チートそうでチートじゃない、けどあったら便利。そんな個性 (八神っち)
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実技試験とその個性

 完全に見切り発車な本作。着地点など無く、3話くらいで話のネタが尽きそうな個性。この話だけ3人称視点で、次話から主人公の1人称視点で行きます。


「あはははは!何その課題!落ちるにきまってるじゃんバカヤロー!」

 

 突如人々が『個性』と呼ばれる超常の力を手に入れた超人社会。

 そんな超常の力があふれた事により激増した犯罪。

 それを取り締まるために出てきた夢のような職業。

 

 『ヒーロー』

 

 フィクションの世界の職業だったものが、今では当たり前になっている。

 そのヒーローという職業をより実践向けに教育する機関もいくつか作られた。

 その中でも倍率300越えという超難関校「雄英高校」の実技試験会場前。一人の少女が絶叫していた。

 

「まあ向こうとしても即戦力求めるだろうけどさ……倒すためのガジェットしかないのはいささか不平等すぎませんかね」

 

 多くの視線を気にせずにブツブツと文句を言い続け最後に「はぁ」とため息。実技試験のための扉が開いていくのを眺めながら頭を掻く。

 

「あの娘、落ちちゃうのか……」

「残念だな……よっぽど弱い個性なんだろうな」

 

 その声は届くことは無いが、届いた所で気にすることはないであろう少女は開始の合図をじっと待つ。

 

 ボーっとしているとあの理不尽課題を告げたヒーロー「プレゼントマイク」からもう始まっている旨の放送が響く。皆が我先にと実技エリアに向かう中置いてけぼりにされた人物は2人。

 

「君は行かなくていいの?」

「え?……あっ……あ!」

 

 どうにか現状を把握した緑髪の少年は遠くなるライバルの背中を見、そして少女の顔を見る。

 

「後から行くからお気になさらず~」

 

 笑いながら手をひらひらとしながら先に行くように促す。緑髪の少年は真っ直ぐ前を見つめライバルの背を追いかける。

 

「元気だねぇ……ま、ボチボチいきますか。とは言え何か出来るわけでもないんだけどね」

 

 そう呟きながら門をくぐると個性によって派手に破壊された点数付きのガジェットとビルや道路、街灯etc。試験の為とは言え各々が最大限の個性でガジェットを破壊していく様はさながら映画と見間違える光景であった。

 

「これ実践重視の試験なんだよね?いやはや」

 

 目の前で破壊されてボロボロになったビルを見つけ中に入る。2階に上がると投げ飛ばされたのか上に続く階段を壊してめり込んでいる小型ガジェットをのけて「個性」を発動させる。

 

 

……

…………

………………

 

 

 試験終了間近まで似たような事をビルや道路に行い、ある一帯はガジェットと戦ったとは思えない程の綺麗さが保たれていた。最後の個性の発動を行いビルから出ると凄まじい炸裂音が聞こえ、その方角を見ると大きく凹み吹き飛ぶ大型ガジェットと1人の少年。

 

「あの少年あんな個性だったんだ。見かけによらず派手にやるねぇ」

 

 ただ吹き飛ばす時に周りに気を配って欲しいなと思いながら降って来るガジェットの破片やパーツを再度ビルの中でやり過ごすのであった。

 

 

 

 

……

…………

………………

 

 

 

 試験の後、学校側はその少女を高く評価していた。

 確かに少女の活動は「今回の試験」においてはガジェットを倒した訳でもなく誰かを助けたわけでもない。実際、実技・レスキューの両ポイントは「0」である。

 しかし、試験ではなく実践という視点で少女を見た場合の評価はポイントの正反対と言っていい。

 ビルや路地裏での確実な退路の確保、事前の崩れそうな個所の把握。その個性の即時性の高さと範囲の広さ。連続発動可能な持続性。どれをとっても完璧に近い個性である。

 

 こうして実技0であるが教師陣の注目を集めて見せる。

 その少女の名は「物見 直」 個性:物を直す




 次回、主人公のあれこれとこの個性の欠点。


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便利な個性の裏側と過去 その1

 主人公の過去や能力です。


 私『物見 直』は所謂転生者である。しかも元男である。前世ではパッとしない一男子であり、これといった得手も無かった。

 そんな自分は気が付いたら赤ん坊になっていた。知らぬ世界、知らぬ家、知らぬ親。良く分からない環境のまま自身はすくすくと育っていった。

 

 今世の両親は裕福……という訳ではなく、むしろ貧乏に位置するであろう。だがその事に不平不満がある訳でも無い。両親はこんな自分にも優しく接してくれたし、友達にも恵まれた。

 幼稚園に入ったあたりで自覚した容姿もかなり整っている部類であろう。

 そんな好条件での人生再スタートであったが、その環境に甘えず前世では成しえなかった親孝行を行うと誓いながら時を過ごす。

 

 個性の発覚自体は他の子どもたちと同じで4歳辺りだった。

 申告では「物を直す」と分かりやすいモノにしているが、実は直す方法は自身では2つに分別している。

 それは「修復」と「復元」である。

 鉛筆を例にすると分かりやすいであろう。

 鉛筆を真っ二つに折って折れた箇所を繋ぐのが修復。

 鉛筆を削って、それを新品の状態に戻すのが復元。

 

 超人社会の中では派手さの無い地味な個性と言えるだろう。実際、自分も発覚して初めの頃は鉛筆2本を修復するのが精一杯であった。復元なんてとても出来るモノではなかった。

 さらに母のお気に入りであった黒く長い髪が個性を使った次の日に見る影もなく白色に染まっていたのである。個性の副作用である事は想像に難くないのだが、それ以上の制限がある事に気付いたのがその日に再び個性を使おうとした時である。個性の発動が出来ないのである。最初1度キリの個性なのかとビクビクしたのは内緒である。

 白髪になって2日後、髪の色が元の黒に戻り個性の発動も可能になった。なおその2日間友達にどうしたのと心配されたのはご愛嬌である。

 

 そうして個性の伸ばし方を考えながら過ごす幼稚園時代であった。

 

 小学校の勉強は個性の向き合い方についての道徳以外はさして変化なく当然の如く満点ばかりであり、子供たちを纏めるリーダーとしても先生から頼りにされていた。個性も同級生が個性によって不可抗力で壊した物に絞り直す事も多く一部の生徒からは便利屋扱いされていた。

 

 そのような学校生活を送りながらも自身が女性である事を意識する機会は少なく、やはり個性を伸ばす事のみを考えて活動していた為、実際に周りにどう見られていたかは意識した事はほぼ無い。

 

 

 

 そんなこんなで名部中学校に上がって1人の人物の噂を聞く。その人物の個性が自分とは正反対で興味を持った。

 

「おーっす心操って居るかい?」

 

 その人物のクラスに顔を出し尋ねる。生徒たちが指さした先には跳ねた紫髪の目つきが悪い生徒であった。

 

「君が心操かい?」

「そうだが。なんの用だい委員長さん?」

「そのあだ名はやめて欲しいな。物見だ、よろしく」

 

 握手を求めるが返さずに無反応。どうしたものかと思ったがすぐに話し始める。

 

「なぜ俺に話しかけた?名前を知っているって事は個性も知っているって事だろう?」

「ああ知っているが、それがどうした?」

 

 個性の把握なぞしているに決まっている。心操もこっちの個性を知っているだろう。

 

「じゃあ何故俺の言葉に返事を返す?」

「返事しないと会話できないだろう」

「操るとは思っていないのか?」

「全然」

 

 洗脳の個性は確かに危険だろう。しかしだ

 

「自分が危険だと前もって忠告する奴が安易に個性使うもんか」

 

 その危険性を自分が十分に理解しているなら尚更。

 

「まあそんな訳だ」

「訳って……それで何の用だい」

「ああ、何簡単な事だ。コンビ組んで欲しい。それだけだ」

 

 そんなことを言われるとは思っていなかったのか目を見開く心繰。

 

「俺とコンビ?何を考えている?」

「相性の問題だ。お互いが干渉できない部分でのフォロー。それを最も効率良くこなしてくれるのは君の個性だからだ」

 

 私の個性はぶっちゃけ身を守る事に関しては1ミリも自信がない。まして犯罪の多くをヴィランと呼ばれる敵が起こしている以上襲われたらどうしようもない。だから敵を一方的に封じられる心操を選んだ。

 

「へえ可哀想だからとか言って丸め込むタイプだと思っていたがそうでも無いんだ」

「悪人面したお人好しだ。可哀想とも怖いとも思わんさ。それでどうだ?」

 

 再び握手を促してみる。

 

「まったく……変わった人だ」

「よく言われる」

 

 今度はしっかり握手を返してくれた。コンビ成立と見ていいだろう。

 

「君みたいな人とはもっと早く出会いたかったよ」

 

 そう呟く心操の言葉を耳にしながら。




 原作キャラで最初に会ったのは意外や意外、心操人使です。無機物には効果がない心繰と無機物にしか効果がない物見。別ベクトルで便利な個性の2人だと思います。

 話中では語られないのも含め主人公の個性の制限まとめ。
 1、個性の発動は本人の体調と体力に左右される。
 2、個性の発動限界は次の日の髪の色で判断可能(完全回復は2日かかる)
 3、直せるのは視界に収めた範囲のみ
 4、個性を限界以上まで使うと丸1日気を失う。
 5、直す事が出来るのは破損してから30日以内の物のみ
 6、修復よりも復元の方が遥かに体力を使う。
 7、1つの物につき5回修復及び復元可能。
 
 書いてない部分が多いけど、全部書いてたらぐだぐだ過ぎるから省いた!

 7/17発動制限等を少し緩くしてみた。


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便利な個性の裏側と過去 その2

 心操君とのあれこれ。なお短い。
 前回の話にあった個性は縛りがキツいと言われたので、それなりに緩くしてみました。


 心操とのコンビを結成してから数日。お互いの個性のより細かい把握に時間を使っていた。

 

「物見の髪の色って見る度黒と白の割合変わっていたけど、そんな理由だったのか」

「本来は黒一色なんだがね。個性が発現してから本当の黒一色は自分でもあまり見ないな」

 

 成長してから個性を限界まで発動する機会はあまり無い。今でもヴィランに会わない様になるべく人通りの多い場所を行き来していたし、公の場での個性の発動は法の通り最低限の範囲でしかしていない。

 突発的にヴィランに遭遇した場合はすぐには直せない場所(線路や道路)や襲われた人の衣服や所持品等を即座に直しその場を離れる。

 

「真っ白な時は大抵何かあったって事かい?」

「そういう事になるな」

「割と真っ白になっている事が多いのは?」

「知らん。なぜか行く先ではヴィランの襲撃が多いんだ。中には私を目がけて襲ってくることもある。綺麗な人なんてそこら中にいるだろうに」

 

 このロリコン共め!

 

「君は自分の容姿の自覚は無いのか?」

「一般的な中学生と同じくらいと自負しているが?」

「そう思っているのは君だけだ」

 

 髪の長さは個性の関係上腰の辺りまで伸ばしているが、それ以外は平均より少し高いか大きいくらいなハズだ。最近やたらと胸に視線を感じたり、他の女子に触られたりする機会が多いが気のせいであろう。

 

「まあ、そんな平均女子に体力で負けるのは如何なものかね、心操よ」

 

 この個性の発動には体力が不可欠である。発現2日目でその事を察したので鍛えた以上体力には多少の自信がある。

 

「体力必要な個性なのに6車線道路50メートルを当たり前の様に修復するお前には勝てる気がしない」

「4階建てビル丸ごと1つ修復するより遥かに楽だ」

「サラッとビルを単位とするなよ。てか修復したのか」

 

 割と最近であるがな。あ、1つ聞きたい事があるんだった。

 

「心操。君はその個性でどんな職業をしたいんだ?」

 

 尋ねると心操は少し目を見開きそして顔を伏せる。10秒ほどタメを作り呟く。

 

「ヒーローだ」

 

 そう言う心操の顔は少し哀愁が見え隠れする。同級生からヴィランみたいな個性だと遠回しに言われているのはよく話を聞く。人前でそのような夢を語っていないのはタメから想像できる。

 

「そうか。ならばコンビとしてその夢を全力で応援しよう」

 

 しかし、その顔に声に哀愁はあれど諦めは無い。ならば背中を押すのが道理だろう。

 

「それは同情かい?」

「まさか。夢を語る相手に同情なんてするか」

 

 それにだ

 

「お前の個性は確実にヒーロー向きだ……いいや違うな」

 

 個性の問題ではない。ならばこう言うのが適切だろう。

 

「お前はヒーローになれる」

 

 他者の言う通り確かに悪い使い方も沢山あるだろう。だが、それを良しとせず正義の為に行使すると、心操はそう心に決めているのだ。

 

「だから」

 

 その心が折れないならば実現するだろう。高校も同じか分からないが今のコンビとして、一人の男として、その夢の為にこう言おうではないか。

 

「この3年間。一人くらいは完璧に守ってみせてくれよ……ヒーロー」

 

 真っ直ぐ心操の顔を見つめる。再度目を見開き、そして大きくため息。

 

「よくそんな事平気で言えるな」

「うん?」

「お前ここがどこで、人が聞いたらどう感じるか気にしているか?」

 

 そう言われて周りを見渡す。現在、昼休み昼食時間中で場所は心操の教室である。そうしてコソコソと何か話している。皆大胆だの女子なのにカッコいいだのワルな感じの人好きなのかとか言っているが

 

「つまり……どういうことだってばよ」

「傍から見たら物見からの告白にしか聞こえないって事だ」

 

 ……………あーそういう。

 

「って!違うからな!お前ら!何を以って男子に告白せにゃならんのだ!これはコンビとしてのアレだ!こちとら毎度ヴィランに襲われて必死なんだぞ!」

「君のその言い方もどうかと思うよ」

 

 なんか命守るナイトとして選んだんだーとか言っているが!そんなロマンチックな理由じゃないぞ!一部男子が何か張り切っているんだがええい温かい目で見るな!!

 

 そんなぐだぐだな感じでその日の昼休みは終わっていった。



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便利な個性の裏側と過去 その3

 久々の更新。まさか続きを待って下さる方がいるとは思わなかったぜよ。


 心操とコンビを組んでから1年経った2年生の夏。ヒーローとして資格も取っている訳でも無いため、体を鍛えたり個性を伸ばしたりと当たり前の事をしながら過ごす。

 街中でも時々ヴィランに襲われそうになるも心操の個性により危機なく過ごす日々である。本当に感謝してもしきれない。

 不本意ながら成長していく体(特に身長と胸)を不便に思いながら現在、貧乏な我が家でも遂に新たな制服の発注を余儀なくされた。そのためいつも通り心操を連れて大型デパートの中に居た。

 

「すまん待ったか?」

「いや全然」

「じゃあ行くか」

 

 発注の間外に待たせていた心操に声をかけて歩き出す。

 

「さて用事も終わったがどうする?」

「どうするも俺は用事なんて無いよ。完全に付き添いだ」

「そうか。じゃあブラっと見て周るか」

 

 普段お金もないため余り来ることの無い大型デパートである。夏と言うこともあり外は暑い。このままデパートで涼しくなる時間までうろつくのも悪くはないだろう。そんな昼下がり……突如サイレンが鳴り響く。

 

 

「何があったんだ?」

「さぁ?大方ヴィランが暴れているんじゃないかい?」

 

 落ち着いて店内の放送を待つ。

 

『現在、ヴィランの襲撃により店内に火災が発生。従業員の指示に従い落ち着いて速やかに避難してください』

 

 その放送があった直後、周りの人々は一目散に非常階段やエスカレーターへ駆け寄る。店内のどの階でどの範囲で火災が発生しているのか分からない状況。

 

「ケータイは繋がるか。一先ず警察と消防、ヒーローへ通報か」

「店側がしてくれているだろうけどね」

「万が一の為だ」

 

 次々に電話をかけ手短に事態を説明しヒーローへの通報も終わり、さて逃げるかとなった時店の隅でうずくまる人影を見つける。

 

「あの子どうしたんだ?」

「見に行こうか」

 

 影の小ささから子供だと判断し駆け寄る。お父さんお母さんと泣く小さな女の子がそこには居た。

 

「大丈夫か?」

「立てるか?」

「ひっぐ……ひっぐ……」

 

 うずくまり反応を返さない子供に対しどうするかと考える心操であったが私は体が先に動いた。

 

「よしよし怖かったな。もう安心しろ」

 

 子供の前にしゃがみ頭を撫でる。そうしてこちらに気が付いた子供は涙を流しながらもこちらを向く。それに対して私は笑顔でこう言う。

 

 

「私達が来た」

 

 そうしてニカッと笑う。頼れる人が来たという事に心に余裕が出来たのか泣き止みばっと抱き着く。よしよしとなだめながらも子供に事情を聞く。

 

「親と一緒に来たのかい?」

「うん……おかあさんといっしょに来たの」

「どこに居るのかわかるかい?」

 

 わからないと首を振る子供を見て一先ず一緒に行動をする事にしたが、立てないというのでおぶって歩き出す。

 

 

「さて脱出するか避難するか……どっちにしろ非常階段を使わなきゃならんが」

 

 目線を移すと非常階段に群がる人々。だが何やら足踏みしているのか中々人が引かない。エスカレータに目を見やるもこちらも上に向かう人でごった返している。

 

「下に行くのは無理か」

「じゃあ上だね。だけどその前に」

「あの人の群れをどうにかせんとな」

 

 その後の行動は早かった。心操と共に何があったのか話を聞く。すると非常階段が何らかの個性で破壊されている上に。下の階段も破壊されて身動きが取れないそうだ。

 人を掻き分け壊れている部分を見て、直す。先頭の人を心操にお願いして落ち着かせ我先にと行かせない様にさせながらだが。完全に直りきったのを確認してから誘導を促す。

 その間にも子供に親がいないか確認させていたがいなかったらしい。

 

「……人が少ないか?」

「だね。これは下にもトラブルがあるとみて間違いない」

「この子の親がいるかもしれないと思うと行くしかないか」

 

 

 そう言って皆が逃げる方向とは逆の下へ向かうと、そこには約2階分の階段が破壊された跡がある。そして下を覗き込むとやはり多くの人が足を止めていた。

 

「声届くか?」

「難しいだろうね。あの喧噪じゃ」

「ならしょうがない。落ち着いて行動してくれるのを祈るか」

 

 そうして個性を発動し瞬時に階段を直していく。しかし祈りは届かず直した瞬間に駆け出す人々。一応誘導をしているが、聞いてるかは分からない。

 それでも親を見つけさせながら誘導をしているとこのデパートの社員の1人と思われる人がやって来ると感謝の言葉と共に下で火事が起こっているから上に逃げる様に促される。

 

 

「親はいなかったか」

「いなかった……」

 

 すると社員から子供の名前を叫びながら探す女性の姿が下であったと言う。子供の名前を聞くと一致していた事から、非常階段で姿が見えないということは未だに下で探しているかもしれないということだ。

 

「じゃ、ちょっと探してきますからこの子はお願いします」

 

 それだけ言って子供を押し付け階段を下りる。その女性を見かけた階へ降りるとそこは火が回り始めた場所であった。

 

 

「こりゃマズいな」

「火が覆いつくすのも時間の問題だ。引き返すか?」

「まさか」

 

 ハンカチで口を覆い通路へ向かう。火が付いている物を「壊れた物」と判定し直し鎮火させる。箇所単位であるため広いフロア全部という訳ではないがそれでも確実に直しながら周囲を眺めると1人の女性が倒れているのを見つける。

 

「あの人か!」

「みたいだね!」

 

 特徴が一致した女性の傍に駆け寄り呼吸と意識の有無を確認するが、呼吸はあるが意識が無い。

 

「煙の吸いすぎか?まあいいここから出るのが先決か」

「下からの煙がかなり多くなってきたね。急ごう」

 

 子供と同じように女性を背負い駆け出す。非常階段前の防火扉を閉めて階段を駆け上がる。この先に何が待っているかも知らずに。




 すまない。半端な所で切ってすまない。


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便利な個性の裏側と過去 その4

 遅れてすまない。


 女性を背負い非常階段を駆け上がる途中。爆破された様な跡がある防火扉を見つける。その状況を見てヴィランの大まかな個性を推察する。

 

「一度に気付かれずに多数の場所の破壊が可能な能力か」

「ここまでピンポイントで広範囲だと方法は限られる」

「となると設置型か」

「それも誰も気づかないレベルだ。厄介だね」

 

 先程には無かった扉の爆発跡を見て即時爆破可能なのかと考えながらも近くの警戒を強める。そうして安全区画が配備されている階に到着するも、やはり階の防火扉は爆破されていた。

 

「ヴィランが近いか?」

「恐らく」

 

 ヴィランの目的は不明だが前に見た防火扉からこの階の下までの防火扉が爆破されていない事を考えると狙いは安全区画であることは想像に難くない。

 

「ヴィランが複数じゃない事を願うか」

「そうだね。1人だけだったら何とかなるかも」

 

 心操頼りの自身の戦闘力に歯噛みしながらも安全区画まで走る。先程の修復や女性を抱えながらのダッシュで確実に体力が削られていると感じながらも安全区画の扉の前に居るのは1人の人物。

 

「……」

「……」

「ああん?なんだガキかよ。今からこの扉ぶっ壊すから邪魔すんな」

 

 体から生み出される小型爆弾を扉に設置しているデカい男は面倒そうに言う。この男がヴィランである事は分かった。ではどうするか。心操にアイコンタクトを送り互いに頷く。

 

「おい、お前。何故扉を爆破する?」

「決まってんだろ、どんだけの物破壊出来るか試したいんだよ。溜まってんだよこんな個性でよー。試したくなるもんだろ?この個性で人を殺してよー」

「危険思考め……他の仲間は居るのか?」

「いる訳ないだろ。こんな挑戦」

「そうか。なら安心した」

 

 男が言い切る前に条件を達成し男の心を乗っ取る。これで最低限の安全が確保されたと思っていた。だが

 

「…ッマズイ」

 

 そう思っていても時は遅し。その爆弾は時限式であった。爆弾の近くに居た男は少しばかり巻き込まれるも動くには余裕の傷であった。爆破の衝撃によって個性が解除される。

 

 

「テメェら何した?」

「教えないよ。それにその程度の爆破じゃ扉は壊れないよ」

 

 後ろを振り向く男が見たのは新品同様に無傷な扉であった。

 

「……どうしたんだい?君の爆弾はその程度なのかい?」

 

 ワザと挑発するように告げる心操。実際には扉は無傷ではなかったのだが私の能力で瞬間的に直している。

 

「……」

 

 挑発に対して無反応である。警戒なのか怒りなのか。表情の見えない男は意を決した様に目を見開く。そうするだけで辺りの柱に仕掛けられた爆弾が作動する。

 

「ッ!」

 

 周りを見渡し天井が落ちてこない様に柱の修復を開始する。そうして個性を察したのか私目がけて爆弾を投げる。

 

「危……ッ!」

 

 背負っていた女性を遠くに投げ、爆弾の直撃をどうにか避ける。が、その動作により回避が遅れた私はモロに爆風に当たる。

 

「物見!」

 

 柱の修復の時点で体力はほぼゼロであった。その上で爆風による熱と反動により痛さと熱さで意識が徐々に薄れていく。

 

「物見!返事しろ!」

 

 心配そうに叫ぶ心操。だが薄れていく意識に抗えずに目を少しずつ閉じていく。近づいてくる心操が吹き飛ばされる。

 

「ここで死ね」

 

 遠くから聞こえる投擲音。ああ、終わったな。と走馬燈が駆け巡っていると

 

「大丈夫かい?」

 

 その声と共に聞こえる吸い込み音。爆発音はするものの熱や衝撃は一切届く事は無かった。最後の力を振り絞り目を開けるとそこには宇宙服を着た人物。あなたは?と擦れ声で呟くと宇宙服の人物は振り返り告げる。

 

「僕はスペースヒーロー13号さ。安心して。僕が来たからには君達を守るよ」

 

 その声を聞き助かったと安心して意識を手放す。

 

 

 

 その後は無事全員救出したと意識を手放して丸1日経った病院の個室で知らされる。そして助けた親子からの感謝のメッセージを受け取りながら助けてくれたヒーローを思い浮かべる。

 

「13号か……」

「どうしたんだい物見?」

 

 同じ病室で事態を聞いていた心操は不思議そうに顔を見つめる。

 

「心操。私もヒーローを目指すよ」

「そうか」

 

 決意に対して短く返事をする心操。こうして私達の目指す道は1つになる。あんな状況だろうと最後まで倒れずに守れる……そんなヒーローを目指す。それが私のヒーロー像だ。

 

 

 

 

 それから約1年半。受験結果を聞き心操に電話をかける。

 

「ああ心操か……結果は……やっぱりか……私もだ……普通科への編入?当然するさ……ああ……私達のヒーローアカデミアは雄英と決めている……夜遅くにすまん……ああおやすみ」

 

 新たな決意を胸に春。雄英へ……ヒーローとしての新たな一歩を踏み出すのであった。




 次回から雄英編です。


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雄英にて

 クラスメイトとの会話なんてほぼ無いです


 新たな制服に身を包みながらも雄英高校に入学して早々、自己紹介の後に体力テストが行われ、持久面以外では下の方に位置する成績を収めながらも過ごす入学1日目。昼休みに同じクラスとなった心操と共に教室内で飯を取る。

 

「まさか初っ端から体力テストがあるとは思わなかった」

「とか言いながら余裕そうじゃないか」

「あの程度でヘバってたらこんな個性使えねぇわ」

「だろうな」

 

 自己紹介の時に同じ中学である事は伝えてあるが、それでも目立つ男女が同席で仲良く喋っていたら視線を集めていた。

 

「心操も大分鍛えられてるじゃないか」

「物見の体力づくりに付き合えば嫌でも鍛えられるだろ」

 

 違いないと笑っていると突然放送が入る。

 

『普通科1年の物見さん、応接室に来て下さい。繰り返します……』

「だそうだが?」

「何かした記憶はないんだがな。とりあえず行ってくる」

 

 昼食の残りを掻き込み席を離れる。なお、教室を出る際にチラリと中を見ると質問攻めされる心操が困り顔で居た。

 

 

「何かしましたかね?根津校長先生」

 

 所変わって応接室には校長先生含め4名ほどの先生が待っていた。入ってソファーに座るのを促されて座り質問する。

 

「いやいや。物見くん。君は何もしていないさ」

「はぁ……それじゃあ何でここに呼ばれたんでしょうか」

「それはね、君の個性について学校側から頼みたい事があるからだよ」

「個性?あー……そういう事ですか」

「察しが良くて助かるよ」

 

 自身の個性で頼む事なぞ1つしかない。だが疑問になることもある。

 

「雄英って割とお金持ってますよね?わざわざ自分が修理なんかをしなくても業者に頼めばいいでしょう?それに自分でなくとも直せる個性もいるはずですが?」

「お金だって無限にあるわけじゃないんだ。節約していきたい所はいきたい。それに試験の時の映像を見た限りでは君の個性の速度は群を抜いているし正確だ。直せる量も申し分ないと来たら使わない手はないだろう」

「さいですか」

 

 他の先生方も頷いている。試験の時の評価が思いの外高かったのは意外だったが、それでもポイントは0であった結果は忘れていない。

 

「試験の時ってそこまで見てるんですね」

「審査制のポイントがあったのは受験結果を渡した時に告げているよね。必然的に受験者の行動はある程度把握しているよ」

「評価の割にその審査のポイントが全く入っていないのは?」

「あれはあくまで人助けのポイントだからね」

「……街の復興は人助けにならないんですねー。へー。機械のヴィラン倒すだけがヒーローなんですねー。直接助けないと認めないんですねー?」

 

 ジト目で告げる。あっ先生全員が顔を背けた。

 

「……」

「……」

 

 自分自身いじわるな事を言っているのは承知である。ヴィランがいる中で街の復興などあまり意味が無いのは知っている。試験の時も超大型ヴィランに直した箇所の1部を壊された。それでも復興や修理が0ポイント扱いなのは審査ポイントの存在を聞いた時は納得いかなかった。

 

「まぁここで言っても仕方ないですね。困らせてしまってすいませんでした。頼み事については可能な範囲でお受けします」

「ほっ……ありがとう物見くん。それと僕たちもタダで君の個性を使わせる事はないさ」

「と、言いますと?」

 

 その後は学校側の条件として

1.物品の取り寄せに関して審査が通れば可能な限り取り寄せてくれる(工事費よりも安くなるとは踏んでいるから)

2、学食の利用の無料化

3、学校側が指定している物は可能な限り優先して修復する事

 概ねこの3つであった。修復する物は先生が伝えるらしい。

 

「分かりました。何かあったら言って下さい」

「うむ。頼むよ。折角の昼休みを邪魔して悪かったね」

「お気になさらず。失礼します」

 

 そうして応接室を出て教室に戻ると、心操が疲れた顔をしていた。相当な質問にあったのだろう。

 

「お疲れさん」

「大変だったよ。主に物見についての質問が多かったが」

「どんなだ」

「付き合っているのかとか、どんな出会いだったのかとか、スリーサイズとかその他諸々。ほぼ答えるのに困る質問だった」

「ご愁傷様。スリーサイズを聞いたヤツは後で締め上げる」

「聞いた人は後で教える。それで物見の方はどうだった」

「個性絡みの雑用押し付けられそうだ」

「中学の頃と同じだね」

「規模が段違いになりそうだがな。あ、それに合わせて色々融通してもらえる」

「貧乏な君にはありがたい申し出じゃないか」

「ま、そうだな」

 

 そんな雑談を交えながら昼休みは過ぎていくのだった。




 デク?爆轟?1-A?なにそれおいしいの?


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ぶっ壊しても!ぶっ壊しても!ぶっ壊しても!

 ようやく1-Aキャラとまともに話すのかな?


 スリーサイズを聞こうとした奴を締め上げて放課後。自由な校風に恥じぬ雄英は入学初日から通常カリキュラムを行う所も普通にあるようで、ヒーロー科の授業も普通に行われている。

 さて、ここ数年のヒーロー科受験の傾向が仮想ヴィランを使って行われた事からわかる様に合格者の大半が「物理攻撃力」の高い者である事は想像に難くない。

 つまり何が言いたいかと言えば……

 

「あ、物見くん。こっちもお願いね」

「こっちにもよこして」

「こっちもー」

 

 1年の入学初日でも高学年のヒーロー科による戦闘訓練が行われていたのだが、まあ出るわ出るわぶっ壊されている訓練地区のビルや道路や街灯やらが。お前ら本当にヒーロー目指してんの?って惨状が。

 

「ここ本当にヒーローの訓練後ですか?ヴィラン訓練の間違いじゃ?」

 

 先生たちは何も答えてくれない。訓練の度にこんなに壊してるんじゃそりゃ工費も掛かるわな。そんな事を思いながらも先生が指定した場所を修復していく。実際の個性の発動を目の当たりにした先生は驚きを隠しきれていない。

 

「いや本当に助かるよ。君みたいな個性の人ってあんまり入学しないからね」

「どういたしまして」

 

 そんな短い会話を挟みながらも次々に修復を行っていく。日暮れまでに終わるかなと打算しながらも自身の疲れを確認する。

 

「ここで最後ですね」

 

 最後の指定箇所を修復し学内移動用のバスに戻る。夕焼けのバスの中で先生から労いの言葉をかけられる。

 

「入学初日からすまなかったね。今後もお世話になると思うからよろしく頼むよ」

「校長から話を聞いた時は眉唾だと思ったけど、実際見てみると便利な個性ね」

「君みたいな個性の子がもっと増えると嬉しいな」

 

 などなど初日にしてこの評価である。悪い気はしないものの一部の先生のそれは今後もぶっ壊す宣言である事は察した。学校の校門に着き待っていた心操と共に帰宅する。

 

 

 

 2日目の朝、髪の状態を確認する。5分の1が白色になっていてこんなもんかと思いながら登校する。なお教室に入った時に髪について聞かれたのは言うまでもない。

 その日は委員長を決めるための時間があったのだが心操の「中学ずっと委員長やってたし物見でいいんじゃ」の一言によりほぼ強制的に委員長に任命された。解せぬ。なお、副委員長の座をかけて男子の間で小競合いがあったのだが関係無い話である。

 

 そんな平凡な時間が流れていたが休み時間に先生に呼び出されて職員室に行くとそこには平和の象徴が居た。

 

「先生、それにオールマイトもどうしたんですか?」

 

 オールマイトが居るもののいつも通りに話しかける。

 

「それがねオールマイト先生から君にお願いがあるそうだ」

「オールマイトから?」

「話は引き継ごう。私的な用件で申し訳ないんだが……」

 

 話を聞くと、どうやら個性の制御が少し疎い生徒がいる様で戦闘訓練用のビルを破壊してしまった時に即時次の訓練に移れるように直して欲しいとの事だった。あと折角だから戦闘の様子を見ていかないかい?と。

 

「良いですけどこの場合、自分の授業はどうなるんですか?」

「そこは私が話を付けておいた。心配する事は無いさ」

「そうですか」

 

 問題ないのなら頼まれ事を優先してしまうか。そう思い了承する。

 オールマイトが担当する1-Aの生徒はコスチュームに着替えて戦闘訓練のビルに行っているとのことでオールマイトに担がれながら向かう事にする。

 

「私が遅れて来た!」

「なんか女子担いでるー!?」

 

 女子生徒を担ぎながら現れるオールマイトに驚く声を聞きながらも、降ろされて1-Aの面々と向かい合う。試験で見た緑のモジャモジャ少年と目が合う。

 

「突然の生徒の追加に驚いているだろう。この生徒は戦闘の見学と、とある事を頼んでいる。自己紹介を頼む」

「1年普通科、物見直だ。以後よろしく」

 

 普通科!?と驚いた様子である。そりゃそうだろう。ヒーロー科の授業に関わって来る事など通常はありえないのだから。

 オ-ルマイトが戦闘訓練について説明をしているが一部の生徒からずっと視線を受ける。説明が終わり、くじ引きでチーム分けを行い戦闘をする者以外はモニタールームへ移動する。

 初戦には試験で見かけたモジャモジャ少年、緑谷が居た。

 

「ではヴィランチームは核弾頭を隠してくれ。合図したら訓練開始だ」

 

 隠している時間に見ている生徒は何をするかと言えば。

 

「ねーねー物見さん。頼まれてたある事ってなーに?」

「てか何で普通科から?」

「どんな個性なのかしら?気になるわ」

「ああ確かに気になるぜ。その胸の大きさが!」

「峰田ちゃんそれ普通にセクハラよ」

「うっせー!気になるもんは気になるんだよ!」

「でも確かに大きいよね!ヤオモモと同じくらいありそう」

「ん?どうかしましたか?」

「……八百万に負けず劣らずとは普通科侮り難し」

 

 自分への質問である。話に挙がったやたら露出の高いコスチュームを着ている女子生徒八百万は首をかしげている。話しかけた面々は胸を見比べながら盛り上がっていた。ある女子が自分の胸を触って難しい顔をしていたのは無視した。

 てか自分は自己紹介したものの相手からされていない為どう返したらいいのかわからん。胸の話で盛り上がられると尚更。

 

「こらこらトークもいいが、相手の隠し場所を見て何故そこに隠したかの判断や自分ならどこに隠すか、またそこに隠されたらどう見つけるかと、考える事は山程あるぞ」

 

 オールマイトから注意を受け、胸の話は一旦終わりモニターを見る。セオリー通り探し辛いビルの上階に核弾頭を運びゴツゴツした装備の生徒が準備完了の合図を出す。

 

「整った様だね。じゃあ訓練開始だ」

 

 

 開始早々に爆豪と呼ばれる生徒の独断先行で緑谷を潰しに掛かっていた。爆破の個性で高い機動力を維持しながら周りを構わずぶっ壊しまくる。言動を見ても完全にヴィランのそれである。

 緑谷が爆豪の攻撃をどうにか捌いている中、ヒーローチームの相方が核弾頭を探し回り見つけるもののヴィランチームの相方が見張っていて手が出せない様子だ。

 

 少しの膠着状態の中、緑谷が相方に指示を出して勝負に出る。爆豪の攻撃を片腕を犠牲にして受け止め、無事な腕を上に向かって突き上げる。

 

「君が一番派手に壊すのか……」

 

 一瞬オールマイトに目を向けるとやっちゃったかと言った顔である。もしかしなくても制御が疎い生徒とは緑谷の事だったのだろう。溜息と共にじゃあ行ってきますとオールマイトに言ってモニタールームを後に、ぶっ壊されたビルへ向かう。

 

 

………………

 

 

「緑谷の個性スゲーな!まるで……ってあれ?物見は?」

「物見ちゃんならさっき出ていったわよ」

「そりゃそうさ。この事態こそ彼女に依頼していた事なのだから。見ているといい」

 

 どういう事かと首を傾げる面々。固まっている緑谷と爆豪、勝利を喜んでいる麗日と悔しがっている飯田をビルから出させて無事なモニターから中の様子を見てみる。

 

『風圧で窓ガラスも割れてる。まあいいや』

 

 言うや否や、緑谷が開けた穴を下から見上げて視界に収める。そうして個性を発動する。

 

「穴が塞がって……?」

「あ、一部モニターが復活してるって嘘!」

 

 個性の発動と共に先程まで空いていたと思われる大穴が綺麗さっぱり屋上までヒビ一つなく直っているのだ。物見は窓ガラスを見て周り上の階でのフロアにも問題が無いか確認しながら大穴の余波で壊れたカメラ等を直してビルを出る。時間にして5分も掛かっていないであろう。大穴だけなら一瞬と言える速度で直している。

 

「これが彼女の個性ですか……」

「物体の修復だそうだ。直接的な戦闘能力が無い故目立つ事は無いがどう思うかね?ヒーローの卵達よ」

「……下手な戦闘力の個性よりかも遥かに重宝される個性でしょう」

 

 物見の個性の価値にいち早く気付くのは同じ物質に関する個性を持つ八百万であった。「ビル一棟を5分かからず直す」言葉にすると単純だろうがそれを可能に出来る人物がどれだけ居るか。

 

「ヒーローってのはただただヴィランを倒せば良いって職業じゃない。人を助けるってのは多岐に渡る、それを肝に銘じてほしい」

 

 そう話を締めくくり、物見が戻ったのを確認して今の戦闘の総評に移るのであった。




 まともに話すと言ったな?あれは嘘だ。
 早く体育祭編に行きたいでござる。

 何故オールマイトは主人公に即時の修理を頼んだの?→場所移すよりも主人公が修復する方が時間的に早いから。壊れないなら壊れないに越したことはないですが。


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戦闘見学とヒント

 短いですぜ。元々前の話でまとめる予定だった物ですから。


 モニタールームに戻ると先程より更に視線を集めていた。

 

「何かあったか?」

「いやーモノミンって実は凄い個性持ってたんだなーって」

「も……モノミン?」

「うん、物見だからモノミン!あ、今更だけど自己紹介まだだったね!私は芦戸三奈!よろしくね!」

 

 ピンク色の肌が特徴的な女子芦戸が自己紹介をすると、それに続く様に1-Aの生徒が各々の自己紹介を始めた。

 それを聞きながら顔と名前を一致させている間にオールマイトが先程の戦闘について生徒達に質問していたが八百万が大方全部答えていた。曰く日々精進との事。

 

「今回は物見くんが見学しているから大規模な破壊でもどうにかなっているが、実際の現場では彼女は居ないし周りへの被害も考えないといけない。爆発物の扱いも同様だ。ではそれを踏まえた上で2回戦行こうか!」

 

 2回戦は轟と障子、葉隠と尾白だったのだが。まあ轟の個性で一方的に核弾頭の確保を行いヒーローチームの勝利に終わった。

 その後、何回戦か続き各々の個性を活かした索敵や迎撃を行い総評を挟みながら続き八百万と峰田ペアが行った戦闘での事。

 

「八百万の個性って物を創る能力か?便利な能力なこって」

「強力な個性ではあるだろうさ。だけど便利な能力の裏には勿論制約もある」

「制約ねぇ」

 

 見た所、武器の出現に少しタイムロスがある様に思えた。恐らく大きな物ほど出すのに時間が掛かる事は分かる。

 だが、やはり自在に武器を出せるというのは強力である。武器のみならず各種道具も出しているのを見ると羨ましく思う。

 

「道具の欠片でもあれば直せるんだが」

 

 そう呟いて八百万に武器や道具の提供をして……と考えていた時に思い浮かぶのは学校からの契約の1つ「物品の取り寄せ」であった。

 元々、武器や道具の類はこのご時世需要に対しての供給がイマイチであったため少々お高い値段であった。護身用とされている物でもだ。貧乏な物見家では手を出そうとは思えなかったのだ。

 

「これなら……いやでも」

 

 個性を活かした戦闘はヒーロー科において必須条件。今まで出来なかった事も雄英なら可能になるだろう。

 

「相手を倒すスタイルか?……難しいな。ならやはり捕らえる形で」

 

 八百万の戦闘を参考に必要な要素を考えていく。そうしてヒーロー基礎学の授業が終わりビルをさっさと直しているとオールマイトから礼を言われる。

 

「ありがとう物見くん。君のおかげで授業がスムーズに進んだよ」

「こちらこそ勉強になりました。所で帰りはどうしたら」

「君が良ければ1-Aのバスで一緒に帰ってくれないか」

「分かりました。ではこれで」

 

 若干焦り気味のオールマイトに配慮して会話を手短に切り上げてA組のバスに乗る。帰りのバスの中、各々の戦闘を振り帰って盛り上がっている中、話題は自分の個性に移っていた。

 

「さっきは話し損ねたけどモノミンの個性って強力だよね!」

「そうね。一瞬でビルを直すほどの力だもの。相当鍛えたのじゃないかしら」

「そういえば受験の時、街の一角が綺麗なままだったけどアレって物見がやったのか?」

「え?試験の街って結構大きかったけど1人で?」

「他に直す個性が居ないならそうなるな」

 

 何ともない様に言うが他の人達は平然と答えるとは思わなかったらしくやはり驚いていた。

 

「何故彼女ほどの個性が普通科にいるのでしょうか……?」

 

 A組一同うんうんと頷いていた。戦闘出来てなかったからね!是非も無いね!そんな帰りのバスであった。

 

 

 

「任命初日にサボりかい委員長?」

「分かってて言っているだろう心操さんよ」

 

 軽口を叩き合いながら戦闘スタイルの相談をして、放課後に物資の注文を行いこの日は終了する。今回は1-Aのビルのみの損害で済んだらしい。




 各々の自己紹介とか二次創作読み漁ってる方々には今更必要ない物ですよね。原作と同じ展開に進む物は大体省略します。

 主人公の戦闘スタイルは書く前から決めてありました。どんなスタイルかは……まあ分かりやすいと思います。体育祭編で発揮されるのでお楽しみに。
 USJ編には関わらないのでキンクリします。


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そんな事があったのかー

 予告通りUSJはキンクリです。


 入学から1週間後の水曜日。 物資を受け取り個性の練習場で試行錯誤しながらも学園の依頼を受ける日々だったが。学園で大きな事件が起きていたらしい。

 来て早々にマスコミらによって正門が破壊されてそれでいいのかと思いながらも応急処置(という名の完全修復)に駆り出されていた。

 そんな日の午後、ヒーロー科の授業としてUSJと呼ばれる災害施設で救助訓練を行おうとしていたらしいが本物のヴィランの襲撃に合ってしまったとの事。

 A組の担任と13号が大きく負傷しながらも生徒への被害は少なく親玉の2人を取り逃したが他のヴィランは全て捕まえた。

 

「それで?どこを直せってんですかね?」

 

 警察による現場の調査も終わり撤退した後、そんな事情を聞かされながらも連れてこられたのであった。入り口から見渡せるものの中心の広場を除けば中は入り組んでて全て見る事は出来ない。とは言え直して欲しい場所は大方見当はついていた。

 

「君にはドームの天井の修復を頼みたくてね」

「やっぱりですか。天井に大穴開けるってヴィランに空を飛べる奴でも居たんですか?」

「いやーあの大穴はオールマイトによって開けられたモノでね。何でも敵を殴り飛ばした時に上方向に飛ばしたらしくてね」

「さいですか」

 

 その敵の安否は分からないが上に飛ばしたのには何か理由があっての事だろう。……ドームの天井とか普通に業者に頼んだら幾らになる事やら、そんな事を考えながら視界に収めて個性を発動する。

 

「……直りましたよ」

「毎度毎度すまないね」

「他にはありますか?」

「一先ずは天井だけで構わないよ。君が来てから学校は少々頼りすぎているからね。それに業者にもある程度は仕事を回さないと怒られちゃうよ」

「別に頼ってもらってもいいんですけど……理由があるなら仕方ないですね」

 

 最後に13号の病室を聞きお見舞いといつぞやのお礼をと思ったのだが重症であり面会謝絶と言われた。仕方なしに待たせていた心操と共に帰路へ就く。

 

 次の日の昼休み、朝に雄英体育祭の開催が発表されて沸き立っているクラスメイト達を眺めながら、心操は珍しく用事があると一足先に教室を出ていってしまった。

 1人飯でもしゃれこもうかと思ったが何となく学食へと赴くことにした。人でごった返しながら持参した弁当と共に席を探してキョロキョロしていると肩を叩かれる。

 

「ん?ってヒーロー科の……えーと蛙吹か」

「梅雨ちゃんと呼んで。物見ちゃんは何をしているのかしら」

「空いてる席は無いものかと探している所だったんだが」

「良かったら私達の所に来ないかしら?1席くらいなら空いてるわよ」

「うーん……じゃあお邪魔させて貰うか。案内よろしく梅雨ちゃん」

「任されたわ」

 

 蛙吹に案内されて向かう席の一角にはA組の面々が居た。一緒に食事する旨を伝えて端の方の席に座る。

 

「ヴィランの襲撃に会ったってな。無事でなによりだ」

「む、物見さんは知っていたか」

「そりゃ知ってるさ。学校でも話題になってるしな。まあ今の施設の中に入った生徒は私だけの様だが」

「今って調査が終わって修繕してる状態って聞いたけど………あっ」

「緑谷のお察しの通り私も駆り出された。まあこんな事態だから当然と言えば当然だが」

 

 緑谷は前回の戦闘訓練で結局話す事は出来なかったが、自分の個性についてはクラスメイトが話した様で個性自体は知っていると言った感じである。

 

「それでどうだったよヴィランとの戦闘は」

 

 そう尋ねると各々が顔を合わせながら主観で手応え等を語っていった。多対多であったり一人対多数であったり先生への連絡を行ったりと各人、場所と役割に従って行動していたとの事。

 話を聞きながらも持参した弁当を食べていると数名からの視線を受けていた。

 

「どうした?」

「いやーそのお弁当って手作りなのかなーって」

 

 話を切り出したのは麗日であった。A組の昼食を見ていると学食で頼んだ物が殆どであり、一部購買で買ったパン等もあった。

 

「手作りだが。それがどうした?」

 

 言うや否やザワつく女子達。何のこっちゃと思っていると蛙吹が切り出す。

 

「物見ちゃんって口調によらず女子力高いわよね」

「女子力よりも主婦力、出来れば主夫力と言え……家が貧乏でな。節約のためには自分で作るのが必須条件だったから必然的にこうなった」

「家が貧乏って全然そんな風には見えないんだけど」

 

 胸を見ながら言うな。それと口調は気にすんな。

 

「そのお弁当って他の人にも作った事ってあるの?」

「藪から棒にどうした麗日。基本家族3人分だ」

「基本って事は家族以外にも実は?」

「……たまーーーに1人だけ家族以外の奴に作ってる」

「男性?女性?」

「食ってかかるな。男性だよ」

 

 ぶっきらぼうに言うとざわめく女子連中と対照的にほんの少し残念そうにする一部男子連中。あー女子ってこういう話大好きでしたね。

 

「誰誰?彼氏?彼氏だよね?お弁当作ってあげる仲だもんね」

「彼氏じゃねーわ。ただ中学から付き合いのある男子だ芦戸」

「えー?でも向こうはそうは思ってないかもよ?」

「いやーアイツに限ってそれはねーな」

「でもその感じだと満更でもなさそうだよね」

 

 中学時代から繰り返される問答。何故に女子は恋人同士にしたがるのか……自分にはわからない。1度だってそんな行為は……あー卒業式の後の春休みに1回だけ無理矢理押し倒して……

 

「……はぁ」

「どうしたの?急に溜息なんかして」

「なんでもない。それよりも一口食ってみるか?」

「いいの!?」

「さっきから食べたいオーラ出しまくってたからな」

「ありがとう!でも私だけ悪いから学食の奴だけどこっちも一口」

 

 そうしておかずの交換をすると他の奴らも食べたい食べたいと言い出したので各々のランチと交換して昼休みは過ぎて行った。




 芦戸さんは容姿除けば比較的に普通の女子生徒だから書きやすいと思いました。


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宣戦布告を眺めながら

 3期が始まって書く熱が戻りました。4月までに体育祭編終わらせてちょこっとインターン編書いて完結目指します。


 朝の体育祭の開催があったからか放課後になって1-Aに多くの生徒が群がっていた。それを横目に通り過ぎようとしていると爆豪が相手をザコと言い挑発。そこまではいい。

 

「どんなもんかと見に来たが随分偉そうだなぁ」

 

 気だるげだがはっきりと聞こえる声で言うのは我が相棒である心操であった。チラリと私を横目に見ていたが気にせず続ける。

 要は普通科からでも結果によってヒーロー科上がれるから覚悟しとけって事である。まさか心操がそんな事するとはな……。

 それに呼応してB組の生徒も挑発する。だが爆豪は意に介さずにいた。

 

 

「心操お疲れさん。どうだったよA組は」

「どうもこうも上しか見てないなホント」

「だろうな。まあヒーローになるんなら当然だろうけど」

「物見も目指すんだろう?聞いた話じゃ仲が良いとか言うけど倒せんの?」

「倒すに決まってんだろ。普通科で妥協する気はない」

 

 心操とお互いの覚悟のほどを確認する。先程の宣戦布告を見て分かり切っている。ならば私も上を目指すに決まっている。

 

「プルスウルトラ……か」

 

 ならば私も新しい戦術のほかにもう1つの課題をこなさねばならない。

 

「ま、お互いがんばろーや」

「ああ」

 

 そうして放課後が過ぎて行く……訳ではない。

 

「じゃ私は職員室に用があるから」

「また雑用か?」

「んにゃ別件。すぐ終わるとは思うけどその後また別の事するわ」

 

 それだけ言って置いて行く。そして職員室にて。

 

「体育祭での物資の持ち込みの是非ですか」

「はい。私の個性の性質上持ち込み無しっていうのは厳しいので」

「うーむ……確かに他の生徒の中にも特定の物資が発動の条件になっている者がいるが」

 

 やって来た理由は物資の持ち込みの確認である。恐らく最低限の持ち込みは許可されるだろう。そうでなければ個性が発動できない者もいる。

 

「後で確認を取るから明日に報告という形で構わないかい?」

「構いません。お手数おかけしてすいません」

「いやいや手間でも何でもないさ。体育祭頑張りなさい」

「ありがとうございます。頑張りますよ。ではさようなら」

「はいさようなら。最近はヴィランも多いから気を付けて帰りなさい」

 

 注意を促されながらも挨拶をすませて職員室を後にする。そして次の場所に向かう。

 

「前もって許可は取ってあるからなー」

 

 向かった先は各所にある個性の訓練所である。さすが雄英なだけあって一般に開放されているその手の施設とは広さも質も桁違いである。しかも個室である。

 

「ホント金持ってるなー羨ましい」

 

 さて学校から受け取った物資……自衛用の道具と壁の修復の際に余った欠片を鞄から取り出し並べる。

 

「まずは自衛用の閃光玉だな」

 

 普段使いするには周りへの迷惑がかかる物であるが個室なので問題ないだろう。用意したサングラスを付けてピンを抜き適当に投げる。

 

「サングラスが無ければ即死だった」

 

 漫画なんかではよく見かけるが初めて使ってみてこりゃ視界潰せるわと納得する。光が収まった後弾けている部品の欠片を回収する。

 

「どんなもんだろうか」

 

 一瞬だけ視界を合わせて個性を発動。部品が瞬時に復元したのを確認してピンを抜き再度投げる。

 

「まあ使えるよな。次」

 

 サングラス越しでも発動は可能か、部品だけで復元して使えるかの確認を済ませる。次は抜いたピンを見て個性の発動。

 

「やっぱ本体ごと復元可能か」

 

 ピンを抜き三度投げて爆ぜるのを確認。この分だと持ちやすさ的にピンだけの持ち運びでも問題なし。

 

「さて本題だ」

 

 学校の壁の欠片を手に取り遠くに高く投げる。そして個性を発動。

 個性発動点から形を取り戻し約3m四方の菱形に復元。そして自重で床にズシンと落下する。

 

「うーむ形がイマイチか。正方形のつもりだったが」

 

 私の個性の応用の1つ「部分復元」。普段は全ての範囲の復元や修復を行うため使う事が少ない応用法。そのため使用は出来るが制御が出来ていない。

 次の欠片を手に低く投げて個性を発動。今度は壁になる様に形を考えながらの復元である。そうして高さ3m、横5m、厚さ2mの壁を地面に置かれる様に作る。だが形が歪であり自身の方向へと倒れそうであった。

 

「これの扱いに慣れないと戦闘なんかこなせないな……あとは投擲速度や高さも戦闘では圧倒的に足りないし……我ながら力不足だ」

 

 元々戦闘向きの個性ではないのだがそうは言ってられない。プルスウルトラ。更なる高みへと至る為に必要な事だ。

 そのような個性の制御と体力づくりと道具の準備、サポート科への協力要請やら学校側の依頼をこなしながらもあっという間に2週間が過ぎ去る。

 

「あ、物見さん。物資持ち込みの規定ですけど物見さんは学校指定のポーチ1つ分に決まりました」

「分かりました。わざわざありがとうございます」

 

 そんなやり取りもあった。




 雄英なら絶対個性の訓練所のあるよねって思って書きました。
 次から体育祭編である。訓練描写?そんなものはない。サポート科や普通科連中とのやり取り?そんなものも無い。B組?刹那で忘れちゃった。


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予選第一種目

 体育祭編はっじまるよー。なおサクサク進める模様。予選の説明とかいらんやろ精神で行ってます。
 誤字報告や感想ブクマ等感謝です。


 オリンピックに代わるとされる一大イベント雄英体育祭当日。各々の準備を済ませて選手入場が始まる。

 

「やっぱヒーロー科への注目が多いな」

 

 多くの観客の中にはプロヒーローがスカウト目的で来ているという。ここで目立てば後々のインターンや体験学習で選択肢も増えて有利になると言う。

 現状は先日のヴィランの襲撃を退けたA組が注目を集めている。

 

『選手宣誓!』

 

 ミッドナイトの声に呼ばれて台に立つのは入試成績1位の爆豪であった。1位になるとか跳ね台になれとか豪胆ここに極まれりである。

 次に第一種目である障害物競走の説明がされ各々スタートラインに着く。

 

「それで心操。作戦とかあるか?」

「予選通ればそれでいい」

「ノープランか」

 

 これに関しては障害の内容次第だから仕方ないか。足並み揃えるとか一旦考えずにいた方がいいな。心操と最後に視線を交わしてスタートの合図を待つ。

 

『よーいスタート!』

 

 門の入り口はぎゅうぎゅうの寿司詰め状態。これは先頭に行った奴のアクション次第だな。

 

「よりによって轟かよ」

 

 先頭を走っていく轟。これ絶対妨害してくるだろ。

 

「だよなぁ!」

 

 振り向かずに床ごと選手を凍らせていく。わかってたよこの野郎!前に居る誰かの頭を思いっきり抑え込み屈ませて踏み台にしてやり過ごす。A組の大半が反応して各々の方法で生徒を飛び越し前に出る。このまま凍ってる生徒を足場にして私も前に出る。

 

「げっ試験の仮想ヴィランかよ」

 

 A組の後を追うとヴィランステージに突入する。とはいえ今は轟の先行で凍らせてあるが。

 

「滅茶苦茶嫌なバランスで凍らせてやがる」

 

 凍っている大型ヴィランの横を通り過ぎながらも視界に収め倒れる前に凍傷扱いのヴィランを直していく。

 

(熱を感じないが氷が溶かされた……この速度は物見か。再度凍らすのも手間だし恐らく直される。ここは見過ごすか)

 

 チラリと振り向き凡その事を察して私の顔を見る轟。私が直さない分はそのまま前のめりに倒れて何人か巻き込んでいた。

 第一ステージは轟に続き私は2位での通過となる。

 

『おっとぉ!ロボ・インフェルノ!1抜けはヒーロー科轟で2位通過は普通科物見だぁ!』

 

 アナウンスが入る。普通科!?と驚かれている。そりゃそうだろうな。ヒーロー科の独壇場と思われたヴィランステージだ。

 

「こっちのヴィランは倒れてないぞ!こっちから行くぞ!」

 

 当然ながら直した部分は道として認識されるが曲がりなりにも仮想ヴィラン。前に行こうとする選手を妨害していく。

 

「楽出来てよかった……心操は……まあ大体倒された後に追ってくるだろ……ん?」

 

 上の方から爆発音が聞こえる。爆豪だろうな。それに加えて機動力が高い瀬呂と常闇も上から轟を追いかける。

 

「私には目もくれないか。まあいっか」

 

 妨害出来る様な個性でもないしさっさと次のステージに向かわせて貰う。次のステージはザ・フォールと呼ばれる幾つかのルートの綱が崖に繋がれているステージであった。

 

「綱渡りねぇ……後続より今は自分の安全第一で行くか。最短5回か?」

 

 ルートを選択してポーチから学園のバカデカい壁の欠片を取り出し地面に置き個性を発動。

 

「綱なんて渡ってられるか!私は勝手に道を作る!」

 

 傾斜角度がえげつない学校の壁で作った道が完成する。機動力ある連中はもう先に行ってしまっている。

 同じ様に作った道を渡り4位で通過。だが私の作った道を利用して次々と後続が追いかけて来る。

 

「まあ綱渡る位なら私の作った道選ぶよな」

 

 後続から「なんか道が出来てる!ありがてぇ!」と声が聞こえるが仕方ない。だって壊す手段ないもん。妨害に壁作ろうとも思うが体力の無駄だろうと止めた。

 

『おっとぉ!物見の作った道を利用して後続がどんどん追い上げる!てか道作んなよ!障害になってねぇじゃん!』

 

 知らんそんな事私の管轄外だ。チラリと見ると飯田が物凄い速度で登ってくる。

 

「物見さん。悪いがありがたく利用させて貰った!」

「追いつくの早っ!まあ構わないけどさ」

 

 それだけ言って先に行ってしまう飯田。私も次に向かうか。

 

『一面地雷原!怒りのアフガンだぁ!』

 

 音と衝撃が凄い地雷ステージねぇ……轟は先行してるけど動きが鈍い。爆豪が空からそれを追いかける。飯田も地雷を踏みながら進んでいる。

 

「ま!関係ねぇよ!」

 

 再度学校の壁の欠片を取り出す。それをなるべく遠くに投げて放物線の最高地点で個性を発動。今度は厚さ重視の道を地雷原に落とす。

 さすが雄英が発注する壁だけあって頑丈である。少し跳ねながらも問題なく道と同時に地雷処理としての役割を果たす。

 

『物見が再度道を作る!このガール一度も障害を障害として乗り越えてないぞぉ!』

 

 プレゼントマイクが絶叫。だが無視だ。ポーチの空きに地雷の欠片を詰め込みながら何回かに分けて道を作る。

 

「1位は無理そうだな」

 

 そう思っていると後ろから特大の爆発音。上空を大きく舞いながら緑谷が1位に躍り出る。そんな方法もあんのか参考にしよう。

 そして緑谷が後続2人を妨害しながらそのままゴールに転がり込む。

 

「4位ね……こんなもんか」

 

 こうして私の第一種目が終了する。なお心操は23位であった。体力づくりの甲斐あったか?




 本来は支援特化の主人公が障害物競争に参加したらどうなるかを書いてみた。まあこうなるよな。
 学校の壁万能説。壊す方が悪い。


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予選第二種目

 4月14日の日間ランキング入りありがとうございます。サクサクと騎馬戦行きます。いつもより短いです。


 ミッドナイトから第二種目である騎馬戦のルール説明の後、15分のチーム決めが行われる。そこで私はと言えば。

 

「俺とチーム組もうぜ!」

「いや俺とだ!」

「私でもいいでしょう?」

「オイラと組んでくれよぉ!」

 

 選手に囲まれていた。何人か見知ったA組も居る。てか騎馬戦だろもっと戦闘力高い奴と組めよ。私なんて本来戦闘からっきしだぞ。入試0Pだぞ。

 

「悪いが1人は決めてある。残りはそいつと相談する」

 

 断りを入れて向かう先はただ1つ。

 

「人気者だな物見」

「ポイント数や順位で選ばれても困るんだがな。予選の種目と相性良かっただけだっての」

「……はぁそう思っているのは君だけだ。見ていたが轟だっけか、あの氷に対処出来るってだけでも価値は高いんだ」

「実際は対処しきれていないの知ってんのなんてお前だけだろうな」

 

 会話している間にも時間は過ぎていく。心操が何かと妬みの籠った視線を受けているが当の本人は慣れていると言わんばかりだ。

 

「で残り誰誘うよ」

「適当でいいよ。俺が騎手やって最後にポイント多い奴を止めて取るから」

「あいよ。じゃあ私は適当に壁でも作っとくか。多分狙われるだろうし」

 

 実に雑な決め方だがこれでいいだろう。この場合他の人の個性は余り関係無い。私は視界が広い前馬であり両手が塞がるため心操にポーチを丸投げする。

 

「敵が来たら壁の欠片か地雷の欠片でも投げててくれ。私が勝手に直すから」

 

 さて残り2人を決める作業に入るか。個性知ってるのは……あの2人でいいか。

 

「おっす。尾白組もうぜ」

「!!物見さんか。なんで俺なんだ?」

「数合わせ。あと個性知ってるし」

「そんな理由でいいのか……君だったら他に良い人が居るだろう」

「いいんだよ誰でも。爆豪とか轟とか強い連中なんて既にチーム作ってるし」

「……わかった。組ませて貰う」

 

 1人確保。あとは人気なさそうな青山だな。誘ったら即決だった。チョロい。

 

「連れて来たぞ」

「ああ。よろしく」

「よろしく頼むってお前!教室の!」

「まーまーいいだろ。今はチームだ」

「よろしくねっ☆」

 

 そういや心操A組挑発してたな。忘れてた。心操を騎手にして開始の合図を待つ。てか尾白力あるな。左手側の負担がほぼゼロだ。誘って正解だった。

 

「まーボチボチ行きますかね」

『3!2!1!スタート!』

 

 開始の合図が鳴る。と同時に緑谷に大量のチームが襲い掛かる。1000万ポイントは辛いねぇ。

 

 

「左からこっちに人が来てるぞ」

「ん?ってアイツ誰だ」

「牽制よろしく」

「あいよ」

 

 実況でヒーロー科って言ってるしB組か?対峙して騎手が心操のハチマキを取ろうと……する前に心操が目の前に投げた地雷の欠片を視界に収めて直す。突如現れた地雷複数に躊躇している間に後退して次に投げられた壁の欠片で壁を作る。

 

「合図も無しに息ピッタリか……2人は長い付き合いなのか?」

「その話は後でな」

 

 心操が人の流れを読みながら最低限の指示を飛ばす。牽制しながらポイントを維持。時に現在の各ポイントを確認しながら残り時間1分の所で心操が最後のポイントを確認。狙いを定めて確実に4位以内に入れるポイントを得られるチームを決める。

 

「じゃあ行くぞ物見に青山に尾白」

「……」

「ああ」

「うん☆」

 

 私だけが答えずに後ろ騎馬2名に洗脳を掛ける。これで制御完了だ。

 当たりをつけたチームに突き進み心操が一瞬動きを止めてハチマキを奪い取りその少しの衝撃で相手の洗脳を解除。そしてわざと肩をぶつけさせて尾白の洗脳を解除。最後に地雷の置き土産。

 

『タイムアップ!』

 

 予選が終了する。

 

「ご苦労様」

 

 心操がいやらしい笑みを浮かべて尾白と青山を労う。尾白は何があったか分からないといった顔だ。

 

「お疲れさん」

 

 私も2人を労う。直ぐ後に結果発表が行われる。

 

1位轟チーム

2位爆豪チーム

3位心操チーム

4位緑谷チーム

 

 私にとっては予想通りの通過者たちである。この後の種目次第だな。尾白がこちらをてか心操をじっと睨みつけている。

 昼休憩1時間の後に午後の部だという。心操を誘い休みに入らせてもらう。




 今更だけど11話で(過去編飛ばせば7話で)既に体育祭編ってこのサイト的に展開早すぎるのではと思ってしまう。
 あと未だに主人公のヒーローネーム決めてない……どうしましょ。

 感想欄で心操よりよっぽどヴィランじみた事が出来る系主人公になってきている。力の使い方って大事ね。

 wikiに書いてないのですが職場体験ってヒーロー科だけの行事なんですかね?ヒーロー科オンリーの行事だったら普通科の主人公が選べない事による事務所からの大ブーイング不可避ですが……


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本選発表とその前に

 息抜き回です。


 昼休憩の間に昼食食べた後は心操をほったらかして爆睡。時間になって起こされてレクリエーションがあるとされて会場の方に向かうが。

 

「何やってんだあいつら」

 

 何故かチアガール衣装を着て一部除いて恥ずかしそうにしているA組女子達。あ、私と目が合った。

 

 

「声掛けられてるぞ」

「絶対ロクなことじゃないのはわかる」

 

 無視を決め込もうとするが蛙吹が跳んでくる。結構距離は離れてたはずなんだが。

 

「物見ちゃんもどうかしら?」

「絶対に嫌だ」

 

 私も巻き込もうとするんじゃねぇ。心操は顔を逸らしているこの野郎。てか周りの男子からの着ろ着ろコールがうるせぇ!

 

「ほら周りもこう言ってるし」

「私の意志は無視か……」

 

 蛙吹の舌に巻き付かれてフライアウェイ。A組女子達の前に着地させられる。

 八百万が創ったチア衣装を手にジリジリと滲み寄って来る。

 

「死なば諸共ですわよ物見さん。貴女には悪いですけど巻き込まれて貰います」

「悪いと思うなら巻き込むんじゃねぇよ……峰田に上鳴の主犯共もガッツポーズすんな。着ないからな?絶対に嫌だからな?」

 

 いやマジで嫌なんだが?聞いてますか?謎の目配せすんな。あっなんか囲まれてる。てか葉隠いつの間に後ろに!?

 

「「問答無用♪」」

 

 ヤメロー!シニタクナーイ!

 

 ……テンテンテレテン

 

「お前ら絶対許さねぇからな?覚えとけよ?特に八百万!」

「その衣装で言っても迫力ないわよ物見ちゃん」

 

 八百万が創った簡易更衣室に無理矢理押し込められ服を剥ぎ取られて着せられたチア衣装。丈短いんだけど!あと周りの歓声が無駄に多い!チラリと心操の方を見るが目を逸らされる。またか!

 

「顔真っ赤っかだー珍しい」

「麗日からかうな。自分より目立つ存在が来たからって」

「こうして見るとヤオモモと姉妹みたいだね」

「芦戸お前は何を言ってんだ」

「ぐぬぬ」

「耳郎は……いや何も言うまい」

「私と姉妹ですか?」

「八百万も何言ってんだ」

「まーまーちょっと並んでみて」

 

 八百万と並ばされる。背の高さも髪の長さも同じ位か?お互い珍しい物を見る感じである。そういやそこまで交流無かったな。蛙吹なんかは割と話しかけて来るけど。

 

「……発育の暴力」

 

 誰かがボソっと呟く。その一言で全員の視線が一箇所に集まる。

 

「ヤオモモのは見慣れた感あるけどモノミンもやっぱ凄いね」

 

 何故に体育祭で品評会が行われているのか……コレガワカラナイ。

 八百万もこちらを眺めながらも思った事を口にする。

 

「物見さんもかなり肩凝りません?」

「割とな。もう諦めてるが」

「でしたら良い店があるのですが如何ですか?」

「八百万の家って金持ちなんだろ?高そうだし断る」

「そうですか……残念です」

「……これが勝ち組の会話か……!」

 

 こんな事態に巻き込まれてる時点で負け組だわ。とりあえずA組の他の連中が来る前にする事済ませるか。

 

「峰田と上鳴ちょっと来い」

 

 主犯2名がだらしない顔で呼ばれるままに来る。

 

「……覚悟は出来てるか?私は出来てるし返答は不要だ」

 

 ノーモーションで鳩尾に拳を叩き込む。悶絶する2名。なお周りは止めないし監視役の先生も何も言わない。女子達も少しスカッとしている感じではある。

 

「本当なら巻き込んだ蛙吹と八百万にもするべきなんだが……していいか?」

「いやー女子に手を出すのはどうかと思うよモノミン」

「私も一応は女子だ。問題無い」

「あ、かなり怒ってる感じだ」

「大衆の面前でこの衣装に着替えさせられる私の気持ち考えてみろ」

 

 ごめんなさいと謝って来る八百万と蛙吹。まったく……

 

「許す!」

「早っ!」

 

 空気悪いままにするのも嫌だしな。でも次は巻き込むんじゃねぇ!その後やって来たA組男子勢に何してんのと聞かれたりして結局着替える暇なく最終種目の説明が入る。

 

『レクリエーション!それが終われば最終種目進出4チーム総勢16名からなるトーナメント形式!1対1のガチバトルだ!』

 

 その後くじ引きを行おうとするも尾白が辞退する。なんでも何もしていない自分がそこに行くのは自分自身が納得できないとの事。

 ミッドナイトがそれを受諾。同理由で5位のチームも辞退して6位チームの鉄哲が参加することになった。

 

 各々くじを引き終えて対戦カードが決まるのであった。

 

 一回戦

 緑谷vs心操

 轟vs瀬呂

 

 上鳴vs芦戸

 飯田vs発目

 

 常闇vs青山

 八百万vs物見

 

 切島vs鉄哲

 爆豪vs麗日




 主人公は何位に入るか予想してみてくださいね。


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心操君から始まる体育祭最終種目

 レクリエーション?何それおいしいの?


 1回戦初戦が緑谷と心操か……まぁ緑谷なら大丈夫か。感情的な奴ほど心操にとってはカモだし。ガチバトルとは言え何かしらの勝敗の決め方あるだろうし。

 

「てか私は八百万とか……」

 

 よりによってかー。作戦決めるか……レクリエーションには不参加でいいや。んで心操はっと。

 

「あんただよな?緑谷出久って」

 

 あっコンタクト取りに行ってら。答えようとしたら近くにいた尾白が口を塞いでるな。あの1回でタネに気付くのか……意外と侮れん。

 あっ尾白がこっちに来た。

 

「物見さんは彼の個性を知ってるな」

「さてね」

「あの個性をよく信用できるな」

 

 尾白が言わんとしてる事は分かる。だけど信用……信用ねぇ。

 

「そりゃ信用も信頼もするさ」

「……なぜ」

「あいつがヒーロー目指すって言ったから。そんだけだ」

 

 それだけ言えば十分だろう。この世においてヒーローを目指すのが…名乗るのがどんな事なのか。それを知らずに雄英入った奴なんて居ないだろう。

 ハッとした尾白。そして申し訳なさそうな顔をする。

 

「そうか……不躾だったな。ごめん」

「別にいいよ。私もあいつも慣れてるし」

 

 心操の個性を知った奴は決まって同じ反応をする。私が心操と話すのを不思議がるヤツも居たには居た。中には納得できないと言ったヤツも。特に男子連中。

 洗脳で弱みを握って言いなりにとか言ってくるのも居た。その度に説得して逆上されての繰り返し。弱みを握ってとか考えている時点で半分相手にしてないが。

 流石に中学の3年になる頃にはほぼ無くなったが。

 

「話はそんだけか?じゃあな」

「あっそれと最後に1つ」

「ん?」

「なんでそんな恰好してるんだ?」

「A組に巻き込まれた」

「……なんかごめんな」

 

 さらに申し訳なさそうな顔になる尾白。お前は悪くないから気にするな。話は終わったので着替えさせて貰うとする。

 剥ぎ取られた体操服を持ち会場を出る。なお心操には後からどんまいと言われた。

 

 

 見る分には楽しいであろうレクリエーションもあっという間に終わり各々が準備を整えて客席や控室に居る。

 セメントス先生が会場のど真ん中に大きなバトルフィールドを作る。

 

『色々やって来ましたが!結局これだぜガチンコ勝負!』

 

 プレゼントマイクの声にお客さんの歓声が広がる。選手入場のレスポンスと共に心操と緑谷がフィールドに上がる。

 

『一回戦!成績の割になんだその顔ヒーロー科緑谷出久!対 ごめんまだ目立った活躍無し!もう1人の方が目立ってた!普通科心操人使!』

 

 ルールはまいったと言わせるか場外か意識奪うか。道徳倫理は一旦捨て置けってダメでしょ。心操が緑谷に何か話しかけている。そしてスタートの合図と共に緑谷が

 

「何てこと言うんだ!」

 

 大声で叫ぶ。あっ勝ったな。緑谷の動きが完全に止まった。

 

『全ッッッ然目立ってなかったけど彼ひょっとしてヤベェ奴なのか!?』

 

 まあ傍から見たらやべぇ個性だろうな。A組担任がプレゼントマイクの横で入試試験を酷評していた。

 

 

(緑谷もヒーロー科にしちゃ酷いもんだが心操も持久面以外じゃそれより酷い)

 

 緑谷に振り返って場外に行かせる。よし勝ったな。控室行ってくる。

 

『これは……緑谷踏みとどまったー!』

 

 んなバカな!?1度かかった事あるから分かるが絶対体の自由効かねぇよ!?心操も解けて焦っている。緑谷は口を塞いで答えない。てか緑谷もなんで解けたのか分かってない感じだ。

 心操が質問を続けるが緑谷は黙って近づいて行く。その顔は自分も同じだったと言いたげである。

 

「誂え向きの個性で生まれて望む場所へ行ける奴らにはよ!!」

 

 心操も顔は必死であるが本心は別の所にあるといった感じである。そしてお互い場外狙いのせめぎ合い。

 

「がんばれ心操!」

 

 声が出てしまう。それに呼応してか周りに居る普通科の連中も応援を始める。静かだった会場は緑谷コールと心操コールの2つに分かれて試合は佳境を迎える。

 

「ーッ!んぬああああああ!!」

 

 緑谷の一本背負いが決まって心操は場外に出てしまう。

 

『心操くん場外!よって勝者は緑谷くん!』

『二回戦進出!緑谷出久ー!』

 

 ……負けたか。あの心操が。

 

『両者の健闘を称えてクラップユアハンズ!』

 

 ……下に降りるか。

 

…………

 

 

「心操くんはさ……なんでヒーローに……」

「……憧れちまったもんはしょうがないだろ」

「……」

「それにだ!言ってくれた奴が居たんだよ。俺がヒーローになれるってさ……そいつは俺より強いのにさ……笑わずに真っ直ぐに……そんな事言われたら目指すしかねーだろ」

「それって……」

 

 緑谷はかつての自分と重ねてしまう。ヒーローになれないと言われ続けたけど認めてくれた人が居た。そして彼を認めてくれた人というのが体育祭でずっと一緒に居る彼女なのだろう。

 

「かっこよかったぞー心操ー」

 

 頭上から声が降り注ぐ。

 

「正直ビビったよ!」

「委員長と一緒で普通科の星だよ」

「障害物競争一位のやつと良い勝負してんじゃねーよ!」

「でも委員長との関係は羨ましいぞ!」

 

 そしてその声はプロからも掛かる。

 

「あの個性対ヴィランに関しちゃかなり有用だぞ欲しいな」

「雄英もバカだなーあれもう1人と合わせて普通科か?」

「まあ倍率がすごいから仕方ない部分もあるからな」

「戦闘経験の差はどうしても出ちゃうからねー」

 

 彼女だけじゃなくて皆が認めている。

 

「聞こえるか?心操お前すげぇぞ!」

 

 心操は悔し涙を流しながらも緑谷に向けて言う。それは自分を鼓舞しているようにも見えた。

 

「結果によっちゃヒーロー科への編入も検討して貰える。覚えとけよ?今回は駄目だったとしても絶対諦めない。ヒーロー科入って資格取ってお前らより立派にヒーローやってやる!」

 

 だからよ……止まるんじゃねぇぞ

 

「うん…………あ」

「……そんなんじゃすぐ足元掬われるぜ?みっともない負け方だけはしないでくれよ」

「うん…………あ」

「…………」

 

 階段を降りた先には彼女が居た。

 

「心操……」

「物見か」

「…………」

「…………」

 

 お互いに目を真っ直ぐ見つめる。そして物見が一言。

 

「お疲れさん」

「ああ」

 

 それだけだった。



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復元vs創造

 ネット環境が止まってしまっててキボウノハナーしてました。


 客席で心操と共に試合を眺めて相手を分析しながら時は進む。

 瀬呂は轟に瞬殺されドンマイコールが沸き起こった。

 上鳴の開幕スパークに成すすべなく敗れる芦戸。

 全力で自分の発明品を飯田を巻き込んでアピールして満足した所で降参した発目。

 青山のビームを避け続け途切れた瞬間に常闇が押し込み勝利。

 

 割とサクサク進んで次は私の番がやって来る。最後にポーチの中身を確認して目の保護の為の特殊眼鏡をかけて控室を出る。入場のアナウンスと共に試合会場に一歩踏み出す。

 

 

『高1にしてなんだそのスタイルの良さは!何でも生み出すクリエイトガール!ヒーロー科八百万百!対』

 

 お互いに顔を見据える。緊張した顔持ちの八百万がそこには居た。

 

『こちらも負けじとナイスバディ!障害物競争4位!本業は修復のリペアーガール!目立つ方の普通科!物見直!』 

 

 女子同士の対決という事もあり周りからどちらを推すかのコールが掛かっている。

 

「あら?眼鏡ですか……オシャレという訳ではないですね」

「まあな。どんな眼鏡かは言えないが大体予想通りだ」

 

 私みたいなタイプにとっての一番の弱点は目を潰される事。それの対策に用意した物であった。事前に許可は取ってあるので問題は無い(てか元々ポーチに入ってたし)。八百万の個性を考えると必要になるだろう。

 

『3!2!1!』

「行くぞ八百万―――」

「?」

 

 不思議そうな顔をする八百万であるがお互いにどんな戦いになるかは予想は付いている。ならばこれは言っておかないとな。

 

「武器の貯蔵は十分か?」

『スタート!』

 

 合図と共に真っ直ぐに突っ込みながら八百万の銃火器による先手を取られる前にポーチに手を入れて学園の壁を投げて作り牽制。

 

「くっ!」

 

 恐らく遠距離からの攻撃が難しくなった八百万。それでも壁の左右どちらかから来る事を考えて銃と大砲を創り構える。

 

「……っ!」

 

 複数の地雷を一箇所で復元。次いで壁を薄く復元して障害物で緑谷が行ったボムジャンプで空中からの奇襲。

 

「無茶しますわね!」

「無茶しねーと勝てねーよ!」

 

 着地と同時に八百万に向きポーチ内にある地雷を掴み銃と大砲に対して投げる。瞬時に危険だと判断した八百万が銃から手を離し地雷の破裂と共に火薬に着火し銃と大砲が壊れる。

 

「っらぁ!」

 

 立て続けに八百万が武器を創造しきる前に地雷をぶつけて吹っ飛ばそうとするも距離を取られてしまう。が、問題は無い。

 

「この瞬間を待っていたんだぁ!」

 

 近くに落ちている先程壊した銃の欠片を拾い上げて復元し構える。銃なんぞ撃った事は無いがこちらが遠距離攻撃を持っていると思わせれば良いのだ。

 

「……っ!」

 

 状況を飲み込んだ八百万が今度はあちら側から近づいて切れ味が鋭いであろう剣を創造。撃たれる前に銃を壊しにかかる。

 

「ふっ!」

 

 手に持った銃を一緒に拾った地雷の欠片共々ぶん投げる。気付いた八百万は瞬時に盾とも言えない鉄板を生み出して剣と一緒に衝撃に備える。

 

「くっ!」

 

 爆破の衝撃で剣と鉄板が壊れる。そして手が痺れた八百万はその場に持っていた剣を落とす。その隙を逃さずに全力で近づき手に地雷の欠片を持ち低姿勢で突っ込む。

 苦し紛れの盾により再度衝撃を備えようと力む八百万に対して私はその場に落ちていた剣を拾い上げて復元。八百万の用意した盾を斬り飛ばす。

 

「ちっ!仕留め損なったか」

 

 考える暇を与えない様に八百万に向かって再度剣を振るう。あちらもその場で武器を複数創るも作りが甘いのかこちらの剣に一方的に斬り飛ばされていく。

 

『物と物のせめぎ合い!可憐な少女達の戦闘演武!』

 

 八百万が創っては私が壊しを繰り返す。そして地面に大量の武器が落ちている状態を見て私は笑う。

 

「っ!!」

 

 足元にある壊れた武器を1つ蹴り上げて手に持ち復元し投げる。避けられるが同じ事を2度3度と行う。

 

「私の創った物をことごとく利用しますのね」

「自分の出した駒が相手に利用される。まるで将棋だろ?」

 

 軽口を叩きながらも試合は終盤を迎える。何度も武器を投げられて避けるのが限界に達して体勢を崩した八百万の首筋に剣を突きつけて一言。

 

「私の……勝ちだ」

「……ええそして私の負けです。参りました」

 

 試合終了のブザーが鳴る。持っていた剣を投げ捨てて倒れている八百万に手を差し伸べる。八百万は手を掴み立ち上がりそのまま握手を行う。

 

「ありがとうございました。良い試合でした」

「こちらこそ勉強になりました」

 

 周りから歓声が上がる。それなりに見応えがあったのだろう実況も大盛り上がりであった。そして控え室に戻る際に普通科側の連中に声を掛けられ、それに対して私は高く掲げたピースサインで返しておいた。




 バトル描写?何それおいしいの?


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適当な一幕

「いやー疲れたぁ!」

 

 医務班であるリカバリーガールの下に行き銃爆破の際の細々とした破片による傷の治療を受けて、観客席でクラスメイトに声を掛けながらも心操の隣に戻りそう言った。

 

「お疲れ。大立回りだったじゃないか。俺と違って」

「いやいや心操の場合は相手が悪かっただけだって。それにやっぱり慣れないわ自分から壊すのは」

 

 動き回りながらの連続復元のせいで体力もそれなりにキツイし。

 

「普段から物を大切にする物見らしい」

「物をその場で創れる八百万だから遠慮なしに壊せたからな……あれが一点物とかだったら壊さなかったな」

 

 壊す為に個性を使う。直せる私でも……私だからこそ嫌になってくる。雑に扱っても直してくれると思っている、そんな連中を相手にする事が多々あるのだ。

 自分がそんな連中と同じ事をしていると思うと反吐が出てしまう。

 

「直せるからって壊していい事にはなんねーんだよ」

 

 言い聞かせる様にそう呟く。

 

 

……………

……………… 

 

 一方A組は戻って来た八百万を労いながら迎え入れて先程の戦闘を分析していた。

 

「分かってはいたが実際見ると修復速度が凄まじいな物見くんは」

「うん。実質的なタイムラグは無いと考えてもいいレベルじゃないかな」

「八百万ちゃんも素早く物を作れるけど考える必要がある分ラグが出来てるわ」

「そのラグを見逃さずに突いて行く物見の洞察力と行動力、それに個性の速度……厄介な相手になるな」

「それに物見さん明らかに何か札を隠してるね。彼女の個性からして壁と拾った地雷だけしか持ってないっていうのは考え辛いよ」

「前もってあのポーチは渡してあると聞いている。なら相応の準備はしているだろう」

 

 次の対戦相手である常闇が警戒を強める。元々何が種目としてあるか分からない体育祭だ。どのような種類の道具を準備していても驚かない。

 

「一番確実なのは物を取り出す前に倒す事……か」

「それか目を潰す事だな。最も物見くんは自身の弱点についても理解しているから対策の為に眼鏡を使用しているのだろう……眼鏡キャラが被ってしまっているが」

「それに物見は委員長だからな。案外お似合いなんじゃねーの?」

 

 上鳴が煽る。それに対して飯田は否と異を唱える。

 

「残念ながら俺も馬に蹴られる覚悟はない。だろう緑谷くん」

「えーと……ああ心操くんか。確かに彼らの信頼関係はちょっとやそっとじゃ壊せないかな」

「それについては俺も聞いたぜ。何であんな個性信用出来るのかって」

 

 尾白が先程の事を思い出しながらも言い出す。周りから「よくそんな事聞けたな」と呆れた目で見られていたが。

 

「それで物見ちゃんは何て?」

「「ヒーロー目指すって言ったから」だと」

「物見ちゃんらしいわね」

 

 その一言を聞いて緑谷は別の事を思い出していた。「ヒーローになれるって言ってくれた」と。

 普通科とはいえ一緒に雄英に入学した事に物見の信頼と心操の努力が垣間見える。

 ただのクラスメイトにそう言われただけで倍率300越えの雄英を目指す者などそうそう居ないだろう。

 

「てかこの前言ってた弁当作ってる男性ってもしかして」

「……」

「……」

 

 次の瞬間には女子達はキャーキャーと黄色い声を上げる。

 

「超ラブラブじゃん!え?あれでモノミンは彼氏じゃないとか否定してんの!?」

「一方的なラブコールの可能性!?物見さんあの口調なのに滅茶苦茶乙女!」

「あの胸で落ちないとか、ええい普通科の精神力は化け物か!?」

 

 いつでもどこでも恋バナには盛り上がる女子達。

 

「ちっきしょー!あんな不気味な奴にすら彼女がいんのに!」

「あのオッパイブルンブルーンな彼女とか勝ち組も良い所じゃねーか!爆発しやがれ!」

 

 上鳴と峰田が血の涙を流していた。戦闘の分析はどこ行った。

 

 

………………

………………………

 

 

 A組なんか盛り上がってんなーと思っている内にステージが整い次の試合に移っていた。

 私と八百万の試合とは真逆の男同士の正面からの殴り合い。物が飛び交う先程と違って地味で泥臭い戦い。だが不思議と応援したくなる……昔の少年漫画を見ている気分である。

 結果は引き分けで目覚めた後に腕相撲なんかで勝敗を決めるとの事。

 

 1回戦最終試合である麗日と爆豪は……まあ爆豪の一方的な試合で幕を閉じた。途中で相澤先生が爆豪を非難したプロを叱っていた。

 

 切島と鉄哲が目を覚まして腕相撲を行った結果、切島が勝ち2回戦に進出した。

 

 

 2回戦

緑谷vs轟

 

飯田vs上鳴

 

常闇vs物見

 

切島vs爆豪

 

 

 少しの休息時間の後に2回戦の第1試合が開始される。

 

 緑谷がボロボロになりながらも轟の氷結を相殺。そして個性の使用を煽った後が問題であった。

 

「おーおー派手にぶっ壊すねぇ」

 

 お互いに全力をぶつけ合いコンクリートの壁に阻まれながらも大爆発。ステージは半壊して緑谷は場外の壁に吹っ飛ばされていた。

 

『緑谷くん場外!勝者轟くん!』

 

 ミッドナイトから勝敗のアナウンスが入るが皆ドン引きであった。そりゃそうだろう、あんな死んでもおかしくない戦い方をしたのだ。後から説教が入るだろうな。

 ボロボロの緑谷は即担架で運ばれていった。轟も思い詰めた顔でステージを後にする。

 

 半壊のステージをどうするのかと見ているが先生方も対応に困っている感じであった。

 

「少し行ってくる」

「ああ」

 

 心操が何も言わずに送り出す。内心ではお人好しめとでも思われているんだろう。安心しろ自覚はあるさ。ステージに降りて話し合いを続けている先生方に向かう。

 

「お困りですか?」

「物見さん。貴女は休んでていいのよ」

「そうだ。君にはまだ試合が残っているんだ。こっちはどうにかするから」

「余計なお世話……ですか?」

 

 先生方が頷く。復旧にどんだけ時間がかかるか分からないのに良く言うよ。

 

「私も普通科ながら雄英生です。だから言いますが……『余計なお世話こそヒーローの本質』でしょうヒーローさん?」

 

 それにこういう時のための私だろう。その言葉を聞いた先生方も少しの話し合いの末にお願いされる。

 

「了解です。……この体育祭でアイテムの復元しか使ってないですし、折角だから本来の使い方知って欲しいんですよね」

 

 先生方にそう伝えステージを視界に収める。そして個性を使用する。一瞬で修復されるステージに観客席から騒めき声が聞こえる。

 

『これこそが彼女……物見直の本来の個性の使い方です!ありがとうね物見さん』

 

 ミッドナイトの一言で騒めきが一層強くなる。特にプロヒーローから「是非欲しいな」と声が多数上がる。

 

「じゃあ私はこれで」

 

 騒めきと視線を一身に受けながらもステージを後にする。




 実際の所、主人公の勝因は奇襲により八百万の思考時間を削いだ事と単純な発動速度差ですね。
 初期の八百万はとにかく奇襲に弱いイメージがあります。

 ちなみに主人公の心操に対する好感度が実際どれくらいなのかと言えば……1回くらい体重ねてもいいかなーと思ってるくらいの好感度です。

 職場体験の票数主人公はどれくらいが妥当なのだろうか。


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サクサク終わる常闇戦

 クッソ短いよ!


 ステージを直した為早めの試合再開。控室で飯田と上鳴の対決を眺めていた。

 

「あいっかわらずA組同士の試合は終わるのはえーな」

 

 まぁ結果から言えば飯田が勝ち上がった。上鳴の放電を気合で避け続けた後に弱まった所で急加速の蹴りによって場外までふっとぱした。

 

「さっきの試合……てか轟の個性が派手な分目立たねーな」

 

 緑谷や爆豪も十分派手なんだがインパクトでは如何せん轟に分が上がる。

 

「さてさて次は私か」

 

 先程と違いこれと言って壊された訳でもないので次の試合の呼び出しアナウンスが流れる。

 ステージに上がるとパフォーマンスの効果があったのか幾つかの声援が飛び交う。注目を集めるという意味では体育祭は大成功だろう。

 

「君とは余り接点がなかったな。常闇」

「そうだな。八百万を倒したお前だ相手にとって不足は無い」

 

 ステージで向かい合うのは影らしき生物?生物らしき影?を従える常闇。先の試合や戦闘訓練を考えると影の速度と力はそれなりのモノだろう。

 

『3!2!1!』

「お手柔らかに頼むわ」

 

 今にも襲い掛かりそうな体制の常闇に向かって私は楽しそうに笑いながらも

 

「さぁ――――ゲームを始めようか」

『スタート!』

 

 飛び掛かってくる影。それに対して私が選んだ選択肢は壁……では無く。

 

「ふっ!」

 

 地雷による少しの牽制と爆発に紛れさせてある物を投げつける。それを見た常闇の顔はそう来たかと顔を手で覆う。気付かれたか。

 次の瞬間ステージが眩い光に包まれる。

 

「閃光弾……!」

 

 私の狙いが分かろうと光により視界は遮られ同時に影の勢いも弱まる。特殊眼鏡によって無事な私はダッシュで近づき光が収まった所に再度閃光弾を投げて対処をそっちに誘導させる。

 その誘導の隙を突き常闇の頭上に破片を1つ投げる。対処された閃光弾が光る。

 

「チェック」

 

 頭上に投げた破片を対象に復元を行う。そこに現れるのは5m四方の巨大な壁。避けられないと悟った常闇は急いで弱り切っている影を戻しながらも壁を押し返そうと身構える。

 

「くっ!」

「チェックメイト」

 

 足と影の力で踏ん張って巨大な壁をどうにか潰れずに支えている常闇に向かってそう言い放つ。常闇の足元に投げ込むピンの抜いていない閃光弾とポーチからは破片を取り出す。

 

「この破片。さらに上から復元してもいいんだけど?」

「…………参った」

『常闇くん降参!勝者物見さん!』

 

 セメントスがコンクリートを操り常闇が支えている壁を取り除く。私は常闇に近づき手を差し伸べて立ち上がらせる。

 

「ありがとうございました。良い試合でした」

「割と一方的だった気がするがな。いやこちらこそ経験になった」

 

 互いに握手をして観客からも拍手が沸き起こ……らなかった。閃光弾でピカピカ光ってる間に気が付いたら試合が終わってる様なもんだったからなぁ。

 微妙な雰囲気の中でステージを後にする。

 

 

「今回は早かったな物見」

「あの手の相手はさっさと終わらせるに限る。疲れもいい加減溜まって来たし最低限の復元で終わって良かった」

 

 多分今の時点でも明日になったら髪が8割は白くなってしまっているだろう。やっぱり復元の多用は駄目だな。

 

「次の試合は爆豪と切島か。切島の個性を考えると長くなりそうだし、少し休むわ。3回戦始まったら起こしてくれ」

 

 心操にそれだけ言い残して少しばかり眠りにつく。

 

 

 

 寝ている間に試合は進み3回戦の対戦カードが発表される。

 

 3回戦

轟vs飯田

物見vs爆豪




 常闇戦は試合時間20秒にも満たないでしょうね。
 昼間に効く閃光弾とは一体………まあ気にしたら負けですね。
 ビルを復元させてビル落としでもしようかなと思ったけど、体力的にも無理ですし危険すぎるので止めました。


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高機動高火力ってズルくない?

 書いてて勝つヴィジョンが全く見えない爆豪戦はっじまるよー。
 あとここまで書いてて主人公がやってる事の既視感にようやく気付いた。


 3回戦のアナウンス前に心操に起こされながら第1試合を眺める。

 飯田が1回戦に見せた超加速により轟が個性を発動しきる前に先制。そのまま場外まで連れ去ろうとした所で足のエンジンの排気筒を塞がれて失速。そのまま全身凍らせて轟の勝利に終わった。

 

「今回は地味に終わったなーっとじゃあ行ってくるわ」

 

 第2試合で私と爆豪だが……爆発系の個性って良い思い出が無いんだよなー。

 

「こうして正面から顔合わせんのって何気に初めてか爆豪」

「……ここまで来たんだ「退け」ってのは聞かねぇよなロン毛」

「当たり前だ……てかロン毛って」

 

 そのあだ名結構多くに当てはまりそうだが……私ってそこまでキャラ個性無かったか?……無かったわ。

 

「全力で来いよ?全部ぶっ壊してやるよ」

「壊されんのは勘弁だ」

 

 お互い顔は笑いながら軽口を叩き合いミッドナイトのカウントが始まる。

 

『3!2!1!』

 

 ポーチの中に手を入れながら出方を伺う。

 

『スタート!』

「死ねぇ!!」

 

 先制して突っ込んでくる爆豪。それに合わせて投げるのは地雷と壁の欠片詰合せ。

 

「喝!」

 

 視界に入る欠片全てを復元し擦り合わせて爆発させる。多くのビルの壁で押し出そうとするも爆豪が前方に爆発を起こして壁の勢いを落としながら躱す様に上空へ飛ぶ。

 

「っ!」

 

 牽制に再度同じ事をしようとするも爆豪の起こす爆風で投げた物が後ろに流れてしまっていた。

 

「オラァ!」

「チッ!」

 

 下がる間も無く距離を詰めて顔に向かって掌を振るう爆豪。間一髪で躱すも爆発で眼鏡が壊れる。

 そして視界を塞ぐように再度目の前で爆破。バックステップでギリギリ直撃を避けるも煙幕が漂い前が見えなくなる。

 

「!!」

 

 

 頭上から聞こえる爆発音、そしてその後には背中に強い熱と衝撃が走る。髪から焦げる匂いがして痛みに耐えながらも、壁の欠片を後ろに投げながら振り向くとそこには掌を両方向けている爆豪の姿が。

 

「っっ!!」

 

 瞬間、掌を中心に強い光が発生。壁の復元が間に合わず直に見ていた目が一瞬で潰される。眩暈を起こしていると顔を思い切り掴まれて地面に押し倒される。片手を踏みつけて爆豪が一言。

 

「まだ続けるかロン毛」

「……参った」

『物見さん降参!勝者爆豪くん!』

『決勝は轟 対 爆豪に決定だぁ!!』

 

 爆豪が体を離し視力が回復した後に立ち上がる。何にも出来ずに負けたな……

 

「爆豪」

「アァン?」

 

 私は右手を差し出す。一瞬どういう意図なのか分からなかった爆豪だが握手を……するわけではなく掌をパンと叩くだけだった。爆豪らしいと思ってしまう。

 

「ありがとうございました。良い試合でした」

「少しは悔しがれザコが」

 

 悔しいとは思うが負けた事実は変わらない。だからこそ次を考える様にする。それに自分で気付かなかった弱点も分かる様になる為負けて得る物の方が大きい。

 決勝頑張れとだけ言い残してステージを後にする。

 

 

 

 

 

 重い足取りでリカバリーガールの下に行き背中の火傷の治療をして貰う。

 

「アンタの個性……かなりの体力を消耗するみたいだね」

 

 リカバリーガールが少し難儀な顔でこちらを見る。原因は私の個性の反動で体力的にほぼピークを迎えてしまっている。

 リカバリーガールの個性は勝手に治すという訳ではなく他者の体力を使っての治癒力の活性化。故に今の私の体力では全て治すという事は出来ない事は無いのだが、全部治すと体力的に立てないレベルになるとの事。

 

「私としては治療に専念して欲しいんだけどね。物見さんは次の試合にも出る気なのかい」

「……はい」

 

 どうせなら最後まで戦いたいというのが本音だ。だがそう答えるとより一層難儀な顔をされる。

 

「次の試合で個性を使用したらケガをしてもその場で治せなくなっちまうよ?」

「………」

 

 遠回しな棄権の催促。次の試合で大ケガをしないとも限らない以上リカバリーガールとしては退いて欲しいのだろう。

 

「でも……やっぱり出たいです」

「……そうかい」

 

 強情な娘だねと小言を言いながらもリカバリーガールが個性を使用する。最低限背中の火傷だけを治すに留める。

 

「綺麗な髪だったのにねぇ……本当に」

 

 私の焦げた後ろ髪を見てそう呟くのであった。




 負ける時はあっさり負けるのがウチの主人公です。
 主人公の弱点である「目潰し・高機動・広範囲・高火力」全てを兼ね備えてる爆豪に勝てる訳無いんだよなぁ。
 生身だと腕力任せの投擲になるので風を起こす相手にもマトモな火力が出ません。


 ちなみに轟くんと戦うとどうなるかと言えば初撃の範囲攻撃は防げる……けどそれだけです。主人公から攻める手段が無いから勝ち目ゼロです。


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唐突に終わる体育祭1年の部

 本来ならこれで完結予定なのでしたが職場体験までおまけとしてやります。
 次の対戦相手は飯田くん…あっ(察し)
 日間一位ありがとうございます。記念に物見さんが脱ぐ番外編を職場体験前に…


 少しの休憩時間の後、ついに始まる体育祭1年の部最終種目決勝戦。

 轟vs爆豪というダイナミックな試合展開が予想される対戦カードである。

 

「物見としてはどっちが勝つと思うんだ?」

「ん?そうだなぁ……私としては爆豪だと思ってる。戦ってみて分かったがアイツはヤバイ。こっちの攻め方見た上での対処が並じゃない」

 

 待ち姿勢って性格でも無いのに的確に攻め筋潰して来るから性質悪い。力押しだけって訳でも無く避けるべき所はキッチリ避けるし。

 

「戦うのが巧いタイプってのはああいうのを言うんだろうな」

 

 轟も強い個性なのだが……まぁいいか。あっ始まった。

 

 開幕大氷壁を爆豪が掘り進めて出た後に轟に急接近して空中で掴み投げる。……あの投げされてたら私なら場外で速攻負けてたな。

 轟は氷を出して場外を回避。近づいた爆豪を左手でいなす。だが緑谷戦で見せた炎を使わないのが不服らしく爆豪がキレている。

 そして爆豪が麗日に使った以上の特大火力をぶっ放す。轟も一瞬だけ炎を出すも引っ込めて爆発をモロに受けて場外に吹っ飛ばされる。

 1ミリも納得いってない爆豪は気絶している轟に詰め寄るもミッドナイトにより眠らされる。

 

『轟くん場外!よって――爆豪くんの勝ち!!』

『今年度体育祭1年優勝は――A組!爆豪勝己!』

 

 観客席から歓声が沸き上がる。まぁ対戦者2人共眠ってしまっているためリアクション無いのが残念だが。

 

「さてと最終試合行って来ますか」

「頑張れよ物見」

「頑張れ委員長!」

 

 心操の声をきっかけにクラスメイトからの激励が飛ぶ。それに対して背を向けたまま腕を横に伸ばして親指を上げるだけで控室まで向かう。 

 

「直せんのは……3回がいいとこか?」

 

 控え室で体力を考えながら復元の使用可能回数を見定める。場外狙いか降参狙いか……中途半端にやってたら体力的にアウトだろう。

 

「…………」

 

 呼び出しのアナウンスがあるまで考える。轟が出した氷の排除に時間が掛かっているのか中々来ない。

 

「…………」

 

 呼び出しのアナウンスがあるまで……

 

「…………」

 

 あるまで……

 

「無いじゃん!」

 

 いつまで経っても呼び出しのアナウンスが無い!何かトラブルでもあったのか?そう思っていると控え室に入って来るのは焦った様子のミッドナイト。

 

「物見さん。表彰式よ」

 

 …………はい?

 

 

 

 

 

 特設された表彰台の上。拘束されたまま暴れる爆豪という愉快なオブジェが一番上に居る中で3位の台に立たされる。

 

『えー約2名納得いってない様な感じですが表彰式に移ります!』

 

 なんでも飯田は家の事情により先程早退してしまったらしい。えー……。

 

『メダルの授与よ!今年メダルを贈呈するのは勿論この人!』

 

 ミッドナイトの呼び声でドームの上から降りて来るのは

 

『我らがヒーロー!オー「私が!メダルを持って来た!」ト』

 

 ……この体育祭らしく締まらないなぁ。

 

「物見少女おめでとう。修復のパフォーマンスは見事だった」

「素直に喜べないですね……」

「リカバリーガールから聞いている。体力的にギリギリだってね。それでも3位を勝ち取ったのは事実だ。誇りたまえよ」

「……はい」

 

 最後に頭をよしよしと撫でれらる。それだけで少し安心してしまう。

 続いて思い詰めた顔の轟に、最後に口の拘束だけ外された爆豪にそれぞれメダルを授与する。

 

「さぁ今回は彼らだった!しかし皆さん!この場の誰にもここに立つ可能性はあった!」

 

 オールマイトの〆の挨拶が始まる。そして終わりに

 

「皆さんご唱和ください!せーの!」

 

『プルス・ウ「おつかれさまでした!!!」……』

 

 会場全体からのブーイングで1年の体育祭は幕を閉じた。それでいいのか……。

 

 

 本来なら教室へ戻ってのホームルームだが私だけはリカバリーガールに呼び出されて治療を再開する。

 

「無茶する必要が無くて私としては一安心さね」

 

 リカバリーガールが気にしていた焦げていた髪も治して貰い歩けるだけの体力を残して保健室を後にする。

 

「ん?ってもうホームルーム終わってたのか」

「体育祭で皆疲れているだろうって事でね」

 

 外で待っていてくれていた心操に声を掛けてホームルームでの連絡事項を聞く。

 

「明日と明後日は休みだそうだ」

「よかった……久々に無茶したから体休めないとな」

「そうしてくれ。何かあったら手伝うよ。それと休み明けには来週に行われる職場体験でのプロスカウトの結果を報告するみたいだ」

「職場体験なんてそういやあったな」

 

 はてさて私と心操に票はどれくらい入っているのかね……

 

「っとと……」

「大丈夫か?」

 

 大丈夫じゃないな……うん。ぶっちゃけ歩くのもやっと。てなわけで

 

「ちょっと腕貸せ心操。流石に辛い」

「はいはい」

 

 腕に捕まりながらも帰宅するのであった。なお最終的には力尽きておんぶして貰うハメになっていた。すまない。




 飯田戦なんてなかった。
 なお後日に主人公から試合を申し込み見事に負けた。実際戦ってみて開幕レプシロは無理ゲーとは本人の談。いきなり間合いを潰されるのも苦手なのです。
 体育祭の最終種目は30秒経っている試合の方が少ない気がするの。


 作者の所の雄英の独自設定として
 1.職場体験は全学科対応。じゃないと4000近い事務所から募集掛けないでしょ。
 2.ヒーロー科でなくても全学科でヒーロー情報学がある。ヒーロー関係の法律とかも情報学で勉強するみたいですので妥当かなと。


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休日の過ごし方

 職場体験前の息抜き。ランキング1位になった(過去形)記念のアレである。


 体育祭の翌日の休日。朝9時に起きた私はと言えば。

 

「むぅ~りぃ~」

 

 死んでいた。いやマジで動けん。髪も真っ白だし。布団から出る気も起きない。

 両親も昨日の体育祭でのハッスルを見て大興奮……かと思っていたがガチで心配された。主に爆豪のせいで。髪焦げたまま表彰式行ったからなぁ。

 おぶって来た心操に両親共に感謝の言葉を言いまくっていた。伊達に3年間一緒に通い続けてないな。

 私の体を心配してか今日一日何もすんなとお達しが出た。いや言われなくても何も出来ないが……せめて着替えがしたい……汗がヤバイ。

 

「悔しい……でも動けない」

 

 女らしさ皆無のし○むら寝間着(お値段なんと在庫処分セールで500円)をどうにか脱げないかと体を布団の中でもぞもぞと動いてみるが……諦める。

 

「はぁ……インフルかかった時を思い出すな」

 

 あの脱力感と何も考えられない感じが頭の中に過る。熱は無いから命の危機とかは無いけど。

 

「2度寝する気も起きないし暇だー」

 

 そう!暇なのである!昨日までは体育祭のアレコレで忙しかったからその反動で暇な時間の潰し方を思いつかない。

 

「いつも何やってたっけ……」

 

 今生の自分の行動を振り返る。起きて牛乳飲んで個性使う、牛乳飲んで個性を使う、更に個性を使う、あとは……牛乳飲んで個性を使って寝る。

 

「……牛乳ばっか飲んでるな」

 

 コーンフレーク山盛り2杯を追加で食べれば良かったのか?……いやコーンフレーク地味に高いしな。うんコスパ悪いから無しだな。いやでも食パンとかも言う程コスパ良いか……?やっぱ日本人は米だな。うん。

 

「思考が安定しない……これも全部ドン何某って奴の仕業なんだ」

 

 あっそうだ(唐突)A組の女子連中とレクリエーションの間に連絡先交換したんだった。

 

「ケータイ……ケータイ」

 

 古き良き3世代位前と言われてる格安ガラケー(これを見た連中は皆可哀想な奴を見た目で見て来る解せぬ)を手に取りメールを確認する。

 

『メール着信無し』

 

 ……悲しい。

 

「まあいいやこっちから送れば何か返ってくるはず」

 

 メール内容は

 

宛先:芦戸・蛙吹・麗日・耳郎・葉隠・八百万

タイトル:動けん

本文:暇

 

 1ミリも生産性の無いメールが完成してしまった。駄目みたいですねこれは……もっと今どきの女子高生らしい文を……

 

タイトル:もうマジムリ……

本文:体がダルイっていうかーホントやってらんなーいって感じーwチョベリバーw

 

 

 ないな。自分の中の女子力を信じた私が馬鹿だった。そういや白一色になった私の髪を見てみたいって言われたっけ。

 

「どう撮ればいいんだ……?自撮りスキルなんて皆無だぞ」

 

 まあ適当に撮って……と。

 

タイトル:前言ってた白一色の髪

本文:これでいいか?あと動けんから布団寝っ転がったままで悪い。

 

 画像も送付して送信っと。返事待つか。

 

「って早い。蛙吹が1番乗りか」

 

 1分も経ってないのに返事が来た。なになに「髪は綺麗ね。だけど服がダサいわ」……ハハッ。

 同じ様な内容がほぼ全員から来てしまった。そして私服のセンスも疑われてしまい今度買い物に行く事が強制的に決まってしまう。

 中学の頃に一応仲の良かった女子にファッション云々を言われたな。そして服を見繕って貰った事があるものの。

 

「髪の配色割合が日毎にランダムすぎて諦められたんだが……」

 

 黒7:白3と黒2:白8で印象が全く違うせいで難しいとの事。あいつらもその事分かってんのかね。

 一応メールでその旨を伝えてみたら「想定済み」と言われた。マジか。

 

「外出着どうしてんのって……言われてもなぁ」

 

 基本制服と返信。全員から冷たい返事を頂いた。芦戸と葉隠からは「彼氏が可哀想」と言われた。誰だ彼氏って……もしかしなくても→心操

 お前らは制服女子の凄さを何もわかっていない。と送ろうと思ったが何故か耳郎が傷つきそうなので止めといた。

 その後も他愛のない話をして昼前になった。

 

…………

 

 おなかすいた。両親からは援軍を呼んであると聞いていたが……と思ったらインターホンが鳴り扉が勝手に開かれる。

 

「物見、居るか?」

 

 聞きなれた声。援軍とは何か荷物を持った心操だったらしい。家も近いしな。

 

「物見……って案の定か」

 

 個性の反動の大きさを知っている心操は特に心配する事も無く部屋に上がり込む。

 

「悪いな心操。お前も疲れてんのに」

「動けない君ほどじゃ無い」

 

 腕は動くのかと言われて動くことをアピールして上半身を起こして貰う。そして肩を借りて洗面所に向かう。

 

「助かった」

 

 今の今までトイレを我慢してた訳で……援軍来なかったら諦めてた所だった。現在は親が作った飯を温めて貰っている。

 

「ほらよ」

「ありがと。んでその荷物はなんぞや?」

 

 出された飯を食べながら尋ねる。

 

「ん?ああうちの親がお前んちに持ってけって持たされた素麺だ」

「おーありがたい。毎年毎年すまんな」

「こっちこそ送られてくるのはいいけど扱いに困ってるんだ。持ちつ持たれつって事で」

「今度何か持って行くな」

「それについても親が「たまに誤って作った弁当を渡してくれてるの知ってるから何もいらない」との事だ」

「お前んとこの両親らしいな」

 

 もきゅもきゅと食べ進めて完食。食器を片して貰いお互いに麦茶を飲んでくつろぐ。

 

「そういや心操」

「なんだ」

「着替え手伝え。あとタオルで汗も拭いてくれると助かる」

 

 あ、心操が固まった。

 

「すまん。着替えはいいからタオルで汗拭くだけでいいから」

「それならいいけど……たまに不用心だな」

 

 呆れられた声で言われる。反論出来ないな。

 

「別に心操になら肌見られてもいいんだがなぁ……」

「そういうのが不用心だって言うんだ」

 

 怒られた。ピッチピチのJKが言う事じゃなかったな。

 

「すまんすまん」

「まったく……困った奴だ」

 

 立ち上がりタオルを取って来る心操。その間に髪を前にやってシャツの後ろ側をたくし上げて……下着も一旦外してと。

 

「お前凄い恰好してるな……」

「そうか?いいから拭いてくれ」

 

 背中にタオルがあてられる。ふわふわな布地で拭かれてベタついていた感覚が無くなっていく。少しくすぐったいもののそれも乙なものだ。

 

「んっ……んーっ!」

 

 背中を満遍なく拭かれてスッキリする。もう1枚タオルを渡されて前は自分で拭けとお達しが入る。仕方なしか。

 

「ありがと」

「どういたしまして」

 

 体を拭き終えて再度麦茶片手にダラダラと過ごす。

 

「そういやさっきA組連中とメールしてたんだけどさ」

「どうした」

「出かける時の私服って見たい?」

「本当にどうした?」

 

 話を飛ばしすぎた。1から説明してみると「別に気にしない」と言われた。制服で出かけるのも私らしいとの事。褒められて……はいないだろうな。現在の寝間着を見て溜息をつかれた。

 

「いいじゃん……し○むら」

「俺は何も言ってない」

 

 いやー露骨に残念な方向に走る様に思われてるな。否定できないのが悲しいがな!見返してやるとは思わんがな!

 

 そんな休日の一幕であった。



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ヒーロー名を決めろと言われてもねぇ

 すまっしゅの心操くんが不憫すぎて笑える。


 休み明けの登校中の事である。雄英の体育祭で注目を集めたせいか心操共々道行く人に声を掛けられる。

 一応は愛想良く返したけど……壊れた時計を見せて直してくれと一人に言われ、それを皮切りに○○を直してくれと完全に修復屋扱いであった。知ってた。

 

「まだヒーロー免許持ってないので私的な個性の使用は出来ないから諦めて下さい」

 

 このセリフを何回言った事か……私の場合目立たない方がよかったのか?と少し後悔する。何通かラブレターらしき物を渡されたりもした。受け取らなかったが。

 学校着くころには完全にぐったりしていた。

 

「愛想良く返すのってめんどくせぇ……」

「君の場合は個性が個性だから仕方ないな」

「心操も悪いな。壁になってくれて助かった」

「別にいいよ」

 

 机に座りぐでーとしてるとクラスメイト達からも状況を理解されてか「委員長お疲れ」コールが飛び交う。ありがとう。

 朝のホームルームで職場体験について話があった。1年普通科は普通科で40の事務所等を抑えてあるらしい。

 5時限目でその事務所一覧と一応スカウトの結果を発表したり注意事項を確認した後にヒーロー名を決めるとの事。

 

「ヒーロー名ねぇ……普通科に必要か?」

「仮にもヒーローの名門校だ。編入とかもある以上必要だろうさ」

「てか委員長このままだとヒーロー科編入ほぼ確実じゃね?」

「むしろ委員長なんでヒーロー科じゃねえの?受けたんだろ?」

 

 クラスメイトの視線が集まる。えー説明しなきゃいけなのか……

 

「試験方式が機械の仮想ヴィランを倒せって内容だったのは知ってるな?当時の私って今みたいに「相手を倒す」って事を考えるタイプじゃなかったんだ。物壊すのにも抵抗あるし……だから他の連中が壊した市街地を直して行ったんだが、まぁ隠しポイントすら入らず0Pで見事に不合格だ」

「へー委員長昔からあんな感じかと思ってた」

 

 あんな感じってどんな感じだ。地雷投げたり壁投げたり閃光弾投げたりか?

 

「そんな訳でこうして前もって受けてた普通科に入りましたとさ」

 

 説明終わり!閉廷!

 

 

…………

 

 昼休み学食に向かう途中で蛙吹に捕まった。そしてA組席へと連行される。

 

「おーす。体育祭お疲れさん。飯田も大丈夫だったか」

「ああ。俺は問題無いさ。心配かけてしまったな」

「なら良い」

 

 学食に通っている内に何故か決められてしまったA組指定席に着きうどんを啜る。

 

「物見はヒーロー名とかもう決めてんの?」

「スカウトからの指名どれだけ入ったの?」

「その事については私達は5時限目に話されるな。A組はもう決まったのか?」

「ヒーロー名は決めたよ。初め青山くんと芦戸さんのせいで大喜利になりかけたけどね。物見さんはどんなヒーロー名にするの?」

 

 緑谷が無邪気に尋ねてくる。他の連中も視線を向けて来る。今日はこういうの多いな……

 

「妖怪地雷投げ」

 

 ポカンとされた。不評だったか。

 

「冗談だ」

「モノミンって真面目そうに見えて割とボケるよね」

「どこか抜けてるわね」

 

 蛙吹の言葉にA組女子がうんうんと頷いている。そんなにかそんなに服装から色々判断したのか。

 

「お前達としてはどんな案があるんだ?」

 

 一応聞いてみる。

 

「修復姫」

「モノミン!」

「リペアティはいかがでしょう」

「ヤオモモそれ自分の奴とお揃いにしようとしてるでしょ」

「ピクミン」

「壁ガール」

「物見のは壁とは正反tぐわぁ!」

「直っぱい」

「てか物見は昔からのあだ名とかねーの?」

 

 上鳴が折檻されている横で切島が聞いてくる。

 

「あるにはあるが……あだ名と言っていいのかアレは」

「何々!!」

「便利屋」

「あーうん。物見さんの個性考えるとそうなるよね」

 

 苦笑いの麗日他全員が納得してしまった。そうか必然的なあだ名だったのか。あだ名から決めるのは無しになってしまった。

 

「まあクラスメイトの案聞いてるうちに何か思いつくだろ」

 

 そう楽観視した。

 

 

…………

 

 5時限目に入り初めに職場体験がどんなものかとスカウトの票数が期待値だという前置きがありスカウト数が発表された。

 

物見:1809

心操:5

 

 ………差ありすぎじゃね?てか他の人のは?0?マジで?

 

「委員長ぶっちぎりじゃねーか」

「体育祭での活躍見れば納得だなー私は」

「ちなみに物見さんは1年全学科中で3番目に多い獲得数よ」

 

 補助のミッドナイトから補足が入る。クラスメイトは自分の事の様に盛り上がっていた。

 

「これが雄英の体育祭で活躍するという事よ。あなた達も将来の為にも頑張りなさいね」

 

 あとでリストを渡してくれるとの事。続いて職場体験用の「ヒーロー名決め」が行われる。人数分のフリップが回って来て書けた人から発表していく流れらしいが……

 

「じゃあ物見さん。委員長として1番乗りして見本になってちょうだい」

 

 まさかの名指しで1番目に命じられた。周りからの期待の視線がヤバイ。この流れ今日で4回目だぞ。

 うーむ………………難しく考えてもダメか。

 

「これでいいか」

 

 特に面白味の無い名になってしまったがいいだろう。フリップを持って壇上に立つ。

 

「それじゃあ物見さん。発表どうぞ」

「はい」

 

『修復ヒーロー 2R』

 

 皆修復ヒーローは分かるが2Rが何なのかってなっている。

 

「ほらゴミの3Rってあるだろ?リサイクルとかの。あれから取った。私の場合内容自体はリユース(Reuse)とリペアー(Repair)だが」

「いいわね!物見さんらしい真面目な名前!」

 

 ミッドナイトから合格を貰った。やったぜ。私の発表を皮切りに続々とクラスメイトがヒーロー名を決めていくのであった。心操のヒーロー名?知らんな。




 戦闘中心の轟・爆豪とは全く別の方向からの指名が多いだろうなと思いこの得票数にしました。
 心操はもう少し衝撃に強くなれば街中で紛れ込んでるヴィランをピンポイントで引っこ抜けるから普通に活躍できると思うんですよね。あとは人質とって立て籠って叫んでる奴とかもカモになるし。
 2Rでツーアールと呼びます。


 もしも試験で主人公が普通に「相手を倒す」だけをした場合ヒーロー科に入れた「かも」しれないですが、学食無料と物資取り寄せが無しになってました。
 市街地を凄まじい速度で直して行くという実績を見せたからこそ学校側も主人公に設備の修復を依頼したワケですからね。


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なぁにこれぇ

 短いです。次の話ではもう職場体験の場所に移動しています。


 ヒーロー名も決まったので先生から指名先のリストを受け取り心操と共に体験先を選ぶ。

 

「心操はどんな所から指名来てんだ?」

「ヴィラン関係が多いね。都心なんかでむやみやたらに範囲攻撃等が行えない場所からの指名が目立つな」

「ああ都心だと確かに周りの被害馬鹿にならないだろうしな。そう考えるとピンポイントで対処できる心操はかなり有力だろう」

「福岡・名古屋・大阪・東京・札幌の5都市それぞれから1件ずつ来てるよ」

「こりゃまた都会から……私とはエライ違いだ」

 

 一方で私の指名先で多いのが

 

「災害系のレスキュー事務所から凄い数を貰ってるな」

「爆豪や轟には出来ない災害地域の復興をやって欲しいみたいだな。あとは工業系からも複数」

 

 リストにはその事務所のタイプと場所・指名理由が書かれているのだが、多くがレスキュー系に偏っている。13号の事務所からの指名も見つけていたりする。

 

「単純に秘書として欲しいとかもあるな。ホント人それぞれだ」

「物見」

「なんだ」

「なんか3枚ほど取り除いているがそれは?」

「ん?ああこれな」

 

 それは1つの事務所からの指名依頼。これだけなら普通だが見た時に「なぁにこれぇ」と思ってしまった奴だ。

 

「あるヒーロー事務所からの熱烈な勧誘だ」

「ふーん。ヒーローって?」

「ああ!それってMt.レディ?」

 

 そう3枚に渡って指名理由を書いて来たのが他でも無いMt.レディの事務所であった。

 その事務所を選んだ際のメリット・デメリットから体験に来たら就職の際の採用において優遇をしてその条件が書かれていたり、事務所の現状を暴露したり、挙句の果てにはどんだけ来て欲しいのか分かる懇願じみた事まで書かれている。まるで意味が分からんぞ!

 

「一学生の職場体験指名に書く文章じゃねーよ」

「そんだけその事務所も必死なんだろうな」

 

 必死すぎて怪文書みたいになっているリスト。いや目には付くけどさ……大人としてのプライドを投げ捨てすぎている。それでいいのかヒーロー。

 

「多分これ行かないと事務所の人泣くよな?」

 

 心操は微妙な顔をするだけで何も答えてくれない。まあ焦って決める必要も無いか。今週末までに提出らしいし。今はまだ私の動く時ではない。

 

 

………………

 

 

 そして放課後、1週間ぶりの学校からの依頼で施設の修復を行っていた。体育祭の3日前以降は無かったし。まあその間にビルや壁の修復がてら破片を拝借したのだが。もちろん許可は貰った。

 その帰り際にリストを持って悩まし気にしている飯田と鉢合わせする。

 

「おっす飯田。帰りか?」

「む?物見くんか。ああ事務所の相談をしてその帰りだ」

「悩むよなぁ」

「物見くんにも指名が入ったとは思っているがどれ程入ったんだ?」

「1800。1年総合3位らしいが1・2位はやっぱりあの2人か?」

「せんはっ……コホン、ああ1番が轟くんで2番が爆豪くんだ」

「体育祭の順位と逆か。って事は親の事務所とのコネ作り狙いの指名もありそうだ」

「轟くんも親の話ありきだと言っていたな。まあ爆豪くんの場合はあの性格や言動にも問題あるだろう」

 

 確かにあの言動だと扱い辛いだろうな。

 

「でもやっぱ戦闘系の方が票集めんのかねー」

「いや君の1800も十分集めているよ。A組でも爆豪くんの3000からいきなり300まで票が下がっている」

「同じヒーロー科でそんなに差があんのか」

「というよりもA組でも票が入っているのが10人も居ない」

「マージでか」

 

 飯田曰く戦闘を頼むならやはり体育祭上位の人を取るらしく派手さも相まって2人に集中したらしい。

 

「同期に凄いライバルが居たもんだな。ヒーロー科は」

 

 飯田が何か言いたげな目で見ていた。お前もライバルだぞと言わんばかりである。

 

「じゃあな」

 

 だが何も言ってこないのでそれだけ言って立ち去った。

 なお帰りにまた人だかりが出来てしまった。この人だかりは3日程続いたとさ。

 

 

 次の日の昼も蛙吹に拉致られて得票数やどこに行くのかと根掘り葉掘り聞かれた。君達も好きだねぇ……一応候補2つを伝えてみたがうち1つは麗日がもう1つは峰田が反応していた。




 指名理由とかは原作には無いのですが「すまっしゅ!!」にはあったので勝手に採用しました。逆輸入ですよ逆輸入!


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いざ職場体験へ

 今週のジャンプで心操くんの居る普通科がC組である事が確定しましたね。


 都心にある個性的な角のオブジェクトが座すヒーロー事務所だった建物。そこが私の職場体験先であった。

 

「……帰っていいですか?」

 

 そう呟いた私は間違いではないだろう。就職の際に優先してくれるらしいから来たんだが。正直後悔している。

 

「待って!帰らないで!お願いだから!」

「そうだぜ物見!オイラからも頼むからよ!」

 

 一緒に来た峰田と事務所の他の人からも懇願される。

 

「分かりましたから。帰りませんから……峰田は少しずつ近づいてくんな。足にしがみつこうとすんな」

 

 どうしてこうなった。そう思いながら私は事務所だった建物に個性を使うのであった。

 

「私が来たからって感情的に個性使わないで下さいよ……Mt.レディさん」

「仕方ないじゃない!本当に嬉しかったんだから!」

「オイラも嬉しかったぞぉ!」

 

 一瞬で元通りになる事務所に職員から歓声が上がる。会計士の人に至っては「再建費用取らなくていいの……?」と泣き崩れていた。そんなにか……。

 出会って5秒で事務所を壊して出来なかった自己紹介を溜息の後に始める。ヒーロー名は……いいか言わなくて。

 

「雄英高校1年普通科、物見直。今日からお世話になります」

「同じく雄英高校1年ヒーロー科、峰田実。お世話になります」

「峰田さんに物見さんね。今日からよろしくお願いするわ!特に物見さん!」

 

 名指しで歓迎される。そりゃあんな怪文書送る位だからな。

 

「私の事は指名ありきだからな。峰田は峰田でぼちぼち頑張れ」

「へっ!こんくらいでへこたれねぇって!」

「あっそう」

 

 なかなか個性的なヒーロー衣装を着ている峰田を励ますが、あんまり意味は無かった様だ。ちなみに私というか普通科にヒーロー衣装なんぞ無いため雄英の制服と体育祭で結局貰える事になったポーチを付けて来ている。

 

「それじゃあヒーローが具体的にどんな実務かの説明を始めるわよ」

 

 そう言ってMt.レディから「ヒーロー」という職業のレクチャーが始まる。

 扱い的には公務員で基本的な仕事は犯罪者の取り締まり。地区毎に警察から要請が来てその働きによって給料が振り込まれるとの事。

 また副業可であるとのこと。これは市民の支持を得ていた名残だそうだ。

 

「と、こんな所よ。警察からの要請を待つか外を見回りパトロールをするかはその人次第ね」

 

 ちなみにというかやっぱりというかMt.レディは見回りが多いらしくこれから私達を連れてパトロールをするとの事。

 

「うーん……にしても」

 

 私を見て何か言いたげなMt.レディ。

 

「貴女の服装やっぱり地味ね」

 

 何故制服を地味服扱いするのか……いいじゃん制服。

 

「ヒーロー目指すなら目立ってなんぼよ!だからそんな地味な服装止めて派手目に行きなさい!」

 

 開け放たれる事務所のクローゼット。Mt.レディの衣装の他なぜそんな服がって物が多数。横で峰田も興奮気味に煽っている。

 

「私のサイドキック候補なんだから!ほら!」

 

 いつの間にかサイドキック候補だったらしい。様々な衣装を持って近づいてくる。あれなんだろうこの既視感。ズルズルと更衣室へと連行されていく。

 途中峰田が覗こうとしたので蹴りを入れた私は悪くない。

 

…………

 

「来るの止めときゃよかった……」

 

 そう呟いて外を見回っている現在の恰好はまごう事無きメイド服であった。何でこんな服あんの?馬鹿なの?死ぬの?

 普段は結わずに放置している髪も絶賛ポニテ中であり、顔にも多少のメイクが施されている。八百万とキャラ被りである。

 Mt.レディのファンと思わしき連中が見回り中の写真を撮る中、目についた私の撮影も良いのか聞いてくる。

 

「嫌です」

 

 恐らく良い笑顔がそこにあっただろう。人だかりの出来た3日間で習得した謎技能「笑顔で威嚇」である。声は甘そうに言うのがポイントだ!

 あっそっすかーって感じで私の前から離れていき、再度Mt.レディの撮影に戻る。聞き分けの良いファンだな。

 

「えーせっかく目立てるチャンスなのに」

「こんな衣装で目立ちたくねーよ。いやこんな衣装のせいで目立ってるんだがな」

 

 見回りながらも色々と買い物をしているせいで荷物持ちと化している峰田に愚痴る。ちなみに私も少しばかり荷物を持っている。

 そんな撮影現場を眺めているとMt.レディの通信端末に連絡が入り表情を変える。

 

「ヴィランが近くに出現したわ!行くわよあなた達!」

 

…………

 

「ヴィランを捕捉したわ!あなた達は避難誘導をお願い!」

 

 大通りのど真ん中に居るヴィラン。すでに数名のヒーローが応対しているが中々どうして決着が付かない。私達は指示通りにMt.レディが来たことを伝えてより遠くに下がるようにと促す。

 

「いいわね!いいわね!美味しいとこ取りしちゃうわよ!」

 

 Mt.レディが個性を使い巨大化。他のヒーローを巻き込みかけながらもヴィランを踏みつぶして一撃K.O。そこまでは良かったのだ。

 私達に勝利を伝えようと振り返った瞬間に油断して肘がビルに当たってしまう。

 

「あっ」

「………はぁ」

 

 やっちまったって顔のMt.レディ。溜息と共に崩れ始めるビルに個性を発動。次の瞬間に直るビルに安心顔である。てか笑顔である。

 

「ありがとー!」

 

 ブンブンと手を振るMt.レディに内心ひやひやしながらも手を上げて返す。そんなやり取りを見た周りの人達は私の正体?に気付く。

 

「あっ!雄英体育祭の1年の!」

「ああ!えーとえーと何だっけか」

「ものなんとか!」

「物見だよ!物見直!いやーこっちに来てくれてたのか!」

 

 ヤバッ………私の知名度高すぎ……?観客に囲まれてしまう。

 

「これでMt.レディが来てもハラハラせずに済むな!」

「彼女なら安心だ!いやーよかったよかった」

「Mt.レディの手綱しっかり握っててくれよ!」

「体育祭の活躍見てたぞ!プロになったら応援させて貰うぞー!」

「メイドヒーロー万歳!」

「いやっ!私別にメイドヒーローじゃ……」

 

 周りからのメイドヒーローの大合唱。身から出た錆とでも言えばいいのかこの場合。てかMt.レディの市民評価の低さにビックリだよ!

 

「メイドヒーロー万歳!モノミン万歳!」

 

 おいコラ峰田お前まで参加してんじゃねぇ。あー周りもモノミン呼び始めやがった!おいカメラ止めろ!ええい動画アップしよじゃねーよ!

 そんな私だけ頭を抱えたまま初のヴィランとの遭遇は終わったのである。

 

 

…………………

 

「いやー助かった助かった。ありがとうモノミンさん」

 

 事務所に帰って来てメイドヒーロー元凶のMt.レディからからかい半分でモノミン呼びである。今はいいけど将来絶対キツくなる名前だよ、ほらどっかのアイドルのウサミn

 

「その呼び方止めてください。それでこの荷物は?」

 

 服の他に多数の小物や食料品を買い込んでいた。

 

「服はクローゼットの近くに置いといて。食料品は下の階に冷蔵庫あるからそれに入れといて。物見さんはその食材好きに使っていいから」

「分かりました。峰田ーイクゾー」

 

 テッテテステテーン(カーン)

 

「さてヒーロー業務の1つに報告書の作成もあるから事務員さんに教えて貰ってて。私は汗かいたしお風呂に行ってくるわ」

 

 事務員に丸投げとは……それでいいのかヒーロー。峰田が風呂と聞いて何かソワソワしてやがる。集中しろよ。

 

「ではよろしくお願いします」

「こちらこそよろしくね物見さん。初日から大活躍だったじゃない」

「ただビル1つ直しただけで大袈裟な」

「いやフツービル1つ直せねーぜ?」

 

 峰田からツッコミを貰う。どうやら雄英入学してから感覚が大分狂ってしまっている様だ。だって雄英はビルの3棟4棟の修復が当たり前だったんだぞ。

 

「まさかMt.レディが個性使って修繕費無しの日が来るなんて……あっごめんなさい。報告書の作り方だったわね。まずは……」

 

 感極まった様子で書類の作り方を教えていく事務員さんの姿がそこにはあった。




 修復ヒーロー2R(1度も名乗らず)改めメイドヒーローモノミン爆誕。
 メイド服がどんなタイプかは想像にお任せします。
 主人公の心操と峰田の扱いの差である。是非もないネ!
 Mt.レディのいい略し方ないかなと思案中。


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丸投げって楽だよね

 職場体験は1日目と2日目と最終日だけ書きます。


 書類作成の講義が終わりお礼を告げる頃には割と良い時間になっていた。

 

「事務員さん達はそろそろ帰宅になるんですか?」

「そうだね、この書類を纏めたらね。物見さんは確かうちの事務所に泊まり込みだったっけ」

「ですね」

 

 そう私はこの事務所の一部屋に泊まり込みである。一応ホテルをとってくれるとも言ってくれたのだが遠慮してしまった。貧乏性なのである。

 それにこの事務所は冷蔵庫やお風呂も完備されてるしトイレもある。布団も仮眠室にあるので問題ない。

 

「夜少なくなっちゃうけど大丈夫?一応宿直が1人は残るけど」

「子供じゃないんですから大丈夫ですよ。それにヒーロー事務所ほど安全な場所なんてそうそう無いでしょう」

 

 ヒーロー事務所にわざわざ忍び込むアホなんてそうそう居ないだろう。ぶっちゃけ下手なホテルより安全だ。

 

「お、オイラも事務所に泊まろうかなー」

「よし私は野宿する」

「ヒデェ!」

 

 即決されて悲しみに包まれている峰田だが周りは私の味方である。峰田に味方する理由が無いとも言う。てかお前ホテルだろ。

 

「お疲れ様でしたー。じゃあ物見さんと峰田くん明日もよろしくね」

「あっはーい。お疲れさまでした」

「お疲れさまでした」

 

 事務員の一人が帰って行きそれに続き次々と職員さん達が帰って行く。

 

「峰田はホテルのチェックインとか大丈夫なのか?」

「あっ!そろそろ行かねぇとヤバイ!」

「行ってこい行ってこい」

 

 じゃーなーと職員達に挨拶を済ませながら去っていく。よし出て行ったな。

 

「んー!やっとあの視線から解放された!あー無駄に疲れた」

「物見さんも大変だね」

「ずっとチラチラ見て来るんですもん。気付かないとでも思ってるのか……はぁ言っても聞かないでしょうからね。あのタイプは」

 

 ついつい愚痴を言ってしまう。苦笑いの男性職員さんに「同じ男としてごめんね」と言われてしまう。いやいや貴方は悪くないですよ。

 ふと私は現在手持ち無沙汰になっている事に気付いてしまう。このまま邪魔する訳にも行かないし何かせねば……

 

「まだ仕事続きそうですか?何か淹れてきますよ?」

「ん?じゃあお願いしようかな」

「わかりました。少し待って下さい。他の方たちもいりますかー?」

 

 パソコンと睨めっこしながら仕事を続ける職員達にも尋ねると各所から「いる」と声が上がる。私は人数を確認して下の階にある給湯室に向かう。

 

……

 

「良いお湯だったわ!ってあれ物見さん達は?」

「峰田くんならホテルのチェックインへ帰りました。物見さんはお茶を淹れて来てくれてますよ」

「お茶をってあの服で?なんか本格的にメイドになってるわね」

「気遣いも出来る良い子ですね。ホント体験と言わずに今すぐにでも雇えませんかね?」

「難しいでしょうねーそれに物見さんにはヒーロー免許を取って欲しいのよね。まぁ彼女今は普通科なんだけど」

「彼女をヒーロー科から落とした雄英にはがっかりですよ。目先の戦闘力を優先しすぎです」

「ここで言っても仕方ないわよ。職場体験での経験がヒーロー科編入の足しになるように頑張りましょう」

 

 

……

 

 

「すいませんお待たせしました」

 

 コーヒーだけじゃ寂しいかなと思い少しばかりの軽食を作っていたため時間がかかってしまった。作り始めて先にコーヒー出してから作りに戻った方が良かったかと思ってしまったのは内緒だ。

 

「遅かったわねってこれ物見さんが?」

「はい。お口に合えばいいんですが」

 

 広めのトレイに沸かしたコーヒーと砂糖とミルク、それと先程買った食材で作ったサンドイッチが並んでいる。

 

「ありがとう物見さん。じゃあいただくわね」

「はい。皆さんもどうぞ」

 

 自分の分のコーヒーカップは増えたMt.レディにパスする。あとで自分で淹れればいいし。

 舌鼓を打つ職員さん達を端で眺めているとMt.レディからちょいちょいと手招きされる。

 

「ねぇ物見さんってご飯とか作れる?」

「家庭料理なら一通り」

「お願い!私の分も作って!ぶっちゃけ自分で作るのって面倒でね!」

「構いませんが。それだと貴女の帰りが遅くなるのでは?」

「いーのいーの帰ってもどうせ誰も居ないし!」

 

 笑い飛ばすMt.レディだが心なしか涙が見えてるのは気のせいだろうか。一応宿直の人にも必要か聞くと欲しいとの事。他の人も数名欲しいと声が上がっていた。

 

「分かりました。時間がかかりますがいいですか?」

 

 全員から構わないと返事を頂く。じゃあ作って来ますかね。基本3人分だから大所帯向けの料理は久々である。お皿とかあったのは確認済みだ。

 

「……本っっ当に今すぐ雇えませんか?」

 

 そんな話が聞こえてきた。

 

 その後は皆で夕飯を食べて各々帰宅。私は宿直の人から泊まる際の注意事項やらを聞いてお風呂に入り、学校に提出する用の日誌を書いてその日は寝る事にした。

 

「あっ仕事中はそのコスチュームで固定ね?」

「えー」




 ちなみに主人公を指名した事務所のほとんどから「なんで彼女ヒーロー科じゃないの?」と問い合わせがあった模様。
 家事が出来る人が居ると丸投げしたくなる人間の性。夕飯が欲しいと言った人達は全員独り身の模様。悲しいね!なお食材は経費で落としてる。


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メイドヒーロー(不本意)の朝は早い

 前話の「雄英の試験にがっかり云々」にMt.レディは同意してない事を覚えておこう。


 翌日5時早朝にセットした目覚ましが鳴り起床する。事務所自体は9時に来ればいいのだが私としてはやりたい事もある。

 最低限の身だしなみを整える。ふむ髪色もほぼ変化無しか。ビル1つだけだし当然だな。

 

「時間は1時間位でいいか」

 

 雄英の体操服に着替えてのランニングである。こればかりは個性の為にも欠かす訳にはいかない。

 

「つってもこの辺の道あんま詳しくないんだがなぁ……昨日の内に緑谷にでも聞けばよかったか?」

 

 一応昨日の買い物兼パトロールで周辺の案内自体はして貰っているがそれでも1回で覚えられる訳ではない。

 

「走っている内に覚えるか」

 

 自分に言い聞かせて携帯のタイマーを30分毎にセットしランニングを始める。

 見慣れない街並みを新鮮に感じていると声を掛けられる。

 

「おっ珍しいな。こんな時間に雄英の女子生徒とは」

 

 振り返るとそこにはガタイの良い黄色と黒の警戒色のバイザーが特徴的な男性がいた。えーと誰だっけ?顔はどっかで見た事あるんだが……まあとりあえず挨拶だ。

 

「おはようございます。昨日から職場体験でMt.レディの事務所に来ました物見直です。貴方は?」

「物見って……ああ!体育祭の時の普通科の娘か!っと俺はデステゴロって名前でヒーローやってるモンだ」

「デステゴロさんですか……ってああ思い出した。確か雄英の警備に来てた人ですよね?」

「おう確かに来ていたぜ」

 

 良し合ってた!あのバイザーと手首の腕輪?がやけに特徴的だったんだよな。

 

「それで物見さんは早朝からランニングか?」

「はい。私の個性的に必要不可欠なので」

 

 体育祭の終わり際のスタミナ切れで体力不足と自己管理の不出来を痛感した。動きながらの復元の消耗を舐めていた。来年を考えるともっと体力が必要になるだろう。

 

「そういやMt.レディが体育祭でのパフォーマンスを見て欲しい欲しいってずっと言ってたな」

「やっぱりそうだったんですね」

 

 じゃないと3枚に渡る怪文書を送って来ないだろうし。その後は見回り中だと言うデステゴロさんにも街の案内をして貰いながらランニングを行った。あっMt.レディの本名をこの時初めて知った。

 

 ランニングから帰って来てシャワーを浴びる。そしてコスチュームにされてしまったメイド衣装(昨日とは別の奴)を着て髪を結い自分の分の朝食を作る。

 朝食を作っていると宿直の人が起きて来て挨拶を済ます。

 

「朝食いりますか?」

「いる」

 

 短い返事を頂く。2人分の朝食を作り共に食べる。その間に今日はどんな仕事があるのかと色々と質問をしてしまった。

 

 

…………

 

「おはよー!」

「ぜぇぜぇ……おはよう……ございます」

 

 割と出社時間ギリギリにやって来た峰田とMt.レディ。てか峰田が疲れ切っている。手には荷物を持っているし……パシらされたな。

 

「おはようございます。峰田も……まぁなんだ?とりあえず一杯飲むか?Mt.レディさんもいりますか?」

「いる……ああメイドが居るだけで幸せだぜ」

「私は朝食もお願い。食べてないのよ」

「わかりました。峰田も朝食いるか?」

「いる」

 

 2人前追加ー。

 

 

…………

 

「今日から午前中に物見さんと峰田くんの戦闘訓練をしてあげるわ」

「戦闘訓練ですか?」

「ええ。体育祭で個性については分かったけど素の戦闘力は知らないし、どれくらい戦えるのか知っておきたいのよ」

「わかりました」

「わかったぜ!」

 

 そして移るのは事務所内にあるトレーニングルーム。何でもあるなこの事務所。

 コスチュームに着替えたMt.レディの指示の下、まずは私と峰田で戦って見ろとの事。個性の使用は無しである。

 

「よろしく頼むわ」

「おう!手加減しねーぜ!」

 

 さて何やらいやらしい手つきであるが……気にしないでおくか。ボッコボッコにしてやんよ!

 

…………

 

「勝負あり!勝者峰田くん!」

 

 峰田にも勝てなかったよ……てか普通に強かった。いや私が弱すぎた。攻撃が当たらないわ体から離れないわ転ばされるわで完敗もいいところだ。

 

「物見さん貴女……」

 

 Mt.レディが呆れている。

 

「素手の戦闘は完全に素人ね。逆に峰田くんは小さい体でも使い方が巧いわ」

「ヘヘン!伊達にヒーロー科じゃないぜ!」

 

 圧倒的経験差。それが顕著に現れる試合であった。

 

「物見さん。貴女はダメダメね。動きが全く成ってない」

 

 ぐうの音も出ない。

 

「とにかく戦闘経験と基礎が足りてないわ。これを乗り越えないとプロヒーロー……いえヒーロー科は厳しいわよ」

「そんなにですか」

「そんなによ。今のままではいくら個性を使いこなせた所で将来詰まるわ。だからこの事務所に居る間に基礎はある程度叩き込んであげる。普通科には教える人居ないんでしょ?」

「残念ながら」

「峰田くんもたっぷりシゴくわよ。楽しみにしててね」

「はいっ!」

 

 おーい峰田よ私も一応女性だから察しているがその顔は危険だぞ気をつけろ……言わないが。

 

「先輩プロヒーローからこれだけは言っておくわ、ヒーローはあくまで「ヴィランを倒す為」の職業よ。どう回り道をしてもこれは求められるの。倒せませんじゃ済まされない!いいね!」

「はい!」

 

 まるで過去の私に言っている様に聞こえる。そんな気分だ。

 

…………

 

 昼前までみっちりと絞られた後に昼食の用意をする。というか私が作る。

 

「悪いわねー物見さん」

「いえ体験させてくれるお礼ですよ」

 

 峰田はどこかへパシられている。作り終わる頃には帰って来たが。




 Mt.レディとミッドナイトの口調がごちゃ混ぜになってしまっている感。
 主人公は復元無しの素手の戦闘になるとクソザコです。てか体育祭は奇襲奇策と便利個性で乗り切っただけですからねー。
 Mt.レディとしてはヒーロー科に行って欲しいからこそ厳しく言います。


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メイド服着て美味しいご飯作ってくれる女子って最強の「個性」だよね

 短いし何の生産性も無い駄話が出来てしまった。主人公はどこへ向かおうとしてるのか……


 昼食3人前かと思ったら他の職員に自分も自分もと頼まれてしまい結局10人分作る事になっていた。

 

「いやホント召使いさんね」

「俺この職場に居て良かった……!」

「味気無いコンビニ飯からおさらば出来るっ!」

「そんな大袈裟な……午後も頑張ってくださいよ」

 

 お茶を出して食べた食器を片しながらも声を掛ける。あれだろうか「がんばれがんばれ」とでも言えばいいのか。

 峰田も「同級生の女子の手料理!」と大変喜んでいた。心操に渡しても慣れたのか最近リアクション無いからなー。まあ変にテンション高い心操なんて想像出来ないが。

 

「Mt.レディさん今から見回りですか?」

「そうね。それともっと食材買い込もうかな。まさかここまで料理作らせることになるとは思わなかったし」

「経費で落としますから物見さんは遠慮しないでガンガン使っちゃって」

「経費で落とせるものなんですか?なるべく節約できる様にしますが」

「いやいやぶっちゃけビル1つ直してくれるだけで1か月分の食費なんて霞んで見えるから」

 

 雄英の先生方も似たような事言ってたな。1回の修復で数十万~数百万浮くって。

 

「ちなみに聞きますけどMt.レディさんの現在の最大損失額っていくらなんですか?」

「……2000万」

 

 うん確かに食費なんて霞んで見えますね。Mt.レディが泣きそうな顔をしていた。悲しい事聞いて申し訳ない。

 

 

……………

 

 

 その後の見回りで再度ヴィランを捕捉し逮捕まで漕ぎ着けた。相手が狭い路地に逃げ込みMt.レディが追おうとしてビルの一部がまた崩壊したが。

 その際にMt.レディが上から逃げていった場所を指示して私と峰田で挟み撃ち。最後は峰田の個性で捕縛。

 

「峰田の個性も相手を傷つけずに捕縛できるって点ではある意味ヒーロー向けなんだな………あれで性格がまともならなぁ」

 

 そう思わずにいられなかった。

 

……………

 

 

 事務所に帰って来て昨日習った様に報告書を作った後に他の書類の作り方を習っていく。

 そしていい時間になる少し前に峰田が切り出す。

 

「なーなーオイラも物見の作った飯食いてーよ」

「ん?ホテルで飯出ないのか?」

「いやあるんだけどさ、やっぱ女子の手作りを食べたいじゃん?」

 

 そういうモンらしい。男性職員も頷いていた。うーむ最近男心に鈍くなってしまっている。

 

「分かった分かった。じゃ作って来るから。他の方たちもいるんでしたら前もって言って下さい」

 

 Mt.レディ含め数名から声が上がる。曰く一人暮らしだと粗食になってしまうから栄養考えて作ってくれるのはありがたいらしい。

 

「了解です。じゃあ作って来ます」

 

 なんか本当にメイドやってる気分になってくる。私なんでこの事務所来たんだっけ。

 

「頑張って下さいねご主人様」

 

 サービスがてら猫なで声で言ったらドン引きされた。何故だ。後で聞いたら峰田曰く甘々メイドではなく「ちょいS系お姉様メイド」の方が似合うとの事。明らかに普段の口調で決めてないかそれ。

 

 

……………

 

 

 職員達の帰りを見送り身の回りの事をこなし寝る前に心操に職場体験どんな感じなのか尋ねると

 

「とにかく戦闘経験と基礎が足りないと言われた」

 

 との事、私と全く同じ事言われてらぁ。向こうは向こうでプロヒーローにしごかれているらしい、私も明日から頑張らんとな。負けてられん。

 

 

 翌朝、Mt.レディが来た後にホワイトボードが新たに買われて「物見さんのご飯注文所」という項目が書かれていた。朝昼晩全部だ。

 

「あのこれは?」

「ん?ああいちいち物見さんが尋ねるのも面倒かなって思ってね。前もって書いておこうってなったんだ」

 

 職場体験……職場体験って何だっけ……ちゃっかり峰田も名前書いてやがる。構わんがな!




 次は番外編で感想欄で度々言及される「主人公本気出せば入試受かってんじゃね?」を実践しようかなと思います。なお「追い打ちクラスター少女」という2つ名を頂く模様。
 物見がデクと幼馴染のifルートも書きたくなってくる今日この頃。なおデクルートだと初めから普通科志望になる模様。

 1話でやっている事がさすおにの「学校では評価されない項目ですからね」のまんまな事に今更気付く。


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番外編:便利そうでチートに見える、けど実際どうなの?そんな個性

 不壊(こわさず)の誓いを破った主人公の入試試験はっじまるよー


 入試内容は機械の仮想ヴィランをとにかく駆逐しろ。それを聞いた私は各種道具が入ったカバンを持ち込み実技会場の門の前に居た。

 

「さてとやりますかねー」

 

 試験開始の合図を待っているが門が開いた時点で試験は開始してたらしい。

 

「ここら辺は機動力ある連中に有利かねー」

 

 スタートダッシュに遅れた私は目の前で次々と破壊されていく仮想ヴィランを見ながらも行動に移る。

 何やら壊れたヴィランを浮かせてトドメを刺している少女もいるし恐らく私の方法でもポイントは得られるだろう。

 

「まずはっと」

 

 適当にそこら辺にいる仮想ヴィランの鋭利そうな装甲を拾い上げる。そして別の完全に破壊されている仮想ヴィランに対して個性を発動する。

 

「よーし動いてるな」

 

 そして先程拾った鋭利な装甲で殴ってぶっ壊す。はい3P。

 

「あとはこれを5回繰り返してっと」

 

 他者が壊した3Pヴィラン1つで15P手に入る。他の連中はわざわざ動いてるヴィランを見つける必要があるけど私は壊れたヴィラン見つければOKなのだ。

 

「あ、2機目発見。また適当に装甲拾ってと」

 

 ほい30P。

 

……

 

「ホントにポイント入ってんのか微妙だな……」

 

 90P分ぶっ壊した辺りでそう思い至る。他の連中がまだ30とか言ってるし別の殲滅方法も取っておくか。

 適当に屋上に登ってーと。

 

「おっ見っけた見っけた」

 

 見下ろすと路地裏に固まって動いている仮想ヴィランの集団が。さてとカバンからある物を取り出す。

 

「てれれてっててー廃ビルで見つけたコンクリートの破片ー」

 

 これを何個か纏めて……ヴィラン目がけて投げる!

 

「はい殲滅完了。今のでPたったの5か……ゴミめ」

 

 下では5層に渡り出来た壁に押し潰れる仮想ヴィランがあった。凄まじい衝撃音に何人かの受験生が様子を見に来ていた。

 

「さー次々」

 

 試験終了間際に現れる0Pの特大仮想ヴィラン。を吹き飛ばす緑髪の少年。

 

「やるねぇ……ってまだ微妙に動いてる」

 

 微妙に動いている特大ヴィラン。せっかくだしアレ試そう。

 

「まずは廃家で見つけた柱の木片を用意します」

 

 それを壊れて中身が剥き出しになっている部分に埋め込みます。そして個性を発動。

 

「木遁・挿し木の術ーってか」

 

 デカい木の柱に貫かれる特大ヴィラン。うん上手くいった。これでもう動かんやろー。

 

「あとは……っともう軒並みヴィラン壊れてんなー。時間も僅かだし」

 

 うん。適当に街の外観だけでも直しておこう。

 

 そして私の試験は終了した。

 

…………………………

 

 

 後日、合格通知は貰ったには貰ったが映像のオールマイトから「もう少し正しく個性使おう?最後は良かったけど」と言われてしまった。解せぬ。




 まさか審査側も直して壊す戦術取るとは思うまい……
 修復追い打ち・クラスター襲撃・殺傷能力のみを求めた挿し木の術。ヒーローとして褒めるべき部分が何もねぇ!


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彼女の名は。

 修復ヒーローの本気です。


 戦闘の基礎を叩き込まれながらメイド(もう事務所周りでは定着してしまった)としての業務をこなして、あっという間に1週間経った。

 

「あー本当に行っちゃうのね」

「絶対こっちに就職してください!」

「泣いてない!泣いてないです!」

「ご飯美味しかったです!」

 

 事務職員に盛大に別れを惜しまれながらMt.レディの事務所を後にして夕暮れ時になり現在保須市に訪れていた。

 何でもこのまま帰すのは申し訳ないから最後位は何か奢ってくれると言ったのでお言葉に甘えた。

 

「なんで最後の最後まで私はメイド服なんですかね……」

「一応まだ仕事中だしねー」

「くそう!今日でモノミンとはお別れかよ!」

「モノミンは止めろ」

 

 最近巷を騒がしている「ヒーロー殺し」その応援要請という事らしい。

 

「ま、関係無いですけどね。心操も頑張ってるし私も頑張らないと」

 

 店を出た時にそう言ったのがいけなかったのかMt.レディの所有する車の駐車場に戻る際に遠くから爆発音。そして現れるのは謎の化け物。

 

「っ!物見さん!峰田くん!今すぐに周りの人達に避難を!急いで!」

「っはい!」

 

 明らかにヤバイ化け物に対して焦り気味に指示を出すMt.レディ。それに応える様に私も行動を開始するが、峰田から反応が無い。

 

「おい峰田!どうした!」

「な……なんでアイツがここに……!?」

 

 様子がおかしいが構ってる場合ではない。私は峰田の頭を叩き気つけする。

 

「ヒーローグレープジュース!いいから行くぞ!皆が待ってんだ!」

「はっ!そうだ。オイラは今はヒーローなんだ!」

 

 そう今出来る最善の策は皆を避難させてプロが戦える場を作る事。私達は現状を飲み込めていない人達を避難させる為に大声を張り上げて、指示を飛ばす。

 

「すでにヒーローが来ています!皆さんは慌てず!ですが急いで指定されている避難区域に行って下さい!」

「足止めはすっから!安心して行ってくれ!」

 

 私達の声に気が戻り大声を上げながら逃げ出す人達。それを標的に定めたのか飛び掛かろうとする化け物。

 

「させっかよ!」

 

 ポーチから取り出し投げつけるのは対ヴィラン用衝撃手榴弾。体育祭の地雷の手榴弾版の奴である。それを次から次へと投げ込みこちらに気を逸らせる。

 

「峰田ぁ!」

「おうよ!」

 

 飛び込んでくる化け物を間一髪で躱して峰田の個性で着地際に拘束する。

 

「うおぉぉぉぉぉ!」

 

 上に投げつけるのはそこらへんにあるビル壁の欠片。それを1つ10m壁に復元して化け物に積み上げていく。

 

「なんだよ………結構当たんじゃねーか」

 

 峰田の個性で身動きが取れずに上からの重石で沈黙する化け物。当然油断はしない。

 

「峰田!Mt.レディさん!コイツの拘束をお願いします!」

「物見さん!?貴女何を!?」

「聞くまでもないでしょう?」

 

 周りを見渡すとボロボロになってしまっている建物、道路、標識etc。それに対して私がする事なんて決まってる。

 

「修復ヒーロー……2Rとして一仕事して来ます」

 

 ここから先は私の仕事だ。まずは手始めにこの場を直して行こうか!

 

 

……………

 

 どうやら他に似たような化け物が2体も居たらしく街全体がボロボロになっていた。既にヒーロー達によって制圧は果たされているものの被害が大きすぎた。

 

「おいアンタ………まさか体育祭のあの」

「あぁ……服装や髪型は違うが間違いねぇ」

 

 私の姿を見つけた他のヒーロー達が縋る様な声で言ってくる。

 

「あんたの個性なら……この街を直せるか?」

「今の俺たちじゃこの状況はどうしようもない……頼む」

 

 私はその場に居た警察の方を見て個性使用していいのかのジェスチャー。少し迷いながらOKのサインが出る。

 

「私が来たんだから当然でしょう?」

「ああ!頼むよ!物見さん!」

「2Rです」

「……え?」

「修復ヒーロー2R……それが私のヒーロー名です」

 

 そして私は個性を発動していく。

 

 

 

……………

 

 

 その時周りのヒーロー達は信じられない物を見ていた。

 先程までそこらで火を上げていた車、崩壊しているビル、ひしゃげた標識、捲り上がっている道路のコンクリート。

 その全てが彼女、物見直が視界に収める………それだけで元通りに直っていく。日常へと戻っていく。

 涼しい顔をしながら……本当に当然の様に扱う個性。

 

「マジかよ……コレが?この個性が……彼女が普通科?ハハッ!ありえねーよ」

 

 1人が声を出す。それに呼応する様に他のヒーローが声を上げる。

 

「彼女がヒ-ローにならない?何の冗談だよ」

 

 この光景を見てそう言える奴なんて居ないだろう。ヴィランを倒すだけなんざ強い個性を持ってれば誰にでも出来る。

 だが街を……壊された日常を一瞬で取り戻す事が出来る奴なんて何人居る?

 

「……この視界じゃこれまでか」

 

 呟きヒーロー達に振り向く。物足りない様にだが笑いながら告げる。

 

「じゃあ私は行きます。別の場所もボロボロでしょうし中まで直しきれてる訳じゃないので」

 

 先を見据えて別れを言って去る彼女の姿はこの場に居る誰よりも輝いていた。

 

 

 

 

「修復ヒーロー2Rか。ウチの事務所に来ねーかなー」

「俺も欲しいな………なあ所でさ」

「ああ」

「「何でメイド服?」」

 

 

 

 該当ヴィラン拘束から1時間後、襲撃にあった保須の街は全て元通りになっていたという。




 修復ヒーローの名は伊達じゃない!って事ですね。


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物見直:オリジン

 ついにここまで来ました。


 保須市の謎のヴィラン襲撃と裏(マスコミ的にはこっちが表)ではヒーロー殺しの再出現と逮捕の翌日。マスコミ各社が保須市の事件を大きく取り上げていた。

 そして謎のヴィラン「脳無」の襲撃の記事に1人の人物のコラムがあった。

 

『謎の美少女メイドヒーロー出現!!』

 

 記事内容はそのメイドが通った場所が瞬く間に直っていくというもの。またビルの中の修復の際に迷子になった子供たちを見つけて保護したという事も書かれていた。

 被害総額3億越えと言われていた事件を損額0に抑えたとして市長他多数の業界人から称賛の声が挙げられた。

 謎のメイドヒーロー……一体何者なんだ。

 

「なーんでメイド部分強調すんの?馬鹿なの?」

 

 誠に遺憾である。画像や動画も多数出回っている様でクソコラもあった。止まらないメイド・イツカBBとかいう名前の奴が。

 ヒーロー殺しの映像とかは消されまくってんのにメイドと脳無の映像はいつまで経っても消されない。再生数が既に100万を超えている。

 

「1つの新聞しか私のヒーロー名取り扱ってないんだが」

 

 どうしてこうなった。後から聞いたが私個人の所にマスコミ連中が押しかけない様にその関係者に学校が動いてくれてた様である。ありがとうございます!

 

……………

 

 そして翌朝。校長室にて。

 

「保須市での働き見事だったね」

 

 個性の個人使用に怒られるのかなと思ったが掛けられるのは称賛であった。曰く「現場の警察が許可を出したのなら問題無い」との事。

 

「その言葉をかけるために呼んだって訳ではないですよね根津校長」

「ああ勿論だとも」

 

 他に何かあったっけ?と首を傾げていると渡されるのは紙束。その一番上の紙には「ヒーロー科編入について」と書かれていた。

 

「これは……」

「見ての通りさ。君のヒーロー科編入の為の書類だ」

「こんなに早い時期に?」

「元々体育祭での活躍で意見自体は出ていた。だがこんなにも早くに編入となると他の生徒の親族や事務所が納得しなかったんだ」

「それじゃあ何故?他の方達が納得しないんでしょう?」

「そこで君の保須市での一件さ」

 

 そう言ってまた別の紙束を取り出す。そこには大きくこう書かれていた。

 

『雄英高校1年 物見直のヒーロー科推薦の署名』

 

 保須ヴィラン事件の翌日に当時その場に居た中で動けるヒーロー達がこの様な署名活動を行っていたらしい。そして昨日の夜に提出された。

 

「これ一体どれ位の数が集まったと思う?」

「え?いえちょっと想像が付きませんね……100?が良い所ですか?」

 

 こんな一生徒の為に動く人なんて……

 

「70万だよ」

「……え?」

「保須市の推定人口100万。その7割の人達が君のヒーローへの道を薦めたんだ。君の行動はそれだけ人の心を動かしたんだ」

 

 この署名のおかげで文句を言ってた人達は黙らざるを得なかったらしい。ヒーローは市民からの人気ありきの職業だ。この署名を見て文句を言う奴は逆に非難されたとの事。

 

「これだけ早い編入なんて過去には無かった。特例も特例さ」

「そんな特例を私に………」

「オールマイトも言っていただろう。君の活躍の結果だ。誇りたまえ。それが称賛された者の礼儀さ」

 

 そうそうと根津校長からまた何かあるらしい。

 

「編入の際には勿論試験を受けて貰うよ」

「筆記と実技ですよね」

「ああ。まあ君の場合筆記は問題無いだろうさ。となると実技だね」

 

 思い起こすは入試の実技試験。

 

「今の君ならもう倒せるだろう?ヒーローとして敵を……ヴィランを!」

 

 そう私が受からなかったのはただただヴィランとの戦闘をしなかったからだ、その印象を覆す。私も戦えると……私が来たと。

 

「当然です」

「迷いの無い良い返事だ。期待しているよヒーローの卵」

 

 ここから再び始めよう。私の原点(オリジン)を。

 

「あ、君のヒーローコスチュームはこちらで勝手に決めてあるから。後日説明があると思うよ」

 

 ……嫌な予感しかしねぇ!

 

 ちなみにヒーロー科は本来期末試験で実技があるらしいが私は編入試験が期末試験代わりになるらしい。なお期末試験後の働きに期待していると言われた。一体どんだけ被害出す気だよ。




 主人公のヒーローコスチューム……全く予想できませんね……一体どんな服になるんだー(棒)



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48話で死にそうな物見UC(お顔はトランザム)

 オルガする(動詞):発破を掛ける。止まらない様に諭す。止まらないという意思を示す事。


 実技試験はコスチュームが届いた1週間後と決まり書類を受け取り教室へ入ると一身に注目を浴びる。

 

「おっ!来た来た!謎のメイドヒーローさんが!」

「委員長すげーじゃん!新聞にデカデカと載ってるし!」

「委員長の署名活動俺も書いたぜ!あのニュース見たら書かない訳いかねーよ!」

「あっ!それ昨日の?私も書いたよー。委員長頑張ってね!」

 

 やんややんやと盛り上がるクラスメイト。私以上に誇っているな……てかさっきから一部の男子がメイドメイドとうるせぇ!

 

「物見」

 

 このクラスでそう呼ぶのは1人しか居ない。視線を向けると心操が居る。

 

「まあそのなんだ……ドンマイ?」

「ああ……」

 

 おおよその事情を察してくれた。ありがとう心操味方はお前だけだ。両親も結構ノリノリだったし。

 

「そういや心操。昼休み少し時間あるか?」

「あるけどどうした?物見……?」

 

 いつになく真剣になっているであろう私の顔を見て、向こうもまた真剣に答える。

 

「わかった。じゃあ昼休みに」

「おう。あ、それとだ……職場体験お疲れさん」

「物見程じゃない。お疲れ様」

 

 そしてクラスメイトにメイドメイドとからかわれながらも時が過ぎ昼休み。屋上前の踊り場(屋上は締まってた)。

 

「それで物見話ってのは?」

「それなんだがな……私のヒーロー科編入への試験が決まった」

「……そうか。話して良かったのか?」

「校長が特に問題無いと。いずれ分かる事だしな」

「それで何故それを俺に」

 

 そうだよなー。私も何故まずは心操に話そうと思ったのか……思い付くままに話してみるか。

 

「私達はさ……一緒にヒーロー目指して来ただろ」

「俺が目指していたのを君が着いてくる形だったが」

「それなのにさ……私だけ1人で先に行っちまうのがさ……なんつーか嫌なんだよな」

「物見……」

「我がままなのかな……一緒に進んで行きたいって思うのはさ」

 

 呟く心操は溜息を吐きコツンと私の頭を叩く。

 

「馬鹿か君は」

「……馬鹿とは何だ馬鹿とは」

「2人一緒に仲良しこよしでやって行ける程優しい世界じゃないだろヒーローは」

「わかってるんだけどさー私が先に行くのが……」

「だからそれが馬鹿だって言ってんだよ」

 

 心操が厳しい口調で言う。私は言葉が出ない。そんな事一度も無かったから。

 

「物見はさ……先に行くのがとか言うが、今回だけだと思うなら大間違いだ!いつもいつも俺の先を行ってるんだよ。受験の時も!体育祭も!今回の職場体験も!」

「心操……」

「そんな先を行ってたまに笑って振り向いてさ……そんなお前に憧れたんだよ。そんな君がヒーローになれるって言ってくれたから頑張れたんだよ」

「……」

「君が先に居るから俺は安心して進んでいけんだよ!だから今回も笑って言えよ。先に行くってさ」

 

 初めて知る心操の内情。それを聞いた私は考えを改めて嘆息。苦笑いで告げる。

 

「……ったく人の気持ちも知らないで」

「お互い様だ」

 

 ああ……安心した。こいつは私が先に行っても嫉妬なんてしない。追ってくれる。だからこそ私はこの言葉を言える。

 

「分かった。私は止まらないからさ……心操が止まらない限り、その先に私は居よう」

 

 だから……止まるんじゃねぇぞ

 

「……上等だ」

「言ったな」

「君こそ」

「……」

「……」

「ふふっ!あー悩んでたのが馬鹿らしい」

「一人で勝手にな。あんだけ真剣な顔してたんだ。てっきりもうプロになる!とか段取り飛ばして言ってくんのかと思った」

「流石にそれはねーわ」

「物見ならありえそうなのが怖いんだよ」

 

 向かい合って言い合って……そして笑う。これが本心を知った私達の今後の関係になるだろう。

 

「心操」

 

 さて本来ならこれで終わりで良いのだが……折角関係が変わったのだ。私も少し対応を変えてやろうではないか。

 

「どうし……!!」

 

 私から近づきお互い何も言わぬ……言わせぬ空白の10秒。そして私が離れて言ってやる。

 

「待ってるぞ私のヒーロー」

 

 固まっている心操を置いて私は踊り場を後にする。

 

 

……………

 

 

 踊り場の後に向かうのは学食。無料だからね!是非も無いよネ!

 今日は一人で食べようかと思ったら珍しく八百万に捕まる。そしていつもの席に連行。

 

「おーっす。緑谷と轟と飯田は災難だったな。まさかあそこに居るとは思わなかった」

「物見くんこそ保須市に居るとは思わなかったぞ」

「あ!うん峰田くんから聞いたよ保須の街を全部直したって!」

「あの脳無がぶっ壊した街をだろ、親父が珍しくすっげー褒めてた」

「やっぱヤベーよな物見の個性って」

「いやアレはヤベーってレベルじゃないから、それで何か署名があったんでしょ?」

 

 耳郎が切り出すのは署名の件。やっぱり知れ渡ってんな。

 

「あーあれね。私をヒーロー科へ!って署名だったらしくてな」

「あの場に居たプロヒーロー全員が「彼女がヒーローにならないのはおかしい」って言ってたぜ」

「それで数はどれ位集まったんだ?」

 

 切島が尋ねる。まあ黙っとけって言われてないし大丈夫か。

 

「70万」

「なな……っ!」

 

 A組の全員が驚愕する。私も驚いたぜ。まさかそこまで数が集まるとは思わなかった様だ。私もだ。

 

「それじゃあモノミンもヒーロー科に!?」

「モノミ……いや芦戸はただのあだ名だったな」

「?どうしたんですの?」

「それがよーこいつ職場体験で……」

「峰田黙れそれ以上言ったら……お前を殺す」

 

 デデン!

 

「でヒーロー科へはまだ分からん。今度編入試験があるからその結果次第だそうだ」

「物見さんなら絶対受かるでしょう」

「同感だ。そうでなければ俺たちの立つ瀬が無い」

 

 体育祭で私の対戦相手だった2人が確信する。評価高いなー。

 

「なるようにしかならんさ」

 

 私の話はこれで切り上げて他の連中の話を聞きながら昼休みは終わっていく。




 新コスチュームは次回ですね!
 クラスメイトからの呼び方は「委員長」一択です。
 
 ちなみにこの作者、全話視聴したと言えるガ〇ダムはXだけです。


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阿笠博士ってスゲーよね

 主人公以外がこの個性使ったらどうなるのかを物間くんで実験しようの茶番回とコスチュームお披露目


 放課後。新聞を読んだのかニュースを見たのか……私の個性を実際に見ようと直す予定の学校の破損箇所にはそれなりの人が集まっていた。

 

「この学校には暇人しか居ないのか……」

「注目を集めるのはヒーローとして重要な事じゃない」

 

 さいですかー。

 

「じゃあさっさと終わらせて……」

「待った待った」

 

 割り込んで来るのは白髪の男子生徒。その後ろにはサイドテール?の女子も。

 

「やあやあ君の体育祭と職場体験でA組の連中並みに注目されてる個性は聞いてるよ」

「……そうか」

「いやー修復実に良い個性だよねぇ」

 

 そう言って手を差し出す男子生徒。

 

「これからも世話になりそうだ君の「個性」には」

「いや壊すんじゃねぇよ」

 

 怪訝な顔をされる。どうやら言いたい事が違ったらしい。

 

「ああ……まあ君の個性の場合そう捉えるのか。違う違う僕のはそんな壊す個性じゃないさ」

「なら良し」

「なら良いの……」

 

 隣に居るサイドテール女子が何か言っている。出された手の平をパンと叩く。

 

「こんな便利な個性君だけじゃ勿体ないじゃないか」

「そうかねぇ……そうかも」

「そうさ。髪の色が変わるだけのデメリットらしいデメリットも無い素晴らしい個性」

「いや……おいそれ勘違……」

「僕の個性の方がもっと素晴らしいけどね」

 

 そうして男子生徒が個性を発動……したのか?小さめのビルが1つ修復されている。私と同じ個性か?

 

「なんだお前も修復系の個性……って何してんの?」

 

 突っ伏している男子生徒。何か呻いている。

 

「何この個性疲れるってレベルじゃないんだけど。これを何回もとか君なんなの化け物なの」

「だから止めとけっつったんだ……あ、ごめんな邪魔しちゃって」

「別に構わんが……アンタ達は?」

「私はB組の拳藤。でコイツは同じB組の物間。よろしくね物見」

「よろしく。B組って事はヒーロー科か」

「そ。もしかしたら同じクラスになるかもね」

 

 握手を交わす。そういやどっちのクラスになるとか聞いて無かったな。

 

「それで結局その物間ってのは何がしたかったんだ?」

「コイツの個性は少し特殊でね。注目されてる物見の個性を気にしてたんだ」

「私と同じ個性じゃないのか?ってー事はコピーか何かか?」

「鋭いね」

 

 私の個性をコピーねぇ……

 

「物間お前……この個性でデメリット無い訳ないだろ」

「あーやっぱり?」

「出来る事に対してデメリット髪の色だけとか思ってたのが驚きだ。この疲れ方だと翌日の半分は動けない事は覚悟しとけ」

 

 その後物間は拳藤の手により保健室へぶち込まれたそうだ。私?いつも通り指定箇所直したゾ。

 

……………

 

 

 そんな事があった5日後。先に筆記試験があったりしながらも私のヒーローコスチュームが届いてしまった。

 トラッシュケースに入っているのが私専用の奴らしい。中に説明書は入っている様だ。

 

「嫌な予感しかしない……」

 

 校長から勝手に決めてあると言っていたが職場体験と新聞等のせいで多分私の印象がアレになってしまっているが……諦めたらそこで試合終了だ。最後まで希望を捨てちゃいかんと先生も言ってたし!大丈夫!

 

「……………」

 

 セカイガオワルマデハー

 

「安西先生……普通のコスチュームが……着たいです」

 

 あゝ無情。ケースに入っているのは膝丈少し上までしかスカートが無い紺色のメイド服であった。白いエプロンもやけにフリフリが多いし。カチューシャまで完備だ。生地の手触りがMt.レディの所で着た物とは段違いである。

 

「着るしか……ないのか」

 

 折角支給された物だ。着ないと作った人も浮かばれないだろう。説明書通りにと……

 

「……む?胸がちょいキツイ……これ1ヶ月前いや2ヶ月前の身体測定のデータ使ってんのか?」

 

 メイド服であることと一緒に文句言ってやろう。ガーターベルトと白ソックスと靴まで専用の物なのか……腰用ポーチ2つもある。片方はレスキュー用具でもう片方は武器や鎮圧道具の類と。

 何で対物ライフルの破片と弾まで入っているのか……これが分からない。製作者はメイドに何を求めているんだ。

 接近戦用のスタンガンとナイフはポーチを留めるベルトの背中部分にセットする。結構重量あるな。

 

「そしてこの謎装備3つである」

 

 いや2つは分かるのだ。

 目を守る為のスノボー用見たいな多機能ゴーグル。熱源感知や遠距離武器の照準システム、対ショック機能やズーム機能まで付いている阿笠博士もビックリ……しねーな。

 ちなみに照準システムはカチューシャで脳波を計測して合せているらしい。このカチューシャ無駄じゃなかったのな。科学の力ってスゲー!

 

「これもまだ分かる」

 

 腕に装着するタイプの投擲具。スリングショットとかいう奴だっけ?ゴムは硬すぎず扱いやすいし射程と弾速もそこそこである。爆豪と戦ってる時爆風が辛かったからな。これも素直に嬉しい。

 

「で……最後のコレである」

 

 これが一番分からん。女性でも扱える反動が軽い小型の自動拳銃。弾はゴム弾……を魔改造して人体は傷つけないけど金属等は壊せると訳わからん事になっている物らしい。なお目には撃たないようにと。

 銃のホルスターは右側の太ももに、左側の太ももにマガジンを。

 

「これを取り出し易いようにスカート少し短いのね……いや長くても戦い辛いけどさ」

 

 そもそも戦うための衣装にスカートをチョイスすんなと言いたい。

 

「さて着たのはいいが鏡は」

 

 そこに映るのは少しゴツイゴーグルを装備してポーチ2つを前に付けているメイドさんである。……ゴーグルもうちょいスタイリッシュにならんのか。

 スカートを少し持ち上げるとガーターと共に見える銃のホルスター。取り出し動作をしてみるも問題は無い……はず。

 

「……ヒーローって何だっけ」

 

 気にしたら負けだろうか。ヒーローコスチューム……もといメイド服に着替えた私は更衣室を後にした。




 主人公のコスチュームはメイド服だったんだよ!
 拳銃持たせた理由は次回説明します。趣味ではないです。どちらかと言えばブレオンの方が好きです。
 主人公の場合個性と求められる役割的に必須です。

 主人公は個性の副作用ともいえるスタミナでどうにか使えてるだけで、常人が使ったらちょこっと修復して即ぶっ倒れます。復元なんて使おうものなら……ね?


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拳銃って噛ませ武器になる事多いよね

 訓練回の皮を被った主人公の欠点指摘回。めっちゃ短いです。
 


 更衣室を出て指定された訓練場に向かうとそこにはガンマンの恰好をしたプロヒーロー「スナイプ」が居た。

 

「今日からよろしくお願いします」

「こちらこそよろしく頼む」

 

 挨拶も程々に早速訓練をと思ったのだがスナイプ先生から尋ねられる。

 

「君は何故学校が武器を……「実物の」銃を持たせたと思う?」

「勝手に……という訳ではないんですね」

 

 正直そこがわからない。だが聞いてくるという事は何か理由がある筈だ。

 

「遠距離攻撃の獲得……ですかね」

「それならば他に手段があるだろう。何故わざわざ「実物の銃」を選んだかだ」

 

 違った様だ。悩んでる私を見かねてスナイプ先生が1つずつ確認する。

 

「まず君自身の「ヒーローとしての役割」は何だ?」

「えーと指名量的にレスキュー……それも災害現場及び戦闘現場のですか」

「正解。多くの人が君にその役割をして欲しいと思っている」

 

 次の質問が来る。

 

「ではヴィラン戦闘時に他のヒーローが居た時に君はどの場所に立って貰っていると思う?」

「前線……じゃないんですね」

「そうだ。君の役割は戦闘跡の修復だからケガで退場して貰ったら困る。だから基本後衛に配置されると思え」

 

 ふむふ……む?

 

「結局遠距離攻撃の確保じゃないんですか?」

「正確に言えば中・遠距離、その間合いでの牽制又は制圧のための武器だ」

「じゃあ他の方法でも」

「では聞こうか。個性を使わずにその距離を最も早く正確に攻撃できる武器は?」

「実物の銃……って事ですか」

「君の復元の個性は十分強力なのは理解している。だが実物で済むならそれに越した事はない」

 

 だから「実物の」を強調していたのか。

 

「それにこれは君だけじゃなく似た事が出来る八百万にも当て嵌まるのだが」

「はい」

「個性でわざわざ「出して」構えるよりも前以て装備してた方が、武器によるが攻撃に移るのが早いに決まっている。それなのに君達はまず「個性」に頼ろうとする」

「……はい」

「体育祭の様な装備が限られた場なら仕方がない。だが君のリアクションを見るに制限が無くても武器に関しては「復元すれば」と思っていただろう?」

 

 心読まれてる……正直思ってました。

 

「もう1度言うが、どれだけ被害が出るか分からないのがヴィランとの戦闘だ。君の体力は出来るだけ温存させたい。だから復元の必要が無い武器を持たせているし攻撃ってのは早く出せた方が良い」

「じゃあ手榴弾や閃光弾が実物なのも」

「最短で且つ最低限の復元で済ませる為だと思え」

 

 学校側もちゃんと考えた上での装備だったのか……私じゃそもそも銃という選択肢すら無かった。訓練しないと扱えないから当然だが。

 

「プロヒーローだから言わせて貰う。今の社会では君が思っている以上に君の個性は役割が大きい」

「…………はい。あ、武器と言えば」

「どうした」

「対物ライフルやスナイパーライフルは何故実物じゃ……」

「……聞くが対物ライフルやらを持ち歩きたいと思うか?」

「……思いませんね」

「それが答えだ」

 

 扱えるように訓練はしてくれる様だ。卒業までに扱い方習得出来るかな……そもそも使う機会が来ないで欲しいが。

 

「これで軍服なら恰好つくのにな……」

 

 とりあえず最新型の拳銃とスリングショットの正しい撃ち方から習いながらそう呟くのだった。




 スナイプ先生出したは良いけど原作でセリフ皆無なんじゃが……口調は適当ですまぬ……
 


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コスチュームって割と重要だよね

 今回も短くてすまない。元々前の話と合わせて書くつもりだったのです。


 訓練が終わり更衣室に戻ると扉の前にはミッドナイトが居た。

 

「訓練お疲れ様。物見さんどうかしらそのコスチュームは」

「こんにちは香山先生。メイド服である事と胸がキツイ事以外は概ね満足ですね」

 

 私の直球の感想にあははと苦笑いのミッドナイト。

 

「Mt.レディから聞いたわよ。着せ替えの末に妥協したって」

「だって最初Mt.レディと同じ衣装ですよ?それからもまあ酷い衣装でしたし……メイド服が一番マシとは思いませんでした」

「物見さんにとっては嫌だったかしら」

「とても」

 

 私にフリフリした女子らしい服装は似合ってないだろうし……

 

「とっても似合ってるのに」

「世辞ですか?」

「事実を言っただけよ。分かってはいたけどあまり自分を女性……いえ女子だと思ってないわね物見さんは」

「否定はしません」

「でも女性としての意識はあると」

 

 あるにはある。だが意識させられる相手なんて限られている。

 

「貴女の女性らしさ……女性を意識させる服装ってヒーロー活動には割と有効なのよ?」

「何が言いたいんですか?」

 

 そうねと考えて5秒。ミッドナイトが話を切り出す。

 

「貴女の個性の関係上ヒーローとして活動するのは災害現場や戦闘跡になるとはスナイプから聞いてるわね」

「ええ」

 

 それは分かる。

 

「災害や戦闘の被害にあった現場の人達ってヒーローが居る社会だと分かっていても心が不安定になるの。覚えがあるでしょ?」

「ありますね」

 

 保須市でビルの中の修復時に多くの人に縋られた。あの子がいないどの子がいないと。そして見つけた子供達もやはり怯え切っていたし泣いてる子も多く居た。

 

「そんな時にメイド服の物見さんを見た時に安心されなかった?」

「……されましたね」

 

 特に子供は「もう大丈夫だ」と頭を撫でてやると抱き着いて安心しきった顔で居た。その後もすんなりついて来てくれたし。親御さんも安心してお礼を言っていた。

 

「何故だか分かるかしら」

「……女性だからですか?」

「ええ。それも「見るからに害意の無い女性らしい」恰好をした女性だからよ」

「害意の無い恰好ってそんなに重要ですか?」

「重要も重要よ。特に女性はね」

 

 そんなに重要か?

 

「今はヒーロー社会であると同時にやっぱりヴィラン社会でもあるのよ。災害時や戦闘後に火事場泥棒がてら少し悪さをするヴィランも居るわ」

「……見るからにヴィランっぽい恰好だと警戒されると」

「戦闘向けのヒーローなら良いのよ。ヴィランへの威嚇にもなるし。ただレスキューとなると話は変わって来る」

「……」

 

 言いたいことは分かる。

 

「貴女のメイド服ってのは今となっては「安全」のシンボルになってる。少なくとも保須の人にはそういう印象を植え付けたわ」

「不本意……ですがね」

「それでもよ。だから1度考えて欲しいのよ。それでも嫌だったら学校に掛け合えば当然だけど対応してくれる。そもそも貴女の意見を聞かずに発注した学校側が全面的に悪いし」

「考えさせて下さい」

「ごめんなさいね」

 

 世間に女性らしい服を求められているのがよりによって私か。

 

「はぁ……ホントままならない」

「……ねぇ物見さん」

 

 ミッドナイトが心配そうな顔で見ている。

 

「失礼を承知で聞くけど……貴女は……女性として生まれて来た事を後悔しているかしら」

「……さあどうでしょうか」

 

 女性として生まれた今世は正直ロクな目に会ってない。

 

「生まれは決められませんから」

 

 両親が会社の倒産で借金抱えたまま私を生んだのも、共働きしても借金の返済にほぼ充てられている様な状況も……

 

「生を受けた以上は」

 

 時にヴィランに襲われ続けたとしても、他者にこの個性の使用を強要をされたとしても、体力が尽きて倒れた所に酷い事をされかけたとしても……

 

「受け入れますよ」

 

 今は守ってくれる人が居るから。私のヒーローが居るから。

 

「そう……重ねてごめんなさいね」

「気にしてません」

 

 話はこれで終わりの様だ。私はメモを1つだけケースに入れてコスチュームを返却する。

 

「さー帰ろう」




 ミッドナイトさんに悪意はありません。ご容赦を。
 この主人公は「元男」で「転生者」じゃなければ今は絶対に笑ってません。


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編入試験

 コス選びはキンクリして編入試験へ。


 一先ずメイド服にお帰り頂き、改めてサイズを採寸してコスチューム案を提出。銃などの装備だけのレンタルで土日返上で扱い方の訓練を行い一応スナイプ先生から及第点は頂いた。拳銃とスリングショットだけ。

 そしてコス(というより装備)を受け取り1週間。私の正式なコスチュームが送られてくる。

 なおメイド服は差し上げると胸の修繕を行った後自宅へ送られて来た。いらねぇ……と思ったが貴重な着心地自体は別格の服なので悔しいが自宅着になってしまっている。

 

「お、要望通りじゃん。うむうむメイド服よりマシだ」

 

 結局せっかくの銃という事で軍服を選択した。上は白を基調に袖口と襟は黒色。襟元には雄英の校章が付いている。白の手袋も付けて貰った。

 下は黒の膝丈スカートになった。スカートばかりは意見を聞いたほぼ全員から選択された。白タイツを穿いているから下着等は見えない。厚めの黒ブーツも要望通りである。

 

「あとは各装備をセットしてと……」

 

 動きに問題が無い事を確認して髪を結いカチューシャを付け試験会場へ向かう。

 

…………………

 

「入試試験のトコと同じ場所か……」

 

 見覚えのある門の前で開始の合図を待つ。

 

「ルールは……特定数の仮想ヴィランの討伐又は拘束、指定拠点に置いてある物の修復、そして最後にヴィラン役の奥の部屋にある物の修復。ヴィラン役との戦闘は逃げてもいいしカフスを付けての拘束でもいいと」

 

 置いてあるガイドラインを見て確認する。

 指定拠点は2か所……どうせ直前に0点ヴィランとか置いてあるんだろうな……。嫌に場所が広いし。

 

「場所を示す端末を受け取って……と」

 

 上着のポケットにしまう。あとは開始の合図を待つだけだ。そして待つ事3分。

 

「……門が開いたって事は試験スタートか!」

 

 入試試験の反省を生かして開くと同時に駆け出す。

 

「行きますかー!」

 

 さて門を潜り最初のお出迎えは1点の仮想ヴィラン3機。早速銃を構えて……ゴーグルの照準に従い目標をセンターに入れて……

 

「……悪いな」

 

 1機につき3発ずつ撃ち込み機能停止させる。

 

「さぁ次々」

 

 2点ヴィラン2体も銃で壊していく。だが思ったよりも弾数がかかる。

 

「3点ヴィランか……」

 

 流石に拳銃では倒せないか……てな訳で。

 

「対ヴィラン用手榴弾ー」

 

 ピンを抜き投げて1個目で体勢を大きく崩して間髪入れずに2個目で機能停止へ追い込む。

 

「ここまでは個性無しで倒せるか……装備様様だな」

 

 次の区画へ向かうと1点3機、2点3機が待ち構える。

 

「とりあえず1点から壊すか」

 

 処理している間に2点3機が接近する。流石に同時に相手は無理か。

 

「いつもの壁ー」

 

 分断するように投げ込み復元。1対1の状況に持ち込み1機ずつ壊していく。

 

「思ってたより戦闘で弾の消費って多いな……対人相手じゃないから仕方ないか」

 

 マガジン1つにつき弾は6発。全5本の替えマガジンを持って来ているが1周分じゃ流石に足りないか。弾の復元を行い4つ分のマガジンを再使用可能にする。

 

「次はっと」

 

 区間を移動すると1点4機と3点2機が近づいてくる。

 

「流石に銃だと手間か……」

 

 スリングショットでまだ距離のある団子状態の1点4機に対して全部巻き込む様に壁を撃ち出す、そして復元し押し潰す。あとは3点2機だが……

 

「手榴弾でいっか」

 

 思考停止の手榴弾爆撃。よし壊せた。

 

「次は……指定拠点の修復か」

 

 どうせ0点仮想ヴィランが居るよね。

 

「本当に居たよ」

 

 さて……どう壊そうか。装備を確認して考える。

 

「やっぱコレだよなぁ」

 

 取り出すのは尖った金属片。それをスリングショットで胴体部分に突き刺さる様に撃ち出す。そしてだ

 

「復元をっと」

 

 金属片の正体は馬鹿でかい鉄板の欠片である。壁よりも各所に刺さりやすいので撃ち込んだ箇所の切断に使う。これにより最低限の厚さで0点ヴィランが胴体から真っ二つである。

 

「まあ受け売りなんですが」

 

 説明書を読んだのよ!……ロケラン欲しくなった。

 

「あっさり倒せるもんだな……」

 

 さて指定拠点の物とやらは……

 

「これ……だよな?」

 

 ビルに入り見つけるのは割れた豚の貯金箱。何故よりによってコレなのか……とりあえず修復して外に出ているお金をチャリンチャリンと入れていく。765円と微妙な数字であった。

 

「持ち主の下へお帰り」

 

 そう豚の貯金箱に話しかけて次の拠点へ向かう。

 

「同じじゃないですかやだー」

 

 同じ事をするだけであった。工夫はどうした雄英。ちなみに相変わらず豚の貯金箱であった。中は346円だったが。

 

「ここまでは多分茶番なんだろうなぁ……」

 

 ちゃんと壊せるかの覚悟の確認だろう。嫌な気分であるが仕方ない。

 

「さて次のヴィラン占拠拠点はと」

 

 端末に示された場所に足を運ぶ。

 

……………

 

 よりによって貴方?ですか……ヴィラン役は

 

「13号さん」

 

 ビルの一室を鏡でこっそりと相手を陰から確認する。さて相手はプロヒーローしかも質量無視のブラックホールか。

 

「質量で押し切らせない為……かな?近接戦闘になるよりかはマシだけど」

 

 オールマイトとか出て来よう物なら1撃で葬られる。そう考えると少しマシか。

 

「自分の有利を押し付けろか」

 

 戦闘の基本を思い返す。さて私にとっての有利とは……

 

「やっぱりコレだよな」

 

 さあ――――戦争を始めましょう。

 

……………

 

 まず陰から投げ込むのはピンを抜いた閃光弾。吸い込む直前で強く光り辺り一帯を白に染め上げる。

 

(ちょっと腕を上に向けてと)

 

 威嚇がてらの拳銃6発全弾。当然ながら前方に向けている指に吸い込まれるが上方向に撃ち出した壁の欠片はギリギリ吸い込まれない。

 

(復元)

 

 上方向からの急な特大壁への対応に指と視線の位置を変える13号。その隙に部屋に入り込み近づいて……両側に手榴弾を投げる。

 

(てか良く見えてるな……やっぱり対策済みなのね)

 

 光が収まり片方の手榴弾が爆発。その衝撃によろけている隙に更に近づき。

 

「……捕りました」

 

 すれ違いと同時に手首部分にカフスを掛ける。

 

「……やられたよ。強くなったね物見さん」

「……やっぱり覚えているんですね名部での時の事を」

 

 頷いてくれる13号。

 

「当然さ。君と心操君のことは良く覚えているよ。あの時は遅くなってごめんね」

「……いいえ。私達は貴方に救われました。それは事実です」

「とても勇敢に戦ったと聞いているよ。本来なら戦っちゃだめなんだけど、それでも君達の勇気で多くの命が救われたんだ」

 

 そう言って褒めてくれる。

 

「……あれから私もヒーローになろうと思いました。ビルの時の様に中途半端じゃなくきちんと助けられるヒーローになろうと」

「……そうかあれからか」

 

 感慨深そうに呟く命の恩人。

 

「13号さん……あの時聞けなかった事を1つ聞いても良いですか。」

「なにかな?」

 

 あの時助けてくれたヒーローの口から聴きたい言葉。こればっかりは心操には務まらない。

 

「私は……貴方の様に人を助けられるヒーローになれますか……?」

「なれるとも。君はヒーローになれる。僕よりも多くの人を救える立派なヒーローにね」

「……ありがとう……ございます。あの時助けて頂いたお礼まだしてませんでしたね。改めてありがとうございますお蔭で救われました。私も心操も」

 

 恐らく私の今の顔は嬉しさで泣いているだろう。さっきから頬に水滴が伝っている。……こうして泣いたのは何年ぶりだろうか。

 

「物見さん」

「はい」

「良く頑張ったね」

「……はい」

 

 私はようやく1歩踏み出せた気がする。あの事件の時から。

 

「じゃあ試験を終わらせて来なさいな」

「はい」

 

 最後の修復物は金色のトロフィーであった。結果は後日発表らしい。




 主人公の軍服……ぶっちゃけ言えばFG○の婦長の上を白にした物である。クリミアの火薬庫である。


 仮免試験の1次試験の初手で街ぶっ壊した振動個性のアイツにブチ切れる主人公を書きたい。
 「死ね」の一言と共にハイライト消えた瞳で銃ぶっ放す主人公を書きたい。


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そんなヒーローになる為の

 ヒーロー科編入完了で本編自体はこれで終わりですね。


 私の編入試験の結果が届く。映像に映るのは平和の象徴。

 

『私が映し出された!』

 

 テンションを上げて挨拶するオールマイト。

 

『さて結果は既に察しているだろうから先に言っておこう。合格だ』

 

 あっさりと言うなー。まあアレで合格じゃ無かったら何で合格だと言うのか。

 

『元々君のレスキュー能力は高く見ていた。だが入試の時に君は敵を倒す術を……自衛の術を用意していないと判断した』

 

 事実である。

 

『今回の試験。君に敵を倒す覚悟と術があるかという唯それだけを試させて貰った』

 

 やっぱりか。試験の内容が単純すぎる訳だ。

 

『体育祭での活躍に加えて保須の一件そして今回の試験で君はヒーローになりえると判断された』

 

 ……

 

『君の行動は常に多くの人の心を動かしている。助けられた人も多く居る。今のヒーロー社会これからもずっと君を必要とする人が現れるだろう』

 

 手を差し伸べるオールマイト。

 

『これまでより大変になるかもしれない。それでも良いんだったら』

 

 それは招待。平和を築く礎への。

 

『来たまえ少女よ。ここが君のヒーローアカデミアだ』

 

 映像が終わる。

 行くよ……行ってやるよ。止まらないと決めたんだ。

 

「勿論だオールマイト。その為に私はここに来たんだから」

 

 多くの物を背負うかもしれない、今まで以上に敵から狙われるだろう。

 だが自分が信じる道を進もう。皆の旗となろう。行く先に迷いなく掲げてやろうではないか。

 

 私はここに居ると。

 

…………

 

 編入試験結果が届いた次の日の放課後。私は心操と共に帰っていた。

 

「私は行くよ。お前の言う通り先にな」

「そうか……少しクラスが寂しくなるな」

「そういや委員長って誰がなるんだろうな」

「知らね。まあ誰でも良いんじゃない」

「だよな」

 

 他愛もない話である。だがそれが心地よい。雄英に入ってから本当に色々あった。

 

「そういやもうすぐで梅雨も明けて夏か……期末もあるな」

「そうだな」

「今日は心操の家で勉強しない?ウチだと暑くてさ」

「いいぞって言っても俺が一方的に教えられる立場なんだが」

「いいじゃんか偶にはさ」

 

 逸る心のまま夕陽が差す道を私は心操の前に出て振り返る。

 

「なあ心操」

「どうした」

「好きだ」

 

 飛び切りの笑顔で言ってやる。面食らった顔の心操。そして溜息をつかれる。

 

「お前なぁ……」

「えーそこ溜息つくか?」

「唐突すぎ」

「むぅ……ま、いっか」

 

 私の気持ちは伝えた。改めて伝えたって言った方が正しいか。

 色々巻き込まれるヒーロー科に行くのだ。言いたい事は言っておく。そう思ったのだ。

 

「返事は今はしなくていいからさ。ただ私の気持ちは……受け止めてくれ」

「…………わかった」

 

 一方的に押し付けているが構わないだろう。だって

 

「心操なら追い付いてくるだろ?」

「当たり前だ」

 

 私のヒーローなんだから。

 

……………………

…………………………

 

 

 編入のための書類を提出して3日後。6月の終わりに新たな学校生活に胸を躍らせる。

 

「じゃあな心操。待ってるぞ」

「ああ」

 

 下駄箱で心操と別れてとりあえず職員室へ。予鈴前に担任である相澤先生へ挨拶しに行く。

 

「相澤先生。今日からよろしくお願いします」

「話は聞いている。あのバカ共の面倒頼む」

 

 それは私には荷が重い。それだけ言って相澤先生は席を立ちそれについて行く。そして予鈴が鳴ると同時に先程まで騒がしかったA組が静まりかえる。

 

「席着けー」

 

 相澤先生と共に中に入る私を見て少し騒ぎ出すが飯田が静止させる。

 

「話は聞いていると思うが今日から物見がヒーロー科に編入になった、お前らには自己紹介はいらないだろ」

「今日からよろしく」

 

 こっからが私のスタートになるだろう。私の英雄学校その1ページ目の。

 心操……私は私の道を行こう。誰も彼もは救えないが私の目に付く、見ている物位は守れる、直せる……そんなヒーローになる為に始めようか。

 

 君と未来を盗み描く捻りの無いストーリーを。




 もうちょっとだけ続くんじゃ。


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綺麗に終わった後に始まる蛇足

 蛇足という名の林間合宿&AFO編はっじまるよー(なお期末はキンクリ)


 ヒーロー科に編入してから1週間と少し。期末も終わり皆夏休みと林間合宿に浮かれている中私はと言えば。

 

「これで終わりですかね?」

 

 放課後に1~3年ヒーロー科が期末の演習試験で使った会場の後始末をしていた。

 

「いつもすまないね。あ、後で校長室に来て欲しいと言伝を頼まれたんだ」

「校長室ですか?わかりました」

 

 もう何回乗ったか分からない移動用バスに乗り込み校舎へ向かう。

 

「失礼します」

「よく来てくれたね。掛けてくれたまえ」

「はい」

 

 相変わらずの根津校長。さて何か話す事があっただろうか。

 

「期末試験の後片付けご苦労様。いつも助かってるよ」

「気にしないで下さい」

 

 労いの為ってわけじゃないよな。それだけでわざわざ呼んだりしないだろう。

 

「さて本題なんだけど」

「はい」

「君の修復が金額にして億を超えちゃってね。それに対して君は学校の取り寄せあんまり使わないと言われてね。どんだけ物欲無いのさ」

「でも学食は使わせて貰ってますよ」

「学食で億を超えるのに何十年掛かると思っているんだい?」

 

 呆れられた。一杯食べられるのって幸せなんやで?

 

「それは置いといて君の働きが凄まじすぎて学校側から更に何か追加しないと申し訳ないというか、立つ瀬が無いってなってね」

 

 ふむふむ。

 

「コスチュームの時に散々怒られたから君の意見を聞いてから決めようと思って呼んだんだよ」

「追加って急に言われましても……そうですね」

 

 お金……とは直接的に言えないよなぁ……何か良い物が

 

「あっ」

「何かあるかい?」

「学費無料……っていうのはダメでしょうか?」

「当然良いとも。というより案が出なかったら最初に加える予定の奴だったんだ」

「あっそうなんですか」

「それで」

「はい?」

「他に何かあるかい?」

 

 学費無料は最低条件だったんですね。うーむ……何かないか。

 

「……………………………商品券」

「切実だね」

 

 つい考えが口から出てしまった。根津校長から同情の眼差しを向けられる。

 

「でも商品券か。それなら都合が良い」

「えっ良いんですか?」

「勿論だとも。現金を渡すのは感じが悪いからね。なるべく多くのお店で使える物を注文しておこう」

「ありがとうございます!」

「君の働きの対価だから気にしなくてもいい。ただ渡された商品券を現金にトレードとかはダメだよ?」

「はい」

 

 これで少しは良い物が買える……この個性に生まれて良かった。

 

「問題は渡す金額だけど……うーむ、申し訳ないけどこれは経理と相談って事になるけど良いかな?」

「構いません。貰える物に文句は言いません」

「素直で良い子だ」

 

 遅くても次の休み前には渡すと言われた。ありがとうございます。

 

「もうこんな時間か。遅くなってしまったね送らせるよ。少し待ちたまえ」

「わざわざすいません」

 

 

………………………

 

 

 期末の結果が出る今日。演習未クリア組が悲しみに包まれていた。緑谷が慰めるも逆効果であった。

 

「物見さんは演習試験無かったよね?」

「ヒーロー基礎学を1度しか受けてない私に演習どうこう言われてもな」

「じゃあ物見さんは何を?」

「編入試験が期末の演習の代わりだった。最後はヴィラン役の13号とサシだったが」

「……」

「……」

 

 演習で13号の相手であった麗日と青山が顔を合わせる。

 

「え?まさか勝ったの?1人で?」

「一応な。でもあれ絶対手加減してた。定位置から動かなかったし」

「物見さんの試験ってそんな感じだったんだ。でも物見さんの個性なら……」

 

 緑谷の謎ブツブツが始まった。あ、予鈴が鳴ったし席に着くか。

 

 

…………………

 

 

「林間合宿は全員行きます」

『どんでんがえしだぁ!』

 

 林間合宿は強化合宿らしく赤点組はめっちゃキツイらしい。全員で行けて良かったな。

 

「あ、強化合宿なら」

 

 コスチュームはいらないから装備は持って行けないのか……後で聞いてみるか。可能なら射撃と狙撃の練習もしたいし。

 

「結構な大荷物になるね」

 

 緑谷の一言と葉隠からの提案で明日休みという事もありA組で買い物に行く事になった。

 

「モノミンは下着も買おうね?」

「私服もですわ。流石にアレは酷いと思います」

「あっ確かに基礎学で1回着替えたけどアレは女子としてどうかと思うな」

「逆にどうなったらアレになるのかしら」

「私も流石にアレはどうかと」

「私達もアレにならないように選ぶから安心して物見さん!」

「…………………おい流石に私も傷つくぞ」

 

 アレアレ言いすぎだろ!そんなにか!そんなにもアレなのか!

 

「詳しく!その話詳しく!」

「峰田は黙れ」

 

 まあいいか、こういうのは女子力高い奴に丸投げに限る。

 

「じゃ場所とか決まったら連絡よろしく。私は寄る所あるから」

「あれ?学校の依頼?」

「それは前に終わったから別件」

「え?じゃあ期末試験のあの修復もう終わったの!?」

「1~3年の分全部な」

 

 ざわつきが大きくなる。てか私の修復にはいい加減慣れろよ。今更だろ。

 

…………………

 

 向かう場所は職員室。用事があるのは担任の相澤先生だ。

 

「………て訳で私の装備の持ち出しの許可を貰いたいのですが」

「確かに物見の個性を考えると1週間で伸ばすってのは合理的じゃないな。分かったこっちで申請しておく」

「ありがとうございます」

「構わない。渡すのはバスに乗るときでいいか?」

「はい」

「それと校長が呼んでいた。渡したい物があると」

「分かりました。では先生さようなら」

「ああ気を付けて帰れ」

 

 その後に根津校長の手?から直接商品券が渡された。金額にして10万円分……そんなにいいんですか!?と驚いていると「これでも少ない」と言われた。……明日の買い物は乗り切れそうだ。良かった。

 なお商品券は毎月貰える上に徐々に予算を取って金額を上げていくらしい。



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買い物をしよう1

 お買い物編。


 次の日、訪れたのは県内有数の店舗数を誇ると言われている木椰区ショッピングモール。ちなみに私は初めてだ。

 

「流石店内涼しいな」

「ねぇモノミン」

「なんだ?」

 

 とてつもなく残念な物を見る目で見て来る芦戸他参加A組連中。

 

「今日ショッピングって分かってるよね?」

「ああ」

「じゃあさ何で……制服?」

「だってオシャレな服とか持ってねーし。そもそもお金無いし」

 

 残念な目から可哀想な目にチェンジされた。

 

「物見さん……その今日買い物のためのお金ってあります?」

「昨日貰った」

「大丈夫?無理しなくていいんだよ?」

「大丈夫だって。臨時収入で10万貰ったから」

「合法!?合法な手段で貰ったお金!?大丈夫?本当に無理してない?」

 

 ものすごく心配されてしまった。仕方なく学校からの依頼をこなして貰ったお金だと言ったら安心していた。一部の連中から「物見の個性の働きで10万って少なくね?」と冷静に指摘された。せやろか?

 

「まあ安心して使えるお金だと思ってくれ。商品券だが」

「私商品券って初めて見ましたわ。実在したんですね」

 

 八百万が珍しいのか商品券を眺めている。あんまり馴染みないか。

 

「つっても全部は使いたくないけどな。せめて5万……さん……さ……3万は残したい」

「めっちゃ使うの躊躇ってるね」

「貧乏人舐めんな葉隠。1万円札差し出すのに手が震えるんだぞ?」

 

 苦笑いの麗日以外から同情の目で見られる。

 

「まあそこらへんは考えながら選んであげるから安心しな」

「そうですわよ。じゃあ行きましょうか物見さん」

 

 耳郎と八百万にドナドナされる。芦戸他女子は後で各々別の物を選んでくれるらしい。

 

「じゃあまずはその服からね。流石に制服は無いわー」

「ですね。何か注文はありますか?スカートかズボンかとか」

「安い奴」

「OK注文は無しね」

 

 おい耳郎目を合わせろ。

 

「素材は最高クラスなのに何でこんな残念に育ったのか……一部以外」

「ほら可愛いお洋服を着れば心操さん?でしたっけ。彼も喜びますから」

「何故そこでアイツの名前が出て来るのか……しゃーねーなー。あ、ミニスカはなるべく遠慮しておく」

「早っ!あっさり折れた。えっマジでこれで付き合ってないの?てかミニスカ駄目なんだ」

「どうも性に合わん」

 

 人の恋路に関してとやかく言うもんじゃねーぞ。

 

「じゃあ私はスカートで探しますから耳郎さんはズボンを中心にお願いします」

「わかった。じゃあ物見は待ってな持って来るから」

「頼む」

 

 そう言って耳郎と八百万が離れていく。私は試着室前の壁にもたれ掛かり待っておく。そして2人が離れてから2分も経たずに

 

「ようねーちゃん一人?」

「連れがいるので帰れ」

 

 まあナンパされる。てか服屋でナンパすんなよ。古典的すぎて逆に新しいわ。気にしないが。こういう時心操が居れば楽なんだが。

 

「つれねーなーいいじゃんその制服雄英だろ?俺そこそこ強い個性持ってんだぜ?なんだったら今から見せて……」

「黙れ。それ以上言ったら潰す。私の前で安易に個性使ったら全力で潰す」

 

 死ね。

 

「ひっ……!?」

「……帰れ」

 

 それだけ言えば情けない声で逃げ出すナンパ。

 

「物見さっきのは……って物見?」

「なんだ?」

「顔めっさ怖いんだけど。殺気立ってるし何かあった?」

「別に」

 

 戻って来た耳郎に心配される。その手にはもう服を一式持っていた。

 

「ならいいんだけどさ。あっ服これ着てみて」

 

 渡されるのは黒のジーンズと白の少しパンクなシャツと黒の革ジャン。

 

「物見って髪と言いコスチュームと言い白黒……「モノクロ」ってイメージがあるからさ。それに合わせてみた」

「そうか?まぁ着てくるよ」

 

 テンテンテレテン

 

「おー!いいじゃんいいじゃん!物見こういうパンクなファッションもイケるじゃん!」

「なら良かった」

 

 ご満悦な耳郎。さらに首から赤色のヘッドフォンを掛けて遊んでいた。

 

「あら物見さん男性らしさが増しましたねお似合いですよ」

「いやーホント顔も無駄にイケメンだからね物見は。これでそこらの女子ナンパしてみてよ。多分着いて行くと思う」

「女子ナンパして何が楽しいんだか」

 

 そういや中学の頃に壊されたって言った眼鏡を直して優しくした後輩女子にガチで告られたな懐かしい。

 

「それで八百万も白黒か」

「耳郎さんと被ってしまいましたね。でも物見さん変に着飾るよりもシンプルに纏めた方が映えるタイプですし」

「私が地味だと言いたいのか?」

「逆よスタイル共々派手なの物見は」

 

 耳郎の言葉に八百万も頷いていた。この二人が言うなら合ってるのだろう。

 

「私別の奴を探して来ますわ」

「いやそれも着てみるよ。せっかく選んでくれた物だ無碍にはしないさ」

「物見さん……」

「物見アンタ……中学時代に絶対モテてたでしょ。てかモテない理由が見つからないんだけどファッション以外」

 

 ファッション以外は余計だ。いまいちモテてないぞ私は。ずっと心操と居たし。

 その後もファッションショーが続き各色の組み合わせを試してみるが結局白黒のモノクロカラーに落ち着き耳郎と八百万が選んだ物2セットずつ、計4セットの購入となった。2万円の出費で泣きそうになった。

 ちなみに一度ピンク一色を着て見たら余りの似合わなさに選んだ2人がドン引きしていた。だから止めとけって言ったのに。

 

「うーむどっち着ようか……」

「じゃんけんで決める?」

「いいですわ」

 

 どちらでもいいが勝ったのは八百万であった。スカートね。

 

「じゃあ着て来るわ」

 

 更衣室に入り制服を脱ぎ八百万が選んだ服に着替える。

 白黒チェックのスカートに黒を基調とした地味目のTシャツに薄桃の線が入った白色のカーディガン。落ち着いた感じに仕上げたとは八百万の談。

 制服を元の入っていた袋に入れて試着室を出る。

 

「お待たせ。悪いな付き合わせて。八百万は次もよろしく」

「お任せください」

「じゃあ私は別行動で」

 

 次は酷評された下着を買いに行く。耳郎とはここでお別れだ。何か呪詛めいた事を呟いていたが気のせいだろう。




 八百万と主人公に挟まれる耳郎の気持ちを述べよ。


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買い物をしよう2

 主人公の酷評されまくっている下着とは……


「して今回は芦戸か。お前は服を選ぶのかと思ったが」

 

 下着担当は八百万と芦戸である。てっきり服を選ぶのかと思ったらじゃんけんの結果、耳郎が下着の予定だったが懇願の末に芦戸とチェンジだったらしい。

 

「流石にいたたまれなくなったよ……」

「私は誰でもいいんだが」

「まあまあ気にせず行きましょう物見さん芦戸さん」

 

 そして辿り着くのは各々の個性にも対応した各種サイズが取り揃えてあると評判のお店である。揃えておかないとやってられないらしい。

 

「モノミンしっかり測ってきてある?」

「バッチリだ」

 

 前日に測ったメモを取り出して芦戸と八百万にパスして後は丸投げ。

 

「どれど……」

「あら私より……」

「どうした?」

 

 何やら固まってしまったお二方。いや固まっているのは芦戸だけなのだが。

 

「いやーモノミンって成長期?羨ましい」

「私としては成長ストップして欲しいんだが」

「気持ちはわかりますわ」

「だよな」

「勝ち組共めー」

 

 出費が馬鹿にならないんだぞ……八百万は創れるだろうけど。

 

「八百万格安で創れない?」

「え……ええ出来ますけど……」

「えー経済停滞エヌジー!」

 

 服は買って下着は八百万に頼るのも何か違う気がするのは確かだが……サイズとかの問題もあるししゃーなしか。

 

「じゃあ適当によろしく」

「ラジャー!」

「任せて下さい」

 

 選びに行って1分もしない内に芦戸が即戻って来て手渡すのは。

 

「はいこれ!」

「紐じゃねーか!アウトだバカ!」

 

 この手のテンプレの紐である。改めて見ると何も隠せてない。

 

「ほら返して来なさい」

「ちえー」

 

 残念がる芦戸。本気で着ると思っていたのか……

 

「選んで来ましたわ」

「八百万は普通だな。いい子だ」

 

 まあ普通の飾りっ気の無い白である。

 

「じゃ着けてくるから」

 

 試着室に移動して服を脱ぎ全員からのブーイングを喰らったベージュの下着(在庫処分セール品)を更に脱ぐ。ちなみにブーイング理由は満場一致で「おばさんみたい」である。

 普通科の女子達は苦笑いで流してくれたのに……!ちくしょう……値段安くて大きいサイズなんて私が知る限りこれしか無かったんじゃい!

 

「値段は……」

 

 ついチラリと値札を見てしまう。下込みで3000円……うっ眩暈が!

 

「見ない様にするか」

 

 さて着け終えましてと……

 

「出来たぞ」

 

 待機している八百万を呼ぶ。カーテンをチラッと開けて中を覗く。

 

「お似合いですわ物見さん。ベージュより遥かに若々しく見えます」

「私はナウでヤングな10代だぞ。てかそんなにか……そんなにベージュは駄目なのか」

 

 八百万の視線が駄目だと物語っている。無言はキツイ。

 

「サイズはどうですか?」

「ん?ああ丁度いい感じだ。1着目はこれで……」

「あらあら買い物は始まったばかりですわ。もっと良いのを見繕ってきますから待って下さいな」

 

 八百万が上機嫌になりながらも次の奴を見繕い始めた。入れ替わりで芦戸が次のを手渡す。

 

「まあわかっちゃいたが黒か……風紀的にどうなんですかね黒って」

「モノミンならそんなアダルティな色も着こなしてくれると信じてるよ!」

「信じられても困る。アダルティと分かってんなら渡すなチェンジ」

「えーでも彼氏くん喜ぶよー?」

「こんなんで喜んで貰っても困るわ。とにかくチェンジ」

「彼氏って部分はもう否定しないんだ……そも見せる予定はあると」

 

 もう一々リアクションするのも面倒だし諦めた。

 

「いいから返して来なさい。次やったら分かってるな」

「イエッサー!」

 

 仏の顔も三度までである。

 

「物見さんこれはどうでしょう?」

「ん?縞か……水色と白って私に似合わないだろ」

「じゃあピンクと白は」

「余計似合わないだろ私のピンクの似合わなさは知ってるだろ」

「こう奇跡的なバランスにより……」

「奇跡も魔法もねーよ」

 

 残念そうに返しに行く八百万。だが知っている着けたはいいがドン引きされるという事を。

 

「持って来た!」

「赤かー何でそう際どいとこ行くかねー」

 

 私のCVが丹下だったらワンチャンあっただろうが残念ながら違う。

 

「……一応着てやる」

「おっ!やったー初めて受け取った」

 

 もしかしたらCV沢城の可能性もあるかもしれない、さて着替えて見てっと。

 

「どうよ」

「うーん似合って無い事もないけど……」

「微妙と」

「正直」

 

 どうやら沢城でも丹下でも無かったらしい。

 

「ほれ選んで来い1着ずつじゃなくていいから」

「はーい」

 

 赤色にはご退場願った。赤の時代は終わったのだ。次からは青の時代だ。私の勘がそう告げている。

 

「いや黒かもしれない……」

 

 特に意味の無い思考を巡らせていると八百万が持って来る。

 

「やはり物見さんには白とワンポイントが合うかと思いまして……」

 

 ライトグリーンやライトブルーなんかも持って来ているが本命は当たる部分が白で腰の部分が黒の奴である。上の方はカップ部分は白で下の支える部分と紐が黒である。

 

「結局モノクロに落ち着くのね……分かってはいたけど」

「やはりイメージ的にどうしても……ってなってしまいます」

 

 ここまで選んで来た八百万が言うのならそうなんだろう。

 

「一応それ全部着てみるから」

「はい」

 

 と、着てみたは良い物の淡い色もそれはそれで微妙な顔をされてしまう。

 

「知ってた」

 

 芦戸にも見てもらうが「モノクロが一番だねー」と言われてしまう。私ってそんなに個性無かったか……無かったわ。

 

「ま、こうなるよね」

 

 白2モノクロ3で落ち着いた。それぞれ柄が違うので良しとする。

 

「2万円か……くっ鎮まれ私の右手……!」

 

 この後も靴に水着にしおりに書かれている物と買う物が多い。さて次はと思っていると緑谷が雄英を襲撃したヴィラン連合なる組織の親玉に遭遇して「買い物してる場合じゃねぇ!」となりその日は解散となった。是非も無いよネ!

 しおりに記載されている物はもう取り寄せよ……万単位の連続出費に私の心が限界であった。




 着替えの細かい描写……出来ない事も無いですが……面倒ですのでカットです。
 次からは林間合宿です!


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林間合宿なう

 チキチキ主人公にとって特に意味の無い林間合宿はっじまるよー。たった1週間で割と振り切ってるスタミナなんて伸びないんや……


 行き先を変更して当日までどこに行くのか分からないバスの中。騒がしいクラスメイト達に囲まれながら揺られていた。

 

「ねーねーモノミン!次「ご」だよ!」

「拷問」

 

 芦戸達のやっていたしりとりが不参加の私の所に何故か流れて来たので〆とく。

 

「えーモノミンノリ悪ーい」

「ああすまん。つい癖で」

「どんなクセ……」

 

 しりとりって長く続くからな。飽きるし流れてきたら一旦切って別の事を提案した方が良いのだ。

 

「見た所山の中だし川はあるだろうが泳げるか微妙だな」

「だねー一応水着持って来たのに残念」

 

 話題を振りながらも到着を待つ。30分程経った頃に相澤先生から停車の指示が出て私だけ受け取った装備を持ちバスから降りる。見た所まだまだ道すがらといった場所である。

 

「何も目的が無く来たのでは意味が薄いからな」

 

 言って現れるのは猫っぽいコスチュームを着た2人の女性。

 

「煌めく瞳でロックオン!」

「キュートにキャットにスティンガー!」

『ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ!』

 

 どうやら今日からお世話になる方達らしい。緑谷曰く山岳救助のプロチームらしい、

 

「そういや指名入ってたな……あまりに怪しい名前だから見る事を拒絶してた」

 

 思い出していると山のふもとにあると指さされる私達の宿泊施設。現在9時半。

 

「12時半までに辿り着かなかったキティ達はお昼抜きね!」

 

 個性により崖の下まですってんころりん。放り出されてしまう。一緒にあった柵近くの車大丈夫?

 個性の使用自由な私有地で3時間で宿泊施設に来いとの事。そして視線の先には

 

『マジュウだー!』

 

 生物らしき何かが居た。口田の個性が通じない所を見て即座にスカート下にセットしてある銃を抜く。

 

「……」

 

 まだゴーグルとカチューシャを装備していないが一応1月は使っている銃だしあんだけ的が大きければ当てられる。

 一先ず先制で2発撃ち込む。正体は土塊だったらしく当たった所がボロボロと崩れていき緑谷他3名の追撃であっけなく崩壊する。

 

「1人の個性は土の操作って所か……合ってるか緑谷?」

「うん。ピクシーボブの個性だ」

 

 だとすれば話が早い。いくら倒しても問題無いし壊したという訳でも無い。ゴーグルとカチューシャを装備してだ。

 

「ちゃっちゃと切り抜けましょうや」

 

 A組全員で切り抜ける。

 

 

………………………

……………………………

 

 時刻は午後5時。ようやく宿泊施設に到着する。

 

「何が3時間ですか」

「悪いね私達ならって意味あれ」

「実力差自慢のためか」

 

 もっとかかると思ってたらしく土魔獣が簡単に攻略された事も含めて褒められていた。

 

「事前装備に携帯食料や水っていうのはどうなの」

「あいつは事前に申請していたからな。大目に見てやって下さい」

「いやいや私達は褒めているんだ。事前の準備もヒーローにとっちゃ大事さ。他の子達もそれを実感しただろう」

 

 個性をそこまで使わずに来た為にあまり疲れても無い私を指差して何か話し合っている。そして訳あり少年浩太の紹介を済ませて荷物を降ろして夕食である。

 

「ん……うまい」

 

 切島他男子の声をBGMに皆で夕飯を囲む。うまい。

 

「モノミンも後で男子の大部屋行くでしょ!」

「ん?あーそうだな折角だし行くか」

 

 うまい。

 

…………………

 

 そして現在。

 

「ふぅー極楽極楽」

 

 風呂である。温泉である。つまり最高である。

 

「戦艦や………戦艦が2隻もおる」

 

 麗日が呟き私の横に一緒に浸かっている八百万と共に周りの視線が集まる。

 

「麗日も十分だと思うが?」

「嫌味にしか聞こえへん!」

「そんな自慢をするのはこの胸かー!」

「胸かー!」

「おい芦戸と葉隠!暴れるんじゃねぇ!てか胸揉むな」

 

 むにゅむにゅと形を変える私の胸を無造作に揉みしだく芦戸と葉隠。これがヤオモモ越えの胸かー!って叫ぶな。隣の男子湯に聞こえてるだろ。

 

「………くっ!」

 

 耳郎が人間の不平等さを訴えかける目で見て来る。

 

「おーい蛙吹助けて」

「梅雨ちゃんと呼んで。確かにうるさいわよ芦戸ちゃんも葉隠ちゃんも。折角の温泉なんだもの静かに浸かりたいわ」

 

 蛙吹には逆らえないのか芦戸も葉隠も離れていく。

 

「助かった梅雨ちゃん」

「いいのよ物見ちゃんも大変ね」

 

 蛙吹ホントいい子。ちょいちょいと手招きしてつい抱きしめてしまう。

 

「よーしよーし」

「流石に恥ずかしいわ物見ちゃん」

「えー私達と対応がちがーう」

 

 黙らっしゃい。そのまま蛙吹を膝の上に座らせてのんびりしていると横の八百万がクスクスと笑う。

 

「物見さんでも心許す女子って居ましたか」

「ん?私ってそんなに対応微妙だったか?」

「いえ対応は大丈夫ですが……一歩引いて見ている感じはありましたね」

「物見ちゃんは自分が余所者だと思っている節があるわ。私達はもっと仲良くしたいの」

「そうか………?」

 

 周りを見ると少し頷かれる。

 

「……その一歩の距離感が分からん」

「そうね……一番分かりやすい言い方だと「物見ちゃんから触ろうとしない」って所かしら。受け身すぎるのよ何もかも」

「あー……あー成程な」

 

 そう言われて納得だ。

 

「少しずつでもいいから近づきましょう?その方が私達も嬉しいから」

「………ありがと」

 

 再度頭を撫でてやる。嬉しそうにケロケロと鳴く蛙吹。

 その後、峰田が覗こうとして浩太の手によりブロック。私達の声に振り向いた浩太が轟沈してしまった。

 その後に男子の大部屋に上がり込んだりしながらも忙しかった1日目が終了する。




 個性強化訓練……主人公何しましょ?重い着けながら飯田と一緒に外周コースをランニングが無難か?それか戦闘訓練をこなさせるか……

 携帯食料と水は装備のポーチの片方に入ってます。あと痛み止めや包帯、消毒液他レスキュー関連アイテムが多数。痛み止めと下痢止めで青山君を酔い止めで麗日をサポートしてました。


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ビリー隊長って今何してるのかな

 主人公の特訓内容とは……?


 合宿2日目。朝7時起床からの訓練開始である。

 

「物見お前の個性は短期間での強化に向いていない。だから戦闘訓練を中心に行って貰う」

「分かりました」

「それとだ……」

 

 言われたのは戦闘訓練で1つくらいは必殺技を思いついとけっと。

 

「必殺技ねぇ……クラスター爆撃は駄目ですか?」

「ダメに決まっているだろう……そこ!腰が入っていない!」

 

 午前中はプッシーキャッツのメンバーの1人虎さんに付き合って貰っての我ーズ・ブートキャンプによる基礎筋力の強化と近接戦闘での訓練である。

 

「基礎の基礎しか出来ていない!そんなんで敵に勝てると思うな!」

「サー!イエッサー!」

 

 徒手格闘から投擲技術ナイフ技術まで割と何でもこなせてしまう虎さんは本当に参考になる。……これに射撃に狙撃って私の役割多すぎるのでは。

 

「伸ばせ筋肉!伸ばせ個性!」

『サー!イエッサー!』

 

 一緒に訓練している緑谷他増強系個性と共に励むのであった。

 

「キサマ!中々根性があるな!」

「個性柄無駄に体力が要るので」

 

 周りがへばる中、私が割と余裕そうにしているのを見て興味を持たれる。てか知ってるでしょ。

 

「もう1セット行っとくか?」

「お願いします!」

 

 私の足りない部分を補うためには他の連中よりするべき事は多い。こういうスパルタはドンと来いだ。

 

 

……………………………

 

 1セット後に少し休憩を挟み八百万に頼んでいた物が出来ているか尋ねる。

 

「悪いな八百万。弾の量産頼んでしまって」

「訓練のついでですのでお気になさらず」

 

 午後の訓練に使う銃の弾等の私の装備の生産である。見本を見せて問題無いと返事を貰い数を揃えて貰った。いつもはコスチューム返却と共に弾が補充されてるけど山奥だしね。

 

「そこの箱に入れてありますので好きに持って行って下さい」

「ありがとう」

 

 量的に多いのはスカートに仕込んである拳銃の弾で狙撃銃の弾も少し創って貰った。合宿前に最低限の扱い方を教わった狙撃銃(対物銃はこっち扱えるようになってから)。それの訓練を夕暮れ時に行う予定だ。

 

「じゃ行ってくる」

 

 水分補給と栄養補給を済ませて次の訓練場まで行く。

 

………………………

 

「……ちっ!」

 

 視界の通らない森の中、悪い足場で土魔獣相手に実践的な戦闘訓練を行う。

 突如現れる相手に最低限の動作で照準を合わせて動きながらも弾を当てて行く。時に近づかれ過ぎた時には手榴弾を投げたりナイフで対応したりと大忙しだ。おまけにコレである。

 

「あれか」

 

 指定された的を銃で撃ちぬき即座に修復も行う。その動作の間にも魔獣は沸くわけで……

 

「あぶっ!」

 

 悪い足場に躓きながらも態勢を整える。

 

「あと……15分!」

 

 弾や装備の数を把握しながらも訓練を切り抜けていく。

 

………………

 

「イレイザーあの子だけ厳しすぎない?」

「あんだけこなして貰わないとプロとしてやってられませんよ」

 

 森の中での無限沸きする魔獣相手に特定箇所を修復しながらの戦闘を30分。装備を補充してこれを延々と繰り返す。それが物見へ与えた午後の訓練。

 

「あの子も良くスタミナ持つよ」

「あんだけしないとアイツのスタミナは減りませんから」

 

 マジ?と驚くマンダレイ。午後1時から始めて現在3時半。次で今日の分はラストの訓練となる。

 

「訓練はこれ位合理的じゃなくては」

 

 今回の訓練で物見に身に着けさせるのは

 

・視界が通らない場所への対応

・どこから沸くか分からない相手に対する視界の広さの確保

・足場の悪い立地での体の動かし方

・特定立地での距離感

・動いたままの状態での動く相手への射撃技術

・全距離での戦闘経験

・窮地での装備と個性の把握と工夫

・戦闘時のスタミナの管理

 

 これら全てを与える。特に視界の広さの確保は物見にとっては必要だろう。

 

「詰め込み過ぎじゃない?」

「そんだけ期待してるんですよアイツには」

 

 保須の一件で物見の個性の有用性はヒーロー・ヴィラン両方から認識されている。今後目立つ事も多い以上ここで立ち止まっては困る。

 

「プルスウルトラだ。乗り越えて来いよ」

 

………………………………

 

「いやー疲れた!」

 

 個性そのものは余り使っていないが連続の戦闘で消耗が激しい。

 

「てか動き過ぎて下着の耐久がガリガリ削られていく」

 

 この合宿2日目で既に3回修復を行った。ホックや紐がぶっ壊れまくる。

 

「動きやすい物も買うか……明日はもう八百万に作って貰おう」

 

 溜息しか出ない。そして現在午後4時、飯も各々で作れとのこと。飯田が災害時の被害者への対応に必要だとA組の連中に発破をかける。

 

「じゃあ私は素材をちゃっちゃと切っていくから味は任せた」

 

 手を洗い大量の素材に向き合い包丁を握るのであった。

 途中で爆豪が釜戸を1つ壊すが私が即直す。疲れてるし面倒掛けないようになー。

 そして完成するカレーライス。思ったより爆豪の家事能力が高かった事に驚きであった。

 その後は温泉で体を癒し2日目は終わるのであった。

 

「あ、狙撃の訓練してねぇ」

 

 どうしよ……4日目位から時間とれるか……?




 主人公の林間合宿は虎さん相手の近接戦闘の訓練と森の中でのゲリラ戦の訓練になりました。コレ実際やったらめっちゃキツイと思う。


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合宿三日目

 合宿3日目。起きて髪の状態を確認する。

 

「4割か。いつもより遅く起きてるしな……それよりも筋肉痛がきついが」

 

 昨日ストレッチしたんだけどな。色々普段使わない筋肉酷使しまくってるのもあるが痛いのである。

 あと最近筋肉の付き方が凄まじい。腹筋はまだ割れていないが腕と脚の筋肉が引き締まっている。ヒーローとしては正しい?のだがこのままムキムキになってしまうのは女性として如何なものか。

 

「弱音言っても始まらないか」

 

 今日も一日がんばるぞい!

 

………………………

 

「というわけで頼めるか八百万」

「了解しましたわ」

 

 訓練が始まる前に八百万にブラについて相談を行う。何でも八百万御用達の奴を創ってくれるみたいだ。

 

「今度何かあれば言ってくれ。流石にお礼がしたい」

「お礼だなんてそんな……それじゃあ」

「何かあるか?」

「合宿が終わったら体育祭のリベンジ……受けて下さいますか?」

 

 並々ならぬ決意の八百万。

 

「ああ分かった受けよう」

「ありがとうございます。楽しみにしておりますわ」

 

 これは私も相応の覚悟で挑まないとな。必殺技と合わせて訓練に身が入る案件が増えていく。

 

「じゃあこちらを」

 

 ズルズルと腕から這い出る黒のスポブラ3つ。ありがてぇ。

 

「この前の下着屋で大きさは把握してありますから問題は無いと思いますが」

「ありがとう八百万。お互い頑張ろうや」

「はい!」

 

 今日も八百万の笑顔が眩しい。

 

………………………

 

 さて午前の我ーズ・ブートキャンプと近接戦闘訓練をこなしていく。攻撃指示で攻撃を繰り出すも相変わらずかすりもしない。

 

「なかなかへばらない良い根性だ!その調子で伸ばせ筋肉!」

「サー!イエッサー!」

 

 他の連中が少しずつバテている中昨日と同じ様に私は1人追加で訓練を受けていた。

 

「チェストォ!」

 

 虎さんの細かいジャブを目で追い躱しながら反撃に移ろうとするが腕を取られて投げられる。

 

「相手の動きを見れる目があるなら次を読んで反撃!その場その場の対処じゃ死ぬぞ!」

「サー!イエッサー!」

 

 どうにか目で追えるようになったが絶対本気じゃないだろうなコレ。学生相手に合わせてる。隙っぽく見せるために少し溜め作ってるし。

 

「実戦じゃへっぽこの大振りなんざ当たらんと思え!細かく速くを意識しろ!だが腰は入れろ!一撃一撃が軽くては意味が無い!」

「サー!イエッサー!」

 

 思考しながらも言われた事は実践していく。こうして午前の訓練は過ぎて行く。

 

………………………

 

「物見さん」

 

 昨日と同じ様に午後の為に休憩を挟んでいると珍しく緑谷から声をかけられる。

 

「おーどうした?」

「あっ……とその昨日も思ったけど今日の訓練も見ててさ、やっぱりスタミナ凄いなぁと思って」

「個性の都合で無駄にな。緑谷はどうよ?骨折連発を克服して新技身に着けてっけど」

「あっうんフルカウルね。まだまだ慣れも必要だし集中しないとすぐ解除されちゃうからキツイよ」

 

 フルカウルって事は全身への強化か……期末でも見た感じ前見たいに全部吹っ飛ばす訳じゃないし良しとする。

 

「そういや緑谷」

「どうしたの?」

「そのフルカウルって全身の強化だよな?」

「そうだけど」

「腕より強い脚の力を移動の為だけに使うのって勿体ないって思ったんだけど足技の方は鍛えないのか?手数増えて良いと思うけど」

「あー……うん!?確かに……いやでもオールマイトは……」

「すまん藪蛇だったか?」

 

 ブツブツが始まってしまった。かく言う私も足技の訓練は最低限しかしていないのだが。私の場合手を武器なんかで塞ぐ事多いからゼロ距離まで詰められたら蹴りで応戦する事もあった。本当に戦闘の幅広がるよ。

 

「ありがとう!僕もこの合宿で鍛えてみるよ!」

「そうか。それで用事ってのはこれだけか?」

「あっ!そうだそうだ聞いたよ合宿後に八百万さんと戦うって!」

 

 誰経由で広まったんだそれ。

 

「そうだが?」

「それさ僕も見学していい?物見さんの戦闘って中々見れないからさ!」

「そもどこでやるかとか全く決めて無いから分からんが、いいんじゃないか?八百万が許可すれば」

「八百万さんも物見さんが許可すれば良いって言ってたよ」

「あっそう」

 

 似た者同士か私達は。この調子だとA組全員見に来るだろうな。

 

「八百万に言っとくか」

 

 装備の量産を相変わらずお願いしているためこの後会うし。

 

………………………

 

「後ろぉ!」

 

 本日最後の午後訓練。流石に後ろに付かれた時の対応なんかも慣れて来た。後ろに居る事に気付く事も出来るようになったし良い調子か?

 体の動かし方も段々と分かって来たし。どこから奇襲が来るのか大体分かる様になってしまった。

 

「にしても……」

 

 この2日間で確信した。一発で倒せないというのは思いの外大変である。帰ったら装備の更新をお願いしよう。もうちょい威力がある物と弾の弾数が多い物を。6発は辛いリロードも多いし。

 

「弾と言えば」

 

 何かこう一発これを当てれば倒せるって感じの奴が欲しい。そういう弾も考えないとな。どこぞの正義の味方親子見たいな必殺の弾丸。

 

「着弾した場所で爆ぜる弾丸とか無いかな」

 

 ……いかん。相手が土魔獣なせいで殺意しかない案しか出てこない。しかも銃使用前提である。

 

「我ながら染まったなぁ……銃撃スタイルに」

 

 個性を最低限にしているため右腕のスリングショットの出番も減っている。金属破片突き刺しての復元強いんだけどなぁ。

 

「……金属破片を弾に詰め込めば良くね?」

 

 完全に行ってはいけない方向に行ってしまっている事にこの時は気付いてはいなかった。後日聞いたらダメと言われてしまった。




 この主人公と八百万のライバル感……書いてて楽しい。男主人公だったら対応違っただろうなぁ。

 次で肝試しからのヴィラン連合戦ですね。主人公どう動かそうか……


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肝試し?そんな事よりメンテじゃい!

 誠に勝手ながら過去4話を削除(お話自体はデータで取ってあります)して新たに肝試しからやり直しとさせて頂きます。
 迷走……というよりも謎シリアスが始まった原点から変えさせて頂きます。
 今度こそプロット通り進むといいなぁ……


 さて飯の時間も終わり暗くなるまでお風呂に入ってからの肝試しとなるらしいが、私は風呂の時間をズラして貰った。

 

「物見さん銃のメンテナンス終わりましたか?」

「ん?もう少しかかると思うから先に行ってくれ。脅かす方には参加するから」

「分かりましたわ。お待ちしております」

 

 3日目にしてやっとこさ行っているのがスナイプ先生に教えて貰った銃器のメンテナンスだ。本来は毎日行った方が良いのだが昨日一昨日は何だかんだで出来ず仕舞いであった。

 そして私は煤で汚れるからと風呂を先延ばしにして貰っていた。勿論許可は取ってある。

 八百万の声が遠くなる中でせっせとメンテをしていく。途中で芦戸達の慈悲をー!という声が聞こえて来たが気のせいだろう。

 

………………………

 

「これで良しっと」

 

 メンテが終わる頃には既に肝試しが始まっている時間帯であった。流石に煤だらけの状態で参加するのは女性としてどうかと思う為、道具と着替えを持ち込み温泉へと足を向ける。一人温泉とはなかなか出来ない物だ。

 

……

 

「いざ!温泉!」

 

 服を脱ぎタオル一枚と道具を持ち温泉へ入ろうとすると、唐突なマンダレイさんの通信が入る。ヴィランが現れたから先生の下へ戻ってとの事。

 

「はぁ……しゃーなしか」

 

 楽しみな1人温泉を断念して出戻りし即服を着て先生の居るであろう補習室へ。

 

「にしても何でヴィランが来てんのかね?てか皆無事なのか……」

 

 心配ではあるが今の私にはどうしようも無いため素直に補習組と待機である。頑張れ相澤先生。

 

「温泉入り損ねた私が来た!」

「モノミン!煤けてるけど大丈夫?」

「銃のメンテの時の煤だから気にするな芦戸」

 

 B組の担任に本人かの確認をとられた後に皆が作ったであろうバリケードの中へ入れてもらう。

 

「一応壁追加しときます?」

「……頼む」

 

 B組の担任に許可は得たのでバリケードに壁を1つ追加で作る。いつもの学校の壁である。頑丈さは保障しよう。

 そして相澤先生からの戦闘許可が下りたり爆豪が狙われている事が分かったりと展開が動いていると扉の方に人影が。

 

「相澤先生か!?」

 

 切島が叫ぶと同時に扉と周りの壁が青い炎で吹き飛ばされる。わざわざ扉から壊すとは律義である。その後ヴィランはB組の担任の手で拘束されるが、その直後にやって来た相澤先生に即ベシャってされる。

 

「物見ここ直しとけ!」

「サー!イエッサー!」

 

 ヴィランが施設を壊すのは勝手だ。だがその壊した跡は誰が直すと思う?万j……私だ。

 

「B組では馴染みないが改めて見ると凄まじい」

「どうも」

 

 B組の担任からお褒めの言葉を頂いた。てか初めて見る人からは大体お褒めの言葉を貰っている気がする。

 

 

………………………

 

 そんなこんなでヴィラン襲撃が終わり爆豪が拉致られ、昏睡状態の生徒も多数。緑谷は腕が重症、八百万は頭を怪我して意識朦朧。他怪我人多数。プロヒーローも大打撃を受けた。

 そしてこのヴィラン連合襲撃に伴い林間合宿は中止。無傷な者は一時自宅待機となっていたが私だけは話が違うらしい。

 相澤先生が根津校長と共に話し合った結果を告げられる。

 

「物見、お前の家は親御さんがほぼ居ない状況だと聞いている」

「そうですね」

「そしてお前の家のセキュリティは無いに等しい。いつ襲われても可笑しくない。だが今の学校に置いておく訳にもいかない」

「……つまり?」

「お前だけ自宅ではなくプロヒーローの事務所へ行って一時保護をお願いして貰う」

 

 ふむふむ。

 

「その保護して貰うヒーロー事務所というのは?」

「幾つか問い合わせして受け入れOKなのが3ヶ所だった」

 

 その3つのリストを見せてもらう。

 

「エンデヴァーさんとベストジーニストさん、それとMt.レディですか」

「規模が大きくサイドキックの数も多い2名かお前も馴染みのある1名か。どれかを選べ」

「…………………」

 

 安心感で言えばトップヒーロー2名なんだろうが……

 

「Mt.レディさんの事務所でお願いします」

「……わかった、こちらから連絡しておく。車は回しておくからクラスの連中に伝えたい事があるなら今の内に言っておけ」

 

 伝えたい事か……あるとしたら八百万だろうか。でも今意識不明だしな。手紙1つ書いて置いとくか。他の連中は何かあったっけ。

 

「私の励ましなんて意味無いしなぁ……蛙吹に一言くらいか?」

「なら行って来い。終わったらミッドナイトに声を掛けろ」

「相澤先生は?」

「大人は大人で色々あんだ」

 

 イラついた顔で言う相澤先生。記者会見的なあれか?頑張って下さい。

 話を切り上げて私は蛙吹の下へ向かう。

 

「蛙吹居るか?」

「居るわ。入って大丈夫よ」

「お邪魔しまーす」

 

 私も病院に居たから手土産なんぞ無いが遠慮なく入る。大分暗い表情の蛙吹がそこに居た。

 

「皆が心配か?」

「ええ。物見ちゃんは余り心配してる様子じゃないわね」

「薄情に見えるか?」

 

 首を横に振る蛙吹。

 

「この状況で冷静に居るのは大変な事だと思うわ。でも1人が冷静だと安心する。物見ちゃんは強いわね」

「他人に心配掛けさせるのは苦手だからな」

「ケロケロ物見ちゃんらしいわ。それで何か用事があったのかしら」

「ん?ああ、そうだった。私は暫くこっちに来れないからな。だから蛙吹から皆に伝えておいてくれ」

「伝言って事でいいのかしら?」

「ま、そうだな。それで言いたい事ってのは「誰かに心配掛けさせるな」それだけ」

「……物見ちゃんらしいわ」

 

 嬉しそうにケロケロと笑う蛙吹。可愛い。よしよしと頭を撫でる。

 

「じゃ私は八百万の所に置手紙して来る」

「ええ、わかったわ。それと」

「ん?」

「梅雨ちゃんと呼んで」

「すまん忘れてた。また学校でな梅雨ちゃん」

「そうね。「また」学校で」

 

 その後、私は八百万の所に寄り手紙を置いてミッドナイトに声を掛けてMt.レディの事務所へ向かうのであった。




 こっちの方が主人公っぽいかなと。誰かを怒る訳でも誰かを咎める訳でも無い。

 誰かに心配掛けさせるな。遠回しな「自分も心配している」というアピール。これに初見で気付くのは蛙吹と八百万だけかな?


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保護らねば

 車に乗せられて到着するMt.レディの事務所。私が来た事が嬉しいのか事務員一同でお出迎えであった。あいされてますな。

 職場体験の寝泊まりで使わせて貰った部屋に荷物を置き、事務室へ。道すがらの事務員さん達からめっちゃ声を掛けられた。

 

「ふぁ~いらっしゃーい。いや~待ってたよ~ねえねえ何飲む?」

「あ、いえ来たばかりですので今はまだいらないですよ。Mt.レディさんこの方は?」

「あ、彼女は新しく雇った事務員さんよ」

 

 それはそれはどうもご丁寧に。ゆったりとした声に癒される。なお個性は「アルパカ」らしい。

 

「話は聞いてるわ。大変そうじゃない今年の雄英は」

「本当ですよ」

 

 これも全部ヴィラン連合って奴の仕業なんだ!

 

「そう言えば、保護とは聞いてますが具体的に何をするんでしょうか?」

「特に何も決まってないわ。貴女がしたい事をして頂戴」

 

 したい事……したい事……装備は今回は預けてあるからなぁ。完全に非戦闘態勢である。軍服も無い。

 

「近接戦闘の練習でしょうか……林間合宿が中途半端に終わったので」

「暇が……というより物見さんが居る間は暇しか無いから、良ければ相手するわよ?」

「ありがとうございます」

 

 にしても私が居る間は暇とは?話を聞くと、保護がてら事務所で共に過ごすから緊急時以外は外に出ないらしい。

 

「わざわざすいません」

「いいのいいの貴女の安全が最優先よ。将来私の事務所発展の為の先行投資だと思ってるから」

 

 笑いながら言うが顔はそれ以上の責任感を背負っている。本音は別と思っていいだろう。爆豪拉致の件もあるからか生徒を保護するという重圧は大きい。

 私なんかの為にそんなプレッシャーが……

 

「今「私なんか」とか思っているでしょ?」

「顔に出てましたか」

「少しね。物見さんが持っている物は貴女が思っている以上に重いのよ?」

 

 せやろか?と思っていると今の制服から着替えてと言われて手渡される1つの衣類。

 

「あのーこれ着る必要は……」

「ほら貴女の服汚したら申し訳ないじゃない?」

「てかまだ取ってたんですか」

「クリーニング済みよ!あと2着あるからガンガン着替えちゃって」

 

 そう忌まわしきメイド服である。

 

「これ着たくないんですけど……」

「あら残念。じゃあ他の服は持って来てるかしら」

「一応……でも折角クリーニング出したんですよね……」

「嫌なら構わないわ。ミッドナイト先輩にも無理矢理は駄目って少し注意されちゃったし」

 

 怒られたと言われると心苦しい物がある。

 

「まあ戦闘訓練以外の時に……って事で」

「物見さんは甘いわねー」

 

 他の事務員さん達を見ると期待の眼差しを向けられる。私のメイド服ってそんなに評価高かったのか。

 

「保須の時はごめんなさいね。まさかあんな大事になるとは思って無くて」

「あーあれは仕方ないですよ。私もあそこまでになるとは思わなかったですし。でもお陰でヒーロー科へ入れました」

「あ、そうそうそれもお祝いしたかったのよ」

 

 他の事務員さん達も「俺も祝いたいぞー」と幾つも声が上がる。ありがとうございます。

 

「一応ケーキ位は買ってあるから後で食べましょ」

「ありがとうございます」

 

 歓迎ムードが凄まじい。訓練後の楽しみが増えたしやる気が更に沸く。

 

………………………

 

 虎さんに言われた事を思い出しながらもMt.レディに相手をして貰う。

 細かく速く!腰を入れて!

 

「……驚いたわ。前とは比べ物にならないじゃない」

「でもまだまだですね。結局有効打一回も入ってませんし」

「成りたてでも一応プロだしね。これで負けてたら私が凹む」

「すいません。そういう意味じゃ……」

「分かってるわよ。貴女はそんな嫌味を言うタイプじゃないって。でも本当に動きが見違えてる」

 

 今なら峰田にも勝てると言われた。今度リベンジしてやんよ。

 

「所々何か構えながら距離を取ろうとしているけどアレは?」

「アレはですね……」

 

 今の私の戦闘スタイルを伝えてみると納得していた。

 

「大変だろうけど頑張って」

「はい」

 

 基礎トレと休憩も挟みながら訓練を続けた。

 

…………

 

 シャワーで汗を流した後にメイド服に袖を通す前にMt.レディから「下着オシャレになったじゃない」と褒められた。遠回しに見えて直球で前の物がダサいと言われている事に私は気付いているぞ。

 

「ケーキ……久々に食べますね」

「え?そうなの?もしかして甘い物苦手?」

「いえ、そうではなくてですね。ただケーキを食べる機会が無いんですよね。前食べたのが何時だったか……」

 

 学食にも一応その手のデザートがあるにはあるのだが、食後に食べる気分にはならないんだよなぁ。私の頭が勝手にリミッターをかけるのだ。

 

「じゃあ久々のケーキ楽しみましょう」

「はい」

 

 その後滅茶苦茶……それなりにケーキを食べた。

 

…………………

 

 

 そして夜。事務所から名前が決められた「モノミンボード」なる物が復活していた。

 

「今回はひーふーみー……5人ですか」

「お願いできるかしら?」

「勿論です」

 

 お世話になるのだからこれくらいしなくちゃな。食材も自由にと前と同じ状況であった。明日の分も書いてあるな。

 

「さー作りますかー!」

 

 私の事務所生活は始まったばかりだ。ちなみにMt.レディも事務所に泊まりだそうだ。一緒の部屋に。

 

………………………

 

「そういえば学生は夏休みだし学校からの宿題もあるのね」

「そうですよ」

 

 夜、絶賛宿題中である。

 

「物見さんスラスラと解いて行くけどクラスで何位なの?」

「期末ですか?飯田とタイの2位ですね」

「頭と言い、個性と言い、スタイルと言いホント勝ち組ねー。他の男子からしたら高嶺の花じゃないかしら?」

「どうでしょうかね。割と皆話しかけてきますよ?」

「コミュ力も良しと来たかーおまけに女子力も高い。物見さんを嫁に貰った男性はさぞ鼻が高いでしょうね。誰か良い子居ないの?」

「1人に告って返事待ちです」

 

 既に告っている事に驚かれる。

 

「貴女に告られて返事待ちって……普通即OKじゃない?」

「色々事情がありまして。私の環境が複雑なんですよ」

「その割には悩んでいなさそうだけど?」

「悩んでも結果は変わりませんから」

 

 私に余程の事がなければ返事は決まっているからなぁ。少なくとも私はそう確信していたりする。

 そういや最近ご無沙汰だな。一応メールでやり取りはしているが。てか色んな意味でご無沙汰な性で割とヤバイ。何がとは言わないが。

 

「一人でやってもなぁ……」

「……聞かなかった事にしてあげる」

 

 つい口に出てしまった様だ。

 

「………………」

「急に黙って顔赤くしない!」

「さー宿題宿題」

「切り替え方が下手くそね!」

 

 わかってるんじゃい!でも無理!もうお顔トランザムじゃい!

 

「青春してるわねー。あ、30分位部屋出てあげましょうか?」

「出なくて良いですよ。大丈夫ですから」

 

 聞かなかった事にする割にここぞとばかりに弄って来る。おのれ岳山さんめ!でもこっちから弄る事は出来ない。この人をそっち方面で弄ったら闇が凄そうだから!




 ヒロアカ世界だとリアルけものフレンズ出来そう。どちらかと言えば逢魔ヶ刻動物園の方が近いけど。
 なんで装備取り上げ?と思った人。外では私有地でも無いのに無免許銃装備は流石にダメでした。

 戦闘描写?なにそれおいしいの?


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メイドヒーロー出張訪問in神野

 R18を書きたい欲がふつふつと沸く今日この頃


 さて私が来てから5日間。近接戦闘の訓練を!と思っていたら内4日間が生理で終わった。道理で来てから少しアレだったわけである。

 当然生理だから無理に動かさせる訳にもいかないと判断されてのんびりしていた。

 

「へー生理中って物見さんの個性の体力消費って洒落にならないのね」

「体的に「体調が悪い」って扱いらしくて」

 

 体のリミッターなのか個性での体力消費が通常の10倍近くに感じるのである。翌日に疲れはそこまで出ないが個性の限界値にあっさり達成する。

 これ多分妊娠中なんかも似たような事になりそうだ……赤子を産むことを体が優先するんだろうなぁ。

 

「まぁあんまり意識しないでいいですよ。もう終わりましたし」

「あっさりしてるわねー」

 

 いちいち生理に反応する時期は当に過ぎたのだ。腹が痛い事とナプキンの交換が面倒に感じるだけだ。

 

「あ、そういえば物見さん。少し遠出する事になりそうだわ」

「遠出ですか?」

 

 何でも重要な依頼が入ってMt.レディさんが事務所を離れる事になるそうだ。

 

「そんで依頼の場所に多くのヒーローが集まるから、物見さんも連れて行っていいか聞いている所」

「私もですか」

「この事務所って戦力となるヒーローって私だけなのよね。それにトップヒーローに囲まれた方が、貴女も安全でしょって話を依頼者にしているのよ」

「トップヒーローに囲まれるって……何が始まるんです?」

「第三次大戦よ」

 

 

………………………

 

 

 

 許可は通り神奈川県の神野区へ向かう事になった……メイド服で。なんでさ!

 Mt.レディも呼ばれるという事は周りの被害がバカにならない訳で。万が一の時はコラテラルダメージを抑えて欲しいと言われた。

 

「いやー後ろに物見さんが居るってだけで安心感が違うわ!」

 

 そういう物らしい。あ、今から依頼者と?他のヒーローさんはもう来ているらしい。私の同行許可に少しだけ時間が掛かったらしい。

 

「さて、どんな人達が来ているのか……」

 

 その集合場所とされている部屋にMt.レディと共に入るとそこには、錚々たる面々がいらっしゃった。

 

「今日からよろしくお願いします」

「私もよろしくお願いします」

「ああ、そんな畏まらなくていい。今は仕事仲間だからねHAHAHA。物見女子もいつもの様な感じでいい」

 

 オールマイトとかエンデヴァーさんとかベストジーニストとか。本当にプロヒーローが集結していた。 

 

「保須市の小娘か。せいぜい足を引っ張らんように」

 

 エンデヴァーの保護の件を蹴ったのがダメだったのかメッチャ睨んでくる。と思ったらオールマイト曰く違うらしい。

 

「初めましてだな物見直。知っていると思うがベストジーニストだ。今日はよろしく頼む」

「こちらこそよろしくお願いします。ベストジーニストさん」

 

 ベストジーニストと握手を交わした後に他の来ていたヒーロー達とも握手を交わす。皆さん「よろしく頼む」って言って来るんですけど……つまり「壊すけどよろしくね☆」って事ですね。わかります。

 私あれだぞ?ヒーローの仮免許すら持ってないんだぞ?大丈夫?

 

「警察も君の護衛にも尽力するよ。さて、全員集まったし作戦会議を始めようか」

 

 何でもヴィラン連合アジトにゲリラして一網打尽、爆豪の救出もするとの事。あと八百万の作った発信機で脳無の眠る場所も同時に潰すらしい。

 私は遠くで待機との事。ですよね。

 

………………

 

 

 備え付けてあるテレビで雄英高校の記者会見を眺めながらもボーッとしている。そろそろゲリラ開始かな?

 

「相澤先生がめっちゃ怒ってるな」

 

 頑張れ相澤先生。そしてまた教師として頑張って下さい。貴方じゃないとA組は纏まりません。

 

 

………………………

 

 

 僕たちはかっちゃんを助け出す為に、八百万さんに無理を言って発信機を創って貰い神野区へ来ていた。

 

「蛙吹さん怒るかな……」

 

 僕たちが行くのを止めようとした人は多い。その中でも蛙吹さんは僕たちが行こうとするのを厳しい言葉で咎めた。

 

「物見さんにも心配掛けさせるなって言われたのに……ごめん」

「物見さん……本当にごめんなさい」

 

 A組で物見さんと一番仲の良い八百万さんが、今の状況により一層心を痛めている。何でも物見さんから置手紙があったらしく「バカ共の面倒見てくれ」と一言書いてあるだけだったと言う。

 この状況になるのが分かっていたのか、ただ単に「物壊さない様に見張っとけ」的な意味だったのかは分からない。

 

「皆に心配掛けさせるんだ。絶対に助け出そう」

「ええ。皆さんで無事に帰って安心させましょう」

「おう!ここで引いちゃ漢じゃねぇ!」

「だな。蛙吹にも物見にも後で怒られればいい」

「轟くんは怒られる事前提なのか……いや!怒られない様に俺が止めよう」

「飯田さんでもA組良心の2人には分が悪いと思いますわ」

「うぐっ!」

 

 発信機の場所に向かいながらも僕たちは会話を重ねる。

 

………………………

 

 辿り着いた廃工場見たいな場所。切島くんの暗視鏡で中を覗くとその場所にはいくつもの脳無が作られていた。どうしようかと話し合っていると大勢の足跡。それに頭上を眺めると物見さんを引き取り保護していると聞いたMt.レディが居た。

 

「Mt.レディが!?なんで!?」

「物見くんを保護している筈では!?」

「事務所に居るのかここに来ているのか」

 

 そして聞こえて来る他のヒーロー達の会話。何でもヴィラン連合のアジトを見つけ出して奇襲を仕掛けているらしい。オールマイトも居るらしく他にも多くのヒーローが動いている様だ。

 

「オールマイトも居るならなおさら安心だ。さあこの場を離れよう」

 

 飯田くんがそう提案した後に……事態は動いた。




 A組良心ペア「蛙吹&物見」トリオだと八百万も加わります。

 あ、オールマイトvsAFO戦はキンクリです。


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再建の旗

 主人公の本気その2


 あ……ありのまま今起こった事を話すぜ。

 雄英の記者会見を見ていたと思っていたら番組が切り替わり「神野区が崩壊」していたッ……!

 何を言ってるのか分からねーと思うが私も何が起こったのか分からねー。

 超能力だとか強個性だとかそんなチャチなもんじゃ断じてねぇ。

 もっと恐ろしい物の鱗片を味わったぜ。

 

「がんばえーおーりゅまいとー」

 

 禍々しいヴィランに立ち向かう平和の象徴。なにか痩せこけてるけど気のせいだよね!

 

………………………

 

 あ、オールマイトが勝った。でも燃え尽きてる。

 

「え?私があそこに?まあ別にいいですけど」

 

 オールマイトが頑張ってくれたのだ。次は私達が頑張る番だろう。

 パトカーに乗り込み被害地へ向かうのであった。

 

 

………………………

 

 

 警察の手によってヴィラン連合の親玉AFOがメイデンと呼ばれる収容籠に押し込まれるが、その後ろではヒーロー達がせっせと救助活動を行うが被害が大きすぎて手をこまねいていた。

 

「次は君だ」

 

 オールマイトが短く発する短いメッセージ。次を託そうとする……勇気を与えるその言葉は市民を、国民を沸き立てた。

 

 この映像を見ている者は今頃オールマイトコールの大合唱だろう。だが現場としては「次より今」であるのは間違いない。

 メイデンを収容したパトカーと入れ替わりで現場に入って来る1台の別のパトカー。そこから降りて来る人物は一部の人にとっては馴染み深い者であり、またこの場においては最高の個性を持つ者であった。

 

「オールマイトお疲れ様です。次は任せて下さい」

 

 メイド服というぱっと見コスプレ見たいな恰好であるが、その目は本物であった。

 救出を行っていたヒーロ-でオールマイトに次ぐ順位に君臨する炎帝がやって来た少女の下へ向かう。

 

「遅いぞ何をしていた」

「安全の確保のためとはいえ3駅分は流石に遠かったです」

 

 変わらない態度の少女であるが現場に居る者達が向けるのは期待の目。エンデヴァーもそれは変わらない。

 

「私が『居ます』から安心してください」

「ふん。まあ良い」

 

 「少女が居る」それだけで大きな意味がある。個性を知る者は否応なしにそう思うのだ。

 

「でもこのままじゃ私は無許可での個性使用になってしまいます。だから……」

「言われずとも分かっている」

 

 テレビカメラが回される中、エンデヴァーがこの場に居る者全ての意志を少女に託す。

 

「物見直……いや2R!No2ヒーロー『エンデヴァー』とこの場に居る全てのヒーローの名に於いて個性の使用を許可する!」

 

 この場のヒーロー全て。その重さを少女に委ねるしかない現状に歯噛みしながらも次の言葉を告げる。

 

「ヒーローの矜持を取り戻せ!」

 

 了解。と短い返事と共にその少女は託された意志に従いその力を振るう。その姿はその場にいる誰よりも「ヒーロー」として輝いていた。

 

 少女が視界に収める。ただそれだけで瓦礫の山が直っていく。道路が補整される。何もかもが巻き戻る。瓦礫をどかすしか無いヒーロー達にとってその光景はまさに希望であった。

 

 少女が来るまでとは比べ物にならない救出効率。また街の外見の復興は不安立っていた市民に何よりも安心を与えていた。

 

 道路が直された事により、多くのレスキュー車やヘリが入る事が出来る様になり重傷者の早期治療・保護も迅速に行われていく。

 

 1人の少女が「居る」。それだけでここまで変わる物であった。

 

………………………

 

 さて指示があった場所は一通り直して回ったのだが、私に対して向けられるもう1つの期待であり絶望の眼差し。

 

「この人……ですか」

 

 私の場に居るのは先の崩壊に巻き込まれて人物の特定がとてもじゃないが出来ない「物言わぬ骸」であった。

 

「本当に良いんですか?」

「ああ。遺族達も綺麗な姿が見たいだろう」

 

 持って来たヒーローも、許可を出してしまった警察も目を伏せながら顔を合わせようとしない。

 こみ上げて来る吐き気を抑えながらも私はその「死体」に個性を使っていく。綺麗に元に戻っていく外見。だが動くことは無い。

 私の個性は蘇生でも治癒でも無い。「物を直す」ただそれだけだ。

 

「終わりました」

 

 今にも動き出しそうな綺麗な体。だが綺麗になったという事は私の個性では「人」ではなく「物」として扱う……扱ってしまう。

 その事実が辛く感じる。だが、間違った感情ではないだろう。恐らくこの辛いという感情は、無くしてしまったらいけない物だ。

 

「じゃあ次の人を」

 

 私は私に出来る事をしよう。

 

………………………………………

 

 カメラ越しのテレビに映る映像は「次世代」の進出を予見させるには十分であった。オールマイトの託した平和への礎はこうして継がれているのだと。

 またこの「次世代」の象徴である少女に誰が呼んだか、とある2つ名が付けられる。

 

 『再建の旗』

 

 未だに仮のヒーロー資格すら持たない15歳の少女には重すぎる称号。だがこれ以上無い程に少女を象徴する名であった。




 サブタイ「旗」にするか「旗印」にするか迷った。

 主人公の場合は「私が来た」よりも「私が居る」である辺りにオールマイトとの違いが出ます。


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好きに使えと言われても大体好きに使えないよね

 借金抱える両親相手だと、どうしても暗い話になってしまいますね。


 多くのプロヒーローが大打撃を受けた事件「神野の悪夢」。No.1ヒーローであるオールマイトが引退を発表し、世間を大いに騒がせる。

 オールマイトの引退により不安が大きくなる中で警察達もこのままではいけないと会議が行われる。

 

「1人にもたれ掛かって来たツケか……」

 

 「絶対に倒れない平和の象徴」の損失。その状況を引き起こしたヴィラン連合を恐れながらも新たな希望の台頭にも話が移る。

 

「再建の旗……か」

「あの雄英の生徒の1人だったか。今ではオールマイトと彼女とエンデヴァーの話で持ち切りだ」

「未だプロの資格の無い少女に……いやプロでさえも重すぎる名だろう」

 

 神野の悪夢が起きた朝に現れた少女。彼女が居たお陰で国民は「次がある」と辛うじて思えているのだ。それ程までに彼女の登場は神秘的であった。

 

「旗とはよく言った物だ」

「ええ……決して寄りかかる事も出来ないし、下地が悪ければ倒れる。だが居るだけで影響を与える」

 

 そう旗を立てるには立派な下地が必要である。闇雲に立ててもすぐに倒れてしまう。少女の儚さを表すには適当であろう。

 

「オールマイトが居れば安心出来た物を……!」

「言ってもどうにもならん。現実を見ろ」

 

 そしてその下地にあの「オールマイト」が居てくれれば……そう思ってしまうのも仕方がない。彼の影響力はそれだけ大きかったのだ。

 

「ヴィラン受け取り係と揶揄される警察にも改革が必要だが。差し当たっては彼女のヒーロー免許をどうするか」

 

 ここまで大きく発表されているのだ。普通なら特例で免許を与えて活動を促すだろう。

 

「未だ学生の身分である彼女だ。無理に免許を押し付けて活動を強制し高校中退なんてなってしまったら目も当てられん」

「だが今動かさんと彼女の影響力は小さくなる」

 

 時間が余り無いのも事実である。マスコミが取り上げている今こそ彼女をより宣伝するチャンスであり、影響力を確実な物に出来る。それだけの力を彼女は持っている。

 

 改革についてと同時に彼女の扱いについてあーだこーだと話し合っていくのだった。

 

 

………………………………………

 

 

 警察に事件についてのアレコレを聞かれながらも爆豪共々謎の保護をなされた私は1つのニュースに目を向ける。

 

「メイド服が売れてるって……マジか」

 

 何でも私の着ていたメイド服が印象に残ってしまい、親にあれ着たい!と言う少女が全国に続出してしまったらしい。

 おかげでメイド服の需要が高まっているらしい。既に裏では私のフィギアとかも作られている……らしい。肖像権も何もあったモンじゃねぇな!

 

「これも全部Mt.レディって奴の仕業なんだ」

 

 何だって!?それは本当かい?

 

「そういや今回の働きについて報酬が出るからと口座作って今日振り込まれるってあったな」

 

 はてさて10万円は貰えるだろうか。貰えたら生活が楽になるが。

 

「通帳に書き込み……いざ!どれど……」

 

 0の山を見て絶句し通帳をそっと閉じる。そして目も閉じて一度揉み解す。多分見間違いだろう。そう思いもう1回通帳を開く。

 

「………………………どんだけー」

 

 私の目に再度映るのは0の束。慎重に数えていき……

 

「oh……」

 

 2億って……アホですか?こんな小娘に大金持たせるなんてアホですね(確信)。おかしい……きっと誰かが間違えて振り込んだに決まっている。

 

「えーと振り込むにあたっての統括は……エンデヴァーさんだったけ」

 

 今回の報酬は正式なヒーローではない私に対して何も無しじゃ駄目だろうという事で、エンデヴァーが主体で神野に居たヒーローやその事務所、他有志を募って集めたお金だという。

 というわけで貰った連絡先へ凸る。あ、すぐ出た。

 

「エンデヴァーさんお疲れ様です。今大丈夫ですか?」

『大丈夫だが何かあったか?』

「あー……その今日振り込まれたのを確認したんですが、2億って……本当に合ってます?何かの間違いじゃ?」

『間違いは無いが?』

「あっ……そうですか」

 

 合っているらしい。

 

『それだけか?』

「何でこんなに高いのか、理由を聞いてもいいですか?」

『理由?そんなもの、貴様がそれだけの働きをしたからに決まっているだろう』

「それだけですか?」

『それだけだ』

 

 それだけの様だ。えぇーホントにござるかぁ?

 

「わかりました。深くは聞きません。お忙しい所ありがとうございます」

『フン。切るぞ』

「はい。それでは」

 

 エンデヴァーが電話を切る。その後に私にとって一番親しいヒーローであるMt.レディに電話をして心当たりが無いか聞いてみた。

 心当たりはあった様で尋ねてみると、国民を安心させた行動に「ヒーローとしての感謝の気持ち」を感じたヒーローや事務所が多く、結果1000にも登る有志が集まり、この額になったらしい。

 

『ま、貴女のお金だし好きに使いなさい』

 

 最後にそう言われてしまった。

 

「好きに使え……ねぇ」

 

 私はある人達に電話を掛けていく。

 

 

………………

 

 

 

 私の保護されている警察署に私の両親がやって来る。不安と安心が入り混じっている両親の顔。そして私の顔を見ると母が泣き出してしまった。

 

「話があるんだけど」

 

 泣き出している母を撫でている父に話かける。私が聞くのは今の両親の借金について。幾ら残っているのか尋ねる。

 聞いちゃダメだと言って来る父だが「私の将来にも関係あんだ」の一言に苦い顔をする。

 しばらくお互い無言が続き、父が勘弁したのか渋々と小さい声で残りの残額を言う。

 

「1憶6000万……か」

 

 ならば丁度良い。私の金だと、好きに使って良いと言われたのだ。ならば好きに使わせて貰おう。私は通帳を差し出して父に開かせる。

 

「利子や利息は分からんが、それでさっさと返して来てくれ」

 

 驚愕した顔であると同時に受け取れないという両親。ここまで迷惑かけて娘にこれ以上はと言った感じである。

 両親の気持ちも分かる……だが。

 

「いいからさっさと返して来てくれよ!」

 

 私の気持ちも分かれよバカ親。

 

「借金抱えたまま私を産んで後ろめたさがあるのも知ってんだよ。私に苦労させた事を後悔してんのも知ってんだよ」

 

 顔を伏せる両親。

 

「でもそれ以上に苦労してんのは父さん達だろう。毎日毎日遅くまで働いてさ。ほぼ家に居なくてさ……それでも私の前で無理矢理笑顔作ってさ」

 

 疲れてんのに私の前では笑おうとする両親の痛ましさ。

 

「私はこれ以上父さん達の暗い姿見たくないんだよ」

 

 また泣き出す母。父も泣く寸前である。

 

「だから娘の親孝行くらい素直に受け取れバカ両親」

 

 父の手に通帳を持たせて押し付ける。すると父も泣き出して両親が私を抱きしめてごめんなさいと謝ってくる。私はそれを泣き止むまで笑って抱きしめ返す。

 

………………

 

 落ち着いた両親に雄英の全寮制についての話をすると「親として止めたいけど、好きにしなさい」と言われた。さいですか。

 帰り際に寮制になったからと言って彼氏の部屋に夜這いしちゃダメよと言われた。……何故私がする側なのか小一時間話を聞こうか?




 はい。てな訳で借金返済です。貧乏キャラからの脱出です。まあ主人公がプロになれば1年で余裕で返せるレベルでしょう。
 次回はデク達から見た神野の悪夢でもしますかねー。


 両親の個性についての設定。
 父が「目に見た物を動かす」個性
 母が「物をくっつける」個性
 これが超融合した結果「目に見た物を直す」という個性に。復元は何故か追加された。不思議だね!


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それまでの物見、僕の神野

 デクから見た主人公と神野のあれこれ。総集編とも言う。


 僕から見た物見さんという女子は……初めは不思議な子だった。

 いきなりオールマイトに担がれて現れた女子。普通科だというのに連れて来られたという謎の生徒で、話し方も少し男性っぽい感じであった。

 

 初めてのヒーロー基礎学の授業で僕は制御が出来ていないOFAでビルを大きく崩壊させた。そこで物見さんの力を目の当たりにする。

 ビル1つを軽々と直して行く彼女の力を「こんな個性もあるのか」と漠然と受け止めていた。他のクラスメイトも「すごい」とか「便利そう」とかそんな感想を呟いていた。八百万さん以外は。

 そして総評の際に言われる「ヴィランを倒すだけがヒーローじゃない」という言葉の意味を後になって理解させられる。

 

 その後は度々学食で会って相席し少し会話するだけ。A組とはそんな関係であった。USJの破壊跡も一部は彼女が直したと聞かされた。

 

 次に彼女を知るのは雄英体育祭。その第一種目と最終種目であった。

 

 第一種目である障害物競争。轟君の個性で凍らされた仮想ヴィランを瞬時に直して通る生徒が巻き込まれるのを防ぐ。

 その後のステージで安定した道を作り皆を安全に渡らせていく。これのおかげで仮想ヴィランの装甲を持っている僕でもタイムを落さずに済む。

 

 そして彼女の見せ場でもあった最終種目。

 第一試合である心操君との試合。洗脳という凶悪な個性を奇跡的に脱して彼の想いを聞きながらも試合を制する。

 そして彼の洗脳という個性を見てなお「ヒーローになれる」と言い切って貰えた彼の心を少し理解出来てしまう。

 

 第二試合で僕と轟君が派手に壊して復旧の目途が立っていなかった会場を瞬時に直したのも彼女だと聞かされた。こうして思い返すと壊してばっかりだな僕。

 

 そしてオールマイトの言っていた事を理解する保須の事件。

 オールマイトに選ばれたとして見逃されて、そして助けられた「ヒーロー殺し事件」。その間に行われたヴィラン連合による脳無襲撃事件。

 グラントリノやエンデヴァー他、多くのヒーローにより対処が行われたが、街の被害が甚大であった中、物見さんが個性を「許可を得た」上で振るったという。

 一部であるが脳無の被害跡を実際に目に焼き付けた僕は物見さんの個性の「強さ」を、その成果の大きさをニュースで知る事になった。

 

 その後に保須での署名を受けて試験に合格しヒーロー科に編入した。

 

 かっちゃんが攫われてしまう林間合宿でのヴィラン連合襲撃。腕を酷使し爆弾を抱えた状態で切島君に発破を掛けられて、皆に止められながらも無理に向かった神野区。

 オールマイト含めトップヒーローが集結して行われた脳無工場とアジトの制圧。だがその際に敵の親玉でオールマイトと因縁があるAFOが現れる。

 どうにかかっちゃんを連れてヴィラン連合から距離を取り安全圏まで脱出。その後はボロボロのオールマイトがAFOを倒し、事件は収束……という訳では無かった。

 

『次は君だ』

 

 僕に対して短く発されたメッセージ。出し切ったと、希望は託したと。だが今の僕には背負いきれない期待と希望。オールマイトの……平和の象徴の役割の大きさと重さ。

 オールマイトの終わりを知ってしまい涙が止まらない中、周りのオールマイトコールが響く中で、状況が変わる。

 救助活動をしていたヒーロー達がパトカーから降りた人物に目を向ける。

 

「おい……あれ物見じゃねーか。やっぱこっちに来てたのかよ」

 

 切島君が呟く中でエンデヴァーがやって来る。毅然とした態度である物見さん。だが個性を知る僕たちはこの後の彼女がどう動くのか知っている。

 

『No.2ヒーロー『エンデヴァー』とこの場に居る全てのヒーローの名に於いて個性の使用を許可する!』

 

 全てのヒーローからの個性の使用許可。そして

 

『ヒーローとしての矜持を取り戻せ!』

 

 その希望を期待を……何もかもを託される。借り物ではない「自分の力」を持って……今の状況を塗り替える。全てのヒーローの信頼を繋ぐ。

 物見さんがヴィランを倒した訳ではない。だがそれでも現在の彼女は間違いなく「ヒーロー」を体現していた。

 

「何だよ……クッソかっけーじゃねぇか」

「クソ……が!」

「物見くん……それが君の……!」

 

 各々が反応を示す。僕はと言えば彼女の作り出す光景に……在り方に涙を流すしかなかった。

 オールマイトは恐らく長期休業……いや引退を発表するだろう。そんな中で「次は君だ」と言ったのだ。そして現れたのは物見さん。

 引退が発表された後に「次」を期待されてしまうのは誰なのか……オールマイトの背負っていた期待を背負うのは誰なのか。映像を見れば一目瞭然であろう。

 本来は託された僕が背負うべき……だけど背負えない期待を物見さんが引き受けてしまう。

 涙を流している僕とは正反対に涼しい顔で使命を全うする物見さん。否が応でも差を見せられる。

 

「今は無理だけど……!いつか……僕が……!」

 

 彼女に託されている物を僕が代って持ってみせる。今は無理でも絶対に。




 緑谷達との一番の違いはきちんと許可を得た上で力を使っている事でしょうか。多分相澤先生的に皆に一番見習って欲しい部分。


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特例ばっかりでもはや特例になって無い事ってあるよね

 だがここに1人例外が存在する。


 私が保護されている警察署に国のお偉いさんが来て、私に超特例で仮免だが権限的にはヒーロー免許と同じ物を発行すると言う事を知らされる。

 何でも今のタイミングで発表しなければ私の名の効果が薄まって行くらしい。

 

 とはいえ無理にヒーロー活動をするという訳ではなく、学業を優先しながらも時たま校外活動したり、災害級の被害が出た時に動いて貰えればいいらしい。他と同じ様に歩合制でお給料も出すそうな。

 そして毎年2回あるヒーローの番付である「ビルボードチャート」への参加もすると言う。マジか。

 

 断れる雰囲気でも、断る気も無いので頷く。

 

 だが1つ聞こうか。なんで「メイドヒーロー」で登録しようとしているのか!普通に修復ヒーローでいいじゃないですかヤダー!

 

 そんな事がありながらも「修復ヒーロー 2R」として登録を済ませて行く。そして私のヒーロー活動参加はニュースで流れる事になった。

 「再建の旗」の名と共に。

 

 ……え?コスチューム?ハハッ

 

 

 ニュースを見たクラスメイト他、大勢からメールや電話が多数寄せられた。普通科連中からはおめでとうコール。A組からは大丈夫か?コールが多かった。

 

 

………………………

 

 

 場所は雄英高校の校長室。そこには根津校長、相澤先生、ブラド先生、そしてオールマイトが居た。

 

「その身を犠牲に多くを救ってくれた、国民ヒーローそして校長として、感謝してもしきれやしない」

 

 根津が感謝の言葉を述べる。だが国民の批判意見が出ている事も明かしていく。

 

「皆不安なのさ」

 

 落ち込むオールマイト。だが根津は強い意志の下で言葉を紡ぐ。

 

「だからこそ、今度は我々で紡ぎ強くしていかなきゃならない」

 

 彼女の名を出すかどうか、少し迷いながらも言う。

 

「君と物見くんが繋ぎ止めてくれた、ヒーローへの信頼をね」

 

 そう、今回の一件はオールマイトの引退と多くのヒーローの犠牲だけで終わってしまっていたら、今よりもずっと不安が残っていたであろう。

 だが次を示した彼女が居たからこそ、ずっと早くに再起の兆しが見えたのだ。

 

「あの一件で気付かされました。あなた一人に背負わせてしまっていた事。背負わせていた物の大きさ」

 

 そして1人の少女に背負わせる事になった事実と不甲斐無さを。先生として大人として、プロとして後悔は幾らでもある。

 だからこそ、これからについて、より強固に守り育てていかなければならない。

 

「よろしく頼むね家庭訪問」

 

 

………………………

 

 

「私は大丈夫ですよ。警察にも国にも学業優先してと言われましたし。親にも許可を得ました」

 

 今現在、借金を返済し今の所から引っ越しとなり、住所がイマイチ安定しない私の所に来たオールマイトと相澤先生。両親は不在である。

 私の好きにしろと言われているなら、通い続ける道を選ぶ。

 あっさりOKが出た事に驚いているお二方。そんなに意外だっただろうか?

 

「物見女史……本当に大丈夫なのかい?」

「それはどっちの意味での大丈夫ですか?平和の象徴さん」

 

 雄英に通い続ける事への大丈夫なのか……はたまた「次」としての覚悟への大丈夫なのか。

 

「物見、お前のそれは両親と話し合いでの結論なんだろうな」

「勿論ですよ。ただ両親から1つ学校側に条件があるみたいですが」

 

 条件はただ1つ。「3年間私を守り抜く事」それだけであった。

 

「ああ。それは保障しよう。学校の名に懸けて物見も守り抜くさ。とは言っても今の雄英じゃ説得力無いが」

「私は今よりも未来に期待します。守られる側として守る側を信頼しないと駄目でしょう」

「物見女史、君は本当に強いな」

 

 強いねぇ……

 

「未来の心配しても仕方ない……そう思っているだけです」

 

 未来なんざ誰も分からない。私はそう思っている。

 

「未来……か」

 

 オールマイトが何か呟く。心当たりがあるのかね。

 

「あ、そう言えばオールマイトに聞きたい事が」

「何だね?」

「オールマイトが本当に指差した「次」って誰の事だったんですか?」

 

 世間では何故か私だという事になっているオールマイトの「次」。あれはタイミングが良いのか悪いのか……度々警察の前に張り付いているマスコミを思い返す。

 

「……誰でも無いよ。未来あるヒーロー全員さ」

「……ま、そういう事にしときます。しっかり次を育てて下さいよ。その間は私が預かっときますから」

「苦労を掛けさせるね。そして本当に強い……そう思わされる」

 

 これで話は終わりかと思っていると今まで口を閉ざしていた相澤先生が口を開く。

 

「物見、辛くなったら絶対に言え。俺でもいいし校長でもいいし、ミッドナイトでも……Mt.レディでもいい。大人が守ってやる。だから無理だけはするな」

「……分かりました」

「それとだ。あの晩、緑谷達があの場に行く事は知っていたか?」

「?いえ全く」

「そうか」

 

 私も全員の動きなんぞ把握していない。だがやりそうな事は大体分かっていたが実行に移す馬鹿が居るのは予想外だった。

 

「これで終わりですか?ご足労お掛けしましたね」

「いやいや。こちらこそ顔を見れて良かったよ」

「オールマイトは色々大変でしたからね。今までお勤めご苦労様でした」

「ああ。ありがとう」

「相澤先生も、これからもよろしくお願いします」

「そうだな」

 

 寮移動の日時を教えて貰い署の入り口まで手を振り見送る。

 さて、寮へ持ち込む荷物を親に伝えなきゃな。




 止まらない所か光の速さで前に突き進む主人公に、心操君は果たして追いつけるのか……(震え声)

 もし主人公がOFAを継いでたら……背負う物が多すぎて過労死必須である。


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一足先に入る新しい施設ってドキドキするよね

 このサイトで寮編にまで行っている作品の少なさぇ……
 あ、初めはオールマイト視点です。短いです。


 私がAFOを監獄に送った後に残した短いメッセージ。

 それは本来ならば緑谷少年への言葉だ。彼へ渡すべきバトンだ。

 

 だが私の思惑とは裏腹にバトンは別の人物へと渡っていく。

 物見直。初めてのヒーロー基礎学で私が頼った人物で、何かと気が利く優秀な女子生徒である彼女。

 その彼女が私の意図と関係無しに「次」になってしまう。

 

 神秘的な光景だったのを薄っすらと覚えているよ。私には出来ないその光景は他のヒーローには、国民にはさぞ輝いて見えただろう。

 だが私は心の中では止めたかったさ。その光景は眩しすぎた。私の次だと惑わせてしまう程に強すぎる輝きだ。

 だが彼女は止まらない。止められるはずも無かった。

 

 

 ヒーロー科編入前の面談で1つ尋ねた事がある。

 

「君はどんなヒーローになりたいのか?」

 

 少し考えた後に彼女は真剣に答えたよ。

 

「私が目の届く範囲位は全て直せる。そんなヒーローですね」

 

 なるほど彼女らしいとこの時は思えた。だが今だと彼女の言う目の届くという範囲の広さを、全てと言った覚悟を。私は勘違いしていた事に気付く。

 今、目に映る絶望的な光景。その全てを直そうというのだ。私が……他のヒーロー達が守っても壊れた物を……期待も希望も何もかもを。

 

 国民に「次」だと思わせた彼女には申し訳なく思ってしまう。

 それは本来は彼女には背負う必要の無い物だ。まだ私が持っているべき物だ。そして継ぐべき者の物だ。身勝手ながらそう思っている。

 だが今回で引退した私と、後継者である今の緑谷少年の力では、持てない物であった。

 彼女もそれは分かっているのか「預かっときます」と言っていた。

 

 そんな預かってくれている彼女の質問である「本当の次」に対してだ。

 

「誰でも無いよ。未来あるヒーロー全員さ」

 

 何と無責任な答えだろうか。既に巻き込まれている彼女に答える義務があるだろう。だが簡単に答える訳にはいかないのだ。

 それを察してくれた彼女には本当に頭が上がらない。先代とは違ってあまり笑わないけれど、重ねてしまう。それ程に強い女性だ。

 

 その後に引き続き行われた家庭訪問。そこで出て来る私の名前。雄英の名前。そして彼女の名前。

 国民として、親として、私の活躍と物見直……現雄英生の活躍。これを見て「次がある」と少なからず思ってくれている。今回も彼女の行動は多くの人の心を動かしてくれる。

 緑谷少年も彼女の行動に影響を受けている。泣かずに笑いながら「心配させない」と言ってのける。私も期待に応えねばならない。

 絶対に立派なヒーローに育ててみせる。

 

 

 家庭訪問も終わり、次の日に皆で学校に集まり説得はどうだったか報告しあう。

 他のクラスでも予想外にすんなり説得出来たとの事。やはり私と物見女史の名前が多く出たらしく、彼らの様になれたらと期待を持ってくれたみたいである。

 男子生徒は私に、女子生徒は物見女史に心動かされたと、そう言っていた人が多かったと言う。

 

 

 

…………………………………………

………………………………………………

 

 

「おーここが新しい寮か」

 

 私は皆とは違い一足早くに寮に入る事になった。いつまでも警察にお世話になる訳にはいかないからね!……こう書くと私が犯罪犯したみたいだ。

 署から出て一時マスコミの対応に追われたけどそれも落ち着いた。ただ何故マスコミは私のメイド服について執拗に聞いてくるのか……コレガワカラナイ。

 

「荷物は部屋に置いてある。説明は前した通りだ。今日は荷解きに専念しろ」

「わかりました」

 

 あ、仮免は警察署で渡されました。特例マニュアルも一緒に。一応全部目を通したぞい。署では暇だし……出された宿題も大方終わったし。

 

「ここって朝食や夕食ってランチラッシュ先生の配達でしたよね?今日の分もあるんですか?」

「そこら辺は心配するな。今日も明日も配達してくれる」

 

 なら良かった。自分で作らないというのは私の中では中々無い体験である。学食のご飯おいしいから楽しみだ。

 

「さあ荷解きしますかね!」

 

 ちなみに私の部屋は5階の一番奥。八百万の横だ。さあ頑張りまっしょい!

 

…………………………………………

 

 

 次の日。根津校長に呼ばれて他の先生やヒーローの代表としてお褒めの言葉を貰った。土日の依頼時の外出許可も貰った。

 依頼外出時は1人先生を付けてくれる様だ。ローテーションで。申し訳ない。




 朝食や夕食の設定は雄英白書にありました。買っててよかった。
 にしてもランチラッシュ先生働きすぎじゃない?大丈夫?

 主人公の部屋に関しては次回。部屋王決定戦の時に。


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部屋王を決めなきゃ(使命感)

 主人公の部屋ぇ……
 何というか八百万ファンの皆様本当にごめんなさい。


 築3日になった日。皆が来た。全員集合である。私は相澤先生の横に居る。

 葉隠だけ親の説得に少し難航したみたいだ。

 夏休みの残り期間は仮免取得に動いて行くらしい。ちなみに試験自体は私も受ける。あんまり意味無いけどネ!

 

「5人はあの晩あの場に爆豪救出に赴いた」

 

 意識が無い2人と拉致られていた爆豪以外は、全員反応を示す。

 

「色々棚上げした上で言わせて貰うよ。オールマイトの引退が無けりゃ俺は爆豪・耳郎・葉隠・物見以外を全員除籍処分にしてる」

 

 皆顔を俯かせる。私はそんな皆の顔を何気なく眺める。あ、八百万と目が合う。そして目を逸らされた。他の皆も同様だ。

 

「彼の引退によってしばらくは混乱が続く……ヴィラン連合の出方が読めない以上、今雄英から人を追い出す訳にはいかないんだ」

 

 私の顔をチラリと見る相澤先生。何でしょうか?

 

「正規の手順を踏み、正規の活躍をして信頼を取り戻してくれるとありがたい」

 

 私のは正規と言っていいのだろうか……前に聞いたら学校側が許可を出し、プロや警察が責任を持つと言ったなら大丈夫だと言っていたが。

 

「以上!さっ!中に入るぞ元気にいこう」

 

 皆暗い顔をしたまま動かずに居た。仕方ないかと思ったら爆豪が動き上鳴を使った茶番を繰り広げていた。

 そして相澤先生が寮の説明を行い今日は全員荷解きとなった。私は女子達の手伝いだ。

 

「じゃあまずは八百万だな」

「お隣同士ですわね。今日からよろしくお願いします」

 

 八百万の謎の大量の荷物とやたらと馬鹿でかいベッドの設置を手伝っているが、どうもお互い無言である。

 

「八百万」

「ひゃい!」

 

 何か凄く驚かれた。リアクション大きすぎないか八百万よ。

 

「目が覚めて良かった」

「あ……はい。心配をお掛けしました。もう大丈夫ですわ」

「そうかい」

「……」

「……」

 

 再び無言。黙々と部屋の整理を前もってあった指示通り行っていると、無言を貫いていた八百万が口を開く。

 

 

「あの!その……」

「ん?」

「私は……物見さんの言っていた事を守れていませんでした。貴女を失望させてしまいましたわ」

「私はお前の飼い主でも何でも無い。私が勝手に押し付けた物をいちいち気にするな」

「ですが……」

「ああでもしないと、あの馬鹿共は止まらないと考えたんだろう?ならいいんじゃないか?結果全員無事だったし」

「結局止められませんでした。それに私は……あの場では何もしていませんわ。他の皆さんが動いて……それで」

 

 どんどんと暗い顔になって行く八百万。私は溜息と共に近づきデコピンをくらわせる。

 

「あうっ」

「考えすぎだ馬鹿。緑谷菌が移ったか?それに私じゃなくてもっと別に言うべき奴が居るだろ」

 

 無茶した事を咎めたりするのは私の仕事ではないし、世話を押し付けた私に咎める資格なんて無い。

 それでも納得いかない顔である八百万。

 

「もっと心配掛けた奴に言って、そいつに何か言われて来い」

「……物見さんがそう言うなら、そうしときますわ」

「そうしろそうしろ」

 

 私が無理矢理〆る。そうして作業再開して、無事夕飯前に終わらせる。

 

「にしても何個かダンボールに残ったな」

「すいません……あれもこれもと思って実家から持って来たら量が多くなってしまい」

「ちなみに聞くがこれらって使う事はあるか?」

「使おうとは思っていますが……スペース的に入り切りそうに無いので実家に返しますわ」

「いや。折角だし私の部屋にでも置くか?スペース無駄に余ってるし。八百万さえ良ければだが」

「!よろしくお願いしますわ!」

 

 私の提案に乗ってくれた。てっきり遠慮するかと思ったが。ま、いいか。

 ダンボールを持ち隣の私の部屋まで運び込む。八百万も私の後に続く。

 

「カギは掛けてませんの?」

「私の部屋に盗む物なんて無いからな。だけど今度から一応掛けとくか。八百万の荷物も入ったし」

「ありがとうございます。その……今夜お礼をしますわ」

 

 お礼って……んな気を遣わんくていいのに。てか何で顔赤いんだ。

 

「楽しみにしていてください」

「お、おう」

 

 そして他の女子達の様子を見ながらも風呂と飯を早めに済ませてC組……普通科への寮へ立ち寄る。

 

「おっす心操。部屋はどうだ?」

「まあボチボチだ。物見は……って聞くまでも無いか」

「おう。聞くまでもないぞって訳で部屋入るぞ」

「はいはい」

 

 共同スペースで心操を捕まえて部屋に案内して貰う。

 

「心操は風呂や飯は?」

「すでに済ましてる」

「そうか」

 

 部屋のドアを閉めて内鍵を掛ける。そして勉強卓の椅子に座ろうとする腕を引き、備え付けのベッドへ押し倒す。

 

「おいっ!ちょ!物見!」

「黙れバーカバーカ。疲れたんだよ。休ませろ」

 

 そのまま上から覆い被さり体を密着させる。突然の事で個性の使用はできなかったのだろう。洗脳されていない私は手を取り指を絡める。

 動かそうとする足を私の股で抑え込む。ふはははこれで動けまい。観念して私の抱き枕となるがいい。

 

「疲れたっておい物見」

「……」

「…………お前も色々抱え込んだもんだな」

 

 小さく頷く。

 

「はあ……しかもよりによってオールマイトからか」

「……」

「分かった分かった。個性は使わねぇから」

「……本当か?」

「当たり前だ」

 

 被さったまま話す。洗脳はされていない。

 

「私もさーあの場で個性使えばああなるのは知ってたよ」

「だろうな」

「その結果があれだよ。本当にもー急すぎるんだよー」

「ニュースでも言ってたしメールでも見た」

 

 傍から見たら平然としているだろう。だけどいくら私でも四六時中持つ気なんてサラサラ無い。心操の前で位なら下ろしてもいいだろ。

 

「てな訳で心操よ……えーと、ほい」

 

 ポケットに入っていた物を取り出して渡す。

 

「なん……物見お前」

 

 めっちゃ動揺する心操。私も本気だと目で訴えかけるも、流石に相手の気持ちも尊重したい。

 

「嫌…………か?」

「嫌とかじゃなくてだな」

「じゃあいいだろ。いい加減私の気持ちも察しろ」

 

 そして私達は…………

 

…………………………………………

 

 1時間半程経っただろうか。私は普通科の寮を後にしてA組寮に引き返す。そこで私は謎の部屋王決定戦なる企画に巻き込まれた。

 ちなみに男子部屋は既に行き次は女子部屋らしい。

 

「別に構わんが、多分面白くないぞ?」

 

 順々に女子部屋を蛙吹と爆豪を抜きに見て周る。とはいえ私は女子全員分見ているが。

 そして案の定八百万の部屋のインパクトが異常であった。驚くよな、あの馬鹿でかいベッド。

 

「さー最後はモノミンだ!」

「多分お察しの通りだぞ」

 

 私は自分の部屋の扉の鍵を開き中に入れる。

 

「お、おう。わかっちゃいたが」

「あんまり物ねーな」

「あ!でも13号のぬいぐるみがある!」

「何冊か漫画もあるね。アメコミや少年漫画が多いけど」

「この段ボールは?」

「八百万のだから。あんま触んなよ」

 

 私の部屋は全員に備え付けてあるベッドや勉強卓。それに加えて本棚代わりのカラーボックスだけだ。一応壁にはカレンダーが掛けてある。部屋の端っこには八百万の荷物が。

 全部クローゼットに入っているからなぁ。

 

「床用の机すら無いの?」

「無いぞ」

「障子ほどじゃねーが物見も物欲ねーよな」

「でも、この趣味と思える物は……?」

 

 そう言って指差すベッドの上に鎮座する13号ぬいぐるみや漫画類。

 

「13号のぬいぐるみはプレゼントで貰った物だ」

「……一応聞くね。誰からの?」

「心操」

「……うん」

「この漫画は?」

「心操が読み終わったって言ってくれた中古の奴」

「…………うん」

「他のも大体アイツがくれた物でな……」

 

 私の部屋の説明をしていると男子連中は死んだ魚の目に、女子連中はキャーキャー言っていた。

 

(つまり彼氏部屋じゃねーか!!)

 

 私の部屋を見て男子が思う事なんて大体分かっている。てかお前ら顔に出過ぎだ。

 

「ん?ねえ物見さん。このカレンダーの丸印は?」

「ああそれか?私の誕生日」

 

 緑谷が指さす16日についてる赤い丸。それについて素直に答えると皆私の顔を見て驚いていた。

 

「モノミン言ってよ!私モノミンの誕生日祝いたいんだけど!」

「そうだぜ物見!水臭ぇぜ!」

 

 芦戸と切島が乗り気だ。他の連中もうんうんと頷いていた。

 

「物見のプロ入り祝いも兼ねてパーティ開こうぜ!パーティ!」

「正式なプロじゃないんだが……お前ら騒ぎたいだけだろ」

 

 私の言葉を無視して皆ワイワイ騒いでいた。

 あ、部屋王は砂藤に決まった。何でもケーキがうまかったとかいう理由で。部屋関係ねぇな!私?葉隠に入れたぞ。

 

 部屋王が決まり解散となりかけた頃、神野区へ行った5人が麗日経由で蛙吹に呼ばれていた。私は部屋に戻りますかね。

 

 

…………………

 

 部屋でさっきの事を思い出しながら悶々としているとノック音が響く。

 

「少し待てって八百万か」

「ええ先程の約束を」

 

 そう言ってやって来たるは八百万の部屋。ベッドの上にはタオルが3重に渡り敷いてあり、横には……なんだあれ?

 

「物見さんは最近の出来事でお疲れだと思いまして、少しばかりマッサージを」

「マッサージね」

 

 納得である。でも疲れはさっき取ったばっかり……とは言えないな。てかアレはあれで疲れて……ねーな。心操が先に力尽きた。

 

「じゃあ頼む」

「はい!それじゃあ服を脱いでうつ伏せに寝て下さい……」

 

 言われた通りにベッドに横になり……と、準備を完了させる。

 

「じゃあ行きますわ」

「おーう」

 

 手についたオイルを塗りこんでいきながらも肩や背中を中心に揉み解されていく。あーダメになるー。心がぴょんぴょんするんじゃー。

 

「あー……眠くなるー」

「ふふっ我慢してください」

 

 あ、八百万が笑っている。

 

「蛙吹と何かあったか」

「ええ……蛙吹さんは随分と心配して下さいました。それを嫌われてもいいという覚悟で話してくれましたわ。本当に申し訳なく思いました」

 

 だが暗く悩んでいた蛙吹が本音を言った上でまた皆と楽しくお喋りがしたいと、言っていたらしい。本当に優しい子だな蛙吹は。

 

「私も暗い顔のままなんて嫌ですわ。だから笑おうと決めました」

「そうか」

 

 腰までマッサージをこなす。これで終わりか。

 

「あら物見さんまだ終わりじゃありませんわ」

「え?」

「前もやりますわよ」

 

 えーと八百万さん?何でそんなにやる気なんでしょうか?え?いいから仰向けになれ?アッハイ。

 

「何か……すごく恥ずかしい気がして来た」

「あらあら女子同士。何も恥ずかしがる事なんてありませんわ。ほら胸を隠してる腕をどかしてください、マッサージの続きを」

「八百万何かこう大事な物が崩壊してない?」

 

 この後滅茶苦茶マッサージした。




 主人公の部屋はまあお察しの通りです。物欲無い+貧乏=ほぼ貰い物で埋まる。

 次回は少し番外編のifルートを。


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いふるーとー。ヤクザになりました。

 アニメ勢置いてけぼりの、誰得死穢八斎會ルートはっじまるよー

 注意!インターン編のネタバレしかありません!まだ読んでない方はなぁにこれぇ?となります! 嫌ならば戻る推奨です!

 主人公の名前が変わります!個性は初めは変わりませんが……。

 時間軸なんかはオリジナル設定多数です。原作だと謎が多すぎてね……ごめんね。
 原作遭遇時点でエリちゃんは6歳という事にしています。


 私こと物見直は4歳の時に両親にドナドナされて今時ヤーさんを名乗る死穢八斎會と呼ばれる所に入る事になった。

 

「今日からよろしくお願いします」

 

 ヤーさんの組織だけあって構成員は男性が多いが、一応組長に娘が居るようで一旦そちらでここのノウハウを学びながらも生活に慣れていく事から始める。

 その際に私は両親が付けた名ではなく別の名前を求めた。

 理由は単純。捨てた親の付けた名前など名乗りたくない。ただそれだけだ。

 組長とその部下達の話し合いの結果。私の名前は「理直(りな)」と呼ばれる事になった。

 

 私のやっていく事は組長の娘がやっていた事と同じ。女性としての皆の世話と、発現した個性の制御。基本的にこの2つであった。

 娘……部下達はお嬢と呼んでいた人に様々な事……基本的に家事に関するアレコレを学びながらも、私の監視に割り当てられた1人の男性と基本過ごしていた。

 

「治崎兄さん、これ直せばいいの?」

「ああそうだ。復元してみろ」

 

 私の個性「修復・復元」と個性が似ているという理由と、年も組の中で比較的近い事もあり「治崎廻」と個性の制御特訓……とは言え、私の個性は攻撃性が皆無の為、言われた物を修復や復元していくだけだった。

 

「もう……無理」

「まだまだ体力が足りないな」

 

 言われた物……金の破片を復元して延べ棒に戻すという単純作業の繰り返し。ただ復元であるため子供の私の体力的に一日で戻せる量が少なかった。 

 

「ごめんね治崎兄さん。もっと多く直せる様に頑張るから」

「ああもっと組に貢献出来るように頑張れ」

 

 潔癖症の気がある治崎兄さんは常に謎のマスクを付けながら行動している。私も治崎兄さんと一緒の時は似たようなマスクを付ける様にしている。

 

「理直お前の個性はとても便利だ。将来絶対に組に必要とされるだろう」

「そう?ならもっと頑張る」

 

 ここは皆が助け合って生きていく場所であるためか居心地が良い。組長も良い人だしでここに居る事に文句は無い。

 

「治崎兄さんも頑張ってるよね」

「ああ。理直の個性と違って制御が必要だからな」

 

 私の個性は特に制御らしい制御は求められない。だが治崎兄さんの個性である「オーバーホール」は途轍もなく制御が難しい……らしい。何回も失敗している所を見る。

 

「理直の個性には助かっている」

「そう?良かった」

 

 治崎兄さんが壊したり直せない物は私が直す。そう決めたのだ。

 

「あ、今日は私が晩御飯の当番だった」

「そうか」

「皆の為においしく作るよ!」

 

 そうここは居心地がとても良いのだ。そう思える7歳の時の出来事だ。

 

 

 

 

 お嬢がヤーさん業に嫌気がさして家出した。捜索しても見つからない。組長は渋い顔をしながらも「もういい自由にさせてやれ」と命令を下す。

 

「理直。今後お前の負担が大きくなるかもしれないが、皆の面倒を頼む」

「分かりました」

 

 10歳の私には荷が重いが仕方が無い。個性の副産物でスタミナだけは人一倍ある。あとは根性で補う。

 

「お前らもなるべく迷惑掛けんなよ。分かったか!」

『へい!』

 

 そうして私の忙しい日々が始まる。お嬢と私とでやって来た事を私一人でやらなければいけない。

 野郎共の飯の準備や洗濯、抗争後のお出迎えに、組に入って来た人達の初めの頃の世話。時々手伝おうとするも私一人でやった方が早い場合もある。

 そんな日々が続いた為か何時しか私が「お嬢」と呼ばれる立場になってしまう。治崎兄さんはそのまま「理直」だった。 

 次から次へと仕事が増えながらも私は個性での資金繰りも行っていたが……まあ少しは足しになっているだろう。

 「お嬢の個性、ウチの資金の3割占めてるんだ」と聞かされるのは大分先の話であった。

 

 

 14歳の時。確実に傘下が潰されて行く現状に部下達が焦っているが、組長はやり方を変えないらしい。そんな状況に焦った治崎兄さんが私を呼び出して策を講じる。

 

「理直。お前の個性なら死体の臓器も増やせるよな?」

 

 その言葉だけでやろうとしている事が分かってしまう。

 

「出来る……だけど組長の志に反する。治崎兄さんはそれでいいの」

「このままだと組長が持っていた物が潰れちまう。俺は組長に報いたいんだ。お前ならそれが分かってるだろ」

 

 元々ヤーさん自体が時代遅れの産物だ。だがそれでも守りたいのだろう。その思いは伝わって来る。だが

 

「最悪破門にされちゃう。その覚悟の上でやるなら最低限、協力する。私も忙しいから、本当に最低限」

「それだけで十分だ」

 

 今の治崎兄さんは私では止められない。それが分かっているから見守る事にしよう。そう決めた。

 

 新しく手を出した協力者を集めての臓器売買と、臓器提供による傘下増やし。それに伴い治崎兄さんも配下を増やしていく。

 そんな事をしている間に組にも新たな動きがあった。

 壊理ちゃんと呼ばれる組長の娘さんの子供が置かれていたらしい。

 それの世話も治崎兄さんと一緒に頼まれた。

 

「よしよし。怖くないから」

「……うん」

 

 個性の影響か角が生えた不思議な少女であるが、大人しくて良い子だ。私が頭を撫でると目を細めて嬉しそうにする。

 

「この子が父親をねぇ……どんな個性なんだか」

 

 とりあえずは様子を見るしかない。その間に治崎兄さんが個性を解明してくれる。

 そして壊理ちゃんが来て1ヶ月。私には慣れて来て「お姉ちゃん」と呼んでくれる位には親しくなった頃に治崎兄さんが個性を解明する。

 巻き戻す個性だという治崎兄さんが、壊理ちゃんを使って企みを企てているらしい。流石の私でもそれは止めないといけない。

 

「やめておいた方がいいよ。組長の孫をそんな使い方したら、流石に擁護しきれない。それに組長のやり方に更に反する事になる」

「大局を見てくれ理直。彼女の個性はこの世の理を壊す事が出来る。英雄気取りの奴等を排除出来る」

「ダメだよ。流石の私も反対だ」

「……決裂か。残念だよ理直」

 

 そうして私に手を伸ばして一度私を殺す。意識を失った私は地下に幽閉される事になった。

 

「お嬢。元気出してくだせぇ……一時の辛抱でさぁ」

 

 意識が覚めて数週間。私は地下の広く綺麗な部屋でする事無く過ごしていた。治崎兄さんが壊理を使った実験を繰り返しているらしい。

 

 その間に私は死体の復元による臓器提供を強制的にやらされた。そして復元している内にある事に気付く。

 

「髪が白から戻らねぇ」

 

 治崎兄さんに一度殺されてから戻っていない。何なんだろうかこれは。壊理を助けられない私への罰だろうか。

 そしてだ。

 

「また意識が戻ってる」

 

 死体の復元と同時に死んでいた者の意識が戻る。そして私の中の大事な何かが擦り減る感じが残る。擦り減った物は戻らない。

 この事は他言無用で頼んでいるが……私自身何が起きたかは検討は付いている。

 

「蘇生ねぇ……人が得ちゃいけない超常でしょ」

 

 そうこれだけは人が得てはいけない物だ。それ故か私の中で擦り減っている物が分かってしまう。

 

「対価は……私の寿命といった所か?ま、しゃーないか」

 

 得てはいけない物を外道の手に渡す。世界はそれを許さないだろう。その証拠に周期的にとっくに来ている筈の生理が来ていない。

 それにそういう行為も行ったがつわりの類も来ない。腹も膨れる様子も無い。つまりそう言う事なのだろう。

 

「生殖能力の削除。私の個性を残さない為の処置って所か」

 

 元より女性としての幸せなんぞ諦めている。私が得るべき物ではない。そんな気がした。

 

 

 

…………………

 

 お姉ちゃんと会えないまま何日が過ぎただろうか。私の研究が進めば早くお姉ちゃんに会えると言った。

 だから今は耐える。どんな痛みも耐えるしかない。私の個性は人を傷つける。だから今の私だとお姉ちゃんを傷つけてしまう。

 

「お姉ちゃん……」

 

 この家の中で一番優しい手だった人。お姉ちゃんが作ってくれたぬいぐるみを抱きながら、私は耐える。いつかお姉ちゃんと一緒に居るために。

 

…………………

 

 

 あれから1年半経っただろうか。治崎兄さんがオーバーホールと名乗り、組を乗っ取って組の体制を大きく変えているらしい。そんな組に嫌気がさして旧組長派……その代わりとして「お嬢派」なる派閥が出来ているらしい。

 

「いや勝手に作んなよ」

「悪いお嬢。でもこうでもしないと収まらなかったんでさぁ」

 

 私は今でも地下に幽閉されている。当然個性も使い続けた。

 

「壊理は無事か?」

「今の所は。でも先日外に出た時に逃げ出したらしいですぜ。そしてヒーローと接触があったとか」

 

 このまま事が動けばいいんだが。

 

「そういやお嬢」

「なんだ」

「最近の女児って何が好きなんでしょうか。最近のおもちゃを買い与えても反応しなくて。お姉ちゃんが良いの一点張りで」

「嫌われている奴に構われても迷惑なだけだ。諦めろ」

「そんなぁ……どうにか出来ないでしょうか」

 

 

 むしろ聞いた限りの事をやっといてどうにか出来ると思っている事の方が驚きだ。泣いて縋る部下。無碍にも出来ないか。

 

「私の作ったぬいぐるみを持って行け。私とコンタクトを取れると分かったら多少は懐くだろ。あと追加で何か買ってやれ。おもちゃとか林檎とか」

「……!!!ありがとうございます!お嬢!!!」

 

 まあコイツが好かれる訳ではないのだが。言わないでおくか。てな訳で私の作っていたぬいぐるみを手渡す。頑張れ部下よ。

 

「私が生きている間にまた会えるかねぇ……」

 

 こっそりと使い続けた個性の代償。それが私にのしかかっていた。考えても無駄だと思い寝る事にした。

 

 

………………………

 

 上の方が何やら騒がしい。ヒーローと警察が攻め込んで来たらしい。ウチもここらが潮時かねぇ。

 

「壊理と部下が無事なら何でもいいか」

 

 私達は逮捕されるだろうな。オーバーホールがやらかし過ぎた。組長も安否が不明だし。

 

「なるべく暴れて欲しく無いんだがなぁ……言っても無駄か」

 

…………………

 

 のんびりとしていると私の居た部屋の扉が壊される。ヒーローが私に向かって腕を向けていた。その周りの警察も銃を向ける。

 

「動くな。お前は誰だ」

「分からずに入って来たのか……私は理直。お嬢とかお姉ちゃんとか呼ばれてる存在だ」

 

 手を上げて降伏のポーズ。抵抗の意志は見せない。

 

「……大人しく投降する気は」

「見ての通りだ。私の個性で戦闘なんて無理だ」

 

 多少の個性持ち程度なら接近戦でボコれる自信はあるが……分が悪いか。警察に囲まれて連行される。あっさりすぎて驚いている様子だ。

 

「にしても、1つ聞いてもいいか?」

「……」

「その怪我。もしかしなくてもウチの奴らがつけた傷か。すまねぇな組のモンが世話になったな」

 

 返答は無い。会話がトリガーの個性だとでも思われてんのかね。

 

「私がお前たちの傷を全部直す。だからウチの部下達の刑期……少しでもどうにかなんねぇか?」

 

 返答は無い。掛け合っても無駄かねぇ。

 

「壊理は無事か?」

「ヒーローデクが確保したと聞いている」

「そうか……良かった」

 

 私が微笑んでいると怪訝な顔をされる。

 

「お前も首謀者じゃないのか」

「壊理や薬物に関しちゃ無関係……とは言えないか。資金提供者って事になるか」

 

 その提供方法が倫理無視の違法であるのは明らかだ。無罪になるとは思っちゃいない。

 

「話は後で聞く。一先ず上へ連行だ」

「はいはい」

 

 地上に向かって出ていく。その途中で何人か組の奴を見掛ける。

 

「お嬢!すいやせん!ドジしちまったばっかりに!」

「サツども!お嬢に傷つけて見ろ!絶対許さねぇからな!」

「私はいい。こうして無傷だ。それよりもお前らだ。これ以上事を大きくすんな」

『はい!すいやせん!』

 

 私の一言で大きな声を出していた者が静かになる。その様子を見た警察が驚きの表情を隠せていない。

 そして地上に出て、組の者以外の重傷者が多数目に映る。

 

「ったく……!揃いも揃って迷惑かけやがって」

 

 特に眼鏡のリーマンが酷い怪我である。てか死にかけである。

 

「そこの眼鏡の奴。私が直すから少し見せろ」

 

 視界に収めているから既に発動は可能なので、言うだけ言って個性を発動させる。岩に抉られた内臓や腕等が岩を吐き出しながらも元に戻っていく。服を含めて完全に直った所で個性の発動を止める。

 

「ちょっと……これって……!?」

「エリちゃんの個性……?」

「エリちゃんの言っていたお姉ちゃんってまさか……!?」

 

 私に注目が集まる。それ程までに異常な光景だったのだろう。

 

「壊理が姉と呼んでいる理直だ。壊理をオーバーホールの手から逃がしてくれた事感謝する。そして組の連中が迷惑を掛けた事をここに謝罪する」

 

 深々と頭を下げる。土下座でもしたいがしゃがめる状況でも無いか。

 

「組の者が壊したり傷つけた事は私が償おう。それぐらいはさせてくれ」

 

 お嬢に罪はねぇと部下達は言ってくるが関係無い。

 

「私のこの命は好きにしてもいい。だからオーバーホールが関わった奴以外の組の連中の今後は保障してくれ。頼む」

 

 私の覚悟を感じたのか組の者は涙を流しながらも見つめていた。ヒーロー達も何も言えずに一時の沈黙が訪れる。

 

「何で……そんなに人の為に動けてこんな組織に居るんや」

「親に売られた私に組は良く接してくれた。それに報いたいだけだ」

「売られたって……そんな」

 

 今更私にその同情は不愉快だ。だが口には出さない。

 ヒーローと警察両名の話し合いの結果。先程の事を見て一旦見てみるという事にしてくれた。

 

「直すぞ」

 

 負傷の大きい者から順番に直していく。

 

「これが完全に制御可能になったエリちゃんの個性……って事になるの?姉と名乗るだけの力だわ」

「触れる必要が無い分、それ以上に強力だ。こんな札が敵にあったとは……使われてたら勝つのは無理だった」

 

 ま、オーバーホール達に使う気は無かったが。それが分かってたからオーバーホールも幽閉したままだったのだろう。

 

「ルミリオンのこれは個性も戻っているのか?」

「壊理やオーバーホールが壊したってんなら直ってるんじゃねーか」

「貴女のこれはどこまで戻っているの?」

「知らね。戻してる訳じゃねーしな」

「戻してる訳じゃない?何を言っているの?」

「私のはこいつらが壊した理を直してるだけだ」

 

 壊された理を捻じ曲げてでも直す。私の蘇生ってのはそういう事だろう。

 

「こんな個性を代償も無しに何回も……?」

「治崎やエリの件がある。あり得ない話じゃないだろう」

 

 ……デメリットは話さない方が良いか。正義感が強いこいつらの事だ。多分止められる。

 

「っと。そう言えばウチの中で1人直してもいいか?」

「誰を?」

「ウチの組長。あ、オーバーホールじゃねぇから。ベットで寝ていたオヤジの方だよ」

 

 何もなしに目が覚めてたら組が無くなってましたじゃ駄目だろ。それにこれで最後になるかもしれないからな。

 

「……私の恩人なんだ。駄目か?」

「駄目だ」

「即答かよ。ま、違法者に慈悲なんていらねぇか」

 

 すまねぇな組長。何も守ってやれなくて。

 

「リナとか言ったか。君の能力は本物だし、聞き分けも良い。それに君自身に罪状は出ていない。今からでも良い。こっち側に戻れないか?」

 

 私の引き抜きか……そう来るよな。

 

「エリちゃんと一緒に君も嫌々従ってた事にすれば戻せるだろう」

「私の命は既に貴方達の物だ。そうしたいなら従おう」

「……聞き分けよさそうに見えてメッチャ頑固やでこの子」

「そのようだ」

 

 んだよ。良いじゃんか従うつってんだから。

 

「まあそんな訳だ。君には今後ヒーローを目指して貰うから」

「エリちゃんもヤーさんな姉よりもヒーローな姉の方が自慢できるやろ」

「……私がヒーローねぇ。んな柄じゃねぇだろ」

「君のカリスマ性と力を持ってすれば大丈夫さ。似合うと思うよ」

 

 個性のデメリット言ってないからアレだが、個性フル活用のヒーローという職業になれって、私にとっては様はさっさと死ねって宣告だからな。言わないが。

 

「ま、エリが自慢できる姉になる為なら仕方ねぇか……組の連中の保障は絶対に守れよ?」

「掛け合っとくから安心しろ」

 

 さいですか。

 

…………………

 

 そうして私は署での事情聴取の後に解放。そのままエリと共に相澤という者の下で保護、雄英高校で過ごす事になる。

 目が覚めた組長から破門を言い渡されたりした。ガチで泣いた。

 

「私、戸籍も学歴もねぇな。大丈夫か?」

「……どうにかしよう」

 

 そんなこんなで雄英で過ごしている内に個性のデメリットはバレた。当然ヒーローになるのは止められた。知ってた。

 バレる前に組に仇なしたヴィラン連合への嫌がらせがてら、オールマイトを全盛期の姿に戻した。大分大事になったが……まあいいや。知らね。

 そしてだ

 

「壊理。大丈夫か」

「……お姉ちゃんが居るから大丈夫だよ」

「無理は駄目だぞ」

 

 初めて会った時と同じように頭を撫でてやると、嬉しそうに目を細める。……私の妹が可愛い。義理?知るか!戸籍上は私の妹だからいいのだ!組長にも任されたし!

 

 そんな感じで私の新しい日々が続いて行く。私の寿命あと10年くらいだけどな!




 ……死穢八斎會の時間軸が難しすぎる件。エリちゃんが何歳なのか分かればなぁと思う。何年掛けてあの薬開発したのかと……分からない事多すぎんよ。
 3回ぐらい書き直したのは内緒。初めの頃は主人公が聖母的な控え目すぎる性格でしたが書いてて楽しくなかったのでボツに。


・キャラクター紹介
 理直(リナ) 性別:女性 年齢:16
 誕生日;??? 趣味:他者の世話
 好きなもの:壊理、治崎、組長と部下 嫌いなもの:オーバーホールとその部下


 個性:物体復元・人体蘇生(発動型)

 度重なる死を見て来て、体験した結果、個性が変化して得た超常の力。
 治崎達や、壊理の壊してしまった理を直す償いの力。
 時間や概念を捻じ曲げてでも直すという、修復系個性の極地。
 完全消滅したオールマイトのOFAを全盛期の肉体と共に直せるというチートである。
 個性使用の代償は「自身の寿命」。そして如何なる方法でも生殖。増殖不可。


 物見直と違って、何も無しにフルカウル5%デクぐらいなら一方的にボコれる位には格闘戦は極まっている。伊達にヤーさんの世話係ではない。


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必殺技(殺すとは言ってない)を考えよう

 映画楽しみなんじゃー!


 皆が入寮した次の日。仮免試験に向けて再び動く事になり、TDLと呼ばれる施設で必殺技を作ろうという企画が始まった。

 各々が考える中で、久々の白軍服に身を包む私はと言えば。

 

「個性使用は前提としてだ……道具次第すぎる」

 

 私の個性は緑谷や爆豪の様に「個性だけ」で完結しないタイプだ。道具や状況次第で大きく変わる。

 

「自分の有利を押し付けると言ってもな……私にとっての有利って瞬間的な大質量か?」

 

 壁落しが良い例だろうか。てかアレはアレで皆に聞いたら必殺技認定されてたりする。後は素材を撃ち込んでの切断とかもか。

 

「……狙撃で麻酔弾撃ち込むのって必殺技に入りますか?」

「ソレハタダノ狙撃デハ?」

 

 弾が違うだけでやってる事は変わらないしな。真っ当なツッコミを貰ってしまった。

 

「復元した壁を利用しての狙撃ポイントの作成……高台作りもやる価値あるか。あとは各道具が活かせる場所作り……劣化セメントス先生だなこれ」

 

 ピクシーボブやセメントスのフィールド操作を思い出すと、欠片で一箇所ずつ作るのは少し遅いだろうか。

 

「うーむ」

「お困りかい?物見女史」

 

 振り返るとオールマイトが居た。困ってるには困ってるので相談してみよう。

 

「ちょっと必殺技の案が纏まらなくてですね」

「どんな事を考えているのかい?」

「壁の復元を利用した、高台作り等の地形変更をと考えてるんですが、欠片をいちいちセットするのは遅いのではと」

「地形変更とはまた大胆な事を考えるね……ふむ」

 

 手を顎にあてて考えるオールマイト。数十秒して口を開く。

 

「君は点から面への復元ばかり考えてないかい?視野を広くとってみてはどうだろう。それで大きく変わる筈さ」

「点から面?視界を広く?」

 

 オールマイトの言わんとしている事の意味を考える。

 

「面から面って事か?……でもそれって意味あるのか?視界を広く……間隔毎に設置していく?でもそれだとイマイチでは」

 

 何を伝えようとしているのだオールマイトは……でも何か意図はあるであろう。うーむ……

 

「私が教えられるのはこれ位だ。あとは考えたまえ」

「あっはい」

 

 オールマイトに言われた事を考える。点から……ねぇ。

 

「……ふむ」

 

 点……つまり欠片からの復元から離れる。面というと地面や空中って事になるのか?

 

「欠片じゃなくて空中や地面に対する復元……ガスでも撒くか?」

 

 ガスに復元かけた所で何になるのかは謎であるが。いや別にガスである必要は無い。空中に留まってたりいさえすればいい。

 

「粉……粉塵か?」

 

 確かに粉状からの復元は可能っちゃ可能である。それを地面にばら撒くなり、空中に散布するなりすればイケるか?ゴーグルがあれば目が潰れる事は無いし。

 

「試してみるか」

 

 と、思ったものの壁の欠片を粉砕して粉にするのも時間がかかるし、他の人達に頼むのもと思ってしまう。

 

「ちょっとサポートアイテムのお願いをして来ます」

「行ッテコイ」

 

 許可も得たしサポートアイテムの開発を行っているパワーローダー先生の下へ向かい、要望を伝えておく。作りが単純であるため1日あれば試作品なら出来ると言われた。

 ちなみに発目というサポート科の同級生も開発に加わる様だ。

 

「続きは明日だな」

 

 後の時間はスナイプ先生指導の銃の特訓である。そう言えばこの手の弾や銃の要望はどちらに送れば良いのだろうか。

 B組への交代までの時間一杯を特訓にあてて、コスから制服に着替えている途中に八百万が話しかけてくる。

 

「まさかあんな施設があるとは思わなかったですわね」

「そうだな」

 

 昨日の事もあり私の口は盛大に引き攣っていた。

 

「あそこまで自由自在なら多少のステージ程度なら作れるのではと思いますね」

「だよなぁ。自由度が高いもんな……ってステージ?」

「それに監督の先生方もいらっしゃいますし、装備もある。条件としては最高では?」

「おい……それってつまり」

「ええ……仮免試験前、自分に足りない物を見つけるという意味も込めて、物見さん。明日あの時の約束お願いできますか?」

 

 まさかこんな形でお願いしてくるとは思わなかったが、八百万も本気だという事は目を見て分かる。ならば断る理由は無い。

 

「分かった。明日、先生方の許可が下り次第にやるか」

「楽しみにしていますわ」

 

 私も対人戦でどこまで戦える様になったか楽しみであるし、新アイテムも試したい。

 

「今から楽しみだ」

 

 八百万の体育祭のリベンジ、どう戦っていくか考えながらも明日を心待ちにするのであった。




 次の話で八百万のリベンジ戦です。どんな決着になるのかは未定です。

 最近また迷走しそうな予感がヒシヒシとあります。


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再戦 復元vs創造

 4ヶ月の失踪ごめんなさい!終わりまで駆け抜けます!
 仮免試験→幕間→文化祭→ビルボードチャート(脳無戦はやらず)で終わり予定です。完結向けて頑張ります!

 戦闘が始まったら視点がデク君に切り替わります。


 一夜明けて、パワーローダー先生から装備を受け取り、2度目のTDL。

 そこで私と八百万は相澤先生他、複数の先生方からの戦闘許可を取り付けていた。

 

「……という訳なんですが、許可貰えますか?」

「お願いします」

「ふむ……まあ物見と八百万なら加減を弁えるだろう。いいぞ、許可しよう。条件は体育祭と同じでいいか?」

「構いません。いいよな?八百万」

「ええ。それで大丈夫です」

 

 と、私と八百万なら大丈夫だと思って許可を貰えている。信頼って大事やなって。

 そしてセメントス先生が作った特設バトルステージにて互いに向き合っていた。

 

「条件は体育祭と同じ。降参、場外、気絶のいずれかで決着よ。分かってはいるでしょうけど、不必要に相手を傷つける攻撃は駄目よ」

「はい」

「わかりましたわ」

「あと他の生徒には言っとくけど、これ特例だからね。二人の戦いを見て俺も俺もと言われても許可しません。いいわね?」

 

 周りに作られた高台部分に居るA組の連中に、ミッドナイト先生が釘を刺している。

 

「さて、八百万よ。折角の機会だ。存分に楽しもうや」

「最高の試合にしましょう。物見さん」

 

 片や露出ほぼゼロの対刃・対炎・対衝撃ets...の白軍服、片やもはや服と言えるのかと思える裸ジャケット。

 お互い顔を合わせて、どう動くかの算段を考えて。そして。

 

『3!2!1!レディッ!』

「あの時の再戦……行きますわよ物見さん?」

「ああ」

 

 太ももの銃に手を掛けながらも、八百万の言わんとせん事に合わせる。

 

「「武器の貯蔵は十分か?」」

『ファイト!!』

 

 今、戦いの開始が宣言される。

 

 

…………………………

……………………………………………………

 

「始まったねデク君」

「そうだね麗日さん」

 

 先制は物見さんの銃撃から。先に装備して、それなりに扱っている事もあり速射速度は高い。狙いは容赦の無い腹部と胸部に1発ずつ。

 それに対して八百万さんは創造を使わずに銃口を向けられた瞬間に動いて避けていた。

 

「……」

 

 避けて避けられてを想定していたのか、2人共次への行動が早かった。

 物見さんは銃口を再度八百万さんに合わせながら、左ポーチに目線を向けずに手榴弾を取り出す。

 八百万さんは銃口を合わせられない様に走りながらも、ジリジリと距離を詰めて、ナイフを創りだして、方向転換時に放り投げる。

 

「……チッ」

 

 足を止めていた物見さんがナイフを避けるために動き出す。と同時に持っていた手榴弾を相手に向かって放り投げる。

 閃光弾を警戒した八百万さんは予め創ってジャケットに刺してあった遮光眼鏡をかけて、更に衝撃に備えて盾を創り出し防御の構えを取る。

 

「きゃっ!なんですのコレ」

 

 だが、その手榴弾は閃光弾なんかではなく、何か粉状の物を薄く広くばら撒いていた。

 突然の事に足を止めて、どう対処するか一瞬悩む。だがその一瞬が命取りであった。

 

「っ!」

 

 銃声が響き風圧で粉を散らせながらも弾丸が、八百万さんの左右を通り過ぎて動かない様にする。

 周りには何かの粉。物見さんの視線は通っている。これから何をするのかは明白であった。

 

「……っあ!」

 

 頭上から突如現れる巨大な壁。状況を理解し、それを前に駆け出して避けようとするも、足元に何かがあり躓いてしまう。先程は無かった引っ掛かりやすい高さの段差である。

 

「っっっ!!」

 

 前のめりに倒れて膝を着くも、落ちて来る壁に対する抵抗として体からありったけの金属柱を創り出し潰れぬ様に押しとどめる。

 だが押しとどめた所で……

 

「はい。終わり」

 

 更に復元を重ねて頭上に壁を落とす。というよりも置くと言った方が正しいだろう。恐らく八百万さんの髪の毛にかかっていた粉から復元した……という事だろう。

 頭を押さえつけられた八百万さんに近づき、銃口を向ける物見さん。

 

「まだやるか?八百万」

「……降参……ですわ」

『八百万さん降参。勝者物見さん』

 

 1分経っただろうかと思う短い時間の中で、勝負の結果は物見さんの圧勝という形で幕が閉じた。

 

 

……………………………………………………

 

 セメントス先生がコンクリートで壁を退かして、八百万が立ち上がるのに手を貸し、そのまま握手する。

 

「ありがとうございました。いい試合でした」

「こちらこそ、ありがとうございます。はぁ……完敗です物見さん。何も出来ませんでしたわ」

「ま、私のやり方はほぼ初見殺しだ。あんまり気にするな」

「ヴィランの相手は初見が基本でしょう。それに対応しないとヒーローはやっていけません」

 

 要精進ですわ!と決意を新たに意気込んでいる。消沈しなくて何よりだ。

 

「にしても、物見さんなら私に合わせて対応してくると思ったのですが」

「お前に合わせるのとか選択肢幾つ必要になると思っている?2、3手で決めてやるって思ったわ」

「戦闘楽しむ気ゼロでしたか……」

「そこの所は申し訳ない。ただ新しい戦術試したくてな。まあ想定外の使い方になったが」

 

 あんだけ広くばら撒けるなら、地形変えるよりかも相手を直接拘束する方が楽だし早いし。

 

「なにか別の埋め合わせでもするか?流石に1分は早すぎた」

「1分持たなかった私が悪いですから。お気になさらず。でも何か埋め合わせてくれるのなら」

「ん?どうした?」

「私、もっと物見さんの事知りたいですわ。色々教えて下さいな」

 

 私についてねぇ……うーむ

 

「色々って?」

「過去とかでしょうか。なんでヒーローになったのかとか。よくよく考えたら私、物見さんについて余り知らないなと」

 

 えーそれ聞くのか……ロクな思い出無いから話したくないんだが。

 

「ま、言える所までなら」

「お願いします。それと、これからも良き友達であって下さりますか?」

「おう。これからもよろしくな」

「はい!」

 

 陰り無い笑顔で返事をする八百万は綺麗であった。




 再戦はあっさり終了。主人公は2手で決めに行きました。
 主人公の、初見殺し粉戦術はもちろん弱点があります。
 ただその弱点を初見の八百万が突くのは難しいでしょう。それなりの火力(風圧)か移動速度が必要ですので。


 あ、R18版を上げましたので、見たい方は作者ページへどうぞ。


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手を伸ばせど

 八百万視点の総集編です。デクとはまた違う捉え方にはなっているかなと。


 リベンジ戦の夜。ベッドに座り込み今日の試合を思い返す。

 

「まだまだ遠いですね。彼女の背中は」

 

 物見さんがどれ程の距離に居るのか。どれ程追いついたのか。私がどれ程成長したか。それを確認したい為に挑んだリベンジですが。

 

「完敗ですか……悔しいですね」

 

 物見さんはずっと遠くへ行っていました。見せつけられた圧倒的な差。

 戦闘を楽しむ気は無かったと言っていた。短い手数で終わらせると。

 今思えば、あそこでああすれば、こう動けば……と幾つも反省点があります。

 

「油断なんてしませんでしたわ。それでも尚、一方的に……」

 

 心のどこか甘えていたのでしょうか。彼女なら合わせてくれると。体育祭の激闘を演じてくれると。ライバルとして全力で戦えると。

 

「恐らく彼女は見せたのでしょう。私達が進む道を『プロヒーロー』の世界を」

 

 今から仮免を受ける私達に。これが『プロヒーロー』だと。その力を以って。

 

「貴女の居る世界は本当に遠いですね」

 

 壁に閉ざされてる隣の部屋を見やる。時間は夜10時を回って彼女は寝ているだろう。

 

「推薦組なんて肩書、もう何の意味もありませんね」

 

 ある種の称号を意味する『雄英の推薦組』。それは本来誇るべき物なのでしょう。ですが今の私には誇れなかった。

 当然だ。私なんかより余程凄い人が隣にいるのだから。それも皆から認められた称号を得た元普通科さんが。

 

「貴女に会った日が懐かしいですわね」

 

 私は物見さんとの出会いから思い出していくのであった。

 

 

……………………………………………………

……………………………………………………

 

 

 私……というよりA組と会ったのは最初のヒーロー基礎学。オールマイトが連れて来た少女……というには大人びた女子生徒。

 ぶっきらぼうに自己紹介する彼女だが、オールマイトが選んで連れて来たという事は何か意味があるのだろう。

 

 そして他のクラスメイトが胸の話で盛り上がっていると、緑谷さん達の試合が流れました。

 

 試合が終わり、私は彼らの行動を思い返し良い点悪い点を探す。それを自分の事の様に反省し、活かそうと思っていると物見さんが動いていた。

 曰く彼女を連れて来た理由だそうだが。そう言われモニター越しの映像に驚きました。

 

 そこに映るのは内部が先程通りの姿を取り戻した物。フェイクでも何でも無く壊れた部分が直されていた。

 「物体の修復」それが彼女の個性だと聞かされた。発動条件も単純明快「ただ見るだけ」。それだけでビル1つ直せるのだという。

 オールマイトに彼女の個性はどう見えるか。それを問われる。

 

「……下手な戦闘力の個性よりかも遥かに重宝される個性でしょう」

 

 そんな個性、重宝されるに決まっている。単純で便利で強力な個性だと言えよう。

 私の個性と違い制約も少ないだろう。ただ直すだけの個性。

 

(デメリットも無しに……いえ何かしらのデメリットはあるのでしょう)

 

 個性とは何かしらのデメリットを抱える物である。では物見さんの個性のデメリットは何だろうか。この時はそれが分からなかった。

 そして平然とした表情で戻って来る彼女。恐らくいつもの事、ありふれた光景なのだろう。自慢する物でもなく「当たり前」の事。

 

(何故彼女程の個性が普通科に居るのでしょう……やはりデメリットが酷いのでしょうか?)

 

 それかヒーロー科を受けてないか。それはそれでおかしな点があるが。

 

(今は考えても仕方ありません)

 

 そう結論を出し、次の試合を観戦する。

 なお、この戦闘訓練の私の戦い方が、後の物見さんの戦い方の参考になったのは後から聞いた話である。

 

 そして時々、学食でお見掛けしては、A組の誰かしらが席に誘っていた。その為か彼女は普通科ですが、割と仲が良かったですね。

 割と気さくで深くは聞かないさっぱりとした男性的な性格。

 それが賑やかなA組の空気と合ったのでしょう。とはいえ反応が軽いだけで気を許した感じは無いですが。

 

 

 その後は雄英体育祭。これが私にとって物見さんを意識するきっかけになりましたわ。

 

 障害物競争と言う割に、特に障害を感じなかった第一種目。

 なんというのでしょうか……「彼女が通った所に道が出来る」という感じでしたね。

 恐らく彼女自身、他者を助けるためではなく、自分のためにやっただけなのでしょうが……あの光景を見ると他者を蹴落とすのが馬鹿らしくなってきましたね。

 自分たちの器の大きさを試されている感じがしました。

 

 第2種目で彼女ともう1人の……心操さんと組んだ、尾白さんに聞いた話で、彼女らの信頼関係が羨ましく思いましたわ。そして彼女の「ヒーロー」という言葉への信頼を垣間見たと思いました。

 

 そして体育祭最終種目。1回戦で物見さんとの戦い。

 持ち込む物に制限がある彼女に対して有利に立ち回れると、そう思いました。

 しかし結果はと言えば、彼女に創造した物をことごとく利用されて敗北を喫しました。

 

 周りの状況を考えての立ち回り。相手の物を利用する狡猾さ。個性への理解。そして無茶を通す行動力と思考力と胆力。

 纏めると「即席の作戦構築力」と言う所でしょうか。

 

 お互いに物に関する個性だからこそ、この差が大きく勝敗を分けたのでしょう。1手の遅れが致命的。物の産出が間に合わなければ負け。

 そんな展開は今まで感じた事のない感覚と、何とも言えない高揚感でした。

 負けた悔しさもあります。それ以上にまたこんな試合をして、勝ちたい!と思えました。 

 現状で足りない物が分かっただけでも益のある試合でしたし、何より楽しかったです。これを糧に要精進!ですわ!

 

 物見さんは常闇さんをあっさり破りましたが、爆豪さんに何も出来ずに敗北。彼女でも負ける時は負けるのだなと、当たり前ながら手を伸ばせば届く存在だと感じました。

 

 そして職場体験での活躍を得て、ヒーロー科へ編入を果たしました。むしろ今まで居なかったのが不自然に感じました。それ位馴染んでいました……というより馴染み過ぎですね、はい。

 

 職場体験で出会った拳藤さんから、彼女の個性を使った男子生徒がビル1つ直して倒れたと立ち話しながら聞かされました。

 やはり物見さんは凄いな、と拳藤さんは笑っていました。私にもそれは同意です。ただ漠然と「凄い」と。

 

 私にとって、そんな彼女の印象が変わったのが林間合宿でしたわ。

 短期間で個性を伸ばす訓練合宿。各々伸びしろがある課題の中。私達は死に物狂いで個性上限を伸ばす訓練をしていました。

 その苦労を知って、ふと彼女の訓練を思い返す。

 

「彼女は個性上限を伸ばしていない」

 

 それが何を意味するのか。もう彼女の個性は伸びない?いいえ違うでしょう。彼女の個性は短期間で伸びない?それもあるでしょう。

 恐らくですが実態は「個性上限を伸ばす必要が無い」のです。

 

 各々が死に物狂いでこなす上限突破。その必要が無いと言われている。

 個性は使わなければ伸びない。身体能力の一種だ。

 これが何を意味するのか。答えは簡単。

 

 「過去に死に物狂いで個性を使っていた」である。

 

 どんな苦労を積めば、その人外な体力を得ることが出来るのか分かりません。

 彼女がヒーローとして目指している先は、どの様な物なのか。

 そんな彼女に、私は林間合宿でどれ程近づけるのか。彼女の努力はどれ程の物なのか。それを確かめたいと思いリベンジの約束をしました。

 

 ヴィラン連合の襲撃で林間合宿がおじゃんにされたのは残念でしたが。

 

 そして神野区での活躍を目にする。その場に居る全てのヒーローから託される物。あのオールマイトにすら託されたソレは、明らかに1人で持てる物じゃない。

 そんな彼女の顔は平然としている。個性を使う事に躊躇いは無い。

 「自分なら大丈夫だ」と、そんな風にも言っている様にも見える。

 

(彼女はこれから先も苦労を表に出さないでしょう。それこそどんな物を背負おうとも)

 

 今までの彼女を見てれば嫌でも理解できる。そういう人物だと。誰にも心配をかける事も無く、心配した誰かを逆に気遣う事すらある彼女だ。

 

(私だけでも、いえ、この光景を見ている、クラスメイト皆がそう思っているでしょう……友達として)

 

 本当に悩んでいたら相談してくれる位の間柄にはなりたい、と。 

 

 そのためには知らなくてはいけない。彼女を……物見直という人物を。彼女の見ている世界を。

 

(さし合ったっては彼女との差を、ですわ!)

 

 これから知って行けばいい。先は長いのだから。

 

(女性同士どう仲良くなれば良いのか、芦戸さんなら知っていますかね?)

 

 芦戸さんに尋ねたら、やはりスキンシップだと答えを得ましたわ!ならばマッサージを!そして芦戸さん曰く「胸もマッサージしてあげたら」と答えを頂きました!それは是非とも実践してみましょう!




 八百万視点でどこまで語るのか悩みますね。
 内容を変えました。すいません。

 次から時間飛ばして仮免試験開始です。


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仮免試験らしい

 主人公にとって特に意味のない仮免試験はっじまるよー!

 あ、ちなみに自分の小説は原作及び、アニメ見ている前提で描写や人物をことごとくカットしていく事を再度言っておきます。


 あれから仮免試験当日までの間。各々が装備を整えて、必殺技を編み出していた。

 私の必殺技は「粉をまき散らして復元する」という、八百万に使ったあれが必殺技扱いになってしまった。技名は勝手につけられた物がある。

 

 「粉塵封陣」という言い辛いダジャレっぽい名前だ。なお私は訓練中一度も名前を言っていないし、大体が「ふんじん」と略される。名付けた意味無いやん。

 

 そんなこんなで会場に着きバスから降りたら、一気に注目を集めていた。ヒソヒソ話が聞こえて来る。

 

「注目集めてるなー流石有名校」

「いや大体お前のせいだぞ物見」

「仮免試験受ける必要が無いお前が、何故ここに居るのかって話だわな」

「あー確かに。物見さんは既に本免同等の資格持ってるもんね」

「それ以上にモノミンは有名人過ぎるからね!」

 

 等々好き勝手言われる。自覚はあるが実感が湧かない。神野以降特に何もしてないんだもの。

 切島が円陣しようぜ!と言っていると後ろからのそりと大男が近づいて、何故か円陣に加わっていた。

 

 士傑高校という有名校の生徒らしい。ほーん。何でもかんでも好きと言いまくってるが大丈夫なのか。むしろ嫌いな物があるのか?

 

「物見直さんも好きっス!あの夜の活躍は今でも尊敬するっス!」

「あっそう」

 

 何故か私に飛び火していた。夜の活躍って聞くと微妙に感じるな……あれ活動的に朝の時間の方が近かった気がするが。

 あと女子に向かって軽々しく好きって言うのは如何なものか。

 

「わーモノミンモテモテだー」

「状況知ってて言ってるだろ。男に好かれるならアイツ一人で十分だ」

「おおう……出たなモノミンの浮気しない宣言」

「今更だろ」

 

 私の恋バナを振っても特に発展しないのは分かり切ってる事だろうに。

 あ、話している内に士傑さんが去って行った。するとまた別の高校が近づいてくる。

 挨拶の後にいきなり相澤先生に求婚している個性的な先生だ。

 緑谷からヒーローの情報を聞きながらも、その先生が担当する生徒が紹介される。

 

 真堂とやらがイケメンムーブしていると、私に対しての挨拶をして来た。

 

「神野の奇跡の立役者。「再建の旗」。君に見られても恥じない戦いをさせて貰うよ。物見さん」

「あっそう」

 

 私にイケメンムーブされてもな。ぶっちゃけどうでもいい。逆に私が見て恥じる戦いってなんだ。

 ひょこっとこちらに近づいてくる女子1名。先程轟に話しかけていたが。

 

「わー本物だー!本物の物見さんだー!サインくださーい」

「残念ながら私は影武者だからサインは出来ない」

「嘘!?じゃあ本物は!?」

「私だ」

「君だったのか」

「暇を持て余した」

「受験生の」

「「遊び」」

「…………………………」

「…………………………」

 

 固い握手を交わす。この人とは仲良くなれそうな気がする。向こうの先生も大爆笑してるし。周りがポカンとしているが気のせいだろう。

 

「改めて物見直です」

「中瓶畳だよ。よろしくねー!」

「いやなんですかこの展開は?」

 

 八百万が何か言っている。いやー謎の波長を感じた。なんでだろ。

 その後傑物学園の方々に挨拶されながらも、相澤先生の言葉に従い会場に移動してコスチュームに着替える。

 

 一次試験のルールが発表されたり、合格者が101名だったりと少ないと言われたり。てかその1名は何なのだ。え?私のせい?さーせん。

 そして試験場がオープンされる!

 

「税金の無駄遣いっ!」

 

 目の前に広がる多数の建造物。見渡すと森やら滝やら崖やら。

 何故に雄英に負けず劣らずのステージを用意するの?暇なの?馬鹿なの?

 あっ皆がどう動くか話し合っている。何名かが自由行動をしているが。

 

「物見さんはどうする?」

「お前達について行こう」

「わかった」

 

 残念ながら私は初見の相手に一対多を出来る程の戦闘技能は無い!

 そうして崖エリアに移動するうちに開始が宣言される。と同時に多数のボールが飛んでくる。

 

「てい」

 

 流石に拳銃でどうこう出来る数ではないので、素直に壁を設置する。うむ流石雄英高校の壁だ。どうってことないぜ!

 

「締まって行こう!!」

 

 幾ばくかの攻防の後、イケメンが何かしようとしている。果てさて何を……

 

「割る!」

 

 その一言と共に起こる大地震。ほうほう……そういう個性ね……ほーん。私に恥じないねー。ふむふむ。規模がかなり大きいな。

 

「…………………………はぁ」

 

 私の中で何かが切れた。そんな気がした。



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普段冷静な人が怒ると怖いよね

 デク視点だけど許して?主人公視点にするとヒーローとして駄目な事しか思ってないから!


 地面が崩れ去る浮遊感と、強い揺れによる三半規管へのダメージ。まさかこんな無茶な攻撃をするなんて……と思うが止める手段が無い。

 揺れが収まるのを待ち次にどうするかと頭を回す。恐らく周りは滅茶苦茶。皆とは散り散りになっているだろう。

 

(揺れが収まっ……た?)

 

 揺れが収まり1秒経っただろうかという時間。そこには安定した地面と、何が起こったのか分からずに驚いた表情の皆の顔。恐らく僕も皆と同じ表情をしているだろう。

 先程まで確かに割れて荒れていた地面は元通りの状態。目線を少し移すと冷や汗を垂らしている真堂くんの顔。

 

(こんな事出来る人なんて一人しか……!)

 

 地面を戻した張本人を探そうとした瞬間に鳴り響く3発の銃声。シン……と静まり返った場によく響くその音は、探そうとした張本人が空に向かって鳴らしていた。

 

(良かった無事だっ……たっ!?)

 

 その張本人、物見さんから発せられる確かな怒気。今までの彼女から見た事がないその雰囲気に気圧される。

 誰も何も言えない。全員が物見さんの怒気に圧されている。何をするのかと一挙手一投足を眺めている。

 

「おいクソ野郎」

 

 ようやく発した第一声は、今までの物見さんからは考えられない程に、冷たい声だった。

 そして僕たちは何もサインを出していないのに同時に顔を合わせている。皆同じことを考えているのだろう。

 

(滅茶苦茶怒ってる!?)

 

 僕は今まで物見さんの怒った姿を見た事がなかった。基本何をしても溜息か苦笑いで流している彼女が、何故か怒っていた。

 しかもただ怒っているだけじゃない……雰囲気で分かる。ガチギレだ。かっちゃんのキレ方とは明らかに違う。

 

(え?何で物見さんが!?仲間を傷つけられたから!?)

 

 物見さんそんなキャラだったけ!?と内心パニくっていると、物見さんが言葉を続ける。

 

「懺悔の用意は出来ているか?」

 

 そう言って銃口を真堂くんに向けている物見さん。その顔は見えないが恐らく笑っていないだろう。

 

(えっ!?ちょ物見さん!?かっちゃん以上に理不尽だよ!?せめて理由を言おう!?)

 

 何であんなに怒っているのか見当がつかずに焦っていると、どこかから声が聞こえる。

 

「あの物見さんの状態は……」

「知っているのかヤオモモ」

 

 物見さんと仲が良い芦戸さんと八百万さんだった。

 

「ええ。物見さんは本来「壊す」という行為が嫌いなんです。大嫌いです。それを今までコラテラルダメージだと言い聞かせていましたが」

「それが何で今頃になって!?」

 

 本当だよ!?

 

「それは彼が、彼女にとって嫌いになる……つまり怒る条件「分かってて・抑えず・ヒーロー志望が・個性で・無差別に」の5つを全部達成してしまったんです」

「え!?そんな条件あったの!?」

 

 その条件を聞いた瞬間、僕の中でも冷や汗が流れる。過去の僕に4つが当て嵌まってる!?抑えずじゃなくて抑えられずだけど!

 解説を聞きながら内心焦っていると、真堂くんがどうにか動こうとするが、物見さんの銃弾によって肩が大きく弾ける。

 

「被害無視の攻撃が貴様の必殺技か?」

「……」

「ヴィラン相手に使うつもりか?」

「そうだ」

「規模は違えど街中でも使うか?」

「……」

「どんだけ被害出ると思っていやがる」

「……」

「報告書クッソ面倒なんだぞ?書いた事あるか?マウントレディの事務員が何回報告書で泣いたと思ってる?」

「いや……知らな」

「はい論外」

 

 なんだろう……物凄い実感が籠っている言葉が並べられている。声は冷たいままだけど。

 

「プロ志望なら今後の事も考えろ」

「……」

「ヴィラン倒した後に地獄の報告書作成したいか?」

「……」

「被害金額で延々と赤字になるヒーロー人生送りたいか?」

「……」

「おいクソ野郎」

「……はい」

「プロ舐めんな」

「…………はい」

 

 やめて!?現実的な話を持ち込まないで!?ああ……話を聞いた受験生の目が……皆の目が虚ろな目をしてる!!主に遠慮なしに攻撃して来た人達が!!

 

「緑谷お前もだぞ」

「は、はい!」

 

 僕まで!?いやA組で一番被害出してるけど!!ごめんなさいぃ!!。

 ここら一帯に何とも言えない空気が漂っていた。真堂くんが何も言わずに手を上げている。

 

「無意味な抵抗はしない。ヒーローらしく潔く降参するよ」

「そうか来年また頑張れ」

 

 無抵抗の真堂くんに近づく物見さん。周りは誰も動かない、動けるわけがない。そしてボールを3つ持ち、各ポインターに当てる。

 そして暗い顔をした数名の受験者が近づき手を上げる。無抵抗の意志を示す。その行動の意を汲み取りボールを押し当てる。

 

『合格者数残り100名』

 

 物見さんの1次試験突破のアナウンスが入り、物見さんがその場を離脱する。

 あれが物見さんの……皆に認められたヒーローの言葉。本物のカリスマかぁ。

 

(って物見さん!?この場の空気どうするの!?)

 

 ……お通夜状態が去るのはもう少し先であった。




 これでいいのか本当に迷いながら投稿。駄目そうなら書き直します!


 被害がデカいプロの事務員を体験したからこそ、言える事ってあるよね。
 そこまで暴力に訴えない。平和主義者な主人公!

 初めはストレートに「死ね」って言わせる予定でしたけど、少しばかりの良心が邪魔をしてしまった。仕方ないよねハルトォォォォォォォォォォ!!


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春の名物:しょーもない理由で起こる爆破事件

 短いよ!


 真堂への個人的粛清も終わり、一次試験も突破して現在、合格者待機室である。

 銃のちょっとしたメンテナンスをしていると、第2の通過者が現れる。

 

「物見さんじゃないっスか!真っ先に突破するなんて流石!尊敬するっス!」

「夜嵐も早かったじゃないか。一次試験突破おめでとう」

「恐縮っス!」

 

 頭突きする程に深くお辞儀する夜嵐に笑ってしまう。元気な奴だ。中学の頃にこんな奴が居れば心操も楽しかっただろうな。

 

「物見さんのコスチュームカッコイイな!」

「ん?そうか。そいつはどーも。てかコスだけ見ると雄英よりも士傑寄りだな私は」

 

 私は自身のコスを見る。うむ白軍服である。ただ頭は帽子無しで白のカチューシャを付けているが。ゴーグルも首に掛けている。

 士傑寄りという言葉を聞いて嬉しそうな顔をする夜嵐。近づいて来るが何をするのやら。

 

「……」

「……」

 

 士傑高校の帽子を被せて来た。ポーチから鏡を取り出し、位置を調節して確認する。

 

「どーよ」

「似合ってるっス!物見さんが士傑とか熱い展開!!」

 

 うーむ……にしても帽子か。心操には……似合わんな。

 

「そういえばあの服はどうしたんすか?」

「あの服って……ああ、あれか。アレはぶっちゃけ成り行きで着ていただけで不本意だ」

 

 私=あの服の印象を覆さねば(使命感)

 その後は授業はどうかとか、そんな他愛ない話をしていると何名かの通過者が入って来る。

 

「流石士傑……もう2人も……」

「雄英0人か……」

 

 と、受験者達が呟き合っている。士傑が2人とはなんのこっちゃ。

 

「物見お前何やっている?」

「おう轟。来たか」

「いや、それよりその帽子は……」

「ん?って……ああ悪い悪い忘れてた」

 

 夜嵐から士傑の帽子を借りっぱなしだった。思いの外深く被っていた帽子を頭から取りほいっと返す。ああだから士傑がどうのと言っていたのか。

 

「って物見じゃねーか。いつの間に士傑に……」

「物見って再建の旗か?プロヒーローじゃねーか。なんだってこんな試験に」

 

 その2つ名浸透しすぎじゃない?あとプロ認定されているだけで、プロとしてまだ活動してないんだがな。

 

「……」

「……」

 

 そんな他所の会話を聞いている内に何やら険悪な空気になっている2名。雄英の推薦とかで因縁があるんだっけ。ま、どうでもいいか。

 

「……」

「……」

 

 ただ私を挟んでの険悪な空気は止めて頂きたい。居心地悪いったらありゃしない。てかどっちか退いて?飴ちゃんあげるから退いて?

 なんで轟は私の傍にいるの?特に関り無いよな?同じ学校のクラスメイト以外の接点皆無だよな?ええい!視線が突き刺さる!私銃のメンテで動けないんだけど!助けて!

 

「なあ物見」

「なんだ」

「お前試験中なにやらかした。一部分がお通夜状態だったが」

「遠慮なしに大地震起こしたバカを粛清しただけだ」

「……そうか」

 

 それ以上の会話は無い。気まずい……さっさとメンテ終わらせよ。あ、夜嵐が離れて別の奴等に絡んで行った。よかった。

 轟は離れる気は……無いですか。そうですか。てか興味深そうに銃のメンテを眺めていた。銃への興味とかそこらへんは男の性ってやつなのかね。分かるぞ。

 

 そんなこんなで続々と通過者が続き、101名全員が揃った。雄英は全員突破していた。

 雄英以外の面識の無い通過者は私の顔を見るなり「物見さんだ……」とか「あれが神野の……」とか噂していた。

 なお崖エリアの連中から非難轟々であった。あの後戦闘出来る雰囲気では無かったけど、他所から来た人たちが空気を読まずに攻撃して、戦闘再開したという。

 ……余は悪くないもん!

 

…………………………

…………………………

 

 

 二次試験の内容の発表の際に、モニターが現れて……

 

「爆破する必要……あるか?」

 

 試験場全体を爆破していた。なんでや!

 かなりうんざりした顔をしていただろう。そしてテロに巻き込まれた市民の救助を行えというのが二次試験の内容だった。

 

『物見さんは試験開始から15分間、その場から出ず又個性の使用を控えて下さい』

 

 名指しで活動を制限される。恐らく私の個性以外のレスキュー能力と、私が絡まない場合のレスキュー速度を見たいのだろう。

 

 そして控室が開いて二次試験が開始されるのであった。




 夜嵐と会話させようと思ったけど面倒になったの巻。

 誰も!ヒーロー名で!呼ばないのである!
 ヒーロー名の知名度皆無というか「再建の旗」がインパクト強すぎてヒーロー名と勘違いしている人も居るのだ!


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ギミックスルーはRTAの基本

 二次試験!途中から三人称視点になります。


 さて15分の留守番を言い渡された私は、早速現場に向かおうとする八百万を捕まえる。

 

「八百万。創って欲しい物がある」

「なんですか物見さん」

「なるべく広い白い布。この待合所を臨時の集合地点にするから、患者を汚い地面に寝かせる訳にもいかない」

「あっなるほど。承知しました」

 

 私が端的に欲しい物を言って創ってもらう。そして何名かの待機組に指示を出し八百万が出した布を広げてもらう。

 

「ありがとう八百万」

「お気になさらず。では私は行きますわ」

 

 八百万を見送り、私はポーチの緊急医療具を確認し待機する。

 その間に集合地点である事を示す白旗を、そこらにある、ひしゃげた標識に括りつけて貰う。

 そして試験開始数分後に患者が続々と運び込まれる。連れて来た受験生達に緊急順を聞き出し、待機組と共に応急措置に取り掛かる。

 

「いてぇよ……いてぇよ……」

「大丈夫です。ここは安全な場所ですから。それに私も居ます」

 

 泣きじゃくる子供役に、柔らかい声色で声を掛けながら治療を施す。

 意識の有無、呼吸と心拍数の測定、傷口や痣の個所の視認、出血の量の確認他、必要な要素を絞り込み処置を行う。

 

「治療終わりました。よく頑張りましたね。後は安静にしていてください。こんなに沢山のヒーローが居ますから、両親もすぐに見つかりますよ」

 

 舞台設定に合わせた台詞を言い、最後に少年役を抱きしめ「よしよし」と頭を撫でて安心させる。いつの間にか量産されている枕に頭を下ろし、次の患者に向かう。

 

「完璧すぎて逆に怖い」

 

 少年役の評価を背に受ける。伊達にガチの現場である保須と神野を経験してないからな。その時にプロからコツやら聞いてますよ。

 

「さて、次の患者はと……」

「モノミンさん包帯の予備を!」

「……あいよ」

 

 相変わらず私のヒーロー名呼ばれないなーと思いながらも、ポーチから包帯を貸し出す。

 

「ありがとうございます!」

「ああ」

 

 手短に返事を済ませ、持ち場に行かせる。黒髪に白軍服という事で目立つのか、備品補充の目印扱いである。次から赤十字の白衣でも用意するべきか?

 

「物見さん!」

「どうした」

 

 と、矢継早に声を掛けられる。それに淡々と対応している内にあっという間に15分が経過して、アナウンスが流れる。

 

『物見さん。15分経過しました。個性の使用と移動を許可します』

 

 お、来たか。とはいえ今は治療中。しばらく行けないな……

 

「物見さん。ここは引き継ぎますから行って下さい」

「ん。じゃあ頼む。症状は……」

 

 交代を言い渡されたので、症状を簡単に伝え処置をお願いする。

 

「さて、行きますかー」

「もぉぉぉのぉぉぉみぃぃぃさぁぁぁん!!」

「この声は夜嵐か。どうしたー?」

 

 風を纏いながらこちらに向かってくる夜嵐は、私の姿を確認すると着地。用件を言う。

 

「はい!物見さんの行動が解除され次第!現場に運んで来いと!」

「ん。頼む」

「おっス!」

 

 そうして私はスカートを抑えながらも、夜嵐の操る風に相乗りさせて貰う。

 私の行動時の欠点である機動力と視点の高さを補い、現場の状況を遠目に確認しながらも、個性で道路を補正し、走りやすい道を整える。

 いやー夜嵐マジ便利。移動がメッチャ楽だ。

 

「先輩から『旗を靡かせるには風が必要!』と言われたっス!」

 

 そんな事情を聞きながらも私は現場に向かうのだった。

 

 

……………………………………………………

……………………………………………………

 

 

 各地に存在するレスキューポイントの1つである市街地エリア。

 周りの建物の崩落の危険性が高く、下手に手を出せない状況での救助が続いた。

 各々が個性を持ち合い、助け合いながらも救助を続ける。

 

「この風は……!」

「来たか……!」

 

 突如吹く風に目を向けると、そこには夜嵐と強くスカートを抑える物見の姿があった。

 

「ただいま連れてきました!」

「ご苦労。その場に下ろすがよい」

「はいっス!」

 

 士傑のヒゲが指示を出し、物見は着地する。

 

「状況は?」

「今説明する」

 

 確認できている範囲で、救助の対処の難しい部分と、患者の場所を分かりやすく伝える。

 

「分かりました。夜嵐頼む!」

「はいっス!あと俺のヒーロー名は「レップウ」です!」

 

 夜嵐に体を持ち上げて貰い、指示された場所を視認し、個性を発動させていく。あれだけボロボロで救出困難だった建物は一瞬で元の形を取り戻す。

 

「俺たちの苦労って一体……」

「もう全部あいつらだけでいいんじゃないか?」

 

 この場の全員が物見と夜嵐を見て頷きそうになってしまう。先程までの苦労を、徒労に感じさせるほどあっさりと直って行く現場。最短での道のりも修復され走りやすい道路になっている。

 

「ほら救助に向かえ!向かえ!夜嵐、このまま工場エリアに行ってくれ」

「工場エリアっスね!」

 

 物見が到着して3分経過したかどうかの僅かな時間。その短時間で難所部分がクリアされる。圧倒的な救助効率差。それをヒシヒシと感じてしまう。

 

「いざ現場に出ると分かるな……物見のヤバさが」

「あの2つ名の意味がよく分かるわ。居るだけで違い過ぎる」

 

 工場エリアに飛び去って行く2人を眺めながら、手と足を動かして救助を行うのであった。

 

 

 そして数分後に集合地点の近くで爆発が起き、それに呼応する様に各所で爆発が起きるのであった。




 主人公には夜嵐が付属パーツとして最高に噛み合います。低い機動力を完全に補えます。
 主人公は今回は全部直していません。最低限の修復しかしません。体力的問題と行くべき現場が多いからです。




 書いててふと思った事がある。1話平均2100字ぐらいなのに、60話前で既に仮免試験終わりそうなのって結構ハイペースなのではと。


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轟?知るか馬鹿!そんな事よりレスキューだ!

 


 追加の爆破が起きて、騒然とする各エリア。ほぼ救助が完了していた市街地と工場エリアに居たヒーロー達は、手分けして他エリアと出現したヴィランへの対処に向かっていた。

 

「おーおー轟の個性はやっぱ目立つなー」

 

 全体確認の為に高い場所を飛んで貰っていた私は、現れる大氷塊にそんな声を上げていた。

 

「物見さん俺たちも向かいますか?」

「いや必要無いだろ。それよりレスキュー優先だ」

 

 既に2エリア分のヒーロー約30名程度が対処に当たっている。それに敵味方の乱戦となると、私達では逆に邪魔だろう。

 

「じゃ被害が大きそうな崖エリアへ頼む」

 

 夜嵐にお願いし飛んで貰う。本当に便利。サイドキックになってくんないかな。

 

「人が集まっている場所は……っと」

 

 対処の為にせわしなく動く人影に近づいて貰い、その中である人物を発見する。

 

「お、爆豪。お前は向こうに行かねーの?」

「うっせーロン毛。今はそれどころじゃねーだろ」

「おい爆豪!すまん物見。見ての通りだ」

「安心しろレスキューは私達が引き継ごう。爆豪の機動力なら今から行っても間に合うだろ。あ、切島は残れ。現状報告だ」

 

 人柄的に爆豪にレスキューは向いてない。機動力が無い切島は向かって間に合うか微妙。上鳴?切島と同理由だ。

 

「ほら爆豪だけでも行った行った。鬱憤晴らししてこい」

「……チッ!指図すんじゃねー」

 

 と、いいながらも、その場から爆破で飛び上がりヴィラン襲撃地点へ向かう。轟と爆豪が居ればどうにかなるだろ。轟はともかく爆豪は割と加減を知ってるし。

 

「さて、切島。状況の報告を」

「あ、ああ……」

 

 そうして切島から情報を受け取り危険地帯への対処へ向かおうとする。

 

「レップウ。個性はまだ持つか?」

「大丈夫っス!」

「って物見は夜嵐と組んでるのかよ」

「成り行きでな。ま、そんじゃ私達は行くわ。情報ありがとな切島」

「おう!気を付けろよな!夜嵐も!」

「はい!また結果発表で!」

 

 上鳴?知らない子ですね。夜嵐も大声で言葉を告げながらも飛び去る。そして切島の指定場所の状況を確認。

 かなり大きな崖崩れが起きているエリアを纏めて視認し、夜嵐に耳を塞ぐ様に指示。

 銃で上方向に2発発砲し、音で存在を知らせる。そしてもう1発撃ってから、個性を発動させる。風の影響で飛距離は伸びず撃った銃弾は落ちて行く。

 

「悪いなレップウ。音が響くだろ」

「問題ないっス!」

「なら良かった」

 

 崩れていたエリアから救援感謝のジェスチャーと、ここは大丈夫の意を示すサインが出る。

 

「さて、あとは水辺と森か……」

 

 どちらが近いかと考えを巡らせる。火事になっている森が優先か?と、今更な考えが浮かぶ。

 

「レップウ森へ!」

「はいっス!」

 

 そして大急ぎで向かっている途中で、ブザー音が鳴り響きその後にアナウンスが流れる。

 

『只今を持ちまして配置された全てのHUCが、危険区域より救助されました。まことに勝手ではございますが、これにて仮免試験全工程終了となります』

 

 ヴィラン乱入から10分経たずの放送であった。てか時間的に崖エリアで最後だったのか?

 集計の後に合否発表があるらしい。はてさて、どうなるかね。

 

「ヒーローレップウ。今回の協力感謝する」

「こちらこそ良い経験をさせて貰ったっス!光栄でした!」

 

 互いに感謝の言葉を述べ、そうして私達は指定された場所に戻るのであった。

 

…………………………

 

 さて、採点方法の発表やらがあり、合格者発表。A組はと言えばだ。

 

「爆豪お前……」

 

 爆豪だけ名前が無かった。ただ原因は明らかであるため、何とも言えなかった。上鳴が茶化している。そして結果が配られるが……

 

「む、98点……」

「え?モノミン満点じゃないの?」

「マジ?減点される要素あった?」

「むしろ物見さんが何で減点されたのかが気になりますわ」

 

 その2点の内訳というのがだ……

 

・象徴たるメイド服じゃない -1

・スカートであんだけ飛び回るのは如何なものか -1

 

 ……割と理不尽な理由であった。てかメイド服関係無いだろ。

 

「スカートは納得ですわ。あれだけはためかせていたら殿方は気になるでしょうし」

「中見られても問題無い厚手の白タイツなんだがな」

「でもスカートだしね。それに物見は美人さんだし!」

「おい全裸手袋の葉隠と、ジャケットオンリーの八百万が言えた義理じゃねーぞ」

 

 葉隠と八百万に言われるのだけはどうも納得いかない。私程露出少ないのも居ないだろ。

 

「ま、あんな飛び回る機会そうそうねーよ」

 

 メイド服への印象も、今回の仮免で薄れて欲しいものだが。

 

「そういえばモノミン」

「どうした芦戸」

「士傑の彼と随分仲良さそうにしてたね。服装も相まってお似合いだったよ!」

「確かに。あの互いに信頼している感じは凄かったな」

 

 切島が会った時の印象を述べる。

 

「彼とは初対面なんだよね?」

「初対面だし、一次試験通過者の控室で少し話した程度だ」

「おいおいオイラには冷たくするのに何であんな奴と!」

「いや峰田は自業自得だから」

「それでどうなんですの?」

「どうとは?」

 

 女子達の言いたい事は大体分かってしまう。

 

「彼は好印象でしたか?」

「ぶっちゃけ惚れた?」

 

 まあ恋愛に繋げたがるよな。

 

「むしろそういう下心が無いからこその、信頼関係だったと思っておけ」

 

 初見で見て来る男子の誰もが顔の確認の後に、胸やらスカート部分やら見て来るが、夜嵐はそれが無かった。

 それに敬意を払って接してくれる相手ならばそれに応えるぞ。

 

「それとだ……芦戸と他女子、その手の発言は私に対する侮辱だと思っておけ」

「うっ……ごめんなさい」

 

 おこである。

 

「物見」

「どうした?轟」

 

 何か微妙そうな雰囲気の轟。何かしたっけ?

 

「夜嵐はどんな奴だった」

「えーと?」

 

 轟からしてその手の話題じゃないという事は……うむ。

 

「あんな気が良い奴なかなかいねーわと思うな。正直あいつから嫌われる方法がヒーローである限り思いつかん」

「……そうか」

 

 それだけ言って立ち去る轟。何がしたかったのか。ま、私には関係無いか。

 

 そんな話をしている間に、仮免許取得時点での注意事項や、2次落ちた連中の復帰手段の連絡があり、お開きとなった。

 壊れた会場の復興?知らん。調子乗って爆薬マシマシにした運営側の自業自得だ。

 私は明日から忙しいのだ。




 仮免試験終わり。3エリア分のレスキューをさっさと済ませたため、他のヒーローが自由になり、早く終わりました。

 次から幕間です!誕生日やら何やら。色々書きます!


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幕間1 始業式?何それおいしいの?

 幕間はっじまるよー!インターン?知らんそんな事、俺の管轄外だ。
 ここから個性の1つの縛りが猛威を振るい始めます。

 感想欄の意見を見て少し展開を変えました。まあ結局メイド服着ますが……!


 仮免試験が終わり、寮に帰って来た私は何をしているかと言えば。

 

「荷物……大丈夫だよな」

 

 明日からの遠出の準備をしていた。前もって貰った依頼リストから行き先の確認と、行ける場所と行けない場所への連絡を済ませていた。

 電話やメールを使った最終連絡を済ませて一息つくと、ドアがノックされる。

 

「物見さん居ますか?」

「八百万か。開いてるぞ」

「失礼します……ってあら?」

 

 私の荷物を見て何をするのかと疑問符を浮かべた顔をする。

 

「どこかへお出かけですか?明日から学校が始まりますが」

「明日から学校休んでの仕事だ。三日程空ける。事前に許可は取ってある」

「そうでしたか。それにしても急ですね」

「本当は夏休みの間に行く予定だったんだがな……仮免試験で流れた」

 

 特例本免があるから受ける必要は無いのだが、どうせなら特例じゃない本免もあった方が良いのだ。いつまでも特例でって訳にもいかんし。

 

「じゃあ物見さんの誕生日会は先になりますわね」

「私が帰って来る日曜日でいいんじゃないか?」

「皆さんに連絡入れときます」

「悪いな」

 

 そういや誕生日を祝いたいって言ってたな。色々ありすぎて忘れてた。

 

「始業式に出てから行ってもいいのでは?」

「いやー無理そうだ。朝から行かないと回り切らないだろうしな」

「そんなに多いんですの?」

「今回だけで5県分50か所だ。オールマイト引退でヴィランが活発化しやがってな。これでも削った方だぞ?」

「まあそんなに……」

「中には文化遺産や観光名所が含まれるからな……行ける時に行っとかないとな」

「依頼された場所は全部直すのでは?」

 

 む、八百万は私の個性の縛りを知らかったか。

 

「全部は無理だ。体力的問題と、あとは日付だ」

「日付?」

「私の個性は30日以内という期限があってな……回れない所に日付が過ぎる場所もある」

「なるほど……」

 

 休み取り過ぎたら留年だしな。それに休んでいる間の授業も補習がある。

 

「帰って来たら提出する報告書やらがあるから、それも作らないといけないんだ」

 

 ぶっちゃけ私の本来の活動時間は一週間で土日使っての1日半だ。学業優先と言われているし仕方ないが。それに緊急時にも行かなければならない。

 

「困ってたら相談して下さいね」

「おーう。じゃあ私はそろそろ寝るわ。明日5時にはもう学校出るから」

「あっはい。お休みなさい物見さん」

「おやすみー」

 

…………………………

 

 翌朝、途中で派手な爆発音が聞こえて中々寝付けなかった為、微妙に眠いまま仕事に向かう事になる……メイド服で。

 学校から貰っているコスである白軍服は、その性能故に一張羅であるのだ。

 それが昨日の仮免試験で汚れやら煤やらが付いてしまい、返却して洗って貰わねばならなかった。汚い衣装のままで初仕事に行く訳にもいかないし。

 昨日の今日でクリーニングが終わらずに「仕方なし」とメイド服になってしまった。他にコスチュームになりそうな服が無いのだ。

 ちなみに今日の付き添いの先生は香山先生……ミッドナイトだ。

 

「目立つんだろうなぁ……でも他に依頼者に会いに行けるような服無いし……私服や制服は駄目ですよね」

「学生としてじゃなくて「プロヒーロー」として会いに行くんだもの。相応の身なりは必要よ?」

「ですよねー。メイド服ってプロヒーローとしてどうなんでしょうかね……」

「ある意味物見さんを象徴する服だわね。嫌だったら写真集でも出して別の服をアピールしてみる?」

「それもはやそういうお仕事でしょう……私なんかが写真集出しても売れない……とは言わんよなぁ」

「間違いなく売れると思うわよ」

 

 彼氏無し処女とかいう理想の上での売り上げなんだろうなぁ。

 

「彼氏……将来の伴侶持ちだって公言してやろうか……!」

「やめときなさい。炎上するわ」

 

 やっぱり女性って自由が利かない……不便な事この上ない。

 

「はぁ……ま、今更言っても仕方ないか」

「そうそう。切り替えが大事よ」

 

 そんな話をしている行きの新幹線の中の出来事であった。

 

…………………………

 

 さて、新幹線と車を乗り継ぎ最初の依頼場所に着き、依頼者に挨拶を交わす。

 

「どうも初めまして。ヒーロー2Rです。連絡通り来ました」

「おお……遠い所ご足労ありがとうございます。こちらこそ。今日はよろしく頼みますぞ。お疲れでしょうし立ち話も何でしょうし、中でおくつろぎを……」

 

 と、案の定くつろぐのを勧めてくるが、残念ながらそんな暇は無いのだ。

 

「すいません。ご厚意は感謝しますが、如何せん依頼が多く時間がございません……依頼場所へのご案内をお願いします」

「これは失礼した。こちらです」

 

 案内に従い修復場所へと赴く。最初は文化遺産に指定されているお寺である。メイド服の場違い感が凄い。

 

「現在人気のヒーローですからな。神野での活躍拝見しましたよ。いやはやお若いのに御立派ですな」

「いえいえ。私なんて若造もいい所です。周りの先輩方に迷惑かけないように必死でしたよ」

「そんなご謙遜を。これからも応援させて頂きますよ」

「ありがとうございます」

 

 この手の厚意にはしっかりと感謝を述べる。大事なことだ。

 

「さ、着きましたよ」

「あのお寺ですね。中の被害は無いとの事でしたが一応確認しても宜しいでしょうか」

「構いませんとも」

 

 そうして中も確認して、問題無い事を確認し、修復箇所を視認し個性を発動する。

 

「はい。終わりましたよ」

「……はっ!ありがとうございます。本当に一瞬なんですね」

「ふふっそうですね。これで大丈夫でしょう」

 

 一瞬で直るというのは知っていても、実際に見るとやはり驚く様である。それに少し頬を緩める様に微笑む。

 

「はい。大丈夫です。ありがとうございます。正確に直すのは骨が要りまして……いや本当に感謝しかありませんよ」

「仕事ですので気にしないでもいいですよ。では出ましょうか」

「ええ。そういば手土産があるので持って行って下さい。何も無しに帰すのは忍びないので、受け取って下さるとありがたいのですが」

「ご厚意感謝します」

 

 この手の土産は賄賂に入るのかが微妙だが、禁止されていないし、厚意を断るのもヒーローとして駄目だと思う。……あまりにも金目の物だったら断るが。

 そして戻り手土産のお茶菓子を頂き、見送られながら1件目が終わる。

 

 こんなのがあと49件も続くのか……なお、どこを訪れても手土産を渡されて荷物がかさんで困ったのはご愛嬌である。1県ごとに荷物を送りつけた。

 

………………………………

 

「依頼自体は早く終わるが、移動が多いのがなー」

「物見さんは特に行く場所が多いですもの」

 

 お昼ご飯時にそんな事を言う。さすがにお昼ぐらいはゆっくりしたい。

 依頼自体は挨拶含めて最短5分……引き留められ続けて30分かかった時は疲れた。

 

「声掛けられすぎるのもキツイ……サイン何枚書いたのか覚えてないぞ」

「有名税って事で諦めなさい」

 

 そう。雄英の時は気付かないが、依頼の所までたまに歩くのだが、まあ人だかりが出来るのなんの。中には会社から抜け出して社員分のサインを貰いに来る人まで居た。

 メイド服着た幼女が「ふくにさいんくださーい」と言って来たのは癒されたが。

 

「オールマイトが出かける時はペンが居るって聞いて用意して正解だった」

 

 先輩の忠告は素直に聞くに限る。一応平日でこれなのだ。休日になったらどうなるやら……

 

「やっぱこの服目立ちすぎる……!」

 

 と、一人自分で着て来たメイド服に愚痴を溢すのであった。




 敬語が怪しいが……間違ってたら指摘して下さると助かります。

 主人公は仕事で土日使うから実質休み無しです。日曜帰って来ても書類作らんといけないから休む暇無いです。
 1週間休むと30日の縛りの関係上、一体幾つの依頼が潰れるか……

 展開を変えましたー。


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幕間2 誕生日会の前に

 前の話、少し変えてあります。読まなくても大丈夫ですが一応。


 依頼をこなして帰る途中でヴィランと遭遇して、逮捕したりで時間が掛かったが予定から1時間遅れての学校への帰還を果たす。

 髪の状態は9割以上が白色であり、思った以上に疲れている。

 

「ただいまー」

「あっモノミンおかえりー!ニュ-ス見たよ!初仕事でヴィラン逮捕とかやるじゃん!」

「その話は後でな。他の奴等もな」

 

 今は荷物を置いて少し休憩したい。道中移動だらけでロクに休めてないのだ。

 

「物見」

「どうしましたか相澤先生」

「校長がお前に伝えたい事があるそうだ。休憩した後でいいから校長室に向かってくれ」

「分かりました」

 

 根津校長が……はて?何かあるのだろうか。

 返事だけをし私は女子寮の自室へ向かい。

 

「はあ……もう無理」

 

 荷物を床に放ってベッドに倒れ込む。折角の誕生日会だし心配させない様にと平然を演じているが、実際の疲れは想定以上であった。

 慣れない長距離移動の連続と群がるファンへの対応。本当のヴィランとの戦闘。そして依頼主への愛想良い挨拶。

 何もかもが未経験である。そんな気疲れが祟って、今にも意識が途切れそうである。

 

「ここで寝たら……多分起きれそうにないな……もう少し無理するか」

 

 疲れた体に鞭打って体を起こす。着ていた服を脱ぎ捨ててラフな格好でベッドに腰かける。

 

「書類も作らないといけないし……いつ寝れるんだか」

 

 溜息。下手に眠れない休憩というのも暇である。

 

「こんな時に趣味の1つでもあったら良かったんだが……」

 

 私自身、趣味らしい趣味は作れなかった。作ってしまったら、没頭したら金がかかる。そんな余裕は今まで無かったのだ。そのためか「欲しい物や趣味」と聞かれて返答に困った経験が多々ある。てか現在も困っている。

 誕生日会が今後もある事を考えると何かしらあった方が良いのだろう。

 

「今後したい事……か」

 

 正直、何をしたいのかが分からない。一応趣味を誘われた事はあるのだ。ただ全部断って、断って。無理だと思って。迷惑が掛かるからと何も出来ずに。

 

「麗日なら分かるかねぇ……この気持ち」

 

 自分と同じように苦労をしているであろう少女の顔を思い浮かべる。

 

「今は考えても仕方ない……か」

 

 そうして10分程思考を放棄し、ただボーっとしていた。

 

 思考を戻し一応制服に着替えて、相澤先生に校長室に向かう旨を伝えて私は寮から校舎へ向かう。

 

「失礼します」

 

 何回目か分からない校長室のドアをノックをし「どうぞ」と返って来たのを確認し、中に入る。

 そこには根津校長の他に2人の見覚えのある女性の姿。

 

「やあよく来たね。初仕事お疲れ様」

「あ……はい。ありがとうございます?そちらのお二人もお久しぶりです」

 

 見覚えのある2人。私に事務仕事を教えてくれたMt.レディの事務所に居た女性事務員さんである。

 

「こんにちは物見さん。お久しぶり」

「こんにちは。元気にしてた?」

「あっはい。お二人とも元気そうで何よりです。それで何故雄英に?」

 

 単刀直入に尋ねる。二人は顔を合わせて、そして根津校長を見る。

 

「それはボクから説明するよ」

 

 そして2人が居る理由を語ってくれる。

 

…………………………

 

「簡単な話さ。この2人を雄英に雇ったのさ。Mt.レディからも許可を得てね」

「いやー流石に天下の雄英だけあって条件良くてね」

「大人として断れないよ」

 

 Mt.レディも事情を説明したら快諾してくれた。物見くんは何故今?という目をしていた。

 

「この2人は雄英高校が雇った、君専属の事務員さ。今まで手続きに時間が掛かってギリギリになってしまったけどね」

 

 そう。この2人は物見くんの為に雇ったのだ。恐らく君は1人で事務仕事もこなそうとする事は目に見えていたからね。

 物見くんは自分なんかの為にと言っているが、やはりと思ってしまう。

 

「お金の事なら心配いらないよ。なんせ雄英が雇った事になっているからね!君に負担は無いさ!それにだ……元々君が浮かせたお金だ。君の為に使っても誰も何も言わないさ」

 

 入学して3ヶ月で億単位のお金を軽減するのだ。事務員2人程度、君の活躍の前では大した金額ではないんだ。むしろ全然足りない。

 「悪いですし」と引き下がろうとする物見くん。やはり……なんだね。

 

「物見くん。君は自分の事は1人でこなそうとするね。それは悪い事じゃないよ」

 

 そう悪い事では無い。立派な事だ。丸投げする者よりも遥かに良い。

 でもね。分かるよ。大変だろう?こんなナリでも分かるよ。

 

「ここをどこだと思っているんだい?雄英だ。ヒーロ-の名門校だ。だから人気ヒーローの忙しさを、大変さをどこよりも理解している。事務の件もそうさ。君も書類に追われる日々になるだろう」

 

 職場体験で事務の経験をしているのは聞いている。だから大変さも理解しているだろう。だからこそ……

 

「君はもっと大人を頼るべきだ……いや違うな」

 

 頼るという言葉はこの子の場合は少し不適切だ。ならば大人として言ってあげなければね。

 

「君はもっと大人に『甘える』べきだ」

 

 目を見開く物見くん。頼ってと言われる事はあるだろう。頼りにする事はあっただろう。だが甘えはしなかった。最終的に自分で出来る様に努力する。それは良い事さ。

 君自身。今まで大人に甘える事は無かっただろう。それはそうだ。大人が君に甘えたからね。君の強さに甘えてしまっていたからね。

 

「君はもっとワガママでいいんだ。君はまだ子供なんだ」

 

 次世代を象徴するプロヒーローだと持て囃されようと、凄い活躍をしようと、それは変わらない。他の人と変わらない事実。君は生徒で、女の子で、まだ子供だ。

 

「今まで君に甘えていた。だから今度は私達が……大人が返す番だ」

 

 君の過去は聞いているよ。借金を持つ両親に苦労したんだろう?聡明な君の事だ。

 迷惑を掛けまいと頑張っただろう。

 ワガママ一つ言わなかっただろう。

 良い子で居ようとした。

 いつ両親が消えてもおかしくない状況だ。怖かっただろう。

 甘えてしまって潰れる事を恐れただろう。

 今まで沢山頑張っただろう。

 そろそろ報われてもいいんだ。これから更に大変になる君だから尚更。

 

「これは僕たちのプレゼントさ。受け取って貰えると嬉しいよ」

 

 報酬ではなくプレゼント。一方的な善意。

 

「そうそう。面倒な事は大人に丸投げしちゃいなって。今から誕生日会やるんでしょ?後先考えずに楽しみなって!」

「物見さん。一生懸命な貴女だから、私達は雇用を受けたんです。助けたいと思ったから受けたんだよ。だから今は甘えられてて下さいね?」

「わざわざ2人を雇ったのは、君を良く知っているからだ。気心知れた人の方が良いだろう?」

 

 突然の事に戸惑うだろう。ごめんよ。でも、君はこうでもしないと無理をしてしまう。だから先手を打たせて貰った。壊れてからでは遅いから。

 

「勿論、要らないと思ったら言ってくれたまえ」

 

 意地悪な言い方になっている自覚はあるさ。要らないと言えなのは分かっている。

 今の君自身一番必要な物だ。だが自分からでは絶対に言い出せない物でもあるだろう。

 

「他にして欲しい事があるなら言ってくれたまえ。大人として全力で応えようではないか」

 

 そう例えばだ。

 

「君の学校でのコスチュームである白軍服。あれを2つ3つと作って君の公式のコスチュームにする事も出来る。他の服が良いならそれでも良い」

 

 雄英ならそれが出来るのだ。かつてしてしまった……押し付けた失敗を挽回しようではないか。

 

「君が望むならそれを叶えよう。可愛い子供のワガママに応えよう」

 

 だから

 

「甘えてくれたまえ。大人が何よりそれを望んでいるから」

 

 難しい顔をする物見くん。急に甘えろなんて言われても無理か。今までしなかった事だもん……「では」……おや?

 

「何だい?」

「1ついいですか?」

「言ってごらん?」

 

 毅然とした態度でお願いする物見くん。ふむ一体何を頼むのかな?

 

「私と……心操のお付き合いを学校側が認めて下さい。交友にも……その……配慮していだけると……嬉しいです。私にとって彼は……生きる意味……ですから」

 

 それってつまり、そう言う事だよね?堂々ととんでもない事を言うね君は。それに重いよ。他の人なら微妙な顔をしていただろうね。厳しい者なら認めないだろう。

 だが皆まで言うまい。彼女も年頃の女の子だ。そういう経験もこの年なら隠れてしていると聞いているさ。

 何より生きる意味とまで言っている。彼女の精神面で一番必要なのだろう。引き離すと何をするやら……

 

「分かった。君と彼の付き合いと交友には配慮し、学校側も目を瞑ろう。ただダメな事もあるのは分かるね?」

「はい。そこは大丈夫です。私にはまだ早いですし」

「分かっているならいいさ。それが君の望む事なら応援するさ」

「はい。あ、お2人とも。今日からよろしくお願いします」

「よろしくね。物見さん」

「よろしく物見さん!」

 

 こうして彼女たちの顔合わせが無事終わった。




 うむ……皆まで言うな。学校側もちゃんと考えているんやで?回です。


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幕間3 誕生日会!

 各人プレゼントを渡すか、クラスメイトで選んで1つを渡すかを悩みました。


 書類の心配やらが無くなり少なからず安心している私。さて、寮に戻りますかね。

 

(本当に感謝してますよ。根津校長)

 

 あそこは素直に甘えるのが正解だろう。変に畏まったら逆に失礼だ。だからこそついでに1つお願いをしたのだ。私にとっては死活問題だったし。

 

(にしても「甘えるべき」ねぇ……)

 

 難しい……が、まあ適度に甘えていこう。それが大人の望む事ならば。

 

 それはさておきだ。寮に戻ると先に八百万からプレゼントがあると、八百万の部屋に女子達から押し込まれた。そこにはおめかしした赤色のドレスを着る八百万の姿があった。

 そしてその横のマネキンには、八百万が着ているのと同じタイプの青……いや紺色か?の豪華なドレス……パーティドレスがあった。

 セレブが着ている様な、大きく肩が露出したパーティドレス、え?あれ着るの?私が?

 

「えっと……それが八百万からのプレゼント……って事でいいんだよな?」

「はい。これに加えて他の服がもう1着ございますが、一先ずはコレをと思って」

 

 そのもう1着が気になるが。と、考えていたら八百万が服を脱がしにかかる。

 

「いや、自分で脱ぐからな?大丈夫だぞ」

 

 あ、少し残念そうな顔。普通脱がされたくないぞ?どうしても着せたいのだろう。素直に受け取りますよっと。

 

「てかこれブラを取るよな?流石に直接着るって事は無いよな?」

 

 あ、ちゃんと肩紐無しの奴もあるようでした。面積小さいけど、見えたらダメなのは理解している。渡されたそれを着けて。うーむ、胸の安定感が不安である。

 

「では、こちらを……」

 

 マネキンから外して、手慣れた手つきで私に着せていく。紺色のパーティドレスはやはりというか、私の体にフィットする様に作られて、腰回りや尻、胸の形もはっきり見える。オーダーメイドなのだろうか着心地は抜群である。高いだろうなぁ……これ。あと肩がスースーして落ち着かない。

 着せている途中の八百万は上機嫌なのか鼻歌混じりであった。

 

「髪、触りますね」

 

 そう言って髪型を整えていく八百万。櫛を駆使し、髪を丁寧に梳かして、形を付けていき、グルグルと左右の後ろ髪の一部それぞれ、一対の三つ編みにし、三つ編み同士を結っていく。綺麗な紺色の髪留めで留められた髪を、八百万が用意した後ろ用の鏡越しに確認する。

 

「この髪型は?」

「ハーフアップと呼ばれる物ですわ」

「ほーん」

 

 ついでに前髪ともみあげ部分も整えていく八百万。楽しそうですね。私には他の人の髪をいじるなんて出来ない。あ、もみあげ部分にカール用のヘアアイロンが掛けられている。

 

「おお……カールなんて初めてだ。ふわっとするもんだな。でも私にこのふわっと感はどうなんだ?」

「似合ってますわよ。白色だと柔らかい印象を受けますし」

「黒色だったら?」

「素直にストレートですね」

 

 そういうもんらしい。私にはわからん。

 

「さて髪型はこれくらいで、物見さんはお化粧したことは?」

「ある様に見えるか?」

「ですよね」

 

 女に生まれてこの方、化粧なんぞしたことない。母はやっていたが、無理には誘ってこなかった。

 

「では、失礼しますわ……」

 

 そうして人生初の化粧を施された。とは言え厚化粧って感じでも無く、それぞれの顔のパーツの存在感を少し浮き出させる、そんな感じの化粧である。まあ八百万がやったのだ。大丈夫なのだろう。

 

「流石、素材がよかったです。でも少し疲れが出ている顔でしたので、隠しました。少し大人っぽい感じを出してみました。とは言え物見さんは既に大人っぽいのですが」

「むしろ私の顔で可愛目は無理だろ」

 

 前に聞いた女子達からの私の顔の総評は「無駄にイケメン」である。うむ。中学上がってから「かわいい」と言われる事は皆無なだけある。

 

「それで……ハイヒールかぁ」

 

 女子の中では高い方の身長が更に高くなる。歩き辛い。何とか転ばずにいるのは普段の訓練の賜物かねぇ。

 八百万が隣に立って一緒に鏡に映る。黒と白、赤と紺で対になっている。スタイルも似たようなものである。身長は……私の方が高いか。

 過多な装飾品も無い。変に気取らずありのままで。って感じか。

 

「完璧ですわ!」

 

 八百万が満足そうでなによりである。そうして私の手を取り、リビングへ誘おうとする。

 

「行きますわよ?直さん?」

「……素直にエスコートされますよっと……百」

「……」

「……」

 

 名前呼びって調子狂うなー。何故このタイミングで変えたんだか。合わせてあげるけどさ。てか八百万さんや。固まるなー。と思ったらめっちゃ嬉しそうな笑顔。

 階段に気を付けながら降り立つ一階。角を曲がればすぐそこは共同スペースである。

 そして入った瞬間に、一斉にクラッカーの音が鳴り響く。

 

『物見さん!お誕生日とプロ就任おめでとう!』

「直さん。お誕生日おめでとうございますわ」

 

 誕生日から1日過ぎているというのは気にしてはいけないのだろう。声を合わせて告げられる。何人か先生の姿もある。

 

「ありがとう。皆」

 

 送られてくる拍手。そしてテンション高く芦戸と葉隠が駆け寄って来る。

 

「おー!モノミンめっちゃ綺麗!ドレスも似合ってる!」

「綺麗だよー!物見さん!八百万さんも!2人でいると絵になるね!」

「ん……ありがと」

「モノミン照れてるー!」

 

 芦戸と葉隠を皮切りに周りの人も「似合ってる」と言って来る。峰田が肩出しエロい!と言っていたが相澤先生から睨まれて大人しくなった。

 そして会の挨拶として先生方の代表なのか13号が花束を持って来る。

 

「物見さん。お誕生日おめでとう。それとプロの就任も。これから大変になるだろうけど頑張ってくださいね」

「はい。ありがとうございます」

 

 13号から花束を受け取り、頭を撫でて来る。そして先生方の拍手。ありがとうございます。

 

「次は私からですわね」

 

 生徒代表は八百万の様だ。てっきりクラス代表の飯田かとも思ったんだが。ちなみに心操はこの場にはいない。ま、完全にアウェーだわな。

 

「直さん。お誕生日とプロ就任。おめでとうございます。色々言いたい事があるのですが……これからも良き友達で居て下さいね」

「勿論だ。ありがとう百。皆もありがとうな」

 

 いつの間にか取り出した花束を渡される。そして沸き起こクラスメイトからの拍手。どーもど-も。

 で、次は何をすればいいのやら。

 

「あ、物見さん。これ飲み物。花束はちょっと退けるわね」

 

 お疲れのはずのミッドナイトが、花束を預かり、代わりに飲み物のグラスを手渡す。中身は……見た目的にシャンパンか?

 見渡すと皆グラスを手に持っている。

 

「じゃあ物見さん。いっちょ音頭、お願いね?」

「はい」

 

 渡されたグラスを高く掲げる。

 

「今日は私のためにありがとうございます。こんな誕生日は初めてで嬉しい限りです!では乾杯!」

『乾杯!』

 

 短い音頭と皆の声。各々グラスを鳴らし合う。今までと違って賑やかな誕生日。グラスの飲み物を一気に飲み干す。

 

「物見さん。お誕生日おめでとう。これ私達、教師からの誕生日プレゼントよ」

 

 ミッドナイトが手渡すのは、大きさそこそこだが軽めのノートパソコン。……え?マジですか?

 

「ありがとうございます。これ設定の方は?」

「物見さんパソコン使った事ないと思って、こっちで設定しといたわ。すぐに使えるわよ」

「いやー……まあ使った事あんま無いですけど。ありがとうございます。大切に使わせて貰います」

「物見さんなら大切に使ってくれるって分かってるから」

 

 パソコン、後で設置してね?と花束の横に置かれる。そしてだ。

 

「じゃ、邪魔な大人たちは退却しますか!後は子供達だけで楽しみなさい」

「俺は監視で残るけどな。ま、ホドホドにしておけ」

 

 相澤先生以外の先生方がそそくさと出ていく。わざわざ集まってくれたのね。重ね重ねありがとうございます。

 

「じゃ次は俺からだな」

 

 今度は飯田からか。渡す役は別々にしている様だ。

 

「物見くん。お誕生日とプロ就任おめでとう!君の様な級友に恵まれて誇り高い限りだ。これはクラスの皆で選んだものだ!受け取ってくれ」

「ああ。ありがとう。皆もありがとな。嬉しいよ」

 

 包装されたプレゼントを受け取る。ふむ……軽い……か?

 

「開けてみてもいいか?」

「勿論だとも!」

 

 包みを外し、箱が見える。手の平より大きいか。どれどれ……?

 

「……眼鏡?」

 

 縁なしでフレーム部分が黒色で統一されている眼鏡であった。ケーツも付いている。

 

「これからパソコンを使う君の目の保護をと思ってね!クラスで相談して何が良いかと選んで、多数決の結果、これになったんだ!」

 

 多数決で……他の候補が気になる所だが……気にしたら負けだろう。

 

「ん。私の事を考えてのプレゼントなんだな。ありがとう。皆もありがとう」

 

 折角だし掛けて見るか。ふむ。フレームの素材が軽いのか耳に負担が無い。視界もクリアだ。多分飯田が妥協せずに選んだんだろう。

 

「どーよ?」

「似合ってる」

「キャラ被りだー!」

「知的な感じがしますわね!」

「知的というか物見さん実際頭良いしね」

「だな」

「スーツを着れば仕事できる秘書っぽく見えるな」

「でも正直今着ているドレスとは合わないわね」

「あ、梅雨ちゃんそれ言っちゃうんだ」

「梅雨ちゃんは嘘つけないからね」

 

 蛙吹の一言で、私は眼鏡をはずし、ケースに収めて。

 

「大事に使わせて貰う」

 

 そう言ってノートパソコンの上に置かせて貰った。

 

 その後は、作ってくれた料理を飲めや食えやで大盛り上がり。砂籐が作ったイチゴのショートケーキも堪能させて貰った。残念ながら私はデザートの類は作れないと言ったら意外そうな声を上げられた。

 私の部屋にある八百万の荷物の1つであるティーセットを使い、美味しい紅茶もご馳走になった。どや顔の八百万が微笑ましかった。

 

 そしてしばらくの時間の後、私は1つのメールを受けて、席を立たせて貰った。




 ハーフアップってなんぞや?という方。SAOのアスナの髪型と思って下さい。

 ちなみに個別のプレゼントとなると以下の様になります。

 八百万→変わらず。服2着
 芦戸・葉隠・麗日→お金を出し合って私服2着、下着2着
 蛙吹→化粧水セット
 耳郎→音楽プレイヤーとヘッドホン

 緑谷→13号のフィギアとポスター
 峰田→Mt.レディのフィギア
 飯田→眼鏡
 切島・上鳴・瀬呂・爆豪・常闇→金を出し合って筋トレ用の道具
 轟→蕎麦
 口田→ふかふかの動物ぬいぐるみ
 青山→オリーブオイルとチーズ
 尾白→目薬
 障子→アロマキャンドル
 砂藤→ケーキ各種


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幕間4 ロマンチックなんてなかった

 感想返信は一週間後にします!先にお話を投稿します。あと短いです!


 私はメールの差出人……まあ心操なんだが。それがA組寮の前に居るので会いに行った。気になった人が数人開けっ放しのドアから見守っている。

 

「おーす心操。どーよ?この服?」

 

 どや顔の私に対して心操は苦笑いを返す。そこに照れは無い。

 

「似合ってるじゃないか。綺麗だ。うん。誕生日おめでとう」

「そいつはどーも。賑やかな誕生日になったよ」

「プレゼントは貰ったのか?」

「ああ、貰ったぞ。それで?心操は?」

 

 短い会話を重ねてさっさと本題に切り出す。

 

「俺のはまた後日だ。C組のやつもな」

「ん。そうか」

「なあ物見、この誕生日会は楽しかったか?」

「楽しかったよ。勿論だ」

「そうか……物見」

 

 ちょいちょいと手招きされる。流石に心操は分かってるか。

 近づいた私は心操に全体重を預ける様に抱きしめる。心操も私が落ちない様にとしっかりと支える。

 後ろから黄色い声が飛び交っているが、私の耳には届かない。

 

「まだ……他の奴には無理か?」

「ああ……流石に……な」

「そうか……じゃあ、もう休め。説明はしておく」

「悪いな……任……せ…………………………」

 

 私は心操に全てを委ねて……意識を手放した。

 

……………………………………………………

……………………………………………………

 

 

 相変わらず無茶する奴だ……こいつは。仕方ない事なんだが。

 俺に全部を任せて、規則正しい呼吸をする物見。寝た瞬間には残っていた黒髪が全て白色に変わっている。

 

「え?モノミン?どうしたの!?」

「直さん!?」

「心操、状況は?」

 

 物見の事態にいち早く反応したのは3名。うち一人は俺を鍛えてくれている相澤先生。てか物見、担任にすら話していなかったのか。

 

「見ての通り、体力切れです。元々無理して起きてたみたいで」

「え!?嘘!モノミン何も言ってなかったよ!?」

「確かに疲れを見せていましたが……無理という感じでは……」

「物見はそういう奴なんだ」

 

 他者の前では倒れそうな素振りすら見せなかっただろう。他者の前で倒れる事を誰よりも恐れるのだから。それにコイツは無駄に空気を読んでいる。他者が楽しそうにしている空間を壊さない。

 

「体力が尽きたら、大体半日は気を失う。目が覚めたら丸一日動けない。その間は本当に無防備。だから絶対に何もしないと思える相手の前じゃないと休めない」

「絶対に何もしない……か。そこに心操。お前も含まれている訳か」

「というよりも、俺が知る限りじゃ、俺と物見の両親だけですよ。A組で、倒れない……無理をするって事はそういう事です」

 

 大雑把でパサパサしていて大抵の事は受け流す性格だが、物見の実際の内面は凄くデリケートだ。それを悟られない様に演じるのが巧い。

 

「それで心操が来たから安心して寝たって訳か」

「どんだけ信頼されてるんだ……」

「てか本当に他に居ないのか?」

 

 首を横に振る。少なくとも中学の間には居なかった。

 

「それで心操。結局倒れた物見はどう対応すればいい?」

 

 相澤先生が尋ねて来る。少し考えて、対応は1つ2つでは済まないと思い、A組寮に上がらせて貰い、要点をまとめたメモを書く。

 なお、物見は、女子達に頼み部屋に運び楽な格好に着替えさせてベッドに寝かせられた。

 

「倒れた物見は世話というよりも介護に近い」

「介護……?」

「自力で立てない時点で察して下さい」

「あ、ああ……分かった。対応は女性に頼むか」

「俺が立ち会えるならそれが一番、物見にとって安心なんですがね」

 

 難色を示す相澤先生。男女2人を……と考えているのか。それ以前に物見が眠るのは女子寮だ。恋人持ちとはいえ他の女子達が良い顔をしないだろう。

 

「女子でも人選気を付けてください。いえ女子だからこそ気を付けて下さい」

「それはどういう……?」

「コレ見れば分かると思います」

 

 そう言って要点を纏めた紙を相澤先生に見せる。

 

…………………………

 

 物見介護要点メモ

 

・起きるのは倒れてから半日後。そのあとは起きて腕をどうにか動かせる程度の力しかない。

・携帯を枕元に。腕は動かせるからコ-ルがかかる。……俺に。

・起きたのを確認したら、トイレに叩き込む(生理用品も一緒に渡しておけば二度手間無し)。30分は我慢は出来るがそれ以上は無理

・もし漏らしていたら何も言わずに対処。本人は死にそうな顔をしている

・トイレは大体2、3時間おき

・トイレから出させたら、飯をあげる(うどんや粥などの軽い物)。あとは飲み物をお盆にでも乗せておく

・あとは物見の指示に従っておけばOK。無理に構うと寝れない

・眠りについたら起こさない。大体3時間は寝てる

・ずっと一人で診るのなら暇つぶし道具を持って行く事を推奨

 

最重要!・起きている時に許可なく体に触るのは絶対にNG。トラウマあり

 

…………………………

 

 

「…………………………なるほどな」

 

 無理に構いすぎる連中には無理だ。スキンシップとしてノリで体を触ろうものなら、どんだけ好かれていようが好感度が最下層まで下がる。

 

「これなら……適役は蛙吹か」

「それ以前に明日は授業です」

「……時間がある女性教員に話をつけておく。心操メモ感謝する」

「お役に立てて何よりです」

「てか、お前はこれを3年間ずっとしていたのか」

「頼まれましたから。ご両親と、何よりアイツ自身に」

「そうか……ま、次からは俺たちも力になる」

 

 お願いしますよ相澤先生。




 物見介護検定1級資格持ちの心操でした。ちなみに生理周期まで完全に把握してるガチっぷりです。主人公本人が教えましたから。


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トラウマって?

 ああ!


「知ってる天井だ」

 

 心操に色々丸投げした記憶はある私は寮のベッドの上で目覚めた。服もドレスからTシャツと短パンに変わっている。感覚的にノーブラか?

 

「てか今何時だ……携帯……携帯」

 

 首を動かして携帯を探していると、鍵が開く音の後に部屋の扉が開く。そちらに目を向けると、この前からお世話になっているミッドナイト……香山先生の姿が。

 

「おはよう物見さん。意識あるかしら?」

「おはようございます香山先生。今何時か分かりますか?」

「今は朝7時よ。にしてもピッタリ半日寝てるのね」

「あ、心操から聞いてましたか」

 

 しっかり説明してくれてたみたいだ。

 

「物見さん。トイレは大丈夫かしら?」

「あー連れてってください」

「わかった。じゃあ持ち上げるわよ」

「お願いします」

 

 私の生理用品が入っている白色の小物入れと共に、トイレに連れて行って貰う。そこまで説明してるのね……。

 そしてトイレもすまして、手を洗い再度ベッドまで運んでもらう。手間ですよね。

 

「じゃあご飯貰ってくるから、ゆっくりしてて」

「はい。ありがとうございます」

 

 この状態だとどう足掻いても足腰が動かんからなぁ。感謝です。

 

「あ、直さん。起きていらしたのですね」

「おー八百……百か。今起きてトイレまで連れてって貰ったよ。そんで朝食取りにいって貰ってる」

「そうですか。動けそうですか?」

「無理。てか昨日はすまん。びっくりしただろ」

「訳は聞いていますから安心を」

 

 なら良かった。と思ったら八百万は微妙な顔。

 

「昨日、疲れてたなら疲れたと言って下されば」

「いやー流石に私にあの空気を壊す度胸はないから」

「それとトラウマがあるとお聞きしました。体を触れられるのが嫌と。一体どんな……」

 

 あートラウマある事まで言ったのか。でもどんな物かは言ってないと。

 

「んー……あー……」

「悩んでますの?」

「正直言いたくない。でも聞きたいなら……まぁ」

 

 一言で言える内容なのだが……。

 

「そんな嫌な顔されて、無理して聞こうとは思いませんわ」

「助かる……でも誰かに言わないと伝わらんしな」

 

 心操に聞いて?とは言えない内容だし。やっぱり私が言うか……これ聞いて無遠慮に触ろうとはしないと思うし。

 

「まあ簡単に言えば……同級生の女子に動けない状態で15時間近く犯された」

「なっ……!?犯されって……そういう事……ですわよね?」

「想像通りだ。最初は軽いスキンシップ程度だったんだがな……段々とエスカレートしていって……」

 

 女子の体って無理矢理に何回でもそういう事が出来てしまう。しかも相手が女子なだけに性質が悪い。こっちがキツイポイント知ってる上に、そこを重点的に狙ってきやがる。私の体だけをな。

 

「こっちは体力0の状態だぞ?腕力ですら一切の抵抗も出来ずに……何回も何回も……地獄だったよ。もう快楽もクソも無い。ただただ苦しいだけ。眠る事も許さない緩急つけた強制行為」

 

 その行為の途中でトイレも出来ずに何回も布団を濡らして……脱水症状で死にかけた上に、女性の尊厳ほとんど奪われた。処女が残ったのが唯一の救いか?いや救いでもなんでもねーわ。

 

「元々体がこれ以上疲れない様にするためのセーフティ状態なのに、更に疲れが加速して……丸二日気絶してたそうだ。気が付いたら病院のベッドの上」

「……」

 

 八百万の悲しそうな顔。まあそうだよな。

 

「そんな行為の後だから、誰かに体が触られるのが恐怖以外の何物でもなくてな……反動で腕どころか指一本も動かせない状態の5日間。いつ犯されるのかと気が気じゃなかったよ。何もかもが怖かった」

「……」

「看護師の触診すら駄目だった。無意識のうちに涙を流してさ……「やめて。触らないで」って呟いてたそうだ。本当に無意識」

 

 八百万が泣きそうな顔をしている。私の体も小さく震えている。あの時の事を思い出すとどうしてもな。

 

「まあそんな訳で、この状態で無許可で体を触られるのが嫌なんだ。いつエスカレートするか分かったもんじゃないから」

「そう……だったんですね……納得致しました」

「あ、あと出来れば八百万達……A組女子にもあんまり触って欲しくない」

「な……なんでですか!?」

「身に覚え無いか?」

「はい」

「……体育祭」

「?」

「……チアコス」

「あっ……」

「……無理矢理」

 

 顔を逸らす。許すとは言ったけど忘れるとは一言も言ってないぞ。

 

「悪いけど私のお前らへの、この手の信頼0だからな?いつエスカレートするかわかったもんじゃねーよ」

「うぅ……ごめんなさい」

 

 残念ながら今更遅い。そして私がA組で倒れたがらない理由も分かっただろう。要するに信頼度不足だ。

 

「今後の行動で示してくれ。とは言え私もそうそう倒れない様注意するけどな」

「うう……精進しますわ」

 

 ちなみに心操にはこの状態でも無許可で体触るのは大丈夫だったりする。てかこのトラウマ状態を抑えてくれたの心操だし。洗脳で震えを抑えて、体を委ねて何回も何十回も大丈夫って言ってくれて。

 

「ま、触ったらどうなるかは覚悟しておけ」

「……分かりましたわ。皆さんにも伝えておきます」

「頼む。流石に私もこの話何回もするのは精神的にキツイ」

 

 そうして香山先生が朝食を持って来て、八百万が退散。同じ話を香山先生にも行い、理解を示してくれた。

 なおその後に無理すんなと少し怒られた。いやヴィラン退治さえなければ持つ体力残してたんですよ?多分。




 ちなみにこのトラウマ。中学入って心操以外の同級生のお世話の最初の1回目に起きてます。そのせいで余計にトラウマです。てか心操居なかったら完全に人間不信になってますね。


本場では無かった、認められた人以外が無許可で身体触ったらどうなって行くか

手を触る→身体が硬直。やめろと少し強気に言って睨む
手から動かして腕を触る→必死に腕を動かし振り解こうとする
肩付近や性感帯以外の部位→身体が完全に硬直。不安な顔と共に泣き出す
胸を触られる→泣き叫ぶ。嫌だやめてと首を振る
秘所を触る→恐怖に支配されてヒステリックを起こした後に気絶


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死に設定って思わぬ所で出て来るよね

 注意!この過去は作成当初は無かった完全な後付けです!体育祭で終わる予定の作品だったからね!是非も無いよネ!矛盾も沢山あるよ!

 この主人公、忘れがちですが一応TSしてますから!転生者ですから!死に設定ですけど!


 次の日になり、個性は使えないが体が動く様になって、私は各所にお礼を言いに行ったり、緑谷と爆豪の私闘の話を聞き少し怒ったり、放課後に休んでた授業の補習を受けたりとしていて、あっという間に夜になった。

 

「んで?確か私の昔話を聞きたいって事だったか」

「出来る限りで構いませんので是非」

 

 決闘があっさり終わった代わりにとそんな約束していた。それを今後の接し方の参考にしたいからだと。

 

「で、芦戸達も居るのは何故だ」

「モノミンあんまり自分の事語らないから、折角だし知りたいなと思って」

 

 八百万の部屋のバカデカいベッドにパジャマパーティー的な感じで集まって来たA組女子達。皆、芦戸の言葉にうなずいている。

 

「ま、いいけどな」

「楽しみやね」

「そうね」

 

 麗日と耳郎もやけに乗り気だ。けど私の過去なんて聞いても楽しくないぞ。

 

「じゃ、まずは根本的な事を1つだけ」

 

 これを言わんとな。ただほぼ忘れてる前世うんぬんでは無く、今生的な見方をした時の言い方だ。

 

「私はそもそもの思考回路……というか心が女性ではなく男性的だ。ぶっちゃけて言えば性同一性障害。まあ診断してないが」

「…………」

 

 皆ノーリアクション。何も言えない雰囲気だ。何故だ。

 

「ちなみにもうそんな深刻じゃ無くなってるぞ?とはいえ考え方は未だ男性寄りだが」

「え?えーとつまり男性扱いした方が良いって事……ですか?」

「んにゃ全然。今まで通り女性扱いで構わんよ。てか今更男性扱いとか無理だろ」

「まあ確かに」

「男性っぽい喋り方だなーと思ったけどまさか元からとは」

 

 あ、やっぱり思ってたのね。小学校の時とか低学年の時は無理に女の子っぽく演技してたけど無理だった。親にも心配掛けたなー。

 

「あれ?でも物見さ、現在彼氏いるけどそれいいの?」

「私が男……というか心操好きになるまで色々あったんだよ。てか今でも他の男が良いとは欠片も思わん」

「じゃあ女子は?男性的な思考なら興奮とかしないの?」

「あー……今となっては無理。聞いたと思うが、あのトラウマのせいで女性に対する興奮とか恋愛感情が全て消え失せた」

 

 だから女性相手に抱こうとも抱かれたいとも思わない。スキンシップはもう諦めた。女子で私の胸が妬ましいのか揉んでくる奴多数居たし。私から胸とか触りたいとは思わんが。

 

「で彼氏……というか心操好きになるまでの過程、というか過去だな」

 

 どこから語った物だろうか……

 

「まず私の小学校が制服無しの私服だったから、スカート穿かずにほぼズボンで、男性口調だ。男女区別がそこまで無かったからなんだかんだで男子扱いだったな。成長しても着れる様にダボダボの服で居たし」

「うわーなんか凄く想像できる」

「女子力の欠片も無い服だったからな」

 

 てか当時の家庭状況と思考回路で女子っぽくって言われても出来る訳ないのだが。

 

「中学上がって女子制服になって、まあ言ってしまえば一気に女子と認識され始めた訳だ。スカートだし。体も女性らしさが増し始めたし」

「つまり胸も大きくなっていったと」

「遺憾ながら」

 

 そう言ったら耳郎からの妬みの視線を貰ってしまった。下着代シャレになんねーんだぞ。当時は一生AAカップで良いと思ったわ。

 

「かつてのクラスメイト達も私を女子として意識し始めたのか……まあそういう視線も出始めた訳だ。私個人は個性の訓練でそれどころじゃなかったが」

「やっぱり直さんも苦労したんですね」

「そりゃそうよ。なんせ反動がキッツイからな。街中で使って倒れてみろ。即救急車呼ばれるか、ヴィランに拉致だぞ」

「経験あるんですね……」

「ヴィラン拉致られたと目覚めた時に言われた時は、よく死ななかったなーと思ったな。ヒーロー来たから事なきを得たが」

 

 うっかりで体力管理ミスると一気にピンチだからな!てか生きてるのが奇跡ですし。

 

「流石に命の危機を感じた私は、ヒーロー目指すとか豪語して無暗に個性振りまわすクラスメイト連中から離れて、守ってくれそうな相手を探した訳だ」

「それが心操君だったのね……でも相手はよく了承したわね」

 

 蛙吹よ。私もそう思うぞ。

 

「その時は恋愛感情なんて無くて、ただ無償で守ってくんねーかなー程度だったわけだ」

「現金な女ね物見ちゃん」

「言うな蛙吹。私もそう思うから。で、話している内にこいつ良い奴じゃないか?と思う訳だ。実際良い奴だった」

「惚気だしたわね」

「だしたね」

 

 この程度で惚気とは……いいか別に。

 

「1年の……秋頃だったかな。あの件が起きて女子に対する恋愛感情が無くなった。で、信じれる相手も激減したんだ。当時女子が全部アウトになったしな」

「かといって男子も……って事ですわね」

「両方共友達は居たんだぞ?趣味を共有できないから表面上の関係だが」

「そんな悲しい事実暴露されても……」

 

 だってテレビも見てない中学生なんか話題もクソも無いのが事実だし。ファッションの話振られても着いて行けないし。

 

「そんな私にずっと付き添ってくれた心操に、もうコイツだけ居ればいいんじゃね?と思ってしまったんだ」

「さらっと重いよ物見さん」

「中2に入って遅めな生理も始まり、いよいよ自分って女性なんだなーと思った時にな」

「うん」

「夏休みにショッピングモールでヴィランに襲われて?……巻き込まれて?……突っ込んで?心操共々死にかけたんだ」

「直さん。普通そんな簡単に死にかけません」

 

 言うな八百万。過去の私はなんだかんだで死にかける事が多いんだ。ほぼ個性のデメリットのせいだが。

 

「そこで13号に助けて貰って私も、ヒーローを本格的に目指す事になったんだが、同時に吊り橋効果というか……女子としての自覚が芽生えた私が……そのだな。意識し始めてな……」

「めっちゃ照れてる!かわいい!」

「茶化すな葉隠。私としては苦悩したんだぞ。言っただろ男性思考だって。なんで私が男なんかをってな」

 

 性同一性障害とも言える思考回路の弊害だったな。私は本当に男が好きなのかって……心操も私の男性思考を分かってるからか、私だけが悩んで。もし男扱いされたら……とか散々悩んだよ。

 

「悩みながらも少しずつだが女子っぽい感じに振る舞い始めたんだよ」

「おー乙女なモノミンがこうして生まれたのか」

「そんで女子っぽく振る舞ったせいで、別の問題が発生しやがった」

「問題?」

「男子連中からの告白。元々スタイルは良かったみたいでな。それで女子っぽい感じになったら告白して来た」

「誰かからの奴受けたの?」

「受ける訳無いだろ……全部断ったわ。で、その対応が一部少数の女子から顰蹙を買ったみたいで」

 

 中にはその男子が好きな女子も居たそうな。

 

「その一部女子から、まあ無視されたりと。これは別にいい。関係無い」

「普通ショック受けるはずだけど……」

「問題は過激なアホ共だよ。夏休みに一気に女子っぽくなった私を妬んで根も葉もない噂を垂れ流した訳だ」

「噂……ですか?」

「そう噂。さて問題です『急に女子っぽくなったスタイルの良い借金娘。貶めるにはどんな噂が効果的でしょうか?』」

「……?」

「………………………………!え?嘘……まさか……?」

「信じたくないわね……でもこれだろうし」

 

 何か分からない八百万と、答えに辿り着いたであろう芦戸と耳郎。他にも声には出さないが、見るからに嫌悪感が漂っている。ま、女性として致命的だろうな。

 

「正解は『売春や援助交際』だ。今思い出しても胸糞悪い」

 

 八百万の顔が青ざめている。意味は知っている感じか。他の女子も眉間に皺が寄っている。女子としての嫌悪感を全開にしている。

 

「そんなクソみたいな噂を鵜吞みにした一部の馬鹿共が居てだな……その女子と結託して売春現場をでっち上げようと画策された」

「……っ!!」

 

 皆怒り心頭である。女子として許せないだろうな。私も許せないし。

 

「それっぽい写真。例えば誰かからお金受け取るとか、そんな写真を加工してばら撒かれた。それを真に受けた馬鹿が襲ってくるわけだな」

「それ先生方は?」

「勿論、皆協力して止めてくれたよ。事実無根の噂だし。でも、そういう噂が流れたせいで……ヴィランにも狙われるわ、噂を言ったヴィランの言葉で、警察から事情聴取があったり。事件になったからマスコミ連中が嬉々として記事にしたんだ」

 

 そんな噂が有名になった現在にまたぶり返して。各所が圧力掛けて記事を書かせない様にしているらしいが。

 

「それから脅される事多数。制服もボロボロにされて。私としても限界だったよ。女性である事が嫌になったよ。そんな私をな……心操はずっと守ってくれたんだよ。何があっても私を信じてな」

「直さん……」

 

 辛かった時、ずっとそばに居てくれた。それが嬉しかった。信じてくれたんだから。アイツも色々言われただろうに……それでも私を守ってくれた。

 

「私もさ……流石にそこまでされると意識するよ。好きに……なるよ。コイツの前“だけ”では女性で居たいって思ったよ。女性として意識されたいって」

 

 まさかここまで重いとは思わなかったのか、茶化してた連中は罪悪感一杯という表情。

 

「中3の春には、もう完全に女子としての意識が出来上がって、誰かに恋をするって感覚を知って……周りも何も言わなくなって来て」

 

 あの頃にはもう心操と私はセット扱いだったっけか。もうなつかしさすら感じる。

 

「それからは雄英受験のためにそれどころじゃなくて……で、受験終わったら心操を押し倒して気持ちの最終確認。結果は見ての通り。無事女子としての私が完成した訳だ」

 

 ヒーローになるって言っている割に意外と雄英希望ってクラスや学校毎だと少ないのだ。そんだけ本気になれるかどうかだ。

 

「だいたいそんな感じの過去でしたよと」

 

 なんだかんだで全部言ってしまったが。まあ聞いてて面白くはなかっただろう。全員暗い顔である。あ、顔を上げて。

 

「「「重い!!」」」

 

 声を揃えて言われてしまった。

 えー?皆こんなもんじゃない?え?違う?そうなの?誰一人として同意してくれない。悲しい。

 

 そんな感じで私の過去語りは終わりになりましたとさ。




 ミッドナイトの「女子として生まれた事後悔してない?」と言う問い。その意味です。

 次で幕間を1つやって、そんでインターン投げ捨てて文化祭も軽く流して単行本最新のビルボードチャートですね。

 書きたい別ネタが貯まりまくってて辛い。R18も何か書きたい。

 そういえばこの作品、今更ながらだんだんとタイトル詐欺になって来たので何か考えているんですけど。パッと思いついたのが

「修復個性の成り上がり」とかいうなろうっぽい感じの奴しか思いつかなくて、結局このままでいいやって結論に至りました。


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幕間5 もう1つのプレゼント達

 うん…………この作品の心操くんのキャラ崩壊っぷりよ。もはや別キャラレベルですわ。八百万も暴走気味ですね。


 誕生日会の次の週の日曜日。土曜日の内に仕事から帰って来て夜に書類チェックすればいいだけである。朝から洗濯を済ませてのんびりして現在昼前。

 

「そういや心操からのプレゼント貰ってないな。あと八百万がもう1着あるって言ってたが」

 

 新調した携帯端末に入れたSNSアプリに回って来た、誕生日会の画像を眺めているとふと思い出した。てな訳で心操にメールを入れておく。

 

「今からそっち行っていいか……っと。八百万はインターンだったか」

 

 返事待つまでに寝間着から着替えるか。選べるほどの服の量は無いため変にならない様に見繕いながらも着ていく。……下着も変えておくか。

 

「こんなもんかね」

 

 白柄のワンピースと薄い桜色のカーディガンという少しばかり淑女感がある服装である。あとは鏡見ながら髪を整えてと。うむこんなもんだろう。

 

「返事は来て……ないか。あ、父さんから何か着てた。ふむふむ」

 

 おーついに住む場所決まって引っ越しを完了したらしい。場所はエンデヴァーさん所の事務所近くのマンションだそうだ。私の部屋もあるようだ。しかし私の帰省はいつになるやら。

 

「おや続きが別のメールに」

 

 …………………………おい両親よ。

 

「家族が増えそうってマジか。てか何やってんだよ。ひと段落して舞い上がったのか?」

 

 はい。母さんが38歳にして妊娠しました。産む気マンマンだそうです。大丈夫なんだろうか年齢的にキツイだろ。

 

「おめでとう……でいいのか?……いいか」

 

 私もめでたくお姉ちゃんになりそうです。16歳上の姉ってどうなんだろ……場合によっては私の子供のほうが兄弟っぽくなりそうだが。

 

「私と比べられなければいいが……いかん心配ばかりが先に来てしまう」

 

 私と同じ苦労を歩んでほしくない。お金の方は私が仕送り沢山するから安心するがいいまだ見ぬ弟か妹よ。

 そも物心ついた頃……小学生なった時には私の苗字も変わってたりしそうだ。婿入りじゃなくて嫁入り予定だし。

 

「父さんは仕事を変えて、母さんは専業主婦か。エンデヴァーさんとこの事務員になったみたいだし安心かね」

 

 あの人はあの人で事務所の規模大きいからなぁ……学生の私とは大違いだ。将来私も事務所とか立ち上げるんだろうか。

 

「あ、心操から返事来た。昼飯の後なら大丈夫か」

 

 何か予定が入ってたり……してないっぽい。返事の中に昼の後はフリーとあった。

 

「とはいえ今日はする予定は無いがな。あくまでプレゼント貰いに行くだけだ」

 

 求められたら……やぶさかではないが。段々私の思考が変態じみて来てしまっているがたぶんストレスのせい。世の中の事は大体ストレスのせいにすれば解決するって誰かが言ってた。

 

「少し早いけど飯にしよ」

 

 そうして心操からの返事を待つのであった。

 

…………………………

 

「心操ー来たぞー」

 

 C組普通科寮に乗り込む。休日ということもあり人は疎らである。寮室前でノックして返事待ち。と、思ったらすぐに扉が開いた。

 

「入れ」

「邪魔するぞ」

 

 この前となんら変わらない部屋。机にプレゼントと思われる物が置いてある。扉も閉められた事を確認してベッドへ腰かける。

 

「それでプレゼントだったか。とは言え期待するなよ」

「大丈夫だ。お前からなら余程の物じゃないなら嬉しいから」

 

 ただの一学生である心操のプレゼントである。八百万や先生方みたいに金の掛かった物じゃないだろうし、別に金額で決める訳じゃない。

 

「まあまずはC組からのだな」

「あーそういや言ってたな。はてさて何が入っているんだか。てか開けていんだよな?」

「ああ」

 

 クラス離れたのに律義に祝ってくれるC組には感謝だな。

 

「ん?おーこれか。物凄い学生っぽい物だな」

 

 文房具一式。そうそう学生のプレゼントと言えばコレだよ……たぶん。

 

「ピンクとかが一切無く白と黒で統一されてるのが私への印象を感じてしまうが」

 

 どう足掻いても私のイメージカラーは白黒らしい。オルタってるらしい。

 

「これって誰が決めたとか聞いてるか?」

「クラス全員で決めたってだけ聞いてる。お礼なら俺に纏めて言っとけだと」

「そうか。ありがとう感謝する。大事に使わせて貰うって言っといてくれ」

「分かった」

 

 C組からのプレゼントは一旦机の上に置いといてだ。

 

「それで心操からのだが」

「俺のはこっちだ」

 

 そう言って渡される手のひらサイズの箱。重さはそこまで無い。うーむ……なんかこう……嬉しい予感がする。

 

「開けても?」

「いい」

 

 心操が少しばかり照れている感じがする。包みを開けましてー……うん。これアレだろ。

 

「心操……これ。いいのか?本当に……私に?」

「学生だし安い物だけどな……プロになったら本物買ってやるから。待ってろ」

 

 箱を開ける。そこにはシンプルな造りの……指輪。宝石も嵌められていないが、心が籠っているであろう指輪を送られる。

 

「指輪……つけて貰っていいか?」

「ああ」

 

 箱を渡し動向を見守る。指輪を取り出し、手を取る先は……左手。

 

「っ……!」

「物見。誕生日おめでとう。これが俺の気持ちだ」

 

 そう言いながら、指輪を嵌める。私の左手の……薬指。この前自分の気持ちを語ったからか……色々な感情が込み上げて来る。

 

「……っ!」

「物見……何で泣いて……?嫌だったか」

「嫌な……っわけ!無いだろ!……嬉しいに……っ!」

 

 嬉しいに決まっている。だけど私の頭がゴチャゴチャしてて……心操からそういうアクションが今まで無くて……突然の事で驚いて。

 

「物見」

「あっ……」

 

 抱きしめられる。それだけで安心して感情が溢れ出す。言いたい事が言わなきゃいけない事があるのに。それも言えずに私の口が勝手に言葉を呟いて行く。

 

「なあ……心操……私さ……頑張ったよな?色んな事我慢してさ……本当は嫌な事……沢山あったんだぞ」

「ああ」

「誰かに……恋出来るのか……誰かを愛せるのか……私を否定しないか、私が否定しないか……不安だった」

「今のお前を俺は否定しない。だからお前も自分を信じろ」

「………好きで居続けても……いいか?こんな面倒な女でも……いいのか?」

「面倒なんかじゃない。安心しろ。好きだぞ物見」

「…………………………っっ!」

 

 嬉しいのに声が出なくて……それでいて涙が止まらない。抱きしめる心操の胸で私は静かに泣き続けた。

 

 どれ程時間が経ったのか分からないが、ようやく泣き止んだ私。胸の前で手を組み、大事そうに嵌められた指輪を撫でながら、我ながら晴れ晴れとした笑顔で、1つの結論に至る。

 

「ありがとう心操……私さ、やっと思えた事があるんだ」

「どうした」

「女性に生まれて良かったな……って」

「……そうか」

 

 苦労したこの体を受け入れられた。それはとっても嬉しいなって。

 

 

…………………………

…………………………

 

 

 いくつかの雑談を……主に私の親に関する行動に少し私の意見を言いながらも4時間。結局求められる事無く終わったため、少し何かの不満が残るがお開きとなった。

 そして八百万も帰り着いており、少し疲れたご様子。

 

「お疲れー」

「お疲れ様ですわ。あら?明るいですね。何か良い事がありましたか?」

「おうとも。あったぞ」

 

 どうも最近暗かったっぽい。いつも通りなはずだったのだが。

 

「あ、そういえばメッセージ見ました!もう1着渡し忘れてましたね!」

「タイミング無かったからな。仕方ない」

「では今からお渡ししますわ!少しお待ちを!」

 

 談話室から早足で戻って行く八百万に私も着いて行く。

 

「これですわ!」

「お、おう」

 

 そうして手渡されるのは……燕尾服。分かりやすく言えば執事服である。まさかの男装コスである。

 

「直さんならメイドもいいですが。執事服も絶対似合うと思いまして!」

 

 熱弁してくる。まあミニスカフリフリメイドよりかは似合うだろうけど。

 

「ま、着て見るか」

「良いんですか!」

「私が今更男装に抵抗あると思うか?」

「いえ……その昔の話を聞いてしまうと」

「ま、昔の事は気にするな。そんでこれ胸とか大丈夫か?」

「女性用に作られてますので胸の方もゆったりしてるかと」

 

 大丈夫そうだ。てなわけで八百万を部屋から追い出す。こういうのは一気に変わった所を見るのが面白いからな。髪型は後で八百万に結ってもらおう。

 

「おーまた良い生地で作ってるっぽい。幾ら使ったんだか」

 

 気にしたら負けだと分かっているが、つい気にしてしまう。さてさて上を着まして下も着て、ネクタイを調べながら付けまして、最後に手袋をつけてと。鏡で確認して変な所は……無いな。

 

「オーソドックスって言えばいいのかね?夏に着るモンじゃないのは確かだな。寮が涼しくて助かった。あ、出来たぞー八百万ー」

「はーい。失礼して……まあ!」

 

 執事服の私に目を輝かせている八百万。ご満悦と言った表情である。

 

「とっても似合ってますわ!直さん!ええ!とっても!」

 

 いつになくテンションが高い。楽しそうで何よりです。

 

「これは!皆さんに見せなくては!あ、その前に髪型弄りますわよ」

 

 そう言って櫛とヘアスプレーを創った八百万は、私の髪型を整えていく。後ろ髪を大きな三つ編みに束ねた感じである。ゆるふわ感は無いな。

 

「行きますわよ直さん」

「はいはい。エスコートしますよ、お嬢様」

「お願い致しますわ執事さん」

 

 うむ。久々の男性衣装で私も地味にテンションが上がっている。恥ずかしいという感覚は全く無い。なんだかんだで男性思考も抜けてないなと感じてしまう。

 

 そして皆のリアクションはと言えば。最初は戸惑われながらも、おおむね良好。女子連中からの黄色い声が多い。

 男子連中からも普段のスカートよりも似合うと言われてしまった。親しみやすく感じるのだとか。少しばかり乙女心が傷つく評価である。

 

 なんかめっちゃカメラで撮られてしまいながらも、ノリノリの私がそこには居た。途中で八百万がメイド服着て参戦して来たのは余談である。




 これが最終回で良い気がしてきた件。45話の「再建の旗」もある意味で最終回なんですけどね……書きたい事書いたという意味で。
 現在書いてる話の蛇足感が……ね?凄い訳ですよ。

 ちなみに作者が思い描いている執事服のイメージは「ノラと皇女と野良猫ハート2」に出てくる「ノエル」の執事服です。


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ヤクザ?知らない子ですね?

 あとがきを載せるためだけに書いた話。アホみたいに短いよ!過去最短です。

 ヒロアカ4期決定早すぎて大歓喜だってばよ


「なぁにこれぇ……」

 

 ある日曜日。仕事帰りに相澤先生からの依頼でやって来たボロボロの住宅地。そこには大穴が開いていた道路があった。

 何でも死穢八斎會とかいう先の時代の敗北者(ヤクザ)のアジト跡らしい。

 

「これを直すって事でいいんですかね?」

 

 その場の皆頷く。ちなみに警察的には穴を塞いで、住宅地を直すにとどめるらしい。中の捜査が終わったらまた別の形で依頼するらしい。

 

「じゃあいきますよー」

 

 穴を視界に収めて個性を発動。ほい穴は塞がりましたよーっと。後は住宅街を直しましてと。

 

「じゃあ私は帰りますね」

「ちょお待ってんか」

 

 まだやって欲しい事があるのかファットガムさんが引き留める。なんじゃろか?

 

「この弾丸なんだが……個性で復元できんか?」

 

 そう言われて見せられる薬莢。えーとついさっき使われた物なら大丈夫な筈。

 

「出来ると思いますよ」

「じゃあ頼むわ」

 

 復元し弾の部分も形を得る。改めてどっから出て来てんのかね……この復元した部分。気にしたら負けだけど。

 

「サンプルあれば調査進むん早いからなぁ……感謝するで」

「そうですか」

 

 薬莢部分だけで使われた弾の調査って難しいですからね。

 

「にしてもあんさんの個性……やっぱり異常やわ」

「そうですか?」

「エリちゃんっつう今回の保護対象、対象の巻き戻しを行う、個性と言うには常軌を逸した個性なんやけどな。この復元の個性も同類に感じるで」

「ふむ……巻き戻しですか」

 

 うーむ……そう言えなくも無いけど。てか今まで復元出来て当然だったから今更だしな。

 

「元々超常の力ですし。個性なんてそんなもんでしょう」

 

 難しく考えても仕方ない。「物体の巻き戻し」……うん語呂が悪い。

 

「まあせやなぁ。あ、引き留めてスマンな。今後も懇意にさせて貰うわ。再建の旗さん」

「こちらこそファットガムさん。あと旗さんでもいいですよ」

 

 もはや私の名前の原型ないけどな。旗さんってたまに呼ばれるんだよなぁ……最初に呼ばれた時誰だってなったなぁ。てか本当に2Rって誰も呼んでくれない!

 

「そこまで略されてるんか」

「他にもバリエーションありますよ。旗姫とか旗持ちとか旗聖女とか。ただ旗って呼ばれる事もあります。再建部分はだいたい略されます」

 

 旗関連以外もあるんだけどね……でもMt.レディ事務所近辺だと圧倒的モノミン率を誇ったりするんですが。

 

「それでは私はこれで」

「ああ気を付けて帰るんやで」

「はい。それでは」

 

 後日。オールマイトのかつての相棒であるヒーローナイトアイの最期に立ち会い、体だけでも綺麗にとお願いされて復元を施したりした。




 ちなみに主人公は先輩方に一回も会っていません。仕事忙しすぎてヤバいからね。


 おまけ

「エリを連れて即退散とはとんだ腰抜けの集まりじゃのう死穢八斎會
 組長が組長、それも仕方ねぇか……『ヤクザ』は所詮、先の時代の“敗北者”じゃけぇ」

「!?」

「オーバーホール!?」

「敗北者……?」

「?」

「取り消せよ……今の言葉……!!」

「取り消せだと?断じて取り消すつもりはない」

「そりゃそうじゃろう……」

 ~♪~

「何十年もの裏君臨 王にはなれず何も得ず しまいにゃしまいにゃバカ幹部 治崎という名のバカ幹部 そいつに組織やられ死ぬ 実に空虚じゃありゃせんか? 人生空虚じゃありゃせんか?」

「やめやめろ」

「乗るなオーバーホール!戻れ!」

「オヤジは俺に居場所くれた! 俺にオヤジの偉大さくれた!」

「人間正しくなきゃ価値無し! お前らヴィラン生きる価値無し!
 ヤクザ ヤクザ 敗北者!! ゴミ山 ヴィラン 敗北者!!」

「組長 ヤクザ! 大ヤクザ!」


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文化祭だからよ・・・

 文化祭の前準備は投げ捨てる物。だって主人公ダンス参加しないもの。今回も短いデース。前の話と統合してもいいレベル。


 学生っぽい物の1つ文化祭。A組の出し物がバンドとダンスに決まるも、私はどちらにも不参加であった。

 理由は単純明快、ミスコンに出場するから。とはいえ通常ですらも忙しい故に練習時間もロクに取れないので出演時間は少ない。

 

「うっわ客多っ!」

 

 そんな事を呟く私が居るのは参加者控え室。私の出番は最後である為、ついさっきまで文化祭を見て回っていた……一人で。

 招待客に囲まれてサインだの握手だののファンサービスをしていた為、誰とも一緒に回れなかったのだ。元々そんな気はしてたので諦めてはいたけどさー。

 あ、当然A組の出し物は見たし普通科C組の出し物も見に行った。良かったぞ(小並感)

 

「あんまり期待されても困るんだけどね」

 

 私自身、今回のミスコンは残念ながら女性らしさを見せる気は無い。だからグラビア的な目的で来た人には残念になるだろう。

 そんな事を思っているとアナウンスがかかる、出番か。

 

「…………」

 

 先程まで興奮気味だった会場が、私の入場と共にシン……と静まり返る。理由は私の恰好だろうな。

 

「はぅ……」

 

 何人かの女性客からそんな熱い吐息が漏れる。逆に男性客はざわついている。ざわ……ざわ……している。

 私の恰好は女性らしさが無い、誕生日プレゼントに貰った執事服である。髪型はポニーテールで男装の麗人感を強く出している。

 そして装備は片手に私が通常使っている拳銃を握っている。ホルスターも太もも部分に弾と共にセットしている。

 

「……」

 

 ステージ中央までやって来て手を胸にあてて一礼。いつものメイド服や軍服ならスカートの裾を持ち上げてだが執事服なので問題無い。

 

 挨拶等は一切なしで演技に入らせて貰う。

 ポケットから取り出すのはガラスの破片。それを客に見える様に1度掲げた後に、頭上に放り投げる。そして目線を合わせて投げたガラス片を持っていた銃で撃ち抜く。

 

 パン!と乾いた音とパリンとガラス片が更に砕けて飛び散る音が聞こえる。そして頭上で四方八方に散らばる内の4つを視界に収めて個性を使う。

 

「……」

 

 上から私を囲む様にガラスの花が4つ降り咲く。その花はぱっと見何なのかは分からないだろう。だが、私のやりたい事を理解した観客は息を飲む。

 

「フッ……」

 

 不敵に笑って取り出すガラス片。それを方向様々に高めに投げては撃ち抜いてはそこから花を咲かせる。

 

 タン!タン!タン!と小気味良いリズムでガラス片を取り出し撃って行き、弾切れの前にマガジンを瞬時に入れ替えては再度撃って行く。

 

「……」

 

 時に花ではなく雪の結晶を降り咲かせて飽きない様に工夫を凝らす。様々なガラスの花で演技スペースを埋めていく。

 

「……最後だ」

 

 マガジン3個分の弾を撃ち尽くし、銃をホルスターに仕舞う。そして取り出すのは鉄の破片。それを最初と同じように頭上に……自分の真後ろになる様に投げて個性を使う。

 

「迷いの無い旗を高く掲げて……ってね」

 

 私の背後には大きな鉄製の花。茎部分が旗の様に刺さっている。

 ガラスと違い決して散らない鉄の華。

 種類はアサギスイセン……別名フリージア。誰にも伝わらない私だけの決意表明。

 最後に一礼を済ませて、私の演技は拍手を受けて終わりを告げる。

 

…………………………

 

 

 優勝はしなかった……まあ男装時点で優勝は狙っていない。私はただやれる事とやりたかった事をやっただけだ。

 

「時間も5分30秒キッチリにしたしな」

 

 こうして私の文化祭は終わりを迎える。

 ちなみに私を象徴する旗の印がフリージアに決まったのは言うまでも無いだろう。

 学校から旗の代わりに腕章として校長から贈られた。ビルボードチャートまであと少しである。

 




 結論:フリージアはいいぞ

 ちなみにガラスの代わりに轟君の出した氷を使ってやるという事も考えたけどやめました。


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筋肉番付って懐かしいよね

 主人公何位にするか悩みました。何度も言っていますが!この作品は原作単行本を既読前提ですから!


 現在、ヒーロービルボードチャートJPの発表会場。その最前列に私はトップ10ヒーローを眺めながらも、一言コメントを聞いていた。

 まずはNo10のリューキュウさん。

 

「今回、辞退できるものならしたかったと言うのが本音です。救えたはずの命がありました。何より私のすぐ下に……私よりも遥かに相応しいヒーローが居ますから……ですがこの順位に見合うように邁進してまいります」

 

 ちらりと私の方を見る。別に良いんですが気を使わなくても。

 そして以下9位~5位の方々がコメントをしていく。

 4位のエッジショットさんがコメントをしている時に、2位のヒーロー、ホークスが言葉を挟んでいた。

 

「支持率って俺は今一番大事な数字だと思ってるんですけど」

 

 支持率1位のベストジーニスト、2位のホークス……そして

 

「過去引きずっている場合ですか。やる事変えなくていいんですか。平和の象徴はもういない」

 

 ホークスがその翼を広げて空へ飛ぶ。

 

「節目のこの日に俺より……彼女より成果の出てない人達が、なァにを安パイ切ってンですか。もっとヒーローらしいこと言って下さいよ」

 

 ざわつく会場に対して、言うだけ言ってホークスは降りて来てエンデヴァーさんにマイクを渡す。

 

「さァお次どうぞ支持率俺以下No1さん」

 

 めっちゃ煽っておられる。それに対してエンデヴァーさんは表情を変えずに言葉を紡ぐ。

 

「若輩にこうも煽られた以上多くは語らん……俺を見ていてくれ」

 

 俺を見ていてくれ……ねぇ。嫌でも誰もが貴方を見るでしょうに。それは誰に対してのメッセージなんですかね。

 周りの拍手を聞いていると、私に飛んでくるマイクを受け取る。それはエンデヴァーさんが投げた物であった。

 

「上がってこい2R。壇上に貴様が居ないのは誰も納得していない」

 

 会場の人が一斉に私を見る。全く……強引な人だ。

 私は着ている白軍服のスカートを翻し、注目される中で一歩一歩壇上に上がって行く。ステージ中央に辿り着くと、進行役の人に視線を送る。

 すると進行役は慌てながらもすぐにアドリブで私の紹介を行う。

 

『えー今の日本ヒーロー界で彼女を知らない人は居ないでしょう。今期支持率3位!あの神野での貢献者。託された名は「再建の旗」!番付11位!修復ヒーロー2R!!』

 

 紹介に合わせて一礼。さて……何を言いますかね。ホークスのせいで生半可な覚悟を示してはダメだろう。

 

『ではコメントをどうぞ』

「えー……では私もエンデヴァーさんに倣って、多くは語りません」

 

 私が示す覚悟。やはりコレしかないだろう。

 

「今後もヴィランによる被害は多くなるでしょう。場合によっては辺り一面を巻き込む戦闘も起こるでしょう」

 

 ですが……と一拍置く。

 

「勝ってくれれば跡はどうにかします。目が届くなら大丈夫です」

 

 なぜなら

 

「私が居ますから」

 

 私を見ろとは言わない。旗なんて勝手に注目され集まる物だ。だから私が見ていると言ってやる。それが私の役割だから。

 大胆不敵な挨拶になってしまったが、仕方ない。ブレない象徴としての在り方を示さなければならないのだから。

 再度一礼。エンデヴァーさんと同等の拍手が送られる。

 

 

 

 ……結局本当に言いたい事は戦闘に関しては他力本願でごめんね!って事なんですがね。もうコラテラルダメージは諦めるしかないのだ。

 

 

………………………………

 

 

 そして裏方の楽屋的な場所にて。

 

「エンデヴァーさん。あそこで無茶ぶりしないで下さいよ」

 

 マイクを投げ渡された事に関して少し小言を言ってみる。するとエンデヴァーさんはすまし顔で言ってくる。

 

「ふん。貴様にそれだけの資格があるからやっただけだ。それに何だ11位とは?リューキュウが居心地悪そうにしてたぞ」

「私の活動時間的に仕方ないんですよ。ヴィラン逮捕率も事件解決率も圧倒的に低いんですから」

 

 アレは保須と神野だけで取った順位と言ってもいいだろう。てか学生が週末使ってせっせとお仕事しているのだ。目を瞑ってもらいたい。

 

 そんな先輩後輩の会話に割って入るのがホークスだ。

 何でもエンデヴァーさんに対する振りは、彼が次のリーダーだと証明する為に必要だったと言う。

 

「まァ嬢ちゃんも大したもんだ。あのエンデヴァーさんの後に堂々としてるんだから」

「あの称号背負う以上、相応の態度が必要でしょう」

「それを分かってやってんだから、尚更凄いって事」

 

 俺の代わりにサブリーダーよろしくねーと軽い態度のホークス。なんだサブリーダーって。

 

「ここからが本題です。エンデヴァーさん、嬢ちゃん。チームアップのお願いです」

 

 まさかのチームアップのお誘いである。何でも脳無の目撃情報の噂があるらしい。それに対するチーム編成と言った感じらしい。

 

「嬢ちゃんは保険って感じさ。もし本当に現れた時の被害の大きさ知ってるだろ?」

「それは知ってますが。長期のチームアップは無理ですよ?」

 

 学生ですし。言って見るとホークスもそれを承知だった様で短期の編成という事らしい。こうして私はホークスの地元に同行する事になったのだ。




 てなわけで主人公は11位にしました。10位以内は無理かなーと思いましたので。

 あと3話くらいでたぶん終わりですかねー?現行の戦闘訓練のやつはやりそうもありません。年内に最終回迎えられる様に頑張ります。


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多分これが一番早いと思います

 ハイエンド戦RTAはっじまるよー!


 さて、脳無の噂やら聞きながらホークスの地元である福岡での昼下がり。

 各々のファンに囲まれながら過ごした街中と違い、静かなビル内店舗の料亭の料理に舌鼓を打ち、お会計になった時ソレは訪れた。

 

「……マジでか」

 

 呟きながらも各自戦闘態勢に入り、私はホークスからの羽根に体を任せてビルを離脱。

 ビルを一望できる距離まで離れて、倒壊しかけているビルを個性によって一瞬で直す。自由落下していた人たちはホークスによって既に救助されていた。

 

「嬢ちゃん!」

「わかってます!」

 

 私のやる事は避難誘導と戦闘による2次被害を食い止める事。それを理解している為、ホークスの羽根の動きに従い地上に向かい避難警告を出す。

 

「皆さん!ここから先は脳無の戦闘区域です!周辺ヒーローの指示に従い速やかに避難を!……っと!」

 

 エンデヴァーさんの戦闘の余波によって飛んでくる瓦礫を遮る様に壁を張ってゆく。遠目にホークスがエンデヴァーを何やら煽っているが気にしている暇は無い。

 

「なんか脳無が分離したんだが……」

 

 近くに居る人達へ害が出る前に倒さなくちゃいけない訳であるが、如何せん周りのヒーローは脳無を止め切れるほど火力や能力が無い。

 

「あっちの対処にこっちの修繕と忙しいったらありゃしねぇな」

 

 エンデヴァーと脳無の戦闘は激しさを増していき、ビルの一つ二つ当たり前の様に倒壊する。そのフォローを行いながらもホークスに指示を出し羽根を動かして貰う。

 

「っと!白脳無へ接敵、ヒーロー2R武力介入を開始する!」

 

 とはいえ相手は再生能力がデフォだと思われる脳無である。飛行能力が無いとはいえ厄介である事には変わりない

 戦闘中のヒーローの邪魔にならない程度の手出しをと考えるが、それじゃあ時間が掛かる。

 

「再生能力持っていようと……体ごと固定してしまえばねぇ!」

 

 戦闘中であるため、上を向く事の無い脳無。30M程の上空から粉の入った手榴弾を落とし、壁粉を空中にばら撒く。

 

「粉塵風陣だっけか?まあいいや!」

 

 その粉の中から多数の先の尖った柱を白脳無の上に復元して落として行く。勿論、落とす直前にヒーローには銃声とアイコンタクトによる退避を促したが。

 コンクリートすら易々と抉り脳無の体から足、喉に至るまでを5本の柱によって縫い留めている。藻掻いてもその場から動けないのを確認しておく。

 

「……えげつない……可愛い顔してえげつない」

 

 周りのヒーローの誰かが呟いた。が、気にしちゃいられない。こんな戦い方出来るのは再生能力持ちの脳無相手くらいだ。普通のヴィランにやろうものなら普通に死ぬ。

 

「じゃ、残り相手して来ますんで!見張りよろしくお願いします」

 

 同様の方法で脳無の動きを止め続けたのは言うまでも無いだろう。

 

「さてさて……少しは様子をみてたけど、あちらは……」

 

 マガジンを「特殊な物」に変えてと、えー……何か物凄く熱が籠って……ちょ!

 

「うわー火力ヤバイですねエンデヴァーさん」

 

 人間技じゃない炎の扱い方をしていたが、今度は大出力の炎で脳無を焦がしているが、状況を理解して一息で脳無に射程圏内まで近づく。

 

「十分ですエンデヴァーさん」

 

 そう呟くと共に脳無の繋がっている首に向かって引き金を引く。

 誰も反応出来ない刹那の時間での行動。予想外の襲撃に防げない脳無。

 そして銃弾が当たった瞬間……黒脳無は飛ぶ事無く地に堕ちて行くのであった。

 

「任務完了……って訳じゃないんですよね」

 

 落ちて行く脳無の真下にある物を生み出す。その生み出された物に落下した脳無は足掻こうとするも、体が勢いのまま飲み込まれていく。

 

「おー流石に抜け出せないか」

 

 これで脳無の無力化は完了だろうか。

 

 

………………………………

 

 

「十分です……じゃない。小娘なんだアレは」

「アレってどれですか?」

 

 地面に降りていて1秒後、エンデヴァーに問い詰められている私が居た。

 

「急に奴が動きを止めた件と今現在脳無を飲み込んでいるアレだ」

 

 睨みつけられていてこれは言わなきゃダメな雰囲気っぽい。だが、周りの目もあるため言うに言えないのである。

 

「何してンすか。ほらカメラ回ってますから新しい№1をアピールする時間ですよ、嬢ちゃんも」

 

 間に入って来たホークスの声もあり、エンデヴァーは周りを見渡し腕を上げる。それに合わせて拍手喝采が流れる。私も拍手に参加する側であったが、途中でホークスに背中を叩かれる。

 

「えー私もですか?エンデヴァーさんだけで良くないですか?」

「白脳無を一人で殲滅しておいて、何もしていない様に振る舞うの良くないでしょ。ほら頑張れサブリーダー」

「あれはホークスさん居たから出来た事なんですがねぇ」

 

 機動力の無い私を見事に補ってくれたのは他でも無いホークスだ。だから私だけの力という訳でもないのであるが。

 何というか周りの視線がキラキラしている。どんな事をするんだろうと期待の眼差しである。

 

「まあ……いいか」

 

 私は見物客やマスコミを見渡しながらも一緒に背景となるビル群を綺麗に修復し、軍服のスカートを摘まみ一礼。

 

「……」

 

 アピールが終わるとエンデヴァー同様の大喝采。これで終わり!閉廷!

 

 と、思ったがヴィラン連合の荼毘が襲撃したりしましたとさ。

 死柄木が私を物凄く恨んでいると言われても困る。何の因縁も無いでしょうが!

 

「そんで結局アレなンですか?」

「アレ?例のヤクザさん所から流れた銃弾。ヒーロー協会から私宛に送られて来た奴」

 

 切島が喰らった一時的な効果の物の奴らしい。ま、厄介な個性のヴィランも多いし重宝させて貰いますよと。

 

「それともう1つはファットガムさんの個性を元にしたクッションです。犯人の拘束に良し、着地地点の確保に良し、物の保護に良しと割と便利ですよ?」

 

 欠点は広げたら圧縮出来ない事。私には関係無いけどね!

 

「どんだけ道具準備してンすかね……」

「企業秘密ですね。色々詰め込んでますんで」

 

 いや本当に色々詰め込んでいる。

 

「気にしたら負けですよ」

 

 ですよ!




 ハイエンド戦を1600文字で終わらせるSSがあるらしい。

 就活やら何やらで色々ドッタンバッタン大騒ぎしてようやく書けました。このまま終わらせられたらいいなぁ。


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巨乳娘が変装程度で注目されないわけないだろ!

 エンデヴァー視点の主人公を書こうとして完全に諦めたでござるの巻
 感想返信は明日一気にやると思います。


 先のハイエンド襲撃から数日経ったある日の祝日。一日仕事無しの完全オフであった。

 

「さてと」

 

 心操は前の日にストレス発散に付き合って貰い死にかけている。それ故に一人でのお出かけであるのだが……

 

「うわーこれ似合ってんのか?」

 

 姿見で自分の今の姿を見て違和感を覚えていた。理由は単純明快。

 

「金髪のウィッグと青のカラコン……大丈夫かこれ?」

 

 事前に八百万にだけ着けた時の印象を尋ねたら「大丈夫」と言われてはいるが、不安しか残らん。

 

「まあ一応私だと分からないとは言って貰えた」

 

 私が金髪ウィッグまで付けている原因はただ一つ。元の姿だと確実に人だかりが出来てしまい買い物所ではなくなるからだ。

 服も普段は着ない青を軸に少し姫様チックなワンピである。

 

「まーバレたらそん時はそん時だ」

 

 そう開き直って最後にメガネを掛けて変装完了である。

 

「荷物は……ヒーロー用のポーチはロッカーに預けるとして、バッグと財布と携帯と……っとこれでいいか」

 

 財布の中身は……よしちゃんと入っているな。

 

「5万とか持ち歩くの怖いなぁ」

 

 通帳の中?……依頼1件毎に別料金で数百万入って来ます異次元すぎて怖いです。文化財や観光地相手に仕事行く事多いからね仕方ないね。

 

「レッツゴー」

 

 部屋を出て玄関へ行くために通る共同スペース。そこには部屋着の切島が居たが気にせずに通り過ぎ……

 

「いや!お前誰だよ!」

 

 れなかった。二度見からのツッコミが入った。

 

「私だよ。分からなかったか切島?」

「雰囲気違い過ぎて別人だよもはや!」

「ならよし」

 

 クラスメイトで気付かないという事は、他人から見たらほぼ気付かないって事である。これで騒がれる事は無い筈である。

 

「じゃあ私は出かけるんで」

「出掛けって……ああだからそんな恰好なのな」

「お忍びってやつだ」

 

 私は今有名人なのである。非常にめんどくさいのである。

 

「じゃ行ってくるわ」

「あ……ああ気を付けろよー色々と」

「おーう」

 

 久方ぶりの一人で羽根を伸ばしてお出かけだ。楽しまねば。

 

………………………………

 

「うへぇ……何だこれ」

 

 ショッピングモールで仕事用ポーチを預け、ふらっと立ち寄った本屋で見かけるヒーロー雑誌。その表紙の比率は私が3割占めていた。

 

「えーと……『花の女子高生ヒーロー2R!その素顔とは!?学校関係者をインタビュー!!』ってこんな事も記事にすんのか」

 

 いや確かに私自身ほぼっほぼインタビューを受けない。というより仕事時のスケジュールが忙しすぎて相手に出来ないというのが正しいのだが。

 

「どれどれ……普段の学校態度とか学業とかか、あとは進路はどうなるのか……恋愛関係も聞いてんのか。あ、一度ヒーロー科落とした事も書かれてる」

 

 ある事ない事色々書かれている。特に恋愛関係については根掘り葉掘り捏造されている。既に100名からラブレター!とか盛り過ぎである。

 

「実際はンなモン貰わねーけどな」

 

 雄英高校では相手も渡した結果が分かり切ってるからな。わざわざ玉砕黒歴史なんざ作りたくないだろうさ。

 本屋で幾つかの本を見繕い後で購入しようと決めておく。

 

「次は服でも……」

「ヘイ彼女!独りかい?」

「……」

 

 唐突に知らない声がかかるが無視である。きっと私にでは無い筈だ。

 

「おーい!君!君!金髪の君だよー?」

「……」

 

 金髪の女……一体誰なんだ?

 

「いや君の事だよー?」

「うっせー死ね」

 

 あ、台詞間違えた。

 

「五月蠅いですわよ?死んで下さらない?」

「言ってる事一緒だからねそれ!?」

「そうか。じゃあ死ねそれか私の前から消えろ」

 

 純度100%の殺意を込めて言って見るとあら不思議、ナンパが逃げていきました。

 

「よし」

「いや「よし」じゃないよ!?何やってんの物見さん!?」

「ナンパを追っ払ってただけだが?」

「それはいいが言葉を選んだ方がいいぞ。せめて助けを呼ぶとかだな」

「ああいう輩は率直にドス効かせて勝てないと思わせる事が、手っ取り早く追っ払うコツだ」

「そんなコツは無いよ物見ちゃん」

 

 声を掛けて来たのは緑谷・飯田・麗日の3人組であった。流石に声を聴けば私だと分かるか。

 

「それでその恰好は……?」

「変装。以上」

「ああ……成程」

「出来れば本名は遠慮してくれ。変装の意味がな」

「うん今の見た目で日本名だと微妙だもんね」

 

 何か違うが気にしたら負けだな。

 

「それでお前らは仲良く買い物か」

「あ、うん。それでえーと」

「あー……ナーシャでいいだろ」

 

 3秒で考えた雑な名前である。「な」が付くそれっぽい名前なだけだが。

 

「ナーシャちゃん……さんね!それでナーシャさんは何を?」

「買い物だよ。適当にブラブラとな」

「そうなんだ、だったら一緒に回らない?」

「いや遠慮しとく。今日は一人でゆっくり過ごしたい」

「そっか残念……じゃあいつか一緒に買い物行こうね」

「そうだな……そん時は女子連中で行くか?」

「うん!」

 

 笑顔の麗日。うむ良きかな良きかな。

 

「じゃ私はあっちだから」

「気を付けてねー?」

「あいよー」

 

 その後は服を見繕おうとするものの……まあ元の私と違い過ぎて選べず仕舞いであった、ちくせう。結局服は買わなかった。

 

「あ、ゲーセンやんけ」

 

 目に付き立ち寄るゲーセンコーナー。ヒーローのフィギュアが並んでいるクレーンゲームを見ていると本日入荷と書かれた場所に人だかり。

 

「なんじゃろな?」

 

 近づき背伸びしてみるとそこには

 

「これかぁ」

 

 そこに置かれている景品は私のフィギュアである。確かに作っていいですよと許可をしたけど早すぎない?

 

「メイド服と軍服の2バージョン同時っすか」

 

 可愛らしい笑顔で佇む白髪メイドと、勇ましく銃を構えて笑う黒髪白軍服の私である。

 ちなみに数だけ見るとメイドの方が取られているっぽい。なんでさ!?

 

 私の買い物はもう少しの間続いた。




 変装主人公の見た目?FGOの獅子王かジャンヌ辺りでええやろ(適当)


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ただそれだけできれば

 緑谷達から帰ると連絡を貰って1時間。そろそろ私も帰るかと思っていると、突如遠くから聞こえる爆発音。

 

「うわーマジか」

 

 鳴り響くサイレン音。それは紛れも無いヴィランの襲来を意味していた。それを聞き逃げ惑う民衆。誘導を促すも聞く耳を持つ事は無い。

 埒が明かないと仕事道具を取りにロッカーに向かいながら、私は携帯を取り出しヒーローの応援を要請。

 

「待ってろよ」

 

 2分も経たずに着くロッカールーム。買い物は雑に放り入れ、誰も居ない事を確認しスカートを変え軍服の上だけを羽織る。

 その他小物とポーチを付けて準備完了である。いざ出陣!

 

 

………………………………

 

 

 あらゆる物が破壊されて炎に包まれているショッピングモール。人々に突き飛ばされて逃げ遅れた一人の少女。逃げた集団から孤立し目立ってしまう事態に陥る。

 

「おぉーいいねぇその泣き顔。そういうのを見たかった」

 

 この惨状を引き起こした元凶は歪んだ笑みを浮かべて少女を見る。状況に頭が追いつかず、真っ青な顔で泣いていた。

 ヴィランはへたり込んでいるその少女が嫌々と首を振る姿を見て更に笑みを深める。

 

「やっぱり映像より実物の方が何倍もいいねぇ!興奮する!!これに痛みを加えれば一層良い顔するよなぁ!」

 

 ヴィランはそこら辺にある落ちていた欠片を拾い、そして———

 

「良い顔見せてくれよぉ!」

 

 一度握った欠片を投げてその個性を発動させようとする。

 

「ひぃ……っいやぁ……誰かぁ……助けっ……!!オールマイトぉ!!」

 

 少女は今は居ない英雄の名を叫んでしまう。来ないのは分かっているが呼んでしまう。

 強く目を瞑り数舜後に訪れる脅威から目を離す。

 

 そして……鼓膜を刺す様な爆発音が轟く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが

 

 

 

 

 

 

 

 

 ただそれだけであった。

 

 ————————警戒していた脅威は訪れる事は無かった。

 

 変化に気付き目を開くと白いモチモチした何かが視界を覆っていた。

 何が起こったのかと視界を確保するために、白い何かから体をずらして見る。

 

「もう大丈夫だ……何故かって?」

 

 少女の視界が開いた瞬間映った物は、辺りの炎の中で輝く金色の髪と、大きく見える女性の背中。そして振り返ると見える瞳は美しい青色だった。

 

「——————私が居るから」

 

 先程のヴィランと違い温かく安心させる微笑み、そして力強い女性の声。

 

「うぅ……ぅ……オールマイトぉぉぉぉ……!!」

 

 あふれる涙で視界がボヤけて、より金髪の女性の姿が英雄と重なってしまい、その名前を呼んでしまっていた。

 

 

…………………………………………………

 

 

 何故にオールマイト……と思ったが今金髪でしたね。完全に忘れてました。

 

「てめぇ……その装備は再建の旗か……!!」

「そうだが?じゃあ用件は分かってんな?」

 

 不敵に笑うが余り余裕は無い。私にとっては初の個人での防衛戦だ。しかも見た限り敵の個性は……

 

「爆破系の個性か」

 

 私が一度も勝った事の無い爆破系の個性だ。しかも厄介な類の物である。

 

「ヴィラン……テメェの罪を数えろ」

 

 かつての英雄らしく……絶対守り抜いてやらぁ!

 そうして私は銃の引き金を引き、それが戦闘の合図であった。

 

「流石に当たらねぇか……!」

 

 銃口から逃げるように体を動かし弾を避けていくヴィラン。そして反撃が飛んでくる。

 

「やっぱり……手に触れたモンを爆弾に変える能力か!」

 

 手に触れた物を爆弾にして指パッチンで対象を爆破する。どの辺りまでが爆弾の対象になるかは分からない。

 

「爆風がうざってぇな!」

 

 手榴弾を投げても、地面を爆破させて強引に軌道を変えて来る。その影響で粉塵もヴィランにまで辿り着かない。

 そうかと思ったらこちらに突っ込んで来るのを見て壁を生み出すも、壁ごと爆弾に変えて来る。

 

「うわー相性悪っ!」

 

 復元した物が全て爆弾になって襲い掛かる状態だ。

 後ろの子に被害が行かない様にあっちこっちと走り回る訳にも行かねぇから余計にキツい。

 間合いに入られて相手が狙うのは私の服であった。

 

「まずっ!」

 

 服に触られると内側からの爆破でお陀仏だ。何でヴィランの能力はどいつもこいつも殺意高いんだよ!

 

「ドラァ!」

 

 体を捻り突き出した手の平を躱して腕を取り背負い投げる。

 地面に叩きつけられた衝撃で空気を吐き出すヴィラン。私は距離を取りマガジンを変えて弾を撃とうとするが、目の前が爆発し視界が塞がれる。

 

「空気も爆弾に変えるとか厄介だなホント!」

 

 私はお構いなしに弾をヴィランに撃つが、手元付近が爆発し銃口がブレる。装備が優秀故に手に怪我は無い。

 

「チッ」

 

 銃は銃口をずらされ、壁は爆破されてあまり効果無し。

 舌打ちしながらプランを切り変えて、起き上がろうとするヴィランに、こちらから急接近する。

 ヴィランも気付いたのか思ったより早くに起き上がり、周囲を触って爆弾の壁を作る。

 

「っ……!」

 

 爆弾の壁に構わず突っ込む。容赦なく爆破が行われるが、顔を含む体中を襲う熱さを耐えて直進し拳を握り

 

「歯ぁ食いしばれぇ!」

 

 破れかぶれで突き出そうとした腕を見切り、顔面に全体重を乗せたカウンターを叩き込む。

 

「ッッラァ!」

 

 殴られたヴィランが床に沈み動く気配は無い。

 

「ハァ……ハァ……ッ!」

 

 顔を襲う熱さと痛みを我慢して右手を空に突き上げる。

 次の瞬間

 

『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!』

 

 逃げていた野次馬たちから歓声が上がる。これで終わりだったら楽だったんだけどね。

 

「むしろここからが仕事なんだよね……」

 

 今なお燃えている周りの惨状を見て溜息。数分後に遅れてやって来たヒーローと警察にヴィランを引き渡し私は炎の中に向かっていった。

 

 こうして修復ヒーロー『2R』の伝説は新たに生まれていき続けていくのであった。

 ……金髪バージョン(ファン通称オールライト)のフィギュアの発売と一緒に。




 終わり


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最終回:私が・・・

 この主人公で書きたい事は大体書いたので最終回である(唐突)
 過去最短だけど許してね?


 5年前、ヒーローになった頃にそんな事があったなぁ……と振り返りながら私がヒーローになってから5年目のビルボードチャート。

 

『かの平和の象徴オールマイトの引退から、もう5年も過ぎましたが……遂にこの時が来ました!』

 

 学校卒業後に1年アメリカに行き成長を遂げてから、帰って来て更に1年。

 

『入れ替わり立ち代わり激しいヒーロー新時代!あのオールマイト以来達成されなかった記録!』

 

 事務所を立ち上げ、チームも集めていき……

 

『逮捕率!事件解決率!支持率!全て1位!チーム『リペアルフラッグ』リーダー!』

 

 司会が呼吸を整えてその名を口にする。

 

『再建の旗!修復ヒーロー2R!!!炎帝退け!ついに!ついに!!№1ヒーローに君臨です!!!!』

 

 観客から大歓声が上がる。

 

『では新№1ヒーロー!コメントをお願いします』

 

 そうして手渡されるマイク。とは言え最初に言う事は決まっている。

 不敵に……そして堂々と笑って言ってやる。

 

「私が……来た!」

 

 超常の力が行き交う中で現れた夢の職業『ヒーロー』。

 そして平和の象徴と呼ばれた者が居た。その者の意志を意図せずに受け継ぐ破目になった女性が居た。

 これは、そんな世界で止まらなかった私の物語。その一幕であった。

 

 

 チートそうでチートじゃない、けどあったら便利。そんな個性~Fin~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(文字数稼ぎの主人公プロフィール……1000字って多くない?)

 

名前:物見(ものみ) 直(なお)

性別:女

パーソナルカラー:白黒

身長:165cm 体重:???

性格:大雑把・細かい事は余り気にしない

好きなもの:心操・物分かりが良い人

嫌いなもの:破壊・ナンパ

ヒーロー名:修復ヒーロー「2R」

 

個性:修復・復元

個性説明

見た物を修復及び復元する個性。体力を大きく消費する。

修復→視界範囲内にある物を正しく元の形に繋ぎ直す。

復元→視界内の物を元の形に巻き戻す。元の物体内なら形も弄れる(一部復元)。

作品当初は建物の中に入って直してたが、途中から中にすら入らずに外側見ただけで建物を直している。適当だね。

 

 

 本来は体育祭編で終わる予定だった主人公。

 ちなみに心操君と一緒の学校だという設定は一話を書いた後に付けた後付け設定。故に心操君が好きという設定も後付け。

 重い過去も全部後付け。林間合宿や二つ名の下りも当初プロットにすら無かった後付け。

 この子の9割は後付け(その場面で3分位で考えた程度)で出来ている。だから描写その他諸々が割と矛盾だらけ。酷いね!!




 終わったんじゃよ。後語りを後日書くかも。


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ボツ話 バッドエンドのその先で

 いつぞやに書いて消したボツ話

 林間学校の辺りから派生している


1.定番だけど肝試しってあんまり行かないよね

 

 

 夕飯と皿洗いの後はA組B組対抗?の肝試しである。

 

「補習連中は今から俺と補習だ」

 

 相澤先生の一言により赤点組は引きずられていく。まあドンマイ?

 

「くじ引きで2人一組になるのか」

 

 A組は5人補習だが私が入った事で偶数になる。そしてくじ引きの結果が……

 

1.常闇・障子

2.爆豪・轟

3.耳郎・葉隠

4.物見・八百万

5.蛙吹・麗日

6.尾白・青山

7.飯田・口田

8.緑谷・峰田

 

 

「八百万とか。よろしく」

「ええ物見さんと一緒は頼もしいですわ」

 

 見事に女子同士でペアである。峰田が男女ペアになるように別れろよオォン!って気迫を感じるが気のせいだろう。

 とても肝試しではビビるとは思えないペア2組が出発して、次に女子ペア3組の出発になる。

 ちなみに私はポーチ持参である。なんかもう持ってないと落ち着かない。

 

「おーおー耳郎の悲鳴が聞こえてくんな」

「物見さんってこういう事の経験は?」

「肝試しか?そういやないな。八百万は?」

「私も初めてですわ。でも物見さんは怖がらなそうですし安心です」

 

 どうやら八百万の中で私は怖がらないカテゴリーに入っている様だ。他は?と聞くと先立ち男子4人と蛙吹と飯田らしい。

 話していると地面からニュっと出て来てまつ毛を伸ばすB組の奴。

 

「きゃっ!」

「お……おう」

 

 こういう時どういう顔をすればいいのか分からない。いや驚いたけど!驚いたけど先にシュールという思いが強くなる。

 

「き……キャー」

「棒読みですわ物見さん」

「すまん驚くタイミングを見失ってた。B組もすまん良いリアクションが出来なくて」

「い……いえお気になさらず」

 

 どこからか元普通科手強いという声が微かに聞こえる。何だ元普通科ってA組扱いじゃないのか。

 

「ま、次行こ……八百万」

「ええ……おかしいですわね」

 

 先程から出ている煙。轟と爆豪が先に行っている以上私の知る中でこれ程の煙を起こせる者は居ない……B組も山の中で危ない事はしないだろう。

 

「八百万ガスマスクの量産を頼む」

「……はい!」

 

 私はポーチからゴーグルとカチューシャと自前のガスマスクを取り出し装着する。ポコポコと生み出されるガスマスクを7個程ポーチのベルトに取り付ける。

 

「私は先に行った耳郎と葉隠を探す。八百万は近くのB組の世話を頼む」

「……一人で大丈夫ですか?」

「大丈夫だろ。この先の中間地点にラグドールさんも居る」

「……わかりました。ですが早く戻って来て下さいね」

「ああ」

「ご武運を」

「八百万もな」

 

 さてゴーグルの電波感知機能をオンにして……流石に3分じゃそこまで遠くには行かないよな。

 

「B組の分の電波もあるから結構多いな」

 

 流石現代っ子だ皆携帯を常備である。近くに居る連中から声掛けるか……

 

………………………

 

 ガスマスクを配りながらB組の連中の証言を頼りに耳郎と葉隠を見つけ出す……というよりも行く途中のB組の生徒が背負っていた。

 とりあえずガスマスクを装着させながらそのB組生徒と共に道を戻る。途中で相澤先生から戦闘許可が下りるのと爆豪が狙われている事を知る。

 

「物見!良かった居たね!」

「えーと……拳藤?どうしてここに?」

「八百万から頼まれたんだ。見掛けたら声掛けろって」

「で八百万は?」

「泡瀬の保護をお願いしてる!」

 

 心配性なやっちゃな……嬉しいが。さて託す先も見つけたので私も動こうか。

 

「拳藤こいつを頼む」

「コイツって……ちょ!物見どこ行くのさ!」

「いやーこの毒ガスをどうにかしようかと」

「だったら私達も!……って物見?」

「せっかくの皆との合宿をさー台無しにされてさー心底イラつく訳ですよ」

「物見アンタ冷静になんな!」

 

 安心しろすこぶる冷静だ。

 

「大丈夫だ無茶はしない」

「……本当だね」

「ああ……だから葉隠と耳郎を頼む」

 

 私の目を見て決意した拳藤。悪いな私のワガママに付き合って貰って。

 

「絶対に戻って来なよ!」

「当たり前だ」

 

 まだ見ぬ毒ガス野郎よ……さあ戦争を始めようか。

 

………………………

 

 毒ガスの中心に居る学生服を着たガスマスクのヴィラン。個性のガスの動きで近づいてくる人物の人数を凡そは把握出来ている。

 

(1人だけこちらに近づいてくる……流石名門校。でも所詮人間なんだよね)

 

 300m手前で近づいてくる人物の動きが止まる。木に寄り添ってから動かない。毒ガスにやられたと思っている。

 

(まあいくら近づいても無駄なんだけどね。どれだけ優秀な個性があってもね)

 

 ヴィランはほくそ笑む。懐に手を突っ込み誰か動きが無いかを感知しながら待ちの姿勢を崩さない。

 近づいた人物も木の近くから動かない。

 

(所詮人間……銃を撃てば傷つくんだ)

 

 そう人間とは銃を撃てば傷つく。その傷口から毒ガスが入れば致命傷だろう。そしてこの個性社会、銃を携帯する人物なんぞ皆無だろう。

 

(誰も来な……!!!!!!!)

 

 小さな発砲音。その直後にヴィランの脚……右のアキレス腱が強く熱を帯びる。

 

「うが!……ああああああああ!!!!」

 

 そして遅れて来る強い痛み。思わずその場に脚を押さえて蹲る。

 

(何で!?何で!?何で!?何で!?撃たれた?どこから!?)

 

 脚から流れる血。ヴィランの意識が混濁する。

 

(拙い!毒ガスを遠くに!いや止めて……)

 

 ヴィランが出している毒ガスである。当然ヴィランの意思で止められる。モタモタとしていると再び小さな発砲音。

 

「ああ!?ああああああああ!!!!????」

 

 左肩を撃ち抜かれる。滴り落ちる血と更に重なる激痛に声を上げる。もはや個性どころではない。この場から逃げなくてはと思うが。

 

(足が動かない……!?)

 

 アキレス腱を撃たれている為力が入らずに左足だけバタバタと動く。動く右腕で進もうとする。

 

(足音!?)

 

 ヴィランが反応し銃を構えようとした瞬間に右腕に強い衝撃。

 

「ぐぅ!」

 

 そしてヴィランはここに来て相手を認識する。そこにはスナイパーライフルを肩に担ぎ拳銃を向ける1人の女性。

 

「……ヴィラン連合って奴か?」

「……ぐっ!ああ!?」

 

 ヴィランは再び銃を構えようとするが右手を撃たれて叩き落とされる。

 

「返事は?」

 

 ヴィランはその女性の目を見る……見てしまう。ゴーグルから覗く目はとてもじゃないがヒーローを目指している者の目ではない。ハイライトが消えて無機質にこちらを捉える双眸は完全にヴィランのそれである。

 

「何で!?何で雄英の奴が狙撃銃なんて!?……ぐぁ!」

「返事は?」

 

 質問に答えないヴィランに一方的に銃をぶっ放す女性。それによりガスマスクが破壊される。晒される素顔だが関係無いと言わんばかりに銃を向ける。

 

「返事は?」

「……ぐあっ!」

 

 動かせる右腕と腹を思い切り踏み抜かれる。目線の先には今まで自分が相手に向けて来た銃口が覗く。

 

「……知らない!そんな組織!」

「……そうか」

 

 短く返事をした女性。銃を向けながら空いている左手で手榴弾を取り出し肩の傷口の近くへ置く。

 

「……本当か?」

「………………………」

 

 あのエンデヴァーでももう少し容赦するぞ!?

 

「お前それでもヒーロー候補かよ!?」

「そうだが?」

 

 冷たい返事を返す女性。何がメイドヒーローだ何が修復ヒーローだ。そんな優しい人じゃない。目の前に居るのは完全にヤベー奴である。

 

「返事はしないって事でいいのか?」

「……」

 

 左手に銃を移して屈む女性。そして右手で思い切り口を開けて銃をねじ込む。

 

「話す気になったか?」

「……」

 

 ヴィランはもう完全に泣いている。それでも顔を横に振る。

 

「そうか……じゃあさらばだ」

「……!!??」

 

 撃たれる!そう思って目を瞑ると首筋に強い電流が流れて意識を失う。

 

「……初めてまともに使ったなスタンガン」

 

 女性は気絶しているヴィランの傷口を見て手当てを始めるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

2、奇術師ヴィランのジャンプ力って人間やめてるよね

 

 

 ヴィランの装備を全部剥ぎ取り傷口の弾を取り出し治療後に縛り上げる。

 

「これで良しっと」

 

 木にくくり付けて放置する。後で引き取って貰わねば。

 

「ここから一番近いのは中間地点のラグドールさんか?」

 

 森の中の道に戻り次の行動を考えていると木の上に何かが飛び出す。

 

「なんだありゃ?B組の奴って訳じゃないよな」

 

 マントを着けて木の上をピョンピョンして見るからに怪しいし追ってみるか。

 

「結構距離あるなー」

 

 ゴーグルのズームで距離を測りながらも移動していると軌道的に投げ飛ばされている様子の3人が見えた。

 

「おーおー無茶するねぇ」

 

 森の中に落ちて行った彼らを追うとそこには見るからにヤバい連中と相対するクラスメイト3名。銃が当たる距離まで近づき木の上の射線が通る位置で息を潜めて出方を伺う。

 

(銃の弾は……入ってるな)

 

 陰で見ていると障子が玉を2つ見せて駆け出そうとするが仮面のヴィランが口の中に更に2つ玉を隠し持っていた。

 

(あれが本命って事でいいんだな?)

 

 焦っている様子の3人。霧らしき何かに吸い込まれる仮面の奴に照準を合わせて引き金を引く。

 

(これで終わりって……いかないか)

 

 顔に当たり口に含んでいた玉を取り返そうと飛び出す3人。1つは障子が掴みもう1つの玉に手を伸ばすヴィランに照準を再度合わせ撃つ。

 

「……っし!」

 

 ヴィランの手が強い衝撃により弾かれ轟が玉を取る。そして取った事を確認した瞬間に轟が最大火力で個性を使い視界を奪う。

 

「ずらかるぞ!」

「ああ!」

 

 チラリとこちらに視線を送る轟。私もライフル置いて退散しますかねー。

 

「うおっ!」

 

 逃げようと思って木から降りた瞬間に熱さを感じて目を向けると私の視界に青が迫る。あーこりゃ無理だ。遠くから誰かの叫び声が聞こえるし。

 

「なんて諦める訳ないよなぁ!」

 

 投げるのは命一杯の壁の欠片、迫る青い炎。

 

「っっっ!!!あっっつっ!!」

 

 大部分は復元が間に合った壁に阻まれたが目前の炎には対処できずに直に焼かれる。弾の薬莢が誘爆して太ももが上半身とは比べ物にならない痛みが生じる。

 

「いっっっ……!!」

 

 ゴーグルにより目は無事であるが腕……というより上半身の火傷も洒落にならない。肌全部から焦げる匂いがするし服も髪も焼けている。

 

(ああ……こりゃ無理だ)

 

 やがて痛みと酸素の不足で私は意識を失う。

 

 

……………………………

 

 

 ヴィラン連合による林間合宿の傷跡は深かった。

 生徒12名が毒ガスによって昏睡状態。

 重・軽傷者11名。その中の生徒の1人「物見 直」が全身火傷による意識不明の重体。奇跡的に一命をとりとめるも未だに意識が戻らず。

 その他多くの犠牲を出して林間合宿が終了となる。

 

 病院で多くの人が悲しみに包まれていた。中でも炎の阻止を出来なかった轟と障子の顔が大火傷の物見を見て曇る。脳無の襲撃から目を覚ました仲が良く一緒に行動してた八百万は大粒の涙を流す。

 その他A組の生徒と送り出したB組の拳藤も今にも泣きそうな顔であった。

 手術後全身の肌が継ぎ接ぎ状態で見るからに痛々しい物見。当然ながら面会謝絶であった。

 

「チッ!余計な事を」

「爆豪!」

 

 拉致寸前に救出された爆豪は悪態をつくも顔は暗い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3、個性が少し変わったよ

 

 

「知らない天井だ……」

 

 炎に包まれてから幾何の時が経っただろうか……体中から痛みと熱がぶり返し目を開けるとそこには「青い線や模様が多数刻まれている天井」がある。そして「それ」を認識した途端に頭痛に襲われ再度気を失う。

 

………………………

 

 この「青い模様」が再度目を開けると天井には無くなっていたが視界を他へ移す度に映り込み認識すると頭痛に襲われる。

 私は目を開くのを諦めて手探りでナースコールのボタンを探し押す。

 しばらくして駆け足で誰かがやってくる音が聞こえる。

 

………………………

 

 私は自分の体の視認すら出来ないまま目にも包帯を着けてもらい担当の医師に説明を受ける。

 何でも体中火傷で焼け爛れていて酷い有り様で病院に運ばれた。運ばれて一時呼吸も止まっていたらしく心肺も弱まっていた。

 治療も難航し学校からリカバリーガールが来て個性を使うも容態は安定せずに生死を彷徨っていたらしい。

 一命をとりとめるも体中に火傷の痕が残り意識を取り戻さなかった。

 また体の中でも太もも部分の傷が深く一時歩けないと言われる。

 髪も完全に焦げてしまってリカバリーガールでも治せない状態だった為首の辺りまでバッサリ切ってしまったらしい。道理で頭が軽い訳だ。

 勝手に髪に手を付けた事を謝られたが気にしていないと返す。

 

 今でも体中に包帯を巻いて経過を見ているとの事。そして極めつけがだ。

 

「個性の暴走ですか……」

「ああ呼吸停止の際に脳が少しダメージを受けてしまってね。君の個性か身体機能に影響が出るかもと言われた」

 

 不幸中の幸いは私の個性が基本害を与える類の物では無い事だろう。だが私の視界に変化が生じている事を話すと医師の声は難色を示す。

 

「脳のダメージの影響か……分かったこの後にまた精密検査を行おう」

「お願いします」

「構わない。久しぶりの寝起きで疲れただろう今日も面会は無しにしとくから休んでおきなさい」

「はい……そう言えば何日程寝ていたんですか?」

「24日……約3週間だ。このまま目覚めないのではとも言われてた」

「そうですか……心配かけましたね」

 

 皆どうしているんだか……暗い視界の中で意味も無い考えを巡らせていた。

 

………………………

 

 精密検査の結果、私の個性に変化が生じてしまっていた。今まで何となくで感じてきた修復部分が自分の認識しない僅かな傷さえも目が……脳が捉えて青い模様や線として現れてしまっているらしい。また傷ついた物の寿命さえも捉えて30日とは言わずに正しく「物の死」が見えていると。

 

「普通は見えない物を見ている訳だから脳の負担も比べ物にならない」

 

 それに加えて個性の暴走だ。青い模様を消そうと意思に関係無く個性が強制発動。病院内で部屋だけだからこれで済んでいるが街に行こう物なら……考えるだけで恐ろしい。

 

「これから大変な生活になるかもしれないがこちらも精一杯サポートする。だから頑張ろうな」

「……はい」

 

 対策が出来るまでは目を閉じての生活になると言われた。

 その日の夜は看護師に付きっきりで介護をして貰った。途中で使っていた痛み止めが切れて全身の痛みと熱がぶり返して気絶した。辛い。

 

 

………………………

 

 ラジオ代わりに聴いていたテレビでオールマイトが引退したと言われていた。マジか。

 また雄英のヴィラン連合強襲は今でも取り上げられ管理体制について厳しく言われていた。私の名前が何回も出た。叩き台にするのは止めてもらいたいのだが。保須の事を取り上げる時にメイドヒーローはやめて?お願いだから。

 連日連夜ニュースで報じられる今後のヒーロー界の行く末。ホントどうなるんだろうね。

 

………………………

 

 リカバリーガールの治療も合わせて数日経ち痛みが引いて来た頃に面会謝絶が解かれる。まずやって来るのは学校関係者であった。

 これまでの事を聞かされた後に無茶した事に対する説教と無茶させてしまった事に対する謝罪。

 個性に関しての説明と今後の進路の是非。一時ヒーロー科から普通科へ戻る事になるだろうと言われた。そも両親が雄英に通う事と全寮制での寮生活を許してくれるかの家庭訪問もあるらしい。

 そして最後に無事……とは言えないが意識を取り戻した事を喜ばれた。

 

 その後に警察関係者が来て事件についての聞き取りが行われた。とは言え私自身ヴィラン連合に関しては本当に何も知らないのだが……。

 警察関係者で時間となりその日の面会時間は終わった。

 

………………………

 

 

 さらに次の日、昨日来れなかった両親が来る。私の痛々しい姿に胸が張り裂けそうな思いだったと涙を流しながら言われた。顔は見えないが悲しさで一杯だろう。

 今後はあるか分からないが心配かけないようにしなければ……。

 父も母も私が女性として少し歪な肌になってしまった事も心配していた。

 家庭訪問は明後日行われるとの事。私は両親と共に病院で。

 

「ヒーロー活動は死と隣り合わせ。そう覚悟していたんだがな……」

 

 まさか女性としての死が近いとは思わなんだ……綺麗な肌を見せてやりたかったな……はぁ。あれ目が濡れている。おかしいな。

 注意一秒、怪我一生とは良く言ったもんだ。

 

 

 

 

 

 

4、少し休むだけだから

 

 

 両親が泣きながらも帰った後に続いて誰かがやって来る。

 

「物見さん……その目は」

「個性がちょっとな……八百万だけか?」

「……いいえ私だけでは無いです。緑谷さんに障子さん、轟さんに常闇さん。それに飯田さんと、相澤先生も引率で居ますわ」

「7人か。それにしては足音が少なかったが」

「物見さんが着替え中だという事も配慮した結果、私が先に見て来る事に」

「そうか。それで他6人はどこに?」

 

 八百万が言うにはロビーで待機中らしい。私は動けないので呼んで貰う。昨日来た相澤先生以外は息を漏らしていた。顔は見えないが喜びの顔ではないだろう。

 

「物見くん目が覚めて何よりだ」

 

 飯田が声を震わせながらも話しかける。恐らく目を包帯で巻いているのが重く見えるのか……はたまた別の誰かと重ねているのか。

 

「おはようございます、とでも言えばいいか?今は何時か分からんが」

 

 朝飯は食べたけど昼飯は食べていないから11時くらいか?

 

「相澤先生も忙しいのに引率ご苦労様です」

「全くだ。本当は生徒は外出は禁止なんだがな。こいつらが話をしたいと再三言ってきて、校長も積もる話もあるだろうから行って来いと許可出しやがった」

「ご愁傷様です」

 

 親の返事によっては雄英で会えなくなるかもだからなぁ。私も相手も。

 

「それで話って言うのは?」

 

 大体想像は出来るが。一時、間が空く。

 

「物見さん……ごめんあの時……体が動かなかったんだ。助けてあげられなかった」

「緑谷か。障子に背負われていた所を見たが、無理をしすぎだ……って私が言っても説得力無いか」

「そんな!物見さんは動いてくれたから、かっちゃんも常闇くんも助かって!」

「助けに来た人が無事じゃなきゃ意味が無いんだ緑谷」

「……ッッッ!!」

 

 すまない今の緑谷には一番堪える言葉だろう。勿論私にもだ。人の事を言えた義理ではない。

 

「ではその助けられた者から謝礼を。物見お前のお陰で助かったありがとう。そして済まない俺がもっと強ければ……」

「謝礼は受け取っておく。これから強くなればいいだろうさ」

 

 助けた人に過去の事は言わない。それが未来を守った者の礼儀だと思っている。

 

「物見すまねぇな……あの時爆豪の玉を掴んで焦って……お前なら無事に離脱する勝手に思い込んでいた」

「油断した私の自業自得だ。轟が気にする事じゃない……って言っても気にするか」

「油断?違うだろ物見」

 

 障子が口を挟む。あんまり話した事なかったなお前とは。

 

「付き合いは短いがお前の事だ。俺たちが離脱出来るかどうか狙撃態勢で見送ってただろう。邪魔が入れば再度狙撃していた、違うか?」

「……さて、どうだかな」

 

 生憎そんな優しい性格ではない。

 

「私も知識としてありますわ。狙撃は一撃離脱が基本、ですが話を聞いた限り2発撃ってその位置に居る……それがどれだけ危険な事か」

 

 八百万お前もか。

 

「私はそんなお人好しじゃねーよ。ただの判断ミスだって」

「ですが!」

「八百万くん落ち着きたまえ!」

 

 飯田が止めに入る。私が原因で内輪揉めは勘弁願いたいが……ホント言えた義理じゃないな。

 

「物見くん意地っ張りな君の事だ。どうしても自分が悪いと思うだろう」

 

 いつも堂々としているのに変わらず声が震えている飯田。

 

「だからこれだけは言わせて欲しい。生きていてくれて良かった」

「……ああ。そうだな」

 

 他の奴等もそうだがもっと聞きたい事が……言いたい事があるだろう。だが聞いてこない。後悔で聞けないのか優しさで聞けないのか。

 

「八百万」

「はい」

「合宿後の約束覚えているか」

「体育祭のリベンジ……でしたわね」

「私の個性が今少しばかり変化していてな。しばらく果たせそうにない」

「そう……ですか」

 

 八百万の声のトーンが低くなる。

 

「だから待っていてくれ。それだけだ」

「…………はい!お待ちしておりますわ」

 

 八百万の声が明るくなる。いい声だ。

 

「話はついたか?」

 

 相澤先生が〆に入ろうとする。あ、1つだけ言いたい事あった。

 

「誰か爆豪に伝言頼む」

「聞こうか」

「体育祭のリベンジ絶対してやるって」

 

 結局爆豪には負けたままだ。しかも完封でだ。

 

「物見らしい」

 

 轟が笑ったトーンで言った。それに釣られて他の皆も伝えておくと元気に返事をする。これでいいんだ……これこそがA組だろう。

 病室を出ていく足音が聞こえる。皆出て行ったのだろう。

 

「物見」

 

 相澤先生の声が聞こえて来る。

 

「心配かけたな」

「何の事でしょう?」

「……お前がそう言うなら、そういう事にしておく」

 

 勘の良い先生だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………………………

 

 

 テレビを聴きながらぼーっとしているとまた足音が聞こえる。

 

「物見起きてるか?」

「心操か。どうした」

 

 変わらない声色の心操に安心を覚える。

 

「君にしては珍しく無茶したな」

「自覚はあるさ。ホント何してんだか……」

 

 私の声は震えているだろう。

 

「なあ心操」

「どうした物見」

「手を繋いでくれるか?」

「……ああ」

 

 私が伸ばした手に心操が触れる。繊細……とは言えないが丁寧に扱ってくれるのは分かる。

 

「物見……不安だったんだな」

「当たり前だろ……こんな状態で不安にならない程、私は強くない」

 

 手が……腕が声に合わせて震える。それに応える様に心操が両手で私の手を包む。

 

「物見」

「なんだ………って痛っ!」

 

 デコピンを喰らう。つい声が出てしまう。

 

「大方、傷だらけで嫌われるとでも思っていたか」

「……悪いか」

 

 再度デコピン。怪我人だぞコノヤロー。

 

「物見らしくない。俺がそんな事で嫌いになる訳ないだろ」

「そりゃ……まあ」

「全く。いつもすまし顔の君はどこ行ったんだ」

 

 私は普段そんなに感情を出さなかったか?

 

「大丈夫だ物見。俺が居るから。だから安心しろ、どんな姿になっても見てやる」

「本当か?」

「君は止まらないと決めたんだろう?だから追ってやると。そう言っただろう」

 

 言ったな確かに言った。

 

「絶賛止まっているんだが」

「止まっているんじゃない。休んでいるだけだ」

 

 お前そんな屁理屈言うキャラだったか?そういうのは私の役目なんだが。

 

「キャラ盗ってるんじゃねぇ」

「……その声だ」

 

 ずっと変わらないトーンで話す心操。気が付いたら手の震えが止まっていた。

 

「落ち着いたか物見?」

「……お陰でな」

 

 止まらせたいのか止まらせたくないのかどっちなんだか。つい笑ってしまう。

 

「なんか久しぶりに笑った気がする」

「それは良かった」

「……笑わないお前に笑わせられるのは何か悔しい」

「変なところで悔しがるな物見」

 

 私の告白にノーリアクションだったんだぞコイツ。あーなんか悔しい。

 

「寝る!」

「……」

 

 ふて寝に対してもノーリアクションか。いいもんこのまま寝てやる。

 

 

 

 

「物見」

「………………なんだ」

「好きだ」

「………………………バーカ」

 

 片手で布団を更に深く被りながらも手の繋ぎ方は変わ




懐かしいですね☆


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