GGOのガンスミスがあまりにも不遇な件について (ひなあられ)
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荒廃の地にて、銃職人のぼやき【改】

少し手直しバージョンです。大筋は変わりませんのでご心配なく。


 糸杉康平こと俺は普通の高校生である

 

 そんな俺は、やはり中学と変わりなくゲーム三昧の生活をしている。中学の時と違う所は、ゲームが矢鱈と発達していて、VRナンタラとか言うゲーム機がある事だ。

 

 詳しい機構とかよく知らんが、取り敢えず現実と同じような世界で大多数の人と共にプレイ出来るゲームとか、そんな感じの認識でいい。

 

 序でにこのゲームは銃撃戦を主にしたFPSだ。どいつもこいつも銃を持っていて、換金システムがある為にプロもいるガチめのゲームだ。

 

 で、そんな世界で俺は、ドリル片手に鉱山にいる。

 

 

 ……そう、ドリルだ。銃じゃ無い。こんな事してる奴なんて一人もいない故に、毎日一人寂しく鉱石掘りである。銃ゲーでまさかのガンスミスプレイをしている。

 

 サービス開始から一ヶ月。未だにプレイヤーを殺した事は無く、延々と鉱石を掘り続ける作業を繰り返している。

 

 しょうがないと言えばしょうがない。銃というのは普通避けれるものではない。音がしたと思ったらやられている。なにせ音速超の鉛玉なのだ、当然といえば当然である。

 

 そんな所もしっかりとリアル基準なこのゲームは、基本的に撃たれたら終わり。それなのに俺のステータスはINTとDEXに極振りなのだ。

 

 防具や装飾品で下げれるダメージを下げる事が出来ない。それ故に装備を整える事も出来ず、火力の高い武器も使えない。

 

極め付けはこのゲームのシステムだ。バレットサークルとバレットラインというシステムが、どうしても肌に合わない。銃と身体の動きとシステムがどうしても噛み合わず、ついつい染み付いた身体の癖が出てしまう。要するに全く弾が当たらない。

 

 チュートリアルで教官役から唯一合格点を貰えたのは、武器の分解清掃だ。報酬は武器清掃キットと武器修理スキル。それが元でこんなステ振りになったのだが。今思えば核地雷もいい所だと思う。

 

 スキルとしては、銃製作、銃分解、銃組み立て、銃清掃、罠、採掘、工具製造、工具分解、工具清掃、火薬製造、鑑定、板金。もう銃撃つ気なんてこれっぽちも無いと言うような構成。せめてアクロバットくらい入れたかった。ステータス制限で会得クエが受けられないが。

 

 ちなみに炭鉱夫生活五日目である。元々こういう系のゲームも好きだったから苦にはならないのが救いだ。何処ぞの狩りゲーを思い出すな。

 

 お目当の銃なんて物は無く、どうせなら突き詰めるとこまで突き詰めてやろうという、割とどうしようもない精神でこんな事をしている。五月の大型連休使って朝昼晩掘っているので、そろそろ採掘スキルが500の大台に達しそうだ。一体俺は何をしているのだろう。

 

 一応説明を入れると、採掘スキルはその名の通り、採掘する速度や効率が上がる。高ければ高いほどレアな鉱石が出る。最近は宇宙船の装甲の材料なんて物も出て来た。熟練度が足りないので銃に加工出来ないが。

 

 今必要な鉱石は鉄。工具製造の方で必要なのだ。練度は400。本当に何をしているのだろうか。鑑定の方はとっくにコンプリートだ。この世界ではほぼ使う事の無いスキルなので、完全にお飾りのコンプリートだが。

 

「……硝酸…か。次」

 

 いや、硝酸も火薬製造には有用な素材ではある。しかしどうせならエネルギー結晶体の方がよかった。あっちの方が使い道が多い。

 

 火薬製造とは、文字通り火薬を製造するスキルである。専用のキットを用いて掘り出した鉱石を加工し、火薬に精製する。形はフラスコとかバーナーとかがくっ付いていて、殆ど実験道具のそれだ。

 

 一応作り方としてはかなりリアルに沿ってはいる。抽出とか精製とか蒸留とかしないといけない。大体は黒色火薬としてストックされているのだが。ちなみにエネルギー結晶体の方は光線銃の火薬みたいなもので、割と自由な応用が利く。

 

 有用な使い方としてはプラズマグレネードだろうか。エネミーを誘導するのに役に立つ。火薬の方が音が大きいので、あまり扱う事は無いが。

 

 この火薬製造だが、熟練度500を越えた辺りで弾薬製造のスキルが生えた。使う予定は無いので取ってはいない。

 

 今の所、スキルとして一番役に立ってるのは鑑定で、その次に工具分解。最近俺は何のゲームをしていたかと不安になる時期がある。重症じゃないのか?

 

 余談だが、分解系のスキルは意外と使える。武器や工具を分解してストレージに入れると、容量を十分の一以下に圧縮出来るのだ。…取ってる奴なんて俺くらいだろうな。そもそも武器なんて常に腰に差すものなので、普通に使うかどうかと聞かれたら微妙な線だが。

 

 しかし大量の工具…つまり様々なキットを使う俺にはうってつけのスキルだ。必須とも言って良い。

 

 

「………プルトニウム…」

 

 

 プルトニウム。核爆弾の材料。ただし完全にネタ武器であり、周囲6キロメートル以内にいると、大量のデバフをくっ付けられて死ぬという。

 

 6キロ…普通に経験値対象外なので、キルしても何も貰えない。爆風でドロップ品も軒並み汚染か蒸発してしまうので、完全に嫌がらせにしか使えない。なのにこれ、水爆にアップグレード可能なのだ。…何に使うんだろうか。

 

 

「………鉄……また、金か…」

 

 

 金…一応光線銃には必須の金属なのだが、正直光線銃は肌に合わないので作っていない、もっぱらアンティーク銃の装飾にして、それで終いだ。実は意外と高く売れる。

 

 そう、そうなのだ。勘付いた人もいるだろうが、こんなガンスミスプレイをしてても、換金システムによって黒字を保てる。世の中には割と物好きな奴もいて、特にアンティーク系の銃は高値で売れる。性能はお察しではあるが、だからこそモンスタードロップしないのも特徴。完全にプレイヤーメイドに依存したアンティーク系は、俺の収入の九割を占めている。

 

 このゲーム、ガンスミスは皆無。完全に俺一人だけが作れる一点ものだ。性能はあまり良くないが…。

 

 というか今現在、そのアンティーク系の銃を作ったせいで鉄が足りない。あと一個。あと一個なのに何故出ない。これが揃えば杭打ち機が作れると言うのに…。

 

「…………ボーキサイト…」

 

 物欲センサーとはこうも恐ろしい物なのか。何時もなら掘り出すのに二時間はかかる金属が山程出てくる。なのに本当に必要な物が出ない。呪いか何かじゃないのか?

 

 …今日はもう、辞めてしまおうか。

 

 もうそろそろ12時過ぎるしな。明日学校があるので、あまり無茶はしたくない。

 

 コンソールからテントを選択。一瞬置いて現れたテントの寝袋に潜り込むとログアウトのボタンを押した。これでセーブ完了。視界が放射状に引き伸ばされ、俺は現実世界への門を通った。



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銃製作【改】

 帰って飯食って風呂入ったら四時間ゲーム。狂いに狂っている俺の生活リズムなどそんなものだ。

 

 しかし流石の俺でも五日間の強行マゾプレイは堪えた。無理だ。今日は穴掘りはお休みである。

 

 そんな訳で首都グロッケン。クエストの受付やチュートリアル、売店に修理など、ありとあらゆる物が揃っている街。その隅の奥の裏路地の旗竿地の空き地に、俺の工房兼生活スペースが存在する。

 

 あるクエストで偶然手に入れた物。鑑定の名称は簡易住宅となっているが、どう見てもキャンピングカーだ。中身はほぼ全て工房。普段は持って行かない銃製作キットなどがあり、倉庫も兼ねている。

 

 これだけ聞けば使い勝手のいいプレイヤーホームだが、残念な事に此奴は動けない。おそらく車両整備のスキルを取って、車をレンタルして連結すれば動くと思われるが。

 

 立地は最悪。動かせない為にトイレや水回りは完全に死んでおり、あるのはベッド程度。果たしてこれをホームと言えるのだろうか。……とまぁ、そんな訳で格安で入手した代物だ。

 

 施錠機能も無く、使い始める前に耐久値の回復をしなければならないのも付け足しておこう。ぶっちゃけこれ以外はそんなにデメリットの要素が無い。自分ではいい買い物をしたと思っている。

 

「…よっこらせ」

 

 さて、ここで取り出すのは板金加工済みの鉄板。まだスキルの熟練度が200程しか無い為、鉱石を加工する事が不可能なのだ。なのでNPCに渡して加工してもらっている。本来ならモンスタードロップで出る物なのだが。

 

 モンスタードロップだと板金では無くインゴットとしてドロップするが役割は同じ。今現在の状況だと、一切の利用価値が無いのでNPCショップの換金アイテム程度の役割だ。そんな事するくらいなら割高でも買い取りたい。当分は無理だろうけど。

 

 続いて作成図を一応取り出し、隅に置く。しかし今回作る銃の特性上、特に必要も無いだろう。コレが必要なのは光線銃の時だ。流石に電子回路は見ないとわからない。

 

 ……これだけ前フリしておいて何だが、銃というのはそんなに難しい構造を持たない。今回つくるのはナインティーンイレブン…M1911。日本では俗にコルトガバメントと呼ばれる物。

 

 セーフティーが少々特殊だが、その他の機能はとにかく優秀。劣悪な環境でも動作し、その信頼性からあらゆるカスタムが為された銃である。

 

 使い手の感じ方によって意見も変わるだろうが、一応初心者向けの基本的な銃だ。そのコンセプトと基本性能の高さは、この世にある自動拳銃のほぼ全てにおいて応用されていると言ってもいい。コンパクトな連射機構の元祖という事になる。

 

 小難しい説明は嫌いなので端的に言えば、発射の反動で薬莢が排出され、マガジンから新たな弾丸が装填されると言った機関を持つ。

 

 ……少しアバウト過ぎるか。コレだと他の連射機構もおんなじような説明になる。しかし銃とは大概そんな物でしかない。

 

 仕組みと言うか、捉え方としてはエンジンと同じでいいような気がする。エンジンは様々な種類があり、その機構も多種多用だが、可燃物を爆発させてピストンを上下させ、それを回転エネルギーに変換している所は一律している。

 

 一部リボルバーとか言う例外は置いといて、引き金を引くだけで連射出来る銃というのは、大概が銃弾の力を利用して動いているのだ。

 

 だからその例に漏れず、この連射機構も他の銃と大して変わらない。バネやカムや特定の部品が複雑に作用しているものの、時計の仕組みを知っている人なら割と簡単に理解出来るんじゃないだろうか。

 

 板金からフレーム……要するに骨組み。それを専用のキットで製作する。本当ならスキル使用後にボタン一つで完成するものだが、俺はちょっとしたこだわりを持っているので、基本的に手作業による加工だ。

 

 設計はもう既にあるので、板金に下書きを入れる。ケガキするにも専用のキットがある。使う奴いないから激安だった。

 

 そしてこちらも使われる事のないキット……旋盤とかドリルとかを用いてフレームを切り出す。後はバリを取ったり仮組みしたりして微妙な調整。

 

 銃身は別個で作る。銃の心臓部とも言えるこいつは、かなり微妙な調整が必要だからだ。

 

 続いて溶鉱炉に残りの金属を放り込んだり、配合する金属を設定したり、作り出すパーツに合わせて器具を使ったり…。現実でやるなら何日もかかる作業だが、この世界に置いては短縮出来る。金属とか直ぐに冷めるので、温度管理をする必要もない。

 

 フレームに部品を入れて仮組み。動作を確認してバラしてまた確認。更に塗装して仮組み。仕上げをして仮組み。続いて動作を点検し、フレームの歪みや部品のズレなどを見て更に調整。

 

 製作時間約一時間。作動方式、シングルアクション、ティルトバレル式ショートリコイル。装弾数7発と1発。弾丸、.45ACP弾。

 

 手間と暇がかかっている割に、熟練度は然程上がらないし売れもしない。殆ど趣味の品だ。だが性能は折り紙付きである。コレと同じ種類のモンスタードロップと比較すると、圧倒的にこっちの方がいい。

 

 命中率向上に加えて、クリティカル率上昇、耐久値ボーナス、重量半減、ジャム率半減、威力倍増などなど…。このバフは永続的に掛かるものなので、この銃がぶっ壊れない限りこのままだ。見た目を裏切る化け物銃である。

 

 今の所、実用的なのはこの一丁しか無い。他は全てアンティーク系の銃なので、威力云々よりも見た目に拘っていたからだ。

 

 ちょっと作りたくなってみて作ったはいいが、売れるのだろうか。どんなに性能がいいと言ったって、そういうのがわかるのは鑑定持ちの奴だけである。それに銃製作スキルを持ってないと、説明文にはM1911としか表示されない所もミソだ。

 

 …まぁいいか、材料費だけ取って安値で売れば。それでリピーターが出てくれれば万々歳とでも思っておこう。



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販売【改】

 売るものを適当に見繕い、やって来たのは露天商。ここはどんな奴でも簡易な店を構える事が出来る場所で、ゴミから掘り出し物まで様々な物が売られている。

 

 その大通りから外れた一本道。人目につかない行き止まりの裏路地に俺の店がある。店といっても地べたにカーペット敷いて座ってるだけだが。

 

 勿論売れない。知ってた。

 

 露店は本当に暇だ。コレをやるくらいなら穴掘ってた方が断然いい。しかし売らなければ在庫は溢れるし、資金も入って来ない。

 

 アンティークは一丁売ったら元が取れる。大体一丁500Kクレジット程で売ってるので、現実換算で5000円。買う奴は課金してでも買うコアオタクなので、コレでも売れるには売れるのだ。

 

「………暇、だな」

 

 暇過ぎるのでスキル上げをしつつ、ガンゲイル板を眺める。攻略から馬鹿話まで存在するコレは、引きこもりプレイに磨きのかかった俺にはピッタリだ。

 

 今見ているのは『ガンスミス生活(二日目)』という馬鹿スレだ。今回は何日持つかとても見物である。このプレイスタイルは人を選び過ぎると思う。

 

 他のプレイスタイルには幾つも検証スレが上がるのに、ガンスミスだけ皆無。理由はやれる事の少なさと、FPSの筈なのに一発たりとも銃弾を使わない所にある。

 

 ぶっちゃけ、そんな職人プレイしたい奴は他に行けってことだ。

 

「………んん…?」

 

 特に思うまでも無く、昨日に比べて愚痴が多くなったなと眺めていたら、気になる書き込みを発見。東の地下要塞にクエストが発生したらしい。

 

 その内容は全て不明。なんとクエスト受注条件に知能値が必要だと言う。今の所、素早さガン上げが最もスタンダードらしいので、この条件に当てはまる奴が少ない。それこそ、俺のようなど阿呆くらいなものだろう。

 

 東の地下要塞と言えば、少々特殊なエリアだ。ギミックやエネミーの全てがスチームパンク風になっており、ギアやカムが複雑に動き合う光景に圧倒されるらしい。

 

 そして何と言っても目を引くのは、日本街であると言う事。あちこちにある看板や建物の文字が日本語となっていて、日本風スチームパンクの様相を呈していると言う。

 

 更に進めば其処はまさに要塞。特殊な攻撃こそして来ないものの、中々に厄介なエネミーが多数徘徊していると聞く。

 

 行けるなら行くだけ行ってみるか……。行くだけならタダだからな…。今日は一日露店するつもりなので、明日にするか。

 

 

 アンティーク系の銃の分解清掃が終了し、スレ板も一通り眺めて煙草のような物を燻らせていると、曲がり角より人が現れた。

 

 高めの身長に整った顔。長めの黒髪にしなやかな体躯。腰には二丁の自動拳銃を差していて、何かを探すようにキョロキョロしている。

 

 ……最早見るだけで嫌気が刺す。逃げようにも逃げようが無い状況な上に、例え逃げても容易に捕まるだろう。ただでやられるつもりは毛頭無いが。

 

 そんな事を考えていたが、どうやら発見されたらしい。最悪だ、今日は他の客をみこせそうに無いな…。

 

 

「おぉ?いたいた!ヤッホー!元気してるー?」

 

「…」

 

「相変わらず仏頂面だねぇ。会話してくれても良いんだよ?」

 

「…」

 

「んん?んんん?ねぇねぇ、このガバメントってもしかして実用?ねぇ実用なの?」

 

 

 知らん。勝手に見ていろ。そして金払ってとっとと消えろ。お前は財布以上人間以下だ。帰ってMと末長く戯れていてくれ。

 

 わきゃわきゃ五月蝿い女を無視して、ガバメントのステータスを表示する。決めるのはそっちだ。この銃をどう使うかもそっちの自由だ。後は知らん。

 

 

「ご、5Mクレ……?ちょーっとボリすぎじゃないの?ねぇ?」

 

 

 嫌なら他所で買え。ガバメントなんて其処らのショップで高くても1000クレジットで売ってるぞ。バリバリの初期金額だろうが十分に手が出る金額だ。

 

 

「まけてくれない?ほら私常連でしょ?おーい聞いてる?…聞いてないね、なら撃っていい?撃っていいよね、よし撃つ。」

 

 

 なにか物騒な発言を無視してスレ板を読みふける。コレだから嫌なのだ。常識ぶってる割に頭がパーという、典型的なサイコパスである。こんなのに構う事すら馬鹿らしい。

 

 遂に銃を抜き放ち、人の目も憚らずに撃ち出した。素直に五月蝿い。撃ちたきゃフィールドでやって来い。どんな手を使われようが、1クレたりともまけんぞ。

 

 二丁拳銃の弾丸が無くなり、散々地団駄踏んでようやく腹の内が治ったらしい彼女は、悪態をつきながらガバメントを買い上げた。そんなに嫌なら自分で作れ。

 

 さながらつむじ風のように去って行った毒鳥を見送り、煙草のような物をもう一本取り出して燻らせる。口に広がるハッカの香りを空に吐き出し、イライラを落ち着けた。

 

 ちなみにこの煙草のような物の正式名称はミントシガー。火薬製造スキルで作れる、れっきとした火薬の一種である。元の葉を刻んでエネルギー結晶体に混ぜると催涙ガスを出すらしい。

 

 要するに飴だ。こっちの方がなんとなく格好つくから吸ってるだけだ。男の性ってヤツである。あと、周囲に愛煙家が多いのでちょっと憧れもはいっている。どうせここゲームなので何にも害にはならないし。

 

 ウィンドウを出して時間を見れば、そろそろいい感じの時間だった。予想外に毒鳥が粘っていたらしい。

 

 

 さて店を畳もうかと商品に手を伸ばした時、外の通りをもの凄い美少女が歩いていた。思わず咥えていた煙草を落とす。

 

  華奢な手足にスラリとした体躯、どこか猫科の猛獣を思わせる雰囲気と相まって、氷のような印象を受けた。瞳と髪の色は薄い青、このゲームで早々お目にかかれない、問答無用の美少女である。

 

 数瞬見惚れるが、そんな場合では無いと畳み掛けていた店を広げ直す。流石に今この場で店仕舞いは勿体ないだろう。

 

  少々の打算と見栄で銃の値段を上げ、銃種ごとに並べる。基本的にアンティークなのでどうにも見栄えは悪いが、これはもう諦めるしかないだろう。

 

 

「…こんにちは。ここ、まだやってるのかしら?」

 

「………あぁ。…好きに見ていくといい」

 

 

 背には小柄な少女に対して長過ぎる銃。素人でも分かるほどに洗練されたそのフォルムは、ただ精密さを追い求めた形をしている。これもまた珍しい、スナイパーなんて久し振りに見るな…。

 

 狙い撃つ、というのは存外に難しい。鼓動で揺れ、眼の瞳孔で揺れ、自身の手によって揺れる視界で、一発で仕留め切らなければならないというプレッシャーをかけられる。

 

 当然そんな面倒な事をするよりも、走って弾をばら撒いた方が勝率は高い。スナイパーに対する認識は、主に趣味とか浪漫とかそういう類でしかないのだが、それでもプロはいる。需要はあるのだ。

 

  しかし今回は縁が無かったようである。少女の求める物は、どう考えても狙撃銃だろう。当然ここにそんな物は置いてない。趣味人と暇人が金にモノを言わせて集める、ただのお飾りだ。

 

 

「…店主さん、これ以外に銃は取り揃えているの?」

 

「……無い。……が、その他なら受け付ける……」

 

「その他?」

 

「……武器の分解清掃だ…一回1000クレジット……」

 

 少女にそう答え、隣に浮遊するウィンドウを指差す。其処にはきっちり『武器分解清掃(種類を問わず)一丁1000クレジット』と書かれている。

 

 続いてその隣のウィンドウ…『武器改造(種類を問わず)一丁10000クレジット』と書かれた方を指差した。

 

 

「………規格はマイクロマシンガンまでだが、一応改造もしている……。好きに選ぶといい……」

 

「そう…」

 

 

 そう言ったきり、沈黙を返す少女。…ダメか、やはりコア向けのラインナップは、若い世代を取り込む力が無いらしい。当たり前と言えば当たり前ではあるが。

 

 …弾丸も取り揃えるべきだろうか?銃は無理でも、弾だけならば買う客も増えるだろう。出来るなら特殊弾を並べておくのもアリだな。モノ好きは確実に目を付ける。

 

 しかし俺の予想に反して、少女は背に下げた銃を取り、ウィンドウを何やら操作した。しばらくして俺の視界に『1000クレジットを受け取りますか?YES/NO』と表示される。

 

 なんと分解清掃初のお客様だ。正直、誰も頼みそうにないので、まさかそれを選択されるとは思いもしなかった。…愛着でもあるのだろうか?

 

 …さて、何はともあれ仕事だ。ただの清掃とはいえ、手を抜く事は許されない。

 

 

「……了承した。…清掃でいいな……?」

 

「任せるわ」

 

「……では銃をこちらへ……」

 

 

 銃を受け取った瞬間、思わず手先に力が入ってしまった。何故かと言えば、その銃がひっそりとした意識と冷気を伴っていたからだ。…偶に会う出来事ではあるが、この手の物は何かしらの『凄み』を持つのだ。例えるならやたらと斬れ味の良い刀剣であったり、やたらと命中率の高い銃であったりする。

 

 まぁ単に気の所為なのかもしれないが、俺の感覚は良く当たるのだ。それに頼りきるのも問題なので、しっかりと検査する必要はあるだろうが。

 

 受け取った銃の名はドラグノフ。有名ではあるものの、このゲームにおけるレア度は低い。…そもそも狙撃銃自体がそこまで強い訳では無いので、それはこの銃に限った話でも無い。

 

 性能は優秀の一言に尽きる。最低ランクとは言え、そのステータスは凡そ狙撃銃としての基準を満たし、使い勝手も良く取り回しも効く。

 

 難点としては威力の低さと命中精度。そして洗練されきっていないフォルムだろうか?何せ狙撃兵の有用性が認知されたばかりの頃の銃だ。当然それなりの欠陥も抱えている。

 

 

「……時間を取るがいいか?」

 

「構わないわよ。…何かあったのかしら?」

 

「………いや、特に問題はない。続けるぞ」

 

 

 ドラグノフ狙撃銃……。ある有名なスニーキングゲームを知っている人なら身近な存在ではないだろうか?ロシア語の頭文字を取ってSVDとも呼ばれ、近年に至るまで現役の有名過ぎる銃。

 

 今でも改良が続けられつつ製造されている銃というのは、総じて機構が優秀だ。それ以上弄る事が出来ない為、拡張性の低下というリスクも孕んでいるが…それも些細な事だろう。

 

 確か……AK47をベースとして、モシン・ナガンを上回る性能を叩き出す事を目標とした銃だった筈。立ち位置としてはマークスマン・ライフルが最も近い。

 

 とにかく頑丈。すこぶる頑丈。最前線にて戦う歩兵が使われる事を想定して作られた為、重量が軽いのも特徴の一つ。あと銃剣が取り付けられる。狙撃銃に必要なのかと問われると、正直微妙な所だが。

 

 …冷気の正体が掴めた気がする。成る程この少女、かなりのやり手らしい。天性の才能というヤツだろうか?

 

  ゲージを当て、深い亀裂や致命的な部分が無いかを一応確認した。耐久値に問題が無ければそんな事は無いのだが、偶に耐久値がフルの状態でも欠陥があったりするからだ。

 

  あちこちの傷を調べ、この銃の使われ方を把握する。…癖のない、本当に良い使われ方をされている銃だった。おそらく相当使い込まれているが、そこにマイナスのイメージは付かない。受け取った時と同様、静かな冷気を滾滾と湛えている。

 

 

「……」

 

「…?」

 

「……いやすまん、少し見惚れていた。良い使い方をしている」

 

「分かるものなの?」

 

「………なんとなく、だがな」

 

 

  溢れた言葉を濁して、作業を進める。…あまり詮索するのも野暮だろう。悪い癖が出てしまった。

 

 先ずドラグノフ狙撃銃の特徴とも言える、銃口から来る先重り。ライフリングの癖と煤の付き方から、補正にだいぶ苦労している節がある。この銃、バイポットがないのだ。

 

 続いてセミオート故の連射機構…。マークスマン・ライフルのコンセプトは、部隊が最も火力を発揮出来る800m前後の射撃だ。まぁこれは旧式なので600mが精々だろうが…。それ故に精密さのみならず速射力も求められる。…銃を見る限り、この少女は選抜手より狙撃手の方が向いてそうだな。

 

 その理由として、シリンダー内の煤が薄く層になっている事が挙げられる。それは一発撃った後のインターバルが長いと言う事。つまりほぼ一撃で敵を屠ってきたのだ、二発も必要ないと言わんばかりではないか。

 

 …さて、どう弄ったものか…。

 

 最も使われている姿勢は伏せ撃ち。伏せ撃ち>立ち膝撃ち>立ち撃ちと回数が少ない。一撃必殺、コールドボアショットの完成形、まさに理想のスナイパー像。ならば銃もそれに準じるべきだろう。

 

 バラされた部品の中から引き金付近のパーツを取り出す。トーションバネ…コイツが曲者か。それと弾倉抑えのフックと安全装置。どちらも長くて硬すぎる。これではスムーズな射撃は望めない。バネに使用されている金属ごと交換し、新規のパーツを組み込む。

 

 銃身はヘビーバレルに変更する。重く厚く太く長い。野暮ったく思えるぐらいの方が丁度いいな。目的としては命中精度の向上と熱伝導率の低下。これにより更なる精密射撃が可能となるだろう。

 

 銃床はやや切り詰め、チークパッドの初期位置を高めに変更、スコープは…お世辞にも良いものとは言えない。流石にスコープの方は値段が張るからな…せめて調整とレティクルのズレだけでも治しておこう。

 

 その後は銃製作の過程と同じだ。ひたすらに仮組みしては分解して歪みの矯正。清掃と言うよりは全面的な改造だが、一応許容範囲内だ。

 

 時間は20分と少々かかってしまっていた。まぁ、一応断りを入れたので大丈夫だろう。

 

 

「………出来たぞ……持っていくといい……」

 

「あ、ありがとう…」

 

 

 燃え尽きた煙草をすり潰し、新たな煙草に火を付ける。深く薫せた煙を昇らせて、曇った空に視点をずらした。完璧とは言えないが、やれるだけの仕事はした。これ以上は少女の判断に委ねるしか無い。

 

 

「…ねぇ、一つ聞いてもいいかしら?」

 

「………なんだ……?」

 

「貴方の仕事はいつもこういう物なの?」

 

「………そうだな、いつもと変わらん」

 

「へぇ、そうなの…」

 

「………不満か……?」

 

「あぁ違うの。そう言う訳では無くて…。その、私は一瞬で終わるものだと思っていたから…」

 

「………あぁ…」

 

 

 …成る程確かに。その質問は真っ当なものだ。こんな奇特な事をするのは俺くらいなものだ、そもそも生産職自体が少ないのだが。

 

 そもそも銃の清掃というのは、銃を持った状態でスキルのボタンをタップする事で終了する。その際の光景としては、実に簡素で質素なものだ。銃を渡したら光って終わり。特筆する程変わる訳では無く、新品同様の輝きを取り戻すだけだ。

 

 基本的に耐久値の回復を目的としている為、それでも十分なのだ。故に俺の方法は随分と奇妙に思えたのだろう。それはよくわかる。

 

 

「………このゲームは……とてもリアルに近い…」

 

「…」

 

「……しかし、あくまでゲームだ……。万人が遊べるよう、多少の調整はされている……」

 

 

 常人が出来る動きをゲーム内でする……。それは多分ゲームじゃ無くてもいい。ゲームは遊ぶ為にある。遊ぶと言うことはつまり、リアルとは違うと言うことだ。

 

 ここでは簡単に銃が撃てる。だけど専門知識がなければ、銃は危険な爆発物だ。だからどんなに汚れが付いていようと銃は暴発しないし、耐久値が無くなる以外で銃が壊れる事は無い。

 

 そうであるからこそ、そういった面倒なものが省略されているからこそ、この世界はゲームとして成り立っているのだ。

 

 ……だが例えそうだとしてもだ、このゲームはゲームのようでゲームではない。各所にゲームと思えない要素も確かにある。俺の場合はプレイに直接関係のあるものでは無いが、造る者としてこだわらずにはいられなかったのだ。

 

 

「……言い訳のようだが、俺は偏屈でね……。…リアルに近いのならシステムに頼らずとも、出来る事はあるのでは無いかと、そう考えたのだ……」

 

 

 チュートリアルのクリア報酬、武器清掃キットはアイテムだった。スキルを使えば一瞬で終わる筈なのに、何故道具が存在するのか。

 

 答えは簡単で、スキルを使用しながらアイテムを使用すると、実際の銃の分解と同じ事が出来る。何故そんな機能を付けたのかなんて、わかる筈もない。しかしこのゲームを作った人間は、きっと銃が大好きなんだろう。そう感じるだけの愛があった。

 

 

「………道具を手にして中古店を駆けずり回り、大量の武器を分解した……。…そこで見たのは、銃それぞれの汚れ具合が全く違うと言う事。…つまりゲームではあれど、リアルを基準にしている所もある……」

 

 

 何故汚れ方が違うのか。それは引き金を引くときの癖だったり、反動を逃すときの要領だったり、伏せ撃ちを多用したり、アクロバットに射撃したり…。それら様々な要因が、銃に多種多様な傷と汚れを残す。

 

 そんな所まで再現し尽くしたこのゲーム、作り手はこの世界が大好きなのだ。そうでなければこんな事をするものか。

 

 だがそんなこだわりも、スキルを使えばものの3秒で消えてしまう。しかし確かに現実に即した汚れ方をするのだ。ここまで作り込んでいるならば、当然内部も現実に近い動きをしている事だろう。

 

 

「………それならば、現実に近い整備をすれば銃はもっと輝くのでは無いかと。そう思ったのだ…」

 

 

 実際、現実に近い整備をしてやれば、どんな銃であろうとも力を宿す。通常の鑑定では先ず出ないパラメーターには、確かにバフが乗っている。そうは言っても、俺は銃を扱えないのでその違いを明確に感じ取る事は出来ないが。

 

 

「………長々と話してしまったな……。要は、コレは俺の意地だ…。…味気ない、光って終わりの整備よりも、こうして人の手をかけて直してやりたいと言う俺の意地に過ぎん」

 

「そう…」

 

 

 彼女はそう呟いて、手の内にある銃を眺めた。それは仮想の物体で、実際には文字数の羅列でしか無い。しかし、確実にその色味の深さを増し、実銃に近い迫力を持っているように見える。

 

 暫くそれを眺めていた彼女だったが、不意に射撃の姿勢を取った。銃床を肩にあて、左手で銃身をホールド。流れるようにセーフティーを解除し、ハンドルを掴んでコッキング。

 

 鋭く光る彼女の目が何かを定めた。一瞬の溜めの後、腹の底に響く轟音が響き、弾丸が獲物を食い散らかす…。

 

 多分それは幻だ。実際には鉄の擦れ合う小さな音がしただけで、何のことは無いドライファイヤだ。

 

 ……凄いな。彼女が全く読めない。初心者のようでもあるが、何処までも獰猛な肉食獣のようでもある。絶対に銃口の前に立ちたく無い。

 

 

「…私には整備の事はよくわからないけど…確かにさっきまでより格段に使いやすくなったわ…。ありがとう」

 

「………そうか…」

 

 

 …ありがとう、なんて久しぶりに聞いたな…。

 

 彼女はそう言って、銃を背中につって裏路地に消えて行った。あんな上客も珍しい。彼女ならばきっと、この世界でトップも取れるだろう。

 

 そんな人に扱われるなら、銃もきっと本望だ。…また会う時が、今から楽しみだな。



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しかし レベル が たりなかった !【改】

 良い顧客に巡り合ってから数日経つ。創作意欲を刺激された俺は、準備を整えて旗竿地から抜け出した。目的地はグロッケンのクエスト受付。件の東地下要塞のクエストを受ける為だ。

 

 かつて巨大な宇宙船であったこの土地は、裏道や裏路地などの入り組んだ地形がそこかしこに点在する。そこには表通りで売れない闇深い品に法外な値段で売られる銃、用途不明で売りに出されたガラクタなどが無造作に置かれて売られている。プレイヤーもNPCも入り混じった特異な空間は、そこが本物のスラムであるかのようなささくれた空気を醸し出していた。

 

 この容姿で白昼堂々と出歩くと色々面倒なので、何か余程のことでもない限りはこういった道を経由するのだ。それに今のところ俺しか知らない隠し通路も使用しての移動なので、プレイヤーに後取られる事はまずない。そんな心配、するだけ無駄かもしれないが。

 

 ガコンとはめられた床板を外して薄暗い部屋の中に出る。扉のロックを解除して外に出れば、そこはもうグロッケンの中心部だ。……隠し通路は道ではない。見られれば不審者確定である。それを差し引いても便利なのが悪い。

 

 クエストの受注は実に簡素。ホログラムに表示されるクエストをタップするだけだ。エリアをタップすればそれに関連するクエストが表示されるので、そこから好きな物を選べばいい。

 

 今回は東の地下要塞。最近開拓されたマップで、周辺の廃れた構造群の中にポータルがあるという話なのだが…。

 

 

「………転移…不可?」

 

 

 『レベルが足りません』の無情な表示。よく考えれば、いやよく考えなくともそれは当たり前の事で。

 

 最近解放された新マップなのだ。当然ながら高レベルプレイヤーが集うことだろう。そんなところにレベルもロクに上げてない地雷野郎が果たして辿り着けるのか?

 

 答えは否だ。そもそも拳銃すらまともに使えない奴が最前線に立つなど、どう考えてもおかしい。

 

 ………しかし、レベル上げか。今の俺のレベルは…確か5だったな。死に戻りながら50回ほど試した結果だ。数の暴力で袋叩きにされながら、殆どダメージの入らない拳銃弾をゼロ距離でブッパして何十匹か倒した。あまりにも非効率過ぎて直ぐに辞めたという経緯がある。

 

 久しぶりにエネミーと戦ってみるか…。この周辺の低レベルな奴ならなんとかなるだろう。あまり神経を削るような戦いは遠慮したいんだがなぁ…。そうも言ってられんか。

 

 

 

 

 ーーーーーーーーー

 

 

 

 

 結局また戻ってきてしまった。旗竿地にあるキャンピングカー、中には所狭しと銃が並べられており、作りかけの素材やパーツが山のように積まれている。

 

 その大半が黒々とした古めかしいフォルムをしており、アンティークの名に恥じない重厚な雰囲気を放っていた。だが所詮は見た目だけの銃。始めたばかりのニュービーでも普通に撃てる。なんせ要求されるステータスはオール1なのだから。

 

 ……要するに作れる銃がドロップの下位互換なのだ。これこそが生産職の地雷たる所以であり、今俺が詰んでいる状況の原因なのだが。

 

 レベルを上げるには戦うしか無い。しかし生産職を目指すプレイヤーが上げるステータスはINTとDEXだ。装備できる武器は必然的に小口径の低威力な武器に限られる。

 

 序盤のステージならそれでも通用する。低威力の拳銃かつフルオートが使えないとしても、高いDEXが作用してそれなりの光学銃が使えるからだ。

 

 ……だが序盤には強烈な強敵が待ち構えているのだ。それ故にAGI特化のプレイヤーですらSTRにステ振りする。

 

 序盤において最大の敵。エネミーより遥かに厄介で、対策も立てづらく抜けきるのも容易でない手強い敵。その名も…。

 

 

「……初心者狩り」

 

 

 このゲームは非常にシビアだ。いくらステ上げをしようとも、その差は中々開かない。完全にプレイヤースキルが物を言う世界だ。故に安全で反撃される心配のない狩場がとても重宝される。

 

 そして金銭的な余裕が無く、マナーなど糞食らえと考える一部のプレイヤーが行う傍迷惑な狩り。それこそが初心者狩りなのだ。

 

 初心者はまずエネミーを狩ろうとする。レベルを上げる手段がそれしかないからだ。その為に防具が薄くなりがちで、武器も光学銃に絞られてくる。

 

 そんな経験もなにもかも足りてないプレイヤーを狩るのはさぞかし楽な事だろう。手酷いものになると両脚を撃ってダルマにし、その上で装備を根こそぎかっ剥ぐ者もいる。というか俺はそれをやられた。

 

 それでも最初は楽観視していたのだ。盗られたなら盗られたで新しい物を作ればいいさと。しかし作れる銃が軒並み下位互換である事に気付いた時にはもう遅く、このグロッケンから一歩も出られない程に装備が貧弱化してしまったのだ。

 

 武器は買えない、素材は足りない、作れる装備は貧弱。完全に詰みながらも細々と活動を続け、なんとか黒字にまで漕ぎ着けたのだが…。

 

 今ならそれなりの装備を整える事は可能だろう。金に物を言わせて課金専用の初期装備一式を揃えるだけでいい。…だがそれは、なんだか負けたような気がするのだ。

 

 俺は趣味と浪漫でこのゲームをプレイするつもりだ。元よりそれが成せるゲームを探していたのだし、例え金がかかろうとも気に入った世界観であればやり込むつもりだった。それがこの過酷な生産職を続けられる理由でもある。

 

 ならばそう、誰にも思いつけない浪漫で切り抜けるべきじゃ無いのか?この産廃物に等しい、前々時代のガラクタで。

 

 

「……問題は山積みだな」

 

 

 威力射程精度装填速度、銃の評価の基準となるべきもの全てが低水準の旧式銃。なんとかしてコイツを使える物にしないといけない。だがどうやって?

 

 ……ひとまず、威力と射程と精度は捨てよう。システム的にどうしようもない要素だからだ。鑑定で表示されるステータスが、どこをどう改造しようとも変動しない。逆に言えばそのシステムを逆手に取った戦い方もあるのだが…そちらは諸々の問題で却下だ。スキルの熟練度と素材と金が足りない。

 

 装填速度…これならどうだ?先込め式の銃を何よりも早く装填する方法…。一発こっきりしか撃てなくても、これさえどうにかすれば光明が見える。

 

 …なんだか真面目に考えているのが馬鹿らしくなるような話だな。そんな方法、魔法でも使って弾薬を転送するくらいしか無いだろう…?

 

 待て…弾薬を…転送?あぁ、ある、あるじゃないか!ノータイムでいち早く弾薬を装填する方法が!なんでこんな簡単な事に気付かなかったんだ俺は?

 

 

「……弾薬を装填するのが手間なら…そのまま組み立ててしまえばいい」

 

 

 『武器分解』『武器組立』というスキルがある。効果は実に単純、揃えられた部品を分解し組立てるスキルだ。所得に必要なポイントがゼロで特殊なクエストも必要ない。敢えて言うならチュートリアルで落第の印を押される事ぐらいか。

 

 早速適当に積んであった旧式銃を取り出して実験。まずは分解でパーツ毎にバラバラにする。分解できる範囲は指定できるので、最低限度に留めておいた。…銃身は外れず、機構部がある程度バラされる程度に留まっている。

 

 …さて、ここで黒色火薬と鉄球を横に並べ、組立を選択。これでどうにもならなければこの企みも潰えてしまうのだが…。果たしてどうなるか。

 

 

「……よし、成功だ」

 

 

 結果。銃は弾薬を内包した状態で組み上がった。装填の状態も問題ない。受け皿にまでしっかりと火薬が詰めてある。

 

 リロードを『分解』と『組立』で短縮化。組立てる範囲もマニュアルで操作が可能なので、カーソルをストレージの火薬と弾丸に合わせておけば問題ない。

 

 ついでにこのスキル、アクション系の中でも特殊な思考入力による選択が可能なのだ。流石に出来るのは分解と組立ての選択のみだが、それでもノーモーションでリロード出来る点は欠点を上回る。

 

 後はそうだな…弾薬製造で色々と作っておくか。旧式銃の弾薬なら低熟練度でも十分に製造が可能だ。

 

 それと銃身も強化しておこう。これだけでも十二分に頑丈…むしろそれしか取り柄がないくらいには頑丈だが、良質な素材があれば耐久値は更に上がる。むしろこれ以外に上げるステータスが無い。流石は旧式銃といったところか…。

 

 

 

 ーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 諸々の準備を整えてサクッと戦場へ。使い心地は抜群、戦果も上々。何よりキルされても懐が痛まないというのがとても良い。今の俺を倒したところで、使うに使えない旧式銃がドロップするだけだ。

 

 それに何より、バレットサークルが出ないのが本当にありがたい。どんな銃でも強制的に出現する弾着予測アシスト。しかし照準器すらない旧式銃で、一体どうやって弾着をアシスト出来ようか。

 

 元より俺はバレットサークルを必要としてない。あるだけ邪魔だし、むしろプレイの阻害となっていた。それが無い今、それはもう面白いように弾が当たる。

 

 当然ながら癖も強い。引き金を引いてから発射されるタイミングがズレるし、威力が低すぎて射撃だけではエネミーを倒せない。撃つ度に濃厚な煙が視界を覆って敵が見通せなくなるし、何より命中率が悪い。基本腰だめに構えて弾丸を撒き散らす感じだ。

 

 だが面白い発見もあった。様々な物を犠牲としている反面、装備や防具の破壊にアドバンテージがあるようなのだ。それにノックバックもかなり強烈だ。

 

 確かによく考えてみれば、口径だけで他の銃と比べるとそれなりの大口径になる。弾丸の形はほぼ球形であり、敢えて言うならホローポイント弾と同じ効果がある筈だ。ただ実弾銃であることを考慮しても距離減衰が激しい。100メートルを超えると豆鉄砲並みの火力になる。有効射程は長く見積もっても50メートル程度と判明した。

 

 持ってきた武器はフリントロック式2丁とリボルバー2丁、ラッパ銃が1丁とツルハシ。防具は無し、はためくような長い黒コートと中のゴツい服は初期装備を改造したものだ。ちなみに採取用の為、戦闘に直結する改造は一切無い。

 

 そんな拙い装備ではあるが、これでも奇襲に特化すれば割と良いスコアを叩き出す。先ほども初心者の装備を剥ぎ取っていた一団を、復讐も兼ねて血祭りに上げてきたところだ。

 

 武器もドロップできてホクホクである。暫くはこの辺りでレベル上げをしていこうか。



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スレより魔王の序章【改】

【ドーモ=初狩りサン】みんなの初心者応援板23スレ【初狩りスレイヤーデス】

 

 

ーーーーーーーーー

 

233.以下、\(^o^)/でVIPがお送りします

 

お、お、おぁおおぉおあ!クソが!あんのクソどもが!

 

234.以下、\(^o^)/でVIPがお送りします

 

>>1

おう、もちつけ。取り敢えず晒しな

 

235.以下、\(^o^)/でVIPがお送りします

 

>>234

いんてぃ、フラッグ、黒の銃士、ノワールサンダー

 

236.以下、\(^o^)/でVIPがお送りします

 

>>1

察したわ。またアイツらか

 

237.以下、\(^o^)/でVIPがお送りします

 

もう素直にSTR上げていこうぜ?そんなに変わらんて

 

238.以下、\(^o^)/でVIPがお送りします

 

>>237

やだ。なんか負けた気がする

 

239.以下、\(^o^)/でVIPがお送りします

 

>>1

スレ主割とプレイスキル高くね?なんだかんだで全滅一歩手前まで追い込んだことあったし。

 

240.以下、\(^o^)/でVIPがお送りします

 

今追い付いたンゴ

 

241.以下、\(^o^)/でVIPがお送りします

 

二週間無駄な時間お疲れ様でしたプギャーww

 

242.以下、\(^o^)/でVIPがお送りします

 

同情誘ってコメ稼ごうってかwwFPSで何すっとぼけたことほざいてんですかー?ww

 

243.以下、\(^o^)/でVIPがお送りします

 

はいはいワロスワロス

 

244.以下、\(^o^)/でVIPがお送りします

 

でもマナー違反なのは確かだろ。それが悪いと言えないのが現実だけど。

 

245.以下、\(^o^)/でVIPがお送りします

 

>>244

負け惜しみ乙ww

 

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>>245

は?罵倒される意味がわからんわ。噛みつき過ぎて噛みつき方も雑になってんじゃねーの?

 

247.以下、\(^o^)/でVIPがお送りします

 

>>244

あぁお前か。はい垢バンポチー

 

248.以下、\(^o^)/でVIPがお送りします

 

>>1

速攻特定するニキ流石

 

249.以下、\(^o^)/でVIPがお送りします

 

お、おう

 

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なんだかんだで>>1ヤバいよな…。リアルで何してんだろ…。

 

251.以下、\(^o^)/でVIPがお送りします

 

あの、初心者板はここで大丈夫ですか?

 

252.以下、\(^o^)/でVIPがお送りします

 

お?新人さんか?ここであってるぜー。初心者狩りにあったらネーム晒せよ。討伐隊組んで消毒しに行くから。

 

253.以下、\(^o^)/でVIPがお送りします

 

えっと、そのPKKの人でお礼を言いたい人が居まして

 

254.以下、\(^o^)/でVIPがお送りします

 

……あれ?今日って討伐隊出てたっけ?

 

255.以下、\(^o^)/でVIPがお送りします

 

いや出てないぞ

 

256.以下、\(^o^)/でVIPがお送りします

 

ボランティアか復讐じゃね?あそこで割食った連中は腹いせにぶっ殺そうとするし

 

257.以下、\(^o^)/でVIPがお送りします

 

そうなんですか…

 

258.以下、\(^o^)/でVIPがお送りします

 

そいつの特徴上げろよ、ネームがわからなくてもなんとか割り出せるだろ。この業界狭いし

 

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>>258

ありがとうございます!取り敢えず箇条書きで上げますね!

 

服装:

黒のコート

ベルトやポーチの付いた改造服

軍靴

武器:

マスケット銃?×2

散弾銃?×1

ツルハシ

 

 

です!よろしくお願いします!

 

260.以下、\(^o^)/でVIPがお送りします

 

おっとぉ?

 

261.以下、\(^o^)/でVIPがお送りします

 

突っ込みどころが二、三個あるぞおい

 

262.以下、\(^o^)/でVIPがお送りします

 

マスケット銃ってなんだ?知ってる奴教えてくれ

 

263.以下、\(^o^)/でVIPがお送りします

 

>>262

100年以上前に存在した最初期の銃。あれだ、鉄砲伝来の種子島とかそういうの

 

264.以下、\(^o^)/でVIPがお送りします

 

……え?あの先込め式のアレ?…どうやって戦ったんだ

 

265.以下、\(^o^)/でVIPがお送りします

 

あ、自分はダルマにされて転がされてたんで詳しいスタイルはわかりません。……ただ、もの凄い悲鳴がずーっと途絶えませんでしたね。ツルハシを延々と振り下ろしてるみたいな音は聞こえてましたが

 

266.以下、\(^o^)/でVIPがお送りします

 

怖っ

 

267.以下、\(^o^)/でVIPがお送りします

 

普通にホラーだろそれ

 

268.以下、\(^o^)/でVIPがお送りします

 

待って、ツルハシ?てことは近接戦でトドメを刺したのか?旧式銃で応戦しながら?

 

269.以下、\(^o^)/でVIPがお送りします

 

↑よく考えりゃ確かにそうだ。奇襲かけるにしても、あそこに遮蔽物なんてそう無かったと思うんだが

 

270.以下、\(^o^)/でVIPがお送りします

 

随分と香ばしい香りがするぞ

 

271.以下、\(^o^)/でVIPがお送りします

 

旧式銃は明らか地雷だろ…てかそんな物があった事に驚きなんだが

 

272.以下、\(^o^)/でVIPがお送りします

 

確かプレイヤーメイドの限定品じゃなかったか?少なくともエネミーのドロップじゃ出ないね

 

273.以下、\(^o^)/でVIPがお送りします

 

なんだろう、情報過多なのに何も掴めないこの感じ

 

274.以下、\(^o^)/でVIPがお送りします

 

なんにせよ新手のPKKである事に間違いは無いな。誰か見かけたら声かけてフレ申請しとけよ

 

275.以下、\(^o^)/でVIPがお送りします

 

……旧式銃を製作するプレイヤーかぁ…そんなの魔王以外に居ないと思うんだけどなぁ

 

276.以下、\(^o^)/でVIPがお送りします

 

魔王?

 

277.以下、\(^o^)/でVIPがお送りします

 

そいつは今関係ないだろ。語りたきゃ別スレ行け

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 

600.以下、\(^o^)/でVIPがお送りします

 

おい、みっけたぞ

 

601.以下、\(^o^)/でVIPがお送りします

 

なに?ブラック入り?

 

602.以下、\(^o^)/でVIPがお送りします

 

いやあれだ、新人の言ってた新しいPKK。今丁度プレイヤーを仕留めたところだな

 

603.以下、\(^o^)/でVIPがお送りします

 

>>1いる?

 

604..以下、\(^o^)/でVIPがお送りします

 

おるぞー、てか>>602とおんなじ現場で観察してた。とりま不明だったプレイスタイルだけ上げるわ

 

605.以下、\(^o^)/でVIPがお送りします

 

よろ

 

606.以下、\(^o^)/でVIPがお送りします

 

プレイスタイル?AGIかSTRだろ普通

 

607.以下、\(^o^)/でVIPがお送りします

 

>>606

いやそれがとんでもない野郎でな…。プレイスキルは上級者並みなんだが、動きがどう見ても初心者のステータス。ちぐはぐ過ぎてステ振りが特定できん

 

608.以下、\(^o^)/でVIPがお送りします

 

相手は?知らんやつ?

 

609.以下、\(^o^)/でVIPがお送りします

 

>>608

クソ鳥とクソチキン

 

610.以下、\(^o^)/でVIPがお送りします

 

オーケー、把握した。……え?

 

611.以下、\(^o^)/でVIPがお送りします

 

マジかよ、対人戦じゃ割と敵なしだろアイツら

 

612.以下、\(^o^)/でVIPがお送りします

 

>>610>>611

まさにそれな。重課金の暴力で高火力高耐久のクソ女と、同じく馬鹿耐久のチキン野郎。組まれると勝ち目ねーって愚痴ってたんだけどなぁ…。

 

613.以下、\(^o^)/でVIPがお送りします

 

取り敢えず初めから書いてくぞ。

 

・いつもの日課を済ます為に狙撃ポイントで張ってたら、クソ含むパーティーが通りがかる。クソ女お得意のいつものアレで、パーティーは後ろから撃たれて壊滅。最後に残った美少女をどう甚振って殺すかで揉め始める。いい加減殺そうかと思った矢先に、500メートル前方で奴が現れた。

 

・黒いコートにごちゃごちゃした改造服、背に長い銃を縦に2本、副武装は見えなかったが、ツルハシらしき物を腰に差しているのが確認出来た。

 

・クソチキンの方が真っ先に気づいて、M14のガチャついた方で狙撃。が、当たらず。黒コートの方も気づいてたらしく、バレットラインも無いのに首傾けるだけで避けてた。

 

・どっちもどっちな超技術の応酬が続き、全力疾走で弾丸を避ける黒コートとチキン野郎の狙撃対決に。未来予知でもしてるんじゃ無いかってくらいに当たらない黒コートと、相変わらずバレットラインすら出ない早撃ち狙撃チキンの対決。300メートルくらいまではその繰り替えしだったな

 

614.以下、\(^o^)/でVIPがお送りします

 

おうマジか、あの狙撃躱すのかよ

 

615.以下、\(^o^)/でVIPがお送りします

 

化け物相手には化け物…か。いやだったらなんで旧式銃?もっとマシな装備あるだろ…

 

616.以下、\(^o^)/でVIPがお送りします

 

理由として考えられるのは、デスペナとの折り合いかステ不足だな。旧式銃なんてドロップしても使わないだろ普通

 

617.以下、\(^o^)/でVIPがお送りします

 

あ、確かに。……要するに舐めプかましても勝てるからそれ使ってるってか?素直にスゲェけど腹立つな

 

618.以下、\(^o^)/でVIPがお送りします

 

続き行くぞー

 

・クソ女が300メートルで射撃を開始。獲物はF2000のフルオートブッパ。どれだけ避ける技術が高くてもこれは無理ってくらいのレートなのに、真正面から突貫。

 

・背中にしょってた銃を両手に構えて、飛んできた銃弾を『銃で』弾き飛ばす。クソ女もこれには唖然呆然。見てたこっちも数秒くらい思考が停止してたわ。

 

・距離100メートル付近にて初めて発砲。その後は銃弾を弾きつつ連射しまくる。どうリロードしてるか全くわからなかったが、何かしらのスキルは使っているっぽい。リロード時には銃が発光する。

 

・距離が50メートルを切った辺りになると、連射される旧式銃の硝煙で影が見えなくなる。そこから銃声が独特の風切り音に変化。おそらくというか十中八九フレシェット弾。チキンもクソも揃ってハリネズミ状態に。

 

619.以下、\(^o^)/でVIPがお送りします

 

おいおい、至近距離でアサルトライフルと殴り合う旧式銃?なんの冗談だそれ

 

620.以下、\(^o^)/でVIPがお送りします

 

というかなんで逃げなかったんだその2人組。その距離まで詰められるとか普通あり得ないだろ

 

621.以下、\(^o^)/でVIPがお送りします

 

毒鳥の方は楽しさ優先で撃ち合いそうではあるけど…。チキンは止めなかったのか?

 

622.以下、\(^o^)/でVIPがお送りします

 

>>620>>621

いや、多分あの状況なら俺らでもその場に残るな。疑問に思いこそすれ、撤退とかは考えないだろ

 

623.以下、\(^o^)/でVIPがお送りします

 

なして?見る感じ結構ピンチっぽいけど

 

624.以下、\(^o^)/でVIPがお送りします

 

>>623

火力が低い。フレシェットも含めて相当数ヒットしてたが、HPの1割も削れて無かった。レベル差を考慮してもダメージが低すぎる。むしろ当たりに行っても問題なく戦闘が出来るくらいのダメージだったな。

 

遠距離からチクチクやられるならともかく、むしろ有利な範囲にまで近寄ってくれるんだ。近けりゃ当たる確率も高くなるし、弾丸だって捌きにくくなる。近距離戦になっても、そもそもの火力が低ければお話にならないだろ。

 

625.以下、\(^o^)/でVIPがお送りします

 

マジかよ…。ますます旧式銃を使う理由がわからねぇな

 

626.以下、\(^o^)/でVIPがお送りします

 

なんつーか無茶苦茶しやがるな。特化なのかバランスなのかすら分からんぞコレ

 

627.以下、\(^o^)/でVIPがお送りします

 

続き投下ー。

 

・いよいよもって距離が近くなり、クソはイングラム、チキンは大型ナイフに武装を切り替えた。黒コートは先の読めない滑らかなステップから一気に距離を詰める。

 

・そして銃を投擲。やることなすこと突飛すぎて反応すら出来なかったわ。ぶん投げられた旧式銃の内、チキンに投げられた方は光に包まれて手元に、クソに投げられた方はそのまま直撃。クソはかろうじてガードしたっぽいが体制が崩れる。チキンの方は弾こうとした手が空ぶって軸が揺れた。

 

・そして腰に吊るされたラッパ銃を引き抜き、戻した銃と共に発砲。クソはラッパ銃に撃たれて宙に浮くほどノックバック、チキンは炎に巻き込まれて地面を転がった。

 

628.以下、\(^o^)/でVIPがお送りします

 

…吹っ飛び?ノックバックじゃなくて?確かにラッパ銃ってショットガンみたいなもんだろうけど…

 

629.以下、\(^o^)/でVIPがお送りします

 

嘘だろ、旧式銃だよな?なんでそんな硬直稼げるんだ?

 

630.以下、\(^o^)/でVIPがお送りします

 

え、なに?ショットガンってそういうもんじゃないの?大体のショットガンはノックバック性能があるって聞いたんだけど

 

631.以下、\(^o^)/でVIPがお送りします

 

>>630

リアルならともかく、ゲームじゃそうそう無いよ。最新式の重たい奴でもコンマ何秒くらい固まるだけだし。そうじゃないと近距離戦がショットガン一択じゃん。アサルトライフル待てるなら12ゲージ無理でも近距離戦用のソードオフなら持てるし

 

632.以下、\(^o^)/でVIPがお送りします

 

身体が浮くほどの衝撃……。もしかして旧式銃を使う利点ってそういう事か?リロードさえなんとかすればハメ殺せるだろコレ

 

633.以下、\(^o^)/でVIPがお送りします

 

それより炎ってどういう事だ。旧式銃なんだろ?

 

634.以下、\(^o^)/でVIPがお送りします

 

フレシェットが撃てるならドラゴンブレスも出来るんじゃないか?ショットガン用の激烈なお遊び用だけど、マトモに食らったらエグい効果出すじゃんアレ

 

635.以下、\(^o^)/でVIPがお送りします

 

あぁ、焼夷弾か。たしかにマグネシウムの針を全身に撃ち込まれた上で燃やされるようなもんだしな…。弾代高過ぎるし有効射程短いしで誰も使わんけど

 

636.以下、\(^o^)/でVIPがお送りします

 

ある種のガードブレイクの効果は認めるけど、あんなの実用向きじゃないだろ?耐久値の損耗も馬鹿にならんぞ。下手すりゃ二度と使えなくなるし

 

637.以下、\(^o^)/でVIPがお送りします

 

>>625>>626

それな。

 

まぁドラゴンブレスで合ってるよ。黒コートが発射したのは確かに焼夷弾だ。だけどなんていうか、炎がもっと粘っこい散り方しててな…。多分マグネシウムを単純に練りこんだだけじゃないぞ。おそらく油脂系の何かも一緒に撃ち放っていると思われる。実際、弾丸はかなりの低速で出てきたみたいだし

 

638.以下、\(^o^)/でVIPがお送りします

 

なんでそんなん分かるん?エスパー?

 

640.以下、\(^o^)/でVIPがお送りします

 

>>639

発射音が明らかに低かった。低初速らしく『ボワン』みたいな感じで

 

641.以下、\(^o^)/でVIPがお送りします

 

はー、流石にトップなだけはあるわ。普通そんな事気にも止めないし

 

642.以下、\(^o^)/でVIPがお送りします

 

続きー

 

・黒コートはチキンを無視してクソに近づき、腰から引き抜いたツルハシを思いっきり振りかぶる。すくい上げるような軌道で起き上がったクソの腹筋をブチ抜き、HPを4割削った。

 

・そのまま顔面蹴り飛ばしてツルハシを引き抜き、腰から取り出した何かをクソに落とす。クソはそのまま燃え上がり、出血と炎熱ダメージをゴリゴリ食らって爆散。

 

・火を地面に擦り付けて落としたチキンがナイフを構えて後ろから襲うが、見もせずに腕を掴んで投げ飛ばす。背負い投げ…なのか?襟首も掴まずに前方に投げてたけど。

 

・受け身を取ったチキンに対して、今度はフラッシュバンを近距離で炸裂させた。その後はもう袋叩きだった。文字通りの意味で。

 

・フレシェット弾で手足を地面に縫い付け、頭部めがけてツルハシを振り下ろし続けてた。絶叫とか怒号みたいなもんが結構な時間続いて……チキンも爆散。

 

 

あまりの光景に2人揃って逃げ出す←今ココ

 

 

643.以下、\(^o^)/でVIPがお送りします

 

ヒエッ

 

644.以下、\(^o^)/でVIPがお送りします

 

()

 

645.以下、\(^o^)/でVIPがお送りします

 

予想以上どころか真上に天元突破して草も生えない

 

646.以下、\(^o^)/でVIPがお送りします

 

()

 

647.以下、\(^o^)/でVIPがお送りします

 

おい、ゴア規制仕事しろ

 

648.以下、\(^o^)/でVIPがお送りします

 

エッグ。トラウマもんですわコレ

 

649.以下、\(^o^)/でVIPがお送りします

 

()

 

650.以下、\(^o^)/でVIPがお送りします

 

()

 

651.以下、\(^o^)/でVIPがお送りします

 

()

 

652.以下、\(^o^)/でVIPがお送りします

 

GGOってここまでやれるもんなの?体内貫通とか普通にトラウマだろ

 

653.以下、\(^o^)/でVIPがお送りします

 

……いや、GGOに限らず他のVRでも同じ事は可能だ。剣と魔法系なんかも普通にそんな表現あるし、ホラゲーでも背後から腕を捥がれるとかあるし…。でもなぁ、そういうのって総じてイベントに限られるんだよなぁ…

 

654.以下、\(^o^)/でVIPがお送りします

 

いやそりゃそうだろ。誰が好き好んであんな体験するだよ。やった側がトラウマもんだろありゃ

 

655.以下、\(^o^)/でVIPがお送りします

 

あー、わかるわー。近接で敵倒すと呻き声とか苦痛の顔が思いっきり目の前に来るもんなぁ…。俺はそれが無理でFPSに転換したし…。

 

656.以下、\(^o^)/でVIPがお送りします

 

容赦とかカケラもない…ていうか寧ろ手慣れてる?殺すための手段がえらく最適化されてるよな

 

657.以下、\(^o^)/でVIPがお送りします

 

>>656

それは俺も思った。PvPってキャラの性能差を除けば純粋な読み合いと騙し合いじゃん?その騙し方が惚れ惚れするほど秀逸に完成されてるんだよアレ。

 

弾丸を避けるにせよ弾くにせよ、有効な部位をわざと狙わせている節もあったし、先読みして放たれた弾丸を更に先読みして避ける場面もあった。弾かれる前提でのランダムな指切りにもステップ回避で対処し切るし、誘うような狙撃は逆に飛び込んで回避。

 

先の先…というか、膨大な戦闘経験からくる一種のパターンみたいなもんか?死にゲーでなんとなく身についたカンを頼りに動いているような感じ?すまん、上手く言語化できん。

 

あの動きを崩すには、こちらも膨大な経験を積まなきゃいけないだろうな。カンはカンでも、第六感とかそういう本能の部類じゃない、凄まじい経験に裏打ちされた確固たる勝利の方程式だろアレ。

 

今の段階だと、こっちがいくら対処しても、それに合わせた対応を返される。つまりどうあがいても絶望ですわ

 

658.以下、\(^o^)/でVIPがお送りします

 

ここまでやれるんならAGI確定だろ。こんな芸当、そうでもなけりゃ説明つかんわ

 

659.以下、\(^o^)/でVIPがお送りします

 

いや、STRの可能性もあるぞ。ツルハシとはいえ、そんな物でアバターを貫通できるほどの火力が出せるとは思えないし。確かGGOの部位欠損って、かなり純粋な耐久値計算だっただろ?

 

660.以下、\(^o^)/でVIPがお送りします

 

>>658>>659

…いや、おそらくどちらも違うな。AGIは最底辺しかないし、STRも同様に低い。むしろレベル1からビタイチ上げてないぞありゃ。

 

661.以下、\(^o^)/でVIPがお送りします

 

あぁ、なんか上の方でそんな事言ってたな…

 

662.以下、\(^o^)/でVIPがお送りします

 

いやまぁ、あまりあてにして欲しくは無いんだけど。

 

AGI上げてたら、例え1上がったとしても人間の範疇を超えるんだよ。AGIって単純に直線の速さが上がるのもそうだけど、細かい制動や一瞬の切り返しなんかも上がる。慣れるまで時間がかかるけど、逆に言えば慣れれば強い。早く動く標的はそれだけで当て難いからな。

 

ただ、行動の節々でAGI特有の『超人らしさ』が出てくる。日常ならまだしも、戦闘行動中にそれを意識して止める事はかなり難しい。そもそもそんな事をする意味もない訳だしな。

 

STRも同様だ。こっちは三次元機動力だな。ジャンプやステップの飛距離が、AGIを上げるより大きく作用する。まぁ自動小銃の前だと誤差の範疇だけど。

 

黒コートにはそれがない。あくまで人間の範囲の動きでしかない。…だからこそ、銃弾を弾くという行為が恐ろしく異常なんだけど。

 

663.以下、\(^o^)/でVIPがお送りします

 

…あぁなるほど、つまり黒コートは生身の状態でも条件さえ揃えば狙撃を避けられると。いやスタミナがない訳だし、そこまで単純じゃないけどさ

 

664.以下、\(^o^)/でVIPがお送りします

 

あ、そっか、良くも悪くもリアルスキルが直接影響するもんな。アクロバット取ってる奴も、本職とゲーマーだと動きのキレが全然違うし

 

665.以下、\(^o^)/でVIPがお送りします

 

>>663>>664

そう、まさにそれ。ついでに言えば音速で飛んでくる弾丸を鉄パイプで弾けるって事だ。どんな反射神経してんだよって話だよな。

 

666.以下、\(^o^)/でVIPがお送りします

 

あれ?そういえば>>1は何してんの?

 

667.以下、\(^o^)/でVIPがお送りします

 

ほいほい、呼んだ?

 

668.以下、\(^o^)/でVIPがお送りします

 

>>1

あ、絞り込めたのか?

 

669.以下、\(^o^)/でVIPがお送りします

 

おうよ。

 

ちょっと>>668に言われて情報収集してたのさ。まぁ調べるまでも無かったけど

 

670.以下、\(^o^)/でVIPがお送りします

 

はよ

 

671.以下、\(^o^)/でVIPがお送りします

 

>>670焦んなよ…。

取り敢えずこの黒コートの画像をあちこちのスレで晒して来たんだが、やっぱりアイツじゃないかって話になった。特徴が一致するし、得体の知れなさで言えば他の追随を許さないしね

 

672.以下、\(^o^)/でVIPがお送りします

 

奴は魔王だ。裏路地に住まう、あの魔王だよ

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

ーーーーーー



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昏く影刺す魔の王は誰ぞ

 シノンはその日、いつも通りにGGOへとログインしていた。なんて事のない、いつもの日課。すなわち殺して奪う為に。

 

 ただいつもと違う点があるとすれば、今回は級友と一緒では無いという事だろう。装備もある程度整い、初心者からアマチュアへの道を順調に歩み始めた段階だった。

 

 だからこそ、今日は他の人とパーティーを組んでの対人戦を選んだ。親しい仲でプレイするのも悪くは無いが、それだと他のプレイヤーの強さが得られない。もっと強くなる為には、もっと貪欲に強敵と会わなければ。

 

 

「あ、いたいたぁ。おーい、シノンさーん!」

 

 

 首都グロッケンの賑わいを貫くようにして、明朗な男の声が届く。声の主は所謂イケメンだったが、どこか作り物めいた印象を受ける。シュピーゲルと同じタイプだろうとシノンは当たりを付けた。

 

 だけど性格は真反対だ。シュピーゲルはもっと大人しいし、待ち合わせにはメールを使う。シノン自身も目立つ事は苦手としているので、そんな心遣いが嬉しかった。

 

 ただ、この男にその辺りの機微は分かりそうに無い。近くに寄ってみれば、その思いは核心に変わる。隠しきれない下心が顔に出ていた。

 

 

「…こんにちは笹餅さん、今日はよろしくお願いします」

 

「いやいやそんな硬くならなくて大丈夫だって!なぁみんな!」

 

「おうよ。俺はシシガミだ、つってもネームは見えてるだろうけど一応な」

 

210-(ヒキニート)です。よろしく」

 

 

 有象無象。そんな印象を受ける。強くもなければ弱くもない、ありきたりでどこにでもいる一般的なプレイヤーだ。最近顔を隠す為に買ったマフラーに口元を埋めて、ただ機械的な返事を繰り返す。

 

 この人達から得るものはなにもない。本当に何もない。運が良ければ勝てて、悪ければ負ける。数の差で単純に勝敗がひっくり返る。強さなんてかけらも得られない。

 

 だがそうと分かっていても、約束は果たさなければならない。シュピーゲルの注告をもう少し真面目に聞いていればと後悔したが、今となってはもう遅かった。

 

 

「ハァイ、貴方が笹餅でいいのかしら?」

 

「あ、ピトフーイさん!今日はよろしくお願いします!」

 

 

 ふらりと、あまりにも自然にその女はやって来た。長身でキツイ顔立ちの割に、人懐っこい笑みがそれを払拭している。そしてこのGGOでは珍しい女性プレイヤーかつ、どこから見ても華奢な体格の割に、その立ち振る舞いには柔さなど欠片も無かった。

 

 あまりにも堂々とした、或いは傲慢さが滲むような雰囲気が、肉食獣めいた姿に不思議とマッチしている。しかし表に出す雰囲気はそれと真逆であり、言い知れない違和感をシノンは感じていた。

 

 ーー何者?…でも、強い。果てしなく。

 

 何者かはわからない、だが明らかに上級者。装備する銃はどれを取ってもレア度の高い物であり、今の自分達とは隔絶した力を持っている事がありありと分かる。

 

 

「へーやるじゃん、こんな可愛い子どこでゲットしたんだい?案外隅に置けないねぇ、コノコノ!」

 

「ちょ、辞めて下さいよぉ。パーティの募集かけてたら偶々会っただけですって」

 

「ふーん…。あらら、本当に珍しいじゃん。スナイパーなんて早々居ないのに。よろしく、シノンちゃん?」

 

「……よろしくお願いします、ピトフーイさん」

 

 

 差し伸ばされた手を取り、挨拶と握手を交わす。シノンはその底知れなさと、スミレ色の瞳に暗い闇を見つけて身震いした。まるで狂気そのものが、辛うじて理性を纏っているかのような。

 

 人知れず、反対の手は腰のグロッグを握っていた。その様子になぜかピトフーイは笑みを深める。

 

 ーーこの人…信用できない。

 

 努めて無表情を維持して、引きつりそうになる喉のどもりを飲み込む。怖い、恐ろしいと感じた事なんて幾らでもあるシノンだったが、こんなタイプの恐怖は初めてだった。

 

 

 しかしそんな雰囲気など気にも溜めず、他の三人はこれから狩るスコードロンについて話し合っていた。その様子に呆れが先に出てしまうが、それを表に出す訳にはいかない。

 

 口元に掛かるマフラーを鼻まで上げて、シノンは出来るだけ気配を殺しながらついて行くことにした。話し合いの結果、この中で一番強いピトフーイが先頭を歩く事になり、一同は非殺傷エリアを抜ける。

 

 

 

 ーーーーーーーーー

 

 

 

 

「……あの、ヒキニートさん、もうすぐアンブッシュの位置じゃないですか?」

 

「うぉ!?お、おう、そうだな。笹餅ー、そろそろだってよー」

 

「え?あぁここら辺か。よしニートとシシガミは索敵、異常が有れば報告で」

 

「「了解」」

 

 

 緩やかな丘の上、とは言っても乾いた土が盛り上がった程度のものだが、そこにパーティは陣取った。他3名を残しての索敵…不安は残るものの、これがいま打てる妥当な選択だった。

 

 

 一般的な分隊の編成は10人か9人だが、ここはあくまでもゲーム。分隊長や副分隊長と言った分隊の指揮の要となる人物は省かれ、リーダーがその先々で指示を下す事が多い。

 

 また突撃班や射撃班と言った分かれ目も無いに等しく、そんなまどろっこしい事をするのは基本的にミリオタと呼ばれる人種ぐらいだ。しかし戦術的価値は大きく、デッドコピーの模倣品のような有様だとしても、初心者程度なら簡単に片付けられる有効性は確かにあった。

 

 ただしそれは一対一で殴り合えばの話だ。10人単位の分隊は、5人程で編成された二つの分隊に食われる事が良くある。

 

 そもそもこの10人という単位は、画期的な移動手段があってこその力だ。基本的に徒歩で狩をせざる得ない今の現状では、そんな大集団が歩いているとよく目立つ。

 

 更にはフィールドに置ける敵と言うのは何もプレイヤーだけでは無い。人の身の丈を大きく超える化け物だってうじゃうじゃ蔓延っている。

 

 そんな化け物…エネミー達のHPは基本的に高い。それは攻撃力や防御力においても同等で、この存在に対する最も有効な手は逃げる事。持っている銃が実弾ならば尚更だ。

 

 そんなエネミーを前にして10人が一度に逃げる場合、必ず二、三人の犠牲は覚悟しなければならない。当然出費は嵩み、赤字にもなりやすい。

 

 なので今のセオリーと言えば、斥候(スカウト・ポイントマン)2人に射撃手(アサルト)2人、そしてリーダーの5人編成。ここに人数を増やしたり減らしたりする事で戦局に対応していく。

 

 例えば狙撃手(スナイパー)を入れて広野で優位な戦況を取ったり、分隊支援火器(主にマシンガンの事)を入れて火力の底上げを図ったり、持っているサブの火器をショットガンやサブマシンガンに換装して狭所での戦闘を視野に入れたりなど、色々である。

 

 

 シノンはフリーの狙撃手の為、こうして他の分隊に仮加入しての戦闘が多い。とは言っても、基本的にシュピーゲルと一緒に加入する事が殆どではあるが。

 

 その経験を元に今回の彼等の動きを見ても、やはり凡庸としか言えない。手慣れた動きで周囲のクリアリングをしているが、どこか荒く洗練された様子は無かった。よくよく見れば見落としているポイントもかなりある。

 

 シノンは密やかに溜息をつきながら、このゲーム最初の相棒…ドラグノフを伏せて構える。バイポッドを立てられないこの銃は、人の手でハンドガードを握らなければならない。

 

 岩場や林間であれば、わずかな取っ掛かりに銃を固定したり、木に押し当ててて運用したりもするが、何もない場合は腕を使う。

 

 スコープのカバーを開き、予め示された侵入予測経路の監視を始める。僅かに張り詰めた緊張の糸を切らさないようにしながら、シノンはその時を待つことにした。

 

 

「んー…もうそろそろ良いかなぁ…」

 

「お?ピトフーイさん、何か作戦が有るんですか?」

 

「まぁね♪この後お楽しみが待ってるのよ」

 

「えー、勿体ぶらないで教えて下さいよぉ〜」

 

 

 背後からの会話に、まるで背筋をなぞられる様な不安を感じ取る。何故こんな所で新たな作戦を行使する必要があるのか。いや、それよりもこのピトフーイと言う女は、一言も作戦と明言をしていない。

 

 ーーじゃあ、その『お楽しみ』って、何?

 

 ゾワリと全身の毛が逆立つ様な悪寒がシノンを襲う。咄嗟にドラグノフを抱えて左に転がった。足元の僅か数センチに見慣れた土煙が吹き上がる。

 

 威力・高い。推定7.62ミリ。狙撃位置・背後のビル街。

 

 そこまでを瞬時に判断したシノンは、寝転んだまま背後に銃を向けてスコープを覗く。いつも射程範囲ギリギリの800mに調整していた事が功をなし、スコープを操作するまでも無く敵スナイパーの姿を見つけ出す。

 

 片手でセーフティを跳ね上げ、視界に映るレティクルが対象の頭部をロック。僅かに銃を上にあげ、そこに合わせる様にして収縮したバレットサークルが極上の単位まで縮む。

 

 相手側の遅れて届いた銃声と、シノンが撃ち放ったタイミングはほぼ同時だった。火薬の推進力を得て猛然と飛び出した弾丸は、東に向かって吹く風に僅かに流され、重力によって弓なりに飛翔し、狙撃を行ったプレイヤーの右胸部へと着弾した。

 

 スコープに赤いエフェクトが弾けると同時に、シノンの視界にプレイヤー名とHPが表示される。名前はM、そして削れたHPの数値を見て、シノンはまたしても驚愕する事になった。

 

 ーーほぼ削れてない、距離減衰を差し抜いてもライフル弾の直撃なのに!

 

 

「敵スナイパー!5時の方向距離800。7.62ミリクラス!ウィークポイントに当たったら即死だわ!」

 

「んなぁ!?一体どこのスコードロンだ!シシガミ、ニート!撤退するぞ!」

 

「やるじゃん?でもお姉さんが好きなのって…一方的な殺戮なのよねぇ」

 

 

 乾いた音が響く。額の真ん中に風穴を開けた笹餅が、力を失って地面に崩れ落ちる。その上半身が地面に投げ出されたと同時に、笹餅は無数のポリゴン片となって爆散した。

 

 そしてシノンも、片足を狙撃されて立つことさえままならない。視界に映るスコードロンのメンバーは、二発の銃声にHPを散らされた。視界にバレットラインが出なかった事に戦慄を覚えるが、今はそれどころではないと視線を横に向ける。

 

 シノンは歯噛みしながらグロッグをピトフーイに向けた。しかし嗜虐的な笑みを浮かべるピトフーイに焦燥の色はない。

 

 ピトフーイが握る銃も、グロッグと同じ自動拳銃だ。見た目は少しゴツイ。現代の銃に比べて洗練されたラインは無く、どこか古めかしい。

 

 1911ガバメント。今ある自動拳銃の礎であり、今もなお生産が続けられている傑作の内の一丁。だが高レベルプレイヤーが持つには些か華に欠けており、それを持つくらいならば他にも良い銃は山ほどある。

 

 それがただの銃であれば、だが。

 

 ガバメントはストッピングパワーに優れる.45弾を使用する自動拳銃である。現実ではバランスに優れ、動作も文句のつけようのない一品だが、このゲームにおいては量産品の一丁に過ぎない。

 

 更に拳銃弾はその威力が低く設定されており、例え心臓に命中しても一撃で死ぬ事はまず無い。低レベルプレイヤーであれば、四肢に銃撃を受けて部位欠損を起こす事もあるが、中堅以降のプレイヤー相手ではそれも望めないだろう。

 

 だからそう。いくら初心者とはいえ、たった一撃でHPを吹き飛ばしたあの銃が、ただの銃である筈がないのだ。

 

 このまま撃ち合ってもシノンは確実に負ける。いかに不利な体制であっても、相手が笹餅程度のプレイヤーならば遅れは取らなかった。しかし相手は格上かつ未知の威力を秘めた銃を所有するプレイヤーだ。万に一つも勝ち目は無い。

 

 そんな事はシノンも分かりきっている。だがシノンは銃を降ろさなかった。その眼を獣のように尖らせる事しか出来なかったが、決して諦める気は無かった。

 

 

「おっ、いいねぇその眼。まさに肉食系女子じゃーん?」

 

「…目的は何?」

 

「んふふ、さぁてなんでしょう?」

 

「他のスコードロンの差し金?それとも私個人?」

 

「んー、30点。言っちゃなんだけど、そんな低レベルなスコードロンの依頼なんて受けないしー。同じ理由で個人を狙った訳でも無いよー」

 

 

 ならば何故、と。そう疑問を口にしかけたシノンは、ピトフーイが放つあまりにも残酷な…或いは嗜虐的な笑みを見て考えを改める。

 

 笑みのようで、笑みじゃない。喜びからの笑みじゃない、この状況を『楽しんでいる』笑い方だと。それは同じようでいて全く違う。彼女にとって、このあまりにも手酷い裏切りこそが戦いなのだと。

 

 殺したいから殺す。浴びるように殺す。そこに意味はない、ただ殺しが楽しいから殺す。子供が砂場で意味もなく山を作るように、あるいはその山を水を掛けて崩すように。

 

 作るのも楽しい、だけど壊すのも楽しい。あまりにも破綻しているように見えて、人間が誰でも持っている欲求。それをただ思うがままに振るっているのが彼女なんだと。

 

 だからそう、ここに人の考えるアレコレは存在しない。激しい、或いは凄惨な闘争こそが究極の快楽と考える、破綻者(常識人)がいるだけだ。

 

 

「…なら、なんで…私を……」

 

「んーなんて?聞こえないわー」

 

「…私を残す理由がない。どうして殺さない?」

 

 

 その言葉に、深めた笑みが少し淀んだ。相変わらず銃を向けあったまま、その有利性は全く変わる事なくそこにある空間に、僅かな亀裂が入る。

 

 残虐で凄惨で、他者を苦しめることに快楽を見出す彼女が、その言葉に何を動かされたのか。

 

 だがシノンにとってそんな事はどうでも良かった。これは本当に無意味な事だと理解していて、それでも尋ねずにはいられなかった純粋な疑問だ。

 

 狙撃され失ったのは片足だけ。ならまだ立てる。立ってこの強者と戦える。シノンにはそれだけで十分過ぎた。

 

 相手がどう強かろうが関係ない。それが類を見ない残虐性であったとしても、シノンにはまるで関係がない。シノンが求めているのは冷酷に相手を殺す、ただそれだけの強さだ。

 

 どれだけ残虐でも、どれだけ凄惨でも、ここではあまりにも一般的な強さの形の一つだ。弱者をいたぶる行為はごく当たり前のように行われるし、それを盛んに煽り立てる行為も日常的に行われる。

 

 幸いにもシノンは見た目だけは麗しいアバターの為、そこまで過激に煽り立てる者も居なかったし、一方的に虐殺されるような事も無かった。ただし、粘着質なストーカー紛いの人物は何度も遭遇したが。

 

 シノンが求める強さはそういう類のものではないし、そもそも関係がない。見習う必要性が無いのならそれ以上の関心は毛ほども無い。胸糞の悪くなるようなロールでも、それを覆せる強さがあればいい。

 

 それを何と言い表せばいいのか。一つ言い表すとすれば、『強さの純度』だろうか。

 

 快楽はない。興奮もない。喜びが無ければ達成感も無い。あるのは恐怖に彩られた壮絶な覚悟。シノンの強さは、そんな恐ろしい程に透明で純粋な強さへの渇望だ。

 

 

 片足とは思えない程、軽やかに立ち上がる。不意を突いた訳でもないが、それをピトフーイは止めようとしなかった。

 

 額に銃口を向けあい、シノンはただ氷のように瞳を凍てつかせながら、ピトフーイは喜色と快楽を隠そうともしない愉悦の笑みで対峙する。

 

 

「答えなさい。何故殺さない」

 

「…なんでだろうねぇ。気まぐれ?それ以上は無いかなー」

 

「………そう、ならーー」

 

 

 ーー死ね

 

 

 引き金が引かれて殺意の権化が叩き出される。硝煙の匂いが強く鼻をくすぐり、赤いエフェクトが散って地面に倒れた。重い砂袋を草むらに落とすような音の主は、この世界の法則に従って爆散・消滅する。

 

 そこでようやく構えていた銃を下ろし、女はホルスターに銃を戻す。そこにいるであろう透明の意識を見下ろし、凄惨に笑ってみせた。

 

 

「チェックシックスって知ってるー?後ろ、警戒してなかったでしょ」

 

 

 シノンの背後にいつのまにか立っていたプレイヤー。Mと呼ばれる男は、無言でボルトハンドルを引いた。乾いた金属音を立てて薬莢がこぼれ落ちる。

 

 彼女らにその気は無かったのだろうが、側から見ればリンチにも捉えられる光景だった。完全に挟み撃ちのような格好で三人は対峙していたからだ。

 

 Mはピトフーイがシノンを撃った辺りで、既に100mの範囲に隠れ潜んでいたのである。一発撃つごとにポイントを変え、徐々にピトフーイのいる場所まで近寄っていた。

 

 例え800mもの距離だとしても、周囲に警戒すべき敵もおらず起伏も乏しい地形ならば然程時間はかからない。スタミナの概念が無いゲームならではの移動だった。

 

 FPSという都合上、素のステータスでは現実に比べると若干AGIが高い。それは装備重量によって抑制されてしまうが、逆に言えば軽くする事で本来のスピードを取り戻せると言うことである。

 

 Mはその代名詞でもある盾を持ってきていない。代わりに爆発物の詰まったバッグを持ってきてはいるが、盾よりも軽量なのは確かだ。

 

 本来であればもう少し時間がかかる距離だが、こうまで早く到着出来たのはそんな事情があったからである。

 

 シノンはそれを睨みつける事しか出来なかった。リスポーンにはまだ1分ほどかかる上に、意識はどうやってもそこから動く事は無いからである。

 

 システムに強制的に付与される無力感を恨めしく思うが、それがこの世界のルールだ。誰であれ、そこに逆らう事は出来ない。

 

 

 

 せめて下手人共の顔だけでも記憶しようと、その顔を凝視していた時である。

 

 

 視界の隅に、闇が湧いた。この黄昏の荒野を唐突に塗り潰すようなそれは、果てのない死の気配と深い絶望を伴っていた。ソレがなんなのか、一体何故こんな所に存在するのか。そもそも存在していい物なのか。

 

 シノンにはそれが分からなかった。ただそこにあるだけで恐怖を撒き散らす存在。そんな物が、果たして実在していいのか。だが今ソレが確かに存在している。500m先の荒れ果てた地に、周囲の空間を喰い潰すようにして。

 

 ソレが最近出会った、この世界で特に珍しい生産職の男だった事を思い出すのは、もう暫く後の事であった。

 

 今はただ、その圧倒的な蹂躙を目に焼き付ける。或いはそれを、強さの糧とする為に。



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深淵の浅瀬にて

 空は暗く、青なんて何処にも見えやしない。世紀末らしく煤と灰に塗れ、高く昇っている筈の太陽を赤く染め上げていた。

 

 その下の地上は空模様の陰鬱さを塗り替えるように酷い物である。得体の知れない粘液と汚染された汚泥、噴き上がるガスは濃い緑色を吐き出し、強烈な生理的嫌悪を催す。

 

 得体も由来も分からない毒性に侵された、かつて動物だった物の墓場。腐死喰みの墓所(Decadent of cemetery)と名付けられたこの土地は、その名に違わず退廃的な雰囲気を色濃く漂わせている。

 

 かつては正しく墓所だったのだろう。火山の麓には硫黄の噴き上がるガス口があり、そこには数多の動物達の死骸が骨となって散乱している事がある。死の谷とも呼ばれるらしいが、俺は実物を見た事が無い。

 

 それとは逆に深海にも墓場は存在する。死んだ鯨の死骸が海底に横たわり、そこを起点として数多の生物が群がる。ホエールフォールと呼ばれるそれもまた、天然の墓場なのだろう。

 

 ここはその二つが合わさった極地。地磁気の乱れと急激な地殻変動により、火山性のガスが噴き上がる沼と化した海に大量の海洋生物が閉じ込められて死滅した果ての姿。

 

 防護マスクや防護服無しでは数分とて立つことは出来ないだろう。装備を揃えたとしても、強酸の沼に浸かればおしまいだ。そんな場所でPVPやエネミー戦が起こる筈もなく、プレイヤーもまばらに存在するだけである。

 

 こんな場所まで来て何を探すのか。まばらとは言えプレイヤーが居るという事は、つまりそれなりの需要があると言う事である。この場所では他のフィールドには無い、特殊な武器が見つかる場合があるのだ。

 

 激しい腐食を起こすこの地に沈んだ遺物は、思いにもよらない特殊な性能を発揮する事がある。常に毒に濡れたナイフ、刀身が歪み続ける光剣、耐久値が少ない代わりに強力な攻撃力を持つ銃、追尾するRPG7など、その種類は多岐に渡る。

 

 俗にユニークやワンオフと呼ばれるそれらの一品は、時として最高レアの値段を上回る事すらある。ここに居るのは、そんな一攫千金を狙う者らが殆どだ。

 

 まぁ当然ながら沼を浚うだけで何十万も稼げれば世話は無い。それらのユニークは出現率が恐ろしく低い上に効果もランダムな為、中にはとても使えそうに無い武装も出てきてしまう。むしろそちらの方が多いくらいだ。

 

 これまでにオークションに出品されたのは僅か四つ。それらも最高レアの品々をほんの少し上回る程度の値段で落札されていた。ハッキリ言って全く労働に見合う物ではない。

 

 それでも浚い続ける者が居るのは、そこにロマンを求めるからなのだろうか。彼等にはぜひ頑張って欲しいものである。

 

 

 では俺もその武器を探すのかと思われるだろうが、残念ながら俺は彼等と目的が別だ。そもそも俺はまがりなりにもガンスミスである。やるなら掘り出すよりも作り出したいところだ。

 

 ここには鉱石の類がリポップする事は無いが、代わりに危険な結晶が数々存在する。硫黄、硝酸、辰砂、マグネシウム、石油が該当する。エネルギー結晶体と呼ばれる光学銃の弾丸の元となる物も大量に取れてしまう為、その比率は決して多くはないが。

 

 それらの鉱石は基本的に弾薬となる。少し前に思い立った特殊弾の製造に使う予定だ。今の段階では銃本体よりもこちらの方が売れそうなのだ。

 

 その材料を掘る為、この汚染されきった大地でツルハシを振るうのである。

 

 

 

 ────────

 

 

 

 サービス開始から1ヶ月と少し。フィールドにて初心者狩りを行なっていた連中は、一部を除いてほぼ全てが素早さ特化の軽量スタイルであった。

 

 銃の中でも取り回しの自由が効くアサルトライフルを主体に、STRとDEXをそれが持てる最低ライン。防弾チョッキの性能を削り、軽く持てる防護フィールドで防御力を嵩増しする。

 

 今回俺の取った戦法はそういうプレイヤーに見事に刺さったのだ。旧式銃の射程は100m程であり、その距離から撃っても9割は外れる。まともに当たる距離と言えば50m辺りが精々と言った所だ。

 

 対してアサルトライフルの射程は200〜300m。まともに撃ち合えば一瞬で落とされるだろう。なので草むらなどに潜伏した上で、不意打ちの奇襲をかける以外に勝ち筋は無かったのだが……。

 

 AGI特化のプレイヤーは著しく命中率が低かったのだ。それでも100m圏内であればそこそこ当る。しかし走り回りながら200mの距離で撃ったとしても、ただの牽制にしかならない。しかも命中率を上げるために自ら近寄ってきてくれるのだ。これほどありがたい事は無い。

 

 100体近い人型ロボットに集団リンチを食らった身としては、その程度の弾幕で落ちる事は無い。何よりも耐久値だけはやけに高い鉄パイプが手元にあるのだ。最低限の弾丸を防ぐ事に注意すれば、命中率の低いアサルトライフルを攻略するのは容易いものだった。

 

 何より相手が軽装の為、こちらの弾丸が一発でも当ると強烈なノックバックを強いる事が出来る。勿論攻撃力なぞハンドガン以下なので、ノックバックで拘束しながら近づき、ツルハシでトドメを入れる必要はあるが。

 

 ただしノックバックだけでは複数相手に逃げられる為、フレシェット弾や焼夷弾を用いて足止めを行う。ラッパ銃も予想外の拘束力があり、特に近距離戦で重宝した。

 

 しかしこの戦法はもう通用しないだろう。タネが分かれば対処など幾らでも可能だからだ。バレットラインが見えない銃撃とは言えその威力は悲しい程に低く、何より射程が短い。こちらの届かない距離から膝撃ちなり伏せ撃ちなりされればなす術も無い。

 

 なので当分の間は狩りに出ないつもりだ。流石に旧式銃相手に敗れたとなれば、そのヘイトはかなり高まっている事だろう。一方的にリンチされる姿が容易に想像出来る。

 

 

 ……さて、そんな理由も含めてこんな人気の無い場所で採掘作業に勤しんでいる訳だが……。

 

 掘り始めて既に三時間。そろそろ引き上げようかという段階になって、これまでに見たことのない物が出土した。粘土質の土壌を掬う為に使用していたシャベルが妙に硬い物にぶち当たったのだ。

 

 ここはあらゆる物が腐食する死の大地。骨や岩までもがボロボロになる為、基本的に硬い物が存在しない。だからこそ、この物質の異色さが際立つ訳だ。

 

 勘違いで無ければ宇宙船の装甲板に酷似しているように思える。採掘でごくたまに出現する素材にそっくりだ。

 

 

「……掘り出してみるか」

 

 

 今の採掘スキルでは宇宙船の装甲板を入手する事は出来ない。だがその全容だけでも見てみたくなった。工具製造で泥水をかき上げるポンプを設置し、足元に水が溜まらないよう作業を進める。

 

 作業は思ったよりも素早く進んだ。この辺りの土壌はほぼ泥で構成されている為、ポンプの吸い上げ口に泥を掬い投げればそのまま吸ってくれるのだ。文明の利器様々である。

 

 そして全容が見えるにつれ、それが宇宙船などでは無いことが判明する。四角いコンテナのような構造物で、表面はアッシュグレーの装甲板で覆われている。コンテナの下側は盛大にひしゃげており、何処か高い所から落下したようだった。

 

 幸運な事に掘り始めた所が入り口側だったようで、壊れたドアに泥が侵入していた。その泥を掻き出すこと数十分。やっと目当ての物が出現した。

 

 おそらくは二重扉だったのだろう。正面側は大破していたが、内側は無事なようだ。泥をくまなく綺麗に掻き出し、いざ進まんとドアの認証パネルをタッチする。

 

 ドアの中心に青い光が一瞬走り、年代を感じさせぬ滑らかな動きでスライドする。お宝か未知の技術かレアな武器か。何が出てくるのだろうか。掘り出すのにかなり苦労したので、その苦労に見合うくらいの何かが欲しい所だ。かれこれ二時間は掘っていた訳だし。

 

 開いた扉の先。青いラインが発光して内部の様子を薄ぼんやりと照らし出す。壁や床にはロボットの残骸が散乱し、作りかけと思しき兵器が天井から吊り下げられている。兵器研究室のようであったが、中には義手や義足、培養液に浮かべられた機械で出来た内臓なども置いてあり、それが一般的な研究室でない事を示すようだった。

 

 

「ぬ、う、ええい! その扉を閉めんかい! 中がボロボロに腐っちまうだろ!?」

 

 

 慌てて扉を閉める。まさかこんな場所に人……? そう思いかけて、声の調子が機械じみたサウンドエフェクトを帯びている事に気づく。少なくとも純粋な人では無さそうだった。

 

 乱雑な研究室の奥。光でも照らし出せない暗がりの中から、人の腕らしき物が飛び出して周囲の瓦礫を払い除けている。

 

 やがて出てきたのは、いかにも偏屈そうな顔をした背の低い老人。杖をつくどころか、散乱したロボットの上を器用に跳ねながら自分の目の前に立った。

 

 

「…………すまなかった。まさか人が居るとは思わなかったのだ」

「ふん、何も怒っとる訳じゃ無いわい。……むしろ恩人かの。まったく、これでようやく外に出られるわい」

「御老人、ここは一体何なのだ?」

「ほ、見て分からんのか? 暫く見んうちに衰退し切ったようじゃの……」

「衰退……。御老人はいつから生きておられるので?」

「ざっと200年程じゃ」

 

 

 200年。軽く投げかけられたその言葉に驚く。つまりこのNPCは200年前の地球を知る人物であり、今の地球がこうして滅んだ原因を知っている可能性が高いという事だ。

 

 この老人から聞こえる僅かな稼働音。甲高いモーターのようで、僅かにエアーの漏れる音も聞こえる。

 

 

「……一見した所、義体のようにも見えるが」

「正解じゃよ。義体……まぁ、戦闘用義骸だの強化外骨格だの言う方がしっくり来るがな」

「戦闘用の義体……。四肢が欠損した兵士向けの品という事か?」

「いんや、脳味噌だけ引っこ抜いて機械の身体に押し込めるんじゃ。ヤブ医者共の作るおままごとみてぇなモンとは比べ物にならんわい」

 

 

 つまり攻殻機○隊か。まさにSF、分かりやすい所で攻めに来たな……。

 

 一見した限りでは、中に揃っている武装の殆どは人型用に限定されている。しかしそのどれもが大柄な男の骨格が前提になっており、どこか深い威圧感を発していた。

 

 壊れた残骸の断面は複雑怪奇な機械類で埋め尽くされており、それも物によって仕組みが違うようだ。見て真似するのは不可能に近いだろう。そもそも真似したとして正しく動くとは思えないが。

 

 

「……ふむ。何やらコレに興味があるようじゃのう?」

「できれば同じ物を作りたいと願う程には」

「ほう、そりゃ感心な事じゃ。……なる程、素質は十分と見える」

 

 

 老人は壁の一部を乱雑に叩き、その周囲にあった物を粗雑に退けた。すると壁の一部に青いラインが走り、SFじみた稼働音を立てて作業台へと変形する。

 

 幾つかのホロパネルが浮かび上がり、空いた壁にはいくつもの工具が立ち並んでいた。おそらくは製作に必要な道具なのだろう。

 

 

「ごちゃごちゃと説明すんのは性に合わん。先ずはいっぺん作ってみい」

 

 

 ピコンとクエストフラグが立ち上がる。迷わず作業台の前へと立つと、システムメッセージで『製作:義手の完成』の文字が流れ、視界の端に固定された。

 

 続いてガイドカーソルが展開し、次に何をすべきかが分かりやすく表示された。示された手順通りに製作を進めれば良いようだ。

 

 まずは製作する義手の種類か……。初期に製作出来るのは三つ。パワー型、バランス型、アシスト型。迷う事なくバランス型を選択した。奇をてらうよりも堅実に物事を進める方がいい。

 

 

「……さて、ワシは完成するまでここで見ておる。分からん事が有れば聞け」

 

 

 ドカリと何かの部品の上に腰掛ける老人。何処からか取り出した煙草に火をつけて煙をくゆらせている。

 

 その姿を脇目に捉えつつ製作を推し進める。どうやら銃とはかなり勝手が違うようなのだ。システム的に踏む手順がかなり多い。少し長丁場になりそうだ。

 

 次にフレームの選択。基本となる骨子が表示され、最後の欄には『オリジナル』の項目まである。

 

 ……あぁ、成る程。オリジナルの項目以外はシステム的に一瞬で作り出される仕様か。うぅむ、堅実に行くならそれを選ぶのが正解なのだろう。だが何だろうか。生産者としてのプライドと言うヤツだろうか。無性にこの項目を選びたく無い。

 

 数秒考え込んで、俺はオリジナルの項目を選択した。ゲームなら楽しまなくては。

 

 

「うむ? 自分で作り出すつもりか? お主、『作図』のスキルは持っとるのか」

 

「……いや、持っていないが」

 

「ふむ……? どうやら失伝してしまったようじゃな。基礎中の基礎であろうに……」

 

 

 システムメッセージに『作図スキルを取得しますか?』という文が表示される。取り敢えず貰える物は貰っておこうか。義手を製作するにあたって必須のスキルなのだろう。

 

 YESのボタンを押した瞬間、新たなシステムメッセージが次々と現れる。

 

 

『作図スキルを獲得しました』『製作系統スキルの存在を確認』『熟練度が規定値に達しています』『スキルの統合を開始……』

 

『称号:【始まりの者】を会得しました』

『称号:【解き明かす者】を会得しました』

 

『総合レベルよりスキルの制限を解放』『ログを解析中……』『オーバーフローした熟練値を確認』『全スキルに自動統合します』

 

『作図スキルの熟練度が規定値に到達』『作図スキルを製図スキルにランクアップ』『銃製作を武器製作にランクアップ』『武器分解、工具分解スキルの熟練度が規定値に到達』『分解スキルに統合』『武器組み立ての熟練度が規定値に到達』『製出スキルを会得』『武器清掃、工具清掃の熟練度が規定値に到達』『清掃スキルにランクアップ』

 

 

『あなたは世界の過ちを知るだろう……』

 

『称号:【解明】を会得しました』

 

 

 …………これは一体なんだ? あまりの情報過多に色々と突っ込みたい所が何個もある。取り敢えず今言えることは、スキルが統合されたおかげで取れるスキルが増えた事か。

 

 

「ほう? ワシのスキルが最後のピースだったか。まぁええわい。今のお主なら新たに作り出す事も可能であろうよ」

 

 

『製図スキルを確認。チュートリアルを開始します』

 

 

 視界にまた新たなシステムメッセージが表示され、動画付きでどのように使うかが案内される。

 

 成る程……。確かにこれは生産者として無くてはならないスキルだ。しかしこんな大事な物をこんな辺境に隠すとは……。いや、そうでも無いのか? 

 

 ここは辺境も辺境だが、逆に言えば生産職特化のプレイヤーでも問題なく来れるという事である。他にも同じような場所はあるようだし、未だに見つかっていない生産職のスキルが存在するのだろう。

 

 製図スキルの内容としては、文字通り設計図を生み出すスキルである。これだけ聞けばなんだその程度かとなるのだが、ここで思い出して欲しいのは製作スキルの使用法である。

 

 製作スキルは一覧に表示される『設計図』を選択する事で製作が可能となる。自分の手で一から作るにしても、ボタン一つで完成させるにしても、同じ手順が必要だ。

 

 つまりオリジナルの設計図を作ってその通りに武器を作れば、それはオリジナルの武器として使用可能になるという訳だ。更に自分で作らずとも、ボタン一つで製作出来るほどに簡略化されるようである。勿論、それには一回完成まで自分の手で作らなければならないが。

 

 また既存の設計図をコピーしたり、既存の銃を改造したものを設計図に起こす事も出来るようである。これだけで製作の可能性は大幅に広がったと言えるだろう。

 

 更にはこの設計図『保存』の機能もあるようで、作りかけの武器を設計図に起こした後、もう一度製作スキルを使用すると全く同じ物が出来上がる事が分かった。更には複数生産する事も可能となっている。

 

 有能どころか製作において必須とも言えるスキルだった。UIの機能が大幅にアップデートされたに等しい変化である。

 

 

 ではさっそく始めるとしよう。どのような物が出来上がるのか、今からとても楽しみだ。



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霧の招待状

 ホロパネルから『オリジナル』を選択した途端、既存のチュートリアル表示が全て消えてしまった。代わりに視界の端に様々な項目がツールのように並ぶ。

 

 試しに義手製作において初期で作れる3つの義手をそれぞれ比べてみた。製図スキルの影響なのか、その詳細が設計図に至るまで詳しく見れる。

 

 ざっくりと分けるなら『パワー型』『バランス型』『テクニック型』といった所だろう。

 

『パワー型』の主な駆動力は【AA2010PWモーター】光学エネルギーを純粋な駆動力としたモーターを主軸としており、モーター自体が大型な為に細かい制動は苦手としている。

 

『バランス型』は【CA27エアーロール】を主軸としており、電気力を利用した空気力によって駆動する。エアーの配線により多少手狭になるものの、細かい制動も効く上に様々な武装を積む事が可能だ。

 

『テクニック型』は……。【皇国重工55式セロ】という駆動力。中身としては『光学エネルギーを常温において気体に固定し、電磁力を補助として使用する事により光学ガスを駆動箇所にピン止め効果に近い形で集中。それによりナノマシンケプラーの供給エネルギーを極めて安定した暴走状態を保持して精密かつパワフルな稼働を実現する』という物。

 

 ……つまり小指の先ほどのガス発生装置と、義手の内側に張り込んだ特殊な繊維だけで恐ろしく精密な動きを実現するという物だった。馬鹿じゃないのか? なんでこいつだけオーパーツじみているんだ……。

 

 

 残念ながら一から全てを作る程のスキルはまだない。なのでこの3つの内から基礎となる物を選ぶ事にした。

 

 選んだのは『パワー型』。武装を仕込めるというのは確かに魅力的なのだが、そうすると装備する防具が完全に限られてしまう。ただでさえ紙装甲なのにこれ以上装備を限定するのは気が進まなかった。

 

 武装を展開する構造上、常に腕だけが露出する形にせねばならず、それだけの改造を施せるスキルが存在しない為、上半身を露出させるかタンクトップのような服を着る必要がある。着たいか? と聞かれても難色を示すのが普通だろう。

 

 その為、単純に出力の上がるパワー型を選択した。構造も比較的簡単で、初めて作るのであればこれが一番いい。

 

 

 

 さっそくパワー型の設計図を呼び出し、フレームだけを製作する。それを基にしてやっていこうか。製作する部位は右腕。使い慣れた方を使う方が微調整が効きやすいからだ。

 

 使用出来る素材は……作業台の物なら無制限に使えるのか。まさにチュートリアルといった所だ。ならば奮発してカーボン……いや、こちらの合金を使おう。乱雑に扱っても壊れない程度の耐久性が欲しい。

 

 ふむ、この状態でも完成形をホログラムでシュミレート出来るのか……。予想以上に便利だな製図スキル。

 

 となるとフレームと装甲の割合を弄った上で耐久性をテスト出来る訳か。こればかりは数を作るしか無いと考えていたが、それもしなくて良さそうだ。

 

 工具製造スキルに新たな項目が追加された。今の段階では必要ないが、無事にスキルを習得したならば工具も作ろうと思う。

 

 使える工具は……凄いな、どれも銃を作る時にも欲しいくらいの物が揃っている。そうでもないと義体を作るのは難しいのだろう。

 

 硬いはずの素材がガリガリ削れるし、微細な調整もすんなりと出来る。細かい形成も思うがままだ。SFのようにレーザーを照射したりする為、その扱いには多少の慣れが必要なのが難点か。それ以外は十分だ。

 

 未来式工具の影響もあり、予定よりもずっと早く義体の製作が進む。

 

 肩と肘は今のままだと動きが悪すぎるので多少手を加える。モーターの配置とフレームの位置を調整すれば、追加で装甲を詰める程のスペースを確保できた。

 

 次は手首より先の関節の動き。こちらは論外と言えるほど極悪な動きしか出来なかった。なんせ握るか開くかしかできない。辛うじて物が掴めるかどうかといった所か。

 

 ……多少は脆くなるが仕方ない。テクニック型の駆動力を流用して滑らかな動きを実現させる。

 

 その上で空いたスペースにロック機構を搭載し、手を強く握った瞬間にその状態で固定されるようにした。

 

 シュミレーターで動かしてみても実際の手とあまり遜色がない精度があった。その上で握り締めた時に限りそれなりの強度を発揮する。

 

 流石に精度を求めた分、握力は下がるが……。そこまで多くを求めるのはこの時点で難しいだろう。スキルもまだまだ初期状態なのだから。

 

 

 フレーム、動力、配線の処理が終わり、ここでメインとも言える項目に手をつけようと思う。

 

 

 この御老人曰く『戦闘用義体』なるこの腕は、文字通り戦闘に特化した義手である。なので義体の中に武装を組み込む事が出来る。例を上げるならブレード類に銃撃機構、シールドにジャミング電波やハッキングツールまで様々だ。

 

 今回はパワー型がコンセプト。仕込み武器もそれはそれでロマンがあるが、初めてでそれは流石に無謀だ。無難に出力が一時的に増加するブースト機構を搭載する。

 

 効果は三十秒間筋力値1.5倍、1分間のリキャストタイム。光学エネルギーの消費値2倍というもの。つまり三十秒間だけ一つの動作ごとに光学エネルギーを2倍消費して1.5倍の出力を得るが、使用後は1分間使用出来なくなる。

 

 これを空いたスペースに積み込んで完成。更にコピーしたパワー型の設計図に上書き保存した。名称は『prototype』。まだまだ改良の余地はありそうだし、一先ずはこれで良いだろう。

 

 

「ほほう、ええ出来じゃ」

 

「……まだ完成と言った覚えは無いが……」

 

「馬鹿言え、ここまでやっといてソレは無いじゃろう? お前さんのステータスならここいらが限度ってところだろうに」

 

「……そんな事まで分かるのか?」

 

「ふん。この道150年は下らんのじゃぞ? そのくらい朝飯前よ。……まぁええわい。そこの道具は全部やろう。ええもん見せて貰った礼じゃ」

 

「良いのか? 見たところ高価な物ばかりのようだが……」

 

「ワシが使うより幾らか価値があるってもんよ。予備ならもう2セットあるんじゃ。遠慮もいらん」

 

「……そういう事ならば、ありがたく頂戴しよう」

 

 

 義手製作に必要な工具一式を受領した。これは本当に有難い。ここまで複雑な工程を踏める工具となると、一体どれだけのレアメタルを要求されるか分かったものではない。工具製造で作れない事は無いが、それでも製作に何日かかるか見当も付かないような代物なのだ。大事に使わせてもらうとしよう。

 

 ……しかし、作ったは良いものの、どうやって装備するんだコレは。装備欄には装備の枠が無いし、ステータス画面にもそのような表示は無い。そもそも生身に直接付けるなら、何らかの手術が必要そうなものだが。

 

 そんな事を考えていると、老人は奥の方へと引っ込み、何やらガサゴソと機材を引っ張り出してきた。……その形は、いわゆる高速切断器と言うやつで、円盤状のカッターが挟み込んだ対象を真っ二つに切断する物。

 

 SFチックにアレンジされてはいるが、スイッチを入れた途端に不気味な回転音を響かせる様はある種の狂気を感じさせる。近くに血痕が飛び散っているとなれば尚更に。

 

 

「ほれ、何をしておる? 装備するんじゃろう?」

 

「なに、とは?」

 

「義手を装備するのに生身の腕なぞ要らんじゃろう。取っ払って端子を接続する手術をするんじゃよ。なに、痛みは無いから安心せい」

 

「……」

 

 

 いや、たしかに正論なのだが。そこはもっと穏便に出来なかったのだろうか。

 

 仕方なく上裸になって右腕を装置の穴に突っ込めば、拘束具が腕全体を固定。麻酔らしき物を充填した針が痛みも無く刺さり、一時的に痛覚諸々が消える。そして高速切断器が作動。肩口から聞いてはいけない類の音を奏でながらスッパリと切断した。

 

 続いてガチャガチャと機械が立ち上がり、肩の上から胸筋の脇を通って脇下までの範囲を膜の様な物が覆う。続いて端子と思しき物が次々と接続されて、腕の消えた肩口の接続部位に束ねられていった。

 

 時間にして5分も掛からずに大手術が終了する。感覚としては部位欠損ダメージを食らった時の痛覚が無い状態に近い。動かせる物が動かせない奇妙な感覚である。

 

 ……改めて思うが、こんな事になっても幻肢痛すら起こさない茅場の技術は本当に凄いな。若干努力の方向性が間違っているんじゃないか? 医療に使えばどれだけの価値がある事やら……。

 

 もっとも、それを悪用するなんて持っての他である。そう言う意味ではまだマシな方なのかもしれない。……まてよ、確か茅場はデスゲームの主催者だった。マシどころか最悪の使われ方をされていたな。どうして科学者や研究者といった連中は余計な羽目を外すのだろうか。

 

 一生枷に縛られて生きていればいいものを……。……少し愚痴っぽくなってしまった。今は義手を装着試験中だったな。

 

 

 作り上げた義手を左手で掴み、ガシャリと接触させる。その途端、視界に新たなアイコンが浮かび上がり、HPバーの下に新たなバーが出現した。

 

 ヘルプによればこれは残りエネルギーを示す物らしい。右下には人型のアイコン。右手の部分がデフォルメされた機械に置き換わっており、簡単な状況の把握が可能となっている。

 

 ダメージを受けて破損した場合はここに表示され、ダメージに応じて稼働率が減少。最小にまで達すると動かなくなってしまうようだ。耐久値も合わせて表示されている為、非常に見やすい。難点は視界のスペースを若干遮られてしまう事か。

 

 

「……ふむ」

 

「気に入ったようで何よりじゃ。その装置もやろう。奥にある物も含めてな」

 

「いや、流石にそこまでして貰わなくても良いのだが」

 

「逆に聞くが、ワシに必要だと思うか? ワシは全身これ一つよ。第一世代のくたばり損なった技術なんぞ、そう役に立つものか」

 

「だが私達には無い技術だ。必ず役に立てると約束しよう」

 

「ふん、好きにせい」

 

 

 奥にある人体改造用の機器類は、どうやら直接ホームに送られたようだ。後でキャンピングカーを見にいかないとな……。どう考えても入りそうに無い。

 

 そしてここでクエストが達成された。リザルト画面には少なくない経験値が入り、獲得したアイテムとスキルが並ぶ。『人体改造』『義体製造』『近接武器製造』『上位電子工作』『最上位電子工作』『クラッカー』『ハッカー』などなど……。

 

 上位や最上位の表記を始めて見た気がする。統合スキルなんかは比較的よく取れていたが、単純にその上位の物は取った事が無かったな。何故ここまで細かく分類されているのかは少々謎だが、仕様と言われればそれまでである。

 

 リザルト画面に最後まで目を通した後、お礼を言って帰ろうとした時、老人の頭の上に赤いクエストフラグが立っているのが見えた。……おかしい。フラグに赤なんてあっただろうか。大概は黄色だったと思うのだが。

 

 少し好奇心は刺激されたものの、何にフラグを立てたのかさっぱりわからない。装備を整えて改めて来た時に受けようと考え、リザルト画面を消そうと手を動かす。

 

 誤算だったのはリザルト画面を見ている間にもクエストフラグは進行しており、一定時間の経過でYES/NOの選択が出ると知らなかった事。結果として、突然現れたそのウィンドウにタッチしてしまう。……それもYESの方に。

 

 しまったと思った時にはもう遅く、後ろを向いたままの老人がゆっくりとこちらを振り向いた。未知の……それも厄介ごとの匂いのするフラグに警戒する俺をよそに、老人はじっと俺を見つめてくる。

 

 

「……お主、やはり見所がある。卓越した技量と知力、そして確かな技。ワシはそんなお主に託したい物がある。どうか聞き届けてはくれんか?」

 

「分かった。引き受けよう」

 

「これを知っておるか?」

 

 

 そう言って白衣のポケットから取り出されたのは、ガラクタとしか思えない代物だった。このプラスチックのようなマットグレーの空間に似合わない真鍮色の輝き。明らかに時代錯誤な代物である。

 

 今の銃器火砲にこんな物を使っている物など無い。車などには使われているが、それだってごく一部だ。こんな風に、全体が真鍮でできている機械を俺は見た事がない。あるとすれば機関車くらいだろうか。

 

 

「いや、分からない」

 

「……こいつはな、世界の真実の一端。そのカケラじゃよ。こいつが何かを知る時、お前さんは更なる極地にたてるじゃろう」

 

「更なる……極地」

 

「知る事が枷を解く鍵になる。……今はそれだけ覚えとくとええ」

 

「そうか。わかった、覚えておこう」

 

 

 ──────

 

 

 クエスト『霧幻の街への招待状』をクリアしました

 Now loading……

 

 称号【解き明かす者】を確認

 

 INT値を参照中……条件を達成

 

 クエスト『霧の向こうへ』を受注します

 ……貴方は、辿り着けるでしょうか? 霧の、その向こうへと。

 

 

 ──────

 

 

 

 クエストが進行した。このガラクタが次の道を示すらしい。……どうやら一筋縄ではいかなそうだ。このガラクタ、鑑定結果がほぼ表示されない。

 

 

『古き????』

 あまりにも古すぎて詳細な事は分からない。

 郷愁だけが、コレに残った最後の残り香だった。

 

 

 これでも鑑定スキルはカンスト間近。そこらに転がっている鯨の骨だってもう少しマシな結果を出す。ここまで何も出ないアイテムは初めて見る。

 

 つまりこれはそれだけ高位のアイテムと言うこと。スキル熟練度が足りないのか、また別枠のスキルが必要なのか、それは分からないが。せめて元が何であるかだけ分かれば、それらしい所を見て回る事もできたのだろうが、それも難しい。本当に厄介なクエストを受けてしまったようだ。

 

 

「うむ、これでワシの用件は終わりじゃ。……そういやお前さん、名前は何という?」

 

「……cypressだ」

 

「そうか、覚えておこう。……ワシの名はグラス。新人類計画の元研究長をやっておった。まぁ、今はただの老いぼれじゃよ」

 

「ではグラス研究長と呼んでも?」

 

「グラス技長の方がええわな。昔はそう呼ばれとった」

 

「分かった。……グラス技長、またここに来てもいいだろうか?」

 

「ふん、まぁ何かしらに詰まったらここに来い。知る限りで教えてやろう」

 

「……ありがとう。恩にきる」

 

 

 グラス技長に別れを告げ、何時間ぶりかの外に出る。ふと気になってリアルタイムをステータス画面から見ると、なんと既に登校時間ギリギリだった。

 

 つまりあまりにも熱中し過ぎて貫徹してしまったのだ。その事実に冷や汗を流しながら、ポータルへと足を進めたのだった。



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戦争前夜

 

 

「……レベルを上げる方法??」

「うむ、少し…いや、かなり困ったことになってな…」

 

 

 この前会ったドラグノフの少女が、リピーターとしてまた来てくれた。特殊弾数個のお買い上げとクリーニングの依頼だ。

 

 そこそこ時間のかかる銃の手入れ中、ふとそんな話題になったのだ。レベル上げ…。他のプレイヤーにとっては何でも無いような事だが、俺にとっては致命的な問題だった。

 

 

「普通にフィールドでエネミーでも狩れば良いでしょ」

「…俺のステータスは知力と技量に極振りだ。リボルバー以上の銃は握れん」

「……光学銃ならリボルバーでもそこそこ火力が出ると思うんだけど…」

「狩場で待ち構えているのはエネミーだけじゃ無いぞ。もう既に5回はそれで死んでる。…まぁ、失う物すら無かったんだがな」

「……………生産系のスキルでレベルを上げる方法とかは?」

「無いぞ。上がるのは熟練度だけだ」

 

 

 閉口する少女を見て、まぁそうだろうなと納得する。どう考えても詰んでいるのだから。

 

 FPSやってるのにマトモな銃を使えないとか、酷い縛りプレイだ。しかもレベル制のせいでその格差が更に広がっていると来たもんだ。まずはどう戦えと? という話である。

 

 旧式銃とツルハシで戦うにしても、あれは致命的な欠点を抱えている。初見ならともかく、そう何度も使える戦法じゃない。そもそも安定性に欠けるし、耐久の高いエネミー相手にはどうにもならないからな。

 

 

「…じゃあ、領土戦は?」

「……………聞いた事が無いな。その、領土戦とやらは何だ?」

「んー、何て言ったら良いのかしら? 正式名称は次元戦争(Dimension war)って言うんだけど、他のクエストとかの名称と被っちゃって差別し難いから領土戦って呼ばれてるの」

「あぁ、それなら知っている。確かサーバー間同士での大規模戦闘だったか?」

「それで間違いないわね」

 

 

 聞いた事はあるし、運営からも情報は出ていた。…まぁ、見るからにPvPに焦点を当てたルールだったので、さして調べても無かったのだが。

 

 設定としては次元の違うパラレルワールドからの侵攻を食い止めろという物で、次元と言いつつ他のサーバーに所属しているプレイヤーを相手に、大規模な陣地取り合戦をする。

 

 詳しいルールまでは知らないが、大体は合っていると思う。

 

 

「領土戦って結構特殊なルールになってて、デスペナが発生しない上に、敵を倒した経験値や熟練度はそのまま取得できるの。だから低いレベルの人でも、比較的簡単にレベルが上がるようになってるんだけど…」

「ほう。つまり初心者救済の為の常設イベントのようなものか。それは良い事を聞いた」

「……でも、私的にはあんまりオススメしないわよ」

「何故だ? 聞く限りレベル上げには最適だと思うが…」

「実際に経験した方が早いと思うわよ。…この後暇なら案内してあげても良いけど」

「…すまない、頼めるだろうか」

「良いわよ別に。私も聞きたい事があったし」

 

 

 という訳でグロッケン本部。ここからワープゲートで会場に飛ばされるとの事。

 

 イベント参加にあたっての注意事項などを読み、最後の同意書にサインを入れて領土戦の会場へと飛んだ。

 

 暫くワープ特有の集中線映像の後、プロローグPVが再生されて視界が真っ白に。内容は告知にあったPVとほぼ同じ内容だった。

 

 視界が真っ白に塗りつぶされ、ゆっくりと色がつき始める。まとわりつくような熱気、咽せ返る緑の匂い、絶え間ない動物と昆虫の声…密林かジャングルか、どちらにせよ面倒な土地に飛ばされたのが分かる。

 

 

「…ついて無いわね…。よりによって孤島なんて…」

「ふむ。南国島と言ったところか。…ところでルール説明のNPCはどこだ?」

「無いわよ」

「……うん? …まぁ、そういう事もあるか。では味方のプレイヤーはどこだ? 領土戦と言うからには他のプレイヤーも居るのだろう?」

「居ないわよ」

「………………あぁ、なるほど、チームではなく個人戦だったのか。来月辺りにやるBoBの予行のような扱いなのだな?」

「チーム戦よ。しかも50対50の大規模な戦闘ね」

「…すまん、疑って悪いが、お前は騙してここに連れてきた訳じゃ無いんだな?」

「デスペナが無いのに騙すもクソも無いでしょ。…そうね、フレンド交換でもしておきましょうか。これから先、何か連絡するかもしれないし」

 

 

 フレンド申請を貰った。内容は簡素な物で、性別と名前くらいしか無い。shinon…シノン、か? この手のゲームには珍しいくらい安直だな。俺も人の事は言えないが…。

 

 

「cypress? ふーん。変わった名前ね」

「本名の英語読みだぞ。そっちとさして変わらん」

「あらそうなの? 変な勘繰りしちゃったわ…。ま、それは良いとして、この状況の説明だったわね」

 

 

 そうして語られたこの状況は、予想以上に酷い物だった。

 

 領土戦とは陣地取り合戦である。各フィールドにある拠点を確保し、ポイントを一定数稼ぐとその拠点が自軍の物になり、防衛設備などが開放される。

 

 そうして拠点を取り合い、防衛力を高めて次の拠点を奪取する。まさに陣地取り合戦だ。

 

 ポイントは拠点にいる人数が敵よりも多いとカウントが開始され、人数が多いほど時間辺りのポイント上昇量が多くなる。ただし、敵の数との差引になる為、3対4も19対20もほぼ同じくらいしか上昇しない。

 

 また、奪取した拠点は後日に引き継がれ続ける。フィールドは変わっても、A拠点からG拠点の防衛力は変わらず引き継がれる。

 

 拠点の防衛はポイントを消費する事でより強固にする事が可能であり、これは確保した拠点数、倒した敵の数、本拠地への攻撃により加算される。特に確保した拠点からのポイントは、その仕様から確保している限り永続的に供給される為、拠点の防衛は特に重要事項となる。

 

 また各地の拠点の他に本拠地と呼ばれるものがあり、各拠点が確保されていない、又は敵に確保されているとここからのスタートになる。別に拠点を確保出来ている状況でも本拠地からリスポンは可能だが、あまり意味は無いらしい。

 

 そして本拠地も他拠点と同じように防衛力を高める事ができる。

 

 それと言うのも、本拠地への攻撃は高いポイントが割り振られており、本拠地の状態によっては敵にポイントが入り続ける状況になるからだ。

 

 損耗率0%の時は特にボーナスは無いが、それが50%を超えた辺りから全滅判定となり相手にポイントが入り始め、100%ともなると何もしなくてもポイントが供給されるボーナス状態になる。

 

 ……さて、以上の事を踏まえてこの状況を振り返るとどうなるか。

 

 

「……つまり、なんだ。本拠地は相手により壊滅状態、拠点は全て取られた上でポイントは一方的に吸われ続け、相手の防衛力は試合をする度に跳ね上がり続けると?」

「その通りよ。付け加えると使用する火器も本拠地のレベルによって制限がかけられているから、今この拠点が使えるのは第一次世界大戦の頃の物くらいしか無いわ」

「相手はどのくらいの火力を持っているんだ…?」

「SF映画に出てくるような対宇宙戦用のレーザーカノンが各拠点に配備されているわね」

「…あー、歩兵はどれ程の火力を?」

「全部機械化されてるわよ。文字通りパワードスーツに未来式の浮遊戦車まで合わせてね」

「絶望的では?」

「絶望的ね」

 

 

 イカれてるな。いや全く酷い状況だ。

 

 しかしまぁ、やりようはあるかもしれない。取り敢えず使用出来る火器一覧を…うん? この武器、ポイントで使用可能なのか? 

 

 ……ふむ、うん、なるほど? 個人が得たポイントによって武器を買い、それで戦うのか。ポイントで得た武器は基本的に領土戦のみで使用可能。持ち込み火器はそのまま使用出来るが、ランダムドロップの対象内、と。

 

 それと…このスキル変更とはまた魅力的な物があるな。習得可能なスキルをペナルティ無しで使用可能な上に熟練度まで上がるのか。…流石に一度に付けられるのはレベルに応じた数だけだし、領土戦エリアから出ると元のスキルにリセットされるようだが…。

 

 しかしこれは画期的では無いか? 詳細の分からないスキルをあらかじめ知る事が出来るなんて、中々無いぞ。新規に覚えるスキルをあらかじめ熟練度MAXまで上げる事も可能な訳だしな。

 

 

「なぁ、このスキル変更というのは本当に何のペナルティも無いのか? 中々に破格なシステムだと思うのだが…」

「…どうして? そんな物何の意味も無いのに…」

「ふむ? スキルの詳細を事前に知れれば、ビルド構成に無駄が無くなると思うのだが」

「戦闘系スキルの情報なんて大体出尽くしてるし、このゲームのスキルって大半は戦闘の補助動作でしょ? 他のゲームみたいに特定の動きをシステムが自動で操作する訳じゃ無いし。どっちかって言うと『何々が出来るようになる』って言う許可証みたいな物じゃない。だからそこまで重要じゃないし、どっちかって言うとステータスに直結するスキルの方が重要って言うか…」

「む、なるほど、戦闘系はそうなのか…」

 

 

 言われてみればアクロバットや千里眼、ブレ抑制にアンブッシュ…なるほど、プレイヤーの身体に対する強制力が薄いな。立ち回りは広がるかもしれないが、一対一の撃ち合いの場面で活かせるのはステータスそのものだ。同じ装備なら、HPが高い方が生き残るのは道理と言える。

 

 しかし技術職にとっては違う。様々なスキルが統合される事が分かった以上、その統合スキルを取った方が結果的に多くのスキルを取れることになる。

 

 スキルを自由に組み換えれると言うのは、そういった統合スキルを探せると言う事でもある訳だ。戦闘系に同じ物があるかわからないが、試してみる価値はあると思う。

 

 ともかく、まずは近接武器制作だな。気にはなっていたがスキル枠に余りがなくて取れなかったのだ。

 

 試しに一本ナイフを簡易制作で作り出してみる。手の中に銀色に光る低品質のナイフが出現。…問題なく行使できたが…これ、制作に拠点のポイントを使用するのか…。資材=ポイント、と言う訳か。

 

 次は設計図がどうなっているかだが…うん、見事なまでに初期仕様だな。後で描き直さねば。うん? 使用武器の追加? 何だこれは。試しにやってみようか。

 

 …おぉ、拠点の使用火器にナイフが追加された…。製作者権限で消す事も可能、と。…なるほど? つまりこれは…こういう仕様と言う事だな? 

 

 

「何とかなるかもしれん。……そういえば聞きたい事があると言っていたな。何かあるのか?」

「…別に答えて貰わなくても良いんだけど、貴方はどうやってあのPVPを成立させたの? あんな旧式の銃で立ち回るなんて聞いた事も無いわ」

「む…見られてたのか? それとも誰かの配信か? …まぁどっちでも別に構わんが…。…アレには色々種があってな。見た目ほど難しい訳ではないぞ」

「…とてもそうは見えなかったのだけど…」

「いやなに、システム的な問題だ。

 弾着予測円内に弾はランダムで命中する…。このゲーム特有の仕様だが、実のところ完全にランダムと言う訳では無いのは知っているか?」

「えぇまぁ。クリティカル率やスキルによって多少変動するのは」

「クリティカル率は頭部や心臓に当たる確率、スキル及びステータスは着弾率。ではAGI特化のプレイヤーはどれに割り振っていると思う?」

「…機動力一択ね。当たらずとも制圧射撃だけで脅威だし、近寄ったら重装甲なんて関係ないもの」

「つまり武器が持つ素のステータスのみ参照にしている事が多い。ここまで分かっていれば、体のどの部位に着弾するか、ある程度予測出来るだろう?」

「ちょっと待って? 貴方今とんでもない事言わなかった?」

「何がだ? 今市場に出回っている武器のデータくらい、全て頭に入っている。ダメージ、クリティカル率、集弾率、着弾率、反動…武器を作る以上、知っているのが大前提ではないか」

「てことは…アレ全部、予測してたって言うの? アサルトライフルやサブマシンガンの弾道を…」

「おおよそだがな。あまり予測が外れんのは流石にゲームと言った所だろうが」

 

 

 細かく言うと防具とステータス差もあるようだが、それを割り出せるほど数はこなせなかった。

 

 コツは相手の正面に立ち、被弾面積を多く取ることだ。半身になって被弾面積を下げると、心臓部と腕と胴体の射線がかぶって銃で弾けなくなるからな…。

 

 納得したようなしていないような、微妙な顔をして彼女は帰っていった。まぁ、今後はもう使わない手だろうし、教えても問題ないだろう。やろうと思えば対策なんて幾らでもあるのだから。

 

 

 よし、ひとまず熟練度を上げてみるか。

 

 ステータスメニューから工具製作を選択。旧式銃を作る時にお馴染みの工具を作成していく。幸いにもコストは激安だった。

 

 次に鋼材を選択。…砂鉄もあるのか…。これは…悩むな。どちらで作るか…。いや、ここはインゴットでいこう。たたら製鉄も出来んことは無いが、近接武器制作の熟練度は上がらんだろうしな。

 

 インゴットを火床に放り込み、暫く沸かして様子を見る。近接武器制作を選択していた為に、ここでチュートリアルが出たが、さっと読み飛ばしてマニュアルに操作を変更する。まぁ、やる事は銃とそう変わらん。

 

 十分に火の入った鉄を軽く叩き様子を見る。…積み沸かしをすればもう少し良質な音を出すんだろうが、今はそこまで求めるつもりは無いからな。

 

 さて。

 

 

 カァーン…。

 

 

 反響に乱れ。良質より若干下の鉱石。軌道修正完了。想定、日本刀。尺、最大値と最低値を推定…。火床の温度調整。推定適温を算出、完了。

 

 

カァーン…。

 

 

 角度、速度修正…完了。適正パターン演算。水温の低下を推奨。粘りは想定内。

 

 

りぃーん…

 

 

 十分程で形を造形し、ザックリと研磨を終えた日本刀の研磨剤をぬぐい、刃筋を見る。…まぁ、簡易的に作るならこんな物か。白鞘に刃を納め、作製完了のボタンを押す。

 

 

「……ふむ。試作1号、と」

 

 

 製図スキルを使用して進行の保存も忘れずに行う。いやはや、まったく便利なもんだな。使用感としてはExcelとかWordに近いものがある。これ無しに銃器の制作などやりたいと思えん。

 

 さて、次は検証に入ろうか。



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戦争前夜2

 

「……やり過ぎたか……」

 

 

 何百本と重ねられた日本刀から目を逸らしつつ、熟練度がMAXになった近接武器制作スキルに5種類程のスキルを統合してスキル欄にセットした。

 

 やはり目論見は間違っていなかった。スキルは付け直しても熟練度が下がる事はなく、統合すると熟練度は下がるがスキルが複合スキルになる。

 

 その状態で領土戦フィールドから出てもスキルの進捗は変わらず、統合されたスキルをセットする事が出来た。

 

 やはりこれが正しい使い方なのだろうな。本来であれば生産職が武器を作ってリストに登録。他のプレイヤーがポイントを支払ってその武器を買えば、生産者にもポイントが入る仕組みと言う訳だ。

 

 今俺が拠点のポイントを使えているのは、ここに俺一人しかいないからだ。拠点ポイントを使えるのは一試合毎にランダムで選出された一人だけ。いわゆるサーバー主的な立場になり、防衛拠点の強化などを拠点ポイントを使って行える訳だ。

 

 今は自動的に俺がサーバー主な訳だが。

 

 ともかく、準備は整った。次の検証をしようか。

 

 

「さて、どうなるか」

 

 

 至高の一振り。素材から選定し、一から鍛え上げた日本刀を抜き放つ。目の前にあるのは崩れかけた鉄筋コンクリートの柱。現実では到底日本刀などで斬るものではない。

 

 だが。

 

 確信があるのだ。ここはゲームであり、現実とは違う物理法則が働いているのだと。

 

 一歩。静かに踏み出す。

 

 二歩。重心の全てを鋒に乗せる。

 

 三歩。円運動の勢いのまま、刀を振り抜いた。

 

 

ぞん。

 

 

「……よし」

 

 

 コンクリート製の柱は、真横に一文字の軌跡を残して見事に真っ二つになった。現実ではあり得ない挙動だが、ここで俺の仮説が正しい事が証明された。

 

 常々思っていたのだが、オブジェクトに対する破壊の優先順位がどうなっているのか疑問だったのだ。

 

 要は実弾でコンクリートを撃った時、コンクリートはどのように壊れるのか、である。

 

 答えは実弾はコンクリートを破壊する。それも攻撃力が高ければ高いほど、より大きな破壊をもたらす。

 

 つまりこのゲームにおいて攻撃力とは、オブジェクトに対する破壊権なのでは無いかと俺は仮説を立てた。これは一見するとどうでも良いような情報かもしれないが、俺的には無視できない法則だと思っている。

 

 これまでのゲーム……と言うか大抵のテレビゲームにおいて、物体を破壊するにはそれなりの制約がある。

 

 例えばFPSでは遮蔽物の運用が特に重要だ。しかし現実において、木箱やらベンチやらが遮蔽物として機能する事はない。しかしゲーム上の銃はそう言ったオブジェクトを貫通する事は出来ず、現実ではあり得ない物も遮蔽物にする事が出来る。

 

 逆に爆発物などはある程度地形を貫通するようになっている。あるいは物体を破壊する事により、遮蔽物を無くせる訳だ。

 

 だがこのゲームにおいては違う。攻撃力さえ足りていれば、物体の破壊権……つまり遮蔽物を壊せるという事。大型の銃であれば、薄い障害などは貫通できてしまう。

 

 

 ではここから更に踏み込んで、ゲーム上の武器の攻撃力の数値を更に上げた時、本来であれば壊せる筈のない物も壊せるのかと言う疑問。

 

 

 それを今、証明した訳だ。

 

 

 最大熟練度かつ現状で使える全ての技術をつぎ込んだこの日本刀の攻撃力は、数値上で見ると戦車の装甲板すら貫通する。ここに右腕の義手によるパワーアシストも含めれば、おそらく宇宙船の装甲板すらぶった斬れるのではないだろうか。

 

 ただし、相手の装備にプレイヤーの手が入っていない事が条件だが。

 

 当たり前だけども、プレイヤーメイドによって上がるのは攻撃力だけでなく耐久値も上がるわけで。この法則が適用されるのは防御側も同じだろう。

 

 でなきゃ火縄銃で弾丸なんか弾けない。……そう言えば耐久値の減少が想定よりもかなり低かったな。どっちにしろリロードも兼ねた修理によって壊れる事はほぼない訳だが。

 

 

「……問題は山積みだな……」

 

 

 これで攻撃力は手に入れた。相手がどれ程の防御力を有するか分からないが、流石に戦車並みに硬いという事はないだろう。奇襲で一人は確実に持っていける筈だ。

 

 とは言えそう簡単に行くとは思えない。まだまだ情報も準備も足りないな……。いっそ他のレベル上げの方法を試しても良いが、善意で案内された手前、簡単に投げ出すのも気が引ける訳で。

 

 そんな時、マッチ権限者用のリスト表に5人ほどのプレイヤーが追加される。……考えてみれば誰も使わないとは限らないな。これだけのプレイヤーがいるのだし、俺のような物好きも居るのか。

 

 

「……あれ? 誰かいるんですか?」

「む、あぁ。ここにいるぞ。……マッチするなら権限を渡すが……」

「あ、いえ大丈夫ですよ。他のサーバーも立ち上げられますし。なんならクローズマッチにしてくれるならそのままでも」

「……クローズマッチ……? そんな項目どこにも無いが……」

「ええと、テストマッチって書いてある奴です。それを押すと25対25の小規模な陣地戦が出来るんですよ。あ、良ければ一緒にやります?」

「……あー、先に謝った方がいいか? そうとは知らず拠点ポイントをかなり使い込んでしまったのだが……」

「拠点ポイントを……ですか? いえまぁ構いませんけど……。って、凄いですね。日本刀なんて初めて見ました……」

「全て試作品だがな。……ところで、君らは何者だ? ここには滅多に人が来ないと聞いたのだが」

 

 

 彼等は顔を見合わせると、口々に説明してくれた。曰く、ここに居るのは趣味人の集まりなのだと。

 

 GGOのプレイヤーは大体3つくらいに分かられる。探索をメインに世界観の解明やレアドロを狙う攻略組、対人をメインに大会やPKを行う対人組、そして各々好きな時間にカジュアルに遊ぶエンジョイ勢。

 

 彼等はこのエンジョイ勢の中でも、コスプレに特化した集団なのだそうだ。それも第二次世界大戦のコスプレを。

 

 まぁ、サバゲーでもそこそこ見かける人種ではある。彼等に嬉々として見せられたリプレイ映像は、まさしく旧日本陸軍とアメリカ軍のぶつかり合いだった。それも硫黄島辺りで行われたような途方もない激戦である。

 

 領土戦の初めはどこもこんな感じだったらしい。それが崩れ始めたのはアジアサーバーの追加とアメリカで有名な迷惑系配信者の存在があったからだとか。

 

 アジアサーバー……言いたくはないが非常に治安がよろしくない場所だ。日本サーバーとは明確に区別されており、アジアと名が付いてこそいるが、実質的には中国サーバーそのものである。

 

 なぜアジアサーバーと呼ばれているかは……向こうの国がごねたとか何とか。そんなことをしても日本は日本サーバーとして確立している訳で、あまり意味はないと思うが。

 

 問題はそれが迷惑系配信者の火種になってしまった事だ。元々治安の悪いアジアサーバーに対するヘイトが溜まっていた所に、アメリカ側の迷惑系配信者がそれを過剰に煽り、それはもう大激戦が繰り広げられたと言う。

 

 問題はアジアサーバーと日本サーバーの区別のつかない人間がかなりの数いて、過剰な煽り行為と共に執拗なキルを繰り返す。なんならアジアサーバーにいた人間もこれ幸いにと日本サーバーに乗り込み迷惑行為を働く始末。

 

 しかしこの事態に運営は静観を決め込んだ。と言うのも元々荒々しい世界観がモチーフのこのゲームで、罵詈雑言の類はある程度許容されている。彼等のした行為は決して褒められたものじゃ無いが、ルール上は何も問題ない訳だ。

 

 だがこれのせいで日本サーバーでの領土戦は全くと言っていいほど行われなくなった。言葉はわからないが、明らかに煽られるのは決して気分が良いものではない。

 

 そもそも日本とアメリカでは文化が違う。向こうは面と向かって煽り合う行為はさして珍しいものではないが、こちらは面と向かって罵声を浴びせるような奴は即刻村八分だ。

 

 ネットなどの匿名性の強い場なら幾らでもイキれるが、相手の顔がある場所でそれをやる人間はほぼ居ない。良くも悪くも、日本サーバーは治安が良すぎるのだ。

 

 そんな事情を経て誰もいなくなってしまった日本サーバーだが、それでも一定の人間が出入りするのには理由がある。

 

 

 そう、それこそがコスプレ。第二次世界大戦程で発展が止まってしまった日本サーバーで入手できるアイテムは、その全てが旧陸軍の代物なのだ。

 

 領土戦で買った武器ならばデスペナで奪われる心配もない為、好きなだけ趣味の装備にポイントを注ぎ込める。なんなら課金によって購入も可能なのだとか。

 

 そして敵になる側もわざわざ自前の装備で戦おうなんて考えないし、結果として公正なルールのもと擬似的な陣地戦が行える、と言う訳だ。クローズドマッチという存在が無ければ、1人もこのサーバーに残らなかっただろうと彼等は言う。

 

 GGOというゲームの中で、全く別の新しいゲームを行う。まさしくこのゲームを楽しんでいると言っても過言ではない。

 

 

「ふむ……なるほど、そう言う事情があるのか……」

「まぁそうは言っても非公式ですしね。cypressさんがやりたいようにやって貰えれば……。僕らに公式の領土戦をやる意思は無いですし」

「……しかし、なぁ、勿体ない話だ」

「……勿体ない、とは?」

「君らは高レベルかつ、かなりの練度があると見た。古めかしい装備だが、洗練され非常に実戦的だ。今の装備のままでも、領土戦で無ければプロとして稼げるのではないか?」

「ははは、そんな大袈裟な。僕らなんてサクッと狩られて鴨にされるのがオチですって。それに、せっかく揃えた装備を落としてギスギスするのも嫌ですし、僕らはこのくらいが丁度良いんですよ」

「……ではなぜ他のゲームに移らないのだ? わざわざこんな所でしなくても良いのでは……」

「他のゲームはクオリティがちょっと……。銃って近接武器なんかより余程難しい機構をしているせいか、ゲームデータに起こすのが難しいみたいなんですよね。その点、このゲームは惚れ惚れするクオリティですし」

 

 

 ……勿体ないなぁ、実に勿体ない。彼等をどうにか引き込んで装備を持たせれば、相手がいかに規格外とは言え、多少の損害は出せそうなのだが……。

 

 いや、そうだな……これだけの熟練者が50人近くいるのなら、今の領土戦の何か致命的な弱点を突けば、案外アッサリ勝てるのでは? 

 

 まだ検証も何もしてないが、一応目処は立っている。……それに、ここで彼等を手放すのは実に惜しい。ここは一つ、交渉してみるか。

 

 

「……ところで物は相談なんだが、俺と共に公式戦に参加しては貰えないだろうか?」

「あー……えっと……」

「言いたい事はよく分かるとも。先程の話を聞いて何も思わない程、俺も鈍感ではない。

 しかし、なぁ。だからこそ腹も立つ訳だ。幾らルールが許すからと言って、奴等のした事は野蛮で下劣な猿以下の愚行だ。それを許す運営にも腹が立つし、結果として一つのサーバーが機能不全を起こしているのならば、それは健全な運営とはとても言えんだろう。

 そう言う訳で、俺は奴等を完膚なきまでにぶちのめしてやろうと思うのだよ」

「……えぇ……。貴方、腹が立つって理由で喧嘩売るんですか? それも勝ち目のない無謀な喧嘩を……」

「無謀ではない。勝算もある。だが俺一人では難しいのだ。故に君らに交渉を提案する」

「交渉、とは?」

「一つ、第二次世界大戦時代の武器レパートリーを増やそう。この日本刀を始めとして、揃えたい武装は幾らかあるのだろう? 君らが言うだけ全て作ってやろう」

「は、はいぃ!? 作れるんですか!?」

「あぁ。流石に戦車やらは無理だがな。……今の時点では(ボソッ」

「た、大変だ、すぐに皆んなに知らせないと……!」

「まぁ待て。まだ提案はある」

「いや、今ので十分なんですけど……」

 

 

 その言葉を意図的に無視して、右腕の裾を捲り上げ手袋を外す。

 

 現れたのは鈍色に光る鋼鉄製の義手。本来人に付いているべきでないソレに、先ほどとは明らか別種のどよめきが生まれる。

 

 その視線を浴びながら、ゆっくりと義手を動かし続ける。それが夢幻の類でもなく、そこにしっかりと存在している事を見せつけるように。

 

 立ち上がり、右拳を強く握り込んで思考コマンドを入力。前腕部分の排莢機構が作動し、薬莢にも似たエネルギーパックを排出した。

 

 ガキンッ! と排莢機構が閉じ、各所に存在する僅かな隙間から赤い光がうっすらと木洩れ出る。ビュウウンという僅かな作動音に合わせて静かに水蒸気が立ち昇った。

 

 5人分の目線を釘付けにしたまま、腰の日本刀に手を置き、居合の構えを取る。対象は目算にして2メートルは離れた石柱。当然斬れる訳もないが、まぁ斬るつもりもない。義手の動きだけ見て貰えばそれで十分だ。

 

 

 抜刀。

 

 

 

 

 その瞬間、刀から何かが『飛んだ』

 

 それは刀を振った軌道をなぞるように斜めに飛んでいき、石柱に命中。そのまま通り過ぎていく。

 

 驚きつつも納刀だけは無意識に行なっていた。パチンと鞘に収まると同時に、石柱がゆっくりとズレていく。ズズンと砂埃をあげて斜めに断ち切れた石柱が倒れる。

 

 

 ……本来ならこの義手を使わないかと提案するつもりだったのだが、この時の俺は非常に動揺していた。しかし交渉の場でその動揺を見せる訳にもいかず、何とか飲み込んでこんな事を言ってしまったのである。

 

 

 

「……さて、諸君。

 

 

力が欲しいか? 

 

 

 

 

 

 

 交渉は無事に成立した。……が、この先延々とこのネタで弄られるとは思いもしなかったのである。



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