ー荳也阜繧医j讌ス縺励>

 だってこのゲーム、見てて楽しいんだもん……

 

 

337:名無しさん ID:7/g4PMHlZ

 えぇ……(困惑)

 あっ、そうだ(唐突)次試合割とすぐやるっぽいゾ

 

 

339 : 異世界人ニキ ID:霑第悴譚・繧オ繧、繧ウ繝シ

 やったぁ!(無邪気)

 

341:名無しさん ID:lGrlrvIs/

 にゃしい vs 翡翠……荒れそうだなぁ

 スタジアムもここも(重要)

 

 




因みに異世界人ニキは本物だけど本編には一切関わりません
UPO開発社にどう見ても邪神が紛れ込んでるのと同じ
そしてニンジャはいない、いいね?


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それっぽい掲示板スパイザー【スタジアムも認めた】

試しに外部サイト使わないと読めない文字化けじゃなくて、特殊タグで謎の文字にしてみました


【新次元戦闘】極振りエキシビジョンについて語るスレ part2【サーバー負荷テスト】

 

1:異世界人ニキ ID:はじめてのスレたて

 ここは既に理不尽と狂気が溢れることになった、運営が哀れな極振りエキシビジョンマッチについて語るスレです

 誹謗中傷はしたところで無意味なのでやめましょう

 極振りの挙動はステータスの暴力を除けば理論上俺たちでも十二分に可能なものです

 ナーフは運営に祈りましょう

 

 

2 : 異世界人ニキ ID:これでよめる?

 どうして高々リアル異世界人程度でスレが埋まるのか、コレガワカラナイ

 日本はそういうのに寛容だと思ってたのに……いや、受け入れられてるから問題ないのか?

 

 

3:名無しさん ID:tDOAloOSD

 乙

 初手IDバグは笑うし、バグの仕様が変わってて草

 

 

7:名無しさん ID:x/D0TD6nG

 宴の始まりだ!

 

 

11:名無しさん ID:kzLjJyE7H

 >>7

 なんだこのおばさん!?

 

 

13:名無しさん ID:GqiXvm2Dt

 ちぇるーん☆

 

 

17:名無しさん ID:5nPnIZsRx

 もぐもぐタイムだ!

 

 

22:異世界人ニキ ID:ドラゴンをスレイしてる

 >>3

 さっきまでは地球にいたけど、今は所用で異世界にいるので……

 

 

27:名無しさん ID:UkbjxPzmA

 生者のために施しを

 死者のためには花束を

 美味しいご飯のために身を捧げ

 悪漢共にはレストランの招待状を

 しかして 我ら聖者の列に加わらん

 翡翠ちゃんの名に誓い、全てのご飯をいただきます

 

 

31:名無しさん ID:qHyHew7X1

 今こそ翡翠ちゃんの光をあまねく世界に!

 

 

36:異世界人ニキ ID:いせかいにもフキョウしよう!(ていあん)

 遍く世界に!

 

 

37:名無しさん ID:NwC5oazxC

 この世の全ての食材に感謝を込めて、いただきます

 

 

42:名無しさん ID:KKl/OO+jr

 もうダメだぁ……おしまいだぁ……

 

 

44:名無しさん ID:cWWD3qxGQ

 翡翠ちゃん vs にゃしい

 とかいう夢のカードだからね、仕方ないね

 

 

49:名無しさん ID:dhG9o2eea

 このスレはもう、終わりですね

 

 

52:名無しさん ID:69Ou6Oc+Z

 ここも時期、翡翠色に沈む……

 

 

57:名無しさん ID:15q9arlzr

 悪質なスパムや勧誘すら湧かないというこの 

 

 

61:名無しさん ID:MX+yds3kh

 まるでアクシズ教徒だ……

 

 

63:名無しさん ID:57rQBSMPu

 これにはアクア様もげっそり

 

 

66:名無しさん ID:Vc0SPQOFb

 ここまでにゃしいの話題は1つしかないにゃしぃ…

 

 

67:名無しさん ID:m93Gtfo0J

 >>66

 それはにゃしい違いでは

 

 

70:名無しさん ID:JQKRAJ5ps

 >>67

 相手が翡翠ちゃんなのが悪かった

 

 

74:名無しさん ID:mDlFSYdc9

 >>67

 所詮爆裂娘でしかないということよ……(UPO内魔法ダメージのホルダーでも)

 

 

79:名無しさん ID:m5uBrsRQP

 こう言われると、にゃしいって極振りの中だと割と正気度高いよな

 爆裂さえ関係しないとただの人って感じ

 

 

80:名無しさん ID:ie+JvZ2qw

 >>79

 原作再現に忠実だよな……めぐ○んRPに尊敬するわ

 尊敬する。尊敬するから私をぼっちというのはやめて、やめて……!

 違うの! 私はあくまでソロでやってる魔法使いなだけなの!

 友達いないとかじゃないの!!

 

 

82:名無しさん ID:2dKKX6Of6

 >>80

 おはゆんゆん

 

 

86:名無しさん ID:KibVjg9nA

 >>82

 シッ、そってしておくんだ

 

 

87:名無しさん ID:IRJbsRVeE

 そして(>>80の周りから)誰もいなくなった

 

 

92:名無しさん ID:RdUWFrq2N

 頭がぴよぴよしてきた

 

 

95:名無しさん ID:DpCD78Rjr

 はじまた

 

 

100:名無しさん ID:BBQZvxYv0

 初手領域展開

 

 

101:名無しさん ID:POJ+b8Q6G

 どうして極振りはみんな天候を書き換えるんだ……

 

 

106:異世界人ニキ ID:はどうたいきょくってかっこいいよね

 そりゃあ、世界を自分で塗り潰して己の法則を展開、相手を自分の世界に引き摺り込むことこそ到達点だからね!

 

 

109:名無しさん ID:Z5k5j2iwW

 異世界人ニキ、ゴリゴリのバトル物異世界出身だった

 

 

114:名無しさん ID:LqTdqD+2J

 なるほどつまり、お腐れ様としての力を高めれば『××××しないと出られない部屋』が合法的に展開可能……?

 

 

119:名無しさん ID:0GPrtd0JZ

 >>114

 天才か?????

 

 

122:名無しさん ID:8noFDessM

 翡翠ちゃん、降臨

 

 

126:名無しさん ID:x8KEPF81i

 ヒスイチャンカワイイヤッター

 

 

127:名無しさん ID:rxvsMgXle

 ヒスイチャンノゴハンニナリタイ

 

 

131:異世界人ニキ ID:みちのあじがたくさんまってる

 ヒスイチャントイセカイクイダオレタビシタイ

 

 

135:名無しさん ID:11rSsWUne

 ニキ、最早なんでもありやな……

 

 

140:名無しさん ID:jQquJA0zM

 いやぁ、それにしても領域の塗り潰し合いはやっぱり壮観だな

 

 

141:名無しさん ID:gnd8AXkAf

 >>140

 普通、最前線のさらに奥の方に行かないと見れない光景だもんな

 

 

142:名無しさん ID:ndGOeexqj

 そう考えると、さっきのユキとかザイルと違って割と勉強になる……なる……? なるかもしれない

 

 

146:名無しさん ID:kgmAH3mGP

 こういう天候と天候のぶつかり合いとか大怪獣バトルが見たい人は是非新大陸に! 新大陸はいいぞ! いい意味でも悪い意味でもオンゲらしさが詰まってる!

 

 

151:名無しさん ID:RXAjokKA9

 >>146

 物資不足でロクな探索出来てないじゃん……

 

 

153:名無しさん ID:0+LXY0prm

 >>146

 あの自分の天候を展開し続けてないと死ぬ空間は申し訳ないがNG

 

 

156:名無しさん ID:nLEnzbNsq

 某爆破狂「何そこ桃源郷か????(配信) 家建てました!!!(翌日) 気持ちぃぃぃぃ!(火薬風呂)」

 

 

161:名無しさん ID:no+l2QN+x

 火薬風呂以外事実なの本当に度し難い

 

 

166:名無しさん ID:QNKKYt1fH

 極振り相手じゃ一切意味がないだけで、どっかの爆弾魔は天候書き換えの最大手でもあるからなぁ……

 

 

171:名無しさん ID:D4vM3qs6F

 相変わらず翡翠ちゃんが何言ってるのか、圧縮されすぎてわからん

 

 

174:名無しさん ID:eJDTvMZOi

 啓蒙を高めろ

 

 

178:名無しさん ID:NHdl3jYIm

 相変わらず、にゃしいはノリっノリで詠唱するなぁ…

 

 

180:名無しさん ID:nTRE7rr+4

 この提唱のこのクソデカ魔法陣、間違いなく鮫御大戦の時に使ってたマダンテじゃん……

 

 

185:名無しさん ID:M3ShKAi6t

 初手より奥義にて仕る

 

 

190:名無しさん ID:4fwUcOnO8

 >>185

 防人は座ってて

 

 

193:名無しさん ID:TZ4nIdzKK

 >>180

 鮫御大って?

 

 

197:名無しさん ID:1c/y72LUi

 >>193

 第4の街から先に進むための特殊レギュで行われたボス戦に出てきたボスの1体。メガロドンにクトゥルフの手足と羽根を付けたような名状し難い何か。綴りは【Sharcthulhu】でフカヒレがとても美味しい

 

 

202 : 名無しさん ID:C/fg/t8Rd

 最後の一文で台無しな件

 

 

203:名無しさん ID:NtuVV7y8N

 >>197

 この、この、日本人!

 

 

205:名無しさん ID:xJH3IK81A

 ああ、でも、爆裂がちゃんと硬い障壁に防がれて……

 

 

207:名無しさん ID:DN2nt8WfM

 届……かない!

 

 

209:名無しさん ID:i3fOHDgdF

 爆裂を踏み台にしたぁ!?

 

 

210:名無しさん ID:hmzGE9+Y3

 おててのしわとしわを合わせて

 

 

215:名無しさん ID:U8jQccYSA

 さあ、みんな一緒に!

 

 

220:名無しさん ID:1NkpWW7bT

 いただきます!

 

 

225:名無しさん ID:yi4eqUkOf

 いただきます!

 

 

229:異世界人ニキ ID:じょうずにやけました!

 いただきます!

 

 

231:名無しさん ID:O+jHw69dL

 >>205

 ちゃんと硬い障壁で草

 

 

235:名無しさん ID:PIsCP7Qtc

 >>231

 奴をレストランへ連行しろ!

 

 

238:名無しさん ID:6dO3ajg72

 ぴよ(一般プレイヤー絶望の宣告)

 

 

239:名無しさん ID:Tr/BWCE42

 ゲーミングひよこぇ……

 

 

243:名無しさん ID:jnU1wf7rp

 蒼き団長翡翠ちゃん(バスター)

 

 

244:名無しさん ID:QwMANmdvA

 >>243

 確かに(爆破の反動利用して)速攻しかけて、多色(ゲーミング色)のひよこを呼び出してる……

 

 

248:名無しさん ID:xv1/fZnEb

 にゃしいのすらりと長い左腕を咥えてるから、ビジュアルも完璧だな!!

 

 

253:名無しさん ID:jSEmKi5T6

 狂気と爆裂と食欲の宴(パーフェクト・マッドネス)は終わらない。

 

 

254:名無しさん ID:1ltNGejZv

 なんかここら辺、臭わないかぁ?

 

 

258:名無しさん ID:GEc8JUJLJ

 カードゲーマーは(一部のヤベー奴らを除いて)臭くないもん!

 

 

260:名無しさん ID:oWI6Zt8qe

 語るに落ちてて草

 

 

264:名無しさん ID:wi3nNF1zM

 というか、さっきのユキvsザイル戦でのアレが酷すぎて、未成年フィルターがデフォで貼られてて笑うんだけど

 

 

265:名無しさん ID:1QQpX3TZa

 リョナは特殊性癖だからね、仕方ないね

 

 

269:名無しさん ID:egU2up6lF

 >>265

 嘘だ!!!

 

 

273:名無しさん ID:siLveRbelL

 >>265

 四肢の1本や2本、五感の1つや2つが欠損したところでなんの問題が……?

 

 

274:名無しさん ID:98ZW3CKfh

 >>273

 何だァ? テメェ……

 

 

277:異世界人ニキ ID:ほう、たんさんぬきコーラですか、たいしたものですね

 独歩、キレた!!

 

 

280:名無しさん ID:lNoSkk7q2

 おかしい、ここは実況板のはず

 なのに、一切試合の状況が流れてこない

 これは絶対におかしい……何かあったに違いない!

 

 

284:名無しさん ID:Jp2AkfIJT

 だって、にゃしいネキも焚書官スタイルになって頑張ってるけど、もう正直消化試合だし……

 

 

288:名無しさん ID:WiPLkKw2e

 初手でリソース使い切ってるから、アレで仕留められなかった以上もう、ふわふわもぐもぐ時間だし……

 

 

289:名無しさん ID:RXzeikS6b

 モノを食べる時はね、誰にも邪魔されず

  自由でなんというか救われてなきゃあダメなんだ

   独りで静かで豊かで……

 

 

294:名無しさん ID:D9j5sGy4R

 !?

 

 

299:名無しさん ID:9rknoZprW

 声優ネタ……だとぉ!?

 

 

302:名無しさん ID:Jr/x5KbHQ

 今週の「だとぉ」!? 回収

 

 

305:名無しさん ID:zvx/fTdmO

 おおおお!!(翡翠ちゃん無傷)

 

 

309:名無しさん ID:HpKeL8NDn

 見た感じと話の感じからして、爆裂バフは全部乗ってるけどなぁ……相性が悪すぎる

 

 

311:名無しさん ID:927sIs3r2

 多分これ、ちょうどいい味変になってると思う

 

 

313:名無しさん ID:xL0rPfuiE

 なるほどそうか!(にんにく注射でニンニク味になるアイテムを構えつつ)

 

 

316:名無しさん ID:LAzn9+cmo

 白い魔王って今言った!?

 

 

320:名無しさん ID:lcN6WXYtc

 星を、軽く、砕く!!

 

 

322:名無しさん ID:BgcAFkN1S

 星光の一撃なんだよなぁ……いや今回は吹雪だけど

 

 

324:名無しさん ID:WLBsI7sTS

 翡翠ちゃんのHPが削れて……削れて……あっこの勢いダメだ

 

 

326:名無しさん ID:VuR9AiL5D

 しかしペットパワーでリスポンする

 

 

327:名無しさん ID:CG8VlH+K8

 「イイッ↑タイ↓ウデガァァァ↑!!?」

 

 

330:名無しさん ID:fy7bMQzad

 はい、いただきました

 

 

331:名無しさん ID:yUCRfHxT9

 人を……喰ってる

 

 

333:名無しさん ID:RzCn4TQlr

 (割とUPOでは日常茶飯事では……?)

 

 

334:名無しさん ID:dt0ABqPEY

 (味のフレーバー設定されてるしなぁ)

 

 

338:名無しさん ID:O0N3CEHRB

 (ゾンズとかもいるし)

 

 

343:異世界人ニキ ID:やっとドラゴンとうばつしたわ

 (ちくわ大明神)

 

 

345:名無しさん ID:R8XrPYyip

 誰だ今の

 

 

350:名無しさん ID:pE3CwOUPr

 ところで竹輪って……美味しそうですね

 

 

354:名無しさん ID:pvrJ5rWge

 プレイヤーで作る、竹輪……?

 

 

 




SANチェックは要りませんね!
※翡翠ちゃん用の専スレは作者の頭がもちませんでした


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高速のビジョンを見逃した掲示板

平安京を外道砲で轟雷一閃してきたので初投稿です


【お前に足りないものは】極振りエキシビジョンについて語るスレ part3【動体視力が足りない】

 

1:名無しさん ID:SRif7rzjb

  ここは既に理不尽と狂気が溢れることになった、運営が哀れな極振りエキシビジョンマッチについて語るスレです

 誹謗中傷はしたところで無意味なのでやめましょう

 極振りの挙動はステータスの暴力を除けば理論上俺たちでも十二分に可能なものです

 ナーフは運営に祈りましょう

 

 

5:名無しさん ID:BCnCpO63U

 まさか翡翠色の汚染がこっちにまで広がってくるとはな……このUPOのリハクの目をもってしても見抜けなかった

 

 

7:名無しさん ID:RK6rO798L

 ここに病院を建てよう!

 →ここに建てた病院が逃げた!

 →病院で感染拡大した!

 →ようこそ翡翠食堂へ(イマココ)

 

 

8:名無しさん ID:uLqUt+Hxc

 医療崩壊で草

 

 

13:名無しさん ID:a55tzsaoq

 >>5

 それただの節穴では?(ボブ訝)

 

 

18:名無しさん ID:Mi3ekqhRC

 ハイハイここでカット!

 またあの狂気に飲まれるのは御免だ、俺は部屋に帰らせてもらう! 

 

 

20:名無しさん ID:CmraxD8Kq

 >>18

 惜しい人を亡くした……

 

 

22:名無しさん ID:AkGWSgN3C

 さて、次の対戦カードはこれまでと違ってAgl極振り同士なわけだが……実際問題、俺らに見れると思うか?

 

 

23:名無しさん ID:XJKdpoNfG

 見れない

 

 

26:名無しさん ID:D9y7cMPN7

 見れない

 

 

29:名無しさん ID:VR03NTKmY

 見れない

 

 

34:異世界人ニキ ID:スカイフィッシュよりはおそいし

 遅れたけど見える

 

 

37:名無しさん ID:5hPemlQ5X

 ほんと異世界人ニキ万能やな……

 

 

39:名無しさん ID:JHRmWrPAz

 肉体の基礎スペックが違い過ぎる

 

 

44:異世界人ニキ ID:これだからイセカイかんこうはやめられない

 いやでも、情報処理能力は極振りに劣るから……

 特にこれから戦うAgl組とか、あとユキとかザイルとか翡翠とか

 

 

48:名無しさん ID:6nQMSnkV1

 【悲報】極振りども、異世界人から見ても化け物だった

 

 

53:名無しさん ID:tgWhJ/3uC

 【朗報】我らが極振り、異世界でも通用する演算力

 

 

55:名無しさん ID:2L4gWnTS/

 悲報か朗報かはっきりして

 

 

59:名無しさん ID:Clnu0esDi

 【速報】実況席、にゃしいの怒りに触れて爆裂

 

 

64:名無しさん ID:u8UeIyAJa

 >>59

 死んだんじゃないの〜w

 

 

69:名無しさん ID:wBLBX+vZI

 >>64

 残念だったなぁ……トリックだよ

 

 

74:名無しさん ID:XFUopFWTP

 >>69!? 死んだはずじゃ

 

 

75:名無しさん ID:3HT3ervtm

 とんでもねぇ、待ってたんだ。

 

 

77:名無しさん ID:gGbuP/VvV

 この流れも最早過去の遺物なんだろうなぁ……

 

 

81:名無しさん ID:0zKFzUQEm

 この時代、よしんば二位だったとしても? のネタすら通じないもんな……

 

 

83:名無しさん ID:4HYfg2Aqo

 あ、にゃしいが実況席を奪い取ったにゃしぃ

 

 

84:名無しさん ID:4g9hO7+eF

 これは……いや、どっちだ

 百合か、ノット百合か

 

 

87:名無しさん ID:eXPke4I/b

 百合博士! 百合博士はおられませんか!?

 

 

91:名無しさん ID:yahYC8/Fv

 うーん、これは百合(ガバガバ判定)

 

 

96:名無しさん ID:Vcggqmf/k

 私の手元にある極秘情報によれば、にゃしいとあの素足銀髪ペタンロリ運営はこのイベントが始まるまで、おててを繋いで遊園地デートを満喫していた。弾ける笑顔、花の香り、クレープを食べさせあいっこ、指で拭うクリーム、そのまま口へ、口へ!? 指が!!?? ミ゜ッ そして2人っきりの時間と空間、遊園地に二人っきり……二人っきり!? 何がともあれ頑張るぞ、ヨシッ!(現場猫)二人っきりの遊園地だぞ! 確実にいちゃついていた! 尊みで溢れ、華やいでた! Fuu↑ よってナニも起きないはずがなく……即ち深い関係=にゃしい×ロリ運営=百合=フォーエバー……スゥゥゥゥ、よって百合であるQ.E.D証明終了!!!

 

 

101:名無しさん ID:hYkQfAdKf

 >>96

 気っっっもち悪いなぁ、お前

 

 

106:名無しさん ID:Rshahnarkv

 は???? ねこ×ゆきが大正義なんだが????

 

 

110:名無しさん ID:Rw1x4D5ux

 なおここまで、試合が始まってすらないのに100レス消費である

 

 

115:名無しさん ID:436JRnV+s

 >>96

 開けろ! デトロイト市警だ!

 

 

116 : 異世界人ニキ ID:ドラゴンステーキにマキシマムかけたけどおいしいね

 >>96

 デトろ! 開けロイト市警だ!

 

 

119:名無しさん ID:F9l6RsglY

 スタジアムの戦闘空間だけ描写速度を変えるシステムだって!?

 

 

123:名無しさん ID:7yqAlfJ1O

 >>119

 何だって!? それは本当かい?

 

 

127:名無しさん ID:1HUNjJnL9

 これは運営有能ドルベ無能

 

 

131:名無しさん ID:7CVKuH5+L

 ここまでの極振りのせいで前倒し実装は草

 

 

133:名無しさん ID:DkMaRzSEf

 すげぇ気合入った入場コール

 

 

135:名無しさん ID:qtEhKn/XZ

 ポケモンネタを突っ込んで行くスタイル、嫌いじゃない

 

 

137:名無しさん ID:IAArOnbEp

 良かった、俺らにも観れる

 

 

140:名無しさん ID:raT9pIlnd

 運営「マカセテ」

 

 

141:名無しさん ID:HS2K0esLF

 そしてレンネキ、安定の兄貴モチーフのコールで出現

 

 

143:名無しさん ID:YxvAgxtaC

 入場じゃなくて出現なのほんと草

 

 

144:名無しさん ID:OdQS8kRrp

 >>140

 露骨なフラグを建てるな

 

 

149:名無しさん ID:NpbAHjf8i

 ハサン vs 兄貴とか捗るな

 

 

151:名無しさん ID:ZOiZYdums

 パンチラを追う者 vs パンチラを回避する者

 

 

152:名無しさん ID:ISziPxvYg

 ビックリするくらいチープになった

 

 

153:名無しさん ID:QWX0syqrr

 実はそれを口実にイチャついているんじゃないか説

 

 

158:名無しさん ID:e4BtCwn2j

 『さあ、いざ尋常に──』

 『勝負!』

 

 

159:名無しさん ID:TNLnx73i2

 ?

 

 

160:名無しさん ID:zfPn/M7+r

 ?

 

 

163:名無しさん ID:Yegdaeqxw

 ?

 

 

168:名無しさん ID:fKkYQp2n1

 ?

 

 

170:名無しさん ID:f6w5AXfyY

 ?

 

 

175:名無しさん ID:4bBHGvc+W

 何も見えねぇ

 

 

180:名無しさん ID:yFjRC4lZH

 運営無能

 

 

184:名無しさん ID:B+d09+LAH

 すげぇ、初めてあの二人の戦闘がまともに見れる……運営有能かよ

 

 

189:異世界人ニキ ID:サラマンダーよりずっとはやい

 曲線起動のザイードと、ドヒャアドヒャァしてるレン

 こんなのそうそう見れる戦いじゃないって!

 ●REC

 

 

191:名無しさん ID:ElRxCPBpJ

 見えてる奴と見えてない奴がいて草

 

 

195:名無しさん ID:t8yg+VOOV

 異世界人ニキ大興奮やな

 

 

197:名無しさん ID:PEDVg+xI2

 わかんねぇ……

 

 

201:名無しさん ID:kw5/SxlIf

 暴風雨と雷と闇で何も見えないんだよなぁ

 

 

203:名無しさん ID:kLZRp8zww

 >>201

 結構個人差もあるみたいだけど、新大陸渡ってる最前線組の前衛ならギリギリ見れる速度らしい

 

 

204:名無しさん ID:4dHb2Re7B

 新大陸組でも後衛のワイ、影しか見えない

 

 

206:名無しさん ID:XYl02ZFw/

 速度2〜3000万!? うせやろ!?

 

 

209:名無しさん ID:CKJwu/UjE

 それよりも空間認識能力5重起動ってマ?

 なんで吐いてないの?

 

 

212:名無しさん ID:hQTcdAS71

 まあ、そこまでイカレてるなら仕方ない希ガス

 

 

214:名無しさん ID:D4CF8msng

 何せ気合で状態異常を吹き飛ばすとかいう意味不明をしてるくらいだしな!!

 

 

217:異世界人ニキ ID:ジャシンのおもわくをこえてこそのにんげんよ

 >>214

 あっ、おい待てい(江戸っ子)

 あれはただの【黒く輝くトラウマの調べ】ってスキルの効果ゾ

 自分の速度に応じたバフがもらえるスキルで、そのうちの一つに状態異常無効化がある

 加速! 加速解除! 加速! で実質的に状態異常無効になる

 

 

219:名無しさん ID:c5cj9pnhU

 何だそれは、たまげたなぁ……

 

 

223:名無しさん ID:wlTxQq5U2

 黒く輝くトラウマ……閃いた!

 

 

224:名無しさん ID:zSUAi0E6F

 >>223

 通報した

 

 

226:名無しさん ID:Syot7t9pS

 黒い悪魔の名前を出すな

 

 

227:名無しさん ID:DlTSTXs4r

 >>217

 異世界人ニキ、ネットミームにどっぷり浸かってて草なんだが

 

 

229:異世界人ニキ ID:ユウカンなるものよウツツへとかえるがいい

 娯楽に乏しい異世界人がネットに触れたら、こうなるのは当たり前だよなぁ? 今宵の月のように

 

 

230:名無しさん ID:Gr11E92oB

 もうヤダこの異世界人

 

 

234:名無しさん ID:AKRA/MWP8

 これが魔法使いの目指した極点、界渡り(ブレインズウォーカー)何だってんだから涙が出、出ますよ……

 

 

238:名無しさん ID:QaOjGxf5H

 もうみんな試合の話してなくて草

 

 

239:名無しさん ID:7S4jd4Jtp

 >>238

 だって会場にいるようなレベルの奴らじゃなきゃ見えないし……

 

 

242:名無しさん ID:GV30lvPIt

 音もろくに聞き取れないし……

 

 

244:名無しさん ID:j7wpnCUxi

 運営!! もっとしっかりしろよォ!!

 

 

247:名無しさん ID:hVSafD9NJ

 これぞヤムチャ視点って感じ

 

 

248:名無しさん ID:u9dNfJWAK

 こうして思うに、ユキとザイル、にゃしいと翡翠は相当一般人目線だったんだなって

 

 

253:名無しさん ID:cZFm+LAg5

 わかる

 速度極振りは人間じゃないね(確信)

 

 

258:名無しさん ID:SSsyojYqX

 だからこそ最強格なんだよなぁ

 

 

260:異世界人ニキ ID:あとわたしはエルフだからせいべつはないぞ

 なんだか盛り上がりにかけてるし、ここで関係ない話題を1つ

 盛り上がる最高のバトルの中、ひらめく布地の向こうに甕覗色の三角を見た

 

 

264:名無しさん ID:Ig4bk9yEa

 !?

 

 

268:名無しさん ID:CwVI1B0PB

 !?

 

 

269:名無しさん ID:zVJRonko2

 異世界人ニキ、撮影班だった!!??

 

 

273:名無しさん ID:Prjge/RyS

 >>260

 それって何色に近い?

 

 

278:異世界人ニキ ID:オークしすべしじひはない

 水浅葱色に近い

 

 

281:名無しさん ID:4e5mCPpoF

 (色が読めねえ)

 

 

283:名無しさん ID:3pNfXx30K

 甕覗(かめのぞき)色やで

 やわらかい緑みの青、日本の伝統色だね

 

 

288:名無しさん ID:Bt5VlwtuR

 これは清楚、間違いない

 

 

290:名無しさん ID:vv+oiaW/D

 あっ、レンが勝った

 

 

292:名無しさん ID:MPXw2rIuu

 マジだ、いつのまにか勝ってる

 

 

296:名無しさん ID:+6VYh/3+H

 うーん、この。不満足感よ

 

 

299:名無しさん ID:pha5vsK7E

 こんなんじゃ……満足、できねぇぜ……

 

 

304:名無しさん ID:9SmbJNOYf

 >>299

 ステイ!

 

 

 




最初から最後まで、満足してみれたのは極振りと準極振りくらいでした


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最強の極振りは?ってツイートしただけなのに!【掲示板柱】

柱合会議編(無限連射編からタイムリープ)
あと今日から突発、毎日投稿ウィークです


【矛×矛×盾】極振りエキシビジョンについて語るスレ part4【まさかのバトルロイヤル】

 

1:名無しさん ID:C9u7yR9FD

 ここは既に理不尽と狂気が溢れることになった、運営が哀れな極振りエキシビジョンマッチについて語るスレです

 誹謗中傷はしたところで無意味なのでやめましょう

 極振りの挙動はステータスの暴力を除けば理論上俺たちでも十二分に可能なものです

 ナーフは運営に祈りましょう

 

 

5:名無しさん ID:X7PC3emlp

 ついに来たか……アキの出番が

 

 

6:名無しさん ID:853tYzqS/

 さっきまでとは違って俺らでも目視できるで!

 あと次スレ立てたのはいいけど前スレ終わってねぇ!

 

 

10:名無しさん ID:NesG6F3ey

 さっきの速度勝負、最後はシステム限界に到達してて極振りでも見れなかったらしいしね。実時間も95秒じゃ仕方ない

 あと、もうあそこ見に行かない方がいいよ。運営への愚痴と魅せプレイもできないのかって批判ばっかりだから

 

 

13:異世界人ニキ ID:ガシッボカッあくはほろびたガンマレイ

   ∧_∧

 ( ・∀・) ワクワク

 (  ∪ ∪

 と__)__)  旦~

 

 

16:名無しさん ID:/TOVQkm1L

『学校で余った人を混ぜてやる体育の準備体操』

 やめろにゃしい、その言葉は俺に聞く……

 

 

17:名無しさん ID:tymHJABWj

 うっ、心臓が

 

 

18:名無しさん ID:0nSO8zslB

 爆裂魔法じゃなくて即死魔法ばら撒くのやめろ

 

 

22:名無しさん ID:VBIZKppgE

 >>18

 爆裂も実質即死魔法では?

 

 

26:名無しさん ID:WqzxAoGTB

 それもそうだったわ

 

 

30:名無しさん ID:zxzGTRVvd

 そして思えば、もうエキシビジョンの1回戦はラストか

 

 

33:名無しさん ID:41BUMlAEE

 長かったような、短かったような

 ただ間違いなく異次元ではあった

 

 

36:名無しさん ID:u3554p3n4

 基本的にスキルは俺らと同じなのに、基礎スペックが狂ってるせいで何もかもが狂ってるんだよなぁ

 

 

38:名無しさん ID:1V+ETSXVB

 最前線組でもバフを最大まで盛ってステ10,000弱から15,000の間くらいだもんね

 

 

42:名無しさん ID:ccMr4OAPH

 それはそれで俺らにとっては異次元なんですが

 

 

45:名無しさん ID:TyG6++Qmm

 なお極振りは素の状態で10,000〜30,000である

 

 

47:名無しさん ID:8wfVrFygM

 意味不明すぎるスペックだけど、実際やってみるとより意味不明なんだよな

 ドラッグマシーンでドリフトしようとする感じ。特にAgl極だとそんな感じ。慣性消去スキルないと無理

 

 

49:名無しさん ID:N1SIgRtfw

 >>47

 幸運極振りは……?(小声)

 

 

54:名無しさん ID:AH7nAR/zq

 >>49

 ッ、スゥゥゥ……一般人、です、かね……?

 

 

57:名無しさん ID:qBdJV897M

 一般人(爆弾魔)

 

 

58:名無しさん ID:WloBGoidf

 まーた気合い入った入場コール

 

 

59:名無しさん ID:JI4lUErrm

 苦いコーヒー飲んでそう

 

 

62:異世界人ニキ ID:からだはトウソウをもとめる

 ド ヤ 顔 ダ ブ ル シ ー ル ド

 

 

66:名無しさん ID:r08i9uNC7

 なんだあの壁!?

 

 

69:名無しさん ID:GRbbW8eDa

 >>66

 劔冑(つるぎ)だ!

 

 

74:名無しさん ID:DxXNsg/gd

 防人ネキ……

 

 

76:名無しさん ID:uch/Y4sdu

 でももうデュアル、デュアルじゃなくてトリプルだよな

 

 

80:名無しさん ID:CZiY5bEGw

 トリプルフェイス……そうか、つまり100億の男!

 あーそーゆーことね完璧に理解した

 

 

84:名無しさん ID:l62YRMODq

 来た! 新大陸の希望センタニキ!

 

 

87:名無しさん ID:dEe0kZ8mq

 青タイツ……じゃない、だと

 

 

90:名無しさん ID:kCtzFjuef

 バーサーカーだこれー!!

 

 

93:名無しさん ID:lywP5Sdhb

 虐殺者(スローター)なんだよなぁ

 

 

95:名無しさん ID:ftUAnsXzD

 しかし幸運Eである(毎回レアドロ失敗)

 

 

100:名無しさん ID:BHRpLE0Fo

 ユキを引き摺り出して連れて行って差し上げろ

 

 

104:名無しさん ID:d2S8+Ipv0

 >>100

 あの爆破ハウス、近寄れないの……(´・ω・`)

 

 

107:名無しさん ID:LK11Se5B7

 >>104

 はい出荷

 

 

110:名無しさん ID:IXXGCrAxY

 (´・ω・`)そんなー

 

 

112:名無しさん ID:8sbMdLd2F

 それにしても、よく喉が保つよなにゃしい

 純粋にすごいわ

 

 

114:名無しさん ID:FXe4WrMA7

 刃牙風登場コールは草

 

 

115:名無しさん ID:3aYysbb7D

 本気にゃしいクソ眼鏡エディション……

 光に目を盲いてるのかにゃしい

 

 

119:名無しさん ID:EwuhQilph

 これは鋼の英雄RPキマってますわ

 

 

124:名無しさん ID:4HjbZQ7m/

 私はアキさんの元ネタを知りません

 でも今わかったんですよ

 えぇ、わかったんです

 「勝てない」って

 やっぱ化け物じゃん……

 

 

128:名無しさん ID:tEcqM/LCO

 >>124

 正しい認識だから誇っていいぞ

 

 

133:名無しさん ID:dsq/Wjdda

 なお普段はアストロゴールドである

 

 

135:名無しさん ID:gs9ywn6LU

 ここで矛盾の答えが示されるとなると思うとドキドキする

 

 

140:名無しさん ID:ZUMCfd1V3

 ん……? この動きって

 

 

143:名無しさん ID:XQ6j2McNm

 チーミング?

 

 

147:名無しさん ID:EPUJj5/10

 ああ、一応バトロワだもんな

 やれんことはないのか

 

 

150:異世界人ニキ ID:ジブン げんかいオタクしていいッスか?

 "勝つ"のは俺だ、いただきましたー

 

 

153:名無しさん ID:TGbS4mDs/

 アキが抜刀した瞬間、なんか異様に空気がビリビリしてきたんだけど

 

 

155:名無しさん ID:Shuw133M3

 会場組最前列としては、なんというか、こう、ギロチンの下にいるみたいな感覚がする

 

 

156:名無しさん ID:4VPWNPY4T

 >>155

 こんな場所いないてしっかり見とけよ!?

 

 

161:名無しさん ID:WQopz8vUs

 っ【バツが悪そうに顔を逸らすアキの画像】

 ちょっと可愛く思えてきた

 

 

164:名無しさん ID:KeZIrAAxn

 わかる

 

 

165:名無しさん ID:AUkwkYUgr

 わかるマン

 

 

169:異世界人ニキ ID:はえーすっごいケンキほんとにちきゅうじん?

 アキ……お前も鬼にならないか?(クソ下手勧誘)

 

 

174:名無しさん ID:74Mcxsrby

 >>169

 ならなそう

 

 

175:名無しさん ID:jVmkmPY+a

 >>169

 狛治さんやめて! こんな所でまで!

 

 

180:名無しさん ID:b66v88z6s

 さて開始10秒前

 

 

182:名無しさん ID:xom9A3hd5

 アキ相手だと、どうしても速攻にならざるを得ないから辛いよな

 

 

186:名無しさん ID:8hZnrYdbU

 60秒経過した時点でガンマレイされて死ぬもんな(60秒も生き残れるとは言ってない)

 

 

190:名無しさん ID:WghLZRsyN

 うん? 言い忘れ……?

 

 

191:名無しさん ID:Xj0l4SqWn

 紋章術……あっ(察し)

 

 

194:名無しさん ID:tcjj2900q

 【悲報】ユキ、大戦犯確定

 

 

198:名無しさん ID:QGUbUnrYq

 初 手 ガ ン マ レ イ

 

 

200:名無しさん ID:tN5zVVSVm

 ふぁーwwww

 

 

203:名無しさん ID:yPHNOZYFl

 センタは間に合ったけど、デュアルは……(合掌)

 

 

207:名無しさん ID:h8a786bEx

 臆したな? じゃねぇよ

 誰だって臆するわあんなん

 

 

210:名無しさん ID:CW/v8CZpt

 >>198

 ガンマレイ……いえ、噂には聞いてるんですけどそんなやばいんです?

 

 

213:名無しさん ID:hOlzgEMs1

 >>210

 知ってる人はRP(ロールプレイ)元から取ってガンマレイって呼んでるけど、システム的な正式名称は【特化紋章術:Str特化型:代償・詠唱式強化】で性能はこんなもん

 

====================

・特化付与 : 閃光

 属性付与 : 光・獄毒

 詠唱時間 : 60秒

 効果時間 : 戦闘終了まで

《メリット》

 物理攻撃威力上昇2000%

 自身のHPが少ないほどクリティカル威力上昇(最大100%)

 自身のHPが少ないほど基礎Str上昇(最大100%)

 クリティカル発生率上昇

 特殊効果でのHP全損無効

《デメリット》

 HPスリップダメージ発生(1s/1000)

 Vit・Min低下100%

 発動中武器以外のスキル封印

 武装耐久値減少 200%

 痛覚減少深度低下 Lv3(最大10)

(Lv3 = ダメージ発生時殴られてもプラシーボレベルでしか痛くなかったのが、タンスの角に足の小指をぶつけたくらいの痛さに変更)プレイヤーが操作可能な範囲は5まで

====================

 

 控えめに言って狂人の使うぶっ壊れバフ

 一応紋章の投稿サイトに無料公開されてるけど、使うのに特化紋章術のStr特化とかいう誰も取らないような方向性のものが必要で、こんなの使うなら他のバフ重ねた方が強いから基本使われない

 いや、たまに自爆に使う人はいるけどそれくらい

 

【結論】

 極振り

 

 

215:名無しさん ID:XrbI2pg1J

 左右の盾と鎧と仕込み武器が、全部一撃で壊されてるんだけど……?

 

 

217:名無しさん ID:32ZMG6od+

 カウンターの先の先を取って潰した!?

 

 

218:名無しさん ID:p3xfCaGJN

 アキって今まで、光の斬撃ズバーッなイメージだったんだけど、対個人相手だとこうなるの……?

 

 

219:名無しさん ID:UYle3g/fG

 禿同

 これまで俺が知ってるアキって、大抵集団戦かレイドボスとしか戦ってなかったけど……対人の方がヤバくないか?

 

 

220:名無しさん ID:AAu6Dhius

 なんで7本の刀を全部使って、しかも途切れることなく、致命的な狙いを続けながら、抜刀術をし続けられるんですか……?

 

 

225:名無しさん ID:V0iTZUZrd

 >>220

 そういうスキルなのでは?

 

 

226:異世界人ニキ ID:ガチのエイケツのウツワでは?

 >>225

 違う、毎回太刀筋が別物

 威力はスキルに頼ってるけど太刀筋は本物

 間違いなく自力で磨き上げてる

 えっ、ここ日本だよね……?

 

 

229:名無しさん ID:6syksNVVs

 異世界人ニキもよう困惑しとる

 

 

231:名無しさん ID:DteIIgcRx

 ああ……鎧が、防具が、溶け落ちるみたいに削り落とされて……

 

 

232:名無しさん ID:N6L4tHu4B

 ダメだ、デュアルが蒸発した

 

 

235:名無しさん ID:8By29tdb7

 むしろよく30秒も保ったというべきか?

 

 

240:名無しさん ID:WjrQTmpdb

 というか、なんでセンタは割って入らんの?

 

 

243:名無しさん ID:q+rkZ1E/m

 >>240

 自バフを最高まで積んで行った方がまだ勝率高いでしょ

 

 

244:名無しさん ID:gs9ywn6LU

 矛盾の結果は矛が盾を使い手ごと押しつぶしたと……

 

 

249:名無しさん ID:N22F/oZcT

 となると次は矛と矛……さてどうなる

 

 

251:名無しさん ID:Nx7aPgc6g

 矛♂と矛♂?

 

 

252:名無しさん ID:GMZhO9pYa

 やべーぞお腐れ様だ! 鎮まりたまえ!

 

 

257:名無しさん ID:Ier5tfHH3

 そんなことしている間に戦闘が再開してますね

 

 

262:名無しさん ID:V+uZhZoVO

 ほーん、極振り最強って将来的にはセンタなのか

 

 

266:名無しさん ID:Vdfa+9OKi

 現状なんでもできるのに、これから強くなるってんだからそうだよなぁ……

 

 

271:名無しさん ID:OJEPuwx43

 なんで槍一本とちょっとの魔法でアキとセンタは渡り合ってるんですかねぇ……?

 

 

272:名無しさん ID:bCWIDS4X1

 すげぇ! 極振りなのにマトモに戦闘してる! って思ってよくよく考えてみたら、両方PS化け物だった時の悲しみよ

 

 

274:名無しさん ID:9mODiIK9X

 丁寧な剛剣 vs 技量の柔槍って感じか?

 

 

276:異世界人ニキ ID:どうしてカクセイしてるんですか??

 でも段々、アキが慣れてってる件について

 

 

277:名無しさん ID:aStUHv+KG

 『ユキと共にボスのTAレコードを刻んだお陰でな。随分とキレが増した』

 

 

280:名無しさん ID:ECYFyGO5C

 ホ モ は 二 度 刺 す

 

 

285:名無しさん ID:HtYP40VWR

 ユキは美少女幼馴染ともう1人の美少女の尻に敷かれてるノンケだぞ

 

 

289:名無しさん ID:mG5C37kPw

 もげろクソが

 

 

291:名無しさん ID:Td7JSbt9t

 ダメージの発生遅延武器……? それって何が強いの?

 

 

295:名無しさん ID:HVUhOR8zN

 某トリガーオン!するやつの風刃というか、攻撃幅と威力的に能動的な地雷原の敷設というか……

 

 

297:名無しさん ID:TUojzriwn

 エッッグ、アキに持たせちゃいけないやつでしょそれ

 

 

298:名無しさん ID:CJ8iLtDSB

 どんなダンジョンでドロップするんだそれ。俺も行きたいんだが???

 

 

303:名無しさん ID:Yl8Vkmlxu

 センタが空に駆け上って、オーバーヘッドの姿勢。来るか、必殺技!

 

 

307:名無しさん ID:iCx4KeEL5

 対するアキは、、、ど う し て Str 極 振 り が 魔 法 を 使 っ て る ん で す か ?

 

 

309:名無しさん ID:4AbkZ+luC

 あれは確か、地属性の《土石竜》だったっけ? まあ、そこまで本来は強い魔法でもないけど……どうみてもこれ、武器バフ乗ってるんですよねこんちきしょう!

 

 

314:異世界人ニキ ID:さっきのドラゴンよりつよそうなブレスでくさ

 分裂する槍の雨と迎え撃つドラゴンブレス……絶景かな!

 

 

317:名無しさん ID:8O14dWtaG

 『幸運極振りの力を借りたドロップ品』

 

 

321:名無しさん ID:PIXCs0HLZ

 ま た お 前 か

 

 

322:名無しさん ID:Vb1+9kw+P

 大戦犯じゃねぇか

 

 

327:名無しさん ID:fSfTPeqI0

 し、支援特化型の面目躍如ってことでここは一つ……

 

 

331:名無しさん ID:nrjOCrtcp

 >>327

 ダメです

 

 

334:名無しさん ID:dTB3AqryR

 >>327

 こいつ本人じゃね?

 

 

335:名無しさん ID:kNqoPdIrP

 >>327

 支援特化型? 爆破型の間違いでは?

 

 

336:名無しさん ID:VGoaWCPiS

 >>327

 爆破卿は大人しくお嫁さんの尻に敷かれてましょうね

 

 

341:名無しさん ID:fczvRoWJX

 ああ、1秒目を離しただけなのに戦況が!

 

 

344:名無しさん ID:d0RPfIA+Q

 耳を澄ませば(聞こえる耳に馴染むSE)

 

 

348:名無しさん ID:ntRU7PTFn

 いけセンタ! ウィッカーマンナックル!!

 

 

349:名無しさん ID:3j10qtg/k

 (名前ダサッ!?)

 

 

350:名無しさん ID:KtPuwwArl

 ああ、でも光が全てを飲み込んで……

 

 

353:名無しさん ID:0EcvVWu9h

 センタ散る

 惜しいところまでは行っていたと、信じたいなぁ……

 

 

 



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教えて!掲示板博士!

私は博士じゃなくてクソ雑魚文字書きなので
何も答えられない(ジャオウドラゴンの変身ボイス風)

連続投稿2日目です


【クロックアップ】極振りエキシビジョンについて語るスレ part5【重加速はよ】

 

1:名無しさん ID:kM9Y7j5Vv

 ここは既に理不尽と狂気が溢れることになった、運営が哀れな極振りエキシビジョンマッチについて語るスレです

 誹謗中傷はしたところで無意味なのでやめましょう

 極振りの挙動はステータスの暴力を除けば理論上俺たちでも十二分に可能なものです

 ナーフは運営に祈りましょう

 

 

4:名無しさん ID:RJWKn1CMw

 さて、次はユキとレンの勝負だけど……ぶっちゃけこれユキに勝ち目なくね?

 

 

7:名無しさん ID:KsLV5jIsp

 わかる

 

 

9:名無しさん ID:aemQVAeIK

 わかる

 ユキ自身も俺らからすれば意味不明なスペックしてるんだけどなぁ……

 

 

11:名無しさん ID:Y0m8mRu0E

 流石にこれは分が悪いというか

 

 

12:名無しさん ID:CZEXLpJcE

 レンって爆風より早く動くし

 

 

16:名無しさん ID:DBSm2eedM

 弾幕も回避されるだろうし……

 

 

21:名無しさん ID:9nqFApYvx

 入場コールなし?

 

 

24:名無しさん ID:SOdz8QSZn

 にゃしいも喉痛めることあるのか、VRなのに

 

 

26:名無しさん ID:mvYyjWqFy

 >>24

 そこはほら、妙に高いUPOのリアル再現度のせいだし

 

 

30:名無しさん ID:sj8KnA2ME

 なんかユキ、入場しながらスキル使ってないか?

 

 

34:異世界人ニキ ID:これはハガネのシスコンばんちょう

 降ってきたタロットカードを次々に握り潰してる

 逆位置の正義、正位置の教皇、正位置の愚者、あと杖が降ってきた

 

 

35:名無しさん ID:tPrf2k7Kr

 ペル……ソナッ!!!

 

 

37:名無しさん ID:VOB+guQk7

 急に厨二チックなスキルを使うな

 惚れるだろう

 

 

38:名無しさん ID:BYR8MZQrS

 でもあれ、全部のタロットの正位置と逆位置がランダムで降ってきて、確定で使わないといけないクソギャンブルスキルだぞ

 

 

39:名無しさん ID:0PEHqqaMp

 それこそよっぽど運でも良くなければ……運? あっ(察し)

 

 

43:名無しさん ID:tQhmFhVIx

 そういえばユキって幸運極振りだったね

 

 

46:名無しさん ID:b8+xGLOYT

 爆破極振りだと思ってた……

 

 

48:名無しさん ID:v/FTdYwUG

 紋章極振りだと思ってた……

 

 

51:名無しさん ID:ObMB/Quf5

 てっきり支援極振りだと……

 

 

53:名無しさん ID:rTFQbcx8h

 あい変わらず魔王然としたフル装備だよな

 

 

57:名無しさん ID:7C5VmqBrO

 魔導書30冊に仕込み刀と仕込み銃(迫真)と普通の杖を切り替えながら戦うあたりほんと積載過多って感じ

 嫌いじゃないわ!!!

 

 

60:名無しさん ID:X0G06d+4j

 おっと、これはザビーゼクターの構え

 あの極振り塔イベのやつ、通常空間でもやれたのか

 

 

63:名無しさん ID:0SXjvJkPQ

 俺のザビーゼクター返してくれよぉ!

 

 

65:名無しさん ID:mZctId5f0

 あのザビーゼクター触りたくないです

 

 

70:名無しさん ID:0mO4YMDDT

 えっ、なんで、光って……?

 

 

75:名無しさん ID:04lv2hYVv

 エッッッッッ

 

 

76:名無しさん ID:dBtN0zkUK

 エッッッッッ

 

 

77:名無しさん ID:32Sr7lgQ9

 おてて!おてて!ちっちゃなおてて!

 

 

78:名無しさん ID:V1Oqrb29p

 おみあし!おみあし!ふっくらおあし!!

 

 

79:異世界人ニキ ID:まほうしょうじょキター!

 江戸(えど) は、東京の旧称であり、1603年から1867年まで江戸幕府が置かれていた都市である。現在の東京都区部の中央部に位置し、その前身及び原型に当たる。

 

 

80:名無しさん ID:D0/xcdLKv

 江戸解説ニキ……生きてたのか!

 

 

81:名無しさん ID:vSB7nmAoA

 微笑みが……無垢……ぐちゃぐちゃに歪めたい……!!

 

 

82:名無しさん ID:DWPe0nLG1

 ぁぁぁぁぁ(浄化)

 

 

83:名無しさん ID:9XaE4fEJLI

 インナーからの再構成変身とか最高かよォ!

 

 

84:名無しさん ID:qkU/nrRUj

 インナー姿エッッッッ

 

 

85:名無しさん ID:oWLvY7hCs

 美少女ロリに巨大武器……ユキとはいい酒が飲めそうだ

 

 

89:名無しさん ID:mG5C37kPw

 天使かな……?(困惑)

 天使だったわ(確信)

 

 

90:名無しさん ID:lyPln3FQ1

 変身ポーズまで可愛いとか最高かよ

 

94:名無しさん ID:PIJC3oPpF

 >>89

 もちつけ! 奴は爆破卿だぞ! こんな程度の変身を見せられて可愛いなぁ……

 

 

96:名無しさん ID:/DFr4SG/3

 開けっ広げな背中エッッ

 あとすごい綺麗

 

 

99:名無しさん ID:+97Zosbw0

 うっ……ふぅ

 

 

100:名無しさん ID:vgBD9nJoK

 声まで可愛い……

 何がどうなってんのガチ恋するぞオラァ!!?

 

 

101:名無しさん ID:c4nIxUQIT

 おみ足とか真っ白な肩から鎖骨にかけてとか、布地の薄いスカート胸元とかスカートとか性的過ぎるぞオラァ!!

 

 

102:名無しさん ID:AkQhxuKvS

 バ美肉おじさんなら安心してガチ恋できる……

 

 

103:名無しさん ID:ufwOG5Z2U

 合法! 合法! 合法!

 

104:名無しさん ID:4gPFlfN/s

 運営からの情報来た!

 運営がTSしたいから作ったパーフェクトTSシステムらしい

 

 

108:名無しさん ID:9I354xs/3

 変態かよ!(歓喜の歌)

 

 

112:名無しさん ID:3RD7Qdqx9

 察するに、女性専用装備でステータスの底上げ測ってるんだろうな

 

 

114:名無しさん ID:jcEb9EHV1

 全く、UPOは最高だぜ!

 

 

115:名無しさん ID:h/6G1TsGv

 えぇ……ここでも女尊男卑かよ萎えるわ

 

 

116:名無しさん ID:4Bhhz+4eA

 >>115

 わかる。TSとかキッショいわ無理無理

 

 

119:名無しさん ID:ywXegfv/I

 結局のところ全てホモでは……?

 

 

121:異世界人ニキ ID:ガチハゲとクチクサとワキガのノロイかけておいた

 >>115 >>116 >>119

 なんだぁ、テメェ?

 

 

125:名無しさん ID:7QMnxo7Nf

 異世界人ニキ、キレた!

 あと>>115、男性専用装備でも性能的には上がるから安心しろ

 たしかに女性専用の方が性能は高いけど、↑ここまでの奴らからこんな目線を向けられるんだぞ??

 

 

126:名無しさん ID:BiGaNGel

 にゃしいの解説曰く、しらゆきちゃんの入場中に使ってたスキルの効果は『属性ダメージ軽減』『魔法スキルの一時取得』『自身の基礎ステータス平準化』らしいです。えっ、ヤバくありませんか?

 

 あとしらゆきちゃんは可愛いしふわふわだし軽いしいい匂いするし柔っこいし体温高いし羽触るとビクッとしてますし小さなお口で目いっぱいお菓子とか飲み物口に含むのも最高にキュートですし戦ってる時はかわいいのに凛々しいのでそんなことはないです

 

 

128:名無しさん ID:VydmXyf6Q

 殺戮モードじゃん……殺されたい

 みっともなく縋り付いて、氷のような目線を向けられながら罵倒されてゲジゲジと踏まれたい!!!

 

 

130:名無しさん ID:DD0m2umnh

 >>126

 詳しく……説明してください。今、僕は冷静さを欠こうとしています

 

 

131:名無しさん ID:wrPpdyhwu6

 >>126

 さては大天使だなオメー

 

 

133:名無しさん ID:5Hdb7QVmT

 それはそうと、レン(ファイズ) vs ユキ(ザビー)のディケイド名場面再現は熱い。配役逆だけど

 

 

138:名無しさん ID:vJTXUvPoZ

 何が何だか分からんが、可愛いからヨシ!

      /\    /ヽ

       {/ ̄ ̄ ̄`ヽ!

     ∠__╋__j

    /  ①_八①  ヽ

    {二ニ/(_人_)エ二 |´ ̄)`ヽ

     \ { {_,ノ ノ   / /⌒ヽ L

  ⊂ ̄ ヽ_>―――‐'’,〈    (__)

   └ヘ(_ ィ r―‐γ   !

       _,ノ j   |   |

     {   {    ノ  /\

       \ス ̄ ̄ ̄lしイ\ \

      ( ̄  )     j /   \_j\

      ̄ ̄     (  `ヽ   \__)

             \__ノ

 

 

143:名無しさん ID:h/6G1TsGv

 >>125

 スマン……重すぎる代償だったわ

 

 

144:名無しさん ID:efywYuSnU

 けど、どうせ戦い始めたらまた見えな……見える、だとぉ!?

 

 

148:異世界人ニキ ID:あやまれてエライからノロイはといてあげる

 今週の「だとぉ!?」回収しましたー

 

 

153:名無しさん ID:Y7MCzdxiF

 これは……自分以外のステージ上全部に減速かけてる?

 

 

158:名無しさん ID:65CO8iAmd

 重加速かな?(ドライブ並感)

 

 

161:名無しさん ID:NLKWaFXgP

 逆に自分はクロックアップ掛けてて……これは、もしかしたらもしかするのでは?

 

 

162:名無しさん ID:+O7BRbwxB

 こんな早くから【神格招来】切ってきた!

 

 

166:名無しさん ID:n63Yp9P6u

 ハスター……だから黄色い衣と仮面……仮面? ライダーだから?

 

 

171:名無しさん ID:SWrVkPxY3

 確か自分をハスターの「器」だか「地球での安息所」にする呪文でそんなのがあったような……?

 

 

172:名無しさん ID:ubijSzr0t

 触手プレイエッッッッッ!!!

 

 

173:名無しさん ID:PCbxucck9

 えっち!!!

 

 

174:名無しさん ID:8dwf79ZeI

 にゃしいも認めたえっち

 丸呑みが好きとは

 

 

177:名無しさん ID:go/S50HUQ

 だけどにゃしいも言ってた通り、確実に時限式の強さだなこれ

 

 

181:名無しさん ID:z6JtKeLoC

 セカンドさんが仕事をしたぁ!?

 

 

185:名無しさん ID:W5l6qvhQq

 しらゆきちゃんのハイマットフルバースト!

 

 

190:名無しさん ID:g78YXz10I

 ひっどい弾幕、俺は避けるの無理だわあれ

 

 

192:名無しさん ID:ZcAz9LQ9h

 >>190

 最前線組でも大半がそうだろうから安心していい

 

 

194:名無しさん ID:R831/ZSPk

 だけどああ、効いてない!

 

 

199:名無しさん ID:mYi3x0rk5

 そして突破されて──撃ち抜いた!!

 

 

202:名無しさん ID:8iMynJMzp

 けど無敵が付与されてて効いてない!

 

 

207:名無しさん ID:hcPOe/ues

 だめだしらゆきちゃん、そこでスキル通りの技なんて撃ったら

 

 

208:名無しさん ID:JI9SL+S83

 何段QBして躱してるんだレン

 

 

210:名無しさん ID:iTL8aTrXv

 ……消えた?

 

 

214:名無しさん ID:DXvL8DNFA

 あっ、えっと、その、リョナはちょっと……

 

 

219:名無しさん ID:YmCPuFL9d

 四肢と翼と天使の輪っかを砕かれて落ちていくしらゆきちゃんを見て……なんていうか……その…下品なんですが…フフ……勃起、しちゃいまして

 

 

222:名無しさん ID:L0Ls+JcXg

 【速報】レン、システム限界速度に到達

 

 

226:名無しさん ID:b7gupO/8q

 まるで意味がわからんぞ!!

 

 

229:名無しさん ID:wm2m1P4ny

 見て! しらゆきちゃんが踊っているよ

 かわいいね

 みんながインターネットで変な目線を向けてばかりいるので、しらゆきちゃんはユキに戻ってしまいました

 お前のせいです

 あ〜あ

 

 

231:名無しさん ID:bHSBuKYDP

 ユキが無限残機を使って特攻始めて草

 

 

236:名無しさん ID:QtcvJe5DR

 嫁ーズが見てるもんな、ユキだってカッコつけたいでしょ

 

 

239:名無しさん ID:Ja/JVTm6O

 エターナル・虞ッ

 

 

242:名無しさん ID:RqLsPtxtc

 この距離ならバリアは張れないな!は草

 

 

244:名無しさん ID:hwYW3jR7k

 最終的に一体何個仮面ライダー出てきた?

 

 

245:名無しさん ID:CVyMZVCz+

 電王、555、カブト、ディケイド、剣……多いな

 

 

250:名無しさん ID:VCtRPg2oK

 それよりもしらゆきちゃん可愛い……可愛くない?

 お持ち帰りしたい

 

 

255:名無しさん ID:IrfVMJ33N

 舐めまわして嫌悪感に満ちた目で見られて通報されたい

 

 

260:異世界人ニキ ID:しらゆきちゃんかわいいやったー

 チート付与しての勇者召喚……なるほど、そういう手が

 

 

262:名無しさん ID:5jRMEZ6W/

 おやめくだされ!!!

 

 

265:名無しさん ID:adaP0qwOf

 ユキとかもうずっとしらゆきちゃんでいればいいんじゃないかな?

 

 

269:名無しさん ID:PBeu3CTXE

 男の人は男の人同士で、女の子は女の子同士で恋愛すべきだと思うの!

 

 

271:名無しさん ID:SCpOlxU9o

 しかしこの場合、セナ×しらゆき×藜はどうなるんだ……?

 NL? GL? 

 

 

276:名無しさん ID:lCQ5zece+

 ユキが真ん中なの悪意を感じる

 

 

279:名無しさん ID:HMnS22uDh

 可愛ければなんでもいいのでは?

 

 

281:名無しさん ID:1NmLtkrFp

 TSっ娘特有の男の子の心を掴み、女の子の庇護欲を掻き立てる最強ムーブしてるんだよなぁ

 

 

285:名無しさん ID:udn8L3346

 まあそもそも、ユキってリアルでも女装させられてたらしいし

 

 

288:名無しさん ID:TTf0VaEEx

 >>285

 詳しく聞かせてもらおうじゃないか……

 

 

 

 



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捕食界曼荼羅掲示板 -極光一閃-

連続投稿3日目です
感想評価ありがとうございます!


【第二種ホコタテル】極振りエキシビジョンについて語るスレ part6【最狂、激突】

 

1:名無しさん ID:va5bOfPtw

 ここは既に理不尽と狂気が溢れることになった、運営が哀れな極振りエキシビジョンマッチについて語るスレです

 誹謗中傷はしたところで無意味なのでやめましょう

 極振りの挙動はステータスの暴力を除けば理論上俺たちでも十二分に可能なものです

 ナーフは運営に祈りましょう

 

《警告》

 このスレッドは翡翠色に汚染される可能性が極めて高いです

 嫌な人は回れ右してプラウザバック

 それでも見たいというのなら、歓迎しよう! 盛大にな!

 

 

5:名無しさん ID:vyS06vHfC

 >>1

 なんか新しい警告生えてるんですけど

 

 

8:名無しさん ID:5krddeyla

 少し前のスレッドは翡翠汚染されたからね、仕方ないね

 

 

13:名無しさん ID:4NYfz9jen

 でも翡翠ちゃんが時間欲しいだなんて珍しい

 食材の仕込みでもしてるんだろうか?

 

 

14:名無しさん ID:c+iGJzGWw

 それならそれで嬉しい、食べられたい

 

 

16:名無しさん ID:G/4gCh/ku

 おっ、にゃしいの声が戻ったにゃしぃ

 

 

18:名無しさん ID:OkZij0hZR

 そして翡翠ちゃんの準備も終わったと

 

 

23:名無しさん ID:OBpvE6dM6

 しゃけ

 

 

27:名無しさん ID:Se+M963CF

 しゃけしゃけ

 

 

32:名無しさん ID:p1itUeNGs

 いくら?

 

 

34:名無しさん ID:beXZ20nWp

 しゃけ!

 

 

39:名無しさん ID:9wHWGcclJ

 >>23 >>27 >>32 >>37

 ここではおにぎりの具以外の語彙で話せ

 

 

42:名無しさん ID:YE8qH3IE5

 ゲーミングしゃけ

 

 

47:名無しさん ID:AIs4RxDnn

 まだクリスマスには早いですよ!

 

 

52:名無しさん ID:za8OJWUd7

 サモーンシャケキスタンチン……まだ成仏していなかったのか

 

 

56:異世界人ニキ ID:これをごしんたいとする!

 木彫りの翡翠ちゃん作りました

 ご精査ください

 っ【画像】

 

 

58:名無しさん ID:JOviLub6I

 ニキ!? クッソクオリティ高いんですけど!?

 あと手めっちゃ綺麗っすね

(背景のドラゴンからは目を逸らしつつ)

 

 

60:名無しさん ID:5WcRXjIV9

 もごもご喋るヒスイチャンカワイイヤッター

 

 

64:名無しさん ID:AkJ+AXukR

 ゲーミングひよことレインボーしゃけを咥えたヒスイチャンカワイイヤッター

 

 

66:名無しさん ID:cujKxHR4R

 翡翠ちゃんに咥えられたまま喋って貰いたいし、喉笛噛み千切られたい。特に喉噛まれたままもごもご喋って貰えると良い。……良くない?

 

 

68:名無しさん ID:tFvjYIIw8

 だが翡翠ちゃんのことを濁りと言ったにゃしい、彼奴は後でレストランにご招待だ……

 

 

71:名無しさん ID:1oyxxmL80

 さてどうなる……?

 

 

74:名無しさん ID:aCarhOkvg

 は……?

 

 

79:名無しさん ID:Ynibn8Gnc

 アキが、負けた……?

 

 

83:名無しさん ID:pdQldyqq4

 嘘でしょ?

 

 

86:名無しさん ID:XL+cL7Jqv

 翡翠ちゃんの動きが目で追えなかったんだけど

 いや、速さとかそういうのじゃなくて、目の前から消えたというか

 

 

88:名無しさん ID:Ur1B9AecH

 アキさんは栗味か……モンブラン好きらしいし納得だな!

 

 

90:異世界人ニキ ID:おしがじぶんよりつよかったときのカンソウをのべよ

 まず咥えていたレインボーシャケを捕食

 それで目を見開いたシャケが断末魔の悲鳴と一緒エメラルド(レインボー)・スプラッシュ(イクラ)

 それをアキが左の極光斬で迎撃した隙に、身を低くして翡翠ちゃんが剣の間合いに侵入

 翡翠ちゃんに対抗するために右の極光斬は使わずアキが拳で迎撃

 翡翠ちゃんがその拳を極まった技術で流して、見えない口が喉笛を噛みちぎった

 吹き飛んだのはアキが間に合わなくて踏み込みが遅れたから、一旦死亡で制御できずに吹き飛んだだけ

 

 は??????

 

 

93:名無しさん ID:0NdkON14K

 翡翠色に染まってるからって逃げてる場合じゃねえ!

 ちょっと翡翠ちゃんのスペックおかしくない?

 

 

98:名無しさん ID:w4PuhxUnq

 同感、ただのヤベー奴だと思ってたけどこれ違うわ

 拳の極みに届きそうなアレだわ

 

 

101:名無しさん ID:DsYEACtM+

 袋小路翡翠ちゃん?

 

 

105:名無しさん ID:zvrMpcdgO

 ま だ だ(伝家の宝刀)

 

 

106:異世界人ニキ ID:こんなのイセカイでもめったにみれませんよみんな!!

 ま だ だ(天下無敵)

 

 

107:名無しさん ID:4qCaszb8U

 ま だ だ(様式美)

 

 

112:名無しさん ID:UQXyDjTDS

 流れ出す例のBGM……おや?

 

 

117:名無しさん ID:/ESQLwQeD

 烈奏じゃないですかヤダー!

 

 

119:名無しさん ID:5ZVEo2r1K

 >>117

 烈奏って?

 

 

124:名無しさん ID:Rtu5GLRMW

 気合と根性で自分が死んだ事実すら粉砕する化け物

 主人公力の塊

 心一つ、思い一つで理屈を無視して全部成し遂げる……まあ、アキのRP元のある種発展進化系?

 

 

127:名無しさん ID:cxhGc3rxy

 さりげない変身は多分、ユキのやつと同じ原理なんだろうな

 某動画投稿サイトに2人で黒アストTAの動画上げてるし

 

 

132:名無しさん ID:xwuTyXdlw

 でもこれ、剣ビーム無くなった分戦いやすそう

 

 

136:名無しさん ID:9+KxBHEli

 戦いやすい(さっきまでとは速度が倍以上になっている)(戦えるとは言ってない)

 

 

140:名無しさん ID:11thFyraz

 さも当然かのように天候を斬るな

 

 

145:名無しさん ID:z1aOYt7kt

 フィールドダメージって踏み壊されるんだなぁ(遠い目)

 

 

150:名無しさん ID:bJQu8F1mn

 歩くだけで翡翠ちゃんの障壁が、まるでユキのやつみたいに割れてる……

 

 

155:名無しさん ID:lPvYwOdNj

 ビームも出ない双刀で流星群を切り刻まないでくれます??

 

 

160:名無しさん ID:AxieqAzlP

 そんな中、こんがり焼けてるだけのシャケ

 

 

165:名無しさん ID:cHj4d4zKX

 一体何者なんだ……あのシャケ

 

 

170:名無しさん ID:+XQrlJ0QE

 まるで意味がわからんぞ!!!

 

 

174:名無しさん ID:ebs45ev/V

 かなり条件は厳しいしアクセサリー枠をそれに特化させてるらしいけど、37秒無敵はあかんやろ……

 

 

178:名無しさん ID:tPWFUMBaP

 こだわりがあるんだよなぁ……37秒には

 

 

180:名無しさん ID:/sP7LpMcJ

 37秒とか実質1位じゃん

 

 

181:名無しさん ID:G9iuI+9R8

 翡翠ちゃんのシャケ、超バフ掛けられるペットだったのか

 

 

183:名無しさん ID:tDS43f3J8

 なんてこったい、味のミキサーかよ……また我々を新たな領域に連れて行ってくれる

 

 

184:名無しさん ID:Fb0m9pdXE

 あのさぁ(ユキ、またもや大戦犯)

 

 

185:名無しさん ID:dXC9xcusb

 せっかく射程っていうディスアド背負って実現させた不死身を、すんなり装備で解決すな

 

 

189:名無しさん ID:ld0A6GwOB

 自動防御までし出すとか、あのさぁ

 

 

191:名無しさん ID:sjy7CSU/w

 翡翠ちゃんも諦めたらしい

 

 

194:名無しさん ID:La6BBzVI6

 とはいえ焼き栗、美味しそうですよね

 

 

195:名無しさん ID:sEunWWgNz

 ひーこーを焼けば実質七面鳥なのでは?

 

 

197:名無しさん ID:kxmfufq2R

 焼きマシュマロならぬ焼きエクレア……美味しいと思いませんか? アナタ?

 

 

199:名無しさん ID:b9VFlpHy0

 翡翠ちゃんの場合、自分を焼けば焼き鳥を楽しめる

 

 

201:異世界人ニキ ID:ほりにしイブクロにあたらしいレキシがきざまれた

 まるで人間火力発電所だ……

 

 

202:名無しさん ID:OUWEoRtCh

 孤 独 の グ ○ メ

 

 

205:名無しさん ID:HMVempO3v

 俺たちはトンデモナイゼを見ているのかもしれない

 

 

209:名無しさん ID:0B3SP4TWb

 >>205

 すぐ負けそう

 

 

214:名無しさん ID:PzxD4Ae0Q

 >>209

 無詠唱(ナンモイワン)血絶魂散呪(クタバランカイ)

 

 

219:名無しさん ID:pQYnNdP8F

 ああ、翡翠ちゃんがどんどんボロボロに……食べたいなぁ(食欲)

 

 

222:名無しさん ID:Hr1OhYSd4

 ここで前スレみたいにえっちとか襲いたいとかじゃなくて、食欲が優先されるあたり翡翠汚染が酷い

 

 

226:名無しさん ID:QBsaqMVeT

 あたり前ダルルォ!?

 

 

231:名無しさん ID:2ENG9VJfN

 翡翠ちゃんが両手を広げて、まるで大口を開けるみたいに

 

 

236:名無しさん ID:DpYgehWWQ

 これ刹那の見切りでは?

 

 

240:名無しさん ID:MomVf3hTV

 !!

 

 

243:名無しさん ID:jWPTYAnZP

 ついに両腕まで……けど、真ん中は食い破ったな!

 

 

245:名無しさん ID:5Kvb5aeue

 暴飲暴食……抉りとられた傷痕……これ某雑技団では

 

 

249:名無しさん ID:WmfQpoPX4

 シャケ……お前、やっぱりサモーンじゃねぇか……

 

 

252:名無しさん ID:CJvHNrM7Z

 ノーモアチキン! 

 

 

256:名無しさん ID:j2rxkRnZA

 翡翠ちゃんの一部になりたい

 

 

257:名無しさん ID:n+4t+V/MU

 ワカル

 

 

258:名無しさん ID:KcWtNlS8M

 ワカリミニアフレル

 

 

260:名無しさん ID:dOs/7Y7HV

 ニハシィ!

 

 

263:名無しさん ID:0iFfBhlom

 さて、今日の晩御飯はシャケにするか

 

 

266:名無しさん ID:eQzsgGIWg

 では僕も(秘蔵の塩鮭を取り出す)

 

 

271:名無しさん ID:ABC45dQ7o

 私も(シャケの切り身を準備する)

 

 

272:爆破卿 ID:Bm4luKSpIdEr

 俺も(ムニエルの準備しながら)

 

 

273:名無しさん ID:ufz6s131G

 我も(手巻き寿司)

 

 

276:名無しさん ID:Llv6/apPM

 しゃけ(おにぎり)

 

 

279:名無しさん ID:M/RujFfui

 待って今爆破卿いなかった???

 

 ・

 ・

 ・

 

 

780:名無しさん ID:6nYdfCM1X

 さて、スレを消費し切る前に爆破卿 vs 翡翠ちゃんのバトルが来たわけだが

 

 

781:名無しさん ID:jmXXsObdW

 これ、ユキ非武装では?

 

 

786:名無しさん ID:/vpFBGtbT

 非暴力・不服従

 

 

788:名無しさん ID:+BgeQzd3T

 >>786

 塩の行進ってか。身に纏ってるの火薬では????

 

 

790:名無しさん ID:PXQ8Tea7k

 そうだね、かやくだね!

 

 

794:名無しさん ID:5zaVbLbkl

 そしてあの、どう見ても春巻きにしか見えないスタイル……これこそクレオパトラ伝説から伝わるカーペット=ジツに違いない!

 

 

796:名無しさん ID:HOmY+tHFe

 勝てないと見込んで勝負じゃなくネタに走ったな

 

 

800:名無しさん ID:dru6J7FYI

 でも実際、ユキとザイルネキに関してはアイテム消費型だからいつかはこうなってたと思うよ。継戦能力がアイテム頼りな分ちょっと頼りない

 

 

803:名無しさん ID:brSdbQU7I

 >>800

 言われてみれば

 さっきのレン戦にその前のザイル戦で、多分爆弾使い切ってるだろうしね

 

 

806:名無しさん ID:dOoP7VPG3

 極振り級の相手でもなけりゃ十分過ぎるんだよなぁ

 

 

811:名無しさん ID:uZZ66dqUH

 あい・きゃん・ふらい・ぎぶ・ゆー・うぃんぐ(迫真)

 

 

816:名無しさん ID:hCCGEDkzC

 訳:私は飛ぶ、翼を授ける

 

 

819:名無しさん ID:KB4/dwZA3

 栄養ドリンクかな??

 

 

823:名無しさん ID:WB1Q/LH1T

 翡翠ちゃん「ご馳走様でした」

 

 

 




因みに私は、東北特有の死ぬ程(比喩なし)塩っ辛い塩ジャケが大大好物です。残念ながら、後継者が居なくなったせいでもう生産されてないらしいですが


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英雄はちょっといい加減にしてほしい掲示板

連続投稿4日目です
祝★100万文字


【力vs速】極振りエキシビジョンについて語るスレ part6【最強、激突】

 

1:名無しさん ID:F5wGBPNQV

 ここは既に理不尽と狂気が溢れることになった、運営が哀れな極振りエキシビジョンマッチについて語るスレです

 誹謗中傷はしたところで無意味なのでやめましょう

 極振りの挙動はステータスの暴力を除けば理論上俺たちでも十二分に可能なものです

 ナーフは運営に祈りましょう

 

 

5:名無しさん ID:2XSkTAQDV

 さて、理不尽と理不尽がぶつかる時が来た

 

 

8:名無しさん ID:Q/1tVizJW

 ウルトラトンチキ vs システム限界速度、何がどう転んでも不思議じゃないわ

 

 

12:名無しさん ID:i0eYp5GJN

 こういうの、嫌いじゃないわ!!!

 

 

14:名無しさん ID:usKtmOH1k

 しかも何やら浅からぬ因縁がある様子

 

 

16:名無しさん ID:ZYkfjwACb

 昔、既にレンを斬ってるのかアキ……化け物?

 

 

17:名無しさん ID:grMggjFUP

 我々の預かり知らぬところからのリベンジマッチとは

 

 

22:名無しさん ID:q+KlLpMgB

 運営、描写速度調整システムの強化版を実装

 

 

25:名無しさん ID:gxJV1FPkO

 >>22

 (平手打ちの音)実装が遅い!

 

 

30:名無しさん ID:bVAe6OSVb

 泣いても笑っても、胃が死んでもサーバーが悲鳴をあげても最終戦

 これ運営の悲鳴だったのでは?

 

 

32:名無しさん ID:0Ew4a2Thb

 間違いなく運営の胃は死んでるわな

 

 

33:名無しさん ID:QwsVISH8f

 そしてお互いガチもガチの本気である

 

 

38:異世界人ニキ ID:なかなかできることじゃないよ

 血肉沸き踊る戦いだ……!

 私は生憎と研究畑(ホワイトカラー)のエルフだけど、ドキがむねむねしてる

 ●REC

 

 

43:名無しさん ID:fgBGc34OZ

 【朗報】異世界人ニキエルフだった

 

 

47:名無しさん ID:tEis37GZc

 通りで木彫りの翡翠ちゃんの背景が森だったわけだ

 

 

50:名無しさん ID:jJzaCDuoE

 さあて、ここからもう瞬き厳禁

 

 

51:名無しさん ID:yLlyNoSZH

 アキの復活スキルとレンの宣戦布告的に、そう簡単には終わらないだろうけど目を離したらすぐ終わりそう

 

 

56:名無しさん ID:5o2MwF4Zp

 始まった!

 

 

60:名無しさん ID:CUKfMTo3/

 抜刀術の真骨頂だけど──すり抜けた!

 

 

64:名無しさん ID:y7zB4Zz8Y

 あってよかった未成年フィルター(ちぎれ飛ぶアキの頭を見つつ)

 

 

68:名無しさん ID:cebCMvhFF

 まだだ、はそんな魔法の呪文じゃないんだよなぁ

 

 

69:名無しさん ID:pBEdqWAVw

 魔法の呪文に決まってるんだが?

 

 

73:名無しさん ID:D/UpUMruh

 全ては心1つなり!!

 

 

75:名無しさん ID:UvaZRZD5F

 さっきは見えなかった変身の全貌が見れて嬉しい私がいる

 

 

79:名無しさん ID:50TJsBp0s

 【悲報】実況、放棄される

 

 

81:名無しさん ID:piPY1+WE1

 い、異世界人ニキー!

 

 

85:異世界人ニキ ID:たまってるってやつなのかな

 しょうがないにゃあ……

 

 

88:異世界人ニキ ID:だましてわるいがエロフはそんざいしない

 無敵モードに入ったアキに対して、レンがトップスピードで突撃

 けど「知っている(意訳)」って言いながらアキが短い方の刀で迎撃、それでレンの脚甲がなぜか粉砕

 その攻撃で発生した光を目眩しに長刀の方が分割しながら風を切って、レンの右腕も一緒に斬り飛ばした

 

 

89:名無しさん ID:o6DJaqKqC

 >>88

 伸びて斬り飛ばしたって、蛇腹剣?

 

 

93:異世界人ニキ ID:あっあっどうしようキミタケが

 そ、ガリアンソード

 みんな見入ってるけど続けるわ

 斬り飛ばした腕は実は囮で(メンタリストのポーズ)

 メガンテじみた大爆発を引き起こしましたね

 

 

94:名無しさん ID:GKfy/LQjE

 もぅマヂ無理。 彼氏とゎかれた。 ちょぉ大好きだったのに、ゥチのことゎもぅどぉでもぃぃん だって。

 どぉせゥチゎ遊ばれてたってコト、ぃま手首灼ぃた。 身が焦げ、燻ってぃる。 一死 以て大悪を誅す。

 それこそが護廷十三隊の意気と知れ。 破道の九十六『一刀火葬』

 

 

95:名無しさん ID:9NssTn+6p

 >>94

 久々にそのコピペ見たわwww

 

 

98:名無しさん ID:EvwWMNG6q

 ま だ だ (聖3文字)

 

 

102:名無しさん ID:pKn+NM9H8

 知 っ て た(覚醒大好きバトルジャンキー)

 

 

103:名無しさん ID:/zJhT7jxh

 ま だ だ(気合と根性)

 

 

107:名無しさん ID:6/dqEmmGE

 ファイナル・ブリッドで仕留めきれ──ない!

 

 

108:異世界人ニキ ID:このゲームもしかしなくてもエイユウせいさんき?

 蛇みたいな動きで蛇腹剣が動いて、アキが特化紋章を追加

 レンの脚撃を柔の動きで絡め取って逸らして無力化

 ここで完全に紋章が追加されて、黒く染まった色んなエフェクトが発生開始

 

 また性能上がってるんですけど……(困惑)

 

 

112:名無しさん ID:k/OmapAg4

 >>108

 あれ、特化紋章って同時発動一個までじゃなかったっけ?

 

 

116:名無しさん ID:dTQZdYrI9

 死ぬとカウントダウンリセットされるのを利用してるらしい

 まさかの公式裁定

 

 

119:名無しさん ID:B+XXQqiD9

 ナーフ不可避

 

 

121:名無しさん ID:1VtKofCHu

 これほぼバグ技では?

 

 

125:名無しさん ID:xepo2wrOa

 >>121

 (公式裁定が出てるのでバグじゃ)ないです

 

 

128:名無しさん ID:/+pRnk4HL

 これ、普通に俺らも利用してるダブルキャストを使ってるだけだったりする?

 

 

131:名無しさん ID:mPeeykIvf

 >>128

 多分。確かにあれ、使う人が魔法の発動処理できれば誰でも使えるプレイヤースキルだし、極振りが使えてもおかしくない

 

 

135:名無しさん ID:JDsDC97ah

 でも発動処理できてるのがおかしいから、まず間違いなくナーフされるな

 

 

137:名無しさん ID:nAN3XqKl6

 通常攻撃が(実質的な)即死攻撃で、(実質的な)MAP兵器なお兄さんは嫌いですか?

 

 

140:名無しさん ID:fq3t5/jkd

 >>137

 嫌い

 

 

144:名無しさん ID:DluTKxrYS

 >>137

 嫌い

 

 

149:名無しさん ID:u83E7daXT

 >>137

 好き!!!

 

 

151:名無しさん ID:bpQm1x/D5

 レンの風と雷が侵食されてる……

 

 

154:名無しさん ID:l7JZ1QeGJ

 ついにアキまでもが領域展開を始めたか

 

 

158:名無しさん ID:oWvOOUP/8

 とはいえ相変わらずのヤムチャ視点

 

 

163:名無しさん ID:0aUDAjMoo

 限界ギリギリで戦って、互いに認め合ってるから負けたくないの応酬なのは分かるの。でも何が起こっているのかよくわからない状態なのよね

 

 

165:名無しさん ID:SVTfTm598

 すべては、“勝利” をこの手に掴むために───!

 いやぁ……(ドン引き)流石ですわ

 

 

167:異世界人ニキ ID:まあおまえらじゃわからないか

 特化紋章、二重(ダブル)

 したアキの攻撃でレンの左腕が削り取られた

 直後に蛇腹剣が解けて螺旋力を発生させそうな形に、その蛇腹剣の刃1つ1つに放電光が灯ったと思えば星座みたいに空間に焼き付いてる

 多分あれダメージフィールドの亜種だね

 

 

168:異世界人ニキ ID:このりょういきのはなしは

 それに対してレンが分身……分身!?

 速度と技術だけで実体持った分身作るって何それ怖い

 

 

172:名無しさん ID:cJNrHHxTw

 両腕無くなって速度上がったんだろうなぁ(白目)

 

 

177:名無しさん ID:sMtLY8uiY

 スタジアムが崩壊していく様しか我々には見れないれす

 

 

181:名無しさん ID:dMdoijpyZ

 もうこんなの天災じゃん

 

 

186:名無しさん ID:nS7CHfO0o

 天災の裂くなぁ!ヒメ

 

 

189:名無しさん ID:MOx1P8Cwl

 >>186

 台風と地震の化身か何かか???

 

 

191:異世界人ニキ ID:そろそろそっちのセカイにかえるじゅんびしよ

 レンネキがアバターのポリゴンすらブレさせながら突撃するのに対して、アキは蛇腹剣で迎撃

 それと蹴り結んだレンネキが後方宙返りで跳躍、赤枠の白を見せつけながら着地したのと同時に10人分身

 そこにアキが煌赫墜翔(ニュークリアスラスター)を、発動(ブースト)して突貫。分身を全部切り裂いたことでお互い制御不能になって壁に激突した

 

 

196:名無しさん ID:aVYrCzoMb

 ちゃっかり観測班としての仕事もしてるニキが有能すぎる

 

 

197:名無しさん ID:/mRH3Hmwv

 結構、派手なんすねぇ

 

 

201:名無しさん ID:t9+i2MRP0

 >>197

 それはどっちに対してだ、言ってみろ

 

 

202:名無しさん ID:/mRH3Hmwv

 (思考が……読めるのか? まずい)

 

 

206:名無しさん ID:2R3ZHC4hf

 >>202

 何がまずい? 言ってみろ

 

 

207:名無しさん ID:huQQbmFBo

 突然のパワハラは草(末期の言葉)

 

 

211:異世界人ニキ ID:これわたしがじっきょうするいみある?

 直後にまたフィールドの中央で激突、レンネキが両脚の装備を犠牲にアキの左腕を消しとばした。けどアキは剣咥えてるから効果は薄そう

 そのまま2人揃ってまだ残ってる雷のエフェクトを踏み台にして加速

 そのまま空中でレンネキ、バリアを常時ONOFF繰り返すことで無敵状態になりながら、蛇腹剣のワイヤーを素足の指で絡め取って放り投げたあ!!!

 

 

213:名無しさん ID:Gdg+5ppN9

 すげぇ! まるで脳が理解してくれない

 

 

217:名無しさん ID:bc36rKpOw

 ちょっと一から十まで意味不明なんですが

 

 

221:異世界人ニキ ID:いえのガスのもとせんしめわすれたきがする

 反撃のアキが放った攻撃に対してレンネキ、ワープ(?)

 アキの死角から突撃するも、なぜか当然のように迎撃

 その迎撃を潜り抜けて、アキの周囲に555のライダーキック風のポインターが出た!!!

 

 

222:名無しさん ID:NfQbnM8WQ

 決まるか!

 

 

225:名無しさん ID:9KAsPL08h

 速さの世界でスピードを求め走り続けた結果が、走る必要がない瞬間移動のワープとか、あまりにもエッッグい皮肉かまされてて草枯れる

 

 

226:異世界人ニキ ID:こんどオールでんかにかいちくしよう

 クリムゾン・スマッシュの直撃寸前、アキが雷を落として妨害……じゃ、ないこれ攻撃ルートの限定だ!?

 そしてそのまま頭突きで迎撃して頭が半分吹き飛ばされて、代わりに脚を砕く意趣返しかましてるんだけど

 

 地球はいつから修羅の世界になったの???

 

 

228:名無しさん ID:MJaB+LTRO

 前頭葉は飛び散っても即死ではない(重要)

 

 

233:名無しさん ID:tAWPO+mFF

 でも弾かれた以上、これアキの勝利で決まりなんじゃ

 

 

237:異世界人ニキ ID:オールマジックでもいいかもしれないけど

 いや、違う

 レンが多分自爆前提のスキルを使って再加速した

 そして同じようにライダーキックかまそうとして、アキもそれを迎え撃つ形!

 

 

242:名無しさん ID:aR4flMISI

 ああ! 大爆発した!

 

 

247:名無しさん ID:zkp18YmVY

 どっち、どっちが勝った!?

 

 

252:名無しさん ID:jOs4N21Bz

 アキ? レン? それとも引き分け?

 

 

257:名無しさん ID:bXFw/zlRj

 砂埃のせいでシステム表示も見えねえ

 

 

261:異世界人ニキ ID:すばらしいものをみた

 ライダーキックに対して放たれた居合い切り、それがバリアとポインターを切り裂いて、レンのキックより早くレンに届きそうになった

 その瞬間に()()()()()()()()()()()()()一時停止

 アキの剣を直撃から掠る程度に空かしてライダーキックを直撃させた

 

 

266:名無しさん ID:3bMHJmHrb

 待ってまるで分からない

 

 

267:名無しさん ID:j+4x7hGpN

 えっ、何それは(ドン引き)

 

 

269:名無しさん ID:K3MqX0vcQ

 >>261

 つまりそれって、レンは速さ勝負で負けたってこと……?

 

 

274:名無しさん ID:qHmw0KYTw

 うわぁ、うわぁ

 

 

278:名無しさん ID:EPBGV8WNw

 当人たちの言葉からしてそんな雰囲気だね

 

 

281:名無しさん ID:4YHmgQP3Z

 チャンピオン!

 

 

283:名無しさん ID:vjtiP5nzq

 レンが勝った……けど

 

 

284:超器用 ID:huNKnDredR

 レンは試合に勝って勝負に負けた気分だろうな

 

 

287:爆破卿 ID:Bm4luKSpIdEr

 良かった、最後は見えなかったけど大体合ってた

 

 

292:翡翠 ID:hUjNagryde

 食べられなかったのは残念ですが、優勝おめでとうございます

 

 

293:虐殺者 ID:Ch4ulai8nn1

 こうしてみると、レンとも一回試合ってみてぇな

 

 

296:デュアル ID:ArmDeormon

 こうみると防御特化の私が溶けた理由は明白でしたね

 

 

298:観測班Z ID: AsTuaPicsSinre

 いい写真が大量に撮れた以上、満足という他ありますまい

 

 

302:名無しさん ID:Cu6vCsSON

 なんか大量にコテハンが現れたと思ったら全員極振りじゃねえか!

 

 

304:名無しさん ID:fs+HIoJxA

 そして全員が全員、この戦いを認識できていたという

 

 

308:名無しさん ID:lQErScOkE

 おい極振り、ちょっといい加減にしろ

 

 

309:名無しさん ID:4zaKifp5o

 あーもうめちゃくちゃだよ

 

 

310:異世界人ニキ ID:ささくってるばあいじゃねぇ!

 ちょっと今から急いで戻ってログインするからサインくだs

 

 

 




この回ための登場、異世界人ニキ


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第176話 Q.何が始まるんです?

A.大惨事対戦だ


 極振りエキシビジョンマッチが終わった後、それはそれは盛大な表彰式が行われた。俺は総合4位だったから残念なことに表彰台に登ることはなかったけれど、確かな満足はあったのでそれで良しとする。

 その後は頭痛もしてきていたので普通にログアウト。沙織と一緒に買い物に行き、添え物は思いっきり手抜きしてシャケのムニエルで晩御飯にした。2人で食べる晩御飯は落ち着くなぁ、などと思いつつ家までちゃんと送り返して日曜日は終わり。

 

 そうして月曜、火曜と日時は過ぎて行き、11日の水曜日。ついにその日がやってきた。これまでが極振りエキシビジョンだったのに対して、諸々の予定が変更された末のユニーク称号持ちのトーナメント。高校生としてはテスト期間が始まったこともあり、早帰りであり早くログインできるという好条件だ。そう、学生には好条件だった、のだが……

 

「まあ、当然こうなりますよね」

 

 日時は12月という繁忙期?の企業も多い時期の頭、そして平日の水曜日だ。一般的な社会人であれば、当然その時間は会社にいる。もし超大規模な感染症が流行したりすれば話は別だが、過去現在ニュースでそんな話は見たことがない。故に、極振りエキシビジョンの時とは違ってユニーク称号持ちが全員参戦する、などという理想は実現しなかった。

 

====================

 ー昼の部ー

 《舞姫》セナ

 《オーバーロード》藜

 《ナイトシーカー》カオル

 《大天使》イオ

 

 ー夜の部ー

 《傀儡師》シド

 《ラッキー7》シルカシェン

 《牧場主》しぐれ

 《初死貫徹》Chaffee

 

 ー参加辞退組ー

 《マナマスター》コバヤシ

 《提督》ZF

====================

 

 その内訳は、大体こんな形になっていた。

 簡単に言えば、昼の部は学生組と夜勤のカオルさん。夜の部はそこまで仲の良い人がいないせいで判別つかないけれど推定社会人組だ。参加辞退組の2人は、PT戦でこそ真価を発揮する人たちなので今回は仕方がないという事らしい。

 

 また極振りエキシビジョンと違い、こちらはあくまでプレイヤー間で企画されたイベントだ。なんだかんだで賛同は得られているし、観客もそれなりに集まってはいるけれど運営の介入はない。

 だが、決まってしまったものは仕方ない。色々と伝手を辿って準備をしつつ、殺気立ってるセナと藜さんとの約束を果たしたりなんだりしつつ、漸くこの場に漕ぎ着けた。極振りエキシビジョンの時は立ち入ることのなかった、本来であれば運営がいるべき実況席。そこで(おれ)は今、小さなこの手でマイクを取った。

 

「さあさあ、やって参りましたユニーク称号持ちのエキシビジョンマッチ。残念ながら(おれ)達の時と違って運営の実況はありませんけど、その代わりに私しらゆきと!」

「Vtuberをやらせて貰っている大神ツミだ。どうしてか今回実況をさせてもらう事になった。至らない部分もあると思うが、よろしく頼む」

 

 今回実況席に座っている、白い長髪に明るめの水色の瞳を持つ眼鏡をかけた小さな女の子とは一体誰のことでしょう? そう、私です。

 因みに相方として、折角共演依頼も来ていたことだしヴォルフさんこと、Vtuberの大神ツミさんも呼んでみた。ウルフカットの青い髪に狼の耳と尻尾に、軍服と警察の制服を足して3で割ったような衣装。配信画面でよく見る姿が隣にいた。

 

「実際問題、(おれ)1人だけで実況するよりは、慣れている誰かが一緒の方がいいに決まってますもん。公式配信が行われない以上、Dutube上での配信があれば助かる人は多いと思ったのでお呼びしました」

 

 普段はアストとかのボスTA(タイムアタック)動画だけを上げている自分のチャンネルの登録者数が、なぜか無駄に伸びているのが良い証拠だ。大神さんの配信画面に至っては、こんな真っ昼間の時間にも関わらず数万人の視聴者がついている。ブランド力って凄い、改めてそう思った。

 

「理由は分かっている。ただ、1つ聞かせてくれ爆破卿。……どうしてTSしてるんだ? 下手しなくても炎上すると思うが」

「本当は(おれ)も男の状態でやりたかったんですけど、運営に実況席の使用許可をもらう時に言われたんですよ。『華がない実況など認めない、造花でもいいから作るべき』って。なので仕方なくですね……」

 

 いや、こんなもの(TSシステム)を実装して喜ぶ変態的な運営なので、頼んだ時点でそう言われる予感はしていた。でも実際にそうなるとは思わないだろう。

 あと炎上は既にしている。何故か(おれ)にいつの間にか生えてたファンが無差別に放火していた。んー????(懐疑)なんでこっちにファンが生えてて、そのうえ燃えてるんですか??? ここは本能寺じゃないんだぞ。

 

「なら、そのやけに凝った髪型と衣装はなんなんだ……?」

「うちのギルドメンバーにやられ──やってもらいました。でも本意じゃないんです、ほんと」

 

 髪は長さを生かしたリングを作る形のツインテールに纏められ、ひらひらのウェアの上にファー付きのアウターを装備させられた。短いスカートからは惜しげもなく生足が晒されているが、少しゴツいシューズが足先は守っている。実況席の床まで足が届かずブラブラしているせいで、見えそうなスカートの中を何とか防いでくれている形だ。

 普段の装備じゃあまりにも華も味気もないし、呪いの装備じゃあまりにもセンシティブだったので配信がBANされる。なるほど完璧なファッションスね──ッ、羞恥心という点に目をつぶればよぉ~~~!! 

 

「まあ、それはともかく。(おれ)達の時とは違って事前予告もないうえ、午前と午後とに時間が別れてるせいでマッチングが気になる所でしょう」

「というわけで、マッチングの発表だ!」

 

 ==========================

 午前

 

 

 セナ━━━┓   ┏━━藜

      ┃   ┃

      ┣━┻━┫

      ┃   ┃

 イオ━━━┛   ┗━━カオル

 

 

 ==========================

 午後

 

 

 シド━━━┓   ┏━━シルカシェン

      ┃   ┃

      ┣━┻━┫

      ┃   ┃

 しぐれ━━┛   ┗━━Chaffee

 

 

 ==========================

 

 大神さんの掛け声で出現する、だいぶ数の少ないトーナメント表。それが出現したと同時、配信の画面のコメントは加速した。実際問題、(おれ)たち極振りの戦いよりも、よっぽど人間らしくて参考になるらしいし。

 

「まず説明させていただくと、(おれ)や極振りの先輩方もユニーク称号は持っていますが当然全員除外。非戦闘系の《大工場》ツヴェルフさんと《農民》ハーシルさん、《大富豪》れーちゃんはそもそも参戦していません」

「それに加えて、PTで戦闘機に合体することで本領を発揮する《マナマスター》のコバヤシさん、時間の都合で《提督》ZFさんは参加辞退ということだった。この中の誰かを楽しみにしていた人もいるだろうが、そこは全員人間だ。察して欲しい」

 

 極振りは人間じゃないのでは? とかのコメントも見えるけれど、今回は配信がメインではないため無視。あと掲示板にいた自称異世界エルフニキも考えないものとする。

 

「午前午後に別れてるのも同じ理由ですね。自由に使える時間も人それぞれ、この時期なら学生さんはテスト期間とかで全編リアルタイムできるかも知れませんね」

「もし無理だとしても、俺のチャンネルと公式の切り抜きアーカイブは残るから安心して欲しい。だから勉強はするんだぞ、ちゃんと」

 

 大神さんの深刻そうな忠告に何かあったんだろうなぁと思いつつ、一旦言葉を切る。そのまま何となく視線を落として配信のコメント欄を覗いてみれば、マッチングがアレなせいか【大惨事正妻戦争】などと呼ばれ始めていた。いくら昼の部の全員が【すてら☆あーく(うち)】の関係者だとしても、俺の数少ない友人と、全くそういう関係はないカオルさんを巻き込むのはやめて差し上げろ。

 

「さて、こうして(おれ)たちが延々と喋っているのは、見てる側も退屈でしょう」

 

 そう一言おいて、大神さんの足を軽く蹴って合図をした。たった今、入場ゲート前の控室にいる2人から、個人メッセージで準備が完了したとの連絡が来た。ならばもう尺稼ぎのトークタイムは不要、事前の打ち合わせ通り盛大にデュエル開始の宣言をするのみである。

 

「ああ。準備も整ったようだし、盛大に開幕を告げるとしよう!」

 

 一旦顔を見合わせ、頷き、ニカッと笑みを浮かべ揃って片手を突き上げる。その手に握られた、どう見ても爆弾の爆破スイッチにしか見えないだろうそれに注目を集めつつ──

 

「「これより非公式イベント、ユニーク称号エキシビジョンを開始します(する)!!!!」」

 

 にゃしい先輩を見習って、出来る限りノリノリで大きな声で開始を宣言した。同時にスイッチを握り込むことで、事前に配置していた全ての爆弾に着火。闘技場を囲む24地点を右回りと左回り、それぞれを一周するようにして花火が打ち上がった。

 ダメージを発生させないジョークボムの一種だけど、使い道はちゃんとあるのだ。我ながら綺麗に打ち上がった花火に満足しつつ、入場ゲートに人の気配を感じたことで一旦その思考を切り上げる。

 

「映えある第一試合の組み合わせはこの2人!」

「βテスト時代から、その実力は折り紙付き! 回避盾からメインアタッカー、遊撃手まで何でもござれ、舞い踊るように戦う全距離対応アタッカー! 率いるギルドは少数精鋭、誰が呼んだか銀の閃光、付いた字名は《舞姫》! ギルド【すてら☆あーく】ギルドマスター、セナ!」

 

 同じギルド所属である以上、公平を期すためにセナの入場コールは大神さんに任せた。因みに事前にセナに了解は取ってあるから、後からリアル凸を喰らうこともない。

 なんてことを考えている間に入場してきたセナは、普段最前線やボス戦を行う時同様のガチガチのフル装備。それで絵になるあたり、幼馴染ながら本当に美少女だ。更にリアルでもゲームでも慣れているのだろう、軽く手を振りながら笑顔を振りまいている。湧き上がる歓声からして、人気なのも納得である。

 

「午前の部メンバーにおける黒一点! けれど見た目は美少女メイド! セナが牽引した回避盾主流ブームに真っ向から立ちはだかる、デュアル先輩と同系統の数少ない直受けヒーラータンク! 率いるギルドは初心者支援を全面に、付いた字名は《大天使》! ギルド【空色の雨】ギルドマスター、イオ!」

 

 対するは、このPvPイベントが始まって最初の挑戦でタッグを組んだイオ君。数少ない同性の友人で、けれど見た目はいつも通りのメイド服。持っているモップの槍と銀トレイの盾が今日も眩しい中、綺麗なカーテシーを決めていた。こちらもセナに負けないくらいの声援と歓声が湧き上がる、UPO初期組以外は手助けしてもらった人も多いのだろう。

 

「「いざ、尋常に。始め!!」」

 

 そんなある意味ギルド対抗戦のような形で、ユニーク称号エキシビジョンは幕を開けたのだった。

 



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第177話 空雨銀閃

 念のため用語
【スキル】→紋章術とか銃剣術とか
 持ってると対応する技《アーツ》が使える様になる
 あと武器威力にちょっと補正が入ったりする
《アーツ》→スキルを取ってることで使える技
 たまにユキが使う《抜刀・○○》とか
 MPやHP消費・再使用までの時間が設定されてたりする


 ユキと大神により試合開始宣言がされる少し前。ステージ上で対峙したイオとセナの間には、極めて奇妙な空気が流れていた。本来ならばギルドマスター同士の雌雄を決する一触即発、ひりつく様な空気が満ちているはずのそこでは──

 

「あれは爆破卿あれは爆破卿あれは爆破卿でもしらゆきちゃん可愛いなぁ笑顔が眩しいし小ちゃいし戦い方の相性もよかったしまた一緒に冒険したいけどやっぱりその為には強さを見せた方がいいだろうしやっぱりかっこいいところは見せておきたいカッコイイって言われたいし……この戦い、負けるつもりはありません!!!!」

「うわぁ」

 

 セナはドン引きしていた。幸いにしてかなりの小声であったお陰で、マイクに音声は拾われていない。だとしても、直前まで完璧なカーテシーを決めていたとは思えないほど手遅れだ。

 ゴウランガ! アワレ爆破卿(しらゆきちゃん)によってイオの性癖はしめやかに爆発四散。無事に特殊性癖街道を爆走しているのだった。コワイ!

 

「ユキ君も、随分と罪作りだよね……」

 

 アレだけの激戦だった以上仕方のない部分もあったのだろうけど、こんな深刻な被害者を生み出してしまったあたり自分達の注意不足だったのかもしれない。そんなことを考えるセナの手に、相棒たる黄金の銃剣が構えられる。ガン=カタ用の拳銃に刃の付いた《舞姫》専用アイテム、その名を【サウダーデ/ドミンゴ】という。

 

「大丈夫、目を覚まさしてあげる!」

 

 そろそろ、決着をつけるべきだ。ユキくんのことを。そんな内心を秘めつつ、セナは目の前にいる超変則的な恋敵に銃を向けた。

 

「至って僕は正気なので! 勝たせてもらいますよ!」

『『いざ、尋常に。始め!!』』

 

 そうして、戦いの幕が上がった。

 

 

『《ジェットスラスト》!』

『【水月(みなもづき)】』

 

 あまり触れたくない会話をしているのを聞き取ってしまいながらも、何とか幕開けた初戦。最初の動きはイオくんが槍のアーツによる速攻をかけ、当然の様にセナがそれをジャスト回避するところから始まった。

 

「ああっと! 《舞姫》の準備が整う前に速攻を仕掛けた《大天使》だが不発、回避されてしまった!」

「しかも回避盾御用達の【水月】ですから、ジャスト回避による諸々も発動してますね。イオ君の武器がモップなのも、ちょっと相性が悪いですね」

 

 ステージ上、表示されている2人のHP・MPバーの変動は明らか。セナが数%のMP消費しかしていないのに対して、イオ君のHPは1割ほど減少し高い筈の状態異常耐性を打ち抜いて《幻惑》の状態異常が3つほど点灯していた。

 

「あれはネタ武器だと記憶してるが……違うのか?」

「そうですね。知ってる人も多いとは思うんですけど、布モップ系統の武器は水に濡れてる状態だと多段ヒットします。本来なら結構、威力の代わりに有効な能力なんですけど……」

「なるほどな、今回はジャスト回避のカウントが無駄に進んでしまうと言うことか」

 

 大神さんの言葉に頷いた。

 実際、モップはデバフなどを載せれば相当面白い使い方が出来る(本人談)武器だけど、ハッキリ言ってセナとの相性は最悪だ。

 

『《ファランクス》くっ、この!』

『堅実に詰めさせてもらうよ!』

 

 状態異常とHPの回復を図るイオ君に対して、タタタン、タタタンと綺麗な3点バーストのリズムでセナが無数の弾丸を撃ち込んで行く。それに対しイオ君は、反撃はぐっと堪えて攻撃を加えない様に防御を固めていた。

 

「HPレースでは、タンク職としてのリジェネがある《大天使》が有利だな。最初の傷を含めて既に全快している」

「でも、MPレースと全体的な戦局ではセナの有利ですね。拳銃系射撃アーツの《呪陰弾》と、拳銃の強みである特殊弾頭で着実にアドを稼いでます」

 

 与えたダメージの半分の威力をMPにも与える拳銃のアーツ、それは明らかにイオ君のリソースを着実に削っている。同時に、セナがずっと撃ち込んでいる特殊弾頭も中々に渋い活躍をしていた。

 まず最初に撃ち込んでいたのは状態異常耐性を低下させるデバフ弾、耐性が下限まで下がったところで毒弾と燃焼弾といったDoT*1系統に変更。状態異常を回復されるとデバフ弾→DoT弾に切り替え、着実にリソースを削っていた。

 

「だが、それにしても《舞姫》の攻撃の威力は《大天使》を突破出来ていないようだが?」

「そうですね……やっぱり常時被ダメ9割カットが効いてるのと、単純に拳銃の威力が低いのが原因でしょうね。銃系統の武装は他の遠距離武装と違って、ステータスの威力補正が載らないんです」

 

 そう、それが戦局が動き難い原因だった。

 

「銃でステータスが影響するのは、装備制限に関する部分を除けばDexのみ。威力は全てDB(ダメージボーナス)によって決まるんです。銃弾に設定された基礎威力、銃に設定された口径(キャリバー)による補正、マガジンに設定された追加ボーナス……後は近接武器同様のスキル・速度・クリティカルの処理が挟まります。(おれ)の対物ライフルはスキル無しで軽減前で300〜600くらいですかね」

「俺たち前衛組の素攻撃力が凡そ2000くらいなことを考えると、随分控えめな威力しかないんだな」

「その分、長い射程と安定した連射、使う為の要求値の低さに特殊弾頭や特殊マガジン。色々とカスタム要素が多いですからね」

 

 では何故、セナがDexには最低限のステータスしか割り振らず、StrとAglに集中して能力を割り振っているのか。それについては、近接攻撃という銃剣の特権が関係しているのだけど今は割愛する。

 

『《バレットシャワー》』

 

 それよりも、現在セナが並行して進めている行為の解説が先に必要だろうから。振り切り弾丸の雨をくるりくるりと、踊る様にしながらダメージにならない攻撃を重ねている意味を。

 

「ところで爆破卿、さっきから《舞姫》がやってる弾の雨を自分も対象に含めて降らしている理由を説明出来るか?」

「んっと、そうですね。すごーく簡単に説明するとバフ積みです」

 

 そらきたと、少し考えてから(おれ)は口にした。何をどこまで説明していいのか、一瞬考えたがセナは有名だ。ある程度はバレても問題ないと聞いてるし、ぶっちゃけてしまおう。

 

「《舞姫》の取得条件がジャスト回避回数が1位というところから分かるかもしれませんが、セナの戦闘スタイルはジャスト回避が実は結構要です。しなくても強いんですけど、回避すればするほどバフを積みながらデバフも撒けます、便利ですね」

「その上、回避スキルがガン積みで攻撃性能も十分、速度があるから距離も離されるし近接も出来るんだろう? 近接型からしたら、悪夢みたいな能力してるな……」

 

 とても嫌そうな顔をして大神さんは言った。(おれ)は近接型ではないからなんとも言えないけど、タイマンの場合はほんと悪夢の様なスペックであることは間違いない。PTだと更に悪夢だが。

 何せ攻撃したらバフを積まれ、チクチクとデバフも撒かれ、かと言って何もしなければ勝手に自分でバフを積みながらデバフを撒き、最後にはトドメを刺しにくる。近・中・遠距離物理・魔法、ペットを含めればその全てに対応できるのだから厄介度は倍率ドンさらに倍。

 

 そんな解説をしている間に、戦況に致命的な変化が訪れていた。

 

『くっ、事実上一戦使い切りだから切りたくはありませんでしたが──仕方ないですね。来て下さいアズール、トラロック、クラミツハ!』

 

 MPが1/3を切った辺りで、イオ君のがペットを召喚したのだ。現れたのは水色の燕、半分透けた蛇、半分透けた刀の3種類。そして、天候が【嵐天】へと書き変わった。

 

「おおっと、ここで《大天使》天候を書き換えた! ぶっちゃけ俺は極振り特有の技だと思っていたが、実際そこんとこどうなんだ?」

「専用のアイテムか、或いはイオ君の様にペットの能力か。安心して下さい、条件さえ揃えば誰でも使えますよ」

 

 そして【嵐天】によるデバフと【メイド流槍掃術】なる技による相手の行動妨害コンボは、決まればかなり強力だろう。恐らく対人戦であれば、殆どの相手を封殺出来るくらいには。更に加えて必殺のコンボも揃っていることは、イオ君のモップに槍状の水が纏わりついていることからも推察できる。

 

 しかしその考えにはたった1つ、致命的な問題がある。

 

 折角なので天狗の面を被って、せーの。

 

『「判断が遅い」』

 

 全く意図していなかったのに、ステージ上のセナと言葉が重なった。

 同時にステージ状で閃光弾が瞬き、誰もがその目を眩ませる。そうして次の瞬間には、セナの姿はスタジアム上から忽然と消えていた。(おれ)の【空間認識能力】上でも、殆ど霞の様にしか見えない程に。

 

「うおっ!? 一体何が……天狗面!? ッ……あ、ああ、そう言うことか」

「そういうことです。ちょっと遅いかも知れませんけど、折角だからやってみたくなっちゃって」

 

 両手でお面を持って外しながら、覗く様にステージを見る。目を凝らしても、イオ君以外何も見えない。荒ぶる雨風に紛れて、完全にセナの姿は消え去っていた。

 

『くっ、一体どこに……』

 

 2、3個【空間認識能力】系統のスキルでも発動しない限り、今のセナは見つけられない。そう思える程、潜伏に徹したセナの存在感は消えている。静かな暴風雨の中、止まってくれているから辛うじて探知できるけど、動かれたら多分(おれ)も見失うだろう。

 

「ステージ上は……《舞姫》の姿が消えているな。爆破卿、どこにいるか解説できるか?」

「出来ますけど、やったらイオ君に有利過ぎるのでしません。まあ後10秒くらい待ってくれたら構いませんけどね?」

 

 人差し指を立てて口に当て、しーっというポーズを取りながら言った。

 

「それは一体、どういう?」

「フルパワーではないですが積んだバフは十分。掛けたデバフも十分。そして何よりスキル【ガン=カタ】は、拳銃と短剣系の複合スキルです」

 

 瞬間、空気が揺らいだ。風の中にセナが消え──

 

「短剣スキルで、潜伏状態からのみ使える特徴的なスキルは何か。前衛を張ってる大神さんなら、知ってますよね?」

『《アサシネイトⅢ》!』

 

 答えを聞く前に、ステージ上で答えは示された。

 背後から、首と心臓を両手の銃剣で一突き。装備効果によるステルス状態と、発生している潜伏ボーナスが剥がれる前に追撃の銃撃。頭と胸に3発、致命的(ファンブル)な位置に決定的(クリティカル)な連続攻撃。

 それは実際に計上するダメージ計算式としては僅かに足りずとも、アーツの効果である【即死】を誘発するに十分なダメージ量を叩き込むことに成功していた。

 

「暗殺、スキル……」

「そゆことです。正攻法で削り切れない相手に対しては、結構メジャーな手段ですよね?」

 

 天候が通常通りに戻ったステージから手を振るセナに、笑顔で手を振りかえしながら言う。頭上に浮かぶ【WINNER セナ】の文字が眩しく輝いていた。

 

「それでは、(おれ)達の時と違って全員が見れた戦いと、健闘したイオ君と勝者のセナさんに拍手を!!」

 

 そう促せば、やはりちゃんと見えると言う点と、馴染みあるスキルが使われていたという点が大きかったのだろう。大きな歓声と拍手が巻き起こった。

 

「なんだかいまいち釈然としないが……爆破卿は今回の戦い、どう感じた? 俺からすると、阿弥陀籤の結果とは言え相性差が酷かった様に感じたが」

「それ、極振りで相性差しかない環境でプレイしてる(おれ)に言います? でもそうですね……相性は悪かったと思いますが、勝ち目はあったと思います。2回程あったイオ君の判断ミスがなければ、の話になってしまいすけど」

 

 とは言え感想戦。大神さんが近接側から見た感想を言うのであれば、後衛側から見た意見を流していきたい。こんな風に実況をするのも悪くない、そんなことを思いながらステージの清掃が終わるのを待つのだった。普段と比べて遊びがない、ちょっとだけ普段と違うセナに、何となく嫌な予感を覚えながら。

 

 

*1
Damage over Timeの略。別名スリップダメージ




ヒロインズの決着編です


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第178話 過負荷の夜陰

個人的に好きな曲なので、戦闘BGMは平安のエイリアンでした


 ずっと、心の中に晴れない靄が掛かっているようだった。

 

 初めて感じた恋心と、どうしようもない嫉妬心。その2つが悲しい程に胸を焼いて、頭を(なみだ)燻し(とろかし)ていく。甘い甘い妄想(もうどく)が、私の身体を侵していく(素敵な夢を見せている)

 

 ユキさんの隣にはセナさんがいて、友樹さんの隣には沙織さんがいる。それは誰が見ても明らかな真実で、2人の関係は自明の理で。本当なら、ポッと出の私なんかが割り込めるはずもない特別な関係。

 

 それでも私は、ユキさんの特別になりたかった

       /セナさんの居場所を奪いたかった

 2人の関係が、どうしようもなく羨ましかった

       /自分には不釣り合いだと感じた

 どうしても私は、諦めたくなかった

        /諦められなかった

 こんな自分のことを、知って欲しかった

          /見ないでほしかった

 

 "恋"なんてものは、ただの熱病。たった一時の気の迷い。何かの本で読んだような、教室の何処かから聞こえて来たような、そんな言葉が今の自分をよく表している。感情はぐちゃぐちゃで、思考は蕩けていて、身体も、心も、言うことを聞いてくれない。なのに、想いだけは止まらない。たしかに恋なんてものは錯覚なのかも知れない。だけど、そう思って、思い続けて、好きだと言い続ければ、いつかきっとそれが真実になる。

 

 そんな自分に区切りを付ける為に、私は、セナさんと決着を付けなければならない。

 

 だって幼馴染だからって、同級生だからって、諦めたくない、渡したくない。過去の話を込みにしても、それでも私は納得しない。先に好きになったのはそっちでも、気持ちなら私も負けてないから。そっちが友樹(ユキ)さんに救われたのと同じように、私も友樹さんに助けて貰ったから。貰い続けてるから。だから──

 

『さて、ステージ上の清掃も終わったことで第2戦だ!』

『早くも準決勝。(おれ)達の時とは違って、これはこれで面白いですね』

 

 ユキさんの知り合いだという男の人と、女の子になったユキさんの言葉を聞いて、私は槍を握りしめる。セナさんは、あのちょっとおかしなメイド服の男の子に、こともなげに勝ってみせた。だから今度は私の番。セナさんとの約束を果たすためにも、勝ち上がらないといけない。

 

『その前に、疑問に思う奴もいるだろうから聞こう。ユニーク称号【ナイトシーカー】は本来、夜時間にバフが掛かり昼時間にデバフが恒常的に付与されるものだ。だが今は昼時間、だというのに戦えるのか? 爆破卿』

『そうですね、本当は時間帯限定の能力なんですけど、流石にイベント中はずっとバフ状態になっているらしいです。今回のユニークエキシビジョンはプレイヤー主催のイベントですけど、システム的には第5回公式イベント中です。だから、バフ状態が適応されるんですね!』

 

 楽しそうに、脚をパタパタさせながら話すユキさん(しらゆきちゃん)は、女の子としてあまりに無防備だった。納得、と言ったように胸を張る姿も、肌色がチラついて非常に危険だった。そんな真っ直ぐに明るい、こんな私の悩みなんて知らない無邪気な姿。

 それにどこか、羨ましさのようなものを感じて。この感情をそのままぶつけたらどうなってしまうのか、どんな顔をしてくれるのか……想像して、すぐに(かぶり)を振ってそんな醜い考えを振り払った。

 

『さあ、疑問も晴れたところで2回戦、行こうじゃないか!』

『はいよ〜、ということでエントリーです!

 昼間はクソザコ、夜は最強! 暴力的なまでの基礎ステータスによる鬼の固定値おばけのオールラウンダー! 光の届かぬ深夜の世界から、夜勤明けでやってきた! さあエージェントは夜を征く、付いた字名は【ナイトシーカー】! ギルド【ボクと団長と酒と愉快な仲間たち団】所属メインアタッカー、カオル!』

 

 ユキさんのコールで入ってきたのは、何度か一緒に冒険をしたこともあるカオルさん。機械感マシマシのゴツいブーツとベルト、それとは対照的な夜空のように煌めくコート。右手には黒の革手袋とゴツい手甲、左手には色とりどりの指輪。そんな、全体的にアシンメトリーなデザインの装備。そこに短いながらも紫のグラデーションを描く髪と、猫のような蜂蜜色の目が揺れていた。

 

「ふふーん、可愛いボクの晴れ舞台! ちょっと寝不足で死んでた気がしましたが、エナドリキメて元気100倍です! 厄介連中に実力を見せつけるチャンス、生かさずにはいられませんね!」

 

 周囲を飛んでいる数匹の蝙蝠はペットだろうか? とても厄介な気配がする。そしてあそこまでの自信満々と言った態度は、どうにも私には真似できそうにもない。もう一欠片の、そんな勇気が自分にあれば。きっと何かが変わったのだろうか?

 

『対するは、一撃の最大ヒットカウントは約5万! UPOで唯一ヒットストップを物理的に発生させるクリティカルヒッター! そして隣のユキを筆頭に、未だ流通数が少ないビット装備の使い手! 字名の通りサーバーにも過負荷をかけられるのか【オーバーロード】! ギルド【すてら☆あーく】メイン物理アタッカー、藜!』

 

 迷いも、不安も、そして恐怖も、ずっと心の中でぐるぐる、グルグルと回っている。けれど、それではいけないから。くるりと手の中で回した愛槍を、ヒュオンと風を切るようにして振り抜いた。

 

「行きましょう、ニクス」

 

 その穂先に、刃の羽根を持った鷹が留まってくれたのを確認して、軽く槍を肩に担いだ。そうしてゆっくりと、心を研ぎ澄ませながらステージに歩いていく。

 最近UPOにログインしてる時間は、遊んでいるより勉強の時間の方が多い。だからユキさんやセナさんのように、私には複数のペットがいない。一番最初のペットであるニクスと、ビット操作を助けてもらうため仲間にした付喪神のユエだけ。だけどどっちも、ユキさんやセナさん、ランさんやつららさんにれーちゃん、ギルドのみんなと一緒に強くなった子だから大丈夫、な筈!

 

「お久しぶりです、藜さん。あれからお勉強は上手くいってますか?」

「えっと、はい。なんとか」

 

 そう意気込んでステージに上がっただけに、柔和な笑みを浮かべてそんなことを言われて戸惑ってしまった。どう考えても、これから一戦交えるという空気ではなかったから。

 

「ふむ、その顔なら大丈夫そうですね。いくら可愛いボクとはいえど、既に学生ではなくなってしまった身。可愛い後輩の手助けが出来ていたことは嬉しいニュースです」

「夜遅く、は、いつも、ありがとう、ござい、ます」

「ならば結果をもって示してくれれば、ボクは嬉しいですね!」

 

 満面の、自信満々だが挑戦的な笑みでそう言われ、私も槍を握る手に力が篭った。そして同時に高まる戦闘の気配。まるで自然体だったのに、即座に別人のような気配に変わったカオルさんに驚きつつも槍を構える。

 

「あとは……そうですね。もう少し、自信を持っていられれば、藜さんもボクみたく可愛くあれると思いますよ!」

「自信過剰、かも、ですよ? でも、私も、そう在りたかった、です!」

 

 そして、会話が終わるのを見計らって──

 

『『いざ尋常に、始め!』』

 

 

『では、まずは小手調べ──アタッカーの華を咲かせましょうか!』

『望むところ、です! ニクス、融合!』

 

 第2回戦、カオルさんと藜さんと勝負はド派手なぶつかり合いから始まった。

 本当に小手調べなのだろう、本来カオルさんが得意とする睡眠系のデバフ魔法ではなく、色とりどり(複数属性)の魔法が弾幕のようにばらまかれる。否、実際にそれは弾幕だ。赤と青、緑と黄色、黒と白、恐らく基本的な全属性の魔法が、この解説席からは見て分かるパターンを描いて放たれている。

 それに対抗する藜さんの取った手段は単純。爆発×速さ×ドリル=大正義の理論で多段ヒットするビットと、その計算式に更に技量と両手利きを組み合わせた手持ちの槍で、弾幕を相殺しながら飛翔するというもの。それの光景を、一言で言い表すとするなら……

 

「きれい、ですね」

「ああ。こればっかりは、スタジアムの中段から後列、俺たちのいる実況席からしか見えない特権だろう」

 

 それはきっと、STG(シューティングゲーム)のボス対自機の構図によく似ていた。現在の流行りであるVRやARのそれではなく、かなり昔から根強い人気を誇る2Dスクロール系のそれに。

 

「因みに魅せプレイのように見えますが、実際はかなりえげつない手を使っていますね。かなりカスタムされてますけど、ばら撒かれている光の玉1つ1つが微量のダメージ+デバフの魔法です。新大陸にいた⑨っていう魅せ弾幕を目指してる人のカスタムにそっくりです」

「意外と人脈が広いんだな、爆破卿。だがその通りだろう。俺たち前衛のアタッカーは、防具の仕様上基本的に魔法防御か物理防御のどちらかが必然的に低い。鎧型の防具の場合は大抵Minが低めに設定されていて、なおかつ高速アタッカーなら元々の守りも薄い。《ナイトシーカー》の奴さん、あんなRPをしちゃいたがかなり頭はキレると見た」

 

 こくこくと大神さんの言葉に頷く。偶に能力値が逆転していたり、或いは均等な人もいたりするが、基本的にUPOの前衛アタッカーは魔法に弱い。その為に後衛が補助をかけたり、その補助をブチ抜いて魔法を叩き込んだり、結構そういう運用がメジャーだったりするのだ。

 

「因みに(おれ)みたいな後衛は、魔法防御はバッチリですけど物理防御はからっきしです。(おれ)だって、Vitは3しかありませんけど、 Minは46もありますからね」

「初期作成レベルと何も変わらないであの動きとか、やっぱり極振りの頭はおかしいんじゃねぇか……?」

 

 実際は更にそこから、極振りによるペナルティが入ってステータスは半分になる。だがまあ、当たらなければどうどう言うことはない。防ぎ切ればいいだけの話だから気にしてはいけないのだ。

 

『ふふん、楽しいですか? 藜さん』

『そう、ですね! とても!』

『ならば此処で、一味加えてみましょうか!』

 

 弾幕というものは、回避し続けることはそう難しいことではない。けれど距離を詰めるとなると、一気にその難易度は跳ね上がる。だというのに弾を掻い潜り、相殺し、空を駆け続ける藜さんに向けて。カオルさんがごつい手甲を構えた。同時に、手甲の隙間から吹き上がる白い蒸気。吹き上がる蒸気が手甲に仕込まれたタービンを回し、歯車機構がガチガチと獣が牙を噛み鳴らすように回り出す。

 

『蒸気充填65%、操糸機関(アリアドネ・エンジン)始動! さあ、異形の祭典(レネゲイド)の始まりです!』

 

 そうして発射された、鋼の蜘蛛の巣(デビル・ストリング)。あからさまに世界観の違う、蒸気世界(スチームパンク)からこんにちはしたような手甲。ファンタジー世界の裏切り者(ダブルクロス)が、幻想的な魔法を切り裂いて放たれた。そう、実況しなきゃと頭ではわかっているのだけど……

 

「「こ、鋼線だーッ!!」」

 

 男の子としては、叫ばずにはいられなかった。いやだって、無理でしょう。かっこよさげな単語が並んだ後に、鋼線なんて持ち出されたら。男の子はハートを鷲掴みにされてノックアウト間違いなしだ。

 

「しかも、ただ無作為に放っていませんねこれ! しっかりと自分の魔法を切り裂いて、回避できる幅を残しながら新たな形へ再形成。それを全部攻撃の片手間にやっています!」

「こういった場でしか使えないが、最高に嫌らしい攻撃で視聴……じゃねぇ、観客的にも嬉しいサービスだな。いいよな、鋼線、浪漫だよな……」

 

 カオルさんの手指の動きに合わせて動きを変え、速度を変え、形を変える5本の鋼線。その威力は、深々と切り裂かれたスタジアムの床を見れば一目瞭然だろう。いかなる原理か、鋼線は無双の夢想の姿そのままに振われていた。

 

『見切り、まし、た!』

 

 だがしかし、その全ては藜さんに掠ることすらなくなっていた。予め抜け穴として作られた弾幕の穴を、針に糸を通すようにして藜さんが翔け抜けていく。途中で分裂する弾や鋼線もヒラリと躱し、或いは相殺して空を自在に翔け回っていた。

 

「ですが、流石は【すてら☆あーく(うち)】のメインアタッカーですね。もう見切ったみたいですよ? ……って、アッアッこう言うと身内贔屓になっちゃいますかね?」

「いや、これくらいなら大丈夫だと思うぞ?」

 

 それなら良かったと、安心して息を吐く。同時に何故かにへらぁっとした笑みが浮かんでしまったけど、まあ感情が直に出力されるVRだし仕方がない。

 

『ええ、ええ! やはり突破してくると信じていましたよ藜さん!』

『ッ、やっぱり、誘導でした、か! それ、でも!』

 

 だがしかし、見出したそのルートは誘導されたもの。あからさまに空けられた弾幕の穴であった以上それは疑いようもなく、同時にそれを突破してこそのアタッカー勝負でもあった。

 

『全スキル有効化(アクティベート)蒸気機関(スチーム・エンジン)全開!』

『全スキル、有効化(アクティ、ベート)形状変化(フォーム、シフト)!』

 

 そして、牽制と時間稼ぎの弾幕が再度ばら撒かれる中、2人の姿が変貌していく。

 カオルさんの周囲を飛び回っていた蝙蝠が影の中に潜行し、鋼線を回収した手甲が腰の刀を握り締める。同時に再度大量の白い蒸気が噴き上がり、1つのタンクから歯車と配管が這うように広がる刀の鞘に、柄を握るゴツい籠手から蒸気が充填されてゆく。大きく片足を引いた異形の抜刀フォームは、脚に仕込まれた蒸気式杭打ち機(コンパクトパイルバンカー)をも利用する証だった。

 対する藜さんは、槍の先端に杭打ち機のようなビットを収束させ、ドリルのように回転を馳せ始める。更に姿を蜃気楼のように揺らめかせて、舞い散らせている羽が黒く染まっていく。太陽を背に墜落するその姿は、まるで三本足の鴉のようだった。

 

「此処でお互い必殺の構え! 抜刀術と旋風槍、片やHPMPを代償に、片やクリティカルの成功判定如何で、相手の防御ごと穿ち裂くスキルの軍配はどちらに上がるのかー!」

「防御、対応力面ではカオル有利、相性、速度面では藜が有利と言ったところか。HPアドはお互いほぼ均一な以上、どっちに転ぶか分からんぞ!」

 

『魔法《ハイパーソムニア》から《奥義抜刀・王道楽土》まで、呪文・アーツ混成接続!』

『火薬充填、起爆準備、完了。十六夜の衣、起動!』

 

 更にカオルさんの周囲に、本来の得意分野である眠りの煙が蒸気に混じって最大展開。藜さんの姿は更にブレ、複数人が同じ座標に重なっているような違和感と、確実に質量(当たり判定)を持った残像が生まれ始める。

 

『可愛いボクの必殺技スペシャル!』

『空間認識、全、開!!』

 

『魔法、蒸気抜刀──《白昼悪夢(デイドリーム・ナイトメア)》』

『螺旋、起爆、《クロノス、ドライブ》!』

 

 そして、極振り戦と違わぬ勢いで、スタジアムが振動した。



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第179話 過負荷の夜陰②

ただいま。待ってくれていた人がいるかは分かりませぬが。
1ヶ月Twitterの妄言から生まれた別の短編書いてました。
たのしかった(小並)

前話から読み返すの!おすすめ!


『可愛いボクの必殺技スペシャル!』

『空間認識、全、開!!』

 

 必殺技の名乗りと共に、カオルさんの周囲に本来の得意分野である眠りの煙が蒸気に混じって最大展開され、侵入すれば即睡眠のデバフとの対抗判定が行われるフィールドが形成。その中心で当人は、睡眠状態を解除することで絶大なバフを得る《ハイパーソムニア》の魔法を解除。絶大なバフを得つつ即座に睡眠、《夢の端境を行くもの》のスキルによって通常通りの動きを確保。藜さんをロックオンした。

 

 対する藜さんの姿は更にブレ、複数人が同じ座標に重なっているような違和感と、確実に質量当たり判定を持った残像が生まれ始める。それこそが過剰増幅(オーバーロード)したヒット数が作り出す、システムが処理しきれなかった残像。敵への当たり判定のみが存在する、正真正銘の切り札だった。

 

『魔法、蒸気抜刀──《白昼悪夢(デイドリーム・ナイトメア)》』

『螺旋、起爆、《クロノス、ドライブ》!』

 

 互いが持つ必殺と必殺の逢瀬。その先手を取ったのは、カオルさんの方だった。

 杭打ち機のようなビットが収束し陽炎のようにブレる、ドリルのように回転する槍の穂先。カオルさんは大きく引いた片足で踏み込むことで、そこに目掛けて──跳んだ。

 

「「飛んだーッ!!」」

 

 そして大回転とひねりを加えながら、カオルさんが2人に分身。両脚から(バーニング)ではなく白煙(スモーキング)を噴き上げながら、刀の柄頭に手だけは添えたいつでも抜刀できる状態で放つオーバーヘッドキック。

 分身と本体のタイミングは同期しながら、左右の脚が振り下ろされるタイミングはズレているキックと揺らめくドリルランス。その2つが接触するインパクトの直前、お互いの装備に仕込まれた機構が起動する。

 

『パイル──』

『──バンカー!』

 

 仕込まれているのは奇しくも同じ機構。蒸気式か火薬式か、小型4連式か大型単発式か、細かい違いはあるものの同じ杭打ち機(パイルバンカー)。気合い一閃、発生するヒットストップ。同じ叫びと共に、鋼の撃音が轟いた。

 

 一撃。藜さんの夢幻に揺れるビットの杭打ちと、カオルさんの4連射される杭打ちが衝突。振り下ろす軌道の4連パイルバンクが、ビットの側面を撃ち方向転換。ビットをくの字に折り曲げながら、地面へと叩きつける。

 二撃。タイミングをずらして放たれたビットを完全に読み切って、分身の杭打ちが衝突する。一瞬だけ藜さんのビットよりも早く放たれた杭撃が、ビットに杭打ちの隙を与えず粉砕しながら弾き飛ばす。

 三撃。今度は藜さんがタイミングをずらし、カオルさんの脚を杭打ちで吹き飛ばした。直前まで本体であったはずのカオルさんが、その一撃を受け消滅。肩を透かすには完璧なタイミングで、身代わりスキルが起動していた。

 そして四撃。これは動き出しはカオルさんが早いが、結果としては正面衝突となった。完全に速度が乗り切ったカオルさんのパイルに対し、加速が始まったばかりのビット。その2つが衝突した場合の結果は明白だった。本来なら質量と速度で勝るビットが撃ち砕かれる。辛うじて持ち込んだ相打ちという形も、本来の性能からすれば余りにも低すぎる戦果に過ぎない。

 

 が、しかし。ビットは全部で6機存在する。例え4機のビットが再起不能になろうとも、本命の槍を含めてまだ3撃。対してカオルさんは、反動で動きすら止まり、抜刀も間に合わない。故に──

 

『獲り、ました!』

『【忍法・空蝉】残念ですが、それはフラグですね』

 

 余裕の笑みを浮かべるカオルさんに槍が直撃する直前、5回の回数制限を持つ完全回避のスキルが起動した。藜のような(ロール)DD(ダメージディーラー)のプレイヤーとは違い、回避盾の(ロール)を持つプレイヤーならばセナが使った【水月】同様、所持率が結構高めな低コストの完全回避スキル。

 【水月】が起動することで基本10秒、拡大して30秒の間、対物理回避率を75%上昇させるというぶっ壊れスキルであるのに対し、【忍法・空蝉】の効果発生時間は1〜3秒。その間に相手からの攻撃がヒットしない場合、回数を浪費するだけでなんの効果も発揮しない。更に発動がオート不可の完全手動である為、間に合わないことも多い。しかしカオルさんはタイミングをしっかりと合わせ、藜さんの必殺を回避しきっていた。

 故に、それはまさに刹那の見切り。本来【忍法・空蝉】の効果エフェクトである白煙も、撒き散らされる蒸気によって気取られない上手い手だった。

 

「今のは、すり抜けた、のか……?」

「【忍法・空蝉】、多分(おれ)みたいな後衛より前衛の方が親しいスキルですよね」

「完全回避……いやだが白煙は、チッ、蒸気で誤魔化してんのか。攻めるに攻めれねぇぞ、これは」

 

 毒づく大神さんの言う通り、これでは藜さんは攻めるに攻めきれない。何せ藜さんからすれば、『あと何回完全回避が残っているのか』『発動しているのか』という2点が読めないまま戦わなければいけないのだ。それは集中力を否応なく削り、相当な焦りも生むことは確実だ。

 

『クッ……!』

 

 しかしそこは藜さんもさる者で、急降下ダイブの体勢からスプリットSにも似たマニューバで方向転換。無理矢理に捻った身体で地面を蹴り込むことで、推力を無理矢理に偏向して再加速。ダイブの時の変わらぬ超高速で、()()()()()()()()()()カオルさんに再突撃を仕掛け──

 

『おやおや、そんなに急いでどうしたんです? そこ、危ないですよ』

『あっ──』

 

 囁くようにカオルさんが言った瞬間、藜さんがサイコロステーキ状に弾け飛んだ。乗りに乗った速度のまま打ち上げられ、ポリゴン片を散らしながら藜さんが落下していく。その原因は、ポリゴン片が放つ光によって明らかになった。

 

「鋼線……しかも、多分これ属性付与ですね。水と光の属性で、空模様とスタジアムの外縁に合わせた保護色に染めてます」

「えげつねぇな、高速アタッカー殺しってとこか。極振りでも危ねぇんじゃねぇか?」

(おれ)は引っかかってサイコロステーキになりますけど、先輩方はバリア張ってるので普通にぶち抜いて終わりですね」

 

 こんな蜘蛛の巣状の斬糸でも(おれ)は死ねるぜ。装備次第では荒地になっているだけで死ぬ以上、安全に出世など出来るはずもなかった。

 

『ふむ。実況もそう言ってますし今の時代、血鬼術の方が通りはいいんでしょうか。いやしかし、私の中で至上の糸使いはウォルターとラバックなんですが……まあ、いいでしょう』

 

 言うとカオルさんがそれまで立っていた糸から降り、何故か消滅演出ではなく炎を巻き上げている藜さんに視線を向け、先程のお返しとばかりに急降下突撃を敢行した。

 

『そうやって、復活までの時間を利用するのも構いません。が、いつまでそうして待っているつもりなんですか? そんなんじゃ、先に誰かに取られちゃいますよ。今私が、優位にあるように!』

 

 戦場を分析しながら隙を窺っていた藜さんの動きを完全に読んでいる。気付かれた以上、藜さん側も遅延させていた食いしばりスキルを完全に発動させ、その射線から逃げようとするが──

 

『Wake UP!』

 

 カオルさんの掛け声に合わせ、一瞬だけ現れたペットの蝙蝠。その姿がカオルさんの身体に吸収されるように溶け消えると同時、世界に夜が訪れた。それも清く静かなそれではなく、重く濁った惨劇の夜が。

 その証拠とでも言うかのように、天候が切り替わっていた。赤黒い薄雲の向こう、上弦の月が見下ろす夜魔の領域。【諸刃欠月夜(もろはかけづきよ)】なる見慣れない謎の天候表記は、間違いなく一部の上位プレイヤーが持つ特有の必殺領域(キルゾーン)であることを示していた。

 

『奥義偏形、一斬必殺! 《偏異抜刀ーー夜襲(ナイトレイド)》』

『っ、の! 《スパイク──》!』

 

 そして遂に、試合開始からこれまで秘められ続けた刃が閃いた。これまでチャージされ続けていた蒸気が圧縮から解放。桁違いの速度で刀身を撃ち出しながら、それでも有り余る蒸気が巨大な白い斬痕を中空に描き出す。

 結果は語るまでもなく。月下に怪しく光る刀の先、食いしばりスキルで耐えていた藜さんのHPが今度こそ0に落ちる。直後に蒸気の斬痕が藜さんを飲み込み地面に激突。スタジアムの地面を斬り刻み、最後には大爆発を引き起こした。

 

『……ッ、仕留めきれなかった上に、3発も反撃をもらうとは。まだまだ私も未熟ですね』

 

 涼やかに刃鳴る納刀音と、蒸気機構が再接続される機械音の二重奏(デュエット)を響かせて、カオルさんがスタジアムに着地する。今の衝撃で外れたのか張り巡らせていた鋼線を巻き取り、再度抜刀の構えを取ったその姿は、何故かボロボロに傷付いていた。

 まずは両脚部のゴツいブーツは完全に破砕され脱落。夜空のコートは何かに貫かれたかのように穴だらけであり、たった今、風に攫われポリゴンへと分解されていった。左腕は手首から先が吹き飛んでおり、それ以外にも全身から散るダメージエフェクトとくれば間違いない。

 激しい動きと激音で聞き取れず見きれなかったが、藜さんがあの瞬間に何か反撃をしていたらしい。

 

 頭上に表示されているカオルさんのMPバーを見るに、消耗の激しい天候書き換えであるのに解除されないこの夜は、未だに警戒を続け必殺を撃ち込む準備を整えている証左か。

 

「おいおい、今ので仕留めきれなかったってマジかよ」

「マジもマジ、大マジです。1回目の鋼線トラップの事故死は食いしばりスキルで、2回目の斬撃は1匹目のペットの身代わりで、3回目の爆発も……恐らくペットの身代わりで代替出来てます。ですが……」

 

 これで、藜さんは保険である残機を全て失ったことなる。対するカオルさんは、消耗は激しいものの恐らく残機は万全。ここから巻き返すことができるのか? それは(おれ)にも全く読みきれない。

 

『しかし、蘇生(リザレクト)は使い切らせました! これでトドメです!』

 

 そんな中、地上に立ち込める蒸気の中にくたりと立ち上がる影。今にも倒れそうなほどフラつくその人影目掛け、魔法という手札を失ったカオルさんが突撃する。

 しかしその速度は、先ほどまでとは比べ物にならない程遅い。靴と脚部装備が破壊され、手と胴体装備が大きく破損した影響だ。しかし称号補正もあり、その速度は通常プレイヤーの装備込み最高速にも等しい。

 

『《抜刀ーー隼振り》!』

 

 そうして放たれた、超速の抜刀術。アキさんの通常攻撃にも匹敵する速度で、閃く白刃がフラつく人影を蒸気の雲ごと両断する。シンと静まり返るスタジアムに、何か金属質なものが落下した音が響く。蒸気が晴れて顕にされたのは、崩壊したスタジアム。そこで真っ二つに両断されていたのは──

 

『ビット!?』

 

 藜さんのサブ装備を着込み、頭部には砕けた瓦礫を串刺しにすることで人型に似せた5機のビットだった。しかしそこに本人の姿はなく、ビット最後の1機も本人の姿もない。

 

『上!』

 

 空間認識能力系のスキルでも発動したのか、勢いよくカオルさんが上を向く。視線の先には、晴れる蒸気に紛れて飛び上がった藜さんの姿。

 

『天候、変化!』

 

 これまで見たこともない程に全身からダメージエフェクトを零し、装備に至っては半壊もいいところ。だというのに、何か覚悟が決まったような目で、最後のビットを足場にペットとの融合が解けた愛槍を構えていた。

 そして、その左手にきらりと光る指輪。プレゼントした太陽の指輪が、天候の優先度的に敗北している為一瞬だけその効果を作動させる。

 

『目がぁ!?』

 

 夜魔の領域に差し込む一筋の陽光。藜さんを逆光で照らし出すその光は、数秒で夜に押し潰されるように消滅するも最低限の役割は果たした。

 

『散々、好き勝手、言って!!』

 

 カオルさんは《アーツ》の持つ使用後硬直時間の解除直後。本来ならばギリギリ反撃が成立するタイミングだが、闇に慣れた目に突然の陽光は毒となる。逆光による消滅現象。一手分遅れたそこに、自分を射出する形の杭打ちで槍を構えた藜さんが発射された。

 

『私、だって、取られたく、ない、ですよ!!』

『《忍法・空蝉》!』

 

 まるで彗星のような尾を引きながら、藜さんが無防備なカオルさんに衝突した。墜落地点を爆心地として同心円状に爆発が発生し、破砕されてるスタジアムを更に崩壊させていく。そんな光景を見て、すげぇ……と放心したように隣の大神さんが言葉をこぼした。

 

「実戦で《コメット・フォール》と《グラウンド・ゼロ》が使われてるのなんて、初めて見たぞ……」

「そんなに凄いコンボなんですか? それ」

「ああ。前者は槍と一緒に一定以上の速度を持って墜落することが、後者は敵エネミーじゃなくて地面に攻撃を当てて一定以上のダメージを出すことが前提のアーツだ。槍の通常コンボでは最高範囲火力だが……俺は少なくとも、ボスRTAでしか見たことがないな」

 

 正直センタさんの通常移動がこれな気もするが、確かに実戦では見たことがない。そして先程の反省を込め拡大していた探知の反応からして、空蝉では回避しきれない筈の、序でに(おれ)にとっても天敵の大規模多段ヒット技。

 

『ッ、もう蘇生(リザレクト)が……』

『仕方ない、じゃない、ですか!』

 

 カオルさんのHPを削り切った証明として、解除され晴れゆく特殊天候。取り戻した青空の下。残骸と化したスタジアムで、鍔迫り合う2人の姿が見えた。

 

『私は、新参で、割り込みで、こんな、私より、ずっと、強いのを、知ってるのに!』

『諦めたくないんでしょう? ええ、見てれば分かります。だからこそボクは、そんな姿勢が可愛くないと言ってるんです!』

 

 激突を重ねる白刃と白刃。踏み込みと立ち位置の回転を繰り返しながら、2人が轟かせるは鋼と鋼の大合唱。空間認識能力と軽く読唇しているお陰で話の内容は分かるが、普通は聞き取ることは出来ないだろう言葉のぶつけ合いだった。

 

「ド派手なスキルとスキルのぶつかり合い! 何故か残虐ファイトになってるが、求めてたのはこういうのだろう? なあ、爆破卿!」

「え、あっ、そうですね。ちょっと実況も忘れて観入っちゃいました」

 

 そんな誰が見ても理解できる接戦と盛り上げる大神さんの言葉に、観客席からも声援が飛ぶ。うっかり読唇に集中し過ぎていた。反省せねば。

 

『欲しいなら! 諦めたくないのなら! なんでも使って勝ちを取りに行くべきです! 何かを失って後悔したり、失うことを恐れて臆するよりも! 若者はそうやって、己の心に従って突き進むくらいで丁度いい! それこそが、カワイイに繋がるんです!』

『そう、したら、大切な人も、もう1人も、傷付く、かも、しれないのに!』

『傷付いて上等、傷付けて上等! 好きなんだから、好きなようにやるんです! 貴女の欲する人は、そんなちっぽけな心すら受け止められない軟弱者ですか!?』

『そんなこと、ない、ですよ!』

『ならば尚更、後は貴女が実行するかしないか! 後悔を抱えて生きるか、玉砕して相手に傷を刻むかの二択です!』

 

 巡り巡る剣戟の果て。互いに一度、重い一撃を交わし2人が吹き飛び距離を取る。藜さんもカオルさんも息が荒く、HPMPも揃って10%ラインを割っている。

 

「回復アイテムの持ち込みが不可で、残機もお互い使い切った今。恐らく次が最後の一撃になるでしょうね」

「ああ、なんでお互いの復活回数を把握してんのかは謎だが、そうなるだろうな。それに、槍も抜刀術も相当にアーツの発動が速い武器だ。瞬き厳禁になるぞ」

「あ、因みに残機の把握は口の方の読唇術なのでご安心を」

 

 カメラに向かって手を振って弁明すると、手元の配信枠のコメントが爆発的に加速した。ええい、スパチャを送られたとて今回は反応できないのだ。……スパチャ分だけ、後で配信してもいいかもしれないが!

 

『背中、押してくれて、ありがとう、ございます』

『ふふーん。お礼を言われる程もあります。ですがその頑張りも、ここで可愛いボクを乗り越えなければ無意味!』

『先に、言って、おきます。手加減、したら、許しません』

『当然です。ボクは最初から最後まで全力、手加減なんてしてあげませんとも!』

 

 お互いの宣誓が終わり、誰もが息を呑む静寂が広がる。抜刀術が斬り裂くのが先か、旋風の槍閃きが先を制するのか。誰かが我慢できずに声をあげる、その刹那。積み上げられたスタジアムの残骸の1つが、自重に耐えきれずに崩落する。それが、最後の合図となった。

 

『《奥義抜刀ーー唯閃》』

『《コメット・スラスト》』

 

 奇しくも2人が最後に使ったアーツは同じタイプだった。他のどの抜刀術の技よりも速い抜き打ちと、他のどの槍技よりも速い突進突き。ただし、異なる点が一つだけ。

 藜さんが時間経過により、再使用可能になっていたユニークアイテム【十六夜の衣】を起動していたこと。それが、明確な勝負の分かれ目となった。

 

 本来ならば、2歩で最高速に達し後は飛行しながら突き進む《コメット・スラスト》という技。藜さんはそれを途中で着地することで減速し、自分の背後に発生していた()()()()()()()()()()()を先行させた。最初と違い攻撃判定までは持っていないものの、残像は距離を誤認させるには十分すぎる役割を持っている。

 

『……まさか、この土壇場で透かされるとは』

『ずっと、リジェネと、強いバフの、そっちに、言われたく、ないです』

 

 カオルさんが斬り裂いたのは、処理落ちの残像。身体ひとつ分ほど先行した分身を両断して、藜さんの槍をその腹に受けていた。

 

『それも、そうですね。フッ……負けゆくボクも、可愛いから満足です』

『ありがとう、ございました』

 

 カチンと、撃鉄が落ちる音。槍に仕込まれた爆薬が炸裂し、まるで戦隊モノの最後のような大爆発が起きた。炎と衝撃の中、砕け散るカオルさんのアバター。それを見届け、残心を残した後。頭上【WINNER 藜】の文字が出現する。

 眩しく輝くそれは、藜さんの勝利を讃えると同時に、このユニーク称号持ちのエキシビジョンマッチの決勝が、同ギルド対決になったことを示していた。

 




感想評価&コメをいつもありがとうございます! 

短編で遊んだ技術はこう使う……!


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第180話 惨劇の予感

後半はセナさんの回想シーンです(判定強化)


 カオルさんと藜さんの決着がつき、歓声に包まれたスタジアムから藜さんが退場する。そうしてスタジアムの修復が始まった結果、生まれたほんの少しのインターバル。

 

「さて、暫くスタジアム修復にもかかりそうだし、感想戦と行きたいんだが……あんなに強かったんだな、《ナイトシーカー》」

「あれ、そうですか? 深夜帯にログインしてる人なら、大体知ってると思ってたんですけど」

 

 何故だか感慨深そうに呟いた大神さんに、思わずそんなことを言ってしまった。深夜帯にログインして最前線にいる人ならば、結構な割合でカオルさんと遭遇してそうなものなのだが。

 

「でも大神さんでそのくらいの認識なら、ちょっと遅いですけど解説前に《ナイトシーカー》についても少し触れた方が良さそうですね」

 

 コホンと一度咳払い。

 

「改めて説明すると、称号【ナイトシーカー】は日中には特化した部分のない極振りと同じ程度にまで弱体化する代わりに、夜間はステータスを基礎ステータスの部分から強化する特殊称号です。あと、運営が優しいのかイベント中も強化の適応時間になります」

「確か、深夜10時から朝6時まで限定だったか。具体的にはどれくらいの数値ステータスは上昇するんだ?」

「流石に(おれ)も詳しくは。でも、本人曰く全ステータスが平均的に3〜5割強化されるとかなんとか。通常のプレイ時間を捨ててるだけはある強化値ですよね」

 

 まず前提として、それくらいの情報を共有しておく。手元のチャット欄のコメントは加速しているし会場にざわめきも広がっているが、会場に見にきているような人でも知らなかったのだろうか? やはりログイン時間と第一印象か。

 

「なるほどな。それを踏まえて解説していこう。まずはお互いの戦闘スタイルを図る序盤の小手調べの時間だった。

 牽制とバフデバフの魔法、絡め手と妨害の鋼線、1発のでかい抜刀術と杭打ち、《ナイトシーカー》は全部が高水準で纏っていた。

 対する《オーバーロード》は攻撃全振りだったな。多分完全回避スキルは積んでなくて、回避率上昇系だけなんじゃないか?」

「スキル構成は秘密です。えーと、後その説明に付け加えるなら、カオルさんは索敵と防御も出来ますし、事前準備があればデカイ魔法も使えるガチの万能手(オールラウンダー)です。ただ今回はその強みを、藜さんの強みが潰してました。あっ、索敵はステルス使いでもなければ意味がないので割愛します」

「防御を許さない破滅的な攻撃力と、高速の連撃によって準備時間を取らせなかった点だな。確かにあの動きをされると、大技は打てそうにないな。索敵は……《舞姫》か《大天使》相手なら意味があったかもな」

 

 こくこくと、伝わっていたことに安堵しながら頷いた。その度に跳ねるツインテールがなんだか楽しい。今なら犬が自分の尻尾を追いかけて、無限にくるくるしている理由が分かるかもしれない。まあ、気を取り直してだ。

 

「序盤について、爆破卿は他に何かあるか?」

「んー……と、お互いが勝負を決めに行くのが早かったおかげで、戦場が横軸基準の2次元戦闘じゃなくて、縦軸も前提にした3次元戦闘に決まったことですかね? 空中戦ができる人ってまだそんなに多くないので、ちょっと珍しい部類かもしれません」

「確かに、言われてみればそうだったな。極振りがほぼ全員空を飛んでたせいで、空中戦が特別だってことを忘れていた」

「あー……」

 

 予想外の答えが返ってきて、こちらも答えに困った。言われてみればその通り。思えば自分を含めて、ほぼ全員が飛んだり跳ねたりで空中戦をしていた。因みに翡翠さんもデュアルさんも、今回は行わなかったが空中戦は出来たりする。障壁で跳んだり、強化外装のスラスターを噴かしたりで。

 

「なら、もう大技の撃ち合いの解説でいいです……かね?」

「ああ。多分そっちの方が気になってるやつも多いだろうからな」

 

 大神さんの言葉に呼応するかのように、スタジアムからは野次が、配信のコメント欄にも同意の意見が溢れ出した。なら、そういうことにして進めよう。

 

「さて大神さん。近接系の最前線組として、どう見ましたか?」

「即死攻撃しか飛び交ってない地獄だったな。《オーバーロード》の方は単純に、スキル全部載せで最高速最高火力をアーツ込みで連続して叩き込む開幕20割。単純が故に弱点が明白で脆いが、突破力の強い手だな。逆に《ナイトシーカー》の方はどうなんだ? 抜刀術以外、俺には読み取れなかったが」

(おれ)が読み取れた限りですが、自己バフを積み上げて、蒸気系の装備で更に能力を底上げ。本来睡眠中の相手にしか使えない幻影の魔法を自分にかけて、分身する荒技をやってのけてました。そしてトドメに抜刀術。コスト管理と身体制御が難しいですが、柔軟な対応が出来る堅実で強い手ですね」

 

 鋒矢の陣と鶴翼の陣というには、単独だから適さないか。だがこう、そんな感じのイメージである。或いはカードゲームチックな例えになるが、一点突破のワンショットキル狙い vs 制圧とパーミッションの組み合わせというべきか。

 

「後衛、しかも支援型としちゃどうなんだ?」

「近接戦を考えて動きながらバフとかを考えて発動するなんて、かーなり大変だと思います。器用さが光りますね」

 

 実際、この姿(しらゆきちゃんモード)で本気を出すにはそう言ったリソース管理が必須だ。特にタロット関係の効果がなければ、変身したところで無力なこの体。コツを掴むまで割とバフを途切れさせがちだったのだ。だから分かる。自己バフを管理し続けながら戦うのはほんと辛いと。前衛で気持ちよく戦うなら、リソース管理してくれるバッファー系の後衛が切実に欲しい……いたわ、ここに1人。

 

「そしてその器用さを生かして、まずカオルさんは藜さんの火力を削りに行きました」

「あのド派手なパイルバンカーの撃ち合いだな。ここで6機中4機もビットを落とせたのはでかいと見た」

「実際デカイです。ここで攻撃の手数兼飛ぶ時の足場を削られたせいで、ビットがあんまり積極的に使えなくなりました」

 

 これに関してはカオルさんの方が上手だったと言えよう。後の完全回避を成功させる必要こそあれ、どう転んでもカオルさんに利が出るようになっていた。

 

「ふむ、なら次の鋼線バラバラ事件についてだが」

「保護色で空間に溶け込ませた鋼線に、直前のビット破壊で焦っていた藜さんを誘い込みましたね。復活が食いしばりか、スキルの効果発動時間を使って隙を窺ってましたけどバレバレでした」

「普通、1秒や2秒の隙を隙とは言わないと思うぞ……?」

「フレーム速度単位で障壁貼ってる(おれ)に言います……?」

 

 逆を言えば、カオルさんは既にそんなレベルに対応しかねないということで。割とマジで、天敵かもしれない。ほんと。

 

「で、その後の広範囲即死抜刀術だが……あの時、何があったんだ? 気が付いた時には、もう《ナイトシーカー》がボロボロになっていたが」

「藜さんが何かしらの反撃をしたみたいなんですが、蒸気の雲で視界不良だったのと、空間認識の範囲外だったので(おれ)も何だか。でも多分、魔法か何かを投げたかだと思います」

 

 確か槍があの状態なら、風系の魔法は使えたはずだし。

 

「爆破卿でも見えなかったならお手上げだな。となると、観客席からは見ていて分かりやすかった最後の一騎打ちまで飛ぶな。そういえば読唇しているって途中で言っていたが、どんな内容だったんだ?」

「結構個人的な部分も多かったので言いません。でも、カオルさんが藜さんに発破を掛けてる形でしたね」

 

 男の子なら皆大好きな、剣戟とか蒸気の音に紛れていてよかった。あれが漏れていた場合、色々と面倒なことになっていただろうから。俺が炎上するのはいいとしても。

 

「最後の一騎打ち前、何かしらの口上を言いたくなるよな。俺も一度はやってみたいからよく分かる」

「合わせてくれる相手が必要ですから、なかなか難しいですけどね。して、最後の一騎打ちについてですが」

「いやぁ、軽戦士系のトップ勢ってみんな分身出来るんだな……」

「合わせての土壇場での残像先行突撃は、流石に見間違いそうです。とはいえ、カオルさんの技が《奥義抜刀ーー唯閃》……HPMPコストを支払わないで済む代わりに、攻撃範囲が刀の届く範囲のみの超火力技じゃなければ怪しかったですね」

 

 そこは抜刀術の弱さが露呈した結果だろう。HPかMPコストを払えない場合、納刀系や一部の特殊技を除いた9割の技が使えなくなる。攻撃系のアーツの場合はHP、防御系はMPがコストになる場合が多い。奥義抜刀? あれは両方をコストで消費する。

 

「と、一通り解説してこれくらいですかね?」

「スタジアムの修復も終わった。頃合いだろうな」

「はーい。ということで、次はいよいよ午前の部決勝戦。ちょっと身内贔屓に聞こえちゃうかもしれませんけど、凄いのが見れると思うので楽しみにしてて下さいねー!」

 

 なるべく明るく、楽しそうにそう演じてみるが……正直なところ、胃がキリキリと痛む幻痛が走っていた。いや、この、こう、アレなんですよ。今の気分はそう、まな板の上の鯉。

 

 

 初めは、大したことでは無かった。

 

 ちょっとだけ可愛い洋服を着させてもらって、ちょっとだけ頑張って茶色がかった髪を整えて、ちょっとだけ言葉に気をつけて、勉強をして、そんな小さい努力の積み重ね。それに加えて、ほんの少しだけ友達付き合いが苦手だったことが、小学校でのイジメの始まりだった。

 

 最初は小物が無くなった、それでも頑張っていたら次はノートがなくなった。それでも頑張ったら机と椅子が教室の外に投げ出されて、上履きには画鋲が入れられた。それでもそれでも頑張れば、雑巾を絞った汚い汁を浴びせられ、読んでいる本は取り上げられて破かれた。有る事無い事噂を建てられて、給食は面白半分にゴミや虫を混ぜられたり、量を変に少なくさせられる。学校の先生は役立たずで見て見ぬふり。友達だった子たちも見て見ぬふり。誰に言っても見て見ぬふり。

 

 ほんの少し、周りと比べて違っていた。

 

 そんな程度の理由で行われたいじめ。パパやママに心配だけはかけまいと、毎日身嗜みを整えて帰宅する地獄のようなら学校生活。それから救ってくれたのが、とー(ユキ)くんだった。

 あの時はまだクラスも別で、幼稚園が一緒だった程度の関係しか無かったのに。ずっとずっと、とー(ユキ)くんは私を守ってくれた。小物が無くなればボロボロになってでも見つけてくれて、机や椅子の落書きを消すことも手伝ってくれて、自分もいじめの対象になったのにずっとずっと、隣で私を守ってくれた。それは絵本で読んだ、騎士様か何かのように。

 

 きっとそれが、今も続く私の初恋の始まりで、お互いに依存にも近い関係性の始まりだったのだと思う。

 

 その次の年からは学校ではなぜか不思議と、いつもとー(ユキ)くんと同じクラスで過ごすことが出来た。いじめは無くならなかったけど、これまでとは比べ物にならないほど幸せな時間だった。

 パパやママにも相談する勇気をもらった。

 泣くだけじゃなくて対抗する覚悟をもらった。

 1人じゃないことの幸せをもらった。

 それ以外にも何個も何個も、かけがえの無い物を私は貰い続けてきた。

 

 そうして夫婦だなんだと、小学生にありがちな揶揄われかたをされ始めた辺りから、だったと思う。どうせなら見せつけてやろうと、一緒に家でご飯を食べたり、お風呂に突撃してみたり、お泊りをしてみたりなんてことを始めたのは。

 

 結果として、中学校に進学する頃には()()()いじめはパッタリと止み、代わりにとー(ユキ)くんへのイジメが始まった。

 私に手を出す勇気もないくせに、たかだかとー(ユキ)くんの両親が学校へ来ないことを理由に、私の時と同じようにして行われる冷たい迫害。仮にも女の子だったことで守られていた私とは違って、日ことにとー(ユキ)くんはいじめと喧嘩でボロボロになっていった。

 

 そんな日々が続けば、当然のように心が壊れる。初めてとー(ユキ)くんが私の前で泣いた日、自分の腕の中で泣く儚く弱い姿を見て……背筋に走ったゾクゾクとする感覚と独占欲が、きっと第2の始まりだった。

 

 これまで作っていたクラスのコネを使って、とー(ユキ)くんが体調を崩して寝込んだ日のうちに全てを決行した。

 

 これまで手当てしていた怪我から流していた噂、いじめの主犯格の弱み、見て見ぬ振りをしていた第三者の良心。今思えば余りにも拙いながらも、それら全てを起爆させてクラスのカーストトップをすげ替えた。徹底的に尊厳を踏み躙って、1週間くらい不登校にさせたと言ってもいい。

 私の立ち位置は変わらぬまま、数人の勘がいい同級生を除いて誰も何も気がつかないまま。トップが委員長タイプになったクラスにイジメをしづらい空気を作ることに成功した一年後。そこでようやく、いじめは無くなった。

 

 とー(ユキ)くんとー(ユキ)くんとー(ユキ)くんとー(ユキ)くんとー(ユキ)くんとー(ユキ)くんとー(ユキ)くん、もう逃さない、離さない。

 

 けれど、今度は私が校外で変質者にストーカーされるようになる。それをどうにかするために、一緒に下校という名のデートを繰り返した。

 

 故にソレは、きっともう甘酸っぱい恋なんかじゃなくて。

 

 けれど愛と呼ぶには、ソレは余りに醜くて。

 

 甘く甘く何処までも堕ちていく、互いを蝕む毒のように。

 

 ソレは、ずっと汚い言葉で表されるべき優しい何かだった。

 

 気がつけば私の隣にはとー(ユキ)くんがいるのが当たり前で、その逆もまた然り。けれど私の周りには見知らぬ友達が沢山いて、逆にとー(ユキ)くんは1人ぼっち。それを気にして離れていこうとするから、逃したくなくて色々と手を尽くした。

 普段は頼り甲斐があって守ってくれるのに、心の奥はボロボロで弱っている人。悲しいくらいに不安定に揺れていて、ふとすれば壊れてしまいそうで目が離せない人。だからこそ寄り掛かるだけじゃなくて、支えてあげたい人。だからこそ、絶対に1人になんてさせないように。最低でも私だけは、何があっても隣にいられるように。

 

 UPOをプレゼントしたのだってその一環だった。

 

 学校なんて関係ない場所でまた一緒に遊びたい。なんの(しがらみ)もない場所で楽しんで欲しい。あの頃みたいな、笑顔が見たい。私が好きになった、大好きな人の大好きな笑顔を見せて欲しい。

 

 

 いつかは解消しなければいけない関係だと分かっていた。

 

 

 今の"これ"が普通の関係じゃ無いことも知っていた。

 

 

 だからその時が来た、きっとそういうことなのだろう。

 

 

 結論から言って、ユキくんは笑ってくれるようになった。昔と同じように、楽しそうに、私の大好きな笑顔で。それはあの娘、藜ちゃんが現れてからより顕著になったと思う。

 

 ユキくんのことを好きだと、私以外で初めて言ってくれた女の子。最初は邪魔な存在だと、居なくなればいいと思った。けれどすぐに放って置けないに変わり、今ではユキくんが藜ちゃんを選ぶならそれもいいかと思えるようになってきた。だって藜ちゃんと出会ってから、ユキくんの笑顔は格段に多くなったから。楽しそうに笑ってくれるようになったから。当然、譲る気なんて毛頭ないけど。

 

 だからこれはある種のケジメであり、とー(ユキ)くん本人は一切知らない私と藜ちゃんの間だけの約束だ。ゲームで始まり、ゲームで変わった関係性なのだから、ゲームで決着をつけるのだ。

 

 既にお互い告白していて、あくまで私と藜ちゃんのどちらが好かれているのかはユキくん次第。だからこそ私と藜ちゃん、どっちの方がユキくんのことを好きかは白黒付けさせてもらう。

 

 それは酷く個人的な思いで、こういうお祭りや決闘の場には相応しくない邪念で、けれど私と藜ちゃん双方のこれからを変える、これまで目を逸らし続けてきた大きな大きな不発弾。

 それを爆発させ決着を付けるために──

 私は、謝らない。

 




いつも感想評価&コメありがとうございます! 


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第181話 ヒロインズ・コンバット

 ユニーク称号エキシビジョンマッチ、午前の部最終戦。そこに勝ち上がってきたのは、奇しくも同じギルド【すてら☆あーく】のメンバーであるセナと藜さん。つまりウチのサブアタッカー兼回避タンクとメインアタッカーである。故に何か、ブーイングや不平不満が凄いことになると予想はしていたが……

 

「爆破卿、どうかしたのか?」

「いえちょっと、やっぱりネットの方が荒れてるなと思いまして」

 

 配信の方をミュートしながら呟いた。スタジアムの方、己の目で戦いを見ていた人達はそうでもない。だがネット上、特に配信上では結構暴言や根拠もない憶測を言う人が増えてきていた。『八百長』だの『つまんな』だの……ちょっと、消し炭にしたくなる。同じくらいの数『正 妻 戦 争 開 幕』やら『万能の願望器(火薬入り)』とかのコメントが流れてるのが……複雑だけど幸いか。

 

「あまりそういうのは気にしない方が良いぞ? 気が滅入るだけだからな。それにそういうコメントは、視聴者側からしても取り上げない方がいい。楽しい配信に水を差される形になるからな」

「でも、頑張ってる2人が悪く言われてるのは良い気分がしませんね。自分が悪く言われたり炎上するならともかく」

 

 乾きの状態異常が出ないように両手で持ったコップ一杯の水を飲み干して、ステージ上のコンディションを確認する。異常は取り敢えず一切なしのフラット状態。特殊天候の天候制圧の名残も消えて、そろそろ完全に大丈夫そうだ。

 

「まあ、そういうもんだ、配信業は」

「中々難しいものですね、と。そろそろ実況に戻りましょう」

「ああ、折角の決勝戦何だ。盛り上げていこう!」

 

 会話の区切りとしてもちょうど良いので、配信のミュートも解除。手元のマイクも起動し直して、景気付けに天使の輪っかと翼も出現させる。

 

「あー、あー、マイクテス。よし、オッケーですね」

 

 自分(TS)の声がちゃんとスタジアムに響くことを確認してから、一度深呼吸。背筋に走る何だか嫌な予感も押し殺して、一気にテンションを上げて笑顔を浮かべる。観客席で約1名、知り合いが鼻血を噴いて倒れた気がするけど見なかったことにする。俺は大天使どころか天使ですらないんだぞ、おい。まあそんな約1名は無視して、言った。

 

「さあさあ、長いようで短かった午前の部も遂に最終戦! スタジアムの修復も終わりましたし、やっていきましょー!」

「勝ち上がってきたのはどちらも同じ、ギルド【すてら☆あーく】のメンバーな訳だが。爆破卿は何かコメントあるか?」

「どっちを応援しても、燃えるか刺されちゃいそうなのでノーコメントで……」

 

 荒れてる以外のコメントでは、祝☆正妻戦争開幕とか百合の間に挟まるなとか、逆に挟まれとかそういうやつか多いのだ。あと単純に、さっきから寒気がすごい。しかし折角大神さんが用意してくれた機会、察していない訳ではないし無駄にはしない。

 

「でも、圧倒的な実力差で勝ち抜けたセナと、ギリギリの勝負に勝った藜さん。どっちが勝っても不思議じゃないようには思います」

「そうだな。超長距離以外の全距離戦闘ができる《舞姫》か、近距離戦が主だが縦軸を自在に動けて速度も十二分な《オーバーロード》か。相性的には、回避スキルガン済みの《舞姫》の方が若干有利か?」

「ですね。藜さんがそこをどう潰して攻略するか、そこが肝になると思います」

 

 そう、スキル構成という意味では今回の戦い、間違いなく藜さんが不利なのだ。何せセナは兼業ではあるがPTのメイン回避盾、ただの通常攻撃はたとえセナが棒立ちしていてもヒットしない。素の回避率上昇値100%、瞬間回避率300%弱とはそんな領域の話だ。そこに加えて完全回避スキルに加えて、幻影や隠密、デバフばら撒きまで混じってくるのだから手に負えない。

 近距離戦であれば、リーチと威力、ヒット数増加や槍の浄化属性による確率ディスペルもあり、藜さんに分があるが……それは当然セナも知っている情報だ。当然、距離を詰めることができないようにしてくると予想できる。故にそれをどう突破するか、否、突破できるか。そこが恐らく最大の問題だ。

 

「前置きはここまで、午前の部決勝! メンバーのエントリーで……す?」

 

 ただ、そろそろ前置きも長くなってきた。少し早めだが入場コールをして始めて貰おうと、口を開いたその時だった。

 

 スタジアムの両端から、風を切って飛び込んでくる2つの影。一方はジグザグに屈折しながら、また一方は曲がることなき一直線で、お互いを目指して加速。ステージの中央で、まだPvPが始まってもいないのに激突した。

 炸裂するのは甲高い金属音。双銃剣と槍がぶつかり合いギチギチと噛み合う、渾身の力が込められていることが分かる鍔迫り合い。重圧(プレッシャー)すら感じられるセナと藜さんの迫力に、開いた口をそのままに固まってしまった。そうして(おれ)が呆けている間に、物理的にも心理的にも大きな火花を散らして弾き合い、2人はステージの両端に着地する。

 

『よかったよかった。藜ちゃんならこれくらい、ちゃんと対応してくれると思ってたんだ』

『当然、です。皆さん、よりは、短い、ですけど。これでも、すっと、隣で、見てきました、から』

 

 そして、そんな数瞬前のことなどなかったかのようにセナが話しかけた。流れているのは和やかに見える空気、けれど(おれ)の目には、威嚇し合う狼に似た大型犬と鷹のような猛禽の姿が幻視されていた。

 

『そだね。もうお互いの手札は殆ど全部知っているし、前衛も張ってる頼もしい仲間だと思ってる。だからこそ、1回ちゃんと藜ちゃんとは決着をつけておきたかったんだよね』

『それは、こっちの台詞、です。いい加減、白黒、つけましょう。色々と!』

 

 バチバチと火花を散らす気迫と幻影に気圧されぽかんと固まっていると、隣から肘でつつかれるような刺激。そちらを見れば、しっかりしろと言わんばかりの表情を大神さんはしていた。……こういう時に、動じずしっかりとペースを作ってリードしてくれるのは本当にありがたい。マイクに拾われない程度の音量でお礼を言えば、何故かネットが炎上していた。解せぬ。

 

『さあ、それじゃあ始めよっか! どっちが上かを決める為だけの、マウント取り合い合戦を!』

『上等、です!』

 

 だが、今はそれは一旦置いておく。何せユニークエキシビジョンの最終戦。ちょっと身内贔屓になるが、2人とも揃ってトップの実力者であるし、どちらが勝ってもおかしくない。そして当人達が今にも戦い始めそうなのだから、止めてはいけないのだ。落ち着くために一度深呼吸を入れつつ、目配せをしつつ呼吸を合わせ──

 

「「いざ、尋常に。始め!!」」

 

 勝負の火蓋を切った。

 

『コン、憑依(ポゼッション)!』

『ニクス、融合!』

 

 セナと藜さん、両者の初手は同じペットとの融合だった。

 セナはいつの間にか周囲に出現した数匹の狐が、身体に溶け込むようにして憑依していく。そうして生まれるのは白銀の耳と、いつか見た時とは違う9本の尾。プレイヤー自体のスペックを跳ね上げつつ、その身に怪異の証が宿り始める。

 対する藜さんは、前試合と同じように……けれど、全く別の装備にペットの鷹を融合させた。前試合では火力を最優先して槍に合一していたペットだが、今回は恐らく身体装備。今の(おれ)と同じように、羽根1枚1枚が刃となっている猛禽の翼を宿していた。

 

『《ミーティア》!』

『【水月】!』

 

 そうして1秒も経たずに双方の準備が整った瞬間、藜さんの姿が消滅し、セナが7人に分身する最中に半分を削り取られた。

 奇しくもそれは、セナにとっては前試合と同じ展開。分身やバフの重ね掛けが始まる前に、速攻をかけて仕留めるという単純明快な答え。ただ、藜さんの槍はイオ君なんて霞んで見えるほどに速く、そして正確だった。何せ回避スキルを発動させているセナの分身を4/7消滅させているのだ、最早言うに及ばずであろう。

 

『やっぱり、こうでなくちゃね』

 

 瞬間、セナの分身が最大数まで再展開された。これこそが、ユニーク称号《舞姫》の最大の強さ。Agl極振りという狂った例外を除いて唯一、速度が一定以上であるという条件のみで分身を作り出せる。カオルさんの使った魔法による分身とも、藜さんの使う残像とも、もっと言えば先輩方の使う技術のみの分身とも違う、自己意識を7分割してフル手動で操作可能な超分身。それが、今度は一網打尽にされないよう瞬時に散開した。

 

『まだ、まだ!!』

 

 そしてそのうち、3体の分身が続け様に消滅した。それこそが大技を決め()()()()()、姿の見えない藜さんが今どこにいるかの証左である。空間認識を最大で使わなければ目に捉えられない、Agl換算にして数百万に達している超高速。恐らくは速度重視の合体と、槍系アーツ最速の技を組み合わせることで到達した極振りの速度*1で、時折制御に失敗しながらも的確にセナの分身を穿ち本体を暴いていく。

 

『凄いなぁ、藜ちゃんは。私には出来ないことを、こんなに簡単にやって』

 

 分身の消滅と再生を繰り返しながら、まるでそんなことはどうでも良いかのようにセナが呟く。そして何度か手をぐーぱーとして、言う。

 

『タイマー設定1分、【空間認識能力・深】全開!』

 

 初めて見る自分と極振りの先輩方を除いた、()()()()()()()()()()()()()空間認識能力。間違いなくそれは使ったことのある動きで、それでも一瞬だけセナの顔が苦しそうに歪む。そんな表情に心臓を握り潰されるような感覚を覚えたと同時、セナの動きがまるで別のものへと変貌した。

 

 当たらない。

 当たらない。

 当たらない。

 

 これまでの10秒弱、セナの分身を穿ち続けていた槍が掠りもしない。その全てがいつも通り、ジャスト回避で躱されている。爆破や薙ぎ払いのフェイントを織り込もうとも関係なし。その全てに適応して、セナは攻撃を捌き切っていた。

 

「爆破卿、まさかこれは」

「ええ、そのまさかです。藜さんは極振りの速度で動いてますし、セナはその速度に対応してます」

「だが、こんな俺には見えない速度で動けるなら、《オーバーロード》はなんで前試合で使わなかったんだ?」

「多分、ペットとの合体位置が関係してると思います。融合先が槍か、背中か。前回がパワー型なら、今回はスピード型なのかと」

 

 何とか絞り出した解説の最中、ステージ上のセナが動いた。両の手に握った銃剣を空に向け、その全てから色とりどりの弾丸がフルオート連射で放たれた。そして──

 

『本気で行くけど、すぐに負けるなんて興醒めなことはしないでね?』

『ッ、その挑戦、受けて、やり、ます!!』

 

 藜さんがそう吼えた瞬間だった。

 

『天候、限定制圧。《神火幻明・稲荷火》!』

 

 スタジアムの空が、一部の隙もなく紅蓮の色に塗り潰された。それは本来セナと藜さんの戦いであれば見ることが叶わないはずの光景。極大の範囲と火力によって通常の天候ならば掻き消してしまう、爆裂やつららさんの魔法と同じ()()()()()がそこには展開されていた。

 

『くっ……』

 

 当然、そんなものを受けては堪らないと藜さんが地上へと降りてくる。飛翔は継続しているがそれは限りなく低空飛行であり、先程までのとは違い制空権を確保しているなんて言えない状態だ。それに加えて、HPも2割ほどゴッソリと削られてしまっている。

 

『舞姫!』

 

 不利を押し付けられたそんな状況を畳み掛けるように、セナが最も得意とする攻撃が藜に向けて放たれる。分身7人全員を手動操作することによる完璧な連携攻撃。7×2の銃口と短剣が迫り──

 

『芸がない、です、よ? 対策済み、です!』

 

 この瞬間まで藜さんの背後に隠れていた、何故か杭が射出された状態のビット6機が分身に向けて突撃した。本来ならばそれは当たるはずもないヤケクソの反撃にしかならない。しかし今そのビットは【十六夜の衣】によるバフがかかり、酷い乱視の人が見るようにぶれている。

 セナとビットの相対速度は既に相当なもの、互いに回避やスキルの発動すらままならずに激突する。そしてその全てが、通常攻撃が当たらないはずのセナに直撃していた。

 

『ッ、このくらい!』

『BANG!』

 

 ダメージは1撃が1/8、ヒット数が16に分割されていることで大したことはない。これは足止めに過ぎず、本命が待っていると判断したのだろう。杭打ち機の突進(チャージ)を受け減速しながらもセナは突撃を敢行し、直後に全てを巻き込む16×6回という素晴らしい爆破の大合唱が巻き起こった。

 

「ぶらぼー! 爆破が気持ちいい、60点!!」

「爆破卿……」

 

 私情は一切挟まないつもりだったがダメだった。ちゃんと途切れずに続けていた実況にインターセプトして、思わず口が滑った。いや、仕方ないのではないだろうか、あんなに綺麗に重なった爆破を見せられて黙ってなどいられるだろうか? 無理に決まっている。

 

 正直(おれ)は大興奮だが、戦況はあまり良くないと言える。何せ《舞姫》の分身はすぐ再生されるのだ。これだけ苦労して倒しても、まるで幻を掴むようで意味がない。が、分身の再展開まで時間があるのもまた事実。故に、今が藜さんにとって最高の攻め時だった。

 

 ならば、今無防備を晒しているセナに対して打ち込むべき(アーツ)は何か?

 判定回数が多く多段ヒットする《クロノス・ドライブ》?

 普段使いで最も安定している《レイ・ストライク》?

 否、どちらも否だ。そんなものでは本体のみになり、警戒を厳にしたセナには当たらない。確実に有効打を残す為には、非公式に必中系と呼ばれる(アーツ)が大前提となる。

 幸いにして藜さんのメインスキルである【旋風槍】を含め、槍系のスキルには、そういうタイプの神話や伝承が多いからか必中系のアーツに事欠かない。そしてこの瞬間に限り、極めて最適な(アーツ)がつい最近実装されている。

 それはこのイベントが始まる直前に実装されたばかりの技。抜刀術における奥義抜刀と同位置に存在し、使用条件が4つも設定されている。そして基本的には使えないこれは、とあるプレイヤー……正確にはそのRP元の、ある種代名詞と言っても過言ではない技。

 

 その使用条件は

・Strのステータスが2000を超えていること

・上方向からの打ち下ろしか、下方向からの突き上げに軌道を限定すること

・自身のステータスの総合値より、相手のステータスの総合値が高い状態であること

・近場に海(雲海や炎の海でも可らしい)が存在すること

 という、計4つかなり状況を限定したキツい縛り。しかしだからこそ性能は破格だったと、()()()()()()()教えてもらった。その槍の名は──

 

「《ゲイボルグ》!」

 

 藜さんの槍に纏わりつき、蠢動する紅黒のオーラ。神聖なはずの槍を瞬く間に呪いが侵し尽くし、雷の速度で藜さんの槍はセナの胸を貫いていた。

 

*1
あくまで極振りの通常速。戦闘速ではない




お互い胸なんてな(ry

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第182話 ヒロインズ・コンバット②

血の(雨が降っている)バレンタイン


「《ゲイボルグ》!」

 

 セナの胸を貫いた呪いを纏う聖なる槍。刺し穿ったり突き穿ったりするものではなく、単にカタカナ5文字のシステム内(アーツ)。それは先輩のような理不尽や不条理こそないものの、代わりに安定性と正確性が確立した殺意の塊だった。

 ガッと力強く掛かるヒットストップ。槍が纏っていた赤黒いオーラがセナの身体に吸い込まれ、全身を内側から食い破るように()()()()()()29の赤黒い血飛沫にも見えるオーラが噴出した。

 

「デカイのが決まった! が、見たことない(アーツ)なんたが、爆破卿は知ってるか?」

「このイベントが始まる数日前に実装されたものですね。簡単に言うと、UPO版刺しボルクです。今回のは、ヤバいですよ」

 

 ガクンと、Wi-Fiからクソ回線に落ちたように、あるいはVRでは滅多にないフレームレートの低下が起きたように、ステージ上がフリーズした。それ程までに、この一撃での判定処理回数が多かったことを示している。

 恐らく今回はゲイボルグが30ヒットの技であることに加え、十六夜の衣による威力半減の16連射、そして【天元(窮)】のスキルによるヒット数倍化を称号効果によって強化したことによる超々々多重判定。

 

「(30×16)×〈2(10×10)〉……に、多分処理をそのまま表すとなるかと。つまり、理論上この攻撃は96,000ヒットします。だから刺しボルクなのに当たってるんですね」

「きゅうまんろくせん……?」

「はい。多分何処かで運営のストップが掛かりますし、(おれ)の知ってるシステム処理の場合、と枕詞がつきますけど」

 

 と、言葉にした瞬間だった。ステージ上のフリーズが解除されると同時に、満タンだったセナのHPバーが消滅した。減少なんて生易しい減り幅ではない。蒸発、消去、何でも構わないがそうでしか表現出来ない速度でのHPの消滅。そしてその辻褄を合わせるように、セナが赤黒いオーラに包まれて爆散する。

 

『このっ!』

『無駄、です』

 

 当然、セナのペットには復活系のスキルが積んである。9本だった尾が1つ消え、代わりに1割程のHPでセナが蘇生。フリーズは解除されてもフレームレートの落ちた世界でセナが飛び退こうとし、対する藜さんが翼を羽撃かせて踏み込もうとした瞬間、再度赤黒いオーラが弾けセナのHPが消し飛んだ。

 

「あ、あれはまさか……」

「知っているのか爆破卿!?」

「ええ、風の噂で聞いた程度の話でしたけど、まさか本当になるなんて」

 

 曰く、いつか(おれ)が第4の街を爆破解体した時と同じように、サーバーに激烈な負荷を与えるような状況を作り出せれば、イレギュラーな動作をこのUPOでも見ることができるのではないか。そんな推測から始まったらしい検証スレを読んだ記憶がある。確かあそこでの結果は──

 

「ほんの少しだけ、サーバーに過負荷が掛かった状態で追加で新たな行動をすると、判定が残留するらしいです。仕様なのかバグなのかグリッチなのかは知りませんが」

「結果として、このリスキル状態が成立するのか」

 

 こくん、と素直に大神さんの言葉に頷いた。確かにこれなら、一撃当たれば決着がつけられるかも、しれない。推定96,000ヒットの必中リスキル攻撃 vs 回避率300%overの推定9回蘇生持ち回避タンク、どちらも意味不明なことを言っている。既に攻撃が命中している以上、一見前者の方が有利に見えるがしかし……

 

「ええ。でも、実際のところはまだ五分五分な気がします」

 

 セナの尾がまた1本、赤黒いオーラと弾けて消し飛んだ。

 これで7尾、しかしその爆散までの時間にはバラつきがある。基準値が何処かは分からないけれど、少なくとも最初の死亡より2回目の方が短い時間で爆散しているし、たった今爆散した3回目のリスポンは逆に1回目よりも長く生き残っている。記号で表すと3>1>2の順に長い生存時間になっており、その間に重ねられている判定を考えるとサーバーの悲鳴が聞こえてくるようだった。

 

「やはり《舞姫》の残機と回避率の問題か?」

「それだけじゃなくて、藜さんの方にも問題があります」

「そうなのか?」

「なにせ、この一撃に持てるリソースの全て突っ込んでます。セナにバフを積む時間を与えたら終わりなので、何も間違ってませんし現状成功していますけど……逆にそれは、この一撃を耐え切られたら後がないことと同義です」

 

 セナの尾が今度は2本、赤黒いオーラと弾けて消し飛んだ。

 これで5尾、一気に復活回数が分からなくなった。けれど藜さんの方にも焦りの表情が濃い。多分、相当ヒット数からくる手応えが薄くなってきているのだろう。付かず離れず、セナの間合いであり藜さんの間合いより内側の距離感を保ち続けている以上、既にこのまま勝つか反撃で負けるかの2択しか藜さんには残っていないのだ。

 

 などと考えている時、メッセージの受信音が手元の画面から響いた。またこの姿(しらゆきちゃんフォーム)を晒してから無限に送られてくるセクハラ&下心見え見えメッセージかと思い、嫌々ながらも確認してみれば差出人は運営。すわ何事かとメッセージを開いてみれば、槍系武器の(アーツ)である《ゲイボルグ》についての詳しい仕様が記されていた。あと、ちゃんと説明して下さいとも。

 なら合わせた方が良いかと、大神さんの服をちょいちょいと引っ張り手元の画面を見せる。最後の説明して欲しい旨が書いてある部分を指差し強調すれば、こちらの意図が伝わったらしく頷いてくれた。

 

「あー、いま運営さんから情報が来ました。ちょっと予想外の挙動はしているものの、このリスキル攻撃は仕様上正しい動きでバグではないそうです」

「元々は隣の爆破卿や複数のペットを生存特化しているプレイヤー、或いはそういった蘇生持ちのモンスターをターゲットにした技だそうだ。もし復活したとして、残っているヒット回数分のダメージを直後に与えることで再殺するコンセプトらしい。それが、ヒット数を跳ね上げる《オーバーロード》との相乗効果でリスキル攻撃と化したようだ」

「そのダメージ判定残留は、相手に槍が刺さっている間のみ有効だそうです。不具合が起きてるのはそこで、あんまりにも攻撃と回避の判定が重なりすぎて、描画速度とダメージの発生が遅れてるそうです。あっ、運営のサーバーは(おれ)たち極振りが散々やらかしたお陰で、まだまだ余裕があるそうですよ。やったね!」

 

 いい感じに配信の画角に収まるように決めた笑顔とピースサインに、コメント欄がまた加速した。あー、この画角ならもうちょっとこう、こんな感じで頑張れば可愛く見えそう。よし、ヨシッ! 決まった。

 

「何をしてるんだ爆破卿……」

「かわいいポーズですけど?」

「そうか……爆破卿、お前もVtuberにならないか?」

「ならない」

「隣にいれば分かる。お前の拘り、相当だな? その性癖、練り上げられている。至高の領域に近い」

「正直、猗窩座と藜さんとで呼び名も被るから反応しにくいんですよね」

「すまん」

 

 などとふざけている間に、ステージ上の動きは変わらないがセナの尾は遂に3尾。残機(ストック)を着実に削る攻防に、終わりが見えてきたその時だった。

 

 

「あっ……」

 

 これまで手に重く感じていたヒットストップが、遂に消滅するのを藜は感じた。乾坤一擲。確実に仕留めるつもりで放った、最初で最後の全リソースを注ぎ込んだ一撃必殺。当たれば確実に仕留めることができるはずの槍は、虚しくも恋敵をすり抜けた。

 

 耐え切られた。

 

 そんな最悪の想定が現実となった事態に、今度は藜の思考がフリーズする。霧散する(アーツ)の赤黒いオーラ、元に戻り始めているカクカクになっていた空間。今動かなければ反撃を貰ってしまう、そう頭では理解していても身体が追いつかない。

 

「散々やってくれたし、お返しだよ!! 【狐の絵筆】!」

 

 藜が放心していた時間は僅か数秒。けれどセナが動きを起こすには、それだけあれば十分すぎる時間でもあった。藜とすれ違うようにして一歩踏み込み加速。7人に再分身した後に、それぞれの分身が更に4人に分身した。

 そうしてステージ上に現れたセナの人数は合計28人。空間認識能力の深度が低い藜には気付きようもないが、そのうち最初の7人以外は全て幻影。7人の本体の誰かと動きを完全に同一とする幻影だ。当然その攻撃にも、ダメージなんてものは発生しようもない。

 

「《バレットシャワー》、【狐火】!」

 

 だが、だからこそ。突如スタジアムに立ち上がった28本の火柱と、空を埋め尽くす炎海から降り注ぐ弾丸の豪雨に、藜は無理をしてでも対応する必要が生まれてしまった。

 乱立する火柱をバレルロール並みの緊急回避を行いながら、過剰な火薬を詰めたことで破損しているビットを傘に、辛うじて握りしめた槍で道を開く。セナが即席で作り出した、必殺の間合い(キリングゾーン)目掛け一直線に。

 

「追いついたよ、藜ちゃん」

「──ッ!!」

 

 更に更に、下手に時間を与えたことでセナのバフが最大値まで累積完了。全ステータス+550%、Str7,000over、Agl14,000over、その他のステータスは1,000〜3,000程度に収まっているが、それでも1プレイヤーとしては比類なき力の塊がそこには顕現していた。

 その能力値がどれほどの物かは、かつてミスティニウム最終戦で出現したラスボスのステータスがOver7,000程度であったことを知っていれば想像に難くない。そしてステータス14,000というものは、極振りの【○○の求道Ⅰ】で固定される数値すらも上回っている。

 

「虚実混装。舞姫改め、乱れ舞姫!」

 

 そして、集中砲火が炸裂した。実弾が、特殊弾が、レーザーが、魔法の炎が幾重にも藜に飛来する。FF(フレンドリーファイア)が発生しないのをいいことに幻影部分を、幻影であるのをいいことに実弾部分をそれぞれ突っ切って、斬突打全てを兼ね備えたセナが流星雨のように襲撃する。飛行する藜と当然のように並走して、空を跳びながら銀色の嵐が吹き荒れた。

 

「こ、のぉッ!」

 

 苦し紛れのように藜が槍を振るうも、速度が違う。手数が違う。使えるリソースすら違う。目に見える攻撃の実に3/4が幻であると言っても、見抜けなければ意味がない。圧倒的な弾の物量と重過ぎる刃の一撃に、瞬く間に藜のHPが削られていく。

 一直線に突き進むだけでは意味がない、無数の面を知って受け入れ共に歩めるように。或いは、邪魔をしないでと相手を鳥籠に閉じ込めるように。そうして十数秒も経たないうちに──

 

「チェックメイト」

 

 セナがそう藜の耳元で囁き、銃剣が藜の胸を背後から貫いた。そうして背にあった翼が、藜のHPが無くなる代わりに砕け散る。捥かれた翼が齎していた飛翔の力がその身から消え失せ、不安定に回転しながら地に堕ちる。何とか地に足を付けて藜が着地するも、その見上げる先には無数のセナの姿。正真正銘絶体絶命、だからこそ藜の口から言葉が漏れた。

 

「どうして、セナさんは、そんなに──」

「好きな人が、いるからかな!!」

 

 ぐちゃぐちゃの感情で叫ぼうとした藜に、それ以上は野暮だとセナが突貫する。VR空間特有の感情がダイレクトに出力される性質上、どうしようもなく藜の目に浮かぶ涙を思い人以外に見せないように。

 

「そんなの、私、だって、ユキさんの、ことは──!」

「はー? 私の方がずっと好きなんですけど!!??」

 

 グラビティな重さの双銃剣が、重い槍の一撃を弾き返す。

 

「第一幼馴染がポッと出のヒロインに負けてたまるか!!」

「最近の、トレンド、は、幼馴染、なんて、負けヒロイン、なんです、よッ!!」

 

 弾丸の雨を槍が打ち払いながら、双銃剣と槍が激突し大爆発を起こす。

 

「言ってはならんことを! そんなこと言うなら、私なんてユキくんと一緒の台所に立ってるもん!」

「私は、ユキさんに、膝枕、しましたし、してもらい、ました、よ?」

 

 半壊しているビットがセナに降り注ぎ、爆発を引き起こす。そんな爆炎を切り裂いて、セナの放つビームが藜に直撃した。

 

「い、今更何か恥ずかしくて、態々お願い出来ないことを!」

「手作り、お弁当、美味しかった、ですし、美味しいって、言って、くれました!!」

 

 藜の手元に、今握っている槍と全く同一の形をした槍が出現した。本来戦闘には使うことができず、【すてら☆あーく】に来てからはれーちゃんのお陰で日の目を見ることがなかった【鍛冶】スキル。その一端であるアイテム複製。品質は数段落ちるものの、素材消費でアイテムを複製するという藜の隠し玉がここに開帳された。

 

「そんなこと言うなら、ユキ君と未だに同じ布団で寝てるし!!」

「語るに、落ちました、ね。セナさんに、連れ込まれて、私も、してます、よ!!」

 

 その使い道は、投擲。人間の持つ最大の力は物を投げることとも言われるほどに、そして投槍という競技が存在するほどに、そして槍の自壊を前提とした強力な(アーツ)が投擲ベースであるほどに、全てのピースが綺麗に嵌っている。

 

「だ、だったら、ファーストキスは、私が奪ってるもん!」

「ユキさんが、起きてる時は、私、です!!」

 

 そして何より、藜の槍は爆発する。何処ぞの弓兵ではないが、壊れた幻槍は桁違いの脅威になり得る。その証拠に、投擲と爆散、衝突と起爆を繰り返して段々とセナのHPも削れていく。両者HPは既に危険域(レッドゾーン)、超速で安全圏からは外れていた。

 

「私の、方が! 好き、なんです、から!」

「私の方が好きだもん!!」

 

 当然セナも迎撃するが、今度はこちらの火力が足りていない。回避盾兼物理アタッカーをメイン(ロール)としている弊害の、知力(Int)不足。例えペットと合一しても足りないそのステータスが、幻影は兎も角明確な火力の差として現れていた。

 

「昔のことを、何も知らないくせに!」

「これから、知って、いけば、いいん、です!」

「年下!」

「年増!」

「貧乳!」

「ぺったん!」

「ロリ体型!」

「くびれなし!」

 

 轟く爆音により、その会話が聞こえる人物は非常に限られている。例えばユキの様に空間認識能力をフルで活用している者、または読唇術で唇の動きを読んでいる者、或いは単純に耳が良い者辺り。

 

 そして、その全ての条件を見事に満たしているユキは──

 

「ほら爆破卿、お前の嫁だぞ。何かコメントはないのか?」

「いっそ殺して下さい……」

 

 実況席で、真っ赤な顔で撃沈していた。

 大惨事正妻戦争、その言葉に偽りなし。

 




感想評価&コメいつもありがとうございます! 
見た目が綺麗なので味を占めました


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第183話 ヒロインズ・コンバット③

予約投稿ミスしてました。不覚


「ほら爆破卿、お前の嫁だぞ。何かコメントはないのか?」

「いっそ殺して下さい……」

 

 幸いにしてステージ上の言葉は、スタジアムでも一部の人にしか聞こえている様子はない。しかし配信画面、自分のチャンネルと大神さんのチャンネル両方で、読唇術でもしているのか実況している人間がいるのだ。アカウント名は『異世界人ニキ』、何時ぞやの掲示板でも見た名前だ。とんだ迷惑というか、ひどい羞恥プレイである。

 

「それにまあ、なんだ。《舞姫》も《オーバーロード》も、最後の一線だけは守ってるじゃないか。リアル割れの可能性がある以上強くは言わないが、ここでいっそ年貢を納めた方がいいと思うぞ?」

「確かに私が原因ですけど……」

「何なら、俺が実況してもいい。何、リスナーが付いてる以上翻訳の正確さは保証しよう」

「どうしてそんな酷いことできるんですかぁ!」

 

 実況も放り出して大神さんに掴みかかろうとするも、頭をガッチリと掴まれ押さえ込まれてしまった。このTS体では絶対的にリーチが足りない。せめてもの抵抗として必殺ぐるぐるパンチをお見舞いするも、考えるまでもなく焼け石に水。リーチも能力も不足している以上、サービスショットを提供しているだけと気付いて即座に動きを止めた。

 危なかった。アバターに合わせた軽いロールプレイのせいで、内なる女児が活性化していた。もう少し気づくのが遅れてたら、きっと手遅れだっただろう……これが本来とは異なる形と性のアバターを使う弊害か。*1

 

「えーと、気を取り直して。現在ステージ上での2人の会話音声を完全にシャットしている理由ですが、大神さんが指摘した通りリアルの情報をうっかり言いかねないと判断したためです。ご容赦下さい」

「うわぁ!いきなり落ち着くな、とでも反応すればいいのか俺は。それに、最近のコンプラに引っかかるような言葉も飛び交っている。良識ある者なら問題ないが、切り取られて炎上しても誰1人として喜ばない。許してくれ」

 

 動きはどう見てもトッププレイヤーなのに、話している内容がなんというかこう、ただの悪口……いやそれ以前のチクチク言葉の応酬である。聞いている限り、ちゃんとラインは超えない様にしているっぽいが、しかしだ。

 

「この姿を晒してから、毎日10数件はセクハラとか下心満載のメッセージが送られてきてるので。大多数の人が善良な人だと信じては居ますが、万が一が怖いですからね」

「そのまあ、何だ。半分身から出た錆だろうが、ドンマイ」

「俺も一応男ですし気持ちは分からなくもないですよ。でもチャンネルから飛べるSNSのDMにそういう画像を送られるとですね。……困ります、この変態」

「そういうところだぞ爆破卿」

「ハッ!?」

 

 またむざむざ素材を提供してしまった。元よりVtuberのリスナーとか創作者とかは、"そういう意味"のない言葉でも"そういう意味"に脳内変換できる種族だし、気をつけても意味がない気がするが。

 

「ともかく、理解はしても(おれ)だって1つを除いてセクハラリプは不快ですし、ルールとマナーを守って楽しく遊びましょうね!」

「逆にそう言われると、爆破卿が許している1つがどんな物だったのか、実況するよりも気になるんだが?」

「こういう場で言うのはアレなんですが、30Pくらいの漫画の感想を求められまして」

 

 送られてきたウス=異本は2冊。まさかの自分(ユキ)×自分(しらゆき)カプ本と、しらゆき×何がと言わないが生えてるセナ&藜さん本だった。恐らく特殊性癖の煮凝り畑で供給不足で育った作者だ、面構えが違う。凄まじい執念を感じる画力と、圧倒的な癖を感じるストーリー構成だった。

 今年末の冬コミ*2で頒布するらしい。因みに長文感想を返した後に、ちゃんとお金払って買わせて貰った。許せマイファザー……昔R指定のかかっている燃えゲーを買った時から使わせて貰っているマイファザー名義のアカウント、使わせて貰った。いつも通り、領収書通りに後でお金は払うから問題ないよね。*3

 

「……そうか、そうだな。実況に戻るか」

「ええ、そうですね。あ、新刊お待ちしています」

 

 なんて言葉を、うっかり呟いた瞬間だった。響いたのはメッセージの着信音。嫌な予感がして開いてみれば、

 

 宛先:PNユキ

 差出人:PNナナナナナナナ

 件名:新刊頑張る

 本文:待って、供給過多!

    あと5分、後5分ちょうだい!

    いやいける、抱っこ、脱稿ー!!

    あ、隣の人と一緒に見てね!

    【画像添付】

 

 とのこと。因みに名前は、ななせと読むらしい。

 兎角、さては音声入力だな? と思いつつ画像を開けば、そこに鎮座していたのはしらゆき×大神本。全方位に喧嘩売ってるんじゃないだろうか、これ。筆が化物じみて速いのもそうだけど、無名女キャラと人気男Vカプとか燃えそうで怖い。

 

「とはいえ、だ。お互い削り合ってる現状、特に俺たちが解説できる点がないのは問題だな」

「近接系の技術に関してはどうですか? (おれ)は魔法関連以外は、正直なところさっぱりなんですが」

「了解した。少しタイムラグが起きるのは許してくれ」

 

 そういう解説は全く出来ないので本当に助かる。助かるので、大神さんにウス=異本を送信する。大神さんが噴き出した。恨めしい目で見られるけれど、炎上するかもしれないネタの提供だから許してほしい。

 などと思っていると、またもやメッセージ。差出人は……目の前にいる筈の大神さん。

 

『なんてもの見せやがる!?』

『いま例の作家さんから、2人で見ろと送られてきたので。炎上しそうなネタですよ?』

『だから困るんだよなぁ!?』

 

 口では冷静な実況を続けながらも、手元では高速のタイピングでこちらと筆談している。凄まじい……これが、本物のストリーマーの力か。

 感心しながらも、大神さんの指示で簡易的な絵と図表を描きつつ、取り敢えず大神さんの所属事務所の二次創作ガイドライン的にグレーなので、頒布するなら注意して欲しいとのことを返信する。

 

 宛先:PNユキ

 差出人:PNナナナナナナナ

 件名:なら売るわ

 本文:それはそうと次の新刊ネタなんだけど、攻守逆転のユキゆき2ともう一冊。大人数でのわからせなんてどうかしら。今の私はランナーズハイで阿修羅すら凌駕する存在よ、あと1冊くらいならいけるわ。

 

 秒速で返信が来た。手遅れだこの人。

 この時の俺はまだ、このヤベー人が後にユニーク称号第3弾で文字通り【大先生】となることをまだ、知る由もなかった。

 

 

 実況席でユキと大神が、後のユニーク称号ホルダーに絡まれているそんな中。セナと藜は音声シャットが発動していることを知りながら、否、知っているからこそ激しい口論に発展していた。

 

「【自主規制】!」

「【自主規制】!」

「この、泥棒猫!」

「居直り、強盗!」

 

 お互いの踏んではいけない地雷"だけ"は綺麗に避けながらも、最早公共の電波に乗せるには不適切な言葉の応酬がそこでは続いていた。口論のレベルは≒小学生低学年、だが戦闘のレベルは紛れもないUPOトップクラスというチグハグさ。そんな戦闘もしかし、終わりの時が遂にやってきた。

 

「はぁ……はぁ……随分、やる、じゃん。藜ちゃん」

「……そちら、こそ、です」

 

 双銃剣の十字斬と、旋風槍の一文字がぶつかり合い、互いが大きく弾かれる。セナからすればどうにかして時間を作り分身を作りたい機会であり、逆に藜にとっては辛うじてて手放さないでいる勝機だ。

 故にこそ、銃撃と爆撃の応酬も、双刃と一文字の衝突も終わらない。既に違いに瀕死、いつの間にかセナの背にあった尾も消え、互いに身1つの大喧嘩は佳境を迎えていた。

 

「《クロスブレイク》!」

「《レイ・ストライク》!」

 

 そうして行われた、何度目かも分からない大火力と大火力のぶつかり合い。そこで、本来は発生し得ない事件が起きた。セナの両手にあった双銃剣と藜の投擲用ではない本来の槍が、ぶつかり合い同時に砕け散る。

 アイテムの耐久値限界だ。本来ならば戦闘中に砕けるには、相当な整備不良か連戦を重ねるかでもなければ起こり得ない事象。故にこそ、パラパラと手元から崩れ落ちるポリゴン片に2人の動きが止まる。この戦闘が終われば復活するとはいえ、ずっと使い続けてきた相棒である得物の限界に思考に空白が生まれる。

 

 しかし、相手のHPはあと少し。自分のHPは残り僅か。

 目の前には憎……くはないが、上を取らないと気が済まない恋敵の姿。ならばやることはただ1つ!

 

「──せいッ!!」

「やぁっ!!」

 

 腰の入った踏み込みから放たれた、握り締められた小さな拳が。

 咄嗟ながらも力の込められた、すらりと伸びた白い脚が。

 流星と彗星のように落ち、跳ね上がり、ぶつかり合う。

 

 重なる重く鋭い打撃音。両者に伝わる鈍い痺れと痛みの感覚。武器による減衰が無くなったことで、僅かに削れる双方のHPゲージ。そうなってしまえば、もう早かった。

 

「喧嘩殺法!」

「お爺ちゃん、直伝!」

 

 武器がなくても、心1つと身体1つ。

 それだけあれば構わないとばかりに、かなりガチ目の肉弾戦が始まった。握った拳は硬く重く、跳ね上がる脚は切れ味鋭く。目潰しや膝の横蹴り、喉元への突きを始めとした禁じ手すら飛び交い始める。

 

「ほら、爆破卿。目を逸らすな、ちゃんと見ろ。浮気した瞬間あれが飛んでくるんだぞ」

「いやぁ……こわい……浮気なんてそもそもしませんが」

 

 再び残虐ファイトが繰り広げられ始めたステージ上に、ユキはもう半分涙目になりながら実況を続けていた。直前まで同人誌について話していた時の雰囲気は何処へやら。ただ美少女の泣き顔である為、チャンネル視聴者やスタジアムの人からの人気は変わらず上がり続けていた。

 

「10年も、一緒に、いて、告白すら、してなかった、くせに!」

「私たちの関係に、いきなり割って入ってきた癖に!」

「私の、知らない、姿も、たくさん、知ってる、くせに!」

「私じゃ、ここまで笑って貰えなかったのに!」

「「どうして!!」」

 

 ぶつかり合う頭突きと頭突き。響く鈍い衝撃音と共に2人がふらつき、一瞬だけインファイトの間合いが崩れる。そして、此処が勝負の分かれ目だった。

 セナの方が抱えている感情が重かった。故に生まれた、ほんの僅かな空隙。それは藜が、投擲せずに残していた複製品の槍をアイテム欄から取り出すには、ギリギリ間に合うタイミングとして現出する。

 

「《串刺し》」

「ッ、まさかそんな──」

 

 それは、槍系スキルの中で最も名称が短い(アーツ)。その名の通り、相手を串刺しにするだけの単純豪快な高火力技。例え複製品の複製品であろうと、その火力は残っていたセナのHPを消し去り、首級として掲げるには十分な威力を誇っていた。

 防具ごとセナの胸元を貫通し、空に向かって伸び上がる藜の槍。火薬切れのため爆発こそ起きはしないが、それがHPを削り取ったことは藜自身の手に伝わる手応えと頭上のHPバーが証明していた。

 

 勝った。勝った。勝った!

 上を取った、上回った、そんな確かな実感。全てに決着をつけることができた、そんな満足感と高揚感。そして、ずっと使い続けていた空間認識能力による疲労感。だからこそ、藜は気付くのが遅れた。

 H()P()()()()()()()()()が、未だアバターをポリゴンに砕かれていないことを。

 

「私の、勝──」

「ざーんねん。私の勝ちだね」

「──ち?」

 

 藜の耳元で囁かれた小さな声。そして、自分の胸から生える腕。

 振り返ったそこには、たった今も串刺しとなっているセナの姿。

 

「どう、して……?」

「途中から尻尾、幻影で隠してたんだ。とはいえ、串刺しから復活して逃げられるかは、結構な大博打だったけど」

 

 そう告げるセナには、今度こそ本当に尾の影も形も無くなっている。実際に、藜の槍の先端に存在するセナも本物には違いない。しかしそれは分身。バフが消えて尚出すことのできる最低人数のうちの1人でしかなった。

 

「意地でも、勝ちたかったからね。狐につままれた気分?」

「最悪、ですね。でも、今度は、負け、ません」

 

 そうして、ハートキャッチ(物理)の要領でセナが腕を引き抜いた。UPOにモツ抜きの仕様はデフォルトでは存在しない。しかし凄まじい量のダメージエフェクトを撒き散らして藜が崩れ落ち、カシャンとポリゴン片を散らして砕け散った。

 

Congratulations!

【Champion セナ】

 

 燦然と、頭上(そら)に輝く勝利宣言(ビクトリー)

 大惨事正妻戦争は、セナの勝利でその幕を閉じたのだった。

*1
そんな事実はなくもないが、コレはただの楽しんでいた言い訳である

*2
このイベント開催日時は12月11日

*3
問題大あり。良い子のみんなは真似してはいけません




この物語はフィクションです。登場する人物・同人誌等は架空であり、実在のものとは関係ありませんし存在しません。

感想評価&コメいつもありがとうございます! 


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第184話 大惨事正妻戦争、終結

PC版から何故か拙作の「ここすき」が押せないと風の噂で聞きました。不思議なこともあるものですね。
それはそうと、私の絵心は皆無かつ絵力は小学校低学年程度しかないので同人誌は描けません。画竜点睛を欠くってレベル以前なので。


「決着! 最後の最後、化か試合に勝利したのは《舞姫》セナ!」

「すごい、戦いでした。皆さん盛大な拍手を!」

 

 セナと藜さんの決着が付き、頭上に決着の表示が出たのに合わせ、事前に打ち合わせしていた通りに大きく拍手をした。会話が聞こえていた人たちは兎も角、そうではない人から見れば凄惨ではあったがトップのバトル。(おれ)が先陣を切ったこともあって、スタジアムは大きな拍手の渦に包まれた。

 

「会話はさておき戦いの内容としては、最終的に《舞姫》が1枚上手だったように思えるな」

「藜さんとの打ち合いの間に、攻撃を受けたと見せかけつつ完全回避。それに合わせて幻影をかけ尻尾という見やすい残機を隠したこと。確かにそれが、今回の決め手だったと思いますね」

 

 ということで、歓声がおさまった辺りで軽い感想戦。特に1番最後については、セナ自身が大博打と言っていたように幸運でなければ失敗するような作戦だった。これで(おれ)の出番は終わりだが、司会としてそこだけは解説しなければ。

 

「それについてなんだがな、爆破卿。どうして最後《舞姫》は分身出来たんだ? 例えリスポンする為の残機が残っていたところで、あの串刺し状態から脱出出来るとは思えないんだが」

「言うは易く行うは難しの典型例みたいになりますが、原理自体は簡単ですよ」

 

 そんな考えを察してくれたのだろう、わざわざ大神さんはこちらに話題を振ってくれた。有り難くその好意に甘えつつ、少なくとも俺には真似出来ないセナがやらかしたことを解説する。

 

「ペット系に限らずUPOのリスポンって、リスポン直後に無敵時間があるんですよ。0.1とか0.3秒くらい」

「それは本当の話なのか?」

「舐めないでください、(おれ)がどれだけUPOで死に続けてきたと思ってるんですか。酷い時は歩いてるだけで死ぬんですよ。最近の無敵時間はこれくらいです、間違いありません」

「えぇ……Vit幾つなんだよ爆破卿」

「ふふん、聞いて驚いてください。最近割り切って0にしました!」

「これだから極振りは……」

 

 大神さんが頭を抱えているが、その方が圧倒的に便利なのだから仕方がないだろう。なお鎧が防御につぎ込んでいたリソースは、全部Dexに移してもらった。お陰でLuk以外のステータスが20〜60しかなかったものが、Dexだけ200もある。焼け石に水だが。

 

「脱線しちゃってるので話を戻します。大前提としてリスポンには無敵時間があることまでは言いましたよね。それに加えてセナには、1回戦のイオ君戦で見せた通り視覚的なステルスという手札があります。更に皆さんご存知の《舞姫》の称号効果による分身。それを合わせて考えると、こうなります」

 

 何か視界の端でくねくねしてる知り合いらしき人型が見えたけど、完全に無視する。多分アレは、理解しない方がいいものだ。くねくねだけに……あっ、鼻血出してる。

 

「串刺し状態で死亡からリスポンする際に、無敵時間を利用してステルスを起動しながら空中を蹴って跳躍。その際の加速で生まれる分身を寸分違わぬ位置に配置したまま、自分は別の場所に着地。分身が死亡するのに合わせてアンブッシュ。探知していた限りではこんな感じの動きでした」

「……やってることが極振りじゃないか?」

(おれ)は無理ですけど、そもそも先輩方は串刺しにならないので一概には言えませんね。でもそんなレベルだと思います。空間認識能力全開にしてましたし、いやぁ……びっくりでした」

 

 本当にあればびっくりした。けれど同時に、全開にできるのならば、あの動きが出来て不思議じゃないとも考えている自分がいる。見ていた感じ、スキルの効果を使える最大値はセナが上回っていて、平均値は藜さんの方が上回ってた印象だ。

 

「ああ、確かアレはシステム限界まで引き出していたんだろう? 俺も極振り以外に出来るやつがいるとは思っていなかった」

「どうして流行らないんでしょうねぇ……空間認識能力系のスキル。ビットとか分身を使うなら必須級のスキルなんですが」

「そんなに違うのか?」

「別物ですよ。体感的には大体ビットの使用感って3種類ありまして。敵を決めて行けーっと命じたら後は自動のフルオート。その途中に自分のタイミングで何かを指示できるセミオート、銃撃つのはここからしか出来ませんね。最後に、デフォルトの待機状態以外何もかもを手動でやるフルマニュアル。セミオートからは空間認識ないと併用が難しいので、無駄弾を撃ちたくないなら取ってみるといいかもですね」

 

 俺が取得した時にはイベント限定みたいな物だったけど、最近はもう普通に買えるようになってるし。とはいえ、色々と使い道も多いスキル枠をただ『空間をよく認識できる』だけのスキルに今更割くのは難しいのかもしれない。常時ONにでもしてないと、成長して別スキルと統合されるまでは遠いし。

 

「ところで肝心のビット武器の供給はいつ頃だ?」

「今回のPvPイベントの最後にあるバトロワが第2回イベントのマップでやるらしいので、レア泥なので運が良ければ手に入るかもですね。(おれ)は頼まれても手伝いませんけど」

「随分と辛辣だな?」

「暴れ足りませんからね。それに、運が良ければザイル先輩が売りに出してくれるかもしれませんし、素材を持ち込んで代金を払えば作ってくれるかもしれませんからね」

 

 折角なので、厄介事に絡まれる前に宣伝がてら矛先を先輩に向けておく。きっとこれで悪いことは起きないだろう。なお作成に必要な素材と代金は考えないものとする。

 

「そういうことだ。ルールとマナーを守って、楽しくゲームをしよう」

「それに加えて大前提として、ちゃんとした倫理観を持ってモラルも守りましょうね。今回は私だからよかったものの、UPOはMMOなんですから」

 

 人と人との関係、とても大切。って、爆弾と毎日のビル爆破をぶっ放してる俺が言ったところで、どれだけ説得力があるんだよって話ではあるが。心の中でやっさいもっさいと叫びたい気分である。まあ、それはそれとしてだ。

 

「さて、そろそろ名残惜しい……よりかは、ちゃんと実況出来ていたか心配な方が強いですが、終わりの時間ですね」

「俺のチャンネルには名場面を切り取った動画が、爆破卿のチャンネルには無編集のアーカイブが残るから安心してほしい」

 

 因みに編集は一切しないが、ちゃんと場面ごとに飛べるような再生時間のリンクは設定しておくつもりだ。それなりに時間がかかるけど、アレあると便利だし。

 

「そんな連絡も終わったところで!」

「ああ、これ以上長引かせてもな」

 

 先に音頭をとって、大神さんに目配せ。うなずいてくれたから伝わったと信じ、即興で台本をタイピング。せーのと小声で言って息を合わせ、言った。

 

「「これにて、非公式イベントユニーク称号エキシビジョン-午前の部-を終了とします(する)!!」」

 

 瞬間、歓声が湧き上がる。よかった、拙い部分しかなかったと思うけれど、拍手をしてくれるくらいにはちゃんと出来ていたらしい。胸に手を当てて、ホッと息を吐く。何故か会場のカメラが自分のアップになってた。

 

(わたし)の出番はこれで終わりですけど、午後の部もよろしくお願いしますねー!」

「俺は午後の部も続投だ。相方として、極振りのにゃしいが来る予定なのは伝えた通りだ。恐らく午前の部よりも、激しい実況になると思うから期待しててくれ」

「以上、Vtuberの大神と」

「極振りのユキでお送りしました〜!」

 

 軽くまたねーと言いつつ手を振って、マイクをOFF。ここでの言葉がスタジアムに中継されないことを確認して、爆破されてるビルのエンドカード(ゲーム内スクリーンショットに文字を入れただけの手抜き)を画面に写す。そうしてやっと完全に気を抜くことができた。実際にはそんなことはないが、肩が凝ってる気がして思いっきり手を組んで上に伸ばす。バキバキと体が鳴る幻聴を聴きながら、情けない声が口から漏れる。

 思った以上にキッツイ。試合内容的な方でキリキリ痛む胃は置いておくとして、よくぞVの人は雑談配信なんて出来るものだ。いや、オールアドリブだった俺の方がおかしいのだろうか? いやいや、それに加えて凝ったサムネやらコメ拾いやら、配信告知に言葉を途切れさせないテクニックとか……本当にストリーマーは人間か???

 

「大神さん、今回は急なオファーだったのに受けて下さり本当にありがとうございました」

「……急にどうしたんだ、爆破卿?」

 

 そんな疑問を埋めるためにも、滅多にない機会だしレッツ行動。ちゃんと席から立ち上がって、改めて大きく大神さんに頭を下げた。

 

「いえ、こうやってみてオールアドリブに付き合わせてしまって悪いなぁと、改めて思いまして」

「それに関しては問題ない。俺は普段からアドリブで雑談枠は取ってるしな」

「それでも、改めてありがとうございました」

 

 聞こうとしていた話を先に出されてしまったので、本心をそのまま答えながらもう1度頭を下げる。本当にこういうのは、しっかりとしていないとダメなのだ。

 

「今度はちゃんと、台本でも書いてやりますかねぇ」

「俺の誘いには乗ってくれないのに、配信はするのか……」

「そんなショボンとしないで下さいよ。さっきの配信でたくさんスパチャ貰っちゃったので、そのお礼はしたいなぁって思っただけなんですから」

 

 お金関係はしっかりとしないとダメ、これ絶対。とはいえ現状の俺にお返しできるコンテンツなんて、それこそ改めて何かお礼として配信で質問を受け付けたりなんだりしかない。或いはその配信で何かお返しを決めるとか、そういうことをしないとダメだ。

 幸いにして、配信場所はUPO内にある。新大陸のマイホーム、ちょっと外がうるさいけれど人が滅多に来ないあそこなら、配信するには最適な場所だろう。別のゲームをするなら兎も角、雑談気味になるだろうし。

 

「それなら仕方ない……というか、スパチャ*1ONにしてたのか」

「この前付けられるようになったので。あ、ちゃんと許可は貰ってますので悪しからず」

 

 因みに運営からは『汝の成したいように成すがよい』『汝の望みこそ、汝の求めるべきもの』『こちらから多少の束縛はしますが、どうぞご自由に』と邪神チックな言葉で言質を取ってある。

 

「さ、ここまで告知をしたんだ。そろそろ配信を止めてもいいんじゃないか?」

「はい……?」

 

 探るような大神さんの言葉に手元画面を見れば、配信停止した筈の画面が配信中のまま映し出されていた。あとコメントが爆速で流れている。あかん、これあかんやつや(動揺)

 

「え、あー……お目汚し失礼しました」

 

 言いながら、配信停止ボタンを今度こそ押す。いやぁマジかぁ……切り忘れマジかぁ。リアル情報漏らさなかったことだけは、いや、そう大神さんが誘導してくれてたのか。

 そう気付いたからには動かねばならない。その場で片足を使い飛び上がりながら、翼を1度羽撃かせて体勢を調整。本来ならここでトリプルアクセルでも決めたいところだけれど、それをすると翼が邪魔になるので却下。それでも体勢を整えるために体を捻りつつ、宙返りの動きで3回転。回転で勢いをつけた膝を畳むことで、空中で完全に形を整える。そのまま身体を崩さずに、地面に落下、羽土下座。

 

「誠に申し訳ございませんでした」

「いや、配信ミスなんて誰でも起こすことだ。気にしないでいい、頭を上げてくれ」

 

 そう言われても頭は上げない。土下座とは神聖不可侵かつ相手の1度目の赦しで解いてはいけない、Japanese Ultimate Formationなのだから。

 

「その、なんだ。中身を知ってても、美少女を土下座させてるのは気分が悪い。どうしてもって言うなら、配信方面で今度力を貸してくれればいい」

「分かりました。そういうことでありがたく」

 

 ちゃんと代価は支払う、赦しという願いに丁度いいのかは分からないけれど。兎も角これでよし──あっ

 

「立ち絵どうしましょう。UPOならこの身体と声で出来ますけど、リアルとなると2Dすらちょっと……」

「知らないのか爆破卿。レンタル・利用料金さえ払えば、UPOのアバターはリアルの3Dモデルとして使えるぞ?」

「マジで言ってます?」

「大マジだ。だからこそ、こぞって配信者がこのゲームに来ている。当然VRギアは必要になるがな」

 

 それはそれは。企業なら何かしらのしがらみがありそうだけど、個人勢にとっては最高級のパワフルボディになるのではないだろうか? あと、アバター使用は回数申請系らしい。取り敢えず1回分を申請しておく。

 

「そういうことなら、いい加減VRギアも買い替えちゃいますかねぇ」

「最新モデルとなると10万弱はするが、大丈夫なのか?」

「というより、(おれ)のVRギアって10年くらい前のモデル*2なので……何かソフトと抱き合わせ販売だったやつだったかな。それでUPOやってるだけで熱持ってきちゃってて。流石にそろそろ買い替えないと危ないかなぁと」

 

 幸い、最近ロクに趣味のお金を使ってないから資金はある。あとさっきのスパチャ、多分初回だからだと思うけど凄い金額行ってたし。約1名の1月の限度額投げてきた人の所為(おかげ)で。

 などと思っていると、ガシッと両肩を強く掴まれた。思わずビクッと身体が反応する。この見下ろされてる感じとゴツい手に掴まれて逃げられない被征服感、TSの醍醐味では……???

 

「爆破卿。頼むから即刻ログアウトして買い替えてきた方がいい。なんだったら、今ここで俺がオススメの店に紹介状書いてもいい。いや、その前に単純な優良機種を紹介するのが先か……?」

「ええと、大神さん? 何をそんなに焦って?」

「その時代のVRギアはまだ限界出力にリミッターが設定されてなくてだな。数件しか例はないうえ、違法パッチを当てたことと外部からの干渉が原因だが、脳みそをレンチンしたような大事件が発生してた時代だぞ……?」

「えっ、こわ……」

 

 正直その頃の思い出は積極的に思い返したくない痛みの記憶だから忘れていたが、確かにあの頃そんなニュースが流れていたような気がしなくもない。一斉リコールだかなんだか……もうVRゲームに飽きて使っていなかったから、完全に忘れていたけれど。

 

「後でDMを送っておくから、さっさとログアウトすることをオススメする」

「そ、そんな風に言われるとちょっと怖いです。ですけど、心配してくださってありがとうございます」

 

 感謝の意を伝えつつ、祝勝会的なサムシングは出来ないとフレンドメッセージを送るために、メニュー画面を開く。セナと藜さんには悪いことをするなぁと思いながらフレンド欄を開くと、何故かセナも藜さんもログアウト中との表示がされていた。

 

「今日はちょっと買いに行けませんけど、その時は頼らせて貰いますね」

「ああ。登録者数を跳ね上げてくれた恩人が、VR機器の不備で死んだなんてごめんだ。存分に頼ってくれ。そしてあわよくば、またバズらせてくれ」

「炎上しなければいいんですけどね……」

 

 苦笑を浮かべながら、もう一度頭を下げる。頭が上がらないとはこのことだ。取り敢えず、ログアウトしたら2人に電話かメッセージ送ろう。そんなことを考えつつ、UPOからログアウトした。

 

*1
スーパーチャット。簡単にいうと投げ銭

*2
Switch全盛の時代に3DSで遊んでるようなもの




セナ・藜「「(声にならない叫び)〜ッッ!!!」」
叫びを受け止めた枕
「「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あああああぁぁぁぁぁッ!!」」
パタパタポムポム叩きつけられる足を受け止めるベッドと布団
「「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あああああぁぁぁぁぁッ!!」」

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間話 それっぽい配信画面とか掲示板とか

昨日のオマケです。
読者様のお陰でスマホ画面でもPC画面でもいける様になった……はず!
特殊タグ活用してる人ほんと尊敬します


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

⚫︎

さ え お 0:00/59:38
 せ ろ わ れ だ 

【実況】ユニーク称号持ちエキシビジョン-午前の部-【UPOイベント】

 537回視聴・42分前にライブ配信済み
 
 139 4 共有 保存 … 

 

 

  UPO幸運極振り 

 チャンネル登録者数 1.23万人 

 チャンネル登録 

コメント 41
 
≡ ✖️

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  40分前 ∇UPO幸運極振りさんによって固定されています

  今回の見所さん

  01:07 配信開始

  02:56 マッチング発表

  03:57 イベント開始の宣言

  もっと表示する

  10件の返信  いいね


  15分前(編集済み)

  ぶらぶらさせてる足に萌えすぎて燃え尽きそう

  4件の返信  いいね


  30分前

  本当に大惨事正妻戦争で草だった。

  戦闘のレベルが異様に高かったこともあって余計に

         いいね


  異世界人ニキ 42分前

  おつボム〜! 久し振りの配信ありがとう!

  楽しそうなしらゆきちゃんの声を聞けて本当に良かった!

  またいつか配信してくれることを楽しみに待ってます! 

  16件の返信  いいね

 │ 35分前

 │ いったいこいつには何が見えているんだ……? 

 │ │ 21分前

 │ │ シッ、こいつヤベー奴だから!

 │ │ 10分前

 │ │ 絶対正気じゃないって

 │  ───────────────────

 │ 4分前

 │ 強火の幻覚見てて草生える

 │ ただそれはそれとしてユキはもっとしらゆきちゃんとして配信しろ

 │ │ 1分前

 │ │ そうだそうだ!

 │  ───────────────────

 │ もっと表示する


  29分前

  愛を謳う時はいつだって正気に決まっているのだ。

  ところで翡翠ちゃんは?

  2件の返信  いいね


  11分前

  やっぱりあの【大天使】堕天してね??

  強く生きてくれ……

         いいね


  19分前(編集済み)

  ユニーク称号持ちもやっぱ強いですねぇ、僕は戦闘力はあまり自信ないんですよね、食べ歩きばっかしてますからね。

  3件の返信  いいね

 │ 17分前

 │ どうしてこんなに翡翠組が多いのか

 │ │ 5分前

 │ │ ここも時期に翡翠に沈む……

 │ ───────────────────

 │ もっと表示する


  30秒前

  カオルさんって、強かったんだなぁって

         いいね


  6分前

  飛行性能がデフォルト、フレーム単位の障壁というパワーワード…これだから極振りは!!!!!

  あたおか具合がヤバイぜ!!!

  2件の返信  いいね


  3分前

  私は今、ゲイボルクがまともに直撃していることに猛烈に感動している……

  それはそうと空間認識能力は無理ポ

  1件の返信  いいね

 │ 17秒前

 │ 10万回刺したボルグ


  イオ 42分前

  シラユキチャンカワイイヤッター!!

  25件の返信  いいね


  40分前

  ところで同人誌の支払い先と三角コーンの送り付け先はどこですか???

  19件の返信  いいね

 │ ナナナナナナナ 38分前

 │ ここよ! でも三角コーンはいらないわ!

 │ https://www.marronbooks.co.jp……

 │ │ 37分前

 │ │ ありがとうございます! ありがとうございます!

 │ ───────────────────

 │ もっと表示する


  1秒前

  毎秒配信して毎秒切り忘れして(はーと)

         いいね

 

 

【ユニーク称号持ち】現時点でのユニーク持ちを語ってけ【人外揃いじゃね?】

 

1:名無しさん ID:RVi2V0zNt

 ユニークエキシビジョンも終わったことだし語ってけ

 

 

4:名無しさん ID:KMkxWE3TV

 >>1

 ほならね?

 

 

8:名無しさん ID:Oro2YE2v5

 >>1

 言い出しっぺの法則というものがあってだね

 

 

11:名無しさん ID:XD0grYLgJ

 でも実際、結構な人数いるし気になるわな

 

 

13:1 ID:RVi2V0zNt

 しょうがないにゃあ

 男女、極振り、第1第2回別だょ

 ユニーク称号1st

 【裁断者】アキ

 【爆破卿】ユキ

 【写術翁】ザイード

          【爆裂娘】にゃしい

 【提督】ZF

 【傀儡師】シド

 【大天使】イオ

          【舞姫】セナ

          【大工場】ツヴェルフ

          【農民】ハーシル

 ユニーク称号2nd

 【スローター】センタ

          【限定解除】レン

          【頂点捕食者】翡翠

 【ラッキー7】シルカシェン

 【マナマスター】コバヤシ

 【初死貫徹】Chaffee

          【オーバーロード】藜

          【ナイトシーカー】カオル

          【牧場主】しぐれ

          【大富豪】れーちゃん

 

 

15:名無しさん ID:HRykb/TWh

 じゃあ俺は取得条件を

 ユニーク称号1st

 《裁断者》

 全プレイヤー中最も大きな物理ダメージ

 《爆裂娘》

 全プレイヤー中最も大きな魔法ダメージ

 《爆破卿》

 全プレイヤー中最も爆破系アイテムを購入、製作、使用。多数の大型建築物オブジェクトの爆砕

 《写術翁》

 全プレイヤー中最もスクリーンショット機能を使用

 《舞姫》

 全プレイヤー中最もジャスト回避成功

 《提督》

 全プレイヤー中最も特殊兵装を同時操作

 《傀儡師》

 全プレイヤー中最も特殊装備を装着

 《大天使》

 全プレイヤー中最も回復系アイテムを購入、使用。回復魔法使用回数トップ3

 《大工場》

 全プレイヤー中最もアイテムを製作(総合)

 《農民》

 全プレイヤー中最もフィールドを開拓

 ユニーク称号2nd

《限定解除》

 全プレイヤー中移動距離が最大

《スローター》

 全プレイヤー中モンスター討伐数が最大

《頂点捕食者》

 全プレイヤー中捕食回数が最大

《ラッキー7》

 全プレイヤー中レア泥が最大

《マナマスター》

 全プレイヤー中魔法ヒット回数最多

《オーバーロード》

 全プレイヤー中連撃回数が最大

《初死貫徹》

 全プレイヤー中防御貫通回数が最大

《ナイトシーカー》

 ログイン時間が8割以上夜、かつ夜間のログイン時間がプレイヤー中最長

《牧場主》

 全プレイヤー中最もテイミング成功かつ、全プレイヤー中最もペット所持数最多

《大富豪》

 全プレイヤー中取引金額最多

 

 

17:名無しさん ID:98Y0xJdQc

 なら俺は効果を

 ユニーク称号1st

 《裁断者》

 相手のHPが50%以上の場合与ダメージ1.5倍

 戦闘中4回まで防御無視攻撃が可能

 《爆裂娘》

 相手のHPが50%以上の場合与ダメージ1.5倍

 戦闘中4回まで魔法の効果範囲拡大が可能

 《爆破卿》

 爆破系統の攻撃威力が100%増加

 爆破系アイテムを確率で消費無効

 《大天使》

 回復系統の回復量が65%増加

 回復系アイテムを確率で消費無効

 《写術翁》

 スクリーンショット性能が100%増加

 特殊スキル【写真術】習得

 《提督》

 ギルド・PTメンバーの全ステータス15%増加

 特殊スキル【号令】習得

 《舞姫》

 反応速度上昇

 一定速度到達毎に分身可能(最大7)

 《傀儡師》

 特殊装備の操作性上昇

 特殊装備の性能50%上昇

 《大工場》

 アイテム製作にボーナス

 個人フィールド【大工場】取得

 《農民》

 特殊スキル【開拓魂】習得

 個人フィールド【大農園】取得

 ユニーク称号2nd

《ラッキー7》

 ゲーム内時間1日に一回、2つダイスを振って攻撃の威力をランダムで増強

 倍率      7 → 2.2倍

 2 → 1.2倍  8 → 2.4倍

 3 → 1.4倍  9 → 2.6倍

 4 → 1.6倍  10 → 2.8倍

 5 → 1.8倍  11 → 3.0倍

 6 → 2.0倍  12 → 10倍

《マナマスター》

 ゲーム内時間半日に一回、自分が好きな量のHPを消費し2倍のMPを回復する。この際、MPは上限を超えて蓄積される

《オーバーロード》

 1戦闘にアクティブスキルをそれぞれ一度ずつ、消費をn倍にしてスキルの効果を×n(0≦n≦10)分強化させることができる。

また、パッシブスキルの効果を連撃数が10増える毎に0.5%強化する(上限500%)

《限定解除》

 リアル時間で1日に1度発動できる。

 発動後5秒間無敵。同時に50/1sずつHPが減少する代わりに、Aglを×200%する。発動5分後に強制解除され、全ステータスが1時間半減する。

《初死貫徹》

 自身の攻撃全てに防御貫通攻撃(30%)を付与し、武器を装備していない時の物理攻撃威力を3倍にし、対魔法性能を得る。また、クリティカル時には相手の防御値を0としてダメージを計算する。

《スローター》

 猶予時間内に連続で敵を撃破することで与ダメージ+0.2%(加算式。50体で10%増加、上限なし)

《頂点捕食者》

 戦闘中、モンスター、プレイヤー問わず、捕食したら戦闘終了まで相手のステータスの1~5%を得、種類に応じたバフを得る。また、称号効果含め食事によるステータスバフの効果を倍にする(称号効果のステータス簒奪には適応されない)

《ナイトシーカー》

 夜間全ステータス大幅上昇、昼間全ステータス大幅減少(イベント参加時は夜間の効果を適用)

《牧場主》

 テイミング成功率上昇

 個人フィールド【大牧場】取得

《大富豪》

 商人系NPC好感度の上昇率UP

 Dを消費で死亡時復活(最大5回)

 ※1回復活毎に金額倍増(初回金額は100,000~200,000からランダム)

 特殊施設「商館」取得

 

 

20:名無しさん ID:svM20HHpv

 なら俺は専用アイテムを──と言いたいけど、みんな性能明かしてくれないんで名前しかわからないです

 1st

 【裁断者】『装刀オリハルコン』

 【爆破卿】『無尽火薬(アタ・アンダイン)

 【写術翁】『超高性能一眼レフカメラ』

 【爆裂娘】『爆裂の杖』

 【提督】『還らず旗』

 【傀儡師】『傀儡師の糸』

 【大天使】『無尽癒薬(イスラ・アンダイン)

 【舞姫】『サウダーデ/ドミンゴ』

 【農民】『農民(ファーストデベロップ)

 【大工場】『大工場(オーバーレンチ)

 2nd

 【スローター】『歴戦の紅槍』

 【限定解除】『エネルギーコア』

 【頂点捕食者】『ビクトリーエプロン』

 【ラッキー7】『女神のダイス』

 【マナマスター】『歯車の魔導書』

 【初死貫徹】『新年のバンテージ』

 【オーバーロード】『十六夜の衣』

 【ナイトシーカー】『処女の生き血』

 【牧場主】『ハーメルンホーン』

 【大富豪】『ブラッククレジットカード』

 

 

22:名無しさん ID:KSCuoGCfB

 >>15 >>17 >>20

 はえ〜サンガツ

 こうしてみると大量ですねぇ!

 

 

24:名無しさん ID:/KGx63LR7

 これ全部、今の保有者より上の記録立てれば奪い取れるってマジ?

 

 

29:名無しさん ID:7pC0B9zqG

 >>24

 マジ。けどいや〜キツいっす

 

 

30:名無しさん ID:otq1mONZj

 特に今日みたいな動きを見せられるとなぁ……

 

 

32:名無しさん ID:PFiBQZWW2

 流石になぁ……俺がもし《舞姫》ゲットしても、串刺しからの大脱出マジックはできそうにない

 

 

37:名無しさん ID:4S0RV5vBb

 >>32

 いやそもそも男が取れるのか?

 《舞姫》なんて称号。やっぱこのシステムクソでは?

 

 

39:名無しさん ID:6gfiw6g2r

 >>37

 忘れがちだが、ユニーク称号の一部は性別によって名称変化するって公式が言ってるぞ

 

 

41:名無しさん ID:9kQ/rIt4G

 そういう仕様じゃなきゃ、あからさまに性別指定されてる様に見える名前もあるししゃーないわな

 

 

42:名無しさん ID:dSfSDdHOH

 でも実質もう奪い取れない称号結構多いよな。特に極振り関係

 

 

45:名無しさん ID:4B47jE2/A

 俺自身が、極振りになることだ(簒奪方法)

 

 

47:名無しさん ID:I34WPOuzu

 >>45

 MU☆RI!

 

 

49:名無しさん ID:heVAJuEGD

 性別で言ったら大天使っていいのアレ?

 男でしょ?

 

 

54:名無しさん ID:by/cHKLZu

 いや、天使って男性体も普通にいるし……

 <パラダイスロスト!

 

 

55:名無しさん ID:wbYNfI9fl

 ところでさ、あの大天使……堕天してね?

 【画像】【画像】【画像】【画像】

 

 

59:名無しさん ID:vJ/2A6Brj

 考えてもみろ……あんなに小さい庇護欲すら湧いてくる様な相手が、自分と男友達だった頃と変わらぬ距離感で接してくる上に、服装やら動きやらが完全に無防備で、本人もそれを自覚している状態でこっちを揶揄ってくるのに、いざ手を出そうとすると女の子みたいな声を出して恥ずかしがるんだぞ? 

 それにあの目、強い思いか信念で覆い隠しているけれど、根底にあるのは他者への恐怖と怯え、そこから来る拒絶だ。よく見れば分かる。小動物かな? なのに向こうから歩み寄ろうとしてくれてる辺りほんと健気で可愛い。おみあしprpr、背中がえっち、おててにぎにぎしたい、羽に包まれたい、慎ましやかなお胸がえっち、いい匂いしそう、あの綺麗な御髪(おぐし)をすーはーすーはーくんかくんかした後、爆破されてゴミを見る様な目で『この変態』って言ってもらいたい

 

 

63:名無しさん ID:yr76sXXk3

 賢者かと思ったらただの変態だった……

 

 

68:名無しさん ID:K1aYVjA9U

 >>63

 賢者タイムだったんだろ

 

 

72:名無しさん ID:GuHVHJn3Q

 TSっ娘の醍醐味ダルルォ!?

 

 

73:名無しさん ID:I9l7pwdTk

 >>59

 さてはお前大天使だな?

 

 

75:名無しさん ID:Wv5TVX329

 堕ちるのは100歩譲って仕方ないとして、堕ちた事実は変わらないわけで

 

 

78:名無しさん ID:2v7tRStYK

 色欲に堕ちた天使

 

 

80:名無しさん ID:3ncqGjJqi

 †色欲に堕ちた天使†

 

 

85:名無しさん ID:epBJAiMag

 †色欲に堕ちた天使(ルシファー)

 これだな

 

 

87:名無しさん ID:+BdgV41pK

 TSっ娘、女装少年、男の娘、ふたなり、メスショタ……結局のところ、全部ホモでは?

 

 

91:1 ID:RVi2V0zNt

 >>87

 なんだァ、てめェ?

 

 

94:名無しさん ID:mZ7wBnV4m

 イッチ、キレた!

 

 

96:名無しさん ID:qFcghupsx

 全然別物なんだよなぁ……これだから素人は

 

 

100:名無しさん ID:LcT7QbX/A

 口だけは達者なトーシロばかり揃えやがって

 

 

103:名無しさん ID:+GYdBfef1

 †色欲に堕ちた天使(ルシファーッ♂)

 なんて考えてみたけど出番は無さそうだな……

 

 

104:名無しさん ID:+tYL7ipYP

 ウルトラ不敬で草

 

 

107:名無しさん ID:s6idai+9A

 祟られそう(こなみ)

 

 

109:名無しさん ID:hdM5US57m

 日本産じゃないし来るなら神罰じゃね?

 

 

114:名無しさん ID:VcpRDJ3ba

 つまりアレか、レビュアーズしてそうな天使ってことか

 

 

119:名無しさん ID:AZzkMkPfA

 サイズがオークよりでかいのか……あのなりで

 

 

124:名無しさん ID:uXlN1Tq2X

 さあ、みんなご唱和下さい!

 

 

129:名無しさん ID:IV47TqdNC

 ス・ケ・ベが大好き!

 

 

131:名無しさん ID:nWX/b/AWZ

 ス・ケ・ベが大好き!

 

 

135:名無しさん ID:kMg4Kdx/5

 ス・ケ・ベが大好き!

 

 

140:名無しさん ID:CLJq/BGZ7

 ねぇ、ユニーク称号持ちの話は……?

 

 

141:名無しさん ID:Q+jvtUIUX

 >>140

 ダメみたいですね……

 

 

144:名無しさん ID:5s1CgsHDb

 この世界もTSっ娘に破壊されてしまった!

 

 

 




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第185話 偶にあるリアルパート

凝った特殊タグなんてもう使わないと言ったな……アレは嘘だ(自ら地獄に落下する音)


 

 

 ========================== 

   午後の部Result

 

 

   シド━━━┓   ┏━━シルカシェン

        ┃   

        ┣━┻

           ┃

   しぐれ━━┛   ┗━━Chaffee

 

 

 ========================== 

 

 

⚫︎

 II え お 1:01:38/1:01:42
 せ ろ わ れ だ 

【実況】ユニーク称号持ちエキシビジョン-午後の部-【UPOイベント】

 70.997回視聴・15時間前にライブ配信済み
 
 2704 18 共有 保存 … 

 

 

  Tsumi Ch.大神ツミ 

 チャンネル登録者数 39.6万人 

 登録済み "◉" 

 コメント 46
 
↕︎ 

  Thank you for the Stream Tsumi!

 

「ふう……」

 

 1つ大きな息を吐いて、作業用BGM代わりにしていた動画を停止しヘッドホンを外した。携帯で流していた動画は、大神さんのチャンネルに投稿されている午後の部の映像。パソコンの方でしていた作業は名シーン特集の編集だ。

 

 午前の部の編集なし版はこちらのチャンネルに。名シーン集は大神さんのチャンネルに。

 午後の部の編集なし版は大神さんのチャンネルに。名シーン集はこちらのチャンネルに。

 

 お互い編集する苦労は分かち合おう(ユキも編集の苦労を味わえ)との提案でのことだ。何やら向こう、近々何かしら大きめな〆切が2つあるらしい。だからあまり手間は増やしたくないんだとか。それ以上は『社外秘で何もいえない。どうしても知りたいなら、そろそろ新規メンバーの募集を──』とか言ってたので、丁重にお断りしておいた。多分時期的に、クリスマスと正月ボイスだろうし。

 

「後はエンコード待ちっと。にしてもリアルで作業するの、久し振り過ぎて疲れたぁ……」

 

 だがそもそも、TA(タイムアタック)動画を出してる以上特に編集は苦ではない。凝り固まった身体からバキバキと音を鳴らしながら部屋の時計を見れば、すでに時間は昼の2時を回っている。

 

 いやぁしかし、それにしても午後の部も凄かった。

 

 【傀儡師】シドさん vs 【牧場主】しぐれの第1回戦は、シドさんはいつも通り機皇帝(ただしパーツが全て3)の完全体で参戦していたのに対し、しぐれさんはペット8体全投入によるミスティニウム解放戦で見た……端的に言って悪夢の形態。

 そんな2人の戦闘は、開始直後から蟲による色がステージに溢れていた。上空には鱗粉振りまく黒アゲハと、音を掻き鳴らす蝉の群れが。黒と銀の2色からなる蝗の大軍勢が縦横無尽に吹き荒び、地面には悪意が滲み出るように増殖するGとうねる百足の群れが、更に中空には蜜蜂型と雀蜂型の2種の蜂が暴れ回る。

 観客席からは絶え間なく悲鳴が鳴り響き、蜂の踊りがどうこう言ってられないレベルでシドさんは追い詰められる。しかし遂には下半身のバイクがパンク。動きが鈍ったところにしぐれさんと、率いるメタルなクラスタな蝗が集結。ライジングでHigh Qualityなキックをブチかまし、シドさんをいつも通りシ/ドに分割する荒技をやってのけた。

 

 

 続く第2回戦【ラッキー7】シルカシェン vs 【初死貫徹】Chaffee戦も、別の意味でド派手な戦いだった。

 何せケッテンクラートに乗り、鹿撃ち帽とインバネスコートを纏い、マスケット銃を担ぎパイプを咥えたプレイヤーなんちゃって紳士と、近未来的な戦車がステージ上を走り回る近代戦(大嘘)だ。その戦闘は最初のうちはマトモだった。Chaffeeさんの駆る近未来型戦車が機銃と主砲を乱れ狙い撃ち、シルカシェンさん側が銃撃と打撃を織り交ぜながら反撃する。

 戦闘の流れが変わったのは、シルカシェンさんの加えたパイプから上がる煙の色が()()()に染まった瞬間だった。マスケット銃から()()()()()に切り替わる握った得物、スタジアム全てに響き渡る紅茶香る勇敢な調べ(スコットランド産)、そして何処からともなく現れたパンジャンドラム

 いつも通り爆散するパンジャン。奏でられるバグパイプ。最後に、鶏の鳴き声が爆発音の地雷によって、近未来戦車ごとChaffeeさんは爆散した。しかし途中で履帯が千切れたのに走り回ってたあたり、近未来フィンランド型だったのかもしれない。ともかく勝者は、いつの間にか英国面へ堕ちてしまっていたシルカシェンさん。ついこの前会った時とはまるで別人となったその姿には空いた口が塞がらなかった。

 

 

 そして来たる最終戦。【蟲の王】と【英国面】の戦いは、予想外の行動から始まった。

 最初から紅茶ガンギマリのシルカシェンさんに対し、しぐれさんは代名詞になりつつあった蟲を1匹も連れずに登場したのだ。その代わりに、その腰にはPCのグラボにも似た形のベルトが巻かれていた。

 戦闘開始直前、しぐれさんの手元に現れる……ぶっちゃけてしまえばプログライズキー。そうして変身したのはメタルクラスタ。着実にUPOに増えていくライダー人口に感動している間に、英国面は蝗害に食い尽くされていた。悪意に呑まれた形態もあるんだろうなぁ……

 

 

 

 などと考えている今日の曜日は、すでに木曜日。つまりそう、エキシビジョンマッチ午前の部から一晩が経っていた。一応あの後、何故かログアウトしていた沙織と空さんに連絡はした。したのだが、それ以降顔を合わせていない。別に嫌っているとか会うのが嫌とかそういう話ではないが……衆人環視の中、好きなところや何処まで関係性が進んでいるのかを高らかに宣言されつつ実況していた側と、恥ずかしさを我慢して実況していた側。気まずいどころの話じゃないのだ。

 

< すてら☆あーくお泊まり組(3)
℡ ≡ 

 今日 

.瀬名 沙織

 .ちょっと、その、あの、登校前だし. 07:48

 .アレだけ好き勝手言った手前なんだけど. 07:48

 .今日とーくんと会うのは. 07:49

 .流石にまだ恥ずかしいかなぁって. 07:49

07:50(既読).了解。流石にこっちも、うん。.

07:50(既読).出来る限り伏せてたけど.

07:51(既読).実況なんてしちゃってたわけだし.

.赤座 空

 .テスト、がんばって下さい. 07:53

 .私は全然、大丈夫ですよ!. 07:53

07:59(既読).あー…そのことなんですけど.

07:59(既読).ちょっとVRギアに問題が起きてて.

08:00(既読).今日明日はログイン出来ないかもです.

.瀬名 沙織

 .ハードに問題って大丈夫?. 08:02

 .危ない問題筆頭な気がするんだけど. 08:02

08:02(既読).ちょっと危なかったっぽい.

08:03(既読).だから今日か明日には買い替えて.

08:03(既読).データ移行まで済ませちゃうつもり.

.赤座 空

 .後でお話し、聞かせて下さい. 08:12

08:15(既読).………はい.

.瀬名 沙織

 .絶対だよ!!. 08:20

 

 

 

lメッセージを入力               

 

 この通りトークアプリ上では話しているが、テストのために行った学校でもあり得ないことに沙織と話すことはなかった。

 故に普段とは逆にセナは色々な人に絡まれていたし、俺もなんか良くわからない同級生男子にウザ絡みをされた記憶がある。普段は話しかけて来ないくせに、態々遠くの席からテスト前に邪魔しやがって。スクールカースト上位らしいけど顔も名前も覚えてないし、ひたすらに不快だった。そもそも何を話してたんだろう、アイツ。

 

「ま、良いか」

 

 続々とアップロードが完了していく動画を見ながら、どうでもいい話だったと忘れることにした。昔は30分くらいの動画にエンコードが1時間くらいかかったらしいが、このオンボロノートPCでも3分あれば出来る辺り技術は日進月歩なことを実感する。いや、フルダイブVRゲームなんて物がある以上、言うまでもないことだったか。

 

「んー……UPOにログイン、は、する気になれないしなぁ」

 

 思うにきっと、沙織と空さんに感じるこの気まずさは、VR空間であればある程度は払拭して話せると思う。何せ現実で顔と顔を突き合わせるのではなく、仮想現実という壁が1枚間に挟まるのだ。多分色々なプレイヤーに絡まれるリスクはあれど、話しやすいに決まっている。

 だがしかしだ。大神さんにアレだけ念押しされて、この古いハードのまま積極的にログインするほど俺も馬鹿ではない。検証のために数回はログインしたけれど。

 

 結果としては、空間認識能力なしで1時間(リアル時間準拠)もログインしていればハードが熱くなっていた。有りだと半分以下だ。リコールの出ていた機種ではないもののちょっと怖い。流石に買い替え確定である。

 

「とはいえ、親父が帰って来るまでもまだ3時間近くあるし」

 

 加えて『UPOの動作に最適なハードってどんなもん?』と昨日マイファザーに質問したところ、根掘り葉掘り現状について聞いたあと返ってきた『今日は定時で帰るから、まだ新ハードは買いに行くな』というメッセージもある。

 そのせいで、微妙に行動に制限がかかっていた。テスト期間なんだから大人しく勉強しとけという話だが、普段はUPO内でやってたせいか身が入らなかった。そもそも普段からしっかりと予習復習をしていれば70点、前日の復習で追加10点くらいならば取れるのだ。残り20点は運とテスト前確認になるし、どうせなら何か並行して作業をしたい。

 

「大人しく買い物行こう」

 

 確かそろそろ牛乳とかが切れる頃合いだった気がする。けど沙織も空さんも飲むし──なんて考えていた時だった。聴こえてはいたが気にしていなかったトラックの走行音とエンジン音が、我が家の前で止まった気配がした。最近通販で買ったものなんて、実況の時に話題をずらすために言った同人誌くらいのもの。けどアレはもうとっくに届いてるし……まあ、とりあえず取りに出る準備だけはしておこう。

 

 そう思いハンコを取り出して、玄関に向かう途中で気が付いた。玄関の前にいる複数の気配、そのうち1人が自分とよく似ている。つまりまだ定時でもないのに、何故かマイファザーが帰ってきていた。

 普段会社に泊まり込みかド深夜にしか帰ってこないのに、こんな真っ昼間の時間に帰ってくる??? は?? 病気か怪我? 親父の保険証って何処に置いてあったっけ。どうしよう、通帳とヘソクリとそういう本と、PC内のフォルダ位置とフォルダのパスワードしか知らない。

 

「ッシ、一旦深呼吸」

 

 空回りを始めそうだった思考を、1回両頬を叩いて心を切り替える。よく感じ取ってみれば、ファッキンマイファザーは手元で何かを動かしながら迷っている。……どうやら普通に帰ってきただけとみた。だったらまあ、焦る必要はないか。

 

「おかえり。こんな真っ昼間に帰ってくるなんて何かあった?」

「あ……応、ただいま」

 

 手元で我が家の鍵を探していたらしい親父が、そんな気の抜けた言葉を返してきた。奥に見えるトラックには、UPOの開発・運営をしているCrescent Moon社のロゴが刻まれている。

 

「こんな時間に帰ってきても、カップラーメンくらいしかないけどいい?」

「あ、ああ、昼食べてないから助かる。いや、なんで友樹がこの時間に家に?」

「別に、テスト期間だし。後ろの人たちには、お茶かなんかお出しすればいいよね」

 

 言い切って、玄関扉を開けたまま家の中に戻る。予想外の来客とはいえ、普段から突然沙織が来たり空さんと勉強会とかしていたおかげで、紙コップとかの在庫はある。ちゃんとしたコップで出せ? いや、洗い物増やしたくないし……

 気配で親父とトラックから何かを下ろしてる2人の位置だけは把握しながら、作り置きしてある水出しの緑茶を淹れる。今冷えてるのこれだけだし。

 

「……何だか、別の家のような空気感だな」

「そりゃあ、父さんとか母さんとかより昼から夕方辺りは沙織とかがいる方が多いし」

 

 両手にコップを持ち玄関に戻ろうとしていると、やっとリビングにまで来た親父がそんなことを言っていた。実際、父さんも母さんとセナが我が家で眠ってる回数が、正確に数えてはないがどっこいどっこいな気がするのだ。家が別の匂いに変わっていても不思議じゃない。

 

「荷物降ろしてる人達、何か手こずってるみたいだけどいいの?」

「キッチンからなのに分かるのか……流石極振りだな」

「そうでもないと思うよ、これくらい」

 

 何故か気まずそうにしている親父を置いて、取り敢えず荷下ろししてる人達の手伝いに行く。トラックから下ろそうとしているのは、大きめの洗濯機サイズのダンボールに入った何か。中身は分からない。

 

「すみません。もし良ければ手伝いましょうか?」

「幸村さんのとこの。いえ、問題ありません。久し振りの再会に、我々も水を差したくはありませんから。どこまで運びます?」

「あ、じゃあ俺の部屋までお願いします。2階になるんですが。でも悪いので、どうかお茶は飲んでいってください」

 

 何だかとても空回りしている気がするけど、今更どうしようもない。そうして、なんとなく居心地の悪い空気の中待つこと十数分。トラックから降ろされた巨大なダンボールが2箱玄関に並べられ、トラックに乗ってきた親父の同僚らしき人達は帰って行った。

 

 

「……父さんが帰ってくるなら、どれだけ早くても定時だと思ってたんだけど?」

「有給は無理だったが、半休は貰えたんだ。だから本当は、帰ってきた友樹を驚かすつもりだったんだが」

 

 親父がカップラーメンを食べ終えた頃を見計らって、そんなことを切り出してみた。そもそも定時で帰ってくることに信用なんてなかったが、まさかそれより早く帰ってくるとは本当に想定外だ。

 

「一応俺、昨日UPOのイベントで真っ昼間から実況してたんだけど。それも運営の指示でTSしながら」

「そう、だったな。2日くらい前の話だから、完全に忘れてた」

「……」

「……」

 

 会話が、続かない。というよりも、ハッキリ言って何を話せばいいのか皆目見当もつかない。だって最後にこうして親父と話したのは、高校入学の時が最後なのだ。

 

「ところで、驚かすって何を?」

「昨日、ハードが限界で満足にゲーム出来ないって言ってただろう? だから会社から、最新よりは1つ前の世代になるがハイエンド機を貰って来た」

「貰ってきたって、大丈夫なの? そんなことして」

 

 ハイエンド機といえば、大神さんからDMでオススメされた物もそうだが、物によっては数十万円はする。大神さんに薦められたのは、割引き含めて15万くらい。お安い(感覚麻痺)だからそんな物をポンと貰ってきたなんて言われても、正直困る。

 

「問題ない。あー……この前気付いたと思うんだが、一応父さんはUPOの運営側でな」

「うん」

「UPOプレイ中のプレイヤーは脳波をモニターされてるのは、一応最初の利用規約に書いてある通りなんだが」

「えっ」

「えっ」

 

 そんなこと書いてあったのか……どうしよう、本当に知らなかったんだけど。

 

「まあ、続けるぞ。その中でも友樹を含む、所謂極振り連中については何時なにがあっても良いように監視してるんだ」

「それって、どうして?」

「【空間認識能力】ってあるだろ? あのスキルは本来、脳にかかる負荷的な問題で、全開にしていられるのは短時間の筈なんだ。それなのに、極振りは常時全開にしているだろう?」

「その方が色々と楽だし、してるけど」

「技術者としては異常の一言に尽きるし、父親としては心配でならない。だが、同時にうちの会社のフルダイブ関連の技術が、極振りのお陰で爆発的に進歩してるのも事実であってだな……」

 

 ごもごもと、気まずい空気の中遅々として進まない会話。それに嫌気がさしたのか、親父は全部投げ出して言った。

 

「面倒くさいからハショる。懸賞にでも当たったと思って貰っとけ! 実際に名目上は『イベントにおけるボスプレイと、通常プレイ制限、またイベント主催に関する謝礼』だ。特に何か使用制限もないし、極振りプレイしてる9人全員に贈ってる物だから気にするな!」

「ぶっちゃけ過ぎじゃない親父……?」

 

 こちらとしては願ったり叶ったりな話ではある。貯金から数十万吹き飛ばす出費が無くなるわけだし。後から聞いたことだけど、最新鋭機じゃなかったのはこの時点じゃまだ実験機だったかららしい。

 

「内容物としては、さっきも言った通りフルダイブVRシステムの最新から1世代前の業務用ハイエンド機、チェア型だ。背もたれにはうちの会社のロゴが、筐体の左右にはゲーム内でのプレイイメージから作ったイラストがプリントしてあるワンオフになってる。素人でもセッティングは出来るし、大切に使ってくれ」

「それじゃあ、ありがたく貰うし大切にするけど……でもそれなら、親父が帰ってくる必要なかったんじゃ」

 

 まだ飲み込めてないけど、マイルームに鎮座する物については理解した。けどそうなると、ますます親父が帰ってきた理由が分からない。やっぱり病気か何かだろうか。

 

「息子が心配になったからじゃ、おかしいのか?」

「ッ……じゃあ、そういうことで」

 

 微妙に納得がいかないし、色々と言いたいこともある。

 けど、そういうことにしておく。何せ全部過ぎたことで、今更掘り返す意味もないことだから。そう無理矢理に言葉を飲み込んで、何でもないように言った。

 

「晩御飯に何か惣菜買ってくるけど、何か食べたい物は? お酒は料理酒しかないから、飲みたいなら買ってきてね」

「酒は今日は飲む気はない。だが偶には父さんも、我が家の味が食べたいんだが……ダメか?」

「昔、頑張って作った料理を、ノータイムで惣菜の方が美味しいって言った親父に作る料理なんてないです」

「あれは中学生の時の話だろう!?」

 

 そんな昔のことのように言われても、俺からすればつい最近の話だ。だから正直、作りたくはないんだけど……偶にはいいか。どうせなら、飛び切り不味いのと全力で美味しく作ったやつの2種類で作ろうか。

 

「はぁ、味は期待しないでよ」

「楽しみにしておく」

 

 はいはいと話を聞き流しながら、洗い物を始めながら冷蔵庫の中に想いを馳せる。今冷蔵庫の中にある物で作れて、何か丁度よくロシアンルーレットを出来るようなもの……たこ焼きか、餃子か、或いはお好み焼きか……うちの味って言ってたし餃子で良いか。沙織とか空さんには出せないけど、たまには食べたいし。

 

「ところで、だな、友樹。こんなこと父さんが言うのも何だが……家の中、女の子ものの物が多くないか?」

「まあ、父さんが家にいた時と比べれば。沙織とかも来てるし」

 

 片付けてはあるが、何だかんだで沙織が持ってきてそのままにしておる物がリビングには結構多い。コップとか茶碗とか箸もそうだし、もっと言えば俺の部屋には着替えまである始末だ。そんなことを言われても、ぶっちゃけ今更感が強い。

 

「ところで父さんな、例のアカウントで例の本を買ったことが母さんにバレて、ゴミ以下の存在を見るように蔑んだ目で説教されたんだが」

「それついてはごめん。あ、そこの引き出しに領収書と代金入れてあるから」

「もう1つ、いいか?」

 

 デスソース……トマト餃子……などと考えていた頭を上げれば、我が父の視線の先にあるのは洗濯物。もっと言えば、沙織が置いて行った服に紛れてこっそり干してある、サイズの違う女物の服……つまり、この前女装することになった時の服の姿が。

 

「悪いとは言わないが、女装趣味はほどほどにしないと彼女から嫌われるぞ?」

「親父みたいなヘマはしないんだよなぁ……そも動機が真逆だし」

「なん……だと」

 

 おお、ファッキンマイファザー。俺が何も知らないと思うてか。小さな頃に母さんから何回話を聞かされたと、そしてクローゼットの奥底にしまってある女物の服を洗濯していると思っている。いや、衣替えの度だからそんなに多くはないか。

 

「元々女装をしていた親父と、元はさせられて楽しくなってきた俺には雲泥の差がある……あと彼女はまだいないから」

「くっ、華奢な身体に産まれた男なら、必ず一度は描く夢。血は争えないと思っていたのに」

 

 普通に考えて、自主的に女装までする人は稀だと思う。が、しかし実際、沙織の頼みとはいえ楽しんでやっていた自分も事実な訳で……

 

「よし、この話はやめよう!」

「やめよう!」

 

 お互いにダメージが行くだけの会話は、こうして終わりを告げたのだった。

 

「そういえばここまで雑に流してたけど、親父のことなんて呼べばいい? 久し振り過ぎて、正直なんて呼べば良いのか迷うんだけど」

「パパ呼びは──」

「却下でマイファザー」

 

 保留になった。




 現代の闇パワーをくらえー!
 あと、ユキはセナさん家の両親との方が実両親より仲良かったりしますね。

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第186話 偶にあるリアルパート②

 あ、今回はスマホ表示の方がいいです
(特殊タグに)非力な私を許してくれ……そしてリアルパートはこれで最後です
 完結まであと──


 そんなことはあったものの、何時までも部屋にデカブツを放置しておくのも良くない。ということで、先ずはVRマシンを運んで組み立てる運びとなった。

 

「そういえば、最近学校はどうだ?」

 

 マシンを組み立てている最中に、マイファザーがそんなことを聞いてきた。滅多にこうして話す機会がないからなんだろうけど……

 

「テストは、ちゃんとしてる。全教科80点は取ってるの、一応写真で送ったと思うけど」

「そうじゃなくてだな。……父さんが聞く資格はないと思うが、()()()()()()()?」

 

 真剣な目だった。そしてこちらを心配してくれている目だった。何もしてくれなかったくせに。

 

「変わってないよ、何も。昔から」

「そう、か……済まない」

「俺が、変わろうとしてないだけだから。親父が謝る必要なんて、ないよ。それに、勉強それ自体は楽しいし」

 

 申し訳なさそうなら父さんの言葉を、吐き出すようにして否定した。今更遅い。

 実際のところ、俺自身が変わろうとしなければ何も変わらない。それは知っていても、またあんな暴力が沙織に向くと考えると……正直、自分がその位置にいれば良いやと思ってしまう。昔から俺たちに悪意を向けてきて、今もむけ続けている相手は学校にいるのだから。

 

「それでも、本来高校は一番楽しい時期だと父さんは……」

「いいよ、慣れてるから。それに、先輩とはなんだかんだで仲良く出来てるし」

「帰宅部ってこの前言ってなかったか?」

「学祭の時、UPO関連の方向から身バレしてそこから。平気で学校に業務用AR機器を持ち込む人たちで、正直同学年の人と話してるより楽しいかな」

 

 そう考えると、UPOが結構リアル生活でも転機になっている気がする。【すてら☆あーく】のみんなとの出会い然り、藜さんとの出会い然り、極振りの先輩方の狂気に触れたこと然り、学祭での行動然り。

 沙織曰く昔みたいに笑えているらしいし、自覚しているところではリアルでも空間認識能力擬きが出来る様になったうえ、記憶力もかなり良くなってる。

 それらがこの1年UPO漬けになっていた影響だと言うのだから、UPO様々としか言いようがない。……最初は、沙織に誘われたからって理由しかなかったのになぁ。

 

「そうか……そうか……」

「父さん、俺の頭撫でるくらいなら手を動かして欲しいんだけど」

 

 なぜか泣きそうな声音で頭を撫でる親父に、手を動かして欲しいと催促した。嬉しい。全力でテスト勉強する為にも、さっさとVR空間へのアクセス手段をしっかりさせたいのだ。

 

「なら、そうだな。UPOは、楽しいか?」

「楽しいよ、本当に」

 

 そんな風に思っていたからだろう。親父のその質問には、迷うことなく答えることが出来た。さっきも考えていた通りこの1年、自分にとって中心はUPOだったのだから。

 

「実は未だに、最初の街の兎に気を抜くと殺されるけど……それでも。例え爆破を抜きにしても、凄く楽しい」

 

 いや、やっぱり爆破がないと面白さは半減する気がする。間違いない、爆破出来なくなったらちょっと、いや、かなりつまらない筈だ。ああ、そうか。もう咽せるくらいアバターには火薬と硝煙の香りが染み付いている辺り、俺は手の施しようがないほど手遅れなんだ……火薬美味しい(UPOに限る)

 

「そうか……楽しいか。そう言ってくれるなら、作っている甲斐がある。ところで、最近の残業理由が極振り案件ばかりなんだが、加減とかはしてくれたり──」

「しない。少なくとも先輩達は、言葉だけじゃ止まらないと思う」

「だよなぁ……」

 

 何処か遠いところを、マイファザーは死んだ目で見つめていた。OK、少なくとも他の極振りの先輩よりは被害が少なくなるように勤めるよ。花火ルを止めるつもりは微塵もないけど。

 

「寂しくは、ないか?」

「別に。昔と違って、今は沙織とか空さんも来てくれるから」

 

 我が家で1人で過ごす時間。昔はとてつもなく不安で堪らなくて、誰にも見えないところで泣いていた時間。だけど今は、なんだかんだで沙織が押し掛けてきたり空さんが来たりで、1人でいる時間と同じくらい1人じゃない時間がある。そんな風に、甘えてしまっている。

 

「そんな風に、信頼できる……いや、甘えられる相手が出来たんだな」

 

 そんなこちらの思考を透かしたかのように、父さんは呟いた。そんなに俺は、わかりやすい表情でもしていたのだろうか。

 

「そう、だね。甘えちゃってるのは事実、かな」

「……そんなに自虐的にならなくても、いいんじゃないか?」

「自虐、的?」

 

 そんな考えたこともなかった言葉に、思わず作業の手が止まる。手元を見ていた視線を上げると、ムカつくほど優しい目をしたクソ親父の顔がある。

 

「……これに関しては、本当に父さんや母さんが口にする資格がない問題なんだがな。人に甘えるってことは、悪いことじゃない」

「どの口が……」

「そうだな。小さな頃、甘えさせてやれなかった父さんたちが全部の原因だ」

「ッ……!」

 

 ならどうして今、そんなことを言った。

 思わず口から飛び出しかけた言葉を、唇を噛んでなんとか喉元で押し留める。なまじそう叫んでも許されることが、ここまで生きてきて、周りの人を見てきたお陰で分かるから。そして叫んでしまったら、全部が崩れてご破産になることを予測できるから。だから、踏み込まないようにしていたのに。それを、それをこのクソ親父は……!!

 

「そうやって友樹は、父さんや母さん相手には絶対に感情を表に出さないだろう? 嬉しそうにはしてくれるが、怒りもしないし、泣きもしなければ、滅多に笑ってもくれない」

「それが?」

「だけどその子達の前では出来る。例え自覚が無かろうと、そこまで甘えていて、父さんや母さんよりも心を開いてる相手なら出来ているはずだ」

「……泣いたことは、1回しかない」

 

 他人の前で泣いたのは、沙織に抱き締められながら号泣したあの時が最初で最後だ。だってカッコ悪いだろう、大の男が人前で泣くなんて。……いや、映画とかで感極まったりするのは例外だけど。

 

「それでもその相手は、友樹のことを見下したり、見放したりしていないだろう?」

「それは、そう、だけど……」

「なら大丈夫だ。友樹が心配しているようなことは、絶対に起きない。だから"甘えてしまっている"なんて自分を下に見てないで、1回相手に心の底から寄りかかってみろ」

「……そんなこと言われても。甘え方なんて、分からないよ」

 

 何せこれまでずっと、そうして来た。なのに今更そんなことを言われても、分からない。何も分からない。沙織や空さんに寄りかかって甘えろなんて言われても、そもそも何をすればいいのかすら分からないのだが。

 

「その時、一番して欲しいことをお願いしてみるといい。例えば……それこそ頭を撫でてもらうとか、そのくらいでもいいんだ。そうすれば、分かる筈だ」

「分かるって、何が」

「そういう疑問も含めた、色々がだ」

 

 ガシガシと、乱雑に頭を撫でられる。

 

「……甘えてわかること、か」

 

 懐かしくも煩わしい手を振り払って、手元にあった最後のパーツを合着し終える。よし、これで完成と。後は旧マシンからのデータ移行を──げっ、前まで使ってた方、古くて有線にしか対応してない。

 

「もしかして、今までそれでUPOをプレイしてたのか?」

「そうだけど? 問題しかなかったらしいから、今回買い替えようと思ってたんだけど……」

「対応機種の限界ギリギリで、あんなパフォーマンスが発揮できるのか……人体怖……宇宙じゃん……いあいあ……」

「何宇宙的な恐怖に触れてるのさマイファザー」

 

 頬を1発平手で叩く。反応なし。駄目だこれ、暫く戻って来なさそうだ。今のうちに引き継ぎ設定やっちゃおう。付属のコネクター繋いで、旧マシンの方にログインして──ああ、なるほどこの設定からか。よし、データ移行開始。完了予測時間は……1時間か。買い物に出掛けて戻ってきたら丁度良さそう。

 

「さて、ここからは不真面目な話になるんだが。

 結局、友樹の本命はどっちなんだ? 瀬名さん家の娘さんか? それとも最近一緒にいる歳下の子か?」

はぁ?

 

 思っていた以上に低くて暗い声が出た。

 

「父さんとしては、節度を守ったお付き合いをしてるならば構わないんだが、いつまでもそんな関係は続けられないからなぁ。刺されないよう気をつけろよ?」

「いやまさか、刺される、なんて、こ、と……」

 

 いや、言われてみれば、UPO内部で何回か縦裂きにされたり、腕を引っこ抜かれたりしている。その流れがリアルに出てくるとなれば……あり得ない、なんて言い切れるだろうか。少なくとも0ではない。それはちょっと……正直、怖い。行動もそうだけど、そこまでさせるに至った自分が。

 

「……そうだね、気をつける」

「そうしておけ……それと、告白するならちゃんとして、相手を待たせないようにするといい。告白とプロポーズを待たせ過ぎて、喰われた同僚がいてだな……あの時は、人が人型であることのありがたみを感じられずにはいられなかった」

 

 しみじみと実感の込められた様子で親父は言った。極振り対策室、職場恋愛アリなのか。というか後半何を言っているんだろうマイファザーは。そんなまさか人型じゃない人なんているわけ──あっ(脳裏をよぎる人外型コントローラー)それかぁ……

 

「肝に銘じておく」

 

 それに不覚ながら、さっきの甘える云々の話で気付いたことがある。思った以上に俺は、なんというか、情け無いくらいに弱いなぁと。それに色々と、心の整理も付ける気になったし。

 

「……さて! データ移行終わるまで暇だし、買い物行ってくるよ。晩御飯の材料もついでに買い足さなきゃだし」

「分かった。車、出そうか?」

「要らない。久し振りの休みなんだし、ゆっくり休んでていいよ」

 

 デスソース買うのも見られたくないし。などと思いながら、手元の携帯を見れば時間はもう夕方に差し掛かる頃。丁度普段から使っているスーパーでセールの時間だ。

 

 

.◢ ag Wi-Fi        16:27
◴ 98% ▬▬

< すてら☆あーくお泊まり組(3)
℡ ≡ 

 今日 

.瀬名 沙織

 .ハードに問題って大丈夫?. 08:02

 .危ない問題筆頭な気がするんだけど. 08:02

08:02(既読).ちょっと危なかったっぽい.

08:03(既読).だから今日か明日には買い替えて.

08:03(既読).データ移行まで済ませちゃうつもり.

.赤座 空

 .後でお話し、聞かせて下さい. 08:12

08:15(既読).………はい.

.瀬名 沙織

 .絶対だよ!!. 08:20

 

 

 

 

 

.l              

 、 。 ね な と ! ?
 →  あ  ....  ×

 ↩︎  た  な  は 空 白

 ABC  ま  や  . 

  ....^_^.... わ  、。⁈ 

123:45
100:0
101:1
102:2
103:3
104:4
105:5
106:6
107:7
108:8
109:9

 

 奥様方との熾烈な争いを覚悟しながら、覚悟が出来ずに打ちかけていた文字を消し去った。もう少し、もう少しだけ、時間が欲しかった。

 

 

 そんな葛藤を抱えつつ、マイファザーにデスソース入り餃子をお見舞いした夜。まさか首領パッチみたいに作った全てを撃ち抜いた挙句「チョロいね」なんて言うイカれた耐久力には驚いたものの、それはそれ。

 洗濯物を畳み、軽く部屋の掃除をして、風呂を洗って入り、親父の晩酌に烏龍茶で軽く付き合い、親父が寝たのを見計らって戸締り。明日の朝ごはんの用意を軽く行い、最後に水に浸けていた洗い物を済ます。

 

 そうして漸くやるべき事が落ち着いた、草木も眠るウシミツ・アワー(正確には丑の刻)。データの移行を終わらせたハイエンド機を動かすことができたのは、そんな日付けが変わった後のことだった。

 

「初期設定は……よかった、全部前のから引き継いでくれてる」

 

 後本来ならば使用前に身体スキャンや脳波の登録を始めとしたクソ面倒な手続きがあるのだが、そこら辺は全部前のギアから設定を引き継いでくれていた。HOME画面に全く知らない要素のアイコンが多数追加されていたけれど、そんなもの今は後回し。

 

 そう、色々手間取ったせいで全く勉強が出来ていないのである。色々考えたいことはある。現実でやりたいこともある。が、しかし学生の本分は勉強。幸い明日は2教科しかないとはいえ、まずはこっち優先だ。

 

「うわ、思考操作できるこれ……」

 

 旧マシンでは音声認識を使ってログインしないといけなかったのに対し、このハイエンド機はHOME画面から脳波コントロール出来るらしい。技術の進歩を感じる……あと椅子が座っててすっごい楽。何時間でもログイン出来そう。

 

「PCとのリンクは良し。それに、前と違ってスマホもリンク出来るのか……やっとこ」

 

 これで全ての準備が整った。ということでLet's goログイン。In to the Utopia Online! 今更ながら、理想郷と言うにはサツバツとしてるよなぁ。剣と魔法の世界に戦車と戦闘機もいるし。

 

「うわ、もうログイン終わった」

 

 などと思っている間にログインは終了、リスポーン地点としていた新大陸のマイホームの中に自分はいた。普段なら10秒くらいかかったログインが1秒未満ってマジ?

 もう何度目か分からない衝撃を受けつつ、どれだけ差が出来るのか試す為に空間認識能力を全開。それだけで、どれだけこれまで使っていたマシンとこのハイエンド機に差があるかを理解した。

 

「世界が、透き通ってる……」

 

 範囲内の空気中にある塵の動き1つまで認識出来るのは、前と何も変わらない。しかしそこまで探知の感度を上げても、これまでと違ってこれっぽっちも頭痛がない。それどころか、まだ何段かギアを上げられるような感覚さえある。

 学生の本分は勉強? そんなの知ったことか、今は検証が最優先だ。脳細胞がトップギアだぜ!

 

「《障壁》!」

 

 上がりに上がったテンションに任せて、コンマ数秒のズレもなく同時展開した障壁の数は1()3()2()2()()。これまでどんなに頑張っても超えられなかった4桁の壁をあっさりと超え、遂に同時展開出来る個数が1000個を超えた瞬間だった。

 実際に戦いながらとなると、多分兼ね合い的に練習して1000個前後。精密操作となると800個くらいが限界だと思うが、それでも十分。少なくともザイル先輩と戦った時よりは、格段にやれることが増えた。

 

【結論】業務用ハイエンド機しゅごい。

 

「……? あっ、あっ、ンンン!! ちょっと待って朧こんな感度上げてる時に、そんな大群で来られたら俺こわ、壊れ、そんな情報りょう処理しきれな、私にそんなの入らな──うぇっぷ」

 

 そして俺は、かなり久々にVR酔いを経験する羽目になったのだった。




 このあとめちゃくちゃ勉強した
 感想評価&コメいつもありがとうございます! 


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第187話 Vertex

1時間遅れで投稿です
完結まであと──多分10話以内


 爆発的に強化された空間認識能力のお陰で、自己採点94点で金曜日のテストを突破し、来たる12/14土曜日。

 第5回公式イベントの最終日にして、第2回イベントのマップで行われる極振りを含めた全プレイヤールール無制限のバトルロイヤル開催日。結局セナと藜さんに改めて顔を合わせたのは、そんな時間になってしまった。

 

「えっと、1日振り?」

「そう、です、ね?」

「でも正直、あんまりそんな感じしないよね!」

 

 これでも第1の街からは国外追放を受けている身なので、まだ指名手配されていないしらゆきちゃんモードで受付を済ませ、戻ってきた安住の第2の街。【すてら☆あーく】のギルドホーム。

 初のPvPイベントの大トリを飾るお祭りに参加するために、ログインしている大半のプレイヤーが始まりの街に集中しているお陰だろう。普段なら繁盛しているこの場所も、今はNPCしかいない静まり切った空間になっていた。本来ならいる筈のランさん、つららさん、れーちゃんはお祭り会場になっている第1の街から戻ってきていない。図られた。

 イベントが始まる正午まであと少し。昨日見つけた自分の本心、それを伝えるには最適なタイミングであるのだが……

 

「第2回イベントかぁ……そういえばユキくんと藜ちゃんが会ったのもあの時だったよね」

「そうです、ね。嵐の中、颯爽と、助けて、くれまし、た」

「今更ながら、ちょっと無謀だった気がしますけどね……」

 

 言葉が、出てこなかった。思った以上に自分の心の内を曝け出して、相手に気持ちを伝えることは難しいらしい。いやはや、まさか好きの2文字を改めて伝えるだけのことがここまで精神的にクるものとは思わなんだ。一応、覚悟は決めてきたはずなんだけどなぁ。

 

「……そういえば、確かイベント終わったらこことお疲れ様会みたいなのやるんだよね?」

「そだね。私とユキくんは兎も角、他のみんなはリアルで集まるにはちょっと遠いし。けどそれがどうしたの?」

「いや、そろそろ転送だし確認しておきたいなって」

 

 よし決めた。その時に全部伝える。最近TSして女の子ボディ(しらゆきちゃん)で遊んでいることも多いけど、男に二言はない。ないったらないのだ。

 でもまさか、ネトゲあるあるを当事者としてすることになるとは……いやまあギルドがギスギスするというよりは、ランさん曰く「空気がゲロ甘」なだけだからマシな気がするけど。そっちも甘いですよ、空気。

 

「そっか。じゃあ、期待して待ってるね」

「あっ、そういう、こと、ですか。ん、なら、そうします、ね?」

 

 なお、そうやって隠して決意したはずの覚悟は、当たり前のようにセナにはバレバレだった。しかも藜さんに耳打ちしたことで、そっちにもバレたらしい。あの、その、流石にそれは恥ずかしいんですが。セナさんや、もう少しこう、何というか、手心というか……

 

〈第5回公式イベント【正月礼賛、餅つき兎は最強の夢を見るか】、最終戦を開始します〉

〈プレイヤーアバターの配置位置を確定〉

〈無差別級バトルロイヤル、システムイグニッション〉

〈プレイヤーの転送を開始します〉

 

 そんなことを考えていた時だった。視界に映る、エリアボス戦の際とよく似たシステムメッセージ。それはこちらの反論や抗議を切り捨てる、時間切れのメッセージでもあった。

 しかもそうこう考えているうちに、足元には第2回イベントの時にも見た転送用と思われるマークが出現する。タイミングが完璧だが悪いったらありゃしない。

 

「でもその前に、楽しみましょう! いや、セナも藜も敵だから正々堂々?」

「だね! 見かけたら容赦はしないよ!」

「不意打ちは、狡い、です。でも、精一杯、やり、ましょう!」

 

 今までと違い、セナと同じように藜さんを呼んでサムズアップをする。"さん"付けを外すのは正直恥ずかしさがまだ残っているけれど、覚悟を決めた以上そんなものは振り切るしかないのだから。

 

 

 瞬間、僅かな暗転と浮遊感。

 いつも通りの転送される感覚が過ぎ去り、視界に映ったのは最早懐かしさを感じる特別サーバー。あの時とは違い豪雨は降っていないけれど、足元から死界の気配を悍ましいほどに感じる世界に再び俺は訪れていた。

 

〈残プレイヤー数100%〉

〈Welcome to the ProtoUtopia!〉

〈一定時間経過ごとに、マップ外縁部から生存領域を縮小します〉

〈次のフィールド縮小は5分後です〉

 

 先程と同じように目の前に展開されるシステムメッセージ。これはつまり、このバトロワはよくあるFPSゲームと同じような感じであるらしい。確かに生存領域に関しては、有ると無いとじゃ試合の長引き方がまるで別物になるだろうし、このシステムはアリか。

 

「マップに関しては……ああ、やっぱり極振りとユニークは常時位置情報がONか。一般プレイヤーは同じエリアまで来ないと分からないのに……まあ、運営からの挑戦とみた」

 

 マップに関しては大体そんな感じ。広さは現在UPOで解放されている旧大陸全てを合わせたくらいで、ビーコン付きの散らばり具合も結構いい感じ。極振りの──もっと言えば、強力な力を持った個の潰し方を運営は良く心得ておられる。そして、この程度ならば極振りやユニークにとっては誤差だろうという、運営からの信頼も感じ取れる。ならば、答えねばなるまいて。

 

「さて……運営からの暴れてもいいとのお墨付きもある以上、八つ当たりも含めて暴れさせてもらう! 変身! 天候制圧【宇宙】!」

 

 空間認識能力を最大展開、とても魔王らしいとよく言われる装備をこちらも最大展開して、これからやることに飛行能力が必須のため変身。天使の輪と翼を展開しつつ、フラットな状態にあった天候を塗り潰した。顕現させるのは【宇宙】の特殊天候。今からやろうとしていることを最大限に再現するには、この天候以外はあり得ないから。

 

「多くのプレイヤーを屠った9つの極天が、未だ最先端である事の証の為に……!」

 

 翼を大きく羽ばたかせ、紋章によるサポートも行いながら遥か上空へ向けて飛翔する。マップに名前が表示されていること、そしてこんなわかりやすい天候を展開していることから、無数のプレイヤーを示す光点がマップ上ではこちらに向かって動いている。

 

「再び最強の神話を掲げる為に……!」

 

 そんな無数のプレイヤーを尻目に、しらゆきとして普段使いしている大筒を肩に担ぐ。このTS身体には不釣り合いなほど巨大な武器だけど、今はそれこそが最高な点だ。

 堪え切れない笑みを零しつつ、手元の大筒についさっき()()()()()()()()()()()()()()()()1()/()3()()使()()()()()()()()()()を装填する。消費アイテム1個のくせに数万ポイントもするだけあって、少なくともプレビューでは甚大な威力を示していたアイテムだ。さあ、これで準備は整った。いざ、開幕の花火を上げるとしよう。

 

「星の屑、成就の為に……!」

 

 テンションのままに声を張りあげ、書き換えた天候の最上部で停止する。大きく翼を広げ頂点で静止し、タロットバフを自らに付与。自分のビーコンを辿って集まってきた遥か下方の無数のプレイヤー達に狙いを付ける。

 

「ソロモンよ! 私は帰って来たぁッ!!」

 

 そして、トリガーを引き絞った。次瞬、構えた大筒の先に発生する眩いマズルフラッシュ。確実な位置バレという代償を背負ってまで発射したのは特殊アイテム【ニュークリア・エナジー弾】、公式が悪ふざけで用意した核だった。

 

「いたぞ! 極振りだ!」

「《爆破卿》を落とせ!」

 

 早くもこの無重力空間に適応して、こちらまで上がってこようとしているプレイヤーも多いが関係ない。そちらが昇ってくるよりも、こちらの方が一手速い!

 

「どっかーん」

 

 つまらないことに効果音がなかったので、こっそりと呟いてみる。

 炸裂するのは青白い閃光。展開していた【宇宙】の天候を、【高濃度汚染地域】へと塗り替える致死の光。そして、ある程度のプレイヤーまでであれば、命中=即死の破滅の炎でもあった。

 無論、強大な力には相応の反動が伴う。今回の【ニュークリア・エナジー弾】に関しては、発射した本人すら巻き込む自爆が確定している爆発範囲。故にこれを使うならば、ガッチリと防御を固めるか逃げるしかない。最も前者はデュアル先輩や翡翠さん並みの防御力が、後者はバフが全部乗ったセナ並みの速度が必要だが。

 そして俺が取れる手段は後者のみだ。復活は天候効果的に悪手中の悪手なので、尚更逃げる以外の選択肢はない。

 

「いやぁ、気持ちいい!!」

 

 爆破を最後まで見ていられないのは無念極まりないが、ここで脱落しても仕方がない。展開していた【宇宙】の天候を解除、宇宙(そら)へ逃げようとしていたプレイヤー、逃げようとしていたプレイヤー、そしてまだ戦意を保っていたプレイヤーの梯子を外して翼を羽撃かせる。

 同時にここまで昇ってきた時同様に、《加速》の紋章を多重展開、潜り抜けることで自分を射出。大空を翔ける一条の光となって、致命の光から離脱する。

 

「苦悶を溢せ──」

 

 そんな飛翔の中、ゾワリと嫌な予感が全身を駆け巡った。この詠唱は間違いない、どこから来るかは分からないが、何処からかかは必ず来る。即死が!

 

妄想心音(ザバーニーヤ)!」

「《抜刀・上弦》!」

 

 空間認識全開、攻撃の瞬間にだけ剥がれるザイード先輩のステルスを感知して、下方から迫り上がって来た悪魔の腕に抜刀術を叩き込む。そうして叩き落とすようにして弾いた悪魔の腕(シャイターン)の先、そこには普段通りのザイード先輩の姿があった。

 

「お久しぶりですなぁ、ユキ殿。随分と可愛らしくなられたようで」

「こちらこそお久しぶりですザイードさん。【写真術】抜きでなら写真撮ってもいいですよ?」

「望遠ではありますが、先程のサイサリスしているシーンから抜かりなく撮影しておりますとも」

「流石ですね、後で買います」

 

 逆に言えばそれは、こちらの上がった探知能力を当たり前のようにすり抜けているということ。これは、思った以上に厄介かもしれない。

 

「ところで先輩、被写体にはなりますから逃してくれたりしません?」

「是非と頷きたいところではありますが、これはバトルロイヤルですからなぁ……むざむざ強力なライバルを、ここで見逃す手はありますまい」

「ですよねぇ!」

 

 ワンチャンあるかと思っての提案だったが、まあ当然のように却下されてしまった。だがこの会話のお陰で、本来の目的である時間稼ぎは達成した!

 

「それでは先輩、良き空の旅を」

「ふむ? ッ、ユキ殿、計ったな!」

「HAHAHA!」

「衝撃の、ファースト・ブリットォ!」

 

 空という彼女の領域でここまでの高速移動をすれば釣れるだろう。そんな予測通り、遙か彼方からチャンピオンが飛来した。無論その速度はTOP of TOP、お先に《加重》の紋章で急降下回避させて貰う。

 

「ハッハァーッ! その速度勝負、私も混ぜてくれないか!?」

「生憎と私は、スピード狂いではないですので!」

 

 更に2人の先輩それぞれに、ロックオンとターゲットの紋章をそれぞれを対象として付与。文字通りの効果を発揮する紋章だし、きっと時間稼ぎにはなってくれる!

 

〈残プレイヤー数84%〉

〈生存領域を縮小しました〉

〈次のフィールド縮小は7分後です〉

 

 そんなことを考えていたら、もう16%のプレイヤーが脱落していた。少なく見積もって数万人くらいは参加してるはずなのに、減少スピードが速すぎる。やっぱり極振りは隔離しなくちゃ……

 

「秘技・バゼルギウス!」

 

 なんて考えながら、翼を広げて滑空しつつ爆弾をばら撒いていく。しかもなんとびっくりナパーム弾仕様。ふぅ……やっぱり朝のナパームは格別だな。

 

「エクスプロージョン!」

 

 そうして飛行しながら逃亡の一手を打つこと数分。かなり遠くにだが、まだ爆破していないのに炎上している森林を発見した。……なるほど、今度はにゃしい先輩か。すごく小さいな声だったけど、間違いなくいつものが聞こえた上に、爆裂が見えたし。

 ならば話は早い。こっちが気持ちよくサイサリスできた以上、もう悔いはそんなにない。面白そうだし手伝いに行こう。そう判断してナパーム弾の投下を中止。ステルスも解いて、加速の紋章で再度自分を射出した。

 

「おや、ユッキーちょうど良いところに。折角のお祭り、史上最大の爆裂を決めたいのでバフを下さい」

「ガッテン承知! 守りとバフは任せてください」

 

 そうして突入した炎上する森の中。運営の悲鳴を幻聴として聴きながら、両手で杖を構えるにゃしい先輩の元にたどり着いた。天候表記は【星火燎原】、先輩の足元に散らばるMP回復アイテムからして、最大限までチャージをしているといったところか。

 

「こちらから提案しておいてなんなのですが、ユッキーは私が後ろから刺すとか考えないのですか?」

「さっき核を撃って最大の爆破キメてきたので、それならそれで悔いはないですから!」

「くっ、よもや先に1人だけ気持ちよくなっていたとは……!」

 

 ぐぬぬと言いたげな顔でにゃしい先輩が言うが、そこはサポート極振りとして最大限補助をするから許して欲しいところだ。

 

「こうなったら私も負けていられません! 普段は威力に全てを割り振っている魔法拡大を、範囲と発動時間、射程の3つにも最大振りです。ええいユッキー、ちゃんと守って下さいよ!」

「アキさん相手以外ならお任せください!」

 

 言ってサムズアップをすれば、サムズアップで返ってきた。こういうにゃしい先輩のノリは嫌いじゃない。そうして笑みを浮かべた先輩の足元と頭上に展開される、巨大な巨大な魔法陣。ついこの前の極振りエキシビションで見たよりも遥かに巨大なそれは、明らかにこれから起こる惨劇の規模が尋常ではないことを示していた。

 

「黒より黒く闇より暗き漆黒に、我が深紅の混淆(こんこう)を望みたもう。覚醒のとき来たれり。無謬(むびゅう)の境界に落ちし理。無行(むぎょう)の歪みとなりて現出せよ!」

 

 珍しく原典に忠実なノンアレンジの詠唱。それに耳を澄ませていると、最大限まで広げていた探知範囲に1つの影が映り込んだ。モンスターのリポップだ。

 捩くれた巨大な1対の角、しなやかな筋肉の鎧を纏った脚、赤く光る眼に、何らかの紋様が浮かんでいる黒褐色の毛皮。間違いない、初めて藜さんと会った時に討伐した、【The Hades horn deer】に違いない。

 そしてそのシカは、明らかに探知越しに俺を見た。この森を炎上させているにゃしい先輩よりも、直接見ている俺の方がターゲットを取ってしまったらしい。好都合だが。

 

「よし、朧! Go!」

《了》

 

 しかしあの時とは違い、今の(おれ)には頼れる相棒がいる。燃え盛る木々を蹴散らし突撃を開始したシカに対して、呼び出した朧が続々と分身。突撃を開始した。

 瞬く間に自爆でシカをボロボロに削っていく朧(分身)に朧(本体)を撫でていると、何故か背後にいるにゃしい先輩が浮かび上がっていた。爆炎を背負ったその姿は、間違いなく極振りエキシビションで見たペットを最大解放した姿。

 

「踊れ踊れ踊れ、我が力の奔流に望むは崩壊なり。並ぶ者なき崩壊なり。万象等しく灰塵(かいじん)に帰し、深淵より来たれ!

 龍の魂秘めし杖よ、その神威を我の前に示せ

 契約の下、にゃしいが命じる!

 原初の崩壊、永劫の鉄槌をこの手の内に!」

 

 それに合わせてこちらも飛行。かなり良く視界の取れる場所まで昇った先輩の隣で、こちらに向けて無数に発射される木の枝を障壁で弾き落とす。……トレントなんて居たんだ、このマップ。

 

「爆破と爆裂、宗派は違えど今は手と手を取り合う時! 目標地点はあの遠くにあるプレイヤーの合戦場、東経105(ヒトマルゴ)北緯20(フタマル)地点ロの2です!」

「またベトナムが巻き込まれてる……」

「さあユッキー、一緒に万歳爆裂しますよ!」

「了解です。紋章付与、バフ最大! 30秒しかないので狙いは慎重にお願いしますよ」

 

 言って、拳を打ち合わせる。背景に山があるお陰で、きっと凄まじく映える爆裂になることだろう。スクショじゃなくてムービー起動しておこう。

 

「「エクス、プロージョンッ!!!」」

 

 折角なのでこちらも杖を取り出し、にゃしい先輩と対称のポーズになるように前方へ突き出した。

 天に形成された虹色に輝く火球。それが魔法陣を通して変形収束、敵を滅却せんとダウンバーストのように目標地点に叩き落とされた。しかもその虹焔の波濤は、エキシビション戦の時とは違い誰に邪魔されることもなく炸裂する。

 発生するのは人為的な天災、先程こちらがやったサイサリスる(動詞)ことに勝るとも劣らぬ大災害。具体的には、山岳やその周囲全てを焼き尽くしたことで、この爆裂で()()()()()()()()()()()1()0()%()()()()()()()()()

 

「「バンザァァィァァイッ!!!」」

 

 いぇいと両手でハイタッチをすれば、山岳を背景に爆裂の影響でそこが見えぬ大穴が空いた大地と何も無くなった焦土が、視線の先で圧倒的な存在感を主張していた。

 しかしこの時、(おれ)もにゃしい先輩も忘れていたのだ。ここまでの大破壊が何を齎すのか。そして、UPOには彼がいることを。

 

「──そうか、見つけたぞ《爆裂娘》《爆破卿》」

 

 ムービーを切ろうと手を伸ばした瞬間、総身を駆け巡る死の気配。間違いなくこれは()()()()と、第六感のような部分で感じ取って──

 

特化付与(オーバーエンチャント)閃光(ケラウノス)!」

 

 聞こえるはずのない鋼の詠唱(ランゲージ)を最後に、山岳を真っ二つに割断する黄金の爆光が俺と先輩を呑み込んだ。

 




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第188話 Vertex②

 なおこのお祭りも、消費型アイテム(回復薬とか爆薬とか弾丸とか)以外はリタイア後に復活します。じゃないとこんなやつら(極振り)を相手に出来ませんので。
 あと、暫く更新時間が不定期になります


特化付与(オーバーエンチャント)閃光(ケラウノス)!」

 

 聞こえるはずのない鋼の詠唱(ランゲージ)、山岳を真っ二つに割断する黄金の爆光。そんな明確な死が迫っている状況でも、思った以上に身体は動いてくれた。

 このバトロワ中のみとはいえ装備全ロスは泣いてしまうので、メニューを開き装備変更をクリック。どうせ防御力は変わらないのだと、編成セットを呼び出し全装備を外したセンシティブなインナー姿へ。そして今仕舞った付喪神系のペット達と影の中にいる朔月はともかく、このままだと朧が間違いなく死ぬ。それは心情的にも戦力的にもあまりにも心許なくなるため、《加速》の紋章を多重付与して緊急回避。

 

 それまでを並行しながら一呼吸で終えた直後、光が全てを飲み込んだ。にゃしい先輩? なんか恍惚としてたので多分ダメだと思う。そして何より、アキさんの斬撃は()()()()()()()()()。故に本来ならば、これで俺も終わりなのだが──

 

「持っていかれた……ッ!!」

 

 随分と距離もあったお陰で、威力はかなり減衰してくれていた。それでも体感で、残っている残機が凡そ100くらいにまで削られている。

 そして改めて装備をセットし直しながら辺りを見回してみれば、地面に刻まれているのは底の見えない深い深い斬烈痕。当然にゃしい先輩の姿は何処にも無かった。ビーコンも消えている。

 

「山が……()()()()

 

 そして何より驚きなのがそれだった。正真正銘嘘偽りなく。僅かに傾いた一文字の線に従って、山がズレていた。標高を世界3位に修正……そういえばUPO内で一番標高の高い山って何処なのだろうか。レンさんに後で聞いてみよう。

 

〈残プレイヤー数64%〉

 

 その被害の規模は、また減少したプレイヤー数から推して知るべし。当然他のプレイヤー同士の戦いや、別の先輩方のやらかしも考えられるが、それでも間違いなく影響は及ぼしているだろう。

 

「β版以来だが、不完全な俺でも問題なく斬れるらしい」

「案の定、昔から強烈なんですね。閣下のケラウノスは」

 

 耳に届いた言葉に軽口を返しながら振り返れば、こちらと同じように紋章の上に立つアキさんの姿が。アストTAを何度も共に繰り返してきたからわかる。これは殺る気だ、逃してくれそうにもない。

 

「止せ、今の俺ではまだあの方を名乗るには余りに力不足だ」

「もしもこの世界に名乗れる人がいれば、世界は滅亡まっしぐらですよ。まあ、言って止まるとは思いませんが」

 

 結構最近の話だが、偉人や歴史上の人物の人生を追体験するタイプのフルダイブVRソフトが発売されたのだ。アキさんのRP元のような人物がいてしまえば、RP元の作品で語られていた通り世界は滅亡まっしぐらだろう。

 

「違いない」

「そうですよね……ところで、念のため聞きますが何の御用で?」

「エキシビション開催前、トーナメントで相見えることを約束しただろう。かつての我らが最強を打ち破ったその力、一度手合わせ願おうか」

「仕方ありませんか……」

 

 勝てるビジョンが浮かばないが、やらなければ何も解決しない。ため息を一つ吐いて、しらゆきちゃんモードでしか展開したことのなかった翼を展開する。

 爆弾の量が少ないため手数の水増しに展開したのだが……普段は純白である筈の天使の翼は、灼け爛れた黒い物になっていた。そしてほんのり香る火薬スメル、あーそういうことね完全に理解した。

 

「ザイル先輩とレンさんと戦った時に爆弾は使い果たしてるので、あの時と完全に同じとはいきませんが。それでもいいなら」

「ああ、問題ない。そもそも互いに、一撃でも擦ればそれで即死だ。爆弾の威力の過多に意味はない」

 

 それをレコードホルダーのアキさんが言ったら世話ないでしょうと、ツッコミを入れたくなったが我慢する。確かにアキさんの域にまでなると、ダメージの振れ幅が数億ベースで数千万だろうしなぁ……確かにダメージの過多はもう意味がないレベルかもしれない。

 

「だが、1つ聞かせて貰おう。何故変身しない、ユキ。客観的に見た場合でも実際に戦った相手からの評価でも、貴様の最強の形態はあの姿だろう。舐めているのか?」

「いいえ、全く。この際なんで言いますけど、俺の場合TSフォームを使う最大の理由がAglと手数の豊富さなんですよね」

 

 言いながら、改めてタロットバフを自分にかける。これでステータス的には、レンさんと戦ったあの時と大きな差はない。Aglを除いて。

 

「でもこの通り、今は肝の機動力が死んでるので」

 

 言って指さした先、黒い腕が無数に絡みに絡んだ自分の脚がそこにはある。リスポン用のスキル【常世ノ呪イ】のデメリット効果だ。具体的にはAglの値が平均値分配で上がっているところから、マイナスされすぎて0になっている。これではもう、普段と何ら変わりのない速度しか出すことはできない。

 

「なるほど、理解した。それが今の貴様の全力か」

「ええ、間違いなく今の全力です」

 

 確かにあのフル装備で固めれば、最前線組と同じ全ダメージ7割カットは得ることが出来る。魔法火力も上がるし、性能の全体的な平均値も底上げできる。

 それはレンさん相手であれば、風や雷を防いだり削りダメージのリジェネなどに役立つだろう。しかしアキさんの攻撃は全てが一撃必殺なのだ、そんな生半可な総合値なんてものは全て意味を成さない。だったらまだ、この一番動かしやすい現実と同等の姿でDexに特化した状態の方が遥かにマシである。

 

「どうします? このまま空中で戦うか、それとも地上か」

「このままで構わん。その方が、ユキも戦い易いだろう?」

「そうですね、助かります。朧もお願い」

《了。奮迅》

 

 言いながら魔導書30冊を展開しながら、一撃必殺の刀を肩に担ぐようにして固定。両手には着火済みの爆弾を抱え込み、紋章による自己バフを最大付与。戻ってきてくれた朧も、気合は十分らしい。さあ、気分は嵐の守護者でSISTEMA C.A.I.、残念ながら炎も指輪も存在しないが、これから最強に挑むに当たって精神的なコンディションは万全。

 

「いざ、尋常に──」

「勝負!」

 

 極振りエキシビション番外戦、開幕。

 当然のように先手はアキさんに奪われた。こちらと同じように足場にしていた紋章を爆散させながら加速し、一息にこちらに向けて駆け上がってくる。速くて、鋭くて、迷いがない動き。この前までならば影を捉えるので精一杯だったけれど今は違う。動きが見える、予測ができる、次に起こる未来が見える。……そして、紋章術の扱いだけならば、俺の方に軍配が上がる!

 

「そこ!」

 

 ありったけの爆弾をばら撒くことでアキさんの侵攻ルートを固定、その絞ったルートを何故か黒く染まった翼から出せるビームで射撃、また片手に握った《新月》*1で乱れ打つが、案の定その全てが意味を成していない。何一つの例外なく、身のこなしのみで回避されるか極光斬で浄滅させられる。

 アキなら出来たぞ? アキなら出来たぞ? アキなら出来たぞ? そんな言葉さえ耳に聞こえてくるような圧倒的理不尽。しかし同時に、この人ならば仕方ないと思える程の信頼感。肩を並べて記録を競っていた時とは違う、止まることのない鋼の進撃。ああ、素晴らしきかな。やっとコレと相対出来たと、思わず頬が釣り上がる。

 

「朧!」

 

 だからこそ、完全なる詰みの盤面を形成する。爆破時間を調整した爆竹を爆弾幕によるルート固定に紛れ込ませて配置しつつ、数百にわたる朧の分身が自爆特攻を開始する。当然そんな程度のもの、7割はアキさんに吹き飛ばされるがそれでいい。本命の1割さえ残っていればこの作戦は成立する。

 無数の爆破を組み合わせて爆風と破片の届かない空間を形成するのと同じように、逆に生まれる安全地帯を全て潰す空間爆破。朧のお陰で成立させることが出来た必技。一般プレイヤーならば決まった時点で即死、例え極振りでも致命傷は免れない筈の技が、起爆し──

 

「まだだ!」

 

 なかった。

 

 世界に轟く聖3文字。気合と根性を振り絞ることで、VRアバターの反応速度を跳ね上げたアキさんがその全てを薙ぎ払う。朧の分身も、爆弾も、爆風も、光弾も、弾丸も、何もかもが鋼の光輝に消し飛ばされる。ああ、そうだ、これだ、これでこそアキさんだ。英雄はこうでなくちゃ!

 

「まだだぁ!!」

《補助》

 

 だからこそ、こちらも返そう大先輩。同じように魔法の言葉を叫びつつ、温存していたユニークアイテムを全開放。クラスター爆弾と集約爆弾、その2種類を朧に頼んで飛翔させる。それだけじゃない、残っていた核も全放出だ。後で致命的な影響こそ受けるけれど、こんなに楽しいのだから躊躇っていい筈がない。そして何より、こんな程度の試練アキさんならば乗り越えてくれると信じているから──

 

「何処ぞの魔王によく似ている。特に、そんな物を持ち出してくる辺り」

「何ならさっきまで万歳も叫んでましたからね!!」

 

 その全てが、やはり起爆前に斬り捨てられた。ああ、ゾクゾクする。この理不尽は。どれだけこちらが頑張って何をしても、まだだの一言でぶち壊すいい加減さ。ゲームでこんなことしていいのかと思うほどのそれを、間違いなくしてくると知っていたから。この最後の時間稼ぎに間に合った。

 

「まだまだその強さを俺に見せて下さい! ロッズ・フロォム・ゴォォォォォッド!」

 

 それは本来ならば、衛星軌道上から質量爆弾を発射するという馬鹿げた兵器の名前。しかしそんな物はUPOにはなく、故に丁度いい存在を紋章で作った加速器に誘導して射出した。

 空高く、真っ赤な流星となって墜落してきたのはレンさん。ザイードさんを倒したのか、丁度こちらに向かって高速で向かってきていたので利用させてもらった。

 アバターを構成するポリゴンが完全にブレて崩れているが、その代償を糧に間違いなく威力は絶大でハッピー。本人もスピードの向こうが見えてるからハッピー。Win-Winの筈だ。本人の同意は取ってないけれど!

 

「──まだだ」

 

 そんなに、テンションが上がっていたせいだろう。

 俺は1つ大切なことを忘れていた。

 

「全ては"勝利"を掴むために、今こそ俺は創世の火を掲げよう」

「げっ」

 

 レンさんストライクが直撃し、アキさん自身が爆散。レンさんも遠く大地の底へ吹き飛んでいった直後、当然の様に響き渡るアキさんの声。そうだ、何せまだ戦闘開始から……否、特化付与(オーバーエンチャント)閃光(ケラウノス)が再発動されてから20秒経っていない。

 

 故に、こうなる。

 

 爆炎の向こうからその姿は、数秒前までのアキさんとは異なったもの。長く伸びた髪を一まとめにした金髪、顔から傷は消え、何処となく高くなったような声。そして何より、軍服然とした格好から変化した、太陽のような鎧具足。頭上に浮かぶ、37、36、35、と減少し続ける数字は間違いない。

 

特化付与(オーバーエンチャント)烈光星(アルカディア)!」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()。ただ同時に、こうなってはもう何をどうすることもできない。鋼の英雄ではなく怒りの救世主は、何をどうしても止まらない。だってヒーローは無敵だから、悪は滅びるしかないのだ。

 

「さて、切り札を切りましょうか!!」

 

 予想外だが、予想内。そっちの対策もなくはない。何せここはあの世界、俺に【常世ノ呪イ】なんてスキルを付与した存在がいる世界だ。本来ならば出来ることでは無いが、この世界で、ここまであの世界にいるあの女に脚を引かれていて、地下深くまで刻まれた傷跡があるこの場所ならば──やれる!

 

「《紋章創造》!」

 

 あの時と同じ様に、紋章をこの場で創造する。ベースはれーちゃんの使う【召喚術(異貌)】のスキル。その召喚部分の設定を取り出し、接続先を《死界》へ変更。当然設定がエラーを吐き出すが、それで良い。この状況ならば、一瞬そちらに接続するだけで勝手に出てくるだろう? 

 

「終段・顕象!」

 

 残ったMP全てを総動員して、足元の空間に巨大な紋章を描き出す。当然これはエラー設定の出ている紋章、描くことは出来ても効果はない。故に、維持すら出来ずに霧散しようとして──地面から滲み出た赤色の鳥居の群れが、それを繋ぎ止めた。

 

『アぁアァァあぁぁああッ──!!』

「爆破卿……貴様、何を呼び出した」

 

 こちらのリソース全てを使った弾幕を()()抜けたアキさんが、忌々しげに呟いた。

 まず出現したのは、所々が腐り落ち骨を露出させた、1枚だけの翼を持った巨大なクサリヘビの様な怪物。それが何頭も無理矢理合成されて、八岐大蛇の様に変貌した化け物。身の毛もよだつ悍ましい咆哮を発するそれの上に騎乗する存在こそ、おそらく俺と藜さんしか見たことのない、UPO最古のレイドボスの片割れ!

 

『漸ク、見ツケたワ!』

 

 その存在は、異形だった。正中線から右はグズグズに溶け落ち、左は完全に白骨化している顔。獣の様な黄色に染まりギョロギョロと動き回る右眼に、ポッカリと眼窩に黒い穴が空いているのみで元の名残は存在しない左眼。元は綺麗だったと思しきボロ切れの様な和服に、手の先から得体の知れない液体をボタボタと落としている。堪えようのない腐臭が漂よわせるその存在こそ、俺が普段展開している【死界】の主人。

 

「ドーモ、【伊邪那美之姫】=サン。《爆破卿》です」

 

 八岐大蛇側に展開されたHPバーは8段、伊邪那美之姫自身が持つHPバーは10段。当然の様に天候は【死界】一色に塗り潰され、大地の底からは死霊とゾンビとスケルトンと……数え切れない程の使者の軍勢が浮上を始めている。

 

「驚きはしたが、この程度か?」

 

 これで、アキさんの残り時間は削り切れる。そう思った瞬間だった。

 閃く線状にまで収束された焔光双刃。それがたったの1撃で八岐大蛇のHPバー1つを消し飛ばし、8回の攻撃で八岐大蛇自体を斬滅した。

 

「……あっ、そっか。オーバーダメージ無効が無いから」

 

 今のボスには標準搭載されている、レイドボスがワンパンされない為の耐性。それがこの頃のボスには存在しないことを失念していた。ああ、駄目だ。そんなんじゃ、10秒もアキさんを足止め出来ない。

 

『クッ、邪魔ヲシテ──ッ!!』

「邪魔なのは貴様だ」

 

 死界(せかい)が砕ける、神羅が滅ぶ。伊邪那美之姫の操る骨の群生による攻撃を真正面から全て斬り伏せて、進撃するアキさんという異常な光景。それでも僅かながらに拮抗したのは、レイドボスの意地だろうか? しかしそれも、死界という世界が砕かれることで覗いた青空(スカイフィールド)に打ち砕かれる。

 

『オノレオノレオノレオノレオノレェェェェ!!!』

「“勝つ”のは俺だ」

 

 遂に辿り着いたレイドボス本体に振われる焔光刃。今度も変わらずきっかり10回、たったそれだけで伊邪那美之姫はバラバラに砕け散った。アキさんの残り時間は21秒、やっぱり10秒くらいしか時間を稼げてない。だがまだ、まだ終わっていない!

 

「【神格招来】、来たれクトゥグア!」

 

 伊邪那美之姫を使って稼いだ時間の間に、天に描いた紋章が大きく燃え上がった。そうして現れるのは、またも異界に通じる召喚門。一目で強大と理解させられる炎を背景に、()()()()中に三つの花弁状の炎を見せる宙に浮かぶ炎環が割り込むようにして現れた。表示された名前は【The Elder Thing Yomagn'tho】、確認できるHPバーが20段はあるレイドボス。

 

「それは、既に見たことがあるぞ」

 

 だが、それだけだった。ザイル先輩に出来たのだから、アキさんに出来ない通りはない。たった一撃。たった一撃で20段も存在していたHPバーが砕け散った。

 

〈【常世ノ呪イ】が【常世ノ呪イⅡ】にアップデートされました〉

 

 知らんがな。今はそんなことよりも生き残ることが最優先。残り17秒を何としてでも戦わなければ生き残れない。だがしかし、現実は無常だ。こちらのリソースはとっくに尽きていて、逃げることすらもう出来ない。

 

 ならば、やれることは残り1つ。

 一撃でいい、真正面からアキさんの攻撃を相殺して打ち破るほかない。

 

 それに使える技は、俺の手札の中ではアキさんと同じく抜刀術のみ。

 

 集中し過ぎてゆっくりと流れる時間の中、僅かに回復したMPを全て注ぎ込み紋章を担いだ鞘に展開。抜刀術の最大火力を生む(アーツ)コンボも使用。【ドリームキャッチャー】のスキルで朧を初めとしたペットからデバフを吸収し、更に火力を上乗せ。その後朧には退避してもらいながら、更に魔法で自己バフを重ねがけ。

 最後に《殉教(まるちり)》の(アーツ)も起動。次の攻撃終了時の即死と自身のVit・Min・Int・Aglの値を0にして、次の一撃の与ダメを3倍にしかつ防御貫通効果を付与させる自爆技。だが、これが無いとダメージレースに追いつけないのだから仕方ない。どうせ失敗したらリタイアは確実なのだし。

 

 使う技は、向こうと同様《奥義抜刀・王道楽土》。ただしこちらは紋章と内部機構による加速、彼方はちょっと原理が理解できない力任せの謎加速。だがしかし、火力はお互い30,000がベースな以上互角のはず!

 

電磁抜刀(レールガン)ーー(まがつ)!」

「天魔覆滅──秘剣・迦具土神ィィ!」

 

 抜刀

 

 激突

 

 紫電と光焔がぶつかって──その瞬間に気がついた。ああ、これは駄目だと。

 

「お見事!」

 

 砕け散る愛刀の刃。自分を真っ二つにする光焔刃。その全てを感じながら、残機が削り切られる音を聞いた。

 

〈残プレイヤー数25%〉

〈生存領域を縮小しました〉

〈次のフィールド縮小は7分後です〉

 

*1
杖(対物銃)




【悲報】バトルロイヤル開始10数分で、参加プレイヤーの75%がリタイア

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第189話 Vertex③

 煉獄さんが命を燃やせって言ってたので初投稿です(一昨日、昨日も投稿してます)


〈残プレイヤー数25%〉

〈生存領域を縮小しました〉

〈次のフィールド縮小は7分後です〉

 

 その表示が見えている、そのこと自体が異常だった。何せ自分は、あのアキさんの刃に断たれたのだ。あの残機にまで威力が届く刃でだ。ならば何故、自分はまだバトロワのフィールド内にいる。

 

「一体、何で……?」

「そうか、これを耐えるか」

 

 こっちが驚きで思考停止している間に、アキさんの頭上に浮かんでいた数字が0に落ちる。時間切れ、逃げ切り勝利。負けたと思っていたのに生きていたお陰で勝つという、余りにも不本意極まりない決着だった。

 

「この戦いが終わったら、ぜひ仕組みを教えて貰いたいものだ。──次は、狼の冬(フィンブルヴェトル)でも用意しておくとしよう」

「え、あ、はい。お手伝いします?」

 

 アキさんが頷き、その全身が炎に包また。これまでの勢いが、まるで太陽を目指した蝋翼(イカロス)の飛翔であったように。僅か一瞬で呆気なく燃え尽きた。

 

「えー……」

 

 何とも言えない後味の悪さが口の中に広がる。いや、俺の負けで良かっただろうコレは。とは言え生き残ってしまった以上、このままぽっくりと死ぬのはアキさんに申し訳が立たないし……

 取り敢えず、戦闘が終わったことでどうしようもない復活のデメリットをどうにかする為に、装備を呪い装備のセットに変更。なけなしのMPを使い地面に軟着陸した時に、異常に見当がついた。

 

〈【常世ノ呪イ】が【常世ノ呪イⅡ】にアップデートされました〉

 

 先ほど叩き斬られる前に見たあのシステムメッセージ。どう考えてもアレが原因としか考えようがない。そう思いメニュー画面を開いてみれば、思っていた以上に何もかもがアップデートされていた。

 

【常世ノ呪イⅡ】

 口惜しや、あな口惜しや……この怨みはらさでおくべきか

 自身のHPが0になった時、確率で10%の値でHPを回復させ復活する。復活する度、蘇生確率は減少する。復活確率はLukの値に依存する。

 復活後、自身に腐蝕・獄毒・祟り・汚染の状態異常を付与する。また、復活の度に移動速度を10%ずつ低下させる。この効果で移動不能にはならない。

 また、復活効果を貫通してダメージを与える攻撃を受けた場合1度だけ、死界の展開をリセットし全基礎ステータスを0にすることで復活する。この効果で復活後死亡した場合、デスペナルティの時間が通常の5倍となり、直近5レベル分の経験値を失う(レベルダウンが発生する場合もある)

 

 Luk以外の全ステータス-80%

 

 効果時間 : 戦闘終了

     /最後の発動から時間が30分経過

==============================

【穢土ノ呼ビ声】(長杖)

 Luk +200

 属性:闇

 状態異常:死界

 状態異常付与/被付与確定

 逆十字(任意トリガー:一定範囲内の全てに状態異常を分配する)

 被ダメージ7倍

 耐久値 : なし

【穢土ノ鴉】(サブ装備)

 Luk +200

 属性:闇

 状態異常:死界

 飛行 思考操作 視覚同期

 ペット/テイムモンスターへの特殊効果無効

 被ダメージ6倍

 耐久値:なし

============================== 

【咒ノ耳飾リ】(頭)

 Luk +100

 自動MP回復(極大)

 空間認識能力補助(極大)

 被ダメージ5倍

 耐久値 : なし

【常世ノ襤褸切レ】(胴)

 Luk +250

 属性耐性が減少(耐性-500%)

 回復効果反転

 闇属性吸収

 被ダメージ6倍

 耐久値 : なし

【怨霊ノ数珠】(手)

 Luk +150

 状態異常範囲拡大(極)

 範囲状態異常吸収

 被ダメージ5倍

 耐久値 : なし

【朽チタ闇】(脚)

 Luk +150

 状態異常効果反転

 被視認時相手に幻惑を付与

 被ダメージ6倍

 耐久値 : なし

【擦リ切レタ草鞋】(靴)

 Luk +150

 天候制圧 : 死界

 魔法詠唱時間-100%

 被ダメージ5倍

 耐久値 : なし

 ※セット効果(常世)

  被ダメージ10倍(累計50倍)

  状態異常重複/回復不可

  非戦闘時HP全損無効

============================== 

 

 装備の見た目は変わらずだ。お札っぽい感触の小さな耳飾りに、全身を覆い隠すような闇色のボロ切れと、右手にだけ存在する禍々しい気配を発する黒い数珠。コートの下をゲームのCEROレーティング的に満たす闇に、素足の足首に巻かれた藁の残骸。そしてかなり広がっていた筈の死界の展開領域は、表皮一枚分程度の最低限にまで戻っている。

 

 詰まるところ、なんだ。簡単に纏めるならば、アキさんの攻撃でも1回だけは死なないようになって、これまであまり使う機会のなかった呪いの備品も強化パッチが当てられたと。そういう認識でいいのだろうか? 取り敢えず鴉は飛ばして警戒に出しておく。

 

「不本意とはいえなんという、なんというナチュラル(クソ)野郎……!!」

 

 握った拳を地面に叩きつけようとして、多分それをしたら死ぬので動きを止める。これでは感動の勝利を迎えた後、敵が相手を褒めながらぬけぬけと蘇生するのと同じようなものだ。無粋の極みでしかない。

 

「スキル説明を見た感じ、あんな感じに撃退したのが理由なんだろうけど……」

 

 よくもまあ、あの勝負に水を刺してくれたものだ。熱狂が一気に冷めてしまった。また死界に乗り込んで大暴れでもしてやろうか。いやでも、まだ流石にリポップしてないだろうなぁ。

 

「……取り敢えず、最後までやろう。朧、ヴァンー」

《呼?》

 

 幸いにして装備がアップデートされていたお陰で、これまで装備との相性が最悪だったペットが召喚できるようになっている。普段装備に取り憑いている付喪神系列の子たちと影の中にいる朔月は巻き込まれてしまっていたが、退避してもらっていた朧と召喚していない愛車(ヴァン)は生きていた。

 ステータスは固定値のLuk以外0に固定されているけど、これならそうそう死ぬことはないだろう。特に立ってるだけで死ぬことがなくなったのがあまりにもえらい。戦闘は駄目みたいだが。

 

「久し振りにソロだし、適当にぶらつこっか」

《喜》

 

 馬がいななく様にエンジン音を響かせる愛車に跨がれば、初めてこの世界(サーバー)に来た時を思い出すスタイルだ。サイドカーは……今回はいいか。

 さて次はどうしようとマップを開けば、かなり最初に見た時と地形が変わっていた。特に爆裂痕核爆発痕ズレた山と大地の裂け目が極めて目立っている。ひどい……い、一体誰がこんなことを……!!

 

 冗談はさておき、ユニーク称号持ちと極振り全員についていた筈のビーコンは大きくその数を減少させていた。全員参加していれば29個ある筈のビーコンはすでに11個。極振りで残っているのは、俺、センタさん、デュアルさん、翡翠さんにザイル先輩。ユニーク持ちは【舞姫】【マナマスター】【オーバーロード】【ナイトシーカー】【牧場主】だけだった。ユニーク称号1期組の低生存率よ。

 

「えっと? 翡翠さんとしぐれさん(【牧場主】)は揃って天界にいて、セナと藜さんはこっちに向かって来てる最中。カオルさん(【ナイトシーカー】)はほぼ一箇所から動いてないから、多分ダンジョンアタック中。デュアルさんと【マナマスター】の人たちは……」

 

 マップ上、激しく交錯するビーコンの位置が見える高さに鴉を移動させ、《望遠》の紋章を展開させつつお試しで視覚を同期。片目を閉じることで、ハッキリと鴉の視界で世界が見える。前は杖が変形する形だったのに便利になったなぁと感心しながら、併せた紋章のお陰で見えたのは──

 

「何か凄い戦いしてる」

 

 絶対現実では実現することのできないUFO軌道を描いて飛翔するF-15イーグルっぽい戦闘機と、地上から上空に射出→上空から地上へ射出というジグザグ軌道で突進攻撃を繰り返し、時には∞のような軌道も描いて動くデュアルさんの姿。

 足元にまだポリゴン化してない戦車やバイク、戦闘機の破片が散らばってるあたり、いつもの機械化ギルド組で挑んでいたっぽい。そしてよく見てみれば、デュアルさんも相当ボロボロだ。HP4割は確実に切ってるんじゃないだろうか、アレ。

 

 愛車を転がしながらそんな決戦を見守ること数分。遂にデュアルさんの突進攻撃が戦闘機を捉えた。結果、弾薬にでも引火したのか発生する盛大な爆発。相当量の弾薬を消費した後だったのだろう、残念ながら24爆破ポイント。

 

〈残プレイヤー数14%〉

〈生存領域を縮小しました〉

〈次のフィールド縮小は4分後です〉

 

 などとボーッと見ていた時だった。視界に映るシステムアナウンス、そしてデュアルさんのいた場所を紅色の光が飲み込んだ。しかしあの場にいるのはデュアルさんだ、ボロボロだったとは言えすぐに生存圏内に戻ってくるだろう。

 

「はい……?」

 

 そんなこちらの予測を裏切って、赤い光の中に溶けるようにしてデュアルさんのアバターは消えていった。そして同時に、マップ上に存在していたビーコンも消える。それはつまり、この生存領域縮小は問答無用の即死ギミックであることを明瞭に示していた。

 

「やっと見つけたぞ《爆破卿》!」

 

 思った以上に厳しくなりそうな生存競争の予想に頬を引き攣らせていると、前方からそんな言葉が投げつけられた。全く聞き覚えのないその声代わり前の女性の声にあたりを見回すが、声の主の姿はない。

 

「ここであったが百年目! 食らうがいい我最強奥義!」

 

 ならばと空間認識能力の深度を上げれば、自分たちのすぐ隣。何処か走り方が男っぽい女性3人による騎馬の上に乗った、背の低い女の子としか言えない姿のプレイヤーがいた。

 その手に構えられているのは、これまで見たことがないほど文字が重なり、最早魔法陣の様相を呈している紋章。直前のセリフと使うこの状況から考えて、それは間違いなく致命的な何か。紋章術には暴発以外のダメージソースはないとは言え、今の俺は新呪いの装備により状態異常の付与/被付与が確定している状況。対抗するための武器もなく、爆弾も1つたりとも残っていない。つまり受けるしかない。

 

 そこで問題だ! この限られた手札の中でどうやってあの攻撃をかわすか?

 3(たく)―ひとつだけ選びなさい

 (こた)え①賢い可愛いしらゆきちゃんに成り突如反撃のアイデアがひらめく

 (こた)え②仲間がきて助けてくれる

 (こた)え③かわせない。現実は非情である。

 

 どうせなら答え②に丸をつけたいところだけど、さっきマップ上で見たセナと藜さんの場所はまだ遠い。加速紋章か極振り並みの足があるならば別の話になるが、漫画のように間一髪助けてくれる訳にはいかない。やはり答えは、①しかない!

 

「ヴァンッ!」

 

 前輪のブレーキを全力で掛けながらハンドルを切り、前方に重心を寄せて身体を横にバンク。愛車の意思による助けと紋章のレールを辿らせることで、無理矢理後輪を浮かせて旋回。フルスイングしたバットのように、並走していた騎馬に向けて攻撃を放つ──

 

「「「《障壁》!!!」」」

 

 が、ダメだ。一手遅い。俺のような異常な使用方法ではない、至って普通の障壁。騎馬となっている3人によって張られた防壁が、完全に後輪によるフルスイングを防いでしまった。

 

 絶望! 突きつけられた答えは③ッ! 現実は非情なりッ!!

 

「必殺!『萌え♡萌え♡美少女化ビーム』!!」

 

 そして技名が絶望的にダサい、しかし意味だけは端的に示している桃色の光線が放たれた。どういう原理か一瞬だけこちらの動きが止まり、行動ができなくなる。

 そんなショッキングピンクの光の中、自分の体が愛車から投げ出される感覚を感じた。そんな落下事故死なんて無様な死に方はしたくないので、翼を展開して飛行を開始する。

 

「各員散開! 必ずスクショを収めろ!」

 

 その隙に騎馬を組んでいた3人とトップの少女が、バラバラの4方向に向けて離脱。スクショタイムとはこれ如何に? ショッキングピンクのフラッシュが晴れたと同時、そんな俺の疑問は晴れることになった。

 

「よくもやってく、れ──え……?」

 

 装備は全てそのままに、何故か俺はユキの姿からTS体のしらゆきの姿に変更させられていた。無論装備はそのままの、女性アバターで装備していると破廉恥ルックとしか言いようのない格好で。

 

「「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」」」」

「ひっ」

 

 沸き起こる大歓声。

 巻き起こるスクショの嵐。

 そんな圧倒的な"力"を感じる迫力に、反射的に喉が閉まったような声が出た。そして心は屈しておらずとも身体は正直なようで、()()()()()()()()()()脚は内股になり両手はボロ切れを抑え込んでいた。視界がリンクしている鴉の視線から見るに、(おれ)は顔どころか耳まで真っ赤に染まってしまっている。

 くそッ、『萌え♡萌え♡美少女化ビーム』と謎の状態異常『美少女化』。なんて恐ろしい効果の必殺技なんだ……ッ!!!

 

ふ、ふふ、ふふふ……みんなぶち殺してあげる!!」

 

 またしても、意思に反して口から言葉が吐き出された。言おうとした言葉は『ぶっ殺す。でも写真は後で買わせてもらう』だった筈なのに、謎の翻訳機を通されている感じだ。面白いが気持ち良くはない。

 取り敢えず、4人全員に200枚ずつ障壁を輪切りにする形で展開することで、無理やり拘束。さてこれからどっやって調理してやろう、そんなことを考え始めた時だった。

 

「ストップ、ご主人」

 

 全く聞き覚えのない、けれどよく知っているような声が耳朶を打った。今度は誰だと空間認識を最大展開しながら振り返った先にいたのは、全く見覚えのない少女。いや、しらゆきボディの自分よりも小さいのだから幼女と言うべきか。

 黒髪に黒い目、まるで喪服のように黒一色に統一され、部分部分に蜂の巣柄が存在する和服と洋服の良いとこ取りをしたような……所謂和装ロリータと言われる衣装の幼女。

 

「殺すの、駄目」

「ご主人……え、待って。貴女は誰?」

 

 拘束している4人に対する殺意も忘れて、自分の隣に浮いている幼女に問いかける。いや、聞いてみはしたものの予想はついてる。何せ反応が同じなのだ、だがしかし聞かずにはいられない。そんなことがあっていいのかと、ペットシステム的に思ってしまうから。

 

「? 朧は、朧」

「やっぱりかぁ……」

 

 コテンと首を傾げて言う朧の言葉に言葉が漏れた。いや、見かけた瞬間鑑定と看破の複合スキルは使ったから分かってはいたのだ。いたのだが……いや、うん、現実として受け止めるしかなさそうだ。

 

「なら、ヴァンは何処に?」

「そこ」

 

 もしかしたら同じようなことになってしまっているのかも。そんな最悪のケースを想像して聞いた疑問に、擬人化した朧が指差した。その先にあったのは、萌え♡萌え♡美少女化ビームを喰らって尚バイクの形態を保っている愛車(ヴァン)の姿。ただしそのハンドル中央のライト部分には、大きな白いリボンの付いた同じく白いストローハットが被さっていた。

 

「ッスゥゥゥゥ……」

 

 ちょっと、一旦落ち着こう。

 深呼吸ー深呼吸ー、よし落ち着いた。

 そう、うん。凄まじい執念だった。深くは考えないことにしておこう。そうしよう!!

 

「それで、殺しちゃ駄目って言うのはなんで?」

「屈辱が足りない」

 

 それもそっか。最近の流行はそういう復讐タイプだもんな。通学途中とかに偶にAR広告出てるから知ってる。OK、把握したよ相棒。こちらと同じように、こんなことをしでかしてきた相手にも屈辱を与えてからぶち殺せと。やってやろうじゃないか。

 先ずはいまだにステルスしている4人に鑑定と看破をかけ、Lukの暴力によって()()()()相手の情報防御を突破。明かされたプレイヤーネームとレベルをメモして……あの騎馬の上にいた人、獣耳尻尾を生やす紋章の開発者じゃん。フレンド申請しておこう。

 

「《紋章改変》」

 

 ならばこそ、仮にも紋章系トップクラスの意地を見せよう。1回喰らった以上、紋章であればアーカイブに記録されている。それを閲覧して自分のところにまずは落とし込む。そしてその中から、美少女化に値する部分を見つけ出して……うっわ設定項目死ぬ程多い。

 まずは髪の毛の数値を0に、ボディサイズをいい感じに調整しつつ、筋肉モリモリマッチョマンになるように書き換え。例え元グリーンベレー相手でもこれなら大丈夫な筈だ。

 

「改変完了! 

 喰らえ必殺!『ムキムキマッチョマンビーム』!!」

「「「「うわあぁぁぁぁぁっ!!」」」」

 

 響き渡る野太い悲鳴の四重奏。なんということでしょう、つい数瞬前まで可憐な美少女であった筈の4人が、匠の手によって装備はそのままに筋肉モリモリマッチョマンに変化したことで、女性装備をパッツンパッツンに着こなす変態に破滅的ビフォーアフターを遂げているではありませんか。

 

「序でに死ね! 《逆十字》!」

 

 装備効果によってペットとテイミングしてあるモンスター以外に、今俺が負っているバッドステータスを分配する必殺技が発動した。具体的には全ステータスマイナスと死界関連のデバフを無限に分配、その他諸々引き受けていた無数のデバフを更に叩きつければあら不思議。

 あっという間に4人のプレイヤーは、スリップダメージを受けて爆散した。カシャンと呆気なくポリゴンの砕ける音が鳴り、復活した2名も再度デバフを詰め込んで確殺した。

 

「ふぅ……」

「満足」

 

 よく考えてみるとこの《逆十字》なる武器固有の技、効果範囲が無色透明だから死ぬ程強いのでは。そんなことを考えながら地面に着地したのに合わせて、擬人化したままの朧に左腕に抱きつかれた。

 いや、確かに普段の待機位置はそこにして貰ってるけども。まあ、うん、満足そうな笑顔だしいいか。深くは考えない考えない。

 

「同性だとハラスメントコード出る時間、異性同士より遅いんだ……」

 

 そんなことをしているうちに、全く役に立たなそうな発見をしてしまった。この知識を使うことがないことを祈る。

 それにしてもこの『美少女化』の状態異常、効果終了が死亡時とかいうえげつない効果時間をしている。言われてみれば、さっきの改変ビーム1回で6000くらいMP消費したような……やはり、正しく執念の産物か。

 

「撫でて」

「はいはい」

 

 普段から偶にそうしているように朧の頭を撫でる。けれど擬人化状態のため、何とも言えない不思議な感じだった。なんというかこう、丁度れーちゃんくらいの子の頭を撫でてるような感覚。

 

「ふふ……」

 

 こうもご満悦な笑みを浮かべられると、もっと撫でてたくなる。髪の毛ふわっふわだなぁと思いつつ、しかし今はバトロワ中。残ってるアイテムの整理でもしようとメニューを開いてみれば、どうやらこのフィールド内からでも獲得ポイントの交換はできるらしい。欲しいアイテムはもう獲得済みだし、あとは全部核に変えておこう。

 

「さて、あとは最後まで生き残れるよう頑張りますか」

「手伝う」

 

 愛車に跨り、どうせなのでライトに被さってる帽子を被り、朧を後ろに乗せる。……これ、どうせならフィールド中を駆け回って『萌え♡萌え♡美少女化ビーム』を撒き散らすテロ行為しても面白そうだ。

 

「ヒェッ」

 

 そんな風に考えつつ、愛車のエンジンを吹かして発進した、数秒後だった。バイクの進行を妨害するように銃弾の雨が前方に降り、後方にはあまりにも見覚えのある槍が地面に突き刺さった。そうですか……追いつかれちゃいましたか……

 

「ねえユキくん、その子誰?」

「また、知らない女の人……!」

「落ち着いて、落ち着いて鑑定して欲しい。して下さい。お願いだから! やましいことは何にもないから!」

 

 ゆらりと幽鬼のような動きで迫ってきたセナと、背後で不動明王のように仁王立ちする藜さんに向けて、両手を上げて言った。そう、今回は誓って俺は何も悪くない。つまり無罪、潔白、シロなのだ。

 

「私、鑑定系のスキル持ってないよユキくん」

「同じく、です」

 

 あっ、終わった。

 

「自爆するしかねぇ!」

 

 流れるように核を取り出して起爆した。

 

〈YOU LOSE〉

〈残プレイヤー数3%〉

〈生存領域を縮小しました〉

〈次のフィールド縮小は5分後です〉




 爆発オチなんてサイテー!

 感想評価&コメいつもありがとうございます! 


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第190話 正月礼賛、餅つき兎は最強の夢を見るか

 よし、3話前から数えて今回で9話目だな!(ガバガバ計算)


〈残プレイヤー数3%〉

〈生存領域を縮小しました〉

〈次のフィールド縮小は5分後です〉

 

 状況を整理しよう。

 ユキが核自爆で嫁心中を決めた時点での生存者は、初めから数えて僅か3%のみ。

 その内生存している通常プレイヤーは、極振りとユニーク称号持ちにビーコンが付いていることに関して『仕留めるターゲットの位置を示す』為の物ではなく『逃げろ』という意味の物であることを理解していて、且つ極振りに近づかずその攻撃に巻き込まれていない者。或いは、ユキやザイルの装備していたビット装備を求めて、PvPそっちのけでダンジョンアタックをしている僅かな者達だけだ。

 そして生存している極振りはセンタ、翡翠、ザイルの3人。ユニーク持ちはカオル(【ナイトシーカー】)しぐれ(【牧場主】)の2人で計5人。

 

 翡翠としぐれ(【牧場主】)は揃って地上→死界→天界のルートを辿る食い倒れデートと洒落込んでおり、地下ではザイルとカオル(【ナイトシーカー】)が共同して、ビット装備という浪漫を求めてダンジョンアタックに勤しんでいる。

 最後に地上へ残ったセンタは、ラストワンを狙う通常プレイヤー達と100人組手を交わしている。ただ生存領域の中心点に辿り着く前に戦闘が始まり、『極振りをラストワンにして強化してたまるか』というプレイヤー達の決死の足止めにより、もう間も無く生存領域縮小に飲み込まれ敗退する。

 

 故にこれ以降はもう、PvPイベントとしての趣旨を満たすことは出来ない。共闘して楽しんでいる翡翠としぐれは最後の2人になるまで戦うことはなく、ザイルやカオルのようなダンジョンアタック組はPvPで戦うくらいならば共闘して周回する。そして最後にはダンジョンの底まで辿り着いた生存領域縮小に飲み込まれるだろう。

 

〈残りプレイヤー数2名〉

〈生存領域を縮小しました〉

〈次のフィールド縮小はありません〉

 

「おや、時間切れですか」

「そうみたいですねぇ……残念です」

 

 故に、こうなるのは必然だった。

 生存領域という明確な生存制限がある地上と違い、本来こんな短時間で到達することが不可能な筈であったため、特に何も縛りがない特別マップ【天界】。ここにも縮小範囲は迫っているものの、2人を飲み込むにはまた遠い。

 そして本来ならば荘厳なる世界の筈のそこは、ノイズの走る灰色の砂嵐……つまり翡翠の【終末】に汚染され切っていた。びよぴよとひよこがあるき、蝗害が無限湧きする天使に対して無限の食欲で応戦し、女子2人が全ての中心で女子会をする。変わり果てても、ある意味【天界】なのは間違いない空間。

 

「ユキとアキに【死界】を壊された時はどうなるかと思ったけど、翡翠ちゃんは満足出来た?」

「新装開店店舗、満喫しました」

 

 そこで、そんな常識とは程遠い会話がなされていた。無論語るまでもなく、死界も天界も本来はそんな近所のラーメン屋みたいな場所ではない。難易度を考えても、ボーナスを考えても、辿り着く手段を考えても。死界であればアンラッキーなペナルティステージとして、天界であればラッキーなボーナスステージとして設定されている。

 

 因みに彼女達がこうも短時間で地上、死界、天界を行き来できている理由は1つ。しぐれが普段からテレポート代わりに使っている、骸骨と触手、モヤのようなものが組み合わさって出来た竜*1。その力に寄るものだった。

 

「どちらが勝ったことにしますか、しぐれ」

「じゃんけんで決めよっかー」

「名案ですね」

 

 のほほんとした空気で話す翡翠としぐれだが、その背後に積み上げられているのはこのマップに無限湧きする天使の群勢。自律したレイドボスにより管理されていた死界とそのモンスターとは違い、運営がボーナスステージとして設定しているここはアップデートがなされている。敵の強さも、得られる経験値も。

 だが無意味だった。天使は翡翠の展開する【終末】に入ってすぐ、虹色に光るひよこや無数の蟲に群がられて死に続ける。そして、その地鶏のような身体を無限に供給し続け、ついでにペットやテイムモンスターに経験値を注ぎ続ける存在と化していた。

 

 ☆開店御礼☆

 時間無制限わんこ天使(人型)食べ放題!

 閉店!!

 死界での時間無制限干し肉&骨煎餅(人型)食べ放題を、アキとユキによりぶち壊されたため襲来した2人は、天界も制覇したのだ。

 

 出禁である。

 

「カフッ、コフッ、シャケェ......」

 

 一方その頃、シャケは炭火の遠赤外線で焼かれていた。

 

「さいしょはぐー」

「じゃんけん」

「「ポン」」「シャケ」

 

 繰り出した手は翡翠がぐー、しぐれもぐーのあいこ。

 シャケはヒレなのでパーだが、即座に翡翠としぐれに毟られ美味しく頂かれた。もう少し塩を振っておけばよかったかも知れない。

 

「「あいこでしょ」」「シャケ!」

 

 今度の手は翡翠がちょき、しぐれがぱー。

 シャケが尻尾でパー。ちょうど良い感じに焼き上がっており敗北者と化した以上、もうシャケに人権はない。元々そんなものは存在しないが。

 

「勝ちました。I'm champion」

「おめでとー。ちゃんぽんとトンカツとカツ丼、どれ食べに行こっかー?」

「まずはシャケです」「タチウオッ!」「ぴよ」

 

 ぱちんとハイタッチをするのに合わせて、しぐれの連れてきていた太刀魚のペットがシャケを三枚におろした。そのまま皿の上に綺麗に並べられ、虹色に輝くひよこがお皿を運んで来る。パーフェクトコンビネーションだった。

 

「それでは」

「「いただきます」」

 

〈YOU ARE THE〉

〈CHANPION〉

 

 斯くして、最終日のお祭り騒ぎの頂点(Vertex)に立ったのは、Min極振り【頂点捕食者】翡翠となった。

 イベント開始早々に火力に特化した人外同士が潰しあった結果残った、生存能力に長けたトッププレイヤー。その中でも趣味に走った2人がジャンケンで勝負を決めるという、PvPイベントとしてはなんとも締まらない形の決着だった。

 

「雑味が多いですね」

「焼き加減は完璧なのにねー」

「シャケ!?」

 

 今日のシャケは不味かった。

 

 

 

 

 ノリと勢いでやったものの、戦略的にはあまり間違ってるとは言えない自爆で終わったバトルロイヤル。あの特別マップから退場し、戻ってきた転送地点。【すてら☆あーく】のギルドホーム。

 

「はしゃぎ過ぎました、ごめんなさい。はい!」

「はしゃぎ過ぎました……ごめんなさい……」

 

 そこで今俺は、硬い床の上で石を抱いて正座していた。藜さんはそうでもないのだが、セナはカンカンだ。理由は言わずもがな、擬人化朧とイチャついてた(当社比)件である。

 そのことについての答弁が、今始まろうとしていた。

 

「じゃあ今から、ユキくんにビンタするからユキくんも私をビンタして」

 

 トンネルを抜けたらそこは、無法地帯だった。

 

「なんで!?」

「えい!」

 

 こっちの疑問に答える前にビンタが飛んできたので、吹き飛ばないように自分の下半身を固定。瞬間、顎に自転車でもぶつかったんじゃないかと思う程の衝撃が来た。なのに脳が揺れてる感覚はないし、痛みもタンスの角に小指をストライクした程度のもの。フルダイブVR系の痛覚深度減少(ペインアブゾーバー)システムは優秀だ。

 

「いった!? せい!」

「いったぁ!?」

 

 自分のアバターがダメージを受けた時に「痛い」と口にしてしまうのは、人間の変えられない性なのか。古のゲームから続く伝統のように、思わずそんな言葉が口から出た。そして頼まれた以上、こっちもビンタをお返しする。

 セナが俺をビンタした時とは違い、非力故に鳴ったスパーンという小気味良い音。それはいいのだが、そんな嬉しそうな顔をしないでほしい。セナさんや、叩かれたんですよ。あなた今。そんな趣味があったなんて初めて知ったんですけど。

 

「でもヨシッ!」

「一体何を思ってヨシッ!って言ったんですか……?」

「気分!」

 

 気分かぁ……そっかぁ……

 

「ユキさん」

「はい、なんでしょうか藜さん」

 

 そんな諦めにも似た感覚を味わっていると、セナがいた場所に変わって出てきた藜さんが、真剣な声音でしっかりとこちらを見据えて言った。つい数十分前はカッコつけて呼び捨てしたけれど、駄目だ……この圧には勝てない。

 

「むぅ、さっき、みたいに、藜って、呼んでくれなきゃ、ヤ、です」

 

 けれどそんなこっちの態度は、藜さんにとっては不満だったらしい。頬を膨らまして、断固として譲らない様子だった。折れるのはこちらである。

 

「わかりました、藜。えっと、その、それで何用でございましょうか?」

「1つ、だけ、ちゃんと、言っておきたい、ことが、あります」

「……はい」

 

 普段あまり怒った様子を見たことない藜さんだからこそ、一目で怒っていることが分かった。ドブに浸かって反省します……あと普段よりもさらに傾聴、心して聞く。

 

「女の子2人、の、告白の、返事を、待たせてる、のに、他の、女の子と、イチャイチャ、するのは、酷い、です」

「はい……不本意美少女擬人化されましたが、普段と同じようにしていたのですが不味かったのでしょうか?」

「今だけは、ダメ、です」

「はい……」

 

 駄目だった。ギルドをメンバー以外出入りできないように閉鎖していて、本当に良かったと思う。こんな奥さんの尻に敷かれた旦那ムーブと浮気がバレた旦那ムーブが一緒になった姿、激写なんてされようものなら明日から生きていく自信がない。

 だからその、あの、セナさん。セナさんや。どうかそのスクショを撮る手を止めては貰えませんでしょうか? えっ、嫌だ? そうですか……あっ、いえ、何でもないです。

 

「では、あの、にゃしい先輩と爆裂していたのはどのような判定になりますのでしょうか?」

「私は別に構わないかな? 爆裂だし。藜ちゃんはどう?」

「ちょっと、羨ましい、です。でも、爆裂、ですし……」

 

 片手をおずおずと挙げて聞いてみたが、どうやら爆裂はセーフ判定が出るらしい。一体どこがセーフでどこがアウトのラインなのか、その区切りが全く分からない。

 

「恥の多い生涯を送って来ました。ふふっ……」

 

 人間失格とまで言うつもりはないが、男性失格な気はする。これから告白をしようとする男の姿か? これが……? ふふっ。生き恥。笑うしかない。時代や環境のせいじゃなくて……俺が悪いんだ……

 

「それで。ユキくんは結局、私と藜ちゃんのどっちに告白しようとしてたの?」

「私も、気に、なります!」

 

 なんて、強くなれる理由を失っていた時だった。さっきの核自爆の意趣返しか、それこそ核爆弾級の話題をセナがぶち込んできた。藜さんも追従している。完全に逃げ道がない。逃げちゃダメだが。

 

「流石に、それはもうちょっと、ちゃんと雰囲気のある時に言おうと思ってたんだけど……」

「諦めた方がいいと思うよ、ユキくん」

「もう、そんな、ムード。しばらく無理、です」

 

 恨むならば、あの時自爆した自分を恨むしかない。戦略的/感情的には正しくても、今から思えば間違いだったかもしれない。あのまま進行して袋叩きになってない今の方が、まだ良いのかもしれないけれど。

 

「後日、もしくはクリスマス辺りだとまだ可能性は……」

「ユキくん」

「流石、に、1週間以上、も、待たされる、のは、悲しい、です」

 

 セナは黙って首を横に振り、藜さんからはごもっともな言葉が。もう少し何かが違くてイベントが後ろ倒しになったり、告白のタイミングが遅かったら、クリスマスなんて一大イベントが控えていたけれど。俺にとっての正念場はここらしい。

 客観的に見れば立ち位置が裁判官と被告人、正座の上に石抱きまでしてる状態で、微塵も格好がつかないけれど! けれど!

 

「不本意だけどゲームの中だから、PN(プレイヤーネーム)で呼ぶのだけは許して下さい」

 

 ユニーク称号持ちのエキシビション最終戦で、ヒートアップしたセナと藜さんすら守っていた最後のラインは、幾らこのタイミングでも超えちゃいけない。幾らゲーム的に閉鎖した空間であるとはいえ何があるか分からないし、ゲームとして運営されている以上運営にはログが残るのだから。

 言い切ってから、一旦深呼吸。膝の上に乗っていた石をアイテム欄に収納して仕舞う。こうして、改めて言うのはやはり緊張する。それに、凄まじく格好が付かないのも恥ずかしさに拍車をかけている。けど覚悟は決めていた筈だと、口を開いた。

 

「藜さん」

「ッ、はい」

「ごめんなさい」

 

 ハッキリと、断りの言葉を口にして頭を下げる。

 

「っ……やっぱり、そう、ですよ、ね」

 

 顔を上げた先では、笑顔と悲しみと、それ以外にも無数の感情を湛えた()さんがポロポロと大粒の涙を溢していた。

 

「初恋は、実らないっ、そう、しって、まし、た。でもっ、ユキさん、なら、そう言うって、分かって、ました」

 

 噴火するような感情の奔流が込められた、悲しい涙と言葉が押し寄せてくる。

 

「だって、私は、ポッと出で。ユキさんのっ、ことも、そんなに、知らな、くて。それでも、好きにっ! なっちゃって……」

 

「分かって、ました。でもっ、改めて、言われる、と、痛い、ですね。やっぱり、悲しい、ですっ、ね」

 

 それ以上の、言葉は無かった。溢れる涙を拭いながら、すすり泣く声だけがギルドホームに響く。

 

「だから、ちゃんと、セナさんに、告白、して、下さい。わたし、だけ、じゃ、あんまり、ですから」

 

 それでも最後に、無理してでも作った笑顔で背を押してくれた。それはあまりにも、優しくて。あまりにも良い人然としていて。俺なんかには勿体なさ過ぎる程、いや、好きだなんて言ってくれたことが有難過ぎる女性(ひと)だった。

 

「セナ」

 

 そして、そんな風に背を押されたのだ。もう絶対に止まってはいけない。セナの方に向き直って、しっかりとその目を見つめて言う。

 

「改めて、こうして口にするのは恥ずかしいけど……ずっと昔から、それこそ小学校の頃から好きでした」

「んうぇっ!? そ、そんな前から?」

「そんな前からだよ。そうじゃなきゃ、わざわざ別のクラスだったのにイジメの助けに入りなんてしない」

 

 それくらいには、俺だって利己的だ。これまでずっと、沙織(セナ)の邪魔になるからと蓋をしてきた自分の心。見ないフリをしてきた醜い部分。改めてそれと向かい合って、溢れてきてしまったのはそんな事実だった。

 

「じゃ、じゃあ! これまで何回かお風呂に突撃した時、何もしてこなかったのは!?」

「気合いで耐えてた」

「抱っこして貰ったり、抱きついてた時は!?」

「頑張って意識しないようにしてた」

「わざと布団に潜り込んでた時は!?」

「ずっと気合いで何も起きないように我慢してる」

 

 何をするにも健全にというのが、沙織(セナ)のご両親との約束でもあるし。信頼は裏切れない。今ここに至るまで、どれだけアタックに耐えるのが堪えたことか。我ながらそこだけは凄いんじゃなかろうか。

 

「じゃあ、なんでこれまで、1回も『好き』って言ってくれなかったの?」

「今はもう、思ってないって最初に断っておく」

 

 何せこれからいうことは、まず間違いなく沙織(セナ)を怒らせるものだから。

 

「ただ、俺みたいなのが側にいると、またイジメられるかもしれないから。だったら、最初から不安の芽は取り除いておいた方がいい。折角進学して、環境も変わったんだから。そう思ってた」

 

 沙織(セナ)を取り巻く環境は変わった。俺の場合は何も変わってない。ただそれだけの話だ。嫉妬で絡んでくる奴もいれば、セナのグループではない相手からの嫌がらせも多い。基本的に他クラスの奴らで前者は男子、後者は女子になる。

 最近は先輩と親しくさせて貰ってるのと、沙織(セナ)のお陰で直接仕掛けてくる奴は減ったが……それでもそういう目を向けてくる奴は減っていない。むしろ増えている。もう微塵も気にしてないけれど。

 

「でも、」

「もう大丈夫なんだよね? 知ってる」

 

 こちらの言葉に、沙織(セナ)が割り込んで言った。そして、まるで子供をあやすように頭を撫でてくる。

 

「だってユキくん、前と違って笑ってくれてるもん。それも無理した笑顔じゃなくて、自然で楽しそうな感じで」

「……そっか。やっぱりセナにはお見通しか」

 

 多分、そのお陰なのだろう。この前のテスト時にいた変な奴はまだいるものの、最近クラス内の空気が少しずつ、ほんの少しずつだが変わって来ているような感じはしている。

 

「それじゃあ、改めて。これからも隣に……いや、一緒に居て欲しい。格好つかないけど、いいかな?」

「もちろん!」

 

 差し出した手にセナの手が重なる。空間認識能力を切っていたのと、そこで『よかった』と安心したからだろう。藜さんの声と姿が消えていることに、一瞬だけ気付くのが遅れた。そしてそれが、運の尽きだった。

 

「うん?」ここら辺からUCのテーマ

 

 流れが変わった感覚がした。

 ガチャンと、首元から聞こえた金属音。何事かと空間認識能力を再起動させると、そこには金属製の首輪が鎮座していた。そして、何故かセナと繋いだ手にも手錠が掛かっている。うん????

 

「でもね、今回のことで思ったんだ。私の手だけじゃ足りないなーって」

「それに、ユキさんは、放っておくと、私とか、セナさん、みたいな、面倒くさい、女の子、無自覚に、引っ掛け、るって」

 

 耳の後ろから囁くような声。完全に藜さんに後ろを取られている。分からなかった。気配も声の雰囲気も、まるで違う。

 

「で、でも現実の方じゃこれまで1回もそんなこと──」

「だって私が近づけないようにしてたもん。そういうタイプの子」

 

 なんですって。

 

「ユキくんって真剣に頼られると、まず相手のことを受け入れて認めてあげて、そこから近過ぎない距離で接しながら、頼られたら全力で助けるでしょ? それに自分からは絶対に距離を詰めてこないで、相手に任せてる」

「いや、まあ、それはそうだけど……」

 

 何も悪いことはないように思えるのだけれど、何か問題でもあるのだろうか。これまでそれで、特に困ったこともない筈。波風たてない一番平穏な対応ではないのか。

 

「ほら」

 

 首を傾げていると、やっぱりとでも言いたげな雰囲気でセナが呟いた。しかも背後で藜さんがしきりに頷いている。えぇ……?

 

「それに、私、も、前から、思ってた、です。別に、ユキさんを、諦める、必要、ないんじゃ、って」

「えっと?」

「セナさん、から、寝取れば、勝ち。私の、魅力で、ユキさん、を、メロメロに、すればいい、だけ、です!」

 

 ????? 待って、思考が追いつかない。あの、ハラスメントコード出てるんですが。後ろから抱きつくスタイルはちょっとその、あの。

 

「その、為にも、他の、女の子は、邪魔、なんです、よね」

「ということで、元から手を組むことにしてたんだ! 敵は増えないに越したことないし。だからユキくんが私と藜ちゃん、どっちのことを好きって言っても、それはそれとして〜みたいな感じで」

「フラれた、のは、本当に、悲しかった、です、けど」

 

 つまりこれはその、手のひらの上だったと。

 

「来年から、よろしく、お願い、します、ね? セ ン パ イ」

「ひぁっ!?」

 

 耳元で囁かれて変な声が出てしまった。

 よし、一旦おちけつ、落ち着け。落ち着こう(3段活用)

 深呼吸深呼吸。ひっひっふー、ひっひっふーとペースをとって……いやこれ違う呼吸法! 全集中、全集中……出来るかぁッ!!

 

「うっ」

 

 そうして、勢いよく立ち上がった瞬間だった。

 パリンと砕け散るアバター、一瞬にして0へと落ちるHPゲージ。ここは本来、HPゲージが減る筈のない街の中。安全コードの圏内。何かバグでも発生したのかと見てみれば、状態異常欄に鎮座するのは『エコノミー』なる見慣れぬ文字。

 

「エコノミークラス、症候群……」

 

 最後にそう言い残して、俺の身体は砕け散った。後日調べたところ、街の安全コード圏内で長時間膝を折り畳む姿勢なり何なりの、現実での発生確率が高い体勢でいると発生する即死系状態異常とのことだった。

 

 兎も角、こうして昨日までとあまり変わらない、けれどはっきりと全てが変わった日常が始まったのだった。

 

*1
ギラティ○(オリジンフォルム)




 感想評価&コメいつもありがとうございます! 

 あともうちょっとだけ続くんじゃ


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エピローグ

切り所さんが此処にしかないんですよね。
書く気になれば無限に書けちゃうので、本編ストーリーとしてはここで完結ということで。あくまで本編ストーリーは!


 あれから1週間と少しの時間が経ち、日付けは既に12月25日。

 しかしあれから何かが変わったかと言えば、関係性自体は何も変わってないと言えるだろう。

 というのも、元々俺と沙織の距離が近すぎたことが原因だ。手を繋ぐとか家にお邪魔するとかデートとか、そもそも普段からしてたから特別感はない。かと言ってキスをどうこう言うのは、何か"違う"から嫌だ。3回くらい俺が寝てる間にされたらしいけど。解せぬ。

 同じように藜さんとの関係も、特段変わったところはない。前と比べて視線の質が変わった気がするけど、沙織のように行動のリミッターが振り切れたりはしてない。何故だか凄く嫌な予感はするけれど。

 

 しかしそれでも、昨日UPO内でやっていたワンタイムならぬ1dayイベント*1を、普通にギルドのメンバー全員で楽しむことができた。それくらいには普段通りで、平凡な毎日だった。

 

「それにしても……どうしよう、これ」

 

 ただしそんな変わらない日常の中で、1つだけ重大事件が起きていた。それは、この前解説をしていた時に貰ったスパチャ*2のお返しに全力でしらゆきちゃんを演じて、我ながら可愛らしく配信をしてしまった時に起きたこと。

 端的に言ってバズった。大神さんが何故か反応してしまい配信にコメントをくれたことで、SNSのトレンド4位くらいまで跳ね上がる勢いで情報が拡散。チャンネル登録数が何故か爆伸びして5万人とかいう異次元の数値に届き、冒頭で『前回貰ったスーパーチャットの分だけ配信しますね』などと言ってしまったものだからヒートアップ。集団圧力に負けてスパチャをONにした瞬間、3回くらい虹が流れた。*3

 結果として、最後はもうやめてと泣きながら懇願するハメになったし次の配信は確定させられて、手元には電子マネー27万円が残った。配信サイトに3割は取られてるのに。そしてそれは、大神さんとの単独コラボとかいう謎過ぎる企画を一般人として乗り越えられなくなった瞬間だった。

 

「アァアアア外堀がァ!! 外堀が埋められている!!」

 

 枕に向けて全力で叫ぶが何も変わらない。具体的に言うと、大神さんの所属事務所からやんわりとしたお誘いが届いた。コワイ! 更に言うと、UPO運営から『もっと配信してUPOの宣伝してくれると嬉しいな♡(意訳)』というメッセージも届いた。アイエエエ!? 確かにこのVR全盛の時代、職業の1つとして認知されるようになってはきたけど! けど!! ハイシンシャナンデ!?

 

 ともあれ、今日はクリスマス当日。街は正月の雰囲気も出しているがクリスマス一色であり、高校も中学校も丁度終業式。長いようで短い冬休みの始まる日でもあった。

 

「さて、落ち着いたしもう準備しなきゃ」

 

 でもって、沙織(セナ)()さんと出かける予定の日でもあった。因みに空さんの提案で、全員制服で集合して出かけることになっている。終業式が午前中で終わってなければ、微妙に補導される危険性が高かっただろう。とはいえ、相変わらず男物のファッションセンスは壊滅してるのでありがたい。

 

「財布携帯その他諸々準備ヨシッ!」

 

 取り敢えず使いそうな物を鞄に突っ込み、戸締りをして家から出る。今日も親父と母さんは帰ってこないらしい。この前親父の後に帰ってきた母さんが気を遣ってくれたのかもしれないけど、今日は別に沙織が泊まりに来たりしないんだよなぁ……未成年だし。未成年だし!

 

「ごめん、待った?」

「ううん、全然待ってないよとーくん」

 

 そして家から出れば、当然のように沙織が待ってくれていた。マイルームの防音はしっかりしてるから、あのなっさけない叫び声を聞かれなかったのは幸いか。

 

「それじゃ、空ちゃんを迎えに行こっか!」

「……俺が言うのもなんだけど、沙織はいいの? こんな二股みたいな状態で」

「別に私も空ちゃんも気にしてないし……とーくんは嫌?」

「嫌じゃ、ないけど」

「ならヨシッ! ってことでレッツゴー!」

 

 なんて言いながら、これまでとは違って堂々と手を繋ぐ。人の温かみがどうこうと言うつもりはないが、これはやっぱり安心出来──あのちょっと待って下さい沙織さんや。速い。速いって。手を繋いだままそんなハイペースで走られたらこっちも走ることになるからぁ!

 

 脳裏に過ぎる、喜びはしゃぐ大型犬に引き摺られる飼い主のイメージ。何処までも引っ張っていってくれそうなそのイメージに、有難いような嬉しいような温かい気持ちが湧いてきて。仕方がないかとため息が出──あ、駄目これ、ため息吐いてる暇なんてない。

 

「♪」

「はっ、はぁ──ひゅッ……げほっ」

 

 運動部所属と帰宅部所属、その体力とスタミナの差が露骨に現れていて。鼻歌を歌いながら走る沙織と、息も絶え絶えな俺。最近走るなんてことしてなかったせいで更に辛い。

 ……タオルと制汗スプレー、ちゃんと持ってきておいてよかった。本当に。あと、今度からちゃんと筋トレとランニング、頑張ろう。足りない酸素から脳が削り出したそんな言葉と誓いが、冬晴れの空に溶けていった。

 

 

 そんな午前中と夕方を過ごし、UPOにログインしたゴールデンタイムアワー。晩御飯も雑に済ませた午後7時過ぎ。第3の街ギアーズ、UPOでも2つしかない近代的な機械化した街の暗闇に、無数の蠢く影があった。

 

『こちら作戦本部。こちら作戦本部。全班、作戦の進行状況を報告せよ』

『こちらA班。作戦準備完了』

『こちらB班。作戦準備は完了している』

『こちらC班。NPCの避難がまだ終わっていない、1分待って欲しい』

『こちらD班。ミッションコンプリート』

『作戦本部了解。では作戦開始時刻は19:30(ヒトキュウサンマル)へ変更とする。繰り返す、作戦開始時刻は19:30(ヒトキュウサンマル)。作戦開始時刻は19:30(ヒトキュウサンマル)

 

 その通信を最後に、手元のトランシーバー型アイテムから光が消えた。眼下に広がる第3の街の夜景。近代的な光に満ちた街の闇に、無数の嫉妬マスクを被ったプレイヤーが暗躍していると思えば、なんだか心が荒むがやろうとしていることにワクワクを隠せない。

 

 そう、(おれ)現在地は第3の街ギアーズ上空。

 ザイル先輩から入った『(おれ)以外のプレイヤーが花火ルを打ち上げようとしている』という一報を受けて、指名手配されない姿(しらゆきちゃんフォーム)でおっとり刀で現場に急行。そのままザイル先輩から無線傍受のアイテムを受け取り、色々と仕込んでから上空へ向け飛翔。雲に紛れて展開した紋章の上に立ちながら、ステルスで身を隠しながらその時を待っていた。

 

「ザイル先輩、もし撃ち漏らした時は頼むって言ってましたけど。大丈夫なんですか? ざっと見て20個くらいのビルが、花火になるみたいなんですけど」

『ああ、問題ない。元々やる気になれば出来る上、今回はお前が使ってるのと同じビット装備を仕入れてきた。だが……』

「それでも、もし撃ち漏らした場合は頼むってことですよね。分かってます」

 

 普段自分が打ち上げる時であれば、最大級に紋章を展開して落下する破片を弾くことに集中する。だが今回は、トランシーバー型アイテムと一緒に頼んでいたブツを受け取って、完全にサポート役として(おれ)はここにいた。

 

『だが、いいのか? 折角のクリスマスの夜だというのに、嫁2人と過ごさなくて』

「昼間にデートしてきたので」

『結構なご身分でいらっしゃれる』

「それ程でも」

 

 嫌味を打ち返してカウンターする。実際セナも藜さんも、俺には勿体無いくらい美人だし可愛い。だからザイル先輩の言う"結構なご身分"であることは間違いない。

 

『チッ、新婚には嫌味も効かないか』

「はっはっは……っと、もうそろそろ時間ですね」

 

 そんな話をしている間に、メニュー画面の時計が映し出す時刻は19:29に。花火ル発射1分前。ここから見て分かる限りの発射地点は先輩と共有しておいたけれど、流石に街1つ全てを探知出来るわけではないので集中する。

 こちとら毎日安全確認と防御策をしっかりとってやっているのに、便乗されて変に評判を落とされては堪らないのだ。気持ちよく爆破できなくなったらどうしてくれる。

 

「10秒前。9、8、7、6、5、4──」

『この爆破卿ASMR、やれば人気出そうだな』

「3、2、1、0、ゼロ、ぜ〜ろ」

『ちくしょう、コイツ無敵かッ!?』

 

 御所望だったからやったまでよ。既に配信を1回は経験したこの身、投げつけられたマシュマロでその程度の羞恥心なぞ吹き飛んでおるわ!

 なんて心中で高笑いをしながら見下ろす街の中。一角にあるビル群の内、合計24箇所の地点から一斉に火が上がった。轟音、爆炎、夜空に向けて射出される摩天楼。(おれ)1人では絶対に実現不可能な絶景に、思わず心が躍る。

 

「……えっ?」

 

 そのままならば『ブラボー! おお……ブラボー!!』と両手をあげて拍手するところだった。だというのに、直後その期待は裏切られた。

 俺がいつも打ち上げる高度の2/3程度の位置で失速し、重量に引かれて静止するビル群。そうして発生した、花火と称するにはあまりにも拙く、音も半端に小さく、ビルを爆破解体する程度のショボい爆発。今まで見たことある中でも、1、2を争う程中途半端でつまらない爆発が眼前では起きていた。

 

『お前以外のプレイヤーがやったところで、せいぜいこの程度だ爆破卿。精々がお前の猿真似で、一部のホンモノを除いて情熱も資金を使う気力もない。クリスマスの夜にしでかすような奴らは特にな』

 

 そんな言葉と共に、無数に散乱したビル群の瓦礫に銃弾の雨が殺到した。曳航弾が時折混じることではっきりと分かるその弾壁は、一切合切の容赦なく、撃ち漏らしもなくビルを砕いていく。……確か、俺も貰ったハイエンドマシン。極振り全員に配られているんだったか。うーむ、まずい。これ、(おれ)より強くない?

 

「はぁ……がっかり。がっかりもがっかりです」

 

 だがそれよりも先に、落胆の感情が胸に響いた。折角人数がいてあれだけのことが出来るのなら、もうちょっと練度をどうにかできなかったのか。

 

『さて、つまらないものを見せて悪かったな爆破卿。結果的に1人で問題なかったが、来てくれて感謝する』

「へただなあ名も知らない爆破班……へたっぴさ……!」

『爆破卿?』

 

 だからこそ、思わずそんな言葉が口から溢れ出た。爆破をする時はね、誰にも邪魔されず、自由でなんというか救われてなきゃあダメなんだ 。楽しく、激しく、そして良心の呵責なく!

 

「欲望の解放のさせ方がへた。それに、仲間はずれはよくないなぁ。(おれ)も入れてくれないと」

 

 特に何も考えず、脊髄で喋りながら簡易ポーチの中を弄る。そうして取り出したアイテムは、右手に持っているものとは違うトランシーバー。そして実態は、ついさっき仕掛けた花火ルの起爆・発射装置のスイッチ。

 

『爆破卿!? 貴様、何をする気だ!』

「いやいや、ちょっとお手伝いをね!」

 

 やめろと言われてももう遅い。やめろと言われてももう遅い。大切なことなので心中で2回言葉を繰り返し──限界だ、ボタンを押し込んだ。

 

『やりやがった! くそッ、やっぱりやりやがった!』

「邪魔はさせませんよザイル先輩!」

 

 先程の不甲斐ないへにゃへにゃビルと違い、しっかりとした爆破も紋章の重ね合わせにより射出される摩天楼。それに向けてザイル先輩が射撃をしようとするけど、その動きはさっき見た。致命的な部分に対する射撃だけは、例え90度弾が弧を描いて迫ろうと弾き返す。

 そうして加速したビルは遂にその速度の頂点へ。今俺がいる高度のすぐ近くにまで至り、大規模な火焔と爆音を轟かせるアニメ調の大爆発を引き起こした。

 

「よし、ここまでは成功した!」

『おまっ、爆破卿! おまっ!!??』

 

 いつもであればここで終わり。あとは破片を全て障壁で弾く作業になるのだが、今回だけは違う。この前のイベントで獲得して、持ち帰ることができたたった1つのアイテム。それをザイル先輩と共同で複製することで完成した、新たな俺の切り札!

 花火ルを第1ブースターとして、さらに上方へ向けて射出された1つの爆弾。それは高く高く、夜空に届くほど天へと昇っていく。

 

「花開け、スターマイン!!」

 

 星の地雷と花火のフィナーレを重ねたダブルミーニングの名前を叫ぶと共に、予定通りにそれは起爆した。

 

「Fooooooo〜ッ!!!」

 

 キュガッ! という意味不明な起爆音と、真っ白な光の中に咲く花のような青い光。ついでにこれまでの軌道をなぞる緑色の光も伴って、クリスマスの夜空に大輪の花が咲く。その光景を見た直後、街の遥か上空という安全コード圏外にいた俺は即死した。

 いやぁ……こっちのフィールドで核、使うものじゃないね。せめてもう少し何か、収束させないと使い物にならない。後日、第3の街全体がちょっとマップに沈み込んでいる話を聞いて、深く心にそう誓ったのだった。

 

Fin

*1
番外編:クリスマス参照

*2
スーパーチャット。投げ銭

*3
投げ銭をすると金額によってコメントに色が付く。それを全種類投げると虹色に見える現象のこと。へんたいふしんしゃさんの所業。




 感想評価&コメ
 これまでありがとうございました!

 5分後にあとがきを更新します


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あとがき

本日2話目。こっちは後書きなので、1個前のなんちゃってエピローグからどうぞよろしくお願いします


 2017年04月15日(土)に書き始めたので、この一旦の完結まで凡そ4年。それだけの長い期間拙作を読んでくださり、本当に本当にありがとうございました。

 

 さてそれはそれとして。何故こんなタイミングで終わらせたのか? それが気になるって人が多いと思われるので、まず最初に説明をば。少々、いえ多分かなり蛇足となってしまいますが。

 

 まず拙作に限らずフルダイブVRMMO系のゲームにおいて、物語の完結って果てしなく難しいじゃないですか。デスゲームとかサービス終了間近とか、そういった終着点が存在しないタイプは特に。エピローグ前書きに書いた通り、それこそ作者が筆を折るまでの間無限に物語は紡げてしまいます。

 それ自体は全く悪いことではありませんし、私自身まだまだ書きたい部分は多くあります。例えば新称号3rdとか、しらゆきちゃんの配信とか、ユキセナ藜でいちゃついたり、極振りをもっとハッチャケさせたり。

 

 でもそれはそれとして、物語として完結させたかった。今回の場合それに尽きます。

 

 完結させたくない、でも物語としては完結させたい。

 たからこそ、主人公とヒロインがくっついた区切りのよいタイミングでの完結と相なりました。これ以上長々と書いていると、それこそ切り時がなくなってしまいますから。

 

 

 さて、ここからが本題

 

 前回と上の部分で書いた通り、一応【完結】とさせて貰いますが、()()()()()()()()()()()()()()です。上に書いた通り、まだまだ書きたいネタは沢山ありますからね!!!!!

 

 ただ、そっちのネタを書くにあたって思ったんですよ。

 

 あれ? これわざわざ本編で1から流れ作らなくても良くないか?

 

 って。

 

 ここでいい感じに完結させておいて、そのあとに短編として書く方が『俺たちの戦いはこれからだ!END』じゃない、気持ちいい感じで終わらないか?

 

 って。

 

 何せ拙作を描き始めた我が魔王の治める平成とは違って、時は令和。CXは20、サザンはエー。ダークシンクロモンスターにレベル1シンクロモンスターが登場し、しょごりゅうがエラッタされて帰ってくる時代です。トロイメア ・マーメイド返して。ポケカは相棒の新規がいつまで経っても刷られないので引退です。

 

 失礼しました。

 

 簡単に纏めると

・本編は終わったけど短編はまだ書きたいよ!

・というか書きたい部分の纏まりがないから短編じゃないと辛い!

創作活動(あこがれ)は止められねぇんだ!

 の以上3点となります。

 

 次回作の予定は……未定ですかねぇ。こっちに集中して、3ヶ月も放置しちゃってる作品ありますし。短編も書きたいし!書きたいし!!書くもん!!!

 

 ということで、4年という大変長い期間拙作を愛して下さりありがとうございました。感謝の念が絶えません。重ねて、本当にありがとうございました。

 




もし他の私の作品をずっと読んできてくださった方がいるなら、去年末から今年の頭まで書いてた短編もぜひ読んでね! 
もしそれで気になった作品があれば、感想をくれると作者が喜びます。


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AFTER STORY、またの名をネタ全振り編
真説・爆破系美少女配信者しらゆきちゃん③


特殊タグであそぼ。このコメント欄、流れるんですよ
バズったしらゆきちゃんの配信風景
(配信風画面案その②です)


:珍しくUPOじゃないゲームをやると聞いて

:Hi!

:コラボ練習って熱心だな

:閃いた!

:↑通報した

:こんボム〜!

:こんボム〜!

:つついのツイ

 ¥610

 爆破代

:Hello

:ついえら!

:かわいい

:待機

:待機〜

 ¥1,240

 同人誌よかった代

:!

:きちゃーーーー!!!

:きちゃ!

:はじまた

 さ え お ⚫︎ライブ
 せ ろ わ れ だ 

 #ボムライブ #ニトログリ絵リン

【大乱闘】視聴者参加型。コラボ練習【しらゆき】

 5,574人が視聴中・2分前にライブ配信開始
 
 665 8 共有 保存 … 

 

 

  Shirayuki Ch.しらゆき 

 チャンネル登録者数 37.4万人 

..チャンネル登録 .

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 世の中には生主、配信者(ストリーマー)、或いはゲーマー、或いはDotuberと呼ばれる職業がある。このVR全盛の時代に於いて、それは1つの職業として確立した。その中でもVirtual(バーチャル)なガワを被って楽しくゲームなどを配信する者を略し、総称してVtuberという。

 

「ミュート確認よし、バーチャル火薬庫からこんボム〜です!」

 

:こんボム〜!

:こんボムー!

:視聴しに参った

:シラユキチャンカワイイヤッター

 ¥500

 爆破代

 

「はい、スパチャありがとうございます。ということで、今日も始めていきますね!」

 

 そしてそれこそが、悲しいことに外堀を埋められた今の俺の職業だった。大神さんを巻き込んだ実況とそのあとに行ったスパチャお礼配信をきっかけにして、ズブズブと界隈の沼に引き摺り込まれてしまったのが全ての原因だった。今では大神さんの所属する『ウタカタ』のライバーさんともコラボしたりして、なんか凄いことになってしまった。企業所属はまだしてないのに。

 

 結果、なんだかんだでUPO以外のゲームにも手を出すことになってしまったが……1ヶ月の収入が十数万円〜数十、数百万円とかいう意味不明な金額になっている。UPO運営に確認したところ、このしらゆきちゃんボディは年齢での変化はないらしいし、学業と両立しながら働くスタイルが完成してしまっていた。……103万以上稼ぐと、法律的に色々と面倒なことになるのを身をもって知ることになったが。

 

「ということで、今回やっていくのはこれ! 【大乱闘叩き込み兄弟達〜仮想現実〜】ですっ! 私これ、実は初めてやるんですよね。テレビ画面でやるやつは昔、ちょっとだけ触ったことあるんですけど」

 

:なぜ全編日本語に訳したし

:レトロゲーコレクターしらゆき

:頑なにタイトルを言わないスタイル草

:それフルダイブ化してから操作根本的に変わってるけど大丈夫?

 

「そうなんですよねぇ。私が知ってるこのゲームは、コマンドを入力してコンボを決めていくゲームだったんですけど……なんか今は、基本的に自分の体を動かしていくらしいじゃないですか」

 

 と言うわけで、今日もまた火薬子(かやくこ)*1とみんなと一緒に、発火剤*2の飛び交うVR空間で遊んでいこうと思う。

 コメントでも言われてる通り、かつての同名タイトルと現在のこのゲームは些か性質が異なっている。根本的なシステムは何も変わらないが、ステージは2Dの平面からフルダイブ用の3Dへ。かつてコマンド入力で動かしていたキャラは、弱攻撃はそのプレイヤーのセンス次第に。スマッシュや強攻撃は自分の身体を"事前に設定されたモーション"に近くなるよう動かすことで発生するという、何とも玄人スタイルな動きが必須となっていた。

 一応初心者用に、旧来のコントローラースタイルで動かすこともできなくないが、俗に言うAC持ちでもしない限り完全操作は不能になってしまっている。

 

「折角ウタカタの方でやる大会に招待して頂いたので、今のうちから練習をしておきたいなと思ったんです。初心者ですけど、付き合ってもらえますか?」

 

:Oh yeah!

:初心者を引き込むことも玄人の嗜みよ……

:今ならしらゆきちゃんに手取り足取り教えられると聞いて

:ガタッ

:座ってろ

 

「ありがとうございます。ってことで、早速部屋建てちゃいますねー」

 

 取り敢えず好感触。初めてやるゲームにワクワクしつつも、取り敢えず今回のメインは練習だ。一応、大神さん辺りのプレイは見てきたけど、ぶっちゃけまるで分からなかったし。

 

「そういえば、初心者が使うのにオススメなキャラとか居ますかね? 居たらまずは、そこから手を出してみようと思うんですけど」

 

:初めてならMiiファイター1択

:Miiファイターやろうなぁ……

:下心ありでもMiiファイターだし、なしでもそう

:↑こういう奴がいるから、自分の頭身とよく似たキャラを使う手もある

:Miiファイターを選ぶと、使うことになるのはログインしてる自分のアバター。最初に戦闘タイプを選んで、基本コマンドは共通で設定される。だから1番使いこなし易いとは言われてる。

:ただあんまり強くはないよね

 

 配信画面の向こう側に問いかけてみると、そんな答えが返ってきた。なるほど、確かに一理ある。ゲームに慣れるのにうってつけというのは、あながち間違いでもないのだろう。多分、このアバターとの接触を狙ってる人も少なからずいるだろうけど。

 

「ならまずは、古い相棒を封印してそっちで遊んでみますね! 選べるタイプは格闘・剣術・射撃……取り敢えず慣れてる格闘スタイルにしますが……ボマーはないんですね、残念」

 

:初手格闘スタイルは勇気の塊で草

:火力と爆発力はあるけど、リーチがね……

:女性アバターは殴れない人 vs 合法的に触りに行く屑 vs ダークライ

:またしても戦わされるダークライさん(年齢不詳)

:それはそれとして、ボロボロに泣くしらゆきちゃんはみたいから全力で潰しに行く

 ¥1,000

 ダークライのファイトマネー

:ダークライはそろそろ休んでもろて

:爆弾はアイテムにある

:安定の爆破卿

:い つ も の

:爆弾に取り憑かれた男

:女の子やぞ

 

 思った通りのことを言っただけなのに、何故かコメント欄が爆速で加速していた。まあ確かに、格闘スタイルは一番相手と密着するスタイル。女性配信者は嫌な人も多かろう。俺は別に男だから気にしないが。

 

「えっ! あるんですか爆弾。ならその、普通ならアイテムなしステージランダム終点化だと思うんですけど……爆弾だけは使ってもいい、かな?」

 

:かまへんかまへん!

:寧ろないとしらゆきちゃんじゃないのでは?

:爆発物に取り憑かれてる……

:突然のタメ口は俺に刺さる

:お気に入りの人形を買ってもらった子供みたいな表情で草

 ¥10,000 イオ

 台詞リクエストです。『もしかして女の子かと思った? 残念、男だよバーカ』ってお願いします!

:お気に入りの人形(爆弾)

:シャンハーイ

 

 などと思っていると、そんな特大の爆弾が投げつけられた。イオ君さぁ……いや、確かに性癖を捻じ曲げた元凶は俺だし、毎月限度額までスパチャを投げる根性には感心するけど……いや、もう何も言うまい。

 

「くっ、赤スパには……赤スパには勝てないっ! イオさん、いつもありがとうございますね。でも、もしかして、私のこと女の子かと思った? 残念、男だよバーカ

 

 部屋が立ち上がりマッチングが始まる直前だけど、配信者は赤スパに勝つことは出来ないのだ。よっぽど変な要求のものでもない限り、それには応えねばならないと古事記にも書いてある。いとをかし。

 

:それはよくない。大変よくない

:lewd!

:男だろうが女の子として扱えば女のコになるんだよ!

:スパチャニキナイスゥ!

:わからせたい、この笑顔

:君のせいで…俺は…俺は普通だったのに…君のせいで俺は今大変なんだから!

:ありがとうございます! ありがとうございます!イオ

:いいわね、わからせ本。書くわナナナナナナナ

:やべーぞ大先生だ

 

 折角なので、ASMR気味に囁くようにして言ってみた。ヤバい人が沢山釣れた上に、自分を題材にした本がまた増えた。UPO本、微妙にジャンルとして発生始めてる途中なのに、もう自分の本が10冊あるんだけど……いいのだろうか。これ。取り敢えずスパナ*3付けとこう。許可貰ったし。

 とても楽しいが、こうしていては、いつまでも本題に進めない。故に一旦スパチャ読み読みは中断。本来の予定に沿って配信を進めるとしよう。

 

「基本的に、一戦ごとに交代するスタイルでやりましょうね。デュエルはルールとマナーを守って楽しくです! 私もみんなと色々やってみたいので!」

 

:はーい!

:その元ネタのルールとマナー、守れてますか?

:遊戯の王ぇ……

:まあ一戦毎にチェンジは残当よな

 

 そうして、元気のいいコメントで配信欄が埋め尽くされたのを確認したのに合わせて、えいえいおーと身体を動かす。TS娘特有の無防備に見える動き……やはりこれに限る。そんなことを思っている間に、マッチングが完了した。

 いつも通り場所はランダムで終点。マッチングした相手のキャラは、某アメコミヒーローのような姿をした毎日SNSにランチをあげてそうなキャラ。確かこのゲームの区分だと、足の速いコンボキャラ……だった筈。こっちも軽量コンボ型だから、対面での相性は悪くないはず!

 

「うわっ、小さ……」

「えーと、タソガレさん。よろしくお願いします!」

 

 そりゃあ180近くのキャラを使えば、この150前後しかない身体は小さいでしょうよ。そんなに体格差があっても、バトルが成立するのがこういう格闘ゲームの面白いところだけど。

 

「残機2機、時間制限7分でやっていきますっと」

 

 3 2 1

 Go!

 

「その開幕ダッシュキックはテンプレなんですかね?」

 

 技の発生終わりに1発脚を払って動きを止め、掴みを入れて下叩きつけ。跳ね上がったところに大上段キック。大きく浮かせて相手のダメージ%を稼ぎつつ、接近して追撃。百烈拳と言われるタイプのパンチを打ち込んでから、大きいのを1発どーん!

 

「ふぅ、コンボ決まると気持ちがいいですね」

 

:見え

:見え……た!

:初心者の動きじゃなくて草

 ¥5,000

 

「初心者なのは間違いないですよ。ちょっと他のッ、ゲームとかUPOで鍛えられたのと、古いシリーズの方はやり込んでただけッ、で!」

 

 無敵時間が終わり、ぴょんぴょん跳ねながら迫ってくるお相手の動きを空間認識全開で観察。向こうの攻撃に合わせて当たり判定の範囲から一歩外れ、攻撃を1発差し込む。

 

:コメント読む暇あって草

:↑だってお前極振りだぞ?

:キックの判定完全に見切ってて笑う

:リーチ短いのにようやるわ

 

 あっ、その復帰位置なら多分こうして、こうすれば──

 

「KA☆KA☆TO☆O☆TO☆SHI!」

 

 ダメージの%はそこまで稼げてなかったけど、崖側に追い込めたのでした方向にオーバーヘッドで踵落とし。落下した先からいつものエフェクトが発生し、残機を1つ消し飛ばした。

 

:脚技の方が判定強いのはわかるんだけど、さっきからずっとパンモロしてて草

:これが羞恥心を焼却して得る力……!

:脚技使いに脚技で競り勝つ煽り芸

:初心者だと思ってたけど元々極振りだからアレなんだよな

:しらゆきちゃんまだ0%で草

:おみあしprprだけどおてて……

:おてて民が静かだから正解かもしれない

 

「格ゲー……にVR時代の作品を分類していいのか微妙な部分ですけど、格ゲーってそういうものですか──」

 

 あっ、まず。いつもの空から戻ってくる演出で復活した相手の、こちらに向けて落ちてくる急降下キック。先程と同じように見切ろうとしたそれが、空中で動きを若干ながらも修正。カウンターをまた決めようとしていたこっちより早く、相殺も間に合わない速度で叩き込まれた。

 そのまま掴まれて、腹パン、腹パン打ち上げ、ストライク! 痛い痛いこれはまずッ

 

「にゃーッ!?」

 

:猫やんけ!

:いつもの悲鳴

:助かる

:VR版の洗礼だな

:基本的に動きが合ってれば、細部のアレンジが可能という運動音痴殺し

:まあ基本的に上級者テクニックだし

:腹パン、キック……ふむ、続けて?ナナナナナナナ

:やべーぞ大先生だ(2回目)

:先生にスパナ付いてて草

:これでも2D版のしらゆきちゃんのママだし……

:寧ろそれで、なんで付いててなかったんだ?

:大先生が拒否してた

:あっそっかぁ

 

 飛ばされた、復帰。あっあっ空中コンボ。ダメージ率、やばい。赤ゲージ。反撃差し込み、間に合ったけど削れない。コメントを読む暇なんてとうにない。いやそれはあるけど返信する暇がない。まず、まずい。この距離は──

 

「膝大学!!」

「国立ッ!?」

 

 30%弱まではなんとか差し込んだけれど、時すでにお寿司。どうしようもないメテオ返しで、こちらも残機を1つ吹き飛ばされるのだった。しかしタダでやられてなるものか。復活がてらに落ちてるアイテムを回収、再度参戦する!

 

「爆弾ゲット! さっきはよくもやってくれましたね!」

「爆破卿にそれはまずいッ!?」

 

:勝ったな風呂入ってくる

:鬼 に 金 棒

:駆 け 馬 に 鞭

:しらゆきちゃんを鞭でわからせる……?

:しばいて貰うに決まってるだろ

:爆破卿降臨

:安心と信頼の爆破卿

:火薬の香りがしてきたな……

:変態も同時に湧いてきたがな!

:シラユキチャンカワイイヤッター

 

 この後この試合はなんとか競り勝ったものの、上手い人には普通に負けるような試合が続き、【猫シーンまとめ】なる切り抜きが作られたのだった。

*1
リスナーの呼び名。①話参照

*2
スパチャの呼び名。①話参照

*3
モデレーター権。配信者と一緒に色々配信を補助できる。不適切なコメントをBANしたりとか




 感想評価&コメいつもありがとうございます! 

 番外編はゆるーくこんな感じに、思いつき次第書いていこうかと思います。


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第番外話 1周年大型アップデートの話

前話より時系列は前です。
今後の種まき回


 あの波乱の12月が過ぎて、年末、お正月。

 年末年始のUPOは、他のVRMMO系のゲームの類に漏れることなく、運営が休みを取るための静かな期間だった。

 事前に告知されていた通りの、かつてのソシャゲで言うのであれば1ヶ月の虚無期間。しかし盛り上がったPvPイベントの熱が冷めることはなく。公式イベントではないが、二次会のようなテンションでUPOには空前のPvPブームが到来していた。

 そこに年末年始の大規模休暇による新規プレイヤーの大量流入も後押しし、今年のゲーム大賞をUPOが掻っ攫う……ことは惜しくもなかったが、技術賞に関してはぶっちぎりでトップに君臨していた。やはり古参のゲームは強い、寺生まれのTさん構文ではないがそう思った。

 

 なお面白いことに、なんと現代まで続いているクソゲーオブザイヤーの話題にも挙げられていた。主にユニーク関係は兎も角、極振りの異常なスペックとイベントからの排除あたりが問題だったらしい。ごもっとも。大体プレイヤースキルが異常でゲームシステムは問題ないという点で決着はついてたので、最後には流れて消えた話題だったが。

 

 閑話休題

 

 そんなこんなで、年末に行われたワンタイムの年明けカウントダウンイベント*1や、年始の軽い初詣イベント*2などが過ぎ──ボチボチ高校が休みから開け、受験シーズンがピークを迎え始めた頃。UPO運営から1つの大きな情報が齎された。

 

 ユートピアオンライン ☑︎・1時間     
… 

 @UtopiaOnline_Staff  

 【UPO】1st Anniversaryキャンペーン開催、及び1周年記念大規模アップデートのお知らせを公式サイトにて掲載いたしました。詳しくは公式サイトをご確認ください。⇒ https://……

 120  1.8万  ♥5.4万     
 

 

「とーくんとーくん、もうこれ見た?」

 

 学校の昼休み。長いようで短かった休みが明けたものの、まだ年末年始の雰囲気が抜けきらない教室で。いつもの様に目の前の席に座りお昼ご飯を広げ始めた沙織が、そんなことを言いながら手元の携帯画面を見せてきた。

 そこに表示されているのは、某SNSに投稿されたUPO公式のお知らせ。それはついさっきこちらも確認したばかりの、【1周年記念大規模アップデートのお知らせ】という爆弾。全プレイヤーの胸を躍らせながらも、疑り深いプレイヤーの心中に穏やかではない風を吹かせるお知らせだった。

 

「見たよ。まさかまた抜刀術がナーフされるとは……」

 

 大型アプデの内容はかなり多かったから一旦置いておいて、普段のメンテナンス情報の報告欄。そこに記されていたのは、幾つかのスキル調整とアイテムのドロップ率、敵の行動パターンなどの調整といった情報だった。

 具体的には下方修正されるスキルが【テイミング】*3【抜刀術】*4【紋章術】*5系列の3種類。正直なところ1個目はどうでもいいが、2個目3個目はかなり心臓に悪い文言だった。

 尤も紋章術は、アキさんの特化紋章重ね掛けが不可になっただけで、【コート・オブ・アームズ】にはほぼ無関係なので一安心。問題は3度目のナーフを食らった抜刀術の方である。

 

「2回目だっけ?」

「いや、実質的には3回目」

「なんというか、どんまい!」

「本来規制したかったっぽいアキさんにはノーダメージなのに、普通のプレイヤーにしわ寄せが来るなんて……」

 

 弱体化1回目はダメージ計算の乗算→加算形式への変更、2回目は(ゲーム自体の)ダメージ上限値の設定。そして今回3回目、一部アーツの強化数値の変更が来た。対象は《鎧袖一触》と《死々奮刃》、簡単に言えばHPが80%以上の場合HPを1にして次の攻撃1発のダメージを2.5倍にする技と、そのMP版の技になる。その強化倍率が2.0倍にまで下がるらしい。

 ちなみにアキさんの場合、このくらいじゃ一切のダメージ無く上限を叩くことが出来る。補正なしの武器持っただけで素ダメージ60,000はダメだってやっぱり。

 

「やっぱり、何か良くない影響あったの?」

「うん。黒アストが今まで、363.6〜429.5%ダメージの確定1発で倒せたのが、計算した感じ220.4〜261.3%ダメージで確定1発に落ちた。乱数じゃないからまだいいけど、RTAがちょっと厳しくなってくるかも」

 

 黒化ボスは基本的に倒せば倒すほど能力が上昇していく性質を持っている以上、いつかは乱数1発、あるいは確定2発くらいまでダメージが落ちることは明白。そうなると本格的に、RTAじゃなくて動画配信に手を出す必要性が出てきてしまう。

 

「それって十分じゃない? あ、卵焼きあげるから唐揚げ頂戴」

「いいけど、貰うのはエビフラ──むぐ……動画のネタがね。ちょっと生配信にせざるを得なくなるというか」

 

 なんてことを話していたら、卵焼きをそのまま口に突っ込まれて口封じされ、渾身の出来だった唐揚げが持っていかれてしまった。自分が作るのとは違う、優しいとしか言いようのない味。この味は作れないんだよなぁ……ではなくて。

 

「私に手伝えるかはわかんないけど、手伝えることあったら言ってね。なんたってとーくんの彼女だもん!」

「了解。ちゃんと今度こそ、頼らせてもらうよ」

 

 堂々と笑顔でそう言ってくれるだけで、本当に助かる。あれ以降、堂々と沙織が宣言するようになって、この昼休みの教室から甘い空気に耐えられない人が全員逃げ出すようになったけど。

 

「沙織の方は拳銃系のスキルが強化されたんだっけ?」

「うん。今まで不遇だった拳銃系のスキルが強化されたし、アサシン系の能力にあった不具合も直ったから満足かな!」

 

 俺がゲーム内で使っているのは銃系ーライフル系ー狙撃術系統のスキル、セナかゲーム内で使っているのは銃系ー拳銃系ーガン=カタ系統のスキルに分類される(UPO検証班調べ)。その中でも狙撃と違い、拳銃系は威力は低いわ射程も短いわで不遇だったらしい。そこをクリティカル率や弾道の予測システムから外すことで、バランスを取りに行くとかなんとか。

 アサシン系の能力にあった不具合は、ごく稀に隠密状態中の視界が白一色になる不具合なんだとか。普段からかなりの頻度で使っているのだが、遭遇したことがなかったから知らなかった。

 

「それでね、話は戻るんだけど。1周年アップデートの内容、とーくん的にはどう思う?」

「色々とあってビックリだけど、取り敢えず楽しみかなぁ。うちのギルドがすごいことになったし」

 

 先程色々ありすぎて飛ばした1周年アップデート。その内容を簡単にまとめると、この5つになる。

 

 ・第7の街の『街』としての正式稼働

 ・新称号3rdの実装

 ・一部システム面のUI変更

 ・1st Anniversaryキャンペーン開催

 ・新エリア:王都ストーリーモードの解放

 ・新大陸/旧大陸双方に、最低レベル120overの徘徊(ワンダリング)ボスの実装

 

 1個目の街関連の話はちょっと後ろ倒しになっただけの、元々予定されていたことなので割愛。3つ目は現状どんなものか情報がないため割愛する。故に問題は、2個目の新称号3rdの実装についてだ。

 

 新称号3rd

【弱者の盾】デュアル

        【トリガーハッピー】ザイル

【撃墜王】ラン

        【大先生】ナナナナナナナ

【自壊牙】忠犬でち公

【超平均】絶対の秤騎士

        【大凍界】つらら

        【蝕毒腐敗】Serene

        【魔砲少女】ミザリー(射手子)

【長命種】オウカ

 

 男女極振り別で公開されたこの情報によって、ギルド【極天】とギルド【すてら☆あーく】は構成メンバーが全員ユニーク称号持ちという、少々意味不明な戦力を持つことが確定した。

 これは他ギルドと違って、完全に1パーティ構成の少数精鋭型ゆえの強みと言えるだろう。無駄にギルドに加入希望を出してくる人の、申請を断るいいネタにもなる。ただその分、ギルド参加のイベントでは露骨に対策されそうだ。

 

「私は徘徊ボスが楽しみかなぁ。どうせなら色んなギルドの人と一緒に、大規模レイドみたいに遊びたいよね!」

「わかる」

 

 徘徊ボスのうち公開されていた1体は、どう見てもバケットホイール・エクスカベーター*6がベースになっているドラゴン。

 そんなの間違いなく先輩方が突撃するのは目に見えてるから、一回倒したっきりじゃなくてちゃんとリポップしてくれる個体がいることを切に願っている。

 

「1周年イベント、第5の街よりもっと先に解放される新マップでやるらしいし楽しみだね!」

「所謂カルマ値的に入れるか心配ではあるけどね。それと、」

「それと?」

「いや、去年の4月くらいから始めたから忘れてたけど、もうUPOもサービス開始1周年なんだなぁ……って」

 

 めでたく、そして感慨深い話だ。昨今のVRゲームは文字通り日進月歩で技術開発が進み、ユーザー数という限られたパイを切り分ける大戦争が起こっている戦国時代なのだ。

 毎月新しいゲームが生まれては消え、生まれては消えを繰り返す極めて競争の激しい業界。であるというのに、そこでサービス開始たった1年で古参ゲーと並ぶぶっちぎりの人気トップ5に上り詰めた。ギリギリ僅差で4位という惜しい順位ながらも、まず間違いなく新進気鋭の化け物タイトルである。

 

 断じて、断じて『王都って名前だからあるだろう王城を、盛大に爆破をしたらただじゃ済まなそうだから残念』だとか、そんなことを考えてなんてない。考えてないったらないのだ。その為にわざわざ話題を逸らしたなんてこともない(大本営発表)

 

 こんな風に、平和に過ごせる日常が4月に崩壊することを、この時の俺はまだ知らない。いや、正確には予想はしていたけど、それを遥かに上回る規模に問題が波及することをまだ知らなかった。

*1
【TIPS】案の定《爆破卿》はイベントに乱入し、大規模な花火ルをカウントダウンと共に打ち上げた

*2
【TIPS】ユキとセナは揃って健康祈願と藜の合格祈願をしていたらしい

*3
テイムモンスターとペットのコンビネーションでマップとゲーム性が崩壊する為修正します

*4
発生するダメージでゲームごと両断できてしまう為修正します

*5
一部スキルにおいて、重複発動不可の効果が重複出来てしまう不具合を修正しました

*6
長いアーム先端に回転式の巨大なホイールがついており、ホイールの外側に複数の掘削バケットがついているアルティメット巨大重機




 感想評価&コメいつもありがとうございます! 

以下おまけ

 新称号3rd
【弱者の盾】デュアル
        【トリガーハッピー】ザイル
【撃墜王】ラン
【大先生】ナナナナナナナ
【自壊牙】忠犬でち公
【超平均】絶対の秤騎士
        【大凍界】つらら
        【蝕毒腐敗】Serene
        【魔砲少女】ミザリー(射手子)
        【長命種】オウカ

《弱者の盾》
 全プレイヤー中、味方と一緒に戦っている時に一番自分の身や盾で味方を守った回数が多い。
 効果
・被ダメージカット上限解放(最大90%まで)
・戦闘で味方を庇う毎に称号者のVitとMinを+1%加算(上限は30%)

 専用装備【弱者の腕輪】
・パーティでレベルが一番低い者の一番低いステータスを称号者のVITとMNDの10%分追加する(小数点切り上げ)
・30秒間ダメージカット500%

《トリガーハッピー》
 全プレイヤー中、最も銃器系装備の引き金を引いた回数が多い。
 効果
・銃弾系アイテムの消費を自身のアイテム欄からではなく、保有するアイテムボックス(ギルドに所属している場合ギルド倉庫からも可)から消費できる
・称号保有者からの弾道予測線の希薄化

 専用装備【ピースメイカー】
 属性 : --
 属性 : --
 状態異常 : --
 口径 : --(ダメージボーナス+100)
 銃機装填
 音量変化(0〜100%)
 閃光変化(0〜100%)
 耐久値 : なし

《撃墜王》
 全プレイヤー中、最も一部機械系の敵(Ex:戦車・戦闘機・機械人)及び固定シンボルボスの撃破数が多い。
 効果
・所属PTの一部機械系mobに対する特効(50%)
・所属PTのボスに対する特効(20%)
・一部NPCからの好感度上昇(極)

 専用装備【バトルスター】
・指定の敵の撃墜数をカウントする
・カウントが100増加するごとに、装着者の全ステータス×(1+0.01n)
・10秒間のみ、一時的にカウントの数を10倍にできる

《大先生》
 全プレイヤー中最もゲーム内で絵を描いた
 効果
・UPOシステム欄以外の空中に絵を描ける
・確率で絵に描いたものが実物になる(確率はLuk、Dex依存)
・一部NPCからの好感度上昇(極)

 専用装備【無限の色彩筆】
・専用スキル【神域の絵画】獲得
・カラーパレット解放
・ブラシ、ペン先解放
・無限インク

《自壊牙》
 全プレイヤー中最も、他者からの攻撃による武器の破損回数が多い。
 効果
・武器が破壊されると強化バフ発動、[選択した任意のステータス2つ]の高い方を+30%(上限900%)
・武器の耐久値-[任意の数値]%(1〜99%)
・武器性能上昇-[任意の数値]%(上同)

 専用装備【再臨する[ ]】
・武装装填(使用中の武器に接続。装填した武装はステータスのみを参照し破損しない)
・破壊武器性能上昇(極)
・破壊時再生時間延長(破壊回数×1s)
・壊れる度に特殊スキル解放
┣一回目:耐久を消費して攻撃に強化補正
┣二回目:耐久を消費して武器そのものの攻撃力上昇
┣三回目:耐久を消費して武器の軽量化
┣四回目:耐久を消費して強力な一撃
┗五回目:自壊して一段階目に戻る(強制発動)

《超平均》
 HP・MPを除いたステータスが、全ての装備とアクセサリーを装備した常態かつ装備全ての名称が違う状態で同値の時間が最長(その状態が解除された場合のみ作用)
 効果
・バフ・デバフ完全無効
・全ステータス+30%(HP・MP含む)
・全装備ステータス+30%
・与ダメージ+10%

 専用装備【シルバーヴァレット】
 装備していない武器のスキルを、保有している場合別の武器種でも使用可能になる

《大凍界》
 全プレイヤー中、最も広範囲のフィールドを1度の魔法で凍結させた。
 効果
・凍結時間延長(極大)
・範囲凍結時、範囲内のHPMP吸収1%/2s

 専用装備【時の棺】
・時間凍結
(使用制限:24時間に1度)
(時間制限:消費したHPの○○%/10秒
 Ex:10%消費→1秒停止)
(範囲自己を中心に100m×100m×100m)

《魔砲少女》
 全プレイヤーの中、最も射撃または投擲武器による命中率が高い。
 効果
・射撃または投擲武器に必中属性を付与
・防御貫通30%を付与

 専用装備【ミニマム列車砲】
・ゲーム内に存在する列車砲と同等の火力を持つ砲身を形成、砲撃可能な射撃武器

《蝕毒腐敗》
 全プレイヤー中、最も毒系アイテムでダメージを与えた
 効果
 Potダメージ時にデバフ付与
(移動速度10%低下・被ダメージ10%上昇)(継続ダメージの場合ダメージ発生タイミング毎に付与)
 専用装備【リーサルヴェノム】
 見た目:紫色の液体の入ったフラスコ瓶(もしくは試験管)とそれをとめるポーチ
・使用制限:24時間で6回
(4時間事に1回分回復)
・着弾地点の半径5mに以下の効果を自身及び自身のパーティーを対象外にした天候【彼岸徒花桜】を180秒展開
【彼岸徒花桜】
・侵入時Dexの1/2の即時ダメージ
・侵入時ランダムに1つの基礎ステータスを-15%
・抵抗判定失敗時、侵入時間1秒につき30秒間【徒花】を付与
(【徒花】Dexの1/10の継続ダメージの特殊状態異常)

《長命種》
 全プレイヤー中、デスペナまでの時間か最長(ログイン時間中のみ計測)
 効果
・最大HPを1.8倍、最大MPを1.3倍
・HP・MPリジェネを付与(2%/10s)
 専用装備【叡智と長命の宝剣】
・HPとMPをチャージ可能(限界なし)
・チャージ量が性能上昇
・物理&魔法確定ダメージが発生


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:||説・爆破系美少女配信者しらゆきちゃん④

  
  
  生 、襲 来

 携帯が修理終わったので初投稿です


 春、それは出逢いの季節。

 転校や進級、卒業や就職といった完全に環境が変わるものから、学校のクラス替えや席替えと言ったほんの少し変化するものまで。一言では纏めれないほど、春というのは様々な変化が起きる季節だ。

 そして当然、その変化は俺たちにも訪れる。俺も沙織(セナ)も特になんの問題もなく、成績は中位を彷徨いながらも進級。()さんも当然のようにうちの高校へ進学することが出来ていた。

 

 そして──

 空さんは弾けた

 [○先駆け]

 元からそういう話にはなってたし、これまでは沙織と一緒だった登校に空さんが加わるのはいい。いや、本当はあまり良くないけれど、1回断ろうとしたら大変なことになりかけたからよしとする。沙織も別に構わないって、何か空さんと話してたし。

 学校帰りに何故か我が家に寄るのも、まあ、百歩譲って気にしない。空さんに色々と友人が増えたことは喜ばしいことだし、前からちょくちょく沙織と勉強会をしていたからそこはいい。

 

 だけど、だけどだ。休みの時間とか都合が良い時に限って偶にだが、1個学年が上のうちのクラスにまで押し掛けてくるのは、ちょっと困る。既にクラスは両手に花の二股疑惑で持ちきりだ。今年も変わらず沙織と同じクラスで、去年までのクラスと違って普通に話せる友人も出来た。出来たのだが……こう、少し不味い。しっとマスクが出てきてしまう。

 

 だが、それよりも大きな問題が1つ。

 釣られて沙織も弾けた

 [○独占欲]

 まるで見せつけるようにくっついたり、腕を組まれたり、弁当を交換したり。クラスメイトからピンク色のオーラが見えると、最近言われるようになってきたのだ。悪くないが不味いって、早速あだ名が二股クソ野郎から肉食動物の前の羊に変わってるんだって。

 ……ねえ待って、待て、待ってって友人氏。実況を始めるんじゃない。『彼女の脚質には合っていますね』じゃないから、『少し掛かり気味でしょうか、一息入れるタイミングがあればいいのですが』でもないから。恋のダービー卑しか女杯が始まったっておま、うまぴょいしないから! まだ未成年だから!! 賭け事を始めるなァーッ!!!

 

 

:視聴者が分かりづらいからって俯瞰視点なの相変わらず草

:このマップの草爆発するんですが

:つべ開いたらやってるじゃーん

:それにしても新大陸で平然としてるなぁ

:視聴しに参った

 ¥720

 すてら☆あーく全員ユニーク化おめでとう!

:新要素なかなか見つからないね

:極振りプレイは見てて楽しいからヨシ!

:72……? 

:あっ(察し)

:くっ

:↑いい奴らだったよ……

:な、無いわけではないから

:鬼いちゃんガードが来そう

:そも爆破卿の前でそれを言えるのか(困惑)

 さ え お ⚫︎ライブ
 せ ろ わ れ だ 

 #ボムライブ #ニトログリ絵リン

【UPO1周年!】のんびり新要素を探索しつつ雑談【しらゆき】

 4,968人が視聴中・32分前にライブ配信開始
 
 654 9 共有 保存 … 

 

 

  Shirayuki Ch.しらゆき 

 チャンネル登録者数 38.2万人 

..チャンネル登録 .

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 世の中には生主、配信者ストリーマー、或いはゲーマー、或いはDotuberと呼ばれる職業がある。このVR全盛の時代に於いて、それは1つの職業として確立した。その中でもバーチャル(Virtual)なガワを被って楽しくゲームなどを配信する者を略し、総称してVtuberという。

 とまあ、いつもの口上はここまでにしておくとして。今は久しぶりに何も考えずにやっているUPOの配信中。最近まで大神さんの企画だったり、向こうの事務所さんにお招き頂いたイベントだったりだったので少しだけ懐かしく感じる。通常プレイはずっとしてたけど。

 

「とまあ、そんなことが今日バーチャル学校であってですね。全くもう、困っちゃいますよ」

 

:いったい俺たちは何を聞かされているんだ……?

:↑そりゃあ火種よ

:イチャイチャ百合百合の話だと思う

:てぇてぇ話

:爆ぜろ爆破卿!

:オコッテルシラユキチャンモカワイイヤッター

:そのあとはどうなったの?

 

「その後ですか? ちゃんと3人で帰りましたよ、いつも通り」

 

 気配を殺し、なるべく振動すら起こさないように新大陸の森を歩く。配信の名目の通り、探しているのは1周年アプデで追加されたらしい徘徊(ワンダリング)ボスモンスター。とはいえ本来の目的は、去年とは別の意味で針の筵な学校で荒んだ精神を癒すこと。そのための雑談散歩だった。

 

「どうすればいいんでしょうねぇ……、火薬子(かやくこ)*1のみなさんはどう思います?」

 

:……無理なんじゃないかなぁ

:しらゆきちゃんじゃ無理

:ごめんなさい

:こういう時どんな顔をすればいいか分からないの

:もう助からないゾ

:春の嫉妬大三角形、美しい

:シットライアングルってか

:【審議中】 ( ´・ω) (´・ω・) (・ω・`) (ω・` )

:飢えた狼と鷹の前に調理済みの羊を出すみたいなもの

:しらゆきちゃんは贄

:しらゆきちゃんはマゾ……?

:およめさんののあしのうらをなめるのがすき

:おい誰だこれ呼んだ奴

:いい匂いはしそう

:でも実際尻に敷かれてるから

:空気はある、しかも美味しい!

 

 助けを求めたリスナーさん達からは、そうスカンを食らった上に煽られた。ちょっと酷くないですかねぇ……などと思いながら、コメント欄を眺める事しばし。普段と変わらぬ時間、変わらぬ速度で流れるコメント欄だったが、1つだけ異常な点があった。

 なぜか、普段見る名前の人達が今日は少ない。活動開始からコメントしてくれていた人たちがあまりいないのだ。飽きられてしまったのだろうか、いやでもこの前の放送までは来てくれてたしなぁ。そんなちょっとした寂寥感に包まれること数秒、答えはスーパーチャットからやってきた。

 

 ¥10,000 イオ

 聞いてた限り痛ましいにも程があった学校生活をしらゆきちゃんが楽しそうに語ってて涙がとまりません。あ、できれば罵って下さい。踏まれたいです。

 

「あ、えと、ありがとうございますって、最後で台無しですよこの変態!」

 

 シームレスにイオ君からのスパチャを処理していると、そこからまるで堰を切ったようにコメントが溢れ出した。最近見てくれるようになった人たちではなく、初期の頃からコメントしてくれていた人たちから届く無数の言葉。労いだったり、心配だったり、揶揄いだったり、喜びだったり、おっ煽りかお前。兎も角そんな言葉達が、思ったよりも心に刺さって。

 

「あ、あれ? なんで……」

 

 気が付けば、涙が流れていた。フルダイブ経験VR特有の、魂が剥き出し故に隠せない心の表情。現実では何があっても表に出さない部分が、配信中に曝け出されていた。今回のアーカイブは非公開かなぁ。

 

:泣かないで Silver blade

:泣くんじゃねぇ

:っアカチン

:塗らねぇよ!

:どうしてこう、可愛い女の子の涙はそそるのかしらナナナナナナナ

:やべーぞ大先生だ(n回目)

:そそるぜぇ、これは

:涙舐めたい

:(性癖の歪んだ)仙空ッ!

:胸元の式がE=mc2からε = λ/lに変わってそう

:圧縮されて歪んでて草

:なんの役にもたたなそう

 

 なんて話が脱線していく間も、ポロポロと溢れる涙が止まらない。思っていたより、これまでの生活はメンタルを削っていたのかもしれない。そんな考えが、脳裏をよぎった瞬間だった。

 なんとか服の裾で拭っていた涙の滴が一滴、地面に向けて落下した。普段ならばなんてこともない、地面にシミが一つ増えるだけのこと。ただ今(おれ)がいるこの場所は、安心と信頼の【尽焼の燎森】、その深部。つまり──

 

「あっ」

 

 この場所は、微かな衝撃だけで爆発する。

 気が付いた時にはもう遅い。気が付いた時にはもう遅い。大事なことなので2回言ったが、本当に時すでに遅し。涙が落下した地面で、まず最初の爆発が誘発。超小規模なそれが別の火種に引火、爆発、引火を繰り返していく。

 そうして無限に重ねられた爆破の螺旋は、いつものようにエリアごと全てを吹き飛ばしたのだった。最後に何か、動物の悲鳴のような音を響かせて。

 

:あっ

:デ デ ド ン

:い つ も の

:や っ た ぜ

:なんか書いとけ

:や っ ぱ こ れ だ ね

 ¥500

 爆破代

:こ無ゾ

:いま絶対何か聞こえたよ

 

 そしてまあ、ここまで景気良く綺麗に吹っ飛ばされてしまえば、諸々の気持ちも引っ込むというもの。いつものマイホームにペタン座りでリスポーンした時には、既に涙の気配は何処かへ消えていた。

 

「死にましたわ」

 

 折角それっぽかった雰囲気が台無しである。いや、爆破自体は実にビューティフォー……な感じで良かったのだが。よかったのだが!

 

:ドンマイ

:なんかシステムメッセージ出てね?

 

 今から森のあそこまで深い場所まで戻るには、相当な時間がかかってしまう。代わり映えする風景でもない以上、ここからもう1回配信するわけにはいかない。

 既に1時間は配信しているし十分だろうと、配信を切る為の準備をしようと思った矢先だった。ふと、そんなコメントが目に入った。慌てて手元に視線を落とせば、確かにメニュー欄に普段は存在しないマークが存在している。というか、さっさとタッチしろと言わんばかりにビカビカと付いているバッジが輝いている。

 

「うぐぐ、微妙に悔しい……って、確かにメッセージ来てますね。しかも運営から」

 

 このままでは今回の配信の取れ高は微妙。ここは運営が変なメッセージを送ってきてないことを信じて開くのみ! あと単純に気になるし!

 

「ちょいあー!」

 

:しらゆきちゃんの謎の掛け声シリーズ

:ちょいあー!

:ちぇりおー!

:にゃー、みゃー、ふぎゃー、ときてちょいあー!か

:にゃー、の方が好きです Himmel

:わかる、あっちの方がかわいい

:ドッチニシロシラユキチャンカワイイヤッター

 

 なんかコメントが加速したけどそれはそれ。勢いよくタップしたメッセージ欄は光を放ち、大きな大きなメッセージウィンドウを形成していく。そうして露わになったのは──

 

Congratulations!

You have defeated a Wandering monster

【The Frenzy horn deer】

 

「ンンン突然の全編英語!?」

 

 でも内容を見る限り、書いてあることは単純だ。またぞろ再加速しているコメント欄を流し見つつ整理するに……どうやら(おれ)は、さっきの爆発で徘徊(ワンダリング)ボスモンスターを討伐していたらしい。しかも名前を見る限り、多分第二回イベントの時以降ちょくちょく遭遇している鹿形ボスと同種族。

 

「つまり、えーと……シカでした。いつの間にか徘徊ボス倒してましたね!」

 

:つまりヤギね!

:伝統行事

:絶対虎だったって(鹿)

:死因・女の子の涙

:女の子の涙(可燃性)

:ロボ娘かな?

:かわいい女の子の涙に勝てる男はいない

:TS虚弱白髪幸運極振り猫型ロボ娘爆弾魔お嫁さん2人持ち(尻に敷かれ済み)受け体質って盛りすぎじゃね????

:滾りすぎて新刊が産まれたわナナナナナナナ

:大先生ぇ!

 

 HAHAHAと笑ってみるけど、笑ってていいのだろうかこれ。オチが出来てしまった。正直もうちょっと遊んでいたかったのだが、配信を終わる流れが完成されてしまっている。

 

「と。そろそろ配信も長くなってきちゃいましたし、予想外のオチも着いちゃったので配信を締めようかなーって思ってるんですが、その前に! 一個だけ告知があります」

 

:行かないで

:その前に?

:告知!

:告知!?

 

「前々から皆さんに『歌枠やってほしい』とか『歌ってみた出して欲しい』とか応援して貰ってたのに、私これまで一回もやってなかったじゃないですか。その、すっごい下手で」

 

 だからもう、最後に告知だけしてこのまま綺麗に締めてしまおう。ちょっと予想外の内心に気付いたりもしたけれど、もう目的は果たせたのだから。

 

「それでカラオケで練習もしたんですけど、その、どうしても音痴が治らなくてですね……」

 

:しらゆきちゃんのあれはね、うん

:普通に歌うと下手で、頑張って歌うと読経という

:原曲ブレイカー

:鼻歌はちゃんとしてるのにね

:練習えらい

:音痴を治そうと頑張ってるの想像するとほっこりする

 

「仕方がないので、自分の声をサンプリングして人力VOCALOIDしつつ、火薬子さんが作ってくれたMMDを使って一曲分動画を作ってみました。この後すぐにプレミア公開する予定なので、お楽しみに〜!」

 

 セナや藜さんと一緒に何度も歌声の矯正を試してみたのだが、案の定全滅。それでも視聴者さんの期待に応えたかったので、なんとか講じた苦肉の策だった。

 

:地味に意味わからないことしてて草

:そっちも極振りなのか……

:意味不明技術力してて笑う

:昔と比べると技術も進歩したんやなって

:サンプリングデータクッソ欲しい

:あげません!!(全身全霊の声)

:よよよ〜

:MMDモデルまであるのか

:やってること俺らと同じで笑う

 

「ではではでは。今回はアーカイブが残らないですが、おつボムでした〜! それと、今日もありがとうございましたー!」

 

 配信デバイスに手を伸ばして、笑顔で手を振ってご挨拶。配信終了画面に切り替えて、ちょっとだけ流れるコメントを見る。残念ながらCパートはないが、何となく堪らない達成感と満足感。

 

「えへへ」

 

 溢れた笑顔はそのままに、諸々の手順で配信を終了させた。

 さて、沙織と空さん、あと大神さんからもお墨付きをもらったけど、歌ってみたっぽい動画はどうなることやら。

*1
リスナーの呼び名。




 感想評価&コメいつもありがとうございます! 

 因みに作者は前からターボ師匠、しっとり……トウカイテイオーとマチタンも好きです。えい、えい、むん!


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