コードギアス 皇国の再興 (俺だよ俺)
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極東事変編
第01話 マリアナ小笠原海戦


平盛22年(ブリタニア皇歴2010年)8月10日 、世界唯一の超大国神聖ブリタニア帝国は日本と地下資源サクラダイトを巡って対立し宣戦布告、日本に侵攻した。

 

当時の日本皇国内閣総理大臣枢木ゲンブは陸軍参謀総長を兼任しておりブリタニアに対し徹底抗戦を主張。また、海軍軍令部もこの意見に賛同した。第二次太平洋戦争の戦端は開かれた。

 

枢木政権の命を受けた海軍軍令部は高杉英作中将率いる航空艦隊と坂元良馬中将率いる主力艦隊からなる第一連合航空機動艦隊を派遣。マリアナ諸島へ進出しブリタニア主力艦隊を迎撃した。

 

第一連合航空機動艦隊は戦略空母建御雷を旗艦とし、戦艦3隻、主力空母11隻、軽空母3隻、航空及び防空巡洋艦15隻、護衛補助艦艇多数からなる大規模艦隊である。

 

世界がブリタニア帝国、EU、中華連邦、ロシア帝国と言った勢力によって世界が4極化していく中で中立を守って来れたのは日本皇国の偏に飛びぬけた海軍力にあった。第一連合航空機動艦隊空母艦載機とマリアナ諸島及びカロリン諸島の基地航空隊及びブリタニア艦隊空母艦載機の間で熾烈を極める戦いが繰り広げられ、ついにはブリタニアの侵攻軍の第一陣を退けるに至った。

 

「このまま第二陣を迎撃しますか?」

「南シナ海の東郷艦隊もブリタニアの侵攻軍を退けたそうだ。南洋からの侵攻軍の第二陣が来るにしろ時間がある硫黄島要塞の守りを固めさせ、我が艦隊は一度撤退し補給を受けて体制を立て直そう。」

 

日本皇国海軍の善戦によりマリアナ及びカロリンの基地航空隊は壊滅、ブリタニア侵攻軍第一陣の艦隊も壊滅し敵侵攻軍第一陣は敗北した。第一陣の残存は第二陣と合流し再編され、ブリタニア軍は第二陣を出撃させた。

第一連合航空機動艦隊は本土で補給を受け硫黄島要塞を攻撃するブリタニア軍を硫黄島守備隊と挟撃するために第一連合航空機動艦隊も再度出撃する。

 

硫黄島要塞へ向かう第一連合航空機動艦隊の高杉の下へ硫黄島陥落の報告が入る。

「閣下、硫黄島が陥落!陸軍将兵はことごとく虐殺されたとのことです!」

「な、馬鹿な!硫黄島は陸海軍肝いりの要塞だぞ!?とにかく奪還するぞ!艦隊増速!硫黄島へ急行する!」

 

 

高杉英作が見たものは陥落した硫黄島要塞であった。

 

「閣下!敵軍の中に新兵器らしきものが見えます。」

「人型兵器?飛べるのか?」

「詳細は不明ですが、陸上を高速で移動することが可能なようですが、推進器はついていません。飛行は不可能かと思われます。」

「こちらへの攻撃手段は?」

「敵の新兵器の装備の詳細は不明です。現状では何とも・・・」

「仕方がない。敵の艦隊を片付けて硫黄島を包囲しよう。」

 

敵第二陣艦隊との戦闘に突入したが、高杉達は常に硫黄島を警戒しながら戦い続けた。

ブリタニアの新兵器であるKMFを初めて目にして、その性能を測りかね硫黄島の敵軍への攻撃に対し慎重になっていた。

実際の所、当時のKMFグラスゴーには強力な対空兵器はなく。対空兵器と及べるものはアサルトライフルのみであった。このアサルトライフルも高射砲ほどの対空能力はないので日本皇国艦隊艦載機の爆撃で圧倒することが可能であった。性能もさる事ながら見た目も

常識の範疇を越えた新兵器の登場でさすがの名将高杉も手を出さずにいた。

敵第二陣艦隊を圧倒し、敵第二陣艦隊は後退して行った。

しかし、高杉達であるが硫黄島に出した偵察機が敵KMFの攻撃で撃墜されたことで敵の対空戦闘能力を高く評価してしまった為に硫黄島攻撃は戦艦や巡洋艦の艦砲射撃のみにとどまり攻撃のタイミングを躊躇してしまう。

しかし、日本皇国軍硫黄島要塞守備隊最高指揮官栗林忠通大将よりの電文が受信されたことによって高杉は決断する。

 

「閣下!硫黄島の栗林大将より電文!!『ワレ オンテキ ブリタニア ニ タイシ ハンゲキ ヲ カイス カイグン ハ コレニ アワセテ テキヲ キョウゲキ サレタシ』閣下!」

「硫黄島の友軍を見捨てるわけにはいかない。爆装した艦載機で爆撃隊を編成し硫黄島の敵占領拠点を空襲する。」

 

副官が高杉の指示に従い声を荒げる。

「航空隊を爆装させて硫黄島に上陸したブリタニア軍を爆撃させる!比叡以下の艦にも砲撃を継続させよ!」

「っは!全艦砲撃はじめ!航空隊を上げろ!」

 

硫黄島ブリタニア占領軍を攻撃する第一連合航空機動艦隊は硫黄島の皇国陸軍残存部隊と協調して敵侵攻軍第二陣の占領部隊への攻撃が行われた。

各種空母合計19隻から爆装したF-3彗星が、3隻の航空巡洋艦からは最新鋭のVTOL機F-4昇星が飛び立ち硫黄島爆撃を開始した。

 

「敵の新兵器の陸戦能力は相当なものの様ですな。」

「あぁ、あれだけの爆撃の雨の中をかいくぐって硫黄島守備隊と交戦している。だが、対空戦闘能力はそう高くない。時間は掛かるがじっくりやっていこう。」

 

高杉と参謀たちは艦橋で緑茶と握り飯を手に硫黄島の戦況を見守っていた。

2度に渡るブリタニア海軍の撃退、敵新兵器も強力なれど対空戦闘能力は高くなくこちらに優位な状況となり若干の余裕が出てきたようだ。現にKMFを除く敵陸上戦力は壊滅的ダメージを追っていた。

 

その頃、マーシャル諸島沖に集結していた侵攻軍第三陣に航空戦力と新兵器を駆使して日本艦隊を殲滅せよとの作戦は発令された。

ちょうど食事を終えた艦橋に報告が上がる。

 

「閣下!敵第三陣がこちらへ向かっているとのことです!敵艦隊の後続には爆撃機と思しき大型機が多数同行しているとのことです。」

「いよいよだな。硫黄島の包囲を一度解いて敵艦隊を迎え撃つ。」

 

ついにブリタニアの侵攻軍第三陣が姿を見せた。

多数の航空母艦に無数の巡洋艦と護衛艦、いままでの中で最大の戦力と言えた。

そして、第一連合航空機動艦隊に迫るブリタニア軍の航空隊。その中には大型機が多数含まれていた。

 

「来たか!航空参謀!護衛戦闘機隊にも知らせ!」

 

厚い雲層を抜けて現れた。ブリタニアの航空機。レーダーのジャミング合戦の結果接近を許してしまった。

 

「敵の接近を許すな。」

「CIWS起動!!対空迎撃はじめ!」

 

 

旗艦建御雷に接近する敵機が対空迎撃網によって次々と撃ち落とされていく。

高杉も安堵の表情を浮かべ、双眼鏡を下ろす。その瞬間に高杉を驚愕させる報告が入る。

 

「赤城に敵機が!?」

「どうした!報告は正確に言え!」

高杉が曖昧な報告をした士官を叱り、双眼鏡を赤城の方に向ける。

赤城の方へ向けた双眼鏡の向こうでは赤城の甲板で暴れるKMFグラスゴーの姿があった。

 

「な、どこから出て来た!?」

「閣下!敵大型機です!敵大型機に搭載されていたようです!あれは爆撃機ではありません!」

「か、閣下!!加賀にも敵機が!!」

「ぬぅ、弾幕を厚くしろ!敵機が空母に着地したらお終いだ!」

「っは!弾幕薄いぞ!何やってんの!!」

 

高杉の指揮の下、対空防御が強化され敵の航空戦力の頭を抑えつつあった。しかし、敵新兵器KMFの陸戦能力の高さは彼らの想定を凌駕した。

 

赤城の艦橋をアサルトライフルで破壊したKMFグラスゴーが赤城の甲板で助走をつけて跳躍する。跳躍したグラスゴーからワイヤー式アンカースラッシュハーケンが放たれる。スラッシュハーケンが近くの護衛艦を貫き護衛艦に飛び乗ったグラスゴーのアサルトライフルで護衛艦は爆発炎上。同じ要領で周囲の艦を破壊して行く。そして同じ要領で空母龍驤にも飛び乗った。

 

「な、なに!?赤城の敵機が龍驤に飛び乗っただと!!」

 

龍驤の艦橋も破壊される。

 

「阿蘇!爆沈します!」

主席参謀の言葉で双眼鏡を空母阿蘇の方に向けると阿蘇にはKMFの姿はなく、すでに空母生駒に飛び移った後であった。

 

「被害甚大!閣下!撤退を!」

「ぬぅぅ・・・。それでは硫黄島の友軍を見捨てることになる。」

「ですが、このままでは我々も全滅してしまいます。」

 

「遺憾ながら・・・硫黄島を放棄する。全艦撤収せよ。」

 

 

硫黄島の争奪における第一連合航空機動艦隊敗北。この情報は政府首脳部には勿論、国民にも報道された。さらに奄美群島沖海戦においても東郷兵八郎率いる西太平洋艦隊の敗北の報がもたらされ政府首脳部は驚愕していた。

 

そして、ブリタニア帝国と日本皇国におけるこの一連の戦いにおいて敗戦を決定づける事件が発生する。

日本国総理大臣兼陸軍参謀総長枢木ゲンブの自殺。徹底抗戦を謳う抗戦派の最高指導者の死は内閣及び大本営が一時空白状態となりブリタニアの九州上陸を許すことになる。

 

 

 



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第02話 北海道撤退戦 

枢木ゲンブ総理の自殺によって大本営は機能不全に陥る。

陸軍参謀本部は本土決戦を決意。陸軍を第一総軍と第二総軍と北方方面軍の3つに分けてブリタニア軍上陸に備えた。

そして、海軍軍令部は大本営の統制下を外れ独自行動をし始める。

海軍軍令部総長高野五十六大将は東京湾に係留していた旭日艦隊に要人たちを非難させ日本よりの脱出を画策した。

 

高野は忙しく関係各所に連絡をし、忙しく指示を飛ばしていた。

「閣下、西海造船所中岡原太郎総帥、泰山航空工業東野原一郎会長、成重航空発動機工業成重竜一郎社長及び各社の技術者の身柄を保護しました。」

「うむ。」

 

日本の敗戦を予感した高野は枢木政権を欺き、元内閣総理大臣兼元陸軍参謀総長大高弥三郎と協力して技術者達の脱出を強行した。

 

国内では大本営の指揮を離れた海軍陸戦隊と青風会派の陸軍部隊が国内要人保護に動き回った。

 

「大高元首相閣下がおいでになられました。」

「すぐにお通ししてくれ。」

「っは」

 

執務室の深みのある重厚な扉が開かれる。

高野に椅子を進められた大高は堰を切ったように口を開く。

 

「まさか、枢木君が売国奴だったとは痛感の極みです。澤崎君ではこの難局を乗り越えることは無理でしょうな。先ほど片瀬君とも話しましたが彼の本土での抗戦の意思は固く。協力は得られませんでした。我々の邪魔しないとのことでしたので、それが救いと言った所でしょう。」

「ですが、国内の主要企業の技術者たちの保護は幸い順調です。今日中には海軍の輸送艦で北海道へ退避させられます。」

「それは不幸中の幸いですな。彼らも国元を離れるのはつらい事でしょうが、今は耐えてもらいましょう。」

 

扉をノックする音が聞こえる。

「入れ。」

「総長閣下、お車の用意が出来ました。」

「そうか。・・・・・・大高閣下、そろそろ我々も」

「もうその様な時間でしたか。」

 

大高は総長執務室の窓から東京の街を眺める。

「ブリタニア軍の侵攻を受けた地域は徹底的に破壊され、民間人にも大きな被害が出ていると聞きます。我々が次にこの東京の美しい街並みを見れるのはいつのことになるのでしょう。」

「大高閣下・・・。だからこそ我々は日本の未来のためにもこの計画を完遂しなければならないのです。」

 

小笠原沖より撤退してきた第一連合航空機動艦は旭日艦隊と合流するために相模湾沖で待機する。奄美沖で敗北した西太平洋艦隊も日本海を経由し北海道を目指す。

 

東京湾の海軍基地より要人や技術者たちが輸送船に乗り込んでいく。

 

大高と高野は海軍基地司令部より避難誘導を指揮していた。

 

「間もなく全員乗り込みます。」

「よし、では我々も・・・。大高閣下。」

「そうですね。では、我々も行くとしましょうか。」

 

海軍基地の司令管制室の固定電話が鳴る。

電話に出た海軍士官が大高と高野の方を見る。

 

「どうした?」

高野が仕官に尋ねる。

「外線です。大高閣下と話がしたいと・・・」

大高は少し驚いた表情になる。

「わたしですか?いったい誰が?」

「先方はキョウトを名乗っております。」

 

それを聞いた大高と高野は表情を固くする。

「ついに彼らからコンタクトが・・・・・」

「山王会でも接触を試みていたのですが、今に至るまで接触が出来ませんでした。今になってなぜとは思いますが・・・。とにかく話してみましょう。」

 

「はい、大高です。そちらはキョウトの・・・・・・・その声は・・・もしや・・・桐原財閥の」

高野は大高と電話向こうの桐原の会話を見守る。その間に管制室の人員を護衛の最低限を残して退室させる。

「でしたら、キョウトのお歴々も我々と共に・・・・・・・っ残念です。」

電話口では大高が桐原らキョウトの重鎮の保護を申し出たようだが断られてしまった様だ。

 

「っ!?わかりました。直ちに東郷君の西太平洋艦隊より艦を向かわせます。参謀総長の高野君が私のすぐ横にいますので大丈夫です!はい、はい!必ず。」

 

電話を切った大高が高野の方に向き直る。

「キョウトより非常に重要な要請がありました。」

「それはいったい・・・・。」

「キョウトは我々にこの国で最もやんごとなき方の保護を依頼してきました。」

 

最もやんごとなき方、つまりは皇族の保護であった。意図を理解した高野は大高に答える。

 

「キョウトは我々に最も重要なカードを託してくれたようですな。直ちに西太平洋艦隊の東郷君に連絡を取ります。」

「高野総長、事は一刻を争います。迅速かつ確実に対処してください。」

 

 

旭日艦隊旗艦日本武尊。

旭日艦隊司令長官大石蔵良中将は輸送艦に要人及び技術者たちが乗り込んだのを確認する。

高野と大高は日本武尊の艦橋に案内される。

 

「大高閣下、高野閣下。ようこそ日本武尊へ、本艦隊は皆さまを北海道までお守りします。」

「うむ、よろしくたのむ。」

「よろしくおねがいします。」

 

「超戦艦日本武尊発進せよ!」

 

 

日本の要人を保護した日本軍の一部が北海道へ避難していることを察知したブリタニア軍は北海道制圧のために艦隊を派遣する。その中には新兵器KMFの姿もあった。

 

そして、アリューシャンより出撃したブリアタニア北方侵攻軍の迎撃のために函館湾より川崎弘中将率いる紅玉艦隊が出撃した。

 

函館港を出港し津軽海峡を出た紅玉艦隊旗艦戦艦伊勢では気を引き締めて双眼鏡を握ったまま艦橋に立つ川崎の姿があった。

 

「川崎閣下、第一連合航空機動艦に続き西太平洋艦隊も敗れました。予備艦隊に位置付けられている我々は勝てるのでしょうか?」

川崎は不安げな主席参謀を励ます。

「確かに、我々だけでは負けるだろう。だが、大泊の紺碧艦隊がこれに加わってくれるそうだ。勝機は十分にある。」

 

 

そして、樺太の大泊秘密地中港より海軍の秘匿潜水艦隊紺碧艦隊が出撃したのである。

 

 

北緯43°東経154°のあたりで日本皇国海軍紅玉艦隊と紺碧艦隊はブリタニア北方侵攻軍の艦隊と接敵することになる。

 

前原一征少将が率いる紺碧艦隊は旗艦潜水艦須佐乃男と共に海底深くで、ブリタニア艦隊が罠にかかるのを今か今かと待ち構えていた。

「ブリタニア艦隊ポイント1を通過。」

「敵さん、順調に網の中に入ってくれているようだな。ブリタニア艦隊が紅玉艦隊と交戦する前に奇襲攻撃を掛ける。」

「敵、ポイント3へ侵入。網にかかりました!」

「よし!全艦魚雷戦用意!」

「魚雷戦用意!」

「魚雷発射管全て注水完了!」

「魚雷、一斉発射!撃て!」

 

紅玉艦隊を囮にし、四方に配置した潜水艦群から無数の改六二式水素魚雷が放たれる。

航跡を描かない無数の魚雷がブリタニア艦隊に殺到する。躱す事も出来ずに魚雷が次々と命中して中央から真っ二つに割れる航空母艦や戦艦。爆発四散する駆逐艦。

 

 

 

沈んでいくブリタニア艦を見て歓声を上げる紅玉艦隊の面々。

「やってくれたか!前原長官!おいしいところは全部持っていかれてしまったな。・・・・全艦残存艦の掃討を開始しろ!」

「っは!」

 

 

かくして、ブリタニアの日本侵攻による日本の完全占領に歯止めがかかるのであった。

 

 

 

 



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第03話 日露非公式会談

平盛22年9月

 

北海道へ遷都した大高弥三郎以率いる日本皇国政府は東北州青森を境界線に絶対防衛圏を構築。北海道の雪豹師団・東北の夜豹師団・海軍海兵旅団をその防衛に当たらせた。

東北の山々と言う天然の要害で守られた上に大高派の陸軍で固められたこの防衛ラインは日本海側に東郷艦隊、太平洋側に高杉艦隊、その補完に坂本艦隊が当てられKMFを擁するブリタニア陸軍でも破ることは容易ではなかった。

こうして暫定的ながらも日本国内の勢力図が出来上がり始めた頃。

戦いは戦場だけでなく外交の場でも始まりを見せていた。

 

「我が国はサクラダイトの高度な採掘技術を提供する用意があります。」

「サクラダイトの採掘技術提供の見返りに貴国の承認をと言う事か?ミスタ大高。」

「はい、その通りです。プーシン大統領。」

「だが、我らが帝国がブリタニアと敵対してまで貴国を推し立てる利はあるのかね?」

 

大高は極東事変直後からロシアとのチャンネルの構築に勤しんだ。

その甲斐あって、大高首相とプーシン大統領による非公式ながらもナンバー2同士の会談が開かれることとなった。

 

「もちろんです。近々起こるであろう貴国とブリタニアの戦争において我が国は南方から北上するブリタニア軍に対する盾になりうる存在だからです。」

「我が国とブリタニアが戦争をすると?どうして、大高首相はそう考えるのだ?」

 

プーシン大統領は有能な人物だ。大高が言わんとすることは解っているはずである。なぜ大高に話させようとするのか。それは大高が今後の世界の流れをどこまで読み取っているかを測るためでもあった。大高の能力を量り、日本がロシアの盟友たる資格の有無を見極めようとしているのだ。

 

「今回のブリタニアの侵攻はサクラダイトを目的としたものでした。外交的見地から申し上げれば下策中の下策です。我が国は全世界のサクラダイト供給量の約70%。またその供給配分は自国配分を除いて考えても貴国に欧州諸国、中華連邦、ブリタニアに対して均等に行われておりました。経済的にも何ら問題はありませんでした。ではなぜこのような暴挙を行ったか。それは恐らく現皇帝シャルルの即位時の妄言、世界征服宣言が国威発揚の見せかけではなかったと言う事なのでしょう。かの国の世界制覇の先駆けが我が国への侵略行為…。サクラダイトの過半の掌握が目的だったのでしょう。」

「だが、まだ我が国とブリタニアが戦争をする理由にはならんぞ?」

「貴国のシベリアにおけるサクラダイト埋蔵量・・・。相当なものなのでは?それこそ我が国のサクラダイト市場における独占状態を終わらせるほどの・・・。でなければ、いくら前政権から交渉を続けていたとはいえ採掘技術だけで、ここまでの太いパイプを作ろうとはしないでしょう。」

「……その通りだ。ミスタ大高、シベリアの埋蔵量は日本の埋蔵量の約5割。鉱山の存在は8年前に公表している。まだ、情報管制で国民の知るところではないが隠し通せるものではない。埋蔵量が国民に知られれば開発しないわけにはいかない。無論、ブリタニアにくれてやるわけにもいかない。」

 

ロシアの機密を言い当てた大高に対して油断ならない印象を抱きつつ、大高と言う人物の能力の高さは評価に値すると言う印象をプーシンは抱いていた。

 

「だからこその日露相互防衛協定です。我が国と貴国が結べば、貴国のブリタニア有事の際は南からの心配はほぼなくなります。不安要素として中華連邦が居ますがあの国は腐敗が進み大宦官たちもそれぞれバラバラの動き、少々のちょっかいは掛けてくるかもしれませんが大きな動きは出来ないでしょう。貴国はベーリング海を越えてやって来るブリタニアに精力を傾ければよいわけです。」

 

「いいだろう。我が国は貴国を日本皇国として承認しよう。そして、防衛協定にもサインしてやろう。だが、ひとつだけ確認しておきたい。貴国はすでに領土の半分以上を陥落されている。持つのか?」

 

「心配ご無用です。空母を数隻失いましたが我が国の海軍の大半は未だに健在です。陸奥湾要塞の拡張に始まり北海道を要塞化することが決定されましたので。」

 

「だが、それは将来の話だ。今はどうなのだ?将来のことばかり考えすぎて目先の危機に対応できなくては話にならんぞ。場合によってはハバロフスクの極東艦隊を派遣しても構わんが?」

 

「お気遣いはご無用です。条件付きではありますがブリタニア軍に対処可能な兵器を配備中です。いずれはかの国の人型兵器と同様なものが必要と考えておりますが、それまでのつなぎとして十分なものと考えております。」

 

ブリタニアと言う差し迫った危機に対して、大高の余裕を含ませた自信はプーシンを持ってしても不気味さを感じてしまうものがあった。

 

「ミスタ大高がそこまで自信を持って言うのならその通りなのだろう。」

「近く、ブリタニアと一戦交えることになりましょう。その時に我が国の新兵器を披露することになるかと思います。」

「ほぅ、それは楽しみだな。」

「次回の交渉では、新兵器の技術提供も考えておきましょう。」

 

この新兵器はこの後起こる陸奥要塞防衛戦でその真価を発揮することになる。

 

 

大高はロシア帝国のウラジミール・プーシン大統領との電話会談を済ませると高野ら、北海道臨時政権の重鎮らと合流。その中には太陽党党首で現政権の副総理西郷南洲、青風会メンバーであり現政権外務大臣木戸孝義、商工大臣室生直毅、元総理経験者の貴族院議長九重文麿、衆議院議長中田丸栄、賢議会議長佐久間祥山、戦略空軍司令長官厳田新吾、陸軍参謀総長桂寅五郎と言った国家の重鎮を集めて、函館の仮皇宮へと向かった。

 

大高達北海道臨時政権の重鎮たちは御簾を境に上座に座る少女に臣下の礼を取っていた。

 

「姫殿下におかれましては、野蛮なブリタニアの暴虐にさらされ慣れぬ船旅でお疲れでございましょう所にこのような機会を設けていただき恐悦でございます。」

 

「大高首相、面をお上げください。わが身の危機にこうして助けていただいたことはわたくしも感謝しておりますわ。日本の再興のためにその力を貸していただけませんか。」

 

「この大高弥三郎。微力ながら全身全霊をとして皇国の為に全力を尽くす所存にございます。」

 

大高らが臣下の礼を取る少女こそ、日本皇国皇族皇神楽耶であった。

 

「わたくしは自分の役目を理解しているつもりです。大高首相、この国のために最善と思う事をしてください。」

 

「では、さっそくなのですが姫殿下には早急に国民の精神的支柱として天皇として即位して頂かなくてはなりません。ブリタニアの無差別攻撃に巻き込まれ、御隠れあそばされた両陛下の大喪の礼を執り行って頂きたく思います。大喪儀のいくつかを省略することになりますが国土が占領されると言う異常事態です故、ご理解ください。それらが済み次第急ぎ践祚の儀・即位の礼・大嘗祭を執り行い。天皇の即位を国内外に示していただきたく思います。この一連の行為には皇室儀礼や国事行為において可能な限りの省略がされており、姫殿下に対して非礼に当たることもあるかもしれません。ですが、今回は国土の半分以上が敵に占領されると言う異常事態下で執り行うための超例外的行為としてご理解のほどを頂きたくお願い申し上げます。」

 

「この国難を乗り越えるためにわたくしも力を尽くしましょう。この一命にかけて…。」

 

皇族とはいえ7歳の少女であったが、その厳粛な姿に皇族かくあるべしと言った指導者の片鱗を感じたのであった。

 

 

 

 



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第04話 徹底抗戦の始まり

平盛22年10月16日

 

北海道臨時政権が維持する。北海道・東北地方陸奥地域を除くほとんどの地域がブリタニアの手に落ちた。九州の北端部で僅かに抵抗があるようだが制圧も時間の問題と思われる。

 

大高らは大喪の礼をはじめとする大喪儀を国内のみで執り行い践祚の儀を済ませ大嘗祭の大半を省略することになったが9月中旬の初顔合わせから僅か半月で執り行うと言う異例尽くしのものであった。

 

即位礼正殿の儀が函館の仮皇宮で執り行われている。

国内の参列者は先の謁見の際に集まった大高と高野ら重鎮に加え州知事や州議会議長、国会議員が参列し、軍からも大石蔵良旭日艦隊司令長官他多くの軍人が参列した。

神楽耶がこの日のために急遽作られた仮の高御座に昇る。

参列者が鉦の合図により起立し、鼓の合図により敬礼する。

 

大高が儀礼にならい神楽耶の御前に参進する。

神楽耶の口から天皇のおことばとして台詞が述べられる。

 

「さきに、日本国憲法及び皇室典範の定めるところによって皇位を継承しましたが、ここに即位礼正殿の儀を行い、即位を内外に宣明いたします。

このときに当り、改めて、御父平盛天皇の二十二余年にわたる御在位の間、いかなるときも、国民と苦楽を共にされた御心を心として、常に国民の幸福を願い、日本国及び日本国民統合の象徴としてのつとめを果たすことを誓い、国民の叡智とたゆみない努力によって、この国難を乗り越えることを希望します。」

 

神楽耶のおことばに対して大高が寿詞を述べる。

 

「謹んで申し上げます。天皇陛下におかれましては、本日ここにめでたく即位礼正殿の儀を挙行され、即位を内外に宣明されました。一同こぞって心からお慶び申し上げます。ただいま、天皇陛下から、いかなるときも国民と苦楽を共にされた平盛天皇の御心を心とされ、常に国民の幸福を願われつつ、このたびの国難を乗り越えることを願われるお気持ちとを伺い、改めて感銘を覚え、敬愛の念を深くいたしました。私たち国民一同は、天皇陛下を日本皇国及び日本国民統合の象徴と仰ぎ、心を新たに、世界に開かれ、活力に満ち、文化の薫り豊かな日本の再建と、世界の平和、人類福祉の増進とを目指して、最善の努力を尽くすことをお誓い申し上げます。ここに、祓治の代の平安と天皇陛下の弥栄をお祈り申し上げ、お祝いの言葉といたします。」※祓治(ふつち)とは新元号。

 

大高の万歳三唱に続き参列者が唱和し、大高は所定の位置へ戻り、鉦の合図により参列者全員が着席する。

 

即位礼正殿の儀が完了すると祝賀御列の儀が執り行われ沿道には陸海軍の将兵が敬礼をした状態で並んでおり、離れたところから警官に規制された国民たちが集まっている。

神楽耶は彼らに対して手を振って応じる。別の車両からその様子を見守っていた大高はその様子を見て胸をなでおろす。天皇とは言え小さな少女だ。途中で参ってしまわないか心配していたが大高が思っている以上に彼女の心の芯は強く、それは杞憂だったようだ。

 

その後は園遊会や一般参賀を取りやめて、天皇による内閣総理大臣の任命式を執り行う運びとなっている。これはブリタニアが傀儡政権を立てる可能性があった為、北海道臨時政権の正統性を内外に訴える意味もあった。

 その総理の任命式や他大臣たちの信任式を終えた。大石たちは仮皇宮の控えの間で休憩をとっていた。

大高らもひと段落ついたと談笑し始めた時、控えの間を内閣書記官長田中光昭が役人数名を連れて扉を乱暴に開けて来た。

 

「総理!緊急事態です!誰か!テレビ!テレビつけて!」

 

 そこにはどこかの地方自治体の公民館が映し出され下の方に日本国政府降伏勧告を受諾と書かれたテロップが表示される。無論、北海道臨時政権が降伏した事実はない。この天皇陛下の即位式から内閣の親任式までの流れは全国で放送できなかったにしろ北海道地域や政権統治下の東北地域他電波受信によって少ないながらも占領地下の人々でも見ることが出来ていた。

 

「陛下がこちらに居わすことの正当性はブリタニアも理解しているはずです。それに緊急時に各州の統制を行う各州知事もこちらの手の内、枢木政権の閣僚もこちらか澤崎官房長官に従い国外へ脱出し残りの枢木政権の閣僚は処刑されたと聞いています。」

 

大高の言葉に西郷が応じる。

 

「他の党の党首か過去の総理経験者では?」

 

「いえ、それはないでしょう。枢木政権時代の政権与党議員の重鎮はすでに先ほど話した通りです。与党第二党公平党を引っ張り出す可能性はないわけではないですが歴代与党に寄生しただけの党では説得力に欠けます。野党第一党第二党は我々です。野党第三党の共産革命党はブリタニア皇帝が共産主義を否定しているのでありえません。むしろ処刑対象のはず。となると首相経験者となりますが、枢木政権の前の鳩ケ谷は国民にノーを突き付けられた男。傀儡政権だとしてもこれ以上に不適切な人間はいません。となるとその前の政権となりますが前々政権の麻田氏と5代前の阿部川氏は確かEUに外遊中でした。それと大泉君はこちらにいます。後はそれ以前となると死んでいるか残りは病院の酸素チューブなしでは生きられないほどの御老体。まさか、前州知事を引っ張ってくるとも思えません。」

 

「大泉氏の前は大高閣下でしたな。では4代前の福永氏ですか。」

 

「彼は澤崎君に着いて行ったそうです。」

 

 

「大高閣下、テレビが始まるようですよ。」

 

高野(臨時措置で軍令部総長と海軍大臣を兼任)に声を掛けられて傀儡政権談義は中断し一同はテレビに注目する。

大高達はテレビの前に映った人物を見て絶句する。

テレビに映った人物は皇神楽耶と同じ皇族栗栖川宮望仁親王であった。

 

『皇族である私は日本皇国に君臨する者として……皇国にこれ以上の被害と混乱を起こさないために……。』

 

平安装束の束帯を身にまとった栗栖川親王は誰がどう見ても皇族に見える。血統から言えば皇宮家の方が正統性は高いが、天皇家は男系が主流で神楽耶の対抗としては十分な人物であった。

 

『本日は重大な決断をすることにしました……。』

 

陸軍参謀総長桂虎五郎に陸軍士官が耳打ちをし、それを聞いた桂は席を立ち大高の元へ移動して耳打ちする。

 

「日本解放戦線の片瀬少将より栗栖川宮絢子親王妃の救出作戦を実施。作戦は成功とのことです。」

 

「片瀬君との回線は繋がっていますか。」

 

「はい、隣室に設置されている電話と繋がっております。」

 

「彼と話しましょう。桂君、それと高野君、厳田君来てください。」

 

大高は3人を従え退席する。扉を開けようとした時、神楽耶とすれ違う。彼女の顔には不安や焦りと言ったものが浮かんでいた。

 

『かつて、日本と言う国は…豊かで美しい国でした。国民の心は希望に満ち、高潔な精神を持った国でした。』

 

控えの間の隣室では受話器を持った大高が受話器をスピーカーに切り替え片瀬と話し合っていた。

 

「片瀬君、親王妃の救出には感謝します。ですが、事を急ぎ過ぎたのではないでしょうか。」

 

(では、親王殿下を見捨てろと大高閣下は仰るのか!)

 

「いえ、そういうことを言っているのではありません。本来ならば、ブリタニアの傀儡になってから御二人とも救出するべきでした。」

 

(だが、それでは国家としてブリタニアから降伏勧告の受諾を受けることになってしまう。占領地での抵抗が弱まる。)

 

「確かに片瀬君の言う通り抵抗は弱まるでしょう。片瀬君としては親王妃の身柄を保護したことで親王殿下には後日必ず救出するとして沈黙を保っていただくつもりだったのでしょう。」

 

(そうだ。テレビ局には我々の同志もいる隙を見て助けるつもりだ。)

 

「いえ、この時点で親王殿下はお覚悟を決めてしまわれた。」

 

『ですが、今の日本国は戦火にさらされ傷つき美しさも豊かさも失われつつあります。』

 

「親王殿下は御子に恵まれず。皇宮家に出でいらっしゃいます陛下を実の娘の様に可愛がりなられておられました。親王殿下の御心では陛下と敵対するなど仮にも傀儡の存在だとしてもやりたくなかったはずです。そして、唯一の心残りの絢子親王妃も片瀬君によって救出されました。」

 

(まさか…!?)

 

『……この国は愛国心を持つに値しない国なのでしょうか?皇国臣民であることに誇りを持ってはいけないことなのでしょうか?私は天皇に即位しているわけではない親王であります。この国に忠誠をささげる立場にあり、皇族として陣頭に立つべき人間であります。』

 

「内親王殿下は皇族としての責務を果たされるでしょう。」

 

『この紙には日本皇国はブリタニアに無条件降伏をすると書かれています。』

 

「ですが、それは悪手です。」

 

(………)

 

『…私はここではっきりと申し上げる。』

 

「確かに抵抗の火は燃え上がり炎となりましょう。ですが、この炎は山火事と同じです。日本と言う山と国民と言う木々を焼き尽くす炎となってしまうでしょう。」

 

電話の向こうでは事態を察した絢子親王妃が泣き崩れる様子が伝わる。

 

『皇国は降伏しない!ブリタニアの傀儡にも奴隷にもならない!!私は皇国を愛している!皇族であることを誇りに思う!!』

 

栗栖川親王が演説台に置かれているコップをたたき割る。

その割れたコップの先端を首筋に近づけ声を張り上げて叫ぶ。

 

『私は死を持って陛下とこの国に忠誠を誓う!!』

『カメラを止めろ!放送は中止だ!!』

テレビの向こうでブリタニア士官の怒号が響く。

 

『日本皇国ばんざぁあああああああい!!!』

その声と共にコップの先端が首筋に勢いよく突き立てられ、まるでシャワーの様に血が吹き上がる。

テレビの向こうで響く銃声を最後に放送が中断された。

 

 

大高は受話器を下ろし電話を切る。

 

「高野海軍軍令部総長、桂陸軍総参謀長、厳田戦略空軍長官。内閣総理大臣として陛下に代わって陸海空三軍に対しブリタニアへの攻撃を命令します。」

「「「っは!」」」

 



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原作開始前の諸戦争編
第05話 奥羽臣民解放戦


 

皇族栗栖川宮望仁親王のその命を賭した抵抗宣言は多くの日本人のブリタニアに対する反抗心を植え付けた。元軍人や警官など戦える者達の大半が立ち上がり日本各地でレジスタンスが蜂起した。

 

国民の多くが立ち上がったこの事態に対して北海道政権も決起せざるえなくなった。

今動かなければ、栗栖川親王の思いに応えなかった不忠者と罵られかねない。

 

「この度、親王殿下の遺志に心打たれた国民がレジスタンスとして一斉に決起しました。また、この混乱で北海道まで避難してくる国民も多くいる事が予想されます。現在、内閣総理大臣の権限において緊急に3軍へ出撃命令を下しました。陛下におかれましてはお辛いでしょうがこの度の命令を正式なものとして承認いただけるよう。御裁可のほどをお願いいたします。」

 

函館要塞の指揮所ではすでに高野・桂・厳田ら3軍司令官が入り指令が発令されていた。大高は政治の場を纏めるために3人を函館要塞司令部へ先に行かせ、自身は函館仮皇宮の控えの間へ戻った。今生天皇となった神楽耶への許可は事後的な物に過ぎないが正統性を主張するうえでとうとう唯一の皇族となった神楽耶の権威は非常に重い物であった。

 

「わたくしはこの度の栗栖川親王の忠義の遺志に対して、その思いを応えんと思います。皇国天皇として現時刻より、今次戦争の統帥権の全般を大高弥三郎内閣総理大臣へ委譲します。そして、3軍に対して国民の保護を望みます。」

 

親しかった栗栖川親王を失った神楽耶の心情はつらいものであろう。大高が控えの間に戻った直後、彼女はその場で泣き崩れ年相応に泣きじゃくる子供の姿を見せていた。

その姿を見ていただけに彼女の今の凛とした姿は大高も驚きを見せた。

 

「…陛下…。承りました、これより3軍は遺憾なくその能力を発揮しブリタニアを退けつつ国民の保護を行うために軍を一時南下させます。」

 

 

大高から神楽耶の許可が下りたこと確認した高野・桂・厳田は改めて作戦正式な物へ繰り上がったことを前線の熊谷らに通信で伝えた。

 

「夜豹師団及び東北管区軍暫定国境線を越えます!!」

 

戦車を中心に24連装ロケット砲車、83式600mm地対地ミサイル車と言った噴進弾発射機能を持った車両の姿も多く見える。これには戦車などでKMFを相手にするのは圧倒的に不利であり、戦うのであれば敵の射程外から火力で押しつぶす戦方しかないと判断した陸軍参謀府の提案が採用された結果でもあった。

 

「頼んだぞ。熊谷将軍。」

 

夜豹師団と東北管区軍が国境線を越えていく映像を見ながら桂陸軍参謀総長は祈るようにつぶやいた。それと同時くらいに神楽耶と大高が司令部に入ってくる。高野たちは立ち上がって敬礼をする。大高は軽く手を上げてそれに応じ、神楽耶を司令部の席に案内し、大高は席に座らず、そのまま話し出す。

 

「高野軍令部総長、桂参謀総長、厳田戦略空軍長官。予定よりだいぶ早くなりますが、全国の反抗勢力が期せずして一斉蜂起したのです。これによって生じたブリタニアの隙を最大限活用しなくてはなりません。奥羽臣民解放作戦を発令します。」

 

作戦命令を受けた戦略空軍は青森航空基地より爆装したF-2流星を出撃させた。また、夜豹師団が能代平野に布陣するブリタニア軍と交戦。坂本艦隊と連動しブリタニア軍を牽制しつつ進軍し前線を押し上げた。また、海軍陸戦隊が男鹿半島を抑えたことによりブリタニア軍の背後を突くことに成功し能代平野の奪取に成功した。

 

その後も秋田平野に部隊を進軍させ現地の少数部隊を排除。また別動隊を横瀬盆地及び本荘平野に布陣させた。本荘平野の部隊は庄内平野に布陣するブリタニア軍に対する抑えであったが、配置された部隊の大半は野戦砲を中心とした砲兵部隊であった。

 それもそのはず、本荘平野の先にあるブリタニア軍の展開する庄内平野において高杉艦隊による艦砲射撃及び空爆が執拗に行われたのである。また、ブリタニア軍に摂取された地元空港は徹底的に破壊された。また、現地の港に配備されていた駆逐艦戦隊であるが地元漁協の協力を得て無人漁船による自爆特攻によって甚大な被害が出ていた。

 さらに、この戦いにおいては退役軍人を中心とした庄内義勇軍が決起。鶴岡城と松山城を占拠した。

 

また、岩手方面へ進出した東北管区軍は平地の少なさからブリタニア軍の拠点整備が遅れており花巻・水沢に布陣していた部隊を退け一関へ、太平洋側に展開した旭日艦隊と東郷艦隊は三陸海岸を解放し、ブリタニア軍が多く布陣する仙台平野へと迫っていた。

仙台はブリタニア軍に北海道政権に対する一大拠点と考えられており、KMFの配備数・新設された簡易飛行場の数も最も多く東北最大に要衝であった。

 

旭日艦隊旗艦日本武尊

 

「よし、新兵器を使うぞ!二式誘導噴進弾発射用意!目標は敵航空基地!」

「二式誘導噴進弾発射用意!!発射ぁ!!」

 

超戦艦日本武尊と航空戦艦信玄・謙信の垂直発射装置から新兵器二式誘導噴進弾(気化弾弾頭)が発射される。

これらの攻撃によってブリタニアの航空基地は壊滅。制空権を確保した旭日艦隊と東郷艦隊は直ちに護衛戦闘機を付けた爆撃隊を空母より発艦。ブリタニアの陸軍基地に対して空爆を開始、さらに三沢のF-2流星に加え旧式であったF-1天山を加えた爆撃隊が空爆に加わり仙台におけるブリタニア軍の壊滅に成功したのであった。

 

 

この報告を受けた大高は秋田・岩手・宮城の全土と山形北部の開放を宣言。

それと同時に現地住民の保護の名目で同地域住民の大規模疎開令を発令。戦略的な事情で鉄道路線は寸断され空港も多くが破壊されていた為、住民の輸送は船と車両で行われた。住民の輸送に関して周辺地域からの避難民が加わり想定を越えた為に民間の客船や貨物船以外にも漁船投入された。また、車両においても地域内のすべてのバス会社を動員したのだがそれでも足りずタクシー会社も動員したのであった。また、動員されたタクシーは座席が外されトランクのふた外されてそこにも人を乗せると言う過積載の状態であった。またそれでも足りないために臨時で滑走路が修繕されたいくつかの空港を解放、輸送機と輸送ヘリだけではなく民間航空機も動員され、山村部などの手の回らないところでは合流地点まで徒歩での避難を余儀なくされた。

 

計画実施から半月。元号が改められ祓治元年11月1日、各地域で決起した蜂起軍を鎮圧したブリタニア軍がついに仙台奪還に動き出した。

仙台沖において旭日艦隊と東郷艦隊がブリタニア艦隊と交戦。陸路からは東北自動車道を介して北上するブリタニア陸軍と東北管区軍との間で熾烈な戦いが始まっていた。またもう一方の陸路常磐線を利用して北上した部隊であるが彼らは海側に面したルートであった。

 

「常磐線を北上する三個中隊規模の敵人型機を確認!!」

「主砲弾頭を零式弾から炉号弾へ切り替え、副砲並びに各艦の弾頭を新三式弾へ切り替え。」

「全艦、切り替え完了!」

「射角修正。」

「射角修正!よし!」

 

2基の51cm45口径3連装主砲がブリタニアのKMFが疾走する常磐線へと向けられる。

 

大石の号令の下、旭日艦隊から炉号弾と新式3式弾が放たれる

 

「全艦一斉射撃!撃て!」

 

炉号弾と新式3式弾の洗礼を受け常磐線ルートのブリタニア軍は日本武尊から放たれた気化弾によって蒸発したのであった。

この攻撃によって一瞬で3個中隊が消滅したブリタニア軍は日本海軍の破格の強さを見せつけられ海岸線上のルートの使用を断念。北上戦力を東北自動車道ルートに集中させることとなるのだが、砲弾よりは少ないとは言え噴進弾の射程は東北自動車道をしっかりと捉えており、ブリタニア軍は慎重にならざるを得なかった。

 

 

しかし、陸戦においては噴進弾の脅威さえ乗り越えればブリタニア軍のKMFの性能が圧倒しており仙台市内への侵入を許すこととなる。仙台市での大規模市街戦を経て、日本皇国陸海軍は東北(福島を除く)住民の疎開を完了させたものとして作戦を終了。この戦いで確保していた庄内平野及び仙台平野からの撤退を開始海軍艦艇は陸軍の撤退支援のために両平野に侵入してくるブリタニア軍への艦砲射撃及び噴進弾攻撃を継続し、戦略空軍も支援爆撃及び制空権の維持に努めた。

 

撤退戦において羽州側は問題なく撤退できたが奥州側はブリタニアの追撃が激しく日本皇国軍は仙台駅に爆薬を詰め込んだ新幹線を突撃させたのを皮切りにハブ駅にも同様に爆弾列車による交通網の遮断したり、いくつかの高層ビルに爆薬を仕掛けそこを通過しようとするブリタニア軍に向けてビルを倒壊させたり、釜房・大倉・宮床・鳴子・花山のダムを決壊させた。住民の避難が終わっているとはいえ宮城仙台平野の戦いでは焦土戦が採用され日本軍ブリタニア軍双方に出血(どちらかと言えばブリタニアの方が損害は大きい)を強いたのであった。

 また、宮城仙台の戦いで損害を受けたブリタニア軍は岩手へ撤退する日本軍への追撃を中止したのであった。

 

一連の戦いで死者が出たとはいえ、住民の多くが北海道への疎開を成功させたのであった。日本全体の大凡13%の国民が生きて保護されたのである。これによって大高の名声は上昇し、北海道政権の日本としての継戦能力を世界に広く示したのであった。

これ以降青森・福島・山形南部地域を除く東北地方はブリタニア軍と北海道政権軍の時に空白地帯として、また両軍の小競り合いが行われる紛争地帯として7年間繰り返すことになる。

 

 



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第06話 欧州大戦勃発 

祓治2年4月14日、皇歴2012年4月12日。日露相互安全保障条約締結。

シベリアのサクラダイト鉱山開発を宣言したロシア帝国はベーリング海を挟みブリタニアとの対立。アラスカとチュクチ・カムチャッカに集結する両軍の数が増え続けていく中での出来事であった。従来兵器が主力のロシア軍とKMFを所有するブリタニア軍であれば軍配はブリタニアに上がるはずである。では、なぜブリタニアはロシアへの侵攻に振り切れずにいるのか?

 そう、日露相互安全保障条約に組み込まれて来た軍事技術の供与。これに日本の噴進弾技術が含まれており、この噴進弾は先の東北騒乱でブリタニア軍に大打撃を与えた兵器であり日本軍は艦対地兵器として保有していたがロシア軍はさらに発展されカチューシャ自走式多連装ロケット砲車を主力地対地兵器としてチュクチ、カムチャッカに集中配備を実施したために手を拱くこととなったのだ。

 また、日本皇国も超戦艦日本武尊・航空戦艦信玄及び謙信の3隻のみの配備であったが戦艦・巡洋艦・護衛艦に至るまでを目標に噴進弾垂直発射機の取り付け改装を開始。取り付けの終わった一部艦隊をベーリング海へ派遣する動きを見せたのであった。また、陸軍も多連装ロケット発射機が自走型・固定砲台型の双方が配備され始めている。

 

 

だがブリタニアは覇権をあきらめたわけではない。

ブリタニアはロシアへの宣戦布告を先延ばしにした代わりにオランダへ宣戦を布告。

 

祓治2年7月11日、皇歴2012年7月11日。オランダ領東アジアへと侵攻を開始した。

 

オランダの富は蘭印植民地からもたらされるものであった。つまりはオランダの富の源泉であった。この時すでにオランダの国力は最盛期から比べても衰退が酷くブリタニアと比べる間でもなくであった。

 それでもオランダの投入した戦力は海軍護衛空母1隻・旧式戦艦6隻を軸とした艦隊、陸軍正規軍1個師団と植民地軍同じく1個師団規模が動員され、これは当時オランダが投入できる最大戦力であった。

 

蘭印軍司令官テイン・ハル・ポールテン中将はバンドンの航空基地から出撃して行くフォッカーD32戦闘機を見送る。テイン中将と居並ぶ将校も敬礼でそれを見送る。

(治安維持や暴徒鎮圧目的の軍隊モドキの我々でどこまでやれると言うのだ。本国も援軍を出してくれると言っているが。果たしてそれも間に合うものだろうか……。たしかに本国よりも優遇されてはいるが東インド領土とブリタニア軍の戦力比は1:4ブリタニアのKMFの実力が分かった今となってはその戦力比はさらに広がっている。そもそも海軍強国の日本ですら勝てなかったと言うのに……)

 

バタビア沖 蘭印軍艦隊旗艦戦艦デ・ゼーヴェン・プロヴィンシェン

「駆逐艦ヴィッテ・デ・ヴィット、バンケルト撃沈されました!!軽巡ヤコブ・ヴァン・ヘームスケルク通信途絶!!艦橋が吹き飛びました!!」

「損害報告はいい!!戦艦は敵艦に砲撃を!!軽巡と駆逐艦の水雷戦隊は敵に食らいつけ!!防巡は対空防御を優先しろ!!航空参謀!!ナイナラの艦載機と基地航空隊で連携してブリタニアの輸送機を優先して叩かせるんだ!!避難民の乗った船団が離脱するまで引いてはならん!!」

 

オランダ海軍はブリタニアの極東事変での民間人への蛮行を知っていた為に激しく抵抗した。テイン蘭印軍司令官は蘭印の自国民の避難を優先し自国の民間人脱出の時間稼ぎの為だけに戦う腹積もりであった。このカレル・ドールマン提督もこれに同調しブリタニア艦隊やブリタニア航空隊に激しく抵抗した。

 

「ドールマン提督!!艦隊損耗率50%を越えました!!…………て、提督…バンドン総司令部が陥落しました。ティモール島のポルトガル軍がブリタニア側に参戦……。」

「民間船は?」

「全艦安全海域に離っ!?待ってください!客船オプテンノールがまだ離脱できていません!!ブリタニアの爆撃で船足が低下した模様!!」

「っく!!奴ら無抵抗な民間人も皆殺しにするつもりか!!艦隊残存艦に通達!!オプテンノールを守りこの海域を離脱せよ!!民間船を守れ!!」

 

 ブリタニアとオランダの戦いは4ヵ月に渡り、開戦2ヵ月目にはオランダ本国より2個連隊の援軍があったものの皇歴2012年11月24日、オランダは敗戦し蘭領東インドを失うこととなった。この戦いでテイン・ハル・ポールテン中将以下司令部高官は捕虜にされたのち処刑。カレル・ドールマン提督が守った民間船はその多くがオランダ本国へと帰還した。

 

EUではオランダの敗戦を受けて危機感を持ったフランスがEU諸国に結束を促した。

 

EUはその名をユーロ・ユニオン、欧州連合。今回のブリタニアの覇権国家化はEUの瓦解が原因と言える。現在の4大勢力のひとつロシア帝国は元々はEU加盟国であったが皇歴1922年ロシアの富の再分配と言う共産・社会主義化によって当時のフランスを中心とする民主国家と対立を深めた。結果としてロシアはEUと言うベールを脱ぎ世界の覇権勢力のひとつとして顕在化したのだ。そして、ロシアであるが皇帝が共産主義者の長である書記長を務めることで帝政を維持し、共産主義における貴族階級者の排除を推し進め共産主義と王権主義のグロテスクすぎる結婚が大成功し超強力な中央集権化を実現した結果がロシアソビエト社会主義帝国と言う国家なのだ。そして話をEUに戻すがこのロシア離脱とそれに倣った赤化諸国誕生に伴うEU弱体化が盟主国フランスの中華連邦との紛争に繋がる。結果仏領インド、ビルマ、インドシナを失うと言うことにもつながりEUの弱体化とブリタニアの覇権主義国化へとつながったのであった。

 

そして、ブリタニアの覇権国家化に引きずられるかのように周囲に領土的野心を剥き出しにし始めた国家が現れる。ドイツとイタリアである。ドイツとイタリアは強力な独裁者が登場。ハインリッヒ・ヒトラーとベナート・ムッソリーニである。彼らの政治は民主主義からかけ離れたものであり、その姿はむしろブリタニアに近いものがあった。フランスとしてはこの動きを抑制する目的でいくつかの懐柔政策を行ったが完全に逆効果であった。

 

皇歴2013年9月4日

 

「世界は我ら優良人種によって管理運営され始めて新たなる段階に到達するのである。世界では人類同士が覇権を競っている。世界は弱者が淘汰され強者が覇を唱える段階へと来ているのだ!我ら優良種たる人類が奴ら劣等種たる人類を支配し搾取する事には全く問題はないのである!かつて我々は戦争に敗れ弱者となった。だが、我々は今強者としてここに君臨している!無論弱者にも這い上がる権利はある。だが、強者である我々は強者の権利として這い上がってくるものを蹴落とす権利がありこれを行使する。それこそが強者の義務であり適者生存と言う真理なのだ!無論これに異を唱える者達もいたフランスを中心とするEUなどだ!余は断言する!それは弱者のたわごとであり甘えなのだ!余は世界を正しい方向に導くために志を同じくするブリタニア皇帝シャルル・ジ・ブリタニア、イタリア総統ベナート・ムッソリーニと共にこの世界の浄化をここに宣言する!!」

「「「「「ジーク・ハイル!ジーク・ハイル!ジーク・ハイル!」」」」」

 

武独伊三国同盟の締結であった。三国(枢軸)同盟の締結はEU凋落の象徴でもあった。これを受けEU内の赤を掲げる国(社会主義国)がEUを離脱しロシアへ急接近することとなる。

 

これが皇歴2013年12月28日に締結されたワルシャワ条約機構(ベラルーシ、ウクライナ、グルジア、アルメニア、アゼルバイジャンと言ったソビエト社会主義共和国。ポーランド社会主義共和国)へと繋がることとなる。

フランスもEUの残骸をかき集めそれなりの勢力を維持したが、独裁の傾向が強かったブルガリア王国、ルーマニア王国が枢軸側へ参加する事態へとつながるのであった。

そして皇歴2014年3月7日EU盟主国フランスを中心とした同盟でオーストリア連邦、アイルランド共和国、アイスランド共和国、スカンジナビア連合王国、デンマーク王国、エストニア共和国・ラトビア共和国・リトアニア共和国、ベルギー王国、オランダ王国、ルクセンブルク大公国、アルバニア王国・ユーゴスラビア王国・ギリシャ共和国、マケドニア共和国と言った残り物で構成された。EUはユーロ・ユニバースとして一体化を図ったが共和主義国、王国と主義主張の違いに加えEU有力国のスカンジナビア連合王国のブリタニアへの関心の薄さ、有力国には違いないが帝政時代の問題を解決できないオーストリア連邦、植民地の大半を失い過去の蓄財を持って有力国とするオランダ王国などEUのまとまりのなさが目立つ者であった。

また、明確な態度を示していないがポルトガルは独裁政権となり厳しい植民地政策を執り行う関係上枢軸同盟へ接近している。スペインでは左派と右派が激しく対立しておりどこに与するか態度を保留している。スイスは例によって中立である。

 

 

 

皇歴2014年7月17日、スペイン共和国植民地モロッコにてスランシスコ・フランコ将軍が共和国政府に対して反乱を起こしたのだ。フランコはモロッコを地盤にスペイン本土へと攻め上がった。共和政府によって権勢を失っていた既得権益の汁を吸っていた地主、軍部、資本家たちはフランコを支援した。スペイン本土の軍部は主に地理的事情で人民戦線側に付いた者も少なくなかった。そして、軍部は数の上では真っ二つに割れた。だが主力は反乱軍側に付いたため、民主戦線側の軍事力は当初から劣勢であった。

 

この内戦に際してEU、中華連邦、ワルシャワ条約機構は政府軍を、枢軸同盟とポルトガルは反乱軍を支援した。

ブリタニアはフランコ率いる反乱軍にKMF含む騎士団を派遣しエブロ川の戦いで民主戦線を破り11月16日には壊走させた。12月より、フランコは30万の軍勢でカタルーニャを攻撃、翌1939年1月末に州都バルセロナを陥落させた。そして民主戦線側を支持する多くの市民が、冬のピレネー山脈を越えてフランスに逃れた。これによりスペインは民主派を一掃したことを内外に宣言。内戦に勝利したフランコ側は独裁政権を立ち上げ、人民戦線の残党に対して激しい弾圧を加えた。

 

皇歴2014年11月14日、ハインリッヒ・ヒトラー率いるナチスドイツとベナート・ムッソリーニ率いる二か国はブリタニアより聖ミカエル騎士団、聖ラファエル騎士団、聖ガブリエル騎士団、聖ウリエル騎士団を軍事顧問として受け入れる。そしてオーストリア連邦へ侵攻を開始。ブリタニアの軍事顧問団を前面に押し出しオーストリア連邦チェコ方面軍を早期に壊滅させたナチスドイツ軍はスロヴァキアを占領し傀儡国家スロヴァキア独立国を建国させた。

 皇歴2014年12月18日、ナチスドイツ軍はポーランド共和国へ宣戦布告及びオーストリア連邦のさらに奥へ侵攻を開始した。オーストリア連邦と同盟関係にあったEU諸国はナチスドイツへ宣戦布告し、ワルシャワ条約機構もポーランド共和国国境に軍を集結。国境を接していない国にも軍の動員がかかる。ブリタニアやイタリア他枢軸は同盟国であるナチスドイツを助けるとする名目でEU諸国・ワルシャワ条約機構に宣戦を布告した。

 

ここに欧州大戦の火ぶたは切り落とされたのだ。

 

 

 

 

太平洋上

蘭印軍艦隊カレル・ドールマン提督は負傷し自身の参謀達に支えられながら超戦艦日本武尊の艦橋にいた。

 

「アドミラル大石。この度はオランダ国民の保護を認めてくれて感謝している。」

「ドールマン提督、我々は当然の事をしたまでです。」

 

ドールマン提督達蘭印軍の艦隊は本国への航路をふさがれ太平洋上をさまよっているところを旭日艦隊に保護されていた。

 

「我が艦隊は本国まで戻る余力がない。できる事なら貴国での保護をお願いしたい。」

「わかりました。私の方で大高首相の方に繋いでおきましょう。」

「何から何まで感謝します。」

 

ドールマン提督に向かい合う大石はコーヒーを2つ淹れて片方をドールマン提督に渡す。

 

「ドールマン提督、昨今のブリタニアやナチスドイツの勢力拡大は危険なものだと考えています。かの国の政策は他国民の奴隷化です。占領地では歴史上類を見ない残酷な統治が行われております。」

「確かに我が国も植民地支配を行ってはおりましたが人権を名実ともに奪い取るのはやり過ぎです。我が国でもかの国のやり方は危険視していました。」

「ですから、我々は巨大な敵に対して個々であたるのではなく、協力して一致団結して事に当たるべきです。」

 

大石とドールマンは固く握手を交わす。

 

「私もそう思います。港に着き次第、本国に打診してみます。仮に本国の答えが芳しくなくても我々は貴国に賛同します。」

 

 

 




本筋は日本なので欧州の大きな描写はしばらくありません。


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第07話 ロシア帝国開戦

EUとワルシャワ条約機構は対枢軸の為に協力関係を築き上げ、ポーランド共和国の救援のためにバルト三国及びスカンジナビア連合王国より援軍が派遣された。ナチスドイツ軍はポーランド共和国、オーストリア連邦へ侵攻した上にEUの宣戦布告によってデンマーク王国、フランス共和国に包囲される事となった。同盟国イタリアはユーゴスラビア王国へ侵攻し、ルーマニア王国は後背のワルシャワ条約機構を警戒しオーストリアの背後を突くほどの戦力を用意できずオーストリア連邦へ侵攻したナチスドイツ軍のポーランド共和国・オーストリア連邦侵攻は失敗するかに見えた。

 

 だが、ナチスドイツはブリタニアのKMF技術を吸収し独自の人型機動兵器を開発していたMA(メタルアーマー)を実戦に投入した。MAはブリタニアより供与された第三世代機以下の技術を元に開発された為にランドスピナーを装備していなかったが、ナチスドイツはM.A.F.F.U.(マッフ)と呼ばれる追加飛行ユニットを開発し、開発競争においてブリタニアの一歩先へ行くことに成功したのだ。

 

ポーランド共和国及びオーストリア連邦へは車輪状の電子索敵ユニットを包むような胴体で構成されたドラウと呼ばれるMAが投入された。

ポーランド共和国及びオーストリア連邦を僅か1ヵ月に制圧したナチスドイツ軍は勢いに乗りバルト三国、ウクライナ、ベラルーシ、スカンジナビア、デンマーク、フランス、オランダ、ベルギー、ルクセンブルクへと襲い掛かった。

これに深刻な警戒感を抱いたワルシャワ条約機構が正式にEU側と同盟関係を結び参戦。

 

「旧来の兵器しか持たんワルシャワ連合・EUなど恐るるに足らん。だが、敵が多すぎるのも事実。とは言えブリタニアに借りを多く作りたくはない。数はまだそろっておらんがゲバイを投入しろ。それとグルッフ重工業にはダインの量産体制を早く整わせるように指示するのだ。」

「ハイル!ヒトラー!」

 

これに対しヒトラーは大型の頭部に内蔵された電子兵装と50mmハンドレールガンを装備したゲバイの投入を指示。もう一基の指揮官用量産機ダインのロールアウトを急がせた。

 

ポーランド・オーストリアへ侵攻したナチスドイツはバルト三国軍、ウクライナ軍、ベラルーシ軍を一蹴しブリヤビチ川・ドネプル川まで押し込まれロシア帝国軍のカチューシャ軍団が到着するまで一方的にやられるだけであった。そして、この多連装ロケット砲弾も消費が激しく長期的にできる戦法ではない。また、東方に集中配備したカチューシャ隊をヨーロッパ戦線に引き抜いたために、東方の守りが薄くなってしまっていたのだ。これが後日、ブリタニアのチュクチ侵攻へとつながるのである。

 

一方でイタリア軍もアルバニア王国を陥落させ、ユーロブリタニアと名を変えた軍事顧問団の協力を得てギリシャへと侵攻を開始、同時にルーマニア軍とブルガリア軍と協力して3ヵ国でユーゴスラビア王国へと侵攻を開始した。また、この時ロシア・フランスの参戦要請を受けたトルコ共和国は枢軸同盟に宣戦を布告したがブリタニアのKMFに返り討ちに遭いマルマラ海、イスタンブールを越えられ首都アンカラに迫られるほどであった。

 

そして、フランスではベルギー・オランダまで延長したマジノ線で必死の抵抗を続けているが、スランシスコ・フランコ率いるスペイン軍がピレネーを越える動きを見せEU崩壊の影が見え始めていた。

 

以降EUとワルシャワ条約機構はブリタニアのKMFとナチスドイツのMAに対抗できる兵器が登場するまで一方的な暴力にさらされることになるのであった。

 

 

波に乗る枢軸連合はアフリカまでその戦域を広げ始める。まず、イタリア及びユーロブリタニア軍がリビアから侵攻を開始、その数日後には小規模ながらドイツアフリカ軍団が編成されこれに加わった。

 

また、イラクではファシストのクーデターが発生しアブドラー・フセインが政権を奪取。フセインは中華連邦を離脱し枢軸同盟への参加を希望。それが受け入れられるとフランス領シリアへと侵攻を開始したのである。これにサウジアラビア王国を中心とするアラブ諸国やイランが危機感を覚え中華連邦へ対処を求めたが無視され、それが中華連邦本国に対する不信感へとつながるのであった。中華連邦としてもブリタニアやナチスドイツの拡大を抑えたかったが喉元に迫ったエリア11と言う存在が優先された結果でもあった。

 

 

 

 

皇歴2016年1月28日

ブリタニア軍ベーリング海を越えてチュクチ・カムチャッカに侵攻を開始する。

日本皇国軍は日露相互安全保障条約に基づき第一航空機動艦隊を、ロシア帝国海軍も空母アドミラル・クズネツォフを旗艦とした極東艦隊を派遣したが、ベーリング海峡の厚い氷に阻まれてカムチャッカ半島近海までしか展開できなかった。一応ベーリング海海戦は日露連合艦隊が勝利している。しかし、凍り付いたチュコト海やベーリング海峡は氷の厚さからして寒冷地仕様のKMFにとってはもはや地面も一緒であった。

氷の上を疾走するブリタニアのKMFに対して日露同盟軍は空母艦載機や基地航空隊による氷砕爆撃を行ってはいたが、対するブリタニアもアラスカ平野部に建設した航空基地から多数の航空機を出して日露同盟軍の航空隊に攻撃を仕掛けた為にブリタニアKMFのベーリング海峡越えを防ぎきることは出来なかった。

ブリタニアの上陸を許したチュコト管区では沿岸に唯一のKMF対抗兵器多連装ロケット砲車カチューシャとその後継兵器グラート・ウラガン・スメーチさらには対KMF重誘導弾を装備した特技兵を投入し上陸を阻んだもののこれらの兵器を欧州戦線に引き抜いたことは極東戦線の戦力低下を招き当初予定していたミサイル攻撃による圧殺が出来ないと言う事態を招いてしまったのであった。

ただし、ブリタニアの上陸したこの地域はチュコト・コリャーク・カムチャッカさらその奥のハバロフスク地域やサハ地域も多くの山脈や丘陵地帯ばかりでありこれらの天然の要害を利用した防衛戦術でブリタニアの侵攻を何とか抑えることは出来たのであった。

また、ブリタニアのロシア侵攻の遅れはもう一つあった。カムチャッカ半島での日本製新兵器の存在である。

北海道政権日本皇国軍試作第三.五世代KMF 15式雷電。これは極東事変より前。ブリタニアと日本の関係が良好だった時、皇国海軍開発局が独自ルートでダミー企業を中継しアシュフォード財団より民間用KMFの先駆けとして先行販売していた民生用のガニメデを購入し、それを研究開発したものであった。しかし、民生品であったこともありランドスピナーこそついていたものの武装は完全に皇国海軍で用意したものでありスラッシュハーケンは模造品の試作であり、機関砲や無反動砲も試作品や陸軍兵器の巨大化であった。そして、もう一つも15式自走砲戦車。両肩の大口径砲と両前腕部の4連装機関砲、機体下部に対人用の3連装機銃をもち、無限軌道化された下半身を持つ戦車と人型兵器の中間とも呼べる代物であった。

 

カムチャッカ半島には千葉州作陸軍少将率いる64機からなる15式雷電とその支援に16両の15式自走砲重戦車の新鋭の装甲騎大隊が派遣されていた。

 

「諸君、この雷電を見せつけることはブリタニアに対して圧力をかけることが出来る。だが、雷電はまだ試作段階を越えておらず敵のグラスゴーには劣る。よって、我々の任務は敵の多くをこのカムチャッカに引きつけロシア軍を援護することにある。万が一にもロシア軍がここで敗れればブリタニアに新たなサクラダイトを中心とする多くの資源を渡すことになる。これだけは避けねばならない。諸君らの健闘に期待する!」

 

 

15式自走砲重戦車、通称15式砲戦車は極東事変の頃からKMFに対する戦法として確立しつつある射程外からの火砲等の攻撃による圧殺と言う考えを体現したものであり、敵の射程外から敵の小集団の中央に砲弾を落として敵の損害を増やすことに専念させられた。

一方で15式雷電の方であるが三.五世代の名の通りブリタニアのグラスゴーにはまだ追い付いていない。だが、自国以外の国がKMFの開発に成功した事実はブリタニアの動揺を誘うには充分であった。

また、これを率いる千葉州作陸軍少将も下手に前に出ることはせず。ロシア軍と連携しカムチャッカの丘陵地帯で防戦に徹していた。

 

結果としてロシアとブリタニアの戦いは大まかにはチュコト地域のアナディリ川を境界に膠着している。ブリタニアもKMFを投入し万全を期し上陸し足掛かりの確保には成功した。対する日露連合軍も現状で最大の戦力で迎え撃った。上陸され一部地域の占領を許すこととなったがコルマイ丘陵東部及びコリャーク丘陵に防衛線を構築し何とか持ちこたえることに成功したのだ。どちらにとっても物足りない結果となり小競り合いは2017年に入っても続いている。

 



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第08話 第四次大高第二次改造内閣樹立

これと次でクロス先の大半が影形を見せますよ。全員が全員活躍するかは未定です。
桜坂万太郎クロス決定!!さらにあの有名人も参戦!!


「貴国のKMFはだいぶブリタニアの気を引いてくれたようだ。チェルスキー山脈で防衛線を引き直した。これでブリタニアの侵攻を食い止めることが出来るだろう。」

 

「プーシン大統領、西方はどうするのですか?」

 

「欧州は長くはもたない。せっかく築き上げたワルシャワ条約機構が惜しい気もするが我がロシアが滅んでは意味がない。予定では西方戦線はウラル以西は捨てるつもりだ。最悪中央シベリアが残ればなんとかなる。今はリュミドラ女王陛下はエカテリンブルクまで避難して頂いている。将来的には中央シベリアの拠点へ移動して頂く予定だ。あそこのサクラダイトさえあればロシアは戦える。」

 

「中華連邦の腰が重すぎました。纏まりが無さすぎです。当初は日露中の構想もありましたが・・・」

 

「ミスタ大高…あの国は昔から敵に回すと厄介で味方にいても厄介なのだ。日露中心で対処するべきだ。欧州は枢軸と言う裏切り者を出す始末。それはともかく、ミスタ大高。貴国のKMF技術、我が国にいくらか融通願いたい。グラスゴーの鹵獲である程度進んでいるが、今後は貴国のKMFと武器互換を持たせたりして両軍の連携を高めたいのだが。」

 

「もちろんです。我々は協力してブリタニアに当たる必要があります。」

 

「うむ。その通りだミスタ大高。それとユダヤ人の件だが了承した北樺太に関してはロシア帝国からは何も言うつもりはないし賛成に回るつもりだ。彼らの移動に関しても運輸通信省に命じて特別ダイヤを組ませて対応する。」

 

日本とロシア帝国は日本が実効支配する形で北樺太の領有問題を抱えていた。反ブリタニア同盟でこの領土問題は棚上げされている。

 

「トルコが劣勢になり始めてからユダヤ人達の危機感は最高潮となっています。ブリタニア、ナチスドイツの人種差別政策は彼らの国であるイスラエルにも迫っており、これを跳ねのけるだけの軍事力は彼らにはありません。そう言った意味でも、東方に新国家を築く我々の話は渡りに船だったのでしょう。」

 

ブリタニア、ナチスドイツが他を圧倒している西洋に比べ、日本皇国やロシア帝国が頑迷に抵抗を続け膠着しているとはいえ一定の優位を長年保っている東洋は彼らにとって比較的優良地域でもあった。

 

「私は近々彼らの代表とも会うつもりです。我々の行っているKMF及び対抗兵器の開発生産はお金が必要です。我々の事業と彼らの財を結び付けていく必要があります。」

 

「そうだな。私も彼らの代表と密接に付き合う必要があるな。欧州マネーこそブリタニアやナチスに接収されたがそれ以外の物も十分世界に多大な影響を与えている。彼らと組むことで日和見を続ける中華連邦にも脅しが掛けられるだろう。」

 

「中華連邦は巨体ですので動きが遅いのでしょう。あの国は反乱の兆しがありますし、加盟国の切り崩しも難しくはないでしょう。中華本国の勝敗如何によりますが腐敗を何とか出来たのならとは考えております。」

 

「大宦官の根は深い。難しいと思うぞ。」

 

「あくまでもたらればの話です。無論、本筋は切り崩しです。あとは次回の時に」

 

「ああ、では失礼する。」

 

大高はプーシンとのホットラインを切り、秘書関数名を連れて官邸を後にする。

行先は函館皇宮だ。

 

 

大高を乗せた黒塗りの高級車が皇宮の門をくぐる。

車は庭園に入り途中の所で止まる。大高が車を降りて庭の中を歩いてしばらくすると大きな池のほとりに建てられた洋館へと足を踏み入れる。洋館のテラスに当たる部分で今上天皇である皇神楽耶が巫女服の侍女たちとお茶を飲んで待っていた。

 

「どうもお待たせ致して申し訳ございません。神楽耶様。」

「いいのです構いませんわ。ロシアの方はどうなのです?あまりよろしくないと聞いていますが・・・」

 

「今は耐える時としか言えませんな。確か自在戦闘装甲騎、ブリタニアではナイトメアフレームと呼んでいましたか・・・。とにかく同じ土俵に立たなくてはなりません。我々もいくつか国産のものを用意してはみましたが如何せん性能が追いつきません。姫様、失礼…陛下。陛下の方で何とかなりませんかな。」

 

「わたくしの方といいますとキョウトのことですわね。それに姫様で構いませんわ。そっちの方が可愛いですもの。」

「では、お言葉に甘えて。」

 

現在の日本皇国において皇国の政治・軍事は大高・高野らの青風会・紺碧会・政治会派まほろばが握っており、日本皇国の表側の一切を取り仕切っている。では、裏側はどうなるのだろうか。裏側と言うのは無論諜報のことである。この諜報分野の頂点に位置する者こそ今上天皇皇神楽耶その人なのである。彼女は大高に保護される前よりブリタニアに占領された地域で、レジスタンス活動をする組織の纏め役であるキョウトの盟主であった。当初は一桁の子供であった彼女は完全にお飾りであったが、大高と言う日本の正当な後継国家を担う人物の支援とキョウトの実質的な支配者である桐原泰三が自分の後継として、彼女を認めていた事実によって彼女のキョウトの実権掌握はこの数年で進んでいたのだ。また、大高と神楽耶であるが首都機能を北海道に移転した際に箱物としての皇室関連の物は用意できたのだが中身。つまりは彼女に帝王学やその他を教える存在が用意できなかったのである。そのため現在の宮内大臣林雄三着任まで大高が主導した。最初の1年程は大高が自ら時間を作り講師となり、以後も宮内省の仕事を兼務していた。そう言ったこともあり大高は個人的にも神楽耶とは親しい関係であり対外的に摂政と見られている。そういう意味ではロシアのリュミドラ・ニコラエヴナ女王とウラジミール・プーシン大統領も君主と摂政の関係にあたる。

 

「はい、キョウトはNACとしてブリタニアの占領軍ともパイプを持っています。すでに軍からの武器や物資の横流しルートも確立済みと伺いました。」

「ブリタニアの自在戦闘装甲騎を流せないかということですか?」

 

皇族による実権掌握は独裁を生む可能性も少なくはなかったが、当時から現在に至るまで現在存命する皇族は彼女一人なのだ。当時の大高は彼女の安全の確保に動き、諜報の実権を握らせることで内外からの暗殺を狙う輩に牽制を掛けたのだ。例えば東機関・南機関・茨城機関は軍の管理下であるが、条件付きで彼女にも指揮権があり、彼女への情報の報告義務もあるのだ。

 

「おっしゃる通りです。15式雷電も15式自走砲重戦車もそれなりに結果を出していますが、ブリタニアのオリジナルとなるとロシアルートでは破壊されたものしか手に入らないですので……」

「追いついていないのですわね。確かに、無理に自前で用意するよりは複製品で技術を高めていくことも必要ですわね。わかりましたわ。キョウトにはその様に伝えておきますわね。」

 

さらに言うと皇神楽耶と大高首相の間で現在表向き執り行われている俳句会である山王会も大高を長に神楽耶を副長とした直属の忍者部隊であった。

 

「ところで、大高のおじさま。ブリタニアの総督が変わるみたいですわ。」

 

「クロヴィス・ラ・ブリタニアでしたか。当人は軍事政治向きの人間ではないようですが。文科系で軍政においては所謂丸投げ型の人間と報告がありましたな。ですが皇族が総督になると言う事ですし、クロヴィス・ラ・ブリタニアは第三王子。今でこそ後継争いに名前が上がりませんが功績次第では有力候補に成り得ます。功績を求めて行動を起こす可能性もありますな。」

 

「取り巻きの能力次第でしょうけど。好機たりえますわね。レジスタンスでもって揺さぶりを掛けてみたいのですけど。よろしいですか?」

 

「良いと思います。敵を揺さぶることが足元が不安定であればしばらくはそれにかかりきりになるでしょうから、我々は我々で力をつけることが出来ますからな。」

 

テラスの扉をノックする音が聞こえ神楽耶が入室の許可を出す。入ってきた侍従は他の招待者の到着を告げる。

 

「本館の方へご案内してさしあげてください。」

 

「かしこまりました。」

 

クロヴィス・ラ・ブリタニアの総督就任。文化推進者特有のセレモニーを多くやるタイプの人物である。各セレモニー警備のための兵力を引き抜く際に発生する穴を利用しテロを誘発させクロヴィス体制下の占領地の屋台骨を揺るがせる。このことは後日、皇国情報部の東機関を通じてキョウトや日本解放戦線と言われるレジスタンス組織へと伝えられた。

天皇皇神楽耶と首相大高弥三郎。現在の北海道政権日本皇国の支配者達がこの日、何の気なしに決めたことが日本を世界を揺らすことになろうとは、思いもよらなかったのであるが、それはまだ先の話である。

 

神楽耶と大高も席を立ち本館まで黒塗りの御用車を走らす。

西日が眩しく車内に差し込む。大高は車の遮光カーテンを閉めた。

今回の宴席は第四次大高第二次改造内閣の閣僚の顔負わせとなる。

(第一次大高内閣=極東事変前の内閣。第二次大高内閣=北海道疎開直後の数か月間の臨時内閣。第三次大高内閣=暫定政権解体後指名された内閣。第四次大高内閣=2014年任期満了に伴い再指名された内閣。)

 

「ところで姫様、皇族関係のことなのですが。」

 

「はいなんでしょうか?」

 

「現在、現存する宮家は姫様の皇宮家のみとなっております。宮家が一家しかないと言うのは天皇家断絶の危機をはらんでおります。この状態を何年も続けていたのですが危惧する声も多く宮内省の方から要請があり皇籍離脱をされました旧宮家に復帰して頂きたく思うのですがいかがでしょうか?」

 

「かまいませんわよ。ですが、旧皇族も先の戦乱でお亡くなりになった方々も多く断絶している家も多かったと思いますわ。」

 

「はい、その通りなのですが一家よりは良いかと思います。復帰有力家は桃園宮家、駒条宮家が挙がっております。どちらも女系ではありますが今上天皇陛下であられます姫様も女性ですし、ここは女系で統一しようと言う話になりました。」

 

「年の近い女の子が増えてなんだか嬉しい気持ちがしますわ。」

 

「そう言っていただけるとありがたいですな。」

 

車が本館の高麗門を潜り抜ける。そして本館と呼ばれる宮殿に到着し二人は車を降りる。

 

「今回の内閣は8人程前内閣から交代人事を行いました。とりあえず6人は向こうでご紹介します。後の二人は私の肝いりでして別室でお会いして頂けますか。」

 

「大高のおじさまがこれと思った人物ですもの優秀な方なのですね。」

 

「もちろんです。」

 

神楽耶と大高は晩餐室で彼らと合流する。やっていることは小宴会なので厳かな空気はない。どちらかと言えば穏やかであった。

 

まず最初に寄って来たのは高野を中心とする軍部だ。

「陛下、それに大高閣下も本日はお招きありがとうございます。」

高野の周りの軍服を着た者達も続く、高野は3人の軍服を紹介する。

「彼らは私と桂さんの後任で海軍大臣の岡田慶介大将と陸軍大臣の永田烈山大将です。二人とも優秀な人物ですので今後は政界でも活躍してくれるでしょう。」

「「よろしくお願いします。」」

「それと、こちらはご存知かとは思いますが陸軍の林善十郎大将です。彼は過去の政権で陸軍大臣を経験しております。今後は教育法面でも軍事色を入れていく必要ありますので過去の政界での経験を生かして彼には文部大臣として辣腕を奮ってもらうことになるでしょう。」

林は寡黙な人物の様で頭を深く下げて挨拶をした。

 

「高野総長、紹介ありがとうございます。今後ともよろしく頼みますよ。陛下も期待されていますぞ。」

大高の言葉に神楽耶も軽く笑って見せる。上流階級の社交辞令の様な者だ。

 

軍服組の高野らと別れて文官や政治家が屯している所へ移動する。

大高はそこでも3人程の人物に声を掛けて呼び寄せる。

 

「彼らは内務大臣の犬養清氏と大蔵大臣の高橋其清氏、あと北海道要塞化担当大臣の若槻裕次郎氏です。」

「「「よろしくお願いします。」」」

 

皇室への忠誠心が高い人物が多い。大高の挙国一致体制への移行の意志を神楽耶は読み取った。それと同時に大高が大きく動いたと言うことはブリタニアが大きく動くだろうと予測していることを感じ取れない神楽耶でもない。彼女は心の中でブリタニアへの揺さぶりに多くのレジスタンスに多くの武器を流すことにしたのであった。

そしてその後もしばらくの間軍人や政治家達と話して過ごした。

 

2時間ほどして大高と神楽耶は皇居の応接室へ移動する。扉を開けると先に座っていた2人の男が立ち上がって挨拶をしてくる。

 

「この度はお招きありがとうございました。」

「誠に光栄の極みです。」

 

「陛下、こちらは次期政権国務大臣をしていただく予定の桜坂万太郎氏と次期軍需大臣の島耕作氏です。」

 

「今後ともよろしくお願いしますわ。」

 

「桜坂君は以前は関東州州知事をやってまして。今でこそ瓦礫の山と化してしまいましたが南北関東州の区画整備、南部都市区画の都市計画や北部の農地計画、それとモノレール鉄道網の整備計画を成し遂げた実績の持ち主です。今後は北海道の区画整備計画を主導してもらうことになります。要塞化担当の若槻君と共に北海道の商業区画、工業区画、農業区画、軍事区画の区分け等の折衝をしていただく予定です。また、国務大臣として首相・副首相に次ぐナンバー3として皇国の権益を評価し、グローバルな視点でも活躍してもらう予定です。」

 

「北海道は広い。確かに首都の整備計画はほぼ完了していると言ってもいいでしょう。ですがそれ以外の地域はまだまだと言ってもいいのです。人口においても東北民の疎開やそれ以外の疎開民にこの前のオランダ避難民等の外国亡命者など今後も増えていくでしょうから居住区画の拡大は必須です。無論農業生産高を上げる必要もありますので農水省とも協議していく必要があります。また、軍の兵器開発にもいても今後は新しい兵器を研究開発する必要がありますので開発区画も既存の物を拡大する必要があります。」

 

桜坂が今後の開発計画について大高と神楽耶に説明をはじめ、軍需の代表である島も軍の意見と言うよりも軍需産業の意見を述べ始めた。

 

「軍需省としても同意見です。自在戦闘装甲騎とその対抗兵器の新型開発は陸海空三軍で多く行われており軍拡による基地増設は勿論、防衛陣地に開発区画と軍も軍需企業もこれらを必要としています。これらの兵器は諸外国への輸出も可能としたものを目標としており、これらをインドネシアや東南アジア諸国に輸出してブリタニアの地盤を揺るがすことも可能でしょう。」

 

「彼はTECOTの会長で今は軍産複合体理事長を務めております。彼は現在経済交友会の代表幹事を務めており、以前は経済団結連合にも所属しており彼の部下が現在副会長に就任しております。彼は財界の重鎮として日本経済を牽引してきた大人物です。桐原翁が日本経済の裏を支配したなら彼は表を支配していたようなものですな。」

 

「それは、すごい方なのですわね。」

 

「ハハハ、支配者だなんてそんな大それたものではありませんよ。自分は自分の仕事をただ続けてきただけですよ。」

 

神楽耶の言葉に島は少し困ったように笑ってごまかす。

 

「島君、陛下は我が国の諜報における部門で高い地位にいらっしゃいます。それに占領地レジスタンスの纏め役であるキョウトの長でもいらっしゃいますので、そう言った対応でお願いします。もちろん桜坂君もですよ。」

 

桜坂は頷いて応え、島はそれを聞いて改めて口を開く。

 

「陛下は諜報軍事を重く見ていらっしゃるようですね。でしたら、開発関係の話になりますが現在生産を進めている新型機嶺花は第五世代機。これは我がTECOTと豪和インスツルメンツによる共同開発です。嶺花はブリタニアの第五世代機サザーランドとほぼ同等か僅かに上回る機体と考えております。」

 

「えぇ、キョウトでは無頼に嶺花のデータを組み込んで改良型の開発をしていますわ。」

 

「では、現在各社でさらにその次の機体の開発が進んでいることもご存知ですよね。」

 

「これらの推進グループは3つ。我がTECOTと豪和に今津重工を加えたグループ。三友重工と泰山航空工業のグループで彼らは航空機主体だったのですがこの業界にも参入する様で航空主体の機体を造るようです。スローガンは空母艦載型自在戦闘装甲騎だそうです。そしてもう一つTECOT初芝の子会社恵比寿重工で開発している物です。これも既存の物に捕らわれず自由にさせていますのでかなりのものが出来ると思います。」

 

「その話はこちらでもある程度聞き及んでおりますわ。」

「私の方でも報告が上がっていますので知っている話ですな。」

 

島の話に神楽耶と大高は知っていると答える。島はここで表情を硬くして体を寄せてくる。この動きはいわゆる内密な話と言うやつだ。桜坂も何を話すのかと怪訝な様子で伺ってる。

 

「新型とは違うのですが我がTECOTではこれらと別個に完全自動操縦機の開発を目指しております。その為の新会社T・A・Iを立ち上げ研究開発を進めております。人工知能分野はまだ未開拓のゾーンも多い段階ではありますが、これが軌道に乗れば我が国が抱える高練度兵士の不足を補えるものと思います。敵の通商破壊に半永久的に潜航できる無人潜水艦を。また、戦闘機と攻撃機では機体性能的に攻撃機が劣ります。攻撃機の未帰還率は戦闘機以上です。この役割を無人化できれば対ブリタニアの今次戦争は一気に形勢が変わるでしょう。私としてはこれらの研究開発には国の補助が必要と考えております。なにとぞご検討のほどを。」

 

「先ず資金に関してはいくつか伝手があります。そこから融通しましょう。無論国としても補助は出しましょう。」

「キョウトの方でもいくらか融通するようにしますわ。」

「国務省としても用地確保など協力は惜しみません。」

 

「皆さん、御支援ありがとうございます。今後は各企業間で調整していきます。」

 

島は3人に深く頭を下げる。

このあたりで面談は終了として二人は晩餐室に戻る。

 

「姫様、どうです新内閣の顔ぶれは?」

「極東事変後、最良の顔ぶれではありませんかしら。ですが、一部閣僚がすこし攻撃性に欠けると言うか平和的すぎると言いますか。不安がありますね。」

「彼らの交渉力は中華連邦や他同盟国との連携強化に尽力させるつもりです。彼等には入閣の条件に反ブリタニアで意思統一を行うことで一致しております。」

 

北海道政権日本皇国は今後の未来を知るわけでもないのにまるで今後の歴史が荒れることを予期していたかのような人選でもあった。

 

皇歴2016年2月7日の未だ雪が積もる日ことであった。

 

 




軍需大臣島耕作・軍需産業複合体理事長島耕作・・・・・・つよそう


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第09話 人魚たちの船出

多重クロスってタグいりますかね?


 

皇暦2017年3月20日

 

高野五十六海軍軍令部総長、岡田慶介海軍大臣、林善十郎文部大臣、大石蔵良旭日艦隊司令長官は室蘭にある海洋海軍兵学校の卒業式典に参加していた。

この室蘭海洋海軍士官幹部候補生学校は極東事変より存在した海軍幹部候補生学校、東舞鶴男子海洋学校、横須賀女子海洋学校及び各種術科学校を皇歴2014年に正式統合。こうして創立された初級幹部としての職務の遂行に必要な知識及び技能を修得させるための教育訓練を行う学校である。教育方針においては東舞鶴男子海洋学校、横須賀女子海洋学校の3年教育を主体に採用。海軍幹部候補生学校や各種術科学校の様な短期集中の専門知識のみではなく通常の学業も組み入れたエリート教育とも言われるカリキュラムになっている。

また、陸軍・空軍においては兵学校に当たる物は極東事変以前からあったが海軍強国日本と言うだけあって海軍士官の教育には熱心で複数の学校が存在していたが日本の大半が侵略されたことにより疎開し統合されることとなり早数年。

彼らは室蘭海洋海軍士官候補生学校の卒業式にゲストとして出席していた。普段は祝辞を電報で送って直接出席することなど第一期生の卒業式以来だ。

 

 

「女性宮家創設と皇籍復帰を行って2家の復帰ですか。」

 

「親等数があまりに離れているとさすがに国民も受け入れがたい。だが親等数が少ないものだと男系はほぼなし女系が少数だ。これに当人が復帰を望まなかったりする場合もあってさらに数を減らして2家となったそうで…。」

 

「栗栖川の宮家はあの後、皇籍を離脱されましたからね。夫の最後があんな無残なものでは気の弱い絢子親王妃では離脱されてもおかしい話ではないですからな。」

 

「しかし、今回皇籍復帰なされた桃園宮様も駒条宮様も端正で凛々しい御顔立ちであらせられますな。」

 

「今上陛下もそうですが、指導者としてのカリスマ性をヒシヒシと感じます。」

 

高野軍令部総長、岡田海軍大臣と会話に参加していない2人の視線の先には今期の卒業生代表で主席卒業となった桃園宮那子の姿があった。

 

今期の卒業生に皇族がおり、参列者の中にも軍政の高官達が参列しており例年以上に卒業生達の身が引き締まっているのがうかがえる。そして、卒業証書授与式は厳粛に、整然と行われていく。

最後の卒業生が卒業証書を受け取り壇上から降りて席に着いたのを確認した。司会進行役が次の軍令部総長訓示と行事予定表を読み上げ高野を促す。

軍令部総長高野五十六と言う大人物からの訓示と言うことで卒業生たちが興奮からかそわそわし始める。

高野は椅子から腰を上げ壇上に上がり片手を軽く上げて場を治める。卒業生の彼彼女達も海軍幹部候補、上官からの命令には絶対に従うものだ。

静かになったのを確認して訓示を読み上げる。

 

「現在の皇国は6年に渡り国家存亡の危機に立ち向かい続けている。本校を卒業した先達やそれ以前の先達たちと共に戦線に加わる諸官に要望したい。第一は『枢軸からの解放』である。現在世界はブリタニア、ナチスドイツと言った枢軸によって多くの地域が支配されている。その占領地では苛烈極まる統治が行われていることは諸官らも知るところであるだろう。彼らの支配から日本を含む多くの地域の解放こそが皇国が目指すそれであることを心に刻んで欲しい。第二は『精強・即応・洞察』である。厳島の奇跡、東北臣民解放などは皇国軍諸兵の精強さはさることながら、正しく時勢を見極める洞察力とそれらに迅速に対応した即応力が決め手であった。真にこの3つが求められる時代に入っていることを銘記してもらいたい。」

 

高野の訓示が終わると次は学校長の答辞となる。

高野と入れ替わり、演台に立つ宗谷真雪学校長。

 

彼女は意志の強そうな瞳を真っ直ぐ前に向ける。その堂々とした様子に、先ほど以上に静まる。彼女はかつて6年前の極東事変で四国来島へ上陸しようとした敵艦隊を沿岸海域戦闘艦からなる戦隊で退けたことから「来島の巴御前」と呼ばれている。あの時代に何人か現れた英雄の一人だ。

「本日は、私ども第3回海軍海洋士官幹部候補生学校卒業式典にお集まり頂き、誠にありがとうございます。思えば6年前……」

 

その後も式典は粛々と進み無事式は閉会した。

 

式後、食堂で2時間ほど午餐会が催される。その後、練習航海に出発するのだ。

食堂では候補生たちとその家族友人が暫しの別れを惜しんで思い思いに過ごす時間であった。

 

高野五十六も午餐会の席に参加していた。高野自身は今期の卒業生に親族や身内がいるわけでもないので子供たちと接触する機会はほとんどなく自身は卒業生の保護者や学校関係者との語りに岡田海相や林文相らと同様に時間を費やすことになる。

 

「娘は、那子は少々男勝り…いえお転婆なところがありましてな。まさか、軍人になるとはと思う一方でやはりと納得してしまう自分もいるのですよ。ですが心配なのです。不安なのです。」

「あの子は強い子ですもの。私はきっとこうなるって予感はありましたよ。不安がないと言えば嘘になりますけど…。あの子が決めたことですから…」

 

旅立つ娘に対して物思い耽っているこの男性は乃美宮聖仁親王、そんな夫に自分は解っていたと言い返したのは妻の朋子親王妃。皇籍復帰した皇族の一人だ。

 

「いやはや。お二人とも桃園宮様は私から見ても優秀な方だと思いますよ。桃園宮様の実力ならすぐに実戦に出ても問題ないでしょうな。それだけの実力はお持ちですよ。」

 

「海軍にしろ沿岸警備隊に所属するにしろ。命懸けなんですから、仮に本人が望んだとしても親として心配になるのは当然でしょう。」

 

乃美宮夫妻に高野は桃園宮が優秀であるが故に心配らないと言ったが同席していた宗谷真雪学校長は親としての思いを高野に訴えた。

 

「……これは失礼しました。親が子を心配するのは当然でしたな。」

 

「ですがこれも本人たちが選んだ道です。これからは自分の力で生きていかなくてはならないいつまでも親の庇護下に囲っておくことは出来ないのですから。」

 

「なるほど、雛鳥もいつか必ず親元を離れ巣立っていくという訳ですか。」

 

そう言って高野は仲間たちと和気藹々としている彼女達に視線を移す。

自分達が日本を守り切れず、奪還もしきれなかったツケが少年少女達を戦場に送り出すことだとしたら自分は何と言う業を背負ってしまったのであろうか…。

いや、自分は後ろを振り返るわけにはいかない。この戦いを早く終わらせる為にも前を向いていかなくてはならないのだ。

 

「それにしても、大石長官は人気者ですなぁ。」

岡田海相の視線の先には学生たちに詰め寄られサインを求められている大石蔵良旭日艦隊司令長官がいた。

旭日艦隊と言えば海軍強国日本の中でも最強の艦隊。旗艦日本武尊に乗り武勲を上げる大石は海軍を目指す者達にとっては大英雄であった。

大石もそう言った事情を知っている上に、彼の性格的にも学生たちを無下に扱うようなことはしなかった。

そう言った学生たちもだいぶ捌けてようやっと最後の子になった。

色紙のサインペンでサインを書く。

 

「ええっと、名前は?」

「知名もえかです。」

 

「ん?と言うことは君が……最新鋭艦の戦艦の…。」

「はい!新型高速戦艦月読の艦長で准佐になります。」

 

皇国軍は基本3階級制を採用している。佐官を例にすると大佐・中佐・少佐と言う階級で構成されているが例外も存在する特佐・准佐である。特佐は特殊兵器などの開発運用チームのリーダーに充てられる通常佐官の権限に一部権限の拡大を為されたものである。そして准佐は幹部候補生の成績優秀者から選別された者達の希望者に、幹部学校教育を先行して学ばせ、一定水準に達した者達が任官する階級であり、艦隊司令や戦隊司令を視野に入れた大型艦艇の艦長・副長となる役職である。通常卒業者は一等准尉(小型艦艇艦長・副長)・二等准尉(当直士官)・三等准尉(乗組士官)となる。准佐階級は海軍軍服を着ることが許されている。

 

「では、桃園宮様の座乗艦の艦長か。となると将来は戦隊司令…はたまた艦隊司令か。有望株だな。この後の練習航海は私の艦隊が教導艦隊の役割を担う事になった。旭日艦隊は実戦経験も多く君達も多くのことが学べるだろう。君の様な上位指揮官候補なら日本武尊に来ることもあるだろう。その時はよろしく頼むよ。この後の練習航海、君の将来に役立つことを祈ってるよ。」

大石がそう言ってもえかを持ち上げつつ語りかけると彼女は大石からの言葉に嬉恥ずかしと言った感じであった。

「あ、あの…旭日艦隊の司令長官さんからそんな風に言ってもらえるなんて……。あ、ありがとうございます!光栄であります!」

少将緊張しているようで後半から急に声が大きくなっている。大石はそんな初々しい様子に微笑ましい感情を抱きつつ、彼女の緊張をほぐすことにした。

「ハハハ、謙遜は美徳というからな。大変結構、今後の活躍に期待することにしよう。知名もえか准佐殿。」

「は、はい。よろしくお願いします。」

まだ完全に緊張が解けた訳ではないが、だいぶましになった様だ。大石が視線を動かすとこちらに駆け寄ってくる少女の姿が見えた。

「君の友人かな?」

「はい、私の大切な親友です。彼女も艦長で二人で艦を見に行く約束をしていたんです。」

「そうだったのか。…では、最後に一つ大先輩からのアドバイスを…。これは戦場に限らず他の場でも言えることだが、仲間との信頼関係は官庁や司令官にとって重要なものだ。今の友人も大切にするんだよ。言うまでもなさそうだけどね。」

「いえ、大変ためになります。」

そんな風に話していると先の少女が近い距離まで近づいて来ていた。

 

「もかちゃーん!」

もえかは大石の方を遠慮がちに見る。自分に遠慮をする必要などないのにと思いつつ彼女の慎ましい態度に好感を抱きつつ苦笑交じりにもえかを促す。

「行ってあげなさい。親友はかけがえのないものだ。」

「はい!」

大石に促されてもえかは親友の方へと駆け寄っていく。

 

「ミケちゃん!今行くから!」

 

もえかは親友と合流し、2人がこちらの方へ向き直り敬礼をする。大石も二人に敬礼を返す。

2人が見えなくなってから、辺りを見回すとだいぶ生徒も保護者も席を立った様だ。高野軍令部総長や岡田海軍大臣もすでに移動したようだ。

 

「よろしければ、お茶をどうぞ。」

「お、これは済まないな。頂こう。」

 

お茶を持ってきてくれた女生徒にお礼を言おうと振り返ると、大石とも面識のある万里小路財閥の令嬢がいた。ちなみに万里小路財閥は貿易と造船を中心に発展した財閥である。

 

「君は万里小路会長の所の…。」

「はい、楓です。」

「確か、3年前西海造船と協賛のパーティーでお会いしたような。」

「えぇ、その時にも一度お会いしてますわ。」

「ずいぶんご立派になられましたな。御両親もお喜びでしょう。」

「いいえ、私はまだまだこれからです。だって、まだ練習航海も終わってませんし任官もまだですもの。」

「ははは、勤勉ですな。…確か君の要員は…。」

「水測員とラッパ手になります。」

「万里小路財閥は水中固定聴音装置の開発企業だったな。やはりそこから?」

「はい、父の会社で何度か使わせてもらったことがありまして…それに聴音機から聞こえる音はとてもきれいなんです。」

「確か君は楽器演奏が趣味だったね。パーティーで弾いたピアノは上手だったよ。やはり、音に惹かれたのかい?」

「はい、そうなんです。聴音機から聞こえてくる音は……略……」

 

大石は出港式の少し前まで楓君と話して過ごした。大石はそのつもりはなかったが楓がずいぶんと熱心に話し込んでくるものだから途中で切り上げるのは悪い気がしてそのまま最後まで聞いてしまった。かなりギリギリまで食堂で話し込んだせいで原元辰参謀長が迎えの下士官を寄越してきた。気を使わせてしまったなと思った大石はあとで酒の一杯でも奢ってやることにしようと原参謀長に心の中で軽く侘びを入れた。

 

卒業生たちが列席者が見守る中、卒業生は校舎から桟橋まで一列になって敬礼しながら行進していく。

沖に停泊しているボートが分乗整列して出発する。

戦略空軍の戦闘機による祝賀飛行が行われ。

 

「帽振れ!」

 

大石の号令で一斉に帽子を振りながら彼彼女らを乗せたボートが各艦へ向かって行く。

見送り人たちは彼彼女らが艦に乗り込み水平線に船が見えなくなるまで見送った。

 

 

旭日艦隊を教導役としてこの年の卒業生を乗せた練習艦隊は公海及び友好国及び同盟国の港に立ち寄りつつ、戦術運動訓練、ハイライン訓練及び曳航被曳航訓練、同盟国との軍事演習が行われる予定である。

 

またこの練習航海に参加しているのは今期卒業生を乗せた練習艦隊と旭日艦隊である。練習艦隊としても戦艦を旗艦とし軽空母クラスが5隻。一国の練習航海としてはかなり大規模な物であった。

 



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第10話 亡命計画

 

皇歴2016年5月10日

外務省庁舎ビルの一室

 

「千畝大使。これは間違いない事、確実な情報なのですね。」

「間違いないものと確信しております。」

「我が国も情報の精度は保証します。」

 

木戸孝義外務大臣は東方エルサレム共和国駐在大使杉山千畝を直接呼び出して確認を取る。杉山大使の隣には極秘来日した東方エルサレム共和国外務大臣ゾラフ・バルバラフィクが座って杉山大使の言葉に相槌を打っていた。

 

外交大使を召還し、関係国の外務大臣が証人として極秘来日してまでもたらされた情報はあまりにも予想外過ぎたのだ。

 

「もうすぐ、大高首相も来られますので改めて説明願います。」

 

3月初めに日本の占領地、ブリタニア呼称エリア11の総督に就任したクロヴィス・ラ・ブリタニアから亡命の打診。これが東方エルサレム共和国を介して日本皇国に打診された。

 

しばらくして大高首相が外務省庁舎ビルへ到着し、通用口より彼らのいる一室へ案内される。

 

「お話を伺いましょう。」

 

杉山大使とバルバラフィク東エ外相は木戸外相に話した同じ内容を大高に伝えた。

 

「少し失礼します。」

 

内容を聞いた大高は即答を控え悩みこむ。部屋の隅の方へ移動してめったに吸わない葉巻を取り出して火を点ける。葉巻を吸いながら窓の向こうを見て自分の頭の中を整理し、気持ちを落ち着けてから彼らに向かい合うソファーに座り口を開く。

 

「神聖ブリタニア帝国第3皇子の他国への亡命。これは我が国だけで判断する案件ではありません。ロシア政府とも協議する必要があります。」

 

 

「ロシアと協議ですか?クロヴィス殿下は早期の亡命を望んでおります。ロシアと協議して調整しているほどの時間はありませんぞ。」

 

バルバラフィク東エ外相は大高の発言に驚いたように反応し、再考を促す。

 

「敵国の重鎮を迎え入れるのです。一報を入れねばかの国との関係が悪化します。ブリタニアは我が国だけで戦えるほど容易い相手ではありません。それにかの第3皇子を迎え入れればその奪還なり何らかの形で大規模な軍事行動が予想されます。ことは外交の枠に収まるものではないのです。」

 

「ですが、クロヴィス皇子の所有する情報はブリタニアの内情を多く握っているでしょう。亡命を望むほどなのです。彼が暗殺される可能性を考えて多少の過程を省いてでも受け入れる必要があるのではないでしょうか?」

 

「わかりました。私としてもブリタニアの内情や極秘情報が入手できることは我が国にとっても誠に有益であることは間違いありません。亡命受け入れを前提として調整していきましょう。東方エルサレム共和国側もそのように調整してください。」

 

「はい。我が国でもそのように手配します。」

 

「よろしく頼みます。」

 

 

数日後

首相官邸

 

「我がロシアとしては異存はない。しかし、亡命ユダヤ人達はブリタニアにもパイプを持っていたのか。」

 

ロシアとのホットラインでは意外にもブリタニア第3皇子の亡命よりもこの話を持ってきた東方エルサレム共和国の方が話題に上がった。

 

「彼らのネットワークは侮れませんな。」

「金だけではないと言うことだな。」

 

東方エルサレム共和国へ流れ込んだユダヤ人達は欧州やブリタニアマネーを撤収させてロシア帝国や北海道政権日本皇国へそのユダヤ人マネーを流し込み始めた。小国でありながらも存在感を示していた。

 

「ミスタ大高、貴国の諜報機関でもつかんでいるだろうが、連中…中華連邦のシュ・シンフォンに金を流し込んでいる。彼が決起すれば中華連邦は大荒れだろうな。」

 

話題は中華連邦の情勢にも及び、東方エルサレム共和国の富裕層に対する警戒感も話題に上がる。

 

「我が国の誘いに対してはタイ王国のプミポン国王が乗り気でした。あの国は東南アジアにおいての発言力が強いです。それにベトナム社会主義共和国も貴国の誘いに応じる構えを見せておりますな。」

 

「中華連邦で内紛亜発生した場合中華連邦の連邦の形は崩壊するかもしれんな。中華連邦の力が削がれることは構わんが万が一にも崩壊などされた場合に難民が押し寄せてこられても困る。やり過ぎないようにユダヤ人達に釘は差す必要があるな。」

 

「彼等とてその程度は解っているでしょう。ブリタニアもナチスドイツも自分達を滅ぼす存在。その対抗となる貴国や我が国の足を引っ張る真似はしないでしょう。」

 

「まぁ、その通りだがある程度手綱を握っておくことは必要だろう。」

 

「そうですな。うちの外務省にそれとなく対応してもらいましょう。」

 

「わかった。我が国の外務省にも貴国と協調するように言っておく。」

 

「ありがとうございます。プーシン大統領、では今回はここまでで。」

「ん、もうそんな時間か。では次回。」

 

 

 

そしてさらに日数が立ち皇歴2017年5月21日

首相官邸

官邸では大高を中心に木戸外相、桂陸軍参謀総長、高野海軍軍令部総長がテーブルを囲んでいた。

「クロヴィス皇子側もある程度情報を流してきました。新型機サザーランド、占領地の占領政策など…注目したいのはこれです。」

 

大高の秘書が資料を配る。資料には赤く極秘の印が押されており、重要な機密事項であることはすぐに察することが出来た。

 

「人体実験…」

資料を見た桂と高野は嫌悪感を露に大高と木戸に視線を向ける。

 

大高に促された木戸は資料のページをめくりながら知り得た情報を伝える。

「不老不死、世界の根源、超常の力と正直に言えば眉唾で何とも言えない物なのです。」

 

「偽情報ではないのかね。正直疑わしいぞ?それにこの資料の情報がすべてなのか?だとしたら情報が少なすぎます。」

「この程度の精度の情報なら、我々に話す段階ではないのでは?この程度なら外務省なり担当諜報機関で確度の高い情報を得てから上げるべきではないのかね?」

 

高野と桂はかなり怪訝な表情で不満を述べる。内容もナチスドイツのオカルトな組織が好き好んでやっていそうな常識外の内容であった。超大国と言った存在になるとなぜこのようなものに手を出すのかと言う少々くだらない内容の疑問が頭に浮かぶ。

 

「クロヴィス皇子としてはこれがこの手の内容では自分が握る内容の全てだそうです。」

木戸の言葉を聞いて高野と桂はさらに困惑した表情になる。

 

「大高閣下。申し訳ないのですが、この程度の確度の情報をなぜ重要視したのです?」

 

自分には図りかねぬと言う思いを胸に高野は大高の言葉を待った。

 

「そうですな。この程度の世田話であれば民間の都市伝説に毛が生えた程度ですからな。ですが、クロヴィス皇子の妹君がその人体実験の被験者だったと言えば。それがクロヴィス皇子の許可なく行われたものであり、それを自身の伝手で隠蔽されたものを掘り起こした形で知ったとすればどうでしょうか?」

 

それを聞いた高野と桂は合点がいったと言う感じで言葉を紡ぐ。

 

「なるほど、それなら第3皇子の亡命打診も理解できる。」

「しかしブリタニア皇帝もとんでもない鬼畜外道ですな。我が子を実験に使うなど…。」

 

憤っている二人に大高は本題を告げる。

 

「高野総長、桂総長。事情はある程度理解できたでしょう。クロヴィス第3皇子の亡命の準備段階として彼より妹君ライラ・ラ・ブリタニアの亡命…いえ、救助が要請されました。現在は中東地域で東機関の本郷少佐の部隊が保護しています。ただ、ブリタニアの暗殺部隊が動いているとの情報がありますので、早めに軍で保護してしまいたいのです。」

 

「自力でインドまで移動して頂く必要がありますがインド洋で洋上保護としたいです。それ以上は枢軸国の海軍が幅を利かせていますので…」

 

「わかりました。では海軍主導で保護作戦を展開して頂きましょう。」

 

高野が立ち上がり、遅れて桂も立ち上がる。

 

「了解したしました。軍は直ちに行動を開始します。」

 

ライラ・ラ・ブリタニア救出作戦は海軍主導で陸海空軍の参謀府で立案検討される。

陸路輸送における作戦全体は東機関が担当し、インドでは光機関と南機関がそれを支援することとなる。

 

 

 

 

皇歴2017年5月21日

旭日艦隊旗艦日本武尊

日本海沖で洋上補給を受けている時のことであった。

原元辰参謀長が命令書を大石に手渡す。

 

「大石長官。本国から特命です。」

「どれどれ…。参謀長、予定を変更する。洋上補給が済み次第お客様をお迎えするためにインド洋へ向かう。どうもお客人は質の悪い連中に追われているらしい。喜べ、お客人はお姫様だぞ。我々の仕事はお姫様に付きまとう無粋な輩におかえり願うナイト役だ。」

 

大石の言葉に原は疑問を口にする。

「では、練習艦隊はここで帰還させますか?」

「いや、連れて行く。練習艦隊の学生たちも練度としては十分なところに来た実戦を経験させてもいいだろう。それに他国の姫君の迎役に自国の姫君を充てるのはおかしくはないでしょう。」

 

「確かに悪くはありませんな。では練習艦隊にもそのように伝達します。」

 

 

練習艦隊旗艦月読

練習艦隊の参謀長兼艦長となった知名もえかは旭日艦隊から送られてきた命令書を事務部員から受け取ってから、艦橋へ向かう。

もえかは艦橋の司令官席に腰を落ち着けてながら2段の純銀製ケーキスタンドとティーカップとポットを乗せた円形のティーテーブルを横において侍従を横に配して紅茶を嗜んでいる桃園宮那子練習艦隊司令長官がいた。

最初の頃は戸惑ったが今となっては慣れたもので、自分も含めて艦橋要員の誰もが気にしなくなっている。

 

「司令。軍令部より旭日艦隊司令部を介して新たな命令が下りました。命令書です。ご確認ください。」

 

那子はもえかから命令書を受け取り目を通す。

 

「練習航海は終了してインド洋ねぇ…。皇族同士だから外交的には妥当かしらね。もえかも見るかしら?」

 

那子の様子を伺うに意外な命令なのだろうか。上官の許可も出たので那子から命令書を見せて貰うもえか。

 

「ぶ、ブリタニア皇族の亡命ですか?」

 

「そのようね。正直、世界的に見て優位にあるブリタニアからの亡命なんて絶対何か訳アリよね。」

「そうですよね。」

 

嫌な予感と言うか。ただならぬものを感じる内容であった。

 

「艦隊転進!これより我が白銀艦隊はインド洋へ向かう。」

 

「白銀艦隊?」

 

「この艦隊の名前よ。練習艦隊は解体されずそのまま実戦へ投入。いつまでも練習艦隊っていうのも格好がつかないでしょう?ね?」

 

「白銀艦隊…いい名前だと思います。」

 

練習航海終了後の初任務が旭日艦隊との共同作戦。白銀の名を冠するこの艦隊の初任務は輝かしいものになると思う。まぁ、難易度もかなりのものだと思うが…

 

 

 

 

 

 

皇歴2017年5月??日

豪和インスツルメンツ札幌支社ビル

 

陸軍参謀府に潜り込ませている自身の息のかかった陸軍将校よりもたらされた。クロヴィス皇子とライラ皇女の亡命計画。リーク者にとってはこちらを主体に伝えたかったはずだが、豪和インスツルメンツ総代豪和一清の目に止まったのはクロヴィスの部下バトレー・アスプリウス将軍が行っている研究の項目についてだった。「CODE-R」と言う生体実験の項目。彼らが行っている実験は我々が行っていたガサラキの召喚実験に近いものを感じた。

 

奴らの求めているものと我らの求める物はかなり近いように感じる。ガサラキの秘密に迫るには連中との対立は必須であるか。

 

「憂四郎亡き後、凍結してしまったガサラキ召喚実験。再開できるかもしれん…。」

 

一清は電話の内線ボタンを押して秘書へ命じる。

 

「清継と清春をここへ…。陸軍の牟田口中将と義猛叔父にも連絡を取ってくれ。」

「わかりました。」

内線を切った一清は執務机の上で手を組み口元を隠して思考に入る。

ライラ皇女は嵬の可能性が高い。うまくいけば実験の再開も可能だ。

 



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第11話 戦禍の天秤

 

ライラ・ラ・ブリタニア。この娘は戦禍を計る天秤。天秤は力を持つ方に傾く。

 

皇歴2017年4月21日

枢軸連合加盟国イラク領ヨルダン ペトラ遺跡

ペトラ遺跡の周辺にはイラク軍の兵士とイラク軍の陸上戦艦バミテスが守りについていた。

遺跡の中ではたくさんの装置とコードとチューブが取り付けられた状態になっており何人もの白衣を着た学者たちがいた。

それの様子を椅子に座って見ている若干やせ型の線の細そうな金髪碧眼の少女がそれを見ている。その少女がただの少女ではないと言うのは彼女の着ているナチス親衛隊の制服を見ればすぐわかった。彼女の周りにはナチス親衛隊の兵とブリタニアの特殊部隊プルートーンの兵達が控えており、その隣の席に座る彼女と同じ金髪碧眼の冷たい美貌の男性はナチス親衛隊大将ラインハルト・ハインドリッツ国家保安本部長官である。

 

そしてマリア・ヴィグリート親衛隊中佐はナチス親衛隊神秘局通称アーネンルベの局長であった。

そんな彼女は自分と大して変わらない歳であろう装置に繋がれた少女ライラ・ラ・ブリタニアを直視しても何の表情一つ変えることはなかった。

 

「始めなさい。」

マリアの命令で実験が開始される。ライラに繋がれた装置が彼女を精神世界に無理やりつなげて苦痛を伴いながらも続けられ。遺跡内では彼女の悲鳴が響き渡る。

 

「止めるな!このまま天秤をこちらへ!!!」

狂気的な表情で顔をニヤけさせ歓喜の声を上げるマリア。

しかし、それは崩れてきた天井とそこから現れたピースマークのKMFによって遮られることとなる。

 

「何事!?」

「襲撃です!反体制派の襲撃です!」

ピースマークのKMFがライラを繋ぐ装置のチューブを千切りその手の中にライラを回収する。

「いけません!天秤を!天秤を取り返してください!!」

マリアの叫びにナチス親衛隊のMAとプルートーンのKMFがピースマークのKMFの前に立つ。

しかし、ピースマークの操縦者もエース級だったようでライラを奪取されてしまう。

 

「プルートーン、敵を追うぞ!!」

プルートーンのヴァール・ライオット大尉がそのまま部隊を率いて、ピースマークを追って遺跡を飛び出していく。

マリアもこれに同調するように指示を出そうとするが上司のラインハルトに止められてしまう。

「武装親衛隊も追跡に加わせなさい!」

「いや、もういい。あの状況では撒かれるだろうから不要だ。それに同盟国と言えど武装した大部隊の移動は手続きが必要になる。恐らく、連中は中華連邦へ逃げ込むであろう。我々はインドでの不正規戦の支度を始めた方が良いだろうし、このことは総統閣下にも報告せねばなるまい。総統閣下も早いうちに手を打ってくださるだろう。」

 

 

 

皇歴2017年4月23日

ラインハルトは部下に遺跡に隣接している仮設の通信施設の無事を確認して本国へ報告を上げるように命じていた。本国への報告を終えたラインハルトは併設する指揮施設に用意している執務席に腰掛け、対面している将校に話しかける。

 

「メレンゲ大尉。君から見てあれはどう思う?」

「さて、わたしもオカルト分野は専門外です故。あまり確たることは言えませんが、ライラ姫の体内に何らかの装置が埋め込まれているのかもしれませんな。アーネンエルベの連中のやることです。科学分野の私めには解りかねます。」

 

「ふむ、メレンゲの言う通りではあるか。総統閣下やヒムラー長官のオカルト崇拝には困ったものだ。」

 

「あら、ラインハルト大将お言葉ですわね。私は確たるものを持ってやっているのに。」

 

ラインハルトがメレンゲと愚痴混ざりの意見交換をしていると本国からの新たな命令書を持ったマリアが現れる。メレンゲは入れ替わるように退出し、ラインハルトはマリアから受け取った命令書に目を通す。

 

「さすがに総統も中華連邦には手を出さんか。だが、公海上では話は別……これは君が総統に?」

「まさか一介の中佐が総統閣下に意見などできませんわ。これは総統閣下のお考えですわよ。」

 

ラインハルトはマリアを視線から外して命令書に再度目を通す。

「さすがに中華連邦には手を出さないか。」

「プルートーンはインド軍区にも進出するようですが?」

 

「あの国の横柄さは特別だ。我が総統は国際常識を理解されている。ブリタニアの蛮族の真似をする必要はない。我々はプルートーンがインド軍区からライラ姫を守るピースマークどもをたたき出すのを待てばよい。」

 

「現地の工作員の報告では、ピースマークが日本皇国と接触したようです。」

「なるほど、だからか。インド洋に大艦隊を向かわせたのは…」

 

 

武独伊艦隊が日本艦隊とインド洋で激突しようとしていた。

ユーロ・ブリタニア海軍地中海艦隊とドイツ海軍の紅海艦隊とイタリア海軍の紅海艦隊を中心とした枢軸艦隊。

日本艦隊は紅玉艦隊を派遣し、さらに公海上で洋上訓練を行っていた旭日艦隊と練習艦隊もインド洋へと向かっていた。

 

 

 

 

皇歴2017年5月16日ナチス・ドイツ ベルリン 総統府

 

「間違いないのだね。ヨッヘンバッハ君。」

ヨッヘンバッハと飛ばれたこの男はヒトラーの秘書。総統府直属の諜報機関「アガルタ」の指揮官でもある。

ピースマークに天秤(ライラ)を奪われて以後ヒトラーは消息を追っていた。中華連邦のインド軍区に逃げ込んだことを知ってからは工作員やブリタニアのプルートーンの協力を得てインド軍区ではテロまがいの不正規戦を繰り返していた。

 

「はい。諜報部ではインド軍区が脱出を手配したことは間違いありません。彼らはインド洋洋上で日本艦隊の保護を受ける様です。」

 

「テロリストどもめ…極東の黄色い猿どもとつるむとはやってくれるではないか。だが、日本艦隊をここで葬れるのならばブリタニアに貸しを作れる。」

 

ヒトラーの考えに恐る恐る反対意見を述べるこの男は独海軍元帥ヴィルヘルム・フォン・リッペ海軍長官である。彼はヒトラーの勘気に触れぬように極力穏やかにそれでいて従順そうな言葉を選びながら反対の意見を述べる。

 

「大変申し上げにくいのですが紅海艦隊だけでは手に余るかと…。インド洋に向かっている敵艦隊は約3個艦隊。地中海艦隊は現在第2・第3機動部隊はアフリカ大陸大西洋側海域の制圧のために派遣しております。第1機動部隊は地中海の守りに外せません。地中海沿岸でも残党勢力やテロリストの姿を確認しておりますので…。パタゴニア艦隊も余裕は…」

 

「リッペ君。北海艦隊を使いたまえ。フランスは沿岸砲撃などなくても滅ぼせる。北海艦隊を向かわせたまえ…、北海のその後は本国防衛艦隊で対処可能だ。それとも我が第三帝国の艦隊は極東の猿どもに劣るとでも?」

 

「そ、そのようなことはございません!必ずや総統閣下の期待に応えます!」

 

「ふはは。その意気だよリッペ君。愚かなテロリストと極東の猿どもに後れを取ってはならんのだよ。しかし、我らと近しい優等種のブリタニアが苦戦したのは考慮に入れるべきか。ゲーリング君、空軍からも手を貸してやりたまえ。」

 

ヒトラー声を掛けられたこの男性はエアハルト・ゲーリング空軍長官である。

「敵の海軍戦力は充実しておりますが対処は可能でしょう。我が空軍にお任せください。」

 

「しかし、極東の猿どもの艦隊は3個艦隊それもうち一つは半個艦隊規模。ゲーリング君が言うように海軍戦力は充実しておるな。うむ、イタリアのムッソリーニに連絡を取れ。紅海艦隊を動かしてもらおう。あの男にもたまには役立ってもらわんとな。それにブリタニアもだ。元をただせば奴らの失態でもあるのだからな。これで4個艦隊と空軍の支援だ。リッペ君これで問題はあるまい?」

 

「はい!必ずや総統には向かう愚か者どもを撃滅することが出来るでしょう!!ハイル・ヒトラー!!」「「ハイル・ヒトラー!!」」

 



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原作R1編
第12話 魔王の生まれた日


皇歴2017年5月20日

日本占領地旧東京疎開ブリタニア政庁

 

「帝国臣民の皆さん。そして、もちろん協力いただいている大多数のイレブンの方々。わかりますか?私の心は今二つに引き裂かれています。悲しみと怒りの心にです。しかし、エリア11を預かるこの私がテロに屈するわけにはいきません。なぜならこれが正義の戦いだからです!すべての幸せを守る正義の戦いだからです。さぁ、正義に殉じた者達に哀悼の意をささげようではありませんか。」

 

「黙祷。」

 

簡易演台から降りたクロヴィスは政庁の新部署設置式典のパーティーに戻る。

 

「流石ですわ殿下。先ほどまでパーティーに参加していた方とは思えません。」

「総督はエリアの看板役者ですからね。これくらいの変わり身は…できて当然です。メディアの方々が喜ぶだけです。」

 

クロヴィスはいつもと変わらぬおべんちゃらに対してこれまたいつもと同じ様な返しを作り笑いを浮かべて返す。本人の心の中では8割がた面倒だと思いつつある事だ。

 

「いえいえ、私共はクロヴィス殿下の助けに少しでもなろうと…」

「おほほほ。」

 

元をただせば、珍しくも普段は抱かない功名心を抱き自分の趣味の領域である考古学などの文化的な側面から父のオカルト事業に横槍を入れてしまった事も今日の事態を招いてしまった一因ではあるのだが、父上達がご執心のものに深くかかわる魔女とやらの学術的調査を部下のバトレー将軍を介して行った結果。知るべきではない情報(都市伝説的な秘密結社のギアス嚮団)と知りたくはなかった情報(自分のあずかり知らぬところで妹が実験体にされていたこと)を計らずとも手に入れてしまった。

自分とて興味の範囲で不老不死だとかオカルトなものを調査したことはある。だが、バトレーが持ってきたものは本物だった。あの頃から自分の立場がふとしたことで揺らぐ可能性が出てきていた。バトレーが嚮団の触手に絡めとられているのもなんとなく気が付いていた。あの時は妹の事は知らなかったし、好奇心が優先されてついついのめり込んでしまった。

妹の事を知ってからもそれは変わらなかった。だが、何度か通信で会うたびに妹の変化に気が付いてしまった。実験を受け始めた頃から始まった頭痛や記憶の混濁に幻覚と言った症状がひどくなっているのを感じた。この時初めて自分が踏み込むべきでないところに踏み込んでいたのだと…。自分一人なら多少うまく距離をとることも出来た。だが、自分の愛する妹が壊されている。ほかならぬ父上に見て見ぬふりをすれば妹が死ぬかもしれない。ライラも自分の体調の変化に怯えを見せている。母が逝去されてからは自分が矢面に立ってきた。後ろ盾はあるが実母の死は自分の地盤の弱体化ではある。故にエリア11の総督に名乗りを上げ、自分の得意分野で功績を上げようとしたのだ。その結果地雷を踏んだ。自分のせいではある。だが、だからと言って妹も自分も死にたくないし死なせたくない。父上に意見するなど以ての外だ。他の兄弟に頼る…できるわけがないオデュッセウス兄さんは頼りない。シュナイゼル兄さんやコーネリア姉さんに関してはマリアンヌ様の件で疑わしく寧ろ裏側の人間かもしれない。そうなれば、もう逃げるしかない。それも、祖国に尻尾を振る可能性が低い完全敵対してる国に逃げるしかなかった。故の日本だ。

正直これから亡命しようとしている国なのにその心証を下げるようなことはしたくなかったが半端なことをすると父上にばれるかもしれない。だから、なんで今なんだと今回のテロには思うところがある。

 

「殿下!」

「なんだ?無粋な?」

 

だから、バトレーの持ってきた報告は一番聞きたくなかった。

 

「申しわかりません…しかし…」

「申してみよ…」

 

バトレーは私にだけ聞こえる様に小さなこえで告げる。

 

「イレブンにCODE:Rを奪われました。」

「………………」

 

「警察にはただの医療機器としか言えません。ですが、全軍を動かすには…」

「直属を出せ。KMFもだ!……万が一が起きれば私も貴様も破滅だ…。バトレー!指揮を執れ!私も後から行く!」

 

パーティーを中断してクロヴィスは自室へ戻る。

クロヴィスは自室で私物をカバンに詰め込みながら日本の工作員から預かった通信機で今すぐにでも亡命したい旨を伝えた。

 

「頼む…早くしてくれ…時間がないんだ。」

 

「クロヴィス殿下、G1ベースへ…」

 

「分かっている!待っていろ!!」

扉の向こうの士官が急かしてくる。クソ、どうしてこんなことに。

 

 

「逃げられただと!?それでも親衛隊か!!」

 

G1ベースでバトレーと合流し現地へ向かう頃には親衛隊は作戦に失敗し事態はさらに悪化していた。

 

「作戦は次の段階だな。あれが父上の耳に入れば私は廃嫡され、その後は」

 

首を斬るジェスチャーをして諦めを抱き始めていた。せめてもの救いは妹の保護に日本軍が動いたことか。本当はしたくなかったが、やらなきゃ自分が父上に睨まれる。妹の立場が少しばかり悪くなるかもしれないが自分も含めて命あればこそだ。

 

「世間には演習を兼ねた区画整理と伝えよう。第3皇子クロヴィスとして命じる。新宿ゲットーを壊滅せよ!」

 

モニター画面を見ていると兵士達が遊び始めているのが分かる。

壊滅させろとは言ったが民間人を虐殺しろとは言ってないぞ。壊滅と言うのは建造物の破壊であって一軒一軒歩兵が回って住人を殺して回る事じゃないんだよ。遊んでないで物を回収してくれ!

 

「っふ、遊んでないで早くかたずけさせろ。」

「っは。直ちに」

 

 

 

 

 

 

 

 

新宿ゲットー地下通路

 

「この騒ぎはお前のせいなんだろ!なあ!しかも、ブリタニアはスザクまでも!」

 

この時、クロヴィス達が血眼になって探している魔女ことC.Cはこの問いはまだゼロと名乗っていないルルーシュと一緒にいた。

そして、この時ルルーシュは日本人を虐殺するブリタニア兵達に遭遇する。そして、携帯が鳴ると言う映画の様なシュチュエーションでブリタニア兵達に見つかってします。

 

「テロリストの最後にふさわしいロケーションだな。学生にしては頑張ったと思うぞ。流石はブリタニア人だ。」

 

「お、お前ら…」

 

「だが、お前の未来は今終わったな。」

 

指揮官のとこが拳銃をルルーシュに向けて引き金を引こうとする。

 

「殺すな!」

 

C.Cがルルーシュの間に入りその銃弾を額に受けた。即死である。

 

ブリタニア兵の後ろには殺された日本人が折り重なり山のようになっていた。そこからは血が流れ血だまりが出来ていた。絶望に浸るルルーシュの手を死んだはずのC.Cがつかむと同時に彼の中に広がる謎の空間。

 

(終わりたくないのだな。お前は?お前には生きるための理由があるらしい。力があれば生きられるか?これは契約、力を与える代わりに一つだけ私の願いをかなえてもらう。契約すればお前は人の世に生きながら人とは違う理で生きることになる。異なる節理、異なる時間、異なる命。王の力はお前を孤独にする。その覚悟があるのなら。)

 

「いいだろう!結ぶぞ!その契約!」

 

 

 

 

「ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアが命じる。貴様たちは死ね!」

 

「「「「イエス・ユア・ハイネス!!」」」」

 

 

 

G1ベース内

ルルーシュがレジスタンスの指揮権を握った時点で新宿の不穏分子狩りが一気にブリタニア不利へと変わる。

「まさか、我が軍の機体がテロリストに………敵を包囲して殲滅しろ!敵は中心点にいるのだ!それさえ倒せば!」

部隊を集結させるクロヴィス。しかし、誰もいない。レジスタンスは隠し地下通路ですでに脱出していた。

 

「な、いないだと?な、うわぁ!?」

 

地盤が沈下し、周囲のKMFが壊滅してしまう。

 

「どうなっている。いったい何がどうなっているんだ?こいつは藤堂より…。」

 

そ、そうだ!特派の新鋭機!!

 

「ロイド!!貴様のオモチャなら勝てるか?」

 

クロヴィスは画面の向こうのロイドを睨みつける。

 

「殿下、ランスロットとお呼びください。」

 

 

 

 

 

ランスロットがレジスタンスに奪われたサザーランドを次々と撃破して行く。

 

「なんとか…勝てそうだな。兄上に借りを作ってしまったか。」

 

(この失態で廃嫡はなくても表舞台には戻れない。後ろ盾を失った自分が父上達の暗部の情報を握っている。もはや死しかない…まずい、まずいまずい!!)

 

「バトレー。しばらく一人にしてくれ…」

 

クロヴィスは誰も居なくなったのを確認してから、隠し棚から逃げ出すための荷物を取り出しG1ベース内にある手土産になりそうな情報データをメモリに入れて手荷物に入れる。

 

(逃げるんだ。逃げなければ…。)

 

G1ベース内の明かりが消える。

 

「な、何事だ!…誰か!誰かおらんのか!」

 

その声に警備兵の一人が気が付いて指令室に入ってくる。

 

「お、遅いではないか!きさっ!?」

その警備兵はクロヴィスの額に銃を突き付けて来た。

こ、殺される!暗殺者か!?

 

「停戦させろ。」

「わ、わかった!」

 

クロヴィスは広域拡声装置で指示に従う。

 

「全軍に次ぐ。直ちに停戦せよ第11エリア総督第3皇子クロヴィス・ラ・ブリタニアの名のもとに命じる。直ちに停戦せよ!!建造物に対する破壊活動をやめよ!負傷者はブリタニア人イレブンに関わらず救助せよ!第3皇子クロヴィス・ラ・ブリタニアの名のもとに命じる。直ちに停戦せよ!!これ以上の戦闘は許可しない!!………もういいのか。」

 

亡命先のことも考えてイレブンにも配慮した言葉を付け加えておいた。とにかくどうにかして逃げなくては…クロヴィスは相手の隙を作ろうと話しかける。

 

「次はどうすればいい?歌でも歌うか?それともチェスのお相手でも?」

「懐かしいですね」

すると暗殺者はヘルメットを脱ぎ顔を晒す。そこから現れた顔にクロヴィスは驚愕する。

 

「覚えていませんか2人でいつもチェスをやっていましたよね。いつも私の勝ちでしたが?」

「何を言っている?」

「ほら、アリエスの離宮でね。」

 

「貴様、誰だ!」

「お久しぶりです兄さん。今は亡きマリアンヌの長子第17皇位継承者ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアです。」

 

「ルルーシュ…お前が…(暗殺者か)」

「戻ってまいりました。すべてを変えるために…」

 

怨嗟の意を感じるルルーシュの声音にクロヴィスは震え上がった。ルルーシュの言葉に応じるクロヴィスの声は自然と震えが入っていた。

 

「ルルーシュ…日本で死んだと聞いていたが…まさか(暗部の暗殺者になっていたとは)。ルルーシュ、無事で良かった。そ、そうだ!ナナリーはナナリーは生きているのか?」

「えぇ、故あって兄妹2人慎ましく暮らしています。」

 

「る、ルルーシュ今の立場では何かと不便ではないか。良かったら私と…(北海道に)」

「また外交の道具にするつもりか。貴様は何故俺達が道具になったか忘れたようだな。」

「っ!?」

「そう、母さんが殺されたからだ。母の身分は騎士侯だったが出は庶民だ。他の皇女たちにとってさぞや目障りな存在だったんだろうな。しかし、だからと言ってテロリストの仕業に見せかけてまで…!!母さんを殺したな!!」

(ダメだ!完全に私を犯人と思っている。殺される!!)

「わ、私じゃない!!私じゃないぞ!!」

「なら知っていることを話せ。俺の前ではだれも嘘は付けない。誰だ殺したのは」

 

ルルーシュのギアスが発動する。

「第2皇子シュナイゼルと第2皇女コーネリアの二人が何か知っていると思う。」

「あいつらが首謀者か。」

「知らないが私はそう思っている。………私は何も知らない!?本当に私じゃないんだ!!やってない!!やらせてもいない!!」

 

ルルーシュが銃を下ろす。

だが、クロヴィスは自分が見逃される事はないと気が付いていた。だからクロヴィスは玉座のコンソールの転送ボタンを押す。さすがに選別は出来なかったが日本に手土産として渡す情報の一部を北海道での妹の立場が少しでもましになるように転送した…。

 

ルルーシュが再びクロヴィスに銃口を向ける。

 

「やめろぉ!!腹違いとは言え実の兄だぞ!!やめろぉ!!」

「きれいごとで世界は変えられないから…」

「や、やめてくれ!助けてくれ!!」

 

 

この日、魔王が生まれた。

 

 

ブリタニア帝国アーカーシャの剣

「ラグナレクの接続?神話の再びの始まりか!!」

シャルル・ジ・ブリタニアは何者かがラグナレクに接続した事を知り。

 

ナチス第三帝国ベルリン総統官邸

「不快な…。極東の方で良からぬものが現れたようだ。戦禍の天秤と言いあの地域は何かあるようだな。極東の監視を強めたえ。」

「ハイル・ヒトラー!!」

ハインリッヒ・ヒトラーは左目に備える千里眼のギアスを持って極東の不愉快を察知した。

 

 

 

 

 

 

中華連邦インド軍区某所独立派アジト

「本郷少佐…」

「いずれは彼女の耳に入る。伝えるなら早いうちに…」

本郷義昭少佐は同じく通信機を扱う通信士の横に控えるスバス・チャブドラ・ボース氏。その顔には憐憫が浮かんでいる。

「あんな幼い少女だと言うのに独り身になるとは可哀そうに。本郷少佐…やはり…」

ボースが本郷に思いとどまるように声を掛けようとしたが本郷は隣室のライラ・ラ・ブリタニア元へ行ってしまう。ボースはどうするか戸惑い少ししてから本郷を追った。

ボースが扉を開けると本郷少佐はライラ姫殿下にクロヴィス第3皇子の死を伝えてた後であった。

 

「ライラ姫…残念ですが兄君は…」

「うぅ…お兄様…どうしてこんな…いやぁ…。」

 

 



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第13話 オレンジ事件

題名ってつけるのに悩みますね。


皇歴2017年5月25日

 

テレビの画面には報道陣のフラッシュにさらされながらジェレミア・ゴットバルト卿がクロヴィスの死を公表する映像が流れ、女性キャスターが報道を続ける。

『クロヴィス殿下は崩御された。イレブンとの戦いの中、殉死されたのだ。我々は悲しみを推してその遺志を継がなくてはならない。』

 

北海道函館の首相官邸ではこの一連の事態に対応すべく。大高首相を中心に桜坂国相、木戸外相、高野海軍軍令部総長、桂陸軍参謀長、源田戦略空軍長官らが呼び集められ協議が開かれていた。また、ほとんど発言はしなかったが今上天皇の神楽耶の姿もあった。

 

『また、暗殺の実行犯は名誉ブリタニア人のイレブン枢木スザク一等兵であることは間違いないようです。』

 

「ブリタニア皇族の暗殺。本来ならよくやったと言ってやりたいところだが……。亡命予定の皇族では……。」

 

「本当のところはスケープゴートなのでは?強硬タカ派の純血主義者であるジェレミア・ゴッドバルト…日本人の弾圧を強化したいのが丸わかりだ。」

 

「弾圧の強化と言うよりも、名誉ブリタニア人の保護制度撤廃もあり得ますな。仮に彼が犯人ならばいろんな意味で余計なことをしてくれたのもですな。」

 

軍部の人間は青風会・紺碧会の古参会員であり、枢木ゲンブが売国奴であったことを知る者も多く。枢木の名が出ただけでも顔をしかめるものもいた。

 

「軍部の皆さん。とりあえず討論はここまでにしましょう。大高閣下、今回の件では我が国とクロヴィス殿下の関係が表ざたにされていないところ見るに、彼らは気づいていないようです。我々皇国としてもごく普通に形式的には声明を出すべきかもしれません。ですが、下手に枢木を持ち上げると事情を知る軍関係者の反発は必至かと思われます。声明はそのあたりのことを加味して頂きたく思います。」

 

「そうですな。形式的な物だけで良いでしょう。枢木スザクに関してはふれない事にするとします。何も知らない者達にとっては英雄かもしれませんが軍関係者や長いレジスタンスは枢木親子の裏切り者と見ています。露骨なまでに形式的な内容で木戸外相の方で行ってください。それと皇室からの声明は出さなくても大丈夫かと思います。」

 

「はい。では外務省には文書を作らせます。」

 

神楽耶は「よしなに。」と短く答え、木戸外相の問いに大高はそう結論付け、話題を変える。

 

「そうしてください。ところでクロヴィス・ラ・ブリタニアの後任は誰が濃厚なのでしょうか?」

 

「ブリタニアは日本に手痛い反撃を受けたわけですので、少なくても強硬派。それも軍人系の武断派が来るのではないでしょうか?」

 

「順当に行けばコーネリア・リ・ブリタニアあたりが妥当ですかな。」

 

「我々と言う存在もある事です。ラウンズの誰かが来る可能性もありえるかと。」

 

「いや、シュナイゼル・エル・ブリタニアもありえる。彼は現在も一部の手勢をクロヴィス皇子統治下の日本に展開させていた。乗り込んでくる可能性もあり得ます。」

 

高野、源田、桂が口々に意見を述べる。大高は軍関係者の話を聞いて今後ブリタニアの日本占領地での締め付けがかなり厳しくなるであろうことを想像し胸を痛め、一刻も早い全領土奪回を誓った。

 

「敵が強力になることは予想できたことです。富士山重工と共同開発中した新型戦闘攻撃機の量産体制を早めに整えておいてください。それと我々の自在戦闘装甲騎雷電の数を揃えたいところですが、雷電は敵のグラスゴーに劣っていますので今しばらくは15式砲戦車(15式自走砲重戦車)と各種ロケット砲車と空爆で対応していきましょう。」

 

「大高閣下。確かキョウトの方では無頼とか言うコピー機体があるそうではないですか?それを融通して数を揃えるわけにはいかないのですか?」

「大蔵省としても開発費がかさんでいますのでキョウトのコピー機が安く上がるのならばそちらでもよいかと。それに海軍の艦艇建造や改修費用もかなり値が張っているのだが。」

 

内務大臣犬養清と大蔵大臣高橋其清の言に高野が反論する。

 

「犬養大臣、高橋大臣、それはダメです。それをしてしまうと今後の軍事軍需の主導権だけでなく政治にすらキョウトに口を挟まれかねません。軍としては新型機の開発をしばらく待っていただきたい。新型機の開発は最終段階で性能もサザーランド並です。それに日本が今を維持できたのは海軍強国の名声の影響もあるし、それ以上に結果は出している。それは陸も空も言える事です。」

 

高野の言葉に源田と桂も相槌を打って賛意を示す。

その後も閣僚たちも交えて3時間ほど議論を重ねた。彼らの背後ではスタジオの映像で司会者と解説者がクロヴィス追悼と枢木スザクについての議論している映像が流れていた。

画面の右下には小さな枠で移送されるスザクの様子が流れている。

 

「日本解放戦線を中心とする抵抗勢力の長とも協議をして………ん。」

 

 

 

一方、成田連山日本解放戦線本拠地。

 

会議室と言うよりは鍛錬に使う道場を意識した内装の室内。ブリタニアに壊されかけた日本のアイデンティティを前面に押し出したかのような意向である。ブリタニアのある種の浄化政策によって弾圧された日本文化を前面に出すのはレジスタンス勢力には多く見られる。北海道政権日本皇国はブリタニアを押し返したためにブリタニアに文化を破壊されるようなこともなく維持できていたが彼らは長い弾圧の反動としてこの様な日本文化を全面的に出す様な無意識的な物があった。

 

「ブリタニアの皇子を仕留めた!枢木スザクを英雄として扱わねば!」

「しかし、名誉ブリタニア人だぞ!枢木総理の忘れ形見ではないか!」

「日本を捨てた男!民衆はその存在さえ知らなかった!」

 

解放戦線の幹部達が枢木スザクの扱いに議論を重ねていた。

 

「新宿の事件は紅月達のグループだったな。」

「今は扇と言う男が継いでおります。」

 

片瀬と藤堂含め座布団も敷かずに皆、床に座るか立って議論している。

片瀬は状況確認を兼ねて情報を確認している。

 

「うぅむ、枢木の本家は何か言ってきているか?」

「いいえ、特に何も言っておりません。」

 

片瀬に意見を求められた藤堂はきっぱりと答える。

 

「どう思う。藤堂?」

「公開処刑に付き合ってやる義理はないでしょう。」

 

それを聞いた別の幹部は藤堂に対して意外そうに尋ね、藤堂はこれに対してもきつい口調で言い返す。藤堂自身、奇跡のと言う自分の二つ名に対して思うところがあるようであった。

 

「奇跡の藤堂が随分弱気ではないか。」

「奇跡と無謀をはき違える気はない。」

 

「北海道政権も静観を決め込んでおる。ここはわしらも静観で良いだろう。」

 

片瀬は北海道政権の動きに倣い静観を決め込みテレビに視線を移す。

 

 

テレビの向こうでアクシデントが発生している様だ。枢木スザクを乗せた車両が動きを止める。

 

『現場で動きがあったようです。』

スタジオの映像から現場の映像に切り替わり。そして、クロヴィス専用の御料車が護送車両の前に止まる。

 

『私はゼロ。』

 

御料車から黒いマスクと黒いマントの全身黒で統一された服装の人物が現れる。そして、ゼロが指を打ち鳴らすと中から何かの装置が現れる。そして…

 

『クロヴィスを殺したのはこの私だ。』

 

 

「何かの兵器のようだな。これはとんでもない展開になったぞ。」

テレビを見て驚きの声を上げる桜坂国務大臣。

 

『あいつは狂っている。殿下の御料車を偽装し愚弄した罪、万死に値する!この罪贖うがいい!』

ジェレミア卿が指揮車から身を乗り出しゼロを殺すように命じる。

 

『いいのか。公表するぞ…オレンジを…』

 

それを聞いたジェレミア卿は素直にゼロに従い。スザクとゼロを解放しようとする。

ジェレミアと他のブリタニア士官の間でもめている様だ。音声では拾い切れていないが口論している様子が映る。しばらくして、スザクが解放される。

 

さらに、装置が作動してガスが装置から噴き出してくる。

「毒ガスとは少々野蛮ですな。」

「民間人に被害が出ると大義名分が立たなくなる。」

 

高野と桂はこれを見て眉を顰める。

テレビの向こうでは大混乱する様子が見受けられる。さらに時間がたち事態が一応収拾され、これが毒ガスでなくただの煙であったことが報道される。

 

「敵将校が諦めるほどの内部事情を入手する情報集積能力。そして、大勢の群衆の目の前で演説をするだけの胆力。彼は相当な人物の様です大高閣下。」

桜坂の言葉に大高は「そうですね」と短く返した。

 

それ以上に大高の隣には僅かに頬を桃色に染めた神楽耶の姿が気になっていた。

(姫様も思春期の少女と言う事だったのを忘れていました。ゼロ…確かに若者のこと戦に触れるような恰好をしている。それ以上に桜坂君が言うように大人物であるようですな。)

 

 

 

 

 

成田連山日本解放戦線本拠地では今こそ決起の時と逸る草壁中佐の言葉を片瀬に「北海道政権から動くなと達しがあった。」として一蹴され、藤堂の賛意を得ようとしたが…

 

「焦るな。キョウトが紅蓮二式をゼロに与えると言うのは確定情報ではないゼロにこだわり過ぎると足元を掬われるぞ!」

「っく」

 

草壁は不満をあらわにしてその場を後にした。

 

 

皇歴2017年5月28日

コーネリア・リ・ブリタニア第2皇女。エリア11総督に着任。

輸送機より降り立ち、先んじてエリア11入りしていた妹ユーフェミアと再会を喜んだあとコーネリアにエリア11の執政官が歓迎式典に参加するように促すとコーネリアは不快感と憤りをあらわにする。

 

「抜けている…惚けている…堕落している。ゼロはどうした!なぜ捕まえぬ!北部の残党相手に7年も掛けて何をしている!早々に皇国臣民の敵を討て!私が着任したからにはこの様な無様は晒させん!」

 

エリア11の情勢不安のため治安対策を優先するものとし、総督就任式典は最大限に略式化され即座に治安対策、不穏分子の粛清を実施するものであった。

着任数日後には中国地方最大の抵抗勢力サムライの血を壊滅する超強硬手腕であった。

 

 

 

皇歴2017年5月29日

最近ではオスマン・トルコの抵抗が完全に止み中東各地の国々が次々と降伏している。アフリカでも枢軸連合の南下をEU軍は止められず。ついに欧州に拠点を残していた数少ない国々の一角であったオランダの陥落。スカンディナヴィア連合王国は中立化したうえでの孤立、フランスもオランダ陥落を受け対独のマジノ線・対スペインのピレーネー線の維持が難しくなってきていた。

さらに前日にはエリア11の総督にコーネリアが着任し、さっそく不穏分子のひとつを殲滅した。さらにはその翌日にはインド洋で枢軸連合艦隊と日本艦隊の戦いが控えている中での演説であった。

 

「神聖ブリタニア帝国第98代唯一皇帝陛下よりお言葉」

 

大聖堂のような巨大なホールには多くの出席者であふれ演壇側にはブリタニア皇族らが座り、客席には多くの貴族と軍政の高官が、来賓席にはナチス第三帝国のリッペントッロプ外相を中心とした枢軸国の外務大臣たちの姿が確認できた。司会者の声が響き、大英帝国を継承した中世風に多少の現代の趣向を織り交ぜた荘厳な衣装と威厳ある姿を見せつけるかのようにブリタニア皇帝はゆっくりと演壇を歩む。その一歩一歩がその力強さと威厳を見せつける物であり、クロヴィスの国葬と言うよりはある種のプロパガンダ的な側面すら感じさせた。

 

「人は平等ではない。生まれつき足の速い者、美しい者、親が貧しい者、病弱な身体を持つ者。生まれも育ちも才能も、人間はみな違っておるのだ。そう、人は差別されるためにある。だからこそ人は争い、競い合い、そこに進歩が生まれる。不平等は悪ではない。平等こそが悪なのだ。権利を平等にしたEUはどうだ?人気取りの衆愚政治に堕しておる。富を平等にした国はどうだ?ロシア帝国は怠け者ばかりだ。均等な計算すらできない中華連邦は腐りきっておる。だが、我がブリタニアはそうではない。争い競い、常に進化を続けておる。

強者だけが前へ、未来へと進んでいるのだ。我が息子クロヴィスの死も、我らが進化を続けているという証。戦うのだ!競い、奪い、獲得し、支配しろ。その果てに未来がある!!

オール・ハイル・ブリタニア!!!!」

 

 

「「「「「オール・ハイル・ブリタニア!!!!」」」」」

 

 

 




次回は戦闘回の予定。あらかじめ予防線を張っておくと下手ですので大目に見てください。


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第14話 インド洋海戦

色々と不満は出そうな気がするけれども・・・どうぞお手柔らかに


 

皇歴2017年5月30日

インド洋には数多くの国々の艦艇が集結していた。

天秤を巡る戦いはこの後も何度か繰り返されるがその中でも最大規模のものがインド洋海戦である。

日本皇国海軍旭日艦隊・紅玉艦隊・白銀艦隊。

皇国連合艦隊。戦艦6、正規空母7、護衛空母15、巡洋艦23他補助艦艇多数。

これに対して枢軸側はナチス第三帝国北海艦隊及び紅海艦隊、ユーロブリタニア海軍地中海艦隊、イタリア王国海軍紅海艦隊。

枢軸連合艦隊。戦艦10、正規空母12、護衛空母6、巡洋艦28、他補助艦艇多数。

 

 

 

 

ナチス第三帝国紅海艦隊旗艦及び連合艦隊旗艦ワイマール

ティルピッツ級戦艦ワイマールそれが独海軍大将ヴィルヘルム・ヨードル提督の旗艦である。そしてヨードル提督は連合艦隊の司令長官でもある。

ヨードルはワイマールの艦橋から枢軸連合艦隊の威容を眺めながら満足げに頷く。

「提督?いかがしましたか。」

参謀長のザワールに不思議そうに尋ねられる。

「ザワール君。戦艦10隻、巡洋艦28隻、空母に関しては若干少なくあるが艦載機数ではこちらが上。そう考えれば全てにおいて日本艦隊を上回っている。勝利は約束されたようなものだ。悦に浸っても仕方なかろう?あの日本武尊を海に沈める栄誉を得られるのだからな。」

 

「ヨードル提督。日本艦隊はよくよく奇策を弄するそうです。足元を掬われぬようあまり浮かれるのはどうかと思います。」

ヨードルとザワールの付き合いは長く、ザワールの歯に衣着せぬ物言いはヨードルも理解しており特に咎めるようなことはしない。だがヨードルは日本艦隊に負けるとは思っていない。ヨードルは並行する空母の甲板に視線を移す。

 

「我々には翼がある。ブリタニアのKMFの様に飛べない機体ではなくMAと言う空飛ぶ機体が…。」

 

視線の先には飛行ユニットマッフを装備したMAダインとゲバイ。そして水中用MAズワイの姿があった。

 

水中用MAズワイ。外殻装甲でフレームを完全に覆っている為、重装甲となっている。つま先に折りたたみ可能なフィンがあり、左手に大型のクローアームを装備しているこの機体はブリタニアのポートマンなど相手にならない強さであった。

ブリタニアとイタリアの空母から戦闘攻撃機が発進していく。

 

「ふむ、ではこちらも…。MA部隊および戦闘攻撃機隊は直ちに発艦!敵航空隊を叩く!」

 

 

枢軸連合艦隊は日本艦隊と激突する。

 

 

 

 

 

ユーロブリタニア海軍地中海艦隊旗艦戦艦グリュンデル

 

「航空戦!!有利!!」

観測員からの報告を受けて満足げに頷くユーロブリタニア海軍地中海艦隊司令ジェイコブ・サマヴェル海軍少将提督。制空権の奪い合いである航空戦闘は未だ継続しているがナチス第三帝国のMAやハウプト戦闘攻撃機によって有利に傾いて来ている。一部の攻撃機が敵艦に爆撃を食らわせたとの報告やMAによる敵艦上への強行戦闘が行われているとの報告も上がった。

 

「ポートマン隊はどうだ?」

サマヴィルの問いに参謀の一人が答える。

「敵の対潜防御は強力です。あまり良い結果は出ておりません。ただしドイツ海軍のMA

ズワイは何隻か駆逐艦級を沈めております。」

 

「水中用機の強化は今後の課題だな。」

 

サマヴィルは顎に手を当て僅かに思考した後。ミサイル射撃戦の開始を指示する。

 

「制空権は確保したと考えていいだろう。射撃戦に入るぞ!イレブンのミサイルは高性能だ油断はするなよ。」

「っは!」

 

枢軸連合艦隊前衛ナチス第三帝国北海艦隊のミサイル発射を皮切りにミサイルの撃ち合い合いが始まる。航空戦においても艦載機のミサイルがあったが日本艦隊の艦載機による迎撃によってその大半は防がれることになる。ミサイルの性能及び戦術においては東北戦争の頃より日本軍に分があり、その事は枢軸連合艦隊の首脳陣も理解していた。

 

 

 

 

白銀艦隊旗艦戦艦月読

 

「枢軸艦隊。噴進弾発射を確認!大石司令長官より新兵器の使用許可下りました!」

 

艦長業務をこなしつつ手にしたタブレットに大石長官の許可が下りていることを確認した参謀長のもえかは艦隊司令の桃園宮那子に伝える。

 

「電波妨害装置を起動。戦術情報処理装置を旭日艦隊・紅玉艦隊含む全艦の戦術情報伝達装置と接合!」

「接続完了しました。艦隊防空戦開始します!」

 

那子ともえかは通常の噴進弾発射機と噴進弾垂直発射機から迎撃ミサイルが発射され枢軸艦隊の発射した対艦ミサイルと艦載機の防空網を突破した敵艦載機をミサイルが迎撃して行く艦隊防空戦の様子を見守る。

 

「敵噴進弾7割の迎撃を確認。個艦防空戦を開始します。」

「近接防空戦の開始は各艦の艦長に一任するわ。」

「了解。各艦に伝達しました。」

 

すでに大半のミサイルを迎撃し、個艦防空戦続いて近接防空戦によってすべてのミサイルの迎撃に成功した。

白銀艦隊旗艦戦艦月読は高度な情報処理・射撃指揮装置を搭載したイージスシステム戦艦なのだ。

 

 

 

旭日艦隊旗艦超戦艦日本武尊

 

「敵噴進弾全て迎撃成功!」

 

原参謀長の言葉を聞いた大石は次々と反撃を命令する。

 

「よし、数ある脅威のうちの一つは退けた。こちらも対艦噴進弾を発射!噴進弾の扱いは皇国軍のお家芸であることを教えてやれ!」

「了解!対艦噴進弾発射します!」

「続いてロ号弾発射準備!敵MAが有効射撃圏内に入り次第迎撃開始。」

「了解!」

 

ここまでは順調に進んでいるが問題はここからだ。

 

 

 

白銀艦隊別働戦隊旗艦晴風

岬明乃。陽炎型護衛艦晴風艦長であり、現在は白銀艦隊の別働戦隊の戦隊長でもある。

 

「魚雷戦用意!イタリア艦隊へ魚雷を発射して足を止めるよ!なお、戦果確認は不要!」

「了解!」

 

「潜水艦隊の海江田中佐より連携準備整ったとのこと!」

 

「魚雷発射用意良し!」

「いくよ!全艦魚雷発射!!」

 

「そのまま取り舵いっぱい!敵艦隊から距離を取って!そのまま噴進弾での攻撃も実施する!」

 

 

 

イタリア海軍紅海艦隊旗艦リットリオ

エンリコ・マローニ少将率いる紅海艦隊は白銀艦隊別働戦隊の水雷攻撃を受けたが体勢を立て直す。

「敵小艦隊の攻撃で補助艦艇の多くがやられました!」

「おのれ!巡洋艦ガリウスとマルゼッテに何隻か護衛を付けてあの小艦隊を迎撃に行かせろ!」

 

 

旭日艦隊所属潜水艦隊指揮艦山波

 

「敵艦隊に穴が開いたぞ。魚雷発射用意は済んでいるな。なら、発射だ。優先目標は敵空母で戦艦はその次だ。撃て!」

 

江田四郎中佐は海軍潜水艦隊始まって以来の英才と呼ばれ旭日艦隊潜水艦部門の長として如何なくその才能を発揮した。

 

 

 

 

イタリア海軍紅海艦隊旗艦リットリオ

 

「空母アクィラ被弾!サン・ジョルジョ大破!駆逐艦シチリア、ルキオ、マルコーニ轟沈。巡洋艦ラズロー、ミルバ大破!魚雷多数、こちらに来ます」

 

「な、ぬわぁあ!?追撃に出した艦を呼び戻せ!」

 

「間に合いません!!あ、護衛空母エウローパ、ジュゼッペ被弾!」

 

「後退!後退!艦隊を後方へ!!」

 

イタリア艦隊は艦隊に甚大な被害を受けて後方へ下がる。

 

 

 

 

旭日艦隊旗艦超戦艦日本武尊

 

「まもなく、敵艦隊と砲戦距離に入ります!」

 

電測員より敵機接近の方を聞いた大石は今まで以上に深刻そうな顔つきに代わる。

 

「月読を本艦の後方へ!護衛各艦に空母を守る様に伝達!煙幕、電波妨害金属片、熱線放射欺瞞弾発射!」

 

「敵機接近!」

「全艦対空戦闘開始!!」

 

「迎撃、間に合いません!!護衛艦夕波・佐々波轟沈!!護衛艦朝霧大破!」

「っく、やはりMA相手は厳しいか!」

 

防空権を突破してきたMAはその高い旋回性能を持って器用に弾幕を躱す。無論命中して撃破することもあるがミサイルの様な追尾機能があるわけではないので絶対の迎撃とはならない。うえにそのミサイルも戦闘機以上にトリッキーな動きをするMAには対応しきれないところもある。とは言えミサイルの命中率は決して低いものではない。だが、その様な言い訳は今ここで戦っている者達にとっては何の慰めにもならない。

 

「敵水中機の接近を確認!」

 

水測員からも報告が上がる。

 

「対潜噴進弾を発射!並びに防護爆雷を投下!」

 

「防空護衛空母義昭と義氏、敵水中機が取り付きました!!」

「引きはがすように伝えろ!…やはり、MA・KMF優位は時代の流れか…。致し方なしだな。……ライラ皇女の身柄は確保した!全艦戦域より離脱せよ!殿は旭日艦隊が行う!」

 

「紅玉艦隊の川崎長官より通信!読み上げます!『キョクジツカンタイ モ ハクギンカンタイ モ コウコク ノ カナメ ナリ シンガリ ハ コウギョクカンタイ ガ ヒキウケル』なお、川崎長官より電信の受信装置に不調ありとのことです…。」

 

「この戦いで得られたものは小さくはないかもしれない。だが、失ったものが大きい事は間違いない。川崎長官…。総員敬礼!」

 

 

紅玉艦隊旗艦戦艦伊勢

 

川崎長官はここを自分の死地と決め艦橋要員に自分の秘蔵酒を解禁させて自分も茶碗に入った酒を一気に煽る。

そして、張り裂けんばかりの大声量で艦内放送を付けた状態で全乗組員を鼓舞する。

 

「空母とその護衛は旭日艦隊と白銀艦隊に付いて戦域より離脱せよ!残りの艦艇は本艦に続き敵艦隊を迎撃せよ!旭日艦隊と白銀艦隊を離脱させ皇国の命脈を永らえさせるのだ!」

 

 

 

 

ナチス第三帝国紅海艦隊旗艦及び連合艦隊旗艦ワイマール

 

「敵空母轟沈!敵艦隊後退していきます!」

電測員・水測員から次々と敵機敵艦の撃墜撃沈報告が上がってくる。それを聞いたヨードルはニヤリと顔をゆがめ悦に浸った。

 

「敵のミサイル攻撃で連合艦隊も被害を受けたが、敵艦隊はそれ以上だ。追撃戦に入るぞ!日本武尊を沈められそうにないのは残念だが大漁であることには違いない。」

 

ヨードルに対してザワールが横槍を入れる。

「イタリア艦隊はどうしますか再編に手間取っているようですが?」

 

「放っておけ!パスタ野郎が役に立ったことなど一度もなかったのだ!奴らには張りぼて以外には何も期待しておらん!追撃は実施する!」

 

「敵艦隊の一部が突出してきます。あれは紅玉艦隊でしょう。」

「旭日艦隊ではないのが本当に残念だが紅玉艦隊も十分な手柄だ。攻撃開始!」

 

紅玉艦隊と枢軸連合艦隊の間でミサイル射撃戦・砲射撃戦・艦載機による対艦戦闘が行われる。そして、戦場において偶然とは起こるものである。

 

「ぐわぁあ!」

 

艦橋付近に戦艦日向の砲弾が命中したのだ。

 

ザワールは横で倒れているヨーデルを助け起こすが意識を失っている。ザワールは他の参謀達に連合艦隊指揮権の移譲を命じてヨーデルに代わって紅海艦隊の指揮を執り始めた。

 

 

 

 

 

ナチス第三帝国海軍北海艦隊旗艦空母ゾーリンゲン

 

紅玉艦隊の艦艇の大半が轟沈し、連合艦隊の指揮権移譲を受けたカール・フォン・ローブ中将は追撃継続を命令しようとしたが、それは出来なかった。

中華連邦海軍の介入である。中華帝国の直轄艦隊を中心にインド軍区や他の連邦傘下国の艦艇が枢軸艦隊の側面を突く形で現れたのだ。

『こちらは中華連邦海軍連合艦隊である。貴艦隊は連邦領海の境界線上にある。これ以上の戦闘は我が国の安全保障上の問題で看過できない。よって神聖ブリタニア帝国・ナチス第三帝国・イタリア王国・日本皇国のすべての艦艇に対して速やかに離脱することを望むものである。この要請が聞き入れられない場合はこの海域にいるすべての艦艇を全て撃沈する。繰り返す…』

 

インド洋の公海での会戦であったがライラ皇女回収のための戦いでもあった今海戦は連邦領海を越えてすぐに発生した。その為、艦隊の動きによって連邦領海に侵入してしまったのだ。

 

「くそ!せっかくのチャンスを!だが仕方がない、本国の許可なく中華連邦を相手にする訳にはいかない。艦隊は戦域を離脱する!」

 

 

このインド洋海戦において日本艦隊は紅玉艦隊を失い旭日艦隊と白銀艦隊に少なくない被害を受けた。この戦いを受けて日本皇国はすでに開発に力を入れているKMF以外にもMAや航空戦力の充実に力を入れていくことになる。

 

 

 

ナチス第三帝国 ベルリン 総統官邸

 

「旭日艦隊を殲滅出来なかったことは残念だが、極東の黄色い猿ども自慢の艦隊の一つを海の藻屑に変えられたことと日本武尊と言った新鋭艦の多くに手傷を負わせたことは評価しよう。リッペ君、ゲーリング君。君達もよくやってくれた。おかげでインド洋の主導権は我が第三帝国のものとなるだろう。今回の功績を持って空軍も海軍も目を掛けてやらねばならんな。よろしく頼むぞ二人とも、今後の活躍を期待している。」

 

「「ハイル・ヒットラー。」」

「ありがとうございます閣下空軍は閣下の為に鋭意活躍して行くことをお約束します。」

「海軍も同様です。」

ヒトラーは空海軍の長官二人から視線を移し陸軍長官の方に視線を向ける。

「ところでルーデンドルフ君。陸軍からは最近はあまりそう言った嬉しい話を聞かなくなったな。陸軍はどうなんだい?」

 

「申し訳ありません閣下。マジノ線、アフリカ戦線ではフランスをはじめとする抵抗勢力が強硬に反抗を続けており膠着状態となっております。ですが、マジノ線はオランダ戦線を破りましたのでもう間もなく吉報をお届けできるかと…」

「そうかね。それなら良いのだ。」

 

アフリカや中東ではEU諸国やその他の国が頑迷に抵抗を続けているが、欧州においては敵対する存在はほぼフランスとベルギー。そして瓦解中のオランダだけと言ってよい状況である。北欧はスカンジナビア連合王国があるが同国は完全に領土内に引きこもり中立を宣言した。無論、手を出してくる様子はない。また、対ロシアの戦線も戦線の一翼をユーロブリタニアや他の枢軸国が担うことでかなりの余裕を残している。ヒトラーの欧州制覇の野望は目前であった。

 

 



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第15話 黒の騎士団

皇歴2017年6月15日

紺碧艦隊司令前原一征の姿は高野の呼び出しを受け函館の軍令部総長室にあった。

前原もインド洋海戦の結果は聞いている。双方ともに出血を強いた引き分けに近い戦いであった。紅玉艦隊の壊滅、旭日・白銀両艦隊からも少なくない被害が出ている。

若年もしくは年少の者達が多い白銀艦隊からも戦死者が出ており戦時だからこそ不満が表に出ていないが平時なら内閣が吹っ飛んでもおかしくない。大高や高野たちもこのことには胸を痛めたが戦時と言うこの状況下において国民からの表立った非難がなかった事は不幸中の幸いであった。

また、この戦いにおいて皇国艦隊が壊滅し完敗した訳ではなく。戦果としてはイタリア紅海艦隊を半壊させ、ナチスドイツとユーロブリタニアの艦隊に半壊とは言わずともそれなりに大きな傷を与え無視できない被害を与えた。ナチスドイツやイタリアそしてユーロブリタニアは海軍戦略における停滞を余儀なくされた。これはナチスドイツやイタリアと言った枢軸国がブリタニアが触手を伸ばすアジア太平洋地域への介入時期が遅れることを意味していた。

 

前原は高野から勧められたコーヒーを飲みながら向かい合う。このコクと苦みは豆から挽いたものだ。

 

「気が付いたかね。このコーヒーは豆から挽いた高級品だ。要望を出せば士官階級なら誰でも飲める。国土の多くを失ったがそれでも我が国は未だに資源国で要られている証拠でもあるわけだ。」

 

「物資が枯渇していてはこうはいきませんな。」

 

元来この北海道と言う地域は農業・水産業と言った一次産業と観光業・情報関連業と言った第三次産業が強い土地柄で総生産も中堅国家並の経済規模を有していた。日本本土陥落後は臨時政府の拠点となり多くの梃入れがなされ三次産業が若干の後退を見せた代わりに二次産業鉱業・製造業が驚異的な発展を見せた。石炭や金・銀・銅・亜鉛と言った鉱山は以前から採掘されていたが、特にサクラダイトに関しては北海道の採掘場の発見が北海道開拓が終わりかなりの時が経っていた時期であった為。既存のサクラダイト採掘場である富士鉱山や浅間山鉱山等と言った既存の大規模採掘場が優先され、鉱山開発が遅れ気味だったことが幸いしたと言った所か北海道政権は未採掘の多い北海道の採掘地を丸々手に入れられたのだ。

 

そう言った意味でも今の北海道政権は世界の他の抵抗勢力に比べ比較的好条件な物であった。

2人は軽い軽口を叩き合ってから本題に入る。

 

「旭日艦隊と白銀艦隊は各地のドックを総動員して修理に当たらせている。それでも足らんので工作船も動員しているがな。それと、残念だが紅玉艦隊の再建の目途は立っておらん。詰るところ皇国海軍は6個の海上艦隊の内の3つが使用不能、さらにうち一つは復帰の可能性すら薄い。海軍内では旭日艦隊と白銀艦隊を一時的な措置として統合する案も出ているが編成にも時間がかかる。やはりしばらくは高杉・坂本・東郷の3艦隊で戦わなくてはならなくなってしまったと言う事だ。オランダの亡命艦隊もあるにはあるが、あれはあくまでも他国の艦隊。数に入れるわけにもいかん。」

 

「なるほど、そこで我々の出番という訳ですな。」

 

「そうだ。今までの様に積極策でブリタニアと言った枢軸に圧力を与える戦術はしばらく使えそうにないからな。表だった艦隊は今後しばらくは防御に徹することになるだろう。幸いなことに皇国…北海道政権における海上防衛ラインの水中固定聴音装置の設置は完了している。敵がどこに現れるかは把握できるだろう。これを活用して今ある艦隊で対処して行けば何とかなると大高首相も私も考えている。だが、ブリタニア本国が動いた7年前の様な大規模な攻勢に出た場合その限りではない。今の皇国ではとても支えきれない。」

 

我が国で開発した水中固定聴音装置は陸上基地とソナーを内蔵した海底ケーブル群から構成されており、水中音響的に最適な位置で敷設される。これによって通常の外航船であれば数百kmでの探知が可能である。また、これらを取り扱う陸上基地は存在そのものが極秘とされた。そのため、海軍内においても機密保持のレベルが高く、海軍でも限られた要員が装置の運用を行なっている。この水中固定聴音装置のおかげで日本皇国了解及び一部の日露共同管理海域に侵入した敵艦を察知することが出来た。

 

「故に、神出鬼没な我が潜水艦隊にブリタニアの艦を襲えと言う事ですな。」

 

「話が早いな前原君。紺碧艦隊はブリタニア海軍にとっては恐怖の存在だ。間違いなく敵もこの動きは読んでいるだろうが、ブリタニア海軍が紺碧艦隊に対して未だに有効な手を打てていないのは事実だ。それと、ついに水中戦闘機海龍の量産の目途が立った。これはブリタニアのポートマンの性能を凌駕していることは保証しよう。先行量産機はすでに海中要塞鳴門に配備済みだ。今までは特呂号潜専用のような扱いであったが今後は随時特呂号潜からこの海龍に切り替える予定だ。そしてこの海中要塞鳴門を君に預ける。これを持ってブリタニアの海軍艦艇及び輸送船を襲撃し常時ブリタニアを圧迫しておいてほしい。」

 

「了解しました。ブリタニア海軍を弄べるように鋭意努力していきます。」

 

「ははは、頼もしい限りだな。」

 

前原の頼もしい言葉を聞いて軽く笑って返す高野であったが前原の次の言葉を聞いて表情を硬くする。

 

「ところで閣下。インド洋で守り抜いた姫君の件ですが、先の事件もあって少々苦しいのではないのですか?」

 

「…その通りだな。大々的に宣伝していたわけではないので表面上問題はないが、閣僚や軍高官は知っていたのでな。今回のブリタニア第三皇子暗殺は喜べないものだ。新興のレジスタンスがやったこととはいえこのタイミングでこの人物を…とは思ったものだよ。」

 

「迎えた第三皇子を亡命政党政府として樹立して揺さぶりを掛けられたかもしれませんでしたからね。」

 

「ああ、我々も少々肩を落としたものだよ。一応言っておくがライラ皇女は死札ではないぞ。彼女自身が枢軸の非道の生き証人であることには変わりない。時期を見計らう必要はあるが彼女には彼女の役割があると言事だ。だがそれはおいておいても大高閣下や桜坂大臣も言っていたがこのゼロと言う人物はただものではない様だな。」

 

「ええ、ブリタニアの臨時統制官の弱みを握る諜報能力。そしてあの一連の作戦を指揮する指揮能力。そして、あの後の他の現地レジスタンスへの影響を見るにカリスマもですな。」

 

「インド洋での結果を見るに彼の登場は不幸中の幸いなのかもしれんな。」

 

「ゼロ…。キョウトは接触するかは検討中らしい。大高閣下も同様に今は様子見の様だ。だが、何者であれ敵には回したくない人物ではあるな。」

 

「はい。」

 

 

 

定例閣僚会議休憩時間休憩室での会話

 

「しかし驚いたな。普段はお飾りに徹している陛下が大高閣下に異を唱えるとは…。」

 

桜坂総務大臣の言に島軍需大臣が「そうですね。」と応じる。

 

「陛下も最近の若者によくいるゼロ支持者だったようだ。確かに口先一つで臨時統括官をあそこまで弄ぶ姿は胸踊らされはしたし、陛下の考えもわからなくはないが…。」

 

「そうですね。最近はパッとしない日本解放戦線でも占領地では最大の抵抗勢力。昨日の今日でゼロに乗り換えると言うのもいいはずがありません。」

 

「大高閣下もゼロとの協力は視野に入れているようだが時期尚早と考えているようで今は様子見と言ってたからな。俺もそれでいいと考えている。ゼロと接触するのはゼロが次に行動を起こしてその結果次第だろうな。ところで聞いたか?ブリタニアのクロヴィス第三皇子の妹の…なんて言ったか…。」

 

「ライラ皇女では?」

 

「そうだ。そのライラ皇女、豪和家が預かるそうだぞ?」

 

「豪和…ああ、雷電の開発企業ですね。ライラ皇女の背景的にあそこが興味を持つ可能性はありましたからね。あそこも数年前までは随分オカルトじみたことをしていましたからね。これを期にオカルト実験を再開するのでしょう。」

 

「いいのか?放っておいて?」

 

「問題はないと思いますが。あそこのオカルト事業は別に非人道的な事をしているわけではありませんしね。何かコード付きのヘルメットかぶって日本舞踊踊るだけのよくわからないことをしていましたが問題はないと軍産複合体理事会で判断しましたので何か成果があったら幸運とでも思っています。豪和インスツルメンツが勝手にやっていることで…気にすることもないでしょう。桜坂大臣?」

「まぁ、そうだな。」

 

 

 

アシュフォード学園寮の一室

 

ブラウス一枚を来ただけの薄緑髪の長髪の少女C.C.はパソコンをいじっているルルーシュに話しかける。

 

「なぁ結局オレンジとはいったい何だったんだ?……なんだ?」

「人の質問には一切答えないくせに俺には質問するんだな。」

 

お互いに皮肉交じりの会話が繰り返されるが不思議とその中に嫌悪感と言った負の感情はない。ルルーシュとC.C.の関係が共犯者であるからなのだろうか。

 

「答えたくなければ答えなければいい。私のようにな。」

「でまかせだよ。オレンジなんて…。だが同志とか言いたがる連中程、疑惑と言う棘で簡単に分裂するものだからな。」

 

「っふ。世界中がお前を探している。世界中がお前のために動いている。ルルーシュ、お前はこれが見たかったのか?」

「いや、この騒ぎは手段に過ぎないよ。世界はもっと大きな混乱に叩き込まれる。」

 

 

 

皇歴2017年6月30日

 

中部最大のレジスタンスサムライの血に続き占領地レジスタンスの有力勢力ヤマト同盟壊滅。これ以外にも多くのレジスタンス勢力が壊滅した。

 

日本皇国北海道の首相官邸にいる大高の耳にも届いていた。

 

「サムライの血に続きヤマト同盟もですか。流石はコーネリア・リ・ブリタニア…武断の人と言った所ですな。」

 

「その通りですが、高野総長。我々もただ感心しているだけとはいきませんぞ。陸軍のKMFの更新が遅れており、海軍も3個艦隊がドック入りで運用不能。現状では少々手詰まりとなってしまいました。」

 

高野はコーネリアをそう評したが、大高の評価はそれ以上の様だ。さらに皇国軍の戦力が低下している現状流石の大高にも僅かながら焦りが出ている様だ。

 

「大高閣下。陸軍はKMFこそ遅れておりますがそれ以外の兵器に関しては枢軸に対し優位に立っていると思われます。」

「空軍も新型機の更新が進んでおり制空権の奪還は可能と考えております。」

 

「では、現有戦力で本土奪還は可能ですか?」

「「………」」

 

陸軍参謀総長の桂と戦略空軍長官の源田は大高の言に言葉を詰まらせる。

 

「空海は別として今や陸の主兵力はKMFを中心としています。陸はKMFがない事には始まりません。」

 

「大高閣下。今は各地のレジスタンスと連携しコーネリアの足を引っ張る事が重要かと考えます。この際です少し早いですが近いうちに第五世代機震電の更新が形になると聞いています。ですので雷電の提供を増やしても良いのではないでしょうか?」

 

桜坂の提案に大高は三長官の方を見て意見を求める。

 

「守りに徹するのであればとだけ。」

桂はそう短く答える。

 

「今はただ耐える時と言った所ですな。」

大高の言葉に閣僚たちは黙したまま頷いた。

 

話はひとまず区切りとなり大高含む閣僚たちは一息入れ始める。

大高もお茶に手を伸ばそうと手を動かす。その大高に秘書官が速足で横に立ち耳打ちする。

それを聞いた大高は目頭を強く抑える。

 

「また…ですか。厄介なことは往々にして立て続けに起こるものですな。やってくれましたよ。片瀬君のところの日本解放戦線が…。」

 

「いったい何があったのです。」

桜坂の問いに大高は冷めたお茶を一気に飲み干してから答える。

 

「日本解放戦線の暴発ですよ。サクラダイト生産国会議で民間人を巻き込んでの立てこもりです。」

 

「な、片瀬の阿呆が!部下を掌握できなかったのか!」

「…日本解放戦線は弱体化するな。であれば日本解放戦線の代わりを探さねばなりませんな大高閣下。」

桂は日本解放戦線の片瀬を罵倒し、高野は皇国の次のパートナーをどうするか大高に問いかける。

 

「高野さん。片瀬の次は思いのほか早く見つかりそうです。」

大高は電源の付けられたテレビを見ながら高野の問いに答えた。

テレビには黒い揃いの制服を来た男女が並んで立っており、その中心にいるゼロがテレビの向こう側含む全ての人々に語り掛けていた。

 

『人々よ!我らを恐れ求めるがいい!我らの名は黒の騎士団!!我々黒の騎士団は武器を持たないすべての者の味方である!イレブンであろうとブリタニア人であろうとだ。日本解放戦線は卑劣にもブリタニア人の民間人を人質に取り無残に殺害した。無意味な行為だ故に我々が制裁を下した。クロヴィス前総督も同じだ。武器を持たぬイレブンの虐殺を命じた。この様な残虐行為を見過ごすわけにはいかない。故に制裁を加えたのだ。私は戦いを否定しない。だが強いものが弱いものを一方的に殺すことは断じて許さない。撃っていいのは打たれる覚悟のある奴だけだ。我々は力あるものが力なきものを襲う時、我々は再び現れるだろう。例えその敵がどれだけの力を持っていようとも!力あるものは我を恐れよ!力なきものは我を求めよ!世界は我々黒の騎士団が裁く!!』

 

「黒の騎士団…。」

閣僚の誰かが呟いた。大高・高野と言った一部を除きゼロの姿にテレビ越しであっても圧倒されていたのだ。

 




もう一話投稿します


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第16話 日本解放戦線存続

 

河口湖での日本解放戦線過激派のホテルジャック事件をブリタニア軍を抑えながら解決した黒の騎士団の華々しいデビューから始まった。黒の騎士団は宣言通り弱者の味方を体現する行動を実行し続けた。民間人を巻き込むテロや横暴なブリタニア軍、汚職政治家や悪徳企業に犯罪組織。黒に騎士団が英雄視されるまで然程時間は掛からなかった。リフレイン麻薬の巨大倉庫の破壊の一件で占領地の民衆の支持率は圧倒的であり、黒の騎士団と与するべしとの声が政府内で叫ばれ始めた頃であった。

 

日本皇国北海道政権中枢に成田連山の日本解放戦線壊滅の報が届いたのは…。

 

 

皇歴2017年8月2日

 

戦時中と言うこともあって大高は高野や桂ならびに源田と言った3軍トップたちといる事が多い。この時も例にもれず彼ら3長官のうちの高野と桂を引き連れて速足で官邸会議室へ向かっていた。

 

「片瀬少将ら幹部は房総半島の拠点に身を寄せています。」

「藤堂中佐ら四聖剣の者らの消息はつかめていません。」

 

「日本解放戦線は我が国が支援している最大の協力勢力です。見捨てるわけにはいきません。官僚や議員達の中には黒の騎士団に乗り換えようとしている者達が増えております。ここはそう言った者達を説き伏せて解放戦線の人員を黒の騎士団ではなく皇国軍で抱き込むなり、解放戦線に残留させるなりして対応しなくてはなりません。早急に片瀬少将と接触しなくてはなりません。」

 

会議では黒の騎士団を持ち上げようとする者と解放戦線を擁護する者達で紛糾した。また、解放戦線を擁護する派閥の中でも皇国の支援で崩壊を防ごうと考える者と大高同様に皇国に抱き込もうと考える者で意見が割れていたのだが挙国一致内閣の強み大高の鶴の一声で大高の意見が通された。かくして皇国は解放戦線の延命へと動き始めた。

 

 

皇歴2017年8月5日

 

大高の命を受けた皇国3軍は解放戦線と接触し解放戦線の脱出作戦を立案。

タンカーによる脱出作戦を囮に陸路にて脱出する計画を計画していた。

 

 

成田での戦いで藤堂他四聖剣の所在不明な状況が続きほぼ半壊状態の日本解放戦線であったが総大将である片瀬帯刀少将の健在によって各地の部隊の糾合が行われ戦力の再編が進んでいた。

しかし、この情勢下において日本解放戦線の関東撤退は避けられないものとなっていた。

 

そしてこの時、キョウト・北海道政権・日本解放戦線の間で今後の対応に関する協議が行われていた。

この会議は日本解放戦線の首魁片瀬帯刀、キョウトの実質的支配者桐原泰三、北海道政権 総理大臣大高弥三郎、キョウトと北海道の名目上のトップ皇神楽耶の4人で行われた。

この会議は日本解放戦線の今後を占うものであったが、その行動を決めるのは桐原と大高の考え次第であり神楽耶はキョウト・北海道の名目上のトップであり日本解放戦線から手を引こうとしている桐原と組織の延命を図りたい大高とで対立するのは必須であり、その間を取り持つ役目でもあった。

 

「我々北海道政権は日本解放戦線への支援を継続するつもりです。」

 

「大高首相は日本解放戦線の立て直しが可能と思っておられるので?」

 

「無論です。桐原翁は新興の黒の騎士団に乗り換えようとされておられるようですが…。地盤…。出自としても市民を中心とするレジスタンスと違い解放戦線は国軍が原型です。抵抗勢力としての練度。旧国軍であるゆえにキョウトによらない旧日本の政治家や企業とのつながりをも持ちます。仮にキョウトが手を引いたとしても弱体化しても組織を維持するでしょう。それだけの力はあるでしょう。」

 

「それが北海道が日本解放戦線を推す理由か?だが逆を言えば組織の地盤以外の組織の勢い、指導者のカリスマ性、戦力も民兵としては破格の強さ。地盤はわしらキョウトやぬしの北海道で補填すれば問題ないはずだ。むしろ、わしらや北海道から失われつつある勢いを持っているのは黒の騎士団ぞ?」

 

「七年…七年ですぞ。日本解放戦線は七年もの長い間、ブリタニアの完全な支配を跳ねのけて来たのです。その功績を加味するべきではないでしょうか?」

 

「しかし、大高の…。その七年での日本解放戦線の疲弊がこの度の日本解放戦線の半壊につながったのではないのかね?」

 

桐原翁は騎士団に乗り換えようとしており今までの関係を無視したこの動きは他の有力レジスタンスから軽薄と取られるかもしれなかった。しかし、大高も日本悪しき風習である縁故の優先を匂わせるものがありどちらにも一理ありどちらにも一理ない並行する議題でもあった。

桐原と大高の話は完全に平行線で進展が無くなっていた。

 

片瀬は自身の進退に関わる内容であったが発言を控え、流れを静観する構えを見せていた。

正直なところ途中から二人の白熱する議論に口が出せなくなっていたというのもあった。

 

ここで神楽耶が口を開き折衷案とも言えるものを述べる。

 

「わたくしの意見を申し上げるのであれば…。黒の騎士団の地盤を盤石にするための支援は必要だと思いますし…今後の主導は黒の騎士団であるとも考えております。ですが、日本解放戦線もブリタニアに対する重要な布石であることは変わることありません。であるならば…キョウトと北海道で黒の騎士団と日本解放戦線それぞれの支援を分けることが良いかと思います。一応言っておきますが、これはキョウトと北海道の対立を煽るものではありません。現在、キョウトと北海道では兵器の生産ラインが違い操縦系整備関係で現場が苦慮していると聞きます。そう言った意味でも担当する支援勢力を分けるべきであると思いますがどうでしょう?」

 

大高と桐原は額を抑えたり顎をしゃくったりして暫しの間思案する。

 

「…それが妥協点でしょうな。」

「そうだな…」

 

 

この4者会議が終了し神楽耶が退席したのを確認した桐原は他の幹部達を集めて合議する。

そこはキョウトでも最重要の富士鉱山の拠点であった。

 

「北海道は桃園宮、九条宮を皇籍復帰させてから我らから距離を取りつつある。」

 

「我らの象徴は神楽耶だけで十分であろう?」

 

「我らも北海道もそう余力があるわけではない。黒の騎士団一本に絞るべきではなかったか?」

 

「だが、ブリタニアから解放した日本を主導するのは我らキョウトでなくてはならん。北海道の動きは警戒しておくべきだろうな。手を打つべきか…。」

 

北海道政権は黒の騎士団や日本解放戦線と言った通常の抵抗勢力と違い多くの政治家や経済基盤を保有しておりキョウトと同等に政権運用能力を持っており日本解放後キョウトにとって代われるだけの力を持っておりキョウトの幹部陣は少なからず警戒していた。

幹部陣の意見に桐原は反対する。

 

「…いや、今はしばし、あやつらを…。そして北海道と日本解放戦線を泳がせておきたい。駒は多いに越したことはないしな。いざとなれば不要なものを切り捨てればよいだけのことだ。どれが残るか?あるいはすべてが残るか?いずれにせよ、我々キョウトがある限り日本独立の灯は潰えない。」

 

 

 

 

そのころ、大高は高野や桂と言った軍の要人を呼び寄せ片瀬も解放戦線の幹部を呼び寄せる。

北海道政権と日本解放戦線との間での今後の対応における会議であった。

 

「日本解放戦線の勢力維持は今後の戦いに大きな影響を及ぼすでしょう。片瀬少将には心苦しくは思いますが解放戦線の首脳部を我れらの陸奥港湾要塞に一時避難して頂き戦力の再編に力を注いでいただきたいと思っております。」

 

「致し方なき事とは理解しているが…。ブリタニアの占領地から離れることは他の目から見て逃げたようにしか思えないのでは?」

 

「形式的には片瀬少将の陸奥入りは我ら北海道政権からさらなる支援を引き出すと言う形を採ればよいでしょう。」

 

「無論、あなたの影響力の低下も防がねばなりません。ですので我々、北海道政権は新型の第五世代機を提供します。もちろん東南アジア諸島に送る予定の初芝系ではなく皇国軍が採用している豪和系の震電をです。」

 

「震電!?震電をか!?」

「本当か!」

 

大高が新鋭機の震電を提供するとの言葉で解放戦線の列席者に衝撃が走る。

豪和インスツルメンツ製の第五世代KMF震電。見た目こそ雷電と瓜二つであったがその中身は完全に別物でその性能はブリタニアのサザーランドを凌駕するとされ、同盟国ロシア帝国は勿論、ブリタニアと敵対するEUやアラブ諸国に潜在的なブリタニアの対立国中華連邦や北欧同盟にも注目される存在であった。輸出用の第五世代機初芝五洋ホールディングスの嶺花もそれなりに注目されている。

 

「震電…。それならば成果としても十分…解放戦線の勢力も対して削がれないであろうな。」

「では」

片瀬が大高の案を飲むそぶりを見せる。幹部の一人が片瀬に確認すると頷いて諾の意を示す。

 

「片瀬少将の方もご納得いただけたようですな。」

 

「はい。口惜しくもありますが引き際は弁えておりますので…。ですが、脱出するにしてどのようにされるので?」

 

「もちろん。考えていますとも…そのための彼等です。」

そう言って大高は自身の傍に光る高野たちを示す。

 

「では、日本解放戦線の撤退作戦の指揮はこちらの黒木君が執り行います。」

三長官のリーダー格である高野五十六が目配せをして前に出るように促す。

高野に促されて一歩前へ歩み出て来た若いがいかにもエリートな士官が自己紹介をする。

 

「皇国軍特殊戦略作戦室室長、黒木翔特佐であります。本作戦の指揮は自分が取らせていただきます。どうかよろしくお願いします。」

 

 



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第17話 策謀と残照

 

ルルーシュは自身に好意を持っていた少女シャーリーの父親を殺してしまった事を期に修羅の道を行くことを決める。

 

「扇か?私だ…ゼロだ。」

 

 

ブリタニア政庁

コーネリア率いるブリタニア軍も日本解放戦線の片瀬脱出計画をつかむ。

 

「それは確かか?」

「間違いありません。神奈川県横須賀地区に解放戦線の残党が集結しているのを確認しております。また、久里浜港に多くの兵員を搭乗させることが出来る船舶が停泊しています。」

 

コーネリアはギルフォードからの報告を受けて情報の真偽を問う。

 

「どうして、そう思った?」

「久里浜港にはタンカーが停泊しております。恐らくタンカーは液体サクラダイトを搭載していると思われます。おそらく逃亡先への手土産でしょう。それとこれを…」

 

ギルフォードはコーネリアに資料を渡す。

 

「ほぅ…」

「解放戦線の首魁片瀬の動向こそつかめませんでしたが…。」

 

「元関東州副州知事川原龍二。北海道政権のナンバー3桜坂満太郎の片腕…。大物だな…。」

「その川原が先日秘密裏に久里浜入りしたと情報部が掴みました。それと十海汽船とその関連会社の保有船舶の一部に予定外の動きがあります。」

 

「十海汽船…イレブン系の企業か。」

「逮捕させますか?」

 

「しばらく泳がせよ。片瀬に川原…解放戦線の幹部や潜伏していた日本の政治家。おそらく解放戦線は他のレジスタンスにも救援要請を出しているはず。一網打尽に出来るはずだ。手はずを整えてくれ。」

 

その頃、片瀬少将は北海道政権の黒木特佐の作戦に従いトラックに乗り込みただひたすら北を目指していた。

 

 

来たる皇歴2017年8月23日

 

久里浜港で脱出を図る解放戦線残党とそれを殲滅せんと動くブリタニア軍。そして、それに介入しようとする黒の騎士団の戦いが始まった。

 

ルルーシュ達、黒の騎士団は今日の日没から始まる解放戦線殲滅戦に介入するために久里浜港の港湾倉庫の一つに身を潜めていた。

 

「確かにキョウトからも頼まれたし、こちらの受け入れも問題ない。解放戦線にしたって北海道に逃げ込むよりも我々と共に歩むことを選ぶはずだ!しかしっ」

 

扇の反対を無視しルルーシュは情報提供者のディートハルトに問いかける。

 

「ディートハルトと言ったか?コーネリアが海兵騎士団を投入して解放戦線の片瀬少将の捕縛をもくろんでいる。本当なのだな?」

 

「局では報道特番の準備に入っています。」

 

「片瀬少将は藤堂中佐と合流できず仕舞い。今の解放戦線に確たる武力はない。逃亡資金の流体サクラダイトが頼り。」

 

「だから、コーネリアと戦うよりは片瀬少将の脱出を優先して…!」

 

「扇、我々はなんだ?」

 

「く、黒の騎士団。」

 

「ならば、為すべきことは一つだ。コーネリアの部隊を壊滅させた上で日本解放戦線の残存部隊を救出する。成田での忘れ物を今日!取り戻すのだ。」

 

「勝算は」

「愚問いだな。」

 

「作戦準備を開始する。皆、先ほどの指示通り待機しろ。」

 

 

陸奥港湾要塞

今回の作戦を指揮する黒木翔特佐、陸奥港湾要塞の要塞司令官加倉井少将、東北方面軍管区軍司令官の志村武雄らは座席に座ってオペレーターや他の士官・下士官達が情報を処理している様子を俯瞰して見ている。

 

「桜坂国務大臣入ります。」

 

下士官がそう告げて扉が開く。黒木らを含む全ての要員が立ち上がり敬礼をする。

桜坂は下士官の案内で用意された座席に座る。

 

「久里浜にてブリタニア軍の展開を確認。解放戦線脱出部隊と交戦を開始!」

「坂本艦隊へ通達。南下を開始して圧力を掛けさせます。」

オペレーターの報告を聞いた黒木は指示を出す。それを聞いた海軍派遣士官が関係各所へ連絡する。

 

「片瀬少将が庄内へ差し掛かった時点で声明を出してもらってください。そこからが北海道の勝負どころです。」

 

 

 

 

 

久里浜港

久里浜港から脱出しようとする解放戦線の3隻の船舶と港湾施設に陣取って船舶への射撃を行うブリタニア軍。

解放戦線は船舶の上になけなしの無頼や雷電を出して迎撃するものの圧倒的に不利な状況であった。

脱出船舶のひとつ客船サルビアン丸では川原が環境のゲスト席に座って戦況を見守っていた。

 

「坂本艦隊より通信です。 ブリタニア艦隊 ト 戦闘ニ 入ル 脱出 ヲ 急ガレタシ。」

 

状況は彼らの脱出を許すものではなかった。川原は首を横に振り副官他周囲の士官に告げる。

 

「今は時間を稼ぐことが重要だ。解放戦線の将兵諸君、命を惜しむな名を惜しめ。ここで散らした命が後に必ずや祖国解放の礎となる。(桜坂君、後は頼んだぞ。)」

 

海兵騎士団のポートマンが後続のタンカーと貨客船立花丸に取り付く。

 

 

 

 

「応答しろ!どうなっているんだ!これじゃ手遅れになる!ゼロはいつ動くつもりなんだ。ナイトメアが船に取り付いた!!」

黒の騎士団に偽装された港湾施設のクレーンでは状況を見守っていた扇が苛立たし気に通信機を怒鳴りつけた。

 

「脱出路は一つであったな。流体サクラダイトを大事に抱えて…」

 

「ゼロ!早くしないと!」

 

「分かっている。出撃…」

ゼロ(ルルーシュ)がそう言ってスイッチを押す。

 

タンカーの下の海底に取り付けられた高性能機雷が反応して爆発する。そしてそれはタンカーの流体サクラダイトに引火して大爆発を起こす。立花丸とサルビアン丸は波に煽られて転覆する。

 

 

黒の騎士団、ブリタニア軍。その場の誰もが唖然とする中、ルルーシュだけが冷静であった。

この爆発は彼の策謀であるのだから…。

 

「さすがは日本解放戦線!ブリタニア軍を巻き込んで自決とは。我々はこのままコーネリアのいる本陣に突撃する!それ以外にはかまうな!!結果はすべてに優先する!結果はすべてにおいて優先する!日本解放戦線の血に報いたくばコーネリアを捉え我らの覚悟と力を示せ!!」

 

「これじゃあ成田の二の舞じゃないか!?おい、どこに行く!!」

ディートハルトは扇の制止を無視してその場から走り出す。

 

「こうでなければ!(解放戦線を囮に手薄になった敵本陣に攻め入る。定石だがそれではいまひとつ弱い。そうだ!どうせなら敵の戦力をそぎ落とした方がいい!落ち目の解放戦線を生贄にして…。やはり、ゼロは素晴らしき素材。カオスの権化だ。もっと、もっと見せてくれ!あなたの主観に満ちた世界を!はははは)」

 

 

 

鹿島灘のあたりでブリタニアの迎撃艦隊を突破した坂本艦隊も解放戦線の自決を観測していた。

通信参謀からの報告を聞いた坂本艦隊司令長官坂本良馬は予想外の事態に目を見開いて驚いていた。

 

「解放戦線自決!!サクラダイトタンカーによる自爆!!川原元副州知事の安否不明!!」

 

「な、なんだと!?自決!?自決だと!?我が艦隊は敵の包囲を破ったのになんと早まったことを!?………作戦中止!作戦中止だ!!脱出船舶が動けるのならまだしも全部が轟沈しているのであれば救出は不可能だ。敵領海のそれも主要港湾付近に留まるのは危険だ。遺憾ながら撤退する。」

 

「遅参した黒の騎士団がブリタニア軍コーネリアの陣地に攻撃を開始!」

 

「解放戦線を囮にしたか。気に入らんが援護はしておこう。ミサイル発射用意!目標!!久里浜港湾施設!!」

 

 

 

 

ブリタニア軍コーネリア本陣

「緊急騎乗!防衛線を形成せよ!」

解放戦線の自爆自決を受けて混乱する場を抑えんとダールトン将軍が周囲に指示を出す。

 

コーネリアも自身のKMFに乗り込み迎撃戦に加わる。

久里浜港は坂本艦隊の嫌がらせのミサイル爆撃によってあちこちから火の手が上がっていた。

 

「わたしにKMFで勝てると思ったか!!」

 

紅蓮を狩るカレンとルルーシュの二人にコーネリアは追い詰められる。

 

「ハッチを砕いて引きずり出してやる。コーネリア…」

それにルルーシュもカレン達を引き連れて迎え撃とうとした。ルルーシュは引き金に指を掛けるが、視界にある人物が目に入る。

 

「(シャーリー!?)」

 

シャーリーに気を取られたルルーシュは隙を作ってしまう。

そのルルーシュの無頼改にスザクのランスロットが襲い掛かる。

ルルーシュを助けようとしたカレンであったが復帰したコーネリアに阻まれる。さらに周囲から立て直したブリタニア軍のKMFが集まってくる。

 

ランスロットが無頼改を退け、紅蓮はコーネリアのグロースターを反りぞけた。

ランスロットと紅蓮はお互いの上官もしくは仲間を守るためにぶつかり合う。

 

そして、偶然にも一人の少女がゼロの正体を知ってしまったころ。

 

 

 

陸奥港湾要塞

 

「川上ィいいいい!!」

桜坂は立ち上がり叫んでいた。

他の士官や管制官達も予定外の事態に混乱が見えた。

 

黒木は形式上の上位者の桜坂を一喝し落ち着かせる。

「桜坂閣下、事態は急を要します!!閣下、ここで冷静な判断をしていただかなくては困ります!!」

「す、すまない。」

「閣下、お疲れででしたら別室でお休みください。」

「……すまないがそうさせてもらう。指揮権は私が持っている形式的な物も含めて黒木君に一任する。」

 

「っは」

 

黒木は桜坂ら文官らが退出したのを確認してから指示を出す。

 

「作戦を一時繰り上げる。片瀬少将に声明を出してもらう。」

 

 

 

 

久里浜港での戦闘はブリタニア軍と黒の騎士団はお互いに拮抗していたが、時期にブリタニアに傾くのが理解できた扇は及び腰であった。

 

「ゼロと連絡がつかない!!どうすれば…!?こ、これは…」

 

扇はたまたま点けっぱなしにしていた港湾施設のプレハブのテレビから流れる映像が目に入った。この放送のことを知った恐らくこの場いる者達は動きを止めた。

 

 

 

『私は日本解放戦線の指導者。片瀬帯刀である!!この度の久里浜での戦いは敗北したがこの片瀬は生き、解放戦線も存続していることをここに知らせるものである!!』

何せその放送には死んだと思っていた片瀬少将が映っていたのだから。

 

 

 



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第18話 第二次奥州解放戦争前編 集結

11月3日、庄内戦争から第二次奥州解放戦争へ題名変更


『私は日本解放戦線の指導者。片瀬帯刀である!!この度の久里浜での戦いは敗北したがこの片瀬は生き、解放戦線も存続していることをここに知らせるものである!!』

 

片瀬の声明は北海道政権・キョウト他多くのレジスタンスを経由して多くの人間の知るところとなる。

 

現在のブリタニア軍は解放戦線の囮の自爆にまんまと嵌められた上に横合いから黒の騎士団に強烈な一撃をお見舞いされ面子丸つぶれな状況であった。

 

 

皇歴2017年8月24日ブリタニア政庁

 

「っ…北の僻地に籠る腰抜けと侮るべきではなかったか。」

「はい。坂本艦隊の出現の時点で対処するべきでした。姫様申し訳ありません。」

 

悔しそうにテレビの映像を睨むコーネリアと自身の不手際を謝罪するギルフォード。

 

「片瀬が庄内にいるのは間違いないでしょう。現地レジスタンス庄内義勇軍が片瀬の傘下に入ったのは間違いないでしょう。あの声明で片瀬の横にいた男は庄内義勇軍の首魁佐川善兵衛で間違いありません。」

ギルフォードの隣にいたダールトンはテレビに映る片瀬の隣で軍刀を杖にして床几に座っていた老軍人を見て発言する。庄内義勇軍、退役軍人を中心とする解放戦線に次ぐ練度を持つレジスタンスである。

ブリタニアでは北海道政権は単に北と呼ばれたり北海道もしくは北海道軍などと呼ばれている。北海道軍などと呼ばれている時点で北海道政権はレジスタンスの中でも別格扱いであった。今までは日本において大規模な行動がここ7年程なかったために黒の騎士団の影に隠れてしまっていただけなのであった。

 

「思った以上に解放戦線の回復が早いな。間違いなく北海道の手引きだな。」

「間違いないかと…。以前から庄内は北海道の工作員や潜伏兵の姿が確認されていました。」

「北海道軍…ゼロの陰に隠れていたが大高弥三郎侮りがたしですな。」

「そうだな。」

 

3人は北海道政権の首魁大高弥三郎らの評価を上方修正した。

話し合いの最中に乱暴に扉を開けて伝令の下士官が飛び込んでくる。

 

「緊急です!!北海道陸軍南下を開始!!推定戦力4個師団です!!」

 

7年と言う時を経て日本皇国北海道政権と言う眠れる龍が目覚めようとしていた。

 

「北海道軍…。遂に動くか…油断ならぬ相手だ。それがここまでの動きを見せるとは…舐められているのか。それともこれも大高の術中かはわからぬが受けて立ってやろうではないか。」

「姫様。それは危険です!」

「ここで北海道の出鼻を挫かねば黒の騎士団含め他のレジスタンスも活気づき手に負えなくなる。ここは一戦し何らかの結果を出さねばならん!ギルフォード!ダールトン!戦力を急ぎ編成せよ!!」

「「っは!」」

 

 

 

 

アシュフォード学園寮私室

コーネリアの予想通り占領地内のレジスタンスは活気づいていた。特に北陸のレジスタンスは片瀬に合流しようと比較的規模の大きい動きを見せていた。

そんな中で黒の騎士団は不気味なまでな静けさを保っていた。

それもそのはず、ルルーシュは誰かに顔を見られた恐れがありその対処に追われていたからだ。

「このタイミングで動くか北海道政権軍。くそっ顔さえ見られていなければ!!俺が直接動いたものを!…扇に一任して形だけでも参加しておくか。」

 

 

この戦いにルルーシュは別件の対処に追われることとなり、ほとんど関わることが出来なかった。

 

 

 

庄内地域日本解放戦線軍潜伏地

藤堂らとの合流は出来なかったものの日本解放戦線は庄内義勇軍を中心に多くのレジスタンスと合流して急速に戦力を回復していった。

「申し訳ない千葉中尉。我々はもうすぐブリタニアと大規模な戦闘が控えておるのだ。その後はわしらは一時北海道政権の勢力下に身を寄せるつもりなのだ。無論、こちらから出来る手は尽くすつもりだ。本当に済まない…」

 

『いえ、私としても片瀬少将の今の状態は理解していました。こちらこそ無理を言ってしまいました。失礼します…』

 

千葉との通信が切れる。片瀬の目から見ても明らかに肩が落ちていたのが分かる。

 

「よろしかったのですか?片瀬閣下?」

「佐川大佐…。私としても今でも藤堂がおればと思うところがあります。故に中尉に協力すると言う選択肢はありました。ですが、この戦いでブリタニアに一太刀浴びせることが出来れば…。それは藤堂中佐達の助けにもなる。故に今は…」

「片瀬閣下…行きましょう。酒田市で北海道政権軍と合流しましょう。」

 

解放戦線の車列が北海道政権軍の先遣部隊の車列とすれ違う際に2人は車列から降りて先遣部隊の隊長と敬礼を躱す。向こうの隊長も車から降りて敬礼を返す。

 

「対KMF重誘導弾連隊連隊長権藤吾郎大佐です。片瀬閣下の撤退を支援いたします。」

「よろしくお願いします。」

 

 

皇歴2017年8月25日陸奥港湾要塞 作戦司令部

陸奥港湾要塞の指揮所では加倉井・志村の2人の司令官が黒木から作戦の説明を受けている。

「南下している4個師団の内3個師団は囮です。時間距離的に本作戦の戦闘には加われません。実質戦力はこの東北方面の第五師団、片瀬少将率いる解放戦線を中心としたレジスタンス連合…権藤大佐の対KMF連隊です。そして…」

 

黒木がコンソールを動かして新兵器の詳細を示した画面が現れる。

 

「画面の鉄塔は通常の鉄塔ではありません。これはマイクロウェーブ6000サンダーコントロールシステムです。空にヨウ化銀を散布し人工雲を発生させ、地上に固定した電位差発生装置もしくは鉄塔の天頂部に取り付けられた電力放射装置とソニックビームシステム車に搭載した電位相増幅装置で人為的に雷を発生させるものです。その雷撃は、戦車1台を溶かすほどの威力と言えばいかほどのものかおおよそご理解いただけるでしょう。」

 

黒木の説明と共に実験映像が流れる。加倉井・志村らは「おぉ!」と驚いた様子で映像を凝視していた。

 

「作戦領域の庄内平野酒田市までは陸軍と諸レジスタンスの各種戦闘車両及びKMF隊による攻撃でブリタニア軍を誘導。誘導後は連携して引き続きブリタニア軍を作戦領域から外に出さないための威嚇、牽制攻撃を行うものとします。現在、第五師団との合流の時間を稼ぐために山形新幹線を北上するブリタニア軍を権藤大佐の対KMF連隊が足止めしています。」

 

庄内平野は表面上ブリタニアの支配地域であったが皇国支配地域に近く7年前の皇国軍の南下の際に多くの工作員に入り込まれレジスタンスの活発化、住民の反ブリタニア化が深刻な地域であった為にブリタニア軍の目をかいくぐって偽装した兵器を配置することが可能だったのだ。

 

日本海山形酒田港近海 白銀艦隊

 

情報処理・射撃指揮装置。イージスシステムを搭載した艦が多く配備されている最新鋭艦隊が山形酒田港近海に展開する。

もえかはタブレットをいじりイージスシステムが酒田市内の作戦領域に展開されたこ確認

する。

「桃園宮司令。イージスシステムの展開を確認。これより陸軍のイージスシステムとのリンクを開始します。」

 

「やって頂戴。作戦領域に敵のミサイルも航空機も一機も入れてはなりません!」

那子は皇族として艦隊司令として強い意志を込めた瞳で酒田市の作戦領域を睨んだ。

 

白銀艦隊は対空管制を担当しミサイル迎撃を担当する。白銀艦隊を迎撃してくるであろうブリタニア艦隊は高杉英作率いる東太平洋艦隊が日本海で迎え撃つ。

 

 

庄内平野酒田市作戦領域上空 特殊戦闘機グリフォン

 

『ヨウ化銀、酒田市上空に散布完了!これより2時間で人口雲発生。』

『支援部隊、間もなく酒田市に集結完了!』

 

「これより上空にてホバリング状態を維持しつつ管制を開始する。」

「了解!…白銀艦隊よりイージスシステムのリンクが始まりました。航空管制は変わらずこちらで行うようにとのことです。白銀艦隊航空隊の指揮権が移譲されました。」

「移譲を確認した。」

 

グリフォンを守る様に展開する戦闘ヘリ群と東北各基地と白銀艦隊より出撃している航空機隊。これらはグリフォンで指揮を執る辻森桐子少佐の傘下に入る。彼女は黒木特佐の直轄部隊グラスパーの隊長である。

 

 

新庄盆地 対KMF重誘導弾連隊

 

「これで10機目です!誘導弾命中!敵脚部損傷!」

「ようっし!!ここまでだ!総員酒田市まで撤退!!」

 

権藤吾郎大佐は部下の肩をたたき撤退を指示する。

 

「よろしいのですか?」

「あぁ!もう十分だ。奴ら、機体の応急修理でしばらくは動けん。」

部下たちはその場から走り去る。一人遅れた権藤は遠くで混乱しているブリタニア軍に一人軽口を叩く。

 

「重弾頭の次は痺れる雷撃だぜ…ブリタニアさんよぉ。」

 

 

庄内平野酒田市作戦領域地上

 

「降車!」

皇国陸軍の歩兵たちが一斉に輸送トラックから降車し、レジスタンスの歩兵部隊と合流する。

 

「接続完了!」

工兵たちが電位差発生装置とソニックビームシステム車を接続し、鉄塔に電力放射装置を取り付ける。

 

「戦闘車両は最上川対岸に待機!」

15式自走砲重戦車と10式や90式・74式戦車を前列に、自走榴弾砲車やミサイル車両を後列に並びブリタニア軍を待ち構える。

 

さらにその後ろでは皇国陸軍の雷電や震電、日本解放戦線の無頼、庄内義勇軍が強奪したナイトポリスが整列する。

 

「こちら移動前線指揮所。地上の電位差発生装置は作戦開始20分前までに100基設置予定。対象の全ての鉄塔へ電力放射装置の取り付け完了。」

82式指揮通信車に乗った士官が片瀬たちの現地本部に報告する。

 

施設科と現地建設会社から接収したブルドーザーやショベルが剥き出しの電位差発生装置に土を掛けてたり瓦礫で隠したりして簡易的に偽装していき、それに加えて地面を平らに整地していく。

 

 

庄内平野酒田市作戦領域地上 現地作戦本部指揮所

 

「皇国陸軍東北方面軍管区軍麾下第五師団師団長本田雅晴少将。御到着です。」

 

「お通しするように。」

「っは」

皇国陸軍の到着を報告した下士官にその指揮官を通すように片瀬は命じた。

 

皇国陸軍本田少将、日本解放戦線片瀬少将、庄内義勇軍佐川元大佐と言ったキーパーソンが揃った。

 

3人が揃った所で、音声だけだった陸奥港湾要塞と映像付きで通信がつながる。これは上空管制を行っているグラスパーのグリフォン万能戦闘機を中継したものだ。

通信に陸奥港湾要塞に詰めている要人達が映る。黒木特佐、加倉井少将、志村中将、桜坂総務大臣、遅れて来た片桐副官房長官らの姿が映った。

 

本作戦の総指揮は黒木翔特佐。現地地上部隊は皇国陸軍第五師団師団長の本田雅晴少将で諸レジスタンス連合の盟主は片瀬帯刀少将である。オブザーバー参加として桜坂国務大臣と内閣官房副長官兼危機管理情報局局長片桐光男である。

 

 



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第19話 第二次奥州解放戦争中編 新兵器

庄内平野ブリタニア軍陣地

 

最上川を挟み対峙する両軍。両軍はそれぞれの岸に戦闘車両とKMFを並べている。

そんな様子をコーネリアらは双眼鏡などを使ってうかがう。

 

「KMFも戦闘車両も歩兵も今までのレジスタンスとは違う。数も練度も…油断は出来んな。定石通りの戦法だが別動隊を編成して一部部隊を迂回させるか。」

 

「迂回させないと言う選択肢はないでしょうが、敵は恐らくそれも考慮に入れているでしょう。我々がとるべき戦術は…」

 

コーネリアの言葉にダールトンは異見を述べ、ダールトンの言いたいことを先んじ述べるコーネリア。

 

「正面突破か?ギルフォードも同様?」

 

「敵は後続にさらに三個師団に加え多数の航空戦力と艦隊を投入しています。ある種の決戦と考えて相違ないでしょう。あまりこのようなことは言いたくないのですが…こうなるとブリタニアの伝統で考えても正面から敵を討つのが良作かと…。」

 

「いいだろう。敵が決戦を挑むのであれば…こちらも受けて立つだけだ。」

 

コーネリアは獰猛な笑みを浮かべる。間違っても妹のユーフェミアには見せない類の笑みだ。自分と同じタイプの勇将猛将の多い皇国系の将が相手なら自分の苦手(絶対に本人は認めないだろうが)とするゼロの様な策士タイプの将でなければ負けることはないと言う自負を持つ彼女ならではの笑みであった。

ただし、今回の作戦の司令官は彼女の苦手とする勝つためには手段を択ばないヤングエリートだったが…

 

「それにしても…北海道軍のやつら随分と巨大なレーダーだな…。」

「彼らは陸海空ともに電子戦に力を入れています。恐らくその関係かと…。」

「であれば、通信障害が起こることは考慮しておかねばならんな。」

 

「ダールトン、ギルフォード。こちらも早期警戒機と電子戦機を出して対処する。」

彼女達がこの車両搭載型のレーダーと誤認したものは皇国の新兵器のひとつソニックビームシステム車であった。この時点で気付けと言うのは無理な話である。

 

 

 

陸奥港湾要塞 作戦司令部

 

序戦のミサイル射撃戦が開始される。

両軍のミサイル車両やランチャー持ちのKMF、空対地ミサイルを装備した航空機による撃ち合いが始まる。

 

「白銀艦隊迎撃ミサイルを発射。」

 

酒田港近海に展開する白銀艦隊からも迎撃ミサイル及び対地ミサイルや艦砲が発射される。

ただし、前回の傷がいまだ癒えておらず本来の艦隊定数からだいぶ割り込んでいる白銀艦隊は今戦いの決定打にはならない。

 

また、ブリタニア軍は物量の上でも多くの弾薬を投入しておりミサイル車両の数もコーネリアが集中投入を決断したために皇国有利とはいかなかった。むしろ、皇国とブリタニアの戦いでは珍しくミサイル戦で拮抗しており皇国の陣地にもいくつかのミサイルが命中している。

 

内閣副官房長官片桐光男がもう一つの役職危機管理情報局局長の権限を行使して黒木に意見を具申する。

 

「黒木特佐。敵のミサイル戦が拮抗している。むしろ、敵に傾いているように見える。危機管理情報局局長として例の新兵器を投入することを進言する。」

 

「例の兵器?あれか。確かに、あの兵器はこういう時に投入すべきだ。わかった片桐局長の意見を受け入れる。ハイパワーレーザービーム車を対空隊ミサイル迎撃戦に参加させろ。」

 

黒木は片桐の意見を受け入れ新兵器の投入をオペレーターの下士官に命じる。黒木と片桐の間で例の兵器で通じたのはハイパワーレーザービーム車から始まる光学兵器の研究開発において黒木の特殊作戦室と片桐の危機管理情報局が共同して主導したからである。

 

「了解しました。ハイパワーレーザービーム車の投入を命令します。」

 

 

 

戦いは皇国軍及び諸レジスタンス連合VSブリタニア軍と言う、かつてのブリタニアの日本侵攻や奥州解放戦争同様の大規模なものとなった。

 

 

 

庄内平野酒田市作戦領域地上 現地作戦本部指揮所

 

皇国陸軍の下士官がパソコンに送られてきた命令を読み上げる。

 

「陸奥の作戦司令部よりハイパワーレーザービーム車の投入命令です。」

 

「命令を受諾した。ハイパワーレーザービーム車を即時投入。対ミサイル対空迎撃戦に参加させ押し返すぞ。」

 

「っは」

 

本田の会話を聞いて片瀬が尋ねる。

 

「本田師団長?レーザービーム車と言ったが北海道はその様な物も開発しているのか。正直、サンダーコントロールシステムだけでも驚いたのだが…。」

 

片瀬の横で庄内義勇軍の佐川も同様にこちらを伺っている。

 

「その通りです。性能は折り紙付きです。」

 

そう言って本田は片瀬達から視線を戻し指揮に戻って部下たちに指示を出していく。

 

片瀬と佐川はある種の光学兵器への興味から指揮所のテントを出てその目で見ようと席を立った。光学兵器は以前より研究されていたが日本本土占領後からは消失していた。

それを北海道政権が引き継いでも何らおかしくはなかった。ただ、彼らの様な年齢層の人間にとっては書面上存在を知っていても映画や娯楽アニメに出てくるびっくり兵器以上の認識がなかったためにしっくりこなかったのだろう。

 

レーザー砲、エネルギーパックを搭載した装置車と管制装置、サーチライトを搭載した牽引車が所定の場所で停車している。そしてレーザー砲が上空へ向けられる。

 

鮮やかな深紅のレーザーが放たれ多くの敵ミサイルと航空機を撃墜する。

その様子を片瀬はその目で見て拳を強く握る。

 

「この戦い…流れはこちらにある。勝てるぞ…」

 

 

 

庄内平野ブリタニア軍陣地

 

最上川を挟み対峙する双方の戦闘車両とKMFがついに撃ち合いを開始する。

 

ブリタニア軍の大型架橋戦車が射撃戦の合間を縫って最上川に仮設橋を架ける。

それを一番に渡り切り敵の陣地を荒らすコーネリアとギルフォード率いる近衛騎士団。

 

ダールトンは陣地に残り全体の統括指揮を行う。普段はコーネリアが行う事なのだが今回の戦いは北海道軍が本腰を入れている上に片瀬の要請に応じた各地のレジスタンスの指導者や幹部階級が多く集まっておりこれらを多く討ち取りたいコーネリアは前線指揮官として前線に専念することを選んだのだ。

 

鮮やかな深紅が空を走る。すると上空でいくつもの爆発が起こる。

 

「敵の新兵器か。…このままでは制空権が完全に奪われる。…姫様!制空戦が極めて不利な状況です!!直ちにお戻りください!!」

 

ダールトンは通信機に向かって叫んだが、意見をコーネリアは却下する。

 

『不要だ!敵の初期防衛ラインはすでに崩壊した!!敵司令部、片瀬を抑えれば制空権など無意味だ!!このまま押し切る!!』

 

 

 

庄内平野作戦領域地上

 

前線指揮官の西村正彦中佐は指揮通信車から顔を出しブリタニア軍が架橋し渡ってきたことを確認する。

 

「渡河防衛による第二作戦は失敗。第三作戦へ移行する。」

 

第一作戦は序戦のミサイル戦における飽和攻撃による殲滅。最近はブリタニア軍も対策をとってくるため第一作戦の成功率はかなり低下している。

 

 

 

庄内地方及び最上地方作戦領域地上 迂回路

 

この戦いには日本解放戦線、庄内義勇軍、北越救国会、鉄槌同盟、衝鋒隊、日本正義団、鎮撫勤皇党他多数と言った東日本の有力なレジスタンスほぼ全てが参加していた。

その中の一つに黒の騎士団があった。ゼロから派遣人員の委任を受けた扇は幹部陣から井上と吉田を中心にKMF2個小隊と歩兵小隊を派遣した。

レジスタンスの中核戦力は日本解放戦線と庄内義勇軍が担っておりこれらの主力は正面の戦線に集中的に配備されていた。

ちなみにレジスタンスでKMFを保有しているのは日本解放戦線、庄内義勇軍、北越救国会、黒の騎士団の4つだ。この4つ以外の義勇軍は戦車などの機甲戦力を保有しているレジスタンスでその他に数えられたレジスタンスは銃で武装している歩兵レベルのレジスタンスで対KMF歩兵武器を持っていれば御の字と言った程度だ。

 

迂回路の防衛には各レジスタンスと皇国陸軍部隊による混成部隊があたることになっていた。

迂回路防衛部隊は3つに分けられ黒の騎士団が配置されたのもその一つだ。

井上と吉田が振り分けられた混成部隊は黒の騎士団と北越救国会の派遣戦力と皇国陸軍のドラグナー実験小隊。そして権藤大佐率いる対KMF連隊が配置されていた。

ここ前線指揮官である権藤大佐は黒の騎士団の練度の高さを見抜き予備の対KMF重誘導弾を融通した。

 

黒木の信任が厚い権藤が配置されている時点でこの戦線も激戦区確定だ。

 

基本的にKMF部隊の相手はKMF部隊が対応するが、その間を縫って権藤の対KMF

部隊がブリタニアのKMFを攻撃する。

 

この連携は功を奏しブリタニア別動隊をほぼ撃滅することに成功していた。

 

「吉田君。敵は引いてくみたいよ。」

「そうみたいだな。」

 

『そろそろ決着するぞ!黒の騎士団と俺達は正面戦線へ移動だ!だがその前に頼みがある!手を出せ!デサントする!』

権藤は破壊された装甲車を示してKMFの手を伸ばす様に言ってくる。

 

「ほら、乗って」

『おぉ、すまない。』

 

井上達は権藤達をKMFの手に乗せて移動を開始する。

すると上空に線状の鮮やかな深紅の光が走る。

 

『確か黒の騎士団は団員の制服にサングラスがあったな。掛けとけ!』

「どういうこと?」

『いいからかけておけ。』

 

権藤の言ったものはどちらかと言えばサングラスと言うよりはバイザーのような形状だ。

言われた通り井上達はサングラスをかける。権藤達もサングラスを掛け、目を閉じて腕や手で覆い隠す。

その直後自然現象では説明が出来ないほどの雷が正面戦線に降り注いだ。

 

 

 

陸奥港湾要塞 作戦司令部

 

ついにブリタニア軍の主力部隊が本作戦の要、サンダーコントロールシステムの有効範囲に入った。オペレーターの下士官はその事を黒木達に報告する。

 

「ブリタニア軍TC(サンダーコントロール)フィールドに入りました。」

 

黒木はオペレーター達の方へ近づいてその中の一人の肩に手を置いて命令する。

 

「TCシステム…いけるか?」

 

「東北電力公社及び皇国電源供給社の各発電施設の送電は完了。システムの充電は満タンです。電力各社はバックアップに回ります。」

 

「これよりサンダービーム作戦を開始する。システム起動。」

 

 



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第20話 第二次奥州解放戦争後編 庄内解放 

陸奥港湾要塞 作戦司令部

 

庄内平野酒田市での戦闘は概ね彼らの予想通りに動いていた。

最上川を越えたブリタニア軍に対して皇国陸軍とレジスタンス連合の共同軍は偽装後退を

を行い見事にブリタニア軍をサンダーコントロールシステム設置領域に誘い込むことに成功していた。

 

「B-2、B-8起動。」

サンダーコントロールシステムが次々と専属管制官によって起動させられる。

 

作戦領域には上空の暗雲から次々と雷が地面に降り注ぐ。また、鉄塔からも雷撃が放たれる。

 

「勝てそうだな。」

桜坂の言葉に黒木が反応する。

「もちろんです。この戦いでブリタニア軍に決定打を与えます。」

 

「ブリタニア軍後退。」

「このまま押し戻せ!」

「戦車大隊、KMF部隊前進。」

 

「雷装鉄塔大破!」

「さすがにあれには気が付かれたようだな。」

 

「ブリタニア軍突破を試みています。現地作戦指揮所を狙っている模様。本田師団長より震電中隊の投入の許可を求めています。」

「許可する!絶対に破られるな!片瀬少将はこの戦いのレジスタンス連合の旗頭だ。手出しさせるな。」

 

戦況は全体を通して皇国軍優位に進んでいる。

 

「作戦領域内にてブリタニア皇女コーネリアの仕様機の姿を確認しました。」

下士官からコーネリア発見の報告が伝えられる。

 

「そうか。好機だ…片桐局長フルメタルミサイルランチャーを使う。ここでコーネリアを倒しブリタニア軍の壊乱を狙う。」

「黒木特佐。フルメタルミサイルランチャーの権限を移譲する。」

 

黒木はここでコーネリアを討たんと動き出し片桐もそれに同調する。

 

 

 

 

庄内平野ブリタニア軍コーネリアの近衛部隊

 

人工的につくられた雷は天然の雷以上の雷撃でブリタニアのサザーランドやグラスゴーに直撃し爆発四散する。直撃を避けても至近にいた機体は雷撃の熱量によって機体が溶けると言う事態が発生している。さらに運の悪い機体は電気系統に異常をきたし行動不能に陥っている。歩兵やバギー程度の戦闘車両なら即死どころか木っ端微塵だ。

 

「くっ!なんなんだ!?あの敵の兵器は!?」

 

皇国軍のサンダーコントロールシステムは完全にブリタニア軍を追い詰めていた。

 

「姫様。ここは撤退を!」

「ならん!ここで負ければ後がなくなる!」

 

コーネリアに対して圧倒的に不利な現状ではいくらコーネリアが継戦を指示していても彼女を守るべき騎士であるギルフォードは反対の意見を述べるのが筋であった。

それにギルフォードから見てコーネリアが意地になっているのが分かってしまったからというのもあった。

 

「姫様!もはや、この戦い…勝ちはありえません。これ以上の兵の消耗は今後の統治に大きく影響しかねません。下手をすればユーフェミア姫殿下のいらっしゃるトウキョウ租界にまで影響が出かねません!」

 

「くぅ…おのれ!北海道軍め…これは貸しにしておくぞ。本陣のダールトンへ命令!予備戦力を投入し敵の包囲を破らせよ!こちらも戦闘中の全部隊に近衛騎士団と合流しダールトンの隊と呼応して敵の包囲を突破する!」

 

ギルフォードの進言を受け入れて撤退を決断したコーネリアは近衛騎士団含むKMF

隊を集結させる。

 

 

 

 

 

庄内平野作戦領域地上 

 

前線指揮官の西村はコーネリアがいるブリタニア軍の集結地点を発見する。

今までもおおよその検討こそついたがコーネリア自身がKMFで移動しているために見つけ出すことは困難だった。

 

しかし、ブリタニアの部隊が集まってくること見つけることがかなったのだ。

 

「よく狙えよ。…フルメタルミサイル発射!!」

 

73式装甲車の上部に2連装ミサイルランチャーを装備したフルメタルミサイルランチャー車が横一列に整列する。

フルメタルミサイルは硬度の高い金属を使ったいわゆる運動エネルギーミサイルであり、幾重にも重ねられた厚さ10メートルの鉄筋コンクリートを貫通することが出来る。一部の近衛仕様機が装備している大盾すらも易々と貫く貫通性を持っている。まさに近衛殺しのミサイルであった。

 

 

 

 

庄内平野ブリタニア軍コーネリアの近衛部隊

 

敵のミサイル攻撃や砲弾が雨の様に降り注ぐ。ランドスピナーによる超信地旋回を駆使して避け続けているが全く当たらないわけではない。

 

架橋部まで道を切り開くと皇国陸軍やレジスタンスのKMFや戦闘車両が追撃してくる。

 

「姫様!」

近衛機の一機が大盾を構え前に出る。

 

ミサイルは大盾を貫く。そのミサイルは爆発せず鈍色の鉄杭の様に近衛機へ突き刺さっていた。

「な、弾幕を張れ!!姫様をお守りしろ!!」

 

KMFの弾幕がフルメタルミサイルに命中するも元々爆薬を積んでいない爆発しないミサイルなのだ。軌道が逸れるだけで完全には防げない。運の悪い機体が貫かれていく。

 

 

 

 

庄内平野ブリタニア軍陣地 

 

「姫殿下を御救いするのだ!!進め!!」

 

コーネリアの危機的状況に際してダールトンはグラストンナイツや特派のランスロットを駆るスザクを前線に投入して切り込ませた。ダールトン自身もグロースターに乗り込み対岸に配されていた予備戦力を前進させた。

 

 

 

庄内平野ブリタニア軍陣地 特派

 

「流石はかつての技術立国日本の後継、北海道政権!!ボクの予想を遥かに超える兵器の数々、すごいね~。でも~ボクのランスロットも負けてないよ~!!」

 

第五世代機震電、ハイパワーレーザービーム車、フルメタルミサイルランチャー、マイクロウェーブ6000サンダーコントロールシステムと言った皇国の新兵器の数々を見たロイドは画面に食い入り張り付いていた。

 

 

 

 

庄内平野酒田市作戦領域地上

 

「西村中佐!!包囲が破られます!!」

「あれが噂の白兜か…。小島少佐麾下の雷電中隊を充てろ。戦車連隊はこのままに、フルメタルミサイルはコーネリアを討ち取ることに専念させろ。」

「了解!」

 

スザクのランスロットに12機の雷電が襲い掛かる。ランスロットはまずヴァリスで4機の雷電を撃墜し、一気に距離を詰めてランスロットはメーザーバイブレーションソードを振るう。するとたちどころに3機の雷電がバラバラに解体される。残った5機が取り囲み機関砲を撃ちまくるが容易くかわされる。さらにランスロットからスラッシュハーケンが四方に放たれ4機が崩れ落ちる。残った一機もランスロットの飛び蹴りを食らって機能を停止させた。

 

「小島中隊壊滅!」

「馬鹿な…12機の雷電が3分も持たずに……。化け物め…全車後退だ。」

 

僅か2分17秒のことであった。

 

 

 

庄内平野作戦領域 ランスロット

 

「でぇやあああ!!こんな!!暴力に訴えて!!」

 

枢木スザクとランスロットの活躍によってコーネリアらは脱出を果たしスザクは殿として最上川岸で皇国の震電や雷電、解放戦線を中心としたレジスタンスの無頼や鹵獲グラスゴーや鹵獲ナイトポリスがスクラップの山として積み上げていく。

 

 

庄内平野酒田市作戦領域地上  作戦指揮所

 

「し、白兜…。何度か、ちらと見たことはあったがこれほどとは…」

片瀬はランスロットの人知を越えた戦いに驚愕し、腰を抜かし元々座っていた椅子にさらに深く腰掛けた。

 

「このままではここも危険では?」

その横で佐川も愕然として本田に尋ねる。

 

「全ミサイル車並びに全自走砲車!!火力で圧殺しろ!!あの白いのを何としても叩き潰せ!あれさえどうにかすればどうにかなる!!」

一方で本田は怒鳴り散らしながら指示を出す。しかしながら白兜…つまりランスロットはミサイルと砲弾の雨を見事なまでに躱していき作戦指揮所へ近づきつつあった。

 

だが、ブリタニア軍は全体を通して終始不利な状況が続き無視できない大きな規模の損害を受けたのであった。

 

 

 

 

陸奥港湾要塞 作戦司令部

 

白兜(ランスロット)の逆襲の様子は酒田市の作戦指揮所を介して黒木達の方にも伝わる。

黒木達は酒田市の指揮所程混乱はしていなかった。

 

黒木は一瞬思案して命令を出す。

 

「サンダーコントロールシステムは最大出力に切り替えて維持。いくつか焼き切れても構わない。白兜の戦闘能力に正面切って対抗できる兵器は手持ちにはない。酒田市作戦指揮所はいつでも撤収できるようにしておいてサンダーコントロールシステムの領域の向こうに震電をかき集めておく。白兜に対しては守りに回った方がいい。残りの部隊でブリタニア軍を追い立てる。すでにブリタニア軍は半壊…じきに撤退命令も出るはずだ。その様に向こうに伝えてくれ。」

 

黒木はオペレーターの下士官にそう告げた。

 

 

 

庄内平野酒田市作戦領域地上  作戦指揮所

 

「作戦司令部より指示が出ています!」

 

下士官からの報告を受けた本田はすぐに作戦を切り替える。

 

「白兜は抑え込むだけでいい!!敵本隊を早く追い払え!!敵に音を上げさせるのだ!!」

 

最大出力で放たれたサンダーコントロールシステムの雷撃とミサイルと砲弾の雨はランスロットやそれに追随した他のブリタニア軍を完全に阻んだのであった。

 

 

 

庄内平野作戦領域 ブリタニア

 

『全軍撤退せよ!後方に一時撤退し戦力を再編する!!』

 

コーネリア、ダールトンらによって発せられた撤退命令によってブリタニア軍は撤退を開始する。撤退を察知した北海道軍は追撃を弱め自陣へ引き返していく。

 

『スザクくん。ご苦労様、撤退よ。』

『いや~。お疲れ様~スザク君!!おかげでいいデータが取れたよ!!』

 

「了解、枢木スザク撤退します。」

 

ブリタニア軍は大損害を出して撤退して行った。

 

 

 

 

陸奥港湾要塞 作戦司令部

 

「ブリタニア軍。後退を開始…敵戦力の約半数を無力化した模様。」

 

オペレーターの下士官の報告に黒木は応える。その表情は満足気だ。

司令部内ではその場の人々の喜ぶ声が聞こえている。通信を介して酒田市の作戦指揮所でも歓声が上がっているのが聞こえる。

 

「こちらの被害も確認する必要がある。追撃の必要はない。損害確認を始めてくれ。」

「了解。」

 

 

北海道函館 首相官邸

 

「おぉ!!よくやってくれました!!庄内平野は解放できましたか!!」

 

陸軍参謀総長桂からの電話を受けて大高は立ち上がって喜ぶ。

 

「では、計画は第二段階へ移行させ三個師団を仙台へ!では私も自由オランダ政府に連絡を取り、オランダ亡命艦隊に南下要請を出します!!第二次奥羽解放作戦を何としても完遂させるのです!!」

 

この時、高杉艦隊・紺碧艦隊及び旭日艦隊の一部は太平洋上を航行しており、ブリタニア太平洋艦隊への抑えとして機能していた。また、欧州ではオランダ政府は欧州本土防衛戦から脱落し蘭領西アフリカのエルミナ城へ遷都しており、オランダ本土政府は消滅し亡命政府としての自由オランダ政府が主導していた。

 

「納屋君、神楽耶様に連絡を入れてくれたまえ。三浦君は会見の用意を3日後で頼みます。」

「「はい」」

 

三浦藍佳と納屋碧の二人の公設秘書に指示を出す。

2人の秘書の一人納屋碧は南洋交易産業の令嬢でもある。東北の復興は南洋交易産業の力も必要になるだろう。

大高は電話機のボタンを押し海軍軍令部へ連絡を取る。

 

「私だ。高野君に回してくれ。」

 

皇歴2017年8月25日サンダービーム作戦は成功し山形県はほぼ全域が解放させた。

 

 



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第21話 第二次奥州解放戦争蛇足 仙台解放・能登半島上陸

スーパーXの所属を修正。
陸上自衛隊幕僚監部× 皇国陸軍参謀本部○


皇歴2017年8月26日 宮城県仙台平野

第一師団師団長乃木希祐大将、第二師団師団長後藤茂中将、第三師団師団長坂東萬長中将らとこれを支援する現地レジスタンスによって構成されている軍団は仙台平野で戦闘を開始する。

仙台平野は7年前の戦いで皇軍の撤退戦の際に駅への列車自爆特攻やビル倒壊による足止め、複数のダムの決壊などによって水没している所や廃墟になっている所が多く残っている。ブリタニア軍はそこを最低限整地して軍事拠点としていた。

 

庄内での戦いでブリタニアの中核戦力であったコーネリアの近衛軍やダールトンの軍団が敗北して、ブリタニア軍は奥羽の放棄を決断しており仙台平野には然程多くの兵力は配置されていなかった。

 

しかし、地上戦においてはKMFも戦闘車両も足を取られるなど、遮蔽物が多くて泥沼化が予想された。

 

「敵中核戦力は庄内に散った!!敵は過少なり!!全軍攻勢に出よ!!」

 

この軍団の軍団長に就任した乃木大将は皇国空軍各基地へ爆撃要請を出しており攻勢を強めていたがブリタニア軍は粘り強く耐えていた。

 

「このままでは相当長引くな…。オランダ艦隊のドールマン提督に連絡!秋山大佐の隊を投入せよ!!」

 

 

 

宮城県仙台沖 オランダ亡命艦隊

 

「撃て!撃ちまくれ!ブリタニア軍を押しつぶすんだ!!祖国の仇を討て!!」

故郷を奪われたオランダ亡命艦隊の攻撃は苛烈を極めた。

オランダ亡命艦隊提督カレル・ドールマンは旗艦デ・ゼーヴェン・プロヴィンシェンの艦橋で指揮を執る。

ドールマンは声を張り上げ兵を鼓舞する。

 

「待ちに待った反攻の時だ!!この戦いもひいては祖国解放につながる。総員奮起せよ!!」

 

彼の言葉と共に空母ナイナラから旧式化したフォッカーD32の改修機であるフォッカーD32改が次々と飛び立っていく。

付け加えておくと、オランダ亡命艦隊は日本から艦艇を譲り受け、さらに改修を受けるなど、時の流れ相応に強化されている。

 

「乃木大将より秋山隊を投入させよとのことです!」

「あの奇抜な奴をか?お手並み拝見と行くか。」

 

翌27日には宮城県が完全に開放されることとなった。ブリタニア軍はダールトン将軍主導の下で新潟県越後平野、福島県会津盆地、郡山盆地、常磐道沿い拠点に強固な防衛線を構築。これを境界に両軍は睨み合いを始めるのであった。

 

 

宮城県仙台沖 スーパーX

 

秋山功大佐率いるスーパーX隊。正式には皇国陸軍参謀本部付実験航空隊首都防衛移動要塞T-号MAIN SKY BATTLE TANKスーパーXはオランダ空母ナイナラから浮上する。

特異な兵器であるためか甲板からも艦橋からもオランダ人士官達がスーパーXを注視した。

 

「スーパーX発進する。」

 

スーパーXが戦域に突入すると敵戦闘機の攻撃を受けるがチタン合金製の固い装甲がミサイルや銃弾をすべて弾く。KMFの銃火器による射撃も同様だ。

 

「30ミリバルカン、発射。」

「了解、バルカン発射。」

 

スーパーXから撃たれたバルカンがブリタニアの戦闘機を粉砕する。

「敵ミサイル確認、レーザー連続発射。」

「了解、レーザー連続発射。」

ハイパーレーザーCO2タイプがミサイルを迎撃し、KMFをも撃破する。

 

庄内でも皇国軍の新兵器が猛威を振るったこともあり、スーパーXの登場は決定打だった。ブリタニア軍の攻撃が一切効かず、一方的に上空より火力で圧倒されブリタニア軍は恐慌状態となりブリタニア軍は潰走した。

一部のブリタニア軍が勇戦したが庄内に続き仙台でも総合的に見て大敗北。この結果はブリタニア政庁をもってしても情報統制できるものではなかった。ブリタニア人はおおいに震え、占領地の日本人は沸き上がったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第二次奥州解放戦争作戦よりしばらく前

 

キョウトと北海道政権の間で通信会談が持たれた。

 

「ラクシャータ・チャウラー女史ですか?」

 

大高は怪訝な表情で桐原を伺う。

 

『うむ。そうじゃ…ラクシャータ女史を黒の騎士団に送り込みたい。黒の騎士団の強化の一環じゃな。』

 

「なぜ、そのような話を私に?はっきり言わせていただければラクシャータ女史の様な優秀な人材は我ら北海道政権こそ必要なのですが?」

 

大高としては珍しく桐原に対して棘のある言い方をする。

 

『ふむ。主の言いたいことはわかる。じゃが…流石に皇軍と言えど、仙台辺りまでが限界ではないかね。補給線の維持に解放地の復興も急務であろう?キョウトからも多少は融通しようではないか。それに澤崎や野党の馬鹿どもが中華連邦にすり寄って面倒を引き起こそうとしておる。北海道としても手を打っておかねばなるまい?占領地の向こう側はレジスタンスの領分…わしらキョウトが繋いでも良いぞ。』

 

大高はしばらくの間思案する。

 

「いいでしょう。要求はなんですか?」

 

『第一にラクシャータ女史のインド脱出の支援。第二に今後の黒の騎士団を中心とするレジスタンスへの支援の2つ。奥州解放が成った暁には晴れて北海道は最大の抵抗勢力から抵抗勢力を主導する立場になるだろうて…キョウトと共に』

 

「………わかりました。ですが、さすがにインド洋海戦をもう一度やるわけにはいきません。あそこは、実質ヒトラーの海となってしまいました。インド洋は使えませんな。東南アジアを通り抜けて、日本入りできるように手配しましょう。」

 

『陸路か?』

 

「えぇ…。東南アジアの元首たちとはそれなりに繋がりがありましてね。タイ王国のプミンポン国王、マレーシア連邦のナザブ首相、カンボジア王国のシハクーヌ国王の協力が得られます。また、ロシアを介してラオスのバンニャン主席、ベトナムのグエン書記長の協力も受けられると思います。」

 

『さすがは大高、東南アジアの協力を得たか。ところで中華連邦に唆された馬鹿どものことは…』

 

「把握しております。とにかく、ラクシャータ女史の件はこれで良いでしょう。黒の騎士団に関しても概ね異存はありません。通信会談の機会でもあれば検討してみましょう。」

 

北海道政権は奥羽解放後、すぐに南進できるだけの余力はなく。

旧首都や他州解放にはレジスタンスの力が必要不可欠であった。その為の日本解放戦線ではあったが北海道への撤退は占領地内での地盤の揺らぎに繋がり弱体化したことは否めず。実力と名声を兼ね揃える黒の騎士団への支援を北海道の大高政権も認める方向へと舵を切り出すのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

奥羽解放後皇国軍は再度膠着状態に陥る。皇国領奥羽と未開放の奥羽福島・富士州新潟を暫定線として皇国とブリタニアの両軍が睨み合っていた。

 

 

 

 

 

皇歴2017年8月30日 陸軍参謀本部

 

陸軍参謀総長の桂は他の参謀達と図面を見て各所に指示を出す。

そんな彼に話しかけてくるスーツを着た男。政治家ではない無論軍人でもない。その正体は皇国の情報機関のひとつ東機関の連絡員であった。

 

「閣下、ご協力よろしくお願いします。」

 

皇国の情報機関、キョウトを経由して四聖剣より虜囚の身となった藤堂の救出要請が出ていたのだが、距離的問題で皇国北海道政府及び皇国陸軍は断念した。しかし、皇国陸軍内で日本解放戦線の代表として皇国陸軍の客将のような立場にある片瀬帯刀少将より皇国陸軍参謀総長桂寅五郎元帥に対して強い嘆願が行われ、これを重く受け取った桂より、妥協案として四聖剣の次善の策であった黒の騎士団との救出作戦に対する援護的な意味での陽動作戦の実施を決めたのであった。無論これは大高にも伝わっており即日許可された。

 

「無論分かっている。だから、能登半島で軍事行動を起こしているのだ。」

 

桂は再び図面に視線を移し、部下たちに指示を出し始める。その視界にはすでに東機関の連絡員の姿はなかった。

桂たちの見ていた図面には能登半島が描かれており、いくつもの兵棋が並べられていた。

 

 

皇歴2017年9月1日

 

能登半島に千葉州作大佐率いる霞部隊が上陸する。一時は能登半島全域と富山県の一部を制圧したが、その日の午後コーネリア率いる軍が到着し奥能登まで押し返された。

しかしながら、霞部隊の千葉大佐も現地レジスタンスと連携し奥能登を拠点化する動きを見せていた。寧ろ、千葉はコーネリアによって押し返されることは織り込み済みだ。上陸序盤で富山県に掛かるほどの勢いで能登の広範を制圧したのは奥能登での拠点化作業の発覚の引き延ばしが狙いであり、コーネリアが押し返した頃には奥能登がある程度の防御力を持つほどには簡易的な拠点が完成していたのだ。

これにより、コーネリアは能登に暫しの間足止めされることとなる。

 

 

 



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第22話 藤堂救出

皇歴2017年9月1日 黒の騎士団潜伏地

 

TVの画面に皇国議会で演説する大高の映像が映る。

『我々の戦いは新たなる局面へと移り変わろうとしています!奥羽解放はその第一歩です!世界は今、ナチスとブリタニア…そしてそれに追従する国々。そして、彼らの支配に抗うもの達の二つに別れようとしております!!来たる時は近い!!我々はその時に備えねばなりません!!』

映像が切り替わりスタジオのキャスターが語りだす。

『北のテロリストの首魁大高はブリタニアへの敵意を露わにしております。』

 

 

扇は視線をテレビから持っていた弁当箱に移す。

そこには自分が少しばかり、否、だいぶ気を寄せている女性の手作りのお弁当が入っている。

手作り弁当だ。日本がエリア11と呼ばれるよりも前、自分が上京した時に親にも持たされたものが自分の中での最後の記憶だ。

若干の浮ついた気持ちがあったが、ふたを開けてみて入っているタコさんウィンナーを見て思わず。これじゃあ、教師時代によく見た、生徒の弁当だなと思わず笑みをこぼしてしまった。

 

「お客さんですが…、キョウトの紹介状もあります。」

「んっ!?!?!?」

 

そんな瞬間に黒の騎士団の仲間である井上に話しかけられて、若干動揺しながらもすぐに取り繕う。

 

「まさか、四聖剣の!?」

 

扇が挨拶として頭を下げた。日本人の一般人の癖とでもいうのだろうか。

 

一方の四聖剣の面々は軍人ゆえなのか。ただ単に、急用で時間が惜しかったのからか。挨拶を省いて本題に入る。

 

四聖剣の一番年かさの男性、仙波崚河が代表して話し出す。

 

「お力を拝借したい。藤堂中佐が俘虜とされた…我らを逃がす為に一人犠牲となって…。だが、我々だけでは難しい。黒の騎士団の力を借りたい…。」

 

「わ、わかった。ゼロに連絡する!」

 

扇は四聖剣の面々をベース車両の中に案内し、ゼロに連絡を取った。

 

 

 

 

アシュフォード学園階段踊り場

 

「黒の騎士団は正義の味方だ。不思議はないだろう?集結方法はB-30、機体はバラして18方向から行け。ディートハルトに仕切らせろ。合流予定のメンバーにも伝えてくれ。」

 

ルルーシュは携帯を切る。もちろん、傍受できないうえに記録も残らない特別製だ。その携帯を切ると一瞬だけ外を見たが、C.C.に声を掛けられ視線を向ける。

 

「すまなかった。中華連邦へは…」

 

「問題ない、すべて組み直した。気にするな…お前の利用価値が変わると計画に差し支える。それより、今日は念願の駒が2つ揃う…できればもう一人。」

 

ルルーシュの視線の先にはスザクの姿があった。

 

 

 

トウキョウ租界軍事区画

 

「本日は、藤堂京志郎の処刑日ですが?」

 

この軍事区画ではコーネリア直々に軍の再編を指揮しており、その合間でギルフォードの当日の予定を知らせられる。

 

「立ち会う必要はない。それよりも今は北海道軍をどうするかだ。それに九州の方でも怪しい動きがある。」

「わかりました。ではその様に…」

「そうだな、銃殺の執行はあの男に…。」

 

「総督!」

 

そう言って刑の執行者にスザクを指名した時、ちょうど妹のユーフェミアが話しかけてきた。

 

「すまないな。急で…美術館の方は良いのか?」

「式典は午後からなので…。イシカワで不穏な動きってNACが…」

 

「バックにいるのは北海道か中華連邦だろうな。ガン・ルゥを確認したそうだ…。だが、これは北陸を安定化させる機会でもある。眼前にいる北海道軍と相対すためにも可能な限り後方は安定化させたい。こちらにはダールトンを残しておく、それと以前出ていた話だが…。」

 

そう言ってコーネリアはファイルをユーフェミアに渡す。

 

「はぁ…??…っ」

 

コーネリアから渡されたファイルに目を通し、さらにコーネリアから言われた言葉にわずかながら眉を顰めるユーフェミア。

 

「お前の騎士は、ここから選ぶといい。家柄も実力も確かだ。」

 

ブリタニアでは珍しい家柄と言った建前上のものより人間の内面を見て判断する彼女には思うところがあった様である。

 

 

トウキョウ租界一般地区美術館

 

「今回の美術館建設ではイレブンの業者が排除されたとのことですが?」

「えっと…それは…。」

「その案件は目下調査中である。」

 

「近々、騎士をお決めになるようで?」

「騎士は…わたくしには…その…。」

「今回は美術館に関する会見ですので美術館に関するご質問だけでお願いします。」

 

ユーフェミアは何とか答えようと声を絞り出すが、お付きの政務官が遮り代わりに答える。

姉コーネリアと違って果断決断が出来るような強い発言がない姉の陰に隠れる妹。

 

「ばかねぇ。ユーフェミア様に政治の話なんて…」

「でも、自分の騎士くらいは…」

「それも含めてだよ。」

 

記者たちの陰口が聞こえたような気がした。

それが今のユーフェミアの世間の評価でもあった。

 

 

トウキョウ租界某所高架下

 

「いいのかな?黒の騎士団と手を組んじゃって…。」

「他にいい手があるの?」

「キョウトの言葉でもある。それに北海道も解放戦線も黙認するみたいだ。」

「でも、主義主張がちょっと違うような。」

「私たちは民族主義者じゃない。解ってるくせに…」

 

「細かい事は中佐を助け出してからだな。」

 

四聖剣の中でも黒の騎士団との協力は大元の日本皇国や解放戦線の主義主張と違っているため彼らの中でも思う節はあるらしいが、仙波の一言『中佐を助けてから』がすべてを述べていた。

 

「もう!いいから詰め込んで蓋閉めちゃえよ!出撃まで時間がないんだからさぁ!!」

 

玉城が適当にやってとっとと終わらせろと急かしていると横から口出しが入る。

 

「ちょっと!もっと丁寧に扱いなさいよ!あんた達の100倍デリケートに生んだんだから!」

 

白衣を着た女性が数人の白衣姿の人間を連れて立っていた。

 

「誰だ!あんた!?」

 

「間に合ったようだな。」

玉城の声を完全に無視してゼロ(ルルーシュ)が彼女に声を掛ける。

 

「あんたがゼロ?よろしく、噂は色々聞いているわ。」

「こちらこそ、ラクシャータ。以前ネットで拝見したよ。医療サイバネティック関係の記事をね。」

「昔の話は嫌い。それよりこれ、京都土産よ。」

ラクシャータは肩を鳴らしながらカギを取り出し、それで部下の科学者に運ばせていたケースを開ける。その中にはKMFのパイロットスーツが数着は入っていた。

薄そうな見た目の割には衝撃吸収率は既存のどのスーツや軍服よりも上であった。

 

 

トウキョウ租界チョウフ政治犯収容施設 施設内

 

「死刑執行人が変更になった枢木スザク准尉だそうだ。良かったな…知り合いで…」

刑務官の言葉を聞いた藤堂は今までずっと下を向いていたがその瞬間だけは上を向いて本能を示した。

 

一方で施設の応接室では最初こそ覚悟を決めていたが何枚もの書類を書かされていくうちに自分がしようとしていることの恐ろしさを感じた。戸惑いや躊躇などが綯い交ぜになった何かをであった。

 

そんな時、収容施設の壁と施設の一部が爆発する。

スザクに付き添っているロイドはそのスザクに気が付いていないのか、あえて無視しているのかは分らないが、面倒な書類仕事は喜んでいた。

 

 

トウキョウ租界チョウフ政治犯収容施設

 

防壁が爆発して破られる。

十数機のサザーランドがKMFの収容倉庫から飛び出す。間もなく、突入してくるレジスタンスに応戦するためだ。うち数機が爆煙の中に突入して行くが、まもなく彼らは返り討ちに合う。そして爆煙から4機の月下が突入して残りのサザーランドに切り込んでいき壊滅させる。

第一陣が壊滅し第二陣のサザーランドが展開する。警備要員の部隊とは言えブリタニア軍、展開の速さは流石である。

だが、前線のベテラン相手でも多対一が基本の四聖剣相手に拠点防衛の警備隊では相手にならない。

 

 

 

 

トウキョウ租界チョウフ政治犯収容施設 施設内

 

藤堂の牢屋の前に銃を持った刑務官が現れる。

黒の騎士団の襲撃で処刑が急遽簡略化されたのだ。

 

「藤堂残念だが、敵に奪われるならこちらでとのことだ。」

「一度は捨てた命だ。惜しくはない…。」

 

「ならばその命、私がもらい受ける!」

 

「なっ!?うわあぁあ!?」

壁が崩れ刑務官が押しつぶされる。

そこから現れたのは黒の騎士団を率いたゼロであった。

 

「藤堂京志郎、旧日本軍においてブリタニアに唯一土を付けた男。」

「厳島の奇跡。貴様も私に奇跡を望むのか?」

 

「厳島の奇跡は奇跡ではない情報収集による戦術的成功だ。だからこそ貴様が欲しい…。」

「主君と定めた片瀬少将は北海道へ籠られてしまった。」

 

藤堂が再び目を伏せるとゼロは大きく叫ぶ。

 

「甘えるな!貴様は責任を取らなくてはならない!奇跡を起こした責任を!エリア11の抵抗が他のエリアより格段に激しいのは日本が余力を残しているからだ。厳島の奇跡、来島の奇跡、北海道の復活と言った奇跡を起こしてしまった。夢の続きを人々に見せなくてはならない夢を見せた一人として…。」

 

「私のせいだと?」

 

「そうだ。人々は奇跡という幻想を抱いている。だからこそリフレインが蔓延しているのではないか?」

 

「足搔け!藤堂!最期までみっともなく足搔いて、そして死んでいけ!奇跡の藤堂と言う名がズタボロになるまで!」

 

「そして、民衆に負けを認めさせるのか?」

 

「だが、私は幻想を現実にしてしまうだろうがな。」

そのゼロの言葉に藤堂は本当に幻想を現実に変えられるのではと言う思いを抱けるほどのものを感じた。

 

 

トウキョウ租界チョウフ政治犯収容施設

 

藤堂も専用の月下に乗り込む。

 

「みんな!世話を掛けさせたな!」

「中佐!」「お帰りなさい藤堂さん!」「安いものです!」

「ゼロに協力する!ここの残存兵力を叩くぞ!」

「「「「承知!」」」」

 

藤堂達がゼロに合流する。

 

(これで、欲しい手駒が揃った。ナナリーの騎士も決まった……後は…)

「これはこれは…。残った問題が自ら来てくれるとは…。」

 

そして、そんなゼロの前には白兜、つまりスザクの駆るランスロットが現れる。

 

 

 

トウキョウ租界一般地区美術館

 

ユーフェミアが展覧会の大賞を決めようとした時。記者たちの携帯が鳴り出す。

 

ダールトンに下士官が耳打ちする。それを聞いたダールトンは驚きを隠せないと言わんばかりに反応する。

「なに!?調布に!?」

 

 

 

トウキョウ租界チョウフ政治犯収容施設 施設内

 

藤堂と四聖剣の月下5機とカレンの紅蓮とルルーシュの無頼を相手にランスロットは僅かに劣勢に感じる程度でほぼ対等に戦って見せた。

施設の中にある一般棟のひとつから双眼鏡を持って様子を伺うロイドとセシル。

 

「あらぁ~すごいじゃない。と言っても北海道の兵器に比べるとインパクトに欠けるけどね。でも、敵の新型機もすごいもんだよね~。あれ、サザーランドの倍近くはあるよね?出力も機動性も…。まぁ、結果論だけど…うちの移動手段がトレーラーだけってのはラッキーだよね。」

「予算をみんな、ランスロットに回したからですよね。結果的に…」

 

ロイドの問いに不安そうに答えるセシル。スザクを心配してかロイドの問いには相槌程度にしか答えていない。

そして二人は再び戦場に視線を戻す。

 

 

 

トウキョウ租界チョウフ政治犯収容施設近郊 移動拠点内

 

「あれかい?ゼロが梃子摺ってるっていう新型かい?ふーん。」

 

ラクシャータは画面に映る白兜、ランスロットを見て旧友ロイドの姿を思い出していた。

 

 

トウキョウ租界一般地区美術館

映る画面にはランスロットが黒の騎士団の7機に対して大立ち回りしている姿が映し出される。ダールトンは電話越しにブリタニア政庁の政務官に戦闘の様子を流すように命じる。

1対7でほぼ対等に戦っているランスロットである。仮に負けてもこの戦力差であそこまで出来るのであれば広告塔としてもこれだけ優秀な機体があるとして十分な宣伝効果になるはずである。

「そうだ。全部流させろ。枢木を援護しテロリストを壊滅させるところを報道させるんだ。」

 

 

北海道函館総理大臣公邸

この映像は全国放送であった為、北海道でも傍受することが可能であった。同様の内容が北海道のテレビ局を通じて一般家庭でも流されていた。その中のひとつである総理大臣公邸では大高とその妻、そして事態を伝えに来た公設第一秘書の三浦藍佳の3人で見ていた。

 

「ゼロに従っているのは旧日本国軍の藤堂京志郎中佐と彼を慕う四聖剣の様です。首相、官邸に閣僚を集めますか?」

「いえ、これが終わってからでもよいでしょう。他の閣僚たちも映像を見ているでしょうから、話し合いはその後でも遅くはありません。それに藤堂京志郎…奇跡の藤堂の復活劇は国民に活気を与えるでしょうから、こちらとしても好都合です。」

 

「はい、わかりました。」

「ですが、木戸外相には連絡を取っておいた方がいいかもしれません。今まではキョウトを通じた接触でしたが、藤堂氏を組み込んだとなると黒の騎士団は国内のレジスタンスを主導する立場になる。放っておけば日本解放戦線と違って我々の制御から完全に外れた存在になりかねません。今のうちに直接交渉できるパイプが必要です。ある意味では旧日本国軍人の藤堂氏や四聖剣を組み込んだのは幸いでした。」

 

大高は葉巻に火を点け、画面に視線を戻した。

 

 

 

トウキョウ租界チョウフ政治犯収容施設

 

ゼロの巧みな指揮によってランスロットが追い詰められていく。

そして、幸か不幸か操縦室付近の装甲がはぎとられた。

そこから姿を現したのは日本国元総理枢木ゲンブの息子スザクであり、アシュフォード学園のルルーシュとカレンの学友である枢木スザクの姿であった。

 

『ゼロ!早く指示を!』

動揺の声がうかがえるカレンの言葉をよそにルルーシュもそれ以上に動揺していた。

 

(今までのが全部…スザク!?)

 

 

 

トウキョウ租界一般地区美術館

 

スザクの姿が晒され、まさか新鋭機のパイロットがイレブンとは思っていなかった記者たちは驚き動揺していた。記者たちの口から罵詈雑言の類も聞こえる。

 

「今すぐ映像を消せ!」

「待ってください!見届けたいのです。」

 

ダールトンは慌てて映像を消そうとするが、ユーフェミアがそれに待ったを掛けた。

 

ランスロットが藤堂の月下と何度か討ち合った後。付近の基地から集結してくるブリタニア軍の姿を見て撤退して行った。

 

それを見たユーフェミアは心の中で賛辞を贈った。だが、そんな彼女とは裏腹に記者たちは黒の騎士団を撃退したはずのスザクをわざと逃がしたなどと罵詈雑言を浴びせ掛けていた。

 

(どうしてこの人たちは、そんなひどい事をいえるの!?あれだけの敵を撃退したのに!?)

 

ユーフェミアは自分勝手な彼らの姿を見て、恐らくは衝動的に口走ってしまった。

 

「皆さん、聞いてください!先ほどの質問にお答えします!わたくしが騎士となる方を決めたかでしたね。わたくしが騎士としたのは、あそこにいる御方。枢木スザク准尉です!」

 

記者たちから驚きの声が上がる。

だが、後悔はなかった。

 

 

トウキョウ租界某所高架下

 

撤退してきたゼロ達は高架下に身を隠す。

 

「ゼロが出てこない?」

「そうなのよ。さっきからいくら声を掛けても応答がないのよ。」

「ん?」

「どうした?」

 

カレンはゼロの様子がおかしいと扇に声を掛ける。二人が相談をし始めた時、彼女の通信機からゼロの笑う声が聞こえた。

 

『ふっくくくくくくっくはははははは!ははははははっは!!』

 



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第23話 大高ゼロ会談 と 式根島

皇歴2017年9月3日 黒の騎士団潜水艦拠点 個室

 

黒の騎士団に提供された伊号潜水艦の中でラクシャータは物思いに耽っていた。

(バイク1台調達するのにだって苦労してたってのに潜水艦かぁ。北海道政権も肩入れが始まったみたいね。)

 

ラクシャータはゼロの発表を聞くために個室を出た。

 

黒の騎士団潜水艦拠点 ブリーフィングルームとその重要会議室

 

ブリーフィングルームには黒の騎士団に所属する全員が集まりゼロの言葉を待っていた。

前面の大型モニターにはキョウトの桐原泰三と北海道政権の大高弥三郎が映っていた。

 

「それでは黒の騎士団再編成による新組織図を発表する。軍事全般の責任者に藤堂京志郎、情報の統制に広報・諜報・工作の総責任者にディートハルト・リート。」

 

ディートハルトの人事には黒の騎士団、それに藤堂と共に加入した解放戦線の主戦派らからも不満の声が上がる。

ゼロはその中の千葉の問いに答えた。

 

「ゼロ、我々は民族主義者ではないがわざわざブリタニア人を起用する理由は?」

「理由、理由か。では、私はどうなる?知っての通り私は日本人ではない。必要なのは結果を出せる能力だ。人種も過去も関係ない。」

 

ゼロの言葉に皆、納得の意志を示したのを確認して、ゼロは発表を再開する。

 

「副指令に扇要。」

「え、俺か?」

「不服か?」

「いや、そんなことはない。」

そんな様子を見て黒の騎士団古参メンバー達が扇の肩を叩き、声を掛ける。

「まぁ、もともとのリーダーは扇だしな。」「新参者じゃあ…ちょっとな。」「がんばれよ。」

等と声が掛けられる。扇が慕われている証拠でもある。

 

「技術開発担当にラクシャータ。」

「当然よねぇ。」

 

 

「ゼロ番隊隊長に紅月カレン。」

「ゼロ番隊?」

「ゼロ番隊だけは私の直轄となる。親衛隊と考えてもらえればいい。」

「親衛隊…、ゼロの。」

親衛隊隊長に指名されたカレンは期待に胸踊らせている様子であった。

 

「1番隊隊長に朝比奈省悟、2番隊隊長に仙波崚河、3番隊隊長に長崎義男…」

ゼロの発表はしばらく続き、玉城の人事が第二特務隊隊長であると言うところで終了した。

 

「ゼロ。一つよろしいでしょうか?重要な案件です。」

 

一方で枢木スザクのユーフェミアの騎士の叙勲式は滞りなくすすめられた。

 

ブリーフィングルームの奥の重要会議室ではゼロと黒の騎士団幹部達がディートハルトの枢木スザク暗殺について集まって会議したが結果的に却下された。

その後もスザクの騎士叙勲祝いの席でカレンがスザク暗殺に動こうとして、それを促したディートハルトにゼロが釘をさすと言った場面もあったが概ね問題は起こらなかった。

 

 

黒の騎士団潜水艦拠点 ゼロ個室

 

「お初にお目にかかる。黒の騎士団を率いているゼロだ。」

『こうして、お会いするのは初めてですな。日本皇国北海道政権首相大高弥三郎です。』

 

その日の午後、キョウトを仲介しゼロと大高は通信会談を行う機会を持った。大高個人としては顔を見せない指導者と言うものに含むところがあったが、今までの功績や今回の藤堂の救出とそれに伴うランスロットとの大立ち回りは議会閣内からも高い評価を得ており、大高自身も評価しておりこの期に接触しようと言うことになりこの様な機会を設けることになった。

 

『我々北海道政権は黒の騎士団の活躍は聞き及んでおります。キョウト同様に我々も大いに期待しております。』

「傀儡にし損ねた解放戦線の代わりとしてか?」

 

ルルーシュの言葉に全く表情を変えずにこやかな表情のまま大高はそれに応じる。

 

『傀儡などとはご謙遜を…。ゼロの声望は誰かの手の中に納まる物でもありますまい。』

「それに関しては否定しないが…。」

 

『あなたの声望なら日本再興後の選挙で政界入りし、いずれは首相と言うのも夢ではないでしょうな。』

「くははは、さすがの私もそのようなことは考えていないよ。大高閣下も冗談がお好きのようだ。」

 

等と軽い冗談を言い合った後に本題である話し合いを行う。これは親しい関係から来るものではなく、お互いを警戒した結果出て来た言葉である。

 

「今回の潜水艦の提供は黒の騎士団としてもありがたい。北海道政権も旧東北州をあらかた奪還し関東州に手を掛けるのも時間の問題の様だ。」

『今後は協力する機会も多いでしょうな。黒の騎士団は、いえ…KMFはキョウトと言うよりはインド系を導入するようですが、車両や携帯武器などの物資なら北海道でも融通が利くでしょう。それに軍事の面での協力も…。』

「そうだな。日本解放を目指す組織なら日本人を中心として開放するべきだろう。部外者の他国に積極的に借りを作る必要はないと思う。」

 

大高とゼロは武器供与や軍事協力についてはしていたが最後のゼロの言葉に大高は眉を動かす。

 

『ゼロもご存知でしたか。隣近所に逃げ込んだ者達のことを…』

「無論だ。わたしは部外者には早々にお引き取り願おうと思っているのだが、大高はどう思う。」

『我々としても部外者にとやかく言われ、要らぬおせっかいを焼かれるのは不愉快極まりませんな。しかしながら、国家と言う枠組みが邪魔をして玄関口まで行くのは苦労するのですよ。』

「では、玄関先で無粋な訪問者を追い返すのは私が受け持とうかと思うが?」

『それはありがたい。今のブリタニアの総督は剣を振るうのがお好きなようで老骨にはちと堪えますのでな。さすがにお転婆姫を相手にしながらおせっかい者を相手にするのは少々骨折りです。』

「さすがは、日本を7年間守り通した巨星と揶揄されるだけある。コーネリアをお転婆扱いとは!」

『ははは、少々おふざけが過ぎましたかな。』

「いやいや、たまにはこういった冗談を言うのも悪くない。ラクシャータを譲ってくれた上に道中を保障してくれたことに関しても感謝している。」

『キョウトの要請を受けましたので…。物のついでです。』

「ほぉ…ついでですか?私としては閣下の本題が気になるところですが…残念ながら時間の様だ。それと、もしかしたら白兜の件に朗報を届けられるかもしれませんよ。では失礼する。」

『えぇ、こちらも失礼します。』

 

通信を着るとルルーシュは近くのソファーに座っていたC.C.に話しかけられる。

 

「どうしたルルーシュ。そんな難しい顔をして?」

「ちょっとな…。日本にもこれほどの大人物がいたのだなと思ってな。もしかするとシュナイゼル以上の指し手かもしれないなと思っただけだ。」

 

そんなルルーシュを面白く思ったのかC.C.はからかうように言う。

 

「珍しく弱気だな?そんなことでは私の共犯者は勤まらんぞ?」

「もちろんだ。解っているさ。(大高、ラクシャータの件を否定しなかった。あのルートは東南アジアの国々の協力がなければ無理だ。今ですら四大勢力のひとつロシアを巻き込んでいる。大高の政治力は日本国内…世界屈指…。もはや、別格の存在か。)」

 

ルルーシュは大高との協力体制を築いた。双方ともに互いの能力の高さを理解し利害の一致を見た。不一致点があることも…。

 

 

北海道函館首相官邸

 

ゼロとの会談を済ませた大高は自身の横に控える秘書二人以外の赤坂秀樹官房長官と矢口蘭堂副官房長官に視線をやる。

 

「どうでした?ゼロは?」

 

大高に促され赤坂は自分の意見を口にする。

 

「現状は利害の一致を見ております。我々と黒の騎士団は積極的に協力してブリタニアに当たるのが得策かと思います。」

 

赤坂に続いて矢口が口を開く。

 

「現状はその通りです。ですが、問題は解放した後ではないでしょうか?現在の黒の騎士団はいくつものレジスタンスや有志を集め日に日に強大化しております。解放後の黒の騎士団は無視できない規模となるでしょう。そうなるとその後の日本の軍権を誰が握るかという問題が噴出することが予想されます。少なくても日本解放後の統一戦力の統帥権の一部を要求することは間違いないでしょう。」

 

今度は赤坂が語りだす。

 

「ですので黒の騎士団と国軍は完全に切り離す必要があります。」

 

そこまで聞いて大高は二人の言葉を遮る。

 

「なるほど…、それに関しては私も腹案があります。」

 

「腹案ですか?」

「まだ、準備中ですので詳細は控えさせてもらいますが…。外務省や皇室ルートを通じて腹案の構想をくみ上げております。」

 

大高の眼光は鋭く、自分の策に強い確信を抱いていた。

 

 

 

 

 

ブリタニア帝国アーカーシャの剣

 

「思考エレベーターの構築は予定通りだな。あぁ…わかっておる。」

シャルルに耳打ちする部下。

「なに?シュナイゼルがナチスのラインハルト・ハインドリッツと接触した?…自信があるなら挑んでくるがよい。しかし、ヒトラーの奴め。案外と足元がぐらついてるな…。それとも…余と同じか。」

 

皇歴2017年9月4日 式根島近海 潜水艦

 

「ユーフェミアが本国からの貴族を出迎えに、あの島へ向かっている。騎士である枢木スザクもともにいるはずだ。戦略拠点ではないため敵戦力は限られている。これはチャンスだ」…。作戦の目的はランスロット及び枢木スザクの捕獲。戦場で勝って、堂々と捕虜にする。」

 

ゼロの宣言と共に式根島へと黒の騎士団は向かうことに…。

 

 

 

式根島港湾区画

 

ユーフェミア達はブリタニア皇族を出迎えるためにユーフェミア達は式根島を訪れていた。

 

「到着時間は予定通りです。司令部に控えの間を用意させておりますが…如何でしょうか。」

「船はここに寄港すると聞きましたし、ここで待つことにします。」

 

ユーフェミアはそっと笑顔を浮かべて現地士官の勧めを断り、その場で待つことを選んだ。

 

「わかりました。ではイスをお持ちしますのでお待ちください。…敵襲だと!?司令部が何者かの攻撃を受けているようです!!」

 

基地のある方から黒煙が上がり、無線で現地下士官が司令部と連絡を取っている。その様子を見たセシルはこの場からの退避を勧める。

 

「ここは租界に引き返しましょう。護衛部隊の用意はできますか?」

 

だが、現地士官はジャミングが掛けられており、それは難しいと伝える。

 

「ご安心ください。ユーフェミア様のことは自分が守ります。」

「いえ、あなたは司令部へ救援に行ってください。」

 

ユーフェミアとスザクの会話を聞いていた現地士官はそれに難色を示す。

 

「彼は名誉ブリタニア人ですぞ。それに敵は黒の騎士団の可能性が高いです。ランスロットごと裏切ったら…」

 

それを聞いたユーフェミアの表情に影が差す。自分の騎士であるスザクを悪く言われることが嫌なようであった。それを察したロイドが現地士官に苦言を呈す。

 

「わかってます?それって皇族批判ですよ?」

「え、いや、そんなつもりは…毛頭…。」

 

ロイドの言葉に現地士官は口を閉ざす。

 

「枢木スザク、ここで貴方の力を示すのです。そうすればいずれ雑音も消えるでしょう。」

 

 

 

式根島基地管制塔

 

「敵襲!敵襲!」

「て、テロリスト!?どうしてここに…!?防衛部隊を展開するんだ!」

 

司令官の命令で防衛部隊、戦闘ヘリや戦闘車両になけなしのサザーランドとグラスゴーが展開するが辺境の防衛部隊と歴戦の黒の騎士団では戦力に違いが大きすぎる。次々と殲滅される防衛部隊はまさに瞬殺を絵に描いたほどに圧倒的であったが、スザクのランスロットの加勢により何とか立て直すことが出来た。

 

「司令!通信です。」

「こんな時に誰が?」

 

司令官は受話器を受け取り応対する。

 

「な、シュナイゼル殿下!!…はい、特派のおかげで立て直しがはかれました。…え!?は…わかりました。イエス・ユア・ハイネス!」

 

 

式根島基地近郊

 

ルルーシュの綿密な策と藤堂の優れた指揮、そして他ならぬゼロ自身を囮にしてスザクのランスロットはゲティフォンディスターバーを設置している地点へ誘導していく。

ランスロットはルルーシュの無頼にメーザーバイブレーションソード(MVS)を向ける。

 

「ゼロ!これで!」

 

一方のルルーシュもランスロットを罠にかけスザクを手中に収められると思っており余裕を持って言った。

「これで…おまえを。」

 

そして、少し離れたところでラクシャータもゲティフォンディスターバーの起動スイッチを押す。

「捕まえたぁ。」

 

ゲティフォンディスターバーは要求された効力を発揮し、効果範囲内のKMFの機能を停止させる。

 

「出てきてくれないか。第一駆動系以外は動くはずだ。捕虜の扱いについては国際法に乗っ取る。…話し合いに応じなければ、君は四方から銃撃を受ける。」

 

 

式根島港湾区画 嚮導駆逐艦

 

「スザクに出るように伝えてください!それよりどうしてランスロットは動かないんですか?」

 

ユーフェミアは自分の騎士の危機に対してロイドとセシルに対応を求める。

 

「ナイトメアの駆動系に使われているサクラダイト。そこに何らかの干渉が…」

 

「ゲティフォンディスターバー、部分的にジャミングが機能している。(理論だけだと思っていたけど、迂闊だった。ラクシャータ、やはり君なのか?)」

 

 

 

式根島基地近郊

 

スザクとルルーシュは機体から降りて二言三言言葉を交わす。

しかし、ルールを頑なに守ろうとする者とそのルールを破壊する者の間で話が纏まるはずもなかった。

そしてスザクは基地司令の命令に従って黒の騎士団足止めのためにルルーシュの背後を取る。

 

「枢木お前は…」

「君のやり方には賛同できない。」

 

 

式根島港湾区画

 

「ミサイル攻撃ですって!?」

 

「枢木少佐が足止めをしています。今ならゼロを倒せるのです。」

 

「誰がその様な作戦を!枢木スザクはわたくしの騎士ですよ!」

 

「この命令は準1級命令です。命令の撤回は総督以上か3名以上の将官の同意によってのみ行われます。」

 

「だからそんな指示を出したのは誰です!」

 

命令を伝えに来た現地士官とユーフェミアの間で言い合いになる。

その後ろで現地士官が言った上位者が誰かを気が付いたロイドが目を伏せる。

 

「わたくしにラインを繋ぎなさい!」

 

「準1級命令です。ユーフェミア副総督。」

 

現地士官はユーフェミアに冷たく言い放った。すると彼女は現地士官達を振り払いポートマンに乗り込んでそのまま飛び出してしまった。

 

「基地に伝えなさい!わたくしが巻き込まれる可能性があると!それでも発射命令が出せますか!」

 

 

 

 

式根島基地近郊

 

「このままでは貴様も巻き込まれてしまうぞ!本当にそれでいいのか!」

「……軍人は命令に従わなくっちゃいけないんだ!」

「ふん!人に従っている方が楽だからな!」

 

ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア、枢木スザク。

 

藤堂の命令で月下や無頼が飛来するミサイルの迎撃を開始する。

 

「スザク!ゼロを離せ!私は生徒会のカレン・シュタットフェルトだ!こっちを見ろ!」

 

カレン・シュタットフェルト。

 

(スザク、まだ死んでは成りません!)

 

ユーフェミア・リ・ブリタニア。

 

「あれはお兄様のアヴァロン。それにあの周りを飛んでいるのはナチスドイツ軍…」

 

黒く塗装されたナチスドイツ軍武装親衛隊のダインやゲバイがアヴァロンを守る様に編隊を組んで飛来する。そしてアヴァロンの下方部が開き容赦なくブレイズルミナスが降り注いだ。

 



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第24話 神の島

ルルーシュ、ユーフェミア、スザク、カレンらが神根島で1日を過ごしている頃。

 

式根島近海 日本皇国海軍潜伊3001 亀天号

 

「あれは…敵の新造艦か。空を飛んでいる…。」

 

潜伊3001 亀天号は情報収集潜水艦であった。この亀天号は僚艦2隻を引き連れて黒の騎士団の皇族襲撃計画の推移を見守る役割が与えられていた。なお、この事は黒の騎士団側には伝えられていない。

 

諜報機器を操作している情報集積官の肩を持ち亀天号艦長伊藤正典中佐は驚きを見せる反面ニヤリと笑って見せた。

 

「他人の仕事風景を眺めるだけの仕事と思っていたが、ブリタニアの空中艦とナチス親衛隊、なにかあるな…。独断であるが情報収集任務を延長するぞ。」

「っは。」

 

 

 

式根島上空 アヴァロン 廊下

 

「地上の方々は必至ですわね?」

「当たり前だろう。自国の皇族だからな、いくらその上位命令があっても現場の連中は何らかの処罰は免れまい。ヴィクリート中佐、我々とてこの様な所で時間をつぶしているわけにはいかんのだぞ。」

 

アーネンエルベ局長マリア・ヴィクリート中佐に対して、その疑問に答えたのはハンス・オストヴァルト海軍中佐。ヒトラーに気に入られている若手将校で後に新貴族として立身して行く。同階級のマリアに対して僅かに上に立った態度は年齢的な物であろうか。

 

「ヴィクリート中佐、あまり無駄な時間を過ごすわけにはいかんぞ。」

「はーい。」

 

ハンスはマリアに忠言するとそのまま歩き出す。

 

 

 

式根島上空 アヴァロン 司令室

 

「第三帝国海軍、特務戦隊戦隊長ハンス・オストヴァルト中佐であります。」

「お初にお目にかかりますわ。シュナイゼル殿下、第三帝国魔術局アーネンエルベ局長マリア・ヴィクリート中佐ですわ。」

 

「私がブリタニア帝国第二皇子シュナイゼル・エル・ブリタニアです。こちらこそよろしく頼む。横にいるのがわたしの側近の一人でCODE研究を担当するバトレーだ。」

「バトレー・アプリリウスです。」

 

シュナイゼルはマリアとハンスの挨拶を受けそれに応じる。

 

「これが我が上司ラインハルト・ハインドリッツ大将の親書です。お受け取りください。」

「ハインドリッツ国家保安部長官によろしく伝えてくれ。」

 

シュナイゼルがここでラインハルトを大将と呼ばなかったのはラインハルトと潜在的な対立関係にある同階級のアルフレート・ヒムラー親衛隊長官の事があってのことであった。

アルフレートとラインハルトの関係において中立的立場であるマリアは何も思っていない様子だが、ラインハルト派のハンスは複雑そうな表情をしていた。

 

「皇子殿下のお言葉…我らの上司たちも喜ぶことでしょう。」

 

 

 

 

神根島遺跡

 

彼らは定型的な挨拶を済ませると早々に式根島より移動し近くの神根島に上陸する。

 

神根島の遺跡ではシュナイゼルのお抱え研究員がバトレーの指揮で調査を行っていた。

 

マリア達ナチスドイツの面々もシュナイゼルについて説明を受け、別分野の権威であるロイドも多角的な面で調査に貢献すると言う名目で随行していた。

 

「思考エレベーターねぇ…考古学はあまり得意ではないんですが…僕の分野とは違い過ぎて…。第三帝国の学者の方々はどうなんです?こういった分野はブリタニアより進んでいるのでしょう?なにせ、オカルト分野が学問として成立しているんですから。」

 

ロイドの言葉を不敬と捉えたバトレーがロイドを嗜める。

「貴様、同盟国の高官相手に失礼だぞ。」

 

ちなみにハンス・オストヴァルトはマリア御目付の軍人なのでこの手の話には無関心であった。

マリアは軽く笑ってからロイドの問いに答える。

「読み取り機の様なものではないのかしら?我々も同様の研究をやっておりますので…。ある程度把握しておりますわ。フフフ」

 

「読み取り機?それはいったい?」

自分以上に何かを知っているマリアに対してバトレーはロイド以上に反応した。むしろ分野が違い過ぎてロイドは蚊帳の外であった。

 

「フロイライン・ヴィクリート。私としても同盟国の研究の進歩状況を知りたいですね。」

 

同盟国の想像以上の進歩率が伺えたためにシュナイゼルとしても探りを入れたくなり話しかける。

 

「同様の遺跡は我が総統閣下も貴国の皇帝陛下も直轄領にしているでしょう。」

 

マリアの言葉にバトレーが反応する。

 

「確かに、私が発見したこことラインハルト閣下が抑えているアフガニスタンの神殿の丘以外は全てそれぞれの天領でしたな。…推測ですが両国の侵攻計画はこれに沿っているということか。」

 

「そのオカルト染みたシステム解析にガウェインのドルイドシステムを使うのですか?まだ未完成の試作機を?」

 

ロイドの問いにマリアは不敵な笑みを浮かべて答える。

 

「そうよ。本当は天秤を使いたかったのだけど…イレブンに持ってかれちゃいましたから…。次善の策でしたけどドルイドシステムを使うことにしたのよ。」

 

「あれは、クロヴィスの大切なものなんだ。それはやめて欲しいな。」

 

天秤の意味を理解しているシュナイゼルは僅かに不快感を示したが表情を変えることはなかった。胸中で何を思っているのかは分からない。

 

「冗談ですわよ。ラインハルト閣下に十分くぎを刺されていますわ。」

 

自身の作品を2番呼ばわりされたロイドは不満気だった。

 

「次善の策のガウェインに何をさせたいんです?」

 

「アスプルンド伯、あまりへそを曲げないでくださいな。ガウェインは間違いなく最優秀の兵器ですわ。私はドロイドシステムを使って…。」

 

そう言ってマリアが口を開こうとした瞬間。

遺跡が揺れだし天井が崩落してくる。

 

「な、なにこれ…」

 

異常な数値を示す計器を見て動揺するロイドをマリアは突き飛ばし…。

 

「どいて!馬鹿な!!ドルイドシステムでこんな過敏な反応を示すはずが!!」

 

天井が崩れ一枚岩が落ちてくる。その上にはルルーシュ達4人の姿があった。

 

「ユーフェミア様を御救いしろ!」

ブリタニアの兵士達がルルーシュ達とユーフェミア達の間に割り込む。

 

「あれが…ゼロか。」

 

「何をしている!あの機体…ゼロ如きに渡してはならぬ!」」

「オストヴァルト中佐だ!!親衛隊を出せ!!ドルイドシステムを失うと我々の研究は完全に息詰まる!!」

 

ゼロの姿を見て静かに呟くシュナイゼルの横でバトレーとオストヴァルトが顔を真っ青にして叫んでいた。

 

 

 

 

神根島近海上空

 

ゼロ(ルルーシュ)の乗ったガウェインがサザーランドによる包囲網を突破して行く。そして、ガウェインが宙に浮かびコックピットが開くとカレンを中に入れる。

カレンは素早くコックピットの空スペースに乗り込む。

 

「ほぅ、ナチスドイツの機体は飛ぶと言うが、この機体はそれ以上の様だな。カレン!つかまっていろ!」

「え!?うきゃ!?」

 

ガウェインが捕縛に現れたゲバイとダインを10本のワイヤーカッター式のスラッシュハーケンが切り裂き瞬殺し、そのまま飛び去って行った。

 

「未完成の様だがこれは拾いものだ。」

 

 

神根島遺跡入口

 

「ガウェインが…。我々のガウェインが…」

「あぁ…。」

 

「シュナイゼルお兄様!」

「ユフィ、遅くなってすまなかった。」

「そ、そんなこと。」

 

「あら、姫殿下。手から血が。」

マリアは自分のハンカチでユーフェミアの手の甲から流れる血を止血する。

 

「どうもありがとう。あの、あなたは?」

「あら、申し遅れました。私は第三帝国より派遣されたマリア・ヴィクリート中佐ですわ。以後お見知り置きを。」

「こちらこそ。よろしくお願いしますね。」

 

シュナイゼルら3人が話している所にブリタニア士官の一人が遠慮気味に話しかける。

 

「殿下、それでは予定通り…」

「あ、あぁ。」

 

シュナイゼルの許可が下りると同時に兵士達がスザクに手錠を掛ける。

 

「枢木スザク少佐。第二級軍規違反の罪で拘束します。」

 

それを聞いたユーフェミアは振り返り止めに入る。

 

「お待ちなさい!枢木スザクはわたくしの騎士ですよ!その様な事!?」

「後で何とかしてあげるから…今はこのまま」

「お兄様。あの、なにが…」

そんなユーフェミアの肩を抑えてシュナイゼルはユーフェミアを宥める。

 

そんな様子を見ていたマリアは計器が異常値を示していた時のことを思い出していた。

(いる。間違いなく…4人の中に天秤級のインヴィテーターが…。天秤、ライラ・ラ・ブリタニアは北のイレブンたちがしまい込んじゃったけど。これなら、あの頃の様な高水準な研究が出来るわ。ユーフェミア様がインヴィテーターだったら少し手間だけど…。あの枢木とか言うイレブンや、さっきのテロリストなら天秤以上に非人道的な実験ができるわぁ。うふ、うふふふふふ。)

 

マリアはオストヴァルトの方を向き指示を出す。

「オストヴァルト中佐。ドルイドシステムを奪還する必要があります。ラインハルト閣下に至急連絡を…。」

「だ、だが…。」

「中佐。ガラサキやコードの研究は総統閣下肝いりの計画なの。このまま喚起を被りたいのかしら?」

「!?わ、わかった!すぐに連絡を取る。」

 

こうして、日本独立の戦いにナチスドイツが参戦することになるのであった。

 

 

ナチスドイツ第三帝国 ベルリン 総統官邸

この日、ヒトラーは客人を招いて昼食会を開いていた。

昼食会と言ってもヒトラーとその相手の二人だけの会談であり、徹底的な機密保持体制のなかで催された。

料理の運搬もその階の廊下の途中までで、そこからは秘書のヨッヘンバッハが運び込むこととなっており、そのヨッヘンバッハ自身も会話の内容を聞くことは許されず料理を並べたらすぐに退出させられるほどであった。

 

「V.V.。アーカーシャの剣がまた動いたそうじゃないか。」

「少しばかり、困ったけど。ハインリッヒ、君の協力で何とかなりそうだよ。」

 

「そう言ってもらえると、嬉しい限りだ。余としても貴公の計画が成し遂げられることは非常に好ましいことだ。貴公の計画は余の成し遂げたい事の8割とも言える…余としても十分妥協できるものだよ。」

「ははっ、僕の計画が君の8割だと言うのなら…ハインリッヒ…君の言う10割の計画ってなんなんだい?」

「聞きたいのかね?V.V.君?それはだね、●●を●す事だよ。ハハハハハハハハ!!」

「それは……すごい計画だね。(狂人が…。)」

 



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第2?話 閑話とか外伝① インド軍区・タイ王国

時系列的には第二次奥州解放戦争のあたり

題名が思い浮かばない


 

ラクシャータ黒の騎士団合流・第二次奥羽解放作戦実施前

中華連邦インド軍区セイバーグラーム村

 

前原一征は皇国の三の姫とも呼ばれる駒条宮澪子らと共にセイバーグラームと言う村を目指した。三の姫と言うのは俗称であるが、この表記で行くと一の姫は皇神楽耶で二の姫は桃園宮那子である。

前原が手にしたものは神楽耶陛下と大高総理からの親書と幾ばくかの金であった。

セイバーグラーム村に着いた前原はアシュラーム精神修行の場とでもいうべきか。インド独特の施設であった。

彼彼女らを迎えたのはヒンズー僧装束の老人であった。

「駒条宮澪子と申します。ガンディー先生この度はお会いできて光栄ですわ。この度は日本皇国特使として天皇皇神楽耶ならびに首相大高弥三郎の代理で参りました。彼は私の護衛兼特使補佐の海軍少将で…。」

「前原一征であります。」

 

この枯れ木の様な老人こそが、かつて無抵抗の抵抗を行いEUより国土を守り抜き、中華連邦から自治の芽を守ったスワディ・ガンディーその人であった。

 

「陛下と首相より預かってまいりました。親書とアシュラームへの寄付金です。」

澪子の言葉にガンディーは手を合わせて感謝の意を示す。

 

「ふたりはガンディー先生のお考えに親近感を抱いておりますわ。」

「それはそれは」

「ぜひ先生を日本にお迎えして、ひざを突き合わせ…腹を割り、アジアの未来について語り合い。ぜひともご薫陶を受けたいと申しておりました。陛下は幼少のみぎり大高首相より様々なことを学び非常に首相と似た思想をお持ちです。そして、首相はどちらかと申しますとレビアン主義者です。プロポトキンの思想にも興味を抱いております。近代工業化と農村、あるいは手工業…調和ある国作りを目指しております。」

「つまり、我々は多くの点で一致を見ているようですな。」

「ミス駒条宮。あなたはインドが好きですか?」

「わたくしはこの国の民衆が好きです。」

 

その答えを聞いたガンディーは手を差し出す。握手の構えだ。

澪子はガンディーの手を取り握手を交わす。

 

「皇陛下と大高首相にお伝えください。よろこんでお招きに与かりますと…」

「ありがとうございます。」

 

「我々は多年の願いであった英国からの独立を勝ち得ました。願わくば、せっかく手に入れました民族の自立の芽吹きを第三帝国やブリタニアの野望から守りたいと思います。そして、今の貴国にはかの者の力が必要でしょう。」

 

「かの者とはいったい?」

 

すると、ガンディーは施設の奥の方にいる少女に声を掛ける。

「どうです?私としては日本皇国のオファーを受けていただきたいと思っているのですが?必要とあれば私の紹介状もお付けしますが?」

 

 

少女は周りの雰囲気に合わせた薄汚れた布を羽織っていたがそれを外すとカジュアルスーツを着た白寄りの銀髪の髪の長い美女が姿を現した。

 

「必要ないわ。私達ピースマークは日本国を直接のクライアントとして扱うわ。」

 

「き、君がか…。」

彼女の姿を見た前原は何かを思い出したように声を出す。

一方の彼女も、そんな前原を見て納得したように返す。

 

「貴方は、確か皇国の高野五十六の側近だったわね。なら知っていてもおかしくはないのっかしら?ライラ皇女の件は高野からのオファーだったし…。そうよ、前原少将の察しの通り私がピースマークの仲介人…そうね…ミスXとでも呼んでちょうだい。」

 

完全に納得いったと言った表情の前原とは対照的に澪子は困惑の表情を浮かべていた。

 

「…まさか。非暴力、不服従の推進者からテロリストを紹介されるとは…。」

 

そんな澪子に対してガンディーは話しかける。

 

「駒条宮…は少し誤解している。私の信念によると、もし、インドが臆病と暴力のうちどちらかを選ばなければならないとすれば、私はむしろ暴力をすすめるでしょう。インドが意気地なしで、辱めに甘んじて、その名誉ある伝統を捨てるよりも、わたしはインドが武器をとってでも自分の名誉を守ることを望んでいます。その考えは日本も同様と考えますが?…むしろ、重要なのは非暴力は暴力よりもすぐれており、許しは罰よりも、さらに雄雄しい勇気と力がいることだと言う事です。しかし、許しはすべてにまさるとはいえ、罰をさしひかえ、許しを与えることは、罰する力がある人だけに許されたことなのです。」

 

その言葉を聞いた二人は改めてミスXに向き直り、2人は特使の権限でピースマークと契約を結んだのである。このことは事後報告の形で大高に伝えられ大高もそれを追認した。

 

 

セイバーグラーム村来訪から数日後

中華連邦インド軍区デリー自治政府庁舎

 

澪子と前原はこの日インド軍区の行政長官ジャワハラール・ネルーと新進気鋭の中印軍長官スバス・チャブドラ・ボースの4人の間で会談が開かれた。

この二人は名目上インドの政治軍事のトップであるが、組織図の要所要所に中華連邦の本国人が配されており、その実権は中華連邦の大宦官に握られている。

 

「ブリタニアやナチスの西アジア侵攻に対し中華連邦本国はサウジにイラン、アフガンと言った加盟国を助けようともせず。保身に走った…また、カンボジア王国の意志を無視してブリタニアのトモロ機関を誘致した行為は、我々自治政府や他の加盟国に対して重大な背信行為であると認識しております。連邦議会でもこの事を糾弾する声は日増しに強くなっております。」

 

「で、あるのならば中華連邦は遠くない未来崩壊すると…。」

 

ネルー長官の言葉に前原は最悪の未来を口にする。

前原に対してネルーは「それも一つの可能性である」と前置きしてもう一つの未来を予測する。

 

「ですが、その前に中華連邦本国がブリタニアの従属国に成り下がり我々を切り売りする可能性と言うものがあるでしょう。恥ずかしながらインドにもブリタニアやナチスの工作員が入り込んでいますので…。」

 

ネルーの言葉を聞いて澪子と前原はインドやアジアの国々が日本の様に植民地化された姿を思い浮かべた。

 

「だからこそ、今の北海道やロシアには期待するものが非常に大きい。ラクシャータ女史の出国を手引きしたのもそう言った意味合いが大きいのです。」

 

インド軍区内でも大宦官派から出国を差し止めようとする動きがあったが、現場のインド人達はネルーやガンディーらの意向を受けてそう言った動きを無視したのである。今頃はすでにピースマークの護衛を受けてインド軍区を出たところだろう。

 

ネルーがそこまで言い切るとネルーはボースを促す。するとボースは世界情勢や中華情勢が書かれた写真付きの資料をテーブルに広げる。

 

「中華連邦本国でも紅巾党の様な現体制に対する抵抗が起こっております。結果はどうあれ、日本やロシアがブリタニアに一撃を与えることが出来れば…少なくてもブリタニアからの圧力は弱まります。ブリタニアに与する大宦官らの動きも鈍るでしょう。その時こそが我々が動くときだと思います。我々はこの一連の行動を作戦名ラナーデュラグラハと呼んでいます。サティヤーグラハを掲げるガンディー先生の意志には反することになってしまいますが…、我々も後が無くなってきている。」

 

ボースの眼には強い意志が宿っていたのを前原は見逃さなかった。

そして、澪子はボースの言葉を嚙み砕いて口に出してみる。

 

「ラナーは正義、デュラグラハは敵対者を挫くこと…暴力を用いた抵抗運動の事を示す。つまりは…反乱。」

 

澪子の言葉にネルーとボースの眼は鋭くなる。

 

「神虎系統機や紅蓮系統機の量産機の開発も進んでいる。紅蓮系統機に関してはすでに我々の秘密工廠で先行量産機が生産されています。」

「中華連邦は一部の腐敗した裏切り者によって滅びの危機を迎えております。我々は武器を取り腐敗を一掃し、世界の暴力と恐怖による支配の体現者達に抗うと言う道を選択することになるでしょう。」

 

ネルーとボースの言葉を聞いた澪子は居住まいを正して向き合い答えた。

 

「インドの覚悟。皇国の三の姫、駒条宮澪子が聞かせていただきました。お二人の思いは必ず皇神楽耶陛下と大高首相にお伝えします。日本は必ずやこの世界の闇を払う一の太刀となる事をお約束します。」

 

その言葉を聞いた二人は深く頭を下げた。

 

 

 

さらに数日後、ラクシャータ日本入り、黒の騎士団未合流

タイ王国首都バンコク・プラナコーン地区 王宮

澪子と前原はプミンポン国王に晩餐会に招かれた。そこでは東南アジア諸国の外交官や大使達が集まり酒宴に興じていたのだが、ここ2・3日は皆この客間に集まりテレビの前でじっとそこに流れる映像に注視している状況が続いていた。

時は8月の25日。そう…第二次奥州解放戦争が始まったのだ。

 

テレビの映像を介して、ブリタニア軍と日本皇国及びレジスタンス連合の戦いの様子が伝えられる。ブリタニア側のニュース映像を流す局と日本皇国側のニュースを流す局だ。

 

さすがに、サンダーコントロールシステムやハイパワーレーザー車の映像は排除されている。数分おきにタイ王国の軍官僚や外務官僚が未確定の情報を含んだ各種情報を報告しに往復を繰り返す。

日本皇国優勢の情報が入ると東南アジア諸国の大使や外交官たちが「おお!」等と声を上げる。逆にランスロットが活躍しだした時は「ああ!」と声を出し一喜一憂していた。

 

戦いは半日程続き、戦闘終了後もしばらくの間、情報が錯綜する。そして、日付が変わり日が昇り始めていたが精度の高い情報を待つためにその場から動かなかった。

テーブルの上にはマンゴーや果物にココナッツで味付けされた各種デザートが置かれ、招待客たちにもタイ風ミルクティーやジュースが振舞われた。飲み物の方はすでに空になっており使用人たちが次を注いで回る。だが、菓子類はほとんど手を付けられていない。戦いの推移を聞いて緊張している為か、やたら喉が渇いた。

 

確定情報を各々待っている。葉巻やパイプに火を点けて吹かしている待つ者、飲み物に口を付ける者、菓子類に手を出す者。それぞれがそれぞれの思うように過ごし出し始めた。

 

 

澪子は比較的近くに席を置くプミンポン国王に話しかけられる。

 

「駒条宮、日本の大高はこの戦い…。いえ…この世界をどのように考えておるのだろうか?」

 

大高の考えは大高にしか分からない。

澪子はその答えを持ち合わせてはいない。

そこに、前原がゆっくりと口を開く。前原は高野を通して高野の考えに触れることが多い。そのため、澪子が口を開かないなら前原が答えるしかない。前原が澪子に視線を向け許可を求め、澪子が頷いて許可が下りたのを確認した前原が口を開く。

 

「私見交じりでよろしいのなら…。」

「かまいません。」

 

「大高閣下はブリタニアの日本侵攻以前の…そう。約25年前の第一次政権の時すでにブリタニアの国家的野心に気が付いていました。この時の道州制導入は戦時下における企業の積極的集団疎開を視野に入れていたそうです。その後の野党政権や他派閥政権で大高閣下の策は完遂とまではいかなかったようですが。今も十分にブリタニアやナチスとも対抗できています。大高閣下としては日本を奪還した暁には国体を複数中心型統治体制へと舵を切り、経済競争力を高め亜細亜諸国内で貿易圏を構成し各国の結びつきを強め、枢軸勢力に対抗しようとお考えなのではないかと推察しております。」

 

それを聞いたプミンポン国王はしばらく考え込み始めた。

そこへ、外務官僚が乱暴に扉を開け駆け込んで来た。その後ろには軍官僚も続く。

 

「日本皇国勝利!奥羽州出羽にて大勝利です!ブリタニア軍は半壊し壊乱状態にあるとのことです!また奥羽州太奥でも戦闘が開始された模様!戦況は日本側に極めて有利!」

「大高首相はこの戦いでの勝利宣言を行いました!」

 

それを聞いたプミンポン国王は意を決したように表情を硬くし二人に話しかける。

 

「確かに、アジアを中華連邦の様な支配の形ではなく。大高首相の考える手は有効ではあると思う。一瞬だが中華連邦本国が切り崩された様に合従連衡が頭に過ぎったが、経済圏の構築と言う策を持って連衡の利をなくすことで合従だけにすることも…出来るだろう。大高首相の考えの一端に触れることが出来たように思える。この後、時間は?駒条宮、前原少将…是非お見せしたいものがある。」

 

 

 

 

皇歴2017年8月27日

タイ王国陸軍地下施設

プミンポン国王の招きを受けて二人はタイ王国陸軍の地下施設を訪れた。

地上の陸軍基地にはロシア製のサベージと中華連邦の鋼髏(ガン・ルゥ)が並び、少数だが日本の嶺花もあった。それらを通り過ぎて基地の地下研究施設に案内される。

 

 

「これが、我が国最初の人型機動兵器に当たる機体で、ブッシュネルと言います。」

 

陸軍高官が詳細を伏せる形で解説を始める。

 

「コンセプト的には鋼髏より、貴国の嶺花やロシアのサベージに近いでしょう。」

 

人型の機体、武装はアサルトライフルやグレネードランチャーを装備しており、先ほどから様々な姿勢で射撃練習をしている。

 

「これこそが、我が国の正式採用型戦闘人型機械M6ブッシュネルの先行量産機です。不整地の多く、足場の悪い土地が多い東南アジアにおいても走破可能な独自規格のランドスピナーを採用しています。また、機体の安定性能はブリタニアのKMFを凌ぎます。正式な量産機の開発も目前まで進んでおりますので、時期に問題は解決するでしょう。」

 

「それがあなた方の刃と言う事なのですね。」

 

澪子の言葉を聞いてプミンポン国王は口を開く。

 

「うむ。予てより貴国からの技術支援を受けここまで漕ぎつけた。東南アジア諸国は日本に恩義を感じておる。貴国は…いえ大高閣下は以前よりアジア諸国とのつながりを重視し多くの便宜を図ってくれた。だが、我々の様な国々は大国に靡かねば吹き飛ばされてしまう。だから、7年前のあの日、我々は貴国を見捨てた。そうするしかなかったのだ…わかってもらいたい。」

 

「……………。」

「……………。」

 

2人はプミンポン国王の独白に近い一連の言葉を黙って聞き続ける。

中華連邦本国がアラブや西アジア諸国を見捨てたのを機に中華連邦加盟国は中華連邦本国に対して不信感をあらわにしていた。そして、東南アジア諸国ではタイ王国、プミンポン国王が東南アジアの盟主として頭角を現していた。

そんな彼の言葉は東南アジア諸国全体の意志を踏まえた言葉も同義であった。

 

「だが、その宗主国である中華連邦本国も我々を切り捨て自分だけ生き残ろうとしている。この様なことを言うのは身勝手極まりないと思う。だが、貴国にはそれだけの実力がある。もし、貴国が良しとすると言うのなら…我々の宗主となり…世界に…。」

「プミンポン陛下…!私の一存ではお答えできかねます。」

 

澪子はプミンポン国王の言葉を少しばかり強い口調で遮る。

前原からプミンポン国王への視線も強いものとなる。

だが、プミンポン国王も引く様子はない。

 

「駒条宮姫殿下、前原少将。」

 

澪子は、前原は理解してしまった。プミンポン国王がこの後どの様な言葉を続けようとしていたのかを…。

ブリタニアと開戦して7年、これほど長きにわたって継戦し国土の半分以上を失陥したとはいえブリタニアとほぼ同等に戦い続け、近年その国土のいくつかを奪還して見せている日本皇国はブリタニアを中心とした枢軸勢力と渡り合える素質と言う希望を周辺国に見せていた。だからこそ、中華連邦の様に連邦宗主として多くの国を率いることも可能ではあるとも言えた。

だが、2人はそれが神楽耶と大高の目指す亜細亜の独立に繋がるものではないことを理解していた。だから、首を縦に振ることは出来なかった。たしかに、日本と言う国はブリタニアやナチスと対等に渡り合える強力な剣を持った精強な戦士と言える。しかし、日本はサクラダイトと言う資源を除けば資源輸入国であり不安定な足場で戦っていると言えた。そこに東南アジアと言う足場を得れば…。

しかし、2人は自分達の主がそれを望まない時点で、プミンポン国王の誘いに乗ることはない。

 

それを、2人の態度から感じ取ったプミンポン国王はこう話をしめた。

 

「これは東南アジア諸国全体の意志と理解してもらいたい。」

 

日本皇国皇族駒条宮澪子とタイ王国国王プミンポン・アドゥンテラヤードの会談は、後に大きな意味を持つことになる。

 




東南アジアにブッシュネルを置いたのは、いまだに迷う。変更するかも…

嶺花=96式(フルメタ)


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第25話 キュウシュウ戦役

皇歴2017年9月5日 能登半島ブリタニア陣地

 

コーネリア率いるブリタニア軍は能登半島に上陸した日本皇国軍を奥能登まで押し返し、防衛線を引き直した。そして、現在に至るまでにらみ合いを続けていた。

千葉州作大佐の手腕によって要塞陣地化した奥能登は、勇猛で鳴らすコーネリアの手腕を持ってしても貫くのは容易ではなかった。

コーネリアとしても腰を据えて、じっくりと責め立てる長期戦術で、奥能登を落とそうとしていた矢先の出来事であった。

 

「殿下!キュウシュウブロックの関門大橋が破壊されました!」

「なに!?」

 

ギルフォードからの報告に、少しばかり驚いた様子でコーネリアは反応した。

 

「他四か所で陸路が封鎖され、さらに玄界灘に強襲揚陸艇が多数押し寄せて来ています!」

「中華連邦か?だが、宣戦布告はなかったはずだ。それとも、ロシアか!?まさか、北海道軍か!?」

 

コーネリアの脳内でいくつかの候補が上がり、口に出す。だが、それらの国は半ば懐柔工作が進んでいたり、戦力的に現実味が無かったりで候補としては有力ではなかった。

 

「詳細は不明ですが、それらの艇体には旧日本の国旗が確認されています!」

「旧日本?」

 

コーネリアの中で北海道軍が挙がったが北海道政権は7年前の独立宣言の際に北海道は日本の後継国家として独立しており、旧日本とは違うものとして認識されている。国旗も白地に日の丸ではなく旭日旗を採用していた。

 

「北海道軍とは、また違うな。新たなレジスタンスか?」

「詳細は不明です。殿下…如何いたしますか?」

「この際、イシカワはもうよい。要塞化した、あそこは攻めにくい。だが、こちらの陣地も十分固くなっている。イシカワに関しては後回しにしてキュウシュウの方に当たるぞ。」

 

コーネリアは、以後のことを部下に任せて、自身はギルフォードら側近と共にトウキョウ租界まで引き返した。

 

 

皇歴2017年9月6日 トウキョウ租界某所 黒の騎士団潜伏地

 

『我々は、ここに正当なる独立主権国家日本の再興を宣言する!』

『福岡基地で宣言を行った澤崎敦氏は第二次枢木政権では官房長官として在任していた経歴があります。なお、黒の騎士団や北海道軍が関与しているかは調査中です。』

 

テレビの映像を見ていた騎士団の面々は動揺を隠せずにいた。

 

「関係ねぇって!」

 

テレビに突っ込みを入れる玉城を無視して、副指令の扇がディートハルトに状況を確認する。

 

「キョウトは、何って言ってるんだ?」

「えぇ、サクラダイトの採掘権のみ一方的に通告してきたと…。」

「じゃあ、北海道政権は何か言っているか?」

「今のところ静観しているようです。」

 

ちなみに、北海道政権とのパイプは準備段階で扇が握る組織としての窓口は未完成で、キョウトを介してゼロが直接握る窓口しかない現状だ。

 

そんな、扇達を見て不安気にカレンはゼロに尋ねる。

 

「ゼロ…、私たちはどうしたら…?」

「……(大高の情報通りか。キョウトでも仕入れられなかった情報を…。いや、今は大高から譲ってもらった舞台を活用すべきか。)」

 

 

 

北海道函館市 首相官邸閣僚会議室

 

テレビの映像を見ながら大高達は現状について話し合っていた。

 

「外務省に確認を取りましたが、ロシアはこの件に一切関知していないとのことです。」

 

木戸が報告を読み上げ、高野はだろうなと分かり切った様子で聞き流していた。

 

高野は大高に視線をやると、大高が話し始める。

 

「映像にサベージが居なかった時点で、分かってはいましたが…。やはり…中華連邦本国でしょうな。情報の精度はいかがですか?」

「南機関と東機関の情報を総合し、精査したものです。間違いないかと思います。」

 

手渡された資料を目にしながら軍需大臣の島耕作は楽観論を口にする。

 

「資料を見る限り、敵の主力は鋼髏。黒の騎士団や日本解放戦線が掌握できなかったレジスタンスの跳ね返りの無頼や鹵獲機が少数。霞師団か海兵師団を持ってすれば容易に片が付くのでは?黒の騎士団や主要なレジスタンスも、彼らには冷ややかか。」

 

「そうは言うが、西日本側の制海権はブリタニアの手の内。送り届ける方法がなければ、どうしようもない。海軍虎の子の潜水艦群も他に回す余裕はない。」

そんな楽観論に対して苦言を呈したのは海軍大臣の岡田慶介。

陸軍大臣永田烈山、陸軍参謀総長桂寅五郎と言った軍事に関わる者達は頷いて岡田の意見に同意する。

 

「失礼しました。なにぶん軍事には浅学故に…。ですが、日本人からの支持も低い澤崎の軍をどうするのです?」

 

高野からも非難を示す視線を浴びた島は、自分の発言を詫びてから、ではどうするのだと聞き返す。これに対しては軍事関係でない、各省の大臣たちが大高や高野と言った者達に視線を向ける。

 

「黒の騎士団に腹案ありと伺っています。今回はゼロのお手並みを拝見しようかと思っています。ゼロの言が正しければ、数日中に行動を起こすとのことですので…。ここは一つ推移を見守ろうかと思っています。」

 

大高にしては、珍しい他人任せな発言であったが、他ならぬ大高の言葉だ。閣僚たちから反対意見などは出ず閣議は閉会した。

 

 

 

 

 

皇歴2017年9月7日キュウシュウブロック玄界灘

 

日が沈み夜となった。

激しい風雨に晒された、まさに嵐の如き戦が繰り広げられていた。

 

能登より撤収し、すぐさまコーネリア率いる軍は海兵騎士団を動員して、九州ブロック平定に動き出す。嵐によって海はあれ上陸作戦は困難を極めていた。

コーネリアは玄界灘及び関門海峡の二方面から上陸を狙う動きを見せた。

しかし、関門海峡から旧北九州市への上陸は、当然の様に澤崎の軍が重点的に抑えており、上陸は不可能であった。対岸の旧北九州市には鋼髏よりも高性能な無頼やブリタニア鹵獲機が重点的に配置されており、ミサイルや野戦砲を用いた中・長距離戦が激しく繰り広げられていた。

 

「コーネリア殿下、損害が大きすぎます。この天候では空も使えません。上陸作戦は天候が安定してからかと。」

「っく。」

 

もう一方の玄界灘から博多湾へ上陸する作戦も想定されていた。

上陸を計ろうとするブリタニアの揚陸艦やその他艦艇、ポートマンの様な水中KMFに対しては中華連邦のシルクワーム・鷹撃・東風と言った対艦ミサイルや澤崎に追従した旧日本軍の88式地対艦誘導弾に、各種対空ミサイルがブリタニア軍を寄せ付けなかった。

また、嵐と言う天候が航空戦力の投入を妨げた。一応、ナチスドイツの極東派遣軍と言う手札はあったが、暫定的な指揮権はシュナイゼルが握っており、指揮系統の違う他国の軍隊であると言う事が切れない手札として彼らを死札にしてしまっていた。

 

 

トウキョウ租界ブリタニア政庁

 

九州での事態に対応するために、シュナイゼルはダールトンを中心とした政庁詰めの武官文官達に、忙しく指示を出す。

 

「戒厳令は必要ないよ。市民を不安にさせるだけだからね。ナチス第三帝国のリッペントッロプ外相に親書を、それとカンボジアのトロモ機関に繋いで…。」

「シュナイゼル殿下、トロモは扱いが…」

 

 

「宰相閣下!何かお手伝いできることはありませんか?エリア11の副総督として、私も…。」

 

そんなところに、シュナイゼルの妹であるユフィが尋ねてくる。そんな彼女に対してシュナイゼルはやんわりと断りを入れる。

 

「ありがとう。ユフィ、その気持ちだけで十分だ。」

「あの、でも…」

 

「副総督は、何もするなとの総督からのお達しです。」

 

それでも、引き下がろうとしないユフィにダールトンが厳しい言葉を投げかける。

 

「お姉さま…、いくら勝手に騎士を決めたからと言って…。」

 

「いえ、それは違います。枢木の件は私も…。」

「解ってあげなよ。ユフィ、こんな時だからコーネリアにも余裕がないんだよ。」

 

「そ、それは…。」

どういう意味ですかとは、ユフィは聞けなかった。

わざと言ったのかもしれないが、普段のシュナイゼルならしないであろう失言でもあった。

九州の事態はシュナイゼルも想定しきれていなかったのだろう。僅かながらに余裕をなくしていたのかもしれない。

そんな言葉を聞いたユフィは大人しく引き下がるしかなかった。

 

 

詳細不明 黒の騎士団潜水艦拠点 

 

潜水艦内のブリーフィングルームではゼロの発言が波紋を呼んでいた。

 

「澤崎とは合流しない。あれは独立ではない…傀儡政権だ、中華連邦のな。」

「だが、日本を名乗っている。」

 

「名前と主君が変わるだけ、未来はない。無視するべきだ。あの日本は…。」

「でもさ、それって…。」

「ブリタニアの行動も放っておくのか。」

 

「ゼロ、組織の方針を明確にしといた方が…。」

「そうだな。澤崎の件は置いておくとして、当面の目的くらいは…。」

 

四聖剣の面々からも不満の声が上がったのを見て、さすがに不味いと思ったのかディートハルトはゼロに組織の方針を示すように助言する。それに扇も同調する。

そして、それに応じたゼロの言葉はさらに驚愕するものだった。

 

「東京に独立国を作る。」

 

ゼロの言葉に黒の騎士団幹部陣も含めて動揺が広がる。

構成員も皆、ざわついていた。

 

「待ってくれ!いくら、黒の騎士団が大きくなったからと言っても!!」

「ブリタニアは大国、世界の3割を握る…。いや、ナチスドイツとかも加えれば半分以上だ。」

「それに、北海道政権やキョウトとの関係は!?」

 

 

「では聞こう!お前たち、誰かがブリタニアを倒してくれるのを待つつもりか?誰かが自分の代わりにやってくれる?待っていれば、いつかはチャンスが来る?甘えるな!自らが動かなければ、そんないつかは絶対に来ない!!」

 

ルルーシュは着実に魔王への階段を上り始めていた。

 

トウキョウ租界クロヴィス記念美術館

 

ユフィはクロヴィスの肖像画の前で物思いに耽っていた。

 

(お飾りの副総督。それは、最初から解ってたし…。でも、やれることを頑張っていこうと思ったのに…。ごめんなさい、クロヴィス兄さま。ゼロに会ったんですけど、仇とれませんでした。でも、ルルーシュとナナリーを救う方法も思いつかなくて…。お姉さまに逆らって騎士を決めてみたのですが…)

「返されちゃいました。」

 

ユフィの眼から涙があふれ出てくる。

そう、この時スザクは父親殺しの件や式根島での失態などの思いからユフィに騎士を返上していた。

 

 

キュウシュウブロック玄界灘 エリア11駐留(コーネリア)艦隊 旗艦 コーラル・シー

 

コーネリア率いる揚陸艦隊の護衛として、第三帝国極東派遣軍の先遣艦隊5隻のアドミラル・ヒッパー級重巡洋艦とゲバイやダインを中心としたMAが護衛に着く。彼らは上空警戒が任務だ。

 

「これで、上陸作戦も展開できます。上陸作戦には第三帝国軍も参加します。シュナイゼル殿下の御提案も実行できるかと…。」

「特派は突破できると思うか?」

「枢木ならばあるいは…。」

「っふ、扱いに困る男だ。」

「しかし、指揮官のいない船です。技術力だけでは少々心配ではあります。」

「それこそ、要らぬ心配であろう。ギルフォード?」

「っは、失礼しました。」

 

 

ナチス第三帝国極東派遣軍先遣艦隊 旗艦 アドミラル・ヒッパー

 

エリア11艦隊に同行する先遣艦隊の司令官ハンス・オストヴァルト中佐はコーネリアとの定例的な通信を終えて、艦橋の司令官席に腰を下ろす。

 

「ふむ、シュナイゼル殿下の秘蔵っ子。特派の手並み…見せてもらおうか。」

 

オストヴァルトの視線の先にはコーネリアの艦隊から揚陸艦と護衛の艦が前進を開始していた。

 

キュウシュウブロック瀬戸内海側上空 浮遊航空艦 アヴァロン

 

コーネリア艦隊が澤崎の前線主力戦力を引き付けた。その隙を縫った形で敵中深くまで侵入した。

 

「ミサイル、接近!フクオカ基地より発射された模様!着弾まで1分05秒!」

そのアヴァロンに対して福岡基地から大量の対空ミサイルが放たれる。

ミサイル接近に対して、ロイドは相変わらず若干おちゃらけた態度だが、アヴァロンの乗組員たちは動揺することなく淡々と対処していた。

 

「ランスロットで実証済みだからね。」

 

シールド状のブレイズルミナスが展開され、ミサイルがすべて防がれる。

 

「枢木少佐。作戦概要を再度確認します。当艦は高高度から敵の前線を突破し、発艦ポイントまで移動中。嚮導兵器Z-01ランスロットはフロートユニットを使用し、福岡基地を急襲せよ!なお、フロートはエナジー消費が激しいため、稼働時間に留意。ランスロット発艦!」

『了解。MEブースト、発艦!』

 

 

 

フクオカ基地戦闘空域及び敷地 

 

ランスロットはフクオカ基地の防衛線力に優位に戦ったが、澤崎の通信の言葉で動揺し追い込まれる。

 

『私があなたを大好きになります!スザク、あなたの頑なところも優しいところも、悲しそうな瞳も不器用なところも、猫に噛まれちゃうところも全部!だから自分を嫌わないで!』

 

追い込まれたスザクであったが、ユーフェミアの愛の告白もあって体勢を立て直す。

 

「かえって、心配させてしまったんですね。貴女って人は…いつもいきなりです!」

 

しかし、20機近い鋼髏に包囲される。

スザクはもはやここまでと諦めかけたが…

 

『スザク!死なないで!生きてて!』

 

彼女の言葉がキーワードとなり、彼に掛けられたギアスが発動しかける。

 

「なんだ?」

 

そのタイミングで、スザクのランスロットを包囲する鋼髏が一瞬で薙ぎ払われる。

ルルーシュのガウェインが現れたのであった。

 

 

 

フクオカ基地敷地直上 

 

「あの白兜、ランスロットとか言う名前だったか?相変わらず無茶な戦いだな。」

 

「あぁ、しかし今回はバックがいるようだ。単機で本陣をかく乱し、イレギュラーを作る。失敗してもコーネリアは動きやすい。(この策、シュナイゼル兄さんか?)……邪魔なんだよ。君達は!」

 

思考中の片手間に敵戦闘ヘリを破壊する。このガウェインの性能は、それほどまでに隔絶していた。それは、ある意味、ランスロットにも言えたことである。

 

「枢木よ。ランスロットは動くか?」

『やはり、ゼロか。…エナジーフィラー?』

 

ゼロは澤崎側かと思っていた、スザクは少し驚いて尋ねる。ルルーシュはそのあたりは気にも留めない様子で答える。

 

「私はこれより、敵の本陣を抑える。君はどうする?」

『残念だけど、ゼロ。君の望みはかなわない。自分が先に叩かせてもらうよ。』

 

フクオカ基地戦闘空域 浮遊航空艦 アヴァロン

 

「ハドロン砲は未完成のはずじゃあ!?」

「収束出来てる。くぅ…僕が完成させるはずだったのにっ!」

 

未完成の状態で奪われたガウェインが、完成されていたことにセシルは驚愕していた。ロイドも同じく驚愕していたが、それはどちらかと言うと自分の作品を自分で完成させられなかったことに対する、憤りの方が強そうであったが、次第に冷静さを取り戻し…思った。

 

(共同作戦か…、ランスロットとガウェインの。)

 

キュウシュウブロック博多湾沿い海域 黒の騎士団潜水艦

 

「ゲティオン・ディスターバーの応用で何とかなったけど。でも、フロートシステムの開発は、わたしの負け。やっぱり、お相手はプリン伯爵か。(共同作戦か…、ランスロットとガウェインの。)」

一方で黒の騎士団潜水艦でも、後方の技術要員の長として同行していた。ラクシャータも一人、言葉にしていた。

 

 

 

キュウシュウブロック博多湾沿い海域 黒の騎士団潜水艦

 

「ブリタニアから逃れるために、ガウェイン単機の作戦にしたのは正解でしたね。」

 

「でも、紅蓮が壁になればもっと楽に…。どうせ、あたしは、家にも学校にも帰れないし…。今更、ランスロットなんかと組まなくたって…。」

 

「必要な事は勝利ではありません。この戦いに黒の騎士団が参加した事実なのです。無論、表立っての報道はないでしょうが、噂は流せます。ゼロが言う通り、これは私たちの立場を世界に告げる良い機会になるでしょう。」

 

皇歴2017年9月8日トウキョウ租界街頭テレビ

フクオカ基地はランスロットとガウェインと言う第七世代相当の機体2機の攻撃を受けて、壊滅した。現主力の第五世代機より2世代ほど進んでいる上、鋼髏や無頼はほぼ第四世代機だ。力の差は一目瞭然であった。

 

『キュウシュウブロックで勃発した。反体制派のテロ事件は、コーネリア総督の電撃作戦によって、澤崎敦以下四名の旧日本政府メンバーと関与した中華連邦メンバーの半数以上を逮捕して捕虜としました。なお、中華連邦首脳部は今回の事件に関して遼東軍管区曽将軍の独断であるとの姿勢を崩しておらず。チベット条約に基づいて捕虜の返還を求めています。』

 

 

トウキョウ租界ブリタニア政庁高官プライベートエリア

キュウシュウブロックより戻ったスザクを出迎えたユーフェミアは、自分の思いを告げる。

「スザク、私ね、…解ったんです。理想の国家とか大義とかそう言う難しい事じゃなくて、私はただ笑顔が見たいんだって…。今大好きな人と、かつて大好きだった人の笑顔が…。」

 

そう言って、ユーフェミアはスザクに騎士勲章を差し出す。

 

「スザク、私を手伝ってくれませんか?」

「イエス、ユア、ハイネス。」

 

 

 

 




今日はもう1話、投稿します。


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第26話 バグラチオン作戦 発動

皇歴2017年9月8日ロシアソビエト社会主義帝国 

王都兼首都イルクーツク 仮皇宮併設大統領府

 

枢軸軍の侵攻により王宮のあるサンクトペテルブルクとソビエト議会を中心とした公官庁が並ぶモスクワが陥落してから、ロシア帝国は現在のイルクーツクに落ち着くまで、エカテリンブルク、オムスク、ノヴォシビルスクと臨時首都を複数回に渡り遷都を行った。

遷都先にはハバロフスクやウラジオストクも上がったが、同盟国と隣接しているとはいえブリタニア勢力下に近く、信用ならない中華連邦本国と国境を接しており遷都先から外された経緯もあった。

 

現在の首都イルクーツクは、バイカル湖に近く遊牧的で牧歌的な雰囲気の漂う落ち着いた穏やかな空気が流れていた。その一方で、ロシア極東地域とウラル・中央アジアを繋ぐシベリア東部の工商および交通の要衝である。ロシア正教会の大主教座が置かれ、劇場、オペラ座などの文化施設も充実する。これらの公共建築にはかつての戦争で、シベリアに抑留された日本人によって建てられたものも多い。日露関係が親密以上の蜜月関係にある現状、古くからの在留日本人の子孫やブリタニアを逃れてきた亡命日本人達も多く存在し、政府重要職を除く多くの場で活躍する姿が見られている。他の外国人以上に丁重に扱われているのは当然と言えた。

 

 

両施設内の調度品は、かつての首都脱出時に救世主ハリストス大聖堂やトレチャコフ美術館などの聖堂や美術館から貴重品保護の名目で接収した、貴重品の一部がそのまま流用されている。

 

「ブリタニアの目は、先の日本皇国軍の南下、黒の騎士団の蜂起、キュウシュブロックにおける中華連邦の介入によって、日本に向かっています。ナチス第三帝国もウラルの防衛線で膠着状態、それよりも中東を抑え、インド侵攻も秒読みです。」

「ニコライ計画の準備段階はすべてクリアしました。」

 

帝国宰相兼大統領ウラジミール・プーシンは執務室で書類にサインと判を入れながら、参謀総長ヴィクトル・コレンコフと軍務大臣エルゲイ・エジョイクの報告を聞いていた。

プーシンはその手を止めて、顔を上げた。その鋭い視線を2人に向ける。

 

「…我々の機は熟したか。」

「軍部はその様に判断しています。」

 

プーシンは電話の受話器を手に取り機器のボタンを押す。電話はすぐにつながる。

 

「あぁ…私だ。外務大臣に繋いでくれ。………そうだ、私だ。今、軍部のエジョイクとコレンコフが来ている。そうだ、ニコライ計画のことだ。日本の旭光計画について彼らはどのように言っていた?そうか、すでに連合艦隊編成へと向かっているか。時間を取らせたな。ありがとう助かった。」

 

プーシンは二人に向き直る。

 

「ホットラインで大高に直接問う必要がある。それに陛下にも、お伝えする必要がある。直答は出来ない。今日中には返答するので、連絡将校を置いて通常業務に戻ってくれ。」

「「っは。」」

 

2人が出て行ってから、しばらくしてプーシンはコーヒーを秘書官に持ってこさせる。

 

「大高と回線を開く、支度をしてくれ。」

「はい。」

 

さらに時間が経ち、執務室には特殊回線の機器を用意した技官と外務次官、そして秘書官が立ち並んでいた。

急な呼び出しであったが大高はこれに応じた。そして、会談時間となり回線がつながる。

 

『プーシン閣下、急な呼び出しでしたが、どのような内容で?木戸からは重要な案件としか伺っておりませんでしたので。』

 

「ミスタ大高。ニコライ計画の準備段階は全てクリアした事を貴殿に伝えるためだ。」

 

『それは、とても喜ばしい事です。閣下。』

 

「ついては貴国の旭光計画の進捗についてだが…」

 

プーシンは大高の雰囲気が変わったのを感じた。

 

『旭日艦隊も白銀艦隊も再建最低ラインには到達しました。紅玉艦隊も沿岸防衛程度なら可能な程度には回復しました。紺碧・旭日・白銀・紅玉・高杉・坂本・東郷、すべての艦隊は私の指示を待っています。』

 

「……ほぅ、そうか。では、ミスリル特殊作戦戦隊を派遣しよう。」

 

『マルベロ島沖でお願いします。そこで、紺碧艦隊と合流し共同作戦を依頼したい。』

 

「ミスリルは囮か?」

 

『ダメですかな?』

 

「いや、構わんよ。ところで、黒の騎士団はどうするんだ?占領地支持は日本解放戦線より上だろう。」

 

『少々残念ですが、関東州州境の陣地は双方ともに相当固く。関東州で黒の騎士団が行動を起こさねば、付け入ることも難しいのですよ。』

 

「そうか。では、日本の計画を支援する意味合いでも、そろそろ我がロシアが動かねばならんな。」

 

『よろしくお願いします。』

 

「うむ。」

 

 

電話会談が終わるとプーシンはリュミドラ女王に作戦発動の旨を伝えるために、併設される仮皇宮へ繋がる回廊を渡り、門前に待機する女官に女王への面会の求めを伝えると、女官はリュミドラ女王がボゴヤヴレーニエ大聖堂へ戦没者のためのパニビダに参加していると告げられた。

プーシンは秘書官に車を回すように伝えた。

 

 

 

 

王都兼首都イルクーツク ボゴヤヴレーニエ大聖堂

 

 

パニビダは本来未信徒には行われないが、ウラル戦線や極東戦線では日々戦死者が増え続けており、そう言った情勢を鑑みて例外的に合同告別式の形式をとったパニビダが執り行われていた。既に日は沈み、パニビダは後半に入っており、リティヤの儀が始まっていた。

 

プーシンが聖堂に入ると詠隊の連祷が耳に入る。儀も終盤の様だった。

「「「「「「「主憐れめ、主憐れめ、主憐れめよ、福をくだせ。」」」」」」

 

プーシンの来訪に気が付いた修道士が開いている貴賓席へ案内する。

 

「死より復活し、生ける者と死せし者を全能の手に保ちたもうハリストス我ら真の神は、

その至浄なる母、光栄にして讃美たる聖使徒、克肖捧神なる我が諸神父および諸聖人の祈祷によりて、我らに別れしその僕婢らの霊を諸義人の住いに入れ、アウラアムの懐に安んぜしめ、諸義人の列に加え,および我らを憐れみたまわん。善にして人を愛する主なればなり。」

「「「「「「「「アミン。」」」」」」」

 

戦死者にはロシア軍人を中心とするロシア人、EUやワルシャワ条約機構からの亡命者、その他義勇兵など多くいた為なのか。パニヒダを主宰したのはモスクワ総主教ベラヴィンであり、今も司祭役として祈祷文を朗誦している。

 

「主よ、なんじの眠りし僕婢らの幸いなる眠りに永遠の安息を与え、彼らに永遠の記憶をなしたまえ。」

「「「「「「「永遠の記憶、永遠の記憶、永遠の記憶。」」」」」」」

 

リュミドラ女王は司祭位を持っている為、ベラヴィン総主教の傍で、輔祭として、輔祭朗誦を唱えていた。

 

プーシンも信徒の一人として、修道士・修道女、そして列席者と共にパニヒダの儀終了まで戦死者への祈りをささげた。

 

 

王都兼首都イルクーツク ボゴヤヴレーニエ大聖堂の一室

 

紅茶とジャムが出されたテーブルを挟んで、プーシンはリュミドラ女王に上奏する。

 

「陛下、ニコライ計画の準備段階は完了しました。日本皇国の旭光計画も同様です。陛下の許可が下り次第、すぐにでも次の段階に移したく思います。」

「わたくしからは、よしなにとしか答えることはありません。ウラジミール…軍事政治の事は貴方に任せています。私は聖職者として、祈りをささげる事しかできません。」

 

以上の会話を見るにリュミドラは一応の政治権力を持っているのだが、基本的には大統領のプーシンに一任している。プーシンがリュミドラの信頼を得ているとも言えるのだが、あまりにも軍事政治に不干渉で聖堂に籠っている日々の現状に対して、プーシンは僅かながら不満を持っていた。

 

「陛下、もしよろしければ…議会に出席されるか、軍を視察されてはどうでしょう?」

「わたくしの様な、軍事も政治もわからぬ者が、出しゃばっても迷惑なだけでしょう。」

 

ジャムをスプーンですくって舐めながら、リュミドラは答えた。

プーシンは手にしたティーカップを下ろして、それに反論する。

 

「陛下、その様なことはございません。陛下のご尊顔を拝見すれば、現場の軍人も役人達も大いに士気が上がる事でしょう。」

 

プーシンの言葉にリュミドラはぶるりと肩を震わす。

 

「…そうですか。考えておきますね…。」

 

リュミドラ女王がジャムのついたスプーンを咥えたまま答える。

これは、嫌がっている時にする幼い時からの癖だ。

 

「陛下…。」

「ウラジミール、わたくしは日本の皇陛下の様に強くはありません。どうか、わかってください。」

「わかりました。無理を言って申し訳ありませんでした。」

「いえ、いいのです。」

 

プーシンは、そんな彼女の様子を見て彼女の経歴を思い出していた。

 

リュミドラ女王は今年で15歳になった。女王に即位したのは15年前の皇歴2002年、当時リュミドラ・ニコラエヴナ・ロマノヴァは0歳の乳児。当時、末娘であった彼女は皇帝ニコライ4世及び兄姉達が王宮内の病気感染により病床の身に、産後間もない上に未熟児であった彼女は病院に預けられていた。さらに不幸なことに、皇后エリカテーナは周囲の反対を押し切り家族の看護の為に王宮へ戻り感染。半年以内にリュミドラを除く王族直系が全滅してしまう。この急な事態で、彼女の大叔父であるスコルゲギー・エヴゲーニエヴィチ・リヴォフ大公爵が宰相となり、リュミドラは急遽即位することになったのだ。また、プーシンはその当時から大統領であり、リヴォフ公爵を補佐した。

また、革命時に多くの貴族は処刑されたが、リヴォフの様に領地を返上し法衣貴族として生き残った者も僅かにいた。

 

リヴォフ大公爵はリュミドラが幼い事もあり、大公爵の既知の間柄であったベラヴィン総主教のいるモスクワ総主教公邸の1室に預けられた。唯一の皇族と言うこともあり厳重な保護下に置かれた。ただし、リヴォフ大公爵と政府高官で孫のアレクセイは高い頻度でリュミドラと会っていたことから、女王リュミドラをないがしろにした訳ではない。そのあたりは、当時から大統領であったプーシンも認めるところである。そして、不幸な事態が起こる。皇歴2008年11月、将来的にリュミドラと結婚し、皇帝になると目されていたアレクセイ・エヴゲーニエヴィチ・リヴォフが交通事故で死亡してしまう。この件は、暗殺の可能性が示唆されている。さらに翌年、宰相スコルゲギーが失意のうちに老衰で死亡。王家の正統な血筋はリュミドラの代で確実に途切れることが決定してしまう。アレクセイ死後の報道で過去の王宮内の伝染病の蔓延が取り上げられ、皇族の暗殺説が大々的に報じられていた。その上に、アレクセイの件もありスコルゲギーも当時暗殺説が出ていた。当時の報道では、すでに滅んだとされていた共産過激派の残党やEU民主派の暗殺者などの多くの無責任な報道が流れており、プーシンがメディアを掌握するまで続いていた。

この時期のリュミドラ女王は暗殺の影におびえて過ごしていた。スコルゲギー死後に会ったリュミドラ女王は、それ以前まで普通に会話していたプーチンと会った時でさえ、唯一信用していたベラヴィン総主教の法衣の裾を握ったまま、震えながらこちらを見つめていた姿は今でも記憶に残っている。

皇歴2010年、2年の準備期間を通じて王都サンクトペテルブルクへ居を移すことになった。この2年は、プーシンが彼女から信用を得るために必要とした期間である。

サンクトペテルブルクに居を移してから、判明した事であったが彼女が気を許す修道士・修道女数名と親代わりであるベラヴィン総主教、そしてプーシンがいないとき、部屋の隅ですすり泣きながら一日中肩を抱いて震えていると言う事があり、医師の診断で心的外傷後ストレス障害があったことが判明した。サンクトペテルブルクに移る以前は教会と言う閉鎖世界で限られた信頼できる人物としか接することがなかった故に発覚が遅れたのだ。

だが、この事実を世間にバレるわけにはいかなかったために、彼女の身の回りには彼女が心を許した修道士・修道女が常に身の回りを世話し、プーシンとベラヴィン総主教は非常に高い頻度でサンクトペテルブルクに出入りした。これは、ある程度回復した現在でも皇宮と大統領府が併設されていることからもわかる様に続いている。今ではいい年をしている彼だが、男女の関係が疑われるほどだった。

 

一通りの回想が終わり、プーシンはリュミドラにわからない程度に肩を落としてから、礼をして皇宮を後にした。

 

 

王都兼首都イルクーツク 仮皇宮併設大統領府

 

リュミドラ女王の事を考えるのは一度切り上げ、電話の受話器を持ち上げる。

 

「連絡将校はいるか。いや、彼らではだめだ。閣僚全員を呼べ。」

 

1時間もしないうちに閣僚と連絡将校が到着し、入室してきた。

プーチンは作戦指示書を取り出す。そこにはすでにリュミドラ女王のサインと刻印が押されていた。リュミドラ女王の記入欄の下の段にある自分の欄にサインと判を押してから、連絡将校に差し出す。

それを、連絡将校が受け取ってから一歩下がる。

彼らを睨みつけるような鋭い視線を向けてから、告げる。

 

「ロシアソビエト社会主義帝国女帝リュミドラ・ニコラエヴナ・ロマノヴァ及び帝国大統領ウラジミール・プーシンの連名にて枢軸に対する反抗計画ニコライ計画の第一段階として、ロシア東部のブリタニア軍一掃を目的とするバグラチオン作戦の発動を命令する。バクラチオンの成功の可否は我が祖国の解放、日本の旭光計画、インドのラナーデュラグラハ計画、枢軸と戦うすべての国家の命運を握っていると言っても過言ではない。陸海空全軍、否、国家国民の総力を持ってことにあたるのだ。」

 

「「「「「「「っは!!」」」」」」

 

 



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第27話 バグラチオン作戦 序戦

皇歴2017年9月8日ロシアソビエト社会主義帝国 チュトコ 東部戦線

コルマイ丘陵東部及びコリャーク丘陵に構築された防衛線では、ロシアの防衛陣地を突破しようするブリタニア軍と、それを阻むロシア軍が日々鬩ぎ合っている。

 

枢軸侵攻前のロシア帝国陸軍は大きく分けて、6つの軍に分けられていた。西部・南部・中央軍・東部軍のロシアソビエト四大管区軍。そして、近衛軍・コサック軍の女王直轄軍。管区軍は赤衛軍、直轄軍は白衛軍と呼ばれていた。

 

現在、ナチス第三帝国を中心とする枢軸軍の攻勢で西部軍と南部軍は壊滅。この2つの軍は一時中央軍に吸収されて、新西部軍として再編成される。その後、旧ワルシャワ条約機構軍の残存部隊共にウラル戦線に投入されている。

東部戦線は当然ながらチュコトのブリタニア軍に、その大半が充てられている。

この戦いでは、中央軍に大規模な動員が掛けられていた。この中央軍であるが今現在、この一時において数の上では最大の軍であった。従来の基地駐屯部隊と中華連邦本国及び連邦加盟勢力モンゴル人民共和国及び蒙古連合自治政府国境の守備隊以外に、徴兵軍が編成及び訓練のために多数集結していた為であった。

 

 

 

バグラチオン作戦の発動によって中央より東部戦線への鉄道網を駆使した大規模な兵員輸送が行われた。軍用列車以外に民間列車もが動員された輸送計画は、ブリタニアにも当然ながら察知されていた。とは言え、ブリタニアは特殊部隊をロシア中央に展開するようなことは出来ず。

ロシアを横断するシベリア鉄道とバム鉄道は多くの兵器を輸送した。チュコトの前線に近いサハ・マガダン・カムチャッカの各基地に大量の兵器が運び込まれることとなった。

 

東部チュコト軍団は20からなる師団で軍集団として機能している。

バグラチオン作戦ではチュトコ以外の地域の東部軍や中央軍から抽出され30もの師団が動員されている。

この兵力を見て、察することが出来るかもしれないが、ロシア軍は徴兵部隊を含む非常に大規模な動員であった。

 

海軍も対独戦用の北方艦隊を除く、増強された太平洋艦隊(旧名称・極東艦隊)がオホーツク及びベーリング海に展開進出し、旧カスピ・黒海・バルトの残存戦力を統合再編した新生バルト艦隊が北極圏の海を渡り東シベリア海に進出していた。

 

対する神聖ブリタニア帝国軍の戦力は以下のとおりである。

元来のロシア侵攻軍としては10個師団おり、アラスカの待機師団5個師団も存在していたが、ロシア軍の東部戦線に対する部分的な動員とは言え3倍以上の戦力が投入されることとなり、ブリタニアも新たに15師団の派兵が行われ、さらなる増援が計画されることとなった。

 

このロシアチュトコ戦線はブリタニア本国軍が抱える最大の戦域となる。

 

皇歴2017年9月9日ロシアソビエト社会主義帝国

サハ自治州 ヤクーツク バグラチオン作戦司令部

 

ゲオルグ・ジューコフ陸軍元帥主導の下、バグラチオン作戦は開始された。

 

中央赤衛軍及び東部赤衛軍の軍集団がコルマイ丘陵及びコリャーク丘陵の山岳地帯を越えて、襲い掛かる。

 

数の利を生かした力押しで、ロシア軍はブリタニアの3倍近い砲火とミサイルにて東部の針葉樹林も積雪もまとめて、ブリタニア軍を焼き払わんと降り注がせた。実際、ロシア軍の砲撃、ミサイル攻撃、爆撃はすさまじく、吹き飛んだ森や出来たクレーターの数は数えきれない程であった。ただ、制空戦はブリタニア軍でも数の少ない飛行型KMFの集中投入という反撃もあり膠着する。

 

「ジューコフ閣下、我が軍優勢です。」

「うむ、兵の質は向こうが上だが、この数はどうしようもないはずだ。」

 

 

序戦におけるミサイルなどの砲射撃戦ではブリタニア軍を圧倒した。

兵の質から言ってKMF戦であるならばブリタニア軍はロシア軍に対して有利と言えた。

しかし、KMFを倒すのが必ずしもKMFである必要はないのである。ミサイル車両による遠距離からの攻撃。大量投入された野戦砲や戦車の砲撃も数で攻めれば十分脅威であった。

なかでも、対KMF誘導弾を用いた特技兵の存在はブリタニア軍をおおいに苦しめた。歩兵と言う小さい目標はありとあらゆる場所に潜みゲリラ的ともいえる奇襲戦術でブリタニア軍を攻撃する。そもそも、KMFや戦闘車両と違い歩兵の延長であるこの特技兵は数を揃えることは容易であった。

不確かな状態であったが、制空権は奪えてもいないが、奪われてはいないのだ。

 

単純戦力比はブリタニア1:ロシア3。KMF戦力比はブリタニア1:ロシア2であり、2倍。ロシア軍の内実としては、KMF部隊の内の半数は新兵であり、練度においてはブリタニア軍の方が圧倒的に有利でもあった。ロシア製KMFサベージは生産性以外にも優れた点がある。それは、その寸胴型の見た目が持つ分厚い装甲からくる搭乗者の生存性の高さでもあった。

ブリタニア軍とロシア軍の機体損壊率は圧倒的にロシア軍が多かったが、パイロットの生存比率は大差なかったりする。さらにロシア軍はKMF以外の戦車なども装甲が厚くなっており、物的損害こそ多いものの、ブリタニア人の命を確実に奪って行った。

 

 

恐るべし、ロシアの人海戦術。精強であるブリタニア軍と言えどもロシアの人の波を防ぐには至らず。徐々に、戦線を後退させることになるのである。

 

皇歴2017年9月9日  ベーリング海及びアリューシャン諸島

 

バグラチオン作戦における戦いは海でもあった。

ブリタニアの侵攻軍の補給線を寸断せんと、バルト艦隊がベーリング海へ進出しブリタニア軍の基地航空隊他・小艦隊と衝突していた。

 

一方で、アリューシャンへ進出したロシア太平洋艦隊は日本皇国より派遣された東郷艦隊と合流しブリタニア艦隊と衝突。

この戦いには、日本皇国海軍水中要塞鳴門が投入され、これに搭載されていた小型戦闘潜航艇海龍Ⅱが実戦に投入された。なぜⅡなのかと言うと、先の戦争において同名の小型潜水艦が存在した為である。航空機的な操縦系を持ち、艇先端のプロペラ、もしくは水流ジェット推進で推進する。この兵器は、格闘戦能力こそないものの水中戦闘機と呼べる代物であり、世界初のポートマンに対抗できる、正式に量産された兵器であった。

 

「副官、あれがロシアの水中仕様機か。ブリタニアのポートマンとはだいぶ違うのだな。」

「はい。ロシアは生存性を上げるために寸胴型のKMFが採用されましたので…。」

「そうか。(水中型機は我が国も寸胴型にするべきかもしれんな。)」

 

艦隊の艦載機が発艦するのをしり目に、ロシア軍の水中仕様の先行量産機を東郷たちは興味深げに見ていた。

 

その後、複数回に渡り両艦隊の艦載機が空戦を、水中機が水中戦を繰り広げ、艦隊そのものも、何度かのミサイル戦及び砲射撃戦を繰り広げた。しかしながら、両軍ともに損害は補助艦艇ばかりで、空母や戦艦は轟沈することはなかった。

この海戦は不完全燃焼であった。その後も分艦隊や戦隊規模の海戦が複数回発生したが大勢には影響することはなかった。

 

皇歴2017年9月9日ロシアソビエト社会主義帝国 暫定首都イルクーツク 大統領官邸

 

「東部戦線の戦況ですが、当初の計画通りブリタニアの戦線は後退しております。バルト艦隊がベーリング海の敵補給線を寸断しつつあります。制空権の奪取も時間の問題かと…。」

 

秘書官の報告を聞きながら、各種書類に判やサインを入れていく。その視線は秘書官の方を見ていない。

 

「そうか。バルト艦隊はそのままベーリング海を越えさせて、太平洋艦隊に合流させろ。枢軸との戦い…東部、いや、アジアの戦線の天秤はこちらに傾きつつあるか。」

 

プーシンは執務机のコーヒーを口にして一息つく。その後、再び書類に目を通し判を押していく。

 

「あとは、大高の出方次第。…そして、ゼロか。」

 

プーシンは書類のひとつに視線を向ける。諜報部からのゼロの騎士団に対する報告書であった。

 

 

 



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第28話 行政特区日本宣言

皇歴2017年9月12日 アシュフォード学園 日中

 

学園祭の喧噪に紛れて、ルルーシュは屋上でディートハルトと連絡を取っていた。

 

「澤崎にも利用価値はあったのだな。これで条件は、かなりクリアされたな。」

 

キュウシュウ動乱の際、手に入れたものは澤崎が九州を制圧した後の日本解放の計画の情報と手札であった。

 

『各地域の緊急時における対応は、全てデータに起こしております。各所の太陽光パネル、それに伴うエナジー保管所の詳細も掌握済みです。例の地下協力員は?』

 

「私だけで十分だ。72%まで詰めてくれ…。藤堂は?」

『放送局など占領目標のリストアップを行っています。キョウトへのダミー計画書ともどもチェックの方をお願いします。それと北海道へは本当にあの内容でいいのですか?キョウトと違ってだいぶ大元の内容に近いのですが?』

 

「問題ない。北海道、大高とて関東の防衛線を我々の動きなくして抜くことは出来ない事はわかっているはずだ。むしろ、こちらのバックアップに動いてくれるはずだ。」

 

『それなら、私からは特に…。あぁ、それと報告が遅れましたが0番隊のことですが…扇副指令が。』

 

ルルーシュの背後から、ミレイが大声を出しながらかけてくる。

 

「委員長!ピンチ~大ピンチよ~!」

 

「っ!?後で掛けなおす!」

 

ルルーシュの計画は着々と進んでいるのだが…。

 

 

 

皇歴2017年9月12日 トウキョウ租界ブリタニア政庁

 

 

「さすがはコーネリア軍だ。エリア18から一晩で戻ってくるなんて…。」

 

「兄上が正規軍を回してくれたおかげです。」

 

「それくらい当然だよ。」

 

「グラストンナイツの仕様機はじめ、機体を回していただけたおかげで、我が軍本来の姿を取り戻せました。」

 

「中華連邦との交渉には、そのカードを切る予定だよ。」

 

「お願いします。」

 

「戦場では並ぶ者のいないコーネリア姫からお願いされるなんて…。」

 

「からかわないでください。」

シュナイゼルから、その様な言葉を聞いたコーネリアは少し表情を緩める。

 

「戦場での君は、舞踏会のどのような花や蝶より輝いているよ。そう、閃光のようにね。」

「やめてください。わたし如きが…、ユフィはどこへ行ったのかしら?兄上の御出立だと言うのに…」

 

「ユフィなら昨日話したよ?それと、バトレーが管理している件だけど。ナチスの研究員も自由にさせてやってくれ。」

「ナチスをですか?同盟国と言えど、それは緩すぎるのでは?そもそも、あれに利用価値があるのですか?」

 

「うん。私がやっている事業で、彼らの協力が必要なものがあってね。たぶん、君に迷惑をかけることはないと思うよ。」

「兄上がそうおっしゃるのなら、そうなのでしょう。」

 

コーネリアの問いにシュナイゼルは淀みなく答える。コーネリアも納得したようであった。

 

 

皇歴2017年9月12日 アシュフォード学園 仮設管理室

 

黒の騎士団の副指令である扇がブリタニア人女性と一緒に倉庫にいたり、なぜかカレンもいたが…。そこにスザクとシャーリーもやって来て、あわやと言った所であったが何とか無事にやり過ごせた。

そんなこんなの厄介事を何とかやり過ごし、学園祭で仮設された管理室でルルーシュが学園祭の進行のために、各所へ指示を出していた。そんな、ルルーシュにミレイがねぎらいの言葉を掛ける。

 

「ご苦労様、時間通りいけそうじゃない?」

 

 

「最近、人を使うことを覚えましたから。しかし、能天気ですね。ついこの間、中華連邦が攻めて来たばっかりだっていうのに…」

 

「だからこそじゃない。どんな人にも、どんな時でも…。あんた、まだまだねー。」

「フフッ、勉強になります。」

 

 

「お兄様!」

ナナリーの呼び声で振り返る。

するとそこには、ナナリーのほかにもう一人。異母妹のユフィの姿があった。

 

「すいません!ちょっと外します!」

 

 

 

皇歴2017年9月12日 アシュフォード学園 広場

 

「去年は俺の役だけど。今年はお役御免だ。」

スザクの操縦するガニメデを見ながら、ユーフェミアに話しかけるルルーシュ。

 

「今日は驚くことばかり、ルルーシュとナナリーがこんな近くにいて、しかもスザクと友達だったなんて…。わたしは、みんなが幸せにならないと嫌なの。」

 

ユフィの言葉を聞いて苦い顔をするルルーシュ。

彼女の気持ちもわかるが、もうお互い後戻りできないところに来ていることを理解しているルルーシュはユフィの言葉を聞いて苦い顔をする。

 

「でも、会うのは今日が最後だ。」

 

風が勢いよく吹き、ユフィのかぶっていた帽子が飛ばされてしまう。

 

「あ!?」

 

都合悪く、ユフィの姿が晒された瞬間にルルーシュを呼びに近づいたシャーリーは、その姿を見て声に出してしまう。

 

「ユーフェミア様!?」

 

その声は不幸にも会場の人たちにも聞こえてしまう。

 

「なに!?どこどこ?」「ほんとだ!ユーフェミア様だ!」「ユーフェミア様よ!」

 

「ルルーシュ!ナナリーを。」

「わかった。そうさせてもらう!」

 

ユフィの気遣いでルルーシュはナナリーを連れてその場を離れる。

それと入れ替わる様に群衆がユーフェミアに一目見ようと群がっていく。

 

「こ、これはちょっと…」

「すみません、すみません!」

 

その場にいた軍人のセシル達と護衛が群衆を抑えようとしたものの、熱を帯びた群衆は5人程度では征することはかなわず。すぐにごった返すことに。

 

 

皇歴2017年9月12日 アシュフォード学園 中継車両

 

ユーフェミアの登場騒ぎで中継スタッフも一般人もいなくなってしまった。中継車付近ではディートハルトが黒の騎士団関係の通信を行っていた。

 

「いえ、自力で脱出されたのなら上策です。では、私はこれで…。中継車の機材スペースが無駄になったな。0番隊隊長も逃げる必要が無くなった。しかし、君にはこのまま隠密として租界内にいてもらいたい。」

 

扇から脱出支援を要請されていたディートハルトは、自身の個人的な諜報協力者であった篠崎咲世子を呼び出していた。ディートハルトとしては彼女に扇やカレンの逃走を支援させて、幸運にも黒の騎士団の幹部達も集まっているこの機会に彼女を紹介したかったのだが、うまくはいかないものであった。

「しかし、君にはそのまま隠密として、租界内にいてもらいたい。ゼロにはいずれ紹介しよう。」

「わかりました。」

 

 

皇歴2017年9月12日 アシュフォード学園 広場

 

「御無事ですか。ユーフェミア様。」

「ありがとう、スザク。」

 

ユーフェミア登場によるこのトラブルは、スザクの乗るガニメデが彼女を掌に救い上げることで一応の鎮静化に成功した。

 

 

「大丈夫か?ナナリー。」

「えぇ、ユフィ姉さまは?」

「無事だ。スザクが助けた。」

 

ルルーシュ達も屋台の陰に隠れてやり過ごしていた。

 

「そうですか。ねぇ、お兄様。ユフィ姉さま、スザクさんとうまくいったんですって…。お似合いですよね。御二人なら…」

「あ、あぁ。」

 

ルルーシュはガニメデを操縦するスザクとその掌に立つユフィを見た。

視線を感じたユフィは、ルルーシュ達の方を見て一瞬だけ笑って見せた。

そして、すぐに決意を固めたユフィは周囲の報道陣に声を掛ける。

 

「この映像、エリア全域に繋いでいただけますか?大切な発表があります!」

 

ユフィの命令で、報道陣たちは本局を通じて全国に映像を流す。

 

「神聖ブリタニア帝国、エリア11副総督ユーフェミアです。今日、わたくしから皆様にお伝えしたいことがあります。わたくしユーフェミア・リ・ブリタニアは富士山周辺に行政特区日本を設立することを宣言いたします!!この行政特区日本では、イレブンは日本人と言う名前を取り戻すことが出来ます。イレブンへの規制、ブリタニア人の特権は特区日本には存在しません!ブリタニア人にも日本人にも平等な世界なのです!」

 

ユフィの言葉を聞いたルルーシュは苦々しい顔をした後、ユフィを睨んだ。

 

(やめろ!ユフィ!そのケースは考えた。しかし、それはただの夢物語だ。)

 

「聞こえていますか!ゼロ!あなたの過去も、その仮面の下も、わたくしは問いません!ですから、あなたも特区日本に参加してください!ゼロ!わたくしと共にブリタニアの中に新しい未来を作りましょう!(ルルーシュ、また昔みたいに…)」

 

(やられた。これではどちらを選んでも、黒の騎士団は潰れてしまう。まさか、こんな手でいとも簡単に!?そうやって君は欲しいものすべてを手に入れる気か。俺達の居場所すらも…。ならば君は何も見えていない、聞こえていない。俺は顔を隠したテロリストで、そして君は…。違うんだ、もう昔とは…!!ユーフェミア!!)

 



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第29話 混沌の前の混乱

各国の反応①


ユーフェミアによる行政特区日本構想の発表は世界規模での混乱を引き起こすことになる。

 

皇歴2017年9月12日~13日 北海道函館 総理大臣公邸~首相官邸

 

「な、なんと…。」

 

大高はテレビの映像を見たまま、固まっていた。

全くの予想外、天才の領域に片足を突っ込んでいる。秀才中の秀才であった大高であったが、ユーフェミアの存在を軽視していた。宰相シュナイゼルや姫将コーネリアこそ要注意としていたために、軍政共に疎いユーフェミアはノーマークであった。大高の認識でも、スザクと言う有用な手駒を偶々手に入れたにも関わらず遊ばせている素人であった。

 

素人だからこそできる。突拍子もない手段か。

とりあえず、大高は葉巻を灰皿に押し当てる。どうしたものか…。

 

「大高首相、緊急の要件にて失礼します!」

首相である大高の個人スペースでもある総理公邸に数人の男たちが乗り込んでくる。

 

総務大臣桜坂万太郎を先頭に、官房長官赤坂秀樹、片桐光男・矢口蘭堂の二人の副官房、外務大臣木戸孝義、他数人であった。

 

「閣下、ユーフェミアの宣言、非常に厄介な事態です。」

「わかっています。」

 

赤坂の言葉にわかり切ったことをと、大高は応じる。

 

「行政特区の登場によって、占領地内のレジスタンスは勢いを失い、恭順派が勢いづいています。」

「我々が掌握している、日本解放戦線他、諸レジスタンス連合も動揺が大きくあります。」

 

「だからと言って、我々が恭順するわけにはいきませんぞ。」

 

木戸が、今後の外務省の動きを説明する。

 

「閣下、キョウトも恭順に動くとのことでした。外務省としては今後の動静によっては、和平もしくは停戦も検討しなくてはいけなくなるかもしれません。継戦をお望みなのでしたら、ロシア他同盟及び協力国との団結を計る必要があると思います。」

 

大高は手を顎にあて、思案に入る。

 

「そうです、その通りです。ですが、別の視点から見れば、ユーフェミア程の穏健派はブリタニアにはそういないでしょう。ブリタニアと政治的な決着をつけることが出来る唯一の機会と言えなくもありません。」

 

木戸の言葉に、赤坂が言葉を重ねる。

 

「もし、ゼロがユーフェミアに恭順した場合。我が軍では関東州の防衛線を抜けません。ゼロが恭順しなくても、黒の騎士団の自壊は時間の問題になります。和平を考えなくては…。」

「ですが、現状で和平を行えば、圧倒的不利に条件を突き付けられるでしょう。」

 

2人の副官房の言葉で、彼らの言いたいことが分かった。

 

「戦果ですか…?」

 

「黒の騎士団が沈んでも、北海道は沈まず。これを連中にわからせなくてはいけません!大高首相、現在進行中の全ての軍事作戦の繰り上げを進言します!和平するにしてもブリタニアに大きな深手を負わせるべきです!」

 

今度は、桜坂が若干大袈裟な身振りで訴える。

 

「なるほど。ここで我々が、簡単に折れれば日本のみならず、世界の情勢にも影響が大きく出てしまいますな。いいでしょう…計画の繰り上げを行いましょう。であれば、ロシアと連絡を取らなくては、レジスタンス勢力も、でしたか。それと、ブリタニアのユーフェミアとも和平窓口を作らなくては…、中華連邦を介するしかないですな。使者は誰を立てるべきでしょうか。適当な人間を送るわけにもいきません、難題ですな。」

 

それを聞いた大高は一応の対応策を述べた。人選については周囲に意見を求める。

 

「レジスタンスへの対応は後に回して、ロシアへは副大臣、最低でも全権大使でなくては話になりません。中華連邦には駒条宮様を送るのが妥当でしょう。」

赤坂が2人の候補を挙げたが、片桐が待ったを掛ける。

「危機管理情報局としては、駒条宮様訪中は危険であると具申します。中華連邦本国は反ブリタニア有力将校であった曽の失脚で、ブリタニア迎合派が勢いづいています。万が一、中華連邦本国が駒条宮様の身柄を抑えて、ブリタニアに差し出すようなことになっては目も当てられません。」

 

片桐の反対意見を聞いた矢口が、駒条宮の外交交渉先を提示する。

 

「ですので、駒条宮様は台湾に渡っていただき台湾軍区と交渉して頂くべきでしょう。」

 

それを聞いていた木戸が口を開き、矢口は即座にそれに応じる。

 

「台湾…と言うと、先代天子溥儀の御膝元ですか。確かに先代天子は親日家でしたが、彼はここ10年前の事件で倒れて以来、台北中央病院で療養中。確か、去年あたりから意識が完全になくなったと聞いております。」

 

「ですので、交渉は軍区行政長官の馬氏になるでしょう。馬氏は先代天子の治世において丞相を務めていた人物です。10年前の事件の後に起こった政争で大宦官に敗れ、台湾に流されていたわけです。先代天子はブリタニアとは完全対立の姿勢を貫いており、彼もそれを引き継いでいます。日本が反ブリタニアの思いがあることを示すなら、彼とも会うべきです。ユーフェミアへのパイプを作るための人員は外務省から人選すればよいと思います。」

 

大高は頷いて応える。

その様子を見た赤坂は、大高がブリタニアとの交渉よりも継戦に重きを見せていることを察して矢口の言葉に付け加える。

 

「それでしたら、駒条宮様の台湾交渉の後は、そのままインドネシアへ潜伏して頂きたい。表面上はユーフェミアと交渉するわけですので、変な誤解を与えないためにも駒条宮様にはインドネシアのスカルノ氏と、フィリピンのリカルテ氏を繋ぎとめていただきたい。」

 

「対応策は大筋決まりましたな。閣僚会議では、その様にしていきますので文書の作成を始めてください。三浦君、納屋君、臨時閣僚会議を開くので支度を頼みます。」

「「はい。」」

 

大高達重鎮から少し距離を取って、木戸が連れて来ていた外務官僚達と混じって雑務を熟していた二人が返事をすると同時に、いつの間にかいた大高の妻と3人で大高の身支度を素早くすませる。

 

大高達が隣接する首相官邸へ移動して、10分もしないうちに高野や桂と言った軍の重鎮や、西郷南洲副首相・犬養清内務大臣・高橋其清大蔵大臣と言った閣僚たち全員が集まって来た。

 

閣僚会議では総理官邸で話された内容が外交方針となり、軍事においても旭光作戦の継続及び関係諸作戦の繰り上げが話し合われた。会議自体が日を跨いで行われ、時間が経つにつれ新しい情報が入ってくるため、それについても話し合われる。

 

「僅か、1日でその様な要請が入ってくるとは…。素人の暴走…でしょうか?」

 

ユーフェミアより、特区日本の樹立式典への招待が北海道政権に来ていたのだ。

木戸はかなり困惑しているようであった。

 

「論外です。あの国とは停戦もしていない。論外です。」

「向こうから招待して、暗殺の様な事はしないでしょう。欠席をすると交渉窓口がつぶれるのでは?」

桜坂の様なタカ派は論外と突っぱねているが、犬養の様なハト派は慎重論に近い玉虫色な発言をする。会議は平行線になりつつあったので、西郷がキョウトの動向を確認する。

 

「情報局か?それとも外務省だったか?キョウトは何と言っていた?」

 

それには副官房兼危機管理情報局局長の片桐が答ええる。

 

「キョウトは桐原氏含め全員参加だそうです。」

 

西郷はさらに質問する。

 

「では、ゼロは?」

 

「不明です。ですが、ユーフェミアはTV演説で繰り返しゼロを名指しで呼んでいます。ゼロの様な、占領地レジスタンスは占領地民の支持が絶対です。情勢からして参加する可能性は極めて高いでしょう。」

 

「外務省から適当な次官を送ればいいだろう。」「いや、不要だろう。」「キョウトが行くのなら慎重に選ぶべきだ。」「ゼロが来るなら、そいつにゼロとの交渉もさせよう。」「だから誰を出す。」

 

会議は再び平行線になり始めていた。大高は葉巻に火を点けて一服する。他の大臣たちも持っている葉巻や煙管に火を入れる。話は続いているが決着がつかない内容であり、議論の勢いがなくなり始めた頃。

 

扉が勢いよく開かれる。

 

「であれば、その役目、わたくしがお引き受けしますわ。」

 

大高と桜坂ら政府要人が話し合いを行っていると、よく通る声が部屋に響いた。響いたといっても静かな澄んだ声だ。

 

「神楽耶様!!」「「「「「陛下!?」」」」」

 

 

 

皇歴2017年9月12日 中華連邦台湾軍区 行政庁舎長官室

 

台湾軍区の行政庁舎長官室。部屋の主の趣味趣向である骨董美術品が飾られている。

部屋の主、馬駒辺は部下の宇羅玩准将からの報告を聞いて冷静に指示を出していた。

 

「仕方がないではないか。日本の連中はこれを期に弱体化する。日本と言う反ブリタニアの急先鋒がいたからこその支援だろう。インドネシアへの支援は凍結する。」

 

「本当に、よろしいのですか?」

 

「よろしいも、よろしくないもない。連邦内でも大宦官を中心としたブリタニア迎合派が有利になる。我々が支援した紅巾党への弾圧も強まるだろう。離脱や独立の機運があるインドや東南アジア諸国への締め付けも始まる。天子派筆頭の黎星刻殿には悪いが我々はしばらく大人しくしてなくてはな。」

 

そう言って馬駒辺は自身が大切にしている北宋の壺を拭き始める。

 

「残念です。」

 

「先代様を謀し、天子様を傀儡にして自分の都合よく動かす人形にしようと言う魂胆は見えている。先代様は今も意識が戻らず、生きているのが不思議なくらいだ。とは言え、今の先代様は政治的にも権威はあってもそれを行使することは出来ない。だが、大宦官から手を下されることはまずない。」

 

「本当によろしいのですか?」

 

「くどいぞ。今でこそ、台湾軍区行政長官の地位に甘んじているが、先代様の治世の時は丞相の位にもあった。天子様が黎星刻の大恩ある方ならば、私の大恩ある方は先代様だったのだよ。」

 

「その先代様が、いま目を覚ましたら…孫娘を守れと言ってきませんか?」

 

「……………。」

 

 

 

 

 

皇歴2017年9月12日 ロシアソビエト社会主義帝国 大統領府

 

「ば、馬鹿な!?それでは日本が折れる!!」

 

「行政特区日本の構想は、完全にアキレス腱を狙っていますが、北海道の大高閣下は、頭を下げる事はないとのことです。」

 

「そうでなくては困る。だが不味い、ブリタニアと日本が停戦すれば日本のブリタニア軍がこちらまで来る可能性がある。早く東部戦線の片を付けねばならん!エジョイク軍務大臣!中央軍主力を東部戦線へ!」

 

「ですが、国境線や西部への援護は?」

 

「国境線や駐屯軍は最低限でいい。西部は彼等だけで十分出来るだろう!!とにかく、中央軍主力師団に動員をかける!中央の管区に部分動員を、東部は総動員だ!!無論、中央管区の部分動員は総動員を視野に入れていることを忘れるなよ!」

 

日本の占領地にてユーフェミア・リ・ブリタニアによって行政特区日本構想は発表された日の翌日。

膠着していたバグラチオン作戦における第二次動員が発令される。

 

バグラチオン作戦 第二次赤軍動員

中央軍よりさらなる抽出、東部中央の管区に対する動員令が発令される。

 

 



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第30話 構えられた刃

皇歴2017年9月19日

富士山麓 特区日本樹立式典会場 貴賓待機室

 

競技場を改装した式典会場のゲートにて、申請を出す日本人たちの列を見て、自分たちの行為が良い結果につながっていることに嬉しく思うユーフェミアとスザク。

 

「特区日本への申請は西日本を中心に、10万人はいるそうです。この様子なら、まだ増えそうです。」

 

「あなたのおかげです。あなたという日本人の代表がいるから、皆さんはここを信じられるんですね。」

 

「皇女殿下自らの宣言があったからでしょう。」

「これからも、助けてくださいね。」

 

「イエス・ユア・ハイネス。」

「スザク…」

 

ユーフェミアが主従としてのそれを求めているのではなく。

別のものを求めている。

それを察したスザクはただ一言。

 

「はい。」

 

と答えた。

 

 

トウキョウ疎開ブリタニア政庁 通信設備

 

通信機を隔てて、シュナイゼルとコーネリアは特区日本の進捗を話し合う。

 

『大したものだねユフィは。これでエリア11のテロ組織は民衆の支持を失い弱体化する。ユフィだから出来たんだよ。』

 

「ですが、個人的には反対です。」

 

『でも、君だってわかっているから協力しているんだろう。』

 

「公の計画を軌道に乗せるのは総督としての当然の職務です。」

 

『ユフィ…の今後を受け入れたのもかな?』

 

それを聞いたコーネリアは面白くなさそうな表情をして返した。

 

 

 

 

 

キョウト潜伏地

 

「特区日本、悪い話ではない。」

「与えられた日本に果たして価値がありましょうか。それに、北海道は健在です。」

「だが、北海道は完全に硬直している。ここから先はまずないだろうな。ゼロが起爆剤となるかと思っていたのだが…。」

 

キョウト幹部が悩む中、桐原は決断する。

 

「これも、我らの活動がブリタニアから引き出した譲歩だ。悪い話ではない…わしは受け入れようかと思ってる。」

 

「桐原公はサクラダイトの関係で立場が保証されているようですな。」

「…確固たる収入がありますと、乗り換えも楽ですか。」

 

「主ら…」

 

キョウト内部でも不協和音が表面化していた。

 

 

 

黒の騎士団 拠点通信室

 

ディートハルトから、黒の騎士団が行政特区日本に参加する旨を伝えられた。

通信機の向こう、北海道政権の赤坂秀樹官房長官は、普段の冷静沈着な姿とは裏腹に、声を上げた。

 

『待て待て!!黒の騎士団は本当にブリタニアに下るつもりか!?』

 

赤坂の言葉に冷静に対応するディートハルト。

 

「扇副指令の判断です。ですが、ゼロは手は打っているようです。」

 

『明確にはなんと?』

 

「詳細は…。ですが、ゼロは反ブリタニアの態度を崩しておりません。なにか、なにかあるはずです。」

 

『そのような言葉では、信用できんぞ。だが、こちらも独自に動く。我々の動きは、反ブリタニア活動を続けるのであれば、君らにも有益だ。このようなことは言いたくないが、臨機応変に対応するしかないな。』

 

「……。」

 

 

 

アシュフォード学園 ルルーシュたちの住居

 

「何か心配事でもあるのですか?…ユフィ姉さまの事?また、会いたいなんて我儘は言いません。兄さまとユフィ姉さまに迷惑が掛かりますもの。」

 

普段と違う、ルルーシュの様子にナナリーは声をかける。

ルルーシュはナナリーの言葉に返事をするでもなく尋ねる。

 

「ユフィの事、好きかい?」

 

「えぇ、とっても…。お兄様だってすきでしょ?」

「あぁ、好きだったよ。」

 

普段とは違うルルーシュの様子にナナリーは、一抹の不安を感じたのであった。

 

 

 

皇歴2017年9月19日深夜 太平洋マルベロ島沖合流ポイント

 

合流ポイントに到着した紺碧艦隊は旗艦須佐之男を含め潜航待機。

ロシア軍特殊作戦戦隊の到着を待った。

 

5分も待たないうちにタイフーン級潜水艦を率いた。ミスリル戦隊の旗艦トゥアハー・デ・ダナンが須佐之男のセンサーに掛かり、艦長の入江九市大佐からダナンより通信が送られていることが知らされる。

 

「前原閣下。ダナンより通信です。」

「開け。」

 

前原の許可が下り、通信画面にダナンの乗組員達の姿が映る。

画面の中央には、長い銀髪と灰色の瞳を持つ少女の姿が映る。

 

「ロシア帝国特殊作戦戦隊ミスリル戦隊長、テレサ・テスタロッサ大佐です。」

「日本皇国海軍紺碧艦隊司令長官、前原一征少将であります。」

 

前原は、画面に映った少女の姿に対して、僅かに驚いた。

 

「お若いですな。」

 

『ロシアの精鋭の戦隊長が、こんな小娘では不安ですか?』

 

「これは失礼、我が国の白銀艦隊同様に若い世代が活躍するのは世の流れなものでしょう。自分のような年寄りが、隅に押しやられそうで少し不安を感じたまでですよ。ハハハ」

 

『あら、前原閣下も艦隊司令官としては、随分お若いのではないかしら?』

 

「いわれてみれば、そうでしたな。わたしとしてもロシアの若き精鋭と共に戦えてうれしく思います。」

 

『こちらこそ、この度の作戦に参加できたことは、名誉なことであると思いますわ。』

 

「早速ですが。」

「はい。」

前原は挨拶を一時中断して、作戦指示書の入った書簡を開ける。

テスタロッサ大佐の方も、指示書を開く。

それを確認した前原は作戦指示書を読み上げる。

 

「本作戦は、皇歴2017年9月20日20:00決行とする。なお、本作戦は周辺状況の変化に関わらず断行するものとする。次に詳細ですが、ミスリルはパナマ市を攻撃し敵の注意を惹く。敵の注意を引いたことを確認し次第、本艦隊より攻撃機隊を出撃させ、パナマ運河第三の閘門、ガトゥーン閘門を攻撃。破壊する。作戦中止は日本皇国皇天皇、大高弥三郎首相、ロシア帝国ニコラエヴナ女王、ウラジミール・プーシン大統領の4名の指示が必要である。以上。」

 

 

 

 



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第3?話 閑話とか外伝② 台湾軍区・南洋諸国

皇歴2017年9月16日 中華連邦 台湾軍区 台湾軍区行政庁舎

 

駒条宮澪子はタイ王国より、中華連邦先代天子時代の丞相馬駒辺が治める台湾軍区へと渡った。

澪子は台湾軍区行政長官馬駒辺と面会を果たす。

 

「大高首相も駆け引きがうまいな。」

 

馬駒辺長官は澪子から受け取った親書を見ながら、苦虫を嚙み潰したよう表情を浮かべる。

それを見た宇羅玩准将は馬駒辺の様子をうかがう。

 

「読んでみろ。」

「失礼します。……これは!?」

 

宇羅玩が目にした内容は自分たちが極秘裏に画策していた大宦官へのクーデター計画であった。

 

「大高は、いえ、大高首相はどこまでご存じておられるか?」

 

馬駒辺は澪子に対して、尋ねる。彼女は自分たちに親書を持ってきた人物であり、皇族。

並みの外交官よりも多くの情報の開示権限を持っているはずだ。

澪子は中国茶の入った湯飲みを置いて、ゆっくりと口を開く。

 

「閣下と、中央の黎星刻殿。そして、紅巾党の首領朱清楓の関係を…。」

 

馬駒辺は暫し、無言のままで思案する。

大高が全容を把握している。ロシアのプーチンも多くを把握していると考えてよい。

ならば、大高と組むべきか。

 

「要求は、南洋諸国レジスタンスへの支援継続は間違いないな。他はなんだ?」

 

馬駒辺の問いに対して、澪子は静かに答える。

 

「離脱希望の加盟国の黙認、少数民族の自治の保証。そして、日本皇国の旧領完全回復のための支援です。」

 

自国の支援を二の次にしている。

このことに馬駒辺は、時流の変化を感じていた。

大高の親書、三の姫である駒条宮澪子の堂々とした威厳ある姿。

名君と評価される天皇皇神楽耶と、それを護持する大高を中心とする挙国一致内閣、ブリタニアを押し返した桂、高野、厳田ら三長官率いる皇国三軍。厳島の奇跡を起こした藤堂が在籍し、ゼロと言う仮面のカリスマが率いる黒の騎士団や、凋落を乗り越え復活した片瀬率いる日本解放戦線。北海道政権やブリタニアの日本占領地に次々と現れる英傑。

非科学的な表現だが日本に流れができている。直感的にそれを感じられる。

日本皇国は、この危機を乗り越えて、アジアの盟主に成長しようとしている。

大宦官が齎した腐敗と売国行為によって、自国の凋落を肌で感じていた馬駒辺は自国の滅びを防ぐため。中華連邦ではなく自身が忠誠をささげる主君である溥儀のため、そしてその孫娘である天子の清王朝をのちの世に残すために決断する。

 

「大高閣下に伝えてくれたまえ。我々は皇国を日本を全面的に支援し、自由を求める者たちの邪魔をすることはなく、それを支える側になることを…。」

 

馬駒辺の決断はのちに、中華連邦全土を巻き込む大事へと、発展することになるのである。

 

大高も神楽耶も、それを求めてはいなかった。

だが、世界が、時代がそれを求めていた。

 

 

皇歴2017年9月17日 エリア10 旧フィリピン共和国 カガヤン潜伏地

 

旧フィリピン共和国カガヤン潜伏地。ここは、南洋諸国のレジスタンスの一つマカピリの拠点であった。その一レジスタンスの拠点において、不相応な程の重要人物が集結していた。

 

大高の親書を持った日本皇国三の姫、駒条宮澪子。

オランダ王国、かつての東インド植民地で副総督の地位にあったフンベルトス・ファン・スモーク。

台湾軍区行政長官馬駒辺の側近中の側近、宇羅玩准将。

旧フィリピン共和国より、ホセ・ドテルレル元大統領、旧フィリピン陸軍アルテリオン・リカルテ参謀長、マカピリを中心としたフィリピンレジスタンスの首魁たち。

インドネシアより、郷土奪還統一義勇軍のスカルノとストモ他の勇士たち。

ブルネイのスルタン、ムハンマド・ボルキア王。自由パプワ運動の代表セスコブ・プライ。

 

これだけの重鎮が集まったこの潜伏地で、東インド植民地のレジスタンスにとって重大な発表がなされた。

 

「オランダは無条件で東インド植民地の主権を独立政権に引き渡すことに同意する。」

 

オランダのウィルヘルミナ女王のサインと国王印が押されている文書がフンベルトス・ファン・スモークによって読み上げられていく。

日本皇国の仲介と尽力によって、オランダの頭を縦に振らせたことは、独立派の要人たちは理解していた。

条文が読み終わり、各地域の代表者とフンベルトス副総督の間で調印署名がなされていく。

調印の儀式が終わり、澪子にスカルノが独立派諸勢力を代表して話しかける。

 

「駒条宮、皇陛下と大高にお伝えください。我々は日本皇国に感謝しております。ですが、日本が植民地支配者になるのではないかという不安を抱えております。」

 

スカルノ以外の代表者たちも内心ではそれを不安に思っていたようで、視線は澪子に注がれる。

それを受けた澪子は極めて冷静に、答える。

 

「皆さんが、それを不安に思うのは当然です。ここで、そのような意思はないと長々と説明しても、皆さんの思いはぬぐえないでしょう。ですので、私は皇陛下よりあるお言葉を賜っております。」

 

澪子に注がれる視線は宇羅玩ら台湾軍区やフンベルトスらオランダ王国の人員達のものも加わり、さらに強いものとなった。彼らの思いは、澪子の口を通し発せられる日本皇国の、皇神楽耶の言葉に注がれた。

 

永遠にも感じられる静寂が漂う。

そして、澪子の力強く澄んだ声で発せられる。

 

「共に生き、共に死す。陛下は、日本皇国はアジアに住む人間の一人として誓うと…。そう、おしゃられております。」

 

あまりにも重いその言葉に、一同は言葉を発することができなかった。

暫しの静寂な時間が流れ、ようやく一人が声を上げる。

元フィリピン共和国大統領ホセ・ドテルレルであった。

日本と言う強力な味方の力強い答えに対しての、歓喜からくるものなのか。はたまた、日本皇国の誇り高き姿勢からくる恐れなのか。その声はわずかに震えている。

 

「一国の国王の発言としても、あまりにも重い。だが、ユーフェミアの件がある。だから、あえて失礼を承知で言わせていただきます。言葉では何とでもいえる。貴国が口先だけのアピールで我々の情報を手土産に講和する可能性をどう否定するのです。」

 

「プレジデント・ホセ。その発言はあまりにも…!?。」

 

ホセの発言に、注意を促す。スカルノであったが、澪子の行動に言葉を失った。

ホセの発言を受けた澪子であったが、おもむろに着ていた黒いドレスを脱いだのである。

そして、脱いだドレスの中には白装束。目の前のテーブルには菊の紋が入った小刀が置かれる。

 

「腹切り…。」

 

独立派の誰かの口から洩れた言葉が耳に入る。

そう、腹切りだ。日本の事を少しでも知っているのなら知識の上では知っているはずだ。

 

「皇国は、決してブリタニアに屈しません。皆様を裏切る真似は致しません。ゆえに私、駒条宮澪子は事が済むまで、いえ…。皆様方が納得するまで、この地に残りましょう。そして、皆様方の信頼を万が一にでも裏切るようなことが起きたなら、その時は腹を召してお詫び申し上げさせてください。」

 

皇族の言葉である。

決意に満ちた少女の言葉である。

これ以上の問答は、国家組織の代表として、一人の人間として不要であった。

ホセ・ドテルレルの表情は、先程のような不安やその他の感情をない交ぜにしたようなものではなく。真剣なものへと変わっていた。

 

「駒条宮様、先ほどの非礼…お許しください。貴女の、いえ。日本皇国の覚悟と思い、確かに見せていただきました。ここにきては南洋諸国一同、共に生き、共に死すの誓いの下、一つとなって戦っていくことをお約束しましょう。」

 

「インドネシアも誓いましょう。」

スカルノがそれに続くと他の者たちも続いていく。

 

その様子を見ていた宇羅玩の口から言葉が自然と零れる。

 

「女皇の皇国…アジアの光…か。」

 

その横のフンベルトスの口からも同様の言葉が漏れる。

 

「これが日出国、東洋の夜明け。わたしは歴史的瞬間に立ち会っているのだ。」

 

 



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第31話 特区日本

『こちら、行政特区日本開設記念会場です。会場内はすでに、たくさんのイレブン。いえ、日本人で埋め尽くされています。会場の外にも入場できなかった大勢の日本人が集まっています。」

 

式典会場には旧日本国国旗とブリタニア国旗が掲げられている。

 

『ゼロは姿を現すのでしょうか?いえ、現時点では何の連絡もないようです。ですが、未確定な情報ですが、北の残党軍とエリア11行政府が停戦交渉を行うという情報もあり、ユーフェミア皇女殿下の思い描いた平和への道が切り開かれているのを感じております。』

 

 

中華連邦 首都北京 咬龍之房

 

「来るものかゼロなど…。」

「どんな形であれ日本、いや、エリア11が落ち着けば。こちらの不逞の輩も大人しくなる。」

「ブリタニアの助力も得られるでしょうからな。」

 

朱色を基調とした咬龍之房で、大型モニターを見ながら大宦官たちは椅子に腰を落ち着けていた。

 

 

台湾軍区行政庁舎長官室

 

「我々の命運も、皇国と黒の騎士団の動き次第だ。歯がゆいものだな。」

 

馬駒辺は行政庁舎から見える。台湾海峡を、その先の本土に思いをはせつつ呟いた。

宇羅玩はその様子を見守るだけであった。

 

インド軍区 セイバーグラーム村ガンディ邸

 

スワディ・ガンディの家は生活に必要なものは最低限しか置いていなかった。

信者の一人が、持ってきたラジオの前に弟子たちと共に耳をそばだてていた。

 

(誇りを捨てて、仮初の平和を受け入れるのですか?皇国は…。ですが、それは緩慢な死に他ならないのです。)

 

インド軍区 デリー 行政庁舎長官室

 

「今は、皇国の言葉を信じて見守るのみ。」

 

行政長官ジャワハラール・ネルーは、ただ一言述べたのみで、じっとテレビの映像を見つめる。

その横に控える、中印軍長官スバス・チャブドラ・ボースはその様子を見守る一方。

 

インドムスリムの代表者アリード・ジンナーは過激な言葉を口にする。

 

「日本がどう動こうと、我々は止まらない。止まれないのだ。インドの、ムスリムの歯車は動き出しているのだ。ナチスの脅威は目前まで迫っている。」

 

 

タイ王国首都バンコク・プラナコーン地区 王宮

 

「陛下、中継が始まったようです。」

「うむ。今日と言う日は、日本だけでなくアジアの命運を決める重要な日であるな。」

 

プミンポン国王は、側近に話しかける。側近もそれに応じて答える。

 

「その通りですね。彼らの動き次第で、我が国、いえ、東南アジアの今までの努力が実るか否かが決まりますので。」

「日本皇国には、厳しい1日になりそうだな。」

 

ロシア社会主義帝国 王都兼首都イルクーツク 仮皇宮併設大統領府

 

ロシア帝国大統領ウラジミール・プーシンは、皇宮区画にてリュミドラ女王と席を共にしてテレビ中継にて特区日本開設式典の流れを見守る。

 

「ユーフェミア皇女殿下は、平和志向の方の様ですね。我がロシア帝国とも講和ができれば。」

そんな、女王の発言にプーシンは苦言を呈する。

「バグラチオンでは、今もなお夥しい量の血が流れ続けています。式典は失敗してもらわねばなりません。」

「ですが、どうやって?」

 

リュミドラ女王の言葉にプーシンは答える。

 

「ですから、皇国の大高や、黒の騎士団のゼロの動きに注視しているのです。」

「また、血が流れるのでしょうか?」

 

リュミドラ女王は不安そうにプーシンに尋ねたが、彼は黙して答えることはなかった。

 

 

 

エリア10 インドネシア郷土奪還統一義勇軍 指令潜伏地

 

スカルノの周りには義勇軍の幹部たちが、不安気な様子で集まっていた。

だが、スカルノは不安には思っていなかった。

 

「我々は、信じて待つのみだ。お前たち、時が来た時のために準備は怠るなよ。」

「っは。」

 

部下が去ったのを見て、スカルノはさらに視線を動かす。

その先には、白装束からは着替えたものの、短刀を携えたままの日本皇国三の姫、駒条宮澪子がいた。

 

 

フランス EU拠点都市ストラスブール EU評議会ビル

 

多くの国が、枢軸によって攻め落とされ形骸化したEUであったが、盟主フランスは健在であった。だが、有力国であったオーストリア連邦もオランダ王国も亡命政権もしくはそれに準ずる存在と化し、スカンジナビア連合王国は中立国としてEUを離脱。もはや瓦解目前と考えられていた。

 

しかし、新たに1国のEU加盟によってその命脈は保たれた。

スコットランド共和国の参戦であった。そのスコットランド共和国首相キィーストン・チャーチル氏が、フランス共和国ポール・レイナール首相に話しかける。

 

「ゼロは、来ると思うかね?」

「いえ、来ないでしょうな。我々が把握する情報が確かなら。」

「かの地には、北海道政権があります。彼らの動きもありますでしょう。彼らの策謀次第ではゼロの動きは変わるでしょう。早計では?」

レイナール首相は、否定的な意見を述べる。

それに対して、オランダ王国首相ヘンリー・ケルマンは反対の意見を述べた。

 

「ケルマン首相は日本贔屓の様ですな。貴国は日本人の亡命を積極的に、受け入れているようですし。」

ケルマン首相の言葉に気分を悪くしたのか、レイナール首相の言葉には幾分かトゲがあったが、チャーチル首相が割って入り、場を収める。

 

「まあ、お二人ともここは、お手並み拝見といこうではないか。」

 

 

 

 

ナチス第三帝国 ベルリン 総統官邸

 

「ぬるいな。エリア11の小娘は…。」

「左様でございますな。」

 

「抵抗する蛆虫どもは、完膚なきまでに殲滅せねばならん。統治が困難であるなら、労働を通じた絶滅に切り替えるべきなのだ。反抗的な者たちを隷属させようとしては、中途半端になる。シャルル・ジ・ブリタニアは子息らへの教育は積極的ではないようだな。」

「そのようでございますね。」

 

ヒトラーの言葉にうなずくヒムラー親衛隊長官。

ヒムラーは完全な腰巾着でありイエスマンであった。この場にいるゲッベルス宣伝相を含め、彼に逆らえる人間はいない。天才である彼に、逆らう必要もないのだが…。

 

 

 

日本皇国 福島県福島市大笹生 旧ふくしまスカイパーク前線予備司令部

 

福島市大笹生。この地には皇国の前線予備司令部が築かれていた。

昨今の皇軍の快進撃により、最前線の皇国軍は群馬県黒磯までは進出に成功している。

また、主たる前線司令部は郡山市に築かれている。

 

そして、この大笹生前線予備司令部に一機の輸送ヘリが降り立つ。

出入りハッチの左右には、第一師団師団長乃木希祐大将を中心とした将校が並び待機していた。

 

「天皇陛下に、敬礼!!」

 

ハッチが開くと同時に、乃木大将の号令で、一斉に敬礼する将校たち。

ヘリのタラップから、ゆっくりとした足取りで降りてくるのは、今上天皇である皇神楽耶であった。

 

「出迎え、ご苦労であった。」

「このような場所まで、来ていただき恐悦でございます。」

 

神楽耶は、ユーフェミアの特区開設式典を受けて、その後に控えるであろうゼロとの交渉のためにここまで来たのである。

 

「ゼロからの連絡は?桐原からも何もないのですか?」

「こちらから連絡を取ろうにも、向こうは式典もあるため厳戒態勢で接触は困難でございます。」

 

「左様ですか。暫し待ちます。大笹生の司令部に場所を用意なさい。」

「っは!直ちに!!」

 

神楽耶は、乃木に命じて司令部に場所を用意させ、そこの大型モニターにて式典の中継を繋げ、事の成り行きを見守ることとなる。

 

 

日本皇国 北海道函館市 首相官邸閣僚会議室

 

ユーフェミアの特区日本は皇国政府も、注目するものであった。

閣僚会議室には首相大高弥三郎、副首相西郷南洲、総務大臣桜坂万太郎などの閣僚全員が集まっていた。高野や桂、厳田は軍が作戦行動に入っているため、すでに各々の持ち場についていた。陸海空はすでに一部が作戦行動中だ。

 

「ゼロは現れるのだろうか?」

「この場合、現れても現れなくても、黒の騎士団の衰退もしくは解体は避けられませんでしょうな。」

 

桜坂の言葉に、西郷が額に手を当てながら、困っていると言わんばかりの態度をとる。

他の閣僚も、黒の騎士団と言う占領地内でレジスタンス活動をする最大勢力が衰退する様を見ることに不安感を隠せていなかった。

 

しかし、大高はそのような様子も態度も一切見せることなく、毅然とした態度で

テレビ中継を見続けている。

 

「皆さん、黒の騎士団に関しては福島大笹生で陛下が受け入れの用意をしております。占領地内での工作要員が減るのは残念ですが、前線に付けているレジスタンスの統合が図れるのですから、我々には損はありません。」

 

「なるほど、場合によっては統一レジスタンスの首魁に、ゼロを置くのもありと言うわけですか。さすがは大高首相です。」

 

軍需大臣の島が、大高の発言に感心する。若干ごますりの要素もないわけではないが、大高の考えは大凡間違っていないので、あえて訂正することはしなかった。

 

『ゼロです!ゼロが現れました!!』

 

閣僚たちの視線がテレビ画面に集まる。

テレビ画面にはガウェインの姿が映し出されていた。

 

ブリタニア、黒の騎士団、日本皇国。そして、アジアにとって歴史を変える長い1日が始まろうとしていた。

 



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第32話 流血の日

皇歴2017年9月20日10:00 富士山麓 行政特区日本樹立式典会場 

 

各国の首脳陣が中継を見守る中、ゼロが姿を現す。

 

「ようこそ!ゼロ!!行政特区日本へ!!」

 

「ユーフェミア・リ・ブリタニア。折り入って、お話したいことがある。」

 

「私と?」

「はい、あなたと二人きりで…。」

 

ユーフェミアからの歓迎を受けたゼロは、ユーフェミアに対して1対1の会談を求めた。

 

ゼロ、ルルーシュはユーフェミアに案内されて、式典会場のG1ベースの一室に通された。

 

 

 

同時刻 行政特区日本樹立式典会場周辺森林

 

ゼロの命令を受けて、式典会場の周辺の森や高架下などの隠れられる場所に黒の騎士団の兵力が伏せられていた。

 

「なぁ、俺たちどれだけここにいればいいんだよぉ。」

「ゼロが信じられないの?」

 

コックピット内で足を投げ出して不満と言うより、退屈そうな玉城のつぶやきとは、対照的に臨戦態勢の姿勢を崩さずにカレンは短く返した。

 

「ブリタニアの真意を確かめてからだ。」

「扇副指令。その真意がわかっているから戦力を四方に配置しているのでは?ディートハルトやラクシャータまで待機させた。そして、ゼロと繋がりがあるであろう北海道政権も境界線から勢力を下げたという話を聞かない。おそらくゼロは…ユーフェミアを…。」

 

玉城のように、しびれを切らし始めている団員の姿をちらほら確認した扇は場を引き締めようと一応の言葉を発したのだが、藤堂の発言を聞いて、たぶんそうだろうと思いながらも、藤堂ら旧解放戦線の面々も思うところがあるのだと察した。

 

だが、この場で全肯定をするわけにもいかず。「断定は危険です。」と当り障りない回答をするにとどめた。

 

 

 

皇歴2017年9月20日10:13 行政特区日本樹立式典会場G1ベース

 

ルルーシュは部屋の電源を落とす。

その様子をユーフェミアは不思議そうに「用心深いのね?」と話しかけた。

 

そんな、ユーフェミアにルルーシュは銃を向けた。

 

「これは竹とセラミックでできている。これは検知器には引っかからない。」

 

銃を向けられたユーフェミアはルルーシュが撃たないことを確信していたからこそ、表情を一切変えずに軽くたしなめる。

 

「あなた、撃たないでしょ?」

 

そんなユーフェミアに対して、ルルーシュも一切表情を変えなかった。

 

「そう、俺は撃たない。撃つのは君だ。この式典は、世界中に流れている。そこで、ブリタニアの皇女である君がゼロを撃つ。どうなると思う?」

 

ルルーシュは妖しくユーフェミアに問う。

 

「暴動になるんじゃないかしら?」

 

「騙し討ちされたとなれば、ゼロは殉教者となり、君の信望は地に落ちる。」

 

「何を言っているんですか?私と一緒に日本を…」

 

ルルーシュの様子に、ユーフェミアは困惑交じりの言葉を投げかけたが、次のルルーシュの言葉にユーフェミアは言葉を詰まらせる。

 

「上から一方的に押し付けるのは、クロヴィスと一緒だな。条件はすでにクリアされた。ゼロは撃たれ、生死を彷徨い奇跡の復活を遂げる称えられる。人は理屈ではなく奇跡に弱いものなんだよ。さぁ、受取りたまえ。メシアは一人で十分なんだよ。君が偽物だと解り民衆は…!?っく。」

 

ルルーシュはギアスの刻まれた左目の痛みに目を抑えた。

 

「ルルーシュ!?」

 

ルルーシュの苦しむ様子を見てユーフェミアは駆け寄り、助け起こそうとするがルルーシュはその手を振りほどく。

 

「やめろ!これ以上、俺を憐れむな!!施しは受けない!!俺は、自分の力で手に入れて見せる!!そのためにも穢れてもらうぞ!!ユーフェミア・リ・ブリタニア!!」

 

「その名は返上しました。」

 

ユーフェミアの言葉を聞いて、ルルーシュは思わずギアスの発動を止める。

 

「なぜ…。まさか、ゼロを受け入れたから…。」

 

「私の我儘を聞いてもらうんですもの、対価は当然でしょ。」

 

「随分と簡単に捨てられるものだな。俺のためだとでも?」

「ナナリーのためよ。あの子、言ったの…お兄様と一緒にいられるのなら他に何もいらないって。わたしにとって大切なものって何かわかったの。だから、私の本当に本当に大切なものは何も失っていないのよ。」

 

「君は、むちゃなやり方なのに随分とうまくいってしまうものなのだな。特区日本の面積を最大限に大きくして、北海道と共同統治で妥協案を探るつもりだったのかい?」

 

「えぇ。」

 

「ハハハハハハハ。かなり無茶が過ぎるが不可能でもなさそうだな。そういえば君は、皇女殿下や副総督である前に、ただのユフィだったな。」

 

「ただの、ユフィとならいっしょにやってくれる?」

 

「君は最悪の敵だったよ。」

 

ルルーシュは、ユフィの差し出した手を取った。

 

「ゼロとして北海道の大高とのパイプは持っている。交渉してみよう。」

 

ルルーシュの言葉にユーフェミアは嬉しそうに笑って見せる。

 

「でも、私って信用ないのね。いくら脅されたからって、私がルルーシュを撃つわけないのに。」

 

「あぁ、違うんだよ。俺が本気で命令したら誰だって逆らえないんだ。俺を撃て、スザクを解任しろ、どんな命令でもな。それこそ、日本人を殺せって言っても…。」

 

「い、いやぁ…。殺したくないぃ…うぅ」

 

身悶えるユーフェミアを見て、ルルーシュはギアスが暴発したことを悟る。

 

「待て!今のはキャンセルだ!!」

「そうね。日本人は殺さなきゃ。」

 

 

 

 

皇歴2017年9月20日11:02 日本皇国 北海道函館市 首相官邸閣僚会議室 

 

『日本人を名乗る皆さん、死んでもらえないでしょうか?』

 

皇国首脳陣が見ている。液晶画面には彼らが予想していなかった、出来るはずもない音声が流される。

 

『えーとっ、自殺してほしかったんですけどダメですか?では、兵士の皆さん!!皆殺しにしてください!!虐殺です!!』

 

映像にはユーフェミアの口から出ているように見える。

 

「何を言っているんだ?この女は?」

 

経済産業大臣の室生直毅がつぶやく。

 

その意味はわずか数秒後に理解できる内容の映像が流れてきた。

だが、その内容の意味は理解したくなかった。

現実であって欲しくなかった。

この映像を見ている日本人すべてが、映像が嘘偽りであって欲しかった。

だが、現実は残酷であった。

 

一発の銃声、倒れる参加者の老人。

 

『ごめんなさい。でも日本人は皆殺しにしないといけないの。さぁ、ブリタニアの皆さん!!虐殺を始めてください!!』

 

狂人の狂った言葉。今度は拳銃の一発ではなく、機関銃の、KMFの機関砲の銃声が響き渡る。悲鳴、悲鳴が聞こえた。

 

「なんだこれは!!いったい何が起こっているのだ!!」

 

副首相西郷の言葉を皮切りに閣僚会議室は騒然とする。

 

「外務省!!これはいったい!!」

「状況を確認します!!」

 

西郷と外務大臣木戸の会話に、苛立った高橋大蔵大臣が叫ぶ。

 

「見ればわかるだろう!!虐殺されてるんだよ!!」

 

その横で、秘書官からメモを受け取った永田陸軍大臣が立ち上がって報告する。

 

「映像を見た。前線の将兵が激発!!新潟・福島他、すべての戦線が戦闘状態に突入しました!!」

 

事の重大さに、フリーズしていた赤坂官房長官が椅子に一瞬躓きながら、大高に駆け寄る。

 

「大高閣下、大変な事態になってしまいました。こうなってしまっては、和平はあり得ません。全軍に戦闘開始命令を出してください。このような物言いはするべきではないと思いますが、もう勝つとか負けるとか、そう言う次元ではありません。我々は、日本人として戦わなくてはなりません。」

 

赤坂の言葉を受けて、大高は立ち上がり声を大にする。

 

「皆さん!!我々は、この度のブリタニア副総督の民族浄化宣言に断固として立ち向かわんくてはなりません!!桜坂総務大臣!!連絡の取れるレジスタンス全てに決起を促してください!!」

 

「すべてですね。」

 

「はい、全てです!!木戸外務大臣!!全世界に向けて抗議、いえ徹底抗戦を改めて宣言するのはもちろんとして、ロシアのプーシン大統領に旭光作戦を繰り上げると伝えておきなさい!!岡田海軍大臣、紺碧艦隊にパナマ運河破壊作戦の繰り上げを伝えてください!!永田陸軍大臣!!意地でも敵の防衛線を食い破らなくてはなりません。北海道他から前線へ送る兵力を抽出し、各空軍基地から攻撃隊を上げて、スーパーXを出撃させるのです!!高橋大蔵大臣!!予算に制限を設けてはいけません!!人命、いえ民族の存亡がかかっているのです!!」

 

 

「「「「「っは!ただちに!!」」」」」

 

 

 

そのすぐ後に、大高は電話で高野を呼び出す。

 

「私です。高野さん、例の作戦も実施してください。我が国の戦いの爆発力は今がピークでしょう。やるなら今です。……よろしくお願いします。」

 

 

 

 

 

同時刻 日本皇国 福島県福島市大笹生 旧ふくしまスカイパーク前線予備司令部

 

ブリタニアの暴挙に対する反応にたいして、前線に近い福島の前線予備司令部の様子は北海道以上であった。

電波の関係上、北海道以上に生々しい映像が入手しやすかった故でもあった。

 

「第四師団を南下させるように、東北管区軍に伝達するんだ!!」

「最善を尽くしているとのことです!!」

「さっきと同じ回答か!っく」

 

第一師団師団長乃木希祐大将は、福島戦線の第二第三師団、新潟の第五師団他、片瀬率いる統一レジスタンス連合が先端を開いている現状で、状況把握や要人守護に努めていた。

 

「能登の霞師団も戦端を開いているのか!?」

「わかりません!あそこは、他の戦線と違い戦線がつながっていないので、連絡手段が限られていますので…。」

 

乃木は副官の津野田暮重中佐と何度も応答を繰り返した。

 

乃木はその中で、神楽耶の姿が見えなくなっていたのに気が付いた。

乃木が、指揮所の外を見ると戦闘指揮車に乗り込もうとしている神楽耶を見つけた。

 

乃木は慌てて、外へ出て引き留めようとした。

 

「陛下!!ここは危険です!!お下がりください!!」

 

しかし、神楽耶は乃木の言葉には従わずに反論した。

 

「そのような真似はできませんわ!」

 

「何を言っておられますか!?御身の安全をお考えくだされ!!」

 

「妾は、前線の近くにいる。今ここで、敵に背を向ければ民を見捨てたにほかならぬではないか!!妾をさらし者にする気か!!」

 

「そのようなことはありませぬ。で、ですが!!」

 

「この戦いは大和民族の今後を左右する戦いぞ!!妾が直接指揮を執って前線の士気を高めた方がよかろう。」

 

「しかし、陛下のみに万が一があれば…。」

 

「乃木大将!!旧軍制であれば第一師団は近衛師団であるぞ!!近衛に妾がついていくのではない!!妾に近衛が付き従うものぞ!!国家危機、民族の危機に動かぬとは…何のための近衛か!!」

 

神楽耶の叱責を受けた乃木は雷にあったっ鷹のように背筋をピンとして敬礼する。

 

「大変失礼いたしました!!この乃木希祐、思い違いをしておりました!!これより第一師団、否!!近衛師団は陛下の親征の下、第二第三師団を支援し全力を持って前線を押し上げるものであります!!」

 

乃木と神楽耶の会話で流れを察していた津野田は出撃準備を素早く整えていた。

そして、乃木の宣言を聞いてから続けて発言する。

 

「近衛師団全軍出撃準備完了です!!」

 

「よろしい!!」

 

神楽耶が指揮車についている通信機を手に取り第一師団の各通信機に音声が流れる。

 

「近衛師団全軍に告げる!!ブリタニアの蛮行より妾の臣民を守らんがため!!第二第三師団と合流し、皇軍は関東へ進出せよ!!」

 

神楽耶の声が通信機を通じて流れ、そして乃木が指揮車から上半身を乗り出して大きな声で叫ぶ。

 

「近衛師団!!前進!!」

 

 

 

 

同時刻 ブリタニア 北関東防衛ライン

 

つい先ごろに、皇国軍が兵力を張り付けたままであった北関東防衛ラインの司令部に就いたばかりであったが、特区日本の虐殺によって、トウキョウ疎開防衛のために急遽戻る判断をコーネリアは下した。

急なことだったので、ギルフォードは単機で戻ろうとするコーネリアを引き留めようとするが、コーネリアは引き下がらなかった。

 

「お待ちください!!コーネリア様!!」

「ついて来れる者だけで良い!」

 

前線に近いとはいえ、遠めでも司令部からも見える範囲で皇国との戦闘が行われていた。

 

 

同時刻 日本皇国 群馬県黒磯 前線司令部

 

前線司令部では、第二第三師団の師団長である山上奉文中将と坂東源一郎少将が叫んでいた。

「もっと!!もっと前へ!!」

「あと少しだ!!あと少しなんだぞ!!」

 

二人の顔、いや、司令部の人間たちの顔には憎悪が宿っていた。

 

「「虐殺皇女ユーフェミアの姉、虐殺皇女の姉の首を取れぇええええええ!!!!」」

 

 

 

 

同時刻 富士山麓 行政特区日本樹立式典会場付近

 

「おい!ブリタニア軍が会場の外に出てきたぞ!」

「こうなったら、ユーフェミアを最大限利用するしかない。それがせめてもの…」

 

ルルーシュはC.C.の言葉には中途半端にしか答えなかった。自分でも覚悟を決めるには少し時間が必要だったのだ。

 

そして、ブリタニア軍の戦闘ヘリを蹴散らして覚悟を決めたルルーシュは黒の騎士団全軍の回線を開く。

 

「黒の騎士団全軍に告げる!ユーフェミアは敵となった!!行政特区日本は我々を誘き出す卑劣な罠だったのだ!!自在装甲戦闘機部隊は式典会場に突入せよ!!ブリタニア軍をせん滅し、日本人を救い出すのだ!!いそげ!そして、ユーフェミアを見つけ出して殺せ!!」

 

 

 



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第3?話 太平洋艦隊決戦

日本国軍とブリタニア軍の間の戦端は開かれた。

 

本来、ブリタニアの占領軍を統括しなければならないトウキョウ疎開のブリタニア政庁は、ユーフェミアの想定外の行動と、黒の騎士団を中心に全国のレジスタンスが決起し、北海道政権軍もすべての戦線で戦闘を開始し、本来それを収めるべきコーネリアは政庁への到着が遅れ事態の掌握に戸惑っていた。

 

『この度の事態に対し、我々は!我々日本人は断固とした態度を、行動で示さなければなりません!!』

 

大高の演説に織り交ぜて、ユーフェミアによる富士山麓の大虐殺の映像が流されている。

 

『ご覧ください!この映像を!!これが!これこそが!!ブリタニアの!奴らのやり方です!突如世界各地に侵攻し、そこに住む人間を奴隷化!そして、意に添わぬ者たちに対しては虐殺と言う名の民族浄化を仕掛ける!この現代においてこんな露骨なやり方を恥じともせず!まるで見世物のようにテレビに流す!あの王朝は!産業革命以前と何も変わっていない!!確かに文明や技術は高いでしょう!ですが内情は理性なき野獣そのものです!』

 

福島の前線は女皇皇神楽耶率いる、第一師団及び補完部隊改め、暫定呼称近衛師団。

近衛師団は第二第三師団と合流、ブリタニア軍北関東防衛ラインを突破。

福島を完全開放し、戦線は南下し茨城・群馬・栃木へ…

 

大高は全世界に向けて演説を行う。その内容は穏健な大高からは想像できないレベルの過激な内容であった。

 

『わたし、大高は国軍に南下を命令し占領地の開放を命令しました。占領地のレジスタンスにも決起を促し彼らは呼応しました。この演説を聞いている各国の皆さん!このような理性なき枢軸に迎合することは正しいことなのでしょうか?今一度考えてください!』

 

新潟の戦線は第五師団によって押し下げられ、能登半島の霞師団と合流し、関東に集結しているブリタニア軍の頭を押さえた。

 

『枢軸は、選民的思想に支配され!下らぬ己の都合を他人に押し付け、無辜の民を奴隷とし、挙句の果てには民族浄化をしようとする!私、大高弥三郎は日本国首相としてここに宣言します!枢軸の悪逆非道に断固戦うと!!我々か!枢軸か!正義はどちらにあるか!!我々がこの戦いで明らかにすることでしょう!!』

 

北海道政権では増援を前線へ送ることが決まり、北海道の雪豹師団と夜豹師団に出動命令が下され、現地への輸送手段のために新兵器である鵬型超大型輸送機2機を投入することが決定した。

さらに、日本の北海道政権と同盟関係にあるロシア帝国は大高の宣言に同調。

すぐに、バグラチオン作戦における予備兵力の一部であるハバロフスク集団の派遣を決定。これはバグラチオン作戦のベーリング海海戦において北海道政権の東郷艦隊の派遣に対する借りを返すとして派遣されるロシア兵の士気も高かった。

ロシア帝国大統領ウラジミール・プーシンも演説を行い、大高演説と合流する形で二画面演説を行う。

 

『大高は世界に正義を問う勝負に出た!虐殺と言う非道に立ち向かう勇者に我らが祖国、大ロシアは手を取る相手を見誤ることは断じてない!!ロシアは日本と共に枢軸の暴虐に立ち向かうことを宣言する!!』

 

 

日本で壮絶な戦いが繰り広げられていた頃、ここハワイ諸島でも壮絶な戦いが始まろうとしていた。

 

太平洋上では高杉艦隊・坂本艦隊・旭日艦隊がハワイオアフ島の北、230海里の海域に進出。すでに出撃の準備を完了していた。

空母より艦載機が発艦していく、三艦隊の長官たちは各々の乗艦の艦橋からその様子を見守っていた。その一つ、戦略空母武御雷の艦橋で高杉は力強く拳を握る。

 

「ハワイ諸島…ここを押さえれば、旭光作戦は盤石となる。本国での悲劇…これを止めるためにもハワイ島を抑えることが重要だ。」

 

日本武尊の艦橋でも大石も強いまなざしで発艦する航空機を見送っていた。

 

「この戦いは予定されていたとはいえ急な繰り上げがなされたものだ。戦力も予定通りとはいかなかった。だが、矢は放たれた…我々は後には引けない。」

 

大石の発言を耳にした原参謀長は大石に声をかける。

 

「メーサー戦闘攻撃機F-6電征、この機体ならばブリタニアの飛行型のKMFとも十分渡り合えます。大丈夫です…彼らはやってくれます。」

 

「あぁ…。」

 

坂本艦隊旗艦、戦艦長門。

 

「いよいよですな。」

参謀の言葉に、坂本はただ短く「うむ。」と返した。

 

 

 

『全軍突入セヨ!』

 

無線機から攻撃の合図が流れる。

パイロットたちが、機体のスイッチを押し爆弾が投下され、機銃やメーサーが放たれる。

3艦隊の第一次攻撃隊の目的はハワイ空軍力の殲滅であった。ホイラー航空基地、ヒッカム航空基地、エワ航空基地と言ったオアフ島の各航空基地は壊滅的被害を受けた。

 

『ワレ 大型艦 雷撃ス! テキ被害甚大!』

 

パールハーバー海軍基地でも入渠中の大型艦を中心に攻撃した。

そして、3長官は第二次攻撃隊にも攻撃命令を下していた。

 

第一次攻撃隊に遅れ、15分後の事であった。

 

「富士でのことは許すまじ!怨敵ブリタニアを討ってやる!」

「いいか!間違っても燃料基地をやってはいかんぞ!」

「っは!」

 

燃料基地は攻撃しない。これは高野が考えた作戦の要でもあった。

第二次攻撃隊は猛禽のごとく、パールハーバー防空施設に襲い掛かった。

 

「撃て撃て!奴らを叩き落せ!」

 

ブリタニア軍守備隊も制空権を奪われながら、良く戦ったが、すでに戦いの大勢は決していた。戦火と戦況は逐一3長官の下に送られていた。参謀から報告を受けた高杉は冷静に答える。

 

「長官、真珠湾には敵の主力はいませんでした。」

「読み通りだよ。」

 

 

一方、オズバンド・キンメル太平洋艦隊長官率いるブリタニア海軍東太平洋艦隊はエリア11で起こった事態の収拾のための増援としてマリアナ沖を北上中だった。

 

「なに!?ハワイがイレブンの空襲を受けているだと!!」

「提督!直ちに引き返して反撃しましょう!!我が太平洋艦隊はイレブンの艦隊より優れております!」

 

キンメル長官は動揺していた。

自国皇族の虐殺行為への報復にしては早すぎる。

 

「信じられん、考えられんことだ。しかも、シュナイゼル殿下と連絡が取れんとは…。」

 

キンメルは迷いに迷った。

もし、この時シュナイゼルとキンメルが連携できれば、もしくは反撃を即断していればブリタニア軍にも勝機はあった。1個艦隊で3個艦隊に挑むのは苦しすぎる決断であったが、遅滞を前提とした戦いをすれば、ウォレス・F・ハルゼーとアーノルド・フレッチャーやウィリアム・モルガン、アラン・ブロックスの独立航空機動艦隊に中央・西太平洋艦隊や東部南ブリタニア大陸艦隊の援軍も期待できた。

だが、キンメルは1対3の艦隊決戦のリスク。そして、太平洋地域の友軍5艦隊が集結するまでのハワイ島への被害を恐れすぎた。

 

「提督!ご決断を!」

「いや、近くの友軍と合流してからでも遅くはない!!」

 

その頃、ブルと異名をとる猛将ハルゼーは窮状を聞きオアフ島120海里を航海中であった。

 

「何をためらっている!あんたはすぐ引き返して、イレブンの艦隊と戦うべきだ!!我々も合流を急ぐ、生意気なナンバーズに太平洋の塩水をたらふく飲ませてやるチャンスじゃないか!!」

『あぁ、わかった。帰投中のレキシントンと合流し次第すぐに引き返す。』

「そうじゃない!今すぐ引き返すんだ!敵の艦載機は出払っているはずだ!…ちょっと待て!うちの偵察機が敵の偵察機と接触した!!敵の妨害電波ブイでレーダーに頼れんと思って偵察機を出して正解だった。」

『なんだと、位置は?』

「オアフ島沖、西140マイルの海域だ!」

『それで、落としたんだろうな!?』

「いや、逃げられた。北西らしい。」

『北西!?』

「しかし、ツキは俺にあるようだ。敵艦隊は俺の方が近いらしい!カウアイ海峡を北上し先に仕掛ける!挟み撃ちにしてやる!」

『待て!見込みで追撃するのか!?合流するまで待ちたまえ!!』

「レーダーはお互いに使えん!先手必勝だ!賭けてみるさ!」

 

ハルゼーの蛮勇は裏目に出る。二人の生電話は日本の電子偵察機に傍受され、艦隊の位置を把握されてしまうのであった。

 

 

 

3長官は帰投した第一次攻撃隊に燃料と弾薬を補給し再出撃させたのであった。

 

「徹底的にやる。彼らは我々にそれだけのことをしたのだ。そのことを思い知らせてやるのだ。」

 

高杉は双眼鏡を握ったまま、再出撃した第一次攻撃隊を見送った。

 

ハルゼー艦隊は正規空母2、軽空母1、巡洋艦5、駆逐艦13からなるものであったが、突然雷撃を受けるのである。

 

3艦隊所属の潜水艦群による魚雷攻撃であった。ハルゼーはポートマンの出撃を命令する間すら与えられず海の藻屑と散った。

 

ハルゼーの戦死。そして、空母レキシントンの轟沈もキンメルの精神に打撃を与えた。また、太平洋艦隊においてポートマンを最も多く保有していたハルゼー艦隊の壊滅は彼に焦燥感を駆り立てさせた。

 

「そ、そんな馬鹿な!?フレッチャーの艦隊は無事だな!」

「は、はい!」

「フレッチャーの艦隊に合流を急ぐように伝えろ!!」

 

キンメルは自身の艦隊を軸に中央太平洋の第六艦隊を率いるアーノルド・フレッチャーに合流を促した。

 

一方で、艦隊の指揮権を一時大石に委譲し高杉は直掩の空母を除く主力空母と共に後方に下がる。

大石は、坂本艦隊と高杉艦隊の主力を引き受ける。

 

 

 

 

 

一方で、フレッチャーの艦隊と合流したキンメルは遂に日本艦隊との艦隊決戦を決意した。

 

「長官!今こそ反撃の時です!」

「あの程度の空母の艦載機などハエのようなものです!」

「位置は?」

 

「おそらく、パールハーバーを目指しているでしょう。」

「なぜだ?」

「パールハーバーの燃料基地には450万バレル液体サクラダイトが手つかずにあります。これを叩かれると、我々は向こう六カ月動けなくなります。」

「それか!それが奴らの狙いか!よし!全艦を急行させろ!!ブリタニア海軍の面子にかけてイレブンの艦隊を殲滅するのだ!!」

「敵艦隊は、カウアイ海峡にいるとのことです!」

「全艦、カウアイ海峡に急行するのだ!」

 

ブリタニア軍

戦艦ウェストヴァージニア他8隻、巡洋艦ニューオリンズ他17隻、空母ロンドン他3隻、駆逐艦58隻。

日本軍

超戦艦日本武尊、戦艦信玄他7隻、巡洋艦虎狼他18隻、空母尊氏他3隻、駆逐艦66隻。」

 

一方、連合艦隊を率いる大石は…

 

「キンメル艦隊はカウアイ海峡に進路を取りました。」

「よし。進路このまま!前時代的ではあるが戦艦同士の殴り合いだ!諸君気合を入れていけよ!」

「「「っは!!」」」

 

これより、日本とブリタニアそれぞれの連合艦隊による壮絶な砲撃戦が始まる。

大石とキンメルの号令は同時であった。

 

「「砲撃はじめ!!」」

 

双方の妨害電波の影響でその戦いは正に前時代の戦いそのものであった。

自軍艦隊から放たれる砲撃の音と、砲弾が作り上げる様々な高さの水柱が海の男たちを猛らせた。

 

「撃て!撃て!!イレブンの艦隊など敵ではないわ!!!でかい戦艦など的にしてやれ!!」

「ブリタニア軍に日本武尊の鉛玉を食らわせてやれ!!日本武尊は伊達ではないと教えてやれ!!」

 

この艦隊決戦は新たな展開を迎える。

キンメルに新たな報告が寄せられる。

 

「左舷16度!新たな艦隊群接近!!戦艦3、空母1、巡洋艦7!駆逐艦を前衛に高速接近中!」

「ば、バカな!?イレブンの艦隊がまだいたのか!?」

 

新たに出現したこの艦隊は本国陥落を受けて各地から艦艇が合流し強化された、カレル・ドールマン提督率いる亡命オランダ艦隊であった。

北海道政権の要請を受けて本海域に秘密裏に進出していたのであった。

 

「大石提督。オランダ艦隊の援護は入用かな?」

「もちろんだ!」

 

キンメル艦隊は日本艦隊とオランダ艦隊に挟撃され、激闘3時間。キンメル艦隊はことごとく轟沈、もしくは撃沈されていた。

カウアイ海峡に砲声の音が止んだころ。護衛艦部隊に守られた上陸部隊は全ハワイ諸島を占領。上陸部隊はわずかな抵抗を排除し、真珠湾の各軍港を制圧。

ブリタニアとアジアを繋げる中継地点を寸断した。

 

日武艦隊決戦は日本の勝利に終わった。この戦いの勝利は今後の戦いにおける重要な役割を果たすことになるのであった。

 

そして、場面は時間軸を巻き戻し日本へと変わる。

 

 



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第3?話 パナマ運河破壊作戦

皇歴2017年9月20日19:00 パナマ近海 須佐之男号

 

日本側から繰り上げ要請により、作戦は1時間ほど繰り上げられた。

太平洋マルベロ島沖合流ポイントからすでに移動しており、紺碧艦隊とミスリル戦隊は移動を開始した。

 

「進路そのまま。警戒を厳に…。」

 

 

ブリタニアの工業力の中心は五大湖周辺に集中している。そこで生産されたKMFを中心とする兵器や軍事物資、艦船などはパナマ運河を通り太平洋へ輸送される。

無論、鉄道や車両を使った輸送手段もあったが大量輸送となると船舶の比ではない。もしパナマ運河が潰されることとなれば、ブリタニアの太平洋戦略が根本的に見直されることになる。

 

この超潜伊10001須佐之男号には、最新鋭のメーサー攻撃機F-6電征が2機搭載されており、KMF搭載能力もある。電征は攻撃機の名を冠しているが戦闘機としての能力も高い。僚艦の伊600潜にも電征が2機搭載されている。また、伊500潜には各3機の艦載機の艦上垂直離着陸機F-4昇星を搭載し、伊700潜には昇星戦闘機を改造した艦上垂直偵察機偵察機RF-4E星電と多用途垂直離着陸型戦闘機F-5闇鷹が1機づつ搭載されている。また、この闇鷹は日露共同開発機でありロシア呼称Yak-201と呼ばれる機体と同一の物であり、ミスリル戦隊にも運用されている。

つまり、紺碧艦隊は小規模ではあるが明らかに航空機動艦隊の能力を有しているのである。さらに、KMF搭載能力を持った潜水艦トゥア・ハー・デ・ダナンやタイフーン潜水艦の改良艦を保有するミスリル戦隊を加えたことで、この任務艦隊は航空機動揚陸艦隊と言っていい能力を持ったのである。

 

「本艦隊は、日本武尊を除くすべての大和型戦艦の開発計画を中止もしくは変更して建造されたのだ。なので、我々はそれに見合った…いや、それの何倍もの仕事をしなければならないと俺は思っている。これより、作戦を開始する!」

 

19:05出撃、かくして乾坤一擲のいよいよそのスタートを切ったのである。

 

 

皇歴2017年9月20日19:00 パナマ運河付近 トゥア・ハー・デ・ダナン

ミスリル戦隊はパナマ運河を視認できる距離にいた。

 

「戦隊長、時間です。」

副長のマデューカス中佐の言葉を聞いてテッサは指示を出す。

 

「作戦開始、KMFを射出、パナマ運河港湾部を奇襲してください。」

 

ミスリルの陸戦部隊はサベージの水陸両用機に乗り込み、KMF発射管に搭載される。

そして、注水が完了し次々と射出される。

水陸機のサベージはHEATハンマーの代わりにトライデントを装備してる。

このサベージはまず、2つのグループに分かれる。水上に顔を出し水陸両用銃で上陸を援護する部隊とポートマンを排除しつつ、地上の警備部隊のKMFに第一撃を与える部隊だ。

 

ポートマンを両用銃で仕留め、堤防沿いに配置されているサザーランドやグラスゴーをトライデントで一突きし、トライデントが届かないところにいる防衛部隊に対しては両用銃で制圧する。港湾外苑部はあっという間に制圧され、支援グループも上陸する。その支援グループは防水処理を施されたカバーからバズーカを取り出し、駆逐艦などの艦船を攻撃し無力化していく。

その頃になってようやっとブリタニア側の防衛部隊が組織的な防戦を始める。

 

 

皇歴2017年9月20日19:05 パナマ近海 須佐之男号

 

「作戦の第一段階は上々、パナマ港湾部にて陽動作戦が進行中。攻撃隊!発艦準備に掛かれ!!浮上!!」

浮上した各潜水艦の搭載ハッチが開き入江艦長の号令で攻撃機達が飛び立つ。

前原はハッチから顔を出し出撃していく攻撃機を見送った。

 

「成功を祈る。」

 

紺碧艦隊は作戦成功時の邂逅点へと向けて潜航し海中へと消えた。

 

 

皇歴2017年9月20日19:05 パナマ運河

 

大竹飛行長率いる攻撃隊はパナマ港湾部のミスリル戦隊の上空を通過し、パナマ運河を目指し東進していた。

パナマ運河、南北両ブリタニア大陸がつながる地表にある巨大運河で、総延長65km。パナマ市からミラフーロレス閘門、ミラペドロ閘門がありガトゥーン湖に至る。そして湖の向こう大西洋側にガトゥーン閘門がある。

攻撃隊はガトゥーン閘門に目を付けた。

この作戦はパナマ運河破壊作戦としては、太平洋側の2閘門の方が距離が近く有利であったが、破壊目標として規模が大きく修理に時間がかかるガトゥーン閘門の方が効果大であると決定されたのである。

攻撃隊は山間部を超低空で飛行し侵入していった。

山間部を超えると、星電はここで列を離れた。攻撃隊の成功を祈りつつ帰路に着いた。

攻撃隊の視界にガトゥーン閘門が姿を現す。

 

「飛行長!あれです!」

「全機!爆撃用意!!」

 

観測員の一人が予定にない超低空で飛行する航空機を発見し双眼鏡で確認する。

 

「ライジングサン!?イレブンか!!」

 

攻撃隊は液体サクラダイトのタンクや貯蔵庫が爆撃される。

イレブンの残党軍が遠く離れた大西洋まで現れるなど、考えもしていなかった。

 

「迎撃機が上がってくるのも時間の問題だな。落差の大きい湖からやるぞ!!」

「「「了解!!」」」

 

停泊中の一部の艦船から、対空機関砲を一部の水兵たちが撃ち始める。

 

「もう、遅い!!いけぇえええ!!!」

 

大竹飛行長は水雷爆弾を機体から切り離す。

水雷は航跡を描いてガトゥーン閘門にぶち当たる。

ガトゥーン閘門はミシミシと音をたて、一気に閘門が倒れる。

せき止められていた海水が一気に流れだし、艦船を押し流し、次の閘門も同様に破壊していく。

 

「すざまじいな。よし!引き上げるぞ!!」

「敵機です!!」

「一当てするぞ!続け!!」

 

大竹のF-6電征を先頭に僚機が続く。

電征のメーサービームの横薙ぎによって敵機が数機落とされる。

機制を制した攻撃機体は容易に迎撃機の一隊を制し悠々と撤退していった。

パナマ運河の破壊成功が伝わると、パナマ港湾施設で陽動工作を行っていたミスリル戦隊も霧のように撤退していった。

 

 

皇歴2017年9月20日20:35 邂逅点 須佐之男号

 

邂逅点では入江艦長が艦載機の搭載作業を急かしていた。

 

「収容急げ!!」

「早くしてくれ!」

 

大竹飛行長の電征を中心に、攻撃隊の機体が着水していた。

 

「敵機接近!!」

 

先任士官が大声で、前原に知らせる。

 

「対空迎撃、時間を稼げ!」

 

伊号潜水艦の対空機関砲が迎撃を始めるが、迎撃機の数が増えてくる。

 

「まずいな。」

 

火力としては乏しい対空砲では迎撃は間に合わない。

前原の額に冷汗が伝う。

そこに、ミスリルの水陸両用機が海中より顔を出し両用銃で対空迎撃に参加する。

 

「ミスリル戦隊か!支援感謝する!!」

 

前原はミスリル戦隊の機体に敬礼をしてからハッチの中に戻った。

対空火砲が増えたことで敵機を跳ね除けることに成功。紺碧艦隊は艦載機を収容して潜航し帰路に就いた。

 

 

 

皇歴2017年9月20日同時刻 航空航路上 アヴァロン級浮遊航空艦

 

帝国宰相シュナイゼル・エル・ブリタニアは欧州へ向かうために空の人となっていた。

すでに、エリア11での一連の事態に対処している中で新たなる急報が知らされる。

 

「シュナイゼル殿下!!北海道軍がハワイ諸島を襲撃!ハワイ各島が陥落したとのことです!太平洋艦隊は壊滅的な被害を受けたとのことです!」

「なっ!?」

 

ハワイ陥落の方を聞いて、言葉を失うシュナイゼルであったが、悲報は続く。

 

「しゅ、シュナイゼル殿下!!ぱ、パナマ運河が破壊されました!!」

「や、やられた。これでは太平洋の戦力が無力化された上に増援が送れないではないか!ゼロに注目を集めて、北海道軍から目が離れた結果か。」

 

シュナイゼルは目を押さえながら思考する。

エリア11をコゥは守り切れるのか?ユフィの外交的問題はどう対処する?本国の混乱はどう抑える?そもそも、エリア11の騒動はどの程度他エリアに飛び火するか?

 

「シュナイゼル殿下、本国からです。」

 

副官が本国からの通信が来たことを伝える。

 

『シュナイゼル、ようやっと連絡が付いたか。』

 

通信の向こうには姉である第1皇女ギネヴィア・ド・ブリタニアが映っていた。

なぜ、姉がとは思ったが軍事政治ともに決断力に難がある兄オデュッセウスよりはマシかと思い直し、ギネヴィアを引っ張て来た貴族諸侯たちの判断を内心称賛した。

少なくてもあの兄よりは姉の方が、能力はある。軍事こそ未知数だが宮廷政治を中心に政治力は自身も評価している。

 

 

シュナイゼルはギネヴィアと情報のすり合わせをする。

本国の方は、パナマとハワイの件で太平洋戦略が大きく練り直されるであろうこと。エリア11の今後の扱いなどが取りざたされている様だ。

そして、通信にギネヴィアがいる時点で父上であるシャルルは例の場所から出てきていないのだろう。

 

「姉さん、とにかく今は国内の動揺を抑えなくてはならないよ。」

『それは兄上に任せる。兄上は国民受けが良いからな。』

「問題は太平洋側のエリアだ。エリア11の戦況は最悪だ。コゥだけでは支えられない。」

『であれば、ダッチハーバーの戦力を抑止にあてればよいではないか?』

「それはダメだよ。姉さん、あそこを動かすとロシアへの抑えが足りなくなる。」

『では、ナチス第三帝国に派兵を要請するか。もともと、援軍の計画はあったのだ。それに個人的にラインハルト長官と伝手がある。頼んでみるか?』

「援軍自体は可能だろうけど。彼らを主戦力にするのは外交的にも問題だ。下手をすればエリア11がドイツ領になりかねない。そもそも、ナチスドイツの援軍計画はエリア11の駐屯軍の補完を目的としたものだ。補完軍なら、まだしも主戦力とした援軍は断られるだろう。それにこういった時の交渉で個人の伝手を使うのは後々問題になるからおすすめしないよ。」

 

シュナイゼルに案を次々と潰されたギネヴィアは苛立たし気に尋ねる。

 

『では、どうすればいいと言うのだ。』

「太平洋地域は一度見捨てるしかないと思う。第7艦隊のモルガンにはインド洋への退避を伝えている。太平洋艦隊中核がやられて、ハワイが抑えられた時点で早期の立て直しは難しい。モルガンがいても太平洋地域の抑えにはならない。ブリタニア海軍とイレブンの海軍の戦力比が覆ってしまった。ある程度の戦力を残して守りとし、本国で戦力を編成するのがいいと思う。」

『随分と消極的な。』

「姉さん、恐らくですが。」

 

双方の副官が報告を上げ、ギネヴィアが報告書に目を通す。

 

『……!?』

「エリア10が決起したでしょう。」

 

 

シュナイゼルは画面を複数画面に切り替える。

 

『そうだ!独立だ。我々の国は、いま、ブリタニアにひどい搾取をされている。この国の豊かな資源は全て、ブリタニアに持っていかれ、インドネシアの住民たちは、教育の機会も金も自由に商売する機会もあたえられず、奴隷のようにこき使われている。今、日本では日本人たちが自由を勝ち取る一大蜂起が起こっている!!彼らは勝つだろう!!ではインドネシア人はインドネシアのために立ちあがらなくて、誰が独立を勝ち取るのだ!!インドネシアの独立を勝ち取ることは、インドネシア人の義務ではないのか!!民衆よ!!武器を取れ!!戦うのだ!!今こそ、暴虐な支配者から自由を勝ち取るのだ!!』

 

『フィリピン共和国の国民よ!!続け!!今こそ決起の時だ!!我らフィリピン国民に、かつてあった独立と自由を!!今再びこの手に!!共和国の栄光の時代を再び!!暗黒の支配を打倒し自由の光を!!希望ある未来を掴むのだ!!!』

 

画面ではインドネシアとフィリピンの抵抗勢力の首魁スカルノとホセ・ドテルレルが演説を行い全民衆に決起を促す演説が流れていた。

 

 



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第33話 ブラックリベリオン前編

皇歴2017年9月20日12:47 富士山麓 行政特区日本樹立式典会場近郊

 

「さようなら、ユフィ。たぶん、初恋だった。」

 

ユーフェミアはルルーシュに撃たれ、ユーフェミアはスザクによって奪還され、アヴァロンの医療施設に運び込まれた。

 

富士山麓の式典会場とその周囲は黒の騎士団によって制圧された。

 

「よくも俺たちをだまし討ちにしたな!」

 

そこでは、日本人によるブリタニアへの報復行動が見られた。

 

 

 

式典会場の放送室ではディートハルトが報道と言う情報戦を指揮していた。

 

「よかったじゃない?式典会場にムービーや機材が残ってて。」

「あぁ。」

 

ラクシャータの言葉にディートハルトはあいまいに答えた。

 

「メディアの使い方は大高の方が一枚上手でしたが…。」

 

 

 

 

 

『わかりました。あなた方の身柄は保証しましょう。次回からは担当の役人が応対します。』

 

赤坂は極めて事務的に桐原の保護を受け入れはした。

だが、ユーフェミアに一度でも靡いた彼らの心証は北海道政権にとって非常に悪いものだった。その証拠が、キョウトとの交渉に大高が顔を出さず官房長官の赤坂が応対した事からもわかる。ゆえに桐原は黒の騎士団の方に接触したのだが…。

 

「ゼロ、これからのことだが、こうなった以上わしらの下で…」

「逆だ!こうなった以上キョウトの方々は私の指揮下に入っていただく。反論は許さない!その様子だと、大高に袖にされたのだろう?私に従わねぬ以外に他に生き残る道はない。」

 

キョウトは黒の騎士団の下に納まることとなる。

ゼロは群衆の前に立ち宣言する。

 

「日本人よ。ブリタニアに虐げられた全ての民よ!!私は待っていた。ブリタニアの不正を陰から正しつつ、彼らが自ら顧みる時が来るのを。私たちの期待は裏切られた。虐殺と言う蛮行で!…ユーフェミアこそブリタニアの偽善の象徴!!国家と言う体裁で繕った人殺しだ!!」

 

 

 

 

皇歴2017年9月20日13:51 富士山麓上空 アヴァロン

 

「スザク、行政特区はうまくいった?」

「行政特区は大成功だ。」

 

その頃、スザクはユフィとの最期の時間を過ごしていた

 

「みんなとても喜んでいたよ。」

「よかっ…た。スザク…あなたに会えて…」

 

一つの恋人が分かたれる。死と言う永遠の形で…

 

 

皇歴2017年9月20日14:00 富士山麓 行政特区日本樹立式典会場

 

「私は強者が弱者を虐げない国を作りたい!!その名は合衆国日本!!」

 

ルルーシュは独立国建国を宣言したが、これに大高はわずかに眉をひそめたが不快感を示すことはなかった。大高ゼロの同盟関係は崩れることはなかった。これは偶然でもあった。ゼロの宣言した合衆国日本宣言は、日本が平和だった頃、大高が志した合衆国制導入と、重なったためであった。どちらが主導権を握るかと言う問題はあったが、表面上の政治思想の一致は同盟関係の延命につながったのであった。

 

 

ルルーシュは接収した式典会場の一室で休息をとる。

 

「トウキョウ疎開に攻め込むつもりか?」

 

C.C.に問われたルルーシュは落ち着いた口調で答える。

 

「今が最大の好機だ。北海道政権に先を越されるわけにはいかない。彼らは黒の騎士団の味方であるがライバルでもある。」

 

ルルーシュは仮面を外したが、すぐに顔をそむける。暴走したギアスを恐れて。

 

「大丈夫だ。私にギアスは効かない。」

「そうだったな。ギアスの制御ができない今…みんなとはもうお別れか。」

 

携帯の着信が鳴り響く。妹ナナリーの呼び出しだった。

 

『お兄様?ユフィー姉さまとお話がしたくって…』

「!?」

 

 

 

 

皇歴2017年9月20日14:36 トウキョウ疎開 ブリタニア政庁

 

ブリタニア政庁では次々と悲報が舞い込んでくる。

 

『黒の騎士団が一般民衆を巻き込みトウキョウ疎開へ進軍中!!』

『北関東防衛線が破られた!!黒の騎士団に2時間遅れで北海道軍がトウキョウ疎開になだれ込んできます!!』

『トウキョウ疎開へは黒の騎士団・北海道軍合計で10万を超えます!!』

 

ユーフェミア死去によるショックでコーネリアは茫然自失となっており、この場をギルフォードが抑えていた。

 

「だめだ!殿下の許可なく軍を動かすわけにはいかない!」

「ですが、コーネリア総督はユーフェミア様の部屋に御籠りに…」

「ダールトン将軍もいない状況では…」

「オアフ島がやられたらしいです。太平洋艦隊からの増援は遅れるとのことです。」

 

 

 

皇歴2017年9月20日同16:12 茨城県某所 

 

北関東防衛ラインを突破した北海道政権軍は皇神楽耶女皇親征もあって士気は異常に高かった。

 

改造された拠点車両内では中央のシートに神楽耶が座りその左右に各師団長が控えていた。

 

「陛下…ゼロとの通信がつながりました。回線を開かせます。」

「…開きなさい。」

 

乃木の言葉に神楽耶は短く応じる。

 

『初めまして、皇軍の皆さん。そして、女皇陛下。』

「えぇ、こちらこそ。ゼロ様。」

「陛下、様付けは…」

 

乃木の言葉を制してゼロとの話を続ける。

 

「ゼロ、皇軍もトウキョウ疎開へ向かっています。ですが、そちらの方が少々早くついてしまいます。攻撃のタイミングを合わせるために進軍速度を落としなさい。」

『それは無理です。女皇陛下…、こちらは正規軍とは違う民兵と暴徒の寄せ集め。そのような繊細なことは出来ません。無理に速度を落としてしまえば勢いを殺してしまうことになる。』

 

「そうなのですか?」

神楽耶は乃木に事実の確認をする。

「その通りでございます。古来より我々の様な常備軍とは違い、民兵農兵と言った兵の士気の維持は難しいというのは事実です。また、訓練期間が短い。あるいは無い兵士は陣形変更はもちろん細かい命令を行き渡らせるのは難しいでしょう。あれだけの規模に膨れ上がっているのなら尚更です。」

乃木の助言を受けて、神楽耶は納得してゼロの反論を認めることとした。

 

『では、トウキョウ攻撃は西部が黒の騎士団、北部が皇軍陸軍、東京湾方面は皇軍海軍でよいか?』

「陛下、妥当なところかと考えます。」

乃木の耳打ちで神楽耶は決断を下す。

「わかりました。ゼロの意見を受け入れましょう。」

 

 

皇歴2017年9月20日17:37 トウキョウ疎開 ブリタニア政庁 

 

日も沈み暗くなった頃。日本各地では日本人たちの決起暴動が発生し、ブリタニアの統治によるコントロールは崩壊していた。

そして、それをコントロールすべきブリタニア政庁の高官たちも自身に迫る。

敵の存在で

 

「チバエリアに北海道軍が侵入!!サイタマエリアにも解放戦線との混成集団の侵入が確認されています。黒の騎士団も旧東名高速のルートにてアツギラインを突破したとのことです!」

「ここは、アツギを放棄して…」

「北海道軍の航空戦力がトウキョウ疎開の防空隊と交戦中!!」

 

士官たちの対応も後手に回り、トウキョウ疎開に迫る脅威を排除できずにいた。

上位者不在の中でギルフォードも頭を抱えていた。そんな時、遂に待ち望んでいた存在の声が政庁司令部に響き渡った。

 

「うろたえるな!!グラストンナイツを待機させた!!それとドイツの援軍の先遣隊MA部隊の指揮権を預かって来た。全軍トウキョウ疎開外苑に陣を敷け!!それぞれの敵の第一波を防げば、この猛攻も収まる!!」

 

 

皇歴2017年9月20日18:22 旧神奈川県厚木市 黒の騎士団G-1ベース

 

「コーネリアさえ潰せば勝ちだ!全軍、作戦に従い待機せよ!前線は藤堂。ここはディートハルト、お前に任せる。」

 

「わかりました。」

 

ルルーシュはディートハルトに後方の指揮権を委譲し、自らも前線に出るためにガウェインの元へと向かった。

 

「進軍を急がせられるか?」

「不可能ではありませんが…。」

「問題ない範囲で構わん。急がせろ、最低でもコーネリアとの一番槍は黒の騎士団でなくてはならん。」

 

 

皇歴2017年9月20日19:06 北海道函館 函館要塞地下司令施設

 

高野・桂・厳田ら3軍司令官が入り作戦の指揮をしていた。

 

「黒の騎士団が先陣を切るのは、承諾済みだ。陸軍は統一レジスタンスと足並みをそろえてトウキョウ疎開へ攻め込めばいい。そうすれば、占領軍のコーネリアの背後を突ける。第五師団と霞師団は西日本のブリタニア軍への抑えとせよ。」

 

陸軍参謀総長桂へ報告が上がる。

 

「ロシア軍ハバロフスク集団は約4時間後に若狭に上陸するとのことです。」

「そうか。」

 

 

「南関東にて制空戦が開始されました。」

「海軍の護衛航空機団の一部を千葉の制空権確保に回せ。」

「了解しました!」

 

厳田空軍長官の方でも、各所での空戦の推移が伝えられる。

 

「連合艦隊、ブリタニア太平洋艦隊と交戦を開始したとのことです!」

「わかった。白銀艦隊の方は?」

「現在、相模灘にて敵艦隊が集結中。そこでの艦隊戦となるかと…」

「そうか。」

 

高野は軍刀を杖にモニターをにらみ続けていた。

 

 

皇歴2017年9月20日同時刻 北海道函館 首相官邸

 

「大高首相、まもなく黒の騎士団が首都奪還に動きます。我が軍の到着は翌2:00頃を予定しております。」

 

陸軍大臣永田の言葉を聞いて、大高は「うむ。」と短く答えた。

赤坂官房長官が大高に耳打ちする。

 

「南洋の方の支度が整ったとのことです。許可の方を出しても構いませんか?」

「お願いします。打てる手は打っておかなくてはなりません。この戦い、日本だけでは済まないでしょう。」

 

 

皇歴2017年9月20日22:38 トウキョウ疎開 CODE-Rブリタニア・ドイツ秘匿共同研究施設

 

「早くしろ!本国に実験適合生体を!!研究成果資料を運び出せ!電子媒体も紙媒体も両方だ!」

 

バトレーは大慌てで指揮している。一方でドイツ側の責任者であるマリアはその様子を達観した様に眺めていた。

 

「ヴィクリート中佐!?貴国も運び出しを急いだほうがいいのではないのかね!?」

 

そんなマリアに対して、バトレーは苛立たし気に尋ねる。そんなバトレーに対して大した反応もせず。マリアは実験適合生体の大型カプセルを指さす。

 

「出力が!?内圧が上昇中!!」

 

研究員の報告はほぼ悲鳴の様だった。

カプセルのガラスにひびが入り、次の瞬間割れて中にいた実験適合生体が外へと出てきてしまう。

 

 

「おはようございました。」

 

実験生体がこちらの方を向き直り挨拶をしてきた。言語能力に問題があるようだった。

 

「こ、こんなときに…」

「あらあら…」

 

 

皇歴2017年9月20日23:45 トウキョウ疎開外苑部カナガワエリア境界

 

『皇軍の到着時刻は2時間後。降伏勧告をするなら時間を合わせていただきたいのですが?』

 

この時、ルルーシュは大高・神楽耶などを交えた通信会談を開いていた。

 

「爆発寸前の民兵を抑えるのはこれが限界だ。黒の騎士団として、彼らがある程度統制が取れた状態で戦いたい。無秩序な暴徒のような状態では勝てるものも勝てない。その辺りは陸軍の人間であった大高氏なら解るはずだ。それに降伏勧告は国際法上の建前だ。長時間も待つつもりはない。」

 

『この戦い、日本だけで終わるものではありませんぞ。間違いなく飛び火するでしょう。万全を期すべきです。』

 

「それは、解っている。だからこその対応だ。コーネリアはすでにトウキョウ疎開外苑に防衛線を築きつつある。2時間も時間をくれてやっては、堅牢な防御陣が完成してしまう。奴のことだ、我々全員が一斉に攻撃してきても大丈夫なような陣形を作っているだろう。」

 

『完成する前に叩くということですか?』

「そのとおりです!女皇陛下。」

 

自分の策を一部読んだ神楽耶に、ルルーシュは賛辞を贈り再び大高の方に視線を戻す。

 

『では空軍部隊を先行させますので、そこは協調いただきたい。』

「了解した。これでよいか?」

『えぇ、かまいませんわ。』『よいでしょう。それで行きましょう。』

「よろしくたのむ。」

 

向こうも通信を切ったので、ルルーシュは通信を切り降伏勧告を行う。

 

「聞くがよい。ブリタニアよ、我が名はゼロ。力ある者に対する反逆者である!0時までに降伏して我が軍門に下れ。」

 

降伏勧告を告げたルルーシュにC.C.が話しかける。

 

「本当にいいんだな。このままではエリア11では済まない。この世界全体が、お前の命の戦いに染まる。」

「解っている。だが、俺は…」

 

ルルーシュがC.C.に決意を込めた返答をしようとしたとき、携帯から着信が入る。

その相手は、死んだはずのユーフェミアであった。

ルルーシュが電話に出ると、その相手はスザクであった。

 

 

『ルルーシュ。皆に空を見ないでほしいと伝えてくれないかい?ルルーシュ、君は本気で殺したい相手がいるかい?』

 

「あぁ、いる。」

 

『そんな風に考えてはいけないと思っていた。ルールに従って戦わなくては、それはただの人殺しだって思ってた。でも、僕は今憎しみに支配されている。人を殺すために戦おうとしている。皆がいるトウキョウの空の上で…』

 

「憎めばいい。ユフィのためだろ?俺はもう、とっくに決めたよ。引き返すつもりはない。」

『ナナリーのため?』

「切るぞ。」

『ありがとう、ルルーシュ。』

「気にするなよ。俺たち友達だろう。」

『7年前から…』

「じゃあな。」

『それじゃあ、あとで。』

 

ルルーシュはスザクの問いには答えず電話を切った。

時間は0:00となっていた。

 

 

それと同時であった。ブロック区画化していた高速道路部分や要塞構造物が自壊し崩落していく。

 

「スザク、俺の手はとっくに汚れているのだよ。それでも向かっているのなら構わない。歓迎してやるさ。俺たちは友達だからな…。くくくくく、ははっははははは!!」

(俺はあの日から、あらゆる破壊と創造を…。そのために心が邪魔となるのなら…消してしまえばいい。…もう、進むしかない。…だから)

 

 

皇歴2017年9月21日0:00 北海道函館 首相官邸

 

トウキョウ疎開外苑部の要塞構造物が崩落していく映像が流れる。

そこにいた閣僚たちは驚き目を丸くする者、ゼロに賛辞を贈る者など様々であった。

 

(ゼロ…そういう手を使いましたか…。覇道を行くと言うのか。)

 

「大高首相。さきほど、海軍軍令部よりハワイ諸島の攻略が完了したと報告がありました。また、前原提督からパナマ運河破壊作戦の成功の報告が上がりました。」

 

「そうですか。では、作戦は次の段階へ進めてください。」

 

(孟子は王道こそを理想とし、覇道を賎しいものとした。これを尊王賎覇と言う。だが、王道で世界が収まらないと言うのなら覇道を歩むしかないと言うのか…。)

 

 

 



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第34話 ブラックリベリオン後編

皇歴2017年9月20日23:59 トウキョウ疎開 CODE-Rブリタニア・ドイツ秘匿共同研究施設

 

実験適合生体であるジェレミア・ゴットヴァルトは意識を取り戻し、研究データを見始める。

 

「CODE-R。なるほど、活動電位とニューロフィラメントが異常数値でした。理解は幸せ!私を実験体にして再現しようとしましたですね?この病を…」

「CODE-Rは病人ではない。とにかく、大人しくしてくれんか?貴公のウィルスは動脈凛から…」

 

ジェレミアを説得しようとするバトレーであったがジェレミアは一切聞き入れる様子はなかった。

 

「言い訳無駄!!あなたを本国送りにした恨み、こんな形でいただきました。」

「わかったから、本国に一度戻ろう。こんな形では話す事すらまともにできん!」

 

『聞くがよい。ブリタニアよ、我が名はゼロ。力ある者に対する反逆者である!0時までは問う降伏して我が軍門に下れ。』

 

「うぅうううううううう!!」

 

ジェレミアは苦しみだし、バトレーは研究員に鎮静剤を打たせ、安定装置を取り付けようとしたが、そこにドイツ側の共同責任者であるマリアがバトレーの服の裾を引っ張る。

 

「データは確保したのだし、十分ではないかしら。少し早いけど実用試験と行くのはどうかしら?」

「ヴィクリート局長!?ですが、勝手なことは!?」

 

マリアは重要度の高い紙媒体のデータを部下にカバンに詰め込ませながら、自分の頬に手を当てる。

 

「もう、この状態じゃあ疎開から逃げるのは無理だと思うの。包囲されてるしね…。」

「だ、だがヴィクリート局長。」

「このまま、CODE-R研究における知識人である私たちが連中の捕虜になることの方が、祖国に対する損害よ。実験体は他の代用品を探せばいいわ。このまま、彼を連れて逃げるより、彼に好きにさせた方が捕まる可能性は低いわ。」

 

マリアの言葉を聞いてバトレーは少し考えてみる。

マリアの言うことは、ある意味ではありかもしれない。

 

「FXF-503Yは単機で戦況をひっくり返せる可能性を秘めている。」

 

使うか。

バトレーはマリアに視線を向けるとマリアも妖しくと笑う。

 

「じゃあ、こっちはMAN-05を出すわ。脳波リンクは時間的に難しいけど、オート操縦と通常の無線リンクでならFXF-503Yと繋げられるわ。」

 

「やってみるか。」

 

バトレーは何やら達観した様子で部下たちに指示を出し、マリアも部下たちと作業を始める。

 

「オストヴァルト中佐、あれらの牽引の支度をして頂戴。」

「いいのか。アーネンエルベの局長とは言え越権ではないのか?」

「仕方ないでしょ?こんなことになるなんて想定外だもの。日本の艦隊が接近してるんでしょ?あなたたちで対処できるの?」

 

オストヴァルトは数秒の試案の後、マリアの意見を受け入れる。

 

「わかった、ヴィクリート局長の意見を受け入れよう。」

 

マリアとのやり取りでオストヴァルトは艦隊の指揮と周辺のブリタニア艦艇の掌握を始めた。

 

 

 

皇歴2017年9月21日0:16 トウキョウ疎開外苑部

 

「フハハハハ、これでいい。あとは全世界に、トウキョウ疎開陥落の映像と共に勝利宣言をすれば。嫌でもブリタニア皇帝を引きずり出せる。やつに直接会えればすべてのカードはわが手に落ちる。」

 

ルルーシュはガウェインの中で嗤っていた。己の勝利を確信しながら…

 

 

「突撃!」

 

藤堂の号令で各部隊がトウキョウ疎開各所へと攻め込む。

時折、北海道政権軍の攻撃機がとどめと言わんばかりに爆撃を行っていた。

 

「引け引け!!政庁まで引き返して守りを固めろ!!」

 

コーネリアは後退の指示を出す。

 

「姫様!!ここはお任せを!!私は姫様に選ばれた姫様を守る騎士!!なればこそ、ここは私が!!」

 

藤堂に追い詰められたコーネリアを、逃がすためにギルフォード。

 

「命令だ。生きて帰れよ。我が騎士、ギルフォード。」

「イエス、ユアハイネス!」

 

 

ブリタニア軍と黒の騎士団の交戦は激しさを増す。

グラストンナイツも前線に出てきていたが、依然として黒の騎士団有利と言うことは変わっていなかった。

 

「ディートハルト、航空戦力は片付いた。お前は予定地へ移動しろ。」

『わかりました。』

「吉田は雷光の準備だ。」

『おぅ。』

「井上、皇軍の先導は任せる。」

『了解よ。』

「玉城、ラクシャータは?」

『移動中だ!』

「カレンはバックアップに廻れ!」

『はい!』

「藤堂、対象が現れたら…。」

『解っている。』

「扇、協力者の名は?」

『篠崎佐代子と言って…』

「ん!?」

 

見知った人物の名を聞いてルルーシュは一瞬眉を顰める。

しかし、すぐに元に戻って指揮を続ける。

 

 

 

皇歴2017年9月21日0:28 サイタマ西部エリア

 

「統一レジスタンス連合!!前進!!黒の騎士団と合流し一気に首都を開放せよ!!」

 

統一解放戦線の首魁となっていた片瀬は白襷の姿で指揮車両から身を乗り出して将兵たちを鼓舞しつつ自らも前線で指揮を執っていた。

 

旧日本解放戦線のカラーリングやレジスタンスごとに、ところどころ改修されている無頼や鹵獲機が前進していく。

 

「今は守りの時ではない、攻めの時である!一気呵成に攻め立てよ!!」

 

 

皇歴2017年9月21日0:36 トウキョウ疎開外苑部

 

『超電磁式重散弾砲、発射!』

『第一特務隊!突っ込め!!』

 

 

戦場の音声を拾いつつ、手元の情報を処理して状況を確認しているルルーシュにC.C.が話しかける。

 

「コーネリアは政庁に兵力を集中したな。」

「武力の拡散を避け、援軍を待つ。ハワイもパナマもやられた現状、どうかと思うがそれしか選択肢はない。解っていたことだ。」

 

 

皇歴2017年9月21日0:48 サイタマ東部及びチバエリア 陸上ホバー戦艦蓬莱山

 

神楽耶ら師団長陣は、北海道からの増援に含まれていた陸上ホバー戦艦蓬莱山に移乗し、そこから指揮をしていた。

 

「あと一時間ほどで、トウキョウ疎開です。」

「もう少し急げないのですか?」

 

乃木の言葉に、たいして急かすような応答をする神楽耶。

 

「すでに先行している部隊は戦線に加わっているとのことですので…、海軍の東京湾突入と合わせても問題ないかと…。」

「妾たちは後詰ではない。あまり悠長な真似は出来んのじゃ、急げ…。」

「っは。全軍、行軍速度上げい!」

 

 

 

皇歴2017年9月21日1:02 トウキョウ疎開外苑部

 

「藤堂さん。」

「朝比奈か?卜部の方は?」

「予定取り、エナジーフィラーの保管所を押さえました。」

「仙波と千葉も合流させろ。補給完了後、政庁を包囲。我が本隊は正面から押し出す。」

「承知!」

 

月下を駆り、トウキョウ疎開外苑部のブリタニア軍をあらかた排除した藤堂たちは、遂にブリタニア政庁攻略を狙う。

 

 

 

皇歴2017年9月21日同時刻 トウキョウ疎開ブリタニア政庁

 

「クレイン卿には後退を指示、駅構内に防衛線を敷かせろ。」

「イエス、ユアハイネス。」

 

「政庁前の防衛線はいかがします?」

「そのまま維持しろ。守りに徹するしか打つ手はない。」

「イエス、ユアハイネス。」

 

政庁のコーネリアは防衛線各所へ指示を出していた。その横にはグラストンナイツの騎士たちが控え指示を待っていた。

 

「で、援軍に関して兄上の方は何か言っていたか?」

「太平洋艦隊を構成する艦隊の半数以上が失われた現状、援軍の目途が立っていないとのことです。ただ国内で、比較的鎮圧できている伊豆諸島と小笠原諸島の航空部隊がすでに出ています。」

「30分後か。……黒の騎士団に情報をリークしろ。リーク後、お前たちはギルフォードとともに政庁正面を守り抜け!」

 

 

皇歴2017年9月21日1:17 トウキョウ疎開学園地区

 

学園地区を制圧した黒の騎士団はそこに司令部を設営。

北海道政権との通信も密にとられ連携も本格的となっていた。

 

『この調子ですと皇軍到着前に政庁も陥落できそうですね。』

「ゼロは皇軍を待たずに攻撃を始めました。トウキョウ疎開外苑部の城壁もそうですが、ゼロには秘策があるのだと思います。」

『秘策…。それは是非ともお聞きしたいですね。』

「矢口さん、さすがにそれは…。」

『冗談ですよ。では、後程。』

「はい、後程。」

 

扇が北海道政権の内閣官房副長官の矢口蘭堂と話し終えると、黒の騎士団の団員が不審者の報告をしてくる。

扇は、最初開放するように伝えたが、裏門からの侵入者と伝えられ視線を向けると、その視線上には自分の見知った女性である千草がいたのだった。

 

そして、ルルーシュも罠を張りスザクを無力化して機体の身柄を抑えると、自身も政庁へと向かって行った。

 

皇歴2017年9月21日1:23 東シナ海 中華連邦東海艦隊

 

旗艦の艦橋から、馬駒辺はゲスト席に座って様子をうかがう。

その横には宇羅玩准将が、司令官席には東海艦隊の司令官である芭魯矛中将が座っていた。

艦隊の援護には艦隊空母の直掩以外に、台湾軍区の空軍基地より経国号戦闘機の編隊が付いており、万全を期していた。

 

「我々は、いるだけでいい。日本の艦船を見逃して、ブリタニアの艦船を通さなければいい。我々は日本と南洋諸国の連携を妨げなければいいのだ。」

 

馬駒辺は宇羅玩から報告書を受け取り、目を通す。

 

「ほぅ…、黒の騎士団が学園エリアとメディアエリアを落としたそうだ。決まったな…。」

「はい、そのようですな。」

 

芭魯矛が会話に加わる。

 

「では、この機に琉球を押さえますかな?」

「芭魯矛中将、日本との関係を壊したくない。それにブリタニアが巻き返す可能性もある。無駄なリスクは負う必要はない。」

「失礼しました。」

 

 

皇歴2017年9月21日1:33 トウキョウ疎開ブリタニア政庁屋上

 

ルルーシュのガウェインは、ブリタニア軍の増援航空隊を一蹴し、コーネリアと政庁屋上で相対する。

 

「よぉこそ、ゼロッ!歓迎の宴だ…!」

 

もともと高い技量を持ち、技量と復讐心に駆られたコーネリアは、スペックに勝るガウェインを圧倒する。

 

「貴様の命は、正に私の手の中にぃっ!!」

 

しかし、コーネリアの思いに反して…。コーネリアの機体は背後からのランスによって貫かれる。

 

「だ、ダールトン…!?なぜ!?」

 

コーネリアのグロースターは堕ち、ダールトンもガウェインのハドロン砲で塵と消える。

 

 

皇歴2017年9月21日同時刻 トウキョウ疎開学園地区アシュフォード学園生徒会室

 

扇が身柄を保証した女に銃撃された黒の騎士団の司令部は混乱していた。

その隙をついて、ナナリーはミレイたちにスザクを助けるように促す。

彼女たちはナナリーの思いに応え、生徒会室を後にした。

一人残された、ナナリーは背後に気配を感じて振り返る。

 

「C.C.さん?」

「違うよ。」

「え、でも…?」

 

自分の予想に反して、男の子の声が返って来て困惑するナナリー。

 

「ナナリー、君を迎えに来たんだ。」

 

 

皇歴2017年9月21日同時刻 トウキョウ疎開旧東京湾 アドミラル・ヒッパー

 

ドイツ海軍アドミラル・ヒッパー級重巡洋艦2隻に牽引されるFXF-503Yジークフリート。そして、浮遊状態で追従するMAN-05。それを守る様に展開するドイツ海軍の他のアドミラル・ヒッパー級とブリタニアの駆逐艦数隻。ダインとゲバイとポートマンがその周辺を警戒し、艦船の甲板にもグラスゴーが立っていた。

 

「コーネリア総督の旗色はかなり悪いみたいね。さて…」

 

この糾合船団の旗艦アドミラル・ヒッパー級重巡洋艦1番艦アドミラル・ヒッパー。この艦内にはバトレー・アプリリウス、マリア・ヴィクリート、ハンス・オストヴァルトがいた。

 

「できそうかしら?ゴットヴァルト卿?」

「ご期待には、沿えるように全力で!!」

「大丈夫そうね。あれを起動させて。」

 

マリアはジェレミアの状態を確認してから、機体を起動させ、ジークフリートに追従するMAN-05が飛び去るのを見送る。

 

「さて、私たちは退避よ。オストヴァルト中佐。」

「了解だ。」

 

それらの様子を見てからバトレーはマリアに尋ねた。

 

「ヴィクリート局長?そういえば、MAN-05の名称は?試作機とは言え名はあるのだろう?」

「え?あぁ…あれ?…あれの名前は…グロムリン。MAN-05グロムリンよ。」

「では、ジークフリートとリンクさせたのだから、ジークフリート・グロムリンですな。」

「ふふ、そうね。ジークフリート・グロムリンね。」

 

バトレーの質問にマリアが答え終わると、オストヴァルトがマリアに対応を求める。

 

「ヴィクリート局長、ブリタニアのヘリが着艦許可を求めているが?君の客だろ?」

「ん?あぁ…そのヘリは2番艦に下ろして頂戴。大切なお客様よ。大切な…ね。」

 

ドイツ軍先遣派遣戦隊は一部兵力を残して、その多くの艦船は東京湾を離脱した。

 

それと入れ替わる様に、東京湾に白銀艦隊が来援するのであった。

 

 



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第35話 解放軍

皇歴2017年9月21日 ヴェネツィア宮殿総統官邸

 

ヴェネツィア宮殿はイタリアファシスト政権において、首相官邸として利用されていた。

そこで、イタリア総統ベナート・ムッソリーニはナチス第三帝国総統ハインリッヒ・フォン・ヒトラーの要請で通信会談を開いていた。

 

『ムッソリーニ君、我が帝国は対ロシアにおけるウラル戦線、インド侵攻の準備。そして、未だに小賢しくも抵抗を続けているフランス・ベルギーの相手もある。それに貴国の要請を受けてアフリカにも派兵した。』

 

「はい、その節は感謝しております。おかげでアフリカ戦線は巻き返せました。」

 

『うむ、大変結構。ところでムッソリーニ君、君に頼みがあるのだ。』

 

「いったい何でしょうか?」

 

『派兵だよ。東洋派兵だ。貴国のインド洋艦隊は手隙のはずだ。今、ブリタニアの太平洋戦略は大きく狂わされている。太平洋を黄色いサルどもに好きにされては気に入らん。』

 

「では、日本へ出兵するのでしょうか?」

 

『できるならそうしたいが、あのあたりの抵抗は相当なものだろう。だから、オーストラリアに侵攻する。』

 

「あの広大なオーストラリアを攻め落とす?」

 

『オーストラリアは旧英連邦だ。大英帝国の子孫たるブリタニアが属する枢軸に迎合する素地はある。軽く艦隊を率いて脅してやれば。すぐに終わるだろう。ムッソリーニ君、悪い話ではあるまい。それで十分に日本や中華連邦への抑えになるだろう。』

 

「確かに悪い話ではないです。オーストラリアはサクラダイトこそ産出が少ないとはいえ、それ以外の資源は豊富。損はない…か。」

 

ベナート・ムッソリーニはハインリッヒ・フォン・ヒトラーの甘言に乗り、東洋出兵を決めた。

 

 

 

皇歴2017年9月21日 ナチスドイツ総統官邸

 

ヒトラーは、ムッソリーニが東洋出兵を決断したことを確信し、その場にいる連絡将校と秘書のヨッヘンバッハに指示を出す。

 

「日本派遣予定だった兵力を、ムッソリーニの東洋派遣軍に付けてやれ、それとブリタニアのシュナイゼル宰相につなぐのだ。それと、その次にスペインのフランコにもだ。ブリタニアにとっては災難だが、余にとっては悪い話ではない。シュナイゼルを通してシャルルから譲歩を引き出せる。欧州の問題も一気に解決出来るだろう。」

 

「はい、総統の思うが儘でしょう。」

 

ヒトラーは赤ワインのコルク栓を抜いて、グラスに注ぐ。

 

「おっと、ヨッヘンバッハ。地下のワイン蔵からワインを持って来てくれ、最高級の奴だ。マリアが重要な客人を連れて、総統官邸に来るはずだ。くれぐれも粗相のないように…。」

 

「はい。仰せのままに…」

 

ヒトラーはワイングラスを片手に世界地図を見る。

 

「もうすぐ、もうすぐだ。まもなく、欧州は我が第三帝国の物となるのだ。」

 

ヒトラーはこの時、枢軸内のパワーバランスが自分に傾いたことを機敏に察知していた。

そして、日本のブリタニア統治時代の終了も嗅ぎ取っていたのであった。

 

 

皇歴2017年9月21日1:47 トウキョウ疎開ブリタニア政庁屋上

 

神聖ブリタニア帝国第2皇女コーネリアは、敗北しその姿をゼロの前に晒した。

大怪我と表現しても、可笑しくない程度の怪我をして血を流していた。

そしてゼロも、コーネリアに対して仮面の下を見せていた。

 

「そうか、ゼロは貴様だったのか。ブリタニア皇族への恨み、ダールトンの推測は当たっていたか。…な、ナナリーのためにか?」

 

「そうです。私は今の世界を破壊し、新しい時代を作る。」

「そんなことのために、そんな世迷言のために殺したと言うのか。クロヴィスを、ユフィまで!」

「あなたこそ、私の母、閃光のマリアンヌに憧れていたではないですか。」

「どうやら、これ以上の会話に意味はないようだ。」

 

コーネリアは起き上がろうと体を動かす。

 

「そうですね。ならば…!ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアが問いに答えろ。」

 

そして、ルルーシュは……ギアスを発動させる。

 

「私の母上を殺したのは姉上ですか?」

「違う。」

「では誰が?」

「わからない。」

 

自分の予想では当時警護担当だった重要な情報を握るであろうコーネリアは、マリアンヌの件を何も知らなかった。

 

「あの時の警護担当は姉上でしたよね。なぜ警護隊を引き上げたのです。」

「頼まれたからだ。」

「マリアンヌ様に…。」

 

「母さんが!?では、母さんは、あの日襲撃があることを知っていたのか?ありえない、なら俺たちを逃がしているはず。」

「知らないのか。」

 

ルルーシュは感情を高ぶらせたが、すぐに表面上、冷静さを取り戻す。

 

「何があった!?あの日!?誰なんだ!?母さんを殺した奴は!?……では、あの日の真実を知る人間は誰だ!調べていたんだろう!あの日のことを!」

 

ルルーシュに問われたコーネリアはゆっくりと答え始める。

 

「皇帝陛下に命じられて、シュナイゼル兄さんが運び出した。」

「遺体って母さんの?じゃあ、あの棺の中。」

 

ルルーシュが思考していると、C.C.が焦った様子でルルーシュにスピーカーで呼びかける。

 

「おい!戻ってこい!」

「解っている!そろそろ政庁の守備隊が…。」

「違う!お前の妹が攫われた!」

「冗談をきいている暇はない。今は、コーネリアを人質として…」

 

冗談にしても、不愉快と切って捨てようとしたルルーシュだったが、C.C.の様子がいつにもまして本気であった。C.C.はV.V.の存在を感じ取っていたのだ。

 

「違う!私にはわかる!お前が生きる目的なのだろう!神根島に向かっている!!」

 

 

そこに瓦礫の山を突き破り出て来て現れる。

 

「オールハイル・ブリターニア!!…おや、あなた様は?ゼロ!?何たる僥倖!宿命!数奇!」

 

ジェレミアに対してルルーシュは「オレンジ」と呼んでしまう。それは彼にとって精神の不覚に刻まれた言葉であった。

 

「お、オレンジ…。お願いです!!死んでいただけますか。ゼロ!帝国臣民の敵を排除する!!オールハイル・ブリタニア!!」

 

ジークフリートに付随するグロムリンの有線メーザービームがガウェインに襲い掛かった。

ジークフリートとそれに付随するグロムリン。つまり、ジークフリート・グロムリンの追撃をかわしながらルルーシュは、司令部に連絡を取る。

 

そこで、ルルーシュは扇が撃たれたことを知る。そして、ナナリーはじめ学園メンバーも姿を消したことを知る。

 

「南、司令部能力は北海道政権の軍が到着し次第委譲していい。以上だ。」

 

「ゼロォ!ゼロよぉ!!」

 

その間も、ルルーシュとC.C.のガウェインはジークフリート・グロムリンの攻撃をかわしつつ応戦した。ついにはビルの下敷きにもしたのだが…。

 

 

皇歴2017年9月21日2:01 トウキョウ疎開学園地区アシュフォード学園敷地

 

アシュフォード学園では、捕らえたランスロットからスザクを引きずり出そうとバーナーで焼き切ろうとしたが、装甲に阻まれた。

 

そんな時に、捕らえられた生徒会メンバーが姿を見せると、スザクは自ら操縦席から出る。

ひと悶着を起こして、玉城はスザクたちを射殺しようとした。

 

『こんばんは~。』

 

アヴァロンが学園の上に現れた。

そして、サザーランドに乗ったセシルからエナジーの交換を受けるスザクのランスロット。

即席で破損部位を応急修理していく。

 

『セシル君!急いで!北海道軍の本隊がすぐそこまで来てる!』

「解っています!スザク君!あなたはゼロを!」

 

接近する北海道政権軍がここまで到着するまでをリミットに、アヴァロンはここに残ることに。

 

「ロイドさん、セシルさん。ここのみんなをお願いします。」

『解ってるよ。ここには婚約者もいるからね。』

「ここの生徒たちの避難誘導は任せて。」

 

ロイド達が、アヴァロンに生徒たちを避難させる。

黒の騎士団は一時撤退していたために、抵抗はほとんどなかった。

 

ランスロットに皇族の専用通信がつながる。

『枢木か。』

「コーネリア殿下?」

 

 

 

皇歴2017年9月21日2:11 トウキョウ疎開ブリタニア政庁外苑

 

『第二師団第三機甲歩兵連隊、攻撃に加わる。』

『第三師団第一砲戦車大隊、砲撃を開始する。』

 

北海道政権軍の前衛集団がブリタニア政庁攻略に加わり始める。

 

「北海道政権軍の前衛が到着したようだな。これなら、陥落も時間の問題か。」

 

『藤堂、以降の作戦は全てお前に任せる。扇の代行はディートハルトに任せろ。私は他にやることがある。』

 

「この段階で!?他があるのか?ま、まぁ、わかった。」

 

『以降の通信はシャットダウンする。』

 

「了解だ。」

 

ルルーシュの独断行動で、若干の混乱が起こったが大勢は変わることはない。

 

『こちら、七番隊増援を乞う!』

 

「わかった、皇軍の部隊を送る。」

 

 

 

皇歴2017年9月21日2:17 トウキョウ疎開ブリタニア政庁

 

「戦況は、こちらに不利だ。私のことは、ギルフォードにもグラストンナイツにも言うな。だが、お前にだけは…伝えておかねば。神根島、そこにゼロが…。それ以外は、ダメだ。思い出せない。」

 

コーネリアを介抱するスザクにコーネリアは告げる。

コーネリアの様子に、ゼロがギアスを使ったことを理解する。

 

「お前はユフィの騎士なのだろう。なれば、ユフィの汚名を濯げ。貴公に略式ではあるがブリタニアの騎士候位を授ける。お前はこれで名実ともに騎士だ。行け枢木スザクよ。」

 

「イエス・ユアハイネス。」

 

 

 

皇歴2017年9月21日2:17 トウキョウ疎開 陸上ホバー戦艦蓬莱山

 

「え?ゼロがいなくなったのですか?」

「指揮権を委譲して、別行動に入ったとのことです。」

 

乃木はディートハルトから伝えられたことを、神楽耶に伝える。

 

「陛下、黒の騎士団の司令は不在。副指令も負傷し指揮が取れない。ここは黒の騎士団の指揮権をこちらに移しましょう。」

 

乃木は黒の騎士団を指揮下に入れることを提案し、第二師団長の山本奉文中将、第三師団長の坂東源一郎少将、第四師団長高田文雄中将もこれに賛意を示す。

国軍と民兵集団の力関係を考えれば、当然であった。

 

「ゼロ様は…どこに…?」

「陛下、今は指揮権の掌握が先です。ゼロのことは後でよいでしょう。」

「え、えぇ…。」

 

ゼロに対してある種のファン心理なのか。ゼロの事を気にしている神楽耶に乃木はそのことに苦言を呈しつつ、指揮権掌握の許可を取った。

 

2:30皇国軍本隊がトウキョウ疎開へ、日本皇国首都解放軍旗艦陸上戦艦蓬莱山の近衛師団長乃木希祐大将より、黒の騎士団に対して指揮権移譲の要求が行われる。ディートハルト及び扇の間で話し合いが持たれ、皇軍への指揮権移譲が行われる。その間、ブリタニア占領統治軍と皇軍で開城交渉が行われたが決裂。

 

3:00乃木希祐大将指揮の下、政庁攻略が再開。

 

 

皇歴2017年9月21日3:12 旧東京湾浦賀水道

 

「第一、第二海堡のブリタニア軍砲台陳地の無力化を図る。」

「了解しました。噴式弾の一斉射で無力化します。艦隊各艦へ伝達!今より30秒後に第一海堡へ一斉射、その30秒後に第二海堡へ一斉射を行います。」

「許可します。」

 

白銀艦隊司令長官桃園宮那子の許可を得た艦長兼艦隊参謀長の知名もえかが、タブレットを操作して各艦へ伝達し僚艦の複唱を確認した。

白銀艦隊より対地ミサイルが発射される。

 

「カウント開始、9・8・7・6・5・4・3・2・1・弾着………反撃ありません。」

 

もえかの報告を聞いた那子は、新たに指示を出す。

 

「新型の水中KMFと哨戒機を出して、周辺海域の安全を確保。」

「了解。周辺の安全を確保します。」

 

ヘリ搭載機能を持った護衛艦から哨戒ヘリが飛び立つ。

そして、揚陸艦から水中使用機水雷電がハープーンガンを装備し出撃していく。

この水雷電は、名称から察することが出来るだろうが、KMF雷電の水密性を高めた機体でナチスドイツのズワイやブリタニアのポートマンに対抗するために、急遽雷電をベースに製作した水陸両用機。背部と両肩にハイドロジェットユニットを装備し、水中での移動能力を高めている。武装も水中戦を想定して装備されておりにハープーンガン及びミサイルランチャーガン。無論、KMFなのでスラッシュハーケンも固定装備されている。

実は、この機体以外にも水中戦闘を想定した兵器は存在し、こちらは海龍Ⅱ型水中戦闘艇と呼ばれ、インド洋海戦のころから使用されていたが、装備が魚雷しかなく装弾数は4本と少なく一撃離脱以外の有効な戦法が編み出されず、ズワイはおろかポートマンにも劣るとされ水雷電に水中戦の主役の座を早々に譲り渡すこととなった。それでも、KMFは陸戦重視の傾向が強く海龍Ⅱは戦場の第一線を退くには至らなかった。

水雷電は、そんな海龍Ⅱを伴って周辺水域の制圧へと向かって行った。さらにその後ろに、上陸用舟艇とスキッパーに乗った陸戦隊が続く。

 

第一・第二海堡は数十分と経たずに完全に沈黙し制圧され、白銀艦隊は東京湾へと侵入する。

 

「ん?あれは?」

 

白銀艦隊についてくる小型船舶を見て、那子はもえかに尋ねる。

よく見ると、無理やり取り付けたであろう機銃が付いている。

 

「あれは、レジスタンスの水上艇です。先ほどの制圧戦で合流しました。」

「そう、代表者にはお礼の文章を送っておいて。」

「はい。」

 

レジスタンスの水上艇から日本国旗を振る人の姿が見える。

 

「歓迎を受けているのね。」

「それはそうでしょう。東京湾に7年ぶりに入港する日本海軍の艦ですから。」

「そうね。さて、東京湾内に布陣。これより、湾岸の友軍に対して援護射撃を行う。」

 

3:30浦賀水道のブリタニア軍海上堡塁制圧、東京湾内に侵入。白銀艦隊による各ブリタニア軍陣地に対する制圧射撃が始まる。

 

 

3:40政庁に対する皇軍航空隊による空爆が開始される。

3:45北海道政権軍・統一レジスタンス連合・黒の騎士団による総攻撃開始。

4:00ブリタニア政庁が降伏。

 

グラストンナイツよりクラウディオを除く4人が戦死。

アンドレアス・ダールトン、戦死。

ギルバート・G・P・ギルフォード、政庁を脱出。ブリタニア占領統治軍の残存を率い西日本へと後退を開始。

コーネリア・リ・ブリタニア失踪、消息不明。

黒の騎士団団長ゼロとの連絡が途絶。

 

6:00一部守備部隊を残し、北海道政権軍・統一レジスタンス連合・黒の騎士団、西進を開始。若狭湾にロシア軍ハバロフスク集団上陸、北海道政権軍と合流。

 

皇歴2017年9月21日の夕方には沖縄等島嶼地域他一部地域を除く日本国土の大半を回復。

日本皇国北海道政権内閣総理大臣大高弥三郎。首相専用機天神にて旧首都東京へ降り立ち日本解放宣言が行われた。

 

『日本国民の皆様、日本皇国首相としてこの日が来ることを切に願っておりました。皇国解放はたった今、成し遂げられました!現在一部地域がブリタニア占領下のままですが、あと少しの辛抱です!我々はこの戦いに勝利するでしょう!!!』

 

 

まだ、島嶼地域などの一部地域にブリタニア軍は残っている。また、ブリタニアは太平洋地域の再征服を諦めてはいないだろう。

そして、ブリタニアの衰退と入れ替わるようにナチス第三帝国の台頭が始まっていた。

 



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空白期 フィリピン・インドネシア独立戦争編 
第36話 離島奪回


日本皇国の大高は、東京決戦後。西進を指示、皇国陸海空軍は本州、四国、九州と言った主要地域のブリタニア軍の排除を開始。ブリタニア軍がすでに撤退行動に移行していた事もあり、1週間ほどで主要地域からブリタニア軍を排除することに成功した。

当時、撤退戦はブリタニア側のギルバート・G・P・ギルフォード、クラウディオ・S・ダールトンの指揮によって執り行われ、ブリタニア人の保護を行いつつ撤退していくこととなり、その日のうちに主要な部隊やブリタニアの民間人を撤収させた手腕は見事であったと言えた。

その後、大高は本州・四国・九州の山間部等に残存するブリタニア軍(逃げ遅れ)の鎮圧を指示。またそれ伊賀の地域の皇国領の回復も指示。

これによって佐渡・対馬・隠岐・壱岐・五島列島と言った離島地域にも海軍が派遣される。

 

その一環で、伊豆諸島や小笠原諸島にも派遣されることとなる。

 

 

 

皇歴2017年9月30日

 

黒の騎士団副指令扇の要請で、皇国軍は神根島を中心する小笠原及び伊豆諸島への制圧に乗り出す。

 

首都解放戦にて、同地域の航空戦力は敵増援として派遣され、そのすべてが撃破された。そのため、同地域にいるのは増援部隊として不適切の烙印を押された旧式戦闘機やグラスゴーと言った旧式KMF、雑多な戦闘車両がせいぜいだろう。

ただ、伊豆諸島の神根島は黒の騎士団のゼロの消息が絶たれたとされる場所であった。その為、派遣戦力は他の離島派遣部隊に比べ規模は大きく、黒の騎士団が多く加わってた。

皇軍

航空戦力…スーパーX、対地対空迎撃用掃射機AC-130嵐龍×1、艦上垂直離着陸型戦闘攻撃機F-4昇星×20(空母艦載機)、艦上垂直偵察機偵察機RF-4E星電×1(空母艦載機)、白兎対潜ヘリ×5(空母艦載機)。

海戦力…防空護衛空母秋津州・護衛艦晴風、時津風、天津風、潮風、冲風、徴用艦船フェリーあぜりあ、徴用貨客船第三十協商丸。

陸戦力・・・KMF水雷電×6(海戦力転用可)、KMF雷電改×9、16式機動戦闘車×2、17式水陸両用装甲兵員輸送車×4、82式指揮通信車×1、87式偵察警戒車×2、96式装輪装甲車×2、歩兵多数他。

黒の騎士団

海戦力・・・黒の騎士団潜水艦

陸戦力・・・無頼×12、兵員輸送車両×3、歩兵多数他。

 

 

ちなみに雷電改であるが、これは単純に震電等の開発による技術力向上によって、すでに配備されていた雷電を改修したものであり、性能も3.5世代から限りなく5世代に近い4世代機つまり4.5世代機となった為の名称変更である。外見的にはほぼ雷電と同じである。

 

『こちら、式根島航空基地カーソン少佐です。降伏するので、これ以上の攻撃はやめていただきたい。』

「こちら、皇国陸軍の秋山大佐だ。降伏を受諾する。」

 

派遣された艦隊は伊豆大島・利島・新島・式根島を次々と解放していった。

小規模ながら基地があった式根島では、現地ブリタニア軍のポートマンやグラスゴー、航空機部隊や戦闘車両が抵抗したが、練度の高い黒の騎士団や皇軍のKMF等の戦力は離島の警備隊など歯牙にもかけず粉砕した。

 

 

 

皇歴2017年9月30日 神根島港湾部 アドミラル・ヒッパー級重巡洋艦リップス

 

神根島では、ブリタニア・ドイツからなる連合軍が待ち構えていた。

ドイツ海軍パウル・フェルナー少佐とブリタニア陸軍マイク・バーガー大尉率いる部隊であった。

 

ドイツ海軍アドミラル・ヒッパー級重巡洋艦リップスを旗艦にドイツ・ブリタニア軍の部隊が神根島を包囲していた。

 

「赤い奴とは距離を取れ!!黒い方は火力を集中して押しつぶせ!!親衛隊の奴らめ!改修するものを回収したら、さっさと帰りやがって!ブリタニアもたいして兵を出さないで無理な注文を・・・!おい!艦砲・高射砲射撃止めるな!ハドロン砲を撃たせるな!!」

 

リップスの艦橋ではフェルナー少佐が、悪態を突きながら指揮をしていた。

海軍艦船の対空火力とゲバイ、ダインと言ったMAがC.C.のガウェインを追い回す。

 

「っく・・・。」

 

C.C.はガウェインのハドロン砲を撃とうとするが、そうはさせまいと間髪入れず、ドイツ軍が攻撃を繰り返す。

 

「距離を維持しろよ!近づきすぎるとやられるぞ!」

「了解であります!」

 

バーガー大尉はカレンの紅蓮に近づこうとする部下を諫めつつ、アサルトライフルで応戦する。

 

「こっちは片腕が使えないのに!木の間に隠れて!出て来いっての!」

 

 

重巡リップスでは新たな敵影を察知していた。

 

「フェルナー少佐!敵影察知!皇国海軍です!」

「数は!?」

「駆逐艦タイプが5、軽空母1、大型船舶2。航空機は20機以上!!」

 

フェルナー少佐は即断した。

 

「撤収!本戦隊は即時撤収する!」

 

フェルナー少佐は即時撤退を決断した。

彼の手持ちの戦力は以下のとおりである。

 

航空戦力・・・コブラ攻撃ヘリ×3

海戦力・・・アドミラル・ヒッパー級重巡洋艦×2、ジャービス級駆逐艦×3

陸戦力・・・サザーランド×8、ポートマン×3(海戦力転用可)、ダイン×1(航空戦力転用可)、ゲバイ×6(航空戦力転用可)、エイブラムス戦車×1、ストライカー装甲自走砲×3、歩兵他。

 

枢軸軍と皇国軍の戦力差は一目瞭然。航空戦力は圧倒されており、航空戦力に転用可能なMA部隊はガウェインから離れられない。海上戦力のみであれば一矢報いることも可能であったが、対潜兵器や水中機の存在も考えればハイリスクすぎる。

陸戦力も、すでにいる2機に掛かり切りだ。上陸してくる皇国軍に対応できるものでもなかった。ゆえにこの判断は間違ったものではなかった。

 

「撤退ですか?すでに上陸している部隊はどうするのです?」

 

副官の問いにフェルナー少佐は冷めた表情で答えた。

 

「見捨てるしかないだろう。MA隊は飛べるのだから大丈夫だろう?」

 

フェルナー少佐のブリタニア軍を切り捨てる発言に副官は眉を顰め非難の視線を向ける。

 

「同盟国とは言え所詮は他国。そもそも、我が上司のオストヴァルト中佐の要請を断ったのだ。中佐の要請を聞き入れ、ただの陸軍部隊ではなくプルートーンを置いておいてくれればよかったものを。グロムリンは回収済み、ジークフリートもブリタニアは回収した。必要なデータも回収したから、アーネンエルベもブリタニアの研究者も去った。我々が去っても大したことは言ってこないだろう。撤退だ。」

 

フェルナー少佐の言葉を聞いた副官は黙って撤退の指示を出し始める。

 

 

皇歴2017年9月30日 神根島港湾部 ブリタニア軍ジャービス級駆逐艦ビーブス

 

「艦長!リップスが!?」

 

ブリタニア軍ジャービス級駆逐艦ビーブスの艦長クリフト・カリッター大尉は副官の悲鳴を聞いて、艦橋の前に立ち、戦列を離れるアドミラル・ヒッパー級重巡洋艦リップスを目にする。

 

「リップスに通信を入れろ!!」

「リップスより『第三帝国海軍は撤退する』とのことです!」

 

ナチスのMA隊が撤収し、リップスに着艦していく。

一方で神根島に残された陸戦部隊は、ガウェインと紅蓮に押し返される。

 

「っく、くそ!撤退だ!我々も撤退する!!」

カッター大尉はすでに湾から出た重巡リップスを目に焦って撤退を指示する。

 

取り残されたバーガー大尉の拡張混成中隊は半数が撃破され壊乱状態にあり、此方に逃げてきているのが解った。しかし、カッター大尉は港湾にて支援砲撃をしていた自走砲を回収すると湾より出港した。

しかし、時すでに遅し皇国の小艦隊はすでに目前まで迫っていたのだ。

 

「敵、ミサイル!」

「対空防御!ミサイルと航空機を落とせ!」

 

3隻のジャービス級駆逐艦のCIWSが弾幕を張り、対空ミサイルも放たれる。

いくつかの対艦ミサイルや航空機のミサイルが防空網を抜けて駆逐艦に命中するも、沈没するには至らなかった。

 

「僚艦エイハブの出力低下!」

「切り捨てろ!魚雷と水雷に注意しろ!!敵水中機はポートマンに対応させろ!砲撃戦用意!」

 

カッター大尉は、さらに血相を変えて指示を出す。

 

 

「あぁ、エイハブが・・・!」

 

カッター大尉の声が虚しく艦橋に響く。

その視線の先には、ジャービス級駆逐艦エイハブの船体が真っ二つに割れ沈んでいた。

 

 

皇歴2017年9月30日 神根島近海沖 伊豆・小笠原奪還戦隊

 

「敵艦より噴式弾発射を確認!」

「面舵いっぱい!電波欺瞞紙、熱戦放射欺瞞弾散布!」

 

護衛艦晴風艦長岬明乃は、ブリタニア艦のミサイル攻撃に対して回避を命じる。

周囲の僚艦もそれに倣って舵を切る。

 

「シロちゃん!反撃するよ!全艦噴式弾発射!砲雷撃戦用意!」

「了解!全艦に伝達、噴式弾発射!砲雷撃戦用意!」

 

各艦から一斉にミサイルが発射される。

一斉発射されたミサイルは、ブリタニア軍の駆逐艦エイハブに命中し、これを轟沈せしめた。

 

「敵艦は彼女たちに任せていいだろう。我々は集団を二つに分ける。第一集団は空爆を継続、第二集団は黒い奴に接触する。」

 

スーパーXの秋山司令官は空母艦載機航空隊の一部を率いて神根島上空に突入する。この時すでに、ブリタニア軍の戦闘ヘリは空母艦載機の攻撃で壊滅していた。

 

秋山大佐はスーパーXに対地対空迎撃用掃射機AC-130嵐龍と艦上垂直離着陸型戦闘攻撃機F-4昇星6機を率いて、ガウェインに接触する。

 

「こちらは皇国軍伊豆及び小笠原奪還戦隊指令官秋山友照大佐だ。そちらは黒の騎士団所属で間違いないか?」

『あぁ、そうだ。』

 

秋山大佐の呼びかけに、ガウェインのC.C.が応じる。

 

「(女?確かゼロは男のはずだが?)失礼、ゼロは不在なのか?」

『色々、訳ありでな。詮索しないでくれると助かる。』

 

秋山はゼロの所在を知りたいとは思ったが、深く詮索して敵対するようなことは避けたいと思い。詮索は上層部に任せて、やめることにした。

 

「ところで、地上の敵は?」

『そこだ。ハドロン砲では余計なものまで破壊してしまうのでな。簡単な援護しかできん。』

 

ガウェインが指し示した先には、森林にブリタニア軍サザーランド部隊を追い詰めている紅蓮の姿だった。

 

「なるほど、これは我々の出番ですな。各機、地上の敵機を殲滅するぞ!」

 

秋山大佐らはサザーランドが潜む森林に向かう。

 

「そこの、赤い機体!こちらは皇国軍だ。これより敵地上部隊を一掃する!掃射機も使うので少し距離を取ってくれ!」

『・・・わかった。』

 

「全機、攻撃開始!」

 

スーパーXと昇星による対地ミサイル攻撃と、嵐龍の掃射機から発射される無数の弾丸がサザーランドを鉄クズに変える。

極わずかに残ったサザーランドも紅蓮によって撃破される。

 

そして、神根島近海沖のブリタニア艦を全て撃沈した艦隊は、水雷電に守らせながら後方に控えさせていた徴用艦から揚陸艇を発進させる。黒の騎士団も潜水艦からホバーユニットを装備させた無頼を射出し、上陸を開始した。

 

『こちらは黒の騎士団の南だ。ガウェインと紅蓮はこちらに収容したいのだが・・・。』

「ちょ、ちょっと待ってください!秋山大佐と相談します。」

 

南からの通信を受けた晴風の明乃は一度通信を切り、秋山と通信を開き事の詳細を説明する。この戦隊の司令官は秋山大佐であったが、副司令官は岬明乃一尉であった。南としては如何にも軍人の秋山よりは明乃のような少女の方が話しやすかったのだろう。彼より彼女の方が御しやすいというような考えがあったかは不明である。

 

『構わんだろう。あれの整備技術は向こうの方が上だ。政治のことは軍人が考えることではない。』

「すみません。秋山大佐、本来は私の方で判断してもいいのに・・・。」

『いや、インド洋海戦で実績があると言っても、本来君の様な年齢の子がここまで難しい仕事をする必要はないんだから、気にすることはない。だが、そうは言ってられない時代ではある。我々大人が、しっかり教えてやれればいいのだが・・・。とにかく今は経験を積むことだ。』

「はい。」

 

 

神根島を制圧した戦隊は、一部兵力を残し任務を継続する。その後も、三宅島と御蔵島を解放した。その後の島々も鳥島を除けば、有人島も警察力程度の戦力しかないブリタニア軍と無人島だけだ。小笠原諸島も同様であった。

 

その途上で、護衛艦天津風にて皇軍と黒の騎士団の間で暫定的な会談が開かれた。

黒の騎士団と皇国政府の間で扇要副指令と大高弥三郎首相の間で話し合いがついていたが神根島で保護した二人、C.C.と紅月カレンが黒の騎士団の幹部でゼロに近い存在であることに気が付いた秋山によって、意思確認の場として開かれたのであった。

 

この会議には、黒の騎士団側からC.C.とカレンの他に、戦隊に同行した黒の騎士団の南佳高が参加。皇国側は戦隊司令官秋山友照、副司令官の岬明乃、天津風艦長高橋千華と、それぞれの副官の6人であった。

 

皇国側の6人の内4人が自分たちよりも若い15・16歳の少女であったのに、すでに知っている南は別としてC.C.とカレンは少しばかり驚いていた。

それを察した秋山が、説明を入れる。

 

「我が国も、ほぼほぼ総動員状態だったのでね。動員要綱がブリタニア侵略前と比べて、だいぶ変わっているということだ。でも、彼女たちの能力は保証する。なにせ、インド洋海戦を生き抜いた強者だ。早速だが、話を進めたいのだが・・・。」

 

秋山は咳ばらいをして、南を促す。若干幼い容姿の岬艦長を見る目が若干怪しい南に対して、秋山は別の意味で警戒し彼女たちの艦には今後彼を立ち入れさせないことを心に決めて、とりあえずは本題を進めることにする。

 

「早速だが、君らは黒の騎士団でも上位の幹部であると聞いている。すでに扇副司令官との協議で黒の騎士団は、片瀬少将の統一レジスタンス連合同様に皇軍の下部組織もしくは外郭組織として位置づけられることが決まっているのだが、それに異論はないか?」

 

カレンが何かを発言しようとしたが、C.C.がそれを止めて答える。その対応にカレンは非難の視線をC.C.に向けていた。

 

「あぁ、我々と貴方方とは多くの面で一致している。大凡問題はない。」

 

事前に受け取った資料で、南は副司令官を代行する権限のある第一特務隊隊長。ゼロの親衛隊と言える0番隊隊長の紅月カレン。ここまでは解るのだが、黄緑色の長髪の女性であるC.C.と呼ばれる彼女の立ち位置が、いまいち掴み切れないがかなりの発言権を持っているのは確かなようだ。資料にはゼロの愛人と記載されていたが、役職が無くて高い発言権を有するという時点で愛人と言うのも、あながち間違いないのかもしれない。秋山は最近の若者の早熟を感じながら、今後のことを話し合う。

 

「そうか、それならば当面は問題ない。岬副司令、今後のことを…。」

 

秋山に促された明乃は、後ろに控えていた副官の宗谷真白から資料を受け取り、いくつかの補足を聞いてから海図を広げて説明を始める。

 

「現在、敵のある程度まとまった戦力がいるのが、伊豆諸島の鳥島、小笠原諸島の硫黄島、南鳥島の3つです。これから攻撃する鳥島は離島にしては整った航空基地です。ただし、航空機の多くは硫黄島に退去しているとの情報です。また、南鳥島は滑走路と小さな小屋程度の小規模なものです。問題はここ。」

 

明乃は、硫黄島を指さして言う。

 

硫黄島基地、ブリタニアの侵略で最初に犠牲になった旧日本軍の軍事拠点。

7年前の侵攻であっけなく陥落した軍事拠点であったが、軍事拠点としては非常に優秀でほぼ要塞と言っていい規模であった。

この、硫黄島基地をブリタニア軍は修繕し要塞拠点として使用していた。

海岸線や水際陣地および飛行場周囲には、無数の海岸砲とトーチカ群に榴弾砲陣地や対空機関砲陣地が存在し、それを補填するように旧式のパットン戦車の砲塔を流用した急造トーチカが廃されていた。また、ナイキやホークと言った対空ミサイル陣地が各所に配されていた。さらには天然の洞窟と人工の坑道からなる広範囲な地下坑道が存在し、その中を迫撃砲や対KMF弾を装備した兵士たちが行きかうように作られていた。そのうえ、ミクロネシアの島々からも増援を受けた、日本領土に残存するブリタニア軍の最大拠点となっていた。

 

「とりあえずは、表面の敵をどうにかするべきだな。」

 

C.C.は冷静に状況を判断していた。その様子に秋山は並のレジスタンスで、ここまで軍事的な考察ができることに感心していた。

 

「情報では、敵の航空戦力は航空機が約20機、戦闘ヘリが10機。陸戦力はサザーランド4機、グラスゴー20機、軍用ガニメデが5機。エイブラムス戦車が6両、ストライカー装甲自走砲が9両、M163対空自走砲が5両、歩兵戦力も充実しているようです。海戦力はポートマン6機と哨戒艦艇3隻。海戦力は問題ありません。ですが、航空戦力はほぼ同等。陸戦力はわずかに敵が上回ります。また、ミクロネシアのブリタニア軍の増援もあり、さらに増えると思われます。」

「でも、あたしの紅蓮とC.C.のガウェインがあれば・・・。無理な戦いじゃないともうけど?」

 

明乃の説明を聞いたカレンは、自分たちがいれば問題ないと答えた。

彼女からは自信があるのがうかがえた。

 

「いや、陸戦空戦は問題ないだろうがミクロネシアの増援の海戦力が問題だ。増援の規模によっては海戦で負ける可能性がある。私たちの機体は対潜戦闘には向いていないからな。」

「確かにそうだ。」

 

C.C.の発言に南が同意し、硫黄島攻略に足踏みすることとなる。秋山らも慎重な姿勢を示し、鳥島で進軍を停止。東京に仮設されていた大本営に増援要請を行い、事態を重く見た高野五十六海軍軍令部総長、桂寅五郎陸軍参謀総長、厳田新吾空軍戦略長官らは援軍の派遣を決定。

しかしながら、海軍艦隊の多くは外洋にあり、日本にいる艦隊である白銀艦隊も離島各地域に派遣されており、その補填にすでに再建中の紅玉艦隊をも動員していた。その為、大本営は沿岸防備局及び海上保安庁に対して出動を要請したのであった。

 

 

 

 




まだ、南洋諸国は出てきません。


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第37話 第二次硫黄島の戦い

皇歴2017年10月2日 

 

大本営より要請を受けた宗谷真霜沿岸防備局局長と安宅秋康海上保安庁長官は、沿岸海域戦闘艦及び巡視船からなる増援艦隊を編成し派遣することを決断した。

ただ、純然たる軍事組織である沿岸防備局はすでに海軍に艦船を派遣しており、海上保安庁も軍艦と行動できるだけの艦船はそう多くなかった。

また、陸軍揚陸部隊の運搬と言うものもあり、江戸湾フェリー株式会社よりフェリー金谷丸を徴用し、これに充てた。

 

増援

航空戦力・・・早期警戒管制機E-767飛鴎×1、支援戦闘機F-2流星増槽装備型×12、支援戦闘機F1天山増槽装備型×6、大型輸送機銀嶺×1、中型輸送機C-1天嶺×2、星兎戦闘ヘリ×7、黒兎対戦車ヘリ×2、白兎対潜哨戒ヘリ×7

 

海戦力・・・底津綿津見型防空システム巡洋艦底津綿津見・独立型改沿岸海域戦闘艦みくら、みやけ、あわじ、のうみ・自由型改沿岸海域戦闘艦べんてん、しむしゅ、くなしり・しきしま型巡視船しきしま・つがる型巡視船うらが、ざおう・徴用フェリー金谷丸。

 

陸戦力・・・水雷電×4、雷電改×10、空挺団仕様震電×8、15式重砲戦車×5、17式重砲戦車×3、17式メーサー戦車×3、17式戦車×4、17式自走砲車×4、10式戦車×5、87式高射機関砲×4、24連装ロケット砲車×2、83式600mm地対地ミサイル車×1、93式近距離地対空誘導弾×5、96式多目的誘導弾システム×6、89式装甲戦闘車×2、96式装輪装甲車×6、輸送防護車×3、軽装甲機動車×1、歩兵多数他。

 

この増援戦力に関しては奪還戦隊のそれと同等もしくはそれ以上であり、硫黄島の戦力をいかに警戒していたかがうかがえる。

 

そして、艦隊編成においてとりわけ目立つ艦艇であろう底津綿津見型防空システム巡洋艦。この艦は最新鋭艦である。今までの艦艇には、まず見受けられない末広がりのタンブルホーム船型にトリマラン船体で設計されている。敵水中用機の戦闘力に対応するべく水中の船体から空気の泡を出して包むことで、抵抗を減らしつつ水中翼で浮力も調整して速度を上げ、時速90キロを超す高速航行を実現させている。この快速を生かすことで水中用機に対しても十分通用する回避運動を取ることが可能とされている。また、防空システム艦と言う聞きなれない艦種であるが、この艦にはイージス戦艦月読の流れをくむ高度な情報処理・射撃指揮システムを搭載したシステム艦、メーサー兵器と各種ミサイルを装備した重武装艦と言う矛と盾を装備した次世代艦であった。また、海軍艦艇においても戦艦を除けばメーサーとミサイル双方を装備した初の艦であった。

 

所属は海軍であったが沿岸防備局の貸与と言う形で、増援艦隊の旗艦に位置付けられた。

援軍の司令官は艦隊司令官の宗谷真冬防備局大佐であり、この艦の艦長でもあった。

 

 

皇歴2017年10月2日 旧トウキョウ疎開改め東京都 関東州中央合同仮庁舎

大本営が東京に仮設されたため、多くの省庁や公官庁がこの関東州中央合同仮庁舎に海軍省と沿岸防備局が入っていても何の不思議もなかった。

 

そして、庁舎の共有談話室で海軍軍令部総長高野五十六と沿岸防備局局長宗谷真霜、海上保安長官安宅秋康はいた。私的な雑談の形式をとっており、格式ばった会話はない。実に実務的なものであった。

 

「今回の、動員はやはり。」

 

ある程度予想出来ていたのであろう宗谷真霜は、母親譲りの気迫を漂わせ腹をくくったと言わんばかりの視線を、高野に送っていた。

 

「海軍の最新鋭艦を融通したのは、その先触れのつもりだったのですな。」

 

安宅海上保安庁長官の言葉に、高野は頷いてから答える。

 

「こういう言い方が狡いと言うことは重々承知です。戦時ゆえ・・・とでも言いましょうか。沿岸防備局は戦時特例で海軍戦力に組み込まれることになります。すでに陛下と大高閣下の指示書もこちらに・・・。」

 

高野が真霜に若干の後ろめたさを感じていたのだろうか。僅かに伏し目がちであった。

そんな高野を気遣ったわけではないのだろうが、真霜は軽く天を仰ぐ。

 

「なんとなく、そんな気はしてたのよねぇ。えっと、母さん・・・、いえ宗谷真雪室蘭海洋海軍士官幹部候補生学校理事長も同意・・・いえ、グルですよね。」

 

「はい。詳細こそ海軍省と軍令部が詰めたものですが、原案はこの海軍軍令部総長高野五十六と貴女のお母上宗谷真雪室蘭海洋海軍士官幹部候補生学校理事長が作りました。」

 

「でしょうね。戦時なら、防備局じゃなくて海軍に卒業生を出さなきゃならないもの。防備局は最初から予備戦力扱いだったのかしら?確かに防備局は教育面で見れば海軍よりも充実してるものね。精鋭化も図れるからかしら?」

 

「たしかに、準軍事組織の海保と違って海防(沿岸防備局の別称、沿岸海域防備局の略)は実力組織、軍に転用しやすいか。」

 

真霜の言葉に安宅が補足説明的に口を開く。

 

「実際、その通りです。防備局の沿岸海域戦闘艦も一部が改装されて噴式弾を装備しています。海軍組み込みへ向けての教育艦の様なものでした。」

 

高野の言葉を皮切りに、真霜と高野の二人が短い問答を始める。

 

「お膳立てされてたのよね。」

「はい。」

「戦後は元に戻してもらうわよ。」

「もちろんです。海軍軍令部総長高野五十六に、二言はありません。」

 

高野の言葉で、彼らは一応の納得をみることとなる。

 

 

皇歴2017年10月3日 鳥島沖

 

伊豆及び小笠原奪還戦隊は増援と合流し、その規模を戦隊から艦隊規模へ拡大し、その規模を戦隊から艦隊へ、名称を戦隊から任務艦隊と変えた。

晴れて戦隊から任務艦隊へと呼称を改めた椅子及び小笠原奪還任務艦隊は、進路を硫黄島へと向ける。また、この時には敵の戦力詳細も前日より詳細に把握できた。

 

任務艦隊の戦力は以下のとおりである。

 

航空戦力…スーパーX、対地対空迎撃用掃射機AC-130嵐龍×1、艦上垂直離着陸型戦闘攻撃機F-4昇星×20(空母艦載機)、艦上垂直偵察機偵察機RF-4E星電×1(空母艦載機)、星兎戦闘ヘリ×7(船舶艦載機)、黒兎対戦車ヘリ×2(船舶)、白兎対潜哨戒ヘリ×12(空母及び船舶艦載機)。

 

海戦力…底津綿津見型防空システム巡洋艦底津綿津見・防空護衛空母秋津州・護衛艦晴風、時津風、天津風、潮風、冲風・独立型改沿岸海域戦闘艦みくら、みやけ、あわじ、のうみ・自由型改沿岸海域戦闘艦べんてん、しむしゅ、くなしり、はちじょう・しきしま型巡視船しきしま・つがる型巡視船うらが、ざおう・徴用フェリー金谷丸、徴用艦船フェリーあぜりあ、徴用貨客船第三十協商丸。

 

陸戦力・・・KMF水雷電×10(海戦力転用可)、KMF雷電改×19、15式重砲戦車×5、17式重砲戦車×3、17式メーサー戦車×3、17式戦車×4、10式戦車×5、17式自走砲車×4、16式機動戦闘車×2、89式装甲戦闘車×2、82式指揮通信車×1、87式偵察警戒車×2、87式高射機関砲×4、24連装ロケット砲車×2、83式600mm地対地ミサイル車×1、93式近距離地対空誘導弾×5、96式多目的誘導弾システム×6、17式水陸両用装甲兵員輸送車×4、96式装輪装甲車×8、輸送防護車×3、軽装甲機動車×1、歩兵多数他。

 

黒の騎士団

海戦力・・・黒の騎士団潜水艦×1

陸戦力・・・ガウェイン×1、現場応急修理型紅蓮弐式×1、無頼×12、鹵獲サザーランド×1、鹵獲グラスゴー×2、鹵獲ナイトポリス×1、兵員輸送車両×3、歩兵多数他。

 

入間空軍基地・横田空軍基地・横須賀空軍基地・習志野基地よりの増援第一波

航空戦力・・・早期警戒管制機E-767飛鴎×1、支援戦闘機F-2流星増槽装備型×12、支援戦闘機F1天山増槽装備型×6、大型輸送機銀嶺×1、中型輸送機C-1天嶺×2

 

陸戦力・・・空挺団仕様震電×8

 

また、任務集団より硫黄島の詳細情報を入手した大本営は増援第二派及び第三波の派遣を決定。

 

百里空軍基地、土浦仮設飛行場より増援第二派

航空戦力・・・支援戦闘機F-2流星増槽装備型×6、対潜哨戒機P-1仙狩×2。

 

九十九里沿岸防備局支部、鹿島沿岸防備局支部より増援第三派

航空戦力・・・黒兎対戦車ヘリ×3、白兎対潜ヘリ×3。

 

海戦力・・・独立型改沿岸海域戦闘艦さるしま、どくりつ、くらはし、やしろ・自由型改沿岸海域戦闘艦じゆう、えとろふ。

 

黒の騎士団などは、ブリタニア軍の鹵獲機をさっそく使っているところはレジスタンス魂を感じさせるものがある。また、カレンの紅蓮弐式であったがブラックリベリオンにおいてランスロット・エアキャヴァルリーとの対決で主装備の右腕を失っており、現場の判断でとにかく動けばいいと言う判断で雷電改の予備パーツを無理やり付けている状態である。この状態の紅蓮を制作者のラクシャータ等がいれば、確実に不興を買っていただろう。おそらくこの決定にゴーサインを出した秋山司令は帰投後に確実に彼女から怒られることであろうが、それは別の話である。

 

また、この艦隊は皇国正規軍、戦時特例で実戦配備された士官学校生、同じく戦時特例で前線に出ることになった沿岸防備局と海上保安庁、戦時徴用による徴用艦の民間乗組員。ブラックリベリオン後、皇国軍に組み込まれたレジスタンスと言う特異な混成集団でもあった。

 

なお、上記任務艦隊に表記されていない増援である航空機等々は本土の航空基地から別のタイミングで出撃するため硫黄島で合流する形である。

 

人事的な側面での特異性もあったが、特別問題にはならない。この任務集団の総司令官は秋山陸軍大佐である。だが、艦隊司令官は岬明乃一等准尉から宗谷真冬防備局大佐へと引き継がれ、揚陸指令官は秋山が外れ大野陸軍中佐へと引き継がれることとなった。この任務集団は秋山と真冬の2人の大佐階級がいるが、慣例的に軍>防備局の力関係で秋山が上であると言う暗黙の了解が出来ていた。

また、特異だとか例外だとか言う言葉が並んだが、お忘れかもしれないが現在日本本土の防衛海軍力の主たる白銀艦隊は、士官学校の練習艦隊を戦時特例で正規艦隊へ特例的に格上げしたうえで例外的に拡張された戦時故に存在が許された法外の艦隊である。さらに人員もすべて士官学校生であることを踏まえれば、白銀艦隊の少年少女たちは間違いなく英雄的活躍をしていると言えた。

 

 

参考までに小笠原諸島・マリアナ諸島及びミクロネシア諸島からの援軍を加えた硫黄島のブリタニア軍の戦力を下記に記しておく。なお、要塞設備兵力はこれに含まない。

航空戦力・・・F-16ファイティングファルコン多目的戦闘機×10、F-15イーグル制空戦闘機×12、F-4ファントムⅡ艦上戦闘機×10、AH-64 アパッチ戦闘ヘリ×3、AH-1 コブラ攻撃ヘリ×10。

 

海戦力・・・サイクロン級哨戒艇×3

 

陸戦力・・・グロースター×1、サザーランド×5、グラスゴー×30、軍用ガニメデ×6、ポートマン×10(海戦力転用可)、エイブラムス戦車×10、ストライカー装甲自走砲×15、M163対空自走砲×7、歩兵戦力多数他。

 

接近中のミクロネシア方面よりの増援第一波

航空戦力・・・F-7Dスピアヘッド多目的制空戦闘機×9、F-16ファイティングファルコン多目的戦闘機×5、F-15イーグル制空戦闘機×5、A-10サンダーボルトII攻撃機×10、S-67ブラックホーク戦闘ジェットヘリ×10、KMF垂直離着陸機T4×10。

 

陸戦力・・・サザーランド×10。

 

 

接近中のミクロネシア方面よりの増援第二波

航空戦力・・・F-16ファイティングファルコン多目的戦闘機×5、F-15イーグル制空戦闘機×5

 

海戦力・・・ウィチタ級重巡洋艦×1、バトラー級駆逐艦×4、ジャービス級駆逐艦×5、LSK-1級揚陸艦×1。

 

陸戦力・・・グラスゴー×12、ストライカー装甲自走砲×6、歩兵一定数。

 

ミクロネシア方面よりの増援第三波

航空戦力・・・F-86 セイバー戦闘機×10

 

である。

 

皇歴2017年10月3日 硫黄島

 

遂に戦端が開かれる。

ブリタニア軍はこの戦いに敗れると、ハワイと硫黄島を拠点化した皇軍によってミクロネシア以南のブリタニア軍は頭を押さえつけられてしまうことになり、エリア10フィリピン・インドネシア・パプワニューギニアと言った地域の箍を外されてしまうことになってしまう。故にこの硫黄島の抵抗は非常に激しいものであった。

であるならば、ブリタニアはもっと兵力を送るべきであると考えるだろうが、太平洋艦隊を壊滅させられ、ブリタニア本国においてもパナマ運河を破壊されたブリタニア軍の動員兵力はこれが限界であった。この影響を比較的受けない浮遊航空艦を保有するグリンダ騎士団を例とする各騎士団が存在したが、これに睨みを利かせたのがハワイに駐留する大石の旭日艦隊と高杉・坂本両名の第一航空機動艦隊とドールマンの亡命オランダ艦隊であった。

 

もはや通例となったミサイル射撃戦による攻防を経て、航空戦力の戦いとなる。

増援第一波の到着と重なった空戦は皇国本土・ミクロネシア方面から双方の増援を加えた激しいものとなった。

 

「うごいてくれるなよ・・・、消えろっ・・・。」

 

空戦の勝敗を分けたのは、C.C.のガウェインであった。70機以上のブリタニア軍機はハドロン砲の一撃でブリタニア軍航空戦力は壊滅的被害を受けた。倍近い航空戦力比は一気にひっくり返り皇国軍の攻勢が始まった。

 

対潜ヘリの援護を受けた水雷電はポートマンとの水中戦を優位に進め、哨戒艇を瞬殺。

 

「こちら、あぜりあ。硫黄島港に接舷する。陸軍各隊は下船し上陸せよ!」

 

揚陸艇から、戦車やKMFが上陸しブリタニア軍防護陣地を破壊していく。

戦闘力を持たない徴用艦が沿岸海域戦闘艦に守られつつ、沖合へ退避していく。それと入れ替わる様に陸軍の揚陸部隊が、ブリタニア軍の防衛隊と衝突する。

 

硫黄島地上戦において、勝敗を決定づけたのはガウェイン、紅蓮弐式、スーパーXであった。

ブリタニア軍のあらゆる攻撃をはじく装甲を持ったスーパーXと言う最強の盾と、東京決戦の英雄的機体であるガウェインと紅蓮弐式と言う最強の矛は、ブリタニア軍を手玉に取り次々と破壊していく。

 

「落ちろ!」

 

主武装が使えず、本来の片腕を失った紅蓮弐式であったが、前線において獅子奮迅の戦いを見せ、カレン個人の技量の高さを示していた。

 

一方海戦では敵増援艦隊が到着してジャービス級駆逐艦5隻が徴用艦や軽空母秋津洲を狙い、平賀倫子防備局中佐の沿岸海域戦闘艦群と戦闘を開始。一方の旗艦底津綿津見は晴風以下護衛艦を率いて、ウィチタ級重巡洋艦以下の駆逐艦と砲射撃戦を繰り広げていた。

 

「対空対潜防御!」

「百里・土浦の第二派、到着まであと5分!」

「第二派にはこちらの援護を要請して!敵LSKを上陸させるな!」

 

艦隊司令の真霜も旗艦である底津綿津見を前面に押し出して積極的に攻勢に出ていた。

敵揚陸艦を近づけずにいるうちに硫黄島は拠点の半数以上が陥落。

 

「敵艦隊撤退していきます。敵第三派接近、味方第三派合流します。」

「追撃を行います。ただし深追いは禁物よ。航空隊も参加させなさい。敵はなけなしの老朽機も出してきたみたいね。」

「敵第三派壊滅、ガウェインのハドロン砲です。」

「追撃の必要すらなしか・・・、勝敗は決したわ。硫黄島基地に降伏勧告をだすべきかしら。秋山総司令に伝達、敵増援は全て叩いたと・・・。」

「了解。」

 

 

数時間続いた硫黄島の戦いは終わった。

皇軍は勝利し硫黄島を奪還。その後は流れ作業で小笠原諸島を解放。

皇軍はフィリピン・インドネシア・パプワニューギニア方面への足掛かりを手に入れたのであった。

 

 

皇歴2017年10月3日 オーストラリア インド洋沖 枢軸連合艦

 

オーストラリアを中心とする大洋州諸国へ向かう枢軸軍はイタリアを中心とした軍であった。イタリア王国は枢軸国内では第3位の実力者であったが、今次大戦において実績が伴わないかの国は、オーストラリア侵攻において実績を残して汚名返上しようと士気は非常に高かった。

 

「開戦から、我が国の海軍は大きな戦いで結果が出ていないからな。この戦いで結果を出すぞ。大洋州諸国の海軍など、一蹴してくれる。」

 

イタリア海軍インド洋艦隊艦隊司令官リッカルド・パラディーニ中将は、旗艦コンテ・ディ・カブール級戦艦ジュリオ・チェザエレで集結している枢軸連合艦隊を見渡す。副官のダリオ・ポロン中佐に語り掛ける。

 

「我ら枢軸の大洋州の支配は決定事項の様なものだ。見たまえ、この陣容を!これぞファシズムの体現!団結の力と言うものではないか!」

 

「はぁ・・・」

 

パラディーニ中将の言葉を聞いて、何とも言えない微妙な表情をするポロン中佐。

たしかに、枢軸国を構成する多くの国の艦艇が参加している大艦隊だ。気が大きくなるのもわかる。だが、集団で殴り掛からないと自信が持てない弱気な軍部にポロン中佐は含むところを持ったのであった。

 

大洋州侵攻軍の陣容は以下のとおりである。

イタリア王国・・・インド洋艦隊・紅海艦隊派遣分艦隊

ナチス第三帝国・・・インド洋艦隊派遣分艦隊・東洋派遣任務小艦隊

神聖ブリタニア帝国・・・西太平洋艦隊+α(日本撤収艦群)

スペイン共和国・・・地中海艦隊派遣分艦隊

ポルトガル共和国・・・東洋植民地小艦隊

 

枢軸軍はオーストラリアに突如宣戦布告した。

 

 

 



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第38話 南洋蜂起

血染めのアジア サブタイトル変えます


皇歴2017年9月某日

 

エリア10決起より約1ヶ月前。インドネシアの植民地軍士官らはオランダ軍残留士官と共に山奥の山道を歩いていた。

 

「ここだ。」

 

オランダ軍士官示したところには巧妙に隠された鉄製の扉があり、部下にその扉を開けさせる。

 

「これで全部か。」

「ああ、女王陛下の命令だ。嘘は言わない。」

 

オランダ軍士官とインドネシア軍士官がお互いに敬礼する。

 

「これより、インドネシア軍に武器の引き渡しを行う。」

 

 

皇歴2017年9月某日 フィリピン・インドネシア

 

フィリピンのルソン島の北部中央に広がるコルディレラ行政地域には、標高が1,000メートルを越える峰々が多数存在する。コルディレラは、スペイン語で山脈。この山域でもバギオという街は、避暑地としても有名である。このバギオの東北にあるバナウェでは、実に牧歌的で大規模な棚田を見ることができる。また、バダットやボントックも大規模な棚田が広がっている。コルディリェーラの棚田は、天国へ昇る階段とも比喩される。棚田の総延長は20,000kmを越えるとも言われている。この大規模な山間農業地域は、ブリタニアの長年の統治の影で反抗勢力の拠点として着々と拠点化を進めていた。

狭く複雑な山道や農道は車両の行き来が困難で、泥でぬかるんだ田んぼや段差の激しい棚田はKMFのランドスピナーの優位性を殺した。

辺境地域に当たるこの地は、定期的にブリタニアの巡回があったがその都度監視をかわし続けた。

 

 

農民たちが田畑を耕し、水牛が鳴くその陰で、決起迫る皇歴2017年9月。

棚田や山林部分には窪みや稲藁の山で巧妙に隠された榴弾砲やカノン砲。

 

山道を行く編み帽を被った小太りの農夫が運転するトラクターは山砲を牽引して、これまた迷彩偽装で隠された砲兵陣地に運び込む。それを運んできた彼自身も背中に小銃を背負っていて、ただの農民ではなく民兵であることが解った。

辺りを見回せば、水牛の引くリアカーには迫撃砲が乗せられ、時折すれ違う三輪オートにも機銃が載せられ、老若男女の農民達は銃火器を肩にかけ、耕作作業をするもの達に紛れ土嚢や土塁で簡易陣地を作っていた。

自宅や納屋の地下には銃火器が隠されていた。

 

フィリピン・インドネシアの豊富な森林地域には多くの旧軍人やレジスタンスが潜み、数多くのトラップゾーンや防御陣地が築かれ、奴隷同然に扱われたプランテーション地域の農民達は食料をレジスタンスへと流し、ブリタニアに対する憎しみから彼ら自身も武装化し決起の日に備えた。ゲットーと化した破壊された都市部には日本同様にレジスタンスが地下組織を築く素地ができていた。

 

 

フィリピン・インドネシアの独立派武装組織は旧軍や旧植民地軍、蘭印軍が降伏前に隠した武器のだけでは抗いきれなかったために、レジスタンスやゲリラの間で多くの急造兵器が投入されていた。

零細機械工場の倉庫ではピックアップトラックや軽トラック、三輪オートには迫撃砲や機銃を乗せ、鉄板を張り付けたハンドメイドの装甲車両が作られていた。

零細ではないフィリピン・インドネシア由来の企業もブリタニアに面従腹背の姿勢であらゆるものを横流しし続けた。

 

皇歴2017年9月20日~

 

日本ではユーフェミアの日本人虐殺から始まる黒の騎士団の決起と皇国軍の南進が始まり、太平洋で皇国海軍とブリタニア海軍が激突し、パナマ運河を日露の特務艦隊が襲撃を行うしばらく前。日本皇国北海道函館では日本皇国首相大高弥三郎は全アジアを揺るがす大きな決断をしていた。

 

「皆さん!!我々は、この度のブリタニア副総督の民族浄化宣言に断固として立ち向かわんくてはなりません!!桜坂総務大臣!!連絡の取れるレジスタンス全てに決起を促してください!!」

「すべてですね。」

「はい、全てです!!」

 

赤坂官房長官の緊張した面持ちでの確認の問いに、大高は力強く言い放った。

 

大高の檄は日本中のレジスタンスの下に伝わり、彼らはこれに応えた。

 

大高の檄は遠く離れた、フィリピン・インドネシアにも伝わったのだ。

通信機の前に待機していた旧フィリピン軍の通信兵が電文を立ち上がり読み上げる。

 

「日本皇国より、入電です!読み上げます!【夜明ケル】繰り返します!【夜明ケル】です!!」

 

その場にいた将校たちが一斉に立ち上がった。その中の最高位の人物である旧フィリピン陸軍参謀長、現フィリピン独立軍司令長官アルテリオン・リカルテは拳を鳴らしてから周囲の将校たちに指示を出す。

 

「これより!アジアの夜明け作戦を発動する!!第一混成師団にコレヒトドール攻略作戦の発動を伝達!コレヒトドール島の陥落後、全土のレジスタンス及びゲリラを一斉蜂起させろ!」

 

フィリピン・インドネシア独立戦争の開戦の日であった。

コレヒトドール島に旧フィリピン軍兵士たちが襲撃。すでに放棄され、要塞としての機能はあったが重要視されていなかった同地は旧フィリピン軍の手に落ちた。

当時、ブリタニア軍によってコレヒトドール島が奪還されるのは時間の問題とされていた。

旧フィリピン軍はコレヒトドール島の要塞機能の修繕を開始。

 

エリア10のブリタニア軍、旧フィリピン軍双方が戦力を整えている最中、事態を一変される出来事が日本で起きていた。

ユーフェミアによる日本人虐殺から始まる、ゼロ率いる黒の騎士団の蜂起、皇国軍南進であった。

 

このとき、フィリピン共和国元大統領ホセ・ドテルレルによる決起演説が行われ、コレヒトドール島のフィリピン軍の狙いが日本の独立に追随したものだと判断したブリタニア軍エリア10マニラのブリタニア軍指揮官は編成中だった討伐軍を直ちに出撃させた。

コレヒトドール島のフィリピン残党軍がエリア11と連動する前に片づけようとしていたのだ。

 

空軍機を随伴させ、同地の海軍艦艇の大半を出撃させた討伐軍はコレヒトドール島の旧フィリピン軍を攻撃、戦端が開かれた頃。

事体は新たな展開を迎えていた。フィリピンのレジスタンスであるマカピリと旧軍人らがフィリピン各地域で武装蜂起。これに倣えとモロ民族系や共産党系、イスラム系のレジスタンスもこれに続いた。さらには暴徒化した民衆を巻き込んでの大規模なものであった。

 

フィリピンの民衆レジスタンスや旧軍人らは秘匿していたフィリピン軍の武装の他に、東南アジア諸国や日本、ロシアから供与された対KMF兵器を使いブリタニア軍に対しゲリラ戦を展開。

 

山林部のフィリピン民衆は村落義勇隊を結成し、ブリタニアの補給部隊他を襲撃しブリタニア軍の行軍や補給線の阻害を行い。

山林部の旧軍人らは野戦砲を隠し、そこからブリタニア陣地を砲撃して即座に撤収、山道に隠れ穴を作りブリタニア車両に爆薬を張り付けるなどして各地でゲリラ戦を展開。

 

「独立万歳!独立万歳!圧制者を叩き出せ!!」

 

都市部では、激発した民衆を巻き込んで、その激しさを増しレジスタンスが家屋に隠れ窓や隙間から無反動砲や対KMF弾を用いた市街戦を展開、家屋やオフィスビルの一軒一軒を拠点化して、ブリタニア軍を苦しめた。一般民衆も投石や火炎瓶、どこから持ってきたのか猟銃などで武装してブリタニア治安当局と衝突していた。また、オフィスビルからはレジスタンスの銃火器以外にも民衆から机やら椅子が投げつけられ空から物が降ってくる状態で、歩兵単位においては十分に脅威となっていた。

 

『民衆よ!!武器を取れ!!戦うのだ!!今こそ、暴虐な支配者から自由を勝ち取るのだ!!』

 

また、インドネシアでもスカルノよる決起宣言が行われ、インドネシア全地域の民兵組織郷土防衛軍と蘭印時代の植民地兵が決起。パプワ島においても現地レジスタンスが行動を起こした。また、インドネシアではオランダがインドネシア解放後の統治は行わないと声明を出していたこともあり、独立戦争へのオランダ軍残留兵士たちの参加がスムーズに行われた。

決起軍の戦力は59式戦車やT54戦車、民生ガニメデの改造機。

さらには機銃や迫撃砲を積んだ武装ピックアップトラックに山村部では小回りの利くオート三輪を装甲化させたものすら投入させた。

 

 

 

皇歴2017年9月20日 旧フィリピン共和国ルソン島コルディレラ地域

 

フィリピン蜂起の最大拠点であるコルディレラでは、ブリタニアの討伐軍と激しい戦闘を繰り広げていた。

棚田群の各所に設けられた偽装砲台や、トラクターやリヤカーの牽引砲がブリタニア軍に必死の砲撃戦を繰り返す。

ランドスピナーが活かせないこの土地ではKMFも2足歩行で動くしかなく。軍用車両も思うように動けない。農道や山道を動き回る武装三輪オートが火力に欠けるとは言え、ブリタニア軍を混乱させる。

 

棚田の中を歩行するグラスゴー、それを茂みに隠れて様子をうかがう民兵。

 

「来た、今だ!」

民兵の一人の声で、別の民兵が起爆スイッチを起爆させる。

水田内で水柱が上がりグラスゴーが足を取られて倒れる。

すると他の民兵たちがバズーカやグレネードランチャーを一斉にグラスゴーに放ちグラスゴーが燃え上がる。

 

「やったぞ!」

 

また別のところでは、装甲三輪オートや装甲トラックがブリタニア軍の機動戦闘車との打ち合いに負け穴だらけにされている姿がさらされていた。逆に5台の武装ピックアップに袋叩きにされるブリタニア軍装甲車の姿も見られた。

 

「うわぁあああ!?逃げろー!」

 

グラスゴーに追い回される民兵、踏みつぶされる者達も・・・。

偽装砲台の砲弾にあたり爆散する戦車。

 

「撃てぇ!!」

 

リヤカーに据え付けられた迫撃砲を一斉に放ちブリタニア歩兵の集団に打ち込む民兵は頭から血を流しながら弾を装填した。

その横にはリヤカー牽引役の水牛が血を流して倒れていた。

 

「・・・未来のために。」

 

道端に横たわる足のちぎれた重傷で助かりようがない老人は、その横を通り過ぎようとしたブリタニア軍兵士にしがみ付き体に巻いた建築用の発破ダイナマイトを起爆させた。

 

山村や農村部を中心にレジスタンスの決起が始まり、スカルノやドテルレルの民衆総決起を促す檄によって急速にパルチザンと化す民衆。

エリア10ブリタニア軍の対応力を越えんばかりの広がりを見せていた。

 

 

その状態で5日ほど経過する。日本皇国では国内の残党軍の掃討が開始された頃。中華連邦加盟国の一部が動き出す。

 

「今こそ!ブルネイ・ダルサラーム国の旧領をブリタニアから奪還する時!!」

 

ハンサル・ボアキル国王の宣言を受け、ブルネイ軍が旧領回復を宣言。マレーシア連邦共和国国王ハサル・ハリム・シャーはこれを支持、ハフリム・バラビ海軍大佐率いる海防駆逐艦(フリゲート&コルベット)からなる小規模艦隊をボルネオ方面への派遣と言う形で支援を受け決行する。

 

「全艦!ブルネイ軍の上陸を支援せよ!」

 

ボルネオ島へマレー海軍の支援を受けたブルネイ・ダルサラーム国のサゴヤシアンブヤット亡命政府軍陸軍大佐がボルネオ島へ上陸、戦闘を開始する。

 

「全軍突貫せよ!ブリタニア軍は浮足立っている!!一気呵成に攻め立てて旧領を回復せよ!」

 

揚陸艇に乗ったブルネイ軍の部隊が、装甲偵察車や装甲車と共に上陸していく。

幸いKMFの数は少なくブルネイ軍の対KMF兵器で十分対処することが出来たために、ブルネイ軍とブリタニア占領軍は拮抗した戦いを繰り広げた。

 

マレーシア連邦共和国が中華連邦本国の睨みを無視してブリタニアと戦闘を再開。

 

これに巻き込まれるであろうことを予想した、シンガポール市国のトニー・タムケム大統領はマレーシア連邦に同調、シンガポール軍デヴァン・ナザン海軍大佐率いる小艦隊はマレーシア陸軍の砲兵団とインドネシアの蜂起軍支援のためにスマトラ島ブリタニア軍基地を砲撃。

さらにべトナム社会主義帝国のバオ・ダオ帝は軍に南沙諸島の確保を命じた。

軍は空軍編隊と海軍小艦隊を南沙諸島に進出させ、現地ブリタニア軍を排除、南沙諸島を実効支配した。

 

ブルネイ王国やマレーシア連邦共和国はエリア10形勢の段階で領土を奪われているため、すでに戦争状態であったが、シンガーポール市国やベトナム社会主義帝国と言う第三国が介入したと言う事実は周辺事態への拡大を意味していた。

 

この事態を受け、中華連邦東南アジア閥の盟主国家タイ王国は事態の拡大を防ぐために海軍の空母チャクリナルエベトを中心とした艦隊をタイランド湾から進出させて周辺諸国の自粛を促したが、この時すでに周辺諸国の動きに同調したカンボジア王国とラオス人民民主国、ビルマ社会主義共和国は休暇中の全将兵に招集をかけていた。

 

 

 

皇歴2017年9月2?日 ネパール王国

 

ネパール国王ビギャンドラは、ドゥチャンダ首相と席に着き軍高官が2人ほど控えて、一人の少女にも見える女性と対面していた。彼女はミスXと名乗り、反ブリタニアレジスタンスの支援活動をしているピースマークの交渉役であった。

 

「我が国は、フィリピン・インドネシアにグルカ部隊を派遣してもよいと考えている。」

「しかし、輸送手段はない。それに悪目立ちもしたくはない。」

 

ビギャンドラ国王の言葉に、ドゥチャンダ首相が付け加える。

 

「そういった要望を、ピースマークならば解決できるのかね?」

 

ドゥチャンダ首相の揺さぶりの言葉に対して、ミスXは全く問題ないと意に返した様子はなかった。彼女は手にしたタブレットを起動して、二人に画像を見せる。

 

画像にはブリタニア軍のB-2爆撃機の様な黒い全翼機が映っていた。

ドゥチャンダ首相の横にいた軍高官が、声を震わせる。

 

「こ、これはステルス機・・・。たかがテロ支援集団がなぜ?」

「詮索は禁止よ?で、どうします?ご協力いただけるかしら?」

 

軍高官の追及に対して、彼女は唇に指を当て秘密だとジェスチャーし、ビギャンドラ国王とドゥチャンダ首相に視線を向けた。

 

「わかった。秘匿性を保証してくれるのならグルカ混成大隊を出そう。ただ、ピースマークの兵としての体裁を取ってほしい。」

 

「わかりました。グルカ兵を提供していただけるのなら、そのように致しましょう。」

 

ドゥチャンダ首相らの要望にこたえる形でミスXは応じた。

 

 

皇歴2017年9月30日 ネパール王国

 

ネパール王国はピースマークを通じてグルカ傭兵部隊を派遣する。

ピースマークの大型ステルス輸送機にネパール王国の義勇軍であるグルカ混成大隊が乗り込んでいく。歩兵に装甲戦闘車両、KMFも鋼髏ではあるものの配備されている。

 

グルカ兵を乗せたピースマークの輸送機が飛び立ったのを確認したドゥチャンダ首相は一息つく。

ドゥチャンダ首相は首相邸に戻り通信機を使ってタイ王国府に連絡を入れる。

 

「はい・・・はい。正規の軍を表に出すわけにはいきませんからな。グルカ傭兵の動員は良案でしたな。」

 

 

皇歴2017年9月30日 タイ王国首都バンコク・プラナコーン地区 王宮

 

プミンポン国王とプレーク・ピブーンゾングラーム首相らはネパール王国のグルカ傭兵を中心としたピースマークの参戦に胸をなでおろしていた。

 

「ベトナムやシンガポールが動いたときはどうしたものかと一時は頭を抱えたが、何とか納まりそうだな。」

 

プミンポン国王の言葉に、ピブーンゾングラーム首相もソファーにその身を沈めていた。

 

「ブルネイやマレーシアは直接の交戦国ですので予想していましたが、周辺国がこうも動くとは思わなかったです。カンボジアのシヌハーク王は、シュナイゼルのトモロ機関の排除に動こうとしていたとの情報もありましたので・・・。」

 

別の政府高官が口を開く。

 

「グルカやピースマークの投入で、亡国のブルネイ以外は留飲を下ろしたことでしょう。」

「一時のことだ。」

 

プミンポン国王の言葉にピブーンゾングラーム首相も続ける。

 

「今動けば、中華連邦本国と戦う羽目になっていたかもしれませんしね。」

「まったく、恐ろしいことよ。今の本国軍とでは我らに勝ち目はない。フィリピン・インドネシアは耐えに耐えて、今日の独立戦争がある。我らが動くのなら、もうすこし時間がたってからだ。中華連邦、太平洋戦略、枢軸の動向、世界規模でも事は動く。だが、我らの様な中小国はまず足元を整えねばならん。中華連邦本国の主導権を握るのは大宦官か?天子派か?あるいは紅巾党か。」

 

 

 



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第39話 フィリピン戦線

皇歴2017年10月1日 日本皇国東京都市ヶ谷 大本営

神楽耶天皇と大高弥三郎首相、木戸孝義外相らが臨席する中、高野五十六海軍軍令部総長、桂寅五郎陸軍参謀総長、厳田新吾空軍戦略長官、永野長見海軍軍令部副総長、貝賀友信陸軍参謀次長、黒羽飛出雄戦略空軍参謀長らの話し合いが行われた。

慣例に従い神楽耶は発言せずに様子を見守り、大高・木戸も会議の流れを見守った。

 

「硫黄島への増援は、海防や海保の混成でなんとかなるか。では、後は沖縄か。」

 

永野軍令部副総長の言葉で、議題は沖縄派兵へと変わっていく。

 

「硫黄島のブリタニアを片付ければ、沖縄のブリタニア軍だけだ。」

「むしろ、硫黄島よりも沖縄の方が戦力的には上。沖縄には正規軍を中心とした部隊を送るべきでしょうな。陸軍は海軍の揚陸船団の準備さえ整えば、いつでもかまわん。」

「然り、本土のブリタニア軍は駆逐したと言ってもよいでしょう。」

 

永野の発言に桂寅五郎陸軍参謀総長は陸軍は万全と答え、貝賀友信陸軍参謀次長も然りと答える。陸軍は万全と言って、空軍の方に視線を向ける。

 

「空軍は海軍ほど残党狩りに戦力を割いていないのですが、すぐにとは言えませんな。基地航空隊の増槽装備まで時間が欲しいと言うのが正直なところ。」

「海軍よりは早い段階で作戦行動がとれます。」

 

厳田新吾空軍戦略長官、黒羽飛出雄戦略空軍参謀長は作戦行動はとれると発言する。

 

「沖縄は我が国の領土。空爆で焦土にするわけにはいかんだろう。海軍待ちであろうな。」

桂は高野五十六海軍軍令部総長へ向ける。

 

「・・・白銀艦隊を差し向けたいと思っています。一時的に海防力が落ちることになりますが、沿岸防備局を海軍に組み込んで、再編成した紅玉艦隊とで一個艦隊戦力として扱うと短期的には守れると考えています。防備局の艦艇の改修を行えば長期的にも可能かと考えております。」

 

片桐光男内閣官房副長官が手を上げて、発言する。

 

「沖縄の解放は急務と言えるでしょう。一応、九鬼海兵師団をインドネシアに先発して送り出しましたが、沖縄と言う中間拠点を確保しないとフィリピン・インドネシアに大規模な援軍を送れないのです。現在、フィリピン・インドネシアは蜂起しておりブリタニア軍と戦闘中です。」

 

ここで、大高が片桐を手で制して自分が話し始める。

 

「フィリピン・インドネシアの救援は今後の太平洋戦略の要と言うことをご理解いただきたい。」

 

 

皇歴2017年10月1日 旧フィリピン共和国旧マニラ首都圏

 

10月に入り、日本皇国では琉球諸島奪還のための軍の編成が行われる。伊豆・小笠原諸島の奪還は完了し、マリアナ諸島やカロリン諸島と言ったオセアニア海洋地域のブリタニア軍は勢いを失っていた。

日本国内では白銀艦隊を中心とした奪還軍の編成が進んでいた。

 

琉球諸島。日本とフィリピン・インドネシアをつなぐシーレーン上に存在する琉球諸島駐留のブリタニア軍には、今の日本皇国を押し返す力はない。

ここさえ落とせば、日本皇国はフィリピン・インドネシアに安全に兵を送ることが可能となる。琉球諸島のブリタニア軍には死守命令が出ているが、負けは必須。

だからこそ、エリア10ブリタニア軍はフィリピン・インドネシア地域の反乱を鎮圧しようと必死であった。そして、それが解っているからこそフィリピン・インドネシアの住人たちの抵抗も激しいものであった。

 

ブリタニア軍のサザーランドやグラスゴーに対して、レジスタンスはわずかな鹵獲機と民生ガニメデを改造した機体で立ち向かった。

地の利はレジスタンスにあったが、兵器の質は、間違いなくブリタニア軍の方が上だった。

 

コレヒトドール島や山間部の攻防はいまだ激しく、一部の拠点は陥落したが、その大半の拠点は防戦を継続していた。

 

ブリタニア軍の報復も過激なものがあり、どこの植民地でも行われている民間人への攻撃はもちろんであり、これに加え籠城者がいる竪穴拠点にコンクリートを流し込み生き埋めにする。

 

「この者は、エリア10の平穏を乱すテロリストである!よって斬首刑を命じる!」

 

前世紀の様なギロチンを用いた処刑などの現地民への威嚇行為も行われた。この行為が逆にかれらの怒りの火に油を注ぐこととなった。

 

前時代的な脅迫による威圧で民衆を押さえようとしたブリタニア行政府の思惑は外れに外れ、地方都市はおろか旧フィリピン共和国旧マニラ首都圏でも、暴動が発生していた。

 

フィリピン民衆によるブリタニア系商店や車両への放火が、各地の都市部では治安部隊と民衆との衝突が発生した。

 

特にマニラ首都圏、通称メトロポリタン・マニラでの暴動は特記すべきほどに激しいものであった。

マニラ首都圏は、フィリピンで最も栄えた地域でありフィリピン人たちの栄光の記録と言える地域であった。そこの富裕地区は、現在ブリタニアの疎開地域とされておりそこに住むブリタニア人は憎悪の対象であった。

 

各市の大通りでは、治安部隊と衝突。民衆は横転させたバスに放火し、炎のバリケードを作り、橋の上からは石やコンクリートブロックを兵士に投げつけた。兵士の一部はデモ隊に巻き込まれ、暴行され、撲殺される者も居た。

 

「殺せ!やっちまえ!」「くらえっ!」

 

民衆に包囲されたブリタニア軍の軽車両から兵士が引きずり出される。

民衆はそれを捕まえ、ガソリンを掛けて燃やし、死体を陸橋にぶら下げるなど、民衆による残忍な行為もあった。

 

民衆たちは一方では野蛮ともいえるが、横暴な態度でフィリピン民衆を抑圧し続けたブリタニア人もある意味、因果応報。のちの歴史家はこれにどう評価を下すのだろうか。それは今を生きる彼らにはどうでもいいことであった。暴力には暴力で返ってくる、ここフィリピンでもインドネシアでも、もちろん日本でもそうだ。しかし、今この時に非暴力で解決できるような英雄・・・ましては神の様な所業ができる者など、今のところはいないのだ。

 

 

マカティ市はビジネス街であった。そのビジネス街では暴徒化したフィリピン民衆によってブリタニア人経営者が路上に引きずり出されて私刑を受け、逃げ惑う。

名誉ブリタニア人たちも、普段の鬱憤を晴らすように上司のブリタニア人をビジネスビルから突き落とすと言った姿が見られた。

 

政治犯収容所のあるモンテンルパ市では1万を超える民衆が集結し、それを押さえようとした治安部隊はナイトポリス数機を持ち出し機銃で応戦。しかし、猛りに猛る民衆はパワーショベルやブルドーザーなどの建機車両30台で応戦。歩兵規模の戦闘でも民衆の火炎瓶や少量の銃と収容所部隊の小銃による火力戦が繰り広げられ、収容所のゲートは大型トラックとバスが突っ込み変形していた。

 

「よし!このまま鎮圧しろ!」

 

ナイトポリスとは言えKMF、建機程度では相手にならない。民衆たちも押され始めていた時、収容所の一角が爆発。そこから3機ほどのナイトポリスが現れる。そのナイトポリスは収容所の守備に就いていたナイトポリスを攻撃した。

このナイトポリスはレジスタンスが奪取したものであった。

 

さらに収容所内部でも収容されていた政治犯のフィリピン人たちが暴動を起こし、状況はさらに変わって民衆側に有利となった。内と外で挟み撃ちにされた収容所の治安部隊は壊滅し、民衆はパルチザンとしてレジスタンスに加わっていく。

 

民衆を吸収して肥大化する構図は、奇しくもブラックリベリオンにおける黒の騎士団と同じ状況になってた。

 

 

さらに、レジスタンスに負けず劣らず民衆パルチザンもブリタニア軍の輸送部隊を襲撃し武装化するなど。エリア10ブリタニア政庁の機能はマヒしつつあった。

 

 

 

皇歴2017年10月2日 フィリピン独立派アジト

 

独立派のアジトでは通信機を前に、日本の大高とフィリピン元大統領ホセ・ドテルレルが連絡を取り合っていた。

 

「ミスタ大高!増援はまだなのか!沖縄を無視してこちらに来ることは出来んのか!」

『沖縄と言う中間拠点を無視するのは、戦略上危険なのです。戦力としては脅威と言うほどではありませんが、無視するにはあまりに大きい。』

 

「だが、大高!これ以上、我らは持たんぞ!フィリピンを囮にでもする気か!」

『プレジデント、ホセ。ご安心を、皇軍の代わりの時間稼ぎをしてくれる有志を確保しています。』

 

それを聞いたホセ・ドテルレル元大統領は興奮する感情を抑え、大高に尋ねる。

 

「援軍だって?本当かい?」

『はい、ピースマークの精鋭とグルカ傭兵を雇い、貴国に先発させています。10日、あと10日持たせてください。沖縄を落とし、フィリピン戦域に到着するのは10日。10日持たせていただければ。状況はひっくり返せます。今が貴国の踏ん張り時ですぞ。』

 

 

 

 

 

皇歴2017年10月2日 旧フィリピン共和国旧マニラ首都圏 上空 大型ステルス輸送機

 

「降下用意!!」

 

ピースマークの大型ステルス輸送機の中では、グルカ傭兵たちが慌ただしく動き回り自身の鋼髏や空挺戦闘車両に乗り込む。

 

その片隅で軍隊然としたグルカ兵たちとは雰囲気の違う少年がいた。

 

軍需物資の箱に腰を乗せているミスXは通信機越しに、機体内で最終調整をしているオルフェウスことコードネームOZに今回の依頼を伝える。

 

「今回のミッションはフィリピンの独立派の援護。一聞すると簡単そうでしょうけど、かなり困難よ。今のところ、独立派が有利に進んでいるわ。でも、一過性の物であることは間違いないわ。大凡の予想では、首都圏の奪還で独立派の勢いは失われ、2週間統制を取り戻したブリタニア軍に鎮圧されるわ。ただし、2週間。この2週間を超えれば状況が変わる。」

 

『状況が・・・変わる?』

 

最終調整を終えた彼の乗るKMF白炎が、グルカの鋼髏たちと同じ開閉ハッチの場所まで移動する。

 

「そう、援軍よ。今から10日後・・・、10日後に日本の援軍の先陣が到着する。そうなれば、独立派の士気は上がるし、そのあとの援軍本隊の到着で一気に独立派の勝利よ。」

 

『なるほど、了解した。』

 

輸送機のオペレータのカウントダウンが始まる。

 

【ハッチ解放まで10・9・8・・・】

 

「それと、今回のクライアントは日本皇国内閣総理大臣大高弥三郎よ。」

 

【2・1・開放!】

 

 

 

 

皇歴2017年10月2日 旧フィリピン共和国旧マニラ首都圏 ケソン市

 

コモンウェルス通りでは、レジスタンス及び旧軍の主力がブリタニア軍と激しい戦闘を繰り広げていた。

 

 

コモンウェルス通りはいくつかのビルが倒壊し、瓦礫や一般車両の残骸をバリケードに独立派の鹵獲機や改造ガニメデ、雑多な装甲車両が、ブリタニア軍のサザーランドやグラスゴーと言った機体と戦っている。

 

グラスゴーのマシンガンで、まるで死の舞踊と言わんばかりに撃ちのめされたガニメデが崩れ落ちて爆散する。数に劣る鹵獲機はナイトポリスとの混成、正規の軍用機であるサザーランドやグラスゴーには敵わない。

一機、また一機。一両、また一両と独立派の機がやられていく。

 

「もう持たない!至急増援を!!」

 

コモンウェルス通りの独立派指揮官が司令部に援軍要請を出す。

 

『こちら、司令部。増援はすぐ来る安心しろ・・・。』

 

「ど、どこから・・・」

 

独立派指揮官は、増援の姿を確認しようと指揮車両から頭を出し見回す。

すると不意に頭上が暗くなる。彼は上を見上げて、その姿を見る。

 

「あ、あれは・・・味方だ!」

 

白い角の生えた機体。品位を感じながらも力強さも感じるそんな機体。

 

『こちら、ピースマークのOZ。任務を開始する。』

 

 

 



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第40話 枢軸連合軍、東洋へ

皇歴2017年10月2日、フィリピン共和国のルソン島・ビサヤ諸島・ミンダナオ島などを中心に、ピースマークとグルカ兵団の空挺部隊が降下を開始。独立派の救援として参戦する事となる。

 

「上陸!急げ!」

 

同日、潜鯨三型補給用大型輸送潜水艦、弟橘比売、布多遅比売、美夜受比売、倭比売及び潜揚大伊900型3隻からなる輸送潜水艦隊によって、九鬼海兵旅団がインドネシア共和国カリマンタン島及びセレベス島に上陸。

 

なお、九鬼海兵旅団の編成は以下の通りである。

司令部大隊、第一両用機兵大隊、第二両用機兵大隊、第一戦車大隊、第一砲兵連隊、第二砲兵連隊、第一海兵連隊、第二海兵連隊、第三海兵連隊、第一戦闘工兵大隊、第一軽装甲偵察大隊。

 

九鬼海兵旅団は2日昼、セレベス島パリクパパン及びケンダリーに上陸しこれを占領、翌日には森林地帯に潜伏する独立派の民兵たちと合流し、ミナハサ半島最北端の都市メナドとセレベス島最大の都市マッカサルを解放した。

 

カリマンタン島北部のサクラダイト採掘基地があるタラカン島では、ブリタニア軍沿岸砲陣地が上陸した九鬼旅団へ対して激しく抵抗した。

 

「反撃!反撃しろ!」「て、敵が多すぎる!?」

 

九鬼旅団の水雷電と震電、ブリタニア軍のサザーランドやグラスゴーが激しい銃撃戦白兵戦の応酬を繰り広げ、歩兵部隊もその足元で攻防を繰り広げていた。

 

この九鬼旅団は、ブラックリベリオン発生時海軍軍令部総長高野五十六の密命を受けて、インドネシア独立派への援軍として派遣された大規模な先遣隊でもあった。

このカリマンタン島とセレベス島に九鬼旅団が上陸したことで、独立派の劣勢を押し返した。

 

フィリピン・インドネシア独立戦争と呼ばれるこの戦いは新たな局面へと向かっていた。

 

 

 

皇歴2017年10月3日 関東州東京都市ヶ谷 大本営

 

「海軍艦艇は着々と佐世保へ集結中であります。近日中には琉球諸島奪還作戦の発動が行われるものと思います。また、琉球諸島奪還作戦完遂後に発動されるフィリピン・インドネシア解放作戦に関してですが、すでに九鬼海兵旅団を先遣隊に送っていますが、念のための保険としてもう一手、打っておきたいのです。」

 

高野五十六は大本営での会議において、こう発言した。

本土回復後、関東州旧首都東京において今上天皇皇神楽耶を議長とした仮説大本営を設置。その半月後には正式に大本営最高指導会議と名を改め、その参加者の従来の大本営会議の今上陛下、陸軍大臣、海軍大臣、3軍のナンバー2までの6人とに加え、文官方面から内閣総理大臣を中心とした閣僚及び副大臣・大臣秘書官らにも列席が許されている。ただし、副大臣は大臣の代理出席時のみ発言権があり、大臣秘書官らは発言権そのものがなくバックで情報処理を行うことが目的である。また、当然と言えば当然だが大本営から招聘を受けた有識者も発言権を有している。追記にあたるが、大高弥三郎首相は大本営仮設時から列席し発言権もあったが、これは大高が陸軍参謀総長及び陸軍大臣の経験者であったこと、現3軍高官と懇意にあるために例外的に許されていた背景がある。

 

高野の目配せで高野付きの海軍副官が資料を配布する。

それを各人が目を通してから、大高が発言する。

 

「なるほど、横須賀で別動隊を編成ですか。良い案だと思います・・・。」

 

計画書には伊豆・小笠原諸島奪還戦隊帰還後。横須賀鎮守府で待機している増強戦隊と合流し、白銀艦隊別働隊としてマリアナ諸島・ヤップ島・パラオ諸島を通りセレベス海・モルッカ海峡を回遊し、ミンダナオ島・カリマンタン島・セレベス島・モルッカ諸島の独立派の支援を実施する旨が記載されていた。

 

「はい、私と空軍の厳田さん、陸軍の桂さんの共同で立案させていただきました。また、パラオの独立派から支援要請が出ていたこともあり、外務省さんにも賛成いただけるものかと・・・。」

 

高野の発言に、外務大臣の木戸が返答する。

 

「えぇ・・・。パラオからも独立支援の要請が来ているのは確かです。ならば、ミクロネシア諸島の解放もお願いしたい。」

 

木戸の、外務省の要請に対して高野は申し訳ないと言った表情で返答する。

 

「木戸外相、申し訳ありませんが、それは時期尚早と言うものです。以前より日本寄りで行動的な独立派の多いパラオなら急造の艦隊でも開放が可能でしょう。しかし、トラック諸島を中心にミクロネシア諸島は世界最大級の環礁に囲まれた、天然の要塞。別働艦隊だけで落とすのは難しいでしょう。」

 

「・・・なるほど。外務省にこれ以上の異見はありません。」

 

木戸が着席して、高野は続ける。

 

「ミクロネシアやメラネシア、ポリネシアの解放はフィリピン・インドネシアの解放が完遂され、ハワイの旭日艦隊や第一航空機動艦隊が動けるようになってからと考えております。」

 

高野の質疑応答が終わり、陸軍参謀総長桂虎五郎が立ち上がり発言する。

 

「現在、フィリピン・インドネシアにおける戦闘の推移を報告します。フィリピンにおいてピースマーク及びネパール王国のグルカ傭兵軍の参戦によって、フィリピンの主要地域はブリタニアからの解放に向かっております。また、カリマンタン島においては現地独立派に加えブルネイ亡命王国府軍が上陸し戦闘を開始、南沙諸島を制圧したベトナム軍も一部を秘密裏に義勇軍として派遣している模様です。スマトラ島でも、全体を通して独立派優位になっております。これはフィリピン・インドネシアの戦いに参戦したシンガポールとマレーシアの海軍及びスマトラ対岸のマレーシア陸軍の砲兵隊による沿岸砲撃によって、ブリタニア軍基地が破壊され、ブリタニア軍が開戦序盤で混乱状態に陥ったことが原因と思われます。また、同地のブリタニア軍はバレンバンに防衛ラインを複数構築し、態勢の立て直しを図っております。これに対し、メダンのスカルノは虎の子のKMFからなる機兵中隊を投入したとのことです。また、ジャワ島のブリタニア軍統治府はバンドン要塞に司令部を移し統制を取り戻しつつあります。なお、ティモール島のポルトガル軍はブリタニア軍と共闘するようです。場合によってはモルッカ海峡あたりで我が軍の別働艦隊とポルトガル艦隊が接敵する可能性があります。」

 

桂の報告を聞いた大高は状況確認と言った感じで3軍長官に問い直す。

 

「フィリピン・インドネシアの解放は皇軍の琉球解放が、いかに速やかに行われるかにかかっていると言うことですな。」

 

3軍長官は頷いて肯定の意を示す。

 

「赤坂官房長官、周辺諸国はどのような動きを見せていますか?」

「まず、ロシア帝国ですがバグラチオン作戦の方ですが、皆さんもご存知のようにチュトコまで押し返しております。ですが、冬季に入るとベーリング海峡は地続きとなりブリタニア軍も大軍を動員して攻勢に出ると思われ予断を許さない状況です。また、その関係で今月中には我が国に派遣されていたハバロフスク集団は撤退するとのことです。中華連邦は、相変わらず統制が取れていない状況ですね。主流の大宦官派はブリタニア迎合の動きを見せていますが、当代清皇帝の側近で新進気鋭の武官である黎星刻氏が率いる天子派、台湾軍区行政長官であり先代皇帝の丞相であった馬駒辺氏の先帝派が、ブリタニア強硬論を唱えております。中華連邦加盟国も中東地域を見捨てた本国に対して不信感が高まっており、独自軍備の増強を進めております。また、一部加盟国は御存じのように、先の南洋地域の独立戦争に参戦または義勇軍を送っており、すでに連邦の統制力は及んでいないと言って間違いないでしょう。さらに、インド軍区ではナチス第三帝国の侵攻に備えてインド軍区の兵力に動員がかかっています。ただし、連邦本国系の動きは非常に鈍いものとなっています。」

 

赤坂は一拍置いてから再開する。

赤坂は世界情勢を報告するため自然、長文となる。

 

「つぎに、欧州情勢ですが・・・、これはもうどうにもならないのではないかと・・・。欧州でまともに枢軸と戦っているのはイギリスとフランスとベルギーだけです。スペインとナチス第三帝国に挟まれている時点で、これはもうどうしようもないでしょう。EU軍はフランス軍主体の反抗作戦を計画しているようですが、成功するかと言われるとかなり難しい・・・。いえ、不可能と思われます。その後のEUはイギリスへ撤退するか、アフリカ戦線で抵抗を続けるかになるでしょう。また、アフリカでの戦況ですがEU軍と現地勢力の共闘体制が出来ておりません。現地勢力の彼らにとってはEUもブリタニア軍と同じ支配者ですので難しいと言えばその通りです。また、サウジアラビア王国を中心とした抵抗軍ですが枢軸に押されており、戦況は圧倒的に不利です。また、イエメン王国が枢軸入りしたことで挟み撃ちされることとなり、状況はさらに悪化しています。また、ブリタニアは南米侵攻を開始。これに同調し枢軸入りしたブラジル連邦とアルゼンチン共和国はブリタニアの露払いとして周辺諸国に侵攻を開始。ブリタニア軍もエリア01メキシコに兵力を集結中とのことです。」

 

そして、赤坂は資料の頁をめくり報告書を読み上げる。

そして、周囲の事務官や武官たちにスクリーンに映像を映すように指示を出す。

 

「オーストラリアの状況ですが、こちらをご覧ください。我が国の諜報機関が入手したものです。」

 

部屋が暗くなる

スクリーンに映像が流れ始める。

 

映像には枢軸連合艦隊がオーストラリアのバース要塞を攻略しようとしている様子が映っている。オーストラリアは長年スイス同様に永世中立国であった。永世中立が謳われている国が中立を保つにはそれなりの条件がある。ただ、戦時における無防備都市宣言や弱小国の中立宣言などは、無条件降伏と同義である。

しかし、このオーストラリアは列強国の手を跳ね除けるだけの実力を持っていた。

オーストラリアは資源輸出国に数えられる、サクラダイト以外の資源は豊富で財力もある。

軍備も国家予算の多くを振り分けられており強国に分類される。

 

このバース要塞などもいい例である。多くのトーチカ群で守られたオーストラリアの要塞群の一つである。そして、オーストラリア各軍事要塞に設置されている要塞砲こそ、オーストラリアの中立を守る象徴、ローエングリン陽電子砲台である。

これらの要塞には連装荷電粒子収束火線砲が要塞副砲として配備されいる。また、沿岸砲としてもリニアカノン砲や対空バルカン砲、対空防護ミサイル陣地がハリネズミのように各所に配置され鉄壁の防御を誇る。

そんな、要塞の主砲ローエングリン陽電子砲台の砲塔にエネルギーが収束していく。

陽電子砲台から放たれる陽電子ビームに艦隊が薙ぎ払われる。それが通常のセオリーである。

すると、ナチス第三帝国の航空母艦から大型のMAらしき機体群が発艦する。

モスグリーン色の人型ではない平たい正方形近い形状の機体が艦隊の前に横一列に整列する。そして、その機体の表面に光学シールドが発生し、陽電子ビームを真正面から受ける。機体は爆散し背後の艦隊も海の藻屑に消える。そのはずだったが、機体は陽電子ビームを耐えきる。

 

チャージに時間がかかる陽電子砲は沈黙、副砲の収束荷電粒子砲も防がれる。

そして、そのまま枢軸軍の上陸を許し撃破されるオーストラリア軍、そこで映像が終わる。

 

「以上が諜報部よりもたらされたものです。先ほど陽電子砲を防いだ兵器ですが、専門家の見解によりますと、陽電子リフレクターではないかとのことでした。ここからは、黒木特佐にお願いします。」

 

進行役が赤坂官房長官から黒木特佐に代わり、枢軸軍兵器の解説が始まる。

そこへ、空軍長官の厳田が質問する。

 

「それは、ブリタニアの空中戦艦についているものとは違うのか?」

「専門的な部分では違うのですが、攻撃を防ぐシールドと言う考えではほぼ同一の物と考えて問題ありません。技術体系的には我が国で開発中の光波防御盾と同様の物です。」

 

厳田と黒木の質疑を聞いて陸軍参謀総長桂が顎に手を当て、複雑な表情を浮かべる。

 

「光波防御技術においては、枢軸に先を越されたようだな。この盾を破るには白兵武器に頼るしかないのか?」

 

桂の質問に、黒木はスクリーン映像を切り替えてから解説する。

サブスクリーンには蜘蛛型のMAがシールドを発生させてオーストラリア軍を撃破する姿が流れている。

 

「いえ、コーティング弾を使えば、ブリタニア軍のブレイズルミナス以外は貫通可能です。また、実弾兵器も戦艦主砲レベルの物なら貫通する可能性があります。また、これらの兵器は量産機ではないようで数は多くありません。時期に量産される可能性はありますが、しばらくは時間がありますので、こちらもそれまでに対策を考えることでしょう。時期に報告することとなりますが、それはまた次回で・・・。今後の問題はフィリピン・インドネシアの独立戦争と後々オーストラリアを支配した枢軸軍による北上への対処でしょう。」

 

その後も、喧々諤々唯々諾々の多種多様な議論が交わされ。

大凡の結論を出して大本営最高指導会議は閉会した。

 

 

 

皇歴2017年10月3日 関東州東京都千代田区 中央合同仮庁舎

 

市ヶ谷区の大本営から、千代田区の中央合同仮庁舎へ向かう黒塗りの公用車の車列。

大高の乗る内閣総理大臣専用車を中心に各大臣の公用車と軍と警察の警護車両、先導にKMF震電が2機、中央に4機、最後尾に2機だ。

この大集団の車列は7年前の侵略と、先日の奪還戦の傷跡が残る東京の街並みを通り抜ける。

復興が始まっている。官民の建機車両が公道を忙しく走り回り、各所で瓦礫の撤去が始まっている。

 

多くの軍関係者は、大本営の3軍指揮所に残ったが高野は大高の専用車に同乗し合同庁舎へ向かっていた。

 

「閣下、やっと戻ってこれましたな。7年前のあの日・・・。我々はいつかまた、この地に再び足を付けることを誓って北海道へ逃れました。7年・・・長い、本当に長い7年間でした。」

「ですが、ブリタニアの残した傷は深い。この東京だけでも、傷の深さを伺い知れます。かつて8棟あった中央合同庁舎はすべて廃墟か瓦礫の山となり、急遽仮設された仮庁舎にかつての8棟の機能を無理やり詰め込んで、何とか運営しております。」

 

高野の言葉を聞いた大高の目には、東京の惨状が映っていた。

 

「東京は、かつてのような栄華を取り戻すのは難しいでしょうな。」

 

大高の言葉を聞いた高野は同じく車窓を眺めながら返答する。

かつての高層ビル街の成れの果て、ゲットーと呼ばれた地域はブリタニア統治時代に再建されることなく、7年前の状態がそのまま残されていた。

 

「首都の件ですか?」

 

道民や東北民は軍官民の統一軍事拠点化している北海道、要塞化された首都函館の力強さに圧倒され、今後も函館を首都にと考えるものが多い。一方でブリタニア占領地に残った国民は、侵略以前の印象に従い東京を首都にと考えている節があった。

 

「国民の中には首都を東京に戻すようにと言う声もありますが・・・。今後の枢軸との戦いを考えるのなら、首都は函館のままでやっていくべきでしょう。」

 

なお、政府内の主流派は函館派であった。

 

「函館は官邸機能はもちろん各省庁の機能も移転済み。軍も同様ですし、北海道事体がある種の軍事拠点、函館要塞と陸奥港湾要塞の連携で鉄壁です。皇居も移転済み、実質、首都のですからな。」

 

7年の言う時の流れは旧首都東京を荒廃させた一方で、新首都函館を発展させていったのだ。函館首都の詳細は別の機会で語ることにする。

 

「桜坂君ら、東京帰還派には戦後政策として再遷都のことは話しますが、枢軸戦に注力しなくてはいけません。復興はしますが遷都はまだです。」

 

「今は南洋諸国に味方を作り、枢軸と連携して戦うことを目指さねばならんと・・・。」

 

大高の政治構想において、最低限度のものは別として、占領地の多くに支配を望むものではなかった。高野も同様で現地民の反感を買ってまで、その土地を支配する必要があるのかと言うことだ。

 

「その通りです。我が国一国だけで枢軸と言う大勢力には勝てません。荒唐無稽な話と思われるかもしれませんが、今次大戦は歴史上最大規模の世界大戦の様相を見せています。そして、世界の流れが大きく変わっていこうとしているようにも思えるのです。」

 

大高の言葉に、高野は思考してから答える。

 

「追い詰められたからという訳もありましたが、オランダのように支配者と言う立場を降りて、新たな時代へ進もうとする時期が来ているとお考えなのでしょうか?」

 

大高らの仲介もあったが、オランダが完全に支配者層から降りたことは、二人にとっても意外であった。

 

「はい、あれは間違いなく英断でした。被支配者層の決起は何もブリタニアだけではありません。枢軸はもちろんEUや中華連邦も抱えています。多くの被支配者層を抱えるこれらの国は、今回の決起で同様のことが起きるやもしれません。力による支配は終わりを迎えるでしょう。オランダのように自ら身を引いて友好交易国としての立場は、戦後世界の旧支配者の良いモデルケースとなるでしょう。ブリタニアやナチスドイツの脅威は軍事力にありと思われますが、KMFの実用化に成功した今、それは大きな脅威ではないのです。真に恐れるべきは、かの国の経済力・・・国力にあるのです。ブリタニアなどはあの一国で国家は完結しているのです。あの大陸の資源と穀倉地帯で他国との貿易なしでも問題なく国家運営ができる。我が国等はサクラダイトを担保に食料自給率の低さを輸入で補うなど、何かしらの貿易関係を必要とするのです。何事も自国一国ではできない。ですが、彼らはそれができる。欧州を制覇したナチスも同様に自国で完結できるのです。対する我らは同盟国と強調し補い合って初めて奴らと戦えるのです。」

 

「なれば、日本が周辺諸国を吸収し完結国家となれば・・・。そう考える者も・・・。」

 

高野の言葉に大高は、強い口調で語る。

 

「短絡的にはそういった考えもあるでしょう。ですが、違う民族を力で押さえつけるのは、住民が反発し今のブリタニアにつながる。ゆえに我々は別の道を模索するべきなのです。高野さん、我が国がアジア太平洋圏をまとめる経済圏の骨組みを組むまでは、枢軸の北上を何とか抑えていただきたい。」

 

「わかりました。海軍は勿論の事、大高閣下のお考えは厳田さんや桂さんも理解するところでしょう。軍は閣下の事業をお手伝いします。」

 

「よろしく頼みます。」

 

大高が高野に頭を下げたお願いし、再び頭を上げると車列が停車する。仮合同庁舎に到着し警衛らが左右を守る様に整列し、メディアを遮る。大高をはじめとした閣僚らは、メディアに2・3発言してから庁舎へ入っていく。

 

高野は海軍省の仮庁舎区画へ向かうため、ここで別れ。それと入れ替わる様に赤坂官房長官、矢口・片桐・平岡の3人の官房副長官と二人の筆頭公設秘書、納屋碧と三浦藍佳が続き、以下の内閣官房の秘書官・政策統括官らが追従し、さらにそれらを守る形で大勢の護衛がそれに従う。

大高は歩きながら、胸元の蝶ネクタイを締めなおす。その作業をしながら、大高は第一秘書の納屋に予定を尋ねる。

 

「納屋君、この後の予定は?」

 

大高の問いに、納屋は頭の中の予定表を引き出し即座に応える。

 

「黒の騎士団副司令官扇要氏他幹部陣との会談です。」

「そうでしたか。急ぎましょう・・・。」

 

大高のその一言で、集団の歩く速さがわずかに上がり、革靴の音が庁舎の廊下に響いた。

 

 



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第41話 黒の騎士団に関する交渉

皇歴2017年10月3日 関東州東京都千代田区 中央合同仮庁舎首相執務室

 

大高らは、扇ら黒の騎士団幹部が待つ応接室へ行く前に事前の話し合いが行われる。

大高の横に座った赤坂官房長官が、状況の説明を行う。

 

「黒の騎士団ですが、現在その方向性をめぐり組織内で分裂の傾向が見られます。その理由ですが、司令官であるゼロは私たち政府の統制を外れて国家を樹立しようとしていたとの情報を諜報部が掴んでいます。」

「内閣情報調査室、軍の諜報機関双方から同様の調査結果出ていますので、情報の確度は信頼に足るものです。」

 

赤坂の言に矢口副官房長官が補足する。その周囲では納屋・三浦ら秘書官は情報関係の書類を整理して配布している。

 

「統一レジスタンスのように皇軍に組み込めないのですか?」

 

大高としては、黒の騎士団も皇軍に組み込む予定であったため意外そうに声を上げる。

 

「閣下、統一レジスタンスの主要母体は旧軍です。付随のパルチザン系レジスタンスはカリスマ性のある指導者はいませんでしたし、彼らは追従者でした。黒の騎士団は独自の諜報軍事と言った物が完全に独立しています。財力的なものもキョウトの地盤を吸収したこともありレジスタンスとして扱うのは危険かと判断します。」

「場合によっては武装を解除させる必要があります。今のうちに部隊を動かしておくべきではないでしょか。」

 

さらに、黒の騎士団の特殊性に赤坂は言及し、片桐副官房長官が意見具申を行う。

 

「ですが、黒の騎士団にはインド軍区のラクシャータ女史がいます。その女史が今現在も黒の騎士団に在籍し続けているということは、インド軍区の意志の介在も考えられます。あまり強硬な手段を取るとインド軍区との関係悪化も懸念されますので、慎重に判断してください。」

「また、黒の騎士団を現状主導している扇副司令官は、黒の騎士団結成前からの古参です。彼は皇軍への組み込みに関して否定的ではありません。」

 

平岡・矢口の二人の副官房長官は強硬手段に関しては否定的であった。

納屋がその横から大高に騎士団幹部の情報が記された書類が渡される。

 

「なるほど・・・。皇軍に組み込んでも独自行動が起きるやもしれませんし、不協和音の原因。黒の騎士団は別枠と考えましょう。それと、他のレジスタンス組織の振り分けは順調ですか?」

 

大高は一定の結論に達し、別の案件ついて尋ねる。

 

「それに関しては問題ありません。老齢者や規定年齢に達していない若年者を除いて希望者は皇軍に組み込んでいます。技術者や特殊職能者は適宜振り分けております。」

 

「赤坂さん、希望者以外の方々は一般社会へ戻すようにお願いしますよ。」

 

大高は有事とは言え、やりすぎないようにと赤坂らに釘をさす。

赤坂は、それに対して勿論と答え、別の案件について報告を上げる。

 

「もちろん、そのように指示していますのでご安心を・・・。それと、片瀬少将推薦の彼ですが・・・。」

「どうしましたか?」

 

赤坂の表情が、硬くなるのを感じた大高は赤坂を促す。

 

「血液検査で皇族の血縁である事が確認されました。」

「男系皇族の数が少ない今、それは喜ばしいことでは?」

「えぇ、その通りなのですが少々不可解なことが・・・。」

「それは?」

「確認された血筋が、繁院宮家なんです。」

「繁院宮家ですか?確かあの家は・・・。」

 

繁院宮家、皇籍離脱した旧宮家。7年前の侵攻で宮家・旧宮家の多くが死亡したとされている。だが、本土回復後に潜伏先から生存を知らせる声明が出るなど珍しくはないのだ。

 

しかし、この繁院宮家はそれよりもずっと昔に断絶している。

故に不可解なのであった。

 

「彼についての公表は控えましょう。ですが、皇族には違いありません。慎重に対応しなければなりませんな。」

 

「閣下、そろそろお時間です。」

 

腕時計を確認した納屋が大高に知らせる。

 

「もう、そんな時間でしたか。応接室へ向かいましょう。」

 

 

大高ら一団は、黒の騎士団副指令扇要以下幹部陣を待たせている大きめの応接室と向かう。

その過程で各省庁の職員達とすれ違う。合同庁舎故に一つの建物にいくつもの省庁が入っているのだ。

雑多な感じもするが、働いているのは国家公務員、役人だ。

それなりに官の空気を醸し出してはいるが、函館程の利便性はない。

首都は函館のまま、進めていこうと心に決めた大高であった。

 

 

 

 

皇歴2017年10月3日 関東州東京都千代田区 中央合同仮庁舎第一応接室

 

「いやはや、黒の騎士団の皆様方。お待たせさせて申し訳ない。皆さんもお座りください。」

 

大高の入室と共に、先にいた政務官たちが立ち上がり頭を下げる。扇たちも立ち上がって同様にお辞儀をする。

 

「は、はい。よろしくお願いします。」

 

以前は一介の教員でしかなかった扇は、一国の首相と相対して固くなっているのが解る。

黒の騎士団と言う大組織の副司令官である時点で有能なのは間違いないだろうが、良くも悪くも一般人であることが理解できた。

他の幹部陣も大半は同様のように感じられた。

だがやはり、例外と言うのはいる。

この、ブリタニアからの転向者であるディートハルト・リートと言う男などは、政府高官と接触する機会が多いメディア業界の人間ではあったが、何か底知れぬものを感じる。むしろ、ナンバー2としての業務は彼の方が抑えているように見受けられるくらいである。

 

「では・・・、現在日本皇国は国土回復を成し遂げ、レジシタンス本来の国土回復は成し遂げられております。よって、黒の騎士団は他レジスタンス同様解体。皇軍主導で再編し軍に適切に組み込んでいくこと以上です。」

 

片桐副官房長官が政府の指示書を読み上げる。

他の二人の副官房長官も無言で様子をうかがっている。

大高らは黒の騎士団が、この黒の騎士団解体命令を受け入れるとは当然思っていない。

むしろ、強硬に解体させてはゼロの信奉者たちの反感を買うであろうと予想していた。しかしながら、最初から黒の騎士団を優遇すれば他から不満が出る可能性もあるし、当の黒の騎士団に足元を見られかねないと言う警戒からでもあった。

故に、解体期限も短く見積もっており揺さぶりをかける形であった。

 

「ちょ、ちょっと待ってください。いくらなんでもこれは・・・」

 

扇が慌てて立ち上がり、抗議を口にする。

 

「何か問題でも?日本解放戦線を中心にレジシタンスは基本解体と言うのが政府の基本的なスタンスなのですが?」

 

赤坂官房長官はわざと意外そうな言い回しをする。

黒の騎士団の特殊性を理解している大高らであったが、穏便すぎる対応をして巨大な組織である黒の騎士団が皇国政府の手綱から放れる事は好ましくなく。ある程度、こちらの意志に従わせるための首輪をかける必要があることは、大高も理解していた。さらに、首輪をかけられない狂犬であるならここで解体するのも致し方無しと割り切っていた。

 

「閣下、黒の騎士団は他の雑多なレジスタンスとは、規模も組織形態も大きく異なることをご理解いただきたいのですが?」

 

次に口を開いたのはディートハルトであった。やはり、黒の騎士団のナンバー2は扇という訳でもなさそうだ。大高はもう一度、黒の騎士団の幹部たちを確認する。

情報担当つまるところ参謀であるディートハルト、技官代表ではあるが切れ者のラクシャータ、一筋縄ではいかぬ者達であった。

 

「であれば、段階を設けて解体という方向に修正しますか。」

「う~む、その方向で進めましょう。よろしいですか?」

 

赤坂官房長官が即席で代替え案を提示し、大高が納得する仕草を見せる。

赤坂ら官房集団が黒の騎士団の意見を流し気味の姿勢を見せることで、少なくてもこの場でどちらが上かを見せつける必要がある。その為の行為であった。

 

「もっと時間が欲しいところです。もう少し何とかなりませんか?」

「副指令、それは・・・!」

 

扇が黒の騎士団解体に理解を示そうとすると、ディートハルトが慌てて割り込んでくる。他の幹部たちも受け入れる感じの姿勢を見せているのは少ない。

 

「黒の騎士団の幹部の皆さん、確かに今は有事で数多くの例外事項が認められたり、黙認されてきました。ですが、本領が落ち着いたことで認められる例外が減ったことは理解してください。」

 

赤坂は、黒の騎士団幹部達に至って冷静に伝える。

赤坂の言葉を聞いた幹部たちは互いに話し合い対応を内々に決めようとしている様だが、纏まらない様だ。大高らの対応が彼らの予想に反して高圧的であったからというものが大きいだろう。

 

「失礼ですが、政府の皆さんが先ほど仰った様に騎士団の特殊性と言うものを考慮に入れていただきたい。ゼロの思想は弱者の救済、この世に枢軸に抑圧された弱者が存在する限り、終わりではないのです。なので、他レジスタンスと違いあまりに性急に事を急がれますと予想外のことが起きるやもしれません。勿論、我々は最善を尽くします。」

 

政府と黒の騎士団の話し合いは平行線が続いた。

話し合い終盤、遂に多くを語らなかった大高が口を開く。

 

「わかりました。黒の騎士団解体は段階を置きましょう。それまでは皇軍の互助組織としての活動を認める。それでよろしいでしょうか?」

 

大高が黒の騎士団に歩み寄る発言をしたことで話し合いは一定の方向性を持った。流れは実現する可能性が、最も高い大高妥協案へと流れていく。

その後も紆余曲折ではあったものの、話の大筋は変わることはなかった。

 

 

皇歴2017年10月3日 関東州東京都千代田区 中央合同仮庁舎首相執務室

 

 

「ゼロを抜いた黒の騎士団は中核以外は簡単に削り落とせそうですね。」

 

赤坂の言葉に大高は葉巻に火を付けながら、否定的に答える。

 

「赤坂君、黒の騎士団の外壁に対した意味はないのだ。中核こそが問題なのだ。中核は間違いなく軍事も謀略も精鋭、油断をしていると足元をすくわれかねんよ。そういえば、欧州の安倍川君たちはどうなったのかね。あまり良くない状況とは聞いておるのだが・・・。」

 

赤坂は伏し目がちに答えた。

 

「あまり、いえ・・・かなり悪いです。フランス・ベルギーの陥落も見えてきましたからね。ベルギーの延長マジノ線が破られて、ベルギー国内が戦火に巻き込まれた時点で、EUは詰みでした。」

 

「ふむぅ…。レイナール首相やド・ゴール将軍がいる限り最後まで戦い続けるでしょうが・・・、厳しいですな。ド・ゴール将軍と渡りをつけて、一部EU軍・・・例えば日系人部隊や日本人義勇軍の回収などは実行したいものですな。」

 

EUの滅亡は目に見えた現実として、迫っていた。

 

 

 



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第42話 フィリピン開放

皇歴2017年12月1日 筑紫州長崎県佐世保港

 

枢軸連合諸国の大洋州進出やロシアのバグラチオン作戦の補完作戦であるベーリング海をめぐる海戦への支援などの諸々の理由で、動きを縛られることとなった。今まで活発に動いていた旭日艦隊・高杉艦隊・坂本艦隊・オランダ亡命艦隊はそれぞれの作戦遂行のために、持ち場を離れられなくなる。

 

その為、琉球以南の地域への派兵のために海軍力の増強を決定。

新艦隊の創設される事となる。この新艦隊の司令長官には沿岸防備局局長宗谷真霜の就任がすでに決定しており。戦時特例として海軍少将として任官することが決定している。

新艦隊の名称は、本国の守備艦隊として再々編成された紅玉艦隊と対になる蒼玉艦隊の名を与えられた。

なお、紅玉艦隊を吸収していた白銀艦隊でも艦隊の再編が行われた。なお、伊豆及び小笠原奪還任務艦隊の増援艦を除く基幹艦は白銀艦隊所属となる。

 

蒼玉艦隊・白銀艦隊・紅玉艦隊の所属艦艇は以下の通りである。

 

蒼玉艦隊

イージスシステム巡洋艦艦底津綿津見・中津綿津見・上津綿津見、航空母艦持国天・天城・葛城、軽航空母艦冲鷹、ミサイル航空巡洋艦蒼空・碧空、防空巡洋艦香椎・橿原、護衛艦30隻、沿岸戦闘艦10隻

 

白銀艦隊

イージスシステム戦艦月読、航空母艦天日鷲、防空軽航空母艦秋津州、軽航空母艦鷲鳳・瑞穂、練習軽航空母艦鳳翔、ミサイル航空巡洋艦 銀河・天空、防空巡洋艦大淀・仁淀・香取・鹿島、護衛艦30隻

 

紅玉艦隊

正規空母雲龍、軽航空母艦黒鷹・白鷹、ミサイル巡洋艦十勝、防空巡洋艦宇多・宇治、護衛艦15隻、沿岸戦闘艦30隻、武装強化型徴用大型巡視船5隻

 

蒼玉・白銀艦隊に随行する上陸用舟艇母艦神州丸・秋津島・あきつ丸、徴用フェリーさつま。

 

沖縄本島を中心とした琉球地域の解放を念頭に置いた解放艦隊。旗頭となるのは日本皇国海軍の超戦艦日本武尊、戦略空母建御雷、戦略空母建御名方に並ぶイージス戦艦月読。白銀艦隊はブラックリベリオン或いは日本本土解放戦の時点で、紅玉艦隊を吸収した状態にあったが、日本本土完全回復前後で各地の官民問わない造船施設をフル稼働して損傷艦船の改修、沿岸防護局の艦船の改造、新造艦の建造が行われた。その結果白銀艦隊の拡充再編と紅玉艦隊の再編が叶ったのである。

 

新設もしくは再編された艦隊のうち二つ、白銀艦隊と蒼玉艦隊は琉球解放の連合艦隊を編成、これを第二航空機動艦隊と呼称。第二航空機動艦隊は進軍を開始した。

 

 

 

第二航空機動艦隊はブリタニアの戦力がほぼ残されていない吐噶喇列島、奄美群島を解放。

艦隊は沖縄諸島の解放作戦を展開。

 

「上陸部隊、無事上陸を開始しました。」

 

桃園宮那子司令官と副官知名もえかは、その様子を淡々と見届けていた。

 

「援軍の爆撃機隊が向かっているとのことですが、想定より制圧が進んでおりますがどうされますか?爆撃を中止させますか?」

「いいえ、降伏を拒否した海上堡塁や無人島拠点を爆撃させなさい。本艦隊は琉球解放後、さらに南下します。」

 

2つの艦隊の援護射撃を受けて沖縄本島の辺戸岬と喜屋武岬、荒岬へ上陸。旧エリア11の駐屯部隊の主力であるサザーランドやグロースターはおろか、グラスゴーすらまともにいない琉球諸島の敵軍はさしたる抵抗なく制圧されていく。

 

「船坂中尉の海軍機兵隊より、本島内の陸上戦力は完全に沈黙したと報告が上がってきました。」

「大本営へ、治安維持部隊を残して本艦隊は南下を開始する旨を伝えなさい。」

「了解しました。」

 

琉球解放作戦は数日間で完遂され、捕虜は市内のホテルや倉庫に監禁されたのであった。

一定数の治安維持の戦力を琉球地域に配置した艦隊は、南下を開始した。

 

遂に、皇国軍による南洋アジア解放の本格的な一手が打たれたのであった。

 

 

 

 

 

皇歴2017年12月8日 関東州東京都千代田区 中央合同仮庁舎

 

琉球解放がなされたその日の夜。

大高首相は、一般には公表していなかった南洋諸国解放についての臨時記者会見を開く。

敵対国を除く海外メディアも多く集まっており、この行動がいかに注目されたかが解るものであった。

 

「閣下!大東新聞の中山です。この度の白銀艦隊と蒼玉艦隊の南下は南洋諸国の要請に応えたものなのでしょうか!一部では日本領土の完全回復を持ってブリタニアとの交渉のテーブルに着くべきであるとの声もありますが?」

 

記者の質問に大高はマイクを寄せて答える。

 

「はい。私、大高弥三郎は陛下よりお預かりしている統帥権を持って、白銀・蒼玉の両艦隊に対して南洋諸国の解放を命じました。確かに、現状を持ってブリタニアとの外交交渉による解決をと言う意見があるのは事実です。ですが、国民の皆様には今一度思い出して頂きたい。東京決戦の時、彼らの決起なくして我々の勝利はあったのかを・・・。もしあの時、決起が起こらずエリア10・・・南洋からブリタニアの増援が到着したとしたら、果たして勝てたのであろうかと・・・。」

 

大高の言葉に記者たちは、僅かに静まり返る。

もし、あの時・・・皇国が、黒の騎士団が負けていたらと想像して・・・。

 

「ブリタニアによって7年以上もの間、辛酸を舐めさせられてきた我々が同じ苦しみを共有する者たちを見捨てると言うことは、非情と言うもの。そして、罷りなりにも彼らには借りを作ったのは事実。それを見捨てると言うのは厚顔無恥と言えるのではないでしょうか?皇国の隣に立って戦おうとしている者たちがいる。それを見捨てると言う愚は犯すべきではないと考える次第であります。」

 

先ほどとは違う記者が質問を投げかける。

 

「閣下、軍産新聞の北見です。南洋諸国の独立戦争には、すでに中華連邦の東南アジア加盟国が参戦していますが?彼らとの共闘も視野に入っているのですか?同盟や連合も視野に入っているのでしょうか?」

 

「もちろん彼らとの共闘は織り込み済みです。政治的な話はこの場では避けさせていただきます。」

 

大高に食い下がる様に別の記者が問いかける。

 

「アフリカーナニュースのゲリー・グーセンです!閣下!オランダの旧蘭印軍は皇国との共闘体制を築き上げました!オランダを通じてEUやアフリカ諸国と対枢軸連合の創設の噂を耳にします。南洋の解放はアジアにおける対枢軸連合の布石なのではありませんか!それに、亡国の艦船が仏蘭共同統治領セイロンに集結しているのは」

 

「会見を終了します!」

 

大高はここで沈黙し、司会進行をしていた秘書の三浦藍佳が会見終了を宣言する。

 

 

 

 

 

 

皇歴2017年12月9日 10:32 白銀・蒼玉連合艦隊

 

第二航空機動艦隊がエリア10フィリピンに来援。

ありとあらゆるところで民衆やレジスタンスが決起し、東南アジアの諸国が参戦していたエリア10の戦況は、すでにこちらに傾いていた。

 

南シナ海において台湾軍区行政長官馬駒辺、同軍区軍司令官宇羅玩、南京軍区司令官劉金星らが本国のブリタニア側としての介入に反対し、先送りされる。

 

 

「司令、コレヒトドール島の決起軍司令官より通信です。」

「開いて。」

 

那子はもえかから通信が届いたことを聞き回線を開くように言う。

 

「回線開きます。」

 

『桃園宮閣下。こちら、フィリピン陸軍所属ロニー・ブレスコ中佐であります!日本軍の上陸に合わせて要塞の沿岸砲にて援護します。』

 

「了解しました。上陸指揮は蒼玉艦隊の宗谷真霜少将にお願いしましょう。」

「わかりました。蒼玉艦隊に揚陸艦預けますね。」

 

宗谷真霜は沿岸防備局局長であったが、沿岸防備局の軍組織への組み込みによって海軍少将階級が与えられた。南洋解放の功績を持って中将昇進も内定済みであった。

また、桃園宮那子や知名もえかも、ある種の学生階級であった准階級が外れ晴れて少将と中佐として任官していた。

 

「では、白銀艦隊は・・・。」

「南沙へ向かうわ。そこで友軍と合流してスル海、セレベス海のエリア10残存艦隊を叩くわ。」

 

 

 

皇歴2017年12月9日 10:41 フィリピン コレヒトドール島要塞

 

「駆潜艇や魚雷艇、残っている艦艇に歩兵を全て載せろ!皇国軍と共闘しマニラを解放する!」

 

ブレスコ中佐に急かされるように、要塞の兵達は戦闘艇のある島の港へと駆け出して行った。

 

 

皇歴2017年12月9日 11:52 旧フィリピン共和国

 

宗谷真霜少将の指揮の下、コレヒトドール島要塞を通過していく水雷電や揚陸艦艇。

また、日本艦隊来援の報告を契機に離島で燻っていた旧軍部隊がルソン島やヴィサヤ諸島の主要な島々に上陸を開始。

 

揚陸艦艇から上陸を果たすKMF震電や雷電、17式砲戦車などの大小の戦闘車両。

民衆の暴動を抑えきれないエリア10ブリタニア軍は、バターン半島やマニラ湾の大半に上陸を許し次々と拠点を陥落させられていった。

 

 

 

皇歴2017年12月9日  旧フィリピン共和国首都マニラ

 

フィリピン共和国首都マニラを中心とした首都圏は解放された。

ケソンメモリアルサークルに掛けられていたブリタニア国旗の幕は、引き摺り降ろされ民衆によって火が放たれていた。マカティ市を占有していたブリタニア富裕層の多くは避難していたが、取り残されたもの達の運命は・・・説明不要であろう。

 

首都圏地域を解放したことで現地レジスタンスや義勇軍は活気付き、各地で勝利を収める。

3日後には日本皇国軍やピースマークやグルカ傭兵軍を中心とした義勇軍の活躍もありフィリピン全域の解放が為された。

 

そしてマラカニアン宮殿、ブリタニア総督府として使用されていた旧フィリピン大統領官邸は再び正統なる主を迎え入れることとなる。

 

「国民諸君!!共和国再興は成った!!我々の!!フィリピンの勝利だ!!だが、これで終わりではない!!次はアジアの同胞を救いに行くのだ!!!」

 

「「「「「わぁああああああああああああ!!!」」」」」

 

フィリピン独立諸派と皇国軍に奉じられたホセ・ドテルレル元大統領は、臨時政府大統領に就任。国民の歓声と共にフィリピン共和国の再興を宣言したのであった。

 

 

 

 

皇歴2017年12月12日 

 

3日前のフィリピン独立宣言と日本軍上陸を契機にフィリピンはルソン島、ヴィサヤ諸島、ミンダナオ島がこの3日間でフィリピン臨時政府軍によって奪還されてしまった。

 

そして、日本軍、フィリピン臨時政府軍は戦力をインドネシアに投入する動きを見せていた。もはや、インドネシアの独立も避けられないものとなった。

 

そしてこの日、日本皇国軍の白銀・蒼玉艦隊からなる解放艦隊とフィリピン臨時政府の派遣部隊がカリマンタン島とスラウェシ島を急襲。スラウェシ島での抵抗は続いているが、ブルネイ軍や現地レジスタンスのが優勢だったカリマンタン島はブリタニアより解放されるに至った。

 

 

皇歴2017年12月12日14:00 インドネシア・リアウ諸島 第二航空機動艦隊旗艦月読

 

「友軍との会合ポイントを確認。艦船を照会中です。」

 

もえかの言葉に、那子は特に返事をすることなく照会が終わるのを待った。

 

「タイ王国海軍旗艦空母チャクリ・ナルエベトを確認。タイ王国海軍以外にシンガポール・マレーシア、ベトナム、カンボジアの艦船も確認できます。」

「東南アジア諸国も遂に重い腰を本気で上げたって事ね。」

 

リアウ諸島にはすでに東南アジア諸国の空母から魚雷艇までの多種多様な海軍艦艇が集結していた。

 



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第43話 南海大空海戦 ※加筆しました

 

皇歴2017年12月12日 

 

カンボジア王国では12日に国王シヌハークの勅命により王国陸軍の総力を持ってブリタニアの研究開発拠点トモロの制圧作戦が実施された。

 

ブリタニア側もサザーランドやグラスゴーに一部の試作機を駆使して抵抗したが、カンボジア王国陸軍も出し惜しみをせず保有するKMFサベージ、鋼髏、ブッシュネル全てを投入。陸軍の全力投入を持って少数のブリタニア守備隊をすり潰したのであった。

 

カンボジア王国の決起に続いて、東南アジア諸国は国内にあるブリタニアの拠点を急襲、領事や外交官を国外退去とした。

 

 

 

東南アジア地域でも遂に反ブリタニアの狼煙が完全に上った頃。

リアウ諸島、インドネシアにある諸島。スマトラ島東方にあり、シンガポール南方に位置するこの諸島に皇国海軍を中心に中華連邦本国を除く東アジア各国の艦隊が集結していた。

 

一方でこれに対抗するべくエリア10のブリタニア軍もインドネシア・ジャワ島バンドンに防衛司令部を置き、ジャワ島を押さえているが周囲の島々、スマトラ島では南部以外は既に陥落。ブルネイ島も大半が解放され、スラウェシ島でも小笠原諸島よりパラオを解放して簡易拠点化した白銀艦隊別動隊(前呼称:小笠原奪還艦隊)が現地の部隊と共闘し戦闘を開始していた。また、呼称が旧軍や植民地軍、レジスタンスなどバラバラであったインドネシアの武装勢力はインドネシア決起軍と仮称される。

それでも、エリア10の駐屯軍もリアウ諸島南のバンカ島とブリトゥン島の沖合に布陣し戦力を結集していた。

 

 

 

皇歴2017年12月12日14:00 インドネシア・リアウ諸島 第二航空機動艦隊旗艦月読

 

艦隊所属の航空母艦並びに軽航空母艦から艦載機が発艦して行く。

 

「チャクリ・ナルエベトからも艦載機の発艦を確認しました。5分後にタイ王国空軍第4・第7航空団が、6分後に同空軍第904アグレッサー飛行隊、ベトナム空軍人民空軍第370・371師団が到着予定です。また、フィリピン空軍臨時航空団及びカンボジア王国空軍は遅れが出ておりますが10分以内に到着させるとのことです。なお、マレーシア空軍・シンガポール空軍は既に周辺空域にて展開中、一部が交戦状態であるとのことです。」

 

もえかの説明を聞いた那子は数瞬、目を瞑り僅かに瞑想にふけると再び目を見開く。

そして、那子は号令をかける。

 

「友軍及び艦隊全艦に通達。噴式弾戦を開始!航空機の戦域突入を援護せよ!」

「っは!」

 

 

皇歴2017年12月12日 インドネシア・リアウ諸島州~バンカ・ブリトゥン州

 

マレーシア及びシンガポール軍の支援を受けたインドネシア決起軍がスマトラ島主要ミサイル陣地を破壊。

エリア10駐屯艦隊主力と皇国海軍第二航空機動艦隊及び東南アジア諸国連合艦隊の間でミサイル射撃戦が開始される。

 

その直後、皇国海軍艦載機F-3彗星・F-4昇星・F-5闇鷹、タイ王国海軍艦載機のAV-8Sマタドールからなる編隊。航空母艦持国天・天日鷲、軽航空母艦鷲鳳・瑞穂・チャクリ・ナルエベトから発艦した150機が、エリア10駐屯艦隊所属の航空母艦2隻、軽航空母艦3隻の内2隻に搭載されていたF/A-18C ホーネット・F-14 トムキャット・F-4ファントムからなる140機と接敵した。

 

ブリタニア側にF/A-18E スーパーホーネットやF-35C ライトニングIIがいないのはさして重要視されていなかったエリア10と言う場所柄故であり、皇軍側の航空母艦天城・葛城、防空軽航空母艦秋津州、軽航空母艦冲鷹はフィリピン周辺の制空権維持に残されていたため参加していない。また、皇国艦隊所属の航空巡洋艦の一部に搭載されているF-5闇鷹や、練習軽航空母艦鳳翔の艦載機は艦隊直掩として留まっている。ブリタニア側の軽航空母艦1隻も同様であった。

 

「噴進弾発射。」「ミサイル発射。」

 

両陣営の編隊長たちがミサイルの発射命令を出す。

それぞれのミサイルがそれぞれの目標に向かって迫っていく。妨害レーダーを駆使しつつ急激な回避行動をとる。しかし初撃で双方の陣営の航空機70機が撃墜される。

初撃でこれは双方にとって予想外の損害であった。また、損害機数は僅かに皇軍側が多かった。

 

24機いるF-5闇鷹はパナマ運河破壊作戦でも使用されようにステルス性が高い。ステルス機がいないエリア10の航空戦力に対して、この機体の存在は大きく皇軍側優位を維持するに一役買っていた。

 

F-5闇鷹以外の機体を追っているF/A-18C ホーネットの背後にまわる。F/A-18C ホーネットはF-5闇鷹にロックオンされ、数秒後にはその命運は尽きるのだ。

 

航空戦開始から3分ほどが経過した。

バンカ・ブリトゥン州側からF-4ファントムII、F-5タイガーを中心とした戦闘機群が現れる。その中には少数ながらもF-15イーグルとF-16ファイティング・ファルコンの姿もあった。

この制空戦闘の不利を察したエリア10の司令部はなけなしの基地航空隊を投入。敵に45機の戦闘機が加わった。この戦闘機群が加わったことで数の数的優位は敵側に傾き始める。

 

しかし、そのブリタニア側の優位は早くも崩れる。新たに空域に現れたサーブ 39グリペンとF-5タイガー18機、これはタイ王国スラートターニー空軍基地から駆け付けた友軍であった。

 

戦闘機群が互いにミサイルを撃ち、避け、あて、爆散する。そして、昔ながらの航空格闘戦ドックファイトが行われる。そして、援軍戦闘機群が到着しミサイルを撃ち込み、避け、あて、爆散航空格闘戦が再開する。

 

「総員、ブリタニアの連中に東南アジアの・・・我々の意志を示せ。」

 

さらに1分後、状況は完全に皇軍優位に傾くタイ王国空軍第904アグレッサー飛行隊F-5タイガー8機、ベトナム空軍人民空軍第370・371師団のスホーイ及びミグ系戦闘機80機が到着する。

 

航空戦においてミサイル攻撃は非常に有効な一手だ。絶対ではないが、どれだけのミサイルが撃ち込まれたかが戦場を左右すると言っても間違いではない。

 

その上にカンボジア空軍のミグやフィリピンのファントムII15機がこれに加わり勝敗は決した。

 

若干数ではあるが戦闘機の世代差を持った機体を少数保有していた皇国海軍に対して、残存航空機を集中投入し、押しつぶそうとしたエリア10は東南アジア諸国の空軍力の集中投入によって、さらに大きな数の力で押しつぶされることとなった。

 

400機を超える戦闘機によるアジア最大の大空戦は持てる力をすべて注ぎ込んだ東南アジア諸国の助力もあり辛くも勝利した。

 

 

 

空での戦いが激しくなるにつれ海上海中での攻防もより一層の激しさを増してきた。

 

水雷電より先行した海龍Ⅱ型水中戦闘艇の操縦士達が操縦桿のボタンを押す。

 

「魚雷1番2番発射!」「続いて発射!!」

 

海龍の操縦士達は魚雷を全弾撃ち放つと、即座に反転し離脱する。

 

海龍のレーダーと連携している対潜ヘリ編隊は敵ポートマンの影を捉え、その姿を詳細にとらえるためにソノ・ブイが投下されブリタニアのポートマンを捉えた。

 

「爆雷投下!」

 

皇国海軍の哨戒ヘリの編隊から一斉に爆雷が投下される。

東南アジア諸国軍は皇国海軍とは電子戦における連携はしていないので、命中率は皇国海軍に劣るもので、皇国海軍に倣えとばかりに東南アジア諸国軍の対潜哨戒機や対潜ヘリ、駆潜艇からも爆雷が投下される。

 

哨戒ヘリの観測員がレーダーを確認するとポートマンの反応のいくつかが残っていることを確認した。

 

「反撃が来るぞ!離脱!離脱!!」

 

対潜ヘリや対潜哨戒機が一斉に離脱し、駆潜艇も遅れて退避行動に移る。

ポートマンから放たれた魚雷によって、何隻かの駆潜艇が海中に没する。

 

「皇国海軍の水雷電到着まで、持たせろ!!爆雷を落とし続けろ!!」

 

ベトナム海軍の駆潜艇艦長が部下を叱咤激励する。

諸国軍の駆潜艇が海上を逃げ回りポートマンを引き付ける。

 

ポートマンの対空火器に怯むことなく対潜ヘリや対潜哨戒機はその場にとどまり続けた。

艦隊には一歩も近づかせないと不退転の意志を見せつけ、水雷電到着後も戦い続け艦隊を狙うポートマンを退けた。

 

海上の艦隊もイージスの盾の中に東南アジア諸国の艦艇を入れて守りつつ、東南アジア諸国艦の火力を加えて、ミサイルと砲の大火力でエリア10艦隊を打ち破ったのであった。

 

航空戦力を失ったエリア10の艦隊は皇軍艦隊と東南アジア諸国艦隊によって殲滅され、海上戦力をも喪失することとなった。

 

これが決定打となり、インドネシア決起軍とそれに追随した義勇軍を抑えることが出来なくなり、この2日後の皇歴2017年12月14日に降伏した。

 

 

 

皇歴2017年12月15日 

 

フィリピンに続いてインドネシアが独立。

 

「諸君!我々の歴史上偉大且つ重要な出来事の目撃者、諸君らがここに集まるよう、私はお願いした。」

 

スカルノは来賓席に座る日露や東南アジア諸国の高官たちに視線を送る。

 

「我ら祖国はオランダから独立を勝ち取り、そしてブリタニアから独立闘争のため、我らインドネシア民族は十数年、それどころかオランダ時代を含めれ既に数百年を耐えてきた。」

 

聴衆に視線を向けて強く拳を握るスカルノ。

 

「独立達成のための我々の運動の様相は、ある時はその希望を高揚させ、またある時は消沈させた。しかし、我々の魂は常に理想へ向けられていた。そして、今やまさに我ら民族と祖国を我ら自身の手におさめる時が到来した。自らの手の内に運命を掴み取る勇気のある民族だけが、しっかりと立ち上がることができるだろう。そして、昨夜我々はインドネシア全土から集まった人民の指導者達で会議を行った。その会議では我々の独立を宣言する時が今や到来したと、全員が同意した。諸君!これにより、我らの独立を確固たる信念を持って表明する。今なお独立を認めない者達に宣言する!この尊い自由と独立をインドネシアのすべての人民は断固とした思いを胸に断固として死守することを!ここで誓おう!!」

 

「「「「「わぁああああああああ!!独立万歳!独立万歳!」」」」」

 

彼の宣言にインドネシアの民は熱狂した。

 

 

独立戦争でフィリピン・インドネシア側が払った犠牲は婦女子も含め死者だけで120万人、負傷者は1000万人を超え、無差別爆撃で失われた財産・家屋の被害額はとても算出できる額ではなかった。しかし彼らは彼らの自由と独立のために立ち上がり膝を屈することはないだろう。来賓席の那子は、久方ぶりに再開した従妹の駒条宮澪子らと共に理解したのであった。

 

 

皇歴2018年1月28日 日本皇国函皇宮

 

フィリピン・インドネシア独立に際し、反ブリタニアの代表格である大高首相とプーシン大統領他EU各国の首脳から祝電が送られた。

滅亡秒読みのEUと違い、日露の存在はアジア特に太平洋においてブリタニアを連敗させ第三帝国他の梃入れを持って、立て直しが図られるほどに反枢軸勢力優位に動き始めていた。

その後も時は流れ・・・年が明け・・・

スリランカやインドのEU租借地には日本皇国と合流を目指すトルコや中東各国の残存兵力が集結するなど様々であった。

 

「陛下、フィリピン・インドネシアはブリタニアの頸木より解き放たれました。そして、東南アジア諸国も遂に本格的に腰を上げ、我が国と轡を並べました。」

 

「それは重畳である。それで中華連邦の馬氏や黎氏の返事は、どうでしたか?」

 

大高の報告に神楽耶はさらに掘り下げ尋ねる。

 

「明確な回答はありませんでしたが、諜報部の調べによりますれば来年中に決起の公算大とのことです。また、黒の騎士団ですがゼロの所在が掴めそうであるとのことで支援を求めてきております。協力しようかと思っています。」

 

「起こるべくして、起こると言うことか・・・。ゼロ様もご無事であってほしいのですが・・・。」

 

ゼロに関して個人の感情が出てしまっている神楽耶に対して、大高は不満を感じていたがそれを隠しつつ話題を修正する。

 

「彼らの決起は、中華連邦の崩壊につながる可能性があります。枢軸の動きもあります。私も閣僚と談義を重ね万全を期しますので、陛下・・・。大陸への行幸はお控えになっては?」

 

大高の心配そうな言葉を袖に、神楽耶は自身の思いを大高に告げる。

 

「中華の最終的な決定権を持っているのは天子であり、彼女の理解を得られなければいくら周辺諸国や馬や黎が動いても意味はないのじゃ。ここは妾が天子を諭す必要がある。それにロシア帝国のリュミドラ女王も動きが鈍く思う。一度それについても話しておかねばならんと妾は考えておる。」

 

「陛下の思いは理解しているつもりですが・・・。」

 

「大高・・・、ぬしの思いもわかるが、今は何も言うな。」

 

「・・・・・・。」

 

「中華連邦の乱れは、何もせねば際限なくなるかもしれん。老竜の最期の咆哮は恐ろしいものがあります。皇族である妾でしか出来ぬこともある。大高、理解しなさい。」

 

大高は、神楽耶の言葉に無言で理解を示した。そして、大高は先日の中華連邦連邦議会での事を思い出していた。

 

 

 

皇歴2018年1月8日 中華連邦連邦議会議事堂

 

連邦議会の空気はいつにもましてピリピリとしていた。

馬駒辺と黎星刻は、内心で頭を抱えていた。

彼らの視線の先にいたのは、自国の大宦官たちと東南アジア諸国の国家元首及びその代理達であった。

 

事の始まりは、大宦官たちが東南アジア諸国のブリタニアへの宣戦布告に対して、それを取り下げるように促した際に、大宦官たちが武力を仄めかしたことがきっかけであった。

 

大宦官たちの言葉に東南アジア諸国の元首たちの言葉は、その場を凍りつかせた。

 

「本国が武力を持って、我々を脅かすのであれば我々は銃火を持ってそれに応じる用意がある。戦争になれば、国内に不穏分子を抱える貴方方が困ることになる。」

 

これを聞いた大宦官の一人が声を引きつらせ応答し、東南アジア諸国の元首たちも応じる。

 

「東南アジアは火の海になるぞ。」

「それは本国もいえる事だ。」

 

「貴様らは死ぬことになるぞ?」

「それは、貴方方にも当てはまることだ。」

 

大宦官たちに対してインド軍区の代表も鋭い視線を向けている。

 

「宣戦布告しているのか!?」

「そちらが言い出したことだ。寝ぼけたことを言うな!」

 

顔を真っ青にした馬駒辺と黎星刻が立ち上がり、双方の仲裁に入る。

 

「待て!待つんだ!双方!収めよ!」

「天子様の許可なく話が進みすぎだ!!」

 

2人の必死の仲裁で、あわや開戦と言ったところを回避させたが、会議終了後。

東南アジア諸国は連邦離脱を視野に入れ、今後の関係を見直す胸を中華連邦本国に通達した。

 

 



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第44話 ティターンズ起つ

皇歴2018年2月16日 日本皇国沖縄県 万国津梁館

 

この日、沖縄では日本と東南アジア諸国では経済・社会・政治・安全保障・文化に関する地域協力を目的とした大東亜条約を締結した。

 

「ただいまを持って、アジアは新たな段階へと至りました。真の自由と繁栄のために我々は手を取り合いました!」

 

大高は各国首脳と手を取り合って、記者団にアジアの団結をアピールした。

 

大東亜条約締結は、1月8日の中華連邦連邦会議での本国と連邦加盟国との間で決定的な亀裂が走ったことに端を発している。ブリタニア他枢軸に加盟国を生贄に迎合姿勢を見せる本国に対し、加盟各国が見切りをつけたことに他ならなかった。

 

中華連邦本国では、大宦官派と先帝派・天子派の対立や紅巾党の存在が足を引っ張り、東南アジア諸国に対して硬軟ともに有効な対策が取れずにいた。

それでも、両国の国境線には兵力が増員され一定以上の緊張感が張り詰めていた。

すでに、中東や中央アジア諸国が連邦の治世が及ばない時点でかの国の明暗は見えて来たとも言えた。

 

 

 

皇歴2018年2月 枢軸連合共同分割統治領オーストラリア エリア25シドニー

 

 

ここオーストラリアのブリタニア割譲地はエリア25としてブリタニア統治下に置かれていた。ちなみに枢軸連合による割譲区分は、オーストラリア州境がそのまま使用されている。

 

ブリタニア統治範囲はニューサウスウェールズ州、ビクトリア州、クイーンズランド州、ニュージーランド。ナチス第三帝国の統治範囲は北部準州、イタリア王国の統治範囲は南オーストラリア州、西オーストラリア州。スペイン王国はタスマニア州が割り当てられた。

 

このエリア25は例外的にブリタニア王族以外の人物が統治している。カリウス・カラレス公爵、彼の就任はクロヴィスとユーフェミアが命を落とし、コーネリアも行方不明となった忌むべき土地となったエリア11の旧国家残党軍と次期に同地及び周辺で大規模戦闘が確実に行われる地域であること。ブリタニア植民地において珍しい数多くの同盟国との共同統治領であり高い外交的センスが求められることもあり、適任者と言えるシュナイゼルに次点のギネヴィアはそれぞれの理由で就任不可。一時は立候補者も現れず、異例として第一皇女ギネヴィアの推挙を受けて総督に就任した人物であった。

 

しかし、そんな彼も所詮は繋ぎ要因でしかなかったのだ。

 

総督位こそ現状維持ではあったが、上位役職が置かれることとなる。ポリネシア、メラネシア、ミクロネシア=エリア09、フィリピン・インドネシア=エリア10、日本=エリア11、オーストラリアブリタニア管理区域・ニュージーランド=エリア25を総括する大総督が置かれることとなり、これは軍の太平洋戦域司令官ダグルイス・マッカード陸軍元帥をも明確に傘下に置く強権を持っていた。

 

遡ること半月前

 

神聖ブリタニア帝国 帝都ペンドラゴン 王宮

 

「我が15番目の息子キャスタール・ルィ・ブリタニアを太平洋大総督に任じる。励むが良い。」

 

「っは。お、お任せください父上。」

 

「うむ。」

 

新役職就任の儀がつつがなく行われる。

キャスタールの就任は意外であった。

 

これは就任の儀に出席している者たちの皇族側の席での密談である。

 

「ルィ家め、これを好機と捉えたか。」

「かの者の私設軍隊なれば・・・あるいは・・・。」

 

他の皇族たちが話しているのを横に、中央の政治情勢に関して継承順位が低いゆえに疎いところがあるマリーベル・メル・ブリタニアは自分の横の席に座るカリーヌ・ネ・ブリタニアに尋ねる。

 

「ねぇ、カリーヌ?キャスタールのルィ家ってそんなにすごいの?あまり表舞台に立った記憶がないのだけど?」

 

それを聞いたカリーヌは少々馬鹿にしたと言うか困惑したと言うか。微妙な表情をしつつも親切心もあるのか一応答える。

カリーヌは視線でルィ家の席の方に視線を送る。その先には一人の老人の姿があった。

 

「ルィ家の歴史は古く初代ブリタニア公の時代よりブリタニア皇家の盟友であり、当代当主はエリア復興公社総裁とインターナショナル国債管理公社総裁を兼任、前貴族院議長でもある。ジャミトフ・ルィ・ハイマン大公、私達皇族を除けば神聖ブリタニア帝国で尋常ならざる権力を握る老人よ。」

 

「そんな、大物なの?ならなんで今まで表舞台に?」

 

マリーベルの問いに、答えたのはカリーヌの隣の席にいたギネヴィアであった。

 

「英国王エリザベス女王から、王位を継承した際に危険視され一時は追いやられたものの先々代あたりから見出され始め次第に権力を回復。今の陛下がルィ家の娘を妻に迎え入れ今の絶頂期を迎えたのよ。ルィ家の席を見て見ると良い。ジャミトフ大公の左の男を・・・。植民地支配政治団体ブルーコスモスの盟主。古くナンバーズ支配政策に最大の出資をしてきたアズラエル財閥の若き御曹司。国防産業連合理事、デトロイトに本拠を置く軍需産業アクタイオン・インダストリーの経営者、ムルタ・アズラエル。そして右の軍人、ナンバーズ政策推進派の急先鋒バスク・オム大佐。彼の第二艦隊は欧州方面所属だったがユーロブリタニア創設で引き揚げて来たばかりの遊兵。これを太平洋に充てるのであろう。」

 

「それにしても、彼らの軍服・・・通常の物とは違うのですね?」

 

マリーベルの質問にギネヴィアは淡々と答えた。

 

「軍属ではあるが、彼らはジャミトフとアズラエルの息のかかった私兵ティターンズよ。」

 

シャルルの命を受けたジャミトフはキャスタールを神輿として、私兵集団ティターンズを率いてエリア25へ入った。旗艦は大型浮遊航空艦ドゴス・ギア、周囲にはアレキサンドリア級浮遊航空艦が守りを固め、独自規格のKMFマラサイ、バーザムが搭載されていた。

これらの兵器はアズラエル財団傘下の企業主導で開発されている。

 

場面は戻りエリア25シドニー。

 

カレラスの迎えを受けて、エリア25入りしたキャスタール、ジャミトフらはカレラスの居城であった総督庁舎を接収、そこに大総督府を置く。

 

「まずは、オセアニアにおける枢軸軍の主導権を握らねばならん。キャスタールよ、煩わしい政治は儂に任せておくがいい。軍の管理もバスクにでもやらせればいいだろう。キャスタールは好きなようにすればいい。」

 

「ありがとうございます、御祖父様。ですが、僕はあの臭いナンバーズの存在が気に入りません。前線での指揮を希望します。」

 

ジャミトフの言葉にキャスタールは血気盛んな言葉を発する。それを聞いていたバスクは低く唸るような地声でガハハと笑いながらキャスタールを褒めたたえる。

 

「さすがはキャスタール殿下ですな!反抗的なナンバーズは根絶やしにせねばならんでしょう!前線で戦いたいとは!男児たれば当然でしょう!殿下には殿下御自信の親衛隊に加え、我らがティターンズの精鋭を率いていただいてはどうでしょう?」

 

ジャミトフは一瞬眉を寄せ、キャスタールの騎士であるヴィレッタの方に目をやってから視線を戻し答える。

 

「よかろう。だが、キャスタール・・・無理はするな。お主は陛下の大切な御子だ。無駄死になどはせんでくれよ。」

 

「御祖父様、僕は他の兄弟みたいに、間抜けな真似はしませんよ。」

「ジャミトフ閣下!キャスタール殿下は我々ティターンズがお守りいたします!!」

 

「うむ、キャスタール。皇子としての役目を果すのだぞ。バスクよ・・・キャスタールを補佐してやるのだ。」

 

「心得ております、御祖父様。」

「お任せください!閣下!このバスク一命を賭して職務に励みます!!」

 

「うむ。」

 

 

 

一連のやり取りの後、ジャミトフはキャスタールの騎士であるヴィレッタを残した。

ジャミトフは従者達も下がらせて2人だけしかいない。

 

「儂は、貴様が裏で何をやろうと構わん。何やら、陛下の密命を受けていることは知っている。儂らにとって少々厄介な代物であることも知っている。しかし、他ならぬ陛下の命令・・・。一介の貴族である儂が手を出そうとは思わん。故に、貴殿の帯びている密命に関して儂らは何ら関与しない。この言葉理解せよ。」

 

「っは、重々承知しております。」

 

ヴィレッタはジャミトフに深く頭を下げた。

 

 

 

皇歴2018年2月 ナチス第三帝国 ベルリン 総統官邸

 

中東の対インド戦線に、新貴族筆頭ワルター・G・F・マイントイフェル陸軍少将が入る。

出世頭である彼の中東入りはインド戦線の開戦間近を示していた。

 

そして、もう一つヒトラーの興味を引いているのはオセアニア戦線であった。

ヒトラーは側近のヒムラーやラインハルトを呼びつけていた。

 

「オセアニアにはそこそこに重要な存在がいる。極東の黄色い猿どもも無自覚にそれらを押さえている。東方の動きには気を払えよ・・・。」

 

「「ハイル!ヒトラー!」」

 

オセアニア戦線での話題はもっぱらオカルトよりであった。

 

 

 

中華連邦某所 ギアス嚮団本拠地

 

ヒトラーの手引きとV.V.の招きを受けて、神秘部アーネンエルベ局長マリア・ヴィクリート武装親衛隊中佐はいた。そしてもう一人、具合悪そうな顔色の金髪の男性ギニアス・サハリン技術少将、先のブラックリベリオンで黒の騎士団に一矢報いたMAグロムリンの開発者であった。

 

「ハインリッヒから聞いているとは思うけど。君らには嚮団に協力してもらうよ。ギニアス少将・・・試作ながらもグロムリンの性能は素晴らしいものだよ。是非教団で君の理想を実現しておくれ。」

 

「はい、サハリン家の家名にかけて完遂して見せます。」

 

ギニアスの返答を聞いたV.V.はマリアに話しかける。

 

「ヴィクリート局長には、今後も僕らのために働いてもらいたい。プルートーンも好きに使ってもらいたい。十分に腕を振るってくれよ。ハインリッヒの落とし子・・・。」

「あら、そこまで知っていらっしゃるのね。V.V.の叔父様?」

「僕の年齢の事を触ってくる時点で、君もハインリッヒから聞いているんだろう?ハインリッヒもだいぶ肩入れしているんだ。」

「えぇ・・・。」

「なら、解っていると思うけど。うまくやってくれよ。」

「はい。」

 

 

つぎの物語の幕が開けようとしていた。

 



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欧州戦線編
第45話 暗雲漂う欧州


EU、厳密にいえばワルシャワ条約機構もいるのだからEUとひとくくりに言うよりはヨーロッパ、もしくは欧州と言った方がいいだろう。

皇歴2012年の開戦から向こう5年程、欧州の状況は最悪だ。

他の地域も似たようなものだが、欧州も例にもれず最悪な状況であった。

2012年の段階ではオランダとブリタニアの戦争であったが、2年後の2014年には欧州は旧来の自由主義を掲げるユーロ・ユニバースEU、ロシア社会主義帝国に寄り添ったワルシャワ条約機構、独裁政治を掲げるナチスドイツを中心とした枢軸連合の3つの勢力に割れた状態となっており、後に枢軸連合にブリタニアが加わった形となって枢軸連合はEUとワルシャワ条約機構に襲い掛かった。

 

枢軸軍が形成されて僅か3年でワルシャワ条約機構は壊滅、EUも大半の国家が壊滅状態となった。2017年時点ですでに、フランス・ベルギー・オランダ・ルクセンブルクしか存続しておらず。オランダもすでに本土が蹂躙されつつあった。オランダが亡命政府となった頃にスコットランドが参戦してきたが焼け石に水。その後、ルクセンブルクも降伏した。

 

欧州が枢軸の手に落ちるのは確定していることであった。

 

日本人の扱いは、国によって様々で、北海道政権と関係を持っているオランダの様な親密国では日本人は比較的良好な扱いを受けているが、フランスのように表向きは良好に扱っていても日本人を奴隷兵の如く扱っている所もある。どちらでもない国、旧EU加盟国スカンジナビア連合王国のように難民扱いで放置の国もある。この辺りは一概にこうとは言えない状況だ。

 

また日本侵攻当時、総理経験者2名が外遊中と言うこともあり欧州の邦人組織の形勢が比較的早かったことは、他の被侵略国国民よりは若干マシな状況に落ち着かせられただろう。

 

日本本土で多くのレジスタンスが形成されていたわけだが欧州でも、反ブリタニアの在留日本人義勇軍が創設される。欧州各国が危機的状況のため募集年齢は例によって低い傾向にあった。中高生の年齢の兵士が前線に立つなど、欧州各国も他在留義勇軍も普通であった。政府もそれを推奨している。

 

つまりは、末期的であった。

 

 

 

それでも、2017年末に北海道政権が正式に皇国として返り咲いたブラックリベリオンの前までは、アレクサンダなどと言う多脚戦車な自称KMFによる自爆特攻が当然のように行われていた。

ブラックリベリオンの後で、日本やロシアから第四世代機の雷電やサベージ、そして初芝系輸出用第五世代機の嶺花が導入された。ただし、これはロシアが再構築しているワルシャワ条約機構軍系に流れることがほとんどで、距離的にもEU地域まで流れることは少なかった。大型兵器の輸送は難しい現状であったが銃火器他の物資支援は始まっており、邦人義勇軍の兵器の質は改善された。しかし、EUの新鋭機は当然EU優先となるのだから、義勇軍は旧式兵器で戦っている現状であった。

 

 

また、この義勇軍はヨーロッパ地域友好主要国の駐在武官が指揮を執っていた。

義勇軍の構成員のほとんどは民間人上がりの者たちばかりであり、生粋の軍人は駐在武官たちであり、存続しているフランス、ベルギー、スコットランドの駐在武官以外の主要だった亡命国家付きの駐在武官が指揮を執っており、指揮伝達能力にかなりの不安があった。

 

 

欧州邦人の代表となっている安倍川・麻田の両名は仏首相ポール・レイナールの打診を受けて、EU軍から士官下士官を迎え混成軍化が進めている。

邦人の義勇軍組織は当初、日本本国との連絡が途切れ大使館や安倍川・麻田と言った有力な政府関係者が立ち上げたものに、亡国間近の国がヤケクソで立ち上げた物、純粋に民間の有志による立ち上げの組織など統制が図れていなかった。現在でこそ安倍川・麻田の有力者筋のレジスタンスが中心であったが、そう言ったレジスタンスの中にEUの回し者的な人材も入り込んでおり、そう言った隙があった為にポール・レイナールの打診を受けざるを得なかった経緯がある。

 

このwZERO部隊、正式名称ワイヴァン特殊任務部隊もそう言った部隊の1つであり、EUの意向が強く反映されている部隊であった。

 

 

 

 

 

皇歴2017年10月フランス共和国ノール県リール 陸軍司令部

 

革命歴では228年のこの日、レイラ・マルカル少佐はジィーン・スマイラス少将と共に。陸軍司令官であるジャン・リュック・ド・ゴール陸軍大将の下を訪れていた。

 

「スマイラス少将、マルカル少佐。アジアでのイレぶ・・・ゴホンッ、日本の本土奪還に南洋アジアの決起は太平洋情勢を大きく変えた。太平洋地域において日本は反枢軸の中心国となった。日本人に対して保護施策を実施したオランダ派閥に対し、我々フランス派閥は隔離政策を選択し、日本との関係にひびが入ってしまっている。さらに、スコットランド派閥と比べても我がフランス派閥は出遅れている。それに我らがフランスは最近加盟し加わったスコットランドとも足並みが揃っておらん。難民政策において隔離政策を選択した政府の失策だよ。民衆によって成り立った民主国家が、他国とは言え民衆を堂々と見捨てた我が国の印象は悪い。」

 

「閣下。」

 

スマイラスの言葉を軽く制したド・ゴールは、軽く口元を釣り上げてわらって見せる。

 

「スマイラス、本当の事だ。どうせ、ここには我々しかおらん、気にするな。さて、マルカル少佐のwZERO部隊は、そう言ったフランスの悪いイメージを払拭すると言う重大な役目を追っていることを自覚したまえ。」

 

「っは!」

 

ド・ゴール将軍の言葉にレイラ・マルカルは力強く敬礼をして応えた。

見届け人のスマイラスは少し離れたところで見守っていた。

 

「今、民主主義と言う尊い理想は枢軸のファシズム独裁によって危機的状況にある。歴史と言うものは栄枯盛衰であり、王権独裁と言う独裁はかつて民主主義に敗れた。時の流れで今度は民主主義が倒れつつある。我々の民主主義は民衆と言う弱者を拾い上げた正義ある理想だ。独裁は民衆の力で倒せる・・・。民の国家である我が国が、それを世界に示すことが必要なのだ。フランスはもう一度立ち上がらねばならん。欧州のナチスやブリタニアから祖国を守るためにも、貴官の働きに期待しているぞ。」

 

ド・ゴール将軍から辞令を受けとったレイラは、スマイラスと共に陸軍司令部を後にした。

 

2人が車に乗り込む姿を窓越しに見ていたド・ゴールは独り言として呟いていた。

 

「民主主義の守護者、強力なフランスが先頭に立つのでなければヨーロッパは存在しないし、その再建もあり得ない。スマイラスめ、ピエウ・アノウの件があったとは言え彼女を推すとは・・・。だが、貴族を捨てて民衆と共に立ったブライスガウの娘、功績を上げればジャンヌダルクにもなれよう・・・が。」

 

ド・ゴール将軍はスマイラスの行動に靄のかかった不安を感じていた。

 

 

 

 

 

フランス共和国パリ 日本大使館義勇軍暫定司令部

 

元首相でありEU邦人組織の代表である安倍川は、安定した日本本国よりの書類に目を通す。

 

「さすがに、太平洋を押さえていない現状援軍は難しいようですね。それでも、動きは驚くほど速いですが・・・。」

 

代わりのKMFの提供は随分と手を廻したようであった。ロシア領を通り、スカンジナビア連合の黙認を経てスコットランドの支援を受けての輸送。

 

「しかし、本郷少佐。この機体をあたるのは君の子飼いらしいですが、随分と若いのですね。それに少々過激な様に思いますが?」

 

安倍川は新聞報道されているギャング団壊滅の記事を、本郷にも解る様に見せる。

本郷は東機関の指揮官本郷義昭少佐である。大高の密命を受けて、現地で諜報機関支部地盤を作ると言う任務を終え、EU東機関の実行部隊の一部を政治的な理由もあってwZERO部隊に出向させることとなっていた。

 

「民間・・・から拾い上げましたのでね。少々堅気じゃないところがありましたので、軍人という訳ではありませんよ。」

 

「まるで、厄介払いですね?」

「いえ、そういうわけではないのです。彼らは諜報部員の割にはスタンドプレーや派手好きな帰来があります。ただし、能力は折り紙付きです。諜報部員としての適性に疑問はありましたが戦士としての適性は間違いありません。」

 

「適材適所ですか?」

「はい、私はそう判断しました。」

 

 

 

フランス共和国ディエップ港

 

日本国旗を掲げた黒潮型軍用輸送船とその護衛の駆逐艦2隻を、さらに護衛して来たスコットランド海軍第一艦隊。艦隊司令長官ステファン・ヘボン中将は、自身の艦に同乗する上司グリーン・ワイアット海軍長官に視線を向ける。

 

「やはり、私はパンツァー・フンメルよりああいった機体の方が好みだよ。本国も日本機を見習ってほしいのだ。」

 

見た目を重視した発言、日本贔屓な発言の目立つワイアット長官である。

そんな彼にヘボン少将は、部下として当り障りない返答をする。

 

「パンツァー・フンメルも彼らの火力戦での勝利に倣って作られた機体ですよ。」

「私が言いたいのは、彼らの武士道の体現と言える精錬された様式美を持って開発して欲しかったと言う意味だよ。赤ちゃんのようにハイハイする人型は好みじゃない。」

 

当り障りない発言をしたつもりだったようだが、ワイアットの機嫌を損ねてしまった様だ。

ヘボンは、今後の事も考え彼の好みのそうな話題を振る。

 

「それほどなのですか?日本の新鋭機は?」

「あぁ、同盟国高官としてある程度のスペックは教えて貰ったよ。あの空戦総力を持たせるために開発された追加飛行ユニット。リフターと言ったか・・・あれはナチスのマッフユニットやフォルグユニットの上を行っているよ。そもそも、我々はマッフの自力開発すら出来てはいないのだ。」

 

「・・・・・・・・・」

 

ワイアットの自嘲ともとれる発言にヘボンは口をつぐむ。

ヘボンの様子を見たワイアットは侍従に渡されたダージリンティーを飲みながらぼやく。

 

「ヘボン君、欧州にとって辛い時代になりそうだ。」

 

 

 

 

皇歴2017年10月末

 

EU軍は大規模な反抗作戦を実施。

作戦はマジノ線を背後に戦線を押し上げ、陥落の憂いにあったオランダの解放を目的としていたのであったが・・・。

 

結果としては反抗作戦は失敗。南部の陽動作戦であった南部ドイツ領の一部に出城的にブライスガウ城周辺を手に入れたがそれだけであり、肝心のオランダは完全に陥落し、EU軍の一角を担っていたオランダ軍は大きく数を減らしたのだった。また、ロッテルダムへのナチス第三帝国空軍による大空襲によって、爆弾の大部分は市の中心部に着弾した。一部は港湾部の植物油タンクに命中して火災を発生させ、市街地への延焼を招いた。その結果、中心部の2.6平方kmが焼け野原になり、3万近い家屋や公共施設が破壊された。正確な人的被害は不明であるが、1000人が死亡し、8万人が住居を失い難民と化した。

この戦いで、EUの一角を担ったオランダは降伏。

降伏後、ウィルヘルミナ女王がスコットランドで亡命政府を樹立した。

 

 

また、この戦いでフランス派閥主導の撤退作戦において、wZERO部隊に自爆特攻作戦を実施させたとして、フランス側に日本大使館より猛抗議が行われる。

 

その結果、wZERO部隊がフランス派閥主導から日本としてはまだ信用できるオランダ派閥主導の部隊へと切り替えられることとなった。ただし、作戦指揮官として所属していたレイラ・マルカル少佐を部隊司令官として格上げし、フランス派閥の影響力を残した形で落ち着かせている。

 

 

皇歴2017年10月30日 EU軍ブライスガウ城 応接室

 

「マルカル嬢、今回の事は他言無用にお願いします。」

「は、はぁ。」

 

wZERO部隊の新米司令官である彼女の前に現れたのは、日本の諜報機関の部門長本郷義明少佐であった。

 

「ド・ゴール将軍よりお聞きかと思いますが、今回の外殻要因の暴走のお詫びとしてwZERO部隊の後方バックアップは東機関が全面的に協力いたします。」

 

紆余曲折で彼女の部隊に入った3人の日本人の少年少女であったが、スラムのギャング上がりと思って受け入れてみれば。日本の諜報組織東機関の外殻要因であった様で、おとがめなしと解っていけしゃあしゃあと顔を出してきた東機関。

と、白い目を向けるなり抗議の声を上げるなりしただろう。無名の人物なら・・・。

目の前にいる本郷少佐は事情通なら顔は絶対わからない。だけど、名前くらいは絶対知っている有名人。あのヒトラー官邸に単身忍び込み、機密文書を奪取した007も真っ青な諜報員なのだから、緊張して冷静を装うことが出来ても緊張している事には違いないのだから・・・。

 

「私たちの部隊は、外人部隊の側面もあり軍内での立場は良くないので助かりますが・・・。」

「彼らは、暴走癖がひどいですが優秀なのでね、東機関としては唾をつけておきたい。もちろん、貴女方にもですよ。」

 

日本人でありながらも日に焼けた姿はどことなくラテン系を想像させるが、陽気な話し方に落ち着いた空気を感じる特殊性が彼が日本人であることを理解させた。

 

「今後はよろしくお願いします。マルカル司令殿。」

「は、はい!」

 

ただ、この取引はスマイラス少将ではなくド・ゴール大将が取り持っていた。

はっきりとは言えないが胸に引っかかるもの感じていたレイラであったが、それを理解するのは以外と早い時期になることを彼女はまだ知らない。

 

 

余談だが、本郷少佐が実質部下になる訳でレイラは少佐から中佐へ昇進した。

 

 

 



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第46話 民主主義の守護者

皇歴2017年10月初頭 ナチス第三帝国 ベルリン 総統官邸

 

「欧州は我が第三帝国が頂いてよいのだな?キングスレイ卿。」

「構いません。皇帝陛下からはユーロブリタニア、懸案にあたらずと言われております。ユーロ・ブリタニア領は第三帝国が統治すればよいとの仰せでした。」

 

ブリタニア本国から派遣された軍師キングスレイ卿より、EU殲滅のプランが提示されヒトラー、ムッソリーニ、スランコらEUと接する枢軸国国家元首らはキングスレイ卿とユーロ・ブリタニアに作戦の決行許可した。

付け加えておくが、ブリタニア本国のユーロブリタニアの扱いに関する申し送りはナチス第三帝国にのみ伝えられている。

通常は許可ではなく通知なのだが、ブリタニアとナチスの密約の一つで欧州の刈り取りは第三帝国を軸とする取り決めがあり、それに則った形であった。

 

 

 

 

皇歴2017年11月

 

EUに止めを刺すが如き一撃が放たれる。

 

「ユーロピア市民に告げる。我らは世界解放戦線、方舟の船団だ。我々は北海洋上発電所を爆破した。愚かしき文明に浸り、堕落と言う平穏に暮らす者たちに神々の審判が下される。もうすぐ、滅びの星がパリを襲う。悔い改めよ!それが君たちが生き延びるための、ただ一つの手段だ。」

 

方舟の船団を名乗るテロリストが洋上発電所を破壊し各地で騒乱を起こしていると言う情報がEU中で広がったのであった。

 

 

 

同時期 スコットランド共和国ロンドン首相官邸

 

「困ったことになりましたな閣下・・・。」

スコットランド首相キィーストン・チャーチルは正面に座るグリーン・ワイアット海軍長官を前に渋面を隠せずにいた。

 

「いずれフランスは倒れると予想してはいたが、想定よりも早すぎる。」

 

大高に並ぶ切れ者であったチャーチルは、フランスで起きている騒乱の背後にブリタニア本国もしくはユーロ・ブリタニアがいることに気が付いていた。

 

「フランスが倒れればEUの崩壊につながりますな。いっその事、閣下がEUを掌握してはいかがです?フランスにEUをまとめ上げる逸材はいないでしょう。無論他の加盟国にも・・・。」

 

落ち着いた様子でダージリンを口に含むワイアット長官とは対照的にチャーチルはさらに複雑そうな思いを抱き溜息をついた。

 

「事はそう簡単ではない。フランスの国家元首レイノー首相はアフリカへの脱出に動いている、アフリカEU軍のド・ゴール将軍は独自の動きを見せている。フランス国内でも不穏な動きがある。我が国が主導権を握ると言うのは策の一つであることは認めるが、EUの外様である我が国がそれをやるのはリスクが大きい、政治は複雑なのだ。」

 

苦虫をかみつぶした表情をしているチャーチルに、ワイアットは軽く肩を叩いて立ち上がり首相執務室の扉に手を掛ける。

 

「政治は貴公にお任せしよう。海軍はドーバー海峡に防衛線を展開しよう。空軍もバックアップについてくれるそうだ。陸軍にも閣下から沿岸防衛の強化を指示してもらえますかな?」

 

「ああ、解っている。次の戦場は我が国だな。欧州のフランス・ベルギー軍の受け入れを始める。」

 

 

 

 

数日後  フランス領赤道アフリカ中部コンゴ入植地 ブラザヴィル司令部

 

「首相!!あんたは、本国で国民を鼓舞し続けるべきだった!!そうすれば、本国はあと1年は持ったはずだ!!」

 

ブラザヴィル司令部ではレイノー首相からの電話にド・ゴール将軍は侮蔑の混じった怒声が響き渡っていた。

 

「あんたが本国で睨みを利かせなかったから、本国でスマイラスの馬鹿が引っ掻き回しているぞ!!私は警告したぞ!!国民を見捨てて逃げた上に、ブライスガウの娘すら奴の手元に残してきおって!!首相なんてやめちまえ!!」

 

ド・ゴールは勢いよく受話器を叩きつけた。

スマイラスにそれと懇意にしていた高官たちと全く連絡が取れないド・ゴールの機嫌は悪くなる一方であった。

そんな彼に副官は恐る恐る尋ねる。

 

「こちらにいらしたレイノー首相はどちらにご案内しますか?」

「適当なホテルにでも突っ込んでおけ!!」

 

「は、はいぃ!」

 

 

 

 

同時期 ナチス第三帝国 ベルリン 総統官邸

 

ブリタニアの同盟国である第三帝国はEUで現在起きている。騒乱についてEU以上に把握し理解していた。

ただ、ブリタニア本国とユーロ・ブリタニアの間で起きている一連の出来事はヒトラーからしてみれば滑稽の一言であった。ジュリアス・キングスレイを名乗る皇帝全権がユーロ・ブリタニアのヴェランス大公から権限を奪ったかと思えば、シン・ヒュウガ・シャイングなる騎士団長代行が謀反を起こし、さらにユーロ・ブリタニアの全権を掌握。

端から見れば見事なEU攻略の作戦だが、内情を知る者からすれば醜い内輪もめの副産物であった。

 

「国際常識の凡例から考えますならば。同盟国が二つに割れた場合、中立の立場を取るのが通例です。我が総統。」

 

「常識で考えればだな。ボルマン君、私の同盟者はブリタニア皇帝だ。となれば・・・。」

 

ヒトラーの問いかけに官房長官のマルティス・ボルマンは思考を巡らせ応える。

 

「ユーロ・ブリタニアは賊ですか。」

「その通りだ、ボルマン。軍に最高のタイミングで欧州を掻っ攫ってしまうよう伝えたまえ。」

 

「ハイルッ!ヒトラー!」

 

 

 

同時期 フランス

 

『ユーロピアの市民の皆さんにお伝えしたい事があります。枢軸の情報操作に乗って、騒乱を行う事の愚かしさに気づいてください。』

 

画面に映し出された金髪の乙女。レイラ・マルカルには不思議と、人々の心に滑り込んでくる暖かさと高貴さを持っていた。

 

スマイラスの意図に気が付いた今でも、レイラは語らねばならないと理解していた。

 

『私たちは秘密裏にユーロ・ブリタニアと戦っている部隊です。』

 

流れる映像には方舟の上で戦うアキト達ワイヴァン隊の姿があった。

 

 

この映像はフランス市民はもちろんスコットランドやそれ以外のEU亡命諸国の市民達や国家元首たちも目にしていた。

スコットランド首相キィーストン・チャーチルは海軍長官グリーン・ワイアットに海軍をドーバー海峡に急遽展開させた。

日本の大高首相の意を酌んだオランダ女王ウィルヘルミナはヘンドリック・ヘイワード大佐率いるの亡命政権陸軍の部隊をブライスガウ城救援へ向かわせようと動いた。

チェコスロヴァキア亡命政府のエドヴァルド・ベルシュ大統領他と言った亡命政府首班たちもレイラの演説支持を表明し、ユーロピア市民へ自制を呼びかけた。

ポーランド社会主義共和国を中心としたワルシャワ条約機構も支援の動きを見せていた。

 

 



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第47話 欧州の末路

2017年10月 欧州 

 

ユーロブリタニア内部で起こった内部紛争において、反乱勢力が過半を掌握しEUを飲み込もうと動き出した。対するEUも空中分解と言ってもいい程に統制が取れない状況に陥っていた。

この事態を嬉々として待ち望んでいた存在がいた。

ナチス第三帝国。

このブリタニアの同盟国はキングスレイを通じてブリタニア本国と取引し、ナチス第三帝国は欧州掌握に動く。

つい先ごろまで静観していたイタリア軍はムッソリーニにの命を受けアルプス越えを敢行、スペインでもピレネー山脈にてスペイン軍と戦端が開かれていた。

ユーロブリタニアの動きを静観していたナチスドイツ軍もマジノライン沿いをユーロブリタニアに丸投げする形でベルギーへ電撃的に侵攻、オランダ亡命陸軍他亡命政権軍およびベルギー軍はリール要塞を捨て、フランス領へ逃げ込み始めていた。

 

レイラ・マルカルの演説がフランス市街地で流れる一方で、英国海軍長官グリーン・ワイアット大将の指示を受けた。ステファン・ヘボン少将率いる艦隊がドイツ海軍を警戒しドーバー海峡の封鎖に動き出した。これはフランス海軍と協調した動きである。

 

ユーロ・ブリタニア軍は精鋭兵力の大半をヴァイスボルフ城に注ぎ込んでいた。精鋭でない部隊もどこかしらの前線に配備されていた。

シン・ヒュウガ・シャイングに掌握されたユーロ・ブリタニアであったがその幕切れは意外にもあっけなかった。

ナチスドイツを始めたとした同盟国軍に後ろから撃たれたのであった。

ブリタニア皇帝の同盟者を謳うう第三帝国総統ハインリッヒ・ヒトラーはシン・ヒュウガ・シャイングをブリタニア皇帝の敵と断定し、ブリタニア本国に変わり収拾を付けると言った建前のもとユーロ・ブリタニア軍を攻撃したのだ。

EUと枢軸に攻撃されたユーロ・ブリタニアはひとたまりもなかったのであった。

 

 

また、ブライスガウの帰還に沸き立つユーロピアの市民の心を砕く一撃が、ドイツ・マグデブルグ北東のヒラースレーベンから放たれようとしていた。

 

ヒラースレーベンの砲台司令官、リヒャルト・ストーシ武装親衛隊中将はヒトラー総統からの勅命を受ける。

 

「準備は万全であります!総統閣下!」

『ゲルマン砲及び80㎝ヒトラー砲は、余の誇りとするところでもある。その威力を余の足元でいつまでも民主主義の世迷いごとに傾倒するフランス人どもに、教え込んでやるが良い。』

 

「ハイル・ヒットラー!」

 

これより数週間、この陣地より昼夜を問わずこの陣地より砲撃が放たれることになる。

この攻撃によりフランスの60%の都市は壊滅することになる。

 

「80㎝ゲルマン砲!80㎝ヒトラー砲!全問発射位置へ!」

 

電磁投射式超重砲であるこれらの列車砲は、世界最大級の代物と言えた。

警報が鳴り響く。

 

「発射要員以外は退避せよ。消化班は待機。」

「発砲同調回路修正差0,25秒!総員退避完了!防火窓閉鎖確認!」

 

準備完了の報告を受けたストーシ中将は命令を下す。

 

「全門一斉発射!」

 

ゲルマン砲台より放たれた砲弾は花の都パリを直撃した。

中腹から折れるエッフェル塔、砕け散る凱旋門、無慈悲な砲撃がパリの街並みを吹き飛ばした。

スマイラスがクーデターを起こしフランスを掌握した直後の事であった。

 

「観測班より報告!パリの被害甚大!」

 

「よし!第二射より各砲に割り当てられた目標に向けて自由射撃!!」

 

その後の出来事は散文的であり、若干の曖昧さを必要とした。

ナチス第三帝国は欧州の完全掌握に動いた。

 

フランスは本土を掌握したスマイラスと植民地を掌握したド・ゴールで割れた。レイノー首相は完全にその権威を失墜させた。一方でEUの主導権は英国のチャーチルと、フランスのド・ゴールで争われたが結局平行線で、オランダのヴィルヘルミナ女王が議長に就任する形で収まった。

ちなみにフランス本土の運命だが、前線のEU軍とユーロ・ブリタニア文字通りを吹き飛ばしたナチス・ドイツに加えイタリアとスペインにも攻め込まれたフランスは、一時スマイラスが掌握したのだが、フィリッポ・ペタン元帥が首班となった臨時政権により中部・南部フランスはナチスドイツに降伏し、以後ヴィシー・フランスとして傀儡となった。

英国の支援を受けて抵抗を続けた北部フランスであったが、3国を相手に1国に劣る地方規模では到底太刀打ちできず降伏。北部に停泊する仏海軍及び亡命海軍の多くは脱出し英海軍と合流。陸軍の一部もこれに同行した。

 

サンクトペテルブルクのユーロ・ブリタニアはナチス・ドイツ軍とブリタニア本国の討伐軍によって殲滅されることとなった。ウラル以北にいたロシア軍とワルシャワ条約機構軍も攻勢に出たが大きな変化はなかった。この騒乱でナチスドイツは枢軸軍内での権勢をさらに強めることとなった。また、ユーロ・ブリタニアの各騎士団もシン・ヒュウガ・シャイングの騒乱やその後の討伐で壊滅した。

 

そして、この騒乱で一躍時の人となったwZERO部隊とその司令官レイラ・ブライスガウであったが彼女たちのその後は非常に不透明だ。スマイラスの声明通り死亡したとする意見もあれば、英国かド・ゴールの自由フランスの庇護下にあり現在表に出ていないのは療養中とする意見。トンデモ仮説の域を出ないが日本の潜水艦で脱出し日本に保護されたとするものもある。根拠として、wZERO部隊に日本高官との接点があったというフランス人捕虜の証言がある。とは言ってもこれを挙げてしまうと傭兵になっただとか現地レジスタンスに加わっただとか根拠不明の物もたくさんあるのでこれ以上の言及は避けるものとする。

 

 



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第48話 ジャンヌ・ダルク

欧州を手中に収めたナチス第三帝国は欧州に取り残された残存EU軍を蹴散らし、ロシア帝国が守るウラル山脈の要塞群を圧迫しつつあった。ナチス第三帝国と一進一退の攻防を繰り広げていた。

神聖ブリタニア帝国はユーロ・ブリタニアの件もあり基本欧州から撤退したがブリタニアが管轄する西アジアでは攻勢を強めアラビア統一戦線が圧倒的不利な戦いを繰り広げている。

枢軸軍が欧州・西アジアを完全に手中に収めるのは目前であり、

一方でアフリカ戦線はブリタニア、第三帝国、イタリア、スペインの共同軍が担当していた。

サクラダイトの産出が少ないアフリカは枢軸が重要視していないこともあり戦線は膠着していた。ド・ゴール将軍を首魁とした自由フランス軍を中核にEU軍は戦闘を継続していた。また、ブリテン島を領有するスコットランド共和国は枢軸軍の上陸に備えて防備を固めていたが上陸されれば倒されるのは目に見えており風前の灯火であったが、EU軍の命運はギリギリのところで繋ぎ止められたのであった。

 

 

十数日後、レイラ・ブライスガウは病院のベットの上で目を覚ました。

 

「こ、ここは・・・。」

 

レイラが目を覚ましたことに気が付いた看護師は、慌てて医師を呼びに行き医師たちの診断を受けたレイラはEU軍の兵士に連れられて大きな扉の前まで連れてこられた。

 

「入りたまえ・・・。」

 

ドアの向こうの声に促されてドアを開けて部屋に入る。

さほど大きくない部屋に執務机と革張りの椅子、壁にはフランス国旗が飾られていた。

椅子に腰かけたがっしりとした大柄の軍人然している壮年男性。

フランス軍アフリカ方面軍司令、ジャン・リュック・ド・ゴールその人であった。

 

「久しぶりだな、ブライスガウ嬢・・・。」

「私は・・・・・・」

 

ド・ゴールはレイラがまだ状況を理解していないことを察するとこれまでの経緯を説明し始める。

ブライスガウ城の戦いでシン・ヒュウガ・シャイング率いるユーロ・ブリタニア精鋭を退けた彼女たちであったが、大攻勢を開始したナチス第三帝国の軍勢には敵うわけがなく城を放棄して撤退を開始した。本郷少佐の協力を得て旧ベルギーに脱出、そこで緊張の糸が切れて気絶したところまでは思い出していた。

 

その後は撤退するベルギー軍に同行し、同じく脱出するフランス軍と合流。一部はスコットランドに渡り多くはアフリカEU軍に合流するため大西洋へ出て現在に至るという訳であった。

 

「ド・ゴール将軍・・・あの、アキト達…日向大尉たちは?」

「安心したまえ無事だ。隣の控室で待ってもらっている・・・気になるなら呼ぶが?」

 

ド・ゴールがアキト達に危害を加えている訳でもなく、好意的な対応をしていることを察したレイラはひとまず息をついた。

 

「いえ、大丈夫です。私だけ呼んだと言うことは・・・。」

「理想に燃える若い将校という訳ではない様だな。本土で鍛えられたか?」

 

「・・・あそこではそうならざる負えませんでした。」

「・・・・・・そうだな。だが、ブライスガウ嬢の演説には多くの将兵が・・・ユーロピア市民が勇気づけられたのは事実だ。本国が落ちた今、アフリカのEU軍が生きながらえたのもひとえに・・・な。」

 

ド・ゴールに悪意や負の感情が無い事は理解できたが、どうにもド・ゴールの遠回しな言い回しに厄介ごとを感じたレイラは面倒ごとの気配を感じ眉を寄せた。

それを見たド・ゴールはふっと軽く笑う。

 

「ブライスガウ嬢…。」

「将軍、私の姓はマルカルです。」

「君が英雄ブライスガウの娘であるのは先の演説で周知の事実だ。君の演説で多くのEU市民が将兵が勇気づけられた。君の影響力は非常に大きいものだ。」

 

ド・ゴールは一拍置いてさらに続ける。

 

「レイラ・マルカル少佐は現時刻を持って軍を退役。EU議会議長兼オランダ王国女王ウィルヘルミナ・オラニエ、スコットランド共和国首相キィーストン・チャーチル、自由フランス軍総司令官ジャン・リュック・ド・ゴール他亡命政府首相一同の推薦を持ってレイラ・マルカル・・・いや、レイラ・ブライスガウはEU議会議長に就任することをここに決定する。また、ウィルヘルミナ・オラニエ女王陛下はEU議会議長を退任し、一議員としての職務に専念するものである。またwゼロ部隊は議長の警護部隊として扱うものとする以上。」

 

ド・ゴールの言葉にレイラはいったい何を言っているのかわからず。

 

「はぁ!?」

 

とただ一言驚きを口にした。

 

「驚くのは解るが仕方ないだろう。君の影響力はEUでは絶大、君をEUの看板にすることでEUは結束できる。兵達や市民たちは君に希望を与えた。君は彼らの願いを叶えて欲しいと思う。君が勘繰るような傀儡にしようとは思わん少なくて私はそうだ。議長としての権限は守られる。wZERO部隊は軍の部隊でもあるから君は独自にこれを動かすことも容認する。断るとは言わないだろ」

 

 

皇歴2018年8月 南アフリカ共和国ケープタウン EU臨時議事堂

 

「レイラ・ブライスガウの議長就任に賛成の方はご起立ください。」

 

自由フランス総司令官ジャン・リュック・ド・ゴール、オランダ亡命政府ウィルヘルミナ女王、ベルギー王国国王レオパルド3世、チェコスロヴァキア亡命政府大統領エドヴァルド・ベルシュ、ポーランド共和国大統領イグナツィ・モチツキシ他亡命政府や交戦団体の長らが起立して拍手を送る。

 

「新議長就任案は可決されました。」

 

レイラ・ブライスガウEU議会議長に就任。

EUは最後の持てる力を結集し、枢軸との決戦に備えるのであった。

 

 



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原作R2編
第49話 魔神が目覚める日


この頃までに起こったことを列挙していくこととする。

皇歴が2017年のうちにナチス第三帝国他枢軸は欧州のスコットランド共和国を除くほとんどをその手中に収めた。

欧州枢軸勢力の跳梁の先駆けとなったユーロ・ブリタニアの騒乱は一部重要地域を除くブリタニア本国の欧州撤退を決意させることとなる。

これとほぼ同時期に日本を中心とする南洋諸国はブリタニアより旧領を奪還。太平洋ブリタニア軍をオセアニアに押し込めることとなる。

ブリタニアもこれに手をこまねいた訳ではない。

第15皇子キャスタール・ルィ・ブリタニアを太平洋大総督に任じ、キャスタールの祖父であるジャミトフ・ルィ・ハイマンを摂政役として、対日本の布石とした。

ジャミトフは自身の私兵集団であるティターンズの武力と政治的支持母体ブルーコスモスの政治力を持って枢軸共同統治領の枢軸各国を纏め上げオセアニア内の反乱分子掃討を指揮した。

 

この動きにオセアニア各国の旧軍残党は壊滅的被害を受ける。しかし、ここで新たなる乱入者によって歯止めがかかる。黒の騎士団の参入であった、黒の騎士団は早期にオセアニアの旧軍やレジスタンスを吸収しある程度盛り返すこととなる。

 

しかし、この黒の騎士団も東京決戦以降ゼロを欠いた状態が続き追い詰められつつあるが・・・。

 

 

一方、ブリタニア、ドイツ、イタリア、スペインの統治するオセアニア枢軸共同統治領ではジャミトフ・ルィ・ハイマンが共同統治領内の主導権を握るために動いていたが、久しぶりの広大な植民地を得たイタリアやスペインは以外にも抵抗し、ジャミトフの主導権掌握は遅れ気味であった。また、欧州に派遣されていたティターンズは一部の正規軍を残して撤収を開始していた。

 

 

 

皇歴2018年9月 オーストリア エリア25シドニー エンパイアホテル

 

「これほどの規模のテロは久しぶりですね。」

「カラレスめ。案外と不甲斐ない・・・。」

 

煙の上るバベルタワーの映像を見つつジャミトフはアズラエルと語り合う。

 

「ジャミトフ閣下、この失態は少々まずいのでは?」

「問題ない。あれはヴィレッタ・ヌゥの密命関係であるし、オセアニアの統治の引継ぎはまだ途中だよ。儂はまだカラレス総督から引き継いでない。」

 

ジャミトフの言葉にアズラエルはくっくと笑いながら応じた。

 

「ックク、閣下もお人が悪い。カラレス総督も可哀そうに・・・クックック。」

「っふ、アズラエル君。儂は何もしておらんよ・・・ただカラレス総督の任期中に問題が起きてその失態のために次期総督を儂が決めねばならんと言うだけだよ。」

 

 

皇歴2018年9月 神聖ブリタニア帝国 ペンドラゴン 某所

 

王宮の秘匿区域でブリタニア皇帝シャルルはラウンズのスザクを連れて歩きながら話しかける。

 

「エリア25のエサに誰かが喰いついた様だな。」

「C.C.ですか。」

 

ドーム状の空間で靴の音や声が反響して聞こえる。まるで聖堂のようだがそれにしては暗い。

 

「まだわからぬ。枢木、ここに入れるのはラウンズでもお前が初めてだ。シュナイゼルたちも知らぬ場所よぉ。」

「光栄です陛下。しかし、どうして自分が?」

 

 

建物の中なのに霧が立ち込める異様な空間であるが、二人とも動じた様子はない。シャルルが立ち止まりスザクもそれに倣う。

 

「ラウンズの中でもお前だけが知っているゼロの正体とギアス。」

「ここは神殿?」

 

霧が晴れるとそこはまるで外の様な異様な空間であった。

スザクの困惑とも疑問ともとれる態度にシャルル振り返り答えた。

 

「違うなぁ。そう、これは神を滅ぼすための武器、アーカーシャの剣と言う。」

 

その視線は鋭利な感情を感じさせた。

 

 

 

皇歴2018年9月 オーストリア エリア25シドニー エンパイアホテル

 

ジャミトフとアズラエルの会話は続く。

 

「おや、カラレス総督の軍勢が攻勢をかけ始めましたね。おやおや、随分たくさんで・・・。」

「ふむ、カラレスが首の皮一枚で繋がるか否か・・・。いい見世物だな。」

 

テレビの映像に倒壊するバベルタワーが写される。そして、その映像にノイズが走ると画面が変わり漆黒の仮面、ゼロの姿が映し出される。

 

『私は・・・ゼロ。抗う者たちよ!私は帰ってきた!聞けブリタニアよ!刮目せよ!力を持つすべての者たちよ!私は悲しい、戦争と差別。振りかざされる強者の悪意、間違ったまま振りかざされる狂気と悲劇。世界は何一つ変わっていない・・・だから、私は復活しなければならなかった。強き者が弱きものを虐げ続ける限り、私は抗い続ける!私は愚かなるカラレス総督にたった今、天誅を下した。』

 

「ぜ、ゼロ!?」

動揺するアズラエルをよそに、ジャミトフは忌々し気に映像を睨みつける。

 

「キャスタールの騎士のくせにしくじりおったか。ヴィレッタ・ヌゥ・・・。」

 

『私は戦う、間違った力の使い方をするすべての者たちと!故に私はここに黒の騎士団を国家として建国することを宣言する。合衆国黒の騎士団、人種も主義も宗教も問わない。国民たる資格はただ一つ!正義を行う事だ。』

 

ジャミトフは映像を切るとアズラエルの方を向き尋ねる。

「カラレス総督が死んだな。次期総督は儂らの都合の良い傀儡を送ってくるだろう。さて、アズラエル理事、正規軍の取りまとめは誰が向いているかね。バスクはティターンズの指揮に充てるつもりだが・・・。」

 

「でしたらサザーランド大将辺りが適任かと。」

「では、そうしてくれアズラエル理事。儂は後始末に掛からねばならんのでな。」

 

ジャミトフは軽く口角を釣り上げて嗤った。

 

 

 

 



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第50話 ゼロの帰還

ゼロが表舞台に再登場したのを機に世界は慌ただしく動き出す。

ジャミトフとアズラエルはティターンズやブルーコスモス親派の部隊を呼び寄せる。

一方で、ゼロ関係はカラレス総督死亡のために臨時で指揮を執っていたコーネリア皇女の騎士であったギルバート・G・P・ギルフォードを一時的に臨時総督として暫定的な対処とした。

 

バスク・オム大佐はティターンズの司令官として軍権をジャミトフより委ねられ中将に出世した。二階級特進と言う異例の出世であった。欧州派遣艦隊はユーロ・ブリタニアやナチス第三帝国への援軍もしくは補完の意味合いが強い艦隊で他の艦隊に比べ小規模であったがオセアニア方面の中核戦力としてブリタニア本国にてアドゥカーフ・メカノインダストリー社やブリタニア・アナハイム社の支援を受けた拡張が行われブリタニア軍でも1,2を争う規模の両用艦隊へと成長し、それに伴う形でバスク大佐は二階級特進し中将となった。これにはジャミトフとアズラエルの梃入れがあったとされる。

 

 

皇歴2018年8月中旬 日本皇国 北海道函館 総理大臣官邸

 

知らせを聞いた大高は赤坂官房長官他副官房や高野ら軍高官、西郷副総理や桜坂国務大臣らを呼び集め臨時の大本営会議を開催した。

 

オセアニアでの黒の騎士団の破壊工作の後、黒の騎士団でゼロの帰還が大々的に喧伝されたのだ。

 

 

「ゼロが・・・。」

「はい、再び黒の騎士団の指導者に戻りました。」

「では、扇君を介した黒の騎士団の懐柔は困難でしょうか。」

「あれは、独立宣言だろう。」

「実際、黒の騎士団はゼロ親派の巣窟だからな。」

「扇要にゼロを出し抜く才覚はないよ。あれは良くも悪くも当り障りなく取り纏めるのが得意な管理職気質の男だ。」

「あの組織はゼロの愛人とやらが、結構な発言力を持っているらしいじゃないか。ゼロ独裁に戻るのは目に見えている。」

「財務省としては、黒の騎士団の援助を終了することも検討してもらいたい。国益に反する行動をする可能性がある。」

「外務省としてはその提案は反対です!ゼロは反ブリタニア、反枢軸の象徴人物です。そのような人物と関係が悪化するのは問題です!」

「陸軍としても黒の騎士団の練度の高さは注目している。彼らとの共闘体制は維持したい。」

「海軍も同意です。少々の危険はありますが、この際多少のリスクは負わねばなりますまい。陸海空の総意として申し上げるなら、オセアニアの枢軸軍が気になります。それの足を引っ張っている黒の騎士団は下手に扱わない方がいいでしょう。それに藤堂君がいますので皇国の意向を完全に跳ね除けることは出来ないでしょう。」

「なるほど。しかし、その藤堂君たちもゼロの影響されているような気がするがね?」

「多少の影響は受けるでしょうが皇国軍人である彼らが篭絡されるとは思えませんな。」

「意見の相違あるでしょうが、協力関係は維持した方がいいと思うがね。」

 

「それに中華連邦とも関係を持っていたとは・・・桐原翁の伝手を頼らずともしっかりとした外交の独自パイプを持っているようですな。」

「多くの加盟国が本国から距離を置く中での接近、ゼロの思惑は如何なものか・・・。」

 

大高らが赤坂に情報を確認する形式で、若干の脱線もありながら進んだ。

 

「ゼロの行動に協力する動きをした方が良いだろう。」

「ニューギニアあたりか?」

 

その言葉に高野が答えた。

 

「ゼロとは連携をしていませんので詳細は解りませんが、我々がニューギニアで動けば少なからずオセアニアの枢軸の目を引きつけらっるでしょう。反対意見が無ければ、このまま霞師団他に作戦開始命令を出しますが・・・。」

 

「許可します。高野総長、よろしくお願いします。」

大高は神楽耶に目配せをした後に許可を出した。

 

 

 

 

 

 

 

皇歴2018年8月下旬 エリア10パプワニューギニア

 

かつては、インドネシアやフィリピン他島嶼地域をを含んだ広範な範囲を誇ったエリア10もフィリピン及びインドネシアの決起独立を経て失陥し兵力が激減、今やパプワニューギニアと一部島嶼地域を維持するのみとなった。そしてそのニューギニアでも独立の運動は激しいものであった。

 

エリア10総督も皇族ではなく貴族総督であり、アジアでのブリタニア勢力図は好調ではなく皇族たちも総督になりたがらない地域であった。エリア24オセアニアのカラレス総督はこれに含まれないが、貴族総督の多くは傍流皇族や庶流で皇族の血が流れていたり、皇族の嫁ぎ元の貴族家(ジャミトフ・ルィ・ハイマンがこれにあたる)だったりする。ため、皇族総督主導の大勢は罷りなりに維持されていた。

 

「本国からの援軍が向かってきている!!なんとしてもここを死守しろ!全く持ってついてない!ハイマン大公爵までの繋ぎ役のはずが・・・!」

 

タウンゼント辺境伯は自身の不運を呪った。

ポートモレスビーの司令部で状況を把握するタウンゼント辺境伯は右往左往するばかりだ。

 

皇国の霞師団上陸報告を受けて応戦しているが霞師団は特殊作戦を多くこなす特殊師団であり、この戦いを皇国有利に動かしていた。

 

蛇足であるが霞師団師団長は千葉州作大佐だ。彼の姓は千葉である、勘の鋭い読者諸兄らは察しているあろうが彼は厳島の奇跡で知られる藤堂鏡志郎中佐(日本解放後軍籍復帰、黒の騎士団出向の形式をとっている)の実質的な親衛隊である四聖剣のひとりとして名を馳せている千葉凪沙中尉(藤堂同様に軍籍復帰、黒の騎士団出向扱い)の従兄である。

 

そう言った経緯からか、本作戦指揮は千葉州作大佐が自ら名乗りを上げたものであった。

紺碧艦隊が高い秘匿性を持ってパプアニューギニアへ送り届けた。

 

この上陸戦には、初芝重工製の第五世代相当機嶺花と肩部レールキャノンを装備した火力支援型の嶺花が投入されており、フィリピンやインドネシア他の同盟諸国への宣伝効果を狙ったものでもあった。この嶺花、初期は豪和インスツルメンツと島耕作の個人企業TECOTの共同開発だったが豪和インスツルメンツが自社の震電に注力したために、初芝・五洋ホールディングスが参入し初芝・五洋ホールディングスが主導した経緯がある。

そして、パプアニューギニアの各地に上陸した彼らは現地レジスタンスと協力して大いに暴れまわったのであった。

 

 

皇歴2018年8月下旬 枢軸連共同統治領ブリタニア管轄区中華連邦領事館及びその周辺

 

臨時総督に就任したギルバートは中華連邦総領事館に籠ったゼロに対して総督府が確保していた騎士団の捕虜を処刑すると宣言し降伏を迫った。

 

一方で特命任務を負っていたヴィレッタ・ヌゥはルルーシュの監視を、同じく特務のロロと共に行っていたがテロ騒動で見失ってしまう。

そして、ルルーシュは自分を追って来たロロと取引を行う。

C.C.の身柄と自身とロロの命(未来)であった。ロロに与えると言った家族としての未来はロロにとって甘美な物であったのだ。

 

 

そして、ルルーシュは遂に動いた。

 

「お前たちが信じたゼロは現れなかった!すべてはまやかしだ!奴は私が求める正々堂々の勝負から逃げたのだ!」

 

ギルフォードの黒の騎士団捕虜の処刑実行命令を下しそうとしたその時、ゼロは堂々と現れた。

 

「違うな。間違っているぞギルフォード!貴公が処刑しようとしているのは合衆国黒の騎士団の兵士だ。」

 

中華連邦に匿われた黒の騎士団のメンバーたちが歯噛みし、在留日本人やナンバーズに組み込まれたオーストラリア人たちの前に騎士団仕様の無頼改に乗って、一人で姿を現す。

 

「国際法に則り、捕虜として扱えと?」

 

その様子を見守るのはギルフォード達ブリタニア軍、黒の騎士団、中華連邦大使たち、群衆たちだけではなかった。

特務のロロ達もそうであった。

 

(出て来たね、やっぱり。でも・・・僕との約束を破ったら死んでもらうよ。ゼロ・・・いや、ルルーシュ・ランページ。)

 

この映像はナチス第三帝国やイタリアと言った同盟国は勿論、中華連邦やスカンジナビアのような中立国、日本皇国やEUと言った敵対国にも流されていた。

 

 

ギルフォードとゼロの一騎打ちが始まった直後、黒の騎士団の捕虜がいた足場が崩れ、中華連邦領事館内に落ちていく。捕虜が中華連邦の領土に落ちた時点で黒の騎士団を承認している中華連邦領土での彼らの扱いが変わる。ブリタニアは手出しができない。ブラックリベリオンの時の政庁陥落時と同じ作戦だったゼロの作戦勝ちであった。

 

この一瞬で一部のブリタニア軍と黒の騎士団が交戦し、グラズトンナイツのメンバーであるバートとアルフレッドが戦死している。

 

 

先頭終了直前にロロのKMFヴィンセントがルルーシュに迫る。

運命の悪戯か・・・魔王のあったのか。ロロのヴィンセントにブリタニア軍の誤射であろう銃弾が迫った。ロロ、危うし!

 

「しまった!こんなところでっ」

 

銃弾が彼の命を奪わんとしたとき、彼と弾丸の間にルルーシュの無頼改が立ちふさがる。

 

「どうしてっ」

「お前は弟だ。植え付けられた記憶だったとしても・・・お前と過ごしたあの時間に嘘は無かった。」

「っ!?(あの時間が嘘じゃなかった!?自分の命が大事だって言ったのに!?そんな理由でっ)」

「約束していたからな。お前をC.C.に会わせると・・・、お前の未来は俺と・・・。」

 

ルルーシュの言葉を聞いたからだったのか。

ロロはゼロに放たれたランスを防いだ。

そして、ルルーシュはロロの立場が悪くならないように自分の監視任務にあたっているヴィレッタへの口裏合わせも行った。

 

『ここまでだ!これ以上の戦闘は中華連邦への武力行使と判断する!撤退しろ!』

 

中華連邦側の言葉、双方の戦闘が完全に終了し捕虜にされていた黒の騎士団と合流した彼らは喜び合った。

そして、ロロは・・・。

 

「ぼ、ぼくは何をやっているんだ!?C.C.がいるのに!?でも…!?」

「最初から、ブリタニアには安らぎは無かった。お前の居場所はここだ。」

 

ここまでの流れがルルーシュのゼロの謀であったのだ。

彼の本心は…いったい。

 

 



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第51話 嵐の予感

皇歴2018年8月末頃 エリア10パプワニューギニア

 

「すみやかに、撤収だ。引き際を見誤るなよ。」

 

 

霞師団所属の水雷電や水中型震電に嶺花も迎えの紺碧艦隊の輸送潜水艦で枢軸の哨戒網を潜り抜け、

ブリタニア本国からの援軍来援の一報を受けて霞師団所属の水雷電や水中型震電に嶺花も迎えの紺碧艦隊の輸送潜水艦で枢軸の哨戒網を潜り抜け、その名の通り霞が消える様に撤収して行った。

 

千葉大佐の霞師団を回収した紺碧艦隊の前原一征司令は撤退間際に手に入った敵援軍の情報を見て冷や汗を流す。

 

「君!すぐに黒の騎士団の扇君にこの情報を廻してくれ!」

 

 

 

皇歴2018年8月末頃 枢軸連共同統治領ブリタニア管轄区中華連邦領事館

 

「黒の騎士団万ぁ歳!!」

「「「「わぁあああああああ!!!」」」」

 

領事館の庭園で喜び雄たけびを上げる団員達。

そんな姿を室内で眺めながらカレンとC.C.はルルーシュと今後の事で話し合っていた。

 

「さっき助けたナイトメアは?」

「星刻の領土で逃がした。」

 

「星刻?」

 

ルルーシュの問いに二人が答える。

 

「さっき話した中華連邦の人。」

「そうか、ならば私も使わせてもらうとしよう。」

「で、そのパイロットはバベルタワーに?」

 

「名前などは伏せるが、我々の賛同者と考えていい。」

「相手にギアスを使ってないのにか?」

 

C.C.の問いにルルーシュは大したことではないと返す。

 

「当面は使う必要が無くなったからな。それよりC.C.」

「ちょっと待って!私にもパイロットの事は秘密なの!?」

 

カレンの言葉にルルーシュは返す。

 

「いいだろそれくらい。秘め事を持ちたいときもある。」

「それはゼロとして?ルルーシュとして?」

 

「私たちの関係はオープンにしていないだろ。」

「ちょっと!変な言い方はやめてよ!」

 

ルルーシュはカレンの問いに冗談も混ぜて返すとカレンは顔を赤くして怒鳴った。

それを全く無視してC.C.が話を進める。

 

「組織内で、お前のことを知っているのは私たちだけだ。」

「それもそうだ。」

 

「私はこれまで通りゼロの親衛隊隊長でいいのかしら。」

「あぁ、もちろんだ。」

「わかりました。了解です。」

「よろしくたのむ。」

 

カレンの不満を感じ取っているルルーシュだが叛意ではないので気にすることなくルルーシュは部屋を出るカレンを見送った。

 

その直後、ルルーシュの手元の固定電話が鳴る。

 

「扇かどうした?」

 

ルルーシュは不敵に笑った。

 

「シュナイゼル兄さん、大高首相に次いで新たな指し手の登場だ。ジャミトフ・ルィ・ハイマン、ティターンズ総帥。随分派手な登場でないか。」

 

ルルーシュの居る中華連邦領事館の一室からも見える巨大空中戦艦旗艦ドゴス・ギアとアレキサンドリア級空中巡洋艦の大艦隊。

 

そして、その光景を見ている新たなる指し手は・・・。

 

 

皇歴2018年8月末頃 枢軸連共同統治領ブリタニア管轄区エンパイアホテル

 

『おじい様、キャスタール兄さん。御呼びいただき光栄です。』

 

映像に映るキャルタールに瓜二つの少年、パラックス・ルィ・ブリタニア、キャスタールの双子の弟である。忌み子とされる双子の弟であったがジャミトフの力でそう言った者を排除した経緯があり、二人の孫はジャミトフに忠実だった。

 

「うむ、可愛いパラックスや。爺に力を貸してくれんか。」

『はい、おじい様。』

 

「キャスタール、お主も儂に力を貸しておくれ。不届きな害虫の駆除は老体には堪えるからな。」

 

ジャミトフは孫たちと会話を済ませると、バスク達に話しかける。

 

「まずはバスク中将昇進おめでとう。そしてエイノー大佐、ダニンガン中佐、士官の諸君ティターンズは正義であることを世間に証明せねばならん。貴官らの活躍に期待しているぞ。」

『有り難う御座いますジャミトフ閣下。』

『『っは!ありがとうございます。必ずやご期待に応えて見せましょう。』』

 

バスクがジャミトフ側のモニターを軽く見回して尋ねる。

 

『そういえば、アズラエル理事の姿がありませんな。』

「あぁ、彼は新しい技術の開発者を自分の会社の研究室に出向させたくてシュナイゼル皇子と交渉している。ウランがどうとか言っていたがよくわからん。あの男が平和がどうと言いだす時は碌でもないことをするときだけだ。邪魔をしなければかまわんよ。」

 

ジャミトフの不敵な笑みを見てバスクは声を掛ける。

 

『いつにも増して自信がおありですな。ジャミトフ閣下。』

「うむ、ギルフォード卿も別任でこの地を離れる。それにイタリアの出しゃばりが儂の前に黒の騎士団に一当てしてくれる様でな。」

 

『よろしいので?イタリア人どもに機会を与えても・・・。』

「黒の騎士団がパスタ共にやられるような連中なら、このような事にはならんよ。精々、黒の騎士団に痛手を負わせてくれればいいだろう。それとバスク、パスタ共の腰が折れた後の支度は出来ているのだろう。」

 

バスクがその重低音の声で答える。

 

『ご安心を、秘策がありますのでご期待ください。』

「そうか。この件は貴様に任せよう。」

 

二人の会話にパラックスとキャスタールが被せてくる。

 

『おじい様、黒と騎士団のイレブンたちは僕たちが皆殺しにしてあげるよ。』

「うん、僕らに任せておいてください。」

 

「フフフフフ、我が孫たちは積極的で関心であるな。」

 

 

 

世界の半分を掌握した枢軸勢力。そして、それに抗うために各勢力は共闘の道を模索し始めている。

枢軸を担う指し手たち、シャルル・ジ・ブリタニア、ハインリッヒ・フォン・ヒトラー、シュナイゼル・エル・ブリタニア、ジャミトフ・ルィ・ハイマン、そしてその背後にいる存在。中華連邦の黎星刻、EU新議長に就任したレイラ・ブライスガウ、黒の騎士団のゼロ、ロシア社会主義帝国大統領ウラジミール・プーシン、そして日本皇国首相大高弥三郎・・・彼らの前に立ちはだかる敵は強大であった。

 

 

 




久しぶりの投稿で、原作見直してる。


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第52話 オセアニアへ

 

皇歴2018年9月初旬 枢軸連共同統治領ブリタニア管轄区 エリア25シドニー

 

オセアニアの主導権を望んだイタリアの総督府であったがこの場に記す必要がないほど当たり前のように出し抜かれ、結局ティターンズが主導を握ったのであった。

 

ジャミトフは自身の孫の皇位継承に取り組んでいた。

彼は手札となりそうな戦力を搔き集められる搔き集めた。

ティターンズ本隊、太平洋大総督としての正規軍への影響力、オセアニアの枢軸諸国を纏めるイニシアチブ。そして、エクステンデット達・・・。

さらには、ナイト・オブ・ラウンズの枢木スザクやジノ・ヴァインベルグ、アーニャ・アールストレイムを本国の皇帝シャルルとの利害の一致もあってか呼び寄せることに成功した。

黒の騎士団、日本皇国とそれに与する国々を叩き潰すための手札がジャミトフの下にはあった。

 

シドニー・オペラハウスを貸し切って催された大総督府開府式典では、大総督に就任したキャスタールとその庇護者たるジャミトフの挨拶があり、キャスタール皇子とパラックス皇子の中核戦力たるティターンズの総司令官バスク・オム中将の演説が打たれた。

 

 

「・・・省みろ!!今回の事件は太平洋地域の静謐を夢想した、一部の楽観論者が招いたのだ!黒の騎士団や北海道軍の決起などはその具体例一例にすぎぬ。また三日前、イタリア管轄区でのテロは見るまでも無く、我々は様々な敵に晒されているのだ!生ぬるい融和政策などは捨て去りブリタニアに真の力を再びこの手に取り戻すため!ティターンズは立つのだ!」

 

バスク・オム大佐が演台で演説するのを尻目にジャミトフは参列者席に座っていた。

 

「姫殿下、我が孫の為に・・・否エリア25の安寧のために足を運んでくれて感謝する。」

「このグリンダ騎士団創設にあたって多大な出資していただきました御恩。微力ではありますが無辜の民の為にも使って行きたく思います。」

 

「うむ、儂もグリンダ騎士団には期待している。」

「はい、心得ておきます。中華連邦での任が終わり次第駆け付けさせていただきますわ。」

 

「陛下のお役立ての為にも、研鑽を積むことだな。」

「はい、心得ておきます。」

 

ジャミトフに挨拶をする、うら若き少女マリーベル・メル・ブリタニア。

第八十八皇女マリーベル・メル・ブリタニア、対テロリスト部隊グリンダ騎士団の騎士団長である。対テロリストと言う方向性はティターンズと共通する部分もあり、ジャミトフやアズラエルから援助を受ける機会が多かった。

今回はティターンズの所信表明演説の式典が終了後中華連邦の威海衛へ向かう手はずに成っている。大宦官の専横から始まる国体の崩壊は諸外国からすでに看破され、大宦官から繋がるブリタニアやナチス第三帝国、社会主義者派閥から介入を狙うロシア社会主義帝国、連邦加盟国を切り崩している日本皇国と中華連邦を政治的に取り込む争いは多数派の大宦官派と繋がるブリタニアが一歩リードしていた。

ちなみにロシアは帝国社会主義者の多い紅巾党と連邦加盟社会主義国、日本皇国は王室外交の賜である天子派や先帝派と連邦加盟国王室との協力体制が出来ていた。

ブリタニアは浮遊航空艦グランベリーを有する対テロ遊撃機甲部隊グリンダ騎士団を護衛に付け神聖ブリタニア帝国宰相シュナイゼル・エル・ブリタニアを大宦官との密談のテーブルに着け、これは一方でブリタニアと第三帝国が主導する中東・インド軍事的緊張がカザフスタン侵攻を開始したことにより予断を許さぬ段階に入ったことと。第一皇子オデュッセウスの穏健発言もあって決定されたことであったが、これがなれば世界の過半を支配することとなり世界のパワーバランスにチェックメイトを掛ける最大の一手となるのだ。

蛇足だがオセアニアの式典にはシュナイゼルも出席している。

 

 

皇歴2018年9月上旬 ブリタニア本国 アクタイオン・インダストリアル社

 

「いや~!ようやっと!君をこちらに呼び寄せること出来たよ!君の持っている核融合技術は我が社も大変興味があってね!あ!シュナイゼル皇子の様な大業な物を作れとは言ってないよ!もう少し簡便なものをだね。作ってくれればいいんだよ。」

 

両手を広げて歓迎するアズラエルに招かれた少女、ニーナ・アインシュタインは一歩引いて怯えているような仕草をする。

 

「君、我が社の兵器は・・・黒の騎士団とかのテロリストを倒すための兵器を作っているんだ。コーネリア皇女やユーフェミア皇女の無念を晴らすためにも、前線に強力な兵器を配備することが必要なんだよ。」

「ユーフェミア様・・・!」

 

アズラエルはニーナの両肩を掴んで言い聞かせる。

ニーナもユーフェミア皇女のワードに強く反応した。

 

「やってくれるかな?」

「はい!」

 

「よし!では、ロスアラモスの研究施設で研究を進めてくれたまえ。」

 

 

 

 

皇歴2018年9月8日 神聖ブリタニア帝国 カリフォルニア基地

 

「クロヴィス皇子、コーネリア皇女、ユーフェミア皇女を害し、エリア11やエリア10の独立の立役者であるゼロが復活宣言を出して、オセアニア総督のカレナス総督を亡き者にしたのだ。仮に本物でないとしても侮りすぎだろう。ギルフォード卿も邪険にして・・・視野が狭いな。」

 

空軍区画の浮遊航空艦、ログレス級浮遊航空艦を眺めつつ。太平洋大管区の連合艦隊司令であり、前任のダグルイス・マッカード陸軍元帥の退役により太平洋戦域司令長官に就任したウィリアム・サザーランド海軍大将は馬鹿にするように口にした。

 

「視野が狭いのは同意ですね。しかし、第一艦隊の提督を解任され彼も後がないですからね。我々と同行して成功させても功績としては薄いですから。」

 

副官の男は諫めつつも同意した。

 

「ジャミトフ閣下もアズラエル理事も新しい総督については大して気にしていないから、問題ないが・・・アプソン大将は随分焦っているな。どの道尻拭いをさせられそうだ・・・準備が整い次第、我々も出向くとしよう。」

「わかりました。」

 

サザーランドの艦隊は、先の戦いで壊滅したキンメルの東太平洋管轄第5艦隊を再建、それを自身の中央太平洋管轄の第6艦隊に吸収し、さらに洋上でインド洋に退避していたモルガン提督の西太平洋第7艦隊と合流する手はずになっており万全を期した布陣でオセアニアに向かう予定であった。

 

 



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第53話 奇襲、太平洋

 

『新総督は明日予定通りに、このエリア25に赴任されます。新しい総督の名前や経歴は依然伏せられたままで・・・。』

 

ニュースの映像が流れる。

 

 

 

皇歴2018年9月10日 中華連邦本国首都 洛陽

 

皇室外交の一環で日本皇国の天皇である皇神楽耶とロシア社会主義帝国リュミドラ・ニコラエヴナ・ロマノフ女王は中華連邦本国、つまり清王朝の天子である蒋麗華と席を設けていた。

 

「エリア25の情勢は?」

 

大宦官の1人である趙皓は現在枢軸と敵対している日本とロシアの二人の皇女に尋ねる。

 

「さぁ、詳しい事は私も・・・。」

「ウラジミールは、厄介な過激派が赴任して面倒だと・・・。」

 

大高に目を掛けられている神楽耶はとぼけて見せたが、リュミドラは神楽耶ほど政治や外交に敏感なわけではないので話してしまう。

 

「外の様子はどうなっているのですか。私はここから出たことが無いので・・・。」

「えっとですね。ウラジミールは色々教えてくれましたよ。ロシアは永らく凍土に閉ざされた無資源国扱いだったのですがヨーロッパ側には天然ガスのパイプラインがあって欧州の国々に輸送していたこともあったんですよ。それで、最近はシベリアにサクラダイト鉱山があって中華連邦にも輸出しているんですよ。で、えっとそれでですね!最大の小麦輸出国でパンやケーキが一杯食べれるんです。私はパイを焼くのが得意なんですよ!ただ、私は果物をそのままパイにするよりはジャムを使いたいですね。あっちの方が甘くておいしいんですの。この前もウラジミールたちに焼いてあげたらそれは美味しい美味しいと・・・。」

 

同年代の女の子と話す機会に恵まれなかったリュミドラは信じられない程に饒舌で天子に話しかけまくっていた。神楽耶とも話す彼女だが精神年齢がリュミドラの先を行く神楽耶との会話では畏まってしまう事が多い彼女としては精神年齢が近いと言うか同じ依存体質の天子とは話が合うようであった。

 

「リュミドラ様、お国のお話はとても興味深いですが・・・。」

 

天子には外の話を聞かせたくない趙皓はリュミドラの話を遮り天子の方に向き直る。

 

「天子様、ここ洛陽が朱禁城が世界の中心ですよ。」

「でも・・・。」

 

趙皓に話を遮られた天子は残念そうにすると神楽耶は話しかける。

 

「では、私が外を見てまいります。」

「えっ?」

「今日はお暇を告げに来ましたの。」

「「えっ!?」」

 

天子とリュミドラは心底驚いたような顔をする。

神楽耶とリュミドラは一緒に外交の工程をこなしているはずなのに、お前はなぜ自分のスケジュールを忘れているんだと思ったが顔には全く出していない。

 

ちなみにリュミドラはプーシン大統領に依存し過ぎておりプーシンもリュミドラを甘やかしており、プーチン大統領とリュミドラ女王が訪日した際にリュミドラのウラジミール離れをさせると変な気を起こした神楽耶と一緒に外遊中である。ちなみに心配するプーシンを説得したのは大高である。

 

「そんな、せっかく初めてお友達が出来たのに・・・。」

「もうしわけありません。あまり、こちらに長く居すぎるのも次の方々にご迷惑を掛けてしまうので・・・。」

 

神楽耶たちは東南アジア各国や南洋諸国、東方エルサレム共和国と行先は多く多忙であった。

 

 

 

皇歴2018年9月11日 太平洋 エリア08ミクロネシア上空

 

エリア25オセアニアの中華連邦領事館を訪れたスザクたちはゼロたち黒の騎士団がすでにKMFごと領事館にいないことを知る。

 

アプソン率いる護衛航空艦隊は日本皇国の占領下にあるハワイ諸島を避け、エリア08ポリネシアを経由してオセアニアへ向かった。旭日艦隊、高杉艦隊、坂本艦隊が守るハワイを避けた結果でもあった。今やパプワニューギニア以北は日本の影響下、インド洋海戦の傷は既に癒えた日本艦隊は日本本土に再建した紅玉艦隊、インドネシアの租借地に東郷艦隊と亡命オランダ艦隊、ミクロネシア秘密要塞に紺碧艦隊が配され、新設された蒼玉艦隊も東京湾で出撃命令を待っている状態で、太平洋の半分は日本の海となっていた。

 

日本軍の勢力圏を避ける選択は間違いではなかったが、それは逆を言えば黒の騎士団に対しては警戒が薄めであると言う事でもあった。

 

予想通りと言うべきか予定調和とでも言うべきか。新総督を乗せたアプソン大将の護衛艦隊は黒の騎士団の奇襲を受けていた。

 

すでに旗艦へゼロの侵入を許しており、護衛の航空戦力や艦船の大半が藤堂らの黒の騎士団に壊滅させられていた。

 

艦上で暴れまわっていた藤堂、千葉、仙波、朝比奈らに対して銃撃を仕掛ける存在が現れる。

 

「オーストラリアからの援軍!?いや、早すぎる。」

 

千葉の言葉に藤堂がそれはたぶん違うと続ける。

 

「いや、方角からしては後ろ備え・・・それにフロートユニットを装備した機体・・・、それにあの機体は・・・。」

 

カレンもその期待を確認するが、驚きで声がこわばる。

 

「ナイトメア!?そんな!あ、あの機体はっ・・・」

 

 

 

 

 

「さあ、幕を下ろそう。」

 

新型機であるヴィンセントに乗ったギルフォードだった。

そして…

 

「ギルフォード卿、我々がエリア08の哨戒中で都合が良かったですな!」

「うむ、協力感謝する!ブラン少佐!敵は手練れ、油断はしないでくれ。」

 

「あぁ、もちろんですよ。このアッシマーに相応しい相手だ。」

 

 

 

 

 

浮遊航空艦アヴァロンに追従するガルダ級超大型空中輸送機スードリ。

 

「スードリのウッダー大尉より攻撃を開始するとのことです。」

 

スードリからの通信内容をロイドに報告するセシルはスードリから出撃する機体に視線を移す。

 

ド・ダイ系のサブフライトシステムに乗るサザーランド・クゥエルとマラサイ。そして円盤のような独特の形状のMA(メタルアーマー)アッシマー。ティターンズの独自機体だ。

 

「今だ!紅月君!」

「はい!」

 

藤堂とカレンは連携して改良型グロースターを撃墜し、朝比奈や千葉らもサザーランド・クゥエルやマラサイを撃破して行く。

 

「ほぉ、練度は高いようだな。ぬぅ・・・!?」

 

黒の騎士団の無頼が放ったバズーカがブランのアッシマーに直撃する。

 

「散弾ではなぁ!!」

「うわぁああああああ!?」

 

ブランの反撃で周りの僚機ごと逆に撃墜される。

 

 

さらに、カレンの前にいた無頼がスラッシュハーケンで撃破される。

その方向を見ると新手の新型機が2機。

 

トリスタンとモルドレッドを駆るジノ・ヴァインベルグとアーニャ・アールストレイムであった。

さらに、アーニャのモルドレッドは操舵を失い旗艦にぶつかりかけていた艦を砲撃を持って一撃で葬った。

 

 

 

「レーダーに航空機多数!サザーランド大将の連合艦隊所属のスピアヘッド戦闘機群です!」

「このままでは、私の功績が・・・!!」

 

アプソンは無謀にも自ら対空射撃を行おうとしたが、藤堂に返り討ちに会って戦死する。

 

 

 

その頃、ゼロことルルーシュは新総督として赴任した妹ナナリーと邂逅する。

 

ギルフォードにブランら、そしてナイトオブラウンズと防衛側に強敵が加わり、エリア08の駐留軍や後続のサザーランド大将の連合艦隊、オセアニアのティターンズが集結しつつあって黒の騎士団は不利になっていく。

 

そんな中で卜部に続き仙波もジノのトリスタンに倒され戦死し、藤堂もギルフォードに苦戦し始める。

 

さらに艦上では・・・

 

「俺の目から逃げられるかぁ!」

「っく!こいつっ!」

 

ブランのアッシマーとカレンの紅蓮弐式が激闘を繰り広げていた。

 

さらに、アヴァロンからスザクの乗るランスロットが発艦し、カレンの紅蓮を艦上から落とすと他の黒の騎士団も次々と落とされていく。

 

カレンの機体が落下する先に騎士団の潜水艦が浮上しているのが見え、ラクシャータからの通信が入り新兵器飛翔滑走翼を射出され見事にドッキングする紅蓮弐式。

 

『続けて、徹甲砲撃右腕部!』

 

さらにドッキングを成功させた紅蓮弐式は右腕を天高く掲げ、輻射波動が放たれる。

 

ギルフォードのヴィンセントを撃破し、サザーランド・クゥエルや周囲のスピアヘッドやファイティングファルコンと言った戦闘機を消滅させた。

 

「ぐぉおお!?」

 

輻射波動の余波を受けてぐらつくブランのアッシマーを海に叩きつけて、アーニャのモルドレッドを踏みつけ、獅子奮迅の戦いぶりを見せつけるカレンと紅蓮弐式。

 

 

そして、沈みゆくナナリーを乗せたログレス級浮遊航空艦ではゼロの正体を知らないナナリーはルルーシュではなくスザクの手を取り・・・。

 

 

撤退する黒の騎士団、その後から来援するサザーランド大将率いる太平洋大総督府連合艦隊。

 

「ナナリー新総督の身柄を確保せよ。」

 

サザーランド大将はナナリーの身柄を確保し、ラウンズやティターンズを引き連れてオーストラリアへ凱旋した。

 

 

 



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第54話 新総督就任式典事件

 

皇歴2018年9月20日 エリア25ゴールドコースト 太平洋大総督府

 

新総督に就任したナナリーはタブー視されている行政特区構想を発表し、物議を醸しだした。過激派の大総督と穏健派の総督は若干の不協和音を奏で、対立とまでも言わなくても不穏な空気が流れていた。

神聖ブリタニア帝国、ナチス第三帝国、イタリア王国、スペイン共和国が共同統治するオセアニアは現在ティターンズとブルーコスモスの権威を持ってブリタニア主導で纏め上げていたが、ナナリー新総督の発言は枢軸同盟国の不信を煽る物でもあった。

太平洋大総督キャスタール・ルィ・ブリタニアはナンバーズに対する虐殺を推奨する過激派であり、大総督親衛隊キュクロープスを創設し隊長に弟パラックスを据えた。また、祖父はティターンズ総帥ジャミトフ・ルィ・ハイマンで、その後援者にブルーコスモスのムルタ・アズラエル軍産複合体理事と多くの過激派士官がキャスタールを支持し、総督ナナリー・ヴィ・ブリタニアに対して反発は強かったが、スザクやジノ、そしてアーニャと言ったラウンズの支持を受けて絶妙な感覚で均衡を保っていた。

 

その状況はある意味、日本にとって付け入る隙であったが日本は介入に消極的であった。

ナチス第三帝国のインド侵攻に対する援軍準備や中華連邦入りしたシュナイゼルらへの警戒、シュナイゼルに対して東南アジア諸国と対策を協議する等と日本皇国が重要視する物事はオセアニア以外にもあるのだ。

現状、オセアニア方面はパプワニューギニアを最前線として膠着状態に陥りつつあり、オセアニア枢軸も黒の騎士団への対処もあって北上する様子はなく、フィリピン軍やインドネシア軍を援助することで表面上の平穏を維持することが出来ていた。

日本の興味は一時西方へと向けられていたのであった。

 

日本皇国の横槍がほぼないこの時期にゼロは決断する。

スザクの指揮した黒の騎士団討伐作戦が失敗し、ゼロの方から歩み寄る形でナナリーの特区への参加を宣言したのだ。

 

『私はナナリー総督の命令を受け入れよう。そう、特区構想に参加しよう。ゼロが命じる黒の騎士団は全員特区に参加せよ!』

 

だが、ルルーシュは失念していた。ナナリーは確かにエリア25の総督であった。だが、その上の大総督はキャスタールであり、ジャミトフのティターンズでありアズラエルのブルーコスモスであることを…。

 

大総督府の軍令部に詰めるサザーランド大将とバスク・オム中将はナナリー総督の特区構想に対しては侮蔑の感情を持っていた。

 

「全く、愚かなことだ。そうは思わんかねバスク中将。」

「えぇ、その通りです。害虫は踏みつぶす・・・それが正しい判断、蛆虫や蠅に慈悲を与えてもそれを理解する頭はないでしょうからな。」

 

そんな会話をする二人の前にジャマイカン中佐が告げる。

 

「G3の運び込み完了しました。」

「よくやったぞ中佐。」

 

バスクは「グフフ」妖しく嗤った。

 

「ラウンズにも死者が出るかもしれんが、ゼロと黒の騎士団を一網打尽にできるのなら彼らも本望と言うものだろう。」

 

 

 

 

皇歴2018年9月21日 エリア25行政特区式典会場

 

ゼロの言葉もあってオセアニア在住の日本人含め多くのオーストラリア人たちが集まっていた。その数200万、ゼロの言葉は反ブリタニアの人間たちにとって非常に影響力が強いと言う事なのだ。

 

『皆さん、オセアニア行政特区へようこそ。たくさん集まってくださって、私はとてもうれしいです。新しい歴史のためにどうか力を貸してください。』

 

ナナリーが演説する場所から離れたところで警備の名目で浮遊待機しているアレキサンドリア級浮遊重巡洋艦。

ジャマイカン中佐の横で楽し気にしているパラックス・ルィ・ブリタニア。

 

「うわぁ!!中佐!!ゴミクズ達がこんなにたくさん!!楽しみだね!!」

「左様でございますな。」

 

ナナリーの補佐のアリシア・ローマイヤが取り決めを読み上げる。

 

『それでは、式典に入る前に私達がゼロと交わした確認事項を読み上げます。帝国臣民として行政特区日本に参加する者は特赦として罪一等を減じ、3級以下の犯罪者は執行猶予扱いとする。しかしながら、前総督の殺害など指導者の責任は許しがたい。エリア憲法12条第8項に従いゼロだけは国外追放とする。』

 

『ありがとう!ブリタニアの諸君!!寛大なる処分痛み入る。枢木スザク、忠誠とはなんだ!言語か土地か血の繋がりか!』

 

「違う!それは心だ!」

 

『私もそう思う。自覚、規範、矜持・・・つまり、文化の根底にある心さえあれば。それはその祖国の人間なのだ。』

 

(それと、ゼロだけが追放されることとどう違うんだ。)

 

黒の騎士団やゲットーの住民たちは目くらましの煙幕をまき散らす。

 

警備にあたっていたラウンズやギルフォードらが展開し始める。

一方で、アレキサンンドリアのジャマイカンは混乱していた。

 

「G3は起動していないぞ!」

 

 

煙幕が晴れるとゼロの仮面をつけ群衆。

 

『ナナリーの新総督の御命令だ国外追放処分を受け入れろ!どこであろうと、心さえあればそこが故郷だ!さぁ!新天地を目指せ!』

 

「俺たちはゼロだ!国外追放されようぜ!」

「俺たちはゼロだ!」「いざ!新天地へ!」

 

 

ナナリーを避難させていたローマイヤはその場の指揮を執る。

 

「うろたえるな!ここにはラウンズも・・・!?海氷船!?中華連邦の!?」

「ティターンズのバスク中将からです。」

「こんな時に!?」

 

無線電話を受け取ったローマイヤはバスクと会話を重ねるうちに真っ青になっていく。

「G3ガスですって!?」

 

受話器からバスクの声が聞こえる。

 

『ローマイヤ婦人、このガスマスクはお譲りしよう。今後は、シュナイゼル皇子だけじゃなくキャスタール皇子にも気を利かせてくれればよい。』

 

電話が切れると同時に新たにガスが流れ出す。

今度はG3ガス、毒ガスだ。

 

簡素なゼロマスクでは毒ガスは防ぎきれない。

毒ガスは群衆に迫る。さらに言えばナナリーに従う穏健派とは言えブリタニア将兵は毒ガス攻撃に際しての備えは最低限で人数分は無く。持ち場を離れ逃げだしたり、少ないガスマスクを奪い合うなどの醜い争いをしていたりして指揮系統が崩れかけていた。

 

「どういうことだ!ローマイヤ!」

「わ、私は詳細は知らない!ティターンズがやったこと!だが、見せしめとして殺すのは間違ってはいないでしょう!」

 

『これがブリタニアのやり方か!黒の騎士団!ゼロ達を守れ!!』

 

海氷船の黒の騎士団はG3ガスの噴出口を破壊しつつ、避難誘導を開始する。

 

ギルフォードやスザクらラウンズの指揮下の部隊は機能していたが、ティターンズのやり方に思うところがあり兵士達は黒の騎士団を見逃した。

 

 

これらの要素があったとは言えマスクであるゼロ仮面のおかげで、群衆の多くは助かった。

事件の真相はティターンズが報道規制を行ったため極秘扱いとなり、激発的な伝染病と公表されたが、ティターンズの所業は一定の位の人物達には公然の秘密となっていた。

 

 

 



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第55話 台湾の老龍

 

皇歴2018年9月24日 エリア25ゴールドコースト 太平洋大総督府

 

「おじい様、申し訳ありません。」

「閣下に恥をかかせることになってしまい申し訳ありません。」

 

パラックスとバスクはジャミトフに謝罪する。

 

「次に生かせばよい。黒の騎士団や不穏分子たちが、ゼロと一緒にこのエリア25から居なくなったことは良い事だ。黒の騎士団が居なくなれば、残りの雑多なレジスタンスなどは物の数ではない。太平洋大総督府軍を編成し北上する準備ができるであろう。場合によっては本国も第三帝国とインドに侵攻する名分になる故に一概に悪いとは言えんのだよ。」

 

ジャミトフはキャスタール、パラックス。そしてサザーランド大将とバスク中将に命を下す。

 

「キャスタール、大総督として軍の編成をせよ。パラックス、そしてサザーランド大将、バスク中将、キャスタールを補佐し北伐軍を組織せよ。」

 

「「お任せください。おじい様。」」

「「お任せください。ジャミトフ閣下。」」

 

 

 

 

 

皇歴2018年9月24日 中華連邦蓬莱島黒の騎士団租借地

 

中華連邦は世界最大の人口を誇る連邦国家。しかし、その実態は瀕死の老人と言っていい。国家の象徴たる天子、その天子を陰で操る支配層が専横を極めており加盟国の多くとの関係を悪化させ、人民は貧困と停滞によってその活量を日に日に減退させていった。

オセアニアを脱出した黒の騎士団が向かったのは中華連邦蓬莱島。途中、日本皇国海軍東郷艦隊に捕捉され、日本への帰国や同盟国及び亡命政府の保護下に入ることを望むもの達たちのみを引き渡した。

 

黒の騎士団はゼロについていくことを望んだ多くの者たちと共に新天地へと目指したのだ。

 

蓬莱島は江蘇省黄海に浮かぶ潮力発電用の人工島であり、中華連邦はそこを貸し与えた。

事前に話がついていたとはいえ、これが政治的にいかなる意味を持ち、どのようなことを引き起こすのか。それは順々に解ってくることだ。

 

「インドから新しい機体が届いたぞ。」

「インドも独立したがっているから協力的だしな。」

 

 

インド軍区からはラクシャータの伝手で、暁と呼ばれる新型の量産機が送られて来ており日本皇国からも在庫処分とでも言わんばかりに無頼が送られてきた。また、研究用やら何やらで少数配備されていた月下も東南アジア諸国を経由して送られてきた。そして送られていた人材の中には日本皇国の天皇皇神楽耶の姿もあったのだ。

 

「ゼロ様ぁ!」

 

神楽耶の心情等は後述するとして、日本のKMF等の兵器事情を説明しよう。

皇国内でも嶺花や震電と言った第五世代機に更新が完了し、それらのマイナーチェンジで第六世代相当機としての更新も始まっている。第七世代機の開発が遅れているが飛行能力を擁する機体になる予定である。そして、現在皇国海軍の主力である水雷電もポートマンⅡ並には戦える機体であり、武装によってはナチス第三帝国のズワイとも渡り合える。旧式化してきた雷電も度重なる改修によって第五世代相当の性能を維持している。この雷電は総じて雷電改と呼ばれる。長い言い方をすると雷電改改・改修型と言いづらくなってしまう。

とは言え、黒の騎士団に送られたのは皇国に取り込まれたレジスタンスの無頼や月下、そしてグラスゴーやナイトポリスの鹵獲機であった。

 

では、神楽耶の方に戻そう。

彼女は、ゼロの嫁を自称しているが大高や宮内省は認めていないので非公式だ。

そんな彼女だがゼロと親しくなろうとしているのは、大高あたりの付き合いが長い人物なら察せるだろう。そして、皇国本国には軍属の桃園宮は別として今まで皇室外交をしていた駒条宮が本国に残っている。

 

神楽耶はゼロに天子の結婚について知らせに来ていた。日本皇国と黒の騎士団は距離を取りつつも協力関係にあり、皇国の諜報組織ともつながりのある神楽耶ならゼロの所在も大凡掴めると言うものだ。詳細を詰めるために諜報部に強権をちらつかせたり、黒の騎士団末端に問いただしたりもしたようだが・・・。

 

天子の婚約相手は帝国第皇子オデュッセウスであり、彼本人の考えは別としても中華連邦が親ブリタニアに傾く可能性が高い。ただし、ブリタニアと敵対している日露にも招待状を出すあたり、中華連邦としては当分八方美人を続けるつもりだろう。

大高は万が一の際に東南アジア諸国に神楽耶の保護を依頼していたし、皇国軍も動けるようにしていた。ロシアも同様だ。

 

ゼロもすぐに知ることだが、中華連邦との交渉はグリンダ騎士団を用いたシュナイゼルの高圧的な外交もあった。マリーベル・メル・ブリタニア率いるグリンダ騎士団が紅巾党を壊滅させたことも大きい。ただ、そのグリンダ騎士団はスペインのスランシスコ・フランコ総統の招きでスペインに渡っていた。

 

神楽耶との面会を終えたルルーシュは席を立ち、カレンとC.C.を連れて蓬莱島を出る船に乗り込む。

 

「どこへ行くの?」

「台湾軍区だ。」

 

 

質問するカレンに対して台湾軍区へ行くと告げる。

 

「では、行政長官の馬駒辺か。奴は先帝時代の丞相だった男だ。」

 

C.C.の言葉にルルーシュは違うと答え、目的の人物の名を告げる。

 

「昨日、台湾の病院で数年ぶりに目を覚ましたらしい。中華連邦本国、清王朝先代天子溥儀だ。」

 

皇歴2018年9月25日 中華連邦台湾軍区

 

ゼロの面会希望は以外にもすんなり通った。

先帝溥儀は、もはや死を待つばかりの老人。生命維持装置なしには生きていけないくらいの老い先短い老人であった。それ故に、ゼロの面会書類は大宦官たちの強引なルートを用いたものであったが大宦官自身はさほど気にするものではなかった。

また、大宦官の伝手を通った申請書は台湾行政長官馬駒辺の目を通る前にゼロ達が台湾に上陸してしまう程の速さで通してしまっていた。

 

「ルルーシュ、こんな死を待つ老人に会う意味があるのか?ギアスを掛けるにしても使い道があるとは思えないが・・・。」

 

ルルーシュは軽く口角を上げて応えた。

 

「かの老人には申し訳ないが最後の大仕事をしてもらう。」

 

ルルーシュの行動は彼の計画の予想を超える事態を引き起こす。

そして、先帝溥儀の人生において最も苛烈な時を過ごさせることとなる。

 

 

 



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第56話 決意

皇歴2018年9月25日午前中 中華連邦台湾軍区台北総合病院特別貴賓室

 

ゼロは病院の貴賓室に通される。警備の兵をギアスで遠くにやるとゼロは溥儀の居る病室の扉を開ける。

齢100近い老人は全身に管を付けながらも辛うじて上体を起こす。

 

「君が、ゼロか。この老人に会いに来るとは箔付けにしても、もっと良い相手がいたのではないかな。」

 

テレビもなく調度品もほとんどない広いだけの清潔な部屋であった。カーテンが閉められ電気の光が目についた。

皇帝としての威厳も感じられず。人生の最期を待つ老人の姿があった。

だが、ルルーシュは彼に言葉を掛ける。

 

「先帝陛下、貴方はなぜここにいる。」

「・・・・・・。」

 

ルルーシュの言葉に彼は何も答えない。

 

「大宦官が専横を極め、他国にいいようにされ民が傷つく今の国を見てどう思う。」

 

テレビ無くもカーテンも開けない。すべてを諦めた老人には厳しい言葉であった。

 

「後は、若いものに任せる。自力で箸すら持てぬ老人に何ができるというのじゃ。」

「貴方は皇帝としての責務を果たすべきだ。」

 

「責務・・・か。朕にはもうその気力もないよ。貴殿の思いは解るが儂は退いた身、今更・・・。」

 

溥儀はルルーシュの失礼な物言いを咎めずに穏便に話を終わらせようとした。

その時、ゼロの仮面が開きギアスを発動させる。

 

「貴様のすべきことを果たせ!」

 

「朕のすべきこと・・・。今の朕の役目・・・。」

 

彼は硬直し動かなかった。

(失敗!?なぜ!?まさか、彼は自身の今の実権においてもう何もすべきことがない隠居として認識しているのか!?しまった!?)

 

「っち、失敗した。こいつは生きながらにして死んでいる。二人とも帰るぞ・・・時間を無駄にした。」

 

ルルーシュたちは帰っていき、溥儀だけが取り残された。

 

「朕のすべきこと、儂のすべきこと・・・。」

 

 

 

皇歴2018年9月25日午後 中華連邦

 

溥儀はギアスの効力の影響で自分のすべきことについて思いをはせていた。

久しく開けていないカーテンを開けさせたり、テレビを持ち込ませてそれを見たりしていた。

そんなテレビに自身の孫娘の姿を見ると、彼は急に寂しさをを覚えた。

 

その時、丁度ゼロの来訪を聞いた馬駒辺が来た。

 

溥儀は馬駒辺に言う。

 

「孫に、孫娘の麗華に会いたい。」

 

 

 

皇歴2018年9月28日 洛陽

 

馬駒辺は溥儀の強い要望に押されて、先帝溥儀と天子の面会時間のセッティングを行った。

必死に天子との面会を望む溥儀に、先帝の忠臣であった彼は溥儀の願いに折れ面会を取り付けた。

天子の挙式を控えた日時であったが天子の唯一の血縁者である彼の言葉を無視できず、大宦官たちも許可を出した。

大宦官たちも許可を出した。

 

車椅子で押された姿で溥儀は洛陽の朱禁城に入った。

流石に先帝と天子の希望では大宦官も同行できず、水入らずの時間を過ごすため個室で飲茶をしながら穏やかな時間を過ごした。

 

しばらく時間が経つと、天子はぽつりぽつりと本心を語り出す。

 

自分が望まぬ政略結婚を迫られていること。

自身は心真に想う人がいると言う事を・・・。

 

ぽたぽたと涙を流し、彼の膝の上ですすり泣く天子を見た彼はただ優しく天子の髪を枯れ枝のように細い手で撫で続けた。

 

 

天子が泣きつかれて寝てしまうと、彼は宮中の使用人に天子を床に連れて行くように言うと馬駒辺に車椅子を押してもらい朱禁城を後にした。

 

そして、洛陽を出る車の中から朱禁城を強い視線で見つめ続けた。

 

「ゼロ・・・儂のすべきことが今、解ったぞ。」

 

馬駒辺は溥儀の声を聴き、聞き返した。

 

「陛下、どうかなさいましたか?」

「馬駒辺よ。貴公は今でも朕の丞相か。」

 

「っは、もちろんでございます。」

 

溥儀は決意を秘めた目を向けて馬駒辺に言う。

 

「10年前にやり損ったことを為さねばならん。馬駒辺、朕の剣となれ。」

「っははぁ!!」

 

 

 

 



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第57話 中華連邦内戦 洛陽の変

 

皇歴2018年9月29~30日(婚礼当日) 中華連邦 朱禁城

 

前日の宴は盛大に催されてたが、天子の表情は浮かないままであった。

中華連邦と日露は一応友好国であり、ブリタニアと敵対してはいるものの政治的な理由(共産党内のロシア閥への配慮)で招待を受けていた。

 

「日本皇国天皇皇神楽耶様、ロシア社会主義帝国女王リュミドラ・ニコラエヴナ・ロマノフ様、ご到着!」

 

 

ブリタニア側は意外な人物の登場に驚きを見せざわついた。

神楽耶とリュミドラの登場も十分な衝撃だが、その横に控えていたゼロの存在はさらに驚かせるものだった。

蛇足だが、ロシアのラストエンペラーであるリュミドラを出したのはロシアとしては相当な覚悟だろう。現にプーシン大統領は神楽耶とリュミドラ自身の説得を受けるまで強く反対していた。

 

列席者の中にいたシュナイゼル皇子とゼロのチェス勝負、ニーナとカレンの邂逅などがあったが、一番の想定外の出来事はやはり黎星刻だろう。

 

「我は問う。天の声、地の叫び、人の心。なにを持ってこの婚姻を中華連邦の意志とするか!」

 

天子の側近中の側近である星刻の起こしたクーデターであった。

 

「すべての人民を代表し、我はこの婚姻に異議を唱える!」

 

大勢の衛兵相手に彼は丁々発止の剣舞の如き戦い、大太刀周りをして見せたのであった。

また、星刻の起こしたクーデターは計画的であり、洛陽の主要官庁や武装警察本部、共産党本部や議会をすみやかに占領した。

 

「星刻―!」

 

彼は、衛兵たちを薙ぎ払い。本心をあらわにした天子も彼に助けを求めた。

 

「我が心に迷いなし!」

 

天子を奪還し、クーデターも成功させるかと思った。

しかし・・・

 

「感謝するよ・・・星刻。君のおかげで私が動きやすくなった。」

 

ゼロが土壇場で天子を連れ去ってしまうのだった。

 

 

皇歴2018年9月30日? ???

 

蜘蛛の中のような不思議な空間に浮かぶ神殿のような場所で、V.V.はジェレミアを対面に神殿の階段に腰かけ、外の様子を少しばかり気にしてジェレミアと話す。

 

「ゼロの本当の目的・・・それがここなら厄介だから・・・。」

「あぁ、それで私の為に手配を・・・。」

 

「そうだよ。ギニアスが調整しているあれもまだ使えないからね。」

「そうでしたか。調整が済めばルルーシュもC.C.も敵ではありません。このジェレミア・ゴットバルト・・・ご期待には全力で・・・。」

 

 

皇歴2018年9月30日11:00頃 洛陽郊外

 

天子を攫いゼロはそのままその場を離脱し、残された星刻はシュナイゼルとラウンズが味方する大宦官らに捕らえられ洛陽のクーデターは失敗に終わってしまうのだった。

 

ゼロ達は神楽耶たちも連れて離脱した。

この行動は大高にとっても予想外であったが、大高は事後承認と言う形でゼロの策に乗ることを決断した。大高は直ちに高野海軍軍令部総長に日本に駐留している2つの艦隊の1つである蒼玉艦隊を東シナ海の中華連邦本国領海線ギリギリまで進出させた。

 

これに対し中華連邦は北海艦隊を蒼玉艦隊に差し向け、連邦加盟傘下国である朝鮮人民共和国に支援を要請。朝鮮人民共和国の艦隊が日本海にて紅玉艦隊と地方隊がこれと相対した。

 

日本政府としては天皇である神楽耶の身が害される可能性もあり、動かざるを得ないと言った理由もあったが日本は枢軸と対等に張り合える影響力の強い国であった。この動きは様々なところに連鎖的に大きな影響を与えるのであった。

 

 

皇歴2018年9月30日14:00頃 湖南省准河流域の渓谷 中華連邦軍陸上戦艦竜胆

 

「星刻、罪を許してもよい。天子様を助けられるのならな。」

「あれを貸し与えよう。」

 

ゼロ達、黒の騎士団の追撃に失敗した大宦官は星刻のクーデターの罪を見逃す代わりにとゼロの討伐を命じた。

一度、大宦官の大勢に異を唱えた星刻にこの様なことを言ったのは何もゼロが強すぎたり、ブリタニアへの面子という訳ではない。大宦官たちは星刻に頼ってでもゼロを早急に倒さねばならない事情があったのだ。

 

 

皇歴2018年9月30日13:30頃 台湾軍区

 

『朕は中華連邦の先の天子愛新覚羅溥儀である。朕は去る10年ほど前、不忠なる者たちの策に嵌りここ十年程死の淵を彷徨った。先日、目を覚ましたところである・・・。ここにいる台湾軍区行政長官であり、朕の治世の時の丞相であった馬駒辺によって・・・ここ台湾で匿われていたおかげである。そして、丞相より朕は現世の情勢を知り驚愕した。大宦官は国賊となり下がり民を苦しめ、あろうことか幼き当代天子を怨敵ブリタニアに売り渡そうとしている!これを朕は清王朝、ひいては連邦の滅亡の危機であると理解したものである!ここに朕は今上天子を逆賊より救うため!大宦官の討伐をここに宣言するものである!!!』

 

先々代天子、愛新覚羅溥儀による武装蜂起。

元丞相であり台湾軍区行政長官馬駒辺は台湾軍区軍を率い本土に上陸、上陸先の南京大軍区の司令官劉金星将軍は台湾軍区のクーデターに賛同しこれに合流、北上を開始したのであった。

 

 

皇歴2018年9月30日夜 湖南省准河流域の渓谷

 

神虎を駆る星刻によって黒の騎士団は押され、カレンをも虜囚とされた。

灌漑開拓地を利用した策によって黒の騎士団は押しに押されたが、浮遊航空艦斑鳩の拡散ハドロン砲によって反撃し天帝十字陵へと逃げ込むことに成功し籠城した。

ゼロの運命もここまでとなり、用済みと判断された星刻共々大宦官の軍勢によって殺されようとしていた。

 

そんな中で、斑鳩に日本政府の大高から緊急の通信が入った。

大高の知らせを聞いたゼロは自身の天命は尽きていないと嗤った。

 

「フハハ、大高閣下に借りが出来てしまった様だ。」

『いえ、蒼玉艦隊と紅玉艦隊が大宦官派の北海艦隊と朝鮮人民共和国を釣り上げた副産物です。私としても少々予想外でした。先々代天子が目を覚まして養生期間も無しに、事を起こすとは・・・。』

 

「なるほど、私も策がある。この状況を利用しない手はない。」

 

 

 

 

『もうやめて!こんな戦い!おかしいわ!こんなこと!こんなの!』

『持ってくれ!神虎!私の!私の命をくれてやる!・・・お逃げください!天子様!せっかく外に出られたのに!貴女はまだ何も見ていない!ここは私が防ぎますから!』

『でも、あなたが・・・貴方が居なきゃ!星刻―!わたしは!貴方と、あなたと・・・』

 

大宦官の軍勢の圧倒的な兵力に黒の騎士団も星刻たちも押し倒されようとしていた。

 

「わたしには救えないのか。守れないのか。

 あれから6年。すべてはあなたのために準備してきたというのに。

 誰か!誰でもいい!彼女を救ってくれ!!」

 

彼の願いは聞き届けられる。

 

「分かった、聞き届けよう。その願い」

 

ゼロは新ナイトメアで星刻の前に現れ、守った。そのナイトメアはナイトメアフレーム蜃気楼。その絶対的守護領域は世界最高峰の防御力を持つ機体。守りに関して絶大な力を発揮する機体だった。

 

「中華連邦ならびにブリタニアの諸君に問う。これでもまだ私と戦うつもりだろうか。」

 

 

「そのナイトメアで、この戦局を変えられると思っているのか?」

 

星刻は助けてもらった礼は言ったものの疑問を伝える。

 

「いいや、戦局を左右するのは戦術ではなく、戦略だ」

 

 と、これからゼロの引き起こす奇跡を前にして考えを変えていくことになる。

 

 それからゼロの作戦が発動され、先ほどのゼロと宦官のやり取りや天子の叫びをTVで見た人民たちが中華連邦全土で暴動を引きおこしていく!虫よばわりされたすべての人民が怒り、黒の騎士団に味方することに。ゼロの作戦は見事に成功した。これにゼロは、

 

「天子のおかげで、大宦官の悪役っぷりが際立った」

 

 と不敵な笑みを浮かべる。これにより状況は逆転。宦官達は追い詰められる。

 

 

皇歴2018年9月30日22:00頃 湖南省准河流域の渓谷 中華連邦軍陸上戦艦竜胆

 

「た、大変です全国で民衆が一斉蜂起!ロシア軍が越境を開始!モンゴル軍区もこれに続いています!」

「東南アジア諸国が我らを賊軍と名指しし宣戦を布告!越境!」

「台湾反乱軍に同調した東海艦隊が日本艦隊と合流!北海艦隊と交戦開始!南海艦隊は出撃拒否!」

「台湾・南京の反乱軍が洛陽の済南軍区と交戦中!まもなく突破されます!」

 

「な、なんてことだ・・・なんてことだ・・・。」

 

 

皇歴2018年9月30日23:00頃 湖南省准河流域の渓谷 台湾・南京連合軍陸上戦艦竜胆

 

「全軍!撃ちまくれ!天子様をお救いし、救国の英雄黎星刻を助けるのだ!!!」

 

上座に溥儀が座り、その両サイドに馬駒辺と劉金星が控える。その前で宇羅玩があらん限りの声量で叫ぶ。

 

そして、大勢は決しブリタニア軍は既に離脱し大宦官は討伐された。

 

 

 

 

皇歴2018年10月01日 湖南省某所

 

「よろしいのですか?」

「だって、朱禁城の外をみることができたし、

 それに・・・あの、おしまいってことじゃなくて・・・あっ・・・」

「これからもお守りいたします。永久に・・・」

「変なの・・嬉しいのに・・うっ・・私、嬉しいのに・・・」

 

一夜明け、星刻と天子は再開し喜び合う。

 

「ゼロ、天子の婚姻が無効になったと世界中に喧伝する必要があります。その場合、同時に日本人の誰かと結婚して頂くのが上策かと・・・。」

 

「そうだな・・・。」

 

「よろしければ、私の方で候補者のリストを・・・」

 

ゼロはディートハルトの提案を検討するがその場の女性陣全員に非難される。

 

ディートハルトと女性陣に詰め寄られて困惑するゼロであったが・・・。

 

「それは、出来ないと思いますよ。こちらとしても遺憾ではありますがね。」

 

星刻たちの間から馬駒辺が割って入る。

 

「先帝様の代わりにゼロと今後の調整を十持って来てみれば。随分と下世話な話をしているものだな。私とて骨董品をいじる趣味しかないが、その程度は解るぞ。」

 

「どういうことかな?馬駒辺丞相・・・。」

 

馬駒辺は眉間にしわを寄せそれに手を当てて頭が痛そうに答える。

 

「あんなものを全世界に流しされてはな。反対したらそれこそ大宦官並の悪役だよ。」

「まさか!」

 

馬駒辺の言葉を聞いたゼロはC.C.の方を振り返る。

 

「私は言われた通り担当者に伝えたぞ。全部流せと・・・。」

 

(音声も全部流したのか!?)

それを聞いた天子と星刻の顔が赤くなっていた。

 

「そう言う事だ。星刻殿、今後は軍務は控え王配として力を奮いたまえ。私も先帝様より丞相として再び力を振るうように言われたところだ。」

 

「先帝様が再度天子に戻られるか摂関に就任するわけではないのですか?」

 

星刻はふと疑問に思い尋ねた。

すると、馬駒辺は辛そうに答えた。

 

「・・・私の敬愛する先帝陛下はお二人の無事を見届けて、つい先ほど天命を使い果たされました。」

 

それを聞いた天子は走り出し、星刻たちは後を追った。

その場に残った馬駒辺はゼロの方を見て溥儀の言葉を伝えた。

 

『人の上に立つものとして覚えておくと良い・・・人の想い・・・心は・・・時にこの世の中にあるどんな武器も・・・強いのだ・・・。ゼロ・・・貴殿のおかげで国と孫娘・・・守りたいものがすべて守れた。ありがとう・・・。』

 

中華連邦の老帝は天へと召され、その思いは若者たちへと繋げられた。

 

 

(心・・・想いか・・・。俺は・・・っナナリー。)

 

「ふむ、私としたことが少々無粋な事を言ってしまった。・・・うむ、そうだな。そうだったな。我々の力の源は心にある。大宦官に対して決起した人々も、私たち黒の騎士団も、心の力で戦ってきた!」

 

ゼロは騎士団のメンバーの方を振り返り謝罪しつつ、うまいこと言って纏めた。

 

「少しは成長したか。坊や。」

 

C.C.は誤魔化されなかったようで、ルルーシュにとって少しばかり耳が痛い言葉だった。

 

 

 



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第58話 嵐の前

天子とそれを支える2人の忠臣黎星刻と馬駒辺の両翼を持ってして、中華連邦は新体制へと移行を開始した。

黎星刻と馬駒辺は大宦官派の排除を断行。

また、東南アジアを中心に連邦加盟国の自治権拡大を容認。

ロシアや日本と言った反枢軸国と同盟を結んだ。その際、過剰に兵力を送っていた日露は派遣戦力を縮小した。また、黒の騎士団の扱いは正式に国家と承認したのは中華連邦と一部に留まったが、日本やロシアと言った他の反枢軸諸国は黒の騎士団を正式に交戦団体として承認した。以前は各国それぞれの判断で義勇兵や民兵として見ていたが、この度の承認を持って交戦団体として承認され、体裁としては反ブリタニアの交戦団体とされているがナチスやイタリアなどの枢軸国全般と交戦しており、交戦団体として考えても多くの面で国家に準ずる扱いを受けている。

ブリタニアの反乱軍としての扱いとなったのはゼロの正体を鑑みれば偶然とはいえ運命的なものであった。

 

 

 

 

皇歴2018年10月09日 中華連邦 洛陽 朱禁城

 

表の学生としてのルルーシュの維持の為に、ルルーシュはゼロとしての自分をC.C.に任せて一時オーストリアへ戻った。ゼロや黒の騎士団が大きくかかわるような物事で重要なものが無かったと言う事もあったからである。しかし、黒の騎士団が関わらない大きな事案や関わる些事はあった。

 

例えば・・・

 

中華連邦本国清王朝の天子蒋麗華と救国の英雄黎星刻の挙式の準備が上は粛々と、下は賑やかに始まった。

 

「随分と立ち直りが早いな。」

 

朱禁城に向かう公用車の窓から見える。洛陽の民たちが瓦礫を片付けつつ商店や家々の軒先に赤い吊るし飾りや福をひっくり返した到福紋や喜を二つ並べたマーク双喜紋が飾られている。それぞれ福が来る、喜びが二つ重なるという意味の縁起の良い紋様だ。

この国につい先日まで横行した大宦官の専横に苦しんでいた民が、1日でこうも晴れやかな表情をしている。民の切り替えの早さはこの国の良い点であるともいえる。

 

「連邦の腐敗の温床たる大宦官が根こそぎ取り払われたんだ。首都は清流の空気が流れるさ。」

「首都は・・・ですか。」

 

インドの独立承認と軍事同盟締結のために向かう。ジャワハラール・ネルー元インド軍区行政長官であり、現インド首相。

 

 

洛陽の沿道の賑わいに桃や瓢箪の初枝が飾られているが、洛陽を離れ地方の方を見れば軍閥が群雄割拠している。日本が支持した馬駒辺元丞相率いる南洋軍閥、当初より天子を支持した黎星刻の国民党、東南アジア諸国が支援した蔡岳率いる雲南軍閥は南洋軍閥と国民党に解体され吸収された。また、ロシアが支援した毛沢西率いる共産党はそのまま勢力を維持したそうだ。閻山錫の山西軍閥は中立路線。主にブリタニアの影響を受けた大宦官を支持した袁凱世率いる北洋軍閥はシュナイゼルを保護している。また、勢力維持に努めた回族の馬家軍閥は大宦官派から国民派へ手のひらを返した。この混乱に乗じて独立を狙うウイグル族やチワン族、さらに半独立状態のチベット族。指導者のダライ・ランマはチベット王国の再興を目指しインド軍区と手を組んでいる。

 

北洋軍閥は撤退し損ねたブリタニアのシュナイゼル皇子とラウンズを匿っている。

反枢軸派とは言え日露や東南アジアがそれぞれ支援したため若干の距離感があり、建前上纏まっているが何がきっかけで暴走するか予測できない不安要素でもあった。

 

正に中華情勢複雑怪奇であった。

 

そんな情勢で、天子と黎星刻の挙式を敢行するのは民たちの不安を逸らす意味合いもあった。たまには良い出来事が必要だろう。中華連邦はただでさえ凶事続きだったのだから・・・。

 

インド軍区の独立は認めてもらえ、後は形式的な式典を待つばかり・・・。それ故の余裕でこれからの天子様の中華連邦本国のこれからについて心配する余裕が出来たと言うものだ。

 

純粋無垢ゆえの平和路線、私利私欲に走らない立派な為政者。

天子蒋麗華と救国の英雄黎星刻に幸あらんことをと思うネルーであった。

 

 

そしてオーストリアのアシュフォード学園でキューピッドの日なるカップル成立イベントが行われ、ルルーシュ(篠崎咲世子の変装)がエキセントリックな動きで生徒たち相手にかなりマジな鬼ごっこをし、学生として在籍しているラウンズのアーニャがKMFまで持ち出す等。かなりぶっ飛んだイベントをしている頃。

 

 

 

 

皇歴2018年10月09日 首都ペンドラゴン 王宮のサロン

 

「穏やかじゃないね。中華連邦に宣戦布告なんて・・・。皇帝陛下がそうおっしゃたのかい。」

 

穏健なオデュセウスの言葉に反して他の親族の言葉は辛辣であった。

 

「はい、全て奪い取れと・・・。」

 

ナイト・オブ・ワン、ビスマルクはシャルルの意志を伝えた。

 

「あたし賛成、中華連邦なんてやつけちゃおうよ。」

『そうだよ。おじいさまのティターンズで一捻りさ。アズラエルだって協力してくれるって言ってたもの。』

 

カリーヌの言葉に賛意を示すキャスタール。

キャスタールはパラックスと並んでゴールドコーストの太平洋大総督府からの通信映像で出席している。また、シュナイゼルも混乱中の中華連邦の支持軍閥の領空から通信機を使って参加している。アヴァロンからの通信の為に画像はかなり荒れている。

 

「オデュセウス兄さまを辱めたのは許せませんわね。」

「シュナイゼル兄さんもいつまでも中華連邦領内にいる訳にはいかないでしょ。」

「それは、大丈夫よ。ナチスが本格的にインド侵攻する手はずが整ったそうよ。ナチスには頑張ってもらってシュナイゼルをお迎えに行ってもらうつもりよ。ナチスのハインドリッツ長官もそうしてくれるって言ってたわ。」

 

カリーヌの心配にギネヴィアは大丈夫と答えた。

 

「天子とのことは気にしてないから、それにエリア11との和平案もあるし、キャスタールもそんなに過激なことを言わなくてもいいだろう。オセアニア総督にはナナリーが就任してるのだし・・・。」

 

『兄さん、太平洋大総督は僕だよ。ナナリーはお飾りどうでもいいでしょ。』

「そうよ、ナナリーなんてどうでもいいじゃない。」

 

オデュセウスの言葉に反対意見を述べるカリーヌとキャスタール。

 

「兄上、第三帝国の動きは予定通りの事ですよ。中華連邦の事は暫しかの国に任せても良いのでは?それにインド侵攻が進めば、シュナイゼルの居る北洋軍閥の領域と接続するでしょう。」

 

『そうだね。ギネヴィア姉さんの言う通りだ。だけど、私は新疆や西蔵地方まで後退して、ウイグルやチベットの独立を抑えつつ第三帝国の接続を待つつもりだよ。西康や青海・・・欲を言えば甘粛あたりで北洋軍閥を前面に押し出して中華連邦やそれに連なる者たちを抑え込みたいと考えている。第三帝国との接続に合わせて中東やアラブの我が軍から兵力を抽出して侵攻するれば、それなりの領土は奪えるだろう。』

 

 

 

 

皇歴2018年10月09日 中華連邦某所 ギアス嚮団施設

 

施設の入り口の警備兵が何者かに倒され侵入を許した。

 

その頃、施設の地下ではバトレー・アプリリウスが自らの行いに恐怖していた。

「その仮説が確かなら・・・我々は史上最悪の犯罪に・・・。」

「バトレー様、逃げましょう・・・。ジェレミアの調整は済んでいますし・・・。」

 

付き合いの長い部下たちもバトレー同様に恐怖していた。今すぐにでも逃げようとしていた。

 

「しかしそれは・・・国を捨てると言う・・・。」

「動くな・・・バトレーか。」

 

動くなの一声と背中に付きつけられた銃に一瞬ヒヤリとしたバトレーであったが、声の主にはすぐ気が付いた。

 

「その声、コーネリア皇女殿下!?」

「どうしてここにいる。」

 

弟クロヴィスの忠臣である彼にコーネリアは剣呑な声色はそのままに僅かな驚きを抱きつつ問いただす。

 

「よ、よかった!お助けください!皇帝陛下に召し出されここに来たのですが・・・。」

「父上が!?」

「このままでは世界は滅びの道を・・・。」

 

バトレーたちはコーネリアに知っているすべてを話し逃げようとしていた。

 

 

 

 

 

オーストリアのアシュフォード学園ではミレイの立案イベントキューピッドの日が終わり。暴動と勘違いしてきた警察の困惑の中、ルルーシュとシャーリーの関係に少々動きがあった様だ。余談であるがミレイ・アシュフォードは後日テレビのお天気お姉さんとして報道の世界へと飛び込んで行った。

 

 

そして、アシュフォード学園と言う裏舞台でも外の戦争に関わるような動きがある。

ギアスキャンセラーを持ちそれを行使したジェレミアであった。

ギアスキャンセラーによって記憶を取り戻すシャーリー・フェネット。父親の仇を思い出した彼女はこの後どうなってしまうのであろうか。

 

 

 

 



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第59話 過去からの刺客

 

 

 

 

皇歴2018年10月12日 エリア25オーストリア 

 

 

 

自分の父親を殺したのがルルーシュだということを思い出し、一体何が本当のことなのかと苦悩するシャーリー。すべてを思い出したシャーリーは道行く人が仮面をついているように見え、それに怯えることに・・・。

 

 

 

数日間の間怯え続け憔悴したシャーリーはスザクを呼び出して、すべてを知っているスザクに相談しようとしたが、待ち合わせ場所にルルーシュが来て、事態は思わぬ方向に進む。

 

 

 

3人はお互いを疑う。

 

 

 

ルルーシュ・スザクを前にシャーリーはどうしていいか分からず悩み。そんな中、2人の仮面が外れるビジョンを見て、シャーリーは動転。そしてビルの屋上で、

 

 

 

「来ないで!うそつき!みんな偽物のくせに!」

 

 

 

と、2人に脅しをかけ、下がりすぎたシャーリーはそこから転落しそうになってしまった。ここをルルーシュがシャーリーを、スザクがルルーシュを掴みどうにか間一髪で危機を脱し、最初助けを拒んでいたシャーリーだが、ルルーシュの、

 

 

 

「だめだ!離さない!俺はもう、俺はもう、失いたくないんだ・・・!」

 

 何一つ失いたくない・・・シャーリー」

 

 

 

という言葉で、またルルーシュを信じることに。そうしてシャーリーは無事引き上げられ、その後3人はアーサーを追いかけて同じ状況になった時のことを思い出して思わず笑いがこぼれた。

 

 

 

が、スザクはその時、

 

 

 

(何笑ってる・・・?ルルーシュはユフィを――)

 

 

 

と、ルルーシュが自分の仇だということを思い出し、顔を強張らせた。これを見たシャーリーもまたここで、

 

 

 

(違う。一人なんだ・・・ルルは)

 

 

 

と、スザクも今はルルーシュの味方でないことを察し、心が揺れた。

 

 

 

 

 

 

 

その頃、学園にはジェレミアが襲来。これに気付いた咲世子・ロロがジェレミアの対処へ向かったが、咲世子はジェレミアの機械の体を前に苦戦。武器がまったく効かず。そこにロロもギアスで助太刀しするが、ジェレミアにギアス効果をキャンセルされ、なすすべなし・・・。

 

 

 

そんな中ヴィレッタが現れます。ヴィレッタの登場にジェレミアは驚き、ヴィレッタはルルーシュはゴールドコーストの駅ビルにいると言い、

 

 

 

「お願いです、ジェレミア卿。私を解放して下さい」

 

「引き受けた」

 

 

 

 とジェレミアに言ってジェレミアはすぐルルーシュを追いに街へ向かって行った。このヴィレッタの行動を咎めるロロだが、何にしろ助かったのは確かであり取り敢えずは不問とするのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

皇歴2018年10月12日 中華連邦北洋軍閥支配地域某所 喬団施設 

 

 

 

コーネリアはその頃V.V.と対面。V.V.を警戒し、すぐに頭にナイフを投げ、V.V.を殺そうとした。

 

しかし、C.C.同様V.V.も不死身。すぐに蘇り、それに驚くコーネリア。

 

 

 

「無駄なことはやめたまえ。皇女殿下。喬主様は死を超越された御方だ。」

 

 

 

V.V.の横に控えたギニアス・サハリン第三帝国技術少将の姿を見て、

 

 

 

(喬団にはナチスも噛んでいたかっ)

 

 

 

 そんなコーネリアにV.V.は、笑みを浮かべながら自分がコーネリアの伯父だと言い、

 

 

 

「僕らは誓ったんだ。

 

 人々を争わせるような神なら、殺してしまおうって」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

皇歴2018年10月12日昼 エリア25オーストリア ゴールドコーストステーションビル

 

 

 

ルルーシュはあの後ロロの連絡を受け、ジェレミアがこちらへ向かっていることを知り、上手くその場を抜け出そうとするが、スザクはそんなルルーシュを怪しみ…。

 

が、ここで何となく事情を察したシャーリーが機転を利かせ、スザクを連れ出してくれるのだった。

 

 これにルルーシュは迷いつつもスザクに任せておけばと、納得してジェレミアとの戦いに挑む。ジェレミアの近くまできたルルーシュはそこでジェレミアがギアスをキャンセルするところを見て、見てジェレミアを警戒。ここでルルーシュがこれを知ったことが勝機に繋がる。

 

 

 

そしてある作戦を実行することに・・・ルルーシュはジェレミアを、

 

 

 

「さあ、上がってこい。オレンジ」

 

 

 

と、挑発して誘導するのだった。

 

 

 

 

 

一方でスザクを連れ出したシャーリーはスザクに問いかける。それにスザクは、

 

 

 

「私はルルが好き。スザク君は嫌い?」

 

「僕は・・・好きだった」

 

 

 

 すると、答えは過去形。それにシャーリーは今の2人のギクシャクしたような関係に一つの結論を導き出す。それでシャーリーは何故こうなったのかと聞きだすと、スザクは「許せないんだ」と一言。でもシャーリーはそれに、

 

 

 

「許せないことなんてないよ。それはきっとスザク君が許さないだけ。許したくないの、きっと」

 

「あっ・・・」

 

「私はもう、とっくに許したわ」

 

「シャーリー、君は・・・」

 

 

 

シャーリー自身もこれまでの必死なルルーシュの姿を見て、自身が想像した様な悪い考えで動いているわけじゃないと何となくわかってきたような気がしていた。

 

 

 

スザクと分かれた後のシャーリー。シャーリーはスザクの指示で安全な場所へ避難しようとしていたが、シャーリーはこれを振り切り、

 

 

 

「待ってて。ルル。一人っきりになんて、させないからっ」

 

 

 

と決意し、ルルーシュの元へ向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

皇歴2018年10月12日14:28 エリア25オーストリア ゴールドコースト空港

 

 

 

エリア25と言うブリタニア管轄区であり、ティターンズのお膝元であるシドニーにも遠くないこの地域でのテロと言う事で、太平洋大管区のエリア25を実質的に支配するティターンズもこれに迅速に反応した。

 

 

 

と、言うよりも僅かながらも本国から送られてきたヴィレッタと言う存在やギアス喬団の知識を持つジャミトフ・ルィ・ハイマンとしては過剰に反応するのも当然と言えた。

 

 

 

ジャミトフはバスク・オム中将を介してゴールドコーストのテロリストの鎮圧を命じた。

 

 

 

ゴールドコースト空港に停泊していたアレキサンドリア級浮遊重巡洋艦ハリオ艦長のテッド・アヤチ少佐はKMF隊や陸戦隊含む麾下の兵力をハリオに搭載して、ゴールドコーストステーションへ向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

皇歴2018年10月12日14:46 エリア25オーストリア ゴールドコーストステーション6番線ホーム

 

 

 

ルルーシュはわざとジェレミアに姿を見せて、ジェレミアをおびき出そうとしていた。しかし、ジェレミアは余裕の様子でルルーシュを追い、そうしてルルーシュはジェレミアを列車近くまでおびき寄せた。ジェレミアはルルーシュを追い詰めたと思い、ルルーシュの近くへ迫る。

 

 

 

「機械の体・・・ギアスキャンセラー。執念は一流だな。オレンジ君」

 

「執念ではない。これは忠義」

 

 

 

ジェレミアはそれを真に受けず平然とし、そんなジェレミアにルルーシュは、

 

 

 

「気にいらないな。あの皇帝のどこに、忠節をつくす価値がある?」

 

 

 

と聞き、ここでルルーシュは手元のスィッチを押して仕掛けを作動させ、オレンジの動きを止めた。これによりジェレミアは苦しそうにその場にしゃがみ込んだのだった。

 

それはジェレミアの体の源がサクラダイトだったため、ゲフィオン・ディスターバーというサクラダイトの力を封じるこの装置の力は絶大だった。

 

これによりルルーシュは形勢逆転、ルルーシュは嚮団の位置を吐かせようとしたが、ジェレミアは口を割らなかった。その代わり、ジェレミアはルルーシュに、

 

 

 

「私には、理由がある。忠義を貫く覚悟が・・・。確かめなければならぬ真実が・・・」

 

 

 

と動くのが困難な中、必死にジェレミアは抗い。ルルーシュも「バカな!動けるはずがない!」と驚きを隠せずにいた。そんな中、ジェレミアはある問いをルルーシュに問いかる。

 

 

 

「ルルーシュよ。お前は何故ゼロを演じる?祖国ブリタニアを・・・実の父親を敵にまわす?」

 

 

 

ルルーシュが何故戦っているのかということ。ジェレミアは何か見定めようとしていた。その真剣なジェレミアの問いに、ルルーシュは本心で答えた。

 

 

 

「俺が、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアだからだ。俺の父ブリタニア皇帝は、母さんを見殺しにした。そのためにナナリーは目と足を奪われ、俺たちの未来まで・・・・・・」

 

 

 

このルルーシュの答えにジェレミアは動揺しつつも、

 

 

 

「知っています。私もあそこにおりましたから」

 

「母さんの!?」

 

「初任務でした。敬愛するマリアンヌ皇妃の護衛。しかし、守れなかった。忠義を果たせなかったのです・・・」

 

 

 

と、過去を語った。ルルーシュはそのジュレミアの話から「それで純血派を」と、何故ジェレミアが純血派を率いていたのかを知り、ジェレミアもまたルルーシュの目的を知り、納得した。

 

 

 

「ルルーシュ様。あなたがゼロとなったのは、やはりマリアンヌ様の為であったのですね」

 

「おまえは、俺を殺しに来たのではなく・・・」

 

「私の主君は、V.V.ではなく・・・マリアンヌ様・・・」

 

 

 

ここでジェレミアにも限界が・・・ジェレミアは、

 

 

 

「これで思い残すことは――」

 

「ジェレミア卿!」

 

 

 

 と、ゲフィオン・ディスターバーの力に屈し、死を迎えようとしていた。

 

 が、ここでルルーシュは稼動を停止させ、ジェレミアの元へ駆け寄る。ルルーシュも自分の母親を…敬愛していた人を失いたくなかったと言う思いがあったのだろうか。皇子らしい振る舞いでジェレミアへ訴えかけた。

 

 

 

「ジェレミア・ゴットバルトよ。貴公の忠節はまだ終わっていないはず。そうだな?」

 

 

 

 そしてジェレミアはルルーシュの言葉で生きる気力を取り戻し、

 

 

 

「イエス・ユア・マジェスティ」

 

 

 

と笑みを浮かべ、ルルーシュに忠誠を誓うのだった。

 

ジェレミアはルルーシュの味方となり、ルルーシュは頼もしい味方を得たのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

皇歴2018年10月12日14:47 エリア25オーストラリア ゴールドコーストステーション

 

 

 

「ティターンズ陸戦隊!第1から5小隊は正面ゲートより、第6及び第7小隊は東ゲート、第9及び第10小隊は西ゲート!第8小隊は南通用門より突入しろ!」

 

 

 

アレキサンドリア級浮遊重巡洋艦ハリオが上空に展開しKMFマラサイが周辺に展開し、その場の指揮権を枢木スザクから取り上げた。大総督府のジャミトフやキャスタール、パラックス両皇子の名前を出されてはラウンズとて引き下がらざるを得なかった。

 

 

 

ティターンズの歩兵将校が拡声器を手に歩兵小隊に突入命令を下し、歩兵達が一斉にゴールドコーストステーションへ雪崩込んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

皇歴2018年10月12日14:50 エリア25オーストラリア ゴールドコーストステーション連絡通路中央スペース

 

 

 

一方ルルーシュを助けるために銃を手にその元へ向かうシャーリー。と、ここでロロと出くわす。シャーリーはそこでロロに「あなたは、ルルが好き?」と問いかける。

 

 それからシャーリーは、

 

 

 

「私は、ルルが好き。あなたはどう?」

 

 

 

 と、ルルーシュへの確かな想いをロロに伝えた。それにロロもルルーシュが好きだと言います。それを聞くとシャーリーは嬉しそうな様子を見せて、

 

 

 

「私も仲間に入れて!私もルルを守りたいの!取り戻してあげたいの!ルルの幸せを!!

 

 妹のナナちゃんだって、一緒に!!」

 

 

 

 と、一緒にルルーシュを救おうとロロに言いますが、ロロはこのシャーリーの言葉に怯えて、ギアスを発動させる。ただ、この時運命の女神は・・・。

 

 

 

「全隊!進め!要救助者の捜索及びテロリストを鎮圧せよ!」

 

「隊長!学生らしき2名を確認!」

 

 

 

ティターンズの陸戦隊がすぐそこまで迫って来ていた。

 

 

 

ロロは、予期せぬ事態にギアスを解除した。

 

すると、当然ながらシャーリーは少しばかり混乱してはいたもののロロの方へ寄り兵士達に銃を構えた。

 

 

 

「な!?銃!?テロリストか!!」

 

 

 

先行していた兵士の1人に見つかってしまう。

 

兵士はそのまま小銃を撃ってきたので二人は物陰に身を隠す。

 

 

 

「え?!引き金が引けない!?」

 

「安全装置が掛けっぱなしなんですよ!」

 

「あ!そうか!」

 

 

 

そんな掛け合いをしているとルルーシュから通信が入る。

 

 

 

『どうだ?そちらの方は?』

 

 

 

「あ、兄さん!」

 

「ルル!?」

 

 

 

『な!?シャーリー!?どういうことだ!!ロロ!!』

 

 

 

ロロ自身も飲み込め切れていない現状であり、ルルーシュからしても何故どうしての状況である。

 

ロロは勿論、ルルーシュも相当困惑していた。

 

 

 

「ご、ごめんなさい!兄さん!」

 

「ルル!ロロを怒らないであげて、私が彼に頼んだの!」

 

 

 

『本当にどういうことなんだ!?えぇい!とにかく、ジェレミアをそちらに先に向かわせている!障害は彼に排除させる!間違えて撃つなよ!もう味方だからな!』

 

 

 

 

 

しかし、ルルーシュとジェレミアが到着する前に、ティターンズの陸戦隊が使用した手榴弾が二人を襲った。

 

 

 

すでに、シャーリーがこちら側とルルーシュが認識している事もあり不本意ながらもロロは彼女を守ろうとした。だが、無意識下に手を抜いたとでもいえばいいのだろうか?

 

シャーリーはティターンズの凶弾に倒れるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

皇歴2018年10月12日夕方 エリア25オーストリア アシュフォード学園地下施設

 

 

 

定められた運命を完全に退けることは出来なかった。

 

幸いにも怪我は致命傷ではなく意識はないものの命に別条はなかったが、手榴弾の破片による怪我が原因で日常生活に支障はないが、激しい運動は出来ないだろうと医務官に告げられた。

 

 

 

(シャーリー、すまない。俺は・・・また君を巻き込んでしまった。)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ジェレミア卿、嚮団の位置は間違いないか。」

 

「はい、間違いなく。そこにあります。」

 

 

 

ルルーシュはジェレミアから齎された情報を聞いて嚮団の殲滅を決断する。

 

C.C.は消極的ながら反対したが、大高を介して日本の諜報組織から齎された情報によってルルーシュは喬団殲滅を決断した。

 

 

 

太平洋においてブリタニアに勝利を重ね、ブリタニアを抑え込んだ日本政府はその警戒対象をブリタニアからナチス第三帝国に移していた。

 

それが功を奏する形で、ナチス第三帝国のオカルト省庁であるアーネンエルベとギアス喬団の繋がりを察知し、ナチスよりアーネンエルベを介して多くの援助があり喬団による軍事技術の開発の形跡を確認したのであった。

 

 

 

ナチス第三帝国と神聖ブリタニア帝国。枢軸の二大勢力の援助を受けた喬団という存在を黒の騎士団のゼロとしても、連合の暫定盟主国の首相たる大高弥三郎も見逃すことは出来なかった。

 

 

 

ルルーシュは大高との会談を思い出す。

 

 

 

「貴殿の方でもブリタニアのオカルト研究施設の情報を掴んでいましたか。」

 

「あぁ、確か超能力や不老不死の研究をしているだけの存在と聞いている。大凡の場所は把握しているつもりだ。だが、ブリタニア各所に影響力がありこちらも警戒している。一部では皇族並みの権限を有しているらしい。」

 

 

 

ルルーシュの喬団に関する情報は自身の諜報網よりはC.C.個人から齎された情報が多く些か古いものであった。ルルーシュの言葉を聞いた大高は少し考えこむ素振りを見せたから、秘書の女性に画面を操作してもらい幾つのデータを表示した。

 

 

 

「喬団に強い警戒感を抱いている貴方だからお話ししましょう。我が国の東機関の調査によれば、ギアス喬団はナチス第三帝国のオカルト局アーネンエルベを通じて軍事研究を進めているようなのです。」

 

「ほぉ、それは・・・。」

 

 

 

ルルーシュは動揺を悟られない様に平静を装う。横にいたC.C.の方も僅かだが自分の良くも悪くも思い入れのある喬団の変貌を示す証拠を見せられ付き合いの長いルルーシュだからこそ気付ける程度であるが動揺していた。

 

 

 

「この写真に写るのはギニアス・サハリン技術少将。ナチスの特殊兵器の数々を研究開発を主導した人物です。このサハリン氏が中華連邦で喬団の工作員と接触し消息が確認できていません。我々は喬団施設で何らかの兵器を開発しているものと推測しています。」

 

 

 

「そのサハリンが喬団で研究開発をすると言う事の意味。大高閣下はどうお考えで?」

 

「サハリン氏はナチスの開発局に於ける主導的人物です。その彼がはオカルトな施設に派遣される。通常で考えるならオカルト施設を隠れ蓑にした研究開発。」

 

 

 

「では、最悪は?」

 

ルルーシュはゼロとして大高にその先を促す。

 

 

 

「オカルト的な兵器がある程度開発できる確証があるが故の派遣。つまり、オカルトの様な性能の兵器が開発され実証段階に近いのではないかと考えております。」

 

 

 

「で、大高閣下は・・・このゼロに何を望むのですか?」

 

 

 

「私としては討伐軍を差し向けたい。しかし、現実味のないオカルト部局の陰謀では国家の軍を動かすには建前が整わない。しかし、黒の騎士団と言うゼロの私戦力であれば多少の無理は通せるのではないでしょうか?インドや中央アジアの枢軸に対処する必要がありますが、我が国や当事国である中華連邦も後詰程度の兵力はお出ししましょう。どうでしょう?ゼロ。ここはひとつ、我が国の要請を引き受けていただけないでしょうか?」

 

 

 

「いいでしょう!貴国や中華連邦の援軍は不要です。元々、喬団は警戒対象だった。討伐も考える程度には・・・、ここは私の黒の騎士団がお引き受けしよう!」

 

 

 

 

 




シャリー生存ルート!
ただし、彼女が活躍する予定はありません。すまんね・・・


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第60話 第三帝国の脅威・アースクリーン作戦

皇歴2018年10月18日 中華連邦 洛陽 朱禁城

 

かなりの勇み足で進められた中華連邦本国清王朝の天子蒋麗華と救国の英雄黎星刻の挙式。

天子蒋麗華と黎星刻は勿論の事、馬駒辺他閣僚や敵対関係の北洋軍閥を除くすべての軍閥の長もしくはその代理が参列し、独立もしくは高度な自治が約束された少数民族指導者たちに連邦加盟国の国家元首ならびにその代理、日露からは神楽耶とリュミドラの二人の女帝と西郷南洲副首相とミハエル・ゴルチョバチョフ副大統領が出席した。

 

天子蒋麗華と黎星刻は如何にもな中華的装飾が施されたオープンカーから手を振り国民達に希望を与えた。

 

各国の大使館(ブリタニアは接収。)経由で派遣された式典装備の各国KMFが祝砲を上げて祝福の意を示し、朱禁城まえでも式典装備の鋼髏が出迎えた。

 

国民向けの式典も終わり、朱禁城内で祝賀の儀が執り行われようとしていた時であった。

 

宇羅玩台湾軍区司令官から中華連邦本国陸軍の長官に大抜擢を受けた宇羅玩准将改め大将が秘書からメモを受け取ると顔色が真っ青に変わる。急ぎ足で馬駒辺の下に行き耳打ちする。すると馬駒辺は上座に座る天子と黎星刻に手早く状況を説明すると、元首級来客たちの方を向き式典司会者からマイクを奪い少しばかり大きめの声量で告げた。

 

「祝賀の儀を続けたいところではありますが、非常に重大な事態が発生したことをお知らせします。先ほど、ナチス第三帝国がインド軍区もといインド独立準備政府領域内への侵攻が確認されました。また、ロシアのウラル方面でも陽動とみられる軍事行動があったようです。さらに強調させて頂けますればインドに侵攻したナチス軍は非常に残虐な新兵器を前線に投入した様で・・・今、映像がつながりましたのでモニターに流します。」

 

馬駒辺の合図で祝賀映像が流れる予定だったモニターにインドの様子が流される。

インドの首相ネルーは驚愕と共に叫んだ。

 

「なんだ!あの、頭おかしい陸上戦艦は!?」

 

陸上走行用に前後に巨大なタイヤを装備した戦艦と類似型の巡洋艦が市街地をその巨大な質量で蹂躙している姿が映し出されていた。多数の住民を虐殺していることはすぐにでも想像がついた。

 

「我々は可及的速やかに対処しなければなりません。中華連邦の盟主国として加盟各国及び同盟国に対してこの場を臨時対策議会としてよろしいでしょうか。」

 

馬駒辺は形式的に反対者がいないことを確認するとすぐに話を進めた。

 

「では、連邦法の軍事項目に則り連邦軍の編成を提案し、同時に同盟各国への援軍要請及び支援要請の打診を提案します。」

 

その後、枢軸軍は中央アジア方面からも侵攻を開始し近々のうちに中華連邦本国とも接敵した。

また北洋軍閥はこれに合流し、これに匿われていたシュナイゼルらブリタニア勢は脱出した。また、大宦官寄りで派遣された元首代理も実権がない人間だった朝鮮人民共和国もこれに呼応し反枢軸各国に宣戦を布告し枢軸に加盟した。元首代理はその場で亡命を希望した。

 

ナチス第三帝国は膠着していたウラル戦線での戦闘を活発化させ、新たに中央アジアとインドに戦端を開いた。また、ドーバー海峡を越えスコットランドに上陸する動きを見せていた。

 

 

皇歴2018年10月18日 インド~パキスタン国境 ナチス第三帝国軍

 

タール砂漠のインド軍区軍を突破したナチス第三帝国軍は州都ジャイプルを蹂躙していく。

ジャンタル・マンタルやアンベール城と言った世界遺産も容赦なくその巨大なタイヤで轢き潰す。人々の生活する家々も、そこで暮らす人々も惨たらしく轢殺される。

 

この信じられない光景を、本国より派遣されたワルター・G・F・マイントイフェル参謀総長。彼は前任のヒンデンブルクを追い落して今の地位に付いたヒトラーの新貴族派閥の人物であった。

マイントイフェルは陸上戦艦の艦橋から見える破壊される街を見て愉悦に浸っているかのようにニヤリと嗤っていた。

その横で指示を出している艦長は不愉快そうに眉をひそめた。

 

「マイントイフェル参謀総長、ここまでやる必要があったのでしょうか。」

「あたりまえだろう。ヒトラー総統は増えすぎた人口を改善するために劣等種の排除を始めたのだ。総統閣下のお考えに異を唱えるおつもりか?」

「・・・いえ。」

「では、進撃を続けたまえ。」

 

アドラステア級陸上戦艦、陸上走行用に前後に巨大なタイヤを装備した戦艦で大型のビーム砲を連装8基、小型のビーム砲を3連装1基、連装2基(艦首下方と艦橋後部に各1基)、対空機銃を単装35基搭載している。その傍で陸上巡洋艦リシテアも多数追従している。

 

この狂気的な艦隊はナチス第三帝国のハインリッヒ・フォン・ヒトラー総統に傾倒するナチ党の圧倒的な支持を持って建造され、彼らの劣等民族根絶思想を物理的に体現した様な悍ましい艦隊であった。

 

この艦隊の主力として投入されたのは第六世代機にあたる新型メタルアーマー(MA)とサブフライトシステム(SFS)。MAゲドラフとブルッケング、SFSアインラッド(格闘用カッターを内蔵したツインラッドもある。)である。

 

また、MAとしては異色なバイク形態のガリクソン、ガンツァーとドーラと言う機体の合体機であるガンドーラが投入された轢殺艦隊であった。さらには、MAの空戦能力を向上させたFA(フォルグアーマー)シュワルグが投入されインド軍含む中華連邦空軍を圧倒し始めていた。

 

「全軍、進軍の手を緩めるな。イク少佐のガッダール隊に先行させろ!総統閣下のアースクリーン作戦を完遂するのだ!!」

 

 

 

 

皇歴2018年10月19日 中央アジア~中華連邦本国 

 

ナチス第三帝国のインド侵攻に乗じて中央アジアの枢軸同盟軍が侵攻を開始した。

中華連邦本国の内戦を静観していた彼らだったが、ナチス第三帝国のインド侵攻、神聖ブリタニア帝国からの要請と条件が重なり、今まで枢軸同盟の賑やかし程度の存在だったルーマニア、ハンガリー、ブルガリア、ポルトガルと言った国々が枢軸同盟有力国のイタリアを焚きつけて中央アジアの占領地から枢軸同盟諸国軍が中華連邦へ進軍したのだ。

当初はナチス第三帝国が主導しようとしたが、大宦官派の旧中華連邦軍やシュナイゼル救出のためのブリタニア軍もいるのでイタリア軍他の枢軸諸国軍でも問題ないとヒトラーが判断したと言う経緯もある。ナチス第三帝国とパイプを持つギネヴィア第一皇女が中央アジア方面軍の中核をナチス第三帝国と勘違いしていたのは誤差の範囲と言えよう。

 

 

枢軸中央アジア方面軍の旗艦であるイタリア軍のビグ・ダブデはイタリア軍のダブデ級陸上戦艦を大型化した陸上戦艦であり、第三帝国からライセンスを得て自国生産されたイタリア産のゲバイやダインが満載されていた。枢軸有力国で人型兵器開発に出遅れたイタリアはナチス第三帝国や神聖ブリタニア帝国からMAやKMFのライセンスを取得してゲバイやグラスゴーを生産していた。イタリア独自の兵器はマゼラ系戦車であり、アタックと呼ばれる無反動砲を主砲とする主力戦車、フタックと呼ばれる対空戦車、ベルファーと呼ばれる自走迫撃砲戦車、アインと呼ばれる空挺戦車がある。また、航続距離等に問題のあるドップ戦闘機(改やⅡも存在し若干の改善はみられる。)も存在する。

 

「ふむ、中央アジアの中華連邦は弱卒だな。それに最初に踏み込む中華連邦本国領は北洋軍閥の友軍支配地域・・・容易かろうさ。」

 

ビグ・ダブデの艦橋から中華連邦から脱出して来た神聖ブリタニア帝国のシュナイゼル皇子が乗る浮遊航空艦アヴァロンが艦隊の横を通過して行く様子を見ながら、アルベオ・ピピニーデン大佐は革張りの司令官用の席に座って足を組んだ。

 

「このまま、我がイタリア軍は中衛を務める。シュナイゼル殿下の心遣いのブリタニア軍はお客様だ。後衛か後詰に回せ。」

「前衛はいかがしますか。」

 

副官の問いにピピニーデンは少し考える仕草をしてから。

 

「他の同盟諸国の軍を充ててやれ。彼らにも少しは花を持たせてやらねば、可哀そうだろう?」

 

 

 



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61話 喬団壊滅作戦 前編

 

 

 

 

皇歴2018年10月19日 中華連邦北洋軍閥支配地域某所 喬団施設 

 

 

 

ウラル戦線、インド戦線、中央アジア戦線で枢軸軍との戦端が開かれた。

 

ルルーシュはゼロとして黒の騎士団を率いギアス喬団の殲滅に動く、C.C.も喬団の兵器開発の証拠を提示されてからは反対することは無くなり、依頼を受けいれた。

 

 

 

ゼロが率いる黒の騎士団は精鋭0番隊を含む黒の騎士団の本隊。エースの紅月カレンを欠いた状態とは言え、純軍事組織ではない喬団の戦力を無力化する程度造作もない兵力であった。

 

 

 

喬団で戦っている黒の騎士団のメンバーがギアス嚮団の子供のギアスにかかり味方を攻撃してしまうという事態が発生。これにはロロが対処した。ギアス喬団の子供たちの多くはロロを慕っている者が多く、彼の投降の呼びかけに応じたのであった。説得に応じなかったものは致し方なしの対応である。

 

この事を把握したルルーシュは大高からの援軍派遣を断り大高のギアスに関する知識が深まることが無くなったことに安堵した。また、ギアスユーザーの確保は黒の騎士団の戦力アップも期待できた。子供たちの事はロロにでも任せようかと思案していると・・・

 

 

 

「少しは、好きだったんだけどね、ルルーシュ。

 

 君はシャルルに似ているから」

 

 

 

 とV.V.が言い、ここでルルーシュを始末しようとした。が、ルルーシュを守る存在が2人。

 

 

 

「そこまでだ、V.V.」

 

「もう降伏して下さい」

 

 

 

 と、ジェレミアとロロ。この2人の裏切りにV.V.は

 

 

 

「何を言っているんだい?裏切り者たちが」

 

 

 

 と怒りを露わにし、V.V.とルルーシュ達の戦いが始まる。戦いの中、ジェレミアはジークフリートに乗ったV.V.に、

 

 

 

「それはわが忠義のためにある機体だ!」

 

 

 

と、苛立ちを見せた。

 

 

 

V.V.はそんなルルーシュに忠義を見せるジェレミアを揺さぶろうとするが、仕えるべき主を見出したジェレミアは揺らがない。

 

 

 

「ジェレミア、君はゼロを恨んでいたよね」

 

「然り。

 

 これで皇族への忠義も果たせなくなったと考えたからな。

 

 されど、仕えるべき主がゼロであったなら、

 

 マリアンヌ様のためにも!」

 

 

 

ジェレミアのこの言葉がV.V.を怒らせた。

 

 

 

「お前まで、その名を口にするか!」

 

 

 

完全に冷静さを失ったV.V.はジェレミアやロロ以外の黒の騎士団の攻撃も加わり、さらには

 

 

 

「V.V.といったか?この私を脆弱にして、惰弱と侮ったな」

 

 

 

と、コーネリアが加勢に入り、ジークフリートを攻撃した。

 

コーネリアはジークフリートの弱点を知っているようで大ダメージを与えた。

 

 この後はルルーシュ達、コーネリアの一斉攻撃で、

 

 

 

「ユフィの仇、そこで滅せよ」

 

「ギアスの」

 

「源!」

 

見事ジークフリートを撃墜した。

 

 

 

しかし、そこで戦いは終わらなかった。

 

 

 

 

 

這う這うの体でジークフリートから脱出したV.V.は致命傷に近い傷を再生させつつ、喬団施設の奥へ向かう。

 

 

 

最奥の研究棟の扉を開けると、ギニアス・サハリン第三帝国技術少将が出迎えた。

 

 

 

「喬主様、お待ちしておりました。」

 

「僕が相応のリスクを負って時間を稼いだんだよ。ギニアス・・・、例の物の調整は出来ているんだよねっ。」

 

 

 

眉一つ動かない、平坦な対応にV.V.は僅かに苛立たし気に尋ねる。

 

 

 

「はい先ほど、調整が完了しました。いつでも動かせます。」

 

「よくやってくれたね。ギニアス、じゃあすぐに出すんだ。シャルルの子供だからって大目に見ていたけどもう許さないよ。」

 

 

 

「喬主様、こちらへ。」

 

 

 

ギニアスはV.V.をメインコントロールルームに案内した。

 

 

 

「私はサブコントロールルームで補助させていただきます。」

 

 

 

 

 

皇歴2018年10月19日 中華連邦北洋軍閥支配地域某所 喬団施設外郭部

 

 

 

ルルーシュはC.C.やジェレミアらと一度、施設外郭まで下がり制圧作業と掃討戦の指揮をしていた。C.C.も自身のケジメをつけた様だった。

 

 

 

『喬主らしき姿は見つけられず!』

 

 

 

通信の言葉を耳にしたルルーシュはC.C.に確認する。

 

 

 

「脱出路は潰したんだろう?」

 

「もちろんだ。施設の構造上脱出路を増やせる作りじゃない。」

 

 

 

『その通りだよ。逃げるつもりはないよルルーシュ。僕が直々に君はここで殺す。』

 

 

 

施設が擬態の岩山諸共音を立てて崩れる。

 

騎士団の機体が即応して攻撃する。

 

 

 

「ギニアス、攻撃開始だよ。」

 

 

 

しかし、攻撃を開始する様子がない。

 

 

 

「どういうつもりだい?なぜ攻撃を開始しないんだい?」

 

 

 

「申し訳ありません。喬主様、この機体はまだ完成とは言えないのです。」

 

 

 

そうしている間にも機体は少しづつ傷ついていく。

 

 

 

「ですが、これで完成です。」

 

 

 

ギニアスは暗い笑みを浮かべ、スイッチを押す。

 

 

 

「メインコアに喬主様を取り込むことで、この機体は自己回復能力を得て完成するのです。フフ、フフフハハハハハハ!!」

 

 

 

「な!?なんだって!!や、やめろ!やめてくれ!?兄さん!誰か!?たすk!?うわぁああああ!?」

 

 

 

V.V.が案内された場所はメインコントロールではなくメインコアだった。

 

V.V.はコアから延ばされた触手に飲み込まれ吸収されてしまった。

 

 

 

「感謝しますよ。喬主様のお蔭で完成させることが出来ました!!この!!グロムリン・フォズィルが!!!」

 

 

 

 



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