大海原の祖なる龍 (残骸の獣)
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1 祖龍(モドキ)、島に君臨する

はじめまして、残骸の獣です。
ワンピのSSを行き当たりばったりで書きます





小鳥たちの声が聞こえ目を覚ます

 

まだちょっと眠い

 

もう少し寝ていよう……スヤァ…

 

 

え?話が進まないから起きろ?

 

しょうがないでござるな〜

 

 

 

 

オッス!オラ祖龍!

元は人間だったんだけど知らない間に死んじゃったっぽくて気がついたら巨大な白い体躯に長い首、そんでもって赤い瞳のおっきなドラゴン。俗に言う祖龍ミラルーツにそっくりな姿で転生してたんだ!

突然こんな姿で放り出されただけでもびっくらこいてたのに俺が今いるのは小さな無人島、おっかなびっくり羽根を広げて空を飛び、島を一望してみた感じ周りは見渡す限り海だった。

 

 

すまない、唐突な転生で本当にすまない……

 

 

 

最初はドギマギしながら過ごしていたけど結構な時間を過ごしていたからこの身体にも慣れた、いまでは羽もブレスも雷も自由自在に操作できるゾ

 

祖龍、それは『モンスターハンター』の世界でも最高クラスの実力を誇る龍の中の龍。

作中では伝説の中の龍と呼ばれその名は「運命の創まり」を意味しているともいわれるモンハン界の裏ボスの一体だ。そんな御伽噺の一説に出て来るようなドラゴンに俺は転生したらしい

 

でも慣れた今では特に生活に困ることは無く、腹が減ったらそこらの森から命を頂戴し寝たい時に寝る、そんな生活を送っていた

 

そんな感じで自由気ままな龍生活を送ること数十年(体感)

 

 

俺はふとミラルーツに関するある事を思いつき実行に移すことにした、最初は興味半分で始めたんだけど…

 

………………本当に出来ちまった…

 

 

鏡がわりに湖面を見れば白い髪を束ねて纏め、ルビーのように真っ赤な瞳とシミ一つない綺麗な肌、豊満な胸。某神絵師様ワ〇アルコ先生が描き下ろしたような美麗なグラフィックのキャラが驚愕の表情しながら水面には映し出されてた、fat〇的に言うならランサー、アルトリア・ペンドラゴンの髪を白くして目を紅くした感じ。…アルトリア顔がまた増えたぞ、消さねば(X並感)

そして服装も何故か生成された白に赤い線が入ったシャレオツなバトルドレス、ロングスカートでスースーするよ。

 

そう、俺はミラルーツの逸話の中にある「人化」の能力を試してみたのだ。

これが大成功、人型になれたことによって狭い場所にも入れるようになった。んでもって普段は小さ過ぎて入れないような場所を捜索していたら近場の洞窟の奥で大量の財宝を見つけた。

でも龍になったせいなのか「あ、なんかキラキラしたのがいっぱいある。すごーい」位の感情しか湧かずお土産として近場にあったテオ・テスカトルの太刀によく似た赤い刀身の刀を持って帰り自宅(巣)に置いておく事にした位だ。

恐らく俺の中の数少ない人間だった頃の感情、「刀ってカッケェ!」とかそういうのが影響したんだろうか

 

そんな財宝を狙ってか狙わずか、この島にはよく人間達がやって来る。大小様々な船で大体の船はドクロの着いた海賊旗、ジョリーロジャーって奴だっけ?を掲げている

 

 

 

海賊…そう海賊だ!

この島にやって来るのは荒っぽい格好をした如何にもブイブイ言わせてるような海賊ばかり。

この島はオレのもの!とか生意気言う気は無いけど無駄に木々をなぎ倒し破壊活動を行う連中を野放しにはしておけない訳で。

人化も覚えた事だし大人しく帰ってくれないかなーとか一縷の希望を込めて話しかけてみるけれど大体の反応は馬鹿笑いされそのまま襲いかかってくる、その時は返り討ちだ。

龍と人ではスケールが違う、力も大きさも。人間の使う鉄砲の弾や刃物なんかでは俺の身体に傷一つ付けることは叶わないしたまに変な能力使ってくる連中も尻尾の一振りで物理的にログアウトさせられるのだ。

 

龍になったからか人をプチッってしても何ら感想が湧かない、虫を潰した気分だ。なんかフクザツ

 

こんな感じで俺のドラゴンライフは満喫されていた。けどなんだかなー、刺激が足りない…。海賊達を蹂躙するのも飽きが来るからそろそろ何か変化が欲しいな〜

 

そんな生活が続いたある日、島で一番高い古びた塔(マイハウス)の頂上からいつものように島を眺めていると水平線からいつもの見慣れた海賊船とは違う、青で統一され一回りも大きなお船が4隻ほどやって来ているのが見えた。

 

 

…いままで自分がなんの世界に飛ばされているのかはてんで検討がつかなかったがお船の帆に描かれていたマークを見て確信がいった、そしてつい言葉に出してしまう

 

 

「海軍の旗…?」

 

 

ここはワンピースの世界らしい(小並感)

 

 

 

 

 

 

名も無き無人島、その入江付近

 

 

やって来た軍艦からいの一番に飛び出したのは白い髪に白い髭を蓄えた恰幅の良い老人だった。白いスーツに「正義」の二文字を背負う上着を羽織り、笑いながら歩くその姿はまるで新しい玩具を手に入れた子供のようだ

 

 

「おう、ついたぞクザン!

ホレ起きろ!さっさと着いてこい!」

 

 

老人に呼ばれ渋々といった感じでクザンと呼ばれた男性も船から浜へと飛び降りる、軽く伸びをしてから欠伸を繰り返し如何にも眠そうな雰囲気を漂わせている

 

 

「ここが…数多の海賊達が消息を絶つ『悪魔が住む島』ですかいガープ中将。

見た感じのどかな無人島って感じですがねぇ」

 

 

「ドアホ、お前も見たじゃろう。道中のアレを」

 

 

アレ、と言われてクザンは思い出す。

この浜まで来るのに通った岩礁地帯、その所々におびただしい数の大破した海賊船が放置されていたことを

 

 

「その悪魔ってのが本当に海賊達をやっちまったんですかねぇ…」

 

 

「分からん、じゃが百聞は一見に如かず!見たところあの古い塔が怪しいと見た、そこまで行くぞい!」

 

 

言うなりガープはどんどん浜を抜け、鬱蒼としたジャングルへと足早に歩いていく。

 

 

「本当に楽しそうなんだからもう…」

 

 

ため息を付きながら突き進むガープを渋々追いかけるクザンであった

 

 

 

 

 

 

◆loading…………◆

 

 

 

 

 

 

己が正義に順じ、海の平和を守る海軍。

その中でも指折りの実力者であるクザンと老齢ながらも未だ現役、そして海軍の英雄とまで言われたガープに下された命令は初めは簡素なものだった

 

「最近名だたる海賊達が相次ぎ消失している海域の調査」

 

それが当初の目的である、中には億超えの凶悪犯もその海域で行方不明となったとの報告もあり、海軍大将センゴクは今回の調査に暇そうでかつ戦力としては申し分ないガープとクザン、オマケに軍艦を4隻も寄越して今回の調査を依頼した

 

どうせ暇だろう、という建前であったが億超えの海賊達が行方をくらまし、海軍打倒のために集っている恐れもある。故に億超えの海賊でも大体殲滅可能なこの2人に任せたというセンゴクの意図もある

 

 

クザンも初めは面倒な海域調査、程度に思っていたがこの島に入ってからというもの、至る所に投棄された無人の海賊船、そして海賊旗から推察するにかなりの実力者達がこの島で文字通り消えているという実態に内心不安を隠せないでいた

 

 

そんな本人の気も知らずにズンズン密林を突き進むガープ、目的である古びた塔に向けて距離を縮めて行った

 

 

「む!?クザン、見てみいこれを!」

 

ガープに言われるがまま側にあった大木を見つめ驚愕する

大きい、あまりにも大きな爪痕がありありと木の表面に刻まれていた

 

ここまで大きな傷跡は並大抵の動物が作れるものでは無い、では一体何がこの跡を残したのだろう?

 

 

「デカイ爪痕だな…インペルダウンの猛獣共よりデカイっすね」

 

 

「おお!?ならドラゴンかのう!

楽しみじゃ!」

 

 

「ドラゴンって…御伽噺じゃないんだから」

 

 

この爺さんは本当に緊張感というものが無い…そう思いながらクザンはこの島に入ってからもう何度目かも分からないため息を吐くのだった

 

 

 

 

 

塔は目前、ジャングルを抜け広い空間に出たところでガープは歩みを止める

 

「どうしたんですかガープ中将…?」

 

 

「止まれ、何かがおかしい」

 

 

いつになく真面目なガープ

目の間に広がる空間はまるでローラーでもされたかのように不自然なほど地面が真っ平らだった、そして骨だけになった亡骸が多数転がっており所々地面が焼け焦げた跡がある

 

「何をやったらこんな風になるんでしょうね…」

 

「まるで馬鹿でかい獣が暴れ回った後のような…む?」

 

 

ガープが食い入るように見つめる先にいたのはこの無人島に似つかわしくない小綺麗な格好をした白髪の麗人だった。

緋色がかった鞘に収まった軍刀を腰に提げ、歳は二十代後半だろうか、その紅く澄んだ瞳は真っ直ぐにこちらを向いている

 

 

「オヌシ、何者じゃ…この島の住人かのう?」

 

 

いつも緊張感のないガープだがこの時ばかりはトーンの低い声を出し目の前の女性を注視している。

じっとこちらを無言で見つめ続ける女性

 

その佇まいにクザンは無意識に手が汗ばむのを感じた。

見た目は綺麗な女性だ、その格好も相まってどこかの金持ちのお姫様と言われれば直ぐに納得がいく

()()()()()()()()()()()()()()()()

 

気まずい沈黙が場を支配する

 

 

そして遂に黙ったままだった女性が遂に口を開いた

 

 

「貴様等…いつもの連中と何か違うな…この島に何用か…?」

 

 

透き通るように綺麗な声だった

 

だがその言葉にはハッキリと自分たちに対する敵意が込められている、。いや、目の前の人間が自分にとって敵か味方かを判別しているのだ。

暫しの沈黙、次第に女性から覇気にも似たプレッシャーが調査隊を襲う。中には耐えきれず膝を屈する者もいた

 

 

「ワシらは海賊を探しておる。オヌシに危害を加えるつもりは毛頭ないわい」

 

 

ハッキリとガープは言い切った、流石は恐れ知らずの英雄と呼ばれた男である。くぐった修羅場の数が違う

 

 

「…そうか」

 

 

ガープの言葉を聞いて一変、女性はプレッシャーを放つのを辞め、優しい瞳でこちらを見つめてくる。

その笑顔は容姿も相まって女神のようだった

 

「この島に害成さぬ者ならば…良い。

だが生憎この島には財宝以外何も無い、早々に引き返せ」

 

 

財宝あるんだ、だから狙われるんじゃね?と海兵達の心は一つになった

 

「そういう訳にもいかんでのう」

 

 

緊張の解けたガープはポリポリと頭を掻きながら言う

 

 

「ワシらはこの島の調査に来たんじゃ。

この島は無人島じゃろ?オヌシ、1人っきりでココへおるのか?」

 

 

もっともな疑問である、言ってしまえばこんな辺鄙な無人島に女性1人住んでいると考えること自体がおかしいのだから

 

 

「ああ、私はずっとこの島で暮らしてきた。とても長い間な。

ちゃんとした反応をする客人は久しぶりでな、もてなしが出来なくてすまない」

 

 

くっくと悪戯っぽく笑うに思わず見蕩れる海兵もいた、それだけ魅力的な笑顔だった

 

 

「いいわいいいわい、こちらこそお嬢ちゃんの島に土足で入ってしまってすまんかったな。

ところで…お嬢ちゃんの言った『客人』にこんな顔のヤツらはおらんかったかのう?」

 

 

そう言ってガープは行方不明になった海賊達の手配書を見せる

 

 

「ふむ…記憶力に自信があるほうだ、どれどれ。

ああ、こいつとこいつはそこの木の側に倒れている奴だ。こっちの男はぺしゃんこにしたから磨り潰されて死体はバラバラだろうな、こっちは…燃やしたから跡形も残っていない」

 

 

ぞわりとクザンの背中に冷たいものが走る、綺麗な声とは裏腹にぺしゃんことかバラバラとか燃やしたとか…この娘っ子は何をバイオレンスなことを言ってるのだろうか

 

 

「ぶあっはっは!!

そうか死んだか、ならコイツらはもう良いわ」

 

 

と豪快に笑ったあと手配書をくしゃくしゃに丸めて部下へポイッとなげるガープ

 

奇妙な違和感を感じ続けているクザンは遂に我慢出来なくなって問いかける

 

「結局お嬢さん、アンタは一体何者なんだ?こちとら海軍でね、悪い事考えてるなら君を捕まえなきゃならないんだが」

 

 

「悪い事…?

我は悪意を振りまくつもりは毛頭ないのだが…ちゃんと頂きますとご馳走様は言えるし…毎日頂く生命にも最大限感謝を込めている。

一応理性ある龍としてこの島で暮らしてきたつもりだ」

 

 

…龍?聞きなれない言葉にクザンは首を傾げた

 

 

「この暮らしも長いこと続けて来たが如何せん退屈でなあ、そろそろ新しい島に旅立つつもりだったのだが…」

 

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ。君は一体なんの話をしてるんだ?さっきから話が噛み合わないぞ?」

 

 

なおも戸惑うクザンを尻目に一瞬キョトンとした女性は再びニヤリといたずらっぽい笑顔を浮かべる、そして彼らにこう提案するのだった

 

 

「貴様ら、私と手合わせ願えるか」

 

 

「手合わせぇ!?」

 

 

「然り、なにぶん退屈なのだ。

見たところそこの老兵とお主はなかなかの強者と見た。ならば私と遊んでも壊れはしないだろう?」

 

 

この女は何を言っている?

海軍中将2人を同時に相手に戦闘がしたい、しかも遊びだと豪語した。

 

よほど自分の腕に自信があるのか只の馬鹿なのか…

嫌な予感がしてクザンが隣を見ると彼女の誘いを楽しそうに聞いているガープの姿があった。

直感で彼は理解する。

ああ、面倒な事になる……と

 

 

「いいぞぉ!ワシも強い奴は大歓迎じゃ!クザン、オヌシも付き合えい。

ボガードはほかの連中を船へ返せ、迅速にな」

 

 

「…承知しました、彼女はそういうレベルの相手ということですね…?」

 

 

「分かっておるじゃないか、さっさと行けい」

 

 

「ハッ!」

 

 

ガープの副官、ボガードは彼の真意をいち早く読み取り、部下達を遠くの軍艦へと先導して行った

 

 

「……優しいのだな、老兵。

巻き込まれればタダでは済まないと直感したか」

 

 

「おうとも、お主は只者ではない。

ワシの直感がビシビシ告げておるよ。」

 

 

彼女の周りの空気がガラリと変わる

辺りは電気を帯び始め、ピリピリと肌に突き刺さるような気が漂い始めた。

 

 

「覇気無しにこの気迫、やはり只者ではないのう…なあお嬢ちゃん、名前は?」

 

 

「名か……そうだな…ミラと呼べ」

 

 

「そうか、ワシはガープ。モンキー・D・ガープじゃ。

ミラよ、海軍に入らんか?」

 

 

「海軍に……?ぷっはっはっはっ!

どうした急に、耄碌したか老兵?」

 

 

「まだボケとりゃせんわい。オヌシ、退屈なんじゃろう?ワシらと一緒に働けば楽しいぞ?」

 

 

「ほお、楽しい…愉しいか…。

久しく聞いていない言葉だな、それもまた一興かもしれん。」

 

 

空気が震える

 

 

「じゃあ…行くぞッ!!」

 

 

ミラは雷鳴と共に高速でガープへ接近し右ストレートを腹へ放つ、それを辛うじて受け止めカウンターの要領でミラの顔面へと拳を叩き込んだ。

ゴリッという鈍い音、ガープの拳は山をも砕く愛の拳、喰らえばひとたまりも無い…はずだった

 

ミラは無傷だった

 

ガープの拳を顔面で受け止めたにも関わらず、だ

 

 

「むう!?」

 

 

「クハッ!いいぞ老兵、今ので大体の奴は消し炭になるんだが…やはり貴様は特別らしい。

私に一撃当てた礼だ、誠意には誠意を。

強き者よ、その力に答え、私もこちらの姿でお相手しよう…」

 

 

そのまま掴まれていた手を強引に振り払い距離を取るミラ、そして右手を大きく振り上げる

 

 

漆雷凶星(しつらいきょうせい)……」

 

 

まるで空間を裂くようにミラの周囲にガープ達の2倍はあろう大きさの赤い雷玉が生成される。その数実に10

心臓が脈動するようにバチバチと音を立てるそれは一目で危険な代物だと理解出来た

 

ガープの本能が告げている、アレに当たれば死ぬと

 

 

「中将ォッ!」

 

 

咄嗟にクザンが割り込んで瞬時に分厚い氷の盾を生成する。

 

「堕ちよ…ッ!!」

 

その直後、それぞれの雷玉に雷が落ち割れ爆ぜた

 

眩い光と爆音が轟く、爆風は津波の様にあたり一面を吹き飛ばし後ろの塔もジャングルも吹き飛ばして更地に変えてしまった

 

 

「中将…無事ですか?」

 

 

「おう、スマンのお」

 

 

咄嗟にクザンの作った氷の大盾、それも武装色で強化したものによって辛うじて2人はダメージを免れた、だが同時に自分達とミラの圧倒的な力の差に絶望する

それは悪魔の実の有無や実力や経験の差ではない

 

もっと大きな何かが違う、ガープはそう確信していた

 

 

巻き上げられた土煙が徐々に晴れていく、それと同時にミラの本当の姿も顕になった

 

 

光がなくとも白亜に輝く鱗と体毛

 

禍々しくも美しい壮麗な翼

 

煌々と輝く王冠の如き四本の角を冠する巨大なドラゴン

 

御伽噺でよく目にする龍…伝説の存在がクザン達の目の前に立ちはだかっていた

 

 

「オイオイこりゃあ…」

 

 

「ぶわっはっはっは!とんでもない当たりを引いちまったのう!」

 

 

動揺するクザンとは裏腹にガープは楽しそうに笑った

 

 

「笑ってる場合ですか、これ殺されますよ俺ら」

 

 

「そうならん為に今を頑張るんじゃよクザン!行くぞい!」

 

 

「チクショウ…センゴクさんに慰謝料請求したいぜ…」

 

 

甲高い祖龍の鳴き声が島を震わせる

 

 

意を決して2人は形を成した絶望へと果敢に挑みかかっていった

 

 

 

 

 

それから丸1日、ガープとクザンは船へは帰ってこなかった

心配した兵たちがガープを呼び戻そうと提案したがとてもそんなことはできない、何故なら龍の戦いに凡人が首を突っ込むなど自殺行為以外の何者でもないからだ。

兵たちは己の無力を噛み締めながら自分達の英雄が帰ってくるまでじっと耐えるしかなかった

 

 

島中に響く爆発音、激突音、そして時折轟く甲高い鳴き声

 

 

そして夜が明けた頃、軍艦の前に舞い降りたのは朝日を受けて光り輝く白い龍

 

兵たちが唖然とする中その龍は前足で掴んだ2人の男を甲板へそっと下ろす

 

 

『強き者よ、その魂見せてもらった。

約束は守ろう、これより私は貴殿らと行動を共にさせてもらう』

 

 

そう語る龍はみるみるうちにその大きさを縮めていき綺麗な女性へと姿を変える

 

 

「では改めて…我が名は祖龍ミラルーツ、今後はミラと呼ぶがいい。

宜しく頼むぞ、海兵諸君」

 

 

そう言ってミラは呆気に取られる海兵たちの間を縫って悠々と部屋の中へと消えていった

 

 

 

その日、タダでさえ多い海軍の英雄ガープ伝説にに新たな1ページが刻まれる事になる

 

龍と戦い生き延びた、と



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2 祖龍(モドキ)、海軍にスカウトされる


多分これから所々実際の時代背景と違う部分があると思うけど許してヒヤシンス




オッス!オラ祖龍改めミラ!

 

 

やっべーよ、いきなりラスボスクラスの強敵と手合わせとか言っちゃったよ

 

相手は海軍の英雄ガープと自然系(ロギア)の身を持つ将来を約束された中将クザン

 

うん、ヤバイ

 

この身体、喋り方までおかしくなるし…俺はただ「そろそろ島を移動したいけど龍の姿になって移動するのは目立つから連れて行ってよ偉い人!」

て言いたかっただけなのにどうしてこうなった

 

 

初見殺し雷速パンチも防がれて挙句カウンター食らったし、龍の姿になってもビビらずに果敢に挑みかかってくるし、やっぱりワンピ時空のキャラはバケモンだらけだぜ…

 

最後は向こうの体力が尽きたのか倒れてしまった、でも死なないように極力手加減したから大事にはならないだろう多分きっと!

死なれたら後味悪いし、お話が先に進まなくなったら嫌だもんな(メメタァ…)

 

 

そんなこんなで俺は今軍艦の一室に居る、あの後急いで医務室に運ばれたガープじぃじと青キジおいたんを訪ねてみよう

 

 

「壮健か、2人とも」

 

 

お医者様、そんなにビビらないで下さい何もしませんから。取って食ったりしないから

 

 

「おうミラ!

見事な戦いぶりじゃったぞ!」

 

 

「…どうも」

 

 

さっきまでボロボロだった筈なのにこの2人はもう完治してるみたいだ、流石死人がほとんど出ないことで有名なワンピ時空

 

 

「大事無いようで何よりだ」

 

 

「いい雷じゃった、腰に効くわい」

 

 

本気出せば古龍すら一撃で仕留めるミラの雷を電マ扱いとか…さすが主人公の祖父、この祖父ありてあの孫ありと言ったところか

 

 

「勢いで島を出ると言ってしまったが…我から差し出せるものは島にあった財宝くらいか、他にこの島には何も無いからな。

あるとすれば…海の気を発する岩石くらいだが…」

 

ちゃっかり島を出る時に刀は一緒に持ってきちゃったけどね。もうこれ俺の持ち物でいいよね、所有権とか知らん。

 

「海の気を発する岩石?海楼石のことかい?」

 

ああそうそれそれ、厨二臭くてカッコイイよな海楼石

 

「そう呼ぶのか?最早あの島に未練は無し、海軍の好きに使うといい」

 

 

「そりゃ助かる、あの島は新世界では割と海賊の横行する海域じゃったからのう。前線基地でも作らせるか」

 

 

なんと、ここは新世界だったのか。

確かグランドライン後半の海だったっけ?

途中すっ飛ばしている気がするけどまあいいや

 

 

 

 

 

そもさーん、正義とはなんぞや?

 

強いのが正義?優しいのが正義?はたまた弱きを助け強きを挫くのが正義?

なーんて、こんな話を前世でいうTVのコメンテーターなんかに話させたら喧々諤々言い争いたっぷりの2時間特番が出来上がるだろう。

だがどこぞの麻婆大好き外道神父が言うように正義には相対すべき悪が必要だ、明確な悪がいなければ正義は正義足り得ない。

海軍が言う悪とはこの世界でいう即ち海賊の事、気まぐれに島を襲撃し、街を襲い、男を殺し女を犯す彼等は討伐されるべき「悪」として世界中に知れ渡っている。分かりやすくてイイネ

我らがワンピの主人公ルフィ君も夢を追い求めるという理由で海賊になり、一般人に被害は出していないものの広義では他数多の海賊達と同じ扱いを受けているのだ。それくらい海賊が民間人から敵視されているのが分かる。

この世界の個人の情報収集能力が極端に低いからかもだけどね、それぞれ島で隔離されていて唯一の情報が新聞一強なんて世界、やりたい放題だ。

そんな明確な悪が存在する中大義名分を掲げ海賊達を取締り、自身の『正義』を実行する組織、それが海軍だ

 

さて、気まぐれに行くことになった俺の正義はというと

正直龍としての生き方が長過ぎて色んな人間としての常識が欠如している為何とも言えない状態に陥ってる。

人としてのモラルとか、やってはならない最低限のライン(窃盗とか無差別な殺人etc..)は弁えているつもりだ、でも基本的に人間のやる事に対して共感が薄い。

例えば妻子を殺されて海軍に泣きついてきた男がいるとする。

テレビで見る殺人事件の被害者へのインタビュー見てる気分だ。あくまで第三者視点、「へーこんな事があったんだー」位にしか思わない。

ガープ中将やクザン中将の語る正義も俺にとっては宗教の勧誘みたいでちょっと引いてしまう。

 

そうさ、俺はヒトの掲げる正義などどうでもいいのだ

 

龍って無駄にプライド高いし妙に達観しちゃうんだよね、一応人間だった頃の記憶とか名残りとかがあるから完全に見下したりはしないけどさ。俺そこまで人でなしじゃない。龍だけど

それでも海軍に行くと言ってしまったのは……俺の心に欠片ほど残っている人間の感情が「ワンピの世界へ関わっていこうぜ!あと俺海軍大好きなんだ!」と訴えかけているからだろう。

 

カッコイイじゃん海軍。背中にコート背負ってさ、俺も六式使いたいよ。

それに海賊(あっち)サイドではなく、海軍(こっち)サイドならまた違った世界が見えるかも知れない。という興味もあった

 

じゃなきゃ矮小な人間の世界に関わる様な真似しねーよ、とか考えちゃう辺り俺も立派な龍ですな

 

龍は自由、嫌になったら辞めればいいし(楽観視)

 

さしあたり俺の掲げる正義は『自由な正義』という事にしておこう

 

 

 

島の調査や海楼石の案内などをするのに3日ほど要してから俺を載せた軍艦は島を出発、ひとまずマリンフォードという所まで送ってくれるらしい。

処遇はその後決まるとかなんとか

 

 

「船旅というのもいいものだな…飛ぶのとはまたひと味違う」

 

 

落ち着いて状況を整理しようぜ

まずは時代背景だ……分からん!

 

ガープ中将ちょっと若いし、青キジがクザンの名のまま中将だから原作開始より昔という事は分かるんだが…如何せん昔話はニガテで漫画でもテキトーに読んでた節がある

それに加えながいながーい間龍としての生を生きてきた、どれ位の間と言われると龍の感覚だから曖昧だが読み流した昔の漫画の内容を数十年単位で覚えてられるか!?無理だろ!

という訳でキャラもこれからのストーリーも朧気にしか分かりまそん、でもエースが死んだり等の衝撃的な事件は記憶に残ってたりする。ままならんね

 

 

 

「入るぞミラ!」

 

 

バァンッと勢いよく蹴破ってガープじいじが入って来た、一応レディの部屋なんだからノックくらいしろよ爺さん

 

 

「もう動いて大丈夫なのか?」

 

 

「おうとも!これ位軽い軽い!

そんでミラ、お前さんと話したいと言っとる奴がおってのう。

ほれ、伝電虫」

 

 

言われるがまま差し出されたカタツムリの上に置いてある受話器を取る

聞こえてきたのは落ち着いた感じの男の声だ

 

「ふむ、もしもし…」

 

 

『私はセンゴクというものだ。君がガープの言っていたミラという女性で間違いないな?』

 

 

「相違ない」

 

 

センゴク……確か海軍の超偉い人だった希ガス

 

 

『まずは手配書の海賊共を始末してくれた事に感謝する、奴らは札付きの屑だった。

君のお陰で捕まえる手間が省けたよ』

 

 

「島を脅かす無礼者を手打ちにしたまでだ、別に褒められるような事ではない」

 

 

『そうか、そう言ってくれるのなら幸いだ。

そこでだ、海軍も人材不足でな。

島での功績もある、正式に君を海軍へスカウトしたい。

悪い話ではないぞ?』

 

 

なんと、直々にスカウトと来たか

ガープじいさんが誘った事を事前に聞いたんだろうか

それとも新手の囲い込みか?

外堀を埋めて俺を権力の犬へ追い込む算段か!?

 

 

「………元より行く宛もなし、私は名も無き島で永きに渡って退屈な日々を過ごしていた。

ここで貴方がたと会ったのも何かの縁、その申し出受けさせてもらおう」

 

 

『そうか、歓迎しよう。盛大にな

では詳しい説明はマリンフォードへ着いてからにしよう。

不便な事があればクザンかガープに言ってくれ』

 

 

「問題無い、初めての船旅は良好だ」

 

 

『そうか、では』ガチャン

 

 

伝電虫はそれっきり途切れてしまった、これ大丈夫?向こうついた途端ミサイルカーニバルとかされない!?大丈夫!?

 

 

「そんで、どんな内容じゃったんじゃ?」

 

 

ニヤニヤしながらガープ爺さんがこっちを見てくる、あんたが口添えしたんだろうがよ

 

 

「私を海軍へスカウトだそうだ。

どうせ島を出て行く宛もなし、身を置かせてもらうとするよ」

 

 

「おおう、そうか。そりゃ結構結構」

 

 

ガープじいじは大変ご満悦の様子

そこへクザンのにーさんも合流ししばらく3人で他愛のない話をしながら時間を潰した

 

 

行き当たりばったりバンザイ!

 

 

 





正義なんてどーでもいいけど興味あるから海軍に首突っ込んでみるべ、な主人公。既に人としての軸がぶれている

次回、サカズキ、ボルサリーノ死す!デュエルスタンバイ!


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3 祖龍(モドキ)、海兵になる

なんで評価バー開いたらオレンジになっててお気に入りが200件近く登録されてるんですか…まだ2話目ですよ?

こんなクソザコナメクジに何を期待してるんですかぁ…

有難うございます(土下座)




☆前回までのあらすじ☆

 

文明がねぇ!獣しか居ねぇ!

 

海賊ぐらいしか来る客が居ねぇ!

 

オラこんな島ァ嫌だ〜、オラこんな島ァ嫌だ〜

 

オラ海軍ンさ行くだァ〜♪

 

 

 

 

 

はい

 

 

 

 

 

 

俺を乗せた船は新世界からRLを渡って偉大なる航路へと戻り、向かう先は海軍本部だ。

 

ガープ爺さんの分かりにくーい説明によるとこの辺には『タライ海流』という海軍本部マリンフォード、司法の島エニエス・ロビー、大監獄インペルダウンの三つの施設を結ぶ政府御用達の海流があるらしい。

それに乗り、あっという間に海軍本部までの距離を縮めている。

 

エニエスなんとかとインペルなんとかにも行く機会があるのかな、聞けば一方は夜の来ない『昼島』と呼ばれる島でもう一方は海王類達が(たむろ)する『凪の海(カームベルト)』の中にあるらしい。

 

いつか行ってみたいな、楽しみだ

 

海王類といえは…

 

 

「全く…何なんだ一体」

 

 

目の前には黒焦げになって浮いている軍艦の10倍ほどはあろう大きさした海王類の姿が。これで今日三回目の襲撃だ。

俺達が船を出してから数日、ここの所殆ど毎日海王類がやって来ては返り討ちにし、別の奴がやって来ては返り討ちを繰り返してる。

 

 

「こんなでかい海王類を一撃で…」

 

モブの皆さん、驚き過ぎちゃう?これ位クザンにーさんも出来るで。ていうかワンピの人間ならこの大きさの海王類位指先一つでYou are shock!!出来るやろ、いまさらいまさら

(感覚麻痺)

 

「ぶわっはっは!スマンのおミラ!

客人に仕事をさせてしまって」

 

 

「構わんさ、外の世界は退屈しなくて楽しいな。」

 

 

煎餅齧りながらそういうガープ爺さんと他愛ない会話しながら考える。

なんでこんなに海王類と鉢合わせするんだろう?

クザンにーさんの話ではこの辺には海王類なんて滅多に来ないそうだ、しかも俺が甲板に出ている時に限って…

クッソ運悪いなあ俺…ん?運が悪い?

 

 

 

 

……あ

 

 

 

思い出してほしい、これはONE PIECEの世界の話ではなく「モンスターハンター」の方の話だ。

俺氏ことミラルーツは色んな作品に登場している。最初は2Gの塔の上で、ナンバリングが進みハンター達の移動手段が発達した4Gではシュレイド城に皆既日食と共に現れ討伐することが出来た。ダブルクロスでも同様だ。

そしてミラルーツの装備を作る際、どの作品でも必ずと言っていいほど付いてくるバッドステータスがある。

 

『不運』、もしくは『災難』だ

 

お分かり頂けただろうか?

 

これは向こうでは報酬が少なくなるっていう面倒なスキルだったんだがこっちの世界ではまた違った意味合いを持つのかも…

 

つまり、ミラルーツは運が悪い説が微レ存

 

海王類に何度も襲われるのも、結構な確率でスコールと鉢合わせたのも、ガープ爺さんの副官ボガードさんが度重なる心労で胃を痛めているのも全て俺の不運によるものだったのだ!今明かされる驚愕の真実ゥ!(え?最後のはガープ中将のせいだって?気にするな!)

 

 

「そうだったのか…私は…私は…」

 

 

圧倒的ッ!!運がッ!!悪い…ッ!!

 

 

「…?どうしたんだミラ?」

 

 

真実にうちひしがれわなわなと震えている俺を心配したのかクザンにーさんに気遣われた

 

 

「いや…なんでもない。なんかすまんかった」

 

 

「何故急に謝んのよ…?」

 

 

変な事実に気づいてしまった俺を乗せて船は海軍本部へと向かう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウェルカムトゥーようこそマリンフォード

 

目の前にはでかでかと「海軍」の二文字が書かれた日本の大阪城みたいなでっかい城の姿があった

 

そう。ここは海軍本部、通称「マリンフォード」

 

 

「これで私も海兵というわけか」

 

 

新品の水兵服を着飾ってその場でくるくる回りながら着心地を確認する

 

長ったらしい入学式も終わり、俺は晴れて海軍兵学校の候補生、その一員となった訳だ。書類審査などの面倒な事はセンゴクさんがやってくれたらしい。

年齢については見た目相応の年齢を記載してもらった、24歳位だったと思う。見た目は人だが中身は龍なので人化しててもこの身が老けることは無い、なのでそういう体質なのだと説明しておいた。

悔し紛れの言い訳だったけどこの世界に住む巨人族の寿命は300年(あまり)あったり悪魔の実の能力の副作用で身体の成長が止まったり、わりと肉体と年齢が比例しないヒトの多い世界だったのですんなり納得してもらえた

 

 

「おー、似合っておるぞミラ。馬子にも衣装とはこのことよな!」

 

 

「それ意味違いますよガープ中将、似合ってんぞミラ」

 

 

側には相変わらずせんべいを咀嚼しながらミラの門出を祝うガープ爺さんの姿が、そして隣にはクザンにーさんも顔を出していた

 

 

「にしても、入校前の体力試験をダントツでクリアしちまうとはな。」

 

 

「造作もない」

 

 

ふふんと胸を張り、豊満な胸がたゆんと揺れる。

俺としては力加減を覚えるための練習みたいなものだったけどそれでも龍と人間の力の差は激しいものらしい。某摩訶不思議アドベンチャーな世界と間違えて転生しちまったんじゃないか俺は?

それに拮抗してきたこの2人ホント何なんだ…人間核兵器?

 

 

「これから訓練過程じゃ、女の同期は少ないがしっかりやれよ」

 

 

「あいわかった。しかしこの敬語というのは難しいな…人間の上下関係も面倒なものだ」

 

 

「まあ人の社会に適応する練習じゃと思えい。

門出祝いじゃ。せんべい食うか?」

 

 

「頂こう……頂きます」

 

 

「敬語は要練習だなァ」

 

 

俺の最初の課題は敬語に慣れる所から、ということになった。

 

 

 

 

 

 

 

海軍の訓練は退屈だ

 

 

腕立て二千回とかトラック500週とか龍の身体だと余裕のよっちゃんである、組手も同期では相手にならないし教官である中尉クラスの将校でも一方的にボコれる。実際ボコボコにした

 

上官の面目とか全く考えずにやってしまった、本当に申し訳ない(メタル〇ン並感)

 

さて、自分だけ先に逝っといて主人公に一度着ると外せなくなるスーツを事前説明無しで着せたゲスの極み博士のことは置いといて。

 

訓練校の基礎的な訓練だけでは満足出来なくなってガープ中将にこっそりと六式や各種覇気の使い方を説明してもらった。教えて貰ってばかりなのでお返しに前やったら好評だった祖龍式電撃マッサージをやってあげている。

 

常人には習得不可能とか言われてる六式だけどそこは流石龍。乱脚なんかは脚を3回位振ったらスグに出た、それから剃はやらずとも雷速で動けるため割愛、一番役に立ってるのは月歩かなー、龍の姿にならなくても飛べるのは結構嬉しい。

つい楽しくなって月歩でマリンフォードからシャボンディ諸島まで行って帰った時は教官のゼファー先生にクッソ怒られたが…

 

 

退屈だったけど新しい発見もある、矮小な同期たちの成長だ。明日の将校を目指し一喜一憂する姿はとても美しい。

最近気づいたが俺はそういう「夢の為にひたむきに努力する姿」が大好きだ、これは最初から圧倒的な力を持ち全てを蹂躙できる龍には真似できない、こと戦闘に関して龍に「努力」は必要無いからだ。

それが堪らなく美しく、尊い物だと分かる。

 

にんげんっていいな

 

そんなある日

 

 

ガープじいさんから呼び出しくらった

 

俺悪い事した記憶ないんだけどなあ…一生懸命普通の訓練生を演じている筈だけど果たして…?

 

 

「おうミラ、来たか」

 

 

「ご機嫌麗しゅう、中将閣下」

 

 

呼び出されたのはマリンフォード中心部の外れにある広場だ、なぜか中将の後ろには3人の男の姿があった。中にはこの前闘ったクザンにーさんもいたよ

 

 

「いつも通りガープでいいわい。

今日はお前と会って貰いたい奴がおってなあ、紹介しよう。

中将のボルサリーノとサカズキじゃ」

 

 

「急ですね…まあいつもの事ですが。

宜しくお願いします」

 

 

「ガープ中将、急に呼び出したんはこの新兵と儂等を会わすためか?」

 

 

「おお、こりゃたいそうなべっぴんさんだねぇ〜」

 

 

向かって右側、フードをすっぽり被ってドスの利いた声で俺を威嚇するのがサカズキって人だ。左側の田〇邦衛の若い頃にソックリな人がボルサリーノっていうらしい。

 

ていうかこの2人確か後の大将ですやん、俺覚えてるよ。

まーた碌でもないこと考えてるなガープ中将は

 

 

「おうとも、ミラが最近訓練校で退屈しておるようでのう。

お前ら相手になってやれ」

 

 

……………ぱーどぅん?

 

 

「は?」 「おお〜?」

 

 

2人ともぽかんと口を開けて唖然としてる、当然だよ。

訓練校に通っているような新米と中将クラスの猛者を戦わせようってんだから、気が触れてると言われても文句言えない

 

 

「私は構いませんが、お2人が納得しておられないご様子ですよガープ中将」

 

 

「おお、スマンスマン!説明不足じゃった。

ミラは海軍に来る前、ワシとクザンの二人がかりでもかなわんかった相手じゃ。油断してると死ぬぞ」

 

 

「流石に命までは取りませんが…」

 

 

ガープとクザンが二人がかりで負けた。

半ば信じ難いかとは思うが事実である、2人の表情が真面目になった

 

 

「……分かった、だがやるからにゃ容赦せんぞ新兵」

 

 

「御手柔らかに…」

 

 

「ボルサリーノはどうする」

 

 

「まァガープ中将の仰せだしねェ〜、仕方ないよォ」

 

 

なんとか2人から了承は得られたのでガープ中将とクザン中将監視の元、俺VSサカズキ、ボルサリーノの稽古を行うことになったよ、唐突だね

 

 

……あれ?これわりとマジにならないと俺死んじゃう?

 

 

 

 

◆戦闘準備中…◆

 

 

 

海軍本部建物外れの広場にて、新兵一人対中将2人の勝負が始まった

 

「では……始めいッ!!」

 

ガープの合図で先に飛び出したのはミラだった。

瞬く間に2人の側まで歩み寄り、電光のように素早い回し蹴りはサカズキの首元を捉え、抉るように振り抜かれる。

 

 

「ぬぅッ!!?」

 

 

まさか新兵がこんな動きをするとは思わなかったのだろう、一瞬驚きそれを辛うじて覇気を纏った腕で受け止めたサカズキは反動で大きく横へ飛ばされ壁に激突した

 

 

「あらァ?サカズキ中将?

冗談キツイよォ〜…」

 

ガラガラとサカズキの激突した壁が崩壊している様を見せつけられたのも束の間、ミラはもうボルサリーノの目前まで迫っていた。

ボルサリーノは自身の持つ悪魔の実「ピカピカの実」の力で高速移動し、続くミラの一撃を回避することに成功。しかしミラの追撃は止まらない

 

 

「おう!?こりゃ見聞色の覇気だねェ…あっしの動きが全部読まれてるなァ」

 

 

「ボルサリーノ中将殿は光の速さで動けるのですね、自然系(ロギア)の能力はやはり凄まじい…」

 

 

「そのあっしを捉えてる君も大分凄まじいけどねェ…ッ!」

 

 

ミラの嵐のような連撃をいなしながらボヤいたボルサリーノは大きく飛び上がる。

この実力差、最早新兵がどうのこうの言っていられない。

下手をすれば自分がやられると踏んだボルサリーノはピカピカの実で生成されたレーザーの雨を降らせた

 

 

八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)ァ」

 

 

「おお!?」

 

 

一発一発が致命傷となる光の礫、ミラは一瞬驚いたようだったが下からじっとそれを見つめている。

 

 

「ちょ…避けてくんないと死んじゃうヨォ〜?」

 

 

後で流石にやり過ぎたと後悔するボルサリーノ、だが一度出してしまったものはもうしまいようがない。

レーザーの雨はミラの元へと殺到していった

 

すると唐突に彼女は足に力を込め姿勢を低くして

 

 

「……瞬雷」

 

 

そう呟いたミラの脚部が赤色の雷を纏ったように見えたその刹那、ミラが消えた。

続く轟音、そしてボルサリーノの頭上にミラが突然姿を現した。そのままオーバヘッドキックの要領で彼の頭に蹴りが突き刺さる。

 

「おぉ!?ォ…」

 

その勢いのままボルサリーノは頭から地面に激突し、間もなく気を失った

 

一拍遅れてボルサリーノのレーザーが着弾した爆発音とミラが通ったであろう道筋に雷が走った様な稲光、それに遅れて雷鳴がマリンフォードに轟いた

 

「ふう…殺す気ですかボルサリーノ中将、私じゃなかったら確実に死んでましたよ?」

 

遅れて地面に着地し、パンパンと服の汚れを払うミラ。

これにはクザンもガープも驚きを隠せず呆気に取られている

 

そしてようやく瓦礫を押しのけ脱出したサカズキも目を剥いて驚いた

 

 

「なんじゃあこりゃあ…ボルサリーノがあっちゅう間にやられとる。

派手にやらかしおって…」

 

広場を埋め尽くすボルサリーノのレーザーによって炎上した広場をバックに仁王立ちするミラの姿はどこぞの管理局の白い魔王の幼少期を彷彿とさせるがサカズキはそれを知る由もない

 

 

「さて、次はサカズキ中将の番です。

お覚悟を」

 

 

「ほざけ青二才が、海軍を舐めるなァ…!」

 

 

「(年齢だけならアンタより随分上何だけどな…)」

 

 

サカズキの怒りとともに彼の右腕はゴボゴボと赤く泡立ち、溶岩で構成された巨大な怪腕となってミラを襲う。

それを見たミラはまるで楽しい玩具を見つけた子供のように微笑んでいた

 

 

……

 

 

 

祖龍の雷と溶岩の激しい鬩ぎ合いの末、先に膝を付いたのはサカズキだった。

息も絶え絶えのサカズキは憎々しげに余裕の笑みを浮かべ心底愉しそうにしているミラを見上げている

 

 

「お見事でした、まさか私に傷を付けるとは…慢心していましたね」

 

 

「嫌味にしか聞こえんわい…ハァ…ハァ…

お前、詐欺じゃろうに…」

 

 

先程の、戦闘でサカズキがミラに与えたダメージは頬に掠めた赤いアザの一撃のみ。

それ以外は軽くあしらわれ、スピードで劣るサカズキは文字通り稲妻の様なミラの蹴りを防御しながら何度も食らった結果彼は限界を迎えてしまった

 

 

「そこまで、勝負アリじゃ。

ミラ、ご苦労じゃった。これでセンゴクの奴も納得するじゃろうて」

 

 

「は?センゴク?なぜその名がここで…」

 

 

「私がガープに頼んでけしかけたのだ、ミラ新兵」

 

 

驚くミラの背後から現れたのは現海軍大将センゴクと訓練校の教官ゼファーだった

 

 

「ガープ中将、謀りましたね…」

 

 

じとーっとガープの方を見つめるミラ、対するガープは豪快に笑っている

 

 

「ぶわっはっは!悪かったのうミラ!

じゃが実際に見てもらった方がお前を連れ出しやすいと思ってなァ」

 

 

「連れ出す?」

 

 

「そうだ、ミラ。

君の力、才能は訓練校に留めておくには惜しい。よってすぐにでも訓練校を卒業させて即戦力として利用させてもらう、ゼファーも構わんな?」

 

 

「ああ、こりゃ訓練校にいる意味無ぇ。飛び級だ飛び級、問題児が居なくなって清々するぜ」

 

しっし!と手を振るゼファーにセンゴクも納得したようだ。

この突然の登用にはゴールド・ロジャーの死後、増え続ける海賊達に対抗するため一刻も早く戦力を補強したいというセンゴクの考えも混じっているがミラにとっては退屈な訓練校から脱出するいい口実だった

 

 

「んーー…承知しました。

私は誰の下に付けば良いので?」

 

 

「差し当たりガープの部隊で下積みを積んでもらう、階級は…以前までの海賊討伐歴を考えると少佐スタートが妥当だろう。コング元帥には私から言っておく」

 

 

「承知致しました。ガープ中将、これからどうぞよしなに」

 

 

「おう!宜しくなァミラ!

サカズキ、ボルサリーノ、お前等も精進せい!今日の敗北で見えた事も多かろう」

 

 

「やれやれ…新米にボコボコにされてこの言われよう、貧乏クジ引いちまったねェ〜…」

 

 

「……ミラ、お前の力は確かに強大じゃ。じゃが一歩でも道を間違えてみい、そん時ゃ儂がお前も燃やし尽くしちゃるぞ」

 

 

いつの間にか目を覚ましたボルサリーノ中将が胡座を書きながらぼやき、サカズキ中将もまだ完全に納得していないと言った感じで俺に毒づいてくる。

 

 

「ご心配どうも。

私なりの正義で、海軍に尽くしてみせますよ。中将閣下」

 

 

かくしてミラは海軍でも異例の訓練校を飛び級で卒業し少佐の地位を得て海軍の将校となったのだった

 

 

「にしてもボルサリーノォ…貴様は能力にかまけ過ぎるなとあれほど言っただろうが!

こっちへ来い、根性を叩き直してやる!」

 

 

「勘弁してくださいヨォ〜ゼファー先生…本当に貧乏くじだァ…」

 

 

 

 

センゴクside

 

 

ミラが海軍中将2人を相手にした日。夜もどっぷり更けた頃、私は海軍本部内の小さな個室にゼファー、ガープ、おつるさんを集めた。

 

議題は勿論、先日入隊した海兵、ミラ少佐のことについてだ。

 

 

「それで?ガープ、アンタは何処まであの娘っ子の事を知ってるんだい?」

 

 

「ミラのことか?それなあ…ワシにも殆ど分からんのだが、奴ぁ電気を自由に操れる。そんでもって怪力に馬鹿高い瞬発力と防御力、天の与えた才能かのう?」

 

 

「ガープ…何年の付き合いだと思っとるんだ。正直に話せ、場合によっては五老星の耳にも入れねばならない」

 

ガープは俯き少し考えているようだったがやがて観念したのか渋々答え始めた

 

 

「………………わかったわい…

あまり他言するなよ?ゼファーもおつるさんもな」

 

 

「当たり前だ、約束は守る」

 

 

「さっさと言いな、時間が勿体ない」

 

 

この4人は共にゴールド・ロジャーの大海賊時代を戦い抜いた腐れ縁、故に秘密は絶対に漏らさない。そう信頼できる仲間だ

 

 

「ミラはな、龍じゃ。

今は人化しておるがあの状態でも凄まじいじゃろ?」

 

 

「龍…だと?」

 

 

「ああ、龍じゃ」

 

 

「龍ってぇとアレか?お伽噺に出てくる…」

 

 

「だろうねぇ、空想上の生き物。

…いや、もしかすると…」

 

 

「おつるさん、それ以上は言わないでくれ。

明日コング元帥と五老星に報告する、ミラには悪いが彼女の危険性は我々でも推し量れん」

 

 

「まァ妥当な判断だろうな、これを知ったジジイ共は殲滅を選ぶか共存を選ぶか…」

 

 

ゼファーの意見は最もだ、ミラは龍…この世界で最も危険な存在。

何故危険かは私の口からいうことは出来ないが四人全員が同じ危機感を感じている

 

 

「ミラはこの数年あの無人島から出ておらんと言っとった、ならまだ何も知らない」

 

 

「それについて信憑性は皆無だが…

我々が手綱を繋いでおく必要がある、それが海軍の為にもなるし政府も都合が良いだろう。

下手に敵対した所で死に目を見るのは我々だ、サカズキとの戦闘を見ていて確信した。

ミラは単騎で国どころか世界を滅ぼせる」

 

世界を滅ぼせる、その言葉は決して冗談で言っている訳ではない。

現にミラは本来の10分の1の力も出さずにサカズキとボルサリーノを圧倒して見せた、自然系の能力を有し将来有望な大将候補である2人を同時に相手取って、だ。

 

あの赤い電気を帯びる技、本人は体質だと言っているがあれは龍の御業に他ならないだろう

 

 

「そういやワシと戦った時は島を丸ごと更地にできそうな雷を起こしたりもしてたのう、悪魔の実にも雷を操る実はあるようじゃが…」

 

 

「だったら彼女が泳げる理由が着かん、訓練校の水泳授業にもバリバリ参加してたぞあの娘」

 

 

「あの子は自主的に海軍に従属する事を選んだみたいだけど…不安要素は拭えないね」

 

 

「ああ、やはり五老星に報告する。

ミラの存在は彼等にとって不都合になりかねない、もしそうなってしまったら…」

 

ゴクリ…と4人が息を飲んだ

 

 

「最悪の場合、海賊も海軍も貴族も天竜人も関係なくヒトの世界は終わりを告げる。

『龍』とは世界の始まりと終わりを創る者、文明の破壊者なのだ…!」

 

 

私は断固とした決意と共に『祖龍』ミラと付き合っていくことを決めた。

まだまだ不明瞭な事が多い。ミラの出生、能力、そして伝承通り()()()()()()()()()()()()()()

 

幸いミラは今の所友好的だ。だが彼女がこの世界の闇を…奴隷や天竜人の横暴を目撃した時、なんて思うだろうか。腐敗しきった王政、人の邪な感情を垣間見た時、果たしてミラは『人間』の行いを赦してくれるだろうか?

 

解散した後、私の心中は不安で一杯だった

 

 




ミラ、無双。そして上から超警戒されるの巻



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4 祖龍(モドキ)、部下と親睦を深める



評価、感想を下さった皆様本当に有難うございます。
これからも好き勝手書いていくので宜しければご覧下さい





 

 

「本日よりこの部隊に配属されました、ミラと申します。

不肖の身ではありますが、どうぞご指導ご鞭撻の程宜しくお願い致します」

 

そうお辞儀をして他の隊員の前に立つ俺氏

 

犬の船首が特長的な軍艦の甲板上、俺は訓練校飛び級で少佐という馬鹿みたいな偉業を成し遂げ晴れてガープ中将の部隊へと配属された。

 

配属される間、ガープ爺さんからおつるっていうおばあちゃんを紹介された。

女性の悩みとか色々相談に乗ってくれる頼れるお人だ、恩は返さねばと色々お礼もしている。

 

 

基本的に少佐クラスの士官がやるのは書類仕事らしい、戦闘はガープ中将が居るしお呼ばれしたらって感じだ。代わりに山のような書類を毎日片付けないといけない。

これも少佐の大事なお仕事…だと思ってました、最初の方は。

 

なんだこれ、殆どガープ中将の放り出した書類じゃねえか!尻拭いさせられてるよ!

 

 

「全く…ガープ中将は…」

 

龍を自分の尻拭いに使うとは、流石英雄である(白眼)

 

根は真面目(自称)な俺氏、渋々ながらも書類の山を片付けていく。

海軍の戦闘による建物の損害請求書…

この船の積荷、物資の積載量とどんな積荷が入っているかの報告書…

積まれている銃、大砲、火薬等の火器管理…

 

そんで終わった頃にふと疑問に思った

 

俺つい先日まで訓練校居たんだよね?内職だけでいいのん?

 

残念ながら俺の転生前は日本人、縦社会で生きていた身だ。入ったばっかりの新入りは階級問わず清掃等をしなければいけないのでは?

 

という訳で己の社畜精神の赴くまま、自主的に甲板の清掃なんかをやっている。

この数十年、もう『人』だった頃の記憶はほとんど残ってないが前述したとおり俺の中の社畜の本能が告げている。「下積み無くして大成なし」と

 

何となく人間としてのモラルとかは覚えてるつもりだ。「大体こうすれば角は立たないよね」くらいではあるけど。あと俺は綺麗好きだし?掃除とか大好きだし?

 

ごしごしーっと

 

 

「ミラ少佐!?一体何を…」

 

 

「ん?ああこの時間の見張り番か。

夜分にご苦労様だ」

 

 

掃除に夢中になって気づかなかったけど後ろに海兵がいたみたいだ、構わずモップを擦る手を動かしながら会話を続ける

 

 

「お辞めくださいミラ少佐!

そんな雑務は我々がやりますので!」

 

 

「まあいいではないか、書類仕事もあらかた終わって暇になったんでな。

船が綺麗になると心も綺麗になるからなあ」

 

 

「ですから我々がやりますってば!

ミラ少佐は座って任せておいて下さい、我々の面目が立ちません!」

 

 

「えぇ〜…仕事を奪われてしまった」

 

 

「そんな残念そうなお顔をなさらないで…」

 

 

残念、モップを取られてしまった…

横暴だぞー?

 

 

「そうか…なら私が出来ることを………そうだ!

キミ、見張り番が終わったら私の部屋に来なさい。大至急!」

 

 

「はあ…了解しました」

 

 

バッチリ約束を取り付けた、そうだアレがあるじゃん!念入りにやってやろう。

 

ルンルン気分で私室に戻った、色々準備しなきゃな

 

 

 

 

モブside

 

 

一緒に見張り番をやっていた同僚がどっかに行っちまった、この後食堂で一緒に飯でも食おうかと思っていたのに

 

見張り中も妙にソワソワしてたし、一体どこに行ったんだ?

 

先に行ったのかと思い食堂まで赴いてみたが結局居なかったし…

他の奴に聞いたら見張り中に新任のミラ少佐と一悶着あったらしい、あいつ何やらかしたんだよ。それで呼び出されて居なかったのか

 

 

新任のミラ少佐、美人だったなあ…

顔も綺麗だしスタイルも抜群だし、男臭い海軍に吹く爽やかな涼風って感じだ。性格もちょっと世間知らずな所があるけど下っ端海兵の俺達にも優しいし。

俺もあんな彼女が欲しいよ

 

 

自室に戻ろうと食堂を後にしたその時、ガープ中将に呼び止められる。

なんか酷く疲れてる様子だった

 

「おう、そこの。カール二等水兵、丁度いい所におった。

コイツをミラのとこまで持っていってくれい、ワシはまだやらんといかん書類仕事が溜まっておるからの。

……全くセンゴクの奴、無断外出の仕置きにしてもこの量は反則じゃろて…」ブツブツ

 

 

「ハッ、承知致しました!」

 

 

何気に名前を覚えられてて嬉しい、ここに入れてよかったなあ…

 

 

言われるがまま書類の束を抱えてミラ少佐の部屋まで急ぐ、扉の前まで来た時部屋の中から妙な物音が聞こえた

 

ギシギシと何かが軋む音…

そっと耳をすませば男女の声が聞こえてくる…

 

『ふふふ…だいぶ溜まっていた様だな、無理もない。』

 

 

『やはり駄目です…お辞め下さい…

少佐殿にこのような事を…ああッ//』

 

 

『ほれほれ~、ココがいいのか?』

 

 

『おおぅ…//少佐殿…自分はもう…』

 

 

『我慢は身体に毒だぞ〜?素直になれ』

 

 

扉越しにそんな会話が聞こえてくる、俺は大いに取り乱した

 

 

なななななな…ナニをやってるんだこの部屋の中で!いやナニなのか?ナニなのか!?

あいつミラ少佐に呼び出されたのはこのためだったのか!お…おのれ…羨まけしからん…ッッ!

 

部屋に入るのが一気に気まずくなっちまった、どうしよう

 

『少佐殿は…誰にでもこのような事をされるのですか?あッ//』

 

 

『そうだなあ…ガープ中将とかセンゴク大将には頼まれて良くやっているな…んッ』

 

 

ガープ中将とセンゴク大将!?よくヤっている!?!?ミラ少佐は年上好きなのか!?おじコンだったのか!?

 

 

『慰労も私の務めだからな、おつるさんなんかも定期的に頼まれていた』

 

 

おつるさん!?おつるさんも!?同性もイけるのかミラ少佐!!

……想像すると吐きそうになった

 

 

『サカズキ中将にも1度だけ…彼も普段から溜まってたんだろうな、それはそれは固くなっていたよ。

……少し強くするぞ』

 

 

あの鬼より厳しいと言われるサカズキ中将にも!?どんだけ節操無いんだミラ少佐!

 

 

『はい…お願いします。ぉぉう…き…気持ちいい〜…』

 

 

『ビリビリするだろ、私の得意技なんだ』

 

 

び…ビリビリ?そんなに具合が良いのか相棒!俺だって…俺だって…ミラ少佐に致して欲しいゾオオオオオッッ!!

 

 

ついに我慢出来なくなって扉をノックした、続けてガープ中将の書類を届けに来た旨を報告する。

 

 

「そうか、ご苦労。入ってこい」

 

 

「ハッ…ハイぃ…!」⤴︎

 

 

思わず声が上ずっちまった

ていうかいいの!?ヤッてる最中なんだろ!?

 

 

「し、失礼します」

 

ガチャり

 

意を決して扉を開けるとそこには…

 

 

「ミ…ミラ少佐ぁ…//自分はもう…あぁッ」

 

 

「普段から立ち仕事ばかりしてるからだ、太股がパンパンだぞ。

次の日まで残さないようにしっかりほぐしてやるから覚悟しておけ」

 

 

「はいぃ…//」

 

 

 

「………は?」

 

 

少佐のベッドにうつ伏せになった相棒と手袋をしてその腰と太股当たりを揉みほぐしているミラ少佐の姿があった

 

 

「ああ、ご苦労さん。

そこに置いといてくれ……どうした変な顔して固まって」

 

 

「………………(呆然)」

 

 

「もしかしてマッサージが羨ましいのか?

仕方ないなーお前も後でやってやる、夕食には遅れるだろうが構わんか?」

 

 

「アッハイ、オネガイシマース…」

 

 

マッサージ…ですか

 

デスヨネ

 

 

この後めちゃくちゃ揉みほぐして貰った。ドチャクソ気持ちよかった……//

 

 

その後、噂が広がって夜の見張り番を立候補するものが殺到したがそれはまた別の話だ…

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………以上が報告になります。

現在はガープの隊にて少佐の地位を得て、色々と活躍しているようです。」

 

 

ミラが少佐になって数ヶ月が経過した。

此処は聖地マリージョア、一般の者が入ることの許されぬ五老星の間。この真っ白でだだっ広い部屋にて、クリップで止めた束の報告書を読み上げるのは時の海軍大将「仏のセンゴク」、そしてその隣には海軍の最高指導者、元帥コングの姿があった。

これ程の地位の2人が冷や汗を書きながら対面するのには理由がある。文字通り世界最高の諜報組織「CP(サイファーポール)」の更に上、世界政府の頂点に君臨する5人の老人達、彼らの前に立つのはそんな途方も無く巨大な存在だ。

 

通称「五老星」

 

彼ら5人の決定は時に国を救い、如何なる巨大な組織をも滅ぼし、巨大な手足(海軍、CP)を使って世界の均衡を保ってきた

 

 

「龍……か」

 

 

重々しい空気に包まれながら五老星の1人が呟いた

それだけで部屋の空気がズシリと重くなる

 

 

「ミラと言ったか?その龍は。

彼女に反逆の意思等は見えたか?」

 

 

「いえ、見る限りではまったく。むしろ海軍の仕事を楽しんでいるようにも見えました」

 

 

「自ら組織に縛られるか、一体何を考えているのやら…」

 

 

「スパイのように組織に入り込み、内側から崩壊させる算段なのでは?」

 

 

「相手は龍だ、そんな回りくどい真似をせずとも我々など木っ端の様に殺せる。センゴク、かの龍に反逆の意思はないと言ったな。何故そう思う」

 

 

「ハッ、彼女は人間社会に溶け込もうと努力していると言っていました。龍の力を使えば人間を懐柔するなど容易な筈。敢えてそれをせず、素の自分で正面から我々に向かって来ている。そう感じた次第です」

 

 

センゴクはミラを庇うつもりは無い。だが目上の人に対する敬語に苦労したり、力加減を覚えたりと人間社会に適応する為に日頃彼女が苦労しているのを見たセンゴクは、少なくともこちらに敵意は無いと判断した

 

 

「ふむ、よろしい。センゴクの考えは伝わった。

コング、君はどうかね?」

 

 

「彼女は思慮深い、ただ破壊を目的に俺達に近づいてきたのなら直ぐに分かりますがミラは違う。

手探りで俺達の反応を探っているような感じですな」

 

 

「かの龍は見定めている訳か、我々の判断を…」

 

 

五老星は少し思案し、2人に決断を下す

 

 

「コング、そしてセンゴクよ。

龍の行動を逐一監視し、どんな小さな事でも我々に報告せよ。彼女がいつまでも味方でいてくれる保障はないが敵でなく、海兵として振舞ってくれるのならそれに越したことは無い。」

 

 

「「ハッ!!」」

 

 

コングとセンゴクは報告を終え、部屋から出ていった。

神妙な面持ちで五老星は再び言葉を紡ぐ

 

 

「近い内に直接話す必要があるな」

 

「ああ、果たしてどうなる事やら…」

 

「『彼等』の事を問い詰められると不味いな、アレに関しては我々に非しか無い」

 

「その時は…覚悟を決めよう」

 

「龍との謁見など人生で初めてだが…さて?」

 

 

5人は不安を隠せないでいた。相手は龍、何が起こっても不思議では無い。出会い頭に食い殺されてしまう可能性すらありえる中、それでも五老星は直接話し合う道を選んだ。

 

全ては均衡を保つため、その為ならば自身の命すら投げ出す覚悟である

 

人の歴史を終わらせぬため、今日も五老星は水面下で最善を尽くす

 

 






遂に五老星に目を付けられるミラ、なお本人は遊び感覚で海軍に入った模様。
過大評価と盛大な勘違いの災難が降りかかる祖龍の明日はどっちだ!?


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5 祖龍(モドキ)、家族を増やす(意味深ではない)

今回、オリキャラが増えます。オリジナル悪魔の実が出ます。実史と時代背景が錯誤します。原作で死ぬキャラが救われます。

要はご都合主義展開が増えます、それでも良い方は祖龍のお話第5話をお楽しみ下さい。



''偉大なる航路(グランドライン)''とある島

 

 

「ハァッ…ハァッ……ッ!!」

 

 

息を切らしてジャングルの中を駆け抜ける、もう自分がどこを走っているかも分からない

 

 

「畜生ォ…痛ぇ…痛ぇよお…」

 

 

もう黒ずんで血すら出ない左手をタオルで抑えながら必死に痛みに耐える。

一体俺が何やったっていうんだ…

 

 

「何でこんなことに…」

 

 

「それはお前が招いた結末だろう、海賊よ」

 

 

不意に声がして立ち止まる、嘘だ。

俺はコイツから離れる為に反対側へ逃げた筈なのになんでコイツは俺の進行方向に居る!?

 

 

「ひぃッ!?許してくれ!許してくれ!

もう悪い事はしねえ、約束するから…」

 

 

「お前達は好きにしたんだろう?

なら私も好きにする、自由には責任が付き纏うものだ。それが償えないのなら………ここで死ね、海賊」

 

 

必死に懇願する俺をあの女は無感情な目で見ている、絶対零度の冷たい視線だ。もう俺に対する情なんて何処にも持ち合わせてないんだろう

 

 

「クソォ…クソォォォォッ!!」

 

 

破れかぶれになった俺は片手に持った剣で斬りかかった、筈だった

 

ボトリ

 

あれ?

 

おれの…うでが…おちて……

 

 

「うぎゃあああああああああああっ!!」

 

 

痛みと驚きで脳が震え視界が明滅を繰り返す、さっきまで俺が持っていた剣は握っていた腕ごと斬り落とされ断面からは真っ赤な血が吹き出してた

 

 

「痛ぇ!痛ぇ!ああああああああっ!!!」

 

 

「…ハァ、喧しいな」

 

 

ドスン、と続けて俺の胸に何かが刺さった。直ぐにそれが何か理解できた

目の前の女が持っていた軍刀が俺の胸を貫通したのだ

 

 

「がっ…ごっ…がごぼ…」

 

突き刺さった軍刀を軸に身体を持ち上げられ、足が地面につかなくなった。

宙ぶらりんの身体を激痛が襲う

肺を突き破られたことによって口から血が逆流し吐血した

 

痛い…痛い…痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!

たすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけて

 

 

「し、し''に…た''く''……な……」

 

 

自分が海賊だったことも忘れ、死にたくない一心で懇願し続けた。

声になっていない筈なのに俺を刺した女は静かにこう告げる

 

 

「もういい、死ね」

 

 

突き立てられた軍刀からゴリッという嫌な音がして、俺は意識を手放した

 

 

 

 

「手間がかかる奴等め」

 

 

ミラは男に刺した軍刀を勢いよく引き抜き血を払う、辺りに返り血が飛び散って彼女の頬にもかかってしまった

 

 

「見聞色…は反応なし、こいつで最後か」

 

目を閉じ、見聞色の覇気で島全体を確認して残党がいないことを確信したミラはハァ…と大きな溜息を吐く。

ガープ中将の命令で近隣の島に滞在することになり、中将の居ない間島の警備を任されていたミラ。

平和な島だと聞いていた矢先に海賊の襲撃に会い、海兵達が混乱する中見事これを鎮圧した。

しかし鎮圧=殺害と考えているミラは船長を含む海賊50名を全て殺害し森へ逃げた残党達を追っていたのだ

 

 

「ままならんなあ…」

 

 

「ミラ少佐!ご無事ですか!?」

 

後から遅れてミラの元に現れたのは、彼女と共に島の防衛を任されたガープの部下達だ。

常人には真似出来ない速度で移動するミラに追いつくのは至難の業だ。皆息切れが酷い

 

「私が木っ端海賊風情にやられると思ったかポルポ軍曹、中将が帰ってくるまでに死体を片しておいてくれ」

 

 

「はッ!!ミラ少佐、お顔に返り血が…」

 

 

「ん?ああ、これ位後で拭くよ。頼んだぞ」

 

そう言い残してミラは手元にあった手配書に大きくバツを付けた、手配書には凶悪そうな顔をした男の写真と名前。それから懸賞金額が打ち出されている

 

 

「二億三千万ベリー、『殴殺のディアブロ』…。

億超えの海賊故、もう少し骨が有ると思ったが…さして手間は掛からなかったな、新世界帰りとは言え所詮こんなものか」

 

 

正直ミラはこの1ヶ月ほど、襲ってくる海賊があまりにも志低く毛ほどの誇りしか持ち合わせていないことに落胆していた。

やはり己の理想を掲げ、まだ見ぬ夢を追いかける為に海賊となった者はごく一部しか居ない、こんな連中は海賊の名を借りた只の野盗だ。

日本のように法律に縛られず誰もが自由に自分の人生を選択できるONE PIECEの世界、その中で様々な理由があって海賊になる者がいる。それもいいだろう。

だが自由にかまけて他者を侵すのはお門違いである、その癖追い詰められたら必死で赦しを乞うとは…

 

 

「…阿呆共が」

 

 

キャプテンであるディアブロの首を一瞬で斬り落してしまったことによって戦意を失い散り散りに逃げて行った残党達を追って島中を駆け回り、ミラは海賊達を駆逐していった。

くだらない。自分が殺した海賊達を眺めながら心底そう思う。

 

「(楽しくない…最近楽しくないなあ……まあいい、街の警備隊の元まで戻るとするか)」

 

軍刀に着いた血を振り払ってミラは住人達を安心させるため街へ向かおうとした

 

 

 

ハイ終わり、これでこの島は安全だろう。

それにしても大したことなかったなーディアブロ。

2億超えとか言われてたからちょっと期待してたんだが…ぶっちゃけロンズ准将やドーベルマン少将の方がパワーがあったし斬撃も通らんし、何より一太刀で首が飛ぶとか脆い脆い。首は人体の急所だぞ?しっかり武装色で守らんでどうするよ。

 

ちゃんと投降勧告もして気持ちを切り替えるチャンスもあげたし俺にはなんの非もないからな。見た目が女と侮ったアイツらが悪い!

 

そういえば俺が持ってる島から唯一持ち出したこの軍刀、海軍の詳しい人に調べてもらったら結構な価値のある軍刀だったらしい。どーでもいいけど

 

名を『陽炎』、まんま名前がテオの太刀と同じだった。

程よい長さで使い易いしこれからも使っていこうと思う

 

最近海賊討伐ばかりで殺伐としてるし心の癒しが欲しいなあ…犬とか飼うか…海軍本部にペットショップとかあったっけ?

考えているとお腹が鳴ってきたし取り敢えず街へ戻って飯にするかな。

浜辺のレストランで作ってるパエリアが結構美味しそうだったんだ

 

 

 

 

 

その後ろ姿を眺めていたポルポ軍曹。

彼はミラがガープ中将の船に配属された時から彼女に仕えており、彼女の戦いぶりを間近で何度も見てきた。

 

ミラは美しい将官だった、そして相当な実力者でもある。真っ白な髪に赤色の瞳、そして緋色の軍刀を用いて戦う様子は海賊達を震えさせ、海兵達に勇気を与えてきた。

本人は気づいていないだろうが海賊共の中でミラは「絶対に出会いたくない海軍将校」の中でも五本の指に入っていることだろう。

そんなミラをポルポは尊敬していたが同時に僅かながらの恐怖も感じている。ミラは海賊に容赦が無い、単騎で何人もの海賊の中へ飛び込みその度に皆殺しにして帰ってくる彼女の姿は尊敬されると同時に味方からも僅かながら畏怖の対象になっていた。

 

ミラとしては長い龍生活の間、襲ってくる海賊達に一度は人の姿で警告し、無視された場合は殲滅するという手段を取ってきた。

それは海兵になっても変わらず、海賊相手でも毎回1度は必ず投降勧告を下し聞き分けられなければ全滅させる。

警告の無視=殺害という常識がミラの中では成り立っており、それに従って行動しているだけであったが、海賊を捕らえ法の裁きを受けさせることを目的とした海軍の考え方とは微妙にズレている。

 

それにポルポ軍曹は恐怖を感じていた

 

考え方としてはサカズキ寄りの思想の海兵だと思われている。

『徹底的な正義』を掲げる彼は海賊ならば殺しも容赦しない、そんな彼とミラが重なって見えていた

 

 

その時、軍曹の電伝虫が鳴り響く

 

 

「私だ。……何?巨大な狼が現れた?

分かった、詳しい情報を聞かせろ。ミラ少佐もいらっしゃる、スグにそっちへ行く!

ミラ少佐!ミラ少佐!海賊共の残党を狩るために山へ入った別働隊から報告が!」

 

 

「ん?詳しく聞かせろ」

 

 

「はい、実は…」

 

 

 

…………………

 

 

◆銀狼襲来◆

 

 

 

俺は別働隊に合流する為に森を駆けていた、なんでもでかい狼が出たらしい。

とんでもなく強くて相手取るのに苦労しているとか、幸い被害は報告ではされていないけど部下が死ぬのは不味いしガープ中将に報告する事が増える。めんどい。

 

森の中を月歩と剃(雷速アレンジVer)を併用しながら縫うようにジャングルを走り抜ける、そして広い場所に出たと思ったらそこには大きな獣に悪戦苦闘する部下達の姿が。

 

……大きいな

黄色い瞳に銀色の綺麗な体毛、鋭い牙、脚には鎖が絡まっているようにも見える。

あれ?祖龍の霊眼(能力者センサー)が反応してる…こいつまさか…

 

その時、狼が一層大きく吠えた。

口の周りに周囲の風が集まっていくのがわかる

 

 

「これは…ッ!!」

 

 

慌てて部下と狼の間に飛び込み、軍刀をいつでも抜けるように手をかける。

その刹那、狼の口から空気の塊がブレスとなって撃ち出された!

 

 

「…ちッ!!」

 

 

こちらに向かって真っ直ぐ飛んでくる空気の塊、俺は腰の軍刀を居合切りの要領で抜き払い縦に一刀両断した。

別れたブレスはそのまま左右の木々を薙ぎ倒し、細切れに切り刻んでいく。

 

 

「鎌鼬ブレスって所か…

おい、被害は?」

 

 

「はいっ!軽傷者が3人ほど、先程街へ逃がしました!」

 

 

「分かった、お前達も早く下山しろ。

コイツは私がやる」

 

 

「で…ですがミラ少佐…!」

 

 

「さっさと行け阿呆、巻き添えを食うぞ…?」

 

バチバチっと俺の周囲に赤い電気が走る、ちょっと楽しくなってきて漏れちゃった。てへっ

 

 

「了解しました、ご武運を…!」

 

 

そう言い残して部下達は足早に下山していった。

そして俺と狼だけがこの場に残される

 

 

「…さて、ナワバリに入ったからか?それとも単に腹が減ったからか?

私の部下を食うなど、()()()()()()()()()()()()…」

 

 

ヴヴヴゥ…

 

 

こちらを睨みつける狼。

あ、これ後者だ。空腹で前見えてないや。

丁度ペットが欲しいと思ってたし…こいつを飼い慣らしてやろう

 

 

「決めた、お前を私のモノにする!

覚悟しろ能力者!」

 

ヴオオオオオオオッ!!

 

 

遠吠えとともに襲い来る狼、剣は不味いな。拳で語り合おうか!

 

 

 

 

 

 

声がする 声がする 小さな声

 

わたしが産まれたことを呪う声、悪魔の子だと揶揄する話し声

 

そしてわたしの手を引いて森の奥へと連れていく大人達

 

いやだ、いやだ、わたしをすてないで

 

伸ばした手は空を切り、気づいた時にはあたり一面が真っ赤に染まってて

 

わたしは一人月を見上げていた

 

口の中が鉄臭い、後でお水で洗わなきゃ

 

()()()()で歩き出したわたしはふと考える

 

わたしは…だれだっけ……?

 

 

……………………

 

 

 

「…………………ぅ」

 

 

目を開けるとそこは知らない景色だった、おそらが見えない。ここはどこ?

しかくい…箱の中?

私はふかふかのお布団で横になっていた

 

左を向くとおそとが見える、お水がいっぱい動いてた。

 

「……おそと…」

 

 

手を伸ばす、コツンと何かにぶつかった。

ふしぎ、おそとが見えるのにこれ以上手を伸ばせない。透明な何かがあって向こうへ行けない

 

 

「それはガラスだよ、やっと起きたな」

 

 

不思議に思いながらぺたぺた触っていると後ろから突然声がした、慌てて振り返る。

 

 

髪の長い女の人だった、目は綺麗な赤色で私に向かって笑ってる

 

 

「飯を持ってきた、食うか?」

 

 

差し出されたお肉に鼻を近づけ…あいたっ!?

 

鼻先をぶつけてしまった…

 

 

「おいおい、慌てるな。臭いを嗅がなくても毒なんか入ってないよ」

 

 

そういって赤い目のひとは笑ってる。

 

あれ?なんだか身体のぐあいがいつもと違う…距離感が…掴めない…

 

違和感を感じて自分の前足を見た、つもりだった。いつも見てる前足じゃない…毛がなくなってて…はだいろで…

 

 

「……あぅ…うあ…!?」

 

 

鳴き声もなんか変だ、わたしはこんなに高い声をしていたっけ…?

 

 

「随分長い間変身していたらしいな。

この様子だと話せるようになるのはもう少し先か…」

 

 

突然その人がわたしの頭を撫でだした

 

 

「ッ!?」

 

 

驚いて思わず噛み付いてしまった、でもその人は痛がる様子もなく優しい目をしながらわたしを撫で続ける

 

 

「よしよし、ここはもう安全だぞ。

お前はもう私のモノだ」

 

 

……あったかくてきもちいい…

 

 

噛むのをやめ、だんだん眠くなってその人の膝に頭を乗せてわたしは再び眠りについた

 

 

 

 

 

 

「ミラ、おるかの?あの娘はどうなった」

 

 

「ガープ中将、お静かに。今眠ったところです」

 

 

再三の注意の成果なのか、ゆっくり扉を開け入ってきたガープ中将に諭しながら膝の上で寝てしまった女の子の頭を撫で続ける。

 

可愛い…ドチャクソ可愛い…

 

歳は5歳くらいかな、銀色のふわっとした髪に狼の耳、そして銀色の大きな尻尾。触ると温かいしピコピコ動く、飾りではなくモノホンのケモミミだ

 

…そう、この子さっきの狼です。

 

あの後殴りあって気絶させたらこの女の子の姿になりました。

おそらくこっちが本来の姿なんだろう、動物系の能力者なら納得がいく。

 

耳と尻尾は実を食べた副作用かな、悪魔の実グッジョブ!

 

こんなにモフモフでフワフワの可愛い幼女がいたら保護するしか無いでしょう!しないなんておかしいと思いませんか、あなた!?

 

 

そんな訳でこのケモミミ幼女を保護しようと決心したわけだ

 

 

「はあ〜可愛いなぁ…」

 

 

「お前今の自分の顔を鏡で見てみい、とんでもなく緩んだ表情しとるぞ」

 

 

え?しーらなーい!

 

 

「コホン…ガープ中将、この子は動物系(ゾオン)の能力者です。おそらくイヌイヌの実系列でしょう、それもかなり珍しいタイプの。」

 

 

「じゃな、こんなに幼い内に実を食うたのか。どんな目にあったのかは想像がつく」

 

 

苦い顔をするガープ中将、小さな時から悪魔の実を気付かずに食べてしまったら周囲からどんな扱いを受けるか想像に難くない。動物系や超人系(パラミシア)のエグいやつは特にバケモノ扱いされるだろうな

 

 

「その娘、どうするミラ。身元を調べて島まで送ろうか」

 

 

「いえ、この子は捨てられたのでしょう。なら故郷へ返してもどうなるか結果が見える。

私が引き取ります、ステラも居ますし養うのも難しくない。」

 

 

「まあオヌシの稼ぎなら2人養うのも問題無いと思うが…よかろう。

それもオヌシの『正義』なんじゃな」

 

 

「そう言ってくれると有難い」

 

 

この子はウチに連れて帰りますからね!と断固とした決意を示した。

ステラちゃんもいるからな、2人で面倒見よう

 

 

ステラちゃんはうちに住む元奴隷の女の子だ。

天竜人に捨てられボロボロになってさまよっていた所をたまたまシャボンディ諸島で仕事をしていた俺が助けた。それ以来本部の自宅でハウスキーパーをやって貰っている。

お隣のゼファー先生の奥さんとも仲がいいようだ

 

奴隷になる前は恋人が居て彼と再会するのが目標らしく、最近はマリンフォード内のレストランで働いてお金を貯めている

 

いい目標だ、やはり人が努力する姿は美しい

 

因みに背中の奴隷の跡は上から昇り龍の焼印を入れさせることによって上書きした、奴隷の証なんて嫌だもんな

 

 

「じゃあこの娘はミラに任せる。

その子も懐いておるようじゃしの」

 

 

「くはは、そう言ってくれると嬉しい。

コング元帥に書類を申請しないとな」

 

 

ペットは諦めるか…でも俺が引き取るから家族が増えるな

 

 

やったねミラ、家族が増えるよ!

 

 

ぐぎゅうううううう…

 

 

凄い大きな音がした、俺とガープ中将はそれがこの子のお腹の音だと気づいてお互いに顔を見合わせて笑い合った

 

 

 

 

 

 

「んぐ…あむ……モグモグ…おかわり」

 

 

目の間で大量の食べ物が次々と無くなっていく

 

此処はガープ中将の船の食堂、今しがた起きた狼幼女がお腹がすいたと言ったので持ってきた食事を与えたんだがそれでも足りないらしく、ガープ中将の許可も得て船内食堂で直接食事を取っている。

 

この幼女、バクバク食う。ガンガン食う。容赦なく食う!

そのちっさい体の何処に入ってんだ!?

 

 

「腹は膨れたか?」

 

 

「むぐむぐ…ごくん………けぷっ…ん、まんたん」

 

 

周囲がドン引きするスピードで幼女は大皿に盛られた肉を流し込むように飲み込んだ後、狼幼女はコクリと頷いた

 

 

「よし、じゃあ改めて自己紹介といこう。

私はミラ、海兵だ。そして隣にいるのが私の上司、ガープ中将」

 

 

「宜しくなァお嬢ちゃん」

 

 

幼女は俺とガープ中将を交互に眺めた後、テーブルの下へ潜り込み俺の膝までやってきてちょこんと座る。

成程、此処が自分の定位置という訳か…

 

頭を撫でてやると幼女は気持ちよさそうに尻尾を振った

 

「ん……//」

 

 

「よしよし、じゃあお前の名前を教えてくれないか」

 

 

「なまえ……?…………いるみぃな、たぶん」

 

 

「イルミーナか、いい名だ。

なあイルミーナ、私のモノにならないか?」

 

 

「みらのもの?」

 

首を傾げ俺を見上げるイルミーナたん。

辞めてくれ、その角度は俺に効く(マダ〇並感)

 

 

「ああ、お前と私はペットとご主人…いや違うな、家族になるんだ」

 

 

「かぞく…」

 

 

「そう家族、私はお前の面倒を見てやる。お前は私とずっと一緒に居てくれ」

 

 

「…みらはかぞく、ずっといっしょ…

わかった、みら。」

 

 

少し考え込んだ後、一層強く俺の身体を抱き締めてくる。

 

 

「ずっといっしょにいてね、わたしをすてないでね…」

 

 

「勿論だとも」

 

 

必死に抱き着き胸に顔を埋めにくる所をみると、やはりイルミーナにも思い出したくないような辛い過去があったんだろう。多くは語るまい

イルミーナが食べた悪魔の実の事とか聞きたいことは山ほどあるが、今はそっとしておこう

 

ガープ中将はウンウンと頷きながら笑ってる。手続きとかが面倒だけど何とかなるだろ!

 

 

狼幼女イルミーナが仲間になったよ

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

ガープ

「イルミーナ、ワシがじぃじじゃよ!

ホレ!ワシの胸にも飛び込んでおいで!」

 

 

イルミーナ

「………や、じぃじおヒゲがジョリジョリする」

 

 

ガープ

「ドグッハァッッッ!!!?」吐血

 

 

取巻きの部下達

「「「「「「ミラ少佐と戦った時よりダメージ受けてるーーーーッッッ!?!?」」」」」」

 

 




ミラはサカズキまではいかずとも志を持たない海賊に容赦がありません、身内にはとことん甘いです。


時代錯誤について
◆イルミーナを仲間にした時間軸で原作では既にゼファーの家族は殺されていて、ステラはテゾーロと共に奴隷にされマリージョアに居ます。
ステラは今後テゾーロとミラを絡ませるために助けました、彼が出てくるのはまだ先の方ですが…。ゼファーの家族の件についてはミラが新世界の無人島で海賊達を無意識に狩っていた中に偶然ゼファーに復讐しようとする奴も混じっていてミラに殺されたため、家族はまだ無事だと解釈してください(圧倒的ご都合主義)

なおまだまだ原作過去を引っ掻き回す予定

次回、幼女の社会科見学


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6 銀狼(幼女)、かいぐんをけんがくする


アイエエエエ!?お気に入り1000超えナンデ!?


あ。独自設定、オリジナル悪魔の実ありますのでご注意をば


 

今日は休日!

俺氏、久しぶりの非番!

という訳でえ〜……

 

 

「イルミーナ、社会科見学に行くぞ!」

 

 

「しゃかいかけんがく……?」

 

 

イルミーナたんを誘って海軍基地を案内する事にした、いつまでも自宅でのんびりしてるのもなんなのでイルミーナと遊んでやろう

 

 

「ああ、私がいつも働いている場所を見せてやる。紹介したい人たちも居るしな」

 

 

「がーぷじぃじみたいなひと?」

 

 

「そうだ、とにかく付いてこい。

部屋にずっと居るよりは楽しいさ。

ステラ、留守は頼んだぞ」

 

 

「了解、気を付けてね」

 

 

笑顔で手を振るステラに留守番を任せてイルミーナを肩車し、マリンフォードへと向かった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……そういえばイルミーナの食べた悪魔の実について、色々と調べてみた。

彼女が食べたのはイヌイヌの実幻獣種、モデルは『フェンリル』だ……暫定だし名付けたのは俺だが

 

存在自体が珍しい悪魔の実の中でも更に希少な動物系悪魔の実の幻獣種、その中の一つをイルミーナは偶然見つけて食べていた。

海軍が確認している限り、他に幻獣種の実を持つ能力者は四皇の1人、白ひげ海賊団の所に所属しているらしい。他にも『古代種』とかあるらしいがそのへんはどうでもいいや

 

能力としては巨大な狼へ変身できる、そして空気を圧縮してブレスの様に射出する事が可能だ。その応用で足下に空気の足場を一瞬だけ作りそれを蹴ることで空中を移動する事も可能。六式の『月歩』と似てる。

俺と出会ったあの島へはそれを使ってやって来たらしい。

 

しかもこの悪魔の実、タチの悪いことに既に『覚醒』している。覚醒した動物系悪魔の実は爆発的な身体能力の向上と超回復能力が備わるが引き換えに知能も動物並に落ちてしまうらしい。

この幼さで覚醒なんかした実を食っちまったらそりゃ人生滅茶苦茶になるわ!

 

幸い今の所の副作用は耳と尻尾が生えるだけみたいだが他にもヤバイデメリットがあったら危険だ、俺がしっかり監視してあげよう。

 

人間の姿をしてる時は運動能力の高いハイスペックケモミミ幼女だが、狼モードのイルミーナは自身で制御が出来るか怪しい為ガープ中将に頼んで海楼石で作られた指輪を彼女に持たせておいた。悪魔の力を抑え、かつ身体が動く程度の大きさで未然に暴走を防いでくれるだろう。

本人が望むなら能力を制御する練習をしてもいいかも知れない

 

 

 

さてさて、社会科見学の話に戻ろう。

マリンフォードは広大だ、兵器工廠や海兵たちが寝泊まりする寮、島内に訓練校まで併設されていてまるで巨大な迷路のよう。

入りたての頃はよく迷ったものだ。

 

イルミーナを肩車しながら海軍本部の正門を潜る、まずはコング元帥のところに行って許可を貰ってこよう

 

 

…………

 

 

部屋に入るとコング元帥はいつも通り大量の書類に囲まれてウンウンと唸りながら仕事をこなしていた、この人の所には何度か赴いてるがいつもこんな感じで書類とにらめっこしてる

 

 

「コング元帥、少しお時間宜しいですか?」

 

 

「ん?ああ、ミラ少佐か。どうした?

またガープが抜け出したか?」

 

 

「ご安心を、ガープ中将にはセンゴク大将が付いている筈です。

今頃書類と格闘していると思いますよ」

 

 

「そうか、安心した…

まったく、アイツはいつも仕事をサボって抜け出しおって…いい薬になればいいが。

それで、君の横で手を繋いでるのは?」

 

 

「私の娘です、ほら。挨拶しろ」

 

 

「いるみぃなです、よろしくおねがいします。」

 

ぺこりと可愛らしくお辞儀した

たどたどしい挨拶だけど教えたとおりに出来たな!偉いぞイルミーナたん!

なでなでなで……

 

「よしよし、上手に御挨拶出来たな」

 

 

「そうか娘か、娘……娘ェッ!?」

 

コング元帥の叫び声が部屋に響き渡る

うるさい、イルミーナは耳が良いから音に敏感なんだぞ

 

 

「おまっ……ミラ……いつの間に結婚したんだ……!?

いや別にお前が誰と結婚しようが私は祝福するつもりだが既に子供が居るとは……」

 

 

「この子は養子です、私は結婚などしていません。落ち着いて」

 

 

「よ、養子……?そうか養子か、驚かせよって…」

 

 

取り乱しまくった元帥はやっと収まったのか肩を落としため息を吐いた

 

 

「それで、イルミーナに後学のため海軍本部を見学させたいのですが。許可を頂きたく」

 

 

「お、おおそうか。お前の娘なら安心だな、ちょっとまっとれ」

 

 

そう言って机の引き出しからネームプレートを取り出し名札部分に「イルミーナ」と書き留めたコング元帥はそれをイルミーナに手渡した

 

 

「よし、これが君の身分証明書だ。

今日1日、ミラ少佐同伴のもと本部内の見学を許可する。ゆっくりしていってくれ」

 

 

受け取ったネームプレートを首に掛け、目をキラキラさせながらどう?どう?と言わんばかりに俺の方を見てくるイルミーナは可愛い(確信)

あ゛〜親バカになるんじゃあ゛〜

 

 

「うん、似合ってるぞ。

許可は貰ったな、早速見学しに行こう」

 

 

「うん……!」

 

 

尻尾がピコピコしてる、楽しみなんだな。いかんドチャクソ可愛えぇ……鼻血出そう

 

 

「ミラ!?凄く緩んだ顔してるぞ!?」

 

 

「ハッ!?有難うございます、では失礼致します」

 

 

「あ、ああ……気を付けてな」

 

 

そう言うコング元帥に別れを告げて部屋を後にした

 

 

 

 

 

 

 

 

ミラとイルミーナが元帥の執務室を出ていったのをクザンはたまたま目撃していた、仕事をサボって本部内を徘徊していた彼はその折にイルミーナとミラを発見し、暇つぶし(決して暇な訳ではない)に声をかけてみることにしたのだった

 

 

「お〜、ミラじゃないの。

そのちっこいの……随分可愛らしい耳と尻尾だこと」

 

 

「クザン中将、お仕事は……」

 

 

「その辺にィ……放り投げてきた……(イケボ」

 

 

「センゴク大将にどやされても庇いませんからね」

 

 

やれやれと肩を竦めるミラを一瞥した後クザンは横で手を繋いでいるイルミーナの方を見やった

 

 

「んで?こっちの可愛いお嬢ちゃんは?」

 

 

「いるみぃなです、よろしく」

 

 

「おお!自分から言えたな!

いい子だイルミーナ」

 

 

いつもの凛とした雰囲気は何処へやら、随分緩んだ表情でイルミーナの頭を撫でるミラ

 

 

「そうか、俺はクザンってんだ。

宜しくなイルミーナ」

 

 

クザンの差し出した手にオドオドしながらも手を握り返す

 

 

「ひえひえする……」ぺたぺた

 

 

「可愛い反応するじゃないの。そのネームプレート、見学者だな。

俺もミラと一緒に案内してやるよ」

 

 

「仕事は……」

 

 

「ここに新しい仕事が出来たから後回し後回し」

 

 

飄々と話すクザンに半ば諦めかけのミラ。

退屈な執務仕事と美女2人との本部散歩、どちらに天秤が傾いたのかはいうまでもないだろう

結局3人で海軍本部を見学して回ることになった。

 

 

 

 

海軍は広いな大きいな

 

まず立ち寄ったのは新兵たちを訓練する体育館、丁度組手の訓練をしていたので教官のゼファー先生に挨拶と見学の許可をもらいイルミーナ、クザン中将と椅子に座って見学。

イルミーナは俺の膝の上で興味津々と言った感じて見入ってた、可愛い。

訓練の終わり際、興が乗ったのかゼファー先生のご指名で突然俺氏は訓練兵200人と連続組手をさせられる事になり、渋々承諾したがイルミーナの「がんばって」の一言で俺のハートに火が灯る、新兵諸君には悪いが三國〇双もかくやの無双ゲーでボコボコにしてやった。

 

\そなたこそ万夫不当の豪傑よ!!/

 

でも201人目の相手がゼファー先生とか……キッツイわ……見てたら我慢出来なくなったとか言って飛び込んできたけど血気盛ん過ぎません?ガープ中将といい何歳だよアンタ等、子供も居るんだろ?絶対年齢詐称だよ。

 

黒腕のゼファー強え……流石元海軍大将だった、センゴク大将といい大将クラスは皆人間辞めてるわ

 

 

因みに俺とゼファー先生の見事な演舞に訓練兵達は大いに盛り上がったという……

 

 

その後もイルミーナはたまたま通りかかったジョン・ジャイアント少将(結構な古株、海軍初の巨人将官らしい)の手に乗せてもらって高いところを楽しんだり、技術部棟にお邪魔して『パシフィスタ』の試験運転を見学させてもらったり、兵器工廠に赴いて新型銃の試射や悪魔の実を物に食べさせる公開実験の見学なんかもした。

他にもボルサリーノ中将、おつるさんと一緒に5人でお茶をして、ガープ中将とセンゴク大将の盛大な追いかけっこを笑いながら眺めたりと俺とイルミーナは海軍見学を満喫した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして一日中海軍本部内を歩き回り、お腹が空いたので場所を移してここは食堂。海兵たちが集まる時間もズラして来たので食堂内の人はまばらだった。

 

俺達はクザン中将オススメのメニュー、『アルティメット肉ばっか丼』という特大の丼に心ばかりの刻みキャベツを敷き、上からトンカツやら牛焼肉やら鳥唐揚げやらをガン乗せした脂分たっぷりの丼を頼まれ、しばらくすると塔のように肉が積み重なった丼が三人の前に降臨した。

 

 

「どうよ、スゲエ見た目だろ?」

 

 

「ボリュームはバッチリだが、女性に食わせるメニューじゃ無いな……」

 

 

「イルミーナはガツガツ食ってるぜ?」

 

隣のイルミーナは早速覚えたての箸をなんとか使ってガツガツと丼を貪り食ってた、手づかみで飯を食うのを止めさせるのに苦労したよ…

 

 

「あの子は食べ盛りなのだ、まあ有難く頂こう」

 

パク……モグモグ……

 

一口食べてしまったらもう箸が止まらない。

ホカホカご飯に海軍秘伝のソース、それに乗ってる肉がどれもジューシーでいい味してるのがなんか悔しい……

 

そうか、これが『お肉料理なんかに絶対負けない……!』『お肉料理には勝てなかったよ……(ビクンビクン』でお馴染みの即落ち2コマって奴か、アルトリア顔だから食っ殺が似合うなあ……(遠い目)

 

そんなことを考えながら食っていたもんだから思わずカオに出たのかクザンにーさんに

 

「……堕ちたな」

 

って言われた。

 

止めてぇ!子安ボイスでそんな事言われたらホントに堕ちちゃううううッ//

 

 

美味しいご飯を堪能していたその時

 

 

バンッと大きな音がして扉が開き、1人の男が駆け込んできた。

真紅のスーツに厳つい顔、サカズキ中将だ

 

中将は食堂内を見回すと俺達に目をつけて近寄ってきた。

嫌な予感しかしない

 

 

 

「ミラか……今しがた此処に儂ん所の海兵が来んかったか?」

 

 

「海兵ですか、それなら向こうの奥にいるテーブルの2人組では?」

 

 

そう答えて食堂の隅っこに隠れるように座っている2人組の海兵を指さす、実は俺達が食堂へ入った直ぐあとにあの2人組がコソコソと入ってきたのを覚えてる。

 

 

「おお……すまんなミラ。儂は行く」

 

 

怒気を孕んだ口調でそう告げた後、サカズキ中将はその2人組の居るテーブルへと歩み寄って行く

 

 

「あららァ、サカズキの奴キレちゃってるよ。ご愁傷様」

 

 

そう言いながら何の気なしに丼をかっ食らうクザンのにーさん、かくいう俺ももう慣れた。

サカズキ中将の所の部隊は海軍内でも指折りの厳しさだ、一日24時間勤務は当たり前。ワ〇ミも泣いて逃げ出すようなブラック環境故に途中で失踪しようとする者が後を絶たない。

これだけ逃げられても環境を変えようとしないサカズキ中将は流石『徹底的な正義』を掲げるだけはある、妥協は許されないのだ

 

 

「貴様等ァッ!!勤務中に儂の前から姿を消すとはいい度胸じゃのう……」

 

 

あー始まったよ、海兵君たちご愁傷様

 

 

食堂に響き渡るサカズキ中将の怒号、もうちょい声のボリューム落としてくんないかな。イルミーナがビクビクしてるよ

 

 

すると

 

 

「………?」すんすん、すんすん……

 

 

「?どうしたイルミーナ」

 

 

丼を完食し、さっきまでお腹をさすっていたイルミーナが途端に鼻をひくひくと匂わせるような仕草をしだした。

 

 

「なんか……へんなにおい……、はながムズムズする」

 

 

「風邪か?ホレ、ちり紙」

 

 

「ちがう、なんか……こな?みたいなへんなにおい……あのひとのあしから……」

 

 

そう言ってイルミーナが指さしたのはサカズキ中将……と向かい合って説教を受けている海兵だった。

 

 

「粉ぁ?……まさか、おいサカズキ。ちょっといいか」

 

 

「ああ?なんじゃいクザン、説教の邪魔じゃ。後にせえ」

 

 

「そういう訳にもイカンのよ。おい、ソッチの新兵、靴を脱げ」

 

 

「えっ、何故……」

 

 

「いいから早くしろ、それとも……脱げない理由でもあんの?」

 

 

「いやっ……その……」

 

 

クザンにーさんの指摘にサカズキ中将から怒鳴られてる時より顔を青くする2人組、なんか隠してるのか?

 

 

「因みにサカズキ、この2人さっきまで何やってた?」

 

 

「荷降ろし作業の間こいつ等が姿を消しておったのを他の奴が報告してきた、一体何があったんじゃクザン?」

 

 

「それは見てのお楽しみってな……」

 

 

渋々靴を脱ぎ、クザンにーさんに手渡す。イルミーナもますます靴の方を注視している

 

 

「どれどれ……(カラカラカラ……)

靴底の中になんか入ってんな、開けるぞ」

 

クザンにーさんが靴底を掴み、力を込めるとパコッという軽い音がして靴底が外れ中から紙に包まれた白い粉が落ちてきた。

これを見たクザンにーさんとサカズキ中将が驚愕の表情を浮かべている

 

「オイオイマジかよ……」

 

 

「なんじゃとォ!?」

 

 

必死に隠す……怪しい白い粉……あっ

 

 

「まさか……」

 

 

「現行犯だ、言い逃れ出来ねえぞ2人とも」

 

 

やれやれと言った感じでクザンにーさんは言い放つがその言葉には僅かだか有無を言わさぬ怒気が込められていた。

対してサカズキ中将は……

 

 

「おんどれ等ァ……覚悟は出来とんじゃろうなァ……」

 

 

既に右腕はマグマグの実によって溶岩がゴボゴボと泡立ち、今にも海兵達を焼き尽くさんと致死量の熱を発し始めている

 

 

「みら、あの粉なぁに?」

 

 

「お前は知らなくていい、周到に隠していたみたいだが良く見つけたな。

イルミーナは良く鼻のきくいい子だ」

 

 

「ん……//」

 

膝の上のイルミーナの頭を撫でて優しく抱きしめる。

この子は知らなくていい事だ

 

やがて海兵2人はクザンにーさんとサカズキ中将に連れていかれた。

サカズキ中将は今すぐここで2人を焼き殺す気だったがイルミーナが見ているのをクザンにーさんが配慮してくれて、身柄を拘束するに留まった。

それから海軍内でサカズキ中将主導の大規模なガサ入れが行われ、捕まえた者の供述を元に購入先を暴き出し製造元の島を襲撃。無事麻薬組織は怒りの溶岩に飲み込まれてこの世から永久退職することになりましたとさ。

これにて海軍内部で起きた麻薬所持騒動は外部に漏れでることなく密かに幕を閉じたのだった。

 

 

イルミーナは取締の功労者としてコング元帥から直々に感謝状を貰い、今度サカズキ中将に御飯を奢ってもらうらしい。

 

 

イルミーナに高級レストランの食事(おかわり自由と言った)を奢るなんて…サカズキ中将、南無三(合掌)

 

 

 

「イルミーナ、海軍は楽しかったか?」

 

 

「うん、みんなやさしかった。

みらはかいぐんたのしい?」

 

 

「退屈はしないなあ、家に帰ればイルミーナとステラが居るしな」

 

 

「あら、嬉しい」

 

 

「わたしもかいぐんにいけばみらとずっといっしょにいられる?」

 

 

「海軍なんぞに入らなくても私はミラと一緒にいるよ、家族だもんな」

 

 

「……うん、みらはかぞく。ずっといっしょ」

 

 

そう言いながら胸に顔を埋めるイルミーナはとても可愛い(語彙力消滅)

 

 

守りたい、この幼女

 

 

 

 

 

 

 

後日、海軍本部居住区内のレストランにて

店内では二人の客が周囲の注目を集めている

 

ガツガツガツガツガツガツ……

 

 

「もぐもぐもぐもぐ……おかわり……」

 

 

「ま……まだ食うんか……」

 

 

自分で言い出したこととはいえ、目の前で築かれていく皿の塔を見ながらサカズキは今月は節制しなければと肩を落していた

 

 





どうも獣です、この度は「大海原の祖なる龍」6話をご覧頂き誠に有難うございます。
まずは沢山のお気に入りと感想をよせて下さった皆様に最大の感謝を。獣の明日の励みになります、これからも頑張ります


さて、感想を頂いた中に「別作品と展開が似ている」とのご指摘がありましたので他作品様のSSをサイト内にて1通り探し出し、確認してきました。

………本当に展開が似てました。海軍に入る辺りからまだ下書き状態で投降していないオハラでの一騒動まで。

本当に申し訳ないのですがこのお話を続かせる上でオハラの1件は欠かす事が出来ない出来事の為、被り上等で投稿させて頂く予定です。
そこから出来るだけ他作品様のストーリーと被らないように努力していくつもりですので何とぞ許して下さい何でもしまs(ん?今なんでもするって言ったよね…?)

生暖かい目で見守ってくだされば幸いです。

あと作者は文章力5のクソザコナメクジ(ナッパのクンッ!でボッ!!てなるレベル)なので誤字訂正して下さっている読者の方々、本当に有難うございます。

それではまた次回



次回…祖龍、偉い人と話す


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7 祖龍(モドキ)、五老星に会う

五老星ってイマイチキャラが分からんのでキャラ崩壊注意





 

「敵襲!敵襲ぅ〜〜ッ!」

 

 

カンカンカンカン!

 

 

某T〇itterの煽り文句の様な警告音が響き、ミラは目を覚ました。

 

もぞもぞと布団から這い出してパジャマ姿のまま海軍のジャケットを羽織り甲板まで上がる、既にガープや他の海兵たちは甲板へと到着し慌ただしく動いていた

 

 

「遅いぞミラ、何をやっとった!」

 

 

甲板で檄を飛ばすガープはいつもより楽しそうだった

 

 

「見ての通り寝てました…貴方が押し付けてきた書類の残りを半徹夜状態で片付けたんですよガープ中将」

 

 

「おっご苦労さん!

それより敵襲じゃ、敵の位置はァ!?」

 

 

「左舷後方!もう1隻は反対側に、もう間もなく砲台の射程距離内に入ります!」

 

 

「分かった!弾ァ持ってこい!」

 

 

「了解!」

 

 

そう叫んだ部下は徐に大砲の弾が何発もストックされた台車を引いてやって来た。

 

 

「肩を壊さない程度にお願いします、また『治療』の名目で逃げられては困るので」

 

 

「ぶわっはっは!安心せい!

反対側は頼むぞミラ、接舷される前に終わらせる!」

 

 

「承知」

 

 

そう言ってミラは寝ぼけ眼を擦りながらも軽い身のこなしでマストを駆け上がる

 

 

「戦闘開始じゃ!皆の者用意せい!」

 

 

「「「了解!」」」

 

 

朝から威勢よく響く海兵達の声、彼らの指揮は充分なようだ

 

 

「むぅん…そおりゃあッッ!!!」

 

 

ガープは用意された砲弾をつかみ取り、あろう事か素手で敵船に向けて放り投げた。砲弾は一直線に飛んでいき、敵船体に命中。その後もガープは次々と砲弾を投げ続け敵船に風穴を開けていく

 

これがガープ中将のデタラメな力の一端だ

 

20発ほど砲弾をくらい続けた後、火薬庫に引火したのか海賊船は船底近くで大爆発を起こしやがて轟沈していく

 

 

「なんじゃい、骨が無いのう」

 

 

「中将の火力がデタラメなだけです、生き残った海賊を回収する用意は整ってますのでスグにでも。

後はミラ()()の方ですが…」

 

 

ガープの副官、ボガードがそう呟いた瞬間、雷鳴が辺りに木霊した。

 

 

 

 

 

 

 

頂上に辿り着いたミラは目を閉じる、するとミラの左手を中心に赤い色をした雷が円を描く様に渦巻き始め、大気がビリビリと震え始めた。

 

やがて雷の円環は軍艦を覆い尽くす程大きくなり尚も轟音を響かせながら回り続けている

 

 

「召雷・電光火蜂(でんこうひばち)…!」

 

 

ミラの叫びとともに大気がいっそう激しく震え、円環の中心から鋭い稲妻がジグザグの軌跡を描きながら天に向かって伸びていく。

それはやがて向きを変え、海賊船の真上に降り注いだ。

一際大きく響く雷鳴、激しい光と衝撃に苛まれた海賊船はマストを中心に完全に焼け焦げ焼失し船体のど真ん中に巨大な穴を開けた。

やがて負荷に耐えきれず海賊船は二つに折れ、そのまま海の藻屑となっていく

 

 

空に輝く雷の円環が消え、ミラが甲板へと飛び降りてくる。そしていつもの凛とした声でボガードに言い放った

 

 

「うん、上手く加減が出来たな。

生き残りを回収してくれ」

 

 

「了解しました、ミラ大佐」

 

 

他の海兵達も突然の超常現象に驚くことも無く作業的に海に落ちた海賊達を捕らえる準備を始めている

 

 

「私は着替えてきます、ついでに顔も洗ってくる…」

 

 

大きく欠伸をしたミラは部屋の中へと戻っていった

 

 

「おう、後でな。

もうすぐマリンフォードへ寄港する。今日はお前さんの昇進日じゃ、しっかりおめかししとけ」

 

 

「化粧などやったことも無い…」

 

 

そうぼやきながらミラは私室へと戻って行った

 

 

「「「「(すっぴんであの美人なのか…)」」」」

 

 

 

海軍大佐ミラ、本日よりから大佐から准将へ昇進

 

 

 

 

 

 

俺氏、准将になるの巻。

この数年間ポツポツ出てくる海賊達をガープ中将と一緒にメタ〇スライム狩る感覚で狩りまくっていたらレベルがモリモリあがって俺はトントン拍子に昇進、ついに大佐を超えて准将になった

 

ガープ中将曰く「中将が1番自由にやれるぞ!ぶわっはっは!」だそうなので取り敢えず中将目指してレベル上げ…もとい階級上げをやっている俺である

 

ちゃんと加減も覚えて死なない程度の落雷を落とせる様になったんだぞ!凄いぞ俺!

 

 

「本日を持ってミラ大佐は准将へ昇進することを認める。おめでとう、ミラ」

 

 

「はい、光栄です。元帥閣下」

 

 

コングさんから勲章を受け取って笑顔を見せる。もうちょい頑張ろう

 

 

「それから、君にはこれからセンゴクと共に聖地マリージョアへ向かい『ある方々』と会ってもらう事になっている。」

 

 

「聖地マリージョアへ?」

 

 

「ああ、詳しい事はセンゴクから聞いてくれ。」

 

 

んー???

聖地マリージョア、といえばマリンフォードのすぐ側にある『赤い土の大地(レッドライン)』の上にある街だ。

そこに住んでるのは『天竜人』と呼ばれる馬鹿…じゃなくて脳足りん…でもなくそれとなく偉い人達。

 

………少し前に1度だけガープ中将と一緒に貴族達が天竜人へ貢ぎ金として収める天上金なるものを護衛した折に聖地マリージョアまで行き、天竜人と会ったことがある。

 

アレは無理、生理的に無理。

だえ〜とかあます〜とか言っててキモいし変な格好してるし何よりあの傍若無人っぷりが気に入らない。神様気取りかよ。

そのまま全員天に召されてください(^^)

あれが俺と同じ『()』の名を持つとか滑稽過ぎてマジ草生えるわ

 

 

聞けば彼等は今の人間の文明を築いた創始者達の子孫らしい……それだけ、それだけで威張り散らしている。アルティメット親の七光り一族である

 

この世界、過去に囚われすぎる節があるよな。親の罪は子の罪、とでも言わんばかりの執拗さだ。

俺が海軍に入隊した頃にも海賊王の血筋が残った子供を孕んだ女を徹底的に探し出して始末しようとしていたし…。

確かエースがそうなんだっけか?

ええやん親父の罪くらい大目に見てやれば、子は子でしょ。

 

 

〝ひえっひえっひえっ、親父に言うぞ!〟

 

誰だお前は

 

 

色々面倒な世界だよなあワンピ時空

 

 

「正直天竜人達に会うのが嫌なんですが」

 

 

真顔で答えたらコング元帥も渋い顔してた、考える事は同じらしい

 

 

「マリージョアから目的の場所までは外から見えないように馬車で移動するから安心してくれ、天竜人に目をつけられても堪らんしな」

 

 

「それは良かった、正直あの連中と話すのは神経がすり減らされる…」

 

 

「ワシもだよ……」

 

 

「「ハァ〜……」」

 

 

二人して深い深いため息を吐いた。

何だかんだでコング元帥と俺は波長が合うらしい、お互いガープ中将やクザン中将の脱走(サボり)の後始末をする苦労を知っているからな!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「みら、いっちゃうの?」

 

 

「ああ。ステラ、イルミーナを頼む。

…そんなカオするなよ。センゴク大将も付いてるんだ、スグに帰ってくるさ」

 

 

「……うん、気を付けてね」

 

 

なおもステラちゃんはくらい表情をしてる、まあ1度奴隷だった身としてはマリージョアはトラウマだろう。

開放された今でも時々夢に出るらしい、可哀想に。

奴隷から開放された日、彼女はずっと俺の胸の中で泣いていた。

 

奴隷じゃなくなった喜びと

 

恋人を置いてきてしまった後ろめたさと

 

他にも色々胸に抱えた思いがあったんだろう、その心境は当人にしか分からない。あの時俺にしてやれたのは胸を貸してやる事くらいだ

 

話していた恋人…テゾーロだっけ?

何とかならんもんかねー

 

 

「午後にはガープ中将が遊びに来るらしいからもてなしてやってくれ……。

露骨に嫌そうな顔するなよイルミーナ」

 

 

「じぃじやだ…じょりじょり…みらみたいにふかふかがいい」

 

 

やだやだーと言わんばかりにイルミーナは、ぶー、と頬を膨らませながら俺のおっぱいに顔を埋めてくる

 

 

あとイルミーナの能力について分かったことが幾つか増えた、もう数年経過している筈なのにイルミーナの外見が殆ど変わっていない。

悪魔の実の副作用で歳を取るのが極端に遅いのか…だとしたらこの子の年齢何歳なんだ?

相変わらず舌足らずな話し方だし、まあこれはこれで可愛いから良いかな

 

 

 

「ガープ中将に私のふかふかは無理があるな…」

 

 

まあ…確かにガープ爺さんに無理矢理抱き着かれ頬ずりされる姿にはちょっと同情するよ

 

「じぃじやだ…きらい…」

 

 

「それを聞いたらじぃじはまた吐血するな…。

じゃあ行ってくるよ」

 

 

「はい行ってらっしゃい。

イルミーナ、ガープさんが来るまでに一緒にお菓子作りましょう。沢山作ってお隣のマリアさん家にもお裾分けしてあげるの」

 

 

「……うん、おかしつくる。

いってらっしゃいみら」

 

 

微笑ましい二人のやり取りに満足して俺は自宅を後にした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真っ白な大理石でできた廊下をカツンカツンと音を踏み鳴らしながら二人の男女が歩いている。

ミラは准将昇格に伴い、コング元帥の指示でセンゴク大将と共に『ある方々』に出会うため聖地マリージョア、その中枢部に近づいていた。

ミラはいつも通りバトルドレスに海軍の上着を羽織り、特に緊張した様子もなくセンゴクの後ろを半歩下がって進む。対するセンゴクは歩みを進める事に雰囲気がピリピリと張り詰めていくようだった

 

 

「ここだ」

 

 

センゴクが大きな扉の前で立ち止まり、扉の前に立つ護衛にその旨を伝えると扉の向こうから「入れ」と声がする。

 

 

センゴクは意を決して扉を開けた

 

 

部屋にいたのは5人の老人、それぞれが鋭い眼光でセンゴクとミラに視線を注いでいた。

 

「海軍准将ミラ、現着致しました。

本日はどのようなご要件でしょう」

 

 

この5人を前にして冷や汗ひとつ掻かないか、余程肝が座っているな…

隣で堂々とした自己紹介をしているミラを横目に内心センゴクは感心していた。

 

 

「…2人とも楽にしてくれ。

ミラ准将、今日呼び出したのは海兵としてではなく、君が『龍』と聞いて話がしたいと思ったからだ」

 

 

『龍』という言葉にピクリと反応したミラ、続けてじとーっとセンゴクを睨む。

 

 

「センゴク大将、誰から…いや。

どうせガープ中将か……あの人も口が軽いなあ…」

 

 

「済まない、こうするのが最善だと判断した次第でな」

 

 

「…まあいいさ、だがもう無闇に広めてくれるなよ?」

 

 

「その件に関しては安心してくれ、君の秘密は我々が責任を持って隠蔽しよう」

 

 

センゴクを庇うように五老星の1人が言い放つ

 

 

「自己紹介が遅れたな、我々は世界政府の最高責任者。『五老星』と呼ばれている。」

 

 

「これはこれはご丁寧に。

我が名はミラ、またの名を祖龍ミラルーツ。

辺境の無人島出身の田舎者だ☆」

 

 

茶目っ気たっぷりに言ってはみたものの、五老星の反応はイマイチだった。

隣でセンゴクはますます顔を青くしている

 

 

「……コホンッ、で?

世界政府の最高責任者達が我などに何用か。まさか自己紹介する為だけに呼び出したわけではあるまい?」

 

 

「ああ、早速だが本題に入ろう。

単刀直入に聞くが祖龍ミラルーツ、君は…」

 

 

 

 

世界を滅ぼす気はあるのかね?

 

 

 

 

五老星の間を静寂が支配した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………は?

 

 

何を仰ってるんだこの爺さんがたは

 

急に呼び出して世界滅ぼす気あるのかとか、耄碌か?ボケてるのか?もっと外に出て運動しろよ、部屋に篭ってばかりじゃボケが進行するぞ?

 

…あー、成程。俺の事が怖いのね。

龍の癖に人間の身体して社会に紛れ込んでるから疑ってるのか。『知らない』って事は1番怖いことだもんな、なら俺の事を知ってもらえれば爺さんがたも安心するハズだ!

 

という訳でひっさびさに人化を解いて祖龍の姿に戻ってあげた。

 

ん〜〜…ッ、久しぶりに戻ったから関節の節々が痛いぜ…

 

 

案の定皆「おぉ!?」とか驚きの声を上げてぽかんとしてる、ドッキリ大成功?

 

 

『世界を滅ぼすのかと聞いたな老人共。

我の姿を見てみろ、この姿は貴様らにどう映る?』

 

 

呆気に取られていた爺さんたちはようやく気を取り直し皆ウムムと考え込んでいるようだった

 

 

『確かに我は容易に貴様等を殺せる。

この爪も、牙も、尻尾も、吐息でさえも脆弱な人間にとっては致死となるだろう。

だが、だ。仮に我が貴様等を本気で滅ぼす気ならば、わざわざ海軍というヒトの作った組織に所属し、言われるまま海賊達を狩り続けチマチマ階級を上げていく必要など無いだろう?』

 

 

「むう、それは…」

 

 

まだ信じてもらえないみたいだ

実はこの姿になると声が川澄〇子さんから中田譲〇さんレベルにまで低くなってるらしい、それで威圧感出ちゃってるのかもしれない。

 

 

『貴様等が我をどう受け止めるかはそちらに任せる、だが我の目的は社会に溶け込むこと。初めからそれに尽きる。』

 

 

一生懸命「俺は無闇に人を傷つけたりしないよ!信じてよ!」と説明しているつもりだが祖龍口調(フィルター)のせいでなんか意味深に聞こえるぞ!

頼むからちゃんと伝わってくれ

 

 

「………承知した、現に君が海軍に所属し働いてくれている事でこの疑問の答えとしよう。

我々も君と敵対するのは本意ではない」

 

 

やったあ納得してもらえたぁ!

 

 

『そうか、我も話が分かる人間に真実を知られて良かった。

この姿を見られると大概は問答無用で襲いかかって来るからなあ…』

 

 

「君も苦労しているんだな…」

 

 

なんか同情された、羽も伸ばしたし人間の姿になろっと

 

 

「ふう…久々に羽を伸ばせたな。

それで五老星、我に用はそれだけか?

なら我からも少し聞きたい事がある」

 

 

「我々が答えられる事ならば」

 

 

「……『天竜人』」

 

 

その言葉に五老星の空気が凍った

 

…地雷踏んだか?

 

 

「我と同じく『()』の名を持つ者達。

仕事で何度か会った。

何故あの様な屑共に大それた称号を与え、あまつさえ〝世界の創造主〟として持て囃すのか。理解に苦しむ」

 

 

「………済まない、それについて我々から話せる事は何も無い。

だが不快なモノを見せてしまったことには謝罪する、確かに彼等の行いは余りにも軽率で愚かしい。

この数年でいっそうそれが酷くなってしまった、それを止められなかったのは我々の責任だ。

だがアレでも彼等は今の社会に不可欠な存在故、どうか御容赦を」

 

 

不可欠ね、まあ奴隷みたいに社会の歯車に溶け込んでるんだろう。

この世界人権なんて死んでるも同然だし、だからこそ天竜人のような仮初めの権力者が必要なのかもしれない。

 

暫しの沈黙、そして

 

 

「それもまた、人間の〝自由〟だな…」

 

 

納得したように俺の呟きに五老星は安堵の溜息吐いているのが分かった

 

 

「良い、天竜人の件は終わりだ。

我ももうこれ以上連中の事を気にすまい、貴様等に任せよう。

我からの用は済んだ。他にも聞きたい事はあるか?」

 

 

俺からの問いに五老星は沈黙で返す、きっと俺が人間に危害を加えないと納得してくれたから安心してるんだろう

 

たぶん、きっと

 

 

「なら我はこれにて。

センゴク大将、行きましょう」

 

 

「お、おいミラ…」

 

 

「いい、敵ではないと確認が取れただけでも良好だ。

二人ともマリンフォードに戻り通常の職務を全うしてくれ」

 

 

「ハッ!」 「承知した」

 

 

センゴク大将はキビキビと、俺はゆるーく五老星に敬礼して

 

 

「あ、そうだ五老星。

お前達は我を警戒しているようだが、我はお前達の事、結構気に入っているぞ?」

 

 

「…それは一体……?」

 

 

「今日の世界が均衡を保っているのはお前達の裁量があるからこそ。

海賊王が死に、乱れる世を見てもなおヒトの世を守らんとするその『努力』を我は高く評価する。

良い老い方をしているな、我はお前達が少し羨ましい。」

 

 

龍に〝老い〟なんて来ないから、来たとしてももっとずっと遥か後だ。

モンハン世界では『創まりの龍』とも呼ばれる祖龍に時間の概念なんて存在しない、だから普通に老いていく人間がちょっち羨ましい

 

俺氏、ちょっぴり感傷に浸る

 

 

「世界を廻せよ五老星、()()()()()

じゃあな」

 

 

「「「「「………!」」」」」

 

 

軽い気持ちでひらひらと手を振りながら今度こそ俺達は部屋を出ていった

 

 

は〜堅苦しいの終わり終わり、早く帰ってイルミーナたんを撫でたいな〜

 

 

 

 

 

 

 

 

「凄まじい気迫だったな…」

 

 

ミラが出ていった後、彼女が無意識の内に放っていたプレッシャーから漸く開放された5人はやれやれと息を吐きながら重く閉じていた口をようやく開いた

 

 

「………どう見る」

 

 

「運が良かった、と言う他あるまい。

彼女が博識で、人と対等の価値観を持ち、慈悲の心を持っていなければ我々は今頃彼女の腹の中、もしくは消し炭になっていた。」

 

 

「違いない。

手懐けられれば、等と甘い考えを抱いていた自分が恥ずかしい。

あれには勝てん」

 

 

「彼女の自宅周辺に待機させたCP9に撤退命令を。

我々のすべきは彼女の〝監視〟ではなく彼女との〝共存〟だ、これ以上不審な動きをとるべきではない」

 

 

頭に痣のある五老星の一言に他の4人も頷いた

 

 

ミラと直に対面して分かったこと。

それは彼女が自分達に敵意が無いことを示した事でも、五老星の思うような展開に事が運ぶ事でも無かった

 

祖龍ミラルーツ、アレには勝てない

 

実質の降伏宣言だった。

武力では勝てない、如何に策を張り巡らせて彼女を始末しようとしても、龍はその一切合切を退けてしまうだろう。

その先に待っているのは絶対的で、絶望的な破壊と虐殺だ。

恐らく今新世界で幅を利かせる『四皇』ですら彼女は子供扱い出来るだろう、それ程に生物としての絶対的な壁が存在している。

 

そうならないために、ヒトの世界を最大限守る為に五老星はその知恵の全てを絞り出していた

 

 

「どうする?幸い彼女は友好的だ。

そして海軍という我々の管理下にある組織に所属してくれている」

 

 

「ならば高い地位を、彼女にしか就けない特別な地位を与えよう。

彼女が海軍により強い愛着を示してくれればそれに越した事は無い」

 

 

「しかし急な昇格は逆に不信感を与えてしまうだろう」

 

 

「確かに、やるならば海軍が大きく動く時だ。実力も信頼もある彼女なら誰も疑いはしない」

 

 

「では時期が来たら、という事で話を進めよう。」

 

 

「我々と彼女専用の連絡手段も欲しいな、技術班に専用の電伝虫を用意させよう」

 

 

「賛成だ、ホウレンソウは基本だものな。彼女が守ってくれるとは限らんがね」

 

 

小粋なジョークに5人は今日初めて表情を柔らかくした、先程のミラのお茶目には緊張しすぎて全員マトモに反応出来なかったが…

 

 

「1番の問題は天竜人だ、こればかりは極力彼女と彼等を会わせないようにする他ない。

連中の意識は最早どうにもならん、形骸化した世界の頂点だからな」

 

 

「口が過ぎるぞ。中にはまだ王としての気概を持ち、創造主に相応しい人格者も残っている。

…もう数は多くないが」

 

 

「ホーミング聖は本当に残念だった。

彼は地上に対して無知すぎた」

 

 

思い返すのは天竜人である地位を捨て、自ら地上へと降りた創造主の1人、ドンキホーテ一族だった。

他の天竜人達の思想とは異なり、「我々も同じ人間である」と考えた彼等は世界政府の幾度にもよる静止にも耳を傾けず、家族全員で赤土の大地の下へと降りた。

そして酷い報復に会い子供2人を残して惨殺されたようだ。

海軍が遺体を見つけた時は見るも無残な姿に痛めつけられていたらしい

 

 

「彼の一件で確信した、最早確執を埋めることは不可能だろうと。

ならこれ以上悪化しないように最善を尽くすしかあるまい」

 

 

 

「話を戻そう、世界政府は祖龍ミラルーツ、またの名をミラ准将、彼女との仲を内密に、かつ全力で取り持つ方針でいく。異論は」

 

 

「無い」 「無論だ」 「致し方あるまい」「異議なし」

 

 

満場一致で決定した。

 

 

「それに彼女は我々に『期待』していると言った。

生ける伝説にあれほど見込まれたんだ、男ならそれに応える他あるまい?」

 

 

1人の言葉に他の4人もニヤリと笑う、彼等が五老星と呼ばれるようになってから長いが御伽噺の伝説から応援されるなど未体験だった。

年甲斐もなくやりがいと胸の高鳴りに心を踊らせる、彼等は老人で、世界の最高指導者だがそれ以前に〝男〟であった。

 

伝説の龍に見初められたのなら、それに答えられなければ男が廃るというものだろう?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「センゴク大将、緊張していましたね」

 

 

「当たり前だ。あの5人に会う機会など滅多に無い、世界の頂点だぞ」

 

 

「そんな大層な者ですかね、貴方も彼らも、私からすれば皆同じ人間だ」

 

 

「君がそう考えてくれるから、ガープも私に伝えてくれたんだろうな……」

 

 

「そのガープ中将は今頃我が家でお茶していますがね」

 

 

「なんだと…?奴には溜まっていた仕事を片付けるようにと言い渡しておいたハズだが……………

ミラ、この後君の家にお邪魔しても良いかな?(ニッコリ)」

 

 

まるで仏様のような優しい笑顔を浮かべるセンゴク、目が笑っていない

 

 

「家が壊れるので外で暴れて下さいね」

 

 

「善処しよう」

 

 

その後、マリージョアから『仏のセンゴク』を連れて帰宅したミラはガープに軽く恨まれた

 

 

 




被り上等のご感想本当にありがとうございます、これからも至らぬ身ではありますが良ければ読んでやって下さい。

感想で頂いた中にイルミーナの容姿ですが主はパズドラ未経験者なのでイルミナというキャラが分からずGoogle先生に画像を探してもらいました。
イメージキャラとそっくりでびっくりしましたよ、自分的にはメイドラゴンのカンナちゃんと件のイルミナを足して二で割った位に考えています。可愛い(確信)

馬子にも衣装、訂正ありがとうございます。
ナッパにクンッてされてきます


次回…グッバイ、オハラ!


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8 祖龍(モドキ)、島を滅ぼす

歴史が飛び飛びなのは時間感覚が曖昧な祖龍視点だからって事で許してヒヤシンス…ヒヤシンス…





「バスターコール?」

 

 

「ああ、バスターコールじゃ。

上から言われてのォ、今後の為にお前を儂に同行させる。」

 

 

准将になって少し、ようやっと准将としての仕事にも慣れ、久々の休日をもらいマリンフォードの自宅で寛いでいた俺の元に現れたサカズキ中将はそんなことを言っていた。

 

 

バスターコールとは、大将以上の階級に与えられた島を丸ごと更地にする殲滅命令だ。

招集された中将5人と軍艦10隻による一斉攻撃、島は一瞬で焦土に包まれ滅ぶ悪魔のような攻撃命令…なんだけど…

 

ショボイよね(ボソッ)

 

正直クザンにーさんとかなら軍艦10隻以上の殲滅は可能だし、実際この前の麻薬捜査の時、サカズキ中将1人で島更地にしたし。

勿論俺だって本気出せば島を丸ごと消滅させるくらい簡単だ、祖龍の力を舐めてもらっちゃ困るぜ。

思い切ってボルサリーノ中将にボヤいてみたら「それは言わない約束だよォ〜」と目を逸らされた。

 

ま、まあ民衆へのパフォーマンスという点で軍艦10隻の方がインパクトが強いのかもしれない!うん、きっとそうだ(汗)

 

 

 

 

 

 

話を戻そう、俺はバスターコールと呼ばれる総攻撃命令に同伴することになった。

そしてスグにバスターコールは現実のものとなる、標的はオハラ

 

そう、あのオハラだ。

原作で後に主人公の仲間になるニコ・ロビンの住んでいた、島の中心に巨大な木が聳え立つ歴史ある島。

この島で行われていた研究が政府の逆鱗に触れ、住民ひとりを除き皆死に絶え、オハラは地図から姿を消す事になる。

そんな悲劇が待っている島

 

 

なのに、俺の精神(こころ)はいつも通り「仕事かー」くらいにしか思っていない。ちょっと寂しい

 

 

「承知しました。ステラ、暫く家を空けるから留守を頼む。」

 

 

「ええ、分かった。イルミーナは任せて」

 

 

快く承諾してくれたステラちゃんはすっかり我が家のハウスキーパーである。料理上手に家事上手、どこに出しても恥ずかしくない立派な家政婦だ。

 

 

「サカズキ中将、出発はいつです?」

 

 

「明日の朝じゃ、用意しとけ。忙しゅうなるぞ」

 

 

 

オハラにバスターコール…という事は俺の記憶が正しければ当時のニコ・ロビンは8歳くらいだったはず、じゃあ逆算して…俺がいる時代は原作スタート20年くらい前ってとこかな。

20年…龍にとっては長いようで短い年月だけど、ニコ・ロビンにとっては地獄の日々になるんだっけ

 

 

「島を丸ごと消す、か。

海軍は派手な花火が好きなんだな」

 

 

あ、未来を知ってるからと言ってニコ・ロビン以外の助けられそうな人を助ける気はさらさら無いよ。

政府の不都合な真実を知ってしまった彼らの不運だ、俺は一海兵として最期を見届けてやろうと思う。政府が空白の100年に触れてほしくない理由は俺が漫画を(流し)読んでいた時点でも明かされていなかったはずだが、世界の均衡を容易に崩してしまうほどの真実なんだろう。五老星なら迷わず彼等を切り捨てる。

いや、それよりもっと厄介な連中に目をつけられたからかもしれないケドね

 

おおこわいこわい

 

あの会談のあと五老星から送られてきた専用電伝虫、ちょび髭ででっぷりとした体型のコイツは俺と五老星を繋ぐ専用回線らしい。

一番最初に受話器に触った者の手しか受け付けないらしく、セキュリティも万全、盗聴されないように妨害念波も飛ばしてる超超希少な種だそうだ

 

その時お試しで連絡を取り合い、向こうが俺に把握しておいて欲しいことを幾つか言ってきた

 

天竜人と自分たちの関係と政府の組織CPでも更に特殊な『0』と『9』の存在だ。

これ下手に知ったら消されるやつじゃね?と思ったけどまあ俺なら大丈夫だろ、仮に脅迫材料としてステラやイルミーナを狙ったらまあ…ねえ?(暗黒微笑)

 

 

「みら、ご飯できたよ。

…あれ?さかずきおじちゃん?」

 

 

「む、イルミーナか。元気しとるか」

 

 

「うん、げんき」

 

 

パタパタと台所から掛けてきたのは我が娘イルミーナたん、エプロン姿に頭巾をかぶり、嬉しそうに尻尾を振っている姿は最早芸術品である。

 

 

 

「ん、ありがとうイルミーナ。

明日、仕事で少し家を離れる。ステラとおりこうさんにしてるんだぞ?」

 

 

「うん、すてらにお勉強おしえてもらうの」

 

 

はにかむ笑顔が眩しい。

外見は変わらなくてもイルミーナの精神は着々と大人に近づいているのか、最近彼女はステラから勉強を教えてもらうようになった。

運動と称し竹刀で俺と打ち合ったりもする。まだ日は浅いが流石動物系(ゾオン)の能力者、その辺の大佐クラスの海兵よりよっぽど強い。アクティブな子になったもんだ。

治りかけているものの相変わらず若干舌足らずなのがポイント高い、悪魔の実マジグッジョブ

 

そして一番の成長は自身の悪魔の実を制御しようと努力している事だ。

自分の力と向き合って懸命に努力する姿は実に愛おしい、ウチの子がこんなに可愛いんです!可愛い娘なんですよ!

と、この前昇進祝いの飲みの席でボルサリーノ中将に小1時間話したら軽くドン引きされた。

あんたも娘が出来たら分かるよ

 

 

「さかずきおじちゃん、みらをよろしくお願いします」

 

 

「おお、任せえ」

 

 

ぶっきらぼうながらもイルミーナの頭を撫でるサカズキ中将、普段の彼の姿からは想像もつかないだろう。

周りからはお硬い中将だと思われがちのサカズキ中将だが、流石に子供にはある程度甘いらしい。飯を奢った件でイルミーナとも幾らか打ち解けたようで俺とステラちゃんが両方家にいない日には彼の所に預かってもらったりして色々世話になってる。

 

強面のサカズキ中将にも臆せずガンガン話しかけるイルミーナはかなりの大物やで…ゼファー先生の息子のジェイク君は顔みただけでガチ泣きしてたし

 

 

 

「そうだ、サカズキ中将。良ければ夕食を御一緒しませんか?」

 

 

「まだ仕事が残っとるけえスグに戻らにゃならん。すまんな」

 

 

「そうですか、それは残念」

 

 

「………!

おじちゃん、ちょっと待ってて」

 

 

少し考えた後、ポンと手を叩いたイルミーナはまた台所へと掛けていき、数分後に戻って来た。

手にはタッパーに入ったチャーハンを持っている、それをサカズキ中将に手渡した

 

 

「はい、おすそわけ。おしごとがんばって」

 

 

「すまんのぉイルミーナ、有難く貰っておこう。ミラ、明日は遅れるなよ」

 

 

「承知しました、では」

 

 

出来立てのままタッパーに詰められ、まだ暖かいチャーハンを片手にサカズキ中将は去っていった。

 

 

 

 

…オハラか、こういう大きな事件に関わってくると、自分がONE PIECEの世界にいるって実感するよなあ。

 

俺が居ても物語ちゃんと正しく進むんだろうか、大丈夫かな

 

 

 

 

 

 

◆オハラ消滅の日…◆

 

 

 

 

 

 

 

耳をつんざくような砲撃音、それに続く爆発音、そして島から聞こえる人間の悲鳴。

ここはオハラ、嘗て博識な学者達が集い己の探究心を満たしていたこの島は今、十隻にも及ぶ海軍の大艦隊の砲撃に晒されている

 

 

「これがバスターコールか、壮観だな」

 

 

「見世物じゃ無いわい、じゃがよう見とけミラ。これが『正義』に楯突く者の末路じゃ」

 

 

そういうサカズキ中将は無表情だった、完全にお仕事モードだ。

こういう時に変な事言うとすっげえ睨まれるから俺もシリアスにいこう

 

 

 

「すぐ側の港に避難船が出ていますが、アレは見逃すので?」

 

 

「癪じゃがのお、学者以外に用はない。」

 

 

「そうですか…」

 

 

今俺とサカズキ中将が居るのは避難船が見える島の正面に布陣する軍艦、反対側では今頃サウロ元中将が大暴れして軍艦がどったんばったん大騒ぎになっている事だろう。クザンにーさんの姿も途中から見えなくなってたし、確か原作通りなら親友と決着を付けに行ったハズだ

 

その時

 

プルプルプルプル…プルプルプルプル…

 

 

サカズキ中将の手元にあった電伝虫が鳴り出した。それを静かに取り、相手の話に相槌でのみ反応している。

そして徐に受話器を置くと側に居た部下に言い放った

 

 

「目標変更、避難船を狙え」

 

 

それを聞いた部下の人(多分大佐くらい)は面食らったのか唖然としてる。

 

 

「聞こえんかったか?避難船を狙え」

 

 

「よ、宜しいのですか!?避難船には学者ではない一般住民が…」

 

 

「悪は根本から根絶しせにゃならん、さっさと狙え」

 

 

「ですが…」

 

 

「儂が狙えと言ったら狙わんかい役立たずがァッ!!」

 

 

「ひッ!?りょ、了解しました!」

 

 

サカズキ中将に怒鳴られた大佐は半泣きになりながら去っていく、可哀想に

 

 

「……元帥殿のご命令ですか?

それとも…もっと上からで?」

 

 

「要らん事は考えんでいい、悪の根は元から潰す。それだけじゃ」

 

 

「左様で」

 

 

短い返事

それっきりサカズキ中将は一言も喋ることは無かった

 

 

あー避難船撃っちゃった、子供の悲鳴とか聞こえるよカワイソーに

 

この人の『徹底的な』正義は嫌いじゃないけどたまにやり過ぎな所あるよねー

 

 

 

 

そんな時

 

オッパイプルーンプルン!オッパイプルーンプルン!オッパイプルーンプルン!

 

 

俺の懐の電伝虫、五老星との連絡手段が唐突に声を上げた。因みにこの電伝虫呼び出し音に結構なパターンがあって毎回鳴るのが楽しみだったりする

 

 

「……お前の電伝虫の呼び出し音はどうにかならんのかミラ」

 

 

とんだシリアスブレイクだぜ

 

 

「……失礼。サカズキ中将、電話を取っても?」

 

 

「好きにせぇ」

 

 

「どうも……ああ、私だ。

そうだ、今オハラにいる。…………ほぉ………

そうか、承知した。後悔するなよ」

 

 

そう言い残して受話器を置く、そして中将に伝える事にした。

 

 

「中将殿、私にも少しやらねばならない事が出来てしまったようです。

暫く席を外します」

 

 

「そうか。徹底的にやれよ」

 

 

「……ええ、存分に」

 

砲撃によって焦土になりつつあるオハラを背に、俺は月歩で後方に控える軍艦へと移動した

 

 

 

 

この場を借りて祖龍の力を見せろだなんて、爺さん達は変な事を言い出すなあ

 

 

 

 

◆祖なる雷…◆

 

 

 

 

「よっ……と」

 

 

ミラが月歩を使い舞い降りたのは中将の乗船していない丁度正面あたりの軍艦だ。突然現れたミラの登場に甲板はどよめいている

 

 

「ミラ准将!?何故此処へ?

サカズキ中将の元にいらっしゃったはずでは…」

 

 

「ん?ああ、事情が変わってな。

なんでも反逆者に軍艦が三、四隻ほど潰されて火力が足りてないらしい。

それで私が出張ることになった、既に同伴のサカズキ中将から許可は頂いているから安心してくれ」

 

 

そうあっけらかんに返事するミラにますます困惑する海兵達、その中で彼、モモンガ少将だけはじっとミラを見つめていた

 

 

「どうかなさいましたかモモンガ少将?

私も早く済ませてサカズキ中将の元へ戻りたいのですが」

 

 

「いや、何でもない。上からの命令ならば是非も無し、頼む」

 

 

「承知、では危ないので念のためこの船の海兵に貴金属を外しておくように伝達をして頂けますか?

感電すると不味いので」

 

 

「?分かった、伝えておこう」

 

 

モモンガは首をかしげていたが構わずミラは跳躍しマストの頂上まで辿り着く。そして腰に提げた軍刀を抜き剣先を空へ掲げた

 

 

「さァやろうか、オハラよ」

 

 

抜き払い、掲げた刀に赤い雷が走る。緋色の軍刀は血のようにその刀身を赤く染め上げ、漏れ出た雷は大気をひび割れさせるように広がった。

生じる衝撃波によって海が軍艦を中心に大きく波立ち、周囲の艦まで大きく揺れる

 

 

「(原作通りに事が進むなら彼等の命はここで尽きる、炎に焼かれて苦しむよりも一瞬で終わった方が幾らか楽だろう)」

 

 

ひび割れるように走る雷の亀裂がオハラの外周を覆う、雷の速度で行われるそれに島民たちが反応できるはずもなく、気が付けば島の四方八方に赤い雷の包囲網が張り巡らされていた

 

 

一旦軍艦からの砲撃が止み、つかの間の静寂がオハラに訪れたその後に

 

 

「………真祖神雷

さらばだ、オハラ…ッ!!」

 

 

死神の鎌が振り下ろされた

 

一瞬の間に天が輝き、オハラを丸ごと呑み込むような巨大な落雷が島へ襲いかかった。

島民たちは騒ぐ暇も無く、ただただ天を見上げてその運命を終えた

 

島を包む轟雷は未だ鳴り止まず、赤い雷の柱は天に向かってそびえ立っている。

まるでこの世の終わりのような光景を目撃し、呆気に取られる海兵達を尻目に役目を終えたミラはモモンガに軽く挨拶を済ませるとサカズキの元へと戻って行った。

 

 

帰り際、未だ赤い雷撃に包まれる島を背に、氷の道しるべを辿りながら必死にボートを漕ぐ1人の少女の姿がミラの目に映る。

 

ああ、生き残ったか

 

ミラは内心安堵のため息をついていた、自分というイレギュラーがあったもののどうやら原作通りニコ・ロビンは島を脱したらしい。

 

 

「生きろよ、きっと貴様は報われる」

 

 

そう微笑んでミラはサカズキの元へと急ぐのだった

 

 

 

 

「終わったか」

 

 

「ええ、ご命令通り生存者は0です。

アレを見れば生き残りなどいないのは一目瞭然でしょう」

 

 

そう言ってミラは未だ落雷に呑まれ赤い閃光に包まれるオハラを見やる、その光景を見たサカズキは納得したようにコクリと頷いて船内へと戻って行った。

 

 

「…………好奇心は人を殺す、か。

自由とは難しいな」

 

 

誰もいない甲板上でミラは小さく呟き、自分の行いを船の上から眺める事にした。

 

 

 

 

 

 

一連の光景を別の軍艦から双眼鏡で眺めていた者がいた。

彼はバスターコール発動の後、海軍によって保護され事の顛末を安全な所から眺めながらほくそ笑む。

 

オハラの連中の犯した罪、その贖罪

 

全て上手くいった。これで自分、果ては息子の代に至るまで己の地位は安心だろう。と

 

ただ唯一の心残りはあの娘を取り逃してしまったことだ。

あと一歩で完璧に事が進むはずだったものを…取り逃し歯噛みする

 

 

「まあいい、あの娘くらい後でどうとでもなる。

……で、あの落雷はなんだ。バスターコールであんな物が落ちてくるなんて聞いてないぞ」

 

 

問いかけるも側近の2人は知らないと言わんばかりに首を振る、疑問を解消するため更に傍らにいた少将へと視線を向けた

 

 

「あれはミラ准将によるものですね、最近海軍内でも噂になっている。

ガープ中将がとてつもない実力を持つ海兵を連れてきたとか。

私も彼女の力を生で見たのは初めてだが凄まじいですな、自然系(ロギア)の能力を保有する中将達にも劣らない。

彼女がいてくれれば海軍の正義も安泰でしょう」

 

 

自慢げに話す少将の話にひとしきり耳を傾けた後、双眼鏡で彼女の姿を探す、噂の准将は甲板の縁に腰掛けて稲妻の降り注ぐオハラを眺めていた。

 

 

「おお、かなり美人じゃねえか。

どっかの王族の娘と言われても納得するぜ。

息子の嫁に欲しいくらいだ」

 

 

そこまで言葉に出して男は考えた

 

あの女は将来きっと海軍を背負って立つような大物になる、それにあの美貌、完全に勝ち馬だ。

オハラの件があるとはいえ、自分の権力がいつまでも続くとは限らない。もしかしたら息子が将来大きなヘマをやらかして力が衰えてしまうかもしれないから。

そうなった時、海軍に少なからずパイプが必要だ。

ならばあの女を利用しよう、少将の反応を見るにあの女准将は海軍内でもかなり慕われている、そしてあの英雄ガープの見込んだ子だ。なら彼女に取り入れば……

海軍屈指の実力に中将のパイプ、可愛い息子の地位も安泰のものとなるだろう、あわよくば息子と結婚させて彼女の力も自分達のものに出来るかもしれない。

 

 

「へっへっへっ…そうと決まりゃ早速こじつけてやろう、五老星に連絡だ」

 

 

そう呟く正義の役人はまるで悪党のような笑みを浮かべて電伝虫の受話器を取った

 

この連絡によってある1人の男の運命がほんの少しだけ変わってしまうが当人はまだ知る由もない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

かくして政府の役人、スパンダインの手によってオハラで行われたバスターコールは無事終了した。途中予想外の反撃に会い、軍艦4隻の損失という問題は起こったものの結果的に学者の島、オハラは文字通り地図から姿を消した。

生存者は未だ0、だが唯一の生き残りが発見されるのはもう少し後の話。

途中火力不足の為急遽投入された海軍准将ミラによる一撃にて、本来焦土になるだけの筈だったオハラは跡形もなく消滅し、島に残る歴史は永遠に闇へ葬られる形となった。

 

これを機に海軍内でミラの実力は大きく見直され、再び昇進の話も持ち上がっている。

今最も次期大将に近いとされる自然系の能力者である3人の中将に勝るとも劣らないその力は海軍全体の知るところとなり、その美しい容姿も相まって秘密裏にファンクラブが出来ているとかいないとか。

 

そしてあの光景を映像電伝虫越しに確認し、祖龍の力を再認識した五老星は後に彼女をある特別な地位へと異動させることを決定する。

 

 

 

 

一方でミラのこの行いは、ある1人の少女にとって耐え難いトラウマを与える結果となってしまうのだった




麦わらの一味とミラが直接出会うのはエニエス・ロビー編の予定、それまでに色々フラグを建てとかないと


次回…閑話、もしくはスパンダムの受難


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9 閑話(本編と関係無し)、短くて済まない



ちょっちリアル立て込んでて今後投稿が遅くなるかもです、本当に申し訳無い

キャラ崩壊注意で、ヤマもオチもないです




 

海軍本部マリンフォード、議事の間

 

 

荘厳な雰囲気の漂う和室、その一番上座に腰掛けるはこの場の最高責任者、大将センゴク。彼は重々しく口を開いた

 

 

「今日は急な招集にも関わらず皆良く集まってくれた、早速話を進めよう」

 

 

隣には腐れ縁の友人、英雄ガープ

その反対側にはクザン、サカズキ、ボルサリーノに大参謀おつる

他にも中将、少将、准将と名だたる名将たちが一同に会していた。

 

 

「今日集まってもらったのは他でもない、海軍の今後に関わる最重要案件だ……。五老星の許可も得て今回の席を用意してもらった」

 

 

五老星、この人物たちが関わる事の重みを中将以下の将校たちは重々承知していた。

ゴクリと皆が息を呑む

 

「では会議を始めようと思う、今回の案件は…………今年の海兵募集ポスター、そのモデルに選ばれた被写体の発表と撮影内容のアイデアを出し合って貰うッ!…」

 

 

ズンッ!と議会の間がいっそう重い雰囲気に包まれた。

そしてセンゴクは更に続ける

 

 

「皆も知っての通り、毎年海兵募集のポスターにはその年選ばれた海兵が一面を飾る事になる。

そしてその宣伝効果は翌年の志望件数に大きく影響するものだ。年々海賊共が増え続ける中、我々は1人でも多くの同志を集めなければならない!」

 

 

センゴクの言葉に皆もウンウンと頷き同意している。

 

 

 

海軍では数年に一度、海兵勧誘の一環として世界政府加盟国に向けて海兵募集のポスターを街角へ掲載させている。

その影響は大きく、出来によってはその年の海軍志望者を激しく左右するのだ。故に毎年選りすぐりの勧誘ポスターを准将以上の将校達による大規模会議で決定していた

 

 

「今年の被写体は…ここにいる何名かはもう予想が付いていると思うが、ミラ准将に任せようと思う」

 

その言葉を聞いて小さくガッツポーズする若い将官の姿がチラホラ見える、歴戦の名将達も納得だと言わんばかりに何度も頷いていた

 

 

「若きにして准将の地位まで上り詰め、更に海軍内でも信頼の厚い。そして数多の海賊達を屠ってきたミラなら今回の被写体に相応しい。

異論のある者は?」

 

 

それに対して沈黙を持って肯定の意を示す男達

 

 

「宜しい、既に彼女には予め許可を貰っている。

では次が重要なんだが………

ミラにどんな格好で写真に写って貰うか、だ。」

 

 

ざわ……ざわ………

 

…………ざわ…ざわ………

 

 

僅かに会場がざわつきはじめた

 

 

そう、彼女にどんな格好をさせ、どんなポーズで写真に写ってもらうかは彼らの裁量にかかっているのだ。

 

 

「ハイハーイ!センゴク!ワシにいい案がある!」

 

 

緊張感の欠片もない軽い口調でガープはぶんぶんと手を挙げた

 

 

「ミラには何を着せても似合うじゃろう、あれだけの美人じゃもんな。

だから敢えて意外性に富んだ服装を選ぶべきじゃ」

 

 

「ほう、意外性か。してその服装とは?」

 

 

皆が息を呑む中、ガープは部屋中に響き渡る大声で告げる

 

 

「メイド服!もしくは給仕服しかあるまい!」

 

海軍の英雄が初っ端核爆弾を投下し議会は大きく揺れた、中には吹き出すのを必死に堪えている者もいる。自信満々のガープにセンゴクは激怒した

 

 

「巫山戯るなよガープ!

海兵募集ポスターだと言っているだろうが、お前が見たいだけだろう!」

 

 

「えーいい案だと思うんじゃがー?

海軍に奉仕しますって感じで」

 

 

「海軍が風俗店にでも勘違いされてしまうだろうが!却下だ却下!」

 

 

「でもミラなら着てくれそうじゃぞ?」

 

 

「ぐっ!?まあ…彼女なら大体の服を笑顔で着てくれると思うが…駄目だ!

海軍の面子に関わる!」

 

 

「全くわかっとりゃせんなガープ中将」

 

 

センゴクに同意するように続けたのはサカズキだった。

腕組みしながら彼はガープを睨み付けている

 

 

「自ら私欲に走るとは英雄ガープも老いたもんじゃのう。ミラにそんなモン着せられるかい」

 

 

「じゃあオヌシは何か案あるのかサカズキ、言うてみい」

 

 

「フン、決まっとる。

……ミラに似合うのは着物一択、それ以外に何がある!」

 

 

 

センゴクは思わずずっこけた

 

 

「おいサカズキィ!?」

 

 

「あの白い髪には真紅の着物艶姿がよう似合う筈じゃ、間違いない。

たまたまワノ国から内密に取り寄せさせた上物があってな…」

 

 

なんで男のアンタが女物の着物を取り寄せたんだ、とは誰も口が裂けても言えなかった。

そして私欲に走っているのはどっちだとも言えなかった

 

 

「いやガープよりはマシだが!マシなんだが!

もっとこう…イロモノじゃない普通の服装は無いのかァ!?」

 

 

「センゴクさん」

 

 

「おお、どうしたクザン。お前も何か案があるのか!」

 

 

「ええ、まあ…」

 

 

いつになく真剣な表情をしながら告げるクザン、コイツはようやくマトモな意見が来るとセンゴクは一息付いていた

 

 

「バニー…なんてどうでsh「よしお前は少し黙っていろ」」

 

 

何真顔でとんでもないこと言ってんだコイツは、とセンゴクは思った

 

 

「おい、今クザンの台詞でミラのバニー姿を想像した奴は後で始末書を書かせるからな?」

 

 

緩んだ表情をしていた男性将校たちがぷいっと一斉にそっぽを向いた

 

 

「センゴクさん、あっしはフツーにスーツ姿でイイと思うんだけどねェ〜」

 

 

「そうかボルサリーノ!そうだよな!

無難だな!」

 

 

やっとマトモな意見が出てきた!と内心センゴクはホッと一安心していた、が

 

 

「でもってあっしと背中合わせになってこう…」

 

 

「おい待て、なんでお前もちゃっかり一緒に写ってるんだ。ミラ1人だと言ってるだろ」

 

 

「え〜駄目ですかい?」

 

 

「駄目だ、写真に写るのはミラ1人だ」

 

 

「悲しいねェ〜」

 

 

ショボーン、としているボルサリーノは放っておいて会議は続く

 

 

 

 

 

「ゴスロリ服!」

 

 

「だから風俗店じゃないと言ってるだろう!」

 

 

「訓練校の制服!」

 

 

「何故だが凄く如何わしい!却下!」

 

 

「白装束!」

 

 

「ミラに自害させるつもりか!?」

 

 

将校たちによる喧々諤々の会議が続けられる中、ついに彼女が動き出す

 

 

「みっともないよアンタ達、いい加減にしな!」

 

 

海軍の大参謀おつるの一声で場が一気に静まり返った

 

 

「全く…黙って聞いてりゃ勝手にあれだのこれだの、本人の意思は完全無視かい?」

 

 

痛い所を疲れたとばかりに黙りこくる将校たち、この時ばかりは流石に中将達も黙らざるを得ない

 

 

「こういう時は本人に直接聞くのが一番だよ、電伝虫貸しな」

 

 

部下から電伝虫を寄越させて、番号を入れ始めるおつる。

プルプルというコール音のあと、受話器を取ったのは渦中のミラ本人だ

 

 

「ああミラかい?おつるだよ」

 

 

『おお、おつるさん。元気しているか?約束していた腰の治療は明後日の筈だが…』

 

 

「今日はその話じゃないよ。

アンタ、海兵募集のポスターの被写体になるって言われただろう?」

 

 

『ああ、そうだな。本当は歴戦の名将であるおつるさんに譲るべきだと思ったんだが…今からでも望むなら交代するぞ?』

 

 

ヒィッ!?と何人かが青い顔をしているのをセンゴクは黙殺した、無理はない

 

 

「嬉しいがね、今回のはアンタが出な。

それで撮影の内容なんだがね、ミラから何か希望はあるかい?」

 

 

『希望か?そうだな…私は…』

 

 

皆が固唾を呑みながら返事を待つ

 

 

彼女の出した結論は……

 

 

 

『私は皆が選んでくれた服なら全て喜んで着させてもらおう、聞けば毎年選りすぐりの案が出されるというし。

面白そうだからな、全部着ようじゃないか!』

 

 

「……そうかい、分かったよ。

明日にはアンタのところに案を持っていくから待ってな」

 

 

『承知した、では後日』

 

 

「じゃあね」ガチャ

 

 

しばしの沈黙が会議室を包み込む

 

 

「………だ、そうだよアンタ達。よく考えて決めな」

 

 

しばしの沈黙、そして

 

 

ウオオオオオオオオオッ!!!!

 

 

議事の間に男達の歓声が響いた

 

 

海兵たちはこの日、己の持てる全ての知恵を絞りポスターの撮影案を考えたという

 

 

 

 

……………

 

 

 

 

 

数日後、夕日の一番綺麗なマリンフォードの波止場で撮影は敢行された。

野次馬が屯する中あの時将校たちの選んだ服をミラは嫌がること無く全て着用し撮影を行い、終わる頃には夜もどっぷり更けていた。

後に撮影を行った専属カメラマン、アタッチャンは涙ながらにこう語る

 

「今までこの仕事をやって来て本当に良かった、ありがとう。それしか言葉が見つからない」

 

その後、その年の海兵志望者数は昨年の3倍に跳ね上がったという。

それに留まらず街角に掲載されていたポスターはことごとく誰かによって持ち去られ、追加で刷らざるを得なくなり。更に「この美人海兵は誰だ」等の問い合わせが海軍に殺到した。

そして五老星は予想外の事態を隠蔽するため奔走するハメになる。

また撮影時、一般には出回らなかったがミラが着たメイド服や着物姿等を収めた写真が海兵達の間で高額取引されているのをミラ本人は知らない

 

 

因みに同伴したセンゴクは撮影中ずっと頭を抱えていた

 

 

 

 








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10 悪役(予備軍)、祖龍と出会う 前


読む前にご注意

これから投稿する3話分のお話は若い頃のある悪役キャラが主に登場します、性格改変、原作との乖離が一層激しくなります。過去編だからって好き放題してます。そういうのやだって人はブラウザバック推奨

初めてシリアスに挑戦した結果がコレだよ!

3話分終わったらいつもの調子に戻るので、それまでお付き合いをば…

期間空いて申し訳ないです、仕事が繁忙期ゆえしばらく安定しないと思います。




バスターコールから数日経ったある日の昼下がり

 

 

 

「小姓を付けろ?老人共が?」

 

 

海軍本部の自宅、膝で丸まるイルミーナたんの頭を撫でながら本を読んでいた俺は素っ頓狂な声を上げてしまった。

 

 

「小姓って…ワノ国の人みたいな言い方するのね、さっき政府の人がやって来て挨拶だけでもって。

ミラが留守だったからまた訪ねて来るって言ってたわ」

 

政府絡み、嫌な予感しかしねえな

 

 

「分かった、ちょっと聞いてみる。

イルミーナ、頼まれてくれるか?」

 

 

「ん」

 

 

そう言って飛び起きたイルミーナはトテトテと俺の部屋まで歩いていって、俺と五老星専用の電伝虫を抱えて戻ってきた

 

 

「よしよしいい子だ、後でおつるさんの所にお菓子を貰いに行こうな」

 

 

「うん…!」

 

 

顔は無表情だけど尻尾をぶんぶん振って喜んでるの丸わかりなイルミーナ、身体は正直なんやなって

 

そんでもって受話器を取り五老星に繋ぐ、2コールもしないうちに出た。

爺さんたち暇なのかな

 

 

「五老星、ウチに政府の者を寄越したそうだな。何か用か?」

 

 

『そうだ、連絡が遅れて済まない。

実は君の所で暫く預かって貰いたい男がいてね』

 

 

「急だな…一体何があった?」

 

 

『なんでも君の活躍を見て息子を是非弟子入りさせたいと言っている。

我々としても当人に政府の人間としての自覚を持たせると共に将来の優秀な人材を育成する為それに賛同した次第だ』

 

 

政府の役人の卵が俺の所に…?

 

 

おおっと、ややこしい話になってきましたぜ。

 

入隊してから分かったんだが、海軍と世界政府は表っ面は協力しているように見えるが内側でかなり面倒な拗れ方をしてる。

 

表立って海賊をとっちめたり、取り締まったり、場合によっては殺したりする海軍。

裏で秘密裏に調査を行い、裏取りや場合によっては殺しも許可されている政府の諜報員と世界ウン10ヶ国の加盟国を束ねる世界政府。

 

海軍は世界政府の調査による裏付けが無ければ容易には動けないし、世界政府も海軍という『ヒーロー』が表立って動かないと暗躍しにくい。そんな感じでギヴ&テイクの関係を築いている。

でも海軍は政府を快く思っちゃいない、理由は天竜人がいるからだ。

世界の創造主(笑)たる天竜人の支援あって世界政府は動いてる。つまり株主の天竜人の言うことをある程度聞かなきゃならない。

但し天竜人は如何せんオツムが弱くて世界政府に無理難題をふっかける、政府はそれをそのまま海軍へ降ろす訳だから現場の苦労は想像に難くないでしょ?

 

とまあこんな感じで政府は半ば一方的に海軍へ権力を行使できるわけよ。

天竜人殴ったら大将が来るのもその一つ、「俺を殴ると海軍大将来っから」とまさに虎の威を借る狐、ジャイア〇に引っ付くス〇夫って所だ。

本当に護衛したいならウワサの『0』にでも任せりゃいい。元々天竜人専用の組織なんだから。

 

 

政府「天竜人サマのご意向だ、馬車馬のように働け海軍共」

 

海軍「現場の苦労も少しは考えろやゴラァ」

 

政府「マリージョアの護衛足りねえぞ、海兵から徴収してこい」

 

海軍「そっちに人割いたら海賊捕まえる海兵が足りなくなるんだよハゲ」

 

文句たらたらの海軍なのでした、コング元帥が執務室で唸ってる原因の80%はこれだろう。

 

管理職は現場の苦労なんて分からんもんね、社会の縮図かな?

 

そんなコインの裏表、決して混ざることない水と油、新〇組と〇廻組…これは違うか、の様な関係を保つ中、政府の役人の卵を海軍である俺が受け持ったらどうなるか……

 

絶対怪しい目で見られるよね、具体的にはスパイじゃね?って思うんですよハイ

 

 

でもなあ、五老星にはあの件があるからなあ…よし

 

 

「………………分かった、お前達にはステラの件もある。

その話に乗ってやろう」

 

 

実はちょっと前にステラたんの奴隷だった記録を抹消するように五老星に頼んでいた。流石世界最高のハイスペック老人達、次の日にはステラたんの奴隷だった記録は書類から何から綺麗さっぱり無くなっていた。

これでステラが再びマリージョアへ連れ出されることはないだろう、あっても俺がマリージョアごと消し炭に変えてやる(真顔)

 

 

『ああ、助かる。

では名を伝えておこう、我々の返事も待たずに彼はそちらへ飛び出して行ってしまったが…』

 

 

「随分せっかちな奴なんだな。で、名は?」

 

 

『彼の名はスパンダム。

嘗て君が消したオハラの島でバスターコールを発動したCP役人、スパンダインの息子だ。』

 

 

すぱんだむ…?

客寄せパンダみたいな名前だな、それにどっかで聞いたことあるような…?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は今、海軍のある将官の家の前に立っている。

親父が取り付けてくれたこの機会、海軍とのパイプを太く保つ為俺はこの家にやってきた。

 

 

 

 

事の始まりはバスターコールを終えてオハラから帰ってきた親父の一言だった。

 

「お前に相応しい仕事がある、五老星と連絡が取れ次第海軍に向かえ」

 

 

聞けば今海軍で話題の女准将を口説いてマリージョアへ連れてこい、だそうだ。

 

 

なるほど、容姿端麗(当社比)、頭脳明晰(自称)、文武両道(笑)の俺に相応しい仕事じゃ………て、コラ( )を付けるな!全部ホントの事だろうが!

 

 

\ええ〜ホントで御座るかあ〜?/

 

やかまっしゃあッッ!!

 

 

 

ご…ゴホン…!そんな訳で海軍とのパイプを作る為、俺はミラと呼ばれる准将の家へやって来ている。

小綺麗な家に住んでるじゃないか、ウチの豪邸とは比べ物にならないが庭も広いしなかなかいい所だ。

 

意を決してチャイムを鳴らそうと呼び鈴に手をかけた時

 

 

 

バーンッ!

 

 

「ドッッブェアァ!?!?」メシャァッ

 

 

ゴンッ!ガンッ!ザリザリザリ…ドカーンッ!

 

急に開け放たれた扉が迫ってきて顔面に激突し、俺は思いっきり後方に吹き飛ばされて頭から地面をスライド移動した後向かいの壁に激突した

 

 

「あ、やっぱり誰かいた。賊か?」

 

 

「ちょっ!?この人さっき訪ねてきた人よ!」

 

 

「マジか、じゃあコイツが五老星の言ってた……メディック!メディぃぃぃぃック!!」

 

 

「ォォォォ………」ピクピク

 

 

意識が途絶える直前、そんな感じの女の声が聞こえた気がした………ガクッ

 

 

 

……

………

…………

 

 

 

「………ん………ここは……?」

 

 

目を覚ました、ここは何処だ

 

 

落書きみたいな背景にクレヨンで書きなぐったような花がフワフワ浮いていてえらく子供っぽい空間だった

 

 

『此処はお前の夢の中だスパンダム』

 

 

「夢だとォ?巫山戯たこと抜かしてんじゃ…ね…ぇ…」

 

声のする方向へ振り向いて……激しく後悔した

 

背中に羽を生やした中肉中背の禿げたオッサンが歯ぎしりしながらパタパタと浮いていたのだから

 

 

「どおああああああああああああああああああっ!?!?!?」

 

 

『ああ逃げないで!ていうか引かないで、お願いだから引かないで!』

 

 

一目散に逃げ出した!

変態!変態だ!俺の夢に変態が出てきた!これはきっと悪夢だ!

覚めろ覚めろ覚めろ覚めろ覚めろ覚めろ覚めろ………

 

 

「ぎゃああああああああああああ変態だ!親父!親父ィ!不敬罪でコイツを縛り首にしてくれ!ていうかもうこの場で首を切り落としてくれ!」

 

 

『誰が変態か!落ち着きなっさい…おち…落ち着…イダッ!?

落ち着けっつってんだろうがッッ!!』

 

 

「どへぅッッ!?」

 

 

オッサンに顔面を殴られた、流石に平静を取り戻す

 

 

「ぐおおお…」

 

 

『やっと静かになったのっさ。

私はお前の刀、象剣ファンクフリードの精なのっさ』

 

 

「ファンク…フリードォ?

ざっけんな!ファンクフリードは俺の可愛い相棒だ!決してこんな加齢臭に塗れてそうな汚ぇオッサンじゃねえよ!」

 

 

『失礼なご主人様なのっさ!

…まあいい、私はこの場を借りて伝えたいことがあるのっさ』

 

 

「ああ?伝えたいことだァ?」

 

 

『ケモミミ幼女は大事にしろっさ。

ご主人様にはゴイスーなデンジャーが迫っているのっさ!』

 

 

何言ってんだこいつ

 

 

「何言ってんだこいつ」

 

 

『見事に気持ちと言葉が重なってるのっさ。

とにかく気をつけるのっさ!

政府の都合や親の意向なんかは今は忘れて、素直に彼女達に従うのっさ!

そうすればご主人様は………』

 

 

ああ!?最後の方が聞こえなかったぞ!もう1回言え!

 

 

……………

…………

………

……

 

 

 

「おい、おーい。大丈夫か?」

 

 

女の声…

 

今度こそ俺は目を覚ましたようだ、目の前には俺の顔を覗き込む美女が3人

 

 

「こ…此処は…」

 

 

「我が家の中だよ、さっきはすまんかったな。いつまで経っても入ってこないから賊かと思った。」

 

 

「泥棒だったら困るわよ…」

 

 

「どあ、すごい音した。壊れてないかな…」

 

 

オイ、俺よりドアの心配か幼女よ

 

 

 

「お前が五老星の言っていたスパンダムで間違いないな?」

 

 

「ああ…そうだ…そうです。

俺がスパンダムです…貴女は一体…」

 

 

「私はミラ、准将ミラだ。お前が弟子入りしたいと言った女だよ」

 

 

「あ…貴女が…ミラ……准将ォ…?」

 

マジか…この女が…

 

シミ一つないまっさらな肌に白い髪、整った顔立ちに真紅の瞳が印象的だ。

超絶美人じゃねえか!王族の娘にもこんなに綺麗な女はそうそういない、大層な上玉だ。

海軍の准将だっていうからてっきりゴリラみたいな女だと思ってたぜ

 

 

「なんか凄く馬鹿にされた気がするんだが…」

 

 

「エェッ!?き、気のせいですよ気のせい!」

 

 

 

 

 

 

「では改めて…自分は先日連絡したスパンダムと申します!これから宜しくお願いします」

 

 

斜め45度の完璧なお辞儀だった

 

 

「なんだ、随分体育会系なんだな…」

 

 

差し出した手をスパンダムも握り返す、やけに腰低いなぁ…

 

 

「で、お前は何故私の弟子になりたいだなどと言い出したんだ?お前は政府の役人なんだろう?」

 

 

「いえ、まだ役人ではありません。

半人前の身ですので。

将来の為、そして父を超える立派な諜報員になる為に五老星に掛け合い志願しました!」

 

 

キラキラと屈託の無い笑みを浮かべながら言うスパンダムは何故だか凄く胡散臭い。

…ん〜どうしよう、五老星の頼みだしなあ。ここまで来てもらってまた返すのもアレだし…海軍と政府の因縁とか色々面倒臭そうだしあまり気は乗らないけどこれも人間らしいおこないだ。

 

 

「分かった。ではスパンダム、これからお前は私の下で小姓…小間使いをやって貰う。

見たところお前はかなりナヨッとしているし、イルミーナと一緒に鍛えてやるから覚悟しておけ」

 

 

「はい!宜しくお願いします!」

 

 

「敬語はいい、面倒だろう。

一時とはいえ家族になるんだ、これから宜しくな」

 

 

「わかりまし…分かった。

ヨロシク、ミラさん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうそう。昨日ラクロワ准将と一緒に巡回に出かけた時なんだが、エレファントホンマグロが市に並んでいたよ、間近で見るとデカかったなあ」

 

 

「凄いわね、エレファントホンマグロなんて滅多に見る事が出来ないのに」

 

 

「まぐろ…?美味しい?」

 

 

3人はガールズトークに花が咲いてる

 

 

 

予想外の初対面だったが…無事俺はミラ准将の弟子になれたようだ。

 

部屋を与えられ、ステラっつー家政婦の作った飯を食卓を囲って食いながら今後の方針を考える。取り敢えずは下手に出る事にしたワケなんだが…あの女はあまりそういうの(上下関係)は気にしないらしい。

これからはあの人の傍で雑務をやらされるようだ。

正直この俺が雑務なんて堪ったもんじゃないが…これも将来の為だ、上に立つ人間は下の苦労も知らなきゃならねえ。

 

 

「それでな、ヤマカジ少将とオニグモ少将がしょうもない理由でいきなり斬り合い初めて……縦セーターと裸エプロンだったかな」

 

 

「……海軍の今後が心配になってきたわ…」

 

 

「からあげ…うま……」

 

 

俺は親父を尊敬しているし親父の様な偉い人間になりたいが()()()()()()()()()()()()()()()()()、俺は上手くやってやる…

 

 

「よし、腹も膨れたし表にでろスパンダム。稽古を付けてやる」

 

 

「…え?わ、分かった」

 

やべ全然話の内容聞いてなかった、とりあえず頷いとけ!

 

ミラさんに言われるまま満腹になった腹を擦りながら庭へ出たのが俺の運の尽きだった。

 

 

 

……………

 

 

 

 

「クハハハハハハハッどうしどうした人間ども!この程度では我に指1本触れられんぞ!」

 

 

「くっ…なんて気迫…」

 

 

迸る赤い雷がミラさんの周りを駆け巡る。

食後の運動と称した稽古だったんだが…なんだこれ

 

テンション上がったミラさんの前に俺とイルミーナっつー幼女は竹刀を片手に立ちはだかっていた

 

 

「海兵っつーかもう悪の大魔王みたいになってんじゃじゃねえか!

どーしてこーなった!?」

 

 

「無駄口はだめ…ほんきでいかないとみらは倒せない…!」

 

 

そう言って飛び出したイルミーナは手に持った竹刀で果敢にミラさんへ飛び込んでいく、雷光と斬撃飛び交う人間離れした剣戟を繰り返したあと打ち負けたのかこちらに弾き出されてきた。

 

 

「あう……次、すぱんだむの番」

 

 

「はぁ!?アレに飛び込めと!?」

 

 

「?そうだよ」

 

 

え?行かないの?って感じでキョトンとこっちを見てるがこんなのオカシイだろ!?なんでさも当たり前のように大魔王に挑み掛かって行くんだ、こちとら始まりの街を出たばかりの1道力村人だぞ!

 

 

「はやく、はやく」キラキラ

 

 

ヤメロォ!そんな純粋無垢な視線で俺を見てくるんじゃねェよイルミーナぁ……ちくしょう…ままよ!

 

 

「クソォ…やってやらああああッッ!!」

 

 

俺は形を成した絶望へと決死の覚悟で挑んだ

 

 

 

5秒後

 

 

 

「ぷ……ぷげら…ァァ………」

 

 

俺は全身打ちのめされて腫れまくった状態で庭に大の字にノびていた

 

……なんか遠い未来で同じ目に会いそうな気がする

 

 

 

 

 

 

「いでででででっ!も、もっと優しく…」

 

 

「痛いくらいが丁度いい、治ってる証拠だ。

まったく…イルミーナを見習え、あの程度じゃ息も切れんぞ」

 

 

あのぶつかり稽古を終えて、俺はボロボロになった(した)スパンダムを部屋に連れて介抱し、祖龍式電撃マッサージをして癒してやっている。

 

ワンピ時空なのに思ったより打たれ弱かったなコイツ。ワンピ時空なのに

 

 

「そりゃあの子は動物系の実を食ったんでしょ?身体能力が上がってて当然だ。」

 

 

「悪魔の実云々じゃない、気合いの問題だ。

とにかくお前は基礎体力が無いな、毎朝ランニングしているイルミーナに付いていくといい。いい運動になるぞ」

 

 

「へいへい…」

 

 

渋々と言った感じで答えるスパンダム

 

……ていうか俺、気付いちゃった。というか思い出した。

スパンダム、コイツ原作に出てきた悪役キャラだ。

古代兵器の力を得るためにCP9をウオーターセブンに送り込み、非道な手段を使って1人の船大工を陥れ死に追いやった卑劣漢。権力の権化みたいなゲッスい野郎。

 

ニコ・ロビンの件にも関わっててボコボコにされてた記憶がある、とにかく未来の重要人物(ゲスキャラ)だ。

 

だけど見た感じまだ権力に染まりきってないというか、青二才というか、原作ほどゲスくない。隠してるだけかもしれんが…

 

暫く様子を見た方がいいかなぁ、万一ステラやイルミーナを人質に取られたら困るし。

 

とにかく、弟子にすると言ってしまったものは仕方ない。面倒をみてやろう

 

 

 

「…そういやミラさん、俺の相棒…ファンクフリードはどこ行ったんだ?」

 

 

「お前の持っていた剣の事か?

確かお前が玄関でふっ飛ばされた時にイルミーナが拾ったハズだが」

 

 

ファンクフリードって言ったら…前に技術班にお邪魔した時実験してた「悪魔の実を物に食わせる」アレで生まれた象剣だったか、スパンダムの所有物になってたんだ。

 

 

「ファンクフリード?彼、イルミーナと一緒に庭で水を浴びてるわよ」

 

 

包帯の替えを持ってきてくれたステラがそんなことを言ってた、ファンクフリードはどうやらイルミーナに懐いたらしい。

ていうかまーたイルミーナはシャツとパンツ着たまま外で水浴びしてるのか、野生児過ぎんだろ。夜だからいいけど昼間だったらどうなってたことか…

 

表に出てみるとファンクフリードとイルミーナがキャッキャ言いながら水浴びを楽しんでた。

象と幼女が水の掛け合う、ファンクフリードの鼻から噴水みたいに水が噴き出してイルミーナは上機嫌

 

 

濡れ透けケモミミ幼女とか犯罪臭がヤバイ、アタッチャン来んなよ?絶対だぞ?

 

念のため見聞色で索敵索敵………よしっ異常なし

 

 

そんなわけで、スパンダムが仲間になった。

 



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11 悪役(予備軍)、祖龍と出会う 中


なんとか寝る前に投稿できた、スパンダム編その2です。

逆算するとスパンダムは19歳という設定です、若い!

そしていつも通りキャラ崩壊注意


 

「ちょっ…待っ……死ぬ…イルミー…ナ…」

 

 

「…まだ4周しかしてない、がんばって」

 

 

息は切れ、足はガクガク、痛くなるのを通り越して最早何も感じなくなった脇腹を抑えながらへたりこんで息を吐く

 

 

「4周って……海軍本部の外周何キロあると思ってんだ…よ……」

 

 

「…?わたしは毎朝10周してるけど…」

 

 

バケモンか!

 

 

「死ぬ…死んでまう…」

 

 

「じゃあ帰ろ、あさごはんできてると思うから」

 

 

ヒーヒー言う俺を引きずりながらイルミーナは自宅へ戻って行った。

聞いてねえぞ…朝の軽いランニングが……海軍本部の外周を10周なんて……

 

 

 

 

 

◆ここから弟子入りしたスパンダムの様子をダイジェストでお楽しみください◆

 

 

…………

 

 

「喜べスパンダム!今日の稽古相手を連れてきた!」

 

「まさかその後ろに連れてる化け物が稽古の相手とか言うんじゃ…」

 

「良くわかってるじゃないか、ベガパンクの所から借りてきたポチ(キメラ)だ。よし行けポチ!」

 

aaaaaaahhhhhhhhhhh!!!

 

「ちょっ…待っ、この世ならざる叫び声上げてる!喰われる!

アーーーーッ!!」

 

 

…………

 

 

 

「今日はとある島に行って滝修行するぞスパンダム」

 

「…………(絶対ろくな事にならねえ、でも滝修行ならギリギリ生き残れるか…)」

 

「着いたぞ。ここはライジン島って言ってな、雷の流れる滝が有名なんだ。

一緒に撃たれて心頭滅却しようじゃないか!」

 

「心頭滅却の前に身体が滅却されるわ!

ちょっ……まっ…アーーーーッ!!」

 

 

…………

 

 

「なあスパンダム、重力100倍の部屋を作ってその中で修行するのと精神世界に潜って『俺自身が…ファンクフリードになる事だ…』って台詞がでるまで剣と一体化する修行どっちがいい?」

 

「怖っ!どっちも嫌だわ!」

 

「ダメかぁ、じゃあこのベガパンク特製『死ぬ気弾』をお前の額に撃ち込んで………」

 

「待って、何おもむろに撃鉄を上げてるのミラさん!」

 

「でえじょうぶだ、一回死んで生きけえれる」

 

「大丈夫じゃない!全然大丈夫じゃな……アーーーーッ!!」

 

 

…………

 

 

 

◆以上、回想でした◆

 

 

 

 

 

……俺がミラさん宅にお邪魔して3ヶ月ほど経った。基礎体力が無いと言われた俺は毎朝イルミーナと共に海軍本部の外周を走り、死にかけの状態で朝食を食べ、そのままミラさんと一緒に本部で仕事をする。

勤務中も合間を縫っては怪物と戦わされたり謎の人体実験の生贄になりそうになったりハチャメチャだ。

疲れ果て、夕食後の稽古は俺の意地と努力の甲斐あって生存時間が5秒から20秒位にまで延びた。生きてるってスバラシイ。

 

仕事は殆ど書類なのが幸いだ、書類の処理なら苦にならないからな。

ミラさんに付いて回れば必然的に他の将校たちとも出会う、それにより俺は着々と顔を広めていった。

 

当初の目的通り海軍内でも俺の存在は広まりつつある。あのミラ准将が弟子を取った、と言うことで色々噂されているようだ。因みに政府の役人である事は秘密になってる、面倒事は避けたい。

たまにすれ違う将校たちからスゲエ睨まれる気がするんだが…なんかしたか俺?

 

 

 

◆ーーーーーーーーー◆

 

 

「ミラ准将の傍にいるあの男一体…」

 

 

「俺だってあの人の部署で一緒に働きたいのに…うらやまけしからん!」

 

 

「私だって、ミラ准将を『お姉様』と呼んでお慕い申し上げているのに…」

 

 

「俺だって…ミラ准将にあのブーツで思いっきり踏んで欲しいぞ!」

 

 

「あ!サカズキ中将!

ミラ准将に近づこうとする変態が居ます!連行しますね!」

 

 

「しまった!?だが我々の業界ではご褒美……あああああああ…」ズルズルズル

 

 

「悪は潰えたのお…」

 

 

 

今日も海軍は平和だった

 

◆ーーーーーーーーー◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………で、それがお前の経過報告かスパンダム」

 

 

「ああ、上手いことミラさんに取り入って色々良くしてもらってるよ」

 

 

俺は今、ミラさんに許可を貰って一旦聖地マリージョアにある我が家に帰ってきてる。

マリージョアは天竜人の住む土地だが政府上層部の人間やその家族達が住む事も出来た。

俺はここで生まれ、何不自由すること無く今まで生きてきた。

 

 

「そうか、そのまま媚を売り続けとけ。あの女は将来使える、そのまま上手く嫁にしてマリージョアまで連れて来るんだ。そうすりゃお前も安泰だろう」

 

 

「……分かった」

 

 

世襲によって俺の将来は約束され、食い扶持に困るなんてことは絶対に無いだろう。

俺は勝ち組だ、努力なんてしなくてもなんでも手に入る。

でもそれは同時に〝生きてから死ぬまで何も目標が無い〟って事だった。

この生活に慣れきってそのまま歳を取ればこんな感情なんて消えてしまうんだろう、でも今の俺はただただ与えられるまま地位を得て楽な方向へ進むのに僅かな抵抗を感じていた。

 

 

「いい女の奴隷も飽きる程抱かせてやったんだ、戦闘しか脳の無さそうな小娘1人さっさと手篭めにして帰ってこい」

 

 

「……あの人はそう簡単には落ちねえ、一緒に居たから分かる。もう少し時間をくれよ。」

 

 

「……〝最終手段〟を使わせる気か?」

 

 

「ッッ!!」

 

 

…ミラさんが大人しく俺達の所有物にならなかった場合、ミラさんに近しい人物を攫って人質にする。そう親父は言っていた。

マリージョアに連れ去られるって事は奴隷になると言う事、身内が奴隷になる恐怖を見せつけられたら誰だって屈してしまう。

…そんなんで無理矢理言うこと聞かせても絶対ぇロクなことにならない未来が見える。

それにあの人を絶対怒らせちゃいけない、そう俺の本能が訴えてた。

 

 

「そんなことする間でもねえ、ミラさんは俺の物にする。約束するさ」

 

 

強がりを言っちまったが、正直あの人は『誰かのモノ』になるなんてタマじゃ無い。

でもこうでも言わないと親父は直ぐにでも諜報員に命令するだろう

 

「イルミーナをマリージョアまで攫ってこい」と

 

既にミラさんの家族の素性は親父の下へ知れ渡っている。勿論ステラとイルミーナの事も事細かに調べ尽くされた、ステラの方は上から詮索を止められたらしいがイルミーナの方は筒抜け、西の海(ウエストブルー)出身の捨て子で悪魔の実の能力者って事も知られてる。

 

CPの諜報員は腕の立つ超人揃いだ、この屋敷の警備も務める親父お抱えの部隊もいる。そんな連中を親父は手足のように使える、CPは実質親父の私兵と化していた。

 

唯一違うのは…親父の隣で鋭い視線を俺にぶつけているラスキーくらいか、彼は危険な仕事の多い諜報員で俺の知る限り唯一婚約していて、7歳の娘がいる。

昔親父伝いで挨拶に行ったが会った途端「セクハラです」と吐き捨てられた記憶がある、辛い。

 

親父とラスキーは腐れ縁の友人のような関係だから只の部下とは少し考え方が違うみたいだ。

 

 

「ならお前を信じて待とうじゃないか、期待してるぞ息子よ」

 

 

納得した親父に内心ホッとため息を吐く

 

 

「ンだよラスキー、俺の顔になんか付いてるか?」

 

 

「……いや。海軍へ降りてから久しいが、少しはマシな面構えになったじゃないか、見直したぞスパンダム」

 

 

「…はあ?何言ってんだか…」

 

 

ラスキーは僅かに笑っているようだった、なんのこっちゃ訳が分からん

 

 

 

何にせよ、無事報告を終えた俺はマリージョアを後にした

 

 

 

 

…………………

 

 

 

 

 

 

 

で、またミラさんの家の前まで帰ってきた。さっき親父と手篭めにするだの堕とすだの話した手前、顔を合わせるのが躊躇われるがドアノブに手をかけた時、扉は内側から勝手に開け放たれた。

 

……今度はちゃんと避けたぞ、成長した!俺!

 

 

「お、スパンダム。戻ってたのか。

おかえり」

 

 

「ああ、ミラさん…ただいま」

 

 

笑顔で迎え入れてくれたミラさんに招かれるまま家の中へ入る、今日の夕食はステラとイルミーナが新しい料理に挑戦したらしく夢中で喋るミラさんの後ろ姿を見ながら台所まで歩いていった。

 

 

「あら、スパンダム。おかえりなさい」

 

 

「おかえり、すぱんだむ。

ふぁんくふりーども待ってた」

 

 

パォォォォ

 

 

台所に入ったらステラとイルミーナ、そして剣状態で顔だけ出したファンクフリードが笑顔で出迎えてくれた。

この1ヶ月、いつも夕食は一緒に取る。偶にガープ中将や他の中将達が同席することはあるが基本この4人と1匹だ。

 

食卓に並ぶのは決して豪華とは言えない料理の数々、でもなんだかしっくりくる。

これまで贅沢な食事はたらふく食ってきた、けどこの家で食う料理はどこが違う暖かみがあった。

 

実家には無くてこの家にあるもの……ああそうか

 

俺は実の父親にも、家族の誰からも「おかえり」なんて言ってもらえたこと無かったなあ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スパンダムは深夜、ひっそりと部屋を抜け出した。

いつもならトレーニングと雑用の疲れでスグに寝付けていたのだが、今日は父親の元に戻って席を外していたためなかなか寝付けず、庭で酒でも煽ろうかと企んでいた。

 

 

「あれ、すぱんだむ」

 

 

「なんだイルミーナじゃねえか、ガキは早く寝ろよ」

 

 

「おたがいさま」

 

 

酒を持ち、いざ庭の縁側に腰掛けようとした時、同じく左手にオレンジジュースを持ったイルミーナの姿があった

 

2人で縁側に座り、月を見ながら黙り込む

 

 

話題が無い、気まずい

 

 

しばしの沈黙、先に破ったのはスパンダムだった

 

 

「なァイルミーナ。お前、ミラさんとどんな関係なんだ?

血は繋がってねェんだろ?」

 

 

実は既に諜報員から聞き知っている事だが話題作りには丁度いい、そう思い軽い気持ちで切り出した。

 

 

「うん、わたしは拾われ子だから。

ずっとむかし、みらに拾われたの」

 

 

「そ、そうか……」

 

 

よく考えたらやっべえヘビーな話題振っちまったと後悔するスパンダム、このあたり原作ばりのドジが見て取れる。

 

 

「そ、そうか…すまねぇ急に嫌な話題振っちまって…」

 

 

「…?いやじゃないよ。

みらもすてらも優しいし、かいぐんの人たちも、わたしに良くしてくれてるし」

 

 

「そ…そうか…じゃあイルミーナの目標ってなんなんだ?」

 

 

「……うーん、わたしにはみらしかいないから。

あの日、わたしを獣から人に戻してくれたみらのために残りの人生をつかうってきめた。だからわたしの目標は…みらとずっと一緒にいること。」

 

 

幼いながら決意に満ちた瞳だった、子供だから茶化してやろうかとも考えていたスパンダムは少し反省してしまう。

この娘は自分なんかより余程大人だ、と

 

 

「そうか…面白ぇ目標だな」

 

 

「すぱんだむは?」

 

 

「俺?俺はなあ…秘密だ」

 

 

嘘だ、甘ったれた自分には目標も志も持ち合わせてはいない。彼はそれを笑って誤魔化した

 

 

「……ずるい」

 

 

「いい大人にゃ秘密が多いんだよ」

 

 

「ぶー…」

 

 

それっきり2人は黙ったまま、月を見ながら酒とオレンジジュースを煽っていた

 

 

「(こんなガキでさえ立派な目標持ってんのに、俺は一体…)」

 

グビリと酒を煽る

 

育った環境の違い。何もかも持っているはずの自分が唯一持っていないものをイルミーナは持っている、小さいが決して埋めることの出来ない決定的な〝差〟に若きスパンダムは打ちのめされていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ある朝、いつものように4人と1匹で食卓を囲っているとミラさんに頼まれた。

 

 

「私はこれからサカズキ中将と任務で暫く家を空ける、ステラも仕事に行って居ないから昼間イルミーナと一緒に留守番をしててくれ。

ボルサリーノ中将も仕事が終わり次第家に顔を出すそうだからヨロシク」

 

 

「おるすばん?」

 

 

「ああそうだ、スパンダムと一緒におりこうさんにしているんだぞ?

ボルサリーノおじちゃんも来てくれるからな」

 

 

「うん、わかった」

 

 

「ごめんねスパンダム、イルミーナをお願い」

 

 

「ああ分かった、留守番してる。

2人とも気を付けてな」

 

 

食器を片付け、2人を見送ってからイルミーナと一緒に軽く(イルミーナ基準)運動し激しく疲れた後、一風呂浴びてリビングで寛いでいた。

 

 

「ステラが食べていいって言ってたプリンこれか?」

 

 

「ぷりん!食べる!」

 

 

イルミーナが尻尾をぶんぶん振りながら駆け寄ってきた。こういうの見てるとコイツまんま犬だわ、絶対狼じゃねえと思う

 

 

「三つあるんだが…残りはボルサリーノさんのか。

残しとかねぇと機嫌悪くなるんだよなあのヒト」

 

 

留守番する俺達の為にステラが作り置きしてくれたプリンを皿に乗せ、さあ食べようとスプーンを取った時

 

 

ドンッドンッドンッ!!!

 

 

閑静な住宅街に似つかわしくない銃声が響いた。数は三発、かなり近い!

 

 

「「ッッ!?」」

 

 

イルミーナは思わず顔を上げ、ぴくぴくと耳を震わせる

 

 

「……いまの銃声、ちかかった…!」

 

 

「あっ、おい。イルミーナ!」

 

 

凄い勢いで玄関から飛び出していくのを目で追って俺も我に帰る。此処は海軍本部、しかも海兵の家族達が住む居住地だぞ!?こんな真っ昼間から銃声なんて有り得ない…!

 

 

「ヤベェんじゃねえか…?」

 

 

俺は嫌な胸騒ぎを覚え、ファンクフリードを掴み取り様子を伺うようにして玄関を出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

???side

 

 

 

 

 

人生ってのは残酷だ。突然の出会いに別れ、生きてりゃ色んな事がある。

時代のうねり、人の夢、それは人が生きている限りとめどなく繰り返される。言ってみりゃ自然の摂理って奴かも知れない。

 

…だが〝奴隷〟は違う、コイツだけは確実に違う。人間によって生み出された腐った制度、人を人で無くしてしまう悪魔のような決まり事。

偉いヤツらはそれをさも当たり前のように思ってやがる。

 

テメェ等の都合で人生を滅茶苦茶にされた奴の気持ちが分かるか?

大切な恋人を、家族を人間で無くしてしまう絶望が連中には理解できないだろう。

 

 

 

俺は海賊だった。仲間と共に海を暴れ周り、思うままに奪い、思うままに殺しもした。ひとつなぎの大秘宝を求めて沢山の部下に恵まれた。

そんな家族にも等しい俺の部下達をたった1人で壊滅させ、俺を叩きのめした奴がいた。

そいつのせいで部下は皆捕えられ、唯一逃げ延びた俺も人攫いに捕まった。

 

 

俺は奴隷になった

 

 

毎日が地獄のような日々だった。殴られ蹴られは日常茶飯事、クシャミしただけで撃ち殺される同僚の奴隷達、いつも死の恐怖に怯えながら連中を前に這いつくばって一日を過ごす。耐え難い苦痛だ。

耐えきれなくなったある日俺は一瞬の隙を突き、手枷を自慢の鍵外しを使って逃げ出した。幸い拘束具は手枷のみだったので簡単に逃げ出すことができた。

 

なんとか逃げ切った俺の心は部下を失った悲しみと、連中への憎悪で一杯だった。そんな時どこからか現れた黒服共が俺に最後のチャンスをくれた

 

説明を1通り聞き終わり、自分でも反吐が出るようなどす黒い笑いを出す

 

小娘1人攫うついでだがこれでアイツに復讐できる、俺と同じ苦しみを奴にも味わわせてやる。

 

家族を失う悲しみを、大切な人を無くす苦しみを

 

 

 

 

 

海軍本部大将ゼファー、あいつに思い知らせてやる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昨夜

 

 

 

 

「で、上手いこと唆したと」

 

 

「ハイ。予定通り明日、警備に穴を開けます。

そのスキにつれ去る様に、と」

 

 

「ご苦労、行っていいぞ」

 

 

報告を終え、黒服の諜報員が部屋を出ていく。

スパンダインは満足そうに頷いて手元のワインをグラスに注いで一気に飲み干した。

 

 

「…良いのか、スパンダムに言わなくて」

 

 

「んだよラスキー、アイツが遅いのが悪いんだ。お前は何も気にせずに娘を旅行に連れて行ってやれ、その為の長期休暇だろ。

んで、帰ってきたら優秀な部下が一人増えてるかもな」

 

 

「…そうか」

 

 

そう言って下衆な笑いを浮かべる腐れ縁の友人をラスキーは一瞥し、荷物を纏め去っていく

 

 

「じゃあなスパンダイン、来週には戻る」

 

 

「おうおう、楽しんでこいや」

 

 

パタン…

 

 

 

ラスキーが去り、扉が閉められたのを確認するとスパンダインは再びワイングラス片手にくっくと笑いを堪えていた。

 

 

「復讐に溺れた奴ほど扱いやすいものは無ぇなァ、ご近所だったのが幸いだ。

さっさと連れてきてくれねえからよォスパンダム……可愛くて馬鹿な息子よ。

じゃなきゃあ、カワイイあの娘が大変な事になっちまうぜ?」






次回、皆様お待ちかね



彼は真なる祖に喧嘩を売った


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12 悪役(予備軍)、祖龍と出会う 後

スパンダム編クライマックス、原作キャラ死にますので注意!


次回からいつもの感じに…出来ればいいなあ


銃声を聞き、飛び出したわたしはすぐに隣りのまりあさん家に駆けて行った。

信じたくないけど銃声はお隣さんの家の中で聞こえた、信じたくないけど……まりあさんとじぇいくの悲鳴も聞こえた…。

つまり…2人が危ない……!!

 

 

正面玄関の扉には鍵がかかってなかった、それに泥だらけの靴の足跡が廊下についてて…

 

 

「2人とも!だいじょう………ぶ…」

 

 

床にはお腹から血を流して倒れてるまりあさん、それにボコボコに殴られて腫れぼったじぇいくの姿が目に映った。

 

 

「あ?テメェ…見たな?」

 

 

男がこっちを向く、ボロボロの服装で歯は所々抜けてる。ボサボサの髪がまるで浮浪者みたい…

 

 

「あなた……だれ…?」

 

 

男は片手にピストルを持ち、腰に剣を携えて、まるで焦点の合ってない目でこっちを見てる…正直すごく怖い。

 

 

「…テメェ、写真の娘だな…分かりやすい見た目してやがる。

復讐も済んだ、お前を連れて帰りゃ俺は晴れて自由の身だ!」

 

 

「…!!」

 

 

飛びかかってきた男から咄嗟に横に飛び退いて避けた。

その後も闇雲にわたしを捕らえようとするこのひとから逃げ続ける。

はやく2人を治療しなきゃ命が危ない、急いでこの人を気絶させるかして倒さないと…

 

 

「チョコマカ動き回りやがって…なら…これでどうだ?」

 

 

そう呟いた男の足元にコロンッと何かが転がった、そこから煙が吹き出してあっという間に部屋中に広がってく。

 

……あ、あれ………だんだん視界がぶれて…上手く立てない…

 

バランスを取れなくなって思わず尻餅を着いた、足に力が入らない。

 

 

「頭が…ふらふら……するぅ……」

 

 

「対獣用の昏倒ガスさ、人間にゃ効かねえからケモノのお前には丁度いいぜ…手間掛けさせやがって!」

 

 

「ぁうッ…」

 

 

思いきりお腹に蹴りを食らった、部屋の壁に激突して起き上がれない。視界がぐるぐるまわって上も下も分からなくなる…

 

ぁ…だめ…いしきが……保てな………

 

 

 

 

 

 

「やっと静かになったか…」

 

 

意識を失ったイルミーナに海楼石でできた手錠を嵌め男は一息ついた。

彼は言われたのだ。憎きゼファーに復讐するなら手を貸してやる、その代わり海軍本部の居住地にいるある娘を誘拐して来い。と。

黒服達に言われるまま指定された場所へ行くとご丁寧に剣と銃、そして動物用の麻酔薬が濃縮された煙玉が用意されていた。聞けば誘拐する娘は動物系の能力者らしい、海楼石の手錠も渡された。準備は全て整って男は万全の状態で復讐へと乗り出す事ができた。

 

 

「あっけねぇなあ、復讐なんてこんなモンか」

 

 

銃弾を3発も撃ち込み、血だまりを作って床に伏せるマリアを男は一瞥する。ボコボコに殴られ顔面が三倍程にも膨れ上がったジェイクも痛みで気を失っていた。

 

 

「恨むんなら俺の仲間をバラバラにした旦那を恨むんだな、奥さんよ」

 

 

放っておいてもこの女は出血死するだろう。予想外の抵抗にあい思わず発砲してしまったし、騒ぎを聞きつけて人が来るのも時間の問題だ。

この娘を連れて一刻も早くここから立ち去らねば…

 

その時、マリアの身体がピクリと動く。

 

まだこの女は生きている、彼の身の内から並々ならぬ憎悪の感情が溢れ出た。

 

自分は部下を失ったのに

 

何故お前は平和に家庭を作ってる?

 

これは只の逆恨みである。思うままに海賊をし、結果捕まって罰を受けたのは彼の自業自得だ。

 

だが今の彼を突き動かすには充分過ぎた。

 

 

殺してやろう

 

俺から仲間を奪ったように

 

アイツにも家族を失う悲しみを

 

 

「味わえゼファー……ッ!」

 

 

憎々しく呟いて引き金を引き、マリアへと銃口を向けた。

 

 

 

 

その時

 

 

 

 

バオオオオオオオッ!!!

 

 

突然象の鳴き声が響く、それが何処からくる声か確認する暇もなく男は巨大な鼻に叩き飛ばされた。

横殴りにされた彼はリビングの大窓を突き破り道路へと弾き出され見えなくなる。

 

 

「………テメェ…何やってんだ…」

 

 

叩きつけられた衝撃で朦朧とする意識の中、男はそんな声を聞いた。

 

 

「そいつ等に触んじゃねえよクソ海賊があああああああッッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「オイ3人とも!しっかりしろ」

 

ファンクフリードで男を家の外へ吹き飛ばし、慌ててイルミーナ達の下に駆け寄る。

幸い目立った外傷はないようだ、だが海楼石の手錠を嵌められているから殆ど無防備と同じ、油断できねえ。

問題はこっちの2人だ、たしかゼファー元大将の息子と嫁だったか。

息子はただ殴られただけで打撲程度だが嫁さんの方はひどい重症だ、腹を3発も撃たれてて血もかなり流れてる。今すぐ医者に診せないと命が危ない!

 

 

「クソ…どうしてもっと早く動かなかった…!」

 

 

様子を見てから行こうと判断した数分前の自分をぶん殴ってやりてえ…判断を誤ったが故にこのざまだ。

 

窓を破ったことにより空気が循環し始めてイルミーナを昏倒させたガスは抜けてきた、俺はその元凶の煙玉を見やる。

これは猛獣を仕留める時にハンターが使うような強力な代物だ。

こんな特殊なモンその辺の海賊が持てるもんじゃねえ、それにあんな物を持ってたってことはイルミーナが動物系の能力者だと予め理解した上で行動に及んだってことだ。

 

だとしたら…

 

 

「親父か…親父が企んでんのか…」

 

 

麻酔玉に海楼石の錠

こんな高価な物を簡単に取り揃えられるのは…親父しかいない…!

きっとあの男もいいように金で雇われた海賊なんだろう、此処へも入ってこれるように手引きしたんだ。

じゃなきゃ常時厳戒態勢の居住区まで海賊が入り込めるわけがない。

 

 

「ふざけんな…親父…。

俺がやるって言ってんだろうがッ……」

 

 

こうならないために親父と話したのに、結局こうなっちまうのかよ……

 

 

取り敢えず嫁さんを止血だ。

医者じゃないから完璧とは言えねえが俺なりに頑張って応急処置を施した。

 

 

「……ぅ」

 

 

「!?オイ!大丈夫か!?俺が見えるか!?」

 

 

「貴方……ミラさんの所の…スパンダム…くん……?」

 

 

「ああそうだ。もうこれ以上喋って体力を削るな!ここでじっとしてろ、スグに医者が助けてくれる!」

 

 

なるべく負担が少なくなるように手近にあったクッションを敷き嫁さんを床に寝かせ、奴を追って外に出ようとした時、服の裾をマリアに掴まれた

 

 

「あの人…夫の友人だって……家に押し入って来て……急に銃を持ち出して…撃たれたの……。

彼…これは復讐だって言ってた……ゼファーも同じ目に合わせてやるって…」

 

 

「ッッッッ!!…分かった…もう喋るな、ホントに死んじまう…!」

 

 

泣きながら必死で話す嫁さん。

そうか……海賊を焚き付けたんだな…。

海賊は単純な生き物だから、それを上手く利用したんだ。『お前もこれくらいできるようになれ』って前にも同じ事を俺に教えてくれたよな。

だが今回は、自分の手は汚さずに…関係無ェ奴を巻き込んで……親父ィ…

 

 

「この野郎…この野郎この野郎この野郎この野郎オオオオオオッッ!!」

 

親父…アンタは…

 

 

「フッざけんじゃねえええッッ!!」

 

 

力の限り叫んだ

 

 

この悲劇の引き金を引いたのは全て親父だ、俺の家族だ。

ゼファー先生の嫁さんと息子がこんな目にあったのも、イルミーナがあわや攫われる直前にまで追い込まれたのも。

 

俺を傍に置いてくれたミラさんを裏切っちまったのも

 

 

全部……俺のせいだ

 

 

「なんでだ親父!ミラさん1人連れて帰れば済んだ話だろォ!

なんで…関係ねぇ奴までこんな目に…なんで………」

 

 

やはりあの時ミラさんを連れて行くのは止めておけと親父に進言するべきだった。

それを俺は自身の甘さで誤魔化した。

情けない、後悔と自責の念で頭がおかしくなりそうだ。

 

 

その時ガラリと瓦礫の崩れる音がした、どうやら吹き飛ばした海賊が目を覚ましたらしい。

 

 

「まだ生きてやがる……海賊風情が…」

 

 

ファンクフリードを握って海賊に向かって走り出す。

取り敢えずはアイツを殺す、イルミーナ達をこんなにしたクソ海賊をぶち殺す、必ず殺してやる!

 

 

「この…クソ海賊がああああああっ!」

 

 

頭に血が上って猛進してくる俺に驚いたのか海賊は一瞬怯んだように見えたが直ぐに持ち直し、コッチに銃口を向けて来た。

続く銃声、海賊の放った銃弾が足に当たって俺は大きく転倒した。それでもアイツを殺してやりたい一心で足を引き摺って近づこうと必死にもがく。

 

 

「ファンクフリード!アイツを…あのクソ海賊をぶち殺せぇ…『象牙突進(アイボリーダート)』ッ!」

 

 

バオオオオオッ!!

 

 

俺の怒りに呼応するようにファンクフリードが伸び、剣になった鼻が大きく海賊の身体を切り裂く。

胸から血を吹き出しながら悲鳴を上げる海賊、しかし急所を外したようで吹き飛びながらも傷口を抑えながら奴は逃げて行く。

あの距離はファンクフリードの射程外だ!

 

あのクズを逃がしてしまう!

 

 

「クソッ!動けっ!」

 

 

でも足は動かない、諦めかけたその時

 

 

 

「んん〜?おかしいねェ~…なんで此処に海賊がいるんだい?」

 

 

まるでマフィアのような格好をした男が…ボルサリーノ中将が海賊の前に立ちはだかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありゃあ、ゼファー先生の家がとんでもない事になってるよォ〜。

護衛はなにやってんのさァ」

 

 

呑気にそんな事を言いながら窓の吹き飛んだゼファー宅を見るボルサリーノ、予定より早く仕事の片付いた彼はステラのプリンを楽しみにしながらミラの家に向かっていた。

そして家までたどり着いた時、汚い格好をした男とスパンダムを発見したのだ。

 

 

「ありゃあ、スパンダム君だっけ。

大丈夫かい?」

 

 

「これが…大丈夫に見えますか…」

 

 

息も絶え絶えのスパンダムを見ながらボルサリーノは考えを巡らせる。

取り敢えず目の前の海賊っぽい奴に目を向ける。彼も長いこと海軍として海賊を狩り続けてきた身だ、雰囲気で大体この男も海賊だと理解した。

 

 

「お前さん、ちょ~っとあっしと任意同行してもらえるかイ?

まあ断ったら、それはそれで…(パンパンパンッ

あァ〜、いい返答だよォ」

 

 

返答がわりに海賊の撃った弾丸はボルサリーノの身体をすり抜けていった。

ボルサリーノはピカピカの実を食した光人間、普通の銃弾など効くはずもない、だがこれで彼は確信がいった。

海軍本部の居住区に無断で立ち入り、ゼファー先生宅を破壊、ついでにミラ准将の弟子を負傷させたこの海賊は。

 

 

「これは前にミラちゃんが言ってた〝正当防衛〟ってヤツだねェ、死んどきなよォ〜」

 

 

一瞬の出来事だった、文字通り光速で移動したボルサリーノは海賊の頭にかかと落としを御見舞し顎から地面にめり込ませた。衝撃で道に大きな亀裂が入る。

 

頭部が陥没する程の衝撃、勿論即死。

たった一撃で海賊の復讐劇は幕を閉じた。

 

 

「やれやれ、何だったんだい今の奴ァ。

……あらァ、ゼファー先生の奥さん撃たれてるよォ。不味いねェ~、医療班に電話と……スパンダム君電伝虫持ってない?」

 

 

「緊張感皆無か!!」

 

 

「こういう性格だから仕方ないよォ〜」

 

 

 

さっきまでの緊張感はどこへやら、ツッコミを入れる元気を取り戻したスパンダムは改めて海軍中将の強さを認識した。

 

 

 

その後、マリアとジェイク、イルミーナは呼び出された医療班により直ぐに搬送されなんとか事なきを得た。

脚を撃たれたスパンダムも暫く入院するようにとお達しがあり渋々ながらも承諾。

 

それよりも問題になったのは海賊が海軍本部に単独侵入したという事実、直ぐに元帥コングは原因究明に乗り出した。捜査班が調べた結果、ゼファー親子が襲われた時間帯のみ居住区警備のシフトにぽっかりと穴が空いていたのだ。明らかな陰謀の香りを感じ取ったコングはこれを五老星に報告した。

 

まもなく五老星による情報提供で、襲撃した海賊は元奴隷である事実、それからイルミーナに嵌められた海楼石の手錠の製造ナンバーから割り出したところ、裏で手を引いていたのがスパンダインだという証拠を入手した。

しかし彼はCPの高官である、政府の諜報員を海軍が逮捕する事は法律的に難しかった。元は政府主導で作成された政府に都合の良い法律だからだ。

 

証拠はあるのに治外法権故に手は出せない、皆が歯痒い思いをする中。

言わずもがな居住区襲撃の話は彼女の耳にも届いていた。

 

 

 

 

そう、祖龍ミラルーツ(ミラ准将)の下に

 

 

 

 

……………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「入るぞ」

 

 

 

「ああ」

 

 

スパンダムの短い返答、ミラは静かにドアを閉めて部屋に入った。

いつも通りバトルドレスに海軍のコートを羽織って、いつもの凛とした佇まい。だがこの時だけはほんのわずかだけ哀愁が満ちているように見える。

 

 

「脚はどうだ?」

 

 

「ゼファー先生の奥さんに比べりゃマシさ、完治まで時間はかからねえよ…」

 

 

「そうか、イルミーナは?」

 

 

「別室で寝てる、腹を蹴られただけで目立った外傷は無ェから心配無ェ」

 

 

「……そうか」

 

 

スパンダムとイルミーナの無事を安心し、ひと息吐いたミラはスパンダムの目を見て静かに話を切り出した。

 

 

「………何があった」

 

 

沈黙、スパンダムとミラは見つめ合いながら互いに黙ったままだ。ミラはじっとスパンダムの返答を待っている。

 

 

「……俺の……せいだ」

 

 

遂に、スパンダムが口を開いた。

 

 

「俺の…親父のせいだ……!

親父がッ……ミラさんをマリージョアに……連れてッ来る為に''……イルミーナを攫おうと''……ゼファー先生の''奥さんと息子まで巻き込んでッ……」

 

 

嗚咽混じりのスパンダムの証言にただただ無表情でミラは話を聞いている。

 

 

胸の内に秘める思いをスパンダムは涙と共に吐露していく。

 

そして最後にミラが一番聞きたくなかった台詞がスパンダムの口から漏れた。

 

 

「俺が……ミラさん所に来なけりゃ…こんな事には…」

 

 

「もういい黙れ」

 

 

「……ぇ」

 

 

ミラによる突然の静止、思わず間抜けな声を上げる。

スパンダムは何が起こったのか分からなかった。上半身を包まれる温かくて心地良い感覚。

彼はミラに抱きしめられていた。

耳をすませばミラの心臓の音まで聞こえそうな程近い距離。

 

 

「ありがとう、私の家族を救ってくれて。

そして許して欲しい、お前の事を少しでも疑っていた私を。後で好きなだけ罵倒してくれたって構わない。

だから……」

 

 

お疲れさん。

今はもう休め、後は全部私がやる。

 

 

 

ミラの言葉にとうとう我慢出来なくなったスパンダムは涙を溢れさせながら力尽きるまでミラの胸の中で泣き続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

泣き疲れ寝てしまったスパンダムを横に寝かせ、同伴しているステラからイルミーナの容態を確認した後、ミラは病室を後にした。

すれ違う度看護婦や医師をビビらせながら無言で廊下を歩く、その背中からは抑えきれない怒りが紅雷となって漏れ出ていた。

そんな事も気にせずにズンズン廊下を進み、出口付近まで辿り着いた時、ゼファーとすれ違う。

 

 

「ひでぇ面してんなミラ」

 

 

「…ゼファー先生」

 

 

「………なんだ」

 

 

ゼファーもまた、果物の盛り合わせを持って家族の元へと向かおうとしていた。医療班の話によると、予め行われていた止血処置が無ければマリアの命は無かったそうだ。スパンダムには感謝してもしきれない。

 

 

「私は正直な所、人間のことが良く分からなかった。頭では分かったつもりでいても、上手く心まで理解できなかった。

だからこそ人の世界に馴染もうとした。

でも少しだけ分かったよ」

 

 

「ああ」

 

 

「〝怒り〟…この感情は人も龍も共通だ…それを再確認できた。

こんな感情は久しぶりだよ……ッ

私は席を外す、まさか止めるとは言うまいな?」

 

 

「……俺は引退した身だ、今更何も言わねえよ。ただ…」

 

 

バレねぇようにな……?

 

 

「………ああ」

 

 

お互い微かに笑い合って別れ、ミラは病院を後にした。

 

 

「龍にも心はある、か。

そんなモン、お前を見てりゃスグ分かるだろうに」

 

 

ミラは気付いたのだ。

ほんの遊び感覚で救い、ずっと一緒に居た人間に愛着が湧いた事に。

だからこそイルミーナ(逆鱗)に触れられ激怒していたのだ。

ゼファーは内心恐怖していた。もし攫われたのがイルミーナではなくジェイクだったら、応急処置が間に合わずマリアが手遅れになっていたら…。

今のミラのように復讐に身を落としてしまうだろうか。

 

 

 

「………復讐なんて随分〝人間〟らしい事考えるじゃねえかよ、ミラ。」

 

 

ミラが去った静かな病室の中で、ゼファーは小さく呟いた。

 

 

 

 

 

五老星の間

 

 

チックショウメー!チックショウメー!チックショウメー!

 

 

電伝虫が鳴り響く、老人の1人が静かに受話器を取った。

 

 

『五老星、私だ』

 

 

「…………何かね」

 

 

『この前お前達が私に寄越したスパンダム、その父親の居場所を教えろ。

それから……これから起こる事柄全てを包み隠せ。我からの〝お願いだ〟』

 

 

「………分かった、対処しよう」

 

 

 

短く返答し、老人は受話器を下ろす。

そして深く溜息を吐いた。

 

 

「やってしまったな……」

 

 

「奴は文字通り彼女の逆鱗に触れた、もうどうしようもない」

 

 

「ポジティブに考えろ、そろそろ長官の首もすげ替えようと思っていたところ。奴は些か勝手が過ぎた」

 

 

「〝9〟は実質的な一時解散だな、これは…」

 

 

「隠蔽の準備を整えよう。彼女が何をするか検討もつかないが…。

我々もまだ詰めが甘いという事か」

 

 

5人の老人達は真っ白なこの部屋で、これから起こる惨劇をどう誤魔化そうかを思案していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スパンダイン邸

 

赤い大地(レッドライン)に作られた天竜人の街マリージョア、その郊外。

ゴテゴテした建物が立ち並ぶ中心街とは違い、静かで落ち着いた雰囲気の一角に居を構えるこの豪邸は、他の居住地に住む天竜人と同じ様に厳重な警備と監視の目に守られていた。

敷地面積も広く、噴水付きの大きな庭園の向こうには最新鋭のデザイナーが設計した邸宅が広がっている。

その一室、数々のインテリアが部屋のあちこちに散りばめられた書斎でこの館の主、スパンダインは豪華なソファに腰掛けワイングラスを揺らしていた。

 

 

「そろそろ諜報員が小娘を連れてくる頃合いか……

ムハハハ…大事な娘を奴隷にされるとなりゃあさしもの准将様も従わざるをえんだろう。」

 

 

ワインを1口飲んでほくそ笑む。

待てども待てども息子のスパンダムはいつまで経ってもミラを連れてこない、なので彼は強硬策に出た。

手頃な海賊を担ぎ上げてミラの親族を攫わせる、下準備は全てこちらで済ませ実行するのは海賊だ。万一失敗しても全ての罪を海賊に擦りつければこちらに角は立たない。

もし海賊が「裏で手を引いている」と供述しても、世間から散々邪険にされてる海賊の言うことなど誰も耳を貸さないだろう。

 

 

「全く便利だよなァ海賊ってのは、大体の事は海賊が悪いの一言で済んじまうんだからよォ…」

 

 

スパンダインはこうした手を何度か使い自分の地位を上げてきた。彼の部下にはCPの猛者たちもいる、人智を超越した六式を使いこなす彼等に守られながら自らの完全犯罪が達成された悦に浸るスパンダインであった。

 

実質、彼の計画は完璧だった。

 

実の息子と自分の上司に真実をリークされていなければ

 

 

 

 

………………

 

 

 

 

 

 

 

大きな地響きが屋敷全体を震わせる。その衝撃は書斎も大きく揺らし、机に飾られた壺などの陶器が地面に落ちて割れてしまった。

 

 

「チッ…高かったのによォ。

地震か、かなり揺れてんな」

 

 

「スパンダイン長官!たたたた…大変ですッッ!!」

 

 

ノックもせずに部屋に飛び込んできたのは護衛の諜報員だ、額には汗を滲ませ柄にもなく随分焦っているようだった。

 

 

「しししし正面の、庭園に…………化け物が……」

 

 

「化け物ォ?んな馬鹿な話が…」

 

 

半信半疑でスパンダインは書斎の大窓のカーテンを開ける、ここを開けば庭園の様子が一望出来るはずだ。

 

 

カーテンを開き、思わず持っていたワイングラスを取り落とした。

 

庭園の中心、元は大きな噴水があった場所を中心に蜘蛛の巣上の大きな亀裂が走り、その真ん中には

 

 

巨大な三本の紅い角を冠する白亜の巨龍が全身から紅い雷を瞬かせながら佇んでいた。

 

 

 

 

 

 

◆真なる祖◆

 

 

 

 

「もっと弾を持ってこい!」

 

 

「チクショウ!全然効いてねえぞ、どうなってんだ!」

 

 

庭園では黒服の諜報員達が群れを成し、突然現れた巨大な龍に無謀にも戦いを挑んでいた。

それを龍は一瞥し、紅い雷を纏わせた尻尾で一薙ぎする。

 

まるで羽虫を払う様な一振り

 

たったそれだけで集まっていた諜報員の半分以上が巻き込まれ、バラバラになって消し飛んだ。残った者もあまりの光景に絶句し、皆一様に呆気に取られている。

いち早く意識を取り戻し、現実を脳が理解した者から反狂乱で叫び声を上げ、その場から逃亡する者も現れた。

 

 

オオオオオオオオオオオオオッ!!

 

 

すると龍は逃げていく者達を見据え、その首をもたげ大きく咆哮した。

あまりにも甲高く、大きな咆哮に硝子程度では耐えきれず屋敷中の窓ガラスが粉々に砕け散っていく。

 

耳どころか頭まで壊れてしまいそうな咆哮の後、逃げ狂う諜報員達へと巨大な紅い落雷がピンポイントで降り注ぎ、直撃した者は全て悲鳴をあげる暇もなく消滅した。人体の耐えられる温度をゆうに超える雷撃を受け、痕跡を一切残さずに只の焼け跡に成り果てたのだ。

 

 

「なんだあの化け物はッ!?畜生…嵐脚!嵐きゃバッ……」

 

 

ヤケを起こし、破れかぶれで六式を龍に向けて連発する一部の諜報員達に龍は尻尾を叩きつけ纏めて血飛沫に変えていく。

あまりにも残酷な光景だった。

昨日まで一緒に飯を食っていた同胞が目の前で血飛沫を上げながらバラバラにされていく光景を目の当たりにした彼等の心が折れるのは時間の問題だ。

戦うのも駄目、逃げるのも駄目。

そんな事実に気付いた者のたどり着く答えは一つ、命乞いだった。

 

 

「ごめんなざいごめんなざい!ゆるじでぐだざい!」

 

 

「たずげで!だずげでぐだざいぃぃ」

 

 

鼻水と涙を垂らしながら土下座を敢行する姿はとても政府の諜報員とは思えない。

必死に命を乞う者、現実から逃げる者、それらを全て龍は紅い雷を撒き散らしながら踏みつけ、潰し、蹂躙していく。

悲鳴と共に肉の塊になっていく光景は最早地獄絵図だ、必死に逃げ惑う諜報員達を血飛沫に変えていく龍の姿はスパンダインの目にもありありと映し出されていた。

 

龍が一歩踏み鳴らす度に大地へ紅雷と共に亀裂が走り、衝撃で人がバラバラになっていく。

翼を広げれば風圧で人は塵のように舞い上がり、もう彼らは地面に脚を付けることはないだろう。空中で雷に撃たれて跡形も無く消滅するのだから。

スパンダインは龍が猛り狂う咆哮を上げながら、徐々にこちらへ近づいて来ているのに気付いた。

そばに居た護衛は既に恐怖のあまり叫び声を上げながら逃げ去った、だが彼は足が縫い付けられたかのようにその場から動かない。

目の前の光景に脳がショートしたのか、ただ驚愕に目を見開いて龍と対峙している。

 

そして彼と龍の距離は徐々に縮んでいき、もう目と鼻の先にまで迫っていた。

 

 

「…………あ…………ぁ…ぁ………」

 

 

破壊の化身に見つめられる彼の脚は情けなくガクガクと震え、悲鳴を上げようにも声が震えて言葉が出ない。

ズボンには黄色い染みが出来ていた。

 

その赤い瞳に魂まで吸い取られるような錯覚を覚え、スパンダインは意識が遠くなった。

 

その時

 

 

オオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッ!!!!!!

 

 

一際大きな咆哮でスパンダインは覚醒する。鼓膜が破れて使い物にならなくなっているのだろうか、もううるさいとも思わなかった。

 

ビリビリと空気を震わせる咆哮の後、蔑むような視線をスパンダインに浴びせた龍は天高く飛び上がり、それきり屋敷の上空から姿が見えなくなった。

 

助かったのか……?

 

風圧で書斎どころか屋敷の中じゅう滅茶苦茶だ、だが命は取り留めた。

 

 

「や…やった…生き残ったんだ…俺は…俺……は?」

 

 

漸く現実へと戻ってこれたスパンダインは歓喜し空を見上げ、それに気付く。

 

 

夜空に光る紅い点。最初は一つ、だがポツポツと点は増えていきやがては空を覆い尽くすほどの紅い輝きとなって雲一つない夜空に瞬いていた。

光はどんどん激しくなり、直視できない程輝いているのを見て彼は漸く理解する。

 

それは空から堕ちてきていたのだ

 

次の瞬間、屋敷の一角に紅い塊が炸裂した。衝突し、炸裂した部分は広範囲に渡ってごっそりと抉り取られたように跡形も残らず消滅し、大きなクレーターが出来ている。

何が起こっているのか理解する暇もなく、空から次々と赤い塊が降り注ぎ、周りを消滅させていく光景を目の当たりにしたスパンダインの中で何かが途切れ、彼はやがて思考を放棄した。

 

 

紅雷が屋敷と赤い大地を抉っていく

 

 

呆然とその様子を見つめる彼の頭上へ一際大きな雷球が落下したのはそのわずか数秒後の出来事だった。

 

 

 

 

………………………

 

 

 

 

翌日、新聞の一面にて『マリージョアの一角、地震により崩落』という記事が大々的に報じられた。

マリージョアで生じた大規模地震により大地の一部が完全に崩落し、偶然そこへ居を構えていたスパンダイン家の屋敷が完全に消失した。と

これによりスパンダイン含む200名以上の人命が失われ、過去最大の災害として後の世に語り継がれることになった…………以上が五老星の用意したシナリオである。

勿論真実は異なる、これは龍による意図的な災害だ。赤い大地はミラによって一部が抉り取られたのだ。

これにより壁の一部にできた巨大な隙間は崩落した地面の欠片で海流が荒れ狂い、とても通れるような場所ではなく。後に『龍の巣』と呼ばれるようになった。

 

尚、既にスパンダインの違法行為は全て暴かれていたが後継者であるスパンダムの面目を保つ為公表されなかった。

 

幸いスパンダインの息子、スパンダムはマリンフォードまで降りていた為、政府の人的負担はそこまで大きなものにはならずに済んだ。

近くスパンダムは父親の遺した仕事を片付けるためラスキー諜報員の指導の元政府の長官に任命されることになる。

 

 

しかし一夜にして200名余りの諜報員を失った事に五老星は再び頭を悩ませ、ある決断に踏み切ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆甘い刺激◆

 

 

 

マリージョアが崩落する夜、新世界の何処かにて

 

 

一人の少女が死体の山の頂上に佇んでいた

 

 

周囲に人はなく、代わりに少女は周りに大量の銀の粒子と銀色の液体を浮かばせて暇を持て余している。

銀色の球体はまるで生き物のように彼女の周囲を規則的に飛び回り、時折糸のように細く伸びたり縮んだりを繰り返す。

 

 

「………んんんッ//」

 

 

急に少女は艶ばった声を上げて身をよじらせた、彼女に呼応するように銀色の塊が伸縮を繰り返す。

 

 

「はぁ…はぁ……//また…ですのね。

やっぱりこの感じ…間違いありません」

 

 

彼女が最初にそれを感じたのは数日前。適当に目に付いた海賊達を襲い、乗っ取った海賊船で夕食を取っていた時だった。

 

身体中を駆け巡る様な甘い衝撃、人一倍電気を通しやすい身体だからこそ感じ取れたその刺激に彼女はたちまち虜になった。

そして此度、2度目の刺激…

寿命の概念が薄い自分が久しく感じる事が出来なかったときめき。身を焦がすほどの甘い激情。

 

 

前回よりも遥かに大きな刺激の波で大体の位置は掴めた。

 

 

あとは会いに行くだけだ

 

 

「待っていて下さいましね…私の王子様ぁ……♡」

 

 

蕩けるような笑顔とともに少女は死体の山から駆け下りて、島を後にする。

空っぽになった海賊船を永久拝借し、銀のすじが糸のように船全体に広がって勝手に動き出した。

向かうはこの刺激を与えてくれる王子様の元へ、何があっても、どんな手段を用いても。

〝この雷を落とした人の下へ〟

 

 

人はこれを恋心(狂気)と呼ぶ、そして世界にはこんな言葉が存在した。

 

『恋はいつでもハリケーン』と




3話もかかったスパンダム編やっと終わりです。
相変わらず駄文で申し訳ない。

これによりスパンダムは原作よりほんの少しだけ成長します、身体的には8道力が50道力になるくらいの些細な差ですが…
せ…精神的にね?親父の威厳に頼らずに己の力で後に再編されるCP9の長官になる予定、です。
そしてそれにより救われる命が一つ。

「男なら造った船にドンと胸を張れ!」



もとよりこの作品には3人のオリキャラを登場させる予定でした、後の海軍三大将と対になるように。
それが本文最後に登場した彼女です。
オリジナル設定付きでどんな力を持つのかは…まあ何となく察されそうですが

カッコイイですよね、キャンプ壊してきますけど…

追記
沢山の評価、ご感想、お気に入りありがとうございます。
初めはお気に入り10個くらい貰えればいいやくらいで考えていた本作も先日遂にお気に入り3000件を突破しておりました。
ありがたや…ありがたや…
繁忙期故に相変わらずの不安定投稿ですがお付き合い頂ければ幸いです。

次回、ツケは払わんとね


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13 祖龍(モドキ)、自由の責任を負う






 

 

 

 

 

 

 

 

告げる

 

 

歴戦の狩人よ、一騎当千の豪傑達よ

 

この世の創まりを垣間見てなお我に挑む覚悟あるのなら

 

挑むがいい。我は全ての真なる祖、運命の創まり

 

 

我が名は………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ん」

 

 

朝だあーさーだーよー、修〇が昇ーる

 

…外雨やんけ

 

 

おはようございます、今日も元気なミラルーツちゃんこと俺氏だよ。

 

いやーマリージョアは嫌な事件だったね、まさか崩落事故なんてねー、カワイソウダナー。

…ウン、まあちょっと派手にやり過ぎた感は否めないね。だが反省はしていない。

流石の俺も穏やかな心を持ちながら激しい怒りによって目覚めてしまったよ、真なる祖龍モード。

まさかおでこから角がもう1本生えて翼トゲトゲするなんてね〜、ハンターあんなのにたった4人で挑むなんて気がふれてるとしか言いようがないですわ。

 

 

あの後、退院したスパンダムは親父の遺した仕事を片付けるためにマリージョアへと赴き、そこで心機一転やり直すことに決めた。サポートにはスパンダインの元部下が付いてくれてるらしい。

親父が死んだ事については多くは語らなかったけど俺の事は恨んでないみたい。「ミラさんがやらなくても親父はいつかきっとこうなっちまう運命だった」と言って笑ってた。流石に跡形もなく消滅させられるのは後にも先にも俺しか出来ないと思うけど…。

 

 

アイツが今後上手くやれるかはアイツ次第だろう、原作通りに進めばいいが…

まあやってしまった事は仕方ない、後ろから刺される覚悟はしておこう。それもまたスパンダムの自由だ。

 

 

んで、イルミーナも軽傷だったため直ぐに退院。マリアさんとジェイクはまだ入院中だ。

マリアさんが目を覚ました時のゼファー先生の顔、凄いことになってた。本当にマリアさんの事好きなんだね先生。

 

ボルサリーノ中将にも御礼言ったんだけど「後でウチにステラちゃんの特製プリンを20個くらい届けてくれればそれでいいよォ〜」と地味にキツいお返しを要求された。今度ステラと一緒に作って届けに行こう。

 

 

 

「ふみゅ……おはよ、みら」

 

 

仰向けに寝転んでる俺のお腹の上でゴソゴソ動きがあって胸の谷間からひょこっとイルミーナの頭が顔を出した。

 

朝からモフモフで可愛いなーこいつめ

 

 

「ふにふにぃ……」

 

 

「おはよう、もう腹は大丈夫か?」

 

 

「うん、ぜんぜん痛くない」

 

 

「よし、じゃあ起きよう。ステラの朝ご飯が待ち遠しい」

 

 

「うん」

 

 

寝ぼけ眼のイルミーナの手を引いて、台所へと歩いていく。

 

今日も一日頑張ろー

 

 

 

 

 

 

 

さてさて、今日も元気に海軍本部島内の巡回だ。先の居住区襲撃もあって尚更ピリピリしている海兵たち、今日の相棒はストロベリー准将だっけ?

それが終わったらコング元帥の所に行って報告を聞かなきゃいけないらしい。

 

 

いつもの集合場所まで行くとそこにはストロベリー准将が、あの人頭長いからすぐ分かるな。

…アレ?ロンズ少将も一緒だ

 

 

「おはようございます、ロンズ少将。

今日の巡回は私とストロベリー准将のハズですが……」

 

 

「おおミラ准将、おはよう。

それがコング元帥から急な呼び出しでな、今すぐ向かってもらえるか」

 

 

「急な呼び出しですか、お説教かな?」

 

ハハハとロンズ少将が鉄仮面越しに笑う、夏場蒸れそう

 

「君に限ってそれは無いとは思うがね、巡回は私が代わるから行ってきなさい。」

 

 

「承知しました、ではストロベリー准将、ロンズ少将、失礼致します。」

 

 

「うむ、気をつけてな」

 

 

軽く2人に挨拶して俺は一転、コング元帥の執務室を目指した。

 

 

 

 

 

 

「よく来てくれたなミラ、まあ座ってくれ」

 

 

特筆するようなことも無くコング元帥の下まで到着、部屋に入ったのはいいんだがそこにはセンゴク大将にガープじいさん、おつるさんにゼファー先生まで同席してた。海軍の大物達が雁首揃えてお出迎えである。威圧感ヤバイ、祖龍フィルターなかったらチビってますよ。

 

 

「それで、海軍の重鎮が揃って私などを出迎えてくれた理由をお聞かせ願いたいのですが」

 

 

コング元帥はウームと少し唸る、余程話しにくいことなのかな。他の4人(ガープじいさんだけはニヤニヤしてるけど)もなんとも言えない表情で俺を見てる。

 

 

「実はな、ミラ。君を……大将に昇格させようという話が海軍本部内で上がっている」

 

 

…………why?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大将…?

 

たいしょー…?

 

たいしょーくん…?

 

 

「だばだばだばだば……」

 

 

「おいミラ!帰ってこい!ミラ!」

 

 

ハッ!?一瞬意識がとっとこ時空へinしてた………

 

海軍大将っていったらあの大将?

センゴク大将と同じ階級で、バスターコール(笑)を発動可能になるアレ?

 

 

「………何故私が急に大将に…?

コング元帥は私の今の階級をご存知のハズですよね?」

 

 

そうとも、只今の俺の階級は准将。

クザンにーさんやサカズキ中将も能力者補正で早めの昇進をしたとはいえそれでもまだ中将だ、それを海軍入って数年そこらの俺が3階級特進で大将!?階級制度舐めてるのか。

 

 

「ああ、重々承知しているとも。

それもふまえてこの話を持ちかけている。」

 

 

「何故なのか理由を聞いても?」

 

 

「五老星からの要請だ」

 

 

「…………ちょっとマリージョアを焦土に変えてきます、探さないで下さい。」

 

 

「「「待てぃミラァッ!!!」」」

 

 

あ の ジ ジ イ 共

 

五老星の間にブレスぶち込んでやる、それも真祖モードのブレスだ!ビームだぞ!撃ち降ろしで上から薙ぎ払ってやるからな!

 

ようし、祖龍ちゃん頑張っちゃうぞぉ★

 

すっくと立ち上がり部屋を出ようとした俺はガープ中将、センゴク大将、ゼファー先生の3人に取り押さえられた。

 

ドサクサに紛れて胸を揉むなガープ爺さん!このエロジジイ!

 

 

「離してください…!あの老人共に老後の安らぎを与えに行くのです………!」

 

俺は普通の海兵として平凡に出世したいって言ってんだルルォ!?

 

 

「落ち着け!気持ちは分からんでもないが落ち着いて話を聞いてくれ!」

 

 

センゴク大将の必死の説得により

 

▶おれは しょうきに もどった !

 

ので改めて座り直し、コング元帥をジト目で睨みつけながら問い詰める。

 

 

「実はな…近々聖地マリージョアで世界会議(レヴェリー)が行われる事になっている。

その為の人員派遣として海軍からも警備に人を出す事になっていてな。」

 

 

「いつもなら現大将2人と少将以上10名ほどで事足りるのだが…如何せん先の災害の煽りを受けて、警備の数を増員しろと世界貴族から要請があった。」

 

 

へえ〜世界会議ね、政府加盟国が集まって話し合うアレか。

それをするのに海軍の警備を増やせと……ん?

 

 

「災害………災害…?」

 

 

キョトンとする俺にセンゴクさんは新聞を見せてくれた

 

 

「なんだ知らんのか、先日マリージョアで起きた大規模地震の事だ。

なんでも地面が丸ごと陥没して赤い大地に隙間ができる程の被害が出たらしい、200人以上が犠牲になったいたたまれない事故だよ」

 

 

「災害…そうか、災害ね…」

 

 

恐る恐るゼファー先生の方をチラ見すると彼もバツの悪そうな顔をして腕組みしていた。

どうやらセンゴクさんは気付いてないらしい、じゃあ黙ってよ★

 

 

「ですが警備の増員と私が大将になる事に何の関係が…」

 

 

「世界会議の行われる間、海軍本部の戦力が著しく損なわれるからだ。

今回の増員で私やガープ、コング元帥におつるさんは勿論クザン、サカズキ、ボルサリーノを含む現職の中将達もマリージョアへ上がらねばならん。

そこで臨時に優秀な准将クラスの将官を大将まで昇進させて指揮を任せる案を採用することになった。

お前が嫌なら他の者を探さないといけないんだがアテはあるか?」

 

 

「……ゼファー先生」

 

 

「俺ァ訓練校のガキどもの相手が忙しい」

 

 

……アテ無いなあ

 

 

「という訳で、実力も人望もありなおかつ信頼に足る人物を選んだ結果ミラが最適という判断に至ったわけだ。

五老星の後押しもありきだがな。」

 

 

やっぱり五老星のせいじゃねえか!

 

 

「やはりマリージョアに終焉を…」

 

 

「待って!?気持ちは分かるけど待って!!ワシの胃が死んじゃう!」

 

 

「むう…コング元帥の胃を人質に取られては仕方ない…。

焦土作戦は諦めましょう。」

 

 

 

苦労人仲間のコング元帥の胃が天元突破するそうなので渋々マリージョア襲撃は諦めた、五老星の所には後でイタ電掛けまくってやるから覚悟しとけ。

 

 

「大将になるといっても臨時で、しかも短い期間だけだ、それにこちらでキチンと仕事の経験は積ませてやるから安心しろ。」

 

 

「そうだねえ、ミラは実力は既に大将クラスに匹敵しているし問題無いよ。

他の将校たちもアンタなら大丈夫だと予め確認も取ってある、逃げようとしても無駄さ。諦めなミラ。」

 

そう言うおつるさんが取り出したのはなんか色々書いてある用紙の束だった。わざわざアンケート取って俺を追い込むのか大参謀……抜かりなし…

 

 

「おつるさんがそこまで裏で手を回していたとは……。

はあ〜…観念しましょう。

大将代理の任、謹んでお受け致します。」

 

 

「ああ、よろしく頼むよミラ。

正式に任命されるのは後日だが、早速大まかな仕事の流れ説明をしよう。」

 

 

「ぶわっはっは!頑張れよォミラ!」

 

 

「他人事だと思って…」

 

 

俺氏、大将代理(期間限定)になりました……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『…………何かね』

 

 

「しらばっくれるなよジジィ共、我の昇進の件だよ!」

 

 

俺が大将代理に任命され、センゴクさんから色々ご享受頂いたその日の夜。

クタクタになりながら俺は五老星に鬼電してやった。

 

 

『あれは仕方の無い決断だった、警備を増員するとでも言わないと世界貴族達は納得しなかったんだ。それで臨時で君を大将に仕立てあげる案が浮かんだ。』

 

 

災害だっつってんのに警備を増やしてどうにかなるとでも思ってるんでしょうかね世界貴族は…

災害派遣の自衛隊扱いか!

 

 

「我の事は人目に触れないようにするんじゃなかったのか?

大将に昇進、しかも准将からの叩き上げだぞ?そんなぶっとんだ話題、海軍内部ならともかく新聞にも知れ渡ってしまうだろう。どーしてくれる」

 

 

『それに関しては安心してくれ、既にダミーの情報を新聞各紙に掴ませておいた。

君の本当の素性を知るものはいない、我々の情報操作能力を舐めないでくれたまえ。』

 

 

受話器越しにドヤ顔が伝わってくる、腹立つ。

 

 

『それに…今回の件に関して根本の原因は君にある。

君が赤い大地を削り取ったから貴族達の不安を煽ってしまったんだぞ。その結果が今回の増員だ。

いわば自業自得、自由には責任を負わねばならんと思わないかね?』

 

 

「むぐっ!?ぐぬぬぬぬ………」

 

 

それを言われると弱い…小賢しい人間めえ…(精一杯の罵倒)

 

でも一理ある、元を返せば俺が原因で起こった不測の事態(イレギュラー)だ。なら責任はとらんとね。

 

それが人としての常識だもの。

 

 

「はぁ〜〜〜…分かった。身から出た錆だ、大将代理をやってやる。

海軍本部の事は任せろ。」

 

 

『伝説の龍が守ってくれるのなら安心だ、これで我々も世界会議の議題に集中できるというもの。』

 

 

「おだてよってからに……。

で?その世界会議とやらでは何を話し合うんだ?

聞けば王たちが一同に会しての大規模な会議らしいが。」

 

 

『殆どは大まかな各国の状況把握だ。国とは人の集まり、何時何時(いつなんどき)不測の事態が起こるとも限らないからな。』

 

 

へえ〜。

と、その後も五老星は話を続けてくれて、俺に色々教えてくれた。

 

王国を転覆させようとしている『革命軍』なる存在がいると。今はまだ小さな組織で各国に警告を出す程でも無いが彼等は国に忍び込みゲリラ戦術を使って国民の不安を煽る、そして反乱を起こさせる。

それによって争いが起こり一般市民に被害が出る。

そうならないためにジジィ共は国の状況を把握し、必要なら工作員を送って平穏を守ってるらしい。

 

……その工作員200人くらいコロコロしちゃったよね、俺。

まぁいいや(思考放棄)

 

 

とーにーかーくー!俺がすべきはもぬけの殻になった海軍本部を守る事、シンプルイズベストだ。

もぬけの殻といっても現職の中将、大将がいなくなるだけでジョン少将達頼れる少将、准将sがいるから戦力的には問題ないだろ。巡回のシフトが詰めっ詰めになるくらいだ。

面倒な執務作業は……モモンガ少将に手伝ってもらおう。

 

 

「凄いじゃないミラ、大将代理だなんて。」

 

 

「期間限定の留守番だがな。

これから忙しくなりそうだよ……それと、お前の恋人もクソジジイ共を通じて捜索させてるしな。

少しくらい向こうのワガママ聞いてやらんと。」

 

 

そう、実は今こっそり五老星に依頼してステラの恋人、ギルド・テゾーロの行方を追っている。

ステラと共にマリージョアへ連れてこられたのは判明したんだけど何処の世界貴族に捕まってるのかまではまだ絞れていない、天竜人絡みになると五老星も動きにくいようだ。

〝0〟は完全に天竜人側の組織だからね。五老星も慎重に事を運んでいるんだろう。

場所さえ分かれば忍び込んで連れ帰るツテはあるから、時間の問題だネ。

 

 

「ごめんねミラ、ありがとう…」

 

 

「別にいいさ、恋人なんだろ?

あのジジイ共の有効活用だ。」

 

 

「………うん」

 

 

「みら、センゴクおじちゃんと同じくらいえらくなるの?」

 

 

「そうだぞー、ちょっと忙しくなるから帰りが遅くなると思うが……あ、そうだ。

イルミーナを雑用係として本部で登用出来ないか聞いてみるか……。

イルミーナ、私が仕事のお手伝いして欲しいって言ったらやってくれるか?」

 

 

「うん、する。みらのお手伝い…!」

 

 

「そうか〜イルミーナはいい子だな〜」デレデレ

 

 

「仮にも海軍大将がそんな緩みきった顔していいのかしら……」

 

 

膝のイルミーナたんを抱きしめて頭をナデナデ、最早精神安定剤と化しつつあるモフモフ幼女である。

 

まあ守るっつってもここは天下の海軍本部、攻め込んでくるような馬鹿な海賊なんてそうそういないだろ!

 

 

 

 

 

いるとすればそれは相当なイカレ野郎かアホな死にたがりだ

 

 

 

 

 

 

 

…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんて考えていた時期が僕にもありました。

 

最近大人しいと思ってた俺の災難体質舐めてた。

 

目の前に広がるのは海賊船の大艦隊。

迎え撃つのは俺とモモンガ少将、オニグモ少将及び20名の准将、少将の率いる軍艦30隻余り。

先頭の一際大きな海賊船に乗る大男は荒波も砲撃音も掻き消す様な大声で俺達に告げた。

 

 

「俺に死に場所をくれよォ……海軍ウウウウウウウンッ!!」

 

 

 

…玄〇哲章ボイスで…

 

 

 

 

…………

 

 

「お姉様ハァハァ…//

うへへへ…凛々しいお姉様のお姿もまた美しい…お姉様の御御足あったかいナリィ…」スリスリスリ

 

俺の脚に頬擦りしてないでお前も戦え変態女!

 

 

何が起こってるのか俺にも分からねえ…

 

 

「どうしてこうなった……」

 

 

俺の呟きは轟々とうねる荒波の音にかき消された。

 

 

 






オリキャラの登場は次回に回します、最後に出てきた大男は一体ダレナンダロウネー



次回、変態来る


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14 祖龍(大将代理)、変態と出会う



遅くなりました……皆さんも熱中症にはお気を付けて…





 

 

あるところに『死なない男』と呼ばれる海賊がいた。

その肉体の前に弾丸は通らず刃は折られ、捕まえて処刑しようにも殺せないその男はいつしか自分から「死にたい」という破滅願望を抱くようになる。

 

自らの死に場所を求めて海を彷徨うその男の名は〝カイドウ〟。新世界に多数のシンジケートを持ち、数多の海を統べる大海賊、通称四皇の一人。

 

〝百獣のカイドウ〟の異名を持つこの男が今、向かい合う海賊船に仁王立ちしていた。

 

 

「随分と可愛らしい大将サマじゃあねえか…センゴクとガープの野郎は何処へ行ったァ…。」

 

 

覇王色の覇気なのか、視界に入るだけでビリビリと空気が震えているのが分かる。

隣で既に臨戦態勢のオニグモ少将もカイドウのただならぬ存在感に身を震わせているようだった。奇遇だな、俺もだよ。

だが祖龍口調は今も健在だ、堂々ハッキリと奴に文句が言えた。

 

 

「それを貴様に教えてやる義理はないぞ四皇、何しにこんな場所までやって来た。」

 

 

「こないだ初めて空島から飛び降りたってのに俺ァまだ死んでねえんだ……畜生ォ…畜生ォ……!!

こんな世界どうなったっていい、ならテメェら巻き込んで戦争を始めようってハラだ。

それとも…お嬢ちゃんが俺を殺してくれるのかい?」

 

ゲヘヘと向こうの船内から下衆共の笑い声がする、お前らも船長と同類の死にたがりかよ。

 

 

「まったく……気まぐれに世界滅ぼすとかボレアスか貴様は。

そんなに死にたいのなら…私が引導を渡してやる!

辞世の句を詠むがいい、カイドウ!」

 

 

放つ言葉と共に俺の身体からは紅雷が迸り、愛刀『影炎』とちょっと前に渡された影炎と瓜二つの軍刀『蜃気楼』を引き抜いた。

それを見てカイドウも満足そうにニタァっと笑い巨大な金棒を手に持って臨戦態勢に入る。

 

お互い同時に船から飛び出して空中でぶつかり合った。一拍遅れて巨大な衝撃波が俺達の周りから発生し海を大きく揺らす。

 

龍と獣、2人の最強が海軍本部近海で戦闘をおっぱじめた。

 

 

カイドウの振り放つ金棒をいなしながら人智を超えた超絶戦闘を行う俺氏、この状況に対して言えることはただ一つ………

 

 

ど う し て こ う な っ た

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パチンッ(唐突な指パッチン)

 

 

話をしよう、あれは今から36万……いや一昨日の夜の出来事だ。

俺が大将代理に任命されて暫くして、大まかな仕事も覚えてきた頃。

 

 

 

 

大将代理だなんて初めはどうなる事かと内心気が気でなかったけどなんとかボロを出さずに上手くやりくりしてる、モモンガ少将やヤマカジ准将も手伝ってくれてるしね。

 

んで、任命された時から気になっていた俺の大将としての二つ名は『白蛇』ということになっている。

最初は『龍』が付くかなと思ったんだがこれは意外だった。

詳しい話を聞くに理由は色々あるが主立って言えることは天竜人共と同類だと思われる事を避けるためらしい、『竜』が付いてると印象が悪くなる可能性を考慮された。

心外だけど俺もあんな連中と一緒にされるのは嫌だゾ。

そしてこの世界で蛇は龍が翼を失い地に堕ちた姿とも言われている、この言い伝えが人の体を借りて人間の世界に溶け込んでいる今の今の俺(祖龍)と似ているから『蛇』になったんだろうか。

ちょっと皮肉よね、洒落が聞いてて好きだぜ?

 

という訳で、ミラ准将改め〝大将白蛇〟として暫く海軍本部を護ることになりました。

 

 

 

 

今日も昼間は働いて疲れ果てた俺は〝大将白蛇〟専用雑用係として本部で働く事になったイルミーナと一緒に帰宅し少し遅めの夕食を3人でとっていた。

 

今日の夕食は海軍カレーだあ!

 

 

「かれー、美味しい…」

 

 

「口元にルゥが付いてるわよ、取ってあげる」

 

 

「ん…ありがと…」

 

 

「今日はイルミーナ頑張ったからな、たんと食え食え」

 

 

うんうん、イルミーナ頑張ってた。

お茶汲みから書類の配布まで何でもござれ、他の将校たちからもかなりウケが良かったよ。

………メイド服着せてたからかもだけど

 

「給仕服ならこれじゃろう!」ってマリージョアへの行きがけにガープ爺さんから渡されたスチームパンクタイプのメイド服を着せられてた。

爺さん、超清々しい笑顔してた。注意しながらも決して止めない他の連中も同罪だからな?

そしてなんで爺さんがイルミーナのサイズにピッタリで尚且つスチームパンクだなんてマニアックなメイド服を持っていたのかは……これ以上は語るまい。悲しみが増えるだけだ。

 

影でアタッチャンとクザンにーさんとガープ爺さんがコソコソと取り引きしてる所は見なかったことにしよう。悲しみがry

 

 

 

 

カレーは飲み物とばかりに喰らい尽くしていく微笑ましい光景を見ながら俺もカレーをパクついていた時、不意に玄関のチャイムが鳴った。

 

 

「誰だ?こんな時間に……ちょっと出てくる」

 

 

「うん、お願いミラ」

 

 

スプーンを置いて立ち上がり、玄関へ向かう。

こんな時間に…サカズキ中将だったらチャイムは使わずノックだし、ボルサリーノ中将なら光速ピンポン連打してくるし、クザンにーさんに至っては勝手に扉開けて入ってくるし…そもそも3人とも今マリージョアやんけ、じゃあ一体誰だろう?

 

ちょっと見聞色で確認………敵意はなさそう、それと祖龍の霊眼が反応してる、能力者か。

知らない人だな、ちょっと警戒しとこう。

 

 

「はーい、どちらさ……ヴァッ!?!?」

 

 

ドムンッとお腹に響く衝撃

 

 

「おねええええええさまあああああああああああああああああああッッッッ!!」

 

 

扉を開けた途端、目の前のおにゃのこにタックルされて俺の身体はくの字に曲がりもんどりうって壁に突っ込んだ。

 

 

「ああお姉様!お姉様!私の愛しい人!間違いありませんわ間違いありませんわ!

この胸のときめき、貴女様が私の運命の人に違いありませんの!

うへへへへへへ…お姉様お姉様お姉様おねえさま…」

 

 

「なっ!?ちょっ……誰だオマエは!

やめろ!私の胸に顔を埋めるな!腹に頬擦りするな!?

ス、ステラ!助けて!ステラッ!

ステラアアアアアアアアアアッッッッ!!」

 

 

四肢が爆散せんばかりの勢いでステラちゃんに助けを求め、救援がくるまで暫くてんやわんやしてた。

 

 

 

……………………

 

 

 

 

「………で、貴女はミラの落とした雷の刺激が忘れられなくて思わず会いに来たと。

わざわざ新世界から?」

 

 

「その通りですわ、偉大なる航路には『龍の巣』を飛び越えて来ましたの。

全ては!愛しい!お姉様に会うためッ!!♡」

 

 

そう言いながら俺に熱視線を送ってくる少女、白金色(プラチナ)のアレンジウェーブにツリ目が印象的な美少女…絵に描いたようなお姫様だ。

 

 

「うう…もうお嫁に行けないぞ……。

まずは名を名乗れ、そんでお前はどうやって私の居場所を知ったんだ…、新世界からビブルカードも無しに。」

 

 

「これは失礼致しました。

私、名をテリジア・ハレドメラグと申します。

そしてここへやって来た方法ですわね、全てはお姉様への一途な愛故に!!…と言いたいところですが。

私能力者でして、『マキュマキュの実』という悪魔の果実を食した水銀人間ですの。」

 

 

そう言ったテリジアは手のひらを上に向ける、すると彼女の手のひらから野球ボール大の銀色の雫がぷかりと浮き上がり宙を舞った。

おお、凄い幻想的な能力だ。はぐれメ〇ルみたい。

 

 

「でも水銀って猛毒なんじゃ……」

 

 

「あら、博識なお方。

確かに水銀は猛毒です。ですが私の能力ですので今は無害ですわ、その辺はきちんと制御できますとも。」

 

 

悪魔の実って便利やね〜

 

 

「能力の関係上私の身体は電気を良く通します、それで遠く離れた所に居るお姉様の雷を感じ取り…//あんな衝撃初めてで//私はもう…一瞬でお姉様の虜になってしまいました♡」

 

うっとりとした表情を浮かべるテリジア。

こいつヤバイ、目がハートだ!本当になるもんなんだ!コワイ!

 

 

「ハァハァ…//それでもういてもたってもいられずに…お姉様の下へ馳せ参じた次第ですのおおおおおおっ!」

 

 

だあーッ!また飛び込んできた!

 

 

「だから急に抱きつくのを止めろォォォッ!!」バリバリバリバリッ!

 

 

「ぴぎゃああああああああああっ!?」

 

 

止めろの意味で前に出した手から赤い電光が迸る、それはそのまま吸い込まれるようにテリジアに向かって行って直撃した。

やべっ、つい勢いで…力加減が利かなかったぞ!?大丈夫か!?

 

 

「す…すまん…大丈…「ふ…ふふふ//」お?」

 

 

頭から煙をあげながら不敵な笑みを浮かべるテリジア、微かに震えているように見える。打ち所悪かったかな…?

 

 

「ハァ…ハァ…ふへへへァ…//これですの…。

これこそ私の求めていた刺激!まさに初恋の味!さあさお姉様!もっと私に愛を!この身が物理的に焦がされる程愛を下さいまし!さあさあさあさあッ!!」

 

 

「う、うわあ来るなあッ!」バリバリバリバリ!

 

 

「ん''ひぃぃぃぃぃッ!ごれでずわああああああッ♡!!おっほおおおおおおお!!♡」

 

 

電撃を食らってぴくぴくしながらも恍惚の表情を浮かべるテリジアの目は狂気を孕んでた…。

こいつぁ……ヤベエ奴と出会っちまったぜ…(戦慄)

 

 

「あ…あへ//えへへへ…お姉様ぁ♡」

 

 

「なあステラ、私はこの変態を引き取らないといけないのか?」

 

 

「貴女絡みよ、責任は取りなさい。」

 

 

「やだよぅ…」

 

 

だんだんメンタルが鋼鉄になりつつあるステラちゃんに涙が出そうになった。

 

 

 

 

ハレドメラグ家。元は新世界に居を構える小国の貴族で自身の治める国を何よりも愛し、護るためならばどんな手段も問わない程母国愛に溢れた者達だったらしい。

彼女の話では先代の頭首は国を守る為、敵国の兵士500人以上を自身の能力で作った槍で串刺しにして晒し、敵の戦意を挫いたりしたとか。それってどんなヴラ〇3世?

テリジア本人もご多分に漏れず『愛』に満ちている、それが自分の国に向けられるか俺に向けられるかの違いのようだ。

歴代頭首と違い何故か母国に愛情を見いだせなかった彼女は放浪の後、俺がオハラを消した時に使った落雷を感じ取ったらしい。感受性高すぎじゃない?

『身が痺れる様な恋』とはよく言ったもんだが物理的に電気が走るとは……

 

更に聞いてもないのにテリジアは自分の家の事を話し出した。

テリジアの住んでいた居城の地下には龍の亡骸が祀られていて、頭首が死ぬ度にそこからマキュマキュの実は新たに生まれ、次にハレドメラグ家の長となる者が代々口にするらしい。

ハレドメラグという名も元はその龍の名からもじったものだとか。

…………ていうかその死体、アイツだよね。

司銀龍ハルドメルグ、モンスターハンターフロンティアに登場する水銀を操る古龍種。その多彩な攻撃でハンター(及びキャンプ)を苦しめた強敵だ。

 

何故フロンティアのバケモン(人のこと言えない)がこっちの世界に来ているのか…疑問は絶えないけど、新世界からわざわざここまでやって来て国に帰って貰うわけにもいかず、仕方なくテリジアの滞在を許可した。

 

俺氏現在海軍で一番偉い人だからその辺の融通は利く模様。

 

 

「あ゛〜お姉様ぁ…あったかいナリィ…すりすりすり…」

 

 

「む〜…そこはわたしの席……」

 

 

相変わらず恍惚の表情を浮かべながら俺の膝(最早股)に顔を埋めている、それを頬を膨らせながら睨みつけるイルミーナ。

 

 

凄く……ハーレムです……

 

 

「あの…テリジア、離れてくんない?」

 

 

「やーですの〜、テリジアはお姉様成分を摂取しないと死んでしまいます〜…スゥーーーーーーーーーーーーー……」

 

 

吐かんのかい

 

 

「うー…うーーッ!!」

 

 

なんかイルミーナがうみ〇この〇リアみたいな呻き声あげだした。

なるほど、嫉妬か。いつも自分のいる席を取られているもんな。

 

 

「ほらイルミーナ、こっちおいで。

膝は埋まってるけど前は空いてるから」

 

 

ぴょーんとイルミーナが俺の胸にダイブしてきた、いつもより力強ない?

 

 

「ほーらよしよし…寂しかったなー」

 

 

「うう…私の席…」

 

 

「ぐえええ…ちょっと幼女!?私の頭の上にお尻を置かないで下さいまし!

いっ息が…出来なく……でもこれはこれで//お姉様のお膝の香りを堪能出来る//」

 

 

わあ変態だあ

 

 

「なぁにこれぇ…」

 

 

呆れ顔で呟くステラちゃん、そんな目で見ないでくれ。

 

 

「私だって助けて欲しい…」

 

 

取り敢えず…テリジアも雑用係として登録させてもらおう。

四六時中一緒に居るとか言ってたし。

 

 

にゅるんとテリジアの頭が銀色に変わり、そのまま身体全体が潰れて俺の身体にまとわりつきながら今度は背中にテリジアが張り付いてきた。

なるほど、流体金属だからね。こんな動き方も出来るわけか。

 

はぐれメタルっつーよりT-1000か。

前世の記憶がふと思い出される。

 

 

♪醤油の発注多い〜多い〜、孫〜の手〜あ〜げ〜たい〜♪

 

あれ?ターミ〇ーターってこんなんだっけ?

 

 

 

「ああ…堪能いたしました。

これからどうぞ宜しくお願い致しますわね、お姉様♡」

 

 

「お前を養うのは確定なんだな…」

 

 

「お姉様のお側にいる歓びを知ってしまったら…もう離れられませんもの、責任を取って頂きますわ♡

それと、お姉様に是非献上したいものが……」

 

 

そう言って身体から離れたテリジアは自分の胸の谷間に手を突っ込んでそこから1本の軍刀を取り出した。

 

 

「お前なんて所からなんてモン出してるんだ…」

 

 

「ある程度は身体の中に物をしまっておけますの、便利でしょう?」

 

 

笑って彼女は跪き、俺が持ってる『影炎』に酷似したその剣をうやうやしく俺に差し出してくる。

 

 

「かの剣は最上大業物が一振り、名を『蜃気楼』と申します。

誠に勝手ながら当家のしきたりに従い、この家宝を捧げることでお姉様を我が主と定め、私の全てを捧げさせて頂きますわ。

この身の一滴に至るまでご存分にお使い下さいまし。」

 

 

「本当に勝手な奴だな…。

まあいいや、この私に一度(かしず)くと言ったんだ。

逃げられると思うなよ?」

 

 

「はいぃ//望むところで御座います♡」

 

 

こんなふうに馬鹿正直に好意を向けられるのは初めてだからちょっと嬉しいかも。

 

 

頬を赤く染めるテリジアから『蜃気楼』を受け取った。

似たようなのをオレは既に持っているんだが……聞けば『影炎』と『蜃気楼』は二刀一対の姉妹剣らしい。

何百年も離れ離れになっていて、テリジアの所に家宝として保管されていたんだとか。

俺が片割れの『影炎』を持っていると言ったら「これぞ運命!やはり私達は結ばれる運命にあったのですね!お姉様愛してるーーーーっ!!」と再び飛び込んできたので電撃をぶちかまして気絶させた。

二刀流になっちゃった。まあ手数が増える事に悪い事はないし、得物を使った方が素手より幾らか加減も利くし(謎理論)、カッコイイから良いよね。

 

 

龍の力、主に雷落とす力はまだ加減が難しい。まだ俺は強、中、弱の極端な強さでしか加減が出来ていないので練習が必要だ。

思い立ったのは1ヶ月ほど前、ガスパーデっていう部下に少し怒ってしまった俺は奴に向けて落雷を落としてしまった。お仕置きのつもりだったんだけど予想以上に出力が高かったようで黒焦げになったガスパーデは数日入院した。

 

めっっっっちゃ反省してる。

 

なんかもうホント申し訳ない、お見舞いに持っていった果物の中に昔海賊から押収した悪魔の実交じっててアイツがそれ知らずに食ったらしいし退院したら退院したですっげえ清々しい笑顔で俺に挨拶してくるし、何なの?クッソ怖いんだけど…。

 

背中には気を付けよう。

 

そもそも祖龍は『加減』する概念なんて無かったからなあ。この数年間、より人の世界に馴染む為に努力しないと。

 

ガスパーデの件で反省してる反面、目標ができて俺氏ちょっと嬉しい。

 

 

 

因みに『強』はオハラとマリージョアを消した出力で『中』は頑張って海賊船だけ黒焦げにできる程度の出力、『弱』はさっきのテリジアにやっちゃった奴ね、それでもうっかりしてしまうと人間なんて余裕で黒焦げになってしまう。

もっと微調整できるようにならなきゃ…電気なんだから色々応用が利くだろうし。作品が違えば俺はlevel5だ、学園都市最強だって狙えるぞ。目指せ某ビリビリJC!

 

そんな感じの思惑もあって、極力雷より素手、素手より得物を使う身としてはテリジアからの贈り物は非常に嬉しいわけで。影炎共々大事に使わせてもらおう。

 

 

そんなこんなで、水銀少女テリジア・ハレドメラグがパーティに加わった。

 

 

ようし!明日もお仕事頑張るぞい!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ああ、この辺までは順風満帆だったよ。

センゴクさん達はもう3日もしない内に帰ってくるし、大将の仕事にも慣れた、テリジアも性癖はアレだけといざ働いて貰うとかなり優秀な娘だし。

 

 

……ん〜、まあフラグって奴だよね。

祖龍の災難体質もあっての事だろうけど、まさか最後にあんな厄介事を運んでくるとはなあ…たまげたなぁ。

 

昔懐かしあの無人島に戻りたくなってきた、これなんてホームシック?

 

 

………辛いなあ

 







次回、四皇が来た!


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15 祖龍(大将代理)、四皇と戦う


寝る前にギリ投稿できた!
一万字超えちまった…長々とスイマセン…


繁忙期舐めてた、辛い





 

 

 

「G-2支部から人員派遣の要請です!」

 

 

北の海(ノースブルー)を航行中の海軍の輸送船が海賊船に襲撃されたと連絡が!」

 

 

「G-5の連中がまた問題を……」

 

 

 

慌ただしく走り回る海兵達、忙しさのあまり飛び交う罵詈雑言、そして執務机の上に聳え立つ大量の書類、書類、書類!

 

ここは海軍本部大将代理〝白蛇〟の執務室。

部屋中央の大きな執務机に腰掛けて、書類の塔に囲まれながら白蛇ことミラは優雅にコーヒーを飲んでいた。

 

 

「テリジア、これ美味いな。お前が挽いたのか?」

 

 

「はい♡お姉様に飲んで頂くためにそれはもう愛をこめてじっくりと//」

 

 

「ふーん(無関心)」

 

 

「あはんっ//辛辣なお姉様も素敵…♡」

 

 

恍惚の余り身をよろけさせるテリジアの姿は黒を基調としたクラシカルタイプのメイド服だった。

雑用係ならこれだろう、とミラが厳選した特注品である。勿論テリジアは喜んで着た。

 

大将白蛇が就任してから数日、海軍本部の海兵達は活気だっていた。

実力、知名度共に最高レベルの海兵が到達できる『大将』の地位、その称号を若くして得たミラのことはたちまち本部内に知れ渡り、大きな反響を呼んだ。

新聞各所でもその話題が取り上げられ、顔出しNGではあるものの新たな正義のヒーローに期待を寄せている。

 

 

「あー、ラクロワ少将とカダル大佐を至急招集、派遣の話は私から直にします。

輸送船は被害状況と襲った海賊の確認急いで、北の海なら縄張りにしてる海賊もたかが知れてる。

向こうの人員に余裕があるなら今後護衛も検討しましょう。

G-5は放っときなさい、サカズキ中将が帰ってきたら全部報告します。」

 

 

波のように襲う他支部からの報告にのらりくらりと対応しながらもう一口コーヒを啜った。

 

 

「ジョン少将、先程渡した分の申請書には目を通しましたか?」

 

 

「勿論だ、全て頭に入っているとも。」

 

 

「では早速ドックへ向かってください。力仕事が多いのでロンズ少将を連れていっても構いません、警備の空いた穴にはシシリー大佐をあてがうので。

モモンガ少将、ストロベリー准将、シャボンディ諸島周辺の警備強化要請について確認したいことが…」

 

 

「みら、らくろわさんとかだるさん…?来たよ。」

 

 

「おおありがとうイルミーナ、じゃあこの赤いファイルをオニグモ少将に、黄色いファイルをヤマカジ准将に届けてきてくれるか。」

 

 

「うん、わかった。」

 

 

「ラクロワ少将、カダル大佐、取り敢えずそちらのソファにお願いします。直ぐに戻りますので。

テリジア、お2人にもコーヒーを淹れてやってくれ。」

 

 

「承知致しましたわ!」

 

 

「「「「(……可愛いなあ…大将白蛇も美人だし俺たち海兵で良かった…)」」」」

 

 

 

ミラの指示に従いテキパキと行動する2人の雑用係(メイド達)も海兵達の癒しの一つとなっていた。

 

 

 

 

 

 

海軍本部は世界中に支部を構える超巨大組織である。

東、西、南、北、偉大なる航路、新世界全ての支部の情報が此処へと寄せられ処理を行うのは元帥1人と数人の大将のみ。

そこから情報を吟味して軽い件は少将や准将にも処理を割り当てて分割して仕事をこなす。中将や大将ともなるとその仕事量は想像を絶するものだ、ガープ爺さんはこれから逃げてたから毎度毎度センゴクさんにクソ怒られてた訳だ。

まあ気持ちは分からんでもない、確かに下手な事務員より仕事多い。

 

前世じゃ確か偉くなるほど下に仕事を任せきって楽になってたがこっちは真逆だ、上になればなるほど仕事が増える。他人より多くの仕事をこなすから下から尊敬されるんだ。

 

俺氏、仕事の大切さを実感する(小並感)

 

 

 

「…………以上が今のところこちらが把握している情報です。

目的地は西の海ですのでお2人の実力なら問題無いでしょう。

物資の希望はこちらの用紙に記入しておいて下さい。

他にご質問は?」

 

 

「問題ない、直ぐにでも出発しよう。」

 

 

「右に同じです、お任せ下さい。」

 

 

「では宜しく、見返りの休暇はこちらで確保しておきます。」

 

 

カダル大佐とラクロワ少将はぐいっとコーヒーを飲み干し、渡した書類を持って部屋を後にした。

 

なんとか説得完了…というか2人とも乗り気で助かった。本部の人はプライド高い人結構いるからな、こっち来てからダラダラ龍生活で忘れてたけど前世で培ったリーマンスキルが役に立ってるぜ……身体に染み付いてんだよなぁ……私は悲しい。

 

 

「よし、これで午前中にやらないといけない案件は全部片付いたハズ……。

テリジア、どうだ?」

 

そう聞かれたテリジアは手元のバインダーを開き、紙をパラパラと確認した後笑顔で告げた。

 

 

「はい、先程の案件で予定されていた分は終わっております。

いいお時間ですしそろそろお昼にいたしませんか?

それとも…わ・た・く・し?」

 

 

風呂の概念が消えてた

 

 

「昼飯で」

 

 

「あぁんっ//」

 

 

何言っても喜ぶんかい

 

 

………

 

 

 

「邪魔するぜ大将」

 

 

ざわり、と部屋の中がざわめいた。

理由は大体分かるけど……

 

 

「おお、おかえりガスパーデ。

ダイナ岩の輸送護衛はどうだった?」

 

 

部屋に入って来たのは厳つい顔した大柄な男性だ、周囲の視線も気にも留めず俺の方へやって来る。

 

 

「なんら問題無ェよ、借りてたアンタの船はドックへ回しておいたぜ。」

 

 

「ご苦労さん、もう私の船の指揮にも慣れてきただろ。あの船、譲ってやろうか?」

 

 

「アンタのお古なぞ要らねえよ。

俺は俺の稼いだ金で作った船に乗るって決めてんだ。」

 

 

彼の名はガスパーデ、階級は少佐。

コイツと初めて出会ったのは俺が准将になり部下を持つようになった頃。

当時海軍内でも指折りで手のつけられない荒くれ海兵だったガスパーデは俺が初めて請け負った部下の1人だった。

ガスパーデは粗暴、傍若無人、上昇志向強しで周りからは「海軍の汚点」だとか酷い評価を受けていた、実際サカズキ中将に粛清される一歩手前までいったらしい。

勿論、俺の部下になったからにはそんな評価あっという間に覆してやりましたがね!(ドヤァ)

 

ガスパーデ自身、体格も人一倍あるし戦闘の素質も持っていた。それを僻む周りのヤツから邪険にされていてちょっとひねくれてしまっただけのこと。

大人な俺は彼と真摯に話し合い(偶に殴り合ゲフンゲフン)をした結果、一部隊を任せてもいいくらい立派な海兵へと成長した。

もともと人の上に立てる素質は持ってたし、反抗期だったんだよね(父親のような優しい視線)

 

前もちょろっと話したが俺が加減を間違えて力を使ってしまった被害者でもある。まじすまんかった。

 

他の海兵達は作業しながら相変わらずチラチラこっちを見ているのが分かる。

 

 

「………チッ…」

 

 

明らかに不機嫌そうな舌打ちするガスパーデ、自身は真面目になっても、まだ彼の評価は海軍内では低いものらしい。

俺のドラゴンイヤーにもコソコソ陰口叩いてる声がきこえるぞ、陰湿かお前ら。

なのでこの雰囲気を払拭する為に思い切って食事に誘ってみることにした。

 

最初は遠慮しているのか断られたが強制連行することに。襟首を引っ捕まえてガスパーデを引き摺りながら食堂へ向かおうとしたその時。

 

 

 

けたたましいサイレンが鳴り響く。

 

 

このサイレンが示す意味を理解する者は即座に反応し、現状一番偉い俺に向けて視線を送ってくる。

かくいう俺もこのサイレンの意味は重々承知していますとも、このサイレンは………

 

 

「……ガスパーデ、部下達に出撃準備しろと伝えてこい。

いつでも出られるようにな。」

 

 

「あいよ、アンタは?」

 

 

「直ぐに向かいたいが…至急准将以上の全員を議事の間へ招集、急いで。

まったく…白昼堂々此処まで攻め込んでくる馬鹿は一体どこの誰ですか。」

 

 

海軍本部近海に未確認の船が来襲した証だった

 

 

 

 

 

海軍本部、議事の間(洋室)

 

細長い部屋の中心には大きな円卓が鎮座しているこの部屋は、中規模の会議のために使われる会議室だ。

いつもなら和室の方を使うんだけど今は人も少ないし動ける兵には出撃準備をしてもらいたい、だからこっちを使おう。

 

いつもならセンゴクさんかコング元帥の座る一番上座の席に俺は座り、内心ため息をついていた。

 

観測班代表ブランニュー君の報告では海賊旗から推察するに襲来した海賊船の殆どはかの四皇〝カイドウ〟傘下の海賊だと言うことが判明してる。

 

 

「と、言うわけで。

四皇が海軍本部に特攻仕掛けて来た訳なんですが、厄介な事にコング元帥含め中将以上の実力者が不在してるこのタイミングでやって来ました。

今から聖地マリージョアへ救援要請しても最短で1日はかかります、故に今ここにいる戦力だけでカイドウを撃退するしかありません。

他に良い作戦のある方!」

 

 

し〜〜ん…デスヨネー

 

 

「上がいないからといって尻尾を巻いて逃げては海軍の名折れ、ここは打ってでるしかありませんな。」

 

 

ドーベルマン少将は好戦的だなー、相手が相手なんだけど…

 

 

「まあ応戦するしか無いなあ…ブランニュー君、敵戦力の確認を」

 

 

「ハッ!現在四皇カイドウ傘下の海賊団は海軍本部沖六キロの位置に停泊中、まるでこちらが出てくるのを待っているかのようにその場から動きません。」

 

 

かまってちゃんかよ

 

 

「海賊船の数は大小含め20、総員数は700名以上に上ると推測されます。」

 

 

「雑魚の数はどうでもいい、向こうから仕掛けて来るからには当然カイドウは乗ってるはず…じゃあ幹部は何人いたか確認出来ましたか?」

 

 

「観測班の確認では幹部クラスは『旱害』のジャック一名のみです。

残り2人の『災害』の姿は見受けられません。」

 

 

カイドウクラスのバケモンは1人だけか……

 

 

「カイドウは私がやるとして、誰かジャックを足止めしてて欲しいな…」

 

 

ボソッとそんな事を呟いてしまった、議事の間の全員が目をパチクリさせながら一斉に俺の方を凝視してる。

あれ?なんかおかしいこと言ったかな……皆目ぇ怖いよ?

恐る恐るオニグモ少将が聞いてきた。

 

 

「お言葉ですが大将白蛇、あのカイドウをお1人で相手するおつもりですか…?」

 

 

「え?他に抑えられる人が現戦力にいるんですか?

流石にジャックとカイドウ2人は私も面倒くさいのですが…」

 

 

「そのジャックとやらは私とイルミたんにお任せ下さいまし。

お姉様の戦闘の邪魔にならぬよう、全力で足止め致しますわ。」

 

 

「ん、今度は頑張る…!」

 

 

「ん〜そうか、じゃあ2人に任せてしまおう。宜しく。

後は布陣を……」

 

 

「ちょちょちょっと待ってください大将白蛇!

彼女達は雑用係ですよ!?

海賊の…よりにもよってカイドウの幹部をたった2人で足止めなど…」

 

 

あ、そうか。ここにいる人たちは知らないんだっけ?

 

 

イルミーナは幻獣種の覚醒能力者、スパンダムの時は油断したが弱点を突かれなきゃ完全狼化して無敵モードのイルミーナに敵う奴は殆どいないだろう。本人は優しい子だからあまり戦いたがらいけど。

テリジアも変態だけど自然系の水銀人間、覇気を使えない奴は相手にならないし元が武家の家柄だったので戦闘力は高い。武装色の覇気も心得てて戦力としては充分。

能力の使い方を熟知してるのも強みだ。それにこちらは若干戦闘狂の節がある。むしろやり過ぎないほうが心配になってくる。

 

 

「問題ありません、ジャックの足止めは2人に任せましょう。大体今は緊急事態、大物2人は我々で抑えますので残りの有象無象をお願いします。」

 

 

ジャックねー、白髪幼女で「かいたいするよ」とか言ってたら歓喜してたんだけど生憎デカブツの野郎だし慈悲は無い。

 

 

「白蛇殿がそう仰るなら…」

 

 

渋々納得してくれたみたい。

 

 

後は布陣を決めてー、兵の割り当てやってー、指揮はオニグモ少将に任せよう、カイドウ相手にしながら指揮とかそんな細かい事出来ないし。

俺の留守の間、本部の守りはゼファー先生に一任した。元大将だしも安心して任せられるね。

当の本人はぶーたれていたが…

 

ぶーたれたいのはこっちだ、就任期間が終わったらコング元帥に長期休暇を申請してやる。

 

カイドウかあ…やだなあ……帰れって言ったら帰ってくんないかなあ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんでもって時は動き出す。

 

俺氏、ただ今絶賛カイドウと死闘を繰り広げ中。

 

 

空中で衝突した後、お互い剣戟を繰り広げながらカイドウ傘下の海賊船へ着地、その後も俺は狂ったように繰り出される金棒の連続攻撃を二刀流で弾き続けた。

やっべえ、金棒のトゲ一つ一つからソニックブーム出てりゅ。斬撃が飛び散って巻き添え食らった海賊達が血飛沫上げながら吹き飛んでくよ。

それに伴って船自体もボロボロになっていき、マストなんて五秒位で根本が小間切れにされた。

 

あーこっち倒れて来た、蜃気楼で二つに割いてっと…

 

 

スパッと綺麗に切れました、いい刀は切れ味が違うネ。

 

 

「余所見してる場合かァッ!!!」

 

 

「余所見などしとらんわっ!」

 

 

切れたマストを吹き飛ばすように飛んできたカイドウの金棒を影炎の突き込みで応戦、勢いが殺しきれなくてお互い船から弾き飛ばされ、ちょうど向かいにいた別の海賊船へ突っ込んだ。

 

 

「な…なんだァ?」

 

 

「コイツ…海軍大将だ…!

やっちまええ!」

 

 

丁度船員の集まる大部屋に突入してしまったらしい、雄叫びを上げながら突撃してくる。

 

 

「今は非常事態につき降伏勧告は無しだ海賊共…寄らば斬る。」

 

 

一応の警告にも関わらず無策に突っ込んでくる木偶人形たち

 

 

はい此処で問題、タダでさえ人間のウン百倍もある龍の腕力。そんな馬鹿げた力を本気で使い、剣を振るとどうなるでしょう。

 

答えは当然、人体なんて軽く両断される。剣で受けるとかそんな生易しいことは出来ない、一太刀で上半身と下半身がサヨウナラだ。

 

 

「がッ…」

 

「ぴッ…」

 

 

哀れ海賊達は縦とか横とかナナメとかに両断されてその場に血をぶちまけた、わーグローい。やり過ぎたかな…力加減を間違えた。でもカイドウ相手だと下手に加減出来ないし…。もっと技術があればね、剣術の嗜みなんて持ってないからただ速度と力にものを言わせて今まで戦ってきた。

大雑把なんだよなあ俺の戦闘。

 

 

「ウォロロロロロロロッ!!!」

 

 

スドォンッ!

 

 

考えているうちに天井を突き破ってカイドウのご登場である。

 

 

「なかなかやるじゃねえか女ァ…。

こんなに楽しんだのはロジャーの野郎以来だぜ。」

 

 

「かの海賊王と同格とは光栄だが、海賊に褒められてもなあ…」

 

 

「ウォロロロロロ!言ってくれる!」

 

 

流れるように振り下ろされる巨大金棒を体を捻って躱し、月歩で空中を蹴って一気にカイドウの喉元へ。

 

ボッ!!! ガキィンッ!!!

 

音を超える速度で思いっきり喉元深く軍刀を突き刺してやった………が、駄目っ!!!

武装色の覇気でコーティングされた首元に俺の攻撃は阻まれた。

 

武装色の覇気は自分の強さを疑わないことで強化される、まあ四皇と呼ばれるくらいだから強さは疑う余地もないだろ。

にしても覇気なしとはいえ龍の力で突き込まれた一撃を止めるとは、流石ガープ爺さんと同じ世代の怪物。海賊王の宿敵達だ。

どんだけ海賊王強かったんよって話ですよね。

本来なら「強敵やん、よっしゃ龍なったろ!」てなる所なんだけど、周りの目があるからなあ……龍バレするのやだし。この姿のままカイドウの相手をしないといけない。

 

速さでは確実にこっちの方が上、でも向こうには『力』と『硬さ』がある。

人化した身ではパワーに制限がかかるし…どうしたもんかな。

 

 

「!?チッ…」

 

 

悪態をついたその時、目の前にカイドウの拳が飛んできた。

咄嗟に腕でガードするも体重差があるからどうしてもポンポン吹っ飛ばされてしまう。カイドウが落ちてきた穴から打ち上げられ甲板へと舞い戻った。

 

 

「くそ、どうも〝本物〟相手に人の身じゃ無理があるな…」

 

 

「無駄口叩いてる暇あんのかァッ!?」

 

 

いつの間にか甲板へ上がってきたカイドウから再び振り下ろされる鉄槌、こっちは防戦一方だ。

 

 

「死にたい割には愉しそうに戦うじゃないかカイドウ!」

 

 

「そうかァ!?ウォロロロロロロロッ!

確かにお前なら俺を殺せそうだなァ!もっとだ、もっと来いよォーーッ!!!」

 

 

「死に急ぎ野郎か貴様は…。何故そうまでして死にたがる!」

 

 

「俺には戦いしか無えからよォ、ロジャーが死んじまった今もう俺を殺せる奴ァ居なくなっちまった。

うおおおおおんッ!!!なんてこったあ……!

あのクソ野郎ォ……なんで死んじまったんだよォォ…ぢぐじょおおう…」

 

 

あれ?なんか…泣き出した…?

 

 

「お…おい…?どうしたカイドウ?」

 

 

なんか急に滂沱の涙を流しながら泣き始めたカイドウ、一体どうしたってんだ?

咄嗟にカイドウは泣きながら傍にあった一升瓶を引っ掴んで一気飲みを始めた。グイグイ飲み干して空っぽになった瓶を投げ捨てて俺の方を向く。

 

 

「おい…お前…まさか……」

 

 

「あのロジャーが死んだんだ!酒でも飲まなきゃやってらんねえだろぉおぉぉぉぉッ!」

 

 

「よ…酔った勢いで海軍に攻め込んできたのか…!?」

 

 

返事の代わりに拳が飛んできたので剣で弾く、すっげえ鈍い音が鳴って火花が飛び散った。

 

間違いない、コイツは…酔った勢いで海軍本部に特攻仕掛けてきやがった!

くっだらねえ!

災害クラスの人物が悪酔いで海軍攻めてくんじゃねえよ!

これも災難のせいなのか…

なんか急に緊張感無くなったわ!

 

だが攻撃は本物だ。金棒を使わなくても武装色で強化された腕は刃物より凶悪、まともな人間なら食らえばメタクソになる攻撃を剣で受け続ける。

 

 

「くそ……迷惑な奴だ……ならば…ッ」

 

 

大振りの一撃をパリィし、大きく後ろへ飛び退く。

そして軍刀二本を上段で構え、武装色の覇気と祖龍の紅雷を思いっきり流し込んだ。

迸る紅雷で刀身は輝き、そそり立つように天に向かって赤い光が伸びていく。

今は出力がどうのなんて言ってられない。

この酔っ払いを一瞬でも早く追い出す!

でも身バレするのは良くない、だからせめて全力の一撃をこの一太刀に込めて……放つッ!!!

 

 

「おお……なんだこりゃぁ…」

 

 

カイドウからそんな声が漏れた。

 

俺の周りには赤い雷が帯電し、凄まじい電磁波が足下の甲板を焦がしてる。

緋色の軍刀は紅白く光り輝き、長大に伸びた刀身は天に向かって直線を描いてた。

 

 

「受けろよカイドウ、酔い醒ましには丁度いいだろ……!!!」

 

 

「生意気なァッ!!!オオオオオオッ!!!」

 

 

全身を武装色で硬化させ、カイドウはトップスピードで俺に向かって突っ込んできた。でももう遅い!

 

 

「あああああああああああああっ!!!」

 

 

叫び声と共に振り下ろした光はそのままカイドウの肩から腰に掛けて斜めに大きく切り裂いて、後ろに連なる海賊船を海ごと真っ二つに断ち切った。

 

 

「「「う、海が…割れたアアアアアアッッ!!!?」」」

 

 

戦闘していた他の海兵も、カイドウの部下達も、皆さん戦うのを中断して呆気に取られながら割れた海を見つめている。

 

放った斬撃は威力を徐々に落としながらそれでも海を割りつつ突き進み、たまたま射線上に居合わせた大型の海王類を両断して黒焦げに変えた後やっと消滅した。

 

 

「………ガハッ!!!」

 

 

カイドウの身体に入った二本の斜め線から勢いよく血が吹き出し辺りに飛び散る。

海は割れてもカイドウは両断出来なかったらしい、頑丈な奴だ。

だがダメージは見た目以上だろう、ガクリとその場に膝をつき息も絶え絶えに傷口を抑えてる。

 

 

「酔いは覚めたかカイドウ、兵を退け。

もう勝負は着いた。今のを食らって五体満足でいられるのは驚きだが…」

 

 

「…………………」

 

 

軍刀を鞘に戻す、俺にはもう戦いの意思はない。今ので決着は着いているし、これ以上欲を掻いてもこっちの被害が拡大するだけだ。

というのは建前で、龍的にはハンデがある中俺ちょー頑張った。と自分を褒めてやりたい。んでそろそろやめたい。

それに此処で下手にカイドウに死なれて四皇が三皇に減り、原作が始まらなくなっても困る。カイドウ程の大物が死ねば新世界に与える影響は決して小さくない、彼のシマは制御を失って地獄と化すだろう。海軍がそれに巻き込まれる一般市民を全て救えるかと言われればそれは否だ。

 

龍のままならいざ知らず、今の俺は一軍を率いる大将。なら闇雲に海賊を手に掛けるのはマズイ。

思えば結構背負い込んでしまったなあ…それだけ人の世界に馴染めてるってことだけど。

 

今はあくまでも「カイドウ海賊団が海軍にちょっかいを掛けてきてそれを俺達がかっこよく撃退した」のを世間に演出出来ればハナマル。

 

 

「何故トドメを刺さねえ……お前は俺に勝ったんだろォ…?」

 

 

「その必要は無い、貴様は自分の立場をもっと弁えるべきだ。

と、今の貴様には何言っても無駄か……さっさと失せろ、我の気が変わらん内にな。」

 

 

「知らねえよ…俺は俺のやりたいようにやって来ただけだ……」

 

 

「餓鬼か貴様は、自由には対価を払え。下らん死にたがりで世間様に迷惑かけるより組織の長としてせねばならん事を考えろタチの悪い酔っ払いめが。」

 

 

まだ他の船は海賊達と激しい戦闘を繰り広げている、捕まえられそうなのは捕まえるとして…さっさと事後処理を行おう。

これ以上の戦闘は時間の無駄だ。

 

 

「説教なんて柄でも無いな……。

じゃあなカイドウ、ハンターまでとはいかないが貴様との戦いは楽しかったよ。」

 

 

そう言い残してカイドウの下を去る、去り際カイドウがなんか言ってた気がするが聞こえなかった。

 

 

さーて、オニグモ少将達になんて説明しようかね

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら?ここまでの様ですわ。」

 

 

『……うん、みらの方終わったみたい。』

 

 

そう呟いてテリジアとイルミーナの2人は向かい合うジャックへの攻撃を辞め、やれやれと息を吐いた。

 

周りには全身に切り傷をつけ倒れたジャックの部下達、小さくうめき声を上げているので辛うじて生きていることは確認できた。

その中で傷つきながらもジャックは忌々しそうにテリジアに吼える。

 

 

「テメェ等、まだ戦いは終わってねえぞ……!」

 

 

「いいえ、もう私達の役目は終了致しました。

私の役目はお姉様とカイドウの戦闘の邪魔にならないように貴方を足止めすることですもの。」

 

 

『うん……向こうのしょうぶは着いた。

なら、もうおわり。』

 

 

「巫山戯んなァ!」

 

 

激昂するジャックを気にも求めず2人は緊張を解き、テリジアは狼化したイルミーナに腰掛けその場を去ろうとする。

 

 

「ではごきげんよう、お馬鹿な海賊さん達。次会うときはきちんとお姉様から殺しの許可を頂いて来ますわね♡」

 

 

「待ちやがれっテメェ!!!」

 

 

ゾウゾウの実の古代種を食べたマンモス人間であるジャックはすぐさま巨大なマンモスの姿へと変わり、その長い鼻でイルミーナを握り潰そうとするが速度で勝る巨狼を捉えることは叶わず虚しく空を切った。

 

 

「あらあらお行儀の悪いお鼻ですこと。アデュー♪」

 

 

能力によって空気を足場に駆けていくイルミーナに乗って、テリジアはジャックとの戦闘から離脱した。

 

 

 

 

 

 

『てりじあ、ちゃんとみらの言いつけまもったね』

 

 

「勿論ですわ。きちんと全員死なない程度に痛めつけ、ジャックの方も殺さず足止め出来ましたもの。

これでお姉様に褒めて頂けるかしら…ふへへ…ふへへへへ……駄目ですわお姉様続きはベッドの上で……」

 

 

『…………?』

 

 

自分の背で身悶えするテリジアに疑問符を浮かべながらイルミーナは味方の軍艦へと駆けていった。

 

 

 

 

 

 

 

ミラとテリジア、イルミーナはガスパーデの指揮する自身の軍艦へとほぼ同じタイミングで降り立った。

 

 

「おう2人とも、いいタイミングだ。

言いつけ通り足止めしたな、ご苦労さん。」

 

 

「お姉様の御用名でしたらこのテリジア、例え海賊王でも瞬殺して見せますわ!」

 

 

「いや殺すなよ。」

 

 

「頑張った、ほめてほめて」

 

 

「よーしよしイルミーナ、いい子だなあ。」ナデナデナデ

 

 

「ん…//」

 

 

「ああんお姉様!私にもご褒美を!お帰りのチューを下さいまし!」

 

 

「やだ(無慈悲)」

 

 

「ぁあんっ//蔑むようなお姉様の視線…イイっ♡」

 

 

「大将、じゃれてるとこ悪いがオニグモ少将から通信が入ってんぞ。」

 

 

呆れたようにガスパーデが電伝虫を手渡し、ミラはそれを受け取り受話器をとる。

 

 

「少将、こちらは万事片付きました。そちらは?」

 

 

『問題ありません、カイドウとジャック以外は有象無象ですな。

カイドウはどうなりました?』

 

 

()()()()()()()()()()()()()

だがかなりの深手を負わせた、暫くは大人しくしているでしょう。

オニグモ少将は各艦と連携を取ってそのまま逃げる海賊達を捕まえて下さい。終わったら今度こそ昼食にしましょう、お疲れ様でした。」

 

 

『白蛇殿がカイドウを抑えて下さったおかげです、後はこちらにお任せを、では。』

 

 

ガチャ

 

 

受話器を置き、軽く息を吐くミラ。

カイドウを撤退させるまで追い込んだ事により、頭目を失った海賊達は既に散り散りに逃げ始めている。

 

 

マリージョアから帰ってきたセンゴクさんとコング元帥になんて報告しよう。

ミラはどうにかあの苦労人の胃を傷めないような説明を考えよう、と頭を悩ませるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カイドウによる海軍本部襲撃事件はカイドウ傘下の海賊団600名あまりの捕縛と殺害、更にカイドウ本人にも重傷を負わせ撤退させることで幕を閉じた。

新聞各社はこの大勝利を大々的に取り上げ、先のゴールド・ロジャー処刑に次ぎ改めて「強い海軍」を一般市民に向けて誇示する事ができたといえる。

新聞の一面には専属カメラマン、アタッチャンから提供された「後ろ姿の海軍大将と思わしき人物が赤白い光の柱を振り下ろし海を割っている姿」の写真が見出しに大きく飾られ、名前のみ公開されている新大将〝白蛇〟の憶測で人々の話題は持ち切りだった。

性格、容姿は一切不明。

 

曰く「海軍の作り出した改造人間」

 

曰く「世界政府が送り込んだ人間兵器」

 

曰く「海の死神と契約した海兵」

 

等々、噂は後を絶たず話は尾鰭に翼が付いたように世界各国へ広がっていった。

海軍が隠し持つ秘密兵器、それが大将白蛇。カイドウすらも退けるその実力に世の海賊達はその名を小耳に挟むようになる。

そして聖地マリージョアで世界会議の間警備をしていたセンゴク大将を初めとする諸将達も無事海軍本部へと帰還し、海軍はいつもの平和を取り戻していた。

 

 

 

◆ー◆ー◆ー◆ー◆ー◆ー◆

 

 

 

 

「だーかーらー、白蛇は期間限定だと話しただろうが!

もう大将なんぞなるもんか!私は休暇が終わったらいつもの准将に戻らせてもらうからな、分かったかジジイ!」

 

 

『世間は皆、謎の大将〝白蛇〟に期待を寄せている。

海軍本部上層部も君の大将入りを歓迎するだろう、軍内の君の知名度も折り紙つきだ。大人しく大将の座に着いてはどうかね?』

 

 

「こ・と・わ・る!!!

センゴクさん達への義理で海軍本部は守ってやったんだ、これ以上望むのは虫が良過ぎるぞ。

それに大将などになってしまったら自由にやれんじゃないか、私は仕事に殺されるのは御免こうむるよ。

……とにかく私は大将など絶対に就かんからな!中将までで十分だ!」

 

 

『………承知した、中将ならば文句は無いんだな?』

 

 

「……………???なんだ急に…」

 

 

『早速コングに掛け合ってみよう。

休暇明けを楽しみにしていたまえ。』

 

 

「おいコラジジイ、何を企んでる?

おい!おいいいいいいいいッ!!!」

 

 

ガチャン

 

 

 

「……………………何だったんだ今のは…」

 

 

「ぶわっはっはっ!ミラ、ご愁傷さん!煎餅食うか?」

 

 

「せっかく肉を焼いているのですからガープ中将も煎餅食べてないでお肉を食べて下さいまし!」

 

 

「大将になるのになんか困る事でもあるんかのォ…?」

 

 

「おじちゃん…お肉やけた。食べよ」

 

 

「おお、イルミーナも尻尾が燃えんよう気ゅうつけんとなぁ」

 

 

「燃えない……たぶん」

 

 

「ミラ、変な顔してないでお前も食えよ。俺とボルサリーノで全部食っちまうぞ?」

 

 

「オォー…こりゃ美味い、いい焼き加減だァ。

ステラちゃんは料理上手だねェ〜、いいお嫁さんになるよォ。」

 

 

「やだもうボルサリーノさんったら。」

 

 

「こっちも焼けたよ、上と話が終わったんならさっさと手を洗ってきなミラ。ちゃんと綺麗にしてからじゃないと食わしゃしないからね。」

 

 

「ウゥ…ミラが大将になってくれれば私の仕事も少しは……イヤ甘えなど……だがしかし……」

 

 

「センゴクお前ェ…俺が辞めた後結構苦労してんだな……」

 

 

「お姉様ああああ!私はお姉様がどんな高い地位に就こうとも一途にお慕いしておりますうううううう!」

 

 

「暑苦しい!バーベキューの熱より暑苦しいぞテリジア!お前銀だから熱せられて余計暑苦しい!

は〜な〜れ〜ろ〜〜ッ!」

 

 

「ああんいけずぅ〜〜、お姉様ああああああ♡」

 

 

 

 

 

 

◆ー◆ー◆ー◆ー◆ー◆ー◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

海軍本部履歴 ㊙︎

〇〇年ーー月××日 付

 

元海軍大将代理〝白蛇〟ミラ、世界政府と海軍本部上層部の意向により新たに新職〝中将総督〟に任命

 

尚、本案件は秘匿レベルをS+とし詳細な情報は海軍大将及び元帥の許可を得た者のみ公開を許すものとする








次回、他所の人達


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16 閑話(短くて済まない)、顔の無い大将のウワサ



ネットで見つけたたしぎとビビの水着フィギュアがめっちゃ欲しくなった今日このごろ、短くてごめんなさい。




◆Case.カイドウ◆

 

 

新世界、とある島

 

 

島に人気はなく、聞こえるのは森の中から時折響く獣の声。

そんな静かな島の浜辺に灯る大きな灯が一つ。

 

 

「ウォロロロロ…それで?俺はどれ位寝てたァ…」

 

 

「一週間ほどです、大将〝白蛇〟の海を割るほどの一太刀を受けたんだ。

寝込む程度ですんでラッキーですよカイドウ様。」

 

 

連日船で行われるどんちゃん騒ぎに釣られて目を覚ましたのか、カイドウは痛む頭を抱えながらむくりとベッドから身体を起こした。

 

断片的な記憶が蘇る。

 

宿敵であるロジャーの死

 

ヤケになって飲んだ三日三晩

 

そして唐突に閃く海軍本部襲撃

 

立ちはだかった白い髪の女

 

斬られる自分、そして敗走

 

 

「思い出したぜェ…あの女…大将〝白蛇〟…。

アイツについてなんか情報は無ぇのか?」

 

 

船医は困った顔をしながら首を傾げた

 

 

「それが…連日新聞には掲載されるんですが、名前以外詳しい情報が無えんです。他の『災害』の方々も知らねぇって話で、馬鹿げた憶測ばかりが走り回ってます。

政府が意図的に隠してるとしか…」

 

 

「ほぉ…謎か、俺もアイツが『女』って事しか分からねえ。

ウォロロロロロッ…それにしても良い女だった。酔ってるとどんな女も美人に見えるとは言うがアイツぁ本物だ…一本太ってぇ『芯』の入った、な。

じゃなきゃあこの俺が傷を負うハズが無ェ。」

 

 

そう言ってカイドウはミラに斬られた二本の傷跡を撫でながらニィッと笑う。

覇気で強化されたカイドウの身体を切り裂いたということは、彼女が自分を超える覇気を身に付けていたということ。

今まで出会ったどんな女よりも白蛇は気高く、そして強かった。

四皇の権力欲しさに言い寄ってくる女は過去にいくらでもいたが逆に自分に説教かます稀有な奴と出会ったのは生まれて初めてだ。

 

そんな女を自分の物に出来たら……

組み敷いて屈服させ、女の悦びを教え込み、離れられないよう自分だけのものに縛れたら…それはどれだけ愉しい事なのだろうか、想像しただけでカイドウは身震いした。

 

彼女ならロジャー(亡き仇敵)が残した心の穴を埋めてくれるかも知れないと

 

 

「決めたぜ。」

 

 

「はえ?カイドウ様、一体何を決めなすったんで?」

 

 

「大将白蛇……アイツは俺の女にする。今決めた。」

 

 

「なあ!?本気ですかい?

素性の知れねぇ亡霊みたいな奴で、しかも海軍大将なんですよ!?」

 

 

「俺ァ白蛇と直に()ったんだ、亡霊じゃねえことくらい分かってる。

それに大将でも一人の女だ、なら俺の物に出来るハズだろ?」

 

この時点でカイドウの心の内に自殺の二文字は消え、代わりに一人の女性を自分のモノにするという独占欲で満たされていた。

 

 

「そりゃあカイドウ様なら不可能は無ェと思いますが……それで、シンジケート使って情報を集めさせますかい?」

 

 

「当たり前だ、見つけ次第俺が飛んで行って今度こそ〝白蛇〟は俺の女にしてやる……!

ウォロロロロロッ!!!漲ってきたぜ!

まずはシンジケートの強化だな、あと前ジャックの奴が提案してた『能力者の軍隊』計画も同時に進行だ!

酒持ってこォイ!何テメェらだけで呑んでやがんだよォッッ!!!」

 

 

「「「アイサーキャプテン!!!」」」

 

 

景気よく返事した部下の持ってきた特大ジョッキへ波々に注がれた酒を煽りつつ、今後の計画と一足先に〝白蛇〟を傍に侍らせる様を想像し豪胆に笑うカイドウであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆case.エドワード・ニューゲート◆

 

 

新世界、とある海

モビーディック号船長室

 

 

「オヤジィ!オヤジィ〜ッ!!!」

 

 

「うるせえぞマルコ、静かに酒も飲めねえだろうが。」

 

 

「新聞見てくれよい、カイドウの野郎が負けたって書いてあるぜ!」

 

 

「グララララ…あのハナッタレ小僧か、遂にくたばったか?」

 

 

「いやどうやら死んでは無ェみたいだよい。それでカイドウを追っ払った奴の名が……」

 

 

「大将〝白蛇〟ィ……?聞かねえ名だな。

ガープやセンゴクの野郎じゃあ無ェのか。」

 

 

「どうも違うみてえだよい。写真はあるが後ろ姿だけ、それ以外は何も分からねえ。

まるで煙みてえな奴だ。噂じゃ筋骨隆々の大男だとか絶世の美女だとか、わけの分からねえ話ばかり聞くが…」

 

 

「ほぉ、面白ぇ野郎だ。

1度お目にかかってみたいもんだぜ。

なんなら俺達も海軍に攻め込むか?」

 

 

「オヤジがしたいならそうするが…後が困るよい。なんかあったらシマの連中が苦労しちまう。」

 

 

「グラララララッ!冗談だ。

安心しろ、()()()()()()()()()()()()()海軍なんぞに用は無ェよ。」

 

 

右手の巨大瓢箪に入った酒をぐびぐびと飲みながら白ひげは笑う、だが噂の大将への興味は尽きなかった。

 

 

「(センゴクの仕業かもっと上の連中の仕業か知らねぇが、上手い手を使うじゃねぇか。

形の無い大将、好きなだけ印象操作で世の海賊達をビビらせられる……カイドウの野郎を退けたなら尚更効果はデカい。

逆にカイドウのシマは荒れかねねェな、ウチのシマまでとばっちりが来なきゃいいが………)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆case.ドンキホーテ・ドフラミンゴ◆

 

 

 

偉大なる航路、シャボンディ諸島

 

 

雪の降る海域、暖かい船内で1人新聞片手に笑う一人の男の姿があった。

 

 

 

「フッフッフ……フッフッフッフ…」

 

 

「ドフィどうした?新聞見るなり急に笑い出して…」

 

 

「これが笑わずにいられるかディアマンテ、お前も見てみろ。」

 

 

「へぇ…新大将〝白蛇〟ねぇ。

………カイドウを退けたのか!?ヤベェ奴じゃねえか!」

 

 

「〝顔の無い大将〟とは海軍本部も芸の富んだマネをしやがる……。

これでカン違いした馬鹿がカイドウに特攻仕掛けるところまで読めたぜ。」

 

 

「なるほどな、この文面ならカイドウは力が衰えたともとれる。

小狡い海軍の考えそうな事だ。」

 

 

実際彼の憶測は当たっていた。

『カイドウが負けた』という事実をセンセーショナルに報じることで勢力が弱まったと思わせ、海賊同士を争わせるという政府の意図もある。

それで生じる一般人への被害は少なくは無いが…それも『大を生かすため小を捨てる』政府の方針にほかならない。

 

 

 

「俺達の〝計画〟に支障があっちゃならねえ…ヴェルゴに電伝虫を繋げ、次いでにコイツの事も調べさせよう。

フッフッフ…誰だか知らねぇが面白い真似するじゃねえか。

退屈しなくて済みそうだ…なァコラソン?」

 

 

「………………………」

 

 

「つれねぇ野郎だな。

トレーボル、出発だ!

どの道海賊である以上いつか白蛇に出会うこともあるだろう。新世界、楽しもうぜ…フッフッフ…」

 

 

「…………………(大将〝白蛇〟…センゴクさんからは何も報告は無いが気にかけておいたほうがいいな…。

とにかく俺は兄の暴走を止めることを第一に考えなきゃならねえ…)」

 

 

ドンキホーテ海賊団、後に巨大な組織の大きな歯車の一つとなるこの海賊団はこの日、偉大なる航路(グランドライン)後半の航路〝新世界〟へと突入した

 

 

 

 

 

 

 

◆case.ニコ・ロビン◆

 

 

西の海、とある島

 

 

「今度はあっちを探せ!」

 

「畜生あのガキ、何処へ逃げやがった!」

 

「捕まえて売り飛ばしてやる!」

 

 

ドタドタドタ…

 

 

…もう行ったみたい。

私はダストボックスの中からひょこっと顔を出して辺りを見回した。

路地裏のゴミが溜まるこの周りには誰も近寄らないし、なんとかお金を盗むことが出来た。

 

 

私はずっと追われる身だ。もう何年も組織に入っては裏切りを繰り返し、新しい組織を見つけるまではこうして海賊からお金を盗みながらゴミ溜めで生活をしている。私の能力は盗みには最適だから…。

むせかえる様なゴミの臭いにももう慣れた、あの海賊達がこの島を出たらこのお金でご飯を食べよう。あ、その前に川で臭いを落とさなきゃ…

 

 

不意にゴミの中、雑誌や新聞を括って捨てられているのを見つけた。

何の気なしにはみ出ていた1枚の記事を取って眺めてみる。

そこには大見出しで『海軍本部、四皇カイドウに大勝利!!!』と書かれていた。

なんでも四皇が海軍本部へ攻め込んだらしい、それを新米の大将が撃退したのだとか。

写真には件の大将の後ろ姿と、彼が光の柱を振り下ろしている様が大きく載せられている。

 

 

「うそ……この光は…」

 

 

私はこの写真の光景に見覚えがある。

そうだ、あのボートの上で見た。

 

私の島を消滅させた紅い光と同じもの…

 

 

「あっ……ぁぁぁぁぁ…」

 

 

思い出してしまって震えが止まらない。大量の軍艦や燃える島なんて比じゃないくらい恐ろしい。

あれは悪夢だ、もう私の心から一生消えることは無い、教授も、お母さんも、私の大切な人全てを一瞬で消し去った地獄の様な現実(あくむ)

 

 

あの血のように紅い光を私は生涯忘れる事はないだろう

 

 

「はあ……はあ……」

 

震えもやっと収まってきたので臭いを取るために川へ向かう、新聞をくしゃくしゃに丸めて外へ放り投げた。

もうあんな記事見たくもない、きっと見たらまた震えておかしくなってしまうから。

 

 

騙して、騙されて、裏切って、裏切られて、自分すら騙しながらこれからもずっとこんな日々が続いていくんだろう。

 

私は…生まれてきて良かったのかな

 

 

………………

 

 

耐え難い過去に怯え、偽り生きるこの少女が本当に仲間と呼べる存在に出会い、自らの恐怖と対峙し克服するようになるのはそう遠くない未来の出来事だ。

 

 

 






次回からちょっと時間が飛びます


次回、ステラの願いと中将総督のお仕事


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17 祖龍(モドキ)と七武海(7人いるとは言ってない)



ちょっと時間がとんで、タイガーがマリージョアを襲撃するあたりの時間軸でのお話です。


はたらくってつらい




 

 

 

人生には金が必要だ

 

金がない奴は野垂れ死ぬしか出来ない

 

金がない奴はクソだ

 

金があれば…金があれば…

 

 

彼女を救うことが出来たかも知れなかったのに

 

 

首輪を付けられ、毎日糞のような飯を食わされ、人としての生活すら捨て去った男は独房の暗がりでぼんやりと1人思案する

 

愛した女といつまでも一緒にいると誓った、だが運命は残酷にも彼女を殺した。いや、こんな物は運命なんかじゃない。ただの天竜人の気まぐれだ。

マリージョアに送られた自分の恋人を救うため自分も捕まり奴隷となった。だが分かったことは彼女がもう死んだということだけだった

 

男は深く絶望し、自分の無力を呪う。

彼の名はギルド・テゾーロ。金も、夢も、愛した女さえ失った男。

 

 

いつものように彼は首輪と鎖に繋がれて、ボロボロの衣服のまま牢へと入れられ、カビの生えた残飯を貪っていた。

腐りかけていても大事な栄養源だ。もっとも、この状況では死んだ方がマシかも知れないが。

 

夢中でパンを貪っていると不意に建物が僅かに揺れ、彼の身体は振動を感じ取った。

 

マリージョアは世界を分かつ陸続きの長大な大地だ、当然地震も起きる。

数年前も大規模な地震で大地の一部が崩落したと世界貴族達の間でも話題になっていた。あんなクズ共が何人死のうが彼にとってはどうでもいい話だったが。

 

大して珍しくもない

 

そう考えながら食事を再開しようとした時、不意に遠くで爆発音が聞こえた。

世界貴族達が奴隷を的当てと称し撃ち殺すのはいつもの事だが少し音が大き過ぎる、また悪趣味な催し物でも始めたのかとテゾーロは悪態をついた。

 

そこから更に続く爆発音、どんどん近くなっていく。そして人の悲鳴、叫び声……

 

 

一体何が起こっている…?

 

 

「するるるるるる…」

 

 

「…ッ!?だ、誰だ!!!」

 

 

声のした暗がりに向かって叫ぶ、その中から……いや、その下から2人の男女が文字通り地面をすり抜けて現れた。

 

 

1人は巨大な頭を持つ二頭身の男性、もう1人は綺麗な白色の髪をシニヨンに纏め、青色で胸に「だらけた正義」と書かれたTシャツとジャージズボンにサンダルといった明らかに部屋着のまま出てきた感じの雰囲気を漂わせる女性だった。

 

 

「するるる…ミラさん、写真と同じ顔です。コイツで間違いないかと。」

 

 

「らしいな。おい、お前の名は?」

 

 

「お前ら何モンだ!?何しにここへ来た!?」

 

 

あまりにも突然の出来事にテゾーロは狼狽していた、そんな彼をミラと呼ばれた女性はキッと睨みつけ黙らせる。その真紅の瞳には逆らってはいけないという凄みがあった。

 

 

「質問に答えろ、時間が無いんだ。

もう一度聞くぞ……お前の名は?」

 

 

「て…テゾーロ。ギルド・テゾーロだ……。」

 

 

その名を聞いて少しだけミラの表情が綻んだように見えた。

更に彼女は続ける。

 

 

「よし、ギルド・テゾーロ。お前をここから連れ出してやる。

詳しい事は聞くな。

今現在、偶然どっかの馬鹿がマリージョアで暴れ回っていてな。それで簡単に君に接近できたんだ。テリジア、錠を外せ。」

 

 

「畏まりましたわ。」

 

 

ミラが一つ指を鳴らすとテゾーロの周囲に銀の粒子が舞い、耳の後ろでカチャカチャという音が少し響いた後彼を拘束していた爆弾付きの首輪は音を立てて外れ、いとも簡単にテゾーロは自由の身になった。

 

 

「完了ですお姉様、ちょろい錠ですわね。」

 

 

「ご苦労さん」

 

 

「はひぃ//」

 

 

甘い声を上げる女性の声に目もくれず、ミラはテゾーロに手を差し伸べる。

窓から漏れる月明かりに照らされた彼女の笑みはまるで女神の様だった。

 

 

「一緒に来い、お前のフィアンセが首を長くして待っているぞ?」

 

 

「フィア…ンセ……?」

 

 

心当たりはある、でも彼女はもう死んだ筈だ。

半信半疑でテゾーロはミラの手を取った。

 

 

「話は後だ、さあ行くぞ!タナカ頼む!」

 

 

「了解、するるるる……!」

 

 

タナカと呼ばれた二頭身がテゾーロと女性の手を掴み、壁に向かって走り出す。

 

 

「おい待て待て待て!ぶつかるぶつかる!」

 

 

「大丈夫だ、手を離すな!」

 

 

狼狽えるテゾーロを他所にタナカはそのまま壁に向かって直進し…

 

ズルリ…

 

そのまま壁をすり抜けた。

 

 

「!?!?!?」

 

 

「するるる、さあどんどん行きますよ〜!」

 

 

次々に屋敷の壁をすり抜けて、遂にテゾーロ達は建物の裏手の庭へと辿り着く。

久しぶりに見る外の景色、2度と拝む事が出来ないと思っていた景色に彼は内心感動に打ち震えていた。

 

 

「外だ……」

 

 

街の向こうはほんのり赤く染まっており、火の手が上がっているのが見て取れる。

時折響く爆発音や悲鳴が耳触りだった。

 

 

「おーおー随分派手に暴れているな、そっちの方が都合がいいか。」

 

 

どうでも良さそうにミラがボヤく。

すると夜空を切るように巨大な狼が空中を蹴りながら彼等の前に降り立った。

目を白黒させるテゾーロとはうってかわって、ミラとタナカはさも当たり前のように巨狼の背中に跨った。

 

 

「ホラ、お前も早く乗れ。時間が勿体ない。あと5分だ。」

 

 

「5分?なんの事だ!?さっきから本当に意味が分からねえ…」

 

 

ずいっと巨狼がテゾーロの近くまでやって来て腰を屈め、『早く乗れ』と言わんばかりに見つめて来た。

観念したテゾーロは手を伸ばし、狼の背に腰掛ける。

 

 

「(おお…思ったよりフワフワだ…)」

 

 

「よし行けイルミーナ、テリジアの準備も万端だ!」

 

 

狼はコクリと頷くと体を起こし、凄まじいスピードで森の中を掛けていく。

あまりの速さにテゾーロは目を回しそうになった。

 

 

「お姉様、例のものは設置完了致しましたわ。

後はお姉様の合図でいつでも起爆可能です。」

 

 

いつの間にか狼と並走するように空を飛ぶメイド姿の女性も現れ、テゾーロはますます混乱するばかりだ。

 

 

「よろしい、では森を抜けたら素敵な花火を上げるとしよう。」

 

 

くっくっといたずらっぽく笑うミラ

 

 

 

森を抜け、広場に出た狼はそのまま空中を蹴り、ジグザグに上空へと飛び上がる。

赤い炎が所々に立ち上り、悲鳴と爆発音が木霊するマリージョアを見下ろしながら、テゾーロは大勢の政府の人間に囲まれながら暴れ回るある男を見つけた。

 

 

「アイツ…誰だ?魚人みたいだが…」

 

 

「ふむ、どうやらあの魚人がこの騒ぎの主犯らしいな。

本当はコッソリ侵入してお前だけ連れ出すつもりだったんだがとんだイレギュラーだ。」

 

これも災難体質のせいなのか…と一人のボヤくミラにテゾーロは首を傾げる。

 

 

「何にせよ、アイツが下で逃げ回ってる奴隷達を解放したんだろう。

この騒ぎに乗じてお前を救えたわけだし、少しだけ助けてやるか。」

 

 

そう言ったミラはパチンと指を鳴らす。

指先から紅い稲妻がほとばしり、次の瞬間先程までテゾーロが捕えられていた屋敷が大爆発を起こした。

 

爆発が大きすぎて衝撃がここまで伝わってくる

 

 

「うおおおおおおおおっ!?!?」

 

 

「テリジア、火薬詰めすぎじゃないか?」

 

 

「うふふふ…私のお姉様へ捧ぐ愛の様にマシマシにしておきましたので…」

 

 

「ん〜、まあいいか。

しかし遠隔で起爆出来るのはカッコイイな、後でベガパンクの奴にはジュースを奢ってやろう。

テリジア、今のうちにあの黒服共をやれ。真ん中の魚人に当てるなよ?」

 

 

「仰せのままに」

 

 

テリジアと呼ばれた女性が手を掲げる。

すると彼女の体から漏れ出た銀色の雫が宙に浮き上がり、カトラス程の大きさの杭が生成されていった。その数は眼下に見える黒服の人数分。

 

 

月霊銀杭(ヴォールメン・シルヴェスターク)…!」

 

 

勢いよく飛んでいった銀の杭は寸分狂わず突然の爆発で一瞬狼狽えていた黒服達の胸に突き刺さる、悲鳴を上げながら彼等は絶命していった。

 

 

「あら?てっきり六式で躱すか守るかすると思ったのですが…思ったより脆いですわね。ごめんあそばせ♪」

 

 

下では突然杭に撃たれ死んでいった敵に戸惑いながらも去っていく魚人の姿が見える。

 

 

「これでいいだろう、ちゃんと杭は消しておけよ。

さっさとこんな場所からおさらばだ。」

 

 

ミラの言葉に従うようにテゾーロ達を乗せた狼はマリージョアの地を離れ、暗闇に紛れ姿を消した。

 

 

 

 

魚人フィッシャー・タイガーの聖地マリージョア襲撃

 

 

この日、政府の歴史に名を残す大事件の裏で一人の海兵が動いた事は誰の耳にも入らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ある海賊は言った。

 

「海軍には死神がいる」と

 

ある海兵は言った。

 

「海を守る正義のシンボルだ」と

 

 

捕縛、または殺害した大物海賊は数しれず。海軍本部大将センゴクをも凌駕し、果てはかの四皇カイドウすらも退ける実力者。

海に生きる誰もがその名を語るが決して顔を見た者はおらず、新聞でも一切詳細を明かさない〝無貌の大将〟。

その秘密を知る者は海軍本部の中でもあの時あの場にいた少数の海兵のみ、彼等にすら厳しい箝口令が敷かれた。

 

決して正体を明かさない大将〝白蛇〟は海兵達からは「正義のヒーロー」として、海賊からは「正体不明の脅威」として語り草になっている。

 

 

 

 

 

 

海軍本部、その一室にて

 

 

 

「んでェ?センゴクさんヨォ…急に俺達を呼び出して一体どうしたってんだい。」

 

 

「……意図が読めねェな、このタイミングで俺達を招集する意味がよ。」

 

 

「クロコダイルの発言は的を射ている…。定例の報告は既に先日終わったはずだ。」

 

 

「…………」

 

 

 

部屋の真ん中に大きなテーブル、その周辺には八つの椅子が置かれ、うち5席は男達で埋まっていた。

部屋の一番奥の席に座る大将センゴクはハァ、と一つ溜息を吐き告げる。

 

 

「いいから黙って待っていろ。

茶でも飲むか?茶菓子もあるぞ。

不本意ではあるが『初対面だから無下には扱うな』とこの場の主から伝えられていてな。」

 

 

センゴクに静かに嗜められ、ヤレヤレと肩をすくめるカルロワ。

椅子に座る他の3人も口に出しはしないが長い間待たされていい加減痺れを切らしていた。

 

部屋の壁沿いには5名ほどの現職中将達が立ち並ぶ、もしもの時のために彼等を物理的に拘束する為だ。

 

政府から略奪を認められた7人の海賊、通称『王下七武海』。

本来敵であるはずの海賊が政府の側に付く、それを海賊達への抑止力としかの四皇、海軍に続く新たな海の秩序を作ろうとした試み。

だがそれには相応の〝実力〟と〝知名度〟が求められ、故に政府に認められた彼等は一癖も二癖もある曲者揃いだった。

定例会議に来ないのは当たり前、恩赦や七武海の権力を使いやり過ぎて虐殺事件を繰り返し除名される者も出る始末。

 

権力を持つと暴走するのは海賊も同じである

 

結果七武海はその数を減らしていき現在半分の四名しかおらず、残り三席は空白のまま。

海軍内で今最も頭を悩ませている曲者集団だ。

 

集まっていた中の1人、若くして世界一の大剣豪と名高い賞金稼ぎ〝鷹の目〟ジュラキュール・ミホークは静かに口を開いた。

 

 

「センゴク大将、お前は先程からはぐらかしてばかりだ。

その〝この場の主〟というのは一体誰だ?都合が悪いから隠しているんだろう。」

 

 

「都合が悪い訳じゃ無いんだが……今日は貴様等と直に話さないといけない案件なんだ。

少し待て、もうすぐ来るはずだ。」

 

 

 

ミホークの問いに渋い顔をするセンゴク、その時部屋の扉がノックされた。

 

 

「大将センゴク、お茶とお菓子をお持ち致しましたわ。」

 

 

「ご苦労、入ってくれ…………はぁ?」

 

 

呆気に取られるセンゴクをよそにカートを引きながら部屋に入ってきたのは3人の女性メイド、1人はツリ目の印象的な白金色のアレンジウェーブの女性、続く2人目は尻尾と耳の生えた銀髪の少女、ミホーク達から見ても彼女達はかなりの美人だった。

それにここまでならセンゴクが惚けることは無かった、問題は最後だ。

 

最後に続く女性……白い髪をシニヨンで纏め、最初のメイドと同じクラシカルタイプのメイド服を着込んだ美女の登場にセンゴクは目をパチクリさせていた。

そんな彼の気などいざ知らず、メイド達はテキパキと七武海達の前にお茶とお菓子を置いていく。

 

 

 

「お待たせしました、お茶とお菓子です。冷めないうちにどうぞ。

珈琲が良ければ言ってください。」

 

 

「いやミラお前なんて格好しとるんだ!?」

 

 

ミラと呼ばれたメイドはセンゴクに問い詰められ、キョトンとしている。

 

 

「なんて格好って……今日は茶汲みの仕事だろう?

だったらそれに相応しい格好があるというものだ。」

 

 

「それにしたっておかしいだろ!海賊共の前で面目が……」

 

 

「ウヒョォ〜!なんだよむさい野郎共ばかりかと思ったが海軍にもカワイコちゃんはいるじゃねぇか!キェッキェッキェッ!」

 

 

センゴクの言葉を遮って耳障りな笑い声を上げているのは七武海が一人、『韋駄天』カルロワだ。

彼はいやらしい目つきでメイド達を眺めていた。

 

 

「カルロワ…。悪い事は言わん、此処ではお前の好色癖は慎め。

命がいくつあっても足りんぞ。」

 

 

「命がいくつあっても足りないィ〜?

キェッキェッキェッ!そりゃあこんな美人さんのお相手してたら精も根も尽き果てるってモンだぜ。

是非この後お相手してもらいたいねェ……」

 

 

カルロワはその実力もさる事ながら、毎日女を取っかえひっかえを繰り返すかなりの好色家だった。

七武海に選ばれてからはますますそれに拍車が掛かり、海賊家業も疎かにしていると専らの噂だ。

 

 

「くっだらねぇ…さっさとその汚ぇ口を閉じろよカルロワ。」

 

 

「同意だ、クロコダイルの発言は的を射ている…。」

 

 

同じく七武海の1人、サー・クロコダイルとバーソロミュー・くまは呆れ返っていた。

 

 

「ノリ悪ぃなクロコちゃんは、こんないい女そうそう居ねぇよ。

どうだいお嬢ちゃん、今夜にでも。もれなく天国に連れてってやるz「断る」」

 

 

「「「(断るの早っ!?)」」」

 

「(的を射ている…)」

 

 

「七武海としての自覚が足りんなあ…

なあセンゴクさん、コイツは除名でいいか?」

 

 

「………ああ構わん、処理は任せるよ。

中将総督殿。」

 

 

ポリポリと頭を掻きながら呟いたメイドに対するセンゴクの一言にカルロワを除く3人は驚愕した。

 

今明らかにこの男は目の前のメイドの1人を『中将総督』と言った。

ここ数年で初めて作られた新役職で海軍本部全ての中将達を統括する者、中将の中でも指折りの実力者である自然系の能力者達ですら一目置き、実力は大将にも匹敵すると噂の新役職。

 

そんな重要な役割を担う人物が目の前のメイド……?

 

彼等に疑問は尽きない。

ただ1人、カルロワだけはおちゃらけたまま緊張感の無い笑い声を上げている。

 

 

「中将総督ゥ〜?オイオイ冗談はよしてくれよセンゴクさんwww

この女が化物ぞろいの中将達のトップとかおかしすぎて涙が出てくるぜ!」

 

 

「……ほう、言ったな海賊。」

 

 

先程までの砕けた雰囲気はどこへやら、ミラと呼ばれたそのメイドからは威圧感が漂い始めカルロワは思わずたじろいだ。

 

 

 

「お前はたった今七武海を除名された。

………七武海でもない海賊が海軍本部の敷居を跨いでいるのはおかしいよなあ…?」

 

 

「ハァッ!?除名って……今の本気かよ!?俺ァ『韋駄天』なんだぜ?

海賊に喧嘩売る気かよ…?」

 

 

「選ばせてやる。この場で死ぬか、大人しく大監獄に連れていかれるかだ。

もっとも、貴様のような三下に毛が生えたレベルの海賊では収監されてもレベル4辺りが関の山だろうがな。」

 

 

「……いいだろう。女だからってこの俺をバカにしやがって…後悔しても知らねぇぞッ!!」

 

 

そう吐き捨てたカルロワの姿が掻き消えた。彼は独力で六式『剃』を修得した海賊、速度のみを追求し誰にも捉えられない音速戦法を得意とする。

 

ミラの周りに風を切る音が何度も響く、並の海兵や海賊ならこの速度に翻弄されてかなりの苦戦を強いられる事になる。

 

だがそれはあくまで一般の海賊相手の話

 

そう、あくまでカルロワは『音速』止まりなのだ。

 

 

「……………ふんっ!」

 

 

「ゴベバぁッッッ!?!?」

 

 

グシャッと嫌な音がしてカルロワは一瞬で顔面を床に叩きつけた。

一連の動きをミホーク達は捉えていた、メイドが音速で動くカルロワの頭へ的確にかかと落としを決める様を。

 

当然と言えば当然か、〝雷〟の速度で動ける彼女に〝音〟の速度で挑むなど無謀だったのだ。

 

「べ…ぶ……」

 

 

白目になって床にめり込んでいるカルロワをよそにメイドはパンパンと服の汚れを払い落とし何事も無かったかのようにミホーク達に向き直る。

 

 

「………と、言うわけで私がこれからセンゴク大将に代わりお前達王下七武海を取りまとめる事になった。」

 

 

「「「「「(いやどういう訳だ!?)」」」」」

 

 

傍らの中将達が無言でカルロワを連行する中、七武海とその他一名の心は初めて一つになった。

 

 

 

 

 

 

 

「初めまして王下七武海の諸君!

私は君達の監督責任者、海軍本部中将総督ミラだ。

まあ仲良く……はいかなくても程よい関係になれればと思っている。ヨロシク。」

 

 

簡素な自己紹介を終え、俺はセンゴクさんと席を交代しメイド服姿のままドカっと座る。

 

俺氏、大将代理を経て新しく〝中将総督〟になりました。

簡単に説明すると中将の中で一番偉い人、何故に俺氏がクザン、サカズキ、ボルサリーノの自然系中将スリートップを差し置いてこんな高い役職に就いているかというと………

 

 

 

 

 

 

五老星「ミラちゃん、大将続けて欲しいンゴ」

 

俺氏「やなこった」

 

五老星「じゃあ中将に昇格して欲しいンゴ」

 

俺氏「(中将なら自由にやれるってガープ爺さん言ってたし、ならいいか)ええで。」

 

五老星「ん?今なんでもするって言ったよね?」

 

俺氏「言ってない、確実にそれは言ってない。」

 

五老星「新しく中将達のトップ作ったからその職になってもらうンゴ。

因みに権力的には大将と同レベル。」

 

俺氏「それ実際大将ですよねぇ!?」

 

五老星「大将じゃないから問題無い、いいね?」

 

俺氏「アッハイ」

 

 

orz

 

 

 

ハイ

 

 

と、いうことで俺氏は新役職〝中将総督〟に抜擢されました。

建前上は数十名にも及ぶ中将達のトップとなる人物、特殊なバスターコールの権限を有し、大将〝白蛇〟を招集出来る唯一の人物、それが今の俺。

………………言いたいことはわかるよ、これ盛大な一人二役だね!分かるとも!

 

五老星(クソジジイ共)はどうやら大将〝白蛇〟を新たな海の抑止力にしようと考えているようだ、情報操作と勝手なウワサでどんどん海賊達から恐れられている白蛇は連中を抑制する為に丁度いいらしい。

そんなジジイ共の努力の甲斐あって、今の白蛇の印象はここ数年でとんでもない事になっていた。

『海の処刑人』、『海軍の最終兵器』、『亡霊大将』etc……数え切れない程の二つ名が白蛇には付けられてる。顔を見た者は無し、出自も経歴も一切不明、分かっているのは遭遇した海賊は皆死んでいるという事だけ。

というのもこれは五老星が過去に俺の殺した木っ端海賊共の記録を白蛇がやった事にして公開しているだけだ、本物の白蛇ちゃんは可愛くて優しい乙女なんだゾ?

 

まあそんなわけでまんまと五老星に嵌められた俺は(渋々ながら)大人しく中将総督の仕事の一つ、王下七武海の取りまとめをやる事になったんだ。

 

 

あのクソジジイ共、これでテゾーロ奪還の情報提供が無かったら全員浄土に送ってやる所だったぞ。ステラちゃんに感謝しろ。

 

 

 

 

 

「まァ私の事はどうでもいいや、今日は私と君達の初顔合わせのつもりで呼んだ。目的は果たしたから今日は解散!」

 

 

「「「「ハアッ!?!?」」」」

 

 

ミホークとくまを除く全員がガタッと立ち上がった、勿論センゴクさんも。

 

 

「え?他に何か用事あるか?

定例報告はこの前聞いたばかりだし…」

 

 

「いやいやミラ!

お前がコイツらを呼んだんだからもっとこう……心構えとか、舐められないようにだな…」

 

 

「あーそういう事か。

お前らー、3人しか居ない七武海だからってやり過ぎるなよー。」

 

 

「いやそんな夏休み前の担任の先生みたいなノリで言うなよ…」

 

 

「えーと他には…ああ。

お前達は政府公認の海賊だ、その自覚を持って各々行動してほしい。

簡潔に言うとさっきのカルロワの様に堕落した奴は私の権限で即七武海脱退だ、そのうえ〝白蛇〟を差し向けるからそのつもりで宜しく。」

 

 

「〝白蛇〟を差し向ける…だとォ…?」

 

 

クロコダイルが忌々しげに呟いた。海軍本部大将〝白蛇〟、海賊達の間では『海の処刑人』と恐れられる存在だ。

それを海賊に差し向けるということは実質「死ね」と言われているようなもの。

 

 

まあ……実際俺が行くんですけどね!

 

 

政府が情報操作で与えた大将〝白蛇〟のイメージ戦略は大成功、これが見事に名前出すだけで海賊共がビビるビビる。『無貌の大将』がそんなに怖いかよ海賊諸君、まあ伝説とか御伽噺なんかも簡単に信じられちゃう世界観だしねー。しゃーないね。

一部の『逆に大将掛かってこいや勢』には効かないけどね、その場合は望み通りにしてやろう(暗黒微笑)

 

 

「まあお前達は略奪を認められた海賊だ、余程悪い事をしない限り()は来ないから安心しろ。

私から伝える事はそれくらいだが…そちらから質問はあるか?」

 

 

「…………」スッ

 

 

今まで事を静観していたミホークが唐突に手を挙げた

 

 

「はいミホーク君。」

 

 

「中将総督、俺と一戦手合わせ願いたい。」

 

 

しばしの沈黙

 

 

ほわいわんぴーすぴーぽー?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この後滅茶苦茶決闘した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぬあ''〜疲れたも''ぉ〜ん…」

 

 

「あら、3人ともおかえりなさい。夕飯出来てるわよ。」

 

 

クタクタになりながらテリジアとイルミーナを引き連れて帰宅。

玄関ではステラちゃんとテゾーロが迎えてくれた。

何してたのかって?

 

ジュラキュール・ミホークと決闘してたんだよ。

被害が出るから場所を廃材置き場へ移した、向こうは初っ端黒刀『夜』持ち出して本気で切りかかってくるし、対する俺はモップを武装色で硬化させた得物で応戦してた。これは酷い。

なんとか勝てたがミホーク超嬉しそうな顔して帰っていった、完全に目ぇ付けられた。それを見ていたクロコダイルとくまさんも意味深な会話をして去っていったし…七武海(三武海)の今後が超不安。

〝白蛇〟がいる事で四皇に対する大きな抑止力が生まれたらしく、いつもなら欠員を許さない七武海も今では3人にまで減ってしまっている。その再編も俺の仕事の一つだ。

なんとか朧気な記憶を頼りに原作通りの七武海を揃えたい所だけど…誰だっけな。

今日いたミホーク、くま、クロコダイル………あと現在おつるさんが躍起になって追い掛けている激安百貨店みたいな名前の奴に……どスケベな格好した九蛇の女帝と…魚人が1人いたハズ…あと…誰だっけ?

まあいいや。七武海の選定にはセンゴクさんも関わるっていうし、俺は伝書バット送って勧誘するだけだ。

白蛇の脅威がある限り政府も海軍も七武海の編成をそうそう急ぐ事は無いだろう、時間かけていいチームを作ればええよ。

 

 

ステラの手料理を頬張りながら向かいで気まずそうに食事をしてるステラとテゾーロを見やる。

 

「夕飯を食べたら私達はおつるさんの所へ一晩泊まるから、後は若いお2人に任せます…てな?」

 

 

茶目っ気たっぷりに笑うと二人は顔を真っ赤にしていた。

まあ愛するふたりがひとつ屋根の下だもんな、イチャコラしたい意図を組んでやろう。このリア充共め!

 

 

「…あ…ありがとうミラ…」

 

 

「すまん……」

 

 

「2人の住居も早く決めんとな、海軍の庇護下にいい島があるといいんだが…」

 

 

テゾーロ奪還の時に手伝ってもらった二頭身の素敵な御仁、タナカさんにも天竜人の脅威のない安全な島を捜索して貰っている最中だ。

ヌケヌケの実超便利よね、彼と友達で良かった。

 

 

「てりじあ、今日もつるおばあちゃんの所に行くの?」

 

 

「ええそうですわイルミたん。

愛し合う若い二人がひとつ屋根の下…ならば起こるのは当然一夜のあやまち…私達が邪魔をしてはいけませんわ。ええいけません。」

 

 

「あやまち…?」

 

 

首を傾げるイルミーナたんカワユス、君にもきっとわかる日が来るさ。

…いや待てよ?この子もいつかきっとお嫁に行く日が……俺の可愛いイルミーナが…?

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

リンゴーンリンゴーン…

 

『みら、わたしこのひとと結婚する…。

今までありがとう、幸せになるね。』

 

そこには真っ白なウエディングドレスを着込み、チャペルの音をバックに笑顔で花束を持つイルミーナの姿が…!

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

「ムワアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!」

 

 

「ミラ落ち着いて!大体何考えてるか分かったから!」

 

 

「???」

 

 

やらん!俺の可愛いイルミーナたんは誰にもやらんぞおおおおおっ!!!

 

 

 

 

祖龍ミラルーツ、新しい仕事と地位を手に入れて元気にやっています。

 






次回、綺麗なアイツと海列車



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18 役人(元悪役)と船大工(犯罪者)



1週間も経ってた、辛み。
夏は艦こ〇イベントとかグランドでオーダーなスマホゲーとか羽川運極とかやらないといけないこといっぱいあって辛い、更新頑張ろ。


スパンダムが出ると途端にシリアスになるンゴ…





 

 

 

その日、列車は海を走った。

 

 

苦節十年、ある男が提案した机上の空論。〝海列車〟

 

島と島を繋ぐ線路を作り

 

そこへ列車を走らせる

 

生まれる経済効果や街に与える影響は未知数、廃れきった水の都ウォーターセブンは1人の男が語った〝夢〟に掛けた。

 

海賊王の船を作った男、魚人の船大工トムとトムズ・ワーカーズに

 

 

 

衝撃の法廷から10年後、見事彼等は海列車を完成させた。

セントポプラ、サンファルド、エニエス・ロビーを結ぶ画期的大発明〝海列車〟は瞬く間に近隣の島々に知れ渡り、大きな利益をウォーターセブンにもたらした。

 

そして約束の法廷にて、彼の罪は海列車の功績によって帳消しになる…筈だった。

 

 

 

 

 

 

ズドォンッ!!!ドカァン!!!

 

 

耳触りな砲撃音と爆発音が俺の耳に響く、逃げ惑う人々、沿岸の建物は破壊されて俺の乗ってきた司法船も火の海だ。

 

 

「おい、街のヤツらの避難誘導だ、急げ急げ!」

 

 

街の人々がパニックに陥る中、部下達に指示を出す。

 

 

 

俺は政府諜報機関CP5の長官として、海賊王ゴールド・ロジャーの船を作った船大工、トムをエニエス・ロビーに護送するため司法船に乗り部下達と共にやって来た。

海賊王に関わる者は誰だって大罪人だ、重かれ軽かれ何かしら罰せられる。

聞けばこの裁判は10年前に特別に執行猶予が付き、その間に海列車と呼ばれる新発明をトムは完成させたらしい。その功績によってトムの罪は帳消しになり、今日が晴れて無罪放免の日になる筈だった。

 

裁判長の護衛も兼ねて乗船し、正直面倒な護送任務が無くなってせいせいしてる…と思った矢先に大量の兵器を積んだ船団が沖からやって来て司法船と沿岸部を襲撃したときたもんだ。

 

船体にはB・Fのロゴと番号がふってある、それに加えて各船に大量に搭載された砲台含む武器の数…明らかに戦闘する為に作られた船だった。

 

 

「一体誰だ、あんな船を作りやがった馬鹿野郎は…」

 

 

悪態をつき、俺は避難誘導のため部下と共に住民達の下へ急ぐ。

アイツなら海賊程度ものの数分で全滅させられるだろう、トムも協力しているようだし。

 

 

 

………

 

 

 

程なくして、海列車を建造した張本人トムとその仲間達、トムズワーカーズの活躍により海賊共は御用となった。

 

 

襲撃したのはウォーターセブンに恨みを持つ海賊団。船を失い、新しく造船してもらおうにも金がなく断られ、腹いせに船捨て場にあった船を使い街を襲ったそうだ。

 

ここまではいい、船を作ってもらえなかった海賊共の逆恨みだ。

だがあの武器満載の戦艦は一体誰が作ったのか?

 

 

「実行犯はあの海賊(クズ)共だった、だがあの船を作った奴ァ一体誰だ?

あの武器の搭載数、ウォーターセブンは戦争でも始める気だったのか?」

 

 

事態を究明すべく、俺はトムズワーカーズ同伴のもと縛り上げた生き残りの海賊達を監獄船に放り込んだ後の法廷にて、裁判長に問いただす。

 

 

「船は乗り手によって〝正義〟にも〝悪〟にもなる、だから俺は作り手に責任はあるとは言わねェ。

ただ一つ、海賊王の船を作った奴を除いてな。」

 

 

自身も海賊殲滅に加担し、軽く傷ついたトムは真剣な眼差しでこちらを見てる。

 

 

「だが今回ばかりは例外だ、話じゃあの小型戦艦の大船団、廃船島に投棄してあったそうじゃねえか。砲も銛も手入れの行き届いた状態でな。

おかしくねえか?そんな都合のいい戦艦が何故廃船島に都合よく置いてある?

ウワサじゃトムズ・ワーカーズの社員の1人が廃船島に入り浸ってたって話もある。

なあトムさんよ、お前達があの船団を海賊に手引きしたのか?」

 

 

法廷が静まり返った、突然叫んだのはトムの隣のアイスバーグって若造だ。

 

 

「違うっ!!!トムさんはそんな事しない!

海列車を完成させて、今日で罪が帳消しになる日になんでわざわざそんな事しなけりゃいけないんだ!」

 

 

「気持ちは分かるがよォ、お前ん所の社長は1度罪を認めてる。

一度消えた信用を取り戻すにはどれだけの時間と苦労が必要か、そしてそれも簡単に崩れちまう事くらい分かるだろ?」

 

 

そう、議事録によれば10年前にトムは一度「海賊王の船を作った罪を認め、誇りに思っている」とさえ言った。

海賊王に加担するのは大罪だ、当時あの男に関わる誰もが政府によって罰を受けた。

それを誇りに思っているなんて言ったらどう思われるか…

海列車の完成で失われた信用が一時的に取り戻せたとして、他の事件で少しでも疑いが掛けられれば「やはり海賊王の船を作った犯罪者」というレッテルが貼られちまう。こうなっちまったら覆すのは相当難しい。

 

元罪人は何かあったら真っ先に疑われるご時世だ

 

 

「ぐっ…それでも…トムさんはやって無い!

街が襲われた時、真っ先に止めようとしてくれたじゃないか!」

 

 

「……………」

 

 

アイスバーグの必死の弁明にも関わらず当の本人は黙りを決め込んでいる。

 

 

「じゃあもう1人の社員に聞こうか、カティ・フラムだったか?

お前、あの船団について何か知ってる事はあるのか。どうなんだ。」

 

 

「…………………」

 

 

明らかに顔色が悪く息遣いも荒い、こりゃクロだろう。

餓鬼でも今回やったことの責任は取らなきゃいけない、残念だがコイツは…

 

 

「………俺は…あんな船知ら(ドゴォッ!!!)!?!?」

 

 

突然の出来事だった、さっきまで黙りを決め込んでいたトムはいきなり立ち上がり、弁明していたカティ・フラムを思いっきり殴り飛ばしたのだ。

傍観していた連中の中から悲鳴があがる、俺はすぐさま非殺傷用の銃を部下達に構えさせいつでも撃てるように待機させた。

 

 

「トムが急に暴れ出したぞ!」

 

「やっぱり彼は粗暴な魚人だったんだわ!」

 

「海列車には感謝していたのに…」

 

 

外野がザワザワと騒ぎ立てる、ええい喧しい。

 

 

「トム、何のつもりだ!

今ここで暴れても意味は無ェぞ!」

 

 

「……その言葉だけは船大工は言っちゃならねえ! 自分が作った船がどう使われようが、作ったヤツだけはその船を愛するべきだ! 自分の作った船に、男はドンと胸を張れ!!」

 

 

カティ・フラムに向けたトムの叫びは法廷内に響き渡った。だがその言葉は同時に改めて自分が海賊に加担したと改めて認める様なもの、オーディエンスの連中の見つめる視線は厳しいものだった。

 

 

「…今の台詞は、トムズワーカーズは海賊共に協力した。と認める発言だがそれでいいんだな?」

 

 

「構わねえ、俺は海賊に加担した罪を認める。

だがひとつだけ、海列車を作った事で罪がひとつ消えるなら……

今日の事件をアンタ達の手で不問にして欲しい。」

 

 

「だがそれだとテメェには海賊王の船を作った罪が残る、10年前の振り出しに戻るだけだぜ。」

 

 

「振り出しじゃ無ェさ、海列車は走ってる。俺の夢はこれから走り続けるんだ。」

 

 

「……裁判長!閉廷だ。

トムズワーカーズ社長トムを海賊王の船『オーロ・ジャクソン号』を製造した罪でエニエス・ロビーへ連行する。

トムズ・ワーカーズの社員達は無罪放免。

これで文句は無ェな?」

 

 

「あァ、それで構わねえ。」

 

 

誰もが唖然とする中、裁判長の木槌の音でこの裁判は閉廷を迎えた。

 

 

トムズワーカーズ社長トム、海賊王ゴールド・ロジャーの海賊船『オーロ・ジャクソン号』建造の罪でエニエス・ロビーに連行決定。

 

 

 

 

 

……………

 

 

 

 

 

 

 

 

海列車『パッフィング・トム』車内

 

 

司法の島エニエス・ロビー行きの便を貸し切り、俺は部下達と鎖に繋がれたトムを連れ列車に乗り込んだ。

 

連行中のトムには目立った反抗もなくスムーズに列車は出発、俺達の乗る先頭車両は嫌な沈黙に包まれていた。

 

 

「……ウォーターセブンの見納めだ、しっかり目に焼き付けとけよ。」

 

 

「……ああ、そうだなァ…」

 

 

「……実はな、今回の任務の()()()に俺はある方々に頼まれ事をされてんだ。

……正直に答えろトム、『古代兵器プルトン』この言葉に聞き覚えがあるか?いやある筈だ。」

 

 

「…ッ!?そいつは…」

 

 

どいつもこいつも分かりやすい反応してくれるぜ。

 

 

「質問に答えろ、『知っている』のか『知らない』のか。」

 

 

「…………知らねェ、聞いた事もねぇな。」

 

 

はいダウト。やれやれ…古代兵器の設計図、五老星と話はしたがそんなものが本当に存在しているとは…世界がひっくり返る様な代物だぞ?

だがあると分かった以上対処しなきゃなァ…。

コイツを尋問して場所を吐かせるのも手だが()()()からそういうのはナシだといわれているし……トムズワーカーズの誰かに託したか…?とにかくウォーターセブンに古代兵器の設計図が存在している確証が持てた。

アイスバーグかカティ・フラム、そのどちらかだろう。

もっと俺が偉かったら工作員を潜入させたりするんだが…この件の昇進に期待だな。

 

 

「……そうか、ならもうこの話は終わりだ。

最期の時まで大人しくしてな。」

 

 

「詳しく問い詰め無ェんだな、役人さんよ。」

 

 

「古代兵器についちゃ興味は絶えねぇが、そりゃまた別の仕事だ。

今はお前を護送するのが優先、大人しく連行されな。」

 

 

「……………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺のせいだ

 

 

俺のせいでトムさんはまた捕まっちまった

 

 

俺があんな船を作ったばっかりに

 

 

 

「俺はお前を許さねえからな……ッ!」

 

 

「……………」

 

 

「お前のせいでトムさんは連れていかれた!オレは何度も忠告したぞ!

こんな危険な船は悪巧みに使われる前に捨てちまえと!」

 

 

「……………」

 

 

「お前みたいなバカがいるから…」

 

 

「止めなアイスバーグッ!

あのままだったらトムズワーカーズは終わってた、だからあの人は既に罪を背負ってる自分を使ったんだ。誰のせいでもないよ…」

 

 

「でも…でもッ…俺は……もうこいつが許せねえ……!」

 

 

「………………アイスバーグ…」

 

 

俺はフラフラと岸へ向けて歩き出した。

バカバーグとココロバーさんさんが後ろからなんか言ってるようだったが耳に入ってこない。

罪が晴れるはずだったトムさんは俺のせいで死刑台に連れていかれる。

俺が船なんか作らなければこんなことにはならなかった。

 

 

『自分が作った船がどう使われようが、作ったヤツだけはその船を愛するべきだ! 自分の作った船に、男はドンと胸を張れ!!』

 

 

頭の中でトムさんの言葉が響く

 

 

 

自分の作った船で誰かを傷つけてしまうのなら、大好きだった人を殺してしまうのなら

 

 

ごめん、トムさん…俺…

 

 

「もう、船作らねえよ…」

 

 

 

ごめんなさい、トムさん

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 

その夜、カティ・フラムはトムズワーカーズから忽然と姿を消した。

アイスバーグとココロはウォーターセブン中を捜索したが手掛かりはゼロ、廃船島からは解体処分予定だった小型のボートが一隻、少量の木材と共に消えていた。

 

カティ・フラムは失踪扱いとされ、程なくして治安部隊による捜索も打ち切られた。

 

アイスバーグはその後、ウォーターセブン内に六つあった造船会社を統合し巨大造船会社『ガレーラカンパニー』を設立する。

海列車による運搬効率の上昇によりウォーターセブンの財政は潤いを見せ、更にアイスバーグの海賊、海軍、果ては政府の船まで分け隔てなく造船する懐の深さに街の人々は感心し、尊敬の念を抱くようになった。

 

巨大会社の激務をこなす中アイスバーグは海列車建造の前日、トムから託されたある設計図の事を気にかけている。そして消えた相棒の事も片時も忘れる事は無かった。

 

そしてウォーターセブンから消息を絶ったカティ・フラムは宛のない旅を続け、航海の途中奇しくも嘗て自分が作った船で仕留め損ねた海王類の襲撃に会い瀕死の重傷を負った後、鋼材を大量に積んだ廃船に辿り着く…

 

 

時が流れ、彼らの運命が再び動き出すまであと十余年。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

海列車から司法の島エニエス・ロビーへ到着し、施設内でバスカビル裁判長による一方的な有罪判決を受けたトムは長い長い地下廊下を歩き、『ためらいの橋』まで辿り着く。

 

 

此処は罪を背負った者が最期の日の光を浴びる事ができる場所、この橋を渡りきり護送船に乗ってしまえばその先には大監獄インペルダウンという地獄が待っている。罪人は自らの未来に絶望し此処で必ず立ち止まる、それ故に『ためらいの橋』。

 

 

トムは目の前で口を開ける『正義の門』を眺めながらためらいの橋を一歩一歩踏み締めていた。

 

 

「橋の向こうでお前を護送船に明け渡す、そうしたら俺の仕事は終わりだ。達者でやれよジイさん。」

 

 

「ああ、すまねえなお役人さん。

……ありがとうよ。」

 

 

「んだよ急に…」

 

 

「俺が海賊をとっ捕まえに行ってる間、街のみんなを避難誘導してくれてたろ?それの礼だよ。

それに…『船の作り手に罪は無ェ』と言ってくれた。10年前の役人からはロジャーの船を作った犯罪者扱いだったからな。たっはっはっ………」

 

 

「…………さっさと行くぞ、人を待たせちまってんだ。」

 

 

ためらいの橋を渡りきる。橋の脇には銃を持つ海兵と政府の役人達が並び、その向こうには帆にカモメのマークの入った海軍の軍艦の姿が見えた。

しかしトムはその軍艦がいつものものと違うことに気づく。

 

 

「蒸気船…パドルシップか…?随分豪華な護送船だな。」

 

 

「ああ、海軍の戦艦の中でもとりわけ珍しい型だ。

試作品の在庫処分を引き取ったらしい。」

 

 

「軍艦が蒸気船じゃ戦闘に向かねえだろうに、引き取った奴はかなりの物好きだな。」

 

 

「物好きで悪かったな。」

 

 

トムに悪態を付きながら現れたのは2人のメイドを引き連れた白髪の麗人だった。

長い髪を纏め右肩に流し、紅色の瞳、ほかの海兵とは一風変わった白に赤い線の入ったスーツを着込んだ女性。

その背中には『正義』の二文字が入ったコートが風ではためいている。

魚人であるトムの目から見てもかなりの美人だと分かった。まるで御伽噺の世界からそのまま飛び出てきたような美しい女性だ。

 

 

「スパンダム長官、ご苦労。

これより先は我々が引き継ごう。」

 

 

「はッ!ミラ総督閣下!」

 

 

「閣下は要らんと言ってるだろ、そんなに畏まるなよスパンダム。」

 

 

急に畏まるスパンダムに砕けた口調でミラは笑う。

 

 

「お望み通りトムは引き渡すぜ。書類の方もバッチリさ。」

 

 

「デキる弟子を持つと楽でいいなあ。ご苦労、後はこっちで処理しよう。約束通りジジイ共に推薦しといてやるから安心しろ。」

 

 

「おう…!」

 

 

嬉しそうにするスパンダムをよそにミラはトムの方へと向き直る。

 

 

「まあ立ち話もなんだ、詳しい話は船内でしよう。もう枷も要らんだろ、鍵を寄越せ。」

 

 

「オイオイ一応司法の島を出るまでは………あーもう分かったよ。」

 

 

ミラはスパンダムから半ば強引に手錠の鍵をふんだくると何の躊躇いも無くトムの手枷を外した。

 

 

 

 

大犯罪者トム、自由になる

 

 

「!?!?!?」

 

 

「よーし諸君。堅苦しいの終了!」

 

 

「「「お疲れ様でぇーっス!!!」」」

 

 

さっきまでの荘厳な雰囲気は何処へやら、周りの海兵と役人達も「お疲れ〜」などと互いに言い合いながら伸びをする等、すっかり緊張感を無くしてしまった。

 

 

「10分休憩したら直ぐに出航だ。

各自準備の出来た者から乗船し所定の位置に着け。駆け足っ!」

 

 

「「「「「ハッ!!!」」」」」

 

 

パンパンと手を叩きながらミラの放った一喝で再び背筋を伸ばした海兵達はキビキビと蒸気船へ向けて走り出す。

対するトムは突然枷を外されて半ばパニック状態だ。

 

 

 

「しかし大きい魚人だな、ガスパーデくらいあるんじゃないか?」

 

 

「うん、おっきい人…」

 

 

ミラの隣に佇む狼の耳と尻尾が生えたメイドの少女は目をキラキラ輝かせながらトムの方を見ている。

これから監獄に護送されるにしてはあまりも緩い雰囲気だ。

 

 

「お前さん達は一体……」

 

 

「……さあトム、船に案内しよう。

此処は君の新たな始まり(ルーツ)、乗るか反るかは君次第。

私の期待に応えてくれるかな…?」

 

 

未だ戸惑うトムに向かって笑いかけるミラ、その表情はまるで悪戯を計画する子供のようだった。

 

 







次回、魚人島にの話にする?ロシナンテの話にする?それとも…ジェ・ル・マ?(つまり不明)


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19 祖龍(モドキ)と船大工(魚人)



遅くなり申した、仕事して最後の騎士王見て仕事して劇場版ノゲノラ見て仕事して盆が過ぎたせいです申し訳ない。
投稿が遅れたのも全部ドン・サウザンドって奴の仕業なんだ……

「ぜってぇ許さねえ…ドン・サウザンドォォォッ!!!」

ハイ

話の進み具合ゆっくりです、近々オリキャラ?が一匹と1人加入しますのでご注意をば。(オリキャラは3人と言ったな、あれは嘘だ)
なお主の趣味によりおにゃのこになる模様。



 

ボォーーーーーーーッ

 

 

蒸気船が汽笛を鳴らし、両舷のパドルが回転しながら波をかき分け海を進む。

やがて波を掴んだ船はパドルを格納し、マストから帆を垂らした。

帆船が主流のこの時代に蒸気船、しかもパドルシップを試作するとは流石ベガパンク(変態発明家)の所業と言ったところか。

風と波に左右されないのは良いね〜。

 

 

 

 

 

 

ハーイ皆、五老星(インチキジジイ共)に嵌められて中将のトップになっちゃった悲運の主人公、祖龍ミラルーツちゃんだよ。

 

現在魚人船大工のトムさんを乗せ、大監獄インペルダウンへ向けてタライ海流を航行中。これも総督のお仕事だ。

 

中将総督、最初はどうなる事かと思ってたけどいざなってみると案外自由な役職だった。

仕事はセンゴクさんから下りてきた分をこなすだけだし、実動は他の中将さんたちがやってくれるからわりと暇。

大将白蛇兼任で一人二役、海賊達に睨みを利かせるという見えない仕事にはジジイ共にまっこと異議申し立てをしたいところだが概ね文句無しの自由な仕事内容だ。あ、よく脱走するクザンにーさんとガープ爺さんの捕縛もよく頼まれるよ。あの2人サボり魔だから。

 

 

中将総督は基本的には一般市民に向けて公開されない秘密のお役職だ。俺の名前も目立たないように中将リストの端っこにちょろっと載ってるだけ、ただし俺にはある特殊なバスターコールの権限が与えられている。

 

それは幻の大将〝白蛇〟を呼び出すバスターコール。

 

海賊達を次々葬る『海の処刑人』、誰もが名を知りながらその正体は一切不明の謎の大将。そんな存在を呼び出す権限が俺にはある。

………マッチポンプもここまで来ると清々しいよネ。

大将白蛇とは勿論〝(ミラ)〟のこと、実際のところこの特殊バスターコールは「俺が本気で暴れるから警告だけしとくね!被害が超出るかもだけど責任は取らないからヨロシク!」という合図に他ならない。

 

それ故に、俺氏は〝中将総督としてのミラ〟と〝大将白蛇としてのミラ〟の二足のわらじを履くことになった。

これが大変大変、大将白蛇はカイドウ戦で世間に露呈した『緋色の軍刀二刀流』に『赤い雷』を使うという事実がある。それがあるから中将ミラは下手に愛刀を使う事が出来なくなった、勿論祖龍の雷も。使う時は極力身体に覇気の亜種と言い訳して纏わせたり、六式に紛れさせて飛ばしたり、直接雷撃(雷ドーンッ!)は避けている。

 

雷の出力制御に関してはいい機会だったので微調整に専念。なんとか応用させて磁力を操作したり電磁波から生じる熱線で焦がしたり…などなど電気で応用できる範囲の使い方をしてる。

 

細かいことしてる内に「こんなの祖龍の戦いじゃなーい!!!」とヤケになりそうになったこと星の如し、でも加減をする初めての『努力』に心踊らせるドラゴンソウルの赴くままに頑張ってきた。

 

外見も色々変えた。髪も下ろして纏め、大人しい雰囲気の女性を演出したり…服装もいつものドレスとは違う特別な軍服やスーツを仕立ててもらったり…などなど、俗に言う『イメチェン』というヤツだ。龍の姿から人間に戻ると自動的に髪型リセットされてシニヨンになるみたいだし、下ろすのもいいだろう。

装備も一新、今俺の腰にはいつもの『影炎』『蜃気楼』は無く、代わりに綺麗な銀色のカットラスが提げられている。

これは戦闘に使う為のものではなく、テリジアに作らせた言わば操縦桿だ。

柄を握って俺が電気を送ればテリジアの水銀を内蔵した機関部が動き出し、パドルの格納や操船を行うことが出来る便利アイテム。某パイレーツ何某(なにがし)の黒髭の船を想像してもらえると分かりやすい。

因みにこのカットラス、動力系と火器管制用の二本あり、俺が持ってるのは動力系、もう片方はガスパーデに渡して火器管制は一任してる。

これにより部下達の負担が減って仕事効率も良くなるというもの、自動化大勝利である。

 

ただ、中将モードの俺は滅多に戦わない。ていうか大将モードで好き勝手やれる分中将の時は極力戦闘を避けてくれとセンゴクさんから頼まれた。

あんまし派手に殺ると有名になっちゃうからね、仕方ないね。

 

正当防衛(過剰な反撃)はするけど(ニッコリ)

 

 

そこで考案したのが部下達や頼れる2人のメイド達に極力戦闘を任せよう作戦だ。

可愛いイルミーナが傷つくのは本気で嫌だが本人が「頑張る」と言ったのだからママ(心はパパだが)は娘の希望に任せようと思う、やりすぎるなとテリジアにも言ってあるしね。

 

 

そんな感じにここ数年でイメチェンしてきた訳だ。

 

 

 

んで、センゴクさんから『海賊王の関係者処刑リスト』なる物騒なものが俺の手に渡ってきてトムの罪を知った俺は司法船に同伴するスパンダムに頼んでトムの護送を請け負った。

 

 

「まあ座ってくれ、色々話したいことがあるんだ。」

 

 

手枷を外し自由にしたトムを応接室まで案内しソファに座らせる、机を挟んで反対側に俺も座りテリジアに茶菓子を持ってくるよう言った。

 

 

「まずは初めましてだな。

私の名はミラ、海軍本部の中将をやっている。

君が海賊王の船を作った男、船大工トムで間違いないよな?」

 

 

「……ああ、わしがトムだ。」

 

 

ちょっぴり怪訝そうな表情で答えるトムさん。急に連れてきちゃったし怪しまれて当然か。

 

 

「なあトム、率直に聞こう。

死ぬのは嫌か?」

 

 

「なんだって…?」

 

 

「死ぬのは怖いか?」

 

 

「………怖くねぇ、だが嫌だ。

海列車の活躍を見れねぇのは心残りだし、トムズワーカーズの皆も置いて来ちまった。

たっはっは……情ねぇなあ。

胸を晴れとか言っといて死ぬのが嫌とは…」

 

 

「そうか、分かった。

なら君に2つ、選択肢をやろう。

一つ目、大人しくこのまま護送される。

現在この船は大監獄インペルダウンへ向かってる。君はこのまま幽閉されて二度と陽の光を見る事は出来ないだろう。大体の奴はこうなったら終わりだ。

そして二つ目……

私の船で残りの人生を水夫として働く、給料は出せないが衣食住は保証しよう。この船は見ての通り蒸気船でな、新型で試作品な分問題がスグ起きるんだ。そこで海列車の蒸気機関開発に携わった君なら力になれるだろう。重宝させて貰うよ?」

 

 

トムが呆気に取られているのが分かる、そりゃ死ぬと思ってたもんね。意外よね。

 

 

「そりゃあオメェさん…俺を…」

 

 

「ああそうさ、君はここで死なすには惜しい。

世界を一周するほど偉大な船を作り、たった10年で島と島に列車を走らせるほど優秀な逸材だ。監獄で余生を過ごさせるのは少しばかり勿体ないだろう?」

 

 

そう、俺はトムを機関士としてこの船で雇うためにここまで来た。

唯一心配だった人格面もこの通りなら問題なさそうだ、そう確信して改めて勧誘してみる。

 

 

「さあトム。衣食住付き、完全週休二日制の優良物件だ。必要な資格は不問、あえて言うなら蒸気機関の知識に長ける者を一名募集中なんだが…これに見合う者が居るかなあ……(チラッチラッ)」

 

 

「ぷ……たっはっはっはっはッ!ッッ!………ッ!//」

 

 

…………トムさん笑いすぎちゃう?

 

 

「お前さんは面白い奴だなあ!まるであの海賊王みたいに剛胆で愉快な奴だ!

分かった、お前さん所の蒸気船、このトムがきりもってやろう!船のことならドンと任せな!」

 

 

「助かるよ。ようこそトム、私の船へ」

 

 

「おうとも!」

 

 

さっきまでとはうってかわって、豪快に笑い飛ばしながらトムさんは快く引き受けてくれた。

そんでもってお互い握手を交わす。

 

 

「魚人と龍でもこうして手を取り合えるというのに、人間は何をやっているんだか…」

 

 

世界政府は現在、聖地マリージョアを襲撃した大犯罪者フィッシャー・タイガーを捕まえるのに躍起になっている。海軍も動員されてボルサリーノ中将のところが管轄してたはずだ。

奴隷の身からの脱走と他の奴隷の解放、世界の禁忌(タブー)を犯した彼は超危険人物として指名手配されている。

オマケに魚人達を率いて海賊団まで結成する始末、海のプロフェッショナル達にボルサリーノ中将のとこも手を焼いているみたいだ。

 

俺の所にも協力願いが来ていたけど…先におつるさんに別の仕事の手伝い頼まれちゃったからなあ。

裏切り者のバレルズ中将の捜索もやらんといかんし…

 

『奴隷』なんて人間のエゴの塊、時代遅れじゃない?前世を生きた身としては人間を隷属させるなんて馬鹿馬鹿しい。

……現代には代わりに社畜という奴隷が存在してたね、悲しいね。

 

 

「……?なんか言ったか?」

 

 

「いや、何でもないよ。

早速機関室に案内しよう、一通り終わったら君を自由にするための手順も説明しないといけないな。」

 

 

テリジアの淹れたコーヒーを飲み干し、トムを機関室へ案内するために立ち上がったその時、部屋の扉が開かれた。息を荒らげながらポルポ少尉が入ってくるなり敬礼してまくしてたてる。

 

 

「失礼しますミラ中将!先程判明したのですが…実は『鷹の目』が船内に潜伏しており……只今甲板にて〝釣り〟を行っている模様で……その…扱いに困っていまして……。」

 

 

「ミホークか。

外は暑いだろ、冷たい麦茶を差し入れてやってくれ。イルミーナ、ポルポと一緒に行け。ついでに()()()の様子も見てきてくれるか?」

 

 

「うん。行こ、ぽるぽさん。」

 

 

「ハッ!…え?

七武海とはいえ密航者ですよ!?処分は…」

 

 

「放っておけ、考え無しに海を渡る軍艦のど真ん中で暴れ出すほど奴は馬鹿じゃない。

おおかたタライ海流でしか釣れない珍しい魚でも釣りたいんだろう。それにここで暴れられても困る、穏便に対応しておけよ。」

 

 

「しょ…承知致しました、では!」

 

 

「ぴしーっ」

 

 

ポルポ少尉はビシッと敬礼し、てくてく歩くイルミーナの後ろについて部屋を出ていった。

俺はトムさんの案内があるからね、ミホークの話相手はイルミーナに任せよう。

 

ていうかアイツ七武海の仕事はどうした……まあ賞金稼ぎに定期的に仕事しろってのも無理な話か。

 

 

 

「ようしトム、テリジア、行くぞ。

インペルダウンに着くまでに一通り施設を見てもらわないとな。」

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

 

☆おまけ☆ 鷹と狼

 

 

ポルポ「(ミラ中将にああ言われたとはいえ。イルミーナちゃん、あの鷹の目相手にどうするんだろう…)

あ、ミホークさん。お茶です、ミラ中将から。」

 

 

ミホーク「……そこに置いておけ」

 

 

ポルポ「アッハイ(鷹の目怖ぇええええッッ!殺される!こんなん目え合わしたら即殺されるわ!)」

 

 

イルミ「…………」ちょこん

 

 

ミホーク「………………」

 

 

イルミ「…………(じーーーー)」

 

 

ミホーク「……………」

 

 

ポルポ「(さっきからイルミーナちゃんが隣に座ってじっとミホークをガン見してるんだが…何も喋らねえ…。間が持たねえよ…)」

 

 

ミホーク「…………………」

 

 

イルミ「………………(じーーーー)」

 

 

ミホーク「……………」

 

 

イルミ「………………(じーーーー)」

 

 

ミホーク「……………………」

 

 

イルミ「……じーーーー……」

 

 

ミホーク「……………」

 

 

ポルポ「(さっきからお互い黙ったまま見つめあってるんだけど!てかイルミーナちゃんそんなにガン飛ばしたら鷹の目に……)」

 

 

ミホーク「…………」スッ

 

 

なでなでなで

 

 

イルミ「……………//」

 

 

ポルポ「(頭撫でたアアアアアァァァッ!?)」

 

 

イルミ「…………むふー//(尻尾ふりふり)」

 

 

ミホーク「飴がある、食うか?」

 

 

イルミ「うんっ」きらきら

 

 

ポルポ「(超和やかムードだ……アレ?もしかして鷹の目ってロリkヒュンッ!)

ひいいっ!?」

 

 

ミホーク「すまん、邪な考えを持った輩を見つけたのでついな。」

 

 

ポルポ「スンマセンでしたあアアアアアアッッ!」脱兎

 

 

イルミ「??(あめおいしい…)」ぺろぺろ







アレェ?思ってたより短いぞぉ?

考えた結果、本作主人公はインペルダウンを終えた後1人の裏切り者の海兵を追うことになりました。
彼はある悪魔の実をとある海賊団に売り渡すつもりだそうです、構想段階ですがこのお話を書く方向でいきます。
スパンダムに引き続きトムさんまで…原作介入が激しい今日このごろですがミラ様はグリグリ過去に首を突っ込んで行きますのでその辺は御容赦を。
クルスの詳しい内容は次回に明かされますのであしからず。

あと主のギャグセンスは壊滅的です、不快に思われた方本当に申し訳ない。銀〇やギャグ漫画〇和並のセンスが欲しい…




それから、かなーりの余談ですが作者の頭の中のCVは

ミラ……川澄綾〇さん(言わずと知れたアルトリア声)

イルミーナ……小澤〇李さん(艦こ〇のプリンツ、月刊少女野〇くんの千代ちゃんなどされている方)

テリジア……原由〇さん(オバ〇のアルベド、アイマ〇の四条貴音などを演じられている方)

と趣味全開の脳内ボイスとなってます、自分で書いといてかなりキモいな。
考えるだけならタダなので…

次のオリキャラの脳内CVは…井上喜〇子さんかなあ…
(ていうかコメントで次に俺が登場させようとしてるモンスをピタリピタリと言い当ててくる方々は一体何者なんだ…エスパーなの?)


次回…大監獄の秘密、囚われの番人


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20 祖龍(モドキ)と大監獄(秘密アリ) 前


仕事前に最新話をシュウウウゥゥッッ!!!

よく考えたらこれから登場させようとしてるキャラ、オリキャラじゃなくてモンスの擬人化ですね。仕事終わったらタグとか色々いじっときます。
ご報告感謝しますm(_ _)m




 

ミラ達を乗せた蒸気船はタライ海流を伝って進み、インペルダウン前の正義の門前へと辿り着いた。

あまりにも巨大な建造物を目前にさしものトムも息を呑む。

 

 

「この門だけは何度見ても慣れねえなァ…」

 

 

「これから何度も見る事になるだろうけどな、さてと……(ガチャ

マリンコード44444、囚人を一名引渡しに来た。」

 

 

『マリンコード44444、海軍本部中将ミラ殿と確認しました。

正義の門、開門。護衛艦が合流します、暫しお待ち下さい。』

 

 

「ああ頼む、ただ…少し問題が発生していてな。

そちらで詳しい事を話すよ。」

 

 

『??了解。』

 

 

ガチャリと受話器を下ろすミラ、そしてトムに向かって笑顔で告げる。

 

 

「よしトム、君をどうやって自由にするか説明をしていなかったな。

………直ぐに起こすから、暫く死んでいてくれ。」

 

 

「たっはッ!面白い事考えてんなァ船長…!」

 

 

「ちょっとビリっとするが…なあに、これから一生生き地獄に居るよりはマシさ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「中将殿に敬礼ッ!」バッ

 

 

獄卒達が銃を掲げ、一糸乱れぬ敬礼で出迎えてくれた。仰々しいから辞めてほしい。

 

 

俺はイルミーナにテリジア、ガスパーデと共に船を降りインペルダウンへ続く橋を渡る。

後ろには担架に乗せられ死んだように瞳を閉じているトムも一緒。

 

引渡しの相手も犯罪者の姿に少し驚いているようだった。

 

 

「大監獄インペルダウンへようこそミラ中将、副署長のマゼランと申します。」

 

 

そう挨拶してきた大男、マゼランは俺の顔を一目見るなり「う…美しい。罵って欲しい…」とボソッと呟いてた。

 

え、キモい。大丈夫かインペルダウン

 

 

「よ、よろしくマゼラン副署長。

司令通り囚人を引渡しに参上した。だが少し問題が起きてしまって…」

 

 

「そちらの担架に乗せられた囚人ですな…ここへ来る前に?」

 

 

「ああ、なにぶん奴も高齢者だからな。ポックリ逝ってしまったらしい、こっちで検死も済ませてある。

心臓発作だそうだ、大監獄行きは老人の心に負担を掛けすぎた様だな。」

 

 

「犯罪者とはいえ奴も高齢者、老齢による死は免れませんな…。

死体はこちらで引き取りましょう。」

 

 

「いや、死体はこのまま魚人島の家族の下まで送り届ける。

そういう約束をしていた。」

 

 

「遺言、というヤツですか。

………分かりました。罪人は生きて罪を償わなければならない、ならせめて死人の言葉くらいは聞き入れておきましょう。

署長には私から話しておきます、御足労感謝しますミラ中将。」

 

 

「こっちこそ助かるよマゼラン副署長、書類の処理とか面倒な手間が省けた。ありがとう。」

 

 

「ハウッ!?美しさが留まるところを知らない…」

 

 

「なんだ大丈夫かこの監獄」

 

 

軽くドン引きしていたその時、マゼラン副署長の後ろから大声を上げながら看守の1人が走ってきた。

 

 

「マゼラン副署長ォ〜ッ!!!大変!大変でございマッシュ!!!」

 

 

「なんだハンニャバル喧しい、俺は今しがたこの美人海兵さんと喋ってるんだ邪魔するな。」

 

 

「うおっ!?めちゃ美人!ズリぃっすよ副署長!

じゃなくて!大変です!

正義の門を通過した護送船が囚人の反乱に遭い占拠されたと管制室から報告が…」

 

 

「なんだと!?その船は今何処にいる!」

 

 

「………ん」ぴくぴく

 

 

「臭うかイルミーナ?」

 

 

「…鉄臭い、血のにおい。たぶんあれ」

 

 

嫌そうに鼻をひくつかせるイルミーナの指さす先、1隻の軍艦が霧の向こうから現れた。その時

 

 

プルプルプルプル…プルプルプルプル…

 

突然マゼラン副署長の腰に巻かれたでんでん虫が鳴り出す、全員の視線が彼に集まった。

 

 

「……(ガチャ)マゼランだ」

 

 

『よぉーおマゼラン副署長、俺が誰だか分かるかニャ?』

 

 

傍にいた看守に目で合図を送り、投獄者のリストをパラパラとめくるマゼラン副署長。

乗っ取られた軍艦を額に青筋を浮かべながら見つめ呟き返す。

 

 

「〝悪政王〟アバロ・ピサロ……だな?」

 

 

ざわりと看守達がザワつく、その名は俺も聞き覚えがあった。

 

 

 

 

 

 

嘗て50年の繁栄を誇るある国があったという。豊富な資源と優秀な兵士達、心温かな国民に恵まれたその国の王家は突如現れた海賊と出会った後豹変し、国民達に重税や圧政を敷くようになってしまった。

挙句反乱を起こされ、王は殺され空いた新王の座に就いたのはアバロ・ピサロという名の男。

 

ピサロは海賊達と結託し、言葉巧みに前王を拐かして王座を獲得したのだった。

彼が王になってから国は荒れ、怪しげな宗教やカニバリズム等の危険な思想を持つ者達が生まれるようになってから世界政府はそれを危険視し、ピサロを捕縛、投獄を決定した。

 

 

人を拐かし、操る〝悪政王〟

 

 

彼の言葉は魔法の様に人の心に深く浸透し、どんな善人でも悪道へと誘う悪魔の犯罪者、それがアバロ・ピサロという男だ。

 

 

『ニャッニャッニャッ!!!

船内の海兵達は勝手に殺しあって皆親切に俺達を解放してくれたニャ。

お話した甲斐があったニャ〜!』

 

 

「貴様まさか護送の海兵を拐かしたのか!?

愚か者め……ッ!!!」

 

 

『俺は彼等の心に正直になれと語りかけてやっただけだニャ。決めたのは奴ら。俺はなーんも悪くないニャ!

船は頂いて行く、俺の他に捕まってる囚人達も引き連れて俺は自由になるんだニャ!』

 

 

ガチャン!

 

 

そう言って一方的に電伝虫は切られた、マゼラン副署長は怒りで身震いしてる。

ハンニャバル達はそれを見つめて静まり返り、事実を受け止めるしかなかった。

 

 

「奴はlevel6に収監予定の超凶悪犯だ、船を出せ!凪の海を越えられたら手遅れになる!」

 

 

檄を飛ばすマゼラン副署長、ワタワタと看守達が動き出す。

 

 

は?…ちょっと待て、ピサロは海兵まで取り込んで軍艦を乗っ取ったって言ったよな?

それ…海兵が裏切ったって事?

それってば身内の不始末?

 

 

 

 

 

駄目やん

 

 

 

 

 

 

「阿呆共が……」

 

 

 

思わずそう呟いた瞬間、動き出していた看守達が一斉にビクリと立ち止まり、こっちを見た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「阿呆共が……」

 

 

ミラの放った呟きは小さいながらも橋にいた全ての者の耳に行き届いていた。

ズシリと空気が重くなる、先程まで笑顔で話していたミラから一転凄まじい殺気が放たれマゼランは思わず息を飲んだ。

 

覇王色の覇気ではない、()()()猛烈な殺気。

 

彼の手からじっとりと毒の汗が滲み出る。

過去に何人も捕らえてきた海賊達の中でもこれ程の気迫を持つものはいない、いや、現在level5に投獄中のあの娘と同じようなプレッシャーを彼は感じていた。

 

 

まるで人間とは一線を画した存在が放つ独特の気配、ハンニャバルや部下達はガクガクと脚を震わせている。

無理も無い、今の気迫に当てられて意識を失わなかっただけでも上等だ。

常人なら正気など保っていられないだろう。

 

 

「み…ミラ中将、落ち着いて下さい。

此処は我々が対処致します。」

 

 

どうにか言葉を絞り出す。ミラがマゼランの目を見つめた。

 

その真紅の瞳には明らかな憤怒の感情が見て取れる。正道を外れた裏切り者に対する怒りに彼女は震えているのだろう。

その怒りが自分に向いていない事にマゼランは内心安堵していた。

 

 

「…すまんな副署長、これは海軍側のミスだ。

彼等に自由は許したが、意味を履き違える選択をするとは思わなかった。

ピサロの処分はこちらで決める、裏切り者の処分もかねてな。

イルミーナ、()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 

「ううん、まだ。さっきみほーくの釣ったお魚をつまんでたくらい。

お腹空いてるとおもう。」

 

 

「そうか………副署長、やはり同僚の不始末は私が付ける。

裏切り者の最後には、狗の餌がお似合いだ。」

 

 

そう言い放ったミラは腰のカットラスに手を掛ける、すると彼女の乗ってきた蒸気船が音を立てて動き出し、船体の側面を過ぎ去っていく裏切り者達の乗る軍艦へと向けた。

 

 

「ガスパーデ、やれ」

 

 

「あいよォ」

 

 

ミラの合図でガスパーデも腰に携えたカットラスを抜き放ち、その切っ先を軍艦へと向ける。

すると船体から30を超える砲門が同時に顔を出し、真っ直ぐにピサロ達の乗る軍艦へと砲撃を開始した。

 

轟音が響き、三十発の鉄の塊が1隻の艦に向けて殺到する。着弾した砲弾は軍艦の船体を突き破り、炸裂し、無数の穴を開けた。

 

 

「チッ、普通の海賊船なら今ので木っ端微塵なんだがな。相手が軍艦じゃ心許ないぜ。」

 

 

「だがこれで賢いクルスなら誰が()()()か分かった筈だ。イルミーナ、呼んでいいぞ。」

 

 

「ん」

 

 

ぴゅうぅぅぅぅぅッ

 

 

ミラの指示により指笛を吹くイルミーナ、マゼランは彼女達が何をしようとしているのか分からず唖然としている。

その時、薄くかかった霧の向こう、先程砲撃を受けた裏切り者達が乗る軍艦のすぐ側の海面がモコリと山のように持ち上がり、飛び出した巨大な何かが船体へ激突した。

 

揺れる船内、聞こえる無数の悲鳴が海を越え、マゼラン達のいる側までこだまする。

 

 

「海兵達よ、お前達は自由だ。

自由には責任が伴う。

お前達は『海賊に組する』自由を選んだ、これは私に対する裏切り行為。だが私はそれを許そう、お前達の自由は尊重されるべきだからな。

許した上で、私は私の仕事をこなすとしよう。志無き海賊に生きる価値は無い、囚人共と諸共に死ね。」

 

 

そう吐き捨てたミラは興味無さそうに軍艦から視線を外す。

海の向こうでは一匹の黒い巨大な海王類が軍艦の船体を側面から突き破り、のしかかっていた。

いとも簡単に竜骨を食い破った海王類は、中にいる人間(ごはん)を食い漁りやがてその重みに耐えきれなくなった船体は横倒しになりながらずるずると海に沈んでいく。

悲鳴を上げながら海へ投げ出される海兵や囚人達は水中で成すすべもなく騒ぎを聞きつけやって来た他の海王類達の餌になった。

ひとしきり暴れ回った後、黒い海王類の背中が光り輝き、青黒い電光を放ったかと思うと水中から黒焦げになった囚人達が浮き上がる。プカプカと浮かぶそれを悠々と咀嚼した後、その海王類は海中へと姿を消した。

 

 

双眼鏡越しに覗くと恐らくピサロ〝だったもの〟の上半身が黒焦げになってぷかりぷかりと海を漂っているのが見える。

一連の光景を呆然と見つめるマゼラン達、いつの間にか用意された椅子に座りながらミラは隣のメイドに差し出された珈琲を1口飲んだ。

 

 

「ん、終わったようだな。

ご苦労、クルスには後でご褒美をあげないといけないなあ。」

 

 

「うん、くるす頑張った。」

 

 

「お姉様のペットですもの、これ位やって頂かないと従えた甲斐がありませんわ。」

 

 

「み…ミラ中将今のは一体……」

 

 

「ん?ああ。最初に船を襲ったあの黒い海王類はな、私のペットなんだ。

名前はクルス、可愛いだろう?」

 

 

さも当たり前のように「海王類をペットにした」とのたまうミラにマゼランは開いた口が塞がらない。

そんな彼の事など気にも止めずミラは続ける。

 

 

「昔怪我をしていた所を治療してやってな、それ以来私の船に付いてくるようになったんだ。

…どうした副署長、私の顔に何か付いているか?今朝ちゃんと顔は洗った筈なんだが……」

 

 

もう彼女から怒気や気迫は発せられていない、しかしマゼランは目の前のこの女将校に恐怖を覚えていた。

船内にはまだピサロの口車に乗っていない善良な海兵がいたかも知れない、全員殺さなくてもここは大監獄、捕まえれば罰を与える方法などいくらでもある。

なのに彼女は即座に『殺害』という選択肢を選んだ。

言いたいことは山ほどあるがそれを口にしてしまったら自分も餌になった彼らと同じような結末を迎えてしまう。そう考えてしまう程ミラの一言一言には〝凄み〟があった。

 

この女はどこかおかしい、何か…〝人間〟として大事な部分が欠落している

 

不意に彼女の姿が獄内にいるあの娘と被る。自ら絶凍の地獄に入り浸り、まるで何かを待つようにインペルダウンに籠るあの囚人の事を。

 

 

「……ハンニャバル、署長に連絡だ。

ピサロ含む囚人達はもう収監する必要は無くなった。海軍本部にも報告しろ。」

 

 

「す、直ぐに報告してきマッシュ!」

 

 

ハンニャバルは部下達を連れてドタドタと監獄内へ走っていった。

 

 

「ご協力感謝します、ミラ中将。」

 

 

「こちらこそ。ただクルスが暴れた事は上には内緒で頼む、センゴクさんに監督不行だと叱られてしまうからな。」

 

 

そうお茶目に笑うミラの姿からは先程までの気迫は消え、可愛らしいメイドを連れた女性に戻っていた。

 

くいくい、と服の裾が引っ張られるのを感じてマゼランは下を向く。

そこにはさっきまでミラ中将に付いていた小さなメイドが服の裾を掴んでいた。

 

「ねえねえ。ここ、おおかみさんが居るの?」

 

 

「狼…?ああ、〝軍隊ウルフ〟という危険な種が居るよ。どうしてそんな事を聞くんだい?」

 

 

「その子達のこえ、聞こえるの。

『寒くてこごえちゃう』って。あったかい所にうつしてあげて?」

 

 

「軍隊ウルフが…寒い?」

 

 

イルミーナの言葉に首を傾げるマゼラン。

軍隊ウルフは群れを成して獲物をどこまでも追い詰める凶暴な種の狼だ、インペルダウンではlevel5「極寒地獄」へ看守の代わりに配置されている。

それは監視用の電伝虫すら凍死してしまうlevel5獄内から逃げようとする囚人に対する牽制の為でもある、そして同時に軍隊ウルフは寒さにめっぽう強い。他の生き物が凍え死ぬような極寒の地でも軍隊ウルフは生きていけるほど強い生命力を持っている。なのでlevel5へ放し飼いにしていた。

 

その軍隊ウルフ達が…寒い?

 

本来なら有り得ない事だ、だがマゼランの心にはなにか引っ掛かっていた。

 

 

「今も言ってる…『さむい』『凍える』『あの女を止めてくれ』って」

 

 

「あの女を止めてくれ……?まさか…

ガチャ)管制室、level5の室内温度はどうなっている。大至急教えろ!」

 

 

マゼランは急に電伝虫を取り出し管制室へ連絡を送る

 

 

『ふ、副署長!?どうしたんですか急に…

level5の室温ですか?いつも通り極寒で…嘘だろなんだこれ!?

大変です!level5内の室温がどんどん下がって危険域にまで到達しようとしています!このままでは囚人や軍隊ウルフ達まで凍死してしまう危険が…』

 

 

やっぱりか!悪い予感は的中していた。あの地獄の温度をこれ以上下げられるのはあの女しかいない。

 

インペルダウン創立当初から何故かその場に入り浸り、極寒地獄を今も冷やし続けている悪魔の娘。海楼石の錠も効かない異能力者。

 

 

「今すぐlevel5に急行するぞ!

ミラ中将、自分はこれにて失礼致します。そちらのお嬢さんのおかげでいち早く異変に気付くことができた、重ね重ね感謝します!」

 

 

挨拶を済ませ去っていくマゼランをミラは珈琲を口にしながら見つめていた。

 

 

「イルミーナ、副署長になんて言ったんだ?」

 

 

「声が聞こえたから、おしえてあげたの。

下の方でおおかみさんが凍えてるって。」

 

 

「へえ、イルミーナは狼の声が聞こえるのか。それも悪魔の実の能力かな…

とにかくお手柄だぞ、よーしよしよし…」

 

 

「ん〜//」

 

 

わしわしとイルミーナの頭を撫でるミラの顔は緩んでいた。

 

 

「にしても、此処に来た時から感じてた違和感がまた強くなったなあ……

下、か。

興味が湧いた、ちょっと行ってくる。

ガスパーデ、先に船に戻っていろ。

ほら起きろトム。」

 

 

そう言ったミラは担架の上に寝転ぶトムの胸に手を当て、電気ショックの要領で心臓に電気を流す。

ビクッとトムの全身が震えて彼は頭を抱えながら目を覚ました。

 

 

「う……おお、船長。

どうだい、ワシは自由になったかい?」

 

 

「おはようトム、約束通りお前は死んだよ。もう自由の身だ。

ガスパーデと一緒に船に戻っていつでも出せるようにしておいてくれ、クルスも付近に居るから追って連絡する。」

 

 

「あいよ、船長はどうするんだい?」

 

 

「面白そうだから首を突っ込んでみる、テリジア、イルミーナ、行くぞ。」

 

 

「うん」 「承知致しましたわ」

 

 

「気ぃ付けてなあ。船はドンと任せとくれい。」

 

 

トム達に手を振りながらミラはイルミーナ、テリジアを連れ大監獄へと足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パタン…と彼女は氷漬けになった本を閉じる。表紙には掠れた文字で『医学教本』と記されていた。

ふと顔を上げればそこは見渡す限り真っ白な白銀の世界、ここ一帯は完全に氷漬けになってしまったらしい。

時々通る縞縞の服を着た者達も彼女が話しかけようとすれば皆物言わぬ人形になった、今では時折通る狼達だけが彼女の話し相手だ。だが最近はその狼達すら自分の事を避けている気がする。

 

……やはり私が悪いんだろうか

 

少しだけ自己嫌悪になる。

そもそも私は何故こんな檻の中に居るのか、番人として幾度もハンターとの戦闘に明け暮れていた筈なのに、気が付けばこんな辺鄙な場所に居た。

身体も前より縮んでしまったし、動きにくい事この上ない。細かい作業ができるようになったのは有難いが…

唯一の娯楽であり、新たに知識を得る為何度読み返したか分からない本に手を添えながら彼女はもう一度思考する。

 

昼も夜も無い、空腹もない、毎日が虚無に過ぎて行く日々、そんな中感じたのだ。

自分と同じ、いや恐らくそれ以上に大きな存在に。

 

 

気分が高揚する。

長らく味わうことの無かった興奮が冷気となって溢れ出し、檻の外まで漏れていく。

ああまたやってしまった、またあの毒の人間が私を叱りにやってやって来てしまう。

 

やってきた所で邪魔になるなら殺せばいいか、私と同じ存在を認知できた今、檻の中に閉じこもっている必要が無くなった。

 

自分が仕えるべき強者(あるじ)の下へ

 

嘗て『天廊の番人』と呼ばれた彼女はその枷を外され、自身の好奇心に従って、白銀の世界の中、歩を進めた。







次回、仲間が増えるよ、やったねミラたん!


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21 祖龍(モドキ)と大監獄(秘密アリ) 後



クソネミ魔人投稿銀河(意☆味☆不☆明)


ドレスローザ編を手に入れたので次からお話が進むゾォ!





大監獄インペルダウン。世界中から集まる罪人たちを収容し、その罪に似合った罰を与える為だけに存在するこの施設は5層から成る地獄で構成されてる。

 

level1 紅蓮地獄

 

level2 猛獣地獄

 

level3 飢餓地獄

 

level4 焦熱地獄

 

そしてlevel5、懸賞金額一億ベリーの大台を超える犯罪者達が収監されている極寒地獄だ、一部の『その危険性から政府に存在を抹消された』犯罪者達はその奥に存在するといわれる「無間地獄」なる場所に拘留されるらしいが基本的にはこの五つの地獄が罪人たちを日々痛めつける。

 

その中で最上の刑罰に該当されるのが極寒地獄だ。

 

フロア内は常に極寒の空気に満たされており、電伝虫すら生存不可能。看守も居ないこのフロアでは殆ど布1枚の状態の囚人達が身を刺すような冷気に常時晒され続ける。

逃げ出そうものなら寒さに強い狼達、飢えた軍隊ウルフ達がすぐさまやって来て餌になることうけあいだ。

 

 

そんな中、俺達が何をしているのかと言うと………

 

 

『ハッハッハッハ……』

 

 

「うん」

 

 

『ハッハッハ……キューンキューン…』

 

 

「うんうん」

 

 

『ガウッ!ガウッガウッ!』

 

 

「ん、分かった。あんないして?」

 

 

『ガウッ!』

 

 

こくり、と頷いた軍隊ウルフは道案内をする様に一定の速度で歩き出した。

それに俺達とマゼラン副署長も付いていく。

 

 

「こっち行ったみたい、行こ。」

 

 

「あのお嬢さん、本当にあの凶暴な軍隊ウルフと意思疎通ができるとは…世界は広いですな。」

 

 

「あの子も能力者だからな。

それより、他のフロアは大丈夫なのか?」

 

 

「管制室からの報告によれば上の階、焦熱地獄の気温まで徐々にですが下がりつつある模様です。

その更に上、飢餓地獄は焦熱地獄の熱で成り立つフロアになっていますのでいずれそちらにも影響が出る。

時間との勝負ですな……」

 

 

「囚人達が気付いて居ないのが幸いか…急げイルミーナ!」

 

 

「うんっ、お願いおおかみさん…!」

 

 

『ガウッ!』

 

 

更にスピードを上げる軍隊ウルフを走って追いかける。

 

 

ことが始まったのは少し前、異変を察知したマゼラン副署長に無理言って同行させてもらい原因を突き止めるためlevel5に向かった。

完全に凍った入口を蹴り飛ばし、冷気が外に漏れ出さないようテリジアの水銀で壁を作って塞いでから件の原因である犯罪者の閉じ込められているはずの檻へ向かった訳だが…なんとそいつは檻から脱走していた。

檻は内側から凍らされ、塵のように細かく砕かれており、付近の檻に入れられていた囚人達は皆未来へ冷凍保存させられていた。

 

困った事にこのフロアは広大で、どこに逃げたか分からない。

そこでイルミーナが軍隊ウルフ達とお話して彼等の情報網を頼る事にしたのだ。

 

 

軍隊ウルフ独自のネットワークで脱走者は直ぐに見つかった。

 

 

そいつはフロアの隅、海とを遮る分厚い石壁に手を当てながら佇んでいた。

 

異様なほどに真っ白な肌に左目が隠れるほどの雪のように白く長い髪、こんなクソ寒い気温の中胸元の開いたワンピース1枚、そして黒のブーツ。

このフロアでは有り得ない程軽装備だ、怪しさバクハツ。

そしてそのバストは豊満であった…(忍殺並感)

 

 

こちらに気づいたのか瑠璃色の瞳がこちらを見た、ていうか俺の方を凝視してる。

 

 

「囚人番号0、この部屋の温度を下げたのはお前の仕業だな…?

さっさと元に戻すんだ!」

 

 

叫ぶ副署長、吐く息が白い。

4人ともかなりの厚着をしたがそれでも肌に冷気が突き刺さる、なのにマゼラン副署長は元気なこった。

 

 

「………毒の人に用は無い…」

 

 

その女が呟いた直後、空気中から生成された巨大な氷柱がこちらに向かって何本も飛び込んで来た。

 

 

「お姉様危ないっ!」

 

 

いち早く感知したテリジアが銀の壁を創り出し氷柱の猛攻を防ぐ。

マシンガンのように連発される氷柱を防ぎきり、テリジアは水銀の壁を解除した。

 

 

「……?その力は見た事がない、非常に興味深い…」

 

 

「お姉様。私が言うのも何ですがあの女、かなりキちゃってますわ。」

 

 

「お前自分がおかしい自覚あったのな」

 

 

「ええそれはもう!私をオカシクしたのは他でもないお姉様ですものぉ♥」

 

 

ダメだこいつ早く何とかしないと

 

 

「貴様ァ…反抗するか。

御三方、少し私から離れて!

監獄内での揉め事は私が止めねばならない、暫く毒漬けになって反省していろ!!!」

 

 

怒るマゼラン副署長の背中から紫色のどろりとした液体が漏れだした、それはまるで意思を持ったように浮き上がり三つ首のドラゴンの様な姿に象られる。

 

へえ、これが副署長の能力か

 

 

毒竜(ヒドラ)ァ…!!!」

 

 

ヒドラと呼ばれた毒の塊が動く度、ボタボタ周りに飛び散った毒で床が溶ける。

テリジアが慌てて水銀の膜を張り、毒が付着するのを遮ってくれた。

 

 

「なんなんですのあの気色悪い能力は…貴方!お姉様に毒が掛かっていたらどうするおつもり!?」

 

 

「むう…申し訳ない、能力の性質上仕方の無い事なのです。

勘弁して頂きたい……」

 

 

申し訳なさそうに平謝りした副署長は再び女囚人の方へ向き直りヒドラの首の一つを容赦なく突っ込ませた。

 

 

女はなんの抵抗も示さずにヒドラに飲み込まれ、毒が付着した床や壁がジュワジュワ音を立てた後即座に部屋の冷気に冷やされ固まっていく。

 

 

「……麻痺系、神経毒。

完全解毒に要する時間…15秒…。」

 

 

女がそう呟いたのが聞こえた、なんと毒の塊を浴びても倒れずその場に突っ立っていたのだ。これには副署長もビックリ。

 

 

「……解毒完了。毒ならワタシも得意……」

 

 

続けざま彼女の周囲の氷が足元から徐々に濃い紫色に変色し、まるでグレープジュースの様に白銀の世界を彩っていく。

 

ん?グレープジュース?どっかで見た事あるぞ?

 

 

「ワタシはもう此処に居る必要が無いと思考、判断した、故に出ていく。そう結論付けた。

毒の人、何故引き留める?」

 

 

「貴様が大監獄へ収監されている以上、責任は私にある。

このままお前を好きにさせればインペルダウンの面子が立たん、今すぐlevel5の温度を元に戻すんだ!」

 

 

「面子…………?それはそちらの事情、ワタシには関係無い。」

 

 

紫色の氷はどんどん広がり、変色した地面から氷柱が凄い勢いで伸びてくる。

 

 

「警告、触れない方がいい。

毒の人の能力は解析済み、その氷柱の毒は更にその上をいく。」

 

 

ギシギシと金切り声を上げながら迫り来る氷柱剣山を

 

 

 

「なら吹き飛ばしてしまえば問題無いな。」

 

 

ガッシャアアンッ!!!

 

 

俺は雷速で副署長の前に移動して右手に雷を溜め、思いっきり横に振り払った。

 

何も感電させる事だけが電気の能じゃない、電圧を上げて温度が上がればその〝熱〟で敵を攻撃できる。抵抗とか難しいことは知らん!

 

俺の放った熱はあっという間に毒入り氷柱を吹き飛ばして蒸散させた、凄まじい温度差で水蒸気が舞い上がる、直ぐに極寒地獄の温度でダイヤモンドダストみたいにキラキラ空中で固まった。

 

囚人の女は随分驚いた表情をしている

 

 

「そのチカラ…不可解。

ワタシの氷が溶かされたのは初めて、ハンターでも不可能だったのに……」

 

 

「あ?…ハンター?

お前狩人を知っているのか!?」

 

 

「貴方こそ、あの連中を知っている、何者?」

 

 

「「…………………」」

 

 

 

お互い気まずい沈黙が流れる、マゼラン達は見つめ合う俺達に首を傾げていた。

 

 

「お前、名は?」

 

 

「………名などない、ワタシは番人。

我が寝床を荒らす不届き者を誅する門番……だった筈。

少し記憶が混濁していて…

確か…ハンター達はワタシを『ドゥレムディラ』と呼称していた。」

 

 

ドゥレムディラ!

 

あの『天廊の番人』と呼ばれた龍、ゲームじゃあまりにも難し過ぎてクソゲー呼ばわりされたあの可哀想な子!その凶悪な龍がなんでこんな格好でこんな所にいるんだろ…

祖龍の俺も人のことは言えないが。

 

 

「ドゥレムディラ…私はお前の事を知っているぞ。」

 

 

「…!?知っている?ワタシの事を?」

 

 

「ああ、お前の名も、どんな(ヤツ)でどんな強さを持っているのかも知っている。」

 

 

「…詳しく知りたい、檻の中はもう飽きた。

ワタシを此処から連れ出して。」

 

 

「ああ、いいぞ」

 

 

すんなりぃ

 

 

「いやいやいや!彼女は一応囚人で…」

 

 

慌てて副署長が口を挟む。デスヨネー

 

 

「まあまあ副署長、上に掛け合うだけ掛け合ってみよう。

テリジア、ちょっと来い。」

 

 

「はぁい」

 

 

とことこやって来るテリジア、そのお腹に思いっきり手を突っ込んだ。

 

 

「!?!?」

 

 

副署長がギョッとしてるのは無視無視

 

 

「あぁんお姉様//そんないきなりぃ…♡

もっと激しくまさぐって下さっても…」

 

 

「変な誤解を生むから辞めろ、あとイルミーナの教育に悪い。

えーっと、どこにあったかな……あった!」

 

 

「はぁんっ♡ふひ…ふひひへ…//」

 

 

傍から見れば衝撃映像にしか見えない光景だが俺は無事テリジアの腹の中から例の電伝虫を取り出した。

地上波でお見せできない顔してる変態(テリジア)は見なかったことにしよう。

俺と五老星専用回線の電伝虫…こいつ生意気にもコート着て寒さを凌いでやがる。

 

 

「副署長、此処電波通るのか?」

 

 

「ここじゃ普通の電伝虫は凍死してしまいますから試したことは…」

 

 

ファイッキライダ!…ファイッキライダ!…ファイッキライダ!…ファイッキ(ガチャ

 

 

あ、繋がった。出たのは最早お馴染み五老星の1人。この声はいっつも刀研いでるハゲの人だな。

 

 

『君か、連絡を寄越してくるのは久しぶりだな。』

 

 

「今インペルダウンに来ていてな、面白い囚人を見つけた。」

 

 

『……面白い、とは?』

 

 

「私と同じ存在、と言えば理解出来るな…?」

 

 

『…!成程、君の他にも…しかもインペルダウンにか。こちらの認識不足だったな…

それで、報告はそれだけじゃ無いんだろう。目的はなんだ。』

 

 

「奴を釈放する許可が欲しい。どの道此処(インペルダウン)を破壊して出ていくつもりだったようだし、釈放して私の手元に置いた方が穏便に事が納まるだろ?」

 

 

電話越しにふむ、と考え込むような声を出した彼は向う側で他の五老星と話した後再び受話器を取った。

 

 

『構わない、インペルダウンの者には我々から伝えよう。

その代わり、くれぐれもその龍の手綱を握っていてくれ。』

 

 

「手綱とはまるでペットみたいな言い方だな…友人として上手く付き合っていくつもりだよ。」

 

 

『聡明な君なら我々も安心できる、頼むよ。』

 

 

「頼まれた、じゃあな。」

 

 

受話器を置く、そんでもってマゼラン副署長にことの次第を説明した。

彼は心底驚いたみたいだったけどlevel5を出た時に所長から直々に釈放のお達しがあり渋々ながら納得してくれた。

 

 

「ドゥレムディラも長いし…今日からレムと呼ぶことにしよう。

宜しくなレム。」

 

 

「……?その手は一体…」

 

 

「握手だよ握手、人間が友好を結ぶ時に取る手段の一つだ。

ホレ、お前も手を出せ。」

 

 

「了承、ワタシの新しい名はレム。

宜しく……貴女は…」

 

 

「ミラだ。本名はミラルーツだがな(ボソッ」

 

 

「ミラ……レム……ふふふっ…

新鮮…」

 

微笑むドゥレムディラことレム。

肌は白いがミステリアス美人って奴だネ。

 

監獄の外でマゼラン副署長達にまた仰々しく見送られ、俺達はインペルダウンを後にした。

 

 

 

▶ドゥレムディラ が なかまに なった!

 

 

 

 

 

 

 

 

「取り敢えずこの世界じゃ力を抑える事を覚えろ、ハンター程強靭な人間も殆どいないんだ。

サポートはしてやるから、お互い仲良くやって行こう。」

 

取り敢えず毒の方は危ないから禁止な!とあの人は笑いながら語ってくれた。

 

 

あの監獄から連れ出されて数刻、ワタシはミラからこの世界について色々な事を聴取した。

 

ヒトのこと、世界のこと、島のこと、動物のこと、植物のこと、組織のこと、ワタシの知りたい事はなんでも教えてくれた。

 

月の出た夜、〝フネ〟の〝カンパン〟と呼ばれる板張りの空間へ出て船縁へ肘をつく。

夜空を見上げると、満天の星空が輝いていた。空気が澄んでいて気持ちがいい。

 

海、空、星、風、そしてヒト

 

目に映るもの全てが新鮮で

 

五感の全てが十二分に冴え渡る

 

もっと知識を、もっと経験を

 

番人であった束縛から逃れ、暗い監獄から抜け出してワタシは好奇心の赴くまま、この世界を生きるのだ。

 

 

全ての龍、その祖なるあのお方と共に

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ぷるぷるぷるぷる……ぷるぷるぷるぷる…ガチャ

 

 

『お・か・き〜〜ッ!』

 

 

「あられ、だ。

この合言葉考えた奴は誰だよ……おつるさんお久しぶりです。」

 

 

『ミラ、バレルズの居場所が判明したよ。悪魔の実を秘密裏に海軍へ売り払おうとしてる。場所は北の海、スワロー島で取引が行われる予定さ、そこをアタシとアンタのとこで待ち伏せする。

海賊の方は任せな。

アンタはバレルズを頼むよ』

 

 

「やっとか。…ああ、承知した。

どこで合流すればいい?」

 

 

『バレルズを監視してるヴェルゴという海兵がお前に連絡してくるはずさ、そいつからの指示を待ちな。

他に聞きたいことはあるかい?』

 

 

「……バレルズは何の悪魔の実を売ろうとしてるんだ?」

 

 

『オペオペの実、名のある医者が使えば神のごとき力を得るという悪魔の実さ。』

 

 

「へえ、面白いものをバレルズは持っているんだな。

分かった、そのヴェルゴからの連絡を待つよ。」

 

 

『ああそうしとくれ、くれぐれもバレルズを逃がすんじゃないよ。』

 

 

「勿論だ」

 

 

ガチャ

 

 

「お姉様、次のお仕事が決まったのですね?」

 

 

「みら、最近ずっとその〝ばれるず〟って人追ってる。」

 

 

「元私の同僚で海軍を辞めた裏切り者だよ。

さあ、レムも加わったことだしお仕事頑張らなきゃあな。」

 

 

珈琲の入ったカップを片手にイルミーナの頭を撫でるミラは不敵に微笑んだ。

 

 

 

死人(トム)番人(レム)を迎えたミラ中将の船は進路を変え、北の海へと突き進む。

 

 

 






突然のQ&Aコーナー!

Q…フロンティアのキャラしか出さないの?

A…えー、特に主はそこまで深く考えてキャラを出している訳では無いので気に入ったモンスをオリキャラや擬人化して出してる感じです。
フロンティアのモンスは魅力的なのが多いですからね〜。
因みにイルミーナも大元のアイデアはミドガロンかヒュジキキでした。登場させたら新宿のアヴェンジャーになってましたが…
戦闘時はあの爆速で動くと思っていただければ。

本家のゴグマジはなあ…好きだから出したいんだけどなあ…いっそ別の作品に出すのもアリか…



Q…ピサロ死んだんだけど

A…死にましたよ?(無邪気)今作、こと黒ひげ海賊団にはかなりシビアにいきますので黒ひげの好きな方ごめんなさいとここで謝っておきます。


ドレスローザ偏の漫画を手に入れたのでお話は更に加速する!(早く投稿できるとは言ってない)ので次回はローの過去、ミニオン島のお話になります。
あの島で起こる悲劇を原作に支障が出ないように覆す事が……出来るといいなあ。


次回、エピソード・オブ・ミニオン


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22 アレンジエピソード・オブ・ミニオン



今回ミラの出番すくない(´・ω・`)





 

 

「ぎゃははははは!もっと酒だ酒ェ!」

 

 

「おいドリィ!酒が足りねぇぞ、酒蔵から持ってこいモタモタすんな!」

 

 

北の海、ルーベック島東のミニオン島。

元海軍中将ディエス・バレルズ率いるバレルズ海賊団はこの島の廃墟をアジトとし、住み着いていた。

 

船長バレルズはラム酒を煽りながら部下達と笑い合う、手元の宝箱にはハート型の奇妙な果実が置いてあった。

 

 

「こんな果物一つが一体いくらで売れると思う…?

オペオペの実、単純に考えてもオメェ…医者がコレを食えば世界中から引く手数多の名医になれるのは確実。

歴史上にゃこいつを食って奇跡の手術で難病奇病を直し続け、伝説になった医者もいる訳だ…俺達にゃ関係の無ェ話だがなァ!」

 

 

「そうだぜキャプテン!俺たちゃ金の方がいい!」

 

 

「政府もこいつを50億ベリーで買い取るなんて頭がどうかしちまってるぜェ!」

 

 

「50億ありゃ俺達一生遊んで暮らせる!」

 

 

「ドリィ〜酒はまだかア!?」

 

 

元海軍中将であるバレルズは裏のコネを使い、偶然手に入れたこの悪魔の実を政府に売りつけようと画作した。

悪魔の実はこの世に二つと無い代物、ある程度の金にはなるとふんでいたバレルズだったが政府から提示された金額はなんと50億ベリー。

船員全員が一生遊んで暮らせる金を約束された彼等はまさに棚からぼたもちと大喜びし、一足先にアジトで祝杯を上げていた。

 

 

 

その様子を監視されているとも知らずに

 

 

 

 

 

ミニオン島海岸 海軍監視船

 

 

「んで?バレルズの様子はどうだ?」

 

 

「一味全員アジトでどんちゃん騒ぎしているようです。

50億ベリー手に入るとなれば皆そうなるでしょう。」

 

 

「悪魔の実一つに50億か、政府はそこまでしてンなもんを手に入れたいのかよ。

オペオペの実、何か隠されてんのか?」

 

 

「さあ……書物によればオペオペの実は本人の死と引換に〝永遠の命を与える〟ことができるとも言われていますが、真相は定かではありません。」

 

 

海軍本部大佐ガスパーデ、及び海兵ヴェルゴは監視船から双眼鏡でバレルズのアジトを覗き込み話し合う。

彼等は3日後に行われる政府との取り引きを密かに立ち会うため、ミニオン島に潜伏していた。

 

 

「ですがわざわざミラ中将の部隊から我々の所へ増員を派遣してくださらなくても…」

 

 

「ボスの命令なんだ。50億のカネが動くんだろ?

監視は多いほうがいい。」

 

 

「ハッ!お心遣い感謝致します!」

 

 

「堅苦しいんだよオメー…」

 

 

はぁ、と溜息を吐くガスパーデ。

つい先日の事を思い出す。

 

 

 

……………………

 

 

 

大監獄インペルダウンを出航したミラ達一行はそのまま凪の海を渡り、北の海へと到達した。

電伝虫のベルが鳴り、予定通りバレルズを監視するヴェルゴという男から電話が掛かってきた。内容は以下の通り。

 

バレルズの一味は予定通り数日後、ルーベック島にて政府と取引をする。

 

しかしそれをドンキホーテ海賊団が邪魔し、悪魔の実を奪おうとしている。

 

それを見越したセンゴク大将はつる中将とミラ中将をドンキホーテ海賊団が内通者と合流するというスワロー島に派遣した。

 

 

つるとミラ、この2人の実力者を持ち出すということはセンゴク大将もかなり本気でドンキホーテ海賊団を捕らえる気だった。

そしてミラはこの時、監視船の戦力補強を提案しヴェルゴ仲介の下ガスパーデ含む20名の部下を増員させたのだった。

 

 

「ガスパーデ、これを持っていけ。」

 

 

「ああ?何だコリャ。」

 

 

出立前、船長室にてミラがガスパーデに手渡したのは手の中に収まる程度の小さな黒い電伝虫だった。

 

 

「盗聴用の電伝虫だよ、ベガパンクの所から拝借してきたんだ。

貴重な種だから手荒に扱うなよ?」

 

 

「なんでこんなモンを俺に…」

 

 

「ん〜…これは私の〝勘〟なんだが…

今回のドンキホーテ海賊団包囲の話、ちょっとウマが良すぎる。罠かもしれん。

だからこいつを持っていけ、盗聴した音声も録音されるから。ミニオン島で何があっても己の正義に従えよ?」

 

 

「俺がロクな〝正義〟を掲げて無ェことくらい知ってンだろが。あんま期待すんなよ。それとも…心配してくれてんのか?」

 

 

嫌味ったらしく言うガスパーデをミラは軽く笑い飛ばした。

 

 

「しんぱいぃ〜?心配などしていない、お前はこの私の右腕だぞ?

いつも通り気に入らない奴は全員ぶっ飛ばして帰ってこい。」

 

 

「ケッ!面倒臭ェ上司だぜ…」

 

 

…………………

 

 

 

 

「ああ、監視とか面倒臭ェ…」

 

 

ガスパーデが溜息を吐いたその時

 

 

「大変です!バレルズのアジトから火の手が!」

 

 

監視員の報告を聞き、一気に船内は慌ただしくなった。

監視船の船員は兵としてはエリートだったがマニュアル過ぎて予想外の出来事に対応が追いついていないようだ。

そんな彼等を一番高い階級であるガスパーデは一喝する。

 

 

「何ワタワタしてやがるテメェ等、さっさとつる中将に報告だ!ヴェルゴ、俺と来い。他にも少数の捜索隊を編成、周囲の捜索に行くぞ!シャキシャキ動け馬鹿共ォッ!」

 

 

「「「は…はいっ!」」」

 

 

海兵達は一斉に動き出し、ガスパーデもヴェルゴと共に静かに森の中へと入って行った。

 

そして直ぐにはぐれてしまったヴェルゴに怒るガスパーデ、そして少ししてから空に〝檻〟が張られ、ミニオン島の廃墟付近は閉じ込めを食らうことになる。

はぐれたヴェルゴを捜索するうち、ガスパーデはミラから渡された盗聴用の電伝虫が信号をキャッチした事に気付く。

 

 

 

 

 

 

スワロー島近海

 

 

 

「なあおつるさん」

 

 

「なんだいミラ」

 

 

「一つ、思った事を言ってもいいか?」

 

 

「奇遇だね、アタシもだよ。」

 

 

「「海賊来ないなあ(ねえ)……」」

 

 

激安百貨店(ドンキホーテ)海賊団が来るから引っ捕らえろと言われおつるさんと合流したスワロー島、取引三日前にはやって来ると言われはや数時間……雪降る水平線には海賊船どころか船一隻見当たらない。

 

 

「ここ本当にスワロー島なのか?」

 

 

「そりゃ間違い無いんだが…センゴクの奴、どんな布陣を敷いたんだい?」

 

 

「お姉様、おつる中将どうぞ。

ホットミルクです。」

 

 

「ここあもあるー」

 

 

「お、気が利くな2人とも。」

 

 

「悪いね、頂くよ。」

 

 

ぷるぷるぷるぷる…ぷるぷるぷるぷる…

 

不意におつるさんの電伝虫が鳴き出した。

聞けばミニオン島のバレルズアジトから火の手が上がったと、明らかに異常事態だった。

 

 

「もしかして奴さん、もう既にミニオン島でバレルズを襲ってるんじゃ無いか?」

 

 

「センゴクの奴…ガセネタを掴まされたね。急いで行くよミラ!

パドルシップでウチの船も引っ張っておくれ!」

 

 

「承知した。機関部、蒸気機関最大!

フルスロットルでミニオン島まで向かうぞ!」

 

 

『アイヨォ船長、こっちの準備はいつでも万全だ!』

 

 

カトラスに触れ、帆をたたみ、格納されていたパドルを展開する。

今日は向かい風、波も強いからこっちの方が都合がいいな。

 

 

「おつるさん、船を曳航するから向こうに指示を!」

 

 

「任せときな、全速力で頼むよ。」

 

 

「任せろ。いい機関士を見つけてなあ、絶好調なんだ。」

 

 

トムのおかげで蒸気船は絶好調なのだよ。

その時船室から分厚い本を片手にレムが甲板へ上がってきた。

 

 

「ミラ、急に船が慌ただしくなった。

異常事態?」

 

 

「いや、これから海賊を追って……

そうだレム、お前がクルスと一緒に先行してミニオン島へ行ってこい。

ガスパーデのビブルカードを渡してやるからそいつを使って部下達の安全を確保してやってくれ。」

 

 

そう言ってガスパーデのビブルカードをレムに手渡す。

 

 

「ビブルカード…説明は前に聞いた。

これを追跡しガスパーデ及び当船舶の乗組員の安全を確保する。

了承、任せて。」

 

 

「ああ頼む、戦闘になっても加減はしろよ?それから……救える命は救え。

それは戦闘より優先される、分かったか?」

 

 

「……了承、ワタシは当船舶の〝医者〟。

救える命は救う。」

 

 

ご覧の通り、レムは俺の軍艦の〝船医〟である。

投獄されている間、ず〜〜〜っと読み続けていた医学書のおかげかそうでないのかレムはたいへん人間の身体に興味を示してた。

医学の知識もある程度持っていたのでそのまま医療班の1人に加えてる。

 

 

「よし、じゃあ行ってきてくれ。」

 

 

「………」コクリ

 

 

 

頷いてレムは甲板から海へと飛び降りる、そのまま海中から現れたクルスの頭に乗りミニオン島へと凄まじいスピードで向かって行った。

 

 

「…お姉様、レム一人にして大丈夫ですの?」

 

 

「まあ初戦闘だし、レムの実力(力加減)を計るのに丁度いいだろ。」

 

 

「いえあの娘、頭硬いですし。

戻せるからって島を氷漬けにして『全員生かした』とか言いそうですわ…」

 

 

 

HAHAHAHAHA!無い無い!レムに限ってそんな事は……………無いよね?

 

 

「……機関全速で」

 

 

ふ、不安になってなんか無いんだからね!

 

 

チラリと甲板の端を見ればイルミーナとまだ船に居座っているミホークが何やら話しているのが見える、和む

 

 

「現実逃避するお姉様も素敵ですが今は現実を御覧になって下さいまし…」

 

 

つらたん

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミニオン島、沿岸付近

 

 

「2代目コラソン…とんだネズミが入り込んでいたもんだ…!」

 

 

しんしんと雪降り積もる中、夜の静寂を打ち破るような鈍い音が辺りに響く。

 

 

人目のつかない沿岸付近で1人の海兵が2人の海賊を惨たらしく叩きのめしていた。

 

 

「お前が8歳の時に失踪してから次に俺達の下に現れたのは実に14年後、ドフィはお前が弟だってだけで疑わなかった!なのにテメェは!!」

 

 

全身を覇気で覆った海兵の一撃が振るわれる度、骨の折れる鈍い音がする。

骨も内臓もグシャグシャにされ、呻きながら地に伏せる海賊を追い打ちとばかりに何度も蹴りつけた。

 

 

「この…裏切り者がァッッ!!」

 

 

「やめてくれえ!コラさんが死んじゃうよォ〜!!」

 

 

必死に脚にしがみつく少年すら蹴り飛ばし、海兵は彼に拳を向ける。

 

 

……………

 

 

 

『簡潔に説明しろ、どういう事だヴェルゴ。』

 

 

「コラソンは海軍が送り込んだスパイで、お前を陥れるためにファミリーに居たんだ。そっちは今何処にいる?」

 

 

『今ミニオン島に着いたところだ。

合流地点のスワロー島を遠くから見ていたら…軍艦が2隻も現れて流石に俺も悟ったよ。

実の弟が俺に牙を向いたとな。』

 

 

海兵ヴェルゴはボロボロの海賊2人を尻目にドフラミンゴと連絡を取っていた。

運命の悪戯か、はたまたロシナンテのドジなのか潜入任務だった()()ロシナンテが文書を渡した相手は海軍に潜入していた()()ヴェルゴだったのだ。

ロシナンテの裏切りを悟ったヴェルゴは怒り、彼を殺す気だった。

 

 

『この島で起きた事は〝消す〟必要がある…〝鳥カゴ〟を使うぞ。』

 

 

「ああ分かった。それで、『俺は今後も海軍に潜伏』…………」

 

 

ガサリ

 

 

草をかき分ける音にヴェルゴは思わず顔を上げる、そして先程自分の声が被って聞こえたのにも納得し歯噛みした。

 

ロシナンテを痛めつけたことで少し気を抜きすぎた。

 

 

「『済まない、少し外す。用ができた。』」

 

 

『………ああ、殺せ。』

 

 

ガチャリ

 

 

電伝虫を置くヴェルゴ、その視線の先には大柄で悪党面をした1人の海兵が立っていた。

その右腕にはさっきまで自分の声を盗聴していた黒い電伝虫が付いている。

 

 

 

そう、全て聞かれていた

 

 

 

 

「よォヴェルゴ、ダチとのお電話は終わったか?」

 

 

 

草陰から現れたのは、本来(原作)ならこの場にすら居ないはずの(イレギュラー)、ガスパーデだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「………檻が張られていく?」

 

 

クルスの頭に乗り、高速で海を進んでいたレムはようやく見えたミニオン島の一部が檻のような物に覆われていくのに気付く。

 

 

「…急いでクルス。」

 

 

 

嫌な予感を感じ取ったのはレムだけでは無かったらしい、クルスは更に速度を上げて海上を突き進む。







次回、悪党VS悪党


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23 海兵の様な海賊と海賊の様な海兵

〜WARNING!!〜

原作キャラ死にます注意!






「でよォ…聞きたいことは色々有るんだが。

そこに転がってる海賊とガキはなんだ?」

 

 

「……海賊を発見しましたので、撃退した次第です。」

 

 

「そォか、ご苦労。

………で?さっき話してた『ドフィ』ってのは一体誰だ?」

 

 

血塗れで転がっているロシナンテとローを一瞥し問いかけるガスパーデ

 

 

「………」

 

 

ヴェルゴは何も答えない

 

 

「答えられねェか。まあ全部聞こえてたんだけどよォ…

海賊の、よりにもよってあのドンキホーテ海賊団のスパイとは…面倒臭ェ事になった。

ヴェルゴ、洗いざらい喋って貰うからおとなしく(ズドンッ)………あァ?」

 

 

一瞬呆気に取られたガスパーデは自身の腹を見る。

ヴェルゴの腕が彼の腹を勢い良く貫いていた。

 

 

「………ッ!?」

 

 

殺った。そう思ったのも束の間、今度はヴェルゴが驚愕する事になる。

 

ヴェルゴが貫いたはずの穴に腕がズッポリとハマりこみ、絡め取られ抜けなくなってしまったのだ。

ガスパーデを「大佐」と舐めきって覇気を纏わせなかった彼の失態である。

 

 

「あ〜あァこりゃ裏切り確定だぜ。

面倒臭ェなあボスに報告する事が増えちまったじゃ無ェか…よぉッッ!!」

 

 

腕を飲み込まれ、動けなくなったヴェルゴにガスパーデは容赦なく鉄拳を叩き込む。

後頭部を強打したヴェルゴは殴られた勢いでガスパーデの腹から腕が抜け、地面を転がった。

そのまま背中を木にぶつかり、軽く流血しながらゆっくりと立ち上がる。

 

「くっ……貴様、能力者だったのか…」

 

 

「貴様ァ…?どーやら上官に対する敬語の使い方も置いてきちまったみてぇだな()()ヴェルゴ。

俺はアメアメの実を食った水飴人間、覇気も纏ってねぇ拳なんぞ効かねぇよ。

オメェが海賊なら尋問は処刑に変更だなァヴェルゴ…ウチの船で裏切った奴がどうなるか知ってっか?」

 

 

不敵に笑うガスパーデにヴェルゴは警戒しつつ答えた。

 

 

「?何の話だ…」

 

 

「裏切り者はな、()()()だ。オラァッッ!!」

 

 

「……ッ!!」

 

 

大きく踏み込むガスパーデ、そのまま腕を大きく振り上げ能力で拳に棘を作りつつ武装色で強化させた。

ヴェルゴも負けじと全身に武装色の覇気を纏わせ応戦する。

 

 

武装色の覇気どうしがぶつかり合い、金属の激突したような轟音が沿岸部に谺響した。

 

 

二人の戦闘は激しさを増し、衝撃波が辺りの木々を抉り始める。

その騒ぎに乗じて二人の海賊が幸運にもその場から逃げ出せていたのにヴェルゴとガスパーデは気付かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………?」

 

 

「んべへへ…どーしたドフィ、〝寄生糸(パラサイト)〟やるんだろ?」

 

 

「…ああ、不運にも俺達の会話を聞いちまった哀れな海兵はヴェルゴが始末するとして…バレルズのアホから奪い取らなきゃなァ、オペオペの実をよォ。」

 

 

不敵に笑うドフラミンゴの右手から目に見えないほどの細い糸がヒュンヒュンと空へ伸びていき、次第に鳥カゴで覆われた島内で悲鳴や銃声が聞こえ始める。

〝寄生糸〟によって肉体を操られた者達が自分の意思とは関係なく争っているのだ。

 

 

「行くぞ、もう誰もこの島から逃がしはしない。」

 

 

ドンキホーテ海賊団、ミニオン島へ上陸。バレルズのアジトへ歩みを進める

 

 

 

 

 

 

 

…………………

 

 

 

「ミラ中将!ご報告致します!」

 

 

「現在ミニオン島バレルズのアジト付近には正体不明の檻が敷かれており内側との通信が完全に途絶!

我々は島の外側を捜索していたので無事でしたがはぐれたヴェルゴ一等海兵を追い島内へ入ったガスパーデ大佐が閉じ込めを食らっております!」

 

 

『…二人以外の捜索隊は全員無事なんだな?』

 

 

「ハッ!我々含む13名の点呼は取れております!」

 

 

『ならいい、お前達は監視船へ戻って待機。ガスパーデは放っておけ。』

 

 

「えぇ!?」

 

 

『レムとクルスを先行させてそっちに行かせた、

それに私とおつるさんも全速力でそっちへ向かってる。

下手に動き回られると逆に危険だ、監視船で纏まっていろ。』

 

 

「りょ、了解!」

 

 

ガチャン

 

 

ガスパーデのいない捜索隊の隊長、ミラの部隊に所属するハワード准尉は安堵し電伝虫の受話器を下ろして肩をなでおろす。

 

彼女が先行してやって来ると言うなら安心だ

 

 

「ハワード准尉、ミラ中将からのご命令は…」

 

 

「全員すみやかに監視船へ帰投せよ、レムさんとクルスがやって来る。」

 

 

その言葉を聞いてミラ直属の部下達は皆ホッと安堵の表情を浮かべたが監視船組は『誰?』と言わんばかりに首を傾げている。

 

 

「ハワード准尉、そのレムとクルスという方は…?」

 

 

「昨今ミラ中将が仲間に引き入れた元囚人と海王類だ。

……言いたいことは色々あるだろうが今は黙って監視船へ戻ってくれ。」

 

ハワードの言葉に目を見開く監視船組の海兵達

 

 

ハワード達ミラ直属の部下は知っているのだ、これからやってくる1人と1匹がどれ程の力の持ち主なのかを。

 

片や軍艦を簡単に転覆させてしまえる大型の海王類

 

片や大監獄を氷漬けにしていた張本人

 

 

彼等が少し本気で暴れるだけでどれだけ海賊に被害が出るのか想像もつかない。

考えてみればこの短期間に海王類を手懐け大監獄の囚人を連れ出して味方につけるという偉業を自分たちの上司は成し遂げていた。

 

 

ミラ中将って一体…

 

考えるのはここまでにしておこう、彼女の部隊に入ってから今までの海兵としての常識は通じないと悟り、ハワードは捜索隊を連れ足早に監視船へと向かった。

 

 

 

 

 

 

ドンキホーテ海賊団上陸後少しして、クルスに乗ったレムはミニオン島へ上陸していた。

 

クルスに島の周りを巡回しながらガスパーデを探すよう指示を出し、鳥カゴの前に立つ。

 

 

「………邪魔」ガシッ

 

 

レムは切れ味鋭い鳥カゴの糸を両手で掴み取った。

擬人化していてもレムはミラと同じ龍種である、鋼鉄のように硬い糸でも彼女の手は傷つく事は無い。

 

ビブルカードはこの先にガスパーデが居ると指し示していた、ならこの檻を破らねば

 

レムによってギシギシと檻が凍り付き、一部が完全に凍結した鳥カゴは氷の塵になって砕かれた。

 

 

「………?」

 

 

「うわああああっ!助けてくれえ!」

 

 

「頼む相棒!逃げろぉ!」

 

 

少し歩いた所でレムは奇妙な光景を目の当たりにする。

海賊と思わしき男達が「逃げろ」と泣きながら仲間同士を追いかけ斬りあっていたのだ。

 

 

「ぎゃあっ!!」

 

 

レムの近くにいた二人組のうち一人が背中をバッサリと斬られ、悲鳴を上げ倒れたのち動かなくなる。そんな彼に斬りつけた男は謝罪の言葉を述べながらなおも空に向かって剣を振り続けていた。

 

 

「ウオォォ…すまねえ…すまねえ…身体が勝手に動くんだァ…。誰か…頼む……俺を………殺してくれえええッッ!!」

 

 

両手のカットラスを振り回しながら咽び泣く男は視界の端にいたレムに目を付け叫ぶ。

 

 

「そこの姉ちゃん!助けてくれ!

もう嫌だ…俺を……俺を殺じでくれェ……!」

 

 

「了承」

 

 

レムの体が空を切る、一瞬で男の目の前まで到達しそのままレムは右手で男の腹を貫いた。

 

 

「ゴボオッ!?…ゥ…」

 

 

男の身体はビクビクと痙攣した後、糸が切れたようにだらんとレムにもたれかかる。そして掠れた声で感謝の言葉を述べ始めた。

 

 

「すまねえ…な、姉ちゃん……」

 

 

「ワタシは貴方の望み通りにしただけ。

疑問、何故あの男を斬った?」

 

 

先程斬られた男を一瞥しながらレムは問う。

 

 

「自分でも分かんねえんだ…空にあの檻が張られて……身体の自由が効かなくなった…そしたら急に仲間同士で殺し合い始めちまって……俺ァ盃を交わした相棒を斬っちまった……」

 

 

嗚咽を漏らしながら答える男の頭を胸に抱き寄せそっと撫で、落ち着かせる。

腹を貫いたのだ、もうこの男の命は長くない。ならばとレムはミラから教わったことを実践してみることにした。

 

 

「……泣いている男はこうして慰めてやれ。と、主から教わった。」

 

 

「…そうかい…会って間もないが……アンタみたいなべっぴんさんに看取られるのは悪くねェや……ありがと…ょ……」

 

 

やがて男の瞳はゆっくりと閉じ、安らかに息絶えた。それをレムはじっと見つめ、事切れた男の腹から右手を引き抜く。

ドサリと地面に落ちた男の死体は貫かれた腹から徐々に凍っていき、完全に凍結した後風に乗ってその形を無くしていった。

そしてハッとミラから言われた事を思い出す。

 

「救える命は救え」

 

やってしまった。殺してくれと言われたからついその通りに聞き入れてしまった。

 

 

「(反省…思考が足りなかった。彼を生かして拘束する術はまだあったはず、それを怠ったのはワタシの失態…)」

 

次は殺さずにあの状態から脱却できる方法を模索しよう。トライアンドエラーは大事、そうあの教本にも書いてあった。

 

 

「……アジトは向こうか。」

 

 

理由は不明だがこの男がこうなったのには原因がある筈、そのヒントがアジトに行けば見つかるかも知れないと踏んだレムは廃墟の中心、前方に見えるバレルズのアジトへと向かった。

 

 

その頃時を同じくして、海軍に1人の少年が保護されたと通信が入る。

上空で監視していたバッファローとベビー5はこれを傍受したが、大したことも無いだろうと報告はせずにいた。

そして幸か不幸か、林の中で闘っていたヴェルゴとガスパーデ、そしてレムの姿を捉えることは出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………………………………

 

 

『お前の首で、聖地へ戻る…!!』

 

 

『やめて兄上!やめてえ〜ッ!』

 

 

『ドフラミンゴ…ロシナンテ…

私が父親で……ごめんな。』

 

 

ドォンッ!!ドォンッ!!

 

 

走馬灯のように思い出す、忘れもしない辛い過去。

優しかった父と母からどうしてあんな怪物が産まれたのか理解出来なかった。

 

それからずっと、俺は兄の暴挙を止めるために全力を注いできた。

 

海軍のスパイとして兄の下へ潜入し

 

他のものを全て欺いて

 

でも出会っちまったんだ、ローに。

泊鉛病を抱え、世界に絶望していたあの少年が、どこか兄と似ていたのかもしれない。

 

だから救ってやりたかった

 

俺の勝手なエゴかも知れねぇけど、お前の為に色々と無茶もした。そのツケが回って来たよ。

 

〝鳥カゴ〟に〝寄生糸〟、絶望的だがロー1人だけなら逃がすことが出来る。

おれはもう助からねえけど…おれが死んでも、覚えててくれよ?

おれは笑顔で死ぬからよ…!!

 

だってお前、いつかおれの顔を思い出すんなら…笑顔の方がいいもんな

 

 

…………………………………

 

 

 

「テメェよくも若を騙していやがったなコラソン!この裏切り者がァッッ!!」

 

 

「グフッ…!!」

 

 

荒っぽい蹴りを腹に受け、ボロボロの身体は地面を転がる。

ローは俺の能力で〝無音〟状態、宝箱の中に隠れさせた。

宝箱は海賊の盲点、必ず脱出するチャンスがやって来る筈だ。

 

その為に俺が囮になる、そうすれば目的を果たしたドフラミンゴ達は島を出る。その隙に逃げろ、ロー。

 

 

「半年振りだな、コラソン…」

 

 

「ドフラミンゴ……」

 

 

殺す側と殺される側…こんな形で再び向き合いたくは無かったよ、兄上。

 

もう銃を構える体力も残ってねぇ

 

 

「M.C01746…海軍本部ロシナンテ中佐。

ドンキホーテ海賊団船長ドフラミンゴ、お前がこの先生み出す惨劇を止めるため潜入していた…。俺は『海兵』だ…!」

 

 

センゴクさんに送ろうとした秘文書はヴェルゴに破り捨てられちまった、すまねえドレスローザ…。お前達を救えなかった…

 

それにロー…

 

 

「嘘をついてて悪かった、お前に嫌われたくなかったもんで…」

 

 

「……?」

 

 

首を傾げるドフラミンゴ、そのまま俺に銃を向ける。

まさか俺がもたれ掛かってる宝箱の中にローが居るとは思うまい。ざまあみろ。

たとえ撃たれてもまだ死なねえぞ、お前が逃げ切るまでは…じゃないとお前にかけた魔法が解けちまうもんな。

 

 

「無駄な問答はいい、悪魔の実は何処だ!ローは何処だ!」

 

 

「悪魔の実ならもう無い、ローに食わせた…!あいつは上手く能力で外へ出ていったよ。」

 

 

「何!?」

 

 

怒りを顕にするドフラミンゴに追い討ちを掛けるように上空から鳥カゴ内を監視していたバッファローが叫ぶ。

 

 

「若〜!さっき海軍が少年を1人保護したと連絡が!」

 

 

「なんだと!?何故早くそれを言わねえ!」

 

 

……?どういう事だ?ローなら此処に…そうか、ローは運命に生かされているのか…次から次へと救いの神が降りてくる。

ならこの絶望的な状況もきっと乗り越えられる。

 

段々と意識が薄れてきた、視界はぼやけているし折れた骨が内蔵に刺さっているのか少し動かすだけで激痛が身体中を駆け巡る。ヴェルゴの野郎…派手にぶん殴りやがって…

 

でもこれでいい、ロー。

お前が救われるのなら俺は……

 

 

「クソッ!急ぐぞ!監視船を沈めてローを奪い返す!鳥カゴも解除……あ?」

 

 

その時、ドフラミンゴがいつもと違い驚いた表情を浮かべているのが見えた。

 

 

「どうしたドフィ、何を止まってる」

 

 

「誰かが俺の鳥カゴを破壊して内部に潜入してやがる…」

 

 

鳥カゴを?壊した?一体誰が……

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴方達、此処で何をしている?」

 

 

 

 

突然の声に全員が振り向いた。

 

 

声の主は林を抜け、俺達の前に現れる。

真っ白い肌に白い髪、瑠璃色の瞳をした背の高いワンピース姿の綺麗な女。

 

 

誰もが呆気に取られる中、俺にはその女が救いの女神に見えたんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

ミニオン島、鳥カゴ内沿岸部の林の中

 

 

ガキィン!!ゴキィンッ!!

 

 

武装色の覇気同士のぶつかり合いで空気が揺れる、雪の降り積もる林の中では二人の男が拳をぶつけ合っていた。

 

 

「惜しいなァヴェルゴ!

ボスはテメェの事、結構気に入ってたんだぜ!?

G5に望んで行きたがる変わり者だってよォッ!!」

 

 

「…………」

 

 

ガスパーデの挑発にも眉一つ動かさずにヴェルゴは戦闘を続ける。

 

ヴェルゴにとって海軍とは単なる隠れ蓑、後に控える大きな計画を成し得るための下準備でしか無かった。

海賊としての下積みを積んだヴェルゴはその分実力もある、それもあり予定通りあのセンゴク大将からも充分に期待され、今回の監視任務に抜擢されたのだ。

今日の一件、多少のイレギュラーはあったものの概ね順調だった。監視対象(ミラ中将)がガスパーデを派遣してこなければ。

 

おかげでこうして要らぬ戦闘をする羽目になる、しかも大佐と侮ったが故にこの不始末。

 

 

「…これでは『鬼竹のヴェルゴ』の名折れだな。」

 

 

嘆息したヴェルゴは側に捨ててあった程よい長さの棒を手取り、覇気を流す。

みるみるうちに枯れかけの木材だった棒は黒く変色し、硬度の高い武器へと早変わりした。

 

それをそのままガスパーデの脇腹へ叩き込む。

 

 

「!?グゥッ…」

 

 

痛みに呻くガスパーデ、武装色の覇気が施された攻撃は悪魔の実であっても無効化することは叶わない。

ガスパーデはパワーはあるがスピードはイマイチだ、その事をいち早く感じ取ったヴェルゴはすぐさま戦闘スタイルを〝速さ〟に傾け行動を起こす。

 

覇気の力で上回っている分、ヴェルゴの方がガスパーデより一枚上手だ。

覇気を纏われてはガスパーデのアメアメの実も意味を成さず、また速さで劣る分ガスパーデは防戦一方だった。

 

 

「チィッ!!グッ…」

 

 

「俺も時間が無いんだ、早急に貴様との戦闘を〝無かったこと〟にする必要がある。」

 

 

「だァから上官には敬語を使えって言ってんだろォ…ガッ!?」

 

 

ガスパーデの振り下ろした拳が大地を割る、だがヴェルゴはそれを飛び上がって回避しガスパーデ後頭部へ角材をめり込ませ、鈍い音が響きガスパーデは地に伏した。

 

 

「痛ってェなこの野郎…」

 

 

「そのまま寝ていた方が幸せだったろうに…」

 

 

相変わらず悪態をつくガスパーデだが頭部へのダメージは大きい様で、上手く起き上がれない。

更に追い討ちを掛けるヴェルゴ。彼は己の勝利を確信していた。

 

 

この男は海にでも投棄するか、そう考えていた時上空の鳥カゴが消えていくのを確認したヴェルゴは船長(ドフィ)が裏切り者の始末を付けたことを悟る。

 

一方ガスパーデも、少し先の林を抜けた沖に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「鳥カゴは消えた、いよいよお前にも消えてもらわなきゃいけない。

安心しろ、ミラ中将にはきちんと〝海難事故〟だと説明してやるよ。」

 

 

「余計な…お世話だ…ッ!!」

 

 

破れかぶれに振った腕も避けられ、横腹を思い切り蹴られ転がるガスパーデ。

動けなくなったのを確認したヴェルゴはガスパーデの巨体を引き摺りながら海岸沿いの崖へと向かう。

 

 

「能力者はいいな、海に捨てるだけで勝手に死んでくれる。」

 

 

「な…オイまさかテメェ…!クソ野郎…ッ!!」

 

 

そう、ヴェルゴはこのままガスパーデを崖から放り出す気だった。

ガスパーデは悪魔の実の能力者である。実を食べ、海に嫌われた者は一生カナヅチになるのだ。彼とて例外ではなかった。

 

 

「さて、お別れだ。ガスパーデ大佐。

達者でな。」

 

 

「……なァヴェルゴ、俺はさっきも言ったよなァ…」

 

 

遺言か、最後の言葉くらいは聞いてやろうとヴェルゴが動きを止め、その言葉に耳を傾けようとした時。

 

ガスパーデは動いた

 

まずは飴状にした右腕を歩くヴェルゴの片脚に絡め、そのまま自分の腕から切り離す。そして蹴躓いたところでもう片方の足も絡めとり、動きを一時的に封じてみせた。

 

 

「なっ!?無駄な足掻きを……」

 

 

「無駄かどうかはテメェの決めることじゃねェさ…さあ、一緒に落ちようぜェ!!ヴェルゴォォォッッ!!」

 

 

なんとガスパーデはそのままヴェルゴを道連れに、崖から真っ逆さまに飛び降りたのだ。さしものヴェルゴもこれには顔を青くする。

 

 

「うおお貴様ァァァッッ!!だが海に落ちて先に死ぬのは能力者の貴様だけだ!どんなに海が冷たかろうが俺は泳いで岸まで戻…」

 

 

「バァカ、誰が海に落ちるなんて言ったよ。」

 

 

「…は?」

 

 

ドンッ

 

 

落下中、ガスパーデはヴェルゴの身体を押し、崖側へと距離を置く。

まるで何かの巻き添えになるのを嫌がるように。

 

 

「餌の時間だァ!クルゥゥゥゥスッッ!!」

 

 

叫ぶガスパーデ、その内容をヴェルゴが理解するよりも前に

 

海面から巨大な影が飛び出してそのままヴェルゴを海へと引き摺り込んだ。

 

 

「キャンディメイク…スパイクピック!」

 

 

ガスパーデは余った腕を伸ばし先端を崖に突き刺す、続いて脚にスパイクを作り落下の勢いを殺しながら近場にあった大岩へと飛び移った。

 

 

「あ〜ぁ疲れたァ…やっぱ慣れねえ事するもんじゃねェわ。」

 

 

そう呟いてその場に胡座をかいて座り込み葉巻を取り出し一本蒸かす、煙を嫌うイルミーナのいる艦内ではおちおち吸ってもいられないのだ。

島に1人の時くらい落ち着いて一服させて欲しい。

 

 

「だから言ったろォ、裏切り者は(クルス)の餌だってよ。」

 

 

腰のカットラスと片腕の盗聴用電伝虫は無事だ、片方は無くすと困るモノ、もう片方はヴェルゴがスパイである証拠。

〝味方殺し〟はミラの最も嫌う行為の一つだがスパイを撃退したのなら叱られる謂れは無いだろう。

色々問い詰められると思うがまァ…

 

まあなるようになるか

 

そう結論づけたガスパーデは久々の葉巻の味を楽しむ事にした。

 

 

 

 

 

 

一方、ヴェルゴは腹から下をクルスに咥えられたまま海深くへと沈んでいる最中だった。

 

クルスはミラが飼っている海王類である。クルスはその巨体と放電能力もさることながらある事を知っていた。

 

人間は美味しい

 

人の味を覚えた海王類は人を確実に殺す為の術を身に付けている。

例えば人は海王類よりも海深くには潜れない、だから捕まえたらまず潜って溺れさせる。人を生かしたまま丸呑みにするのは喉に詰まって危ない、ちゃんと咀嚼してから食べる。etc..

ミラに飼われる人喰い海王類クルスは手綱こそあれど海王類の中でも特異な身体と趣味趣向を持ち合わせた危険な種であった。

 

 

北の海(ノースブルー)の極寒の海はみるみるうちにヴェルゴの体力を奪い、遂に覇気を維持出来なくなった時、冷たい海の底で1人の男が息絶えた。

 

 

 

 

 

 

 

 




ミラ「やだ…私の出番…少なすぎ…?」


☆身内に不幸が起きた為申し訳ありませんが家が落ち着くまで更新を控えさせて頂きます。
といっても二週間後位には投稿できると思いますが…
更新を楽しみにして下さっている方々、申し訳ありませんが少しの間主に心の整理を付けさせてください…




次回…天廊の番人は運命を覆す?


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24 番人、海賊、海兵



待たせたなァ…(Cv大塚明夫)


ミニオン島の変、完結
なんか一部海賊が小者っぽいので注意



 

 

 

………

 

此処は俺の船の船長室、おつるさんの船を後ろに曳航しながら全速力でミニオン島へ移動している最中だ。

 

さっきまでは全くの音信不通だったガスパーデの盗聴用電伝虫から突如信号が入り、大至急おつるさんを呼び寄せた。

そしてその内容は…

 

「…と、ガスパーデから傍受した盗聴用電伝虫の内容はこんな感じだ。おつるさん。」

 

 

「スパイだなんて胸糞悪い事するじゃないかドンキホーテ海賊団は…。

お手柄だねガスパーデ、この様だとG5の方も一度洗いざらい調べる必要があるかもしれない。」

 

 

まさかヴェルゴ君、ドンキホーテ海賊団のスパイだったなんてなあ。意外。

あんなに礼儀正しい子だったのに…

こういうことしてくる海賊もいるんだな、ウチも気を付けないといつ足下を掬われるか分かったもんじゃない。疑い過ぎて疑心暗鬼になるのもアレだがそのへん折り合いが難しいよネ。

 

まあガスパーデの安否が確認出来たことには安心した、ああ言った手前俺の大事な部下である。生きていてくれて素直に嬉しい。

 

そんで残った次の問題はドンキホーテ海賊団だ。

おつるさんに聞いてみるとセンゴクさん情報でキャプテンや他の構成メンバーの事まで事細かに知っていた。キャプテンのドンキホーテ・ドフラミンゴは〝イトイトの実〟の糸人間、その他にも岩石同化人間、粘着人間、破裂人間などなど一筋縄ではいかない猛者達が揃ってる。

 

悪魔の実はその能力を理解し、鍛錬を重ねればいっそう体に馴染み、強力になっていく。ウチでもテリジアやイルミーナなんかは自分の悪魔の実を充分に把握し、弱点を隠し利点を伸ばす事でよりスキのない戦闘ができてる。

ただし逆もしかり、最強クラスの自然系だからって使い方がなってないと痛い目を見る事になるのだ。能力に頼り切りになっては覇気を持つ相手と戦った時大きく苦戦を強いられることになるだろう。

 

ボルサリーノ中将聞いてるかー?アンタの事だぞー(ボソッ)

 

海兵が能力理解して強くなってくれるのなら全然構わないんだけどコイツら海賊だからなあ、厄介な敵になりそうだ…

 

 

 

「アンタは行かせちまったが、そのレムって娘は大丈夫なのかい?

聞けばインペルダウンから連れ出して来そうじゃないか。」

 

 

「レムなら問題無いでしょう、あの子は強い。加減を覚えないと味方にまで被害が出るほどにね。

少しばかり頭が固いのが難ですが…」

 

 

そうなんだよなあ…付き合い始めてから判明したけどレムの奴、頭が固いというか、融通が利かないというか…

送り出したのはいいものの、〝初めてのおつかい〟の親の気分だ。

でもこっちの世界で人間と向き合うと決めた以上、過度な破壊や殺生は極力控えさせないといけない。俺らは理性ある〝龍〟で〝獣〟じゃないからネ。

破壊衝動で動いてるどっかの金猿なんかと一緒にされると困りますよ、ええ。

 

金剛角寄越して消えて下さい(^^)

 

 

 

「ミラが送り出したんだ、あたしゃアンタの決定を信じるよ。」

 

 

知らん間におつるさんからの信頼厚くなりスギィ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヴェルゴとガスパーデが戦闘し始める少し前

ミニオン島、バレルズアジト

 

 

 

「…貴方達、そこで何をしている?」

 

 

透き通るような声がアジトに響いた。

ドンキホーテ海賊団、及び傷付きボロボロの海軍本部中佐ロシナンテの前に立つのは雪のように真っ白な髪と肌をもつ背の高い美女。

 

 

「なんだ、バレルズの野郎。こんな上玉の女を隠してやがったのか?」

 

 

ドンキホーテ海賊団の1人、グラディウスがボヤく。

鳥カゴの中で現れたということは最初からアジトの中にいたのだろう、これからロシナンテを処刑するタイミングで出てくるとは間の悪い女だ。

 

 

「バレルズの野郎は死んだ。今取り込み中なんだ、見逃してやるから命が惜しけりゃさっさと消えな。」

 

 

「……?」

 

 

キョトンと無表情のまま首を傾げ動かない女を見てグラディウスの苛立ちは募っていった。

 

 

「今取り込み中だって言ってるだろ。

言葉が分からねえほど壊されちまったのか?」

 

 

「……再質問、貴方達は此処で何をしている?」

 

 

「おい無視すんなこの女…「止めろグラディウス。」若!?」

 

 

苛立ちが最高潮に達したグラディウスをドフラミンゴはなだめ、一旦銃を下ろしレムの方へと向き直った。

 

 

「これは処刑さ、俺達を裏切った罪を死を持って償ってもらうためのな。」

 

 

「死が贖罪…?理解しかねる。『死』とは『無』、死ぬ事で罪が償われるなどというのは貴方のエゴ…自己満足」

 

 

相変わらず無表情で述べるレムにグラディウス達は食ってかかるがドフラミンゴは再びそれを制し、尚も不敵な笑みを浮かべながら諭すように言った

 

 

「ああそうさ、これは俺なりのケジメって奴だ。

誰にも縛られず、己が自由の赴くまま、まさに海賊らしいだろ?」

 

 

「海…賊?」

 

海賊、その言葉にレムはピクリと反応する。

 

ミラ()から伝えられた司令は2つ、一つはガスパーデ及びミラの部下達の安全の確保。もう一つは可能な限り生存者の救出。

だがもう一つ、レムはミラに大監獄から連れ出された時大前提として言われたある言葉を思い出した

 

『海賊は出会ったらまず敵だと思え』

 

そう、目の前のこの男達は海賊。

 

つまり、敵

 

 

「海賊…了承。主の命令を全うする。

許容もなく、慈悲もなく、ワタシは海賊と名乗る者を撃滅しなくてはならない。」

 

 

「フッフッフ、撃滅なあ…デカイ口を叩くじゃねえか。」クイッ

 

 

「…?身体が…」

 

 

ドフラミンゴの立てる指と共にレムの身体がピタリと止まり、指一本動かせなくなった。

不敵に笑うドフラミンゴだがその額には青筋が立っている。

 

 

「今俺ァ急いでるんだ。

弟に裏切られ、欲しかった悪魔の実は盗られてて、挙句そいつにトドメを刺そうって時にお前が現れた。

撃滅って言ったな?どんな自信があるかは知らねえがお前1人でファミリー全員を一度に相手すりゃ五秒も持たねえぞ。

……相手を見てから喧嘩を売るんだな。お前は「三秒」…あ''?」

 

 

「訂正。戦闘になった場合、貴方以下10名を物理的に拘束及び殺害に要する時間は三秒未満。

ワタシとしては三秒未満の行為が〝戦闘〟のカテゴリに属するのかは甚だ疑問。」

 

 

「……とことんデケェ口を叩く女だ。

もっと違うカタチで会ってりゃ仲間に引き込むんだがなァ…!

……死んどけ」

 

 

この時点でドフラミンゴの怒りも頂点に達しており、冷静な判断を下すことができなかった。

目の前の邪魔な女の首を切り落とすだけ、そう思い鋭い斬れ味を持つ糸をムチのようにしならせレムの首を狙う

 

 

その瞬間

 

 

「……戦闘を、開始する。」

 

 

 

時が凍った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「戦闘終了。

更に訂正、貴方達如きでは一秒も持たなかった。」

 

 

体の髄まで一瞬で凍らせた海賊達を見つめながら言う。

 

私が使ったのは空気中の水分を瞬時に凍らせる『絶凍』、本来は咆哮の際に生ずる只の〝余波〟だ。

約3回程で昔居たあの部屋は完全に凍結する。今のはそれを更に抑えた簡易版。

それでも辺りの木々は瞬間冷却され根まで凍り付き、辺りは白銀の世界へと姿を変えた。

 

きちんと加減出来ただろうか、先ほどの経験を活かしなんとか殺害してしまわないように配慮したつもりだが…。

 

それにしても、ハンターならばこの程度の冷気などものともしないのだが…主の言う通りこちらでは勝手が違うらしい。

無駄口を叩く前にさっさと攻撃してくればいいものの…海賊には〝学〟の無い者が多いようだ。

 

 

物言わぬ氷像になった海賊達を眺める。男女様々、子供に老人、大男、個性豊かな面々だ、そして最後に目に止めたのは全身ボロボロの男性だった。

 

『救える命は救う』、主は救う対象を指定しなかった。なので自己判断でそれが例え海賊だろうと例外はないと結論付けたワタシはボロボロのこの男を助ける事にした。

かなり痛めつけられていたのか所々骨は折れ、内蔵に刺さっていないのが不思議な位だが瞬間冷凍したおかげか身体は固定されている。このぶんなら命に別状は無いだろう。

 

鱗を持たない人間は脆くて大変だな

 

空を見上げると厄介だった〝檻〟が消えている、意識を失ったことによって悪魔の実の効力が切れたのだろうか?この海賊達のうちの誰が張っていたのかは今となっては分からないが…

 

 

「来た方向は…向こう。

なら彼を連れて戻ればミラが来るはず。」

 

 

とりあえずはその男を抱え、山を降りた。

 

 

……正直初任務でこの働きはなかなかの成果ではないだろうか。命令通り救える命を救ったし、要らぬ殺生も極力避けた。(当社比)

柄にもなく得意な気分なり、鼻歌などを歌いながらワタシはゆっくりと雪原を歩く。

 

主に褒めてもらえるかな…♪

 

 

 

 

この時のワタシはうかれるばかり凍らせていた海賊をその場に放り出したままだった事をすっかりと忘れてしまっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「見えた、おつるさん。

ドフラミンゴの船だ。」

 

 

フラミンゴの艦首かよ、わっかりやす

 

 

やっとこさミニオン島に到着した俺とおつるさんは海岸付近にドンキホーテ海賊団の船らしき海賊船を発見、拿捕してガスパーデとレムを捜索する事にした。

捜索が始まってすぐ、レムの方から船へと戻ってきてくれてガスパーデもそれから少しして片腕を失った状態で帰ってきた。

 

めっちゃ心配したんだけどぶっきらぼうに俺の腕を振り切って「メシ食えば戻る」とか強がり言っちゃうガスパーデ。

こ や つ め

まあその通りなんだけどさ。

アメアメの実は水飴人間、例え四肢が切断されても身体が残っていれば時間がかかるが再生する便利な能力だ。超人系だから実体はあるはずなのに不思議よね。因みに飴の味はゲロマズらしい、舐めたイルミーナが言ってた。

 

 

それからレムの連れてきた海賊の男、全身ボロボロで今にも死にそうなくらい弱ってた所をレムに瞬間冷凍(コールドスリープ)させられたらしい。

解凍しても身体の損傷が激しくてかなり危ない状態だった、しばらくは安静にさせて様子見だ。というのをおつるさんがセンゴクさんにその海賊の写真付きで報告するとセンゴクさん電話越しに泣いてるみたいだった、詳しい事は後できこう。

取り敢えず今しないといけないことは…

 

 

「それでは私の部隊、そしてつる中将の部隊は二手に分かれて島中を捜索!

ドンキホーテ海賊団が見つかったら直ぐに報告しろ、行け!」

 

 

「「「「ハッ!」」」」

 

 

部下達は島内を散り散りに捜索しに行った。

ひとまずレムが遭遇して凍らせたらしい海賊たちの所へ行きますかね。

そーいや監視船に子供が1人保護されたって聞いたけど…今はドンキホーテ海賊団の処理が先かナ。

 

 

……………

 

 

 

「レム、本当に此処で氷漬けにしたのか?」

 

 

「肯定」

 

 

バレルズのアジト前、レムが海賊達を氷漬けにしたと言っていた辺りには何も無かった。

バレルズのものらしい宝石の入った宝箱が散乱しているくらい、あとはアジトの中で銃に撃たれて死んでるバレルズとその仲間達、身内同士で争ったような痕跡が幾つかあった。

 

 

「イルミーナ、お前の鼻は…」

 

 

「あぅ…だめ、血のにおいがつよすぎてうまく鼻がきかない……っくちゅんッ!!!」

 

 

「あーあー寒かったか?コート着てなさい。」

 

 

イルミーナの鼻もアテになんないかー

取り敢えず風邪を引くと不味いのでコートを着せてっと

 

 

 

「コイツらは仲間同士で殺し合いでもしたのか?」

 

 

「レムの報告からしてドンキホーテ海賊団の仕業だろうね、『糸で出来た檻』も恐らくドフラミンゴの仕業だろう。

バレルズは死んじまってるし、オペオペの実も行方不明、オマケにドンキホーテファミリーの姿は見えないときた。こりゃ完全に無駄足だったね。」

 

 

おつるさんと共にはぁ…とため息を吐く、オペオペの実も行方不明じゃ取引も無しか。と、思っていた矢先

 

 

「お姉様、お爺様方からお電話が入っておりますわ。」

 

 

ジジイ共から電話すっか、タイミングバッチリですな。

 

 

「んー、どうした五老星。

オペオペの実なら行方不明だぞ。」

 

 

『……なんと、そうか……残念だ。』

 

 

先手打ってやったら電話越しにちょっとショボンとする爺さん達。愉悦

 

 

「ドンキホーテ海賊団が持ち去ったのか、それともこの島の誰かが食べて無くなったのかは分からんが…如何せんこの島には能力者が多すぎて私の目でも把握しきれん。」

 

 

祖龍の霊眼、能力者が近くにいれば『コイツ能力者やで!』ってビンビン教えてくれるんだけど、海兵達で島中を捜索してるせいで見聞色使っても気配がごっちゃごちゃしてて詳しい位置がわからん。大規模捜索は失策だったかね。

 

 

『いや、無いのならそれでいい。

オペオペの実を食べた者は有能な医者になる、そうすれば否が応でも有名になるものだ。北の海を中心にアンテナを張っていればそのうち尻尾を掴むことができるだろう。

問題なのは仮にドンキホーテ海賊団が実を持ち去った場合だが…』

 

 

何故か言い淀む五老星

 

 

「連中がオペオペの実を持っていると何か問題でも?」

 

 

『…ドフラミンゴと言う名には聞き覚えがあってな、悪い予感が当たらねば良いのだが…。

とにかくご苦労だった。センゴク越しにこの任務の完了を伝えておく。

そのままつる中将と共に海軍本部へ帰投してくれ。』

 

 

しってる?それフラグって言うんやで

 

 

「あいわかった。で?

新しい七武海候補の目処は付いたのか?いつまでも3人じゃ流石に格好がつかんぞ。」

 

 

『何人か目星を立てている、またセンゴク越しに資料を送るよ。

伝書バットで承諾するならよし、駄目なら…君の交渉術に任せよう。』

 

 

「私の勧誘は少々強引かもしれんぞ?」

 

 

『構わん、龍の試練を乗り越えてこその七武海ならその方が格好がつく。』

 

 

「まあ、期待はするなよ。」

 

 

お互い軽く笑いあって受話器を下ろす。

 

 

七武海、新メンバー揃えないとなあ。

やっぱ真面目な奴がいいよな、そして強いヤツ。いっそ今暴れ回ってるフィッシャー・タイガーに勧誘かけてみるか?

でもあいつ人間嫌いだからなあ…普通なら接触も困難な相手だし、取り敢えず保留で。

 

 

その後、入念な捜索とは裏腹にドンキホーテ海賊団は死体も上がらず行方不明のまま。海賊船を押さえていたのにも関わらずどうやって島から姿を消したのかは疑問だけど逃がしてしまったものは仕方ない、引き続きおつるさんはドフラミンゴを追うそうだ。

追跡のカギを握ってるのはレムが保護したあの男かな…

 

オペオペの実も結局見つけられぬまま俺達はミニオン島を後にした。

俺とおつるさんの船はそのまま海軍本部へ、監視船は一旦支部へ寄って補給をするそうだ。バレルズのアジトに蓄えられていた財宝は興味ねーから換金して海賊被害を受けた街の復興支援に使うように命令しておいたので後腐れは無し。

 

祖龍は金銀財宝より強者との戦いを求めるのです。

 

例の男はおつるさんの船に乗せている、一命は取り留めたが衰弱が激しくて目を覚ますのは時間が掛かるとの事だ。

 

 

ていうか今回俺氏なんもしとらんですね、完全にレムの保護者ですやん。

偶には暴れたいなあ…誰か世界政府の旗撃ち抜くとかバカやってくれないかなあ。

 

 

 

そしたら俺も遠慮無しに暴れられるのに、原作にそんな展開なかったっけ?

 

 

 

「どうした中将総督、浮かない顔をしているな。

そんな時は……俺と一戦手合わせ願おうか。」

 

 

お前まだ居たんかミホ君

 

 

船を壊さない程度にその辺にあったデッキブラシでボコボコにしてやった。

甲板に転がるミホ君は終始笑顔だった、もしかしてコイツはドMなのか…?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミニオン島沖、ミラ達の拿捕した海賊船とそっくりの海賊船にて

 

 

「追手は……無ェみたいだ、撒いたぜドフィ。」

 

 

「…今話し掛けんなピーカ、俺は機嫌が悪い。」

 

 

「んべへへ…気持ちは分かるがドフィ、アレはどーしようもなかったもんね。んね~…」

 

 

閑散とした船長室でドンキホーテファミリー最高幹部達は言葉を交わす。

 

時は少し遡る。レムによって一瞬で氷漬けにされたドフラミンゴ一行、そのうちレムから一番遠い位置におり、尚且つ冷気の影響を他の者より受けなかったディアマンテは辛うじて意識を取り戻し、自力で氷の呪縛を解くことが出来た。彼は残りのファミリーを船を接舷させた場所とは反対側の沿岸へと運びだし、そして自身の能力〝ヒラヒラの実〟で万が一に備えてコンパクトに収納していた予備の海賊船を取り出し海へ脱出したのだった。

 

 

「…そうだな、ディアマンテの機転が無かったら俺達はあのまま氷像になってた。ありがとうよ。」

 

 

「おいよせドフィ、俺はファミリーとして当たり前の事をしたまでさ…」

 

 

「いや、お前のおかげだよ…感謝してる」

 

 

「いやいや俺は別に…」

 

 

「じゃあ感謝するのは止めに…「そこまで言うなら仕方ない!そうさ、この状況から脱出出来たのは全て俺のおかげだとも!」………まァ脱出出来たのは良しとして、これからどうするかだ。」

 

 

「ヴェルゴとも連絡が取れねー、さっき奴のビブルカードを見ようとしたら燃え尽きてた。

んねー、アイツ死んじまったよ。」

 

 

考えうる限り最悪の事態だ。海軍へ入隊させ、スパイとして活動させるつもりだったヴェルゴは死んだ。

そしてオペオペの実もローに食われ海軍に保護された、そして俺達の秘密を知るコラソン…ロシナンテは恐らく生きている。

 

 

「コラソンはあの傷だ、もう助からねえよ…それよりローだ。

今からでも遅くねぇ、監視船を襲撃してローを奪い返そう。」

 

 

「駄目だ、監視船ならおつるが護ってるハズだ。

今の俺たちじゃそう簡単に落とせん。…それに、俺達を氷漬けにしやがったクソ女も乗ってるかもしれない。」

 

 

ドフラミンゴの言葉に3人は表情を固くする。

自分達は強い、そこらの海兵に遅れをとる気は毛頭なかった。しかし不意をつかれたとはいえ手も足も出なかったのだ、気が付いたら氷漬けにされていた。

明らかに自然系の実の能力者、そして自分達より圧倒的に格上の存在…そうドフラミンゴは結論づけていた。

それに手強いおつる中将も居るはずだ、2人を今の戦力で相手するには分が悪い。

 

それに思い出すだけで身の毛がよだつ、何より自分の中の本能が、血が、全力で『あいつとは戦うな』と悲鳴を上げているのがわかった。圧倒的な敗北感に身体の力が抜けていく。

 

あの女が何者か分かった瞬間、全ての手段を用いて逃走を選ぶ。

 

頭では分かっていても自分の中に流れる()()()()が全力で『逃げろ』と叫んでいた。

 

あれは人ではない、化け物だ。と

 

あの感覚は一体何なのか、少し考えてドフラミンゴはそんな弱気を振り払う。

 

 

「おいドフィ、汗スゲエぞ…?」

 

 

「アレは駄目だ…絶対に敵に回すな…

ヴェルゴが使えなくなった以上別の方法で国盗りを行う必要がある、まずは…自力で天上金の輸送ルートを見つけねえとな。幾つか心当たりはあるが…」

 

 

気を取り直し、ドフラミンゴは今後のファミリーの方針を考える事にした。

 

彼は知る由もない。監視船にはつる中将もミラ中将も付いておらず、更に輸送中のバレルズの宝物がすべて乗っている状況で、更にそこにはオペオペの実を使って忍び込んだローが乗っていたことに。

 

彼は知らず知らずして、最後のチャンスがあったにも関わらず望むものを全て取り逃していた。

 

この時、警戒したドフラミンゴがローを見逃したのは『偶然』か、もしくはロシナンテの言うように『運命に生かされている』のか、今はまだ誰にも分からない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

息を殺して樽の中で身を潜める。

ここは多分海軍の船の中、コラさんの言っていた監視船ってやつに財宝と一緒に上手いこと乗り込んだ俺は食わされた悪魔の実、『オペオペの実』を使い宝箱の中の自分と壁の向こうにあった樽の中身を入れ替えた。

朝には街の港へ着くと言っていたからスキを見て脱出しよう。

 

 

コラさん……俺の大好きな人は死んじまった、でも俺は代わりに心も、命も、大事なもんは全部貰った。だから俺は生きないと…血反吐吐いても生き延びていつかきっと、必ず……ドフラミンゴに復讐するんだ。

 

決意を胸に秘め、樽の隙間から夜空を見上げる。海兵達も今は落ち着いているようで足音もないから波の音がよく聞こえる。

 

『安眠に関して俺の右に出る者は居ねえ!』

 

よく俺に〝魔法〟をかけて寝付けるようにしてくれたっけ。

もっと一緒に海を旅していたかったなあ…コラさん。

ベビー5のブキブキも正直かっこよくて羨ましかったけど、おれはコラさんの魔法が一番好きだったよ。

途端に寂しさがこみ上げてきた…

 

ちょっとだけ蓋を開け、周りに誰も居ないことを確認した後、おれはひっそりと樽の中で泣き続けた。

 

 

 

コラさん。おれ、生きてるよ

 

おれを生かしてくれてありがとう

 

おれを愛してくれてありがとう

 

もう少しだけ頑張ってみます

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

深い深い微睡みの中、何かを手繰り寄せるような感覚を覚え俺は目を覚ます。

見上げるのは知らない天井、揺れる部屋、耳を澄ませば聞こえる波の音。どうやらここは船の医務室のようだ。

起き上がろうとして全身に激しい痛みが走り、それに加えて頭もズキズキ痛み意識を持っていかれそうになる、堪らず頭を抑えた。

 

少しだけマシになったのでそばに置いてあったお茶を一気に飲み干し、一息ついていたその時

 

 

「……意識が戻った?」

 

 

澄んだ声がした、レースのカーテンを開いて1人の女がサンドイッチを乗せたトレーを持ってやってくる。

そして徐に俺の手首を優しく掴み、手元のペンライトで俺の両目に光を当てる。眩しい

 

 

「脈拍…正常、瞳孔…開いていない。

取り敢えずは生きている。気分はどう?」

 

 

「此処は一体…」

 

 

「回答、此処は海軍本部中将つるの軍艦医務室。

貴方は瀕死の重傷だった所を運び込まれた。治療の結果、命に別状はない。折れた骨が内蔵に刺さる可能性があるから動かないで大人しくして。」

 

 

無表情の女はつらつらと述べるとサンドイッチを一つ手に取り俺の口へと差し出してくる。卵ハムサンドだった

 

 

「栄養を摂取して」

 

 

「ああ…ありがとよ…」

 

 

「………あ〜ん」

 

 

「そんな事されんでも自分で食える…」

 

 

「貴方は動かないで、絶対安静。

その間の世話は全て私が代行する。

あ〜ん……」

 

 

「だからあ〜んは止めてくれ、自分で食えるから。ガキか俺は!?」

 

 

「ワタシからすれば貴方達は等しく子供。観念して、あ〜…」

 

 

「いや納得するかァ!?

俺の中の大切な何かが損なわれる!」

 

 

尚も口元へ『あ〜ん』させようとしてくる、この女見かけによらず強情だな!?

食うか食わされるかの攻防を繰り広げていたその時、医務室の扉が開いて白いコートを着た別の女が二人現れた。1人は若い女でもう1人は気の強そうな婆さんだ。

 

 

「目が覚めた様だねコラソン……いや、ロシナンテ中佐。

センゴクから話は聞いたよ、スパイとして潜入していたんだってね。

詳しく聞かせてもらうよ。」

 

 

 

ッ!?

 

その言葉を聞いて様々な記憶がフラッシュバックする

 

燃える屋敷、張り付けにされる自分と家族

 

実の父親を撃ち殺した兄

 

潜入任務

 

 

「おお…ォォォォォォ…ッッ!?」

 

 

また頭がズキズキと悲鳴をあげる、断片的な記憶が頭の中で駆け回り、情報を処理しきれない。

 

 

「おい大丈夫か!?

レム、どうなってる!」

 

 

「推測、一時的な記憶障害の可能性。

物理的、又は精神的に強いショックを受けた場合、脳が情報を処理しきれずエラーを起こす。

彼の身に起きているのはそれ、暫くは安静にしているのが肝要。」

 

 

「記憶が飛んじまってるのかい?じゃあ聞きたいことも聞けないね…まあ、アンタは言われた通りセンゴクに引き渡すとしようか、今はゆっくり休みな。」

 

 

「ゥゥゥ…すまねえ…」

 

 

「お前が謝る事じゃないさ、任務ご苦労さん。

レム、後は任せたぞ。」

 

 

「了承」

 

 

そう言って婆さん達は出ていった、部屋には俺とレムと呼ばれた女が残る。

 

 

記憶…?

俺は…ーーーーーがーーーをしようとしているのを止めるためにーーーーーーへ潜入して…

駄目だ思い出せない、頭に靄がかかったみたいだ。

何かとても大事な事を忘れているような気がする。大切な何かを…

 

 

「………あ〜ん」グイグイ

 

 

「だから自分で食べるわあッッ!!

尋常じゃねぇ力でサンドイッチを口に押し付けるのはヤメロォ!」

 

 

そんな考えもレムの『あ〜ん』攻撃を受けるうちにどこかに行ってしまっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大将センゴク 著

 

『ドフラミンゴ捕縛作戦』

報告:〇〇日未明、政府主導で行われる世界政府とバレルズ海賊団によるオペオペの実の取り引きに介入しようとするドンキホーテ海賊団の情報を独自のルートで入手。取引の三日前にスワロー島に到着するとの報告を受け中将つる、及び()()()()を島へ派遣。

 

しかし予定時刻になってもドンキホーテ海賊団は現れず、バレルズ海賊団を監視していた監視船から異常が報告される。

中将2名は現場に急行、先行した協力者の働きによりドンキホーテ海賊団一名を捕縛するも船長ドフラミンゴ及び主要乗組員は逃走、バレルズ海賊団は仲間割れにより全滅。取り引きに使われる筈だった『オペオペの実』は現在行方不明。

並びに監視船にて現地の青年を一名保護、本人の希望により海軍にて雑用として雇用を予定。

なお捕縛したドンキホーテ海賊団船員、コードネーム『コラソン』の身柄は大将センゴクの預りとする。






獣ただいま帰還致しました…
感想による沢山の励ましのお言葉、本当にありがとうございます。獣はもう大丈夫です!
相も変わらず投稿日も時間も不安定ですが当作品に末永くお付き合い頂ければ幸いでございます…(土下座)


次回、三武海…いや七武海だもん!


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25 閑話、秘密の宴



遅くなったァ!
最近スランプ気味で辛み

書きたいことが文章にならないってキツイっす


オリキャラにオリジナルの実が出るので注意ですよっと(ちょいキャラになると思いますが)





 

海軍本部、通称『マリンフォード』

海賊王ゴールド・ロジャーの死後、年々増え続ける海賊達から市民を守る為設立された組織。その総本山たる海軍本部には各国よりエリート戦士達が集められている。

海軍の階級はその実力と比例しており、大将を始め、少将以上の階級ともなれば能力者、非能力者問わず相応の実力を備える者ばかり。その力は下手な海賊団ならば1人で殲滅できてしまうほどだ。

その中でも、言わずと知れた『英雄』モンキー・D・ガープを始め最強種自然系の能力者達の集う〝中将〟の位においてはその名を聞くだけで海賊達は震え上がり、海兵の誰もが一目置く豪傑達ばかりが所属している階級である。

 

そんな〝化け物〟クラスの海兵たちの頂点に密かに君臨する者が1人、自身の執務室で椅子にもたれかかり暇そうに書類を眺めていた。

 

 

「ん~…どいつにしようかなあ…」

 

 

彼女こそ海軍本部、その中将達の頂点に君臨する女。中将総督ミラである。

ほかの海兵達の前では凛とした立ち振る舞いをし、威厳溢れるミラであるが、自室にお供のメイドと三人だけの時は普段の雰囲気は無く、だらだらと書類に目を通していた。

 

 

「『かげのおう』げっこーもりあ……『あくりょうきし』でるく・ふぁうすと……『くびかり』ぺねろぺ……『いばらむち』ぞるざるだん……

みら、これなにー?」

 

 

ミラの膝に座りながら一緒に写真付きの書類を眺めるメイド姿の少女の頭にはまるで狼のような耳が二つ、スカートからは銀色の尻尾が覗く。

 

 

「新しい七武海の候補者リストなんだが…中々いいのがいなくてなあ。

クロコダイルやミホーク程じゃないにしろ、影響力の強いヤツを選ばんと…」

 

 

七武海は世界政府公認で「海賊に対する海賊行為を許された海賊」である。海賊を狩る海賊、より多くの海賊がその名を恐れるように懸賞金は高く、ナワバリとして占拠する島も多いに越した事は無い。更に実力もありある程度話のわかる人格者というポイントを抑える海賊は彼女の思ったよりも少なかった。

 

 

「(こう考えるとクロコダイルやミホークはまだマシなほうだな。くまは特例として、少し懸賞金を落としてでもマトモな海賊を発見して1人くらい七武海に登用、もしくは接触くらいはしておかないと…)」

 

 

思考するミラ、そしてカッ!と目を見開く

 

 

「(コング元帥お疲れ様会の企画が…できん…それだけはなんとしても避けなければ…ッ!!)」

 

 

中将総督ミラ。物憂げに考えるその知的な表情とは裏腹に、頭の中は遊ぶ事で一杯だった。

 

 

その時ドアを蹴破るかの如く勢いでガープが入室してくる。ミラお付のメイドの1人、テリジアは2人の愛の巣(本人談)を壊されかけたことに眉を顰めていた。

 

 

「ちょっとガープ中将!扉は蹴り開け無いでくださいとあれほど御説明致しましたわよね!?」

 

 

「おお!そうじゃった!スマンスマン!

ところでテリジアちゃん、なんか飲み物をくれぃ。美味い煎餅を買ってきたんでな、ミラ達と一緒に食べようと思ってのう!」

 

 

テリジアがジト目で睨み付けるのも全く気にすることなくガハハと笑うガープ、その後からひょこっと別の女性が顔を出す。

 

 

「帰投。命令通りロシナンテ中佐の看護をおこなってきた。

容態は安定、身体に後遺症も見られない。ただし若干の記憶障害あり、潜入任務の際の記憶が抜け落ちている可能性がある。

今はセンゴク大将と面会中。」

 

 

「ご苦労さんレム。

せっかくガープ中将も来て下さったんだ、書類は一旦置いといてお茶にしようか。

テリジア、頼む。」

 

 

「はぁい!かしこまりましたわお姉様♡」

 

 

大喜びで給仕室へ飛んでいくテリジアを見送ってミラ達は来客用に設置されたコの字型の大きなソファーに腰掛ける。

 

 

「ん?この部屋のソファー、こんな豪華じゃったかのう…?」

 

 

「ええ、私も疑問に思って前に経理担当のゾルダンに聞いてみたんですが分からないとのことで…匿名の市民からの寄付だと説明されました。」

 

 

「ほぉ~、健気なことしてくれるのう。ミラが頑張っとる証拠じゃな。」

 

 

「中将もご自分の書類を頑張って欲しいんですが。」

 

 

「ちゃんと終わらせたわい!………先月の分は(ボソッ)」

 

 

「じぃじ、わるいこ…」

 

 

「ハゥッ!?イルミーナに言われるとなけなしの罪悪感が……」

 

 

「イルミたんに言われても〝なけなし〟ですのね…」

 

 

「煎餅、美味…」

 

 

 

そんなこんなで執務室で談笑するミラ達。そんな中、ミラはある事に気付いた。

 

 

「そういえばガープ中将、クザン中将見ませんでした?あの人に頼みたい案件が来ているのですが…」

 

 

「クザンかあ?知らんのお…

ここに来る前部屋に寄ったがおらんかったし。」

 

 

「そうですか、まあいつもの事ですね。」

 

 

クザンは仕事が嫌でよく行方を眩ませる、いつもなら見聞色を使い本部中を走り回ってでもクザンを捕獲するミラだがこの時はお茶の途中だし、さして急ぎの用事でも無かったため捜索は諦めることにしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

海軍本部敷地内の隅、今は使われなくなった古倉庫にて……

窓は板で完全に塞がれ、昼だというのに光も届かない真っ暗でだだっ広いこの部屋の中で蠢く影があった。

 

 

「…集まったな諸君。始めるぞ…」

 

 

男性の声に合わせて暗い部屋にロウソクの灯りが灯る、ゆらゆらと妖しく揺れる光は蠢く彼等を映し出した。

 

集まっているのは全員海兵だ、首から下は皆海兵の服装なのでそうなのだと分かるだろう。ただ全員が麻でできた目出し帽を被り顔が誰だか分からないように隠している。彼らの目線の先、ロウソクの明かりが灯る机には様々な角度から撮影されたある中将とその取り巻きのメイド達の写真が所狭しと並べられていた。

ある写真は甲板で海兵達を指揮する勇ましい姿、ある写真はメイドの淹れた珈琲を優雅に飲む姿、またある写真は膝に乗せた犬耳メイドを緩んだ顔で撫でる姿等、彼らの信奉する中将の写真で机は埋め尽くされている。

 

これは盗撮である

 

もう一度言う、こ れ は 盗 撮 で あ る

 

他の者達とは違う、赤色の目出し帽を被った海兵が重々しげに告げた。

 

 

「さあ…本日の取り引きを始めよう。

今日は中々の上物も手に入れた。我等の女神達への崇拝と感謝を込めて……」

 

 

彼の一言で倉庫内の温度が一気に上がっていく。

 

 

 

これは決して知られてはいけない同志達の秘密の宴

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~

 

 

 

事の始まりは数年前、まだミラが海兵として活躍し始めの頃。

大将センゴクは海兵募集のポスターの被写体に彼女を選抜した。ミラはこれを快く承諾、湧き出る将校たちのアイデア(欲望)を全て採用すると言った彼女は海軍専属カメラマンアタッチャン撮影のもと、合計30枚にも及ぶ大量のコスプレ写真を撮影した。

募集のポスターに選ばれ、焼き増しされたのはその中からマトモな1枚だけだったが、残りの29枚は現物のみ。あの日あの場所でアイデアを提供した各将校たちの下へ渡っている。

 

ポスターは大きな反響を呼び、その年の海兵志願者数は前年の三倍という高倍率を叩き出し、謎の美人海兵への問い合わせがあとを絶たなかった。

 

「あの美人海兵は何処の出身だ」

「是非貴族の嫁に欲しい」

「彼女の配属先はウチの支部にして欲しい」

etc..

 

一般人、海兵問わず様々な所からそんな話題が上がる。

因みにそれらはもちろんミラの事を隠蔽する『五老星』によって上手い具合にはぐらかされた訳だが…

そしてあの時ポスターに釣られて入隊した訓練兵達は皆海兵となり、各々の持ち場で働いている。そんな彼らは数ヶ月に一度、憧れの美人将校ミラを密かに撮影した写真を本部内で密かに開かれるオークションで買い求め、明日への活力としていたのだった。

 

 

「次、ミラ中将の貴重な戦闘のお姿を収めた写真だ。まずは2000ベリーから…」

 

 

司教と呼ばれる赤色帽子の司会が提示した写真にはかつて敵船と交戦した際、指示を出しながら腰のカトラスを抜き放つ凛々しいミラの姿が写されている。

 

 

「2500!」「2560!」「2700!」「2900!!」

 

 

「……決まりだ、2900の値を出した35番の同志にこの写真を贈ろう。」

 

暗闇から数字の書かれたプラカードが次々と勢い良く挙がる、それからもオークション方式で無駄なく捌かれていく写真達。

 

 

 

 

なおこの興行で得た収入は全てミラ中将にバレぬように何かしらの形で彼女へ還元されるらしい、給仕の使う食材がワンランク良いものになったり、船の設備の修繕費になったりするようだ。

彼らはその対価として金を出し、写真を求める。

好きなものにならいくらでも投資できる海兵達は現代におけるアイドルオタクの姿が重なるが彼等は純粋に海兵としてミラのことを尊敬しているのだ。

 

日々を海の上で過ごし、正義の為に命を掛ける彼らには娯楽が必要なのだ。

少しくらいのやんちゃは多めに見るべきだろう。

 

例えそれが盗撮だとしても…

 

正義ってなんだっけ(哲学)

 

……

 

 

「次は大物だ…甲板にて、イルミーナ給仕長の頭を撫でるミラ中将のお姿。

3500から始めよう」

 

 

「おお…」「ふつくしぃ…」

「イルミーナちゃんもキュートです…」

「私もなでなでしたい…」

 

感嘆する声の中には女性海兵も含まれる。ミラやそれに従うイルミーナ達は男女問わず人気があり、「お姉様」と慕う者もいるほどだがお姉様呼びは既にテリジアが独占しているので言うに言えない。その中でも特に給仕長をテリジアと共に務めるイルミーナはその容姿の愛らしさから女性人気が高かった。

 

結局この写真は女性の海兵が8000ベリーで落札した、覆面なので表情までは分からないがきっと彼女は幸せだろう。

 

 

 

 

 

余談だが当会合においてやってはならない事が二つある。

 

『情報の漏洩』と『手に入れた写真の焼き増し』

 

この二つは絶対の禁則とされ、破ったものには相応の罰が与えられる。

 

まずは情報の漏洩だが、当然といえば当然か。

これは秘密の宴、皆が知ってしまっては秘密の定義が損なわれる。ましてや噂が広まりミラの耳にまで届いてしまっては写真の入手元がなくなってしまう可能性だってありうるのだ。よって情報の秘匿は絶対といえるだろう。

 

 

二つ目、焼き増しの禁止についてだが…

 

 

「同志、分かっているとは思うが…」

 

 

「勿論です。私の正義に掛けて、禁は破りません。」

 

 

ベリー紙幣と写真を手渡しで交換し合う覆面達。

 

この宴で最も禁じられているのが『写真の焼き増し』だ。

写真とは一期一会、あまつさえミラ中将のお姿を収めた写真が複製されて他所者に見られるのはプライドが許さない。

と撮影者きっての要望で現像されたミラ中将の写真の全ては焼き増しを禁じている。

結果的に複製品による転売の阻止にも繋がっているわけだが…盗撮しといて今更何を言っているのか。

 

コレガワカラナイ

 

しかし禁を破った者への罰は重く、過去に軽い気持ちで写真を焼き増しし転売しようとした者が後日路地裏で無惨な死体となって発見されるという事件が起こったためそれから焼き増しがされる事は無くなった。

写真販売には政府の高官が関わっていて、彼等の機嫌を損ねた結果だとか黒い噂も囁かれているが真相は闇の中である。

 

どんどんとオークションは進み、残りはいよいよラスト1品。

司会の男は勿体ぶってこう告げる。

 

 

「さあ…本日最後の写真だ…。

……君達は先日我等の部隊がとある任務の為『夏島』へ数日間滞在していたのを知っているか?」

 

 

ざわり…ざわりと察しの良い者達がざわつき始めた。更に彼は続ける。

 

 

「場所は有名な『スイートピアガーデン島』、海軍支部が近く治安が偉大なる航路(グランドライン)で何処よりも良く、気候の安定したその島は海兵、一般人の滞在できる観光地になった。

年中夏でサンサンと照りつける太陽…美しい砂浜…澄み渡る青い海……。

そこで我々に告げられた言葉は、『3日間の自由行動』だった。そして船員全員に余る程の小遣いを渡し、班ごとにホテルの鍵を渡され「では解散!」と宣言なされた…。

あの御方は我々全員に慰労の為、サプライズでバカンス島での休暇を御用意してくださっていたのだ…ッ!!

私は感動のあまり涙が止まらなくなったッ!ミラ中将の懐の深さに感涙した…ッ!!!!

感動の余りシャッターが切れず、殆どが涙で滲む中、一枚だけ良好な状態で現像できた写真だ。」

 

 

この一枚で君達にも夏を感じて欲しい。そう締めくくって暗がりの奥から額縁に入れられたポスターの様に大きな写真が現れる。

 

大きさはA3位だろうか。そこにはビーチパラソルの作る日陰の下、ビーチチェアへ優雅に寝そべる水着姿のミラの姿が写し出されていた。

白に赤のコントラストの入ったビキニを着用し、体の線が強調されより妖艶な雰囲気を醸し出す。そしてミラの上で寝そべるスクール水着姿のイルミーナも気持ち良さそうに頭を撫でられていて、傍にはクーラーボックスに腰掛けうっとりとミラを眺めるパレオ付きの青いフリルビキニを着たテリジアと黒いハイビスカスの付いた大きな麦わら帽子を被り、ラムネ片手に水平線を物憂げに見つめる白ワンピース姿のレムもいた。

4人ともスタイルは抜群(イルミーナは幼児のためスタイル云々は関係無いが)、容姿も相まっていっそう美しい写真に仕上がっている。

 

 

 

倉庫内が怒号のような歓声に包まれる、至高の一枚の登場にギャラリー達のボルテージは最高潮に達していた。

 

 

「うおおおおおッ!!!海軍最高の華達が勢揃い…だとッッ!?!」

「ミラ中将…イルミーナちゃんにテリジア様も……それに今人気急上昇中の『氷の姫君』レムさんまで揃って…」

「司教…アンタ最高だぜ…最高の仕事だ……!!」

 

「違う…私が不甲斐ないばかりにこの写真しか残せなかった…。

己の能力(チカラ)も上手く扱えんとは…」

 

「顔を上げてくれ司教、アンタがいるから俺達は今此処に居る。」

「そうよ司教様。私達の至るべき場所(アヴァロン)は貴方が作ってくれたの…それだけでも感謝しきれないわ…!!」

「そうだぜ司教様!」

「やっぱり俺達の司教はアンタしかいない!」

 

 

皆に激励され、顔を上げる司教。

まるで困難に立ち向かう主人公の様な面持ちに皆の歓声が高まる、凄くいい話だったように聞こえる。

 

 

 

 

 

何度も言うがこれは盗撮である。

 

 

 

 

 

「ありがとう…ありがとう……

気を取り直して、5000ベリーから始めようと思う。

欲しい者は札を…」

 

 

「1万!」「1万7千!」「1万9千!!」

「に…1万6千!!」「3万ァァン!」

 

堰を切ったように次々と札が上がり、それにつれ一気に写真の値が上がっていく。

それでも彼らはまだ止まらない。

全ては浜辺で輝く女神達の写真を手に入れる為、その為ならば明日の生活に困っても構わないと言わんばかりの猛烈な勢いだ。

しかし6万ベリーを超えたあたりで流石に彼らの心にもストップがかかったのか、徐々に声が小さくなり額の上がり幅も狭くなってきた。

 

 

「6万6千!」「6万6500!」

「なら6万7千…!」「くっ…6万9千!!」

「そう……7万!」

「ちっくしょおおおッッ!!」

 

 

遂に7万の大台を超え、覆面の男が悔しさのあまり声を張り上げる。

どうやら勝負はついたようだ。

 

誰もがこの女性の手に写真が渡る…と確信していたその時

 

 

 

「……10万」

 

 

「「「「ハァッ!?!?」」」」

 

 

静まり返った倉庫に男の声が谺響した。

皆が呆気に取られる中、10万を宣言した男は人の波を押しのけスタスタと司教と写真の前までやって来る。

 

 

「他にいる?居ないのォ?

んじゃ、コイツは俺のモンだな。

おい司教様、大きさ元に戻してくれよ。飾るにゃ便利だがこのままじゃ部屋に隠せねえ。」

 

 

「…承知した、通常写真サイズで宜しいか?」

 

 

「頼むわ、ほい10万。」

 

 

10万ベリーPON☆とくれたその男から金を受け取った司教は慣れた手つきで枚数を数え、そして写真に手を掛ける。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

そして皆が注目する中写真を男へ手渡す。

 

 

「確かに受け取った。我が至高の一枚、大切にして頂きたい。」

 

 

「あいよ、今日はいい買物したぜ。

んじゃな。あと…アイツが言ってた。次はコング元帥のお疲れ様会だとよ。」

 

 

「……!情報感謝する。」

 

 

そう言い残し、もう用は無いとばかりに男は倉庫を後にした。

 

 

「本日の宴はここまでだ、各々気を付けて帰りたまえ。

次は…もっと私も精進しよう。」

 

 

司教の言葉と共に他の覆面達も去っていく、そしてロウソクの灯りが消え真っ暗になった倉庫の裏手から密かに司教も立ち去った。

倉庫と倉庫の間を歩きながら目出し帽を脱ぎ、空を見上げる彼は呟く。

 

 

「まさか中将殿がいらしたとは、正直肝が冷えたな…最初の30枚(オリジナル・レジェンド)を持つ者が来ていたとは…。

ミラ中将、貴女に頂いたこの〝パシャパシャ〟の能力…まだまだ私は使いこなせていない。

このゾルダン、精進致します。全ては貴女様に報いるために……」

 

 

その眼差しは決意の固さを示すように真っ直ぐで、ゾルダンと言ったこの男がいかに真面目かが良くわかる。

 

やっている事は盗撮なのだが…

 

 

 

ミラ中将を影で支える海兵達の秘密の宴、それが海軍本部七不思議の一つとして後に語り継がれるようになるのはまた別のお話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミラ中将執務室近くの廊下にて

 

 

「よおレム、煎餅の袋なんか持ってどうしたんだ?」

 

 

「回答。ガープ中将から頂いた煎餅が美味だったのでクルスに分けて上げようと提案、主に許可されたので早速行こうと思って移動中。

…クザン、貴方は?かなり心拍数が上がっている。動悸?」

 

 

「ちっげぇよ。

まぁ〜その…なんだ…ちょっといい買物しちまってよ。」

 

 

「買物……?」

 

 

「そうそう買物買物。

クルスに食わせに行くなら俺も付いてくわ、ちょっと俺の執務室寄ってくけどいいか?。」

 

 

「問題無い。」

 

 

「……そうだレム、麦わら帽子似合ってたぜ。」

 

 

「………………そう、褒められるのは悪い気分では無い。」

 

 

「無表情で言っても可愛く無ェなあ。」

 

 

 

 

 

レムとクザン、性格は正反対だが同じ氷の能力を持つ者同士どこか気が合うのかもしれない。

 

 

時を同じくして偉大なる航路ではある海賊団が徐々に名を上げ始める、その噂は五老星の耳にまで届いていた。

 

「ふむ、こやつは…」

「使えるやもしれんな」

「候補には加えておく、後は彼女の裁量に任せよう。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

「………?不可解。なぜあの時居なかった筈のクザンがワタシの麦わら帽子を知っている?」

 

 






オリジナル悪魔の実〝パシャパシャの実〟解説
超人系、証拠現像人間。
能力者の見た光景を静止画として記憶に収め、フィルムに念じる、もしくは紙とペンがあれば即座に現像できる能力。カメラ要らず、見るだけで証拠が残せる便利能力。

要は盗撮し放題

作った写真は額縁などの装飾自由、引き伸ばし可能。
過去にこの実を手に入れてゴシップ王と呼ばれることになった者もいた。


オリキャラはミラの部下の1人です。階級は大佐、部隊では経理、会計業務を担当しています。
見た目は紫髪のオールバックにガスパーデとは正反対のすらっとした高身長。若い頃のマキ〇・ズォ〇ケンがイメージとして一番近いかな?
実は昔政府の諜報員でスパンダムと同期とか、ミラに憧れて政府辞めて海兵になったとか裏設定あったけど多分もう詳しく話すような場面出てこないからいいよね!
これからはあとがきにオリジナルの設定とか余裕あったら載せていこうと思います、スランプ気味で相変わらず更新安定しませんが宜しくです。


次回、今度こそ七武海の話書く


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26 祖龍(お仕事中)、道を間違える




書きたいこと書いてたら女人島行く前の話が長くなりすぎたので分けて投稿します。

絶賛スランプなう




 

 

偉大なる航路 ジャヤ島 嘲りの街『モックタウン』

 

 

偉大なる航路の順路に位置するこの島は海賊達の横行する頻度が高く、また海軍支部も近くにないため政府の目も届かない無法地帯である。

一般人はその治安の悪さから近づきたがらない、しかし海賊達にとっては海軍に追われない安全な島として有名だった。

 

時刻は夕暮れ時、今日もモックタウンの酒場は無法者たちで大賑わいだ。

大声で騒ぎ、時には喧嘩も起きる、止めるものは誰もいない。この街ではいつもの事だから。

酒場の主人テリーは離れた四人席で机を壊しながら騒ぐ常連の男達を尻目にカウンター席の海賊らしき男達にラム酒を注いでいた。

 

 

「オイオイ、アイツら机を壊しやがった。店主さんよ、いいのかい追い出さなくて」

 

 

「あぁ、あの机はもう古かったから丁度いい。解体する手間が省けたよ。」

 

 

「おおぃっ!オヤジぃ!酒が足んねえろぉ!」

 

 

先程机を壊した男が叫んだ。

酔っ払って喧嘩になった挙句店の机を壊すなど通常なら出禁になってもおかしくないほどだがテリーは笑顔で男のグラスに酒を注ぐ。

 

 

「机はお代に入れときますからね。」

 

 

「まかしぇろぉ!今日は賞金首を始末したから景気がいいんらぁ!」

 

 

顔を赤くしながら意気揚々とまくし立てる男はどうやら賞金稼ぎらしい、ジャヤ島には海賊がこぞってやってくるのでこの島を拠点にしていれば楽に狩れるのだ。

 

グラスにラム酒を注ぎ終えたテリーはカウンターへと戻り、海賊達との会話を再開する。

 

 

「それにしてもお客さん、見ない顔だね。どこの海から偉大なる航路へ来たんだい?」

 

 

「俺たちゃ北の海からやって来たんだ。北の海は荒れててなあ…迷惑な戦争国家がハバを利かせ始めてから居心地が悪くなっちまってよ、それで偉大なる航路へ入ったのさ。」

 

 

「へえ、そうかい。戦争国家…ジェルマのことかい?」

 

 

「そうそう、よく知ってるなおっさん。」

 

 

「この島にゃ他所からやって来た海賊達が毎日やって来るからねえ、色んなことを話してくれるよ。」

 

 

「へえ!例えばどんなのがあるんだ?教えてくれよ!」

 

 

テリーの話に興味津々の海賊達は子供のように目を輝かせる。

何歳になっても御伽噺や冒険譚は男の冒険心をくすぐるものだ、彼らとて例外ではなかった。

 

 

「そうさなあ、空に浮かぶ島と黄金郷の話からするかい?それとも海底一万メートル、竜宮城の人魚姫の伝説かい?

それとも……海軍に伝わる怖ーい死神のお話がいいかい?」

 

 

「面白そうじゃねえかオヤジ。その話聞かせてくれよ、海軍に伝わる正体不明の死神…白蛇のことだろう?」

 

 

「…?ああいらっしゃい、空いてる席へ座りな。注文決まったら呼んどくれ。」

 

 

面白そうだ、と言ったのはカウンター席の男達とはまた別の海賊。先程入ってきたばかりで席を決めあぐねていたらしい。

4人組で来店した海賊達はカウンターから程近い4人がけの席へドカッと座り騒ぎ出す。

 

 

「いやいや、話を続けてくれよ。

俺達も昔新聞で見たぜ。

数多の有名海賊達を闇に葬り去った海軍の死神……最後に四皇カイドウとやり合ってからその噂で持ちきりだが…本当にそんな奴が存在するのか?」

 

 

「そうだねえ。噂じゃ本当に幽霊だとか、世界政府の作った架空の人物だともいわれているが…毎月上がる海賊達の首が証拠かね。

もし出会っちまったら…お前さん達じゃ命は無いかもしれないねぇ。」

 

 

「お?言ってくれるなオヤジ。

俺達の船長は懸賞金6000万ベリー『鬼金棒』ヴァージャン様のクルーなんだ。

お頭ほどではないにしろ俺達だってそれなりの修羅場は潜ってきたぜ。」

 

 

そうだそうだ!と残りの3人もマッスルポーズで自らの強さをアピールする。

『鬼金棒のヴァージャン』といえば偉大なる航路でも有名な賞金首だ。その巨大な二本の金棒から繰り出される一撃は山をも砕くと言われてる。

七武海の候補にも選ばれているんだぜ!と意気揚々と語る男達にテリーはラム酒を注いだ。

 

酒も入り、男達はどんどん饒舌になっていく。

 

それから少し時間が経ち、徐々に彼らに険悪なムードが漂い始めた。酒場では必ずといってもいいほど起きるのが些細な諍いによる喧嘩である。

勿論この酒場でも例外ではなく…

 

 

「黄金郷ォ…?馬鹿なこと抜かすんじゃあ無ェ、ありゃ『うそつきノーランド』の伝説だろォ!?」

 

 

「いや違うね、俺は見たんだ!

雲の中に浮かぶ巨大な人影を!ノーランドの伝承通りならジャヤ島の消えた大地、そこに黄金郷もある筈だ!」

 

 

「この島のだとォ?

ギャハハハハ!ンなモンあるわきゃ無ェだろォ!」

 

 

言い争っているのは先程までカウンターで酒を呷っていた海賊の男とヴァージャン一味の1人だ。テリーの始めた黄金郷の話を語るうち、それを夢見る海賊と嘲笑う海賊とで意見が真っ二つに別れた。

 

言い争いはヒートアップし、そろそろ2人が腰の拳銃を抜き放とうとしたその時、ズドン!!と大きな衝撃が店全体を揺らす。

 

 

「おお!?なんだこりゃあ?」

 

 

「地震か!?それにしちゃ揺れが浅すぎる…まるで誰かが思いきり地面をぶん殴ったような…」

 

 

怯える酒場の者達、しかしヴァージャン一味の者達は違った。

 

 

「…ハハハッ!お頭暴れてんな。」

 

 

「ああ、どうせ酒に酔ってその辺の海賊に絡んでんだろ。」

 

 

「酒癖の悪さはカイドウ以上だもんなwww」

 

 

ゲラゲラと笑うヴァージャン一味。

いくら海賊でもたった一人の力で島を揺らすほどの衝撃を起こせるものなのか……。

喧嘩していたことも忘れ、酒場の者達が呆気に取られる中…

 

再び響く轟音、そして店の扉をぶち破って何かが酒場の真ん中に転がり込んできた。

 

 

「うおおおおっ!?今度はなんだァ!?」

 

 

「誰かが店の扉をぶっ壊して飛び込んできやがった!」

 

 

「なんつー迷惑な……て、アレ?

お、お頭ァ!?」

 

 

驚く男達、その視線の先にいたのは先程まで自慢していた『鬼金棒のヴァージャン』その人だったのだ。

全身血まみれで息も絶え絶え、握っている自慢の巨大金棒は2本とも根本から折られ情けない姿を晒している。

 

 

「お頭ァ!どうしちまったんですか!?

アンタがこんなにボロボロになるなんて…」

 

 

「オイお前ら…俺を助けろ……

奴が…来る…死神が………やって来るゥ…ッッ!!」

 

 

途切れ途切れのヴァージャンの言葉を聞き取るより先に、カツリ…カツリとブーツの音が響く。

 

酒場の者達は皆息を呑み、視線は()()()に釘付けになった。

 

 

 

白亜の如き美しく長い髪に整った顔立ち、西洋騎士のようなバトルドレスに身を包んだ女性が酒場の入口に現れた。背に羽織る大きなコートには威厳ある『正義』の二文字が印され、その両手には血の滴る緋色の軍刀が握られている。

 

 

酒場の雰囲気に似合わぬその女性を見た全ての者達は思わず見惚れ、続いてぎょっと目を見開いた、何故ならば彼女の衣服は血にまみれ、本来真っ白であるはずの海軍コートの所々が真っ赤に染まっていたのだから。

まるでさっきまで何人も人を斬り殺した後かのように。

 

突然現れた目もくらむような美人の女が両手に刀を持って血塗れで酒場に立っている、そんな非常識な光景に周囲が唖然とする中、いち早く正気を取り戻した者が叫ぶ。

 

 

「やいっ!テメェ…何もんだ!

海兵なんかがこんな所になんの…」

 

 

「………道を間違えた。」

 

 

女性の発した澄んだ声に再び周囲の動きが止まる、にも関わらず彼女は続けた。

 

 

凪の海(カームベルト)まで行こうと思ったのだが、持ってくる永久指針を間違えてしまったらしい…まさかこんな辺鄙な所にまで来てしまうとは思わなかった。」

 

 

淡々と告げる彼女、ヴァージャンは怯えたように叫ぶ。

 

 

「逃げろォ……殺される!殺されるぅ…!俺達ぁ皆…死神に殺されるんだあ…!!」

 

 

まるで子供のように怯え泣き叫ぶヴァージャンをその紅い瞳でキッと睨みつけると彼は鶏の首を絞めたような悲鳴を上げた後静かになった。

そしてテリーの方へ向き直り頭を下げる。

 

「失礼、店主殿。

店の扉を壊してしまった…手元に現金がない故、代わりにこれを。

店の修理代に当ててくれ。」

 

 

そう謝って懐から取り出し、ゴトリとカウンターの上へ置かれたのは拳ほどの大きさの金塊だった。

これにはテリーも驚きの余り目を見開く。

 

 

「アンタ…一体これを何処で…」

 

 

「雲の海で少し、な。

心配しなくても後で返せとか言わないから安心してくれ。」

 

 

そう微笑む女性の笑顔は麗しく、顔に飛び散った血の跡が無ければテリーは年甲斐もなく彼女にときめいてしまっていたことだろう。

 

 

「てこたあ…黄金郷は本当にあるんだねえ、長生きしてみるもんだ。」

 

 

「随分落ち着いているんだな、周りはあんななのに。」

 

 

くっくっくっと笑って店の周りを見渡す。案の定と言うべきか、突然の出来事すぎて酒場の誰もが血塗れの女性を凝視しながら固まっていた。

 

 

「歳をとりゃ大体の事じゃ驚かなくなるもんさ、何か飲むかい?」

 

 

「ああ、じゃあ珈琲を…」

 

 

「待て待て待て!!オカシイだろ!?

なんでそんなに落ち着いてんだオヤジ!」

 

 

流石に我慢出来なくなってツッコミを入れたのはヴァージャン一味の1人だ、傷付いた船長を介抱しながらテリーと女性に怒鳴り散らす。

自分達の船長がボロボロの姿で店に飛び込んできたら無理もないだろう。

しかし女性は何食わぬ顔でテリーから出された珈琲の入ったカップを優雅に傾けていた。そんな彼女にますますヒートアップするヴァージャンの手下達。

我慢出来なくなった手下の1人が懐から拳銃を取り出し、女性を撃とうとした瞬間。

 

 

ボトリ、と拳銃を持っていた男の手首から下が床に落ちた

 

 

「……は?あああああああああああああッ!?」

 

 

切られた男は突然の出来事過ぎて理解が追いついていないらしい。間抜けな声を上げぽかんと無くなった手首を眺めていたがやがて脳が自分の右手が無くなっていることに気付き、驚きと痛みで絶叫した。

切られた手首の先から鮮血が吹き出し酒場を赤く染める、それから濃い鉄の臭いが当たりに充満し吐きそうになった者もちらほらといるが無理もないだろう。

 

 

「腕が!?俺の腕があああああああッッ!!」

 

 

「喧しい、邪魔だ。」

 

 

女性の声と共に風を切るような音、そして何かが落下する音。

今度は頭が床に落ちた。

 

 

「汚いな、珈琲に血が入ったらどうするんだ…」

 

 

吐き捨てるように言って避ける様に手首と頭の無くなった死体を蹴り倒す。

そんな彼女を見ながらいつの間にか目を覚ましていたヴァージャンは呟く。

 

 

「死神……海の…悪魔…白蛇ィ……」

 

 

「何ですって…?しろ…へび…?この女が!?」

 

 

3人になってしまった手下達はかつて噂に聞いたその名を思い出し、固まった。

 

 

大将白蛇。その容姿、年齢、全てが謎に包まれた海軍大将。

 

 

数年前、酒に酔って海軍を強襲した四皇カイドウをたった1人で追い返し、その後も数多の海賊の首を取ってきた海軍の死神、毎日のように新聞で報道されたその名を聞いてにわかに信じられないと言った表情で目の前の女性を見つめている。

 

 

「い、いや…嘘だろ船長…。

こんな女が…海軍の死神……?あは…あはは…冗談キツいぜ!」

 

 

引き攣った笑みを浮かべるもヴァージャンは今まで見たことないほど怯えていてまともに話せない。

今まで見たこともない船長の表情に海賊達は動揺した。

 

 

「お喋りな海賊だな、少し待ってろ。

珈琲を飲み終えたら他のクルー達の様に首を切り飛ばしてやるから…」

 

 

「う…うわあああああっ!!ぎっ…」

 

 

仲間を斬られ、恐れるあまり白蛇に剣を向け斬りかかった男を彼女は何のためらいもなく両断する。

左手にはコーヒーカップを持ち、椅子に座った状態にも関わらずその太刀筋は鋭く上半身と下半身が分断された男は恐怖の表情を浮かべながら息絶えた。

白蛇はふう、と溜息を吐き珈琲をまた一口含む。

 

 

「うん、なかなかいい腕をしている。

パーフェクトだ店主殿。」

 

 

あっとういまに人を2人斬り殺した白蛇は周囲の視線など気にも留めず珈琲の味を堪能していた。

 

 

「一応言っておくが私は酒に酔ったそいつに絡まれたんだ。仕事で先を急いでいるというのにしつこく絡んでくるものだから道のついでに間引いてやろうと思った、反省も後悔もしていない。」

 

 

そう言う白蛇の赤い瞳は仲間に抱えられなおも怯えながら彼女を見つめるヴァージャンを睨んでいる。

元はと言えば酒に酔い、暴れたヴァージャンにたまたま島を間違え通りかかった白蛇が絡まれただけの事。

政府の管轄ではないジャヤ島などにやってくる海兵は普通いない、ならこんな危険な場所に現れる海兵は余程の世間知らずか馬鹿の二択なのだ。

加えてヴァージャンも完全に海兵を舐めていた。

絡まれた白蛇は当然いつもの降伏勧告後、手加減などせず断った海賊達を斬り殺し最後に残ったヴァージャンを始末しようと交戦した後、この酒場へ彼が飛び込んだ。

 

 

酒場の海賊全員の空気が変わる、本能が命の危機を告げたのか臨戦態勢に入ったのだ。

 

このままいれば殺される

 

幾度となく命のやり取りをし、研ぎ澄まされた彼らの『生』への執着が「ここで戦わねば命はない」と訴えかけていた。

 

 

最後の一口珈琲を飲み干した白蛇は軽く伸びをした後、コキコキと肩を鳴らしながら無慈悲に言い放つ。

 

 

「さて、時間も無い。

そもそも私はこんな所で道草食ってる暇はないんだ。

首を出せ、志無き海賊よ。」

 

 

その言葉を合図に、酒場はほんの数分間戦場と化した

 

 

 

 

 

 

 

速報:俺氏、道に迷う。

 

 

持って来る永久指針(エターナルポース)間違えちゃったテヘペロ。

 

久しぶりの大将白蛇としてのお仕事。

イルミーナもテリジアもレムも連れず1人で行動するのは久しぶりだ。

祖龍姿に戻り空を飛びながら海を移動していたんだけど…。

見事に道に迷いました。

本当の目的地は女ヶ島のはずだったのに、何故か偉大なる航路のジャヤ島にまで来ちゃった…原作でルフィ達が寄る島だっけ、空島編の冒頭あたりに出てくる島だ。

ということは黄金郷も上にあるんかな?と思って上空一万メートルまで飛び上がったら……ありましたよ黄金郷。金ピカで眩しかった(小並感)

特に欲しくも無かったけど島に来た途端空島の住民達が騒ぎ出して「龍神様!」「龍神様だァ!」って言いながら捧げ物をいっぱい差し出してきたので仕方なく変な顔した小さな黄金の塊を貰っておいた。

 

……確か空島には原作でルフィ達が戦ってた敵がいたはずで、雷の能力者がいた気がするんだけど俺に接触して来たのはガン・フォールと名乗るペガサス?の様な馬に乗った爺さん騎士だった。

俺爺さんによく会うなあ…

なんか空島付近を飛び回っていた俺が怒っているのかと勘違いしていたらしい、空島で一番の美女を生贄に〜みたいな事言ってたけど俺氏は食人趣味とか無いので丁重にお断りしました、ハイ。

誤解を解いてその爺さんとちょっとだけ仲良くなり、空島を後にする。

 

そんでもって降りてきたジャヤ島で絡まれたのがコイツだ。

懸賞金6000万ベリーの…えー…名前なんだっけ…?忘れた。

テンプレな雑魚海賊だったからいちいち覚えてられるか、突っかかってきた取り巻きを斬りまくってたら逃げ出したから追いかけている内にアイツがこの酒場へ飛び込んだんだ。

 

「さて、時間も無い。

そもそも私はこんな所で道草食ってる暇はないんだ。

首を出せ、志無き海賊よ。」

 

 

祖龍補正(フィルター)のせいでどっかの冠位アサシンみたいな事台詞が出ちまった…ちょっと恥ずかしいな//

 

 

酒場の主人は一般人だしここで暴れるのはアカン…と思いながらも銃を向けてきた海賊は思わず切り飛ばしてしまったし、なーんか嫌な予感…

 

 

「た…大将がなんだ!この酒場にゃ海賊が山ほどいるんだ、囲ってヤっちまえ!」

 

 

おっ、そうだな!

 

武器を抜き一斉に飛びかかってくる海賊達、店の主人はカウンターの内側へ隠れてるみたいだし、向かって来る奴だけ斬るか。

 

 

〜3分後〜

 

 

 

……うーんこの

 

周りには死体の山、店の隅で震える攻撃してこなかった一般人達(多分)、そして酔いが覚めたのか尚更ビビってる…誰だっけキミ?

取り敢えず絡まれた落とし前は付けてもらわんとなあ、ンン?

 

 

「ほら、お前で最後だ。死ね。」

 

 

「ガッ!?オ…ォォ…」

 

 

首元に突きつけた影炎をゆっくり突き刺し、瀕死のデカブツ君に引導を渡してやる。

 

この調子じゃもうこの店は出禁だな

 

 

「迷惑かけたな店主殿、死体は外で燃やしとくから勘弁してくれ。」

 

 

そう言って店主さんに平謝りをし、海賊の死体を外へ運び出す。

全部運んだらあとが残らないように雷鎚使って跡形もなく消し飛ばした。

火葬って大事☆

 

 

去り際、唯一攻撃してこなかった猿顔の一般人(多分)2人に黄金郷の事をとやかく聞かれたので適当に返事しておいて俺はジャヤ島を飛び発った。

 

 

もういいや、今日は帰って明日出直そう。

 

 

……血塗れで帰ったからテリジアとステラに洗濯が大変だとめっちゃ怒られちゃった。しかも道に迷ったから仕事出来て無くてセンゴクさんにもちょっと怒られた…辛み。

 

 

明日はちゃんと女ヶ島行って白蛇のお仕事しよう…

 

 

 

 

直接白蛇に会いたいだなんて、変な事言い出す女帝だなあ

 

 

 







祖龍、七武海を本格的に招集し始める。

七武海再編始めました。原作通りのメンツになるかは疑問ですが…
アカン…最近の主はスーパーじゃねえ…コーラ補給しないと…

気分転換に他作品様を読ませていただいてるんですがやっぱりモンハンとワンピを絡ませるSSは読んでいて楽しいですね、主もそんな文章能力が欲しい…


次回、蛇と蛇姫




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27 司銀姫(変態)と海賊女帝

ハンコック出ます、メタっぽい発言にキャラ崩壊の危険アリアリです!

結局更新に1週間かかっちまったじゃねえかアアン!?





「凪の海には女しかいない島がある」

 

と、海賊達の間ではしょっちゅう語り草になっている。

空に浮かぶ黄金の都、海底の人魚姫伝説、海賊船の消える魔の海域、そして海軍の死神。

人が伝えた数多ある伝説の中にその『女ヶ島』の伝説も存在していた。

 

産まれる子供は皆が女性、女ばかりのこの世の楽園が世界にはあるらしい。

 

しかし女人島があるとされるのは『凪の海(カームベルト)』と呼ばれる海域だ。

嵐の来ないその海域は海王類達の住処となり偉大なる航路と他の海を阻んでいるのは周知の事実、そんな場所にあるかないかも分からない島を探しに来る無謀な輩などいない。

それ故に女人島はただの伝説として語られていた。

 

九蛇海賊団の名が世に広まるまでは

 

 

その海賊団には女性しかおらず、皆が生粋の戦士らしい。

その海賊団と出会うと乗組員は皆石にされてしまう。

色々な()()()のついたその海賊団が政府に認識され、重要視されたのはつい最近。七武海の再編を望む政府の最高機関は伝書バットによる接触を試みた結果、ある返信が返ってきた。

 

「大将白蛇と直に会いたい」

 

興味本位か策謀あってか、九蛇海賊団の真意は分からないがこれを承諾した政府は本人の了承を得て大将白蛇を女人島、『アマゾンリリー』と派遣したのだった。

 

 

 

 

 

 

と、いうわけでやって来ました女人島。今度はちゃんとテリジアとイルミーナ、レムの三人を連れてクルスの背中に乗り凪の海を突っ切った。

1人で行こうとしたら「また道に迷うおつもりですの!?」って止められたのはナイショ。

 

程なくして島周辺に到着。大きさそんなにない、少し離れた場所に『ルスカイナ島』っていう猛獣達が住む島があるが今回は用はないので説明は省く。

 

 

「この島で間違いありませんわお姉様、永久指針(エターナルポース)も此処を指しております。」

 

 

腕に付けた永久指針の針を見ながらテリジアが微笑む。

海軍本部には様々な島へ行く為にログポーズがあり、大体の島には行けるんだけど女人島は例外だ。凪の海に位置するこの島は海王類の巣になっていて海賊船はおろか海軍の軍艦も近づけない、なので俺達4人をクルスに乗せて少数精鋭でやって来た。

 

 

「よしクルス、岸まで頼む。

着いたらレムはクルスと一緒に待機、テリジアとイルミーナは私に付いてこい。」

 

 

「了承」 「…ん」 「承知致しました」

 

グルルゥ…

 

 

俺の命令を理解したのかクルスも低く唸る。

海王類って賢いのよね、言ってることも理解していうこと聞いてくれるし。癒し系じゃない?

海王類が皆こうだって訳じゃないけど…

 

 

「さあ、女帝とご対面と行こうか。」

 

 

 

…………

 

 

クルスに岸まで送ってもらい、そこからは徒歩でジャングルを歩きアマゾンリリーを目指す。

うっそうとしたジャングルが終わり、視界が良くなった所で関所のような場所を見つけた俺氏は門番の女性に政府の要請で大将白蛇が来たことを伝えると集落の中へと案内された。

この島は男子禁制らしい、なんも考えてなかったけどいつもの3人を連れてきて良かった。軍艦じゃ部下の乗る船を沖に放置させないと行けなくなるところだったからな。

 

集落に入るとワイワイと市場や出店が立ち並んでいて、活気があるのが分かる。

本当に女しか居ないんだな、鉄を打つのも魚を捕まえる網を引くのも力仕事はみーんな女がやってる、ちょっと感心した。外界から孤立した島だからこそ強い女性が育つんだろうか?

 

あ、あのゴルゴンゾーラみたいな料理美味そう…

 

 

 

「蛇姫様は只今湯浴みの途中ですので終わるまで城内には入れません、暫くお待ちください。」

 

 

蛇姫は入浴中らしい。

何故だか彼女が風呂に入っている間は城内には誰1人として入ってはいけないと御触れが出ているようだ。

 

 

「……海軍の大将を呼び出しておいて自分は呑気にお風呂に入っておりますの?大層なお姫様ですわね。」

 

 

テリジアさんや、やめなさい。案内の人めっちゃ睨んでるから。

 

 

「おひめさま、綺麗ずき?」

 

 

「だな、一応人と会うんだから身体くらい洗うだろ。テリジアも嫌味は止めておけ。」

 

 

「私の感性がビンビン告げてますの、きっと蛇姫とやらはとんでもないろくでなし姫ですわね。」

 

 

「祖国を飛び出したお前も変わらんだろう…」

 

 

「うぇへへ、お姉様に褒められました//」

 

 

「「褒めてない」」

 

 

思わずイルミーナと声がハモる。

なんて雑談しながら時間を潰していると湯浴みの時間とやらも終わったらしく、天幕が退けられていく。

城内から別の使いがやって来て俺達3人は城の中へと案内された。

 

 

…………………

 

 

 

「蛇姫様はこの先でお待ちです、くれぐれも粗相の御座いませんように。」

 

 

案内のお姉さんから念を押され、音を立てて目の前の大きな扉が開く。

 

そこにいたのは豪華な椅子…の様な蛇に腰掛ける若い美女の姿、両隣には護衛らしき薙刀を持った女性が2人。

 

この女が…九蛇の女帝、ボア・ハンコックか。

大きく胸の開いた痴女コスにシミ一つ無い綺麗な肌、そんでもって世の男達百人に聞いたら全員が『美人』と答えるであろう整った顔立ち…なるほどエロい女だな!

 

 

「海軍大将白蛇、招集に応じ参上した。

つきましては海賊女帝ボア・ハンコック殿、世界政府公認組織『王下七武海』への参加の意志を問いたい。」

 

 

影で頑張って練習したテンプレの七武海お誘い文句を述べた後、彼女の返事を待つ。

 

少しして、蛇姫が口を開いた

 

 

「……………そうか、遠き彼方よりよくぞ参ったな大将白蛇。歓迎しよう。

まずは……妾の為に死んでくれるか。」

 

 

……は?

 

 

「は?」

 

 

思わず間抜けな声を上げてしまった。が、そんな俺に構うこともなく蛇姫は自分の胸の前に手でハートを作りこう告げる。

 

 

「メロメロ甘風(メロウ)ッ!!」

 

 

びびび〜っとハート型からピンク色の光線が伸びてきて俺達はそれをまともに食らった………だけだった。

そんな俺にも気付かず勝ち誇ったように蛇姫は笑う。

 

 

「ハッハッハ!悪いな大将白蛇、〝蛇〟の名は二つも要らぬ!

そなたを呼んだのも全てこの為よ、石になって眠っておれ。

恨んで構わぬぞ、それも妾が美しいか……ら……あれ?」

 

 

「「「?」」」

 

「?」

 

 

お互いに首を傾げ合う

 

 

「……メ、メロメロ甘風ッッ!!」

 

 

またびびび〜っとピンクの光線が俺達を照らし…………何も起こらない。

 

 

「「「?」」」

 

 

俺達は顔を見合わせふたたび首を傾げ合う、そんな中蛇姫と取り巻きの女達はとても狼狽えてた。

 

 

「な…何故じゃ!?何故妾のメロメロが効かぬ!」

 

 

「そんな馬鹿な…姉様の魅力は老若男女問わず全ての生命を魅了するハズ…なのにどうして…」

 

 

みりょー…?

 

 

「単純にお前に興味が無いからじゃないか?」

 

 

「んなッ!?はぅん……」

 

 

「あ、姉様しっかり!

ちょっと大将白蛇、貴女なんて事を!」

 

 

「お年頃の姉様は傷つき易いのよ!

もっと考えてからものを言いなさいよ!」

 

 

なんか説教された、フヒヒwサーセンwww

そしたら蛇姫、くらりと目眩を起こしたのか椅子に倒れ込む。なんだこいつ。

 

 

「ああ、〝メロメロの実〟ですわねお姉様。」

 

 

ポンッと手を叩きながら納得したようにテリジアが呟いた。

 

 

「知っているのかテリジア?」

 

 

「はい、悪魔の実図鑑で読んだことがありますの。

メロメロの実、石化人間。能力は確か自身の体に劣情を抱いたものを石に変える能力ですわ。九蛇海賊団に襲われた船員が全員甲板で石になっているのを発見されたと噂になっていましたがコレでしたのね。」

 

 

メロメロの実か!

あーなんか原作思い出してきた、よくウ=ス異本に出てくるアレだ!

エロい身体したハンコックに欲情した奴は石にされるんだっけ。

 

 

「それで幼いから女の魅力とか分からないイルミーナや、そもそも人間の体に興味が無い私には効かなかったのか。テリジアお前は…」

 

 

「むぉっっちろん私はお姉様のお姿にしか惹かれませんもの!他の者に靡くとか有り得ませんわ!//

お姉様の御御足…香り…お胸の感触…うえっへっへっへ…//」

 

 

「石になってれば良かったのに…」

 

 

「てりじあのコレは、もうだめだってれむが言ってた。

『いしゃがだまってくびをよこにふるれべる』だって」

 

 

レムの奴どこでそんな言葉覚えてイルミーナに教えたんだ…。なんか 蛇姫のお付きも残念な奴を見る目でテリジアを見てるよ。やめたげてぇ!

 

 

「そんなことより…お姉様、この不敬者共はお姉様を謀って石に変えようと致しましたわ。処分は如何致しましょう。」

 

 

急にキリッとして真面目なセリフを吐き出したテリジア、落差が半端ないの。

 

 

「別にいいだろ、何もされてないんだし。これ位狡猾な方が海賊らしい。

私はコイツが七武海にさえ入ってくれれば…「嫌じゃ」……は?」

 

 

「い・や・じゃ!

妾の思い通りにならぬ連中の話など聞きとうない!もう用はない、帰れ帰れ!」

 

 

はぁ〜い〜?

なんじゃこの我が儘お姫様は!?

常識無いのか?いや海賊相手に常識問うのも馬鹿な話だけどアマゾンリリーの皇帝なんだろ?

よく見りゃ顔は大人びてるがまだ幼い、18歳位のガキじゃないのかこの女。こんな年で女帝とかやってんの?

 

 

「ほう…この私をわざわざ呼びつけて罠に掛け、あまつさえ目的も果たさずに『帰れ』とは…舐められたものだ…覚悟は出来てるんだろうな?」

 

 

ちょっとイラッと来てしまった。

ビリビリと大気が震え、紅い雷光が俺の周りを渦巻き始める。

七武海にならないのなら九蛇海賊団を壊滅させて帰るだけ、七武海は別のヤツを探すしかない。またコング元帥お疲れ様会の企画が遅れてしまうのが心残りだけど…

 

 

「お待ちニョされ大将白蛇、事を急いではいかニュ!」

 

 

その時、不意に後ろから声がした。

振り返ればそこには海岸にクルスと一緒に待機させていたはずのレムとちんまいバーさんが扉の前に立っている。

 

 

「…レム、クルスと居ろと言ったはずだが。」

 

 

「ミラ達が出発してから少しして、入れ違いになってこの老婆が現れた。

最初は穀物の妖精かと誤解したけどミラと話がしたいそう。

クルスを待たせて追い掛けてきた。」

 

 

「誰が豆の妖精か!

……失礼、大将白蛇。儂はアマゾンリリー先々代皇帝グロリオーサと申すもニョ、蛇姫の王下七武海加入の件でお話があって参った次第。」

 

 

ちんまいバーさんことグロリオーサは先々代の皇帝らしい、この聞かん坊より少しは話が出来そうだ。

 

 

「ニョン婆!そなたとて勝手な真似は…」

 

 

「おだまり蛇姫!

この国の存亡にかかわる時事じゃ、まだ若いオヌシには決めかねよう。ここは年の功に任せなされ。」

 

 

「黙れ老害!」

 

 

「んだとゴラァ!?」

 

 

いやこいつらはもう話とか以前の問題かもしれん…前途多難や…

 

 

 

……………

 

 

 

 

2人が言い争った後、別の部屋で話がしたいとニョン婆に案内されて場所を変えることにした。

 

さんざん言い争いをして、最後には出ていくと言った蛇姫だったがあまりの不真面目さに怒ったテリジアが水銀の縄で亀甲縛りにし話し合いに強制参加させられる事に。

この会議室では今、対面して座る俺とニョン婆さんの横に縛られた女帝が居るという世にも奇妙な構図が出来上がっている。

 

 

「まずは謝罪を。すまニュな白蛇殿、女帝の我が儘に付き合わせてしもうて…

これでもこの若造がアマゾンリリーのトップなニョじゃ。」

 

 

項垂れるバーさん、聞くにアマゾンリリーでは国で最も武力に優れる者が皇帝の座に就けるらしい。ハンコックはその天賦の才を認められ18歳という若さで皇帝の地位を手に入れたようだ。

 

……それで我が儘放題好き放題のお姫様に育ったのか、教育環境がなってないな。

 

 

「謝罪はいい、さっさと用事を済ませよう。

懸賞金8000万ベリー、『海賊女帝』ボア・ハンコック。彼女にその意思があるのなら世界政府及び海軍は王下七武海入りを歓迎する、望むのなら相応の恩赦も付けるそうだ。

わざわざこの私を呼んだんだ、只のイタズラでも海軍大将を呼び出す意味が分かってるよな?」

 

 

「妾は嫌じゃと言っておる!絶対に王下七武海など「おだまりなさい」…ふもが!?ーッ!?ーーッ!!」

 

 

亀甲縛り状態でも相変わらずデカイ態度で文句たらたらな蛇姫にテリジアはその口へ猿轡(さるぐつわ)を突っ込み黙らせる。

どんどん18禁に近い格好になっていく海賊女帝、そしてお前はなんで猿轡なんて常備してるんだ…

 

 

「本人の意思はともかく、彼女が七武海に参加することで得られる利は多い。

こニョ国は見ての通り女子しかおらニュでな、今は凪の海に守られていても海賊が攻めて来ニュ保証はニョい。

七武海の名があれば悪い虫も寄り付かニュというもの。」

 

 

……確かに、この島は凪の海という海域に点在しているからこそ他の海賊が寄り付かない安全地帯となっているがその安全はいつまでも続くはずがない。現に海軍では某変態科学者が海楼石を利用して凪の海でも軍艦を渡らせられる様にする為研究をしている最中だ。うちの船大工曰く「船の底に海楼石を敷けばワンチャン」らしい、それをベガパンクに話したら目からウロコが落ちてた。

トム有能スギィッ!!

 

そこでこの婆さんは一時の安心より七武海による後ろ盾を必要としたわけね、それなら少なくとも蛇姫が七武海である限りアマゾンリリーは侵略されないもんな。

 

 

「お前達の目的は七武海と政府の後ろ盾、か。

よく先を読んでいるな、年の功は侮れん。」

 

 

「お褒めに預かり光栄じゃ。

……それにしても、あの『死神』と悪名高い海軍大将白蛇がまさかうら若い女性とはニョう。」

 

 

「悪名とは失礼だな、面が割れるのは面倒だからな。そうさせているだけだ。

偽者だと疑うのなら…今この場で実力を証明してもいいんだぞ?」

 

 

マジ狩る大将白蛇ちゃんは自慢の軍刀で海賊達を見 敵 必 殺 しちゃうゾ。

丁度いい海賊団もいますからねえ…(微笑)

 

 

「老いさらばえても儂は九蛇の戦士、一目見ればそなたが並大抵の者では無いことくらい理解できるわい。

そニョ力、レイリーに匹敵…いやそれ以上か…。

とにかく、うちのヒヨッコ共では相手にならニュのは明白。故に話し合いの場を設けた次第じゃ。

ですが本人があの調子ではニョう…」

 

 

ちらっとニョン婆はもがくハンコックを見やる、続けて俺も見やる。

 

 

「ーーッ!!ーーーッッ!!#」

 

 

ありゃ相当怒ってらっしゃるね、間違いない。

どうしたもんかな、当人のハンコックが納得してくれないと七武海加入は不可能だし…

 

 

「取り敢えず猿轡を外してやれテリジア、話が出来ん。」

 

 

「かしこまりました。」

 

 

テリジアによって拘束を解除されたハンコックは顔を真っ赤にして怒り心頭だった。そりゃそうだ。

 

 

「おのれ…この辱め、恨みはらさでおくべきかッ!!」

 

 

「落ち着きなさいませドチャシコ皇帝。ここで取り乱しても自分の価値を下げるだけですわよ。」

 

 

ぶっ!?ド、ドチャシコ……ッッ!!?//

 

だからお前らそんな言葉を何処で覚えてくるんだ!?ホントは転生者とかじゃないのか?俺はこっちにいた時間が長過ぎて偶に転生者ってこと忘れそうになるけども!

ドチャシコ皇帝……元の世界なら大爆笑もののエッジの効いたワードだが意味を知らない蛇姫はキョトンとしてる。

 

 

「なんじゃその、どちゃしこ…?という呼び名は!?馬鹿にしておるのか!」

 

 

「ご安心下さいませ、完全に馬鹿にしておりますわ。」

 

 

「なんじゃとおおおおおっ!?」

 

 

お互いギーギーいがみ合うテリジアとハンコック。

テリジアがここまで他人に突っかかるなんて珍しいな…

そんな2人の言い争いを見かねたのかニョン婆は声を上げた。

 

 

「ニャらば『武舞』にて決着を付ければ良いではニャいか蛇姫。

武力で優劣を決めるニョがこの国のしきたり、それならば文句はあるまいて。」

 

 

「んな!?なぜこのような女と妾が…「いいですわよ」なんじゃと…?」

 

 

「武力によって上下関係を決める、素晴らしいじゃありませんの。

私が負ければ貴女の好きになさると宜しいですわ、但し貴女が負ければ…王下七武海に加入して頂きます。

これ以上お姉様の御手を煩わせる事などあってはなりませんもの、決闘(デュエル)で決着を付けましょう。

…それとも、九蛇の女帝ともあろうお方が負ける事に怯えてますの?」

 

 

「な・ん・じゃ・とぉ…?

望むところじゃ!その生意気な鼻っ柱をへし折ってくれる!」

 

 

「上ッッ等ですわメチャシコ皇帝!

吠え面掻かせて差し上げますッ!!」

 

 

「ドチャシコもメチャシコも止めいっ!何故か分からんが怖気が走る!」

 

 

まさに売り言葉に買い言葉、子供みたいに喧嘩する2人にニョン婆は密かに笑っていた。

あーこんな笑い方見たことある、『計画通り』だっけ?

 

謀ったなあのバーさん…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アマゾンリリーには『武舞』と呼ばれる習わしがある。

「より強い女が権力を得る」この国において手っ取り早く強さを証明する手段が武舞による決闘だ。

コロシアムの様な円形闘技場の真ん中で一対一のガチンコバトル、相手が動けなくなる、もしくは降参するまで闘いは続けられる。

 

そして今、コロシアムの真ん中にはウチの給仕長ハレドメラグ・テリジアと海賊女帝ボア・ハンコックが向き合って睨み合い、互いに火花を散らしている。

 

 

「てりじあ、かてるかな。(もぐもぐもぐ)」

 

 

「まあ負けやしないだろうが…どうしてこうなった?」

 

 

出店の焼き鳥みたいな串物料理をたらふく買い占めて俺の膝の上でバクバク食ってるイルミーナが特に心配する様子もなく呟いた。

俺達はニョン婆に連れられて蛇姫のお供(ハンコックの妹達だったらしい)と一緒にVIP用の観覧席に移動していた、いい席みたいでここからなら2人の闘いが良く見える。

 

どこから情報が漏れたのか、蛇姫が闘う姿を一目見ようと集まったアマゾンリリー中の女性達でコロシアムの席は埋め尽くされている。それ位蛇姫が人気な証拠だ。

 

 

「時に白蛇よ、あニョテリジアとかいう娘…姓はニャンと?」

 

 

「姓?名字だな、ハレドメラグだ。

ハレドメラグ・テリジアがあいつの名前だよ。」

 

 

「ハレドメラグ…?ニャんと…」

 

 

その名を聞き、ニョン婆は目を見開き驚いている様だった。

 

 

「あのお転婆女に娘が……いや世代的には孫なニョか?」

 

 

1人でブツブツ言ってる豆バーさんを他所に戦闘開始の銅鑼が鳴り響き2人が動く。

 

 

「「死に晒せオラァッッ!!」」

 

 

ああーっと!両者同じ罵倒を叫びながら開幕クロスカウンターをぶっ込んできたーッ!?

初っ端の女帝とは思えない暴言に闘技場は一時騒然とした。が、そんなことに構うまもなくお互い距離を取った2人はそれぞれ遠距離攻撃を行うかまえだ!

 

 

「マシンガンキス!」

 

 

月霊銀弾(ヴォールメン・シルヴヴァレット)ォッ!!」

 

 

蛇姫の両手の人差し指から生まれたハートが連射されテリジアに迫る、多分あれ食らったら石にされるんだろう。

同時に負けじとテリジアも両掌から生み出した水銀の雫を無数のライフル弾に変え、撃ち出した。

 

 

「真似するでない変態女!」

 

 

「こっちのセリフですわエロ皇帝!」

 

 

ハートと銀の弾丸飛び交うおかしな戦場で2人は罵り合う。そして拮抗状態が続いた後お互い埒が明かなくなったのか最後の1発を撃ち終わると同時に蛇姫は武装色で硬化された足で、テリジアは水銀で生み出し同じく武装色で強化したハルバードを片手で振り上げながら再び闘技場の真ん中でぶつかりあった。

 

 

「「ぐぎぎぎぎぎッ!!」」

 

 

ハルバードと脚がギリギリと火花を散らす。

2人の激闘は続き武装色同士がぶつかり合う度に金属のぶつかり合う様な嫌な音が闘技場全体を揺らしていた。

お互い気合が半端じゃない、正直近寄りたくない。

 

 

「……不思議、テリジアが他人にあそこまで積極的になる姿を見るのは初めて。」

 

 

不思議そうにレムがボヤいたのが聞こえた、確かにそうだ。

テリジアは俺やイルミーナ、レムにステラには素の自分(俺の脚に頬擦りしてハアハア言うのが素のテリジアというのも大分アレだが)を見せているが仕事中やさして交友のない将校たちと話す時なんかは借りてきた猫みたいに大人しい。人当たり良く対応も物腰柔らかで接客業やってる店員みたいだ、正直ちょっとよそよそしい感じすらある。

でも蛇姫と会ってからはかなり素に近いテリジアが出てきて直ぐ化けの皮が剥がれた、いや隠す気無いだけか?

 

 

「アイツも一応元女王だからな、傍若無人な蛇姫に対して思うところがあったのかもしれん。」

 

 

「元女王…そういえば彼女はそうだった。」

 

 

「ハレドメラグの姓を持つ女王……やはりあニョ娘、ミュゼの孫か。」

 

 

豆バーさんがポンと手を叩く、どうやらテリジアに心当たりがあるらしい。

…ミュゼ?ミュゼって誰だ?

 

 

「穀物の妖精、テリジアの過去を知っている?」

 

 

「だから豆の妖精ちゃうわ!

……ワラキュア公国第三代目皇帝、またの名を『冥雷妃』ハレドメラグ・ミュゼリコルデ。昔の話じゃ、儂はそやつと旧知の仲じゃった。」

 

 

懐かしそうに語るバーさんの隣で蛇姫の妹、マリーゴールドが首を傾げる。

 

 

「それはニョン婆が突然この国を飛び出してからの出来事なの?」

 

 

「そニョ通りじゃマリーゴールド。

ある病から逃げる為、アマゾンリリーを逃げ出し出会った仲間……シャッキーやレイリー達ニョ中にそやつもおった。

ミュゼは放浪癖が酷くてニョう、家督を旦那に丸投げして1人で放浪の旅を続けておったニョじゃ。海賊王の船にも一時期乗船しておったらしい、ミュゼは詳しくは語らんかったがの。」

 

 

妹達は楽しそうに語るニョン婆に興味しんしんだ。

凪の海に孤立した島だもんな、外の世界に憧れるのは男も女も変わらないらしい。

 

…にしても海賊王の船に乗ってたのか、テリジアの祖母さん凄い人だな。

でも前にセンゴクさんに渡された例のリストにはミュゼリコルデの名は無かったし…政府に気付かれない少しの期間ならロジャーと一緒に居たとしてもバレなかったのかな?

五老星曰く、海賊王ゴールド・ロジャーはオハラの学者達と同じ…いやそれ以上に深く「世界の秘密」を知ってしまった。ポーネグリフを読み解き『空白の100年』の歴史を紐解いたロジャーは最後の島『ラフテル』へと辿り着き、五老星や世界政府が恐れる〝何か〟を手に入れた。

さもなきゃロジャーに関わった人物全てを一族郎党全滅させるなんて狂った考えなんて起こさないだろ。

そこまでして政府が揉み消したい事情…なんだろね、この世界をひっくり返してしまう大事なんだろうけど検討もつかないナー。

 

 

……え?俺は気にならないのかって?

 

別に…ねえ?たまに忘れそうになるけど俺祖龍だし、人としての常識とか持ってるけど基本感覚は龍だからかな。

人間の歴史とかどーでもいーですはい。

今こうして海軍で働いているのも言ってみればノリみたいなもんだし、君らも蟻にしか分からない歴史に黒歴史がありましたーなんて言われても興味無いでしょ。

人間が目標決めて頑張ってる姿を見るのは好きだけどね、志って大事。

 

 

俺に興味を示させたけりゃハンターとかミラボクラスの強敵を持って来なされ。

 

 

つーか俺海軍の人間(龍)なのにロジャーの話題言っちゃって大丈夫なのかよ。

 

 

その時、闘技場から大きな歓声が上がった。

さっきまでガチンコバトルしていた2人はどうやら決着が近いらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

月霊(ヴォールメン)串刺刑(スキュアード)!!」

 

 

テリジアの足下から浸透した水銀は闘技場の足場の隙間を縫って浸透し、掛け声と共に槍状に伸びて一気に地面から突き出した。

ハンコックは予め見聞色の覇気で察知してはいたものの覇気の上から傷付けられた事により反応が遅れ、水銀の槍は直撃はしなくとも彼女を大きく吹き飛ばす。

そしてテリジアは間髪入れずに着地したハンコックを地面に縛り付け、その首元にハルバードの切っ先を突き付けた。

 

 

「勝負あり、ですわ。降参なさいまし。」

 

 

「ぐ…嫌じゃ!妾はまだ生きておる!戦える!」

 

 

両手両脚を水銀で拘束され、俗に言う〝くっ殺〟状態のハンコックだが威勢は変わらず噛みつかんばかりの様相でテリジアを睨みつけている。

その瞳からは「負けたくない」という強い思いが感じ取れた。

 

 

「もがいても無駄ですわ、負けを認めなさい。

貴女が無様にもがく姿を見て民はどう思います?

負けず嫌いなのは分かりましたがそれだけでは寿命を縮めるだけ…」

 

 

「ゴチャゴチャと五月蝿いわ!

貴様に説教されずとも分かっておる!小娘如きが粋がっておる事など百も承知……それでも妾はこの国の皇帝!

王が早々に膝を屈しては、それこそ民草に会わせる顔も無かろうが愚か者め!」

 

 

ハンコックの叫びにテリジアは少し驚き、同時に安心した。

 

どうせただ強いだけで甘やかされ育った我が儘皇帝だろう、と高を括っていた。だがこの女は予想に反し、『強さ』が物理的、肉体的ではなく『王』として求められる『強さ』を知っている。

 

ただ強いだけでは民は付いてこない

 

それに恐怖し、いつか反旗を翻す

 

一国の〝王〟とは『強く』、そして民の前で誠実でなければならない。

蛇姫は誠実さを見せたのだ。

 

『民の前では決して膝を屈しない』

 

それが国として正しいかはともかく少なくともハンコックは〝王〟として相応しい振る舞いを見せた。

 

 

 

「………分かってるじゃありませんの。

ですがお姉様の前で私も恥を晒す訳には参りませんので、奥の手を使わせていただきます。」

 

 

ハンコックの姿勢に納得はしたが愛しいミラ(お姉様)の手前、勝ちを譲るわけにはいかないテリジアは〝奥の手〟と称して懐からある写真を取り出す。

 

 

「なんじゃ!勝負はこれから……て、なんじゃその写真は……………なあっ!?」

 

 

テリジアが懐から取り出したもの、それは一枚の写真だった。

 

ハンコックがあられもなく縛られ猿轡をし、嫌々ながら顔を赤らめている姿を収めた

 

 

亀甲縛りにされ、強調された胸元に滴る汗や赤みがかった太股がかなりエロティックに栄える。

これは先程、テリジアがハンコックを縛った際に誰にも気付かれないように写真に収めたものだ。

自らの痴態を目の当たりにしたハンコックはさっきまでの威勢は何処へやら、顔を青ざめさせながら怒鳴り散らす。

 

 

「な…なんじゃその写真…まさか先程の…」

 

 

「おっほっほ、お察しの通りですわ。

会議室でお姉様とグロリオーサ様がお話しされていた時にちょろっと……うふふ、常日頃お姉様のお姿を内密にカメラに収めている私にかかればこの程度の盗撮、造作もありません。」

 

 

「待て!お主今さらっと自分の上司にとんでもない事しておらんかったか!?」

 

 

「おっと口が滑ってしまいました。

コホンッ……さあさあボア・ハンコック。

『世界一の美女』と名高い貴女のこぉんなあられもないお写真がもし世経(世界経済新聞)の手に渡ってしまったら…一体どうなってしまうんでしょぉ…?」

 

 

「ひっ!?お主まさか…」

 

 

ハンコックは考えうる限り最悪の事態を想像した、してしまった。

 

明日の朝刊へ大々的に、自分の縛られている姿が何万部も刷られ全世界に報じられる様を

 

テリジアは耳元で優しく囁く

 

「明日の一面は決まりですねぇ。

想像してみて下さいまし、貴女の預かり知らぬ所で貴女の縛られている姿を見て興奮する男達…うふふふふふふふ…」

 

 

「ひいっ!?止めい!怖気が走るうううううっ!?!?」

 

 

自分の痴態を知らない所で広められ、興奮されるなど考えただけで許容など不可能だ。ハンコックは悶え苦しんだ、それはもう今までにないくらいに。

 

 

「ひいあ''あ''あ''あ''あ''あ''あ''あ''あ''っ!!!」

 

 

悲鳴を上げたハンコックはその内ガクリと泡を吹いて倒れてしまった。

 

勝敗は決した

 

 

 

「あらあら、気を失うほどお嫌でしたのね……そんなに男がお嫌いですか。

いえ、その背中で何となく察しましたわ。まったくあの天竜人(クズ)共も業が深いですわね…」

 

 

テリジアは戦闘中、ちらりと見えたハンコックの背中に入れられたある焼き跡を思い出し嘆息する。

 

天翔る竜の蹄、天竜人に奴隷の烙印を押された証。それが背中にある限り社会復帰など不可能になる呪いの印だ。

ハンコックが気絶する程嫌な理由は…わざわざ言葉にするまでも無いだろう、普通の女性なら自害するレベルまで貶められたという事だ。

 

奴隷は人では無いのだから

 

 

「(本当に忌々しい制度です。

御祖母様が飛び出した理由もなんとなく分かりますわ。今頃どこで何をしていらっしゃいますの?

海賊王亡き後、うねる世界で貴女の求めるものはありましたか?お会いしたいですわ…)」

 

 

 

戦闘終了を告げる銅鑼の音が鳴り響く。

 

 

 

『海賊女帝』ボア・ハンコック、世界政府公認組織王下七武海へ(強制)加入決定。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「イルミーナ、そっちの書類は?」

 

 

「だいりにんの印をもらった、だいじょぶ。」

 

 

「ん〜、よし。

これでお前に書いてもらう書類は全部だ、ご苦労さん。

王下七武海へようこそ、ボア・ハンコック。」

 

 

闘技場での『武舞』の後、約束通りハンコックは渋々七武海へ加入する事を承諾した。そんでもって今は海軍と政府に渡す書類にサインして貰ってる途中だ。

 

大将白蛇が直々に選んだっつー前提なので実力等は俺のお墨付き(という事で通す)、人格面もなんとかクリア、そしてナワバリ等の支配領域を確認してこれも政府に報告……こまごました確認の書類多いんだよな。

 

なんか前世の記憶が思い出される

 

幸い九蛇海賊団はアマゾンリリー以外にナワバリとか無かったのでさして時間は掛からなかった。

 

 

「つ…疲れたのじゃ…。

七武海はこんな面倒な手順を踏まぬといかぬのか?」

 

 

「これはまだ時間が掛からなかった方だぞ、面倒な部分は私達が予め片付けておいたんだ。

あとこちらから伝える事は…ナワバリを増やした時は報告しろ。」

 

 

「心配せずともナワバリなど増やさぬ、九蛇海賊団の島はアマゾンリリーのみよ。」

 

 

「それから、海賊はいくらでも狩っていいが商船や一般の船舶は最小限の被害に止めておけよ。

度が過ぎるなら…私が〝オシオキ〟しに現れるからな。」

 

 

「…………善処しよう。

妾もお主に暴れられるのは堪らぬ。」

 

 

「よろしい。」

 

 

なお、俺が〝オシオキ〟しに現れた場合アマゾンリリーは血に染まるゾ。

 

 

七武海になる事で得られる恩赦は「海軍、及び政府の船舶は女人島の半径3キロ圏内に近寄らない事」に決まった。その結果蛇姫に何か用がある場合、海軍の船は凪の海のど真ん中で待ち続けるという鬼の様な所業になった訳だがまあ仕方ない。

 

ともかく!これで七武海は三武海から四武海になった訳だ(最早意味不明)。

成果挙げれた、やったぜ!

これでコング元帥お疲れ様会の企画に乗り出せる!

 

最近道間違えたり災難しか無かったからなあ、嬉しい…ウレシイ…

 

 

「ふむ、それではお暇するとしよう。

悪事も程々にな。」

 

 

「ごきげんようクリムゾン皇帝」

 

 

「お主もな盗撮女」

 

 

「「ンだとオラァッ!?」」

 

 

少しの内に随分2人はナカヨクナッタナー

 

テリジアはレムに、蛇姫は妹2人に押さえ付けられ俺達は女人島を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これで仕事もできたし一安心、俺も帰ってゆっくり出来る…と思ったんだ。

 

五老星から電話が掛かって来るまでは

 

 

 

 

 

 

 

 

 

偉大なる航路、新世界〝ウーシオ島〟

 

 

 

「ウォロロロロロロッ!!オラァッッ!!」

 

 

ギギイィィィッッ!?

 

 

ウーシオ島地下深く、太陽の光も届かない暗い暗い地の底で1人の大男が吼える。

対峙するのは巨大な〝蟹〟だった、だがその手先に鋏は無く、代わりに槍のように伸びた鋭利で大きな爪が付いていて、爪先から青白い電光が走っている。

蟹は威嚇する様に爪をすり合わせ、その頭上に電気の塊を創り出すと高速で近寄り、躊躇いなく大男へと電気の塊を炸裂させた。

 

飛び散る電光、普通の人間ならば黒焦げになる様な威力の攻撃。だが大男はピンピンしている。

 

 

「効かねぇなァ……アイツの一撃に比べりゃこんなモン蚊が刺したみてぇだぜッッ!!」

 

 

大男はその丸太のような腕を振るい蟹の甲羅を殴りつける。数発叩かれた後、蟹は逃げる様に地面の中へと潜り込んだ。

 

 

「野郎逃げやがった……いや、違うなァ。」

 

 

束の間の静寂、そしてそれは高速で背後からやって来る。

 

 

「後かァ!!」

 

 

潜った蟹はそのまま地面を掘り進み、男の背後へ回り込んでいた。

そして電気を纏い、弾丸の如く勢いで彼へと突撃したのだ。

 

男は振り向きはしたものの回避が間に合わず、そのどてっ腹に攻撃を受けることになる。

 

自分をここまで追い詰めた敵もこの技で屠ってきた、今までの経験則から腹は紙のように突き破られ、男は絶命する…と蟹は己の勝利を確信していた、そうなるはずだった。

 

だがそうはならなかった

 

 

黒く変色した男の腹は鉄の様に…いやそれ以上の硬度をもって蟹の一撃を受け止め、完全に威力を殺してしまっていた。

男はニヤリと笑い、そのまま蟹の両爪を掴んで握り潰す。バキバキと爪が割れていく音と蟹の悲鳴が谺響した。

 

 

「駄目だ…やっぱりテメェの一撃は軽い、来世から出直して来いッッ!!」

 

 

蟹の顔面に巨腕が振り下ろされる

 

 

島全体が揺れ、蟹は思い切り地面に叩き付けられた。蜘蛛の巣状に地面へ亀裂が走りその一撃の重さを物語る。

自慢の甲羅はグシャグシャに割られ、蟹はその命を絶たれた。

 

 

「カイドウ様!カイドウ様あ〜!」

 

 

戦闘が終わり、彼が一息吐いていた時に部下の海賊が走ってやってくる。

 

 

「おう、今終わったトコだ。

今日の晩飯はコイツを茹でて食うぞ!料理長に伝えとけ。」

 

 

「げえっ!?でっけー蟹だァ…それよりもカイドウ様!

例の情報、挙がりました!

大将白蛇は三日後、新世界のクモミ島にやって来ます!なんでも小さい翼竜が群れを成して現れたとかで、その討伐に!」

 

 

「何ィ!?ホントかァッ!!

ウォロロロロロロッ、そうかそうか…待ってろよ白蛇ィ。未来の旦那が会いに行くぜェ!」

 

 

そう呟いて男は、カイドウは笑う。

 

初めて彼は女に負けた。

それから彼はハンマーでガツンと殴られたかのような大きな衝撃が身を震わせ、いてもたってもいられなくなる。今すぐあの女を自分の虜にしたくなる。

あの時からパッタリと消息が途切れていたが部下に張らせた情報網を使ってやっと位置が割り出せた。

 

 

彼は海賊、欲しい者は力づくで手に入れる。

 

 

 

それが誰であっても、どんな存在でも

 

例え海軍大将であっても

 

彼は止まらない

 

 

だって『恋はいつでもハリケーン』だもの




七武海が増えたよ!やったねミラたん!
そしてテリジアの家族が(話だけ)登場、その内出ます。能力者ですが龍ではないです。

過去編はオリ話多いです、原作が乖離しがちで申し訳ない。七武海を揃えたら原作時間に突入したいなあ…気長に待って頂ければ幸いです。



次回、岩の玉座に座する者、クモミ島の戦い


10月22日更新…進捗60%位です、仕事がッ!!仕事がッ!!


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28 祖龍(モドキ)、同類と戦う 前


久しぶりの投稿、失踪すると思った?
残念、獣だよ!

いやホント遅れてスンマセン、上司が入れ替わる時期に連絡が滞るっていう悪夢が現実のものとなってました。
ホウレンソウのおひたしは大事、ハッキリ分かんだね。

そんな訳で遅ればせながら祖龍28話です、書いたら長過ぎたので前後編に訳て投稿します。
後編も完成してるので週末には投稿します、嘘じゃ無いゾ?本当だゾ?


いつも通り文章能力皆無のガバガバおじさんですので宜しく






『端的に言おう、助けて欲しい。』

 

 

オッスオラ祖龍!

今日も元気に海軍中将やってんだけど原作通り蛇姫を七武海に加入させたと思ったら五老星から電話が掛かってきて、「助けて欲しい」と言われちまった!オラァワクワクすっ……しねえよ。

 

五老星から電話が掛かって来ること自体ろくな事じゃないってのに救援要請とか、絶対不吉の前触れじゃん。災難フルスロットルじゃん。

 

「この死に急ぎ野郎がァ!」って罵倒されちまうよ

 

 

 

「…嫌な予感しかしないが一応話だけ聞いてやろう。」

 

 

『新世界に派遣していた諜報員からの報告だ、クモミ島と呼ばれる島に突然小型の翼竜が群れを成して現れた。

翼竜は肉食で海岸付近の街を荒らし周り島民が半分程居なくなってしまう事態が起きている、君に心当たりは?』

 

 

「検討もつかんな。新世界なんだ、野生の翼竜くらいいるもんだろ?」

 

 

『新世界もそこまで未知ではないよ、それに翼竜は先日突然現れたそうだ。

最後の報告では小型の翼竜達の中に一際大きな龍の姿も確認された、恐らくそれが元凶だろう。

政府はこれを秘密裏に処理しなくてはならない、そこで君の力を借りたい。』

 

 

『最後の報告』って…てことはクモミ島にいた諜報員くんはモグモグされたってことか?

次は龍討伐ですか、忙しいなあ。

海軍の主要な戦力は出払っているらしい、センゴクさんも表面上はたった1人の大将なので席を空けることは出来ず。そこで影の大将白蛇の出番と言うわけだ。

 

 

「龍関係なら私が出ない訳にはいかないか……で?そっちで用意できる戦力はどれ位だ。

私が親玉を倒しても翼竜を掃討するのには頭数が足りんぞ。」

 

 

『センゴク以外の戦力なら誰を連れ出しても構わない、空いた穴は我々でどうにかしよう。』

 

 

「ほお…そうか、なら()()()()()()()()()()()()()

連れ出す中将なんだが…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………そうか、では。」

 

 

ガチャリと電伝虫の受話器を下ろす老人、その表情には安堵の色が見える。

 

 

「どうかね、結果の程は。」

 

 

「かなり渋るかと思ったが…思ったよりも快く引き受けてくれた。中将を数人引き連れて向かってくれるそうだ。」

 

 

その言葉に部屋に居た他の四人も安堵混じりの溜息を吐く。

此処はマリージョア、五老星の間。文字通り世界を動かす最前線に彼等は居る。

 

 

「突然の凶報に一時は肝を冷やしたが…彼女が動いてくれるのなら問題あるまい。我々はいつも通り隠蔽工作の準備を整えよう、差し当たり避難民の処理だが…」

 

 

「『処理』では駄目だろう。彼女なら世界の秘密、その一端を目撃してしまった者を我々がどうするかなどお見通しだ。

彼等を生かした上で『隠す』のが肝要となるのではないか?」

 

五老星達は竜の出現にあたり、不幸にもその場に居合わせた一般人の処遇をどうするかを話し合う。

当初ならば秘密を知ってしまった者達は皆、例え生きてクモミ島を脱出出来たとしても後に〝不幸な事故〟で処分されるのだが今回は勝手が違う。

大将白蛇、すなわち祖龍自らが彼等を救うと言っているのだ。それを裏切っては祖龍からの反感を買う可能性がある、あまつさえ今まで築き上げてきた祖龍との友好関係をぶち壊しかねない。

 

「これも我々に対する彼女の期待、という事だな…。

よろしい、避難民達を生かした上で自由も与えられる方法を考えよう。

彼女の目論見に乗ろうじゃないか。」

 

 

5人は頷き、再び熱い議論を交わす。

 

 

此処は世界の行く末を左右する場、大将白蛇…祖龍ミラルーツの期待に応えるため、今日も五老星は知恵を絞る。

 

 

 

 

………まあ当の本人にはそんな期待を掛ける気も深い目論見も全く無いわけだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やぁっとワシ等の出番と言うわけじゃあっっ!!!」

 

 

「んん〜?どこに向かって叫んでるんですかいガープ中将。」

 

 

ガープ中将が明後日の方向に向かって叫んでるが気にしない気にしない。

 

さて、此処は俺氏の船長を務めるパドルシップの中。

会議室には少数の部下と俺、レム、イルミーナ、テリジア、ガスパーデ、そして本部から救援要請して来てもらったガープ中将、そしてボルサリーノ中将もいる。

クモミ島に現れたらしい小型翼竜の群れは島の中心部、大昔に使われていた砦を中心に旋回を続けていると五老星から報告があった。

島に着いたら残ってる島民を救助用の軍艦に逃がしつつ海兵達に小物の相手をさせてる間に俺が親玉を倒す。

ガープ中将には軍艦の護衛を頼む事にした。こんな初老の爺さんだが『海軍の英雄』と呼ばれた男だ、二対一とはいえ俺(祖龍)と対等に渡り合ったのなら翼竜くらい屁でもないだろう。

それに島民の目がガープ中将の方へ向いてくれれば影で俺も動きやすいからネ。

 

 

今回の事件は全て『英雄』が解決した事になる、それでいいのだ。

 

 

「では作戦概要は今伝えた通りです、ガープ中将とボルサリーノ中将は避難船の護衛を。

イルミーナとテリジアはガスパーデ達と一緒に逃げ遅れた避難民の捜索、私とレムで件の元凶を叩く。

避難船の指揮と手配はゾルダンに任せてあります。

何か質問は?」

 

 

「オ〜、ちょっといいかい?」

 

 

ゆるゆると手を挙げたのはボルサリーノ中将だ。

ホントはタイヨウの海賊団追いかけるので忙しい筈だけど招集に応じてくれたのは有難いっす、天竜人関係の仕事が俺に回ってこないようボルサリーノ中将が一手に引き受けてくれてるもんね。

全部終わったらステラと感謝のバケツプリンを作って届けに行こう。

 

 

「島民を救うのはいいとしてェ、あっしらがこれから敵にするのは一体『何者』なんだい?

海賊じゃァないんだよねェ?」

 

 

「なんじゃボルサリーノ、そんな事も知らんかったのか!

ワシらがこれから戦うのはのォ……アレじゃ!……空飛ぶトカゲじゃ!!」

 

 

ガープ中将ニアミス

 

 

「翼竜ですボルサリーノ中将。

空を飛び、数百メートル程なら沖にまで出てくるでしょう。連中は肉食らしく既に政府の諜報員含め島民の半分以上が犠牲になりました。」

 

 

ゴクリと部下達の喉が鳴る。

残酷な事だが既に犠牲が出た後なのだ、もはや一刻の猶予も無い。

 

 

「オォ〜そりゃァ…突飛な話だァ…。」

 

 

「故に広範囲を狙い撃ちできる貴方を呼んだ次第です、空を飛ばれていては他に銃弾位しか届きそうに無いですからね。」

 

 

「期待されちゃってるねェ〜。

ま、失望されん程度には頑張りますよォ。」

 

 

ボルサリーノ中将が居れば対空射撃は問題ないだろう、俺も安心して親玉をボコせるというものよ。ふはは。

さて、島には何人生き残りがいるんですかね。人数によっちゃ避難船が足りなくなるかもしれないが……全滅とかしてないよね?

五老星共は「島ごと消した方が効率的」とか言うだろうがクモミ島の島民達はオハラの時のように犯罪者な訳でもないし、なら一般人は助けなきゃ『人間』らしくないよな。俺たち正義の海軍だモン。

 

 

じゃあカッコよく倒してカッコよく島を救いましょ

 

 

 

………………………………

 

 

 

軍艦と避難船はクモミ島近海に到着、そこで出迎えてくれたのは数百を超える大人1人分位の大きさのある翼竜の群れだった。

いや、蛇竜って言った方が正しいかな?

こいつら見覚えあるぞ…確かガブラスの色違い、衛蛇竜エギュラスだ!

どいつも身体に薄く赤みがかったオーラを纏って敵意剥き出し、今にも襲いかかって……うわこっち見るなり吠えながら一斉に突っ込んできた!岸まで来させない気か!?

 

 

「おお空飛ぶトカゲじゃ!珍しいモン見たのう。

やるぞボルサリーノ、ぴかっとせい!」

 

 

「了解ですよォ〜、『八尺勾玉』ァ」

 

 

「拳骨メテオォッ!!」

 

 

甲板へ出たボルサリーノ中将の指先から迸る高密度の光の束が次々とエギュラス達を射抜いてく。続くようにガープ中将も砲弾をオーバースローでぶん投げ、直撃させていた。

毎度思うが能力者のボルサリーノ中将はともかく生身で砲弾投げるガープ爺さんは人間辞めてるよね。

 

島へ近付くほど激しく四方八方から迫る蛇竜の群れを蹴散らしながらどうにか避難船を島の港へ接舷させた。

思いのほか生き残りは多い様で助けが来たと気づいた島民達は我先にと港へ集結してくる。

 

 

「避難民に乗せる順番は高齢の者、怪我人、子供が優先だ!

医療班は薬と包帯をありったけ持って来い!

ではミラ中将、後は自分にお任せを。」

 

 

「ああ、指揮は頼むぞゾルダン。

ガープ中将、ボルサリーノ中将、後は任せます。」

 

 

「おう、任せい!」 「程々にねェ〜。」

 

 

避難民が押し寄せたら此処は大混乱になる、そうなる前に俺は狼化したイルミーナの背中に乗り、レム、テリジアと共に一足先にクモミ島へと足を踏み入れた。

 

 

 

……………

 

 

 

島の中心部、石造りの大きな砦がそびえ立つ付近で俺とレムはイルミーナから降りた。

 

イルミーナとテリジアにはこれからガスパーデと合流して逃げ遅れた避難民の捜索に当たってもらう、鼻のきくイルミーナなら探すのも簡単だろう。

 

 

「じゃあ2人は戻って島民の捜索を宜しく、なるべく砦内で戦闘するつもりだが…最悪被害が島全体に拡散するかもしれん。

状況を見て島から避難するように。」

 

 

「かしこまりました」 「うん」

 

 

「よし行け。

全員は無理でいい、一人でも多く救ってこい。

頼んだぞ。」

 

 

イルミーナの頭を軽く撫で、レムと一緒に正面から砦の内部へと堂々侵入。

 

 

かなり古い砦みたいだが建物はしっかりしていて頑丈そうだ、少しくらい無茶してもびくともしないだろう。

エギュラスは相変わらず砦付近を旋回し、こちらを襲ってくる様子はない。が、なんかじっとこっち見てる気がする。

 

衞蛇竜エギュラス…MHFなら主人から命令されるまで襲ってこない臆病な性格の竜種なんだけど…ということはアレか。

 

エギュラスが居るということはアイツがてっぺんにいるのかね

 

 

「なあレム、お前はあの蛇竜見た事あるか?」

 

 

「……不明。ワタシはあの監獄に入る前も一つの部屋に閉じ込もっていたから、要は世間知らず。

記憶は曖昧だけどこの世界は元いた世界とは空気が違う。

言葉に表すと…い、磯臭い…?だと思う。」

 

 

「そりゃ周りが海だからだろ。」

 

 

「肯定。以前まで海は殆ど見たことが無かった。」

 

 

天廊の番人だもんね、あの部屋から出ることなんて殆どないだろう。

…でも確かあいつの登場シーン上から降ってきたよね?

留守狙われたらそりゃ怒るわ、おのれハンター。

祖龍にしてもそうだがあの世界じゃ人の住めない極地に生息してる龍多いから世間知らずにもなるよね、きっとこの砦の上のアイツもこっちの世界の事情なんて分からないまま居るんだろう。

 

 

「それと前に話したが、龍の姿には戻れる様になったか?」

 

 

「…まだ、そもそも戻り方が分からない。むしろ自在に姿を変えられるミラの方が不思議。」

 

 

「まあ私は祖龍だからな」

 

俺氏一応伝説の中のさらに伝説やし?

ハンターは当たり前のように集団でボコしてくるけど全ての龍の祖とか言われてる存在やし?

今更だけどなんでもありかよ俺。

 

 

「それに…もし元の身体に戻れたとしても…ワタシはこっちの方がいい。少し窮屈だけど動きやすいし人間達に馴染みやすい。

ワタシはこの姿が結構気に入っている、飛べないのは不便だけど…」

 

 

「お前が納得してるならいいが…」

 

 

なんて思っているうちに砦の内部を抜け、広い空間に出た。ここが砦の頂上みたいだ。

まるで雲を見下ろすように高い砦、話じゃこの島の古代人達が島を守る為に建築したらしい。その砦に住み着いた龍が島民を襲うとかなんて皮肉だ。

その奥、頂上を飛び交うエギュラス達の先にアイツはいた。

 

 

全身は漆黒の竜鱗に覆われ、その頭部には王冠のように見える角が生えている。翼も巨大で翼膜には燃え盛る炎の様な紅白の模様、その姿は例え寝ていてもあの蛇竜達を従える『王』としての威厳が感じられた。

そう、『帝征龍グァンゾルム』。それがコイツの名前。

その姿は王道な西洋の龍をモチーフにして生まれたとか、さらに討伐に向かったハンター達も「無事に帰ってきた者はいない」と言われるほど危険な古龍だ。

 

 

「…グァンゾルム、か。

エギュラスがいた時点でなんとなく察しはついていたが…」

 

 

「ワタシとミラ以外の『龍』を見るのは初めて…興味深い。」

 

 

レムは自分以外の龍に興味津々だがそう安心してはいられない、俺達はもう奴のテリトリーを侵している。見た目からしてプライドの高そうな龍だ、自分の傍に異物がいると分かったら……ホラ起きた。

 

グァンゾルムは俺達に気付いたのかムクリとその巨体を起こし、その瞳で鋭くこちらを睨み付けた。

普通なら竦み上がる所だが、祖龍にゃ通じませんねえ。

 

 

「ああ帝征龍、ナワバリに土足で踏み入ったことは謝ろう。

けど()()()じゃ()()()と勝手が違うんだ、大人しく話合いをして欲しいんだが……駄目みたいだな。」

 

 

ワンチャン話が通じるかな?とか思った俺が馬鹿でした、グァンゾルムはグルルと牙を剥き明らかに戦闘態勢。

口から炎が漏れてる、こりゃ無理だ。

 

 

「やはり戦闘は避けられんな。レムは後ろで私とグァンゾルムの攻撃が街の方へ届かないようにどうにかカバーしてくれ。

世間知らずのグァンゾルムに礼儀を教えてや…る…?なんだアレは……?」

 

 

いいながら思わず上を見上げてしまった。

何かが空から堕ちてきてる、大きさはそうでもないが…一体何g「ウォロロロロロロロロロロロッッ!!」

 

……聞かなかった事にしたい

 

 

 

ズドオオオオオオンッ!!!

 

 

 

鳥だ!猫だ!タコ焼きだ!いや…海賊だ……

 

 

上空から落下してきたソレはグァンゾルムと俺達の間の地面に着地…もとい激突し勢い良く土煙が上がる。

 

もうもうと立ち込める土煙の中から現れたのは…

 

 

「ウォロロロロロロロッ!!

久し振りだな白蛇ィィッ!!」

 

 

何故かテンションMAXの四皇カイドウだった。

ファッキン……災難は今回もフルスロットルみたいだ。

 

 

「oh......」

 

 

「……誰?」

 

 

絶望に浸る俺の横でキョトンとしているレム。そうか、俺がカイドウを追っ払った時はレムはまだインペルダウンの中だったね。ということはレムはカイドウ初見だ。別にこんな奴と関わる必要無いと思うケド…

こんな奴、とは酷い言いようだが目の前の男は酒の勢いで海軍本部に特攻仕掛けてくる旧日本軍も真っ青なバンザイ精神を持つ奴だ。

海軍本部にはその昔、海賊王の死後猿じゃない方の『金獅子』が攻め込んできたとセンゴクさんがため息交じりに言っていたが……聞けばカイドウはどうしようもない破滅願望を持った狂人らしい、そんな奴と関わってるとロクな事にならないのが目に見えてるよネ。

 

 

カイドウは起き上がるなり俺を見て嗤う、俺は何が何だかさっぱりぱーですよ。急に天から降ってきたんだもん。

 

 

「やぁっと見っけたぜ…お前を見つける度に新世界中に情報網を張ってたのによォ。寝ても覚めてもその姿どころか目撃情報すら影も形も無ェじゃねえか、俺ァ寂しくてよォ。

未来の嫁が一体何処ほっつき歩いてたんだァ?」

 

 

「……オイ、私はお前の嫁になった記憶はこれっぽっちも無いぞ。

いや待てそれ以前に新世界中を探し回ってたのか?ストーカーか貴様。」

 

 

い、色々あり過ぎて整理が追いつかないぞ。

よ…嫁?俺は男だ…いや姿は女だった…

そもそも龍なんだから嫁もクソも無いよね?

 

 

「俺ァお前に負けたあの日からずっと、お前を俺の(もん)にしてぇと考えてたんだ……念願叶ってやっと見つけたぜェ、さあ白蛇ィ!俺と結婚しろォ!!!」

 

 

「断固断るッッ!!」

 

即☆答

 

 

あ、カイドウ信じられないみたいな顔してる。いや当然ですがな。

 

 

「何故だァ!?…指南役のジンラミーには『ストレートに想いを伝えればいい』って教えられたのに…」

 

 

まだ見ぬ指南役ジンラミーさん、要らんこと教えんといて下さい。お陰で俺氏大迷惑被ってます。

 

 

「いきなりやって来て結婚しろとか貴様…時と場所を弁えろ!今はそれどころじゃ『グオオオオオオオッ』ッ!?」

 

 

おバカなやり取りを静観していたグァンゾルムが突然大きく吠え、上空へ飛び上がる。すると砦周辺のエギュラス達が取り囲む様に飛び回り始めた…不味いこれは!

 

 

「『出荷』されるぞ!避けろレムッ!」

 

 

「?了承」

 

 

エギュラス達は砦の四方から一斉にこちらへ向かってダイブ、何かとこちらの背後を取るように飛び掛かる。

このモーションはかの有名な『出荷』だ!グァンゾルムがエギュラス達に命じ、ハンターを掴んで砦の外まで放り出す即死技。

原作ならば防御不能、触れれば即乙確定という非常に悪質な技である!

 

てか明らかにエギュラスの数多い!

原作より凶悪になっとる!

 

 

「掴まれて砦の外まで放り出されるぞ!

おいカイドウ!お前も巻き込まれたなら仕方ない、絶対に飛んでくる蛇竜には当たるな……「うぉッ!?何しやがる!!?離せコラ…あああああぁぁぁぁぁ…」ちょっとーッッ!?!?」

 

言ってるそばからカイドウが数匹のエギュラスに掴まれて放り出されたアアアアアッ!!

高い高い砦のてっぺんから放り出されればまず命は助からない、が…よく考えたらカイドウならピンピンしてそうだし大丈夫…かな?

 

 

「あ の 男 は!ホントにもうまったく!

レム、埒が明かん。エギュラスを凍り付かせて始末しろ!」

 

 

「容易、許容も無く慈悲も無く。」

 

 

「よしやれ!」

 

 

「簡易絶凍瞬間冷却(フリーズドライ)、15%…」

 

 

ふわりと優しい風が吹き抜けた次の瞬間、さっきまで空中を飛び回っていたエギュラス達は次々に氷像に変わっていき、浮力を失ったそれは雨のように砦に降り注ぎ落下の衝撃でバラバラに砕け散った。

 

 

「…上手く加減できた?」

 

 

「ああ、やっと静かになったな。」

 

 

空から降ってくるエギュラス達の凍った亡骸を払いながらほっと一安心、これで即死技は回避した…

嫌な思い出しか無いんだよなアレ…

 

再び龍の咆哮が砦に響く、部下を殺されいよいよ本気を出したのか赤黒い炎を纏いながらグァンゾルムが急降下して降ってきた。

カイドウもいなくなったし、これで存分に戦えるかな?

 

 

「邪魔者は消えた事だし、そろそろ私の説得(物理)を始めようか。私は少しばかり手荒いぞ?」

 

 

正直言おう、グァンゾルムは間違いなく強い。

原作通りなら俺氏やレムもそうだが恐らくこの世界(ワンピース)ではかなり過剰な力を持ってるハズだ。

きっとこのまま放っておいたらひとつなぎの大秘宝どころの騒ぎじゃ無くなってしまうだろう、それは原作崩壊に繋がってしまうので転生者的にマズイ。

だからコイツを止めなきゃ、殺害(討伐)か…降伏か…(簡単に従ってくれるとは思えないが)どちらにしても激戦必死、まあ俺氏は祖龍だしどうにでもなるが…下で戦ってるガープ爺さんやイルミーナ達にまで被害を出さないように注意しないとな。

 

 

「これが最後の警告だ、龍を統べる王。こっちは向こう程好き勝手にはやらせてくれんぞ。

私が導いてやる、今大人しく降伏するなら悪いようにはしない。」

 

 

俺の最終警告にもグァンゾルムは敵意剥き出しの咆哮で応えた、ならば致し方なし。

 

 

 

 

ざわりと俺の身体が大きくなっていくのを感じる。肌は純白の鱗に覆われ、背中からは二本の巨大な翼がそそり立ち広げる度に大きく風が吹き荒れた。

丸太のように太い尻尾も生えてきてグァンゾルムを見下ろすくらい高い位置に視点が伸びる。

 

ここにはもう海軍中将ミラの姿は無い。居るのは伝説の中の伝説、真なる祖龍ミラルーツだ。

この姿に戻る度にやっぱ自分は人間じゃないんだな〜としみじみ思う。

どれだけ人の姿を象って交じっても俺の根本はこちらなのだ、元人間として少しは思う事くらいあるさ。

けどこの姿のお陰でこうしてグァンゾルムを止められるんだから、感謝してるゾ?本当だゾ?

 

ミラルーツを見た途端、少しだけグァンゾルムがたじろいだように見えた気がしたが直ぐに立て直し白亜の巨龍を睨み返した。

 

 

『我が真の姿を見ても尚牙を剥くか帝征龍、その意気や良し。

だが…所詮伝説止まりの貴様では我は超えられん、己の全力を賭して挑むがいい。』

 

 

祖龍特有の甲高い咆哮の後風が勢いよく吹き荒れる、空には暗雲が立ち込め空気がピリリと引き攣るようだ。

祖龍モードで口調(フィルター)も絶好調でございます、じゃあそろそろ…

 

井の中の(カエル)に外の世界の厳しさを教えてあげましょう

 







基本的に五老星はミラの言ったことを深読みする担当です

冒頭にも言いましたが後編は週末辺りに更新します!嘘じゃ無いです!……多分


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29 祖龍(モドキ)、同類と戦う 後

後編をシュウウウウッ!!

超展開注意!
仕事が年末攻勢に入るので次の更新が不安です、活動報告を使って進捗など報告できたらと思っております。





クモミ砦を中心に暗雲が島を覆い、雷鳴が港にまで谺響する。

エギュラス達は自身の主が狂王と化したことで命の危機を察したのか砦を離れ、一斉に飛び去っていった。

 

一方その頃、エギュラスに投げ飛ばされたカイドウはというと。

クモミ砦の頂上はかなり高い位置にある、そこから放り出されたのならば大概の人間は地面に激突した衝撃で死亡する。

ただ今回放り投げられたのは普通ではない、他ならぬ四皇カイドウだった。

 

 

「おおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉ……」

 

 

ハートブレイクの四皇カイドウ、只今絶賛自由落下中

 

 

 

クモミ島、港町付近

エギュラス達の襲撃を受け壊滅状態となった港町は元の喧騒は見る影もなく、人っ子1人居ない有様だった。

空飛ぶ肉食竜が突然空から群れをなして襲撃してくればパニックにならない方がおかしいというもの、住民達は我先にと逃げ惑いその結果逃げ遅れた者がチラホラと路地裏や建物の中に残っている。

 

 

「お兄ちゃん、怖いよう…」

 

 

「何言ってんだよ!早くここから逃げるんだ!港まで走れば避難船が出てるって逃げてる奴ら言ってただろ?」

 

 

「でも…まだ外には怖いのがいるよぅ…うぇぇ…神様ぁ、たすけてぇ…」

 

 

涙ぐむ少女の足は竦み、とても歩ける状況ではない。

この2人の兄妹もまた、逃げ遅れた避難民の一角だ。蛇竜に見つからぬようコソコソと隠れながら移動してはいるものの、未だ港までは距離がある。

 

 

「泣くなよ、あと何でもかんでもカミサマに祈る癖やめろ!怖い奴くらいオレが倒してやる、だから歩いて『キシャアアアアアッ!!!』やべっ!見つかった!」

 

 

大半のエギュラスは激しい戦闘を繰り広げる港の避難船に群がっていた、しかしごく少数の賢い個体は避難船を狙うよりこちらを狙った方が楽をして餌が手に入るという事を知り、反転して港町へと舞い戻っていた。

少年は傍にあった鉄パイプをつかみ取り、妹を後ろに下がらせ距離を置く。

舞い降りたエギュラスは獲物を前に舌なめずりする様に下品に涎を垂らしながら目の前の()を睨み付けた。

 

エギュラスは小型の飛竜ではあるが、それでも大の大人を一人掴んで投げ飛ばす位の筋力は持ち合わせている。子供など一人二人引きちぎる事くらい造作もないだろう。

少年は家族を守る為勇気を振り絞り、蛇竜に立ち向う。それを嘲笑うかのようにエギュラスは一歩、また一歩とジリジリ距離を詰めていった。

 

シャアアアアアッッ!!

 

蛇のような鋭い咆哮と共にエギュラスが2人に襲いかかろうとした瞬間

 

 

月霊銀杭(ヴォールメン・シルヴェスターク)ッ!!」

 

 

女性の叫び声が響き、頭上から降り注いだ4本の大きな銀の杭がエギュラスの身体を地面に縫い付ける。

そのうちの1本は頭を貫通し、エギュラスの生命活動は完全に停止した。

唖然とする二人の前に現れたのは巨大な狼とそれに跨るメイド姿の女性。メイドは笑顔で手を差し伸べ、こう言った。

 

 

「救いの女神、参上ですわ♪」

 

 

 

………………

 

 

 

「Dブロックに子供2人発見ですわ、至急回収班を寄越して下さいまし。

はい?他の五箇所に人員を割いてるから無理…?

なら貴方1人でも来なさいガスパーデ!それでも誇り高きお姉様の下僕ですか!」

 

 

『高きも低きもあるかボケ!

お前が指定した場所は俺達の居る場所の反対側なんだ!どう考えてもお前達が避難船に送った方が早いだろ!

こっちも人手不足で一杯一杯なんだ、周囲に他の避難民がいないか確認したらとっとと連れてこい!』

 

 

乱暴に通話は切れ、自称救いの女神は軽く舌打ちをした。

 

 

「ちっ、使えない下僕ですわね…

仕方ありませんわ。イルミたんこの子達を乗せて一旦避難船へ向かいますわよ。」

 

 

『うん』

 

 

狼が喋ったのに驚いたのか2人はびくっと肩を揺らす

 

 

「安心して下さいまし、貴方達を助けに来たんですの。御両親はどちらに?」

 

 

「お母さんは病気でお家から出られないの……おとうさんは…怖いのに食べられちゃった、私達を逃がそうとして…」

 

 

今にも泣き出しそうな妹と俯く兄をテリジアは優しく抱き寄せる。

彼等はこの絶望的な状況の中を生き延びたのだ、そして偶然自分達に出会い命を救われた。

『命』を『運ぶ』、まさに運命とはよく言ったもの、この兄妹もまた奇跡のような運命に生かされていた。

 

 

「御父様はご立派な方ですわ、誇りに思いなさい。

お母様の所へ案内して下さい、病人に鞭を打つようで申し訳ありませんが三人纏めて避難船までお送りします。」

 

 

笑ってテリジアは伸ばした流体金属で兄妹を包み、イルミーナの背中へと乗せる。

 

 

「わあ、もふもふ…」

 

 

「しっかり掴まってなさいな、案内頼みますわよ。全速力で参りますわイルミたん!」

 

 

『りょーかいッ…!!』

 

 

狼はその巨体に似合わぬ瞬足で街道を駆け抜け兄妹の母親が待つ家まで疾駆した。

 

 

 

 

 

クモミ島港付近

 

 

「互いの死角を補い合う様に立ち回れ、背後を突かれれば命はないぞ!

避難民の収容はどれ位進んでいる?」

 

 

「ハッ!三隻目が避難民で満員になっております。この調子で収容すれば予定人数を超過する可能性も…」

 

 

「なら軍艦に何人か乗せられるはずだ。予め中将殿には許可を得てあるから200人程度ならこちらに移せ!」

 

 

海兵たちが忙しなく走り回り、所々で銃声と怒声が響く。

空から襲い来るエギュラス達は何故か島の中央付近が雲に覆われた途端こちらに数が増えだした、まるで何かを恐れるかのように島の中心部から遠ざかっているのを見てガープは首を傾げる。

 

 

「おおいゾルダン!敵の増援じゃ、まだまだ増えるぞ!

総員、此処が踏ん張りどころじゃあ!根性見せいッ!」

 

 

「「「「ウオオオオオオオッ!!」」」」

 

 

持久戦に持ち込まれても未だ士気は高く、ガープの言葉に吠える海兵達。

これも〝英雄〟の成せる技だろう。

伝説の海兵が共に戦っているという事実は海兵達に大きな勇気を与えていた。

 

 

「んん〜…空が曇り出してから一気に数が増えたねェ〜。

こいつぁ嫌な予感がするよォ…」

 

 

「そうじゃの、コイツ等もまるで恐ろしいものから逃げるみたいにやってきよる。

……………ん?んんん!?なんじゃアリャ?」

 

 

「どうしたんですかいガープ中将、空になにか………なんだァありゃあ?」

 

 

雲行きを見たガープとボルサリーノの見つめる先、曇天の向こうから小さな点のようなものが近付いてくる。

それはみるみるうちに大きくなって港町の倉庫の一つヘ大きな音を響かせながら着弾した。

幸い人的被害は無かったが突然の出来事に皆驚きを隠せない。

 

 

「おい、なんか降ってきたぞ!

面白そうじゃからちょっと確認しに行ってくる。対空任せた!」

 

 

「ちょっ?マジですかいガープ中将ォ…

こりゃミラちゃんにプリン上乗せだねェ〜。」

 

 

謎の落下物に興味を惹かれたガープはボルサリーノに仕事を押し付け倉庫の方へと走って行ってしまった。

 

 

 

………

 

 

 

衝撃で歪んだ扉をこじ開けてガープは倉庫内部へ足を踏み入れた。

もうもうと立ち込める土埃のなかにうっすらと巨大なシルエットが浮かぶ。

 

 

「?はて、どっかで見た事あるシルエットじゃのう…おーい、大丈夫かー?」

 

 

「その声…聞き覚えあるなァ。」

 

 

「ッッッ!?貴様は…!」

 

 

ガープは落ちてきたそれの正体を理解すると咄嗟に距離をとった。

嘗て海賊王だったあの男と同じ時代に生きた豪傑の声なら何度も聞いた、忘れたくても忘れられるものか。

 

 

「カイドウ…ッ!!何故キサマがこの島に…」

 

 

「んんん…懐かしい声がすると思ったらガープのジジイじゃねえか。

いや、今はテメェとの因縁なんぞ後回しだ。俺ァ砦に戻らなきゃあ…」

 

 

頭をボリボリ掻きながらカイドウはボヤく。砦の上からここまで落下してきたというのに随分元気な事だ、ミラの予想通りカイドウはピンピンしている。

 

 

「砦にじゃとう…?彼処にはミラがおるはずじゃが…まさかキサマ、ミラにちょっかいをかける気か!」

 

 

「ミラ?アイツの名前はミラって言うのか。

ちょっかいじゃねえ、俺ァミラと結婚すんだよ!」

 

 

「んじゃとコラアアアアアッ!!!」

 

 

叫んだガープがカイドウに殴り掛かる、流石にカイドウもガープの攻撃は無視出来ないらしく腕をクロスさせてガードした。

 

 

「ミラと結婚…じゃと…?

巫山戯るなカイドウッ!ミラはワシの娘の様なもの…よりにもよってキサマなんぞにくれてやるものかァ!!死ねェッ!!」

 

 

「マジか!ジジイがミラの親だったんか!?

お義父さん、娘さんを俺に下さい!」

 

 

「お義父さんなどと気安く呼ぶなァ殺すぞ!ていうか殺すッ!!」

 

 

今日一番のガープ怒りの鉄拳がカイドウに降り掛かる、衝撃で古倉庫はバラバラに吹き飛んだ。

海賊時代を生き抜いた二人の戦闘は凄まじく、港の倉庫群を破壊しながら蛇竜そっちのけで街を吹き飛ばしていく。

そんな様子を上空から眺める狼とそれに乗る男女が4人。

 

 

「…なーにやってるんですの。」

 

 

『はやくこの子達つれていこ』

 

 

蛇竜も恐れて近寄らない程派手な戦闘を繰り広げる2人を避けてイルミーナ達は無事母親と子供2人を避難船へと送り届けることができましたとさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ボルサリーノ中将、ご報告致します!

先ほど倉庫街に様子を見に行ったガープ中将が戦闘を繰り広げており街に甚大な被害が…」

 

 

「ガープ中将が戦闘ォ〜?一体誰と戦ってるんだい?」

 

 

「そ、それが…確認した者の言が正しければ四皇カイドウとのことでして…。

何やら言い争いをした後ガープ中将が凄まじい剣幕で殴り掛かり戦闘に発展したと。」

 

 

「オォ〜カイドウとはまたけったいな…ミラちゃんに報復でもしに来たのかね。

まァ中将が出張ってるのならあっしらは護衛に専念しようかねェ、化物の相手は英雄の仕事だよォ。」

 

 

「はっ!!」

 

 

タダでさえ混戦を極めるこの戦場に四皇が現れたら一体どうなるかは火を見るより明らか、そう判断したボルサリーノはひとまず二人の戦いは静観する事に決めた。

ボルサリーノは暗雲渦巻くクモミ砦を見上げながら呟く。

 

「ミラちゃん派手にやってるねェ〜、後で隠蔽する爺様がたも大変だァ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

雷鳴轟き、黒炎が踊る、時折響く龍の咆哮が砦を揺らし震える空。

クモミ砦の頂上は最早人間の踏み入ることの出来ぬ地獄と化していた。

ミラルーツ()が吠える度天から紅雷が雨あられと降り注ぎ、負けじとグァンゾルムの吐き出す黒炎が空気を焦がす。

 

これが龍同士の戦い、決して人の踏み入れられない超常の風景が巻き起こっている。正直コレに割り込めるのはハンター位のものだろう、何度も言うが連中人間辞めてるし。

 

おっとまたブレス。口に炎を溜め、うち下ろす様に叩きつけた黒い炎の塊が着弾と同時に炸裂し地面を真っ黒に染め上げる。ちょっと熱いな。

思い切り翼をはためかせ炎ごと吹き飛ばしたら着地したグァンゾルムは突進の構えだ。そうはさせるかと俺も雷球ブレスを数発撃ち込む、直撃はしたもののあまり効果は無いみたい。

 

やっぱ雷槌クラスの大出力じゃないと甲殻を抜けないな、レムに頼んで…

 

 

『レム、少し本気を出す。「幕」を張れ。』

 

 

「任せて」

 

 

静かに頷いたレムが手を広げるとクモミ砦の周辺に白い煙が漂い始めた、やがてそれは砦全体を包み込むように伸びて薄く広い幕になる。

 

レムの凍結能力は最強の番人ドゥレムディラの力そのものだ。空気中の水分を瞬時に凍らせられ、全力を出せば自分でも制御不能になると言われる冷却機関を持つレムにかかれば爆発や衝撃で生じる空気の圧力すら凍る。あの白いモヤモヤの中を通ったら最後炎だろうが溶岩だろうが全部凍って砕け散る、だから幕の向う側には被害が出ない……筈だ。

 

これなら俺が雷槌を落としても大丈夫

 

 

『ご苦労レム…帝征龍、これで終いだ。

己が身の程を知り、世界を知るがいい…ッ!!』

 

 

背筋を伸ばし、角を光らせたその瞬間。天が瞬き特大の紅い落雷がグァンゾルムに降り注ぎ島全体が大きく揺れた。

悲鳴すらかき消す紅雷の嵐が容赦無くグァンゾルムの全身を焼いていく。

アレ?雷槌ってこんなにどぎつい技だっけ?せいぜいハンター消し飛ばす程度では?今までかっこつけて技名付けながら落としてたけど純粋な雷槌だとこんなに威力上がんの?つか名前変えた程度で威力変わんの?ああ、気分の問題か。

砦が壊れないのが不思議なくらいの衝撃がグァンゾルムを襲い、最早姿は完全に紅雷に呑み込まれた。

…こりゃレムのサポート無かったら島吹き飛んでたな、くわばらくわばら…

 

雷が止んで、舞い上がった粉塵も晴れてきた。

ハンターすら耐え切れず跡形もなく消滅させるフルパワー雷槌をモロに食らったグァンゾルムはまだ原型はとどめているもののかなりよろめいていて虫の息になっている、神々しかった翼の模様も煤けたり焼け焦げて穴が空く始末だ。

 

 

『ほう、雷槌を耐えたか…ん?』

 

 

グァンゾルムの全身が黒ずみボロボロと崩れ落ちていく。流石に帝征龍でも祖龍の力の前には為す術もなしか……このまま「サヨナラッ」とか言いながら爆発四散するのかと思っていたら様子が変だ。

 

崩れて灰の様に風に消えていくグァンゾルムの中から…人が…

 

しかも全裸!?

 

 

慌てて人の姿に戻り駆け寄る。

輝くような金髪の長い髪、シミ一つ無い綺麗な肌、紅黒に沈んだ深色の瞳に整った顔立ち、そんでもってぼいんぼいん…黄金律(肉体)EXのグラマラスぼでー。これに冠被せてドレスを着せればどっかの国のお姫様と言われても納得する。

ちっくしょう!俺の心が龍寄りじゃなかったら確実に見蕩れてる、むしろこんな美女の全裸を見てもなんとも思わない自分が憎い!

ハンコックの時もそうだったが俺はもう男として死んでるんやな…悲しみ…

 

 

いやそんなことよりこの娘何なの!?

食われてた?にしちゃ原型留めすぎだし崩れたグァンゾルムの中から出てきたって事は…

 

 

「ウガアアアアアアッ!!」

 

 

「えーーーーっ!?!?」

 

 

ぜ…全裸の女が突然噛み付いてきたアアアアアッ!?

 

 

「ちょっ…やめっ…ヤメロォおおおッ!?痛い痛い痛い痛いッ!」

 

 

見た目とは裏腹にバイオレンスな美女は俺の左腕にこれでもかと噛み付いてくる、祖龍の装甲貫通してる!痛い痛い!

数分格闘した後その女を振り払い、レムが溶けない氷で手枷足枷を嵌め拘束した。全裸で手足拘束とかどんな変態プレイだと思われるかもしれないがこっちは大真面目だよ。

 

 

「……で、この女は何?」

 

 

「分からん、グァンゾルムが死んだと思ったらこの女が出てきた。」

 

 

取り敢えず全裸は不味いからコートを着せた、それでも裸コートである。

世が世なら犯罪だ、具体的に言うと猥褻物陳列罪。

 

 

「何者なんだこの女は…」

 

 

「さっきまで(オレ)をボコボコにしといて何者は無えだろ祖龍!」

 

 

「……は?」

 

 

 

 

 

 

キァァァァシャベッタアアアアアアアッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お義父さん!俺ァ諦めねえからなぁ、ミラは俺のモンだァッ!!」

 

 

「義父さんと呼ぶな貴様ァッッッ!!!」

 

 

意味不明な会話を繰り広げながら四皇カイドウは海を泳いで逃げていきます。

先ほどまで街を壊しながら殴り合いを繰り広げていたお2人はひとしきり暴れ回った後、翼竜を全滅させた海軍側が増援部隊を送り旗色が悪いと踏んだのかカイドウは逃げ去って行きました。

 

……クロールでよくもまああんな速度出せますのね、泳げない身としてはちょっぴり尊敬しますわ。

 

あの男、破滅願望があるとかお姉様が仰っていましたが…随分生への執着がありますのね。

というかぁ、『ミラは俺のモン』って…何考えてますのあの愚物は。

お姉様は誰のものにもなりませんわ!ぷんぷん!

かくなるうえは実家に連絡して新世界にあるカイドウ支配下の島を攻め落とし……いえ、止めておきましょう。

昔ならともかく今の私は身も心もお姉様の所有物、身勝手な行動は喜ばれませんね。

 

さてさて、無事翼竜の群れは全滅。

お姉様の目論見通りボルサリーノ中将が対空砲台としてご存分に活躍してくださったので避難民やお姉様の部下達にも目立った被害なく護送の準備が整いました。

あとはお姉様とレムの帰りを待つだけ…なのですが。先程の稲光と背筋にゾクゾク来る刺激、これは紛れもなくお姉様が真のお力を発揮なされた証。

この地に巣食う〝龍〟とやらはそれ程のお相手という事なのでしょうか?

 

龍について私が知る事はあまり多くはありません、聡明なお祖母様なら幾らかご存知でしょうけど彼女の話す殆どは行き着いた先での冒険話でしたし…。

不死の呪いが付与される魔法の金貨、死者の宝箱、あの世とこの世の境に存在する浜、人を憎み喰らう海底の化物、海を割く海神の杖…お祖母様のお話はどれもとても興味深いものばかりでした。

などと懐かしさに浸っている間にお姉様とレムが帰っていらっしゃいましたね。そしてお姉様の腕の中には何故か枷を嵌められた金髪の女の姿が、何やらガミガミとお姉様に向かって怒鳴り散らしています。

 

 

「おいっ!離せ!自分で歩くから!」

 

 

「そ〜言って逃げる気だろう。お前は保護観察処分だ、私がしばらくこちらでの作法を教え込んでやる。」

 

 

「やなこった!(オレ)(オレ)の好きに生きる!

エギュラス!エギュラス共ォ!はやく助けろコノヤロー!」

 

 

「残念、蛇竜は全てワタシが凍らせた。生き残りはいない。」

 

 

「巫山戯んなあ!ホゴカンサツショブンって何なのか良く分からんけどすっげえ嫌な予感がする!はーなーせー!」

 

 

「お前のような勘のいい龍は嫌いだよ…。

大人しく付いてこい帝征龍…グァンゾルムも長いな、アンでいいか。」

 

 

「なにそれちょっと可愛い…じゃなくて!

(オレ)を自由にしろぉーッ!!」

 

 

どうやらあの女性はアンというお名前の様ですね、経緯は分かりませんがお姉様の取り巻きがまた一人増えるご様子です。

……お布団で寝るお姉様の隣に潜り込む者の倍率がまた上がりますわね。世はまさに大お姉様時代、仁義無き正妻戦争ですわ。

 

 

お姉様の左隣は誰にも譲りませんわよ(迫真)

 

 

 

 

 

 

 

 

政府特殊工作部隊CP9 ラスキー著

 

政府特例『翼竜事件』経過報告書

 

場所 新世界「クモミ島」

 

 

・事件の顛末

本日未明、(くだん)の〝化物〟討伐に要請された中将三名は無事島民の避難を完了。

海兵達の損害は0、途中乱入した四皇カイドウもガープ中将により撃退され避難民も生き残った700人あまりが無事に島を脱出した。

各種メディアにも「英雄ガープの新伝説」として大々的に宣伝を行い、◾◾の思惑通りこの一件は英雄の功績として記録に残される。

島民避難後のクモミ島は以後政府の管轄下に置かれ、特に島中央部に位置する「クモミ砦」は厳戒態勢にて進入禁止措置が行われる。

なお、避難した島民達には家族ごとに政府による保障が適応され、それぞれバラバラの島へ移住させ監視対象とする。この決定は◾◾の意図を汲んだ政府最高機関の決定でありこの結果は今後如何なる機関においても覆されることは無い。

 

・保護した◾◾◾についての処分

◾◾には劣るものの◾◾と同じく人知を超えた力を持つ存在であると海軍関係者より確認、◾◾の監視のもと『常識』を勉強中とのこと。政府に友好的でいるかは今後の経過によるものとなる、ひとまずは◾◾の庇護下にある限り危険度は低い。

追記:新しく与えられた愛称を大層気に入っている様子であった

 

 

以上、書面での報告を終了する。

 

……

 

……

 

……

 

 

「どう見る」

 

 

「どうもこうもあるまい、世界は一度救われた。他ならぬ祖龍の手によってな。」

 

 

「彼女にまた貸しを作ってしまったな、これも彼女の策略の内かね。」

 

 

「これで確認された龍は三名、全て発見できたのは彼女のお陰だ。我々はもう頭が上がらんな。」

 

 

「回収した生体サンプルはベガパンクに渡してある、早速パンクハザードにて実験を行うそうだ。

勿論人道的な範囲でだが…」

 

 

「あの男は優し過ぎるが…それならば彼女の逆鱗に触れる事は無いだろう。」

 

 

「万一にも悪用されぬよう、我々で厳重に管理せねば。

彼女との友好関係は保ちたい、純粋に1人の友人としてな?」

 

 

「違いない。」

 

 

世界を保つ5人の老人達はこの日、久方ぶりに心からの笑顔を見せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜おまけ〜 ジンラミーの恋愛相談室

 

 

百獣海賊団 カイドウの船舶

 

 

「ジンラミーッ!!ジンラミーは何処だァッ!!」

 

 

「は、はいっ!ジンラミーは此処に、カイドウ様!」

 

 

「言われた通り白蛇に…ミラに想いを伝えてみたんだが…玉砕したぜ……うおおおおおおおんッッ何故だああああッ!」

 

 

「そ、そんな…カイドウ様の求婚を断るなんて…因みにカイドウ様。白蛇になんと言ってお近づきになろうとされたのですか?」

 

 

「ストレートに結婚してくれと言った!!」

 

 

「早いっ!?果てしなく気が早いですカイドウ様!

恋愛には〝えぃびぃしぃ〟というものがございます、まずはお友達から始めるのが寛容なのでは…?」

 

 

友達(ダチ)ぃ〜?そんな事から始めてたら寿命が来ちまうぞ。もっと手っ取り早く手に入れる方法は無ェのかあ!?」

 

 

「で、では………そうだ!

古来より女性は強い男性に惹かれるもの、カイドウ様がもっと強くなり白蛇を超えるほどの実力を手に入れれば或いは…」

 

 

「ッ!!!それだァ〜〜ジンラミー!

そうすりゃミラも俺の事を見てくれる!

そうと決まりゃ早速手近な海賊(ザコ)共を狩って修行だ、野郎共錨を上げろォォォッ!」

 

 

「「「「ウオオオオオオオオオオッッ!!!」」」」

 

 

「(もしかして私は今、とんでもないことをカイドウ様に口走ってしまったのでは……)」

 

 

 




…………はい、超展開でした。
感想でもコメントで返しましたがこれ以降モンハンのモンスが出てくる事はありません。
元々主の大好きなモンスを擬人化してワンピースの世界で暴れさせるというコンセプトのもと始まった作品ですので…あまり多くのモンスを登場させるとミラの特別感が薄れますし、ワンピースの世界観がこわれてしまうので…(祖龍と帝征龍と天廊の番人がいる時点で手遅れな気もしますが)モンス登場を期待されていた皆様申し訳御座いません。

前書きにも書きましたが今後の更新や進捗は活動報告を使ってみようと思います、機能使うの下手なんでうまく出来るかな謎ですが。


次回、未定。多分七武海集めかな?


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30 閑話、祖龍と仲間と必殺技


ちょっとだけ閑話挟みます




◆復活のロシナンテ◆

 

 

「今日から現場復帰だ。本来なら先の事件の責任を取って私の隊に入れるのが常道だが…理由あってな、お前の再配属先を決めておいた。

現状此処が私も最も信頼できる部署だと確約できる、部隊長の許可も貰っているから午後からでも挨拶に言っておけ。」

 

 

そう言って目の前の恩人は俺に1枚の書類を手渡した。

 

 

俺は記憶を失ったらしい。失ったっていっても断片的で、自分が何処の誰でなんて名前なのかは分かる。消えたのはここ数年の記憶だった。

俺は何処かの海賊団に潜入捜査をしていたらしい、そして死に掛けたショックで命と引き換えに記憶を失った。

俺の恩人、センゴク大将は「ゆっくり思い出していけばいい、まずはお前の身体が第一だ。」と無くなった記憶については深く言及せず、その意向は海軍全体に行き届いているようだ。

 

「生きていてくれて良かった」とボロボロ泣きながら話してくれたセンゴクさんの顔は初めて見たぜ、それだけ俺は愛されてたんだな……

 

 

「分かりました。海軍本部大佐ロシナンテ、本日をもって現場に復帰致します!」

 

 

センゴクさんの前で最敬礼をし、執務室を後にする。

 

去り際、背中から「頑張れよ…」と小さな呟きが聞こえたような気がしたが…気のせいだろうか…?

 

 

地図を頼りに本部内を歩く事数分、挨拶の為に探していた中将の部屋にたどり着いた。

 

部屋の前に立ち、一拍置いて呼吸を調えてから白塗りの扉をノックする。

 

 

『入れ』

 

 

澄んだ声が聞こえ、ノブを捻る。

 

 

「失礼致します、本日より中将殿の部隊に配属になるロシナンテと申します。」

 

 

お辞儀をし、顔を上げたその先には…

 

 

「ああ、宜しくロシナンテ。

センゴクさんから話は聞いているよ、ようこそ我が部隊へ。」

 

 

奥にある執務机に腰掛け優雅に珈琲カップを傾ける美女の姿があった

 

ニコリと微笑む彼女に思わず目を奪われる。紅い瞳に白亜の長髪、一国のお姫様と言われても納得してしまう程整った顔の美人だった。

 

 

 

 

俺は今日からある部隊に配属される

 

 

 

 

海軍本部中将総督ミラが隊長を務めるこの部隊に

 

 

 

………

 

………

 

………

 

 

 

「パドル展開!全力で島から離脱だ!

モタモタすんな巻き込まれるぞォッ!!!」

 

 

「りょ…了解!

で、ですがガスパーデ准将。島にはまだお2人が…」

 

 

「ほっとけ!元はと言やァあの2人が起こしたことだ。そのうち勝手に帰ってくる!

全く…島に篭ってる海賊団を全滅させるだけだってのに、どうしてこうなった…」

 

 

そう言いながらガスパーデ准将は軽く舌打ちをし、ドカドカと足音を荒く響かせながら船室へ入っていってしまった。

すぐさま軍艦内に格納されてたパドルが展開され音を立てて動き出し、180度旋回した後島を離れていく。

俺は島を…いやもうこれは島と呼んでもいいのか分からないが…島だったものを凝視した。

 

 

「………信じられない、これがたった2人の所業なのか?」

 

 

「えーぞーでんでん虫でみらに知れてるから、多分後ですごく怒られる。」

 

 

そう言いながら隣に座り島の惨状を映像記録用の電伝虫に収める小さなメイドは呟いた。

海軍の船に何故こんな少女が乗っているのかは分からないが…どうやらミラ中将お付のメイドらしい。

この子も脚を船縁からぷらぷら揺らしながら溜息を吐いている。

そもそもこんな非現実的な光景を目の当たりにしてるってのにこの船の海兵たちは落ち着き払って船を動かしてるし、これがこの船の日常なのか!?

 

 

……今俺の目の前にあるのは原型を留めないほど破壊された島だ。

元は偉大なる航路でも有名だった別名「海賊島」、危険な海賊達が徒党を組み無人島一つを占拠して巨大な組織を作り上げた。島周辺に点在する巨岩の影響で渦潮が荒れ狂い海軍の軍艦は近寄れず、この島に住む海賊のみが渦潮に呑まれないルートを知っているらしい。島には自給自足の環境が整っていて鍛冶屋や病院などもあったようだ。

まさに天然の要塞、それ故に今まで海軍でも迂闊に手を出す事が出来なかった。

この組織の船長を務めるのは懸賞金3億7000万ベリー、〝水撃〟ガノス。嘗て四皇の1人と戦り合ったとも言われる男だ、その下に総懸賞金額8000万越えとなる15人の強者幹部がいて更に下っ端含め総員数は5000人を超えるとされている。

規模が規模だけに被害も大きく、センゴクさんも頭を抱えていた海賊団だ。

 

それ程の大組織「海賊島」が今となってはその栄光は見る影もなく、紫色の氷が島中から巨大な剣山の様にそびえ立ち、黒炎がその隙間を縫うように這いずり回る。時折プロミネンスの様な炎の飛沫が島の至る所から舞い上がっていた。

傍から見てもひと目でわかる、もうこの島に人間はおろか生物だってただの1匹も住めなくなってしまっているだろう。

この分じゃ海賊達は全滅だ。

 

 

呆然と島を眺めていると同じ階級で先輩のゾルダン大佐が横へやって来てボヤく。

 

 

「まあ…信じられないとは思うがこれがこの部隊の日常なんだロシナンテ大佐。

そのうち慣れるさ。」

 

 

慣れで片付けていいモンなのか…?

 

 

その時、島から船まで一筋の氷の道が生成されてその上を二人の人影が歩いて来るのが見えた。

あの人達が帰ってきた、どちらも男性ものの黒スーツを着込み一方の女性は黒焦げの海賊らしき男を背負っている。

双眼鏡で確認する、何やら言い争いをしているように見えるが…

 

 

 

ぷるぷるぷるぷる…ぷるぷるぷるぷる…

 

 

ゾルダン大佐の腰に掛けられた電伝虫が震え出す、相手はミラ中将だった。

 

 

「はい、ゾルダンで御座います。

………はい、………はい。

承知致しました、直ぐに御二人を回収した後手配致します。では…」

 

 

畏まって受話器を置いた後、船全体に聞こえるよう大声で指示を下す。

 

 

「総員、レム様とアン様を回収した後当海域を全速で離脱!

ミラ中将が島を消すぞ!」

 

 

…は?島を消す…?

 

 

「てれれれってれ〜、にゃんぱす〜こんぱす〜」

 

 

隣で映像記録用電伝虫を持っていたメイド娘が立ち上がり、変な効果音を言いながらポケットから取り出した銀色のコンパスを島へと向けた。

 

時を同じくして氷の道を辿ってたどり着いた2人が甲板まで上がってきた、相変わらず言い争いを続けてる。

 

 

「だ・か・らぁ!レムが余計な事しなけりゃ我が全部片付けてたんだよこのバカ!」

 

 

「アンこそ、ミラから言われた命令を理解していない。危うくまた捕縛対象の海賊まで殺すところだった。」

 

 

「いいじゃねえか人間の一匹くらい、海賊の殲滅が目的だっただろ!」

 

 

「この男だけは生きたまま捕らえろと言われた筈、あのままだとアンが消し炭に変えていた。」

 

 

「島を凍らせた奴が言うセリフか!」

 

 

「あれは消火活動。」

 

 

「消火できてねえし!どっちかってとお前の毒がトドメだろコレ!」

 

 

「おかえりなさいませレム様、アン様。……ミラ中将が御立腹ですよ。」

 

 

ゾルダン大佐は帰ってきた2人にうやうやしくお辞儀をし、下ろされた海賊を手配者リストと照らし合わせた。

……ソイツの顔は殆ど黒焦げで死に掛けだったが。

 

 

「……レム様、残念ですがこの男は違います。

手配していたのはこの男ではありません。」

 

 

俺も手配書とその男を比較してみる、黒焦げで分かりづらいが確かに手配書の男とは別人だった。

 

 

「確かに…違うな。

だがこの島にガノスは居るはずなんだが。」

 

 

「島があの状態じゃ奴は消し飛んでるな…」

 

 

「……うっかり」

 

 

「あっハハハハ!間違えてやんの〜!」

 

 

レムと呼ばれた女性が落ち込み、それを指さしながら隣でアンが笑う。

やがて立ち上がり呟いた。

 

 

「…島へ戻って今度こそそいつを取ってくる。」

 

 

「それは無理です、ミラ中将はこの島の惨状を全て見ておられます。

御二人の行いでもはやこの島は死に体、上層部と掛け合った結果先程全ての証拠を消すと仰いました。」

 

 

「そんな…ワタシは悲しい…。」

 

 

「それじゃあハズレのコイツは要らねえよな?捨てるぞー」

 

 

落ち込むレムさんをよそにあっけらかんと言い放ったアンさんはぐったりと項垂れる海賊の襟首を掴み信じられない肩力で海へ放り投げた!

 

 

「クルスー餌だー!」

 

 

ぶん投げられた海賊は綺麗な放物線を描いて宙を舞い、海へ着水する。そして海面がモコモコと盛り上がり…巨大な黒い海王類が現れ海賊を海底へ引きずり込んだ。

 

……何を言ってるのか分からねえと思うが俺も何が何だか分からねえ…。

さっきの海王類もだが…女2人であの島にいた5000人以上の海賊達を全て叩きのめし、更に懸賞金3億越えの賞金首を知らないうちに殺し、島をあんなふうに変えちまうなんて…一体彼女達は何者なんだ?

 

 

「かうんとー!さーん!」

 

 

突然メイド娘が大声で叫んだ。びっくりしたのも束の間、ゾルダン大佐が負けじと甲板全体に響くように叫ぶ。

 

 

「総員、対衝撃態勢ィーッ!!」

 

 

「にーい!!」

 

 

「ど、どういう事だゾルダン大佐!?

一体何が始まるんだ…?」

 

 

「いいから思い切り耳を塞いで口を開けいてろ!鼓膜がやられるぞ!」

 

 

わけが分からないが取り敢えず言われた通り両耳を手で塞ぎ、口を大きく開ける。

 

 

「いーちっ!!!」

 

 

突如ゴロゴロと雷鳴が唸り始め、島を覆うように暗雲が展開された。空気も帯電しているのかピリピリと肌につく。まさか…

 

 

「ぜろっ!!!」

 

 

ーーーーーーー…ッッッッ!!!!!!

 

 

メイド娘の叫びに被せるように眩い光が島を襲った。

続けて轟音が谺響する、鼓膜なんて一発でお陀仏になる爆音だった。ゾルダン大佐には感謝せねば…

 

………

 

ようやく耳がキンキンするのも収まったのであたりを見回す。

……あれ?おかしいな……本来あるはずのものが無い。

 

島が…跡形も無く消滅していた

 

まだ空気は帯電していて辺りからピリピリと紅い電光が走ってる、島があったはずの場所は底も見えないほど深い穴と化していて、穴を埋めるように海水が滝のように流れ落ちていた。

 

わー虹がキレイダナー

 

いかんいかん現実逃避してる場合じゃない。

まさかこれがミラ中将の仕業なのか…?

彼女は本当に文字通り島を消してしまったのだ

 

………嘘だろ?

 

 

「うっわあ…ホントに消しちまった。

おっかねえー。」

 

 

こんな超常現象が起きているにも関わらずアンさんはケラケラ笑っている。

 

 

「あぁ〜…うるっせえなァ…

野郎共、本部に帰るぞ。また始末書だ…」

 

 

船室から出てきたガスパーデ准将は大穴を眺めながらボヤき、海兵達を促すと何事も無かったかのように船は動き始め海軍本部へ向かって突き進む。

 

 

 

この部隊、一体なんなんだ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

海軍本部、ミラの執務室

 

 

 

「なあお前達、私は言ったよなあ?」

 

 

「「………」」

 

 

「『他はどうでもいいからガノスだけは生かして連れてこい』と確かに伝えたはずなんだがな?

何故島は猛毒の氷と獄炎に覆われてて、ガノスも燃え滓になってたんだ?」

 

 

「………」「……フュー…フュー(口笛)」

 

 

「オマケにあの島はもう使い物にならんから消さなきゃならなくなった、また海図を書き換えなきゃならんのだが?」

 

 

「………」(目逸らし) 「フュ〜フュ〜……」

 

 

「反省しとるのかお前らぁ!特にアン!」

 

 

「…痛い」 「ほげっ!?痛ってぇ!!!」

 

 

ガツンと大きな音が響いた後、レムとアンの頭には漫画みたいに大きなたんこぶがひとつずつできた。

アンの方は強めにやったのでカーペットの上をゴロゴロ転げ回ってる。

 

 

 

 

ごきげんよう、祖龍です。

 

アンが新しく加わって、そろそろ本格的に七武海を探そうと思ってる今日このごろ。五老星達にレムとアンを紹介して、8人でお茶を啜っていた時の事だ、唐突に閃いた。

 

 

「そうだ、大将白蛇を複数人にしてしまおう」

 

 

誰もが恐れる大将白蛇は正体不明、だから海賊達が脅威を抱き四皇や世界政府と同じく均衡を保つ為の抑止力となっている。

その正体不明をもっと確実なものにする為にレムとアンにも白蛇の仕事をさせようと考えた、戦闘スタイルも能力も違う3人を1人の〝白蛇〟として使い回す事により、より白蛇の正体を掴みづらくするというわけだ。

 

それに俺も楽したいもんね(ボソッ)

 

まあそれもこれも七武海が完全に再編されるまでの抑止力だし、ちゃんと七武海の地盤が固まれば白蛇は真の意味で〝幻〟になるだろう。

 

どうせじーさんがたは残ってくれって駄々こねるだろーけど

 

 

発案は認められ、それからはちょくちょく大将の仕事にアンとレムを同行させている。

俺も偶に忘れるんだが海軍とは海賊や犯罪者をとっ捕まえて罰を与える組織だ、いつも殺しの仕事しか回ってこないから忘れがちになるケド。

つまり我ら龍はそのあまりある力をコントロールし、殲滅ではなく捕縛を行わないといけない!白蛇してるとホント忘れそうになるケド!

勿論今回の任務も然り、今日は二人による通算6回目の海賊捕獲の任だったわけだが…

 

 

「まさか月に2回も島ごと証拠隠滅するハメになるとは……測量士と航海士が可哀想になってくるな。」

 

 

海域の地図を一から書き直さなきゃならなくなる海軍の測量士さんと本来島の磁力を辿ってあの島へたどり着くはずだった航海士諸君にはマジすまんと思ってる。

 

こ…これはコラテラルダメージ(軍事目的の為に生じる致し方のない犠牲)だから…許してや?(滝汗)

 

レムには万一を考えて毒の使用を許可してた、アンにもかなーり念を押して理性的な行動をしろよと伝えてある。

にもかかわらず6回やって捕獲した海賊(ターゲット)は僅か2名、うち2回は毒と炎で島をまるごと汚染してしまって使い物にならなくしてしまった。どちらも無人島だったのが幸いだ(海賊島?シラナイナー)。

勿論捕獲を逃した海賊、及び犯罪者は全員燃え滓か跡も残らないほどバラバラ(物理)になってる。

おかげで白蛇の噂はあれよあれよと膨れ上がり、複数の能力を使うという噂から「八面七股の大蛇になった」などと恐れられるようになってしまった。

もはや空想上の化け物扱いだよ、それってどんな八岐大蛇?

 

まあ正体が紛れるからいいんだけどね

 

 

「全く………すまんなロシナンテ大佐、見苦しい所を見せた。」

 

 

「い、いえ…そんなことは…」

 

 

ほらー新人のロシナンテ君おいてけぼりじゃん、ウチじゃ珍しい新入隊員なんだから変な誤解されたら困るよ。

タダでさえ海軍は人の生き死にで常時人員不足なんだから。

ロシナンテ君も珍しい悪魔の実の能力者なんだし、大切にせんと。

 

 

「レムとアンはこの後残れ、それ以外は解散。諸君、今日も御苦労だった。」

 

 

「「「ハッ!」」」

 

 

堅苦しく敬礼して執務室を出ていくロシナンテ君達。部屋には俺とメイド達、アンとレムが残される。

 

 

「お前達にはまだ訓練が必要だな…

午後からジャンクヤードに行くぞ、そこでまた練習だ。」

 

 

「……了承、仕方ない。」

 

 

「ええ〜…」

 

 

文句言うんじゃありません!

あぁ〜七武海候補1人潰してしまった…

 

 

 

海軍本部南の外れ、殆ど誰も立ち入らない廃船置き場(ジャンクヤード)に俺達はやって来ている。

 

 

海軍本部は何隻もの軍艦を保有してる、ガープ中将や一部の将校は勝手に改造したりして私物化しているが殆どが海軍もしくは世界政府の所有物だ。

形あるものはいつかは壊れるもの、いかに軍艦と言えど災害や敵船の砲撃、強力な能力者による襲撃によって少なからずダメージを負う。そして修理に限界が来た場合、ここへ運び込まれ解体されるのだ。

言うなればここは役目を終えた船の墓場、場所が場所なので大声で騒いでも誰にも迷惑はかからない。

実は俺氏、表面上は此処の責任者なのだ。壊れた船を解体するのも立派な中将の仕事のひとつ、裏方作業だけどね。

 

俺氏の裏の顔は中将の大元締め、デカイ役をさせて貰ってるから表の顔はなるべく目立たないようにセンゴクさんに頼んでこの仕事を斡旋して貰ったのさ、戦闘が華の海軍で誰もこんな地味な仕事やりたがらないからね。

 

それに俺、前世がアレなせいでこういう地味な仕事結構好きだし。

 

 

「よーし、では今日もレッスンだ。

今日のイントラクションはこれ!」

 

 

青空教室の下、レムとアンのドラゴンコンビを正座させ手元のホワイトボードにでかでかと今日の目標を書く。

 

 

「「必殺技……?」」

 

 

そう、必殺技だ。

 

 

古今東西、バトル漫画には必殺技が付き物!拳然り剣術しかり何かしら叫んで攻撃を放てば気合いが入る!威力も上がる!

それに技に名前を付けておけばどんな加減で攻撃をすればいいのか基準がわかりやすくなる、界王拳だってベジータに合わせて3倍とか20倍になるだろ?アレだよ。

威力が足りないと思ったら「超」とか「真」とか付けて足していけばいいんだよ、後付け後付け。

 

身体鍛えりゃ落雷だって生身で受けきれるワンピの世界だもん、どうにかなるさ。

 

 

「そこで今日はお前達に必殺技を考えて実践してもらう、レムには前に教えたが…新しいのを作るといい。

口から火を吐くだけが龍の全てじゃないだろう?人の姿で力をコントロールしろ。

本来なら私自らが指導しないといけないんだが…私はこの後総会に呼ばれているので代理を立てた。ホラ先生共、入ってこい。」

 

 

「先生か、的を射ている。」

 

 

「今日は傍観するつもりで来たんだが…強き者の気配がしたのでな。」

 

 

廃材の山、その奥から出てきたのは毎度おなじみ、気付いたらいる世界最強の剣豪ミホ君と最近ベガパンクとよく話してるところを目撃するバーソロミュー・くま君だ。

七武海繋がりで今日は来てもらった。なおクロコダイルはアラバスタでの仕事が忙しいらしい、アイツが一番必殺技持ってそうだけどまた今度頼む事にしよう。

 

 

「総会は夕食までには終わる予定だからそれまで励め、ただし2人を絶対に殺すな。うっかりでも許さんからな。

テリジア後は頼んだぞ。イルミーナもクルスの世話をしっかりな。」

 

 

「かしこまりましたわお姉様、行ってらっしゃいませ。」

 

 

「いってらー」

 

 

テリジアとイルミーナに見送られ廃船置き場を後にする。

因みにクルスも普段は廃船置き場で飼っている、広いから迷惑かからないしね。

 

 

「中将総督、〝約束〟を忘れるな。」

 

 

「分かってるよくま、約束は守るから安心しろ。」

 

 

くまを呼び出す際に交わされた〝約束〟もあるが今は総会に急ごうかな。

 

 

…去り際後ろの方から「まずは手合わせ願おうか、強き者よ」とか聞こえた気がするけどキニシナイ。

 

ミホ君……戦車に乗って弱小校を全国優勝まで引っ張りあげそうなあだ名だな…別の呼び方考えよう。

 

 

は〜総会か〜…今月のもどーせ面倒臭いんだろーなー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

センゴクside

 

 

 

海軍本部『議事の間(和室)』

 

 

 

海軍本部では月に一度、中将以上の将校が一堂に会し元海軍中将…つまりOBと談話する機会が設けられている。

談話する、と言っても圧迫面接の様なのもので、日頃の戦果を発表したり来期の為に予算を請求する訳なのだが…正直毎回気が重い。

その理由はOBの態度の悪さにある、クザンやボルサリーノを見てわかるとおり年齢と階級が比例しない現体制であるがコング元帥や私、おつるさんやガープの若かった当時の海軍は年功序列制だった。

海軍で生き残り、歳を取れば自動的に階級は上がる。一功立てようものなら聖地で老後が過ごせるオマケ付き、なんとも美味しい話だ。

マリージョア側もロートルの将校はいざという時天竜人の護衛に使えると画策しての事だろう、受け入れに友好的だった。

だがそれは海賊王や若い頃の白ひげ、カイドウが海に蔓延っていた頃の話。あの頃は平和ではないにしろ海賊にも一定の〝モラル〟があった。(所詮海賊にモラルもクソもないが)

だが今となってはどうだろうか。海賊王の死後、世はまさに大海賊時代。

各地で起きる木っ端海賊による無差別な略奪や虐殺、強姦、暴行、挙句誘拐まで、数え上げればキリがない。年々それは増え続け通報は後を絶たないのが現状だ。

聖地に上がったOB達は今の現場の苦労を知らんのだ、なのに我が物顔で我々に談話という名の〝文句〟を付けてくる。

 

 

「それで?来期の海軍の予算だが、船の修理費が前期の1.5倍も増えているぞ。

修理費が増えるということは乗り手が弛んどるという事。センゴク大将…これについて言いたい事はあるかね?」

 

 

嫌味ったらしいジジイだ、弄る気満々だな。

今私の横にはおつるさん、ひとつ空席が空いてクザン、ボルサリーノ、サカズキ、そして一番端にミラを座らせている。ガープも呼んだが来なかった。

 

 

「それについては先程医療費の件で御説明した通りです。海軍は時代の転換期を迎えている、昔に比べ数も多くより悪質な海賊達が蔓延る様になった。ならばこちらも断固たる意志で対抗せねば、カネの犠牲で済むなら部下達を失うより安いものです。」

 

 

「それは我々が職務を甘んじていた、と言いたいのかねセンゴク君。」

 

 

「いえそういう訳では…」

 

 

ああもうネチネチと面倒臭い、こちらの報告を根掘り葉掘りほじくり出してきやがって…

偶におつるさんが庇ってくれたりもするが基本私に嫌味が飛んでくる。

 

クザンは今にも寝そうだし、ボルサリーノとミラはいいとしてサカズキは青筋浮かべながら今にもOB達を焼き殺しそうだ。

頼むから面倒事にはしてくれるなよ。

 

うっ胃が…

……今日は久々に1杯引っ掛けて帰ろうか…

 

 

「まあまあ、お茶のお代わりを注ぎましょう。」

 

 

ミラの言葉でハッと我に返る、いかんいかんいくら心労が溜まっているとはいえしっかりせねば…こんなでは来たる次期元帥の座など到底耐えきれない。

 

 

「船舶の修繕費については担当の私からもひとつご報告が、ウチの部隊の船大工からの提案でして。

『オックス・ロイズ号の改修工事をさせて欲しい』との事です。先代中将方と共に海軍史に遺る活躍をされ、今は廃船置き場の奥で眠っているあの船舶を是非蘇らせたいと。

戦闘には出せずとも式典等でアピールすれば海軍の威厳向上にも繋がりますし、経済的にもプラスになる事が多い。

是非御一考のほどをお願いします。」

 

 

ミラ…そんな事を考えていたのか。

オックス・ロイズ号ははるか昔に海軍で活躍した歴戦の軍艦、それに取り付けられた『オックス・ベル』は今でも年始に行われる式典で使用される。

確かにオックス・ロイズ号をもう一度浮かべる事が出来れば話題になり結果的には経済面も潤うだろう。

 

わざわざOBの前でその話題を振ったのは修理費の話題を逸らすためか。海軍の誇りや威厳が大好きな老人達だものな。

 

上手いなミラ

 

 

「おお…あのオックス・ロイズ号を…」

 

 

「時間と費用はどのくらい掛かりそうかね?」

 

 

「最低でも5〜6ヵ月は掛かるかと、翌年の式典には間に合います。

費用も廃船置き場の使えそうな素材を使えば戦艦一隻作るより安く出来上がるでしょう、後はお上から許可が頂ければ明日にでも着工出来ます。」

 

 

「よし直ぐにやりたまえ。オックス・ロイズ号の勇姿、もう一度私達に見せてくれ。」

 

 

OB達はかなり乗り気のようだ、最早嫌味の事など忘れきって過去の栄光に心を踊らせている。

 

 

「承知しました。ただ着工の間本来の業務が疎かになっては元も子もありませんので、予算をすこーし上げていただけると楽なのですが…」(チラッチラッ)

 

 

「おいミラ、そんな事を…」

 

 

「構わん構わん、もう一度かの船の勇姿を見られるのなら安いものだ。来年を楽しみにしているよ。」

 

 

OBの取りまとめ役、アーサー殿は笑いながら承諾してくれた。

 

…私が話してた時と随分態度が変わってないか?

 

 

 

その後の総会は特筆すること無く終了、結局来期の予算は予定を大幅に上回る額が支給される事になった。

マリージョアに戻る為OB達は去っていく、やがて私達だけが部屋に残された。

 

 

嬉しい…いや嬉しいんだが…複雑な気分だ…

 

 

「ミラお前、何処でオックス・ロイズ号の復元工事なんてネタを仕入れてきたんだ。」

 

 

「ん?私は墓場(ジャンクヤード)の管理人だぞ?初めてあの船を見て歴史を知った時から計画していたさ。」

 

 

飄々と言ってのけるミラに俺もおつるさんも開いた口が塞がらない。

私は戦術ならば1戦に二百は考えつく自信はあるがこういう駆け引きは少々不得手だからな、まだまだ精進が足りない。

 

 

「……ペンドラコ、アーサー。元海軍本部中将、センゴクさん達の世代の先輩で今は聖地マリージョア第居住区6区画A-65番地に妻と孫2人の四人家族で世帯を持つ。

趣味はボトルシップ作り。

かなりの頑固者で海軍の威厳を自分のプライドより優先する傾向にある、それ故に海軍に益があると言えば話に乗ってくると踏んだ次第だ。」

 

 

そう手元の手帳をスラスラと読み上げながら話すミラ。

 

 

「因みにあの場にいたOB全員は既にリサーチ済みだ。

五老星(ジジイ共)が言っていたぞ?『情報は力だ』とな。

組織に属する以上会議室で戦いも起こる、私なりに波風立てず世をうまく渡る為の処世術というヤツだよ。

助け舟を出すタイミングが少し遅かったのが悔やまれるが…センゴクさんの負担が少しでも軽くなるかと思ってな、どうだった?」

 

 

「うん…とても有難いよ…すまないなミラ…」

 

 

とても…とてもいい子だ…どっかのバカにも爪の垢を煎じて飲ませてやりたい。

その時ドカーン!と爆発音が響いて会議室の扉が吹っ飛んでいった、ウワサをすれば馬鹿のご登場である。

 

 

「ようセンゴク!もうOB連中との談話は終わったかのう?」

 

 

こ、この男は…扉まで壊してこの態度…我慢ならん!

 

 

「…………(無言の腹パン)」

 

 

「おっふぅ!?センゴク!?

何でそんな怒っとるんじゃ、いつもの事じゃろう!」

 

 

「喧しい、キサマはミラの爪の垢でも煎じて飲め…」

 

 

「何でこいつ今日こんなに辛辣なんじゃ!?」

 

 

「擁護しやしないからね。」

 

 

「右に同じじゃ。」

 

 

おつるさんとサカズキが呆れ顔で呟いていた。

 

クザンはグーグー寝息を立てている…ボルサリーノ貴様もか!

 

こいつらが未来の大将候補だと思うと気が気でならない…

 

 

会議もお開きとなり、ガープに扉を直させてから他の者達が帰ったのを確認して会議室の戸締りをした後ミラと共に自身の執務室に続く廊下を歩く。

ああそうだった、これをミラへ報告するのを忘れていた。

 

 

「そういえば、お前が目をつけていた七武海候補のゲッコー・モリアだが…新世界にてカイドウと対峙したらしい。結果モリアは惨敗、かなりの深手を負い行方不明になったそうだ。」

 

 

「なんだそうなのか、カイドウ(あのバカ)…七武海候補を潰しよってからに……

まあ他のを探すとするよ。」

 

 

七武海の再編成は急務だが白蛇がいれば充分海賊達への強い抑止力となるし、正直な所ならず者共よりミラの方が信用できる。

海賊共なんぞに海の平和を任せられるか。

だがミラ本人はいつまでも白蛇でいる気はないようだし…ままならんものだな。

 

そういえば…

 

 

「聞きたかったんだが、君が連れてきた新しい龍達…レムとアンはちゃんと人の世界を学んでいるのか?

本部の測量士が過労で倒れそうなんだが。」

 

 

龍の存在を秘匿するためミラには判断を任せてあるが、ここ数ヶ月で無人島を二つも消滅させるという暴挙をやってのけている。心配の一つもあろうというものだ。

 

 

「2人とも頑張ってはいるんだがな、力加減にもう少し時間が必要だ。

特にアンはちょっと問題アリなんだが…まあなんとかするさ。」

 

 

自嘲気味に笑うミラ。

ロシナンテをああ言って送り出した手前、私は少し心配なのだ。

彼女の部隊は過剰戦力過ぎる。世界のバランスなど一瞬で崩してしまいそうな危うさにこちらも毎回ハラハラしてしまい、ガープとはまた別の意味で胃の痛くなる存在だ。

だが敵に回すのは絶対に遠慮したい。

彼女と初めに接触したのが海軍で本当に幸運だった…

 

 

「私はこれからオックス・ロイズ号の具合を見に行くんだが、センゴクさんはどうする?」

 

 

「同行させてもらおう。

OBにああ言って貰ったんだ、現状くらい把握しておかねば。」

 

 

踵を返し、その後もミラと談笑しながら廃船置き場へと歩を進めた。

 

 

…………

 

 

…………

 

 

 

「あっハハハハハ!そらそらぁ!」

 

 

「フッ……流石だ強き者よ。」

 

 

廃船置き場に剣戟と爆発音が響く、目の前では世界最強の剣豪と金髪の美女が物理的に語り合っていた。

というか女性の方は素手だ、生身でミホークの黒刀と渡り合っている。

 

……何故七武海が此処に!?

 

よくよく見れば鷹の目の他にもバーソロミューがこの戦闘を眺めているし一体何がどうなってるんだ?

 

 

「おーい帰ったぞー、ちゃんと必殺技考えてるかー。」

 

 

ひ…必殺技?何の話だ?

この現状と必殺技に一体どんな関係が…

 

 

「おー姉御、おかえ「余所見は禁物だ」テメコラ!卑怯だぞ!」

 

 

彼女はアンだったか、輝くような金髪が特徴的なこの娘に向けて飛ばした鷹の目の斬撃は腕一本でいとも簡単に弾かれ側にあった廃材の山を切り裂いた。

何故かそれを見てミラは顔を青くする。

 

 

「あっ…そっちにはロイズ号が…」

 

 

「何ィ!?」

 

 

まさか!?今の斬撃が奥に眠るオックス・ロイズ号に直撃していたとしたら…

一緒に顔を青くしながら斬撃の飛んだ方へ向かう。

 

その時

 

 

「オラァ!」

 

アンと鷹の目が戦闘を再開したんだろう。

叫び声と共に衝撃が走ったかと思うと廃材の山が崩れ落ち、私とミラは木材の雨に苛まれた。

 

 

「ああああ!?お姉様ああああっ!?」

 

 

テリジア給仕長の悲痛な叫び声が聞こえる、私のことも少しは心配してくれ。

 

 

「ふふ…ふふふふ…ふふふふふふふ…」

 

 

突如一緒に埋もれたミラが不敵に笑う、その直後轟音とともに真っ暗だった視界が一気に開けた。

ミラが思いっきり廃材の山を蹴りあげたのだ、廃材は皆空高く飛んでいき海やらその辺に散らばり落ちていく。

 

 

ミラは…額に青筋を浮かべていた

 

 

「馬鹿二人、そこになおれ…説教してやるッッ!!」

 

 

ミラの雷(物理)が悪ガキ2人に落ちる

 

 

数分後……結果としてオックス・ロイズ号には傷一つついてはいなかった、が。

巨大なたんこぶを作り正座させられるアンと鷹の目という珍しい姿を目撃することになった。

 





ロシナンテ君復活、なおモリアは愛の力に目覚めたカイドウにより原作以上にボコられて退場。七武海にはなれませんでした。


次回、時間軸的には…


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31 祖龍(モドキ)、原作を感じる

ちょっとアレな表現ありますのでご注意を

原作沿いに話合わせるの難しい…


 この世界には色んな〝常識〟がある

 

 働くのは民衆の常識

 

 勉強するのは貴族の常識

 

 戦うのは戦士の常識

 

 海によって閉ざされた島一つ一つにその島でしかない〝常識〟は有り、囲われた枠の中で人は一生を終えるのだ。

 

 

 

 以前の私の国もそうだった。

 王家の教え、国のしきたり、鎖のような〝常識〟にがんじがらめにされる人生。そんなものはもう飽きた。

 

 能力(チカラ)には選ばれなかったけど、別の(チカラ)で私は自由を手に入れた。

 

 

 故郷(くに)を飛び出してからおおよそ120年、毎日眺める海はこんなにも綺麗で世界は輝きに満ちているというのに……

 

 

 「なーんで誰も彼も意味の無い殺し合いを仕掛けているのかねえ…」

 

 

 死体の山を築き上げ、そのてっぺんで私は呟く。

 此処はかつて国だった場所、血に染まり、異臭漂う王座の間。

 本来その座に着くべき国王の首から下は今では私の座布団がわりに尻に敷いている。座り心地の悪い椅子だね。

 片手で()()の国王を掴み、滴る血は吸い込まれるように私の口元へと運ばれた。

 

 うわまっず、栄養偏り過ぎだよこの国王

 

 

 プルプルプルプル……プルプルプルプル…

 

 

 懐の小型電伝虫が鳴り出した、この子が鳴る時は大体決まってあの男からだ。

 

 

 「はぁーいドラちゃん、お元気ぃ?」

 

 

『……ドラちゃんは止めてくれ、頼んでいた制圧はどうなった?』

 

 

 「ドラちゃんのお望み通り、勝利の女神になってあげましたとも。

 なんなら()()()()()()()()()こくおーさまとお話するぅ?首しか無いけど。」

 

 

『すまない、助かった。

 直接会って話したいことがある、一度我々と合流してくれ。日傘を忘れるなよ。』

 

 

 「こくおーさまに対するレスポンスは無しなのぉ?つまんなーい。」

 

 

 せっかくお姉さんが殺伐とした定時連絡に爽やかな笑いを届けてあげようと思ったのに、真面目なボスだこと。

 

 

『勝利に喜んでもいられない、この勝利が〝我々〟によるものだと世間に知らしめなければな。

 戦後処理は今いる同志達に任せておけ。』

 

 

 「ハイハイ、ボスの仰せのままに〜。

 んで?どうしたのさ、イワちゃんの顔がまたおっきくなったの?」

 

 

『……くまが機会を与えてくれた。』

 

 

 「……ッッ!!」

 

 

『場所は東の海、ゴア王国で落ち合おう。

 くまの弁が確かなら彼女もそこへやってくる筈だ。』

 

 

 「ウン、分かった。遂に会えるんだね。」

 

 

『君が我々に協力してくれている対価がやっと払えるよ()()()()()()()、ではまた後で。』

 

 

 そう言い残し電伝虫は切られた。

 

 

 流石に気分が高揚するね、まさかこんなにも早く会えるなんて。これも〝運命を創る龍〟のお力なのかな?

 

 

 「ふふ…うっふふふふ…!」

 

 

 久しぶりに心から笑った、こんなに嬉しくなったのは愛する二人の孫娘を抱いた時くらい。

 これもあの御方の選んだ運命、我が家の死体なんかじゃなくて本物の伝説に私は会える!

 

 

 「ミュゼさん!国民達が革命の英雄に一目会いたいと城下に詰め寄って…」

 

 

 随分慌てた表情で銃を持った同志君が現れた、この惨状を見ても動じないなんて中々肝っ玉座ってんね〜。

 

 

 「てきとーにあしらっといて、ドラちゃんに呼ばれちゃったからぁ…私お暇するね!バイバーイ♪」

 

 

 首をその辺に放り投げ、城の窓から飛び降りた私は月夜を飛んだ。

 

 

 「ちょ…ちょっとミュゼさん!?ミュゼさぁ〜んッ!!!」

 

 

 楽しみだな〜…ゴア王国!

 

 

 

 

 

 ………

 次の日、偉大なる航路のとある島にて勃発していた永きに渡る戦争が反乱軍側の勝利というカタチで集結した。後に国王による民衆への理不尽な重税や様々な不正の証拠が発覚し各社新聞の一面を飾る事になる。

 国王は首を切断された状態で、更にその衛兵達は血液を全て抜かれミイラと化した遺体となって発見されたと記事は語る。

 世界政府はこの不審死を反乱軍以外の第三者による犯行だと推測し原因究明に当たるとの事だ。

 反乱軍の勝利の裏に潜む〝何者か〟について政府は()()発表を控えている…

 ………

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 「本日は遠路はるばる御足労頂き誠に有難うございます。

 いやー天下の海軍本部から中将殿を派遣して頂けるとは、国王陛下もお喜びになられますよ。」

 

 

 「御託はいいから、当日天竜人の通る海路と予定表を見せて頂けませんかね。

 万一の事が無いよう厳重に〝掃除〟しておかないといけませんので。」

 

 

 精一杯の作り笑顔で対応するも心で泣いてる俺氏。

 明鏡止水明鏡止水明鏡止水…心を無にしろ、俺は我慢のできる龍だ。これもくまとの約束だ……

 

 さっさと帰りてぇ…

 

 

 ……ここは東の海(イーストブルー)、ドーン島はゴア王国。

 今俺は国王の住む城の応接室で城の警備兵長と数週間後に控える天竜人の謁見、その警備と下準備に向けて会議をしている。

 本来ならボルサリーノ中将の仕事なんだけど、アンの事件で連れ回してたし本来追いかけてた『タイヨウの海賊団』の動きが活発化してきたからそちらを追いかけに行くんだそうだ。

 この島でくまとの()()もあるし、素直に回ってきた仕事を受けることにした。

 隣には差し出された当日の予定表を黙々と眺めるレムと椅子に寄りかかって興味無さそうにぐでーっと天井を眺めているアン、そして後ろには数名の部下と共にロシナンテ大佐、ガスパーデを連れている。

 

 

 ゴア王国は世界でも有数の『完全隔離社会』だ。王族、貴族、平民の階級は勿論の事、国中のゴミだって纏めて街の外へ捨てっぱなしにして『隔離』しているらしい。

 ここへ来た時イルミーナが鼻を抑えながら嫌そうな顔をしてた。鼻が利くから余計ね、キツイよね。

 

 …そうそう、いつも居るはずのイルミーナとテリジアが不在の理由だが、彼女達にはガープ中将に頼まれた〝お使い〟をお願いしている。

 ある山賊に手紙を渡して欲しいそうだ、この島はあの爺さんにもゆかりのある場所らしい。

 

 

 んで、前述したがそんなゴア王国には数日後、天竜人がやってくる。

 面倒臭いがこれも仕事だ、正直な所あんなクズ共どうなったって構わないがお給料が発生してる限りいくら嫌でも守ってやらなきゃいけない。〝最弱の海〟とまで揶揄される東の海なので目立って凶悪な海賊は居ないんだけどこの辺りの海域には割と悪名高い『ブルージャム海賊団』が出没するとの事でいっそう警備を緩める訳にはいかなくなった。

 という訳ですり合わせも兼ねて先程から話し合いをしてる訳なんだが、どーもこの警備兵長は集中してない。

 隙あらばチラッチラとこっちの胸を見てるし…すり合わせて欲しいのはお前の棒か?お?

 ……なんかオッサンみたいだな俺

 

 

 良くも悪くも人の姿をとった俺達龍はかなり目立つ、俺達はワンピースの世間一般でいう美人のカテゴリに分類されるらしい。

 レムは真珠の様な白肌に整った顔立ちをしているし無表情なのが逆にイイ!と評判だ。アンは言わずもがな、某女英雄王似のボンキュッボン金髪美女で黙っていれば国だって傾くだろう。

 俺氏自身も約束された勝利のアルトリア顔。下っ端海兵だった頃、同期の奴や先輩将校、果ては派遣先の島にいた見ず知らずの貴族にまで告白された事もある。まあ感性が人のそれとは違う為、人間に興味は湧くけど恋をしないしそもそも元男な俺氏は全部バッサリ断ったが。

 

 そんな美人が三人も揃っているのだから邪な目で見ないという方が無理だ、それは前世が男であったものとして納得しておいてやる。だがしかし、仕事くらいビシッと集中してやってくれませんかねえ!?

 あっ、もしかして結構話してたから集中力切れちゃったのかな?(名推理)

 

 

 「根を詰め過ぎてもアレですので、ここらで少し休憩しましょうか。昼食を挟んで一時間後にまた。」

 

 

 「そ、それでしたら城内の方でご用意致しますので!」

 

 

 「ご心配なく、部下達と適当に露店で済ませますよ。

 街の様子も確認しないといけませんしね。」

 

 

 「はあ、そうですか…」

 

 

 露骨に残念そうなカオされた、愉悦。

 

 

 ………

 

 

 

 

 「さて、出てきたのはいいが…この昼時に12人も入れてくれる店はあるものか。」

 

 

 「なあボス、城内で済ませば良かったんじゃねえの?」

 

 

 「正直衛兵の視線が限界だった」

 

 

 「アンタもそういうの気にするんだな…」

 

 

 「お?まるで私が女らしくないと言っているように聞こえるんだが?」

 

 

 「…………フューフュー」

 

 

 「おいこっち見ろガスパーデ、露骨に目を逸らすな。」ギリギリ

 

 

 「があああ首が折れる首が折れるッッ!!

 覇気は卑怯だぞ!」

 

 

 「ち、中将殿!とにかく手近な店を探して昼食を済ませましょう!」

 

 

 ロシナンテ君何を慌ててるん?

 

 といっても、海兵12人がゾロゾロと街を歩いていたら超目立つ。

 道行く人みんなから視線を浴びるな…

 貴族達の住む高町の料理は値段ばかりが高く量が少ない(これ重要)のでそこから更に城下町まで降りる事にした、そこでいい所にラーメン屋を見つけたので入る事に。

 

 

 「すまない、大人12人で予約無しなんだが席はあるか……て、どういう状態だこれは。」

 

 

 なんか店内がガヤガヤしてて窓ガラスは1枚割れてるし、席の一つには空の丼が山のように積まれてた。

 

 

 「まったくもう…あ!いらっしゃいませ!」

 

 

 「窓が割れてるが、この店で一体何があったんだ。」

 

 

 「聞いてくださいよ海兵さん!さっき子供3人に食い逃げされたんです!

 聞けばあの子達は食い逃げ常習犯だと言うし…まったくいい迷惑ですよ!」

 

 

 どうやらこの惨状は食い逃げの後だったようだ、此処4階なのに食い逃げ犯は窓から飛び降りたの?流石ワンピースの世界は頑丈な奴が多いネー。

 

 

 「そりゃ災難だったな…タイミングが悪かったようだ。店を変えるよ。」

 

 

 「いえいえ、直ぐに片付けますので少々お待ちください!

 店長、新規さま12名入ります〜!」

 

 

 んー元気な店員さんだね〜、サービス業者の鏡。

 基本的に海軍は世界政府直属の組織の為、国ごとに設置されている自警団や警備隊を押しのけてまで犯罪者を捕まえることは無い。

 

 「ミラ中将、犯人を捜索しなくて宜しいのですか?」

 

 

 「ほっとけ、そりゃこの国の警察の仕事だ。

 今私達は客なんだから座って昼飯を待っていよう。」

 

 

 「はあ…了解しました。」

 

 

 正義感強いネーロシナンテ君は、流石センゴクさんとこの秘蔵っ子。

 でもね、海賊絡みの被害や今日みたいに天竜人案件なら話は別だが基本自分の国で起きた犯罪は自国の警備隊が片をつけるのが筋だからここは客として振舞っとこ。な?

 

 

 因みに、食い逃げ犯が食べていたらしい跡の残った席には「たからばらい」と殴り書きしたメモが放ってあったよ。

 

 子供の癖になかなか豪胆な事するねえ

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 ドーン島には『フーシャ村』という小さな町がある。

 その村はゴア王国から島の反対側に位置し、人々で賑わう王国とは違い少数の村人達が暮らす静かな海沿いの村だ。

 そこにお使いを任された二人の来訪者がやって来ていた。ミラ直属のメイド、テリジアとイルミーナである。

 

 彼女達は差し当たり村唯一の酒場である『Partys Bar』で山賊達の情報を集める事にしたのだった。

 

 

 「じゃあテリジアさんとイルミーナちゃんはガープさんの手紙を届ける為に此処へ?」

 

 

 「左様でございますわ。

 この手紙をコルボ山に住むダダンという山賊へ届けて欲しい、と頼まれましたの。

 まったく、人使いの荒い中将ですわ…」

 

 

 「おれんじじゅーす、おかわりー」

 

 

 「はーいどうぞ。」

 

 

 「うまー」

 

 

 最初は突然の来訪者に少々訝しんでいた村の人々だったがテリジアがガープ中将の名を出し安心したのかこの酒場まで案内してもらい、マキノを紹介された。

 少ししたら彼女は村の者達には内緒で山賊達の下へ酒を届けに行くそうだ、それに2人も同行する事になった。

 

 

 「マキノ様、お1人で山賊の所まで行くつもりでしたの?

 それってかなり危険ですわよ?」

 

 

 「確かに悪い山賊もいるけど…ダダンさん達は悪い人じゃないから大丈夫よ。」

 

 

 少しだけ暗い顔をするマキノ、テリジアは知らないがつい先日フーシャ村は山賊達によって一悶着あったのだ。

 その場に居合わせた海賊達の手によって鎮圧されたが彼等がいなければ今頃どうなっていたか…

 

 

 

 「……うずうず」

 

 

 「あら?どうしたのイルミーナちゃん、おトイレ?」

 

 

 「ああ、久しぶりの大自然ですものね。

 お姉様からは手紙を届けろと仰せつかっただけですし、少しお外で遊んでいらっしゃいな。

 ちゃんと私のビブルカードを使って帰ってくるんですよ。」

 

 

 「うん…!ごちそーさまでした。」

 

 

 イルミーナは残っていたオレンジジュースを一気に飲み干すと酒場を駆け出しコルボ山の中へと走って行ってしまった。

 

 

 「イルミーナちゃん大丈夫なの?

 コルボ山の奥には危険な猛獣も彷徨いてるのに…」

 

 

 「ふふふ、ご心配痛み入ります。

 ですがたかが()()()()ならイルミたんに傷一つ付けることは出来ませんのでご安心下さいまし。

 こう見えて私とイルミたん、強いんですのよ?お姉様には到底敵いませんが。」

 

 

 「そうなんだ…

 テリジアさんは本当に〝お姉様〟の事が好きなのね。」

 

 

 「ええそれはもう、私の『運命の人』ですから♡」

 

 

 うへへへ…と想像以上に緩んだ顔をしながら笑うテリジア。

 フーシャ村は今日も平和である。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 エースside

 

 

 

 「ぷはー美味かったなーあのラーメン!」

 

 

 「だろ?次はあの2倍は食おうぜ。」

 

 

 「サボ、ルフィ、急げよ。

 ゴミ山は越えたけど最近の警備の奴らしつこいからさ。」

 

 

 ゴア王国と不確かな物の終着駅(グレイターミナル)を隔てる壁を越え、まんまと食い逃げした俺達はコルボ山を登り、隠れ家へと駆けていた。

 物売りに紛れて中心街へ侵入し、昼飯を()()()になってからお暇するのは最近の俺達の日常だ。

 でも今日の帰り道は何かが違った。

 なんだろう、妙に静かだ。いつもわらわらと湧き出てくる筈の猛獣達はすっかりなりを潜めている。

 

 

 「でもこんなに走ったらまた腹減っちまったな〜、熊探そうぜ!」

 

 

 「ドンだけ食うんだよルフィ!?」

 

 そんな事にも気づかないのかルフィとサボは呑気に笑っていた。

 コイツら危機感とかねえのか…

 

 「待てよ二人共、森の様子がおかしい。気を付けろ…」

 

 

 

 ガサリ、物音がしたそのとき。

 

 俺達の目の前に巨大な狼が飛び出してきた

 

 毛並みは綺麗な銀色で4本の脚には鎖が巻き付いている、向こうもこちらに気付いたのかその鋭い眼光に射止められ思わず足が竦んだ。

 コルボ山で過ごしてかなりの時間が経つがこんなヤツは見たことが無い、サボも動揺しているようだ。

 

 

 「な…なんだコイツ…」

 

 

 gruuuuu…

 

 

 低い唸り声…落ち着け、まだコイツは俺達を敵だと認識してないはずだ。

 〝野生の勘〟という奴だろうか、この狼はマズい。今の俺たちじゃ絶対に敵にしちゃいけないと本能が叫んでた。

 決して目を逸らすな、振り返って逃げ出せば必ず後ろから狙われる。

 猛獣達が妙に静かだったのはコイツが原因か…!

 

 「エース、エースどうする…?

 コイツはヤベェぞ(ボソボソ)」

 

 

 「ああ、絶対アイツから目ぇ逸らすなよ。

 アイツの方を向きながらゆっくり、下がるんだ。いいな…?」

 

 

 「ああ、分かっ…「おいエース、サボ!でっかい狼がいるぞ!晩メシは狼鍋にしようぜ!」ルフィ!?この馬鹿!!」

 

 危機感の無い愚弟が狼を指さしながら大声で叫んだ。ヤバイ!狼を刺激しちまう!

 

 先にコイツらだけでも逃がして…

 

 

『…わたしは食べてもおいしくないよ…』

 

 

 「「「!!!???」」」

 

 

 狼からすげぇ可愛い声が聞こえた

 

 

 

 

 …………

 

 

 

 

 「へぇーおめえイルミーナって言うのか、俺はルフィ!宜しくな!」

 

 

 「「いや普通に挨拶してんじゃねえよ!!」」

 

 

 ゴム製の頭をサボと2人で叩く。

 目の前にはメイド服を着た少女が立っていた。

 この女の子、さっきまで狼だったヤツだ。ルフィと同じ悪魔の実の能力者らしい。

 動物系の能力者なのか、頭にはピコピコと震える耳と尻には尻尾が生えていた。

 

 「さっきは食うとか言って悪かったな!

 こいつらはエースとサボ、俺の兄ちゃん達だ。」

 

 

 「そうなんだ…あなたたち、何でこんなやまにいるの?けっこう危ないやまなのに。」

 

 

 「俺達はずっとこの山で過ごしてきたんだ、だから平気さ。オマエこそなんでコルボ山に?」

 

 なんの警戒もなくフツーに会話してるルフィにはちょっと尊敬しちまうな…

 

 「この山にすむ〝さんぞく〟にてがみを渡すようじいじに言われたの。」

 

 

 「山賊…?ダダンの事か?」

 

 

 「知ってるの?たしかそんななまえのひとだったとおもう。

 島にきたのはいいけどばしょが分からなくて…」

 

 

 どうやらイルミーナはダダンに手紙を渡す為にこの島へやって来たようだ。

 …じいじ?じいじって…誰だ?

 

 

 「よし分かった!俺達がダダンのトコまで案内してやるよ!エースもサボもいいよな?」

 

 

 「ああいいぜ、任せてくれ!」

 

 

 「ダダンに用があるヤツなんて珍しいな…」

 

 景気よく答えるルフィとサボにイルミーナは尻尾をぶんぶん振って喜んでいる、こいつ狼ってよか犬みたいだな。

 

 「ありがと…

 ……3人ともわたしを怖がらないんだね、わたしはばけものなのに…」

 

 

 「ん?悪魔の実の事か?

 んなこと全然気にしねえよ。

 俺だって悪魔の実の能力者だからな!」

 

 

 そう言って自分の頬をグイッと引っ張って見せるルフィ、全身ゴムなんて損しかしねえと思うんだけどな。

 自分は化け物だと言った時のイルミーナは暗い表情をしてた。

 他人とほんの少し違うだけ、ただそれだけで世間から疎まれてきたんだろう。俺と境遇が似てて少し気持ちが沈んでしまう。

 

 

 「まあこんなヤツもいるんだ、今更悪魔の実程度で驚きゃしねえさ。」

 

 

 「……うん、ありがと。

 ねえ、さんぞくのいえってここからとおい?」

 

 

 「んー、ここから四十分位かな。」

 

 

 「だったらわたしの背中にのって、五分でおくってあげる。」

 

 

 そう言ったイルミーナの身体がどんどん大きくなり、再び狼の姿になった。

 案内する代わりに俺達を乗せて走ってくれるらしい。

 

 「おー!いいのか!!」

 

 

 頷きイルミーナが屈むと大喜びでルフィが乗り込み、連られてサボと俺も乗り込んだ。

 すげえ、温かくてフワフワだ。

 

 

『じゃあとばすよ、しっかり捕まって…!!』

 

 

 ゴウッ!と風を切る音がしたと思ったら凄い勢いで景色が後ろに吹き飛んでく、でも揺れは殆ど感じなかった。猛スピードで山道を駆け抜けていく様子に俺達は大盛り上がりだ。

 

 「おおー!すげぇはえー!!!」

 

 

 「イルミーナお前凄いな!こんな事が出来るのか!」

 

 

『空もとんでみる?』

 

 

 「空ァ!?お前空飛べんのか?」

 

 

『ちょっとだけなら…ふりおとされないでね』

 

 

 更に急加速したイルミーナはそのまま側にあった大木を垂直に駆け上がり、真上に飛び上がった!

 

 「ひゃああああああ!高ェ!」

 

 

 俺もサボもルフィも、こんな高さから島を見るのは初めてだったから大興奮だ。見下ろせばゴミ山の向こうのゴア王国から、反対側のマキノ達がいるフーシャ村までよく見渡せる。

 まるで空気の足場を蹴るようにイルミーナはジグザグに空を闊歩してコルボ山を見下ろしつつ移動した。

 程なくして、ダダン達山賊の住む隠れ家が見える。

 

 「あ、アレだぞイルミーナ。ダダンの家だ!」

 

 

『ん、りょーかい』

 

 

 一瞬ふわりとした浮遊感が体を包み、家の側まで急降下する俺達。

 あっという間にダダンの家に着いてしまった。

 まだ興奮冷めやらぬままイルミーナから降りる。

 

 「すげえ、本当にあっという間に着いちまった…。ありがとなイルミーナ!」

 

 

 「ん」

 

 人間の姿に戻ったイルミーナは短く頷く。

 その時、隠れ家からドカドカと音がして扉が勢いよく開きダダンが飛び出してきた。

 

 

 「なんだなんだ騒がしいよガキ共……あ?

 なんだい1人増えてるじゃないか!

 まーたガープの奴がガキを送ってきたのか!?」

 

 

 「はじめまして、いるみぃなです。」

 

 

 イルミーナがぺこりとお辞儀をする姿を見て少したじろぐダダン、予想外の反応だったんだろうか。

 

 「お、おう…これはご丁寧に…

 ていうかなんだいアンタ、またガープの差し金かい!?」

 

 

 「ガープじぃじからてがみを〝だだん〟って人にわたすようにたのまれました。」

 

 

 ガープ!?あのクソジジイがイルミーナをここへ連れて来たのか!?

 ジジイの名前を聞いて思わず表情が引き攣る、ルフィ、サボも同様だ。あのジジイは来る度に俺達に物理的な恐怖を植え付けてきたんだ、無理もない。

 

 

 「でもてがみは一緒にきたもうひとりがもってて…ちょっと待ってほしいです。」

 

 

 「アンタは手紙を持ってないんだね?

 はぁ〜…アイツからの手紙なんてどうせろくなモンじゃないだろまったく…」

 

 

 「じゃあもう1回背中に乗せてくれよイルミーナ、また空飛んでくれ!」

 

 

 「いいなそれ、今度はもっと山奥まで行こうぜ!」

 

 

 どうやらイルミーナには付き添いがもう1人いて、そいつがダダンに渡す手紙を持ってるようだ。

 時間が余っているようだったのでルフィとサボはまた背中に乗せて走るようにせがんでる。晩メシ用の食材も調達したかったし丁度いい、結局また俺達はイルミーナの背中に乗ってコルボ山を走り回って帰ってきたのは日が暮れてからだった。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 時刻は夕刻、もうだいぶ日も傾いて街の様子も人が疎らになってきた頃。

 難航していた警備の打ち合わせもなんとかまとまって、部下達とレム、アンを連れて港に停泊した軍艦に帰ってきた。

 それから自室で私服に着替えて、もう一度街へと赴き、待ち合わせの場所へ行く。

 

 少し薄暗い街の路地裏、そこの椅子に腰掛けていたバーソロミュー・くまと落ち合った。

 

 「…待っていた」

 

 

 「よう、約束を果たしに来た。

 こんな暗がりに呼び出して…私を襲うつもりか?コワいなー。」

 

 

 「少し実力のある者ならお前を襲おうなどと馬鹿な考えは起こさない。

 付いてこい、〝彼等〟の下へ案内する。」

 

 

 くまに導かれるまま路地裏を行く、暫く歩くうちに視界が開けてゴミのキツイ臭いと共に外の光が見えだした。

 ここは街の外だ。あの馬鹿でかい城門以外にゴミ山まで行けるぬけ道があったとは…

 その向こうには艦首に龍の巻きついた黒塗りの帆船が停泊している、そして黒のローブで顔を隠した二人の姿も。

 

 

 「()()()()、望み通り彼女を連れてきた。」

 

 

 「ああ、御苦労だったなくま。

 ……すまない」

 

 

 「いや、いい。ミュゼの願いでもある。俺は先に船へ戻っているぞ。」

 

 

 意味深なやり取りをした後、くまは黒塗りの船へ乗り込んでいった。

 

 

 「お初にお目にかかる、海軍中将総督ミラ…いや、〝祖龍〟と言った方が正しいか。」

 

 

 「…ほう、我が真名を知るか。名を明かせ人間。」

 

 

 どうやら祖龍扱いされると謎のスイッチ入るらしい、喋り方に若干祖龍補正(フィルター)が…

 パサリ…とフードを外し、男の顔が顕になる。顔の半分に赤い刺青が入ったごつい顔の男だ。

 

 

 「私はモンキー・D・ドラゴン。

 今はまだ無名の革命家だ…」

 

 

 モンキー・D・ドラゴン…?ガープ爺さんと同じ性か。

 てことはこの人主人公の家系やん!

 

 

 「そして私がっ!真祖様の忠実なる下僕っ!

 ミュゼリコルデと申しますっ!

 つきましては真祖様、靴を舐めても宜しいですか!?いえ失礼しました、脚を舐めても宜しいですか!!宜しいですね!?」

 

 

 ばあっとフードを振り払い、ヤバめの笑顔でヤバイ事を口走ってるこの女性は…

 

 

 「…テリジア?」

 

 

 思わず口走ってしまった。

 

 白金色の長髪にツリ目で…あ、瞳の色が違うか。紫ではなく金色の瞳をしている。

 俺の呟きにテリジアそっくりの女性は少しびっくりしていたようだった。

 

 

 「あれ…?何故真祖様が私の愛しい孫娘の事を…」

 

 それに名前もミュゼリコルデ…女ヶ島で豆バーさんが言ってた奴だ。

 

 「テリジアはウチのメイドだ、いろんな意味でどうしようもない居候だが…親譲りだったみたいだな。」

 

 妙な喘ぎ声を上げながら体をくねくねさせている姿は孫そっくりである。

 

 「まあ本当ですか!?テリジアちゃんったら私が一度国に帰った時には放蕩娘になっているって聞いたのに…真祖様の下に仕えているのですね!?

 流石私の目に入れても痛くない孫娘の一人!手が早い!

 ところで真祖様が履いているブラジャーかパンツ下さい食べるので!」

 

 

 「いや、ちょっと落ち着け。あとブラもパンツもやらん。

 お前、テリジアが孫にしても歳が近過ぎやしないか?」

 

 

 「ほえ?ああ、私悪魔の実の能力者ですので。見た目と実年齢かなり違うんですよ〜。

 ヒトヒトの実モデル〝冥雷鬼(ドラキュリア)〟といいまして、人間の血流とか操作出来たり生体電気なんかも操れたりしますよ。副作用で食べた瞬間から見た目が変わらなくなって、日中外を歩く時は日傘が必要になっちゃいますけどね〜。

 それより真祖様、こちらのタオルに汗か唾液を染み込ませて下さいませ!

 その後回収して今夜のオカズにしますので!あ''あ''あ''ぁぁ真祖様のスメルの残ったフレーバータオルうぅぅ…」

 

 

 「ええ…」

 

 片手に持つ日傘をくるくる回しながら見悶えるミュゼリコルデに頭を抱えるドラゴン君、相当扱いに困っているようだ。

 …気持ちは分かる。

 この女はテリジアとはまた違うベクトルに吹っ切れている変態だ…

 

 「ああ…すまない、ミュゼはこういう奴なんだ。君の話をすると見境無くてな…」

 

 

 「……お前も大変だな…」

 

 

 ドラゴン君、苦労人やね…

 

 

 ていうか俺氏、革命軍とコンタクトとっちゃったよ。くまの奴革命軍だったのか!

 知らなかったあああ!

 

 何故海軍の俺にバラす!?お前の立場悪くするだけじゃねえの!?

 それを推してまで俺とこの男(ついでに変態)を会わせたかったって事か!?

 

 俺に面倒なこと押し付けるなよおおおおおおッッッ!!!(只今ミラは祖龍フィルターのお陰で真顔です)

 

 

 「海兵と革命家…本来なら我々が出会うことは殺し合いの場以外では決して有り得なかった筈だ、だがそれでも私と君を引き合わせたのはひとえにくまの存在が大きい。

 そしてミュゼがいなければ私は君の存在を知ることはなかった。

 世界の答えを知る者、祖なる龍ミラルーツ。私は君に聞かなければならない事がある…」

 

 

 隣で発情した変態が悶えていてもあくまでシリアスを通す気かドラゴン君…健気よな…

 

 

 「世界の始まりと終わりを創る龍よ、君はこの世界に何を思う。

 何故君はそちら側なんだ…!」

 

 

 そちら…側?海軍の事か?

 

 いつだか五老星達が言っていた、海賊達は自分から世界政府を襲うようなことはしないが今世界の水面下で世界政府を直接転覆させようとしている組織があると。

 その名は〝革命軍〟、王政を狂わせ反乱を起こし、 多くの命を争わせる戦火の火種。まだ規模は小さいが五老星達政府の諜報員はその存在にいち早く気付き、世界会議にて各国に注意を促す予定だと聞いた。

 古今東西、たとえ世界が変わっても人という存在が集まる限り〝集団〟ができてやがてそれは成長し〝国〟になる。人間の様々な思惑が複雑に絡み合い、中には王や組織に不満を持つものだって生まれるだろう。そんな彼等の我慢が限界に達した時大なり小なり〝いざこざ〟は起こるのだ。

前世でも結構起こった事だしそういうものだと思って飲み込むのが手っ取り早いのかも知れんケドね。

 

 「私は迷っていた、この問いを海軍に所属する君に投げかけていいものかどうか…だがあえて言おう。

 祖なる龍よ、私は世界政府を討ち滅ぼす。

 世界のバランスを崩し一度リセットするつもりでいる、それは正しいのか?間違っているのか?

 今一度龍としての君の意見を聞かせて欲しい!」

 

 

…あー、ドラゴン君は自分のやろうとしてる事が本当に正しい事なのか今更迷っちゃってるんだ。

いざやろうとした手前、踏ん切りがつかない時とかあるもんねーあるある。

 しばしの沈黙、少しして

 

 

 

 「……なあ革命家、お前は世界を見たか?」

 

 

 「ああ…この目でしかと見てきた。

 圧政や重税に苦しむ国民達、果ては奴隷制度。人攫いを政府が黙認している現状に俺はこれ以上我慢ならない…ッ!

 だからこれから世界を変える。1歩ずつでいい、これから同志達を募り密かに、綿密に準備を整えいくつもりだ。」

 

 

 「沢山死ぬぞ、お前が死地に送るんだ。勝てるかどうかも知れん戦いに多くの犠牲を払う事になる。」

 

 

 「……覚悟の上だ。」

 

 

 「…そうか。で?

 そんな世界規模で危険な男の話を聞いて海軍である私が貴様を逃がすとでも思ったか?」

 

 

 バチリと紅雷が俺の右手に走り、一瞬でドラゴン君の前まで近づいてその首筋に右手が触れる寸前まで近づけた。

 推定八億Vの超超高電圧、触れればたとえ能力者だろうが一瞬で感電死、あと数ミリでもこの手が動いて首筋に触れれば息するよりも早くこのちっぽけなニンゲンはこの世を去る。

 

 

 「……勿論だ、今日はこれを承知で君の下まで来た。」

 

 

 対するドラゴン君は表情を崩さず、じっと至近距離から俺の目を見つめてくる。

 ほんの数秒、この時間がとても長く感じた。

 

 

 「……………やーめたやめた、くだらん。

 この上なく下らん、この手の問答は嫌いなんだよ私は。」

 

 

 スッと手を離し、ひらひら手を振る俺にドラゴンは少し動揺してるようだった。

 

 ………ドッキリ大成功?

 

 

 「答えるも何も、ドラゴン。

 お前の中で答えが出たから革命などと馬鹿げた思想を実行しようとしてるんだろう?

 私に後押しして欲しかったか?馬鹿め。そんなものはお前が勝手に決めるがいい。

 世界を敵に回す?結構。

 どんな犠牲も厭わない?大変結構。

 世界のバランスを崩す?おおいにやってくれ。

 お前の意志はお前だけのモノ、全てはお前の自由、それがヒトというものだ。

 なら私の答えは一つ、『好きにしろ、私も好きにする』だ。」

 

 この世界の人間は皆奴隷も圧政もこれが自分達の〝常識〟なんだとばかりに飲み込んでいる。だがこの男はそれに大きく異を唱え、自分から世界を変えてやろうと考えたのだ。

 半分龍である俺にはその心意気が超美しく見えるよ。まるで伝説に挑むハンター達のようにキラキラと輝く黄金の精神だ(作品違い)。

 権力に歪みきってる連中と話してるよりよっぽどいいね。

 政府がなんだ、世界がなんだ、男ならドーンとやってやれだろ?こんな吹っ飛んだ思想してるあたりが流石あの爺さんの息子よね。

 

 「…ありがとう。」

 

 

 「だが、覚悟を決めたなら…もう辞めれんぞ?お前の理想の為に何百万人が死のうとも、地に這いつくばって泥を啜る恥辱に塗れてもだ。

 生半可な覚悟など容易に打ち砕かれると知れ、それ程に世界政府は強大だ。」

 

 

聞けば800年続く巨大組織らしいからね世界政府。

 要は止まるんじゃねえぞ…と伝えたかった訳だが、この世界じゃ誰もこのネタ分かんねえよな。

 

 

 「全てはお前の自由だ、好きにするがいい。

 ……これ海兵としてヤバイ発言だよな…まあいいさ、これも私の〝自由〟だ。」

 

 

 「そうか、なら私も「ブハアアアアッもう限界!シリアスも私の大事な部分も限界です!真祖様カッコよすぎる!神々しい!濡れる!抱いて!?私の操は貴方様に捧げますうぅぅぅ!!」…ハァ〜〜……ミュゼ…」

 

 

 突然鼻血を吹き出しながら目に爛々とハートマークを映し今にも抱き着こうとしてくるミュゼの首根っこを引っ掴んで止めるドラゴンさん、苦労人(確信)。

 

 「時代を護る者と時代を壊す者…両者共々に面白い。

 やはり人はこうでなくちゃあ。」

 

 

 均衡を保つ世界政府(五老星)

 

 均衡を崩す革命家(ドラゴン)

 

 

 なるほど面白くなってきたなあ。

 原作が始まれば世界は一気に動き出すねこりゃ、オラワクワクすっぞ!

 

 

 ぷるぷるぷるぷる…ぷるぷるぷるぷる…

 

 

 おっと、懐に入れた子電伝虫が鳴り出した、失礼。

 

 

 「出てもいいか?」

 

 

 「構わない」

 

 

 がちゃ

 

 

 「ああ…私だ。

 …………そうか、予定通りガープ中将の手紙を渡したか。ご苦労……何?手紙の内容が…?

 …なるほど、なら滞在を許す。イルミーナの世話もお前に任せた。

 私も仕事が終わるまでゴア王国に居ないといけないからな、それまで世話にならせてもらえ……じゃあ切るぞ。」

 

 

 通信を切る、どうやら俺氏の可愛いメイド達は無事おつかいを終えたようだ。

 ただガープ爺さんの渡した手紙の内容がアレだったので暫く向こうでご厄介になるらしい。山賊だとか言ってたがガープ中将の知り合いなら問題無いだろ、あの爺さんはいろんな意味でとんでもない人だが人を見る目は一流だ。

 

 

 「話は終わりかドラゴン、私もそろそろ戻らないと部下達に怪しまれるのでな。」

 

 

 「ふふ、貴重な時間を割いて悪かった。

 我々も出航しよう、また何処かで会うかもしれんが…その時は敵でないことを祈るよ。」

 

 

 「それは私が海軍である限り不可能じゃないか?」

 

 

 「だな、さらばだ祖龍ミラルーツ。」

 

 

 「えええもう帰るのぉ〜?もうちょっとだけ真祖様の香りを…」

 

 

 「いいから行くぞ。」

 

 

 うだうだ言ってる変態を引き摺りながらドラゴン君は船へ戻って行った、それを見送った後船縁から俺を眺めるくまに気付く。

 あいつ…次会ったら色々仕事押し付けてやるからな……

 

 

 とういわけでドラゴン君とのファーストコンタクトは終了し、軍艦に戻った。

 

 

 主人公のパパに会えたのはびっくりだったけど、なかなか面白い奴だったなー。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 彼女の姿が見えなくなってから、肺に溜まっていた息を吐く。

 どっと汗が額から滲み出て肩で息をしながら呼吸を整えていた。まさかこれ程のプレッシャーとは…

 気まぐれでこの船に乗船したミュゼリコルデが話してくれた『龍』の存在、なかば冗談だと諦めていたが七武海に参入したくまからそれらしい人物がいると情報を得た時は流石に驚いた。

 ()()は美しい女性の姿をし海軍に潜んでいたのだ。

 正直賭けだった、彼女が海軍の思想に染まりきっていれば俺は今ごろあの世に送られていたことだろう。

 …いや、彼女は俺が賭けに出ている事を承知の上であそこまで俺を試したのだ。

 龍とは自由、何者にも縛られず、何者にも囚われず、世界の全てを傍観し時に創る者。

 

 これも祖龍の導きなのだ、なら俺は…

 

 

 世界を変える(ドラゴン)になろう

 

 

 もう迷いはない、この意志は固く何者にも砕けない。そう心に決め、俺は船の状況を確認する為甲板へと上がった。

 

 

 「あらドラゴン、もう『考え事』は終わっチャブルね?」

 

 

 「ああ、もう僅かな迷いも消えたよ。

 世界を変えるぞイワ。」

 

 

 「ン~フフフフ!その顔、いい男になったわねドラゴン。

 ミュゼちゃんの人生相談は効果てきめんみたい。」

 

 

 「ああ、ミュゼにも礼を言わないとな。

 アイツは今何処にいる?」

 

 

 「多分船内の自室でしょうけど…今は入らない方がベターよ、憧れの祖龍サマに会えて多分相当ハッスルしてるわ。隣部屋のくまが呆れて甲板まで出てきた位だもの。」

 

 

 「こうなる事はある程度予想していたが……喘ぎ声を延々聞かされるこちらの身にもなって欲しいものだ……」

 

 

 「今回ばかりは多めに見てやれくま。

 ……いつもの事だが、ナニをやっとるんだミュゼは…」

 

 

 取り敢えずミュゼの部屋の周りには近付かないよう全員に忠告しておいた。







変態が一人増えた。

俺氏「原作を感じるな〜スタート楽しみだな〜」

ドラゴン「龍から直々にお墨付きを貰えた…もう何も怖くない!」

五老星に引き続き熱い勘違い被害者2人目


ミュゼのオリジナル悪魔の実は吸血鬼+冥雷竜ドラギュロスのイメージで考えました。他作品様の悪魔の実と被らない様に必死で考えた結果とんでもない物を作ってしまった…
内容は血流操作とドラギュロス特有の黒い雷を出せます、チートです。出力はミラに遠く及びませんが。
龍はこれ以上出ませんが竜の力に酷似した悪魔の実はちょくちょく登場します、前話のガノス(故人)も本当は『ゲルゲルの実』というゼリー人間で仙異種ガノトトスをモチーフにした能力者でした。相手が相手だったので描写する暇なく消滅しましたが…

多くのSSで他作者様が使ういわばワンピースのターニングポイント、ドーン島ルフィ幼少期にやって来た訳ですが原作勢と遭遇したのはイルミーナ。ミラは未来の革命軍と開示してとうとう原作が少しずつ絡んできます。
会話がガバったり戦闘描写下手くそなのは許してや…許してや…


言うタイミングを逸していましたが、6000を超えるお気に入りに平均7の高評価、本当にありがとうございます。
読者の方からミラの絵まで頂いて…獣は幸せ者でございます。
仕事に忙殺される日々、これからも少しずつではありますが失踪せぬようコツコツ執筆していきますのでお付き合い頂ければ幸いです。



◆原作キャラ、オリキャラのミラに対する感情一覧

イルミーナ…おかあさん(おとうさん)
テリジア…ご主人様、踏んで欲しい
レム…主君、心境は盟友に近い
アン…弱肉強食、敗者は勝者に従うのみ。次は負けねぇ
ステラ…命の恩人、家事が苦手?しょうがないわね…
テゾーロ…恋人に合わせてくれた大恩人、いつか恩返ししたいぜ
クルス…絶対強者、本能で勝てないと悟り従属、優しいご主人様
五老星…良好な関係を築いていたい
ガープ…娘同然、ミラはワシが育てた!
センゴク…龍という事を除いても信頼できる部下
ゼファー…妻と息子が世話になってる、いいヤツだ。
おつる…馬鹿どもと違って真面目だから助かるね。
クザン…イイ身体してんだよなあ、手ぇ出したら消されそう。(いろんな奴に)
ボルサリーノ…可愛い妹が出来た気分だよォ〜
サカズキ…奴の正義についちゃあちと疑問が残るが…嫌いじゃ無いわい
ガスパーデ…いつか超えるべき目標、憧れ(本人の前ではとても言えない)
スパンダム…無茶苦茶な師匠、人として尊敬している
ゾルダン…崇拝
ロシナンテ…不思議な人だ
カイドウ…ミラはオレの嫁!結婚してくれ!
ミホーク…強き者よ…俺もまだまだだな
クロコダイル…白蛇を呼ばれちゃ堪らねえ、今は大人しくしておこう
ハンコック…アレは怒らせたら絶対ダメな奴じゃ…
くま…あれだけ暴れてまだ人だと誤魔化しているつもりか…
ドラゴン…迷いは絶たれた、いざ革命!←New!!
ミュゼリコルデ…発情//←New!!


次回、ドーン島続き


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32 アレンジエピソード・オブ・ドーン

ベリークルシミマス、約1ヶ月ぶりの獣ですよ。ハイ。

月更新になって申し訳ございません!

なんかもー年末一色でね、クリスマスなんて大人には無いんじゃよ…


えー32話何ですが、なんと字数が2万近くあります。
非常に長いです、読みづらかったらごめんなさい。仕事しながら繋げてたら分ける場所を見失った…
というか下書きせずにそのままハーメルンに下書き保存してたから分割なんてできねえ…




 「……はい、おわり」

 

 

 「ぶへぇ!痛ってェェェッ!?」

 

 

 わたしが振り抜いた鉄パイプがるふぃのお腹にあたって地面を転がった。そのまま木に激突して頭にたんこぶができてるみたい。

 

 みらのお仕事でわたしとてりじあは〝だだん〟という山賊の所まで手紙を届けにやって来た。

 そこにはるふぃ、えーす、さぼという3人の子供が住んでいて色々あって仲良くなった。

 手紙の送り主、ガープじぃじは孫のるふぃを強い海兵さんにする為にわたしと会わせたみたい。手紙にはそんな感じの内容が書いてあったとてりじあが教えてくれた。

 じぃじはいつも大事な事を教えてくれない、『ほう、れん、そー』は大事だってみら言ってたのに…

 てりじあが連絡をとって滞在の許可も貰ったのでしばらくてりじあと二人でふもとの〝ふーしゃむら〟という所の宿に泊まらせて貰うことになってから何日か経った。

 

 

 「あーあー情けねぇ」

 

 

 「これでルフィは50戦負け越しだな」

 

 

 「…でも、前よりよくうごける様になってるよ?

 それに負けたかずならえーすもさぼも同じじゃ…」

 

 

 「「ぬぐっ…!?」」

 

 

 少し唸って頭を抱えるえーすとさぼ、ここ何日かはずっとこの調子でわたしに勝負を挑んでくる。でもるふぃ達はまだ6歳とかだし、わたしが負けることは無かった。わたしお姉さんだし、むっふー。

 それにいつもやってるみらとの遊びに比べたら凄くやさしい。ベリーイージーもーど。

 

 

 「くっそおおお!俺ゴムなのになんで痛ぇんだ!?」

 

 

 「……きあい?」

 

 

 「「「気合い!?」」」

 

 

 正直〝はき〟は私にもよく分からない。みらと一緒に「えいー!」とか「とぉー!」とか叫びながら打ち合いして(遊んで)いたら知らないうちにできたから…

 

 

 「気合いかぁー、じいちゃんのゲンコツもそれなのかな。

 よしイルミーナ、もう一回勝負だ!」

 

 

 「だめ、ひとり一日3戦までっててりじあに言われたから。きょうはもう終わりにしよ?」

 

 

 「ええ〜もう一回だけやろうぜー?」

 

 

 「やだ」

 

 

 「我が儘なヤツだなルフィ、諦めろ。」

 

 

 「そーそー、悔しいけど今の俺達じゃ3人がかりでも倒せないしな。」

 

 

 3人で野生の熊を仕留められるなら充分強いと思うけど…

 

 

 「イルミたんとその他3名、お昼が出来ましたわよ。隠れ家に戻っていらっしゃいな。」

 

 

 てりじあの声が聞こえた、お昼ご飯の時間!

 ごはん!ごはん!

 

 

 「やべ!モタモタしてるとテリジアの料理ダダン達に全部食われちまう!」

 

 

 「走れ走れ!ルフィボサッとすんな!」

 

 

 「そりゃマズイ!急げ~!」

 

 

 「…おさき」

 

 

 私だけ『そる』を使って一足先にてりじあの所まで突っ走る、こういうとき『ろくしき』は便利だ。

 

 

 「あっ、イルミーナずりぃ!

 1人だけ抜け駆けしやがった!」

 

 

 後ろでえーすが何か言ってるけどきこえなーい。

 

 

 

 

 最近、あたらしいお友達ができました

 

 

 ◆

 

 

 

 「うめえ〜!」

 

 「いや〜テリジアちゃんのお陰で食卓が彩るぜー!」

 

 「エース、その肉は俺のもんだ!」

 

 「いーや、俺が先だね!」

 

 「みっともないから止めなクソガキ共ォ!」

 

 

 山賊の隠れ家…と言えば聞こえはいいですが、薄汚いボロ屋ですわね…

 お姉様からイルミたんを任されはや数日、ガープ中将の手紙による頼み事に従ってコルボ山に通いつめ、こうして山賊達に餌を与えている訳ですが、本当に品のない方々ですわ!

 お風呂には入らない!箸の使い方は間違っている!服の替えも無い!なんて不衛生、不摂生な集団なのでしょう、とても同じ人類とは思えません!あっでもお姉様の汗の染み込んだ下着なら私……ふひっ//

 

 

 「おーいテリジアおかわりおかわり!」

 

 

 「歳上には敬語を使いなさいと何度言わせる気ですのガキンチョ!器を貸しなさい!」

 

 

 ガープ中将に頼まれたとはいえ、あんなガキンチョ共とイルミたんを遊ばせるなんて…悪い言葉を覚えたりしないか心配で心配で夜も眠れません。イルミたんは楽しそうにしているようなので今の所問題なさそうですが。

 環境のせいでもありますがあの子には同年代のお友達が少ないですから…ジェイク君位しかいないんじゃないかしら。

 

 

 「済まないね嬢ちゃん、アタシ達の分まで毎回作って貰っちゃって。」

 

 

 「お姉様のご命令ですもの、もののついでですわ。お口に合えば幸いです。」

 

 

 「山賊に食わせるにしちゃ上等すぎる料理さ、ありがとねェ。」

 

 

 山賊の首領、ダダンという女だけは一応最低限のマナーを弁えている様ですが…もっと部下の躾くらいしっかりなさいな。

 

 

 「イルミーナ、食い終わったら不確かな物の終着駅まで乗せてってくれよ!」

 

 

 「やだ、あそこくさいから…」

 

 

 「イルミたんを変な場所に連れていこうとするんじゃありませんわよ。

 まったくもう…」

 

 

 この悪ガキ三人組はイルミたんを気に入ってしまったのか油断するとすーぐ連れ出そうとします。

 

 

 「油断もスキもありませんわ…」

 

 はぁ〜、思わず深いため息が出てしまいます。良く言えば自由奔放、悪く言えば制御不能な年頃の子供3人は何しでかすか予測不能で、ダダンの苦労が少しだけわかる気がしますわ…

 「そうかいアンタも私の苦労が分かってくれるかい…」

 こ、心を読まないで下さいまし!

 

 

 ………

 

 

 「よし、お皿洗いは終わりましたわね…お手伝いできて偉いですわねイルミたん。」ナデナデ

 

 

 「ん…」

 

 

 「さあガキンチョ共!ガープ中将から仰せつかったとおり、今日こそお勉強の時間ですわよって居なあああああいっ!?」

 

 

 「まーまーまー、落ち着いてくれお嬢ちゃん。ルフィ達、俺達が目を離した隙に中間の森へ逃げちまった。」

 

 

 「面目二ー…」

 

 

 全く役に立ちませんわねこの見張り!

 

 

 「毎度毎度…もう許しませんわ、イルミたん行きますわよ!」

 

 

 「ん」

 

 

 バァンと勢いよく扉を開け外に出た私は狼化したイルミたんに腰掛けて森の中へと突入しました。

 どうやらお仕置きが必要みたいですわねぇ(暗黒微笑)

 

 

 

 ーー10分後ーー

 

 

 

 「「「逃げてスンマセンでした…」」」

 

 

 頭に大きなコブを一つずつ付けたズッコケ3人組を部屋に正座させます。

 予めドグラに『秘密基地』の場所を教えて貰っておいて幸いしましたわ。

 

 

 「貴方達の秘密基地を壊さないよう配慮しただけでも有難く思いなさい。」

 

 

 「くっそ〜テリジアの鬼ババア(ゴスッッ)め''ッッッ

 ーーーッ!?ーッッッ!!お''お''お''お''お''お''…」

 

 誰がババアですか誰が!

 

 

 「い…嫌だ!俺は勉強なんてしたくねえ!」

 

 この期に及んでまだ言いますか…

 このサボという名前のガキンチョは頑なに勉強したがりません、何故なのでしょう。聞けばいつの間にか増えてた孤児?らしいのですが…

 

 

 「子供が勉強嫌いなのは承知していますが…貴方は特にですわね。まるで今まで嫌と言うほど勉強させられていたみたいですわ。」

 

 

 「うっ!?そ…そんな事ねえよ…」

 

 

 「…はぁ、いいですかガキンチョ共。

 その辺の貴族達の様なお馬鹿な思想に染まるまで勉強しろとは言いませんが、せめて自分が損をしない程度には学力を身につけておきなさい。後々貴方達の役に立ちます。」

 

 特に数字に強い子はいいですわね。

 私は勉強の必要性など、あくまで生きて行くのに困らないレベルで構わないと思っています。このご時世、力の無いものは虐げられる大海賊時代ではありますが、弱くても頭が回れば身を助けるはず。

但し勉強は必要な事ですが過ぎれば逆に融通の利かないお馬鹿さんになることもありますし、必要最低限で充分ですわ。

 

 「…貴族みたいって、テリジアは違うのかよ。」

 

 

 「私も〝元〟貴族ですので、多少なりとも連中の言い分も汲みます。但し、損得も分からない馬鹿になるのはいけませんが、無駄に知識と権力をひけらかすのはもっといけません。

 真の賢者は有事の際にこそその知識を揮うべきですわ。

 そ・れ・に、力も強くて、頭も良ければ真の意味で〝無敵〟の男になる事だってできますのよ?殿方なら勉強の一つや二つ程出来ないと勿体無いですわ。」

 

 

 「ムテキー!?ホントかよテリジアーッ!?」

 

 

 「えーホントですわホーント、ワタクシウソツカナイ。」

 

 

 「よしじゃあやろう!ムテキングだムテキング!」

 

 

 意味不明な単語を叫びながら無邪気に目を輝かせるルフィ。

 ふっ、チョロい…

 

 

 「ルフィ乗せられてんじゃねェよ、コイツはそ〜言って俺達に勉強させたいだけだ。」

 

 

 「え〜、だってムテキングだぞエースゥ!」

 

 

 「だからなんだその間抜けな称号!?」

 

 

 「あらエース、貴方はいいんですの?」

 

 

 「へっ、生憎俺は訳の分からん称号に騙されたりは…」

 

 

 「あらそう。弟のルフィが出来るのに、()()()()()出来ないんですの…へぇ〜、ほぉ〜、ふぅ〜ん…」

 

 

 「…待てコラなんだその目は、言いたいことがあるなら言えよ!」

 

 

 「…肝っ玉の小さい兄ですわね(ボソッ)」

 

 

 「(カッチーン)ようし分かった問題出してみろ全問正解してやルァァッッ!」

 

 チョロ過ぎて将来が心配になってきますわねこの兄弟!

 さて、残るはサボだけですが…

 彼は少し考え、納得したように頷くと顔を上げました。

 

 「…分かった、やってやる。

 どのくらいまで勉強すればいい?」

 

 

 「そうですわねぇ…簡単な加減乗除と最低限のマナーがあれば生きていくには困りませんわ。

 それに貴方がたは(ガープ中将曰く)海兵になるのでしょう?」

 

 

 「嫌だ!俺は海賊王になる男だ!

 海兵なんかならねえ!」

 

 

 横からルフィが喚いていますが一々気にしてられません

 

 

 「はいはい、分かりましたからテキストを開きなさい。

 このページを終えたら、後は外で遊ぶなり街へ行くなり好きにしてもいいですわよ。」

 

 

 「「「本当か!?」」」

 

 

 「だ・か・ら…敬語を使いなさいと何度も言っているでしょッ!!」ゴンッ×3

 

 

 たんこぶが綺麗に一つずつ増えました。

 

 

 問題を少し解かせた結果、ルフィとエースは予想通りの結果に。しかしサボの成績が思った以上に良いようです。

 私の思う〝必要最低限〟のラインは軽々越えていますし、普通の勉強では教わらない踏み込んだ部分にまで…あの子、本当に孤児ですの?

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

  【ゴア王国港、ミラの軍艦】

 

 

 「貴族の子供が行方不明、ねえ…」

 

 

 国の衛兵隊からの協力願いを渡された中にあった項目の一つを眺めながらボヤく。

 ここ数日、日毎に話し合う為に王宮へ向かったり、何故か衛兵長と二人きりの個室で会議したり、特にいつもと変わらず。

 王都から送られてくる情報も些細なことばかりだった。

 貴族の飼っていたペットが逃げたとか

 端街のヤンキーどもの暴行騒ぎとか

 子供が食い逃げとか

 街は多少騒ぎはすれど平和そのものだ。そんな中報告に入っていたのがこれ。

 

 とある貴族の子供が数ヶ月前から行方不明らしい、名前はサボという。

 その親らしき男性が昼間港までやって来て話を聞いた、が…あまり良い印象ではなかった、親のね?

 なんかゴチャゴチャ言ってた気がするが殆ど覚えてない、でも出来損ないの息子がどうとか将来が期待出来ないから養子を入れたとか、自分の子を出世の道具かなにかと勘違いしてるんじゃ無いだろうか。オマケに「私の養子の許嫁になってくれ」なんて言うもんだから我慢出来なくなったゾルダンが船から追い出した。

 

 ゾルやんまじグッジョブb

 

 貴族ってのは自分勝手だから苦手だね〜、なんでも思った通り事が進むと勘違いしてやんの。一周回って可哀想になってくるな。

 ブルージャム海賊団も姿を現さないし、もうこの海域にはいないんじゃないか?もう数日は粘ってみるけどさ。

 

………ここは偵察部隊の出番かな?

 

 「ゾルダン、ロシナンテ。」

 

 

 「はい、ゾルダンは此処に…」

 

 

 「何でしょうか。」

 

 

 「お前達の能力を見込んで少し頼みがある。……少し、壁の向こうへ行ってこい。」

 

 

 ………2人を偵察に出して数日、街の警備隊がサボを不確かな物の終着駅で発見し確保したとの報告が俺氏の所に上がった。ご丁寧にあの父親も一緒で、サボ本人はかなり抵抗していたらしい。事情聴取の結果、ゴミ山の連中とつるんでいたそうだ。

 

 警備兵から伝わってきた報告はこれで終わりだが、はたして…?

 

 

 「しっかしこの国は臭ぇよなあ。」

 

 

 「ゴミを捨てずに山積みにしてるからな、確かに人間よりも鼻が利く私達には…」

 

 

 「違えよ姉御。この前来たオッサンもそうだったケド、この街は多分()()()()()()()()()。欲望がドロドロに混じったヘドロみてぇな臭いさ。」

 

 

 「……この国は要らない者を視界から外して捨てた気になっている。汚いものから目を逸らし、臭いものに蓋をしてな。

 それを完璧だと信じ悦に浸る国王も、当たり前だと享受する国民も実に人間らしい。

 これも人間のあり方だよアン、誰もが清く正しい聖人でいられるなら海軍なんて出来ないだろ?」

 

 

 「じゃあこの悪臭の素は放っとくのか?流石にいつまでもこんな臭いを嗅がされるのは不快なんだが。」

 

 

 「まあ落ち着けよ、力でねじ伏せるだけならアン1人でも指先一つでこの国を焦土に変えるくらい訳ないだろうが…我々が所属しているのは海軍だからな。」

 

 

 「回りくどいやり方すんだな。

 いっそ全部燃やしちまった方が手っ取り早いだろ。」

 

 

 「海軍の仕事は海賊を裁くこと、そして必要ならば海賊に関わる者を排除する事……人間には人間の筋の通し方というものがある。

 なあに、簡単な話だ。

 例え()()()()()()()()()()()()()海賊と関わりを持ったなら容赦はしない。

 ……もし、近海を騒がせている海賊団が偶然使われていないゴミ山の港をアジトにしていて…あまつさえゴア王国の中の貴族、または王族の誰かが海賊達と裏で繋がっていたら…その時は〝正義(われわれ)〟の出番じゃあないかな?」ニッコリ

 

 

 「うーわ悪っりいカオしてるな。」

 

 

 「……不可解、ロシナンテをゾルダンと同行させたのは考えが?」

 

 

 「ん〜?あいつはウチの部隊じゃ珍しく正義感強いからなあ、この国の悪臭をいち早く嗅ぎとったんだろ。

 だからちょっとした偵察にな…?

 心配するな。ゾルダンも付いてる、危ない目には遭わないよ。」

 

 

 「……依然として真意はよく分からないけど…ミラがそう言うなら。」

 

 そう呟いてレムは読みかけの本に目を落とす。アンのヤツ、混じりっけがない分俺よりも龍だから人間に対する嗅覚が敏感なんだろうか。それにしたって「臭いが不快だがら」っつー理由だけでこの国燃やそうとするんじゃないよ物騒だな…

 

 そしてさり気なくロシナンテを心配するレムだが…患者が心配なんだろう。でも『ナギナギの実』って便利なんだぜ?

 「音を消す」ことが出来るのはかなりのアドバンテージだ、特に諜報任務とか隠密系に使える。

 …あと()()にもだが、ウチに所属する限りはさせることはないっしょ。

 ロシナンテもゾルダンも諜報向きの能力者だし、裏方で何かと役に立ってくれるんだわこれが。

 そして期待どおりサボが無事ゴミ山から救助された次の日、ゾルダンとロシナンテが帰ってきた。

 

 

 ゴミ山のくっさい臭いとデカイ〝お土産〟を連れて。

 

 

 自分で送り出しておいて何だが、取り敢えずお前ら風呂入って来い!

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 ある日、いつもの夕食時にガキンチョ共が帰ってきたと思ったら数が一人減っていました。

 ガープ中将の孫の片割れ、エースに理由を聞いても「お前には関係無ェだろ」の一点張りで教えてくれません、その割には夕食をいつもの倍ほどバクバク食べてさっさと寝てしまいました。後でイルミたんが泣きじゃくるルフィに聞いたところ、どうやらサボは貴族の子供だったそうで。その父親と取り巻きの海賊に連れられて街へ連れ戻されてしまったそうです。

 あのガキンチョ、貴族の子だったんですね。道理で学力が一般のそれとは一線を画している筈ですわ。

 自由を求めてゴア王国の壁を越え危険な〝中間の森〟までやって来るなんて、到底お坊ちゃんの考える事ではありませんね。

 けれど籠の中から飛び出して『自由』になりたいというその心には少しだけ共感いたしますわ。

 

 お祖母様も私も、結局は悪魔の実(このチカラ)で無理やり檻をこじ開けなければ外の世界には出られませんでしたから…

 あの子の『檻』も随分頑丈なようですわね。

 

 

 「るふぃ、泣かないで?」

 

 

 「でもよぉ…サボは…ずっと俺の兄貴だったんだ……。こんな形で居なくなるなんて…嫌だよ…」

 

 

 「さぼ、また帰ってくるかも。だから待ってよ?えーすもそう言ってたんでしょ?」

 

 

 「うぅ…」

 

 

 ああっ//イルミたんがまるでお姉さんみたい…映像記録電伝虫はどこかしら、お姉様と共有しないと…

 

 

 その日は結局、ルフィが泣き疲れて寝てしまうまでイルミたんと二人で彼の面倒をみていました。マキノさんに連絡して今日は山賊の家で一泊する事に。

 ダダン、貴女心配なら横目でチラチラ見てないでこっちに来なさい!

 

 

 

 …………

 

 

 

 「……以上、ご報告致します。

 お仕事の方は如何ですか?」

 

 

『ああ、色々きな臭くてな。もう数日かかりそうだ。

 それと…ゾルダンとロシナンテが面白い拾い物をした、テリジアの報告と合わせてブルージャムの尻尾は掴めるだろう。面倒なのはその取り巻きをどうやって一網打尽にするか、だな。』

 

 

 「先程の話に出てきた貴族ですか。」

 

 

『いや、下手をするともっと上だ。

 だがセンゴクさん曰く、海賊に関わる者はどんな些細な繋がりでも有罪。それがたとえ一国の王だとしても…だそうだ。ともあれ私にはあと一つ、証拠(ピース)が足りない。

 テリジアは引き続きそっちでイルミーナに付いていてやってくれ。』

 

 

 「仰せの通りに。

 こちらからお伝えすべき内容は以上です。」

 

 

『それと……ああそうだ、先日お前の祖母に会ったよ。』

 

 

 「…!本当ですの?元気にしていらっしゃいましたか!?」

 

 

『あー、そうだな。(色んな意味で)元気なヒトだったよ…』

 

 

 お姉様、いつの間にかお祖母様とお会いになりましたのね。お話を聞く限り元気にしていらっしゃるそうで安心しました、今はある商船に乗せてもらっているそうですわ。

 お元気そうで何よりです。

 

 ゴミ山の海賊…ブルージャム海賊団、こんな東の海の辺境にある島ですもの、海賊が隠れ家にしていても違和感ありません。よほど用心深い連中ですのね。

 高町の貴族と結託してサボを連れていったのもこいつらという事になりますか…もしかしたらまたこちらにもちょっかいを掛けてくるかもしれません、一応は警戒しておきましょう。

 

 

 

 惜しみながらもお姉様との電話タイム(愛の語らい)を終え、イビキを掻く山賊達の少し外れで寝息をたてるイルミたんの横に……んなあああああ!このガキンチョ!誰に断ってイルミたんの尻尾をモフモフしながら寝てやがりますの!?

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 サボ視点

 

 

 

 「なァお兄様、お前出来損ないなんだろう?だから俺が養子になったんだ。

 お父様が言っていたよ。出来の悪い息子の戸籍は昨日燃やしたから、お前を正式に私の息子にしたいってさ。」

 

 

 「…そうかよ。別にこんな家、出ていけと言われりゃスグ出て行ってやるさ。」

 

 

 「そうもいかないんだって、貴族の体面ってもんがあるだろ?

 貴族が生まれた息子を捨てるだなんて聞いたらウチの家名も地に堕ちるんだよ、だからオマエはお父様の情けで家に置いてもらえてるんだ。有難く思えよ?」

 

 

 「……下らねえ…」

 

 

 「それに明日〝ゴミ掃除〟も始まる。

 命拾いしたなお兄様。

 この国の汚点は消毒されるんだよ…!」

 

 

 「……?どういう事だ、詳しく話せ!」

 

 

 

 ……………………

 

 

 

 

 

 この国は腐ってる

 

 

 誰も彼もが汚いものから目を背けて

 

 

 自分達は綺麗だと信じ込んで

 

 

 現実に見向きもしない

 

 

 オレは…オレは…ただ自由になりたかっただけだ。国のしがらみにも家族のしがらみにも囚われず、本当の自由を手に入れて……

 

 

 

『既にブルージャム海賊団がゴミ山に爆薬をセットしている筈だ。

 明日の夜、予定通りに計画は実行される。決して不備はあってはならない。』

 

 

 ステリーから聞いたこの国で明日行われるゴミ掃除の計画、それを聞いていてもたってもいられなくなったオレは連れ戻された屋敷を抜け出し、衛兵たちの駐屯所へやって来た。

 

 

『海賊達も役に立つもんだ、こうも素直に動いてくれるとはな。』

 

 

『国王様のお力の賜物ですね。』

 

 

 部屋の中から聞こえる会話を盗み聞きした感じ、本当に明日の夜ゴミ山に火を放つみたいだった。それにブルージャムも一枚噛んでいるとも言っている。

 

 

 

『港の海軍はどうなってる?』

 

 

『兵士達を常に見張りに出し動向を監視させています。

 妙な真似は出来ないでしょう、ブルージャムとの関わりもバレてはいません。』

 

 

『目を離すなよ、妙な真似をされたら困る。

 まったく…アウトルック卿が懐柔する手筈じゃ無かったのか…』

 

 

『大金は積んだそうなのですが、先方の中将がかなり頑固者のようで。

 殆ど話すまもなく追い出されたそうです。』

 

 

 海軍?港には海軍が来てたのか、それすら金で取り込もうとしてたなんて…徹底的にゴミ山を焼くつもりなんだな。しかもアウトルックってのはオレの父親だ!こんな事に関わってたのか…!

 

 

『フン、お高くとまりやがって。

 あの女…王宮へ警備の確認に訪れて何度が話したよ、かなりの美人だった。中将だと言っていたが…一体何人の将校と寝て得た地位なのか。

 クソッ!!俺も二人きりになった時押し倒す位しておけば良かったぜ!』

 

 

『それでわざわざ個室で会議をされていたんですか?

 ハァ…今は泳がせておきましょう。奴等にブルージャム海賊団の()()()を見つけて貰う仕事がありますからね。』

 

 

『……』

 

 

『………』

 

 衛兵達の下品な会話はもう聞いていられなくなって、俺は詰所を静かに去った。

 

 

 何とかしてルフィとエースに伝えないと…!

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 ゴミ山焼却日当日 昼

 

 

 「……………」

 

 

 「……………」

 

 

 船長室に流れる気まずい空気。

 

 

 「中将殿、進言しても宜しいでしょうか。」

 

 

 「皆まで言うな、分かってる。」

 

 

 「しかし…」

 

 

 「ロシナンテは心配症だな。

 警備兵から監視されてるのは知ってるから安心しろ。」

 

 

 はい。今日も1日お仕事頑張るぞいと、祖龍だヨ。

 ロシナンテ君、皆まで言うな。分かってる。

 街の様子はいつもと変わらない、ただし昼間っから衛兵たちが代わる代わるウチの軍艦を監視してれば誰だって怪しく思うよね。色んなフラグが立ちまくってますぜ。

 そのフラグは見事に回収されるわけで…先日ゴミ山で確保した捕虜に吐かせた情報によれば今日、ゴミ山は火の海になる。

 

 なんでも国王は天竜人視察の際、目の上のたんこぶだったゴミ山をすべて焼き払うつもりらしい。汚いものは全部焼却して少しでも天竜人に気に入られたいから…というワケだ。

 で、ここからが問題。この一連の計画にはブルージャム海賊団が関与してる疑いがある、というか関与が確定している。何故って?

 

 ブルージャムの部下を捕まえて吐かせたんだよ。

 名はポルシェーミ、仲間割れか粛清かは知らないが撃たれて重症だったところをゴミ山に潜入していたロシナンテとゾルダンが発見し保護、それから喋れるようになるまで回復を待ってレムの作った自白剤で洗いざらい喋ってもらった。

 レムの毒はこんな応用も効くのね…聞けば同じ毒の能力を持つインペルダウンのマゼラン君と電話友達らしいし、自白剤の発想もそこから思い付いたようだ。

 自白剤って確か脳を麻痺させて廃人にしちまう薬だった気がするんだが…まぁいいや(切嗣並感)

 案の定ポルシェーミはぼろぼろと今回の計画を喋って半廃人状態、今は牢に入れられている。

 この世界に海賊に対する道徳なんてない、いいね?

 

 正直国の長が海賊を動かしてまで自分とこの国民を殺すなんて有り得ないと最初は疑っていたが、ロシナンテと共にゴミ山へ偵察に行ったゾルダンが撮ってきた写真と今日の衛兵たちの監視状況を見て確信がいった。

 

 

 「そこまで大見得を張りたいかゴア王国、正直拍子抜けだな…」

 

 

 天竜人にいい所を見せたいが為に行った国王の努力の結果がコレか、某世紀末モヒカンライダー共と発想が同じだぞ。他にもっとやり方があったろうに。

 

 

 「まあいい、全ては視察を終えた後だ。

 甲板の見張りを増やしておけ、ちゃんと私達が仕事してる所を見習ってもらおう。」

 

 

 「ハッ!了解しました!」

 

 

 敬礼し出ていくロシナンテ君、テリジアが居ない間は彼に補佐を任せてるんだがとてもいい子だ。テリジアと違って変態じゃないし。変態じゃないし(大事な事だから二回言いました。)

 因みにこの場にいないレムとアンだが、レムは医務室で医学の本を読み漁ってる。最近トムが腰をいわしてその治療をするそうだ。

 アンは厨房で()()()()創作料理だろう。

 アイツ、性格は死ぬほどガサツな癖して唯一興味を持ったのが料理に菓子作り。しかもドンドン上達して今では超繊細な飴細工とか平気で作りやがる。まあ美味しいから良いんだけどね。

 

 「…で、私1人になった訳なんだが。

 そろそろ机の下から出てきてくれるか?」

 

 

 「ふひひ…ふひひひへへ……あへ?バレました?」

 

 

 ズルリ…と机の下の暗がりの中から人影が這い出てきた。

 この(変態)はハレドメラグ・ミュゼリコルデ、先日出会った革命軍総指揮官モンキー・D・ドラゴンの連れていた女だ。ついでにウチのメイド、ハレドメラグ・テリジアの祖母にあたる。

 一言で言うと『度を越した変態』、以上説明終わり。

 

 

 「……この際私の執務机の下で太股に頬を擦り付けている姿には言及しないでおいてやる。お前ドラゴンと帰ったんじゃ無かったのか。」

 

 

 「スゥーーーーーーーーー…………」

 

 

 オイ息を吐け息を

 

 

 「ッあ''〜神祖様の蒸れた太股の臭いひぃぃぃ…//」

 

 

 「話を聞けと言っとるだろ!」ギリギリ

 

 

 人の太股に夢中になる変態を両脚で挟み込んでミュゼの首関節をキメてやる。ちょっとは反省したかと思ったが首を締められながら地上波でお見せできないようなアへ顔を晒していた。この辺の顔まで孫とソックリだ。

 

 ダメだこいつ早く何とかしないと…

 

 

 「ぐえええええっ!?

 我々の家系ではご褒美でぇぇぇぇす…」

 

 

 「いい加減現実に戻って来い、なんで私の机の下から出てきた。」

 

 

 「あへっ…あへぇ…はぁ〜気持ち良かった。

 アッハイ。これは悪魔の実の応用です、範囲は限定されますが影ワープ出来るんですよ〜。

 実はドラちゃんからコレを渡すよう言われてまして。」

 

 おい影ワープとかサラッととんでもないこと言ったぞこの変態。

 懐から取り出した書類を手渡され、中身を確認する。

 

 ……へえ、こりゃまた…

 

 

 「ついでにドラちゃんから言伝です、『この国の真実がそこに示してある、未だ力及ばぬ我々の代わり君に〝正義〟を示してほしい。あと君の下着も欲しい。』ですって!」

 

 

 「うん、最後のはお前の欲望だな?サラッとドラゴンが言ったみたいになってるけどな?まるでドラゴンが変態みたいな言い回しになってるよな?」

 

 

 「という訳で下着を…出来れば下半身の方を下さあばばばばばばっ!?!?」

 

 

 おもむろに俺のズボンに手を伸ばすミュゼにキツめの電撃を浴びせといた。

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 深夜

 

 

 轟々と唸りをあげて土地が燃えている

 

 

 ゴア王国と〝コルボ山の間、税金を払いきれず国を追い出された者達、又は孤児やはぐれ者が隠れ住む場所、不確かな物の終着駅(グレイターミナル)

 本来多湿で燃えることのないゴミの山は今では紅々と燃え盛り、取り残された人々を飲み込もうとしていた。

 

 

 「熱ィ!熱ィよお!」

 

 

 「助けてくれェ〜ッ!」

 

 

 まさに阿鼻叫喚、不確かな物の終着駅は一瞬にして地獄と化したのだ。

 その様子はコルボ山に居を構えるダダン達山賊達も目にしていた。山向こうの空がまるで血をぶちまけたような赤色に染まり、おちおち寝てもいられない。

 

 

 「あらあら、夜なのに妙に明るいと思ったら…」

 

 

 「不確かな物の終着駅が…燃えてんのかい…?」

 

 

 「ぽいですわね。……お姉様が仰っていたのはこの事だったのですか…」

 

 

 「うぇ……こげ臭い…」

 

 

 人より鼻の利くイルミーナはゴミの燃える臭いに鼻を抑え嫌そうにしていた。

 

 

 「危ないねぇ、あのガキ共が逃げ出さない様にしないと…」

 

 

 「そリが…昼頃からエースもルフィも姿が見え二ーんですお頭。秘密基地にもいませんでした。」

 

 

 「何だってえ!?

 あの馬鹿ガキ共…まさか行ってたりしないだろうね!?」

 

 

 「……るふぃ…えーす…!」

 

 

 ゴウッと一迅の風が吹き、イルミーナが白銀の巨狼へと姿を変える。

 幼女の突然の変身に山賊達はおおいにどよめいた。

 

 

 「イルミたん!?……まさか…」

 

 

『……うん、行く…!

 るふぃとえーすが心配だから…』

 

 

 「お待ちなさい!万が一火傷の一つも負ってしまったらお姉様が悲しみます、まだルフィとエースが彼処にいると決まったわけでもありませんし火事が収まるまで待ってからでも…」

 

 

『だめ…!るふぃとえーすは〝友達〟だから…。

 友達に何かあったら助けてあげないといけないってみらも言ってた!だから…てりじあが止めてもいくよ…』

 

 

 テリジアは驚いていた。あの大人しく滅多に大きな声を上げないイルミーナが怒鳴ったのだ。

 初めての友達、彼等の危機を思う故に先行してしまうイルミーナの気持ちをテリジアは察している。だがそれ以上に彼女もイルミーナの事を大切に想っていた。だからお互い譲らない。

 

 

 

 二人の間に剣呑な空気が漂い始めたその時、テリジアは諦めたように深く溜息を吐いた。

 

 

 「はぁ…分かりました。但し私も同行します、イルミたんを1人で行かせてはお姉様に大目玉を食らってしまいますもの。あのガキンチョ共にキツいお仕置きもしないといけませんしね…」

 

 

 「待ちな、そりゃ仮親登録されたアタシの仕事だよ。嫌でもついて行ってやるからね。」

 

 

 何処からか斧を持ち出したダダンが意気込む、ほかの山賊達も同じ気持ちなのか、決意を込めた瞳でテリジアを見ていた。

 

 

 「まったく貴方達は……付いてくるのはダダンだけで充分です、残りの貴方達はガキンチョ共が帰ってきた時の為に食事をたらふく作っておいて下さいまし!台所に書き置いたレシピ通りに作れば馬鹿でも美味しくつくれますわ。」

 

 

 「「「おう、任せろォッッ!!」」」

 

 

 テリジアとダダンを背に乗せたイルミーナは疾風の如く森を駆け、不確かな物の終着駅へと突き進む。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 「何でだよ!宝の在り処は教えたろ!」

 

 

 「ウソ吐いてる可能性もある、お前らも一緒に来い。」

 

 

 「ふざけんな!そんな事してたら逃げ場が無くなって…」

 

 

 「黙れガキ共…!!

 俺ァどんな手を使ってでも生き延びてやる。お前らの命なんざハナからどうでもいいんだよ…」

 

 

 燃え盛る不確かな物の終着駅、肺が焼け爛れそうになる位の熱気に晒されながら俺とルフィはブルージャム海賊団に脅されている。

 この山に火をつけたのはこいつらだったが、手違いがあったのかブルージャム自身もこの大火事から抜け出すことが出来なくなったらしい。いい気味だ。

 そうしたら今度は俺達の集めた『海賊貯金』を狙って俺達を捕まえに来た。

 

 

 「ガキの集めた財宝を頼りにしてでも…!!

 俺は再び返り咲いて貴族共に復讐してやると誓ったんだ!!

 オメエらの〝兄弟〟そうなんだろ?

 貴族共(あいつら)は己を特別な人間だと思ってやがる。その他の人間はゴミとしか見てねえ!!」

 

 

 「違う!サボはそんな事思ってねえ!」

 

 

 「同じだ馬鹿野郎、ゴミ山のお前らとつるんで優越感に浸ってたのさ!

 腹ん中じゃお前らを見下して笑ってる、金持ちの道楽に付き合わされたんだよなァ!!」

 

 

 「それ以上サボを悪く言うんじゃねェッッ!!」

 

 

 「そうだ!サボは卑怯者なんかじゃねえ!」

 

 

 その時海賊の一人に捕まっていたルフィ咄嗟にが奴の腕を思いっきり噛んだ!

 痛みで思わず腕の力が抜けたスキを突き、ルフィは脱出。しかしそれが海賊の怒りを買ってしまった。

 

 

 「このガキィ…ッ!」

 

 

 「うわあっ!?」

 

 

 振り下ろされるサーベルをルフィは鉄パイプでガードするが所詮は只の鉄パイプだ。鋼で鍛え上げられた剣には敵わず真っ二つにされ、ルフィ自身も深い傷を負ってしまった。

 

 ドクンと心臓が高鳴る。弟が傷付けられた。

 俺の弟、どうしようもないヘタレな野郎だが、サボと共に盃を交わした世界でたった1人の、弟が。

 

 「この…殺してやる…ッ!」

 

 

 「うわああああっ!!」

 

 

 激昂した海賊がルフィを殺そうともう一度剣を振り上げる。

 

 駄目だ…ルフィは俺の弟だ…

 目の前で大切な人を失うのは…嫌だッッ!

 

 

 「止めろォォォッッ!!!!」

 

 

 ドクンッッ

 

 

 無我夢中で何が起こったのか分からない、気付いたら突然そいつは白目を剥いて口から泡を吐きながら倒れてしまっていた。いや、奴だけじゃない。他にも何人か海賊達が意識を失って地面に転がっている。

 一瞬だけ呆然としたブルージャムだったが、これがオレの仕業だと分かったのか怒り、銃口を向けてきた。

 

 

 「何をしやがった…このガキィ!!」

 

 

 マズイ、流石にこんな至近距離から撃たれちゃ助からねえ!

 

 

 「…クソッ!」

 

 

 「エースうううううッッ!!」

 

 

 ルフィの叫び声が遠くから聞こえる。

 もうブルージャムは撃鉄を引いて、引き金に指が掛かってる。

 すまねえルフィ……

 

 最後の抵抗とばかりにブルージャムをこれでもかと睨みつけ、

 奴が引き金を引こうとしたその時

 

 

 「そこまでにしときな海坊主ゥ!!」

 

 

 聞き覚えのある大声が後ろから聞こえ、ブルージャム目掛けて大きな斧が振り抜かれた。堪らず剣で防御したがその反動で奴は俺から離れた場所まで飛ばされる。

 その直後ズドンッと大きな()()が着地した振動を感じ振り返った。

 

 

 「…まったく、先走りすぎですわよダダン。」

 

 

 「いいじゃねえかい、さっさと助けなきゃきっとエースは撃たれてたよ。」

 

 

 「まあそれに関しては異論ありませんが…

 ガキンチョ共、生きてますか?」

 

 

 信じられない

 

 

 俺達のロクデナシな保護者共が、駆け付けて来たなんて

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 「ルフィ!?凄い傷だ!

 生きてるかい?返事しな!」

 

 

 「う…ダダン…イルミーナも…」

 

 

 頭から血を流すルフィをダダンは抱き抱え、イルミーナの背に乗せる。そしてエースにも来るように促した、が。エースは断固として退かなかった。

 

 

 「早く来なエース!ブルージャムは子供がイキがって勝てる相手じゃねえ!」

 

 

 「嫌だ!俺は逃げねェ!」

 

 自分の後ろに守るべき仲間がいる、故に絶対にエースは退かない。

 ()()から受け継いだその頑固さにダダンも歯噛みしていたその時、エースの頭に衝撃が走る。

 

 

 「ぐわぁ!?痛っっっってェェェェェェ!?!?

 今までで一番痛かったぞ!?何すんだテリジアァ!」

 

 

 「子供がいっちょ前になーにほざいてますの、とっととイルミたんに乗って隠れ家まで帰りなさい。

 ほら、貴方が今しがた気絶させた海賊が起き上がりますわ。事態は一刻を争うのです。」

 

 

 「でも後ろにはルフィが…」

 

 

 「ん〜もうめんどくさいですわね!

 貴方の自己犠牲で何とかなるほど小さな事ではありません!

 小さい身体で1人前に吠えるなら、もっと力をつけてからにしなさい未熟者!!」

 

 そう、威勢は充分でも今のエースには圧倒的に力が足りない、テリジアに痛い所を突かれ口を噤いでしまう。

 

 「なっ!?ぐっ……じゃあ…テリジアはどうするんだよ…」

 

 

 「子供の不始末は保護者の責任です。故に、この場は私が受け持ちますわ。」

 

 

 「はあっ!?テリジアお前正気かよ!?相手はあのブルージャムだぞ!?」

 

 

 「まったく人の言うことを素直に聞かないガキンチョですわね!ルフィの傷だって酷いんですからさっさと乗りなさい!」

 

 

 「え?うわああああっ!?」

 

 業を煮やしたテリジアはエースの首根っこを掴んでイルミーナのもとへと放り投げ彼女は見事に口でエースをキャッチ、そのままダダンとルフィを乗せ中間の森へとかけて行く。

 

 

 「おいテリジア!?テリジアあああ!!」

 

 

 イルミーナの口元で揺さぶられるエースには安堵に満ちた笑みでこちらを見送るテリジアの姿が見えた。

 

 

 

 ◆

 

 

 「おいイルミーナ戻れよ!戻ってテリジアを…」

 

 

 「黙りなクソガキ!作戦通りだよ、テリジアがブルージャムを足止めしてるうちにアタシ達は離脱する手筈だったんだ。」

 

 

 「でも他の海賊達も起き上がってた!女ひとりじゃ死にに行くようなもんだ!」

 

 

 「だから作戦通りだっつってんだろ!お嬢ちゃんは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!()!()分かったら暴れるの止めな、イルミーナ嬢ちゃんが走りにくいだろ!」

 

 

 「はあ!?それって…」

 

 

『だいじょぶ、えーす』

 

 

 「イルミーナ、心配じゃ無いのかよ!」

 

 

『てりじあ、つよいから。』

 

 

 

 ◆

 

 

 燃え尽きるゴミの山。その片隅で、大勢の海賊達と相見えるのは1人の淑女。

 傍から見れば淑女の方が圧倒的に不利な状況で、五分もしないうちに殺され、犯されるであろう運命が待っている。

 そうなる筈だった、海賊達の誰もがそう確信していた。

 

 しかし彼女は堂々とした佇まいで彼等の前に立っている。まるで、自分の勝利を確信しているかのように。

 

 

 額に青筋を浮かべながらブルージャムは嗤う

 

 

 「…で?さんざ茶番を見せられたワケだが、お嬢ちゃんが俺達に何の様だい?」

 

 

 「…用も何も、子供相手に大の大人が寄ってたかって銃まで持ち出して…恥ずかしくありませんの?」

 

 

 「用意周到と言って欲しいねェ…獅子は子鹿を狩る時だって全力を出すだろう?」

 

 

 「船長、いい女だ。手脚を一二本折って動けなくしてから捕まえて、ここを出てから皆でマワしましょうぜ。」

 

 

 エースの覇気に当てられ、倒れていた海賊達も起き上がり、目の前の美女に舌なめずりを初めている。

 

 

 「まて、俺ァ今怒ってんだ…ピストルの引き金も今なら羽より軽い。

 気晴らしに女は殺す、その後お前ら好きにしろ。」

 

 

 「マジですか、死体とか後免ですぜ…」

 

 

 「お前は動かない方が楽でイイってこの前言ってたじゃねえか」

 

 

 ギャハハハハハハッッ!!

 

 

 

 下品に嗤うブルージャムとその海賊達。テリジアはそんな彼等を座った目で見つめながらたった一言、呟いた。

 

 

 「…黙りなさい

 

 

 「ッッッッ…」

 

 

 嘲笑するブルージャム海賊団はテリジアは底冷えするような殺気の込められた一言に思わず口を噤む。

 目の前にいるのは武器も持たない生娘だ、それにこちらは多勢で武器も持っている。

 なのに、このただならぬ胸騒ぎは何事なのか。

 ブルージャムは内心冷や汗を掻く。

 

 

 「…羽虫如きが人間の言葉を喋るな。

 やっとあの子達が()()()()()に逃げてくれましたので、不本意ながらお相手して差し上げます。

私、今とても…とても怒ってますのよ?

イルミたんがこの島で見つけた希少なお友達、柄は悪いですが決して悪ではないあの子達にあんな深い傷を負わせた…のはどうでもいいとして、イルミたんをこんな危険な場所へ連れてきて。ふふふっ…どうしてくれやがりましょうか…。

 …ハレドメラグ家家訓、『親愛なる隣人()の為、愛する者達(家族)の為。仇なす輩には一片たりとも容赦するな。串刺帝(お祖父様)の名の下に全ての不義に鉄槌を下すべし』。ですわ…」

 

 

 何かと思えばそんな事か、今更言って何になるかとブルージャム海賊団は嗤う。

 

 

 「聞き間違いか?これからお前が俺達を倒すように聞こえたんだが。」

 

 

 「ええ、ええ。違いますわよ。

『倒す』ではなく『殺す』のです。貴様等は羽虫の分際でイルミたんのお友達に白刃を向けた。充分復讐するに値します。

許容も無く、慈悲も無く、一片の情も掛けず最ッ高に惨たらしく虐殺して差し上げますわ…!!

 抵抗は許しません。ただ頭を垂れ、『殺してくれ』と懇願し、地面に頭を擦り付けながら無様に泣いて後悔しなさい。」

 

 

 業火を突き破るようにテリジアが吼える。それでも自分達が圧倒的有利と信じて疑わない海賊達は一笑に返すだけだ。

 

 

 「ハッ!おめでてえこった。

 それで?お嬢ちゃんは俺達をどうやって殺す気なんだ?この状況で!」

 

 

 吐き捨てるようにブルージャムが叫び、部下達がテリジアに向け一斉に銃口を向けた。

 

 その時

 

 テリジアは嗤っていた。

 

 

 「うっ!?」「う…アァ…」

 

 突如海賊達の一部が呻き声と共に銃を取り落とす、それに続くように次々と(うずくま)るようにして彼等は苦しみだした。

 

 「アァ…船長ォ…」「か…体が痛てぇ…軋むみてえだ…」

 「がああああっ!?脚が!指先までグチャグチャになりそうだァッ!」

 

 各々苦痛の悲鳴を上げながら悶え地面を転げ回る部下達にさしものブルージャムも目を丸くした。

 そしてそれが目の前の女の仕業だと悟り、彼は激昂する。

 

 「どういうことだ…何をしやがった!」

 

 

 「ふふふふ…うふふふふ……さあ?

 なんでしょうねぇ?

 無い知恵を絞って考えてみなさいな。」

 

 

 身も焼けるような業火の中、涼しく笑うテリジアの様子は余計ブルージャムを怒らせた。

 

 …彼は気づいていないがブルージャム海賊団の周囲には宙を舞うほど小さな銀粉が散布されていた、勿論それはテリジアによるものである。それは燃え盛る炎の起こす上昇気流によりブルージャム海賊団へとばら蒔かれ、呼吸によって彼等は取り込んでしまったのだ。気化した水銀を。

 本来、水銀は非常に強い毒性を持つ。テリジアは制御し普段から無害な物として使用しているが千分の一ミリでも体内に侵入すれば人間を内側から蝕み死に至らせる事が出来るのだ。そして水銀は高温により気化しやすい。ブルージャム海賊団の周りを舞っていた銀粉はそれである。

 

 テリジアは今、己の意思で消していた水銀の毒性を解いた。その結果、不幸にも呼吸によって猛毒の粉を大量に摂取してしまった海賊達は即効性の水銀中毒を起こし、今に至る訳だ。

 だがそれにブルージャムが気づくはずも無く、知らぬうちに苦しみ倒れていく部下達を前に次第に冷静さを失っていき、反狂乱になりながら吠える。

 

 「このクソ(アマ)…一体何をしやがったァァァ!」

 

 

 立て続けに銃声が響き、鉛玉が不敵に笑うテリジアの額にぶち当たる。

 眉間を貫通、常人なら即死。それを見てほくそ笑んだのも束の間、ブルージャムは驚愕の表情に顔を染める事になる。

 テリジアに直撃したハズの銃弾はズルズルと彼女の身体の中に沈んでいき、べえっ!と出した舌の上で銃弾は弄ばれていたのだ。テリジアは受けた弾丸を口から吐き出しまた笑った。

 

 「羽虫らしい囁かな抵抗、大変よろしい、ですが少々品に欠けますわねぇ?」

 

 

 「なっ…テメエ、能力者か!」

 

 

 「東の海の田舎海賊にも一端の教養はありますのね……ご名答ですわ。

 私は『マキュマキュの実』を食べた水銀人間。まあ、これから死にゆく貴方方には冥土の土産程度に思ってくだされば結構です。」

 

 

 にこり、と微笑むテリジアにブルージャムの不安は確信へと変わった。

 この女は危険だ、一刻も早くここから…「逃げた方がいい?」

 

 「ハッ……!?」

 

 

 「駄ァ目ですわよ…ええ、いけませんわいけませんわ。

 罪人を逃がすなどあってはならないこと、家名に傷が付いてしまいます。だからぁ…

 裏月霊・傷身自殺(べノンヴォルメ・ロストキューション)…ッ!!」

 

 

 ずしゅんっ、と音がした。

 まるで果物にナイフを通したようなさっぱりとした音。

 業火の中でもハッキリと聞こえたその不自然な音にブルージャムは顔を向ける。

 

 「…は?」

 

 部下の口から銀色の刃が生えていた。

 比喩表現でも何でもない、まるで元から生えていましたよと言わんばかりに部下の口から刃が飛び出している。

 鋭く研磨されているであろうその刃に口は裂かれ血が喉を伝う。何が起きているのかも半ば理解できぬまま彼は涙目になってブルージャムに懇願した。

 

 「へ…へんちょー……たす…たひゅけ…へばッッ!?」

 

 

 「ッッ!?」

 

 

 次の瞬間、先程口から生えていた銀刃が大小様々な大きさで彼の全身から飛び出した。腹から、腕から、腰から、体の至る所を抉られ、切り刻まれ、真っ赤な華と化した彼はドシャリと音を立てて地面を転がった。

 その余りに惨たらしい光景にブルージャムも息を呑む。

 

 だがテリジアだけは、腕を組んで口元を隠しながら心底面白そうにその光景を眺めていた。

 

 

 「ひ…ひぃぃぃ!!」

 

 「スペンス!スペンスが死んじまったぁ!」

 

 「お…俺達もああなるのか?」

 

 「たっ…助けて!たすゲッッ…」

 

 命乞いをしかけた海賊がまた一人、物言わぬ磔死体のように地面に横たわる。

 その後も一人、また一人と血溜まりを作り段々と血の臭いが辺りに充満し始めた。

 そして最後の一人の頭がザクロのように弾け飛んだ後、ブルージャム海賊団は船長を残すのみとなる。

 

 「あらあら大の男達がまるで子供のように泣き叫びながら…無様ですわねぇ。」

 

 

 「くっ……そ…!!」

 

 海賊の『生』に対するセンサーは一般人のそれより敏感だ。海で生き残るのは『強者』か『臆病者』東の海(最弱の海)出身の海賊とはいえブルージャムも海の争いを生き抜いてきた海賊だった。逃げるは恥でも役に立つ事を知っている。故に今になって命の危険を察知し行動に移す、それが今更手遅れだとしても。

 

 この時点でブルージャムから『戦う』という選択肢は消え失せ、目の前の化物からどうやって逃げおおせるかを考え行動していた。

 幸い宝の在り処は聞き出した、何十年かかってでも自分達を騙したあの国王に復讐するまで死ぬ訳にはいかない。

 彼はテリジアに背を向け、燃え盛る業火の隙間を縫いながら走り出す。

 

 だが、彼女がそれを赦すはずも無く

 

 「に〜が〜さ〜な〜い♪」

 

 

 「がッ!?ぐわぁ!!」

 

 

 地面から飛び出した二本の銀杭がブルージャムの脚を貫き、もんどりうって地面を転がった。それと同時に全身を掻き毟る様な痛みが彼を苛む。

 

 痛い

 

 頭のてっぺんから爪の先に至るまで満遍なく駆け巡る

 

 痛い

 

 最早脚の痛みなど気にしてはいられない。

 失いそうになる意識は内側からこみ上げる苦痛によって乱暴にたたき起こされ、想像を絶する激痛は気絶さえも赦してはくれなかった

 

 痛い

 

 呼吸する度、指1本動かす度、身体に振動が加わる度、自らの身体に加わる全ての感覚が問答無用で『痛み』に変換されていく。

 

 

 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い

 

 

 「あああああああああ痛い…痛い……痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いィィィィィッッッッ!?!?」

 

 

 涙と鼻水を撒き散らし、苦痛に顔を歪めながらビクビクと身体を引き攣らせ、叫び声を上げ続けるブルージャムの姿はとても悪名高い海賊の姿には見えないだろう。

 

 「ギィィィィィィィィィィァァァッッ!?…ーーッ!ーッッ!」

 

 

 「おほほほ。そんなに身をよがらせ跳ね回って、余程お気に召したご様子…て、聞こえてませんか。」

 

 

 声にならない悲鳴を上げ続けるブルージャムをひとしきり眺めた後、テリジアは彼の前まで近寄って優しくこう言った。

 

 

 「さあ、答えなさい。

 貴方の今1番叶えたい願いはなあに?」

 

 

 「あ…たすけ……だのむ……ころじで…殺してくれえ…ッ!」

 

 

 ブルージャムの答えに満足した様子で頷き、今日一番の笑顔でテリジアは答える。

 

 

 「い・や・で・す・わ♡」

 

 

 ブルージャムの表情が絶望に染まる。

 突如、テリジアの足元から伸びた水銀の槍がブルージャムを串刺しにし、宙へと釣り上げた。不幸な事に急所と心臓は全て外されている。

 四肢と内臓を貫かれ糸で吊られるマリオネットの様に宙ぶらりんにされたブルージャムは最早、血の泡を吐きながら声にならない悲鳴を上げ続ける事しか許されなかった。

 

 「ーーーッーッッ!?!?ーーーーッッッッ!!!!」

 

 

 「言ったでしょう?一片の情もかけず、最高に惨たらしく虐殺して差し上げます。と。

 私、お姉様程いい子ではありませんの。

 お姉様程皆を平等に扱えません。お姉様程私情を挟まず冷静さを保てません。……お姉様程、苦しみを与えず一瞬で殺せません。

 ああ、お姉様。未熟な私をお許し下さい。

 私怨に駆られこの男の凄惨な死を望む私を、赦して下さいまし。

 ……ああそれと。喉が張り裂けるまで叫び続けるのは結構ですが、イルミたんが夜眠れなくなるのでその口は閉じなさい。鬱陶しいですわ。」

 

 

 水銀がブルージャムの身体に絡み付き、猿轡の様に口を塞ぐ。

 これでブルージャムはもう叫び声を上げることも、痛みに耐えて助けを求める事も出来なくなった。

 

 

 「それでは、もう夜も更けて来ましたので私はこれにて。

内と外から死ぬ程苦しんで、涙の一滴に至るまで苦しみ嘆いて枯らしたら…業火がその身を焼いてくれるでしょう。

 ゴミ山の住人達は……まあなるようになるかしらね。私には関係ありませんわ。

 では、ごきげんよう。荒くれ者(バッドアス)♪」

 

 

 テリジアは笑顔でお辞儀をし、痛みで咽び泣くブルージャムを尻目に能力で造った6枚の大きな水銀の翼を翻し、ゴミ山を後にした。

 

……

 

炎が全てを飲み込もうとゴミ山を舐める。何もかもが燃え尽き、灰になっていくグレイターミナルの片隅で、彼女の小さな復讐劇は幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 ………………

 

 ああまったく、血の臭いが付いてしまいました。

 帰ったらダダンにお風呂を借りなくては…

 

 ………………

 

 

 

 

 

 

グレイターミナルと端街を分ける城壁、唯一その二箇所を行き来できる大門の前にサボはいた。

 

 

「ルフィ〜!エースッ!逃げてくれェーッッ!!」

 

 

「あのガキまた来てるぞ、さっさと追い払え!」

 

 

「クソッ離せ!…うわあッ!?」

 

 

近づこうとしても衛兵に放り出されただ虚しく壁向こうにチラつく炎を眺めるしか出来ないサボに()()ローブを着込んだ人影が行違いざまにぶつかった。

 

 

「おっと大丈夫か少年。そんなに咽び泣いて、一体どうしたんだい?」

 

 

フードをハラリと捲ったその顔を見て、サボは驚愕する。

 

 

「テリ…ジア……?」

 

 

「んん…?どうして私の孫の名前を知ってるのか、お姉さん知りたいな〜。」

 

 

 

 

少年はその時、冥雷妃と出会う

 

 

 

 

 




一旦ここまで、サボとミュゼの話、かつドーン島編エピローグ的なのは次のお話にぶち込みます…

問題の次回更新ですが…未定です、全ては師走が悪い。
あと疲れの中書いてるので文章おかしいところや読んでいて不快な文章構成になってたりするかもしれません。
ごめんなさい。

取り敢えず、寝ます。
おやすみなさい_(ˇωˇ」∠)_ スヤァ…


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33 アレンジエピソード・オブ・ドーン:エピローグ



前話で力尽きた後日談です。
相変わらず駄文ですネー、面白い文章書いてる他作品の作者様が羨ましいです。(主は文章力以前に国語力が低い可能性がワンチャン…)





 

 

「テリジアじゃ…ない……?」

 

 

「そーだよー?私はミュゼ。テリジアちゃんは私の孫娘だね。

…あ〜どうして孫なのかは話すと長くなるから今は言及しないで欲しいかな。」

 

 

端街の外れの路地裏で、少年は1人の女性と出会った。

 

白金色の輝く長髪に黄金の瞳、そして少年もよく知るメイド姿のあの女と瓜二つの容姿をした目の前の女性はキョトンとして泥だらけの少年(サボ)を見る。

 

 

「テリジアじゃなくてもいい、聞いてくれ!この火事は…」

 

 

「『貴族が起こした』、でしょ?」

 

 

「な、なんで知って…」

 

 

「もっと言えば、この火事は国王主導の下始まった国絡みの犯行だよ?

天竜人の来訪の際、国の汚点を手っ取り早く帳消しにする為に起こした証拠隠滅さ。」

 

 

ゴミ山の大火事をさも当たり前のように受け止め、つらつらと説明まで始めるミュゼにサボは驚きを隠せない。

ミュゼの説明を聞いているうち、サボは肩を震わせながら拳を握りしめていた。

 

自分の国の国民を燃やす王なんて正気じゃない。

それを当たり前のように黙認する貴族達も…皆狂っちまってる。

 

サボはがしりとミュゼのローブの裾を握り、叫んだ。

 

「この町は…ゴミ山よりも嫌な臭いがする…!!人間の腐ったイヤな臭いがするんだ!!

ここにいても…俺は自由になれない…ッ!」

 

 

「……」

 

 

「俺は…貴族に生まれて恥ずかしいッッッ!!」

 

 

滂沱の涙を流し、自分の思いを吐露するサボをじっと見つめるミュゼ。

 

 

「貴族、ね。…そっかぁ少年は貴族かあ…ふぅん……。

フツー子供にこれ言わせるかなぁまったくもう…」

 

 

やれやれと嘆息した後、サボの頭を優しく撫で、告げた。

 

 

「男の子がそう簡単に涙を見せるんじゃないよ少年。

……君の気持ちは分かったから。そろそろ泣き止みなさい。」

 

 

「あんたは…俺の話……聞いてくれるのか…?」

 

 

「ウン、勿論。君の無念も、絶望も、よく聞こえるし分かってる。

この国は昔の故郷とよく似てるからね…」

 

 

「…?」

 

 

「とにかく少年、考えなさい。

此処で無様に泣くだけでその無念が晴らされる?

一番駄目なのは君がこの国に呑まれる事だ。君のような子供が圧政の影に埋もれて動けなくなることだよ。

考えるのを止めちゃ駄目、まだ君は若いんだから欲しい結果は自分で掴み取りなさい。」

 

 

「俺が…自分で……?」

 

 

「そうそう、私だって国を飛び出した身だし。

こんな国でいつまでも燻ってちゃ連中と同じ馬鹿になるかもしれないよ?」

 

 

「……ッ分かった!ありがとうミュゼ!」

 

 

サボは涙を拭い、走り出す

 

 

「ばいばーい、あと年上には敬語を使いなさいよ〜。」

 

 

その後ろ姿をミュゼは少し悲しそうな表情で見送っていた。

サボには彼女が迷える自分を救う救世主のように見えていたことだろう。実際ミュゼリコルデは元ではあるが一国の女王で、それなりの気品を持ち、良識に優れた女性なのだ。たった一つ…

 

祖龍の話題を出さなければ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、朝

 

ゴア王国は昨日の火事が嘘のように、国民達はいつも通りの日常を過ごしていた。ゴミ山の火事も時々話題に上がる程度で、特に騒ぎ出す者もいない。

 

王宮から許可が降りたので俺達は燃え尽きたゴミ山で海賊達の遺体を探した。出てきたのは港に停泊してた焼け焦げた海賊船、それからところどころにブルージャム海賊団らしき海賊の焼死体。特にブルージャムはゴミ山の外れで串刺しの状態で発見され、まもなく死亡が確認された。

…まるで体内から剣が突き出して全身を貫かれたような痕とわざとらしく急所だけ外した銀の槍。テリジアの奴、ブルージャムと一悶着あったかな…。まあこうなったものはしょうがなし、本部には『ブルージャム海賊団は全滅』と報告しておこう。

 

 

「…以上、ゴミ山の報告を終わります。

これにて我々の仕事は完了、あとはそちらで天竜人受け入れの準備を行ってください。」

 

 

「ふむ…海兵諸君も任務、ご苦労であった。長期の任務で疲れただろう、慰安も兼ねて宴の準備でも…」

 

 

「それは有難いですが、お気持ちだけ頂いておきます。次の仕事があるので直ぐに本部へ戻らないといけませんので。」

 

 

「…そうか、何にせよ感謝する。

それにしても、()()()()()()()()()とはいえ火災によって海賊達が全滅とは…」

 

 

「これも国王様の日頃の行いの成果で御座います。」

 

 

「そうか大臣、私は日頃の行いが良いか。」

 

 

「勿論で御座います、ほっほっほ。」

 

 

「……では、我々はこれにて失礼致します。」

 

 

大臣と国王の三文芝居にも飽きたので礼をしてさっさと王宮から退出、船まで戻ってさっさと出港準備よー。

 

 

………

 

 

そのまま島の裏まで回ってフーシャ村まで船を出し、テリジアとイルミーナを待った。

 

 

「みら、おひさー。」

 

 

「おっっ会いしとうございましたお姉さマブェッ!?」

 

 

馬鹿めテリジア、貴様の行動など読めているわ。抱き着いてきた勢いを利用して巴投げをかまし、腹から勢い良く地面に叩きつける。そのまま地面に倒れたテリジアの背中を踏みつけた。

 

 

「あああんお姉様♡村の皆様が見てる前で公然と…//でもお姉様になら私、公開プレイでも構いませんわ……//」

 

 

「よーしよしイルミーナ、私がいない間テリジアの世話を頑張ったな〜。」

 

 

「ん…」

 

 

「お姉様!?逆!逆では!?あ''あぁ〜〜背骨から直にビリビリは効きますううううううう…」

 

 

祖母譲りのアへ顔ダブルピースを晒すテリジアをもう1回踏みつける。

…村人達の視線がそろそろ痛いので悪ふざけもこれくらいにして、無事テリジアとイルミーナを回収した俺達は世話になったマキノという酒場のお嬢さんにお礼を言って島を後にした。

去り際、コルボ山の麓にある崖に子供が2人こちらを見ながら叫んでいたけど…テリジアが言ってたイルミーナのお友達かな?

見送りに来てくれるなんていいお友達を持ったじゃないか、俺氏嬉しい。

でもイルミーナを将来海賊に誘うのは止めてくれな?二人して「俺んとこのクルーになれよー!」とか叫ばないで。

 

 

「イルミーナ、海賊に誘われたのか?」

 

 

「うん、ふたりから。…こっそりもう一人からも誘われたの。」

 

 

「海賊、なりたいか…?」

 

 

「ううん、わたしはみらのものだから。どこにも行かないよ?」

 

 

無垢な瞳におじさんノックダウン、またボルサリーノ中将と飲みに行った時に話す話題が増えた。

 

 

「でも…あのふたりが困ったら、助けてあげたい。ふたりは友達だから…」

 

 

「そうだな、存分に助けてやりなさい。友達は何よりの宝だ。」

 

 

「……うん!」

 

 

可愛い可愛いイルミーナを愛でながら船はドーン島を離れ、海軍本部へと進む。これでこの島での仕事は終わり、あとは可愛い弟子に引き継ごう。

 

 

 

 

 

 

 

 

覚悟しろよ、ゴア王国。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……イルミーナ、行っちまったな…」

 

 

「ああ、元々ジジイに連れてこられたんだ。ずっとこの島にいる訳じゃねえ。」

 

 

「俺達が海に出たら、一緒に冒険してくれるかなぁ…」

 

 

「さあな、でも海に出ればいつか会えるさ。」

 

 

「……おうッッ!!」

 

 

涙ぐみながら頷く泣き虫ルフィ。

イルミーナとテリジアはあの火事が起きて少しして、迎えが来たらしく島を去っていった。

たった数週間の付き合いだったけど、あの2人はいいヤツだった。俺が海に出たら一番に仲間にしたい。でもイルミーナの母親は海兵らしいから将来俺達を捕まえに来るのかもしれないな。

 

 

「…それまでに絶対アイツより強くなって見返してやる。なにより女に負けたままなんて格好がつかねえよ…!!」

 

 

イルミーナ達の滞在中、結局一度も俺達はイルミーナに一撃も加える事ができなかった。そしてブルージャムの一件もあって、尚更強くなろうと誓った。

テリジアも戦ったら強いんだろうな。殆どゲンコツしか食らってないけどあの日の夜、本当にブルージャム海賊団を一人で退けて帰って来た時は正直信じられなかった。ずっと実力を隠してたんだ。

 

 

「サボが帰ってきたらまた3人で特訓だな。」

 

 

「おう!実は俺、イルミーナに頼んでこっそりロクシキ?のやり方教えてもらったんだ!」

 

 

「何ぃ!?ズリぃぞルフィ!」

 

 

このヤロウ、こっそり抜け駆けしやがった!

 

 

イルミーナ達の乗る軍艦が見えなくなったので、俺達は隠れ家に帰った。帰り道は勿論競走だ。

 

俺はもっともっと強くなる、『ガキの背伸び』だと言われなくなる程強くなって俺や、俺の親父のことを馬鹿にした連中を見返してやるんだ!!

 

 

「次会ったら負けねェぞ…!!」

 

 

 

いつかサボもこっちへ帰ってきて、3人で一緒に海賊やれたらなぁ…と柄にもなく淡い期待に心を踊らせていた。

数日後、街から帰ってきたドグラの一言で、俺達は絶望する事になるとも知らずに

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

偉大なる航路 司法の島

エニエス・ロビー

 

 

偉大なる航路に広がる大海原の中にぽっかりと空いた穴、その中心に位置する政府三大機関のうちの一つ。夜を迎えることの無い特殊な天候を持つこの島は『昼島』と呼ばれ、多くの罪人を裁いてきた。

犯罪者にとっては陽を拝める最期の機会、公正なる審判により悪を裁く司法機関『エニエス・ロビー』。まさに正義の玄関口とも言えるこの施設の中、その最重要とも言われる『司法の塔』長官室に座り、新聞を読む若い男が一人、物憂げな表情をしながら珈琲を口に含み…

 

 

「ブアッハァ!?熱ィィッッ!!」

 

 

盛大に口から吹き出した。

 

 

「長官、セクハラです。」

 

 

「コーヒー吹いただけで!?ていうかカリファあ…オマエが淹れた奴だろ!熱ぃんだよ!俺は猫舌だって何度言わせる気だコラァ!!」

 

 

「……セクハラです。」

 

 

「おいコラこっち見ろ!そして自分の非を認めろォ!」

 

 

口元を真っ赤にしながら眼鏡の金髪美女を怒鳴りつけるこの男の名はスパンダム。政府特務機関CP9のトップにして海軍本部中将ミラの『弟子』である。

当時CP5だった彼は数年前、海賊王に与した船大工を拘束し、裁いた功績を認められ、一般には語られない『9』番目の特務機関の長官へと成り上がった。公には語られないが、世襲が当たり前の役人職にとって親の後ろ盾も無しに自力で功績を立て、長官の座まで就いた彼に五老星達は期待を置いている。

 

 

「ああ〜チクショウ…。つか、お前以外の連中はどうしたよ。ちゃんと招集を掛けただろ。」

 

 

「セクハラです長官」

 

 

「セクハラは分かったから質問に答えろ、超重要案件だ。」

 

 

「……他の者達に伝達は終わっています。長官がご指定された時間まで残り一時間ありますので、来ていないのは当然かと。」

 

 

「えっ」

 

 

「えっ」

 

 

「「……………」」

 

 

二人の間に気まずい沈黙が流れる。

スパンダム、完全に時間を間違えていた。

 

 

「……ズズズ…(無言で激熱コーヒーを我慢して飲みながら新聞紙に目を落とす)」

 

 

「長官」

 

 

「…………」

 

 

「長官」

 

 

「…………」

 

 

「………スッ」ぷるぷるぷるぷる…

 

 

「待ってゴメンナサイ無言でバスカヴィル裁判長に電伝虫掛けないで。」

 

 

因みにカリファがセクハラでスパンダムを告訴した場合、ほぼ100%の割合でスパンダムは負ける。悲しいかな、ことセクハラ告訴において男性側に人権など無いのだ。

 

 

「まったく…集合時間を間違えるとは何事ですか。」

 

 

「…面目無い。」

 

 

カリファが嘆息したその時、電伝虫の音が長官室に鳴り響く。

 

 

ぷるぷるぷるぷる…ぷるぷるぷるぷる…

 

 

「ぎゃあ!?まさかバスカヴィルから…」

 

 

「そんな訳ないでしょう、さっさと出てください。」

 

 

恐る恐る受話器をとったスパンダム、長官としての威厳とかゼロである。

 

 

「はい、こちらエニエス・ロビー……ミラさん!」

 

 

一転、スパンダムの表情が明るくなり、笑顔を見せた。それと引き換えに何故かカリファの鉄仮面が崩れていたが。

 

 

「どうしたんだよ急に………何?東の海…?なんだってそんな辺境の国に…

分かった、こっちで調べさせる。資料を送ってくれ。ああ、じゃあそういう事で……(ガチャ

カリファ、ラスキーを至急呼び出しだ。()()()()()()はルッチ達とこの資料を一通り見ればいいから………カリファ?おーい、カリファさ〜ん?」

 

 

「………死んで下さい長官、早急に。」

 

 

「指示飛ばしただけで!?!?」

 

 

氷より冷たい視線でスパンダムを見下すカリファ、その視線の真意にスパンダムは気づくはずもなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………んで、数日後。

無事天竜人はゴア王国視察を終え、五老星の所に視察完了とゴア王国の世界政府加盟を決定する知らせが入った。

ただし天竜人来訪の際、そばを横切った小舟が一隻連中によって沈められた。海賊旗を掲げた子供が乗ってたらしいが…運が悪かったネ。

そしてこっからが本番、俺の集めたゴア王国の不正の証拠はスパンダムの手に渡り、諜報員によって事細かに調べあげられた。

天竜人訪問後、不正の確証を得たCP9はこれを政府上層部へ報告。しかし世界政府加盟を決めてしまった後にこんな報告をされ今更取り消しなんて出来ない五老星は必殺『オトナの事情』を使って密かにゴア王国国王及び関係者を更迭、結果国王の首がすげ替わり国民達の知らぬ間に現国王政権は終焉を迎える事になった。ウワサじゃ天竜人が『0』を動かしたらしい…くわばらくわばら。

 

以上、ゴア王国の闇は綺麗さっぱり取り払われて元国王サマの言うとおりゴア王国は『綺麗な国』へと姿を変えた訳よ。イヤーヨカッタネー。

 

 

「みら、なんだか嬉しそう。」

 

 

「ん〜そうか?今日はステラに頼んでちょっと贅沢な夕飯にしような。ケーキも頼もう。」

 

 

「……けーき!」

 

 

膝の上で尻尾をぶんぶんさせるイルミーナ、イイぞーコレ。

緩んだ顔をしながら娘の頭を撫でていると部屋の扉をノックする音が

 

 

「ミラ、私だ。入るぞ。」

 

 

「ええどうぞ、センゴクさん。」

 

 

入って来たのはセンゴクさんだ、片手に大判の書類の束を掴んでる

 

 

「座りますか?」

 

 

「ああ、悪いな。」

 

 

いつも席を陣取って居眠りしてるアンを起こしておしのけ、センゴクさんには来客用のソファに座ってもらう。

 

 

「お飲み物をお持ち致しますわね。」

 

 

「緑茶を頼む。まずはミラ、ゴア王国〝掃除〟の件、ご苦労だった。よく政府の面子を保ってくれたな。」

 

 

「好きでやった事です。それに…これもまた人間の一側面、私は自身の正義に従ったまで。」

 

 

「そうか……ならこの話はもういい。

それで、次の仕事なんだが……ボルサリーノの部隊が『タイヨウの海賊団』を捕捉した。協力者の情報提供により奴等が次に寄港するのは『フールシャウト島』という田舎島だ。ミラにはそこへ先回りして船長フィッシャー・タイガーを討伐、または捕縛してほしい。」

 

 

「………フィッシャー・タイガー、奴隷解放の英雄ですね。」

 

 

「……表向きは天竜人の所有物を攫った大罪人だ。」

 

 

「奴隷達からは英雄でも海軍(こっち)からすれば大犯罪者か。全く人間という奴は…背中に焼印入れた程度で優劣を付けるなんて馬鹿なコトを…」

 

 

フィッシャー・タイガーはあの日、俺がテゾーロを助け出した時同じタイミングで暴れていたあの魚人だ。ひとしきり暴れまわったあとは魚人の元奴隷達を率いて『タイヨウの海賊団』を創設し偉大なる航路を中心に活動している。魚人の腕力は人間の10倍、そんな怪力持ちがゾロゾロいる魚人海賊達に襲われたら少将クラスの海兵だってタダじゃ済まない。タイガー以外にもチラホラ実力者がいるみたいだし、今かなりホットな海賊団だ。

 

 

「ついては五老星から直々にフィッシャー・タイガーの捕縛要請が出ている。」

 

 

「……連中が過去に市民に向けて略奪を行った経歴は?」

 

 

「無い」

 

 

「なら応戦した海兵たちに死者は?」

 

 

「……無い、手酷くやられ返り討ちにはされているが死人は出ていない。」

 

 

「なら私は出ない、他を当たってくれ。」

 

キッパリと断った。

そう、タイヨウの海賊団。名を上げようと挑んでくる海賊達や追手の海軍には容赦無く応戦するが、一般人には全く手を出さない。更には応戦した海兵も半殺し状態ではあるものの、ただの1人も殺していないのだ。

船長命令なんだろうか、一味全員がその掟を守り海賊行為を行ってる。

 

 

「死人が出ていないのは彼等に何かしらの信念があるからだ、志持つ海賊ならば私は手を出さない。

どうせ五老星共が『やられっぱなしでは海軍の面子が立たない』等と言い出したんだろ。いいじゃないかボルサリーノ中将に任せておけば。死人が出ていないなら報復する必要も無い。」

 

 

「だが……」

 

 

「くどい、大将殿の頼みでもこればかりは断らせてもらう。人間(そちら)の面子など私には関係無い。」

 

 

「むう……」

 

対するセンゴクさんは苦い顔をしてる。

だって誰も死んでいないのだ。タイガーのやった事といえば奴隷を解放、やってくる木っ端海賊達を返り討ち、更には捕らえようとする海軍も返り討ち、死人はゼロ。海賊行為も返り討ちにした海賊や海軍から奪うだけ、市民から略奪なんてもってのほかだった。

コイツら普通にいいヤツらじゃん、俗に言う〝義賊〟って奴だろ。

 

海賊で一括りにするには出来すぎた連中だ、船長が元奴隷なのにも起因しているんだろう。奴隷を経験すれば考え方も変わるさね。

 

 

 

 

 

 

「なんだ行かねぇのかよ姉御。じゃあ(オレ)が行こうか?」

 

 

声を上げたのはソファを追い出され、テーブルに腰掛けて一連の話を聞いていたアンだった。

 

 

「お前が自分から行きたいなんて言い出すとは珍しい。何か企んでるのか?」

 

 

「別にぃ?行先のフールシャウトって島に興味があるだけだ。」

 

 

そう言ってアンはテーブルの上に置いてあった世経の発行してる雑誌の見開きを見せてきた。

なになに…?

 

 

 

◆〜◆〜◆〜◆〜◆〜◆〜◆

 

 

『今話題の沸騰島特集!

フールシャウト島産サボテンの肉包み串!!今、辺境島のグルメがアツい!!』

 

 

◆〜◆〜◆〜◆〜◆〜◆〜◆

 

一面に描かれていたのは串焼きにされジュウジュウと美味しそうな煙を上げる肉巻きサボテンの写真だった。長い文章で特集も組まれていてこの記事の気合いの入りっぷりが伺える。

 

 

「B級グルメの特集じゃないか。」

 

 

「そーそー、コレ美味そうじゃん。丁度食べに行こうと思ってたし、ついでにその魚人…?を始末してきてやるよ。」

 

 

海賊討伐はB級グルメ観光のついでかよ、これもうわかんねぇな。

 

 

「動機が不純過ぎるだろう…まあいい、行ってこい。タイガーの始末はお前の裁量に任せる。

レムも『白蛇』の仕事で出ているしな、これも社会勉強の内だ。」

 

 

「あいあいっと。」

 

 

ちゃんと手入れすれば綺麗になるだろうに、寝癖も直さずボサボサの金髪を揺らし珍しくウキウキしてるアン。趣味が出来たのは良いことだ。うんうん。

 

 

「という訳だセンゴクさん、私の代わりにアンが行こう。『白蛇』としては無理だが、プライベートで付いていくそうだ。その後の処理はそっちに任せるよ。」

 

 

「ああ、助かる。宜しく頼むよ。ボルサリーノには私から伝えておく。」

 

 

ホッとした様な表情を浮かべ、センゴクさんはテリジアの持ってきたお茶を飲み干し部屋を出て行った。

アンが相手にするという事は、十中八九黒焦げか丸焼きだろうネ。魚人達、南無三。

しっかし、たかだか2億チョイの海賊の為に五老星が白蛇を呼び出すなんて、タイガーがそんなに嫌いかね。…いや、アイツが元奴隷なのも関わってるのかな?どっちにしろ天竜人関係だろうし下手に首を突っ込むのはなぁ…嫌だなあ…

 

七武海もまだ全員集合には程遠いし、原作まで先は長いなあ…

 

 

 

 

 

あ、あとで五老星は鬼電の刑に処す。慈悲はない。

 

 

 

 

 

 

少し時を遡り、ゴア王国に天竜人の船が着港した日の夜

東の海(イーストブルー)のとある海域の小さな港村

あたりの闇に溶け込むように真っ黒に塗りつぶされた帆船が港へ停泊していた。

 

 

「遅いじゃないのよドラゴン!いつまで待たせチャブルの!!?」

 

 

「すまん。船医、この子を診てやってくれ。」

 

 

「な…おい、手当を急げ!!酷い傷だ!」

 

 

甲板をドタドタと医療班がひた走り、ドラゴンの連れてきた負傷者を医務室へと運ぶ。その様子を白いローブに身を包んだミュゼも眺めていた。

 

 

「わぁお、こりゃビックリ。この子も一歩を踏み出したわけだ。」

 

 

「?ミュゼ、知り合いだったのか?」

 

 

「ん〜?知り合いといえば知り合いだけど…この子もまた、時代に立ち向かう覚悟を持った同志だよ。

ドラちゃん、ウチにスカウトしてみたら?」

 

 

「まずは意識が戻ってからだ。…ゴア王国の子供か、あんな国にも子供は産まれてくる…。

彼女の前でも誓った。いつの日か、必ず俺はこの世界を変えてみせる…必ずッ…!」

 

 

「アツいなあこの人…まー頑張りなよ。私も神祖様のお導きだし、もうちょっと付き合ってあげようかなー。」

 

 

 

 

揺れる世界の水面下で、革命の龍は着々とその牙を研ぎ始めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「またお会いしたいなあ神祖様……でゅふふふふふへへへ……

ダメです神祖様私には可愛い二人の孫が…あん//でも神祖様がどうしてもと仰るならいつでも膜は再生させて…」

 

 

「………(今更だが、こんな変態が幹部で大丈夫なんだろうか革命軍…)」

 

 

 





はい、ガルパン最終章新キャラに心踊らせる獣です。
短いですがこれにてドーン島編は終了します、中々話が進まなくてすいません。
年末ですよ、師走も近くに迫り、ドタバタしがちな今日このごろ、獣はというと…仕事を辞めました(^^)
といっても転職先は既に決まってるので一月頭から別のお仕事に着手致します。死ぬほどどうでもいいですね。
今年はあと一、二話更新出来ればイイ感じのペースで頑張っていこうと思います。

次回、ストロベリーは空気


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34 白蛇(複数)、思い思いに過ごす

34話をシュウウウウウッ!

色んなところで年末イベント始まってて手がおっつかないぜー!!
取り敢えずドイツ艦コンプします。






新世界:スコール島

 

偉大なる航路に存在する島の気候は特殊である。その中でも特に後半の海、通称『新世界』と呼ばれる海路に点在している島々にはそれぞれに独特な気候が存在している。その未知の気候の中には雪や雨の比較的安全なものから年中雷の降り注ぐ等の危険なものまでさまざま、それらは海賊、海軍含め数多の船乗り達を苦しめてきた。スコール島もそんな島の一つである。ほぼ一年中雨季が続くこの島では作物が育たない、だが幸い海水は温かく、海産物は豊富な為、島民たちは漁をして生計を立てていた。

そんなスコール島の海沿いには切り立った崖が多く、とても船を停められるスペースなど無かった。2箇所、それぞれ島の反対側に存在する唯一の波止場と砂浜を除いては。

 

スコール島:港町の波止場にて

普段は漁をする為の小型漁船が停泊している筈の港には大きな軍艦が一隻、その帆には大きなカモメのマークが印されている。

海兵達が整列し、島民たちが物見遊山に集まる中、タラップを降りる彼女に皆視線を奪われた。

 

軽いウェーブのかかった片目が隠れるほど長い純白の髪、スラリとした高身長に色白の肌、深い紫色の瞳を宿す目の覚めるほど美しい女性。豊かな胸をシャツで押さえつけ、灰色のパンツスーツを着込んだその女性の背には大きく『正義』の二文字が入った大きめのコートが揺れている。

 

「…やっと着いた。」

 

「ようこそスコール島へ、大将白蛇。歓迎致します。」

 

白蛇と呼ばれた女性の前に立ち、笑顔で挨拶する将校とそれに合わせ敬礼する海兵達。

 

「………」

 

気まずい沈黙が流れる、かなり友好的な挨拶を交わしたはずなのに当の大将白蛇は無表情で将校を見つめていた。

 

「あの…大将白蛇…?」

 

「ワタシのことは『レム』と呼んで欲しい、気に入っている。」

 

「いえ、ですが白蛇の名称はコードネームですので…」

 

「むー……」

 

「…分かりました、レム大将。」

 

「………満足。」

 

「(…?ちょっと口角が上がった…笑ってるのか?無表情過ぎて分からん…。でも…凄い美人だな…)」

 

「?いつまでワタシの顔を凝視しているの?」

 

「もっ、申し訳ございません!ご案内致しますのでこちらへどうぞ!」

 

海軍大将とは軍の最上位に位置する将校だ、そんな上司の機嫌を損ねようものなら降格待ったなし、酷い場合はその場で粛清される可能性だってある。

固まっていた将校は慌てて動き出し、レムを案内し始めたその時。

 

「お姉ちゃん、おねえちゃ〜ん!」

 

「おい走るなって…」

 

整列する海兵の間を抜けて二人の子供がレムの下へ駆け寄る。

他の海兵達が慌てて連れ出そうとするがレムは手でそれを制止した。

 

「も、申し訳ございませんレム大将!直ぐに連れ出しますので…」

 

「不要、彼女達とは旧知の間柄、追い出す必要は無い。

リン、御母様の具合はどう?」

 

リンと呼ばれた少女は笑顔で頷いた、後ろから追ってきた兄らしき少年も戸惑いながらレムを見る。

スコール島は嘗て、少数の島民が暮らす殆ど開発の進んでいない限界集落状態だった。そこを政府が開拓し、ある事件で島を追われた島民たちに提供されたのだ。リンとその兄もそのうちの一人である。

 

「うん!お姉ちゃんから貰ったおくすりを飲んでから体調が凄く良くなったって言ってた。最近はお買い物も一緒に行くの。」

 

「…そう、なら良い。そのままストックが無くなるまで飲み続けて、御母様の病気ももうすぐ完治するはず。」

 

「はーい!」

 

「おいリン!そろそろ…」

 

「リン。仕事が終わったら家にお邪魔するから、また後で。」

 

「ありがとうございますレムさん。リン、ホラ行くぞ!」

 

「え〜レムお姉ちゃんともっとお話したいのに〜。」

 

兄に引き摺られリンは列の外へと離れていく。

レムがミラより託された大将白蛇としての指令、それは『アンの事件で島を追われた者達への支援』だった。開発や資金の提供をはじめ、医学への貢献や旧島民と新島民の諍いを諌めたりなど、内容は多岐に渡る。ミラが七武海選抜や廃船場の管理などで多忙な中、医学の知識を持ち、人間に対して比較的友好だとしてレムが選抜された。

 

「……行こう、案内して。」

 

「はい、どうぞこちらへ。」

 

今度こそ将校に案内され、レムは駐屯所へと歩みを進める。

 

「(謎の大将白蛇、噂では死神と呼ばれる程冷酷だと聞いていた、どんな恐ろしい方かと思ったが…)」

 

「(子供にも慕われているのか…若いのになんて寛容な方だ。)」

 

「(優しい色白ミステリアス美人…最高だな!)」

 

「(結婚しよ…)」

 

列を組む海兵達も氷の様に艶やかで美しい大将に尊敬(?)の念を抱いていた。

 

政府最重要機密、及び海軍最高戦力、大将白蛇、レム。スコール島へ6回目の来訪。

 

ヒトとの共存、島の復興。嘗ては人間の心を知らず、天廊に立ちはだかった紫氷の番人は新しい〝やりがい〟に密かに心を踊らせていた。

 

 

 

 

同時刻、スコール島。島の裏側に位置する砂浜にて、ある海賊団が船を寄せ、小舟で上陸していた。

彼等は自分達の船長を探す為、船長お気に入りの酒が飲めるこの島へと足を運んだのだった。

上陸した3人の男のうち1人が頭を掻きながらボヤく。

 

「全く…オヤジの酒好きにも困ったもんだよい。酒くらいいくらでも俺達が船へ持って行くってのに…」

 

「ゼハハハ、仕方ねェさマルコ。気に入った酒場で煽る酒ほど美味ぇもんはねえよ。」

 

「そいつぁ一理あるがよティーチ。

医者の話じゃオヤジの身体は少しばかり良くない様だし、早く連れ帰って安静にして貰わなきゃ困るぜ。」

 

「サッチは心配性だなァ…酒くらい飲みたい時に飲ましてやりゃあいいだろ。」

 

マルコ、サッチ、ティーチ、同じ海賊旗(ジョリーロジャー)に集う彼等は海賊なら聞けば誰もが恐怖する大海賊団、『白ひげ海賊団』その一員だ。クジラを象った船首が印象的な16からなる大船団が如何に巨大組織かを物語る。

3人は船長が行方不明になったのに際し、彼のお気に入りだったこの島へ目処を付けやって来たのだ。

数ヵ月前この島に立ち寄った時、此処は少数の島民たちが細々と暮らす島だった。いつ他の海賊に荒されるとも限らないため、近々島を自分達のナワバリにして支配という名の保護を行う予定である。

 

「しっかし、いつ来ても此処は雨だよい。」

 

「これでも新世界の気候の中じゃ優しいほうだろ。

ジャングルの向こうから煙が見える、オヤジも街へ行ったんだろう。町外れの廃れた酒場をたいそう気に入ってたからな。」

 

「確か名前は『アーネンエルベ』だったか、呼び難い名前だなァ…」

 

「オヤジにしちゃ珍しい気まぐれだよい…面倒事が起きてなきゃいいが…」

 

白ひげ海賊団一番隊隊長マルコ、及び4番隊大将サッチ、並びに戦闘員ティーチ、スコール島へ上陸。

 

 

 

 

 

 

海賊と海兵、決して相容れないこの両名が偶然同じ島に鉢合わせになったとしたら、〝何かが起こる〟のは容易に想像がつくだろう?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

海軍本部 廃船置場

 

 

「オーライオーライ、はいクルスストップ。

じゃあ行くぞー。」

 

「いつでもどうぞ…!!」

 

そう言って刀を抜き、構える俺の部下。

船首を頑丈なロープで括り、滑車を使ってクルスに反対側を引っ張らせることによって垂直になったガレオン船、俺がクルスに合図してロープを離させるとそれは重力にしたがって真下にいる男へと容赦無く降り掛かる。

 

「曲がった太刀筋大嫌い…三角飛鳥、『骨燕(ボーンスワーロ)』ッッ!!」

 

叫び声と共に同時に放たれた3本の真っ直ぐな斬撃が倒れ込むガレオン船の船底にぶち当たり、竜骨を中心に縦三等にカットされ、廃船置場に鈍い音を響かせる。

 

「切り口も鮮やか、見事だった。ご苦労さん。」

 

「お粗末様です…」

 

 

 

ごきげんよう、祖龍です。本日は俺氏の職場からお送りしております。

此処は見渡す限り廃船の山、海軍で使われなくなった船を処分する廃船置場。

ごみ捨て場(ジャンクヤード)と言えば聞こえは悪いが、捨てられているのは船だけなので臭いとかは特にしない。むしろ使われくなった木材はいっぱいあるので再利用すれば小屋くらい直ぐに作れる、実際余った木材でプレハブみたいな事務所をトムに作ってもらった。トム曰く「ウォーターセブンに居た頃を思い出すぜ、たっはっは!」らしい。

ここでの主な仕事は前述のとおり、使われなくなった軍艦を処分すること。

軍艦は全部木材で出来ているわけじゃない。木材はもちろんの事鉄製品、大砲と船首の主砲は取り出して再利用するか、溶かして別の船の一部になる。ムダなんてないよ。

俺氏が配属される前は酷い有様だった。誰もやりたがらない仕事だから場所なんて整備されている訳もなく、全て1から整えた。足の踏み場もなかったのを全部片付けて平らにして、設備を整えて、センゴクさんに直談判して人も増やしてもらったし…無人島開拓してるみたいだった。どんなDA〇H島だよ…

それに色々難癖付けてくる聖地のOBも黙らせないといけなかったし……素人は黙っとれ(ボソッ)

とにかくなんやかんやあって今の設備を手に入れたワケよ。

いやー長かったね。なんせ白蛇の仕事と中将総督の仕事の合間にちょくちょくやってたからね、これも龍の身体のおかげかな。六徹位してもピンピンしてるの、俺。祖龍にとって睡眠はオマケみたいね。

「中将、いつ寝てらっしゃるんですか?」て聞いてきたポルポ君に六徹したって言ったらドン引きされたよ、そんでもって肌に悪いから徹夜はやめろっておつるさんにしこたま怒られたナリ。解せぬ。

 

そんでもって、今は廃船置場の現場監督としてのお仕事をまっとうナウ。新入りのTボーン君、海軍に来る前はどっかの王国の騎士だったらしいが見事な剣の腕前だ。というか斬撃飛ばすのはこの世界の剣士のアイデンティティなんだろうか?

彼、世界政府に加盟した自国を想って海兵に志願するほど正義感が強く、自分の身を削ってでも部下を守る部下思いの優しいナイスガイなんだけど…絶望的に顔が怖いのよね。顔骨ばってるし、歯も欠けてる。そのせいで子供からよく怖がられるらしい。

 

「人は顔じゃなくて心、だな。」

 

「…?中将殿、如何されましたか?」

 

「いやなんでも。今ので午前の分は終わりだから事務所で昼食にしよう、一緒にどうだ?」

 

「はっ、御一緒させて頂きます!」

 

騎士上がりだからか、めっちゃキビキビ動くTボーン君と一緒に事務所へ向かった。

 

…………………

 

 

巨大船をくり抜いて作られたクルスの巣、そのすぐ横にウチの事務所はある。海面がモコっと盛り上がり、現れたクルスが海面から顔を出した。デカイ犬と変わらないな、可愛い奴め。

 

「よーしよし、ちょっと待ってろクルス。今昼飯を持ってきてやるからな。」

 

グルル…と嬉しそうに唸る姿はとても庇護欲をそそられるというか、守ってあげたくなるというか、たまにコイツが人喰い海王類なのを忘れそうになる。

 

「お帰りなさいませお姉様、昼食のご用意は整っておりますわ。」

 

「みら、おかえりー」

 

扉を開け、出迎えてくれたのはいつもの可愛いメイド達。次いで香ばしいスパイスの香りが鼻腔をくすぐる。

 

「今日はカレーか」

 

「はい、今回はシーフードで攻めてみました。魚の骨抜きはイルミたんが頑張りましたの。」

 

「ふふーん」

 

「そうかそうか、イルミーナご苦労さん。可愛いなこいつめー」

 

わしわしわし…

 

笑顔でイルミーナの頭を撫でる、あ''〜心がぴょんぴょんするんじゃぁ〜

 

「くるすにご飯あげてくるね。」

 

そう言って巨大な骨付き肉を担いだイルミーナは出ていった。

 

「おう船長、戻ったなぁ。たっはっは!」

 

「トム、戻ってたのか。オックス・ロイズの進捗はどうだ?」

 

おっと、我等が船大工トム爺さん。ここ数日工房の方へ篭もりっきりだったけど戻ってきてたんだ。

 

「順調だ、竜骨が生きてたのが幸いだな。戦闘は無理でも浮かべるだけの観覧用なら問題ねェよ。」

 

「それは良かった、年内に終わりそうか?」

 

「ああ、俺から言い出した事だ。ドンと任せとくれ。」

 

た…頼もしすぎんよトムさん。流石海賊王の船を造った船大工やでぇ…

なんて話しているうちに、イルミーナが戻って来たので5人で昼食を食べる事に。

Tボーン君、美味しいのは分かるけどガチ泣きするのは止めような?顔えらいことになってるで?

 

んで、昼食を楽しんでいると思い出したようにイルミーナが呟いた。

 

「あれ?あんとれむは?」

 

「レムは『白蛇』の仕事でスコール島、アンはストロベリー少将と一緒にフールシャウト島へB級グルメを食いに行った。」

 

「…びーきゅうぐるめ?」

 

「まあ要するに、珍しい物を食べる為に出ていったんだよ。電伝虫も渡してある、2人ともスグ戻って来るだろうし心配するな。」

 

「ふーん」

 

心配するな。とは言ったものの、レムはともかくアンのやつは放っとくと何するか分からんのよね。

好戦的だし、プライド高いし、某作品的に言うと姫〇ルの姿をしたプライドの高いモード〇ッドってかんじだ。使う炎は凶悪で、グァンゾルムの使う龍属性混じりの焔、赤黒いその炎は1度燃え移ると水に飛び込んでもなかなか消火できず、アンの意思で消すか対象を灰にするまで燃え続ける。一応普通の炎と使い分けできるようだけど、一歩間違えば島ごと滅ぶ危険な力だ。

というか龍種、強過ぎませんかね。ワンピ世界の枠から外れた俺達は本当に規格外らしい。

つい先日、ゴア王国の汚職の証拠を弟子(スパンダム)の所へ届けにエニエス・ロビーへ行った時の話だが、そこにたまたまいた諜報員のフクロウ君に「道力」について教えて貰った。

「道力」とはドラゴ〇ボールでいう戦闘力の様なもので、銃を持った海兵1人が10道力、六式を完全に習得した諜報員を300道力とするらしい。今CP9で最も道力の高いルッチ君が3500であるのに対し、気まぐれに測ってもらった俺の道力はなんと53万

 

 

5 3 万 で あ る、フリー〇様かな?

 

 

それもフクロウ君が測れる限界らしく正しくは計測不能という事だ。(あんまり測るとスカウターの如くフクロウ君がボンッてなるらしい、怖いね)

因みにレムとアンは50万前後だ、それでも俺と3万程しか変わらない。まあこの手の数字なんてアテにならんし気にしなくていいよ。そして、流れでスパンダムも測ったが25道力だった。

……よし、この話終わり!閉廷!解散!(弟子ェ…)

 

あとなんかカリファっていう諜報員の女の子がよく俺の事をチラチラ見て様子を伺ってくる。そして時たま鏡を取り出して自分を映し、はぁ…とため息を吐いていた。どうしたん?

イルミーナは何故かジャブラっていうチンピラみたいな諜報員とさっき話したルッチ君に凄い警戒されてた、なんでも2人とも動物系の能力者でイルミーナといるとなぜだか悪魔の本能が勝手に彼女に服従していまうらしい。獣になる能力だから野生の勘も鋭いのかね。試しにイルミーナに「おなかすいた」と言わせたら「ヒィッ!?す、スグお持ちします!」「くっ…何故だ、逆らえん…」と言いながら剃使って猛スピードで購買から焼きそばパン(パシ)ってきてくれた。ジャブラ君の方はイヌイヌの実モデル『狼』だと言っていたし、只の狼じゃ神殺しの獣(フェンリル)には勝てないか。能力にも上下関係とかあるってことかね?

 

「まあ二人なら上手くやる、私達も色々とやらないといけないことが多いしな。」

 

私事ではあるがステラの妊娠とか、テゾーロとの結婚準備とか、ゼファー先生の息子のジェイク君が訓練校に入った事とか、色々ある。特に結婚式の準備とかは割と急務。めでたい二人の門出ですもの、できちゃった婚とはいえ愛し合う二人の間に子供まで産まれて…オジサン(外見はお姉さん)は嬉しいゾォ!

俺氏が元居た島に貯蔵してあった財宝を元手にテゾーロが始めた海運業も軌道に乗ってきたらしいし、これでしばらくは安泰だろう。テゾーロの奴は賞金稼ぎもやってるからミホークみたいに名が知れれば海賊でなくてもいつか七武海として登録できるかもしれない。やったぜ。

テゾーロは強いぞー、「もう二度とステラを失いたくない」と決意の眼差しで俺に迫ったきたのは今も記憶に残ってる。それ以来スパンダムに続く二番弟子みたいになった。根性あるしいい目をしてたよ…

それとアイツには婚約祝いと称して俺がちょい昔に海賊船を襲撃した時に回収し、扱いを任されていた悪魔の実をあげたからな。確か『ゴルゴルの実』だっけ?身体から金を生み出す能力が備わってる。闇オークションで売られる予定だったらしいし回収して正解だったネ。情報くれたクロコダイル君には今度なんかしら恩返し考えといてやろ。

 

その後も5人は談笑しながら食事を続け、それぞれ午後の仕事へと戻る。多忙でござる、中将総督の書類仕事が残ってたんだよな〜。

 

 

 

 

 

 

 

 

偉大なる航路 フールシャウト島

本来なら荒野とサボテンが広がるだけの静かな田舎島は今、島の一部が業火に覆われ、熱風か辺りに吹きすさぶ異常地帯と化していた。大きく渦巻く炎、その円の中心に二人の人影が見える。

 

「あっハハハハハ!!ほらほらどうした、そんなんじゃ(オレ)に傷一つ入れる事ぁ叶わねえぞ!」

 

「くっ…舐めるな…!

俺は…人間なんぞに絶対に屈しないッッ!!」

 

「骨があるなァ、良い。もっと我を楽しませろ、フィッシャー・タイガアアアアアアア!!」

 

女の笑い声と共に湧き出す真っ赤な火炎が身の丈二倍はあろう相手の男を舐める。

 

 

フールシャウト島。この島では今、1人の男が、巨大な伝説へと果敢に挑みかかっていた





なんか閑話みたいな回でした、次はタイガーVSグァンゾルムの予定です。

なんやかんやで今年最後の投稿かも…来年もスキを見ては駄文をぶちこんでいくので宜しくお願いします


良いお年を〜ノシ


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35 帝征龍、魚人と出会う






『魚人族』とは赤い大地に聳え立つ聖地マリージョアのその真下、海底1万mに位置する『リュウグウ王国』を中心に生活する種族である。人間と同じ体躯に魚のエラやヒレなどが生え、体色が変化している者を『魚人』。対して下半身に魚の尾鰭が生え、水生生物の中でもトップクラスの水泳能力をもつのが一般に『人魚』と称されている。

海底でひっそりと暮らしていた彼等は数百年前までは人ではなく『魚類』に属されており、様々な迫害を受け続けていた。

彼らの暮らす魚人島が偉大なる航路の前半と後半を結ぶ中間地点に位置しているということもあり、海賊達による誘拐や人身売買の被害が絶えなかったのだ。そんな魚人島を救ったのは、ある巨大な海賊団だった。

 

「俺のダチの国を荒らすんじゃねェよ…ハナッタレ共がァ!!」

 

「この島は、オレのナワバリにする!」

 

彼等の庇護下へ入る事により島には平和が戻り、誘拐や人身売買も無くなった。それから魚人島は海賊達の休憩、観光の地として有名になっていく。

 

これに対し政府と海軍は終始だんまりを決め込んだ。

その沈黙の裏には、きっと様々な思惑が交差していたのだろう。

 

本来なら善良な『人間』は正義の権化たる海軍に保護される筈なのだ。しかし政府はそれを承認しなかった。

魚人が『人間』と認められても政府の中枢に近付くほど彼等への差別は根強く、珍しい魚人や人魚は()()()()()が多いのだから…

 

 

 

 

 

 

〜フールシャウト島〜

 

軽い霧が立ち込める中、見渡す限りサボテンと荒野が続く沿岸に魚の船首の印象的な海賊船が停泊していた。

 

「さァ着いたぞコアラ、ここがお前の故郷だ。町まで俺が付いていこう。」

 

他の船員たちに見送られ、1人の少女の手を握りながら彼は島へ上陸する。

 

フィッシャー・タイガー。彼は人間との『決別』を叫び、単身マリージョアへと飛び込み多くの奴隷達を解放した。

奴隷解放は政府に牙向く大犯罪である、それを成し遂げたタイガーには2億3千万ベリーという破格の賞金が掛けられ、海軍から執拗に狙われる未来が待っている。そんな彼を見捨ててはおけないと集った者達と共に自由と解放を掲げ『タイヨウの海賊団』は結成された。

魚人は水中のプロフェッショナルである、それに加え人間の何倍もある怪力を持ち、海から攻撃を仕掛ける彼らを捕らえるのは至難の業だった。今やタイヨウの海賊団の評判は知れ渡り、海軍本部の中将クラスが注目する程である。

そんなタイヨウの海賊団にある日突然託されたのがこのコアラという少女だ。

 

「おぉぉおおん行くなよコアラ〜…もっと一緒に冒険しようぜ〜…」

 

「「うお〜ん…」」

 

友との別れに大袈裟すぎるほど涙を流し別れを惜しむ者もいる、それだけ彼女は慕われていたのだろう。

 

「わたし、魚人は皆いい人だよって町のみんなに言うよ!!」

 

無邪気に笑うコアラの手を引きながら、タイガーは荒野を歩いて行った。

 

 

…………

 

 

「ありがとう!タイガーさん、本当にありがとう!」

 

 

手を振り続けるコアラを背にしながら、そそくさとタイガーは村を去る。内心少し名残惜しいが、コアラを迎える村人達の目を見て彼は確信がいった。

 

自分は此処に相応しくない

 

魚人は嫌われ者だ、それを重々承知のタイガーは長居は無用と船へ歩き出す。

 

「……元気でやれよ、コアラ。」

 

誰にも聞こえないような小さな声でタイガーは呟いた。そして暫く荒野を歩いた後、岩場に座る人影が見える。

 

「……?誰だお前は…」

 

だらしなく岩場に腰掛けるその人は金色に輝く長髪を靡かせ、どんよりと濁った赤黒い瞳で串ものを貪っていた。

 

「んっ…むっ……」

 

タイガーの問いかけにも応えること無く、女は串に刺さった肉に夢中だ。

暫しの沈黙、そして女の胃に肉が全て収まると、腹をさすりながらタイガーに目を向ける。

 

「ふん、生意気にも美味かった。

肉は少し固めだが、サボテンのみずみずしさと良く合う。今度イルと試しに作るか。

秘伝のタレとか言ってたアレは…後で締め上げて白状させるとして……で、お前だ。」

 

「なんだ、賞金稼ぎか。まったく…こんな田舎の島まで俺を狙いに来るとはな。」

 

また自分を狙う賞金稼ぎ、とこれまでの経験上いい加減飽き飽きしているタイガーを女はからからと笑う。

 

「我を泥臭え賞金稼ぎと一緒にするなっつーの。丸焼きにするぞ?」

 

「なんでもいい、俺は急いでるんだ。」

 

「急いでる?ああそうか、向こうの沿岸にはお仲間の船が停めてあるんだったな。捕まったら大変だ。

なあ?()()()()フィッシャー・タイガー。」

 

「ッッッッ!?」

 

その一言でタイガーは即座に自身の警戒レベルを極限まで引き上げた。

ほんの一部の人間しか知らない筈の隠された自分の真実を知り、岸にいる仲間の船の位置まで把握しているこの女の示す所は…

 

「海軍か?それとも俺達に恨みを持った海賊か…?答えろッ!!」

 

ビリビリと殺気を放つタイガーに全く怯える様子もなく、彼女…嘗て竜を統べた王は片手の串を弄びながらまた笑う。

 

「ん〜?まあ…どちらかって言われると〝カイグン〟寄りだg(バシンッ

………行儀の悪い拳だなァ」

 

「(なっ!?女の身で俺の拳を防ぎやがった…しかもこの力、全く腕が動かねえ…ッ!!)」

 

海軍の関係者なら先手必勝、早めに行動不能にしておこうと繰り出したタイガーの拳は顔手前でいとも簡単に掴まれる。

 

「姉御からは我の裁量で決めていいって言われてるんでなぁ、グルメ探索の片手間に面を拝みに来たんだが…随分行儀の悪い海賊だ。」

 

「くっ…!」

 

「折角こんな辺鄙な島まで赴いてやったんだ、死ぬ気で我を愉しませろ。

確かお前等の海賊団は『自由』と『解放』を掲げてるんだろ?なら勝ち取って見せな。

この我から、『自由』を…ッ!!」

 

タイガーは一気に周囲の温度が上がるのを感じた。それに確かな危機感を覚え、無理矢理にでも掴まれた拳を振り払おうとしたその瞬間

 

彼等の周囲が真っ赤な炎によって大爆発を起こした

 

 

 

 

フールシャウト島の人気の無い岸辺にはタイヨウの海賊団の船が停泊している。霧が深く、視界も悪いため船長が戻ってくるまで乗組員達は待機だ。

待機しているものの中には今しがた別れた人間の子供、コアラを惜しむ者もいる。そんな中、1人嫌味たらしく笑う男がいた。ノコギリザメの魚人、アーロンである。

 

「どうせ数年経ったらあの餓鬼も他のヤツらと同じになる。」

 

魚人は人間より優れている、なので虐げられるのは人間の方だと信じる彼は苛烈な性格の無法者だ。フィッシャー・タイガーという大恩ある〝大アニキ〟が居なければこの船に乗ることもなかっただろう。

 

「んだとー!?アーロンこのヤロー!」

 

特にコアラと仲良しだったマグロの魚人、マクロと口論になりそうになった所をジンベエが収める。

 

「2人ともギャーギャー騒ぐな。

アーロン、お前はコアラも他の人間達と同じに見えるんか?」

 

「当たり前だぜジンベエのアニキ。アイツはまだ子供だが…周りの大人に教えられるさ、そんで他のヤツらと同じになる。1人のガキの意見なんて誰も信じねぇよ。」

 

コアラが如何に魚人のことを「いい人だ」と言ったところで所詮は子供の戯言、大人達には流されるに決まっているとアーロンは嘲笑した。

 

「…そうじゃな、じゃがコアラは分かってくれた。他の(モン)魚人(ワシら)の事を知らんだけかもしれん。

やはり知れば何か変わるんかのう…」

 

「ハッ!どうしたよアニキ、ガラでもねえ!」

 

 

…………

 

船長がコアラを送り、もうそろそろ帰ってくるであろう頃合を見計らい、錨を上げて出航準備を整えていたその時、不意に爆音と振動が空気を揺らす。

 

「ニュ〜!?な、なんだぁ!?」

 

「内陸の方からだ!大アニキがマズイかも知れねぇ…(ドゴォンッ!!)うおおっ!?今度はなんだ!!」

 

「敵襲だ!霧に紛れてた…海軍に囲まれてるぞォ!!」

 

揺れる甲板から見渡せば、霧の向こうからゆらゆらと揺れるように何隻もの軍艦が迫ってきている。

続く砲撃音、撃ち出された砲弾は運悪くマストをへし折った。もうこの船は使えない。

 

「マストをやられた、軍艦を一隻奪うぞ!」

 

「チュッ…連中、つけてやがったのか!」

 

「見ろ、これが人間だ……

やはり思い知らせてやらねぇと分からねえ…ッ!!」

 

恨みがましくギリリと歯を噛み締めるアーロンにも構わずジンベエは叫ぶ。

 

「タイのお頭が危ない!

アーロン行くぞ!アラディン、軍艦は任せる!」

 

「分かった、行ってこい2人とも!」

 

「クソッ!!大アニキィ!」

 

おそらく先程の爆発が起きた場所にタイのアニキはいるはずだ、そう確信したジンベエとアーロンはフールシャウト島へと上陸した。

 

 

 

 

海軍軍艦司令部、ストロベリー少将の司令室では慌ただしく海兵たちが行き来している。その中で、副官らしき将校が問うた。

 

「ストロベリー少将、布陣配置完了致しました。

ですがあのフィッシャー・タイガーを民間人の女性1人に相手させるのは如何なものかと…」

 

「………黙って指示に従え、タイガーは彼女1人に任せておけばいい。」

 

「理由を聞いても宜しいでしょうか?」

 

「彼女が動く以上、我々は足でまといだからだ、下手に争いに近寄れば即座に消し炭にされる。兵の無駄な損失は海軍の望むところではない。それに……」

 

「……それに?」ゴクリ

 

ストロベリーの普段見せないような神妙な面持ちに思わず副官は息を呑む。

 

「それに、私もまだ死にたくない。

彼女の機嫌ひとつで簡単に散ってしまうのだ、ちっぽけな人間(われわれ)は。」

 

「…………?」

 

 

 

 

 

 

『龍』とはもとより空想上の生き物、その歴史はこちらの世界では遥か昔より御伽噺(フェアリーテイル)として語られる。

曰く街を滅ぼし、多くの民を葬った悪しき存在として。

曰く古き巨塔の頂上に座し、強者との闘いを望む試練(ラスボス)として。

空想世界の『龍』は多くの人々を魅了してきた。

 

だがしかし、それは空想だからこそ楽しめる話。村を焼き、人を食い、土地を荒し回る空想が現実に現れれば、どれ程恐ろしいものか…それを今、1人の男が体験していた。もっとも、本人は相手が正真の化物だとはつゆしらず。

 

二人を巻き込んだ大爆発はちょっとしたクレーターを作り出し、もうもうと立ち込める煙の中からタイガーが飛び出した。肌はところどころ焼け焦げて、少なからずダメージを負っている。

 

「チィッ…なんだ今のは!?」

 

「おーおー、直撃した筈なんだが、わりとピンピンしてるな。」

 

爆心地で無傷のまま佇む女は薄ら笑いを浮かべ、懐から取り出した一口大の棒付きキャンディの包み紙を開け、口へ放り込む。

遊び気分か、舐めた真似を…と内心タイガーは憤りを覚えた。だが、地面が抉れる程の爆発を真正面から受けても傷一つ負わないその姿から、タイガーは彼女が充分『異常』である事を感じ取っていた。

 

油断ならない相手だ、ヘタを打ては瞬殺される。

 

「クソッ、自然系の能力者か…?どちらにしても厄介だな…ん?」

 

そうボヤいたタイガーは身体の違和感に気付く。

 

暑い。ジリジリと焼け付くような熱が肌を焦がす、喉が乾いて仕方ない。ここが荒野だからかもしれないが、それを差し引いても余りある暑さだ。

幸い魚人の体は人間よりも水分を体内に溜めやすいため、脱水症状とは無縁だ。今はまだなんとかなってはいるが、このままでは…とタイガーが思考していた矢先、視界の横に影が映った。命の危機を感じ咄嗟に身を翻す。

その直後、女の脚が空を切った。振り抜かれた脚は凄まじい熱気を纏っているのか、通った後にゆらゆらと蜃気楼が生まれている。

 

「お、避けた。」

 

「ッ!?!?」

 

その後も飴を転がす女からなんの気なく放たれる猛スピードの連続回し蹴りを紙一重で避け続け、最後に繰り出された踵落としをタイガーは両腕で受け止めた。

衝撃でタイガーの足下が大きく凹み、高熱で腕が焼かれる。

 

「(グッ…重い…ッ!)一体何者なんだお前は…?」

 

「何者ぉ?最近『アン』って名前を貰った。それ以上は…言う必要はねえなァッ!!」

 

足下のクレーターが更に大きくなった。

骨がミシミシと悲鳴を上げる、魚人を超えた馬鹿力、更に異常な程の高温は容赦なくタイガーの体力を奪っていった。

 

「ほらほらぁ、反撃しねえと焼き魚になっちまうぞ?

それとも…こんがり焼かれるのがお好みかい?」

 

獰猛に笑うアンがタイガーを蹴り飛ばすと、アンの口元から真っ赤な炎が吐息の度に漏れ出す。そして突然地面から波打つ様に溢れ出した火炎がアーチの様に噴き出して、バウンドするようにタイガーへと襲い掛かった。

 

「クソッ!?無茶苦茶だろ!!」

 

咄嗟に横へ飛び回避するも、一瞬早く掠めた炎の濁流に焼かれ、焦げた左腕の痛みに耐えながら叫ぶ。

 

「ほお、流石魚人は人間と違って頑丈なんだな。

報告書じゃ2億そこらの雑魚だと思っていたが、なかなか骨があるらしい。ほら、もっと踊って見せろよ魚人(ニンゲン)

 

新たに生まれた炎が束ねられ波打ち、四方八方からタイガーを焼かんと暴れ始めた。

 

「人間…だと?このオレが?」

 

「あん?違うのか?

姉御から聞いたとおりじゃ差別とか偏見とか、いろいろよく分からん事になってる様だが…(オレ)にとっちゃなんら変わりねえだろ。」

 

「俺は…違う…。俺を人間共と同じにするなァっ!!」

 

今までにも増してタイガーは吼える、そんな彼をアンは一笑し、タイガーの周囲を炎が飲み込もうとしたその時

 

 

「魚人柔術……『大海流一本背負い』ィ!!」

 

「大アニキィィィィッ!!」

 

巨大な水の塊がタイガーの真上から降り注ぎ、消火と同時に大量の水蒸気を巻き上げた。

 

「あ…?わぷっ!?」

 

一度に蒸発した水の量は凄まじく、不意にアンの視界を完全に覆い尽くす。

それと同時に何かがアンに向かって飛び出した。

 

「シャーク…オン…ダーツッ!!」

 

それは鋭い『鼻』だ、ジンベエの持ち上げた流れる水の中で限界まで加速したアーロンは弾丸の様にアンの喉元に突撃を仕掛けていた。

ズドンと重い音が響く。視界を奪ってからの完全な不意打ち、確実に仕留めたとアーロンは確信した。だが…

 

「…姑息な真似するじゃねえか。」

 

「ばっ!?馬鹿な…俺の突撃を腕一本で…止めやがった!?」

 

首を動かそうとしてもびくともしない、完全に勢いは殺されている。ゾワリとアーロンの背中に寒いものが走ったその刹那。

 

「アーロン伏せい!魚人空手奥義…『無頼漢』ッ!!」

 

アンの横腹にジンベエの拳が突き刺さる。強い衝撃が走り、くの字に曲がったアンは掴んでいたアーロンを思わず離し、直線上にあった大岩まで吹き飛んた。衝撃でガラガラと岩が砕けて崩れ落ち、アンの姿が見えなくなる。

 

「すまねえアニキ…!」

 

「くうっ…あの娘、鋼鉄みたく硬かった…。

それより今はお頭の心配じゃ!

お頭!お頭ァ!無事ですか!?」

 

「アーロン、ジンベエ…お前等どうして此処に…」

 

「海軍から攻撃を受けたんだ!船はマストをやられて、今アラディン達が軍艦を一隻奪ってる。お頭も早く離脱を…」

 

アーロンが言い終わるより早く、崩れ落ちたはずの岩の瓦礫が噴火するように打ち上げられ、そこから赤黒い龍気を纏った焔が天に向かって立ち上る。

 

「な…なんじゃアレは…」

 

「マズイ…ジンベエ、アーロン、早く逃げろ…!アレの相手はするな!」

 

片やジンベエはタイヨウの海賊団に所属する前はリュウグウ王国で衛兵を務めるほど優秀な兵士で、数多の戦場をくぐり抜けてきた精鋭だ。アーロンもまた、海底の海賊として名を馳せた強者である。

その2人をもってして、目の前で噴き上がる黒炎は異常なものだと本能が理解した。

 

吹き飛んだ瓦礫の中から悠々と立ち上がる影がひとつ、全てを飲み込む獄炎をバックに黄金の髪を靡かせる美しい女性のカタチをした(ばけもの)は、口のキャンディをバキリと噛み砕き獰猛に呵う。

 

 

ああ、こちらに来てから久しく感じることの無かった『痛み』だ。殴られた後を触ればチクリと軽い痛みが走る、おそらく痣になったのだろう。

油断していたのもあるが、確かに彼等は自分に傷を負わせた。

自分に食われるだけの『餌』とは違う。遠い昔に挑んできた()()()()と同様に、姿は違えど彼等は『人』だった。

 

………実は魚人空手とは空気中の水分を制する武術であり、外からではなく内側からの衝撃によりアンに傷を負わせた訳だが、本人達は知る由もない。大事なのは傷を負わせた事実のみ。

 

 

 

 

「龍は獣ではない」と祖龍は言った、しかし無限の時を生きる龍には時にどうしても抗えないものがある。

 

あるいはそれは自滅願望で、自分を終わらせてくれるかもしれないという希望で、純粋な力で優劣を決めるという本能だ。

 

 

「ふっ……あははははは…アハハハハハはははハははハハははハはぁッ!!」

 

玉座無き龍王は、()()に染まりし狂王と化した。

 

タイヨウの海賊団船長、フィッシャー・タイガー、並びに戦闘員アーロン、ジンベエ。彼等はこれより胸に刻みつける事になる。

 

昂らせてしまった龍の脅威と、それに挑まなければならない残酷な運命の結末を

 




はい、明けてしまいましたよ。
新年初投っすね
今年はガチャ運がいいといいなと、獣です。

アンとタイガー、初遭遇です。
アン「人も魚人も同じやろ(結局は食うし)」
タイガー「人間と一緒にすんじゃねえ(激おこ)」
ストロベリー「死にたくないから関わらんとこ」

アンが飴を噛み砕くアレ、原作では状態移行の際にエギュラスを咬み殺す演出を参考にしています。どうでもいいね。
グァンゾルムのあの演出からの炎ボアー!は厨二心を擽られます。新種の咆哮と風圧は反則やろ…(震え)


次回、テンション上がるアン


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36 帝征龍、人の世界で生きる



スマホの死から蘇った男、スパイダーマッ!


「ねえ、何か音がしない?」

 

「音?聞こえないな。それより折角奴隷から開放されたんだ、今日は村をあげてパーティを開こう!」

 

「そうよコアラ。貴女が無事で本当によかった……」

 

「お父さん…お母さん…」

 

1人人生のどん底へ突き落とされていた少女は無事、家族の待つ家へと帰還した。この世界で一度攫われた奴隷が元いた島まで辿り着くなどもはや天文学的確率、コアラの家族も街を上げて歓迎している。

 

そんな微笑ましい光景を眺める海兵が2人、街の片隅でコアラ達を眺めていた。

 

「要人は無事送り届けられたようだな、後はアン様か…」

 

「ああ、ここから離れた荒野で戦闘が始まっている。ゾルダン大佐の予想通り、先に処置しておいて正解だったな。」

 

そうボヤきながらロシナンテは机の水を口に含み飲み干した。

 

今、コアラの故郷であるこの村から数キロ先では魚人と龍が地獄のような戦闘を繰り広げている。しかし村には爆音も、喧騒も、振動すら伝わっていない。故に、村人達は無邪気にコアラと笑いあっていた。

周囲の音と振動の遮断、ロシナンテの持つ『ナギナギの実』の能力によるものだ。彼は効果範囲を村全体に広げ、外部から音も振動も凪ぐ隔離空間を作り出していた。

 

「あんなに幼い少女が奴隷だったのか、胸糞悪くなる話だ…」

 

「真実はもっと残酷だよ、元々我々とストロベリー少将の一行はあの少女を聖地に連れ戻す為に此処へ派遣される筈だった。

タイヨウの海賊団が身元不明の人間の子供を連れているという情報を得てから政府はその情報網を駆使し、コアラという少女の身辺を徹底捜査した。そして彼女がタイヨウの海賊団と共にログを辿り、フールシャウト島へやって来ると突き止めたんだ。

…『鴨が葱を背負って来る』という諺がワノ国にあるらしい。あの日、聖地マリージョアから逃げ出した数多の奴隷達、その1人を捕捉したのに加え、厄介だった海賊団がノコノコとやって来る…願ってもない状況だ。」

 

「だがそれでは情報を提供してくれたフールシャウトの村人達を裏切る事になるんじゃ?」

 

「必要なら口封じも考えていただろう、(天竜人)の為に大を捨てるのは政府の十八番だからな。」

 

「……酷い話だ。」

 

「まァ、その辺りをミラ中将のご命令で私が裏で少し動いた訳だが…そんな事はどうでもいい。

ともかく、上の方々の健闘あって奴隷の少女は無事、真の意味で自由を手に入れることが出来たわけだ。今くらい喜びに浸っていても罰は当たらない。だろう?」

 

「そうだな、そうさせてやろう。

後はアンさんが島を焼き尽くさないのを祈るしかないか…」

 

「こればかりはなあ。随分とハッスルなされているようだが…」

 

ナギナギの効果範囲外に出てみれば、時折谺響する爆音と轟音が耳に突き刺さる。目を凝らせば赤黒い焔が地を舐めるのが確認できた。

今自分に出来ることは少しの間でも村人達の心を安らかに保つ事、安眠において右に出る者は無いと自負するロシナンテはいっそう集中し、能力を張り続けるのだった。

 

 

 

 

◆荒ぶる狂王◆

 

 

 

フールシャウト島、村外れの荒野は普段の様相とはうって変わって、まさに地獄と呼ぶに相応しい死地と化していた。

熱風吹き荒れ黒く焦げた大地には最早生物の影はなく、地面より噴き出す漆黒の瘴気で肺が焼ける。常人ならば五分と持たず火達磨になっているだろう。

そんな中、美しい金色の長髪を靡かせ、赤黒く淀んだ瞳で呵う美女。このような死地とは余程似合わぬこの場にその姿を見せる彼女は異質で、それでいて男を魅了する妖しい魅力を放っていた。

その向かいに立つのは3人の魚人達、タイガー、ジンベエ、アーロン。

一人一人が一騎当千の強者である彼らは今、逃れらない脅威を目の当たりにしている。

 

「うっふふふふふふふふ……ふふふあははははははははッ//」

 

「なんだあの女…急に笑い出しやがった。気味が悪ィぜ…」

 

「じゃが見るからにマズイのは分かる。お頭、隙を見て離脱を…」

 

ヒュボッ

 

「……は?」

 

ついアーロンは気の抜けた声を発してしまった。

 

ジンベエが消えた

 

あまりに唐突過ぎて頭が追い付かない、タイガーの方を見ようと顔を上げた先には…

 

「こんがりフカヒレの出来上がりぃ〜♪」

 

燃え盛り赤黒く光る右手を振り上げるアンの姿が映った。

 

「(ぁ、俺死…)」

 

「アーロンッ!!」

 

一瞬早く覚醒したタイガーがアンを背後から羽交い締めにして動きを封じ叫ぶ。

 

「アーロン今だ!やれェッッッ!!」

 

「うっ…ウオオオオオッッッッ!!」

 

アーロンは背負っていた愛刀、〝キリバチ〟を掴み取り容赦なく羽交い締めにされたアンの首筋を狙う。

キリバチはノコギリのように刃の尖った大剣だ。それを振るうだけでも充分な脅威だがアーロンは魚人である。魚人の力で振り回すこの大剣がどれ程の破壊力を生むか、彼は良く知っていた。たかが人間の小娘一人、如何に強く、悪魔の実の能力者であっても首を断たれて生きていられるはずが無い。

 

ガッキイイィィンッ!!

 

焦りと恐怖で手元が若干狂ったが、アーロンの振り抜いたキリバチは少なくともアンの首から上に直撃し、そんな音が響いた。

 

「ばっ…馬鹿な…ッ!?」

 

ふぁ〜んふぇ〜ん(ざーんねーん)…」

 

キリバチは確かにアンの顔面に直撃した。

 

 

ノコギリ状の刃はあろう事かキリバチに噛み付いたアンの歯にがっちりと掴まれている。

 

「このッ…動かねえ…なっ!?」

 

アンが噛み付いた部分から徐々にキリバチへヒビが広がり、バキバキと音を立てた後完全に砕き割れた。

アーロンの得物はアンによっていとも簡単に噛み砕かれたのだ。

 

「ばっ…化物めッ!!」

 

「ばけものぉ…?なら(ばけもの)と闘うお前はなんだ。人間か?それとも餌か…?」

 

「巫山戯んなよ…オレは誇り高きぎょグギッッッッ!?」

 

言い終わらぬうちに獄炎を纏った左脚がアーロンの首筋に吸い込まれるように叩き付けられた。短い悲鳴を上げながらスリーバウンドする程の勢いで吹き飛んでいく。

 

「アーロンッ!…クソッ!!」

 

そっと、羽交い締めにしていたタイガーの腹にアンが手を乗せ

 

「しまっ…」

 

2人の間で黒い焔が妖しく光り、再び大爆発が荒野を揺らす。

 

やがて爆炎が晴れ巨大なクレーターの真ん中にはアンだけが立っていた。少しして爆風に巻かれたタイガーが落下し少し離れた地面に激突したのが確認できる。

 

「お…オオォ…」

 

時間にすればたった数分の出来事だ。タイヨウの海賊団主力メンバーは帝征龍を前に、完全敗北した。

 

 

 

……………

 

 

「あ〜楽し、さっさと起きな魚人共。まだまだこんなモンじゃあないだろ?

下等な人間とは違うんだもんな?」

 

魚人達が皆動かなくなったのを見て、アンは呟いた。

 

「いつまで寝てんだ、早く起きろ。

人間よりも速くて、強くて、頑丈で、水の中でも息ができる。魚人(お前達)は出来損ないの人間とは違う高等種族なんだろ?」

 

応える者は誰もいない

 

「なぁ…いい加減寝てないで起きろよ。

おい………ハァ…なぁんだ…」

 

 

結局同じじゃないか

 

 

呆れたようにアンは嘆息する。

違った。この者達も自分を破壊しうる可能性は秘めていなかった。

如何に頑強で怪力持ちの魚人といえど所詮は人の延長線、龍を討ち滅ぼすには遠く及ばない。遠き昔に挑んできた彼等とは全くの別物だった。

 

「チッ、なんだよ…我の思い違いだった。

世界が変わったからと、たかが見た目が違うだけの雑魚じゃねえか。

変わらない癖にコイツ等は差別だのなんだの言ってるのか?馬鹿馬鹿しい。」

 

「ふざ……けるな…」

 

アンの言葉を聞いたのか、息も絶え絶えタイガーが顔を上げる。既に身体は焼け焦げボロボロで、腹は爛れ真っ黒だ。

 

「俺達は…違う…

あんな浅ましい連中とは……人を人とも思わないクズ共とは…違うッ!!」

 

喉が張り裂けんばかりに吠えるタイガーを、アンは冷めた目で見つめていた。

 

「何が違うんだ元奴隷。お前達はまた、我に勝てなかった。あの連中とも違って殆ど抵抗もできず、一方的に。

そりゃもう我に言わせりゃ人じゃねえ。

…人を人とも思わない?

そりゃ魚人(お前等)人間(あいつ等)の価値観が同じだと思っているからそう思えるんだろ。

その時点でお前等は同じだ。

 

同じに見えるから比べ合う。

 

同じ者同士比べ合って『自分の方が優位に立っている』と優越感に浸りたいのさ。獣同士のナワバリ争いの様に本能のまま行う事も無く、力も無い雑魚同士がただ優越感に浸りたいが為にな。これを滑稽と言わずしてなんと言うよ?

いいか?お前達はな。

価値を比べ合おうとしてる時点でどちらも平等に浅ましい。」

 

「何故だ…?その考えならお前だって…」

 

「あ''ぁ…?」

 

一瞬、凄まじい殺気がタイガーを襲う。どす黒い瞳に睨まれて思わず身がすくんだ。蛇に睨まれた蛙、いや、龍に睨まれた魚人だが。

 

「口を慎めよ。中身まで同じようなお前達ならともかく、この我を容姿(みてくれ)で判断するな、不愉快だ。」

 

中身に人の記憶を持つミラや、回廊に籠りっきりだったレムとは違い、アンは嘗て数多のエギュラスを従え、ハンター達をして「龍の王」とまで言わしめた帝征龍。龍による縦社会の頂点に常に君臨し続けていたアンには(強者)としてのプライドがある。

アンは龍、如何に人の世界に迎合していたとしても人と龍では考え方に差が有り過ぎた。故にタイガーの勘違いはアンを苛立たせた。

 

「いや……ああそうか、姉御が言ってたのはコレか。ったく、『共存』なんて言い出さなきゃなあ…」

 

「……?」

 

「まあ瞬きの間でも我を愉しませた事に免じてさっきの失言は赦す、我は寛大だからな。

とゆー訳で、飽きた。帰る。」

 

「……は?」

 

さっさと身を翻し、倒れたままのタイガーから離れていくアンを見て彼は気の抜けた声を発してしまった。

 

「だって元々この島に来たのは飯を食うためだし、お前等はついでだし。

運が良かったな、先の肉巻きで腹は膨れてるから魚まで要らん。」

 

ポケットからまた棒付きキャンディの包みを開け、口に放り込んだアンはひらひらと手を振りながら去っていく。

 

その背中を見送れば自分達は助かる、ジンベエもアーロンも、傷を負ってはいるがしぶといアイツらなら命に別状はは無いだろう。

だが…

 

「………待て」

 

「あ?」

 

タイガーはアンを呼び止めた。

 

力を振り絞って立ち上がる。全身火傷に血塗れで、今にも死にそうな程弱っている体に鞭打って力を込めていた。

そうまでして彼が立ち上がる理由、それは

 

認めるわけにはいかないから

 

 

 

 

 

 

……タイガーは自由奔放な男だった。

気前よく、アニキ肌で、当時国王も手を焼いていたスラム区画『魚人街』を喧嘩によってまとめあげる程腕っぷしも強く、リーダーシップを持っている。

そんな彼は冒険家となり、魚人というアドバンテージを活かして世界中の海を渡り歩いた。

冒険の中にはいい思い出も、悪い思い出もある。

ある国では歓迎されたが、ある国では嫌われもした。〝見た目が違う〟という大きな特徴が、彼の偏見に拍車をかけてしまっていたのだ。

しかし様々な島を渡り歩き、様々な人と出会った彼はその程度の事に動じない。故郷で今も人間との共存を謳う王妃のようにいつかきっと分かり合える日が来ると、心のどこかで信じていたから。

 

奴隷になる前までは

 

連れ去られた先の聖地マリージョア、タイガーがそこで見たものは人間の〝闇〟。この世の暗闇を凝縮し、吐いて捨てたくなるような負の感情の吹き溜まりを目の当たりにして、本人も知らぬ間に純粋だった彼の心は知らず知らずのうちに人への憎悪で染まっていった。

そして聖地から脱走した後もその憎悪はふつふつと心の奥底で煮えたぎる。奴隷解放の英雄としての体面や、自分を信じ慕う部下達のアニキ分としてのプライドで蓋をして。

 

そして今、アンは人も魚人も同じだと言っている。それはオトヒメ王妃からすれば喜ばしい事なのだろう。理由はどうあれ、彼女は賛同してくれる者を拒みはしない。だが…

 

「一緒じゃない…俺達は…」

 

人間とは、違う

 

何度もオトヒメ王妃のように人間達と手を取り合って、平和を目指したいと思った。誰もが平和な方がいいに決まってる。

だが…彼の心の中に巣食う〝鬼〟が。これまで人間達に蔑まれ、虐げられ、奴隷になったことにより積もり積もった負の感情は、どう足掻いても拭い去ることができなかったのだ。

 

「俺達は…誇り高い一族だ…!

『知らない』という理由だけで、見た目が違うという理由だけで…排除しようとする奴らと同じにするな…ッ!!」

 

タイヨウの海賊団のシンボルは『自由』と『解放』、奴隷達を解放し不殺の掟を立てた事で1番苦しんでいたのはタイガー自身だった。どんなに自分に言い聞かせても、どんなにコアラと穏やかな日々を過ごしても、彼の怒りは完全に静まることはなかった。

人間に対する怒りが、彼の心に深く刻み込まれていたから。

 

(いつもそうだ…どれだけ綺麗事叫んでも、オレの中の鬼が邪魔しやがる。俺はもう、人間を愛せないんだ…すまねぇコアラ…)

 

「俺は…人間に屈しない……ッッッ!!」

 

こんな事を龍であるアンに言ったところで何がどうなる訳でもない。だがタイガーの瞳は真っ直ぐに彼女を見据え、自らの主張は正しいのだと必死に訴えていた。

 

アンは立ち止まり、冷ややかな目でタイガーを見つめ返す。

 

「口だけは達者だな、せっかく見逃してやると言ってんのに。

…気が変わった、望み通り…お前を殺す。その後タイヨウの海賊団ごと全員燃やし尽くしてやろう。口だけの誇りが如何に無駄で浅ましいか直々に我が教えてやる。」

 

再び獄炎がアンの周りから噴き上がり、熱波が荒野を再度焼き尽くす。

 

 

 

「ぐっ…お頭…」

 

最初に吹き飛ばされたジンベエがいつの間にか起き上がり、二人の間に割って入る。

ジンベエもアンから受けた一撃によって既に満身創痍の状態だった。

 

「此処はワシが時間を稼ぎます、お頭はアーロン連れて早く合流を…」

 

「……ああ、そうだな。

…ジンベエよォ…」

 

「何じゃ、お頭ァ…」

 

「お前はアーロンを連れて、逃げろッッッ!!」

 

「なっ!?何を…」

 

タイガーは力を振り絞り、ジンベエの襟首を掴んで思い切り後ろへ放り投げた。

 

「アン…俺と〝決闘〟しろォォォッッッ!!」

 

焼けきった地獄の荒野に、タイガーの雄叫びが響き渡る。

 

 

 

◆意志◆

 

 

〝決闘〟とは、己の誇りを賭けた闘いである。ことワンピースの世界において決闘は男と男の真剣勝負、場合によっては己の海賊旗やクルーの命を背負って行う大博打だ。その場で怖気付いたり卑怯な手を使おうものならその後一生後ろ指を指されて生きる覚悟を持たねばならないだろう。

一か八か、自分の我が儘で危険に晒してしまったクルー達の命を未来へ繋ぐためにタイガーはアンへ決闘を申し込んだ。

 

「決闘……はぁ?我とか?」

 

「そうだ…オレはお前に決闘を申し込むッ!

サシの勝負だ、まさか逃げるなんて言わねぇな…?」

 

「…………………」

 

「お頭ァ!一体何を考えとるんじゃ!?」

 

「アーロンと先に行けと言ったろジンベエ!

オレはこの女と決着を着ける…着けなきゃならねぇッ!」

 

「何故じゃ!そいつはさっきワシらを見逃すと言うた筈、何故そこまで固執するんじゃ!」

 

「コイツはオレの意地の問題だ…

コアラと共に過ごした日々は宝だ、だが俺は…もう人間を愛せねぇ。

とっくの昔に濁っちまったオレの心は、もう誤魔化せねぇ…

オレは此処で、自分(テメェ)(こころ)にケジメを着ける!」

 

「お頭…?一体何の話を…」

 

「…これ以上は無粋だ、弁えろ。」

 

アンがパチンッと指を一つ鳴らす。途端に炎が踊りだし、ジンベエとタイガーの行く手を阻む様に炎の壁を作り出した。

 

「お…お頭…」

 

「船長命令だ、行けェジンベエッッ!!」

 

最後にそう大きく叫び、アンへと向き直る。

 

「待たせたな…」

 

「待たせ過ぎだ馬鹿。

が、その目…良い。それだ、アイツらの瞳と同じだ。

諦めを知らず、恐れを知らず、例え天を衝く砦の上から突き落としても平気で挑みかかって来る奴等と同じ目だ。」

 

奴等、とは言うまでもなく、今までアンが…グァンゾルムが屠ってきたハンター達だ。

タイガーはこの時、アンから初めて完全に敵と認められた。

 

ゆらり、ゆらりと陽炎のようにアンの背に影が生まれる。タイガーはアンの背に炎で象られた巨龍を見た気がした。

厳しい翼に王冠の様に伸びた角、その巨躯は例え陽炎であっても彼の背筋を冷たくさせる。

 

「ハッ…そうかい。どうやらオレはとんでもねえ相手に喧嘩を売っちまってたようだ…」

 

「漸く格の違いが分かったか?遅いわマヌケ。で、どうする。今無様に土下座でもすれば見逃してやろうか。」

 

「まさか、テメェが何処の誰だろうがやる事は変わらねえよ…」

 

タイガーは身構える

 

「あっはははは…そうだな、土下座したらそのまま灰に変えてやるところだ。ホラ、決闘だ。我の下まで辿り着いてみせな、奴隷解放の英雄さんよ。」

 

「言われなくとも…テメェに一発入れなきゃ気が収まらねェよ…オオッ!!」

 

弾丸のような速度でタイガーは飛び出した。アンまでの距離は約30メートルほど、魚人の脚力なら一瞬だ。だがアンを前にするととてつもなく遠い距離に感じる。

 

「ッ…!?」

 

既にトップスピードに達していたタイガーは不意な熱気を感じて身を大きく躱した。その刹那、先程まで彼の腹があった位置を黒い熱線が猛烈な熱気を纏って駆け抜ける。

顔を上げればアンの頭上にはポツポツと人の頭程のほの暗く光る無数の火の玉が浮かび、ゆらゆらと揺れていた。

 

「炎戈砲・虚空…」

 

火の玉の一つが弾け、そこから爆風と共にタイガーに向けて黒い線が走る。再び地面に力を込め、大きく飛んだ。スグに爆音と共に地面の一部が吹き飛び地を抉る。

 

「姉御に言われてなァ、色々研究してるんだ。無様に死ぬなよ?」

 

「…ッ上等ォッッッ!!」

 

タイガーの目は死んではいなかった、その目を海に詳しいものならば「怒った海王類と同じ目だ」と指摘するだろう。それは魚人が怒り、本来の凶暴性を顕にした証。

タイガーは集中力を切らさない。

冷静に 怒る

己の身体を限界まで酷使して攻撃に備えた。

 

アンの背後で浮いていた塊が次々と破裂し、そこから生じる無数の熱線がタイガー目掛けてひた走る。タイガーはそれを己の感覚を全て使い、避ける、避ける、避ける。業を煮やしたアンは炎の竜巻を発生させ、タイガーを押し潰した。

 

「オオオオオオオオオッッッ!!!!」

 

うねり燃え盛る炎の中から飛び出したタイガーはアンに向かって再び猛進する。

追い討ちを掛けるように空から降り注ぐ火炎、さらに無数の熱線に四肢を貫かれ、獄炎で全身を舐められようとも彼は止まらない。

 

前へ

 

熱線が頬の左を掠め、片腕は切断された

 

前へ

 

津波のように襲い掛かる炎の激流に全身が燃え尽きる程の激痛が走る

 

それでも前へ

 

「前へ……前へ…前へ前へ前へ前へ前へエエエエエエエエエエッッッ!!」

 

熱線を躱し、炎の壁を突き破ったタイガーはアンの目の前まで迫っていた。

 

腕一本残っていれば充分、後はこの拳を突き付けるだけ。

 

残りの力を振り絞る。大きく振りかぶり、タイガーを見て微動だにしないアンへ向け拳を振りぬこうとしたその時

 

「………惜しかったな」

 

「ガ…グフッ……」

 

上から落ちた熱線が3本、タイガーの身体を貫いた。

身を焼かれる激痛に動きを止める、そのまま命を終えるとアンは過信していた。

 

 

「ウッ……ア''ア''ア''ア''ア''ア''ア''ア''ッッッッッ!!」

 

「何っ!?」

 

再び動き出したタイガーの右腕の拳がアンの顔を捉え

 

直撃する手前で、指先が崩れ落ちる。

それだけで終わらない、指の次は手首が、二の腕が、手の先端からボロボロと灰になり始めた。

とっくの昔に彼の身体は限界を超えていたのだ。それを己の意志と怒りの力で無理やり動かしてきた、それに終わりが訪れてしまっただけのこと。

 

勢いを完全に失ったタイガーらガクリと膝をつき、地面に倒れ付す

 

彼の拳は最後まで龍に届かなかった。

 

「畜……生ォ…やっぱり届かねえか…」

 

覇気もない声で呟くタイガー、彼の命はもうすぐ燃え尽きようとしていた。

 

「…それがお前の〝鬼〟かタイガー。

人への怒りがお前をここまで突き動かしたんだな。」

 

「ああそうさ…オレは生涯人間を許さねえ。ああ…ちくしょう…」

 

届かなかった

 

最早脚は目も当てられない程ズタボロで、唯一残っていた右腕は肩近くまでぼろくずのように崩れ落ちている。感覚が無くなってしまったのか痛みも感じなかった。

 

「ふっ…はは…そうか、そういう事か…」

 

力なくタイガーは笑う

 

「何がおかしい?」

 

「オレは人間が嫌いだ、憎くて憎くて、恨み続けてきた。…だけどそうしている内に…どうして奴隷達(アイツら)を解放したのか、その理由も変わっちまったらしい…。」

 

彼が奴隷達を解放した理由、それは彼等が()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。魚人と違い肌の色も、もっと言ってしまえばDNAすら同じ人間同士で何故あそこまでに惨い事ができるのか。人の持つ底知れぬ闇をタイガーは恐怖した。

そんな彼等を放っておけなかったからこその〝解放〟、そこには差別も種族間の違いも無い同じ奴隷という身勝手なカテゴリに当て嵌められただけの者達を救う為に起こした事件。そしてタイガーはそんな彼等を1人でも守る為、タイヨウの海賊団を結成した。そのはずだった。

 

「あの時はああするのが最善だと思ってたが…ああ、違うんだ。

俺は1人でいるのが耐えられなかった。

オレだけ脱出できて、オレだけ生き残る、それがすこぶる惨めで耐えられなかったんだ。馬鹿みてぇだろ?」

 

「…ああ、馬鹿だな。」

 

「だがアンタと闘りあってスッキリしたよ…俺の心の鬼は、どっかへ消えちまったらしい。

なァ、お互いケンカした仲だろ。一つ、頼まれてくれるか?」

 

既に息絶えようとしているタイガーの言葉にアンは耳を傾ける

 

「……………」

 

「………………」

 

「………………………。……。」

 

「…仕方ねえ、1度でも我に迫った褒美だ。叶えてやるよ。」

 

「恩に着る、俺はもう…疲れた……」

 

「ああ、眠れ。フィッシャー・タイガー。

そして誇るがいい、気高き魚人族(ハンター)よ」

 

アンに看取られながら、奴隷解放の大犯罪者(大英雄)フィッシャー・タイガーは人知れずその生涯の幕を閉じた。

彼が息を引き取ったのを確認すると遺体をそっと岩陰まで移動させ、アンはフールシャウトの街へと歩き出す。

 

彼との約束を果たす為に

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「お疲れ様ですアン様、タイガーの始末の程は…」

 

「タイガーは死んだ、アイツの届けたコアラって餓鬼は何処だ。」

 

「彼女なら奥の酒場に、今頃街の者達と祝宴を楽しんでいるかと。」

 

「……お前等は外せ。先にストロベリー(長頭)の船へ戻っていてもいい。あと、向こうの岩場にタイガーの死体があるが触るんじゃねえぞ。」

 

「仰せのままに」

 

「了解。……アンさんはどうされるので?」

 

「少し用ができた、終わったら戻る。」

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

バンッと酒場の扉を勢いよく蹴り開けてアンは村人達の騒ぐ酒場へ入った。案の定と言うべきか、突然の大きな音に反応し、現れたアンに唖然とする村人達。その中で彼女は人の輪の中心に座る少女に目を付ける。

 

「お前がコアラか」

 

「…はい、私がコアラです。」

 

「ツラ貸せ。…ンな睨むなよ、直ぐに返してやるから。」

 

半ば強引にコアラを連れていこうとするアンに彼女の両親達は反抗的な視線を向けるが、アンはへらへらと笑いながら手を振った。

 

「わかりました。おとうさん、おかあさん。ちょっと行ってくるね。」

 

「え…ええ…」

 

海賊達と暮らしたことで芯が太くなったのか、アンに臆することなくコアラはついて行った。

 

 

…………

 

 

「……それでね!その島には山くらい大きな人が二人いて、ずっと戦い合ってたの!ジンベエ親分が話を聞いたら、もう何十年も決闘をしているんだって!」

 

「へえ、良くやってられるな。偉大なる航路ってのは我のいた場所とは随分違うのか…」

 

「それからそれから…砂の王国とか、雪の国とか…」

 

楽しそうに喋る少女の口は止まらない。アンはその一言一言をたいそう興味深そうに聞いていた。

そしてコアラを心配するあまり、その様子を遠くの物陰に隠れながら眺める村人達(多数)の姿はさながらストーカーの様であった…

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

こっち(姉御はワンピジクウとか呼んでいた)に来てから少し、我は姉御…祖龍ミラルーツの下で新しい身体を得て、ヒトとして暮らしている。

 

最初のうちは嫌だった…いや今も納得してない。

視界は狭いし、翼は無えから飛べもしない、小せえ身体で地面を這っているみたいだった。

 

我は龍だ、人間(餌)と一緒に暮らすなんてとんでもない。根暗龍(レム)の野郎は何とも思っていないようだが、常識とか、力とか、何もかもが圧倒的に違う環境で共存なんて出来るはずがない。

 

そう、出来るわけねえんだ。エギュラスと我がそうだったみたいに

 

奴等は産まれた時から我に服従しているし、気まぐれに殺されるのも許容してる。獲ってきた餌を我に捧げたり、我に近づこうとする侵入者を撃退したり。多分本能が理解してるんだろう、「自分ではコイツに勝てないから、せめて殺されないように従っておこう。」って。

 

でもハンターは違った。我がどんなに業火で焼いても、エギュラスが塔から突き落としても、何事も無かったかのようにケロッとまた挑んできやがる。何度も何度も、色んな格好、色んな手段で、我に挑みかかって来た。

我はそれが堪らなく楽しかった。退屈な毎日に刺激を与えてくれる存在、普通を壊してくれる異常、普段味わえない興奮に胸が踊った。

 

ああ、これが〝人間〟なんだ。

圧倒的な力の差を持つ存在を目にしても尚、抵抗を止めない。持てる知恵を全て絞って最善を尽くす狩人達。

そうじゃない奴は食われるだけの餌だ餌。区別なんてそんなもんだろ?

 

「……!………。……。」

 

目の前で夢中になって話を進めるコアラって餓鬼を眺めながら考える。

残念な事に、ワンピジクウには元の世界に居た狩人達と同じ奴等は居ないらしい。そして姉御に言われたのは支配でも蹂躙でもなく、穏便な〝共存〟だ。

 

『私やお前達が人を模した姿になったのも何かの〝運命〟だ。

郷に入れば郷に従え、破壊と暴力だけが龍の全てじゃ無い事を示せよ。』

 

そう言って全ての龍、その〝真なる祖〟は笑ってた。

 

確かにこの見た目になってから細かい動きが可能になって、イルの奴と一緒に「リョウリ」を作るのはやぶさかじゃない、寧ろ楽しい。生肉だけじゃなく、切り方、焼き方、作り方、多様性のある「チョウミリョウ」を使った無限にも近い組み合わせの探求にはかなり興味をそそられた。

 

が、だ。幾ら誤魔化しても日常で感じる妙な違和感は如何ともし難いもんがある訳で。

特に力加減とかもどかしい事は多いが…姉御の命令だからな…ウン。

 

さっきからこのちっこいガキは夢中になって話している、これがあの男が唯一見出した〝光〟とは…人間ってのはよう分からん。

 

「ああ、もう満足した。

戻っていいぞ、時間を割かせたな。」

 

「ウン、分かった。じゃあね、お姉ちゃん!」

 

手を振ってガキは大人達の下へ去っていく。

 

人と共に暮らすってのはまだ納得してないが、もう少し様子を見た方がいいのかもしれない。

 

……さて、こっちの用事は終わったし。後はタイガーの死体を届けに行くか。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「ジンベエ、アーロン、その傷は…!?

タイのお頭はどうした!?」

 

「後で話す、アーロンを見てやってくれ!今はこの窮地を切り抜ける方が先じゃ!」

 

怒鳴るジンベエからは焦りと、久しぶりに感じた恐怖が未だ心に焼き付いていた。

自らの船を失ったタイヨウの海賊団は持ち前の海中戦闘を活かして早々に海軍の軍艦から船を一隻奪い、どうにか逃げ出そうと必死の抵抗を試みている。

幸いにも霧が再び立ち込め始め、敵の視界を遮ってくれてそうだ。

所々で響く砲撃音と爆発音が耳を突く中、ジンベエは苦々しげに呟いた。

 

「お頭ァ…何故ワシらだけ先に…」

 

 

………

 

 

「おい!ありゃ何だァ!?」

 

海軍と砲撃戦を繰り広げていた所、ある時を境に砲撃が止み、辺りが妙な静けさを取り戻していたところ、クルーの1人が叫んだ。

ジンベエ達が確認しようと目を向ける暇もなく、それは火花を散らしながら正面の甲板へと舞い降りる。

 

ジンベエはよく見知った顔だ。

否、忘れたくても忘れられるものか。

この女はさっきまで自分を殺しかけた化け物だ。

 

「ふぅ〜〜…全く、思ったより沖まで出てたんだなお前ら。面倒を掛けさせやがって。」

 

輝く金髪とは対象的な暗い暗い赤黒の瞳を宿す者、他のクルーが呆気に取られる中、唯一彼女の恐ろしさを身をもって味わったジンベエは戦慄していた。

 

「何故…お前が此処に?

その背中に背負っているのは…」

 

「ん?ああ、お前達の船長の死体。」

 

聞いた瞬間、彼女を敵と判断した魚人達が一斉に襲い掛かる。しかしアンは指一本動かすこと無く、全てその身で受け止めた。

剣が、槍が、幾つもの刃物がアンに突き立てられた。が、それらは一つとしてアンの身体を傷つけること叶わない。

 

「満足したか?」

 

「止めんかお前等ァ!

……ワシが話す、2人きりにさせてくれ…」

 

砕けていく得物に驚愕の表情を浮かべるクルー達を見兼ねたジンベエは彼等を下がらせ、一人アンの前に立つ。

 

「ジンベエ…これは…」

 

「…頼む、船内で待っておってくれ。

あの女とここで戦うのは自殺行為じゃ。丁度ワシも話したいことがあった。」

 

「分かった、お前を信じようジンベエ。だが…無茶はするなよ。あの女は…異常だ…」

 

怪訝そうな顔をするアラディンに、ジンベエは強がりの笑顔を浮かべることしかできなかった。

 

「あ〜、別にいいぞ。

我も頼まれてコイツを連れてきただけだからな、もう帰る。」

 

「…お頭は、死んだのか……?」

 

「ああ、我が殺した。」

 

「ッッ!?」

 

やはりか。彼が決闘を申し込んだ時点である程度想像はしていたが、やはりタイのお頭は…

 

「だが奴は勇敢だった。少しばかり蛮勇寄りかもだが、この我に迫った。

故に、遺体を荒らすような真似はしない。奴の死はこの帝征龍が保証してやる。故郷の墓に連れて行ってやれ。」

 

海賊をして暮らす以上、死は何処にでも現れる。故郷の土を踏めぬまま一生を終えるなんて事は日常茶飯事だった。アンがただ破壊を振りまくだけの存在では無かったことに、ジンベエは内心安堵した。

 

アンは背負っていたタイガーの遺体をそっと降ろし、その場を後にしようとしたが、ジンベエがそれを引き止めた。

 

「待ってくれ!タイのお頭は……」

 

「………『過去は俺ごと置いていけ。未来を生きるお前達ならきっと、あの人と共にホンモノの太陽の下へたどり着ける。』

確かに伝えたぞ。じゃあな、我は帰る。」

 

ぶっきらぼうにそれだけ伝えて、アンは月歩を使い飛び去って行った。

アンが見えなくなってから、一斉にクルー達がタイガーの遺体へ駆け寄っていく。

 

「お頭…お頭ァ!」

 

「嘘だろ…目を覚ましてくれよ…」

 

ボロボロと泣き崩れる者、殺した張本人であるアンを恨む者、色々な声が上がる中、ジンベエは遺体を抱き抱え、告げた。

 

「魚人島へ戻るぞ。お頭に、せめて故郷の土で眠ってもらおう…」

 

沈黙を以てそれを肯定したクルー達はそれぞれの持ち場へ戻っていく。

 

「アラディン、ワシらはたどり着けるんじゃろうか…

オトヒメ王妃の望む太陽の下へ…」

 

「…………」

 

悲痛に歪むジンベエの振り絞るような声に、アラディンは何も語らず頷いた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「どうしてですか少将!もう海賊達は目と鼻の先、今総攻撃を掛ければ確実に仕留められます!なのに何故…」

 

年若い大佐がストロベリーに向かって吠える。己が正義の為、ここで海賊達を取り逃がすのはあってはならない。と言わんばかりの激しい口調でまくしたたていた。

 

「…何度も言わせるな、追撃は中止だ。フィッシャー・タイガーは死んだ、目的は達成されたのなら欲を掻く必要もない。」

 

「欲を掻いているのではありません!

海賊は潰せる時に潰しておかないと、これから先どんな被害が…」

 

「ただいま〜、あ〜疲れた…」

 

ピリピリした雰囲気をぶち壊すように、アンが甲板へとたどり着いた。すかさずゾルダンが何処からともなく現れてアンに飲み物を渡す。

 

「お、気が利くな。…ぷはぁ」

 

あまりにもその場の雰囲気とは掛け離れたアンの行動に一同は唖然としたが、ストロベリーへ苦言申し立てていたその若い大佐だけは、青筋を立ててアンを睨みつけている。

 

「ふわぁ〜…久しぶりに身体を動かしたから眠くなってきたぜ…

ゾルダン、部屋。」

 

「は、既に御用意してございます。」

 

「アンさん、気づいてあげてくれ。流石に無視は酷いと思うんだ。」

 

「無視ぃ?何を?」

 

気まずそうにロシナンテが指さすその先で、初めて大佐とアンの目が合った。

 

「誰だコイツ」

 

「君こそ誰だ!?何で海軍の制服を身に付けていない一般人が軍艦に乗船している!!

とにかく!私の軍艦だけでもタイヨウの海賊団を追撃します!このままみすみす逃がしては…」

 

「駄目だ、許さん」

 

「何?」

 

「二度も同じ事を言わせる気か?

おい長頭、お前ん所の教育どうなってんだ。姉御に報告すんぞ?」

 

おかしい、何故か話が噛み合わない。

作戦開始時から乗船しているこの女性は海軍とはなんの関係もない一般人ではなかったのか?

違和感を感じ始めた大佐はアンとストロベリーを交互に見つめていた。

 

「申し訳ない、大将〝白蛇〟」

 

……は?

 

ストロベリーの一言で時間が止まったかのように甲板が静まり返る。

 

大将白蛇、それは海賊ならば誰もが恐れる海の処刑人。実力はかのカイドウを上回り、艦隊の大船団すら一瞬で灰燼に帰す力を持った出自不明、詳細不明の謎の大将。

それが、彼女?

 

「オイ、一応お忍びなんだから黙ってろ」

 

「ですがこれ以上大佐程度に舐められるのも如何なものかと…」

 

「そういうもんなのか?じゃあ…」

 

つかつかとアンは大佐の下へ歩み寄る、そして不意に彼の首を片手で鷲掴みにして持ち上げた。

大の男が片手で軽々と持ち上がる様は少しだけシュールだが、持ち上げられる当の本人は溜まったものではないだろう。何せ体重が首に全て集中して息すらままならないのだから。

 

「がっ……は…離し…て…」

 

「海軍大将白蛇として命じる、これ以上タイヨウの海賊団への追撃は不要だ。さっき長頭に伝達させたのも含めて三回も同じ事を言わされたぞ?下らん問答でこれ以上我の昼寝の時間を邪魔する気か?

分かったか?分かったよな?」

 

「は…は…」

 

「こ〜え〜が〜ち〜ぃ〜さあああああああいいいいい!」

 

ギリギリと大佐を掴む手の力が強くなる。アンはまるで悪戯をする子供のようにニタニタ笑いながらやっているが、赤黒に濁った瞳は笑っていなかった、それに伴ってどんどん周囲の気温が上昇していく。

 

「は…はいっ!わがりまじだァ…ッ

もうじわけありまぜッン…」

 

帝征龍の双眸に睨まれて脚が竦むどころではない恐怖を味わった大佐は反狂乱でもがきながら必死に言葉を絞り出した。

 

「…ったく、余計な時間を食わせるなよ…。

長頭、準備が出来たらさっさと出航しろ。我は寝る、仕事はしたんだ。要らん些事で起こすなよ。」

 

「了解した。

……そろそろ彼を離してやってくれ、同胞が死ぬのをみすみす見逃す訳にはいかないので。」

 

「…ふん」

 

大佐を捨てるように放り投げ、船室へと入っていくアンを見送った後、ストロベリーに促され海兵たちは再び動き出した。

 

「彼を医務室へ連れて行って介抱してやれ。あと、海軍船に一般人は乗船しない。相手をよく見て話をしろと忠告しておいてやれ。」

 

ストロベリーの皮肉に苦々しい愛想笑いを浮かべる海兵たちであった

 

 

フールシャウト島にて、フィッシャー・タイガー死亡。

その裏に影の大将が暗躍していた事は世に語られることはなく、海軍の活躍として処理されることになる。

 

その後、タイガーの死を悼んだアーロンによるフールシャウト島襲撃が行われたが、その場に居合わせたボルサリーノ中将が鎮圧、逮捕に至った。

新たな船長はジンベエが務めるようになり、タイヨウの海賊団は船長を新たに更に躍進を続ける様になる。

 

 

 

んで、勝手に暴れ回ったアンはというと……

 

 

 

 

「あがががががががっっ!?ギブギブ!!

姉御!死ぬ!死ぬから!いだだだだだだた!?」

 

「裁量は任せると言ったが…加減を覚えろと言っただろうがアン貴様ァァァァッ!」

 

「くっそゾルダンテメェ覚えてろ!

あっ姉御その関節はそっちは曲がらな…ヴェア"ア"ア"ア"ア"ッッ!?」

 

パシャパシャの実を持つゾルダンにことの顛末を記録されており、中将総督の執務室で関節技を食らっておりましたとさ。





お久です獣です(早口)
失踪なんてするか!(戒め)

前回とあわせアン回でした、如何でしたでしょうか。
もはや擬人化の皮を被ったオリキャラのような龍達ですが今後もこんな感じで進みます。
ミラの出番はね、次もないの。
次回はレムのおはなし、ここで原作のある流れををちょろっと変える予定です。次はいつ投稿になるか不明ですが

ワールド楽しいんだよォ!


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37 凍皇龍、お仕事する



(・ω・* 三 *・ω・)

(*・ω・)……

|ω' ) スッノ 37話


新世界、スコール島

 

 

「……脈拍、正常。

心拍数及び呼吸にも乱れ無し…

もう貴女は健康体、気分はどう?身体に異常は感じられる?」

 

「いえ、特には何も…」

 

「ならいい。最後の分を渡しておくから、無くなるまで毎朝1錠ずつ飲んで。

無くなる頃には後遺症も完治する。

モネ、バッグを。」

 

「はい、先生。」

 

ワタシが言うと、部下が慣れた手つきで鞄を開く。中を探り、予め見繕ってきた薬と錠剤の入った瓶を取り出して机に置いた。

 

「おねーちゃん、今日もありがとう!」

 

ワタシの隣で笑顔を見せる少女の名前はリンという。今回の治療対象であるこの女性の子だ。相手をするうち、妙に懐かれるようになってしまった。

 

 

………スコール島、帝征龍(アン)のせいで故郷を失ったクモミ島の住民達が移住した場所だと主は言っていた。

異常気象が恒常化している〝新世界〟においては珍しく安定した気候。少し湿気が肌につくが、それ以外は比較的ヒトの生息に適した島だ。

ワタシはもっと涼しい方が好みだが…

 

数ヶ月前、主の導きでワタシとアンは〝ごろうせい〟と呼ばれる老人達と出会い、そこで主と共に大将となる旨を伝えられた。

そしてワタシに課せられた指令が、「スコール島住民の保護」である。

高慢な龍(アン)には任せられないと主が判断されワタシに一任された。我ながら鼻が高い。

滞在期間は長くはないものの、来る度にこうして島の住人達へメディカルチェックを続けている。

 

「次の診察は?」

 

「はい、先ほどのアオイ様で最後です。大将としてのお仕事も本日で最後ですし、少し羽を伸ばされては?」

 

手元の書類をパラパラと捲りながらモネが微笑む、丸眼鏡がきらりと輝いた。

彼女は優秀な助手だ。女性の身でありながら進んで海兵に志願した変わり者、と他部署からは揶揄されるが、勉強熱心で努力家である。と主が評価している。そして悪魔の実の能力者、〝ユキユキの実〟を食した雪女らしい。

クザンといい、どうもワタシは氷雪系の能力者とかかわり合いになる事が多いようだ。

 

「おねーちゃんお仕事終わったの?

一緒に遊びに行こう!」

 

「おいリン!レムさんも仕事終わったばっかなんだから我が儘言うなよ!」

 

兄であるカイトはいつもこうして妹のリンをたしなめる。

兄妹というものはこうして互いを支え合い、助け合うものだと理解した。

そして彼らの言う『家族』とは、同じ血の繋りを持った共同体、リン曰く「一緒に居ると安心する人のこと」らしい。かなり抽象的だ。これからもこの家族の経過観察が望まれる。

 

「ふふふ…リンちゃん。先生と遊ぶのもいいけれど、今日はカイト君と一緒にお母様と居てあげてね。」

 

「同調。万一アオイの容態が悪化しないように、2人で監視して。」

 

「う〜…はい…」

 

頬を膨らませながら寝ているアオイの手を握るリン。アオイもはにかむような笑顔でリンの頭を撫でている。

こういった光景を『仲睦まじい』と言うのだろう……多分。

 

 

正直な所、ワタシには『家族』というものが理解出来ない。否、どういう行動をとれば家族のカテゴリに当てはまるのか分からない。

龍種、主やワタシやアンは一個体で完全に完結した生命だ。ヒトのように生殖行動によって子孫を残すことはできない。故に血の繋がる存在など何処にもいない。ヒトの形をとったのはあくまで見た目だけで、生命循環の輪から完全に隔離された上位存在だ。

ワタシ自身、医学本で見た人間のそれとは構造が掛け離れているのを自覚している。彼等には紅雷を降らせる能力も、絶対零度の氷を象る機構も存在しない。

それが彼等にとっての『普通』であり、ワタシ達が『異常』なのだ。

 

主の命により、彼等と共存する事を選択したワタシはこの隙間をどう埋めたものか、推し悩んでいた。

 

死生観、生活の常識、マナー、etc…

 

挙げればキリがない。

 

だが、その悩みこそヒトに寄り添う第一歩だ。と主は笑った。

ならこの疑問に間違いはないだろう。

そこでふと、別の疑問が頭をよぎる。

 

何故龍である筈の主は…真なる祖ミラルーツは、これ程までにヒトに寄り添った考えに到れるのだろうか?

 

 

「先生…?先生!」

 

「ん、モネ。どうした?」

 

「アオイさんの家の前でずっと突っ立ってどうしたんですか?考え事もいいですが、今は駐屯所に戻りましょう。報告書を書くまでがお仕事です。」

 

モネに話しかけられて思考を中断してしまった。まあいいか、この疑問はまた別の機会に熟考するとして、今は報告書を片付けるとしよう。

 

「…それにしても、海軍は何故一々文書で記録を残したがる?かさばるし、効率も悪い。口頭で言えばいいのに…」

 

「確かに、報告書やら許可証やらで無駄な時間を掛けている気は否めませんが…これもお仕事ですから。羽を伸ばすのはその後に。」

 

「…そう。便利なコトバね、『これもお仕事ですから。』」

 

「もしかして馬鹿にしてます?」

 

「…?」

 

ワタシは大真面目なのだが。解せぬ…

 

 

 

スコール島、港町。その中心街からは少し離れた場所に、小洒落たレンガ造りの建物が建っている。

決して大きくないが、建築者のこだわりが伺える立派な煙突からは白煙がモクモクと空へ立ち上り、建物の傍へ近寄ればこんがり焼けたトーストの様な香ばしい匂いが鼻腔を擽る。そして店の玄関口には腰の高さほどの看板に『営業中』のゴシック文字が書きなぐられるようにチョークで描かれ、店の看板にはこう記されていた。

 

『アーネンエルベ』

 

 

 

 

 

 

「マスター、もう一杯だ。」

 

「はい、只今。」

 

シックな雰囲気のある店内に、客は一人、店主が一人。

彼らはゆったりと流れるクラシックのレコードを聞きながら、互いに短い言葉を交わしていた。

スコール島上空にはほぼ一年中雲がかかっているため、島全体は太陽が出ていても薄暗い。しかしそれでも昼夜の区別はつくものだが、客の方はそれにもかかわらず、真昼から酒を煽っていた。

 

カウンター席に座るその後ろ姿からでも分かる常人の2倍はあろう巨漢、決して若くはないがその引き締まった筋肉からは全く老いを感じさせない、まるで巌のような大男。鼻元から左右に伸びた白いヒゲが特徴的だ。

いつもの船長服とは違う、まるで変装でもしているかのような質素な服を着て、彼は自分の掌ほどに も満たない大きさのグラスをちまちまと傾ける。

 

「………ますますテメエもあの頑固爺に似てきやがった。顔も注ぎ方もソックリだぜ。」

 

「お陰様で。アンタはちょっと老けたんじゃないのか?相変わらず岩石みたいな身体だけど。体調でも崩しているのかい?」

 

「グララララッ…

ハナッタレ坊主に心配されるまでもねェ。こんなモン屁でもねェさ。俺ァ『白髭』だぜ?」

 

「はいはい。」

 

豪快に笑う男の名はエドワード・ニューゲート。またの名を『白ひげ』。

嘗ての海賊王ゴールド・ロジャーと何度も戦い、勝利はせずとも決して劣らない不落の豪傑。そしてロジャー亡き今、実質彼が新世界の覇者と仰ぐ者も多い大海賊である。

 

「それでまた、どういう風の吹き回しだい?海の帝王がこんな小さな田舎島に。略奪できる程大層な物はありもしないのに。」

 

「あん?特に理由なんかねェよ。

強いて言うなら…テメエの親父が作った酒が、俺の舌に合うからさ。

まさかポックリおっ死んでるとは思わなかったがなァ…」

 

「…親父は最期まで、喧嘩別れしたアンタの事をずっと気にかけてたよ。

後で墓へ参ってやってくれ、きっと喜ぶ。」

 

「……ああ、そうさせてもらう。」

 

静かに返事をする白ひげの声が僅かに沈む。

海賊ならば幾度も繰り返す出会いと別れ。この島で出会った彼もその縁の一つ。

 

「…ハナッタレの作る酒にしては、いい味出してやがる。」

 

今は亡き友人との永遠の別れ。そして彼との最後が余りにも不本意だった事に僅かながらの後悔を抱え飲む酒は、作り手のせいなのか、将又別の要因か、いつもより少しだけ塩気が強かった。

 

 

………………

 

 

「そういえば、知ってるかい?

この島、政府が買い取ったんだ。」

 

「ほォ…政府がか。」

 

「ああ、なんでも他所の島から来た避難民を受け入れて、政府が生活を保障してやってるらしい。街では海兵なんかもちらほら見かけるよ。」

 

「珍しい、世界政府(あのロクデナシ共)が人助けとはなァ…グララララ…」

 

「それに噂じゃ、時々この島へは『大将』がやって来るらしい。」

 

「大将ォ?センゴクの野郎がこの島に?」

 

「いや、もっとヤバい。

此処へ派遣されているのは『白蛇』だそうだよ。」

 

「白蛇ィ…?」

 

 

 

 

 

 

海軍支部基地にて。

一通りの診察を終えたモネとレムは執務室へと帰還し、部下達とブリーフィングを終えた頃合を見計らい。いそいそとレムはコートをラックに掛け、テリジアに仕立てて貰った私服に着替え始めた。

 

「先生、また散策ですか?」

 

「肯定。今日は島の奥まで脚を伸ばすつもり、まだそこまで把握していない。フィールドワークは大事。」

 

「診療カバンの中に小型電伝虫、ちゃんと持っていってくださいね。」

 

「ちゃんと持った。」

 

本人はキリッとしながら(ほぼ無表情)手元の子電伝虫を見せる、まるで遊びに出かける子供のようである。

 

変装と称し伊達眼鏡を掛け、私服に着替え終わったレムは意気揚々と執務室を抜け出した。

 

 

 

 

「……行ったかしら。」

 

窓の外を見る。

私服姿の白蛇が正門から出ていくのが見えた。眼鏡と帽子で誤魔化した程度が変装とは思えないが、あえて深くは追及すまい。

 

書いていたノートを閉じ、白蛇のデスクへ向かう。

 

…私ことモネは、有り体に言えばスパイである。

若様の御命令により海軍に潜入し、謎の大将『白蛇』の情報と、その身辺を探れとの事だ。なんでも前任していた幹部は海軍に裏切りが露呈して殺されたらしい、死と隣り合わせの危険な仕事。

若様には、とある方面に顔が利くらしく、私の海軍入隊もスムーズに行われた。

持ち前の勤勉さを買われ、更に能力者だということもあり、トントン拍子で昇進し、当初の目的通り『白蛇』直属の部隊へと割り当てられた。

 

出自不明、本名不明、何もかもが謎に包まれ、数年前から噂になりだした『無貌の大将』。報じられた海賊の討伐数は数しれず。悪魔の実の能力者なのか、それとも本当に『海の死神と契約した』海兵なのか…根も葉もない話ばかりだけど、今後に控える若様の大きな計画の為、不安要素は潰しておく必要がある。

既に計画は進行している、あの王国へは私の代わりにベビー5が行くことになったんだっけ。必死にジョーラから使用人の作法を教わるあの子は少し面白かった。あれで他人に依存しすぎなければね…いつか治るのかしら?

 

おっといけない、無駄なことを考えている暇はなかった。

幸いにも、女同士の縁なのか信頼されているのか、私のデスクは白蛇と同室だ。支部の海兵達には執務室へ入る時は必ずノックをしろと伝えてある。

つまり諜報し放題なのだ。

 

しかし残念な事に、白蛇と行動を共にしてから現在まで、目立った情報は何一つ得られていない。唯一分かったのは、白蛇は私と同じ氷雪系能力者で、圧倒的に〝強い〟という事だけ。

着任直後に私へセクハラをしようとしたクザン中将をデコピン一発で窓の外まで吹き飛ばした時は目を丸くした。まして彼女は若様でさえ恐れるあの四皇と互角に戦ったらしい、強さは疑うべくもないだろう。

それから…なんとなくだけれど、普通の人とは常軌を逸してるというか、独特の雰囲気を出している。常識も少し欠けているようで、前に『人体の不思議』と書かれた分厚い本を片手に私と別部隊に所属するロシナンテ大佐を呼び出して、「今すぐ此処で2人にヒトの〝交尾〟をして欲しい。興味がある。」と言われた時は心臓が止まるかと思った。

モチロン即行で断ったわよ?

そんな…出会って即とか…//せめてお互いをもっと知ってからに…//ハッ…!?

 

ハッと我に返る。忘れろ私、彼との間には何も無いんだ。無いったら無い。

 

煩悩を振り払い、あらためて白蛇のデスクを見回してみる。

彼女の机に広がるのは整理整頓の施された書類とボロボロの医学本、それからペンなど、秘密を探れるようなものは何一つ置いてない。もうずっとこんな具合だ。

 

結局この日も、彼女の弱点を探れるようなものは何も置いていなかった。

 

 

 

 

天候は珍しく曇り、かかる雲も薄いようで、顔を上げれば少しだけ太陽の光が輝いて見える。

 

先程、売店で小腹を満たそうと思ったら店主にすごく驚いた表情をされて量をサービスして貰った。変装は完璧である。

その後、新しい知識を得る為書店へ寄ったらまたもや店主が凄く驚いた表情になり、どうぞ持っていってくださいと手にしていた本を無料で渡されてしまった。変装は完璧である。

道を聞いたらまたもや凄く驚いた表情を……変装は完璧である。

 

変装は 完璧 なのである(強調)

 

なんやかんやで目的の森へと到着。案内人の話では、この森を抜けると島の裏側に出るらしい。

獣道が出来ているようなので通り抜けようとしたところ、ふわっと香ばしい香りがした。匂いを辿るとそこには小さいながらも凝った作りの建物が佇んでいる。看板には『アーネンエルベ』と記されていた。

 

 

喫茶店だろうか…?初めて見る店だし、入ってみることにしよう。

 

 

 

 

 

 

◆白と白、相見える◆

 

カランカラン…

 

扉に付いたベルが鳴り、アーネンエルベに来客を知らせた。

店主である青年、カレッジは拭いていたグラスを置き、前を向く。

お客は大層な美人さんだ、小洒落た格好に大きめのバッグを肩にかけ、丸眼鏡がきらりと光る色白美人。

…少し考えて、カレッジは気付いた。彼女は…

 

「ああいらっしゃい、海兵のお姉さん。」

 

いつも父親の患っていた病気の事を気にかけ、診察してくれていた女性だ。

 

「カウンターの方へどうぞ。

…生きてた頃は親父がお世話になりました。」

 

「?」

 

「覚えてません?

いつも親父が言ってましたよ、美人な海兵が俺の病気を見てくれるって。」

 

カレッジの言葉に女性は無表情のまま少しだけ首を傾げ、数秒後ポンと手を叩き、言葉を返す。

 

「…ああ、思い出した。

いつも診察中にワタシの胸部を触ってきたあの老人…貴方はその息子?」

 

「親父ィ…」

 

「そちらの方が安心すると言うから、そうさせていた。

診察の際は患者の精神状態も加味した上で行わなければいけないし。」

 

「くっくっくっ…」

 

無表情で話すレム、エドワードは必死に吹き出すのを堪えているようだ。

毎回1人で街まで診察に行くと言って聞かなかったのはこれが目的だったのか…なに海兵さんにセクハラかましておっ死んでんだよあのエロ親父…

カレッジが内心呆れていると、レムはいそいそとカウンター席へと近寄ってくる。

そのままエドワードの二つ隣の席へちょこんと座り、メニューを開いた。

 

「……ミルクコーヒーと…ピザを1つずつ。コーヒーはアイスで。」

 

「はいよ、ピザはちょっと時間かかるけどいいかい?」

 

「構わない、待っている。」

 

「かしこまりました。」

 

カレッジは先に手早くミルクコーヒーだけを作りレムに手渡した後、カウンターの奥へと入っていった。そこで1つ気づいてしまう。

 

「(………まてよ?あの海兵のお姉さんの横に海賊いるじゃん!四皇じゃん!

やべぇよやべぇよ…下手したら店内で捕物が起きるよ!なんで何も考えずにカウンターに案内しちまったんだ俺ェ!?)」

 

後悔しても後の祭り。カレッジはピザ生地をこねながら、戻った時店が無事な事をただ祈るしかなかった。

 

 

………………

 

 

 

「…………」

 

「…………」

 

無言でちびちびとアイスコーヒーを飲むレム、それを見ていたエドワードは唐突に口を開いた。

 

「こんな町外れの古小屋に来る奴なぞ珍しい。何しに来た?」

 

「…何も。この辺りを散策していたらたまたまこの店を見付けただけ。

貴方こそ、街の人間ではない様だけど。船乗りなの?

貴方からは潮の香りがする。」

 

「……まぁ、そんなモンだ。」

 

「そう。」

 

どうやらレムはエドワードが『海賊』だとは気付いていないようだ。

…白ひげは海兵なら誰もが口にする大海賊である、当然顔も知れ渡っている。あるいは知らないふりをしているのか…?

まあ、たかが女の海兵一人に捕まる彼ではないが、向こうが手を出してこないのならこちらもそうしよう。

それに…

 

「(アイツの店で騒ぎを起こすワケにはいかねぇからなァ…)」

 

亡き旧友との思い出の場所を荒らす事は、彼の誇りが許さなかった。

 

「…………リュカード氏は亡くなったの?」

 

「あァ、そうらしい。

俺も久々にこの島へ来たんでな、今の今まで知らなかった。」

 

「ワタシも。彼は診察を受けるために町外れからわざわざ足を運んでいるという情報は得ていたけど、既に亡くなっていたとは思わなかった。

……彼の為に調合した分が無駄になってしまった。来たら効果を試してもらう予定だったのに。」

 

「何だ、薬の事か?」

 

「毒。」

 

「毒ゥ!?」

 

エドワードはつい声を荒らげてしまう。

 

「…訂正。勘違いしないでほしい。

ワタシが作ったのは病気を殺す毒、結果それが薬として出回っているだけ。」

 

「お前さん、毒を調合できるのか?」

 

コクリ、と頷くレム。

 

「肯定………貴方…」

 

すると彼女はグラスを傾けるエドワードをまじまじと見やる。

 

「…?どうした嬢ちゃん。(こりゃ俺が白ひげだとバレたか…?)」

 

どんどん距離を詰め、間近でエドワードの顔を眺めるレム。

じっと見つめるレムの瞳は深い瑠璃色でとても美しい、気を抜くと見蕩れてしまいそうだ。だがそこは天下の大海賊エドワード・ニューゲート、この程度のことでは全く動じない。

 

「……心臓に小型の腫瘍がある…」

 

ぼそりとレムが呟いた

 

「……〝シュヨウ〟だァ?なんだそりゃぁ?」

 

「…原発生。…粘液種…いや違う、恐らく横紋筋種…」

 

「おい、急にどうした嬢ちゃん。」

 

「服を脱いで」

 

「何ィ?」

 

「服を脱いで」

 

「何故…」

 

「触診した方が早い、早く。」

 

「いや待て、何故ボタンに手を掛ける。」

 

いそいそとエドワードの服のボタンを外しにかかるレム。その目は心配しているというよりは、興味津々と言った感じだった。

カウンター席で座るエドワードに馬乗りになりぺたぺたと彼の腹部を触るレムは、傍から見れば、『女性が男性を押し倒してナニかおっ始めようとしているよう』にしか見えないが、彼女はそんな事はお構い無しだ。

 

 

そんな時

 

 

「お客さーん、ご注文のピザが…」

 

カランカラン…

「オヤジィ、迎えに来たよ……い…」

 

「ゼハ…」

 

「ワーォ…」

 

最悪のタイミングで、4人がエドワード達とはちあってしまった。

 

 

 

 

海軍本部、ミラの執務室

 

アン

「なァ姐御、〝コービ〟ってなんだ?」

 

ミラ

「真っ昼間からなーにを言っとるかお前は。」

 

アン

「だってよ、レムの奴に聞かれたんだ。

この前、いつもの仏頂面で『アンはヒトの交尾について何か知っている?』てよ。我も知らなかったからさ、聞いとこうと思って。」

 

ミラ

「いや…簡単に言えば生き物が数を増やす為の交配行動なんだが…。」

 

アン

「コーハイ?なんだそりゃ。」

 

テリジア

「それはもう!

愛し合う者同士が互いに夜な夜なズッコンバッこンぎひいいいいいいっ!?雷のお仕置きは久しぶりいいいっ!!!!」バリバリバリッ

 

ミラ

「変態は黙っとれ。

……まさかとは思うがお前、私以外にその話題振ってないだろうな?」

 

アン

「イルの奴にも聞いたぞ?アイツも首を傾げていたが…」

 

ミラ

「………ふんっ(無言のアームロック)」

 

アン

「いや我知らね…ぬお''お''お''お''お''お''お''お''うっでっのっ関節がッッ!?」ギリギリギリ

 

ミラ

「イルミーナの教育に悪いだろうがどうしてくれる!」

 

アン

「我悪くないもん!濡れ衣!濡れ衣ゥゥゥゥゥワ''ア''ア''ア''ア''ア''ア''ア''ッ!?!?」

 

テリジア

「お姉様それ以上いけない!」

 

 

…………

 

サカズキ邸

 

 

サカズキ

「…王手じゃ。」

 

イルミーナ

「う〜、参りました…」

 

サカズキ

「まだまだ甘いのォ、歩兵は使い捨てる位の心意気で挑まんと儂にゃあ勝てんぞ。」

 

イルミーナ

「む〜……次は負けない。

ねえ、さかずきおじちゃん」

 

サカズキ

「アァ?何じゃいイルミーナ。」

 

イルミーナ

「『こうび』ってなに?」

 

サカズキ

「ブフゥッ…(飲んでいたお茶を吹き出す)」

 

イルミーナ

「おじちゃん?」

 

サカズキ

「……誰から聞いた?クザンか?クザンじゃな?

あンの男ォ…イルミーナに要らん事吹き込みよってェ…」

 

イルミーナ

「右腕燃えてるよ?おうち火事になっちゃう…」

 

サカズキ

「…スグ戻る、菓子でも食うてまっちょれい。あの男生かしちゃァおかんッッ!!!」

 

イルミーナ

「行っちゃった……お菓子おいしい」パリパリ

 

 

この後クザンが滅茶苦茶襲撃された

 

 

 

 

 

 

◆病殺す毒◆

 

「あの〜お客さん、ウチはそういう店じゃないんで店内でそういう事は…」

 

気まずそうにカレッジが呟いた。

 

「そういう事、とはどういう事?」

 

エドワードのシャツのボタンに手を掛けたまま、無表情でレムが返す。

 

白ひげ海賊団の面々も、目を点にしながら2人を眺めていた。

 

「オ…オヤジィ…」

 

「ゼハハ…英雄色を好むってか?」

 

「…待て息子達よ、これァ誤解だ。」

 

「いや、いいんだオヤジ。

オレ達ァアンタを信じてる、義兄弟が産まれたら俺達も子育て手伝うからよい…」

 

「だから誤解だと言ってんだろうがマルコ。これは……診療だ。」

 

そう、これは『診療』。

例え逞しい男の膝に跨るように座った女が男のボタンを外し迫っている光景に見えても、本人達は至って真面目にやっている。

 

「オヤジまさかそういうプレイが好み…」

 

「サッチ!それ以上言うなァ!」

 

「……続きを。」

 

「いやお前はちょっと待て、息子達と話をさせろ。」

 

なおもエドワードの下腹部を触診するレムの肩をガシリと掴み、そのまま持ち上げて隣の席へ座らせた。

 

 

 

〜〜白ひげ説明中〜〜

 

 

 

「な…成程、本当にそこのお嬢さんがオヤジの病気を診察しようとしてただけなのか。」

 

一通りの流れを理解したサッチがほっとため息を吐く。

親同然の恩師の情事を目撃してしまったのかと内心ハラハラしていたのは内緒だ。

 

「オイ待てよ、そもそもオヤジは病気だったのか!?今までそんな素振りも見せなかったじゃねぇか!」

 

驚きの混じったティーチの叫びの裏には何故か僅かな期待も込められていたが、それに気付いたものは幸いにもいなかった。

 

「………まァ、言ってなかったからな。

息子達に隠し事をしてた。悪かった。」

 

「謝る必要は無ぇよいオヤジ。

そんで?そこのお嬢ちゃんがオヤジを診てくれるのか?」

 

「肯定。」

 

レムはコクリと頷いた。

 

「触ってみて分かった。彼の内蔵に潜伏しているのはいずれ突発性の心臓発作を引き起こす悪性腫瘍、このまま放置すれば別の箇所へ転移する。そうなった場合、もって半年。」

 

「は…半年ィ!?」

 

「これは衛生環境の整って、かつ最新の医療機器が揃っていた場合の期間。

外から見る限り、まだ腫瘍は活性化していないようだから自覚症状は無い。でも、放っておくと必ず貴方は死ぬ。

因みに、リュカード氏の死因は恐らくこれ。最後に彼を診察した際、同じような症状だったのを記憶している。」

 

「あの野郎と…同じか…」

 

エドワードは低くそう答え、俯いた。

 

今まで、戦闘中に感じていた違和感の正体はこの腫瘍による痛みだったらしい。自分は海賊だ、船の上ではもとより衛生面など蚊帳の外、仕方が無いと諦める他なかった。

だが、今は亡き友と同じ病に侵されていた事には少しばかり心に残るものがある。

そして何故だか、心の内の自分が『このまま病を放っておいたら、いつか大事な場面で取り返しの付かない事になる』と警鐘を鳴らしていた。ぼんやりとだが、この胸のざわめきは決して気のせいではない。

 

突然の宣告を受け、唖然とするサッチ、マルコ、ティーチ。漸くサッチが言葉を絞り出した。

 

「な、治す方法は無ェのかよ!?

なァお嬢ちゃん、医者なんだろ?」

 

「そうだよい!何か手は…」

 

「……………ある。」

 

頷いた後、バッグの中をゴソゴソと漁り、レムは液体の入った小さな小瓶を取り出した。

液体の色はドロっとした紫色で、向こう側も見えないほど濁っている。

 

「こ…これは…」

 

「毒」

 

「「「毒ゥッ!?」」」

 

三人の声が店内に響いた。

 

「それがお前さんの言ってた『病気を殺す毒』って奴か。」

 

「正解。この場合は、体内に巣食う悪性腫瘍のみを殺す猛毒。

本当はリュカード氏に被検体になってもらう筈だった。

彼は貴方より病が侵攻していて、助かる見込みが薄く、本人の要望でワタシの作ったこれを試したいと言った。」

 

勿論、市販の医薬品ではない。

毒を生み出すレムだからこそ。インペルダウンの友人(マゼラン)と相談し、生成に至った特殊な猛毒。

 

「この毒は特別製。全身を駆け巡って悪性細胞を見つけ出し、確実に殺す。

何度かマウスで実験もした。

……ただし」

 

レムの怪訝そうな表情(本人はそうしているつもりだが相変わらずの無表情)にマルコ達はゴクリと唾を飲む。

 

「この毒を服用する者の、普段の衛生環境や体内の雑菌量によって効果が変わる。

つまり、不衛生な者がこの毒を飲めば、体内の必要な菌まで悪性と判断したワタシの毒素が内側から体内を壊し尽くし、死に至らせる。」

 

人間の体内には様々な雑菌が巣食っている、それは本来身体に必要なもので、悪影響を与えないが、使用者の衛生環境が極端に不安定な場合、レムの毒はそれすら感知し、殺す。雑菌の中には体調の維持に必要なものもあるため、これを失ってしまっては身体を維持出来なくなってしまうのだ。

 

「マウスは2匹、比較的衛生的な環境下においたものとその辺りの側溝から捕まえてきたドブネズミ。

同じ病原体を打ち込んで、それを処方した。前者は健康体になり、後者は全身から噴血、最後は体組織を維持出来なくなった。」

 

「死に方がエグい!?」

 

「そりゃもう博打じゃねえか!?」

 

「船乗りの貴方には些か条件が厳しいかも知れない。

望むなら、これをあげる。」

 

レムはそんな激薬の入った小瓶をコトリと机に置く。

その時、彼女のバッグからぷるぷると声が聞こえてきた。

 

「…?もしもし、モネ?」

 

『先生、湾岸警備中の海兵がこの島へ近づく不審船を発見しました。

()()()()としてのお仕事です、早くお戻りください。』

 

「分かった、すぐに帰投する。」

 

電話越しの2人の会話を聞いたマルコ達は戦慄した、有り得ない単語が会話の中にあったからだ。

 

大将白蛇

 

目の前のこの女性が?

 

「呼ばれてしまったのでワタシは帰る。

お代と薬はここに置いておくから、希望するなら使ってみるといい。

……消える命か紡ぐ命か、選択するのは貴方次第。」

 

「………………」

 

「あ、有難う御座いましたー…」

 

カランカラン…

 

少し急ぎ気味に扉を開けレムはさっさと行ってしまった。店内にはカレッジ、エドワードとその他3人が残される。

 

 

 

「…で、コイツをどうしろと…?」

 

 

 

 

 

◆白ひげの選択◆

 

「オヤジィ…本当に飲むのか?」

 

「せっかくあの嬢ちゃんが用意してくれたんだ、厚意を捨てちゃあ男が廃る。」

 

「でもよお…あの女海兵って言ってたぜ、罠って可能性も…」

 

サッチが心配そうな視線を送ってくる、隣のマルコも、店主のカレッジも同様だ。ティーチのヤツだけは豪快に笑っていたが。

 

「ゼハハハハッ!イイじゃねえかオヤジ、ゴクッといっとけよ!

人生何が起こるか分からねえ、あのお嬢ちゃんと出会ったのも何かの〝運命〟ってヤツだ。ならコイツにも意味がある筈さ!」

 

「ティーチ!オヤジを煽るんじゃねェよい!」

 

「いや…ティーチの言う通りだ。

コイツを飲んでオレが死んだら、ソイツがオレの運命って奴さ。

…いくぜ。」

 

マルコ達に話す余裕を与えずに、瓶の蓋を開け中身を喉へ流し込む。

どろりとゼリーの様な粘り気のある液体が喉を伝って胃まで落ちていくのを感じた。

 

その直後

 

「グッ…!?オオオオオ…」

 

「お、オヤジィ!?」

 

鋭い痛みが全身を駆け巡った、たしかあの女曰く「悪性細胞を全て殺す毒」だっけか?まるで毛穴の1本1本に針を刺され続けているようだ。

腹の下から何かが登ってくる、続く嘔吐感に流されるままオレは血をテーブルに吐き出した。

 

「ごほァッ!?がふッッ…」

 

衛生面はぶっちゃけ諦めてたが、普段の生活がなってねェからかな…

 

「わああああ言わんこっちゃねえ!

マスター!水と拭くものを!早くしろォ!」

 

「わ…分かりました!」

 

マルコ達が何やら喚いているが、そんな事も気にならないほど意識が酩酊していた。きっと例の毒が身体中の悪性細胞を殺して回っているんだろ。

そして、一際酷い痛みを下腹部に感じ、思わず蹲る。また登ってきやがった…

 

「オオオオオオオオ……」

 

ヴッッヴッッ…

 

「……オエッ……」

 

一回喉に突っかかりそうになった込み上げるモノをなんとか吐き出したあと、痛みは引いてなくなっていった。意識もだんだんと鮮明になってくる。

 

「オ…オヤジ?大丈夫か?」

 

「ハァッ…ハァッ……

息子達、オレぁまだ生きてるか?」

 

「勿論生きてるよオヤジィ!

やった!助かった!」

 

「マジかよ…毒を克服しちまった…」

 

サッチが涙目になりながら喜んでいた。ティーチは驚き、マルコも手を叩いて叫んでいる。

 

肝心の身体の具合は…好調だ。

腹の違和感もなくなっている、それどころかいつもより身体が軽い。まるでロジャー達と鎬を削っていたあの頃の様だ。

 

「心配かけて悪かったな息子達、オレぁこの通りピンピンしてるから安心してくれ。」

 

「良かったよォオヤジ!

でも一応、早く船に戻って船医に見てもらおう、このままじゃオレ達納得いかないよい!」

 

「仕方ねぇな。

スマン坊主、店を汚しちまった。掃除するよ。」

 

「いいえ!後で綺麗にしときますんで大丈夫です!

それよりも…エドワードさんの体は…」

 

「あァ、ピンピンしてるぜ」

 

オレがそう言って力こぶを作ってやると、カレッジは一安心したようにため息を吐いて笑った。

 

「良かったぁ…

…オヤジの分までしっかり生きて下さいね、途中で死んだら許しませんよ。」

 

「おう、任せな。あのクソジジイの分までせいぜい生き延びて見せらぁ。」

 

この毒は本当ならリュカード(アイツ)に飲ませるはずだったもの、オレはそれを貰って奴と同じ病を殺した。

……繋いでもらった命だ。あの野郎の分まで、オレは生きなければいけない。それがオレに家族をくれた息子達への恩返しであり、リュカードの意思なのかもしれないのだから。

 

 

 

 

「息子達、家族の下へ帰るとしよう。」

 

「「「応っ!!!」」」

 

 

 

………これからは衛生面にも気を使っておくか

 

 

 

 

 

◆動き出す海の死神◆

 

 

「ご報告致します!

観測班によれば、現在約6キロの沖に五隻からなる船団が、この島へ向けて航行しております!

海賊旗から察するに懸賞金4億ベリー、『赤耳』ロロ・ゴーギャルかと!」

 

執務室へ帰るなりそう報告されたレムは黙って頷き、モネから渡された大将のコートを羽織った。

 

「至急、住民達へ避難を呼びかけて街の中心へ集めるように。港からは出来るだけ離れて欲しい。

武装した海兵は全員呼び掛けに回ってもらっても構わない。」

 

「ハッ!………全員ですか!?」

 

「?」

 

「いやっ…港へ兵を配備は…」

 

「不要。ワタシとモネで処理する。

人を救うのが海兵の仕事。貴方達は職務を全うして。」

 

「りょ…了解致しました!」

 

慌ただしく敬礼をし、おそらく少佐であろう若い将校は走っていった。

 

 

 

 

港に到着したレムとモネ。見渡す水平線の先にはガレオン船五隻からなる大規模な艦隊が近づいてきているのが分かる。

 

「あの大きさのガレオン船なら…一隻あたり180人ほどでしょうか。それが五隻なら、駐屯している海兵よりも数で勝っています。」

 

「…船長のゴーギャルというのは?」

 

「新世界を中心に活動している自称〝開拓冒険家〟。

ゴーギャルは元は政府に雇われていた冒険家です。ですが新天地を求め、未踏の島から略奪と殺戮を繰り返した結果、雇い主から見放されお尋ね者となりました。」

 

「…そう、彼は『悪』なの?」

 

「略奪と無益な殺生は充分に悪でしょう。

ですが本人は『新地開拓の為の犠牲』だと考えているようです。

私から見ても…彼等は充分に『悪』かと。」

 

「そう、なら殺す。

……モネはなんでも知っているのね、勤勉なのはとてもいい事。」

 

「私は知っている事しか話せませんよ。」

 

「そうだった。

…と言う事は交尾は〝まだ〟?」

 

「ん''ッん''ン''ッッ!?(盛大にむせた)

…だから急に彼と会わされて急にその…しろと言われましても…心の準備とか色々……せめてもう少し時間を下さい…」ゴニョゴニョ

 

顔を赤らめ俯くモネはいつもの落ち着いて大人びた表情とは裏腹に、年相応の初心な女の子の姿を見せていた。

 

「なら待っている、交尾をする時は教えて。」

 

「教えませんよ!?いやするかどうかもまだ…彼ともろくに話していないのに……

て!何を言わせてるんですか!?仕事しますよ仕事!」

 

「…解せぬ。」

 

レムはしょぼんと肩を落とし、呟いた。

生命の循環に興味の尽きないレムは、是非とも人間の交尾を見てみたいらしい。完全に知的好奇心を満たす為であり、レムにやましい想いなど欠片もない訳だが、モネは自分の情事を他人に見せる訳もなく、『人』の常識から外れたレムの言動に手を焼いていた。

 

………ただしロシナンテと付き合わされる事に関してモネは『満更でもない』と言った感じなのだが…

 

「(…でも大佐はカッコイイし…優しいし…頼りになる…たまに出るドジがアレだけど…私的にはぜんぜんアリっていうか…寧ろ私が相手では不足なのではっていうか………というか何考えてるの!?意識し過ぎよ!彼とは何も無い!何も無いのよ!ナニモナイナニモナイナニモナイナニモナイナニモナイ…)」

 

だんだんモネの頭から煙が出始めた。

この娘、これでかなりの未通女である。急にえっちな話とか無理なのだ、海賊の癖に。

 

「……もうワタシの射程内に入った。

主命に従い、降伏勧告へ行ってくる。」

 

「……ハッ!?

無駄足だとは思いますが…お気を付けて」

 

レムの真面目発言で我に返ったモネは顔を赤らめたまま返事した。

海賊にとってはこれが運命の分かれ道だ。勧告に従い投降すれば監獄行き、抗っても大将による凄惨な死が待っている。どちらを選んでも地獄だが、彼等はそうなる運命を選んでしまったのだ。なら罰を受けるのは当然の帰結。

それよりモネは、()()()()()()()()()()()()()()()()改めて気を引き締めた。

 

「(そうよ、だって私は…)」

 

 

 

 

スコール島沖6キロ、五隻のガレオン艦隊でも一際大きなメインシップの甲板には、鳥の羽根をあしらったハットに、上半身裸の上から大きな黒いコートを羽織った大男が腕を組んで島を睨みつけていた。

 

「ロロ船長ォ!

あと10分程で接舷します!」

 

「オウヨ!野郎共、武器は磨いたか?弾は込めたか?略奪の準備は万端か!?」

 

「「「「ウオオオオオオオオッッッ!!!」」」」

 

甲板に響き渡る大声に、他の船からも雄叫びが上がる。

 

「レイの方はどうだ、問題はァ!?」

 

『おう、島の反対側には小舟が一隻だけだ。問題なく上陸できるぜロロの兄貴。』

 

電伝虫越しにロロとよく似た声が聞こえてきた。

ロロ・ゴーギャルは狡猾な冒険家であった。正面から五隻の艦隊で襲撃し、予め島の裏側へ弟が操る別働隊をもう一隻潜ませ、略奪を迅速に完遂させる手助けをさせる。故に今までの襲撃では海軍の応援が駆け付けた時には既に島は荒らされ放題、ロロの名も残った僅かな痕跡から彼の仕業と分かり、賞金が掛けられたのだった。

 

「良い!良い!良いゼェ!!!

野郎共、今日もお待ちかね、略奪の時間だァ!

酒に食い物女に奴隷、捕まえた奴が好きに使え!だが忘れるな。女を持って帰る時ァ、俺に一声かけろよなァ!」

 

ぎゃははははは!

 

男達の下品な笑い声が響く

 

ガレオン船五隻、乗組員は総勢700人を超える。更に皆のコンディションもバッチリ。迅速に丁寧に、徹底的に奪い尽くすがモットーのロロは今回の略奪を三十分で終わらせる段取りだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

急に冷たい風が彼の頬を撫でる。

ここらの海は温かい、如何に偉大なる航路でも島を目前にして突然気候が変わるなど有り得るのだろうか?

ロロが疑問を感じたその時、不意に甲板へ声が通った。

 

「……警告。」

 

 

 

 

side乗組員

 

 

「警告、当艦隊は海軍本部庇護下の海域を航行中。

即時反転の後、離脱を推奨する。」

 

突然聞き慣れない声が聞こえ、皆が声のする方を凝視した。

船首付近の甲板に人影が一つ。

白い髪にまっさらな肌をした、この船に乗ってる奴らに聞いたら全員が美人と答えるような綺麗な女だった。

しかし、その瞳は冷たくオレ達を見下していて、昂ってきた所に冷水をぶっかけられた気分になった。

 

 

「な…なんだァテメエ!どっから現れた!?」

 

「…復唱、当艦隊は海軍本部庇護下の海域を航行中。即時反転した後、離脱を命じる。

承諾しない場合、当艦隊を殲滅する。」

 

その女は無表情に同じセリフを繰り返す。

見たところあの女は海兵だ。だが、わざわざ1人でやってくる意味が分からない。オレ達の船長の事くらい知っている筈だ、4億の首をたった1人で奪いに来るか普通?

それに、駄目だ。

船長は、自分が盛り上がってる時に横から水を差されるのを何より嫌うんだ。女子供でも容赦ない。

 

ドンッドンッ

 

乾いた銃声が2発、甲板に響き渡る。

ああ、やっぱりこうなっちまった。

 

「これが返答だァクソ海兵。

これからお楽しみが待ってるってェのに邪魔するンじゃねえよオ!!!」

 

撃った弾は女海兵の腹に命中して…

 

あれ?

 

「そう…警告はした。」

 

痛むような仕草もなく、女は氷のように溶けて消えてしまった。

まるで初めから期待もしてないって感じで。

 

「き、消えちまった…」

 

「船長ォ、何者何ですか今の女ァ?」

 

「サァな、分からねえ。

だが邪魔者は消えた!

考えてもみろ、この距離で島から砲が飛んでくるはずねえだろォ?ウチの大砲は最新式、大砲の射程距離内に入ったら一斉射撃でまず港から制圧だ!」

 

意気揚々と叫ぶロロ船長、他の奴らの士気も高い。

 

ふと、双眼鏡でこれから襲う島を眺めてみた。

 

 

 

「……なんだ…アレ…?柱?」

 

 

港からにょきにょきと紫色の柱が伸びてきてる。それが何なのかは分からなった。

 

 

 

 

 

スコール島港

 

 

 

……ず~〜ん…

 

「あの…先生?いつもの事ですし元気出してください…」

 

「……悲しみ」

 

断られてしまった。これで通算17回目の失敗だ。

主の命令とはいえ、毎度毎度こうして降伏勧告をしに海賊船まで赴くのはかなりの手間を用する。なので今回は氷の分身をつくり、送り込んでみたが成果は著しくない。

 

このままでは主からダメな子だと思われてしまう…うぅ…

 

「落ち込んでいる暇はありませんよ。降伏勧告が無視された以上、彼等を排除しなければ。」

 

「うぅ…そうだった。

これより海賊を殲滅する…」

 

めそめそしていても始まらないので、ワタシは島を壊さぬよう加減する為に、主から教わった〝必殺技〟で彼等を駆逐する事に決めた。

 

……………

 

 

そも、どうやれば人間を効率的に殺せるのか。

 

ワタシは無駄が嫌いだ。医学書を何冊も読み漁り、ヒト種の構造を理解しようと学んだ。

鳩尾、動脈、過度な高熱に冷気、電撃、人間はあまりに脆い。

それらを狙えば効率良く殺せる、だがその殆どは、相手を精神的、または肉体的に苦しめてしまう。

医者という肩書きを持つ故、仮令殺害対象だとしても、死ぬまでに苦しみを与えてしまうのはワタシとしても些か心苦しいものだ。

 

そんなワタシがヒトの身体を理解する上で、様々な知識を取り入れた結果、辿り着いた答えが『銃』だ。

ヒトが創り出した、ヒトを最も効率的に殺害する為の道具、それが銃。

少し練習すればすぐ頭部に当たるようになるし、取り回しがいい。

なにより、ワタシのチカラとの相性がすこぶる良かったのも高得点だ。資料や主のアドバイスを経て内部構造を把握したから氷で造形できるようになった。

応用を加え、主と色々試した時も、「お前はマップ兵器だな!」と褒められた。

〝まっぷへいき〟とはよくわからないが、褒められたのだろう。我ながら鼻が高い。

 

「砲塔は4、眼前の敵の殲滅までの間、能力種…限定解除開始…」

 

意識を集中させると、足下から広がる氷結の波紋が港を覆う。モネはワタシと同じような能力を持っているので、加減している限りは彼女に悪影響は無いはずだ。

 

港が完全に凍り付き、動きを止めた地面からイメージしたとおりの巨大な砲塔を4門創り出した。

 

 

 

 

凍り付いた港は白銀で彩られ、蛇口から滴る水滴すら空中で動きを止める。レムの創り出す永久凍土の空間は、さながら生きとし生けるもの全てを止めてしまう美しい牢獄だ。

何もかもを凍り付かせ、結晶へと変貌させるその様は、某アルテミットな1を思い浮かばせるが、そんな事は今は掘り下げるべきではないだろう。

最早温度を計る事すら馬鹿馬鹿しくなるこの零下の世界で彼女と、同じ属性を持つ助手は眼前の艦隊を見つめる。

 

「……(カール)(グスタフ)(ドーラ)(シュトゥルム)全門解放。」

 

レムの呟きと共に、凍てついた氷面が盛り上がり、そこから巨大な砲塔がまるで氷を繋ぎ合わせるように次々と生製されていく。

口径80cm、全長はゆうに40メートルを超え、その膨大な重量を氷で創られたレールに支えられる〝それ〟は、場所が違えば『列車砲』とも呼称されていただろう。

彼女の拘りにより、紫毒の細工がそれぞれ施された砲達は、一見すると兵器としての荒々しさの中にも美しさが垣間見える芸術品の様だった。

 

「…砲塔指向」

 

彼女の指揮に従い、兵器達はギシギシとその巨体を蠢かし、まるで天を衝くかように砲門を上へと向ける。

 

「痛みも無く、慈悲も無く……『絶対零度の星屑(ティアードロップ・アブソルート)』ッ!」

 

…ッッッッッッ!!!

 

振り下ろした手とともに四門の砲塔から同時に砲弾が発射され、反動で凄まじい衝撃波が氷の波止場を揺らす。あまりの爆音に、街の方から悲鳴が聞こえたがレムはそんな事は気にもとめない。

 

別世界の話であり、余談であるが、通常の列車砲は次弾装填までに数十分を要する。巨大過ぎ、かつ大人数を動員しなければならない列車砲は連射性能が絶望的なのだ。

だが、レムが創り出した紫氷の列車砲は勝手が違う。全てが全自動、そして何より創造者であるレムの意思で自由に操作が可能になる。その結果…

 

止まらない爆音と、砲塔からマシンガンの様に弾が飛び出す異常機構が完成し、四門の大口径砲から絶え間無く氷の砲弾が撃ち出され天へと伸びていく。

 

その光景を遠目から見た者は、まるで流星が天に還って行くようだったと後に語る。

 

それはあっという間に音速を超え、一直線に空を突き進む。やがて重力に負け、死の流星となって眼下の船団へと降り注いだ。

限界まで圧縮され創り出された氷弾は、マストと船底をまとめて貫いて、その衝撃で内側から炸裂し、榴弾の如く絶対零度の烈風を広範囲に撒き散らす。当然、ヒトの身体がそんなものに耐え切れるはずもなく、氷結の爆風に巻かれてロロ含む海賊達はレムの思惑通り、「痛みも恐怖も感じる間もなく」即死したのだった。

 

他の海賊達が自分の死を悟ったのは、1発目の砲弾がロロの乗る一際大きな海賊船に着弾し、派手な飛沫と共に船体ごと爆散した後、氷の柱へと姿を変えた後だった。

 

 

 

 

 

紫色の流星が海賊達へ向けて殺到し、跡形もなく吹き飛んでいく海賊船を見ながら、私は途方もない恐怖に駆られていた。

もう彼女の作った砲塔からは弾は出ていない。だが一拍遅れて次々に着弾していくあの光景から分かるように、明らかにオーバーキルだ。

恐る恐る双眼鏡で確認してみると、大将白蛇の攻撃に晒されたロロの船団は、哀れにも木っ端微塵に吹き飛んで、氷のオブジェと化している。

だがそれよりもっと恐ろしいのは、彼女は大砲の射程距離外から遠距離射撃ができるという事実。大砲の射程よりも遠い距離から迎撃できるなら、一方的に攻撃ができる。すなわち、レム大将に近づくにはこの死の雨を掻い潜らないといけない。そんなの不可能だ。

レム大将が1人いれば、どんな島でも要塞と化すだろう。いや、下手をすると噂に聞く古代兵器などよりよっぽど恐ろしい存在だ。若様はこんなバケモノに…

 

「…状況終了、残敵無し。

モネ?顔色が悪い、大丈夫?」

 

レム大将の言葉で我に返り、無理矢理表情を作って返事した。

 

「いえ…大丈夫です。

任務完了ですね、先生。」

 

「ん…帰投する。」

 

あれだけの大虐殺をやってのけたにも関わらず、いつもの無表情でくるりと踵を返し歩き出すレム大将の背中を追う。

 

「……あ」

 

「!?…先生?」

 

「失念、港を戻すのを忘れていた。」

 

そう呟き何の気なしに指を鳴らすと、まるで鏡が割れるように凍っていた港が弾け、いつもの色を取り戻す。

まるで手品のように一瞬で解凍された港を見ながら私は今回の潜入任務に一抹の危機感を覚えていた。

 

こんな化け物の弱点なんてどうやって探ればいいのよ…

 

 

 

 

 

 

「レイ副船長!ロロの兄貴との連絡が途絶えました!」

 

「なぁ〜にィ~!?

もう略奪を始めちまってんのかァ?

遅れるな野郎共!兄貴に続けェー!」

 

「アイアイサーッ!……副船長!あれ!」

 

ここは赤耳海賊団副船長、レイ・ゴーギャルフの操る裏取り担当艦。急に連絡の途絶えてしまった兄に一抹の不安を覚えつつも、船を停められる浜まであと数十メートルという所で、見張りがジャングルから出てくる集団に気付いた。気づくや否や顔を青くしながらまくし立てる。

 

「あっあれは…『不死鳥のマルコ』!?

副船長!ヤバイです!白ひげ海賊団のクルーがいますゥ!」

 

「なにィ!?だがたかが能力者1人だァ!

オレ達全員でかかれば…」

 

「まだ居ます!他にも2人、明らかに白ひげのクルーです!それにその後ろからもう1人…

あっ…ああああああッ!?」

 

驚愕のあまり目を剥いて今にも倒れそうな見張りから双眼鏡を奪い取り、浜を見た。そして、彼もまた驚きに目を白黒させている。

 

「なななななんでこの島に『白ひげ』が居るんだアアアアアアアッッッッッッ!?」

 

そう、その視線の先には現時点で最強の称号を持つにふさわしい大海賊、『白ひげ』エドワード・ニューゲートの姿があったのだ。

双眼鏡越しに見る彼の姿はレイ達を怯えさせるのに充分過ぎる迫力を醸し出している。

 

「あっ…白ひげがこっち見た…」

 

腕を引き拳を引き絞る白ひげ、ポンプアップするように筋肉が隆起し、そのまま彼が拳を突き出すと、大気にヒビが入り、大きな揺れが船体を襲った。そして少しして、見えない大きな衝撃波が海を掻き分けこちらに向かって進んできている!

それはあっという間に船体に衝突し、衝撃に耐えかねた船はバラバラに砕け散った。勿論、乗っている赤耳海賊団もろともに。

 

「「「「ぎゃああああああああああああッ!?!?」」」」

 

衝撃の余波で生まれた津波が彼等を飲み込み、やがて見えなくなっていった。

 

こうして、赤耳海賊団の最期の冒険の幕はあっけなく閉じたのだった。

 

 

 

 

 

 

「ゼハハハハ…アイツら全滅したみてぇだぜ。」

 

「海賊旗見る限り『赤耳』だったな。

たしか名前が似てるってシャンクスの野郎が無駄に対抗心燃やしてた奴らだ。」

 

「まっ、この島に手ぇ出そうとしたのが運の尽きだよい。

オヤジの見てる前なら尚更な。」

 

「……義理は返したぜ、『白蛇』ィ。」

 

この島は世界政府が買い取った、ならば自分達が保護するより余程安心できる。ならば賊らしくさっさと退散するだけだ。

人知れず背後から忍び寄る島への危機を救い、エドワード達はスコール島を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

海賊白ひげ、またの名をエドワード・ニューゲート。

彼の運命は此処で大きな転換点を迎えた。

 

一つはクモミ島にアンが現れ、その避難民がこの島へ移り住んでいたこと。

 

一つは彼が旧友との再会のためにふらりとこの島へ立ち寄ったこと。

 

そして最後の一つは、避難民を保護する為に派遣された大将白蛇、レムに出逢い、病に打ち勝ってしまったこと。

 

この顛末を経て、彼の運命は本筋とは違う道筋を辿り、後に控える大きな戦いに多大な影響を与えてしまう事になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

運命を創る龍。彼女が現れた事で、物語は少しずつ変わり始めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆オマケ◆

 

海軍本部

 

「……ミラ。何故、クザンは本部の床に頭から突き刺さっている?」

 

「さあ?」

 

今回ばかりは何の罪もないクザン中将に、合掌。

 





モネは未通女、間違いない(集中線)
すぐ死んじゃったからね、フィギュアが出ないのも仕方ないね。

はい、復活しました獣です。
前回はとんでもない醜態を晒してしまい隠居仕掛けましたがなんとか持ち直し、連休使って投稿できました。
他の方のワンピSSは原作始まってんのにウチはまだ過去続いてるとか…震えてきやがった…
まあこっちこっちのペースで進むのでお付き合い頂ければ幸いです。

次回未定、七武海揃うかな?


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38 閑話、Happy Happy Wedding





突如現れた異界の特異点

それは犯罪の無い、完璧な〝正義〟の下に象られた理想郷

その裏に潜む光と闇

海軍、海賊、革命軍、三つ巴の争いの果てに待つ、彼女が見た〝正義〟とは

f〇te/g〇ound o〇der Epi〇 of 〇emnant

亜種特異点

人理定礎値EX

理想正義世界ONE PIECE ~運命の龍~



〝正義〟は時に、悪意にも善意にも姿を変える



今夏、執筆開始…








………できるかっ!!

ハイ、おふざけです。すんまへんでした。
今回は閑話だよ、ミラが主役だよ!やったぜ!






「汝、この男を夫とし、良き時も悪き時も、富める時も貧しき時も、病める時も健やかなる時も、共に歩み、他の者に依らず、死が二人を分かつまで、

愛を誓い、夫を想い、夫のみに添うことを、神聖なる婚姻の契約のもとに、誓うのかね?」

 

「はい、誓います。」

 

「汝、この女を妻とし、

良き時も悪き時も、富める時も貧しき時も、病める時も健やかなる時も、共に歩み、他の者に依らず、死が二人を分かつまで、愛を誓い、妻を想い、妻のみに添うことを、神聖なる婚姻の契約のもとに誓うか?」

 

「ああ、勿論だ。」

 

「…宜しい。

諸君、二人の上に神の祝福を願い、結婚の絆によって結ばれた この二人を神が慈しみ深く守り、助けてくださるよう、祈り給え。

2人が愛に生き、健全な家庭を築きますよう、我らが主に。

 

……Amen(エィメン)

 

 

彫りの深い、愉悦感じてそうな顔した初老の神父様から口上を頂き、それに応えるステラとテゾーロ。真っ白なウエディングドレスとタキシードを身にまとい、今まさに2人は幸せの絶頂期………

 

 

ハローグッデイ、祖龍だよ。久しぶりの登場だネ!

ただいまステラの結婚式に出席しております。長年の夢叶えた我らがハウスキーパーの晴れ舞台です、はい。

真っ白なウエディングドレス姿のステラの薬指にテゾーロが指輪を嵌め、2人は幸せなキスをして終了……

 

いやー良かった良かった、ステラちゃん幸せそうだ。

この日の為に高い金出して買ったカメラが火を吹くぜ!

 

此処は俺の職場、海軍本部廃船置場。その波止場に停泊する出来たばかりの元戦艦、その名もオックス・ロイズ号。その甲板上で、俺達はステラとテゾーロの結婚式を祝ってる。

無敵の船大工、トムの頑張りあって、なんとか年内に進水出来たこの船に戦闘能力はなく、観覧用の客船として生まれ変わった。本来なら政府主導の下、海軍本部のイメージアップやらなんやら、オカネの話に使われる予定だったのだが……主催者権限(パトロンのチカラ)により無理矢理この結婚式をぶち込んだ。ここぞとばかりに権力使ったよ、二人の門出を祝う為だもんネ。

 

「もう、離さないでね…?」

 

「嫌がったって離すもんか!」

 

熱いキスを交わすステラのお腹には新しい生命が宿っていた。俗に言う〝できちゃった婚〟というヤツだが、2人が幸せならオッケーです!

 

「お腹の子、来年には産まれるそうですわ。名前も決めてあるんですって。」

 

「すてらのこども…?」

 

「ええ。イルミたん、お義姉さんになるんですよ。」

 

「おねーちゃん…わたしが…おねーちゃん…」

 

どっちか言うと従姉妹なんだろうが、まあ細かい事はこの際気にしないでおこう。お姉さんだよイルミーナたん!

 

「ステラには新しい命が…という事は彼女は交尾を…」

 

「先生、お願いですからステラさんを問い詰めに行かないでくださいね…?」

 

なんか不穏な事を呟いてるレムとそれをなだめるモネちゃんが視界に映るが、気にしちゃダメなのだ。なんたって今日は祝の席だからネー!

 

「では、この場を取り纏めた者から一言頂こうか。中将殿?」

 

不敵な笑みを浮かべた神父からマイクを渡された。

こんの男…

 

「私に振るのか、良い趣味してるな神父殿…

新郎新婦、2人ともあの運命を乗り越え良くここまで漕ぎ着けたな。

…ステラ、良く頑張った。これからは生きたいように生きろ、それがお前の〝自由〟だ。

テゾーロは……そうだな…ウチの優秀な家政婦を持っていくんだ。不幸にさせたら、仮令弟子でも遠慮なく落雷を脳天に叩き込むからな?」

 

「望むところだ、ミラさん…!」

 

ちょっと顔引き攣っとるで弟子ぃ。横でステラちゃん必死に笑い堪えとるがな。

 

「男に二言は無しだぞ?死ぬ気で守れ。

………結婚、おめでとう!」

 

ファンファーレが鳴り響き、参列者から拍手喝采が巻き起こる。

今日という日が2人にとって最高の時間になりますように。

これも人間らしい行いだろ?

 

 

……………………

 

 

「ホラよ、姐御に頼まれた料理だ。

この我が直々に設えたんだ、一欠片でも残しやがったら全員燃やすからな?」

 

ぶっきらぼうに言うアンと、後ろから運ばれてくる絢爛豪華な料理の数々。

アンは性格はともかく、料理の腕は本物だ。聞いた噂じゃ最近海軍食堂からスカウトが来たらしい。

大きな縦長テーブルにはサンドイッチのような片手で摘める料理に始まりガッツリ系のパスタやハンバーグ、果ては鍋までがズラリと並ぶ。

 

「うっほおおおお美味そうじゃのう!」

 

「落ち着かんかガープ貴様!」

 

「こりゃ高級ホテルのディナーにも負けてないね。アンタ達、ちゃんと手は洗ったかい?」

 

来賓のガープ爺さん達も楽しんでくれてるようだ。センゴクさんは数少ない休みを取ってもらって出席してる。

 

因みにクザン、サカズキ、ボルサリーノの三中将はただいまお仕事中、センゴクさんが抜けた穴を補う形で入って貰ってる。将来大将に最も近い3人には丁度いい機会だとセンゴクさんも納得したうえでの判断だ。

クザン兄さんがかなり渋っていたけど、後でアンの料理を差し入れに行くと言って納得させた。サカズキ中将とボルサリーノ中将が逃げない様に上手く押さえ付けてると思うよ。

 

そんな訳で、人数は少ないが披露宴が始まった。

 

…因みに酔う前に済ませておこうとステラによるブーケトスが行われ、見事花嫁のブーケを手に入れたのはモネちゃんだった。素敵な相手が見つかるといいネ!

 

 

 

……………………………

 

 

 

 

「あの3人が大将になったら、私は辞めてもいいか?」

 

「む…それは…五老星が納得すまい。

今や君は海軍にとって欠かせない存在だ、急に辞められると困る。」

 

「やっぱりか、あのジジイ共め…」

 

酒を2人分注ぎながらセンゴクさんとぼやき合う。ケーキカットの後、酒の瓶を開けたその瞬間から、披露宴は宴会へと姿を変えた。

周りを見渡せば、イルミーナは酔ったガープ爺さんに抱き着かれて嫌そうな顔してるし、レムはお鶴さんと何やら話し込んでいる。ガスパーデ、ゾルダン、ロシナンテの三人トリオも酒が入ってるのかテゾーロに絡んでて…あーあスパンダムの奴、早々にダウンしてるよ。酒弱いのに無理しちゃって。お目付け役のカリファちゃんに膝枕されながらすっげえ冷たい視線で見下されてるな。

ゼファー先生、マリアさん、それから最近訓練校でシゴかれてるらしいジェイク君は親子水入らずで話してる。いやゼファー先生の横に大量の一升瓶見えるからありゃ絡み酒だな。ジェイク坊、南無三。今度訓練校に顔出しに行ってやろう、アインちゃん元気してるかな?

モネちゃんとテリジア、2人ともリキュールの瓶をラッパ飲みしながら隅っこでコソコソ何を話してるんだ?モネちゃん顔真っ赤やで?あの変態、純心無垢なモネちゃんに一体何を吹き込んでやがる…

二頭身の素敵な御仁、タナカさんはTボーン君とサシで飲み比べか。渋いネ。

アンは料理を追加で作ると言って厨房に戻って行った、どうやら作った麻婆豆腐を神父にえらい気に入られてしまったらしい。他にもウチの非番の部下達が何人かいるから大体出席者は40人くらいかな。思い思いに楽しんでる。

 

…ひっそりとは何だったのか

 

「まあ、楽しんでるならそれでいいか。」

 

「君は酔わないのだな。」

 

「ん〜?まあな。レムやアンもそうだが、私達は酒にめっぽう強いらしい。その辺も人間とは違うということだ。」

 

そう言って升になみなみに注がれた日本酒っぽい酒を一気に飲み干す。

もう一升瓶を五本くらい俺氏とセンゴクさんで空にしてるが、まだまだいけるで?センゴクさんの方は顔赤くなってて、いかにも酔ってるってカンジだけど。

龍って酒に強いんだよねー。

 

今日は波もほとんど無く、風が暖かくて心地いい。絶好の結婚式日和だ。

 

「ふふ、風が気持ちいいな。」

 

「………私があと15歳若ければなぁ。」

 

「口が軽くなってるぞ、センゴクさん。」

 

「…むっ、こりゃイカン…」

 

ほけーっとこっちを見てたセンゴクさんは慌てて姿勢を正した。まあミラ美人だからネ、気持ちは分かるよ。

だがしかし、恋人とかは俺氏には関係ないですし?もはや記憶の彼方だけど、前世にもそんな相手なんて…悲しくなってくるからやめよう。

実践経験無いまま祖龍ボディになったんだよね…悲しみ。

 

センゴクさんもたまの休みくらい飲んだくれたっていいのだ、自由だからネ。

 

 

 

 

大将専用の執務室

 

 

「アアア〜結婚式行きたかったぜ〜…」

 

「黙って仕事せえクザン。センゴク大将が居らん分は儂等でせにゃあならんのじゃ。文句言わずシャキシャキ働かんかい。」

 

「へいへ〜い。

……俺もミラと酒飲み交わしたかったなァ、そんでもって酔った勢いであわよくば…」

 

「そりゃア無理だろうねェ。

ミラちゃん、滅茶苦茶酒豪だし。ありゃトンでもない蟒蛇(うわばみ)だよォ。」

 

「マジかよ…

ていうかボルサリーノ、お前ミラといつ飲みに行ってたんだ!?抜け駆けしやがって!」

 

「わりと良く誘われるよォ?

大体はイルミーナちゃんの惚気話だけどねェ。」

 

「かぁ〜っ!羨ましいね!

俺なんてこないだレムに窓から吹っ飛ばされたってのに。」

 

「ありゃクザンが新入りの女海兵に手ェ出そうとしたからじゃろ。自業自得じゃ。」

 

「だーって若い女の子なんてウチの隊にゃ入って来ねぇし!」

 

「その様子じゃとセクハラに関しては全く反省はしとらんようじゃのォ…いっぺん燃えるか?」

 

「君の所はねェ、セクハラの元凶が居るから…まァ…。

でも、不用意に若い女海兵が来られてもねェ。激戦区に望んで行くサカズキの所は言わずもがな、ウチだって天竜人案件が多いんだし、下手に気に入られて聖地(向こう)連れて行かれても困るよォ。

そう考えたら、お鶴さんとミラちゃんの部隊が女性は一番安心して職務に集中出来るよね。」

 

「それでも割り当てて欲しいモンは欲しい!」

 

「…下らんのォ、男手がありゃ良かろう。面倒な揉め事抱える前にミラん所が請け負ってくれるなら好都合じゃ。」

 

「だって花が無えだろ花が。

長い航海の最中にむさっ苦しい野郎共ばかりじゃ気が滅入るじゃねーの。」

 

「花だけじゃ仕事出来んわい。」

 

「そう言うサカズキだって、休日はイルミーナと遊んでんだろ?そりゃ心のどっかで女の癒しを求めてんのよ。」

 

「イルミーナはまだ小娘じゃ…」

 

「アレ?知らねぇの?

イルミーナ、あの姿で実年齢20位だぜ?悪魔の実の副作用で成長が遅いだけで。」

 

「なん…じゃとォ……!?」

 

「(あーあの顔、知らなかったねェ…

完全に娘の成長に付いていけない親父の顔だよォ。)」

 

「馬鹿な…儂はずっと娘の様に慕って…」

 

「(しかも、これからイルミーナちゃんにどんな顔して会えばいいのか分かんないってカンジだねェ)」

 

「(律儀かよ…)」

 

 

 

 

 

さてさて、真昼間なのに結婚式と称して酒飲みまくってる今日この頃ですが。センゴクさんもダウンしてしまったので仕方なく1人船縁に腰掛け、騒ぐ他の連中を眺めながら酒を煽っている。

そんな俺氏の傍に近寄ってきたのは酒瓶とグラスを片手に持ったステラちゃんだった。

 

「ようステラ、テゾーロの方はいいのか?」

 

「ガスパーデ達にもみくちゃにされてるからね、今日くらい放っとくわ。」

 

向こうの方でテゾーロはガープ爺さんに絡まれて野球挙やってる。見聞色使うのは卑怯だろ爺さん…

 

「思い返せば、ステラが一番付き合い長いんだもんな。あっという間だったから忘れていたよ。」

 

「うふふ…そうね。

……ミラには本当に感謝してるわ。あの日私を拾ってくれなかったら、今この瞬間は味わえなかった。

本当にありがとう…」

 

「私はきっかけを作っただけだ、後はお前の努力の賜物だよ。それはとても美しい、尊い物だ。

お前なら大丈夫。

私がいなくてもテゾーロが守ってくれるさ。」

 

「うん、ありがとう…

そう言えば、ミラは結婚しないの?今はそんなに言われないけど、昔は島へ遠征に行くたびにラブレターやら贈り物を貰っていたじゃない。」

 

「私か?私はなあ…

色々人と違うから、恋人など考えたことも無かったな。

それにこの身体はな、子供を作れん。そういうのとは無縁なんだよ。」

 

「…そう、ごめんなさい変な事聞いて…」

 

「?…いや、気にするな。」

 

ステラちゃん、露骨に落ち込んだ。

何故や、龍って人間とは身体の作りとか色々違うからホニャララして子供作る必要ないんやでって言っただけなのに!?

あっ、そう言えばステラちゃん俺氏が龍ってことも知らないのか。すげえ誤解させたかも…

話の内容変えよ!?な!?

 

「そ、そう言えば産まれてくる子の名前はもう決めてるんだったな。どんな名だ?」

 

「お医者様とレムの話だと産まれてくる子は女の子らしいから…『シルヴィア』にしようって彼と決めたわ。

テゾーロは黄金を操れるでしょ?だから男の子だったら『ゴルドー(金)』、女の子だったら『シルヴィア(銀)』って前から話してたの。

…この子達は私みたいにお金に困る事が無いようにって。」

 

そう言いながら第一子(シルヴィア)を宿すお腹を優しく撫でるステラ。

世の中どこ行ってもカネが付き纏うもんなー、験担ぎにしちゃいい名前だ。

 

「シルヴィアか、いい名だ。

産まれたら是非、私の所にも連れてきてくれ。」

 

「ええ、必ず。」

 

指切りげんまん、嘘ついたら雷鎚千発のーます。

 

その後もステラから今後の事について色々話した。

テゾーロは賞金稼ぎを続けながら本来の夢であるエンターテイナーの道を進むらしい。グレイテストなショーマンになるのを期待しよう。

聞けば俺氏のあげた財宝を元手に色々とコネクションを作り、巨大カジノ船を建造するらしい、そこで本業をするんだって。密かにトムにも話してるんだそうな、トムならホイホイ作っちゃうんだろうね。

カジノの従業員はヒューマンショップから奴隷を買い、所有権を得てから首輪を外す。そんで終身雇用するか自分が買われた額まで働いて故郷へ帰るか相談して雇い入れるらしい。2人は奴隷の辛さを知ってるからな、このシステムで1人でも多くの奴隷が自由を取り戻せるようになるだろう。背中の傷も別の焼印で上書きさせるようだ。

 

「天竜人に目をつけられないようにしないといけないな…」

 

「ええ、だから連中を上手く利用する算段も整えた。

…もう、使われるのだけは2度とゴメンよ。」

 

た、逞しくなったなステラたん!

 

 

テゾーロは賞金稼ぎとしての腕もかなり高い、まあ俺氏の弟子やし?ゴルゴルの実も上手く馴染んでいるようだ。本人曰く、「次のステージへ行けそうな気がする」らしい。多分〝覚醒〟の事だろう、今後が楽しみだ。

…それから、内緒の話だが彼の腕を見込んでテゾーロを七武海入りさせようという話も五老星に持ち出してみた。実力は問題なしなので後は名前が売れればなんとかなりそうだ。やったね!

これでこの前連絡とったタイヨウの海賊団船長『海峡のジンベエ』君、それから五老星が渋々推してきた『天夜叉』ドンキホーテ・ドフラミンゴ君も七武海に加入予定だから…やったねミラちゃん!七武海が揃ったよ!

 

いやー疲れました!これにて大将白蛇業終了です!

 

……なーんて、軽々と辞めさせてくれないだろうなぁ…

 

「おーいミラ!ミラぁ!」

 

物憂げに考えていると向こうからぶんぶんと手を振りながらガープ爺さんが走ってきた………パンツ一丁で。

 

「あら変態だわ。」

 

「変態だな、サカズキ警察に連絡するか…」

 

「酷い!?

ワシはただテゾーロの奴と野球挙で遊んどっただけじゃ!」

 

不健全極まりないなこのジジイ!

というかテゾーロ頑張ったな、あの英雄をパンツ1枚まで追い詰めたのか。

ちらっと向こうを見ると真っ赤になってガスパーデ達に介抱されているテゾーロ(18禁)の姿が。ああ、前はタオルで辛うじて隠れてましたよ。

 

「そうじゃミラ、オヌシも交ざるか?

楽しいゾぉ!?」

 

からのダイナミックセクハラ発言ですか、随分酔ってんな英雄さんよぉ…

 

「ガープ中将!?女性のミラに野球挙なんてセクハラですよセクハラ!」

 

「いいぞ。」

 

「ほらミラもこう言って……

へ…?いいの!?」

 

意外だったのかぽかーんとしてるステラちゃん。

ええで、だって楽しそうだもん。

 

「偶には羽目を外すのもアリだしな。」

 

「絶対羽目を外すタイミング間違ってるわよ!?」

 

「ヨォシよう言った!

センゴクも潰れとる様じゃし邪魔するヤツはだれもおらん!存分に羽目を外せい!ぶわははははははッ!!」

 

 

 

 

「いいぞ」

 

ミラの放った一言は決して大きな声では無かった。だが常日頃、影ながら彼女の為に正義を尽くす耳聡い者達が反応するには充分すぎた。

 

「(なっ…!?)」

 

「(馬鹿な……)」

 

「(そんな…嘘…?)」

 

「(あの…あのミラ中将が…)」

 

「(永遠の憧れ、絶対不可侵の偶像(アイドル)、超絶美女のあの人が……)」

 

 

 

「「「「(野球挙だとおおおおおおおッッ!?!?)」」」」

 

 

その時、式場に電撃走る…ッ!!!!

 

「おおおおねおねおねお姉たまがやきゅーけん〜〜ッ!?!?

許しません!赦しませんわそんな事!お姉たまの裸体を堪能していいのは私とイルミーナたんだけふもがっ!?!?」

 

彼等の判断は一瞬だった、一番反対しそうな存在を瞬時に見極め、1人が後ろから羽交い締めにし、もう1人がその口へアルコール強めの酒を流し込む。

この間僅か0.5秒!

 

「〜ッ!?〜〜〜ッ!?………きゅぅ」ガクッ

 

哀れ酒に溺れさせられたテリジアは目を回してノックダウン。南無三。

無言でハイタッチし合う2人の姿を見て、モネは素直にドン引きしていた。

 

その頃、ミラとガープはというと

 

「ルールはどうする、ガープ中将?」

 

「そこは私が審判を努めよう…

神に使う者として公正公平に判断を下す、構わないかね?」

 

審判(野球挙に審判などという概念が必要なのか疑問だが)に名乗りを挙げたのはテゾーロとステラの式を執り行った神父だった。名をオニキスという。

 

「ルールなんてあったのか、初耳だな。まあいいや、頼むよオニキス神父。」

 

「よろしい。では今回はオーソドックスルールを適用し、ミラ殿とガープ殿の一体一(サシ)での勝負としよう。

残機は4つ、ジャンケン(勝負)に敗北した者は裸に剥かれその姿を海軍食堂で配布される明日の一面に掲載されるのだ。双方、覚悟はいいかね?」

 

愉悦たっぷりの笑みで説明する神父。

海軍食堂の新聞とは構内新聞のようなもので、海軍内のちょっとした出来事を纏めて掲載している。売れ行きはそこそこで、あまり好き好んで購読する者もいないマイナー新聞だった。

 

「負ければ晒し者か…いいぞ。そっちの方が面白そうだ。」

 

「ワシも構わん!勝負にゃリスクが付き物じゃからのう!」

 

2人とも快く承諾。

ガープは裸のうえからワイシャツ、ネクタイ、下はパンツとズボン。

ミラはブラジャーのうえからワイシャツ、下はパンツとズボンでそれぞれ4つの残機を準備した。

 

「う…またキツくなったか…」

 

そう言ってミラはワイシャツのボタンのうち上二つを外した。ワイシャツの下で窮屈そうにしている二つの果実が谷間を作り揺れている。

 

「ゾルダンが鼻血吹いて倒れたぞ!?」

 

「担架ー!担架持ってこおい!」

 

外野は何やら騒がしくなっているが気にしない気にしない。

 

「では始めよう…

やぁきゅうう〜すうるなら〜、こういう具合にしやしゃんせ〜。

アウト…!セーフ…!

よよいのォ……」

 

バリトンボイスで掛け声を歌う神父のタイミングに合わせ、2人が手を振りあげ、同時に突き出した。

 

「「よいっ!!」」

 

ミラが出したのはチョキ!

 

ガープが出したのはグー!

 

「「「「いよっしゃあああああああああッ!!」」」」

 

大歓声が船を揺らす。ガープはともかく、外野がとにかく喜んでいた。

 

「む…くそ。見聞色で予測した筈なのに…」

 

「甘いのぉミラ!

まだまだワシぁ衰えとらんぞ!」

 

一見只のジャンケン勝負に見えるが、これは見聞色の覇気を応用した高度な腹の探り合いだ。より精度の高い見聞色が勝利をつかむ鍵となる。

 

「仕方ない、一枚脱ぐか……

………いや、いい手を思いついたぞ。」

 

そう言ってミラはブラジャーのフロントホックを外し、器用にワイシャツの下からブラジャーを抜き取った。

 

「んな…ッ!?」

 

「ふう…これで少しはラクになったか。」

 

ふふんと胸を張るミラ。ブラジャーから解き放たれ、より胸の形が強調されたことにより、俗に言う裸ワイシャツ(上半身のみ)状態になった。更に酒気を帯びてほんのり赤くなったミラの肢体は底知れぬエロさが滲み出る。

その姿は男は勿論の事、女ですら魅了した。勿論、あの英雄とて例外ではない。

 

「ゾルダン!ゾルダアアアアアアンッッ!?

しっかりしろォ!」

 

「ゾルダン大佐が鼻から血をぶちまけてまた気絶してるぞ!」

 

「なんて安らかな表情で眠ってやがる…!!」

 

哀れ、犠牲者がここにも1人…

 

「では2回戦といこう…双方準備は?」

 

「いつでもいいぞ………」

 

向かい合うガープへ見せつけるように胸を寄せて挑発するミラ。

今にもワイシャツからはみ出しそうな二つの果実が左右に揺れる、ガープは目を剥きながらそれに釘付けになった。

 

「ミラ…オヌシ……これが狙いかァ!?」

 

「私は負けず嫌いなんでな、使えるものはなんでも使わせてもらう。

どうしたガープ中将、胸に気を取られて見聞色が乱れているぞ?ほれほれ〜♪」

 

「ぬおおおおおお卑怯なああああ!?」(ガン見)

 

「なるほどねぇ、そういう事かい。」

 

「…?おつる、何か知っているの?」

 

いつの間にか実況席を作って2人の対決を眺めていたつるがぼやく。レム、アン、やっとガープから解放されたイルミーナも同席していた。

 

「見聞色の覇気ってのはね、精神を安定させていないと効果を発揮しないのさ。ミラはああやって、ガープの集中力を途切れさせる気だね。まさに女の武器って奴だよ。」

 

「見た目とは裏腹に、かなり高度な戦略…なの?」

 

「いやあからさまに浅いだろ。」

 

「おんなのぶき…私にもできる?」

 

「イルちゃんは…あと10年ぶんくらい体が大きくなったらねえ…」

 

「う〜…ぼいんぼいんのないすばでー…」

 

悪魔の実の副作用で精神と肉体の成長が人のそれより遅い為、残念ながらお色気とは縁遠いと悟り、胸をぺたぺた触りながら残念そうに項垂れるイルミーナ。

 

「アウト…!セーフ…!

よよいの……」

 

「「よいっ!!」」

 

今度はミラがチョキ、ガープがパーでガープの負けだ。ネクタイを剥ぎ取って放り捨てた。

その後もミラのお色気作戦に見聞色を乱されたガープは立て続けに2敗、辛うじて1勝したもの残りはパンツ一枚となった。

対するミラはズボンを脱ぎ、下はパンティ1枚に上は裸ワイシャツというかなり危ない格好になってしまっている。(因みにゾルダンは仲間達による必死の介抱の甲斐あって復活していたが、ミラの下着姿を見てまたもや気絶した。)

 

「中将負けないで!」

 

「ガープ中将ォ!」

 

「俺達の英雄!」

 

「実質あと一枚剥げば私達の勝ちです中将、だから頑張って!」

 

男性と比べ女性は隠さなければ行けない部分が2箇所ある為、まあそういう事になる。

観客達の歓声を受けて、再び立ち上がる海軍の英雄。そう、仮令パンイチでも彼は英雄なのである!

 

「なんだ?私の部下が多い筈なのになんで私こんなにアウェー?」

 

「くうううぅぅぅ…ッ!!

ミラのスケベボディに惑わされるなワシィ!これが最後の勝負じゃあ!」

 

何度も自分で頭を叩き覇気を研ぎ澄ますガープ。これが普通の戦闘ならもう少し格好がつくのだが…

 

「では、いこうか。

アウト…セーフ…よよいのォ…」

 

お互い腕を振り上げる

 

「ヌゥおおおおおおおッッ!!!!」

 

「………ッッ!!!!」

 

万全を期す為祖龍の霊眼も合わせ、ミラが見聞色で感じ取ったのはグー!

ならば先を読みパーを出すのが道理!

しかし、ミラは更に精神を研ぎ澄ませガープの行動を………

 

「…!?馬鹿なッ!?」

 

一瞬ミラが動転し、そのまま腕を振り下ろした。

 

ミラが出したのはチョキ!そしてガープの出した手は…

 

 

グーだった。

 

 

「「「「ウオオオオオオオオオッッ!!!!」」」」

 

大歓声に船が揺れる、吼えるガープとは対照的にガックリと肩を落とすミラ。勝敗は決した。

 

「やった!やったわ!」

 

「英雄がやってくれた!」

 

「ガープ中将、やっぱり貴方は英雄です!野球挙の英雄ですよォ!」

 

「そ…そんな…私が読み違えるとは…」

 

「ガハハハ!どうじゃぁ!」

 

「何故だ?手を出す直前、中将から覇気が完全に消えた。貴方は最後一体何をした…?」

 

「アレかぁ?そうじゃのぉ…」

 

ん〜…と首をひねって少し考え、ガープは言葉を紡ぐ。

 

「勘」

 

「「「「「勘かよッ!?!?」」」」」

 

「下手に覇気を使うとミラに詠まれるじゃろ?じゃからボーッとしながら勘で出した、それだけじゃ!」

 

ぶわはははははは!と笑うガープ。

 

直前まで予測の出来ない〝勘〟に敢えて頼る事により、一か八かの賭けに出た。ミラが油断したタイミングを突き、勝利をもぎ取った。それが英雄の掴んだ運命である。

 

「さて、勝負は決した訳だが…どうするかねミラ中将。ワイシャツと下着、どちらを脱ぐか。そしてそのまま戦闘を続行…「続行だ…」……ほう?」

 

ざわり、と観客がどよめいた。

 

「まだあと一枚ある…脱ぐのは…これだッ!!!!」

 

そう言ってミラはパンティを脱ぎ捨てた。どこまでも負けず嫌いな龍である。

 

「なっ…何ぃ!?じゃがそんな事をしたら………ッッ!?!?」

 

ガープは見た。

パンティを脱ぎ捨てたミラの肢体を隠すのはもはや布一枚、丈が長くギリギリ大事な部分が隠れる程度の長さしかない裾のワイシャツだ。少しでも激しく動けばその下に潜む一般向け小説ではお見せ出来ない部分が顕になってしまう。それを押してなお、正真正銘裸ワイシャツ一枚でガープへと立ち向かった。

彼女は凛々しい、いつだって尊大で、部下からの羨望の眼差しを常に浴び続けてきた。そんな高嶺の花である彼女が、流石に恥ずかしいのか頬を赤らめ、必死に裾を手で抑え羞恥の表情を浮かべながら前屈みになるその官能的な姿は……

 

「う…流石にちょっと恥ずかしいな…」

 

刺激が強過ぎた

 

「「「「「ぶはァっ!?!?!?」」」」」

 

式場に鮮血が舞う。ガープも、ロシナンテも、ガスパーデも、他の部下達も男女問わず。余りのエロさに脳が耐え切れず鼻血を吹き出し倒れた。(ゾルダン?いい奴だったよ…)

 

「さあガープ中将、これで正真正銘最後の戦いを……アレ?」

 

ミラが前を向くと、鼻血を吹きながら白眼を剥いて気絶しているガープが目に映る。それだけではない、後ろに控える者も皆、悩殺されていた。

オニキス神父が顔色一つ変えずミラに近づき、右手を掴み上に掲げる。

 

「ミラ中将の勝利。」

 

「あれぇーーーッ!?」

 

第一時野球挙大戦は、多くの血を流した結果、祖龍の勝利により終結を迎えたのだった。

 

それを見ていた素面のアンは一言

 

「…なぁにこれぇ」

 

「若いねぇ、アタシもミラくらい若いときゃあれくらい……」

 

「つるばあちゃん、けっこう酔ってる?」

 

「あの2人を最初に止めなかったあたりそうかもね…。ハァ…私、居なくなって本当に大丈夫なのかしら…」

 

ステラは頭を抱えこれから先を憂いていた。

 

…………

 

あの宴の後、起きたセンゴクに裸ワイシャツ状態のミラを目撃され、全員彼から小一時間程説教を受けた後、宴はお開きとなった。幸いにもミラの〝無自覚幸せパンチ〟を受けずに生き残ったのは早々に酔い潰れてずっとカリファの膝枕で看病されていたスパンダムだけだ。ある意味彼は不幸だったと言えよう。

因みにこの事件を知ったクザンは血の涙を流しながら後悔したという。

更に約束通り次の週交付された海軍食堂新聞には「気絶しているパンイチのガープ中将と、その後ろで裸ワイシャツ状態に笑顔でVサインをするミラ」の姿が一面に記載されており、構内新聞史上最速最高の売上を記録した。この新聞はあっという間にコング元帥の下まで届き、再びミラは2時間ほど説教を受ける事になる。

 

そして例の宴でも…

 

「18万!!」

 

「25万!!!!」

 

「50万ンンンッ!!」

 

「俺の全財産だァアアアアアアッッ!!!!」

 

司教が貧血で気絶する前、辛うじて撮影された一枚の写真を巡り、熱い戦線が繰り広げられていた。

その結末は…皆様のご想像にお任せしよう。

 

ただこの新聞は、一部の物好きな者達にも頒布されていた。

 

それは五老星による厳重なチェックを掻い潜り赤い壁を越え、一般の者の踏み込めぬあの土地にまでも。

 

 

 

 

 

「あら…下には面白そうな方がいるのですね………アマス。」

 




はい、これにてステラの結婚式は無事?終了しました。
幸せになるんやで…

読者方も薄々勘づいていると思いますが、モリアが脱落してしまったためテゾーロがその枠に埋め込まれる予定です。このへん原作との乖離が激しいですね、注意で(今更)
冒頭の悪ふざけは…すんませんした、FGOのCM集見てたらどうしても書きたくなったのでここで消化させてもらいました。モンハンやワンピとは違い、別ベクトルで獣の厨二心を擽ってくるんだよ…FGOは…
ま、今回出てきた神父もちょいキャラでもう登場する予定は無いので多少はね?

次回、七武海勢揃い、そして避けられない出逢い


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39 天照らす竜の如き人

過去に感想欄で頂いたアドバイスを参考にして、なんとか週一位で更新できるよう、文章を小分けに区切って載っけております。話の進みが遅いです。
一応3話位で天竜人の話は完結の予定。
オリキャラが出る、独自設計も出る予定、原作との乖離激しくなりますので注意で。




マリージョア

世界を二分する巨大な大陸、赤い大地に存在するこの街は、別名「聖地」とも呼ばれている。

この街に住まう者達の名は通称「天竜人」。かつて世界政府を創造した王の子孫たちがそう呼ばれ、この特別な土地への永住を許可された。

 

言わば此処は世界で最も安全な土地。それ故に危機感を失った世界最高の権力者たちは腐敗していき、誰からもそれを指摘されることなく育っていった子孫達は、まるで無能な暴君のようだ。

 

一般人(下地民)が視界に入れば気まぐれに殺し

 

大量の奴隷を玩具のように弄ぶ

 

自分は人ではなく〝神〟だと信じて疑わない、法の届かぬ腐敗した絶対権力者。彼等は自分達の身の安全と揺るがぬ地位に溺れたのだ。

 

それがどれほど人の道を外れ、堕ちているのかも知らず

 

 

 

 

聖地マリージョア近郊、ここらは奴隷を収納しておく小屋もなく騒がしい声は聞こえない閑静な邸宅街。

その一件、大理石で作られ、広々としたベランダに設えられた茶室のような空間に着物姿の少女が1人、静かに茶を嗜んでいた。

藍色の腰までかかる長髪をし、整った顔立ち、ワノ国から内密に取り寄せた藍染めに赤のコントラストの入った着物も相まって、その姿はまるで日本人形のよう。

 

「……私の前で気配を殺すのはお止めなさい、ステューシー。」

 

茶を立てる手を休めないまま、静かに呟く少女に応えるように、いつの間にか現れた白のスーツに身を包んだ女性が畳に正座していた。

 

「失礼致しました、アマテラス宮。

こればかりはついクセで…」

 

「敷地内でくらい警戒を解いても罰は当たりませんよ?

…哨戒ご苦労さま、お飲みなさい。」

 

「はっ、有難く頂きます。」

 

差し出された茶をステューシーは丁寧な手つきで回し、作法に従い味わって飲み干した。

 

「けっこうなお手前で。」

 

「お世辞はいいです。それより、首尾はいかが?」

 

「ご希望通り視察の予定を取り付けさせました、明日には使いの者がやってきます。ですが彼女は明日に大事な会議があるそうで…」

 

「なら私も同席しましょう。私は()()()見たいのです。まさか断ったりはしませんよね?」

 

「ですが集まる連中は皆野蛮人で…」

 

「いいでしょう?私が行きたいと言ったのです。」

 

「…そう伝えます。」

 

ステューシーの答えに満足したのか、アマテラス宮と呼ばれた少女は顔を上げる。赤と翠の虹彩異色の瞳がきらりと光り、優しく微笑んだ。

 

「よろしい、下に降りるのは久しぶりです。

…絶対にスーツは着ませんから。」

 

「駄目です、着て頂かないとお父様の面目が立ちません。」

 

天竜人は赤い大地の下へ降りる際、同じ空気を吸わないよう専用の防護スーツとシャボンのヘルメットを着用する。これは天竜人達の常識だ。

現代で考えればちょっと何言ってるのかよく分からないだろうが、彼らの間ではそういう事になっている。

 

「あのデザイン嫌いです、ならもっとセンスのあるデザインに作り直すようベガパンクにでも依頼して。」

 

「機能性は彼の折り紙付きですので…」

 

「嫌」

 

「アレで今聖地で最も流行のファッションですよ?」

 

「嫌」

 

「どうしてもですか?」

 

「い・や」

 

「……もうっ、お父様には内緒ですよ?」

 

天竜人のワガママはいつもの事だが、この少女の強情ぶりにはこちらが根負けするしかない。なにより話が進まない。

観念したようにステューシーが項垂れると、思惑通りと言わんばかりに少女はにこやかな笑みを見せた。

 

「現地までは奴隷を?」

 

「あまり大仰にはしたくありません。

大人数で行っても余計警戒させてしまうでしょうし、護衛兼移動役は貴女と…ヤタガラスに任せましょう。」

 

ぴゅうううッと少女が指笛を吹くと、彼方の空から黒い翼をはためかせ、太陽の様な赤い瞳を宿す通常の2倍ほどの大きさの烏が舞い降りた。

それは少女のすぐ横にある止まり木に3本の脚でしがみつき、なれた仕草で彼女に向けて頭を垂れる。

その頭を少女が優しく撫でると、クルルと心地さそうな声を上げた。

 

「あなた以外の〝0〟をわざわざ動かす必要はありません。

これは私の興味本意なのですから。」

 

「…仰せのままに、アマテラス宮。」

 

下地民に興味を持つなど、普通の天竜人からすれば有り得ないことだ。

だが父をして〝異端〟と蔑まれてきた彼女には今、どうしても会ってみたい人物がいた。

 

…そも、自分には特別な才能があるらしい。数多の人間が死ぬ程の苦労を掛けねば会得できぬかの潜在能力を、私はその血と才能だけで見出した。

災害で聖地の一部が崩落する未来も、聖都で魚人が暴れ回る未来も、全て予見していたが、彼女の記事を目にした途端、靄が掛かったように、未来が見えなくなってしまった。この謎を解明するためにも、私は彼女に会わなければいけない。会ってその目で見極めなければいけない。

 

きっと、それは私の〝運命〟なのだろう

 

「ふふふふ…楽しみです。

誰よりも自由なあのお方、一体どんな人なんでしょう。

こんな家など早く潰して、私も自由になりたいものですね………アマス。」

 

「その口調嫌いなのは知ってますから無理なさらないで下さい。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

海軍訓練学校 運動場

 

海軍本部内の一角、広大な敷地の半分ほどを占める広い運動場では、大人数の訓練生達がたった1人の将校相手に勝負を挑んでいた。

1人のうら若い女性に寄ってたかって襲い掛かる訓練生達、何も知らない者が見れば集団暴行(リンチ)とも見て取れる光景だが、必死なのは多勢なハズの訓練生だ。

まるで蜘蛛の子を散らす様に彼女の攻撃で訓練生達が次々と吹き飛び、倒れ伏していく。

 

「はいクエント、マティス、コルネ、ミリアムも脱落。

ほれほれどうした訓練生諸君、このままだと昼飯を食える者がいなくなるぞ?」

 

「う…ウオオオオオッ!!」

 

大柄な男の振り抜いた拳を最小限の動きで躱し、続くラッシュも鼻歌まじりに避け続ける。業を煮やしたのか、大振りの一撃を加えようとした隙を突いてミラのでこぴんが男の額に撃ち込まれ、巨体が軽々宙を待った。

 

「あべしっ!?」

 

「これでケインも昼飯抜きっと…」

 

手にしたバインダーにはこの訓練に参加している者のリストが記されている。そこから「ケイン」の文字を見つけ出し、バッテンを付けるミラ。

その隙を狙い、今度は3名の訓練生がミラへと駆け寄った。

 

「おっと…」

 

走らせるペンを止めぬままひょいっと首を引くと、ゴム弾が目の前を通り過ぎていく。続け様に左からは拳が、右からは木刀が、ミラへ向けられていた。

 

「残ったのはお前ら3人だけか…」

 

「ふ…ッ!!」

 

「モサァッ!!」

 

突き出された拳をバインダーで受け止め、反対側の木刀を摘むように指2本で受け止めたミラ。それなりに重い一撃だったのか、地面がミシミシと音を立てた。

 

「ぐっ…ぐぐぐぐ…」

 

「なんという力…木刀が…動かんッ…!?」

 

「はーいお2人様ごあんなーい。」

 

「そりゃどうですかね…アイン今だッ!!」

 

「了解ッ…!!」

 

作戦通り両手の塞がったミラの正面、少し離れたところに現れたアインと呼ばれた女性がゴム銃の引き金を引いた。

弾は一直線にミラの胴体目掛けて撃ち込まれ、このまま直撃するかと思われたその刹那。

 

「ほいっと」

 

「なんと!?あ痛ぁっ!!」

 

木刀の重心をずらし、バランスを崩した訓練生は撃ち出された弾の射線に入り、彼の背中に直撃。地面を転がりながら背中の痛みに悶えている。

 

「わ!ごめんビンズ!?」

 

「バカッ…余所見するなアイン!

うわっ…!?」

 

今度はバインダーで防いでいた拳を掴み、そのまま放り投げる。彼はもんどりうってアインの隣へ着地した。

 

「くそっ!作戦失ぱ…「ジェイク坊、アウト」なっ…ぽげらッ!?」

 

前を向いた瞬間、彼の額の位置には既にミラの中指が置かれており、弾けるような音が聞こえた後、ジェイクはでこぴんで吹き飛ばされ頭を強打し気を失った。

 

「ビンズ、ジェイクもオシマイっと…

アインは…戦意が無さそうだし、これで全員昼飯抜き確定だな。

諸君、ご苦労さん。今日も無事、クエスト失敗だ。」

 

ミラの宣言を受け、へなへなと地面にへたり込むアイン。

 

「はぁ〜…今日もお昼抜きかぁ…」

 

他の訓練生達もフラフラながらも立ち上がり始めた。その光景を眺めていた海軍教官、ゼファーが一喝する。

 

「さっさと立てガキ共!

午前の特別実習はこれで終わりだ。先約通り、ミラ特別教官に一撃も与えられなかったお前達の昼飯は抜きになった!見返したきゃア一発当ててみろ。では解散!」

 

そう言ってゼファーとミラは何やら話しながら運動場を後にした。並んで歩く姿はさながら〝美女と野獣〟と言ったところか…

 

「いててて……派手に吹っ飛ばしてくれたなミラさん。」

 

「拙者も修行不足でござる、もっと精進せねば…」

 

気が付いたのか、頭を抑えたジェイクと背中の痛みに堪えながらビンズがアインの下へ歩み寄ってくる。

 

「今日も昼飯抜きか…」

 

190cm超えの細身だが筋肉質なガタイに、父親譲りの薄紫色の短髪が印象的な青年、ジェイクは「はァ…」と深い溜息を吐いた。

 

「ごめんなさい、私が決めきれていれば…」

 

「いや、アインを責めてる訳じゃない。

でも改善点が見つかった。実弾だったらビンズを失ってたろ?」

 

「…ごめんビンズ、背中痛くない?」

 

「心配ご無用、ワノ国の男児は頑丈でござる故。…おっと、今のはご内密に。」

 

そう言って気丈に振舞ってみせるビンズ。

ピンクのアフロヘアーという派手な出で立ちの彼だが、その先祖は嘗てワノ国を追われた抜け忍の数少ない末裔らしい。ジェイクと同じく、アインが背中を預けられる大切な友人だ。

 

アイン、ビンズ、ジェイクの3人は浮かない顔をして、取り敢えず水分だけでも補給しておこうと食堂へと向かった。

 

 

此処は海軍本部訓練学校、海兵を志す者達が日々鍛錬を積む正義の学舎。

若者達はいつの日か、自分が正義の味方として世に羽ばたくのを夢見て、今日も訓練に励んでいる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「天竜人の…視察ですか?」

 

「あァ。俺もコング元帥がボヤいてたのを聞き齧っただけだが、そう言ってた。」

 

久しぶりに顔を出した海軍兵学校、訓練生達との軽いトレーニングも終わり、砂埃が嫌だったからシャワーを借りてさっぱりした後。ゼファー先生の執務室にて、彼からそんな事を言われたぞい。

 

説明しよう!天竜人とは…

世界政府創設者の末裔達にして世界一の脳足りん共、ではなくちょっとオツムが弱い絶対権力者達の事だ。

連中は滅多に赤い大地の下へは降りてこないが、奴隷を買う時はシャボンディ諸島周辺に出没する。

もし運悪くエンカウントしてしまった場合、一般人は取り敢えず道を譲って土下座してればやり過ごせる。海兵の場合、如何なる階級でも最敬礼で迎え、目の前で天竜人が何をやらかしたとしても黙ってそれを見ていなければいけない(ココ重要)。

そう、どんな事でもだ。たとえ従えている奴隷に暴行したとしても、たとえ気に入った一般人を誘拐紛いの方法で強制的に聖地へ連れていこうとしても。たとえ…

 

気まぐれに一般人を撃ち殺したとしても

 

海兵はそれを黙って見ていなければいけない、だって天竜人だから。それだけの理由だ。もし何かの気の迷いで手を出してしまった場合、海兵はその場で射殺、海賊の場合は海軍大将の出動案件となる。

 

…うん、理不尽だよネ。分かるとも。

 

過去に一度、まだガープ中将の下で仕事していた下積み時代の話だが、シャボンディ諸島へ出向いて〝天上金〟という天竜人へ献上される莫大な金を護衛する任務があった。その時俺氏は副官のボガードさんに言われて、他の女海兵達と一緒に極力船から出ないようにと忠告されていた。

なんでも天竜人に目をつけられたら聖地へ強制的に連れていかれるらしい。連れていかれた女性はおもちゃにされちゃうんだってさ、主にR-18な意味で。

違法な薬品とかえげつないプレイで廃人になるまで弄ばれるらしい、そんで飽きたらその辺にポイだ。その話を聞いた女性陣が皆青ざめてた。

 

人権くんが息してない!

 

その後部下が全員引くくらい強い怒気を孕んで帰ってきたガープ爺さんによると、天上金を運んでいる最中、天竜人は暇だと言って膝まづいてた一般人を退屈しのぎに5人ほど撃ち殺して遊んでいたらしい。

 

……ここまで話せばおわかりいただけただろう。天竜人はぐうの音も出ない程クズだ。公務サボって18連休とか、話し合いの場でろくな案も出さずヤジばかり飛ばす無能な貴族連中なんて比にもならないくらいに。

 

JOJO的にいうなら「吐き気を催す邪悪ッ!!」って奴なのだ。

 

そんな歩く厄災の塊が、わざわざ海軍本部の様子を見に下まで降りてくる。

 

厄ネタの匂いがプンプンするぜェ〜!!

これには流石のスピード〇ゴンも苦笑いする事だろう。

 

「お前さんは見た目だけは人並み以上にいいからな、特に気を付けておかないと……おっと伝電虫が鳴ってやがる。」

 

見た目だけって…酷ない?

ミラちゃん、品性が服着て歩いてるようなもんやで?

 

「………ガチャッ)ゼファーだ。…何?今一緒にいるが……マジかよ。分かった、本人に伝えとく。」

 

ゼファー先生、何故伝電虫で話しながらこっちチラチラ見てるんすか。怖いじゃないっすか。

ガチャリと受話器を置いたゼファー先生、重々しい雰囲気を出しながら言い放つ。

 

「センゴクから呼び出しだ、至急アイツの所へ行け。十中八九、天竜人の話だろう。」

 

「…了解しました。」

 

行きたくないです(迫真)

 

 

………………

 

 

「ミラ、よく来たな。勘のいい君なら察していると思うが…」

 

「マリージョアを更地にしてきます、探さないで下さい。」

 

「確保ォーーッ!!!!」

 

部屋に入るなりそう告げて出ようとしたら案の定押さえつけられた。なんかデジャヴ。

入口にはおつるさんとセンゴク大将が陣取ってて、ガープ爺さんに羽交い締めにされた。

ていうか片脚が凍ってんだけど?クザンにーさん?何してくれとん?

頭にきたから凍った脚の傍を覇気込めてゲシゲシ踏んづけていると、子安ボイスの悲鳴が執務室に響く。

 

「痛っ!?いってェ!?ちょっ…ミラッ!!覇気込めて踏むの止めっ……折れる折れる!?」

 

「クザン中将、セクハラは極刑だぞ。」グリグリグリ

 

「顔をふぶファッ!?」

 

踏んづけてしまったのはどうやら顔だったようだ。このままグリグリしてやろう。勿論覇気アリアリで。

 

「そのままでいい、聞いてくれミラ。

明日、天竜人が海軍本部を視察にやって来る。その案内に君が指名された。」

 

「ねぇ俺そのままなの?ミラに顔グリグリされたままなの?」

 

「何故わざわざ私を…」

 

「あっこれ俺居ない体で話するヤツか…」

 

下から声が聞こえる気がするけとそんな事は無いよネ。

 

「恐らくは〝コレ〟のせいだろうな…」

 

そう言ってコング元帥が見せてきたのはちょっと前の食堂新聞、野球挙で遊んだ時のアレね。

 

「どんな手段を使ったのかは知らないが、これがマリージョアへ渡り君の事が知られた可能性が高い。」

 

なんてこったい、マイナー新聞だと思って油断してたワイ。

 

「まあそのうちバレるだろうとは思っていたが…で?私を指名した天竜人とはどんな人物なのですか?」

 

「随分あっさりしているな…

連絡は〝0〟を使って行われたらしい、仕向けた天竜人は『アマテラス宮』という名前だそうだ。」

 

アマテラス宮…ねぇ

 

「女性ですか。」

 

天竜人は男なら名前の尻に「聖」、女なら「宮」が付くからこのアマテラスとかいうのは女だ。それ位しか情報がない。

天竜人の素性って基本隠されてるからね。知りたくもねーけど。

 

「情報が少なすぎるな…」

 

首をひねっていたその時

 

「失礼致します、給仕長二名入りますわセンゴク大将閣下。

お姉様、お待たせいたしました。

お呼びとあらば即参上、貴女の愛の奴隷テリジアでございますわって何やってんですのクザン中将羨ましい!?そこを代わりなさいッッ!!今すぐにッ!!」

 

「みらーきたよー。」

 

おっといいタイミングで我がメイド達の登場だ。呼んどいて良かった。変態がなんか言ってるけど知らん。

 

「2人ともご苦労。早速だがテリジア、五老星と連絡とるから伝電虫貸せ。」

 

ズボォッ!!

 

「にょっほぉ//」

 

変な声上げるな変態。

 

いつも通りテリジアの腹の中から五老星専用電伝虫を引っ張りあげて受話器を上げた。

 

フェーゲラィ!!フェーゲラィ!!フェーゲラィ!!フェーゲラィ!!

 

…そういやコイツはこんな呼び出し音だったな…

 

ガチャッ

 

『……君が何を言いたいのかは分かる。』

 

「じゃあ手っ取り早く頼む。」

 

『昨夜、〝0〟から天竜人視察の要請が入った。こちらには許諾以外の選択肢は用意されていない。

名はアマテラス宮、彼女が君に目をつけている。

我々の知りうる限り、彼女は特殊な趣味趣向を持ち合わせてはいない。よって君の身に危険が及ぶとは考えにくいが…』

 

天竜人って偶にヤバイ趣味持ってる奴いるらしいからネ、食人とか拷問とか…

 

「で?続きは。」

 

『アマテラス宮の家系は嘗ての世界政府建設者、その直属の末裔だ。つまり〝自分達から世界を変えようと動いた者達〟の子孫にあたる。故に天竜人の中でも強い権力を持っている。

…それこそ、彼女の愚痴で国一つをこの世から消滅させられる程のな。まあ君には関係の無い話だが。』

 

「そんな事は分かっている、どうせお前達が心配しているのは相手の方だろう?」

 

『……むぅ』

 

五老星は押し黙った。

 

天竜人が傍若無人なのはいつもの事、問題はカッとなった俺氏が衝動的に天竜人をコロコロしちゃうのが心配なんやろ?

 

『……最終的に判断するのは君だ。

だが人間として彼らを擁護するならば…天竜人は腐った果実ばかりではない。

それだけは伝えておく。』

 

「ふむ、それが当たり障りのない回答だろうな。

私としても事を荒立てたくはない。

が、私にも限度があると覚えておけよ?」

 

あんまり無茶やったらマリージョアが本当に赤い大地になっちゃうゾ♪

 

『……肝に銘じておこう、では。』

 

ガチャリと受話器が降りた。

 

どうやら天竜人訪問は避けられない案件みたいだ。致し方なし、適当にあしらって帰ってもらうことにしよう。

コング元帥の胃に穴が空く前にね。

 

訪問の日程は明日だよな、明日…明日は……

 

「ん?そう言えば明日は…」

 

「ああ、俺達が話そうとしたのはそれなんだ。

明日は七武海招集日、アマテラス宮は彼等も是非見たいと言ってきている。」

 

「おっふ…」

 

俺の胃にも穴が開きそうだゾ…




次回更新は来週の土曜が目標…!


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40 祖龍(幸運E)、見初められる

冒頭、少し『?』てなるかもですがご愛敬





最初の私は 怒っていた

 

縄張りを荒らされた

 

己の領域を汚された

 

故に宣戦布告してやった

 

降り注ぐ隕石群

 

猛る熱波と灼熱の風

 

塵芥と消える小さな命達

 

それでも、連中は侵攻を止めない

 

空と海から止まぬ攻撃

 

海中から死にものぐるいで襲い来る海王類(まがいもの)

 

殺しても殺してもやって来る人間達

 

その全てが津波のように押し寄せて

 

遂に身体が限界を迎えた時

 

最初の世界は幕を閉じた

 

 

 

 

次の私は 期待していた

 

ある島に住んでいて

 

人の姿で流離う内に出会ったおかしな人間

 

万物の声を聞くあの男

 

私を滅ぼせる勇者

 

だからここまで辿り着いた 辿り着かせた

 

この世に不要なものがあるとしたなら

 

それはきっと私なのだ

 

私という〝余分〟は排除されなければならない

 

私という〝異物〟は淘汰されなければいけない

 

他ならぬ狩人の手によって

 

その先にお前達の求める宝がある

 

歴史がある

 

さあ

 

私を討伐(ころ)してみせろ

 

それなのに

 

私に剣を向けるお前は

 

酷い表情(カオ)をしているな

 

長く激しい激闘の末

 

彼の剣が心臓に深々と突き刺さった時

 

次の私は 事切れた

 

 

 

おめでとう お前の勝ちだ

 

だいすきな かいぞくおう

 

 

 

 

 

 

1度目は怒りに溺れた

 

2度目は滅びを求めた

 

ならば 3度目は…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

海軍本部会議室、通称「円卓の間」

本日は七武海招集日、ナワバリの確認や狩った海賊の報告など、定期的な連絡事項を報告する日だ。

実の所、七武海がちゃんと六人(残り1人はテゾーロに決まっているので割愛)揃って会議するのは初となる。蛇姫は女ヶ島で引き篭りなので電伝虫越しの会議だが。

ミホーク、くま、クロコダイル以外の七武海は初の顔合わせだ。

 

「さて…遠路はるばる海軍本部までようこそ、海のお尋ね者諸君。

そして初めましてだな、〝海峡のジンベエ〟、そして〝天夜叉〟ドンキホーテ・ドフラミンゴ。」

 

円卓の反対側で向かい合う大柄の魚人とちょっとありえないファッションセンスのグラサン君を見ながら言った。

 

「ウム、宜しく頼む。」

 

「フッフッフ…」

 

不敵に笑うドフラミンゴ君、どうした?言いたい事あるなら言いなよ、我慢は身体に良くないゾ。

 

「それから此処には居ないが電伝虫越しに九蛇海賊団のボア・ハンコックにも出席して貰ってる。ホラ挨拶くらいしろハンコック。」

 

『…妾は馴れ合うつもりなど毛頭無い。

報告だけしてさっさと切らせて貰うからの。』

 

「可愛くないなぁ…まあいいや。

では改めて自己紹介を。

センゴク大将に代わって君達の監督役をやっている、海軍中将総督ミラだ。」

 

それを聞いたジンベエがピクリと動いた。

 

「噂の中将総督、女じゃったとはの…」

 

「フッフッフ…海軍も遂にヤキが回ったか?」

 

「女だからって甘く見るなよ、一応私は執務の片手間にお前達を纏めて皆殺しにするくらい余裕だから、此処で暴れる気ならそのつもりで頼む。」

 

それを聞いた2人の表情がちょっと引き攣った。ちょっぴり威圧感出しながら爆弾発言しちゃったかな?若干警戒されたかも。

いつもなら抑えの為、中将クラスの海兵が5人以上は同席する筈の七武海招集だが、今日は俺氏1人だ。何故ならば、俺氏1人で十分だから(ドヤァ)。

万が一海賊達が暴れだしても、手脚の2、3本はぎ取れば大人しくなるやろ。(ハンター並感)

 

「まあそう堅くなるな、海賊に礼節なんぞもとから期待してないしな。

で、今日報告して貰わないといけない内容だが…」

 

「待て、中将総督。」

 

人がせっかく和やかムードを演出してやってるというのにミホーク君が鋭い視線で睨みつけてきた。コワイ。

 

「なんだミホーク、話の腰を折るな。」

 

「あの女は何者だ。」

 

顎をクイクイさせて示唆する先には………

 

 

「あら、私の事は路傍の小石程度に思ってくれて構いませんよ、〝鷹の爪〟さん?」

 

姫様、目です。それだとデラックスボンバーでぶっ飛ばされそうな悪の組織ですぞ。

 

「………」

 

「ぷっ…くくくく…//」

 

予想外の間違いにちょっと眉が動いたミホークと、その隣で必死に笑いを堪えているクロコダイル。

 

「あら、呼び間違えてしまいました?」

 

「……好きに呼べ。」

 

彼等の視線の先には着物姿で椅子にちょこんと座り、片手でぱくぱくとパフェを呑気に食べるオッドアイの少女が居た。

因みにパフェはイルミーナに頼んで作らせた、彼女のご要望である。

 

「即席で作ったから、かんたんなのしかできなかったけど、おいしい?」

 

「ええとても。貴女は良いパティシエになれますね。

…私に構わず会議を続けて貰って結構ですよミラ中将。」

 

「…という訳だ、なので彼女の事は気にするな。」

 

「いや気になってしょうがないんじゃが!?」

 

ジンベエ君が思わずツッコミを入れた。

 

「海峡のジンベエ、初日から悪いがこの女の言ってる事に一々突っ込んでると気が持たねぇ。慣れろ。」

 

そしてクロコダイルの無慈悲な一言である。

せやな、初期メン3人は俺氏のいつもの無茶ぶりに慣れつつあるな。それでもこの状況は異質だけども。

 

「的を射ている…」

 

「なんだミホーク、お前もウチのメイドが作ったパフェが食いたかったのか?仕方ないなー。」

 

「みほーくも食べる?」

 

「………」コクリ

 

い る ん か い

 

優しい優しいイルミーナたんの慈悲により、ミホークにもお手製パフェが振る舞われた。ついでに彼女への気も逸らせた筈!

そしてドフラミンゴ君、姫様をガン見するのはやめなさい。

 

この着物姿のオッドアイ少女こそ、視察の天竜人、アマテラス宮である。

いつも連中がしてるあのクソダサスーツ着てないから誰も天竜人って分からないみたいだ。ある意味あのスーツが目印みたいなもんだしな。本人も秘密の視察という事で身分を臥せて欲しいらしい。口調も「アマスー」とか言わないし、変な天竜人だ。いやこっちがマトモなのか?これもうわかんねぇな。

 

「じゃあさっさと始めるぞ。

取り敢えず新入り2人にはマニュアル用意しといたから、一通り目を通しておけ。」

 

そう言って紐で括った薄めの紙束をテリジアに配らせた。この世界、パソコンもコピー機もないから2人分の資料作るだけでも苦労するんだぜ?

 

「随分ちゃんとしてんだなァ中将総督さんよ。」

 

「まあお前達に書類など渡したところで明日の尻拭き紙になるのがオチだろうが、一応政府公認だからな。型式だけは整えるさ。」

 

ドフラミンゴ君、パラパラと目を通し。ふん、と鼻を鳴らして再び椅子にふんぞり返った。

対するジンベエ君、黙々と読み続けてる。文字間違いとか指摘されたらどうしよう、何度も目を通したんだけどな…

 

「フッフッフ…面白くなって来たじゃねぇか。

おいメイド、鷹の目が食ってるヤツを俺にもくれよ。」

 

「はーい。」

 

とてとてとイルミーナたんが厨房へ走っていく。

 

ドフラミンゴ君意外と甘党?

 

『ぱふぇ?ぱふぇとはなんじゃ?』

 

「甘味だよ。もっともお前は電伝虫越しだから言っても食えないだろうが。」

 

『なんと…気になる…妾も欲しい…』

 

「じゃあ他の4人はいつも通り定例報告だ。まずは一番帰りたがってるハンコックからな。」

 

『ぐぬぬ…ふん!……妾の海賊団は………』

 

 

………………

 

 

ハンコックに続き、クロコダイル、ミホーク、くまからも報告を聞いた。

口伝いだから信憑性に欠けるが、そもそも海賊に信憑性もクソもないのでそこは俺氏の裁量で決める。

前世の悲しい記憶のせいか、こういう会議何度もやったから板についてるわー(泣)

重役が1人も居ないのが唯一の救い。

 

「よし、じゃあこれで報告会は終わり。次回の報告日は伝書バットで追って連絡するからそのように頼む。

ハンコックは…さっさと電伝虫切ってるな。お前達も自由に解散していいぞ。と、言いたいところなんだが、ジンベエは恩赦の話があるから残ってくれ。」

 

ジンベエ君には七武海加入時に恩赦欲しいって言ってたからね。

 

「先に失礼するぞ。」

 

そう言ってくまは会議室を出てった。

 

「…帰る、コブラ王のお守りしなきゃならんからな。」

 

「言ってくれたらいつでも謎のヒロインが出撃するぞ?」

 

「絶ッッッ対ェ来んな!!二度と来んな!!

振りじゃねェからな!?もうあんな思いはゴメンだ!」

 

「えー」

 

すごい剣幕で拒否られた、なんで!?

 

「あの夜を忘れてしまったのかクロコダイル…お互いあんなにも激しく(戦いを)求めたじゃないか。」

 

「誤解を招く発言はやめろ疫病神がッ!!」

 

「お?面白そうな話してんじゃねえかクロコダイル。詳しく聞かせろよ…」

 

「うるせェフラミンゴ野郎…テメェにゃ関係無ェこった。」

 

あっ、砂になって逃げやがった。

 

クロコダイルと解決したあの事件は歴史の闇に葬られる事になるだろうから、特筆はすまい。

疫病神とか酷ない?ただのスキル『災難』持ちなだけじゃん。しょぼん…

でもなんだかんだ招集には来てくれるから根は優しい子だってお姉さん知ってるゾ、ツンデレワニボーイめ。

 

「フッフッフ…退屈しなさそうだ。

俺もお暇するぜ、パフェご馳走さん。」

 

非行少年フラミンゴ君も去ろうとするが、コイツさっきの書類ちゃんと見たのか?此処で少し試してやろう。

 

「…『七武海とは世界政府の庇護の下、海賊に対する海賊行為を法的に認められた者を指す。ただし…』」

 

「『元帥、及び中将総督の判断により海賊行為が〝悪〟と判断された場合、七武海の称号剥奪の上海軍大将白蛇を派遣しこれを捕縛する…なお称号剥奪者の生死は問わない。』だろ?

まったく、何をもって〝悪〟とするのか完全にそっち基準じゃ詐欺もいいトコだ。

わざわざ最後の方に書くんじゃねェよ、疑ってんのか?」

 

「お、きちんと読んでいるな。パラパラ捲ってただけかと思った。」

 

おおすごい、この子見かけによらず書類はちゃんと全部目を通すみたいだ。

インテリ非行少年に格上げしてやろう。

 

「なんかすげぇ馬鹿にされた気がしたんだが…まァいい。あばよ、フッフッフ…」

 

相変わらず不敵に笑ってひらひら手を振りながらドフラミンゴ君は去ってった。

 

さて残るはミホーク君なんだけど…

 

「誰待ちだミホーク、私は他の仕事があるんだが。」

 

「あの金髪の強き者だ。」

 

アンを待ってるのか、十中八九殺し合いの話だろ。ほっとこ。

 

「アンなら今日は海軍食堂に出張ってる、今は昼時だし手一杯だと思うぞ。」

 

「……そうか。

美味かったぞ、優しき者よ。」

 

「ばいばーい」

 

そこまで待っていられないのか、椅子を引いてイルミーナにお礼言った後ミホーク君も退室。

肝心のジンベエ君ほまだ七武海の説明書を熟読してる。なんだこいつは、利用規約とか最初から最後まで読むタイプなのか?大事な事だけどさ。

 

「……成程。」

 

ふう、と一息ついて書類から目を離すジンベエ君。随分集中してたな。

 

「なにか気になるところが?」

 

「いや、てっきり魚人(ワシら)に不利な制約があるのかもと思っとった。じゃから確認をな。」

 

「で、気になるところは?」

 

「いや、疑ってすまんかったな。問題無い。」

 

七武海にそんな制約作っても誰も得せんわい、むしろジンベエ君の加入は五老星もかなり推し推しで、種族間の和解に繋がるとか言っとったで。

 

「それで、ジンベエ。

お前の恩赦、一体どうする?」

 

「ああそうじゃな、ワシの恩赦は、リュウグウ王国の世界会議(レヴェリー)出席を優遇してほしい。それから…ある男をインペルダウンから解放して欲しいんじゃ。」

 

「面白そうだ、詳しく聞こう。」

 

……この後もジンベエの恩赦対応に時間を使い、全員帰ったのは昼を大きく回ってからだった。

 

 

 

 

 

 

ミラとテリジア、イルミーナは七武海の会合が終わった後もアマテラス宮の気が満足するまで視察に付き合った。

天竜人のスーツを着ていない事が功を奏したのか、周囲に警戒されることもなく、比較的スムーズに視察は進んだ。一通り視察を済ませた後、「庶民のご飯を食べたい」と言う彼女の要望で夕食はミラの自宅でとることとなった。付き人のステューシーは反対したが、アマテラス宮が頑固を突き通すものだから遂に折れ、渋々一緒に付いてきた。

 

そして夕食時、料理の鉄人(龍)アンの作った手料理が所狭しと大テーブルに並び、レムとイルミーナが配膳をし、龍3匹とメイドが2人、天竜人と政府役人という異色の食卓が完成した。

 

「「「「「いただきまーす」」」」」

 

各々手近な料理に箸をつけ、賑やかな食事が始まった。

 

「ステラとテゾーロが居なくなって席が空いてたからちょうど良かったな。

どうでしたアマテラス宮、本日の視察は?」

 

「ええ、悪くありませんでした。

ミラ中将。今日は1日、案内大義です

…私から褒められることなんて滅多にないので、明日上司に自慢してもいいのですよ?」

 

「へえ、そりゃどうもありがとうございます。」

 

「ミラ中将、高貴なる御方に対してそのような…」

 

「いいのですステューシー、今日の私はお忍びなのよ?」

 

アマテラス宮、これでかなり人ができている。普通の天竜人(何をもって天竜人が普通なのか疑問だが)とは違い良識を持ち合わせる、かなり常識人だった。少し我儘な所を除けば。

 

「この料理も本当に美味しいです。

宮廷の味にも負けていませんし、なにより…表現しづらいのですが……『暖かい』というのでしょうか?

宮廷料理人の作るものとは違うものを感じます…」

 

恐らくそれは料理に掛けるアンのこだわりと『愛情』なのだろう。彼女の趣味であり、料理にかける情熱は、そのまま一品一品に反映されるのだ。

 

「当たり前だ、この我が作ったんだぞ?そこいらの残飯と一緒にするなっつーの。」

 

ふんっと鼻を鳴らすアンは素っ気ない態度だったが、どこか上機嫌だった。

 

夕食を食べ終わり、機嫌のいいアンから出された試作品のシャーベットをデザート代わりに差し出され、それをパクついていた時、再びアマテラス宮は口を開く。

 

「……やはり聖地で私に召使えられる気はありませんか、ミラ中将?」

 

「無いです。それは最初に話した時から結論は変わりません。」

 

実はミラはアマテラス宮に今朝出会った時、既に聖地へ勧誘を受けていた。当然ながら彼女は断り、アマテラス宮もそれ以上追及することはなかったのだが。

 

「そうですか、残念です…まあ拒否される事くらい、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

でも私、今日1日で貴女を心底気に入ってしまいました。

何故でしょう、ミラ中将。貴女を見ていると、その…胸の奥が…きゅっとするのです…不思議ですね。」

 

……なかば諦め半分でアマテラス宮をエスコートしたミラの姿は、傍から見れば『完璧』だった。

 

アマテラス宮の脚の速度に合わせ歩くペースを揃えたり、さり気ない心遣いには、付き人である政府の役人ステューシーも舌を巻く程。その立ち振る舞いは例えるならば、熟練の執事や使用人レベルに達していた。

すれ違う女海兵達が色々と世話を焼かれるアマテラス宮に嫉妬心を抱いていた事は言うまでもないだろう。

 

ただしそれは、彼女の中身が前世で培った悲しき接待スキルの賜物であったわけだが、アマテラス宮は知る由もない。

アマテラス宮はいうなれば世間を知らぬ『箱入り娘』、勿論聖地で恋愛などした事も無い。それに加え、今回の様にお忍びでの行動は初めてだった。そんな右も左も分からぬ中、熱心に自分の事を気遣ってくれる超絶イケメン(美人)にエスコートされ、何不自由なく過ごせたなら、そりゃあコロリといってしまうものである。

 

ほわっと頬を赤らめ、とろんとした目つきでミラを見つめるアマテラス宮。

…初恋の相手が同性(少なくとも見た目だけは)なのはハードル高過ぎるんじゃなかろうか?

 

「あ、アマテラス宮…?」

 

………五老星はミラのため、世界政府の諜報能力を総動員しアマテラス宮の情報を掻き集めた。

聖地での聞き込みや趣味趣向まで事細かに調べあげ、五老星自身も他の話を全てかなぐり捨てて丸一日、彼女が祖龍の前に立てる資格があるものか熟考し、本日の視察に至る。

彼等は最終的にアマテラス宮には祖龍の機嫌を損ねるような要素なし、と判断した。してしまった。

 

だがしかし

 

「どうしましょうどうしましょう…貴女を私だけのモノにしたい、一生死ぬまで貴女のそばで添い遂げたい…大切な私の旦那様ぁ♡

うふふふふふ…」

 

ずいっと隣の席に座るミラに身を寄せて、腕にぴったりとしがみつき頬ずりするその様は…

 

「(この娘っ子まさか……)」

 

そう、そのまさかである。

 

アマテラス宮は、一途だ。

 

それ故に

 

「(ヤンデレの気があるゾぉ〜〜ッ!?)」

 

彼女の赤と緑の瞳には、ほの暗い病み(闇)の炎が灯っていた。

 

「だだだだ旦那しゃま!?

おおお待ちなさいアマテラス宮!!!

言うに事欠いてお姉様を旦那様とはどういう了見ですの!?」

 

真っ先に反応したのは、案の定と言うべきかテリジアだった。顔を真っ赤にしてアマテラス宮に詰め寄って胸ぐらを掴む。

 

「あらなにか問題でも?」

 

「問題大アリですわ!」

 

「良いではありませんか、恋に境界など無いのは貴女もご存知の筈でしょう?ワラキュアの姫君。

ミラ中将は貴女の『ご主人様』で私の『旦那様』、きちんと差別化できてます。掠りもしませんでしょう?」

 

「いやそれ掠ってるどころか衝突事故起こしてる気がするんだが!?」

 

ミラがツっこんだが、そんなこともお構い無しにテリジアはアマテラス宮の言葉に目を見開き、肩を震わせていた。

 

「な…ななな……」

 

「ご自分の身元が知られていないとでも?ワラキュア公国第二女帝、ハレドメラグ・テリジア姫。」

 

「巫山戯んじゃねーですわ!

バッチリ身バレしてるじゃありませんの!?おのれ天竜人ォ!」

 

「やりますか?私こう見えて合気道とか嗜んでたんですよ?」

 

「上等ですわ、やったろーじゃありませんかこの売女ァ!」

 

「ハレドメラグ姫!?落ち着いて下さい!不敬!限りなく不敬ですから!!」

 

慌ててステューシーが止めに入ろうとするも、ミラの腕から引き剥がされたアマテラス宮とカーペットの上でごろごろ転がりながらキャットファイトし始めるテリジア。

 

「あまさんがミラのおくさん…

ということはあまさんは私の…まま?」

 

「アン、収拾がつかなくなってきた。どうにかして。」

 

「我に振るなよ…それにステラが言ってたぞ。こういう時は〝するーすきる〟と〝はがねのめんたる〟で頑張れって…」

 

そう話すアンは明後日の方向を眺めながらステラの言葉に思いを馳せている。その目は少しだけ虚ろだった。

 

「こっちの世界に慣れた友人が達観しすぎてて辛い…」

 

 

 

 

 

「とまあ、戯れはさておきまして。

旦那様。」

 

暫くテリジアとキャットファイトを繰り広げていたアマテラス宮だが、流石に止めに入ったお付きの人とアンによって拘束され落ち着いたのか、乱れた着物を正しながら真面目な顔して話を振ってきた。テリジアはアンに押さえつけられながらモゴモゴ唸ってるが…気にしちゃ駄目なのだ。

 

てか俺の事は旦那様で固定なのね…

 

「本日の視察はこれで終わりになりますが、旦那様の事、アマテラスは…いえ、〝うずめ〟は心よりお慕い申し上げております。」

 

「それがお前の本当の名前か。」

 

「はい、アマテラスは聖地で付けられた通名の様なもの。その名は私の故郷で祀られていた神の名でした。

それを奢った〝人間〟が名乗ろうなどと、烏滸がましいにも程がありますので。旦那様の前では本当の名で呼んで頂きとう存じます。」

 

こっちに向かって跪き、ていうか土下座して頭下げてくるうずめちゃん。

駄目だよ女の子が簡単に土下座なんかしちゃ!?

 

「…分かったから顔を上げろ、土下座も止めろ。

全く、お前が天竜人なのか疑問になるな。」

 

「はい…私はこの目のせいで天竜人からも忌み嫌われる身だったもので。天竜人の常識には疎うございます。」

 

オッドアイな。現代なら科学的に解明されてるから不思議な事じゃないが、この世界だと災いの元とか言われてるんだろうか。かの〝独眼竜〟で有名な伊達政宗も、本当はオッドアイを隠すために眼帯してたって説もあるしネ。

うずめちゃん、聖地(向こう)じゃ世間知らずなのか…だから傍若無人じゃなかったのね。本場の連中は傍若無人なんて言葉じゃ済まないケド…

 

「旦那様の為ならば私の持ちうる限りの財産を貢がせて頂きたいのですが…」

 

「要らん、そんなもの私には不要だ。

私は自由に生きられればそれでいい。」

 

皆さんお忘れかと思いますが俺氏、祖龍なので。お金とか権力にはさほど興味が無いゾ。そもそも中将総督で困らないくらいの給料貰ってるしな。

お金要らない宣言に一瞬キョトンとしたうずめちゃんだが、直ぐにほがらかに笑った。

 

「くすっ…このうずめ、ますます旦那様を気に入ってしまいました。聖地ではこんな経験出来ませんでしたし、こんなときめき初めてです。

んふふふ、旦那様の香り…ん〜〜〜…//」

 

ぎゅっと抱き締めてくるうずめちゃんを見てると、妻と夫っていうよりは、親に甘える子供って感じだ。というか抱き着かれるのはイルミーナやテリジアで慣れた。俺氏、パパの素質あるかも。

聖地では嫌われていたみたいだし、うずめちゃん母性に飢えてるのかね。そもそもこの子15歳くらいじゃないのか?

天竜人の世界も大変だね。

この子はちょっと病んでる節があるけど…

 

「……ぷはっ。旦那様成分補給完了です。」

 

「いつから私は謎の元素を発するようになったんだ…」

 

堪能したのか顔を上げるうずめちゃんの表情は恍惚に満ちていた、ちょっと怖い。

 

ん''〜〜ッ!?ン''~ッ!

 

テリジア、ステイステイ…

 

「ところで旦那様。明日のご予定はございますか?」

 

「いや、明日は非番だが…」

 

つい正直に言ってしまった。

するとうずめちゃんは小悪魔っぽい笑みを浮かべて…

 

「なら…デートに行きませんか?」

 

こんな事を言ってきたのだった。

 

 

 

 

 

 

「若、おかえり。

七武海招集どうだった?」

 

「ああ、概ね問題無しだ。

部屋にいるから何かあったら呼べ。」

 

「はーい」

 

シュガーにそう言って自室へ向かう、途中グラディウスとラオGに話しかけられ、小話をした後、俺は幹部たちの集まる自室の扉を開けた。

 

「………帰ったか、ドフィ。」

 

「んねー、初めての七武海招集どうだった?!?んね?ね?」

 

「近ぇぞトレーボル…」

 

いつも通り鬱陶しいトレーボルを押しのけて、俺は椅子へ座った。

 

今日はトレーボル、ピーカ、ディアマンテの3人を集めて今後についての話し合いの日だ。

 

「予定通り俺は七武海になった。

モネの姿は見えなかったが、定時報告じゃ異常なしと言っていたから海軍に不審な動きはないだろう。」

 

ヴェルゴの侵入がバレてから、海軍のスパイ対策は一層厳しくなった。訓練生も全て身元を洗っているらしい、監視が厳しくなるギリギリの期間にモネを滑り込ませて正解だったな…

 

「これで俺たち、つる中将から追いかけられる事も無くなったってワケだ。」

 

「…あァ、そうだな。」

 

実はそれも七武海に入った理由の一つとも言える。あの海軍の重鎮から追いかけられてちゃ本来の仕事が出来ねぇからな。

 

「ん?ドフィ、浮かない顔だな。

これで計画通り〝国盗り〟を始められるだろう?」

 

「その通りだ、ベビー5も上手く王宮へ潜り込んで情報を流してくれてる。

ドフィの言ってた珍しい悪魔の実もシュガーに食わせたし、準備は万端だ。」

 

「だな、せめてモネがもう少し出世してくれてりゃ海軍の手回しも楽になるが…過ぎたことは仕方ねーよ。んねー。」

 

贅沢は言えない。それにこれから控えるビジネスにも海軍の目があっちゃ困るんだ、内通者が1人でもいれば安心して商売を続けられる。

 

「後に控えるデカいヤマの為に、国盗りは通過点でしかねぇ。迅速に、正確に終わらせようぜ。」

 

「「「ああ(んねー)」」」

 

ただ今日の招集で気になったのはあのミラとかいう女だ。中将総督とかいう特別な地位に就き、裏世界のツテを使っても微塵も情報が出てこなかったのが不安の種だ。女だからと舐めていたがあの時、一瞬だけだがあの女から凄まじいプレッシャーを感じ、表情を崩さないようにするので精一杯だった。

まるであの白い女に出会った時と同じような…身体の底から震え上がるような感覚。絶望的な敗北感、正直思い出したくない。

モネからの情報によればあの時俺達を凍らせた女が噂の大将白蛇らしい。やはり大将ともなると力は別格か…相手にするには俺も〝覚醒〟が必要になるだろう。早く完全に制御できるようにならなきゃな。

 

「時期を見てモネから合図が来たら国盗りを始める、ベビー5にも連絡しとけ。

…ところで、新しく入ったデリンジャーはどうだ?使えそうかディアマンテ。」

 

「確か闘魚の魚人だったか?流石は魚人は力が強え、まだちっこいがラオGに鍛えさせりゃそれなりに使えるようになるだろ。」

 

「新入りが気になるのか、ドフィ。」

 

「ああ勿論だよ、ガキなら尚更だ。

きちんと教育して俺の優秀な〝駒〟として働いて貰わねえとなぁ…フッフッフッフ…」

 

 

 

若干の不安要素はあるが、これからが楽しみだ。




なんとか間に合ったア!

あ、この時点では
ドフラミンゴは大将白蛇をレムだと思い込んでおり、ロシナンテの事もあの時ミニオン島で死んだものと思っています。
そしてモネには「スパイとして侵入していた先駆者がいた」程度にしか話していないので、モネはロシナンテがドフラミンゴの兄弟だとしりませんし、海軍(主にセンゴクとミラ含む上層部)はロシナンテのドンキホーテという姓を全力で隠しています。ロシナンテ本人にも潜入任務時の記憶が無く、ドレスローザ乗っ取り計画も忘れてモネといい雰囲気になってます。
そしてスーツ無しでお忍び+電話越しだった為ハンコック発狂は回避、ドフラミンゴは気づいてましたが中将総督の前で波風立てるのは不味いと判断し静観。くま、ミホーク、クロコダイルの初期メンバーは「知らん女いるけどいつもの事か」程度にしか思ってません。ジンベエおいてけぼり…


ドレスローザはドフラミンゴに乗っ取られないと後に書こうと思っている話が続かないのでスカーレットさんやキュロスおじさんには尊い犠牲になってもらいます。哀れドレスローザ…

クロコダイルとミラのエピソードは…いつか必ずリベンジしますので今回は触りだけ。作者はワンピース都市伝説とか信じちゃう質なので今作のクロコダイルは女性(だいたいミラ)に辛辣です。
中身男のミラ、元女のクロコダイル…わりといいコンビだと思うんですけどね。活躍させるのは別の機会に。

うずめちゃんの相棒、ヤタガラスの登場も次回に持ち越します、過去の過去話も少々。

他、この作品で分からない独自設定等があればご都合主義ばりに回答しますので感想欄にでも気軽にお書き下さい。作者のガバガバ設定でよければご説明致しますので。

来週は土曜日仕事なので更新はキツイかな…2週間以内が目標です。よろしくお願いします。

次回、シャボンの遊園地、デートと奴隷と冥王と


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41 祖龍(モドキ)、デートする

「またアマテラス宮が奴隷を逃がしたえ!」

 

「その目だ、その色の違う目がお前や周りをおかしくするんだえ!」

 

「気持ち悪い…私の子供に近寄るなアマス!」

 

心無い罵倒、繰り返される罵詈雑言、時には石も投げられた。私にとって聖地とは、巨大な〝檻〟と変わらない。

気持ち悪い人の形をした何かが蠢いていて毎日私を攻撃してくる。

創造主の子孫?馬鹿馬鹿しい、ここに居るのはただの人。人間である事を否定したいだけの無様な人類なのに。

 

「アマテラス宮……いや、うずめ。明日からお前は都市部を離れ、わちしの所有する別荘に移るのだ。此処に居てはお前の肩身が狭くなろう。それに、わちしの評判も下がってしまう。

決して不自由はさせぬから、どうか納得しておくれ……」

 

決して目を合わさずそう話す父も他人行儀で、どこかで私を遠ざけていた。母はもうこの世にはいない、私を産んですぐ亡くなった。それすらも私を貶める為の口実にされる。

 

私を産んだからお母様は呪われて死んでしまったんだって

 

その瞳には悪魔が宿っているんだって

 

天竜人の恥晒しだって

 

毎晩部屋の隅ですすり泣いていた。

お父様から昔言われたの、「悪い事をすると〝D〟に食われてしまうぞ」って。私はなんにも悪い事なんてしていないのに、どうしてこんな目に遭わなきゃいけないの?

Dが何なのか、聞いてもお父様は決して答えてはくれなかったけど、こんな生活が続くなら、いっそ食べられて死んでしまった方が世の為になる。そう本気で考えていた。

 

別荘での隔離生活、話し相手は護衛のステューシーとヤタガラスだけ。

有り余る財産と数人の護衛に囲まれながら数年過ごした。奴隷も買う気なんてなかったし、時々見える()()()を見ながら、ただぼんやりと生きてきた。

 

空から赤い光が落ちてきて、大地が抉られる夢を見た。

 

肌の色が私たちとは違う、大きな人が市街地を暴れ回り、天竜人達を殺していく夢も見た。

 

私の見聞色は人とは色々違うみたい、だから誰にも言えなかった。これ以上異端者(ばけもの)だと思われるのは嫌だったから…

 

 

でも、彼女なら私を受け入れてくれる。否定され続けてきた人生で、あんなに親切にされたのは初めてだった、時折見せる彼女の笑顔に心が震えた。朝日に照らされるように、凍りついた私の心を溶かしてくれるあの人こそ、私の運命の人。

……人?彼女は人なの?

一瞬だけ疑問に思ったけど、それもスグに掻き消えた。

貴女の為ならどんな障害も乗り越えてみせる、どんな敵でも排除する、それがたとえ世界貴族だろうとなんだろうと、皆殺しにして貴女の前に立つ。

 

だいすきです、旦那様。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う〜…書類重かったよー…」

 

なんて愚痴を零しながら海軍本部の廊下を歩く。新入りの雑用係である私は、さっきまでずっと大量の書類をセンゴク大将の執務室からガープ中将の執務室まで何度も往復して運び続けていた。

どうやらまたガープ中将はサボって何処かに行っちゃったらしい、偉い人って自由なんだね。

他の雑用の子は皆別の事に駆り出されてたから、私1人で全部運ぶ羽目になってしまった。おかげで腰がちょっと痛い、この若さで腰痛持ちとかシャレにならないよ…

 

でも、立派な海兵になる為には小さな事からコツコツとやっていくしかない。特に私みたいな大した実力もない下っ端なら尚更だ。偉い人に信頼されれば出世のチャンスも回って来るだろうしね!でも…サカズキ中将の所だけはちょっと遠慮したいかな……顔怖いし…

 

「まだまだ…頑張れ私…!」

 

海兵としてはまだまだ未熟な雑用係である私だけど、いつか憧れのミラ中将みたいなカッコいい将校になりたいな!

 

「…きゃっ!?」 ドンッ

 

「んっ」

 

気を取り直して廊下の曲がり角を曲がった時、どんっと誰かにぶつかった。その勢いのまま床に尻餅を着いちゃった。

 

「わあああごめんなさいごめんなさい!ボーッとしてましたぁ!」

 

あわわわわ不味い不味い!

曲がり角でぶつかったとか注意散漫かよ私!?取り敢えず謝っておかないとー!

 

「いや、こちらこそ。

君は…雑用係の子だな、怪我はないか?」

 

「いえ…痛い所はありまs……ヴァッ!?」

 

「…?」

 

一瞬、時が止まった。

ぶつかったのは本部じゃ見たことも無い男の人。

白亜に近い白い髪、紅色の瞳に凛々しいお顔…ていうか…

 

滅茶苦茶イケメンじゃないですかあああああ!?

 

その微笑みに脳がショートしそうになった、彼の後ろがキラキラ煌めいていて、思わず見蕩れてしまう。

やっと手を差し伸べられているのに気づいて慌ててその手を取った。やばい、今日はもう手洗わない。

 

「…大丈夫か?顔が真っ赤だぞ?」

 

「だだだ大丈夫ですももも問題ありません!」

 

「そうか、良かった。お互い廊下は気を付けような。じゃあ…」

 

そう言って颯爽と彼は去っていった。

 

暫く廊下で呆然と立ち尽くす私。他の雑用係の子に話しかけられるまで、私は固まったままだった。

この『海軍本部に現れる謎のイケメンX』は後に海軍本部七不思議の一つとして多くの海兵に語られるようになる。

 

 

 

 

 

 

我、祖龍。天竜人とデートなう、と。

心のTw〇tterに書き込んでおいた。

 

場所はシャボンディ諸島内、シャボンディパークの前でございます。

いつものスーツ姿とは違い、今日はタキシードでキメておる訳ですが、サラシ巻いてるから胸がキツイ…

何故俺氏が男装せにゃならなくなったのかというと、マトモな天竜人ことうずめちゃんとのデートがあるからだ。護衛も兼ねてるので俺氏も変装する事にした結果、男装まがいの格好で本日を迎える事になった。

服を設えたテリジアが鼻血を垂らしながら「ヤヴァイ…ヤヴァイですわ…お姉様イケメン過ぎません…?死人が出ますわよ……写真写真…」とかボソボソ言ってるのが聞こえたけどもう気にしないでおこう。いろいろ諦めた。

 

「お待たせ致しました、旦那様。」

 

ふと、声がしたので前を向く。

そこには昨日とは違い、大きな帽子にフリルをあしらったワンピース姿ののうずめちゃんが、ちょっぴりおどおどしながら立っていた。

 

「す…すみません…ステューシーから色々聞いて準備したのですが、和服以外これしか無くて…」

 

「いえ、大変似合ってますよ。」

 

「…ありがとうございます。

敬語は結構ですよ、旦那様と私の仲ではないですか。私のことは気軽にうずめとお呼び下さい。うふふふふふふ…」

 

「…ああ分かった、じゃあ行こうか。うずめ。」

 

「うふふふふふふ…♡」

 

一瞬だけ照れたみたいだけどすぐにいつもの調子に戻り、喜んでいるのかどんどん瞳のハイライトが消えてくうずめちゃんが若干怖くなったのでさっさと入場券買って入りましょうかねー!

因みに片腕は万力みたいな力でうずめちゃんに固定されてますハイ。

 

 

 

 

2人がシャボンディパークへ入っていくのを、物陰から覗く者達がいた。

サングラスで素顔を隠しているつもりなのだろうか、ステューシーとテリジア、イルミーナ、そして半ば無理やり連れてこられたガスパーデ、ゾルダン、ロシナンテの6名である。

 

因みに近場の波止場にはミラ中将の蒸気船が停めてあり、そちらではレムやアンを始めとしたクルー達が待機していた。お忍びとはいえ天竜人の来訪である、当然の如く厳戒態勢だった。

 

「(特に今回のように天竜人の証であるスーツも着ずにお出かけとなると…人攫いに拉致される危険もある。万一アマテラス宮様に危険が及ぶような事になったら…せっかく得た信頼と出世のチャンスがフイになってしまうわ!?それだけはなんとしても避けないと…!!)」

 

ましてや天竜人に復讐したい人間など星の数ほど存在している。彼女程の美少女が天竜人に恨みを持つ人間に捕まってしまったら…それは流石に同じ女性として看過できない。天竜人を恨むのは勝手だが、奴隷すら買ったことのないアマテラス宮自身には何の非も無いのだから。

 

「お2人が園内に入っていきます、追いますよ皆様!」

 

「付き人がやる気満々なんだが」

 

「文句言うんじゃありませんガスパーデ、それでもお姉様の下僕ですか。

私だって…おねえさまとキャッキャウフフイチャイチャズルズルレロレロしたかったですわ…」

 

「よーしアンタを今すぐ憲兵のとこへ引っ張ってやる。あと誰が下僕だ。」

 

「HA☆NA☆SE!!!」

 

「ろしー、なんで耳塞ぐの?」

 

「イルミーナちゃんは聞かなくてもいい事だからだよ。」

 

「男装されたミラ中将……なんと凛々しい…アリだな…」

 

「一人で来ればよかった…」

 

個性豊かでは済まない曲者揃いの仲間を連れながら、ミラ達を追うようにステューシー達もシャボンディパークへ足を踏み入れた。

 

 

 

 

シャボンディパークは、恐らくは偉大なる航路前半では最大の娯楽施設である。敷地面積はシャボンディ諸島の巨大マングローブ二つ分に跨ぐ程大きく、大観覧車を始めとするアトラクションの数々は子供だけならず大人までも魅了し、諸島に訪れた者達がこぞって足を踏み入れる有名な観光スポットだ。利用者の中には観光客のみならず、二度三度と此処を訪れるリピーターも多いと聞く。

しかしその栄光の裏には、人攫いを行う絶好のポイントという陰が潜んでいた。気分が浮かれて気付いたら子供が消えて、人攫いに攫われていたなど、海賊や人攫いを生業とする者達からすればかなり都合のいい場所でもある。

また、シャボンディ諸島より海底一万メートルにある魚人の故郷『魚人島』でもシャボンディパークに憧れ、こっそりやってくる者もいる為、格好の標的となっていた。

 

そんなことはつゆ知らず、ミラとうずめはシャボンディパークを満喫している。

 

ある時は

 

「ひゃああああああああああああああッ!?!?」

 

「おー凄い速いなー。」

 

ジェットコースターを満喫し、またある時は

 

ヒュ〜ドロドロドロ…

 

「きゃあああ旦那様コワーイ♪」

 

「いや満面の笑みで抱き着かれても…絶対平気だろお前。」

 

お化け屋敷を満喫し、二人は時間も忘れ、純粋に遊園地を楽しんでいた。その後、流石に脚が疲れたのか、うずめの要望により園内のカフェテリアで休憩を取ることになった。

 

「はーいお待たせしました、ドリンクとランチでーす。」

 

「ああご苦労様…て、なんだこのグラスは…」

 

「はいー、そちらのお客様のご要望で、カップル専用グラスとなっておりますー。」

 

そう言ってサンバイザーを被った店員は笑顔で去っていく。

 

ミラとうずめが挟む机に置かれたのは、一個のグラスにストローが二本入ったドリンクだ。それもハート型になるようにストローの形が曲げてある。

ミラの顔がちょっと引き攣ったが、うずめは相変わらずニコニコしながら店員に御礼を言い、躊躇いもなく片方のストローに口をつけた。

 

「うふふふ…旦那様もどうぞ。美味しいですよ?」

 

「う…まあ、これも仕方ないか…デートだもんな、デート…」

 

二人で飲み物を吸うとストローの中を伝ってピンクのハートマークができるような仕組みになっている。

 

困惑しながら飲むミラを見つめながら彼女とは対照的に満面の笑みでドリンクを啜るうずめは幸せそうだ。

 

…傍から見ると馬鹿っプルのそれだが、気にしてはいけない。デートだもの。

 

そんな2人を遠巻きに眺めるのは、ステューシー達だけではなかった。

薄汚い格好で物陰から他の客の目に留まるのを恐れているかのように、まるで品定めするかのような視線で彼女達を見つめてる。

 

「オイ見ろよ。あの女、なかなかの上玉だぜ。」

 

「男のほうもかなりの美形だな、女の買い手が多そうだ…」

 

「げへへ…二人で3000万は固いなァ…

能天気な面してるし、楽勝だろ。」

 

などと卑下た薄ら笑いを浮かべる男達。彼等は人攫いを生業とし、攫った者をヒューマンショップやヒューマンオークションへ売り捌いた金で生計を立てる者達だ。

奴隷は正当な商売で、シャボンディ諸島で人攫いは立派な職業である。故にちゃんと仕事をしている人間を海兵は裁けない。それが人道にもとっていないかはさて置き。

 

「いつものように一人になった所を片方ずつ攫って行くか…それとも「あ、やっぱりいた。」…あん?なンだガキ。」

 

男の言葉を遮ったのはいつの間にか目の前に現れていた銀髪の少女、ただしその身体には狼の尻尾が着いている。長年人攫いを続けている彼等は目の前の少女が〝能力者〟であると一目で判断した。

 

「おじさんたち、こんな所で何やってるの?」

 

無垢な瞳でそう問いかける少女。

悪魔の実の能力者は多少変動はするもののかなりの額で売れることがある。男達は目標をあのカップルから能力者の少女へと変えることにした。

 

「俺たちかい?俺達は…パークの掃除屋さ。だから隅っこの方まで頑張って掃除してんの。」

 

「お嬢ちゃん可愛いね。そんなお客様にはいいものをあげるようにオーナーから言われてるんだ。」

 

「いいもの?」

 

「そうそう、とってもいいものさ。だからおじさん達に付いてきてくれるかな?」

 

ヒュッ ドスッ

 

「…ぇ」

 

そこまで言った男は背中に軽い振動を感じ、体を見下ろした。

 

血まみれの指が心臓から突き出ていた。

 

 

「なっ…ぎゃああああッ!?!?」

 

驚き、痛み。あらん限りの大声で叫ぶも、大通りの誰も反応しない。まるで何も聞こえていないかのように。

やがて血を吐きながら男は身体をビクビクと痙攣させ、死んだ。

 

「なんだ!?どうなってんだ!?」

 

「……………」

 

音がなにも聞こえない。

驚いて隣にいるはずの同僚を見れば、彼は物言わぬ銀の彫刻に成り果てていた。その表情は恐怖で歪み、苦痛が滲み出ているようだ。

 

「うわああああ!?」

 

現状が把握できない。立て続けに殺された後ろの2人を見て、最早少女に構ってられないと路地の奥へと走り出した途端、大きな壁にぶつかった。

 

「なっ…なんだテメェ…」

 

「あー、まあなんだ。ウチの(モン)に目ぇ付けた不幸を呪うこった。死ね。」

 

「あっ…ひっ…ひぎゃあああ…かっ…カッ………」

 

大男が伸ばした手がドロリと溶けて、彼の頭を覆う。当然息が出来ず、苦しみ悶えながら人攫いは皆息を引き取った。

 

「終わったぜ、付き人さんよ。」

 

「ご苦労様です。

彼らの身元は直ぐに割れます、こちらで()()()()()()()()()()にしておきますので悪しからず。」

 

「おー怖ぇ怖ぇ。

ウワサの〝0〟に掛かれば人間の命なんてちっぽけなモンだな。」

 

ガスパーデがおどけてみせるが、ステューシーの表情は厳しいものだ。

 

「我々はこういう時の為の機関ですから。

危機管理能力の無い方々のお守りが…おっと失礼。

まあ、杞憂ですがね。アマテラス宮に限ってはヤタガラスが常時張っています。彼女の身に危険が迫るようなら、彼が対処するでしょう。」

 

「ヤタガラスぅ?」

 

ヤタガラス、と聞きなれない言葉にガスパーデ達は首を傾げている。その中で、ゾルダンだけが淡々と話し始めた。

 

「アマテラス宮の一族が代々所有する専属護衛の事だ。悪魔の実の中でも更に希少なトリトリの実幻獣種、モデル『八咫烏』を食した烏がアマテラス宮を護衛してる。

八咫烏とは3本の脚を持ち、古き神話では太陽の化身とも言われている神鳥の名。私も直接は見た事がないのだが、その力は一国を軽く焼き払うとも伝えられている。」

 

「わたしと一緒?」

 

「そんな馬鹿な、たかが鳥一匹が国を焼き払うとか………いや、あるかもな。」

 

そう言うロシナンテは自分の上司の顔を真っ先に思い出した。

 

「確かに彼女なら島とか余裕で消し飛ばすな…」

 

「そもそもボス何歳だよ、初めて会った時から見た目全く変わってねぇぞ。」

 

「おっとそこまでですわよ下僕共、これ以上乙女の禁則事項に触れるなら私がお姉様に代わって成敗しますわ。」

 

テリジアの目はマジだった。

乙女には決して触れてはならぬ部分がある。

 

「ねえ、みんな。おひめさまとみらは?」

 

イルミーナの言葉で全員がハッと顔を上げた、カフェテリアに座っていた筈の二人の姿がない。

 

「み…見失った!?

まずい…まずいです!ガスパーデ少将、至急待機している海兵達を捜索に出しなさい!ただし女性の隊員は除いて!他にこの島へ来ている天竜人に目を付けられてこれ以上面倒事が増えたら堪りません!」

 

狼狽えながらガスパーデに指示を出し、答えも聞かずステューシーは剃と月歩を使い建物の上へ駆け上がる。そこから目を凝らして園内を見渡しても、アマテラス宮とミラの姿は一向に確認出来なかった。

 

「ポルポ、俺だ。

ボスと護衛対象が消えた、大至急シャボンディ諸島内の全G(グローブ)を班ごとに分かれて捜索しろ。ただし女の隊員は出すんじゃねェぞ。」

 

『了解!

…アンさんとレムさんには伝えましょうか?』

 

「あの2人は報告だけしろ、絶対に出すな。

特にアンの方は寝てたら絶対に起こすなよ!アイツらが出るのは最後の手段なんだからな!」

 

『はい!』

 

荒々しくそう告げて電伝虫を切るガスパーデ。そのままロシナンテ、ゾルダンと共に走っていった。

 

「イルミたん、行きますわよ!」

 

「ん…」

 

テリジアも狼化したイルミーナの背に乗り、途中でステューシーを拾ってからシャボンディパークを飛び去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「失礼致します。」

 

「………」

 

ここはミラの蒸気船の中。ノックをし、女性の海兵がお茶とクッキーを持って二人の下へと入室した。

 

「お茶とお菓子をお持ちしました。どうぞ。」

 

「……そう。」

 

部屋の中は静かにページをめくる音と、すうすうと寝息が聞こえている。

 

机で分厚い本を読む白髪の女性、レムは海兵に短くそう答え、再び本に目を落とした。

そんな彼女に少しもじもじしながら海兵は問う。

 

「あの…レムさん。少しだけ見てもいいですか?」

 

「黙認。好きにすればいい、但し起こさないようにして。寝起きは特に機嫌が悪いから。」

 

何を見てもいいのか、許可を貰った海兵はぱあっと明るい笑顔になり、この時の為だけに会得した剃(忍び足Ver.)で起こさないようにそろりそろりと部屋の奥、カーテンで仕切られた彼女の昼寝部屋に忍び寄る。

そして仕切られたカーテンをほんの少しだけそっと開け、それを眺めた。

 

丁度人一人が寝ころべる程大きなクッションの上で、まるで猫のように丸まって気持ちよさそうに寝息を立てるパジャマ姿のアンを。

 

瞬間 心 弾ける

 

「(ぐっはああああああなんて破壊力ゥ!?普段のガサツな態度の裏にこんな安らかな表情でお昼寝してるアン料理長…最高に可愛いぃぃぃぃ!!)」

 

どんどん表情が緩んでいく。

かなり興奮しているのか、彼女の鼻からたらりと赤い物が垂れ始め、床を汚すまいと慌ててポケットティッシュを鼻に詰めた。

 

「(キラキラ光る金髪にパジャマ越しでも分かる黄金比で整った美しい肉体、頭の上から尻尾の先まで全てが完璧!あの海賊女帝すら霞むその寝姿はまさにパーフェクト!パーフェクトよウォルター!…ウォルターって誰?まあいいわ!それよりも早くこの桃源郷をフィルムに収めて…駄目よ駄目駄目こんな所でカメラのフラッシュなんて焚いたら料理長が起きてしまうわそうなったら最悪じゃないでも彼女に殺されるなら私も本望いやいや駄目よ命あっての物種だものそうだわ今はこの目に焼き付けておきましょうそうしましょうあああああああああ料理長可愛い可愛い可愛い可愛い可愛いぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!)」

 

「ん…」

 

「ッッッ!?!?」

 

もぞりと身体を動かすアンに一瞬起きたのかとドキリとしたが、再び寝息を立て始めた。どうやら杞憂だったようだ。

 

「…んぅ……ん…」

 

「(ふぉぉぉぉぉぉぉぉ起きたかと思ったぁぁぁぁぁ!?でもこのスリルが堪らないのぉぉぉぉぉ…)」

 

 

そんなことを高速で思考しながらアンの寝姿を堪能した海兵は、何事も無かったかのように無音でカーテンを閉め、レムに挨拶をして出ていった。

 

「(ふぅ…ミラ派とレム派の皆には悪いけど、やっぱり私はアン料理長が至高だわ。ガサツな性格の中に時折見せる可愛い一面、特に料理上手のギャップが堪らなく愛くるしい…くふふふふ//推しの寝てるクッションになりたい(切実)。司教の次の作品に期待しましょう…)」

司教の次の作品に期待しましょう…)」

 

まるで悟りを開いたかのように晴れ晴れとした表情で二人の船室を後にする。

そんな時、同僚のポルポ曹長とすれ違った。

 

「どうしたのポルポ、そんなに急いで。」

 

「レティ曹長か。ガスパーデ少将からシャボンディ諸島へ捜索命令が出たんだ。それと女性陣は危ないから船で待機してろってさ。それをレムさんとアンさんへ通達に…」

 

そこまで言ってポルポはがしっと両肩をレティに掴まれ、清々しい程の笑顔を見せる彼女にこう言われた。

 

「待ちなさい、その報告私がやるわ。貴方は出撃準備をしておきなさい、面倒な伝達は私に任せて。」

 

「え…でも…」

 

「 い い か ら 」

 

「わ、分かった頼む!

俺は男どもを掻き集めてくるよ。」

 

レティの鬼気迫る笑顔に気圧されたのか、ポルポは伝達を彼女に任せ去ってく。彼の姿が見えなくなった頃、レティは無言で渾身のガッツポーズをかました。

 

「(くっふ〜〜〜ッ!!!//もう1回料理長の寝顔見られるううううううッ!!)」

 

彼女はスキップしながら再び船室へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………美味しい。」

 

 

部屋の外でそんなやり取りが行われているのも知らず、レティの置いていったクッキーを咀嚼しながらレムは静かに呟いた。

 

海軍は今日も平和である

 

 

 

 

 

 

と、いうわけで。ガスパーデ達はシャボンディパークから離れていった訳なんだが…

 

「どういう事だうずめ、わざわざこっそり付いてきている護衛を撒くなんて。」

 

「全て計画通りです。うふふふふ…」

 

今俺達がいる場所はカフェテリアの室内トイレの中、わざわざ目を盗んで入ったからあいつらは俺達が消えたと思っているだろう。

勿論便座は一つしかないので便器に座る俺氏の膝にちょこんとうずめちゃんが座ってるわけだが…

 

「……少し、私のお話をしましょう。

実は私、未来が見えるのです。」

 

そういう痛い子いるいる

 

「そのお顔は信用してませんね?

まあ未来が見えるといっても、夢の中です。見聞色の覇気、とも言うそうなのですが、私のそれは鍛錬して会得するものではなく、先天的に与えられていたものらしいです。」

 

マリージョアの一部が崩落するのも、魚人の方が聖地で暴れ回るのも、夢で見ました。と説明してくれるうずめちゃん。

俺氏そういうスピリチュアルなのは分かんないなー、美輪〇宏でも連れてこいっつの。

 

「ですがそれもつい先日まで何故か見えなかったのですが、旦那様と出会った昨日の夜、久しぶりに見たのです。その内容をお伝えしたくて。

………今日、恐らくはこのシャボンディ諸島の何処かで、天竜人が死にます。」

 

とんでもねえ爆弾発言かまされたでござる。

 

「死ぬのか。」

 

「死にます。

人数までは分かりません、その中に私が含まれているのかも分かりません。見えたのは断片的でしたので。

ですが旦那様とのデートを取り付けた矢先にこんな不吉な夢を見て…私、怖くて…」

 

膝の上で小さく震えるうずめちゃん。これだけ本気で怯えているという事は、あながち妄言ってわけじゃないのだろう。

 

「なら私との約束など取りやめてしまえば良かったのに、聖地にいれば安全だったんだろう?」

 

「いえ、だからこそです。私の見た夢は断片的ですが旦那様が一度も出てこなかった。なのでこうして旦那様と一緒に居れば未来に何かしら変化があるのかも、と思いました。」

 

「夢の出来事なのによく覚えてるな…」

 

「旦那様のお顔を私が見逃す筈ありませんから♡」

 

「ソウダネー」

 

冗談はおいといて。うずめちゃんは本気で自分の夢が未来に起こる現実だと思っているようだ。見聞色の覇気を利用した予知夢みたいなものだろう。

もっとも、先天的な物なので本人にも制御が利かないらしい。

天竜人が死ぬのはぶっちゃけ知ったこっちゃないが、その中にうずめちゃんが含まれているなら人として黙っている訳にはいかないよネ。

 

「で、見た夢の中で他に印象的なものは覚えているのか?

少しでも分かればそのシーンが来た時護りやすいんだが。」

 

「そうですね……ヒューマンショップ…初老の男性…赤い髪……あと…悪魔。」

 

「本当に断片的だな…」

 

ヒューマンショップが出てくるという事は奴隷に関係する事なんだろうな。

初老の男性に悪魔って…

 

「その男性が悪魔…何かの実の能力者かもな。」

 

「その方が天竜人の命を狙っている、というのが大体の仮説になりますね。」

 

正直奴隷自体が厄ネタ過ぎて人が死ぬ気配しかしないんだが。

 

「有り得るとすれば海賊の襲撃か?

この時期は偉大なる航路前半のルーキー達がログを辿ってシャボンディ諸島へ集まってくる。少し前に調べた時は確か…億越えは3人程度だった筈だ。」

 

「『首斬りソレイユ』、『悪食ビルマ』、『簒奪仮面ドンドルマン』でしたっけ。」

 

「よく知っているな。ソレイユは1億5000万、ビルマは2億、ドンドルマンは1億8000万だったか。」

 

「ステューシーに頼んで世界経済新聞なども時折読んでおりますので多少は。

旦那様の海兵としての意見をお聞かせください。」

 

「一番懸賞金の高いビルマは癇癪を起こして街を壊滅させる程気性が荒い。奴等も充分理解しているだろうが、衝動的に天竜人を殺ってしまう可能性があるな。

ドンドルマンは金持ちの貴族ばかりを狙って金品を奪う悪党だ。へんてこりんなマスクで常に顔を隠し、素顔は誰にも分からない。狡猾で海兵相手に平気で一般人を人質に取るし、天竜人の金を狙って拉致する可能性もありうる。

ソレイユは…これと言って話は聞かないな。実力は確かなようだが…」

 

並大抵の海賊は大将の報復を恐れているので無闇に天竜人へ手を出したりはしない。だがしかし、億越えともなるとその残虐性や人格破綻っぷりは他の海賊とも一線を画してる。それが実力者ならなおのこと面倒臭い。

その点においてビルマとドンドルマンは立派な外道(キ〇ガイ)の分類に入るだろう、それか何も知らずに天竜人に手を出すかもしれない。そうなったらアウトだ。

センゴクさんの仕事と胃がマッハですはい。

そもそも表向きはセンゴクさんしか大将が居ないので大将不在のまま本部を留守にする訳にもいかない。天竜人の些末事の為に一々シャボンディ諸島まで来られるかってーの。

 

あ、白蛇がいるだろって?

白蛇はホラ、天竜人とは極力無縁でいたいからさ。うずめちゃんと出会った時点で詰んでるかもだが…

 

「では参りましょう、いつまでもお手洗いに篭っている訳にもいきませんし。せっかく旦那様と密着しているのに離れるのは名残惜しいですが…」

 

「はいはい、さっさと行くぞ。

まずは老人と赤髪の男ってのを探す、そいつ等が例の悪魔に繋がる〝鍵〟になるだろう。」

 

「はい、顔を見ればピンとくる筈です。」

 

ヒューマンショップとオークション会場を重点的に探せばその老人と赤髪の男ってのも見つかるだろう。道中で他の天竜人に出会わない事を祈りながら俺達はカフェテリアのトイレを後にした。

 

 

……個室の中から2人で出てきた所を店員に目撃されてちょっと引かれてしまった。違うんや、いかがわしい事なんて何もしてないんや…堪忍やで…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シャボンディ諸島、何処かにて

 

「お頭ぁ、この辺に船を停めるぞ。」

 

「ああ、此処ならマングローブの陰に隠れて見えづらいし問題無いだろ。

久しぶりのシャボンディ諸島だ。野郎共、酒をたんまり買い込んどけよ?」

 

「「「勿論でさァ!」」」

 

「じゃあ俺は知り合いのコーティング職人の所へ行くから船番を頼むぜ副船長。」

 

「…オイオイお頭。護衛もなしに街を彷徨こうってのか?」

 

「ハッハッハ!大丈夫大丈夫!」

 

煙草を吹かす渋めの副船長から注意を受けた彼は、片手でひらひら手を振り笑う。腰には一本の剣のみ携えた、海賊としては余りにも軽装備で。

そんな彼をクルー達は止めることもなく、笑いながら見送った。

 

「全くお頭ときたら…自分がどんだけデケェ存在なのか忘れてねェか?」

 

「いつもの事だ、諦めろ!」

 

そう言い切った肉を咀嚼する太めのクルーに釣られるようにギャハハハハ!と笑う男達。それ程彼は仲間から信頼されているという事だ。

 

 

 

 

 

「さて、レイさん元気にしてるかなァ…」

 

ヤルキマン・マングローブの湿った木の根を踏みながら、赤髪隻腕の男は心底楽しそうに呟いたのだった。

 

 

 

はるか上空、高くそびえるヤルキマン・マングローブの枝の先。3本の脚を持った不思議な烏はその光景を見るなり一鳴きし、枝から飛び去った。







書きたいこと考えながら書いてたら予定よりも天竜人編長くなりそうです、あと2、3話くらい続くかも…

次回、人攫いは犯罪です


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原作開始 エニエス・ロビー編
??話 それは、海軍の死神で




ふふ、おひさ…

今回は今やってるシャボンディ諸島デート編は置いといて、間の期間に書いた少し未来のお話を投稿します。
これもそれも話が進まない原作が悪い(現実逃避)

ミラが居ることによって未来が若干変わってる描写がありますんでご了承ください。
2話ほどでもとのデート編に戻ります。



 

いつからだろうか、その噂が流れるようになったのは。

 

「海軍将校には、高額賞金首を次々抹殺していく海の処刑人が居る。」

 

曰く、その姿を見て生きて帰った海賊はただの1人もいないらしい。

 

「海軍食堂には多くの海兵の舌を唸らせる伝説の料理人が居る。」

 

曰く、各国要人や世界貴族さえその味を求め、海軍から引き抜こうと画策していると。

 

「どんな病も怪しい薬で治してしまう医学の天才が、海軍本部医療班に在籍している。」

 

曰く、瀕死の重傷を負った海兵がその手当を受け、翌日には元気に外を跳ね回っていたらしい。

 

「海軍には、過去から在籍しているにも関わらず、外見が一切変わらない超絶美女が居る。」

 

「海軍には、時折夜霧に紛れて巨大な狼が現れる。」

 

「海軍には、遥か遠い軍事大国の姫君が雑用係として在籍している。」

 

「天竜人と繋がりをもつ海軍将校が、裏で世界を操っている。」

 

海軍には、海軍には、海軍には…

 

世界規模の巨大機関にして、正義の大砦〝海軍本部〟。

拠点を構える偉大なる航路前半のみならず、〝新世界〟、更には東西南北全ての海に支部が配置されるこの巨大組織には謎も多く、数々の都市伝説が残されていた。

入ったばかりの若い海兵達は皆、こういった根も葉もない噂を上官達に聞かされながら育っていく。また聞いた彼等もその次の世代へ話を受け継いでいく。そうして伝言ゲームの様に噂は広まり、かつあやふやになっていった。

 

その中の一つに、〝大将白蛇〟という名がある。海兵なら聞けば誰もが憧れ、海賊ならば恐怖するその名は、同じく三大将である赤犬、黄猿、青雉と並ぶ海軍本部の裏の顔。

決して姿を表に出さず、顔も本名も性別すら不明。その実力は他の大将を上回り、数多の海賊達を葬り去って、挙句四皇の1人と戦い打ち勝った無貌の大将。そんなお伽噺のヒーローの様な存在、正義の象徴とも言えるような海兵が、海軍本部にはいる、と。

 

 

 

「そんな全海兵憧れの存在が、此処に居るんですよ。ヘルメッポさん!それが海軍本部なんです!」

 

「分かった!分かったから!

もうその話は耳にタコが出来るほど聞いたぜコビー、いい加減静かにメシを食わせてくれ!」

 

海軍本部、大食堂。多くの海兵達の憩いの場は、日々多忙な海兵達にとって、つかの間の休息を得る場所でもある。そんな広い食堂の一角で、トレイを持って列に並ぶ男達がいた。

 

コビー曹長とヘルメッポ軍曹。

他ならぬ『海軍の英雄』ことガープ中将に見出され、雑用係の身から本部へと栄転した後、弛まぬ向上心と飽くなき鍛錬が実を結び、たった数ヶ月で異例の昇進を果たした、海軍でも密かに期待される新人海兵だ。

 

「どんな方なんでしょう、大将白蛇…

一目でいいからお会いしたいです、ヘルメッポさんは興味ないんですか?」

 

「そりゃまあ…親父も散々語ってたしな、『俺はあの白蛇と一緒に仕事をした事があるんだ。』ってよ。

東の海(イーストブルー)に七武海を派遣したのも元はと言えば白蛇の指示だったって話だし、俺としちゃあ礼の一言も言っておきたいが…」

 

ヘルメッポは元はと言えば東の海に位置する海軍支部、その長官だったモーガン大佐の一人息子だった。

高慢で自己顕示欲が強く、島民を虐げていたモーガンに影響されて悪ガキに育ったヘルメッポだったが、とある海賊と、その仲間達、並びにそれを支援する七武海の一人により地位やプライドその他諸々を木っ端微塵に打ち砕かれ、 改心し、巡り巡ってコビーと共に海兵を目指す事となったのだ。

 

「あの麦わら野郎に海賊狩り、いつか必ず俺がとっ捕えてやるんだ。ひぇっひぇっひぇっ!」

 

「ルフィさんやゾロさんを…」

 

「それに散々馬鹿にしてきやがったあのテゾーロとかいう七武海!アイツも今に見ていやがれ!」

 

「凄く強い人だったね、テゾーロさん。七武海だってのを隠してたのには驚いたけど…」

 

思い出すのはピンクの派手なスーツに黄金のネクタイ、左手薬指以外に黄金のリングをはめ、いい年こいて自身をエンターテイナーと名乗るお調子者の姿。黄金を操る彼の前に、モーガンの私兵達は次々と退治されていった。

そしてルフィとゾロの即席合体技により、モーガンとヘルメッポは海軍支部ごと吹き飛ばされ、御用となった。

 

「アレが七武海の強さだ、俺達はそれを超えなきゃならねえ。」

 

「分かってるよヘルメッポさん。その為に、今まで鍛えて貰ったんだ。」

 

「それに強くなればアイン教官も俺の事を見直して…」

 

「どうしたのヘルメッポさん、何か言った?」

 

「言ってねぇ!言ってねェよ!?」

 

ワタワタしながら慌てているヘルメッポを見ながら首を傾げるコビー、そんな2人の後ろから不意に声が掛かる。

 

「昼間から元気だなお前達は。」

 

「「じ、ジェイク教官!?」」

 

途端に2人が姿勢を正す、見上げる先には父親譲りの紫髪にサングラスが印象的な男性の姿があった。

 

「2人ともそう固くなるなよ、俺達も昼飯を食べに来たんだ。

良かったら一緒にどうだ、アインもビンズも構わねぇよな?」

 

「賛成、一緒に食べましょ。」

 

「昼餉は賑やかな方がいいでゴザル、拙者も賛成に一票。」

 

ジェイクの後ろからアインとビンズも顔を出し、賛同の意を示す。

 

「ぼ、僕達で良ければ喜んで!」

 

「よよよよよよよ宜しくお願いしますジェイク少将!」

 

「ヘルメッポの顔が普段の三倍面白くなってるんだけど本当に大丈夫か?」

 

「大丈夫?医務室まで連れて行こうか?」

 

「もっ!問題!無いですッアイン准将!

健康そのものなんデ!!」

 

「そう…気分が悪くなったら言ってね?」

 

「ファイッ!」

 

「青春でゴザルなぁ…」

 

アインを見るなり挙動不審になるヘルメッポを見ながら、ビンズは密かに呟いた。

 

コビーとヘルメッポが3人を教官と呼ぶ理由、それは海軍本部へ栄転した後、ガープの命令で彼らに稽古を付けていたのが、教導隊に所属するジェイク、アイン、ビンズの3人だったからだ。

ジェイクは近接格闘術、並びに六式を。アインは射撃と航海術を、ビンズは剣術を、それぞれコビー達に教え込んだ。2人が早期に昇進できたのも彼等の教えがあってこそである。

 

 

 

 

 

☆ーーーーーーーーーー☆

 

厨房内

 

「お前等手ェ動かせオラァ!そんな舐めた手際じゃ総料理長に燃やされるぞォッ!!」

 

「「「「ウッス!」」」」

 

「返事が小せぇ!」

 

「「「「「オイーッス!!」」」」」

 

☆ーーーーーーーーーー☆

 

 

 

 

厨房からは料理に精を出す男達の雄叫びにも似た怒声が響く。

コビー達5人は頼んだ料理をそれぞれ持ち、食堂の空いた席に座り、昼食に舌鼓を打っていた。

 

「今日も厨房は大忙しね。」

 

「あの…アイン准将、厨房の人達が言ってる『総料理長』って誰なんですか?

いつも不在で名前だけ出てくるから気になってしまって…」

 

「総料理長?そうねぇ、あの人は気まぐれだから…ねえジェイク、彼女はどうしてた?」

 

「アンさんか?確かエニエス・ロビーで先月会ったな。一応あの人の勤め先は彼処の筈だ。」

 

アンさん、と聞き覚えのない単語にコビーは内心疑問を感じた。

 

「アン、という方なのですか。総料理長というのは。」

 

「ああ、昔は食堂が人手不足でな。助っ人代わりにアンさんが入ってるうちにそう呼ばれるようになったんだ。」

 

海軍本部で密かに語り継がれる伝説の料理人の話を、コビーが詳しく聞こうとしたその時、大きな声が食堂に響いた。

 

「おういコビーにヘルメッポ!出立の準備をせい!ウォーターセブンまで向かうぞ!」

 

急な大声に食堂は一瞬静まり返り、皆が声の主を探して視線を動かす。

その先に居たのは、海軍の英雄とも呼ばれる男、モンキー・D・ガープの姿があった。

 

「「ガープ中将!?」」

 

「どうも、ガープさん。この2人にご用で?」

 

「おおジェイク、それにアインとビンズもおるのう!」

 

がははと大きく笑うガープ、その体躯には年齢に見合わぬパワーが秘められており、拳骨で山をも砕くともっぱらの噂になっている。

 

「ガープ中将、いきなりウォーターセブンに出発って…一体どうしたんですか?」

 

「いやぁ、お前らに会わせたい奴らがおってのう!詳しい事は後で伝える、早うワシの船に乗れい!」

 

「なんだって急に…ぐえっ!?」

 

「ガープ中将!首!首が絞まるッ!」

 

そういって両手でコビーとヘルメッポの襟首を掴んで引きずるガープ。

彼が破天荒なのはいつもの事なので、ジェイク達は心の中で彼等に合掌したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「生きたいと、言えよッッ!!」

 

「い''き''た''い''…ッ!!私を…海へ連れて行って…ッ!!」

 

 

偉大なる航路に存在する世界政府の玄関口、エニエス・ロビー。

罪人を捕え裁くこの場所に連行された新たな犯罪者、その名はニコ・ロビン。政府が禁じている世界の歴史を暴こうとしたオハラの民、その最後の生き残りが彼女だった。

10歳の時、身に掛けられた7600万ベリーの賞金は彼女の人生を狂わせ、闇の世界の住人として生きる事を強いられる。そんな彼女は先日水の都ウォーターセブンである条件と引換に遂に御用となり、此処エニエス・ロビーへと連行された。

 

エニエス・ロビー中心部である『司法の塔』、跳ね橋を伸ばさないと決してたどり着けない大きな穴を挟んで、CP9長官スパンダムはたった6人でこの地へ乗り込んできた海賊と相対し、驚愕していた。

 

「たった6人…?それだけで世界を敵に回す気か!

馬鹿にするのもいい加減にしろ海賊共がァ!犯罪者は1人たりとも生かして帰さん、この女もそうだ!

巨大組織に逆らった事を後悔させてやる!」

 

そう叫ぶスパンダムは世界政府の旗を指す。この旗は世界政府及び数多の加盟国の団結の象徴とも言えるようなもの。その旗を見て、麦わら帽子の船長は呟いた。

 

「そげキング、あの旗撃ち抜け。」

 

「…了解。」

 

仮面の男が大きなパチンコを構え、そこから発射された弾丸は火の鳥となって、あろう事か世界政府の旗を撃ち抜いた。

 

「おーおーやりおったのうアイツら。」

 

「ぎゃはははは、こいつは面白くなってきやがったぜ。」

 

スパンダムの傍らに控えるカクとジャブラがボヤく。

 

「馬鹿だろアイツら…本当に旗を撃ちやがった!

世界を敵に回す気だ、本当に馬鹿だ…!」

 

「いよい!さあ〜長官ン!

敵は6人、こちらも6人、大舞台と参りやしょう!いよォ〜〜ッ!!」

 

「さり気なく俺を戦力外にしたろクマドリ!

チィッ!CP9、お前らは海賊共を迎え撃て!殺しても構わん!」

 

そう言ったスパンダムは腰に掛けていたニコ・ロビンの腕についている枷の鍵をカリファに放り投げる。

 

「ルッチ以外は此処で海賊共の相手をしろ。それぞれ鍵を持って、時間を稼げ。俺がニコ・ロビンを連れて護送船に入ればこっちの勝ちだ。

頼むぞカリファ。」

 

「セクハラです。」

 

「こっちは真面目に話してるのに!?

行くぞニコ・ロビン!

クソ、あの人との約束が無けりゃ引き摺ってでも連れていくのによ!」

 

「……あの人?」

 

「テメェに話す筋合いはねェ、さっさと行くぞ!来いルッチ!」

 

「了解。」

 

スパンダムはルッチを引き連れて、ニコ・ロビンを連行して行った。

その姿が見えなくなった後、カリファはため息を吐き他のメンバーと向き合い告げる。

 

「各自、長官の命令通りに動きなさい。それぞれ鍵を持って敵を撹乱、奴等へはフクロウが伝えくれる?」

 

「チャパパ、分かったー。」

 

「カリファ、ちといいか?」

 

「何かしらカク。」

 

()()は起こすのか?」

 

『お嬢』、そう聞いたジャブラがビクリと表情を引き攣らせ、横目でカクを睨み付けた。

 

「起こすなよ?絶対起こすなよ?

起きられたら身の毛がよだって仕方ねえ…」

 

「同じ動物系を食った身としては同感じゃが…彼女は諜報員とは違う、借りてきた猫…もとい狼じゃ。仮に傷物にでもしたら…」

 

「やめろカク!俺はまだ死にたくねェ!」

 

動物系の悪魔の実を食べた2人は、相性的に悪魔の本能が逆らえず、彼女の前ではたちまち膝を屈してしまう。更に、『ためらいの橋』の向こうで現在勤務しているであろう彼女の保護者に失態を見られてしまえば…

 

CP(わたしたち)なんてあっという間に焼却されてしまうわね。お嬢様の安全は最優先事項としましょう。

最も、私達が束になっても敵わないのに海賊如きが彼女達を傷つけられるとは思わないけど。」

 

恐らく今、司法の塔の何処かで昼寝をしているであろうお嬢様と、橋向こうで勤務している保護者には何があっても失態を見せるわけにはいかない。

そう心に誓い、彼らCP9は行動を開始した。

 

 

 

 

 

司法の塔屋上。地面に芝生を生やし、ガーデニングの設備が整った、花や草木溢れる西洋庭園のような作りになっているこの屋上部分は彼女のお気に入りだ。

 

「すぅ……すぅ……ん………」

 

静かに寝息を立てながら、巨体を丸めて気持ちよさそうにする狼が、そこには居た。

 

 

 

 

 

 

 

…………

 

 

 

CP9と麦わら海賊団の戦闘は苛烈を極めた。

戦いの余波は司法の塔全域に及び、室内は荒れ果て、所々に蹴り砕かれた跡や、斬撃跡が残る。

状況は未知数の力を持つ麦わらの一味に傾いていた。既にルッチを除く諜報員達は敗北し、スパンダムの時間稼ぎもあえなく失敗に終わる。現在スパンダムはためらいの橋に続く地下道を抜け、なんとかニコ・ロビンを極力傷付けないように橋の中腹まで引っ張って、護送船の見える位置まで辿り着いていた。

 

「暴れるな犯罪者!このっ…いでぇ!?

手を噛むな!往生際が悪ぃぞ!」

 

「ハァ…ハァ…ッ!!私は…まだ死ねないのよ…」

 

「最初は死にたいとか言ってた癖に偉そうな事言うな!手荒なのは後でミラさんに怒られるんだよ!」

 

ポロリとスパンダムが口にしたその名に、ニコ・ロビンはふと疑問に思う。

 

「その『ミラ』が…私を捕らえようと躍起になってる『あの人』なのね。」

 

ニコ・ロビンを含む麦わらの一味はウォーターセブンに到着する前、立ち寄ったロングリングロングランドという島で海軍大将青キジと出会った。

彼曰く、世界的大犯罪者であるニコ・ロビンを連れるということは、全世界から狙われるという事。今までロビンが所属してきた数多の組織が、彼女が存在しているというだけで付け狙われ、滅ぼされた。そして政府は昨今、遂にニコ・ロビン捜索のために幻の大将『白蛇』へ出動命令を下した、と。

大将の肩書きを持つ海兵の力は言わずもがな。それを推して白蛇の実力は群を抜いており、麦わらの一味でも耳聰いナミやウソップなどは肩を震わせ恐怖していた。

 

 

ニコ・ロビンを庇うってことは、海軍の死神を敵に回すってことだ。そいつをよく覚えとけ麦わら帽子。

 

そう言い残し、青キジは去っていった。

 

 

 

「…ああそうさ、ミラさんは俺の恩人でな。道を外れかけてた馬鹿を真っ当な人間に戻してくれた、だからその恩に報いる。

その人から特別な電伝虫も預かってんだ。世界に一つしかない、お前の故郷を焼き払ったバスターコール+大将白蛇を呼び出す特別製のなァ!」

 

そう自慢げにスパンダムが懐から取り出したのは、通常のものとは違い、殻の代わりに背中にスイッチの付いたオレンジ色のリュックを背負った特別な電伝虫だった。

 

「バスター…コール…ッ!!」

 

ロビンは思い出す。幼い日、故郷の島を焼いた悪夢のような砲撃を。そして止めに島を消し去った血のように紅い稲妻を。

 

「バスターコールはお前にとってトラウマだってのは知ってんだ。

海軍総力を挙げて麦わらの一味を殲滅されたくなきゃ今更抵抗するのは止めな。俺はまだ最初の約束を律儀に守ってやってるんだぜ?しかも海賊相手にだ。

これ以上言わせるのは野暮だろォ?」

 

「くっ……」

 

バスターコールは国すら滅ぼす攻撃命令、そんなものが個人に向けられる。結果は火を見るより明らかだろう。ロビンは項垂れ、大人しくなった。

それを見て満足したのか、スパンダムは電伝虫を乱暴にポケットへ戻す。半分ほどはみ出しているが…

 

「オハラの学者共は世界政府の琴線に触れちまった、恨むならオハラの好奇心を恨むんだな。

…安心しろ、とはいかねえが、世界政府に捕まるよりミラさんの膝下の方が幾らか安全だ。」

 

「…?貴方は一体、何を言ってるの…?」

 

「…さっさと歩け犯罪者ァ!」

 

ごまかす様に怒鳴るスパンダムはロビンの枷に繋がれた鎖を引っ張り、ズンズンとためらいの橋を突き進む。

彼の呟きの真意をロビンは最後まで理解する事はなかった。

 

その時

 

ガチャン!

 

それは何かが地面に落ちた音だ。スパンダムもロビンも一瞬止まって、音のする方向を見やる。スパンダムのポケットに納められていた電伝虫が、無い。

 

地面を見れば、そこにはスイッチが下になった電伝虫が転がっていた。

 

次の瞬間

 

『ぶおおおおおおおん!ぶおおおおおおおん!

伝達!伝達!警報電伝虫より伝達!

大将白蛇へ殲滅要請!

バスターコールを発動せよ!バスターコールを発動せよ!出動命令を下す!

伝達!伝たちゅ…失礼、かみまみた。

繰り返す!』

 

 

大将白蛇による絶対殲滅命令を発動せよ!!

 

 

それが最後通達だったのか、何も喋らなくなる電伝虫。

まるで時が止まったかのように、静まり返る2人。暫くして、スパンダムはあらん限りの声量で叫んだ。

 

「やっちまったああああああああああああああああああああああああッッッッ!?!?!?」

 

 

 

 

大将白蛇、司法の島エニエス・ロビーへ出動命令

 

 

 

 

 

 

 

海軍本部

 

警報(アラート)電伝虫より信号!

大将白蛇の出撃要請アリ!」

 

「…場所は?」

 

「司法の島エニエス・ロビーです!」

 

部下の報告を聞くと、本部に駐在する5人の中将達は顔を揃えて頷き合い、その1人である海軍中将オニグモが吼える。

 

「総員出撃準備!

いつもの三倍速く行動しろ、大将白蛇を待たせるな!」

 

彼に鼓舞された海兵達がいっそう忙しなく動き出し、やがて中将5人を乗せた軍艦10隻が、司法の島を完全に破壊する為にマリンフォードを出発した。

 

 

 

 

 

 

 

ぶおおおおおおおん!ぶおおおおおおおん!

 

おや?何やら腰元で変な音がするな…

ああ、これはスパンダムに渡してた警報電伝虫か。

アイツ鳴らしてしまったんか、俺氏を呼ぶ笛を。

 

『空の騎士よ、我はもう征く。

…アッパーヤードの件はすまなんだな。

エネルの奴め、我と婚姻などとぬかした時にもう少しキツく仕置きしておくべきだった。』

 

「いや滅相も御座いません、もとより空島の時事は我々で方を付けるべき事。」

 

そう言ってくれると気が楽だよガン・フォールおじいちゃん…

 

此処は空島、アッパーヤード。

久しぶりにガン・フォールの所へ遊びに行ったらスカイピアは吹っ飛んでるわ対立してた筈のシャンディアの民とは仲直りしてるわ、オマケに自称神とかぬかすエネルの馬鹿野郎は居なくなってて、暫く見ない間に劇的ビフォーアフターじゃないですか。俺氏びっくらぽんだよ?

 

「青海からやって来た海賊達に色々と引っ掻き回され、こうして平穏を取り戻せたのです。感謝も伝えられないうちに彼等は去っていきましたが…」

 

『ほう、翼も持たぬ者が地上からここまで来たと。興味深いな。』

 

「また時間のある時においで下さい、彼らの話はその時にでも。

次は宴の準備を整えておきましょうぞ。」

 

『村の娘を生贄にするのは止めろよ?』

 

「あの時はご迷惑を…」

 

恥ずかしそうに頭を搔くじいちゃん、これがジジイ萌えという奴か…

 

『良い、また遊びに来るとしよう。

次は娘も連れてな。』

 

「お待ちしておりますぞ、龍神様。」

 

『その名は歯痒い、ミラでいい。』

 

「…お待ちしております、ミラ様。」

 

『様は要らんというのに…』

 

軽く別れの挨拶をしてから大きな羽根を羽ばたかせ、アッパーヤードを飛び立った。ぐんぐんスピードを上げて下へと急降下する。

 

此処に来る時一瞬すれ違った、タコバルーンに捕まってたキャラベル船。海賊旗が麦わら帽子を被ってた。

 

きっとアイツらだ

 

テゾーロを東の海へ送って、久しぶりにバラティエで一緒に食事した時、言っていた。「面白い海賊小僧を見つけた」って。

 

そうか、主人公の物語は始まっていたんだな。ココ最近原作の事すっかり忘れてたよ。

 

 

『ならこの邂逅も運命か…

私から逃れられるかな、麦わら海賊団。』

 

 

 

 

 

幾年もの時間が経ち、ようやく原作(ONE PIECE)が、始まろうとしている






編集でき次第次を更新できればやります。
熱中症…マジ無理ぃ…


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??話 運命の交わり


大海原の祖なる龍一周年企画(投稿が遅れた理由を考えに考え抜いた挙句たった今思いついた苦しい言い訳)、少し先の未来の話シリーズはこれで終了。

夏バテが酷い


司法の塔、屋上へ続く階段

 

「ハァッ…ハァッ…ハァッ…ッ!!」

 

「オラそげキングもっと急げ!モタモタしてるとロビンちゃんが連れて行かれちまうだろうが!」

 

「寧ろキミはCP9と一戦交えて何故そこまで元気でいられるのかね!?」

 

「愛の力だ…ッ!!」

 

「何故そこで愛!?」

 

「チンタラ話してねえで急げクソコック、はぐれんじゃねえぞ。」

 

「はぐれるだぁ?テメェにだけは言われたくねェぞクソマリモォ!!」

 

時に喧嘩を交えながら、男達は司法の塔屋上へ続く階段を駆け上がっていた。

サンジ、ゾロ、ウソップの3人は、辛くも襲ってきたCPを撃退し、他の仲間の集めた鍵を含めて全てを奪取することに成功した。

しかしそれをロビンへ届ける為には時間が足りない、そう考えたサンジの機転により、そげキングによる狙撃で鍵を届けようと画策したのだ。

 

「そこの扉を抜ければ屋上だ!」

 

サンジが乱暴に扉を蹴破ると、そこに広がっていたのは芝の敷き詰められた優美な庭園のような場所だった。

まるで貴族の庭園のような作りになっているのどかな場所で、『それ』を視認した3人は息を呑む。

 

体調3mを超える巨大な狼が庭園の中心で身体を丸めて寝息を立てていた。

その体毛は綺麗な銀色で、鋭利な爪を持ち、脚には千切れた鎖が巻かれている。

 

「いゃッ!?………!?!?!?(モガモガモガ)」

 

思わず叫び声を上げそうになるそげキングの口を慌てて抑え込むサンジ、ゾロもまた、常軌を逸した生物に驚愕している。

 

「静かにしろそげキング…!

叫ぶんじゃねえ…」

 

「す、すまないつい…」

 

「なんなんだこのデカイ化け物は…」

 

「あの犬コロ共の親玉か?」

 

サンジは此処へたどり着く前に出会った司法の島の職員を思い出す。彼等は自らを「法番隊」と名乗り、狼に騎乗しての高速戦闘を得意としていた。

 

「どうする、斬るか?」

 

「いや即答か。」

 

「どっちみちコイツに居られちゃロビンちゃんに鍵を届けられねえ、蹴り起こしてどいてもらおう。」

 

サンジはそっと寝ている狼に近づき、その鼻先に蹴りを叩き込むため脚を振り上げた。

しかし、岩すら砕く右脚が狼の鼻っ柱を蹴り飛ばす寸前で、何かに気付いたサンジが脚を止める。

 

「……ッ!?」

 

心地よい風が屋上を凪いだ。

 

「おいどうしたクソコック、早く蹴れよ。」

 

「……駄目だ。」

 

「はあ?今更なんで…」

 

「俺には蹴れねぇ…

魂がクソ叫んでやがる。

コイツは…いや彼女は…恐らく雌だ…ッ!!」

 

「「は?」」

 

彼は料理人であり、紳士である。

恩師から「女性に暴力を働いてはいけない。もし働けばお前を殺して俺も死ぬ。」と言われながら育てられ、それを愚直に貫いてきた。故にこのサンジという男は…

 

「……俺は死んでも女は蹴らん!!」

 

どこまでも紳士であった

 

「「ハァ〜〜ッ!?」」

 

「何ってんだ。

そいつに居られちゃ鍵が届けられねえんだろうが!

そこどけ、俺が斬ってやる。」

 

「ンだとクソマリモ!

彼女はレディだ!俺はレディを守る為に産まれてきた男だ!

この子を傷付けようってんなら俺が相手になってやる!」

 

「本末転倒かクソコック!」

 

「お前ら喧し過ぎだ!んな事言ってる間に狼が起きて…」

 

 

『ん……んうう……』

 

 

「「「!?!?!?」」」

 

3人の身体が強ばる。寝ていた筈の狼が鼻先をひくつかせながら、むくりと首を挙げた。

狼の瞳がまじまじと3人を凝視する。

寝ぼけているのか宙を泳いでいたその視線はやがて仮面を被ったウソップへと向けられた。

ウソップは恐怖で足が産まれたての小鹿のようだ。

 

『むにゃ…あれ……かく…?』

 

その巨体に似合わぬ可愛らしい声で、彼女は呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『いつもキミは仏頂面だね、ミス・オールサンデー。』

 

何故今あの人の事を思い出すんだろう、人生の終わりが近づいてきているこんな時に。

 

『たまには私みたいにニコニコ笑ってご覧よ。ほらにっこりー。』

 

私の頬を軽く抓りながら無理矢理口角を上げようとする彼女を、私はハナハナの力を使って引き離した。

 

『やああああ!?脇を擽るのは止めてよぉ!あははははは!うひゃひひひッ!?!?!?』

 

涙目になりながら床を転げ回る彼女。

暫く笑い転げる姿を眺めて、満足したので能力を解く。

 

『酷いなあ!?』

 

『私の頬を抓ったことは酷くないのかしら、ミス・ブラッドムーン。』

 

 

バロックワークス。偉大なる航路前半に存在する秘密犯罪結社、『秘密』がモットーのこの組織では、エージェント同士をコードネームで呼び合う決まりがあった。

私は『ミス・オールサンデー』、彼女は『ミス・ブラッドムーン』だ。

私は社長である『ミスターゼロ』、本名サー・クロコダイルの秘書としてこの組織に雇われた。そんな私より先に、同じ秘書の立場に居たのが『ミス・ブラッドムーン』と呼ばれる女性だった。16歳ほどの少女、腰までかかる灰色の髪の毛に特徴的な黄金の瞳、女性である私の目からみても充分に美少女と言えるだろう。

 

彼女は若いながらも博識で、伝説や伝承に詳しい。いつもへらへら笑いながら、しかし仕事は確実にこなす。時たま一定の人物の話をながら体をくねくねさせているのがちょっと引くが…概ね友好な関係を築いていた。

同じ秘書という立場にあるせいか、彼女とは一緒に仕事をする事が多い。社員の根回しや邪魔な敵対組織の殲滅、要人の暗殺など、顔を表に出せないボスの代わりに様々な汚れ仕事を二人でやらされた。

 

『オールサンデー、人殺し慣れてるよね。関節技とかえっぐいわー。』

 

『貴女こそ、素手で首を引き千切るなんて猟奇的過ぎるわ。まるで獣じゃない。』

 

『獣!?失礼な奴だな、私は花も恥じらう156歳の乙女だよ!』

 

『なんて大胆な年齢詐称…』

 

 

自分の年齢を変に誤魔化したり、正直何を考えているのかよく分からない女だったけれど、彼女と話している間は不思議と自然体の自分でいられた。

私は世界政府から狙われるオハラ唯一の生き残り…自分のせいで滅んだ組織も死んだ人間も数しれず、バロックワークスだっていつ目をつけられるかわからない。

お前は生きているだけで罪なのだ。と、昔誰かに言われた記憶がある。その通りだ。

 

誰からも生きる事を望まれない

 

どうして自分が生きているのか分からない

 

私の夢には…敵が多過ぎる

 

なのに彼女は、ミス・ブラッドムーンはずけずけと私の心に入り込もうとする。拒絶しても拒絶しても性懲りも無く踏み込んでくる。

あまりにも執拗いので、いつしか私は抵抗するのを諦めた。

 

『ボスのクロちゃんはさー、アラバスタを乗っ取るんだって。』

 

『…そうね。』

 

『私は面白そうだからクロちゃんに付いてくけど、オールサンデーはなんでアイツに付いてくの?』

 

『私はただ知りたいだけよ、この国の秘密を。』

 

『クロちゃんの言ってた古代兵器ってヤツ?』

 

『兵器なんかに興味は無いわ、私はもっと…』

 

そこから先は言えない。口にしてしまったが最後、また全てを敵に回すことになるかもしれないのだから。

 

『これ以上は言いたくないわ。』

 

『あそふん。大体把握した。

まっ、その目標叶うといいね。確かネフェルタリ家は歴史古いし、それっぽい書物も出てくるんじゃない?私には関係無いけど。でもさ、それって…』

 

いつか全部敵になっちゃうよ?

 

彼女の言葉に身が引き攣る。

 

『昔さ、誰にも解明されない歴史があったんだ。そいつに手を出そうとした奴は皆、誰かさんによって消されちゃったんだって。

怖いよねー。』

 

この世界は歴史を遡ることすら罪なんだよ。せせこましいよねー。と、けらけら笑いながら何も知らない彼女は言った。

それは私達(オハラ)だ。いやもっと昔に空白の100年間を探そうとし、政府によって消された学者達なのかもしない。

 

『………』

 

『…本当にやるんだったら、準備が足りないね。

同士を集めて、一から整えなきゃ。』

 

一瞬呆気に取られてしまう。

仲間を集める?

 

『いる訳ないでしょう、世界を敵に回す覚悟のある人間なんて。それこそあの革命家くらいのものよ。』

 

『居るよ、必ず何処かに。

世界は広いんだから。

きっとキミの前にも現れるはずさ。世界を敵に回しても尚、助けようとしてくれる仲間が。』

 

いつか、ね。

 

貴女もサウロと同じような事を言うのね…

でも、笑いながら話す彼女の言葉には妙な説得力があった。まるでその光景を観てきたと言わんばかりに自信たっぷりで…

 

『…まあ、参考位にはしておくわ。』

 

『それにホラ、バロックワークスにいる間は私がキミの味方だし?』

 

『はいはい』

 

『あー信用してないなーこのー!』

 

夜の砂漠に二人。バンチの背に揺られながら脚をぷらぷらさせ、ぷんすか怒るミス・ブラッドムーンを見ながら、その日私達は帰路についた。

 

 

その後、バロックワークスの野望は、ネフェルタリ家のお姫様が連れてきたポっと出の海賊団によって打ち砕かれた。組織は空中分解、大半は海軍に捕まって、オフィサーエージェント達の行方も知れず。ミス・ブラッドムーンもまた、クロコダイル敗北と共に姿を晦ました。

 

結局、貴女も守ってくれなかった。別に期待はしていなかったけど。

 

でも…

 

『きっと見つかるよ、キミのことを助けてくれる仲間が。だって世界は広いんだもん。』

 

 

本当に居たわね、私の様な馬鹿女を命懸けで助けようとしている仲間が。

 

 

 

 

 

ためらいの橋、駐屯所

 

「さあもうすぐ護送船だ。一旦引渡しちまえば、もう二度と海賊なんてできねえ。今のうちに最後の太陽を拝んでおくんだな。」

 

「…………」

 

嫌味に黙りこくるロビンを尻目に、スパンダムは護送船駐屯所の呼び鈴を鳴らす。

少しして、大柄の海兵が姿を現した。

 

「はいはいっと…ご要件は?」

 

「ご要件もクソもあるか!今日はニコ・ロビンを引き渡すって予め伝えたろガスパーデ!」

 

「あ?そうだったか…完全に忘れてたわ。」

 

「護送だってのに橋に海兵が1人も立ってなかったのはそのせいかィ!!」

 

はははと笑うガスパーデと呼ばれた大男に、スパンダムは怒り心頭のご様子。

 

「悪かった悪かった、これからやってやるから。

野郎共ォ!!総員整列!

世界政府の英雄サマをお出迎えだ。」

 

ガスパーデの声とともに海兵達が慌てて飛び出し、ためらいの橋の両側へ均等に整列した。

 

「いや今更遅えし。」

 

「細けぇ事ばかり気にすんな、禿げるぞ。」

 

「禿げるかッ!!」

 

「そんで、後ろに連れてる美人の姉ちゃんがボスの言ってたニコ・ロビンかい。」

 

「…………」

 

せせら笑うガスパーデにだんまりを決め込むロビン。

 

「そんな事はいいから、さっさと手続き済ませるぞ。後ろから海賊共が追い掛けて来てんだ。」

 

「海賊ゥ?なんだってこんな所へ…死にたがりかよ。」

 

「お前ちゃんと電伝虫聞いてたのか?この女を取り戻しに来たんだよ、司法の塔より向こうはひでえもんだ。

アンさんは何処だ?あの人のハンコがいるんだよ。」

 

「護送船の仮眠室で暇してるよ、呼びに行くのめんどくせえから代理人の印使え。」

 

そう言ってガスパーデはスパンダムの持ってきた何やらごちゃごちゃした書類に1枚ずつ印を押し、確認していく。

 

「あーあ、お役所仕事はこんなんばっかだ。

ストレスが溜まっちまうぜ…」

 

「少将の大事なお仕事だ、文句言うな。とっとと引渡しだ。」

 

ブツブツ文句を言うガスパーデにスパンダムがロビンの繋がれている鎖を手渡そうとしたその時。

 

見つけたぜェ!ニコ・ロビィィィンッッ!!

 

「!?!?」 「んあ?」

 

「きゃあッ!?」

 

突如、飛んできた大きな腕がロビンを鷲掴みにしたかと思うとそのまま引っ張りスパンダムのもとから連れ去った。

 

 

「あっ!?テメェ…カティフラム!

どうやってここまで来やがった!?

あの道はルッチが守ってる筈だぞ!」

 

「ワハハハ!ス〜パ〜な俺様にかかればあれしきどうってこたァねえ!

ルッチの野郎は麦わらが相手してる、あの台風みたいな野郎相手に諜報員ひとりじゃ役不足だがなァ!」

 

「アホか貴様!ウチの最高戦力が何処の馬の骨とも知らん海賊風情にやられるかァ!」

 

「オイお前ら、撃っていいぞ。ニコ・ロビンに当てんようにな。」

 

ガスパーデの号令とともに構えていた海兵たちから一斉に銃声が響き、無数の弾丸がフランキーへと襲い掛かる。しかし…

 

ガキキキィン!!

 

「お!?」

 

「効かねぇなあ…鉄だから!」

 

自身の体を機械に改造したサイボーグである彼の前には傷一つ付けられない。

 

「オイ、ニコ・ロビン。もうちょい待ってろ。鍵は全部集めた、もうすぐ長鼻のアイツが届けてくれるはずだ。守ってやるからスーパー大人しくしてろ。」

 

「ッ……!!

でもバスターコールが!

貴方達を消しにやってくる!政府の力に狙われたら最後、ちっぽけな人間なんて跡形も残らないわ!」

 

「ンなこたぁ知らねぇなあ…

お前は『生きたい』とアイツらの前で宣言した。麦わらの野郎は中々スーパーだぜ、1人のクルーの為に命張るなんざ、そうそう出来ることじゃねえ。

その心意気に俺も乗ったまでよ、なら例えお前が拒絶しても、俺ァ麦わらの意地に掛けるっ!!

お前を連れて行かせはしねえ!」

 

「…………」

 

「ウエポンズ・レフトォ!!

道を開けやがれェーー!」

 

フランキーの左手首が開き、そこから大砲の弾が発射され海兵達を吹き飛ばした。ためらいの橋から次々と海兵が落下していく中、慌てふためくスパンダムの横でガスパーデは深く溜め息を吐いていた。

 

「オイオイオイ…どうしてくれんだよ……ボスにどやされんぞ。」

 

「次はお前が相手になるかァ?

スーパー掛かってこいヤァッ!!」

 

「めんどくせえ…めんどくせえが…焼き菓子にされるよかマシか…仕方ねえなあ…」

 

ぶつぶつと文句を垂れながらガスパーデが前に出た瞬間

 

 

 

……ぁぁぁぁぁぁぁ

 

 

 

 

「「「「???」」」」

 

 

何処からとも無く声が聞こえた。

 

 

 

………ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ

 

 

 

それはどんどん大きくなって、ためらいの橋に谺響する。

 

 

あああああああああああああああッ!?!?!?

 

 

ズッドオオオオンッ!!!

 

 

やがてフランキーとスパンダムの間にそれらは着弾した、もうもうと土煙を立ち上らせ、轟音を響かせながら。

 

 

「ウオオオオオ死ぬかと思ったぞ!?」

 

「なんてパワフルなレディなんだァァァッ♡」

 

「おで…いぎでる…?じんでる…?」

 

 

「……(絶句)」

 

「…なんだこいつ等。」

 

「お前らァ!スーパーな登場の仕方してんなァ!」

 

「……長鼻くん、生きてるの?アレ…」

 

ゾロ、サンジ、そげキング、ためらいの橋に到着

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少し前、司法の塔屋上庭園にて

 

 

『…うん…?()()…?じゃない…?あれ…?』

 

うつらうつらと首を揺らし、巨狼はそげキングに問う。

 

「(おいそげキング聞かれてるぞ!)」

 

「(狼ちゃんはお前の事あのキリン野郎だと思ってるんだ!早く答えろ!)」

 

「(急にそんな事言われても…)ゲフンゲフン…

おおおはよう!よく寝とったのぉ!

いい夢見れたかえ?」

 

「「(アイツそんな口調だったっけ…?)」」

 

『……うん…よく寝た……

かく…へんな格好…またせんにゅーにんむ?』

 

「お、おおそうじゃ!この仮面も任務中だからつけとるんじゃ、ワハハハ!」

 

どうやら狼は寝ぼけてそげキングをゾロが先程戦っていたCPと勘違いしているようだ。

もしかしてあの娘の判断基準は鼻なのか…?とゾロは心の片隅で少しだけカクを哀れんだ。

 

 

『…そう……

此処に来たってことは……また遊びにきたんだね…』

 

「(あ、遊び?遊びってなんだ?)」

 

「(知らねぇよ!取り敢えず話合わせとけ!)」

 

「(無責任か!!)

あ、ああそうじゃ!いつもの遊びを頼む!」

 

『おっけー……ちょっと待ってて…ふあああ…

後ろのふたりも一緒でいいの?ていうかこの人たちだぁれ?』

 

「ひッ久しぶりに友達を連れてきてのぉ!コイツらにも『遊び』を楽しませてやって欲しいんじゃ!」

 

「「(さり気なく俺たちを巻き込むんじゃねェーーーッ!?)」」

 

「(うるさい!死なば諸共だ!)」

 

『うん……うん……分かった…

じゃあ3人とも、そこに居て。』

 

みるみるうちに巨狼はその身体を縮め、メイド服を来た少女の姿へと変貌する。それを3人はたいそう驚いた様子で眺めていた。

 

「(悪魔の実の…能力者か!)」

 

「(やっぱレディだったじゃねェか!俺の勘は正しかった!)」

 

各々静かにリアクションを取るのをよそに、少女はためらいの橋と3人が一直線に重なるような配置で彼等の正面に立った。

 

「久しぶりだから加減が効かないかも…でもちょーほーいんなら大丈夫だよね……いくよ〜…」

 

寝ぼけ眼のまま、そう告げて息を吸い始める少女。そげキングの顔色が仮面の向こうでどんどん青くなっていく。

 

「(今加減って言ったぞ!?なんだ?俺たちこれから何されるんだ!?)」

 

「(俺に聞くな、なる様になる…!)」

 

「(あんな可愛いレディに何かして貰えるなら…俺ァ死んでもいい!)」

 

「(キァァァ助けてコイツら怖い!変に肝座ってて怖いよおおお…)」

 

そげキングが今にも泣きそうになっているが、そんな事はお構い無しに少女の口元に大量の空気が渦を巻き、圧縮されていった。

 

「斜角おっけー…風向きおっけー…今日も絶好の滑空日和…

烈風咆哮(ふれーす・べるぐ)……ッ!!」

 

少女の吐き出した吐息が突風となって三人を襲う。

 

「「「ウオオオオオオオオオオオオッ!?!?」」」

 

猛烈な風の前に人体など木の葉のように吹き飛ばされ、3人は宙を舞った。

お忘れかも知れないがここは司法の塔屋上、彼等はその向こうにあるためらいの橋まで(約1名悲鳴を上げながら)勢い良く吹き飛ばされたのだ。

 

少女の言う『遊び』とは、CP諜報員の1人であるカクから頼まれやっている『滑空ごっこ』だった。少女の能力で吹き飛ばされたカクはためらいの橋まで滑空しながら飛び、空中遊泳を楽しむ。彼はこれを気に入って少女に何度も頼み込んでいた。

まあそれは、カクが人知を超えた超身体能力をもつ諜報員だからこそ安全にこなせる遊びであって、決して一般海賊に行っていいものではないが…今は詮無き事である。

 

「いってらっしゃーい…

あれ?なんでかくから()()()()()()()()()()()()…?背も小さかったし…変装ってすごいな…

ふああぁ…寝なおそう…」

 

結局最後まで寝ぼけていた少女は、再び巨狼の姿へと戻り、昼島の暖かい日光に照らされながら眠りにつこうとした、が。

 

ピリリッ

 

「!?…あれ、みらも来るんだ…じゃあ行かなきゃ…」

 

母親が来るのを感じ取った彼女は寝るのを中断し、狼の姿のままゆるゆるとためらいの橋へ向かって跳躍したのだった。

 

 

 

 

 

そして時は動き出し、現在に至る。

 

「な、なんだこいつ等…どっから現われた!?」

 

突然の出来事に驚愕するスパンダムをよそに、取り敢えず生きていた事を喜ぶゾロ、未だに少女の事が忘れられず目がハートなサンジ、心が半分死んでるそげキング。

 

「オメェ等!スーパーな登場はいいが、鍵はちゃんと持ってきたんだろうなア!?」

 

「当たり前だクソサイボーグ!

おいそげキング起きろ!いつまで寝てんだ…よっ!」

 

「オゴワァッ!?

…はっ!?俺生きてる!」

 

サンジのかかと落としがそげキングの頭にクリーンヒットし、ようやく彼は夢から覚めたようだ。

 

「さっさと鍵出せ!ロビンちゃんの手錠を外すんだ!」

 

促されるままそげキングは次々と鍵を試し、やがてゴトリと重い音を立ててロビンの手から海楼石の錠が外された。

 

「か…鍵全部!?じゃお前…CP9を全員倒したってのか!?有り得ねえ!」

 

「それが出来るから此処に居んだよクソ野郎。

ロビンちゃんに手荒な真似を働いたんだ、蹴り殺されても文句は言えねえぞ…!」

 

ひぃッ!?

 

サンジの放つ静かな怒りに思わず身を引くスパンダム。隣のガスパーデは相変わらずマイペースだ。

 

「ニコ・ロビンが自由になったからなんだってんだ。

オイ海賊共、悪い事は言わねえからさっさと投降しろ。

バスターコールが発動したんだ、此処をもうじき海兵が埋め尽くす。極めつけに大将白蛇がご出勤だそうだ。お前達じゃ万に一つも勝ち目はねえからよ、諦めな。

その女は、死神に目をかけられちまっ(ドズンッ)……ああもう、人の話は最後まで聞けよ。」

 

「コイツも能力者か!?海軍は化け物ばっかかよ!」

 

呆れるガスパーデ。彼の腹には風穴が空いていた。もっとも、『アメアメの実』を食べた水飴人間である彼に只の物理攻撃など意味を成さないが。

 

さらにそげキングがある事に気付く。

 

「オイ…正義の門が……」

 

「開いてやがる…いつの間に…?」

 

ためらいの橋の向こうに聳える閉ざされていたはずの正義の門が開き、そこから大量の軍艦がこちらへと向かって来ていた。

 

『バスターコール発動!バスターコール発動!目標、司法の島全域!その一切を破壊せよ!

なお大将白蛇との盟約により、ためらいの橋、及び司法の塔は攻撃対象外とする!』

 

「撃てェーッ!!」

 

司法の島に展開された軍艦から無数の砲弾が飛び交い、爆音を立てながら司法の街を破壊していく。

 

「言わんこっちゃねえ…スパンダム、向こうの連中に避難勧告出したのか?」

 

「日頃から訓練はきっちりやらせてんだ、アラート電伝虫が鳴った時、皆早々に逃げてるだろうよ。

それよりも…イルミーナの奴は何処に行きやがった!?アイツ砲撃に巻き込まれてないだろうな!?」

 

「死んでないよ?」

 

叫ぶスパンダムの後から、メイド姿の少女が顔を出す。スパンダムは心臓が飛び出るほど驚いていた。

 

「うっぎゃあああああ!?ビックリさせんなイルミーナァ!」

 

「二度寝しようかと思ったけど…ほーげき音が煩くて、こっちに飛んできた。みらも来るし。

…あれ?かく…?じゃない?」

 

イルミーナは先程吹き飛ばした3人組を凝視する。

よく見ると違う。寝ぼけて気付かなかったが、鼻が似ているだけで彼女の知る人物とは全くの別人だった。

 

「えっ誰。」

 

「「「今更かァッ!?!?!?」」」

 

綺麗なツッコミを決める3人をよそに、ロビンは悪くなっていく状況に危機感を抱いていた。

 

「(まずい…着々と向こうの戦力が揃いつつある。この上万一麦わら君…船長がルッチに負けたら…)」

 

最悪の場合、挟撃される。そうなれば只でさえ少数の麦わら一味の全滅は確実だ。

此処から逃げ出すには、スパンダム、ガスパーデ、そしてあのメイドの女の子…彼女は恐らく動物系の能力者だ。

彼等を突破し、護送船を奪わなければ…

 

その時、モクモクと不思議な暗雲がスパンダム達の上空に展開されていき、次の瞬間。

 

「サンダーボルト・テンポ!!」

 

暗雲から突如雷が迸り、雨あられと落雷が降り注ぐ。

 

「「「「ギャアアアアアアアアアアッ!?!?」」」」

 

周りの海兵達は落雷により皆感電し、悲鳴を上げながら地に伏した。

 

「アンタ達、こんな所でチンタラ何やってるのよ!

護送船を確保するんじゃなかったの!?」

 

活気の良い女性の声が響き、サンジの目がハートになった。もうおわかりいただけただろう。

 

「ンナミすわぁ〜〜ん!加勢に来てくれたんだね!?」

 

「おだまりサンジ君!

アンタ達のせいでアタシ1人で護送船を乗っ取るハメになったじゃない!遅いのよ!」

 

逞しい女性である。

司法の塔からためらいの橋に向かうには地下道を使う必要があり、ナミと戦いの疲れで動けなくなったチョッパー、海列車運転手ココロ、その娘チムニーとペットのゴンベはその通路をひた走っていた。しかし先にいるルフィとルッチの戦いの余波により壁が損傷し、通路は浸水、絶体絶命かと思われたが、実は人魚だったココロに助けられ、間一髪通路を泳いで抜け、護送船へ回り込むことに成功したのだった。

後は不意打ち落雷祭りである、これにより護送船を警備していた海兵はほぼ一掃された。

 

「逞しいナミさんも素敵だ♡」

 

「良くやったぜハレンチ女!」

 

「誰がハレンチじゃ!」

 

ナミ達がフランキーと合流し、落雷の煙が晴れていく。

ためらいの橋中腹付近、そこには見覚えのない大きく艶やかな緑色の丸い塊が鎮座していた。

 

「ん?なんだありゃあ…」

 

そげキングがそう呟いたのもつかの間、球体は生き物のように蠢きはじめ、やがて人の形となった。

 

「危ねぇじゃねえかお嬢ちゃん。

イル嬢が怪我したらどうしてくれんだよ…叱られるの俺なんだぞ?」

 

「あれくらいじゃ怪我しないよ…かほご。」

 

ガスパーデは自身の能力を使い、イルミーナの身を護っていた。その横で黒焦げの男が吠える。

 

「か…か…か……

なんで俺も守らねえのガスパーデ?」

 

「守れる面積にゃ限度があんだよ。

お前雷耐性だけは高いだろ。」

 

「関係ねえ!死ぬかと思ったわ!」

 

なんてコントを繰り広げるガスパーデ達を、ぽかんと眺める麦わらの御一行。いち早く正気に戻ったナミはすぐさま叫んだ。

 

「よしアンタ達、雑魚は私がまとめて蹴散らしたわ!残るは三人よ、やっちゃいなさい!」

 

この航海士、戦闘を男共に押し付ける気満々である。

 

「…ああ。」

 

「ン任せてナミさん!」

 

「スーパー任せろォ!」

 

「よーし頑張れ諸君、このそげキングが付いてる!後方支援は任せろーう!」

 

「アンタも行くのよ鼻キング!」

 

「鼻キング!?ちゃんと呼んで!」

 

 

 

 

 

 

「なんか向こうはヤル気みたいなんだが…おいスパンダム、ボスが来るまで遊んでてもいいか?」

 

「構わねえよ、つかアンはどうした。

護送船乗っ取られちまったんだろ?」

 

「……あん、今起きたって。

『今日の当番は我じゃないから知らん』っていってる。」

 

電伝虫を置きながらイルミーナが言った。

 

「あの人なら自分でどうにかするな!ほっとこう!(思考放棄)」

 

「なんでだろ、あの人達からは…すごく懐かしい匂いがするの。

でも…海賊だよね。悪いこはおしおきしなきゃ。」

 

そう呟いて、スカートを少しだけたくしあげる。ズルリと大きな二本の鎌刀がスカートの中から落ちてきて、地面に突き刺さった。

 

「なるべくいたくはしないから…ね?」

 

「ヒィッ!?なんだあのコエー武器!殺る気満々じゃねえか!?」

 

「面白ェ、あのメイドとは俺がやる。邪魔すんな。」

 

半泣きで恐怖するそげキングとは裏腹に、好戦的な笑みを浮かべるゾロ。

 

「オイッ!あのレディに怪我でも負わせたらオロすからなクソマリモォ!」

 

サンジが叫ぶがゾロは返事も返さない。目の前の少女相手に集中力を乱す余裕などなかった。

 

「(間違いねえ、あのメイドはキリン野郎よりも強い…!)」

 

構えや立ち振る舞いは素人のそれだ、しかし彼女から発せられる独特の雰囲気は、嘗て敗れた()()()を彷彿とさせ、背中に冷たいものが走る。それを押し殺しゾロは構えた。にわかには信じ難いが、直感が告げている、きっと彼女は全身刃物のあの男よりも、キリンに化ける諜報員よりも、あの時〝 鷹の目〟に敗北してから今まで自分が戦ってきた相手の中で一番の強者だ。生半可な覚悟では瞬殺される。

 

「痛いのがいいの…?

じゃあ…そのうでを両方切り落とせば、おとなしく降伏してくれる?」

 

「見た目の割に物騒なガキだ。

やってみな、お前に切り落とされる程俺の腕は安くねェ。」

 

「ガキじゃない…貴方よりずっと歳上…」

 

彼女は鎌刀の柄を握り、彼はバンダナを結び直す。

正に一触即発、ゾロとイルミーナが互いに飛び出そうとしたその瞬間

 

 

 

雷鳴が轟く

 

 

 

空は晴天、昼島である司法の島には雲一つ出ていないのに。

続けざま、巨大な紅い落雷が2人の間に落ちてきた。その余波で粉塵が巻き上がり、麦わら一味の視界を塞ぐ。

 

「ぎゃああああああ!?今度はなんだァ!?」

 

「きゃああああああっ!?」

 

叫ぶそげキング、驚き耳を塞ぐナミ。

他の者達が各々のリアクションを見せるなか、ロビンだけは肩を震わせて呟いた。

 

「そん…な…あれは…あの赤い光は…」

 

やがて戦塵が晴れ、それの姿が顕になる。

 

彼等は見た。

白亜の長髪をシニヨンにして纏め、真紅の瞳を宿し、甲冑のような凛々しいバトルドレスを身に纏う美しい女性の姿を。

腰には緋色の軍刀が二本、提げられており、背中には『正義』の二文字を背負ったコートを羽織る。目麗しい海の死神を。

 

その真紅の瞳は目の前の主役達を一通り眺め、凛々しくも威厳ある声で告げる。

 

 

 

 

「私を…呼んだな?海賊共。」

 

 

 

 

今、主役(麦わらの一味)主役(幻の大将)は相見え、運命(原作)は此処に交わった。




一方そのころ、我らが主人公モンキー・D・ルフィはルッチと激闘を繰り広げてます。戦況は原作よりもルフィ有利で、理由は幼少期にイルミーナと出会ったことで六式を殆ど理解していたから。
原作ほど苦戦せずルッチに勝利し、ためらいの橋へ合流する。という流れになります。





次回からデートの話へ戻ります、気長にお待ち下さい。


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??話 絶体絶命の逃亡劇

お久し振りです…恥ずかしながら戻って参りました。

モチベの低下、リアルの忙しさ…色々言い訳はあります 、批判は甘んじて受けますし獣自身執筆に飽きていた期間がありました。
今更ながら更新したのは久しぶりに覗いたワンピSSでモンハンのクロスオーバーものが増え、他投稿者様の素晴らしい作品に出会いモチベが上がったからです。

マデュラちゃん、ネルちゃん…それから(モンハン関係ないけど)ネテロさんありがとうな…

拙い本作ですが、これからも楽しんで頂ければ幸いです。

モンス擬人化SSもっと増えろ…増えろ…



「私を呼んだな?海賊共。」

 

 

空は晴天。雷鳴轟き現れた正義を背負う海の執行人は、紅い瞳で海賊達を見つめている。

司法の島、その先にある在任を輸送する為の巨大な橋。通称『ためらいの橋』の上で、彼女は呟いた。

 

ごくり、とナミが唾を飲む。

麦わら海賊団が此処に至るまで、多くの出会いと別れを繰り返してきた。

その中で、事あるごとに名前を挙げられた1人の海兵の名がある。

 

最初にその話を聞いたのはルフィとゾロだったか。

東の海の片隅で圧政を敷く海軍大佐、『斧手』のモーガンが語っていた。

「俺は白蛇と仕事をした事がある」と。高慢な彼は、何故かその話を語る時だけ、子供のようにキラキラした瞳でその名を呼ぶのだ。

 

ナミが初めてその名を聞いたのは、自身の住むココヤシ村が魚人の魔の手から開放された時。その夜、自分達に味方してくれた胡散臭い自称エンターテイナーの男が言った。

「あの人には誰も叶わねえ。もしお前達が出会ったなら、迷わず逃げ出す事だ。」

懐かしそうに彼が語るその名も、大将白蛇。

 

直近では、ロングリングロングランドでの出来事、不運にも大将青キジと遭遇し、言葉を交わした時の事。

「ニコ・ロビンを捕らえるために派遣されたのは、海軍大将(俺達)の中でも指折りヤベー海の死神。白蛇だ。」

 

 

海の死神

 

亡霊大将

 

海軍の最終兵器

 

一太刀振るえばガレオン船すら容易に両断し、その力は単騎で島を更地に変える。海軍四大将の中でも最強の存在。

天を衝く巌の様な偉丈夫だとか、かの海賊女帝すら霞む美貌を持つ絶世の美女だとか、そもそも居ない、噂だけの存在だとか。

噂話は絶えないが、毎週のように新聞に上がる大将白蛇の戦果がその実力を裏付ける。

 

そんな幻のような存在、大将白蛇が目の前に立ちはだかっていた。

 

「さて…張り切って来てみたはいいが、どうしたものかな。」

 

ポリポリと頭を掻きながら、彼女は呟いた。

 

「アイツが…」

 

「大将…白蛇…?」

 

「なんて…なんて…

ンなんて麗しいレディなんだァーッ!!」

 

「緊張感皆無かおのれはッ!!」

 

案の定、馬鹿が1人狂喜乱舞している。

 

「思ったより早かったじゃねえか大将。」

 

「おお、久しいなガスパーデ。

アンの監視ご苦労、アイツはちゃんと仕事してるか?」

 

「…察してくれ。」

 

「あー…まあいいさ、後でアイツに直接聞こう。」

 

へらへらと笑う白髪の美女、その瞳は黒焦げになった弟子に向いた。

 

「どうしたんだお前、コゲ肉のコスプレか?」

 

「誰がコスプレか…アイツらにやられたんだよ…!」

 

「へー(無関心)、ところでイルミーナは怪我してないだろうな!?」

 

「げんき。」

 

「ならばよし。」

 

「俺の扱い雑ゥ!」

 

黒焦げのスパンダムが盛大なツッコミを決めているがそれを軽く流し、ミラは再び麦わらの一味へと目を向けた。

 

 

「麦わら海賊団、話は報告書で全て知っているよ。

たった7人の乗組員にも関わらず東の海でアーロンを下し、アラバスタでクロコダイルを下し、最近だと青キジが取り逃がしたと言っていたな。

それ程の危険性、されど一般人への被害はなし、全く扱いに困る連中だ。」

 

笑うミラの赤い瞳が品定めするように麦わらの一味を見つめ、最後にロビンと目が合った。

 

「……お前が『悪魔の子』か。」

 

「あ…貴女……貴女はッ…」

 

ロビンかはいつもの余裕は何処かへ消え失せ、膝と声を震わせて今にも崩れ落ちそうになっている。

明らかな怯えの表情、それだけで、ナミは目の前の女がただならぬ存在だと直感した。

 

「ああ…そうだな。勘のいいお前なら、私が現れた時点で察しているんだろう?」

 

「うっ…うううぅぅ…ッッ!!」

 

堪らずロビンは膝をついて蹲る。

 

「な!?ロビンちゃんどうした!?」

 

「ちょっとアンタ!ロビンに何したのよ!」

 

「別に何もしていないぞ。

単に、ニコ・ロビンが私に思う事あったんだろうよ。」

 

「わ…たし…私の…」

 

一言一言振り絞るように、蹲ったままロビンは語り出す。

忘れられない過去(トラウマ)を。

 

「…私の故郷、オハラは…世界政府のバスターコールによって消滅した。

軍艦十隻による一斉砲撃、そして…最後に紅い光が落ちて来て、私の恩人や…母親諸共島を消し去ったの…

さっき白蛇が現れた時に見たのと同じ、血のように真っ赤な…光が…ッ!!」

 

「なん…だって…?」

 

嗚咽混じりに言葉を紡ぐロビンとそれに驚愕する麦わら一味。そんな彼らを眺めながら、白蛇はからから笑いながらこう言った。

 

「流石、私から十年以上逃げ続けた女だ、察しが良い。

ああ、そうとも。十年前のあの日、お前の故郷オハラに掛けられたバスターコール。その仕上げとして島を消したのは…」

 

 

 

 

この私だ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「白蛇が、ロビンの故郷を…消した?」

 

「オイオイオイ!消したってどういう事だ!?島を更地にするとか、島民を全滅させるとかじゃなくてか?」

 

「文字通りの意味だよカティ・フラム…今はフランキーだったか?

ニコ・ロビンの故郷、学者の島オハラは海図からではなく、島ごと消滅した。土地も人も全て消え去って、あの場に今残っているのは母なる大海原のみだ。」

 

何事もなく言ってのける白蛇だが、「島を消滅させた」という彼女の言など到底信じられるものではない。

 

「は、ハッタリだ!

大将って言ったって女1人、例え能力者だったとしても、島を土地ごと消しちまうなんて無茶な真似が出来るワケがないだろう!」

 

「そ、そうよそうよ!ハッタリかまして私たちをビビらそうったってそうはいかないんだから!」

 

堪らずそげキングが大声を張り上げ、ナミもそれに同意する。ゾロは白蛇の腰に掛かった刀を見つめ、いつでも抜けるよう柄に手を掛けた。

大将の戦闘力は先日戦った青キジである程度予想は付いている。悪魔の実最強と謳われる自然系の能力を有し、恐らくCP9の使った『六式』も会得しているだろう。自分にどれ程相手が出来るだろうか…

彼は精神を研ぎ澄ます。

 

「まあ信じるか信じないかはお前達次第だが…それで、だ。

私が此処に赴いた理由、分かるヤツが居るか?」

 

そもそも大将白蛇は通常のバスターコールではやって来ない。海軍の生ける最高機密(トップシークレット)ともいえる彼女は、表舞台には上がらない。それを推してこの場に現れたのには理由があるからだ。

 

「スパンダムに渡していたのは『警報(アラート)電伝虫』といってな、世界に二つと無い超貴重な電伝虫だ。世界中何処に居ても一定の念波を送ることができる。

私が世界の何処に居ようと、バスターコールと共に現れるための贅沢な終末装置。

そんな代物を使ったのは…お前達がスパンダムの手に負えなくなりでもしたか、それとも…」

 

「いや、フツーに落っことして鳴ってたぞ、その電伝虫。」

 

「………なんだって?」

 

「こ、コラ!カティ・フラム!余計な事言うんじゃねえ…ひいっ!?」

 

実はフランキー、ロビンを連れて逃げるスパンダムの一部始終を目撃していた。

無論、うっかり落として発動したバスターコールの事もバッチリと。

 

「…後でじっくり話そうな?」

 

「ファイッ!!りりりり了解であります!大将白蛇殿ォ!」

 

蛇に睨まれた蛙さながらの挙動不審ぶりを見せながら、怯えるスパンダムにミラは溜息をひとつ吐く。

 

 

「コホンッ!

理由はどうあれ、大将白蛇が喚ばれたのなら私は仕事をしなきゃならん。

既に軍艦十隻によるエニエス・ロビーへの攻撃は始まっている。

私の作戦目標はニコ・ロビンの確保、麦わらの一味へは何も言われていない。故に、大人しく彼女を引き渡せばこの騒動にも目を閉じておいてやろう。」

 

麦わら海賊団は選択を迫られる。

ニコ・ロビンを引渡し、司法の島から逃げ帰るか。白蛇の邪魔をして諸共に消されるか。

 

「悪い事は言わん、ニコ・ロビンを差し出せ。麦わら海賊団。

…これが最初で最期の警告だ。」

 

言葉と共にズシリ、と空気が重くなる。

白蛇の一言が鉛のように麦わら海賊団へとのしかかった。

暫しの沈黙、その後に彼等の出した答えは…

 

 

 

「「「「断るッッッッ!!」」」」

 

 

 

満場一致の拒絶だった

 

 

その答えにスパンダムは驚愕し、ガスパーデはヒュウっと口笛を鳴らしおどけて見せ、イルミーナは相変わらずの無表情だ。そして白蛇は、笑っていた。

 

 

 

 

 

 

 

「…ふ、ふふふふ……

まあそうなるだろうと思っていたよ。

私程度の威圧に屈するような連中に、お前が尽くす筈がないものな。」

 

意地悪そうに笑いながら、白蛇はロビンの方へと視線を向けた。対するロビンは恐怖に怯えながらも果敢に白蛇を睨み付ける。

 

「私の何を知っているの…

島の歴史を…人を簡単に消滅させる貴女に…ッ!」

 

「ありゃ、随分と嫌われてしまったな。

それに、部下からの報告でお前達は世界政府の旗を撃ち抜いたとも聞いたからな。宣戦布告しておいて今更逃がして下さいじゃ筋が通らん。」

 

からから笑う白蛇。その笑顔も消えぬまま、腰に掛けた軍刀の柄に手を掛ける。

 

その瞬間、瀑布の様な殺気が白蛇から溢れ出た。

 

『ッッッッッッ!?』

 

心臓を鷲掴みにされる様な感覚に、麦わら海賊団は瞠目する。

麦わら海賊団だけでなく、遠く離れているはずの軍艦に座する中将達すら身震いさせる程の威圧感が司法の島に居るもの全てに襲いかかった。

 

「…まあいいさ、私は仕事をしよう。

まずは…」

 

恐怖で地面に足が縫い付けられた様にその場から動かない麦わら海賊団、その内の1人に適当に狙いを定めた白蛇はトンッと軽く跳躍し…

 

 

さようなら、泥棒猫。

 

 

死神は鎌を振り抜いた。

 

 

 

 

 

 

ナミの目には全てがスローモーションの様に写っている。

稲光と共に視界から白蛇が消え失せたと思ったら、次の瞬間には彼女の声が自分の真横から聞こえたのだ。

 

「えっ…」

 

驚き声を上げる暇もなく、生返事したまま声の方へと顔を向ければ、緋色の軍刀が今まさにナミの首を断たんと迫って来ている。

この時、ナミは本能で理解した。

 

(あ、死んだ)

 

吸い込まれるように死神の鎌がナミの首へと迫り、首を切り落とさんとするその刹那。

 

「ウオオオオオオオッッッッ!!」

 

3本の刃がすんでの所で間に滑り込み、辛うじて刃の軌道を逸らす。

心地よい風がナミの頬を撫で、次いで頬が僅かに裂けた。

 

「ほう、防ぐか。」

 

「……ッ!!…グッ!うらァッッ!!」

 

そのまま力任せに軍刀を弾き、ナミを庇うように前へ立つゾロ。

 

「あっ…うあ…!?」

 

「ッッ!?大丈夫ナミさん!?」

 

思わず腰砕けになり、放心するナミにいち早く我に返ったサンジが駆け寄る。

それを確認したゾロは一味から1歩前に立ち、先陣を駆って出た。

 

「クソコック、他の奴ら連れて護送船に走れ!此処は俺が…」

 

「食い止められるとでも思っているのか?『海賊狩り』。」

 

再び強襲するミラの緋刀を刀3本掛りで受け止める。ぶつかり合った衝撃でズシンとためらいの橋が揺れ、必至に踏ん張るゾロを支える地面がクレーターのように沈み込んだ。

 

「ゾ、ゾロ…ッ!」

 

「グッおおおおお!!…速く行けェッ!!」

 

ゾロは一味の中でもルフィに次ぐ実力者だと言う事はこの中の誰もが知っている、そのゾロが傍から見ても分かるほど大将白蛇に押されているならそれは明確な危機だ察したのだ。

そこからの行動は早かった。

 

「クッソ…死ぬなよクソマリモ!」

 

「ゾロ君任せた!遠距離支援はこのそげキングに任せろぉーう!」

 

「剣士君…ッ!」

 

皆が斬り合う2人を回り込むように避けて走り、一行が対するのはガスパーデとイルミーナ、次いでに黒焦げのスパンダムだ。

 

「ガスパーデ、イルミーナ、スパンダム。逃がすなよ。」

 

「あいよォ。」

 

「ん。」

 

「俺は戦力に入れんといて!」

 

わざとゾロ以外を奥へ逃がしたようにも見えたが、そこへイルミーナ、ガスパーデ、スパンダムが立ちはだかった。

 

「フランキー、レディの方を頼む!

傷付けたらオロすからなァ!」

 

そう叫んだサンジは何故かその場で回転し始めた。

マッチに摩擦で火を起こす様に、サンジの軸足が回転で熱を帯び燃え上がる。

 

 

「むつかしいコト言いやがる…

だがスーパー任せろ!優しくソフトにボコられて貰うぜお嬢ちゃんよォ!!」

 

対するフランキーの左手の関節がガコンと開き、中から飛び出した大砲の玉がイルミーナに向かって殺到する。

 

「…『かみそり』。」

 

キュインッ!!

 

弾が直撃する前にイルミーナは剃の歩法でそれを回避、ガリガリ音を立て引きずる鎌刀が地面にジグザグの切れ込みを入れながらフランキーに一気に近づいた。

 

「んなッ!このガキ、役人共と同じ動きを!?」

 

「とーう!」

 

その小さな身体に余るほど大きな鎌刀の1本を軽々と振り上げ、そのままフランキーの腕を両断せんばかりの勢いで叩き付ける。

 

「あれ…手応えなし…?」

 

響く鈍い音。

そう、普通なら人間の腕など簡単に落ちてしまうのだが、生憎彼は作りが違った。

 

「効かねえなぁ、鉄だから!」

 

自身の身体を改造し鋼鉄で固めた腕の硬度は凄まじく、イルミーナの鎌刀をガッチリと受け止めていた。

 

「腕が鋼で良かったぜェ!

フレッシュぅぅぅぅ…」

 

「…!」

 

にやけるフランキーの口元に集まる熱、獣の感なのか危機を察したイルミーナはすぐさま飛び退く。

 

「ファイヤアアアアアッッ!!」

 

直後発せられた火炎放射が今しがたイルミーナが離れた場所へ吹き荒れて空に登っていった。

 

「変なひと、ホントに人間?」

 

「あたぼうよ!

但し…俺ァスゥ〜パァ〜なサイボーグだがなァ!」

 

「さいぼーぐ…くまの親戚かな…」

 

ボソリと呟きながら着地したイルミーナはそのまま鎌刀を構え、続けざまに飛んできた火薬の塊を薙ぐ。

真っ二つに割れた火薬はイルミーナの両側後ろで爆発し、尻尾を軽く揺らした。

 

「げっ…真っ二つかよぉ…

頼むぞフランキー君、後方はこのそげキングがしっかりカバーする!」

 

「かく…じゃない人もたたかうの?

いいよ、どーせ皆捕まえるもん。」

 

「ヒィ〜やっぱりあの刀コエ〜…」

 

そげキングはおっかなびっくり愛用の巨大パチンコ『カブト』を構えイルミーナに狙いを定めた。

 

残されたロビン、ナミ、そしてCPとの戦いで疲労し動けないのでナミの背中にロープで背負われているチョッパーはココロ達の待つ護送船に向かって走り出す。

しかしそこに立ちはだかるのはCP9長官スパンダム。

 

「逃がすか!」

 

「邪魔よっ!」

 

ビシャアアアンッ!!

 

「アビャアアアアアアアアッッ!?」

 

稲光が弾け、今まさに像剣ファンクフリードを抜こうと柄に手を掛けたスパンダムの脳天に落雷が降り注ぐ。そのまま黒焦げになって動かなくなった。

スパンダム、足止めに要した時間僅か3秒。カップ麺も作れないよ!

即落ち2コマもかくやの秒速ノックアウトをかましたナミは小さくガッツポーズ、なんとなくあの男は弱いって察していたらしい。

 

「ロビン、急いで!

護送船に乗ったらルフィ達を回収して、とっととこんな場所からオサラバよ!」

 

「航海士さん…」

 

絶望的な状況だというのに、ナミの目から光は消えていない。そんな彼女を羨ましく思い、護送船に向けて走り出そうと足に力を込めたその時…

 

「「ッ!?」」

 

先ほどまでためらいの橋側に停泊していた護送船、それがいきなり炎に包まれ、轟音を響かせながらあっという間に沈没していく。

 

「ッ護送船が…」

 

「なっ、なんで急に燃えたの!?

それに船にはおばあちゃん達がまだ…」

 

護送船には自分達をここまで連れてきてくれた海列車の運転手ココロとその孫チムニー、それにペットのゴンベが乗っていた筈だ。燃え尽きて沈んでいく船の残骸を見つめながらナミが呆然と膝を着いたその時、波止場近くの海中から何かが飛び出した。

 

「んがががががァ〜ッ!!」

 

「お、おばあちゃん!?」

 

「おお、アンタ達無事だったかい!」

 

爆発の直前、人魚であるココロは孫を連れて咄嗟に海に飛び込んだらしい。そのまま連れていたチムニーとゴンベを腕から下ろし、2人はナミに駆け寄っていく。

 

「護送船が急に爆発したんだけど一体何があったの!?」

 

「んが…それぁ分かららくてねえ…

アタシぁ厨房にあった酒を幾らか拝借してのんびりしてたんだけど、急にチムニー達が奥の通路からやって来て…その直後にころ爆発さ。」

 

「うええええんおねーちゃあああん!」

 

泣きながらナミの胸に埋もるチムニー、隣のゴンベは申し訳無さそうに頭を抑えていた。

 

「ゴンベが!ゴンベがね!

船室で寝てる綺麗なおねーちゃんの鼻ちょうちんをつついて起こしちゃって…それで怒ったおねーちゃんが船をボワって燃やしちゃったの!」

 

「ええっ!?

ていうかあの船、まだ中に海兵が居たの!?」

 

初めに制圧した時、もう少し船内を確認しておけば良かったとナミは後悔するが、そんな暇もなく燃え盛る護送船の中からゆらりと覗いた人影がナミ達の前へと着地した。

 

腰まで伸びる綺麗な金髪をした、澱んだ紅い瞳の美女。CPの役人の様なスーツとスラックスをだらしなく崩して着込み、胸元は大きく空いて中の豊満な谷間が見え隠れしている。

 

「ヴぅぅぅ…」

 

しかしそんな美貌もボサボサになった前髪が顔まで隠していて殆ど分からない。

開口一番、まるで獣が唸るような低い声に一行がたじろぐが、そんなことお構い無しに美女は叫ぶ。

 

「この…ックソウサギがああああッッ!!」

 

司法の島全体に響く程の大声。

口から炎を迸らせ、威圧感と殺気丸出しの咆哮に、命の危機を感じたナミは咄嗟にチムニー達を背中に下げた。

彼女の怒りに呼応する様に赤黒い炎が海から吹き上がり、幾つもの炎柱が海を覆い尽くす。勿論海上で待機している軍艦にもその火の粉が降りかかり、船内では海兵達が消火活動に右往左往していた。

 

海軍食堂総料理長兼、海軍大将白蛇の1人、『黒炎帝』アン。

職務をサボり護送船で昼寝をしていた所をゴンベに起こされ癇癪で船を破壊する。多分後でミラからこってり説教(物理)される事だろう。

 

 

 

 

頼みの綱だった護送船が破壊され、窮地に立たされるの麦わらの一味。

 

麦わら海賊団結成以来、最大にして最悪の逃亡劇が幕を開けた。





【海軍本部軍事機密要項より抜粋】

海軍本部特殊階級

《紅雷帝》ミラ
《黒炎帝》アン
《紫氷帝》レム

以上3名の登録を以て大将『白蛇』の任を執行するものとする。尚、作戦行動中に限り以上三名の命令は絶対であり、中将以下如何なる階級の海兵であっても従わねばならない。
以上三名による被害は人、物、島に限らず如何なる場合でも世界政府が負担するものとする。










ミラVSゾロ

ガスパーデVSサンジ

イルミーナVSフランキー、そげキング

アンVSナミ、ロビン

もう1人の変態は…





次回はモチベが続く限り…書きます…


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