俺はドラゴンである (nyasu)
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アイツを殴れるなら何もかも

血が絶え間なく腹部から流れ出る。

目も眩むような光の槍が刺さり、それによって大きな穴が開いてるからだ。

下半身から先に痛みはなく、恐らくは脊髄に何らかの影響が出ているとどこか冷静な自分がいて理解する。

 

「ハッ、無様な姿ね人間」

「テメェ……」

 

自分の顔に影が差し込み、見下すようにこちらに向かって足を下ろす女の姿が見えた。

頭がおかしくなったのか、血が足りないせいで朦朧としているからか、背中には黒い羽が見える。

言いたいことはたくさんあったが、口から言葉を発する気力はなく、ただ女の言葉を聞くことしか出来ない。

 

「強いとは聞いていたけど、所詮は人間の中での話。大したことはなかったわね」

「…………」

 

その言葉を聞いて、女がこの槍のような光の塊を放ったと理解する。

理解と同時に浮かんだのは疑問ではなかった。

何故やどうしてなどではなく、許さねぇという純粋な怒りだ。

 

「なんだその目は、死にかけの癖に生意気ね」

「……クッ!?」

 

未だ死ぬことのない俺に向かって、女は蹴りを叩き込む。

普段の自分なら一捻り出来るような蹴りでも、今の状態では避けることも出来ない。

衝撃のせいで、俺は吐血しながら転がされる。

 

「どうしてこんな事になったのか分からないって顔ね、いいわ教えてあげる。簡単なことよ、アンタが弱いから」

 

弱いから理不尽に奪われる。

下等な人間は、堕天使の足元にも及ばない。

全ては弱いお前が悪い。

 

耳障りな言葉だ。

不快な言葉だ。

だが、ストンと納得することが出来た。

 

あぁ、腹立たしい。

だがどうすることも出来ない。

力が、自分に力がないから何も出来ない。

どうしようもなく俺は無力だ。

 

「ざっけん……じゃねぇ!」

「コイツ、まだ動けて」

 

だからって、このままでいろというのか。

この理不尽を受け入れるというのか。

それこそ、腹立たしいことである。

下半身の感覚がなかろうと、腹に穴が空いていようと、相手が見えなくなっていようと、それでも抗わずにはいられない。

俺は、俺の意思の元に、俺を殺そうとしたこの女を許す気はない。

残念なのは、気力だけでは体は動かないということだ。

 

……畜生、畜生、畜生!あぁ、力があれば!俺に力があれば!

 

頭では鍛えたところで謎の光による槍を避けることは出来ないと分かっている。

例え避けたところで、対抗する術がないことも分かっている。

だが、それでも思わずにはいられない。

 

『力が……欲しいか?』

 

声がした。

いつの間にか俺は、真っ赤な炎が吹き荒れる荒野にいた。

何だここは、どこだここは、そんなことを考える間もなく俺は目の前の存在に意識を持ってかれる。

龍だ、そこには赤い龍がいた。

此方を食い殺そうとでもしてるのか、俺の目の前に悠然と存在している。

俺はその存在に、心を奪われた。

恐怖よりも先に憧れという感情をソイツに抱いたのだ。

圧倒的な力の具現、俺の渇望した物がそこにはあった。

 

『力が……欲しいか?』

「あぁ、寄越せ!俺に力を寄越せドラゴン!」

『良いだろう、くれてやる。お前は何を差し出す?』

「全部だ、何もかも差し出してやる!アイツを殴れるなら何もかも」

 

景色が変わる、まるで白昼夢か何かのようにドラゴンの姿はそこにはない。

だが、俺はあのドラゴンが何なのか知っている。

思い出したかのように理解しており、そして力を得る方法すらも分かっていた。

ならば戸惑うことはなく、その力を手にして目の前の女をぶっ飛ばす。

 

「さっさと死ねばいいのに」

「ぐっ……」

 

肉体が焼けるように熱くなる。

叫べない筈の身体が、叫ばずには居られない程の激痛に苛まれる。

今ある身体の変わりに新しい身体に作り変えられているという実感がある。

損傷の激しい腹部から、内蔵部分にかけてまずは作り変えられ、そこから広がるように身体が光に包まれる。

 

「えっ?」

「■■■■■■■■■■■■!」

 

激痛への叫びは、まるで産声のように俺の声帯から発せられた。

同時に、空に向かって赤い光が迸る。

視界は代わり、あれほど大きかった町並みは酷くちっぽけに見えて、今まで感じたことのないような解放感を得た。

そして、理解した。

俺はドラゴンになったのだ。

 

『我が名は二天龍、ドライグ・ア・ゴッホ』

「そして、それが俺の新しい名前」

 

状況を理解できず、固まった状態で俺を見る堕天使のような女。

胸の内には今までの仕打ちが焼けるように渦巻いている。

 

「神器の覚醒、しかもドラゴンになるなんて……」

「うっせぇ、死ね!」

「まさか、赤龍帝とでも言う――」

 

拳を握る、その赤く鋭く強力になった拳を振り上げる。

どうでもいい、細かいことなどどうでもいい。

ただ、ムカつくからぶん殴る。

 

「ふん、だがまだ覚醒したばかり、今なら」

「オラァ!」

「ぐっ、なんて馬鹿力なの」

 

避けきれないと判断したのか、女は両腕を使って身を守る。

吸い込まれるようにクロスした両腕に入った拳からは浅いが手応えを感じた。

だが、そこはただの人間とは違う所以か。

大したダメージにはなっていないようだった。

 

「褒めてあげるわ。ドラゴンになっただけのことはある」

「もっとだ、もっとだドライグ!」

『Boost!!Boost!!Boost!!』

「えっ?」

 

ダメージが足らない、それは弱いからだ。

なら、もっと強くなればいい。

もっと、もっと、貪欲に強くなればいい。

俺にはその方法が分かっている。

 

「ま、待って――」

「オラァァァァ!」

 

その女の顔面に向かって俺の拳が捩じ込まれる。

地面に亀裂を作りながら吹っ飛ばされる女。

気絶しているのかピクリとも動かない。

例え死んでいたとしてもさして興味はない。

もういいや、満足である。

 

「さて、これからどうするか」

「私の領地で暴れているのは何者か……しら……」

『フン、その姿では人里は面倒だ。山に行くのだイッセー』

 

ドライグに言われて、確かにその通りだと思った。

こんな姿では親に会うことは出来ない。

思えば、女絡みで喧嘩に明け暮れていた俺は迷惑しか掛けていなかった。

その上、家出なんて親不孝もいいところだ。

だが、もう後戻りはできないし自分の選択に後悔だけはしていない。

まずはどこかに移動して、自分について知る必要がある。

もっと、ドライグと話をする必要があるだろう。

身体の使い方は分かっている。

 

「ド、ドラゴン?リザードマン、何なの悪魔なのかしら、でも龍のオーラが」

「さっきから煩いぞ、誰だお前」

「しゃ、喋ったわ!?あれ、でもさっきも喋ってたわ!」

 

ちょっとブルーな気持ちになっていたのに横でブツブツ煩いんですけど。

俺達の戦いはこれからだみたいな感じになるはずだったんですけど。

というか、なんだコスプレイヤーか?なんで翼が生えてるのさ。

 

「ふ、ふん!私はリアス・グ――」

「じゃあな」

「聞いてよぉ!」

 

話が長くなりそうだったので俺は翼を動かし空へと上がっていく。

飛べると思ったがやはり飛べたようだ。

すごい、これが空を飛ぶ感覚なのか。

何も束縛されない状態は自由を感じさせる。

 

「私の領地で勝手な真似は――」

「うるせぇぞ、女ァ!」

 

何故か平行して空を飛んでる目障りな女。

うぜぇ、もっと早く飛んで振り切るか。

俺は騒ぐ変な女を放置して飛び続ける。

 

『Boost!!』

「あっ、待ちなさい!」

 

そんな静止の声を無視して、俺は宛もなく飛び出した。

取り敢えず山だ、山に行くのだ。

どうして山か、答えは知らない。



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何、髪が長いと強いのか!?

山に来た。

何故山に来たのかは分からないが、人がいない上にドライグが勧めるので都合が良かったからだ。

ドライグは俺に、この世界の秘密を教えてくれた。

悪魔、天使、堕天使、それから神話の存在に神滅具や神器についてなどだ。

そして、この世界には魔女も魔法使いも仙人も妖怪もいるらしい。

 

『人が想像できることは実現可能という言葉がある。つまり、お前が想像できるなら存在するということだ』

「なに、ならば世界を壊せるくらい強いやつがいるとでも言うのか?」

『ふっ、愚問だ。それは次元の狭間にいる』

 

なんてことだ、本当に存在していた。

つまり、ドライグの言うことは真実ということだ。

そして、ここから山に来た理由が語られる。

 

『山にいればそれだけで強くなる、人はそれをYAMA育ちという』

「何を馬鹿な、確かに過酷だがそれだけで」

『自分を信じろ、俺が信じるお前を信じろ』

「分かったよドライグ」

 

ドラゴンの姿を幻視した。

そして、俺は人からドラゴンになったのだ。

あり得ないということこそあり得ない。

つまり、そういうことだ。

難しく考えずドライグの言うとおり信じればいいのだ。

 

それから数日俺は山で過ごした。

俺が過ごした山の大地はそれは過酷だった。

入り乱れる根っこ、岩や泥など整備されていない道は、なるほど人が育つとはよく言った物だと思わせる。

そして、時折現れる野生動物は皆が何故か荒ぶっていた。

熊は両手を上げて襲いかかり、鹿はその角を使って襲いかかり、猪は見つけた瞬間襲いかかり、鷹は鉤爪で目を抉りに来る。

ふとした瞬間、首を狐が噛みちぎろうと飛びかかり、いつの間にか肩にいたリスは耳を齧ろうとする。

他にも遭遇する動物はすべてが襲い掛かってきた。

俺の知ってる山と違う!

 

『ドラゴンとは争いと女を呼び寄せる、つまりそういうことだ』

「なるほど」

 

つまり、動物達は産後間近とかそういう気性の荒い時期なようだ。

それで襲ってきたのだろう納得した。

まぁ、全部美味しく頂いたがな。

 

『いいか、世の中色々とゴチャゴチャ言うがな。大体は魔力だ』

「何だそれは」

『魔力があればイメージでどうとでもなる。今、お前は竜の心臓から無尽蔵なくらい魔力が供給されているのだ』

「すごいんだな、ドラゴンって奴は」

 

ドライグはそれから、俺の知らない知識を教えてくれた。

まずは覇気と六式という技術。

魔力でとにかく強化する武装色、魔力でとにかく気配を読む見聞色、魔力で威圧感を強化する覇王色。

魔力で強化して放つ突き、指銃。

魔力で強化して身体の筋肉を強張らせて防ぐ、鉄塊。

魔力で感覚を強化して風圧を感じて避ける紙絵。

魔力で強化して地面を何度も蹴って移動する剃。

魔力で強化して空気を蹴る、月歩。

魔力で強化して鎌鼬を起こす、嵐脚。

 

「本当だ、殆ど魔力じゃないか」

『魔力にも種類があるが、それを人は念という』

 

魔力を使って強化する強化系。

魔力を使って炎とか水を作る変化系。

魔力を使って操る操作系。

魔力を飛ばす、放出系。

魔力で何か作る、具現化系。

魔力によって起きる良く分からないことは特質系。

 

『だが、魔力じゃ説明できないこともある』

「なに、良くわからないことは特質系ではないのか!?」

『良くわからないからと言って、魔力関連ではないのだ。そう、仙術だ』

「仙術……」

 

周囲からエネルギーを取り込む、仙術である。

触れたやつの気を乱して体調不良を起こす、仙術である。

回復することや寿命を延ばす、仙術である。

気配を消したり出したり、仙術である。

手からビームが出る、仙術である。

空が飛べるようになる、仙術である。

自然と一体になる、仙術である。

頭部が発光する、仙術である。

分身する、仙術である。

気合でなんでも出来る、仙術である。

 

『仙術とは気を操る力、生命力とはつまり小宇宙だ。小宇宙を燃やす、つまり気合がアレばだいたい出来る』

「知らなかった」

『知識や認識とは曖昧なモノだ、その現実は幻かもしれない。人は皆思い込みの中で生きている、そうは考えられないか?』

「答えは得たよ、ドライグ」

 

ドライグの教えに従い、俺は川に来ていた。

川岸に穴を掘り、水をためて葉っぱを乗せる。

水見式というやつである。

 

「よし」

 

魔力を手からふっ飛ばすと、水が弾け飛んだ。

つまり、俺は強化系であった。

なるほど、身体を鍛えればいいのだな。

 

『まぁいいや』

「何か言ったかドライグ?」

 

目標は、ドライグの話に出てきた聖闘士だ。

なんでも光の速さで殴れるらしい。

弱いやつでもマッハ1は出るそうだ。

いやいや、そんな馬鹿なと思ったがドライグが言うには現代に伝わる神話の話は殆ど実話なのだ。

つまり、英雄はいた訳である。

山脈をぶっ壊したり、宇宙を支えたりしたヘラクレスはいたのだ。

流星より早い矢を放ったアーラシュはいたのだ。

海をダッシュで渡ったクーフーリンはいたのだ。

なら、マッハ1で殴れるやつが至っておかしくないのだ。

 

「取り敢えず、正拳突きか瞑想だな」

 

手頃な岩に向かってただ殴る、ひたすら拳を振るう。

だが、意識してみるとこれが中々難しい。

同じ拳は一つもなく、僅かにズレが発生する。

理想的な正拳とは程遠いのだ。

そもそも、理想的な正拳とはどんなもんだろうか。

そんな他愛ないことを考えながら正拳突きしていたらいつの間にか朝を迎えていた。

 

「朝……まさか、日が暮れて明けたというのか」

『おい、やっと気づいたのか』

「ドライグ、正拳突きって何だろう」

『急にどうしたお前』

 

正拳突き、ただの殴るのとは違うのだ。

理想的な正拳突き、それはいったいどんなものなのだ。

俺はそれを知らない、知らなければそれに修正を掛けて近づくことも出来ない。

俺は、強くなれない。

 

『ふむ、そういうことならば拳法家を探せばいい』

「何故、拳法家なんだ」

『拳法は強いんだ。八極拳を極めれば神でも殺せる』

「それはすごい」

 

しかし、それは人里に降りないと行けないということだ。

この姿で人里に降りるなんて出来るはずがない。

そんな弱気を、俺の相棒は吹き飛ばした。

 

『馬鹿野郎!諦めんなよ!諦めんなよ、お前!どうしてそこでやめるんだ、そこで!もう少し頑張ってみろよ!ダメダメダメ!諦めたら!周りのこと思えよ、応援してる人たちのこと思ってみろって!あともうちょっとのところなんだから!』

「ドライグ……」

『ちなみに竜の力を外に放出できれば一時的だが人間の姿になれる』

 

な、なんだって!?つまり、人里にも行けるし親にも会えるってことなのか。

知らなかった、やっぱり気合があればなんでも出来るんだ。

俺が、俺が間違っていたよドライグ。

そうとなれば、と俺は修行を開始した。

 

「力を、俺の中の力を放出するんだ」

『頑張れ頑張れできるできる絶対出来る頑張れもっとやれるって!やれる気持ちの問題だ頑張れ頑張れそこだ!そこで諦めんな絶対に頑張れ積極的にポジティブに頑張る頑張る!北京だって頑張ってるんだから!』

 

ドライグの応援を受けながら数日、飲まず食わず不眠不休で自分の中の力を探り、力を放出することを考えていた。

何も感じないと思うから感じないのであって、俺はあると確信して座禅を組む。

そのうち、何か熱いものを感じた。

もしかしたら、これが力なのかもしれない。

それは心臓から溢れてくる。

間違いない、コイツが魔力だか小宇宙とか言われてる奴だ。

だが、その供給量は激しい。

俺にこの力をすべて放出することが出来るというのか?

 

『逆に考えるんだ、全部じゃなくたっていいやと』

「そうか、顔だけでもいいんだ」

 

顔から力を周囲に放出する。

また、力の流れを顔以外の所に向けていく。

すると、顔に違和感を感じ始めた。

そして、川を見ると髪が伸び切った俺がいた。

ドラゴンでない、俺の姿があった。

 

「よし、これで山を降りることが出来る」

『長髪、強キャラ感がスゴイ』

「何、髪が長いと強いのか!?」



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そんなドラグソボールみたいな事を言うドラゴンがいるのか

山を降りた俺は久しぶりに街にいるからか、感慨深い思いに浸っていた。

そう、数分前まで……。

 

「オラ、舐めてんじゃねぇぞ」

「クソが、うぅ……」

「目障りなんだよ、いつもいつも俺の女の回りでコソコソしてやがってよぉ。だが、もう我慢の限界だぜ。兵藤が死んだ今、誰もお前らなんざ守らねぇからなぁ」

「黙れ、一誠は!アイツは死んでなんかいねぇ!」

 

山から降りた俺は、公園で不良達の喧嘩を見つけた。

暇だし、見てくかと思ったらなんと知り合いの喧嘩だった。

ソイツらは、元浜と松田という。

よく俺に群がる女の尻を追い回して、なんでか分からんが付き合いの会った連中だ。

いわゆる腐れ縁ってやつなんだろ、多分。

 

『ほぉ、世界線は違えど変わらぬものはあるのだな』

「何を言ってるんだドライグ?」

『此方の話だ』

 

元浜と松田を袋叩きにしているのは、どこかで見たことあるような男達だ。

たぶん、何時かの喧嘩した相手かなんかだと思う。

一度殴ってから見なくなったはずなんだけどな。

 

「そうだ、アイツは俺達と女体を追求する約束を守るまで死ぬはずがないんだ」

「そんな約束した覚えがないんだが」

「兵藤のパシリどもがウゼェ!俺の女の裸を見たんだ、死に晒せや」

 

腕組みながら全体の流れを見て把握した。

つまり、アイツらが覗いた彼女の腹いせにやってきたらしい。

でもって、その彼氏の男にボコボコにされているようだ。

うん、アイツらが悪いわ。

 

「けど、複数人はズルいだろ」

「誰だ!俺の邪魔を……」

「よぉ、お前らがうるせぇから地獄のそこから蘇ったぜ」

「兵藤!?だって、死体も残らないくらいの事故に巻き込まれたはずじゃ……」

 

良く分からないことを喚き立て、そして動揺する不良達に俺は首を傾げる。

確かに血だらけにはなったが、生きてるんだけどな。

取り敢えず、殴ってから考えることにして適当にしばき倒す。

あっ、やべっ、力加減を間違えて骨とか折れたっぽい。

まぁ、人間は骨がたくさんあるから大丈夫だ。

 

公園に、ぶっ倒れた不良達が寝転がる光景が出来上がっていた。

そして、拳法家を探すついでに飯でも食べようかと考えていた俺に向かって元浜達が驚きの声をあげていた。

 

「ほ、本当に一誠なのか」

「おう」

「お前、なんだよ!葬式までして、びっくりしたじゃねぇか!」

「葬式、誰の?まさか、俺のかよ」

 

元浜達が言うには俺はそれは酷い状態になるくらいの事故にあったらしい。

現場には血痕とタイヤ痕があり、轢き逃げされたとのこと。

両親は病院で遺体を見せられて、そのまま火葬したそうだ。

そのまま火葬するくらい、身元も分からないくらい酷い状態だったらしい。

 

「取り敢えず、お袋と親父に会いに行ってくるわ」

『グレモリーの奴らが事故死に処理したのだろう』

 

グレモリー、確かここらをシマにして仕切っている悪魔だったか。

日本神話の奴らに正面から喧嘩売る、悪魔って種族の奴らだ。

なるほど、俺のことを勝手に殺したのはソイツの仕業か。

許せねぇなぁ、グレモリーって奴!

 

俺は顔も知らないが、ここら一帯を自分の物だと言ってやがる悪魔のことを考えながら街を歩いていた。

まぁ、家まで帰ろうとしていたとも言うがそんな時にシスターを見つけた。

 

「アウチ!?」

「おぉ、顔から転けたぞ。おい、姉ちゃん大丈夫か?」

「うぇ!?あ、うっ」

 

地図を持っており、そしてオロオロしている。

しかもシスターの格好でよく見えてなかったが、髪は金髪。

間違いない、外人さんだった。

 

「あぁ、何言ってるか分かんねぇんだよなぁ」

「エ、エクスキューズミー」

「ノーノー、アイムイングリュシュノー、スピークジャパンオンリー」

「ノー?」

 

首を傾げる外人さん。

うむ、俺の英語の成績では英語が通じていないようだった。

おい、どうにかしろドライグ。

 

『肉体言語というものがあってだな』

「なるほど、分かった」

 

取り敢えずボディランゲージで意思疎通を図る。

彼女は地図をビシビシ叩く。うむ、ここに行きたいってことなんだろう。

教会だし、間違いなかった。

まぁ親に会う前だが付き合ってやるとしよう。

その時、くぅと小さいが音がした。

顔を真っ赤にしてお腹を抑えるシスター。

 

「ははは、なるほど腹が減ったんだな」

「あうっ……」

 

まぁ、金なら先程手に入ったのでファーストフードでも食わせてやろう。

一番近い飲食店だしな、コンビニはちょっと遠いしな。

 

『おい相棒』

「なんだドライグ」

『ソイツとは仲良くした方がいい。ソイツは聖職者だ』

 

何を言ってるのか、そんなことは見ればわかる。

しかし、ドライグは無駄な事は言わない。

きっと、何か意味があるのだ。

 

『お前は強くなりたいんだったよな。拳法だけではない方法があるんだ』

「なんだって」

『それはな、宗教だ。聖職者は強いんだ。そのアーシアから宗教を学べば強くなれる』

「そ、そうなのか」

『そのほうが原作に関われるしな』

 

原作って?それとアーシアってのはこの子の事だろうか。

 

『えっと、ソイツは有名人なんだ。ドラゴン界でも有名なやつなんだ』

「そ、そうなのか!?」

『あぁ、あるドラゴンなんかパンツを所望するくらいにな』

「そんなドラグソボールみたいな事を言うドラゴンがいるのか」

 

ギャルのパンティーをくれという奴は実在したんだ。

びっくりである。

とはいえ、二度とあんな目に会うのは、理不尽に屈するのは嫌なので俺は強くなるべくアーシアという彼女と喋ることにした。

正直、何を言ってるのか分からなかったが最終的にハンバーガーの食い方が分からないってことはわかった。

 

「クソ、英語が分かんねぇから宗教が分かんねぇぞ。取り敢えずキリスト教なんだろう、キリストって言ってたし」

「あー、アリガトウゴザイマス?」

「す、すげぇ!日本語だ」

 

英語が喋れない俺と違って、アーシアは簡単ながら日本語が出来た。

そりゃそうだ、日本に来るんだからある程度は勉強してるんだろう。

俺だってサンキューくらいは言えるさ。

ともあれ、ハンバーガーのお礼を言ったアーシアと教会に向かうことにした。

 

『相棒、わかるか?』

「何が?」

『フッ、修行が足りないな。上を見ろ』

 

俺はドライグに言われて上を見る。

そこには、此方に向かって光の槍を向けるいつぞやの女がいた。

 

「チッ、気付かれ――」

「破ァァァァ!」

 

俺は気を手のひらにあつめて女に向かって放った。

そう、ドラゴン波である。

俺の手から飛び出す赤いレーザーは、女を丸呑みにした。

残ったのは黒い羽が一枚、チッどうやら逃げられたらしい。

 

『いや問題ない、アレは倒したのだ』

「なに、転移したのではないのか!?」

『堕天使は倒すと黒い羽をドロップするんだ』

 

驚愕の真実に驚いていると、アーシアが何か言ってきた。

すまない、何を言ってるのか分からない。

 

「えぇ、マジかよ。おいおい、一発ってどうなの?計画ご破産ってやーつじゃないのこれ、ヤダー」

「むっ、誰だお前」

「おいおい、お前ってもしかして赤龍帝?いいだろ、名乗ってやる。我こそは踊り狂う聖職者!フリード様でござんすよ」

「聖職者、強いな」

 

声がした、声のした方には塀の上に立った白髪頭の神父がいる。

なんで塀の上にいるとか、なんだそのライトセイバーとか、エアガン持ってるとかツッコんだら負けな気がする。

なんてメンタルの強い人なんだ。

あとコイツと向かい合っていると、なんだか首の後ろが落ち着かなくなる。

なんか違和感というか、気になって仕方ない。

しかし、それもふとした瞬間になくなった。

 

「やめだやめ、ちょっと試そうと思ったが殺気にも動じないとか相手になんねぇわ。割に合わねぇ」

「殺気、今のが殺気だったのか?」

「その程度かって言いたいのかよい。まぁいいわ、トンズラさせてもらいますわ、じゃあバイビー」

 

発言がいちいち変な、取り敢えず変なやつだった。

しかし、今のが殺気か。

漫画じゃみんな、殺気ッ!みたいな感じの事を落ち着かなくなったら言ってたのか。

やはり聖職者は只者じゃないみたいだ。

 

『相棒、もう教会に行かなくていいぞ』

「えっ、なんでだ?」

『アレだ、家に連れてけとアーシアが言ってるんだ』

「お前、英語が出来たのか」

 

やっぱりドラゴンはスゴイ。俺の相棒は最強なんだッ!

ドライグの言葉を信じてアーシアの言うとおり、家に連れて行くことにした。

アーシアがオロオロしていたが、なんでだろう。

まぁ、細かいことは気にしなくていいだろう。



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言葉の壁は大きい

家に帰りインターホンを押したら、固まった親がいた。

どうした、なんでドアを開けて固まっているんだ?

 

「あ、貴方大変よ!」

「どうした、あぁ!なんだこれ、どういうことだ!?」

「どういうことなの!?」

「大変だ、どこからか息子が!」

 

慌てる親を前にして俺は首を傾げる。

どこからもなにも、玄関から息子が来たわけだが……落ち着けよ。

 

「おう、今帰った」

「何かの間違えだったんだ」

「やったわね、貴方!」

 

何故か大喜びする親を前にして、そういえば死んだことになっていたと納得する。

葬式代とか請求してやるべきだな、そうすべきだ。

それはそうと、オロオロしていたアーシアを俺の背中から前に出した。

 

「一誠、どういうことなんだ」

「拾った」

「元の場所に返してきなさい」

「まさか、元浜くんや松田くんの影響を受けて……いけない、それは犯罪だ」

 

何やら勘違いしているようだが、俺は道案内するついでに堕天使の襲撃から守ったのだ。

そう、俺は悪くない。ちなみに、連れてこいと言ったのはアーシアである。

 

『犬や猫じゃないんだから……それより、コイツは行く宛もないことを伝えるんだ』

「なに、そうなのか。アーシアは行く宛がないらしい」

「家出少女って奴なのか……」

「知らん」

 

こういうときどうしたらいいのだろうか、と頭を悩ませる俺の両親。

それを察してかアーシアもオロオロしている。

取り敢えず、中には入ろうか。

 

 

 

居間に入ってからはオロオロしているアーシアに茶を出して、テレビを付ける。

久しぶりのテレビである。文明の利器は素晴らしい。

 

「寛いでいる場合かー!」

「何だよ親父、なんかあったか?」

「この状況でよく寛げるな、一誠」

「大丈夫だ、問題ない」

 

人が誤認で死んだことにされたんだろう。

細かいことだ気にするまでもない。

一応役所に連絡とか入れたほうがいいのか。

どうなんだろうな。

 

「あっ、警察とかには連絡しないで欲しい」

「ど、どうしてだ。何か、やっぱり犯罪を犯したのか?」

「ドラゴンになったんだ」

 

拳を突き出して鉤爪を見してみる。

服を脱いで背中の翼とか、尻尾も見してみた。

そう、顔以外はドラゴンなのである。

通報なんかされたら、困る。

 

「な、なんだこれは!?母さん、尻尾だよ!尻尾!」

「翼、本物なのかしら?」

『それでいいのか、その程度の驚きなのか?』

 

まぁ、うちの両親は俺にはなぜか昔から甘かったのでそういうもんなのかもしれない。

ちなみに、悪魔や天使が実在することなどを話すと、驚きはしたが信じてくれた。

まぁ、ドラゴンになった俺を見せたから説得力があったのだろう。

 

「そうだったのか、そんなことがあったなんて」

「大丈夫なのかしら」

 

大丈夫かと言われれば、きっと悪魔のことだ。

悪魔らしい取引とか、脅迫でもしてくるに違いない。

死んだ人間には人権はない、何をしてもいいって訳である。

最悪だな、グレモリーって奴!

 

『俺にいい考えがある』

「なに、何かあるのか?」

『日本神話勢に保護してもらえばいいのだ』

「なるほど、ところで神様ってどこにいるんだ?」

『え~、出雲とか京都とかじゃねぇの?知らんけど』

 

出雲、聞いたことがある。

出雲大社って奴だな。

よし、お参りすれば全部解決するだろ、間違いない。

 

『金髪の姉ちゃんには気をつけろ、毘沙門天だ』

「うん、わかった」

「お、おい一誠。さっきからブツブツ何を言ってるんだ」

「親父、出雲に行くぞ。出雲大社にお参りするんだ、そうすれば問題ない」

「そうなのか?まぁ、身内の不幸ということで休みは貰っているが……」

 

なら問題ないと準備をさせる。

アーシア、あぁ彼女は翻訳サイトを使って意思の疎通を図る。

英文なら通じるようだからな、やはり文明の利器は素晴らしい。

状況の説明をして、アーシアもどういう状態なのか分かったようだった。

まぁ、色々と混乱してかゴチャゴチャ言ってたけど意味が分からんから無視である。

説明責任は果たしたので問題ない。

細かいことは気にしてはいけない。

 

「なんだかよく分かってなさそうだけど」

「言葉の壁は大きい」

「押しに弱い子なんだってことはなんだか父さんでもわかったぞ」

 

まったく何を馬鹿な、彼女は聖職者である。

つまり戦えるということなので押しが弱いわけがないのである。

むしろ敵を押し退けることは得意なはずだ。

 

『相棒、その押しではないんだが、こんなに馬鹿だったけなぁ』

「どうしたドライグ」

『難聴系主人公かよ』

 

要領を得ないドライグは無視して飛行機である。

スゴイ、俺よりずっと早い。ドラゴンよりずっと早い。

やはり文明の利器は素晴らしい。

数時間かけて島根に来た。

 

「すごい、これが出雲大社。なんて大きな縄なんだ」

「人がいっぱいいるのね」

「家族旅行みたいだな、ハッハッハ」

「ホワイ!?ワッツ!?」

 

うむ、旅行か。

家族旅行なんてしばらくしていなかった気がする。

まぁ、昔は血の気が多かったからな喧嘩に巻き込まれるからそれどころじゃなかった。

なんだか、山に篭ってから心に余裕が生まれたというか昔ほど考えることをやめた気がする。

なるようになるの精神で生活するほうが楽だな。

 

『おかしい。初期の頃と性格が違う気がする』

「何を言っているんだ、俺は前からこうだったぞ」

『いや、もっと刺々しい感じだったような。俺のせいなのか』

「細かいことを気にしていると禿げるぞ」

 

俺も大人になったのだ。

細かいことで怒ったりしない、そういう感じになったのだ。

出雲大社に参拝して、その後はホテルにチェックインした。

まぁ、当日ということもあって一軒目は駄目だったが、二軒目で泊まれたのでラッキーである。

そして、ベッドで一休みしようとしてふと思った。

 

「いや、待て。神様にまだ会ってないぞ」

『今頃気づいたのか』

 

ちょっと待て、此方は礼を尽くして挨拶までしたのだ。

なのに、一言もないとかどうなんだ。

つまりは居留守を使われた訳だろ。

 

「ざっけんな!ぶっ殺してやる!」

『おい、細かいことは気にしないんじゃないのか!?』

 

こっちが下手に出てればいい気になりやがって、礼儀って物を知らないとみた。

俺なんか毎回教師に色々言われて気にしてるんだぞ。

人間の模範になるべき神が、礼儀知らずってそこのところどうなんだ。

 

『待て待て待て、日本神話に喧嘩売る気か。流石に、まだ神レベルとは戦えないから』

「知るか」

『おいぃぃぃぃ!やっぱり、なんかおかしくなってんだろ!お前、そういうキャラじゃねぇだろ!おっぱい大好き人間じゃなかったのかよぉ』

「なんで胸の話になるんだ。そんなことより喧嘩だ喧嘩!」

 

一発殴る。

とにかく殴る。

神だろうと殴ってみせる。

後のことは殴ってから考える。

 

翼を使って空を飛び、気合を使って気配を探る。

山の修行は伊達ではない、こちとらYAMA育ちである。

 

「これが見聞色の覇気って奴だな。なんか分かった」

 

神社の方に違和感を感じたので近づいてみると、何故か人がいなくなっていた。

そのまま神社に降りてみれば、誰かが神社の境内に座っている。

 

「アンタが神か、一発殴らせろ」

「なんで!?」

「挨拶したのに出てこないからだ」

 

俺は腕組みながら、目の前のロングヘアーの女に言う。

見た目はなんか着物を着ているせいか平安時代の人間っぽい。

中学生くらいで、なんかちっこい。

本当に神様なんだろうか。

 

「おい、本当に神なのか?」

「はぁぁぁぁ!?どっからどう見ても神様だしぃ!」

「そうなのか」

 

目の前で自称神様と名乗る女がぴょんぴょん跳ねていた。

何やら荒ぶっているが、怖くない。

 

『静まりたまえ!さぞかし名のある神と見うけたが何故そのように荒ぶるのか』

「なに、ドライグどういうことだ」

『言わなきゃいけないと思ったのだ』

 

どうやらドライグが警戒するくらいスゴイ神らしい。

しかし、うーん、どうみても普通の女の子だ。

寧ろ、駄目な感じがスゴイんだが。

 

「ちょっとアンタ!呼ばれたから来たのにいないってどういうことよ!ピンポンダッシュしてんじゃないわよ!」

「お、おう」

「確かにちょっとラグがあったかもしれないけど、伏して待つのが礼儀ってもんでしょ」

「なんかすまん」

 

なんだろう、萎えた。

目の前のプンスカする女に、何ていうか困惑しすぎて殴る気が失せた。

まぁ、どうやらお互いに何か行き違いがあったんだろう。

 

「まぁいいわ!自己紹介がまだだったわね。私があの有名な、天照大神よ!ソシャゲでも大人気なんだから!」

「お、おぉ!俺でも知ってるぞ」

「ふふん、サインはマネージャーの恵比寿を通してからにしてよね」

『毒されてんなぁ、日本人に毒されてんなぁ、この神』



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グレモリー先輩、結婚するってよ

目の前に現れたるは、太陽神アマテラス。

日本のソシャゲに一度は出るくらいにはメジャーな神である。

ちなみに、日中仕事しては引きこもってるのがデフォらしい。

 

「さすが、最古の引きこもり」

「ちょっと、聞き捨てならないんだよ!座って、そこに座って!」

 

両手で地面をてしてし叩く女に、渋々ながら俺は従う。

何ていうか、子供っぽすぎて威厳を感じない。

 

「人が気にしてることは言っちゃいけないんだよ!そういうところに怒ってるんだよ!分かんないかな、もー!」

「う、うっす」

「まったく、それで頼み事をするつもりだったなんてやる気あるのかな」

「勿論だ」

 

やる気はあるかい、勿論さ。

寧ろやる気しかない。

後顧の憂いを断つ所存である。

難しい言葉を使えば、それっぽい気がする。

 

「お、おう。で、でもそう簡単に頼みを聞くとか思うなよ!」

「何だと!」

「ひっ、急に大きな声出すなよ!びっくりするだろ」

「う、うっす」

 

何故だか下手に回ってしまう現象が起きていた。

馬鹿な、俺が素直に従うなんて……流石、メジャーな神様なだけあるかもしれない。

 

「そもそも、ウチには余裕はないんだよ」

「どういうことだ。日中しか働かないとか暇そうなのに」

「他の神話体系と違って、ウチは基本24時間労働だから!基本的に他所のことはスルーだよ!流石に、仕事の邪魔になったら抗議くらいはするけど、それ以外は仕事が忙しいの!」

「どういうことだ」

「だからウチは、ブラック神話体系なんだよ!他所の仕事まで回されたら、荒御魂待ったなしなんだよ!勝手にしろって話なんだよ!」

 

目の前で髪の毛をぐわんぐわんする太陽神。

スゴイ、愚痴ってるだけなのに後光が差してる。

キラキラが止まらないとはこのことか。

アンタ、今が最高に輝いてるよ。

 

「まぁ待て、流石にメリットを提示しないのは良くないことだと俺にだって分かる」

「ねぇ、帰っていい?出雲大社まで出張とか辛いんだけど、アニメの時間がそろそろなんですけど」

「仕事が増えないように、面倒事は俺が解決しよう。取り敢えず、日本から悪魔を駆逐すればいいんだろ?」

「ねぇ、聞いてる?」

「よし、そういうことでいいな」

「聞けよ!引き篭もるぞ、私が引き篭もったらスゲーんだからなぁ!」

「急にどうした?」

 

こんなにも美味しい話なのに、目の前の神様は納得が行かない様子で地団駄を踏んでいた。

まったく、何が不満なんだか。

仕事が減るんだから喜べばいいではないか。

 

「分かった、お前さては馬鹿だな!舐めやがって、日中なら三倍強いんだぞ!太陽の加護バリバリだかんなぁ」

『もっと威厳のある物だと思っていたが、こんなものなのか』

「そうか、スゴイんだな。流石、太陽神だ」

「えぇ……舐められてるのか本心なのか、分かんねぇ―」

 

すごく微妙な顔をする女を見て、俺は確信した。

コイツは太陽神である。

つまり、太陽は熱いのである。

ということは、熱くなるタイプだ。

怒りっぽいってことだ、納得した。

 

「おい、その頷きはなんだ。なんか、盛大に勘違いされてる気がするんだが」

「分かっている。では任せたぞ」

「分かってないよね。あと、任されても困るんだけど」

「そんなこと言うのも今のうちだ。もし従わないなら」

「な、何だよぉ……脅しには屈しないぞ」

「俺がすごく困るぞ」

「…………」

 

何言ってんだコイツと冷めた目を向けられた。

フッ、この事実には驚いただろう。

それほどまでに、俺は他に考えがないということである。

つまり、選択肢は一つしかないのである。

 

『いや、それはお前のことであって相手の事ではないのだが』

「後、断るなら勝負だ。勝ったら俺の願いを叶えてくれ」

「どういうことだよ!自由か、貴様!」

「何か問題でもあるか?強い奴に従う、シンプルだろ」

「何ていう脳筋理論」

 

脳筋だって、まったく何を言ってるのか。

これでも俺は理系だ。

論理的に考えて強い奴が正しいのは自明ではないか。

強い奴が好き放題した結果、俺は死にかけたのだ。

聖書の勢力だって、実力が高かったから好き勝手やっていたのだ。

つまり、強い奴には逆らえないことから勝負に勝ったら従うしかない。

実に論理的である。

 

「あぁ、うぅ、まぁ日本でドンパチされて都市とか滅ぶと面倒だし……まぁ、聞いてやってもいいよ」

「そうか、助かる」

「別に脅しに屈した訳じゃないんだからね!」

『はいはいツン……デレ?いや、普通に屈しただけ?』

 

見事交渉の末に両親の安全を手に入れた。

素晴らしい、やったぜ。

そして、しばらく観光して駒王街に戻るのだった。

 

 

 

家に帰ってからは、アーシアと意思疎通の訓練をしつつ修行である。

ドライグの力で重力を数乗して、筋トレである。

ドラグソボールでもやってたし、確実に強くなれるはずである。

親父達はアーシアを学校に通わせたいようだが、ピザだかビザだか何か難しい話をしていたので難しそうであった。

 

ある日のことだった。

日課である瞑想で、魔力を使った円と気を使った見聞色の複合を用いて周囲に異常がないかと探っていたら学校の方に反応があった。

まぁ、それほど強そうに感じないので、おそらく悪魔かなんかだろう。

ちなみに、魔力と気が合わさり最強に見えるが中々コントロールが難しい。

 

またある日のことだった。

夜中に学校の方で違和感があった。

まだなんかやってるみたいだが、ドンパチでもないだろうし問題ないだろうと思って寝た。

 

数日後、元浜と松田が遊びに来た。

コイツらの中でどういう風に考えたのかは知らないが、どうやら俺が学校に来ないから痺れを切らしたらしい。

俺は死んだことになっているし、身体はドラゴンだと腕を見せなが説明してやったら固まっていた。

更に、お前の学校は悪魔の巣窟だと言ったら、サキュバスはどこですかと聞いてきたので知るかと言っておいた。

だが、一番コイツらが驚いたのは、俺の背中から身を乗り出して様子を伺うアーシアだった。

金髪美女がどうのこうの、その後は発狂していて何を言ってるのか分からなかった。

取り敢えず、前屈みになってないで正気に戻れ。

 

正気に戻った元浜達を交えてゲームすることになった。

俺のクッパは最強だ。

だが、勝てない。

何故だ、何故なんだ。ドラゴンはスマブラでも最強、そのはずなのに何故だ。

クッパは亀だった、是非もないね。

まぁ、アーシアが楽しそうだったので良いことだ。

 

「俺、チラシから悪魔を呼び出して童貞卒業するんだ」

「ふっ、甘いな。俺は悪魔になってハーレムを作るぜ」

「なん……だと、その手があったか」

「そこに気付くとは我ながら天才だな」

 

何を馬鹿なことを言っているのか。

取り敢えず、日本語が通じないからと言ってアーシアの目の前で猥談とかレベルが高すぎてついていけない。

そんなことより筋トレしようぜ、お前ら重りな。

えっ、しない?なんで、楽しいのにな。

 

「そういえばあの噂、イッセー知ってるか」

「知らん」

「おい、何言ってるんだよ。学校に来てないんだから知るわけ無いだろ」

「あぁ、そうだったな」

 

元浜が思い出したかのように何かを言おうとしていたが、正直何も分からないので知らんと答えた。

そもそも、今日が何日かすら覚えてないのに、学校に通ってた頃のことなど覚えてない。

 

「あのグレモリー先輩を知ってるか?」

「あぁ、グレモリーだな」

「グレモリー先輩、結婚するってよ」

「先輩、学生結婚するらしいぜ。くぅぅぅ、人妻ってことだよな、エロいぜ」

「俺もあの身体を毎日抱きたいぜ」

「ふーん」

『えっ!?結婚するの、えっ嘘だろ!?』

 

自分の領地がとか言ってたグレモリーって悪魔の話かと興味なさげに聞いていたら、何故かドライグが驚いていた。

どうした、そんなに悪魔の結婚ってのは驚くことなのか。



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俺は兵藤一誠。通りすがりの、仮面ライダーだ!

「俺はドラゴンをやめるぞアーシア!俺は、人間に戻ってしまう!」

「オォ、素晴らしいデス」

 

長い修業の果て、俺はドラゴンの肉体から魔力とか気とかドラゴン的な要素をなんやかんや放出することで人間の姿になった。

因みに、放出をやめれば数秒で戻ってしまう。

何故、態々弱体化したかというとドライグ曰くオサレだからだそうだ。

 

『真の強者は奥の手を十個くらい持ってるものだ』

「なん……だと!?」

『フッ、例えば俺はあと変身を三回残しているとかな』

「ド、ドラグソボール!」

 

というわけで、俺も奥の手を手に入れるべく弱体化したのだ。

これで負けそうになっても弱体化を解除することで、俺のターンはまだ終わりじゃないぜとオサレな立ち回りが出来る。

オサレな必要は分からないが、最初から全力だと負けフラグというのが立つらしい。

フラグって何だろうか、英語は分からん。

 

日本語が達者になってきたアーシアと夕飯の買い物をすることになった。

いつ敵がくるか分からないので俺はアーシアのお守りである。

そんな時、違和感を感じた。

ふむ、俺の見聞色の覇気に引っ掛かるとは普通じゃないのだろう。

 

「モウ、イッセーさん。フラフラしちゃダメデース」

「むっ、すまない」

 

迷子になりますよと言われて手を掴まれてしまったので探しには行けなかった残念である。

だが、数日後のことだった。

アーシアがお袋と洗濯物をしている間に、俺は修行をしに外に出たのだがその際にまた違和感を見つけた。

今度こそはと思って行ってみれば、そこにはフードの人物が二名いた。

 

『相棒、教会の人間だ』

「あぁ、分かっている」

 

その胸元に光る十字架に俺は聖職者であると確信した。

そう、SEISYOKUSYAである。

きっと、コイツらは戦える強い奴に違いなかった。

俺は奴らに近づき、目の前で体育座りになる。

アーシアにも教えを乞うてはいるが、やはり日本に来るくらいだから宣教師ってやつだろ。

知ってるぞ、ザビエルだ。

 

「えっと、貴方お名前は」

「フランシスコ・ザビエル!……ハッ!?」

「思いっきり偽名だよぉ……」

「おい、そんなことより聖職者だろ。説法しろ、説法、説法しろよ!」

「な、なんなの!押しがスゴイ」

 

その後、俺の聖書の理解が上がった。

あと、お布施を要求したから食パンとオリーブオイルを買ってやった。

アーシアが言っていた、油とパンの話を思い出したからだ。

どうしたその顔は、笑えよ。

 

 

 

夜のことであった。

みんな寝静まった頃、何やら学校の方で違和感があった。

こう、虫が飛び回っているというか気配がブンブン動き回っているのだ。

つまり、鬱陶しいのである。

 

「イッセーさん」

「むぅ、アーシアか。起こしてしまったか」

「行く、ですか?」

「あぁ」

「戻る、大事、約束して、デース」

「日本語が不自由だな。だが、分かった善処する」

 

何やらアーシアに見つかってしまったが、俺が遅れを取るわけがない。

俺のドライグは最強なんだ!

 

『おいやめろ!マジでやめろ!』

「行ってきます」

 

学校に向かうと、そこは変哲もない校舎であった。

うーむ、見ているものと感じているものが違う。

そうか、幻術とか幻覚の類だろう。

 

「よし、殴ろう」

『違和感に対しての最初の行動が殴るかよ』

 

学校の校門に向かってパンチを繰り出す。

すると、ガラスが割れるような音がした。

よく出来た演出である、気にせず中に入った。

 

「誰だ!?」

「お前こそ誰だ、いや待てこういう時は名乗りを上げるとしよう」

 

中に入ったら、空に浮かんでたロン毛の堕天使が驚きの声を上げていた。

おい、ちょっと待てなんだあのでっかい犬。

あとで戦うとしよう。それより名乗り上げである。

 

「誰だと聞いている!」

「な、何者ですか!その制服、まさかウチの生徒……」

「会長、アイツは間違いない!番長のイッセーだ!アイツ、死んだはずじゃ……」

 

外野を無視して、俺はビシっとロン毛を指差しながら言った。

 

「俺は兵藤一誠。通りすがりの、仮面ライダーだ!」

「何言ってるんだ、馬鹿かお前?」

「ブッ殺!変身!」

 

朝のヒーロータイムを見ている俺に対してその発言は如何なものか。

許せん、奴は絶対に倒さないといけない悪である。

仮面ライダーを馬鹿にするとは、つまり正義の敵対者であり、悪であることは明白であることは自明の理なのである。

 

『いや、正論だろ。子供か、お前』

「へ、変身だと!?まさか、本当に仮面ライダーだと!?」

『お前もか!子供なのか、貴様ら!』

 

俺の身体が放出をやめることで、竜の気やら竜の魔力やらを体内に留める。

結果、人の身体からドラゴンの身体へと変わる。

その際、一張羅である制服が破けてしまった。

なんてことだ、帰りは全裸になるから人間態では帰れないではないか。

 

「か、怪人だぁぁぁぁ!」

「や、やめなさい匙。本人は、仮面ライダーって言ってるんだから」

「ほぉ、その竜の闘気。そして、赤い色、なるほど貴様赤龍帝だな」

『そこに気付くとは天才か』

 

ドライグが自分の正体を見破ったことに対して驚きの声を上げていた。

だが、天才だからどうしたというのだ。

天才だって負ける時はある。週刊少年ジャンプじゃ、たくさん負けてる。

 

 

「このコカビエルに戦いを挑むとは、正義の味方気取りか。赤龍帝よ、いや仮面ライダーよ」

『この堕天使、ノリノリである』

「アーシアが言っていた。汝、左の頬を殴られたら左の頬にカウンターをしなさいと。つまり、やられたらやり返すってことだ」

『言ってない、アーシアはそんなこと言ってない』

 

仁王立ちで、上空を飛んでいる堕天使を見上げる。

取り敢えず、落とすか。

 

「ほぉ、ならば――」

「月歩!」

「何ィ!翼も持たずに空を飛んだだとォ!?」

「確かに俺は翼がないが、でも飛べるんだ!オラァ!」

 

堕天使に向かって、右ストレートをぶち込む。

だが、奴は軽く殴り飛ばされるだけで体勢を立て直し、離れた空中で口元に血を垂らしながらニヤリと笑っていた。

 

「随分と軽いパンチだ。恐らく、蹴りの圧力で空気の壁を蹴ることで宙に浮いているのだろう。だが、そのせいで体重を足場に流すことが出来ない。結果、腕だけのパンチというわけだ」

「あの一瞬でそれに気付くとは、やはり天才か」

 

パンチとは全身を使って放つもの、体重の乗ってないパンチはただの当て身である。

牽制になっても、攻撃にはならない。

 

「惜しかったな。生まれる種族さえ違えばいい戦いが出来ただろう。だが、なかなか楽しめそうだ。魔王の妹を殺害して戦争でもしようと思っていたが、気が変わった」

「フンッ、俺のターンはまだ終わりじゃないぜ」

「何?」

「ドライグ、今だ!」

『Transfer!!』

 

俺は見上げた状態で、奴に向かって譲渡を使った。

そう、これこそ俺が手に入れた新しい力。

修行の末に、ドライグの能力が開放されたのだ。

 

「俺の力である譲渡は、対象を倍加する赤龍帝の能力を付加する」

「敵である俺に対して説明するとは慢心が過ぎるぞ赤龍帝」

 

分かってないな。

説明してやる、つまりオサレである。

これにより、俺は戦闘を有利に進めることが出来る。

ドライグが言ってるんだから、間違いじゃない。

 

「だが、俺を強くするとは愚かな、なっ!?」

「教えてやるよ。これは慢心ではない、余裕だ!」

「な、何をした赤龍帝!うおぉぉぉぉぉ!」

 

ロン毛の堕天使、コカビエルが慌てたような声を上げる。

その声に、チャンバラをしていた白髪と金髪の剣士も固まる。

ボロボロになってる、SEISYOKUSYAの姿も見えた。

なんで凹んでるんだ?まぁ細かいことはどうでもいい。

 

「な、なるほど!」

「分かったんですか会長!」

「恐らく、彼は飛行するのに使用する力の量を倍加したのでしょう。悪魔であれば、空を飛ぶのは物理ではなく魔力を用いている。つまり、飛ぶために必要な量が増えれば飛べなくなるということです!」

「な、なんだってー!」

 

生徒会長、そこに気付くとは天才か。

そう、奴は消費MPが増えてしまったのだ。

つまり、魔力が足りないから飛べないのである。

羽ばたかないで飛ぶのが悪い、物理で飛べよ。

 

「さぁ、降りてこいコカビエル!翼なんて捨てて、掛かってこい!」

「人間風情がぁぁぁ!野郎、ブッ殺しゃぁぁぁぁ!」



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お前が、白龍皇ヴァーリー!そういう君は、赤龍帝兵藤一誠

敵は強大だ。

俺を殺そうとし、足蹴にした堕天使にも及ばない強者。

俺の見聞色の覇気が強さを感じさせてくれる。

 

コカビエルは、その手に光の槍を出現させた。

その光は眩しく、そして強大だ。

最初の堕天使が銛だとしたら、コカビエルのそれは丸太だ。

丸太か、いい武器を使う。

 

「光の丸太か」

「舐めてるのか貴様ァ!光の槍だ!」

「うるせぇ!」

 

どうやら違ったらしいが、強いことには変わりない。

俺は奴の懐に向かって、剃で瞬間的に移動する。

貰った、食らうがいい我が必殺の――。

 

『相棒!』

「ッ!?」

「甘いぞ、赤龍帝!」

『Boost!!Boost!!Boost!!』

 

光の槍が腕を抉る。

赤い龍の身を、焼きながら削っていく。

咄嗟に、防御力を倍加したが俺が弱いせいか防ぎきれなかった。

特防に努力値を振っておけば、努力が足りない。

 

「な、中々やるな。確実に倒せたと思ったんだがな」

「貴様ほどの人間など、たいして珍しくはない。大戦時代、たくさんいたのだ」

 

なるほど、戦争経験者という奴なのか。

そういうやつは漫画でも強い奴が多い、伊達じゃないって奴だな。

 

「近づかない方が良さそうだ」

「何?」

「行くぞ、相棒!」

『Boost!!Boost!!Boost!!』

 

俺の気が数倍に膨れ上がる。

掌の間にそれを溜め、腰で構える。

足を大地に降ろし、反動に備える。

 

「その構えは、まさか!うおぉぉぉぉぉ!」

「ドラゴン破ァァァァァァ!」

 

コカビエルが、その雷にも見紛う光の矢を振り投げる。

そこに向かって、俺の赤いレーザーのような気の塊が飛んで行く。

俺とコカビエルの間で、それはぶつかり火花を散らした。

お互いの力は拮抗、押され押し返され、互いにぶつかりあっていく。

クソ、もっとだ!もっと気合を入れるんだ。

 

「うおぉぉぉぉぉ!」

「人間風情がぁぁぁぁ!」

『なんだと、二個目だと!?』

 

一気に、俺に向かってくる圧力が増す。

どうやら、奴は二個目の槍を投擲したらしい。

俺が気合を増やした分だけ奴の投擲した槍も力を増したらしい。

お互いに決着はつかない拮抗、それにより飽和したエネルギーはお互いを吹き飛ばすように爆発して膨れ上がり、クレーターを生み出した。

 

「ぐあぁぁぁぁ!?」

「ぐおぉぉぉぉ!?」

 

お互いにボロボロになって、地面に投げ出される。

俺は満身創痍、あの短いやり取りの中で常に全力だった。

だが、まだ終わりじゃない。終わりじゃないのだ。

 

「よっしゃ、隙あり!」

「くっ、邪魔だ!」

「待て、フリード!」

 

立ち上がろうとした瞬間、背後から気配が忍び寄ってきた。

コイツは、あの時の神父ではないか。

虎視眈々と不意打ちの機会を狙っているとは、というかよく見たらさっきの白髪の剣士だった。

奴は光の剣で殴りかかってくる。だが、今は邪魔である。

そんな俺を庇うように、金髪の剣士が剣と剣をぶつけて防いでくれた。

なんだこのイケメン、死ねばいいのに。

 

「大丈夫かい、一誠君。ここは僕に任せてくれ」

「へいへいへい、そういうの死亡フラグって言うんだよ!僕ちん舐められてる、上等上等!ぶっ殺してやんよぉぉぉ!」

「よく分からんが、イケメン助かった」

 

死ねばいいと思ったが、やっぱり生きてても良いだろう。

そんなことより、コカビエルである。

奴は片方の翼を折っていたが、それでも立っていた。

俺と奴の目が合う。

奴もまた、こんなところでは終われないという目をしていた。

 

「フフフ、ハハハ!いいぞ、いいぞもっとだ!来い、赤龍帝!」

「なんて奴だ」

 

あの攻防で、片翼になる程度とはやはり元のポテンシャルが違うのだろう。

だが、諦めなければ人は成長出来るのだ。

奴は倒す、倒さなければならない。

 

「ドライグ、アレを使う」

『なんだと、そんな身体で……』

「だからこそだ、アイツに勝つにはこれしかない」

 

コカビエルは何をする気だと此方の動向を伺っている。

終わりだコカビエル、その余裕もいまに吹き飛ぶ。

 

「次は何をする赤龍帝!見せてみろ、お前のすべてを!」

「奥の手だ、行くぞ相棒!クロックアップ!」

『Boost!!Boost!!Boost!!』

 

世界が、ゆっくりと停滞していく。

加速し続ける俺自身により、時を置き去りにしているのだ。

奴の一秒を、俺の数十秒に変えていく。

刹那の一瞬を、永遠の一時に変えていく。

そう、時を置き去りにするほどの自身の加速、それがクロックアップだ。

 

『相棒、これは寿命を削る技だ。早く決めろ』

「うおぉぉぉぉ!」

『Boost!!Boost!!Boost!!』

 

静止したコカビエルの背後で、俺は右足に魔力を貯める。

念による強化、そして倍加による強化、更に武装色の覇気を使い強化する。

 

「終わりだ、コカビエル」

『ファイナルアタックライド!』

「うおぉぉぉぉ!」

 

その強化された一撃がコカビエルへと入っていく。

奥の手を切らされるほどの強敵ではあった。

そして、クロックアップが解除される。

 

「なッ!?ぐわぁぁぁぁぁ!」

 

叩きこんだ一撃に身体が耐えきれず爆発するコカビエル。

俺の背後で、黒い一枚の羽根がヒラヒラと落ちていった。

 

「くっ……」

 

今までの戦闘で蓄積したダメージのせいで膝を着く。

魔力や気を使い過ぎたせいでドラゴンの身体から人間態へと戻ってしまった。

絶をして回復力を早めるが傷は深い。

そして、そんな状態だったからだろう。

俺は奴の存在に気づかなかった。

 

「ほぉ、コカビエルを倒すか。なかなかやるな」

「誰だ!?」

 

声のした方を見る。

そこには月光を背後に佇む白い鎧の男が飛んでいた。

あ、アイツはまさか。

 

『久しいな、赤いの』

『起きていたのか、白いの』

「お前が、白龍皇ヴァーリ!」

「そういう君は、赤龍帝兵藤一誠」

 

奴が、ドライグが言っていた超えるべき壁。

二天龍の片割れ、アルビオンを宿した歴代最強の白龍皇。

 

「やめておこう、弱った所で戦うなんて勿体無い」

「あぁ、そうだな」

 

出会った時に感じた。

我が宿敵に相応しい。

ドライグに言われたからじゃない、コイツは俺の獲物だ。

 

「いつかお前を倒す」

「あぁ」

「だから、俺以外に負けるんじゃないぜ」

「楽しみにしているよ、兵藤一誠」

 

奴に向かって拳を向けて、俺は宣誓した。

そして、同時に決めた。

俺も、コイツと戦うときまで負けないと誓った。

 

「会長、なんかあそこだけ少年漫画みたいな感じなんですけど」

「しっ、今が良いところだから」

「会長!?でも、アイツって」

 

ヴァーリはゆっくりと降り立ち、その黒い羽を一枚回収して飛び立った。

さて、俺も帰るとするか。

 

「ま、待って下さい」

 

帰ろうとして、呼び止められたので振り返る。

すると、今までの戦闘で疲弊しているのか顔を赤くした状態でボロボロな奴らが此方を見ていた。

 

「なんだ」

「…………」

「何なんだ」

 

振り返り、何か言うつもりか。それとも、これから俺を討つのか。

そう思い、仁王立ちでいつでも動けるように待機する。

 

「…………」

 

しかし何も答えない奴らに痺れを切らした俺は、そのまま奴らに背を向けて帰路についた。

徒歩で帰り、玄関を開ければそこにはアーシアが待っていた。

 

泣きそうな顔で、泣き腫らしたのか目は真っ赤だった。

というか、顔が真っ赤だった。

はて、どこかで見たような……さっきの生徒会長たちと同じ顔だ。

 

「一誠さん!」

「なんだ」

「ホワイ!ナンデ、全裸ナンデ、着替えて、ハリー!」

「あぁ、そうだった。すまない」

 

玄関で全裸の男が謝っていた。

というか、それは俺だった。



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決闘だが、別にアレを倒してしまっても構わんのだろ?

限界、それは突然やってくる。

俺は身体を鍛えたが、それでも目に見えて成果が現れない。

種の限界って奴なんだろうか。

 

『何を悩んでいるイッセー』

「ドライグか。俺は、強くなっているんだろうか」

『何を今更、俺が言った冗談で六式が使えるようになっているんだ。出来るに決まっている』

 

そうか、俺はドライグの冗談で強く……なんだと!?

 

「じょ、冗談だと!?」

『細かいことは気にするな。結局できたんだ、なら出来るってことだ』

「お、おう。そうなのか?」

 

来るべき聖戦のために強くならないといけないのか。

しかし、仙人になれば強くなれると思ったんだが壁にぶつかっているのは事実だ。

どうしたらいいのか、うむ悩ましい。

 

山の中、滝行をしながら考え事に耽る。

どうしたら強くなれるのか、飛ぶ斬撃ならぬ飛ぶ手刀とかどうだろうか。

そもそも、拳圧って飛ばせるんじゃないだろうか。

貫手とか飛ばしたらどうだろうか。

 

『ふむふむ、釘パンチというのがあってだな』

 

ドライグの教えにより、一点集中の拳による技を覚えることができそうであった。

だが、それにはまだ力が足りない。

ドラゴンの身体でも、パワーが足りない。

 

「話は聞かせて貰ったニャ!」

「むっ、誰だ」

 

俺の見聞色の覇気感知を掻い潜った存在に視線を向ける。

そこに来たのは、メス猫だった。

黒い猫が、喋っていた。

 

『まさか、夜一さん!?』

「知っているのかドライグ」

「誰ニャそれ」

 

どうやら猫違いであった。

しかし、こんな山奥でしゃべる猫とは……待て、喋るということは猫じゃないのではないか?

 

「つまり、貴様は妖怪だな」

「猫魈ニャ」

「妖怪仙人って奴だな。だから、俺の見聞色を掻い潜っているのか」

 

見聞色と首を傾げる猫、どうやらニワカ仙人のようだ。

それで、こんな山奥で何をしているのだろうか。

 

「これでも仙術は得意ニャ。修行を付けてやるから、願いを叶えてくれ」

「分かりやすい、いいぞ」

「うんうん、信用出来ないのはわか……えぇ!?即決!」

『相棒は素直なんだ、慣れろ』

 

ふっ、所詮は猫よ。

どうせツナ缶が欲しいとかなんかだろう。

そんなことより修行である、俺ワクワクすっぞ。

 

「まぁ良いニャ。ズバリ、アンタが弱いのは龍の気と人間の気と自然の気が入り乱れてるからニャ」

「なるほど、わからん」

「取り敢えず、上手く調和が取れれば扱いきれないエネルギーを全部使えるってことニャ」

「つまり、一部しか使えなかったということか」

 

ドライグのパワーを俺自身がコントロール出来ていないのが原因だったとはな。

しかし、この猫やるな。

 

「そこで、私を抱くニャ」

「……何故?」

「房中術というものがあってだニャ」

「ぼーちゅーじゅつ?」

 

その後、猫は長々とその概要を説明してくれた。

俺がうつらうつらと眠そうになるまで続き、話が終わったあたりで起こされた。

 

「聞いてるのかニャ!」

「すみません、聞いてませんでした」

『つまり、コイツのエロさがお前を強くする』

「事実だけど、事実だけど誤解を招くようなことを言うニャ!」

 

ドライグが言うにはそういうことらしい。

そうか、俺も年頃だからエロいことくらい考えるが、しかし猫とか。

そういう特殊な性癖はないんだがな。

 

「勿論、たっぷりサービスするニャ」

「うむ……やっぱりエロいことはダメだ。アーシアに言われている」

「誰ニャ!」

「アーシアが言っていた。婚前交渉はしてはならないってな」

 

アーシアの教えは絶対、いいね。

立派なSEISYOKUSYAになるためには必要なことだ。

うむ、だがしかしエロいことでも強くなれる。

どちらか一つの道しか選べないのだから、強くなるのは大変だぜ。

 

「そんな、計画じゃ……」

「もしするなら結婚しよう」

「えぇ……ムードも何もないニャ」

「じゃあ、この話は無しだ」

 

猫はぐぬぬと唸り声を上げた。

そこはフシャーじゃないのか。

しばらくして、そうだと何かを閃いた様子を見せた。

 

「婚前交渉でなければ良いのニャ、肌を重ねるだけならセーフニャ!」

『なるほど、十八禁から全年齢版になるという訳か』

「どういうことだ?」

「ぶっちゃけデリヘルニャ」

 

な、なるほど。

デリヘルみたいなことってことか。

それなら、アーシアも許してくれる訳だな。

大丈夫だ抱いてない、抱くのはNG行為だからと説明できる。

コイツ、天才か。

 

「というわけで、約束は守ってもらうニャ」

「あぁ、望むところだ」

「行くニャ、変身」

「なん……だと!?」

 

俺が納得していたら、目の前で猫が女の姿に変身していた。

スゴイ、コイツも変身できるなんて知らなかった。

さすがは妖怪仙人である。

 

「私はあと、一回変身を残している」

「何!?ね、猫ミミと尻尾まで生えた」

「この状態の私はエロさが当社比で1.2倍ニャ」

『なんて微妙な』

 

その後、猫は服を脱ぎ去って俺に跨ってきた。

そして、エロいことは次の日の夜まで続いた。

 

 

 

夜、焚き火の前で手に入れた魚を焼いて二人で食べる。

あの後、俺はみなぎるパワーを感じていた。

上手い感じに溶け合っているらしいが、その結果使いやすくなったらしい。

それで、猫の願い事を聞く算段になった。

 

「私のお願いは一つニャ。禍の団に入って、一緒に妹を悪魔から取り返して欲しいニャ」

「妹を悪魔から取り返す?」

 

詳しく話を聞いみると、どうやら猫は黒歌と言うらしい。

その黒歌は無理矢理に悪魔にされて、妹と離れ離れになったらしい。

妹は、グレモリーが預かっているということだ。

おのれグレモリー、またお前か!

 

「そこで私は禍の団を利用して、今度学校を襲撃するニャ」

「なんで学校を襲撃するんだ?」

「そこで和平の会談がある予定だからニャ」

 

黒歌が所属する不良グループ禍の団とやらが学校を襲撃するらしい。

恐らく、敵対グループの集会を襲うのだろう。

それが会談って奴だな。

それに何故か参加している妹を掻っ攫うとのことだった。

つまり、不良少女を連れ戻すってことだな。

そのために敵対する不良グループに入るとは、黒歌も頭が悪い。

そういうの、本末転倒って言うんだぜ。

 

「だいたいわかった」

「本当かニャ?あと、禍の団に一度顔を出して欲しいニャ」

『おい信用するな、恐らく話半分にしか理解してないぞ』

 

まったくドライグは失礼である。

それと、その不良グループに一応挨拶回りをするらしいことになった。

これも約束の範囲内だ、従うとしよう。

 

 

 

黒歌に連れられて森の中を歩くといつの間にか霧が発生して視界が悪くなった。

そして、気づけば俺は建物の中にいた。

どうやって入ったんだ、不思議である。

つまり、不思議な霧だったんだ。

間違いない、なんか神器的なやつか魔法的な奴だ。

 

「ついたニャ」

「驚いた、本当に勧誘を成功させるとは」

「アレが禍の団のリーダーである、曹操ニャ」

 

曹操か、中国の偉い人と同じ名前だ。

つまり、偽名に違いない。

カッコイイからって真似しちゃう奴だろ。

 

「俺は曹操、英雄派のリーダーをしている」

「英雄派って?」

「英雄の生まれ変わり、英雄たちのチームさ」

「つまり自称英雄の不良ということだな」

「おい、それは聞き捨てならないな」

 

事実を言ったのだが、どうやらそれが気に食わなかったらしい。

しかし、実在してたとしても死んだ人物だ。

それをあやかるならまだしも、英雄と同じ名前だからって英雄になれる訳がない。

長友って名前の人がプロになるわけじゃない、本田って名前の人がプロになるわけじゃない。

 

「名前だけじゃ、サッカーは上手くなれないんだよ!」

「何の話ニャ!?」

「まぁいい、仲間同士で争うのは不毛だ。俺達のことは、これから理解して貰おう」

「おい曹操、俺は納得いかないぜ!名前だけの赤龍帝なんぞ、足手纏いだ」

「やめないかヘラクレス。彼はまだ覚醒したばかりなだけさ」

「そんな英雄の魂を受け継いでない奴が、神器程度を持ってるだけの奴が強いわけがねぇからな」

 

へへへと笑う大柄の男が俺を馬鹿にしていた。

正直言って、コイツは嫌いである。

だがこれはいい機会だ。

不良グループだと思っていたが、神器とか言ってるしどうやら反社会団体だったようだ。

どのくらい強いのか試してみよう、そうしよう。

 

「おい、デュエルしろよ!」

「ひょ!?」

「おい猫一つ聞きたい。決闘だが、別にアレを倒してしまっても構わんのだろ?」

『おいやめろ!何故そのネタを知っている!偶然なのか、そうなのか!?』

 



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行くぞジャンヌ・ダルク!武器の貯蔵は十分か

目の前にいる男は、伝え聞くヘラクレス。

幼女を愛し、幼女に愛された男。

そう奴こそは、ギリシャ神話の大英雄ヘラクレス。

瀕死の状態から十二回も復活し、死の淵から生き返るという計十三回の復活をしたという大英雄。

巌のような肉体を持つ巨人ではないが、恐らくそれくらい強い奴である。

ケルベロスとかネメアの獅子とかそんなんじゃない、最も恐ろしい物の片鱗を与えてきそうな相手である。

 

「へへへ、来いよ赤龍――」

「先手必勝!オラァ!」

 

剃からのアッパー、相手は大英雄だ油断できない。

俺のパンチが奴にめり込む。

その時、目の前が真っ白になった。

 

「ぐあぁぁぁぁぁ!?」

「ぐあぁぁぁぁぁ!?」

 

吹き飛ばされ、床を転げ回る。

い、一体何が起きたんだ。

身体中が痛い、つまり何らかの攻撃を受けていた。

 

「ぐっ、一体何が……」

「へ、ヘラクレス!?」

 

痛みに震えながら敵を見れば、何故か気絶して煙が出ている自称ヘラクレスの姿があった。

どういうことだ、アレは罠なのか?

 

「油断はしないぞ!行くぞ、ヘラクレス!」

「おい、勝負はもう着いただろ!」

「お前は何を言っているのだ?」

 

ぶっ倒れたフリをするヘラクレスに俺は傷を負った身体を鞭打ち立ち上がり油断せずに構える。

そんな俺の前に曹操が立ちふさがった。

まだ勝負は付いてないのに、邪魔である。

 

何の強化もされてない、ただのパンチである。

ただのパンチを十発分込めた、アッパーである。

新技、釘パンチの応用ではあるが、何故に曹操は邪魔をする。

これくらいで大英雄がやられるわけがない、まだ一回も殺してないんだぞ。

 

「一誠、傷の手当をするニャ」

「そうだ、黒歌聞いてくれ。俺は気付いたら奴に攻撃されていた。触れた瞬間にだ、奴は強い」

「勘違いしているようだけど、奴は触れた瞬間に爆発する巨人の悪戯を持ってるニャ。攻撃した瞬間に発動でもしたのニャ!一誠は爆発に巻き込まれたのニャ」

「なに!?奴の神器は十二回ほど蘇生できる物ではないのか!?」

 

まるで意味が分からんぞ、ドライグに聞いていた話と違う。

いや、よく考えたらそっくりさんだ。

ドライグは昔に生きていた。

つまりドライグの知ってるのは昔のヘラクレス、そっくりさんは別人だから昔のヘラクレスと同じではない。

ヘラクレスとは名ばかりの普通の人と言う訳か。

 

「俺の知っているヘラクレス基準で殴って、なんかスマン」

「赤龍帝、君は何を言ってるんだ!」

「こんなに弱いと思わなかった」

「そこまでよ!」

 

バサッ、とマントを翻しながら女の人が現れた。

だ、誰だあのパツキンの姉ちゃん!

 

「ふっ、所詮ヘラクレスは脳筋。英雄派でも強い方なだけよ」

『そこは四天王の中でも最弱とか言うところだろ』

「何者だ!」

「私はジャンヌダルク、ジャンヌダルクの生まれ変わりよ!」

「お前は、そうか敵討ちか」

「へっ、別にそういう訳じゃないけど」

 

聞いたことがある。

ジャンヌ・ダルク、聖人認定された女の人で無敵状態になる神器を持っている奴だ。

いや待て、地面から槍を召喚して火炙りにする神器だっけか?

あれ、ドライグの話があやふやなんだが乙女ゲーの主人公になりたいとかいう良くわからない願望があるとか、甘いものが好きとかどうでもいいことは覚えてるんだが。

アイツの神器は何なんだ?

 

「聞かねばなるまい、お前の神器は何だ」

「急にどうしたのかしら。まぁいいわ、私の神器は聖剣創造。聖剣を作り出すのよ」

「な、なんだって!?」

 

聖剣ってエクスカリバーの事だろう。

なんて強敵なんだ、アレが何本も出てくるなんてヤバイじゃないか。

クソ、ヘラクレスの一撃さえなければ戦えたのに……俺は、無力だ。

 

『諦めんな相棒、傷は浅い。もう完治しているぞ』

「ドライグ、あぁそうだな」

『気を付けろ。奴の必殺技は自分の領域内で無限に聖剣を作る物だ。そのくらい出来るはずだ、ヘラクレスモドキより強いぞ』

「やはり、行くぞジャンヌ・ダルク!武器の貯蔵は十分か」

「えっ、ちょ、なんで戦うことになってるの!?」

 

驚いたフリをするジャンヌ・ダルク。

その手には、聖剣が出現する。

やはり戦おうとしている、つまりアレは演技。

油断を誘おうとするとは、流石英雄派というなの反社会団体、汚い。

 

「うおぉぉぉぉ!」

「くっ、やるしかないの!」

 

聖剣が大量に出現し、それが此方に向かって飛んでくる。

やはり聖剣を生み出して、射出してきたか。

だが、それは想定内だ。

 

「行くぞ相棒!」

『Boost!!Boost!!Boost!!Transfer!!』

 

ミシリ、と床が悲鳴を上げる。

続いて、響くのは金属音。

俺の周囲に迫っていた聖剣が落ちた音だ。

ジャンヌ・ダルクは驚愕に顔を染めながら、膝を着く。

観戦していた曹操や黒歌も膝を着いていた。

なぜなら、俺は周囲の重力を数倍にしていたからだ。

 

「ガハッ!な、なにが起きたの!?」

「うおぉぉぉぉ!」

「な、なんでこの重圧の中で動けるの!?」

 

重力が数倍の環境で、俺は駆け出す。

要は慣れである。

気合があれば、いつもの数倍力が出せる。

そうすれば普通のときと変わらない、簡単な話だ。

最初はヘラクレスの実力を見るためだったが、売られた喧嘩は買わないといけない。

こういうのは初めが肝心、徹底的にやるのだ。

 

「オラァ!」

「きゃぁぁぁぁぁ!うゔッ!?」

 

俺の本気の蹴りが、ジャンヌ・ダルクの腹部に入る。

だが、油断は出来ない。相手は英雄の生まれ変わりらしいからだ。

つまりは人形の化物、ドラゴンすら素手で倒す奴らである。

最初から本気である、ドライグが言っていた慢心は良くない。

 

「……やったか!?」

「何をしてるんだ赤龍帝!」

「なんだ曹操、次はお前か?」

「その必要はない。俺が相手しよう」

 

新手か、と声のした方を見れば剣士がいた。

何故か背中から龍の腕が飛び出している。

何だアレは、背中から腕とか意味が分からんぞ。

 

『アイツから嫌な気配がする。そうか、ジークフリートか』

「し、知ってるのかドライグ!?」

『奴は魔剣をたくさん持っているジークフリートの生まれ変わりだ。竜殺しの剣に気を付けろ、俺達の天敵だ』

 

ジークフリート、たしかファフニールというドラゴンを倒した英雄。

つまり、竜殺しの英雄だ。

俺の天敵、強敵だな。

 

「随分と暴れてくれたみたいだが、もうここまでさ。行くぞ!」

「待てジークフリート!待つんだ赤龍帝!」

「来い!うおぉぉぉぉ!」

 

踏み込みは早く、すぐに俺の側へとやってくる。

その両手には何らかの魔剣が握られている。

右から来る魔剣に右拳で殴り防ぎ、距離を取ろうとする。

しかし、それを邪魔するように今度は左からも攻撃が来た。

 

「くっ!」

「甘い!」

 

払うようにして左の剣を防いだ瞬間、身体に痛みが走る。

ば、馬鹿ないったい何が!?確かに左の剣は防いだはずだ。

 

「ぐあぁぁぁぁ!」

「最後の一本を見落としていたな」

『相棒!クソ、アスカロンか何かか!』

 

普通に斬られるよりも尋常じゃない痛みが走っていた。

ドラゴンの身体になったせいか、普通よりも痛いのかもしれない。

再生が、回復力が、ドラゴンの生命力すら間に合わないくらいのダメージ。

割りと、マジでヤバイかもしれない。

 

「今なら間に合う。黒歌に治療してもらい、今までの行いを反省しろ」

「く、クソがぁぁぁぁ!まだだ、まだ終わってねぇ!」

「ほぉ、まだやるっていうのか?」

 

負けないと、アイツと戦うまでは負けを認めないと誓ったのだ。

俺は生きてる、ならまだ戦える、なら諦めない。

あの三刀流の攻撃を防ぎつつ攻撃すればどうにかなるはずだ。

点ではなく面で攻撃すれば、防ぎながら倒せるはずだ。

やってみるか、試したことはないが……。

 

「ドライグ、倍加してくれ。ギアサードだ」

『何を……いや、そういうことか』

「行くぞ、うおぉぉぉぉ!」

「無駄だ!無駄無駄無駄!」

 

剣を構えるジークフリート、食らうがいい俺の必殺技パートスリー。

 

「オリャァァァァ!」

『Boost!!Boost!!Boost!!Boost!!Boost!!Boost!!』

 

ドライグの声に合わせて、俺の方から先の腕が大きくなっていく。

二倍、四倍、八倍、十六倍、三十二倍、六十四倍、それは車ほどの大きさの腕だ。

ジークフリートは三つの剣を拳にぶつけるが、それは傷を与えるだけで勢いは殺せなかった。

喰らえ、これが俺達の、努力と友情のなせる技だ。

 

「な、なんだと!腕が、大きく!ぐわぁぁぁぁぁぁ!」

「ぐわぁぁぁぁぁ!」

『相棒!なんて無茶を……重さに耐えきれなくて肩が脱臼したか』

 

だ、だがドライグ、俺は勝ったぞ。

 

「俺の勝ちだ……フッ」

「何してるんだ君は!ジーク!ヘラクレス!ジャンヌしっかりしろ!」

「一誠、何してるニャ!」

 

黒歌が何か言ってたが、俺は疲れていたのか意識を薄れさせていった。

 



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一番強いやつがナンバーワンではないのか?

目が覚めると、目の前に幼女がいた。

 

「問おう、貴方がマスターだな」

「うにゅ?ドライグ久しい」

 

首を傾げる幼女。

幼女だ、きっとヘラクレスのマスターである。

アイツやっぱりロリコンだった。

 

『久しいな、オーフィス』

「知ってるのかドライグ!?」

『ソイツは世界最強の幼女。人は、うわようじょつおいと言う』

「我、見た目は幼女中身はドラゴン。その名も無限の龍神オーフィス」

 

シャキーンと効果音を発しながら幼女がポーズを決めた。

な、なんだって!?世界最強とかスゴイ。

 

「ドライグ、我と一緒にグレートレッド倒す」

「グレートレッド?」

「真なる赤龍神帝、夢幻を司る龍神」

「倒せないのか?」

 

幼女は首を上下に振る。

しかし、ここで疑問が発生する。

 

「お前は最強なんだろ?」

「我、最強」

「だったら倒せばいいだろ」

「無理、我と互角」

「じゃあ最強じゃないじゃないか」

「ッ!?」

 

幼女の顔が驚愕に染まる。

その衝撃は計り知れない。

 

「我、最強じゃない?」

「一番強いやつがナンバーワンではないのか?」

「なん……だと……」

 

両手を地面に着き、幼女ことオーフィスは落ち込んでいた。

すまない、だが事実なんだ。

 

「驚愕の事実、我、凹む」

「どうして倒したいんだ?」

「我、静寂が欲しい」

「耳栓をすれば良いのでは?」

「ッ!?」

 

幼女の顔が驚愕に染まる。

そうだよな、子供だから気付かなかったんだな。

 

「なんてことだ、その発想はなかった」

「イッセー大丈夫かニャ!あっ、大丈夫そうニャ」

 

オーフィスと話していると、パァーンとドアを開けた黒歌がいた。

どうしたそんなに慌てて、びっくりするだろう。

 

「早く逃げるニャ!曹操が怒り心頭ニャ!」

「何故逃げないと行けないんだ?」

「今、理由を言ったニャ!オーフィスが話があるって言うから乗り込んで来ないだけで止めるのも大変だったニャ!」

 

ほぉ、助かる。

流石最強、最強の名は伊達じゃない。

 

「ダメ、ドライグは我と探し物がある」

「ぐぬぬ、でも連れてかないとオーフィスがいない時に危ないニャ」

「ダメな物はダメ」

「分かったニャ、その探し物は逃げ切ったら見つけるニャ」

 

オーフィスは首を傾げた後、熟考の末に頷いた。

俺が言うのも何だが、良いのかそんなに簡単に信用して?チョロいなコイツ。

まぁ、それはそれとして俺は逃げない。

どんな奴の挑戦も受けて立つ。

 

「待て待て待て、どうして動こうとする。どこ行くニャ」

「曹操、倒す」

「ダメニャ!えっと、そう!お互いもっと強くなってからのほうが良いニャ。!禍根を残すって言うニャ!言うとおりにした方が良いニャ」

「後悔なんて有る訳ない」

「今だけニャ、今はそう思うのニャ!そう思ってするのが後悔、そういうもんだニャ!分かったら、言うこと聞くニャ!」

 

ふむ、コイツは猫だが妖怪になるくらい長生きだ。

なら、一理あるのだろうか。

確かに後悔しないと思ってるが、そういうもんだと言っている。

そういうものなら、後悔するかもしれない。

そうだな、やめておこう。

 

「よし、分かった」

「ドライグ、チョロい」

「何だと!この口が言うのか」

「ひはい、はひほふふ」

 

悪口を言うオーフィスの頬を引っ張る。

フハハハ、そのモチ肌を引っ張られるのはさぞかし辛かろう。

早く謝るのだ。

 

「何してるニャ、早く行くニャ!早い方にはコンビニでコロッケを買ってあげるニャ」

「なんだって、それは本当か」

「我、コロッケ好き。先に行く」

『その程度で釣られるとは、子供か貴様ら!』

「待てオーフィス、それはズルいぞ」

 

黒歌のご褒美に釣られて、俺達は禍の団を後にした。

その後、コロッケを買った俺達は実家に帰省することにした。

オーフィスはコンビニで耳栓を買ったが、首を左右に振っていたのでどうやら静寂は手に入らなかったらしい。

 

「静寂、微妙」

「鼓膜を破れば静寂が得られるのでは?」

「うわぁ、えげつない方法だニャ」

「ッ!?」

 

その発想はなかったのか、オーフィスの顔が驚愕に染まる。

そして、そのまま躊躇なく耳に指を突き刺した。

うんうんと頷いてるので満足したらしい。

 

「やったな、見事なもんだ」

「?」

「そうか聞こえてないのか」

「なんか思ってたのと違う。静寂、不便」

「怖っ、幼女怖いニャ」

 

ボタボタ両耳から血を流しながら、オーフィスがやれやれだぜという顔をしていた。

お前、痛くないのかスゴイな。

そんな風に静寂の手に入れ方を考えながら家に帰るとアーシアが玄関を開けて飛び出して来た。

 

「一誠さん!何日も家を開けて何し……」

「オッス、我オーフィスよろしくな」

「黒歌ニャ」

「どういうことなの……」

 

アーシアが頭を抱えて疑問の言葉を口にした。

ううむ、ここは上手く説明しないといけないな。

禍の団とか英雄派とか夢幻の龍神とか、上手く説明する。

説明、説明か……そうだな。

 

「アレだ、拾った」

「それだけで説明できると思わないでください!」

「日本語が上手くなったな」

「何度も言わせてるからですよ!もう!」

 

アーシアが地団駄を踏んでいた。

すまない、苦労を掛ける。

 

「それに怪我してるじゃないですか。こっちに来なさい!なんですか、その破廉恥な格好は!」

「ドライグ、助ける」

「無理だ」

「薄情者、許さん」

 

アーシアに連れてかれるオーフィス。

オーフィスは犠牲になったのだ、俺達の平和の犠牲にな。

オーフィスが治療されることになりアーシアに連行されて行ったのを見送った後、お袋達に説明する。

拾ったと説明し、黒歌が猫になるとそういうこともあるのかと納得してもらえた。

うむ、アーシアには柔軟性が足りないな。

 

「ドライグ、見てみて、新しい服」

「アーシアのワンピースか。似合っている」

「むふー!我、可愛い!褒められた」

 

お袋達に黒歌を紹介していると、ワンピースを着てクルクル回るオーフィスがやってきた。

どうやら、アーシアに服を貰ったので自慢しに来たらしい。

気持ちは分かる。それは良いものだ。

 

「もう、事情は分かりませんけどオーフィスちゃんも私みたいな状況だったんでしょう。一誠さんは仕方ない人ですね」

「すまない」

「いいですよ、もう」

 

いつも苦労を掛ける。

そんなアーシアに悲しいお知らせである。

近々、黒歌の為に学園に用があるのでまた迷惑を掛けることが確定しているのだ。

俺は無言で土下座した。

それだけで、アーシアは察したのか大きくため息を吐いた。

 

 

 

新しい家族が増えて数日後、夜になって俺は学園に乗り込むことにした。

禍の団も来る予定なので、絡まれることを心配したオーフィスから新しい力を貰った。

それはオーフィスの一部、蛇と呼ばれる存在だ。

一種のドーピングアイテムらしく、楽して強くなれた。

新しい技、ドライグの透過の能力を得ることが出来た。

なんかすり抜けるらしい、スゴイ。

狙ったものだけ殴れる、その説明だけで最強に聞こえる。

 

「よし行くぞ」

「作戦はこうニャ、まず――」

「オラァ!」

 

パキンと校門の方から音が聞こえた。

試しに空間を透過させて結界だけ殴ってみたんだが、距離を関係なく殴れるとはスゴイ。

 

『あれぇ!?能力を無視できるだけのはずなんだが』

「ドライグ、出来たんだから可能なんだ」

「なんてことを!正面突破とか何を考えてるニャ!」

「……これも作戦だ」

「今の間は何ニャ!何も考えてなかったニャぁぁぁ!」

 

な、何故バレた。

いや、あれだ。俺はいいけど、ドラゴン的に考えてコソコソするのはダメだ。

そう、正面突破するしかなかったんだ。

 

「これしかなかったんだ」

「開き直ったニャ!もうこうなったら、このまま行くニャ!」

「安心しろ、邪魔する奴は殴る。白い猫を見つける。連れて帰るだろ」

 

俺達の戦いはこれからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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初めましてだな、魔法少女マジカル☆レヴィアたん

やってきた校庭には人の姿はなかった。

だが、そんなことに騙される俺ではない。

この肌で何かが来ることを察していた。

 

「来る!」

「我、参上」

「なんだ、ただのオーフィスか」

 

シャキーンとセルフ効果音と共にオーフィスが校庭に降り立つ。

メチャクチャ強い奴が来るのかと思って焦ったじゃないか。

そう思うのも束の間、今度はワラワラと複数の気配が現れる。

 

「何ィ!?赤龍帝だァ!?」

「おっ、誰か来たようだ」

 

声がしたと思えば、上空の方から男の驚きの声が聞こえた。

空には複数のローブを着た者達がおり、その一人が発した声だと察した。

なんか魔法陣に乗ってるし、逆さまの人もいる。

どういうことだろう、魔法使いだろうか。

 

「えっ、赤龍帝」

「アイツ裏切ったんじゃ」

「でもいるけど、なんで?」

 

ざわざわとした空気が辺りに漂う。

そんな空気をぶち壊すように、少女が校庭に降り立った。

 

「誰だ」

「みんな私に力を貸して!へ~んしん!」

「あ、アレは!?」

 

少女の身体がピンク色の光に包まれる。

一体何が起きているんです?

 

「魔法少女の変身シーンだ」

「魔法少女マジカル☆レヴィアたん、登場!」

「オーフィスの言うとおりじゃないか、やるねぇ……」

 

これは負けてられないと、俺も片腕をゆっくりと回しながらジャンプする。

行くぞ相棒!俺は赤い光に包まれてドラゴン態になった。

 

「変身!」

「おぉー、イッセー変身した」

「あ、貴方は!もしや仮面ライダー赤龍帝!」

「初めましてだな、魔法少女マジカル☆レヴィアたん」

『ここだけ何かスーパーヒーロータイムな件』

 

俺と魔法少女マジカル☆レヴィアたんが相対する。

お互いに迂闊に動けない。

奴からは凄みという物を感じる。

 

「今だ、やれ!」

「そこまでだ!」

「今度は誰だ!」

 

黒い羽根が空から落ちてくる。

その発生源には黄金のロボットがいた。

 

「我が名はアザゼル!堕天使の総督なり」

『痛たたた、閃光と暗黒の龍絶剣がやってきたぞ』

「何故、俺の黒歴史を知ってやがる!」

 

良くわからないがドライグの知り合いらしい、強そう。

光と闇が合わさり最強に見える二つ名だ。

えっ、二つ名じゃなくて神器の名前?それでも強そうだ。

 

「まさか赤龍帝がテロに加担するなんてな」

「えっ?」

「えっ?」

「良い所に現れましたわね赤龍帝!これで終わりよアザゼル」

 

俺の横に知らない女が現れる。

誰だコイツ、偉そうな奴だな。

 

「フハハハ、新たな世界に貴方達は必要ないのです!やってしまいなさい赤龍帝!」

「俺に指図すんな、オラァ!」

「きゃぁぁぁぁ!?」

 

よくわからないで仲間ヅラする不審者のケツに蹴りを叩き込む。

お尻を抑えて女は吹っ飛んでいった。

 

「よし!」

「よしじゃねーよ!お前ら仲間じゃなかったのか!」

「うるせぇ!」

 

そんなことより妹救出である。

あんな女知らん。

 

「我の、我の蛇!じゃーん!」

「どうしたオーフィス?」

「なっ、私の蛇を返しなさい!無限の龍神!」

「なんだって、あのガキが無限の龍神オーフィス!」

 

オーフィスが黒い蛇を拾って俺に自慢してくる、微笑ましい。

そんな光景に外野が驚いていた。

フッ、有名人はスゴイなオーフィス。

 

「和んでる場合かぁ!何をしてるニャ、魔王と堕天使の総督だニャ!もうダメニャ、おしまいニャ!」

「それはどうかな?我のターンは終わってない」

「くっ、オーフィスの参戦かよ。これはヤバイぜ」

 

片腕を抑えながらロボットが呻く。

アザゼルだっけ、どうした片腕が疼くのか?

そんなことより妹どこだよ、妹出せよオラァ!

 

「妹はどこだ」

「急にどうした、何の話だ!」

「あくまで隠すか、押し通る!」

 

きっと校舎が怪しいと俺は校舎に向かっていく。

 

「させない!はぁぁぁぁ!」

「無駄だ!」

 

マジカル☆レヴィアたんが氷の魔法をぶつけてくるが、透過の能力で俺の後ろにスルーする。

物理も魔法も無効化する今の状態は、いわばスターである。

無駄無駄無駄である。

 

「そんな、どうして!」

「そこまでだ!」

「サーゼクスちゃん!」

 

マジカル☆レヴィアたんを無視して校舎に近づくと、俺の感じる気配の中でもっとも強そうな奴が現れた。

コイツは強そうだ。きっと、一番強い。

 

「魔王、覚悟!」

「喰らえ」

「うおぉぉぉ!」

「少し、静かにしてもらおうか」

 

ボンっ、と奴の身体から周囲に圧倒的な魔力が発生して威圧する。

ピリピリとした感覚が肌を突き刺す。

見れば、空にいた魔法使い達が泡を吹いて気絶していた。

 

「覇王色の覇気か」

『違います』

「そんなぁー!」

 

どうやら違うらしいが、細かいことは気にしてはいけない。

 

「どうして、和平の邪魔をする」

「どうでもいい、妹を寄越せ」

「リアスを……どうやら戦わないといけない理由が出来たよ」

 

奴の身体が光になっていく。

なんだアレは、アイツも変身出来るのか。

 

「その姿は!」

「見ろ、アレが奴の超越者と呼ばれる所以。滅びの魔力そのものだ」

 

滅びの魔力、強そうである。

アレか、なんかそういう感じの悪魔ってことだな。

 

『気を付けろイッセー、奴はホロホロの実を食べた滅び人間。というか悪魔だ、触れたら滅ぶぞ』

「具体的に」

『消える』

「危ない!?」

 

触ることは出来ないということか。

じゃあ、どうやって奴は地面の上に立っているのか。

全くもって謎である。

 

「私の本気とは、私自身が滅びの魔力となることだ」

『相棒、透過だ!』

「行くぞ、うおぉぉぉぉ!」

 

俺のパンチが、魔王ことサーゼクスの顔に入り込む。

コイツ、ガードすらしないってどういうことだ?

 

「無駄だ、そんな攻撃は――」

「我知ってる。自分を無敵と勘違いしてきた自然系の寿命は短い」

「――効かな、ぐあぁぁぁぁぁ!」

 

俺は拳を振り切った形で、固まる。

なんだ普通に殴れるじゃん、やったぜ。

 

「ば、馬鹿な!」

「今だ!」

「待て、リアスは渡さない!」

 

まぁ、大したダメージは与えられなかったのかすぐに立ち上がるサーゼクス。

やはり強い、戦ってもいいが勝ち目はないだろう。

目的は妹の奪還、戦わないでおこう。

 

『Boost!!Boost!!Boost!!』

「な、なんて速さなんだ!いや違う、動いてないのに動いている!?」

「アイツやりやがった、空間に倍加して距離を倍にしたんだ!」

「気付くのが早いな、流石堕天使の総督だ」

 

あの一瞬でそこに気付けるとは天才か。

だが、もう遅い。校舎まであと少しだ。

むっ、何か来る。

 

「相棒」

『Boost!!Boost!!Boost!!』

「フン!」

 

真横に向かって拳を振り抜くと、ドシンとした衝撃が拳に入る。

何者かの攻撃に対して俺が迎撃したからだ。

見れば、白い男が拳を振り抜いた状態で立っていた。

そう、白龍皇ヴァーリである。

 

「随分な挨拶じゃないか」

「正面からとは気に入ったぞ赤龍帝」

「今はお前にかまっている暇はない」

 

恐らく魔力か何かを飛ばしたのだろう。

俺はそれを拳で打ち砕いた。

そんな状態の俺に対してヴァーリは好戦的な雰囲気を滾らせる。

やめろよ、興奮するじゃないか。

 

「探し物なら、アレが回収しているぞ」

「イッセーやったニャ!何故か固まってたから見つけられたニャ!」

「我、見つけた。我、偉い?」

 

ヴァーリ―が背後を視線で指し示すと、固まった状態の女学生を横に抱えた黒歌とぴょんぴょんするオーフィスがいた。

うむ、ミッションコンプリートってことか。

 

「よくやったぞ、ヴァーリ!お前はなんだかんだ裏切るかなとか思ってた俺を許してくれ」

「アザゼル、俺は禍の団に入るぞ。俺は戦いたいんだ」

「やっぱり裏切るのかよ!畜生が!二天龍がいるテロ組織とか、ヤバすぎるだろ!」

 

アザゼルとやらが悔しそうに喚いていた。

まぁ、そういうときもある。

しかし、今にも始めそうな雰囲気だが今ので白けてしまった。

 

「なぁ」

「あぁ、勝負は別の機会にしよう。俺も、そこらの魔王らに邪魔されるのは好きじゃないからな」

「分かってるじゃないか。というわけだ、俺達はここから帰らせてもらう」

「逃げられると思ってるのか?」

「俺だって馬鹿じゃない、逃げられるさ」

 

見せてやる、俺の秘策!

行くぞ、相棒!

俺の只ならぬ雰囲気に、奴らの注目が集まる。

それが貴様らの敗因である。

 

『Boost!!Boost!!Boost!!』

「太陽拳!」

「「「目がぁぁぁぁぁ」」」

「フハハハ、さらばだ!」

 

この後、家までダッシュで帰った。



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おいおい、こんな所でか?満足できるんだろうなぁ

一匹の猫がゲージの中でフシャーと毛を逆立てていた。

黒歌の妹なのだが、力が足りなくて人間になれなくなってしまったのだ。

まぁ、その原因は黒歌なんだがな。

 

「ふむ、メスか」

「シャァァァァ」

「ぬわっー!?」

 

親父が持ち上げて腹を見たせいで顔に傷を作ってしまったが概ね平和である。

定期的に黒歌が力を抜いてしまうから人間にも変身できない。

しばらくは猫で過ごさないといけないのである。

その間に説得する魂胆なのだろう。

 

「野良猫なんだ。警戒心が強いぞ」

「怪我してるって言うから気にしてたのに、元気そうじゃないか」

「アーシアが治したんだ。不思議パワーでな」

 

なるほどーと納得する親父達。

俺の両親だが、猫から人になっても鶴の恩返し的な奴って解釈して納得しそう。

まぁそんな感じで和やかに過ごしていた。

どうしてこんな風にいられるかと言えば、日本神話勢の結界のおかげである。

俺達の気配がバレにくくなるらしいからな、スゴイ。

俺達の居場所を見つけられたら大したもんですよ、はっはっは。

そう思っていた頃が俺にもありました。

 

「イッセー、ピンポンなった」

「宅配便か?」

「我が出る」

 

インターホンに反応して、タッタッタと走っていくオーフィス。

まぁ、危ない奴よりオーフィスの方が危ないし大丈夫だろう。

そう思っていると、オーフィスが人を連れて戻ってきた。

 

「お、お前は!?」

「アルビオン、久しい」

「ふっ、昨日ぶりだな」

 

そこには、白龍皇ヴァーリが立っていた。

どうしてここが分かったんだ。

 

「どうして俺がここに来れたか不思議そうだな。発信機だ」

「な、なんだってー!?」

「魔術は警戒してもこう言う手は予想外だっただろ」

 

そう言って奴は白猫の方を指差す。

すると、白猫の耳から何かが飛び出し、それは大きくなって人になった。

イケメンが携帯片手に現れた。

 

「お前は!?」

「知ってるのか黒歌!?」

「奴は美猴、猿だニャ」

「猿って、いや確かに猿の妖怪だけどさぁ」

 

黒歌が言うには禍の団のテロリストらしい。

まさか、そんな方法で居場所を突き止められるとは油断した。

オーフィスも悔しそうな顔を作って言う。

 

「不覚。弱すぎて気づかなかった」

「おい、煽ってるのか?」

「事実だからしょうがない」

 

オーフィスはそう言うが、俺の見聞色すら掻い潜ったところを見るとコイツも妖怪仙人だ。

しかし、ここで争うことは出来ない。

両親がいるから余波で死んでしまう。

ならば、先手必勝だ。

 

「おい、デュエルしろよ」

「おいおい、こんな所でか?満足できるんだろうなぁ」

 

周囲の影響を考えれば、ヴァーリの言うとおりだ。

だからこそと、俺はヴァーリに向かってある一点を指差し移動することを促す。

 

「まさか逃げないよな」

「ふっ、良いだろう。受けて立つ」

「本気かよヴァーリ、クソなら一緒にやってやらぁ」

「我も、我もやる!」

 

そう言ってヴァーリは指定された場所に移動し、そして俺が戦う大勢なるのを待った。

俺とヴァーリの戦いが始まる。

 

 

 

序盤中盤、お互いに相手から優位になるように位置取りをして立ち回っていく。

オーフィスや美猴の存在により、多少の邪魔が入るが流れ弾に気をつければ問題ない。

物を壊しては、物を投げる始末。もう使えるものはなんでも使うそんな状況だ。

時たま、思い出したように地形を利用しては、相手から主導権を奪い取る。

 

終盤、周囲の景色を置き去りにするような速度で駆けていく。

そうだ、このまま行けば俺は勝てる。

あと一歩、そこまで来ていた。

だが、そう簡単にはいかない。

 

『Half Dimension!』

「何だと!?」

「甘いな、まだまだ甘い」

 

俺の身体がヴァーリによって半分になり、その小ささは進む距離すら衰えさせる。

そんな様子を奴は余裕そうに見て、笑みを作る。

ふっ、そこで油断するとはまだまだだな。

主導権を握れるのがお前だけだと、そう思うなよ。

 

『Boost!!Boost!!Boost!!』

「なっ、そんな奥の手があったのか!」

「奥の手とは最後まで取っておく物だ」

 

俺の速度が何度も加速する。

オーフィスも美猴もヴァーリすら置き去りにする。

有象無象すら、一切合切を置き去りにする、無限ダッシュである。

フハハハ、もう勝ったなこれは間違いない。

だが、勝利の確信も束の間であった。

 

「我、ドーン!」

「なっ、オーフィス裏切ったのか!」

「勝負の世界は残酷」

 

オーフィスの全体攻撃、それにより空から雷が落ちてくる。

俺も、ヴァーリも、みんな無差別な攻撃の的となり、身体を回転させる。

クソッ、このタイミングで介入されるとは予想外だった。

 

「勝ったな、ガハハ」

「それはどうかな?」

「あぁー!ズルい、バナナズルい!」

「勝負の世界は残酷なんだぜ、そしてオレっちのゴール!フゥゥゥゥゥ!」

 

しかし、盛者必衰の理。

一位であることに驕った世界最強の寿命は短い。

足元が疎かとなり、目の前の黄色い影に気づかなかった。

それは些細なミス、猿が捨てたバナナの皮に引っ掛かったのだ。

そして転ぶオーフィスを尻目に、美猴が余裕を持ってゴールインした。

 

「我、勝ちだった。あと少し、だった」

「交代だにゃオーフィス!駄々を捏ねるな」

「やー!我、もう一回する」

「マルオカートは四人までしか出来ないんだから、ルールを守るニャ!負けた人は交代だニャ!」

 

画面の向こうで祝福されるファンキーコングという名のゴリラが乗ったカートを恨めしそうに見ながらオーフィスは黒歌とコントローラーの取り合いを初めた。

まったく、俺が交代してやるから喧嘩するんじゃない。

 

「逃げるのか赤龍帝、俺達の決着は着いてないぞ」

「アイツらを放ってはおけないさ」

「待て赤龍帝!勝ち逃げは許さんぞ!赤龍帝、いやイッセー!俺はお前より順位が低いんだぞ!」

「ヴァーリ、お前との戦い。楽しかったぜ」

 

俺はそう言ってコントローラーを黒歌に渡した。

さぁ、次の戦いである。

負けたやつは俺と交代な。

もしくは、後ろで待機しているアーシアと交代だ。

 

「クソ、行くぞ美猴」

「フッ、筋斗雲で鍛えたレーシング技術に勝てるかな?」

「抜かせ!ゲームと現実の違いってやつを教えてやる!お前に勝てば俺が一番だ!」

 

この後メチャクチャ、マルオカートした。

 

 

 

マルオカート、スーパーマルオブラザーズというゲームが元になったレーシングゲームである。

ドライグがマリオカートじゃないのかとか言ってたが、ちょっと何を言ってるのか分からない。

あの後、戦えば周囲に影響が出るということでゲームを提案した。

最初は渋ったヴァーリだったが、逃げるのかと言えば簡単に食いついた。

フッ、チョロい男である。

 

「もう、ゲームは一日中やってはいけませんって言いましたよね」

「だがな、アーシア」

「晩御飯抜きにしますよ」

「すまない、俺が悪かった」

『いいのか相棒、それで良いのか』

 

ドライグはそう言うが、アーシアの手料理には勝てなかったよぉ。

 

「これが和食か」

「ラーメンしか食わしてなかったなぁ」

「ネギだニャ!オーフィス、横から入れるなんて恥を知れ!」

「貧弱貧弱、あぁ、何をする」

「好き嫌いするからニャ!」

 

食卓の上で、容赦ない戦いが始まる。

また喧嘩して、しょうがない奴らである。

ヴァーリはそんな俺達を見ながら晩御飯を食べ、布団を敷いて泊まっていった。

 

「何から何まで助かる」

「あぁ」

「明日になったら、ちゃんと戦ってくれよ」

「フッ、龍さえ屠る俺の一撃受けてみよ」

「お前に負けるなら悔いはないさ」

「負けちゃうのかよ」

「冗談だ」

 

俺達は互いの事を話した。

どちらからだったか、相手のことを知りたいと思っていたからか自然に話していた。

お互いがこれ以上ないほどの好敵手なんだと、そう感じていたからか。

悔いが残らないように、相手のことを知った上で戦いたかったのかもしれない。

上を見上げればキリがない。それくらい自分より強いやつはたくさんいる。

ただ、ソイツらよりもコイツにだけは負けたくないとそう思えたのだ。

 

「勝つのは俺だ」

「負けるのはお前さ」



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へへっ、行くぜ!最初から、クライマックスだ!

やってきた場所は山であった。

俺の修行をしていた、人のいない場所だ。

対峙するのは、ドラゴン態になった俺と鎧を纏ったヴァーリだ。

 

「さぁ、始めるか!」

「……アルビオン」

「へへっ、行くぜ!最初から、クライマックスだ!」

 

剃を用いた移動、そこから奴の背後に回る。

 

「クロックアップ!」

『Boost!!Boost!!Boost!!』

 

舞い落ちる木の葉が停止する。

加速した世界、時の流れと同じだけの速度で動く。

 

「指銃!」

「さぁ、来い!」

「ッ!?馬鹿な」

 

高い金属音、俺の攻撃をヴァーリの拳が防ぐ。

まさか、俺の時の世界に入門したのか。

距離を取り、クロックアップを解除する。

見れば、拳を突き出したまま固まるヴァーリ。

やはり、アレは現実である。

 

「お前という存在が、俺の可能性を広げた」

「半減か」

「そうだ、俺は時の呪縛から開放された。殴るのに必要な最小時間が2秒だとすれば、俺は1秒でそれが出来る。そして半減した時間を糧とし、その1秒俺は使うことが出来る」

「つまり、どういことだってばよ……」

「0秒だ」

「0秒!?」

「まだ未熟故に完全には無理だが、時のエネルギーをすべて扱えるようになれば行動しようと思ったときには終わる、そうなることだろう。だが、これでいい、今はただお前と殴れるこぐらいでちょうどいい!」

 

扱いきれていなくても、奴は時の世界に入門した。

加速し、時と同じ時間で動く事で、俺の時間と周囲の時間が同じ速度となることで世界が止まるように奴も動いたのだ。

半減し、時の歩みを遅らせ、自身を時の歩みと同等まで早くすることで、時間との差異は俺同様に僅かだ。

俺の歩みに、奴の歩みが追いついたのだ。

 

「次は此方の番だ」

「逃げるかよォ!」

『Half Dimension!』

『Boost!!Boost!!Boost!!』

 

ヴァーリの姿が消える。

それは一瞬だ。

目の前には拳を構えたヴァーリの姿がある。

少しの出遅れが、驚異的な隙となる。

だが、だからどうしたというのか。

拳が目の前にある、避けるのは無理だ。

払うか、それには時間が足りない。

ならどうする、真正面から受けて立つ。

 

「オラァ!」

「頭突き!」

「ガハッ……」

 

奴の拳に俺の頭突きが入り、衝撃が周囲に走る。

痛みでどうにかなりそうになり、一瞬だけ思考が空白になる。

だが、すぐに俺は目的を思い出す。

そうだ、殴らなければならない。

ドラゴンになってから、久しく感じていなかった物が蘇る。

致死の一撃でもなく、無駄な攻撃でもない。

実力が拮抗した者が放つ、確かなダメージ。

苦痛に彩られた喧嘩の日々を思い返す。

 

「ハハハ、フハハハハハ!」

「ヴァーリィィィィ!」

「ぐっ!」

 

何がおかしいのか、笑い始めた奴の顔に向かって拳を叩きつける。

慣性の法則に従い、奴は吹き飛び周囲の木を薙ぎ倒しながら飛んでいく。

そして時の流れが正常に戻り、一気にエネルギーが開放されたからか山の上空に木が爆発するように散乱した。

 

「おい、こんなんじゃ満足出来ねぇぞ!」

「あぁ、そうだな」

 

爆心地のような砂煙が立ち込める場所、奴が吹っ飛んだ場所、そこから白い影が現れる。

腕の一捻りで砂煙は吹き飛び、頭部の鎧がぶっ壊れて顔が半分出たヴァーリが健在な様子で現れた。

俺はその様子に、自然と笑みを浮かべる。

やっぱり、無事でいやがった。

 

「覚えているか、俺の話を」

「あぁ」

「俺はハーフだ。魔王の血を引き、二天龍を宿した存在だ」

「知ってるよ」

「だから、今まで何もかもが脆かった。だが、お前という存在がいた!一誠、感謝するぞ!そして、悪かったな俺はお前を舐めていた」

 

ヴァーリの身体から膨大な魔力が溢れ出す。

白い魔力が、立ち上るように周囲を飲み込む。

おい、アレで本気じゃなかったっていうのかよ。

 

「お前は弱い種族である人間だ……そんな驕りがどこかあった!だが、やはりお前は最高だ!お前なら、俺は全力になれる」

「舐めんじゃねぇ、本気で掛かってこいよ!」

「あぁ、見せてやるよ。今度は、俺がお前の可能性を広げてやる」

 

声が聞こえた。

それは俺の先を行く、ヴァーリの見せる可能性。

 

「我、目覚めるは、覇の理に全てを奪われし二天龍なり。無限を妬み、夢幻を想う。我、白き龍の覇道を極め

汝を無垢の極限へと誘おう」

『覇龍!』

 

ヴァーリの身体が白い光に包まれていく。

鎧はその光に塗りつぶされ、影しか見えてこない。

その影は大きさを増していき、そして鋭さを増していく。

肉体が、有機的になっていく。

 

「なんだこれは」

『ジャガーノートドライブ、命を削るような禁じ手だ。奴は自分の魔力を使い、そのリスクを軽減しているようだがな。だが覚悟しろ一誠、アレは短時間だが神すら超える』

「上等だよ、それがアイツの実力って事だろ」

『それでこそだ。来るぞ一誠、構えろ!引けば老いるぞ 臆せば死ぬぞ!』

 

そこには巨大な龍がいた。

俺のようなドラゴン態に比べてどこか機械的な、鎧が変質したような形の、それでいて確かに龍である存在がいた。

アレが覇龍、俺の可能性、ヴァーリの本気。

最高だ、最高にCOOLだヴァーリ。

だからこそ、負けてられねぇ!お前にだけは負けてられねぇ!

 

『まさか、ここに来て!』

「ヴァーリィィィ!行くぞ、コイツが俺の自慢の拳だァァァァ!」

「なんだこの光は、まさか!」

 

本能で理解している、後は使うだけだ。

始まったよ始まってしまったとか、ゴチャゴチャと頭の中で声がする。

誰かが俺の身体を奪おうとしてくるが意思で捻じ伏せる。

邪魔すんじゃねぇよ、今良いところなんだ。

 

「よせ!お前が使えばドラゴンの身体とはいえ、ただではすまんぞ!」

「うるせぇよ!」

『良いのか相棒、覇龍を使えばお前の命が』

「知らねぇなぁ……」

『赤龍帝、命が惜しくないのか貴様!』

「知らねぇって言ってんだろ!我、目覚めるは覇の理を神より奪いし二天龍なり。無限を嗤い、夢幻を憂う。我、赤き龍の覇王と成りて汝を紅蓮の煉獄に沈めよう!」

 

肉体がドラゴンの身体から少しだけ機械的になっていく。

ヴァーリが無機的な状態から有機的な状態への変化ならば、此方は逆。

有機的なドラゴンの身体から、無機的な鎧のようになっていく。

お互いがドラゴンのようだった。お互いがロボットのようだった。

金属のように硬く光沢を持ち、生物のように柔らかく、靭性を持つ。

大きさは同等、お互いに引き出した力は拮抗しスペックも同等、能力なんて物は無意味であり、必要なのは己が肉体のみ。

自由で、孤高で、強欲で、最強で……そんなドラゴンが二体いた。

 

「そこまで……来い、イッセェェェェェ!」

「行くぞ、ヴァーリィィィッィ!」

 

ただ殴る、お互いの拳をぶつけ合う。

時に噛みつき、時に蹴り落とし、尻尾で叩き、爪で引っ掻く。

高尚な戦いなどではなかった。

漫画やアニメで見るような華やかな物ではなかった。

泥臭い、小細工のない、ただの喧嘩だ。

空には赤と白の閃光が飛び交い、幾度となくぶつかり合う。

空中戦から共に落ちて地上戦へ、殴り合いから腕が上がらなくなって噛みつき合いへ。

血反吐を吐きながら、お互いに満身創痍になりながら、それでも戦意は衰えない。

 

 

「うおぉぉぉぉぉ!」

「うおぉぉぉぉぉ!」

 

お互いの頭突きが頭部に入る。

一瞬だけ、意識が飛ぶ。

 

「ぐっ……」

「おっ……」

 

気付けば、お互いに地面に倒れていた。

ドラゴンから魔力も気力もなくなったからか俺は人の体になっていた。

見れば、ヴァーリの奴が何度か腕を使って起き上がろうとしている。

立たねば、まだ決着は着いていない。

 

「うぅ、ぐあぁぁぁ!」

「あぁぁぁ!」

 

立ち上がり、入らない力を入れてヴァーリを殴る。

ヴァーリはそれに対し、此方の髪を掴んで地面に向かって引っ張り倒す。

そして、そのまま飛び込み馬乗りになる。

 

「ぐぅぅ、ぎぃぃぃ」

「がぁぁぁぁ!」

 

転んだ拍子に掴んだ砂を投げ、目潰しを敢行する。

そして怯んだ所で首に掴みかかる。

 

「ハァハァ……」

「うっ、おぉぉぉぉ!」

「ぐぅぅぅ」

 

掴んでいる手にヴァーリが噛み付く。

痛みに手を緩めれば、俺は突き飛ばされてヴァーリと少しだけ距離が空く。

今のうちに、立ち上がらなければ……。

 

「まだだ、まだ終わりじゃねぇ……」

「あぁ、終わりじゃない……」

 

フラつきながらも、お互いに立ち上がって近づいていく。

動かない足を引きずるように近づいていく。

 

「ヴァ、リィィィィ!」

「イッ、セェェェェ!」

 

拳を振り上げ、お互いに相手へ向かっていく。

だが、振り下ろす拳は一つだけだ。

俺の拳がヴァーリの頭の上を掠める。

避けられた、否、そうではない。

ヴァーリの身体が前のめりに倒れたのだ。

勝った、俺の勝ちだ。

 

「へへっ、俺の――」

「……くっ!」

 

いや違う、奴はまだ意識がある!

だが、安堵したせいか俺の意識は退いていく。

そして意識を失う瞬間、俺は倒れながらも此方に視線を向けるヴァーリと目があった。

畜生、まだ意識があんのかよ……こんな所で……終わりかよ……

 




最後まで立っていたが気絶したイッセー。
最後まで意識があったが倒れたヴァーリ。

どちらが勝ちか、どちらが負けか。
引き分けはない、だが答えは自分達しか分からない。
勝ったと思ったほうが、勝者である。





余談だが、アーシアがいたら

「馬鹿げてる!男の人ってこうまでしないと生きていけないの」

って言ってくれるはず。


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何を言ってるんだドライグ、どう見ても我が家の天井だぞ

気付けば、俺は天井を見ていた。

 

『知らない天井だ』

「何を言ってるんだドライグ、どう見ても我が家の天井だぞ」

 

起き上がり、身体の感覚を確かめるように動かすと全然平気そうである。

そうだ、ヴァーリの奴はどうしたんだろう。

 

『奴なら治療された後、旅立った』

「何だと、まだ決着はついてない」

『奴からの伝言だ、次は勝つだと』

 

次は勝つ、アイツはそう言ったのか。

だが、あの時先に気絶したのは俺であった。

アイツは自分が負けたと思っているようだが、それは俺も同じである。

 

怪我が治った俺は、部屋から出て一階に降りる。

一階では、オーフィスがテレビを見ていた。

黒歌は猫の状態で白い猫と戯れてるし、いつもの光景である。

あれ、アーシアはどこだ?

 

「あっ、イッセーだニャ!」

「おはようございます……先輩?」

「喋った、だと!?」

 

猫二匹が此方に気づき声を掛けてくる。

思わずその光景にびっくりした。

だって、黒歌妹の方は初めて喋ったからだ。

コイツも妖怪仙人の端くれ、喋ったりするか。

なんだ、驚いて損した。

 

「おい、アーシアはどこだ?」

「我、知らない」

「買い物じゃないかニャ?そろそろ夕飯だし」

 

そうか、お礼を言おうと思ったんだが出かけていたのか。

どれ、俺の見聞色で……あれ?

 

「ちょっと、出かけてくる」

「うん?分かったニャ」

 

黒歌に一言そう告げて俺は家を出る。

おかしい、やはりアーシアの気配がどこにもない。

俺の索敵範囲を超えているのだろうか、だが街中であれば分かるはずである。

 

「ドライグ、どういうことだと思う」

『敵は悪魔だ、特殊訓練を受けた悪魔だ』

「どういうことなんだ?」

『いや、確かアーシアを狙った悪魔がいたような気がするんだ』

 

なに、それは本当かとドライグに確認をしたらどうもアーシアが教会から追い出される話を聞かされた。

そう言えば、元々は教会から追い出された身だったことを思い出す。

アーシアを無一文で追い出すとか教会って最低だな。

でもって、その理由が悪魔を助けたことらしいのだがそもそも悪魔が教会にいる事自体おかしいらしい。

 

『敵対勢力のど真ん中にいる件について』

「カチコミか?」

『ボロボロで?馬鹿なの、死ぬの?』

 

確かに、治してもらったなら戦闘を続行すればいいのに逃げるなんて恥を知るべきである。

えっ、そういう話じゃない?そもそもカチコミじゃないだって?

ふむふむ、なるほどな、自作自演だったのか。

 

「もしや、ソイツがアーシアを拐ったのか?」

『名前は、名前は……忘れた』

「きっとグレモリーの仕業に違いないな、ちょっと行くか」

 

この街の悪魔関係はグレモリー関連である。

ならば、グレモリーって奴が何もかも悪いに違いない。

なので、学校に行くことにした。

 

学校に着くと、来客手続きをさせられた。

その際グレモリーって奴に会いたいと言ったら、出資者なだけでここにはいないと言われた。

用務員さんは普通の人間なので、悪魔を知らない。

うむ、これは困った。

 

「どうする」

『相棒、今こそアレを使うときだ』

「そうだ、俺にはアレがあった」

『てってれー、悪魔発見機』

 

俺は懐から、アーシアに渡された聖書を取り出す。

片手サイズのちっちゃい奴で、新約と旧約がある。

取り敢えず、神様が人間ぶっ殺しまくったりしてる内容で、たまに良いことを言うくらいの本である。

ちなみに、その内容を言葉にすると悪魔には難しすぎて頭が痛くなるのだ。

聖書の一節を音読しながら校内を見学する。

部活終わりの学生達が俺の顔を見るなり、信じられない者を見たかのように驚き逃げるが何かしただろうか。

しばらくすると、生徒会という腕章を付けた奴が近づいて来た。

 

「おい、そこのイタタタ」

「むっ、貴様はもしや悪魔か」

「何故、それを」

 

ここであったら百年目と、俺はその男の顔をブン殴る。

百年目も何も初対面だが、許せ少年。

よし、気絶したか。

 

「安心しろ、軽い脳震盪だ」

『聞こえてないし、脳震盪って危険な状態なんだが』

 

取り敢えず、誰もいなさそうな教室に連れ込み聖書を押し付ける。

すると、痛みが気付けになったのかすぐに目を覚ました。

 

「ぎゃぁぁぁぁ!?」

「なんだ?やはり、悪魔には効くのか」

『聖書アレルギーなんだ、やめてやれ』

 

世の中にはそんなことがあるのかと、聖書を押し付けるのをやめる。

これで取り敢えず起きたようで安心である。

 

「言え」

「な、なんだ。何がどうなってやがる」

「言え」

「何を言えっていうんだ!」

「アーシアはどこだ」

「知らない、止せ!やめろ!ぎゃぁぁぁあ!?」

 

少年がまた声を上げるが、嘘を吐いたんだから仕方ない。

前歯を折ったり、腕を折ったりしてないだけ優しいと思う。

何故か煙が出ているが、なんだ聖書を押し付けると煙が出るとかアレルギーってスゴイんだな。

 

「何事ですか!あ、貴方は」

「誰だ貴様」

「匙!」

「か、会長ぅ……」

 

少年が縋るようにやってきた女を見る。

会長、そうか生徒会長だな。

悪魔の所属する生徒会の会長ってことはきっと悪魔だろ。

 

「どのような理由があるかは知りませんが――」

「アーシアはどこだ」

「えっ?」

「えっ?」

「知らないのか?」

「知りません」

 

どういうことだ、ドライグはいるって言ってたんだがおかしいぞ。

俺はドライグを問いただす。

 

『やだなぁ、悪魔が関係してるって言っただけでコイツらが犯人なんて言ってないぞ』

「そうか、俺の勘違いだすまない。ところで、アーシアについて知らないか?」

「アーシアというと、魔女アーシアでしょうか?すみません、分かりません」

「そんなはずはない、悪魔に攫われたはずだ」

 

そうか、コイツは悪魔だ。

きっと、悪魔だから庇っているのだろう。

すると、犯人は……学校にいないグレモリーだな。

 

「グレモリーって奴が拐ったんだろ」

「まさか、リアスは結婚してから学校になんて来てませんよ」

「なに、グレモリーとやらは通ってないのか?」

「前はいましたが、今は自主退学しました」

 

では、グレモリーとやらではないのか。

クソ、ヴァーリとの戦いでボロボロになってしまったことが悔やまれる。

だが、悪魔が関わっていることは間違いないのである。

ドライグが言うんだから、間違いない。

悪魔が関わっていて、そしてこの街ではない、そうか分かったぞ。

 

「アーシアは冥界にいるんだな」

「えっ、ちょ」

「よし、邪魔したな」

「待って、話を聞いて」

 

もうやることは決まったので学校を出る。

会長とやらが何か言ってたが、もう用はない。

取り敢えず冥界に行って、そっから考えようと思う。

 

家に帰ると、アーシアの帰りが遅いと心配する両親の姿があった。

黒歌やオーフィスも流石に気付いたのか、何かあったのかと聞いてくる。

俺は冥界だと一言だけ告げ、冥界へと行く方法をどうするか考える。

やっぱり一回死ぬとかそういうことしないといけないのだろうか、分からない。

 

「一誠、アーシアいない」

「あぁ」

「冥界、アーシアいる?」

「あぁ」

「我、分かった」

 

そう言って、オーフィスが虚空を殴る。

すると、景色に亀裂が走って真っ黒い穴があいた。

なんだこれ、良くわからないぞ。

 

「なんだこれは」

「入り口、我も行く」

「そうか、殴れば良かったのか」

 

たぶん、冥界と俺のいる場所に次元の壁的なのがあるんだろう。

それを不思議パワーで殴れば良かったんだ。

さすがオーフィス、幼女でも無限の龍神なだけある。

一緒に冥界に入ると、オーフィスがどこかを見て頷いた。

 

「我の蛇がいる」

「それがどうしたんだ」

『相棒、思い出したぞ。その悪魔はオーフィスの蛇を持っている、つまりそこにアーシアがいるんだ』

「な、なんだってー!?」

「フフッ、我、お手柄」

 

それは良いことを聞いたと、ドラゴン態に変身してオーフィスを乗せて蛇のいる場所へと向かった。



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アーシアは死んだ、もういない!

オーフィスの誘導に従っていると、お前ってば俺を嵌めたのかと言えるくらい敵が増えた。

どういうことかというと、空に大量の魔法陣が現れてそこからフードを着た魔術士みたいな奴らが現れたのだ。

しかも、オーフィスが誘導する方向に向かって大量にである。

寧ろ、オーフィスが敵がたくさんいる所に誘導している気すらしてくる。

 

「上上下下右左右左AB」

「どこで覚えた、あとABってなんだよ」

『Bo『Bo『Bo『Bo『Bo『Boost!!』

 

ハウリングするように、ドライグの音が響く。

倍加の速度が上がったせいである。

聞こえるよりも多く、自分でも分からないくらい倍加している。

奇しくもヴァーリとの戦闘がきっかけで成長しているようだった。

 

「おぉ、消えた」

「どういうことだ?」

『最も強大で最も絶対的な、あらゆる存在の前に立ち塞がる死の力。即ち老いだ』

「どういうことだ?」

『つまり、メッチャ時間を加速させて風化させた』

「な、なんだってー!」

 

そ、そんなことが起きていたなんて知らなかった。

あれ、でも俺の背中に乗っているオーフィスは老けてないぞ。

 

「我、寿命も無限。エターナルロリータ、えっへん」

「スゴイ、流石オーフィス」

『んっ、んっ、んっ、あれ?ツッコミどころあるよね、えっ?』

 

ドライグが何か言ってるが、それを無視するかのように魔術士達の攻撃が過激さを増す。

いや、まぁ、ブレスを吐きながら突き進むだけなんだがな。

 

「むっ、ワイバーンの群れ」

「なんだ、操られてるのか?」

『ワイバーンはドラゴンと違って言葉も喋れない下等生物だからな』

「大したこともない運動能力で有名、存在するだけ邪魔」

「なんか、ワイバーンっていらない子なんだな」

 

ワイバーン共が岩を足で引っ掛けて此方に飛ばしてくる。

それを避けながら、ブレスで迎撃すると背中で拍手喝采が聞こえた。

 

「さっさと燃やし尽くす」

『クソが、ワイバーンどもめ!ぶっ潰してやる』

「なんだ、なんか恨みでもあるのか?」

 

分からんが、ドラゴン的に何か思う所があるのかもしれない。

ワイバーンや魔術士達を退けると、城らしき物が見えてきた。

この距離になると、俺の感知にアーシアが引っ掛かった。

 

『なんだこの長い坂のある城は?』

「十二人の聖闘士と戦うみたい」

「お前らは何を言ってるんだ?」

 

そんなの知るかと言わんばかりに坂の上を飛んで移動する。

途中、眷属なのか妙な気配の悪魔たちが襲い掛かってきたが、無視する。

何だコイツら、似たような気配だがやはり眷属の悪魔か何かだろうか。

おや、この気配には覚えがあるぞ。

 

「おいおい、モブは無視ってか?使えねーポーンだな、プロモーションしたってのによ」

「お前は……白髪神父!」

「そこまで思い出して、名前がなんで出てこねぇんだよ赤龍帝!まぁいいさ、俺様ヴァーリにボコられて回収されてから禍の団に入ってな、新しい力を手に入れたんだよ!んじゃぁ、死ねや」

 

久しぶりにあった神父は、いつの間にか筋肉モリモリのマッチョマンになっていた。

肌は黒く、目は血走っている。

背中には翼が生えて、舌が異様に伸び、爪が鋭く太くなっていた。

なんだ、人間をやめたのか。

 

「なんだ、ただの人外か」

『妖怪にでもなったのか?』

「構ってる暇はない、8倍くらいか」

『Boost!!Boost!!Boost!!』

 

俺の右腕が少しだけ大きくなる。

筋力の増加、単純に筋肉を倍加しただけ。

俺の戦闘力で言うなら20%くらいか。

 

「ほへっ?」

「お前、ひょっとして自分がまだ死なないと思ってるんじゃないか?」

 

ドラゴンに相対するということは死である。

ドラゴンは強い、ドラゴンを倒せるのはいつだって英雄だけである。

そして、英雄は人間でなければならない。化物を倒すのは人間だからだ。

人間でいることをやめたコイツは、人間でいることに耐えられなかったコイツはもはや人間以下である。

 

「フン」

「あぎゃ!?」

 

ブチッ、とまるで虫を潰すように床のシミになった。

さらばだ白髪神父、来世で幸せになれよ。

さぁ、そんなことよりアーシアである。

 

扉に向かってブレスを吐き、吹き飛ばすと趣味の悪い骨のような物で出来た玉座に座った男がいた。

その上には、何故か骨に固定されて逆さまになってるアーシアがいる。

なんで逆さまなんだろうか、パンツ丸見えである。

 

「イッセーさん……」

「フフフ、待っていたよ赤龍帝」

 

なんだか余裕そうだが全く脅威に感じない。

そもそも、弱いやつがオーフィスのパワーを貰っても俺も貰ってるからトントン。

後は素のスペックの勝負である。

つまり、ドラゴンと悪魔なら俺の方が強いのだから当然だった。

 

『遊びは終わりだアスタロト』

「誰だ」

『君が赤龍帝か、初めまして。正当なるベルゼブブの後継者、シャルバベルゼブブだ』

 

そんな男の背後に魔法陣が浮かび上がり、そこから人が現れた。

足からゆっくり出てくる様は、なんだか間抜けである。

身体が透けているので、多分実体はない。

取り敢えず、アスタロト殴るか。

 

『白龍皇ヴァーリに痛手を負わせたそうだな、君には英雄派達の借りもある。その礼もしなければ――』

「オラァ!」

「ぐげぇ!?」

 

なんか立体映像越しに喋ってるやつがいるが、ソイツは後で殴るとして目の前のアスタロトとかいう優男をぶんなぐる。

何、オーフィスの蛇があるって?飲んだからどうした、透過の能力を使って貴様のバリアごとブン殴るわ。

 

「オラァ!へばってんじゃねぇぞ!もう一発行くぞ!どうしたどうした!」

「ぶっ!ぶべっ!?や、やめっ!うげっ!?」

『くっ……』

『お気の毒に、策士面して大上段から勝ち誇ってたのにガン無視で手下を攻撃されるとか立つ瀬なさすぎて泣けてくるわ。ウチの子が空気を読まなくて、本当スマン』

 

何を言ってるんだか、俺の目的は最初からアーシアを拐った奴を殴ることだ。

途中から出てきたやつなんかどうでもいい、実行犯を殴れればどうでもいいのだ。

 

『貴様ッ……』

『どうした、その渋面は?笑えよ、ほら笑えって』

『いい気になるなよ!』

「シャルバ助けてくれ!手を、手を貸してくれ!旧魔王と現魔王が力を合わせれば――」

『愚か者が!』

 

俺の殴ってた場所に、何らかの力が集まるのを感じて退避する。

すると、今までいた場所に穴が空いていた。

穴はアスタロトの胸の上にも空いており、何が起きたのか分からないと言った顔でアスタロトが驚愕している。

 

『いかん、もっと退避しろ』

「分かった」

 

ドライグに言われて飛び退くと、アスタロトが巨大な光に包まれる。

その光は大きくなり、光の中でアスタロトが悲鳴を上げた。

 

「イッセーさん!」

「ッ!アーシア、しまった!?」

『あっ……』

 

アスタロトの近くには拘束されたアーシアがいたことに遅れながら気付く。

目の前で大きくなっていく光、そしてそれに飲み込まれていくアーシア。

馬鹿な俺でも分かる。あの光は触れたら最後、死んでしまう。

 

「アーシアァァァァ!」

『…………』

「イッ――」

 

此方に手を伸ばし、光に飲み込まれるアーシア。

そして、光が消え去ったその場所には冥界の紫の空が広がるばかり。

城が半壊し、向こうの景色が見えるばかりで、そこにはアーシアもアスタロトの姿も見えない。

アーシアが死んだ。

 

『フフフ、フハハハ!これは思わぬ誤算だ、だが実に愉快だな!』

『あー、アレだぞ相棒。アーシア生きてるから、オーフィスの蛇とかも一応保険で掛けといたから多分大丈夫だから』

 

ドライグが慰めの言葉を吐いてくるが分かっている。

 

「アーシアは死んだ、もういない!」

『いや死んでねぇよ!俺、ちゃんと考えてたよ!次元の狭間でも生きられるようにしたからな!』

「貴様を、殺す!」

 

もう これで 終わってもいい。

だから ありったけを……。

 

『いやいや、ダメだって!それアレだから、間違った流れだから!アグモンがスカルグレイモンになるとかそういう流れだから!憎しみに囚われちゃダメだって!』

 

「我、目覚めるは覇の理を神より奪いし二天龍なり!」

 

もっとだ、もっと力を寄越せ!

 

『始まったよ』『始まってしまうね』『いつだってそうでした』『そうじゃな、いつだってそうだった』

 

「無限を嗤い、夢幻を憂う!」

 

もっとだ、もっともっと!アイツを殴れるだけの力を寄越せ!

 

『世界が求めるのは』『世界が否定するのは』『いつだって力でした』『いつだって愛だった』

 

「我、赤き龍の覇王と成りて!」

 

アイツを殴れるなら、二度と殴れなくなったって良い!

 

『何度でもお前たちは滅びを選択するのだな』

 

「汝を紅蓮の煉獄に沈めよう!」

 

絶対に、ぶっ殺す!

 

『覇龍!』

 

「■■■■■■■!」

 

目の前に奴がいた。

透過の能力を使って、俺と奴の間にある距離を『透過』したのだ。

ありったけの力が、右腕に溜まっていく。

きっと殴れば体ごと消えてしまうだろう。

それほどまでのエネルギーがギリギリの状態を保っている。

殴れば制御を誤り、俺はきっと消滅する。

 

「な、なんだと!いつの間に!?ふざけるな、我が裁きの光受けるがいい!」

「左腕はくれてやるよ……」

 

奴の光が俺を削る。

痛みはない、強がりじゃない。

少しだけ嬉しいんだ。

アーシアと同じになれた、あの時の……。

少しだけ救われた、そんな気がした。

 

「わかった、降参だ!降参す――」

「お前も、もう、おやすみ……」

 

俺は全力で、100%中の100%で奴に向かって拳を振り抜いた。



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グレートホーン!

自身が掠れるほどの時間、俺は漂っていた。

大量のビル群、人はいないそんな場所、いったいここは何処だろう。

 

『起きて……』

 

脳が、痺れるような声がした。

女の声だ、どこかで聞いたことある気がする。

 

「いつまでそんな所で寝ている」

「ハッ!?」

 

落ちる、堕ちる、墜ちる。

視界が置き去りにされながら、俺は地上に向かってビルの上から落ちていた。

目の前には赤い竜、アレは、アイツは、アイツの名は。

 

「ドライグ……」

「何をしている、何故落ちている」

「だって、俺は」

 

俺は、何だったのだろうか。

その言葉の続きを口にすることは出来ない。

俺は人か、それともドラゴンか。

 

静止するように、俺は止まっていた。

ビルに足付き、向かい合うようにドライグと対峙していた。

 

「止まった?」

「演出だ。ここは俺の精神世界、いやお前の精神世界か」

「なん……だと……」

 

こういうのも出来るぞと、いつの間にか俺は牢屋の前にいた。

牢屋の中にはドライグがいる。

なんで、セルフ収容されてるんだ?

 

「そんな所にいないでこっちに来いよ」

「そうだ、こっちに来てゲームしましょう」

 

声がした。

何処かで聞いたことあるような、というか覇龍の時に聞こえた声だ。

また知らない場面に移り変わる、気付けば俺は剣や刀が突き刺さった荒野にいた。

そこでは知らない人達が戦っていた。

 

「最初は憧れだったけど、間違いなんかじゃなかった!」

「その先は地獄だぞ」

「誰かに負けるのは良い、けど自分にだけは負けたくない!」

「いや、そもそも俺達別人だし性別も違うんだが」

「うるせぇ!」

 

うわぁぁぁぁとお互いに叫びながらガチャガチャと剣をぶつけ始めていた。

子供のチャンバラみたいで、太刀筋とかは素人のそれだった。

なんだろう、あの男の人と女の人。

 

「あの人達は」

「ナチュラルに順応してスゲェな。普通さ、後ろにドラゴンが急にいたらびっくりしない?」

「そうか、歴代の赤龍帝か」

「待てよ、答えてないのに気付くの早いよ。そして俺の存在は無視か。みんな人の話を聞かない」

 

俺の背後には赤い竜が翼を畳んで佇んでいた。

うむ、精神世界って言ってたしドライグなんだろう。

朧気ながら思い出してきた、ついカッとなって覇龍したんだった。

 

「ここはアホどもの溜まり場だ。お前は今、死にかけてるんだ」

「そうか、死ぬのか」

「もうちょっと驚こうぜ。いや死なないけどさ、今は外が大変なんだぞ」

 

どう大変なのか、ドライグに話を聞けば怪獣決戦と返ってきた。

どうやら、俺の身体は精神と違って暴走してるらしい。

でもって、ヴァーリが俺をブン殴ってるそうだ。

 

「今じゃ冥界がてんやわんやだ。いや、本当原作より規模がスゴイことになってるからな」

「俺も剣とか使えるかな」

「マイペースか!俺の話を聞けよ!」

 

ごめんドライグ、今オレ自身が死ぬことだって言ってステラァァァァって叫びながら爆発する所だったから聞いてなかったよ。

歴代赤龍帝ってこんな所で何してるんだよ。

 

「まぁ、そろそろ目覚める頃だろう。本当だったら、ここにある原作を見せてやりたいところだったんだがな」

「ドライグ、そんな物より良い物がある」

「お前は!ちょ、来んなよ!お前、歴代でも脳筋なんだからなベルザード」

 

誰だろう、俺の前には先程まで遊んでいたのと違う人が立っていた。

赤い鎧を纏った人が仁王立ちで立っていた。

ラーメン屋の店主みたいなポーズで、此方を見下ろす。

 

「アンタは」

「俺からの選別だ喰らえ」

「一体、何を――」

「グレートホーン!」

「ぐわぁぁぁぁぁ!」

 

一瞬、何をされたのか分からなかった。

腕を組んだ状態から、溜めを作られて放たれたその拳はまさに居合抜き。

光しか見えなかった、なんて拳だ。

 

「我が技を授けたぞ、一誠」

「待て、お前の技ではない」

「ありがとう、ベルザード」

「お前もお前で大概だな!」

 

薄れ行く意識の中、俺は満足そうなベルザードにお礼を言った。

 

 

 

「…………ハッ!?」

「イッセーさん!」

「ここは……アーシア生きていたのかお前」

 

気付けば俺は荒野にいた。

大丈夫だ、刀とか剣は突き刺さってない。

随分とおかしな夢を見ていた気もするが、思い出せん。

なんか殴られた気がする。

 

「ここは冥界か、更地になってるけど」

「ヴァーリさんがイッセーさんを助けてくれたんです。もう、いなくなっちゃいましたけど」

「借りを作ってしまったな」

 

オーフィスもいないし、先に帰ったのかもしれない。

アーシアも無事、戻ってきたので俺も帰るとしよう。

俺は拳を構えて、確かこんな感じと殴ってみる。

 

「グレートホーン!」

『Penetrate!』

 

確実にやったという確信があった。

なんというか手応えと言うやつだ。

ドライグの能力、透過の本質は選択するということだ。

選択したものを無視する、透過する、それが本質だ。

つまり、物質じゃないから殴れないという部分を透過することで、概念も殴れるようになれる。

距離の壁を殴ることが出来る様になるのだ。

 

「つまり、こういうことだ」

「…………」

『アーシア、考えるな感じるんだ。オーフィスもやっている』

 

パキンという音と共に景色に穴があいた。

オーフィスと違って徐々に治っていくから、まだまだ練りが足らないのかもしれない。

まぁいい、これで冥界に穴を開けたわけなので歩いて帰れるぞ。

 

「帰るぞ、どうしたアーシア?」

「…………行きましょう」

「お、おう?」

 

良くわからないアーシアであった。

家に帰ったら、何故かパーティー状態であった。

やったアーシアが帰ってきたとテンションの高い両親が色々買ってきたからだ。

ちゃっかり、ヴァーリも家にいて何でいるんだと思ったが細かいことなので気にするのはやめた。

 

「帰ってきたぞ、戦士達が」

「おう、帰った」

「フッ、待ちくたびれたぞイッセー!今日は鍋パだ、つまり締めはラーメンだ!ラーメンについては、俺はこだわりがある!」

「やけにテンションが高いなヴァーリ」

 

この後、メチャクチャ食事した。

 

 

 

食事をしたヴァーリが去り際に、借りを返してほしいと言ってきた。

どうやら、北欧神話の奴らがやってくるらしいので喧嘩売ろうぜとのことだった。

神殺し、してみないかなんて唆る誘い文句である。

殺しはしないけど、ブン殴ってはみたいな。

大丈夫、異教の神だから俺の宗教的に問題ない。

俺の宗教は異教徒には容赦しないからな。

 

「狙うはロキだ。まだ主神は時期早々だからな」

「ロキか。確かフェンリルの親父だろ、俺は北欧神話には詳しいんだ」

「ヨルムンガンドの父親でもある」

「なんだって、それは知らなかった」

 

世界と同じくらいデカイ蛇の親か。

きっと、ものすごいデカイのだろう。

スゴイ、殴りがいがありそうだ。

 

 

 

後日、ウチの神棚から日本神話勢のお知らせがやってきた。

日本に北欧神話勢が来るからどうにか穏便にしろと、小さい狐がやってきて頼んできた。

狐って日本神話勢だったんだな知らなかったぜ。

頼みますよ、本当に頼みますよとフリをしてきたから、つまりは思い切りやれってことである。

 

『フリじゃないと思うぞ』

「俺、ワクワクすっぞ」

『あっ、これダメなパターンだ』

 

よし、そうとなれば修行である。

俺達の戦いはこれからだ!

 

「ほっほっほっ、いいケツじゃな」

「キャア!?」

「やっぱ殺すわ、うん」

 

家を出た瞬間、目の前にいた明らかに神であろう爺がアーシアの尻を触っていたので殺すことを決めた。

ヴァーリ、やっぱ主神にも喧嘩売ろうぜ。

お前はロキな、俺はコイツをブン殴る。

 

「むっ」

「あっ、避けられた!クソ、どこ行きやがった!」

 

和平とかぶち壊し確定である。



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よし、全速前進だー!

北欧神話のオーディンが冥界で悪魔達と和平をするらしい。

それを邪魔するロキという奴。

ソイツらに喧嘩を売り込んで神話体系と戦いたいのが俺達である。

ちょっと、喧嘩売ってくる。屋上に行こうや、久々にキレちまったぜ。

 

「フッ、イッセー。何時になく乗り気だな」

「取り敢えず、あの爺は俺の獲物だ」

「構わんさ。主神もいいが、トリッキーな神であるロキの方が面白そうだ」

 

オーフィスのパンチでいつも通り冥界に穴を開ける。

今回のメンバーは、俺とオーフィスとヴァーリと孫悟空。

この四人で何とかなるだろうという考えだ。

 

冥界に着くと、何やら気配がたくさん集まっている。

ヴァーリが言うには条約がどうのこうの若手悪魔を集めてパーティーしているらしい。

そこにロキが現れるはずなので早く行こうとのことだった。

 

「どうする」

「こうする」

 

建物に近づいて、思いっきり扉を殴り飛ばす。

会場の視線が俺達に集まったが、無視である。

 

「なんだ貴様らは!」

「今日がどういう日か分かっているのか」

「うるせぇ!」

 

ドンッ、と俺の覇王色の覇気が発生する。

それだけで、若手悪魔とやらが気絶する。

 

「い、イッセー君……どうして……」

「誰だお前」

「私だよ!死んだと思われてたけどグレモリー眷属として生まれ変わった元エクスカリバーの担い手であるイリナだよ!」

「そんな奴、いたか?」

「嘘だ、そんな、こんな汚れた身体にまでなったのに、鬱だ死のう」

 

若手悪魔の中に何やら俺の名を呼ぶやつがいたが勝手に気絶した。

まぁ、立ってるとは少しくらい骨が有るやつがいたな。

 

「ヴァーリ、どうしてここに」

「久しぶりだな、アザゼル」

「やはり貴様かロ……ロキ、じゃないッ!?」

「俺だよ、クソジジイ」

 

最初から覇龍というクライマックスの状態で戦闘態勢に入る。

寿命とか魔力とか気力とか、そんなものは仙人になれば解決する。

自然エネルギーとやらが犠牲になったのだ。

覇龍の犠牲に自然エネルギーはなったのである。

つまり、ノーリスクで覇龍である。

ちゃんと意識があればこれくらい気合でどうにかできる。

 

「何したんですかオーディン様!メッチャ怒ってますよ!」

「ちょっと、赤龍帝の女のケツを触った」

「エロ不注意!なんてことしてるんですか!セクハラで北欧神話を終わらせる気ですかぁ!」

「正直、スマンかった」

 

オーディンとかいう爺の謝罪に対して、遺憾の意である。

なんだお前、絶対舐めてるだろ。

 

「ブッ殺!」

『Boost!!』

 

時間を加速させて、オーディンに殴り掛かる。

相手は神だ、油断はしない。

 

「おっと、危ないのぉ」

「避けやがっただとぉ!?」

「遅いのぉ、赤龍帝とやら無駄な動きが多すぎる」

「あ、煽らないでください!お前、マジふざけんなよ!」

 

まるで俺がどこを狙ったのか分かっていたかのように、オーディンが先読みして移動し、攻撃を避けていた。

俺は先程までオーディンがいた場所を殴り、攻撃を躱される。

クソが、もっとだ!もっと、加速するぞ!

 

「俺がスローリィィィィ!冗談じゃねぇぇぇぇ!」

『Boost!!Boost!!Boost!!』

 

さっきよりも速い速度で俺は奴に殴り掛かる。

だが、それを難なく躱される。

フェイントを織り交ぜようと、何をしようと、まるで簡単に避けられてしまう。

腐っても主神、手強い相手である。

 

「本当に、遅いのぉ」

「ならこれならどうだ、ドライグ!」

『Bo『Bo『Bo『Bo『Bo『Boost!!』

 

加速に次ぐ加速、世界のスピードに追い付く。

世界と同じ速度、静止したと見紛う世界。

奴へと、殴り……いない!奴はどこに行った!

 

「終わりじゃ、赤龍帝」

「なんだと!?何故、貴様が動けている!」

「喰らえ、グングニル!」

 

オーディンとかいう爺が槍を振り下ろす。

すると、空から光が発生し俺に向かってきた。

ありえない光景である。

まさか、時間が止まったと錯覚するような高速の世界でそれを上回る速度で攻撃したというのか。

 

「ぐあぁぁぁぁぁ!」

「教えてやろう、何故避けれたか。それは未来が見えるからじゃ」

 

痛みに意識が飛びそうになる。

だが、その程度だ。

ヴァーリの拳に比べたら、こんなもの屁でもない。

 

「ほぉ」

「倒れるかよ、倒れるなら前のめりだ」

「面白い、ロキが来るまでの暇潰しになるかと思ったら……お主、一緒に来んか?お主は英雄の器だ、英雄の席を北欧神話は用意しておるぞ。お主の欲しいものをなんでも用意してやろう。実際、ロキの奴が面倒だし戦力があるには越したことはない」

「見下してんじゃねぇよ!何を勝った気でいやがる!上から目線で気に食わねぇ、だからブン殴る!お前を絶対、ブン殴る!さぁ、行こうぜドライグ!コイツが、俺達の新しい力だ」

『Bo『Bo『Bo『Bo『Bo『Bo『Bo『Bo『Bo『Bo『Bo『Bo『Bo『Bo『Boost!!』

 

限界まで右腕を倍加する。

ただ、一点に力を集め倍加する。

魔力も気も、右腕一本に注ぎまくる。

相反する力が、俺の右腕の中で暴れ狂うが関係ない。

壊れそうなほどに、壊せそうな気がするからだ。

 

「なんというエネルギーじゃ」

『甘く見たな主神オーディン、これが咸卦法だ』

「咸卦法、そんな物が……だが、当たらなければどうということは――」

 

俺は拳を振りかぶり、そして握っていた手を開いた。

その様子に何か見えたのかオーディンが焦る。

未来が見える故の察しの良さだ。

 

「異議あり!その条約――」

「ドラゴン破ァァァァァァァ!」

「えっ!?」

 

俺の手から赤いエネルギーが放たれる。

魔力も気も合わさった、相反するエネルギーがレーザーとなって放たれた。

殴ると言ったな、アレは嘘だ。

 

「ぐあぁぁぁぁぁぁ!」

「ぐあぁぁぁぁぁぁ!」

 

何もかも使い果たしたが、俺は満足だった。

よし、悪は滅んだ。

 

「イッセー、貴様ぁ!」

「なんだヴァーリ、俺は疲れている」

「俺の獲物を奪いやがったな!」

「な、なんだってー!?」

 

い、いつの間に俺はヴァーリの獲物を奪っていたのか。

もしやドラゴン破に巻き込まれたのか。

それは、正直すまなかった。

 

「フフフ、中々やるわい」

「ほぉ、腐っても主神。生きてるじゃないか」

「アレを食らって生きているとは、トドメを刺さなければ」

「待て!止まれ!二天龍で来るのは卑怯だと思うの!ちょっと試しただけで、マジになるのはズルいじゃろ!」

 

慌てるオーディン、しかし止まらない。

お前が、死ぬまで、殴ろうとするのをやめない!

 

「そこまでよ!」

「女は引っ込んでろ!」

「ひ、酷い!差別よ!」

「なんだその格好は、魔王の癖してドレスコードも知らんのか!恥を知れ!」

「やだ、なんなのこの二天龍、私に対して当たりが強い」

 

オーディンの前に、魔法少女のコスプレをした魔王が現れた。

クソ、外野がいたことを忘れていた。

よく見れば、空で孫悟空とタンニーンとかいうドラゴンが戦っている。

あちらもヤバそうである。

 

「どうする」

「こうする」

 

俺の質問にヴァーリが拳を掲げた。

なるほど、つまり押し通るって訳だな。

シンプルで素晴らしい、さぁ喧嘩である。

 

「な、なんじゃコイツら!身体が真っ黒になっていく」

「フッ、これがイッセーより学んだ技術。武装色の覇気」

「今の俺達は、全身が鋼鉄以上だ」

 

ただし、無駄な部位にも纏っているため消費が激しいのが問題である。

まぁ、短期間の戦闘なら問題ない。

 

「オーフィス!」

「オッケー」

 

オーフィスが冥界に穴を開ける。

 

「よし、全速前進だー!」

「うおぉぉぉぉ!」

 

流石に魔王四体と戦うにはレベルが足りないので、もっと修行してから挑むことにする。

今は、ただ逃げることだけ考えてまっすぐ走るのだった。



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人間、違うなぁ……俺はドラゴンだ

「何してくれてるのかな、もぉー!」

「確かに俺は何か間違えている……けどいいんだ。だって、誰かの為になりたいっていう思いが、間違えの筈がないんだからな!」

「良い風に纏めんなしー!間違いだよぉ!」

 

後日談、俺は京都に来ていた。

なんで京都かというと、北欧神話の件、上手くやってくれたから家族ごと京都に招待してやるよタダだぜ、と日本神話勢に言われてホイホイついてきてしまったのだ。

もっと観光地じゃない場所とかなら警戒したのに、くっ油断したぜ。

 

そして、いいのかホイホイついてきてしまって俺達はそんなチョロい赤龍帝でも構わず食っちまうんだぜ、と神達に連行されたのだ。

や、やめろー!英雄色を好むとか英雄から神になった奴らもいるみたいだが、なんだ衆道って!ケツを狙ってくるんじゃねぇ!ホモかよ、貴様ら!

でもって、俺は正座させられて幼女である天照大神ポコポコ殴られながら説教されていた。

 

「はいはい説教終わり、さてと罰を与えます」

「えー」

「どうして京都なのか分かりますか?京都は妖怪魑魅魍魎が跋扈する場所だからです。でもってそんな所で良からぬことを企む輩が居るわけですが、生憎と私達は忙しい。さぁ、どうする」

「困る」

「違うだろぉ!そこは、私がやりますだろぉ!忖度しろよぉ!」

 

やだこの幼女、難しい言葉を使ってくる。

それにしても、妖怪か。

清水寺で狸が天狗とかと戯れてるんだろうか?

 

「それで京都で誰を殴れば良いのだ?」

「もう、すぐ殴って解決しようとするぅ。京都の狐が須弥山の会合に向かう予定よ、連中の当ては狐と霊地の強奪でしょう。はてさて、何を企むのやら、阿呆の考えることは分かりませぬ」

「何を言ってるか分かりませぬ」

「お黙り!ようは、狐を守れと言っているのです、分かりましたね。私は、帰りますよ。そろそろDVDBOXが天岩戸に届く予定なのです、在宅しないと宅配業者が困るでしょう?」

「へぇ、分かりましたでございます」

 

取り敢えず敬語っぽい事を言ってその場を誤魔化し言われたことを考える。

取り敢えず、京都在住の狐さんとやらを見張ってればいいのだろう。

幼女は、というか天照大神はそういうことでと言って屏風に向かって手を突っ込んだ。

すると、屏風に波紋が出来上がって絵の中へと入っていった。

スゴイ、絵の世界に入ってしまった。ちなみに屏風の絵は雲とか山とか書いてあるので天界的な奴なんだと思われる。

 

さて、狐とやらがどこにいるかなど検討がつかない俺は、神社仏閣をめぐる事にした。

ブラブラしてれば、きっとイベントが起きるだろうと思ったのだ。

ゲームだとそうである、だから現実もきっと同じだと思う。

ドライグに聞けば、だいたいあっているとのことなので問題ない。

 

赤い鳥居が大量にある神社に訪れると、何やらドライグがネギマを思いだすぜなどと口走る。

どうした、急に焼き鳥の話なんかしてお腹減ったのか。

そんなことを思っていたら、何やら周囲に気配が集まってきた。

 

「貴様、見ているな!」

「ふぇぇ!?」

 

気配に向かって、俺が指差せば鳥居の後ろに隠れながらビクッとした幼女がいた。

また幼女か、何なんだろうな幼女っておい。

日本での幼女に出会う確率凄すぎやろ。

幼女大好きかよ日本人、きっとこれも神格の類なのだ。

であれば、幼女のイメージが神を変質させてしまうのも致し方ないことなのだろうな。

 

「南無南無」

「なんで!?というか、貴様京都の者ではないな!」

「ほぉ、そこに気付くとは天才か」

 

ピョコと指差す幼女の頭に黄色い三角形が二つ現れる。

そして、同時に尻尾のような物が尻に生えた。

なっ、コイツは狐の類であったか。

つまり、騙されたのである。

なんだと、許さんっ!

 

「騙したな!貴様ぁぁぁ!」

「ひぇ、なんだこの情緒不安定な人間」

「人間、違うなぁ……俺はドラゴンだ」

 

俺の身体が膨張する。

人間態からドラゴン態へと姿を変えたからだ。

あわあわしてるが、幼女のことなど知ったことではない。

 

「变化しおった、物の怪の類か」

「いや、だからドラゴンと言ってるだろ」

「くっ、こんな所で死ぬわけには……おのれ、許さぬぞ!母上を返せ」

「お前は何を言ってるのだ」

 

人差し指と親指で、目の前の幼女を摘み上げると周囲の気配がざわついた。

ふむ、どうやら俺が守る狐とやらはコイツのようだ。

偉いやつだから回りが心配しているのだろう。

 

「ええい、離せ!この、このこの!クソ、届かーなーいー!」

「だろうな、届かんだろうさ」

 

ぶらんぶらんと揺れる幼女が騒ぎ立てる。

待て待て、話し合おうではないか。

何やら食い違いがあると、馬鹿な俺でも分かるというものだ。

 

「おい幼女、お前母親がどうのと言ってるが何の話だ」

「しらばっくれるな、お前が母上を拐ったのは分かってるんだ!」

「おかしいぞ、俺は狐を守るように言われてるんだけどな。ちょっと待て、攫われただって?」

 

つまり、どういうことだってばよ。

 

『マタマモレナカッタ……』

「ドライグ、何を言ってるんだ」

『天照と喋ってる間に拐われたようだ』

「始まる前に終わっていたのか」

 

話を整理すると、コイツの母親を助けるはずだったんだが既に拐われたらしい。

でもって、それは人間だということなので禍の団の人間と言えば、英雄派ってことなのだろうな。

おのれ、曹操!また、貴様か!

 

「よしわかった、俺がお前の母親を助けてやろう」

「えっ、何故」

「人を助けるのに理由が必要な訳ないだろ!」

『人じゃないし、神から言われてなんだがな』

 

細かいことは良いのだ、一度言ってみたかったからな。

曹操という輩は、神器を用いて気配を巧妙に隠しているので全くもって探すのが困難である。

だが、犯人は現場に戻ってくるというので京都でブラブラしてれば会えると思う。

京都が現場だからな、範囲は広いけど探せば会えるさ、多分。

 

「むっ、霧が出てきたのじゃ」

「霧か、きっと奴らだな」

「ど、どういうことなのじゃ」

 

霧のせいで今まで周りにいた妖怪の気配が消える。

それと同時に、ポツリと複数の気配が現れる。

つまり、敵である。

 

「フハハ、久し――」

「オラァ!」

 

随分と前に会ったが、あの頃と違って成長した俺は軽い身体能力だけで奴らの懐に入り込んだ。

そのまま、蹴りを入れれば誰かしらが吹っ飛んだ。

倍加を使わずとも、瞬間的な移動ぐらい簡単に出来るわ。

 

「なっ、ヘラ――」

「フンッ!」

「ジャ――」

「邪魔だぁ!トゥ!ヘアー!」

 

俺の回りで三人の人間が吹き飛ぶ。

脆い、脆すぎるぞ。この程度に着いてこれないとは、それでも英雄かよ。

 

「ハァァァァ!」

「くっ、曹操か」

「前より強くなっているとは、魔人化していたのに瞬殺とは恐れ入った」

 

魔人化ってなんだよ、人間やめてんのかよ。

弱体化してんじゃん、馬鹿じゃねぇの。

俺の拳を槍で受け止めた曹操を見ながら、そんなことを思う。

因みに、俺の背後では狐幼女こと九重がぽかーんと口を明けて立っている。

 

「だが、足手纏いを連れてこの神殺しの槍、黄昏の聖槍と張り合うつもりかな」

「そ、ソイツが母上を拐ったに違いない!やっちゃえ、イッセー!」

「応!」

『Boost!!Boost!!Boost!!Boost!!Boost!!Transfer!!』

 

俺の拳から光が曹操に放たれる。

今まで槍と拳が拮抗していたのだ、距離は近く避けられない。

そして、俺の譲渡に当たってしまった。

 

「しまっ――」

 

2の5乗、つまりは32倍である。

基礎体温が35度だとして、約900度くらいにはなると思う。

100度で水は沸騰するので、血液も沸騰する。

算数と理科は得意なんだ。

 

「うわらば!?」

 

曹操の身体が膨れ上がり、内側から破裂した。

血液が高温になって気化したからである。

武器がスゴくても使い手がスゴくなければこんなもんだ。

 

「うえっ」

「ちょ」

「おえぇぇぇぇ」

 

九重が吐いた、子供には刺激が強かったか。

 



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詳しいな。まるで、死神博士だ

戦いは終わった。

虚しい勝利である。

英雄派という奴らは、言うほど強くなかったのだから悲しい。

 

「終わったな」

 

九重を抱いて、空間を出ようと歩き出した頃だった。

突如、ドライグの焦る声が聞こえた。

 

『避けろ、相棒!』

「ぐっ!?」

 

俺の身体に幾重もの線が走り、そこから出血が始まる。

まるでシャワーのように、俺は全身から血飛沫を上げた。

何が起きているのか、気配すら感じることの出来なかった攻撃に驚きを隠せない。

 

『霧だ!』

「そうか」

 

俺は飛び退くように後退し、その攻撃の正体に気付いた。

俺の今までいた場所に、薄く見えない程度の霧が存在していたのだ。

そうか、あの霧は空間系の神器。

触れていた箇所だけ、空間転移したことで削り取ったというところか。

防御力無視の攻撃であり、形は自在、そして気配も溶け込む性質上極めて気づきにくい。

厄介な相手である。

 

「相手の土俵で戦うなんて馬鹿なことだ。曹操はそれが分からなかった」

「なかなかやるな、見事なもんだ」

 

想像力の上を行かれる絡め手には流石に参った。

だが、逃げるだけなら難しくはないだろう。

 

「お前のそれは暗殺者の戦いだ」

「卑怯とでも?人は酒を飲ませたり毒を使ったり、人外と戦う時はいつだって卑怯だったさ」

「いいや卑怯とは言うまい。だが、アサシンはアサシンらしく、黙って戦えば良かったのさ」

 

会話をしようとしたのが間違いであった。

会話が出来るということは、空間が繋がっているということ。

そして、会話が出来るということは音がお互いに通じるということだ。

 

「ドライグ、倍加だ!」

『Bo『Bo『Bo『Bo『Bo『Boost!!』

「ゴアァァァァァァァァ!」

 

倍加した声が空間に響き渡る。

まるで、地震のように空間を揺らす。

音を何倍にも倍加したそれは、音速の爆撃だ。

 

「あぁぁぁぁぁぁぁ!?」

「へへっ、鼓膜は破れたな」

 

今の一撃で奴は怯んだことだろう。

その証拠に苦しむ声が聴こえるからだ。

俺の方も、ちとヤバイくらいには深手を負ったので退散させてもらう。

 

「待て、待て赤龍帝!」

『ヤバイのが来やがったな』

 

何かが、空間を抜け出すように現れる。

それは美しい女だった。

白く、そして血の通っていないまるで石像のような姿。

そんな女が自らの身体を抱きしめるように腕を回した状態で空間に現れる。

徐々に姿が顕になり、その背中に黒い二翼の翼が生えていることが分かった。

堕天使、そう判断する。

 

『よく見ろ相棒、アレは堕天使じゃない』

「なんだって!?」

 

だが、その判断は早計だった。

ゆっくりとだが、まだ続きと言わんばかりに下半身が現れる。

白く、細長く、終わらない下半身。

上半身が堕天使であり、下半身が蛇であるという異形だとすぐ分かった。

 

「がはッ!?」

『逃げるんだ相棒サマエルだ!奴の血は一滴でドラゴンを死に至らしめる。奴の息ですらダメージを負うぞ』

「早く言え」

 

存在しているだけで、対ドラゴン兵器なソイツは俺にダメージを与える。

やめろゲオルグ、ソイツは俺に効く。

 

「殺せ、サマエル!ソイツを殺せぇぇぇ!」

「アァァァァァァァァ!」

 

悲鳴のような音を上げてサマエルが身体をくねらせる。

ちょっと、ドラゴン的に気持ち悪いです。

 

「悪いが逃げさせてもらう、答えは聞いてない」

 

というか鼓膜が破れてるであろうゲオルグに答えを求めた所で意味はない。

俺は撤退を余儀なくされる。

触れただけで即死とかどうしろっていうんだよ、無理ゲーすぎるだろう。

 

『Bo『Bo『Bo『Bo『Bo『Boost!!』

「はぁぁぁぁぁぁ!」

 

空間をぶち破り、急いで飛び込むことでなんとか逃げおおせた。

く、悔しい。ドラゴンなのに戦わずして撤退するなんて、屈辱である。

だが、ドラゴン属性が弱点なのは仕方ない。

 

『相性だから仕方ない。相手がサイコショッカーとか王宮のお触れを出して来たときくらいの絶望感だった』

「ドラゴンだけだからいけないのか、クソッタレ……」

 

もっと属性マシマシだったなら勝てたかもしれない。

死神と虚と滅却師くらいマシマシだったなら、勝てたかもしれない。

ジャンプの主人公はそういう設定マシマシなんだ。

俺も、設定マシマシになりたい。

マシマシ、属性、マシマシ、属性、マシ属……。

 

 

 

見事、ゲオルグの空間から逃げ出した俺はオーフィス達と合流することにした。

アーシア、回復を頼む。

 

「一体何が……」

「対ドラゴン兵器に遭遇した」

「サマエルには勝てなかったよ、我把握した」

『この染まってる感、俗物になったなぁ』

 

ゲオルグの野郎は今は右往左往している状態だろうが、いずれサマエルを差し向けてくることだろう。

オーフィスですら、プルプルしながら顔を左右に動かして無理無理とアピールしてくるんだからドラゴンに対して強すぎである。

 

「あんなのチートだろ」

『チートやチート!チーターや!』

「ドラゴンYOEEEEされる……」

 

まだ九重の母親を助けられてない。

ドラゴンは嘘付かない、絶対に絶対にだ。

だから、助けたいのだがどうしよう。

そんな風に頭を悩ませていたら、黒歌が首を傾げながら言った。

 

「なんで、アイツらはこの子の母親を拐ったのニャ?」

『確か、グレートレッドを呼び出すためじゃなかったか』

「そ、そうだったのか」

 

どうやって呼び出すとか分からんが、グレートレッドもサマエル相手じゃキツいんではないだろうか。

 

「我にいい考えがある。サマエルとグレートレッド戦わせる、静寂ゲット」

「どうやって?」

「…………リンゴで買収?」

 

それは無理だろう、とオーフィスの案を却下する。

どうやって戦えば、あんなの倒せるんだかまるで検討が付かないぞ。

 

『逆に考えるんだ、戦わなくていいやって』

「その発想はなかった」

『サマエルはハーデスが管理してるはず。日本神話勢からチクって抗議するべきそうするべき、強いやつも政治によって完封するのだ』

 

ハーデスか、アテナと戦ってる悪いやつだろ。

俺の知ってるところと違う冥界にいるんだろう。

地上でもっとも清らかな心の人間に憑依する悪いやつだ。

 

『確か、吸血鬼が幽世の聖杯を持っていたはずだ。それを使えば、パワーアップ出来る』

「マジでか」

『ドラゴンの弱点がサマエルならば、幽世の聖杯を手に入れてパワーアップするんだ。つまり、アルティミットシイングなドラゴンになるんだ究極生命体イッセーだ!』

「幽世の聖杯さえ手に入れれば、俺はサマエルを克服することが出来る」

 

このまま負けっぱなしは趣味ではない。

俺は、幽世の聖杯を手に入れることにした。

 

「ねぇ、母上は?」

「忘れていた、すまない」

 

取り敢えず、先に狐を助けなければならない。

案の定、目的を果たすためかどこからともなく九重の母親が現れた。

黒歌の見立てでは霊地を使って、スゴイパワーでグレートレッドを英雄派は呼び出すだろうとのことだ。

だが良くわからないが、英雄派とやらもゴタゴタしているのだろう。

普通に意識があるのか何やら反抗している姿が見える。

少し離れた所で戦闘している母上とやら、なんだか普通に平気そうである。

 

『洗脳とかそういうのが解除されたのだろう。思いの外、お前の大声は聞いていたようだ』

「よし、合流するぞ。なんか黒くて鎌持った奴らが集まってきてるからな」

『きっと死神だな。鎌とか古いな、時代はチェーンソーだろうに』

「詳しいな。まるで、死神博士だ」

 

そこからは割愛である。

倍加したブレス一発で、大体の奴らが吹っ飛んで終わりである。

ドラゴンブレスは伊達じゃない、サマエルじゃなければ楽勝であった。

死神の死体を回収して、天照のいるであろう神社にブン投げたら悲鳴と同時に皆既日食が起きた。

何か不味かったのかしばらく土下座することになるのだが、それは別の話である。

 

「猫じゃないんだから、獲物を寄越すんじゃないよ!引き篭もるぞ!」

「なにもかもハーデスって奴が悪いんだ」

「抗議するわ、遺憾の意だわ。ハーデス、お前覚えてろよ。ハーデス攻めとサマエル受けで、本出すわ」

 

何やら、天照が激おこでした、まる。

 

『作文か!』

 

 



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波紋カッター!パパウパウパウ!

サマエルに苦汁を飲まされた俺は、吸血鬼の国に向かうことにした。

時は二千年代、ドライグを宿した兵藤一誠はルーマニアへと旅立つ。

 

『ラリホー』

「ここは、夢の世界か」

 

海を泳いで渡り、中国人のトラックに乗せて貰って俺はルーマニアを目指してる旅の最中に、どうやら眠っていたらしい。

そして、ドライグの声で目を覚ました。

 

「どういうことだ?」

「お前に修行を付ける」

「そ、その声は!?」

 

そこには歴代の赤龍帝達が立っていた。

赤い鎧を纏った赤龍帝達、そのフォルムは各自どこか違っている。

その数、12人。

何やら、意図的な何かを感じる。

 

「グレートホーンの人じゃないか」

「お前は弱い。まだまだ気や魔力の運用が未熟である。よって修行を付ける。行くぞ、覚悟はいいな!」

 

でぇじょうぶだ、夢の中なら死ぬことはないと俺の回りを赤龍帝達が囲むようにして言ってくる。

い、一体何が始まるんです。

 

『負けないでイッセー、アンタが負けたらアーシアはどうなるの。夢の世界なんだから死にはしない、12回耐えればなんとかなるわ、次回イッセー死す!ここまで想像した』

「スターダストレボリューション!」

「グレートホーン!」

「オーロラエクスキューション!」

「スカーレットニードル!」

「ロイヤルデモンローズ!」

「エクスカリバー!」

「ギャラクシアンエクスプロージョン!」

「廬山百龍覇!」

「積尸気冥界波!」

「ライトニングプラズマ!」

「天魔降伏!」

「厳霊乃焔!」

 

光が走った、流星群のようなオーラが俺をブチのめした。

腕が消えたと思ったら拳がいつの間にか入っていた、超スピードとか超能力とかそんなチャチなモンじゃねぇ世界を狙える拳である。

オーロラのようなビームが拳が出て、俺の全身が凍りつく寒い。

いつの間にか激痛が走って、頭がおかしくなりそうである。あばばばばば。

何かバラの花弁が散っていた、ゴフッ!?コイツは……毒!

手刀が光となって飛んでくる、飛ぶ斬撃が俺の身体を引き裂いた。

気付いたら巨大な光が俺にぶつかっていた、派手に死にそう。

目の前にドラゴンの群れが現れて俺の身体に体当たりを噛ましてきた、超絶痛い。

ブラックホールみたいなのが発生して、俺を飲み込もうとした。酷い悪臭と醜悪な声に心が折れそうだ。

光った拳の壁が目の前に現れた、避けられない。

気付けば寝ていた、立つことすら許されない、ぐぬぬぬ。

大量の雷が俺の身体を貫いた、ビリビリする。

 

「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

「やはり、この手に限る」

 

飛んだり跳ねたり、何度も死にかけた。

というか、死ねるレベルなのに死ぬことが出来ない。

しかも、攻撃の後に追い打ちが掛かるから抵抗もできない。

俺の意識はそこで途絶えた。

 

 

 

夜空が見えた。

気付けば、俺はトラックの荷台で寝ていた。

 

「……ハッ!?」

『気づいたか、相棒』

「俺は一体、あれは現実なのか?」

『アレは赤龍帝の残留思念。残念な奴らの成れの果てだ』

 

ドライグがいつにもましてシリアスに説明してくれる。

なんてことだ、どおりで錯乱していると思った。

まさか、俺に対して攻撃してくるとは先輩達の洗礼が厳しい。

 

「そうか、サマエルに負けたからきっと思う所があったのだろう」

『まぁ、それは置いといて修行だ。1秒間に10回の呼吸ができるようになるんだ。あと、10分間息を吸い続けて10分間吐き続けるようにもな』

「それを出来るとどうなるんだ」

『その呼吸は波紋と呼ばれる。対吸血鬼の技術だ、太陽になるんだ。太陽ォォォォ!ってな』

 

なるほど、太陽ォォォォ!か。

吸血鬼は太陽が弱点、スゴイ。

波紋を覚えれば吸血鬼なんて貧弱ゥ貧弱ゥってことだな。

 

 

 

ルーマニアに行くまでの道中、時間を倍加することで俺は波紋を覚えた。

修行時間が増えた分だけ、普通の人の数倍の時間を過ごしているがドラゴンの寿命は長いから多分平気である。

ドライグが言うには、精神と時の部屋かよとのことだ。

何言ってんだ、屋外だから部屋じゃないぞ。

 

「ここがトリファス」

 

ルーマニア、そこは吸血鬼の話をよく聞く場所。

でも実際は吸血鬼のヴラドは創作でこっちでは英雄らしい。

地元の人が言っていた。

まぁ、でも、吸血鬼が住んでいるというのだから一般の人が知ってる真実と裏の真実は別なのだろう。

 

「匂う、匂うぞ!血の道標、わざと垂らしそして拭く同類にのみわかる程度に、香るように……誘ってるのか?」

『俺じゃなきゃ見逃しちゃうね』

 

裏の人間とカッコよく言えばいいか、というか動物並みの嗅覚がないと気付けない程度に血が匂いを発していた。

道にポタポタ、鼻血でも零したのかってくらい点々と続いている。

 

「それで、やっぱり罠だったか」

「よく気付いたな赤龍帝、ここは我らが支配している場所。監視の目を掻い潜れるとでも思ったか?」

 

石造りの、曲がりくねった道を進んでいくと建物の裏から人が現れた。

いや、まぁ人に擬態した吸血鬼たちなんだが囲まれたようだ。

 

「さて、君に提案だ。下等種族である貴様でも、ドラゴンの力を宿してるんだ使えるだろう。慈悲深い私達は選択肢を与えよう。我々、ツェペシュ派に協力してカーミラ派を共に潰そうではないか」

 

取り敢えず、実力も分からないのに見下しているのも分かった。

太陽の元で歩いていることから、なんか強い吸血鬼なんだと思うけど偉そうなのがムカつく。

ドラゴンより吸血鬼が偉いと思ってるとか、ナンセンスだ。

というか、そもそも俺の宗教的に吸血鬼はアウトである。

 

「答えはノーだ、教義に則り貴様らを葬る。安心しろ、我らが神は慈悲深いから死んだら受け入れてくれるぞ、もっとも魔王と一緒に死んだらしいから嘘なんだが、ていっ」

 

挨拶代わりに倍加もしてない魔力弾を飛ばしてみる。

早さだけで、特には威力はない。

 

「ぬっ!?ぐぅぅぅぅ!……ハァハァ、敵対する道を選ぶとは愚かな。我々は、太陽すら克服した最強の種族だぞ、そんな攻撃は無駄だ!」

 

自分に置き換えみる。

サマエルを克服した自分、スゴい強そう。

だが、特に驚異は感じない。

 

「死ぬがいい!ハァァァァ!」

「…………」

「フハハハハ、マッハで発射された血液は何でも切り裂く!それは貴様も例外ではない!後悔して、死ぬがよい」

「えいっ」

「…………えっ?」

 

お互いの間に微妙な空気が出来た。

何だよ、片手で弾いただけだろうが、どうした?

 

「此方からも行くぞ、波紋カッター!パパウパウパウ!」

「こんな、ワインがなんだ、ぐあぁぁぁぁぁ!?」

「掛かったな、馬鹿め!」

 

俺の口からワインが飛び出し、それを片手で防ごうとする吸血鬼。

その片手をワインは弾丸のように直進して貫き、絶命させる。

波紋を知らないのか何が起きてるのか分からない様子であり、何やらざわついている。

 

「次にお前は化物と言う」

「ば、化物!……ハッ!?」

「何処に行こうと言うのかね。さぁ、聖杯を出せ!聖杯出せよオラァ!」

 

見聞色の覇気を使って、唇の動きを先読みして発言すれば目に見えて動揺が走る。

そして、俺が動き出すと同時に、吸血鬼達は背を向けて走り出した。

 

「…………聖杯」

『アイツらは放っておこうぜ』

 

何だよそれ!頑張って波紋習得したのに、何だよ!

やってられねぇと街を壊しながら城を目指す。

どうせ城にいるんだろ、知ってるわ。

 

『相棒、ゴーレムだ!』

「ゴーレムなんざに頼ってるんじゃねぇ!」

『相棒、狙撃だ!』

「銃なんざに頼ってるんじゃねぇ!」

『相棒、アイツら血液を取り出したぞ!』

「アイテムなんか使ってるんじゃねぇ!」

 

城を目指して進む俺を邪魔する奴らを片っ端から攻撃して突き進む。

おい、コソコソしてないで来るなら来いよ。

 

「な、何が……ぐっ、ぐぁぁぁぁぁ!?」

「ほぉ、ドラゴンに変身するとは面白い」

 

俺の要望に答えるためか、吸血鬼達が爆発するように体積を増やしたと思ったら人型からドラゴンに変化した。

理性を失ってるからか、きっと奥の手なんだろ。

 

『なろうとしてなった訳じゃなさそうだ。ドラゴンを狩りに来ていたらドラゴンになるとは……啓蒙でも得たのかな?ドラゴンになっちゃう病気かな?』

「分からんが来いやぁぁぁぁ!」

 

群がるようにドラゴン達が殺到する。

そこに向けて拳を振るえば、十数体ほど宙を舞う。

まさに無双ゲーのような状態だ。

 

「フハハハハ!遅かったな赤龍帝」

「誰だ!」

 

戦いの手を一旦止めて高笑いが聞こえた方を見る。

すると、声のしたところに人影があった。

 

「お前は……誰だ?」

「俺はレオナルド、そしてコイツが」

 

ゲオルグでもいるのか、何かが空間から現れる。

赤い赤龍帝の腕が見えた。

白い白龍皇の腕が見えた。

人の腕や骨の腕が見えた。

天使の翼と悪魔の翼が見えた。

九本の尻尾にフェンリルの頭部が見えた。

サマエルの気配のする、なんかごった煮があった。

 

「フハハハハ!僕の考えた最強のモンスターだぞ!」

「強そう」

 

 



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あぁ、喰らえ!エクス……カリバァァァァァ!

「行け、アポカリプス」

「あぽかりぷす?」

「アポカリプスとはコイツの名前だ。ゲオルクと考えた」

『イタタタタ、やめろそれは俺に効く』

 

アポカリプスと命名されたそれが、重い体を持ち上げるようにしてゆっくりとだが動き出す。

まず目に見えたのはその二つの宝玉だ。

 

「グゲゲゲゲゲゲ」

「笑っているのか?」

『まさか、やはり来たぞ相棒!』

 

奴の腕についた宝玉から、白い飛竜と赤い飛竜が飛び出した。

大きくはない、小さいワイバーンのようなそれが大量に現れる。

何だアレは、宝玉から出てきたということはアイツの一部なのか?

 

『気を付けろ、アレに触れると半減させられる』

「なんだって!?じゃあアレは、白龍皇のちからを持っているってことか!」

『それだけじゃない恐らく、赤いのは俺達と同じ倍加の能力を持っているはずだ』

 

アポカリプスの回りを覆うように増えていく赤と白の飛竜。

まるで、繭に包むように奴の周囲を飛んでいる。

そして自滅するかのように、赤い飛竜は奴にぶつかる。

すると、奴の身体が一回り大きくなる。

 

『早く仕留めろ相棒、アイツは自身を強化していくつもりだ!』

「あぁ、喰らえ!エクス……カリバァァァァァ!」

 

集まった魔力が手に集中し、そして一振りと共に放たれる。

それは鋭い銀閃、光の奔流が手刀を振り下ろすと同時に奴に向かって飛んでいく。

飛ぶ斬撃、それはまるでレーザーのように大量の光となって奴の周囲を覆う飛竜を削りなが突き進む。

道中、邪魔する邪竜共も一緒に屠った。

 

『考えたな相棒、奴に近付かずに攻撃を加えたか』

「だが、無限にあの飛竜は出てくるぞ」

 

俺の手刀はそのまま直進し、奴に向かっては行ったが壁になるように存在する飛竜を削るだけで本体にダメージを与えるには至ってなかった。

結局、加速度的に増えていく不毛な攻撃であったと実感させられる。

 

「ドライグ、俺は近接攻撃しかないかもしれない」

『バフとデバフ、それに近接攻撃を封じた布陣。意外と強くね、アイツ』

 

攻めあぐねていると、今度はあちらから動き出す。

もう十分待ったと言わんばかりに奴の周囲にいた飛竜が此方に向かって飛んできた。

 

「ファァァァァァァァ!」

『一体、何が……』

 

アポカリプスの頭上に光の輪が浮かび上がる。

それは回転しながら徐々に広がり大きくなっていく。

まさに天使を象徴する、天使の輪のような物だ。

 

『むっ、魔力があの輪を中心に集まっていく。きっと、レーザーが来る!』

「遠距離攻撃か、厄介な」

『来るぞ!』

 

奴の口から赤い線が地平線を撫でるように放たれる。

そして、数秒遅れて端から衝撃が走ってくる。

薙ぎ払うように、赤い熱線によって邪竜と一緒に街が壊されたのだ。

 

 

「ぐおぉぉぉぉぉ!」

『ジブリで見た!巨神兵だこれ!』

 

腕を交差して衝撃に備えるが、俺の身体は耐えきれず簡単に空に舞う。

あんなの直撃したら、即死する気がするぜ。

 

「ど、どうにかして近づくことができれば」

『相性が悪すぎる。流石アンチモンスターなだけはあるぜ』

 

殴れば勝てるのだろうか。

だが、触れれば半減することは間違いない。

例えばダメージを半減されて攻撃を無効化される。

防御力を半減されたら、恐らく奴の一部に盛り込まれてるサマエルの力でやられるだろう。

馬鹿な俺でもそれくらい、アレがヤバイことくらい分かっている。

 

再びあの赤い熱線が放たれる。

クソ、範囲攻撃とか対応に苦戦する。

 

『後ろだ、相棒』

「何!?」

 

ドライグに言われて後ろを見る。

遥か後方、そこに白い飛竜が集まっていた。

仲間に向かって撃ったのか?いや、待て白龍皇ということはまさか。

 

「フハハハ、僕のアポカリプスは最強なんだ!」

「ぐあぁぁぁぁぁ!?」

 

赤い熱線が背後から迫ってくる。

それは、白い飛竜の反射を用いた攻撃のせいだ。

時間差で意識の外から来る攻撃に、俺は避けることが出来ずくらってしまう。

 

『相棒ォォォォ!』

「だ、大丈夫だ。なんとか、生きてる。倍加だ」

『Boost!!Boost!!Boost!!』

 

生命力を倍加することで、一気に傷を治癒する。

このままではジリ貧、奴は遠距離攻撃ばかりで戦いにくい。

いや、待て!俺には距離を無視することが出来るじゃないか!

 

「喰らえ、必殺!」

『Penetrate!』

「スターダストレボリューション!グレートホーン!オーロラエクスキューション!スカーレットニードル!ロイヤルデモンローズ!エクスカリバー!ギャラクシアンエクスプロージョン!廬山百龍覇!積尸気冥界波!ライトニングプラズマ!天魔降伏!厳霊乃焔!」

 

早速覚えたての必殺技シリーズを奴にぶち込む。

殆ど半減する能力も距離も透過することで直接ダメージを与えたのだ。

奴の身体は半壊し、バラバラな状態になる。

その状態でも生きているのだから、驚くべき生命力だ。

きっと、邪竜でも混じっているのだろう。

だが、それすらブラックホールのような穴、積尸気冥界波によって発生した謎空間に吸い込まれることで倒せるだろう。

冥界に繋がる攻撃なため、俺の知ってる冥界とは違う所に吸い込んでしまうのだ。

 

『考えたな、相手の能力を無視して戦闘処理を行った訳だ。これなら、攻撃は通る』

「見ろ、奴の身体半分が冥界に飲まれようとしている。勝ったな」

『待て、それはフラグじゃないか!?』

 

そんなバカな、あの技の中でも積尸気冥界波はよく分からない空間に落とす即死技だ。

これで死なないやつなどいるはずがない、不死ですら出口のないどこかに飛ばすという方法で殺せるんだからな。

 

「そんな、アポカリプスが負けるものか!何してるんだ、アポカリプス!」

「ググググ……レオ、ナルド……」

「しゃ、喋った?」

 

俺達がアポカリプスにトドメをさせたか見守っていると、何やらレオナルドが肉片となったアポカリプスと話していた。

いかん、奴がアポカリプスを復活させるモンスターを召喚するかもしれない。

いや、作り出すという方が正しいか。

アイツを仕留めなければ。

 

「ウラギ……ッタナ、キサマラ!」

「う、うわ!?た、助けてゲオりゅぎぃ……」

 

アポカリプスの腕が釣り上げられたばかりの魚のように暴れだし、空を飛んでレオナルドを掴み上げる。

そしてクチュと潰れる音と共に、レオナルドを潰した。

なにやら、様子がおかしいことに俺は驚く。

しかも、アイツ喋ってた気がする。

よく見れば、アポカリプスの腕に何やら見慣れない球が付いている。

どういうことだ、アレが何かしたのか。

 

「ムダダ、ゲオルク」

「うわぁ、うわぁぁぁぁ!」

 

別の場所で、空間を瞬間移動しながら逃げ惑う男の姿が見えた。

間違いない、アレはゲオルクだった。

そのゲオルクを二つの球が追いかける。

一つはゲオルクが逃げると自分の回りにゲオルクを移動させる球。

もう一つは、触れたものを抉るように破壊する球だ。

 

ゲオルクが霧に逃げても呼び戻され、そして球が軌跡を作りながら破壊していく。

地面を転げ回るゲオルク、それを狙って地面を消滅させるように消していく球。

ついには逃げ切れず、ゲオルクが悲鳴を上げて飲み込まれた。

何だあれは、何なんだアレは……。

 

アポカリプスはレオナルドとゲオルクを始末すると、それを自分の口の中に放り込む。

そのバラバラになっていた身体は謎の力で集まり、ミンチの塊になっていく。

何が、何が起きてるんだ……。

 

アポカリプスだった肉塊は発光する。

眩しく、遠目には白い繭にしか見えない。

それほどの瞬き、それと同時に俺は知っている気配を感じた。

だが、しかし、いや、なぜこの気配なのか。

だって、この気配の持ち主は死んだはずだからだ。

 

「クハハハ、幽世の聖杯がこのような形で使えるなんてな。命を運ぶと書いて運命、良く言ったものだ」

「その姿は……」

 

そこには人程度に小さくなったアポカリプスがいた。

ただ違うのは、その身体の胸の部分に人の上半身が付いていることだ。

その顔を、俺は覚えている。

 

「生きてたんか、曹操!」

「生きてた?違うな、俺は魂から幽世の聖杯使って復活したのだ!俺の身体すら、モンスターに取り込ませたのが運の尽きだ。我が魂は不滅であるとここに証明された」

『なんだアイツ、デビモンか何かかよ』

 

そこには、アポカリプスの胸から生えた状態でドヤ顔する曹操がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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無限が見ている、夢幻を見ている。だからもう俯かない。

現れた曹操は自分の身体を確認するように、腕を動かしていたりする。

なるほど、つまり身体を奪ったばかりのギニュー隊長と同じである。

ドラグ・ソボールで見た、間違いない。

 

「うおぉぉぉぉぉ!」

『Half Dimension!』

 

先に攻撃してやろうと動き出した瞬間、俺の目の前に曹操が現れる。

距離に対しての半減か!

 

「敵の力を奪い、上乗せだけが能ではないのか」

「ぐっ!」

『Half Dimension!』

「そして、半減の他に吸収することも出来るのか」

 

俺の身体から力が抜ける、ダメだ俺と奴の間に差が出来る。

まだ、これで試している段階だというのだから長期戦は不利になる。

 

「急がねば」

『Boost!!Boost!!Boost!!』

「ほぉ、ならば此方も」

『Boost!!Boost!!Boost!!』

 

俺の倍加に合わせるように、曹操もスペックを倍加していく。

同じ倍加なら、素の力での勝負になる。

だが、そこに対して半減と吸収の力によって差が生まれてしまう。

 

『Half Dimension!』

「クソッたれ!」

「その程度か赤龍帝、神滅具を三つ揃えた俺はまさに無敵だ!まぁ、レプリカではあるがそれでも白と赤の力は有能だぞ」

「っざけんじゃねぇ!うおぉぉぉぉぉ!」

 

力が足りないなら、もっと増すしかない。

俺が出来ることは倍加だけだ。

だったら、倍加し続ければいい。

それしか、俺にはないんだからな。

 

『Boost!!Boost!!Boost!!』

「フン、それは見飽きたぞ赤龍帝。何度やっても同じことだ」

『Boost!!Boost!!Boost!!』

「だからどうした、俺は俺の出来ることをやり続けるだけだ!」

『Boost!!Boost!!Boost!!Boost!!Boost!!Boost!!』

 

俺の倍加に、曹操の顔が歪む。

だが、それはすぐに無くなり笑みへと変わる。

 

「倍加すればするだけ、半減し吸収するだけだ!」

『Half Dimension!Half Dimension!Half Dimension!』

「もっとだ、ドライグ!もっと、力を寄越せぇぇぇぇ!」

『Boost!!Boost!!Boost!!Boost!!Boost!!Boost!!』

「無駄だと、無駄だと言っている!」

 

あの時と一緒である。

抗えないほどの理不尽が、俺の前に立ち塞がるのだ。

許せるものか、納得できるものか。

理不尽に踏み躙られるあの屈辱を、忘れられるものか。

そうだった、そうだったなドライグ。

 

「忘れていたよ曹操、俺はあの時思ったんだ!何もかも差し出してやる!殴れるなら何もかもってな!」

「無駄な足掻きだ、こっちには黄昏の聖槍だって――」

「無駄かどうかは、やってみなきゃ分かんねぇんだよォォォォ!」

『Boost!!Boost!!Boost!!Boos『Boos『Boos『Boo『Boo『Boo『Bo『Bo『Bo『Bo『Bo『Bo『Bo『Boost!!』

 

俺の持ってる物、全てを倍加するんだ。

何もかも、今ある全てを出し切る。

概念にだって倍加できたんだ。

だったら、俺という存在に、俺という強さに倍加出来るはずだ!

俺の全身が真っ赤に燃える、アイツを殴れと轟き叫ぶ。

 

「これが、俺の、俺の全力全開だぁぁぁぁ!」

「忘れていたのか、レプリカとは言え此方には反射があるということを」

「なっ!?」

 

曹操の背後から、大量の白い飛竜が現れ壁となる。

拳と、バリアのように見える反射の力が拮抗する。

 

「くっ、所詮レプリカか」

「うおぉぉぉぉぉぉ!」

 

腕が燃える、腕から鱗が落ちていく、人のような腕になり、そして表面が焦げて剥がれていく。

だが、その結果反射の壁は崩壊する。

骨が見え、手首から先が完全になくなった。

だが、曹操に攻撃が届きその肉体に拳が当たる。

二の腕、肩、そして胸にまで到達する。

だが、奴の身体も半壊していく。

完全に片腕は無くなった、だがそれは俺の攻撃がそのまま返ってきたからに他ならない。

それでも、相打ちまでには持ち込めた。

行ける、まだ片腕が残っている。

このままなら、勝つことが出来るはずだ。

 

「ガフッ……」

「ハァハァ……賭けだったが、俺は勝った」

「うぅ……あっ、あぁ?」

 

胸を貫く輝く槍が見えた。

何だこれは、赤い、これは……血?

誰の血だ、俺の血?

貫かれた、貫かれた、誰に貫かれた?

 

「あぁぁぁ……あぁぁぁぁぁぁ!」

「居士宝。光輝く人型の分身を生みだし、従える者を作り出す……弱体化は免れないが、聖杯の調整を視野に考えれば問題はない」

 

物言わぬ躯となった曹操だった物が俺に伸し掛る。

だが、これは抜け殻だ。

本物は、光る人の姿となった状態で俺を貫いた曹操だ。

 

「貴様はそんなにも……そんなにも勝ちたいか!そうまでして英雄になりたいか!この俺が……たったひとつ懐いた祈りさえ、 踏みにじって……貴様はッ、何一つ恥じることもないのか!」

「いつだって化物を殺すのは英雄だ。その過程は、問題ではない」

「赦さん……断じて貴様を赦さんッ!名利に憑かれ、俺の誇りを貶めた亡者め……その夢を我が血で穢すがいい! 聖槍に呪いあれ! その願望に災いあれ! いつか地獄の釜に落ちながら、この兵藤一誠の怒りを思い出せぇぇぇぇ!」

 

身体が燃え尽きていく、失った腕から灰になって消えていく。

俺の意識は、そこで、暗転した。

 

 

 

真っ暗闇の中、俺は全裸で宙に浮いていた。

なんだここ。

 

『おぉ、イッセーよ死んでしまうとは情けない』

「こ、ここは……」

 

声がした、厳かなどこか懐かしい声だ。

 

「お前は、ここはいったい」

『ここは何もがあり、何もない。人はここをあらゆる呼び名で呼ぶ。私はおまえ達が夢幻と呼ぶ存在』

『あるいは世界、あるいは宇宙、あるいは龍神』

『あるいは全、あるいは一』

『そして』

『私はお前だ』

 

ドラゴンがいた。

赤いドラゴンが、俺の目の前に浮いていた。

黒と赤しか存在しない空間、そして眼の前にいるのはドライグではない赤いドラゴン。

 

「お前は、俺……」

『私は夢を通じて全ての者と繋がっている。そして、兵藤一誠とそれに宿りし赤き竜の運命すら繋がることで既知である。私は私の可能性を認知し、そして新たな私を獲得した。そして、これは定められし邂逅である』

「お前は何を言ってるんだ?」

 

すまねぇ、ドラゴン語はさっぱりなんだ。

そんな困惑する俺の元に見知った人影が目に入った。

 

『来たか、無限の龍神』

「イッセー、迎えに来た」

「オーフィス」

 

俺はオーフィスの声に釣られて動こうとする。

だが、身体は動かない。

そもそも、オーフィスの姿が普段と違って小さくなっている。

 

「グレートレッド、イッセー、寄越す」

『返してほしくば、我が問に答えよ』

 

返す?待て、そもそも俺はここに……俺はどういう状態なんだ?

 

「魂、返す」

『問おう、それは静寂よりも求める物か』

「我……静寂か一誠……」

 

見下ろすように、困惑するオーフィスを見る。

あぁ、ようやく理解した。

どうしてオーフィスが俺の方を向いて、グレートレッドと呼ぶのか。

どうして俺は小さくなったようにオーフィスが見えるのか。

俺自身がグレートレッドになっているのだ。

 

「一誠がいい……独りは、もう嫌だ」

『そうか、そうだな。独りぼっちは寂しいものな』

 

オーフィスが、ゆっくりと『俺/グレートレッド』に近づく。

『グレートレッド/俺』に触れ、身体が熱くなる。

そして、気付けば俺はオーフィスと手を握ってグレートレッドの前にいた。

 

「おかえり、イッセー」

「ただいま、オーフィス」

 

手を握った状態で、俺は夢幻を見る。

 

「ありがとうグレートレッド、俺はまた歩き出せる」

『答えを得たか。ならば、我が願いを叶えよ。あの男を倒せ』

「曹操のことを言ってるのか?」

『あやつの使っていた肉体は、不愉快だ。特に名前が、な。等価交換だ、良いな』

 

そう言って、グレートレッドが身体を捻らせ、どこかに飛んでいく。

そうか、あいつアポカリュプスドラゴンって名前だもんな。

名前、被ってるの嫌だったんだな。

 

「イッセー、リベンジ?」

「あぁ、そうだな」

 

あの場所に戻らねばならない。

無限と夢幻により復活したこの身体で、俺は叶えてみせる。

 

「取り敢えず、一発ぶん殴る」

 

無限が見ている、夢幻を見ている。だからもう俯かない。

ここからだ、ここからリベンジする。

一から、いやゼロから始めるんだ!

 

『いや、それパク――』

「ドライグ、いたのかワレェ!?」



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俺はドラゴンである、名前はまだない

オーフィスと俺が元の場所に戻る。

次元の狭間を抜けて俺が見たのは、滅びそうな冥界だった。

吸血鬼はどこに行ったと思ったら、何やら元吸血鬼の邪竜達がいる。

アレは、魔王か?なんか滅びの魔力って奴が人形になってるけど。

 

「曹操は英雄としての最終局面へと至り、それを越えようとしている」

「最終局面?」

「英雄から、神へと至る。そして神よりも優れた存在へとなろうとしている。神殺し、それが曹操の目的」

 

オーフィスから聞いた話では、俺が消えてから数ヶ月が経過していたらしい。

その間、奴は邪竜達を使って各神話に喧嘩を売ったそうだ。

でもって、それにキレた神を片っ端から殺して回ったみたいである。

そんな簡単に神って殺せるのかと思ったら、俺とサマエルみたいに相性的な問題があるらしい。

それだけじゃなく、アイツは神滅具を集めて神属性対策を施したようだ。

 

『なるほど、今は神と同等の実力者か雑魚が生き残っているということか』

「アレは」

 

背中に十二翼の羽根、鎧は白銀と黒を基調としており、形も有機的で流麗なフォルムをしている。

見間違えるはずがない、アレはヴァーリだ。

 

「末世とも言えるこの世界で、生き残った者達は曹操と戦っている。その筆頭がヴァーリ」

「あの姿は」

「ディアボロス・ドラゴン・ルシファー、ルシファーとアルビオンの力が合わさり最強に見える」

『いや強いだろ、というかこういう展開になるのか』

 

冥界の地上では邪竜と見たことないドラゴン達が戦っている。

神器使いだと思われる奴らが、悪魔や天使に堕天使どもと戦っている。

他にも教会の人間だとか、他の神話勢力らしき奴らもいた。

 

『昔を思い出す。あの時もそうだった』

「あの時って?」

『幼馴染と姫様、どちらを取るべきか俺とアルビオンは争っていた。あの頃は、俺達も若かった』

「なんかわからないが、二天龍が争っていた時と一緒なのか」

 

世界中の全てがここに集まっている。

禍の団か、他の勢力か、勝ったやつが正義って奴だな。

 

「じゃあ、行くわ」

「イッセー」

「大丈夫だ、なんか分かる」

 

オーフィスが何かしたんだろう。

俺の頭の中で呪文が浮かんでいた。

山が消滅し、大地が割れ、邪竜達が消し炭となる。

その中心に向けて、俺は足を進める。

 

「ハッ、いいぞ!いいぞ、白龍皇!」

「くッ!」

「楽しい時間も終わりか。お前も、あの男のように葬ってくれよう!」

「舐めるなよ、曹操!生身でもテメェくらい、殺せるぞ」

 

ヴァーリが力を維持できなくなって、元の姿になる。

曹操はそのヴァーリにゆっくりと近づき、そして俺の存在に気付いた。

 

「お前、兵藤一誠か?」

「どういう意味だ」

「本当に君が復活したのなら失望した。今の君からは、何も感じない」

 

曹操は呆れたように、俺から視線を反らしてヴァーリを見た。

もう俺の存在は無視していた。

気に食わねぇなぁ、だがここにはヴァーリがいる。

場所を変えるか。

 

「場所を変えようぜ、ここで殴りたくねぇ」

「それは無意味な提案だ。戦うことが出来るものが口に出来る言葉だ」

 

俺は地面を数度蹴り、奴の顔を掴んで空を飛ぶ。

どこもかしこも何かしらいて、邪魔で仕方ねぇ。

あのラピュタみたいな飛んでる所でいいか。

 

「な……に……!?」

「ふぅ、始めようぜ曹操、一瞬で終わらせてやる」

 

俺は軽く拳を握り構えを取る。

すると、曹操はやっと構えた。

虚空から槍が具現化し、曹操の手に槍が握られた。

曹操は顎に手をやり、納得したように頷いた。

 

「理解したよ兵藤一誠。どうして何も感じないのか、魔力や気を龍神の力に変換したんだろう。神力とでも言おうか、それなら半減は効きにくい。確かに、君は小細工などしない殴り合いが一番得意だし合理的だ。だが無意味だということを教えてやろう」

 

曹操が俺の真横に現れ、槍を横薙ぎに振るう。

それを俺は片手で弾くと、槍の軌跡によって地面が裂けた。

 

「よく躱した。だが驚いているのだろう、槍の一撃で今の俺は地面を真っ二つに出来る。正直自分でも驚いている、あの敗北に君との戦いが俺をここまでにした」

 

何やら御託を並べてるが、ようは殴れば良いんだろう。

取り敢えず、左手で止めて右手で殴る。

右で殴る、右で殴る、右で殴る、右で殴る、右で殴る、右で殴る、右で殴る、右で殴る、右で殴る、右で殴る、右で殴る、右で殴る、右で殴る、右で殴る、右で殴る、右で殴る、右で殴る、右で殴る、右で殴る、右で殴る、右で殴る、右で殴る。

 

「馬鹿な!?俺の一撃を止めただと」

「どうした、左手で止めただけだ。怖いか、自分の想像できないことが起きることが」

「勝ち誇ったことを言うな!瞬間的に、俺の力を上回っただけだ。見せてやる、神すら屠る一撃を!」

 

曹操が、何やら詠唱を始める。

 

「槍よ、神を射貫く真なる聖槍よ!我が内に眠る覇王の理想を吸い上げ、祝福と滅びの間を抉れ!汝よ、遺志を語りて、輝きと化せ!」

 

槍が、光を放ち始める。

黄金の光、それが槍一本から出ていた。

うわ眩しいし、なんか熱い、太陽みたいで鬱陶しい。

 

「英雄や神すら超える、禁手すら上回る覇輝!時空が歪むほどの神殺しの力だ、お前ごときでは理解も出来まい!自らが龍神となったことを後悔するが良い!」

「気が付いてねぇ見てぇだな、俺は龍神になってない。これは……素の力だ」

 

拳を振るうと、鬱陶しいほどの光が消え失せる。

同時に、微妙に纏わり付く圧力も消滅した。

曹操が、地面を抉りながらぶっ飛ばされた。

 

「ぐっ……」

「立てよ、軽いジャブだぜ」

「俺を、俺に膝を付けさせて嬉しいか!舐めるなよ、トカゲ風情が!」

 

槍が爆発するように輝き、宙に浮いた。

何だあれ、どうなってるんだ。

驚くのも束の間、槍が曹操に突き刺さった。

まさか、自害したのか?自害したのかランサー!?

 

「そうか、許せないか聖槍。私が人間ごときに遅れを取ることが」

 

曹操の身体が内側から弾けて肉の壁になる。

そしてそれが膨張し、全身タイツを身に纏ったような白い姿になった。

そして、頭部からワカメのような髪が生え始め、額に十字の傷が出来上がった。

 

「ジョ、ジョニー・デップ!?」

『ふざけてる場合かァ!いや、これが素だった!』

 

気付けば俺は磔にされていた。

空中に磔なんて、意味がわからない状況だ。

ラッパの音が聞こえた、四人の人影、邪竜が群がり、身体中に穴が空いた。

 

「確かに貴様は、神すら超えた!認めよう、龍神に比肩し超越者となったとな!だが、魔王サーゼクス程度がなんだというのだ!お前は私という超越者の手によって死を迎える!超越者などという存在と、私は決別する!神すら、超越者すら、私の足元には及ばない。私こそが、真なる絶対者だ!終わりだ、兵藤一誠!」

「……終わりだと?」

 

動けなくして、騒音を鳴らして、チクチク分身で攻撃して、邪竜を体当りさせて、ちょっと穴をあけたこんな程度でか。

 

「この程度かよ、フン!」

 

ちょっと力んだだけで、拘束する全ての力が破壊させた。

俺と曹操、それ以外が一気に吹き飛ぶ。

ただ、俺と曹操が宙にいるだけの光景が出来上がった。

 

「もうやめにしようぜ、曹操。難しい話は懲り懲りだ。見せてやるよ、最初で最後の龍神化だ」

 

俺は、詠唱を初めた。

それは頭に浮かぶ呪文。

制御できるはずもなく、きっとこれを使えば俺の全てがなくなってしまうだろう。

生き残れば儲けもんか、俺の存在一つで世界を救えるとかカッコイイなおい。

まぁ、生きても死んでもアーシアには怒られちまうがな。

 

「我に宿りし紅蓮の赤龍よ、覇から醒めよ!我が宿りし真紅の天龍よ、王と成り啼け!濡羽色の無限の神よ!赫赫たる夢幻の神よ!際涯を超越する我らが禁を見届けよ!汝、燦爛のごとく我らが燚にて紊れ舞え!」

『ドラゴンインフィニティドライブ!』

 

その姿は、血のように赤かった。

赤く、少し黒く、赤褐色の深紅。

一匹のドラゴンがそこにはいた。

それは神というには、余りにも荒々しかった。自由で、孤高で、強欲で、そして最強であった。

それはまさに、ドラゴンであった。

 

「な、なんだその姿は!?」

「最初で最後の龍神化ってのは……」

 

驚く曹操に、俺は告げる。

どうして、この姿が最初で最後なのか。

そして、この姿が何なのか。

 

「俺自身が、ドラゴンになることだ」

 

固まる曹操を前に、俺は解説してやる。

ドライグと同化でもしたのか、アイツの悪い癖が移っちまった。

だが、まぁ気分はいいな。

強くなるためには、解説してやることも必要だって教わったしな。

 

「神にも届くほど力であるが故に存在の崩壊を招く、最後ってのはそういう意味だ」

「そんなはずがあるか、トカゲ如きが私を超えるなどあり得るものか!そんな事が――」

「――燚焱の炎火」

 

世界が赫に染まった。

 

 

 

ポロポロと身体が散っていく。

ドラゴンの肉体が砕けていき、人間の身体が出てくる。

今にも膝を着きそうなほどに消耗しており、やっぱ生きるのは無理そうだ。

 

「イッセーさん!」

「アーシアか?」

 

これは何だ、勉強すれば分かるのか?

誰かに教われば、理解できるのか?

女って奴は簡単に言葉にする。

まるで……

 

「そうか」

 

アーシアが俺に手を伸ばし、俺も続くように手を伸ばす。

だが、少し遅かったのか手すら崩れていく。

存在の崩壊が早かったようだ。

 

「これが、そうか――」

 

この掌にあるものが……。

 

「――愛か」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――男の話をしよう。

運命を狂わされ、運命を狂わす力を与えられた。

予定調和なまでに運命を狂わせ。幾人もの死と生を見て、己の存在を苛み、いつしか道化に成り下がる。

しかし狂おしいほどに狂えず、男は一緒に歩む狂人は憐む。

お前のせいだ、お前のおかげだ、と奴らは言う。

物語が始まるまで、それは幾度と繰り返される。

物語が始まったその先に、在るのは変化か繰り返しか。

次の者すら狂わせてしまうのか、それとも。

 

「ここは、また知らない場所だ」

「よぉ、俺」

「グレートレッドなのか?」

「バカ、違うっての。俺だよ、俺」

 

俺の好きなやつみたいに言うなら、下らない物語だった。

俺に言わせれば強いやつをぶっ飛ばして自己犠牲になるのがハッピーエンドだと思ってるのはアメリカ人だけだ。

勿論、それは独断と偏見に満ち溢れているだろうけどな。

 

「じゃあ誰なんだ」

「誰だと思う?」

「知らん」

「そうか、そうだな。お前はそういうやつだった」

 

だから、このままなんて我慢出来ない。

十分だ、俺は憧れて、後悔して、それでも満足することが出来たんだ。

それは全部、お前のおかげだ。

 

「――男の話をしよう。狂わされた運命は、男の人生を食い潰した。悪魔と出会い、聖女と出会い、騎士と出会い、猫又と出会い、吸血鬼と出会う。色欲に溺れ、己の願望を貫き、それだけで世界を救うはずだった人生だ。ただ龍に憧れ、口車に乗せられ、聖女と出会い、己の願望を貫き、自分すら犠牲に世界を救った。聖女を悲しませ、物語を紡げなくなった男の話だ」

「何言ってんだお前」

「やっぱダメか?アレが三流なら、俺は何流になるんだろうな。取り敢えず、俺に作家の才能はないみたいだ。だがな、俺だって意地がある。最後まで物語を紡ごうって気はあるんだ。よくエタるけど、完結させたいみたいな奴さ

 

だから、下らない自己犠牲の物語の続きを紡ごうと思う。

 

「まさかお前」

「俺の終わり方は俺が決める。満足だったぜ、兵藤一誠。そうだ俺は本当に、美しいものを見た。運命を狂わされても救われる命はあり、狂わされても変わらない答えがあった。ありがとう、兵藤一誠。後悔し続ける愚かな男はお前によって救われた」

 

意識が浮上する、いや混濁しているのか。

自分の居場所がどこかも分からず意味をなさなくなっていく。

ただ、なんだか喪失感のような物が俺を包んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気付けば、俺は知らない天井を見ていた。

 

「ここは……病院か?」

 

アルコール消毒のような匂い、清潔な布、やっぱりここは病院だ。

 

「ドライグ……そうか、逝ったのか」

 

赤い龍の力は使える。

気付けば赤い篭手は出るし、倍加の力も使えそうだ。

だが、やっぱり俺の中にアイツの気配はしない。

 

しばらく自分の手を見ていると、病室のドアが開いた。

ドアを開けた人物は、俺を見て固まる。

 

「イッセーさん」

「あぁ」

「イッセーさん!」

 

飛び込んでくるアーシア、それを俺は抱きしめる。

あぁ、そうだったな。この結果は最良だ。

ただ、ちょっと物足りない。

 

「クエー」

「なんだコイツは」

「あっ、オーフィスちゃんがくれたんです。虹龍って言うらしいですよ」

 

アーシアの頭に乗っていた龍が、俺の頭に移動する。

ちっちぇ、まだ子供かもしれん。

 

「小さいなぁ……」

『小さくないよ!あっ、やべ』

「あぁ?何か言ったか、アーシア」

「何がですか?」

 

聞こえなかったのか、じゃあどこから……

いや、まさかお前が……

 

「クエー」

「今更取り繕うなよ」

『無限の龍神には勝てなかったよ』

 

難しいことは良くわからないが、どうやらドライグは死に損なったらしかった。

姿は変わってたが、中身は一緒だ。

 

『俺はドラゴンである、名前はまだない』

「アーシア、コイツって名前ないのか?」

「えっ、ラッセー君ですよ」

「名前あるじゃん」

 

後日譚、俺はその後も日本神話勢に頼まれて色々やった。

なんかトライヘキサとかいう化物をヴァーリと倒したり、異世界がどうのとかいう狂人ぶん殴ったり、アザゼルって奴のせいで異世界に飛ばされたり、まぁ色々あった。

因みに、その間ラッセーはオーフィスに遊ばれていた。

 

「ラッセー、鍛える」

「クエー!?」

「待て、逃げたら強くなれない」

「クエー!」



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