金髪さんのいる同盟軍 (ドロップ&キック)
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プロローグ:”エル・ファシルは燃えているか?”
第001話:”一杯のコーヒーから歴史が変わる時もある”


奇妙な奇妙な金髪さんの物語の始まりです。


 

 

 

ココハドコダ……?

”私”ハダレダ……?

 

私? チガウ。

オレハ”俺”ダ。

 

イヤ、”私”は銀河ヲ平定シ病デコノ世ヲ……

 

(なら? ()は誰だ……?)

 

それにこの暗闇に閉ざされた世界は……

 

 

 

☆☆☆

 

 

「おい! ()()()()()! しっかりするんだ!」

 

随分と懐かしい呼び方をするな?

だが、その名字はやめてくれ。嫌いなんだ。

いや……そうでもない。

だが、胸焼けのような不快感はあるな。

 

ああ、そうか。

もう息子も成人してるってのに、未だ新婚気分が抜けてない両親に食傷気味なだけだな。うん。

 

父はセバスティアン、母はクラリベル。姉はアンネローゼ……うん。間違いない。

帝国の下級貴族だった父は、当時花屋で働いていた平民の母に恋をした。

周囲に身分違いだと母との交際を反対された父は一念発起し、母を連れてフェザーン・ルートで自由惑星同盟に亡命。

貴族の証であるフォンを捨て、セバスティアン・ミューゼルとして母に改めて求婚。

そして姉上と俺が生まれた……

 

あと父さん、母さん、弟や妹は別に要らないからな?

 

これで間違ってないはずだが……なんだ? この姉上が皇帝寵姫になったって記憶の断片は?

いや、それだけじゃない……この圧倒的な質と量の記憶の羅列は……

 

(まるで俺が生きたもう一つの人生じゃないか……)

 

 

 

「まだ目を覚まさないか……仕方ない。誰かアンモニアをもってきてくれないか? できれば高濃度なのをだ。気付け薬になる」

 

冗談ではない!

 

ん? 暗闇かと思ったら、もしかして俺は単に目をつぶってただけか?

やれやれ。そろそろ目を覚まさないと鼻が曲がりかねんな。

 

「大丈夫だ……問題ない」

 

俺がゆっくりと瞼を開けると映ったのは黒髪に黒い瞳の優しげな男だった。

見覚えはある。ただし、もっと歳を重ねた後だったが……って何を言ってる?

 

「ヤン()()、アンモニアは勘弁してくれ。気付けなら、せめてポケットに忍ばせてるスキットルの中身がいいな」

 

先輩、今ギクッとしたな?

相変わらず戦場にはブランデー持参か? この不良軍人めっ!

まあ、もっともそれが先輩の士官学校時代から変わらぬキャラといえばキャラなんだが……

 

「ところで後輩、気分と具合はどうだい?」

 

「最悪だ。頭がぐらぐらする」

 

というかローゼンリッターの飲兵衛共と飲み明かした翌日の気分だ。

あるいはアッテンボローの阿呆とフォークとバカ騒ぎしたとき……要するに二日酔いに近いアレだ。

 

「過労だろうね。働きすぎなんだよ、後輩。もう少し息の抜き方を覚えたほうがいいぞ?」

 

「そうも言ってはいられないだろ? もうすぐここは戦場になるんだ」

 

間違いなくな。

なんせ”クソッタレな()()艦隊”は目と鼻の先まで来てるんだ。

 

「かといって戦死の前に過労死じゃ洒落にならないだろうか? 知ってるか? 歴史上、ありとあらゆる古今東西の英雄豪傑の死因は過労なんだぞ?」

 

過労ごときに殺されてたまるか! 病に倒れた俺が言える台詞じゃ……まて。さっきから俺は何を考えている?

 

「ところで後輩」

 

「ん?」

 

先輩は親指でドアの方を指差し、

 

「あのお嬢さんにも一声かけてやったらどうだい? ずっとお前さんを心配して、ドアの前でうろうろしてるんだ」

 

先輩の指差す方向には、金褐色の髪が揺れていた。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

「ごめんなさい!」

 

そのヘイゼルの髪の少女にいきなり謝られた俺は困惑してしまう。

 

「頭を上げてくれ。どう考えても俺が倒れたのは君のせいじゃない」

 

「でも……」

 

俺はなるべく優しく微笑むよう努力して、

 

「むしろ差し入れには感謝してる」

 

 

 

さて、俺が覚えてるところまで掻い摘んで話すとしよう。

そう、確かこの少女がサンドイッチとコーヒーを差し入れに来たんだ。

だが、先輩が「コーヒーより紅茶がよかった」なんてヌカしたんで、

 

『先輩が要らないなら、そのコーヒーは俺が貰おう。ちょうど喉が渇いてた』

 

とカップを受け取ろうとして……ん? その先の記憶が無いな?

 

 

 

「コーヒーを受け取ろうとして、そのままぶっ倒れたのさ。後輩」

 

なるほど。道理で記憶がそこで途切れてるわけだ。

 

「そういう訳らしい。な? 君は陣中見舞いを差し入れてくれただけで、俺が倒れた事とは無関係だ」

 

「そうそう。我が後輩は昔から万能なくせに変なところで融通が利かなくてね……まあ、おそらく今回も根を詰めすぎてたまった疲労が出ただけだろうさ」

 

先輩、援護射撃に感謝する。

 

「それに俺はこう見えても頑丈だ。心配には及ばない……むしろ、君には礼を言う。えっと、」

 

「フレデリカ」

 

その少女は花がほころぶような笑顔で、

 

「フレデリカ・グリーンヒルです」

 

と名乗った……

 

ん? フレデリカ・グリーンヒル?

先輩の将来の嫁の名だったんじゃ……ってなんで俺はそんなことを知っている?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ラインハルト様は、フラグを立ててしまったのです!(挨拶

誰にとは言いませんが(^^

厳密には、ラインハルトは転生ではなく「別世界線の同位存在の記憶」を取り込み”融合体”になったような感じです。

もっとも彼はオカルティックな考え方より合理性を好みそうなので、

「もう一人の俺の記憶というのも、今後色々参考になりそうだな」

とか言い出しそうですが。



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第002話:”ヤン先輩とミューゼル後輩”

なんか書きあがってしまったので、第2話目を投降。
「金髪さんのいない」を入れると本日3本目……書きすぎ?




 

 

 

さて、ここは惑星”エル・ファシル”。

銀河の地獄の一丁目……

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

「先輩、状況は?」

 

「良くはないね。リンチ少将が心当たり全てに連絡を入れているが……時間内に駆けつけてこれる場所に、適当な艦隊はなさそうだ」

 

「エル・ファシルの駐留艦隊だけで、なんとかするしかないということか……」

 

俺の名は、ラインハルト・ミューゼル。

自由惑星同盟軍の少尉、いわゆる士官学校でたての新米だ。

なぜか敵国……銀河帝国の皇帝になったという意味不明の記憶があるが、今はそれを深く考えてる場合じゃないだろう。

 

目の前にいるのはヤン・ウェンリー中尉。

士官学校時代からの先輩で、何かと気が付いたら世話になっていたりする。飄々としてるが、これで意外と面倒見がいい。

元々は戦史研究科にいたが、キャゼルヌ先輩とシトレ校長の陰謀(?)で戦略研究科に転科させられた過去がある。

ああ、俺がヤン先輩に出会ったのも、転科させられた直後だったと思う。

 

そう、フォークがパイロット科に転科したのもその頃だから間違いない。

フォークは秀才肌でなんでも卒なくこなすが、メンタル面が弱い。

またひょんなことから”()()”を知ってしまったから、俺が「ストレスまみれで人間関係ギスギスの参謀より、フォークに向いてる戦科がある」って薦めたんだ。

 

あれは我ながら良い判断だったな。

パイロット科に行ってから判明したことだが……フォークには、常人離れした高い空間認識能力があることがわかったんだ。

本人に聞けば『パイロットになるために生まれてきたような逸材』と教官に褒められたと喜んでたしな。

宇宙がフォークの心理面の安定を促すのか、”持病”も大分病状改善されたらしい。

ただし、最近は『今日も宇宙(そら)が蒼いなぁ……』と呟くことがある……少し心配だ。

 

 

 

まあ、そのフォークと俺、それとアッテンボローの同期三人は、それぞれ方向性は違うが、全員がヤン先輩の世話になっている。無論、世話になった先輩はヤン先輩だけじゃないが、俺は特にヤン先輩に何かと縁があった気がする。

今もこうしてエル・ファシルに同行してるわけで、縁は今も続いてると考えていいだろう。

 

なんとなく人事に影響がある人物……シトレ校長とかの意図を感じなくもないが、それは気にしても仕方ない。

 

ただし本人、遵法意識というか……ルールを()()()に甘く解釈する場合がある。

まあ、俺と違って融通が利くという言い方も出来るのだが……

後は私生活がアバウトすぎるのはどうにかした方がいいと個人的には思うぞ?

 

 

 

さて、ミス・グリーンヒルが去った後、俺と先輩は今後の展開を話し合っていた。

 

現状を端的に要約すれば、「マンハント目的の腐れ貴族艦隊がエル・ファシルに接近しつつある」ということだ。

マンハントとは文字通り”人狩り”、エル・ファシルの住人を帝国に連れ去り、男は農奴、女は性玩具として自ら使用する、あるいは転売するつもりだろう。

 

ロクなことをしない連中だが、それが貴族というものだ。

無理やり納得するなら”別の人生を生きた俺の記憶”も同じような主観をもっているようだ。

 

ただ問題なのは貴族子弟が金魚の糞のように引き連れてる艦隊が、エル・ファシル駐留艦隊より数的優勢ということだろう。

 

 

 

「総勢2500隻か……」

 

”もう一人の俺”の記憶によれば、別の展開があったようだが……

 

だが現状、エル・ファシルが陥ってる状況は極めてシンプルだった。

貴族艦隊は最初、1000隻程度で押しかけてきたが、防御陣形を敷きほぼ同数の艦で待ち構えていたリンチ少将率いるエル・ファシル防衛艦隊を見て交戦することなく後退した。

 

だが、彼らはそのままイゼルローンまで逃げ帰ったのではない。

どうやらよほど有力貴族の息子がいたらしく、イゼルローン要塞から同盟領方面に出ていた哨戒艦隊をかき集め、総勢2500隻の艦隊として逆襲を企てているのだ。

 

貴族は無駄にプライドが高く、面子を傷つけられたと解釈すると実に執念深い……

 

「リンチ少将の艦隊は約1000隻……さて、どうしたもんか」

 

そう頭をかく先輩だが……

 

「先輩が指揮すれば、このくらいの戦力差は引っくり返せるんじゃないのか?」

 

半ば確信を持った言葉が口から自然に出た。

 

「バカを言っちゃいけない。むしろ後輩、君のほうが勝てそうな気がするんだがね?」

 

まあ、俺に艦隊指揮を任せてもらえるなら、勝ってみせようじゃないか……って何を考えている?

 

 

 

「元気がいいな、坊主ども」

 

俺と先輩が話していると、のっしのっしという感じで一人の男が姿を現した。

付けた階級章は”少将”……エル・ファシルで少将といえばアーサー・リンチ少将だけだ。

 

俺と先輩は敬礼し、リンチ少将は返礼すると、

 

「堅苦しい話はなしだ。単刀直入に言う。ヤン中尉、ミューゼル少尉……民間人を連れて脱出できるか?」

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

「……少将、どういう意味です?」

 

最初に口を開いたのは先輩だった。

 

「言葉通りさ、中尉……俺は1000隻を引き連れ、討って出るつもりだ」

 

 

 

そう言い放つリンチ少将の表情……俺には覚悟を決めた”漢”の顔に見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




とりあえず2話目を投稿~。

実は水と油のフォークとアッテンボローを無自覚でつないでいたのがラインハルトだったというおかしな設定(^^

「記憶の融合」の前から、けっこう色々歴史を変えてるみたいです。
フォーク、パイロットになっちゃったし……





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第003話:”アーサー・リンチという人物”

最近、「金髪さんのいない」を含めてリンチ少将の出番が多い気が……


 

 

 

「中尉……俺は1000隻を引き連れ、討って出るつもりだ」

 

リンチ少将は、覚悟をこめた瞳でそう言い切った。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

正直、今のエル・ファシルはかなり状況が悪い。

迫ってる銀河帝国の艦隊は総勢2500隻。

 

そのうち1000隻は練度に問題ありそうな貴族の私兵艦隊だが、残る1500隻はイゼルローン要塞駐留の哨戒艦隊をかき集めた職業軍人の艦隊だ。

 

実質には指揮系統の異なる2個分艦隊、連携に問題はあれど1000隻しかないエル・ファシル駐留艦隊には脅威だ。

 

「まともに戦っても勝ち目は低いです……閣下、何か妙案が?」

 

俺はつい口を出してしまう。

ここが帝国軍だったら洒落にならないことになってたかも知れんな。

 

「妙案? ないな」

 

あっさりと言い切りやがった。

 

「だが、策があるといえばある」

 

「どのような?」

 

少将は目つきを鋭くし、

 

「1000隻の貴族艦隊を、徹底的に潰す」

 

……そういうことか。

 

「エル・ファシルでマンハントしたがってるのは、あくまで貴族のアホボンだけだ。連中が死ねば、正規艦隊はとどまる必要も、ましてや逃げ出した住民を追撃する必要もなくなる」

 

「ですが……その戦い方では、閣下の生存率は」

 

ヤン先輩がそう切り出す。

その通りだ。

1000隻の貴族艦隊を先に潰すってことは、数に勝り質的に同等な1500隻の正規艦隊に戦術的フリーハンドを与えることに他ならない。

例え貴族艦隊を潰せたとしても、その先は……

 

「言うな、中尉。いいか? 我々は自由惑星同盟の軍人だ。同盟市民の命は最優先で守らねばならぬ」

 

それはわかるが……

 

「我々の本質は”市民軍”だ。武器を取るのは、武器を取れぬ人々を守るためでなくてはならぬ。それに、」

 

リンチ少将は漢臭い笑みで、

 

「市民を守り、帝国貴族と刺し違えるなんざ、実に同盟軍の本懐だと思わないか?」

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

”もう一つの人生”の記憶の中でも、リンチ少将の記憶はあった。

捕虜になったことを責める気はない。

だが、「俺の命じた汚い策」に、歪んだ復讐心から乗ったことには、思うところがある……”もう一つの人生”を生きた俺が、何故そう命じたのかもわからなくはないが、少なくとも”今の俺”はそれに嫌悪感を感じる。

 

(これも一種の自己嫌悪になるのか……?)

 

だが、その記憶の中にある腐り歪み落ちぶれた酒浸りのリンチ少将と目の前のリンチ少将は似ても似つかない……

 

(なら”この記憶”は参考程度にとどめておくべきだな……)

 

そもそも”あったかもしれない世界”での帝国のキーパーソンである俺が、生まれも育ちも価値観も同盟なんだ。同じ歴史を歩むはずも無い。

 

 

 

「だから、船にまだ席の無いお前達に民間人の脱出を頼みたいのさ。流石に1000隻総出で当たらないとどうにもならんだろうしな……護衛に回す余力はない」

 

合理的……そう言っていいのか?

 

「ああ、あと新兵共も船から降ろす。できれば護衛名目で同行させてやってくれ」

 

そうか。兵卒、新兵ってことは士官学校を出たばかりの俺よりも若い奴らが艦隊にはゴロゴロいるってことか……

 

「閣下、それでは……」

 

「一年兵をどれほど抜いたところで戦力低下にはならんだろ? それにこっから先は”プロの軍人”だけが楽しんでいい()だ。軍隊の飯に慣れてないような餓鬼が参加していいもんじゃない」

 

それはきっと俺や先輩も”餓鬼”の中に含まれているのだろう。

だが、そう言われても不快じゃない。むしろ納得してしまう俺がいた。

 

「脱出に必要な時間は俺が作ってやる。着任したばかりのお前達にこんなことを頼むのは心苦しいが……だがヤン中尉、脱出作戦の最先任はお前さんだ。生憎、艦隊にいる士官も地上に残る士官も別の仕事がある」

 

リンチ少将は柔らかく笑い、

 

「ヤン中尉、ミューゼル少尉、まず生き延びろ。そして生きて生きて出世して、閣下と呼ばれるまでなってみろ。優秀な将官が増えれば、それだけ死ぬ兵が少なくなる」

 

「閣下、それではまるで、」

 

遺言じゃないか……

 

「なあ少尉、俺は軍人として生きてきたし他の生き方は知らん。だから他のどんな死に方よりも戦場で果てるのが当然だと思ってる。少なくとも俺にとっては、病院のベッドで臨終よりはるかに俺に見合った最後だとな」

 

他の生き方、か……

 

「軍人は無駄に死んではならん。かけた税金が無駄になる……だが、納税者を守るためには命を惜しんでもならん。それが民主主義、そして資本主義の軍人の正しいあり方と思うぞ?」

 

身も蓋もないな……だが、きっと事実なのだろう。

 

「他に手がないのなら命を張るしかない。そしてどうせ死から逃れないなら、軍人なら死に方を選び効率的に死ぬべきだ」

 

 

 

そう言い残し、最後の出撃の準備のためリンチ少将は去った……

その言葉は重い。

150年に及ぶ……戦争を知らない世代が既にいない”この世界の重さ”を、俺は改めてかみ締めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




リンチ少将の言い回しが微妙にガンパレ?(挨拶

まあどっちも戦争が恒常化して、命の価値が下落しまくってる世界ですからね~。
でも、「無駄死には納税者(こくみん)に対する背徳」と考えられる分、別の世界線の同盟より健全かな?

そしてラインハルト様、”もう一つの世界を生きた記憶”との距離感を掴み始めたようです。



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第004話:”真・ハイネセン”

 

 

 

「他に手がないのなら命を張るしかない。そしてどうせ死から逃れないなら、軍人なら死に方を選び効率的に死ぬべきだ」

 

そう告げ、リンチ少将は最後の出撃に備えるべく宇宙(そら)へと還った……

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

その後、俺たちを探していたらしい中尉の階級章をつけた女性士官がやってきて、リンチ少将の署名と捺印が入った「民間人脱出作戦における作戦立案から決行までの全権委任状」を持ってきた。

 

彼女はエル・ファシルに残るつもりらしい。

 

「あの人と同じ宇宙(そら)で死ねないなら、せめて”あの人”がいる宇宙が見える場所で死にたいの」

 

そう彼女は儚げに微笑んだ。

”あの人”が誰であるかを聞くほど、先輩も俺も野暮じゃない。

リンチ少将には妻子がいたはずだが……というのは”もう一つの世界”の記憶で、現状じゃどうなってるかわからない。まあ、それに恋愛感情ってのは持つのは自由だし……って情緒もへったくれもない俺が言えた義理じゃないが。

 

 

 

「さて、後輩」

 

「なんです? 先輩」

 

「仕事もしっかり押し付けられたわけだし、どうやら赴任したばかりの”お客さん”扱いは期待できないようだね?」

 

何を今更……

 

「苦情なら無粋で下劣な帝国貴族とやらに言ってください。観客でいられないなら、せいぜい与えられた役割をさっさと演じるとしないと」

 

「後輩、やはり君は生真面目すぎるよ」

 

「先輩、たまにでいいですから勤勉さを発揮してください」

 

これでも俺は、”不敗の魔術師”の開眼を楽しみにしてるんだ……って先輩がなんだって?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

 

 

 

 

 

 

 

エル・ファシルの静止衛星軌道上に設置された軍港ステーションにシャトルで降り立ったリンチは、さっそくエル・ファシル駐留艦隊旗艦”シャイアン”へと向かう。

 

さて、ラインハルトの目が届かぬここでは三人称で語らせてもらうが……

ここでさっそく気づいた諸兄もいるのではないだろうか?

 

別の世界線(げんさく)”ではリンチ少将の乗艦は同盟標準型戦艦の”グメイヤ”だったはずだ。

しかし、この世界における乗艦”シャイアン”は、建造が始まったのは一昔前だが元は立派な旗艦型戦艦になること期待された”アコンカグア級”の1隻だ。

 

しかも別の世界線ではハードウェア的な能力不足から旗艦型戦艦としては失敗作と看做され、3隻しか建造されなかったアコンカグア級だったが、この世界ではアイアース級、その改良型であるパトロクロス級が生産が開始された後も「ちょうど分艦隊旗艦として使い勝手がいい」とされ継続生産、現状でも40隻以上が建造/配備されていた。

 

そして、大気圏への降下/離脱能力を切り捨てた分、1隻あたりの建造費用が帝国に比べて安価な同盟軍は艦挺保有数に余力があり、アコンカグア級を最大でも分艦隊規模にしかならない方面艦隊などに優先して回していた。

実際、よほど基本設計が良かったのかアコンカグア級は21世紀の地球に例えるならF-4ファントムのような息の長い艦級となり、

この先も指揮通信統制能力を中心に本格的な近代改修モデルである”ヒューベリオン級”、パトロクロス級とのモジュラー・ユニットの共用化をはかり建造の合理性を改善した”マソサイト級”などの分艦隊旗艦を担う子孫を生み出してゆくことになる。

 

実際、その生産はパトロクロス級の分艦隊旗艦型簡易量産(ローコスト)版である”ロスタム級”や、パトロクロス級の中でも”盤古タイプ”をベースに「最強の分艦隊旗艦」を目指し再設計された”マウリア級”が戦場に姿を現すまで生産が続けられることになる。

 

 

 

とまあ、これだけ見てもわかるように同盟は随分と別の世界線に比べて()()()裕福らしい。

それが如実に現れてるのが配備艦船であり、シャイアンだけでなく正規艦隊に配備されているラザルス級の一つ前の世代の代物とはいえ、スパルタニアン80機を集中運用できる”ホワンフー級”宇宙空母1隻が配備され、標準戦艦は方面艦隊だというのに50隻以上保有していた。

巡航艦も駆逐艦も中々に程度のよいものが揃っており、また補給も整備も良好な状態を保っているようだ……

 

それもそのはずで、実は自由惑星同盟……別の世界線に比べてかなり人口が多い。

銀河帝国が連邦最盛期の総人口5000億から数を減らし続けて250億人弱程度しかいないのに対し、自由惑星同盟は大差ない240億強の人口を誇っていた。

 

 

 

これは別に自由惑星同盟に奇跡が起こったからではない。

ただ、ルドルフの危険性にいち早く気づき、彼が銀河帝国の皇帝に居座る前に10億人を超える民を引き連れ、星の大海を渡り”長征1万光年”を成し遂げた人物がいたのだ。

 

アーレ・ハイネセンは同盟を黎明期から拡大期に入らせ、未曾有の繁栄を齎せた男……強いリーダーシップを発揮し”名()()”や”同盟の中興の祖”として知れ渡っているが、逆に言えばそれだけの男だ。

 

最も有名なハイネセンと言えば、同盟人なら誰もが口を揃えてこの名を告げるだろう。

ルドルフと同じ時代に生き、そして民を率いて”長征1万光年”を成功させた男……

 

”アレイスター・ハイネセン”

 

であると。

間違っても苗字が”クロウリー”とかではないので要注意だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




実はこの世界の同盟、建国の黎明期から違っていたでござるの巻(挨拶

どうも銀河帝国建国からそう時間をおかずに同盟は誕生したっぽいっす。
おかげで同盟、普通に強化されとります。
原作と比べて明らかに人的/経済的余力が多そうですよね~。

いつかこの時代のことも掘り下げてみたいなとか思ってます。




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第005話:”リンチ一家、出陣!”

それはきっと、ありえたかもしれない”一家の物語(ファミリア・ミィス)”……って作品違うし。




 

 

 

「全艦、出撃せよっ!!」

 

大きく腕を振り上げたリンチの命令一下、アコンカグア級分艦隊旗艦型戦艦”シャイアン”が、80機のスパルタニアンを抱えた宇宙空母”チャンチアン”が、50隻を超える戦艦(実はグメイヤという名の戦艦もあった)が巡航艦や駆逐艦を引きつれ軍港ステーションを出港する。

 

 

 

そして艦隊が集結し、陣形を整えたときに……

 

「全員に告げる」

 

リンチはそう切り出し、

 

「いよいよ、俺たちエル・ファシル駐留艦隊、いやさ”()()()()()”のむさ苦しいヤロー共が、漢を魅せる時がきた」

 

”女もいるぞー!”

 

ブリッジの何処からか上がった声に、ブリッジが笑いに包まれる。

 

「そうだな。だがディアナ、お前さんは男以上に立派なモンを二つもぶら下げてるから問題ねぇよ」

 

黒髪ときょぬーがトレードマークの肝っ玉操舵手、ディアナ・ヴァーデンバーグはフンスとでかい胸を張り、リンチはその姿に安堵する。

 

(それでいい。俺たちはいつも通りだ)

 

「俺たちはこれまで海賊やマフィアなんて宇宙(うみ)を荒らすクソッタレ共とと戦ってきた。さて、お前らに問う……帝国のバカ貴族は、海賊より強いのか?」

 

「「「「「否!」」」」」

 

ブリッジだけではない。

おおよそ全ての艦から返答が帰ってくる。

 

「その通りだ。敵は2500隻……一見すると2.5倍、勝ち目なんざありゃしないように見えるが、んなことぁねえ」

 

リンチは漢臭い笑みで、

 

「俺たちがぶん殴るべきは、お上品な見た目に中身は腐って糸引いてる貴族サマだけだ。もう一度問う……」

 

リンチはあえて手強いはずの正規艦隊を言葉で外に追い出し、

 

「俺たちは貴族より弱いか?」

 

「「「「「「「否! 断じて否っ!!」」」」」」」」

 

「それでいい……さあ、自由惑星同盟の心意気ってのを、腐れ貴族に見せてやろうじゃねぇかっ!!」

 

「「「「「「「応さっ!! 同盟万歳!! リンチ一家、万歳!!」」」」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

 

 

 

 

 

 

 

リンチが大いに士気を思う存分盛り上げてる頃、我らが紅茶先輩と金髪後輩が何をしているかと言えば……

 

 

 

「さて後輩、今の我々がすべきことはなんだい?」

 

「わかってて聞くか? 決まってる。市民達の動揺を抑え、円滑に脱出の準備を進めることだ」

 

出来のいい後輩が一緒のせいか、はたまたその有能な後輩のおかげで物理的に仕事が減ったせいかは定かではないが……別の世界線より幾分余裕があるようだ。

表情や言動からもそれがわかる。

律儀に答えるライハルトもまあ、お人よしの部類かもしれない。

 

「その通りだ。つまりリンチ少将の麾下艦隊が残らず出撃した理由を説明し、民間人を脱出船に乗せる……いや、率先して乗るように手はずを整えねばならない」

 

「それは今更だろ? ああ、ミス・グリーンヒル、すまないな」

 

ナチュラルに従兵ポジに収まっているヘイゼルの瞳の少女からコーヒーを受け取るラインハルト。

状況が状況だけに民間人の徴用……が行われたのではない。

将校としてはたった二人だけ”脱出船団要員”として残った若すぎる二人を助けるため、市民有志一同が率先してボランティアとして手伝ってくれてるのだ。

 

退役軍人や地元の名士なんかも名乗り出てくれたために、ヤンは予想以上のスムーズさで脱出船が準備できてることに気づかれないよう安堵の息を漏らしていた。

 

そんな有志の一人がフレデリカ・グリーンヒルだったのだ。

 

「いえ。私にはこんなことしかできませんから……」

 

彼女は存外に強かなのかもしれない。

もっともそうでなければ、遠くない将来に勃発するだろう”争奪戦(たたかい)”に勝利することなど夢のまた夢であろう。

まあ誰を巡ってとは言わないが。

 

「そう卑下するもんじゃない。たった一杯のコーヒーが思考を整理させることもある。特にこの状況じゃな」

 

「”一杯のコーヒーはインスピレーションを与え、一杯のブランデーは苦悩を取り除く”かい?」

 

と格言を諳んじるヤンが飲んでいるのは、ブランデーを一適垂らした……と呼ぶにはいささかブランデーの純度が高過ぎる紅茶だった。

紅茶は差し入れだったが、ブランデーは私物なのはいうまでもない。

 

「たしかルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンの言葉だったか?」

 

そうあっさりと返してくる出来のよすぎる後輩にヤンは大いなる満足を覚えつつ、

 

「とりあえずミューゼル後輩、私は説明とかスピーチとは苦手でね。特に大勢の人間に語りかけるのは苦手なのさ」

 

「どの口が言うことやら……スピーチは確かに好まぬようだが、先輩の場合、無駄にスピーチを短くする努力をしなければ、十分に雄弁家になれる素養はあると思うぞ?」

 

「よしてくれ。だれが好き好んで”扇動者(アジテーター)”になりたいと思う? そういうのは軍人じゃなくて政治家の仕事さ」

 

どうやらこの世界においてもヤンの2秒スピーチと政治家嫌いは健在のようである。

まあ、あくまで”今のところ”ではあるが……

 

「とりあえず、そういうのは得意な人間に任せたいところだね。というわけでやってみないか? 後輩」

 

そして人使いが荒いのではなく、上手いのも相変わらずらしい。

 

「ふむ……まあ確かに苦手ではないな。いいだろう」

 

 

 

そしてこれこそが、また歴史の一幕……その序章だったのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




雄雄しく逞しくリンチ一家が征く!(挨拶

そしてその裏で、緊迫してるのに不思議と暢気に見える二人(三人?)がいたりして……



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第006話:”The Liberty Planets Alliance”

今回は演説前半と同盟史捏造回?


 

 

 

「諸君らに告げねばならぬことがある……リンチ少将は死地へと赴かれた!!」

 

ラインハルトの群集を前にした第一声はそれだった。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

諸君らも既に知っておろう?

浅ましき帝国貴族を僭称する下種共がこともあろうに人狩りに迫ってきている……

 

リンチ少将は、この星の戦える船を全て率いて迎え討ちにいったのだ

 

しかし敵は巨大、リンチ少将の艦隊の倍以上だ

 

だが、少将は死にに行ったのか?

 

断じて否!!

 

リンチ少将は、同盟軍人としての責務を果たしに行ったのだ!

 

同盟軍人の責務とは何か?

 

銃を持てぬ市民に代わりその手に銃を握り、市民を守ること他ならない

 

だが、市民はただ守られていればいいのか?

 

それも否!

 

だが、武器を待たぬ者が戦えるのか?

 

きっと諸君は思うであろう。戦えるはずはないと

 

 

 

「だが、俺はそれを否定する! 戦場で撃ち合うだけが戦いではない! 市民には市民の戦い方がある! それは即ち”生き残る”ことだ!!」

 

リンチ少将は、諸君らが脱出する時間を稼ぐために自ら討って出たのだ!!

 

一秒でも長く耐えれば、一人多く助かるかもしれぬ

 

そう信じて戦いに赴いたのだ

 

諸君らはこのエル・ファシルを出ねばならぬ

 

生き延びるためにはそれが必須だ

 

飾らぬ言葉で言うなら、諸君らはこの星を逃げ出さねばならぬ

 

中には屈辱に思う者もいよう

 

だが、思い出して欲しい

 

諸君らの偉大な始祖、アレイスター・ハイネセンがどのようにして”自由(Liberty)惑星(Planets)同盟(Alliance)”を建国したのかを!!

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

そう、ここで注目して欲しいことがある。

原作での自由惑星同盟の英語表記は、”Free Planets Alliance”だ。

だが、この世界線では同じ自由でも単語が異なっている。

 

Liberty(リバティ)”も”Free(フリー)”も同じく”自由”を意味した単語だ。

だが、この二つの単語は微妙にニュアンスが異なる。

 

Freeは「自然発生的な自由、生物としての自由」など”生まれながらの自由”という意味で、対しlibertyは「(圧政者などから)勝ち取った自由、人の手でなしえた自由」など”人の意思で後天的に得た自由”という意味がある。

蛇足ながらFreeには無料(タダ)という意味もあるが……自由を勝ち得るコストは安くないのだ。

 

 

 

フリーがリバティに化けた理由は、おそらく自由惑星同盟の成り立ちその物が異なるからだろう。

 

長征1万光年を成し遂げたアレイスター・ハイネセンは、ルドルフ・フォン・ゴールデンバウムと同年代の人間であった。

アレイスターは、ルドルフが政界入りし独裁政権を確立した頃から危惧を抱き始め、銀河連邦に明確な禁止事項がなかった不備を突き、銀河連邦首相と国家元首を兼任した頃から明確な危機感を抱き”大脱出”の準備を具体的に始めたといわれている。

 

ルドルフが終身執政官を自称するようになり、それを既存の政治に絶望しすぎていた連邦市民が何の疑問を持たずに受け入れた姿を横目に見ながら、アレイスターは独裁政権から独裁政治への移行を確信し、自らと価値観を共有……民主主義の死を予感した”少数派の市民”達を集め、船を用意していった。

 

宇宙暦310年のある日

衆愚政治の成れの果て……その先にある時代を逆行するような専制君主の台頭が、大多数の連邦市民の歓喜により迎えられようとした頃、連邦各惑星からまるで通常の貨物運輸航行で出港するように数え切れない数の恒星間航行輸送船が10億の民を乗せて旅立った。

 

当時の宇宙船舶技術から考えれば、別名”ロンゲスト・マーチ”とも揶揄される1万光年にも及ぶ逃避行、オリオン・アームからサジタリウス・アームへの長征はあまりに過酷だったといえる。

 

その長き旅路の中で、散り逝く命や芽生える命も数多にあった。

その旅路の中で星の大海へ還った命の一つがアレイスターだった。

 

彼はこんな遺言を残している。

 

『もし我々がいずこかの星に根付き、再び人らしい営みを始められたら……いずれ我々はルドルフの亡霊たちと戦うことになるだろう』

 

と……

 

『親愛なる同胞達よ、恐れてはならない。その時がくれば我々はルドルフの呪いを断ち切る”解放者(Liberater)”となればよい。圧政を拒否し、圧政におびえる人々を守り、圧政に苦しむ人々のために戦う……人が戦う理由の中では、まともな部類だ』

 

そして奇しくもアレイスターが新天地を見ずに宇宙船で死去した日、生まれて10年となっていない銀河帝国では議会の永久解散が宣言され、共和制も民主主義も死滅したのだった……

 

アレイスターが後年、”預言者”説が実しやかに囁かれる出来事だった。

 

 

 

LibertyもLiberater(リベレーター)も、語源は同じくラテン語の自由を意味する”Liber”だ。

つまり自由惑星同盟とは、ハイネセンの遺言を嚆矢とし、いつの日か来るだろう「圧政者との戦い」に備える為に組織されたのだ。

そして同盟市民は、すべからくリベレーターとなったのだ。

 

同盟市民は、今も好んで自分達をリベレーターと呼称する。

アレイスター・ハイネセンの魂は、今もまだ忘れられてなどいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




カリスマ・スキル発動中?

とりあえずなるべく初期に書いておきたかった「別の世界線での同盟の成り立ち」をアップできたので一安心。

英訳したときのたった1単語の違いが、どうやら国家の性質をかなり変えてるようですよ?



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第007話:”炎舌(えんぜつ)”

いよいよノッてきたラインハルト様の演説後半戦と外堀埋め?




 

 

 

Liberater(リベレーター)”……それは”解放者”という意味であると同時に、”アレイスター・ハイネセンの末裔”を自認する同盟市民が好んで自分達の呼称として使う言葉だ。

 

つまり、”同盟市民(リベレーター)”となる。

これは同時に自由惑星同盟、”Liberty(リバティ) Planets(プラネッツ) Alliance(アライアンス)”と対にして同根の言葉だ。

 

そしてこの世界線では、身分違いの恋を成就させるために同盟に亡命してきた両親から生まれ、育ちは完全に同盟のラインハルトは元々それを理解していたし、”異なる生き方をした自分”の記憶が流入し、融合したことでその事実をより客観的に、あるいは別の視点から見つめられるようになっていた。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

同盟市民諸君(リベレーターズ)!! アレイスター・ハイネセンはオリオン・アームからの”ロンゲスト・マーチ”を敢行したとき、果たして屈辱を感じていただろうか? そんな筈はない! 彼は胸を張って長征を成し遂げただろう!!」

 

諸君!

先祖たちが経験した苦難に比べれば、今我々が追体験してる事柄など比べるのもおこがましいほどではないか?

 

リンチ少将は命を賭して我らが脱出するまでの時間を稼ぐと宣言した

そして我々は1万光年の1%も進まぬうちに、友軍の守る安全圏へと入れるのだ!

 

この程度、我ら同盟市民(リベレーターズ)にとり一体なんの試練になるというのだ?

 

だからこそ生き延びようぞ!

諸君にはリンチ少将がついている!

私もヤン中尉も、若輩ながら全力を尽くそう!

 

だが諸君! 自分の命を最後に守れるのは自分だということを忘れてはならぬ

そして今、すべきことは生存への努力だ

 

慌てる必要も怯える必要も焦る必要もない

粛々と淡々と、理路整然と迅速に脱出準備をすればよい

先祖達の苦難を思えば、なんと簡単なことか

 

同盟市民諸君(リベレーターズ)、心せよ!

一秒脱出までの時間が縮まれば、それだけ生存率が跳ね上がるのだ!

 

自由惑星同盟万歳(ハーレー・リバティ)!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

 

 

 

 

 

 

「いやはや大したもんだ。私ではああはいかない」

 

半ば呆れて苦笑するヤン。

無理もない。最後は集まった市民の自発的な「自由惑星同盟万歳(ハーレー・リバティ)!」の大合唱だ。

基本、同盟は名前からもわかるとおりドイツ語の亜流ともいえる帝国標準語より多くの言語形態を内包している。

 

ハイルと言わずに英語で同じく「万歳」を意味する”Hurray(ハーレー)”を使うあたり、意外とラインハルトも色々考えているようだ。

 

「フン……そこまで褒められたものじゃないさ」

 

そう照れ隠しに言ってしまうあたり、ツン乙なラインハルト様である。

 

「とにかくこれで脱出作戦は円滑に進められそうだろ?」

 

「ああ。おかげで逆に士気が上がりすぎて輸送船団(コンボイ)で敵艦隊の包囲網を強行突破しかねないほどさ」

 

「それは逆にマズイ気もするが……」

 

「まあ、なんにせよ積極的に協力が得られるのはありがたいよ」

 

ヤンはそう紅茶片手に微笑む。

市民の積極的な協力もさることながら、自らの意思で残った地上部隊の中で手の空いた者やリンチが残していった艦隊より降ろされた新兵達もまだ動きがぎこちなく不器用ながらも手伝いを買って出てくれており、おかげでヤンは別の世界線よりは苦労しないで済んでいる。

端的に言うならば、今のところ”一生分の勤勉さが枯渇するほどの苦労”はしていない。

 

 

 

「問題は、リンチ少将が稼げる時間の長さか……」

 

だが、同時に状況がなんら改善されていないこともまた自覚していた。

 

「先輩、時間もそうだが問題は敵の探索網が予想より広かった場合だが」

 

「それに関しては一応、策はあるさ」

 

「どんなだ?」

 

「船の探知阻害(ジャミング)システムをあえて切り、隕石群に擬態して哨戒網を抜ける」

 

事も無げに言ってのけたヤンに、ラインハルトは内心で舌を巻き、

 

「大胆だな? 偵察艇でも飛ばされて目視確認されたらアウトだぞ?」

 

「だから時間との勝負なのさ。リンチ艦隊と交戦中なら、いくらなんでもわざわざほぼ隕石群と十中八九おぼしきものをワルキューレ飛ばしてまで確認しようとは思わないからね」

 

「なるほど……一理あるか」

 

 

 

フレデリカからコーヒーを受け取ったラインハルトは、思慮深げに頷いた。

まさに蛇足であるが、フレデリカ・グリーンヒル……同盟軍のブルゾンを羽織り、ちょこんとベレー帽を頭に乗せていた。

サイズが合ってない……というか彼女にはかなりサイズが大きくハーフコートっぽくなってしまってるし、何より袖が長くいわゆる”萌え袖”っぽい。

 

実はこれ、ラインハルトが何着か持っているブルゾンの一着だった。

普段からサンドイッチやコーヒーなどの差し入れに加え、最近はほぼ従兵の仕事をこなしてしまってるフレデリカに流石のラインハルトも申し訳なく思ったのか、

 

『ミス・グリーンヒル、何かと世話になってる君に何か礼がしたい。俺に出来ることなら遠慮なく言ってくれ』

 

と申し出たところ、

 

『……二ついいですか?』

 

『かまわないさ』

 

『えっと……少尉さんと同じジャケットが欲しいです。できれば、少尉さんが着ていたものを』

 

『そんな物でいいのか?』

 

基本、ブルゾンは2着は二年に一度支給される官給品で、それ以上必要でも軍人なら普通にPXでいつでも購入できるし、基地祭などで民間人に解放されたときは普通に臨時設営の土産物屋に並ぶものだ。

 

ラインハルトも万が一や消耗を考えて1着を予備として購入していた。

流石に本物の認識票や階級章をつけたままというのはまずいが、そうでなければ問題はないだろう。

 

『無事に脱出できたら新品を買ってやってもいいんだが……俺のじゃサイズが合わんだろ?』

 

『少尉さんが着ていたのがいいんです!』

 

両拳を胸の前でぎゅっと握り力説されてしまえば、ラインハルトとしては別に拒否する理由はない。

 

『わかった。すぐに持ってこよう。もう一つはなんだ?』

 

『えっと……私のことは、ミス・グリーンヒルじゃなくってフレデリカって呼んでください♪』

 

 

 

このやり取りを横目で見ていたヤンは、「殺伐とした戦場でいい物を見た」と言いたげな生暖かい瞳で、

 

『若いってのはいいもんだな……』

 

と呟いたという。

この男、実はラインハルトと二つしか違わないことを忘れてるのではないかと時々思う。

 

ついでに……誰のとは言わないが、外堀は順調に埋まってるようである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




不覚にもフレデリカが書いてて可愛いと思ってしまった……(挨拶

きっとラインハルトのブルゾンをベッドで着たままクンカクンカしてるに違いない(笑

フレデリカ、淑女化計画?



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第008話:”人に歴史あり”

今回はちょっと別の視点で……


 

 

 

さて、少し視点を変えてみよう。

 

そう、同盟領エル・ファシルに迫る帝国軍艦隊にだ。

ただし貴族艦隊ではなくイゼルローン駐留艦隊から徴用された1500隻の方だが……

 

 

 

さて、ここで少し艦隊編成の話をしよう。

基本、帝国も同盟もこの世界では基本500隻で1個戦隊を形成する。

この戦隊が2個以上集まって分艦隊を形成するのだ。

 

正規艦隊ならば普通は4~6個戦隊(2000~3000隻)で分艦隊を形成し、分艦隊2個以上で一個正規艦隊を編成する。

 

自由惑星同盟なら、現状は12000隻~15000隻で一個正規艦隊であり、これを12艦隊保有しており、対して帝国は10000~12000隻程度だが、その分18個正規艦隊を揃えている。

 

ただ、これはあくまで正規艦隊の話であり、例えば帝国貴族の私兵である私設艦隊は編成が一定でない場合が多く、また両国を問わず方面艦隊や地方艦隊、警備艦隊などはその限りではない。

例えば、リンチ率いるエル・ファシル駐留艦隊は2個戦隊規模で1個艦隊としていた。

 

また帝国の誇る人工天体型の球状大型要塞”イゼルローン要塞”の駐留艦隊は、その主任務を同盟領へ威力偵察……装甲パトロールとしているので、同盟の正規艦隊が押し寄せてきた場合の防衛任務を除いては、駐留艦15000隻を30個戦隊編成とし、3個戦隊を1チームとした1500隻単位でローテーション・パトロールを行っていたのだ。

 

無論、本来ならこの3個戦隊1500隻も一丸となって動くのではなく、戦隊ごとにそれぞれ別の定期巡回航路を進むのである。

 

当たり前だが、彼らの本来の任務は要塞を攻めようとする同盟軍の動向をいち早く察知すること、要塞の目となり耳となることなのだが……

 

 

 

「何が悲しくてマンハントを楽しみたいなどとバカを言い出す貴族の護衛(オモリ)を、俺がしなくてはならん」

 

そう提督席でぼやくのは、黒髪に金銀妖瞳(ヘテロクロミア)の若い、貴公子然とした男だった。

 

「”()()()()()()()()”准将閣下、そういう貴方もその貴族の端くれでしょうに?」

 

と席の隣に立ちながら返すのは、貴公子……”マールバッハ伯爵”より背は低いが同じく若く、整っている顔立ちだったがどこか愛嬌のある青年だった。

 

「なあ”ミッターマイヤー”、そのマールバッハ伯爵というのはやめてくれんか? それに変に丁寧に喋られるのはやりにくくてかなわない」

 

「とはいえ流石に士官学校と同じようにとはいかないでしょう? ここは正規軍で階級は絶対。”先輩”は准将閣下で、俺は副官に大抜擢されたとはいえ新任少尉にすぎませんし」

 

 

 

そう察しの良い皆さんはもうお気づきだろう。

このマールバッハ伯爵と呼ばれた男、別の世界線では”オスカー・フォン・ロイエンタール”と名乗っていた男だ。

相方は、ヴォルフガング・ミッターマイヤー……相変わらずの士官学校の先輩後輩らしい。

そしてロイエンタール、この世界における現在の名を、

 

”オスカー・ロイエンタール・フォン・マールバッハ”

 

父の遺した膨大な財産と母の実家であるマールバッハ伯爵家の家督と爵位を受け継いだ、非門閥系では有数の権勢を誇る大貴族だった。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

さて、どうしてこんなことになってしまったのだろう?

本人に聞けば一言こう答えるだろう。

 

『……母の愛が重すぎたのさ』

 

まず最初に……別の世界線とは真逆にオスカー君は同じ髪の色の母、レオノラから溺愛されている。

その愛は今も現在進行形で母のレオノラは今でも元気一杯、父親亡き後レオノラ・フォン・ロイエンタール伯爵夫人として女だてらに見事ロイエンタール家を切り盛りし、まさに「母は強し」を体現したような女傑だった。

 

さてどこから歴史が狂ったのかといえば……そりゃもうロイエンタールが生まれる前からだ。

 

マールバッハ伯爵家の三女として生まれたレオノラは、落ちぶれるに落ちぶれて貴族専用の法外な高利回り債券まで売り払ってしまったマールバッハ家から事実上、売り払われる形で20も年上だが事業に成功し富豪の仲間入りした下級貴族に嫁がされた。

 

しかし、彼女には結婚前から愛し合っていた平民の男がいた……

身分の違いの障害を乗り越えるべく同盟に亡命しようとした矢先、ふって沸いたのがこの婚姻だった。

娘の事情は知ったマールバッハ伯爵は、その平民の男を速在に最前線送りにするよう画策し、彼の思惑通り男は戦死する。

没落したとはいえ爵位持ち貴族、平民一人の生殺与奪など簡単に決められる程度の権力は残っていた。

 

これでレオノラは諦め、大人しくロイエンタール家に嫁ぎ、自分は大金が手に入る……失意に打ちひしがれたように見える娘を見ながら、マールバッハは全てが上手く行くと思い込んでいた。

 

だが、レオノラがロイエンタール家で生んだのは、片目に今でも忘れることのない男の面影を宿した元気な男の子だった。

その子を見た瞬間、愛した男に注げなかった愛情を全て息子に注ぐと誓い、愛が再燃すると同時にこの子の父親となるべきだった男を死へ追いやった実家に対する憎悪が、激しく彼女の中で渦巻いた。

 

愛憎が表裏一体とはよく言ったものである。

息子への愛を、実家への復讐を誓った彼女の行動は……「良きロイエンタール家の妻」を演じ続けることだった。

 

彼女の思い立った復讐は、とにかく金がかかる手段だった。

レオノラはロイエンタールの良き母であり、良き妻として夫を支えた。

ただ、彼女もまた復讐により歪んでいたのは否めない。

例えば……愛した男の遺した一粒種(オスカー)に愛情を全て注ぐため、誰にも知られぬよう自ら子宮を潰し、夫との子をなす未来も、オスカーの弟や妹が生まれる未来も一緒に潰した。

 

夫は献身的に支える若く美しい妻の期待に応えるため、馬車馬のように働き……そして死んだ。

死因は過労死だった。

 

最後まで良妻を演じ続けた妻も、愛されてると騙されたまま幸せに逝けた夫もきっと勝者なのだろう。

 

 

 

そして夫の遺産を手に入れたレオノラは、自分を売り払った金もとっくに使い果たした実家に罠を仕掛けた。

伯爵位を持ちながら貧窮するマールバッハ家に対し、夫から受け継いだコネクションを使い自分の名が浮かび上がらないよう「割のいい儲け話」を持ちかけたのだ。

 

そして典礼省にも鼻薬を十分に嗅がせた。

マールバッハ伯爵が”貴族として成立できなくなった場合”に備え、「マールバッハの血()引く息子」が問題なく爵位と家督を継げるようにと。

 

やがて幾重にも張り巡らせた”レオノラの罠”は無事に発動し、マールバッハ家は残っていたなけなしの財産も含め何もかも失った。

比喩でなく全て失い、味方する者もいなく……食いつなぐこともかなわず、当主をはじめ自裁した。

 

こうしてレオノラの復讐は成就したのだ。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

だが、大変だったのは母親の期待と愛情を一心に受けたロイエンタール、”オスカー・ロイエンタール・フォン・マールバッハ”伯爵だった。

 

先に言っておくが、ロイエンタールは母親を嫌ってはいない。

むしろ逆だ。理由はどうあれ、注がれた愛情は本物であり続けたし……いや、本物の愛情だったが故に彼には”重かった”。

ついでに言えば溺愛のあまり過剰なスキンシップをとってくるレオノラに、少々食傷気味だったのは否定できない。

というか実家にいた頃は、母といつも添い寝……別の言い方をすれば同衾だった。

一線は越えてない……と思うが、自分への執着ゆえか? いつまでも歳をとる気配がない母を持て余し気味なのは確かだろう。

 

そこでロイエンタール、「帝国貴族としての本懐を遂げたい」と貴族としては否定しづらい建前を並べて母を説得、士官学校に入学したのだ。

彼の初めて校門を潜ったときの台詞は、

 

『これでようやく乳離れができたか……』

 

と安堵の声だったという。

ただ、既に爵位持ちとなっていた彼がただの一生徒と過ごせるわけはなく……だったのだが、それでも気を許せるオレンジ頭の悪友や、長い生涯の友になる……というか今現在、横に立ってる後輩とも出会えた。

 

ちなみにミッターマイヤーの場合、「俺の世話を焼かせるのは卿しかおらんな」といかにも貴族らしい縁故人事の手順を踏んで、卒業と同時に掻っ攫ってきた。

 

ロイエンタール、意外と貴族社会の順応性は高いようである。

 

 

 

掻い摘んで話せばこういう経緯で彼はイゼルローン要塞勤務となり、ヤンと同い年でありながら爵位持ちの貴族軍人らしく既に准将となり1個戦隊を率いていた。

もっとも出世が早いのは何も貴族だからという訳だけではなく、士官学校を卒業してから既にいくつかの武功を立ててることも大きい。

士官学校を出た直後に艦長に任命されたときは流石に焦りもしたが、それでも彼は小さな勝利を重ねたのだ。

 

ただ、今頭が痛いのは同じ貴族軍人だが階級が上の門閥の一人が馬鹿を始め、それの尻拭いをさせられてる現状だった。

 

(まあ、1500隻率いるのは悪い気分ではないが……)

 

だが、頭にくるのは自分の率いるイゼルローン駐留艦隊哨戒部隊を前面に出し、安全な後方をノコノコついてくる1000隻の貴族艦隊だった。

 

「ミッターマイヤー、口調を士官学校時代に戻せ。これは命令だ」

 

「はいはい」

 

苦笑しながら、「上官命令とあらば」と従うミッターマイヤー。

 

「ところで私兵を引き連れ狩猟気分で前線に出てきているのはコルプト少将だったか?」

 

「ああ。噂だと今回の作戦で退役、実家に戻り爵位と家督を継ぐって話だ」

 

「なるほど……つまらんな」

 

そう小声で呟いたロイエンタールの口の端は、微妙に吊りあがっていた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




実は情熱的だったレオノラ母様に乾杯!(挨拶

ロイエンタールの家庭環境を引っくり返した二次創作を呼んだことがなかったので、つい自分で書いてみました(^^

なのでロイエンタールには原作のような女性に対するトラウマとそれに起因する女癖の悪さはありませんが……なんか別方向でややこしくなってるような?

まあおかげで貴族になってしまいましたし、色々と原作にはない苦労はしそうですが。




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第009話:”マールバッハのトライデント”

ついに激突。


 

 

 

さて視点は今度は同盟のエル・ファシル駐留艦隊、通称”リンチ艦隊”に戻そう。

 

 

 

「ほほう……おいでなすったな」

 

アコンカグア級旗艦型戦艦”シャイアン”のブリッジでリンチは獰猛に微笑んだ。

 

まともな編成と数から考えて、恐らく前衛にいるのはエル・ファシル界隈では時折近海で見かけるイゼルローンの装甲パトロール戦隊だろう。

 

普通は1個戦隊500隻で巡回しているはずだが、今日は大盤振る舞いで1ルーチン3個戦隊が雁首そろえてお出ましだ。

事前にこちらの哨戒網が捉えていたとは言え、レアであってもまったくありがたくない光景だった。

 

そして肝心の貴族艦隊1000隻はその後方……

 

「こりゃ強引にいくしかねぇか? 全艦隊に告ぐ! 突撃紡錘陣形(パンツァー・カイル)を取れ!」

 

なら前衛艦隊とまともに戦う理由はない。

 

「シャイアンを中心に装甲の厚い戦艦は前へ! 正面突破戦よぉーい!!」

 

練度も装備も大差ないだろう数に勝る勢力と足を止めての艦隊砲撃戦など愚の骨頂、なら回避するか撃ち合う時間を最小限にしてさっさと突破してしまうに限る。

ただ迂回をするのは時間が惜しいし、何より迂回中に側面から崩されでもしたら洒落にならない。

 

そう判断し、迷いなく突破戦術を選択できるあたりリンチも決して凡庸な提督ではなかった。

 

「クソッタレな貴族共に、同盟宇宙軍(Allied NAVY)の心意気って奴を魅せてやろうじゃねぇかっ!!」

 

 

 

リンチは陣形が整うのを見るとニヤリと笑い、

 

「全艦、最大戦速! 突撃せよっ!!」

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

「エル・ファシル艦隊の提督は中々の良将のようだな?」

 

ロイエンタールは珍しく敬意を込めた光を金銀妖瞳(ヘテロクロミア)に浮かべ、

 

「だが、こちらもまともに撃ち合う理由はないな。無論、貴族の盾になってやる義理もだ」

 

上機嫌な笑みを浮かべると、

 

「なあ、ミッターマイヤー……敵は貴族との殺し合いが御所望のようだ。それを邪魔するのは些か無粋だと思わないか?」

 

本気でコルプト少将率いる貴族艦隊をどうでも良い……いや煙たがってることを隠そうともしない露悪趣味の先輩でもある上官にミッターマイヤーは苦笑しつつ、

 

「どうぞ御随意に」

 

「我が戦隊は敵艦隊上方、第二戦隊は艦隊右舷、第三戦隊は左舷方向に各個分進! 敵の射程外側を迂回し、敵後方90光秒で旋回しつつ再合流、合撃を開始する!!」

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

「なんとっ!?」

 

まるで花咲くように……というのは戦場で使うには少々詩的過ぎる表現だろうか?

リンチ艦隊が射程に収めるより前に、前方にいた1500隻の艦隊は、おそらく戦隊ごとに三つに別れ、艦隊を包むように迂回する進路へ進みだした。

 

後に”マールバッハのトライデント”と呼ばれることになる、「敵前分進→多方向迂回→旋回からの背面合撃」の初めての発動だった。

 

(後方で合流し、追撃をかけるつもりだろうが……)

 

だが、悪くない状況だった。

 

(よほどイゼルローンの連中は、”厄介な客(きぞく)”を嫌ってるとみえる)

 

別に自分の生存率が上がったわけじゃない。

仮に貴族艦隊を叩きのめせても、追撃準備を終えた敵艦隊にケツを撃たれまくるだろうが……

 

「おい、どうやらイゼルローンの連中は、随分と話がわかるらしいな? 俺たちに花道を譲ってくれるそうだ」

 

ブリッジが笑い声に包まれた。

 

「ならその期待には応えねぇとな……野郎共! 一気にバカ貴族を宇宙の塵に変えっぞ!!」

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

『マールバッハ伯爵! 貴様、どういうつもりだ!?』

 

通信画面越しとはいえ、青筋立てて詰め寄ってくるのは貴族艦隊司令官であるコルプト少将、この戦いが終われば退役して実家へ戻り子爵位を継ぐ予定の男だった。

 

「どういうつもりも何も……我々の目的は、”誘引せしめたエル・ファシル艦隊を殲滅する”ことですが? 公式にはそういう理由で出撃しています。だからこうして迂回をし、卿の艦隊と挟み撃ちでより効率的な殲滅を狙っているのでしょうに」

 

それに対し、しれっと言い切るロイエンタールも相変わらず肝っ玉が太い。

 

『それは名目だ! お前達の任務は崇高なる貴族の使命を邪魔する下賎な叛徒どもから、我々を守ることに決っておろう!!』

 

「その崇高な使命とはマンハントのことですかな? コルプト少将、卿はこうおっしゃりたいのか? 農奴確保の私的理由のマンハントが、軍の公的命令である敵艦隊殲滅より優先されると? 我らは軍人ですが?」

 

すでに自分を階級を省き爵位のみで呼んでるあたり、コルプトが何をどう考えてるか百も承知だが、そこを更に煽ってみせるのがロイエンタールという男だ。

 

『違う! 我々貴族より優先される物など存在せん!!』

 

 

 

(やれやれ。履き違えも甚だしいな……)

 

帝国軍とは文字通り”皇帝の軍隊”であり、帝国軍自体が名目上は”皇帝の私兵”である。

それをコルプトは、「皇帝より貴族である私の命令を優先しろ」と公然と言ってのけたのだ。

見ればその発言の意味を理解したミッターマイヤーも唖然としていた。

 

「なるほど……卿の見解は理解しました。だが、生憎と我が艦隊は既に迂回運動中でね。せいぜい我々が合撃するまで殲滅しないよう祈ってますよ」

 

もはや蔑みを隠そうともしないロイエンタールに、

 

『貴様! 後で覚えておれ!!』

 

コルプトは大激怒で通信を切った。

 

 

 

「”()”ね……後があると思ってる時点で、既に度し難いな」

 

とロイエンタールは嗤い、

 

「ミッターマイヤー、通信は録画しているか?」

 

「えっ? ああ、勿論オート・レコーディングになっているが……」

 

「今の内容を超光速通信の秘匿回線で送ってやれ。順番はそうだな……リヒテンラーデ侯、軍三役、リッテンハイム侯、ブラウンシュバイク公でだ」

 

「その面子って……」

 

「”陛下より貴族が優先される”……明確な叛意の証拠だ。リヒテンラーデ侯もリッテンハイム侯もさぞ喜ぶだろう」

 

何しろコルプトはブラウンシュバイクの門閥なのだから。

 

「俺は親切な男でな。コルプトが爵位を継ぐ前に死んだほうが、誰にとっても幸せだと教えてやるだけさ」

 

「悪趣味だなぁ」

 

「何を言う。ただ”帝国の正義”とやらを執行するに過ぎんさ」

 

ロイエンタールはフフンと笑い、

 

「それに少将にはたしか弟がいたろ? 爵位だの家督だのはそいつが継げばいい。どうせどっちが継いでも大差はないだろうしな。弟もきっと喜ぶんじゃないか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ヤンのお株を奪う分進→迂回→反転合撃の回でした~。

やっぱり曲者の印象のあるロイエンタールはこれぐらいはやってくれるかなっと(^^



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第010話:”のっぽのサリー”

サブタイ、”のっぽの赤毛さん”の誤植ではありません。




 

 

 

手強い1500隻の正規艦隊は三方に別れ、自艦隊の後ろに回り込もうとしている。

前方には1000隻の貴族艦隊……2.5倍の艦隊に前後を挟まれつつあり、リンチ艦隊の置かれた状況は最悪と言ってよかった。

 

だが、リンチの顔には確かに笑みが浮かんでいたのだ。

 

「こいつぁいい! とりあえず”腐れ貴族(眼前の敵)”だけ気にすりゃいいってな!!」

 

そして上機嫌なまま、

 

「全艦砲雷撃戦用意! スパルタニアン、全艇発艦用意!! 魚雷(ミサイル)の弾頭はレーザー水爆! 信管調整は直撃/近接/時限の三種同調! 主砲(ビーム)は長短の射程切り替えしくじるな!!」

 

リンチはベレー帽を阿弥陀に被りなおし、

 

「出し惜しみはなしだ! 最初(ハナ)っから全力で行くぞ!! 全艦、最初の三連撃は艦隊統制斉射(フリート・サルヴォー)でキメるっ!!」

 

そして戦闘艇が飛び立ち、敵艦隊を射程に捉え……

 

All Guns Stand-by(全砲門砲撃よぉーい), FIRE(撃てっ)!!」

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

「全艦、回避運動自由(レッツ・ダンス)! 全兵装使用自由(オール・ウエポンズ・フリー)!!」

 

敵艦隊に吐息が届きそうな距離、中性子ビームの主砲群が短射程モードに切り替わった瞬間、リンチは声を張り上げる!

 

「ここから先はなりふり構わねぇ殴り合いだ!! テメェら気合負けすんじゃねぇぞ!! 足を止めるな!!」

 

提督(ボス)駆逐艦(バンディッツ)044より入電! ”我、被弾セリ。コレヨリ天国ヘ突撃セン。天使ガぱんちらデ誘ッテヤガル。同盟万歳!!”……以上です」

 

「バンディッツ044、敵巡航艦に体当たりを敢行! 敵艦ともに轟沈しました!!」

 

悲鳴のようなオペレーターの声に、

 

「おう見事だ!」

 

リンチは星空に散った仲間に敬礼を送る。

 

(チッ……また減っちまったか……)

 

 

 

戦況は意外なことにリンチ艦隊の圧倒的優位に進んでいた。

数は互角ながら、士気/練度/装備のいずれもリンチ艦隊が勝っていたのだから意外と言ってはいけないのかもしれないが……

 

「敵通信に”全周波数広域妨害(バラージ・ジャミング)”をかける! 楽曲(ナンバー)は”のっぽのサリー(Long Tall Sally)”! ”Led Zeppelin ver”で景気良く流せ!!」

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

「な、なんだこれは……」

 

通信を通して流れてきたのは炎のようなシャウトと激しいビート、そして貴族であるコルプトには意味不明の単語の羅列……まあ、意味がわかったところで顔をしかめるだけだろうが。

 

コルプトは混乱の極致にいた。

敵艦隊はあまりに無謀で出鱈目で、まるで死への恐怖がないように肉薄してきて片っ端からこちらの船を沈めてくるのだ。

中には体当たりを仕掛けてきて、共に爆沈する物までいる始末……それも1隻や2隻ではない。

 

そんな時に流れてきたのは、コルプトは知る由もないが、リンチのお気に入りのロック・ナンバー……地球最盛期(レジェンド)ロックンロールのスタンダード・ナンバーときた。

 

実は”ラインハルトが皇帝として死んだ”世界線の同盟とこの世界の同盟が大幅に異なるのは、その”継承された情報の質と量”にあった。

自由惑星同盟の成立が二つの世界で年代すら異なることは前にも述べた。

だが、重要なのはその時期だ。

 

”原作”と呼ばれる世界線では、アーレ・ハイネセンが40万人の民を引き連れ脱出したのは帝国成立から160年以上経った後の話だ。

その時期は、もう幾度も”大粛清”が行われ、あらゆる「反帝国的なもの、帝国にはそぐわない退廃的な物」は償却されていたに違いない。

実際、ヤンが閲覧していた歴史資料などが持ち出されたのは奇跡的と言っていい。

 

だがこの世界線では十分な準備期間の後に、帝国成立前夜にアレイスター・ハイネセンが”長征1万光年(ロンゲスト・マーチ)”を敢行している。

 

しかもその時に使われたのは、”イオン・ファゼカス号”のようなドライアイスで急造した船ではなく、原作より160年前の技術とはいえまともな恒星間航行船で編成された大船団だ。

人員も10億人もおり、私物まで含めれば持ち出し可能だった銀河連邦時代の情報は、それこそ原作と比べるほうが馬鹿馬鹿しいほどだろう。

 

そして無事にその持ち出された情報の一つが、”のっぽのサリー”……それも西暦1970年のロイヤル・アルバート・ホールで演奏された幻の”Led(レッド) Zeppelin(ツェッペリン)”バージョンだったという訳だ。

 

 

 

もはやコルプトの処理能力は、”雑音”に掻き乱され今にも限界突破しそうだった。

 

(な、なんなのだ……こやつらは……)

 

「なぜ、こうなるのだ!?」

 

コルプトは心底、主神オーディンを呪った。

自分はただ貴族の嗜みとして人狩りを楽しみたいだけだったのに……と。

 

コルプトにとり、自由惑星同盟を名乗る叛徒は、ただ自分達”高貴なる者”に媚び諂い、命乞いをする存在でなければならないのだ。

それがコルプトにとっての摂理であった。

 

だが、現実はどうだ?

次々と沈められているのは、自分の艦隊だ。

コルプトには、同盟その物が得体の知れない怪物のように思えてならなかった。

 

結局、コルプトはその長くはない生涯において、”この戦争”がなんなのかを理解することはなかった。

 

 

 

「ぜ、()()反転せよ!!」

 

そして恐慌の中で下されたの最悪の命令。

 

「しかし閣下……」

 

「口答えするな! これは撤退ではない!! 一度引いて態勢を整えるのだ!!」

 

だが、やはりコルプトは戦争を理解してない。

もう敵艦隊が自艦隊と接触し、近接艦隊戦になってる最中、そんな命令を出せばどうなるかということを……

 

 

 

「直撃、来ますっ!!」

 

「ば、ばかなぁぁぁぁーーーーーーっ!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




やっぱりトラディショナル・ロックのスタンダード・ナンバーは熱い!(挨拶

銀英伝と言えクラッシックですが、原作のリンチ少将もある意味、ロックな生き方したと思うんですよ。
アルコール依存症で最後は裏切り者として死ぬなんて、まさにある種のロックのような退廃的な生き様ですから。

この作品のリンチ少将は、別の意味でロック的、まさに魂の奥までロック魂な”火の玉ロック親父”を目指してみました(^^

実はこの世界の同盟が引き継いだ”地球から脈々と受け継がれた膨大な情報”は、多くのサブカルも含んでいて、歴史に多くの影響を及ぼしたみたいですよ?







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第011話:”ボーナス・ステージとその終了”

 

 

 

視点は再び、迂回運動を終え分進した第2戦隊/第3戦隊と合流したロイエンタールへと戻る。

 

突然流れてきたレジェンド・ロックンロールに軽く驚きはしたものの、

 

「中々ゴキゲンなナンバーじゃないか? うむ。悪くないセンスだ」

 

と上機嫌に小さく床を足でタップし、自らリズムを刻む始末だ。

実はこの時、ちゃっかり録音されていた”のっぽのサリー”が楽曲データとして拡散し、兵士や下士官達を中心にマールバッハ艦隊で大流行したのはほんの余談だ。

本来、敵性音楽なぞ聞いただけで懲罰物、個人端末に記録するなど以ての外なのだが……

 

『他の艦隊のお偉方にバレないように聞けよ。別に止めはせんが面倒は御免だ』

 

とはオスカー・ロイエンタール・フォン・マールバッハ伯爵のありがたーいお言葉だ。

爵位持ちの上級貴族でありながら、平民あがりの兵からも何気に人気を獲得しつつあるロイエンタールである。

 

曰く、『貴族の割には話のわかる、諧謔と放埓に不足を感じない上官』である。

 

ここにある種の不敗神話が加わり、絶大な人気を得るようになるのだが……それはまあ、後の話だ。

 

 

 

だが、彼の上機嫌も次のオペレーターの報告で一変する。

 

「コルプト少将、()()()()()反転を発令!」

 

「馬鹿なっ!! 交戦中だぞっ!?」

 

そう叫んだのはミッターマイヤーだ。

敵艦隊に差し込まれ、猛攻撃を喰らってる最中に反転命令など正気の沙汰ではなかった。

それも単艦で逃げ出すならまだ保身に長けた貴族らしいと判断も出来ようが……

 

「愚か者めが……!!」

 

ロイエンタールは拳を固く握り締め、蔑みを通り越した憎悪を込めた瞳でコルプト艦隊のいる方向を睨みつける。

 

彼は本来、打算も妥協も出来る人間だ。感情はあってもそれに流されすぎることはない。

故に今回の一件、彼なりのシナリオはあった。

端的に言ってしまえば、「貴族の名誉をかけて奮戦空しく宇宙に散ったコルプト、その敵討ちに自分は奮闘、叛徒どもに痛打を与えたり」という顛末だ。

”本国重鎮へ秘密裏に送った報告”と合わせれば、誰もが損しない……むしろ幾許かの得が出るシナリオだけに、否定する者はいないだろう。

その筈だったが、

 

「全艦、陣形を整え次第全速! 艦隊最大戦速で追撃する!!」

 

だが、この時ロイエンタールを突き動かしていたのは……打算でも妥協でもなく、確かに怒りだった。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

「敵艦隊、全艦回頭を始めました!!」

 

「なぬっ!?」

 

リンチは一瞬逡巡する……

何かの策と考えられなくもないが、

 

「深く考えるなっ!! 好機と捉えよ! 全艦、デカい横っ腹を見せた相手から、ありったけの火力を叩き込んでやれっ!!」

 

リンチはどちらかと言えば思慮深い、あるいは考えすぎる提督という訳ではなく、どちらかと言えば猛将型……攻撃と防御の選択を迫られれば迷いなく攻撃を選ぶ、有体に言えば猪武者だ。

 

だから今回も勘と闘争本能に素直に従い、更なる攻撃を選んだ。

だが、それが今回の戦いでは功を奏した。

 

拡大していく破壊の連鎖……

基本、一部の特殊な艦を除けば、光波/磁場/電磁場で固められた形状変更可能なエネルギー盾、防御スクリーンは艦首前方にしか展開できない。

回頭の為に横っ腹を晒した帝国製の船は、単に被弾面積を拡大させただけでなく、物理的な防御力すら著しく減じられてるのだからこの結果も頷ける。

艦に搭載される、主噴射口の後方以外は船体を繭状に包む不可視の防護フィールドは、軍艦の至近砲撃に耐えられるほど頑強ではない。

 

無論、攻撃兵装も同じだ。

例えば、主砲である中性子ビーム砲は砲口に重力レンズを用いた偏向装置を取り付けることにより、”ある程度の射角”は確保しているが、流石に真横には撃てない。

 

 

貴族艦隊はこれまでに倍に達するペースで火球に変わってゆき、キルレシオはリンチ艦隊1に対し、コルプト艦隊は5を超えようとしていた。

つまり同盟艦が1隻沈む間に、貴族艦は5隻以上沈んでる計算になる。

 

「敵旗艦と思わしき船、捉えました!」

 

「主砲全力斉射! ドテっ腹をぶち抜けっ!!」

 

「Sir、yes sir!!」

 

32門の25cm中性子ビーム砲の一斉射を喰らったコルプト艦は一撃で轟沈、その直後から更にキルレシオは同盟有利に跳ね上がってゆく。

 

だが、ボーナスタイムはいつまでも続かない。

戦いの最中、金銀妖瞳(ヘテロクロミア)の男は、もうすぐそこまで来ていたのだから……

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

(少々、遠間合いだが仕方あるまい……)

 

普通なら戦艦の主砲とて敵艦の防御スクリーンを射抜ける距離ではないが、幸い敵艦は全て尻をこちらに向けている。

帝国、同盟を問わず宇宙船の通常空間航行は、噴射ガスを用いた反動推進式だ。

つまり船の構造上、噴射方向には堅いスクリーンだけでなく、力場式の防護フィールドすらもまともに展開できない。

 

艦隊(Flotte)全統制(Steuerung)砲撃(Hagel)、用意」

 

だからこそ、ロイエンタールに率いられた艦隊は相対的に有効射程距離……この場合は「命中が期待でき、なおかつ撃破可能な射程」が延伸されていたのだ。

 

「ファイエル!」

 

ロイエンタールの張りのあるバリトンで下された号令の元、ついにイゼルローン駐留3個戦隊1500隻による一斉射撃がはじまった!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ロイエンタール、反撃開始!(挨拶

コルプトが無能すぎて、ついにロイエンタールがキレてしまいました(^^

はてさて、リンチ少将は生き残れるか?



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第012話:”ブービー・トラップ”

ブービー・トラップの示す”間抜け野郎(ブービー)”は果たして誰なのか?




 

 

 

提督(ボス)! 後方より高エネルギー反応多数!」

 

オペレーターの悲鳴じみた声に、

 

「チッ! もう来やがったか……」

 

リンチは舌打ちをし、

 

「全艦、無事な奴は退避行動の予備動作に入りつつ”()()()()”投射用意! 誘導選別(ホーミング)パターンは敵味方識別信号(IFFコード)と画像認識併用! 優先吸着認識パターンは”損傷艦”優先!」

 

矢継ぎ早に命令を繰り出し、

 

「信管設定は”時限/外圧/指令起爆(コマンド)”併用! 準備完了次第、順次投射開始!! 急げっ!!」

 

 

 

リンチの命令には少々説明がいるだろう。

”吸着機雷”とは自立機動型の機雷の一種で、読んで字の如く「自ら移動して敵艦に張り付く機雷」のことである。

簡単に言ってしまえば、センサー有効圏内(自立機動時間と一致)にいる敵艦の防護フィールドの隙間(例えば、噴射口後方や側面砲などの発射の為に空いたフィールド間隙など)から入り込んで船体表面に張り付き爆発する、やらしい機雷だ。

現代海戦兵器で言えば”CAPTOR機雷”などに近いかもしれない。

 

またホーミングに純粋な複合センサー式IFFだけでなく、敵艦の詳細情報を「見た目から判別する」画像認識を優先選別情報としたのは”損傷艦”を選別したいからだろう。

 

一見すると便利兵器に思える吸着機雷だが、実を言えば欠点も多く実戦での使い勝手はかなり限定的だ。

例えばまともな防空装置を持ってる軍艦なら、かなりの確率で吸着する前に迎撃されてしまうだろう。

機雷本体にはそれなりのステルス処理はされてるが、いざ自立機動を始めれば、噴射炎による赤外線輻射などで捕捉は容易だからだ。

またセンサー半径も自立機動時間も長くはない。単純射程なら対艦ミサイルなどより遥かに短いはずだ。

 

それもそのはずで、この機雷は本来、敵艦隊/船団予想進路に機雷原を展開し、航路を機雷封鎖で阻害するような使い方をする武器なのだ。

今のリンチのように敵艦隊と肉薄し、血みどろの近接艦隊戦のど真ん中での使用など考慮されていない。

だが、そこを補うキーワードは”損傷艦”である。

 

機動力が低下し、上手くすれば防護フィールドや対空兵装が使用不可になってる船なら容易に吸着できる。

そしてリンチはすぐに起爆させるつもりはない。

 

信管で、「時間が来れば爆発する。外そうとすれば爆発する。旗艦の暗号化された超光速通信コードを受信すれば爆発する」と設定したのには理由があった。

 

 

 

Shit(クソッ)! 一撃で200隻以上沈められちまったか……)

 

健全な1000隻が揃っていた状況ではない。

既に100隻以上が沈み、損傷艦多数。傷ついてない船の方が少ないくらいだ。

 

その状態で200隻以上が葬られ、撃沈艦は400隻に達しようとしていた……

 

「まさかこの距離でまともに当ててくるとはな……足が殺された船は直ちに乗員を脱出させろ! 船速が落ちた船は損傷軽微でも構わず廃棄! 敵艦沈めるより脱出艇の回収を優先! グズグズするな!」

 

敵艦隊が第一射を放ったのは、有効射程ギリギリのはずだ。

残念ながら練度においても、リンチ艦隊を上回るのだろう。

 

(よりによって相手は、精鋭クラスか……)

 

なら余計に猶予はない。

使える吸着機雷の全弾投射を確認したリンチは、

 

「動ける奴は全力退避だっ!! ケツまくって逃げっぞ!! 気合入れ直せ!!」

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

「ほう……早い判断にいい逃げ足だ」

 

提督席で思わず感心するロイエンタール。

敵艦隊の戦場離脱の手際の良さは、いっそ手本にしたいレベルだった。

なにせ第一射の命中直後には既に退避行動に移っていたのだ。

 

(良将というのは勝ち戦よりも負け戦で真価を発揮する、か……)

 

そう言う意味では敵将は十分に評価に値すると判断できる。

加えて言えば途中までは明らかにリンチの勝ち戦、人間誰しも欲はあるし慢心もするものである。

故に勝ち戦の最中に引く決断をするというのは、心理的にも存外に難しい。

 

(それを事も無げに俺の前でやってみせるか……)

 

おかげで二射、三射と続けられた艦隊統制砲撃は、半ば奇襲じみた初撃ほどの効果はあげられていない。

とはいえリンチ艦隊はもはや半減以下にはなってるだろうが……だが、おかげで効果の薄くなった統制砲撃を諦め、強襲的な追撃砲戦に早い段階で切り替えねばならなくなった。

 

「悪くない将だ。ミッターマイヤー、そうは思わないか?」

 

更にロイエンタールが気に入ったのは、意外に聞こえるかもしれないが「見捨て方の上手さ」だ。

見たところ、出来る限り乗員は回収したろうが……船足を殺された艦は見事に置いていかれている。

 

でなければ損傷艦を抱えている状況で、あれほどの速度で撤退は出来ないだろう。

非情に聞こえるかもしれないが、人の命がバーゲンセールになる戦場では、時に非情な判断が出来なければ無駄に死人が増えるだけだ。

 

「ああ、そうだな先輩。残念なのは帝国軍人じゃないことぐらいだ」

 

士官学校時代の呼び名と口調に戻ってることにロイエンタールは満足を覚え、

 

「全艦、最大戦速度を維持しつつコルプト艦隊を迂回、敵艦隊を追撃せよ!!」

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

そしてそれは、ロイエンタール艦隊が未だ混乱収まらぬコルプト艦隊を迂回しようとする時に起こった!

 

発破(はっぱ)っ!』

 

 

 

「なんだと……!?」

 

非常に珍しいことに、驚きの表情で椅子から立ち上がるロイエンタール。

ミッターマイヤーも思わず唖然としてしまう。

 

「やられた……」

 

何しろ、貴族艦隊の中でレーザー水爆と思わしき爆発が立て続けに起きたのだから。

1発1発の威力はさほど宇宙空間用の兵器としては大きなものではないが、数が数だ。

 

 

 

恐らく逃げ損ねた味方も爆発に巻き込まれたろう。卑怯卑劣の謗りを受けてもおかしくはないが……

だが、不思議なことにロイエンタールの顔には怒りはない。いや、それどころか笑みすら浮かんでいた。

 

「クックック……やってくれるではないか」

 

ロイエンタールは理解していた。

敵が仕掛けた”置き土産”は、断じてロイエンタール艦隊を攻撃するものではない。

傷ついた貴族艦隊に”ロイエンタールの()()”で追い討ちをかけることに意味があったのだ。

 

帝国の権力構造上、いくらロイエンタール……マールバッハ伯爵でも、露骨に「眼前で敵に致命的な打撃を喰らった貴族艦隊」を見捨てるのは、流石に憚られる。

置き去りにされた味方の数と、このブービー・トラップを発動させて生き残れる味方の数を冷静に天秤にかけ、それを見越した上での攻撃だろうが……

 

「練度の低い船から200隻この場に残り、生存者を救助せよ」

 

だが、リンチにも誤算はあった。

並みの貴族や同門閥、あるいはブラウンシュバイク閥に取り入りたい者が指揮する艦隊であれば、確かに効果は抜群だったろう。

もしかしたら点数を稼ぎたいために艦隊全力で救助に当たったかもしれない。

 

だが、相手が悪すぎた。

率いてるのはロイエンタール……食傷気味になるほど重い母の愛を受けても変わらぬ戦闘向きの気質の持ち主だ。

別にブラウンシュバイク閥の評価など塵ほども気にしないというわけじゃない。

面と向かって非道と非難されない程度の”恩と貸し”を施し保身に手を抜かず、なお可能な限り「戦争を楽しむ」のがロイエンタールという漢だった。

腹芸の一つもできないものが生き残れるほど、帝国貴族は甘くない。

 

 

 

「残りは追撃砲戦を続行! 全艦、我に続け!!」

 

 

 

200隻が抜けたことで圧力は当然弱まるだろうし、また分派した以上はいくらか足踏みはあっただろう。

だが、それがどうということもないと言い切れるのが、ロイエンタールの恐ろしさだ。

リンチたちの命がけの鬼ごっこは、まだ終わってはいないようだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




これにて数話に渡った、後に”エル・ファシル沖会戦”と呼ばれる戦いの大半は終わりを向かえました(^^

次回からはプロローグのエピローグっぽくなる予定です。
果たしてリンチ提督の運命は……



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第013話:”かくて小さな戦いは終わりぬ”

 

 

 

さて、視点は熱く激しい戦場からその反対方向……今度はエル・ファシルより離れた宇宙(ソラ)に移してみよう。

 

 

 

「綱渡りだったが……上手くいったようだな? 先輩」

 

「ああ。何とかなって、正直ホッとしてるよ」

 

ラインハルトの言葉にヤンはベレー帽を人差指でくるくる回しながら軍人としては率直過ぎる感想を述べるヤン。

 

本来なら作動させるべき探知阻害(ジャミング)装置を切ることにより隕石群に擬態したヤンとラインハルト、そして民間人300万人以上を乗せた船団は、無事に帝国軍の哨戒網を抜けることに成功した。

 

ただ、受信(パッシブ)オンリーにした超光速通信越しに断片的に入ってくる音声通信は、戦場がひどい混乱状態に陥ってることを示すものばかり……

無論、通信機どころか全てのアクティブ・センサーを切った隠密無音航行(サイレント・ラン)のど真ん中では、こちらから連絡を取れるはずもない。

だが……

 

「中尉! 付近にワープアウト反応多数! 百を超えます!!」

 

「チッ! このタイミングで……」

 

舌を打ち鳴らすラインハルトだったが、

 

「いや、このタイミングと場所だったらきっと……」

 

 

 

「敵味方識別装置、反応”味方(グリーン)”! 艦船データベース照合! エル・ファシル駐留艦隊旗艦”シャイアン”を確認!!」

 

”わっ!!”

 

ブリッジで一斉に歓声が上がった!!

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

「ボロボロじゃねぇか……」

 

オペレーターの一人がワープアウトしてきた200隻を割り込む船を見て、呻くように呟いた。

それはリンチ艦隊の現状を端的に表していた。

 

「極短距離指向性通信、入ります」

 

「つなげてくれ」

 

 

 

『よお、中尉。そちらは無事に脱出できたようで何よりだ』

 

ヤンは提督席から立ち上がると珍しくも綺麗な敬礼で、

 

「はっ! 少将の艦隊は無事とは言えないようですが……」

 

『ああ。派手に沈められちまったな。航行可能なのは187隻……どこを見ても損傷艦ばかりさ。だが……』

 

だがリンチは悪人面をニヤリと歪ませ、

 

『敵艦隊は振り切った! 脱出作戦は成功だぜ!!』

 

「少将閣下、お見事でした!」

 

サムズアップするリンチに再敬礼で微笑むヤン。

意外なことに、ヤンもテンションは上がってるらしい。

 

『ははっ! ありがとよ』

 

リンチは胸を張り、

 

『エル・ファシル駐留艦隊残存187隻、これよりエル・ファシル臨時脱出船団の護衛任務につく!』

 

「はっ! 臨時船団長ヤン・ウェンリー中尉、これよりリンチ少将の麾下に入ります」

 

 

 

 

それから28時間後、エル・ファシルへと急行していた第12艦隊と無事に合流を果たす。

中破以上の判定で、そのままの航行は危険と判断された7隻がその場での破棄が決定され、第12艦隊より10隻の駆逐艦を融通されたリンチ残存艦隊とエル・ファシル脱出船団は、統合作戦本部よりそのままバーラト星系へ向かうように指示されるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

 

 

 

 

 

 

 

自由惑星同盟名称「エル・ファシル脱出戦」、銀河帝国名称「エル・ファシル沖会戦」……

この宇宙暦788年/帝国暦479年に起こったエル・ファシル星系を部隊とした戦いは、同盟/帝国双方が勝利を主張し、後世の歴史家から双方が正しいと認められた珍しい戦いとなった。

 

つまり脱出戦と捉えるなら「2.5倍の敵に攻められながらも600隻近くを撃沈ないし航行不能/修理不可にし、民間人全員脱出を成功させ戦略目的を達成」とする同盟が正しく、純戦術的局地艦隊戦と捉えるなら「貴族艦隊の過半数は失われたが、正規軍の損失0で800隻以上を撃沈」せしめた帝国の主張が正しいということになる。

 

貴族艦隊に痛打を与えながら脱出作戦を成功させた同盟に、撃沈数で上回りなおかつ正規艦隊はノーダメージだった帝国……どちらかのみを勝者とするなら判定の難しいこの戦いではあるが、敗者が誰であるかを絞るのは容易い。

 

そう、貴族艦隊である。

コルプト少将をはじめ、参加した(マンハントに参加しようとしていた)多くの貴族が戦死していた。

 

 

 

『貴殿には感謝すべきだろうな。マールバッハ伯爵』

 

「感謝ですか……”貸し”だと思ってよろしいので?」

 

マールバッハ伯爵……ロイエンタールは、通信機越しに映る”ブラウンシュバイク公爵”に貴族らしいと評される笑みを浮かべ、

 

『貴殿が望むなら”借り”にしておこう』

 

ブラウンシュバイクが「ブラウンシュバイク閥のコルプトを半ば見殺し」にしたのにも関わらず、ブラウンシュバイクが礼を言うのは奇妙に感じるかもしれない。

 

だが、ブラウンシュバイクはロイエンタールに対し、「貴族にしては珍しいほどの善意」を感じていた。

どういうことか?

 

無論、この話題の焦点はコルプトの「貴族が全てにおいて優先される」である。

全ての中には勿論、弁明の使用もないほど「皇帝よりも」が含まれると解釈できた。

それを踏まえて、ブラウンシュバイク公にとって最悪な状況とはなんだろうか?

 

”コルプトが生き残り、爵位を継いでブラウンシュバイク閥のコルプト子爵となった後に、今回の通信内容が「ブラウンシュバイク公を除く重鎮」にのみ送信される”

 

ということだろう。

もし、そんなことになればコルプト一門を門閥から追放する程度じゃすまなくなるのは当然だ。

 

だが、ロイエンタールの判断と報告により結局は、なんら表沙汰になることもなく「死人を裁く法はなし」という形で落ち着くだろう。

コルプトの弟が子爵位を継ぐのにも支障はない筈だ。

 

 

 

「ブラウンシュバイク公、”()()コルプト子爵”には今回の事情説明、”裏事情と自ら得た継承権(りえき)”コミでお願いします。逆恨みされるのも面倒なので」

 

『わかっている。表向きは貴殿を”嫌ってる素振り”をさせるが。彼にも立ち位置があるのでね』

 

「それでかまいませんよ。私としても表立って馴れ合うつもりはない。ただ、”門閥外に友好的な勢力がいる”という意味を理解してもらえればいい」

 

するとブラウンシュバイクはフッと笑い、

 

『つくづく君を我が門閥に欲しいな。知ってると思うが私にはエリザベートという娘がいてね』

 

「社交界デビューのエスコートなら僭越ながら引き受けましょう。ただし婚約は母を通してください」

 

『君の母上か……これはまた手強い』

 

 

 

 

 

 

後日、「コルプト少将の弔いを戦場で成し遂げ、貴族の名誉を守った」と意味深長に評され少将へと昇進したロイエンタールの元には、最新鋭の旗艦級大型戦艦”ヴィルヘルミナ”級の1隻が届くことになる。

彼が貴族らしく私的に購入したとされたが……その真相は、言わぬが花であろう。

 

ただ、後に「女神の名の方が興が乗る」とロイエンタール自によりで”フレイヤ”と大して考えもなく名づけられることになるこの船は、同級でミュッケンベルガー座乗の”ヴィルヘルミナ”と対のように名を馳せる事になる。

 

蛇足ながらフレイヤ、女性の美徳と悪徳を全て内包した故に美しく、自由と放埓を愛し欲望のまま行動することを是とし性的にも奔放……という伝承が残る中々に困った女神のようだ。

ただ、誤解のないように言っておくが……ロイエンタール自身は”別の世界線”とは打って変わり、女性関係が派手ではない。

母の教育の賜物か、それとも爵位持ち貴族の立ち位置故か?

『女は何かと注意すべし』と言わんばかりに端麗な見た目とは裏腹に、かなり身持ちが固い。

 

それが性的な意味でも倒錯し堕落した男貴族に見慣れた貴族の婦女子達には「清廉で潔白なお人柄」と映るらしく、ロイエンタールが「帝国貴族一のモテ男」となる一因となっているのは実に皮肉であろう。

 

もしかしたらロイエンタールにしてみれば「貴族の尻拭いをしたら、門閥の元締めから戦艦を贈呈された」以上の意味はないかもしれない。

例えば勝利というものは、彼の存外に長い人生の中では割とありふれた事柄であるのだから。

 

少なくとも彼がこの戦いの中で印象に残った同盟将校は、”エル・ファシル艦隊を率いて劣勢ながら善戦した男”であり、その裏で活躍した二人の尉官の名を知るのは、ずっと後のことであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




800隻以上を沈められながらも、なんとかリンチ提督は生き残れたようです(^^

艦数は同じでも原作より船の質もよく、練度が高かったことが原因でしょうか?
はたまたリンチ提督がロック親父だったことが原因だったりして(^^

ともかく残り1話でプロローグは終わり、原作と異なる顛末を迎えたエル・ファシル組は……




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第014話:”When a Woman fall in Love a Man”

プロローグ:”エル・ファシルは燃えているか?”のラスト・エピソードです。




 

 

 

バーラト星系、主星ハイネセン……

自由惑星同盟全体の首都ともいえる星である。

 

そしてそこに降り立ったリンチ少将、それにヤンとラインハルトはまるで星その物が鳴動したかのような、集まった民衆の喝采と歓喜の声によって迎えられた。

 

無論、主役は2.5倍の敵と戦い1000隻の艦隊を200隻以下まで減らされなお奮闘し、貴族を叩きのめし命がけで民を守ったリンチである。

 

”闘将リンチ”

”アーサー・ザ・ウォリアー”

 

早速、リンチの勇戦を称える横断幕が熱狂的に帰還を歓迎する市民達の間に見える。

無論、これらの勇ましすぎる二つ名は帰還前にマスコミが率先して流し、これ幸いと裏にいる政府や軍上層部がプロパガンダに用いたものだ。

 

だが、リンチは存外に賢しい(クレバーな)男だ。

後々のデメリットを考え自分独りだけ悪目立ちするのはよしとせず……

 

「愛すべき同盟市民諸君! 確かに私は勇戦した。志半ばで散っていった同胞達は、賞賛されてなお余りある……だが、忘れてはならぬ!! 戦ったのは私の艦隊だけではないのだということを!!」

 

演説の最中、同じ壇上にいたヤンとラインハルトを呼び寄せると肩を組み、

 

「我々が戦っただけでは300万を超える市民全員の脱出は叶わなかったろう! だから私は告げねばならん! 我々が敵を引き付けてる間、市民を率いて智謀の限りを尽くし戦場から脱出させた若き勇者、ヤン・ウェンリー中尉とラインハルト・ミューゼル少尉の存在を!!」

 

さっそく自分以外にも的を増やすことにしたようだ。

 

「努々忘れてはならぬ! 敵を倒すのは必然に過ぎぬ!! 同盟軍の本質とは市民軍であり、その真骨頂とは同盟市民の守護者たらんということを!! まさにこの二人の若者が成し遂げた偉業こそ、同盟軍のあるべき姿であることを!!」

 

そして一気呵成に持ち上げる。

見事な奇襲を喰らいきょとんとして反応が追いつかないヤンに、半ば諦めたように小さくため息をつくラインハルト……若いラインハルトの方が余裕があるのは、やはり”皇帝として生きた記憶”が混入しているせいだろうか?

 

「私はここに宣言する! 私の、いや同盟軍が誇る理念は! 理想は! 確かに次の世代に、未来に受け継がれたと!!」

 

そして高らかに、

 

「自由に誉れあれ! 同盟市民(リベレーターズ)に祝福を! 自由惑星同盟万歳(ハーレー・リバティ)!!」

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

「や、やられた……」

 

なにやらげっそりした雰囲気を漂わせながら、ヤンはぼやいた。

所詮はただの中尉、せいぜい裏方の一人として終わるかと思ったのだが……

 

「シャトル降りてすぐに、勝ってもないのに戦勝式典なんぞに引っ張り出された時から嫌な予感はしたんだよ」

 

リンチ少将曰く、「とりあえず座ってりゃあいい。給料分だと思えば腹もたたねぇだろ?」とラインハルト共々その言葉に従ってみれば、あれよあれよと言う間に壇上に引っ張り出されてインスタント・ヒーローの仲間入りだ。

 

「先輩、今更だろ?」

 

とは既に達観の域に達していたラインハルトの弁。

 

「どうやらリンチ提督には、前もって式典の連絡は入っていたようだったからな……確かに俺たちみたいな下っ端が、舞台に上げられたあたりで妙だとは思ったが、おそらく最初から軍首脳部了承の上での仕込みだったのだろう。即興にしては演説の進行が巧みすぎる」

 

リンチに言わせれば、「しょぼくれたオッサンだけがヒーローじゃ華がない。お前さん達を持ち上げるのは、そっちの方が映えるからさ」とのこと。

同盟軍のブルゾンをまるで軍広報モデルのように着こなすラインハルトはまんまあの容姿だから納得も出来ようが、ヤンも実は「軍人らしからぬ優しげな雰囲気」が時代にマッチしたのか意外と受けがいいらしい。

 

 

(まったく食えないオッサンだ……まあ、必ずしも同一人物とは言えないが、酒浸りの自堕落でも同盟でクーデターのトリガーになれる人材だったのだから食えないのも当然か)

 

と、最近客観的に消化しつつある”皇帝として生きた記憶”の中の情報と重ね合わせ、奇妙な笑みが零れそうになった。

 

「とりあえずここは前向きに考えないか? ある程度、名が売れるのは必ずしもデメリットばかりではあるまい?」

 

「やれやれ。わが後輩ながら建設的なことで。私としては可もなく不可もなく波風立てずに軍人生活をすごし、あわよくば後方勤務について、早期退役の後に憧れの恩給生活と洒落込みたいね」

 

平常運転と言えば平常運転のヤンに、ラインハルトはあきれたように、

 

「先輩、知らないのか? そういうのを”()()()”と言うんだ」

 

……今生のラインハルト様は、好き嫌いは別にして割りとサブカルの話ができそうな気がする。

きっと学友の影響に違いない。伊達と酔狂の方か、理屈屋パイロットの方かは不明だが。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

などと相変わらずな話を展開しながら、二人は帰還兵を今か今かと待ち受ける出迎えの家族が待つ広場へと足を進めていた。

そして、

 

 

 

「ラインハルト!」

 

「姉上!」

 

ひっしと生還の喜びを抱き合うことで表す姉と弟……

ヤンの脳裏には”シスコン”という単語が浮かんだが、それを音声化するほど愚かではない。

実際、微笑ましい光景だと思ったのも事実だし。

まあ、天涯孤独の身の上としては余計にそう感じるのかもしれないが。

 

「どうしたのラインハルト? ”姉上”だなんてかしこまった言い方して? いつもみたいに”姉さん”でいいのよ?」

 

「あっ、いえ私も少し大人になったというか……ああっ、そうだ。今回の戦いで色々経験したので、それなりに思うところがあったんですよ」

 

まさか『別の人生を経験した俺の記憶が混じったおかげでキャラがブレたんです』と言う訳にはいかず、かなり苦しい言い訳だ。とってつけた感が半端じゃないが……

 

「う~ん……そうなんだ? でも、お姉ちゃんちょっと寂しいかな? ラインハルト、あんまり一人で大人にならないでね」

 

ちょこんと小首をかしげるアンネローゼ、実はちょっと天然か?

 

「うっ……」

 

姉のまっすぐな瞳にタジタジのラインハルト……銀河最強の黄金の獅子も、どうやら可憐な花の前には形無しのようである。

 

 

 

(さて、せっかくの家族再会。誰かと会うアテもない邪魔者はさっさと去るとしますか……)

 

士官クラブで帰還祝いに少しは上等のブランデーを一杯引っ掛けて帰ろうかと思いながら、背中を向けるヤンだったが……

 

「お待ちください!」

 

彼女にしては珍しい大声で呼び止められ、

 

”きゅ”

 

「えっ?」

 

袖をチョコンと掴まれた。

反射的に振り向いた先にいたのは、もちろんアンネローゼ・ミューゼルで……

 

(綺麗な娘だなぁ……)

 

正面から見ると改めてそう思う。

もっともアンネローゼは内心、かなり焦っていたりする。

 

 

 

(ど、どうしましょう……)

 

実は彼女、ヤンが去ろうとしたのを見て反射的に行動してしまっていた。

つまり考えての行動ではなく、

 

(そ、そうよ。まずはラインハルトを助けてもらったお礼を言わないと!)

 

「あ、あの、弟を助けていただいてありがとうございました!」

 

するとヤン、お決まりのちょっと困ったように髪を掻く仕草で、

 

「いえ。後輩、ああミューゼル少尉に助けてもらったのはむしろ私の方でして。彼は既に私が道端に落としてしまった勤勉さと実直さを兼ね備えた、私には勿体無いぐらいの優秀な後輩ですよ」

 

タハハと苦笑するヤン。

実はこれ謙遜とかではなく結構、ガチだったりする。

ヤンの名誉のために言っておくが、ヤンが仕事をしなかったのではなくラインハルトがヤン以上のペースで仕事をこなしてしまっただけである。

 

”きゅん♪”

 

だが、世の中何が幸い(?)するかわかったものではない。

ヤンの他意のない、少年のような笑顔にハートを鷲づかみにされた女性が一人……

 

”きゅ”

 

「はえっ?」

 

不意に手を包むように握られ、どう反応していいかわからなくなったヤン中尉。

そんな大尉昇進確定リーチの整った顔立ちだが冴えない印象の青年に、アンネローゼは、

 

「あの……」

 

「えっと……はい」

 

彼女は真顔で、

 

「その、一目惚れしました! 結婚を前提に私と付き合ってくださいませんか?」

 

 

 

”姉上ぇぇぇぇぇーーーーーーーーーっ!!!?”

 

 

 

祝賀ムード溢れる会場にラインハルトの絶叫が響き渡ったのは、歴史の必然だったのだろう。

 

こうして変遷し改竄された銀河の歴史のページがまた一枚……

 

 

 

 

 

Ende

 

 

 

 

 

 

 

 




いや~、最後に書けましたラインハルト様の絶叫!(挨拶

実はずっと”姉上ぇぇぇぇぇーーーーーーーーーっ!!!?”を書きたかった(笑

ちなみにサブタイの元ネタはパーシー・スレッジ、もしくはマイケル・ボルトンの名曲、”When a man loves a woman(男が女を愛するとき)”というラブソングからです。
スローバラードのいい曲ですよ♪
CMにも使われたことがあるので、もしかしたら聞いたことあるかも?


サブタイの”When a Woman fall in Love a Man(女が男と恋に落ちるとき)”は、もちろんアンネローゼ様のことだったりします(^^




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第015話:”プロローグのエピローグ、あるいはただの密談”

あくまで蛇足的な話ってことで。

2018/7/6、再開に際してヨブさんのあたりを中心に少し加筆修正しました。



 

 

 

陰謀は常に人目の付かないところから始まる。

まあ衆目に晒された時点で陰謀ではなくなるので当然といえば当然だ。

 

そしてここ、”Liberty Planets Alliance(自由惑星同盟)”の士官学校の校長室でも、とある陰謀が現在進行形で行われていた……

 

「お久しぶりです、提督。いや、今は”()()()校長”とお呼びした方が?」

 

とがっちりした体格の壮年の黒人男性、士官学校校長のシドニー・シトレは、

 

「ああ、久しぶりだな。私も”リンチ()()”と呼んだ方がいいかね?」

 

「さっそくですね」

 

と苦笑のアーサー・リンチ。

現在、消耗激しいエル・ファシル帰還組は全員1階級昇進(殉職者は2階級特進)となり、全員が2週間の休暇中だった。

いわゆる”御褒美休暇”だが、比喩でなく壊滅したエル・ファシル駐留艦隊の再建は難しく、リンチを筆頭に生き残り全員が休暇明けに昇進と同時に配置転換を受けることになっていた。

実質的には、新たな任地へ向かうための準備時間ともいえる。

 

蛇足ながらエル・ファシルには、別の星域を守っていた守備艦隊や警備艦隊から抽出予定の高練度部隊を再編、以前より艦数3倍に強化した正規分艦隊規模3000隻が新たに配備されるようだ。

しかも提督に就任予定なのは初老のベテラン、一兵卒からの叩き上げで将官へと駆け上った燻し銀の実力者”アレクサンドル・ビュコック”少将だというのだからガチ編成もいいところだろう。

 

しかも民主主義国家らしく腐敗はさほどしてなくとも国民の人気取りには余念のない政治家達は、エル・ファシルに首都惑星ハイネセンを守護する自動迎撃衛星群”アルテミスの首飾り”を配備するよう若手政治家勢力を中心に運動を始めたようだ。

 

その旗手となってる中心人物は、長く美しい金髪の持ち主で名を”ヨブ・トリューニヒト・()()()()”というらしい。

 

 

 

「ついに階級で並ばれてしまったな」

 

白い歯を見せて笑うのは中将の階級章をつけたシトレであったが、

 

「何を言ってるんですか。校長の椅子を尻で磨くのはもう飽きた頃でしょう? そろそろ”()()”から呼び出し状が届きますよ」

 

リンチの言うことは正解で、現在のシトレの役職は言わば昇進前の”数年に及ぶ長い休暇配置”のようなものだった。

 

「やれやれ。育てるというのもこれはこれで楽しい仕事だったのだが」

 

「いい仕事をしていたのはよくわかりますよ。おかげで俺の元にも提督が育てた”芳醇な果実”が二つも転がり込んできた。皮肉じゃなくて本気で助かりましたよ」

 

シトレはニヤリと笑い、

 

「ヤン・ウェンリーにラインハルト・ミューゼルかね?」

 

リンチは小さく頷き、

 

「士官学校出たばかりのまだ頭に殻を乗せたヒヨコが、なんで最前線に送られてきたのかと最初はいぶかしみましたが……提督の差し金だったんでしょ?」

 

シトレは否定も肯定もしない。

 

「提督の見立てどおり、あの二人の実力、既にペーペー尉官の器じゃないですよ」

 

微妙に機嫌のよさげなシトレに対し、

 

「かくなる上は……さっさと出世してもらうのが上策かとね。有能な士官はいくらいても困ることはないし、将官となればなおさらです」

 

「フフ……あの二人を過剰なまでに持ち上げたのは、”エル・ファシルの英雄”なんてロクでもないフレンドリー・ファイアの標的を分散するためだけじゃなかったというわけかね?」

 

「それも大きいんですけどね。撃ってる方は援護射撃だと思ってる分、なおタチが悪い」

 

二人のベテランは妙に乾いた笑い声を出し、

 

「リンチ、妙案を持ってきたのだろ?」

 

「ええ。勿論」

 

リンチは懐から二通の書状を出し、

 

「一通はヤンの物です。このたび目出度く大尉に昇進予定なのでね。いっそ”()()()”にでも行ってもらおうかと。こいつはその推薦状です」

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

さて少し説明が必要だろう。

自由惑星同盟軍の教育機関は士官学校はその一つだが、その上位に存在する教育機関に”自由惑星同盟軍大学”がある。

 

軍の階級は、大雑把に言えば底辺の兵といわれる二等兵から上等兵までの兵卒、伍長から曹長までの下士官がまず最初のグループだ。ここまでは軍に入隊しそれなりの年月が経てばなれると考えていい。

 

その上が士官と呼ばれる尉官以上の階級だ。士官学校とはその尉官以上になれる士官を養成する学校だ。

21世紀日本に例えるなら、士官学校を出てない者をノン・キャリア、士官学校出をキャリアと考えてもそう的外れでもない。

 

ちなみに尉官とは普通は准尉→少尉→中尉→大尉となるが、自由惑星同盟は長年銀河帝国と小競り合いを続けてるせいか士官不足気味で、兵卒でも准尉に任官されるケースが多い。

いわゆる”普通の兵卒のゴールの一つ”が士官待遇の准尉ということだ。

実は兵卒でも軍功を重ねて長年軍隊で過ごせば”特務”と頭に付く少尉以上にもなれるのだが……結構特殊ケースなので、このあたりは今は割愛させていただく。

 

さて、その上が少佐から始まる佐官なのだが……実は大尉から少佐にキャリア・アップするのは大きく分けて二つルートがある。

一つはそのまま現場にとどまり順当に出世する方法。

武功も時間も必要だし、誰しも佐官になれるわけではないが、多くの士官学校出身者にとってこれが最も一般的だ。

 

もう一つは、軍大学への進学だ。

一見すると回り道にも見えるが、軍大学を卒業さえ出来れば無条件で少佐になれる上に、その後の出世速度が断然に早い。

言うならば同盟軍の将来を担う人材、軍のエリート中のエリート育成コースというわけだ。

ただ、これは士官学校以上に狭き門で、まず原則として大尉しか入学できず、更に普通は……

 

・大尉に任官されてから原則2年以上経過

 

・審査会が大尉として佐官になる相応しいと判断できる実績を上げていること

 

・佐官三人以上の推薦があること

 

という厳しい条件がある。

なので入学時期/卒業時期というのは決められてなく、いつでも入学し必要単位を修得次第卒業という形になる。

ただ、何事も例外があり、

 

「”大尉に至る経緯の中で十分な経緯があり、なおかつ将官二人以上の推薦があれば特例として入学が認められる”……提督、この例外措置は今も変わってないでしょ?」

 

「安心していい。我々の頃となんら変わってないさ。それでもう一通は?」

 

「ミューゼルの分だ。日付は入れてない。あいつのことだからすぐに中尉から大尉に出世するだろう。提督に預けるからその時が来たら”提督の推薦状”と一緒に日付を入れて提出してほしい」

 

するとシトレは溜息をつき、

 

「リンチ、つまり君は私が二人分の推薦状を書くことを、既に織り込み済みというわけかね?」

 

「ん? 提督、まさか反対なんですか?」

 

「そういうわけではないさ。ただ、君は相変わらずだと思っただけだ」

 

「相変わらず?」

 

シトレはニヤリと笑い、

 

「散々手を焼かされた”悪童”っぷりは健在だという意味さ」

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

「”ヤン()()()()()”は、そのまま有無を言わさず軍大学に放り込むとして……”ミューゼル()()”はどこで大尉に至る経験を積ませる?」

 

「色々考えてはいるんですが、大尉にステップ・アップする前に一度、休暇配置を挟んだ方がいいと思います」

 

やはり貴公子然としたラインハルトの容姿は偉大である。

最近のマスコミ用語で言う”エル・ファシルの三銃士”、アレクサンドル・デュマの名作に準えてつけられた三人組(トリオ)の中で、ラインハルトの人気は若い女性を中心に最も高い。

まあ、対抗馬が”漢臭いロック親父”に”整ってるが冴えない印象の優男”では無理もないだろう。

 

おかげで「数字が取れる」こと確定なラインハルトへのマスコミ攻勢は少々過熱気味だ。

軍広報もここぞとばかりに押してるので余計にタチが悪い。

 

最初にラインハルトを持ち上げた張本人であるリンチは少しばかり罪悪感があった。

 

「具体的には?」

 

「”エコニア”……あたりはどうですかね?」

 

 

 

 

 

この判断がどういう因果で未来に影響を与えたのかは、今となっては誰にもわからない。

ただ、ヤン・ウェンリーはミューゼルの実家があるハイネセンに留まる事になり、ラインハルトはパトリチェフにムライ、そしてケーフィンヒラーと出会うことになるのだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




これで「プロローグ:”エル・ファシルは燃えているか?”」の全エピソード終了です(^^
御愛読、本当にありがとうございました。

さて、そろそろ「金髪さんのいない」に戻ろうかとも思ってますが、実はあっちのシリーズの文章が出てこない……端的に言えば軽いスランプ気味だったりします。

なので書ける物からかいてみようかなぁ~とか考えてたりして。

そして、もし「金髪さんのいる」方を継続するとしたら……どこから書こう?(汗
一気に第三次ティアマトに飛ぶってのもアリですが、エコニアの本編はともかくその後日端的な描写から振り返ってみたり、ヤンとアンネローゼのその後……ラブ臭溢れる交際期間(ヤン大学生活?)とかも書いてみたいですし。
色々迷います(苦笑






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第01章:”少しずつ何かが変わり始める日々”
第016話:”シリアス? ああ、アイツなら長い旅に出たよ”


長らくお待たせしてしまい申し訳ありませんでした。
そして長い間待ってくださり、ありがとうございました。

そして約1年ぶりの再開!
ノリが馬鹿です。
真面目な方には怒られそうなくらいバカです。
久しぶりのこのシリーズの執筆で、ちょっと壊れました。

久しぶりだし、それでもいいよ~って方にオススメします。
脳味噌空っぽにして読んでくれると嬉しいです(^^




 

 

 

さて、世の中には空白期間というものがある。

別に”『 』”のことではない。

 

とりあえず何が言いたいかと言えば、今はエル・ファシル帰還組が2週間の特別休暇を出されているど真ん中で、ここハイネセンにある同盟軍将校御用達の”酒場(パブ)”……無論ショー・パブなどではなく正統派英国風パブに錚錚たる面子が集まっているということだ。

 

年長から順に言えば……

 

アレックス・キャゼルヌ大尉

現在、同盟きっての後方任務のスペシャリストであるシンクレア・セレブレッセ少将の元に配属され、様々な経験を積んでる将来の同盟兵站補給線(ロジスティック)を支えるエキスパート候補。オルタンス嬢とは既に婚約してるらしい。

実はこの人がいないと将来的にヤンも同盟全体でも戦争ができないのではないのだろうか?

 

マルコム・ワイドボーン中尉

ヤンと同級で首席卒業のエリート。ヴィジュアル・イメージ的には新コミック(フジリュー)版に近い。おそらく大尉に昇進した後は軍大学へ進学すると思われる。士官学校時代より”10年に1人の逸材”と言われているが、本人に言わせれば「僕が10年に1人ならヤンは100年に1人さ」とのこと。本人曰く「ヤンのファン第壱号」。

何気に年下好き/ひんぬー好き/ケモミミ好きと女性の趣味が真っ黒な数え役満だったりする。どこぞの世界線のカストロプと幼女談義で盛り上がりそうだ。

 

ジャン・ロベール・ラップ中尉

士官学校卒業席次は6位とこれまたかなり優秀。ヤンの「頭のいい怠け者」に対し典型的な「頭のいい働き者」で参謀気質。健康運と上司運の大量増加を望みたいところ。

女性の趣味は「ジェシカ一択! 他に選択肢など在りはしない」。現在、ジェシカ・エドワーズと交際中。完全に尻にしかれてる模様(隠れMという噂も……)。

 

ダスティ・アッテンボロー少尉

伊達と酔狂が大好物の好青年。これでも優秀だが、「素行不良の代表格。規律正しくあるべき軍人の素養に乏しい(ドーソン談)」。原作と異なり同級生のラインハルトと同じく既に任官してるらしい。一応、参謀志望。

好みのタイプは「青葉かな……」と呟いたが、なんのことだかわからない。”銀河艦これ伝説”とか作者は知らない。

ラインハルトの親友、”士官学校の三羽烏”のその2

 

アンドリュー・フォーク少尉

実は”ありえたはずの歴史”から最も運命が乖離したお人。『どこまでも広がる蒼い宇宙(ソラ)()の心を癒してくれるのさ』とパイロット・コースを歩み始めて宇宙を思う存分飛び回ってるせいか、一人称が変わった上に少し不思議ちゃんになってしまったようだ。彼が”同盟の白い悪魔”と呼ばれる日は果たしてくるのか?

ラインハルトの親友、”士官学校の三羽烏”のその3

 

 

 

そしてこの面子を呼び集めたのは無論……

 

「先輩方、それにアッテンボローとフォークもよく集まってくれた」

 

御存知、金髪さんことラインハルト・ミューゼル(”士官学校の三羽烏”のその1)。まだエコニアに旅立つ前の休暇中なので、階級は少尉のままだ。

 

「いや、さすがにこんなメール送られてきたら無理をしても集まらざるえないだろ?」

 

そう本来なら、いかに()()士官の中では下っ端であるといっても、そう簡単に集まれるような面子じゃない。

ちょっとタイミングがずれれば同盟の方々に散ってしまってる……というか、全員がハイネセンというよりバーラト星系にいるのはこの日を外してはなかった。

 

キャゼルヌは携帯端末を立体投影モードに切り替える。

そこ浮かび上がった文字列は……

 

 

 

***

 

《Title》”俺の姉がこんなに度胸があるわけ無い”

 

《本文》姉が突然、ヤン先輩にプロポーズした。どうしよう?

 

***

 

 

 

「ミューゼル、俺は受け取った瞬間、コーヒーをフイタぞ」

 

とアッテンボロー。

 

「僕は軽く(とき)が見えたかな?」

 

フォーク、それは洒落にならん。君の場合は特に。

 

「俺はカノジョ(オルタンス)の手料理を喉に詰まらせかけた」

 

とキャゼルヌが言えば、

 

「ボクは思わず外に出すつもりが膣内(なか)に……いきなり父親になってしまったらどうしよう? いや、大丈夫かな? まだ来てないって可能性も……」

 

「おっとワイドボーン、そこまでだ。”憲兵さん、コイツです”される前に不穏当な発言は慎むんだ」

 

即座にツッコミを入れるラップはいい参謀になれるだろう。

 

 

 

それはともかく、1500年以上未来に”俺妹”が残ってるのは意外である。

ちょっと脱線してしまうが、”この世界線”ではサブカルチャーがかなり重要な意味を持つので少し書いておきたい。

 

宇宙暦700年代……というより帝国とほぼ同時期に成立したと言って良い自由惑星同盟の住民達は、建国時より”独自のサブカル”を生み出す能力が20~21世紀の地球単独時代に比べると実はかなり低い。

別に帝国のように「退廃的、反帝国的なものはすべて排除する」ような厳しい言論や表現の統制があるわけじゃない……というより21世紀の日本と比べてもかなり規制がゆるい。

 

何がとは言わないが、無修正が当たり前で下限年齢は存在しない……と言ったら驚くだろうか?

150年も戦争を続けてる国家らしいと言えばらしいアバウトさだが、「生めよ増やせよ星に満ちよ」は国家的に大奨励で、結婚や妊娠や出産の適齢期が上や下へ伸びるのは大いに歓迎すべきところだ。

 

まあ、そんな倫理観のマイルドさに加え、宇宙を生活の場にすることになって久しい人類は、実は自分達が生活圏として行ける範囲には「人類以外の知的生命体が存在しない」ことを知ってしまった。

 

拡張し続ける物理的な現実が、人から未知に対する想像力や憧憬の念を奪い、フィクションがノンフィクションになるにつれ浪漫が減少していった……というのは極論過ぎるか?

 

だが現実に、地球が人類唯一の生存圏だった時代……宇宙がまだ未知と浪漫に溢れていた”夢を馳せるに相応しい遠い世界”の頃のサブカルが、リメイクやオマージュされ、時には原型も遺さないほどの変貌を遂げながら、ひたすらに再生産し続けられてるのが”今”だった。

 

時にはそれが大きく歴史を動かすこともある。

いずれヤンがそのあたりのことを語ってくれるかもしれないが……

 

 

 

無論、全てのサブカルが残っているわけではないし、数え切れない戦乱の中でデータベースごと消えたものも多い。

そもそも”この世界線”では最初から存在しないサブカルもある。例えば、”()()()()()()”などはその典型だろう。

 

こんな下地があるなら地球教が跋扈し猛威をふるいそうなものだが……だが現実はどうやら逆のようで、多くの同盟人にとって地球とは「人類発祥の地として神聖視」するものではなく、もっと身近な「かつて豊かなサブカルチャーを生み出しておきながら、自らサブカルチャーを排斥し駆逐することによって衰退した哀れで傲慢な星」だった。

そんな星に粘着質な妄執を持って語る地球教の評価など……という感じである。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

とにもかくにもVR化されたギャルゲーなんてものは健全な男なら一度はやったことがあるくらいありふれたもので、ヴァージョンアップ繰り返しながら非常に息の長い……それこそ1世紀に渡るロングセラーなんてタイトルも存在している。

 

そんなこんなで原作より恐ろしくフリーダムな気質が漂う自由惑星同盟だが……こんなんが未来の同盟軍幹部(ヤン・ファミリー)候補で大丈夫なんだろうか?

まあ、反面恐ろしくしぶとそうではあるが。

 

とりあえず、別の世界線以上に問題児を抱え込む気配が漂っているので、某風紀委員の胃を心配しておいたほうがよさそうだ。

 

いずれにせよ、この若者達の未来は未だ定まってはいないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

蛇足

 

「若い子達は元気でいいわね~♪」

 

そんな彼らを見つめる視線があった。

わずかにクセのある柔らかそうな金色の長い髪が、ハイネセン・ポリスの街風に揺れる……

 

(でも、ちょっと青臭いわね~。ワタシ的にはもうちょっと枯れた、あるいは熟した方が好みかな?)

 

「さほど歳が離れてるわけでもありませんでしょうに」

 

と秘書というより執事と呼びたくなる壮年の男が言えば、

 

「そんなことないわよ~。最近、何気に歳を感じるもの」

 

とひどく小柄な”()()”は返す。

 

「それはさておき……”()()()()()()()()()()”、そろそろ参りませんと予算会議が」

 

「はいはい♪ では()()()()()、粛々といきましょうか? いつまでもネグポン一人に大汗かかせるわけにもいかないしね」

 

「どこのユルキャラですか? 彼の名はネグロポンティです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




久しぶりなのにヤン不在でござる(挨拶

皆様、お久しぶりでございます。
お待たせしてしまい申し訳ありませんでした。

久しぶりだし気合入れて新章をスタートさせようと思ったら、何故だかこんなことに(^^;
いや、我ながらホントどうしてこうなった?

新章は基本的に原作が始まるまでのダイジェスト版になるでしょうが、また付き合いいただけたら嬉しいです。




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第017話:”銀河駆落伝説 あるいはとある偉業”

ある意味、アンネローゼ様の戦闘描写(?)があります。
でも、別のシリーズと違い、戦闘系ヒロインではありません。




 

 

 

さてさて、ここは首都惑星ハイネセン、そのまた中心地であるハイネセン・ポリスの郊外。

瀟洒で小粋な住宅が軒を連ねる高級ベッドタウンだ。

 

銀河帝国貴族のような大邸宅や屋敷こそないが、同盟市民の平均年収から考えれば十分羨ましい物件が並んでいる。

イメージ的には二子玉川とかだろうか?の土地付き庭付き広々とした一戸建てって感じだ。

ちなみにこのエリアの地価は、今の日本に例えると平均坪単価200万円前後(最高値は250万を越えていたが)が相場らしい。

 

そんな一角にミューゼル家はあった。

新築ではなく中古物件であったが土地面積90坪、地上2階/駐車場や物置をかねた地下1階と家族4人で暮らすのに十分な広さがあるのに、2018年現在の日本の価値換算でたった2億円ちょいとかなりお買い得物件だったようだ。

はっきり言おう。

ミューゼル家はプチセレブと言っていい中々の富裕層のようだ。

 

どうしてそうなったのか?

実は複雑な事情があるわけでなく、爵位こそないが……というより男爵になれたのに母と駆け落ちするために全てを捨てて同盟に亡命した父セバスティアンが、自らの半生を手記として記したところから始まった。

 

日記のような感覚で書かれたそれは、セバスティアンにそこはかとなく文才があったせいか、ラインハルトにしても中々に面白い冒険譚だった。

ただし姉には、「冒険物じゃなくてラブロマンスよ!」と反論されたが。

 

どこで聞きつけたのか、これに目をつけたのが利に聡い同盟出版社”セントラル・ドグマ書店”が目をつけ出版を持ちかける。

印税が生活の足しになるのならセバスティアンは快諾。

ただし自分との愛の逃避行を赤裸々に語られた上に大衆に晒された妻クラリベルは「ばかばかばかばかばか!」と萌え系ぽかぽかアタックを敢行。

そのうら若き妻の顔を羞恥で真っ赤に染めた涙目にセバスティアンは嗜虐心をこれでもか刺激され一物勃起(あながち誤字に非ず)、妻どころか本人が気絶するまで全力斉射を続け、このときに建造されたのが同盟人となった新生ミューゼル家1番艦アンネローゼである。

 

 

 

さて、同盟亡命に際し貴族たる証のフォンを抜いて、晴れてセバスティアン・ミューゼルと名を改めたパパ・ミューゼル著の”銀河駆落伝説 ~俺は爵位より美少女を選ぶ~”と出版者の名前込みでどこかで聞いたことあるような、あるいはサブタイがラノベのような自伝は時代の持つ空気にマッチしていたせいか、あれよあれよと言う間に重版出来になりベストセラーの仲間入り。

 

この前触れもなく起こったブームに”亡命の促進と亡命者の懐柔による取り込み”を国策としていた同盟政府が暗躍。

新たなキャンペーン(あるいは対帝国プロパガンダ)として銀河駆落伝説を全面推し、社会現象(ムーブメント)化させてしまう。

そしてその人工的なブームは年単位で続き、コミカライズにはじまりドラマ化/映画化/アニメ化/ゲーム化と矢継ぎ早に次々にメディアミックス展開。

図らずも国をバックにつけたドグマ書店はウハウハのイケイケ、セバスティアンには印税がっぽがっぽである。

自由惑星同盟が人口240億人という巨大惑星国家連合、2018年日本の約200倍の規模を持つ膨大な消費市場(マーケット)であることを忘れてはならない。

 

ただし、ある意味純然たる被害者であるクラリベルはウルウルで上目遣い。

言うまでもなく程なくラインハルトがロールアウトされた。

 

 

 

子供も一女一男と出来たことだし作家として名も売れた。いい機会とキャッシュ一括で購入したのがこの邸宅と言うわけである。

それなんて山○エルフ?

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

さて現代日本では20畳のほどの広さをリビング、コニャックブラウンのコノリーレザー張りのソファに長い脚を組んで不機嫌さを隠そうともせずに、

 

「フン……」

 

鼻を鳴らすのは我らが金髪の貴公子、何気にジーンズとGジャンと言うラフな普段着姿のエコニア出立の準備が忙しいはずのラインハルト様で、

 

()/()()、申し開きがあるなら聞こうか?」

 

視線とスラッシュを含んだ言い回しに微妙な殺意を感じるのは何故だろう? 具体的にはフレ/ンダ並に。

さて、その氷の微笑ならぬ氷の視線の先には……

 

「いや、言い訳にしか聞こえないだろうけど、私自身も何がなんだか……」

 

と東洋、というより日本の様式美である正座(座布団はなくカーペットに直)をかますヤン・ウェンリーの姿があった。

シチュエーション的に焼き土下座とかになってない分、まだ心優しい仕打ちといえる。

何しろ……

 

「一体何がどうしてどうなったら、先輩がウチに下宿することになるんだ!!?」

 

きっと世界は優しくなんてない。主に誰かさんの胃にとって。

 

 

 

「そんなの決まってるじゃない? 私がお誘いしたからよ♪」

 

いともあっさり疑問を氷解させてくれたのは、他の誰でもない実の姉であるアンネローゼである。

正座してるヤンの後から嬉しそうに抱きつき、背中に柔らかい双丘を押し付けながらニコニコしてる姉に、とりあえずまずはそこに物申したいラインハルトだった。

 

「だってウチってウェンリー様が通う軍大学からも近いでしょ? 部屋だって一つ空いてるし」

 

どんな魔法を使ったのか?

アンネローゼはヤンが軍大学に通うために新たな転居先を探してることを聞き出し……つまりそれはラインハルトが知らぬ間に姉が先輩とデートにこぎつけたということを意味するのだが。

 

少し補足するなら……

生活能力皆無のヤンが自分の家を蔵書に溢れた魔窟に変貌させるのは、階級が上がり持ち家を手に入れた後の話である。

まだ一介の尉官に過ぎないこの頃は、転任が多いため荷物は最低限、父の遺産である”唯一本物だった壷”をはじめ大半の持ち物は貸し倉庫に預けっぱなしだった。

 

なので今回も生活に必要な最低限の荷物と共に、通学に便利な適当な軍の庁舎を探そうかと思っていた矢先、アンネローゼの奇襲を喰らったのだ。

 

母親からは容姿を、父親から愛と情熱を遺伝的に引き継いだアンネローゼは、ヤンが女相手は慣れてなく経験不足、容姿などに自信がないせいか奥手で及び腰であることを即座に看破。

 

気づかれぬように撤退戦を始めようとするヤンの思考を読み取り、先回りして思考的半包囲を展開し撤退路を封鎖。

手を握られ、自分の匂いに論理的思考が融解/散乱し始める頃合を見計らい、後の某宇宙猪が感嘆するような非物理的ランスチャージを敢行。

ついにヤンの強固な精神防壁を突き破り、正常な判断を砕き押し流してしまったのだ。

 

そう、アンネローゼ・ミューゼルは別の世界線の弟でさえも成し得なかった”ヤンに勝利する”という偉業を、無自覚に成し遂げてしまったのだ!!

銀河の歴史には残らない類の勝利ではあるが。

 

 

 

 

 

 

 

だが、ここで一つだけ明言しておかねばならない。

あるいはヤンにとって”不吉で不穏な予言”ともなる言葉を。

アンネローゼはヤンに勝利した”最初の一人”であっても、”最後の一人”ではないということを……

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ヤンに女難の相の気配あり(挨拶

ある意味、ラストはアンネローゼ様無双でした(笑
実は同盟で政府の意向もあり、成功者への道を駆け上ったセバスティアン氏。
アンネの恋愛がらみになると妙に思い切りのいい性格は、むしろ父親似です。



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第018話:”キャゼルヌはきっと良い先輩 ついでに駄目提督製造機 そして小さな小さな覚醒”

ハイネセン・ポリスで飲む紅茶は……苦いのか? それとも甘いのか?(ボトムズNa風)
ひょっとしたら歴史が大きく変わる、小さなきっかけのエピソードかも……




 

 

 

生活能力が皆無というより絶無なヤン・ウェンリーが、アンネローゼに引っ張り込まれてミューゼル家に下宿することになったぞーい。

しかし家賃を支払おうとしたらアンネローゼに丁重に断られてしまったので、事実上の居候だぜ!

やったねヤン! 別の世界線では夢にまで見た楽隠居生活が、向こうからやってきた♪

順調に外堀が埋められてるとか言ってはいけない。

 

「まるで”ヒモ”だな。アンネローゼ嬢の」

 

「うぐっ!!」

 

ヤンが敵視する食後の泥水(コーヒー)を啜りながら、毒舌がトレードマークである先輩(アレックス・キャゼルヌ)から放たれた言論的弾幕射撃に、ヤンのメンタルは一撃で大破した……

ここまで損傷すれば、もはや撤退の余地すらないだろう。

 

「なあ、ヤン……悪いことは言わん。大学では少しやる気だの向上心だのってのを、()()だけでもみせておいたほうがいいぞ? 士官学校時代のような『退学にならなきゃ万事おk』ってノリじゃあ、お前の評価は”アンネローゼ嬢の情夫”に確定されかねん。お前だってまさか、アンネローゼ嬢を”駄目士官製造機”呼ばわりされたいわけじゃないだろ?」

 

 

 

ラインハルトがエコニアに旅立ってしばらく……ヤンは数少ない尊敬すべき士官学校の先輩、アレックス・キャゼルヌに呼び出されていた。

誘い文句は、「今度俺も軍大学に入り、本格的に兵站補給(ロジスティック)を学びなおすつもりだから話でもしようぜ。飯ぐらい奢るぞ?」だったが、現実は目の前で起きてるように実にありがたーい説教だった。

 

少し説明すると、軍大学は大尉なら誰でも入学できる可能性はある。

ただヤン(そしてラインハルト)のような”将官二人以上推薦(横紙破り)”じみた入学はまれで、普通は……

 

・大尉に任官されてから原則2年以上経過

・審査会が大尉として佐官になる相応しいと判断できる実績を上げていること

・佐官三人以上の推薦があること

 

の要素を満たさないと門前払いだ。

キャゼルヌはまさにこの王道を行き、同盟きっての後方支援の達人であるシンクレア・セレブレッセ少将の幕僚に下っ端士官として入り、順調に実績と経験を積み上げてきた。

武功が原則としてあげられない後方は、一般に提督に代表される前線組に比べ評価されにくく出世が遅いとされているが、少なくともこの世界線の同盟はロジスティックを今の米軍並みに重視しており、前線と比べても別段見劣りする出世速度と言うほどではない。

むしろ、”補給線の破綻は、その先にいる前線の崩壊に繋がり、それが結果として国の存亡に関わることになる”と士官学校でもいやと言うほど教えられる。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

少し話がずれるが……この世界のワイドボーンがヤンと士官学校時代にシミュレーションを行い、通商破壊作戦(トレイダー・レイド)を仕掛けられワイドボーンが原作と同じく大敗するも、真反対に大賞賛を贈ったのは、この教育にある。

 

このシミュレーションで、ヤンの狙いが通商破壊と勘付いたワイドボーンは、急遽輸送船団護衛艦隊(エスコート・フリート)を編成するも、そんな付け焼刃の戦術がヤンに通じるわけもなく、見事に補給線を寸断され自壊してしまったのだ。

 

 

 

この世界の”自由(Liberty)惑星(Planets)同盟(Alliance)”は、軍事的ロマンティシズムを肯定しない。

言うなれば「格好良く負けるな。意地汚く勝て」だ。

例えば、性格は悪いが名提督であることは間違いない偉大な先達、リンパオの言葉を借りれば

 

『勝ち方になんぞ意味は無い。重要なのは勝敗だけだ。勝敗から齎される結果だけが、自由惑星同盟の未来を作る』

 

ということになろう。

だが、やはり士官学校まで入り職業軍人を目指す以上は、花形である艦隊戦に参加するのは夢であるのが普通だ。

故にキャゼルヌのような有能であり、そして同時に黒子(くろこ)として同盟軍を舞台裏から支える覚悟を決めた若者は極めて貴重であり、だからこそ将来を嘱望されていた。

言うならば、成り立ちが違うこの世界の自由惑星同盟は、原作よりも生き汚い……生きることに真摯で、戦争に関して正直な国家群だった。

 

そんな時代、そんな空気の中に生きる先輩と後輩だったが……

 

「そりゃあ、私だってそんな評価をうけたいわけじゃないですし……」

 

「いいか、ヤン。士官学校っていうのはあくまで”士官とはなんぞや?”ってことを教える機関に過ぎん。言うならば、部下の命に責任を持つ覚悟とそれに相応しい能力を叩き込まれ、同時に兵の効率のいい死なせ方を教える場所だ」

 

言葉を飾らず、身も蓋もないことを言い出すキャゼルヌである。

だが、それが事実であることはヤンにも痛いほどわかっていた。

 

「だが、軍大学は”軍人で出世した先、自分が何が出来るか?”を真剣に問う場所だ。ヤン、国民の税金で衣食住やあらゆる福利厚生が保障された上、大学で高度教育を受けた上に立身出世が約束されたんだ」

 

いつの間にか大学について問う/問われるの名目が逆転していたことにヤンは気づいていたが、それを言い出すほど愚鈍ではない。

 

「わかってますよ……」

 

「本当にわかってるのか? 税金でここまでされる以上、そしてその立場をお前が選んだ以上、最早”自分は成りたくて軍人になったわけじゃない”なんて愚にもつかない言い訳は言えないぞ?」

 

「少なくとも自分のやるべきことはやるつもりです」

 

 

 

 

 

 

 

 

こうしてエル・ファシルで燃え尽きそこねたヤンの”一生分の勤勉さ(ねんりょう)”に再び灯がともった。

この語らいが将来、どんな結果を生むのか今はわからない。

だが、それは……

 

いや、よそう。

不確定の未来を語るなど、所詮せん無き事だ。

 

だが、アレックス・キャゼルヌは一つだけ見落としていることがある。

”生活能力なら人間落第”のヤンが、世話焼き大好き&家事の完璧超人たるアンネローゼに()()()()()()()()、無事で済むわけもないのだ。

幼い頃に先立たれ、母の愛を知らずに宇宙船の中で育ち、全てを事故で失い地上に落とされたヤンにとって、アンネローゼの強烈な母性は、精神的な意味で即効性の猛毒に等しい。

それこそ交際時間なぞ無視してしまえるほどに……

 

「ただいま、アンネローゼ」

 

「おかえりなさい♪ ウェンリー様」

 

玄関を入るなりきゅっと抱きついてくるアンネローゼの柔らかい金髪を優しく撫で、

 

「いい匂いだね? 今夜も夕食が楽しみだよ」

 

何しろこうして胃袋をすっかり鷲づかみにされ、既に日常生活を依存してしまっているのだ。

こうしてアンネローゼは駄目士官製造機、将来的には”(日常生活面においては)駄目提督製造機”の二つ名を確定してしまっていたのだから。

 

 

 

「なあ、アンネ……」

 

「なぁに?」

 

「君との生活を守るため、軍人として頑張りたいと言ったら……君は軽蔑するかい?」

 

”きゅっ”

 

「ばか……嬉しいに決まってます♪」

 

”Chu”

 

 

 

難攻不落の朴念仁型要塞”ヤン・ウェンリー”、アンネローゼ・ミューゼルの特効技能”母性愛”にて完膚なきまで陥落。

怠惰/自堕落/昼行灯フラグ、崩壊。泡沫へと消える。

フェザーン時代の陰りが尾を引く()()ヤン・ウェンリー、完全消滅。

 

ヤンは”負けない戦”をデザインし始めたようですよ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ヤンは咽る……硝煙ではなく先輩の毒舌によって(挨拶

いや~、ようやく前々から……それこそ長期休載前から書きたかったキャゼルヌ先輩とヤンの語らいを書けました(^^

そしてラストにちょっとだけラブコメっぽくしてみましたが、ちょっとは甘さが出てたでしょうか?

軍人としても男としても先達のキャゼルヌ先輩は、やっぱ縁の下の力持ちとしてもヤンを導く側でいて欲しいなと。



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第019話:”エコニアン・ラプソディ”

久しぶりに一日2話投稿っす。
今回はかなり前回とノリが違いますよ~。

ある意味、ラインハルト様無双計画。





 

 

 

さてさて、捕虜収容所が主要産業と言うある意味において終わってる惑星”エコニア”にやってきた、最近の少し中二の入ってる同盟婦女子(あるいは腐女子)で流行ってる言い回しによれば”金色の獅子王子様(ゴルド・レーヴェンプリンツ)”ことラインハルト・ミューゼル中尉ではあるが……

 

「何度も何度も何度も何度も、ウンザリするほど腐れ女(B夫人)に殺されかけた俺を舐めるな!!」

 

早速、騒動に巻き込まれたでござる。

ついでに言えば、元帝国軍人の捕虜と巨漢の同盟軍人、それと謀殺の証拠として一緒に砲撃で始末されかけた若い方の捕虜と一緒に立てこもった挙句、隙を見て奪った装甲車に乗り込み、装甲車に取り付けられた重機関銃型速射ブラスターをハッピーにトリガーを引きながらラインハルトは大立ち回りを演じていた。

別の人生を経験した記憶を考えてみれば、この程度の暗殺劇なぞ人生のある時期においては日常茶飯であり、今生の体験ではなく記憶に染み付いた感覚的にはラインハルトにとって慣れっこだ。

 

「ボ、ボウズ、あんまり無茶するのはオジサンどうかと……」

 

「安心しろ! 正当防衛なのだから問題ない! さあ、どんどんかかってこい! 我がストレスの発散先となるが良い!!」

 

ちょっと皇帝陛下が復活してる臭いラインハルトに、

 

「なあ、ボウズ……お前の人生、ここに来る前に何が人生にあったんだ? 俺でよければ相談に乗るぞ?」

 

「はは~。御老体、こりゃ言っても無駄ですよ。ミューゼル中尉殿、完全にキマっておりますからな。いわゆる最高にハイな気分と言う奴です」

 

「Ha-Ha!! 我がやり場のない憤懣の炎に焼かれ、条理の中に散れ!!」

 

「言ってることと趣旨が変わってるっ!?」

 

『あれ? これもしかして同盟の捕虜になったときよりヤバいんじゃね?』と思い始めた御老体、元銀河帝国軍大佐のクリストフ・フォン・ケーフェンヒラーに対し、

 

「ハハッ、困りましたなぁ~。これはひょっとするとエコニア捕虜収容所、最後の日かもしれませんぞ?」

 

と巨漢の同盟()()()、フョードル・パトリチェフ()()は実に朗らかに笑い飛ばした。

それは単純な彼のキャラと言うより、むしろ鉄火場に慣れた者特有の余裕じみたものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

 

 

 

 

 

 

エコニア捕虜収容所の乱痴気騒ぎは、ド派手な銃撃戦を聞きつけて大慌てでやってきたムライ中佐と率いていた憲兵隊によりあっさり鎮圧され、武器の横流しやら公金横領やら何やらで私腹を肥やしていた銭ゲバの小悪党、収容所所長のコステア大佐は捕縛された。

 

同盟の軍法は存外に厳しい。

というか特権階級たる貴族の子弟がかなりの割合で混入してる帝国軍より、実は厳しい。

というのも実に皮肉だが……”自由惑星同盟が国家としての健全性を維持し、同盟軍が市民軍としての役割を担っている”からだ。

 

同盟軍とは「市民からの徴税で運営され、市民からの同意を持って国防の為に巨大な権益を持たされることが許された公営武装組織」と定義される。

逆にそれに反するような行動をとれば、軍は市民の非難が向く前に、罪を犯した者を”血税を無為に使った公共の敵”として、民法/刑法より厳しい軍法で裁く。

 

ついでに言えば軍は厳格な併合罪で加算され、今回は例えば武器一つの横流しにつき軍刑務所の刑期何年って話になる。

仮にライフル1丁の横流しの刑期が1年だとすれば、1000丁流せば単純に刑期1000年となるのだ。

罪が明らかになり、合算すればコステアはどう考えても軽く刑期1000年を越えることだろう。

そして軍では、刑期100年を越えると自動的に銃殺刑となる。

これは、同盟軍の公式な見解だが……

 

”重犯罪に手を染め、国民の信頼を裏切り国に背き軍の信頼を著しく失墜させたのにも関わらず、服役中の衣食住まで血税が投入されるのは許しがたい”

 

と言うものである。

そして軍のしたたかなところは意図的に厳しい刑罰を設定し、国民が『嘆願にて減刑を願う行動』を容認し、そして実際に嘆願が一定以上集まれば、”国民の願いによる情状酌量”という特別減刑される場合があることだろう。

要するに、

 

『軍としては国民/市民の信頼を裏切った不逞の輩を許す気はないよ? でも、皆さんがどうしてもというなら、少しくらいは罪を軽くしてやることも吝かではない』

 

というスタンスを貫けるのだ。

そう、市民軍の体裁を保つために、あるいは国民の支持を受け続けるために同盟軍は発足してから今までずっと汗を流し続けてるのだ。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

とまあエコニアの汚職軍人の始末はこうしてつけられたが、ラインハルトは駆けつけたムライ中佐に罪は問われなかったものの、メガッさ怒られた。

そりゃそうだ。

彼が無双したせいで、収容所が半壊したのだ。

なんせ装甲車だけに飽き足らず、奪った火砲は乱射するわ採掘用に積み上げてあった爆薬でインスタント・ボンバーマンははじめるわでやりたい放題だったのだから。

 

ムライは半ギレするわけでもなく、ただ淡々と被害総額を読み上げ、その金額が何を意味するのかを滔々と言い聞かせたのだ。

これはラインハルトにとり、新鮮な経験であると同時に怒鳴りつけられるより遥かに堪えたようだ。

例えば、嗜めるような静かな口調で、

 

『君が破壊した施設の修繕費があれば、一体何人の戦災孤児が進学を諦めずに済むのだろうな?』

 

と問われたときは返す言葉がなかった。

150年もの間、少なくとも建前では戦時中の国家である以上、軍の発言権は同盟でも御多分に漏れず大きい。

それでも市民、国民が困窮してないのは同盟の経済基盤が大きく、軍も国家が破綻しては元も子もないので国防費を国家予算の20%に抑えるように努力しているからだ。

 

原作がそりゃ破綻するのも当然の国家予算の40%を軍に投じてたのに比べ、その半分と言うのは驚異的な数字だ。

それでも国防予算が不足に陥らないのは、人口が10億程度少ないにも関わらず、国内総生産で倍近いの経済規模を誇るからだ。

 

参考までに書いておけば、原作での帝国と同盟の人口比率は25:13、経済比率は6:5。つまり約半分の人口で8割の経済規模を誇っていた。

つまり一人辺りGDPは原作でさえ同盟は帝国の1.6倍の経済力を持っていたことになる。

無論、この世界の同盟は国家も経済もより健全化されているため、より足腰は粘り強くなっているだろう。

 

以上のようなことを踏まえれば、この世界の同盟は原作よりも困窮はしてないだろう。

だが、だからと言って無駄に予算を浪費していいわけじゃない。

何度も出てくるが軍事予算は血税なのだ。

 

前世でも今生でもその意識が希薄だったラインハルト、改めてその意味の重さを長い説教の間中噛み締めていたのだった。

 

 

 

 

 

 

……だが、ここで終わっては片手間落ちと言うものだろう。

 

「大した人物だな。ムライ中佐は」

 

「どういう意味ですか? 中尉殿」

 

「俺が今まで生きてきた中で気づかなかったことを気づかせてくれた。それだけでも尊敬に値する」

 

この言葉に嘘はない。

ラインハルトは前世よりずっと長かったその生涯において、尊敬すべき軍人/規範とすべき軍人を問われれば、必ずムライの名をあげていくことになる。

例えば、ムライと友人であるアッテンボローが将来言い合いになったとき、まず先に話を聞くのはムライの方だったらしい。

”えっ? ラインハルトが人の話を聞いた挙句、仲裁に入るようなシチュなんかあるの?”と聞いてはいけない。

 

「そういうものですかな?」

 

「そういうものさ。ところでパトリチェフ、」

 

あえて階級を外して呼ぶ名に、

 

「なんでしょう?」

 

「お前は一体”何者”だ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ラインハルト様、ヒャッハーした後に反省でござる(挨拶

戦争ってお金かかるもんね(lll-ω-)
そしてラインハルトにきっちりお説教を聞かせるという快挙を成し遂げた風紀委員ことムライサン。
実はこの人とラインハルトは相性よいと思うんですよ。
ラインハルトも規律正しいのは好ましいと思ってますしね。
何より理路整然としていて、バカ貴族と真反対なところが心地よいんじゃないかと。

ちなみにサブタイは、英国の誇る”Queen”の名曲”ボヘミアン・ラプソディ”より。
ラプソディとは狂詩曲って意味ですから、まあ内容的にはおkではないかと(^^
凄まじく特徴のある曲な上、かなりメジャーなので聞いたことがある人も多いのではないでしょうか。




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第020話:”名探偵ラインハルト”

なんとか寝る前に書きあがったので深夜アップ。
それにしてもこのシリーズもようやく20話になりました。

1年以上エタったのに、待っていてくれた皆様に改めて感謝を。
そして再開後から読んでくださる皆様、これからもよろしくお願いします。

20話記念という訳じゃありませんが、久しぶりというか……再開後は初めてとなる書き方をしてみました(^^




 

 

 

「ところでパトリチェフ……お前は一体”何者”だ?」

 

俺はあえて階級を抜いて告げた。

ああ、久しぶりだな。ラインハルト・ミューゼルだ。

少々羽目をはずし、ムライ中佐にたしなめられてしまった。

ああ、格好の悪いところを見られてしまったな。

 

「中尉殿、どういう意味でしょうかな?」

 

俺はちょっと呆れてしまう。

 

「いくらなんでも俺を馬鹿にしすぎだ。フョードル・パトリチェフ……俺のエコニア着任に伴いお誂え向きに用意された”案内人”で、補給科の下士官……そんなわけあるか」

 

「ほう……その論拠は? 差し支えなければ聞かせていただきませんかね?」

 

「まずは階級だ。曹長と言えば、一兵卒にとっての将軍だ。常設されてない……その条件を満たす者が現れた場合のみ任官される上級曹長を除けば、ノンキャリアの最上位。パトリチェフ、お前は若すぎる」

 

こう見えても俺の”もう一つの記憶”じゃ、それなりに人間を見てきたんだ。

 

「大きな図体で誤魔化せると思ったのだろうけどな……老けたように振舞ってみても、俺よりは確かに年嵩だろうがまだ三十路にも届いてはいまい? それにお前の動き、補給係のそれじゃなかったしな」

 

「……なるほど」

 

「次にあの腰巾着の副所長、たしかジェニングスと言ったか? あの俗物が何故俺を不正調査にやってきた”秘密監察官”などと荒唐無稽な勘違いをした?」

 

そう、俺が謀殺されかかった理由は実につまらん。

所長も副所長も俺を秘密監察官と勘違いしたせいだ。

まったく濡れ衣にもほどがある。

 

「だが、考えてみればおかしな話だ。俺は士官学校出立ての若造で、船乗りの教育しか受けてはいない。年齢を誤魔化せばちょっとした諜報の訓練程度ならできるだろうが……面白くも無いことに、今や俺の大まかなプロフィールは多くの市民が知るところ。経歴を誤魔化しようが無い」

 

まったく。これも過剰に盛り上がったマスコミどものせいだ。

同盟にはプライバシーの侵害だの、個人情報保護だのといった概念はあるが、軍が積極的に俺たち……”エル・ファシルの三銃士”とやらをプロパガンダに使う以上、そのあたりは考慮されないらしい。

 

同盟は帝国に比べるならそう悪い国じゃないが、あの”報道の自由”とやらは、一軍人としては鬱陶しいことこの上ない。

実際、報道の自由を「無責任な放言が自由」と勘違いしてる輩が多すぎる。

 

(大人であるなら、自分の発言に責任を持たねばならんというのに。報道の公共性を考えれば尚更だ)

 

とはいえそれも必要と言うことであれば、納得せざる得ないのだがな。

 

「俺が万が一にも死ぬようなことがあれば、軍だってただでは済むまい? 自分では言いたくはないが、俺は有名人だからな。以上のような条件を踏まえれば、俺ほど捜査官に不適任な人間はいない……だが、あの小悪党共は何故信じた?」

 

それは知れたこと。

 

「そう思考を誘導する者がいたからだ。その誘導した人物こそ、本物の”秘密捜査官”だろうさ」

 

俺はパトリチェフを睨みつけ、

 

「だろう? パトリチェフ”秘密捜査官”殿」

 

 

 

「そう来ましたか……」

 

「とはいえ階級やら所属を偽るのは重大な軍規違反。だが、それを任務の関係で合法的に出来るセクションがある……」

 

そう、例えば……

 

「情報部の潜入捜査官とか、な」

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

”パチパチパチ”

 

「いや~、お見事ですな! 大した推理力と洞察力ですな? 売れっ子作家の血筋は伊達ではなく、この一連の流れが推理小説なら実に面白い。遺伝子は実にいい仕事をしたもんだ。ですがね……」

 

パトリチェフはにやりと笑い、

 

「肝心の証拠が無い」

 

そりゃそうだろう。

体躯から考えればありえない機敏な身のこなしや、普段の暢気さを装った言動……こいつが俺のような捜査の素人に尻尾を掴ませるような間抜けには見えん。

 

「まあな。ムライ中佐や憲兵隊の”良すぎるタイミングの登場”を言ったところで、所詮は状況証拠にすぎん」

 

だから、こやつの身分をこれ以上掘り下げる気はない。ネタが無いならしかたないだろ? 探すだけの時間もなかったしな。

なので切り口を変えてやろう。

 

偽装身分(アンダーカバー)とのマッチングは最悪だが……」

 

「酷い言い草ですな」

 

「まあ聞け。お前は優秀すぎたよ、パトリチェフ」

 

「英雄殿にそう評されるとは子々孫々まで自慢できますな」

 

「フン……」

 

いつまでその余裕が待つかな?

 

「お前は優秀だ。こんな辺境で起きた、ケチな横流しだの横領だのなんて捜査で来るとは思えないほどにな。どちらかと言えば汚職捜査は隠れ蓑、本命の捜査は別にある」

 

「……どういう意味でしょうか?」

 

「ケーフェンヒラー元大佐の考察と史的研究」

 

”ぴくっ”

 

「あのご老体がどうかしたので?」

 

わずかに表情が動いたな?

 

「”ミヒャールゼン提督の暗殺”、”ジークマイスターの亡命”そして”ブルース・アッシュビーの軍事的成功”……繋がるはずのない三つの事象をつなげる線があるとすれば?」

 

ならばここから先は俺のターンだ。

隙を見せたお前が悪い……!!

 

「そんなに自由惑星同盟にとって都合が悪いものなのか? ”英雄ブルース・アッシュビーと銀河帝国の地下革命組織が繋がっていた”という現実は?」

 

 

 

妙だと思ったんだよ。

秘密捜査官がパトリチェフであったとしても、俺に濡れ衣を着せて身代わりにするのはリスクが高すぎる。

言いたくないが、俺は今世間で注目されすぎてる。

 

(だが……)

 

()()()()が関わってるとなれば話は別だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




以上、ラインハルト様視点でした(挨拶

今回、パトリチェフに原作とは違った立ち位置を与えてみましたが、いかがでしたか?
ラインハルト視点で描くのは大変ですが中々楽しかったです。
”らしさ”が出ていれば嬉しいのですが。



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第021話:”その男、パトリチェフにもたれかかるように……”

今回でエコニア篇は終了です。
果たして、ケーフィンヒラーの運命は……?




 

 

 

エコニア捕虜収容所に来た直後……馬鹿騒ぎに巻き込まれる前、俺は40年も収監され一種の牢名主のような立ち位置にいたクリストフ・フォン・ケーフェンヒラー元帝国軍大佐の下を訪れていた。

 

正確には入り浸っていたというほうが適切だろう。

別におしゃべりに花を咲かせるためじゃない。ただ、この男……第二次ティアマト会戦でコーゼル大将の艦隊において情報参謀を務め、あの戦いで捕虜になって以来、牢の中でひたすら研鑽を重ねた歴史的洞察に興味があったからだ。

正確には、その能力を確認したいってところか?

 

職務怠慢も甚だしいが、この任官が過熱気味のマスコミから俺を遠ざけるための一種の休暇配置だということは事前に知らされていたわけだし、怠惰といわれる筋合いはない。

それに赴任の建前は”ブルース・アッシュビーが謀殺された”という内容の調査だ。言い方を変えれば、俺は職務を忠実に行っているな。

そしてある程度、ケーフェンヒラーがまとめていた資料を読み終えると、

 

「つまり、こういうことであろう?」

 

俺はもう一つの人生を生きた記憶も手繰り寄せながら、

 

「”ミヒャールゼン提督の暗殺”、”ジークマイスターの亡命”そして”ブルース・アッシュビーの軍事的成功”……繋がるはずのない三つの事象が全て一本の線で繋がっていると」

 

そう俺は切り出した。

 

 

 

「ほう……面白いことを言い出すな? ボウズ、お前は何を見て、何を読んでそう結論付けた?」

 

どうやら俺はケーフェンヒラーの興味を引く事には成功したようだ。

ボウズ呼ばわりされても特に腹もたたんから不思議なものだ。

おそらくは目の前のこの男に、確かに俺をボウズ呼ばわりできるほどの風格……老木の年輪のようなそれを感じさせるからだろう。

 

「参考にしたのは貴官が集め、まとめた資料だ。付け加えるなら、俺の先輩はたいそう歴史好きでな。特に歴史ミステリーだの歴史上の謎解きだのに目が無い。俺も少なからず影響を受けてるのさ」

 

完全な嘘という訳ではないぞ?

答え合わせをしようか。

無論、俺はこの場にある資料だけで推論を完成させたわけじゃない。

というよりむしろ、俺は最初から”知っていた”のだ。

何を?

自由惑星同盟軍上層の命により25年間の封印指定がなされたB級機密事項、通称”ケーフェンヒラー文書”を、だ。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

もう一つの人生において、俺は今と違う意味で先輩、いや”ヤン・ウェンリー”なる人物をよほど気にかけていたらしい。

俗っぽい言い方をすれば、”宿命の好敵手(ライバル)”と言ったところか?

実際、一度も勝てなかったようだしな。

姉上はいともあっさり勝ってしまったが……

 

いや、断じて俺が姉上に劣るという意味ではないぞ?

世の中には相性というものがあってだな……

まあ、それはよい。

 

だから同盟を瓦解させた後(今の俺にはひどく違和感がある言い回しだが……)、ロイエンタールが接収した資料の中に”それ”はあったのだ。

若き日のヤン・ウェンリーがまとめた資料というだけで十分に興味引かれたが、それが四半世紀もの間封印が必要とされた機密文章ともなれば、俺が即時送るよう命じたのも無理はあるまい?

 

 

 

”ケーフェンヒラー文書”

これを読み終えたときの俺の率直な感想は、

 

『どうりで25年封印されるわけだ。書かれた時から四半世紀の時が経てば、当時の関係者は全員ヴァルハラへと旅立ってるだろうからな』

 

端的に言えば、ヤン・ウェンリーがまとめたそれは”歴史の暗部”に他ならない。

 

始まりはおそらく、マルティン・オットー・フォン・ジークマイスター大将かそれに近しい人物が帝国内に立ち上げた、ゴールデンバウム王朝あるいは貴族政治打倒を目指した地下組織だ。

だが地下活動を続けるうちに独力での帝国の変革あるいは革命は不可能と判断した。

 

妥当な判断だろう。俺が生きただろう時代と違い、当時のゴールデンバウムはそんなに衰えた国家ではない。

そこでジークマイスターは考えた。”自由惑星同盟”を僭称する敵対勢力の手を借りようと。

つまり敵の敵は味方と言う発想だ。

 

そこでジークマイスターは自分の地下組織を後任のクリストフ・フォン・ミヒャールゼン中将に預け、自分は同盟に亡命しおそらくはブルース・アッシュビー、あるいは彼を含む何らかの同盟組織と接触をもった。

 

つまりアッシュビーの驚異的な戦果は、ミヒャールゼンが帝国で集めた情報をジークマイスターが伝えたうえではじめて成り立つもの……ということだ。

 

だが当初はうまく機能したWin-Winの関係も、アッシュビーの戦死で破綻する。

そして帝国ではミヒャールゼンが粛清され、”幻の革命”は幻のまま歴史の狭間に消えた……

 

 

 

「俺の推測はこんなところだ。素人の推測だから穴だらけかもしれんが」

 

とはいえ先輩……ではなくヤン・ウェンリーのレポートだ。的外れと言うことはないだろう。

あの先輩、首から上は俺から言わせても化け物だからな。

たまに人類のカテゴリーに入れていいか疑いたくなる。

 

「補足するなら貴官がミヒャールゼンと、帝国内で地下組織の摘発を行っていたとおぼしきコーゼルに仕えてたというのも論拠になるかな?」

 

「ははっ」

 

その時のケーフェンヒラーの笑みはひどく乾いていた。

 

「ボウズ……仮にそれが正解だったとして、お前はどうするつもりだ? いや、どうしたい?」

 

面白い聞き方をするな。

だが、その前に伝えなければならない事がある。

 

「ケーフェンヒラー……俺が今言ったままのことを報告書に書けば、」

 

俺は一度言葉を切り、

 

「確実に消されるぞ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

 

 

 

 

 

「パトリチェフ、おそらく今回の騒動を片付けた功績……という口実で、おそらくケーフェンヒラーは釈放となる。なんだったら恩給とかもつくかもな?」

 

「……そうかもしれませんな」

 

おいおい、推定情報将校。表情が微妙にこわばってるぞ?

 

「ところで、釈放されたケーフェンヒラーが公式に同盟へ亡命するという話は聞いているか?」

 

「はっ……?」

 

そりゃ聞いてないだろうな。

 

「俺がそうするよう説得した。ついでに言えば作家としてデビューすることも了承済みだ。あの爺様には文才があるし、幸い俺……ではなく父のツテだが、出版業界にコネもある。おそらくトントン拍子に話は進むだろうさ」

 

「一体何を言って……」

 

「デビュー作は、第二次ティアマトの裏で繰り広げられる手に汗握るスパイゲームが題材だ。帝国に潜入した同盟諜報員ジャック・スチュアートと帝国情報部の対決が骨子となる」

 

「そ、それはどういう……?」

 

「まだわからんか?」

 

そこまで混乱する言い回しはしてない筈だが?

 

「爺様が半生賭けて突き止めた”()()”は、永遠に表に出ることは無い」

 

パトリチェフは更に困惑する。

ここいらが攻めどころか?

 

「あれはただ、歴史小説の執筆が趣味の爺さんにすぎん。俺はそのような内容を報告書に記すつもりでな」

 

「それに口裏を合わせろ……と?」

 

俺は無言をもって肯定とする。

 

「だから、お前さんが用意した”()”を出所祝いの一杯に盛る必要はないということだ」

 

 

 

 

 

ヤン・ウェンリーのレポートを読んだ俺は、その後の顛末も知っている……

ケーフェンヒラーは出所と新年の祝杯、アルンハイム印ハドリアン・ビールを呷った後、”()()()()()()()()()()()()()()()()”死んでいるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




最後、ラインハルト様がパトリチェフをやんわりと脅したでござる(挨拶

今回もラインハルト視点でしたが、いかがだったでしょう?
このシリーズでは、”推定有罪(クロ)”でケーフィンヒラーの謀殺説をとってます(^^

つまりこの世界では、原作のような”ケーフィンヒラー文書”が書かれる事はなさそうです。
その代わり、元帝国軍大佐という経歴を持つ年嵩の新人小説家が生まれそうですが(笑



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第022話:”ハイネセンの、特にどうと言うことはない酒場にて”

週末に書き溜めたストック分、最後の一つが書きあがったので投稿します。

エコニアの後日譚的な話でもありますが……
いや~、本来この時点では出てきてはいけない人が出てきてたりしてます(^^




 

 

 

惑星ハイネセン某所、とある酒場

 

「よう、パトリチェフ」

 

店に入ってきた軍制服のブルゾンに”()()()()()()()()()”をつけた大男に手を上げたのは、

 

「”バグダッシュ”。待たせたか?」

 

バーの止まり木(スツール)に座るちょび髭を生やした小洒落た雰囲気を漂わせる、引き締まった長身の男だった。

同じく同盟軍のブルゾンに大尉の階級章付だ。

 

「いんや。それより何か頼めよ? 酒場で酒抜きじゃ逆に目立つ」

 

「そうだな……じゃあハドリアン・ビールを。できればアルンハイム印のを」

 

「ん? 酒の趣味が変わったのか?」

 

「まあ、色々あってな……」

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

「ほ~う……エコニアで、そんなことがな」

 

外で仕事の話をするのは危険……それが常識の世界の男達だが、そこはそれ。

まず、酒場のチョイス。

情報部で”色々と”確認された店であり、また予約などを入れる必要が無い店であること。

つまり、彼ら二人のカスタマイズされた個人端末から情報を抜かないかぎり、この二人が今夜この店に来る事は予想不可能だろう。

また、尾行に関してもチェック済み。

更に私服ではなく、あえて軍服で来てるのもわざとだった。

 

そして話で使う単語(隠語)と言い回し……それは軍情報部の人間でなければ、正しく意味は理解できないだろう。

 

「凄い……というより恐ろしい青年だったよ。コッチの手口なんて筒抜け、まるで任務前に受けたレクチャーの内容まで全て知ってるような口ぶりだった。そんな筈はないんだがね」

 

「そりゃご愁傷様だな。んで? ()()()()しなくて済みそうなのか?」

 

「現状、する意味が無いって判断だ。余生をパルプ・フィクションの作家として過ごすなら問題はないってな」

 

「そいつは重畳。出来れば老いた新米作家が、現代のイアン・フレミングやフレデリック・フォーサイスにならんことを」

 

バグダッシュの言葉は、見事にケーフェンヒラーの未来を言い当てていた。

ケーフェンヒラーは無事に老後、あるいは余生と言う時代を「スパイアクション物を得意とする人気娯楽作家」として大過なく過ごすこととなる。

映像化された作品も排出し、多くのファンに惜しまれながらこの世を去った。

享年93歳、文句なく大往生である。

 

 

 

「また古典作家を引っ張り出してきたな……ところで、そっちはどうなんだ?」

 

「あ~、こっちか……」

 

するとバグダッシュは困ったような顔で苦笑し、

 

「軍大学の同級生って形で入れたまではよかったんだがな……」

 

バグダッシュの目がなんとなく死んだ魚を髣髴(ほうふつ)させる色合いになると同時に、不思議とつけた大尉の階級章がくすんだ気がした……

 

「ターゲットから接触してくるなり、いきなり情報部の人間だとバレて資料提供に協力させられてる」

 

「ほわっと!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

 

 

 

 

 

 

舞台は少し前の軍大学キャンパスへと遡る……

 

 

 

バグダッシュ、同盟軍情報部大尉”ナポレオン・バグダッシュ”は、今回の任務に不満は無いが文句はあった。

 

(何で俺がわざわざ一介の将校の私生活を見張らにゃならんのだ?)

 

今回、彼に与えられた任務は”ヤン・ウェンリーの()()()()()”だった。

 

相手は”エル・ファシルの三銃士”と最近巷で持て囃されている青二才だ。

資料を読んだときの第一印象は、

 

”冴えないやつだなぁ~”

 

だった。

顔立ちは整っているが、精悍さと言うか……軍人らしさがとことん欠落していた。

どこかの学術機関の研究員という肩書きなら納得できそうだ。

実際、歴史が得意な上に好物だとバグダッシュは資料で読んでいた。

 

エル・ファシルの三銃士とひとくくりにされているが、実際には世間の注目はアーサー・リンチ中将とラインハルト・ミューゼル中尉に大部分注がれていた。

 

前者は若かりし頃は”悪童”、最近になっては”闘将”という呼び方が定着した傑物で、戦意が高く部下の信頼も厚く(ただし自分たちを侠客に準えるなど、堅苦しい面々から問題視される行動も多い)、元々「近い将来、どこかの正規艦隊司令官になるのでは?」と思われていた。そして、今回の一件も重なり確実視されている。

言い方はアレだが、彼の率いる艦隊が同盟軍内でも”リンチ一家”で通ってしまう名物提督でもあるのだから、これは納得できる。

 

そして後者は……とにかく容姿がすばらしい。

長身で細身だが、決して華奢ではなくむしろ精悍さが滲み出て、恐ろしさを感じるほど整った風貌には強い意志を感じさせる……

きっと同盟/帝国を問わず、「理想的な若手将校」を具現化させたらこのような容姿になるのではないだろうか?

 

事実、軍上層部は早速、ミューゼル中尉をモデルとした志願兵募集のポスターをはじめとする映像メディアの大量製造と流布を始めたとバグダッシュも耳に挟んでいた。

ただ、ポスターなどはすぐに盗まれてしまい、その犯人の大半が歳若い婦女子だというのだから担当者は頭を抱えてるそうだ。

まあ、同盟軍は民主化が進んだ軍隊で、全人員の3割強が女性であることを考えれば、全くの無駄ではないことが救いと言えば救いだ。

 

 

 

対してヤン・ウェンリーという男はどうだろうか?

脱出作戦を立案、主導的な役割を果たしたというが……

 

(だが、エル・ファシルの住民達によれば、ほとんど印象に残ってないという……)

 

それは逆に言えば、艦隊の8割以上を失いながら戦い抜いたリンチや、”名演説”と評してよい弁舌を用いて市民達を奮い立たせ、意識を一つに纏め上げたラインハルトが強烈な印象を残しすぎたともいえる。

 

”影の功労者”……リンチが持ち上げなければ、ヤンの功績もおおっぴらにならず、狭い範囲の軍関係者のみがそう評していただけかもしれない。

事実、遡ってみても士官学校時も尉官として任官した後も、客観的な成績(スコア)だけ見れば極端に優秀と言うわけでもない。

 

(主観的には、全く違う評価もある……)

 

今回、たまたま入学が許される大尉という階級だったバグダッシュが、わざわざ”軍大学の同級生”名目で派遣された理由も『有名になった三銃士の中で一番地味な奴で、一番地味な配置転換だから()()()()()()()()()()と接触して欲しくない』という、エル・ファシルの三銃士の英雄譚的プロパガンダの早期消滅や悪用、反転悪化を嫌った軍の判断だった。

 

好ましくないというのは、例えば左翼的あるいはパヨク的反戦活動家(こういう輩も当然、国家の健全性を保つ必要悪という政治的理由で存在が許容されている。ただし野放しではない)から始まり、国家としては”過ぎたるは及ばざるが如し”と言いたくなる真逆の思想を持つ極右的政治結社、当たり前だが帝国の諜報員や破壊工作員、暗殺者。あるいはフェザーンのハニトラ要員というのも違う意味でタチが悪い。

極右と言えば”憂国騎士団”が出てきそうだが……アレは中身が怪しすぎる。極右団体の看板を掲げた別の何かだ。

 

要するに高まった名声が地に落ちれば、それを使ったプロパガンダも一気に政府や軍へのネガティブ・キャンペーンに早変わりしてしまうということだ。

 

まあ、現在ターゲットが居候しているミューゼル家……同盟屈指の人気恋愛作家で、今や同盟亡命者社会の重鎮に数えられる当主の娘といい仲となるのは、宥和政策の名の元に亡命者の積極的な取り込み(と地味な帝国の切り崩し)を標榜する政府にとっても軍にとっても都合が良いので、どんどんやってくれということだろう。

 

だが、

 

「やあ、始めまして。君がバグダッシュ大尉かい? ()()()()の」

 

軍人らしくないということ以外は結局はよくわからないヤン・ウェンリーを無意識のうちに甘く見ていたことを、バグダッシュはこの後、酷く後悔する事になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




バグダッシュに”巻き込まれフラグ”、”苦労人フラグ”が立ちました♪(挨拶

正確には、幻想入りならぬ”ヤン・ファミリー入り”フラグですかね?
やったねヤン! 多分、構成員(ファミリー)が増えるよ♪(情報士官枠?)

まあ、これもヤン覚醒の一環だと思っていただければと(^^





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第023話:”得体の知れない奴”

今回は珍しい語り部を登場させてみました(^^
多分、”彼”視点の書き方は銀英伝二次でも珍しいのではないかな~と。




 

 

 

俺が軍大学のカフェでコーヒーを相棒にこれからの任務の方針を思案していると……

 

「やあ、始めまして。君がバグダッシュ大尉かい? ()()()()の」

 

”ぶほっ!”

 

テーブルを挟んだ前の席にいきなり座った男……監視対象者(ターゲット)であるヤン・ウェンリーご本人サマときたもんだ!

思わず飲んでたコーヒーを吹いた俺は悪くないと思うぞ?

 

「な、何を言ってるんだ? 私は主計科の……」

 

「いや、普通に情報部だろう? 立ち振る舞い、言動、食事の作法まで全てが君が情報部の人間であることを、無言かつ雄弁に告げているんだけどね」

 

ちょっと待て……何か聞き捨てならないというか、ツッコミ所満載な話を聞いた気がするんだが?

 

「コホン……それでは流石に小官を情報部将校と断定するには……」

 

すると、眼前の黒髪の悪魔(ヤン・ウェンリー)は苦笑しながら、

 

「私は情報将校とは言っても、情報()将校とは言ってないんだけどね?」

 

グッ……しまったぁ~っ!

 

「か、仮定として……もし、貴官の言うとおり小官が情報将校だとして、一体何の用だね?」

 

すると事も無げに、

 

「どうせ任務は私の監視とかだろう? なら、どうせ暇じゃないのかと思ってね。調べてわかったかと思うけど、私にはこれと言った後ろ盾も無ければ、特殊な交友関係も無い。生まれはともかく育ちは船上でってのは同盟では珍しいかもしれないけど、フェザーンじゃありふれたものだ。事故で天涯孤独ってのは、確かにそうありふれたものじゃないけどね」

 

ばれてーら。

いや、どうすんだよこの状況……

 

「ああ、私の護衛名目で監視者が来るのは予想してたことだから、正直迷惑な反面、ありがたいとも思ってるよ。少なくともボディガードや警備員を雇う手間が省けそうだしね」

 

「そりゃ結構なことで」

 

頭を抱えたくなる衝動を無理矢理押さえ込みつつ、舌先三寸でどう言いくるめてやろうと思案していると、

 

「結構ついでに言わせてもらえれば、私のスケジュール帖には生憎と”()()()()()()()()()()()()”との面会予定は入ってない。というわけで君も突発イベントさえ発生しなければ、閑職と言ってもいいくらい暇になると思う。そこで提案さ」

 

……絶対ろくな提案じゃねぇだろ!!

 

「君があえてどこの所属かは深く追求しないことにするけど、情報関係の軍人ってことは私より確実に上位情報へのアクセス権限をもってるね?」

 

「まあ、そりゃ確かに……」

 

普通の新任大尉よりは、確実に機密度の高い情報へはアクセスできるだろうが……

 

「そこでバグダッシュ大尉、君の権限を使って情報提供を頼みたいのさ」

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

言ってることは極めて合理的で、考えようによっては妥当な要求かもしれんが……

 

(だが、この得体の知れなさはなんだ……?)

 

俺は無意識に懐に忍ばせてる護身用の拳銃、ブラスターではなく今時珍しい火薬式の実体弾拳銃”コルト・パイソン・レプリカ”に手を伸ばしたくなる衝動に駆られた。

普段なら下手なハンドブラスターよりずっと頼りになる相棒だが、

 

(しかし、抜いて眉間に狙いをつけて引き金を引いたところで……)

 

本当にコイツを殺せるのか?

人間に対する感想じゃないが、俺はそう思うことを止められなかった。

軍人という職業とは対極にあるような温和な雰囲気と、大して鍛えられてないことが丸わかりの体つき……一見すると苦も無く抹消できそうだが、

 

(だが、そうはならない気がする……)

 

根拠なんてのは無い。

ただ、目の前の男を”()()()()()()()()”気がしたのだ。

つまり、死ぬべきときが来る瞬間までこの男は殺せない……そう思わせるだけの何かがあった。

 

「大尉の望む情報とは?」

 

だから俺は切り口を変える。

とりあえず、この男を知ることからはじめるのが賢明だろう。

欲するものがわかれば、その人格の欠片程度は見えてくる。

 

「とりあえず欲しいのは、イゼルローン要塞の概要。特に主要塞砲のγ線レーザー(トール・ハンマー)の威力と有効射程距離……別に正解じゃなくていいよ? 私が知りたいのは、”軍上層がこう判断してる”って情報だ」

 

「は?」

 

「集められるなら……そうだな。帝国側の提督と、将来提督になりそうなその予備軍の情報が欲しい。これも、”同盟軍側の主観でどう見てるか?”が重要だね」

 

「大尉、貴官は一体何を調べようと……」

 

いや、そうじゃない。

 

「何を探ろうとしているので?」

 

本気で、この男が何を考えてるかわからないんだが……

 

「究極的に言えば、”帝国との()()()()()”を改めて見直してみようって試みなんだけどね」

 

その男は頭を掻いて、

 

「だけど、今はまだ”その段階”じゃない。だから、」

 

小さな笑みを浮かべ、

 

「とりあえず取っ掛かり易いとこから始めようと思ってね」

 

 

 

「大尉は、イゼルローン要塞が取っ付き易いと?」

 

あの難攻不落の代名詞がとっつきやすいと?

 

「これまで4回攻めてるんだ……それなりに信頼できる精度の資料がそろってるだろ?」

 

同盟が持つ情報学的な意味でやりやすいってことか?

そりゃあ、同盟将兵の血と引き換えに得た情報だからな……

 

「敗戦の歴史なのに?」

 

「敗戦の歴史”()()()()()”、さ。人が失敗から学べる生き物である以上はね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




コルト・パイソンは実は微妙に中の人ネタ(挨拶

今回はちょっとだけ”本気を見せ始めたヤン”の片鱗でもかけたらな~と思ってたら、何故かバグダッシュに「得体の知れない奴」認定されたくさいでござる(笑



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第024話:”イゼルローン要塞 ~その幻惑と本質~”

いよいよ、ヤンの考察回が始まります。
そしてテーマはイゼルローン要塞……ヤン・ウェンリー、早速未来を変えにかかる?




 

 

 

「バグダッシュ大尉、根本的な事を聞いていいかい?」

 

「まあ、せっかくですので何なりと。全てを答えるとは約束できませんが?」

 

いつの間にか”上位者に対するそれ”に口調が切り替わってることに自分で気づかないバグダッシュに対し、

 

「かまわないさ。では、どうしてイゼルローン攻略は4回も失敗したのかな?」

 

「ふむ……結果から言えば、同盟側の攻撃力不足ですな。防衛艦隊に頑強な構造、加えてトール・ハンマー……確かに難攻不落と呼ぶに相応しい」

 

「なるほどね……」

 

だが、そのヤンの表情は回答に満足しているものではなかった。

 

 

 

「では、話の論点を変えようか? そもそもイゼルローン要塞とは”()()()”?」

 

「銀河帝国が巨万の富を投じて完成させた難攻不落の要塞。対同盟の最前線基地。今更でしょうに」

 

「では、その本質は?」

 

「本質?」

 

怪訝な顔をするバグダッシュに、

 

「あれは攻性の建造物? それとも防性の建造物? 大尉はどう思う?」

 

まるで教師が問いかけるような優しい口調に、

 

「攻性……でしょうな。作られた当時はともかく、現状では。何しろイゼルローンを基点に同盟への攻撃艦隊が出てくる以上」

 

バグダッシュの言葉は今の同盟士官、あるいは将官にとっては自然と出てくる感想だろう。

ヤン自身も、ついこの間エル・ファシルで経験したばかりのはずだった。

 

「なるほどね……大尉、君は優秀なようだ。君だけじゃなく同盟軍の大半は私より優秀なんだろ……だからこそ”幻惑”されるのかもね」

 

 

 

「幻惑?」

 

「ああ。戦力の幻惑効果……保有戦力のせいで本質を見誤る。昔からよくあることさ。なまじイゼルローンがスタンディング・アローンでそこそこの戦力を蓄えてるからそれが可能なんだろうけど。やれやれ、帝国も面倒な事をしてくれるよ」

 

ヤンは紅茶を一口含むと、

 

「イゼルローンは建造された当時から、欠片ほどもその役割を変えてないよ。どれほどの艦隊を格納しようと、何度同盟領へ艦隊を送り出そうとね」

 

そして一旦目をつぶり、思考をまとめてから

 

「イゼルローンは建造されたその瞬間から今まで、ずっと”ここが同盟と帝国の境界線”であることを示す”国境の砦”なのさ。少なくとも帝国が持ってる間はこの先もね」

 

 

 

「はあ?」

 

バグダッシュはおかしな声をあげると、

 

「いやいや、大尉。それはおかしいでしょう? 近年の帝国の行動を読む限り、イゼルローンは前線基地であり、同時に同盟攻撃の要……攻性拠点と呼ぶに相応しい陣容ですって」

 

「本当に?」

 

「えっ?」

 

「これは盤面を逆さにした方がわかりやすいかな?」

 

そう呟くと、

 

「それを君から情報提供してもらうつもりだったけど……まあいい。バグダッシュ大尉、トール・ハンマーの射程は実は艦砲の有効射程距離と比べても大分短い。私が閲覧できる程度のデータでも10光秒も無いのが見て取れる。拠点としての機能を考えるなら、帝国でも滅多に出せない遥か1万光年彼方からわざわざ遠征しに来る大艦隊の前線補給基地として使うならともかく、イゼルローンに常駐している防衛艦隊は同盟軍基準で多くても2個正規艦隊くらいだろう。要塞自体の純粋な硬度は並外れたものかもしれないけどね」

 

腕を組み、

 

「だけど……”こんな()()()()()()()”で、バグダッシュ……君なら一体、同盟のどこを攻撃するんだい?」

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

「中途半端な戦力、ですか……」

 

確かにヤンの言うことももわかる。わかるが、

 

「しかし……現に大尉のいたエル・ファシルは攻撃されておりますが?」

 

「ああ、あれか……」

 

ヤンは頭を掻きながら苦笑し、

 

「あのエル・ファシル攻撃は、純軍事的な意味はほとんどないよ。確かにリンチ少将の地方艦隊は壊滅したけど、あれだってイゼルローンから分派された駐留艦隊の手助けがなければ不可能だった。むしろ、あの貴族たちの尻拭いをする羽目になった提督には同情すら覚えるよ」

 

とヤンは、いずれ強敵となり前へと立ちはだかることになるだろう、今はまだ顔も名も知らない男に思いを馳せながら、

 

「ただの偶発的な戦闘……と言いたいとこだけど、結局降りかかる火の粉を払っただけの仮称”エル・ファシル脱出戦”が起きた背景を考えると、存外に面白いし……」

 

ヤンはニヤリと笑い、

 

「イゼルローン要塞の本質も見えてくるのさ」

 

 

 

「またしても本質ですか……」

 

「まあ、言うほど難しい話じゃないよ。一つは……というか、建前としては”貴族のガス抜き”さ」

 

「貴族のガス抜き?」

 

「イゼルローン駐留軍って単位で見れば、むしろこっちの理由の方が大きいよ。マンハントやるような色々と我慢やら脳味噌やら足りない貴族を、無理にイゼルローンに詰め込んでおいたらどうなるか……今や帝国軍のほとんどは平民だよ? なんせ”第2次ティアマト会戦”以来、提督でも当たり前のように平民出身者が出てきてるくらいだ」

 

帝国で言うところの”軍務省にとって涙すべき40分間”において、帝国は大量の貴族軍人を失った。

それが帝国軍の編成に大きな影を落としたのだが……

 

「だけど、一部の例外を除けば貴族の平民に対する意識は、全くと言っていいほど変わってない。嘆かわしいことにね。貴族の平民に対する横暴は、むしろ君たちの方が詳しいだろ?」

 

そして、そんなのをただでさえストレスがたまりやすい閉鎖環境に置いておけばどうなるか?

大半の貴族たちにとっては、イゼルローンの勤務はいわゆる”箔付(はくつ)け”、貴族社会で「自らの輝かしい軍歴」を誇るための短期配置に過ぎない。

言ってしまえば、「帝国の藩屏として責務を果たすため最前線で戦った」と主張したいのだろう。

 

「彼らにとってはイゼルローン要塞の中で篭っていても民間人のマンハントでも、”最前線で戦い、叛徒に裁きの鉄槌を下した”ってことになるみたいだしね」

 

「それはわかりましたが……その言い回しだと、まだ裏がありそうですな?」

 

「裏というより別の視点さ」

 

「別の視点?」

 

「ああ。帝国の上層部……いや、”()()”から見た視点。例え帝国と言う国が政治的力学バランスを貴族に偏らせていても、素人同然の貴族を平民だらけのイゼルローンに置いておく事、ましてやある程度……好き勝手にマンハントをやる程度の自由裁量を黙認するってのは、決して良い結果は生まない。下手をすれば平民との軋轢で重大な士気崩壊が起きるかもしれない。大尉、知ってるかい?」

 

ヤンは面白そうな顔で、

 

「古来より、強固な城やら砦やらってのは、外敵に陥落させられるより内部から崩壊するほうが多いんだ」

 

そして笑顔のまま、

 

「帝国の歴史は貴族専横の歴史でもある。またそれに対する叛乱の歴史でもね……そのリスクがわかってないとは思えない」

 

「そのリスクを抱えてもなお、専横を黙認するメリットがある、と?」

 

「然り」

 

ヤンは鷹揚に頷き、

 

「帝国の上が、期待し望んでるのは……」

 

『挑発さ。無自覚のね』とヤンは言い切った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




とりあえず、”ヤンによるイゼルローン考察:序章”って感じです(挨拶

前書きにもちらりと書きましたが、ヤンは色々思考的アップを始めたようですよ?
彼の覚醒が、あるいは”怖さ”が少しずつでも表現していけたらと(^^



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第025話:”化物の片鱗”

バグダッシュ・エンカウントイベントのオチになります。


 

 

 

後年……伝説が歴史へと変わった日々すらも過去になり数多の英雄たちがヴァルハラへと旅立った頃、ヤン・ウェンリーという数多くの二つ名を持つ英雄を評する一説にこんな物がある。

 

『戦場のみならず、空間あるいは時代と言うもの全体をまるで俯瞰として捉えているところがあった。それはまるで未来の歴史家が、現在について語るがごとき姿だったという』

 

 

 

 

 

 

「挑発……ですか? 同盟に対する?」

 

確かに同盟を挑発してるのに、”馬鹿で横暴な帝国貴族”ほど向いてる存在はいないだろうが……

 

「ああ」

 

首をかしげるバグダッシュに、ヤンは小さく頷いた。

 

「大尉、イゼルローン要塞が……いや、要塞を運営している帝国上層部が何を一番恐れると思う?」

 

「そりゃ普通に陥落でしょう」

 

だが、ヤンは首を横に振り、

 

「いや……”彼らが企図する現状”が上手く機能してる以上、その可能性は排除してるはずさ。私でもそうするよ」

 

「……どういう意味です?」

 

「後で説明する気はあったんだけど……とりあえず、”同盟が対イゼルローンのドクトリン変更”をしない限り、あの要塞は簡単に陥ちはしないよ。同盟はそういう風に思考誘導されてるし、その規定あるいは想定が崩れない限り間違いなくイゼルローン要塞は強い」

 

だから、

 

「ならその前提を崩せばいい。いいかい、大尉……イゼルローンが一番恐れるのは、”同盟から()()()()()”ことさ」

 

 

 

「はあっ!? 何をどう考えたら……」

 

「どう考えてもそういう風にしかならないのさ。はっきり言えば、同盟が帝国への敵意を薄れさせ……いや、もっと簡単だな。例えば、フェザーン回廊方面重視に政策を変更し、イゼルローン要塞を基点とする敵艦隊の作戦行動範囲内から住人や資産の一切合財を避難させ、惑星を放棄したとしよう」

 

「はあ」

 

「その場合、イゼルローン要塞は一気に”無用の長物”にならないかい?」

 

「あっ!?」

 

バグダッシュの反応にヤンは満足したように、

 

「同盟艦隊が一切攻めてこない地に、要塞がたった一つポツンと取り残されるんだ。そんな物の為に帝国は毎年どれだけの予算を投入するんだい?」

 

「いや、しかし! 例えば、我々が放棄した惑星に帝国軍が侵攻する場合など……」

 

「エル・ファシルのような貴族の気まぐれじゃないんだ。侵攻、いや侵犯するだけじゃ意味が無い。本気で侵攻するなら土地は押さえておきたいだろうし、その地を永続的に支配しようとすれば少なからず港……艦隊拠点がいる。それを敵地でどう用意する?」

 

「それは……」

 

「イゼルローン要塞は完全な”()()()()”として設計されている。公転軌道面から動かそうとすれば途端に崩壊する……あれは天文学的に言ってもそういう造りだってのは、士官学校でも習うことさ。逆に言えば、イゼルローンは動かさないことを前提にあの地に作られたんだ」

 

ヤンは一度言葉を区切ると、

 

「じゃあ同盟領内に新たな要塞を建造する? イゼルローンで懲りてる同盟が指をくわえている訳が無い。やろうとした瞬間から国家の威信をかけてなりふり構わない総攻撃……帝国がどれほどの戦力を投入しようと焼け石に水さ。いや、そもそもイゼルローンを最終補給基地にして出兵してくる以上、派兵上限はあるからね」

 

おかしそうに笑い、

 

「付け加えるなら、そもそもイゼルローンの建造にどのくらいの予算と年月がかかったんだい? 物価の上昇に敵地での妨害を受けながらの建造……はっきり言って、イゼルローン要塞のときと比べても、とても現実的じゃない数字になるだろうね。戦争継続どころか直接的に国家が破綻しかねない」

 

「……つまり?」

 

「イゼルローン要塞とその保有戦力、またそこを最終補給点に使う程度の規模の艦隊じゃ、同盟領土や艦隊に対する局所的な攻撃を仕掛け、一時的あるいは戦術的勝利は出来ても、領土を永続的に維持するような戦略的勝利は望めない……まずはそれが前提だね」

 

 

 

「バグダッシュ大尉、以上のことを踏まえれば、どうして私が軍事的にはデメリットしか思い浮かばない貴族の無謀を”()()として黙認”してると断定したのか理解できるだろ?」

 

「無視されたら意味が無い。かといって軍事的に意味がある攻性の戦力展開も不可能……だから、”()()()()攻めさせる”しかない……?」

 

ヤンが嬉しそうに頷くのを見て、バグダッシュは背筋に冷たいものが流れたのを確かに感じたという。

 

「あちこち省略してしまってるけど、大雑把にはそういうことさ」

 

そして冷め切ってしまった紅茶をまずそうに飲みながら、

 

「帝国は大枚の金をはたいて建造したイゼルローン要塞を十全に生かすために、それは同時に同盟に無駄な出血を強い続けるため……要塞の歴史的な意義が変わったように誤認させるために大きな意味の無い、あるいは大きな損失も成果もない出兵に奇怪な大義名分をつけ”計画的に”繰り返してるのさ」

 

ヤンは笑みの質を変える……笑いから、嗤いへと

 

「大尉、我々が戦っているのはそういう敵だよ?」

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

「さてと」

 

ヤンは紅茶が無くなった紙コップをくしゃりと握りつぶし、

 

「時間も潰せたし、そろそろ頃合かな?」

 

そう呟きながら立ち上がった。

 

「ヤン大尉、ちょっとお持ちを!!」

 

だが、ヤン・ウェンリーという男は、引き際を間違えない男だ。

 

()()()()()()、残念ながら”無料視聴”はここまでだ。続きは、そうだな……」

 

ヤンは再び笑みを柔らかいものに戻し、

 

「まさかとは思うけど、私との会話はきちんと録音してるよね?」

 

「ええ、そりゃまあ……」

 

言ってしまえば無許可の録音、一種の盗聴になるわけだがヤンは怒るどころか安心したように、

 

「君が仕事熱心な士官でよかったよ。その録音データを上司に渡すといい」

 

「えっ……?」

 

「上司に渡し、相談した上で私に情報提供するかを決めるといい。そちらの方が面倒が少なそうだ」

 

バグダッシュは気づいてしまった。

ヤン・ウェンリーは、最初から「自分()()()この話を聞かせた」わけじゃないということを……自分がメッセンジャーにされたということを。

 

「さっきの続きは、資料提供にいい返事がもらえたら、レポートにでもして提出するよ。まあ、大学の駆け出しレポートとしては悪くない題材だしね」

 

と明日の天気を語るような気楽な言葉と共に去っていった。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

ヤンの背中が完全に見えなくなると、

 

「ハハッ……」

 

妙に乾いた笑い声を上げて、バグダッシュは投げ出すように両手両足の力を抜き机に突っ伏した。

 

(あれのどこが”新米大尉”だよ……冗談じゃない!! お前のような大尉が居てたまるかってーの!!)

 

あの男から放たれていたのは、相手を圧殺するような覇気なんかでは間違ってもない。

もっと絡みつくような……血の通った判断なぞ必要ないままに命を奪いつくすタイプの雰囲気……強いて言うなら”妖気”の類だ。

なお恐ろしいのは、あの男にはこれといった欲も無ければ悪意もなさそうだということだ。

 

「化物め……」

 

だが、バグダッシュは気づいていなかった。

自分の唇が僅かに歪み、それが微笑みの形を作っていることに……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ヤン、サービスタイムの終了を宣言するでござる(挨拶

ヤン:「続き知りたければ資料提供ヨロ♪」

どうやらこの男、本来あるはずの歴史を変える気満々みたいですよ?



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第026話:”閑話・駄目提督製造機がアップを開始したようですよ?”

今回はあのお方が語り部です(^^
ついでに言えば、R-15タグとキャラ改変タグが久しぶりに仕事をし始めたみたいですよ?

なので、そういうのが苦手な方にはあんまりオススメしませんです。

というか……見方によっては甘くてちょっと怖い話?(えっ?



 

 

 

「ただいま、アンネ」

 

「おかえりなさい。ウェンリー様♪」

 

”だきっ”

 

軍大学から戻ってきたウェンリー様に飛びつくように抱きつく私、アンネローゼです♪

気分はご主人様の帰りを待ちわびるワンコ♪

それともこの場合は、”犬娘(わんこ)”って言うべきかしら?

ウェンリー様の飼い犬……存外、いい響きかも。

 

あっ、ごめんなさい皆様。そしてはじめまして。

今回の語り部は私、アンネローゼ・ミューゼルでお送りしますわ。

 

一応、軽く自己紹介しておくとラインハルトの姉で、ウェンリー様の婚約者(フィアンセ)です♪

自慢はお母さん譲りの金髪かな?

 

”くんくん”

 

はぁ~……ウェンリー様の匂い……

 

「汗臭くないかい?」

 

「いいえ。とってもいい匂いですわ♪」

 

うふふ。

まだ下宿を始めたばかりの頃は、こうして抱きつくと照れてしまって、顔を真っ赤にして硬直してたっけ。

でも、今は……

 

”きゅ”

 

抱きつく私をそっと……羽根のようにふわりと優しく抱きしめてくれる。

照れたり恥ずかしがってる顔も可愛いけど、でもこうして温もりや吐息を肌で感じられるほうがずっといい。

私の鼓動とウェンリー様の鼓動が重なるのが、とても心地いい。

 

「ウェンリー様は森の匂いがするね……」

 

「アンネは花の匂いがするよ」

 

ああ、やっぱり私ってウェンリー様が大好きなんだなぁ……

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

「大学でそんなことが」

 

「ああ。バグダッシュ大尉……悪い人物じゃないよ」

 

本日も日課日課♪

といってもそう大したものじゃないんだけど。

 

お夕飯とお風呂のあと、ウェンリー様を私の部屋にお誘いするのが私の日課だ。

そして、ソファーで寝転がるウェンリー様を膝枕してさしあげるのも。

 

ウェンリー様はこうして今日何があったかを私に話してくれる。

正確には、最初は私からおねだりした。

だって、どんなことをしているのか気になるじゃない?

最初は戸惑っていたけど、「私はそんなに面白い話はできないよ? 特に女性が喜ぶような話題は苦手だ」と少し困った顔をしながら了承してくれた。

 

 

 

きっと日ごろ勉強がとても大変なのだろう。

黒くて柔らかい髪を撫でてると、すぐにウェンリー様はトロンとした目になってくる。

 

その半分眠るような無防備な表情はとてもお気に入りだ。

ウェンリー様はまだお若いけど、ただでさえ温和な表情がもっと柔らかく、そして幼くなってしまう。

印象で言うなら、まるで木漏れ日でまどろむ仔猫みたいだ……

 

「ウェンリー様、もうお(ねむ)の時間みたいですね?」

 

「みた……いだ……ごめん、アン」

 

こっくりこっくりと船を漕ぎ始めるウェンリー様……

私の膝枕で、すぐに眠たくなるほどリラックスしてくれる愛しい人……

 

「いいのです。ウェンリー様、いつものようにこのまま眠ってください♪」

 

「うん……」

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

”すぅ……”

 

程なく小さな寝息を立て始めるウェンリー様……

 

「可愛い人……」

 

うふふ。

でも、そんな無防備でいいんですか?

誘ってるって思っちゃいますよ?

 

「いえ、誘ってるんですよね?」

 

ウェンリー様は深く深く眠る殿方だ。

ちょっとやそっとのことで起きはしない。

 

「うふふ……ウェンリー様ぁ」

 

私はブラウスの前ボタンとブラのホックを外し、むき出しの乳房をウェンリー様の口元に近づける。

 

”ちゅばっ”

 

「あん……♪」

 

思わず甘い声が漏れた。

だって、しょうがないでしょ?

誰より愛しい殿方が、先端にむしゃぶりついてるんだもの。

そう、それは赤ちゃんがお母さんのおっぱいを吸う姿そのままだ。

 

(まだ、母乳が出ないのがちょっと残念かも……)

 

でも、それは後のお楽しみよね?

そう遠くない将来、私のお腹の中にウェンリー様との赤ちゃんが宿るもの。

 

「ウェンリー様、大丈夫ですよ。アンネローゼがついてます。貴方がどれほど望んでも得られなかった物は、全部私が与えてあげます♪」

 

ウェンリー様は物心がつく前にお母さんを亡くしてしまった……

そして、男寡の宇宙船暮らしで、母の愛も母性も知らずに育った。

 

(そして、全てを失った……)

 

ひどい宇宙船事故だったらしい。

その後、生活の為に入った士官学校だって女性が多いとは言えない。

 

その女性経験の少なさ、拙さ……ううん。十分な母性愛を与えられなかったことがウェンリー様の内面に暗い影を落としている。

それが歪みとなり、女性に対する自信の無さに繋がってるんだと思う。

 

出会った頃のウェンリー様は、本当に私をどう扱っていいかわからなかったみたいだ。

不自然なほどに女性慣れしてない、異常なほど奥手なウェンリー様……

 

だから私は強引に出た。

私は狡い。だってウェンリー様が押しの一手に弱いことをわかってて押し通したんだもん。

 

でも、後悔なんてしてない。

後悔なんてしてやるもんか!

 

私は愛してしまったのだ……この人の歪みさえも。

 

「だから、私に溺れてくださいね?」

 

だから私は与えよう。

お母さんが与えられなかった無償の愛を。

 

ウェンリー様に取り戻させるんだ……愛されて当たり前の時代を!

 

だからもっともっと、私に甘えてください。よりかかってください。

だって、

 

「ウェンリー様……私の可愛い赤ちゃん」

 

きっと私も歪んでる。

でも、それがどうしたというのだろう?

 

「愛してます」

 

それ以上に大切な事なんて、きっと無いんだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ウェンリー様は誘い受け♪(by アンネローゼ・ミューゼル

このシリーズのアンネローゼは、結構すっとんでる娘……というか、考え方によっては別の作品とは違う意味で、ちょっと怖い娘です(^^

実はこの第026話には、もう一つサブタイ候補があって、それは”銀河の歴史を変えたのは誰?”ってものでした。

ヤンが女の膝で熟睡するって時点で、もう正史からかなり狂ってますからね~(笑

きっと、彼女の”()()”は、これからもずっと……




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第027話:”ヤン・ウェンリーによるイゼルローン・レポートもしくは怪文書(原案)”

書きあがってしまったんで深夜アップです(^^
今回は、いつもとちょっと書き方を変えて、サブタイ通りにヤン目線の考察風にしてみました。




 

 

 

(1)イゼルローン宙域における要塞建造の意義

帝国側から言うなれば、それは”国境の砦”、つまり純粋なる防性の施設に他ならない。

イゼルローンから出撃した艦隊、あるいは補給を受けた帝国本国よりの遠征艦隊が同盟領を侵犯する自体が多発してるが、いずれも”限定的”なものだと考える。

その論拠となるのは、イゼルローン要塞建造後も”()()()()()()()()()()同盟領”が一つもないことからも、それがわかる。

つまり、要塞建造後にどれほど帝国側が大艦隊で侵攻しようと艦隊戦で勝利しようと、今だ同盟領は陥落していない。

大雑把過ぎる言い方だが、イゼルローンのスペックから考えても攻性拠点としての能力は、極めて限定的といわざる得ない。

なぜなら本格的に同盟へと侵攻、仮に艦隊戦に勝利し領土を占領したとしても、”占領維持に必要な艦艇に対する兵站補給能力”は備わっていないからだ。

実は現在、ほぼ判明してる食糧貯蔵数/船舶修理可能ドック数/病床数などは、「2万隻程度の艦隊と要塞駐留者の篭城戦」に最適化されていると言っていい。

つまり、イゼルローンの要塞としての基本スペックは、「同盟の大艦隊に攻められた場合、本国から救援艦隊が来るまで耐える」ことを根本にしてる公算が大きい。

 

(2)イゼルローン要塞の実像

上記のことを踏まえ、さらにイゼルローン要塞が()()()()として設計/建造され、またそれ以外の使い道ができないことも、その本質が防性拠点であることを物語っている。

端的に言ってしまえば、イゼルローン要塞は「同盟が攻めない限り」は実は同盟にとりさほど脅威にはならない。言ってしまえば、「同盟がイゼルローン回廊を通り帝国へ侵攻する」場合を除いて要害としての意味は無く、「同盟と帝国との国境を明確にする物」以上の意味も無い。

例えば、要塞の代名詞ともなるγ線レーザー(トール・ハンマー)も、その実態から言うならば、輻射幅に物を言わせた広域破壊こそ脅威なれど、直線射程距離でいえば6光秒程度に過ぎない、艦砲と比べても短射程な要塞砲である。

また駐留艦隊も2万隻程度が上限とされている以上、絶対有利な要塞防衛戦以外では大きな脅威とはならないだろう。

そもそも論になってしまうが、イゼルローン要塞の建造を最初に試みたのは同盟側であり、その提唱者はかのブルース・アッシュビー提督である。

それが実現しなかったのは陰謀説などもあるが実際には当時の政治的判断、つまり「定点防御しかできない要塞より、攻防に使え機動的運用が出来る艦隊を拡充した方が費用対効果が高い」とされたからだ。

これはアッシュビー提督も納得していたようだ。

そして、この根本は例え帝国が要塞を設営しても変わらないはずだった。

 

(3)攻性拠点という虚像

では、何故同盟は”防性拠点”でしかないイゼルローン要塞を、過去4度に渡って攻めたのか?

これは帝国側のたゆまぬ努力、つまり「同盟側に”同盟侵攻の拠点”と認識」させる行為によるものだ。

具体的には(1)で示した、イゼルローン要塞の駐留艦隊やそこで補給を受けた遠征艦隊の同盟領への”()()”行為が度重なったからだろう。

(1)(2)で述べたことをまとめてしまえば、「同盟が攻めない場合は、イゼルローン要塞は無用の長物になる」だ。

逆に言えば、同盟側に攻めさせるならば、そこには途方も無い殺傷兵器になるという側面がある。

つまり、帝国側が様々な理由をつけて行ってる艦隊を用いた同盟領への侵犯行為は、”挑発”に他ならない。

そしてこれの厄介なところは、狙っているのが政府でも軍でもなく、国家主権者である”()()()()”であるところだ。

どういう意味かと言えば、度重なる侵犯は同盟市民にとり、「イゼルローンからの敵艦隊が、いつも攻めてくる」というように捉えられる。

占領が目的ではなく、軍事的にはほぼ無意味な侵犯……例えば小官がエル・ファシルで体験したようなマンハントでも、同盟市民の恐怖感を煽るには十分であろう。

 

(4)なぜ、同盟軍はイゼルローン要塞を攻めるのか?

帝国は、”同盟()の政治的弱点”をよく理解していると結論付けるしかない。

大前提として、同盟軍の本質は民間人の生命と財産を守ることを金科玉条とした”市民軍”であり、また国体の関係上、”シビリアン・コントロールを受ける”ことが当然である。

つまり、”軍は政治の下位に存在し、決して上位にはならない”だ。

こう書くと、帝国が同盟市民相手に挑発を繰り返すのも理解しやすい。市民にとって”国民を守る決断をできない政治家”も、ましてや”市民の生命や財産も守れぬ軍隊”も何の意味もない。

その様な無様を示した政治家は落選するだろう。そして繰り返すが同盟軍はシビリアン・コントロールを前提とした軍隊だ。

であるならば、「敵が溢れてくるイゼルローン要塞を潰せ」という大義名分の出兵案が4度も出てくるのは無理も無い。

言ってしまえば、イゼルローンが「同盟が攻めない限り純軍事的には無害」だとわかっていても、「同盟市民の恐怖心を払拭する」という大義名分が優先されるのはむしろ当然であろう。

 

(5)何故、同盟軍は”()()”にこだわるのか?

ただ、疑問点もある。それは即ち、なぜ単純で難易度の低い”破壊”ではなく、”攻略”計画を毎回提示するのか?であろう。

いや、破壊でなくとも単に”無力化”するだけなら他にも方法はある。

この場合の攻略とは、つまり”()()”のことだ。

歯に衣着せぬ言い方をすれば、同盟軍はイゼルローン要塞を帝国より奪い取りたいのだ。

無論、それは「同盟側が自国の要塞として使うため」であろう。

言うなれば、アッシュビー提督の時代にやらなかったことを、”帝国の要塞を奪い取ること”により実現しようとしてるのだろう。

それは当時の艦隊強化策が間違っていたということだろうか?

否である。確かに当時の同盟の判断は間違ってるとは言い切れない。

だが、「要塞に想定していたより価値がある」ことに気づいたことも確かだろう。

 

(6)イゼルローン要塞を攻略する意義と価値

政治的理由を抜きにして考えれば、同盟軍によるイゼルローン奪取の意義は、究極的に言えば”費用対効果(コスト・パフォーマンス)が良い”からに付きそうだ。

端的に言えば、「自前で作るより奪ったほうが早いし安上がり」ということだろう。

本当にそうだろうか?

過去4度行われたイゼルローン攻略戦で失われた艦艇の損失額、また失われた軍人に対する遺族年金等の補償、さらに例え奪取できたとしても、積極的に運用するなら同盟軍規格への改修や修理等々も必要になってくるだろう。

現状で手元にある資料だけ考えても、どうも安上がりと言う言葉で片付けられそうも無い。

もし政治的な理由で攻略しなくてはならないというのなら、むしろ「要塞の無効化」を考えた方が良いかもしれない。

無論、根拠はある。

例えば、要塞攻略失敗とその後の政権支持率を見れば一目瞭然だろう。当たり前だが、攻略に失敗すれば「今度こそ」と期待していた国民は落胆し、その被害に愕然とするのだからむしろ当然と言える。

現状、イゼルローン要塞攻略は政治的にもハイリスクな案件なのだ。

 

 

 

以上のことを鑑みれば、我々は”要塞攻略”という言葉に思考を固定化せず、一度原点に立ち戻りイゼルローン要塞に対する”対応”を再検討する時期に来てるのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「とまあ、こんな感じでイゼルローンのレポートをまとめてみようと思うのだけど?」

 

エコニアから返ってくるなり、こんなレポートの原案を読まされたんだ。

思わずため息を突きたくなった俺は悪くないよな?

 

「先輩……まさか、このまま提出するんじゃないよな?」

 

「そりゃ肉付けもするし、資料だって添付するよ。いくら私が自堕落だからってちゃんとレポートの体裁くらいは整えるさ」

 

「いや、そういう意味じゃないんだが……それと自分で自堕落言うな」

 

これってほとんど”()()()”に近いんじゃないのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 




俺の義兄は自重をやめたらしい(by ラインハルト・ミューゼル

とりあえず、レポートで軽く本気を出してみたヤンはいかがだったでしょうか?
なんか、早速色々と火種になりそうな予感が……(笑



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第028話:”ラインハルトは心配性?”

人間丸くなったラインハルト様の本領発揮!……かもです(^^




 

 

 

うむ。ラインハルト・ローエ……コホン。なんでもないぞ。

ローエングリンはいいオペラだと思っただけだ。

 

さて、中尉の階級章をつけてエコニアでの馬鹿騒ぎから家へと戻ってきてみれば、ヤン先輩(姉上と結婚している訳ではないので、まだ義兄とは呼べん。婚約はしているが)から、「ちょっと読んでみてくれないか? 感想を聞きたい」とレポートの原案を手渡された。

 

基本的に『大学初っ端の自由課題レポートのため、自分を印象付けるため少しは派手な内容になるように書いてみた』という骨子のレポートだったが……

 

(中身がなぜか()()()だった件について)

 

我ながら何を言ってるかわからんな。

だが、事実だ。

 

 

 

「先輩……自分が何を書いたかわかってるのか?」

 

「どうした後輩? 怖い顔をして?」

 

どうして先輩こそ、そんなのほほんとした顔をしていられる!

先輩に限って、自分がレポートに書いた内容を理解してないとは思えんが……

 

「先輩のレポートを端的にまとめるとこうなる。”純軍事的には大して害の無い定点要塞を政治的理由で攻撃。破壊するなどもっと簡単な無力化の方法があるのに、攻略の大義名分を得た軍が助平根性出して奪い取ろうとするから4度も失敗した。頭が制帽を載せる台以外の使い道があるのなら、もう少しマシなプランを考えろ”……違うか?」

 

”ぱちぱちぱち”

 

「おお~。さすが士官学校始まって以来の麒麟児、天才の中の天才と音に聞こえしラインハルト・ミューゼル。一読しただけで、実に的確な要約だね?」

 

「暢気に拍手などしてる場合かっ!!」

 

この男、絶対に確信犯だっ!!

 

「軍大学の壱号レポートに託けて、軍/政府、下手をすれば市民にも同時にケンカを売るようなもんだぞ!!」

 

「……だが、いずれ誰かが声をあげるべきことじゃないのかい? ”イゼルローン要塞攻略は、現状の奪取方針ではリスクばかりで益は無い”ってさ」

 

 

 

……なるほど。

冷静になってみれば当たり前だが、闇雲にケンカを売る気はないわけか。

 

「先輩、本当にわかっているのか? これは今までのイゼルローンに対する軍の方針の全否定だ。政治を絡めてる以上、政治家も上手く立ち回らねば敵に回す……人と言うのは自分の過ちは認めたがらないもんだ。特に投資が多ければ多いほど、だ」

 

「わかってるさ」

 

ヤン先輩は頷き、

 

「4回の攻略……奪取失敗は、素直に認めるには大きすぎる損失だ。だからこそ、これを今までどおりの方針で進めるべきじゃないのさ。軍にとって、政府にとって、何より政府の命令で軍に人だけでなく金まで吸い上げられてる納税者たる同盟市民にとってだ」

 

それはわかった。

納得もしてやろう。

だが、

 

「何故、先輩なんだ?」

 

「私は今のところ一介の軍大生に過ぎない。”()()()()軍のお偉いさん”なら、せいぜい一笑に付すぐらいさ。『夢と現実の区別がつかぬ若造の妄言』とか言ってね」

 

「だが問題は”笑い事じゃ済まない”と上層部に認識された場合だろ? 反応は両極端になると思うぞ? 絶賛なら文句はないが……」

 

俺でさえ想像できるんだから、先輩が想像できない訳はないんだが……

 

「悪く捉えられれば、”危険思想の持ち主”として軍から放逐。その後も24時間監視体制となっても不思議じゃない」

 

俺の”もう一つの記憶”の中にいたヤン・ウェンリーとヤン先輩が同一人物だなんて言うつもりは無い。

無論、士官学校の頃から親しい付き合いをしてるってのもあるが、はっきり言えば、目の前の先輩の方が人間的に遥かに好感が持てる。

多分、これは同じ陣営にいるってだけじゃない。

 

(でも、やはり似ている部分はある……)

 

致命的に、あるいは決定的に二人のヤン・ウェンリーに異なる部分があることはわかっている。

どこがと聞かれると、まだ言語化できるほどまとまったものじゃないが。

しかし、

 

(もう一人のヤン・ウェンリーは結果として……)

 

()()()()()()”ている。

戦場で無敗を誇っていても、戦場外まで強いとは限らない。

いや、むしろ敵には勝ち続けても味方である筈の者達から政争で殺される例は、古今東西いやと言うほどあるものだ。

あやふやな言い方になってしまうが、”もう一つの人生”を生きた俺も、その手の苦い経験が無かったわけじゃない。

 

 

「今の同盟の気質から考えて、いきなり”英雄を消す”というのは考えにくいが……濡れ衣を着せて名誉を剥奪、”堕ちた英雄”に仕立て上げてから人知れず始末するのはありえそうだな……」

 

「ヲイヲイ。たかが大学のレポートにひどく物騒じゃないか?」

 

「それだけ物騒な内容のレポートだと言ってるんだ!!」

 

この人は政治的思考はできるのに、もしかして政治的配慮は苦手なのか?

 

「だがね()()()()()()……私はこう思ってしまうんだよ」

 

ん? 今、珍しく名で呼んだか?

 

「権力やら弾圧やらを恐れて言いたいことも言えず、書きたいことも書けなくなった時……その時は、」

 

先輩はその時、確かに笑っていた。

 

「民主主義は、死んだも同然だとね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




実は「ヤンを本気で心配するラインハルト」ってシチュエーション、このシリーズで是非とも書いてみたいシーンの一つだったんですよ(^^

それにしてもヤン、やっぱ確信犯で怪文書に仕立て上げたみたいです(^^

そして、ヤンの中での変化……ヤンにとって民主主義とは?



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第029話:”民主主義ってのは、別に完全でも完璧でもないさ”

今回、この世界におけるヤンの「民主主義に対する立ち位置」が見えてくるかも?


 

 

 

「権力やら弾圧やらを恐れて言いたいことも言えず、書きたいことも書けなくなった時……その時は、」

 

”民主主義は、死んだも同然だとね”

 

……

………ちょっとマテ。

俺は今、何を聞いた?

 

俺、俺はラインハルト・ハイドリヒ……って、誰が”金色の獣殿”だ。

喝采はいらんからどうせなら獣より”金色の獅子”と呼ばれたほうが良い。

 

いかんいかん。俺は何を言っている?

幾分、思考が混乱してるようだな……

 

「ヤン先輩……それは本気で言ってるのか?」

 

「? 何がだい?」

 

「”民主主義は死んだも同然”だ……とても先輩の口から出る言葉とは思えないんだが?」

 

「表現の自由、言論の自由、思想の自由……それは民主主義の根本だろ? それほどおかしなことを言ってるつもりはないさ。始祖アレイスター・ハイネセンの言葉を借りるなら『街のど真ん中で、ルドルフ・フォン・ゴールデンバウムのクソ野郎を賛美したところで、それを許容する度量が無いのなら民主主義なんざやめたほうがいい。どうせ扱いきれなくなる』さ」

 

そして先輩はこう続けるのだ……

 

「いいかい、ラインハルト。間違いを起こすことは罪じゃない。だが、間違いが正せないのは罪さ。罪と言うよりむしろ人災かな?」

 

そして腕を組み、

 

「効果が無いことを誰が薄々気づいていながら、それでも血腥い”()()()()()”を続ける……これを何も言わず続けさせることと、『それは効果が無い上に害しかない』と言うのではどっちがより民主主義の根本に近い?」

 

言わんとすることはわかった。

 

「つまりそれがイゼルローン攻略戦か……」

 

先輩は頷き、

 

「ああ。()()はわかりやすいからね。誰もがこのままじゃ上手く行かないことは理解してるのに、都合4回の負債を認めたくなくて誰も言葉に出来ないところも都合がいい」

 

なるほどな…ヤン先輩は単純にイゼルローン”奪取”に異議申し立てをしたいんじゃない。

 

「民主主義国家の政治と軍事にあるまじき理由と理念で動くイゼルローン攻略を、()()()()姿()に戻したい、あるいは再定義したいってことか?」

 

 

 

「御明察」

 

先輩、満足そうな顔をしているところ悪いが、

 

「変わったな、先輩……いや、悪いことじゃないんだろうが」

 

”もう一つの記憶”の中で垣間見たヤン・ウェンリー……民主主義の信奉者、いや民主主義原理主義者だったあの男ほどではないが、ヤン先輩も結構ストロング・スタイルの民主主義賛美だったはずだ。

 

(だが、なんというか……柔らかくなった?)

 

「ラインハルトにどう見られていたかは、非常に気になるところではあるが、」

 

先輩は苦笑し、

 

「民主主義は確かに人類が生み出した政治様式では、相対的には()()な方だと思う。まあ、そういう意味では好んでるよ。だけど、それが絶対に正しいと言うつもりもなければ、全てにおいて優先されるとも思ってない」

 

「なに?」

 

「まあ、君の言うとおりかもな……今の私はそう思えるが、ラインハルトと出会わなければ、私はもっと民主主義には盲目的だったかもしれない?」

 

「なに?」

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

「ラインハルト、君が士官学校に入学し私の後輩になった時……民主主義についてなんて語ったか覚えているかい?」

 

「ああ、勿論だ。先輩が民主主義を語ったとき、確かこう反論したはずだ」

 

俺は俺の言葉を忘れない。

別の世界の俺の記憶が混入しようと俺は俺、それ以上でも以下でもない。

 

「”民主主義を、民衆を過信しすぎるのは危険だ。民主主義は主権者である市民が賢人であることを前提にしている。つまり民の多数が『常に正しき判断をする』ことを前提に”だ」

 

そしてこう続けたはずだ。

 

「”民を育てるのは社会に出るまでの教育と社会通念だ。同盟は『市民を賢人とする教育』を本当に徹底できているのか? 為政者にとっては国民が賢人であるより愚民であることの方が都合がいい場合が、往々としてあるぞ? ルドルフが帝国を打ち立てた背景には、民主主義が形骸化し衆愚政治の腐土があったことを忘れてはならない”」

 

そう、ルドルフ・フォン・ゴールデンバウムの帝国樹立の背景には、退廃と放埓を当然とし、悪徳と背徳という概念すらも消失しかけた銀河連邦末期の衆愚政治があるのだ。

ルドルフは選挙という”民主的な手段”を用い、結果として「()()()()()()()()()独裁者に選出」された事実を忘れてはならない。

 

「ルドルフ・フォン・ゴールデンバウムは選挙によって選ばれ、その独裁を当時の連邦市民が熱狂的に支持したことを考えれば、安易な民主主義賛美は亡国へのプロセスを踏みかねん」

 

 

 

「私はその考えに驚愕し、同時に納得したもんさ」

 

えっ? そうなのか?

 

「”自分だけが絶対の正解だと思ってはならない”、”異なるものを認める”のもまた民主主義だ……私とは違う視点を持つラインハルトの見識は私はひどく新鮮に映ったんだよ」

 

そして、少し言葉を選ぶように……

 

「ラインハルトの視点から見れば、自由惑星同盟の教育や社会は、”意図的な衆愚政策”はとってないものの、効率的な社会運営を行うための”()()()()()()()”を生み出すことに重点を置いてるのは確かさ。はっきり言ってしまえば同盟市民は、歴史的に見てもさほど政治意識は高いとは言えない……選挙には出向き投票もするが、選ばれた”政治家を監視する”ということは得意じゃないね」

 

まあ、そりゃそうだろう。

同盟市民の気質は、「経済が潤い、生命と財産に危機が及ばない限りは大抵の事は容認する」だ。

度量が広いといえば聞こえはいいが、財布の中身が目に見えて目減りしない限りは現状を肯定し、政治に大きな疑問を持たないって意味にもなる。

その経済優先のスタイルだからこそ、帝国より10億人口が少ないのに倍以上のGDPを誇るのだろうが。

 

「民主主義自体を懐疑的に思うことはしないさ。だけど疑うことを忘れるのも危険……まあ、そういうことだね。事実、失敗の後の支持率急落があるけど、過去4度のイゼルローン攻略戦を表明した時はいずれも高い支持率を叩き出してる」

 

「国民が望む戦争か……その為、支持率のために計画される出兵? ロクなもんじゃないな」

 

要するに、本当にあったかどうかも判然としない”もう一つの人生”で起きた「帝国領侵攻」は必然だったということか。

もっともあの世界の同盟は、この世界の同盟よりもあらゆる意味で末期的だった。

国家としての成立から違うから無理も無いが、帝国への怨念が国家の原動力となっていた()()がある。

 

だが、何かの間違いで”()()()”が同じ轍を踏まないとは言い切れない。

 

「なら、そこに疑問を呈するのは別におかしなことじゃないだろ? ただ……」

 

「ただ?」

 

「他にも理由がない訳じゃない」

 

「ほう。聞かせてもらおうか?」

 

するとヤン先輩はニヤリと笑い、

 

「イゼルローン攻略戦なんて益体(やくたい)もない出兵、私自身が参加したくないからさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




実はヤンの民主主義に対する考えを変えさせたのは、士官学校時代のラインハルト様だったでござる(挨拶

この世界のラインハルトは、”もう一つの人生の記憶”を受け継ぐ前のストック状態でも、『亡命(駆け落ち)してきた帝国貴族の子供』であり、同盟生まれの二世であることを考えれば、「独裁者(ルドルフ)は民主主義の成れの果てから生まれた」って考えを持っててもおかしくないかな~と。



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第030話:”有能な危険物 ~ラインハルト様が本気になったようですよ?~”

サブタイ通りの内容ですが……なんか、その方向性がある意味、斜め上にすっ飛んでるような?





 

 

 

「イゼルローン攻略戦なんて益体(やくたい)もない出兵、私自身が参加したくないからさ」

 

ヤン先輩は事も無げに言い切った。

 

「勿論、私だけじゃない。ラインハルト、ラップ、ワイドボーン、アッテンボロー、フォーク……まあ、キャゼルヌ先輩は部署が部署だけに要塞攻略に参加することはないだろうけど」

 

そう苦笑し、

 

「あそこは本来なら命を懸けるような場所じゃない。命と戦費の無駄遣いは、軍人としても納税者としても止めるべき案件だろ?」

 

……そこまで言うなら、俺は少しだけ聞いてみたかった。

いや、確信が欲しかったのかもしれない。

 

「先輩、荒唐無稽の前提に聞こえるかもしれないが……もし、」

 

もしも、

 

「姉上と民主主義、あるいは国家を選ばねばならぬ事態となったら……どうする?」

 

答えを聞くのが少し怖い質問だ。

 

「そりゃ、当然アンネだよ」

 

”がたん”

 

ドアの外で物音がした。

一応、軍規に触れる話題が出るかもしれなかったので部屋から退出してもらってたが……

 

(盗み聞きとは、姉上にも困ったものだ)

 

だが、

 

(答えに迷いも躊躇いもなかったのは高く評価していいな)

 

 

 

「その理由は?」

 

先輩は少し怪訝な顔をして、

 

「軍人として国を守るのは役職上の責務さ。だが、同時にアンネとの生活基盤に自由惑星同盟は不可欠だ。だから守るし戦うことに躊躇いはない……これじゃあ不満かい?」

 

捻くれた言い回しだが、

 

「姉上との生活を守る()()()()同盟を守る、か……序列が不可逆であるならばそれでいい」

 

「当然だね。人を守れず何が国家なんだい? バグダッシュ大尉に言わせれば、”政治や国家など、所詮は人が生きるうえに必要な方便”らしいしね。まあ、至言だと思うよ」

 

「バグダッシュ?」

 

どこかで聞いたことがあるような……ああ、”もう一つの記憶”の方か。

 

「今回のレポートに資料提供してくれた情報部の将校だ。中々優秀だよ」

 

「そうか……」

 

「ラインハルト……君の懸念はもっともだが、こう見えて私は自分が思っているよりもずっとアンネとの生活を気に入ってるらしいんだ。我ながら信じられないことにね」

 

……もしかしたら、姉上というのは俺が思ってるより遥かに化け物なのか?

ヤン先輩が、”顔を赤らめながら照れくさそうに頬をかく”なんて誰得(姉得か?)なシチュエーションを生み出す状況が、俄かには信じられないんだが……

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

(まあ、先輩にここまで言わせたなら上出来と言えよう)

 

姉上が、どのような手段を用いて先輩を完膚なきまで陥落させたのかは興味はあるが、それを聞くほど野暮ではないぞ?

自慢ではないが、こう見えて割と空気は読めるほうだ。

ん? 今、誰かに無言で視線を逸らされたような気がするが……ふむ。気のせいか?

 

「先輩……その怪文書、もとい。イゼルローン要塞の考察レポートは教官に提出するだけなのか?」

 

「ん? どういう意味だい?」

 

「キャンパス・ライフの挨拶状代わりのレポートとしちゃあ内容が剣呑過ぎる。提出するなとは言わないが、提出窓口は一つに絞らないほうがいい」

 

”姉上が、国家や主義主張より優先される”

 

この天才(ヤン)が、ここまで啖呵を切ったんだ。

信用してやろう。

だが、

 

(覚悟しておけよ?)

 

「最低でもいくつかの人物に同時に郵送した方がいい。窓口が一つだけならば、握り潰され闇に葬られてもわからんわけだし」

 

なるべく早く出世してもらうぞ?

それも有無を言わさずにだ。

 

 

 

「言わんとするところはわかるけど……例えばどこにだい?」

 

「最低限、シトレ中将……いや、そろそろ辞令が出るって話を小耳に挟んだから、シトレ大将か? あとリンチ中将は必須だな」

 

シトレ校長は、間違いなく出世するだろう。繋がりも万全だし、むしろ安牌だ。

現状、先輩も俺も階級が低いために上層にコネは薄いが、唯一のコネと言えるあのロック親父……いや、リンチ中将は戦死さえしなければ悪くない選択肢だ。

 

「バグダッシュ大尉には、”意見を聞きたい”って名目で完成版ではなく原案の方を渡して反応を見るべきだろう。内容が内容だけに上司に相談するだろうし、できる上司がいればそこで目にとまるはずだ」

 

うろ覚えだが……バグダッシュはグリーンヒル(父親の方な?)と繋がりがあったはずだ。

別の人生の出来事とはいえ、俺が言えた義理ではないが……クーデターに引っ張り込まれる時点で微妙な評価の男だが、まあヤン・ウェンリーの理解者ではあった実力者だ。

 

(それに確か、リンチ中将とも繋がりがあったはずだ)

 

バグダッシュが繋がってないとしても、リンチ・ルートで完成版が届く可能性があるのも都合がいい。

 

「後は……切実に政治家の味方が欲しいな。それも軍事に明るい……できれば国防族議員で、国防委員会に所属していれば言うことはない」

 

「ヲイヲイ」

 

先輩、何戸惑ってるんだ?

 

「先輩自身が、”同盟軍はシビリアン・コントロールを前提とした軍隊”だとわざわざレポートに書いてるではないか? その状況で政治家を味方につけないでどうする?」

 

「いや、しかし……軍人と政治家の癒着と言うのは、」

 

「綺麗事はいい」

 

俺は容赦なくばっさり切り捨てる。

 

なんとなくわかったぞ。

先輩は、政治的配慮ができないんじゃなくてしたくないんだ。

だが、そんな甘ったれた思考あるいは指向は俺が許さん!!

 

「先輩、少しは自分が”有能な()()()”だって自覚を持ってもらおうか?」

 

全ては姉上の為、俺に妥協の二文字はない!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ラインハルト様が本気になるのは、アンネローゼが関わった場合だと思います(挨拶

ヤンデレ(ヤン、デレる)状態→ヤン:「国よりアンネだよね♪」→ラインハルト:「上等ではないか。なら姉上との将来の為に出世してもらうぞ?」

大体、合ってる(^^
階級が上がるってのは、それだけ発言権も増えるし権力も増える。上手く使えば、そう簡単につぶされる事はない……それを一番わかってるのは、前世の記憶持ちのラインハルト様だと思います(^^




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第02章:”冴えない先輩(ヤン)の育て方”
第031話:”モキュモキュ”


本日、二度目の投稿♪

この31話からキリがいいので新章に突入しますよ~。
前章に続いて前半はともかく、後半が……バカです(^^

ついでにサブタイの意味が作中にわかる仕様になっています。






 

 

 

さて、ヤンの提出した”イゼルローン・レポート”は、局所的に様々な波紋を呼び起こした。

 

「ほう……中々面白い視点だな」

 

と大柄な黒人同盟軍将官はニヤリと笑うと、

 

「次の作戦に噛ませてみるか……」

 

と呟いたという。

 

 

 

「悪くねぇな……ああ、悪くねぇ! 実にロックだぜ!」

 

と同盟軍中将の階級章をつけたばかりのロック親父は呵呵大笑し、

 

「ヤン……テメェはさっさと出世しろよ? じゃねーと……」

 

”宝の持ち腐れだぜ”と笑う。

 

 

 

「あの……少将殿」

 

ビクビクしてるバグダッシュ大尉を前に、次回の人事異動で昇進後に正規艦隊提督の仲間入りが内定している将官は極めてクールに、

 

「バグダッシュ大尉」

 

「ハッ!」

 

「資料提供した甲斐はあったようだな?」

 

「そ、そうでありますか!」

 

「ああ」

 

その英国紳士然とした将官は小さく頷き、

 

「実に重畳だ」

 

 

 

とまあ好意的な反応はこれくらいだろうか?

レポートを読むことが出来た高級軍人の反応は、当惑や困惑が主だったもので、

 

「フン……現実の見えぬ若者が書いた、実に青臭いレポートだな」

 

と一笑したラザール・ロボス中将の反応の方がむしろ自然であり、多数派だろう。

とはいえ内容が内容、軍上層部は「少々問題あり」と判断し、レポートは余裕でB級機密事項の機密書類の仲間入りを果たした。

どうやらヤンが書く書類と言うのは、軍規に関わることになる傾向があるようだ。

 

これを偶然と呼ぶか必然と呼ぶかはともかく……元々、送られた場所が限定的な上に読む人数が限られている上、ヤンの階級の低さと相まって決して大きなムーブメントにはならなかった。

 

加えて、()()()()()軍人しか読めなかったという点も大きいだろう。

だが、どこにも例外は付き物であるのが、世の常人の常であろう。

 

 

 

世に合縁奇縁という言葉があるが、縁と言うのは本当にどこに繋がってるかわからないものだ。

そして、レポートが流れ着いた先にいたのは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

 

 

 

 

 

 

「あ~はははっ♪ こりゃ傑作よ! ご飯三杯はイケそうなメシウマなレポートなんて久しぶりに見たわ!!」

 

ハイネセン・ポリスの高級住宅地、現代で言えばビバリーヒルズの一等地に立つ豪奢な屋敷の豪奢な居間、そしてこれまた高そうなソファの上で、一人の幼女(?)が、”()()()()()()()()()()()()()()”を見ながら笑い転げていた。

 

「まさか一介の軍大生が、こうも”イゼルローン要塞奪取は阿呆の所業である”って冷静かつ淡々と言ってのけるとは思わなかったわ」

 

なんとも愛らしい幼女(偽?)である。

巻き毛のようなくるりとしたクセを持つふわりとした長い金髪に、どこか猫を思わせる好奇心旺盛そうな大きなブルートパーズ色の瞳……

体つきは小柄……というよりむしろ幼くかなりコンパクト。

140cmがあるかどうか微妙な身長に、3サイズは上から順に”つるーん・ぺたーん・すとーん”だ。

 

とにかく、「美少女か?」と問われれば個々の(主にサイズ/外見年齢的な)価値観の相違が頭をもたげるが、「美幼女か?」と問われれば10人中10人が頷きそうな雰囲気がある。

 

ただし、誤解のないように言っとけば、彼女は既に成人してるし立派な社会人だ。

ついでに言えば税理士の国家資格を持ち、同じく政治家だった父親が存命の間は経理を取り仕切っていた、いわゆるやり手の”出来る女”である。

 

とりあえずプロフィールを読むだけで、なんだか脳内に”○りこんでよかった”がモキュモキュと大音声で再生されそうだ。

できれば、”ろ○こんでよかった~歌ってみた 【ちぃむdmp☆】”版でお願いします。

 

 

「”()()()”、はしたのうございます」

 

と苦言するロマンスグレーの執事であったが、

 

()()()()()、せっかくの上機嫌に水を差すのはよくないわよ?」

 

「お嬢様こそ自らの立場を少しはお考えいただけるとありがたく」

 

「かったいわね~。ワタシはお父様じゃないんだから、もうちょい柔らかくてもバチは当たらないわよ?」

 

「されど同盟開闢より続く名門、始祖の血脈に名を連ねし”()()()()()()()家”にお仕えして三十有余年……今更、スタイルを変える気はございません」

 

「頑固者」

 

「褒め言葉と受け取っておきます」

 

恭しく一礼する初老の家令に幼女……いや、”ヨブ・トリューニヒト・()()()()”は苦笑し、

 

「よっと」

 

反動をつけてソファから飛び降りる。

ミニスカのせいでおぱんつ様(キャラ物の女児用だった……)が丸見えであった。

ウォルター・()()()()()は、ガン見するわけでもなくただただ「奔放すぎるのも困りもの」と言いたげに溜息を突いた。

 

「ウォルター!」

 

お嬢ニヒト(?)は家令アイランズをビシッと指差し、

 

「ただちにヤン・ウェンリーを調べなさい! 特に最近のスケジュールは念入りに!!」

 

「かしこまりました、お嬢様」

 

「大至急よ♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




はい。シリーズ屈指の合法ロリ、ヨブたん華麗に再登場♪(挨拶

第016話のラストにちらっと登場した娘ですが……覚えてらっしゃるでしょうか?(汗

彼女の詳細などは次話以降に掘り下げられたらな~と。
いや、ようやくオリキャラタグが入れられそうです(^^

それにしても……ヤンは、とんでもない娘に目をつけられたようですよ?



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第032話:”ワタシを××にしなさい!”

さて、サブタイの××に入る2文字はなんでしょう?
答えは本文の中に(笑

簡単に言えば、合法ロリ(とその執事)が色々やらかす話です(えっ?




 

 

 

ヤン・ウェンリーが所定の郵送先にレポートを送り終えた後、短い休暇を終えたラインハルト・ミューゼルは「いくつかの課題」をヤンに託し、出世への道を登るべく再び宇宙へと旅立った。

 

新たな配属先は自由惑星同盟駆逐艦”なのです!”……もとい。”イナヅマ”の航法士官だ。

目的はイゼルローン方面の哨戒任務に参加するため。

 

何か原作で同じようなシチュエーションがあった気もするが、”イナヅマ”はどちらかと言えば型の新しい駆逐艦であり、ついでに同盟側なのでアホ貴族も搭乗していない。

要するに叛乱を起こす必要は無さそうだった。

 

仮に遭遇戦が発生したとしても、今度は多勢に無勢でボコる側なので問題ないだろう。

むしろ、戦闘が発生した方が昇進しやすいのでラインハルト的には願ったり叶ったりだ。

 

 

 

さて、そんな平和(?)な日曜の午後の昼下がり……

 

”キンコーン”

 

静寂を破るようにミューゼル家の呼び鈴が鳴らされる。

防犯カメラで確認すると、執事服に身を固めた初老の男性と赤いミニスカドレスをばっちりキメた金髪幼女だった。

 

午後のお茶の準備をしていたアンネに、「私がでるよ」と告げて廊下を抜けヤンはドアを開ける。

なんか無用心と言うか……緊張感のない動きだった。

しかも、ラインハルトに「服務規程も考え、可能な限り帯銃してろ」と言われているのをコロッと忘れているらしい。

まあ、本人に言わせれば『どうせ撃っても当たらないし』と言いそうだが……やはり一度くらいは痛い目にあったほうがいいのだろうか?

 

一応、女性が護身用に買うようなコンパクトかつ軽量なブラスターを私費で購入した(というかラインハルトにガンショップへ連行され買わされた)ようだが、同じく購入したホルスターに突っ込んだまま机の引き出しに入れっぱなしだ。

 

「はいはーい。どなたですか?」

 

執事と幼女とは妙な取り合わせだな?とは思ったが、「どこかのお金持ちのお嬢さんかな? 御近所に越してきたから挨拶回りしてるとか?」と納得してガチャリとドアを開ける。

すると……

 

”ビシッ!”

 

といきなり指を刺され、

 

「アナタがヤン・ウェンリーね? うん。中々美形ね? 落ち着いた感じがワタシ好みよ♪」

 

「は、はあ。そりゃどうも」

 

どうリアクションしていいかわからなくなっているヤンにその幼女は、

 

「ヤン・ウェンリー、ワタシを愛人にしなさい! これは命令よ! アナタに拒否権は無いわ!!」

 

……

………

 

「はあっ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

 

 

 

 

 

 

「あら? このお茶、美味しいじゃないの♪ アンネローゼ、アナタいい腕してるわね?」

 

「お褒めにあずかり光栄ですわ♪」

 

ここはミューゼル家リビング。

ちゃっかり家に上がりこんだ幼女と執事は、ヤンとアンネローゼが座るソファのテーブルを挟んだ対面のソファに陣取っていた。

 

「えーと……強引に家に上がりこんできた君は一体、誰なんだ?」

 

すると幼女は余裕綽々の微笑で、

 

「ヤン・ウェンリー、アナタってば政治とか関心ないクチ? ワタシ、自分で言うのもアレだけどそこそこ有名な議員のつもりよ? 民主主義の特権たる選挙権を放棄するなんて勿体無いわよ?」

 

するとヤン、少しムッとした顔で、

 

「参政権が民主主義の重要な権利と義務だってことは、君に言われなくても心得てるよ。それより、君が議員だって?」

 

すると幼女はちらりとアンネローゼを見て、

 

「ワタシを知ってるわよね?」

 

「ええ。もちろん♪」

 

幼女は勝ち誇ったドヤ顔で、

 

「ほらね?」

 

「ぐぬぬ……しかし、議員には年齢制限が、」

 

すると幼女は少し視線を鋭くし、

 

「言っておくけど……ワタシ、アナタより2歳年上よ? 年長者にはそれなりの敬意を払ったほしいところね」

 

「いくらなんでもそんなことは……!」

 

「”遺伝子変異性幼生固定症候群(ネオテニー・シンドローム)”……聞いたことは?」

 

 

 

遺伝子変異性幼生固定症候群(ネオテニー・シンドローム)”とは?

”銀河連邦の負の遺産の一つ”に数えられる遺伝病で、詳細は省くが連邦時代の狂った遺伝子工学……不老不死、あるいは不老長命研究の副作用とされている。

ルドルフ・フォン・ゴールデンバウムの施行した”劣悪遺伝子排除法”において、銀河帝国では完全排除されたとされるが……帝国へのアンチテーゼを国是の一つとしてもつ自由惑星同盟では、”特定遺伝子病”として認知されていた。

 

一般に第二次性徴前に発育が止まり、新陳代謝異常から死ぬまでその姿は変わらないとされ、また、見た目どおり細胞分裂速度が子供並に速く、寿命は健常者に比べて短い。

同盟での戦死や不慮の事故死を除く生物的平均寿命は男女共に90歳を越えるが、このネオテニー・シンドローム患者の平均寿命は50代と言われていた。

また女性なら初潮、男性なら精通がない場合が多く、極めて子供を作りにくい(ただ、まったく出来ないわけではない)とされている。

同盟市民には多くの因子保有者がおり、隔世遺伝や超隔世遺伝の例も多い。

発症率は100万人に1人……実はさほど低くは無い。

計算上、21世紀の日本に準えれば100人以上患者がいることになる。

 

 

 

「……ごめん……」

 

「素直ね? ますます好みだわ……」

 

クスッと笑い、

 

「ワタシは”ヨブ・トリューニヒト・()()()()”! 自由惑星同盟国防委員会に所属する新進気鋭の議員よ!!」

 

立ち上がりキメ顔で仁王立ちポーズのお嬢ニヒト。自分で新進気鋭と言ってのけるあたりが、彼女の性格をよく物語る。

 

「トリューニヒト家の家令を勤めさせていただいております”ウォルター・アイランズ”と申します。皆様、以後お見知りおきを」

 

と同じく立ち優雅に一礼をみせる執事だった。

 

 

 

 

 

 

ヤンは気づかない。

この出会いが、アンネローゼやラインハルトの出会いに匹敵するほど、彼の人生を大きく変えてゆくことを……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




お嬢ニヒトがちみっこい理由が存外に重かったでござる(挨拶

実はもう一つの拙作”金髪さんのいない”の方のイリヤの設定を、一部改変して使ってたりして(^^
これぞ、”使いまわし(スター・システム)”?

蛇足ながら……”ラインハルトが電に乗る”と表記を変えると、微笑ましくも犯罪臭のする字面になりもうした(笑



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第033話:”身長136cm/体重29.8kgのおしかけ愛人(本人の希望)”

中途半端な時間だけどアップです(^^

果たして、お嬢ニヒトはどこまではっちゃけられるか?
そして……


 

 

 

とある日曜の平和な午後、アンネローゼと共に午後のお茶を楽しもうとしていたヤンの元へ()()()()()がやってきた。

 

その霹靂の主人の方、幼女(偽)の名は”ヨブ・トリューニヒト・()()()()”、実は結構有名な新進気鋭の名物議員らしい。

 

 

 

「それにしてもなんで()()なんて男性みたいな名前……まさか君は!?」

 

流石は帝国と違いサブカルが未だしぶとく息づく同盟の政治家、お嬢様はすぐにピンと来たようで……

 

「誰が男の娘よ? 生憎、出るべきとこは出てないけど、付いてもいないわよ。なんなら自分の目で確かめてみる?」

 

と、ぴらりとミニスカドレスの裾を盛大にたくし上げてみせるお嬢ニヒト。

真っ白なニーソにキャラ物のおぱんつという組み合わせをチョイスするあたり、中々”わかっている”と言えよう。

 

「いや、いいから! というか下着まで女児用じゃないか……本当に私より年上なのかい?」

 

目を逸らすかと思いきや、ガン見とは言わないが意外としっかり見ていたヤン・ウェンリー。

アンネローゼと一緒に過ごすうちに耐性だか免疫だかがついたのか、はたまた好奇心のなせる業か?

 

「安上がりでいいじゃない? いいこと? 私のサイズ……身長136cm/体重29.8kgでそれなりにエロい大人デザインの下着はないの。基本的にオーダーメイドよ。知らないと思うけど、下着のオーダーってけっこういい値段するのよ? 今はイレギュラー……というかノリでぱんつ見せびらかしてるけど、本来なら見せる予定はなかったわけだしね」

 

とようやくスカートの裾を手放し、

 

「見栄だの面子だの体裁だのってのも商売道具である以上一般人より面倒で、金をつぎ込まなくちゃいけない部分は多分にあるけど……政治家は税金で飯を食ってるんだから、下げられる経費は下げるべきだわ。見えない部分なんかは特にね」

 

「そりゃ、ごもっともだけどさ……」

 

「ああ、それでも流石に私も女だから勝負下着くらい持ってるわよ? って、なに? 会って間もなく勝負下着が必要になるようなシチュエーション、想像しちゃった? ()()って見かけによらず肉食系男子?」

 

「そんなわけあるかい。というか、そんなに若くはできてないよ」

 

「ふふん。枯れてるのは嫌いじゃないわよ?」

 

 

 

はぁ~っとヤンは深々とため息を突いた。

どうもおかしい、調子が狂わされっぱなしだと。

 

(会話の主導権が握れないのが、こんなに厳しいとはね……)

 

精神的には後退に次ぐ後退……できるなら、いっそ撤退戦に移りたいヤンだったが、敵は手強くそう簡単に逃がしてくれそうもない。

爛々と楽しげに輝く青空色の瞳を見てるだけでそう思ってしまう。

 

(空に吸い込まれそうっていうのは、こういう気分なのかな?)

 

どこか場違いな事を考えながら、

 

「ところで愛人がどうこう言ってたけど……そもそも、私はまだ結婚してないんだが?」

 

「そんなこと、知ってるわよ」

 

お嬢様は「何を当たり前な事を」と言いたげな表情をしながら、ヤンの隣に座るアンネローゼを見て、

 

「まさか、これだけの家に住んでて結婚資金がないってことは無いわよね? もしそうなら、出してあげるけど」

 

「いえ、そういうことじゃないですよ?」

 

「……いくら軍人の基本給が安いと言っても、そこまで金に困ってないよ」

 

 

 

さて、我らが自由惑星同盟なのだが……軍人は公務員であり、その給与は”公務員基本法”に準ずる物である。

何が言いたいかと言えば、いざ戦場に出る……いや、作戦に参加すればその立場に応じた危険手当は付くし、その他の手当/特別手当も公務員だけあって手厚いが、基本給は決して高いものではない。

まあ、それも階級に応じて(特に将官クラスの年俸は国全体で見てもかなりの高給)なのだが……ただ、基本的な衣食住は補償されるので、そこまで加味すればまあまあ悪くない給料と言えるだろう。

 

「ということは……ヤン、アナタのヘタれが原因ってこと?」

 

「失敬な。学生結婚なんて、成功例の方が少ないだろう?」

 

まあ、統計学的には正しい反論なのだが、

 

「アナタねぇ~。学生である前に軍人でしょうが? 実際、戦場に出たらいつあの世とやらに宅配されるかわからないんだから、軍大学なんて後方中の後方にいられるうちに結婚しときなさいって」

 

トリューニヒトも軽く正論で返す。

 

「大きなお世話だよ。まったく」

 

「大きなお世話ついでに聞くけど……アンネローゼ、アナタまさかまだ処女なんてことは……」

 

すると話を振られたアンネローゼはにっこり微笑み、

 

「ウェンリー様に来ていただいた初日の夜に、美味しくいただきましたわ♪」

 

「……私はいただかれたらしいよ?」

 

「そ、そう。アナタ達の力学的関係が良く理解できたわ」

 

(肉食はアンネローゼの方だったようね……)

 

とトリューニヒトは心の中で呟いた。

新進気鋭(自称)の政治系合法ロリをたじろかせるとは、やはりアンネローゼも只者ではないようだ。

まあ、ヤンを「可愛い赤ちゃん」と言ってのけるあたりから、常人じゃないことはわかっていたが。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

「私とアンネの関係を理解してくれたようで幸いだけど、それを踏まえた上で……いきなり愛人なんてどういう了見だい?」

 

「それは簡単よ♪ ワタシ、奥さんや妻や女房なんて呼ばれ方する生き物に進化できる要素ないもの。炊事/料理/洗濯に代表される家事全般は壊滅的、生活能力0査定。子育てなんて冗談じゃないわね」

 

「それに関しては大いに共感できるところだけど……」

 

思ったより自分と共通項があったことに軽く驚くヤン。

ふとアンネローゼと執事アイランズが生暖かい目をしていた。

ふと二人の視線が合う。そして合点がいった様に頷いた。

おそらくだが視線の意味は、

 

『世話のし甲斐のある主人(おっと)で嬉しいわ♪』

『仕え甲斐のある主人(しゅじん)で幸いですな』

 

という感じだろうか? 字は同じでも読み方が違うようだが。

支える側二人も妙な親近感(シンパシー)を持ったようだ。

 

「私が聞きたいのは、そういうことじゃないことくらい理解してるだろ?」

 

「そりゃね」

 

とお嬢様は小さく微笑み、

 

「それを語るには、ヤン……アナタの疑問、なんでワタシがわざわざ”ヨブ”なんて男の名を名乗ってるかを説明した方が手っ取り早いと思うわ。それもわざわざ”二世(セカンド)”なんて付けてね」

 

「拝聴しようじゃないか」

 

少なからず好奇心を刺激されたヤンに、トリューニヒトはコホンと咳払いして、

 

「そもそも”ヨブ・トリューニヒト”っていうのは、同じく政治家だったお父様の名前よ。まあ……もうこの世にはいないけどね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




お嬢は、合法ロリと言う視点からならないすばでぃ(挨拶

うん。思ったより真面目な内容(?)になってしまったことに、軽く驚いています(^^

そして、アンネローゼ様強し!
これぞ正妻の貫禄?

あと、ヤンとお嬢ニヒトがなんとなく共通項多くて(頭脳派、私生活が壊滅的にズボラなどなど)気が合いそうな予感……



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第034話:”アシュリー・Tとは何者なのか?”

いくつか感想に頂いた”彼女の名前に対する疑問”に答えられる回になるかな~と思っています。

そして、今回のあとがきは拡大版♪
オリキャラ、お嬢ニヒトこと”ヨブ・トリューニヒト・セカンド”のキャラ設定を掲載します(^^




 

 

 

ヨブ・トリューニヒト

同盟の政治家。国防委員会所属の議員。

選挙区はハイネセン・ポリス。ルドルフの専制君主主義に絶縁状叩きつけ、アレイスター・ハイネセンと共に新天地を目指し”長征1万光年(ロンゲスト・マーチ)”を成し遂げたる名門”始祖たる家々(エスタブリッシーズ)”の一つ、トリューニヒト家の嫡子。

トリューニヒト家は政治家/役人を多く輩出した家系であり、そのバックボーンは”軍需産業複合体”と言われている。

 

本人もトリューニヒト家政治家のステレオ・タイプ、超タカ派議員として知られていた。

金髪の目立つムービースターのような容姿と優れた弁舌、高いディベート能力と相まって人気のある政治家だった(大衆迎合やイメージ戦略も得手だった)。

また、特に国防委員会では軍需産業複合体の利益代表としての立ち位置が目立ったが、決して国益と相反するものではなく「トリューニヒトがいなければ、同盟艦隊は今より最低1割は弱かった」という評価も軍部には根強くある。

 

華やかではあるがしぶとい政治スタイルから、”ショウマン・ヨブ”や”ポイズン・ヨブ”などと揶揄する政治家も多かった。実力者ゆえに政敵は多かったと思われる。

実際、事故死したときは政敵による暗殺が疑われたが、今のところ他殺の証拠は()()()()存在しない。

宇宙歴786年没。享年50歳

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

「そしてお父様が存命だった頃のワタシは、公私共に”()()()()()・トリューニヒト”が唯一の名前だったわ」

 

少し懐かしそうに……どこか切なそうに呟く”アシュリー”嬢だったが、

 

「大学は飛び級で14歳で卒業してたし、税理士の資格も持ってたからお父様の経理スタッフとして働いてたのよ」

 

あえて明るい口調で、

 

「お父様が鬼籍に入って、ワタシもお父様と同じ政治家を目指すことにしたのよ。幸い、政治家に必要な”()()()”は全部あったしね。お父様の遺産を狙うハイエナどもを蹴散らして、残らず引き継いでやったわ」

 

”三バン”とは、選挙を勝ち抜くために必要な地盤(当選が見込める選挙区)/看板(知名度)/カバン(選挙資金)のことだ。

カバンと言ったらカバンちゃんとは言ってはいけない。

 

「それで政治家を目指すと決めたとき、三バンを引き継いでる以上はどうせ二世議員の色眼鏡で見られることは確定だったからね……んで、」

 

満面の笑み……というよりドヤ顔で、

 

「どうせならって自分から”ヨブ・トリューニヒトの二世(セカンド)”だって名乗ってやったのよ♪」

 

 

 

自由惑星同盟では、自治政府により対応はまちまちだが基本的に改名は比較的に簡単にできるようだ。

例えば、原作でもスーン・スールズカリッター氏がスーン・スールに改名している。

 

「”ヨブ・トリューニヒト・()()()()”としなかったのは……こだわりかい?」

 

「当然の疑問ね」

 

アシュリーは不敵に笑い、

 

「ジュニアなら、ただの”ヨブ・トリューニヒトの子供”って意味よ。ワタシは血の繋がりじゃなくて、己の意思でお父様の遺志を継ぐって決めたの。”セカンド”はその覚悟の証だと思ってくれれば嬉しいわ」

 

 

 

(鮮やかな娘だな……)

 

それがヨブ・トリューニヒト・セカンドと自らの名を変えた娘に対するヤンの偽らざる感想だった。

その鮮烈な印象は、眩しささえも伴って彼には見えた。

 

(似てる部分もあるかと思えば、ヤレヤレ……私とは正反対の生き物じゃないか)

 

見事にフラグを立ててしまったヤンである。

あるいはブーメラン投擲かもしれない。

この男、どうやらエル・ファシルで自分が何をやったのか?とか、レポートの名を借りた怪文書を製作したとかコロッと忘れているのかもしれない。

別の言い方をすれば、「未来が見えないというのは人間にとって幸せなのかもしれない」となるか?

 

 

 

だが、ヤンは一つ気にかかる単語があった。

 

「故トリューニヒト氏の遺志?」

 

少女が名を変えるほどの原因……するとアシュリーは笑いの質を変えて人差し指を唇に当て、

 

「女の秘密をぺらぺら喋れるほど、アナタとワタシの関係は深くないでしょ?」

 

「ごもっとも」

 

しかしアシュリーは心の中だけで、

 

(まだ関わらせるわけにはいかないわね……今の地位程度じゃ、いつどこで誰に消されるかわかったもんじゃないし)

 

と呟いた……

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

「まあ、昔馴染みだったり親しかったりの人は今だ”アシュリー”と呼んでるけどね。まっ、ニックネームみたいなものよ。それに……」

 

いや、それ以上の意味があるのかもしれない。

 

「それなりに愛着もあった名前だしね」

 

そして僅かな切なさを消し去るようにブルートパーズの瞳に悪戯っぽ光を宿し、

 

「ヨブって呼ぶ……あら、韻を踏んでる? ともかくそう呼ぶのが嫌なら、ヤンもアシュリーって呼んでいいわよ? アナタ、好みだもの。あっ、もちろんアンネローゼもね? 貴女とは仲良くしたいし」

 

「光栄だね。それに助かる。どうにも理由はわからないけど……君をヨブ・トリューニヒト、あるいはトリューニヒトと呼ぶには酷く抵抗がある」

 

「? お父様に何か思うところでもあるの?」

 

「いや……初めて聞いた名のはずなんだけど……それとも、どこかで聞いたことあるのかな?」

 

自分でもその感覚に首をかしげるヤン・ウェンリーである。

とある金髪義弟(ラインハルト)と違って、別に異世界の自分の記憶が流入したわけではないので要注意だ。

 

「お父様は有名だったから無理も無いわ」

 

「うふふ。私もアシュリーの方がいいですわ。だって可愛いもの♪」

 

もう順応してるアンネローゼ様がそこにいた。

ヤンもだが、順応力が高すぎるカップルである。

 

「ありがと、アンネローゼ。身長とか体格を抜きにして、褒め言葉と受け取ってあげるわ」

 

と微妙にコンプレックスを暴露するアシュリー嬢であった。

 

 

 

「ところでアシュリー……でいいかな?」

 

「もっちろんよ♪」

 

(あざとい笑顔だなー)

 

と思いはしたが、口に出すほどヤンも野暮ではない。

それに”あざとい”は決して悪い意味だけではなく、むしろ彼女の仕事柄やキャラを考えれば立派な武器だ。

 

君の概要(プロフィール)はわかったけど……どうにも、愛人とやらと上手く結びつかないんだ。もしかして、私たちの意思疎通に齟齬があるのかい?」

 

「ん・ふ・ふ~♪ まっ、ヤンにはわかり辛いかもね。軍人でも、今の階級じゃあんまり必要ない発想……というか、むしろ邪魔になりかねないものだしね~。ワタシがアナタの愛人となって獲られるもの、それは……」

 

そして再びアシュリーはズビシッ!とヤンを指差し、

 

「ずばり! ”ネームバリュー”よ!!」

 

……

………

 

「は?」

 

「くふふ♪ な~んにも自分の”()()()()()”をわかってないのね?」

 

チッチッチとアシュリーはメトロノームのように人差し指を振り、

 

「ヤン・ウェンリー、アナタはもう少し自覚的であるべきよ。でしょ? 『エル・ファシルの英雄』さん☆」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




お嬢はお嬢なりに色々あるみたいだし、色々考えてるみたいですよ?(挨拶

では、さっそく設定を……



☆☆☆

ヨブ・トリューニヒト・セカンド(旧名:アシュリー・トリューニヒト)

身長136cm/体重29.8kg、3サイズは上から”つるーん・ぺたーん・すとーん”のパーフェクト幼児体形。

異名:アシュリー(旧名。昔馴染みと親しい人)、お嬢ニヒト(主に作者的に……)、ヨブたん(変則)

イメージビジュアル(というか元ネタ):”妹さえいればいい”の『大野アシュリー』。金髪碧眼の合法ロリで税理士の国家資格持ちという設定もそこから。

性格イメージ:大野アシュリーのSっ気成分を弱め、代わりに”エロマンガ先生”の山田エルフ大先生と政治家成分を混入した感じ。

基本的にトリューニヒトの血と気質に忠実で、”強引なマキャベリスト”的政治家。
父親の故トリューニヒト氏の三バンを見事に継承してるため、新人議員にしては異様に権力がある。
またトリューニヒト家は代々、国防産業/軍需産業複合体の利益代表となる政治家や役人を輩出してきた家系であり、無論彼女も強いつながりがある。

元々は大学を14歳で飛び級卒業し、父親の元で経理スタッフとして働いていた。
帳簿管理/財産管理は彼女の独壇場で、三バンを速やかに引き継げたのもその部分が大きい。

遺伝子変異性幼生固定症候群(ネオテニー・シンドローム)”という特定遺伝子病を患っており、死ぬまで容姿が変わらず、その寿命も統計学的に短い……と思われる。
なので、「人より短い人生、限られた時間を目一杯使い切る」ことを目標としているフシがある。
父親の遺志を継ぐのもその一環。
また、父親を事故死だとはまったく思っていなく、”同盟の暗部”とも関わりがある可能性が……
先代の故ヨブ・トリューニヒト氏の一人娘で現トリューニヒト家当主。
現状、執事(家令)のウォルター・アイランズと共に行動してることが多い。

☆☆☆



いや~、実は見事に元ネタを言い当てた方がいました(^^
cipher.garm1さん、お見事!!

実は彼女の設定はかなり古くて、初期には”TSトリューニヒト=ヨブたん(仮称:合法ロリ)”ってあったりします。
実はTSタグ、最初はアシュリー・トリューニヒトのために用意したものでした(^^




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第035話:”嫁や妻には母としての役割を求められるのよ。常時戦時下のこの国じゃね”

今回は、愛人の”真意”が語られる予定です(^^




 

 

 

ネーム・バリュー……つまり、”エル・ファシルの英雄”の虚名こそが、アシュリー・トリューニヒトがヤン・ウェンリーに求めたものだった。

 

 

 

「呆れたな……”そんな物の為に”とは言わないけど、それが愛人になると言い出した理由かい?」

 

「ええ♪」

 

ヨブ・トリューニヒト・セカンド……アシュリー・トリューニヒトはむしろ無邪気に微笑み、

 

「名を売るってのは政治家にとって、とても重要なのよ。ワタシはお父様の後継者と看做されてるし、わざわざ改名して”二世(セカンド)”を名乗ったのも、志を継ぐ覚悟の証を示すってだけじゃなくて話題性による売名も立派な目的だったし、実際に知名度を上げることによって”三バン(地盤、看板、カバン)”を円滑に引き継ぐのに一役買ったわ」

 

「やはりわからないな……どうして愛人なんだい? 正直、悪名ばかりが広がりそうなんだけど」

 

「悪名だろうが名声だろうが、まずは目立ってナンボが人気商売の常! まずは名が売れることありきよ。それに、」

 

アシュリーはくふふと笑い、

 

「ヤンは愛人って存在や言葉にネガティブな印象があるみたいだけど、実際そう悪いもんじゃないわよ? 無論、相手によりけりだけど」

 

意外そうな顔をするヤンに、

 

「ねぇ、ヤン……こう考えたことはないかしら? もし、かのブルース・アッシュビーの絶頂期、彼が公的に認める愛人が選挙に出馬したらどうなるか?って」

 

それは一般人には生臭く、そして同時に実に政治家らしい発想だった。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

「あー……わかってると思うけど、私はあの偉人と比べられる器じゃないんだけど?」

 

「そうね。ワタシの見立てだと、アナタの器はブルース・アッシュビー()()()と比べるべきじゃないわね? アナタ、どうやら”ただの戦争屋”に納まりそうもないもの」

 

とアンネローゼを見て、

 

「貴女もそう思わない?」

 

「流石に自称を含めて1個中隊の愛人が出てくると対処に困りそうですけど」

 

「確かに数でアレを越えられても困るわね……管理が面倒そうだし。ヤン、越えるなら数じゃなくて質で越えなさい」

 

「いや、そういう問題じゃなくてだね……」

 

「ねぇ、ヤン。さっきも言ったけどワタシは嫁に向いてないの。それに、アンネローゼが正妻であることに不満はないんでしょ?」

 

するとヤン、迷いもせず、

 

「ああ。私には勿体無いぐらいだ」

 

”きゅ”

 

と隣に座っていたアンネローゼが喜びを態度で示す。

具体的には、腕に抱きついた。何をとは言わないが……”当たってるんじゃなくて、当ててんのよ”というより、むしろ”挟んでるのよ♪”という感じだ。

 

「付け加えるとね……ワタシがヤンの嫁とか言うと、絶対おかしなこと言ってくる奴がいるからね」

 

「おかしなこと?」

 

アシュリーは頷き、

 

「ワタシ、幼い見た目どおりで生理が無いのよ」

 

「? それがどうかしたのかい?」

 

ヤンはそういう遺伝病なんだから仕方が無いとしか思ってないようだが、

 

「あ~……あのね、生理がないってことは排卵がないからいくら種を注いでもらっても子供ができないのよ。まあ、必ずしもできないってわけじゃないけどね。例えば、生理が来てない未熟な性器でも、性交渉で刺激されて排卵が促進されるってことはあるわ。現にワタシのお母さんがそのケースで、ワタシを身篭った訳だし」

 

聞けば、アシュリーの母も同じ”遺伝子変異性幼生固定症候群(ネオテニー・シンドローム)”だったらしい。

しかも、写真に残る母の姿は今のアシュリーより幼い印象とのこと。

 

「まあ、お母様はワタシが幼い頃に死んじゃったけど()()無理したのかもね? お父様より年上だったらしいし」

 

と軽く付け加えてから、

 

「とにかく、子供ができない……とは言わないけど、できにくいのは確かよ。確率的にはアナタとアンネローゼとの間に子供が出来る確率の1%未満くらいじゃないかしら? そう考えると、お父様もお母様も今更ながらよく頑張ったわね~」

 

そう苦笑するが、ふと真剣な表情を作り、

 

「わかるでしょ? なんだかんだ言って自由惑星同盟はバリバリの戦時国家、人口増大には気を使うし腐心もするわ。特にあと10億人増えれば、馬鹿貴族たちの自覚なき失策で人口が減り続けてる銀河帝国に人口で追いつけるともなれば尚更にね」

 

同盟樹立からの人口増加率を考えれば、あと10億人と言うのは現実的な数字だ。

最近、人口増加が鈍化してきてるとはいえ、なるほど確かに無理な話じゃないだろう。

 

「国家は、嫁とか妻に母となることを求めてるのよ」

 

 

 

(もっとも『”()()()()”を求めてる』とか言い出さない辺り、まだマシよね)

 

露骨に「兵を増やせ」と消耗品を量産するような標語を、未だ自由惑星同盟は出していない。

原作という”もう一つの世界”を知ることが生涯ないだろうアシュリーには知る由もないが……実は”この世界”の同盟、原作屈指の天下の悪法たる”軍事子女福祉戦時特例法”、いわゆる”トラバース法”が成立していない。

それどころか今のところは法案すらも出ていない。

 

やはり、帝国と同時期に成立するところから始まる歴史の差だろうか?

あるいはほぼ同等の人口、倍に達する経済力の余力からだろうか?

この150年にわたる戦時下であっても、自由惑星同盟は爪先立ちかもしれないが、まだ辛うじて国家の健全性を維持していた。

軍事費がここ最近に限れば、基本的に「国家予算の20%」を越えた年がないことからもそれが伺える。

 

語弊を恐れずに言うなら、同盟は”恒常化した戦争に()()()()国家”かもしれないが、”戦争のみに()()した国”ではないのだ。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

「まだ納得は出来ないけど、アシュリーが愛人にこだわる理由は理解は出来た。だが……」

 

ヤンは腕を組み、

 

「何故、私なんだい?」

 

 

 

「何故……とは?」

 

「だって”エル・ファシルの英雄”は、()()()だろ?」

 

「それね……確かに疑問に思うわよね。簡単に言ってしまえば、”消去法”よ」

 

「消去法?」

 

ヤンの言葉にアシュリーは頷き、

 

「そう。残ったのがアナタ、ヤン・ウェンリーだったのよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




アシュリーは、オリジナル・ヨブさんと違うベクトルで曲者です(キリッ

「好きだけど母に離れそうもないから愛人を目指すわ」なんて可愛いことは言わないのが、この娘です(^^





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第036話:”彼女はきっとウソツキ”

せっかくの土曜なので深夜アップ♪

今回はちょっと今までと違う書き出しにしてみました(^^

一体誰が、何がウソツキなんでしょうね?




 

 

 

「どうせ愛人として名乗りを上げるなら、”エル・ファシルの三英雄”の中でも最初からヤン・ウェンリーしかないと思っていたわ」

 

後年、ヨブ・トリューニヒト・セカンド(アシュリー・トリューニヒト)はとあるインタビューでこう語ったという。

 

「ワタシはお父様譲りの鑑識眼が確かだったことに、自分自身で感謝してる」

 

少し膨らみ始めた小さなお腹を撫でながら、

 

「だって今のワタシ、こんなにも幸せなんだもの♪」

 

不思議とその瞳のハイライトが仕事を『働いたら負けた気がする』とばかりに拒否しつつ代わりに妖しい艶を浮かべ、笑みを浮かべる唇はなまめかしく濡れ、頬は上気していたという。

その姿はまるで……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

 

 

 

 

 

 

 

 

うそつきな”彼女”は言った。

 

『ヤン・ウェンリー、アナタを選んだのは消去法よ』

 

と。

 

 

 

「とりあえず、三英雄(トリオ)の中でヤンじゃないといけない理由を話したほうがいいんだけど……」

 

とアシュリー・トリューニヒトは悪戯っぽく微笑み、

 

「でも、弁証としては”何故、他の二人じゃ駄目なのか?”よね。消去法でアナタを選んだとこの口で言う以上は」

 

舌でぺろりと自分の唇を舐めた。

幼い容姿に相反し妙になまめかしいその仕草は、彼女が「外見と中身が別の存在」であることを印象付ける。

 

「まずはリンチ少将改めリンチ中将だけど……」

 

と微笑を苦笑に作り変え、

 

「現時点で中将って時点で色々アウトよ。そりゃ軍需産業複合体をバックにつけてるワタシの方が政治力……軍への影響力はあるかもしれないけど、それだけ。容姿を抜きにしても小童新人議員と歴戦の宇宙軍提督じゃ話にならないわ。野うさぎが獅子を飼いならそうとするようなものよ。それに、」

 

アシュリーは一度言葉を切り、

 

「ワタシがしたいのは”青田刈り”なの。”10年後の宇宙艦隊司令長官最右翼候補”なんて目されている、よほどのことがなければ安定した評価と将来がある男なんてつまらないないもの。どうせなら、”どう化けるかわからない 奇貨”の方が魅力的だし、先行投資のし甲斐があるわ♪」

 

 

 

「”奇貨居くべし”かい? やれやれ、いきなり話が生臭くなってきたもんだ」

 

「何言ってるのよ? 人間自体が生臭い生き物である以上、それを凝縮させた政治って物はむしろ生臭くてナンボってモンでしょうが? 清廉潔白なだけの政治なんて百害あって一利も無いわよ。だって清廉であることで幸せになれる人間なんて、この世に何人いるのよ? 本当にそんな人間が実在していたとして、銀行の預金残高が気になる人間と比べてどっちが多いと思う?」

 

政治家らしい切り返しに、ヤンはなぜか楽しそうに、

 

「”最大多数の最大幸福(The greatest happiness of the greatest number)”かい? 確かに民主主義の基本理念その物だけどね」

 

「個人の幸福を誰に憚ることなく追求できるのが、民主主義の醍醐味でしょ? 究極的に言えば、政治家の評価に高邁さなんて必要ないのよ。重要なのは、”どれだけ大勢の人間に飯を満足に食わせられるか?”よ。飯が食える対価に票を寄越すのが選挙ってもんでしょ? 自分たちを飢えさせる政治家に大衆は決してついてこないわ」

 

 

 

「あえて加えて言うなら、年齢差もそうだけどワタシ自身がリンチ中将を許容できると思えないのよねー。いや、人間としてとか軍人と政治家って関係なら特に問題ないけど?」

 

「? どういう意味だい?」

 

「リンチ中将が離婚歴があるって知ってる?」

 

急に話題を変えるようなアシュリーだったが、

 

「初耳だけど」

 

「ヤン、じゃなくてアンネローゼ……離婚の原因、特に旦那が嫁に愛想をつかされる場合の理由って何が考え付く?」

 

ヤンではなくアンネローゼに振りなおす辺り、アシュリーもよくわかっているようだ。

 

「えっと……酒に女にお金にギャンブルというところかしら?」

 

「まっ、普通はそんな感じよね?」

 

アシュリーはウンウンと頷き、、

 

「でも、そこが並みの御仁と一味違うのよ。あの中将閣下は」

 

「というと?」

 

「端的に言えばロック過ぎるのよ、あのオヤジ……ライフスタイルまで徹頭徹尾ね」

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

居を構える星は、同盟の中でも僻地にある死んだ動物の遺骸が腐る前に干からびるような乾き寂れた星、”オールドタイマー”。

どこかアメリカ開拓時代の西部を思わせる風土と気候のこの星には、華やかな都市生活に背を向けたような偏屈者達が好んで移り住んだ。

 

主な特産品は”火薬式銃器”、バグダッシュが所有していたコルト・パイソン・レプリカもその一つだが、実に同盟で流通する火薬式銃と弾丸の半数以上がオールドタイマー製と言われている。

最もブラスターやレーザーガンなどの光学銃が全盛のこの時代、確かに弾丸のチョイスによっては前者を凌ぐがキツイ反動に取り扱いの難しさから火薬式の実体銃は需要が多いとはいえない。

 

リンチ中将はそんな星に住み、現代の主流の安定化液体水素燃料(ハイドロ・リキッド)を用いたプラズマ・タービン・ジェネレーターなどの発電機関と常温超伝導モーターで形成されるモーターカーではなく、同じくハイドロ・リキッドを”燃料”にしピストンを動かすレシプロ・エンジンを搭載した”COBRA427S/C”によく似たオールドファッションのエンジンカーを愛車としていた。

 

酒と言えばバーボンのストレートで、ベースが好きで現代で言うフェンダー系のベースを好み、休みとなれば決まって地元の仲間とグラス片手にジャムセッションにポーカー、そしてバーベキュー。

朝食にはカリカリに焼いたベーコンが欠かせない……

 

プライベートじゃ、テンガロンハットとカウボーイブーツは外さない。

 

不便さ、不自由ささえもあえて楽しむ。

それがアーサー・リンチと言う()だった。

 

 

「どっからどう考えても、ワタシには無理。ワタシだけじゃなく並の女が手におえる相手じゃないわ。むしろ、結婚しようと思った元妻がすごいと思うわよ?」

 

「……今更ながらすごい上官だったんだな、あの人。痺れも憧れもしないけどね」

 

と妙な感心な仕方をするヤンに、

 

「でしょ?」

 

「ならもう一つの選択肢はどうなんだい? 愛人を狙うなら、むしろ彼の方が適任だろう。容姿を筆頭に、才覚も頭脳も軍人としての将来性も私が勝てる要素が何一つないラインハルトさ」

 

むしろささやかなドヤ顔をするヤンにアシュリーはため息を突き、

 

「姉であるアンネローゼには申し訳ないけど……」

 

「いえいえ。むしろ遠慮なくどうぞ♪」

 

視線を向けられたアンネローゼはむしろニコニコしていた。

 

「あの金髪君はもっと無理よ。ロックオヤジ閣下よりもね」

 

「そりゃまたどうして?」

 

「だってワタシ、まだ嫉妬に狂った女()に串刺しにされたくないもの」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




冒頭のシーンは未来の描写のようですが、確定した未来ではないことを明記しておきます(挨拶

いや、デレデレのアシュリーお嬢を書いてみたかっただけなんてことはナイデスヨ?
まあ、ヤンも結構興味、あるいはそれ以外の感情を惹かれてるような……?


そして、私生活が暴露されてしまったリンチ中将……私生活も生き様もロックでした(笑

次回は、現在金髪さんが同盟軍でどういう立場でどういう扱いなのか書けるかな?



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第037話:”凱旋の舞台裏 ~英雄の作り方~”

話は唐突にちょっと前に戻ったり……?




 

 

 

「はあ? 今度は唐突に物騒な話になったもんだね?」

 

あまり遠まわしになってない言い方で、ヤンはアシュリー・トリューニヒトに「どうせ愛人になるなら、ラインハルトなんかどうだい? 私より明らかに優良物件だよ」と進めてみたが、あっさり「No」と返されて、その理由と言うのが……

 

『だってワタシ、まだ嫉妬に狂った女()に串刺しにされたくないもの』

 

だった。

 

「ヤンだけでなく、ラインハルト君……でいいのよね?」

 

ととりあえずアンネローゼに確認を取るあたり、やはり政治家は抜け目なし。

どうやら、両親を除くこの家のパワーバランスを既に把握してるようだった。

アンネローゼがにこやかに頷くのを確認してから、

 

「とにかく、リンチ中将はともかくアナタ達二人は、今軍でどう扱われてるかわかってないでしょ?」

 

「? どういう意味だい?」

 

「ホント、無頓着なのね……仕方ないわね。ヤンの言うとおり、少なくとも容姿ではラインハルト君の方が勝るわね」

 

アンネローゼが”そうかしら?”と言いたげに小首を傾げるが、

 

「アンネローゼ、あくまで一般論だから。この際、貴女やワタシの主観はおいておくわ」

 

コホンと咳払いしてから、

 

「まず、これは先に言っておくわね? ズバリ! ”美形は金になる”のよ!!」

 

 

 

「きっと、最近の軍広報部の”ラインハルト様推し”の状況とそれにいたる理由を知ったら、本人卒倒しかねないわね?」

 

そう切り出したアシュリーが語るには……

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

元々、マスメディアからは”エル・ファシルの英雄トリオ”の情報提供欲求が激しかったらしい。

 

ブルース・アッシュビーや730年マフィアの例を出すまでもなく150年間も戦争が断続的に続く国家であれば、軍人がヒーローとして祭り上げられるのは自然だろう。

勝てる軍人なら、容姿に疑問符がつくような人物でも、相応に祭り上げられてしまう。

 

そんな折、馬鹿の代名詞たる帝国貴族がマンハント目的にエル・ファシルを侵犯するという大事件(スクープ)が起きたのだ。

 

当初、マスコミはエル・ファシルの被害が確定した時点で、軍と政府の無能を激しく糾弾しようと構えていた。

どういうことか?

実は、”銀河英雄伝説 星図”などをグーグル先生などに打ち込んで画像検索をし、星々の位置関係を見てもらえればわかるのだが……

 

エル・ファシルと言うのは確かにイゼルローン回廊の同盟側出口間近にあるのだが、敵拠点であるイゼルローン要塞からエル・ファシルまでの航路にアルトミュールにヴァンフリート&アルレスハイム、会戦で名高いティアマトやダゴン、そしてアスターテなど多くの星域があり、そこで同盟側も哨戒網を張り、定期的にパトロールを行っていた”はず”なのだ。

 

だが、貴族艦隊もその後を追いかけてきたイゼルローン要塞の直援艦隊であるマールバッハ艦隊も、まんまとその哨戒網をすり抜け、エル・ファシルに至っているのだ。

 

後日の調査でわかったことなのだが……これが可能となったのは偶然じゃなかった。

理由はなんともお粗末で、最近目に見える大きな戦いがなかったせいか、このいわゆる”国境パトロール”は完全にルーチンワーク化しており、艦隊が定期巡回するタイミングがわかれば、それをすり抜けることは簡単だったのだ。

 

実際、今回の襲撃は小勢ではあったが……その”哨戒の穴”を加味した軍部が極秘に行ったシミュレーションによれば、”最大()()()()()()3()()()()(あるいは5万隻)までなら哨戒網を潜り抜け、エル・ファシルに到達可能”という恐ろしい結果がでたのだ。

 

その根本にあったのは、”回廊での戦いがせいぜいで、帝国軍が有人惑星がある同盟領まで攻め込んでこないだろう”というあまりに楽観的でお粗末な先入観だったのだから始末に負えない。

 

 

 

流石にこの冷や汗どころか滝汗&顔面蒼白のレポートは外部には公表されなかったが、同盟軍部はその状況を重く見てイゼルローン方面の警備強化と抜本的な見直しを余儀なくされた。

 

実は第032話でラインハルトが駆逐艦”イナズマ(なのです!)”に乗っかってイゼルローン方面に旅立ったのも、その”イゼルローン方面警備強化計画”の一環なのであった。

きっと今頃は楽しそうに帝国艦を沈めてるに違いない。それが新たな英雄伝承のエピソード(ヒロイック・ファンタジー)となるのも知らずに……

 

 

 

さて、話を元に戻すと……

エル・ファシルの急襲事件は、明確な哨戒網の穴があるのに気づけなかった軍部と、その責任を負うはずの政府のこの上なく明確な失態だった。

 

マスコミも被害が明らかになった時に備え、一斉に叩く準備をしていたが……思い切り潮目が変わった。

 

そう、リンチ提督が艦隊レベルで満身創痍になりながらも貴族艦隊を返り討ちにし、ヤンとラインハルトがまんまとその隙を突いて民間人の悉くを脱出させてしまったのだ。

 

自らの失態をよーく自覚していた軍上層部も最高評議会も、この結果を小躍りして喜んだ。

なにせ、自分たちの失態を英雄譚で上書きできるのだ。

それこそ、『こんなチャンス、滅多にないんだからネ☆』という状況だ。

 

そして軍政の上役たちはこの”()()”を失態を糊塗するために必要以上に盛り上げ、政府を叩こうとしていたマスコミも『乗らなきゃこのビッグウェーブへ!!』とばかりに掌を返して政府の”英雄譚キャンペーン”に相乗りした。

 

もちろん、打算はある。

マスコミにとっても、政府を叩くより英雄譚を喧伝するほうが色々と”旨味”があるのだ。

マスコミは民衆を扇動もするが、同時に大衆に迎合する。そういう意味では、民主主義の政治家とマスコミはよく似てると言えるだろう。

つまり、「大衆受けする……大衆が望む情報を提供しないと、メディアを問わない購読者数/視聴数が激減し直接収入が断たれ、広告収入も同じく激減し死活問題」となるのだ。

誰も読まないニュース・メディアに価値はなく、そこに広告を出す企業もいない。

 

 

 

皮肉に聞こえるかもしれないが、「それなりに戦争経済を上手く回し、大衆が特に重税にあえぐ事もない。そして大きな負けもない」同盟政府や軍の人気や信頼度は、少なくともこの時代は高いのだ。

とにかく「政府と軍を叩くことにしか存在意義を見出せない」反動的左派勢力や、どんな政治にも満足できずとりあえず不平不満を国家にぶつけることしか出来ないアナーキシスト、あるいは”()()()()()()()()()”の持ち主、帝国の工作員などなどを除く、良識ある多数派市民にとり、政府や軍を糾弾し間違いを正す程度ならともかく、必要以上に政府や軍を叩くのは好ましくは思わない。

例えば、同盟総人口240億人に対し、同盟軍の正規軍人(軍属を除く)は1億人超。つまり計算上は240人に1人は軍人であり、本人や家族や友人もまた同盟市民なのだ。

 

 

 

第014話で語られた”同盟市民による熱狂的な凱旋の出迎え”には、このような舞台裏があったのだった。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

「とまあ、こんな事情があったんだけど……」

 

軍の機密情報を、夕飯のレシピ並みの手軽さで入手できるアシュリーの政治力には驚嘆、あるいは末恐ろしいものを感じるが……

 

「問題は、むしろヤン達が凱旋した後だったのよ」

 

少し苦笑しながら、アシュリーは続きを話し出すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




お嬢ニヒトは情報通(挨拶

この娘がバックにつけば、少なくとも同盟内でヤンが情報戦に遅れをとることは無いでしょう(^^

実は”エル・ファシルの戦い”を別視点、非軍人の目線から書いてみたいな~と前々から思ってたんですよ。
三英雄(トリオ)が生まれた地であり、始まりの地であり、そして三人について回る出来事ですから。



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第038話:”ラインハルトはある部分でアッシュビーを越え、リンチは苦難の先に涅槃を得る”

このシリーズにおいては過去最長の長さです(^^

この世界の同盟、中々どうして強かですよ?




 

 

 

「ぶっちゃけて言ってしまえば、軍部と政府は結託してアナタ達の情報を切り売りすることにしたのよ。文字通りにね……ただ、これにはきちんとした理由もあるの」

 

 

 

エル・ファシルからの凱旋後……

 

自分たちも煽りの片棒を担いだとはいえ、”エル・ファシルの英雄トリオ”の冷めやらぬ大衆人気に気を良くした同盟マスコミは、左派右派を問わずにこぞって”フィーバーの拡大と再生産”を狙った。

 

具体的には軍と政府に、アーサー・リンチ、ヤン・ウェンリー、そしてラインハルト・ミューゼルの更なる情報提供を求めた。

 

政府はともかく、軍部は最初はそれに応じる気は無かったようだ。

マスコミの熱を冷ますためにヤンは軍大学に、リンチは新たに再編される”大規模な地方艦隊”の編成に、ラインハルトは僻地と言ってよいエコニアへとそれぞれバラバラの方向へ赴任させたこともそれを物語る。

 

まあ、ヤンだけが首都星ハイネセンに残されたたが……これは彼が三人の中で最も注目度が低かったことに加え、”上の強い意向”があったからだ。

 

 

 

だが、そうは上手く行かなかったのは政府や最高評議会だった。

マスコミは、こう詰め寄ったのだ。

 

『俺たちは協力した。エル・ファシルに馬鹿貴族に攻め込まれた失態は追求しなかったし、政府が望む英雄譚を広めるのに最大限の努力もした。だから、相応の見返りをよこせ』

 

厚かましいとも思える態度だが、元来マスコミとはそういうもんだ。厚顔無恥はマスコミだけでなく報道に携わる者全般にとっては美徳、じゃなければ相手が隠したがってる秘密を暴いてスクープなどと銘打ち晒したりは出来ないだろう。

 

政府も最初は難色を示したが、民主主義の根幹(建前)でもある「報道の自由」や「国民の知る権利」を盾に取られるとちょっと弱い。

マスコミの一部、特に反政府的な左翼マスコミだけを敵に回すのならともかく、政府にべったりの右派マスコミや中道まで敵に回すのはどう考えても得策じゃない。

それに政府だって”三英雄(トリオ)”の人気をまだまだ政権支持率のアップに繋げたいという本音があった。

 

そこで政府は、軍に対して「協力要請」を行うことにした。

別名、”要請はすれど判断は丸投げ”。まさに民主主義らしい判断だった。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

自由惑星同盟軍は、シビリアン・コントロールを大前提とする”()()()”が建前だ。

なので政府から「市民の要求に応えてほしい」と頼まれれば、あまり無碍にも出来ない。

極論だが、「三英雄のプライバシーを守るため、情報学的クーデターを起こす」なんて選択肢はありえないのだ。

 

だからこそ、軍上層部は”()()”した。

まず、

 

”全部は出せん。欲しい情報を提示しろ。なるべく詳細にだ。無論、軍が全てに応えるとは限らない”

 

と条件を出し、さらに……

 

”情報を供出する報道機関は軍が選別する。反政府や反戦を掲げる反動的左翼メディアや不穏分子に英雄を弄ばれるのは、迷惑この上ない”

 

と言い放った。

 

 

 

賢明な読者諸兄は既にお気づきだろう。

この処置、実は軍がマスコミに仕掛けた()()()()なのだ。

マスコミが一丸となって攻めてくるのは軍とて強敵、志願兵誘致(リクルート)活動の点から考えても、軍に好意的なマスコミまで敵に回すのは不利益が大きすぎる。

だから、マスコミと()()()()を分別し、分断したのだ。

物語には出てこないが、この時代でも軍には相応に頭が切れる者が揃っていたことは、同盟市民にとり僥倖だっただろう。

 

だが、我慢ならないのはマスゴミ認定され情報学的な排除をされたメディア各社だろう。

怒り狂った彼ら彼女らは、まず政府相手に交渉したときのように「報道の自由、国民の知る権利」を錦の御旗にして突撃した。

 

しかし、その戦術を予想していた軍部は、「軍規、公務員の守秘義務、同盟市民の基本権利であるプライバシーの保護」を矛にし相殺。

 

今度は「エル・ファシルに貴族を招きいれた失態、軍部だけを槍玉に挙げ責任を追及するぞ」と脅しをかけた。

だが、軍の対応は……

 

『好きにしろ』

 

だった。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

軍公式マスゴミ認定を受けたメディアは、有言実行した。

報道だけでなく一部の左派議員まで巻き込んだのだ。

しかし、

 

『軍部は今回の失敗を猛省している。我々は確かに帝国の愚かな貴族を笑えないミスを犯した。だが既に手は可能な限り打った。市民諸君には安心して欲しい』

 

そのコメントに嘘は無かった。

そう、先に述べた少将から中将に昇進したリンチ提督の任務こそ、地方艦隊あるいは警備艦隊としては例外的な規模となる地方艦隊、”()()()()()()()()()()()()()()”の編成だった。

 

先に再編と証したのは、「生き残りの旧エル・ファシル防衛艦隊のメンバー」、いわゆる”リンチ一家”の再服役志願者に新たな船(プロパガンダも兼ねるので、見栄えのいい新造艦ばかり)を与え、それを中核に地方艦隊や防衛艦隊の中から明らかに余剰と思われる兵力を抽出(原作の第14/15艦隊編成の縮小版)し、それで肉付けして再編した艦隊だった。

 

その陣容は新米とはいえ中将の地位に相応しく旧エル・ファシル艦隊の7倍の規模、半個正規艦隊に匹敵する7000隻だ。

また座乗する新たな旗艦は最新鋭のパトロクロス級(改アイアース級)の1隻で、特別ボーナスでまだ名無しだったその船の命名権を与えられたリンチは、迷うことなく”ニルヴァーナ”と名づけた。

 

ニルヴァーナ(Nirvana)とは直訳すれば仏教用語で言う”涅槃(ねはん)の境地”のことだが、間違いなくこの場合の元ネタは、アメリカン・ロックバンドの”ニルヴァーナ”の方だろう。

基本、ベーシストのリンチの私室に多くのベースに紛れ、こっそりカート・コバーン仕様のムスタングとジャガーが置いてあるので間違いない。

噂では、戦艦にも私物として持ち込んでるらしいし。

 

ちなみにだが、この寄せ集めの艦隊の乗員名簿の中には、まだ無名のグエン・バン・ヒュー、チュン・ウー・チェン、ライオネル・モートン、ラルフ・カールセンなるどこかで聞いたことのあるような名も紛れ込んでいるが……それは今はあえて深く追求しない。

 

そう、”イゼルローン方面警備強化計画”の目玉こそ、この闘将リンチ中将率いる”エル・ファシル特別防衛任務群”だったのだ!!

 

 

 

さて、ここで話が繋がってこないだろうか?

リンチ中将が艦隊の再編を行いつつ、寄せ集めを一日でも早く艦隊戦術機動が出来るようにもう訓練を課してるのがイゼルローン回廊の同盟側で入り口近辺にあるエル・ファシル宙域。

ラインハルトがイナヅマに乗り向かったのはイゼルローン方面の哨戒任務……

 

 

 

「要するに、今回ラインハルト君がイゼルローンに向かったのは、リンチ中将の艦隊に合流するためよ。それは単に”駆逐艦1隻を戦力として追加する”って意味じゃもちろんないわ。リンチ中将とラインハルト君……ミューゼル中尉を再び組ませることによって、更なるプロパガンダ効果を狙ってるのよ」

 

アシュリー・トリューニヒトはクスクス笑い、

 

「まったく軍部もワタシたち政治家のお株を奪うようなエグい手を打ってくれたもんよ。敵対的マスコミのネガキャンを触媒にして自らのイメージアップ。しかも手管が”三英雄の二人”、大衆人気の1位と2位を使うなんて、それこそ開いた口が塞がらないわ。オマケに言えば、これでミューゼル中尉を早期に大尉へ昇進させる”口実”もできるしね」

 

この世界の自由惑星同盟は、ありえないミスもするが動くときは卒が無い。

というより、今回のフォローもそうだが発想がかなりえげつない。

 

「まったく同意するよ。ホント、自分がひどく善人に思えてくるから不思議さ」

 

少し皮肉げな口調で相槌を打つヤンに、

 

「そういうこと。ま、その分頼りがいもあるとも言えるけど……多分、今頃は友好的なマスコミとつるんで、盛大に”新たな英雄伝説”のプロットでも練ってるんじゃないかしら? ちなみにワタシがしゃべった内容もだいぶデフォルメされて情報公開されるはずよ? それとも、もうされてるのかな?」

 

「あらあら。ラインハルトも随分立派になったわね~」

 

そう微笑むお姉さまに、

 

「暢気なコメントありがとう。でも立派になるのはむしろこれから先よ。知ってる? 三英雄の中で老若男女合算の総合的な一番人気は僅差で信頼と実績が物を言うリンチ提督だけど、老若女性の一番人気はラインハルト君よ?」

 

「う~ん。当然のような?」

 

ヤンは納得するが、

 

「納得は出来るわね。問題なのはその規模かしらね? アレを問題と呼ぶのは間違ってる気がするけど」

 

「どういうことだい?」

 

「軍が公共還元サービス名目で、小銭稼ぎにパーソナル・フォトデータの有料ダウンロードサービスやってるのは知ってるでしょ?」

 

「そういえばそんなサービスがあったような……?」

 

知らないというのは実に幸せである。

ちょうど自分を囲むような目の前の少女? 女性?二人が課金ダウンロードしまくっていることを、ヤンが知ることは生涯無かった。

 

「ラインハルト君の今週のダウンロード販売金額、ついにブルース・アッシュビーを抜いて週間ランキングで歴代1位になったわよ? 他にも軍協賛企業と手を組んでシグネイチャー・アイテムのタイアップ企画とかも広報部がコソコソやってるみたいだし」

 

そのうち、”ラインハルト・モデル”の腕時計とか靴とかペンとか軍用ブルゾンのレプリカとかが市場を席巻するかもしれない。

それにアシュリーはまた嘘をついた。いや、正確には全てを話していない。彼の企画が第1弾として先行してるだけで、企画が立ち上がっているのは”ラインハルト()()()()()()”ようだ。

サブカルが根底まで染み付いてる国家をナメてはいけないということだろう。

実現するなら銀河英雄伝説のファンとしてはかなり食指の動く話ではあるが……

 

「そりゃすごいな」

 

多分だが……ヤンはその凄さも、同時にやってくる面倒さもわかっていないと思う。

おそらく自分がその立場になるまで。

 

「言ったでしょ? ”美形は金になる”って。何重もの意味でね」

 

そうチャーミングの微笑むアシュリーだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ラインハルト様は陣営が変われど人気者(挨拶

サブタイどおりにある部分において、あっさりブルース・アッシュビーを追い抜いてしまったラインハルト様でした(^^

そして新型旗艦に旧エル・ファシル艦隊の7倍の規模の艦隊を引き受けることになったリンチ……半個艦隊編成ってどこかで聞いたことあるような?

それにしてもこの世界の同盟、転んでもただで起きる気は毛頭無いようです。あっさり災い転じて福となしてしまいました。

どうやら、名前が出てこないだけでこの時代の同盟上層部にもかなりのやり手がいるみたいですね~。




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第039話:”ねぇヤン、ワタシと契約して……”

超久しぶりな気がする二日連続一日2話投稿です(^^
我ながら阿呆ですね~(苦笑 まあ書きあがったのだから仕方ない。

さて、今回はヨブ・トリューニヒト・セカンド(アシュリー・トリューニヒト)との邂逅篇、そのラスト・エピソードです。

果たしてヤン、アシュリー、アンネローゼの選択は……?

そして、相変わらず”彼女(アシュリー)”はウソツキです。



 

 

 

「これでわかったでしょ? リンチ中将は色んな意味でキャラが強すぎて駄目。ラインハルト君は人気キャラ過ぎて政治的面倒が常に付きまといそうで駄目。ほら、残ったのはヤンしかいないじゃない?」

 

「本当に嫌な包囲の仕方するな~。脱出路の見当さえつかないなんて」

 

ちょっと拗ねるような、どこか幼さを感じる表情のヤンに、そんな表情に母性本能をきゅんきゅん刺激されてるアンネローゼ……

 

そして、「ここいらが反転攻勢点かしら?」と判断したヨブ・トリューニヒト・セカンド(アシュリー・トリューニヒト)は……

 

「よっと♪」

 

”ぷにゅ”

 

ついにヤンの対女性用絶対防御壁(かみそうこう)を射抜き、小柄な肢体を生かしヤンの膝に座るという暴挙に出た!

 

「ヲイヲイ」

 

「へへ~ん♪」

 

困ったような顔をするヤンにドヤ顔のアシュリー。

どうやらヤンのATフィールドは、貫通されたのではなく侵食されたようだ。

まあ、ミューゼル家に来てから、ずっとアンネローゼに拒絶型の心の壁を削られてきたのだから無理も無いだろう。

 

ちなみにそのアンネローゼは「微笑ましいものを見た」と言いたげに、母性全開でニコニコしていた。

彼女は甘えるのも好きだが、どちらかと言えば『脳みそが溶けて耳から流れ落ちるくらいに、とろっとろに甘やかしたい』願望の方がずっと強い。

膝に座るのではなく膝枕をしてあげたい派である。

夕雲は夕立とケンカしたりしないのだ。

 

アンネローゼ・ミューゼルの駄目提督製造機としてのスペックを甘く見てはいけない。

初日の夜に「サクランボ、ごちそうさま」をしてから、ヤンから「自分のことは自分でやる」という人として当たり前の意識を奪い去り、思考からも「洗脳したの?」と言いたくなるほど鮮やかに「自分で何かをやる」という選択肢を削り取り、どっぷり肩や首どころか頭の天辺まで依存させた手際のよさと圧倒的な各種家事スキルと端麗な容姿と胸部超弾性装甲の厚みに物を言わせた、姉属性を凌駕せしママ属性を!!

 

ある意味において、アンネローゼはヤンにとって”強烈な毒婦(ベラドンナ)”なのだ。

ちなみにベラドンナとは猛毒を持つ植物の名であると同時に、イタリア語で”美しい女性”を意味する。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

「ヤン、聞いて」

 

アシュリーは、小さなお尻の谷間でヤンの脚の間を刺激するように座りなおし、

 

「これは”契約”よ」

 

”むくっ”

 

(えっ?)

 

微かに、ほんの僅かにではあるが何かが隆起し小さく尻が押し上げられる感触に、アシュリーは……

 

(うそ……)

 

それが男性特有の生理現象だっていうことは無論、理解している。

その意味もだ。

そして、彼女の胸中を駆け抜けたのは嫌悪などではなく、

 

(ど、どうしよう……凄く嬉しいカモ♪)

 

背筋を走ったのは明確な、いや明確すぎる歓喜!!

政治家ヨブ・トリューニヒト・セカンドではなく、アシュリー・トリューニヒトという少女と言う観点から見れば自分の幼い容姿や体格に少なからずコンプレックスを持っていた。

老いることは無いが大人になることも無く、子供を生み命を後世に繋ぐということすらも難しい。

それに女としての寂しさが、その平たい胸の内にはあった。

 

アシュリーは、おそらくは幼児性愛者(ペドフィリア)と思われる異性から求愛を受けることは何度かあった。

ただ、そういう男達には「世の中って需要と供給が一致しないことが多々あるものね」と思うだけで関心は向かなかったし、中には凶行に及ぼうとする者もいたが……そういう不埒者は、ウォルター・アイランズにより「少々生まれてきたことを後悔する憂き目」に合うのがお約束だった。

 

だが、彼女の見立てではヤンはその手の男ではない。

だからこそ、嬉しかったのだ。

 

(ワタシにちゃんと”女”を感じてくれてるんだぁ~……うふっ☆)

 

どうせ好意をもたれるなら、幼女ではなく女として愛されたい……アシュリーとて見た目はともかく、中身はアンネローゼと同じく一人前の女なのだ。

子供っぽいところはあっても、外見どおりの子供じゃない。

考えてみれば当然の話だった。

 

(駄目駄目駄目……今は一気に契約を締結するシーン、頬を緩ませたままなんて格好つかないじゃない!)

 

ふにゃりと勝手に緩みそうになった相好に気づき、アシュリーは自分に渇を入れようとするが……不意にまだヤンの腕を豊かな胸に挟みこんでいたアンネローゼと視線が合った。

そして何故かウインクされた。

 

(なんか色々バレてるっぽーい! Tell me Why? どうして? なんで?)

 

 

 

これはアシュリーの名誉(?)のため少しだけ補足しておこう。

ヤンの下宿開始初日の僅かな期間でそれまで持ち前の「私は誰かに愛されるに値しない人間だよ」というヤンのコンプレックスを徹底的に破壊し、「貴方が誰にも愛されないと思っていても、それ以上に私が愛せばいいだけですよね?」と上書きし、更には追撃で「貴方は私が愛するに値する素敵な人ですよ♪」と塗り替えてる最中で、眠っていたヤンの男性自身を強制的に覚醒させたのは他ならぬアンネローゼなのだ。

 

だからこそ、急激な内面変化に戸惑いつつも受け入れ始めている「思春期の少年のように異性に敏感に反応するヤン」の状態など手に取るようにわかっていた。

それはそうだろう。

原作と呼ばれる世界で、今わの際の言葉を聞く限り最後の瞬間まで自身のコンプレックスを拭いきれなかったような()を、この世界で宿業から解き放ち根本的に存在の定義を変えてしまったのはアンネローゼなのだから……

 

アシュリー・トリューニヒトも只者じゃないが、同時にアンネローゼ・ミューゼルもまた別の意味で只者ではなかった。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

さて、ヤンはヤンで自分の思わぬ”()()()()()”に小さな驚愕があったようだが、それを口にするほど若くもなければ無粋でもない。

それを察したアシュリーはコホンと咳払いし、

 

「もう一度言うわね? ワタシを愛してとは言わない。だけど、ワタシと契約して欲しいの。ヤンが正式にアンネローゼと結婚した後、ワタシを公式に愛人とするって契約をね」

 

「アシュリー、もう一度聞くけど……君は私に何を求める?」

 

「アナタの名声を。ワタシはまだ若くお父様と違って実績もない。幼い容姿から頼りないと侮られることも多々あるわ。このままじゃあ、安定して選挙に勝ち続けることは難しいのよ」

 

「私の名声とやらはどこまでアテになりそうなんだい?」

 

「アナタの地位/階級が向上するほど効果的ね。だから見返りにワタシはアナタの出世を全力でサポートするわ。ワタシは選挙での勝利をより確実にするためにアナタの出世は望ましいし、アナタは究極的にはアンネローゼとの豊かで幸せな老後を迎えるために地位はあったほうがいいでしょ? 退役時の階級で年金の金額が決まる以上は。これっていわゆる”Win - Win”の関係よね?」

 

「その方法は?」

 

アシュリーはくすりと微笑み、

 

「”同盟軍はシビリアン・コントロールを前提とした軍隊”はアナタ自身が書いた言葉よ? 民主主義、あるいは資本主義において経済力を上回る政治力は社会工学的に存在しないわ。なら存外、軍内部より軍の外側の方が色々サポートできることが多いのよ。特にワタシが利益代表を務めることになるだろう、軍需産業複合体なら尚更にね」

 

「要するに君が私の愛人となると同時に、私は”トリューニヒト派軍人”となるわけだね……少なくとも周囲にそう認識されるわけだ」

 

「そう思ってくれると嬉しいわ♪」

 

そしてヤンはアンネローゼを見て、

 

「アンネ、どうしよう? どうやら私は”全うな同盟軍人”として歩むことはできそうもないようだよ。下手をすれば同盟最悪の金権主義軍人の誕生だ」

 

だが、アンネローゼは朗らかな表情で、

 

「全てはウェンリー様の御心のままに。貴方がアシュリーちゃんを受け入れ()でるというのなら、私はアシュリーちゃんごと貴方を愛すだけですもの♪」

 

ヤンは空いてる手を膝に座るアシュリーの細い腰を抱きしめるように回し、

 

「困ったな。()()()にまで問題ないと言われてしまったよ。どうやら、私の()は思っていたよりもずっと大物だったらしい」

 

アンネローゼは嬉しそうに頬を染め、

 

「はぁ? 今更、何言ってんの? この三人の中で一番器が大きいのは誰がどう見てもアンネローゼでしょ?」

 

「違いない」

 

「あらあら、ご挨拶ですわね」

 

 

 

三人の暖かで柔らかな笑い声がミューゼル家のリビングに広がっていった。

 

 

 

 

 

そんな三人を邪魔せぬよう口を控え温かい目で見守っていたトリューニヒト家家令、ウォルター・アイランズは、気づかれぬようそっと白いハンカチで目頭の涙を拭った。

 

(お嬢様があのような笑顔でいるのは、いつ以来でしょうか……)

 

思えば先代トリューニヒトが死んでから、彼女は本当の笑顔が出来なくなっていたように思う。

何とかしたかったが、どうにもできない自分がどうしようもなく歯がゆかった。

 

(旦那様、お嬢様はまた再び笑えるようになりました。そして伴侶となる方も見つけられたようですぞ)

 

残念なのは、その姿を故ヨブ・トリューニヒトに届けられないことだ。

いかにできる執事のアイランズとはいえ、ヴァルハラのアドレスは人の身である以上は知りようはなかった。

だからせめて、今は亡き父君の代わりにこう呟く。

 

「お嬢様をお頼み申し上げましたぞ。ヤン殿」

 

 

 

 

 

 

 

 

後に歴史家は語る。

アンネローゼ・ミューゼル、アシュリー・トリューニヒト……この二人の女性との巡り合いこそが、ヤン・ウェンリーの運命を大きく変えたのだと。

彼女たちこそ、”英雄ヤン・ウェンリーの()()()()()()”だったのだと……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




リトル・エレクチオン!(挨拶・意味深

ヤン、ついに二回目の敗北です(^^
アンネローゼにあれだけ防壁削られれば仕方ない?

ちょっと楽屋裏ネタ……
アシュリー・トリューニヒトのキーコンセプトの一つに「可愛いだけの女の子じゃない。怖いだけの女の子じゃない」だったんですが、それが表現できてると嬉しいです。
彼女は意外と純情なのかもしれないです。

ちなみにアンネローゼのキーコンセプトの一つは「綺麗な花には、甘い甘い毒がある」だったりします(笑
甘すぎて色々麻痺して、それが毒だと浸りきっても気づかない的な?

あー、でも最後にアイランズ視点が書けてよかったー。

次回からは久しぶりの金髪さん目線かな?



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第03章:”金髪さんは駆逐艦がお好き?”
第040話:”イナヅマにて友を思う……と、いきなりか?”


今回から視点は変わり、再びラインハルト様で(^^

ラインハルト、なんか妙に優しいです(笑




 

 

 

ふむ、何やら実家でどえらいことが起きてるような気がするが……ラインハルト・ミューゼルだ。

ん? 今日は名前ネタはないのかだと?

一応、「ラインハルト・ロックンロールだ」というのを考えたが、ロックはリンチ少将改め中将の代名詞だからな。

 

それに俺は同じ地球単独時代の古典(オールド・アーシアン)時代の音楽なら、もう少し柔らかい曲調の物の方がいい。

例えば、”愛唄”とか”そっと溶けゆくように”とかな。

ん? 誰がロマンチストだ!

 

まあ、俺がロマンチストかどうかなど宇宙に比べればどうということはない。

そう、宇宙だ!

俺は今、宇宙に戻ってきたのだ!

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

俺の乗る同盟駆逐艦”イナヅマ”は、リンチ中将の元で編成されつつある”エル・ファシル特別防衛任務群”に参加する1隻としてイゼルローン回廊方面に来ていた。

航海士長という立ち位置は正直少々物足りなさを感じるが、中尉という階級を考えれば妥当なところだろう。

 

”エル・ファシル特別防衛任務群”とは名前こそ仰々しいが、実質的にはエル・ファシルを拠点に防備と回廊への哨戒を任務とする防人(さきもり)役を務める半個艦隊……7000隻ほどの”雑多な寄せ集め集団”だ。

 

7000隻の内訳は、300隻ほどは旧エル・ファシル防衛艦隊……リンチ一家の生き残りの志願者に新造艦を手渡し編成されたもので、言わばこれが艦隊の”()()”となる。

まだ真新しい船に慣れてないせいで今のところ動きはぎこちないが、慣れさえすれば間違いなく中核に相応しい練度を誇るだろう。

残る6700隻は本当の意味での寄せ集め、同盟全域から明らかに余剰な船を各地方艦隊や警備艦隊などからかき集めて来た物だ。

例えば、この”イナヅマ”も惑星ハイネセンを守る正規第1艦隊とはまた別に存在する、バーラト星系警備艦隊から抽出された船だった。

 

集められたのは比較的新しく程度のよい船とのことだったが……いかんせん、乗ってる人間の練度がバラバラすぎた。

とにかく所属艦隊以外の船との連携機動などやったことのない船がほとんどで、現状では7000隻が一丸となって戦術艦隊機動を行うなど、夢のまた夢だろう。

 

事態を重く見たリンチ中将は、とりあえず比較的まともな動きが出来る船から順に100隻以下(現状、寄せ集めの船で集団航行できる上限値がその程度と判断された)の小戦隊を編成、順番に訓練航海を兼ねたイゼルローン回廊方面へのパトロールへと送り出されていた。

無論、合格が出されない船は延々とエル・ファシル宙域で艦隊行動訓練が課される。

遭遇戦の可能性もあるパトロールも居残り訓練もリンチ中将らしいスパルタだが、そうでもしなければいつまで経っても艦隊行動などできないだろう。

 

幸い、”イナヅマ”は寄せ集めの中でも比較的練度が高い船で、早い段階から他の船共々小戦隊を組み、今回はイゼルローン回廊内にあるアルトミュール恒星系へと哨戒任務についている。

 

 

 

(それにしても中尉で駆逐艦に乗り、アルトミュール恒星系での哨戒任務か……)

 

妙な符号の一致を感じた。

俺の中にある”もう一つの人生の記憶”でも、同じようなシチュエーションがあった。

 

その記憶によれば、俺は同盟軍ではなく幼年学校を卒業しただけの軍人で、”ハーメルンII”という古ぼけた駆逐艦に乗り……ロクな目に合わなかったらしい。

まあ、キルヒアイスと言う赤毛の無二の親友がいたから、そこまで不幸だとは思わないが……やはり姉上が寵姫というのは納得できんな。

 

B夫人に何度も殺されかけたのは正直、勘弁して欲しいが……まあ、”今の現実”でないのなら問題あるまい。

 

(それにしても……)

 

キルヒアイスは、この世界でも帝国にいるのだろうか?

俺や姉上がいなければ、よほどのことが無い限り軍人にはなってはいまい。

そこ、フラグとか言うな。

 

しかし、仕方の無い事情があったとはいえ、友人がキルヒアイス一人とは我ながらひどいコミュ障だな。

そういう意味では、俺は”もう一人の俺”よりはマシな生き方をしてるのかもしれんな。

 

俺とアッテンボローとフォークで”士官学校三羽烏(さんばがらす)”と呼ばれ……口の悪い奴は”士官学校三馬鹿”と言っていたが、まあその手の輩は実力(物理)で黙らせもしたな。

 

アッテンボローは時々どころか”有害図書愛好会”を筆頭にしょっちゅう阿呆な行動をとるが、「伊達と酔狂」がアイツの持ち味である以上は納得してやらんでもない。

しかし人を「付き合いのいい変人優等生」と呼ぶのはやめろ。

それと人を反体制側の同調者扱いするのもだ。

俺はあくまで中庸、バランス型の軍人だぞ? タイプで言うなら恋姫ではなく演義の趙雲だ。

 

フォークは、パイロットへの道を示し背中を押してやったことは我ながらファインプレーだと今でも思う。

”もう一つの記憶”によれば、あいつが参謀なんてストレスフルな仕事をすれば、ろくな事にならんらしいからな。

精神疾患系の持病を知る前から、あいつが豆腐メンタルだってことに気づいたのは俺ぐらいだったが……生真面目な人間は余計なストレスを溜めやすい。

あいつは自由気ままに、誰に縛られることも無く宇宙(そら)を駆ける位がちょうどいい。

人間が人間である以上、本当に自由になることなど不可能なのだが、それを夢見ることくらい許されてもいいはずだ。

 

 

 

”ぱしゃ”

 

これも様式美と言う奴なのか? 不意にまるで銀塩カメラの機械式シャッターを切るような音が聞こえた。

銀塩カメラとはなんだだと? アナログ・フィルムに画像を写しこむ、現在のデジタル記録式カメラが一般化する前の時代にあったクラシカル・カメラのことだ。

オリジナルなら骨董マニア垂涎らしいが、流石にオリジナルは完全動作品はないだろう。

ただ、同盟では”アマチュアでも使える最古の映像機器の一つ”として古典趣味として人気があり、かくゆう我が父も小説執筆以外の数少ない趣味の一つとしている。

「アナログ・カメラにはデジタル・カメラには無い味わいがある。手間がかかるのが逆にいい」とは父の弁だが、どうせ母しか撮らないのだからどんなカメラでも同じだろうと俺は思っている。

 

”はぁ~”

 

そして、俺は思わずため息をついた。

なぜなら、俺はその音に心当たりがあった……この駆逐艦”イナヅマ”に乗ってから何度も聞いて、半ばうんざりした音だったからだ。

 

「あっ、ひっどーい! ()()()()の顔を見るなり溜息つくことないじゃない!」

 

ときゃんきゃん抗議の声を上げるのは、カメラ片手の黒髪をポニーテールに結んだ女性、というか少女といいたくなる見た目の娘。でも、俺より年上らしい……が、せいぜい同年代か下にしか見えん。

いかにも好奇心旺盛そうな大きな瞳が印象的だ。蛇足だが、160cmはなさそう(どちらかといえば150cm台前半くらいか?)なので小柄と言えば小柄だが、出るところは出てるぞ?

軍艦に乗ってる以上は、もちろん同盟女性士官で、

 

「”()()()大尉”、前にも言ったでしょう? 写真を撮るならせめて一声かけろと」

 

 

 

まったく、俺は休憩がてらに友へと思いを馳せる時間さえもないのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




いきなり新キャラです、しかもオリ(挨拶

なんか、ふとラインハルトがアッテンボローとフォークをどう思ってるか書いてみたくなったんですよ~。
はっきり言えるのは、原作においての赤毛のノッポさんの位置には、この二人は絶対に来ないでしょう。
というかこの世界のラインハルトには必要ないでしょうから。
今の彼には、”二人だけの閉じられた世界”は意味を持たず、上でも下でもなく横の繋がりがひろくなっていくでしょうしね(^^

さて、新オリのアオバ大尉は、その”繋がり”に入ってくるのか?



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第041話:”緑ヶ丘さん、もしかしてピンチかも……?”

今回は色々とフラグ回?
少なくとも新オリのフルネームが判明します(^^

一応、簡易版の解説をあとがきに載せておきますね~。

8/4、一部階級を修正しました。






 

 

 

うむ。ラインハルト・ミューゼルだ。

俺は今、同盟駆逐艦”イナヅマ”に航海士長として乗り込み、他の船と100隻程度の小戦隊を組みアルトミュール恒星系での哨戒任務についている。

 

ちょっとできた休憩時間に、久しぶりに友のことを思い出していたら……

 

”ぱしゃ”

 

と前触れも無く撮影された。

まあ、イナヅマに乗り込んでからもううんざりするほど聞いた音だ。今更、目くじらを立てるつもりは無いが、

 

「”()()()大尉”、前にも言ったでしょう? 写真を撮るならせめて一声かけろと」

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

「だってだって~。ミューゼル君、微笑んですっごく優しい表情してたんだもん! こんなシャッター・チャンス、滅多にないんだよ!!」

 

あー、とりあえず紹介くらいはしておこう。俺も人間が丸くなったものだ。

この比較的小柄な黒髪ポニテ娘の名は、”アオバ・アヤ”大尉。ヤン先輩と同じE式なのでアオバが名字らしい。

”俺の写真を可能な限り撮れ”というどう考えても貧乏くじとしか思えない命令を軍広報部から受け、嬉々としてこなしてる変人だ。

 

「ミューゼル君、今失礼な事考えなかった?」

 

チッ、鋭い奴め。

 

「そんなことありませんよ、大尉。それとミューゼル君はやめてもらえませんか? ここは軍艦、せめてミューゼル中尉と」

 

「え~っ! 私とミューゼル君の仲なんだからいいじゃ~ん」

 

どんな仲だ、どんな。

それと露骨に拗ねるな。本当に俺より年上なんだろうな?

 

「こっちは無遠慮に写真を撮られた記憶しかないんだが?」

 

いかんいかん。相手は上官だったな。

ただし、上官だからと言って敬意を払うとは限らんが。

 

「公務だよ公務♪ ほら、私ってば今回、公式に君専任のカメラマンだしさ☆」

 

「建前上、従軍記者の代役では?」

 

確か今回の出兵、どうやら俺目当てに従軍記者の志望が殺到したらしく、軍は広報部の人間を代表として同乗取材、それを後でプレス・リリースすると約束することで要望を押し返したらしい。

まったく。”エル・ファシルの三英雄”とやらのお冠を否定する気は無いが、この馬鹿騒ぎはいつまで続くんだ?

 

「建前は建前だよ。軍の本音は君の画像データを可能な限りゲットすること。これが良く売れるんだよ♪」

 

ああっ、あの同盟軍の悪ノリ、「プライベート? 何それ美味しいの?」的なダウンロード販売のことか。

軍も小銭稼ぎにあの手この手とよく考えるものだ。

 

「あのね、君ってばついに週間ダウンロード数でかのブルース・アッシュビー元帥を越えたんだよ! やったね!」

 

「別に欠片ほども嬉しくないんだが?」

 

「あ~の~ね~! 君は自分の偉業をまったくわかってない!」

 

違うな。わかる気がないだけだ。

ふん。ここは少し切り口を変えて追い払うか。

 

「そんなに俺の画像データで小金を稼ぐなら、せめて俺の財布が膨らむ算段でもつけてからくるんだな。そうすれば少しは話を聞いてやらんでもない」

 

あー、もういい。敬語は忘れた。

 

「ほほ~う……言ったね?」

 

アオバ大尉はニヤリと笑い、

 

「広報部には、実はそれとなーく君にもインセンティブが発生する依頼が来てるのだよ♪ いやー、君が乗り気だなんて上の方は大喜びだろうねー♪」

 

「なんだと……?」

 

俺がその真相を問いただそうとした瞬間、

 

 

 

”ずぅぅぅぅ・・・ん!”

 

巨大な振動が、船全体を揺さぶった!!

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

「きゃっ!?」

 

衝撃で前のめりに飛んだアオバ大尉の体を反射的に空中でキャッチ!

俺自身も跳ね飛ばされたが、壁をけり体を回転させることでなんとか、衝撃をやりすごそうとするが……

 

”ガッ!”

 

「ッ!」

 

顔をしかめる程度の衝撃で床に叩きつけられた。

だが、この程度ならせいぜい酷くても打ち身程度だろう。

 

「あの……ありがとう」

 

俺の腕の中で小さく縮こまりながら、小声でそう礼を言う大尉だったが、

 

「そう、しおらしくされると調子が狂うな」

 

「それひどくない!?」

 

うむ。大尉はこの位でちょうどいい。

とりあえず怪我を負った様子もない。俺は立ち上がり、

 

「どうやら何かあったらしいな……大尉、立てるか?」

 

俺が伸ばした手に、

 

「う、うん。大丈夫みたい」

 

掴まるとそのまま助け起こす。

 

「どうやら、あまり好ましくない事態が起きたらしいな……大尉、ブリッジに走るぞ」

 

「はっ、はい!」

 

 

 

(この感覚……敵から砲撃を喰らった感じじゃないな。どちらかといえば、爆発か?)

 

となれば考えられるのは触雷なんだが……

 

だが、考え事をしていた俺は、このときアオバ大尉と()()()()()()()走ってることに気がつかなかった。

後にして思えば、広報官と一緒にブリッジへ駆ける必要はなかった気もするが……まあ、結果オーライだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

 

 

 

 

 

 

 

 

ブリッジに上がった俺が最初に見たのは、

 

「ラベルト大尉!?」

 

艦長席から投げ出され、床でうめき声を上げる艦長の姿だった。

俺は、慌てて駆け寄り介抱すると、

 

「ミュー……ゼル中尉か?」

 

「ええ」

 

多少痛みでしゃべりにくそうだが、幸い意識の混濁などは無い様だった。

 

「アポリオン中尉は……?」

 

アポリオン大尉とは、この船の副長のことだ。

見渡す限りブリッジにはいないようだが……

 

「食堂にい、るはず、だ」

 

艦長と副長が同時にブリッジから離れることは無い。

時間的に考えて、交代で昼食をとっていたのだろう。

 

死屍累々という状況……ただ、幸い死人は出てなさそうなので軽く安堵する。

中でも比較的軽傷に見える者を視線で探し、

 

「”()()()()()”少尉、至急食堂に副長の所在と安否の確認を。それとただちに衛生兵をブリッジに寄越すよう伝えてくれ」

 

「はっ、はい!」

 

俺の部下と言う立場の新任航海士、イブリン・ドールトン少尉は幸い軽傷と言うほどの怪我もしてないようだったが……正直、ブリッジでも艦全体でも何人が任務継続に耐えられるかわからん。

 

(これは最悪の事態を考えた方がいいのかもしれんな……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 




出てきたのはオリキャラだけじゃない件について(挨拶

ちなみに”イナヅマ”の艦長さんのフルネームはロベルト・ラベルト大尉、副長さんはアポリー・アポリオン中尉です。
元ネタがわかる人は存外多い? 名字のつけ方が富○式だし(^^

そして、ちょろっと出てきたミス・ドールトン……このシリーズでは幸せになって欲しいな~と。
この時点では、彼氏はいないようですよ?


☆☆☆



オリキャラ設定

アオバ・アヤ
漢字表記:青葉(あおば) (あや)
階級;大尉
所属:同盟軍広報部
年齢:ヤンより上(らしい)
種族:人間(重巡型艦娘や烏天狗じゃありません)
身長:154cm、体重:???、3サイズ:けっこうグラマー(どこがとは言わないが、流石にアンネローゼよりは小さいようだ)
キャライメージ:艦娘の青葉+東方の射命丸文。容姿は「髪を黒く染めた青葉」なのか「髪を伸ばしてポニテにした文」なのか微妙なところ。

ざっくばらんな性格の自称「素敵なおねーさん」。ただし、割と子供っぽい部分も多々ある。
一応、軍広報部の所属だが、何やら上の方とは色々コネがあるらしい……



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第042話:”パン屋の跡取りと駆逐艦の話”

ちょっと色々解説回。
何やらラインハルト様が解説してくれるみたいですよ?

しかも今回は久しぶりに女の子が出てこない硬派(?)な話。






 

 

 

『ふむ。なるほど、触雷ですか……』

 

「ええ。どうやら新型機雷のようです」

 

俺が通信を繋げて報告を行っているのは、100隻臨時編成(寄せ集め)の小戦隊旗艦、標準型戦艦”ガングート”だ。

画面に映ってるのはどこか軍人と言うより”パン屋の跡取り”と言われた方がしっくりくる風貌の男、”チュン・ウー・チェン”()()だった。

 

真新しい大佐の階級章がどうにも似合ってないように見えるが、無理も無い。

本来の彼の階級は少佐、普通なら階級的には巡航艦の艦長だ。

ところが”諸所の事情”で、()()()()扱いで中佐になっている。

 

とりあえず、野戦任官がなんなのか説明しておくか。

知ってるって? まあ聞け。

 

軍には根本的に「階級にポストがつく」あるいは「ポストに階級がつく」という考え方がある。

より詳細に言うなら「階級に相応しいポストを用意する」、「ポストに相応しいように階級を用意する」だ。

基本、軍という組織はどっちも行うのだが、必要に迫られた場合”どっちを優先するか?”は軍によって異なる。

帝国軍は前者、同盟軍は後者だ。

 

さて、今回の場合どういうことかと言えばだが……なんとも贅沢な話に聞こえるかもしれないが、リンチ中将率いる”エル・ファシル特別防衛任務群”は『戦艦余り』を起こしていたのだ。

 

 

 

元々、同盟軍は帝国軍に比べて艦隊での戦艦の比率が高い。”もう一つの記憶”じゃ曖昧だが、少なくとも今はそうだ。

標準戦艦だけで言えば、正規艦隊でも帝国軍が艦隊全体の5%程度なのに対し、同盟軍は1割前後が標準戦艦で占められている。

何もこれは同盟軍が帝国軍に比べ金持ちだという話ではない。

いや、国家と言う意味では確かに同盟の方が倍の経済力を誇るのは間違いないが、国家予算に対する軍事費の支出割合が違うので現状ではさほど金額自体に大差はない。

 

これは単純に1艦あたりの建造コストが、同盟の方が明らかに安いのだ。

帝国軍艦には惑星などの重力圏への降下/離脱機能が必須であり、その機能のために高価になりやすい(裏を返せば、帝国艦が一般に頑丈とされているのは惑星への離発着に必要な強度が最初から求められてるからだ)。

加えて、単純に図体の大きさもある。

駆逐艦を除く巡航艦、標準戦艦(帝国の場合は高速戦艦も含む)などの軍艦は、総じて同盟の同属より1回りかそれ以上にでかい。

船だけに限らんが、一般に図体が大きくなればなるほど高くなるのは自明の理だ。

 

蛇足だが、旗艦型戦艦なら図体でいい勝負できそうだが……同盟の旗艦型のアイアース級、パトロクロス(改アイアース)級(この2級を合わせてアキレウス級とする資料もある)は亜空間スタビライザーというテールフィンを含んだ全長であり船体自体の長さは900m台が普通で、やはり帝国の旗艦型であるヴィルヘルミナ級(全長1116m)の方がかなりでかい。

 

実際、調達コストを比べると同じ標準戦艦と呼ばれる艦種ながら同盟のそれは帝国の2/3以下らしいのだ。

それで倍の比率だというのもおかしいと思われるかもしれないが、正規1個艦隊の平均艦艇数は同盟の方が多いが、正規艦隊数は同盟の正規12個艦隊に対し帝国18個艦隊と逆転し、軍全体の艦艇保有数もやや帝国が上回ってるのが理由だろう。

ちゃんと計ったことはないが、標準戦艦の総保有数は実際には同盟が倍ではなく少し上回る程度なのかも知れんな。

 

しかし、これも正規艦隊の話で、地方艦隊や警備艦隊なら戦艦の比率はぐんと下がる。

例えば、”帝国(てきこく)に最も近い場所にある同盟の有人惑星”である旧エル・ファシル防衛艦隊は、『地方艦隊でも良質』と太鼓判を押されていたが、実際の内訳はアコンカグア級準旗艦型(分艦隊旗艦型)戦艦の”シャイアン”1隻を頂点に標準戦艦は50隻少々しかなかった。つまり全体の5%強だ。

”ホワンフー級”宇宙空母1隻も配備されていたが、残りは巡航艦や駆逐艦だ。

 

 

 

ところが、軍は何を思ったのか旧リンチ一家の生き残りのために300隻の新造艦を用意し、そのうち100隻が標準戦艦だったのだ。

上層部は大盤振る舞いのつもりだろうが、リンチ中将は頭を抱えたに違いない。

なんせ今回かき集められた6700隻の”地方艦隊/警備艦隊の余剰戦力”の中にも200隻以上の標準戦艦が混じっていたのだ。

 

全体比率から言えば5%程度、旧エル・ファシル防衛艦隊と同等……いや、軍はサービスではなくそれを狙ったのか?

だが、いかんせん戦艦の艦長を務めるべき士官、つまり大佐の数が不足してしまったのだ。

 

そこでリンチ中将は、めぼしい少佐階級を軒並み中佐へ野戦任官したのだ。

チュン・ウー・チェン中佐は、そのめぼしい中の一人だった。

 

 

☆☆☆

 

 

 

野戦任官は実際の昇進と違い、その階級は確固たるものではなく「作戦中、暫定的にポストに必要な階級を用意する」処置で、今回は”戦艦の艦長には大佐が必要だから”という理由だ。

 

少佐というのは本来、巡航艦の艦長だから戦艦の艦長に引き抜かれた穴埋めは大尉が野戦任官で少佐に繰り上げられ空いた巡航艦の艦長へ。またその穴埋めで中尉が大尉となり仕切られてる駆逐艦もある。

 

 

 

『なぜ新型機雷と?』

 

「”イナヅマ”に取り付けられてるセンサー類は、最新と言っていいものでしょう。オペレーターが機材に不慣れ、かつ経験不足だったとしてもかなり近づかない限り発見できなかったということは、未確認のステルス処理をされたそれだと推察されます。またライブラリにも該当する情報はありません」

 

”イナヅマ”は比較的型の新しい駆逐艦だとは前に書いたか?

だが、それ以上にイナヅマは”特別な船”といえる。

どういう意味かと言えば、イナズマはその姉妹達の長女、つまりは”雛型艦(オリジン)”となっているのだ。

 

駆逐艦と言うのは凄まじく数が多い。

例えば現在の同盟軍なら、駆逐艦の保有数は他の全ての種類の軍艦を合わせたより多い。

まさに”ワークホース”的な存在だ。

そして素人目には、いや多少は慣れた人間でもここ30年間建造された全ての駆逐艦は同じに見えるかもしれない。

 

だが、確かにデザイン的にはほとんど差はないが、実は細かなヴァージョンアップは常に繰り返されており、例えば初期艦型(ロット)の駆逐艦とイナヅマ(あるいはイナヅマ型)の性能差は相当にあるのだ。

 

現在、駆逐艦の最新艦型(ロット)は、通称”アカツキ四姉妹”と言われているアカツキ型、ヒビキ型、イカヅチ型、イナヅマ型で基本性能は同じだが、微妙に仕様が違う。

イナヅマは四姉妹の中でもセンサー類が強化された仕様だ。

 

加えて俺が乗るイナヅマは、雛型艦だ。

駆逐艦は繰り返すが凄まじく数が多く、普通は同じ艦型の末尾に数字をつけて識別しており、例えばイナズマ型は俺が知る限りもう”イナヅマ030”まで建造されてるはずだ。

そして、末尾に数字がつかない船こそ雛型、つまり後に生まれる量産型(いもうと)の原型となる船なのだ。

 

実際、イナズマは『妹達が量産に値するか?』を確かめるために試験建造され、数々のテストと欠点の洗い出しを成し遂げ、現在ここにいる。

そしてそのような経緯で作られた船だけに運用データは豊富であり、また整備ログや性能緒元も実測値に基づいた信頼できるものだ。

 

「それにしても俺、いや小官達は運がいいです」

 

『触雷したのに?』

 

「ええ。触雷したからこそですよ」

 

 

 

チュン・ウー・チェン中佐は少し驚いた顔をしたが、別に嘘ではないぞ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ラインハルト様もメガッさ人間丸くなったなー(挨拶

何気に聞き様によっては萌えキャラにも聞こえるチュン・ウー・チェン中佐あらため大佐(野戦任官)の初登場の回でした(^^

フレデリカ、パトリチェフ、ムライに続き、チュン・ウー・チェンとラインハルトも順調に独自の人脈作成中?
何やら原作ヤン・ファミリーの半分くらいは持っていきそうな勢いです。

これにきっとアオバ・アヤを筆頭にオリも絡んできたりして……



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第043話:”これは成長なのだと思いたいものだな”

今回、ラインハルトは原作の彼なら”らしくない”判断をするかもしれません。




 

 

 

「それにしても俺、いや小官達は運がいいです」

 

『触雷したのに?』

 

「ええ。触雷したからこそですよ」

 

小戦隊の旗艦”ガングート”に座乗するチュン・ウー・チェン中佐に俺はそう返した。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

ああ、ラインハルト・モーゼル中尉だ。失礼、噛んだ。ラインハルト・ミューゼルだ。

ん? 最終的には神様に祭り上げられた某マイマイ娘の持ちネタをパクるな?

堅いことを言うな。個人的にあの登場人物は気に入ってる。健気な所がいい。

ほう? 俺が”化物語”を読むのはそんなに意外か?

”もう一人の人生を生きた俺”ならともかく、今の俺は()()ぐらい普通に読むぞ?

特に化物語は、古典の中でもスタンダードな分類ではないか。純文学と言うより地球単独時代の風情が感じられる娯楽小説の類だがな。

まあ、それはいい。

 

俺達……というか今回の小戦隊の置かれた状況を整理しておこう。

アルトミュール恒星系へとパトロールに向かっていることは既に述べたが、厳密には現在位置は恒星アルトミュールにある小惑星帯(アステロイドベルト)付近だ。

 

今回の小戦隊の陣容は、旗艦の戦艦(ガングート)1隻に巡航艦9隻、そして残る90隻は駆逐艦という敵と真正面から殴りあう艦隊ではなく、パトロールを主眼とした哨戒部隊の編成としてはそう悪くないものだ。

 

そして俺の乗る”イナヅマ”は、小戦隊の中から抽出された巡航艦1隻と駆逐艦10隻からなる先導隊(ピケット)の内の1隻として選ばれていた。

イナズマはセンサー精度の高さから、ピケットの中でも最先端に配置されていたのだが……

 

「精密測定をしなければ詳細はわかりませんが、付近に機雷原があるはずです。機雷が1基だけしかけてあるのは明らかに不自然ですから」

 

今回、イナヅマにダメージを与えたタイプは、ステルス処理されたランチャーケースに対艦ミサイルと受動的(パッシブ)センサーを備えた”キャプター型”でほぼ間違いないだろう。

データログも確認したが、発射されたミサイルに対しレーザーCIWS(自動近接防御火器)が反応し、撃破しているのだ。

艦が大きく揺さぶられたのは、撃破した距離が近く、爆発の無衝突衝撃波をモロに浴びたからだろう。

弾頭がレーザー水爆だったため、直撃すれば轟沈の可能性があった。

 

逆に常時展開の防護フィールド(戦闘時、艦前面に展開される防御スクリーンに対し、艦全体を繭状に包み込むフィールド)で相殺しきれないほどの至近距離でしか撃破出来ないのだから、この新型はかなり隠蔽製が高い。

ただ、

 

「仮に機雷原があったとすれば、1発だけ作動するのもまた不自然……中佐、一度艦隊を止め精密測定することを具申いたします」

 

中佐は一度逡巡し、

 

『いいだろう』

 

どうやら俺は、上官に恵まれてるらしいな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

 

 

 

 

 

 

 

案の定と言えばそれまでだが、やはり機雷原はあった。

 

「機雷原があるにも関わらず、1発だけ作動した……わざわざ機雷原の位置があることを教えるように。隠蔽製の高い新型機雷をわざわざそれなりの数を敷設し、こちらにその場所を露呈させる……正直、戦術的な意図があるとは考えにくいですね」

 

『続けたまえ』

 

今更だが……俺がチュン・ウイー・チェン中佐に報告してるには理由がある。

艦長のラベルト大尉も副長のアポリオン中尉も現在、負傷中。

ラベルト大尉は肋骨を二本折り、アポリオン中尉は食堂で大腿骨を骨折していた。

本来なら健在な中でイナヅマの最先任はアオバ・アヤ大尉になるはずなのだが……

 

”ムリムリムリムリムリ!! 私、広報員! 非戦闘部署の士官! 戦闘適正の低さには自信があるわ!!”

 

ぶるんと大きな胸を揺らしながらフンス!と反り返り、そんなフザケタことを抜かすアオバ大尉に内心で「ヲイ、そこの軍人!」とツッコミを入れた俺は悪くない筈だ。

という訳で次席であったはずの俺が肩代わりしている。

 

「おそらくは敵にとってもイレギュラー……誤動作である確率が高いと思われます。もし他の機雷もアクティブ状態だったら、少なくとも先導隊(ピケット)は飽和攻撃で壊滅してたでしょう。だが、この状態では1発だけ作動させる意味は無い」

 

ある意味、俺は命拾いしたとも言えるな。

あと数発でも作動し、それが全て先頭を切るイナヅマに集中していたら対応しきれなかっただろう。

 

「なら、本来なら全ての機雷は非アクティブ状態で()()()()()()ことに意味があったと思われます」

 

『その意味とは?』

 

「俺、いや小官の予想通りなら前方のアステロイドベルトに敵艦隊は潜み、我らを待ち伏せしてるはず……」

 

そう、現時点で1発を除いてアクティブでないとするのなら、

 

「奇襲に驚き、我らが艦隊を後退させた時に作動させるつもりだったのではと予想します」

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

だから、”偶然、仕掛けられた1発だけが作動したこと”も運が良かった。

”イナズマに飛んできたミサイルが1発だけだったから対応できた”ことも運が良かった。

そして、その1発が飛んできたからこそ、”敷設された機雷原が発見できた”ことも運が良かった。

 

おそらくアステロイドベルトに先んじて潜んでるだろう敵艦隊は、奇襲をかけ我らを後退させ、機雷原に誘導するつもりだったんじゃないだろうか?

おそらく隠蔽製の高い機雷を最大限に有効利用しようとすれば、罠として使うのが一番だろう。

 

(そして頭を抑えられ、前方の敵に集中してるタイミングで一斉に作動させる……)

 

どう考えてもロクな結果にならないな。

 

『悪くない予想だ』

 

中佐は大きく頷き、

 

『この場合、とるべき方策は二つある。強攻策……積極的攻勢か、あるいは安全策だ。ミューゼル中尉、君ならどっちを選ぶ?』

 

「小官は中尉ですが?」

 

暗に指揮官の判断に口を出せる立場に無いことを告げるが、

 

『君の階級も、君が私の参謀でないことも承知の上さ。だが、意見を聞くのは自由だろう?』

 

試しているのか?

まあいい。

 

「僭越ながら……」

 

”もう一つの世界の俺”なら、きっと積極策を進言しただろう。

奇襲が予想できる状況なら、その対策は出来る。

もちろん相手の規模次第だが……返り討ちにすらできるかもしれない。

だが、

 

「安全策……機雷原の破壊を優先したいと思います。当艦隊の目的は敵艦隊の撃滅ではなく該当宙域の哨戒任務。任務の優先度に則った行動をすべきです」

 

中佐はにっこりと笑い、

 

『いい判断だ。私も同じ意見だよ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




少なくともこの世界においてのラインハルトは、”無理に早く昇進する”必要はないですからね(^^

むしろ、「軍人とは何か? 軍人とは何をすべきか?」を彼なりに真剣に考えているのかもしれません。
前世と違い、士官学校で”同盟士官とはどうあるべきか?”を叩き込まれた彼は、やはり同じシチュエーションでも別の判断をするのでしょう。



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第044話;”戦争貴族”

今回は久しぶりに、ちょっと別の視点からです。
今回登場するのは……





 

 

 

アルトミュール恒星系、アステロイド・ベルト内、銀河帝国標準戦艦”リルケ”

 

「あはは~。これはやられてしまったねぇ」

 

アドミラル・シートでむしろ朗らかに微笑むのは、今年二十歳となり爵位を家督とともに継承したばかりの温厚そうな青年、”アルフレット・フォン・ランズベルク”伯爵帝国大佐だった。

二十歳と言えばまだ士官学校を出たばかりだろうが、もう大佐の地位にあるというのは流石は貴族と言うべきか?

それにしても、まだ着慣れてないせいかやはり軍服があまり似合ってないように見える。

 

ちなみにこの座乗している戦艦は彼の持ち船であり、ネーミングはランズベルク自身で行った。

艦名は、おそらく彼が敬愛する古の詩人”ライナー・マリア・リルケ”から拝借したのだろう。

 

「まさかこうも簡単に”狐狩りの罠”を見破られてしまうとは。叛徒達も中々にやるもんだよ。いや、ここは敬意を表して”同盟軍”と呼んだ方がいいのかな?」

 

と彼は隣に立つ、正規軍人……中佐の階級章をつけた男に問いかける。

 

「伯爵様、お戯れを。立場をお考えください」

 

「やれやれ、()()()()()は堅いなぁ。君は私の家臣という訳でもないんだ。もっと気楽で構わないよ」

 

そう、驚いたことにランズベルクの副官を務めるのは、かの芸術家提督(現在はせいぜい”その卵”と言ったところだが)と名高くなるであろうエルネスト・メックリンガーであった。

 

実はこの世界においてはメックリンガーとランズベルク家の付き合いは長い。

それこそ、まだ少年と呼べる時代のメックリンガーがとあるローカル作品展に出品した水彩画が少年の部で金賞を取り、その作品が先代ランズベルク伯の目に留まり(領内で開かれた展覧会だった為に視察に来ていた)、伯が気に入り援助を約束したところからはじまる。

とはいえ、自分が画家一本で食っていけるほどの画才は無いことを自覚したメックリンガーは、援助の恩返しもかねて軍人を目指すことにした。

 

なぜ、軍人なのか?

もしかしたら、メックリンガーにはランズベルク家お抱え絵師としての未来があったのかもしれないが、アルフレットの未来を案じたのだ。

 

 

 

実は原作と明らかに異なる風潮が、銀河帝国で生まれていたのだ。

それこそが、”豪腕帝”……次期皇帝の座を巡って争って凌ぎを削っていた兄と弟を”二虎競食の計”に陥れて始末し、昼行灯のふりをしていつの間にかリヒテンラーデ家、ブラウンシュバイク家、リッテンハイム家などを味方につけそ知らぬ顔で即位した”フリードリヒ四世”が提唱したそれは、

 

”戦争貴族”

 

と呼ばれていた。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

『貴族が神聖なる帝国の藩屏だと言うのなら、その与えられた特権に相応しい”威”を示してみせよ。武器を取り、自ら前線に赴き兵を鼓舞する。それが正しき貴族のあり方と言うものよ』

 

それが帝位に座したときのフリードリヒ四世の宣言だった。

それに真っ先に反応したのは、まだ当主になる前の……若き日の現ブラウンシュバイク公、リッテンハイム侯だった。

彼らは積極的に帝国軍本隊に指南を求め、驚くべき速度で自家の私設艦隊を精強な部隊へと作り変えた。

 

そして決して大きな戦いではないが、同盟軍との戦いに勝利し威を示した。

この功績により、褒賞として二人の大貴族はフリードリヒ四世の娘を娶ることが許され、”二大門閥”の権勢を確固たるものにしたのだ。

 

こうして、現皇帝は『武威こそを最も重んじ、貴族にそれを求める』という風潮が生まれたのだ。

そしてそれは事実でもあった。

 

フリードリヒ四世は、出兵に消極的な貴族に対し地位や領地を奪うことは無かったが「参内するにあたらず」と事実上の絶縁状を送り付け、宮廷での発言権を封殺した。

また、それに反発する貴族たちには軍を差し向けるだけでなく、

 

『今こそ威を示す時ぞ。思う存分、その地位に相応しい武功を立ててくるが良い』

 

と貴族たちを討伐へと煽ったのだった。

また、武功を立てた貴族たちには取り潰した貴族の領地や財産を分け与えたり、また爵位を持たぬものには帝国騎士や低い爵位を与えるなど露骨な真似までしてみせた。

同盟の中にあるフリードリヒ四世を揶揄する言葉の一つ、”男爵量産帝”というのはこれに由来する。

 

『余の最大の娯楽は戦争よ』

 

そう語ったとも伝えられるが……

 

銀河帝国は良くも悪くも専制君主制国家であり、皇帝の影響力はあまりに強い。

かくて、先代までは貴族にとって帝国の藩屏を名乗る”箔付け”程度に過ぎなかった従軍が、自分の地位や名誉や財産を守る手段となり、あわよくばそれらを増やせる実利を伴うものとなった。

 

そんな風潮が支配的な時代に生まれたのが、アルフレット達の世代だった。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

メックリンガーは総領であるアルフレットが従軍する日に備え、芸術家としての道より軍人となることを選んだ。

その意を汲んだ先代ランズベルク伯はメックリンガーを手厚く支援し、またアルフレット自身もメックリンガーに懐き兄のように慕っていた。

実はアルフレットが詩を嗜むようになったのは、メックリンガーの影響である。

メックリンガーは、芸術方面に多才で絵画だけでなく詩や音楽も好む文化人としての側面も強い。

 

「さて、罠が露見した以上、いつまでも小惑星帯(ココ)に息を潜めてる必要はないってことだよね?」

 

「ええ。討って出ますか? こちらの方が艦数は優勢ですが」

 

現在、ランズベルクが率いてるのは、イゼルローン要塞に間借り駐留してる200隻のランズベルク家の私設艦隊だった。

前線任務と自家の艦隊練度上昇のために来たが、

 

「まさか。たかが倍程度の艦隊で、職業軍人の艦隊と正面から殴りあうほど傲慢じゃないよ。それが嫌で機雷をばら撒いておいたんだし」

 

そして彼は自分の艦隊の練度が戦争を遂行するには、まだまだ訓練を課さねばならないことをよく知っていた。

 

「賢明な判断です」

 

「ということで……全艦、”こちらの艦数を見せ付ける”ようにゆっくり前進開始! この恒星系は帝国のものだと示すようにね」

 

「悪くないですな」

 

「ゆっくりの前進じゃ、こっちの練度不足はバレないだろうしね。向こうだって、倍の数と殴りあうのは本意じゃない筈だろう?」

 

 

 

アルフレット・フォン・ランズベルク……「武威を示すことが貴族の誉れ」というフリードリヒ四世統治下の時代に生まれた若い貴族。

 

「やれやれ。これじゃあ、我が友”フレーゲル”に面白い土産話は聞かせられないかもしれないな。せっかく、新型機雷を融通してもらったのに申し訳ないよ」

 

ペンを握るよりナイフの握り方を先に習う世代、戦争に順応した新しい時代の貴族……”戦争貴族”の一人だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




はい。いきなり登場のランズベルク君と芸術家提督さんでした(挨拶

今回は、まあ帝国側のテコ入れ回ってことで(^^
このシリーズでは、この二人芸術家師弟コンビみたいな感じでおねがいしやす。

”戦争貴族”は、単純に「ちゃんと戦争が出来る貴族」で、その走りというか手本を見せたのが、現ブラウンシュバイクとリッテンハイムの二大門閥オッサンコンビ。

大分前になりますが、ブラウンシュバイク公が通信でマールバッハ伯(ロイエンタール)に好意的だったのも、ここらへんが理由だったりして。



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第045話:”俺「もぐぞ」 大尉「なんでっ!?」”

ノッてしまったので本日二度目の投稿です。

今回は遭遇戦(未遂)のエピローグ的な部分と……ちょっと久しぶりな方が再登場(^^
そしてサブタイの意味は本文中に……




 

 

 

せっかく標的があるので機雷原相手に艦隊統制射撃の練習もかねた射的大会をやっていたら、小惑星帯から予想通り敵艦隊が現れた。

数は倍。タイミング的には「いつまでも遊んでるな! 罠にかかる気ないならさっさと帰れ! それと機雷持って帰ろうとするんじゃねぇ!!」か?

生憎だったな。実はすでにいくつか回収済みだ。回収した機雷は意外と単純な構造だったため、無力化するには大した手間はかからなかったらしい。

基地へ帰ったら、さっそく解析に回されるだろう。

 

敵が現れた後のチュン・ウー・チェン中佐の判断は、敵が現れることを予測していたことを加味しても的確で迅速だった。

要するに余計な欲をかかず、土産も手に入れたことだしさっさと引いた。

 

実はこれ、俺にも経験があるが……やろうと思っても中々できることじゃない。

人間は欲深い生き物だからな。

 

ああ、言うまでも無くラインハルト・ミューゼルだ。今回、ネタはない。

その理路整然とした撤退は、練度や俺が乗る損傷艦となってしまった”イナヅマ(死人こそ出てないが中破判定)”を抱えてることを加味すれば、中々のものだ。

 

敵艦隊も無理に追撃する気はないようなのも幸いした。

もっとも、彼我の距離を考えればよほど遮二無二追いかけない限り、追いつくことは難しかったろう。

また、そういう追撃は陣形が乱れがちなので、手痛い反撃を喰らい易い……それを理解した上での行動なら、なるほど敵の手腕も悪くないだろう。

 

(似たような数なら、俺が撃ち負けることはないだろうが……)

 

かと言って舐めてかかって良いという相手でもないだろう。

俺は”もう一つの人生”を生きた俺じゃない。ならばその人生経験を糧にすべきだ。

 

(あるいは教訓か?)

 

慢心は危険……それを常に心に刻むべきだろう。

 

”ぱしゃ”

 

空席になってしまった艦長席に座る俺にアオバ大尉がシャッターを切った。

 

「その愁いを帯びた表情いいね~♪ ミューゼル()()()()♪」

 

(コイツもブレないな……)

 

俺は半ば呆れながら、

 

「艦長代理ね……まあ、是非もなしだな」

 

そう苦笑する。

 

「おおっ! ミューゼル君のレアな笑顔だ! ね、ね、もう一枚撮っていい?」

 

「ただの苦笑でよければ、好きにしろ」

 

そう、俺はチュン・ウー・チェン中佐の命で帰投までの間、イナヅマの艦長代理に臨時就任することになった。

艦長席と言うのも久しぶり……と言っていいのか?だが、同盟の椅子も座り心地は悪くない。

 

それとアオバ大尉なんだが……タメ口でいいそうだ。

俺としては面倒が無くて助かるが、

 

『ほら、ミューゼル君に敬語とか使われるとなんというか……違和感? なんかそういう感じがしてさぁ~』

 

まったくどういう意味だ。

ただ、交換条件で俺を階級ではなく君付けで呼ばせて欲しいと要求してくるあたり、ちゃっかりしてると思うぞ。

別に実害も無いんで了承したが。

 

「でも、ミューゼル君って艦長席に座ってる姿、やけにサマになってない? 座りなれてるって言うか……」

 

チッ。無駄に鋭い女め。

 

「そんなわけなかろう」

 

「いや、常識的にはそうなんだけどさ」

 

としきりに首をかしげてるな。

ふむ、ここは一つ余計な追求を避けるために、士官学校式アッテンボロー流伊達酔狂冗句(くだらんジョーク)でもかましておくか。

 

「アオバ大尉、あんまりしつこいと……」

 

「しつこいと?」

 

「乳、もぐぞ」

 

「なんでっ!? というかせめて、もぐんじゃなくて揉んでよ!!」

 

「? もぐのは駄目で揉むのはいいのか?」

 

「みゅう……ミューゼル君になら、そうされるのもいいかなって……」

 

何故、そこで上目遣いで俺をチラチラ見る?

それとドールトン少尉、何故ブラックコーヒーを一気飲みしたのだ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

 

 

 

 

 

 

 

 

”エル・ファシル特別防衛任務群”は、プロパガンダもかねてかなり優遇されてる艦隊と言えよう。

何しろ半個艦隊にも関わらず、2隻も貴重(レア)な艦隊随伴修復(ドック)艦が配備されているのだ。

というか同盟のドック艦なぞ、”もう一つの人生”込みで初めて見たぞ?

 

さて、2隻のうちの1隻”アカシ”にイナヅマを預け、エル・ファシル宙域に戻ってきた俺とアオバ大尉は任務群旗艦”ニルヴァーナ”へと向かっていた。

艦長代理の俺だけでなくアオバ大尉まで呼び出しとは解せぬが、リンチ中将(しれいかん)直々の呼び出しともなれば行くしかないだろう。

 

 

 

「なるほどな……チュン・ウー・チュン中佐からの報告は受けていたが、あらましは大体わかった」

 

とうなずくのは大して懐かしさも感じない御仁、真新しい階級章をつけたリンチ中将……なんだが、

 

(中将は一体、何を目指してるんだ!?)

 

足元を本革らしいカウボーイ・ブーツで固め、頭には同盟軍正規のベレー帽ではなくテンガロン・ハット。執務室には私物で持ち込んだとしか思えないエレキギターやらエレキベースがアンプと共にこれ見よがしに並んでいる。

キャビネットにはバーボン・ウイスキーのボトルが大量に装填済み……いくらなんでもロック過ぎるだろう!!

 

「ミューゼル、今回の出撃でお前が一番、()()()を感じたのはなんだ?」

 

いかんいかん。思考を正常化せねば……

ん? それにしても、おかしな質問をするな。

 

「”危機感”ですか? 問題点ではなく?」

 

「ああ」

 

リンチ中将は鷹揚に頷き、

 

「問題点なんざ毎日、山のようにあがってるさ。じゃなくて俺が聞きたいのは、実際に敵と対峙して何を感じたか、さ」

 

言いたいことはわかるが……

 

「何しろ今回は”敵艦隊、見ユ!”こそできたが、直接刃を交えたわけじゃねえ。ならば唯一のダメージを受けた艦に乗っていたお前の私見を聞きたいのさ。敵を見て何を考えた?」

 

なるほどな。なんの参考になるのか知らんが、

 

「ならば、小官が一番危機感を感じた。いや、現在進行形で感じるのは……」

 

 

 

”銀河帝国が、真面目に新型機雷の開発を行ってることであります”

 

俺は敬礼と共にそう答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




アッテンボロー……金髪君に何を教えた?(汗

ま、まあ、この世界ではラインハルト君も士官学校三羽烏の一人ってことで(^^
それに少なくともこのシリーズの彼は、結構天然なところもあるし。

アオバ・アヤ大尉ェ(ワレェ)……

久しぶりのリンチ中将(ロック仕様)ですが、何やら面白いことに……?



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第046話:”帝国軍は、機雷が嫌い?”

サブタイに意味があるようなないような(^^




 

 

 

エル・ファシル特別防衛任務群の拠点に戻ってきた”イナヅマ”……

艦隊随伴ドック艦”アカシ”にイナヅマを預けるなり、俺とアオバ・アヤ大尉はリンチ中将に呼び出され、任務群旗艦”ニルヴァーナ”に呼び出された。

 

やけにロックな執務室を訪れた俺、ラインハルト・ミューゼルは中将に「一番危機感を感じたのは何か?」と問われることになる。

 

「小官が一番危機感を感じた。いや、現在進行形で感じるのは……銀河帝国が、真面目に新型機雷の開発を行ってることであります」

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

「ほう……興味深いな? どうしてそう思った?」

 

ニヤリと笑うリンチ中将だが、悪いが期待するようなロックな答えはできんぞ?

むしろ退屈な答えだろう。

 

「そもそもこれまでの帝国軍は機雷、あるいは機雷戦を重んじていませんでした。むしろ毛嫌いしていたと言っていいでしょう」

 

別に機雷と嫌いをかけたわけじゃないぞ?

 

「どうしてだ?」

 

「機雷で敵艦を沈めるということは、”誰がその船を沈めたかわからない”からです。帝国軍人にとり、敵艦の撃沈は戦果であり栄誉……虚飾を廃して言うなら昇進の好材料、出世の種です」

 

これは”もう一つの人生”の記憶とも一致している。

武功を重んじ、それが出世への判断材料となる……実は「誰がどの船を沈めたのか?」というのは同盟・帝国を問わず戦闘詳報と艦のデータログ確認で、戦闘評価として事細かに集計を出しているのだ。

そして、それは貴重なデータとして集約される。

 

なら機雷敷設を命じた司令官や、実際に機雷を敷設した船に武功をやってもよさそうなものだが、少なくとも帝国軍では「機械が勝手に沈めただけでは武功は認められない」だの、「どのタイミングで触雷して沈んだのか詳細がわからなければ武功はやれん」なんて意見が根強かった。

 

確かに罠で人知れず獲物をしとめるより、自らの弓矢で射抜くほうが見栄えがいいのは認めるが……それが帝国軍の、いや俺が台頭する前の帝国軍人の限界だったとも言える。

 

「立身出世の絶好の機会を、自ら望んで潰す者はいません」

 

特にこの世界では帝国は、”戦争貴族”なんてくだらん風潮が支配的だという。

なら、”もう一つの世界”より、更に敵艦撃沈にこだわるのが普通だろう。

 

「なるほどな……つまり、個人の武功や栄達より、”()()()()()の勝利”を優先するものが出てきた……それも、兵器開発に意見や口を挟めるほどの高位に……ミューゼルはそう言いたいんだな?」

 

俺は頷く。

やはりリンチ中将は頭の回転が悪くない。

 

「そういう手合いが複数おり、兵器開発のみならずいずれ軍全体に影響を及ぼすような地位に上り詰めれば……」

 

まあ、そういうことだ。

”もう一つの人生”において、俺が台頭する前の帝国軍や貴族たちが大規模な機雷戦をしかけたことはない。

俺も自身ではほぼ使わなかったし、記憶に残る限り唯一と言っていい帝国の大規模な機雷原の構築は、アルテナで貴族相手にミッターマイヤーが防壁に使った時ぐらいだ。

使い方からして積極的な運用とは言い難かったが、

 

(だが、この世界の帝国は……)

 

 

 

「杞憂……で済めばいいがな」

 

「おそらくですが……この先の方が厄介な連中は出てくるでしょう。フリードリヒ四世の政策のせいで、貴族と軍部の関係も良好だと言う話も聞きますし」

 

前は姉上で、今度は軍人と貴族の橋渡し……フリードリヒ四世(あのクソジジイ)はどんな世界でも、本当にロクな事をしない。

それとも俺の前に立ちはだからねばならないと死ぬ病気にでもかかってるのか?

 

ともかく帝国がそう言う時勢なら、”もう一人の俺”が率いた精強な男達も、”あの世界”より多くの機会を得るだろう。

家柄やら何やら実力以外の部分で非主流派に押しやられていたんだ。実力を示す機会さえあれば、やがて頭角を現し大挙して同盟に押しかけてくるのは想像に難くない。

 

(いや、むしろ出てきてるのかもな……)

 

リンチ中将がエル・ファシルで遭遇した相手はマールバッハ……どんな経緯があったか知らないが、母方の家督と爵位を継いだ”この世界のロイエンタール”らしい。

ロイエンタールがいるなら、さっき挙げたミッターマイヤーも当然いるだろう。

あれはセットみたいなものだ。

 

今回、俺が遭遇した相手も怪しいものだな……貴族にしては手際が良すぎた。

 

(やれやれ、だ。楽な戦は期待するだけ無駄だろうな)

 

いや、むしろ望むところと言っておくか?

それも本音と言えば本音だしな。

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

「ミューゼル、やはりお前の視点はユニークだな」

 

含み笑いで言われてもな。

褒めてるのか?

 

「褒めてるさ。お前もヤンも、これまでの同盟士官にはない視点と器を持っている。少なくとも俺が見てきた中じゃ似たようなタイプはいねーよ」

 

むっ。変わり者なのは認めるとこだが……まさかこの俺が、表情を読まれたというのか?

 

「あのなぁ。お前、実は滅茶苦茶表情に出てるって気がついてねえのか? 言うならばポーカーフェイスの対極だ。相手のツラ見ながらやるギャンブルには、とことん向いてねーよ」

 

バカなっ!?

 

「だろ? アオバ」

 

「キコエナーキコエナーイ。私には中将閣下が何をおっしゃってるのか全然ワカラナーイ」

 

とは今まで空気、あるいは執務室の置物と化していたアオバ大尉だ。

そういえばコイツ、一緒に部屋に入ったな。

だが、このリアクションは……

 

「くっ、屈辱だ。まさか、よりにもよってアオバ大尉にまで表情を読まれていたとは……」

 

「それひどくないっ!?」

 

ふん。これでも上等な返しだと思うぞ。

というか中将、何を生温かい目で見てる?

 

「まっ、夫婦漫才の予行演習はそれぐらいにしとけや」

 

「誰がだっ!」

 

思わず階級差を忘れてツッこんだ俺は悪くないよな?

 

 

 

「冗談はこのくらいにしてだな」

 

そう言いながらリンチ中将は机の引き出しから無造作に”同盟軍()()”の階級章を取り出し、

 

「ミューゼル、今日からこれをつけとけ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ラインハルトってポーカーフェイスとかめっちゃ苦手そう(挨拶

いやー、魔術師と金髪さんが揃えば同盟楽勝と思いきや、そう上手くはいかないみたいですね?(^^

そして、徐に出された大尉の階級章……詳細は次回にて。





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第047話:”要するに、俺は嫉妬という感情を甘く見ていたってことだな”

今回は難産でした(^^



 

 

 

ラインハルト・ミューゼル同盟軍()()だ。

中尉だ。大事な事だから二度言ったぞ?

 

「リンチ中将、俺……いや小官はつい先日、エコニア派遣で中尉になったばかりなんですが?」

 

ひょいっと気軽に投げられた大尉の階級章をキャッチしながら俺が言えば、

 

「当然、知ってるさ」

 

と元凶……もとい中将はしたり顔で返してくる。

 

「……まさか”二階級特進(ヴァルハラ特急)”の前払いなんてことは?」

 

「アホ抜かせ。だったら大尉じゃなくて少佐の階級章を進呈してやってるさ。ついでに巡航艦艦長の座もオマケにつけてやる」

 

ガハハと豪快に笑うが、俺は笑い事じゃないんだが?

 

「いりませんよ。そんなもの」

 

俺は真顔になり、

 

「早すぎる昇進は、周囲に無用な反感と軋轢を招くと思いますが?」

 

”もう一つの人生”での教訓だ。

確かに俺の言動や態度、また寵姫の弟という立ち位置も理由だろうが、早すぎる出世も同じくらい強く反感を買う理由になったと今の俺は理解できる。

少なくとも、阿呆貴族はともかくまともな軍人にまで距離を置かれたのは、むしろそっちが理由だろう。

 

(要するに俺は人間の嫉妬という感情を甘く見ていたんだな……)

 

 

 

かの文豪シェイクスピアは、”緑色の眼をした怪物”と表現し、古の一神教では”七つの大罪”の一つでありレヴィアタンという悪魔あるいは怪物に例えられる……実際に、もう一つの人生で俺の身に起きたことを考えれば、確かにそのおどろおどろしさは禍々しい怪物に例えられるのも納得だ。

 

だが、どうも俺にはその手の感情に薄いというか、疎いらしい。

正直、二つの人生が交じり合った今でもよくわからん。

強いて言うなら、”もう一つの人生”で「ヤン・ウェンリーに勝ちたい」と意地を張った、その根幹にある感情が嫉妬かもしれんが……どうもピンと来ないな。

それに今生……という言い方も変だが、とにかく()()()()()()()考えるなら、姉上にはあっさりと陥落させられてるわけだしな。

 

あの手際は、我が姉ながら見事すぎる。そういう意味では、ヤン・ウェンリーを倒せなかった俺は姉に嫉妬しても理屈としてはおかしくないが……だが、明らかに何かおかしいだろ?

どちらかと言えば、立ち位置的にヤン先輩に嫉妬するほうが心情的に納得できる。

 

もっとも、そんな感情が起きんのも事実。どうやら俺は随分と姉離れができてるらしい。

いや、”もう一人の俺”が姉離れできなさすぎたのか?

 

 

 

「ほう? お前がそんなことに気を回すとは意外だな?」

 

おっと、今はリンチ中将と会話中だったな。

 

「これでも結構、空気を読める男だと自負してるんで」

 

勿論、嘘だ。だからアオバ大尉、そうジト目で見るな。

嘘は嘘だが、いくら俺でもわからんなりに学習くらいはする。

 

「だが、今回に関しては全く問題ない。お前も知ってのとおり、現在は”()()()()ラッシュ”だ」

 

なるほど。

確かに戦艦の過剰供給から端を発した、艦長不足を補う野戦任官ラッシュに紛れれば悪目立ちすることもないだろう。

 

「ミューゼル、元々お前さんは任官候補にはなってたんだ。だが、お前自身が言ったとおり中尉になったのはこの間ってのがネックになってたんだが……」

 

とリンチ中将は苦笑し、

 

「ラベルトには悪いが、今回は”渡りに船”ってことだな。ネタが駆逐艦だけに」

 

確かに駆逐艦も船だが、ネタふりに無理があるぞ?

 

「俺より先任の中尉はいるはずですが?」

 

一応、ガラにもないことを聞いてみるが、

 

「今居る中尉の中で、一番艦長適性が高そうなのがお前なんだよ。めぼしいのは全員、もう大尉にしちまった」

 

ふむ。まあ、無理もないか。

世界が違うが、一応は経験者だ。

それなりのノウハウもある。

 

「だから現状、ミューゼルを大尉にしちまって”イナヅマ”を預けるのが一番、手っ取り早い。”ドック艦(アカシ)”から連絡があったが、幸い修復部品のストックも十分以上にあるみてーだからな。修復にはさほど時間はかからんし、できれば型の新しい駆逐艦を遊ばせておくような真似は避けてえんだ」

 

ということは、

 

「ラベルト大尉のドック(ベッド)入り期間はそれより長いと?」

 

中将は小さく頷き、

 

「ついでに言えばアポリオンもだ。二人仲良く全治1ヶ月以上だ」

 

そりゃまた運がないことだな。

 

「この際だから二人には、復帰後は予備の駆逐艦をあてがって後からくる追加人員を鍛えてもらおうと思ってんよ。なんせ我が艦隊は、”予備艦”は潤沢だしな」

 

リンチ中将、笑いが乾いてるぞ?

ああ、少し補足しておけば、少佐を野戦任官で格上げして余剰戦艦の艦長に、同じく大尉を少佐にしたてて巡航艦の艦長にとやっている現状だが、言うまでもなくこの『大幅な玉突き臨時人事』は大きな問題を孕んでいた。

 

戦艦の稼働率を上げたいが故の判断だが……さて、ここでクイズだ。戦艦と巡航艦、どちらが運用に必要な搭乗人員が多いと思う?

答えは勿論戦艦だ。運用人員の数は、よほど例外的なあるいは極端な省力化でもなされて無い限り、ほぼ船の大きさに比例する。

加えてだが……同盟各地からかき集められた船は、各地の地方艦隊や警備艦隊の余剰とされていただけあり、元々定員割れを起こしていた物が大半だ。

 

それをどうにかやりくりして現在の形にしていたのだが……そのしわ寄せは如実に現れていて、エル・ファシル特別防衛任務群の登録艦艇数約7000隻のうち、実に1000隻近くが通常運行や戦闘の難しい、船を維持する最低限の人数しか載せてない”予備艦”扱いになってしまっていた。

 

ここ、笑っていいぞ?

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

まあ、程度が悪いものを下から数えて1000隻だが、名目上は”比較的程度の良いものを選んで集めた”というだけあり、「戦場よりスクラップ置き場の方が似合う船」というのは流石になかったが……

 

逆にそれが問題をややこしくしていた。

”エル・ファシル特別防衛任務群”とは銘打ってあるが、実際には純粋にエル・ファシル星域を防備するするのは”最強の老兵”ことビュコック少将率いる防衛艦隊であり、リンチ中将の役目は実はイゼルローン回廊同盟側全体の哨戒こそが主任務だ。

 

母港をエル・ファシルに設定してるのは「()()()()()()()()()」、要するに他の星系の名を冠し駐留するより、「帝国に最も近い有人惑星」であり、なおかつ「三人の英雄が生まれた星」の名にした方がプロパガンダ効果が高いと思われたから……らしい。

 

実際、ビュコック艦隊と違い俺たちの艦隊が駐留してるのは惑星エル・ファシル周辺ではなく、エル・ファシル星系のより外側にあるガス・ジャイアント近辺だ。

そこにガス採取装置搭載の反応燃料精製(コンビナート)工作艦を配置し、燃料の自給自足体制を敷いている。

エル・ファシルに艦隊将兵が上陸するのは、休養の時ぐらいだろうか?

 

そんな”最前線の精鋭艦隊”が、1000隻もの戦闘艦を遊ばせてるのは外聞が悪い……なので、それらの船を用いて召集された予備役の定期訓練や新兵の訓練に用いようというプランが立ち上がったのだ。

要するに前線に運び、「戦場から遠ざかっていた者や戦場を知らぬ者達から娑婆っ気を抜く」ための()()()()として活用しようと言うのだ。

旧エル・ファシル防衛艦隊と同等規模の訓練艦隊など同盟始まって以来だろうが、急場しのぎにしては悪いアイデアではないだろう。

 

「という訳でミューゼル、イナヅマは頼むぜ?」

 

「こうなれば腹はくくりますが……俺、いや小官が艦長になるのはいいとして、副長はどうします?」

 

いや、別に居ないなら居ないで構わんのだが。

 

するとリンチ中将はニヤリと笑い、

 

「ちょうど暇そうなのが、お前の隣に突っ立てるじゃねえか?」

 

「フワッ!?!?」

 

……アオバ大尉、とりあえず俺の横で奇声を上げるのやめろ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




最後のアオバ大尉の「フワッ!?!?」が一番書きたかったでござる(挨拶

ちょっとエル・ファシル特別防衛任務群の陣容を掘り下げてみましたが……実は完全実働状態にもっていけるのは6000隻程度でした(^^

そしてラインハルトは駆逐艦とはいえ艦長の座に着き、アオバ大尉をパートナー(?)に更に飛躍……はどうだろう?



追記
親族が帰省するので、ちょっと次話以降の更新は停滞するかもしれません。





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第048話:”どんな時代のどんな組織でも、人材確保ってのは至上命題なんだよな”

いや、今回はガチ深夜のアップになってしまいました(^^
多分、リアルタイムで読んでる方ってほとんどいないだろなぁ~と。

さて、今回はちょっと”この世界における同盟軍”の内部事情的な話が出てきます。
どこぞの星のどこかの国と似てるような、そうでもないような?




 

 

 

「ちょ、ちょと中将閣下! 私、広報部! 報道員! 非戦闘部署!」

 

アオバ大尉、なんでもいいが何故に片言(カタコト)なんだ?

まあ、その程度の反論、ロック親父(リンチ中将)に利くわけないが。

 

「それがどうした? 大尉は大尉だろうが? オマケに経歴見てみりゃ士官学校卒じゃねーか」

 

ほらみろ。言わんこっちゃない。

それにしても、アオバ大尉は士官学校出てたのか? 意外だな。

ってことは先輩か……話には聞いたことないから、俺が入学したときにはもう卒業していたのだろう。

 

基本、士官学校は女生徒が少ないから目立ちやすいんだ。

コイツは自由惑星同盟の徴兵制度が影響している。

 

戦時国家だけあって、同盟も労働力不足を危惧する産業界の反対もありさほど大規模に行っているとは言えないが、基本的に成人男子には24ヶ月の兵役義務がある。

勿論、徴兵免除の方法もある。”宗教的徴兵拒否”や”良心的徴兵拒否”なんて概念は既に歴史用語になってる(俺もヤン先輩から学生時代に聞いてそんな物が過去にあったことを初めて知った)ため、基本的には「兵役で国家に貢献せぬなら対価を払え」とわかりやすい”兵役免除特別課税”が基本だ。

一人一律毎月1500ディナール(約15万円)の支払いを徴兵期間に相当する24ヶ月続ける(一括払いも可)ことになるが、例えば富裕層にとっては問題にもならないはした金だろう。

 

しかし、庶民に毎月1500ディナールは少し厳しい金額だろう。減額すらも一切なしだ。この兵役免除税は100%軍事費に転換されるのだから、軍も国も遠慮する理由がない。

そして、徴兵も免除税の支払いも拒否すれば、戦時国としては非常に重い罪になる”兵役逃れ”の罪となり、逮捕されればあっさりと処刑になる。

しかも軍法による銃殺ではなく、刑事法による処刑だ。

 

同盟の処刑は、ある意味合理的な分エグいぞ?

なんせ苦しまないで死ねる分、”()()()()()()()()()()”として使える内臓は全部抜かれるからな。無論、問題なければ血液もそれに含まれる。

同盟の医療は、IPS(万能)細胞による部分クローニングの再生治療と各種”MNI”、”メディカル・ナノマシーン・インプラント”が二大治療方針で、これを補う形でサイバネティック・テクノロジーや薬品治療があるが……かといって、緊急移植手術用の臓器の需要がないわけじゃないからな。

国の言い分としては、「生きてるうちに市民に迷惑かけたのだから、死んだときくらい役に立て。それで帳尻つけてやる」なのだろう。

これが浸透しすぎてて、「移植用臓器が少なくなると処刑が増える」なんて都市伝説があるくらいだ。

 

 

 

おっと、話がずれたな。

徴兵免除には支払うコストが高いし、かと言って徴兵逃れは内臓抜かれての死亡ルート一直線……どうせ軍隊行きが拒否できないのなら、鉄砲玉扱いの下っ端兵より、どうせなら給与も待遇もいい士官で軍隊生活を送りたい。

なんとも生臭い話だが、士官学校を受験する未成年者の志望動機の本音は、こんなものも多いのも事実。

 

なら、兵役の義務がない婦女子の士官学校入学志願者は元々少ない。

それに意識高い”国防女子(最近、こういう言葉があるらしい)”だとしても、何も倍率激高な士官学校に入学しなくとも、士官になりたいだけなら他にも手はいくらでもある。

 

例えば、人材の育成と確保のために軍が経営する各種軍専門学校、いわゆる”専門()学校”だ。

具体例をあげると、ドールトン少尉が卒業した”軍航海士専門学校”だ。他にも軍計理士学校、軍看護士学校、軍調理士学校など軽く20校以上ある。

共通してるのは、”短期士官養成教育課程”がカリキュラムに組み込まれていること、士官学校と同じく学費無料どころか少ないとは言え在学中も給与支払いがあること、卒業できればそれぞれの学校に応じた国家資格が取れること、そして卒業と同時に”准尉”という、少尉より一つの下の階級が与えられることだ。

ちなみに准尉ってのは一兵卒が普通に上がれる最上位(下士官の一番上)とされてる軍隊もあったようだが、同盟においては”短期士官養成教育修了者に与えられる士官に準ずる階級(准士官)”と認識されている。

全体的にお得感が強いな。蛇足ながら”短期士官養成教育課程”は軍学校だけでなく、一部の大学や専門学校にも常設されている。

 

逆にデメリットは服役期間が一般徴兵の倍の48ヶ月と長いこと(それでも士官学校出身者の60ヶ月より短い)、士官学校出身(正規士官教育修了者)の少尉には必ずある万歳昇進(正規任官より1年後に生存してれば無条件に中尉へ昇進する)がないことなどだ。

強いて言うなら、退役し予備役に編入されても即応士官(予備役招集がかかった際に最優先に再招集/現役復帰される者)扱いされる期間が正規士官並の長さとかもか?

 

とにもかくにも、軍隊に入って士官扱いの飯と給与をゲットしたいなら楽な方法は他にあるのだ。

なので難関な上にそれなりに厳しい士官学校の女性割合は平均して毎年1割弱、同盟軍全体での女性の割合が3割超であることを考えれば、どれだけ少数派かわかると思う。

 

 

 

(アオバ大尉に積極的に士官学校を目指す理由があったとは考えにくいんだが……)

 

結局はそれも俺の主観なんだが。

 

「だーかーらー! 私の専門はメディア戦略でありまして!!」

 

「誰にだって初めてはあるし、何事も経験だろーが?」

 

はぁ……仕方ない。

これ以上、口論を続けさせても時間の無駄だ。

というよりロック親父、最早イジりにかかってるし。

 

「アオバ大尉」

 

俺は大尉の小さな肩に手をポンと置き、

 

「ミューゼル君?」

 

「諦めろ。人材不足はどうにもならん」

 

俺も諦めた。

 

「で、でも……」

 

「俺は別に大尉が副長で不満はない」

 

少なくとも、”あっちの世界”でノルデンとかいう俗物を押し付けられたときよりは遥かに状況はいい。

 

「ミューゼル君!?」

 

なぜ、そんな驚いた顔をする?

 

「大尉は俺が上官じゃ不満か?」

 

「あやっ……ひどいよ。それ殺し文句だ」

 

? 何を言ってる?

 

「クックックッ……ミューゼル、お前随分と上手く言葉転がせるようになったじゃねえか?」

 

なんのことだ?

 

「アオバ、どうやらミューゼルはお前を御所望みたいだぜ?」

 

「中将閣下!!」

 

別に所望というわけじゃないんだが……まあ、いいか。

 

「ここで応えなきゃ女が廃るってな。しかも、いかにもお前好みの年下……」

 

「わーわーわー!!」

 

だからいきなり騒ぐな。

 

「んで、どうすんだよ?」

 

「ううっ……わかりましたよぉ。謹んで”イナズマ”の副長の座、お受けいたします。でも、どうなっても知りませんからね?」

 

ふん。それこそ杞憂だ。

 

「アオバ大尉、俺がそんなヘマを許すと思うか?」

 

「ミューゼル君……その、お手柔らかにね?」

 

なるほど。上目遣いが悪くないな。こういうのを可愛いというのか?

 

「結構結構。ミューゼル、せいぜいこき使ってやれ」

 

「はっ!」

 

俺は敬礼で返すが、

 

「あーそれと、俺はプライベートには口は出さん。休憩中、ナニをどこでしようがな」

 

「閣下!!」

 

ニヤニヤ笑う中将と顔を真っ赤にする大尉……よくわからんが、とりあえず話はまとまったんだろう。

とにもかくにも、次の辞令が届くまでは俺はアオバ大尉と共に宇宙を駆ける事になる。

 

正直言えば……俺は確かに鼓動が高くなるのを感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




同盟上層部:「兵隊なりたくないなら出すもの出してもらおうか?」
うん。トラバース法よりは平和的?(^^

良くも悪くも同盟は戦時国家ということですねぇ~。

そして無自覚にフラグおっ立ててるミューゼル君の明日はどっちだ?



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第049話:”駆逐艦談義 軽騎兵と短弓兵”

すみません、お久しぶりの更新になってしまいました。



 

 

 

いきなりだが……同盟と帝国、同じ艦種なのに最も設計思想に差が出ているのは駆逐艦だと思っている。

前に同じ艦種の戦闘艦なら惑星等の重力圏への降着/離脱機能が求められる分、帝国艦の方が図体が大きくなるが、駆逐艦のみそれが逆転すると言った記憶があるが……実際には、それだけにとどまらない。

むしろその大きさ差は、”設計思想の差”ゆえに出たと考えた方が正解だろう。

 

帝国の駆逐艦は、その小さな船体と高い運動性を生かして相手に肉薄することを真骨頂としていた。

例えば、だ。駆逐艦の機関出力では各種レーザーやビームなどの高エネルギー兵器を用いても不十分な威力しか出ないと割り切り、主武装は多連装レールガンとミサイルの実体弾のみと思い切りのいい設計だ。

一撃の投射重量は大きく、一斉発射しそれが直撃すれば、当たり所によっては戦艦すら屠れる可能性があるが……だが、実体弾である以上弾速が遅く射程が短い。

そして、その近距離射撃のチャンスを広げるため、かなり無理をして飛び道具である艦載戦闘艇(ワルキューレ)も2機搭載している。

むしろその攻撃一辺倒のコンセプトは、”雷撃艇”に近いかもしれない。

 

同盟の駆逐艦は、むしろ真逆だ。

同じ艦種なら惑星に離着しない分、コンパクトに作れるはずの同盟艦が大きくなったのは、帝国艦と逆に”まともな威力と射程を持つ高エネルギー兵器”を使用できる出力の反応炉を搭載するためだった。

 

そう、同盟の駆逐艦はまさに”()()()()()()”なのだ。

主砲は当然のように射程が実体弾より遥かに長く光速で飛ぶ高エネルギー兵器”自由電子レーザー”で、照準システムも非常に凝った物が搭載されている。

設計は徹底されえおり、帝国の駆逐艦とは真逆に艦載戦闘艇(スパルタニアン)は一切搭載せず、代わりに艦全体にハリネズミのように自動近接防御火器を配していた。

ヤン先輩によれば、

 

『同盟の駆逐艦は、駆逐艦と言う語義に反してあれは一種の砲艦(モニター)だと思うよ。あるいは”宇宙(そら)飛ぶレーザーランチャー”かな?』

 

それを聞いたときは妙な言い回しだと思ったが、

 

『私の私見ではあるけど、巡航艦から砲撃と機動力以外の全ての要素をを極力廃し、可能な限りコンパクトにまとめたのが同盟の駆逐艦なのかもしれないね』

 

とのことだ。

確かに同盟の巡航艦は万能艦としてバランス型の設計がなされているように思える。

いや、同盟に限らず帝国の巡航艦もバランス型、巡航艦と言うものはそもそもそういう艦種なのかもしれない。

 

『面白いもんだ。駆逐艦と言うのは艦として考えるなら最小戦闘単位で小兵、距離を置いた艦隊砲撃戦では花形にも主役にもなれない。だが、”彼女たち”が真価を発揮するのは艦隊同士の距離が詰まり、乱戦の様相を呈してきたときだ』

 

”もう一人の俺”はそんなことを考える余裕もなかったようだが、改めてみるとなるほど面白みはある。

 

『そして二つの軍は正反対の選択をした。帝国は遮二無二突っ込んでくる軽騎兵を選び、同盟は……』

 

「小回りの利く短弓兵か」

 

()()()()()()君、何か言った?」

 

アオバ大尉、いや階級が追いついてしまったアヤは不思議そうな顔をするが、

 

「なんでもないさ」

 

なら、俺はせいぜいその持ち味を生かした戦いをしようではないか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

 

 

 

 

 

 

さて、少し状況を説明しておこう。

野戦任官ではあるが大尉となり、駆逐艦”イナヅマ”の艦長となった俺は、あれから数度のイゼルローン回廊の哨戒任務に参加した。

だが、俺だけでなくその同盟の哨戒活動その物が、どうやらよほど癇に障ったらしい。

 

対抗措置として帝国は、”イゼルローン要塞の()()()()()()”を威力偵察隊として出してきたのだ。

無論、常駐15000隻が一丸となって出てきたわけではない。

1500隻を1部隊とし、10部隊をローテーションさせ運用する……常識的な運用法だ。

 

こうなると同盟は対抗上、遭遇戦を想定したほぼ同数の哨戒艦隊を編成する必然が出てきたのだ。

いや、純軍事的に言えばその必要はないことはリンチ中将もわかっているだろう。

これまでどおり、どんなに多くても精々300隻程度の練成を兼ねた哨戒部隊で行動し、敵艦隊に接触すればすぐに警報を出し射程に捉えられる前に撤退、通報を聞きつけ駆けつけるエル・ファシル特別防衛任務群の本隊やビュコック少将率いるエル・ファシルの本家防衛艦隊の到着を待つだけで十分だろう。

無論、常識的な判断をする提督なら同盟の本隊が到着する前に撤退するだろうし、深追いするような愚か者な宇宙(うみ)藻屑(デブリ)に変えてやればいい。

 

だが、生憎と政治的状況がそれを許さない。

何しろついこの間、有人惑星であるエル・ファシルまで侵入を許したのだ。

現状、帝国艦隊の進出はせいぜいヴァンフリート星系あたりまでだが、「ここまで大規模な迎撃艦隊を用意してるのに、みすみす敵艦隊の同盟領侵入を許すとはどういうことだ!!」と納税者(有権者)が騒ぐのも無理はないだろう。

何しろ相手は貴族、いつ暴発あるいは行動をエスカレートさせて再びエル・ファシル、あるいは他の有人惑星にまでやってくるかわからない……とまあこういうわけだ。

 

実はこれに関しては俺も同意見だ。

全ての貴族がそうだとは言わんが、連中が常軌を逸した判断をするのは別段珍しい話じゃない。

特に「同盟恐れるに足らず」と思い込んだ日には、だ。

 

だが、1500隻編成を10チーム作れる帝国側に対し、実働状態にある船が6000隻程度の特別防衛任務群では、同じ隻数でローテーションを回せばどっちが船や人員の消耗が激しいのかは考えなくてもわかる。

確かに仮称ビュコック艦隊を加えれば多少は楽になるが……それはやはり政治的な理由で却下だった。

 

ビュコック艦隊はエル・ファシル星系を守る最後の壁、言うなればゴールキーパーであり、それを簡単に動かすのは民意が納得しない。

何しろ「安全性をアピールするため」のプロパガンダも兼ね、エル・ファシルには既に民間人が戻り始めているのだ。

これに関しては正直、異論はない。

単に同盟ではクラウセヴィッツ的な戦争解釈、

 

”戦争とは他の手段をもってする政治の継続である”

 

が反映されてるに過ぎない。これにブロディの”文民統制(シビリアン・コントロール)”の概念を組み込めば、大体同盟軍の行動は説明できてしまう。

 

 

 

さて、では特別防衛任務群だけで事態を対処せねばならなくなったリンチ中将は何を思い、どう判断したか?

性格を考えれば当たり前だが、

 

アクティブ・ディフェンス(積極的防衛作戦)しかねえだろうな』

 

 

 

 

 

 

 

 




久しぶりの戦闘パートです(^^

実はお盆明けにリアルで配置転換がありまして、まったくこれまでと違う部署のためデスマーチ状態に(泣
時間的にもさることながら、精神的な疲労が激しいため執筆に影響でまくりになってしまいました。
更新ペースが滅茶苦茶スローダウンすると思いますが、それでもお付き合いいただければ嬉しいです。



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第050話:”アクティブ・ディフェンス”

思ったより早く投稿できてホッとしてる作者です(^^
いや~、スランプになってエタらなくてよかった(汗

ついにこのシリーズも第050話に到達しました♪
これも普段から応援してくださる皆様のおかげです。

蛇足ながら、この話を投稿直前に第40話からを第03章としました。
どうも金髪さんの戦いはまだ続きそうだったので。






 

 

 

(それにしても、こうも人材不足なのは困ったもんだ)

 

俺、ラインハルトは内心でぼやいてしまう。

 

(まさか、こうもあっさりと俺が10隻の指揮を任されるとは……)

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

アクティブ・ディフェンス(積極的防衛作戦)しかねえだろうな』

 

事の発端は、同盟のイゼルローン回廊への哨戒活動に業を煮やした帝国が、イゼルローン駐留の正規艦隊を小分けにして”明確な同盟領”への威力偵察を始めたことだ。

 

それが”帝国の面子と体裁を守るための、実のない示威行為”であることは同盟政府や軍は百も承知だった。

出てくるのは精々ヴァンフリート周辺までという行軍が、まさにそれを裏付けていたわけだが……だが、ついこの間”最前線の有人惑星”であるエル・ファシルに奇襲を喰らった同盟市民は、それでは安穏には過ごせなかった。

 

当然だろう。帝国艦隊の跳梁跋扈を許すなら、何のためにイゼルローン方面の艦隊を最大限まで増強したのか意味がわからなくなってしまう。

それに俺も同意するのだが……帝国貴族には何をしでかすかわからない怖さがあった。

何しろ宇宙時代に入って1000年以上経つのに真顔で「奴隷狩り(マンハント)をしよう」などと言い出す連中だ。

 

民意の反映こそが民主主義の真骨頂である以上、それを政府は無視できない。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

そこでリンチ中将が決断したのが上記のセリフだ。

そもそも”積極的防衛”とはなんだ?という話だが……

 

クラウセヴィッツの戦争論などを紐解けば、戦争の本質は「攻撃ではなく防衛にこそある」そうだ。

特に「国や軍が積極的防衛に転じたときこそ、もっとも攻撃的な選択肢を取る」らしい。

 

一見すると矛盾してるし小難しく聞こえるかもしれないが……実は割と単純な考えだ。

これを説明する前に、ひたすら防衛戦に徹するのが”専守防衛”という概念を理解してるとわかりやすい。

 

どういう事かと言えば「領海内に入った艦隊を迎撃する」のが専守防衛なら、「敵艦隊が軍港にいる時点で港ごと叩き潰す」のが積極的防衛ということだ。

そして、この積極的防衛を拡大解釈したのが、人類史上何度も行われてきた”予防戦争”だ。

これなんかすごいぞ? 何しろ「攻められる前に攻めてくる可能性のある国を叩き潰せ」だ。これを人間に置き換えるとさらにとんでもない発想になる。つまり、「相手は銃を持っている。俺を撃つかもしれない。だからホルスターから銃を抜く前に撃ち殺そう」となる。

だが、もう一度よく考えて欲しいのだが……これだけ乱暴な発想である予防戦争だが、あくまで本質は「潜在的脅威に対する排除と言う手段を用いた()()」という発想なのだ。

 

攻撃されれば自国に甚大な被害が出る、だからその前に脅威自体を排除する……確かにその根本は防衛だろう。

 

だが、純然たる積極的防衛ならイゼルローン要塞を攻略せねばならない。実は過去4度行われ、4度とも惨敗したイゼルローン攻略戦は同盟なりの積極的防衛策だった。

 

当然、そんな阿呆な考えを自前の艦隊の現状やら規模やらを知るリンチ中将が行うわけもない。

彼は思考レベルを”一段階()()()()”のだ。

 

 

 

結論から先に言えば、「イゼルローン要塞をどうにかするのではなく、あくまで帝国の威力偵察を中断せざる得ない状況に追い込むこと」を目的に作戦を発動させたのだ。

 

では、何をすれば中断するのか?

答えは単純で、”威力偵察を継続できないほどの損耗を与えればいい”だ。

だが、中途半端なダメージでは帝国は引きはしないだろう。

そして導き出された解答が、

 

『敵1個威力偵察艦隊(1500隻規模)の完全殲滅』

 

だった。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

全駐留艦隊の1割が損耗すれば、流石に面子がかかってるとはいえ帝国側も自重せざる得なくなる。

何しろそれを10回繰り返せば、比喩でなく要塞が丸裸になるのだ。

 

だが、帝国は貴族こそ未だに馬鹿が多数派だが、軍全体で言えば別に無能者集団でもなんでもない。そうやすやすと殲滅させてくれるはずもないのだ。

 

だからこそ、詭道……計略を練らねばならなかった。

当初、囮艦隊を出して足止めし、その隙にエル・ファシル特別防衛任務群の実働6000隻の全力で叩き潰す案も検討されたが……

 

『確実に勘付かれますよ? 特別任務群がエル・ファシル星域からいなくなれば、遠からずフェザーン・ルートで帝国は知ることになるでしょう。連中が同盟内に引いてる諜報網を甘く見るのは禁物です』

 

うん。わかってるさ。

この不用意な発言をしたのは俺だ。

だが、仕方ないではないか。どういう経緯や立ち位置でだかは知らないが、作戦会議に強制参加させられた上に意見を求められたのだから。

 

『ほう……ミューゼルはそう見るか?』

 

これは”もう一つの人生を生きた俺”の経験則だ。

フェザーンはこの時代、バランサーに徹してはいるが、現状はあの世界と違って同盟は国力差の関係から有利と言って差し支えないだけの余力を持った状態にある。

ならばフェザーンの動きは、「帝国が負け過ぎない状態を維持」させ、「事あるごとに同盟が負けすぎない程度に帝国に情報を流し恩を売る」となっていることは容易に想像が付く。

 

当てずっぽうではない。物証こそないが状況証拠ならいくらでもある。

例えば、俺自身が体験した”アルトミュール星系の遭遇戦未遂”もそうだ。

あの時はたった1発の新型機雷が誤作動を起こしたからこそ難を逃れたが、そもそもあの日あの時にあの場所に、”何故、帝国が俺たちが来ることを正確に察知できたか?”が思い切り怪しい。

 

同盟のパトロール・ルーチンが読まれた可能性はあるが……機雷敷設に待ち伏せのコンボから考えて、偶然はありえない。

なら、むしろ「俺たちの行動ルーチンとスケジュールを漏洩した者」を疑うのは当然だろう。

 

それに言いたくはないし、誰にも現状では言えないが……軍や政治家の間にさえ、どれだけ”地球教徒”が紛れ込んでるのか俺にも見当が付かない。

連中は深く静かに、誰にも気づかれぬように浸透するのに長けている。

 

同盟は”政教分離”の基礎理念があると同時に”精神/思想/信教の自由”も建前としてでも掲げている。

地球教徒であるという理由で、連中を排斥するのは難しいだろう。

 

”もう一つの人生”を生きた俺の記憶を持つからこそ、連中の危険性と本性を言えるが、普通の同盟市民はそこまで深刻に考えてはいない。

ただ、救いがあるとすれば”地球教=得体の知れないカルト宗教”、”フェザーン=()()()自治区”という社会通念が出来上がってることか?

 

 

 

『では、どうすればフェザーン、いや帝国を欺ける?』

 

『まず、開店休業(モスポール)状態の1000隻と実働状態にある1000隻を”データ上ですり替え”て、演習航海名目で出港させます』

 

『続けろ』

 

『然る後、こう発令するんですよ。「帝国の威力偵察を警戒するため、200~300隻編成の小戦隊を大幅に増強する」と』

 

リンチ中将はにやりと笑い、

 

『つまり”異なる理由で分散出撃させ、決戦の地で合撃させる”か?』

 

俺は頷き、

 

『ただし、この方法で誤魔化せるのは、せいぜい2000隻、多くても2500隻でしょう。艦隊の全戦力の半分近くを出撃させれば流石に不自然です』

 

『面白いな……で? どこに()()()()()()つもりだ?』

 

『ヴァンフリート星系へ。艦隊を伏せさせておくには打ってつけの宙域です』

 

まあ、これはかつて知ったるなんとやらだが。

 

『餌は?』

 

『小戦隊の任務の一つに、”ヴァンフリート4-2に無人観測所の設営”を加えれば十分かと。勿論、そんな機材は艦隊にはありませんが、それを帝国は知らないでしょうし』

 

おそらくフェザーンに情報を流してるのは艦隊の人間ではなく、艦隊からの情報を受け取る側。

当たり前だが、基本、通信が制限される艦隊から直接情報を流すのは物理的に難易度が高すぎる。

艦隊の人間がエル・ファシルに休暇で降りた際に現地に紛れ込んだスパイに情報を手渡す可能性もあるが……リスクも高ければ、タイムラグが出過ぎるのだ。

 

俺の考えを察したらしいリンチ中将は呵呵大笑し、また参謀団も人悪い笑みを浮かべていた。

いや、今更だが……やはりこの任務群も”ロック親父のカラー”に染められつつあるな。

 

『ミューゼル、作戦立案の功績を認め、お前に褒美をやるよ』

 

いきなり何を言い出すかと思えば、

 

『現状での昇進は野戦任官でも難しいが……そうだな、とりあえず駆逐艦10隻をお前に預ける。存分に使ってみせろ』

 

評価されるのは嫌いじゃないが……いいのか? それで?

ふと思う。

 

(もしかして、俺はフラグを立てまくってないか?)

 

そこ。今更とか言うな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




金髪さん、思わず才能の片鱗を魅せてしまった回でござる(^^

本人はきっと「やっちまったZE!!」って気分なんでしょう。
実際、姉上が安泰な現状では、ラインハルトは別に無理な出世をする気はまったくないんですよ。
あるがままの自分、望むままの自分……そしてそう行動した結果、いきなり駆逐艦10隻の指揮を投げられてしまったと(笑

でも10隻で済ますあたり、リンチ中将の優しさか?



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第04章:”同窓会と呼ぶには少々早すぎるのでは?”
第051話:”飛び火”


超お久しぶりです。

もし、今でもお待ちいただいてる読者様がいらっしゃったら心より感謝を。

仕事変えたり、パソコン壊れて書き溜め全滅してモチベーション0どころかマイナスになったりと、他にもプライベートで色々ありすぎて何も書けない日々が続きましたが、リハビリをかねてゆっくり連載再開と相成りました。


 

 

 

さて、舞台は遥かなる星々の世界より一転、天の川銀河サジタリウス腕のバーラト星系にある”自由(Liberty)惑星(Planets)同盟(Alliance)”首都惑星”ハイネセン”へと舞い戻る。

より正確に言うなら、地上にある軍大学、そのまた一室だ。

 

「なるほど。ありふれた資料室に偽装されているけど、実際には軍大学の内部にある情報部の拠点というわけか……」

 

と半ば感心しているのは我らが提督(予定)、最近は女運が上昇しまくっているが同時に女難も出ていそうなヤン・ウェンリー同盟軍大尉だった。

 

この部屋への呼び出し理由は、いかにもヤンがホイホイやってきそうな歴史関係、それも今どき珍しい紙媒体で記された書籍整理というお題目だった。

無論、そんな(ヤン的に)美味しい話などそうそう転がっているわけはない。

 

バグダッシュに案内され、書架に偽装された隠し扉の先で彼を待っていたのは……

 

「君とミューゼル中尉には、改めて礼を言いたかったのだ。ちょうどいい機会だったよ」

 

バグダッシュはピシッと、それに遅れてやや崩れた姿勢で敬礼するヤンの視線の先に居たのは、本来ならここにいるべき人物ではなかった。

 

「まさか、グリーンヒル准将閣下にこのような場所でお会いできるとは思いませんでした」

 

そう。軍情報部において対帝国戦略において重要な意味を持つとある解析部門の統括を担う男、”ドワイト・グリーンヒル”……まぎれもなく大物だった。

ついでに言えば、なんとなくラインハルトとレッドラインがつながっていそうなフレデリカ・グリーンヒルの実父でもある。

 

「今回は少しばかり内密な話……少々、正道から外れる話があってね」

 

グリーンヒルはスッと目を細め、

 

「ヤン大尉、本来なら君の階級で頼むような話ではないのだが……作戦の参考とするために少々、君の意見を聞きたいのだよ」

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

グリーンヒルから切り出されたのは、現在ヴァンフリート星系で行われようとしている、帝国のイゼルローン要塞駐留艦隊の誘引作戦案だった。

確かに一介のまだ真新しい大尉の階級章を付けた士官に切り出す話じゃないだろう。

それにヤンはまだ大学に入りたてのほやほや、2年目から決める専攻過程すらまだ選択する前だ。

グリーンヒル本人が言うように本来ならあり得ない話だが……

 

「ヴァンフリート4=2に基地設営の虚報を帝国に流し、それを餌に帝国艦隊を誘引する、ですか? これを考え付いたのは後輩……ミューゼル中尉なのではないですか?」

 

「……どうしてそう思ったのだね?」

 

するとヤンはかすかに苦笑する。

根拠を示せと言われれば困るが、何かと士官学校のころから縁があり、今となっては義理の弟確定のラインハルト(ちなみにまだアンネローゼと入籍はしていない。とっくに外堀も内堀も埋まっているので時間の問題だろうが)の思考パターンはかなりの精度でトレースできるようになっていた。

 

「いかにも彼が考えそうな作戦だったもので。合理的な無駄のない作戦です。ただ……」

 

ヤンは頭を少し掻き、

 

「ちょっと”押し”が弱いかな? エル・ファシル周辺に展開する艦隊が備蓄する資材では、少しばかり基地設営の説得力に欠ける。怠惰な貴族子弟ならともかく、まっとうな軍事教練を受けたものなら確実に疑うし、少なくとも私なら真偽の調査くらいしますよ?」

 

『どうせフェザーンに問い合わせれば済む話でしょうから、大した手間もかからない』という続きをあえて飲み込んだ。

ヤンは元はと言えばフェザーンの自由商人の家系だが、そうであるが故に情報に関しては全く信用しないでいた。

情報は実体を持たぬ武器であり、時には巨万の富を生む商材だ。

幼少期をフェザーン所属の船乗りとして育ち、その後に否応なく同盟人となったヤンは朧気ながらフェザーンが『なぜ存続できるか?』の舞台裏を肌感覚で理解し始めていた。

ただし、その本当の深淵までには至っていないようだが。

 

(どうせ罠を張るなら、もう少し説得力を持たせた方がいいだろうな)

 

情報だけで敵を翻弄することもできなくはないが、敵に頭が回るものがいれば、逆利用されかねない。

 

(それを回避するためには……)

 

「……ヤン大尉、君ならこの計画をどう”補強”する? 参考までに聞いておきたい」

 

意図せず脳を高速回転させ始めたヤンに気付いたようにグリーンヒルが問いかけると、

 

「私が、ですか? そうですね……」

 

グリーンヒルの視線はまるで探るような、あるいは値踏みするようなそれだったがヤンは特に不快に感じることもなく、

 

空船(からぶね)でもかまわないのでそこそこの数の輸送船と、いかにも大事なものを運んでるように護衛を付けて臨時の護衛船団(コンボイ)を編成、ヴァンフリートに向けると同時にそれを意図的にリークしますかね? ついでに大々的に『上層部直々の命令でヴァンフリートにイゼルローン要塞監視用の大規模な恒久的拠点を作る』という情報も流した方がいいでしょう」

 

「その意図は?」

 

「嘘というのは存外、小さいより大きい方がバレにくかったるするものですから。それに、」

 

(複数の作戦目標を持つのは宜しくないが、この機に戦果の拡大を狙うのは悪い話じゃない)

 

ヤンは以前なら浮かべない類の笑みを浮かべ、

 

()()()()()()()()()()()()()()、例えわずかなでも恒久的な監視拠点を作られる可能性があるのなら、帝国は手を出さざる得なくなりますから」

 

「ほう?」

 

「情報だけでなく物理的な担保を用意することにより、虚報は彼らにとり疑いようのない現実の脅威……文字通り”今そこにある危機”となります。それを黙ってられるほど帝国も呑気じゃないでしょうから」

 

 

 

 

 

 

ヤンにしてみれば、この時の会話は『問われたから答えた』に過ぎないものだったろう。

少なくとも、そこに大きな意味は見いだせなかったはずだ。

当然である。この時点でヤンは一介の大尉に過ぎない。確かに将来性はすこぶる付きで高いが、少なくとも現時点では同期の出世頭でも軍人全体として見るなら決して高い地位にいるわけではないのだから。

 

 

だが、事態は様々な思惑が絡み合い少なくともヤンが予想できなかった方向へと動いてゆく。

そして口に出すか出さないかは別にしても、

 

「どうしてこうなった……?」

 

ヤンが某マジカル幼女軍人がごとく頭を抱える日は、もうすぐそこまで来ていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




本当にお待たせしてしまって申し訳ありません。

私自身もまさか、年単位で執筆できない環境になるとは思ってもいませんでした。

再開した途端に風景がヤンSideに切り替わる罠(笑

このエピソードから新章にしようかな~とか考えております。

年単位で小説書いてなかったうえに、今の仕事はあまり時間が取れない職業なので以前に比べれば恐ろしくペースが遅くなりそうですが、リハビリをかねてゆっくり更新していければと思っています。

こんな状況ですが、お付き合いくだされば幸いです。



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第052話:”品切れを起こしてない勤勉さとその結果”

なんとなく書きあがってしまったので投稿です。
久しぶりに書くと、驚くほど設定を忘れている事に驚きます(^^




 

 

 

(ど、どうしてこうなったんだ……?)

 

その日、ヤンは多大な困惑の中にあった。

グリーンヒル准将に呼び出されたその日のうちに、ヤンは”()()()宿()()”を受けてしまった。

 

そう、話題に出ていた”ヴァンフリート誘引作戦・補強案(仮称)”をレポートにまとめて可能な限り早く提出されるように申し付かったのだった。

 

アンネローゼ・ミューゼルという”愛し守るべき存在”と、アシュリー・トリューニヒト(ヨブ・トリューニヒト・セカンド)という”生涯の愛妾”を図らずとも得たことにより、勤勉さとモチベーションの在庫切れが無期延期となっていたヤンはしっかりとそれを成し遂げた。

既に片鱗を見せ始めた才能を織り込んだレポートの内容を簡潔にまとめると……

 

・情報操作だけでなく、物理的な裏付けを添付することにより状況を明確かつ単純化できる。

 

・単純化の内訳は、「帝国の勝利条件は護衛船団(コンボイ)のヴァンフリート4=2への到達阻止。敗北条件は同船団の到達」と帝国が”()()”すること。

 

・その思考誘導と固定化に船団だけでなく、マスコミを含めた『コントロールされた情報のリーク』を積極的に行う。

 

・そのような複数の方法をとることにより、帝国の行動を制限し、『彼らが望む形の”決戦”』を行う。

 

とまあ、こんな形だった。

このレポートを突貫で仕上げたとき、ヤンは思わず……

 

『これは戦術というよりむしろペテンの類だね』

 

と苦笑したという。

もっとも、その生涯においてアンネローゼやアシュリーをはじめとする見目麗しい女性たちと数多に繰り広げられた「ベッドの中の巴戦」以外は戦場で無敗を貫いたヤンの最も得意とするところは『思考誘導を巧みに使う心理戦』であったため、その才覚の開眼の一つがこのレポートなのかもしれない。

蛇足ながら付け加えると……マグロというわけではないが、ヤンが肉弾戦に弱いのは、この世界でも通じる真理の一つだ。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

強行軍なレポート作成で消耗した心と体をアンネローゼのバブみで癒し、何故か精神的にはフル充填ながら体力的には更に疲労した体を引きずるようにしてレポートを提出してみれば、

 

(どうして私が作戦会議に参加する羽目に陥ってるんだ……?)

 

今回の作戦、『実際に戦闘を行う作戦/戦術指揮』、言うならば”現場の指揮”は、リンチ中将に委ねられているが、側面支援としての色合いの強い『偽装護送船団』作戦は情報部主体に行われていた。

自由惑星同盟本国での情報操作も必要なためそれはヤンにも納得できた。

そう、そこまでは納得できたのではあるが……

 

「ヤン大尉、抽出する護衛艦群はどこから抽出し、どの程度の規模が適切だね?」

 

「第1艦隊より10隻少々引き抜きましょう。シトレ校長……いえ、シトレ()()が提督に就任し、ちょうど再編中でしたね? ハイネセンを拠点としてるし近場なのも都合がいい」

 

ここは同盟首都(ハイネセン)にある同盟軍情報部の隠蔽施設。今回は作戦会議の場として使われているようだ。

 

そう、ヤンはレポートを提出した翌日の朝、ミューゼル家に横付けされた黒塗りの車に拉致同然に詰め込まれ、連行されたのがこの場所だったという訳だ。

しかも参加する立ち位置は”作戦立案者”、語弊のある言い方ではあるが「言い出しっぺの法則」に則り連れてこられたということだ。

 

公的な身分ではヤンは大尉で軍大学の学生、正規軍人ではあるものの見習いのような立場だ。

原作の帝国侵攻作戦の時のような国家として政体として機能不全と状態異常を起こしているならともかく、紛い也にも現在の自由惑星同盟はそれなりに健全な国家運営を行っている。

無論、歴史上に存在したあらゆる国家のご多聞に漏れず、同盟にも当然のように闇も腐敗も汚濁も病巣もある。だが、少なくとも堅気の市民が日々の生活に怯えず、個人的な幸せを追求できる程度の社会安定度はあった。

 

そのような社会、あるいはそれを守る軍においてこんな横紙破りの一種のような事態は、流石に稀だ。

まあ、間違いなく全体ではないにせよ上層部の意向があるだろうが……ヤンは深く考えないことにした。

 

「なぜ、第1艦隊だね? 警備艦隊や地方艦隊もいるだろう?」

 

この作戦会議において議長を務めるグリーンヒルの言葉に、

 

「それらの艦隊は”エル・ファシル特別防衛任務群”に既に余剰戦力が抜かれてますからね。それに第1艦隊は首都防衛艦隊、ある意味練度は高くとも実戦からは最も遠い位置にいます」

 

同盟宇宙軍の顔ともいえる第1艦隊は、首都防衛を担うくらいだからエリート中のエリート艦隊とも言えるし、厳しい訓練に裏付けされた高い練度を誇るが……だが、同時に首都星系であるだけに大変宙域の治安はよろしく、実戦の機会が少ないのもまた事実だ。

 

それを是正するために定期的に各方面に戦隊ないし分艦隊単位で出向させて対帝国の小競り合いだけでなく海賊退治や星間テロリスト、密輸船の取り締まりなどの実戦経験を積ませているのだが、まあ中々にシトレも苦労していることだろう。

 

「それに」

 

「それに?」

 

「まだ船が水上限定だった頃の言い回しをするなら、『娑婆っ気を抜いて、潮気を入れる』という奴です。なので、第1艦隊より抽出した護衛隊旗艦になるそこそこの練度の巡航艦1隻に、他は練度の甘い駆逐艦を下から順にっていう感じが良いでしょう」

 

この時、ヤンは自分がどれほど……情報参謀として同席していたバグダッシュの背中に嫌な汗が滲むほど『静かに昏く獰猛な笑み』を浮かべていたのか自覚していなかった。

 

 

 

「ヤン大尉、輸送船の手配は?」

 

「動かせるのであれば、廃艦置き場(スクラップヤード)にあるようなボロ船でも構いませんよ。もっとも、見栄えはある程度整えた方がいいでしょうが」

 

そして少し思案してから、

 

「それでもすぐに使える船がないのなら、軍保有のそれでなくとも”急に決まった作戦”という名目で最悪、民間商船の徴用でも構いません。要するに獲物を釣り場に引っ張り出すための”疑似餌(ルアー)”ですから」

 

その冷酷とも言える物言いに、流石のグリーンヒルも窘めようとするが、

 

「ただしその場合は優秀な自動操船装置(オートクルーズ)が搭載された民間船を選んでください。民間人の乗組員はエル・ファシル宙域で下ろしてビュコック提督の艦隊に預け、情報漏洩を避けるために作戦終了後に帰投してもらうことになるでしょう。その場合、船が沈んだ場合を含め十分な補償は必要でしょう」

 

ヤンは無駄な人死にを嫌う傾向がある。それが人道的感情に起因するそれなのかはわからぬが……いや、むしろ呆れるほど理詰めな理由のような気もするが、ともかくそういう傾向はあった。

 

それは『死に直面することが俸給の内』である軍人にとって、特に率いる側にとって非常に重要な気質であった。

感傷的になられて職務に齟齬が出ても困るが、少なくとも『部下や国民の死を統計上の数字にしか感じられない指揮官』というのは、同盟軍が市民軍の側面を持つ以上は好ましいものではない。

 

「君は若さのわりに中々に同盟軍というものを理解してるな」

 

「恐れ入ります」

 

だからこそ、珍しく人を褒めたグリーンヒルから口からこの言葉が出るのは必然であった。

 

「ではヤン大尉、君がその”護衛船団(コンボイ)”を率いてみたまえ」

 

「はぁっ!?!」

 

驚愕するヤンを後目(しりめ)に、グリーンヒルは明日の天気を語るような淡々とした口調で、

 

「提案者であり、作戦を熟知した君こそが一番の適任だと思うが?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




読んでくださりありがとうございました。

前書きにも書きましたが、久しぶりの更新というのは難しいものですね~。

設定もさることながら以前の熱量とかノリが全く思い出せない罠。

しばらく小説自体を書いてなかったので以前のクオリティで書けてるか不安ですが、少しでもこの世界のヤンらしさ、ラインハルトらしさを出していければと。



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第053話:”臨時任官”

今回はある意味、ヤン受難な回です。
元々、やや女難な気はしますが、今回はちょっと毛色の違う困難が来るようですよ?




 

 

 

「ちょ、ちょっと待ってくださいグリーンヒル閣下! 私、いえ小官は大尉です! それもまだ階級章を磨く必要もないほどのなりたてのホヤホヤです!」

 

「それが何か問題かね?」

 

と軽く切り返すのは、海千山千の情報部の雄”ドワイト・グリーンヒル”准将。

伏魔殿じみた情報畑にいるのだけあり、そうそうこの男の感情は揺るがない。

 

「いや大問題でしょう!」

 

それを見ていたまだ若手に類されるバグダッシュは、改めて上官の評価を上方(?)修正する。やっぱりグリーンヒルも妖怪の一種だと。

付き合いができてまだ間もないというのに、人間扱いするのに迷いが出てきたヤン相手にこうも優位に渡り合えるのだからその評価もうなずける……のか?

 

「大尉が巡航艦の艦長というだけでも問題なのに、小規模とはいえ護衛船団を率いるのはさすがに階級が見合わなすぎです!」

 

少し補足すべきだろう。

本来、軍の階級と役職は一致している。階級というのは単純に言えば軍隊における地位と考えてよく、地位の高低はそのまま給料と預かる部下の命の数を表す。

 

例えば、最近ラインハルトが就任した駆逐艦の艦長は大尉が普通で、それより乗組員の多い巡航艦の艦長は最低、それより1階級上の少佐が務める。

 

ラインハルトの場合は、負傷で空席になった駆逐艦艦長になった途端に10隻の駆逐艦を率いる小戦隊長になってしまったが、これは本来なら特例的な事例だ。

無論、カメ娘のアオバ大尉がそうであるように大尉ならば駆逐艦の艦長になれるというものではないので、そういう目安だと思ってくれれば良い。

 

ヤンが言ってるのもそういう類のもので、少なくとも現状の大尉という階級では巡航艦の艦長というのはかなりNGだ。

ましてや輸送船と護衛艦合わせて30隻に満たないような小規模とはいえ、護衛船団(コンボイ)を率いるなんてのは、論外もいいところだろう。

 

だが、グリーンヒルにとってそれは些細なことのようで、

 

 

「問題ない。ヤン大尉、君はこの作戦限定で()()になればいいのだから」

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

さて、自由惑星同盟軍の既定の中には、”臨時任官”というものがある。

我々の世界に置き換えれば、”野戦任官”という言葉と一番ニュアンスが近い。

野戦任官とは何かと言えば、普通は階級に応じた役職が与えられるのが軍隊であるが、戦地においては将官や士官が負傷あるいは戦死などで、必要な役職が空席になる場合がままある。

 

兼任などで補えればいいが、戦地でそうできない場合は『その役職に見合った階級への任官』を行う場合があるのだ。

昇進ではなくあくまで”任官”というところがミソで、今回の場合を例にとれば『ヤンに船団長を任せるために、”()()()()()()()()()()”につかせる』と考えていい。

つまり、本来なら役職に見合った階級の軍人を就任させるところを、逆に適格者に役職を務めるのに必要な階級を名目上、それも一時的な処置として与えるという事。

 

実は史実でもこのような事例は散見されていて、特にアメリカでは柔軟な人材運用を得意とするかの国らしく戦史に名を遺す著名人が多くいる。

例を挙げるならカスター将軍、ジョージ・パットン、ジョージ・マーシャル、ウィリアム・ハルゼーなどが野戦任官経験者だ。

 

もっとも自由惑星同盟軍は”野戦任官”ではなく”臨時任官”という呼び方を採用している。

その理由もあんまりと言えばあんまりなもので、同盟は現在150年にわたり銀河帝国と絶賛戦争中、つまり常在戦場どころか常時戦時下、つまり野戦じゃなくとも割とこのような『人材の弾力的運用』は行われている。

 

これもやりすぎれば人事面などに組織工学的な混乱をもたらすが、適度に運用すれば軍という組織の活性化につながると上層部は考えていた。

例えば、この世界の臨時任官経験者の大御所と言えば、『現場からの叩き上げ二等兵から提督に駆け上がった名将』であるアレクサンドル・ビュコックがそうである。

一兵卒の希望の星であるかの御仁の有名な立身出世エピソードの一つである。

 

というのも、自由惑星同盟はかつては士官学校の卒業席次(ハンモック・ナンバー)を偏重していた組織で、国内の治安程度であればそれでも乗り切れただろうが、強力な銀河帝国との接触/交戦により組織の硬直化が露呈し、その表面化により苦戦を強いられるケースが続出したのだ。

 

無論、ハンモック・ナンバーは未だに重視はされてはいるが、それだけで全てが決まるわけじゃない。

もうちょっと細かく同盟軍の人事(昇進)事情を語ると、一般に士官学校卒業と同時に少尉として任官して軍のあちこちに配されるが、戦死や不名誉を含む除隊などにならず、大過なく1年を軍人として過ごせればその時点で配属場所に関わらず、一律に”中尉”へと昇進する。

いわゆる”万歳昇進”だ。

その先の出世は確かにハンモック・ナンバー上位者の方が優位で、確かに首席卒業は普通は同期の出世頭になるが……同期である首席のマルコム・ワイドボーンが未だに中尉なのに、ヤンが大尉である現状が現状の自由惑星同盟の柔軟性を表しているといえよう。

 

もっともそれは間違ってもヤンが望んだ形での発露ではないだろうが。

 

蛇足ながら似たような軍事用語で、”戦地昇進”というものがあるが、これは本来なら同盟軍本部で行わなければならない昇進やその手続きを前線から対象者を下げられない場合に行うもので、戦地で昇進させるため色々と略式になってるだけで、内容その物は普通の昇進だ。

 

 

 

「そんな無茶苦茶な……」

 

ヤンも軍人である以上、臨時任官制度自体は知っていたが、まさか自分がその被験者……もとい。適応者になるとは思ってなかったに違いない。

 

「だが、できないとは言うまい?」

 

「命令とあらば」

 

内心、ヤケクソじみた気持ちがないとは言わないが、それでも原則より心持整った敬礼で応えた。

 

「では命じる。ヤン”()()”、ただちに作戦を原案レベルから”貴官が率いることを前提とした”修正を加え、可能な限り早急に実用段階に引き上げたまえ。その際、各種情報閲覧権を含め()()()()()相当の権限を認め、作戦に必要と判断された場合に限り、階級制限以上の権限も配慮しよう」

 

グリーンヒルの言葉にヤンは少し考え、

 

「例えば、護衛艦群に関する暫定的人事権とかもいただけるんですか? この作戦限定の臨時艦隊司令部の設立とか。あるいは、時限的な引き抜きなんかも」

 

 

「君が必要とするならば、好きにやりたまえ」

 

(それならば何とかやれるかな……?)

 

暖機運転を終えたヤンの頭脳が、少しずつ回転速度を上げ始める。

それは、『この戦いをいかに自由惑星同盟にとり有益に終わらせるか?』の最適解の算出を弾き出すことと同義だ。

 

(私が直接率いるとなれば、計画全体に修正が必要だ)

 

原案段階では、『平均的な同盟宇宙軍佐官なら実行できる』レベルでデザインした。言うならば、かなり妥協した安全策だ。

だが、自分が指揮できるならもう少しアレンジを加える余地がある……

 

(ならいっそ、より積極策に出てみるのが吉かな?)

 

そうなれば戦力の再策定も必要だが、それは何もハイネセンやバーラト星系で全て補う必要はない。

臨時艦隊司令部のメンツだけは、今のところハイネセン近郊に集中してるのでそれなりに手を回せねばならないが、戦力はありがたいことに『()()調()()』が期待できる。

何しろ、今あの最前線にいるのは……

 

(幸いコネもあるし、使えるものなら使っておこう)

 

 

 

 

 

後に多くの歴史家は語ることになる。

この大して旨味のない星系で行われた一連の戦いこそが、後に”大戦略家”ヤン・ウェンリーの開眼の戦だったのだと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




お読みいただきありがとうございました。

ヤン、図らずとも出世(仮)もしくは(偽)です。
二階級特進ではなく、あくまで「中佐に任官」ってことで(^^
まあ、護衛と輸送船合わせて30隻前後の護衛船団を率いるので、このぐらいの便宜は必要かなーと。

それにしても……このシリーズのグリーンヒルさんは、中々にイイ性格していらっしゃるようで(笑



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第054話:”元傾国の美女と謀将の卵、そして時々流れ弾”

形的には超久しぶりの1日2話投稿です。

久しぶりに某女性キャラを書いてみたら、中々感覚が思い出せなくて苦労しました(^^

そして緑ヶ丘さん(パパの方)の性格ガガガ(汗




 

 

 

「アンネ、どうやら私は二階級特進してしまったようだよ」

 

「あらあら。それは大変ですわね?」

 

「という訳で私としては生きてる実感というのを味わいたくてだね……」

 

参考までに言っておけば、同盟軍において二階級特進は通常、軍人から英霊にクラスチェンジした者の特権とされている。

ぽわぽわした表情と声ながら、ヤンのことなら心も体も委細承知なアンネローゼの取るべき行動は一つで、

 

「はい。ウェンリー様♪ どうかご堪能くださいね?」

 

アンネローゼが(はだ)け出した乳房にむしゃぶりつき、バブみを満足させると同時にグリーンヒルとの交渉で消耗した精神力を回復させたヤンは、翌朝のアンネローゼお手製の朝食で不思議と夜に消耗してしまった体力もついでに回復させた後に頭脳を高速回転させ作戦を練り直し始めた。

 

どうでも良いが、一連のアンネローゼを(今のところは消極的ではないが遠慮がちに)求めるヤンの行動を、肉食系と呼ぶには少々……いや、かなり違和感がある。

むしろなんというか……逆調教済み?

 

下に恐ろしきは、本来なら難攻不落を誇ったはずのヤンの精神防壁を完全侵食し、内側から瓦解させたアンネローゼのトールハンマーじみた圧倒的母性だろう。

ヤンを溺愛し、ヤンが溺れ、同時に依存させたその中毒性のある甘い毒のようなそれは、もはや魔性の一種と考えていいかもしれない。

流石は別の世界線では比喩でなく”傾国の美女”となった女の面目躍如と言ったところか?

 

もっともヤンを突き動かすほどの力を秘めた魔性の女が、アンネローゼだけとは誰も言ってない。

少なくともヨブ・トリューニヒト・セカンド(アシュリー・トリューニヒト)は、既にエントリー済みだし、この先他にもいないとも限らない。

どうやらこの世界のヤンは、ラインハルトと同じく一癖も二癖もあるような女性に好かれやすいタレントを持ってるようだ。

それが彼にとって幸いなことかは誰にもわからないが……

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

(結局、ヴァンフリートに基地を設営させると見せかけて、イゼルローンの艦隊を誘引できればいいんだよね。一応、目安は配備艦隊の1割、1500隻程度の殲滅とは言うけど……)

 

徐に自室の軍からの官給品であるセキュリティ対策バッチリのパソコンを立ち上げ、いくつものホログラム・ディスプレイを展張させた。

 

実はここで微妙な世界線の違いによる細やかな差異が発生していることがわかる。

そう、この世界のヤン・ウェンリーは機械音痴ではない。

むしろ原作とは真逆で機械工学は好きだし得意分野だ。それこそ、士官学校に合格しなければ理工系の専門学校に通って技師を目指してたレベルのようである。

 

(だが、情報操作でもう少し誘引できそうだね。まあ、対応力を引き上げないと殲滅させられるのはこちらになるけど。それに関しては対策はさほど難しくないけど)

 

現在、イゼルローン方面の同盟領最外縁に展開してるリンチ中将率いる”エル・ファシル特別防衛任務群”の実働艦は6000隻前後。寄せ集め故の練度の問題はあるが、やろうと思えば3000隻程度までは対応できる。

 

(それにイゼルローン駐留艦隊は、正規軍人が率いてる艦隊ならともかく貴族が率いてるものなら玉石混淆。それも現在、要塞に駐留してる面子を見る限り石の方が多い……)

 

フリードリヒ四世が煽りに煽ってるせいで帝国では戦争貴族という世代が台頭してきているが、全てが優秀という訳ではない。

 

「要注意なのは明らかに若手の中で権力も軍事的才能も頭一つ以上抜けてるマールバッハ伯爵、それに曲者と評判のランズベルク伯爵大佐。他にも色々といそうだが、多くの有望株はまだ若く、今はまださほど階級が高くないのが救いか」

 

だが、才能あふれる稀少な戦争貴族が生き残り出世し、将官となり提督として艦隊を率いるようになれば厄介この上ないとヤンは考える。

 

「最近の戦争貴族のトレンドは、手垢のついてない戦闘的才覚に満ちた若手軍人を青田買いで抱え込むことらしいしね」

 

情報部からの伝手で入手した最新の銀河帝国の人事表を見るとヤンはため息をつきたくなった。

権力を持つ貴族が、力のある若者を腹心に加えて一緒に出世するなんて悪夢もいいところだ。

 

 

 

「出来る事なら、将来的な脅威というものを可能な限り摘み取りたいところだけど、そう上手くはいかないだろうね……残念なことに」

 

戦場で生き残るものは、運という要素を抜きにすれば得てして何かしら秀でたものがある。

指揮官クラスなら特にそうだ。

勇気と無謀を履き違えたりしないし、時には驚くほどに慎重で罠をたやすく見破る。

理論だけでなく、大して論拠のない直感でそれを成し遂げる者すら歴史上にはいるのだからやってられない。

 

(ラインハルトの案としては、ヴァンフリートを餌に星系に分散出撃させた小艦隊を潜ませて、最終的におびき出された敵を合撃するってアイデアだろうけど……そこに一手間加えるのはアリと言えばアリか)

 

ヤンは思考を加速させる。

イメージするのは目には見えない遥か彼方にある星々。

近い未来にビーム状になった中性子や荷電粒子が飛び交うだろう世界……

 

「だが戦いは、戦場前の準備段階で八割方勝敗が決まる」

 

ならば準備はより余念なく行うべきと、ヤンは更に思考を深い闇へと沈降させた。

 

語弊を恐れずに言うのなら、今のヤンは”強い”

曖昧模糊な主義主張(イデオロギー)のためでなく、より具体的で鮮明な……守りいたいものができたヤンは間違いなくより強かな生き物になっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

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数日後、多数の修正を行った草案をまとめたヤンは再びバグダッシュに声をかけ、グリーンヒルのもとに出向いた。

 

「今回の作戦の肝は、事前準備。情報操作が決め手になります」

 

そう切り出したヤンは作戦の概要を話し終えた後、

 

「最後に軍上層部に掛け合って欲しいのですが……どんな戦果に終わろうと、作戦終了後の軍としての公式見解は『ヴァンフリートの基地設営は失敗した』という結論にしていただきたいのです」

 

「それは構わないが……意図は?」

 

「帝国に今回の作戦の主目的が、『イゼルローン駐留艦隊の誘引と殲滅』にあること気付かせないため……いえ、本職の軍人は気付くかもしれませんが、」

 

ヤンは一度言葉を切り、

 

「帝国のパワーエリートである貴族に『自分たちが勝利した』と思い込ませる、最低でもそう主張できる状況を作り出すためです」

 

「なぜ、貴族たちに対する配慮を?」

 

わからないのではなく確認するために質問するグリーンヒルに、

 

「将来に対する布石……あるいは予防線のようなものです。誘引作戦は何も今回が最後という訳ではないので」

 

古来より多用されてきた戦術だが、この人々が宇宙を生活の場とする時代になってもその有効性は失われていない。

いつか誰かが言っていたが、進歩したのは科学であり人は本質的には変わらない生き物なのかもしれない。

 

「できるかね?」

 

「人は冷厳な現実より、”自分にとって都合のいい真実”を信じたがる生き物です。特に自己顕示欲と名誉欲を肥大化させた貴族なら猶更でしょう」

 

「なるほどな……」

 

グリーンヒルは、何度かうなずきもう一度計画書に目を通す。

そして、

 

「ヤン()()、君は良い”謀将”になりそうだな?」

 

「……誉め言葉として受け取っておきます」

 

「最大限の賛辞さ。宜しい」

 

するとグリーンヒルは彼にしては珍しく苦みのない笑みを浮かべ、

 

「存分にやりたまえ。徹底的に、容赦なくな」

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

「ところでグリーンヒル閣下。閣下の配下で一人、情報参謀として貸していただきたい人材がいるのですが……」

 

ついっとヤンが同席していたバグダッシュに視線を向けた。

グリーンヒルは鷹揚にうなずき、

 

「いいだろう」

 

図式的には、ヤンに飛んで行った流れ弾が人体を貫通した後に跳弾し、バグダッシュに命中した形だ。

ヤンの場合、自業自得な気もするがバグダッシュにしてみれば完全な貰い事故だろう。

 

「ふわっ!? ちょっと閣下!」

 

だが、グリーンヒルは冷厳な瞳のまま、

 

「バグダッシュ大尉。少し現場に出て潮気を入れてきたまえ。尻で椅子を磨くだけの立場になるには、君はまだ若すぎる」

 

 

 

ヤン・ウェンリー……この男、どうやら自重という言葉を封印することしたようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




お読みいただきありがとうございました。

ヤン、対帝国戦においての危険度が増大しました(^^

しかもその根本的な、あるいは根源的な原因はアンネローゼ?
もしかしたらこの世界のヤンに一番影響与えてるのが彼女かもしれないです。

原作でもこの世界でも、意味もベクトルも違えどアンネローゼは帝国にとり鬼門なのかもしれないっす。

そして流れ弾が命中したバグダッシュェ……
恨むなら、使い勝手の良さをヤンに示してしまった自身を恨むがよい|(意訳:やったね! ヤン一味への早期参加が仮定したよ!



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第055話:”Weekly Sentence Summer それを和訳すると……”

第55話、ゾロ目記念という訳ではないですが、久しぶりに”もう一人の主人公”の再登場です(^^




 

 

 

何やらひどく久しぶりの気もするが……ラインハルト・フォン・ローエングラムだ。

すまん。素で間違えた。

同盟宇宙軍大尉、現在駆逐艦”イナズマ”の艦長を務めるラインハルト・ミューゼルだ。

 

現在、俺はヴァンフリート星系近海にいる。言うならば、同盟のイゼルローン・サイド最外縁だな。

何しろこの先、イゼルローンとの間にあるのは、同盟と帝国双方が領有権を主張する係争地、会戦のメッカであるティアマト星系しかない。

 

こんな事情で、例え栄光曇ることなき同盟市民(リベリオン)とはいえ、胸を張って同盟領と言えるのはこのヴァンフリートまでだろう。

 

こんな僻地としか呼びようのない場所にはいるが、俺としては気分の悪いものではない。

駆逐艦とはいえ、艦長室にいるのだから当然と言えば当然か。

 

だが、俺の待遇や立ち位置、階級を抜きにしても今日は俺が上機嫌になる理由があった。

 

「クククッ! 流石は先輩(ヤン)、投げたブーメランの刺さり方まで実に見事だ」

 

「ラインハルト君……?」

 

と怪訝な顔で覗き込んでくるのは、アヤ……ああっ、俺の副官を押し付けられたアオバ・アヤ大尉だ。

なんで此奴が俺の部屋に居るのかと言えば……まあ、毎朝(正確には朝と設定された時間だな)に俺の部屋でコーヒー飲みながら小ミーティングを行うのが日課になってしまったからだ。

手間が省けるので、コーヒーだけでなく一緒に朝食を運ばせてるが。

 

一応、言っておくがガチな戦闘時でもなければ、豪華とは言わないが普通の食事くらいするぞ?

普段からカロリー補充が最優先で味など二の次三の次な戦闘糧食(Cレーション)など齧っていたら、それこそ目も当てられないほど士気は低下するだろうな。

 

前世(?)の俺がどうだったかは知らんが、今の俺は決して食事を軽んじない。

基本、色気も味気もない灰色の前線勤務において、食事は立派な娯楽だ。軍艦の中じゃ給料の使い道なんてないから、唯一の楽しみが食事なんて兵士は珍しくもない。

軍隊に限った話じゃないが、労働者の福利厚生を軽んじる組織は長持ちはせん。

 

それに前線に生きる軍人の心得は、食える時に食い、休める時に休む。鋭気を養い、いざ戦いのときに最高のパフォーマンスが発揮できるようにすることだ。

我が義兄曰く古今東西、軍人を一番殺してるのは敵の弾丸ではなく疲労なのだからな。

 

まあ、大分話が逸れてしまったが……

 

「どうしたの? 突然笑いだして?」

 

()()、この記事を見てみろ」

 

俺は軍の福利厚生の一環、個人端末に配信されるマルチメディア・ホログラムを見せる。

ああ、言っておくが他人の目があるところでは呼び方は、未だに”アオバ大尉”のままだぞ?

公私混同は宜しくないだろうからな。

 

「えーと、何々……”Scooop!! ヤン・ウェンリー、臨時昇進! 軍の極秘作戦の前触れかっ!?”って……ナニコレ?」

 

「ニュース・ソースを見てみろ」

 

中々に興味深いぞ?

 

「えっと、えっ? ”Weekly Sentence Summer”?」

 

「ああ。アヤなら当然知ってると思うが……同盟政府に属する諜報組織の出先機関とも、同盟の暗部につながるとも(まこと)しやかに囁かれているメディア・カンパニーだな」

 

自己申告ではあるがアヤの専門はメディア戦略だ。この辺りの事情は俺より詳しいと思いたいが……

 

「それはもちろん知ってるけど……えっと、これって前にラインハルト君がリンチ中将に提案した作戦の、その……補強? 支援? それとも攪乱?」

 

どうやら、思ったよりも話が通じるようで何よりだ。

 

「補強、だろうな。情報操作だけで”ヴァンフリート4=2に基地設営”を信じさせ、イゼルローン駐留艦隊を誘引するというのが、おそらくだが後方の何者かが、それでは不十分だと考えたんだろうな」

 

「何者? グリーンヒル准将とか? 確かに国内の情報操作戦は得意だけど……」

 

なるほど。

俺の”()()()()()()()”にある、『同盟に(とど)めを刺したクーデターの首魁』は、今は情報部にいるのか。

まあ、そのクーデターもリンチ中将(ロック親父)を俺がそそのかして起こしたようなものだから、悪し様には言えんが。

 

 

 

それはともかくアヤの口ぶりだと、”世論操作による大衆の思考誘導”が得意のようだな。

 

(ってことは、防諜部門。帝国の情報収集や分析よりカウンターインテリジェンス寄りということか……)

 

どちらにせよ阿呆ではなさそうなのは、喜ぶべきことだろう。

 

(ん? グリーンヒルと言えば、どこかで接点があったような……?)

 

ああっ、そうか。

エル・ファシルの、

 

「コーヒーとサンドイッチの娘か」

 

「ラインハルト君、コーヒーならおかわりあるけど……サンドイッチ食べたいの? 朝ごはん足りなかった?」

 

「いや、十分だ。コーヒーはお代わりをもらおう」

 

ヤン先輩は「コーヒーなど泥水」と(のたま)う罰当たりな圧倒的紅茶党だが、俺はダントツにコーヒー推しだ。

そもそもシロン産の茶葉を尊ぶのに、同じシロンの特産で赤道付近で採れるエメラルドマウンテン(コーヒー豆の銘柄だぞ?)の旨さがわからんとは全く嘆かわしい舌だ。

ロースト具合は中煎りが特に好みだ。

 

「それとさっきの話だが、今回の補強作戦の立案者……その絵を描いたのは、おそらくグリーンヒル准将じゃないぞ?」

 

「えっ?」

 

「准将は関わっていそうだが、多分デザインしたのは我が麗しき義兄(あに)上(予定)……ヤン・ウェンリー大尉改めヤン・ウェンリー()()殿だろうな」

 

 

 

上手くは言えないが……今生と前世という言い方もおかしいが、その二つの時間を合わせてそれなりにヤン・ウェンリーという男を知った俺は、ある程度は先輩の考えや思考/行動パターンがわかる。

 

なんというか、『ヴァンフリート4=2の基地設営に説得力を持たせるため、実際に艦隊を用意し動かす』ことや、それを『意図的に情報リークさせる』というあたり、実に先輩らしい思考と趣向、言い換えれば”思考的()()()()を感じるのだ。

 

(そう、たとえ相手が欺瞞と見抜いたとしても、実際に護衛船団がヴァンフリートに来る以上、帝国はどうあれ動かざる得なくなるあたりが特に)

 

無論、俺がライバル視していたヤン・ウェンリーと、士官学校からの付き合いがあるヤン先輩は、()()()()()全くの別人だ。

だが、矛盾してるように聞こえるかもしれないが根幹の部分は、そう大きな違いはないと思う。それこそ同一人物であると言い切れる程度には、だ。

 

歴史の異なる二つの世界が存在すると仮定すれば、二人のヤン・ウェンリーの相違点で最大の差異は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

究極的に言えばそれだけだ。

 

(先輩のことだから、上手く丸め込まれて立案した計画に組み込まれたのだろうな……そして、自ら先陣切る位置に座らされたってとこだろう)

 

先輩は優男の見た目を裏切らず、巻き込まれ体質な上に押しや力業に弱いからなあ。

立案求められて作戦案出したら、指揮官の地位とそれに相応しい臨時階級がブーメランのごとく返ってきて、脳天に突き刺さったと例えると、妙にしっくり来るから不思議だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




お読みいただきありがとうございました。

”Weekly Sentence Summer”、それを日本語に訳すと”週刊文夏”(笑)
どうやら、紙媒体から別媒体に主戦場が移っても、何やら大活躍なようです。

そしてラインハルト君、アヤちゃんとベッドを共にするまでには至ってないようですが、何やら距離感が……



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第056話:”金髪君、少し同盟の現状を語ってみる”

実は、ラインハルト君もわりとヤンの影響を受けてるのでは?と思わせる回になっていればと(^^





 

 

 

「俺の予想通り、この作戦の立案が先輩(ヤン)なら……本格的な作戦の発動前に、あと何回か”Weekly Sentence Summer”に記事が載ることになるだろうな。それも真実と虚偽を混ぜて、な」

 

先輩の手口ならそんなところだろう。

 

『効率的に人を騙すときのコツは、信じる相手になら”99の真実の中にたった1つの嘘”を混ぜ、信じない相手になら”99の嘘の中にたった1つの真実”を混ぜるのさ。まあ、状況と条件によっては組み合わせを逆にした方がいい場合も無論あるけど』

 

とか愉快な事を紅茶片手に言い出すお茶目な先輩だぞ?

信憑性はともかく妙な現実感と説得力を持った”もう一つの俺の記憶”によれば、ヤン・ウェンリーなる人物は、王道の戦術家というより邪道を煮詰めて戦術風に仕上げることに長けたような……言い方は悪いが、多分に”戦場のペテン師”的な才覚にあふれた人物だったようだ。

 

正直、”魔術師”というより”ペテン師”と書いた方が、俺としてはしっくりくる。

ニュアンス的な物だが、詐欺師と書くと何か違う気がする。

意味は同じはずなのだが、字面とは不思議なものだ。

 

「またどうして”Weekly Sentence Summer”? そりゃ確かに広義な意味では政府、もしくは軍の準機関紙扱いかもしれないけどさ」

 

「だからこそだ。もっともヤン先輩の性格を考えると、一つのメディアで全て賄うとは思えん。推測だが、判明してるが意図的に泳がされたる軍内のスパイやら、フェザーンの商人ネットワークやらに手変え品替え、少しづつ異なる情報をリークしてるはずだ。ところで、」

 

俺は頭を悩ませるアヤに、

 

「グリーンヒル准将は有能なのか?」

 

とりあえずストレートに聞いてみる。

 

「有能だよ? 間違いなく。閣下は善人という評価と無能という評価だけは受けたことのない人だって聞いたことがあるし」

 

(人格的には問題ありそうな気もするが……)

 

「こいつも仮定だが、もし先輩と准将が裏でつるんでるとしたら、リークした情報の流れを伝って国内の敵対的諜報ネットワークを追跡するぐらいはやるだろうな。あと、帝国軍の動きによってどのルートの情報を重視してるかも、ある程度判断できる」

 

「……もしかして、ラインハルト君って諜報戦にも詳しかったりする?」

 

「自慢するほど詳しくはないな。多少齧ったくらいだ」

 

どちらかと言えば、艦隊戦の方が得意だ。

何より諜報戦に俺は性格的に向いていない。もし適性があるのなら、”もう一人の俺”はフェザーンの黒狐やらヤク中カルト教団にああまで手を焼かなかったろうな。

特に地球教(カルト)共には、後手に回りがちだった。

 

「それに俺の生まれは知ってるだろ? 同盟生まれではあるが、亡命者(フォリナー)の二世だ。”フォリナー”にはフォリナーなりの情報網があるからな。そういうものとは全くの無縁という訳ではいられんさ。特に軍人ともなればな」

 

誇張はあるが、嘘は言ってないぞ?

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

ヤン先輩の影響って訳ではないが、少し歴史の話をする。

既に知っているなら聞かなくてもかまわん。

 

銀河帝国と四半世紀と離れず成立した自由惑星同盟(The Liberty Planets Alliance)

建国450年を超え、500年に近づこうとするこの国の内部は、単純な勢力図ではない。

銀河帝国成立前、国父アレイスター・ハイネセンと共に星々の海へと旅立ち、”長征1万光年(ロンゲスト・マーチ)”を成功させた”始祖たる家々(エスタブリッシーズ)”を頂点とする者達の末裔、未だに国家の根幹である主流派(マジョリティ)

 

俺の家もそうだが、帝国成立後に同盟へと()()してきた移民、通称異邦者(フォリナー)

まあ、生粋のフォリナーというのは帝国生まれの亡命者のことで、同盟で生まれた姉上や俺は厳密にはフォリナーではなくただの同盟人だが。

 

そして、100年ほど前のフェザーン回廊発見から膨大な賄賂やら裏金を元に同盟/帝国を問わずに勢力を伸ばしたフェザーンからの商業や金融目的の経済移民、商人組合(シャイロック)

俺もそこまで詳しくはないが、イメージ的には「同盟国籍をとらず(とれず?)、同盟で経済活動を行う者」がシャイロックになるようだ。

なので、ヤン先輩はフェザーンの自由商人の家系でフェザーン生まれだが、子供の頃の自分以外の全員が死んだ宇宙船事故で、同盟の軍艦に救助されたことがきっかけで同盟に移民。後見人の勧めで同盟国籍を収得して軍人となったのでシャイロックにはあたらないらしい。

 

 

 

まあ、大きく分けてこの三つの勢力があるわけだが……色々と根深いのだ。

同盟主流派は、()()()()()()大雑把な部分がある。

銀河帝国に対する危機感が欠落してるわけではないが、かと言って憎悪に凝り固まってるわけでもない。

無論、帝国を『不退転の敵対国家』というスタンスは崩していないし、同盟市民の共通認識として存在してるが……本音を言えば、大半の民衆にとり帝国とは『攻めてこないなら、あえてこちらから手を出したくない()()()ってところではないのだろうか?

 

これは同盟の成立理由や理念、歴史的背景やその時期から考えて仕方のない部分がある。

 

帝国臣民(特に貴族)にとり同盟市民は『偉大なるルドルフ大帝に逆らい続ける愚かな”叛徒”』であり、同盟領は『叛徒共が”不法占拠した土地”』であり、滅ぼさなければならない勢力であり、同時に奪還せねばならない土地なのだが……

だが、そんな大義名分は”自由惑星同盟市民(リベレーターズ)”を名乗る彼らにとり知ったことではない。

今の同盟領はアレイスター・ハイネセンに率いられた自分たちの先祖から開拓がはじまり、現在進行形で開発を進めている我らが土地(フロンティア)なのだ。

それに自分たちの先祖は、宇宙歴310年に『()()()()()()()()ルドルフとその支持者を見限って宇宙へ飛び出した者』なのだ。

ただの一度も帝国臣民とやらになったこともないのに、叛徒もクソもあったもんじゃない。

つまり、

 

 

じゃあ、なぜ戦うのかと言えば……

 

(帝国が攻めてくるからだろうな……)

 

本質的にはそこだろう。

同盟市民は帝国人に叛徒呼ばわりされようが大して腹も立たない。一般的な反応を言うなら、精々『帝国のポテトヘッドがまた歴史的事実を無視した妄想言ってるな』程度だろう。

土地に対しても同じような物だろう。

 

だが、同時に『帝国人に土地と民を支配される』事をひどく恐れている。

何故なら、ルドルフ・フォン・ゴールデンバウムに端を発した凶悪なまでの『負の実績』があるからだ。

 

ルドルフが皇帝に即位した直後の銀河帝国の人口は約3000億人。

議会を永久解散させた後、まず40億人を殺してみせた。

ちなみにアレイスター・ハイネセンと共に独裁者の手が及ばぬ新天地を目指して宇宙へ旅立った、最初期の脱出者は約10億人……実にその4倍の犠牲者が、手始めに葬られたのだ。

 

ルドルフ一代の暴虐なら、まだ立て直しが効いたかもしれんが……圧政と弾圧はその後も続き、今となっては帝国の登録人口は250億人だ。

帝国だけで見れば、500年足らずの間に人口は実に1/10以下になってしまったのだ。

 

同じ時間軸にあり、帝国からの累計億単位の亡命者を加味しなければならないが……総人口を最初期から24倍に増やし、更に高みを目指そうとしてる同盟市民にとり、無視できる数字でも受け入れられる数字でもない。

 

建前はどうあれ、今の同盟市民主流派(マジョリティ)は、政治的あるいは思想的(イデオロギー)的対立で、銀河帝国と対峙しているわけではないだろう。

 

もっと根源的な恐怖……『240億の同盟市民が20億まで減らされる』ことを何よりも恐れているのではないのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




お読みいただきありがとうございました。

今回と次回は、ちょっと「同盟が帝国と戦う理由」を掘り下げてみようかな~と。
銀英伝二次なのに、まったく戦闘のない話が続きますが、「戦争は政治の一形態」的なノリで楽しんでいただければ(^^

前世(?)はライバル、今生では仲のいい先輩で義兄(予定)という合計すればかなり長い年月の付き合いとなってしまったヤンの影響が確実に出てるラインハルト君、単純に人間丸くなっただけではなさそうです。



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第057話:”二つの自由惑星同盟史 ラインハルト・ミューゼル氏はかく語りき”

今回は、全登場キャラの中で唯一、別の世界線の歴史(=原作)を不完全ながらも知っている、ラインハルト君だからこその視点で書けていたらと思っています。

今回は、独白(モノローグ)っぽいです(^^




 

 

 

自由惑星同盟市民の多数派、アレイスター・ハイネセンと共に銀河を渡った人々の末裔を標榜する、いわゆる”主流派(マジョリティ)”と銀河帝国は、政治的/思想的要因で対立構造に陥ってるわけじゃない。

 

もっと根源的で単純な、『500年もかからずに人口を1/10以下にした帝国に屈すれば、240億人を誇る同盟の人口は20億人にされかねない』という恐怖があるからこそ、帝国と徹底抗戦するのだと思う。

 

少なくとも同盟市民主流派は表立って、『圧政に苦しむ帝国民を救え』とか『圧政者から民衆の開放を!』というお題目を立てて行動することはない。

いや、言う者がいても、よほど上手くマスコミ……いや、この場合はマスゴミか?などを使って世論誘導やら扇動でもしない限り、基本的に相手にされず白けるだけだ。

 

理由もこれまたシンプルで、主流派にとり自分達は『独裁者ルドルフ・フォン・ゴールデンバウムを見限って新天地を目指した民』の末裔なのに対し、帝国臣民は『ルドルフの独裁を望んで受け入れた愚者』の末裔というスタンスだ。

その認識は今も大差なく、帝国民は未だに”皇帝”だの”貴族”だの”農奴”だのと旧態依然とした政治を、自ら変革することもなく甘んじて受け入れてる民だと思われている。

今も昔も帝国建国時から現在に至るまで、自浄作用すら働かない、議会を自力で再建することもできない、大した根拠もない古き因習にすがってるだけの怠惰で無知蒙昧な国民というところだろう。

 

当然、亡命者からの情報なりなんなりで、同盟市民はかなり正確に帝国の内情を”知っては”いる。

例えば、貴族に逆らうことは農奴どころか平民でさえ死に直結することであり、皇帝家や貴族、あるいはそれに連なる官僚や役人のみがこの世の春を謳歌し、農奴は人ではなく私有財産として扱われ、平民は貴族や役人に目を付けられぬように細々と生きるしかない。

言論や思想の自由はなく、人権という概念もなく、同盟人にとってそこは先祖たちが『見捨てる』のも当然な息苦しく生き苦しい”この世に再現された地獄”のイメージなのだろう。

 

だが、決して幸福とは言えない平民やそれ以下の帝国臣民のそれら現状を知識としては知ってはいても、それは結局のところ今昔を問わず『帝国民の自業自得』なのであり、表面的には同情したところで自らの血を流してまで救出したいとは誰も思ってはいまい。

所詮、他人事だ。

 

(それも当然だろうな……)

 

”もう一つの俺の記憶”では、国父とされているのはルドルフと同じ時代に生きたアレイスター・ハイネセンではなく、その末裔であるアーレ・ハイネセン(もっとも、彼自身は建国前に道中で事故死しているが)。

今では”同盟中興の祖”として知られる、生まれも育ちも同盟のアーレ・ハイネセンが政治家として初当選したのが宇宙歴473年のことだ。

そして”もう一つの記憶”では、同じ名前の人物が帝国生まれで()()()()()()として奴隷労働に服しており、自分と似た境遇の40万の虐げられた民と共に帝国を脱出したのが、同じく473年。

あちらの”自由惑星同盟(Free Planets Alliance)”が成立したのは更にその約半世紀後、527年のことである。

 

この差は、あまりに大きい。

この世界の同盟主流派は、断じて『帝国逃亡奴隷の末裔』などではなく、帝国成立直前に(たもと)を分かった……『一度も帝国民になったことのない、しいて言うなら”()()()()()()()』だ。

もっとも、今の同盟市民は、決して当時の銀河連邦民、特にかの地に残った『進んでルドルフの独裁を積極的に受け入れた民=銀河帝国民』なので、好意的には見ていない。

ここも『銀河連邦の継承者を自認』していた”もう一つの記憶”の()()()との大きな差異だろう。

今の”同盟市民主流派(マジョリティ)”にとり、祖先は末期の連邦民全員ではなく、アレイスター・ハイネセンと共に旅した者たちだけだ。

 

 

 

では、なぜ銀河連邦で使われていた西暦2801年を元年とする”宇宙歴”を公歴と継続使用しているかと言えば……別に『自分たちが銀河連邦の継承者だから、ルドルフによって抹消された宇宙歴を復活させた』などという”もう一つの記憶”のような熱い理由ではない。

もっとドライな、『たかが連邦が自滅しただけで、人類全体が滅んだわけではあるまいし、わざわざ別の暦を用意する必要はない』という理由だ。

 

ヤン先輩の勧めで読んだいくつかの歴史書から推察するに、始祖であり国父、時には『宇宙時代に蘇ったモーゼ』の如く神格的解釈をされることもあるアレイスター・ハイネセンではあるが、彼自身は『長征一万光年(ロンゲスト・マーチ)』と称される10億の民を引き連れた一連の脱出行に関しても、どうやら『確かに大事業ではあるが、人類が歴史上幾たびにも繰り返してきた移民にすぎん』という解釈だったようだ。

 

先輩は口にこそ出さないが、”淡々と世紀の大事業を遂行した”アレイスター・ハイネセンの端的に言えばファンらしく、そういうニュアンスの話を時たましていたもんだ。

 

『ルドルフと彼を熱狂的あるいは狂信的に支持する当時の連邦市民を横目に見ながら、その危険性を見抜く冷静な思考と先見性を持ち、来るべき日に備え入念な準備を行う先見性……だが、私が何よりもアレイスター・ハイネセンを評価するのは、「自由や民主主義を守護継承する」なんて気負いを持たず、突き詰めれば長征一万光年を「ただ、連邦が住みにくくなったから新天地見つけて移民する」という、スケールは大きくても行動そのものは全く特別視してなかったことなのさ』

 

そして、こう締めくくった。

 

『アレイスター・ハイネセンにとって、その生涯の後半をつぎ込んだ長征一万光年とて「人類史全体からみれば、取るに足らない些事」ととらえていたのかもね。彼にしてみれば、自分の行為は「人類が地球から飛び立ち、他の惑星を開拓し始めた」時となんら変わらず、自分は発起人や移民の代表者であっても”国父”なんて持て囃されることになるなんて考えもしなかったんじゃないかな? もしかしたら、もう高齢だった自分がその道中で死ぬことさえ計算に入れていたのかもしれない』

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

他にも重要な要素は、建国時期だ。

なんというか……色々末期的だった”もう一つの自由惑星同盟”の建国は、銀河帝国から200年以上遅れている。

そして、同盟として帝国と初めて大規模会敵した”ダゴン星域会戦”は、その100年と少し後……逃亡奴隷の末裔として生きてきた人々にとっては、さぞ恐怖と憎悪を刺激されたに違いない。

 

だが、”()()()()自由惑星同盟”は意味が違う。

前出の通り、アレイスター・ハイネセン達が旅立ったのは、宇宙歴310年。帝国建国とほぼ同時であり、可能な限り準備を重ねた脱出行だったため、”もう一つの同盟”の半分以下の年月……四半世紀も置かず同盟の建国に成功している。

少なくとも、ルドルフが死んだ352年には、同盟は複数星系国家として完全に機能していた。

そして、”ダゴン星域会戦”が起きたのは、同じく640年……当時の同盟は市民は、いずれ帝国が攻めてくるだろうことは予見していたが、『300年も待って、ようやく来たか』という心境だったんじゃないだろうか?

 

その後、数多の亡命者により、ルドルフが築き上げ粛清の連鎖のせいで人口を壊滅的に減らした銀河帝国に、同盟市民は改めて恐怖を抱くことになるのだが……

 

だが、国家としての成立も時期も大きく異なる”二つの自由惑星同盟”が、同じ心境で帝国と対峙するわけはないのだ。

俺が、最終的に銀河再統一王朝の初代皇帝(今の俺には、ひどく違和感があるパワーワードだ……)にまで上り詰めた、あの世界の自由惑星同盟は、究極的には『愚かしい感情論を捨てられず、()()』した。

元々、無理がある国家だったことは否めないが、それでも暗愚すぎる終焉だ。

 

だが、成り立ちから違う”今生の自由惑星同盟”は、銀河帝国に対するイデオロギー対立もなく、また450年以上前に決別した、言い方を変えれば見限った集団に今更、怨嗟などの感情を持つはずもない。

 

それは市民軍である自由惑星同盟軍もそれは同じで、その立ち位置はあくまで”国防軍”。同盟市民の生命と財産を守るための軍隊であり、少なくとも現状ではそれ以上の役割は求められていない。

そもそも、同盟は多少(いびつ)であっても民主主義国家であり、多数決の原則が機能している。

そして、同盟軍人は国民から抽出された勢力であり、同時に有権者集団でもあるのだ。無論、その家族も成人してれば有権者……大多数である主流派が、『自業自得な敵性国家民のための出血を望まない』という考えを持っている以上、軍の発想も必然的にそれに準じたものになる。

同盟軍はあくまで有権者と納税者を守るための軍隊……『独裁者やら貴族やらが同盟を征服すれば、銀河帝国の二の舞になる』から戦うであり、国防以上の意味はない。

シビリアン・コントロールを本懐とする軍の、まさに正道と言えよう。

 

 

 

(だが、それだけでは同盟は語れない)

 

主流派(マジョリティ)”の大多数の意見は、上記の通りだ。

だが、”自由惑星同盟(The Liberty Planets Alliance)”には、帝国に対する見解が主流派と異なる、いかなる意味でも決して無視できない勢力が、あと最低二つはある。

 

それが、帝国よりの亡命者集団である異邦者(フォリナー)と、フェザーンの流れを組む商人組合(シャイロック)だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




読んでいただきあいがとうございます。

う~ん……書いておいてなんですが、銀英伝二次なのに、このシリーズって驚くほど戦闘シーンが無い!

いや、原作では同盟を滅ぼした張本人であるラインハルトの口から、同盟をどこか客観的に語らせるのが想像以上に面白く、つい興が乗ってしまってますが……読者の皆様が退屈でなければ良いのですが(汗

次回も、まだ彼のモノローグが続きそうな気配が……
ヤンもだけど、この世界線のラインハルト君は、コミュ力高いようです(^^




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第058話:”フォリナー 亡命者達の虚構と実像”

今回も懲りずにラインハルト君のモノローグ調です(^^
ネタはサブタイ通りに、彼にとっても身近な帝国からの亡命者ネタがメインとなります。

相変わらず戦闘のセの字もありませんが、それでもよろしければどうぞ。




 

 

 

民主主義の大原則は多数決だが、『少数意見は尊重されなければならない』というのもある。

そして尊重どころか、いかなる意味でも無視できない規模の少数勢力が同盟には少なくとも二つある。

 

一つが俺の両親もそこに該当する銀河帝国からの亡命者勢力、異邦者(フォリナー)だ。

厳密に言うなら、第一世代……帝国生まれの亡命者のみが純然たるフォリナーなのだが、勢力として考えるならその血縁者や末裔も入るだろう。

もっと広義に言うなら亡命者とその家族や末裔たちのネットワーク、あるいは生活互助組織がそう言われる。

一部のマスコミ、いやマスゴミ(後述するがフェザーンの紐付きが多い)には”フォリナー・マフィア”や”フォリナー・カルテル”などとあたかも犯罪結社のように呼ばれるが、俺に言わせれば一丸となって結社化できるほど強固なつながりはない。

というか、むしろその逆で間違っても一枚岩な組織じゃないぞ?

 

ぶっちゃけてしまえば、極右から極左まで一通りそろってる。

帝国から見るか、同盟から見るかでその意味は正反対になってしまうが……簡単な例をあげれば、俺の親父”セバスティアン・ミューゼル”だ。

ちなみ帝国での名は、”セバスティアン・()()()・ミューゼル”、フォンが付いてる通り本人曰く「しがない下級貴族」だったらしい。

そのあたりの話題に触れられたくないらしく父は詳細を語ろうとしないが、母は少し言葉を濁しながら「帝国騎士(ライヒス・ リッター)どころか、男爵位を正統に継承できる立場」だったらしいと教えてくれた。

そして、その父は大の銀河帝国嫌いで、その象徴である貴族も爵位もひどく嫌っている。

父は酔うたびに母の肩を抱きながら、

 

『平民だって理由だけで、一目惚れした花屋の娘に求婚一つできない帝国なんざさっさと滅んじまえっ! 爵位も貴族もクソ喰らえだっ! ファッ〇ン・カイザー! 自由惑星同盟、万歳(ハーレー・リバティ)っ!!』

 

と陽気に中指立ててシャウトする。

うん。我が肉親ながら、酷い絵面だな。

きっと先輩は、晩酌と一緒に「自由惑星同盟、万歳!」の合唱にも付き合わされてることだろう。

まったく、いい歳こいて酒に弱いくせに酔う感覚が好きなのだから始末におえん。

 

まあ、それはさておき……父自身は母と結婚したい一心で約束された爵位も財産も平然と捨て、手に手を取って命からがら帝国を脱走。ついでに同盟に着いて亡命申請する時に、あっさりフォンを名前記入欄から抜いた男だ。

親父にとってフォンとは、母との結婚を妨げる呪いのワードみたいなものだったんだろうが……”もう一つの記憶”の俺にとってのミューゼル姓のようなものなのかもしれない。

今更だが”もう一つの世界”の父、『母を貴族にひき殺されたショックで自暴自棄になり、姉上を皇帝陛下に売り払うセバスティアン・ミューゼル』というのは、今の俺のとってどうにもピンこない。

第一、求愛熱量の強さがしっかり父親から遺伝している姉上に、寵姫なんて務まるのか?

いや、その世界の俺の行動も大概なんだが……

 

(キルヒアイスはいわゆる『好感度が足りない』って奴だったのか?)

 

いや、”もう一つの世界”の年齢差を考えれば……もし万が一好感度を満たして亡命イベントが起きたとしたら、

 

(ショタコンの姉上というのも、なんかイヤだな……)

 

いや、流石にこの想像は荒唐無稽すぎる。何より俺のSAN値的に大変宜しくない。

 

 

 

すまん。何やら思考が”這いよる混沌(ニャルラトホテプ)”あたりに汚染されてたようだ。

とにかく、父のような『帝国死すべし慈悲はない』を地で行く”対帝国強硬派”がいる一方、逆に『帝国に帰還し、返り咲く』ことを目指す勢力、言うならば”帝国帰還派”もフォリナーには少なからず存在する。

例えば、宮廷闘争やそれに類似することで敗北し、帝国に居るに居られなくなり落ち武者った元爵位持ちの没落貴族とその家族、親類縁者、末裔なんかに多いタイプだ。

単純化すれば前者は『帝国を完全に見限った勢力』で、後者は『帝国に未練タラタラな勢力』だな。

 

まあ、幸いに多数派なのは強硬派であることか?

それも当然で、同盟に亡命してくるのは大抵が『貴族ばかりが優遇される世の中に嫌気がさした平民』や『貴族を捨てた者/貴族でいられなくなった者』とかだ。

この手の輩の共通項は、「帝国に深い失望や怨嗟を持つ者」ということだな。

まあ、そういう感情が無ければ、普通はどれほど帝国が酷い国でも、そうそう生まれ育った場所から離れたいとは思わないだろう。

そう、フォリナーの帝国強硬派の『帝国への感情的嫌悪感』は、同盟市民主流派(マジョリティ)より遥かに深く暗い。

 

また、農奴階級がごく少数しかいないのは、帝国において農奴は貴族の私有財産であり、貴族の領地惑星に縛り付けられ、宇宙に出ることもなく一生を終えるのが普通だからだ。

ドライアイスの塊にエンジン付けて宇宙へ飛び出すような、よほどの特殊事情でもない限り亡命のチャンスすらないのが帝国農奴の実態だ。

 

もちろん、この二勢力でフォリナーは成り立ってる訳じゃない。どっちつかずの中道もいれば、帝国自体にもはや無関心な層も、あるいはフォリナーを隠れ蓑に怪しい活動をしてる輩に反目してる同盟内のフェザーン勢力と(くみ)する者だっている。

中には地球教に入信してるなんて悪趣味なのもいるくらいだ。

 

 

 

片手落ちにならぬよう言っておけば、同盟市民の全般的対フォリナー感情は決して悪い物じゃない。

むしろ、”もう一つの記憶”の中の同盟と比べるなら、雲泥の差と呼べるほどに良好と言っていいだろう。

 

確かに多くの同盟市民にとり現在の帝国人は、皇族や貴族を除き表面的な同情はあれど、本質的には『現状を変えようともせず、古い因習と圧政を甘んじて受け入れる怠惰で無知蒙昧な民』だろう。

だが、亡命者……”異邦者(フォリナー)”は、『国という大きな物は変えられなかったが、自分の手の届く範囲は悲惨な現状を変えようと努力した民』であり、そこにかつて同じように国を捨て新天地を目指したアレイスター・ハイネセンや先祖たちを重ねるようだ。

だから、同盟市民の亡命者に対する感情はおおむね好意的だ。

 

これは、同盟建国から……いや、”長征一万光年(ロンゲスト・マーチ)”を覚悟した時から宿命づけられた、一種の感傷主義(センチメンタリズム)だと俺は理解している。

その国民感情そのものは両親に限らず亡命者にとり歓迎すべきものであり、特に思うところはない。

 

個人的に感謝すべきは、そんなバックボーンがあったために父が書いた手記じみた素人文芸がノンフィクション小説として大当たりし、小説家として成功したため同盟生まれの俺や姉上が生活に困ることはなかったことだろう。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

問題なのはもう一つの勢力、フェザーンを由来とする商人組合(シャイロック)だ。

まず、重要な情報を書いておく。

ヤン先輩のような例外を除けば、普通フェザーン人(便宜上、こう呼ぶぞ?)は同盟国籍をとれない。正確には『同盟籍をとることを選択肢として持てない』だ。

 

少々ややこしい話になるが……自由惑星同盟は、銀河帝国を公式に国家として認めている(同時に帝国は同盟を国家と認めていない)。

そしてフェザーンは()()()()()()()()が同盟の公式見解であり、同盟の国籍条項や関連法が変わらない限り、フェザーンという国家は存在せず、”フェザーン人=帝国臣民”なのだ。

端的に言えば、フェザーンが何を主張しようが『フェザーンは帝国の一部』であり、”国家ではない”

 

無論、膨大な資金をバックボーンとした合法/非合法を問わぬ、時折、違法収賄だの疑獄事件だのを頻発させながら一世紀に及ぶ執念じみたロビー活動により、フェザーン自治区住人への特例として商売を行える『就労ビザ』や、同盟への年単位での長期滞在を可能とし更新することでやろうと思えば生涯同盟に居住できる『特別在留許可』は発行されるようになった。

だが、永住権や選挙権を含む市民権、そして何より同盟国籍はフェザーン籍(=帝国籍)を捨てぬ限り決して与えられない。

 

同盟はそもそも二重国籍は認めてない。

当然だ。自由惑星同盟にとり、外国とは敵国である銀河帝国しか存在しないのだから。

 

では、亡命者はどうなのかと言えば、同盟の解釈では『同盟に亡命が受理された段階で、帝国の如何に関わらず()()()()()()する』からだ。

 

だが、フェザーン人は亡命できない理由がある。

何故なら、上記の解釈をとるなら亡命した段階でフェザーン籍は消滅し、フェザーンでの商売ができなくなってしまうのだ。

具体的には、『帝国は同盟を国家として認めておらず、故に同盟籍は存在しない』ため、帝国の解釈としては『無国籍の人間を入国させられない』からだ。

 

 

 

酷く退屈で、尚且つ生臭い話になってしまうかもしれんが……もう少し話すか?

まあ、俺たちの住む同盟(せかい)を知っておきたいなら、無駄な知識って訳じゃないだろうしな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




お読みいただきありがとうございました。

原作と違ってかなり陽気なセバスティアン氏でした(^^
クラリベル(ママ・ミューゼル)さんは偉大なり!
酒の飲み方が原作との相違、きっとヤンも毎晩とは言いませんが、よく付き合わされてることでしょう。
なお、あんまりに付き合わされると夜の営みに支障が出る娘の機嫌が急降下爆撃を敢行し、1000ポンド爆弾並みの雷が落ちる模様。
父親とは、娘に弱いものです(笑

ついでにアンネローゼさんは性格的にも恋愛観的にもかなり父親似です。
まあ、散々甘やかして依存させ、無自覚に「私生活面では駄目男」量産機になってしまうあたりは、かっきり母親譲りですが(出てきてないだけで、クラリベルさんも大概な模様)


本人(笑)も言っておりましたが、すみませんがラインハルトのモノローグ、同盟語りはもうちょっと続きます。
流石に物語の都合上、フェザーンの情報を入れないわけにはいかないので(迫真




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第059話:”フェザーン まずは簡単なイントロダクション”

最初、”商人組合(シャイロック)”について書きたかったのですが、その前にちょこっと”この世界のフェザーン”について触れなければならなくなり、そうしたらやっぱり文章が長くなり……みたいな感じです(^^








 

 

 

フェザーンについて俺、ラインハルト・ミューゼルが語るのは実は少々危険性を孕む。

というのも俺が俺として『生で知ってる商人組合(シャイロック)の知識』としては、『フェザーン人を好いてない標準的な同盟市民』であり、連中の()()については”もう一つの記憶”、”ラインハルト・フォン・ローエングラムとしての記憶”を参照としている部分がある。

なので、前世(?)と今生、二つの世界の知識が入り混じることもあるし、推測の部分もある。その辺を加味して聞いて欲しい。

 

 

 

自由惑星同盟の公的見解ではフェザーン国民というものは存在せず、あくまで居るのは『フェザーン在住の銀河帝国人』だ。

理由は、『フェザーンはあくまで銀河帝国の自治領であり、()()()()()()からだ。

 

”もう一つの記憶”の中でのフェザーンは、『帝国の統治下にある、名目上は中立の自治領。実質的には準国家』という立ち位置だったが、”今生での同盟の見解”はかなり異なる。

 

自由惑星同盟の公式見解では「唯一の外国」は銀河帝国のみで、”ダゴン星域会戦”が起きた宇宙歴640年、正式に銀河帝国は同盟の”敵性国家”として認定されている。

対して、銀河帝国は自由惑星同盟を国家として認めてないので公式な”国交”は存在せず、そのあたりの諸問題は外交で解決することはないだろう。

 

本来、帝国人扱いである”フェザーン自治区在住者”は亡命しない限り、同盟国内で商売どころか滞在することもできない。

当然だ。フェザーン在住だろうと帝国本国在住であろうと、”敵性外国人”であることは間違いないからだ。

 

だが、フェザーンは大量の賄賂で皇族を含む帝国貴族を懐柔、帝国より自治権を獲得すると同盟にも浸透工作を開始する。

収賄に応じる政治家をはじめとする権力者を抱き込み、反国家主義者や反動主義者、行き過ぎたリベラリストや人権主義者などの左派勢力、帝国融和主義者などの反戦/平和団体など複数の反政府勢力に合法/非合法を問わず資金をばらまき、手駒としロビー活動を開始。特に大衆の世論誘導ができるマスコミへの浸透は苛烈だったらしい。

 

(おかげでかなりの数マスコミがその本分を金で売り、()()()()に転じたらしいしな)

 

同盟は多数決の論理が幅を利かせる民主主義国家で、確かに政治家も当選したくば程度問題こそあれ大衆、同盟市民に迎合的にならなければならない。

言いたくはないが、フェザーンの目の付け所は悪くなかったのだろう。

民主主義の理想とは、選挙権を持つ全ての者が強い参政意識を持ち、正しき認識の下でリーダーを選出する……言うならば、国民全てが哲人(てつじん)であることだ。

だが、それは人類が誕生以来ただの一度も成し遂げられていない、理想を超えた夢想の彼方にある姿だ。

ヤン先輩に言わせれば、

 

『プラトン的理想も、ニーチェ的な理想もおそらく人類が人類である以上、(かな)えられないんじゃないかな?』

 

そして、

 

『それに世の中が哲人と賢人だらけになったら、私のような怠け者がひどく生き辛くなりそうだ』

 

ニヤリと笑い、

 

『第一、それじゃあひどく面白くない世の中になると思わないか?』

 

 

 

それに民主主義は銀河連邦を例に出すまでもなく、常に衆愚政治の温床と紙一重だ。

衆愚政治の行き着く先は、どのような形であれ破綻と破滅でしかない。

同盟は幸いにして、少なくとも今の所は『良き労働者(=納税者)を生み出すことを最優先』とする教育はしていても、衆愚政策に舵は切っていない。

だが、それは同時に民主主義の理想像とは程遠い姿だろう。

つまり同盟市民全てが(さか)しいわけではなく、深く考えもせず目先の利益に飛びつき、それが無自覚な売国行為だと気付かぬまま(あるいは自覚的な売国行為として)フェザーンに迎合するものも少なからずいたのだ。

 

大規模な贈収賄事件や疑獄事件を、毎年の風物詩のように頻発させながらも執拗に継続された一世紀に及ぶ活動の成果は確かにあった。

フェザーンを帝国とは別の独立国扱いにはできなかったが、生粋の帝国人では有り得ないフェザーンに対する特例事項、制限はあるが同盟内で経済活動とそれに伴う許可/登録された民間船舶の運行が可能となる『就労ビザ』や、制限があるが更新する限り同盟内に居住可能な『特別在留許可』などを勝ち得たのだ。

 

皮肉を込めて言うなら、支払った金額の対価を得るという意味では、資本主義という解釈の中では正しいのかもしれん。

 

とはいえ、永住権や選挙権(投票権)を含む市民権などは、『敵性国人』であることが考慮され獲得はできないことになっている。

執念めいたロビー活動で、なんとかそれらを解禁させようとしているが、少なくとも今のところは上手くいくようには見えない。

同盟市民は、色々思うところはあれど阿呆の集団ではない。敵国の人間に選挙権なんて持たせたらどうなるか火を見るよりも明らかだからな。

 

フェザーン自治区人に与えるのは、特例であっても()()()()()()ということなのだろう。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

多分、ここで気になったことがあると思う。

敵国人扱いのフェザーン人が、どうやって同盟に浸透工作できたのか?ということだ。

 

実は永住権やら市民権やらの問題を、一発で解決できる方法がある。

そう、うちの両親がしたような”亡命”だ。

 

建前上かもしれんが、同盟はフェザーンを帝国の自治領として扱ってる以上、フェザーン人も亡命申請できる(受理されるかどうかは別問題だ。後述するが、最近は原則受理されず棄却される)。

 

だが、フェザーン人にはそう簡単に亡命できない理由がある。

前にも触れたが、同盟に亡命が受理された時点で()()()()()()……帝国では、この銀河系にある人類唯一の国家は銀河帝国であるという主張ゆえ、この状態は『無国籍』となる。

銀河帝国は、帝国領土外に人類が居住してることは認めているが、それは国ではなく叛徒、平たく言えば反帝国武装組織とその組織に不法占拠された土地という扱いだ。

故に一度、同盟に亡命し国籍を取ってしまえば帝国の自治区であるフェザーンへの再入国は、事実上不可能となるのだ。

つまり、フェザーンに戻り商売できなくなる。

 

 

 

では、彼らはどんな奇策を使ったのか?

何のことはない。同盟工作用の人身御供を選出し、正当な方法……()()()()()()亡命させた』のだ。

宇宙歴682年にフェザーンが銀河帝国より自治権を獲得し、まだ程ない頃……それこそ、フェザーン初代領主”レオポルド・ラープ”が生きていたどころか領主だった時代のことだ。

 

フェザーンというものをまだよく理解してなかった自由惑星同盟は、当時のフェザーンからの亡命者を『銀河帝国からの亡命者』として扱った。

『銀河帝国を()()()()()()()()()()から約半世紀。

帝国からの亡命者がちらほらと出始め、同盟は銀河帝国の工作員(スパイ)に潜入されるリスク覚悟で積極的に亡命者を受け入れていた。

無論、繰り返しになるが好意や善意で帝国人を受け入れた訳ではない。リスクを負ってでも、銀河帝国の情報を欲したのだ。

かの独裁者(ルドルフ)が打ち立てた傲慢な覇権国家、議会を死滅させ皇帝と貴族という特権階級のみがこの世の春を謳歌する人の歴史を逆行するような専制君主主義国家……あらゆる意味で『宿命的敵国』である銀河帝国の情報を、どんなものであれ求めたのだ。

 

そんな情勢下、まるで当時の自由惑星同盟の情勢を見切ったように突如、”未知の回廊”から『帝国の自治領民』として現れたのがフェザーン人だった。

 

 

 

自由惑星同盟に『()()』し、同盟国籍を得たフェザーン人……だが、彼らはただ()()()()()

 

結論から言えば、当時の同盟市民はフェザーン人というものを理解していなかったが、フェザーン人もまた”自由惑星同盟市民(リベレーターズ)”という者をよく理解していなかった。

 

そう、その後にフェザーン人が商人組合(シャイロック)、シェイクスピア作の有名戯曲”ヴェニスの商人”に登場する『強欲な悪徳高利貸し』と同じ名で呼ばれるようになったのは、相応の理由があるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




読んでいただきありがとうございました。

勢力としては本格的に出てきてませんが、実は原作と同盟との関わりがだいぶ違うフェザーンでした。

この世界の自由惑星同盟市民(リベレーターズ)が、フェザーンを見る目は原作より厳しめです。



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第060話:”シャイロック 彼等は如何にして悪徳商人呼ばわりされるようになったのか?”

今回はいつもより長いです(^^
このシリーズではバッケンレコードかも。

とりあえず、ラインハルト君のモノローグ、そのとりあえずのラストです。


 

 

 

今から約100年前の宇宙歴682年、フェザーンは銀河帝国より自治権を得て歴史の表舞台へと出た。

そして、彼等は自由惑星同盟からでは未確認だった銀河腕間回廊を通りやってきたのだ。

 

フェザーン人……今の同盟ではシェイクスピアの戯曲『ヴェニスの商人』に出てくる悪徳高利貸しに(なぞ)えられ商人組合(シャイロック)と蔑称に近い呼び名が与えられた者たちには、そうなるだけの理由があった。

 

同盟市民が『()()()()()()()()()()()()帝国の亡命者』に不信感を持ったのはいつの頃だろうか?

 

(本来、こういうのはヤン先輩の分野なんだが……)

 

まあ、俺も少なからず影響を受けているということなのだろう。

フェザーン人が、同盟にとって唯一の外国であり、同時に正式な敵国である「帝国籍を維持したまま」同盟内に商売や居住が可能となる『就労ビザ』や『特別在留許可』を獲得できるようになった裏側には、多くの収賄事件や疑獄事件があった。

その黒幕=資金源となったのが、『同盟に亡命した()()()()()()()()()だったのだ。

 

だが、それが当初は大きな騒動となることはなかった。

贈収賄にからむ汚職事件は、民主主義国家であり資本主義経済を導入する自由惑星同盟にとり、建国以来さほど珍しい話ではなかった。

無論、フェザーン人達が大胆に賄賂をばらまくようになった時節には、ジャーナリズムを売り渡した反動的左派の()()()()により、”フェザーン系亡命人”という存在は巧妙に隠蔽され、『同盟人同士のありきたりな贈収賄事件』として報じたのだ。

 

だが、同盟のマスメディア全てが左翼の売国奴という訳ではない。

アヤの本来の専門がメディア戦略であるように、メディアを武器として考えているのは同盟政府だって同じだった。

まず、その皮切りとなったのは、今や非公認の政府広報誌として有識者に認知される”Weekly Sentence Summer”のスクープ記事だ。

当時は今と違い、時たま面白い記事を出す、右でも左でもない中道のさして面白みのない平準的なメディアとして知られる程度だったらしい。

それが……

 

”Scoop!! 銀河帝国の陰謀! フェザーンを迂回路にした同盟への経済侵略かっ!?”

 

とセンセーショナルな見出しと共に記事を発表した。

昨今の汚職事件の資金源の多くが、同盟へ亡命してきた元フェザーン系帝国人である事を素っ破抜き、フェザーンマネーによる汚染状態を克明にレポートしたのだ。それも”どこからか流出した”詳細なデータ付きでだ。

 

無論、最終的に『フェザーン系亡命者は銀河帝国の工作員』と断じた記事に、当事者たちは『差別だっ! 訴訟も辞さない! 謝罪と賠償!!』と猛反発。

だが、この手の情報を公表したのは、”Weekly Sentence Summer”だけではない。状況証拠的におそらく同盟政府の制御下にあるだろう保守メディアも(こぞ)って報道合戦を繰り広げたらしい。

そんな情報戦が可能だったのも、実は潜在的にフェザーン系亡命者に対する不信感があったからだ。

 

俺の両親のような「純然たる帝国からの亡命者」、いわゆる異邦者(フォリナー)のステレオタイプというのは、「命からがら帝国から逃亡してきた者」であり、同盟人側から見ればのうのうと帝国内で生きてる人間に同情の余地はないが、「”独裁と貴族の宮廷政治(ゴールデンバウム王朝)”の愚かさを命がけで否定し圧政より逃れてきた人々」は表層的にでも同情的に見ていた。

 

だが、フェザーン人にはそういう”匂い”がなかったのだ。

民主主義国家にして資本主義経済を採用している自由惑星同盟にとり、確かに「金持ちが金の力で安全や権利を買う」のは否定できることじゃない。

だが、フェザーン人は何かがおかしい。

それを最初に指摘した……メディアが動く前に言い出したのは、実は”フォリナー”のコミュニティだった。

フェザーン人たちもフェザーン自治権獲得より半世紀も前に第一陣がやってきていたフォリナー・コミュニティに接触をかけてきたが、フォリナーは決してフェザーン人たちを亡命者社会に受け入れようとはしなかった。

理由はフェザーン人特有の胡散臭さももちろんだが、

 

『フェザーン人は帝国を拒否拒絶した亡命者などではなく、ただの”()()()()”。自分たちとは別のカテゴリーの人種』

 

という認識だった。

同盟が移民と認める以上、そして同盟から見れば自分たちも同じ『帝国からの亡命者』という枠組みである以上、フォリナーは積極的に同盟人となったフェザーン人を排斥するような真似はしなかった。

だが、同盟社会で初めて亡命者となったフォリナーの言葉は、いくらフェザーン人がメディアを使ってもみ消そうとしても完全に封殺することはできなかった。

 

実はこれこそが、フォリナーと”商人組合(シャイロック)”が、未だ反目する根源的な理由だ。

特にフォリナーの主張や考えは、大手メディアよりも”星間情報ネットワーク(インター・プラネット・ネットワーク)”で拡散していった。

 

フェザーン人たちは星間情報ネットをプロバイダ企業などを買収して掌握しようとしたが、それも上手くいかなかったようだ。

というのも星間情報ネットワークの大本は、実は”自由惑星同盟軍”なのだ。

これは星間情報ネットワークのインフラが、そもそも同盟領全域をカバーする”軍用FTL(超光速)通信網”を引くときに整備された物を、その後に政府が公金を投じて情報通信容量を拡充させ、それを民間に『余剰回線を貸し出す』形で成立したものだからだ。

 

つまり、民間企業でも認可を受ければ敷設できる限定的な”惑星内の情報通信網(イントラ・プラネット・ネットワーク)”ならともかく、惑星外につながる全ての情報通信は、音声/データを問わず必ず公的サーバや回線を通ることになる。

 

そもそも自由惑星同盟は、民間開放回線ですらもネットを使うなら《b》”自由惑星同盟社会保障番号(ソーシャル・セキュリティ・ナンバー)”が必要となる。

”ソーシャル・セキュリティ・ナンバー”とは、同盟市民なら出生届時にDNAや他の複数生体情報の登録と同時に自動配布/設定される個人識別ナンバーで、各種公共サービスを筆頭に銀行口座の開設や居住惑星外への移動/宇宙港の利用など多くの行動に必要となる。

 

自由惑星同盟の星間情報ネットは匿名での使用はできるが、例えば匿名で犯罪を示唆するような書き込みがあるとする。その権限がある公的機関が調査すれば、別にプロバイダーやらサーバ/回線管理会社などに捜査協力など依頼しなくとも、たちどころに匿名性は剥ぎ取られ個人を特定されるのだ。

個人認証が必須の同盟のネットは、ヤン先輩に言わせれば『音声通信もデータ通信もひっくるめで犯罪者ホイホイ』らしく、すぐに捕まらなくとも追跡はしっかりされていて、わざと泳がされた挙句に一網打尽なんてこともあるらしい。

一番犯罪が露見しにくいのは皮肉にも一番古典的な紙媒体の手紙や密会らしい。

 

つまり長々と何を言いたいかと言えば、当時の同盟国内では帝国出身の亡命者が国籍保有者としては多数派で、いかに金をばらまいてあちこちを買収していたとはいえ、新参者の少数派であるフェザーン人亡命者では工作しにくかったようだ。

無論、生粋の同盟人を買収してネット工作をしようとしたらしいが、逆にそれはヤン先輩の発言通りに当局の要監視対象として悪目立ちしたようだ。

 

それも当たり前で、別にフェザーン人に限らず亡命者は法的にすべからず”元敵国人”であり、当然のように軍や警察の治安当局の重点観察者だった。

それが繁盛に同盟人と金銭授受、それも人目につかないようにコソコソやっていれば嫌が上でも目立つ。

そして、そんな後ろ暗い取引をやってるような連中ならば、ほぼほぼ無自覚に法に抵触した行動をするのが自明の理だ。

これは推測だが、おそらくは多くのフェザーン絡みの事件は、そんな中で発覚した案件も多いんじゃないのか?

 

 

 

そんな情勢の中で、フェザーン系同盟人によって巨大贈収賄事件が発生する。

これも俺が生まれる前の話らしいが、とある惑星の地方議会や地方公共機関の首脳陣が、丸々賄賂を受け取っていた事実が公表されたのだ。

 

これはフェザーン人による同盟の一領土の乗っ取りであり、あたかもフェザーン人が同盟にも自治領を事後承諾的に作ろうとしてるように同盟市民には見えたのだ。

この事実に、当時の同盟市民は怒りより先に恐怖を覚えた。

特にこの贈収賄事件が起きたのは、何度か出てきた同盟籍を持たないフェザーン人でも同盟内で商売できる『就労ビザ』や更新を繰り返すことで長期滞在が可能な『特別在留許可』がロビー活動で可決、施行されたばかりだったのだ。

 

フェザーンに得体の知れない気味悪さを感じた同盟市民は、一気にフェザーンに対し門戸開放/中道路線から慎重路線に傾き、フェザーン出身者/居住者に対して『就労ビザ』や『特別在留許可』やそれに付随する限定的なソーシャル・セキュリティ・ナンバーは付与されても原則、亡命を受理しない方針を支持したのだ。

 

その時、対フェザーン強硬派として音頭をとった、妙に聞き覚えがある気がする議員がいたとかいないとか。

 

それでも、全てのフェザーン系同盟人の同盟籍を剥奪/国外強制退去を迫ったり、『就労ビザ』や『特別在留許可』を即時廃止をしないあたり、同盟の国家としての甘さとぬるさを感じてしまうが……

 

こうして、同盟におけるフェザーン人社会、”商人組合(シャイロック)”は形成された。

厳密に言えば、シャイロックは「同盟籍を持たないフェザーン人のコミュニティ」のことだが、同盟生まれの俺や姉上が広義ではフォリナーに分類されるのだから、同盟籍を取れた時代のフェザーン系同盟人やその末裔もシャイロックに加えて構わんのだろう。

 

ただ、ヤン先輩のような『イレギュラーのイレギュラー』……『乗っていた商船が同盟内で事故に合って先輩が唯一生き残り、自由惑星同盟の軍人が里親となった為に正式に同盟籍を取った』なんて人間は、普通シャイロックとは呼ばれない。

というか、先輩もそう呼ばれるのを心底嫌がってるようだ。

 

フェザーンやシャイロックに関しては、他にも色々と言いたいことがあるが……今回は、この辺でな。

退屈な話だったろうが、最後まで付き合ってくれた事に感謝する。

 

まあ、個人的な見解だが……同盟の中で生きるのなら、知っておいて損のない知識だとは思うぞ?

 

 

 

「何しろ、”この世界”は混沌に不足を感じないからな」

 

「? ラインハルト君、なに言ってるの?」

 

「なんでもないさ。ああ、なんでもない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




読んでいただきありがとうございました。

いや~、予定よりずっと長くなってしまったラインハルト君による同盟の現状解説、ようやく終了です(^^1

このシリーズの同盟は、原作より末期的でもないし国家としても強靭なのですが、その分混沌としてたりしてるので、そのへんを描けたらとか思ってます。
退屈じゃなかったら嬉しいんですが(汗

次回からは、再びチラッと原作と違う過去が出てきた魔術師さんが登場予定です。


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第061話:”同窓会っぽい何か+α なお、αは隠しワード「二つの維新」だったりゴッドバレーだったり”

ようやく第04章の章タイトルを回収です(^^
しかし、何故かギャグ多めに……




 

 

 

自由惑星同盟首都惑星”ハイネセン”周辺宙域

 

 

 

「まさかこうも早く再会できるとは思わなかったよ」

 

ヴァンフリート星系行き特別編成護衛船団……16隻の護衛艦と10隻の軍正規輸送艦という十分に護衛に気を使った編成の、いかにも大事な積み荷を運んでいそうな船団の旗艦、巡航艦”バーミンガム”のブリッジにて、ヤン・ウェンリー()()は、そう苦笑した。

だが、ブリッジに集結した級友×2と後輩×2は……

 

「「「「ヤンが(ヤン先輩が)帯銃してるっ!?」」」」

 

確かにヤンは腰にホルスターを下げて、その中に本来なら女性が護身用に持つような小型軽量が売りのコンパクト・ハンドガンタイプのブラスターを突っ込んでいた。

蛇足ながら、自由惑星同盟軍の服務規程的には個人携行武器に対して特に制限はない。例えば、ブラスターではなくこの時代では多分に趣味的な実体弾使用の火薬式拳銃を愛銃としてる者も少なくない。

むしろ、作戦行動中は武器の携行が義務付けられてるのだが……

 

「いや、そこはそんなに驚くところかい?」

 

ちょっと引き()った笑みを浮かべるヤンに、

 

「いや、だってお前……俺が知ってる限り、義務以上の射撃訓練はした事がなく、ついでに『重くて疲れるから』とか『どうせ撃っても当たらないから』とかってふざけた理由で服務規程無視。任務中だろうが何だろうが帯銃しようとしなかったお前が……なあ?」

 

と周囲に同意を求めるジャン・ロベール・ラップ()()。今回の役職は船団司令官補佐(副船団司令)。

 

「ふむ。どうやらラインハルトの姉君と交際してるって話だからね。毎晩、ベッドの上でエクササイズしていたから、ヤンも少しは腰が鍛えられたんじゃないか? まあ、別にベッドの上とは限らないけど」

 

さらりと下ネタを混ぜ込むのは、船団付作戦参謀で複数いる恋人が全員年齢一桁(あるいは10歳以上年下)という噂があるマルコム・ワイドボーン()()

確かに同棲してる娘たちは皆、容姿が幼い。

 

ちなみにこのヤンの同期の桜二人、今回の作戦は『表向き()()()()()()予定』なので出世はない(させられない)。

なので、この臨時船団の副司令&参謀就任にかこつけて「出世の前払い」で昇進していた。

同盟軍という組織は人材の弾力的運用……組織の硬直化を防ぐ為に人事の柔軟的運用を軽んじておらず、適当な大義名分があれば出世や配置転換は積極的に行なわれていた。

まあ、それはいいのだが……

 

「ちなみにボクはアウトドアも好きだゾッ☆」

 

キラッと擬音がつきそうな無駄に爽やかな顔でサムズアップするロリペド疑惑のあるケモ耳好きであった。

 

「それになんか制服着崩れてないし。先輩が真面目に服務規程守るなんて、一体どういう風の吹き回しですか……?」

 

と少し薄気味悪そうな顔をするのは、まだ少年の面影が残る伊達男に卵であるダスティン・アッテンボロー()()

この度、万歳昇進(士官学校卒業者は大過なく1年過ごせば、自動的に少尉から中尉に昇進する)の前払いという名分で中尉の階級章つけることになったようだ。

 

「まさか、いつの間にかすり替えられた偽物語(ニセモノガタリ)なんてことは……」

 

無論そんな訳はなく、制服がアイロンかけられて新品のようにぴっしりしてるのも、きっちり着こなしているのも主にアンネローゼのおかげ(内助の功とも言う)である。

ヤンの私生活の大半がアンネローゼに握られている証拠でもあるが。

 

「誰が阿良々木姉妹(ファイヤーシスターズ)だって? 残念ながら本物さ。どこぞの詐欺師じゃあるまいし、『本物になるために努力する』なんて御免だね」

 

これまた蛇足だが、”物語シリーズ”をはじめ多くのラノベ作品群は英訳版が古典作品として宇宙時代にもしぶとく残っており、21世紀の日本に例えるなら小泉八雲の記した怪奇譚のような扱いになっているようだ。

例えば”物語シリーズ”はフィクションではあるが、人間が人間らしくたった一つの星の上で生きていた平和な時代をいきいきと描いた、『当時の大衆文化や生活がユーモアに記された、純文学と呼ぶのは微妙だが堅苦しくない娯楽古典小説』として、何度も映像化されるくらい人気が高い。

少なくとも古典好きなら一度は読んだことがあるだろう。

なんせ別に古典が好きでもないアッテンボローが現代同盟語訳版を読んでるくらいだし。

 

「あっ、この切り返しは本物だ」

 

「当たり前だろうに」

 

更に蛇足ながら、ヤンの好みはファイヤーシスターズなら”体力系空手家の姉(阿良々木火憐)”ではなく”頭脳派で腹黒な妹(阿良々木月火)”の方。

見た目がロリっぽいからという訳ではなく、メリットを提示できれば存分に仕事を手伝ってもらえそうだから……らしい。

一番欲しい人材は、言うまでもなく羽川翼らしいが。

 

「ああ、(とき)が見えるようだ……」

 

軽く現実逃避(?)してるのは、阿良々木家の長男とは声質が違うアンドリュー・フォーク()()。この男の場合は台詞回しからわかる通り、どちらかと言えば意識を無線連結できそうな声である。

アッテンボローと同じく万歳昇進前払い組で、今回は3機編成の艦載戦闘艇(スパルタニアン)小隊の隊長として参加だ。

ちなみに残りの二人のパイロットは士官学校を出てない下士官なので、幸か不幸か一番若いフォークが先任となる。

因みに護衛艦群の中で巡航艦は”バーミンガム”だけで残りは駆逐艦のため現状、船団のスパルタニアンは3機のみだ。

 

 

 

「あのね。私だって少しは成長してるんだ。多少なりとも同盟軍人として自覚的であろうと……」

 

「ないな」

「ないね」

「ないっしょ」

「ないです」

 

「それは流石にひどくないかい?」

 

地味に凹むヤンであった。

 

 

 

場を仕切り直すようにコホンと咳払いして、

 

「すみません。”フィッシャー”少佐。お騒がせしてしまって」

 

「いえいえ。お気になさらずに」

 

ヤンの一礼ににこやかに返してくるのは、”バーミンガム”の艦長であり、後に『艦隊運用の達人』や『人型航路図』として知られるようになるエドウィン・フィッシャーである。

 

「それに少なくともこの作戦中は、貴官の方が階級は上ですよ? ヤン()()、過度な礼節や気遣いは無用です」

 

「いやぁ、恐縮です」

 

と困ったように頭を掻くヤンである。

今回の任務限定の臨時任官で中佐になったが、本来のヤンの階級は大尉。階級も年齢も、ついでに軍人としての風格もフィッシャーの方が上だ。

それにヤン本人は否定するが、東洋系の血が強く出てるせいか割と童顔なのだ。

もし、彼の所属が自由惑星同盟軍ではなく香港三合会あたりで、場所が巡航艦のブリッジでなくロアナプラのオフィスだったら、黒スーツとサングラス装着必須だったろう。

ついでに拳銃も火薬式に替えて、もう1丁追加しなくてはならない。

 

「フィッシャー少佐は本来、このバーミンガムの艦長だけど、今回の作戦では航宙参謀兼首席参謀として参加してもらうことになってるよ」

 

フィッシャーは小さいが奇麗な敬礼と共に、

 

「よろしくお願いします」

 

階級が上の者に先に敬礼され、慌てて返礼する級友と後輩。

まあ、敬礼なんて物が行動規範からスコンと抜け落ちてるようなヤンが最先任で船団司令官だというのだから、ジャガイモ野郎(ドーソン)のようなウルサ型(あるいはウザ型)が鼻白ませそうなこの反応も無理もないと言えば無理もない。

私生活は除くとしても、別段ヤン・ウェンリーは同盟軍人として模範的ではないものの、決してだらしないという訳ではない。

ただ、ヤンは規律と言う物を意図的に緩く解釈しようとする傾向があるのは確かだ。

 

例えば、作戦中(戦闘中ではない)に私的空間で飲む好物の”ブランデー入り紅茶”の紅茶/ブランデー比が少々おかしく、どちらかと言えば”ブランデーの紅茶割り”と表記したくなる事がままあることとか。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

「ああっ、そうだ。もう一人紹介しないと」

 

ヤンは思い出したように大尉の階級章を付けた軍人の肩を叩き、

 

「バグダッシュ大尉さ。彼は軍大学の同級生でね、今回の作戦では情報参謀として参加してもらうことになったんだ。いやー、我ながら良い出会いに恵まれたもんだよ」

 

はっはっはっと快活に笑うヤンに対し、情報部からグリーンヒル直々に今回の作戦にレンタルされたバグダッシュは顔の筋肉の一部を引き攣らせながら敬礼し、

 

”リョウ・マ・バグダッシュ”大尉です。よろしく」

 

と自己情報を絞ったシンプルな自己紹介に徹した。

どうでもいいが、バグダッシュのフルネームは地味に初登場だ。

何やら副業で”街の狩人”やってたり、別の世界線で合体ロボットチームのリーダーやってそうな名前な気がする。

射撃技能と身体能力は間違いなく同盟軍トップクラスだが、ケンシローやスグルという名が入ってないあたり格闘技能と筋肉量はそこまで高くないようだ。少なくとも人街領域や超人ではないだろう。

 

だが、その疲労を表皮の裏側に隠したような微妙過ぎる表情から、ヤンと相応の付き合いのある面々は何かを察したのか同情的な視線をバグダッシュに一斉照射したという。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

「さて、こうして一応は護衛船団、護衛艦群の首脳部が揃ったんだ。ただ同窓会をやるというのも芸がないな」

 

そう切り出しながら、ヤンは作戦の趣旨と全容を伝え始めた。

最初は興味津々で聞いていた面子だったが、話が進むにつれだんだん呆れたような表情になり、最後は頭痛を抑えるようなしぐさでラップは、

 

「ヤン、それは作戦とか戦術プランというより、むしろペテンの類じゃないのか?」

 

「実にその通りだよ。ラップ、今回の作戦の肝は、いかにイゼルローン要塞に引きこもる帝国艦隊を騙して誘って引っ張り出すかなのさ」

 

 

 

その笑みは、ラップもワイドボーンもアッテンボローもフォークも誰も知らないヤンの顔……()()()()()()()()()()()()だったら決して浮かべない類の、笑顔とは本来”威嚇の表情”だったという説を裏付けるような『凄味』に溢れた物だったという。

 

「さあ、一釣(ひとつ)り行こうか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




読んでいただきありがとうございました。

久しぶりにン・ファミリー予備軍(?)の同期×2+後輩×2が登場です(^^

ラップは平常運転っぽいですが、特にワイドボーンとアッテンボローが絶好調(笑
アムr……もとい。フォークがなんか悪化してる?

ちなみにサブタイの謎ワード「維新」は、物語シリーズの”西尾維新”先生と、ブラック・ラグーンの頼れるアニキ”張維新”だったりします。
なんかこのあたりの作品、この世界線の自由惑星同盟には、完全にかどうかは不明ながら残っているみたいですよ?

そしてゴッドバレーは中の人ネタですね~。


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第05章:”ヴァンフリートの戦い 徐々に明後日の方向へ飛んで行く銀河の歴史”
第062話:”バーボンウイスキー&ビーフジャーキー+シガー”


今回から新章です(^^
意味があるような無いような内容?

そして珍しい人のモノローグが……


 

 

 

その日、旗艦の巡航艦1隻と駆逐艦15隻からなる小規模水雷戦隊じみた護衛艦群と型は古いが10隻の軍正規輸送艦で編成される混成護衛船団。

ハイネセン近域で結成され、軍広報の公式発表によれば、『イゼルローン方面へ向かうが、最終的な目的地や目的は軍機につき公表は差し控える』とされた船団は、右派左派を問わずマスコミの注目の的だった。

 

何しろイゼルローン方面、銀河帝国との最前線には”エル・ファシルの三銃士”の内の二人、アーサー・リンチ中将とラインハルト・ミューゼル大尉が陣取っているのだ。

 

そこへ三銃士の最後の一人、ヤン・ウェンリーが大尉から中佐に二階級昇進して自ら艦隊を率いて合流するというのだから、マスコミが放っておく訳がない。

厳密には二階級昇進ではなく『今回の作戦限定の臨時任官』であり、艦隊ではなく船団なのだが……それを細かく注視するマスコミは圧倒的な少数派だ。

そんな些細な問題より注目されたのは、『船団がいつ(When)何処へ(Where)何し(What)に向かうのか?』だ。

 

最近、同盟で出回ってる噂は『可能な限り早く、ヴァンフリート星系第4惑星の衛星へ向かいイゼルローン方面監視用の大規模基地を設営する』というものだった。

ネットやら他のメディアやら、あるいは匿名の”関係者”や役職や階級を明らかにしない”軍高官”やらから流出した情報を纏めると、解釈による細かい差異こそあれ、そうなるように”()()()()()

 

無論、軍広報はノーコメントを貫き通した。

軍によれば、ヤンが中佐になって船団を率いてイゼルローン方面で、”エル・ファシル特別防衛任務群”と合流するという情報開示だけで精一杯の譲歩との見解だ。

臨時編成の船団であることや、規模自体が小さいため大々的な結成式や軍楽隊付きの出港式などは行われなかったが、大手メディア本社が集中するハイネセン近海、バーラト星系での編成だった為に接近許可距離ギリギリまで望遠光学装置を満載した報道船(カメラシップ)が大挙して押しかけて、激しい報道合戦を繰り広げていた。

一部メディア……というか公権力を叩ければ何でもいい左派マスゴミが、”エル・ファシルの三銃士”再集結という絶好のネタなのに軍機をかさに着て公式情報を出さない軍部や政府を批判してたりもしたが……

 

 

 

そんな中、実は船団総数16隻の倍はいそうなカメラシップに見送られながら、後年のマスコミ用語である”第一次ヤン艦隊”は出撃し、遥かイゼルローン方面を目指す。

 

もっとも、この”第一次ヤン艦隊”……無論、軍非公認の呼び名だが、このネーミングは後々発信元のマスコミや歴史学者の論争の火種に発展することになる。

要するにこの時ヤンが直接率いていたのは、どう贔屓目に見ても小戦隊であり、正確ではないということだ。

まあ、長い生涯のある期間、個性豊かな数々の艦隊を率いる羽目になったヤン・ウェンリーにとって、どの時期の艦隊が”第一次ヤン艦隊”に該当するかは、大いに物議を醸すところではある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

 

 

 

 

 

さて、舞台は再びイゼルローン回廊方面の同盟領の端っこ……

 

エル・ファシル特別防衛任務群7000隻は、帝国艦隊誘引作戦の一環として一旦エル・ファシルを離れ、より外側にあるアスターテ星系に根城を移していた。

イゼルローン回廊方面の同盟領最外縁の有人惑星はエル・ファシルだが、アスターテは更にその外側にある星系だ。

 

同じく外側には帝国との初会戦があったダゴン星系があるが、あそこはダゴン会戦において帝国軍を率いた一人、インゴルシュタット中将が「まるで巨大な迷宮」と評したように非常に不安定な宙域であり、艦隊本体を置くには全く向いてなかった。

 

そして航路図を見る限り、帝国艦隊がエル・ファシルに最短距離で向かうにはアスターテ星域を通り抜けねばならず、リンチ中将が本拠地を置くのにも合理的な場所だった。

 

実は以前に帝国貴族艦隊が半ば奇襲という形でエル・ファシルに押し寄せられてしまったのは、このアスターテ星域の定期巡回の間隙を突かれたのも大きな要因だった。

もしあの時にアスターテ星域で貴族艦隊を発見できていれば、他星系からの救援艦隊が間に合いリンチやヤンやラインハルトがあれほど苦労することはなかったろう。

 

それに主要作戦宙域であるヴァンフリート星系は、アスターテから見れば隣りの星系と言っていい。

この度の作戦では勿論、今後の防衛を考えても理にかなっている。

いや、むしろそれが主目的で根拠地をエル・ファシルからアスターテに移したのだ。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

エル・ファシル特別防衛任務群旗艦、パトロクロス級(改アイアース級)旗艦型戦艦”ニルヴァーナ”

 

「クックックッ! ヤンの野郎、随分と面白ェこと考えるじゃねぇか?」

 

情報部主体で考えられた、俺たちが仕掛けるイゼルローンの艦隊誘引作戦の追加修正計画(プラン)

そして、その原案を出したのが……

 

(ヤンの野郎、思ったよりもえげつないプラン出してきやがるなァ)

 

おう、悪ィ。まだ名乗ってなかったな?

アーサー・リンチだ。同盟軍で中将なんぞを仰せつかってる。ついでに言えば、エル・ファシル特別防衛任務群の総司令官、都合7000隻の提督(カシラ)なぞをやってるがな。

 

(もっとも、1000隻は実働状態にはねぇが)

 

まあ、面倒ならロック親父とでも覚えてくれ。

とりあえず俺は今、バーボンのロック片手に情報部から上がってきた作戦プランを確認してるんだが……

 

「ほい。承認と」

 

リスクもデメリットも皆無なプランなら、反対する理由は無ェわな。

 

(それに元計画より()()が期待できそうだぜ)

 

アイツに釣りの趣味があるってのは初耳だがな。

存外、ルアーやフライをやらせたら上手いのかもしれんな?

 

(今度、招待でもしてやるかねえ)

 

俺の住処、惑星”オールドタイマー”はアウトドアが全般的に盛んだ。緩いキャンプからガチの登山やハンティングまで相応に楽しめるんだぜ?

そういや、同盟最大手のアウトドアブランドの本社があったな。

 

(まあ、ヤンの場合は”リバー・ランズ・スルー・イット”ってより太公望って風情だが)

 

華麗に毛鉤を水面に舞わせるより、日がな一日ウキを眺めてる方が似合うかもな。

そんな時でもウキを見てるようで、別の物を見てるような気がするが。

 

「ほう。こいつは”当たり”だな」

 

喉をアルコールで湿らし、ツマミに齧ったビーフジャーキーのスパイス加減が俺好みだ。

持ち込んでた奴を切らしたのでこの間の休暇でエル・ファシルで試しに買ったもんだが、

 

(思ったよりイケるな。塩辛さがバーボンと合う)

 

スコッチもアイリッシュもウイスキーとしちゃあ悪くねぇが、やっぱり俺にはバーボンが一番舌に馴染む。

いや、確かにビールも好きだが、ありゃ水代わりだ。どんだけ飲んでも酔うに酔えん。

ヤンはブランデー、ラインハルトはワイン好きらしいが、どっちも俺には甘すぎる。

酒は苦いくらいで丁度いい。

 

「それにしても、よくもやるもんだ」

 

ヤンの思考は本質的に俺とは異なる。しかも思考の深度が深い……

この様子じゃあ、もう必要な根回しは済んでいるのだろう。

 

(アスターテに拠点を移したのも計算済みってわけか)

 

まあ、積み荷が積み荷だからな。

確かに輸送艦に積み込んだ中身から考えれば、例えそれがバレてもお題目の『ヴァンフリートへの基地設営』って名分に説得力が強くなるだけだわな。

 

俺は葉巻にマッチで火をつける。

アルコールと煙は妙に相性がいい。

 

「いや、むしろそれも意図的に漏らすか?」

 

(ミューゼルもだが)

 

「方向性は違えど、ヤンも”埒外の大器”って奴なのかもな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




読んでいただきありがとうございました。

今回は、リンチ中将のモノローグという銀英伝二次でも珍しい部類のシーンじゃないかなぁ~と個人的に思っています(^^

さて、イメージ的に”エル・ファシルの三銃士”がよく愛飲してる酒のイメージは、

リンチ→ワイルド・ターキー8年物(101プルーフ)
ヤン→カミュVSOPエレガンス
ラインハルト→シャルツホーフ・リースリング・クーベーアー

って感じです。実は21世紀の日本で一番高い酒を飲んでるのは、ラインハルトだったりして(笑

リンチは気分により”ベイカーズ”とかも飲んでそう。
ヤンは同じカミュでボルドリーVSOPを時たま飲む感じで。XOは高いので滅多に手を出さないような?
一番、ラインハルトが酒を変えない気がします。というかこだわりがあんまなさそう(苦笑



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第063話:”ピンポイント・フォーカスショット 防護フィールドと防御スクリーンの破り方”

ラインハルト様、割と古典(?)が好きみたいですよ?




 

 

 

HA-HA-HA オールマイトだ。

嘘だ。

ラインハルト・ミューゼルだ。

ちなみに教師陣で一番好ましいのは、某ドライアイだな。あの仄暗さがいい。

 

「ヒロアカか……」

 

「”僕のヒーローアカデミア”のこと……だっけ? ラインハルト君、古典戯画とか読むんだ?」

 

「義理の兄(予定)の影響でそこそこな。逆にア……アオバ大尉こそよく知ってたな?」

 

古典戯画の中じゃ”鬼滅の刃”などと並んで「跳躍系」とジャンル分けされるメジャーな代物だが、かと言って万人が読むって程じゃないはずだが。

 

「エッヘン! こう見えても士官学校入る前は一応、文学少女だったのですよ♪」

 

まあ、戯画も広義な意味では古典文学……なのか? 純文学ではないだろうが。

それはともかく、

 

「4番艦と9番艦の動きが悪いな……やはり促成程度の訓練で、デクや炭治郎(ヒーロー)のような活躍できんか」

 

不満という訳ではないが、やはり現実を突きつけられるのも存外にキツいものだ。

艦長席に座る俺は、コーヒーの苦さに現実の苦みを重ね合わせる。

 

「いや、今の練度から考えたら十分な動きだと思うよ? そもそも無茶な要求だと思うんだよね……」

 

「無茶? 何がだ?」

 

「戦闘機動中の10隻の駆逐艦の砲撃を同調させて、たった1隻の目標に砲撃を集中させるってことが、だよ」

 

アヤは困ったような顔で、

 

「そんな機動戦術、私は聞いたことないんだけど?」

 

そりゃそうだろう。気づいた者もいるだろうが……

この戦術は、俺の”もう一つの記憶”、「ラインハルト・フォン・ローエングラムとしての記憶」の中にあるヤン先輩……いや、結局生涯で明確な勝利を得られなかった”宿敵ヤン・ウェンリーが最も得意としていた艦隊戦術”の「艦隊統制一点集中砲撃」。

それをベースに駆逐艦の小戦隊用に手を加えた、言うならばアレンジバージョン、

 

「何事も初めてはあるものさ。強いて名づけるなら”機動統制一点集中砲撃(ピンポイント・フォーカスショット)”ってところか?」

 

「あっ、なんかカメラの用語っぽい?」

 

言われてみればそうだな。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

唐突だが、装甲などの物理防御を除けば、同盟/帝国を問わず戦闘艦の防御法は、主に二つある。

一つは”防護フィールド”

別名”ディストーション・フィールド”とも呼ばれるそれは、循環する重力子を格子状に配列した不可視の力場帯を生成、それを多層的に織り重ねるように船の周囲に展開し防護フィールドとするものだ。

簡単に言えば、”重力子の繭状力場(グラビティ・コクーン)”で船体をすっぽり覆うと思えばいい。

わざわざ重力子(グラビトン)を格子状に配列した力場帯でコクーンを形成するのかといえば、例えば隙間なく船体を覆うフィールドでは、外部へ出さねばならない反動推進機関の噴射や各種兵装の発射がかなり面倒になってしまう。

こうイメージしてもらえばいいのだが……織り重なった力場帯と帯の隙間を広げ、その部分から噴射をフィールド外に出したり、ビームを発射したりするのだ。

 

使い勝手も燃費もいい装備だが、防護フィールドは本来、常時展開しスペースデブリなどの高速衝突体から船体を守ることや安全に超光速(ワープ)航法をすることを主目的として開発され民間船にも搭載される物であり、船全体を覆う性質もあり面積辺りのエネルギーゲイン=防御力は、出力にブーストをかける戦闘中でも後述する”防御スクリーン”ほどはなく、ぶっちゃけ同格艦からの主砲攻撃……戦艦なら敵戦艦からの主砲の直撃を防げる防御力はない。

元々はデブリを質量や速度に応じて弾いたり、受け止め押し返したりする装備なので当然と言えば当然だ。

特にその性質から大型艦の主砲として採用されることが多い集束中性子線、いわゆる中性子ビームには効果が薄いとされる。

 

また別の弱点として防護フィールド同士を接触させることで、互いの重力場干渉で中和させることができる。

通常、フィールド強度は機関出力に比例し、例えば戦艦クラスが戦闘ステータス出力で展開させた状態では、出力差のある戦闘艇の搭載火器では防護フィールドの上からでは、よほどの急所を狙わなければ有効打を与えるのは厳しい。

だからこそ上記の性質を利用し、戦闘艇が大型艦を狩る時の戦術として、極至近距離で敵艦と相対速度を合わせ、自機の防護フィールド(戦闘艇は動力炉の出力の関係上、防御スクリーンは装備できない)を両者の接触面に集中、干渉/中和させ攻撃するという物がある。

 

”もう一つの記憶”では、その戦術を駆使して”同盟戦闘艇(スパルタニアン)”より火力の劣る”帝国戦闘艇(ワルキューレ)”の搭載レーザーで同盟の戦艦を輪切りにした猛者もいたようだが、いずれにせよ中和→攻撃の間は動きが止まり自らも無防備になるハイリスク・ハイリターンの戦術だろう。

 

 

 

もう一つは前述した”防御スクリーン”だ。

別名”ディフレクター・シールド”とも呼ばれるそれは、簡潔に言えば戦闘時に艦の前方に展張する高強度光磁気防御壁だ。

敵の攻撃に晒されることが宿命の軍艦特有の防御兵器といえ、もうちょっと詳しく言うなら『指向性モノフェーズ光波』と集束された荷電粒子や中性子線を散乱させる効果のある『高強度密封磁場』を組合せ、その相互干渉で発生する電磁場も副次的に利用する物だ。

こいつは中々の優れ物で、おおよそ軍艦に搭載できるエネルギー兵器/実体弾全てに防御力を発揮し、しかも『こちらの攻撃を透過し、敵からの攻撃を遮断する』というマジックミラーみたいな事が可能なのだ。

だが、この装備にも欠点はある。

発生装置がそもそも大型な上、指向性を持った”複数エネルギーの多層防壁”であるため、基本的に艦首前方にしか展張できず、またエネルギー消費が大きい為に戦闘時にしか起動できないレベルだ。

 

そして、この上記の二つの弱点を抱えるものの”万能の防御壁”見える防御スクリーンではあるが、万能であっても決して無敵ではない。というより、防御スクリーンの破り方は既に確立されたものだ。

簡単に言えば、『オーバーフローさせる』ことだ。つまり、時間辺り/面積辺りの許容量以上のエネルギーを当てれば、防御力は徐々に減衰し貫通されやすくなる。

まあ、攻撃無効→攻撃80%減→攻撃半減みたいな感じだ。

 

ヤン先輩に言わせれば、「(ヤスリ)で装甲板を削って薄くしてゆくようなもんさ」とのことだ。

そういや、ヤン先輩……”もう一つの記憶”とは正反対に機械工学とかに詳しかったな?

なんか、軍隊に入らなければ船舶関係の技師になるつもりだったとかなんとかって聞いたことがある気がする。

考えてみれば、先輩って同盟に来るまでは船育ちって言うしな。

 

 

 

少々長くなってしまったが、これで大体理解できただろ?

”もう一つの記憶”の中のヤン・ウェンリーが用いた一点集中砲撃は、敵の”防御スクリーン”を真正面から射貫くには非常に有効なのだ。

先輩の言葉をもじるなら、火線を過剰なまでに集中させ「鑢で削るのではなく、ハンマーで一気に叩き壊す」ってことだ。

 

しかも、射程はかなり短いが”防護フィールド”の上からでもレールガンの一斉射が当たれば大型艦でも有効打を狙える「大物喰らい(ビッグイーター)狙い」帝国の駆逐艦と、大型で主砲の威力はともかく射程は巡航艦と大差ない同盟の駆逐艦は他の艦種以上に設計思想の違い(作者注:第049話参照)があり、搭載兵器の関係で同盟の方がずっと射程が長い。

 

なら、その利点を生かさない手はないだろ?

幸い、俺は”もう一つの記憶”のせいで、例え大艦隊から小戦隊まで帝国の旗艦の位置は大体わかる。

 

「アオバ大尉、戦術レベルで相手に楽に勝つ方法って思いつくか?」

 

「はぇ?」

 

俺の唐突な質問に目を白黒させるアヤだが、俺は笑みが浮かぶのを自覚しながら、

 

「まず、”頭を潰す”のさ」

 

 

 

 

 

俺としてはまだ練度的にはまだ不本意な物だったが、さっそく訓練が実戦に生かせる機会に恵まれたのは、幸運だったのだろう。

そう、艦隊総司令部から招集がかかったのはそれから数時間後の事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




読んでいただきありがとうございます。

何度かネタが出てきてますが、自由惑星同盟では20~21世紀、この世界の歴史では13日戦争~90年戦争で壊滅的ダメージを受けたヲタ文化が、古典作品というジャンルでどの時代でも一定の人気があります(^^

裏設定で、アレイスター・ハイネセンをはじめとする「同盟を作った人々」の何人かの先祖が「失われる文化を後世に遺したい」と他のサブカル同様デジタル・アーカイブ化して子々孫々受け継いできたみたいです。

ただ、銀河連邦時代は娯楽が多かった為に開示されることはなく、同盟建国した時に娯楽の少なさに嘆いた当時の人々が開示、メジャーになったようですよ?



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第064話:”ヤン・ザ・ブラック(初級編) ネタ晴らしにアンネローゼを添えて”

この世界線のヤン、結構性格悪いです(^^
アンネローゼは……何も言うまい。




 

 

 

「人を騙すコツっていうのはね、”99の嘘の中にたった1つの真実を混ぜる”か、あるいは”99の真実の中にたった1つの嘘を混ぜる”なんだよね」

 

ハイネセンを出港した護衛船団が、最初の超光速(ワープ)航法に入るなり、ワイドボーンやラップら同じ巡航艦”バーミンガム”に乗り込む船団幕僚を()()()集め、お茶会の体を装いながら、ヤン・ウェンリーは楽しそうに切り出した。

怪訝な顔をする幕僚……後の(ヤン)家一門軍”、毎度おなじみヤン・ファミリーとも730年マフィアをもじって”ヤン・マフィア”とも呼ばれることになる集団の中核メンバーは、揃って怪訝な顔をした。

具体的には、『コイツ一体何言ってんだ?』と表情で無言の台詞を訴えていた。

 

「なに、我々の行動を四方八方にばらまいてくれるマスゴミ……失礼。マスコミの目もなくなったことだし、そろそろ今回の作戦、そのネタ晴らしでもしようかと思ってね」

 

ヤンはいつも通りブランデー入りの紅茶、比率的にはブランデーの紅茶割で喉を潤しながら小さく笑う。

 

「結論から先に言えば、今回の積み荷の9割はアスターテで降ろすよ

 

「「「「はっ?」」」」

 

今回の欺瞞工作、その片棒を担がされた……というより、腐れ鬼畜上司(グリーンヒル)から無期限無条件貸出され、散々こき使われ、その日々を思い出し死んだ目になってるバグダッシュを除き、益々『何言ってんだ?』オーラが強くなった。

 

 

 

「そもそも今回の作戦は、今やアスターテ星系に本拠地を移しつつある”エル・ファシル特別防衛任務群”から発案された”イゼルローン要塞駐留艦隊の誘引作戦”から端を発してるんだ。原案では、情報操作でヴァンフリート星系の第4惑星第2衛星にイゼルローン要塞の大規模監視基地を作るって欺瞞情報を流し、誘い出す予定だったんだけどね……」

 

とヤンは一度言葉を切り、ブランデーの紅茶割を一口飲むと、

 

「だけど、それじゃあ私にはどうにも不十分に思えてね。だから、」

 

ヤンはニヤリと笑い、

 

「”嘘から出た実”、輸送艦を(しつら)えてペイロードの9割方を有人基地設営の資材で埋めたのさ。どうせ集めた資材で本当に基地を作るのか探る連中は出てくるだろうから。なら、」

 

ぺろりと舌を出した。

 

「本当にそういう資材を集めたのさ。どう探っても疑う余地のないようにね」

 

「ちょ、ちょっと待てヤン! まさか、今回の作戦を考えたのって……」

 

ラップの質問にヤンは小さくうなずき、

 

「当然、原案を作ったのは私だよ。ただし、形的には情報部の発案になってるし、表向きは特別防衛任務群からの要請で統合作戦本部が了承した輸送任務ってことになってるから、他言無用で頼むよ? まあ、私は情報部のエリートじゃないし、公的な身分は”ただの大学生”だからね」

 

『例え軍大学だとしても、お前のような大学生がいてたまるかっ!!』と全力でツッコミたいのを、下腹部に力を込めてグッと抑えるラップ。

この我慢強さは称賛に値する。まあ、本質的にはおっかないジェシカ・エドワーズを娶ろうとするなら、このくらいの胆力は必要だろうが。

 

ついでに言えば、パシ……手伝わされたバグダッシュは『ほとんど独力で計画書完成させたくせに……』と口の中でもごもごとつぶやいていた。

 

少しだけ誤解を解いておけば、ヤンは確かに肉体的な運動は寝技(意味深。まあ寝技に限らないが……)を除きかなり苦手だ。だが、首から上はガチの”超人級”だった。

要するに、頭脳労働に関しては人類規格外級の集中力と持続力、タフネスさを見せるのだ。

そして、今のヤンには原作ではエル・ファシルでガス欠を起こしたモチベーションもバイタリティーもある。

何しろ、朝にアンネローゼ謹製の朝食に舌鼓を打ち、軍大学にやってきて午前中を最大限に生かして計画を練り、昼にアンネローゼお手製の弁当をかっこみ、残った昼休み時間でタイマーをセットした大学備え付けのタンクベッドに潜り込み、無理矢理疲労を回復させると午後も計画練成にまっしぐら。

アンネローゼお手製の夕食に間に合う帰宅時間ぎりぎりまで作業を続け、周囲が驚くほど短期間で完成させたのが今回の作戦計画だった。

無論、同じくアンネローゼとの夜の営みにも不備はない。

というか、作戦作成にギリギリまで張り詰めたヤンのメンタルは、アンネローゼの乳房に吸い付く(オギャる)ことで、どうにか均衡を保っていた。

 

無論、その時のアンネローゼは別の世界(げんさく)で得られなかった幸せを取り戻すように、憂いという言葉がこの世に存在しないように慈母の笑みを浮かべながら、女の姉の母の雌の喜びと歓びと悦びを骨の髄まで味わっている。

すっかり骨抜きになり、依存心が極致に至り、三食に始まり洋服の着替えも何もかも私生活を一切合切自分に投げ捨てたこの駄目男(ヤン)が、アンネローゼは心から愛おしくてどうしようもない。

愛しさが体液となりあちこちから流れるくらいに。

 

 

 

「まあ、誰が立案したのかなんて些細な事さ。作戦の骨子は、『基地構築用の資材を満載』し、『ヴァンフリートへ向かう』ことだよ。だから積み荷の大半の降ろし場所が”ヴァンフリート()()()()”ってだけだ。これがさっきの”たった1つの嘘”って部分だね」

 

「だから待て。理解が追いつかないんだが……荷物はアスターテに置いていくんだよな? どうしてヴァンフリートへ向かう必要が? いや、囮になりに行くっていうのはわかるんだが……」

 

なんか釈然としないラップに、

 

「ラップ、正確には”積み荷の9割はアスターテに置いていく”だ。じゃあ、残り1割はなんだと思う?」

 

「えっ?」

 

ヤンは悪戯が成功したような顔で、

 

「答えは、『無人観測機材』だ。目標の上空から投下して、自立起動するタイプのね。まあ、これは最後の仕上げに使うものだから、別に実際に投下できなくても構わない。要はヴァンフリートへ向かう大義名分になればいいのさ」

 

 

 

「要するに、ただ囮に……”疑似餌(ルアー)”になるだけじゃ何とも無駄が多いし、更に空船を動かしたところで情報が洩れれば直ぐに怪しまれる。なら、私は考えたのさ」

 

ヤンは笑みに微かに黒いと評していい何かを混入させながら、

 

「この作戦、『護衛船団を動かす』って事象で、一体何が自由惑星同盟の利益に繋がるかってことをさ」

 

「ヤン、敵の誘引を第一優先事項(1st プライオリティ)とするのは変わらないんだろ?」

 

と質問するのは、士官学校では首席であり、ある意味性癖もぶっちぎりなペd……ワイドボーンだ。

 

「当然だね。だからこそ、ヴァンフリートくんだりまで向かうのさ」

 

そしてヤンはもう一度ブランデーの紅茶割で喉を湿らせ、

 

「いいかい? 今回の作戦の骨子は我々が敵を誘引するエサになることだけど、まずはアスターテの特別防衛任務群と合流する。そこで基地設営資材を降ろす。その目的は、『アスターテに本格的な恒久的艦隊駐留拠点』を構築する……実際には、今回だけの資材じゃ足りないからその下準備ってとこだね。リンチ中将の下には立派な工作部隊がいるそうだから、きっといい仕事してくれることだろう」

 

「それで?」

 

「リンチ中将から、護衛の増援を分けてもらうのさ。それも我々の船団の周囲には”襲おうと思えば襲えるけど、でも小艦隊では厳しい”程度のね。そうでもしないと、積み荷が『価値のあるもの』だと()()させられないからね」

 

「……小艦隊で襲ってくる者もいるだろうけど、それで歯が立たないなら当然……」

 

「相応の数の艦隊で来るだろうねえ。我々を護衛もろとも磨り潰せるくらいの」

 

むしろ気楽な調子で言うヤンに、

 

「先輩、そこで全滅したら意味が…」

 

アッテンボローの言葉に、ヤンは意味ありげな表情で笑う。

 

「アッテンボロー、我々は確かにエサだが、エサはエサでも”疑似餌(ルアー)”さ。大人しく食われたやるつもりはないよ?」

 

「???」

 

「さて、ここで問題だ。ルアーと釣り糸の先には、普通何が……誰がいる?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




読んでいただきありがとうございました。

今回の話、要するに……

ヤン:「ただ輸送艦動かすだけじゃもったいないから、色々小細工することにした」

です(^^
もし、ヤン立案の作戦を予想していた方がいらっしゃるかもしれませんが、予想の斜め上を行けてたら嬉しいです♪

次回は、超久しぶりに帝国サイドの話でも入れようかな~と。



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第065話:”オスカーとアルフレット ふたりはプリキ〇ア……?”

すんげー久しぶりな方々の登場です(^^
サブタイに深い意味はありません。たぶん、きっと……


 

 

 

さてさて、ここは銀河帝国イゼルローン方面最前線、アルテナ星系に浮かぶ人工天体、銀河帝国の知恵と技術と血税の結晶、天上天下唯我独尊ついでに東西南北不敗、難攻不落に関して世に並ぶ物なしな無敵無双の巨大要塞、”イゼルローン要塞”である。

 

まあ、正確にはその内部にある贅を尽くした豪華な内装と充実のアメニティが自慢の貴族専用サロン、平たく言えば大きな娯楽室なのだが今は……

 

「諸君! 今こそ我々は神聖なる帝国貴族の使命を果たし、皇帝陛下の藩屏(はんぺい)たるを威を示す時!! 叛徒共に裁きの鉄槌を!! 銀河帝国、万歳(ジーク・ライヒ)!!」

 

どうやら、貴族限定の決起集会場になっているようだ。

まあ、一皮むけば野心、あるいは欲に満ちたいきりたった顔をしていた。

 

まあ、無理もない。

今、イゼルローン要塞の中は『フェザーンより()()()()()()()としてもたらされた、”とある輸送船団”の話題で持ちきりだった。

 

曰く、『叛徒共が生意気にも帝国領たるヴァンフリートに基地を建設しようとしてる』

曰く、『しかもその基地は、事もあろうか我らが帝国の威の象徴たるイゼルローン要塞の監視を行うものである』

曰く、『更にその基地の建設資材を運ぶ船団を率いてるのは、我ら由緒正しき帝国貴族の顔に泥を塗った罪人、”エル・ファシルの三悪人”の一人、ヤン・ウェンリー!』

 

「なれば、復讐するは貴族(われ)にあり! 叛徒と堂々と戦いに雄々しく散ったコルプト少将の無念! 同じく高貴なる血を持つ我らが晴らさんで誰が晴らすというのだっ!!」

 

「皇帝陛下! どうか我らが奮戦、御照覧くださいませっ!! 皇帝陛下、万歳(ハイル・カイザー)!!」

 

もし、この場に自由惑星同盟の人間がいたら、そのあまりに身勝手で自己中心的なな言い分に怒る前に呆れ果てるだろうこと請け合いだ。

そもそも、奴隷狩り(マンハント)なんてどうしようもない理由で攻めてきたのは、いったいどこの誰だというのだろう?

……なんて事を気にする者が貴族の中にいるわけはない。いたとしても極めて少数派だろう。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

だが、幸か不幸かこのサロンにはその理性的(レア)な貴族は、最低でも二人はいた。

 

「フン……俗物共が鼻息ばかり荒立てて。とても見れたものではないな」

 

そう元気いっぱいに戦意を湧きあがらせる貴族たちを、離れた席からグラス片手に冷めた目で毒づく金銀妖瞳(ヘテロクロミア)の美丈夫に、

 

「”マールバッハ伯爵”、士気高きは結構なことではありませんか? 少なくとも傍目(はため)から見てる分には」

 

微笑みに同じく毒を混入させながら返すのは、華がある見るからに『絵に描いたような青年貴族』の優男。

 

「”ランズベルク()()”、これで実力が伴っていれば俺も何も言わんさ」

 

あえて爵位ではなく階級を強調して、未だに重い愛を注ぐ母から帝国開闢以来の名門の血を、実は血のつながらない、そしてそれを生涯知ることがなかった父より膨大な財産を継承する事を約束された銀河帝国の超サラブレッド”オスカー・ロイエンタール・フォン・マールバッハ”伯爵少将は応える。

そして、機嫌が悪そうなマールバッハ(ロイエンタール)に、”アルフレット・フォン・ランズベルク”伯爵大佐は苦笑し、

 

「我が友オスカー、君は少々軍務に厳格過ぎるよ。平均的な貴族には、君の高い矜持は理解できないさ」

 

少し芝居がかった仕草と言いまわしのランズベルクだったが、

 

「矜持? そんな高尚なものじゃない、それ以前の問題だ。あのなぁアルフレット、我々は貴族であり軍人だ。二重の意味でその役割を果たせねばならん。それこそが『皇帝陛下より与えられた恩寵』、特権の対価と言うものだろう?」

 

驚くべきことに、”異なる世界線(げんさく)”では全く接点の無かった二人だが、どうやらこの世界線のでは友人関係にあるらしい。それもファーストネームで呼び合うくらい関係が良好なようだ。

 

いや、おかしいのはそれだけじゃない。

どうも言動やら雰囲気から察するに、帝国の誇る若い”戦争貴族”の中でも文字通りの若手トップを走るロイエンタールと、同じくトップクラスの実力者ランズベルクは、原作と比べてもかなりタイプが違うようだ。

 

ロイエンタールは、露悪趣味はなんとなくありそうだが……その卓越した戦闘センスは努力型の秀才タイプ、しかも性格は皮肉屋の側面はあれど質実剛健。おまけに母の愛と教育のせいで身持ちは固い。というか別にトラウマがないので女に飢えてないし、特に潜在的破滅願望もない。

その黒髪美しい整った外見と細身の長身が合わさって、『理想的な貴族軍人』の様相を呈していた。

 

一方、華やかな外見からどうにも軍人ぽくない……放蕩貴族が遊びで軍服を着てるかのような印象を与えるランズベルクは、逆に天才とまでは言わない物の芸術家らしく感覚タイプ、しかも割と陰謀とか暗躍に理解があり、「目的のためには()()()()()()()」……曲者としての側面も持っている。いや、曲者というより得体の知れなさや、底知れなさを醸し出す感じだろうか?

 

こんな正反対の二人だからこそ、この世界線では妙に馬が合うのかもしれない。

 

「それになアルフレット、俺はあいつらの言葉が白々くて好かん。何が帝国の藩屏だ。考えているのは自己の立身出世だけだろうに」

 

「それは致し方無いんじゃないかな? 彼らはこのままいけば、貴族とは名ばかりの末路しかないのだから」

 

 

 

これは少し説明が必要だろう。

銀河帝国も我々が知る封建時代の貴族と同じく、爵位や所領を継げるのは長男だけだ。

つまり次男以降は自活の道を見つけるしかない。

 

だが、そこに一石を投じたのはご存知”豪腕帝”……全盛期のハルク・ホ○ガンが如き肉体美を未だに誇り、別の世界線ではラインハルトの天敵だった某B婦人(シュザンナ)(筋肉フェチ)と毎晩熱いバトルを繰り広げる”フリードリヒIV世”だ。

 

この”()()()姿()()()()()()”、『最大の娯楽は戦争貴族』と豪語する脳筋まっしぐら思考の皇帝は、『戦わぬ貴族は貴族と認めぬ』とばかりにカストロプなどの例外を除き、多くの非戦派貴族に反乱の嫌疑やらスキャンダルやらで取り潰してみせたのだ。

 

そして、その取り潰した非戦派貴族の領地を、その討伐で活躍した爵位を継げない貴族に男爵位(爵位の中では最下位)と、接収した領地を分割して与えた。

これが豪腕帝以外の二つ名、”男爵量産帝”の由来である。

 

まあ、このあたりの下りは『第044話:”戦争貴族”』でも触れた部分ではある。

 

ここまで書けばわかると思うが、今血気盛んな雄たけびを上げているのは、『帝国貴族に相応しい武威(=戦果)を上げ、男爵位と領地が欲しい貴族の子弟』が中心だ。

 

「あさましいことこの上ない」

 

そう断じるロイエンタールに、

 

「僕はむしろ憐れみを感じるけどね」

 

ヘラヘラと笑うランズベルク。

 

「連中、間違いなく出るだろうな。無理やりにでも」

 

「そりゃそうさ。せっかくの立身出世のチャンス、飢えてる彼らがみすみす見逃すはずないよ」

 

ランズベルクふと真顔になり、

 

「例え、見え透いた罠だとしてもね」

 

「……やはりお前もそう思うか?」

 

「当然じゃないか。今回の情報は整合性が取れすぎてる。ここまで信憑度が折り紙つきな上に揃いすぎた情報は、むしろ意図的に用意された可能性が高いよ。多分だけど、意図的な情報漏洩もありそうだ」

 

ランズベルクはふふんと笑い、

 

「まあ、今回の目的はヴァンフリートに基地を設営することじゃなくて、イゼルローン要塞の駐留艦隊の誘引ってところじゃないかな? どっかの”お馬鹿さん”が後先考えずに狩りゴッコになんて行くから、自由を愛する紳士諸兄は狩人ぶった巣穴に引きこもる害獣を間引きしようとでも思ったんだろうねえ」

 

「”自由を愛する紳士諸兄”? まあ、確か音楽はフリーダムだな」

 

苦笑するロイエンタールに、

 

”のっぽのサリー”だっけ? オスカー、気に入ってたもんね」

 

「まあ、否定はせんよ」

 

今度、ロイエンタールを家に招待してフェザーンから取り寄せた秘蔵のミュージック・アーカイブを聴かせようかなーとか思いながらランズベルクは、

 

「それはともかく……実際、要塞の目と鼻の先なヴァンフリートに本当に監視基地を作られたら厄介だから、本当に輸送船団が来たら、例え罠だとわかっていても出撃するしかないんだけどね」

 

ロイエンタールは奇天烈なテンションで今にも出撃しそうな貴族集団に再び視線を向け、

 

「連中、それに気付けると思うか?」

 

「無理だね。彼らは古式ゆかしい帝国貴族らしく見たいものしか見ないし、信じたいものしか信じない……この作戦を立案したのが誰だか知らないけど、この反応もおそらく折込済みだろうから」

 

「今のうちに本国……交流のある連中に打診しとくか。俺の権限が及ぶ範囲で”出征の準備しとけ”とな」

 

まだ実害が出てない以上、帝国軍の正規ルートでの増援要請は要塞司令官ではない以上無理だが、親交ある貴族ルートで予備命令くらいはかまわんだろうと思うロイエンタールに、

「それはいいアイデアだ♪ 少なくとも自ら死地へ飛び込みたがってる輩を止めるより、よっぽど建設的だね」

 

(僕の方も手を打っておくか。イゼルローン要塞をスカスカにするわけにはいかないもんねぇ)

 

「オスカー、呼ぶなら可なるべく大勢に声をかけておいた方がいいよ? 僕もそうする」

 

「ほう?」

 

ランズベルクは未だに興奮してる集団を見ながら、小さくため息をつき……

 

「この調子じゃあ、随分と目減りするだろうからね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




読んでいただきありがとうございました。

この世界線では、ロイエンタールとランズベルクはかなり仲が良いです。
爵位が同じ伯爵で、非門閥だけど金や権力を持つ独立系非門閥、おまけに若い世代の”戦争貴族”の代表格と認識されてるなど、共通項が多いんで自然と友誼が生まれたようですよ?
個人的には、

ロイエンタール→キュア・ブラック
ランズベルク→キュア・ホワイト

だと思っています(えっ?
いや~、初代が始まってからもう15年以上経つんですねぇ~。
時がたつのは早いもんだ(^^


そして、二人そろってイキリ貴族を助ける気は皆無な模様(笑




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第066話:”老人と海 ただしカジキやサメ相手とは限らない”

ヤン、またしても悪巧みです(^^
そして、またしても新キャラが……


 

 

 

さて、公式名称では”YS11特務護衛船団”という味気の無いナンバーと名が振り分けられただけのヤン・ウェンリー中佐率いる合計26隻の護衛船団……同盟マスコミで最近使われるようになった”ヴァンフリート急行”が、5度目のワープ・アウトを行った時のことだった。

 

「ヤン中佐、各艦のワープ機関/通常空間機関に異常なし。以後、ワープ機関冷却とチャージ/航行通常メンテのため、24時間通常空間航行とする。以上」

 

まじめな性格のこの男らしく、口調こそ上官に対するそれとしては崩れているが、船団副司令としての役割をきっちりこなすラップ。

最初、ラップはせめて任務中くらいは普通の上官と同じように敬語で対応しようとしたが、その肝心のヤンが上官権限を振りかざし……『命令する。気持ち悪いからやめてくれ』と止めさせた。

ヤンが命令の使い方をまた一つ覚えたのは喜ばしいことであろう。多分。

 

ついでに説明しておくと、ワープ航法は便利だが距離には限界がある。更にその次元跳躍距離は機関出力の関係で一番跳躍距離が短い駆逐艦に合わせねばならないし、何より一回の跳躍でかかるワープ機関への負荷が大きい為、冷却とメンテやチェックは欠かせない。

という訳で連続使用はできないのだ。

同盟軍のマニュアルではよほどの緊急事態でない限り、安全マージン24時間のワープ使用間隔を艦種に関わらず推奨している。

安全第一、人命第一、人と宇宙に優しい軍隊を目指しています。

以上、自由惑星同盟軍広報よりのお知らせでした。

 

 

 

「なあ、ラップ」

 

「ここはブリッジだぞ? 今は任務中であり勤務中だ」

 

「上官命令。この任務限定で私が部下を呼ぶときは階級を省略する」

 

「こ、コノヤロウ……」

 

軽く拳を握るラップだが、その拳が飛んでこないことを確認したヤンは、

 

「アーネスト・ヘミングウェイ著の”老人と海”って古典文学は知ってるかい?」

 

「? いや、知らないが……」

 

「あれはとある老漁師が、苦労の果てに仕留めたカジキを巡ってサメと戦う話なんだけどね……ふと思ったけど、釣りなんて渋い趣味は、私のような若造の青二才より、人生経験豊富な老人の方が釣り糸を垂らす姿が絵になるとは思わないかい?」

 

よくわからない話題を振ってくるヤンにラップは困惑顔だが、

 

「……ヤン、その口ぶりだと根回し済みだね?」

 

と首席参謀のワイドボーンが童顔を向ける。

ヤンは何食わぬ顔で、

 

「まあ、それなりにね。という訳でワイドボーン、”エル・ファシル駐留艦隊”にこれから指定する暗号文を指向性FTL(超光速)通信で送ってくれるかい?」

 

「アイアイ・サー」

 

委細承知とおどけた様子で敬礼を返すワイドボーンに、アッテンボローは不思議そうな顔で、

 

「えっ? ”エル・ファシル特別防衛任務群”じゃなくて……ですか?」

 

するとキュピィーンと閃いたのが、ブリッジに報告に来ていたフォークで、

 

「アッテンボロー、ヤン先輩は”老人と宇宙(うみ)”と言った。リンチ中将はロックで親父だが中年。まだ老人と呼ばれる歳じゃない」

 

フォークは純粋すぎて逆に心配になる瞳をヤンに向け、

 

アレクサンドル・ビュコック少将?」

 

「正解。まあ、保険みたいなものだけどね」

 

ヤンは小さく笑い、

 

「それに何も釣り師の数を絞る必要はないだろ? なんせ……」

 

『今回は思いの外、大漁が期待できるかもしれない』とヤンは締めくくった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

 

 

 

 

 

 

さて、ここはエル・ファシルの静止衛星軌道上、そこに坐する軍用宇宙ステーションを母港とする、かつての3倍の登録艦数3000隻を数える”エル・ファシル駐留艦隊”……

その中心に居座り圧倒的な存在感を示すのが、艦隊旗艦である”リオ・グランデ”だ。

アキレウス級旗艦戦艦の標準型に比べ100mほども長い、亜空間スタビライザーを含め全長1260mを誇る同盟/帝国合わせて現在最長の堂々たる大戦艦である。

 

アキレウス級の中でも、技術的な模索を行っていた時代に先行量産型とも言えるアイアース級(アイアース型とも言われる)の4番艦として建造されたこの船は、特に長射程砲撃を重視して設計された。

そう延長されたのは、艦首にある中性子ビーム砲の砲身長を標準型の倍近く取ろうとしたからだ。

ビーム砲の砲身とはまんま中性子の集束/加速器(中性子ビーム=集束中性子線)であり、同じ25cm口径中性子発生器でも砲身による集束率や射出速度が違えば、威力や射程は当然違ってくる。

まあ、原理は違うが同じ口径の火薬式大砲でも砲身長の長短で砲口初速が変わり、威力や射程が変わるのとイメージは近い。

要するに砲身が長いほうが威力も射程も上だ。

 

もっとも、火薬式で質量弾を撃つ大砲と違い、中性子ビーム砲のようなエネルギー兵器の場合、砲身長辺りの集束率や加速率を上げれば砲身が短くとも長砲身と同等の効果が得られる。

その特性を生かし、現在の同盟は”リオ・グランデ”で得られた長砲身中性子ビーム砲のデータを元に、威力や射程を落とさずよりコンパクト化する方向で開発が進められているようだ。

 

さて、原作世界同様に長間合いを武器とするこの船は、とある男……敵にすら『呼吸する軍事博物館』と称えられる名老将の乗艦だった。

 

 

 

「閣下、何を読んでらっしゃるのですか?」

 

その日、何故か楽しそうな表情で電文を眺める尊敬する上官を不思議に思った自由惑星同盟軍少佐、”アーノルド・フェイファル”はその理由を訪ねてみることにした。

 

軍の通信は通常、双方向リアルタイムの画像/音声の立体動画型だが、通信可能時間が短いとか通信容量が限られるとか、あるいは高い秘匿性を求められる場合などは、未だに電文形式の通信も割と使われる。

要するに軍用機密通信網のみで使われるEメールみたいな物だ。

だから、それ自体は不思議じゃないのだが……

 

「若い者からのお誘い、洒落た”釣りの招待状”じゃよ」

 

「”釣り”?」

 

二等兵からの叩き上げで閣下と呼ばれるまでに至った、戦場で人生の大半を過ごしたような”アレクサンドル・ビュコック”少将は、喉の奥でクックックッと笑い、

 

「”リオ・グランデ”を漁船代わりに銀河釣行と洒落こみませんか?とな。エサが良い分、随分と”大物釣り”になりそうじゃな。それとも漁船団を組んで大漁狙いと言った方が的確かのう?」

 

「は、はあ」

 

何を言われているのかよくわからずにリアクションに困るフェイファルに、

 

「フェイファル君、駐留艦隊3000隻の中から練度の低い船を、各艦種混合で1000隻ほど抽出しておいてくれ」

 

「了解しました。ですが、その……」

 

ビュコックは呵々大笑し、

 

「なに、ちょうど実戦演習をせねばならんと思っとったところじゃ。そろそろヒヨッ子共に戦場の空気を吸わせてやらねばのう」

 

 

 

ビュコックは発信者欄に生体認証済みのサインとヤン・ウェンリーの署名が入った電文と、その前に届いた統合作戦本部からではなくその裏口……情報部ルートから回ってきた高強度暗号文、ドワイト・グリーンヒル准将の署名入りの『イゼルローン回廊方面への訓練航海を促す』予備命令書を見比べてながら、

 

「既に必要な場所には根回し済みか。中々に頭の回る若者のようだのう。果たして何手先を読んでおることやら」

 

「閣下?」

 

「それにしても……独特(ユニーク)な感性をしとるようだな? ヤン・ウェンリーという男は」

 

ヤンからの電文の最後は、こう締めくくられていた。

 

”豪腕帝により銀河帝国との戦争が激化する可能性が高まる中、名将の誉れ高きビュコック閣下はそろそろ中将に昇進し、正規艦隊を率いるに良い頃合いだと愚考いたします”

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




読んでいただきありがとうございました。

呼吸する軍事博物館ことビュコック爺様の初登場です(^^
名前は何度か作中に出てきましたが、いよいよ参戦みたいですよ?

ヤンらしい思考的やらしさや、腹黒さ(笑)とか出てれば嬉しいな~と。

次回あたりに、そろそろ合流するかな?





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第067話:”再会 そしてゴツいニューフェイス”

今回はちょっと長めの前書きです(^^
ご感想を読んでてちょっとアキレウス級をまとめてみようかと。

えーと、この世界線で同盟軍の旗艦型戦艦の現行モデルは、全体で言うと”アキレウス級”です。

ただ、これは厳密に言うと1~5番館までの先行量産型といえる”アイアース級(アイアース型)”と、本格量産型の”6番艦以降パトロクロス級(パトロクロス型)”に分かれます。

級と型の表記ゆれがあるのは、同盟軍の公式資料でも両方見受けられるから……う~ん、対帝国の情報攪乱でしょうか?(笑
更にパトロクロス以降は、改アイアース級(改アイアース型)と表記されてる資料もあるので、更に混乱しやすくなる罠(笑

基本、アイアース型で技術的な模索や実証を行って、本格量産型のパトロクロス型にフィードバックされたって感じです。
この前期型と後期型には割と違いがあるのですが、それはいずれチャンスがあれば裏設定でも書いていこうかなと。

あと、実はこの時点でアキレウス級は、30隻前後が既に建造されてるみたいですよ?
現在、同級での最新艦はリンチの”ニルヴァーナ”だったりします。

金持ち同盟軍(苦笑




 

 

 

『やあ、ラインハルト。いや、それともミューゼル大尉と呼ぶべきかな?』

 

しばらくぶり……という程ではないが、少なくとも月単位で顔を合わせてなかったヤン先輩は、立体画面の向こう側でとぼけた表情でとぼけたことを言ってくる。

なるほどそういう趣向か。

いいだろう。乗ってやる。

 

「どっちでもかまわんぞ? ヤン()()殿()。遠路はるばるお疲れ様でした。”エル・ファシル特別防衛任務群”一同を代表して心より歓迎申し上げます。全員、起立! 中佐殿に敬礼!!」

 

俺はブリッジの全員を起立させ、俺を含めた教科書通りの敬礼を一糸乱れずやってやる。

 

『……やっぱりやめよう。こういうのは私達のガラじゃないな。うん』

 

勝ったな。ガハハハ。

笑いが棒読み? ほっとけ。

 

「まあでも、歓迎してるのは本当だぞ? 息災なようで何より。義兄(あに)上”

 

『カウンターはひどいよ、ラインハルト。そちらも相変わらずのようで安心した』

 

そう苦笑するヤン先輩は、前よりはいくらか様になってる敬礼で、

 

『ヤン・ウェンリー中佐麾下”YS11特務護衛船団”、只今アスターテ星域に到着した。エル・ファシル特別防衛任務群拠点まで案内願いたい』

 

「アイアイ・サー」

 

こうして俺、ラインハルト・ミューゼルが率いる駆逐艦10隻から成る小戦隊は、アスターテ星系最外縁で迎えに向かったヤン先輩の船団と無事合流したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

 

 

 

 

 

 

 

 

アスターテ星系、エル・ファシル特別防衛任務群、旗艦”ニルヴァーナ”

 

 

 

「よお、ヤン。よく来たな」

 

「ご無沙汰してます。リンチ中将」

 

執務机の椅子に腰かけたままのリンチにヤンは小さく敬礼した。

リンチは崩れた敬礼を返しながら、

 

「つもる話もあるが、その前にだ」

 

リンチは艦内通信の通信を入れ、

 

「入れ」

 

その言葉を待っていたかのように装甲スライド・ドアが開き、いずれも中佐の階級章を付けた、ヤンと比べれば屈強な四人の男が入室してきた。

 

「悪いが、先に顔合わせを済ませちまうぞ? ヤン、まずはお前から頼むぜ」

 

「アイサー」

 

ヤンは四人に向き直り、再びラインハルトに「以前に比べればマシ」と評されたばかりの敬礼を先に作り、

 

「この度の作戦で()()()()により中佐を拝命したYS11特務護衛船団、船団司令官のヤン・ウェンリーです」

 

要するに、「この作戦限定の階級だよー。貴方達より本来の階級は下だよー」と遠回しにアピールしたヤンだったが、

 

「チュン・ウー・チェン中佐だ。宜しく頼むよ。ヤン船団長。ああ、ちなみにE式でチュン・ウーまでが苗字だよ」

 

にこやかに返礼するパン屋の跡取りっぽい温和な雰囲気のチュン・ウー・チェン。

 

「こりゃまた随分と優男が来たじゃねぇか? グエン・バン・ヒュー中佐だ。グエンでいいぜ」

 

と獰猛に笑うのは、黒髪をオールバックにまとめ、同盟軍人というより武闘派アジアンマフィアの若頭と言ったほうがしっくりくる風貌のグエン・バン・ヒューに、

 

「ラルフ・カールセン中佐だ。よろしく頼む」

 

と言葉少なに告げるのは、髭面に巌のような巨躯を持つ筋骨隆々の大男だ。

とりあえず呼ばれた四人の中では一番図体がデカく、アドミラル・シートより炭素クリスタルの大型トマホークの方が似合いそうだ。

 

「ライオネル・モートン中佐。この中では一番年長だが、同じ階級だ。遠慮はいらん」

 

同じ階級ながら、士官学校を出てないがため最年長のライオネル・モートン。

言ってしまえば、ビュコック爺様と同類である現場叩き上げなのだが、30代中盤~後半で中佐というのは実はビュコックよりも出世ペースが早い。というより、士官学校卒業者と比べても極端に遅いわけではない。

おそらくこの世界線ではビュコックが若い頃にはまだ制度として整ってなかった非士官学校卒業者への救済措置、”幹部候補生養成所”を出たのだと推測される。

 

 

 

「この四人は、俺が率いてる中佐の中じゃ、戦上手だ。全員が100隻ちょいを率いてもらってんだが……」

 

リンチはニヤリと笑い、

 

「お前の注文通り、”襲おうと思えば襲えるけど、でも小艦隊では厳しい程度”を用意してやったぞ?」

 

前に描いたことのおさらいになってしまうが、イゼルローン要塞の駐留艦隊は正規で15000隻。無論、力のある貴族が私設艦隊や個人所有の軍艦を持ちこむ場合もあるので実際にはもう少し多いが、それでも現在20000隻に届くことはないだろう。

 

ただ、個人所有艦や私設艦隊を持ち込めるのは、それを所有する権力や財力がある貴族だけで、基本的にマールバッハやランズベルクなどの”爵位持ち”だ。

それらを持たない貴族……イゼルローン要塞に詰める帝国貴族の大半を占める”フォン持ちであっても爵位を持たない、爵位の継承権がない”貴族の次男以降の面々は、当然正規艦隊を率いることになる。

正規艦隊の場合、最小行動単位は基本1個戦隊500隻とされ、3個戦隊1500隻を1ルーチンとして10ルーチン制でイゼルローン回廊同盟側出口方面の装甲パトロール、定期巡回などを行っているのだが……

 

貴族たちの決起集会で、マールバッハ(ロイエンタール)が「あさましい」と評していたように、爵位なし貴族は非常に功名心が強い。かなり悪い意味で”功名餓鬼”だ。

当たり前だろう。

豪腕帝”フリードリヒIV世”の方針により、『帝国貴族(せんそうきぞく)に相応しい戦功』を打ち立てれば、念願の男爵位と領地が転がり込んでくるのだ。

まさに本当なら自分が爵位を継承したかった輩にしてみれば、まさに一攫千金の大チャンスだ。

 

繰り返すが、500隻が最小行動単位で、1ルーチンは最大でも1500隻……

更に指揮官、司令官は帝国のパワーエリート階級である貴族が多い。

 

(宝船を守る護衛艦が500隻だった場合、彼らはどう動くか……? まあ、考えるまでもないか)

 

「ありがとうございます。閣下」

 

素直に礼を言うヤンだったが、無論話は素直に話が進むわけはない。

リンチは笑みを強め、

 

「それじゃあ計画通り、お前さんが率いてくれ」

 

気楽な調子で言われた言葉に、ヤンは一瞬固まり……

 

「はっ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




読んでいただきありがとうございました。

義兄弟の初顔合わせと、そしてサブタイ偽りなしのゴツいニューフェイス(?)がまとめて登場しました。

実は、名前だけは”第038話”で出てたりして(^^

顔合わせメイン回ですが、何やらヤンの予想しない方向へ話が吹っ飛んでゆく予感が(笑



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第068話:”涅槃とかレイマリとか妖気とかミラクルフルーツとか、出てくる単語だけ並べるとSFっぽくない……というかむしろ東方っぽい話”

今回、ヤンが壊れます(笑

あと、ようやくリンチの愛艦”ニルヴァーナ”の詳細情報が出てきます。


 

 

 

前回までのあらすじ

ヤンは率いてるYS11特務護衛船団共々無事にアスターテに到着、義弟と無事に合流。

その後、エル・ファシル特別防衛任務群提督のリンチに呼び出されて、パン屋の跡取りっぽいチュン・ウー・チェン中佐/武闘派アジアンの若頭っぽいグエン・バン・ヒュー中佐/提督席よりトマホークが似合いそうなラルフ・カールセン中佐/四人の中では最年長のライオネル・モートン中佐と顔合わせすることになる。

 

それぞれリンチの麾下で、100隻少々の戦隊を率いてる、いずれも「戦上手」とリンチにも歴史にも評される猛者たちだが……

 

「それじゃあ計画通りお前さん(ヤン)が率いてくれ」

 

精神的レーザー水爆が落ちた。

 

 

 

「リンチ中将、Just a moment, Please(ちょい待った)

 

思わず暴走を止めるように右掌を突き出し、ついで左手の人差し指を眉間に当て、

 

「確認したいのですが……小官の記憶が正しければ、小官の本来の階級は大尉であり、もし四人のお歴々が同じ臨時任官だとしても通常は1階級上昇、つまり本来の階級は少佐でよろしいでしょうか?」

 

「そうだな」

 

「いや、だったらそれはおかしい!? どこからどう考えても、先任は小官ではないはずですっ!!」

 

今にも裁判を逆転させるような調子の我らがヤン・ウェンリーであった。

というのも、当然彼の提出した計画書に、『自分が囮艦隊の指揮を執る』なんてことは()()()()()()()

常識的に考えて、こういう場合は、より先任の中佐が率いる現地艦隊の麾下に入るべきだ。

 

現地に居る士官なら、宙域をよく知るからこそ地の利だって有効利用できるだろうし、階級こそ絶対の指針たる軍隊で、同じ階級の者が、同じ役職で並べばより先任の者が指揮権を持つべきである。

それこそが軍隊という組織、軍隊という縦社会の秩序! 同盟軍万歳!!

 

とヤンが内心思ったかは知らないが、取り敢えず彼の主張その物は正当だ。

だが、

 

「ヤン、良いことを教えてやる」

 

リンチはノンアルコール・ドリンクの入ったグラス片手にキメ顔で、、

 

「幻想郷と俺に常識は通用しねえ」

 

「アンタは一体どこの”東風谷早苗(ミラクルフルーツ)”だっ!?」

 

元気いっぱいのヤンのツッコミが”ニルヴァーナ”に木霊した。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

「まあ聞け」

 

そう仕切り直すのは、自機では早苗より魔理沙派のリンチである。

まだVRゲームが楽しくてしょうがなかった若き頃のリンチによると『やっぱ弾幕はパワーだよなぁ~。幻想郷でも艦隊戦でも分かりやすくていいぜ』とのこと。

 

そういえば、リンチの座乗艦”ニルヴァーナ”はパトロクロス級(改アイアース級)としか表記が無かったはずだが、ベースになってるのはアキレウス級全体で現在最強の火力を誇る”クリシュナ”だ。

攻守のバランスがよく標準型とそん色のない機動力を誇る”盤古(バングゥ)”と悩んだらしいが、機動性を犠牲にした圧倒的高火力(25cm中性子ビーム砲門数:標準モデル→40門、クリシュナ→60門。通常の1.5倍の砲門数。ただし防御力は標準と同等)を選んだとんがったコンセプトと、インド繋がり(ニルヴァーナという名前自体はリンチの趣味で伝説的なバンド名由来だが、本来の意味は”涅槃”)。更に……

 

『形がロックしてるぜ……』

 

と一目で気に入ったらしい。

ただクリシュナと全く同じではないようで、『元々、クリシュナからして艦載戦闘艇(スパルタニアン)積めねーし』と、にエピメテウスやヘクトルと同じように、船体(ハル)ブロックから機関(エンジン)ブロックまで伸びる長いサイドバルジが左右に取り付けられた(このバルジは船体ブロック横のスパルタニアン射出口を塞ぐように取り付ける)。

バルジの中身は予備(サブ)動力炉と推進機関で、劣悪になってしまった機動性/運動性を補うと共に、より大きな継続砲撃時間を伸ばしている。

また副次効果として、やたらと上下幅があるクリシュナに比べ、バルジの追加でバランス修正ができたため、操艦安定性はかなり改善されてるようだ。

全長こそビュコック爺様の愛艦”リオ・グランデ”に負けるが、ボリュームや厳つさからしたらおそらく同盟最強だろう。

 

「何もお前に500隻の艦隊をいきなり率いろとは、いくら俺でも言わんさ」

 

リンチは再びグラスを傾け、

 

「ただ、100隻ちょいの艦隊を率いてる、四人の中佐(コイツラ)を指揮してくれと言ってるだけだ」

 

「……あまり大きな差はない気がしますが?」

 

と返すヤンは、当然のように正統派の霊夢使い。主人公(ヒロイン)なのに曲者というあたりが気に入ってる。

そして、あの何物にも縛られない自由な在り様は、未だに憧れる部分がある。万年金欠なのは困りものだが。

そういえば、面倒くさがり屋で(特に戦闘面で)天才肌ってあたり、この二人になんとなく共通項があるような?

 

どうでもいいが、この時代に東方Projectがあること自体が驚きだだろう。

ただずっと時代の荒波超えて生き残っていたというより、ハイネセン家が1000年近く隠蔽保管していた90日戦争前のデータ・アーカイブから発掘されたデータを元に、リメイクされたというのが正解だろう。

何やらVR弾幕ゲー化され、同盟では国民的人気作になってるようだ。

 

「ニュアンスがだいぶ違うじゃねーか。それに直接指揮じゃなくて間接指揮。”お前の巡航艦(バーミンガム)”で500隻の指揮となりゃあ、そりゃキツいが頭の戦艦4隻から処理済みのデータをなんとかすることぐらいできんだろ?」

 

「そりゃまあ、できますが……ところで、チュン・ウー中佐たちはそれでよろしいんですか?」

 

AよりB装備を好んで使う、インドアゲーは三次元チェスでなくともフルダイブVR-MMOだろうと何だろうと不思議と強い紅白巫女(チート)使いは四人に振り向き、

 

「別に構わないよ? むしろどんな指揮を執ってくれるか楽しみなくらいだ」

 

と悪意ない笑顔で、何気にプレッシャーをかけてくるチュン・ウー・チェンに、

 

「ヘマをしねぇならそれでかまわん。少しでも戦いやすくなりゃ御の字だ」

 

「うむ。リンチ閣下の決定なら異存はない」

 

「同じくだ」

 

「うっ……」

 

チュン・ウー・チェンだけでなく、残り三人にもあっさり頷かれ、思わずたじろくヤンであった。

どうやらこの男、世界線の違いがあっても、やたらと孤立無援に縁があるようだ。

 

「決まりみてぇだな?」

 

リンチはニヤリと笑い、

 

「まあ元々、『YS11特務護衛船団に四人の艦隊を組み込む』って事務処理にする予定だったんで、最初(ハナ)っからお前さんに拒否権はねーんだがな。いざとなったら上官命令でゴリ押すし」

 

「酷っ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

 

 

 

 

 

うむ。ラインハルト・ミューゼルだ。

ん? 今回はネタは無いのかだと?

ネタ切れだ。悪かったな。

 

何やら東方の話題が出た気がするが……俺は射命丸(しゃめいまる)を自機に使うことが多いな。

ん? 謎の(アヤ)推し? 一体何を言ってる?

 

「ヤン中佐……ラインハルト君とはまた別のベクトルでユニークだよね?」

 

「そうか?」

 

ああっ、今は休憩タイムで私室でくつろいでる。

最近、アヤが俺の部屋に妙に居ついてるような気もするが……まあいい。少なくとも俺よりコーヒーを淹れるのが上手い。

 

「なんて言うか……変な色気があるって言うか」

 

「はあ? お前は何を言ってるんだ?」

 

ヤン先輩が色気って。おそらくだが、先輩と一番イコールで結ばれないグループの単語だぞ? それは。

 

「それも単純なセクシーさじゃなくて……ほら、ラインハルト君って綺麗じゃん?」

 

「アヤ、お前なぁ……綺麗と評されて素直に喜んだり頷いたりする男は、正直かなりキモいぞ?」

 

少なくとも俺はそんなナルシーな奴には近づきたいとは思わん。

 

「そうなの? まあ、それはそれとして……ヤン中佐って、ラインハルト君みたいに怖いくらいに容姿が整ってる訳じゃないけど、なんて言うか”妖しい”のよ」

 

「妖しい? そりゃ色気ってよりは、まだ先輩に似合う単語かもしれないが」

 

「あえて言語化すると”妖気”かな……? なんか人、特に女を狂わせる毒気の混じった色気って感じ」

 

……先輩は、いつからコズミックホラーの登場人物になったんだ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




読んでいただきありがとうございました。

アヤが言う”妖気”っていうのは、おそらくは随所に出てくるヤンが時折出す”凄み”と同じものではないかと(^^

ヤンにその空気が定着してきたのかもしれませんが、アヤはこう見えて存外色々鋭いです。
普段はポンコツだけどw



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第069話:”ラインハルトは天才、ワイドボーンは秀才。ではヤンは……?”

前回、ギャグに走り過ぎたので今回はシリアス……否。シリアルに(^^
ついでにこのシリーズ初の4000字越えです。

あと、珍しい方がモノローグを。




 

 

 

「バグダッシュ、悪いけどチュン・ウー・チェン中佐、グエン・バン・ヒュー中佐、ラルフ・カールセン中佐、ライオネル・モートン中佐以上四名の資料を、情報部の機密データベースからまとめておいてくれ。特に戦術面の癖や性格を重点的にだ」

 

「は、はあ?」

 

「大至急で頼むよ」

 

毎度パシらせて悪いねバグダッシュ。目が死んでたような気もするけど……貧乏クジは私も同じなんだ。付き合ってもらうよ?

それに私の権限じゃ、情報部のクローズド・データベースにはアクセスできないからね。

軍の一般考査的な人物評や、リンチ中将の主観的情報や評価は渡してもらったけど、情報部の分析屋集団がどう評価してるか目を通しておいて損はない。

全ての事象は、多角的に俯瞰して初めて”真実の姿”を現すと私は考えている。

例えば、正面から見れば確かに円かもしれないが、上下左右から見なければその物体がが球体なのか円柱なのか円錐なのか分からないのと一緒だ。

せっかく情報部の将校を借りれたんだ。精々有効活用させてもらうさ。

 

ん? ああ。自己紹介がまだだったね。

吾輩はヤン・ウェンリーである。名前はまだない。

えっ? 名乗ってるじゃないかって? ああっ、うっかりしていた。

 

じゃあ改めて。私はヤン・ウェンリー。持ちたくもない武器を押し付けられることで有名な天下御免のブラック公共機関、自由惑星同盟軍で大尉なんて事をやっている。

要するに、戦争を生業としてるだけの、ただの特別職国家公務員(こうぼく)だ。

 

そして現在、大尉のはずなのに臨時任官なんて反則人事で、中佐の役割を投げられた上に、私が率いてた船団を含め500隻弱の小艦隊を率いる羽目になってしまった。

というか、私自身囮艦隊全体の司令官をやるなんてことは、一言たりとも作戦案に書いてないんだが?

 

(だが、残念ながら軍隊とは縦社会の代表格)

 

例え民主主義国家の中にあっても、民主主義の理想と概念から一番遠い公共機関の一つが軍隊だ。

まあ、国防の要たる軍隊が敵国と交戦状態の真っただ中に団体交渉権を持ち出してストなんか起こされた日には、確かに国としてはたまったもんじゃないだろう。

ちなみに形式上、自由惑星同盟は銀河帝国と絶賛戦争中だ。ホント150年もダラダラと飽きもせずによくやるよ。

そんな訳で、まさに宮仕えの悲哀を感じてる真っただ中なんだけど、

 

(まあ、泣き言言ってる暇があったら、計画を見直す方が建設的なのは確かだ)

 

でも、こういう時こそアンネに、それが無理ならせめてアシュリーにそばにいてほしい。

ささくれだった精神に、

 

「潤いが欲しい」

 

私は切実に願ってしまう。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

「ヤン、顔がこわばってるよ?」

 

私室で頭をひねらせてると、やってきたのはワイドボーンだった。

 

「らしくないのは自分でもわかってるさ」

 

端末から複数のホログラム・ディスプレイを展張させながら、私は手でもんで顔の筋肉を解きほぐす。

 

「それでも仕事は仕事。給料分くらいは働くさ」

 

労働の対価として俸給が出てる以上、資本主義の原則から外れる気はない。

それにいくら私でも、アンネのヒモ呼ばわりは心外だ。

そもそも、私は家事スキルが壊滅的……皆無というより絶無。どこぞの”腐り目の自己犠牲型少年(ひきがや・はちまん)”のように、専業主夫狙いも最初から選択肢として存在しない。

 

「それは重畳」

 

私物で持ち込んでいたスモークチーズを口の中に放り込み、ブランデーで香りを付けた紅茶を流し込む。

個人的に、ブランデーとスモチは合うと思っている。

 

「それで、率いる四人の中佐はどんな感じだい?」

 

「私が評するのもおかしなくらい、優秀な人材だよ。それぞれ癖はあるけど、”良将の卵”と言っていいんじゃないかな? もし生き残れるなら、10年後くらいに全員が中将になっててもおかしくないよ」

 

無事に経験を詰めれば、正規艦隊を率いられる逸材だと、世辞でも皮肉でもなく思う。

チュン・ウー中佐は攻守ともに優れたバランス型。グエン中佐は攻撃特化の猛将型。カールセン中佐もどちらかと言えば守りより攻めが得意な闘将型だろう。モートン中佐は熟練したバランス型の風格がある。

 

「それは君やラップも同じだけどね。アッテンボローも良将の資質はあるし。フォークは、うーん……このままパイロットを極めて、人間として円熟味が増した後に教官とかがいいかな?」

 

ワイドボーンも攻勢が得意だけど、守りも決して苦手じゃないバランス型。ラップは攻勢よりも守勢に強みを発揮するタイプの堅将型。アッテンボローは……曲者なんだよな。強いて言うならトリッキー型かな?

 

(吊り野伏の引き込み役とかやらせたら上手そうだ)

 

まあ、簡単には心折れない勇将であることは間違いないけど。

フォークはあんまり、提督や参謀に向いてない気がする。ラインハルトが珍しい事に歯に物が挟まったような迂遠な言い方で教えてくれたことがあったのだが、フォークは何やらストレス性の持病があるらしい。

精神面が過敏すぎるからと聞いたが、宇宙を飛ぶことにより、それが大幅に緩和される……というより、何らかのプラス効果がどうとか言ってたっけ。

 

「そういえばミューゼルはどうなんだい?」

 

「私程度じゃ推し量れないし、器の形すらわからないさ。我が義弟殿は」

 

それが私の偽らざる評価だ。

 

「どういう意味だい?」

 

「そのまんまの意味だよ。ラインハルトの将器は、おそらく私が会ったことのあるいかなる人間より、その戦う才に秀でている。それは圧巻……圧倒的と言っていいんじゃないかな? ラインハルトが同盟に居てくれて本当に良かったよ。もし帝国に生まれ、敵として立ちはだかったら……」

 

あまり想像したくないけど、

 

「同等の戦力を率いてたとしたら、きっと私なんか鎧袖一触だろうね」

 

 

 

「……それ程かい?」

 

「それ程、だよ。ワイドボーン、君は確か士官学校で『10年に1人の秀才』って言われてたよね?」

 

「うん、まあ。ボク自身はそう思ってないけどね」

 

いや、その評価は間違ってない。主観だけど、それまでの歴代の首席卒業者と比べても、ワイドボーンは頭一つ抜き出てると思う。

 

「だが、ラインハルトはその上を()く。彼が並び称されるとすれば、存命の人物より歴史上の偉人……あるいは英雄豪傑の類だろうね」

 

そう、ラインハルトが首席卒業するまでは、もしかしたらワイドボーンは歴代最高の士官学校卒業者だったかもしれない。

だが、ラインハルトはそれまでの記録(レコード)を全て塗り替える力がある。

戦争の基準を彼が起点となって作り替えられそうな予感……

 

(そういえば、アシュリーがブロマイドのダウンロード販売数でブルース・アッシュビーを抜いたとか言ってたっけ……)

 

だけど私の直感だと、残ってる資料から考える限りラインハルトの方がアッシュビーより戦巧者だ。

 

「まごうことなき”戦争の天才”さ」

 

きっと、”アレクサンドロスIII世(アレキサンダー大王)”の如く、ね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

 

 

 

 

 

 

「と申しておりますが。”我が憧れの君”は」

 

「我が敬愛すべき義兄(あに)上は、一体何を言ってるんだ?」

 

というかワイドボーン先輩も何しに来たんだ?

まあ、士官学校でVRシミュレーションで無敗だったワイドボーン先輩がヤン先輩に負けて以来、「ヤン・ウェンリーのファン壱号」を自認してるのは仲間内では有名な話だけど。

 

ああっ、ラインハルト・□□□□□□□□□□だ。空白になってる苗字部分はランダムに切り替わる。無論嘘だ。

取り敢えず現在、”イナヅマ”の艦長室に居る。

というかさっきまでブリッジ・インしてたが、ワイドボーン先輩が来たんで立ち話もなんだし、私室へご招待と相成った訳だが……

 

「ありえん……ありえないですよ。俺がヤン先輩を鎧袖一触? 冗談じゃない。どこかの正規空母娘(加賀さん)じゃないけど、同等の戦力なら鎧袖一触にされるのは俺の方でしょうね」

 

もし、その評価が本当だったら、俺がフォン・ローエングラム姓だった頃にせめて一度くらいは勝ったことだろう。

”もう一つの記憶”が果たして並行世界の俺なのか前世の俺なのかは知らんが、少なくともラインハルト・フォン・ローエングラムだった頃の俺は、圧倒的に劣勢だった時のヤン・ウェンリーにすら土を付けたことは一度もないぞ?

 

「ミューゼルには悪いけど、ボクも同意見だ。ミューゼルに……って言うよりヤンが同等の戦力を持ちながら、誰かに負けるというのはちょっと想像できないな」

 

認識が同じなようで何よりだ。

 

「天才って言うなら、むしろヤン先輩の方なんじゃ?」

 

 

 

「天才ってのとちょっと違う気がするよ」

 

ワイドボーン先輩は少し難しい顔をして、

 

「ボクが思うにヤンの強さは”異質”だ。ミューゼルは確かに強いよ? だけどそれは王道の強さであり、正道の強さ……正面から敵をねじ伏せ、叩き潰す強さだね」

 

そう評されるのは悪い気分じゃないな。

 

「じゃあ、ワイドボーン先輩は何が”異質”だと?」

 

「そうだね……」

 

先輩は腕を組み、

 

「正道を十全に知りながら、()()()()()()()()()使()()ってところかな? ボクじゃあ上手くカテゴライズってぐらいに」

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

「ふぅ……」

 

「お疲れ様、ラインハルト君」

 

先輩が帰った頃を見計らって、アヤがコーヒーカップを下げに来る。

同時に替えのコーヒーを持ってくるあたり結構気が利く。

 

「ワイドボーン大尉、なんだって?」

 

「一言で言えば、作戦の確認だ」

 

少し言っておくと、俺の率いる駆逐艦小戦隊に限らず、各中佐の麾下戦隊から10隻ずつ、合計40隻がヤン先輩の輸送船団本隊の直掩に回される事になった。

指揮系統で言うと、チュン・ウー中佐からヤン先輩直轄に配置換えになったということだ。

 

(まあ、隙をついて小水雷戦隊が奇襲で切り込んでくる可能性は十分あるからな)

 

ワイドボーン先輩風に言うなら、『大きな魚は網で捕らえられるが、小さな魚は網目を抜けてくることがある』からな。

なら、こちらも小回りの利く部隊で対応するのは当然だろう。

 

「……大変そう?」

 

「それなりにな」

 

だが、

 

「まあ、ヤン先輩の指揮ならそうそう負けることはないだろう」

 

……アヤ、何故そこで生暖かい笑みを俺に向ける?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




読んでいただきありがとうございました。

そういえば、このエピソードで第069話、「69」……なんか妙に胸躍る言葉だ(笑

今回は珍しく(というか初めて?)、ヤンがメイン・モノローグ担当です。
基本、

ラインハルト→一人称視点
ヤン→三人称視点

って書き方だったんですが、なんか”猫と借金の文豪(なつめ・そうせき)”も読んでるらしいヤンが、割と愉快な思考してるので、つい我慢できなくなりました(^^
バグダッシュ、実はは半ば確信犯的にパシらされてた罠w


そして最近、オチ担当が板についてきたアオバ・アヤ大尉。
というか、もしかして……外堀埋めにかかってる?










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第070話:”銀河(帝国)初老列伝 ~銀老伝、爵位持ちになろうが苦労するのは変わらない”

今回はサブタイに偽りなしの帝国サイド、そしてまたしても初登場原作キャラが……(^^





 

 

 

さて、舞台は再び変わり銀河帝国番外地、イゼルローン回廊同盟側出口付近、アルテナ星系……

イゼルローン要塞で飲むコーヒーは、苦い。

 

「貴殿らは、行かないのか?」

 

それは答えがわかりきった質問というより確認の言葉だった。

意気揚々とイゼルローン要塞を出港する貴族率いる艦隊……貴族達が勝手に名付けた名称で言うなら”ヤン・ウェンリー討伐艦隊”、2ルーチン分の3000隻、実にイゼルローン要塞駐留艦隊の2割が出港する様をイゼルローン要塞駐留艦隊司令本部の巨大立体投影ディスプレイを見ながら、ロマンスグレーなお髭がダンディーなナイスミドル末期……

”ウィリバルト・ヨアヒム・フォン・メルカッツ子爵大将”は、チベットスナギツネのような苦く乾いた表情でその様子を眺めていた。

 

「ええ。我々には、特に慌てて爵位を引き上げる理由がありませんので」

 

そう珍しく敬意を払って答えるのはオスカー・ロイエンタール・フォン・マールバッハ伯爵少将に、

 

「今更、領地が増えたところで管理が面倒なだけですしねえ」

 

といつものように軽薄に笑うアルフレット・フォン・ランズベルク伯爵大佐。

 

「そうか……」

 

そう短く返すメルカッツの胸に去来するのは虚無感だった。

メルカッツは、若き野心あふれた貴族たちがこのような軽挙妄動に走る遠因は自分や、かつてはお互い距離があったが同じ職場で働くようになって意外と共通点が多く意気投合、今や良き飲み友達となった現イゼルローン要塞司令官である”グレゴール・フォン・ミュッケンベルガー子爵大将”にもあると思っている。

 

そう、自分もミュッケンベルガーも()()()の戦争貴族』なのだ。

ミュッケンベルガーは伯爵家の次男、自分は子爵家の三男……帝国開闢から続く名門軍人家系とはいえ、本来なら貴族という地位だけで家督(=爵位)を継ぐことはかなわないはずだった。

 

だが、その武功がフリードリヒIV世に認められ、二人そろって大佐昇進時に男爵位が、正規艦隊を率いれる中将昇進時に子爵位が与えられたのだった。

そういう経緯もあり一時は二人はライバルと目され、周りの目を気にし長く腹を割って話し合う機会はなかったが……前述の経緯や、互いに切磋琢磨を厭わない、帝国貴族には珍しいタイプの質実剛健な気質なせいもあり、現在のような関係になったのだ。

 

爵位を持てなかった貴族が、戦功天晴也(あっぱれなり)という理由で爵位と領地が皇帝よりの恩賞として与えられた最初の実例……そして、戦功認められれば最下爵位である男爵でなく子爵への昇位があると示してしまった世代……

 

だからこそ、爵位を家督を継ぎたくても継げなかった貴族(もの)達は野心(ゆめ)を見る。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

豪腕帝”フリードリヒIV世”は、カストロプのような一部の例外を除き、領地持ちたる封建貴族には古式ゆかしい責務と役割を義務として課している。

ステレオタイプの帝国貴族がよく言う、『帝国(あるいは皇帝)の藩屏(はんぺい)』としての役割だ。

そして、フリードリヒIV世は有言実行を好むとされている。

何度か出てきた『貴族の責務を果たさぬ(=自ら戦おうとせぬ)貴族は貴族に非ず』だ。

 

フリードリヒの定めた非貴族は『参内不要』の一言で、議会が未だに永久解散中である為に宮廷政治が一般である銀河帝国における政治的発言権を完全に封殺、それに少しでも不平不満を現すようなら『叛意あり』とされ、容赦なく取り潰された。

そして、取り潰し接収した貴族の領地や財産を、新たに男爵なった者たちに分け与えた。

 

このような状況、もし原作と呼ばれる世界なら貴族の総スカンを食らいそうだが……実はその政策を大絶賛して積極的に協力したのが帝国の二大門閥、ブラウンシュバイク公爵家とリッテンハイム侯爵家だ。

 

前にちらりと触れた気はするが……実は両家現当主のオットー・フォン・ブラウンシュバイクとウィルヘルム・フォン・リッテンハイムIII世は、結婚前の若い頃に艦長→分艦隊の提督として前線に立ち(今のマールバッハ伯のような感じ)、自由惑星同盟軍相手に、あるいは国内の謀反貴族相手に大きな戦果を上げている。

 

その時に補佐したのが、同じく若き日のメルカッツやミュッケンベルガーだったりするのだが……

 

その戦功あらばこそ二人はフリードリヒの娘を娶ることができ、その婚姻と皇帝家の威光を原動力に飛躍。今の大門閥としての権勢を築いた。

例えば、オイゲン・フォン・カストロプ公爵が前出の銀河帝国財務尚書という国家屈指の要職に就くにもかかわらず、爵位が低いリッテンハイムより貴族として軽く低く見られるのは、(ひとえ)にこの従軍経験の差だと言われてる。

 

実際、カストロプは不正蓄財で貯めに貯めた総資産ならブラウンシュバイクもリッテンハイムも上回る。

だが、その門閥はあるにはあるが、両家に比べるとずっと小さい。

それは彼の行動ゆえの人望/声望のなさも確かにあるが、やはり今の帝国の価値観にはそぐわない『戦一つ満足にできない腰抜けのヘタレ』と他の貴族に思われていることは大きいだろう。

今の銀河帝国は、金の力だけで全てどうにかなるほど甘い国家ではない。

また、それに起因してカストロプが「皇帝に好かれてない」という噂がまことしやかに宮廷を巡っていた。

 

 

 

だからこそ、親から何も継げないハングリーな貴族は、一縷の望みにかける。

平民でも所定の武功を上げれば、一代限りの名ばかり貴族ではあるが、”銀河帝国騎士(ライヒス・リッター)”になれる。

そして、最下位のライヒス・リッターになってしまえば最下層とはいえ貴族であり、武功が認められれば爵位持ち……男爵になる権利があるのだ。

 

生まれながら貴族……選ばれた自分たちなら、機会(チャンス)さえあれば平民たちなぞよりずっと立派な男爵になれると。

まこと自分勝手な選民思想だが、帝国貴族にとってはデフォルト的な考え方だ。

ステレオタイプの帝国貴族は、無条件で自分達が『平民より遥かに秀でた選ばれた人間であり、皇帝から特権が与えられるのは当然至極』と考えている。

そんな考え方が浸透し蔓延してるからこそ彼らは、自己評価が不当というより法外に高く、その裏返しで自由惑星同盟を無駄に見下していた。

 

この世界線において、確かに自由惑星同盟市民(リベレーターズ)は奴隷の末裔ではない。

だが、所詮は平民なのだ。

しかも、偉大なるルドルフ・フォン・ゴールデンバウムの大いなる恩寵も理解できずに国を飛び出るという暴挙だけでも許しがたいのに、数百年の時を経たというのに慈悲深くも銀河帝国の威光にひれ伏し(こうべ)を垂れる栄誉を与えたのに、それすらも断り銃を向けてきた愚か者とその末裔だ。

まさに”叛徒”と呼ぶに相応しい。

 

そもそも、彼らの価値観なら平民が高貴なる貴族に反旗を翻すことこそ、許されざる大罪なのだ。

平民とは、(ひざまず)き許しを請うことしか許されない生き物なのだから。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

……とまあ、こんな根拠もへったくれもない唾棄すべき考え方を心底危険視する貴族は、帝国にとって幸いにしてと言うべきか?決してごく少数という訳ではない。

例えば、一度でも自由惑星同盟軍と戦い、勝敗に関わらず痛い目を見た貴族は、少なからず意識を切り替える。

でなければ、早々に同盟軍にハチの巣にされるだろう。

いわゆる『わかっている奴はわかっている』のだ。

無論、マールバッハ(ロイエンタール)やランズベルクのように歴史から学び、賢明にも最初から舐めプしないで対峙する者はいるがそれは少数派、大半の人間とは痛い目をみないとどうにもならない生き物だ。

 

「どのくらい生き残るか……」

 

メルカッツには、ある程度の未来予想はできていた。

だが、かと言って無理に止めるわけにもいかない。

銀河帝国軍には、階級だけでなく貴族の身分という順列がある。

何より、『メルカッツ子爵やミュッケンベルガー子爵のようになりたい』と遠回しに、されど声高に叫ぶ年若の貴族を止めるのは、どうにもはばかられた。

 

更に嘆かわしいのは、そのように貪欲に戦果を勝ち得なければ未来のない貴族だけでなく、爵位の継げる嫡男の身でありながら『箔付け』の為に出兵してるものも少なからずいるのだ。

 

「半分でも生還できれば御の字ではないですか?」

 

メルカッツの苦悩を察してはいるが、だからこそ的確な数字を返すマールバッハに、

 

「できるだけ間引きしてくれると手間がなくていいよねぇ~。誰がとも、どっちがとも言わないけど」

 

率直すぎる感想を述べるランズベルク。

そんなランズベルクを見ながら、メルカッツはため息をつき、

 

「ランズベルク伯爵」

 

「なんでしょう?」

 

「私とミュッケンベルガー子爵の連名で、卿の昇進申請を本国に出しておく。卿の実績と爵位ならすぐに少将位が認められるだろう」

 

「それはそれは」

 

楽しげに笑うランズベルクに、

 

「昇進次第、1ルーチン1500隻の再編と掌握を」

 

”ヤン・ウェンリー討伐艦隊”とやらは、理路整然とした通常1500隻1ルーチン小艦隊×2で出撃したわけではない。

我も我もと出撃に挙手する貴族たちに、『最低限の巻き添え』を付けたらこの数になっただけだ。

別の言い方をすれば、イゼルローン要塞駐留艦隊が許容できる被害の上限値と言っていい。

メルカッツとしては、軽挙妄動に走る貴族だけを生身で真空に放り出したかったが、立場上そういうわけにもいかないのがつらいところだ。

おかげで、『彼らが戻ってこないことを前提に』駐留艦隊を再編せねばならなくなった。

 

「畏まりましてでござ(そうろう)

 

重くて苦いメルカッツの言葉にランズベルクは恭しく一礼した。

 

 

 

果たして銀河の歴史は、どう転ぶのか……?

とりあえず、メルカッツはせめて頭痛の種が減ることを心の片隅で勝利の女神(フレイヤ)に願っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




読んでいただきありがとうございました。

現在、休止中の”金髪さんのいない~”でもですが、何かと優遇されるメルカッツさんの初登場です(^^

帝国側に金髪さんがいない以上、腕のあるベテランと有望な若手が手を組まないと、なんか将来的に帝国詰みそうですからね~。

なので、メルカッツとミュッケンベルガーは関係の大幅改善した上に昇進速度上昇、爵位付与、『現在の帝国の双璧』的な立ち位置になってもらいました。

多分、メルカッツ/ミュッケンベルガーコンビが居座る時代が、おそらくイゼルローン要塞が『最も硬い時代』なのでは?と考えています。



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第071話:”人類は宇宙を生活の場にして久しいけど、結局、人類外高度知的生命体には出会えてないんだよね”

いよいよ、超久しぶりの戦闘パート開始です(^^





 

 

 

ヴァンフリート星系外縁部、第8惑星(ヴァンフリート星系最外惑星)公転軌道付近

 

 

 

「いよいよ、会敵だねぇ」

 

積荷の9割をアスターテで降ろし身軽になった輸送艦10隻を含め総勢500隻弱、小艦隊規模になってしまった”YS11特務護衛船団”と、その中心位置からやや後方に陣取った旗艦”バーミンガム”。

この極めて標準的な巡航艦のブリッジで、索敵部隊からの敵艦隊発見の報告を受けたヤン・ウェンリーは大した感慨もなく……というより、あまりにも読み通りの位置に読み通り数の敵がいたものだから、逆に拍子抜けしたような顔をしていた。

 

「あー、やっぱり抜け駆けしていたか」

 

艦隊の索敵圏内にいる艦隊は、自分たちと同じく500隻ほど。つまり、帝国のイゼルローン駐留艦隊の最小行動範囲だった。

 

 

 

さて、そもそもヤンの”読み”とはどういうものだったのか紹介しておきたい。

 

『最大出撃数は、多くても標準保有艦数の2割……3000隻程度だよ。それ以上の投入は、本国からの増援が到着する間、哨戒網に重大な影響がでる。例えば、今は1ルーチン3個小艦隊1500隻、計10ルーチン交代制で動いてるけど、仮に3000隻減れば1500隻体制を維持するなら8ルーチンで動かなければならなくなるし、10ルーチンを維持しようと思えば1ルーチン辺りは1200隻になる。どっちにしても現場の負担は増すからね。それ以上の損害は、現哨戒体制の直接的な瓦解に繋がりかねないよ……あくまで私見だけど、イゼルローン要塞って強力な防御陣地があっても、帝国貴族の我儘と戦力維持を天秤にかけて許容できる損害はこのくらいじゃないかな?』

 

『だから我々は、当面3000隻の敵艦の殲滅を想定すればいいんだけど……でも、3000隻を一度に相手することは考えなくていい。出てくるのは、ほぼほぼ間違いなく悪い意味で功名餓鬼な貴族たちだろう。そうなるようにお膳立てもしたしね。そして今も自分達が”喰いでのある獲物”のように振舞っている。だからこそ、彼等は連携がとれないのさ。何故かって?』

 

『そりゃあ、彼らがこの船団を壊滅、あるいは全滅()()()()を前提に動いてるからさ。得られた戦功戦果は、基本的に頭数割されてしまう。誰が旗艦を沈めたかよほど明確にわかる……単艦同士の決闘じみた一騎討ちとかの特殊過ぎるシチュエーションならともかく、集団vs集団の艦隊戦でそんなことは滅多にないさ。仮に”バーミンガム”が沈んだとしても、自分が沈めたと主張する輩ばかりだろうから、最終的にはそうならざる得ない。ならば、割られる頭数は少なければ少ないほどいい』

 

『だけど、彼らも”500隻を最小行動単位とする”って規範からは外れないだろうね。軽挙に走る貴族っていうのは統計学的な行動パターンから考えて、勝算のない投機的な行動をする比率が平民の職業軍人より大きいから思慮深くはないけど、反面臆病ではある。頭数が多すぎて旨味が減るのも困るけど、ある程度群れて行動するのは彼等の志向にも合ってるのさ』

 

このような思考から現在の行動予測をしたわけだが……

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

『ヤン船団長、彼我の艦数はほぼ同等。それでも敵は戦いを挑んでくるかい?』

 

そう通信越しに確認してきたのは、戦艦”ガングート”に陣取るチュン・ウー・チェン中佐だった。

 

「きますよ。十中八九。帝国貴族たちの大半は同数で平民と戦えば、彼我の能力差関係なく必ず自分たちが勝利すると無条件で思い込んでますから」

 

『度し難いな』

 

そう返してきたのはラルフ・カールセン中佐だ。

彼が渋面を作るのは、500隻という敵数の多さではない。その艦隊運動がまるでなってない……いや、むしろ艦隊運動になってないからだ。

 

なんと言うか……500隻の小艦隊というよりも、多くても数十隻規模の集団がバラバラに前進してきてる印象なのだ。

そんな状況で、本当に戦う気なのか?とカールセンは問いたい気分だった。

 

『まあ、与し易い相手というのはありがたい……そう思うことにしておくか』

 

とはライオネル・モートン中佐の弁。

敵は哨戒も杜撰(ずさん)らしく、まだこちらの存在を気づいた様子はない。

主導権は、自分たちにある。

 

『んで、ヤン。どうやって蹴散らすつもりだ?』

 

そう犬歯を剥き出しにして獰猛に笑うのは、グエン・バン・ヒュー中佐だった。

どういう心理的動きがあったか知らないが、グエンはヤンを気に入ったらしく、既に階級抜きの気安い呼び方になっていた。

無論、それを気にするような繊細さをヤンは持ち合わせていない。

 

「全体的に見てバラバラですが、我々から見て右側の集団が、密度が薄い上に誤差の範囲ですが動きも悪そうだ。という訳で狙うのはまずその集団で」

 

流石のヤンも、敵の無様な行軍を見て、艦隊とか陣形という言葉を使えなくなってしまったようだ。

 

『ヤン船団長、こちらの戦術は?』

 

チュン・ウーの問いにヤンは少し考え、脳内でシミュレートし、

 

突撃円錐陣形(ドリル・ブレイク)を形成、最大戦速で右集団に突破/咄嗟砲戦を仕掛けて切り崩し、後方に抜けたのちに左旋回で反転、反転しつつ突撃陣形から並列陣形(パラレル)に移行。そのまま半包囲砲戦を展開っていうのはどうですか?」

 

突撃円錐陣形(ドリル・ブレイク)”とは、読んで字のごとく艦を円錐状に配置する陣形で、先端から外側にかけて戦艦などの火力/防御力の高い戦闘艦を配置するのが秘訣だ。

第009話で、リンチが貴族艦隊に使った”突撃紡錘陣形(パンツァー・カイル)”のバリエーションと考えて良い陣形で、突破戦では割とメジャーな陣形だ。

大きな違いは旗艦の位置取りで、原則パンツァー・カイルは紡錘の直径の最も太い部分、つまり文字通りの艦隊のど真ん中に位置し、ドリル・ブレイクは円錐の底面よりやや内側に陣取る。

また、同じ突破陣形ではあるがパンツァー・カイルは突破時の防御に優れ、ドリル・ブレイクは前方投射火力が集中できるため攻撃力に優れるとされていた。

 

ドイツ語と英語の揺れがあるのは、同盟標準語が元々かつて地球で使われていた言語のミックスであるというのもあるが、由来がパンツァー・カイルが第二次大戦のドイツ機甲戦陣形由来なのに対し、ドリル・ブレイクはとあるロボットアニメの必殺技からきているからだ。どうやらこの陣形の考案者が、某ドリルロボットアニメの大ファンだったらしい。

 

誤解のないように言っておくが、別に艦隊が螺旋しながら前進するわけではない。

 

蛇足ながら……同盟では、「異星人=人類外高度知的生命体が出てくるSFっぽい作品」が時代を問わずに人気がある。

人類が宇宙を生活の場にしてから1000年近く経つが、未だに人類以外の文明を持つ高度知的生命体は発見されていない。

そして現在、「異星人が攻めてくる」というシチュエーションは、同じ地球発祥の人類が相手だ。

はっきり言って、”宇宙のロマン”とやらのかけらもない。

どうやら現実が世知辛い反動で、地球だけが人類の生活の場だった時代に想像の翼を羽ばたかせ描かれた作品が人気を博してるようだ。

 

『ククク! 中々ゴキゲンな作戦じゃねぇか? ヤン、ドリルの切っ先は俺にまかせろよ。とびっきりの”グエン・ギガドリル・ブレイクゥッ!!”を見せてやんぜ!』

 

上機嫌に笑うグエンにヤンは苦笑で返し、

 

「あんまり張り切らないでくださいね? これはあくまで初戦ですから」

 

『あいよ』

 

 

 

その後、細かいう直前ミーティングを終え、

 

「敵艦隊が有効圏内に入り次第、電子妨害(ジャミング)を開始せよ」

 

いよいよ二つの艦隊は激突する……!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




読んでいただきありがとうございました。

グエンさんが原作よりずっと若いせいか、元気すぎる(笑
ドリル・ブレイクの元ネタは、間違いなく某天元突破ドリルアニメです(^^
グエンさん、間違いなく好きだろうな~と。

ヤン、まともに司令官をやりみたいですが、別に螺旋力に目覚めてる訳ではありませんw





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第072話:”覚醒の始まり ヤン・ウェンリーは戦争という事象に対して正直になった”

サブタイ通りの内容かな?と。
今回、ちょっとラップが損な役回りかもしれません(^^




 

 

 

「な、なぜだ……なぜ、こんなことに」

 

帝国軍少佐ヨーゼフ・フォン・ゲルベンスは、炎に包まれる巡航艦”レマーゲン”のブリッジの中でどうしてこんなことになってしまったのか自問自答していた。

 

あまり裕福でない男爵家の三男として生まれ、嫡男の予備の予備として育った彼は、長兄に家督が譲られた時に自分が受け取れる物がほぼ皆無であることを知ったとき、素直に絶望した。

 

そして、自らの身を立てるために『貴族枠』がある銀河帝国士官学校に入学する。

その前、メルカッツ大佐、ミュッケンベルガー大佐が相次いで男爵位と領地を褒章と共に渡され、皇帝陛下の提唱した『戦争貴族』が大きくクローズアップされ、帝国貴族界隈で大きなムーブメントとなった。

 

ゲルベンスも、そうなりたいと願った。領地と爵位を賜り、堂々とした帝国貴族として立身出世したかった。

前出の社会情勢で多くの貴族子弟の同級生がいたが、その中でもそう悪くない成績で卒業できた。

ゲルベンス家は大貴族の門閥という訳ではなく、そのせいか貴族としては出世はそう早いものではなかった。

だが、ここまで来たのだ。

巡航艦の艦長となり、叛徒共に裁きの鉄槌を振り下ろして自らの栄達の糧とする……そのはずだったのに、

 

「こ、こんなところで……」

 

だが、どこからともなく叛徒の艦隊が現れて砲撃、何らかの対応をする前に直撃を喰らってレマーゲンは大破した。

叛徒を一方的に打ち据えるはずだったレマーゲンと自分は、一発も撃たないうちに瀕死の危機を迎えていた。

朦朧とする意識の中、ゲルベンスがこの世で最後に見た光景は倒れ来る白亜の柱(しにがみ)だった。

 

「か、かあさま……」

 

 

 

数秒後、レマーゲンは爆炎に包まれる。

なお、生存者はいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

 

 

 

 

 

 

 

『だぁ~はっはっはっ! ヤン、見たか? 俺様の”ギガドリル・ブレイク”をよぉっ!!』

 

「ええ。お見事でした」

 

機嫌が天元突破してるグエンに、ヤンはにこやかに答える。

実際、敵貴族艦隊の索敵が不十分だったせいもあり、グエンの戦隊を切っ先にしたYS11特務護衛船団の”突撃円錐陣形(ドリル・ブレイク)”による突破戦術は、半ば奇襲のような形になり”こうかはばつぐんだ!”であった。

 

ヤン側から見て右、帝国艦隊左翼はまるで塩が水に溶けるような勢いで瓦解……いや、むしろ消滅していた。哀れな巡航艦レマーゲンは、この時に致命傷を負ったのだろう。

ヤンの艦隊三次元的な表現なら10時方向下方から突撃/接敵し、咄嗟砲戦で火線を集中させ左翼を切り崩した後に勢いを殺さずそのまま4時方向上方へと抜け……

 

「では、お歴々……」

 

チュン・ウー・チェンが、グエン・バン・ヒューが、ラルフ・カールセンが、ライオネル・モートンが同時に頷く

 

「全艦隊、左旋回開始! 緩速回頭しつつ陣形を”水平陣形(パラレル)”に切り替え、敵後方より半包囲展開!!」

 

 

 

突撃からの咄嗟砲戦はただの始まり、究極的に言えば敵を混乱させるだけの呼び水に過ぎない。

後の歴史家や戦史研究者の一部が語る”ヤン艦隊の最初の犠牲者”に、今度こそ最悪の災厄が訪れようとしていた……

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

ヤンは確かに敵艦隊が烏合の衆が如き動作から予想はしていた。。

 

『おそらく、こちらが反転砲戦を開始する頃に、敵は”柔らかい横っ腹”を見せているかもしれませんね』

 

予想していたが、現実はヤンの予想以上に悲惨だった。

 

『どうなってんだ……こりゃ?』

 

猛将の器たるグエンは、あまりに無様な敵の状況に首を傾げていた。

驚くべきことに敵艦同士がいたるところで衝突し、砲撃開始以前に半ば自滅していたのだ。

 

「おそらく、反転を命じたのでしょうけど、肝心の方向と速度を指示してなかったんでしょうね」

 

酷く冷めた目で、あるいはひどく淡々とした口調でヤンは告げた。

普通、艦隊運動は事前にコンセンサスを執る。

具体的には「どの命令で、どういう方向でどのような速度で動くか?」である。それが無ければ、即座に船同士が衝突してしまうだろう。そう、今の敵艦隊のようにだ。

おまけに、第063話で触れたが……船が展開する障壁”防護フィールド”は、その性質から互いが接触した場合には干渉をおこし、中和してしまう。

そうなれば、高速で動く金属の塊同士が直にぶつかるのだ。結果は考えるまでもない。

 

(おそらく、今回の艦隊……と呼べないような集団は、まともな事前打合せをしてなかったんだろう。普段、同じ艦隊で行動してない貴族の寄せ集め。きっと、そんなところだ)

 

まさに地獄絵図、阿鼻叫喚の様相を呈しているが、かといって手を緩める(いわ)れはない。

何より、こちらの準備は終わっているのだから。

だからこそ、ヤンは命じる。

 

「全砲門開け! 砲撃開始……!!」

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

ただただ圧巻であった。圧倒的であった。

半包囲する自由惑星同盟艦隊から放たれた無数の集束高エネルギーは、半壊していた帝国貴族の艦隊を飲み込み、宇宙空間に数えきれないほどの爆光を煌めかさせた。

それはある種の美しささえ感じさせる物だったが、同時に数えきれない命が消える光でもあった。

 

「各艦、砲撃を続行しながら距離を詰めつつミサイル斉射用意。弾頭選択、レーザー水爆

 

「ヤン!?」

 

驚いたのはラップだった。

その命令は、士官学校以来の友人が発したとは思えないほど非情な物だったからだ。

 

「ラップ、今の我々には捕虜を必要としないし、捕虜を回収する余裕も生憎と無いんだ」

 

「だが……」

 

”後続の艦隊”だってそう余力はないだろう。そして目の前にいるのは自国領を侵犯してきた敵国の軍艦とそれを操る軍人であり、何よりまだ白旗を掲げてない」

 

「なら、せめてこちらから降伏勧告を……」

 

「平民に膝を屈しろと? 我々の誘いに乗りいきり立ってノコノコ出てきた貴族が、それを素直に受けると思うかい?」

 

「だが……」

 

「それに交戦規定に、降伏勧告は義務付けられてはいないよ」

 

尚も何か言いたそうなラップだったが、ヤンはひどく平坦な声で、

 

「ラップ、とても残念なことに我々は現在進行形で戦争をしてるんだ。そして私は船団長として……この船団の全員の命を預かる立場の者として、敵よりも味方の命を優先せねばならない」

 

「……ヤン、変わったな」

 

「そうかもね」

 

だが、ラップの言葉にヤンは影のない笑顔で、

 

「私にも”守るべき者”ができたんだ。変わらざるをえないさ」

 

ヤンは想像する。

かつて自分や義弟、リンチが目の当たりにした帝国貴族の艦隊がエル・ファシルに愚にもつかない理由で押し寄せた姿が、一歩間違えば守りたい……愛すべき者が住むハイネセンにも起こりうることを。

 

「だから叩けるときには叩く。徹底的に、ね」

 

その言葉に偽りはなかった。

ヤン・ウェンリーという男は戦争という事象を受け入れ、同時に戦争に対して正直になっていた。

 

 

 

この最初の戦いの後にイゼルローン要塞に帰還できた帝国艦は、最終的に500隻中20隻に満たなかった……そう記録される事になるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




読んでいただきありがとうございました。

ヤンの覚醒、その初期段階が発動したみたいですよ?
なので……

・「殺し過ぎて自分が虐殺者ではないか?」と思い悩む標準型ヤン・ウェンリーへの分岐、あるいは回帰√は消滅しました。

・銀河帝国軍人に対するヴァルハラへの大量輸送フラグが立ちました。

・ヤンに”黒魔術師”フラグが立ちました(えっ?


某転生粘体(スライム)の大賢者風の声で脳内再生お願いシャス(^^







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第073話:”計算違い 初戦から紅茶スキーさんは色々やりすぎたようですよ?”

貴族のしがらみって、なんか面倒そうです(^^




 

 

 

ここは(帝国的には)地の果て、イゼルローン要塞。

泣く子も黙る地獄の一丁目。功名を、栄達を求める貴族たちの流れ着く場所……

 

「すまぬな。(わし)は卿らに頼まねばならん」

 

その日、ウィリバルト・ヨアヒム・フォン・メルカッツ子爵大将は、階級では下だが爵位で上回る二人の若くとも信頼に足る貴族に、乗り気ではない様子でそう切り出した。

 

「いえ。これもお役目、気になさらずに」

 

敬意の感じる丁寧な返しのオスカー・ロイエンタール・フォン・マールバッハ伯爵少将。

常に気品はあるが、どこか露悪趣味的な慇懃無礼さがそこはかとある彼にしては、素直に敬意を表する相手はレアだ。

 

「”帝国貴族の高貴なる義務”ってやつですよ♪ それに敵を撃滅してこいっていうんじゃないですから気楽なもんです」

 

と言葉通りに気楽に返すのは、つい先日に銀河帝国軍少将に昇進したばかりのアルフレット・フォン・ランズベルク伯爵だ。

 

「それに僕としても少将の階級章を付けてすぐ、いきなり怠惰って評価は受けたくないですしね」

 

「すまぬ。将来を嘱望される卿らに、子供の使いのようなを真似をさせて」

 

「我らより手間のかかる”功名餓鬼(ガキ)”がいる以上、仕方ありません」

 

 

 

さて、このイゼルローン要塞に詰める”四人の爵位持ち(フォー・カード)”のうち、三人が顔を突き合わせているのは無論、理由がある。

 

それはついさっき、FTL(超光速)通信で、辛くもヤンの半包囲(からの)殲滅戦(レーザー水爆付)を生き延び、通信妨害エリアから脱出できた第一陣から緊急電が入ったのだ。

その受信したデータは想像以上に深刻な物だった。

 

第一陣の95%が壊滅したのも勿論だが、抜け駆け狙いからなのか? 二つの集団が500隻の最小単位で未だに行動してるのが問題だった。

無論、メルカッツは事前に『なるべく纏まって行動するように』と子供に集団登校を促すような通達をしていたのだが、どうやら出撃した貴族の半分がそれを聞き入れなかったようだ。

まあ、あえて命令という形にしなかったのは、半ばこうなる事がわかっていたから……実は、これも爵位持ちとなり貴族の力関係やら何やらを、知りたくもなかったことを知ってしまったメルカッツなりの気遣いともいえる判断なのだが、簡単に言えば「上官でもあり爵位持ちの貴族からの公式な命令を無視」ともなれば、例え生きて帰ってこられたとしても懲罰は免れない。

メルカッツも死体蹴りをする趣味はなかった。

 

流石に第一陣の惨状を見て、ヴァンフリート星系第4惑星付近に展開していた計1500隻の後方集団は危機感を覚えたせいでどうやら合流できそうだが、先行する2個の500隻集団は、彼我の距離から考えてどんな手を打とうが最早どうにもならない……味方が辿り着くまでに接敵、各個撃破されるだろうと予想していた。

 

(一応、先行集団には後退し、後方の1500隻と合流するように指示は出したが、)

 

おそらく面子の問題やら何やらで、素直に呑むことはないだろう。

第一陣の500隻の壊滅を確認したのに、まだ後退ではなく前進を選んでいることからもわかる。

 

しかも、音声通信では何とか生き残ったフォン持ち(きぞく)が『5000隻以上の大艦隊に包囲された』なんて、混乱してるのか虚偽報告なのか分からない報告を上げてきたが、ジャミングエリアを出たとたん回復したデータリンクでもたらされた戦闘ログを解析した結果、”ほぼ同数の敵に蹴散らされ、惨敗した”という結論が出たのだ。

 

 

 

無論、メルカッツも盟友であるミュッケンベルガーも頭を抱えた。

想像以上にひどい有様だったのだから無理もない。

二人のベテランの結論は、

 

『『これは1500隻の方も危ない』』

 

誤解のないように言っておくが、この戦争貴族の基準(スタンダード)を作ったと言える二人の子爵大将は、今回の件が誘引であることをちゃんと予想していた。

確かにヴァンフリート星系に基地設営の荷物を運んでいるだろうが……エル・ファシルの件があってそう月日が流れてないこの時期に、同盟の立場になればヴァンフリート星系に基地を作るより、いつマンハントなぞ始めるかわからない貴族を”間引きする”方が状況的に理にかなってると考えたからだ。

 

正直に言えば、メルカッツにせよミュッケンベルガーにせよ、下手に名家の門閥子弟が混じってるせいで扱い辛い若く野心あふれた貴族が『多少は痛い目を見て』逃げ帰り、多少なりとも扱いやすくなるなら、ある程度の犠牲は看過しようと思っていた。

だが、

 

(この損耗率は……無いな)

 

敵護衛船団の航路は、実は事前にもたらされた情報から外れていない。いや、むしろ不気味なくらい事前情報通りだった。

 

(おそらくは、全てが敵の作戦……そう考えた方が無難であろうな)

 

敵船団はこちらの艦隊が待ち受けていることを予想して……いや、むしろこちらが待ち伏せしていることを前提に準備を重ねていたということなのだろう。

 

(つまりほぼ同数でも、完膚なきまで返り討ちにできるだけの戦力を用意していたということか)

 

無論、読者諸兄は真相を知っているだろうが……これは、メルカッツの考えすぎだった。

ヤンは『貴族艦隊が、抜け駆け狙いで500隻の最小単位で襲撃してくる』事と、『それを各個撃破する』ことは想定していたが、ああも容易く瓦解することまでは想定していなかった。

 

だからこそ、ここで”計算違い”が生じたのだ。

ヤンの率いる”艦隊”の戦力を過大評価したメルカッツは、本来は機動予備として準備していた信頼できる二人の爵位持ち貴族提督、マールバッハ(ロイエンタール)とランズベルクに急遽、『迎え』を頼んだのだった。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

「それにしても、本当に叛徒と正面切って戦い、”救出”する必要はないので?」

 

確認するようにロイエンタールが問えば、

 

「ない。無理に戦うより、むしろこれ以上の戦力の損耗を防いでくれた方がありがたい」

 

ロイエンタールとランズベルクが依頼……命令ではなく依頼されたのは、あくまで撤退支援だった。

同盟の目的が予想通りイゼルローン要塞駐留艦隊の誘引と殲滅であれば、タイミング的に援軍として駆けつけ、窮地から「()()()()」のは難しいと判断され、もうロイエンタール達が着いたときには既に趨勢は決してるだろうから逃げ出すのを手伝え……つまりはそういう事だった。

敵兵力は500隻とは限らない。いや、むしろその部隊は輸送を兼ねた先鋒に過ぎず、後方に本隊があることさえ十分に予想される。

だが、現状こちらの哨戒網に引っかかってない以上、まだ本隊との距離はある……

 

(と思いたいものだな)

 

順当に考えるなら、現在場所が判明している500隻前後と思われる敵艦隊とこちらの500隻集団が接触する方が先だろう。

ならば、

 

(敗走するこちらの船を、可能な限り損耗を抑えて回収する必要がある)

 

メルカッツが一番恐れているのは、出した全ての艦が磨り潰されることだ。

そして古来より、撤退戦が最も損害を出すと相場が決まっていた。

 

「つまり、僕とオスカーが、味方が逃げ切るまで退路を維持すればいいってことですよね?」

 

「その通り」

 

ランズベルクの言葉にメルカッツは頷き、

 

「敵に追撃をあきらめさせられるのであれば、なお結構」

 

殿(しんがり)を固めるか……中々愉快な情景が見られそうだ」

 

そうロイエンタールは楽しげに微笑んだのだった。

 

 

 

 

 

 

それから数時間後、ロイエンタール率いる艦隊1500隻、ランズベルク率いる艦隊1500隻の合計3000隻がイゼルローン要塞を出港する。

果たして、彼らが目にするのはどんな戦場なのだろうか……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 




読んでいただきありがとうございました。


相変わらず苦労が絶えないメルカッツさんの回でした(^^
ヤンが()り過ぎたせいで、待機のはずだったロイエンタールとランズベルクが手勢引き連れて参戦することになったようですよ?



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第074話:”人間純度 善良な友人を望む男と同盟英雄伝説を望む男のちょっとした一幕”

今回はちょっと判断が難しい話かもしれないです(^^





 

 

 

「船団長のヤン・ウェンリー中佐だ。YS11特務護衛船団各員に告げる。負傷者の救護と治療を最優先に。士官用医務室に空きがあるなら、それも解放。警戒態勢を維持しつつもローテーションを組み、食事/休養を取るように。タンクベッドの積極的使用を推奨する。折角ある装備だ。使わないのは勿体無い」

 

ヤンは、船団旗艦”バーミンガム”ブリッジで艦隊内通信を繋ぎ真面目な口調で切り出した後に、ふにゃっと効果音付きそうな感じで頬を緩め……アンネローゼにいわせると、その顔を見てるだけでついつい押し倒して、本能の赴くまま子作りしたくなっちゃう♪と評判の”ヤンのほんわか萌え顔”で、

 

「緩みきって油断するのは駄目だけど、緊張しすぎるのもよくないね」

 

きっと原作という世界のヤン・ウェンリーを、「2秒スピーチのヤン」を知る諸兄にとって、今のヤンの姿……温厚という単語をそのまま音にしたような柔らかい声で言葉を紡ぐ姿は、もしかしたら奇異に映るかもしれない。

 

「食べれる時に食べ、休める時にはしっかり休むように。戦いはまだ始まったばかりだ。古今東西、ありとあらゆる英雄豪傑の最大の死因は疲労だと私は考えてる。英雄豪傑ですらない我々なら尚更だろうね。いざ戦闘って時にベストパフォーマンスを出せないで死ぬんじゃ、死にきれないだろ? 良い仕事は良い休養からさ」

 

そしてそれは、先程レーザー水爆弾頭ミサイルの艦隊一斉射で、500隻の敵艦の大半を沈めた男と同一人物とは思えない、穏やかな姿だった。

 

 

 

(我々は英雄豪傑じゃない、ね……)

 

同盟軍大尉マルコム・ワイドボーンは、熱量を感じる視線でヤンを見ていた。

 

()()()確かにそうだろうね。だが、ヤン。君は……)

 

「ヤン、そう言うならまず君が率先して、休息をとるべきじゃないかな?」

 

「ワイドボーン? いや、流石に船団長が真っ先に職場を離れるというのは……」

 

しかし、ワイドボーンは目を細めたまま笑顔を崩さずに、

 

「食事と休息を推奨するなら、まず上に立つ者が規範を示すべきじゃないかな?」

 

「わかったわかった。じゃあ、1時間ほど席を外す。ワイドボーン、ラップ、後は頼むよ」

 

ヤンは苦笑しながら席を立った。

無論、最新の哨戒/索敵情報の確認は忘れない。

現状こちらの哨戒圏に『敵艦見ユ』の報告が無い以上、どんなに早くともあと3時間は接敵しないだろう。

 

「ああ。細かい事後処理は任せてくれ」

 

「よろしく」

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

そしてヤンがブリッジを去った後のこと……

 

「ラップ、さっきのセリフはどういうつもりだい?」

 

ふと船団首席参謀のワイドボーンは船団副司令のジャン・ロベール・ラップに静かに、されど微かな怒気を滲ませながら切り出した。

 

「? ワイドボーン?」

 

「今回の作戦の主目的は、敵イゼルローン要塞駐留艦隊の誘引と撃滅。ヤンの命令のどこに意見具申する必要があったんだ?」

 

「……降伏勧告の具申が間違っていたとでも?」

 

「レーザー水爆の使用を止めようとしたこともさ」

 

「だが、上官が問題行動を起こそうとした時、(いさ)めるのも部下の義務だろ? 少なくとも教本にはそう書いてある」

 

ワイドボーンをスッと目を細め、

 

「ラップ、君がモラルが高い良き軍人であることは認めるよ。だが、モラリズムを発露すべき場面を少々考えてくれってことさ。今は戦闘中であり、作戦目的達成の為には、規範や模範を棚上げすべき場面があるんじゃないか?」

 

「……ワイドボーン、その言い回しだと、まるでヤンを全肯定しろと言ってるように聞こえるんだが? イエスマンでいいなら、俺たちがヤンの下に就く意味なんてないだろう」

 

「必要な意見なら言うべきだろうさ。それが副司令官であり、首席参謀の役目だからね。だけどあの時、あの場面での君の発言は必要だったかい?」

 

「……あの場面で躊躇せずにレーザー水爆を使用するのは正しいとは思えなかったな。少なくとも俺が知ってるヤンなら、結果は同じでも一考ぐらいはしただろうさ」

 

ラップのセリフに、今度こそワイドボーンは明確に視線を鋭くし、

 

「ラップ、変わることは罪なのかい?」

 

「なに?」

 

「ヤンは”より良き将”への道を歩み始めている。良き将とは、古来からより多くの敵を殺し、より多くの味方を生き残らせる将軍のことだ」

 

「今は古代の戦争をしてるわけじゃない! 我々は文明人であり、同盟軍は文民統制が本質(シビリアンコントロール)の軍隊だ!」

 

思わず声を荒げるラップだったが、ワイドボーンもひるんだ様子はなく、

 

「驕るなよジャン・ロベール・ラップ……人の本質はそう簡単に変わらない。故に使う武器と戦場が変わっただけで、人が殺し合うことを是とする戦争の本質は、古代も今も何も変わっちゃいない。シビリアンコントロールがどうこう言うのなら、迫りくる敵を……降りかかる火の粉を宇宙から抹消することを望むのも、また同盟市民の総意だろ?」

 

ワイドボーンは鼻で笑いながら、

 

「それともこう言った方がわかりやすいか? ヤンの”人間()()を下げようとするな。自由惑星同盟が欲するのは、常に効率よく敵を殺せる……()()()()()だ。ヤンにはその才能に長けている」

 

「っ! お前はっ!」

 

ガッとワイドボーンの襟首を掴むラップ。

二人の様子を唖然と見ていたアッテンボローが慌てて止めに入ろうとするが、ワイドボーンはそれを手で制した。

 

「何を怒ってるんだ?」

 

「友人を人殺しの天才呼ばわりされて黙ってられるかっ!」

 

「善人だな……いや、それは偽善だ。ラップ、俺たち軍人の本質はどんな大義名分や美辞麗句を掲げようが『国家に許諾された破壊と殺人』さ。そこに、特に戦場に立った時は人の善性を重要視するべきじゃない」

 

「……お前は、ヤンをルドルフ・ゴールデンバウムにでもするつもりか?」

 

「違うね」

 

ある意味、同盟人に対する侮辱的な言葉をワイドボーンはヘラっと笑い、

 

「確かにルドルフもその一形態だろうけど、決して主流とは言えない」

 

ワイドボーンは襟首を掴んでいたラップの手を払い除け、

 

「ボクがヤンに望むのは、ルドルフじゃなくて”英雄”さ。国家が悲劇に見舞われた時、人々に切望され、自然発生的にあるいは人工的に人類史上何度も生成されてきた”英雄”だよ。ボクはそれが見たいんだ……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結局、ワイドボーンとラップの口論は、殴り合いに発展することはなかった。

だが、ヤンが戻ってくるまでの間、二人が作戦に最低限必要な事務的な会話以上の言葉を交わすことも無かった。

 

ただただ、アッテンボローの困惑したような、同時に居心地の悪そうな顔だけが印象的な一幕だったと言える。

では、今回最大の被害者と言える彼から、心の内で一言……

 

(ミューゼル! フォーク! なんでお前らがいないんだよっ!? ズリぃぞっ!!)

 

ラインハルトは駆逐艦イナヅマの艦長室でアヤとコーヒーブレイクしてて、フォークはタンクベッドで圧縮睡眠中だったそうな……合掌。

 

そして、無言を貫いていた艦長のフィッシャー少佐は、『若いねぇ~』と若者たちの熱いやり取りを生暖かい目で見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




読んでいただきありがとうございました。

今回は、ヤンの成長と二面性(ペルソナ)のコントラスト、後は……

”ラップもワイドボーンも、別にどっちも間違っちゃいないんだけどね?”

的な空気感が描ければなと(^^
ただし、一番の被害者はアッテンボローだったりして。



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第075話:”カティサーク 世界はこんなはずじゃないことばっかりだよ”

唐突ですが……歴史と酒の話をする時のヤンは、戦争してるより楽しそうです(^^




 

 

 

「ほう、流石に考えてきたみたいだね」

 

自由惑星同盟軍のティーサーバーの紅茶品質を向上させるために結成された秘密結社、”同盟軍紅茶党(ティーパーティー)”の幹部候補筆頭ヤン・”カティサーク”・ウェンリーだ。

コードネームの”カティサーク”とは、今から1500年以上前に中国から英国に紅茶を運んでいた”紅茶運搬用快速帆船(ティー・クリッパー)”の中で、最後まで保存されていた船なんだ。

いわゆる、『最後のティー・クリッパー』だね。

個人的にかなり好きな船で、いつかボトルシップで作ってみたいとなーとか思ってるよ。

あの時代の船はいいよね。実に優雅だ。

 

そういえば、カティサークって銘柄のブレンデッド・ウイスキーもあるんだよ。

私は基本、カミュを中心にレミーマルタンやヘネシーなんかの手頃なグレードを楽しむブランデー党なんだけど、カティサークは柑橘類とバニラのフレーバーが特徴的な、ウイスキーの割には飲み口が柔らかいので私も気分変えたいときなんかにたまに飲んでるよ。個人的には、味と価格のバランスが良い12年物がお勧めかな?

そこ、呑兵衛(のんべえ)とか言わない。せめて、大人のたしなみと言って欲しいね。

 

さて、楽しい楽しい歴史と酒の談義はこの位にしておこうか。

あっ、ちなみに上記の秘密結社云々は冗談だからね? どうも私は冗談が下手らしいから。

 

(さあ、どうしようか?)

 

視点を現実に戻すとしよう。

どうやら先ほど私が(ほふ)った事象を反省した帝国貴族たちは、500隻集団×2で私達を挟み撃ちにしたいらしい。

とても簡略的な図になってしまうが、イメージ的にはこんな感じだ。

 

 

 

         ←A

  ☆→

            ←B

 

☆:YS11特務護衛船団 A:帝国500隻集団A B:帝国500隻集団B

 

 

 

実際には三次元的な配置なんだけど、AとBは割と距離がある。

 

(というか、艦隊運動もだけど連携が稚拙だなぁ)

 

これじゃあ、挟み撃つ前に各個撃破してくださいって言ってるようなものだと思うけど。

 

「ヤン、どうする?」

 

そう話しかけてきたのはワイドボーンだ。

ブリッジに戻ってきたとき、何やらラップと変な空気だったけど……平常運転に戻ったようだから、まあ良しとしよう。

 

「当然、各個撃破を狙うよ。わざわざ挟撃されるまで待ってる義理はないしね」

 

「どっちから攻めるんだい?」

 

「……どっちも動きの悪さは甲乙、いや丙丁つけがたいけど、迂回して遠いほうから狙うとするか」

 

「近場からじゃなくていいのかい? 遠方に接敵する間に距離が詰められて前後から挟撃される可能性もあるけど……」

 

まあ、普通ならそうなんだけどね。

 

(第5惑星のすぐそばか……都合のいいことに、船団は惑星を背にしてる……)

 

「今回は、敵の哨戒網の雑さと艦隊行動速度の差を利用させてもらうとしよう」

 

「具体的には?」

 

「倍の艦隊に追われて、”逃げる()()をするのさ。そうそう、」

 

ここはちゃんと言っておかないと。

 

「ちゃんと敵先行集団(A集団)から、”尻尾を巻いて逃げ出す様”が見えるように調整しないとね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

 

 

 

 

 

 

「はあっ!? 逃げただとっ!?」

 

二大門閥には入ってない物の、独立/中立系としてはそこそこ裕福で歴史あるエンテ子爵家の五男に生まれたフェルディナンド・フォン・エンテ大佐は、呆れていいのか怒っていいのかわからない表情でそう叫んでいた。

 

ヤー(はいっ)! フォン・エンテ司令! 先行していたフォン・ケッテン司令より入電です! 敵艦隊は急速反転! 全力にて逃走したようです!」

 

ヤンが仮称した名前をそのまま使うと”B集団”500隻の司令官であるエンデは、戦艦”チュートリンゲン”のブリッジで腕を組んで考える。

敵は500隻の最先行集団を駆逐したようだが、流石に倍の数には(かな)わないと悟り逃げ出したようだ。

 

(もしかしたら逃げ出したふりをして、やり過ごす気かもしれんが……)

 

だとしても、これは千載一遇のチャンスだ。

敵はこちらの半分、腕は上のようだが数は力だ。ちょっとやそっとの技量差では物量の差は覆せない。

「戦争は数だよ! 兄貴!」というのはどの時代でも通じる真理だ。

 

(距離差からそう易々とは追いつけんだろうが……)

 

ケッテン率いる先行集団(A集団)がギリギリ発見できたようだから、敵が最高速でまっすぐ逃げていれば、まず捕捉はできないだろう。

だが、その時はその時だ。

 

(みすみす敵を見逃す手はない……!)

 

討つことはできなくとも、せめて敵艦隊を追撃したという事実は欲しい。

大きなヤマを張るのもいいが、塵も積もれば山となる……という戦功の稼ぎ方も確かにあるのだ。

 

「各艦、索敵を()()120度に集中! 逃走する敵艦隊を決して見失うな!! 艦隊、全速前進!!」

 

 

 

そして、この判断こそが彼らの運命を決定してしまったのだった……

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

そして数時間後……

 

「なぜだ……」

 

エンテは、あまりと言えばあまりの展開に愕然とした。

追尾していた敵艦隊をロストしてしまった。

それは仕方ないことだとエンテも考えていた。

先行していたケッテンの艦隊も見失った。

逃した魚は大きいが、敵の意図は(くじ)くことができた。きっと、そこで満足すべきだったのだろう。

だが、それは……エンテに降りかかった災厄(それ)は、どう考えても不可解なことだった。

 

(敵は……ヤン・ウェンリーは魔術でも使ったのかっ!?)

 

見失ったとはいえ、自分達は確かに敵の背を追っていたはずだ。なのに、

 

「誰か説明しろっ!! どうして前にいたはずの敵艦隊が、我々の()()()()()現れたっ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

 

 

 

 

 

 

「まあ、種を明かせば簡単なんだけどね」

 

ヤンはドヤ顔するわけでもなく、小さく苦笑するだけだ。

 

「だけど普通は考えないよな」

 

平常運転に戻ったラップは、呆れたようにため息を突いた。

ラップとて士官学校を出たプロの軍人、マインドセットのやり方は心得ている。

さて、ヤンが何をやったかと言えば簡単で、

 

敵の哨戒に見えてるのを確認した上で、艦隊反転(=尻尾を巻いて)→全力逃走。最大船団速で相手の追尾を振り切って……

 

「第5惑星の陰に隠れつつスイングバイとか、この状況でやるか?」

 

そう。敵がこちらを見えなくなってから、本来の船団進行方向から見て後方にあったヴァンフリート星系第5惑星……そのまま第5惑星の陰に入って目くらましに使うのと同時に、星の固有運動(自転)を重力カタパルトに利用して船団丸ごとの加速と航路変更をこなし、その勢いのまま敵艦隊の予想される哨戒圏の外側を航行して後ろに回り込んだのだ。

 

「ラップ、固定観念ってのは危険なものだよ。何しろ”普通はやらない”っていうのは、”普通じゃなければやる”ってのと同義語だよ。私だってエル・ファシルに帝国貴族が奴隷狩り(マンハント)に来たなんて聞いたときは、自分の耳を疑ったもんさ」

 

ちなみにこの戦法を伝えた時の各中佐の反応は……

 

チュン・ウー・チェン → 感心

グエン・バン・ヒュー → 大爆笑

ラルフ・カールセン  → 驚き

ライオネル・モートン → 感服

 

何かグエンだけリアクションがおかしい気もするが……概ね好意的に受け止められた。

 

「想像力の欠如っていうのは、戦場じゃ割と死に直結する。軍人ならば、それは肝に銘じておくべきだよ。そうだな……こんな状況を端的に現す言葉があるよ」

 

ヤンは楽しげに微笑み、

 

「古人曰く、”世界はこんなはずじゃないことばっかりだよ。ずっと昔から、いつだって誰だってそうなんだ”ってね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




読んでいただきありがとうございました。

ヤン、またしてもやらかしました(笑
いや、スイングバイはリアルでもSF作品でも割とメジャーな方法なんですが、このシチュエーションで使ってくるという。

ヤンは、酒のこだわりがあるようで無いタイプ? 値段と味が釣り合えば割と何でも飲みますw

ちなみにサブタイと、そこに繋がる最後のヤンのセリフは某クロスケの名セリフからです(^^





追記
前回第074話、本当に色々なご意見ご感想ありがとうございました!
いつもご感想は執筆モチベーションに直結するくらい嬉しいですが、なんか「ラップもワイドボーンも、どっちも間違っていない」って書いた事に沢山の意見を聞かせてもらえてとても嬉しかったです。
改めてお礼を言わせてもらいますね。




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第076話:”帝国貴族に多弾頭で多段階の花束を”

ケッテン大佐は、貴族らしい貴族です(^^




 

 

 

「半包囲から一斉射! 敵集団を先行集団の方向へ押し込むような感じで」

 

『了解した』

 

『任せておけっ!』

 

『うむ。いいだろう』

 

『了解だ』

 

四人の中佐達は、まだ粗削りだが間違いなく有能だった。

現状の配置を簡略図で書くと、

 

 

  A→     ←B  ←☆

 

☆:YS11特務護衛船団 A:ケッテン艦隊 B:エンテ艦隊

 

 

要するにヤンの艦隊が真後ろからエンテ艦隊を撃ちまくっているのだ。

前方へ全速で逃げるエンテ艦隊だったが、彼我の艦隊練度差は如何ともし難いためYS11特務護衛船団を引き離す事も出来ず、焦りのせいもあって集団を維持するのもそろそろ限界になり始めていた。

 

逆にケッテン艦隊はエンテ艦隊が撃たれてる間に反転、何とか回り込みヤン率いるYS11特務護衛船団の側面を突こうとしてるが、YS11特務護衛船団が常にエンテ艦隊をケッテン艦隊へ押し付けるように砲撃位置を移動/調節してるため、中々上手くいかないようだ。

 

下に恐ろしきは、ヤンの誘導と命令をかなりの精度で実行できる四人の中佐達であるが……それを差し引いても、はっきり言えば相手がまともな陣形も組めない、”艦隊というより軍艦の寄せ集め集団”だったからできた手だった。

 

(正規艦隊相手だったら、とても怖くて使えない手だけどね)

 

無論、ヤンもそのことは百も承知だ。

だからといって、別に油断はしていないのだが……だが、ヤンとて予想できないことはある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

 

 

 

 

 

 

 

 

銀河帝国大佐ゲオルギウス・フォン・ケッテンは、ケッテン男爵家の長子として生まれた。

生まれながらに家督を継ぐことを約束された立場だったが、それでも満足できなかった。

男爵は爵位の中では最下層であり、領地は小さく農奴の数は少なかった。

 

二大門閥や、あるいは名門や他の大貴族との伝手やコネがあるわけではない。

公式な呼び名ではないが、領地や爵位を持っていても裕福でない貴族は、下級貴族(ユンカー)と宮廷で蔑まれることもある。

ちなみに現代銀河帝国語に定義される本来の意味のユンカーとは、”辺境封建貴族”を指す言葉だ。

 

故にまだ若く、野心のある貴族が更なる栄達を求めることは珍しくはなかったのだ。

ケッテンはそんな中の……そんなありふれた貴族の一人だ。

ケッテンは自分の継ぐ家が、『貧乏な田舎貴族』呼ばわりされることに我慢ならなかった。

 

一攫千金のような心情の家督相続ができない次男以降が大半の今回の作戦、”ヤン・ウェンリー討伐”作戦に志願したのは、そういう理由だからだ。

 

「俺は……俺は敗者にはならん! 俺は勝者となるべくして生まれた男だっ!!」

 

正直に言えば、ケッテンは他の家督継承権の持たない貴族を内心、見下していた。

今回の出撃メンバーにも紛れ込んでいるが、二大門閥や他の大貴族に末席に名を連ねる家の出身者もいたため、それを表立って言うほど愚かではなかったが、かと言ってどんなに小さな家でも家督を継げる俺とお前らを一緒にするなと思っていた。

 

そして現状、ケッテンにとって許し難いことに、小賢しいヤン・ウェンリー艦隊と自分の艦隊に挟まれ、敵艦隊の側面に回り込もうとするたびに右往左往し、自分の攻撃の邪魔してるのはその見下している家も継げない”()()()()”なのだ!

 

(俺の栄達を邪魔するかっ!)

 

もはや限界だった。

同じ貴族とは言え、もはや我慢ならなかった。

 

「全艦に命令! エンテ艦隊を正面より突破し、敵艦隊に肉薄し撃滅するっ!!」

 

「お待ちください、司令!! 危険すぎます! それにそんなことをすればエンテ閣下の艦隊を巻き込みますっ!!」

 

「わかっておるわっ、愚か者っ!! もはやエンテ艦隊は我らの敵艦隊撃滅を邪魔する障害にすぎぬわっ!! それは利敵行為と言っても過言ではないっ!!」

 

ケッテンには、どうやら「なぜ、エンテ艦隊が常に邪魔な位置にいるのか?」を想像できる思考的余力はなかった。

 

「エンテが我が艦隊の邪魔をするなら、強引に突っ切ってしまえばいいだけのこと! 敵がエンテを盾として使うのなら、それを貫いてしまえばよいだけのことっ!!」

 

ケッテンは手を大きく振り上げ、

 

「全艦に告ぐ! ”突貫戦術”用意っ!! 目標、ヤン・ウェンリー艦隊っ!!」

 

そして振り下ろした!

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

その時、フェルディナンド・フォン・エンテ大佐は、ケッテン艦隊が一斉に回頭し自分達の艦隊へと舳先(へさき)を向けるのを見た。

にわかには信じられなかっただろうが……ケッテンが何をしようとしてるのかを察したエンテは全身から血の気が引くような気配を感じながら、

 

「血迷ったかケッテンっ!!」

 

(まさか、あいつは俺の艦隊をすり抜ける気かっ!?)

 

グッと拳を握り、

 

「全艦、防御スクリーン出力全開っ!! 回避運動、自由!! 衝撃に備えろっ!!」

 

それは血を吐くような叫びだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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