偉い人達が私を対リンドウの暗殺者と勘違いしている (九九裡)
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勘違い開始……!

何と無く書いてみました。
注意、この先目を覆うような駄文が広がっています。
それでも読んでやるぜ仕方ねーな、という心の広いお方はどうぞお進み下さい。


「……行ってきます。そのうち帰省する」

「気をつけて行くのよ」

「わかってる」

 

私は心配そうに手を振る母さんにひらひらと手を振った。荷を背負おうとした所で、私に突進してくる影……!

 

「アグネスゥウウウ!」

「死ね、クソ爺」

「ぐっは!」

 

私の上段回し蹴りを首に頂いて、我が家の老害こと祖父は吹っ飛んだ。それでも尚這いずって近寄らんとして来る……!

 

「アグネス……本当に行ってしまうのかの」

「寄らないで。触らないで。息しないで」

「行かないでくれアグネス!わしゃ寂しいんじゃ!」

「死ね」

「孫娘が会話のキャッチボールしてくれなくて辛い」

 

この爺は昔から孫バカであり、無駄にフェンリル本部でも権力も持っているクソ野郎なのだ。私が仲良くしたかった友達もことごとくこの謎の独占欲に駆られた爺に追い払われ、人と話す機会が抹消された私は、言語能力と表情筋が死んだ。ぶっきらぼうで無表情になったせいで友達などますます出来なくなった。密かに枕を濡らした。

しかし!今日私は爺の支配から脱却する!

アラガミの動物園と名高き極東支部へ転属するのだ!極東支部以外ではザイゴートが最強みたいな流れがあったけど、これで漸く神機が強化できる。転属願い出して良かった。ほんと良かった。

 

「でも大丈夫なの?極東支部ってやっぱり危ないんじゃ……」

「問題ない」

 

母さんは心配そうに言うが、極東支部には是非行きたいのだ。私が自殺志願者という訳ではなく、第一部隊の面々を見たいからである。『GOD EATER』をプレイしていた記憶を持つ者として。

唐突だが、私には生まれた時からいやにハッキリとした前世の知識があり(おそらく高校生男子)、人格が混ざり合ったもののほぼ主導権が今生の『私』にあるため、我がことのようには感じられないものの、異世界……平和な21世紀初頭日本の知識が頭に詰まっている。その中にこの『GOD EATER』世界の知識もあった。この先終末捕食が起こるらしいので母さんには心配を掛けると思うが、それを差し置いても私は世界が救われる様を間近で見てみたいのだ。いやだって、神薙ユウとか凄いじゃん。あれもう完全に御都合主義の救世主(デウス・エクス・マキナ)並みの主人公力じゃん。本書いて売ったら儲かると思うんだ。

あとアリサさんの下乳も是非生で拝んでみたい。

 

「アグネスよ!やはり危険じゃ、行くべきではない!こっちにうわらべっ」

 

手首を掴んで引っ張ってきた爺の力を利用して投げ飛ばした。ゴッドイーターになったのも適正が高いからとかでほぼ無理矢理だったけど、爺を容易くあしらえるようになったのはホントに助かった。お互い合気道とか柔道とかやってたから力負けしてたけど逆転したし、偏食因子のおかげかな?

 

「行ってきます、母さん」

「気をつけてね、お土産もよろしくねー。明太子がいいかなー」

 

博多に行くことは殆どないと思うよ、母さん。

サカキ博士に頼めたらいいけど。

 

アグネス・ガードナー。十六歳。私は歴史の証明者への一歩を踏み出した!

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

 

家から出て行くアグネスを爺は悔しげに見ていた。

 

(アグネスが……アグネスがワシを置いて出て行ってしまうううう!)

 

アグネスは唯一の孫であり、幼い頃は「おじーちゃーん」とトテトテと歩いて寄ってきて、宝石のような笑顔を見せてくれていた。そんな可愛い孫を爺は溺愛し、爺から見たアグネスは爺フィルターによって女神もかくやの美少女に見えているが、実際にはかなりの美少女に変わりないが別に女神でもなんでもない。明るい茶髪に翡翠の瞳を持ち、ダウナーな雰囲気を漂わせ、尚且つ衣服は基本ジャージの上と体操着の短パンにブーツという、『取り敢えずある物を着た』という色々とおかしい格好が、彼女の美少女成分をかなり抑えていた。頭頂から生えたアホ毛が風にそよぐ。無表情と投げやりに聞こえるコミュ力も相まって退廃的な印象だ。あまり関わりたくない感じの。

しかし自重を忘れた爺にとってはそんなこと関係ない!

昔はともかく今はエスカレートしすぎて孫に嫌われている爺は、この後に及んで策を巡らせた。

 

(無理矢理連れ戻してはワシが嫌われてしまう!)

 

既に嫌われているが。

 

(そう……そうじゃ。いつもどおりちょっと悪印象を与える噂を極東支部で流させるか。肩身の狭い思いをすれば帰ってくるじゃろう。寂しがり屋じゃしの。帰ってきたところを慰めればなお良い)

 

好感度アップ待った無しじゃ、と笑う爺。最悪である。

そしてアグネスの偽装パーソナルデータ……本来の経歴の最後に最悪の一文を付け加え、極東支部のヨハネス・フォン・シックザール支部長及びペイラー・榊博士へと送るのだった。

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

 

ヨハネス・フォン・シックザール支部長は本部より送られて来た資料を見て、

 

「ほう?」

 

ひとつ笑った。

自分の新たな駒となり得る少女に。

 

「本部からの転属……本人の希望のようだが、支援と考える方が適切か。有効に活用させてもらおう」

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

 

「これは……!」

 

ペイラー・榊は急ぎ一人の男を研究室に招いた。

 

「おう、サカキ博士。呼んだか?」

 

研究室に入って来たのは雨宮リンドウ。第一部隊隊長である。

 

「リンドウ君……少々まずいことになったかもしれない」

 

サカキはリンドウに送られて来たパーソナルデータを見せる。リークとして匿名で本部から送られて来たデータ。それは正規の手続きで書き換えられたデータであるため真偽の確認に至らず、サカキはそれをそのまま正しいデータとして受け取ってしまった。

リンドウは書類を受け取って目を通し、唸った。

 

「こいつぁ……ヤバいな。こんなのが極東支部(ウチ)に来んのか」

「恐らくはヨハンが本部に手を回して招聘したんじゃないかな。できるだけ第一部隊から遠ざけるように配置しよう」

「んー……いや」

 

サカキの対応にリンドウは首を横に振る。

 

「こいつ、第一部隊に入れてくれ」

「な!正気かい?」

「ああ。知らないところで動かれるより目の前に居られてる方が監視もできるし、色々いいからな」

「……大丈夫だね?」

「心配すんなって。なんとかしてみせるさ」

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

 

〜資料〜

 

アグネス・ガードナー(16)

(顔写真が載っている)

・十三歳でゴッドイーターに登録

・十四歳でヴァジュラを一対一で撃破

・同任務中、不測の事態によりボルグ・カムラン及びシユウ堕天種と遭遇するもこれを撃破

・十五歳で撃破数1000を達成

・先月十六歳となる

 

《以下、重要機密》

ーーまた、

 

 

 

 

 

 

ーー当ゴッドイーターは八歳から十三歳まで二つ名『殺戮人形(キリングドール)』として、フェンリル『暗部』にて不穏分子、反乱分子の処理を主に任務としていた。

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

 

「ふぉ?」

 

ヘリコプターの中でこっくりこっくり船を漕いでいたアグネスはパチリと目を覚ます。

 

「……獣神牙が落ちないんですけどの夢か」

 

以前にヴァジュラやらボルグ・カムランやら何やらを一斉に相手した半ば地獄を思い出しつつ、再び目を閉じる。

ハッチャケた爺によって知らぬ間に暗殺者の来歴を被せられた少女の『思ってたのとちょっと違う』日々が今、始まる……!

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

 

〈side・アグネス〉

 

基地を飛び石のように移動した私は、数日かけて極東支部に到着した。

極東地域はかつての日本。その関東地区、神奈川と呼ばれていたエリアだ。

ちなみに、さらに細かく言うとアナグラが存在するのは藤沢市であり、主人公らが任務で訪れる殆どの区域も神奈川県なのだとか。ウィキで見たんだっけ。

内部居住区施設を中心として外部居住区が広がり、更にその周囲を対アラガミ装甲壁が覆っていた。しかし『極東支部』は、正確には中央施設のみのことだそうだ。まあ中央施設なくなったらここにいる人みんな死んじゃうしね。ご飯も食べられないし。

 

アナグラを通り、支部の中へ。エントランスに入ると……おお……ゲーム画面越しの景色が現実にあるよ……思わず周囲を見回して笑ってしまった。見慣れない人だからか、他のゴッドイーター達にえらく注目されているが、転校生はそうなるのが最早サダメだ。甘んじて受け入れよう。

えっと、まずはシックザール支部長のところに行かなきゃいけないんだよね。私は出撃ゲートから入って来たから、左のエレベーターか。

さて、行くとしましょう。迷いなくエレベーターに進み、最上階へのボタンをポチッとな。

 

エレベーターに乗る時まで注目されていたので、私は彼らに向かって一つ微笑む。ざわめきが起こったところで私は上階に運ばれて行った。

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

 

〈side・リンドウ〉

 

今日は数日前にサカキ博士と話したアグネス・ガードナーがこの極東支部にやって来る日だ。極東支部に所属するゴッドイーター達は他の支部の連中と違って潜った修羅場の数も多い。そのぶん、あー、なんというか、転属して来た人間は戦闘経験のない新人でもない限り俺たちの雰囲気に当てられちまうんだよな。ガードナーがどんな反応をするかは分からないが……おっと。電話か?噂をすればサカキ博士か。

 

『そろそろ例の彼女が到着する予定だ。極東支部の中を一通り巡ってもらっても構わないが、あまり遅くならないようにしてもらってくれるかい?すまないが、万一迷子になっていたら連れて来て欲しい』

「あいよー」

 

さて、どんな人間なのかねえ。

 

そして15分後。

出撃ゲートを開けて入って来たのは、体操着を着た年若い少女だった。転属者が来ることはみんな知ってるから、注目を一身に浴びているんだが……まるで堪えた様子もない。無表情がまるで変わらない。

それどころか、周囲のゴッドイーターを一人一人舐めるように見渡して……

 

ニヤリ。

 

「!」

 

ガードナーは嗤った。禍々しく。

まるで笑い慣れていない人間の笑顔のようでもあったが、間違いなくそれは嘲笑であり失笑だった。

彼女は言外に言ったのだ。

なんだ極東支部もこんなものか、と。

ガードナーの経歴を知らないゴッドイーター達は各々腹立たしそうだったり不満そうではあったが、十四歳にしてヴァジュラとボルグ・カムランとシユウ堕天種を一遍に相手取れるゴッドイーターは極東支部でも多くない。

……本物が来ちまったな……。

ガードナーは体に刺さる視線もなんとも思っていないように威風堂々と進み、迷いなくエレベーターに乗った。その様には自分への絶対の自信が透けて見えた。

そして再びの歪んだ嘲笑。それを最後に彼女は支部長室へ昇っていった。やはり表情筋が引きつっているように見えたが、これだけ周りの連中がピリピリしているんだ。俺の間違いってことはないだろう。

それとさっきから『他所の支部(あんぜんちたい)からの転属の癖に生意気だ』という声が上がってやがる。二、三日後には軽く彼女の歓迎会もあることだし……やれやれ、暗部云々は抜きにしても、ガードナーが孤立しないためにも大口を叩くだけの実力はあることを説明しておいてやるか。



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早くも傍観者卒業してしまった

〈side・アグネス〉

 

支部長室の前に辿り着いたので、コンコンとノックすると「入りたまえ」とお声が掛かった。小山力也ボイスで。

 

「失礼します」

 

扉を開き、キチンと閉める。後ろ手になんてミスは犯さない。私は支部長に向き直ると、今日のために練習していた敬礼を行った。

 

「本日付けでフェンリル本部より極東支部に転属となりました。アグネス・ガードナーです。よろしくお願い致します」

「極東支部支部長、ヨハネス・フォン・シックザールだ。よろしく頼むよ。ガードナー君」

「はい」

 

敬礼を解くと、シックザール支部長は手元の書類を手繰りながら言った。

 

「極東支部の中の案内は第一部隊隊長の雨宮リンドウに任せている。この後、案内してもらってくれ。問題は?」

 

ヒャッフウウウ!マジですか支部長!リンドウさんに案内を頼めると!リンドウさんと会話までできるとは。適当な部隊に置かれた後に傍観者と化すつもりだったのに。ラッキー。

 

「ありません」

「そうか。ああ、君は第一部隊所属とする。雨宮隊長からの強い希望でね。君ほどの逸材を寝かせておきたくないとのことだ」

「はい……は?」

 

支部長は満足げに頷いて……いるが。第一部隊?私が?えっ、ちょっと待って。全然傍観者じゃないんだけど。寧ろ命賭けなきゃいけないんですけれど。

 

「君の気持ちも分かる。私も最初は少々迷ったが……なに、いざという時のために君がしっかりと彼の行動原理を把握しておく必要もあると思ってね」

 

何それどういう意味!?あれか?まさかスパイをやれ的な意味なのか!このおっさん私を『アーク計画』に巻き込むつもりだ!

 

『アーク計画』とは、このシックザール支部長が()()()推し進めている『エイジス計画』の裏の顔だ。『エイジス計画』の目的は大きなアラガミ防壁でヒトの住処を覆い、アラガミの存在しない箱庭を作ることによるアラガミの脅威の排除。

しかしてそれは隠れ蓑であり、本命の『アーク計画』は地球すら飲み込める程の巨大なアラガミ、「ノヴァ」による終末補喰を人為的に引き起こして、地球上の生命を一度リセットさせ、尚且つその間は一部の選ばれた人間のみを宇宙船で地球外に退避させ、人間という種をリセット後の地球に帰還させるという、極めて合理的な計画だ。合理以外捨てた計画。理念に共感できなくはないがその計画、最終的に主人公達に潰されるのだ。悲しいことに。そしてその数年後にはゆっくりゆっくり進む安全な終末捕食。ちょっと可哀想ではあった。

 

ちょっと可哀想ではあったが……私を巻き込むんじゃない。

反論しようとしたが……

 

「やってくれるね?」

 

ぎらり、と輝く支部長の眼。あっこれ無理です。これがパワハラか。流石に人類救おうとする人に傍観者が勝てるわけないわ。さっさと、退出しよう。特務とかやらされる前に。

 

「……分かりました。それでは失礼します」

 

頭を下げ、支部長室を出ようとする……が。

一つ思い出した。部屋を出る前に一つ伝えておこう。

 

「支部長」

「ん?なにかな」

「私が嫌いなものを伝えて置きます……『洗脳』『無能』『聖人』です」

「……」

「失礼しました」

 

扉を開き、一礼して外に出る。最後に目があったが、彼は特に思うところはない様子だった。

うーむ。原作に介入する機会が増えそうな以上、できればアリサさんへのオオグルマの洗脳教育を止めさせて欲しかったのだが。可哀想だし。胸糞だし。あのニュアンスで伝わっただろうか?一応手駒扱いされる以上、即刻消されはしないだろうが。

『無能』と『聖人』というのはまあ、普通に嫌いなものだ。本部で無能とコンゴウ二体とシユウ一体とサリエルの討伐に行かされた時は死ぬかと思ったからね。聖人は嫌い。何が嫌いって、その在り方だ。一切の悪性を持たない人間。そんなもの、気持ち悪すぎるから。まあそんなことはどうでも良くて。

支部長室からエレベーターまで歩いていると、エレベーターの前に誰か立っていた。

 

「よっ。お疲れさん」

 

リンドウさんだった。

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

 

〈side・ヨハネス〉

 

入って来た彼女を最初に見た時の私の印象は、『ちぐはぐ』だった。

服装もそうだが、その雰囲気が。16歳とは思えないほど、大人びた雰囲気を、強いて言うなら諦観にも似たものを彼女から感じた。

 

「本日付けでフェンリル本部より極東支部に転属となりました。アグネス・ガードナーです。よろしくお願い致します」

「極東支部支部長、ヨハネス・フォン・シックザールだ。よろしく頼むよ。ガードナー君」

「はい」

 

一切の感情を見せることなく、淡々と彼女は受け答えする。

 

「極東支部の中の案内は第一部隊隊長の雨宮リンドウに任せている。この後、案内してもらってくれ。問題は?」

 

私がこう言った時、彼女の肩が僅かに揺れた。接点はないはずだが……最近彼が私の周囲を嗅ぎまわっていることも既に把握しているのか?

高すぎる情報収集能力……やはり想定通り本部からの支援、或いは回し者と考えるべきか。

 

「ありません」

「そうか。ああ、君は第一部隊所属とする。雨宮隊長からの強い希望でね。君ほどの逸材を寝かせておきたくないとのことだ」

「はい……は?」

 

おっと。これは後にも先にも珍しい絵が見れたかもしれない。人形のような彼女がこうも困惑を前面に出すことが。確かに彼と共に行動することは、彼に彼女の手の内を、彼女自身の情報を明かすことにもなるだろう。しかし人形と称される君からすれば、その程度の情報隠蔽はお手の物だと思うがね?

 

「君の気持ちも分かる。私も最初は少々迷ったが……なに、いざという時のために君がしっかりと彼の行動原理を把握しておく必要もあると思ってね」

 

私がそう言うと、彼女の目が細まった。やはり知っている。彼女は『エイジス計画』、『アーク計画』までも。彼女の目は知っているものが示す理解の目だ。僅かに憐れみが感じられたが、そのような目は飽きるほど見て来た。私の過程を知るならば仕方ないことだが、特に気にはならない。

そして今も、この『殺戮人形(キリングドール)』は『いざ』のために雨宮リンドウを闇に葬る術を考えているのだろう。

思わず目に力が入る。計画は順調だ。ここで失敗するわけにはいかない。

 

「やってくれるね?」

 

彼女はその雰囲気を揺るがすことなく了承し、部屋を出て行こうとする。しかし扉の取っ手に手をかけた所でその挙動は止まった。

 

「支部長」

「ん?なにかな」

 

まだなにかあるのだろうか。

 

「私が嫌いなものを伝えて置きます……『洗脳』『無能』『聖人』です」

「……」

 

彼女の背中からは何も読み取れない。

それは……大車ダイゴのことを?『洗脳』というならば間違いなくそうだろう。しかし無能と聖人とは……特務の際にも、無能をつけるくらいなら一人でやらせろ、ということか?

 

「失礼しました」

 

答えを聞く暇もなく彼女は出て行ってしまったが……アグネス・ガードナー。君の手腕には期待している。君が大車の有用性を大きく超える存在ならば……その訴えにも耳を傾けることとしようか。

しかし洗脳が嫌いとは……なかなかに私もフェンリルも業が深い物だな。彼女か、もしくは近い人間が、その被害を背負わされたのだろうか。

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

 

〈side・アグネス〉

 

「本日付けで極東支部第一部隊所属となりました。アグネス・ガードナーです。よろしくお願い致します雨宮隊長」

「おう!極東支部第一部隊隊長、雨宮リンドウだ。よろしくな」

 

キャッフウウ!生リンドウさんだぜ!握手して貰ったぜ!今日マイルームに戻るまでこの手は洗わない!

 

「そんじゃ、まずは部屋に荷物を置きに行こうか。その後、サカキ博士のところに行こう」

「はい」

 

おお……さりげなく荷物を持って頂いた。成る程、サクヤさんはこのさりげなさに惚れたのかもしれないな。うん。

 

「本部からの転属なんだって?」

「はい」

「んー本部かあ。あんま行ったことねぇんだよなあ」

「本部に転属はオススメできな……できません」

 

とんでもないこと言うから敬語飛びかけた。しかし「別に敬語抜きでもいいぜ。階級は同じなんだからな」と言われるが、うむ。まあ良いと仰るならば敬語を抜こう。敬語抜いたら一気にコミュ障喋りと化すがな!

あと私も少尉ではあるけど爺のゴリ押しだから!

 

「リンドウ隊長」

「ん?」

「冗談抜きに本部への転属はやめるべき。あそこは……魔窟」

 

主に爺とか爺とか爺とかが。あんなんが偉い本部はさぞかし腐っているに違いない。あとなあ、飯がクッソ不味いんだよ!マッシュなポテト(味無し)が日常的に出てくる世界なんだよ!

リンドウ隊長の足が止まった。何故か頭を撫でられる。

 

「何故撫でる」

「んーなんとなく」

「橘サクヤに誤解を招く」

「おまっ……別に……いや、そんなことまで知ってんのか」

「極東支部のデータは粗方集めてる」

 

そういうと隊長は微妙な顔をして、頭をかいた。

 

「はー……言うなよ?」

「そのくらいは空気を読む」

 

恋愛を知らない小学生じゃあるまいし。頭撫でたくらいで騒ぎはしませんとも。

とっととエレベーターで移動したが……あれ?ここベテラン区画じゃない?

 

「リンドウ隊長」

「なんだ?」

「私は別にベテランじゃない」

「馬鹿言え。ヴァジュラとボルグ・カムランとシユウ堕天種をいっぺんに相手取れる奴が新人でたまるか」

「ゴッドイーターまだ四年目なのに……」

 

プレッシャーぱないんですけど。

ベテラン区画に入って部屋に入り、隊長には出てもらう。荷物の整理をしていると扉がノックされた。

 

「入っていいかしら?」

 

構わない、と返すと入って来たのは黒髪の美女だった。原作キャラなので当然、知った顔だ。

 

「初めまして。私は第一部隊所属、橘サクヤ。よろしくね?」

「む。よろしくお願いします。第一部隊所属になったアグネス・ガードナー、です」

「別に無理して敬語使わなくてもいいのよ?」

 

敬語ニガテ認定されてる……隊長か?隊長がなんか言ったのか。

サクヤさんはいい意味で気安く話しかけてくれた。

 

「荷物整理中?手伝いましょうか?」

「いいの?」

「ええ。同じ部隊の仲間だもの」

 

仲間!おお、なんと素晴らしい響き。本部でも私ぼっちだったからねえ……部隊長任されたこともあったけど爺の圧力のせいでぼっちーむだったし。みんな話しかけても昨日まで仲良くしてくれてたのに『あの、ごめん。話しかけないでくれるかな……ごめん』とか青い顔で言われるし。

 

あれ、思い出すと涙が……

 

「っ!ど、どうしたの?何かあったの?」

「……ぐず、別に、何でもない……」

「……そう?本当に何かあるなら言っていいのよ?チームなんだから」

「ぐしゅっ、ありがと」

 

ええ人や……ええ人や……リンドウさんこの人置いて行方不明とか何やってんの……。母性ってこーいうのを言うんだよ……うちの母さんは良くも悪くもぽわぽわ系だから……。

私は軽く感動しつつ、ティッシュで鼻をかんで荷解きを続けた。

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

 

〈side・リンドウ〉

 

アグネス・ガードナー。

あの子は一体、フェンリル本部でどれだけの非道を目にしたのだろうか。フェンリル本部を『魔窟』と称した時のあの目は嫌悪に満ちていた。それほどまでに本部は腐敗していてーー彼女も、それを嫌っているのか?

 

それはそれとして……俺の身の回りは徹底的に調べられていると見て良さそうだ。やはり第一部隊に引き込んで置いて正解だったかもしれない。裏でコソコソされるよりも直近で監視しておきたい。階級が俺より上だったら隊へのねじ込みは無理だったが、ギリギリだったな。

今は中でサクヤと一緒に荷ほどきをしているようだが、流石に女の子の私物が広がっているところを許可なく入ることは出来ないからな……。十分に注意して、異変を感じたらすぐにでも突入しよう。

そう思った、その時ーー

 

「えええええええええっ!!」

 

サクヤの悲鳴が響き渡った!

 

「なんだ!どうした!」

 

俺が半ばドアを蹴破るようにして中に飛び込むと。

 

「ア、アグネス?衣服……ジャージと体操着しか持ってないのかしら?」

「……?そう、だけど?」

 

ボストンバッグに詰められたジャージを見て戦慄するサクヤと、コテンと首を傾げるガードナーの姿があった。

サクヤはオレに気付く様子もなくワナワナと震えていた。

 

「な、なんてこと……年頃の婦女子にあるまじき事態だわ……いくらゴッドイーターが戦いに明け暮れると言っても限度があるでしょう……」

「別に服なんて、機能性と最低限のデザインがあればそれでいい」

「だとしてもジャージはないわよっ!」

「えー」

「えー、じゃない!ほら、今から買いに行くからついて来なさい!」

「「えっ」」

 

直後、ガードナーはサクヤに首根っこを掴まれて引きずられ、二人は部屋から飛び出て、エレベーターの中へと消えていった……。

最後にこちらを見たガードナーの目が屠殺される豚さんのような悲しい瞳だったが、俺にはどうすることもできない。

 

Prrrr......

Pi!

 

『やあリンドウ君。彼女はそろそろラボラトリに連れてこれそうかい?』

「わり、サカキ博士。ガードナー……サクヤに拉致されちまった」

『え゛っ何その状況。逆じゃなくて?』

「ああ、逆じゃなくて」

 

サカキ博士とため息が重なった。



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華麗なるシナリオブレイク

〈side・アグネス〉

 

昨日は酷い目に遭った……。

いきなりサクヤさんに連れ出されてファッションショーですよ。なんか可愛いワンピースとか着せられましたよ。何故かフリフリの黒ゴスとか着せられましたよ。混ざった精神による若干の忌避感からジャージしか持っていなかったのに……でも着任祝いって買ってくれたサクヤさん優しい。というか、凄く優しくして貰った。ついつい泣いてしまったせいで保護欲とか沸き立てられてしまわれたのだろうか。

でも私の身長が低いせいか開発部の人に「妹さんですか?」なんて言われるし。いや、顔立ちも違うって分かるし、冗談だろうけどさ。まあ、ああいう服は、折角買って貰った訳だし非番の日にでも着るとします。

歳の割に成長遅いんだよねえ私。初期のアリサさんに年齢伝えたら「フッ」とか言われないか、心配だ。

 

「あ、アグネスさん。早速任務がアサインされてますよ」

 

おっと任務ですか。それにしても受注できますよ、ではなく、アサインされてますよとは。強制ミッションか。よかろう。その傲慢ごとへし折ってくれるッ!

 

「新人二人のサポートですね。鉄塔の森でのオウガテイルの討伐となります。できるだけ安全に、一対一で相手をさせてあげて下さい」

 

さらば私の活躍。

 

ターミナルを操作して神機の整備が終えられていることを確認し、リッカさんのところに行って受け取ってきた。

聞いて驚け。

私は新型神機使いである。

もう一度言うぞ。私は新型神機使いだ!

めっっっっちゃ痛かったぞ!

私がゴッドイーターデビューした時、適合試験が極東支部の腕輪ガチャンじゃなくて、本部ではフライア式のキュイイイイインギャリギャリギャリギャリだったんだよ!え?何!?分かんない!?

ドリルみたいなので手首に偏食因子ぶち込まれたんだよ!

適合率は高かったからまだ良いものを……いや待て。それでも確か80%だったな。つまり残りの確率で私はアラガミ化していたんだ。

フェンリルKOEEE!!ブラックにも程があるでしょうよ!

 

まあ私の所感はどうでもいい。

既に出撃ゲートの中だ。あとは新人二人ともう一人の引率を待つのみなんだが……。

そして。

 

「お、君が例の本部からの転属かい?」

 

その男は。

 

「噂は聞いているよ」

 

やってきた。

 

「僕はエリック。エリック・デア=フォーゲルヴァイデ。君もせいぜい僕を見習って、人類のため華麗に戦ってくれたまえよ」

 

……あっ、これきっとエリックさん死亡ミッションや。

妙に前面を開けた上着を着て惜しげもなくタトゥーの刻まれた体を晒し、グラサンを押し上げる赤髪のゴッドイーター。エリック・デア=フォーゲルヴァイデだった。

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

 

〈side・コウタ〉

 

俺とユウが神機を持って出撃ゲートに入ると、既にそこには二人のゴッドイーターが待機していた。

一人はエリックさん。もう一人は……誰だろう。初めて見る顔だが……ユウと同じ新型神機使い?でも……

 

「中学生?」

 

俺がそう呟いた瞬間発砲音が鳴り響き頬を銃弾が掠めた。

ちょ、あの女の子拳銃向けてきたんですけど!隣のエリックさんも顔引きつってるんですけど!あれ絶対対アラガミ用じゃないよね!

拳銃を構えたまま俺とユウを睨み付け、呆気に取られた俺たちに彼女は言った。

 

「今回あなたたちの引率をする、アグネス・ガードナー。以後よろしく」

「は、はい……藤木コウタです……あの、アグネス、さん?引率はソーマとエリックさんって聞いてたんですが……」

「知らない。私に聞くな、あと私あなたより年上だから」

「「「えっ嘘」」」

 

三発の銃弾が放たれた。

 

危うく任務開始前に死んじゃうところだったよ。

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

 

〈side・アグネス〉

 

やはりコウタもユウも初期装備か。なんなの?私が「エリック、上だ!」をやらなきゃいけないの?でも自己紹介終わったしエリックが油断する機会も無いし……大丈夫だよね?大丈夫かなあ……大丈夫だといいなあ。

いや別にエリックが死のうが生きようがどーでも良いけどさ。エリナちゃん可哀想じゃない。お洋服なんて要らないからエリック、帰ってきてよう……とか泣かれたら罪悪感で死ねる。

そして、バカラリー。誰が中学生だ殺すぞ。

 

現地……鉄塔の森は旧小田原市。そこまで送迎用のトラックで送られた。なんか池とか森とか建物とか、狭っ苦しいエリアだなー。

 

「ううっ……なんか異様に静かだな」

「ああ……」

 

気味悪そうに顔を顰めるコウタとユウだが、任務がもう始まっている以上周りに注意して欲しい。あと立ち位置とか気を付けて。じゃないと。

 

「いいかい君たち。しっかりと僕の動きを見て、任務の参考にするように。決して足手まといにならないようーー」

「エリックさん、上だ!」

 

壁の上からオウガテイルがエリック目掛けて飛びかかった。ユウが呼び掛けるのと全く同時、私はエリックに足払いをかけて転ばせ、オウガテイルの大口にブラスト形態に展開した神機をねじ込む。間近で口内でロケット弾をぶっ放して破裂させれば、その頭はいとも簡単に吹き飛んだ。……私が血みどろになるという弊害は有ったが。

私は呆然としているエリックを蹴り飛ばし、固まっている新人二人を()め付ける。

 

「決してこいつのような足手まといにならないで」

「うぐっ」

「「は、はい!」」

『すみません皆さん、私がもっと注意を払っていれば……』

 

ヒバリさんが申し訳無さそうにしているが、今回は庇えない。危うく人死にが出るところだ。私が予め警戒していたからエリックは助かったが、原作を知っていたから注意できたのであって知らなければ間違いなくシナリオどおり死んでいた。……ココにコウタがいる時点でシナリオから外れてはいるが。

私はミーハーであるが、流石に生と死の境界線はゴッドイーター最初の任務で弁えた。人間は容易く死ぬのだと、ここは決してゲームではないのだと理解した。

 

「今はいい。他に反応は?」

『いえ、有りません』

「ならいい。……おい、気を抜くなと言った。いつでも周囲警戒。コウタはアサルト使いだったね」

「うす!」

「後衛にて前方注意。エリックはブラストだから同じく後方でバックアップ」

「……分かった」

「クヨクヨしてるヒマがあるなら動け。ユウは私と同じ新型で……ロングブレードにアサルトね。ロングで私と前衛を張って。タワーシールドなら壁となることを意識」

「はい!」

「よろしい。丁度お出ましみたいだし……行くよ」

 

そして私達は、やって来たオウガテイルと一戦交え、その日の任務を無事に終えた。コンゴウが二匹、何故か出て来たのでエリックに二人を守らせて私が殺したが。いや、だってさ。本部でも組んでくれる人いなかったし、ソロ狩りの方が得意なんだよね私。久々のやり甲斐のある狩りでテンション上がって、メテオブッ放す時に妙なこと口走った気がするけど気のせいだろう。気のせいだ!

……うむ。

コウタは警戒が続かないのが悪い点。ただ全体を見る目自体は悪くない。

ユウは全体的に筋がいい。まだ萎縮して動きが固いが、きっと数年後には一人でマガツキュウビとか狩れるようになるんだろうな。

……いや、一月だからね?アーク計画が収束するまで僅か一月。その間に「ノヴァ」倒せるようになるってどんなバケモンよ。極東怖い。

エリック?

奴はアナグラに戻るなり問答無用で引っぱたきました。調子に乗ってお説教とかしちゃったよ。でも次はもう助けない。

ヒバリさんには謝られたけど、謝る順番が違うことと、あと警戒を怠った奴らにも責任があると言っておいた。

それにしても極東のオウガテイルもそこまで強化された印象はなかったなー。「ノヴァ」の影響が出てるはずなのに……ぬるま湯本部の雑魚ゴッドイーターである私でも倒せたんだし。きっとあのオウガテイル達は栄養失調だったんだよ。新人二人に当たったのがあれで良かった。

あと、隊長にゴハン奢ってもらえた。うれしい。

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

 

〈side・コウタ〉

 

数時間前に俺が中学生なんて言ってしまった人。

本部からの転属である、アグネス・ガードナーさん。

彼女の強さは凄まじかった。

エリックさんが突然飛び出して来たオウガテイルにやられそうになった時も、アグネスさんはそちらを見もせずにオウガテイルの口に銃口を突っ込んで破裂させたんだ。

あの時アグネスさんがああしなかったきっとエリックさんは死んでた。

 

「決してこいつのような足手まといにならないで」

 

そういうアグネスさんの言葉は素っ気なかったけれど、とても怒っているのが伝わった。

その後はフォーメーションを組んでオウガテイル4体と交戦。俺がアサルトの通常弾で牽制しつつ、ユウとアグネスさんがオウガテイルを斬る。ちなみにアグネスさんの神機はヴァリアントサイズとブラスト、バックラーだった。

エリックさんも真面目にやってれば強いんだな。

俺とユウは初陣だったから凄く肝を冷やす戦闘だったけど。

 

で、問題はその後だ。

コンゴウが出たんだよ!二匹も!あのゴリラみたいな中型アラガミ!いやぁ、正直俺もうダメだと思ったね!オウガテイルに苦戦してるのにコンゴウなんて。

そしたらアグネスさんが言ったんだよーー

 

「下がって。ユウは盾展開。手は出さなくていい」

「で、でも!」

「聞こえなかった?下がれ」

 

そこからはもう快刀乱麻。

コンゴウの攻撃をアグネスさんは、回避するかジャストガードで完全に封殺していた。そこからのカウンターで叩き込まれる大鎌がコンゴウの体をドンドン切り裂いていった。後ろから殴られそうになっても、ジャンプしてその拳を足場にして幹竹割とか超カッコよかった!時々グレネードを使って目くらましして、リザーブしてオラクルを溜めてたよ。ひたすら二匹を切り刻んで、そして二匹ともに結合崩壊してダウン。動けなくなっていたコンゴウ達に向けて、アグネスさんはブラストを構えてーー

 

流星◯条(ス◯ラ)ァアッ!!!」

 

そう叫んだ途端、オラクルの弾丸が上空に飛んで行く。アグネスさんはトドメを刺すことなく神機をヴァリアントサイズに戻し、コンゴウに背を向けてゆっくりとこちらに歩いて来ようとしたがーー後ろでコンゴウ達が立ち上がって拳を振りかぶった!

 

「危ない!」

 

俺もユウもアサルトをコンゴウに向けて撃とうとしたけれどーーその瞬間、上空から大質量のオラクルの塊が降って来て大爆発を引き起こし、コンゴウ二匹を纏めて消し飛ばした!

 

「す、すげえ……!」

 

爆風に耐える俺とユウとエリックさんだったが、アグネスさんは爆発を背景に自分の揺れる髪を撫でていた……。

超カッコいいいいいい!

中学生とか言って本当にすいませんでした!

 

「これが……本部ゴッドイーターの実力……!」

 

エリックさんは恐ろしそうにそう呟いたけれど、アグネスさんは支部に戻った時にこう言っていた。

 

ーーあなた達新人二人にもあのぐらいは出来るようになる。

 

そう、言っていたんだ。

成れるだろうか。あんな強力なゴッドイーターに……いや、きっとなってみせるぞ。母さんとノゾミに楽させてやるんだ!

……いや、はしゃぎすぎちゃダメだ。無理は禁物だもんな。

エリックさんにビンタした時には驚いた。する前に「届かないからしゃがめ」と言っていた時にも驚いたけども。エリックさんが二メートル吹っ飛ぶくらい思い切り引っ叩いてアグネスさんは言った。

 

「あなたは家族を泣かせたくてゴッドイーターになったわけ?」

 

それだけ言うとアグネスさんは行ってしまったけれど、その言葉は俺の胸にも深く刺さった。リンドウさんも言っていた。「死ぬな、生き残れ」と。いくら俺が無理して母さんとノゾミに良い生活を送らせてやれても、死んじゃったらお金も入って来やしないんだ。

アグネスさんはきっと、本部でも凄腕のゴッドイーターだったんだろう。でも、だからこそ。

なんであの人は極東に転属して来たんだろう……?

 

次の日、休憩スペースでエリックさんとアグネスさんを見つけた。エリックさんがメチャクチャ真面目な顔して「昨日のス◯ラというバレットエディットを教えてくれ!」と言っていたけれど、アグネスさんは顔を膝に埋めて足をバタバタさせていた。なんか耳が赤かったけど、どこか恥ずかしいことでもあったのかな?



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アグネスはフェンリル(ブラック)の隷也

流星一条ァアア!の感想を多数頂きました。有難うございます。あっという間にお気に入り登録を千人以上の方にしていただいてかなり驚いています(震え声)。
二連続投稿です。一話目で種を撒き二話目で収穫します。勘違い要素はあるにはあるけど薄味です。


〈side・アグネス〉

 

(アグネス)は激怒した。必ず、かの邪智暴虐の支部長を除かねばならぬと決意した。私には政治が分からぬ。私はこれまで、十三歳からアラガミを毎日殺しまくって来た。けれど自分へのデスマーチには人一倍敏感であった。

 

「あのね、ヒバリさん。何が言いたいかっていうとね」

『は、はい』

「支部長にボーナス出さないとぶっ殺すって言っといて」

 

自分でも怖いくらい冷えた声が出た。

私はコンクリの上からジャンプすると、彼方に山のように佇む超巨大アラガミ、『ウロヴォロス』へと駆けた……一人で!

そう、私は特務中で嘆きの平原にいるのだった。

嫌だったけど断れなかった。消されたくないし。でもせめてリンドウさんくらい付けてくれてもよくない?ソロ得意でもね、流石にウロヴォロス相手だとリンドウさんいるのといないのとじゃ精神的安定感が違うんだよ。

 

開幕と同時に捕食し、バーストする。ゲームで見るとそうでもないけど実際見たらデカすぎる。山だよ。そしてキモい。触手の集合体とかちょっと。

 

うりゃあああ!

鎌をぶん回し、前足をチクチクと傷つけて行く。

前足振り下ろしと薙ぎ払いが来る!

ステップで退避からの……鎌伸びーる攻撃いぃ!

チクチク、チクチク。

このままオラクル限界まで貯めてメテオラッシュでぶっ潰してやる!

邪眼フラッシュ来ました!はいジャストガード!

そら切り刻んでやるよお!

チクチク、チクチク。

 

……うん、何だろう。私の絵だけアップしたら激戦に見えるのに、ウロヴォロス全体と一緒に写したらハムスターが人間にじゃれてるくらいにしか見えなさそうだ。

巨大なウロヴォロスの足元で、元気よくふんっふんっと鎌を振り回す私。どう見ても小動物です。

 

あっ、触手地面から生やす攻撃来た。

 

ブラストに神機を切り替えリザーブする。

そう言えば試しに作って見たネタバレットがあるんだよね。使ってみようかな?……いや止めておこう。こんなギリギリの任務で無駄にオラクルを消費したく無い。

空中に八芒星を描いた後に光の束(レーザー)がピュン!って出るんだけど。コウタがリアクション良いからコウタの前で見せよう。

 

目からビーム撃ってきた!はい前転回避!

 

うぁああああん!何で私みたいな雑魚ゴッドイーターが単独でウロヴォロスハントなんてしなきゃいけないんだぁ!帰ったらサクヤさんに思いっきり甘えてやるぞ!

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

 

ヒバリはアグネスのバイタルと周辺のアラガミ情報、そしてウロヴォロスの状態を確認しながらも、モニタに映し出されるアグネスの戦いの様子に見入っていた。

一言も話すことなく、ウロヴォロスの動きを読み、回避し、防御し、攻撃する。

 

切り裂く。

切り裂く。

切り裂く!

 

激しく動き回っているのにも関わらずアグネスのバイタルは戦闘開始から全く減っていなかった。対して、ウロヴォロスは確実に弱っている。

全てが予定調和であるかのように動き、抵抗を許さずじわじわと嬲り殺して行くーーまさに鎌を携えた死神。ウロヴォロスをどれだけ追い詰めてもアグネスの表情には何のさざめきも見えなかった。言葉を発することなくただ雄弁に伝えているようだった。

何一つ語る必要はない。貴様の死は決定事項だ、と。

 

アグネス・ガードナー。彼女にウロヴォロスとの交戦経験が無いにも関わらず、こうも『殺し慣れて』いるのか、ヒバリにはまるで分からなかった。

そしてーーアグネスが放っていた神属性メテオラッシュが降り注ぎ、ウロヴォロスを粉砕した。

 

でもこの人、サイズといい絨毯爆撃といい、致命的にチームプレーに向いてないな、と思ったヒバリであった。

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

 

〈side・アグネス〉

 

終わったー。

超疲れたー。

ゲーム時代の行動パターンがそこそこ通用したから良かったけど駄目だったら詰んでるよねこれ。

ウロヴォロスの死体を神機にもぐもぐさせながら、必ず支部長から金をせびることを私は誓った。

あともぐもぐと言えばさ、頼むから早くGE2みたいにラウンジ増築してムツミちゃん呼んで来てくれないかな。配給食も本部のゴハンより美味しいけどやっぱり手料理食べたいのよ。

おっ、コアが取れたね。あとはこれを持って帰って任務完了っと。

 

護送車カモン!クールに去るぜ……。

……。

………。

なんか竜巻の中からもう一体出て来たんですけど。

 

『なっ……作戦エリアに想定外の超大型種が出現!アグネスさん、気をつけて戦って下さい!』

 

退避させてくれないの?二連戦やれって言いたいの?

ヒバリさん何気にSだよねアナタ。

ああ……ストレスで偏頭痛がするよ……。

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

 

〈side・サクヤ〉

 

「サクヤさーん。焼きそばパン買って来ました」

「その台詞だけ聞くと私が不良の親玉みたいに聞こえるからやめなさい」

 

テンプレ通りに焼きそばパンなどの食べ物がぎっしり入った袋を抱えてやって来たコウタとユウの頭を私は軽く叩いた。今現在アグネスは任務から帰って来る途中らしく、以前から言っていた歓迎会を開くため、今は準備の為に余剰の配給チケットを集めて、食べ物やお菓子を交換して来て貰っているところ。

場所がないのでリンドウの部屋で行うことになったのだけれど。ただ……。

今現在リンドウの部屋に集まっているのが第一部隊の面々にサカキ博士、第二部隊の台場カノンさんに、エリックとその妹さんだけという……ま、まあこれ以上集まっても部屋に入りきらなかっただろうけど……少ないわよね。ヒバリさんはアグネスの任務が終わってから合流するらしいけど……。

 

「最初にエントランスに入って来た時に、その場にいた全員を挑発したんだろう?ならまあ、妥当な人数じゃないかな」

 

そうツバキさんは言うけれど。あの子、そんなことするかな?とても寂しがりに見えたけれどね。

 

「でさでさ!アグネスさんすげーんだよ!そこで撃ったバレットがヒューンドカーンって!ズドーンって!」

「おお〜」

 

コウタとカノンはアグネスの武勇伝で盛り上がっているらしい。サカキ博士とリンドウも聞き入っているみたいだけど擬音が多すぎて理解できてないみたい。

ユウは皿に食材を盛り付けているけれど……。なんで焼きそばパンをジェンガ風に積み立ててるのよ。あの子焼きそばパン好きなの?そしてなんでソーマまで「角度が甘い」とか言ってるの?ノリノリなの?

 

『あ、アグネスさんお帰りになられました……ひぃ!?』

 

部屋の中心に置いておいた通信機からヒバリさんの声が聞こえてきた。

 

『わ、分かりました!支部長には伝えて置きます!伝えて置きますから!取り敢えずシャワー浴びて血を落として!リンドウさんの部屋に向かって下さい!皆さん待ってますから!』

 

そんなに血塗れで帰って来たのね。何の任務を受けてたのかしら。

 

『こ、怖かった……』

「ヒバリちゃん、アグネスさんがどうかしたの?」

 

コウタが呑気に聞くと、ヒバリさんは。

 

『はい……アグネスさん、今回の任務で大型アラガミと想定外の連戦が続いてしまったので、そのぶんのボーナスを支部長に出させろと仰って……酷くお疲れのご様子です』

「んん?歓迎会どころじゃなさそうだったか?」

『いえ、お伝えしたところ、参加すると仰いました』

 

無理してないといいけど、ね。

 

 

 

「お待たせ……」

 

30分ほど待っていると、リンドウの部屋をノックして、アグネスが入って来た。……足元が覚束ないけど。ふらふらと、用意されたクッションに座り込む。シャワーを浴びてきたからか、いつも背中に流しているあちこち跳ねた髪をシュシュで後ろにひとまとめにしていた。腰まで届いているからまさに馬の尻尾のようね。

 

「つかれた」

 

サカキ博士から受け取った缶ジュースを一気飲みしてようやく落ち着いたのか、アグネスは肺が空っぽになりそうな大きなため息を……。

 

「アグネスさんは今日はどのアラガミと戦ってたんですか?」

 

カノンがフィナンシェを差し出して聞くと、アグネスは「ありがと」と呟いて、もそもそとフィナンシェを食べた。

 

「おいしいよ」

「はい。有難うございます!……それで、今日は」

「おいしいよ」

「え、あ、有難うございます。それd」

「おいしいよ」

「あ、はい……」

 

無理矢理誤魔化した!食いついたらしつこい『あの』カノンを下がらせるなんて!食べ終わるとアグネスは指についたフィナンシェのカケラを舐めながら、

 

「また作って?」

「は、はい!」

 

ぱぁ、と元気になるカノン。アフターフォローも完璧とは恐ろしい子……。こんな喋り方だけど、きっと人心掌握とコミュ力にも自信があるのね。

そんなやり取りをしている間にヒバリさんも合流した。

 

「ん、んんっ。あー、それでは遅くなったが。ガードナーの歓迎会を始めよう。幹事は俺が、務めさせて貰う」

『おー』

「それではガードナー。一言、どうぞ」

「これから、よろしく……」

「……以上だ!喋って飲んで食え!」

『お、おー!』

 

この締まらない感じはいかにもリンドウらしいわね。

その後はリンドウが次々配給ビールを空けて行ったり、コウタが主役そっちのけで食べ物を平らげていたからヒバリさんに叱られていたり。アグネスは私やカノンとポツリポツリと話しながら、食事を済ませた。

途中でカノンが明らかにおかしい様子だった時には何事かと思ったけれど……。

 

「アグネスさんはもう少し服装に気を使うべきです!例えジャージだとしても、金髪にするとかストレートにするとか常にその髪型にするとか青色のマフラーを巻くとか帽子を被ってその穴からそのアホ毛をムガムゴォ!」

「それは禁則事項」

 

アグネスが疲れていたとは思えないほど高速で焼きそばパンをカノンの口に詰め込んで事なきを得た。何が事なきなのかは分からないけれど、何と無くよ。

 

そして宴もたけなわとなった頃ーーエリックと妹とのエリナちゃんが立ち上がっていたアグネスの前に進み出た。

 

「……何?」

「エリックを、たすけてくれてありがとう!」

 

……ああ。この子はこのパーティを利用して、アグネスにお礼を言いに来たのね。先日エリックがやらかした件についてはこの場のみんなが知るところだけど、エリナちゃんも知っていたとは。どうやらエリックもそれ以来かなり真面目に仕事するようになったらしく、任務に同行した人達は皆、彼を褒めていた。

エリナちゃんが笑顔で嬉しそうにお礼を言うのを見て、この場のみんなの空気が和んでいた。アグネスはーー

 

「……ぅ、あ」

「アグネス?」

 

顔色が悪い。それどころか、怯えたように一歩後ろに下がっていた。けれど照れているのか、俯いているエリナちゃんはそれに気がつくことなく、お礼の言葉を言い続ける。

 

「エリックとね、やくそくしてたの。こんどお洋服をかってくれるって。でもアグネスさんがいなかったらそのやくそくも守れなかったから……ありがとう!」

「……やめて」

「あのね、お父さんとお母さんもね、アグネスさんにおれいをつたえておいてって!ありがとうって「やめてッ!!」

 

しん、と。

アグネスの絹を裂くような悲鳴に、部屋は静まり返った。

しかし、アグネスは気にした様子もなく……頭を押さえて、構わず叫んだ。

 

「やめて……違う!!私はッ!あなたにそんなことを言って貰えるような人間じゃない!」

 

血を吐くような叫びにリンドウが目を見張るのが見えた。

そしてーーアグネスの体が、ふらりと傾いた。異常を察知したユウが咄嗟に支えに入らなければ、床に激突していた。

 

「ちょっ……アグネスさん!?大丈夫なんですか!?」

 

私も、コウタ達も再起動してユウの腕の中のアグネスに駆け寄るけれど、アグネスは青い顔でぴくりとも動かなかった。

 

「診せなさい!」

 

仮にも私は衛生兵曹長!簡単な処置なら出来る!

私が容態を確認している間、サカキ博士が驚いて固まってしまったエリナちゃんを慰めていたのはナイスだったわ。

診たところ、どうも……

 

「ただ、気絶してるだけのようね……多分、何らかの要因で強いストレスが溜まってて、それが爆発したんだわ」

「そうですか、良かった……」

 

その日は主役が気絶したことと妙な空気になったこともあって、お開きになってしまった。アグネスは病室に運ばれ、目覚めるまでリンドウが付いていることに。

 

寝る前に、ベッドの中で声が反芻される。

 

『やめて……違う!!私はッ!あなたにそんなことを言って貰えるような人間じゃない!』

 

あの子があんな声を出すなんて。……いや。私はまだ、あの子について何も知らないのね。あんなに芯の強そうだった彼女があそこまで取り乱す理由……一体、何だったのかしら?

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

 

〈side・リンドウ〉

 

俺は真夜中の病室にいた。ガードナーの眠るベッドの横で、椅子に座っていた。

 

『やめて……違う!!私はッ!あなたにそんなことを言って貰えるような人間じゃない!』

「……クソッ」

 

先程のガードナーの悲痛な叫びを思い出して、ギリリ、と奥歯を噛み締めた。眠るこの子の顔は、年相応のあどけない少女の顔だ。また精神的にも幼いただの少女。

それがーーあんな顔を()()()()()()()

あの表情は罪に苦しむ者の顔だった。

あの悲鳴は罪に灼かれる者の声だった。

こんな、まだ十代の少女が、それほどの後悔を背負わされている。その理由は分かっている。間違いなく幼い頃から本部でやらされていたらしい『暗部』の任務とやらだろう。そこで犯し続けた過ちに、彼女は苛まれている。

 

「なにが『殺戮人形(キリングドール)』だ……!」

 

この子のどこが人形だ!

こんなに苦しんで、溺れそうになっている彼女が人形だと!?巫山戯るな!!

本部はどこまで腐ってやがるんだ!

衝動的に近くにある何かを殴り付けたい気分だった。ああ、こんなにイラついたのは久し振りだ!シックザール支部長……あんたもこの子のことを知っていて呼んだって言うのか!?

 

「チクショウ……」

 

俺には何もできない。

助けてやりたくても過去に戻ることは出来ないし、本部の連中をどうにかすることも不可能だ。

だからーーせいぜい、彼女が前を向けるように。仲間として過ごせるようにしてやろう。

例え彼女が、俺を消すために送られた暗殺者としてもだ!

俺が固く誓ったその時、アグネスの唇が動いた。

 

「たすけて……やだよ……」

 

 

「もう……殺したく……な……」

 

つう、とアグネスの頬を、目尻から零れた涙が伝った。俺は強く強く、拳を握りこんだ。

必ず……。

必ず俺はアンタを止めるぞ!ヨハネス・フォン・シックザール!




※カノンは無印・リザレクション時点では第二部隊所属(防衛班)という指摘を頂きました。うっかりしてました有難うございます。


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自分のことは嫌いだけれど

ほぼ二連続投稿です。前話の存在にお気をつけ下さい。


〈side・アグネス〉

 

朝目覚めると病室にいた。解せぬ。私は確か歓迎会で飲み食いしていたはずだが。

リンドウさんが側に居てくれたが、寝ているようなので起こすのも悪いし記憶を掘り返してみよう。

 

=====

 

ウロヴォロス二体をぶっ殺した私は極東支部に帰還した。この時点で偏頭痛がかなりやばくて、頭が回らないながらも支部長に金銭を要求したのは覚えている。つまりストレス値+30(上限はないけどスマブラみたいに吹っ飛びやすくなっていく)くらいだ。

……うん、よくよく考えたら私結構なことやったな。消されないかビビりながらも金銭要求とか肝太すぎるでしょ。

それでえっと、リンドウさんの部屋で歓迎会あるからって言われて、シャワー浴びて……うん、いつもみたいにお風呂にゆっくり入らなかったことでまた頭が痛くなった。ストレス値+5。

しかし私のために歓迎会の準備してくれたわけだし受けないわけにもいくまいよ。

だから少しふらふらしながらもリンドウさんの部屋を訪ねて三千里……じゃなくて。訪ねたらみんな揃い踏み。まさかこのキング・オブ・ぼっちのためにあんな人数が集まって下さるとは思ってもいなかった。

そしてサカキ博士から受け取った缶ジュースに口をつけて……一瞬意識が飛んだ。瞬き一つの間に白目を剥いた。おいなんだこのジュース。甘くて酸っぱくて苦いんだけど。すわ毒か!?ぱ、パッケージは……初恋、ジュースだと。あのアラガミ素材で作られたという伝説のキ◯ガイジュースじゃないですか!

そしてサカキ博士。何故じっとこちらを見る。飲めと?このイカれた飲み物を飲み干せと仰るか貴様。

……労災降りるのかな。

 

ーー未知なる驚きこそが我が歓喜!

 

私はそうは思えないよライダーうぐへぁ。

 

 

 

大丈夫。大丈夫だ。私は地獄の三丁目を突破した。ストレス値+35くらい行ったけどまだ大丈夫。まだ行ける!おかわりは要らないけれど。私は安堵から大きなため息をついた。

 

「アグネスさんは今日はどのアラガミと戦ってたんですか?」

 

おっとカタストロフィナンシェさん、それ聞く?聞いちゃいます?しかし特務だから喋れない。サカキ博士が真顔で初恋ジュースの2本目を用意しているっ!ストレス値+15。

でも絶対この子しつこいよね!内緒とか言ったらもうダメじゃん。それなら聞くなよ感を出すしかないじゃん。

 

「おいしいよ」

「はい。有難うございます!……それで、今日は」

「おいしいよ」

「え、あ、有難うございます。それd」

「おいしいよ」

「あ、はい……」

 

よし鎮圧。けどカタストロフィナンシェ美味しい。名前はアレだけど味は素晴らしいね。是非また作ってください。ストレス値−5。

 

その後は挨拶したり(何喋っていいか分かんなかった)みんな各々楽しそうに飲んで騒いでするのを眺めたりしたけど、…………………はっ、意識飛んだ。

疲労と初恋ジュースとストレスマッハのせいで頭が割れるように痛い。まずいなぁ……ここで倒れたくはないなあ。

 

「アグネスさんはもう少し服装に気を使うべきです!例えジャージだとしても、金髪にするとか髪をストレートにするとか常にその髪型にするとか青色のマフラーを巻くとか帽子を被ってその穴からそのアホ毛をムガムゴォ!」

「それは禁則事項」

 

何で地雷原でタップダンスするかなこの子は!ほら焼きそばパンでも食べてなさい成仏せよ!ストレス値+30。何だろう。除夜の鐘を打つ丸太に使われてる気分なくらいアタマイタイ。

 

それで……しばらくしてもうすぐ終わりそうかなってくらいにエリナちゃんが来て……

 

「……何?」

「エリックを、たすけてくれてありがとう!」

 

ぐはぁあああああ(吐血)!!

ちょ、やめようかエリナちゃん。私エリックくん助ける気そんなに無かったよ?どーでもいいと思ってたよ?軽い気持ちで助けたよ?だからそんな純真な目で私を見ないでくださいお願いします。

 

「……ぅ、あ」

「アグネス?」

 

サクヤさんが心配して下さっているようですがそれどころじゃない。穢れた私はまばゆいエリナちゃんから一歩遠ざかった。やばいここに来てストレス値が急上昇。頭が比喩抜きで割れそう。

 

「エリックとね、やくそくしてたの。こんどお洋服をかってくれるって。でもアグネスさんがいなかったらそのやくそくも守れなかったから……ありがとう!」

「……やめて」

 

……ああ。頭の中で冗談のように取り繕う余裕さえ無くなってきた。

『ジジッ』

やめて、やめて、やめてやめてやめて。

心が痛いのよ。

『ジ ジ ジ ジ ジ ジ ジ ジ ジ ジ ジ ジ』

痛い、痛いの。めちゃくちゃ痛いの。

ありがとう な ん て 言わないで。

 

「あのね、お父さんとお母さんもね、アグネスさんにおれいをつたえておいてって!ありがとうって「やめてッ!!」

 

ああ、やってしまった。

エリナちゃんがびっくりして固まっている。意識が遠のきそうだ。けど、これだけは伝えておきたい。

 

「やめて……違う!!私はッ!あなたにそんなことを言って貰えるような人間じゃない!」

 

私みたいな器も実力もちっさい人間に、そんなに心を砕かなくたって、感謝なんてしなくたっていいんだよ?だって私はーー

 

自分(わたし)のこと、大嫌いだから。

 

『ジジッ』

意識が消し飛んだ。

 

=====

 

はい状況把握致しました。何やってんだよ私。たとえ具合が悪かろうと、トラウマ刺激されて余裕が失われていようと、あんなちみっ子に当たり散らして生きてて恥ずかしくないのか私。エリナちゃん、私をぶん殴ってください。もしくはエリックくん、代わりに殴っていいよ。

ていうかあの後、私が倒れたからお開きになっちゃったんだろうなぁ。悪いことしたなぁ。あとでみんなに謝ろう。特にエリナちゃんには土下座も辞さない。

 

しかも昨日は、夢見も悪かったんだよね。

 

=====

 

夢の中で私は嘆きの平原にいた。もちろん神機も持っている。そして竜巻の中からウロヴォロスが……

 

『アグネスゥウウウウ!!』

 

……ウロヴォロスじゃなくてアマテラスだった。しかも女性の像がはまっている筈の部分に爺がはまっている。

触手爺、キモイ。

だがしかし。敵だっていうなら遠慮なくぶっ殺していいよね?

よし殺そう。

 

「死ね」

 

十分かけて爺テラスをぶち殺し、死体斬りまでしてオラクルを貯蔵した。別に死体をぐちゃぐちゃにしてやるほど嫌いなわけじゃ……いや、それもあるけど。

そしたらだ。

 

『残念じゃったな。爺テラスは何度でも蘇る……』

 

竜巻の中から想定外の爺テラス二体目出現。何これエンドレスなの?しかし日頃の恨みを考えればまだ斬り足りないところだったんだ。まだやってやろう。神機を爺に向け構える。

行くぞ爺テラス。残機の貯蔵は十分か?

私は果敢に爺テラスに斬りかかりーー

 

 

 

ーー数時間後。

私は地に倒れ伏していた。

正義の味方にはなれなかったよ……。私怨で爺殺しまくってる時点で正義でもなんでもないけど。

 

『お前の後ろじゃああ!』

 

十五体で限界が来た。肉体もそうだが、精神的に疲れた。十体目でスッキリしたのにまた爺が出続けるから逆にイライラして来た。

ズズーン、ズズーンと近づいてくる爺。

 

誰かほんと助けて。もうやだよ流石に。

 

もう殺したくなくなってきたよ。

 

=====

 

というところで夢は終わった。妙な夢だ。その後は普通に熟睡出来たから良かったけど、寝言とか聞かれてないといいな。

頭も大分痛く無くなったし、もう起きても大丈夫かな?

そう考えて体を起こそうとしたら。

 

「んぐ……ふぁ〜あ。ん?ああ、起きたのか()()()()。体調はどうだ?」

 

しまった。リンドウさんを起こしてしまった。てか今、名前で呼ばれた?

 

「問題ありません。大丈夫です。あの、エリックの妹は……」

「大丈夫だよ。一応、具合が悪かったって話はしてあるから。謝りたいならあとで謝っとけ。今はまだ寝てろ。検査とか、念の為やることになってるからな」

「……はい」

 

ベッドに体を横たえる。

うーむ。貴重なゴッドイーターだから仕方ないとはいえ検査面倒くさい。

 

「……リンドウ隊長」

「どうした?」

「ご迷惑、お掛けしました」

「別にいいんだよ。隊員は隊長に迷惑かけてナンボだろ。そんでその迷惑を上手く片付けるのが隊長の仕事なんだ。日頃働いてないぶんの仕事をしただけだ」

「……ありがとう」

 

優しいね。リンドウさん。

その時病室の扉が開いて、コウタ、ユウ、ソーマ、サクヤさんが入って来た。

 

「うぃーす。お見舞いに……あっ、アグネスさん起きてる!大丈夫ですか?」

「おはよう、アグネスさん」

「大事なさそうだな」

「具合はどう?おかしなところはない?」

「うん。ありがと。ごめんね?」

「別にいいですよ。仲間じゃないですか!」

「うんうん」

 

仲間。

仲間かぁ。

心配されて、心配して、いいね。

暖かいね。寂しくないね。

胸の奥がとても熱くて、ぽわぽわする。

 

「ア、アグネスさん!?どっか具合悪いんですか!?」

「え……?」

 

気がつくと、ぽろぽろと目から雫が溢れていた。

 

ーーああ、嬉しいのかな。

 

爺のせいで一人も友達がいなくなってから、久し振りのとても良い気分だから、すぐに分からなかった。

嬉しい。嬉しい。嬉しいね。私のためにこんなに心を砕いてくれて、申し訳ない。ごめんね。辛い。でも嬉しい。どうしよう。どうしたらいいのかな。手を取っていいのかな。触れていいのかな。私のせいでみんなが傷つかないかな。爺に嫌なことされないかな。

 

それでもその手を掴みたいの?

 

……うん。

私は、少しでいいから、ここで幸せになりたいな。

 

「アグネスさん?」

 

差し出された手を、そっと取った。

心配してくれるみんなの手を握って、私はベッドから起き上がった。その日は昔みたいに、気分良く柔らかく笑えた気がした。

 

ああ、私は私が嫌いだけれどーー彼等の悲しい顔は、見たくないね。

 

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

 

「アグネスさん笑って!」

「ほらこれお菓子!」

「……こう?」

「ぐああああ!くそっ、今日もダメか!」

「天使の微笑はいつになったら得られるんだ!」

 

その後しばらく経った頃から、何故か私の笑顔を見た人はその日アラガミのレアな素材を得られるとかいう訳の分からん噂が立っていた。それに付き合う私も、私だが。

 

あとエリナちゃんには全身全霊で土下座した。おずおずとしながらも笑って許してくれるエリナちゃん可愛い。ありがとう。




主人公も主人公で、自分の過去を持て余しています。この物語では、主人公も他の第1部隊のメンバーのように、悩んで苦しんで乗り越える様を書きたいです。


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カルト?誤射姫より怖いのか?

アバババババッ……お気に入り数でゴッドイーター1ページ目に表示されてるようになってる……
ありがとうございます、ありがとうございます……


〈side・アグネス〉

 

狼。狼。

 

『ア■■ス早■こ■ら■■い!』

 

狼。狼。狼。

 

『ふ■■んな、は■せ■■い!』

 

狼。狼。狼狼狼狼狼。

そして。

 

『私■■顔■■れて』

 

一人立ち向かうーーあの子。

 

ありがとうーーアグネス』

 

嫌だ。

 

「あ」

 

行かないで。

 

「あ゛」

 

狼狼狼狼狼狼狼狼狼狼狼狼狼狼狼狼狼。

殺して、やる。

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!」

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

 

日付付きデジタル時計を見るとまだ朝10時。

 

最悪の夢を見た。気分は人生で下から二番目に悪いと言って良い。こういう日に任務とか行くと思わぬところで足元すくわれたりするので、今日は思い切って休みを貰った。

 

「こんなものかな?」

 

私は今、自室で記録を書いている。それは私が来てからの極東支部の記録でありーー敷いては我らが主人公、神薙ユウの伝記的な何かの基盤になる予定のものである。

 

最近ユウの能力の伸びが良くなって来た。10回に4回くらいはジャストガードできるようになったし。直伝で教えた甲斐があったものだ。

 

さて、ここで一つの意思表示をさせて貰う。

私はこれから、表向きは日和見の傍観主義者のまま、裏ではこそこそ第一部隊の平和のために暗躍させてもらう。仕方ない。第一部隊が悲しくなるのは嫌なのだ。

 

エリックの件で証明されたが、この世界は原作改変が可能だ。私が存在している時点でも、それは言えるだろう。

故に、この世界がこれからどうなるかを完全に見通すことは出来ない。大まかな流れは原作に沿うとしても、リンドウさんが死んじゃうかもしれないし、アーク計画が成功するかもしれない。

 

却下だそんなクソみたいな運命(シナリオ)。私が矯正してやる。

 

……んーっ、んっん。可憐な少女がクソとか言ってしまった。いや、結構私言ってるな。ならいいや。糞食らえ支部長。

とにかく、みんなが悲しい顔をするのは嫌だ。私も悲しい。みんなが嬉しいと私も嬉しい。ゆえに支部長、コソコソと遅効性の妨害工作をくれてやる。ロビンフッド並みの破壊工作スキルを見せてやる。具体的に言うと明日にでも支部長の口にするモノに強力な下剤を混ぜ込んでやる。

 

原作干渉がどうこうとここに来る前は考えていたモノだが、この際私は自重を捨てることにした。日頃のリスクを減らすため、ありとあらゆる手段を駆使してこっそり第一部隊の面々を強化してやるのだ。……フェンリルの暗殺部隊とかが送られない程度に。支部長の目を誤魔化せる範囲で。支部長から見たら原作準拠、しかしながら私から見れば原作を超えるッ的な。

 

で、その原作を超えるッ方針だが、コウタとかがいきなりケンシロウみたいな見た目になるみたいな魔改造ではなく、小技を仕込んで行くことにする。……どうしよう、第一部隊の男性陣が全員ケンシロウ形態にトランスフォームした状況を想像してしまった。絵面が割と面白い。この世界も世紀末だし。

……話が逸れた。

ユウはアサルトを使ってたから無限弾を教えようかと思ったけれど、それで近接が疎かになっては話にならない。とはいえ雑魚い私が実戦で授業などできぬ。チュートリアルで頑張ってもらうしかない。今は私の方が上かもしれないけど、訓練中に主人公パワーとかで上回られて不慮の事故とかあったら困る。故に知識を渡すことが肝要となるだろうなあ。

コウタも大体おんなじ。

ソーマはそもそもアドバイスとか聞いてくれるか分からん。

サクヤさんには脳天直撃弾に内蔵破壊弾、超至近徹甲散弾に超至近破砕弾を教えておくことにする。

リンドウさんには……うん、まあ。あの人に教えられることはあんまりないな。うん。誤射気を付けて。アナタ誤射姫の次に酷いからね。

 

しかし最近疑問に思うことが一つ。

リンドウさんは今、本部からの指令でシックザール支部長の周りを探ってるはずだ。ならば何故、シックザール支部長は本部からやって来た私を引き入れた?……本部が割れているのだろうか?これも原作と違うのか。

爺に今度本部の状況を聞いてみよう。母さんでもいいが、あの人に聞くと色々まずい。本部が砂塵に還ったりしかねん。

 

あとしつこいくらい乞われているけどカノンにステ……じゃなかったメテオは絶対に教えない。味方に当たらない弾を使えばいいかもしれないが、あの子はそこをすっぽかす可能性が高い。可能性が高いというか私がこう考えた時点でフラグ的に確実だ。

 

ま、気をつけよう。

 

私は記録書を閉じると、持ち歩くもう一つの『本』をなんとはなしに取り出した。

その表紙をさすると、暖かくも悲しい気持ちになる。

 

「……ツェロ」

 

私は机の上に本を置いて、部屋から出た。

気持ちの整理はついた。任務に出よう。

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

 

「お願いします!どうか、どうかアイナを助けて下さいっ」

 

エントランスに出たら、そんなセリフが聞こえて来た。

見た所、アナグラに暮らす女の子のようだけど、どうしたのかな。コウタに縋り付いている。コウタも少し困っているようだ。こちらを見るなり捨てられたわんこみたいな目で助けを求めてくる。くっ!仕方ない拾ってやろう!

 

「どうしたの?」

「それが……この子の友達が知らない大人に連れて行かれたらしくってさ。でも状況がわからないし……そもそも人探しは捜索隊の専門だからどうすべきか分かんなくて」

 

ふうん……んんん?

知らない大人に連れて行かれた。

→人攫い。子供を。

→何のために。

 

……。

なんかそういうことする、カルトな教団がこの世界にいなかったっけ。

そう、確か……【5番目の月(テシュカトル)】。おっさん顔クアドリガことテスカトリポカを信仰する、フェンリルの職員を生贄にしたり爆破テロを引き起こして極東支部の空調も壊して室内気温上昇、アリサを水着姿にした下手人。下らん。アリサは下乳だからいいのに、水着にしたら普通じゃないか。みんなもそう思うよね。ね!

 

っと、それどころじゃない。可能性がある以上伝えるべきだ。

 

「コウタ、かむ。かむおん」

「えっ、何⁉︎何⁉︎」

 

……少々刺激が強い話であるため子供から離れ、コウタに事を伝えると、みるみるうちに真っ青になった。

 

「す、すぐ助けに行かないと!」

「落ち着いて。あくまで可能性の一つ。リンドウさんに伝えて来て」

「わ、分かった!すぐ行ってくる!」

 

コウタの背中を見送ると、子供にさらに詳しく話を聞いた。その人攫いたちが着ていた統一された衣服……そこに描いてある紋章を覚えてないか聞いてみたが、無事記憶してくれていた。聞いたのと特徴を擦り合わせてみたところ、ばっちりデータベースに乗っている。モロに【5番目の月(テシュカトル)】だ。バカだろ。隠密のおの字も分かってないじゃん。バカだろ。

奴らの儀式場は贖罪の街だ。みんなで急ぎ向かおう。

私はひとまず子供を誰かに預けるべく、イケニ……ヒトバシr……暇な奴を探し始めた。

タツミがいた。ヒバリさんに日課の口説きを行うべく近づいていこうとしている。よし暇そうだな貴様が犠牲になれ。

 

「タツミ」

「ん?アグネスちゃんか。何か用?俺これから忙し……ハッ、まさか!……ごめんよ。俺は君みたいな小さな女の子は守備範囲外……待って!謝るから真顔で銃を取り出そうとしないで!」

 

なんだ、自殺願望がお有りかと。

 

「この子の話、聞いてあげてて」

「はっ?ちょ、どういうーー」

「大丈夫だ。問題ない」

「いや待って問題しかない」

「口説きEXのあなたならできる。その毒牙を存分に傷心の女の子に突き刺すといい」

「だから守備範囲外ごめんなさい大好物です!」

「……変態。私の半径2メートル範囲内に入らないで」

「理不尽だ!」

 

狼狽えるタツミに女の子を預けて、私はリッカの元に向かった。

 

「神機出して」

「え?いやミッション受けてないよね?」

「ーー出せ」

「ひっ⁉︎」

 

出して貰えた。

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

 

「遅いよ?」

 

私が先んじて護送車を用意し(手段は聞くな)、出撃ゲートで待っていると、コウタがリンドウさんとユウを連れてやって来た。

リンドウさんがやれやれとばかりに、

 

「アグネス、お前無理通しすぎだぞ〜?」

「通せる無理は無理じゃない」

「屁理屈フカシすぎだろ……」

 

否。我が人生の標語である!我輩がどれだけ無理を押し通して来たと思っている!時に爺に幹竹割、時に爺にラリアット、時に爺に延髄斬り、時に爺にアグネスバスター!

ダーッ!

おっとキャラがブレた。

 

「とにかく乗って。出来れば戦闘班と救出班に分けたいんだけど……ソーマとサクヤは?」

「あの二人は別任務だ。悪いな、お前も休日なのに」

「休みはまた取れる。命が2度あることは……ない」

 

乗り込んでくる三人に素っ気なく返した。

断言したかったけどここに2度目の人いるからね。断言できないよね。

 

「……ありがとよがっ⁉︎」

「喋るな舌を噛むよ」

「リンドウさんが死んだ!」

「この人でなし!」

 

思いっきりアクセル踏んでますから!へい!

現在この車は時速97キロで運行中〜!

後部座席から「「リンドウさぁぁん!」」という悲鳴が上がっていた。

私は持って来ていたポーチから青い腕輪を三つ取り出し、後部座席に放り投げる。

 

「え、アグネスさんなんですかこれ」

「……【5番目の月(テシュカトル)】についてはどの程度知ってる?」

「「全然知らないです」」

「……今度抜き打ちで情報テストするから。負けた方は課題と銃弾をあげる」

 

リンドウさんが死んでいるので、私が解説してやろう。

 

「【5番目の月(テシュカトル)】は端的に言えばカルト教団。大型アラガミ、クアドリガの上位種であるテスカトリポカを信仰する人間の集団だよ」

「アグネスさんが長文で喋った……!」

 

バカにしてんのか。コウタこの野郎。新八みたいな声しやがって。

 

「殴るよ」

「すいまっせん!」

「でも……アグネスさん。アナグラにいる人がなんでそんな怪しい集団に?」

「……ゴッドイーターがいるからといって、誰しもがアラガミの恐怖から逃れられるわけじゃない」

 

事実アラガミ防壁は幾度となく破られている。アナグラの中央に暮らす人々は兎も角、外周に暮らす人などはその度にその脅威に怯えなければならない。恐怖のあまり救いを求めて入信するのは、おかしくないと言える。

尤も救いがあるかどうかは別だが。

 

「そうやって形成された教団の一つが【5番目の月(テシュカトル)】。彼らはアラガミを地球の審判者として信奉しており、攫った人をテスカトリポカに生贄として捧げるつもりでいる。だから今回のミッションでは必然的に生贄の救助と、テスカトリポカの足止めが重要となる」

 

バックミラーに映ったコウタが唖然としていた。

 

「どこでそんな詳しい情報を……」

「データベース見ろバカ」

「とうとうストレートに罵倒されたよ!」

「そのチーム分けが必要ってわけですね」

「そう。私とリンドウさんで足止め。あなたたちは人質救出。任せたよ」

「「はい!」」

「それと」

 

私はハンドルから片手を離し、渡した青い腕輪を指差す。

 

「状況次第で私は今回『切り札』を切るから。あなた達が『やばそう』と思った時点で、()()()()()使()()()()()私の左手にそれを着けて。一個でいいから」

 

青い腕輪。それの内側には針ーー注射針が付いている。

 

「アグネスさん。何なんですか?これ」

「強制解放剤があるなら強制鎮静剤があっても良いと思わない?」

 

そんな生易しいもんじゃないけど。

流石に100キロ超えで飛ばしたからか、予想より早く贖罪の街に到着した。

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

 

護送車から降りるや否や教会の中に二人を向かわせ、広場に立ち、まだこちらに気がついていないが確実に向かっているテスカトリポカを待ち構える。

 

「なあ、アグネス。何でお前……()()()()()()()()()()()()()?」

「……」

 

何ですかリンドウさん。意外にも鋭いじゃないか。だがヒバリさんにリンドウさんがオペレーティングされている以上私は答えられない。そもそもオペレーティングを避けるために無理矢理神機を借り出して、発注された任務を受けずにここまで来たのだから。

 

「心配すんな。通信機は切ってあるよ」

「…………『切り札』を支部長に知られたらまずい」

「そうか。あと……何でお前はあそこまで【5番目の月(テシュカトル)】に詳しかったんだ?データベースにもあそこまでは載っていないぞ」

「伝手」

「……そうか」

 

そうだとも。前世の記憶という、ね。

ずしん、ずしん、と響く音。建物の影から、ぬう、と。緑の戦車覇王が現れた。

 

「奴さんお出ましだ。行くぞ!」

「了解」

 

駆け出しながら言葉を交わしーー

 

「足止めが目的とはいえ、倒してしまっても構わないからな!」

 

ちょまっ、アンタここで死ぬ気か⁉︎




5番目の月(テシュカトル)】は外伝で名前が出て来たんでしたっけ?あ、ボツネタ↓です。



〈side・アグネス〉

ーーどこにいるかもわからない誰か様へ。
早速ですが問題です。私は今どんな目をしているでしょうか。え?分かりっこない?そりゃそうですな。というわけでヒントを出しましょう。今私の目の前から聞こえる音声をお聞き下さい。







流星◯条(ス◯ラ)!」

「バカヤロウ『流星◯条(ス◯ラ)!』じゃねえ『流星◯条(ス◯ラ)ァアア!!!』だってんだろうが!師範代の話聞いてなかったのかてめえ!」
「ふ、その通りさ。さあもう一度叫ぶんだ!僕があの日見た師範の叫びはそんなものじゃなかったぞ!」
「うっす!流星◯条(ス◯ラ)ァア!!」
「もっと腹から声を出すんだ!どうしてやらない!君ならできる!やれ、やれ、やるんだ!ほら君達も何故黙っている!叫べぇええ!!」
流星◯条(ス◯ラ)ァアア!!!』

湧く合唱。
さて、『私はどんな目をしているか』。正解は全てを諦めた虚ろな目でした。またはレ◯プ目でも正解です。どうしてこうなった。付いて来いと言われてホイホイついて行ったらこのザマだ。
ちなみにここは射撃訓練場。ゲームだとエディットした後に試し撃ちできる場所。そこに今、私含め10人前後のブラスト使いのゴッドイーターが集まっている。私にメテオを教わるために。恐ろしいことにその中にカノンの姿まであった。幸い今は全員発声練習中だが。
師範代ことエリックが気分がノッて来たのか、明らかにキャラの領分を超えて叫び出す。

「一番になるって言っただろ?富士山のように日本一になるって言っただろ!お前ら昔を思い出せよ!今日からお前らは富士山だ!叫べぇええ!!」
流星◯条(ス◯ラ)ァアア!!!』
「よーし。十分休憩だ。オラクル補給を忘れるんじゃないぞ!」
『うっす!』

もう一度言おう。どうしてこうなった。エリックが駆け寄ってくる。

「師範!どうだったかな!師範のおっしゃった通り正しい技名を広めているよ!」

私の記憶が正しければ技名はメテオと教えたはずなのだが。なんかもう……何を言っても無駄そう……。
私は黙って懐にしまっておいた劣化版メテオ(溜め時間短縮済み)のバレットエディットを記した紙をエリックに渡すと、とっととその場から逃げ出した。

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

……はい。以上です。ちょっと収集つかなくなりそうでやめました。


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ヴァリアントサイズ

リンドウさんは復帰するまでは大剣型のみでしたが、うっかり銃を話に組み込んでしまっております。
ピッコロ大魔王(旧)が悟空に『5秒で倒す宣言』した時に指が一本増えましたが、そんな感じだと思って気になさらないで下さい。うっかりしてたんです……すみません。


鎌をぶん回しながら私は危機感を覚えていた。

 

「ふっ!ふんッ」

キィン、キィン!

 

この音だ。ザシュ、ザシュではなくキィンキィン。攻撃が通っていない。

今思い出したのだ。

テスカトリポカ切断通らねEEEEEEE!

 

私の鎌の相性悪すぎでしょ。切断全振りなんだけど!メテオの破砕が効く部位……前面装甲は上についてないし!排熱機関は高過ぎて届かないし!あああああああああウゼエええええええ!!

そして貴様一回一回飛び跳ねるたびにミサイル撒き散らすんじゃねえ!ミサイル炸裂させるんじゃねえ!ウゼエんだよテメェくそ死ねッ!

 

……落ち着け。落ち着け私。精神が前世側に寄って来てるぞ。それはまずいから。非常にまずいから。

以前前世の残滓が覚醒した時はしばらく二つ名が【ジキルアンドハイド】だったから。もちジキル私ね。記憶も感情も共有されるけど態度が豹変しちゃうからね。

 

……鎌が効かないのは仕方ない。どうせ必要なのは足止めだ。ユウとコウタが任を終えるまで、精々ヤツの足元をチョロチョロすればいいのだ。あっリンドウさんが前面装甲壊した。

よし。私は足元を捕食でチョロりまくってリンドウさんをバーストさせ続け、尚且つオラクル貯めてメテオブッパしてやろう。

 

あっちょ、待ってリンドウさん。それ濃縮アラガミバレットだよね?範囲広いよね。おい待て、待て、待っ。

 

「射線を開けてくれえ!」

 

ぐぁああああ!やりやがった!やりやがったぞこの人!危うく吹っ飛びかけたわ!ヤバいテスカトリポカがジャンプしようとしてる退避!

 

「コウタたちはまだ?」

「ああ。まだ内部の犯人の制圧に手間取ってるらしい」

 

インカムで通信した内容を教えてくれた。ううむ、やっぱり対人戦闘もイケる私が突入すべきだったか?でも流石にテスカトリポカを数日前にコンゴウ倒したユウとコウタにやらせるのはキビシイだろうし……。

 

「リンドウさん!」

 

ユウとコウタが気絶した子供二人を背負い、下手人らしきおっさん達をふん縛って引っ張って教会から出て来た。子供のひとりは中学生くらいの女の子で、もう一人は小学校低学年くらいの男の子。私は叫ぶ。

 

「早く護送車まで運んで!」

「ハイッ!」

 

護送車の方向へ駆けて行く二人。あともう少しテスカトリポカを引きつけて撤退すれば……!

 

「っ、アグネス!乱入……中型だ!1分後!……チクショウ!出現位置は護送車のすぐ近くだ!」

 

ッッ!!最悪だ!

どうあってもユウ達が護送車に着いて一時退避するよりソイツが先に来るのが早い!あの二人だけでは、子供たちを庇いながらじゃ絶対に対応しきれない!

私はテスカトリポカにロケット弾をブチ込み、怯んだ所に声をかける。

 

「……リンドウさん。行って」

「だが…………いや。すまん!必ず戻る!」

 

リンドウさんは背を向け、一目散に走って行った。

テスカトリポカが咆哮する。怒りで活性化させてしまったようだ。びりびりと空気を震わせる咆哮を受けながら、私は腰のポーチから一本の無針注射器ーー圧力で打ち込む奴だーーを取り出した。中にはサファイアブルーの、蛍光質の液体がチャプン、と揺れている。

 

「……ツェロ。力を、借りるよ」

 

躊躇なく首に注射器を押し付け、薬液を注入。空になった注射器を投げ捨てた。カラン、と音を鳴らす。体の内部、心臓を意識するようにカチリとスイッチを切り替え、一つのタガを外した。直後ーー

 

「う……あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」

 

血液が煮え立ち、沸騰するに等しい激痛が私を襲う。同時ーー神機が()()()()()()()()()()。結合が乱れ、刃はぐらつき、砲は付け根から唸り、盾は連結部と共に波打つように動き出す。内部から黒い何かがはみ出るように蠢いているのが見えた。

 

ーー神機暴走状態。

 

表現として一番近いのは、GE2RBで有名な、ブラッドレイジだろうか。短時間ながらも神機の暴走状態を支配し、大幅に出力強化されるあの力。だが……私は支配などしていない。

 

私に「喚起」能力などない。

 

感応制御システムの補佐も受けていない。

 

言うなれば私は今、神機からの感応波逆流による精神汚染を直接受けているのだ。このままの状態でいれば、ただのゴッドイーターなら廃人と化すのに五分と持たないだろう。

……だが。

 

「あ゛あ゛あ゛ッッ!!」

 

地面にヒビが入る程のパワーで踏み込み、瞬く間にテスカトリポカの懐に入り込む。鎌を振るいーーごく一瞬の間に幾度となく傷口を抉るように斬りつけた。テスカトリポカが悲鳴を上げる。

あの薬液は精神汚染を抑制する効果があるし、私自身神機の暴走に耐えられる体で生まれて来た。命を勘定に入れなければ30分は持つだろう。

 

「フーッ……フーッ……フーッ」

 

早ク済ませて貰わないと、私が呑まれてしマう。

神機が見せる、過去(わたし)自身に。

 

「ァアアアアアアアアア!!」

 

突喊。全力で振り抜イた変異する戦鎌(ヴァリアントサイズ)がテスカトリポカの横っ腹を深々と切り裂く。ヴァリアント……Variant。意味は変異。変化。私はヴァリアントサイズと最初聞いた時、一字違イのValiant……勇猛という意味だと思っていた。実際には間違いで、鎌が伸びることから変異だったわけだけれど。それでも今はーー私が振るうのは!

変異する戦鎌(Variant scythe)』である以前に……

勇猛なる戦鎌(Valiant scythe)』!

 

足元に潜り込み、一閃、二閃。ジャンプして幹竹割、1秒後ミサイルが飛んでくるのでバックステップで退避及びリザーブ。サイズに再び変形!踏み出す!

 

恐れるな、前を向け。

 

足を止めるなーー進め!

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

 

〈side・リンドウ〉

 

「これでーーっ、終わりだぁっ!」

 

護送車の目の前をウロウロしていたシユウは、最後に俺の一撃を喰らって地に伏し、動かなくなった。コアを回収してる暇はねえ!

 

「コウタ!お前は護送車を開けた安全な場所まで動かせ!ユウ!お前は着いてこい、アグネスを助太刀しに戻るぞ!」

「はい!」

「おっし!俺免許取ってないけど……言ってる場合じゃないもんな!」

 

行くぞ!早くあいつのところに戻らねえと……!テスカトリポカを一人で抑えるのは相当厳しいはずだ。

あいつは暗殺者なのかもしれないが……それでも第一部隊(うち)の隊員だ!命の重さを知る、俺たちの仲間だ!

全力で走り、贖罪の街、その広場に辿り着く。そこにはアグネスの姿もテスカトリポカの姿も見受けられなかった。

どこだ……?

 

「あぁアうあヲあ……」

 

この声……教会か!

ユウも声を聞きつけたようで、互いに顔を見合わせ頷くと急いで教会の中へとーー!

 

そして。

 

教会の中には。

 

斃れたテスカトリポカの上に佇み、外が見える穴からオレンジの夕陽を眺めているアグネスの姿があった。

 

「アグネス……?」

 

かつん、と鳴った靴音に、アグネスの肩が反応し、徐ろにこちらを振り向いた。

 

「うイ?」

「ーーッ⁉︎」

 

その顔を見た途端、これまでに感じたことがない程の悪寒が背筋を走った。右眼だけから滂沱と涙を流しながらーーアグネスの口元は、弧を描いていた。なんだ、これは。そして何よりーーあの、絶えず蠢いている神機。暴走してやがるのか⁉︎

 

「ア、はーー」

 

よろり、よろりと止まりかけのコマのようにアグネスがこちらに向き直る。良く良く見ればその背中から、不定形な金色の靄のようなものが出ているようにも見えた。アグネスは神機をテスカトリポカの死骸から引き抜き、構えた。ーーこちらに向けて。

 

「なっ……おいアグネーー」

「かえせ」

「グッ!」

「リンドウさん⁉︎」

 

たった一歩で5メートルはある距離を詰めて来たアグネスが振るった大鎌を咄嗟に掲げた大剣で受けたがーー重い!出力が上がってる、完全に暴走してやがるな!

 

「かえせ」

「アグネスさん、正気に戻ってくれ!」

「ツェろを、かエせ……!オおカミィイイイ!!」

 

横薙ぎの大払い。大剣の腹でガードし、ユウの側まで押し戻される。手がびりびりと痺れた。マズイぞ、このままじゃアグネスを元に戻す前に俺たちがやられちまう!

 

「リンドウさん、あの腕輪を!」

 

そうだ……道中渡されたあの青い腕輪!アグネス曰く強制鎮静剤だというアレを使えば、まだ。

 

「ユウ!俺が囮になる。お前が嵌めろ!」

「っ了解!」

 

ユウが俺から少し離れ、隙を伺う。

 

「殺してやル……狼、狼、狼!」

「うおおおおっ⁉︎」

 

再び突撃して来たアグネスの攻撃を受け、そのまま壁際まで後退させられた。

 

「潰れて死ね」

「いいや……こっちが王手だ!」

「グレネード行きます!」

「あ……?ぎゃっ!あああアあ!」

 

閃光、爆音。アグネスの足元にユウが転がしたグレネードが、アグネスの視線を奪った上で炸裂する。俺は直前にしっかり目を瞑っていたが、直接光を見てしまったアグネスは神機を持ったまま両手で目を押さえた。やたらめったら暴れ出す前に羽交い締めにする!

 

「ユウ、やれーっ!」

「はいっ!」

「放セ……放せぇ!」

 

駆け寄ったユウがアグネスの左腕に、渡されていた青い腕輪を手錠のようにがちん、と嵌めた。直後ーー

 

「あ……あぁああああああああああ!!」

「アグネスさん⁉︎」

 

アグネスは神機を取り落とし、左腕を抱えて地面に蹲った。背中からの靄は消失し、神機は蠢かなくなったが……本人の様子が尋常じゃねえ。

 

「くぁあああぁああああああああ!ぎぃ、ああああああ!!……あ、ああ……!」

 

アグネスはひとしきり叫ぶと、糸が切れた人形のように気絶した。

 

 

帰り道、護送車を俺が運転し、後部座席に眠ったままのアグネスと子供達を乗せ、犯人は目覚める度に念のため気絶させて(物理)、ユウとコウタに見張らせている。

 

「アグネスの様子はどうだ?」

「まだ起きそうにないです。顔色は悪くないですよ。でも、良かったですね。子供達が無事で」

 

コウタの言う通り、それは本当にそうだな。アグネスが言い出さなければこのミッションが出されることも無かっただろう。怖い思いをさせてしまったのが、後に引かなければいいがなぁ。

それにしても、ユウは先程から黙り込んでいる。

 

「……リンドウさん」

「どうした?」

「アグネスさんは結局、あのテスカトリポカを一人で倒したんですよね?」

「そうだな」

 

相性は最悪。だからーーきっとゴリ押しですり潰したのだろう。圧倒的な力で。

 

「アレは、何だったんでしょうか」

「……分からん。だがまあ、あれがなければアグネスも俺たちもやられてたかもな」

 

実際、俺にもさっぱりだ。

アレーーアグネスの暴走。だが、暴走の一言で片付けるには、些か強力過ぎた。十中八九間違いなくアレがアグネスの言っていた『切り札』だろう。

もう一度、調べ直す必要があるな。

 

『アグネス・ガードナー』本人。

 

切り札の『暴走』。

 

この『青い腕輪』。

 

アグネスを送って来た『本部』。

 

アグネスが恨んでいたように思える『オオカミ』。

 

そして、返せと慟哭していたーー『ツェロ』。

 

まずはこの青い腕輪について、サカキ博士に相談してみるか。

 

そう結論付けて、俺はアクセルを踏み込んだ。

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

 

後々、俺は思うことになる。

あの時、アグネスに関して踏み入っていなければーーこうして向こう岸に送られることもなかっただろう、と。




今回書きながら妄想しました↓。今回シリアスが多くてやや過呼吸になりそうだったのでわずかながらのボケとして記載します。会話文のみですので絵面を想像しながらお読み下さい。そうしたらちょっと笑えますから、多分。








▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

ユウ「またせたな……かくごはいいか……」(ブ……ン)
アグネス「ま、まて!私が悪かった!二度と地球には来ない!」
リンドウ「へ、へへ……二度とだまされるもんか……やれーっ!!!!!」
アグネス「まっまてーっ!!!!!」
ユウ「魔貫光殺砲!!!!!!」(ゾォビッ!)

次は其之二百四 さようならリンドウさん

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

……いや、結構今回の話と似てません?
あっ、服もドラゴンボールで考えたら更に笑えて来た。


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絶望の足音

とうとう彼女が参戦します。そうーーロシアが育んだ下乳が!
尚、今回怒りのパワーで目覚めたアグネスのキャラが崩壊しかけますが、作者はアリサさん大好きです。アンチヘイト的な意図はありません。


闇の中で。いや、これは確かに真っ暗だけど……闇じゃない。……やっぱり真っ暗でも、ない。真っ黒。真っ黒の中、黒の中で。

青白い、振り子のようななにかが揺れていた。

その振り子には、三日月の口が付いていて。

それは私を嘲笑し(わらっ)ていた。

 

『おいおい。まぁた使ったのかよ?ご使用は計画的に、だろ?』

 

それはゆらりゆらり、黒に残像を残しながら私に言う。

 

『ツェロの時もそうだ。お前は何もかも遅いんだよ』

 

……。

 

『そんなんじゃまた、取り零すぜ』

 

……私は、アナタとは違う。今度こそ、助けてみせる。私には未来(シナリオ)がある。

 

『ニンゲンひとり殺せなかったお前がぁ?友達候補ひとり救えなかったお前がぁ?挙句守られて生きて来たお前がぁ?お前に何が、できるんだよ?』

 

けらけらけら。

けらけらけら。

嗤う、嗤う、嗤う三日月。

 

『そもそもシナリオだってもうアテになんねーだろうよ。お前が割って入らなければ、みんなハッピーだったのに、お前が割って入ったせいで、みんなハッピーの可能性がぶれたんだ。ーーいや、違うな』

 

何が。

 

『そも、お前が生まれた時点でこの世界は歪んでる』

 

……。

 

『お前は疫病神だ。そんなお前に救えるものなんて、何一つとしてねーだろーよ』

 

けらけらけら。

けらけらけら。

私が思うに、一つだけ。

……馬鹿なの?

 

『あ?』

 

昨日は救えた。子供を二人。

 

『……』

 

おやおや黙っちゃっていかが致しました?え、何?まさかそのお年でもう痴呆にございますか?プッスー。今度からお爺様とお呼びして差し上げましょうか。

 

『……テメェ』

 

あれ、怒っちゃった?怒っちゃった?

……でもま、黙ってなよ。どうせアナタには何も出来ない。ただのギャラリーなんだから。

 

ーーせいぜい黙って見届けろ。

 

『……チッ。くだらねぇ』

 

振り子は黒の彼方に消えて行った。

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

 

「……」

 

目を開くとそこは知ってる病室だった。なんだよ、私ちょいちょい病室にお世話になりすぎじゃない?超デジャブなんですけれども。

 

「あら?起きたのね、アグネス」

 

あっ、サクヤさん。お疲れ様です。おお、お見舞いのカゴに……ジャイアントコーン?

サクヤさんを見るとふいっと目を逸らした。ちょっとサクヤさん?さりげに私に押し付けるおつもりで?せめてメロンとかバナナにして下さいよー。ないはずだけど。まだ存在自体が。

サクヤさんはこほんと咳払いして。

 

「そ、それより。神機が暴走しちゃったらしいじゃない。大丈夫?」

 

あー、そういう処理のされ方したのか。その言い方ならギリギリ事実で事実じゃないし、誤魔化しきれるだろう。あの切り札も十四歳の時から今回抜きで一回しか使ってないし、大丈夫だ。

 

「なんとか生き延びたけど、死にかけた。まる」

「まる?まあ、生きてて良かったわよ。ゴッドイーターは命が資本だからね」

 

健康じゃないところが物悲しいよね。命の軽さを物語る、流石ブラックの代名詞フェンリル。

 

「何日くらい寝てた?」

「2日は寝てたわよ。みんな代わりばんこにお見舞いに来ようって話してたんだけど、あと1日は安静にしてなきゃ駄目よ?」

 

ういういマム。

ジャイアントコーンでも齧って大人しくしてますよー。ところで、

 

「みんなは?子供たちは?」

「問題なく無事よ。子供たちもあなたにお礼を言いたいって「絶対連れてこないで」……分かったわ」

 

流石は衛生兵曹長、私のウィークポイントを考慮して下さる。いやもうね、ほんと無理なの。ごめん。ほんとごめん。けどお礼とか感謝とか、遠くでして貰うのは全然構わないけど、私の目の前ではやめて下さい。そうだ、何ならこのジャイアントコーンあげてください。

 

「人から貰ったものをいらないからって人に回すんじゃないわよ……」

「……釈然としない」

 

若干おまいうじゃないけど、なんか似たようなことを言いたい気分だね。

 

「変わったこと、あった?」

「そうね。あなたやユウと同じ、新型の神機使いが配属されたわ」

 

……おっと?

まじっすか。それはもしかしなくても下乳さんでは?

いらっしゃったか、GOD EATERの代名詞が!……流石に言い過ぎか。

 

早く会ってみたいなぁ。

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

 

「はぁ?あなたが第一部隊の最後のメンバーですか。アリサ・イリーニチナ・アミエーラです。よろしくお願いします。……それにしても暴走とか、神機の安全管理もできないって、本当にベテランのゴッドイーターなんですか?普通あり得ないですよね?まだジュニアスクールの子供みたいだし……」

 

……。

皆さん、私は今初期アリサ節を食らったよ。絶句したよ。頭が真っ白だよ。胸部と身長を見下ろされて、戦闘力五のゴミを見る目で見られたよ。

視界の端でコウタが慌てて何か言おうとしてユウに押し止められていた。多分暴走のことを私の切り札の件で私の非じゃないとか言おうとしてくれたんだろう。気持ちは嬉しいありがとう。でも言っちゃダメだ。ユウナイス。

 

「あの、話聞いてますか?黙られても何も分からないんですけど。耳正常に機能してますか?」

 

ボルケーノ……。

……正直ね?画面越しに見た時もちょっと思ったけど、それでも二次元だしね?まあ可愛いなHAHAHA、的な対応だったよ。けどさ、考えてみて。初対面で先輩に向かって偉そうにこんなこと言う奴現実で目の前にいたらどう?

 

ーークッソムカつくよね。やっぱりツンデレは現実に要らないよね。

 

あれあれ、私の脚につけたホルスターにオートマの拳銃が入ってるよ。抜いて撃ったって許されるよね?撃っちゃう?撃っちゃうか。支部長も別に丸め込めばいいし。よし撃とう。

 

「死ね」

「待ってぇえ!アグネスさん待ってぇえ!」

 

コウタが泣きながらルパンダイブして来た。怒りで活性化していた私は反応が遅れて押し倒される。その隙にユウがびびって混乱したアリサをエレベーターに誘導しようと……裏切り者どもがぁ!

私は覆い被さってくるコウタを押し退けようとしながら絶叫した。まさしく絶叫、である。テスカトリポカにもキレなかった私は今、キレた。

 

「ふざけんじゃねえぞテメェ!ロシアの養殖真珠が目上への礼儀も知らねえのか!豚にでも下賜されてろクソアマが!おいバカラリー、離れろボケが!テメェから脳漿ブチまけてやろうか!」

 

パァンパァンパァン!

弾丸はコウタのこめかみを掠り、左脇を潜り、股間の手前の床に穴を開ける。

 

「ぎゃあああ!お願いアグネスさん落ち着いて!アグネスさんがキレた!暴走したー!」

「殿中でござるー!殿中でござるー!」

「おいそっち押さえろ!放すなよ!」

「放せ馬鹿どもが!殺す!誰がガキだテメェこそ礼儀もデリカシーもねえくせに大人を自称してんじゃねえよ!眉間に一発撃ち込んでやるから逃げんじゃねえぞクソが!」

 

どこかで振り子が爆笑している気がするがそれどころじゃない。私は怒りのままに暴れまわり、六人がかりで押さえつけられた。

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

 

やり過ぎた。反省はしている、後悔も若干。自分が短気だという自覚はあったがあそこまでキレるとは思わなかった。自分だって初対面のくせに人のこと言えない。仲良くなりたいと期待してたぶん、落差もひとしお。はぁ、結構自己嫌悪。

迷惑かけて私を取り押さえた六人にはゴールドチケットをお詫びにあげた。ヒバリさんにも謝った。顔引き攣ってた。よろず屋さん?知らぬ。……冗談です回復剤99個買いました。

コウタにも謝った。

 

「暴言吐いてゴメン。あと取り押さえてくれてありがと」

「あぁ、はい……」

 

ぐでぇっと疲れたようにソファに座り込むコウタ。遠巻きに何人かが私の方を見ている。と、コウタがはっとして生唾を飲み込み、

 

「アグネスさん、あれが素なんですか?」

 

恐る恐る聞いてきた。まさか。私は目の前の代替コーヒーをかき混ぜながら答えた。

 

「あれは昔、私が乖離性人格障害だった時のなごり……みたいな感じ」

「乖離性人格障害?」

 

知らないか。まあ半分は前世を隠すための設定として使ってるけどね。

 

「平たく言えば二重人格。ストレスで現実逃避するときに、自分の代わりに人格を作って押し付ける」

「えっ?じゃあアグネスさんが……」

「……色々あって。今は完治したけど、感情の振れ幅が私のキャパシティを超えると、態度がああなる。アレが元は私の作った人格、みたいな、ね?」

 

さっきの私は完全に人格が前世化していた。ブチギレるとああなってしまうのだ。爺にもアレでオラオラしたことあるし。

回想していると、コウタが気まずそうにしていた。私の少し暗めの過去を聞いたからかな?

 

「……なんか、すみません」

「気にしてないよ?悪いのは私。コウタも、止めてくれてありがとう。止められなかったら私、あの子殺してたかもしれないし」

「ははは……えっ、冗談ですよね?」

「ひゅーひゅひゅー」

「ちょっと下手な口笛吹かないで!こっち見て!ダメですからねアグネスさん!」

 

コウタは長男なだけあって、確かに諌め役としての、隊長たりうる資質はありそうだ。

……あとでアリサにも謝りに行こう。流石に悪いことしたし。

 

サクヤさんにこっぴどく叱られた。ちょっと泣きそう。

リンドウさんには苦笑いで諭された。ごめんなさい。

ソーマには呆れた目で見られた。そんな目で見ないで!

サカキ博士は床に開いた穴を見てニコニコ笑っていた。怖い。謝るから許して。初恋ジュースだけは!

エリナちゃんにメッされた。もうしません。

カノンに慰められたので腹いせに揉んだ。余計凹んだ。

 

翌日、ユウ付き添いでアリサの部屋に謝りに行った。

言い過ぎた。ごめんなさいと言うと、アリサは私のホルスターのついた太ももをチラ見しながら頷いた。マジごめんなさい。

 

「あの、私も初対面の方に些か失礼でした。すみません」

「うん。謝罪を受け入れる。私もすみませんでした」

「はい。謝罪を受け入れます。……あの、昨日とキャラ違い過ぎません?」

「「こっちが素」」

 

ハモった。おや、ユウには分かるのか。びっくり。

 

「話してれば分かりますよ」

 

これが主人公補正か……?それともユウの人徳か。ひとしきり感心して、私はアリサに向き直る。

 

「分からないこととかあったら、気軽に聞いて。アラガミの行動パターンとか、バレットエディットなんかも、結構詳しいから」

「アグネスさんはそういうの本当得意だから、聞いてみるといいよ」

「はい……改めて、よろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしく」

 

しっかりと握手して、その日は別れた。アリサは戸惑いはまだあったみたいだけれど、少しは仲良くなれそうでよかった。根はいい子らしいし、あんまり喧嘩はしたくない。みんなにも迷惑かけるし。

……そう言えば私は感応現象とか起こらなかったな?互いの奥底に秘めた心とかが伝わるアレ。

まあ起こったら困ったけど。()()()()()()()()()()()()()()()

 

全ての事件解決まであと3週間はある。目一杯毎日を楽しんで生きて行こうじゃないですか。

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

 

〈side・リンドウ〉

 

バァン、と俺が叩きつけた手のひらが、サカキ博士の机で鳴った。目の前には眼鏡をかけた我らが博士。珍しく強張った顔をしているが、それは俺も同じだろう。俺はできるだけ平時の声を装って聞いた。

 

「悪い、サカキ博士。もう一度説明してくれるか?」

「何度説明しても同じだよ、リンドウ君」

 

サカキ博士はこめかみを押さえて、律儀にももう一度説明してくれる。

 

「調べた結果、この青い腕輪の中の薬液は決して強制鎮静剤なんかじゃない。ーーこの薬液は、神機とその適合者の感応経路を、適合者に強いダメージを与えることで無理矢理引き千切るための薬だ」

 

「彼女は暴走を意図的に引き起こし、その力を利用。収束の際にはその腕輪で無理矢理経路(パス)を切って鎮静化させていたんだよ。言うなればパソコンをいきなりシャットダウンさせる……いや、いきなりケーブルを引き千切るに等しい」

 

それ自体は、確かに危険そうだ。だが、決定的な危険じゃない。サカキ博士は続ける。決定的な言葉が紡がれる。

 

「問題は暴走によって肉体に与えられる負担と、この経路を引き千切る際に与えられるダメージだ。これ自体は、暫く安静にしていればすっかり治るだろう。最低一月。しかし彼女は暗殺者『殺戮人形(キリングドール)』として8歳から活動している。知っているかい、リンドウ君。傷を癒した後、また同じ傷を与えるとする。細胞は新しく作られる。しかしまた同じ傷を与える。そういうことを繰り返すとね。体はそこを綺麗に癒すことを諦めるようになるんだ。ダメージが蓄積していくんだ。彼女がもし、8歳からこの暴走行為と鎮静とは名ばかりの荒療治を、任務のために繰り返して来たならばーー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「彼女の命は、あと一月と持たないだろうね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




勿論勘違いだァアアア!
正式サブタイトルは絶望の足音(笑)。
あと何故か感想に返信したら感想欄からその感想が消滅したんですがそれは。


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今は昔。

すみません。Fateのホロウのカプさばとファンキル三周年に逃げ込んでました。一先ずの話になります。
キングアーサーで敵ボッコボコにするのが最近のお気に入りです(いやGEやれよ)。




今は昔。彼女の物語はここで終わる。

 

ハッピーエンドと言っても、それがどのようなものかは多々考えられる。

例えばそれは。

今後一切の幸福が約束された終わり(ハッピーエンド)

例えばそれは。

戦いは続けど今だけは幸せな終わり(ハッピーエンド)

例えばそれは。

当分の間は幸せが保証された終わり(ハッピーエンド)

例えばそれは。

ひとまず仲間を助けて幸せな終わり(ハッピーエンド)

例えばそれは。

黒幕は残っているが幸せな終わり(ハッピーエンド)

例えばそれは。

誰も報われなくても幸せな終わり(ハッピーエンド)

例えばそれは。

幸せの、終わり(ハッピーエンド)

 

人生はハッピーエンドの連続だ。

 

「……現状を表すなら」

 

爪牙を構える獣ども。

視界を埋める屑。

 

「間違いなく█████████(ハッピーエンド)、ですね」

 

来るといい獣共。

彼女は踏ん張り、得物を構える。

お前達が神を名乗るなど烏滸がましいったらないのだ。屑から這い上がったヒトの力を見せてやろう、と。

 

「友情、努力、勝利、でしたっけ。えっと、三原則?」

 

友情は得た。君がくれた。

努力はした。始まりは君のためではなかったけれど、巡り巡って君のため。

なら後はーー

 

「あなたに勝利を捧げましょう……いや、そんなもの要らないって言われちゃいそうです」

 

その様を想像し、くすりと笑いが溢れる。

エメラルドのような瞳から、ポロポロ涙を零しながら、必死に私の名前を呼んで。この場から連れ去られ逃げ延びた、あの子。

可愛い顔がぐちゃぐちゃだった。涙を拭いてあげたかった。

掴んでと手を伸ばしていた。叶うならその手を取りたかった。

ああーー

 

「未練、ですね」

 

振った神機が獣の横っ腹を裂く。溢れる臓物、鮮血、命。

光弾を防ぎ一息で懐に潜り込み殺す。

喉を掻っ捌いて殺す。

焼き尽くして殺す。

殺す、殺す、殺す殺す殺す殺す。

 

「でも、未練があるってことは」

 

獣の奥。思い通りにならず、喚いている獣の親玉。

アレを殺せば、私の勝ち。

 

「いい人生だったってことだ……ですよね。アグネス」

 

ああ、本当にーー

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

 

■□ □□ □■ ■■■□■ ■□■□□ □■□■■ □□ ■■■□■

 

□□■□□ □□ □□■ □■□□ ■■□■□ ■■□■■ ■□■ □■■■□ ■□■□

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

 

〈side・アグネス〉

 

「きみがアグネス・ガードナーくんか」

 

やだもう……オオグルマファッ◯ューに遭遇してしまった。なんか私が支部長の手駒(笑)なせいか、いやにフレンドリーに話しかけて来るし。

なんなのこの人。ちょっと顔を寄せないで貰えます?誰かこの迷える仔羊にキ◯リトールガムを!

 

「……初めまして、オオグルマさん」

「ああ、初めまして。君は本部から送られて来たんだって?漸く日和見主義のあの男達も、自己保存のために重い腰を上げたということかな?」

「……」

 

いや、知らんし。

しかし本部には、やはり裏切り者がいるらしい。爺に報告せねばならぬ。母さんが自己ルートでそんな情報を確保した日には……そう、待つのはフェンリルの崩壊のみ。上層部の人間がまるっと生きていた痕跡さえ残さず消滅する未来しか見えない。凄腕のゴッドイーターでさえあの人には一発の銃弾で沈められてしまう……いや流石にそれは無理……無理、だよね?強ち不可能と言えないのが怖い。

ま、まあとにかく。母さんが動く前に爺に連絡してささっと自浄してもらおう。本部の老害が漏らした汚汁は同じく老害にモップでキュキュッと片付けさせるのが道理なのだ。

昔も、昔も、昔もーー

 

『私■■■にこ■■■ね!■■■!』

 

ーーああ。苛々する。

屑どもは幾ら駆除しても湧いてくる。台所の黒い悪魔みたいに。本当うざい。

 

「ひっ」

 

?、なんかオオグルマが青い顔してる。お腹壊したのだろうか。……うん、不摂生が祟ってそうではあるし。あんまり立たせたままにするのも悪いか。

私も私で、今日はユウとコウタとアリサの新人に向けたサカキ博士の解説講座に出席する予定なのだ。私も助手としてお呼ばれしてるから、早く行かないと。

私はオオグルマに軽く頭を下げる。

 

「それでは失礼します、オオグルマさん。ーー精々お気をつけて」

「……ッ」

 

たじろぐオオグルマ。

サヨナラの挨拶もないとは。ホントこの人嫌い。

永遠にサヨナラさせてやりたいレベルで大ッ嫌いだ。

私はオオグルマの顔も見ることなく踵を返すと、とっとことっとこ、サカキ博士の研究室に歩いた。

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

 

「サカキ博士と」

「アグネス先輩の」

「「ワクワク☆フェンリル講座〜」」

 

ぱちぱちぱちぱち……とユウが一人拍手する音が虚しく響き、それっきり部屋は沈黙する。おいサカキ博士。アナタがやれって言ったんじゃないか。白けてるじゃん。今にもアリサさんの口から『ドン引きです』が飛び出しそうだよ⁉︎

そしてバカラリー。貴様はいつから寝ている。私のターン!ホルスターからクイックドロウ!

 

「起きて」パァン!

「ぎゃああああ!……あれ?死んでない」

 

跳ね起きると同時に体の無事を確認するコウタ。そのコウタの目の前にしゃがんで、私は特別に用意したリボルバー拳銃をプラプラ揺らす。

 

「今のは空砲。今日は寝たらこれで起こす。でもこのリボルバーには六分の一で実弾が入ってるから……何発目に当たるかな。心配しなくてもその時には眠れるから。エターナル」

「ぉ、おきまっす……」

「そう?良かった」

 

ヒクヒクとほっぺたを引きつらせてカクカクと頷くコウタ。目は覚めたようで何よりだ。アリサは顔が青いけれど、ユウはもう慣れちゃったみたいでやれやれみたいなおじいちゃん的な顔をしている。うちの爺とチェンジで。

あと心配しなくてもホントは全部空砲だから。……おい待て、誰だ今「えっ!?」とか思った奴。

 

「今日はオラクル細胞について学ぼうか。オラクル細胞が発生したのは2050年代。出現当初はアメーバ状だった」

 

サカキ博士がキーボードを叩くと、前世の中学校の理科で見たような、なんかうにゅうにゅした生き物がプロジェクターからボードに映し出される。

 

「しかし彼らはすぐにミミズ状、小動物状と急激に姿を変えた。その後は地球上のあらゆる物体ーー建築物や人間に始まる生命体、兵器などを捕食しながら今のアラガミという姿を取るようになったとされる。 その旺盛な食欲と進化速度で瞬く間に地球上の都市文明の大部分を壊滅させた、まさに人類の敵といえるね」

 

画像はアメーバからミミズ、犬と変わり、最終的にコンクリをボリボリ食べてるオウガテイルに変わった。

 

アラガミの体を構成するそれぞれのオラクル細胞は、「眼であれば眼らしく」「牙であれば牙らしく」集まってその器官を形成し、アラガミの個体としての姿をなしている。

特にコアと呼ばれる器官はアラガミを構成するオラクル細胞全体の統制を司る、謂わば心臓や脳に当たる部位であるので、これが無くなるとオラクル細胞は霧散しアラガミは消え去るとされている……が、ハンニバルなんかはコアを自分で作れるんだったかな、確か。

しかし霧散したオラクル細胞はしばらくすると再び集合し新たなアラガミを形成するため地球上からアラガミを駆逐する事は事実上不可能なのだ。

 

「……ので、私達の目的はアラガミの根絶じゃない。それは研究者が模索すること。私達はあくまで、アラガミの脅威から人々を守るために動く。これだけは、忘れないように」

「はい」

「うす!」

「……はい」

 

うん。よい返事ですな。

 

「博士、続きどうぞ」

「ああ。アグネス君の言う通りだね。次に、アラガミがなぜ形状を変えるのかだけれどーー」

 

結局その日、空砲はもう一回鳴った。肝太いなコウタ。

授業に関しては特に出番は無かったが、オオグルマが出たならそろそろの筈だ。

万事を尽くして、天命を。

 

一先ず報告を兼ねて実家に電話しようか。私は受話器をーー

 

『おおアグネスゥゥ!アグネスか!どうした⁉︎極東支部で虐めに遭っておらんか⁉︎変わったことはないか!すぐにでも迎えをーー!』

「死ね」

 

ガチャン。ツーツーツー……。

掛け間違えました。やはり爺は頼りにならなかったようだ。

気を取り直して。

 

『アグネスッ⁉︎気に障ったのなら謝ろう!頼むから嫌いにならんでくれんかのぅ!』

「安心して。元から嫌いだから。それよりーー真面目な話。頼みたいことが、ある」

『ふむ。任せるがよい』

 

……あるぇ?

 

「返事早くない?まだ何も言ってないけど」

『真面目な話なのじゃろう。ワシはアグネスを信用しておる。必要なことなんじゃろう?』

「……」

『アグネス?どうかしたかの』

「……偽物?」

『酷いなワシの孫!でも可愛いから許す!』

 

……好きじゃないけど。ちょっとだけ、評価を上方修正しようかな。

 

『好感度アップも狙えるしの。なんじゃ、「おじいちゃん大好き!」と言ってくれてもーー』

 

やっぱダメだコイツ。

まあ今みたいに、いつもの方が安心してしまうけれど。

 

 




「シックザール支部長!アグネス・ガードナーは本当に味方なのですか⁉︎私のことを殺しそうな目でーー」
「(そういえば洗脳は好かないと言っていたな……。)問題ない。単純に君が嫌われているだけだろう」
「しかしですな」
「ーー問題ないさ。ああ、問題ないとも」



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終演、次いで開演


今回原作既プレイの方は素通りで問題ありません。
ほぼ原作まんまなので読んでも萎えます。次回の最初に簡単なあらすじを記載します。


 

〈side・アグネス〉

 

別にどうということもない、普通の任務だった。

私とアリサは贖罪の街にてオウガテイル二体とコクーンメイデン五体をさっくりと片付け、極東支部からの迎えを待っていた。

私がシャボン玉とかあれば吹かしたい気分の中、アリサはリンドウさんにアドバイスされたからか、ボンヤリと空を眺めている。動物の形の雲は……あれはペンギンっぽいな。

このまま眺めているのも良かったが、何となく話したい気分だったので、話しかけてみることにした。

 

「前々から思ってたんだけど」

「はい?」

「コクーンメイデンのモデルはどう見ても鉄の処女(アイアンメイデン)だよね」

 

その台詞に、アリサは困ったように眉尻を下げる。

 

「……すみません。分かりません」

「そう?説明すると、アイアンメイデンとはーー」

 

……鉄の処女(アイアンメイデン)。あのえげつない、しかし実際には使えないとも言われている拷問具だ。コクーンメイデンというアラガミの見た目は、どう見てもそれだ。

そしてアラガミは食べたものの性質を取り込む。ということは、アラガミがアイアンメイデンを食べた結果がコクーンメイデンということになる。

つまりこの現代までアイアンメイデンが残ってたわけだ。博物館とかにあったのかなぁ、なんて考えたりして。

 

「……なるほど。確かにそうやってアラガミのルーツを考えるのは面白いですね」

「でしょう?そのうちもっと変なのも出て来るかもね。……アヒルのボートとか?」

「ぷっ」

 

白いアヒルのボートのようなアラガミ……そのシュールな絵面を想像したのか、アリサは小さく吹き出した。

ーーああ。ここにみんなが居たら良かったのに。そうしたらきっと、もっと楽しい話が出来ただろう。

私も薄く微笑んで、アリサにゆったりと近づくと、精一杯背伸びをして、その頭をそうっと、そうっと撫でた。

 

「アグネス、さん?」

村中から糸一本ずつ集めれば(С миру по нитке)裸ん坊にシャツがやれる(— голому рубаха)

「え」

 

突然私がロシア語を喋ったからか、ポカンとするアリサ。仲良くなりたいと頑張って勉強した甲斐があったというものである。

その白い両ほほに手を添えて、目を合わせる。

 

「誰かを頼ることを忘れないで。きっと第一部隊のみんながあなたの手を掴んでくれる」

「は、はい……」

 

ほんとうに。忘れないでね。

そうすれば。

あなたは自分(あなた)を好きになれるよ。

私のようには、ならないで。

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

 

〈side:アリサ〉

 

透き通るような笑みでした。

私の頭を帽子の上から壊れ物のように撫でて、翡翠のような瞳で私の目を覗いたアグネスさん。

彼女はとても強い人です。技術、知識、戦闘能力、どこを取っても優れていて。新型神機使いで、本部からの転属でーー

彼女は、とても、強いはず。

なのに。

私にはその時だけ、彼女がまるでヒビ割れた、触れただけで崩れてしまいそうな、脆く儚いガラス細工に見えたんです。

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

 

 

さあ、終わりの時間だ。

 

幕は降り、舞台は閉じる。

 

幸せの刻(ハッピーエンド)を噛み締めろ。

 

『次の開演をお待ち下さい』

 

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

 

〈side:アグネス〉

 

数日前と同じく、贖罪の街。リンドウさん、アリサ、そして私は探索任務を受けて教会周囲を練り歩いていた。ユウたちはまた別のミッションを受けている。確かーー『蒼穹の月』。

 

「これは、いよいよキナ臭くなってきたな」

 

そんな疑念に満ち満ちたリンドウさんの言葉を私は黙して聞いていた。神機を構えたまま周囲を警戒して歩く。アリサも心なしか不安そうに見えた。私も不安で仕方ない。いや、昨日までは自信満々だった。計画通りに事が進めばリンドウさん助かるヤッター!と思っていたのだ。

いたのだ(過去形)。

今朝方早くに支部長に呼び出されたのがこの不安の原因だ。いよいよリンドウさん失踪ターン来たなと覚悟した私に下された指令はなんとーーリンドウさんの抹殺だった。もう一度言う。リンドウさんの抹殺だった。

 

「……」

「アグネスさん?」

「何でもない」

 

何でもなくないよヤバいよ!!

ポーカーフェイスを作りつつも冷や汗をだらだら流し、内心で絶叫する。

何考えてんだ支部長!私はあくまでスパイじゃなかったの⁉︎なんで暗殺業務まで私に流してんの⁉︎いやまあ私以外に依頼された方が厄介だけどさあ!

私のこと暗殺者とかと勘違いしてない?お陰で練りに練った救済プランがめちゃくちゃだよ畜生!おらこっち向け!

脳内で意地でもこちらを向こうとしない支部長の股間をげしげしと蹴り上げていると。

アリサが突然ひゅ、と息を呑んで立ち止まった。

私も即座に意識を切り替えた。

……確かに一瞬、獣の遠吠えのような何かが聞こえた気がする。来た、かな。プリティヴィ・マータ。ヴァジュラの上位種。そのさらに上の接触禁忌種、ディアウス・ピターまでもが。

 

「どうかしたか?」

 

歩みを止めたアリサを訝しんでリンドウさんが振り返る。

 

「い、いえ、問題ありません。側面クリアです」

「……後方も同じくクリア」

「……そうか。進むぞ」

 

僅か一瞬瞑目したのち、リンドウさんは歩き始めた。

……動悸が収まらない。バクバクという音が、耳に響いてとても五月蝿いのだ。上手くいかなかったらどうしよう。失敗したらどうしよう。そんな良くない想像ばかりが、脳裏を掠めては消えていく。

 

やがて歩いていくうち、教会の裏手から、入り口へと回り。

 

「何?」

 

反対側から回って来た、ソーマ達とかち合った。

 

「お前ら?」

「あれ?リンドウさん、何でここに⁉︎」

「どうして同一区画に二つのチームが……どういうこと?」

 

コウタやサクヤさんが口々に疑問を呈する。通常、任務を行う際には、編成した四人一組のチームで区画が被らないようにアサインする。同じ区画に強力なアラガミ二体が集まったりしてしまえば、二対二チームとは言っても人数に直せば二対八、すなわち混戦は避けられない。ゲームのようにフレンドリーファイア防止機能がない以上、仲間に神機をぶつけたり誤射したりで重篤な怪我を負う危険がある。

だというのに。今現在この小さな区画に、二つのチームが集められていた。紛れもなく支部長の策略だ。ここまでは、原作通り。

 

「……考えるのは後にしよう。さっさと仕事を終わらせて帰るぞ。俺たちは中を確認、お前たちは外を警戒、いいな」

 

全員が困惑を隠し切れずにいるが、それでも頷く。

リンドウさんを先頭に、私とアリサも教会の中へと入った。

そして。

 

「Grrrrrr……」

 

割れたステンドグラスの向こうから進入して来たーー女人面の氷獣。

 

「プリティヴィ・マータ……!」

「下がれ!!アリサは後方支援を頼む!アグネスは前に!」

「Ghooooo!!」

 

こちらへ大口を開けて飛び込んでくるプリティヴィ・マータ。三人とも後方へ大きくバックステップし、神機を構える。

リンドウさんと代わる代わる斬り込むーーけれど。

 

「アリサぁ!どうしたあ!」

 

叫ぶリンドウさん。それに反応することなく何事かを呟きながら、一歩一歩、逃げるように後退していくアリサ。明らかに様子がおかしい。両親をディアウス・ピターに目の前で喰われたトラウマが、同種のプリティヴィ・マータを見て蘇っているのか。或いはーーオオグルマの、洗脳か。

 

один(アジン)……два(ドゥヴァ)……три(トゥリー)……」

 

虚ろな目で、迷子のような顔で。アサルト形態の神機を持ち上げ、ロシア語で『いち、にの、さん』と唱えながらーーその銃口をリンドウさんに向けている。

オオグルマに施された、『両親を捕食したアラガミは雨宮リンドウと橘サクヤである』という洗脳によって、アリサは銃を構えている。

けれど私の知識(きおく)通りなら、リンドウさんに『混乱した時は空を見て、動物に似た雲を探すんだ』というアドバイスを受けているアリサは、洗脳暗示との間で板挟みになって錯乱し、空を遮る天井へと弾をぶちまけるはずだ。

それでいい。

その方が私の予定通り進む……けれど。

ああーーそんな哀しそうな顔、しないでよ。

見ていられなくなっちゃうじゃないか。

 

「……リンドウさんごめん。すぐ戻る」

「ッ⁉︎アグネ……うおっ!」

 

馬鹿だな、私も。彼女と境遇が似てるところもあるから、同情(シンパシー)だなんて。

私は駆ける。神機を持って、彼女の前まで。

そして。何れは彼女が思い出す、この言葉を。

彼女が忘れてしまった、その子の代わりに届けよう。

まだ思い出せはしないだろう。

それでもきっかけになればいい。

ユウが後はなんとかしてくれる。

彼女が幸せになりますように。

 

「アリサ」

「アグネス、さん?」

「大丈夫だよ、アリサ。

悲しみは海にあらず、(оре не море, )すっかり飲み干せる(выпьешь до дна)。だからーー」

 

笑ってて。

私は天井に向けてロケット弾をぶっ放した。

砕け散る天井。ガラガラと降り注ぐ瓦礫の隙間。

最後まで笑顔でいる私と対象的に、唖然としてへたり込んだアリサの様子がいやに目に付いた。

 

「アグネス⁉︎」

「……リンドウさん。ごめんね」

 

瓦礫で通路が完全に塞がったのを確認して振り返り、本気で踏み込む。問答無用で繰り出した私の拳をリンドウさんは躱すけれど……取った。通信機。私のそれも耳から外し、足下に転がして踏み潰す。バキャン、と甲高い音を立てて、通信機はただのガラクタに変わった。

これでくそったれの盗み聞き達にも聞こえない。

 

「始めよう」

 

リンドウさんを向こう岸まで送り出す。

悲劇はもう見飽きたでしょう?これからは喜劇を贈りましょう。

新しい舞台の、幕開けだ。

 

 

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▲▽

 

 

〜報告書〜

 

第一部隊は任務中、贖罪の街にてヴァジュラ神属の接触禁忌種、【プリティヴィ・マータ】の大群と遭遇。()()によって退路を塞がれた第一部隊隊長雨宮リンドウ及び隊員であるアグネス・ガードナーを残し第一部隊は撤退。

ある事務員のミスにより同一区画での任務受注など問題も見られたが、【プリティヴィ・マータ】発生との関連性は見られず、事務員に関しては()()()()()()()()()()

また、同隊隊員のアリサ・イリーニチナ・アミエーラの精神状態は芳しくなく、メンタルケアが必要と思われる。

最後に捜索隊による活動の結果、

 

雨宮リンドウはMIA(作戦行動中行方不明)とし、除隊死亡扱いとして二階級特進。

アグネス・ガードナーは【贖罪の街】内部の教会にて発見されたが、出血多量により現在も昏睡状態である。

アグネス・ガードナーの状態から雨宮リンドウの生存確率も低いとして、捜索隊の再編成は現在、予定されていない。

 

 

▲▽

▲▽▲▽

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とある一室にて雨宮リンドウは目を覚ました。がばり、と身を起こして、掛けられていた柔らかい毛布に気がつく。

 

「ここは……」

 

ゴッドイーター用に割り当てられた自室に似ているが、やや違和感を感じる。日本と違う……まるで外国のような。

 

「なんじゃ、もう起きたのか」

 

年老いた男の声がした。どこから聞こえてきたのか。辺りを見回すが声の主は見当たらない。

 

「下じゃ、下」

 

言われるがままにベッドの脇を覗き込むとーー

 

「はっ?」

 

鎖でこれでもかと雁字搦めにされた芋虫のような老人と目が合った。その意味の分からない存在に、理解が追いつかず惚けるリンドウへと、老人はぐるぐる巻きのまま真面目な顔で言う。

 

「初めまして、雨宮リンドウ。あの子が世話になったようじゃの」

「……ッ、あんたは」

「わしはエイブラハム・ガードナー。アグネスの祖父じゃよ。早速で悪いが、この鎖解いてくれんか?あの鬼女がハンダゴテとか千枚通し持って戻ってくる前に。まじでぶっ殺されかねん」

 

ここは欧州、フェンリル本部。

雨宮リンドウはこの魔窟で、アグネス・ガードナーの過去と対面するーー

 

 





……ふぅ(シリアスで疲れた)。
どうも、九九裡です。

【悲報】アグネスさん、リンドウさんへのアリサの自責を減らす代わりに別のトラウマを呼び起こしかける。

大丈夫、ユウならなんとかしてくれる(希望)!
分からない方はGOD EATER小説版の地下をどうぞ。或いはwikiなどでも……?
そしてやっと予定量の四分の一くらいまで到達しました、しかしシリアス地獄はここからなのだ。
余りにシリアス書きすぎて辛いので、バレンタインネタを途中まで妄想し……諦めました。諦めました(二度目)。
『最後まで書いてよ!最後まで真面目にバカやってよ!』という感想が万が一多数寄せられた場合、番外ifとして書きます。
以下、その残骸。↓

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

「うおおおおっ!」

細い一本線の通路で、私に向かってーー否、私の後ろの扉を抜けようと走りこんで来る男達。その数、五人。

「通してもらうぞ、ガードナァァ!!」

決死の形相でこちらを突破しようとするその熱気、熱量は眼を見張るものがある。
けどな、大の男が少女に突っ込んで来るな。
そう内心で愚痴りつつ、私は両の太ももに手を伸ばして銃を引き抜いた。

ドパパパパパァン!!

反応さえ許さず男性諸君の額に赤色が弾ける。二丁拳銃から放たれた弾丸が、狙い過たず脳天に直撃していた。これぞ脳天直撃弾……え?違う?

「ち、くしょ……」

泣きそうな声で、大切なものを取りこぼしたように倒れ伏す男達。その弛緩した拳から、赤に塗れてしまった紙切れが零れ落ちる。
その紙にはこう記されていたーー

『バレンタイン義理チョコ抽選券:サクヤ』

OK、こいつらの顔は覚えた。後でリンドウさんにチクろう。
……私はガンスピンをして拳銃をホルスターにしまった。
そう、別に極東支部で仲間割れが起きている訳ではない。これは男達のチョコ獲得の為のイベントなのである。私が放った弾も赤のペイント弾だ。実弾じゃないぞ!

『アグネス・ガードナーによってさらに五名が脱落!残りは二十名となりました!無策で突っ込んでいては勝てないぞー!』

尚、この光景は一般に向けてもアナグラヘ公開されており、そういったエンターテイメント的な意味でもイベントなのだ。バレンタインなので派手に楽しんでもらおうという企画である。
この義理チョコ抽選券を見れば分かると思うが、門番たる私の背後の扉の先には、トラップを避けつつ進んでいくとポストが用意されており、そこにこの抽選券を放り込めば義理チョコ抽選に参加できるという仕組み。ポストは他にも用意されてはいるが他の門番が待ち構えているのでーー

『ナメた真似してくれるじゃない』

『フハッ、無様だね!』

『あははっ! 痛かったの? ねえ!』

『ねぇねぇこの程度なの? あなたって!』

『あれー? 逃げちゃうのぉー⁉︎』

『このままだとあなた、穴だらけだよ!』

『断末魔、素敵だったよ!』

『ア ハ ハ ハ ハ ハ ハ ハ !!!』

……通信機から聞こえて来る音声からして異常なーし。カノン戦線異常なーし。ないったらないの。向こうから聞こえて来る断末魔なんてアーアーキコエナーイ。

「チョコレートゼロワン。こちら異常なし」
『ゼロツー。こちらも問題ありません』
『ゼロスリー。こっちも大丈夫よ』
『あはははは!!……あ、ゼロフォーも大丈夫です!』

何故私がこんなクソイベに参加することになったのか。
事の発端は二週間前にさかのぼる。

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

唐突ではあるけれど、2月とはイベントが多い。
節分にバレンタイン、それにふんどし祭りとか煮干しとかネクタイ。
まあバレンタインとふんどし祭りは日付被ってるから、その日は男性は二種類に分かれて行動するのだろう。

即ち、勝ち組(バレンタイン派)負け組(ふんどし祭り派)である。

誤解のないよう告げておくと、この世界にもバレンタインはある。GE2のダウンロードコンテンツで、エイジス島にてヴァジュラに追われながら飛行機から零れ落ちた無数のチョコを回収するミッションがあったし。
……確かそのチョコ、売ったらそこそこ小金稼ぎになったような。仮にもひとからの好意を売れるシステムェ……。
とにかくだ。バレンタインがあるということはまあ、ゴッドイーターの男性諸君の反応もチョコかふんどし、どちらかに分かれるわけで。
……やめよう、この話は。
前世の記憶も持ってる私からすると大変哀れみを覚える。

話は変わるが、2月3日は節分である。
節分について簡単に言えば、毎年変わる鬼門の方向を向いて、恵方巻きをもっしゃもっしゃ黙って食べたり。
豆を「鬼は外、福は内」と言いながら家の中から外へ投げたり、鬼役の人にバチバチ投げつけたりするイベントなのだ。地味に痛い。
日本人は後者をMAMEMAKIと呼ぶ。
転生してから16年ちょい、日本から遠く離れた本部生まれ本部暮らしだった私は、これまで当然豆撒きなんてやってないのでわりと豆撒きに参加した時の記憶も曖昧である。バレンタインが血で血を洗う宴というのは覚えているのだが。
と、そんなことを会議中に考えていたのだが、サカキ博士が指し棒でホワイトボードを叩いた音で我に帰った。
周囲には私と一緒に召集された第一部隊の面々に加え、エリックやカノン他の防衛班、ツバキさんやリッカ、ヒバリさんまで勢揃いしている。オオグルマ?ペッ!知らないクソ野郎ですね。

「というわけで、最近は誰も彼も働き詰めだったからね。極東支部も慰労会を行おうと思うんだ。良い案はあるかい?」

と、サカキ博士。
慰労会か。こんなに大勢で集まるのって私の歓迎会以来かな?歓迎会……お礼、感謝……うっ、頭が。
慰労会と云うならまあ、飲み会みたいにするとか、簡単なレクリエーションみたいなのにするとか、そういうのだろうか?
まあ間違っても激しい運動会みたいなのにはーー

「はい!はいっ!射撃大会がいいと思います!」
「「「ヤメロォ!」」」
「えっ?」

とある誤射姫の提案に各所から異口同音で静止が掛かった。

「なにかまずいですか?」

全部かな!きょとんとして首を傾げるカノンを前に、私含め殆どの人が首を横にぶんぶんと振っている。ある意味壮観な眺めだな……。

(射撃大会ってそれあなたが一番提案しちゃダメなやつよね!?)
(誤射姫ぶっちぎりの大活躍だろ。背中から撃たれたやつが上半身と下半身泣き別れ的な意味で)
(何故か射線上に人がいるアレですねわかります)
(慰労会じゃなくて疲労会だろそれは!)

ワォ……みんなの思考が手に取るように分かるんですけど。
いやしかし、ブラストの誤射は正直シャレにならないんだよほんとに。この間なんてユウに誘われて何人かと行ったミッションで、誤射姫さんたら爆心地とクレーター生み出して『ヤム……コウタァー!』を一日のうちに三回やったんだぞ。ゴッドイーターが肉体が偏食因子のおかげで丈夫だと言っても限界はある。強化ロケット弾程度ならヤムチャで済むけど、最大級のメテオとか喰らったら普通に死ぬから。
余りに有名なカノンの悪癖に、現場に出ないサカキ博士までもが顔を引きつらせている。彼は困ったように、しかしそれでもマーカーを手に取った。

「う、うん……一応、候補として書くだけ書いておこうか」
「んん……そうだな。書くだけ書いておこう。書くだけ」
「なんでそこまで書くだけを強調するんですかぁ!?」

自分の胸に手を当てて考えなさい。
抗議するカノンからみんなが君子危うきに近寄らずとばかりに目を逸らし、私もまた手元のコップの中身に視線を落として、ちびちびと口をつけていた。その態度でワタシカンケイナイヨーと全力で主張する。
しかし。視線を逸らした先で私と目が合ったエリックが、ぽんと手を打って起死回生の策のようにーー

「師匠の流星◯条(ス◯ラ)教習会とかどうだろうか?」
「あっ、それいいですね!」
「……ガフッ!!」
「アグネスさん!?」
「メディーック!衛生兵!衛生兵!」

真っ赤な液体を吐いて崩れ落ちた私を咄嗟にユウが支えてくれた。落ち着けコウタ、今君の手元にもある野菜ジュースだから!吐血チガウ!
そしてエリック貴様ァ、何をしてくれとんのじゃコルァ。流星◯条(ス◯ラ)教習会ってなんだ!やめろヤメルンダそれだけは。これ以上私のブラックヒストリー継承者を増産しないで。カノンも食いつくな、サカキ博士とリンドウさんも「やむなしか……」みたいな顔をするんじゃなぁい!

「でもそれ、ブラスト使い以外はどうするんだ?」
「大丈夫でしょ。アグネスはバレットエディットに関しては何処からどう見てもゴッドイータートップクラスだもの」

疑問を呈したリンドウさんにサクヤさんがフォローを入れる。嬉しいお言葉。しかし今だけは辞めて欲しかった!
まずい。このままだと流星◯条(ス◯ラ)が普及したが最後、私は二度と汚染()された地上を歩くことは出来なくなってしまう……!取り敢えず何か代案をッ!
私はコップをローテーブルに叩きつけ注目を集めつつ、気管に入ったジュースで噎せながらも必死に声を出す。

「私にッ……ゴフ、いい考えがあるっ……!ゲホッ!」
「アグネスさん、ティッシュティッシュ」

背中をさすられながら息を整えーー

「豆撒きとバレンタインのコラボレーション……即ちMAMEMAKI×VALENTINEを提案するっ!」
「どうしよう地雷臭しかしないんだけど」

アンタが言うなサカキ博士!初恋ジュース程じゃないぞ!
セリフがフラグだったのは認めるけど。

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

という経緯である。
うん……結論、私のせいだった。
私が豆の代わりに銃弾をばら撒いて義理チョコの抽選券を男達に渡すとか言ったせいか。いやだって仕方ないでしょ。黒歴史をばら撒くよりマシです。
カノンだってほら。仲間に当てちゃいけない状況だから誤射するんだよ。つまり当てていいなら誤射じゃない(錯乱)。


▲▽


はい。作者が指を動かすといつの間にか誤射姫大暴走。リンドウさんの次に動かしやすいです。
そしてバレンタインネタだというのにチョコを渡すシーンに辿り着けなかった……でもシリアス詰まりしてたのでバカな話を書けてすっきりしました。
次話からようやくタグの独自設定の後ろの(予定)を外せる。
アグネスの過去、リンドウさんとアグネスの脱落した第一部隊、支部長、オオグルマくたばれ……etc。
これからもお付き合い頂ければ幸いです。


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受け継がれるもの

誰だよ、次回からシリアスなんて言った奴は……!

簡単なあらすじ
・アグネスさんアリサとコミュ
・リンドウさん失踪事件勃発、アグネスお節介の末昏睡
・リンドウさん拘束された爺と遭遇する


〈side:アグネス〉

 

夢を見ている。

懐かしい夢だ。

幼い私と、彼の夢。

 

『あ……なた、だ、れ……?』

『あ?んだよコイツ。テキトーな仕事しやがって……先住民がいるとか聞いてねえぞ。どうしようかな……』

 

全てはこの瞬間から始まった。

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

 

〈side:ユウ〉

 

リンドウさんが行方知れずとなり、アグネスさんが昏睡状態に陥って何日か経った。アグネスさんは今もアリサの隣のベッドの上で、安らかに寝息を立てて眠っている。運び込まれた時に診てくれた医師の見立てでは失血が原因と聞いたけれど、既に顔色は良くなっていた。早く目を覚まして欲しい。

 

リンドウさんとアグネスさんが壁の向こうに閉じ込められたあの時、一体何が起こったのかは未だに分かっていない。リンドウさんからは『極東支部へ撤退しろ』と、アグネスさんからは『行って』とだけ言われて、俺たちが情けなく這々の体で離脱したあの後のことも。

 

アリサは自責の念からか、酷く精神を錯乱させてしまった。専属医師の大車さんがメンタルケアを担当しているらしいが……医師なのに部屋でタバコ吸っていいのだろうか?どうにもらしくない。

しかしつい昨日のことだが、良いことがあった。強力な鎮静剤が効いて眠らされたはずのアリサが、俺が触れたことによる感応現象(ナニカ)で錯乱することなく目覚めたのだ。良かった、一安心だ。まあ、まだ詳しい話は聞けて居ないけど。

本人が言うには記憶が混濁していてーーアグネスさんと()()が重なって、上手く思い出せないそうだ。それでも快方には向かっているようだが、あまり無理はしないで欲しいと思う。

 

……そして今。自分の手とアグネスさんの小さな白い手を見下ろす。

アリサが目覚めた後、コウタやソーマにも握手して貰ったが、特に何も起こらなかった。待ってくれ二人とも、突然何も言わずに手を握ったのは謝るから誤解しないでくれ、俺はホモじゃないぞ。

十分かけて誤解を解き、二人にも説明して意見を仰いでみた。アリサと自分で、互いに記憶や感情の断片を送り合ったあの行為について。コウタはしきりに首を傾げていたが、ソーマが仮説を立ててくれた。俺とアリサの間で共通していて、コウタやソーマにないものがあるとすれば、それは新型神機使いかどうかだろう、と。

なるほど。確証はないけれど、それが正しいという気はする。昔からこの手の直感はよく当たるのだ。

つまりあれーーソーマ曰く感応現象ーーは新型神機使い同士の、特定の接触で起こる可能性が高い。

そして今昏睡中のアグネスさんも、俺と同じ新型神機使いだ。

もしかしたら目覚めてくれるかもしれないと、俺はその手を掴みーー

 

 

 

『あ……なた、だ、れ……?』『十号の様子がおかしいのです』『こえ、あげゆ!』『ああ……ありがとう』『計画は中止する』『くそっくそっくそっ!』『おしえてもらったの!』『あなたの復讐はこんなところで終わっていいのか!?』『おいクソガキ、気を付けろよ』『お前さえいなければ』『お前は私が……わしが守ろう』『おじいちゃん?』『あら?この子がそうなんですか』『あの子に伝えられるものか!』『初めまして。私があなたのお母さんですよ?』『おやすみ、アグネス』『おやすみなさい』『あの子の秘密は守られなければならない』『そのためならばわしは喜んでーー』『自己満も大概にしろよって話だぜ』『はじめまして、ですね』『ツェロ、です』『あの少女に近寄るな』『っこのクソ爺!』『親は子の面倒を見るものですよ』『よくわかりません』『友達、ですか?』『いつまで寝てやがる、起きろクソガキ!』『私のためにここで死ね、失敗作!』『逃げて』『引き出しの中に入ってますから』『早くこちらに来い!』

 

 

『私に■顔を■■て』

 

ありがとうーーアグネス』

 

 

『ジ ジ ジ ジ ジ ジ ジ ジ ジ ジ ジ ジ』

 

『ばちん』

 

ッ、今のは……いや、それよりも。

 

「ん……」

「アグネスさん!」

 

身じろぎしてゆっくりと身を起こすアグネスさん。良かった……!無事目を覚ましたんだ!あとでソーマには初恋ジュースを奢ろう!

彼女は寝ぼけ眼をくしくしと擦り、俺を見て。

 

「あ?誰だよお前。お前みたいなヤツいたか?」

 

え?

アグネスさん?

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

 

〈side:リンドウ〉

 

今俺の目の前で起こっている情景を、どう伝えれば良いのだろうか。俺には遠い目をして見ることしかできない。

 

「ばっ、ぼっ、がっ、ひでぶっ!やめっ……」

「あら?まだ人語が喋れたのねこの老害。上等よ、まだ殴り足りなかったの、よ!」

「そげぶっ!!」

 

鎖で縛られたアグネスの祖父……エイブラハム氏の上に、アグネスに似た、茶髪翠眼の妙齢の女性が馬乗りになって拳を振るっている。

一撃一撃が余程重いのか、床に伝わってくる振動が震度六くらいありそうなんだが。この女性の暴行を止めるよりもディアウス・ピターを複数相手にする方が現実的な気さえする。

サクヤは元気だろうか。凹んでいるかもしれない。無事を知らせたいのは山々だが、匿われている現状で連絡を取るわけにも行かないんだよな、これが。

 

「ちょ、やめ、助けッ、ごは、ごるぱ!!」

「大体っ!なんでアグネスからのっ!連絡だってんなら!共有!しないのよ!この!老害が!」

「だってお前に伝えたらフェンリル物理的に終わるじゃろけぶらっ!?まだ喋っておぼっ!」

「ざっけんじゃないわよ!しかもあんたシックザールのゴタゴタも黙ってやがったな⁉︎二年前の大失敗を忘れたかこのど阿呆ッ!」

「それはわしもアグネスに聞いてから洗い直したんじゃ!事前に知っておったら情報統制の及ばん極東なんぞに送り出すか!ごべっ!」

「……へえ?じゃあアグネスのパーソナルデータの最後の一文はどういうこと?あんたが偽造したんでしょ?」

「仕方なかろう、極東はわしの力の及ばぬ範囲じゃぞ。あの子の周囲に人を寄せぬためにもーー」

「そのせいでさらにややこしいことになってんだろうがぁあッ!!」

「ごばんざっ!!」

 

ユウやコウタは上手くやってっかなー。

最後の震度七ありそうな衝撃を受け、エイブラハム氏は爆弾岩のように顔を膨らませたまま床に伏して動かなくなった。口から人魂のような何かが出てるのは気のせいだと思いたい。

 

「ったく、ホウレンソウも出来ないとか。この権力者(笑)が」

 

対象的にアグネス似の女性は、あれだけ吠えて動いておきながら息一つ乱さず立ち上がると、くるりとこちらを振り向いた。頬に手を当ててにこりと微笑み、困ったように肩を竦める。

 

「ごめんなさいね、雨宮少尉。身内の恥を晒してしまって……」

「あ、いえいえ、お気になさらず」

 

取り敢えずその手の甲にねっとり付着した真っ赤な血を拭いて戴きたい。雰囲気と交わって凄まじい違和感を生んでます。

エイブラハム氏に自己紹介された俺が鎖を解こうとした丁度その時、部屋にこの女性はやって来た。サッカーボールのようにエイブラハム氏を壁際まで蹴り飛ばし(鎖に巻かれている上、大柄なエイブラハム氏をだ)、そのままマウントを取ってボッコボコに殴り始めたのだ。

俺も止めようとした。証拠はないとはいえ、うちの隊員の祖父を名乗るお人が一方的に殴られているのをただ見ているわけにもいかない。

取り敢えず羽交い締めにしてでも止めようとしてーー

 

『身内の問題ですので、少々お待ちください♪』

 

笑顔の後ろに般若を見たぞ……。

やはり見た目は似てるし雰囲気もどことなく似てるし、この女性……アグネスのお姉さんか?血縁者なのはまず間違い無いだろう。腕輪はしてないからゴッドイーターでは無いんだろうが……なのにあのパワー。どうなってんだ?

ニコニコと微笑む女性は、手のひらをハンカチで拭うと一礼する。

 

「初めまして雨宮リンドウさん。アグネスがいつもお世話になっております」

「ああ、いえ、こちらこそ……アグネスはうちの隊でも何かと頼りになってまして……あの、お姉さんでしょうか?」

「あら!お上手ですね、雨宮さん。私はアグネスの()()()()()()()の、アレクシア・オールウィンと申します。宜しくお願い致します。あちらに転がっているボロクズが、アグネスの()()()()祖父になりますね」

 

ああなるほど、アグネスのお母様でいらっしゃる……お母様⁉︎

若いな⁉︎まだ二十代後半に見えるぞ⁉︎

 

「し、失礼ですが随分とお若いですね……」

「ええ。今年で二十七になります」

 

二十七⁉︎……あ?

おい待て、アグネスは何歳だった?

あいつは今確か十六歳の筈だ。

幾ら何でも十歳そこらでアグネスを生んだってのは無理があるだろう。どういうことだ……⁉︎

俺の脳裏で、ある結論が形成されかけーーアレクシアさんのほう、と安堵の溜息によって霧散した。

 

「それにしても良かった……アグネスは友人が出来たんですね」

「……え?ええ。口数こそ少ないですがとても仲良くやっております。新人達にもアドバイスを授けていますし……」

 

純粋に娘を心配する母親にしか見えず、何だかこれ、二者面談みてえだなと思っていると。

アレクシアさんが特大の爆弾を投下した。

 

「本当に良かった。あそこの権力者の爺に『アグネス・ガードナーは暗殺者だった』なんて偽造パーソナルデータを付け加えられていたようでしたから……孤立していないか不安だったんです」

 

…………………はい⁉︎

 

「偽造……パーソナルデータ⁉︎」

「はい」

「八歳から暗殺者をやっていたと……」

「八歳の頃は良く庭で穴掘りをしていましたね。活発な子でした」

「『殺戮人形(キリングドール)』というのは」

「事実無根の法螺話です」

 

え?じゃあちょっと待てよ。サカキ博士と真面目に相談し合った、あと余命一ヶ月って予測とかも全部無かったことになるのか?いや、それは歓迎すべき事なんだが。

……一応確認しておくべきだろうな。

 

「あー、すみませんアレクシアさん。アグネスが『切り札』と言って青い腕輪を使ったことがあったんですが……」

「まあ……あれを誰か目の前で使うなんて、あの子はよっぽどあなた方を信頼しているんですね。心配要らないわよ、リンドウさん。あの子があれを使ったのは、あなたが見たのを含めて二回きりですから」

 

二回きり。八歳から休みなしに使ってなどいなかった。

ということはアグネスの体はサカキ博士が言ったように、修復不可能なまでに傷んでなどおらず……。

 

「命の危険とかは、ないんでしょうかね?」

「ええ」

 

どっ、と体の力が抜ける。ご家族の言葉だ、信頼も出来る。あー良かったー。サカキ博士に今度文句言っとこう。博士は悪くないがそれでもだ。この安堵を表現する方法が他にない。

 

「さて、と」

 

長く続いた緊張が解け、思わずソファにもたれかかったところで、アレクシアさんから鋭い声が掛かり、背筋を伸ばす。

 

「自己紹介も済みましたし、本題に入りましょうか。雨宮リンドウさん。アグネスから何か聞いていますか?」

「ええ。『ディアウス・ピターを退けたら贖罪の街の広場にヘリが来るから、一時的に雲隠れして』と。それとーー」

「……それと?」

 

あの時。

アグネスが俺の通信機を破壊して、プリティヴィ・マータに斬りかかりながら。どういうことかと聞こうとした俺に言ったんだ。

 

 

「『信じて』と」

 

 

「……それだけしか言われなかったのに、あなたはアグネスを信じたの?」

「それだけで充分です。俺はあいつの隊長ですし、あいつの人柄を知っています。アグネスは信頼できる人間ですから。……まあ、流石に本部まで運ばれるとは思ってませんでしたけれど」

「ーーそう」

 

俺が苦笑い気味に告白すると、アレクシアさんは嬉しそうに微笑んだ。

 

「ありがとう、リンドウさん。あの子を信じてあげてくれて。……あの子から頼まれているのは、あなたの保護。『全部終わるまで大人しくしていてください』とのことよ」

 

終わるまで?シックザール支部長の計画に関してか……?しかしそう言われても、アグネス一人で片付けるのは流石に無理だろう。俺が途中で合流するか、サクヤの部屋の冷蔵庫に記憶媒体を隠してあるから、それをサクヤに見つけて貰ってーーあっ。

や、やべえ。

 

 

 

 

失踪直前までに得たアグネスに関する間違った情報と所感、全部あの記憶媒体に入力しちまった……!

 




デデーン。
アグネスは実は暗殺者じゃなかったんだよ!
リンドウさん、いち早く勘違いワールドから脱落。なお、極東支部に新たな勘違いの火種を遺した模様。
『アグネスはかわいそうな暗殺者なんだ』
???「なん……だと……」
正式サブタイトルは受け継がれる勘違い(もの)
シリアスなんてあんまりなかった……!


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