ロクでなし魔術講師と白き大罪の魔術師 (またたび猫)
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煉獄の箱庭都市編
白き地獄の都市の世界


今回は【第2弾】の作品を投稿しました。
更にロクでなし魔術講師『シリーズ2作品目』を
頑張って書いてみました。作品を楽しく読んで
くれたらとても嬉しいです‼︎


『評価』や『感想』、『意見』更には『投票』
などの『応援』や『メッセージ』などがもしも
ありましたら是非、よろしくお願いします。
(^ω^)(笑)





【注意】

『グロい演出や内容』、更には『教育上』かなり
良くない『サイコパス的な異常さ』などの表現が
沢山、書いてありますのでそれが無理な方は読む
ことをあまりおススメはしません。それでも読む
方は『自己責任』で読んでください。





『魔術師』

 

『それは…魔術と呼ばれる奇跡の業を用いて

万物の真理を追い求める誇り高き探求者達』

 

 

『それが……魔術師』

 

 

 

世間は崇高で孤高な神に近づく為の素晴らしい

学問と口を揃えてそう言うが本当にそう言う程に

崇拝する程の尊敬出来る素晴らしいのだろうか?

 

 

 

 

「幾ら魔術の真理追い求めても『正義』という

言葉の本当の意味も答えもこの世界で未だ誰にも

分かった人物はいない……」

 

 

 

 

これは『魔術』とは『正義』とは一体、何なのか

その『言葉の意味』を正義の在り方を真に知る為の

必要なお話だと思う……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少年が空を見上げると冷たい風が吹き白き氷が街の

全て覆い尽くしていく。少年が住んでいた街の住人

を殺して喰らい尽くし、無慈悲に凍らせて更に他の

人間達を白き尖った氷で何万人の人間を串刺さって

周りには街の地面や建物、更にはバラバラになった

人間の手足などがべったりと真っ赤な血飛沫が飛び

散って街が真っ赤に染まっていた。

 

 

 

「…い…いや…嫌だ‼︎ 頼む‼︎ 助けてくれ‼︎

全てを、全てを奪わないでくれ‼︎」

 

 

 

 

ああ…愚かしい…なんと愚かし過ぎる愚か者の

醜くて聞くに耐えない耳障りな悲鳴が聞こえる…

 

 

 

 

 

少年は男の声が枯れるまで必死に叫び続ける姿を

眺めているだけだった。だが、無慈悲にも魔氷の

氷は街を目の前で全て氷が凍り尽くしていき白き

氷が真っ赤な血で染まっていくなか男は意識が

薄れていき息が出来なくなり意識が途中で無く

なって気を失っていく直後に街の氷は砕け散り

消えて建物などが廃墟になった。

 

 

少年が周りを見ると氷は消えていたが街の建物は

崩れ落ちてしまい、魔氷で凍りついていた人の死体

の中歩きながら死体の山を目の前して凍りついた

大量の人間の骸が周りに転がっていた。そして少年

は街だった荒野を一歩、また一歩と歩き空を見上げ

ていた。

 

 

 

「侵入者排除完了…適正反応、消滅……」

 

 

 

少年は誰もいない街の中、街の人達の凍りついた骸

に向かいながら当たり前の様にここにいた人達が

砕け散って死ぬまでの瞬間を見るとまた、猛吹雪の

中に静かに消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少年がいた街はフェジテから少し北にある小さな

街で森に囲まれている少し田舎みたいな街だった。

 

 

生まれた時から街で迫害や差別あった。ある者は

『人類最古の素晴らしい遺産』やら『殺戮に特化

した兵器』などと街の人達に言われ恐れられて

外道魔術師達が街から少し離れた実験室の水槽に

閉じ込められていた。

 

 

 

(…ここは…)

 

 

 

『暗くて』、『狭い』水槽の中でただ虚な目で

外を眺めていた。そんな毎日が無限に続くように

感じた自分とは何者なのか? それにそんな

『罪深く醜い汚れた』存在なのか?そんな疑問が

浮かんだ。

 

 

(ごめんなさい…許して……

もう悪い事しないから……)

 

 

と言う毎日の中この暗い水槽の中で誰かに許しを

請う様に謝り続ける自分とは違う水槽の中にいた

他の少年、少女達は水槽の硝子に手をつけながら

決して届かぬ願いを込めていた。しかし、真っ暗な

中で少年はただ眠り続けている中、目を覚まして

辺りを見回すと、水槽の中にいた少年、少女達の

死骸が沢山あった。

 

 

(推測……これは遅く…彼等はこの実験の

成れの果てと肯定する)

 

 

少年はそう考えていると再び眠りにつくと少年の

心の中に一つだけ残っている物があった。

 

 

それは………

 

 

 

『メルガリウスの魔法使い』

 

 

 

少年は暇さえあればその本を毎日、何十回、

何百回も飽きる事なく色褪せるまで何度も

読み続け少年はそんな本に出て来る有名な本で

ある『正義の魔法使い』にある疑問が浮かんだ。

 

 

少年が読んでいるメルガリウスの魔法使いとは

話しの内容は『メルガリウスの天空城』を舞台に

『正義の魔法使い』が『魔王』を倒して『お姫様』

を救う。そんな王道の物語を見て少年はこの本の

『メルガリウスの天空城』の『正義の魔法使い』

に書いてある内容の意味が全く分からなかった。

悪い魔法使いや魔王達から沢山の弱い人や困って

いる人を助けられるそんな意味を魔法使いを心を

理解出来なかった。

 

 

と、何故かその日に限ってそんな事を考えていた。

だが、結局、少年は分からなかったので考えるのを

やめてそのまま眠りについたのだった。

 

 

「……い…めて……がい」

 

 

(……なんだ?)

 

少年は少し遠い所から微かに声が聞こえた様な気が

して周りを何度も見渡すが誰も見つからなかった。

 

 

(……疲れているのかな?)

 

 

 

気のせいだろうと考えて再度目を瞑り直すと

 

 

 

「……だけは……ださい……ひを‼︎」

 

 

 

 

(空耳じゃない…?)

 

 

 

 

少年は真っ暗な中、目をよく凝らして周辺を

確認すると…

 

 

 

「お、お願いします‼︎ た、助けて下さい‼︎

ど、どうか、どうか‼︎ お、お慈悲を‼︎」

 

 

 

 

「え~、嫌ですよ? だってそれが我が組織の

『大司教様』のご意向ですから〜〜」

 

 

 

僕を部屋に閉じ込めた研究員の女性が何故だか

黒いローブを着ていた紳士の男性に土下座していて

『命を助けてほしい』と言って請いながら一生懸命

に願っている。何故かは分からないが一つだけ

分かったのは今、街でろくな事が起きている事は

分かった。

 

 

 

「あ‼︎ ならこいつはどうでしょう? このガキを

くれやりますよ⁉︎どうせ身寄りが無いですし?」

 

 

 

この女は水槽のシステムを解除して僕を水槽から

出しながらもこの女は自分の命可愛さに何も

知らない子供を目の前の外道魔術師に身勝手に

売っている。

 

 

 

そこまで助かりたいのか、生存を望むのかと

醜くくなってでも助かろうとするそこの女顔は

まるでボールペンなどでグチャグチャと真っ黒く

塗りつぶされたかのようにもう人には見えず、

醜くくて汚らわしい本で読んだような悪魔にしか

見えなくなっていた。

 

 

 

「…ほ~う……この子供は一体? 普通の子供

じゃあ無いみたいですね? まさか……」

 

 

 

 

「は、はい‼︎ そいつは『例の計画の成功例の個体』

で命令通りにしか殺す事しか出来ない『殺戮兵器』

ですから、だからこんなガキなんていくらでも

くれてやりますよ‼︎」

 

 

 

「ゲホゲホ……」

 

 

 

 

少年は水槽の水を飲み込み過ぎたか咽せてしまい

咳をこみながら少しずつ呼吸を整えていく

 

 

 

 

「なるほど……確かに尋常じゃない。こんなにも

恐ろしくて異常な魔力の持ち主は初めてですね?」

 

 

「ど、どうでしょうか?

これで私をお助けくだ…【ドッ‼︎】」

 

 

 

少年は一瞬の出来事を理解出来なかった…

何故なら……

 

 

 

「ぐっ‼︎ ぐふっ‼︎ ど、どうして……?」

 

 

研究者である女性の腹部には穴が開いており人間の

身体には必ず入っていて更に流れいる筈の熱くて

普通の日常では絶対に見るはずのないドロドロして

濃い『赤黒い液体』が大量に噴水のように勢いよく

【ドバドバ】と流れ出ており近い異常なまでの血液

が地面に流れ出している中男は女性の血液を見た

瞬間、右手でにやけた口元を押さえているが男は

罪悪感を感じているどころか指の隙間から三日月の

ように口角上げて愛おしいそうに玩具を見るような

無邪気な子供のような瞳で今にも楽しそうに笑って

しまいそうな狂気的で異常な笑いを俯きながらも

押さえるが先程の彼女の間抜けな表情を思い出した

のか「く、くく…くははは…」と先程まで口元を

押さえていた右手を離していきなり高らかに

笑い始めたのだ。

 

 

 

「どうして、ですか…そうですね~……理由は

貴方が思っている程とてもシンプルで簡単な事

ですよ? それはこの展開はそうした方が一番

面白いと思いそうしました。(笑)」

 

 

「………………は?」

 

 

白衣を着た女性はこの狂った男の考えている事

や言ってる事が全くを持って理解出来なかった。

なのに男は純粋な笑顔で次の言葉を放って来た。

 

 

「人間が一瞬の希望の光を見つけたらその細長い

蜘蛛の糸の様な糸に藁でも必死になって縋る思いで

その糸を掴み登ってあと、もう少しのその瞬間に

一気にその糸を切り落とし地獄に落とす、その 不幸

の嘆きと絶望するその瞬間が堪らなく愛おしくて

僕の哲学にビリビリ来て堪らなく良いんだ‼︎」

 

 

「……………………」

 

 

白衣を着ていた女性は男の話しを聞いた瞬間、

青ざめた顔して怯えながら一歩、また一歩と

後ずさりながら男に恐怖を感じ絶望した顔を

していた。

 

 

 

僕もこの男の話しを聞いても一欠片もその哲学も

美学も理解出来なかった。彼女が理解出来ないの

なら、遅く普通の人でも理解出来ない美学や哲学

なのだろうと思う。

 

 

 

 

「そう、そう‼︎その顔‼︎

その絶望した顔が見たった‼︎」

 

 

「ひ、ひぃ‼︎」

 

 

「そう‼︎ それで良い‼︎『他人の不幸は蜜の味‼︎』

その蜜の味を知ったら…やめられ無くなって…

もう最高さ‼︎ そんな絶望感に満ちた素晴らしい

表情をされたらぐちゃぐちゃにしたくなる‼︎」

 

 

 

男は自分の哲学や美学に入り込んでいて狂喜乱舞

してただ酔いしれていた。ある意味その思考は

歪んでいた。

 

 

 

 

「お、お願い……‼︎」

 

 

 

女はただひたすら大粒の涙をボロボロ流して必死に

身体を芋虫のように醜く這い蹲りながらも自分を

娯楽感覚で痛ぶり絶望感を与えて殺そうとしている

目の前の『悪魔のような狂気的な殺人鬼』に声が

枯れてしまうぐらいの叫び声で命乞いをしていた。

『人間としての恥やプライド、更に威厳』などの

全て捨ててまで自分の頭の額を地べたに擦り付けて

「助けて‼︎」ただその一言だけを目の前にいる

『狂気的な殺人鬼』にひたすらそれだけを求め願い

そして「お願い‼︎お願いします‼︎」何度も必死に

なって叫ぶ。しかしその彼女の願いは自分自身の

狂気に酔っている男には全くもって届かなかった。

 

 

 

 

「君には感謝しているのですよ?お伽話や都市伝説

に近いと噂されていた『白き聖杯』が神殿にある事

や『救済者』などの魅力的な情報提供を心の奥底

よりとても感謝しても感謝しきれないぐらいだよ。

だが、非常に残念なことに大司教様にとって君の

存在はもう必要がないみたいでしてね。僕もとても

心苦しくて罪悪感で潰されそうなのですがこれも

大司教様御意志なのでしょうがないんです。なので

早速で悪いが君は我らが大義の為に今、此処で

花のように命を散らしたまえ」

 

 

「そ、そんな‼︎ い、いや‼︎ 嫌よ‼︎ だって

私にはまだこ…《穿て》」

 

 

彼女は走って此処から逃げ出そうと必死になって

逃げていたが男が悪魔の様にがニヤリと笑って

放った軍用魔術【ライトニング・ピアス】により

女性の頭を貫き勢い付けて地面に倒れてべちゃり、

とトマトが潰れた様な鈍い音を立てながら彼女の

血が周りに飛び散り男の服についた。

 

 

「チィ‼︎ 服に血がついたじゃあねぇか‼︎

どうしてくれるんだよこの女‼︎」

 

 

男の笑顔が無くなり彼女の死体を睨みつけて足で

彼女の顔を何度も踏みつけて何度も「穿て‼︎」と

軍用魔術の一節詠唱を叫ぶ様に唱えてバラバラに

なって原型が無くなってしまうぐらいミンチの様に

グチャグチャにした後男は首筋に注射器を刺して

流し込んでいくと男の身体が光輝いて男の傷や

血塗れの服が一瞬にして綺麗になっていった。

 

 

 

 

少年は研究者の女性の死体や血、更には男が使った

注射型のドラッグそれを初めて見たからなのか

不思議そうに見つめていた。

 

 

 

「ん? あぁ…これか?これは少し特別な魔術

でな……まぁ、貴様みたいなガキになどには

教えたりしないけどな……まぁ良いだろう少し

レクチャーしてやる。」

 

 

男は悪魔みたいな笑顔で僕にその魔術のカラクリ

を自慢しながらペラペラと喋り出した。

 

 

 

「つまり、この注射器のドラッグを使って別の

魔術師の魔術を使える様にする崇高で素晴らしい

薬だ‼︎ しかし…まだ実験中で未完成だがな…

だが、いずれ完成したあかつきには兵器として

役に立つだろう‼︎」

 

 

そう男は言った瞬間、 僕はどうで良かったが

その薬物を製造方法にとてつもなく嫌な予感と

胸騒ぎがしただからある疑問を男に聞いた。

 

 

 

『その実験中のドラッグの薬はもしかして

その魔術師を殺して手に入れたのですか……?』

 

 

 

僕が男に疑問の質問すると男の顔が悪魔の様に

ニンマリと笑いじゅるりと音を立てながら舌を

舐めずり回していた。

 

 

「ほぅ…餓鬼にしてはよくそこまでこのドラック

の仕組みが分かったなぁ…この魔術はある魔術師

から奪った。歳は貴様より歳下だったが中々に

良い魔術だったので我が組織の礎の為に犠牲に

なって貰ったのだ‼︎」

 

 

僕の予想が当たっていた。 こいつらはその魔術師

の力を手に入れる為にその魔術師を幼い子供まで

手に掛けたのだ……故に言えるこいつは間違いなく

…この外道は根っこまで腐っている。

 

 

 

「さて、茶番は終わりです。貴様がある逸話で

噂になっている『祝福されし者』ですね?

『大司教様』が貴方を欲していらしゃる。是非、

此方に来ていただきましょうか?我らが偉大なる

『天の智慧研究会』の元へ」

 

 

 

少年はその男を背にして逃げた。ただこの男の言う

大司教様の所に行けば間違いなく殺されるかそれか

それ以上のかなりやばい非人道的な研究のサンプル

としてモルモットにされてしまうと一瞬で思った

からだ。

 

 

「おや?鬼ごっこか?良いだろう…久しぶりだから

緊張するな〜せいぜい楽しませてくれよ?」

 

 

 

男は口元を歪め面白そうに面白半分に指を突き出し

一節詠唱を詠唱し沢山の【ライトニング・ピアス】

を何の躊躇う事なく少年に目掛けて放っていく。

 

 

《穿て》

 

 

 

男がそう呟くと男の右手から電流が出て軍用魔術

の【ライトニング・ピアス】が少年の左肩を

貫いた。

 

 

「くっ‼︎」

 

 

少年は体制を崩しながらも体制を立て直し必死に

研究所を出て森の中に入り草の茂みに逃げた。

 

 

 

(どうする…? まずは情報収集が先決…まずは

神殿に行ってみよう。そうすれば何かが

判る筈だ……)

 

 

少年が考えていると遠くから男の叫び声が

聞こえてきた。

 

 

 

「しつこいぞ…貴様‼︎大人しく捕まれ‼︎

この実験体風情が‼︎」

 

 

 

それは無理な相談であった。少年はもう左肩を

やられている。更に沢山の血を流し過ぎて目が

霞み虚ろになってもうフラフラだった。

 

 

 

「この先に……」

 

 

 

少年は森の中を裸足で必死に駆け抜てそして神殿

から街をみると、とんでもない景色が少年を絶望

の底に叩き込んでいく。

 

 

 

「な、なに……これ?」

 

 

 

神殿から眺めた景色は……一言で言うなら

地獄だった。

 

 

街には沢山の外道魔術師が炎の業火で燃え上がる

中、街にいる人達を軍用魔術などを使って皆殺しに

していた。まるで害虫駆除みたいにじっくりと

かけてゲーム感覚で殺す者もいれば狩りのように

楽しみながら逃げる街の人間を獲物感覚で簡単に

心臓や頭を軍用魔術で貫いて楽しんで殺す者や

女性を捕まえて犯す者や犯そうとする者さえいた。

 

 

 

「なんだ…これは…?」

 

 

 

少年は理解出来なかった。こいつら外道魔術師達

は何の為に人を殺すのか?何故、こんな悪逆な行い

をして魔術を使うのか?

 

 

 

「分からない……理解出来ない何故、どうして…

こんな事を……?」

 

 

 

そんなことを考えていると追いかけていた男が

少年の右足に【ライトニング・ピアス】を貫く

 

 

 

「やっと、追いつきましたよ~そんな必死になって

逃げないでください。寂しすぎるじゃないですか?

私もあなたという実験体を傷つけるのは忍びないの

ですからね?」

 

 

男は少年に言うが全くそんな表情はしておらず、

むしろ狩を楽しむような狂気に満ちた笑顔を

していた。

 

 

 

 

「…【疑問】ーー貴方に一つ問いたい……」

 

 

 

「…? いきなりなんですか?

まぁ、良いでしょう…で、なんですか?」

 

 

 

「貴方達、魔術師にとって魔術とはなんですか?

そして何の為に罪の無い人を殺すのです?そして

何故、先程のような人の命を弄ぶような無意味で

非生産的なことを行うのですか?」

 

 

 

この問いに意味はない恐らく知的好奇心だろう。

そして僕は『その疑問』のそして『問いの答え』を

知りたかった。この男は満面の笑みを浮かべながら

なんの為に人の命を消耗品の玩具のように痛ぶり

弄んでそして最後は相手に希望をちらつかせて

相手が安堵した瞬間を見計らってその相手にとって

最も残酷な絶望感を与えて最後はつまらないゴミ屑

のように軍用魔術であっさりと殺した。

 

 

 

 

(分からない…全く、理解出来ない……)

 

 

 

 

殺すつもりならいっそのこと一思いに殺して

やったほうが苦しまず死ねるからまだマシだと

思える筈だ。

 

 

 

少年がそんな事を考えている中、少年の純粋な

問いに対し男はニンマリと悪魔の様な満面の笑み

の表情のまま少年に答えだした。

 

 

 

「なんだ…そんな事ですか? ふむ、では質問に

対して私達にとっての魔術とは人を殺す事とは

一体、何かだったでしたかね?」

 

 

 

(嫌な予感が……)

 

 

 

少年のそんな嫌な予感は残酷にもそんな予感は

的中する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうしてそんな事を聞くのかは分からないですが

そんなに聞きたいのであれば聞かせてあげますよ?

答えは簡単で単純ですよ…面白いからですよ‼︎

過去の歴代の魔術師達は魔術という『未知なる力』

をそれぞれのやり方で魔術を洗練されていきそして

時代が変わっていくに連れて後世の魔術師達に代々

と何年経って受け継がれていくら魔術を追求や探求

をしても絶対に変わらずそして揺らぐ事のない真理

に魔術と魔術師達のあるべき本質『絶対的な真実』

に行き着き学んだんです。そして僕が歴史から学び

導き出した答えであり、『この世界の全ての真理』

なのだと理解したんです。なので貴方に対しての

回答は『魔術は人殺しや殺人に特化した技術』、

『殺す理由は唯単純に楽しいからですよ?

まぁ、正しくは単なる娯楽ですよ?』」

 

 

 

「そんな理由で殺したのですか?」

 

 

「娯楽以外に何があるのだね? まあ、魔術や

魔術師達にはとても感謝してはいるんですよ?

この世界の為に立派に貢献して人々にもたらして

くれていますから、『人殺しという人を不幸する

為の社会的生産や貢献』をしてくれるおかげ沢山の

人々に『不幸という名の厄災』をもたらしている

じゃないですか。それに『人殺しの技術』だと言う

のはどの時代の歴史を読み取って見てもしっかりと

記載されているので証明してくれてますよ? 」

 

 

少年は男が言いたいことを理解した。こいつらは

やはり外道だ。何処まで行っても奴等は所詮、

屑野郎で腐りきった醜い犬畜生達なのだ。

 

 

 

同じ人間同士なのに自分達の『快楽』や『欲望』、

更に『心』を『食事』をするように満たす為なら

『罪無き者』を『弱き者達』を殺す事に躊躇などは

全くなく簡単に人殺しだってするそんな人間が…

いや、人間の皮を被った悪魔のような奴等が

今、此処にいる。

 

 

だが、

 

 

 

「【結論】ーー貴方の言っている意味が理解

できません。故に試して分析して検証するべきと

判断しました……」

 

 

 

そんなことはどうでも良かった。

今はとにかく『人間』という生き物の存在を

もっと知りたい。何故、コロコロと表情を変える

のだろう…何故、『同じ同胞を殺し殺しあう』

そんなことが平然と出来てしまうのだろう…

少年はその『問いの回答』とその回答に至るまでの

『方程式』が知りたい。ただそれだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少年は純粋にそう言うと男はイライラしていた。

 

 

 

 

「これ以上、私をイラつかせるな‼︎」《穿て‼︎》

 

 

 

そう言いながら【ライトニング・ピアス】を

何発も放った。

 

 

 

「《霧散せよーー》」

 

 

 

「チィ‼︎ 小賢しい真似を‼︎ふざけるなよ‼︎

兵器の分際で‼︎ 道具の分際で逆らいやがって‼︎

それに早く『白き聖杯』と『あの兵器』を本部へ

持ち帰らないと大司教様のお怒りを買ってしまう⁉︎

それに…『あの計画』が破綻してしまう‼︎」

 

 

 

 

男がそう考えていると少年はその隙を見逃さず

に確実に狙いを定め放っていく。

 

 

 

「《雷槍よ》」

 

 

 

少年は静かに一説詠唱を唱えると軍用魔術の

【ライトニング・ピアス】が放たれ男の右目を

貫き大量の血が流れ落ちた。

 

 

 

 

「が、があああぁぁぁぁ‼︎ 目が‼︎ 目がーー⁉︎」

 

 

 

男は【ライトニング・ピアス】で貫かれた右目を

抑えながらうずくまっているというのに少年は

平然と一歩、また一歩とゆっくりと確実に男の方

に歩いてくる。男は気づいたのか必死になって

神殿へと逃げ出していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

男は逃げ込んで追いかけて来る少年から必死に

なって逃げていた。自分が捕まえるはずの取る

に足らないただの『心が空っぽの人形』であり、

鬼ごっこという『狩りの獲物』だったはずなのに…

 

 

 

 

「はぁ、はぁ…クソ‼︎ クソがぁ‼︎あんの糞ガキ‼︎

殺す‼︎殺す‼︎ぜってえ殺してやる‼︎」

 

 

 

男の瞳には少年に憎しみが宿っており、更に悪態

をつきながら必死になって逃げていると

 

 

「…………えっ?」

 

 

 

男の右胸から激しい激痛が走しって勢いよく

その場に倒れこんだ。

 

 

 

「痛い‼︎痛い‼︎ 何故⁉︎『天の智慧研究会』の

幹部であるのこの俺がこんな餓鬼に苦戦なんて…

ふざけるな…ふざけんな‼︎こんなクソ餓鬼に‼︎」

 

 

 

男が怒りの表情を滲ませながらそう言うと目の前

には先程の少年が立っており男の言葉は全く届いて

いなかった。

 

 

 

「【補足】ーーそんなに逃げないでください。

貴方が僕に言っていたじゃないですか、魔術を

『己の娯楽の為』に『愉悦に浸る為』に使うって、

故に貴方が先程 言っていた言葉の真意を実際に確認

する為に『魔術は人殺しや殺人に特化した技術』の

言葉の実験の検証の続きを開始する……」

 

 

 

 

虚ろな瞳をした少年はそう言って男の体を魔術を

使って虐待じみた『実験と言う名の殺戮』を再開

をした。

 

 

 

「や、やめ…《雷槍よ》」

 

 

 

「がっ‼︎ がっは…‼︎」

 

 

 

少年は【コツコツ】と足音を立てながら人差し指を

男に向けて『ライトニング・ピアス』を容赦なく

唱えて男の腹部や左腕など様々な場所を深々と

刺し貫いていく

 

 

 

 

「が、があぁ‼︎や、やめ、やめて…く、ださい…

お、お願い…します…」

 

 

 

男は先程の上から目線の態度や憎しみの瞳は全く

無くなっており、先程の女性の白衣の学者のように

両手を合わせて涙を流して弱々しい声で命乞いを

していた。

 

 

だか、

 

 

 

 

《雷槍よ》

 

 

 

 

そんな男の願いは虚しくも一瞬にして砕け散る。

少年は何の容姿やためらいもなど一切なく表情を

変えずに【ライトニング・ピアス】を左手の甲

などを【グサグサ】と音を立てて貫いた。

 

 

 

 

「ご、ごふっ‼︎ ど、どうして…?」

 

 

 

 

 

「【問い】ーー問いを問いで返すのは実に

愚かだと言えると思いませんか?」

 

 

 

 

 

少年は感情のない機械のような冷たい表情で

そう言うと

 

 

 

 

「あ、は、あは…あははアハハハハハハ‼︎」

 

 

 

すると男は瞳の光は無くなってまるで壊れた玩具の

ように狂って自分の頭のこめかみの辺りに指を当て

ながら《穿て》と言って少年の前で自分の頭を貫き

その場に倒れた。

 

 

 

男が倒れて近くあった神殿の白き祭壇の上に

『白き聖杯』がありその聖杯は男の血が少しずつ

注がれていき器の中身が広がり血が白くなって

近くにいた少年の体がそれを沢山浴びていく。

すると街にいる外道魔術師達や業火を飲み込んで

凍り尽くしていった。

 

 

 

 

「う、ウギャァァァァァァァ‼︎」

 

 

 

「な、何だこれ⁉︎ き、消えないぞ‼︎」

 

 

「だ、誰か助けて‼︎ ひ、火を‼︎ 火をくれ‼︎」

 

 

 

街にいた外道魔術師達は白き氷で凍りつく中、

腕から体まで侵食されていき粉々になって

消えて逝った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ギャァァァァーー‼︎」

 

 

 

少年が目を覚ますと先程の男の仲間らしき集団が

白き魔氷の氷に侵食されていった。そして最後に

残った男は白き氷に呑み込まれながらも最後の気力

を振り絞って言葉を紡ぐ。

 

 

 

「す、素晴らしい‼︎じ、実験は成功だ‼︎『X計画』

は成功したのだ‼︎我らが『天の智慧研究会』に

天なる智慧に栄光あれーーー‼︎」

 

 

 

男は言って高笑いをするその高笑いは神殿内に

響き渡って男は凍りついていき塵となっていった。

 

 

 

少年は体を起こして身体全体を確認して見たが

先程の傷が塞がっていて全く理解出来なかった。

 

 

 

「何故、無事だったのか分からないが…恐らく

……『白き聖杯』のおかげと推測する」

 

 

 

少年は今の現状を理解すると追い回された時に

貫かれた胸の傷は跡もなく消えていた。しかし、

今の少年にはそんな事も頭が回らず外が気になり

街に行くと沢山の外道魔術師達が白き魔氷の氷が

全身に包まれて凍りついていた。

 

 

少年は他の外道魔術師達に手を差し伸べ様とするが

気付いた時にはもう白い塵になって消えていた。

 

 

 

「これは…まさか…」

 

 

 

少年はある真実に気付いてしまった。

 

 

それは…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自分のせいでこの人達はこんな酷い死に方で

砕け散り塵になって消え逝くのだと嫌でも分かって

しまうそして少年は『白き聖杯』に選ばれて

生かされてしまったのだ。

 

 

 

だから彼は今……

 

 

 

『 沢山の人の犠牲の中で彼は生きている』

 

 

 

そして白き聖杯の氷に触れて凍りついた人間は

一生、死んでも穏やかな最後は送れない身体を

失っても魂さえも凍り続けて塵になるからだ。

 

 

つまりあの人達の魂は一生天国も地獄も

行けないであの白き魔氷の氷は未来永劫

救われない。それすら地獄にすら行けない。

 

 

だが、今の心無き抜け殻のような空っぽの少年は

そんな大量の人間の犠牲の上に立って身体中や服、

手更にはそして頬などには大量の外道魔術師の血が

べったりとついて動揺をするどころかその事すらも

全く平然と何もなかったようにしていた。

 

 

 

「…敵性反応消滅、確認完了……【結論】ーー

『魔術は人殺しや殺人に特化した技術』が疑問の

回答だったと理解した……」

 

 

 

少年は凍りついていた街の中で冷たい機械の

ように冷めた声でそう言うと少年は神殿の中に

入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、廃墟になった街に『ある二人組』が

近づいていた。

 

 

 

 

「この辺りの街に『天の智慧研究会』が

密かに活動しているって本当?」

 

 

 

 

「あぁ…何日か前だが目撃者もいたしな…それは

間違えない筈だそれに『あの街の噂の真偽』を

確認しなきゃいけないからなぁ……」

 

 

 

 

男性はかなり険しい顔をしながら二人が一緒に

向かっている街の噂の事を考えていると男性の

隣にいた女性が元気な声で考え込んでいる男性に

話しかけてきた。

 

 

 

「さすが、『グレン君』だね‼︎

いつも仕事の手際がとても早いね‼︎」

 

 

 

「……うるせぇ…良いからさっさと行くぞ‼︎

『白犬』‼︎」

 

 

 

 

グレンは恥ずかしいのか顔を真っ赤にして頭を

ポリポリと掻きながら照れていた。

 

 

 

「あれ? でもグレン君の顔色赤いよ?

もしかして…風邪でも引いたの?」

 

 

 

「だぁぁぁぁ‼︎ もう大丈夫だって‼︎ 心配するな‼︎

『セラ』‼︎」

 

 

 

するとセラという白く銀色の髪で頬に模様が

ついた女性がグレンの言葉に(プクッー)と頬を

膨らませてグレンに近づきグイッとグレンの顔を

覗きこんでいた。

 

 

 

 

「駄目‼︎そうやっていつもグレン君は私が見て

ないと無茶するんだから‼︎いいから見せてみて‼︎」

 

 

 

セラはグレンの手を握り、自分の方に引っ張って

自分のおでこと彼のおでこを合わせ体温を測った。

 

 

 

「‼︎」 【グレン】

 

 

 

するとグレンはセラの顔との距離が近くなって

グレンは顔を真っ赤してもの凄い心臓の鼓動が

ドクドクと五月蝿く鳴り響きグレンは俯いていた。

 

 

 

「グレン君?、大丈夫?

もしかして……本当に風邪を⁉︎」

 

 

 

「だ か ら‼︎ 大丈夫だって‼︎」

 

 

 

「本当に……?」

 

 

 

「本当だって言ってるだろ‼︎」

 

 

 

セラがグレンを心配そうに上目遣いで見ながら

聞いていると……

 

 

 

 

『ドッゴーーーーーーーーン‼︎』

 

 

 

 

「‼︎」【セラ 】 「‼︎」【グレン】

 

 

 

グレンとセラは目的地の街辺りにかなり大きな

爆発に気づき、急ぎ目的地へ向かう。

 

 

 

 

「セラ‼︎ 行くぞ‼︎」

 

 

 

「うん‼︎ 分かったよ‼︎ グレン君‼︎」

 

 

 

 

二人は爆発した場所へと走って行った。




『グレン』と『セラ』を書きました。
流石はセラです。『グレン』と『セラ』は
最高です。書いた事に後悔は無い。(^-^)v


『お気に入り』や『感想』、『意見』をビシバシ
とよろしくお願いします。(((o(*゚▽゚*)o)))


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名前のない少年

遅くなりましたが2話出来ました。

読んでいただけたらありがたいです。


『ロクでなし魔術講師と禁忌の経典9巻』
発売おめでとうございます‼︎


『感想』、『評価』、『意見』などが
ありましたらよろしくお願いします。



【注意】

このお話はグロい台詞や内容が含まれています。
それ等が無理な人はご注意してください




徹夜過ぎて疲れた……_:(´ཀ`」 ∠):


グレンとセラは廃墟となって冬でもないのに

季節外れの雪が降る街に着くとそれは悲惨と

呼ぶにはぬるすぎるくらいの状況だった。

 

 

「グレン君……これ……」

 

 

 

「な、なんだよこれ……」

 

 

 

二人が見たのは氷漬けになった人間や白き氷が

真っ赤な血で白が赤に染まっていたりしてる

生々しい現状だった。

 

 

「クソッ‼︎ 誰がこんな事を⁉︎」

 

 

グレンが氷漬けになった人間に触ると一瞬にして

粉々になって塵になって消えていった。

それはまるで雪の様だった。

 

 

 

「グレン君…これって、一体……」

 

 

 

「セラ…言いたい事は分かるが…今はこの街の

『生存者』を見つける事が今の俺たちが最も

優先すべき事だ……」

 

 

 

グレンは思い詰めて悔しそうな顔をするとセラが

いきなり後ろからグレンを離さないようにぎゅっと

抱きしめた。

 

 

 

「せ、セラ……?」

 

 

 

「グレン君…一人で難しく考え込んで無理して

自分だけで解決しようとないで?グレン君は

一人じゃないんだから…それにみんなが、

私がいるから…ね?それにもし、『キツイなら』、

『苦しいなら』一人で抱え込んで苦しまないで

私にも相談してよ。私、確かにグレン君から見たら

頼りにならないかもしれないけど…でもさぁ、

『一人の知恵が駄目でもみんなの知恵を出して

話し合ったならってやつだよ?』私ならいつでも

グレン君の悩み聞くからさ?」

 

 

 

セラはいつもグレンが考え事をしているのを

見ていたので自分に何か出来る事はないか

考えてそして、考えた結果がこれだった。

 

 

 

「……すまねぇ…セラ……少し…いや…

かなり弱気になってたみたいだ…」

 

 

 

「良いんだよ、グレン君‼︎そんな暗い顔した

グレン君じゃなくて元気で明るくて、いつもの

『グレン君の方が私は好きだから‼︎』」

 

 

 

 

セラはグレンに笑顔でそう答えるとグレンは

セラの言葉を聞いて少しだけ『ドキッ』として

動揺していた。

 

 

 

「え?」

 

 

 

グレンは困惑していた。それは意識して言ったのか

…それとも、 無意識で使ったのか…そもそも何故、

セラがそんな事を言ったのかグレンには全く

分からなかった。

 

 

 

「せ、セラ…い、今の『好き』って…」

 

 

 

「え……?」

 

 

 

(セラの奴…まさか…無意識に言ってたのか?……)

 

 

 

無意識で言ってたセラだったがグレンに発言を

指摘されてセラの脳内は『恥ずかしい』という

考えで一杯になって気づいたのか頭の上には

沢山の湯気が上に沸騰して顔は林檎のように

真っ赤になっていた。

 

 

 

 

「ぐ、グレン君‼︎ ち、違うの‼︎

いや…違わないけど…ってそうじゃなくて‼︎‼︎」

 

 

 

セラは小動物のようにオロオロしながら

グレンに弁解して頭が混乱していた。

 

 

 

「ま、まぁ…だ、大丈夫だから安心しろ…

セラの言いたい事は分かったから……」

 

 

 

グレンはセラの目を逸らしながら言うとセラの瞳を

潤ませて涙を出しながらセラはグレンの服の襟元を

『がっしり』と掴みながらグレンの体をブンブンと

揺さぶっていた。

 

 

 

「そんな、目を逸らしながら言われても全く、

何も安心出来ないよ‼︎ ね、ねぇ、グレン君‼︎

こっち向いてよ‼︎ お願いだから逸らさないで‼︎」

 

 

 

「ちょ、ちょっとセラ‼︎ く、首が、締まるから‼︎

わ、分かったからーー‼︎離してくれーー‼︎」

 

 

 

グレンが苦しそうにそう言うとセラは真っ赤な顔

をしながらもそしてうるうるとした涙目でグレン

に潤んだ瞳で見つめながら質問した。

 

 

 

「……本当に?」

 

 

 

「あぁ、本当だ‼︎ 信じてくれセラ‼︎」

 

 

グレンは必死にセラを説得しているとセラはグレン

の話しをなんとか信じたのか子供みたいにしゅんと

した顔でグレンに答えていた。

 

 

 

「…分かった……グレン君がそう言うなら…

信じるよ…絶対、絶対に約束だからね…?」

 

 

 

 

「お、おう‼︎そうしてくれるとマジ有り難いぜ‼︎

流石はセラ‼︎」

 

 

 

グレンはこの事態のなんとかする事が出来た。

しかし、本人のセラはどこか納得ができない様子で

頬を膨らませてむうぅーと唸らせていた。

 

 

「なんか……私、今……グレン君に

乗せられたような気がする」

 

 

 

セラがそう言ってグレンの考えを

無意識に言い当てるとグレンは慌てて

 

 

 

「き、気のせいダロ⁉︎ カンガエスギダロ‼︎」

 

 

 

「グレン君。途中から片言になってるよ…?

本当に大丈夫なの?グレン君…? まさか‼︎

本当に熱があったんじゃ‼︎」

 

 

 

「ねぇよ‼︎‼︎ それに片言に反応するな‼︎

俺は大丈夫だから安心しろよ‼︎」

 

 

 

 

グレンが大きな声でそういうとセラはグレンに

体制を向けてそして笑顔で

 

 

 

「そ、そうだよね……あの時、グレン君が

約束してくれたもんね‼︎ ごめんね‼︎

グレン君を疑う真似してグレン君がそんな事を

する筈が無いもんね‼︎」

 

 

 

セラは笑顔をグレンに向けて答える。

するとグレンはそんなセラの笑顔を見て罪悪感に

襲われていた。

 

 

 

「そ、そうだぞ‼︎ さすがセラだ‼︎

分かっているな‼︎」

 

 

(…何故だろう……純粋過ぎて輝き過ぎる…

セラの顔を見ていて今にも罪悪感で 一緒にして

押し潰されそう…)

 

 

 

グレンはセラの事を考えているとセラはグレンの

そんな顔を見ていつも、明るい笑顔が一瞬にして

心配そうな表情でグレンの顔を見ていた。

 

 

 

「グレン君……本当に大丈夫?体調悪いなら、

ちゃんと休んでて?グレン君ばかりが無理を

しなくたっていいんだよ?」

 

 

 

セラはグレンを心配してグレンの顔をじっーと

見つめていた。

 

 

 

「だ、大丈夫だよ‼︎ や、やめろ‼︎

だから、子供扱いするな‼︎」

 

 

 

 

グレンはセラにそう言うがセラは更にグレンの

頭を撫でてそして不安そうな表情でグレンの顔

を見ていた。

 

 

 

 

「でも、最近のグレン君は無理ばかりしてるから

絶対に無理して欲しくないないもん…それに…

こんな職業だからいつか私も死ぬかもだし…」

 

 

 

セラの先程の笑顔が嘘のように消えてまるで子犬

の様にしゅんとした表情で俯いていた。

 

 

 

すると、グレンはそんなセラを安心させるように

言っていた。

 

 

 

「大丈夫だ安心しろセラ……『お前だけは絶対に

何があっても守ってやるから……』」

 

 

グレンは照れ臭く恥ずかしそうにセラに言うと

セラは驚いた顔をしながら頬を赤らめながら

嬉しそうに微笑んでいた。

 

 

 

「『何があっても、か……』ありがとう、

グレン君…少しだけ…安心したし…心の奥が

少しだけ…暖かくなったよ…」

 

 

 

セラは嬉しそうに言うとグレンはセラの顔を

背けて素っ気なくセラに言った。

 

 

 

「い、いいから早く行くぞ‼︎ 『白犬』‼︎」

 

 

 

「うん‼︎ わかったよ、グレン君‼︎ でも

グレン君には何度も言ってるんだけどさぁ、

私は犬じゃないよグレン君‼︎」

 

 

 

「いいだろ別に…?セラって、なんか…

犬ぽいっし? 呼びやすいだろ?」

 

 

 

「もう…グレン君たら…名前で呼んでくれても…」

 

 

 

セラは呆れてグレンに言うとセラは本当に白犬の

ようにグレンについて行く

 

 

 

「そういえば…グレン君。イヴちゃんが言ってた

『極秘の依頼内容』は何だったの?」

 

 

 

セラがグレンに聞くとグレンは顔を不機嫌そうに

歪めながら溜息をつきながら答えた。

 

 

 

「イヴが言ってた極秘の依頼の内容は都市伝説の

『白き聖杯』の回収だとよ……」

 

 

グレンがそう言うとセラは頭を傾げながら

グレンに質問していた。

 

 

 

「グレン君、私、実は『白き聖杯』については

名前しか知らないんだけど…一体、どういう物

なの?」

 

 

そんなセラの質問にグレンは困った表情で

こめかみ辺りをポリポリとかきながら大きな

溜息をついていた。

 

 

「あのなぁ…いいか、セラ?今から俺達は

『白き聖杯』を回収しないといけないんだぞ…?

まあ、考えてみればセラが知らないのも無理は

ないかもな…」

 

 

 

グレンがセラにそう言うとセラの頭の上には【?】

がつきグレンがいうことやそんなグレンの言葉が

何故だか気になってグレンに聞いてみた。

 

 

 

「グレン君それってどういう事?」

 

 

 

「実は…『白き聖杯』の歴史については全く情報

も記録も無いんだよ……」

 

 

セラはグレンのそんな衝撃的な言葉を聞いて

 

 

 

「え⁉︎ じゃあ、どうやってその『白き聖杯』を

情報も全く無いのにどうやって見つけるの⁉︎」

 

 

 

セラは困惑しながらオロオロとしていると

グレンがセラに「落ち着けよ…」と言って

宥めた後、説明を続ける。

 

 

 

「ただ、帝国の上層部が最近になってやっと

手に入れた『あるお伽話の物語』を元にした

古い文献の情報なんだが……」

 

 

グレンは途中まで言っていたが何故かグレンは

話すのをやめた。

 

 

 

「ねぇ…『どんな物語』なの…?」

 

 

 

 

セラが首を傾げてグレンに聞くとグレンはとても

苦々しい顔になっていく。そしてグレンはやっと

その重い口を開いた。

 

 

 

 

「実は…その歴史の物語は闇に埋もれてしまい、

そして誰からも忘れ去られて消えたはずの過去の

大昔の物語だったんだ。そして『白き聖杯』の

物語の噂は…昔、かなりの大昔に神が『世界』の

為に自分の力を与えて作り与えた『人類救済の器』

があったらしい……」

 

 

 

 

 

すると、セラはかなり驚いていた。

 

 

 

「なんか…凄いね…『世界』とか『神様』とか

そう言う話しになってきてなんか…私達と次元が

全く違うよね?」

 

 

 

 

「ああ、俺も最初は驚いたぜ?なんせ最初から

『神』なんぞの名がいきなり出てきたからな…

自分の耳を疑ったぜ?」

 

 

 

グレンはやれやれと両手を挙げて溜息をついて

「驚くのはまだ早いぞ」とセラに言って更に

話していく

 

 

 

 

「その後、神から『白き聖杯』を授かった魔術師達

はその『白き聖杯』を沢山の世界中の叡智を持った

魔術師達を集めて『白き聖杯』を解析や分析などで

調べて『この世の全ての心理を開かせないか?』

『魔術を人の為に活かせないか?』と魔術師達は

朝から晩までずっと、研究所にこもって研究を

始めたんだよ」

 

 

 

 

「せ、世界中の魔術師達⁉︎な、なんか…

かなり大規模になって…凄い物なんだね…

その『白き聖杯』っていうのは……それに、

それってかなりの偉業だよね⁉︎」

 

 

 

「まぁな…けどな、この物語には更に続きが

あってな…」

 

 

 

グレンは物語の続きを淡々と話し続けた。

 

 

 

「だか、魔術師達は『白き聖杯』の研究を続けて

いくうちに『魔術法則を覆してしまう膨大な魔力

と大量の全知全能の知識』を知ってしまった沢山

の魔術師達の『思考』や『考え』はどんどんズレて

歪んでいってしまい、そして歪んだ魔術師達は

『白き聖杯』を見て愚かにも『ある考え』と

『計画』が浮かんでいったんだ」

 

 

 

「それって、なんなのグレン君…?」

 

 

 

「………………」

 

 

 

セラはグレンに恐る恐る聞くがグレンは何も

喋らず黙り込んでいた。

 

 

 

「ねぇ‼︎ グレン君てばさぁ‼︎」

 

 

 

セラが黙り込んでいるグレンに痺れを切らせて

少し大きな声で言うとグレンは観念したのか

セラにその先の真実を伝えた。

 

 

 

「……魔術師達が最初にしたのは研究の大義名分を

利用して『魔術の才能がある人間』を『拉致』して

『サンプル』として研究対象として『解剖』などの

様々な事を沢山してたんだ。」

 

 

 

グレンが言うとセラの顔が青ざめていた。

 

 

 

「ど、どうして…そんな非人道的な事を……?

それじゃあ…『天の智慧研究会』と明らかに

同じ外道魔術師達じゃない……」

 

 

 

セラがグレンに聞くとグレンはまた重い口を開く。

 

 

 

「…それは…あいつら魔術師達の『ある計画』には

必要だったみたいだ……だから、魔術の世界で

『名のある魔術師達』を実験材料にしていた。

しかし『白き聖杯』の理想の適合者がまったく

見つからなくて適合性がない人間達は『用済み』

だと闇の中で処理されていったんだ…」

 

 

 

セラはグレンの話を聞いていて理解した。

なるほど…確かに話していていい気分がしないし

言うのを躊躇ってしまう内容だと思う。

 

 

 

 

だが、グレンはセラが更に驚く内容を口にする。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……次に魔術師達が目につけたのは『10歳

とは満たない子供』まで『拉致』して研究の

サンプルにして計画の材料としたんだ…」

 

 

 

「う、嘘…こ、子供を……⁉︎」

 

 

 

 

グレンはセラが驚いてる中『白き聖杯』について

の内容を言った後、グレンは『ある計画』の

名を口にしていた。

 

 

 

 

『神』というこの世にいるはずのない存在を模し

神に近い存在を最強の生物兵器を作り出す為の

計画その計画の名が『X計画』だ。」

 

 

 

セラはその計画の名は昔に聞いた事があったが、

実際にどんな計画だったのか全く知らなかった。

 

 

 

「神を作り出す神聖な計画『X計画』……

通称project:『デウス・エクス・マキナ計画』

だったんだ……」

 

 

 

グレンがセラにそう言うと

 

 

 

 

「『X計画…?』それにグレン君、

『デウス・エクス・マキナ…?』何それ?」

 

 

 

セラは 『デウス・エクス・マキナ』の意味が

全然分からず「うーん…うーん…」とただ

ひたすらに唸っていた。

 

 

 

 

「……デウス・エクス・マキナ……意味は

『機械仕掛けの神様』だとよ…」

 

 

「え…? まさか…‼︎」

 

 

 

セラはグレンに顔を向けてグレンが一体、

自分に何が言いたいかをすぐに理解した。

 

 

 

「そう…その魔術師達は愚かにも『人の手』で

『人工的』に自分達の都合が良い『全知全能の神』

を自分勝手な理由で作り出そうとしてたんだ」

 

 

 

セラはそれを聞いた瞬間、魔術世界の深き闇の

部分がここまで暗く根を張っているとは予想を

はるかに超えていて恐ろしいと改めてそう思った。

 

 

 

更に『人間』が『神』を人工的に作り出そうと

言うのだから、その思考はそれを研究と評して

大人子供関係無く殺して更に己の研究に酔って

狂って歪んでいた。自己中心の研究者達であり、

白き聖杯の魔力を見て狂気に取り憑かれた研究だ。

だからこそ自分達の利益や名誉、そして自分達の

目的や願望の為に他の人間を利用する。

 

 

まさに人の道を踏み外した外道魔術師にまでに

地に落ちて腐っていた。

 

 

 

「で、でもグレン君…そんな『神様』を

作るなんて…普通出来るの…?」

 

 

セラは『人間』が『神様』を作るなんて

不可能に近い事を本当に可能なのだろうか?

と考えているとグレンはそんなセラの姿を見て

 

 

 

「まあ、そう思うのが普通だぜ?  確かに

『人間』の手で本当に『神なんぞ出来るのか?』

って、俺でも想像が出来ないからなあ……」

 

 

グレンはセラにそう言うとセラはグレンに

その疑問を聞かずにはいられなかった。

 

 

 

「確かに、普通なら無理だ……普通ならな…

しかし『白き聖杯』があるからな…それと、

『魔導装置』を合わされば過去の魔術師達が

作った魔術理論の仮説は不可能ではないだろう…」

 

 

 

「そんな……」

 

 

 

セラはグレンのそんな言葉を聞いてあまりにも

衝撃的で言葉にすら出来なかった。

 

 

 

「しかし、それは…可能性の話しだ。普通なら

絶対に無理だ…『人間』が『神』を 作り出そうと

するならかなり大掛かりな儀式になるし、何万人の

魔術師の『魔力』や 『命』(生命)を一瞬にして

喰らい尽くすんだよ…あの『project: Revive Life』

よりも酷くて残忍で命を簡単に奪い去る…虫唾が

走る『人類最悪の計画』だったんだよ…詳しく

調べてみたらこの実験で異常過ぎる大量の死者や

大きなクレーターが出てるから俺もかなりの冷や汗

をかいたぜ……」

 

 

 

しかし、セラは一つだけ疑問が残った。

それはその歴代の魔術師達は『機械仕掛けの神』

『デウス・エクス・マキナ』通称、『X計画』は

その人類悪の研究は成功したのか?

 

 

 

ただ、それが気になって仕方なかった。

 

 

 

セラは勇気を出してグレンに気になっていた事を

聞いてみた。

 

 

 

「グレン君…ちなみにその計画は…?」

 

 

 

「失敗だったみたいだな…実験体が暴走して

魔術師や実験体も全員死んだみたいだ……」

 

 

「そ、そんな……」

 

 

「そしてその計画が失敗した後、その計画は禁忌

の計画として封印された…筈だったんだよ……」

 

 

 

『筈だった……?』

 

 

セラはグレンのある言葉、『封印された筈だった』

という内容に引っかかっていた。

 

 

 

「グレン君。それってどういう事? グレン君の

言い方だと…また、その計画をやってる人達が

いるみたいな口調だけど……」

 

 

セラがグレンに言うと

 

 

「…実は最近、『天の智慧研究会』が封印された

筈の『X計画』をやってるという情報があってな…

今回の任務は『X計画』の資料の回収、更に凍結と

『天の智慧研究会』の殲滅だとよ……」

 

 

 

グレンはセラに『白き聖杯』の事や『X計画』に

ついて全て話し終わると

 

 

 

「そうだったんだ…じゃあ、これ以上実験を

させないようにしないとね?」

 

 

 

セラがグレンに苦笑いであるが笑顔でグレンに

そう言うと

 

 

 

「そうだな……じゃあ、まずは、奴らの拠点と

していた研究所に行ってみるか…」

 

 

 

グレンはセラにそう言って『天の智慧研究会』

が拠点にしていた研究所に足を進める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しかし…これは……酷いな……」

 

 

グレンが周りを見ると白き氷で氷漬けされた人間

や串刺しにされて血塗れになっていたり今まで

嗅いだことがないとてつもなく不快な臭いが漂って

臭いがする方へ行って見ると顔色が真っ青になって

「うっ‼︎」とグレンは声を上げて胃から込み上げる

物を出さないように口を両手で押さえる。

 

 

 

「ぐ、グレン君‼︎」

 

 

 

セラがグレンの背中をゆっくりとさするが先程の

大量の死体が強烈だったせいか思い出してしまい

口から込み上げくる物を押さえきれなかったのか

別の場所で吐き出してしまう。

 

 

 

「う、うおぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ‼︎」

 

 

 

 

「しっかりして‼︎ グレン君‼︎」

 

 

 

 

「すまねえ…セラ……」

 

 

 

グレンは嘔吐して収まった後、セラにそう言って

周りに外道魔術師達がいないか出来るだけ警戒を

しながらも周りを見渡してみると周りには帝国の

敵、『外道魔術師達』の反応は全くなかったが

身体がバラバラになってそこら辺に転がっており、

指や首、更には眼球などの残骸が落ちているせいか

そこら辺に大量の鴉達がバサバサと羽根を広げて

群がって嘴で死体をグチャグチャと生々しい音を

たてながら突いていると赤黒い血液がドロドロと

出てきてしまいそして身体から取り出した腸らしき

物を咥えて飲み込んだり、咥えて飛び去って更には

『ぶーん』とうるさい音が聞こえて大量の小蝿が

飛んでバラバラになった死体や腐ってしまった死体

などが飛び交っており帝国の倒すべき怨敵である

外道魔術師達とはいえ死体は人の形の原型を全く

留めていない姿を見て敵ながらも哀れに思って

しまうグレンだった。

 

 

 

「これは……本当に酷い……酷すぎるよ……

刺されてる人達の流れる出血の量がとても

異常だもん……」

 

 

 

 

セラはこの街の姿を見て明らかに異常過ぎる状態を

まさに地獄絵図そのものだと思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、グレン達はそんな地獄と化した街を

歩いていると目的地の研究所に着いた。

 

 

 

 

「ここが、奴ら『天の智慧研究会』が拠点

にしていた研究所か…」

 

 

 

グレンは人体実験の施設を憎たらしそうに鋭い眼光

で見ているとセラは

 

 

 

「…神様を作る為に用意されて研究をしていた

研究所なんだよね……」

 

 

 

セラは何処か悲しそうな表情を浮かべていた。

 

 

 

「セラ……」

 

 

グレンはセラのそんな悲しい表情を見て昔、

好きだった筈の魔術の世界観がこんな非人道の

行いを研究と評する外道魔術師達が赦せなかった。

 

 

 

「大丈夫か…セラ?」

 

 

 

「大丈夫だよ…早く入ろうグレン君…」

 

 

 

そう言って二人は研究所の中に入るとそれは

とても酷かった。

 

 

 

「こ、こいつは……‼︎」

 

 

 

外道魔術師達が何重にも串刺しに刺されていた。

 

 

それは普通の魔術師のレベルではこんな広範囲は

不可能な事だった。

 

 

 

「でも、グレン君…この氷……一体、『誰が』

したんだろうね?」

 

 

 

「さあな…だが、ただ一つ言えるのはこの魔力は

かなり異常過ぎるって事だけぜ?」

 

 

 

二人はそんな話しをしていると気づけば一番奥の

研究部屋に着いた。

 

 

 

「ぐ、グレン君……」

 

 

「ああ…俺にも言いたい事は嫌でも分かるぜ…

セラ……奥に誰かいるな……」

 

 

 

グレン達は奥の部屋に人の気配を察知した。

 

 

 

しかも、今まで感じた事がない 程の魔力だと

いうのがすぐに嫌という程分かった。

 

 

 

「いいか……セラ?」

 

 

「いいよ…グレン君」

 

 

 

二人はお互い確認し合うとグレンは壊れてた

研究所の扉を無理矢理壊すと暗い部屋の隅っこで

一人の毛布を被った少年が震えながら座り込んで

いた。

 

 

 

 

「グレン君‼︎『生存者』が‼︎ 子供がいるよ‼︎」

 

 

 

グレンはセラ言葉で視線を毛布を被った少年に

向けて走り出して子供に話し掛ける。

 

 

 

「おい‼︎ 大丈夫か⁉︎

助けに来たからもう大丈夫だそ‼︎」

 

 

 

グレンが肩を触れながら少年に話し掛けるが、

少年は一向にグレン達に全く口を開いて喋ろう

としない。

 

 

 

「おい、どうした?」

 

 

 

「…ダ…れ…?」

 

 

 

「ん? どうした…?」

 

 

 

 

グレンが少年に聞くと片言で話す少年がグレンの

手を払い虚な瞳で二人を見る。

 

 

 

 

「侵入者、二名…カク認……」

 

 

 

 

「な、なんだ、こいつ⁉︎」

 

 

グレンが少年の胸ぐらを掴もうとするとセラは

少年を見て何かに気づいたのかグレンの目の前に

手を上げてグレンを止める。

 

 

「待ってグレン君‼︎」

 

 

「なんだよセラ‼︎ お前まさか…あいつの肩持つ

訳じゃないよな‼︎」

 

 

 

グレンはセラに聞くと

 

 

 

「グレン君‼︎ あの子の左腕を見て‼︎」

 

 

 

グレンはセラの言う通りに少年の腕を見ると少年 は

暴走した腕を【ギュッ】と押さえながら『白き氷』

を腕に纏って触れた物を一瞬にして凍りついて塵に

して消していく『白き異常な腕』に豹変して肩には

尖った氷が刺さっていて更にはその左腕には先程の

暴走のせいだろうか、『赤い液体』がべったりと

大量に付着して白い氷や腕にタラタラと一筋の

赤い線となって異常な速さで流れていき白い氷や

腕を真っ赤に染まってポタポタと一雫、一雫が誰も

いない静かで真っ黒な研究室で微かに音を立てて

地面に落ちていく

 

 

 

「な…なんだ…あ、あれは……」

 

 

 

グレンは少年の腕に纏っている白き氷の腕を見て

まるで『人外の者』を見るように少年を見ていた。

 

 

 

「こコでは勝算が低イと推測スる…」

 

 

 

少年はそんな事を言ってグレンとセラを見て

研究所の暗い部屋から外へと走ってただひたすら

に逃げていた。

 

 

 

 

「もう‼︎ グレン君のせいでさっきの子が

逃げちゃたじゃない‼︎」

 

 

 

「す、すまん……俺もあいつを見て取り乱して

しまった。」

 

 

 

「グレン君、今は反省はいいから早くさっきの子

を追いかけるよ‼︎」

 

 

 

セラはグレンにそう言ってさっきの白い髪の少年

の後を追いかける。そして、セラはグレンに ある

疑問を聞いてみた。

 

 

「グレン君、さっきの子って、もしかして‼︎」

 

 

 

 

「ああ、あいつは間違いなく『X計画』の唯一

の成功例みたいだな…」

 

 

 

 

グレンは小声で呟き少年が神殿に入っていく姿を

見てグレン達も神殿に入っていくと周りは……

 

 

 

 

「こ、これは……」

 

 

 

グレン達は言葉を失った。

 

 

何故なら……

 

 

「グレン君……こんな事って……」

 

 

「おいおい…なんかの冗談だろ…?」

 

 

 

 

二人が神殿の中で見たものは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『大量の血』だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

古い人間の血や新しい人間の血が神殿の通路の

上下を赤黒一色に染まり、気味の悪い過ぎる

レッドカーペットみたいになっていた。

 

 

 

それは、まるで、生者を誘い、生者を喰らって

地獄に通じる悍ましい冥府の神殿と門に見えて

グレンとセラは今までにない恐怖を一瞬にして

感じ取った。

 

 

 

 

「グレン君……怖いよ……」

 

 

「セラ……」

 

 

グレンはセラを見るとセラは体をガタガタと

震えながらグレンの宮廷魔道士団のコートの

裾を掴んで波目でグレンの手を握っていた。

 

 

そんな不安そうなセラの姿を見たグレンは

照れ臭そうに自分の手をセラの頭をガシッと

乗せてゆっくりと頭を撫でて、そしてセラに

不器用ながらも言葉を紡いだ。

 

 

 

「セラ、さっきも言った筈だが

『お前だけは絶対に何があっても守ってやる』って

言っただろ?俺が約束破った事あったか?」

 

 

グレンがセラに言うとセラはいきなり笑い出した。

そうなセラの姿を見て、グレンは子供みたいに

不機嫌な表情をしているのに気がついたセラは

グレンに謝っていた。

 

 

 

「グレン君、ごめんね!グレン君が私を必死に

励まそうとしていたみたいだったから…

グレン君らしくないなと思って…」

 

 

セラがグレンにそう言うとグレンは不機嫌そうに

【むうぅー】と唸っていると

 

 

 

「ありがとうねグレン君……」

 

 

 

グレンはセラの言葉や笑顔を見て胸が

【ドキドキ】していた。

 

 

 

「い、いいから行くぞ!」

 

 

「あ!、ま、待ってよグレン君‼︎」

 

 

セラは白犬のように必死に追いかけていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グレン達は暗き真っ赤で血生臭い道を歩き続ける

とその奥に光が見えてグレンとセラはその光に

向かって行くと二人は目の前の光景に目を奪われた。

 

 

 

それはその神殿の最深部の空間を一言で言うなら、

『幻想的』、ただそれだけだった。

 

 

更に、目の前に広がった視界は白き氷の空間で

広がって更に月の光に照らされ白き氷は白く

水晶のように光輝いていた。

 

 

「き、キレイ……」

 

 

 

セラは言葉をこぼすとグレンは『ある物』に

気がついてセラに声をかけていた。

 

 

「セラ、あれを見ろ‼︎」

 

 

 

グレンが方向に視界を向けるとその白き祭壇の

上には『白き器』が祀っていた。

 

 

 

「あれって、まさか‼︎」

 

 

「ああ、間違いねえ…白き聖杯だ‼︎」

 

 

グレン達が白き聖杯を祀っていた白き祭壇に

近づくとグレンはある異変に気がついたのか

足を止めた。

 

 

「グレン君……?」

 

 

「誰だ…? そこにいるのはバレバレだぜ?」

 

 

グレン白き祭壇の上にが祀っていた白き聖杯の

白き祭壇に話し掛けると祭壇の下から先程の

少年が出てきたのだ。

 

 

 

「あ‼︎、グレン君、あの子さっきの‼︎」

 

 

 

セラは驚きながら少年に目を向けていた。

 

 

 

「お前は…あの研究の…『X計画』の

唯一の成功例で生き残りだな…?」

 

 

 

グレンが白い髪の少年に質問すると少年は

白きフードを深く被ってグレン達に最初に

発した言葉は

 

 

 

 

 

「個体二名確認…個体名は不明…

侵入者と認識しタ…今すぐにデも…

ここカら立ち去レ…」

 

 

 

少年は白き氷を纏った左腕をグレン達に

警戒しながら向けて睨みつけて警告していた。

 

 

 

「ま、待ってくれ‼︎

俺達はお前と敵対するつもりはない‼︎

ただ、お前を助けたいだけなんだ‼︎」

 

 

 

「【疑問】ーー僕を…助ケに……?」

 

 

 

 

「ああ、そうだ‼︎ お前を保護しに来たんだ‼︎」

 

 

 

 

 

グレンは少年に大きな声で言うと

少年は物凄く青ざめた顔していた。

 

 

 

「お、おい……」

 

 

 

「……エラー、エラー、エラー

この感覚が分からない…理解不能…

バク修復開始する…失敗…処理不可能…

分からナイ、分カラない、ワカラナイ、

分カラナイ、分からない、分からない、

分からない、分からない、分からない、

分からない、ワカラナイ、分からない、

分からない、分からない、ワカラナイ、

分からない、分からない、分からない、

分からない、分からない、分からない

この感覚が理解出来ない…解析不能……

【回答結果】……未知…どうして…?

胸の奥が苦しくておかしい…分からない…

故障、故障、故障、コショう…?」

 

 

 

わからない…わからない……だれか…

だれでもいいから…だれかこの痛みの答えを

おしえてほしい…

 

 

少年はただひたすらになって頭を抱えて

悶え苦しみ続けた。すると、セラは優しい笑顔を

しながら少年に近づくと少年はそんなセラに

気づいて無意識に怯えて後退しながらセラに

『白き氷の魔術』を放っていた。

 

 

 

「セラ‼︎  危ねえ‼︎  戻ってこい‼︎」

 

 

 

「⁉︎ …来るナ……来ルな…」

 

 

 

「もう、大丈夫だよ…だから、怯えないで……」

 

 

 

「ク、クるなーーーー‼︎」

 

 

 

セラは少年の魔術に魔術を使わないで少年の

魔術を自らまともに受けて擦り傷を作りながらも

ゆっくりと歩き少年の前にたどり着くとセラは

少年を優しくぎゅっと抱きしめた。

 

 

 

「やメて‼︎ 離れてよ‼︎ オ願い、お願いだから‼︎」

 

 

 

少年はセラの拘束を振り解こうと幼い子供の

ように必死に抵抗していると少年の暴走した

魔力が発動してセラの背後には尖った氷の魔術が

セラに向かって刺さった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

筈だった。

 

 

 

 

 

少年の暴走した白き氷の魔術を纏った異形の左腕の

氷はボロボロと脆く崩れていきながらも一瞬にして

砂のように塵となって崩れていった。

 

 

 

「セラ、大丈夫か‼︎ 何処か怪我はないか⁉︎」

 

 

 

「大丈夫だよ、グレン君?

もう、大袈裟なんだから…ね?」

 

 

 

 

セラはそう言うとグレンはセラの頬を摘み始めた。

 

 

「ふぇへんふん?」 《グレン君?》

 

 

 

『大袈裟…? 大袈裟な筈ないだろ‼︎ 他人の心配

するより自分の心配しろよ‼︎ 人助けも命あっての

ものだろ‼︎』

 

 

 

グレンはセラの自己犠牲な所を見るとかつて

『正義の魔法使い』に憧れた自分を思い出して

とても胸糞悪くなって嫌いだった。

 

 

『他人が助かるなら自分の事など御構い無しに

困ってる人を助けに行く自分が傷付いても誰かが

助かるなら構わない』

 

 

 

彼女のそんな考えが余計にグレンを苛立たせて

そんな彼女の考えを許す事が出来なかった。

 

 

 

「ごめんなさい……グレン君…」

 

 

 

「……分かってくれればいいんだ……

それに、俺も少し言い過ぎた…すまん……」

 

 

 

すると、少年は二人のそんな会話を聞いて

全く理解出来なかった。

 

 

自分をあんなにも強く抱きしめて『あんな言葉』

をこんな『兵器である自分』に言ったのか いくら

頭をひねって考えても全く分からなかった。

 

 

 

「…【疑問】…お姉さん達は…なんで、

僕みたいな兵器にこんなにも人間みたいに

優しくしてくれるの?」

 

 

少年は先程の機械の様な喋りではなく不器用

だったが人間らしく話せていた。二人に聞くと

セラは優しくて眩しい笑顔で少年に答えた。

 

 

 

「人を助けるのに理由なんかないよ‼︎

それに君が困っていたから助けたかった

ただ、それだけだよ‼︎」

 

 

 

セラが少年に笑顔で言うと少年は初めてだったのか

セラの笑顔と言葉に戸惑っていた。

 

 

 

 

「で、でも…僕は…道具であり兵器だから…

人間の心が全く分からない……」

 

 

 

少年はそう自分の事を言いながらも何故かは

分からないが手を見ていると徐々に震えてきて

震えが一向に止まらなかった。

 

 

そして、体も震え出して自分は『何者なのか』

そして『何のために生まれたのか』全く

分からなかった。

 

 

少年は考えていると自分の手にセラの手が

知らないうちに乗っていた。

 

 

「大丈夫だよ…大丈夫だから…

一人で抱え込まないで…君がもう苦しむ必要も

泣く必要もないんだから?」

 

 

 

すると少年は目から涙を流していた。

 

 

 

「あ、あれ…な、なんで…?」

 

 

少年は初めての現象で分からず戸惑いながら何故、

『自分が涙を流してるのか全く分からなかった。』

 

 

 

 

ただ、分かったのは少年は『昔に欲しかった言葉

が目の前にある』唯それだけは少年には分かった。

 

 

「もう、無理しなくていいんだよ?」

 

 

 

「う、うあああぁぁぁ……」

 

 

 

セラが少年に言うと少年は心の抑えが聞かず

決壊して唯ひたすらに小さな子供の様にただ

泣き続けていた。

 

 

 

 

セラはそんな少年を優しく抱きしめる。まるで

母親のように最後まで少年の頭を撫でていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少年の気持ちが落ち着くとグレンは少年に

質問した。

 

 

 

「この街の現象はお前が起こしたのか?」

 

 

 

「ちょっと、グレン君‼︎」

 

 

セラはグレンの遠慮無しの質問に慌てながら

止めようとすると

 

 

 

「【肯定】……僕が殺した……」

 

 

 

 

グレンは少年の表情を見ると少年の表情は親に

怒られて暗い顔をして俯いている今にも泣きそうな

表情だった。少年は少しして顔を上げてグレン達を

見て言った。

 

 

すると、グレンは

 

 

「そうか……」

 

 

 

唯その一言を言って難しい顔していた。

 

 

 

「全く…グレン君たら……あ、私は『セラ』、

『セラ=シルヴァース』よろしくね? ところで

君の名前は?」

 

 

 

セラは少年に笑顔で聞くと少年は困った顔を

して俯きながらポツリと答えた。

 

 

 

『……………………作製No.0……』

 

 

 

「お、おい、まさか…それがお前の名前か…?」

 

 

 

少年はそう答えるとグレンは少年の名前を聞いて

額に汗を流して信じられないと言わんばかりの顔を

していた。

 

 

「しょ、しょうがないじゃん‼︎ 名前らしい名前は

これしかなかったんだから‼︎それに今まで、此処の

研究者達がそう言ってたんだから‼︎」

 

 

 

 

少年はグレンに泣きながら大きな声で言うとセラが

少年の頭をゆっくり撫でながら少年を宥めていた。

 

 

 

「もう、グレン君‼︎ さっきからそんな事を言ったら

駄目じゃない‼︎まだ、こんなに幼い子を泣かせる

なんて…グレン君最低‼︎」

 

 

セラはグレンの遠慮無しの言葉に流石の優しいセラ

でも我慢の限界を超えていた。それを察したグレン

はすぐにセラに謝った。

 

 

 

「せ、セラ‼︎ すまん‼︎ 俺が悪かった。

反省したから許してくれ‼︎」

 

 

 

「グレン君……謝るのは私じゃなくてこの子に

謝って……」

 

 

セラは頬を膨らませてグレンに言うとグレンは

少年にすぐに謝った。

 

 

 

「俺が悪かった‼︎ だから、許してくれ少年よ‼︎」

 

 

 

「……こう言う時……どう回答すれば良いのか

分からない…」

 

 

「こう言う時はね……」

 

 

 

少年がそう言うとセラは少年の疑問に優しく答える

と少年は必死に謝ってるグレンにテクテクと子犬の

様に近寄って

 

 

 

「こ、こっちもさっきはご、ごめんね……?

グレン…お兄ちゃん…?」

 

 

 

少年はグレンに笑顔で笑うとグレンはそんな少年の

笑顔に感動していた。

 

 

(お、おっふ‼︎ なんなんだこの子…いい子過ぎる‼︎

なんていい子なんだーー‼︎だが…こいつは機械

みたいな片言の発音だったのに徐々に俺達の会話

を通して学習して何処にでもいる普通の人間らしく

話している……だが、これは普通に考えてあまり

にも異常過ぎる……)

 

 

 

 

グレンがそう考えるのは無理もなかった。

何故なら『目の前にいる少年』は誰にも教えて

もらってないのに、知ってるわけでもないのに

グレンとセラの二人の会話を通して一瞬にして

理解したのだとセラと少年の会話を見ていた

この時のグレンはある考えがふっと頭の中に

過ぎる。

 

 

 

 

「本当に救えて良かったのか? もし、このまま

生きていても他の魔術師達に捕まって『実験』や

『解剖』、更に『ホルマリン漬け』にしたり、

外道魔術師達に『人殺しの魔術兵器』として利用

されて苦しい思いをするだけじゃないか?」グレン

は『純粋な少年』を見てそう無意識のうちに考えた

瞬間、グレンは自分が着ていた礼装の胸の辺りを

右手でぎゅと握り締めてくちびるを強く噛んだ。

 

 

 

 

 

 

(俺は何を考えているんだ‼︎ 馬鹿か‼︎

『救えて良かったのか?』じゃねーだろ‼︎

『救えて良かった』だろうが‼︎ それに目の前の

一人の『小さな命』を守って味方でいてやれば

良い事じゃねーか‼︎)

 

 

 

 

 

グレンはそう戒めるように今の考えを必死に

考えないようにしながら少年を見て複雑に

感じながら純粋過ぎる白い髪の少年の姿が

本当に神様に見えているとセラが更に話しを

進めていく。

 

 

 

「君が許すなら別に良いけど……でも、彼の名前

はどうしようか……?」

 

 

 

セラは少年の名前を必死になって考えていると

グレンはそんなセラの姿に呆れて溜息をしていた。

 

 

 

「セラ…名前なんて別に後でいいだろ?」

 

 

 

「良くないよ‼︎ 名前の方がよっぽど大事だよ‼︎

だって、さっきから思ってたんだけどこの子の事を

呼ぶ時に『君』や『作製No.0』なんて呼び難いし、

何より全然、名前らしくないじゃん‼︎これからの

呼び方に困るもん‼︎」

 

 

 

(これから…? 一体、どういう事…?

セラお姉ちゃんの考えが理解不可能……)

 

 

 

 

少年が一生懸命に考えているとグレンは

 

 

 

「やれやれ……どうやら…譲る気は全くない

みたいだな……」

 

 

 

グレンはセラの決心が折れないと理解するとグレン

は諦めたのか、

 

 

 

「分かったよ…セラの好きなようにしな」

 

 

 

グレンはセラにそう言うとセラは笑顔でグレンに

 

 

 

「さすが、グレン君‼︎」

 

 

 

するとセラは頭を傾げながら考えているとセラは

何か閃いたのか白い髪の少年に視線を向けて笑顔

で答えた。

 

 

 

『……ノア…『ノア=アイゼア』ってどうかな…

グレン君?』

 

 

 

「ノアか……良いんじゃねえか?

セラにしてはなかなかじゃねえか?」

 

 

 

「ちょっと、 私にしてはって、グレン‼︎

どういう意味‼︎」

 

 

 

セラがグレンの言葉に頬を膨らませてプンプン

と怒っていると

 

 

 

「すまん、すまん…そんな事よりセラ、

ノアのこれからについてを話さないと

いけないんじゃねえのか?」

 

 

 

グレンがセラにそう言うとセラは

 

 

 

「ああ、そうだった‼︎ ノア君、

これから君の事をノア君って呼んで良いかな?」

 

 

 

セラは少年に聞くと少年は悩んでいた。

 

 

 

「……もしかして、気に入らなかった?」

 

 

 

 

「こう言った時どうすれば良いのかデータが

なくて…分からない………」

 

 

 

少年がセラにそう言うとセラは優しい笑顔で

少年の頭を撫でながら

 

 

「少しずつでも良いから大丈夫だよ?

まずは、自分の思うようにしてみたら

良いんじゃないかな?」

 

 

 

セラが少年にそう言うと少年はセラがくれた

『ノア』と言う名を聞いて

 

 

 

「ノア…ノア=アイゼア……僕だけの名前……

とっても嬉しいよ‼︎ ありがとうセラお姉ちゃん‼︎」

 

 

 

「はうぅ‼︎」

 

 

「セラお姉ちゃん?」

 

 

その時、セラはノアの純粋無垢な笑顔に

【ドキッ‼︎】として頬を真っ赤にしていた。

 

 

「おい、セラ、早く話せよ? このままだと

話しが全く進まんだろ?」

 

 

 

「わ、分かってるよ‼︎ グレン君‼︎」

 

 

 

「やれやれ…本当かね……」

 

 

セラ動揺してそして本題へ入った。

 

 

 

「ノア君、これからの事についてだけど…

私達と一緒に来ない?」

 

 

 

「一緒に…?」

 

 

 

「そうだよ‼︎ 一緒にいればこれからも君を守る

事が出来るからね?」

 

 

 

「でも……」

 

 

ノアは迷っていた。自分と一緒にいたらまたこの街

みたいにしてしまうのではと思いとても怖かった。

 

 

 

ノアの手が震えているとセラがノアの手を

握っていた。

 

 

 

「セラお姉ちゃん…?」

 

 

 

そして次の瞬間、セラは『かなりの爆弾発言』を

した。

 

 

 

 

「それに……もし、ノア君が良かったらだけど……

私の家で一緒に暮らしてみない…?」

 

 

 

 

「え?」 【グレン、ノア】

 

 

 

ノアとグレンの思考は停止してセラが何を言ってる

のか分からなかった。

 

 

「お、おいセラ‼︎ 本気かよ⁉︎」

 

 

 

「うん、私は本気だよグレン君…」

 

 

 

「おいおい…セラなんでそこまでするんだよ⁉︎」

 

 

 

グレンは今のセラの考えが全く理解出来なかった。

 

 

 

 

「それは……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ノア君にはこれからの人生は楽しくて

人間らしい生活をさせてあげたいから…」

 

 

 

 

セラが真っ直ぐな瞳でグレンにそう言うとグレンは

溜息つきながらやれやれとした顔を浮かべてノアの

顔を見て

 

 

 

「ノア、一緒に来い‼︎ 色々と教えてやるから‼︎」

 

 

 

グレンは頭をガリガリと掻きながらノアに

そう言うとノアは泣きそうな顔をしながら

 

 

 

「僕なんかが二人の側にいていいのかな……?

幸せになっていいのかな…? 僕は兵器で人を殺す

為に作られた『殺戮道具』なんだよ?」

 

 

 

ノアは二人に聞くとセラ達は

 

 

 

「いいに決まってるじゃん‼︎ ねぇ?グレン君?」

 

 

 

「たくっ……嫌ならこんな事を言わねーよ」

 

 

 

「全く…グレン君はツンデレさんなんだから…?」

 

 

 

「おい……誰がツンデレだよ、誰が……」

 

 

 

 

ノアは二人の会話を聞いているとどこか暖かい

気持ちになり、そして嬉しくなった。

 

 

 

「それじゃあ、行こうか‼︎ ノア君‼︎」

 

 

 

「……うん‼︎」

 

 

 

そして二人はノアを連れて白き白銀の街を

後にして学園都フェジテに向かった。

 

 

 

 

 

 

そしてこの時、誰もそしてノア本人さえも

まだ知らなかった。ノアの心には新たな感情が

少しずつとではあるが心の芽吹き始めていた。




『死神の魔術師』と『白き大罪の魔術師』を
これからもよろしくお願いします‼︎


精一杯頑張りますので応援よろしく
お願いします‼︎( ^ω^ )





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エンジェルダスト事件編
正しさと正義の在処


お久しぶりです‼︎ 遅なりすみません‼︎
新しいお話です。 楽しんで読んでください‼︎

更に読んで『高評価』、『しおり』などをして
頂くと有り難いです‼︎



(心の声) 伸びろ‼︎伸びろ‼︎伸びろ‼︎伸びろ‼︎


グレン達は廃墟となった白い街からフェジテまで

馬車でたどり着くとセラとグレンはノアを連れて

アルザーノ帝国の宮殿の中に入って

『アリシア七世』に謁見していた。

 

 

「グレン、セラ、お疲れ様です。

この子が『例のproject計画』の少年ですか?」

 

 

 

「はい、陛下、セラが名前をつけて今は『ノア』

と名乗っています。」

 

 

 

グレンがアリシア七世に傅きながらそう答えると

アリシア七世は玉座から立ちながらノアの近くに

寄って話してきた。

 

 

「初めまして、ノア君…でしたか?

私はアリシアと言います」

 

 

 

アリシア七世はノアに笑顔を向けて笑うと

セラの後ろに隠れてかなり警戒していた。

 

 

「ちょ、ちょっと、ノア君‼︎ どうしたの⁉︎」

 

 

「ノア、お前、何やってるんだ‼︎」

 

 

グレンとセラはノアがいきなりセラの後ろに

隠れた理由を聞こうとノアを見るとグレンと

セラは怒る事は出来なかった。

 

 

 

何故なら………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ご、ごめんなさい…ちゃんと謝りますから…

だ、だから、お願いします。許してください…

痛くしないでください…お願いします…」

 

 

 

ノアは小さな体を震わせて怯えていた。それは

無理も無かった。何故なら『毎日が人体実験を

されるか水槽の中に閉じ込められる』そんな毎日

だったため、ノアは人が沢山いる大きな街などは

初めてでグレンやセラ以外の人間がとても怖くて

恐怖感を感じるからだ。

 

 

ましてや、人が多い場所などは初めてきて

ノア自体、どうしたらいいか分からなかった。

 

 

 

それに穢れを全く知らないノアはまるで、子供の

ような純粋だからだ。

 

 

 

すると、アリシア七世はノアの頭に手を

乗せて頭を撫でていた。

 

 

 

「大丈夫ですよ、貴方に痛い事はしませんから」

 

 

 

アリシア七世がノアを安心させるように言うと

ノアは少し安心したようにセラの後ろから顔を

ひょっこりと出して

 

 

 

「本当に……?」

 

 

 

「ふふっ、本当ですよ?」

 

 

 

アリシア七世はノアに笑顔で微笑みながら頭を

撫でいた。

 

 

 

『…あの子がもし此処にいたら…こんなふうに

笑っていたのかもしれませんね……』

 

 

 

アリシア七世は俯きながら小声でポツリと、

無意識に言葉を紡いでいた。するとノアは

アリシア七世の側に近づき顔を覗き込んでいた。

 

 

 

「……大丈夫……?

もしかして…何処か痛いの…?」

 

 

 

ノアは心配そうに見ているとアリシア七世は

そんなノアの優しい言葉を聞いて何故か瞳から

涙が雫となって頬に一つ二つと頬をつたって

ゆっくりと流れ落ちていた。

 

 

 

 

 

『貴様‼︎ 陛下に一体何をした‼︎』

 

 

 

ゼーロスが叫ぶとゼーロス達、護衛騎士達が騒ぎ

始めゼーロスはノアの首筋に鋭く尖った剣を

突きつける。

 

 

 

「ま、待ってくれ‼︎ そいつは何も知らないんだ‼︎

だから許してやってくれ‼︎頼む‼︎」

 

 

 

「私からもお願いします‼︎」

 

 

 

 

グレンとセラはゼーロス達に頭を下げて必死に

謝り続けたが……

 

 

 

 

 

「『愚者殿‼︎』それに『女帝殿‼︎』この者は陛下

のお心を乱し不貞を働いた者ですぞ‼︎ この罪人

を今、此処で粛清するのが王室のこの汚点を

注げるのだ‼︎」

 

 

 

ゼーロスは高らかに声をあげてグレン達や

部下の騎士達に訴えると他の騎士達は一人、

二人と同調する様に叫び始めた。

 

 

「そうだ……王室を乱した罪深き罪人に

正義の粛清をしなければ…示しがつかない…」

 

 

 

「ゼーロス様‼︎ その罪人に厳選なる粛清を‼︎」

 

 

 

『その罪人に聖なる粛清を‼︎』【騎士達】

 

 

 

騎士達は一斉にゼーロスに膝を地につけて

ゼーロスにノアの粛清の嘆願していた。

 

 

 

 

『義は我らにあり‼︎ 正しさは我らにあり‼︎』

 

 

 

 

そして、ゼーロスはそう叫びながら剣を両手で握り

構えてノアを睨みつけて振りかざそうとすると

 

 

 

『やめなさい‼︎ ゼーロス‼︎』

 

 

 

大きな声が聞こえるとゼーロスはノアの首元で

ピタリと止める。

 

 

 

「何故庇うのですか陛下‼︎この者は陛下を

王室を侮辱した罪深き罪人なのですぞ‼︎」

 

 

 

ゼーロスはアリシア七世に必死に訴えると

アリシア七世は王室の椅子から立ち上がって

 

 

「すみませんゼーロス…本当に

大丈夫ですから……」

 

 

 

アリシア七世はゼーロスにそう言うとゼーロスは

納得いかない顔をしていた。

 

 

 

「しかし‼︎陛下‼︎」

 

 

 

ゼーロスは必死にアリシア七世に言おうとすると

 

 

 

 

「二度は言いません……これ以上、この話を

蒸し返すなら貴方でも許しませんよ?」

 

 

 

 

アリシア七世はゼーロスにそう言い放ち、

冷たい視線を向けて警告をする。

 

 

 

それをゼーロスが理解すると、ゼーロスは

アリシア七世が座っている玉座の前に膝をついて

 

 

 

「陛下への数々の無礼…お許しください…」

 

 

 

ゼーロスがそう言うとアリシア七世は涙で濡れた

頬で真っ赤になって腫れた顔を隠しながらグレン達

に労いの言葉をかけた。

 

 

 

「グレン、セラ。任務お疲れ様でした。ノアの

生活面などについては面倒は二人に任せます…

もう下がっていいですよ……」

 

 

 

「わ、わかりました陛下‼︎」

 

 

 

「ありがとうございます‼︎ 陛下‼︎」

 

 

 

グレンとセラはアリシア七世に膝を地につけてノア

の小さい手を引っ張ってアリシア七世達のいた王室

を出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「馬鹿か‼︎ お前は⁉︎

一歩間違えれば死刑だったぞ‼︎」

 

 

「今回だけはグレン君に賛成かな…死んだら何も

出来ないんだよ‼︎」

 

 

いつも優しいセラさえも声を荒げて知らないうちに

ノアを怒っていた。

 

 

 

「ご、ごめんなさい……」

 

 

 

 

アリシア七世との謁見後、ノアはグレンとセラに

こっ酷く怒られていた。

 

 

 

 

「分かったなら良いんだ…セラもそれで良いか?」

 

 

 

「うん……ノア君、もうあんな事をお願いだから

二度としないでね…?約束だからね…?」

 

 

 

 

ノアは今にも泣きそうなセラを安心させる為に

静かに返事しようとすると

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やあ、久しぶりだね。グレン?」

 

 

 

ノアの後ろから声が聞こえて振り返ってみると眼鏡

をかけて不気味に口元が緩ませている男性が

コツ、コツ、とゆっくりこちらへと歩いていた。

 

 

 

『ジャティス‼︎ テメェなんでここにいやがる‼︎

テメェは特殊な任務で遅くなる筈だったろうが‼︎』

 

 

 

 

「いや〜そこまで僕の事を考えてくれているなんて

グレンは相変わらず優しいな〜まあ、実は報告書に

書いてあった外道魔術師達が思ったほどにたいした

事が無くてね?だから、いつも通りにあっさりと

『正義執行を行えたよ』それに最近、噂になってる

『例の禁断の計画』で神の力に選ばれた正義の象徴

である彼を是非とも目の前で見てみたいと思って

いたからね?」

 

 

 

「意味分かんねぇ御託ばかり言いやがって‼︎

テメェの戯言や妄言に付き合っている暇は

今の俺達にはねぇんだよ‼︎」

 

 

 

「グレン君の言う通りだよ‼︎ そもそもジャティス君

は一体、ノア君に何をさせたいの‼︎」

 

 

 

グレン達の質問に対してジャティスは顔色変えずに

笑っていた。

 

 

 

「おいおい…グレン、セラ。 僕が何を考えているか

なんて最も分かりきった事を聞かないでくれよ?

僕の目的は悪への『絶対的な正義執行』…ただこの

一点しかない。しかし、残念ながら僕一人で全部の

悪に正義執行をするのは難しいし、現実的に効率的

ではない…ならば是非とも彼にも僕の正義執行を

一緒に手伝ってもらいたくてね?」

 

 

 

 

「ふざけんな‼︎ つまり、こいつを……ノアを

『戦場』に『薄汚れた世界』に出せってテメェは

そんな馬鹿げた事を本気で言ってるのか⁉︎」

 

 

 

グレンは怒りに身を任せて目の前にいた

ジャティスの胸ぐらを掴み上げていた。

 

 

 

「当然さ。 こんな事で激怒するなんて相変わらず

甘いな…グレン? 彼の力はこの世の罪深い悪人達

を正義のもとに『裁き』、そして『粛正』する為の

力だからね?それに彼は戦場で悪を裁く戦いの中

でこそ彼の存在が光輝いて『絶対正義の執行者』に

いや……『世界の救済者』をだって…」

 

 

 

 

「ふっざけんな‼︎」

 

 

 

 

ジャティスが満面の笑みを浮かべながらノアの話

をしているとグレンはどうしても我慢出来なかった

のかジャティスが饒舌に話してる途中でありったけ

の力を拳に込めて殴りつけた。

 

 

 

 

「グレン君‼︎」

 

 

「グレン‼︎」

 

 

 

「ジャティス…テメェの言いたい事は分かった…

だかな、テメェの身勝手なそんな理由でこいつを

戦場に出していい理由には全くならないだろう‼︎」

 

 

 

グレンはジャティスの胸ぐらを再度、掴み上げて

睨みつけて言うと

 

 

 

「なるほど……それがグレンの回答か……まあ、

そう言う事にしといてあげよう。だけどねグレン。

君は彼を戦場に絶対に出さないように一生懸命に

奮闘しているみたいだけどそれは全くもって意味の

ない事だと思わないかい?」

 

 

 

「おい…、ジャティスそれはどういう意味だ」

 

 

 

 

グレンは拳を握りしめてジャティスを

殴るのを我慢して質問した。

 

 

 

 

「まあ、その内グレンにも分かるさ‼︎ それに、

彼は僕達とは違う‼︎人間ではない‼︎彼は神に

選ばれて『兵器』で『崇高』で選ばれし神聖で

気高く聖なる存在だよ?それに彼はこの運命

からは絶対に逃げられない‼︎ グレン。君なら

分かるはずだ‼︎」

 

 

 

 

ジャティスは満面の笑みを浮かべてグレンに

言うとグレンは

 

 

 

 

「…ジャティス…歯、食いしばれよ……」

 

 

 

 

 

グレンはジャティスに殺意を向けて握りしめ

過ぎて血塗れになった拳をジャティスに向けて

殴ろうとすると

 

 

 

 

「グレン‼︎ もうやめて‼︎」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グレンが声がする方を見ると

 

 

 

 

 

 

「ノア……」

 

 

 

 

ノアは頬に沢山の涙をポロポロと流して自分が

思った事を必死になってグレンに訴えかけた。

 

 

 

 

「そんな怖いグレンは嫌だよ…いつものグレンに

戻ってよ……」

 

 

 

 

ノアは子供のように泣きながらグレンに訴えると

セラもノアと同調するように必死になって

グレンに説得していた。

 

 

 

「グレン君。もうやめて……今、ここで

ジャティス君に暴力を振るっても何も解決しないよ

…それに……それはノア君の為にもならないよ?」

 

 

 

 

グレンはセラの言葉で少しだけ冷静になり、

ジャティスに視界を向けて見るとジャティスは

相変わらずの満面の笑みを浮かべている。

 

 

 

 

グレンは歯ぎしりしながらジャティスの胸ぐらを

掴み上げていた腕を下ろしてセラとノアの所に

戻っていく

 

 

 

 

「あれれ? グレン〜もうやめるのかい?

君らしくないなあ〜?」

 

 

 

ジャティスはグレンの背中を見ながら顔色を

変えずにグレンを挑発していく

 

 

 

 

「…うるせえ……とにかくノアに近づくな…

いいな? クソルーペ野郎…」

 

 

 

「わかったよ…僕も君に嫌われたくないからね?

それに、グレン、僕は君となら仲良くなれると

思っているんだがね?」

 

 

 

 

「そんな事、ぜってぇにねえよ…妄想も

大概にしろ……」

 

 

 

グレンはジャティスに敵意を向けてノア達と一緒に

去ろうとすると

 

 

 

 

「グレン、最後に同じ理想を持つ友人として、

そして正義を夢見た同志として助言をしておくけど

彼は『正義の象徴』であると共に宿命からは何が

あっても絶対に逃げられないからね? それに、

『彼女達』がこのまま彼を絶対に見逃す訳が

ないしね?」

 

 

 

 

ジャティスはグレン達に大きな声で言っていた

みたいだが、グレン達は決してジャティスの方を

見る事はもうなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな帰っている最中、ノアはグレンとセラに

ジャティスの言ってた言葉について質問して

いた。

 

 

 

「【疑問】グレン、セラ…僕は…僕は、二人とは

違うの?さっきの人が二人に言ってたみたいに

僕は人外なの…?」

 

 

 

 

ノアはまだ、人の感情を理解していないがその時、

無意識に心の奥底からとてつもなく戸惑いながら

初めて感じた感情……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは人間の言葉で言うなら『不安』、

そして『恐怖感』だった。

 

 

 

 

もし、それが本当で二人が自分から離れて行ったら

どうしようとノアの脳内によぎったがノアはそれが

なんなのか、そしてどうすればいいのか今のノア

には全く分からなかった。

 

 

 

 

するとセラはノアに優しく抱きしめて震えながらも

言葉を紡いでいく

 

 

 

 

 

「ノア君はちゃんと…ちゃんとした人間だよ…

私達と同じ血の通う人間だから…ノア君は決して

人外なんかじゃないよ……」

 

 

 

「でも…先程の人間、【個体】ーー

ジャティス=ロウファンの回答は間違い無くて…

それに…さっきから胸の奥がおかしいんだ……」

 

 

 

 

ノアは何故セラ達がそんなにも悲しそうな

表情を浮かべているのか全く分からないが、

しかし、一つだけ分かった事があった。

 

 

 

 

 

それは、『安心感』だった。

 

 

 

セラに抱きしめてもらったおかげでノアの胸の奥

にあった不安や恐怖感が不思議と和らいで消えて

いた。

 

 

 

 

そしてノアは二人に『ありがとう…』と自然に薄く

微笑みながら二人と一緒に歩いてその場を後に

した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グレン達は陛下からノアのお世話を任されて

一週間くらいたった。

 

 

 

 

グレンとセラは任務から帰って来てゆっくりと

自分の家の扉を開けると

 

 

 

 

「グレン‼︎ セラ姉‼︎ 遊ぼう‼︎」

 

 

 

ノアは笑顔でグレンとセラの元に近づいて

セラに抱きつきながら子供のように甘えていた。

 

 

だが、残念ながらノアは人間達感情を理解した

訳ではなく街の子供達の行動を観察して意思疎通

などを解析しただけのただの表面だけの追跡

(トレース)、模倣(エミュレート)である。

 

 

 

 

 

「ノア君⁉︎、いきなりは危ないよ‼︎」

 

 

 

 

「全く…ノア…お前は……」

 

 

 

 

グレンとセラがノアに呆れながら、

セラはノアの頭を撫でていると

 

 

 

 

 

「セラ姉に頭を撫でてもらうの好き‼︎」

 

 

 

 

ノアはセラ達に笑顔で言うとセラは顔を真っ赤に

してあわあわと戸惑っていた。

 

 

 

 

「ぐ、グレン君‼︎ の、ノア君が私の事がだ、

大好きだって⁉︎」

 

 

 

 

「おい、落ち着けセラ……ノアが言ったのは

お前に撫でてもらう事って言っただろうが?」

 

 

 

グレンはセラの額にデコピン放つとセラは

『はうぅ』と声を出して悶えていた。

 

 

 

「それに、セラはいつもノアに優し過ぎるし、

過保護過ぎて甘すぎんだよ‼︎」

 

 

 

グレンはセラに指を指してセラに言うとセラも

グレンの言葉に反論も何もしなかった。

 

 

 

「うん、そうだね…確かにグレン君の言う通り

だと思う…でもね、やっぱり彼にはもっと、もっと

『楽しい思い出』や『人間としての時間』を彼にも

沢山、沢山、与えてあげたいの…そしてもっと色々

な事を教えてあげたいの……」

 

 

 

「セラ……」

 

 

 

「ごめんねグレン君‼︎私って大袈裟だよね?」

 

 

 

その時のセラの表情は夕陽に染まって眩しくて

見えなかったが、セラの声だけはとても悲しそう

だと言う事だけは分かった。

 

 

するとグレンはセラの頭を撫でながら不器用

ながらも、セラを励ましていた。

 

 

 

「大丈夫だセラ…そこは俺もお前と同じだ。

あいつにもっと色々な事を沢山、教えて

やりたいし、それに…………」

 

 

 

「それに?」

 

 

 

 

 

 

 

「俺もお前等との時間は嫌いじゃない…」

 

 

 

グレンはセラに照れくさく話しているとセラは

とても嬉しそうな顔して目を輝かせていた。

 

 

 

 

「グレン君……」

 

 

「だあぁ‼︎もうこの話しは終わりだ‼︎終わり‼︎

早く飯にしてくれ‼︎今日は作ってくれるんだろ‼︎」

 

 

 

 

 

「ふふっ、そうだね…

はいはい分かったよグレン君‼︎」

 

 

 

セラは笑顔でグレンにそう言って台所に立って

料理を作ろうと準備するととセラの動きが止まり、

グレンに視線を向けて

 

 

 

「グレン君」

 

 

 

「なんだ…セラ?」

 

 

 

 

「この毎日がずっと続けばいいね…」

 

 

 

 

「…そうだな……」

 

 

 

そんな二人を見ているノアは何故二人が

あんなにも笑っているか全く、分からなかった。

 

 

 

 

「【結果】ーー二人が何故、笑っているのか…

理解不能……心は分からない…だけど…

何故だろう………」

 

 

 

ノアはそう言って薄く笑いながら

 

 

 

「悪くない……」

 

 

 

 

 

 

 

 

ノアはそう言ってグレンとセラの元に行って

グレン達夕飯を食ベ終わった後、グレンは

セリカの家に帰ってセラはノアを寝かせていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「報告は以上になります。」

 

 

 

 

「うむ、ご苦労……」

 

 

 

 

ある屋敷である貴族が密会をしていた。

その一人はとても豪華な服を着て赤い髪の毛を

していた。

 

 

 

 

 

 

 

「んで、どうするんだ?」

 

 

 

「大丈夫です。私にいい考えがあります…」

 

 

 

「……本当だな?」

 

 

 

 

「もちろんです。私を信じて任せてください。

陛下は我々がなんとかします。」

 

 

 

「……分かった…では、この案件は任せたぞ…

『イヴナイト卿』……」

 

 

 

「お任せを」

 

 

 

そして貴族の男がその場を立ち去ると

イヴナイト卿、『アゼル=ル=イグナイト』は

その場にいた女性に声を掛けた。

 

 

 

「話しは聞いていたな?」

 

 

 

 

「はい……」

 

 

 

 

「だったら話しが早い。 今の話しを聞いていて

分かっただろうが今、『愚者』と『女帝』が

見ている『例の少年』をなんとしても我らが戦力の

駒にしてこい…今、余計な『知識』や『感情』など

の下らない『着色』が付く前にだ。お前にでも

これくらいはイグナイト家に連なる者なら当然

出来るはずだ。私を失望させるなよ? いいな、

『イヴ』?」

 

 

 

 

「分かりました……お父様…」

 

 

 

 

 

 

この日を境にセラ達の楽しい日常が少しずつ、

少しずつと瓦解して崩壊していく




【報告】

今、新しい作品を作っています。

『ロクでなし魔術講師と死神の魔術師』、
ニ作品目の『白き大罪の魔術師』。そして
三作品目の『落第騎士と怠惰な騎士』は少し遅れる
可能性があります。



出来るだけ早く頑張ります。
本当にすみません。


そして、見て、『お気に入り』していただき
本当にありがとうございます。


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絶望と嘆きの焼却

お久しぶりです。何とか書けました。是非、
書いた作品を楽しんで読んで見て下さい‼︎
【エンジェルダスト編】最後です‼︎


『評価』や『感想』、『栞』、『投票』など是非、
お願いします‼︎


『意見』や『感想』などがありましたらこれからも
応援などお願いします!


それに自分なりに頑張って書きました。


疲れた…更に肩凝った……(>人<;)


そして次の日、グレンはセラとの任務の為、

セラの家に行きそしてノアはそんな二人を

見送っていた。

 

 

「グレン、セラお姉ちゃん……早く帰って

来てね…」

 

 

ノアは寂しそうにそう呟きながら家の中に入って

椅子に座って座椅子身を任せて色褪せていたが

誰もが知っていていてそして憧れるあの有名な本、

『メルガリウスの魔法使い』の本のページを

ペラペラと1ページ1ページを丁寧にめくりながら

リビングで読んでいた。すると玄関前のドアを

叩く音が聞こえた。

 

 

【コンコン、コンコン……】

 

 

「誰だろう…もしかしてセラお姉ちゃん達

かな…?」

 

 

ノアはそう言って扉のドアノブを回して扉を

開けると自分の目の前には『赤い髪の女の子』が

目の前に立っていた。

 

 

「お姉さん…誰?」

 

 

「私は『イヴ』、『イヴ=イグナイト』今日は

あなたと大事なお話したくてここに来たのだけど

出来れば場所を移したいのだけどいいかしら?」

 

 

頭を傾げるノアにイヴはそう言うと

ノアは困った顔をして

 

 

「でも…グレンが知らない人について行っちゃ

駄目って言ってたから…」

 

 

 

 

ノアは他の人間から模倣して得た困った顔を

していた。そしてイヴはノアからグレンの名前を

聞いた瞬間、一瞬だか嫌そうな表情を浮かべるが

イヴは何事も無かったかの様に話しを続ける。

 

 

 

 

「大丈夫よ。私はグレンやセラとは

知り合いだから安心していいわよ?」

 

 

 

「本当……?」

 

 

 

「えぇ、本当よ。」

 

 

 

「分かった。じゃあ、お姉さんと一緒に行く…」

 

 

 

「そう、聡明ね。とても賢い考え方よ」

 

 

 

 

ノアはそう言ってイヴに頷いてセラの家を出て

イヴに手を引かれながらもイヴと一緒に外に

ついて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「グレン君、ノア君は喜んでくれるかな?」

 

 

「いちいち俺に聞くなよ……それにあいつなら

なんでも喜ぶだろ?」

 

 

グレン達は任務を終えて夕陽に染まる中、家に

帰っている途中に本屋があったので大量の本を

お土産に沢山買って帰っていた。

 

 

「もうグレン君…適当なんだから……」

 

 

「事実だろ? あいつは何だって新鮮に

見えるから何だって喜ぶだろうと思うぜ?」

 

 

グレンの言っている事は事実だった。ノアは普通

の子供より心は未発達で例えるならば『白い布』

である。どんな色にでも簡単に染まりやすいのだ。

 

 

 

 

「全く…ノア君がグレン君みたいに不真面目に

ならない様に教えていかなきゃいけないね?」

 

 

「おい‼︎それはどう言う意味だよ‼︎ 白犬‼︎」

 

 

 

グレンはセラに聞くとセラは笑顔で

 

 

 

 

「だってグレン君がノア君に変な事を

教えてるでしょ?」

 

 

 

 

セラがグレンにそう指摘するとグレンの声が

裏返ってかなり同様して目が泳いでいた。

 

 

 

「へ、変な事とはなんだ‼︎変な事は‼︎

白犬だってノアに甘すぎるだろうが‼︎」

 

 

「あ‼︎、また白犬って二回も言った‼︎ グレン君、

何回も言ってるけど私は白犬じゃないからね‼︎」

 

 

 

「へいへい…分かったよ……」

 

 

「もう‼︎ グレン君全然分かってないでしょ‼︎」

 

 

グレンとセラが話しているとグレンは

『ある違和感』に気づいて走り出すと筈のセラの

家の扉が開いたままだった。

 

 

「おい、セラ‼︎ 扉が開いたままだぞ⁉︎」

 

 

「まさか…ノア君‼︎」

 

 

 

まさかの最悪の事態がグレンの頭よぎった。何故、

いきなり自分の頭によぎったのかグレン本人すら

分からない。いや、分かっているのに自分勝手な

都合の良い自分勝手な妄想を考えて今目の前ある

絶対に受け入れがたい絶望的で最悪な現実を

受け入れたくないから分からないフリしていた。

だが、残念な事に『軍人』として経験がそして

『宮廷魔道士団』として今迄培ってきた本能が

そう告げているのが嫌でも分かってしまう。

グレン達は家の中に危険がないか人気がないのを

確認しながら恐る恐ると家に入るとリビングには

ノア姿は無く奥の方のリビングに行くと

 

 

 

 

「こ、これは……」

 

 

部屋の中は荒らされた痕跡は全くなくテーブルの

上には『ある本』が乗っていた。それは誰もが

知っている有名な本の物語、幼少の頃、グレンが

セリカと一緒に毎日のように読んで憧れて夢見た

『メルガリウスの魔法使い』の本が目の前に

置いてあったのだ。

 

 

「こ、これは…まさか⁉︎」

 

 

「ああ、間違いない…ノアの本だ‼︎」

 

 

グレンはセラにそう言って拳を握り締めながら

悔しそうに言うと【コンコン】と扉を開けると

音が聞こえ、グレン達は音がする方を向くと

 

 

「邪魔するぞ。」

 

 

 

「お前は…アルベルト‼︎」

 

 

「アルベルト君‼︎」

 

 

グレン達はアルベルトに驚いているとアルベルト

は二人を見て

 

 

「グレン、セラ。任務ご苦労だった…」

 

 

アルベルトは淡々と話すとグレンはアルベルトに

 

 

「アルベルト‼︎ すまねぇがノアが…ノアが

いなくなっていたんだ‼︎俺達は今から陛下に

捜索願いの嘆願を出してくるから一緒に

来てくれないか⁉︎」

 

 

グレンはアルベルトにそう言うがアルベルトは

グレンとセラに平然と何事もなかったかの様に

 

 

「グレン、その必要はない…ノア=アイゼアは

今、『特務分室』に移動してもらい安静にして

もらっている。」

 

 

アルベルトがその言うとグレン【は?】と意味が

分からんとした表情浮かべて更に声を出していた。

セラは信じられなかったのか顔色が真っ青になり

【ど、どうして……】と手で口を塞ぎながら

呟きながら青ざめていた。

 

 

「おい、アルベルトどうして…どうしてノアが

特務分室にいるんだ‼︎ 答えろアルベルト‼︎」

 

 

グレンはアルベルトの胸ぐらを掴んで今にも

殴り掛かろうとしていた。

 

 

「それにあいつはまだ何も知らない子供だぞ‼︎

そんな世間の事を知らない子供を捕まえて更には

特務分室に連れて行くなんて一体何考えて……」

 

 

グレンは言おうとすると何かを察したのか

【ギロリ】とアルベルトを睨みつけていた。

 

 

 

「…なるほど…そういうことか……あいつ…

イヴの野郎の仕業か?そして『今回の件』を

数日前から聞かされていたてめぇはその内容を

理解していて俺たちに黙って行動していた…

そうだろ?」

 

 

グレンはアルベルトにそう言うとアルベルトは

表情を変えずに

 

 

『そうだ……今回の件はイヴの仕業だ。そして

俺は今回の件は前から計画全てを知っていて

見て見ぬ振りをしていた』

 

 

「テメェ‼︎」

 

 

 

グレンはアルベルトの胸ぐらを掴んでいた手を

外してペネトレイターをアルベルトに銃口を

【ガチャリ‼︎】と向けて警戒しながらも睨みつけて

愚者のアルカナのタローを懐から出してアルベルト

の目の前に向けて構えていた。

 

 

 

「グレン…貴様、本気か?」

 

 

「本気じゃなかったら何の躊躇いなく

てめぇに銃を向けてねぇよ‼︎」

 

 

 

 

「そうか………」

 

 

 

 

アルベルトは鋭い眼光でペネトレイターを向ける

グレンを睨みつけてそう言うとグレンはアルベルト

から視線を逸らさずに右手の銃の引き金に指を

通して少し強く握っていると

 

 

「二人共いい加減にして‼︎」

 

 

「セラ……」

 

 

セラは大声を出して顔を真っ赤にしながら大声

で叫ぶとグレンは小さな声でセラの名前を呟く。

 

 

「私は一人でも特務室に行くからね‼︎」

 

 

セラがアルベルト達にそう言うとアルベルトは

溜息をつきながら

 

 

 

「安心しろ…イヴから二人を呼ぶ様にただ言われた

から来ただけだ」

 

 

 

「…わかった」

 

 

セラは納得してそう言った。しかし、グレンは

アルベルトに向けたままで一向にペネトレイター

を下ろそうとはしない。

 

 

「グレン君…銃を下ろして…」

 

 

 

「無理だ…こいつらは俺達がいない間、

何の一言もなくこんな事をするんだぞ‼︎」

 

 

グレンはアルベルトを睨みながらそう言うと

 

 

「グレン…貴様…俺がこんな事を望んで

やっていると思うか?」

 

 

「アルベルト君…」

 

「アルベルト…」

 

 

グレンとセラはそう言うとアルベルトは

忌々しそうに

 

 

「どんなに上層部が腐った指示でも、それでも

必要だと思ったからだ…そうする事によって

ノア=アイゼアが利用される可能性を少しでも

下げる為にもあるからな…」

 

 

「アルベルト…すまねぇ…冷静じゃなかった」

 

 

グレンはアルベルトにそう言ってペネトレイター

を懐にしまって頭を下げていた。

 

 

 

「分かってくれればいい……それに、イヴから

二人を連れくるように言われたから俺はここまで

来ただけだ。それに任務だったからしたまでだ…」

 

 

 

アルベルトは無愛想に言うがグレン達は先程の

アルベルトの言葉を聞いてやはり頼りになる

人物だと改めて思った。

 

 

 

「…分かった。行くぞセラ……」

 

 

「うん、そうだねグレン君…」

 

 

 

グレン達はそう言ってアルベルトに付いて言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「遅かったわね。グレン、セラ?」

 

 

グレン達は特務分室に向かって辿り着くと

特務分室ではイヴがグレン達に笑顔でそう言って

室長室の椅子から立ち上がり【カツカツ】と

ヒールの音を立ててグレン達に近づいて行く。

 

 

「イヴ‼︎ テメェ‼︎俺達がいない間にノアを連れて

一体、何を考えていやがる‼︎ どこにやった‼︎」

 

 

「野良犬みたいに騒がないでくれるかしら?

本当に耳障りでうるさいわよグレン?」

 

 

イヴは【クスクス】と人を小馬鹿した様な顔で

笑いながらグレンに言うとセラは

 

 

「イヴちゃん…ノア君はどうして特務分室に

連れて行かれたの?」

 

 

セラがイヴにそう聞くとイヴはセラを見て

真剣な表情をして

 

 

「いいでしょう…今回はセラに免じて特別に

教えてあげましょう…とりあえず付いて来なさい。

後、私を倒そうなんて馬鹿な事を考えないでね、

グレン?」

 

 

イヴはそう言って特務分室の扉を開けた。

 

 

「分かったよ…付いて行けばいいんだろ…」

 

 

グレン達はイヴの言葉の指示に従って特務分室

を出てイヴについて行くと

 

 

「ここよ。」

 

 

イヴは二人にそう言って扉の厳重な

パスワードを解いて部屋の中に入ると

 

 

「こ、これって……」

 

 

「……う、嘘だろ…?」

 

 

グレン達が驚いたのは無理もなかった。

何故ならーー

 

 

 

中には大量の機械が置いてあり定期的に鳴る

機械音。そして横になったノアの体中には複数

のコードや沢山の鎖が繋がれていて目隠しや

口当てなどを大袈裟につけられており更には

【マジック・ロープ】や高度な【特別な上位の

封印術式】などが巻き付けられていた。

 

 

「イヴ‼︎ テメェ‼︎ いくらなんでも

やっていい事と悪い事があるだろうが‼︎」

 

 

グレンはそう言って懐から『愚者のアルカナ』を

出して更にグレン愛用のイヴ・カルイズの火薬を

『魔銃・ペネトレイター』に装填してグレンは

ペネトレイターを構えて銃口をイヴに向いていた。

 

 

「ぐ、グレン君⁉︎」

 

 

セラはなんとか落ち着かせようとする

しかしセラのそんな努力も虚しく

 

 

「グレン、セラ。貴方達がどんな絵空事の理想像を

見るのは勝手だけどこの子に貴方達の勝手な理想像

を教えて押し付けるのはやめてくれないかしら?

正直、迷惑なのよ」

 

 

「それはこっちの台詞だ‼︎そもそもノアは

俺達が陛下から許しを頂いてやってんだよ‼︎」

 

 

 

するとイヴはグレンの言葉にクスクスと笑って

 

 

「貴方がそう言うと思ってちゃんと陛下からの

許しは得ているわよ?はい、これがその証拠の

任命書よ。これで貴方に彼の事でとやかくと文句

は無いはずよね?」

 

 

グレン達がその任命書を見るとグレンはイヴから

任命書奪い取って確認すると確かにアリシア七世

のサインがあった 。グレンはそれを見た瞬間、

物凄い殺気を出してイヴを睨みつけて目の前で

容赦なく『任命書を破り捨てた。』

 

 

「グレン…貴方、陛下からの任命書を破り捨てる

って事の意味を理解してやっているのかしら?」

 

 

「ざけんな‼︎どうせてめぇの事だ‼︎ 裏で上層部の

奴らと結託して隠蔽工作などをしたんだろ‼︎」

 

 

グレンがそう叫びながらペネトレイターを

【ガチャリ】と音をさせるとイヴは溜息を

つきながら視線を二人へ向ける。

 

 

「グレン、貴方ちゃんと言葉を選んで言って

いるのかしら?それにペネトレイターを私に

向けるなんて『私の駒』としては失格よ?」

 

 

「うるせぇ‼︎ どうせてめぇの権謀術数で陛下を

唆して丸め込んだんだろ‼︎それにてめぇの駒に

なったつもりは全くもってない‼︎」

 

 

グレンが声を荒げるのも無理もない貴族達に

よる国家運営への干渉が激しく、特に治安部門

は上層部と繋がりの深いイグナイト家によって

牛耳られている。実は職員達の制服の徽章は全て

イグナイト家によって魔術的な工作がされており、

治安関係に関係する情報は全てイグナイト家に

筒抜け状態になっている。混交玉石の情報も

存在するが、これによって帝国を支える功績の

ほとんどはイグナイト家が独占する状況となって

しまっている。

 

 

グレンはそう言ってノアに近づいてノアに巻き

付いていた【マジック・ロープ】や複雑でかなりの

階級が高い作ったであろう高度で複雑な封印術式

などを黒魔【ディスペル・フォース】の呪文を

唱えてノアを縛ていた【マジック・ロープ】と

【特別な封印術式】の付呪効果を打ち消そうと

していた。

 

 

するとーーー

 

 

 

 

「グレン……それ以上その拘束具を外したりしたら

タダじゃ済まないわよ?」

 

 

 

イヴはその二つ名の所以となった指定した領域内

における炎熱系魔術の起動を行いそしてイヴが

得意とする『五工程』(クイント・アクション)

すべて省略できる眷属秘の【第七圏】をこの部屋

に使った。

 

 

「こ、これは…⁉︎ 宮廷魔道士団特務執行官No. 1

魔術師イヴのご自慢の魔術イグナイト家の秘蔵の

『眷属秘呪』【第七圏】か⁉︎」

 

 

グレンがそう叫びながらイヴに言うと

イヴは真剣な表情をしてグレンに近づき

 

 

「グレン、セラ、彼は私達とは違う別の存在…

つまり、人知を超えた存在なのよ‼︎なのにそれを

使わないで人間のように生活させる…? 本当に

馬鹿じゃないの‼︎更に私達の誰もが知っている

『メルガリウスの魔法使い』に続く伝説の逸話だと

思って諦めていた『白き聖杯』を使った『X計画』

の成功例が今、ここにいる‼︎『神々の神聖な力』

を使えばかなりの『戦力としての駒』としてかなり

の期待出来るのよ⁉︎

 

 

 

イヴは二人にそう言って徐々に興奮して声を

荒げていく。

 

 

「でも残念な事に彼には足りない部分があるわ。

例えば『感情』とかがね。彼の感情はね赤ん坊

みたいに『まだ純粋過ぎる……』だからそんな

彼に『兵器』として『駒』としての喜びをしっかり

教えてあげれば彼は『最強で忠実な駒』に出来る。

それに現時点でのうちの戦力は『帝国軍のエース

のリィエル』がいるけど彼女だけじゃまだ戦力は

足りないわ‼︎」

 

 

「だからってそんな自分勝手な理由であいつを戦場

に出して押し付けていい理由なんかになる筈が

ないだろう‼︎」

 

 

するとイヴは溜息をつきながらグレンに冷たい

視線をして淡々と言葉にしていく。

 

 

「グレン、セラ。これはトップシークレットの

極秘事項だけど貴方達には教えといてあげる…

『特務執行官No.11 正義ジャティス=ロファン』

との連絡が途絶えたのよ…だからもしかしたら

と思って二つの仮説を私なりに立てみたわ」

 

 

「それって何イヴちゃん……?」

 

 

セラはイヴに不安そうに聞くとイヴは指を

一本、二本と突き出して答える。

 

 

 

「一つ目は、『誰かに殺された可能性』二つ目は

『裏切った可能性』そのどちらかが怪しいと

考えているわ」

 

 

「そんな……」

 

 

セラがそう言うとイヴは更に話しを続ける。

 

 

「だから彼にはジャティスがいなくなった時の

戦力の補充をしようと考えているわ。それに

あの力があればあの帝国の長年の宿敵である

『天の智慧研究会』すら壊滅させるのだって

不可能じゃないわ‼︎」

 

 

「イヴ‼︎ てめぇ‼︎」

 

 

グレンは帝国式格闘術の構えをしてイヴに

向かって殴り掛かろうとすると

 

 

「報告します‼︎ 外に大量のエンジェルダストの

感染者が街の中にいます。是非、対処及び処理を

お願いします‼︎」

 

 

一人の兵士がそう言うとイヴは兵士に

【分かったわ】と言うと兵士はその場を急いで

去っていった。

 

 

「グレン、セラ。悪いけど街に行って感染者達の

後片付けに当たってもらっていいかしら?」

 

 

「ざけんなよ‼︎ノアにこんな事をしといて更には

感染者の後片付けを俺達に押し付ける気かよ‼︎」

 

 

グレンはペネトレイターを下ろしてイヴを

睨みつけて聞くとイヴはグレン達に視線を向けて

当然のように答える。

 

 

「当たり前でしょ?グレン、貴方達は私の

大事な『戦力と言う名の駒』なんだから」

 

 

イヴがグレンにそう言うとグレンはもう我慢の

限界だったのか拳を握り目の前にいるイヴに殴り

掛かろうとするとセラがイヴとグレンの間に

割って入る。

 

 

「やめてよ‼︎ グレン君‼︎」

 

 

「セラなんでそいつを庇うんだよ‼︎ そいつは

ノアを兵器にしようと考えてやがるんだぞ‼︎」

 

 

「確かに…私もイヴちゃんのその考えは賛同

出来ないし理解出来ないよ…」

 

 

「だったら‼︎」

 

 

「でも、今ここで感染者達をどうにかしないと

なんも罪もない他の人達も被害に遭うんだよ?」

 

 

「そ、それは……」

 

 

グレンは本当は分かっていた。今どちらを優先

するべきかを。だが、今それを選べばまさに

イヴの思い通りになっているようでとても

嫌だった。

 

 

「グレン君。お願い…私達が一体、何を守る

べきか見失わないで……」

 

 

セラは今にも泣きそうな瞳でグレンを見つめると

イヴはニヤリと笑いながら更に話しを続ける。

 

 

「被害は感染者だけじゃない帝国の要人や軍の

高位魔道士達が片っ端から殺されていたわ…

このままだと被害は絶対に拡大するわよ?

確実にね。」

 

 

イヴがそう言うとグレンはイヴの言葉に顔を

歪めながら何かを決めた表情をしながら

イヴに視線をやる。

 

 

「分かったよ…だが、勘違いすんなよ…行くのは

お前の指示だからじゃねぇ…自分の意思で行動して

行くんだからな?この任務が終わったらノアの事

を話し合うからな」

 

 

「ふふっ、最初からそうすれば良いのよ。貴方達

は私の指示の元に動く大切な駒なんだから」

 

 

「てめぇ……ノアに何かあったらてめぇを

死んでも許さねぇからな……」

 

 

グレンは歪んだ表情を隠そうとせずにイヴを

殺そうな勢いのある殺気を瞳に宿していた。

 

 

「グレン。貴方も忘れないで頂戴、貴方達は

私の駒なの、私の元でただ黙って従って任務を

遂行すれば良いのよ。それに貴方に怒られる

筋合いはないわ。むしろ私の配慮に感謝して

ほしいくらいだわ。 セラが止めなかったら

眷属秘の【第七圏】を容赦なく貴方に向けて

発動させていたわよ?」

 

 

「ちぃ……やっぱりてめぇはジャティス同様

胸糞悪くて嫌いだ……」

 

 

グレンはイヴにそう言って扉を勢いつけて

開けて出て行った。

 

 

「…貴方も同じ意見かしら…セラ?」

 

 

「そうだね…私もグレン君と同じかな…?

ノア君は戦場に出したくなかったし…それに

ノア君には人間らしく生きさせたかったよ…」

 

 

セラはイヴに【グレン君を追いかけるね?】

と言って部屋を出て行くとイヴは俯いて

ノアが寝てる硝子越しの硝子に持たれていた。

 

 

「私は間違ってなんかないわ…それに…私は

早く正確な成果を出さないといけないのよ…

それにしてもグレンは私をジャティスと同様に

扱うなんて…相変わらず、全くもって本当に

気に入らないわ……」

 

 

イヴはそう呟いていると部屋の扉が開き『法皇』

の『クリストフ』が兵士を連れて入って来た。

 

 

「イヴさん緊急です‼︎ エンジェルダストの

感染者達が更に大量に出現しています‼︎」

 

 

「‼︎ 分かったわ‼︎私も現場に向かってアルベルト

と合流して対応に当たるわ!この部屋の護衛は

ここにいる兵士達に任せるわ」

 

 

 

「分かりました‼︎」 【兵士達】

 

 

 

兵士達がそう言うとイヴとクリストフは

その部屋を後にしてアルベルトがいる

戦場に向かって行った。

 

 

 

イヴ達と別れた後、兵士達の隊長が兵士達に

喝を入れる為に大きな声で兵士達に言っていた。

 

 

「いいか‼︎なんとしてもこの部屋にいる『X計画』

の成功例を守り抜くのだ‼︎」

 

 

 

隊長がそう言うと一人の兵士が隊長の前に出て

来てニヤニヤと笑っていた。

 

 

「貴様‼︎こんな時にふざけているのか‼︎」

 

 

兵士達の隊長がそう言うとその兵士は更に

ニヤリと口元を歪めていた。

 

 

「ふざけていないよ? 僕はいつだって

『正義執行』の時にふざける程、愚かじゃない。

至って大真面目だ。」

 

 

兵士は隊長にそう言って指を【パチン】と

鳴らすとその兵士の周りの兵士達の絶叫が

響き大量の血飛沫が飛び散る。

 

 

「ぎゃあああああああああああ⁉︎」

 

 

「助けてくれ‼︎」

 

 

「死にたくない‼︎」

 

 

前も後ろからも兵士達がそう叫びながら一人、二人

と逃げると男はそれを見逃さずに逃げる兵士達に

指を向けて鳴らすと逃げる兵士達の身体が バラバラ

になって崩れ落ちていく。それを見た隊長は顔色を

真っ青になって男を見る。

 

 

 

「き、貴様一体何者だ‼︎」

 

 

すると男は隊長を見て右腕を上に上げていた。

 

 

「僕かい?僕はね…」

 

 

男はそう言ってパチンと鳴らすと男の兵士の姿が

徐々に変わっていき

 

 

「き、貴様は…『ジャティス=ロファン⁉︎』」

 

 

隊長はそう言うとジャティスは指を鳴らして隊長

の身体を人工精霊(タルバ)を使ってバラバラにして

扉の前に立って扉のパスワードをあっさりと

解除した。

 

 

 

「しかし…彼等上層部の中にも『彼』の

事を分かっていた奴らが居たとはね…」

 

 

 

ジャティスはそう言ってノアが寝てる部屋に

近づきながら人工精霊(タルバ)を使って硝子を

切り刻んだ。そして硝子が音を立てて壊れると

ジャティスの顔は無邪気な笑顔だった。それは

プレゼントを目の前にしてワクワクして楽しみに

している子供のようだった。

 

 

「ノア=アイゼア…君はやっぱり素晴らしい‼︎

君を初めて見た時から『正義の魔法使い』…

いや、君には『世界の救済者』に『正義』、

『神』(裁く者)そのものに相応しい‼︎」

 

 

ジャティスは両手を広げ喜びながらノアの身体に

巻き付けある全ての付呪効果を無力化した。

 

 

「さあ、目を覚ましくれ‼︎

世界を救う救済者よ‼︎」

 

 

ジャティスは大袈裟にそう叫ぶと

ノアは目を覚まし身体を起こした。

 

 

「……あ、れ?此処はどこ?

グレンとセラお姉ちゃんは?」

 

 

ノアは部屋を見渡しながら言うとジャティスは

ノアに

 

 

「君はグレンとセラに会いたいかい?」

 

 

「‼︎ も、もちろん会いたい‼︎ 会いたいよ‼︎」

 

 

「じゃあ、僕が二人に会わせてあげるよ」

 

 

ジャティスがそう言うと部屋を沢山の兵士達が

入って来た。

 

 

「反逆者ジャティス=ロファン‼︎

貴様を拘束、もしくは討取らせてもらう‼︎」

 

 

護衛隊の隊長がジャティスにそう言うと

その隊長の首が一瞬にして飛んでいった。

 

 

「君達悪が僕を悪と語り論じるなんて全くもって

許せないな……だから僕の絶対正義の名の下に

君達を粛正する‼︎」

 

 

すると兵士達は隊長がいないなって逃げ出して

いた。しかし、ジャティスは逃げ出す兵士達を

人工精霊(タルバ)で一瞬にして皆殺しにした。

 

 

「ど、どうして…こんな事をするんですか…?

相手は戦意は喪失していたのに…どうして…?」

 

 

ノアは口元を押さえながらも死んだ兵士の瞼を

ゆっくりと閉じてあげながら視線をジャティスに

向けてジャティスに恐る恐る聞くとジャティスは

無邪気で満面の笑みで

 

 

「何故かって?『もちろん、正義の為さ‼︎』

正義の為には犠牲があるからね? それに君が

心を痛む必要はないよ?何故なら彼等は悪だ。

だから僕が正義執行をする事で悪は減っていき

更に僕は正義の魔法使いに近くなっていく…

と言いたいけど…『彼』を倒さないとねえ……」

 

 

 

 

(正義の魔法使い……そして、彼…?)

 

 

 

ノアはそんなジャティスの言葉を聞いて混乱して

いるとジャティスはノアを抱えて人工精霊

(タルバ)に乗って窓を破って逃げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

街には大量のエンジェルダストの感染者が湧き

上がって『斧や包丁』などの『刃物』や『鈍器』

で『二人』を襲っていた。

 

 

「あ"あ"ぁぁぁぁ‼︎」

 

 

「クソが‼︎イヴの野郎やっぱり増援をよこさずに

俺達をただの使い捨ての囮にしようとしやがって

ぜってぇ許せねぇ‼︎」

 

 

グレンがそう呟やくとグレンの背後から

エンジェルダストの感染者が斧を持って

振りかざそうとしていた。

 

 

「あ"あ"あ"ああぁぁぁ‼︎」

 

 

「⁉︎、しまっ…‼︎」

 

 

「《大気の壁よ・二重となりて・我らを守れ》

ーーッ!」

 

 

セラがそう叫び唱えると黒魔【エア・スクリーン】

の即興改変して【ダブル・スクリーン】になって

二枚張られた強固な空気膜の真空が、外部からの

攻撃を遮断してグレンを守った。

 

 

「グレン君‼︎よそ見しないで‼︎」

 

 

「すまねぇ‼︎ セラ‼︎」

 

 

「全く……グレン君は私がいないと

ダメなんだから……」

 

 

 

セラはグレンにそう言うとグレンはムッとした

表情でペネトレイターをセラに構えて撃ち放った。

するとセラの背後にいたエンジェルダストの感染者

の額に風穴を開けると感染者は苦しみの声を上げて

その場に倒れた。

 

 

「ふっ…全く、白犬は俺がいねぇと

危なかっしいな…」

 

 

グレンはカッコつけてセラにそう言うとセラは

グレンの言葉に対して納得出来ない表情で子供

みたいに張り合って

 

 

「グレン君にだけは言われたくないな…

さっきまで危なかったくせに……それに私は

白犬じゃないっていつも言ってるよね‼︎」

 

 

グレンとセラはそう言い合っていると

 

 

「相変わらず仲が良いな〜君達は?」

 

 

「‼︎ この声は、まさか⁉︎」

 

 

グレンはそう言って声がする屋根の上の方へ視線を

向けると驚きを隠せない表情を浮かべていた。

セラもグレンのそんな表情を見てグレン見ている

場所に視線を向けると驚かずにはいられなかった。

 

 

何故なら……

 

 

 

 

 

 

「いや〜久しぶりだね? 会いたかったよ‼︎

グレン、セラ?」

 

 

「ジャティス‼︎」

 

 

「ジャティス君どうして⁉︎」

 

 

ジャティスは驚く二人を見ても何事も

なかったかの様に笑顔で話しを続けた。

 

 

「どうしてここにいるかって? それなら簡単だよ?

もちろん、正義の執行の為だよ‼︎」

 

 

ジャティスはそう言うとセラはジャティスの

そんな態度が許せなかったのかグレンの

前に立って

 

 

「ジャティス君が何を考えてるか知らないけど、

これ以上、グレン君に関わらないで‼︎」

 

 

セラがジャティスにそう言うとジャティスの顔は

物凄い憤怒を含んだ表情になっていた。

 

 

「セラ……いくらグレンに認められている君でも

これ以上、僕とグレンの神聖な会話を邪魔し

この崇高な場を汚すなら僕は君を許さないぞ‼︎」

 

 

 

ジャティスがセラにそう言っているとグレンは

セラの肩に手を置き前に立ってジャティスに

質問していた。

 

 

「ジャティス、分かりきっているが一応聞くぞ…

こんなふざけた事をしたのはお前なのか?

ジャティス?」

 

 

 

 

「おいおいグレン、そんな今にも僕を殺しそうな

怖い顔はやめてくれよ?僕はただ当たり前に

『正義の執行』をしただけだからさぁ?」

 

 

 

「……どう言う事だ。ジャティス?」

 

 

グレンはジャティスを睨みながら聞くと

ジャティスは嬉しそうに答える。

 

 

「グレン、セラ、君達は『白き聖杯』や『この街』

についてどのくらい知ってるかい?」

 

 

 

「街は知らねぇが…白の聖杯は神々が魔術師達に

与えた『人類救済の盃』じゃないかよ?」

 

 

 

「そうだね…街ついては知らないよね。でも、

白き聖杯の物語の伝承は合っているよ。だが、

それは表向きはね?」

 

 

 

ジャティスは機嫌良く右手でシルクハットのつばを

触りながら大袈裟な芝居がかった演説でグレン達に

そう言うと

 

 

「ジャティス‼︎いい加減にしろ‼︎

てめぇの妄言に付き合う時間は……‼︎」

 

 

「グレン君……?」

 

 

 

心配しているセラに気付かず、ブツブツと呟いた

後、グレンの顔色が 真っ青になってジャティスに

視線を向けた。

 

 

 

「ま、まさか……お前、まず最初にこんな事を

本当に思い至ったのかよ?」

 

 

 

 

「ヒャハハハハハハハ‼︎素晴らしいよ‼︎

流石‼︎ 流石だよ‼︎グレン‼︎僕が認めた

数少ない素晴らしい魔術師だよ‼︎」

 

 

 

 

「ど、どう言う事なのグレン君⁉︎」

 

 

セラは全く意味が分からないと言う顔をしてグレン

に聞くとグレンは苦々しい顔色をしながらポツポツ

と答えた。

 

 

「白き聖杯の力は…人間には大きすぎた力……

つまり…膨大な、【神々の真髄の力】の【概念】

を持っている盃……それが【白き聖杯】だったって

あの腐れイカれルーペ野郎は遠回しにそう言って

やがるんだよ…」

 

 

 

グレンは憎たらしそうにジャティスを

睨みつけるとジャティスは嬉しそうに

 

 

 

 

「流石だ‼︎流石だよ正解だグレン‼︎ 白き聖杯は

『神々の真髄の概念』を持っていて更には

全知全能の力を持つには選ばれた真の魔術師に

しか扱えないんだよ? それを知った時、僕は

もちろん心が踊り、そして興奮したよ‼︎」

 

 

「まさか…⁉︎」

 

 

セラもジャティスが何を言いたいのか理解を

したのか、そして何故このような事をしたのか

顔色を真っ青にして肩を震わせながらゆっくりと

ジャティスを見ながら

 

 

「まさか…その全知全能の真髄の概念を手に

入れる為には高濃度の魔力を聖杯の中に焚べないと

いけないから…帝国の要人や軍の高位魔道士達が

片っ端から殺したって事…?」

 

 

「正解だよ……セラ。」

 

 

 

 

ジャティスはセラを睨みつけながらそう言うと

グレンはある一つの嫌な予感が頭をよぎった。

グレンはその予感が嘘であってほしいと心の中で

願いながらジャティスに聞いた。

 

 

 

「ジャティス…まさか…」

 

 

ジャティスは今、グレンが何を言いたいのか

理解したのかジャティスは二人に淡々と答えた。

 

 

 

「そう‼︎ 君達が最近、白き聖杯の神殿の遺跡で

拾って来た少年。『ノア=アイゼア』に正義の

『救世主』になってもらうのさ‼︎」

 

 

 

「ジャティスゥゥゥゥゥゥゥゥゥ‼︎」

 

 

 

 

グレンがジャティスに向かってそう叫ぶと

ジャティスの隣には『ノア』がいた。しかし手足は

人工精霊(タルバ)で固定されて全くとして

動けなかった。

 

 

 

「さて、今から『正義を執行する』」

 

 

 

 

ジャティスがそう言うと白い高濃度の魔力の液が

入った白き聖杯を持ってノアに一歩、また一歩と

近づいていく

 

 

「さあ、これを全部、飲み干すんだ‼︎」

 

 

「い、嫌だ‼︎ こんな物…僕は要らない‼︎

飲みたくない‼︎」

 

 

「君に拒否権はない…そして君は素晴らしい

世界の救済者になって正義の象徴になるんだ‼︎

それに今の君じゃあ、まだ未完成だからね?」

 

 

ノアはジャティスに抗うがジャティスに頬を

がっしりと捕まれた。そしてノアの口は

無理矢理こじ開けて聖杯の中身の一部を

ゆっくりと時間をかけて全て飲ませる。

 

 

「ぐっ⁉︎ ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎」

 

 

 

するとノアは苦しみだし悶え始めた。

 

 

 

「熱い…熱いよ‼︎ それに、頭が‼︎

頭が痛いよ‼︎ だ、誰か、たす、助けて……‼︎」

 

 

その痛みはまるで体を業火に焼かれるように熱く

頭は鈍器でおもいっきり殴られた様な痛みがきて

そして更には靄がかかった様な錯覚になっていた。

 

 

「さて、役者と舞台は整った‼︎」

 

 

ジャティスはそう言って清々しいくらいの笑顔で

大袈裟に両手を広げ芝居がかった演説をした後に

右腕を上に上げて【パチン‼︎】と鳴らして狂気に

満ちた笑顔でグレンとセラに何の躊躇いもなく

 

 

「だからグレン、セラ。僕が正義の魔法使いに

なるために正義の犠牲の礎となってくれ‼︎」

 

 

ジャティスがそう言うとノアを地上に下ろして

解放するとノアの身体中には沢山の魔力が

漏れ出していた。

 

 

「ノア‼︎」

 

 

「ノア君‼︎」

 

 

グレンとセラがノアに近づこうとすると

エンジェルダストの感染者達が人の動きとは

思えない異形な速さで二人を追い詰める。

 

 

「ぐ、グレン…セラ…お姉…ちゃん…逃げて‼︎」

 

 

ノアは壁にもたれながら必死になって体を

引きずっているとノアは頭から転んでうつ伏せに

なって全く動けずにいた。

 

 

 

「大切な人間の為に自分の命を顧みない

その自己犠牲精神……ああぁぁ‼︎ ノア=アイゼア‼︎

君はなんて‼︎なんて素晴らしいんだ‼︎ だけど…

駄目だよ? グレンもセラも僕の『絶対正義の礎』

になってもらわないとね? けど、安心してくれ‼︎

正義の象徴になる君も僕の正義の礎にする事は

忘れてないから‼︎ それに一人だけ仲間外れは

可哀想だからね?」

 

 

 

ジャティスはまるで神を崇める狂った狂信者の

様にノアを見て狂気の笑みと言葉をあげる。

 

 

 

すると、その音に気がついたエンジェルダストの

感染者達は視界をノアに向けて凶器を今にも

振りかざそうとしていた。

 

 

 

「嫌だ…嫌だ…死なせない‼︎ 死なせたくないよ‼︎

まだ、心を理解出来ないから分かんないけど…

ほんの少しだけど二人から貰った『心』と言う

言葉の意味を優しい温もりを教えてくれた二人を

僕のせいで死なせたくない‼︎」

 

 

 

ノアは頭の中の記憶が少しずつ剥がれ落ちる中、

必死になってその思いだけ維持しようとして体を

いも虫みたいに必死動かすが体は全く動かずもう

死ぬ覚悟を決めて目を閉じていると

 

 

 

ブシュ‼︎

 

ザクッ‼︎

 

ドッ‼︎

 

 

「……? 痛みはない…?」

 

 

 

だが、何故だろう…嫌な予感しかしない。

そして取り返しがつかない結末がある様な

気がした。

 

 

「う、うそ…でしょ……?」

 

 

ノアが目を開けると信じられない。 いや、絶対に

『信じたくない光景』が写っていた。

 

 

 

「セ……セラ…お姉…ちゃん…?」

 

 

 

ノアの記憶が消える中、そう呟くと目の前には

ノアを庇って背中を斬られた『セラ』がいた。

 

 

 

「…よ、良かった……ノア、君…が本当に無事で

………ノア君…私の分まで、生きて…」

 

 

セラは血塗れな笑顔でそう言ってノアの顔に手を

伸ばし触れるとセラの血がノアの顔にべったりと

付いて穏やかな表情でそれだけ言って頬の感触は

消えてその場に倒れた。

 

 

 

 

「せ、セラぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎」

 

 

 

グレンはセラに向かって叫んだ。そしてノアは先程

セラが触った頬を触って見ると大事な人である筈の

セラの血がついているのを虚ろな瞳で見て呆然して

いてグレンの叫び声は届かなかった。

 

 

 

全部……僕のせいだ……

 

 

 

そうだ…利用される可能性だってあったのに

僕が何も考えずにグレンとセラお姉ちゃんに

ついて行ってしまった。

 

 

 

そんな身勝手な行動をした結果はどうだ?

 

 

 

 

(ぼ、僕が…セラお姉ちゃんを……殺した。

殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した

殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した

殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した

殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した

殺した殺した殺した殺した殺した殺したコロシた

殺シたコろしたコろシタこロシタコロシタ

コロシタコロシタコロシタコロシタコロシタ

コロシタコロシタコロシタコロシタコロシタ

コロシタ…あ…ア、あアアああアアアアアアア

アアアアアアアアアアアアアアアアアアアア

アアアアアアアアアアアアアアアア‼︎)

 

 

 

 

目の前で血塗れになって倒れているセラを見た

ノアは壊れた機械のように心は壊れて膝が地面

に付いてしまっていた。

 

 

 

 

 

(ドウしてこンナ結果にナッタんだロウ………?

ドウして…?一体、ナニがワルいんダろう…?

ダレが悪いンだろウ…?)

 

 

 

 

(これは…失敗かな……? はあ〜…ノア=アイゼア

君にはがっかりだよ…)

 

 

 

ジャティスはがっかりした表情をしながら眺めて

いる中、ノアの最後の何が切れる音がした様な

気がした。

 

 

 

(アぁ……ソウか……)

 

 

やっト、りかイシタ…ナニが原因だッタのカを…

 

 

ノアが最後に心の中で呟くと最後に残っていた

一欠片の記憶や目の光が消えて虚な瞳で無意識に

言葉を発していた。

 

 

 

 

 

 

「そうだ…こんな世界に…『■■』や『■■■』、

そして『■』なんか…消えてなくなればいい…

こんなものが世界にあるから……存在するから

いけないんだ……」

 

 

ノアが光を映さぬ虚ろな瞳でエンジェルダストの

感染者達を見ながらそう言うとノアの体中から

白く光り輝く魔力を見てジャティスは狂気に満ちた

表情でノアを見ながら嬉しそうにしていた。

 

 

「そう‼︎ そうだ‼︎ その神々しい輝きだ‼︎

それこそ僕が望んだ姿であり結末だよ‼︎そして

正義の象徴と呼べる輝きだ‼︎実に素晴らしい‼︎

そして世界を救うに相応しい世界の救済者だ‼︎

今こそ君を縛りつける楔を引きちぎって真なる

力を解放するんだ‼︎ ヒャハハハハハハハハハ‼︎」

 

 

「そのイカれた口を黙りやがれーー‼︎」

 

 

 

グレンは血塗れのセラを抱きしめて涙を流しながら

声が枯れるまで叫んでジャティスにそう叫ぶと

ノアは虚な瞳で小さな声でポツリと呟いた。

 

 

 

「こレよリ…人ルイの変革ヲ…いヤ…

 

 

 

 

(この■■デ■ナこの■■ノ■■ガイツカ…

■■二…)

 

 

 

 

ノアは最後にそう心の中で呟くと何故だろう。

何故だか分からないが先程から胸の辺りが締め付け

られる苦しさとチクチクした痛みがしてとても

痛くて堪らなかった。怪我したわけでもないのに

苦しさと痛みが更に増えていって最後に残っていた

記憶が全部消えてしまい。

 

 

 

そしてーー

 

 

 

 

セ界ノ救済ヲ開シスる………」

 

 

 

ノアは静かにそう言って右腕を上げると白い光は

ノアに集まってそして白く鈍い光はグレンや

ジャティス、更には世界を包み込んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま戻りました。■■■■様…」

 

 

ダークコートを纏った男がそう言うと

 

 

 

「レイクか……やっと…やっとだ。やっと我々の

『もう一つの悲願』である『終わりの始まり』の

物語の序章が始まったのだ……」

 

 

その光を遠くから眺めていた『レイク』と呼ばれた

顔に傷がある男と『■■■■』と呼ばれた大楯と

槍を持っていた男は白く輝く魔力の高い魔力濃度を

見て口元はニヤリと不敵な笑みを浮かべて腕組みを

しながら近くにいたグレンやジャティスの二人を

無視してただノアだけを眺めていた。




読んで頂き本当にありがとうございます‼︎
次回から『新しい章』に向かいます‼︎
みなさんの応援宜しくお願いします‼︎



やっと、書き上げ終わった‼︎ 評価がとても
欲しいでござる‼︎欲しいでござる‼︎


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アルザーノ学院編
回り出す世界の歯車


皆さまどうもです‼︎
書き上げる事が出来たので
是非見て頂けたらありがたいです!
『評価』、『感想』、『意見』など
ありましたらよろしくお願いします‼︎


それは、とある早朝の一風景。

 

「なんつーかさ。俺、つくづく思うんだよ。

働いたら負けだなって」

 

長き修行の果てに悟りを開いた聖者のような

表情で男——グレンは言った。気だるげに頬杖を

つきながら、テーブルを挟んで正面に腰かける

妙齢の女に穏やかな視線を送る。

 

 

「お前のおかげで俺は生きている。

お前がいてくれて本当によかった」

 

 

グレンの視線を受け、女は優雅な振る舞いで

組んでいた足を組み変えると、ティーカップを

傾けながらこう返した。

 

 

「ふ、そうか。死ねよ、穀潰し」

 

 

さらりと毒を吐く女の細面には、可憐な微笑が

花咲いていた。

 

 

「あっはっは! セリカは厳しいなぁ!

……あ、おかわり」

 

 

グレンはあっけらかんと笑い飛ばしながら、

空になったスープの皿をずいっと目の前の女——

セリカの鼻先に突きつける。

 

 

「清々しいな、お前は」

 

 

セリカは遠い何かに憧れるような表情で、

やはり微笑んでいる。

 

 

「普通、働きもしない居候って、もうちょっと

謙虚になるもんな」

 

 

「あー、今日のメシはちょっと塩味が

きつかったぞ? 俺はもっと薄味の方がいいね」

 

 

「その上、ダメ出しとは恐れ入る」

 

 

 セリカはしばらくの間、にこにこと笑って——

 

 

「《まぁ・とにかく・爆ぜろ》」

 

 

不意にルーン語で三節の奇妙な呪文を唱えた。

その刹那、耳をつんざく爆音が轟き、視界を紅蓮の

衝撃が埋め尽くす。セリカが唱えた呪文によって

起動した魔術の爆風が、グレンを容赦なく

吹き飛ばしたのだ。その余波で高価な調度品が

並ぶ豪華な食堂は一瞬にして無惨に半壊した。

 

 

「ば、馬鹿野郎! お前、俺を殺す気か!?」

 

 

真っ黒焦げになったグレンが床で、ごほごほと

咳き込みながら、わめき散らす。

 

 

「殺す? 違うな。ゴミをかたす行為は掃除と

言うんだぞ? グレン」

 

 

「子供の間違いを優しく諭す母親みたいなノリで

ひどいこと言うな!? せめて人間扱いして

下さい!」

 

 

口の減らないグレンに、セリカは肩を落として

ため息をついた。

 

 

社会的負け犬然としたグレンとは対照的に、

セリカはいかにも超然とした美女だ。

 

 

 

外見は二十歳ほどだろうか。黄昏に燃える

麦穂のように豪奢な金髪、鮮血を想起させる

真紅の瞳。その相貌は間近からのぞき込めば、

思わずぞっとするほど見目麗しく整っており、

仄かに漂う妖しい色香が魔性を感じさせる。

すらりと伸びる手足が艶めかしいその肢体は、

まるで美術モデルのように、いかにも女性らしく

過不足ない完璧なプロポーションを誇っている。

身にまとうは丈長の黒いドレス・ローブ。

貞淑な雰囲気を漂わせながらも、開放された

胸元や、ベルトで強調されたボディラインは

それを超えてなお、艶美。 なんとも派手で

妖艶な出で立ちだが、それを着慣らす圧倒的な

器量と華がある——セリカはそんな、どこか浮き

世離れした雰囲気の娘だ。しかし、その全身から

醸し出される風格は高貴で誇り高い貴族のそれで

あり、さらに言えば二人が住む、この山のように

大きな貴族屋敷の主人もセリカであり、グレンは

単なる居候に過ぎない。 二人の社会的地位の

格差は素人目にも歴然としていた。

 

 

「それはそうと、なぁ、グレン……

お前、いい加減に仕事探さないか?」

 

 

セリカは真紅の瞳で、真っ直ぐとグレンを見下ろし

ながら言った。 よろよろ起き上がろうとしていた

グレンの動きが一瞬止まる。

 

 

「お前が前の仕事を辞めて、私の家の居候になって

から早一年。お前は毎日毎日、食って寝て、食って

寝て、何をするでもなくぼんやりとするばかり。

寿命の無駄遣いだぞ?」

 

 

ため息混じりのセリカに、グレンはやおら胸を

張り、自信満々に応じた。

 

 

「大丈夫。俺は今の自分が好きだ。社会の歯車と

して緩慢に死に続けていた昔の俺より、今の俺の方

がずっと輝いている!」

 

 

「何とどう比較したら、引きこもりの無駄メシ

喰らいな生き様の方が輝いていることになるんだ、

もう死ね、頼むから」

 

 

爽やかな笑顔で親指すら立てて見せるグレンに、

もはやセリカは呆れるしかなかった。

 

 

「まったくお前と言う奴は……昔のよしみで

お前の面倒を見てやっている私に少しは申し訳

ないとでも思わないのか?」

 

 

「ふっ、何を水臭い。俺とお前の仲だろ?」

 

 

「《其は摂理の円環へと帰還せよ・

五素は五素に・象と理を……》」

 

 

流石にキレたらしい。セリカは据わった目で

何やら物騒な呪文を唱え始める。

 

 

「ちょ!? それ、【イクスティンクション・レイ】

の呪文じゃねえか!? ま、待て!? 

それだけはやめて!? 粉々になっちゃう!? 

嫌ァアアア——ッ!?」

 

 

それを見たグレンは高速で後退りし、焼け焦げた

壁を背に声を裏返して悲鳴を上げた。 セリカは

そんな情けないことこの上ない グレンの姿を前に、

直接手を下すのもアホらしいとばかりに

起動しかけていた魔術を解除した。

 

 

「まぁ、いい。お前ごときを魔術で処分する

なんてそれは魔術に対する冒涜だからな。

ゴキブリに伝説の剣を向けるようなものだ」

 

 

「ひどくね? それ。ゴキブリに失礼だろ」

 

 

「そっちかよ!? 一応自覚はあるのか、

タチ悪いな、お前は!」

 

 

どっと疲れたように、セリカはがくんと頭を

垂れる。

 

 

「まぁ、とにかくだ。そろそろお前も前に進む

べきだと思う。いつまでもこうして時間を無駄にし

続けるわけにもいくまい? お前自身も本当は

わかっているんだろう?」

 

 

「つってもなぁ……今さら働くとして……一体、

俺、何をやればいいんだ?」

 

 

グレンは子供のようにふて腐れてそっぽを向く。

 

 

「お前がそう言うだろうことはわかっていた。

だから、ここは一つ、私がお前に仕事を斡旋

してやろう」

 

 

「仕事?」

 

 

「ああ。実は今、アルザーノ帝国魔術学院の講師枠

が、ちょうど一つ空いてしまってな」

 

 

「魔術学院?」

 

 

グレンが怪訝そうに眉をひそめる。

 

 

「急な人事だったものだから、当分、代えの講師

が用意できないんだ。で、だ。お前にしばらくの

間、非常勤講師を務めてもらおうかと思っている」

 

 

「ちょっと待てよ。そこで、なんで俺なんだよ?

あの学院、どうせ暇を持て余した暇人な教授共が

たむろってんだろ?そいつらに臨時講師やらせりゃ

いーじゃねーか?」

 

 

「まぁ、そう言うな。私達教授陣は近々帝都で

開催される帝国総合魔術学会への参加準備で皆

忙しいんだ。残念ながら今の時期、生徒達に

かまっている余裕はない」

 

 

「あー、そういえばそんな時期か」

 

 

「とにかくだ。期間は一カ月、給与も特別に正式な

講師並に出るよう計らう。一カ月のお前の働き次第

で正式な講師に格上げすることも考えよう。

どうだ?悪くない話だろ?」

 

 

考えるまでもなく破格の条件だが、グレンは

憂いに表情を曇らせていた。

 

 

「ふん……」

 

 

今までのふざけた調子をひそめ、自嘲気味に

鼻で笑うと窓際へと歩いていく。

 

 

「……無理だな」

 

 

窓越しに遠くを見つめながらグレンはつぶやいた。

霞がかった朝空はどこまでも蒼い。窓の外には

いつものように鋭角の屋根の建物が立ち並ぶ

古風な町並みと——そして、その遙かなる上空に

浮かぶ、半透明の巨大な古城の偉容があった。

荘厳かつ勇壮な姿を誇るその古城の名は

『メルガリウスの天空城』——この都市フェジテの

象徴であり、近づくことも触れることも叶わぬ、

なにゆえその城が空にあって、いつからそこに

見えていたのかもはっきりしない、幻影の城だ。

 

 

「無理? なぜだ? グレン」

 

 

「わかるだろ? 俺には誰かを教える

資格なんてないさ……」

 

 

そう語るグレンの背中はどこか寂しげに

煤けていた。

 

 

「そりゃ、資格ないよな。だって、お前、

教職免許持ってないし」

 

 

「やめてよね、人がせっかく渋く決めてんのに

現実を突きつけんの」

 

 

的確なセリカの突っ込みに、グレンは不満そうに

唇を尖らせ抗議する。

 

 

「ま、資格うんぬんに関しては安心しろ。

学院内における私の地位と権限でどうにでもなる」

 

 

「ちょ、おい!? 職権乱用!?」

 

 

「魔術講師としてのお前の能力は問題ないはずだ。

お前だって昔はそれなりに沢山、魔術をかじって

たんだからな。どうだ? やってみないか?」

 

 

「どうしようかな……よーし、 ボクちょっぴり

不安だけど、ここは一つ、思い切って

断っちゃおうかな♪」

 

 

立てた人差し指を唇に当てて首をかしげる、

女の子がやれば可愛い仕草をするグレン。

 

 

「この上なくキモウザイなそのリアクション。

しかも断るのか。心底、死ねと思った」

 

 

 

ぴきぴき、とセリカのこめかみに青筋が走った。

忍耐の限界も近そうである。

 

 

「ちなみに、お前に拒否権はないからな」

 

 

「ほう? 嫌だと言ったら?」

 

 

「稲妻に撃たれるのが好みか? 

それとも炎でバーベキュー? 

あぁ、氷漬けも候補としてあげようか?」

 

 

「ふっ、言葉が通じなければすぐ暴力か? 

それが根本的な解決になるのか?」

 

 

「忌々しいほど正論だが、

お前に言われたくないわ!」

 

 

すごご、と凄まじい魔力がセリカの掌に

集まっていく。

 

 

「馬鹿が。まだお前は俺の本当の恐ろしさを

わかっていないようだな……」

 

 

だが、グレンはそれに微塵たりとも

臆せず不敵に笑って、セリカに向き直る。

 

 

「お前は知っているはずだ。

俺が『その気』になれば、お前程度の魔術師など、

どうとでもできてしまうということを——」

 

 

「——ち」

 

 

グレンの言葉はセリカの表情に微かな緊張を

走らせた。

 

 

「お前の安い脅しは俺を『その気』に

させてしまっただけだ——ッ!」

 

 

 言うが早いか、グレンは床を蹴り、

天井すれすれまで跳躍する。そのまま、

ふわりと鮮やかに背面宙返りをして——

セリカの足下に、両膝と両手と額で着地した。

 

 

「養ってくださいッ!」

 

 

 見事なフライング土下座だった。

 

 

「……確かに私はお前に戦慄を覚えた」

 

 

「お願いしますセリカさん! 

俺、絶対に働きたくないんです!?

どうか養って下さぁあああいッ!? 

靴でもなんでも舐めますからッ!」

 

 

「もうね……お前、人間としての誇りないの?」

 

 

「馬鹿が! 誇りでメシが食えるのか!? 

あぁ!? 言ってみろコラ!?」

 

 

「よりにもよって逆ギレか。

もう、ホント殺したい」

 

 

「……ふっ、お前に俺を養う権利をやろう」

 

 

「死ね!」

 

 

土下座の体勢から見上げてくるグレンの顔面を、

セリカは容赦なく踏んづけた。人には図太さで

知られるセリカも、もはや涙目だった。

 

 

「ええい、とにかく働け!働かないなら

もう出て行け!出て行かないならマジで分解

してやるぞ!?私、もうお前のそんな情けない

姿を見るのこりごりなんだよ!?」

 

 

「あ、悪魔かお前は!? 俺は別に世界の平和

なんて大それたことは望んじゃいない!ただ、

ごく普通の平穏と幸せな平和的引きこもり生活を

続けたい、それだけなんだ! そんなささやか願い

を抱くのも罪なのか!?大体、お前、俺を

一生養うだけの金なんて余裕で持ってるんだから

いいじゃん!?」

 

 

グレンは何ら悪びれることもなくダメ人間ぶりを

発揮し続けている。

 

 

「それに、お前も知ってるだろ!? 俺が魔術の

ことを、名前を聞くのも嫌なくらいに大っ嫌い

だってことを!」

 

 

「……グレン」

 

 

「とにかく俺はもう、絶対! 金輪際!二度と

魔術なんかに関わらないからな! へーんだ!

魔術講師なんかやるくらいだったら道端で物乞い

でもやってる方がマシ——」

 

 

《其は摂理の円環へと帰還せよ・五素は五素に・

象と理を紡ぐ縁は乖離せよ》

 

 

セリカが口早に呪文を紡いだ刹那、グレンの

かたわらを光の波動が駆け抜け、何かが空間に

吸い込まれるような音が壮絶に響き渡った。

グレンが波動の駆け抜けていった方向に目を

やると、自分のすぐ横の壁に滑らかな切断面を

持つ円形の大穴がごっそりと開いていた。明らかに

物理的な破壊の結果ではない。言わば、消滅とでも

表現すべき超常的な現象——魔術の為せる業

だった。

 

 

「ち……狙いが甘かったか」

 

 

口をぱくぱくさせて硬直するグレンに、

セリカは据わった目と掌を向けた。

 

 

「次は外さん……《其は摂理の円環へと帰還せよ・

五素は五素に・象と理を……」

 

 

「ま、ママぁあああああああ——ッ!?」

 

 

こうして、半ば強制的にグレンの再就職先は

決まったのであった。グレンが一年ぶりに手に

した職は、栄えあるアルザーノ帝国魔術学院の

非常勤講師。一ヶ月という期間限定のなんとも

将来的に不安が残る職だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、アルザーノ帝国の特務分室の方では礼服を

羽織っている一人の白髪水色の瞳の少年が

歩いていると

 

 

「おい、アイツって…」

 

 

「ああ、間違えねぇ…

『例の特務分室の執行官』だ……」

 

 

宗教国家レザリア王国の侵略併合行為や

天の智慧研究会によるテロ行為に悩まされ

続けているほか、帝国政府内でも国軍省や

強硬派議員からなる「武断派」と魔道省や

穏健派議員からなる「文治派」との諍いがある

多くの周りの二つの勢力の人間達が少年を見て

ひそひそと話していた。

 

 

 

「相変わらず、つまらない人達だな…」

 

 

 

少年はつまらない物を見るようにひそひそと

話す周りの人間達を見ていると

 

 

 

 

「そう言ってやるな…」

 

 

少年の後ろから声がして振り返るといかにも

真面目そうな男が立っていた。

 

 

「アルベルト=ブレイザー…さん?」

 

 

少年がそう答えるとアルベルトと呼ばれた男は

少し困った表情で

 

 

「名前をフルネームで呼ぶな…普通にアルベルト

と呼んでも構わんと前にも俺は言った筈だが?」

 

 

「そう…でしたね…そう言えば…アルベルトさん

も確か任務でしたよね?それに顔色も少あまり

良くないみたいですし…そんなに大変な任務

でしたか?」

 

 

 

少年がそう聞くとアルベルトは溜息をつきながら

淡々と話し始める。

 

 

 

 

「俺の今のパートナーはあの『リィエル』

だからな……」

 

 

「あー…納得しました…」

 

 

少年はそう言うとアルベルトの後ろの方の廊下で

物凄い足音がこちらに近づいてくるのが遠くから

嫌でも分かった。

 

 

「アルベルトさん…この騒ぎは…まさか…」

 

 

「言うな……貴様が言いたい事は分かっている…」

 

 

 

アルベルトが頭を抱えて白髪の少年にそう言って

いると

 

 

 

「いぃぃやぁぁぁぁぁぁーー‼︎」

 

 

 

 

一人の少女が少年に叫びながら十字の大剣で

斬りかかってきた。

 

 

「やれやれ…」

 

 

 

少年はそう言うと少年は帝国式軍隊格闘術の

構えをして少女のスピードを利用して少女を

一瞬にして軽々と壁に投げ飛ばした。すると

勢いを殺しきれなかったのか背中から壁に当たり、

壁がめり込んで十字の大剣を地面に落として

気絶していた。

 

 

 

「きゃう〜〜…」

 

 

そんな状況を見たアルベルトは右手を額に当てて

やれやれとした表情を浮かべながら

 

 

 

「おい、これはいくらなんでもやりすぎだ……」

 

 

アルベルトがそう言うと少年は溜息をつきながら

弁解していた。

 

 

「じゃあ、アルベルトさんはこれ以外で最小限に

この猪突猛進のリィエルを抑える最善の策あると

思いますか?」

 

 

「……すまん、ないな…」

 

 

アルベルトがそう言うと少年は何か思い出した

表情で

 

 

「あ! そうでした…イヴ室長に次の任務について

の呼び出しで今から室長室に急いで向かっている

所でした。では失礼します。」

 

 

「………待て」

 

 

「どうしたんですかアルベルトさん…?」

 

 

少年がアルベルトにそう言うとアルベルトは

少年に一つだけ質問していた。

 

 

「貴様は昔から知りたがっていた『心』について

何か知り、理解する事が出来たのか? 貴様ほどの

優秀な魔術師だ…もう『心』をもう理解している

んじゃないのか?」

 

 

 

アルベルトが少年聞くと少年は

 

 

 

「アルベルトさん…分かっていると思いますが…

僕のこれは人間達の意思疎通を解析しただけの

ただの表面だけ知識での追跡(トレース)、

模倣(エミュレート)ですよ?機械的みたいな

発音はイヴ室長がそれでは駄目だと言ったので

それに…残念ながら『心』について本などで

調べてみましたが残念ですが何も知る事が

出来ませんでしたけど…」

 

 

 

「そうか……」

 

 

 

「まぁ、今になっては『心』なんて見えなくて

不明瞭な物は別にもうどうでもいい事ですから…

それに『心』とか『感情』を知らなくても僕の

生命活動には問題はありませんので大丈夫です」

 

 

 

 

少年は無表情で更に光なき瞳でアルベルトに

そう言うとアルベルトは少年の言葉を聞いて

申し訳ないと思ったのか「すまん」と一言を

そう言うと少年は何も気にしていないのか平然と

した表情で「大丈夫です。問題ありませんので」

と言って「では、アルベルトさん失礼します」と

言って少年はアルベルトから去っていくと

アルベルトは空の色を見ながら一人事を

無意識に呟いていた。

 

 

「すまない…セラ……」

 

 

そう呟いたアルベルトの表情は何処か暗く

申し訳なさそうに顔を伏せていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「失礼します…」

 

 

少年はそう言って室長室に入ると室長室には

赤髪の女性が高級な椅子の上に座っていた。

 

 

「遅かったわね?」

 

 

女性がそう言ってニヤリとさせて少年にそう言うと

少年は少し困った表情で

 

 

「向かう途中でいきなりリィエルに

襲われたからですよ、イヴ室長?」

 

 

 

少年がそう言うとイヴは【あっそう】と

一瞬にして切り捨てて更に話しを続けた。

 

 

 

貴族達による国家運営への干渉が激しく、

特に治安部門は上層部と繋がりの深い

イグナイト家によって牛耳られている。

実は職員達の制服の徽章は全てイグナイト家に

よって魔術的な工作がされており、治安関係に

関係する情報は全てイグナイト家に筒抜けの

状態になっている。混交玉石の情報も存在するが、

これによって帝国を支える功績のほとんどは

イグナイト家が独占する状況となっていた。

 

 

「んで…一体、なんのようですか?って言っても

任務しかないですよね…イヴ室長?」

 

 

「流石ね、話しが早くて助かるわ?

てっきり貴方も他の奴らみたいにあっさりと

断るかと思ったわよ?」

 

 

イヴが少年に言うと少年は無表情だが、

呆れた声で淡々と話しを続ける。

 

 

「イヴ室長…貴方は僕の事を勘違いしている

みたいだから改めて言うが僕は心なき機械であり、

道具だ…故に、命令を補正を要請する…

僕はただそれだけの存在ですよ?」

 

 

少年は虚ろな瞳でイヴを見るとイヴは

満足そうな表情で更に話しを続ける。

 

 

「分かりました…では、任務の内容を言います」

 

 

イヴは少年にそう言って淡々と話し初めた。

 

 

 

「今回の任務は長期の任務で『陛下』から

『ある人物』の護衛を頼まれたのよ?」

 

 

 

イヴがそう言うと少年はある疑問が浮かんだ。

 

 

「イヴ室長…なぜ?

その任務は僕じゃなくてはいけないんですか?

他に適材適所の人材がいるじゃないですか?

例えば…執行官ナンバー5の《法皇》の

『クリフトフ』がいるじゃないですか?」

 

 

 

「私もそう思っていたのだけどねぇ…だけど、

『この潜入任務』は陛下のご希望なのよ?

だから貴方には悪いけど明日から

アルザーノ学院に入学してもらうわよ?」

 

 

イヴは少年にそう言うと少年は分かりづらいが

少し不満そうな表情をして

 

 

「…なるほど…理解した…なら、失礼する…」

 

 

 

少年はイヴにそう言って机にあった書類を

手に取って扉を開けて出て行こうとすると

 

 

 

「じゃあ、あとは頼んだわよ、『オリバー』?」

 

 

「…了解した……では、失礼する…」

 

 

 

少年は虚ろな瞳でそう言って部屋から出て行くと

イヴは安心した表情で椅子に座っていると

【コンコン】と扉を叩く音が聞こえた。

 

 

「開いてるわよ?」

 

 

イヴがそう言うと扉が開くと背が高くて

白い白髪と髭で体格が大きい男が入ってきた。

 

 

「あら、誰かと思えばあなただったのね、

バーナード?」

 

 

「全く、相変わらず言葉と態度はツンツン

しておるのぅイヴちゃん?」

 

 

バーナードが笑いながらイヴにそう言うとイヴは

不満そうな表情でバーナードを睨みつける。

 

 

「私に文句があるならこの場ではっきりと

言っても良いのよ…?貴方が苦しまないように

出来るだけ消し炭にしてあげるわよバーナード?」

 

 

「じょ、冗談じゃよイヴちゃん‼︎

任務が終わったから報告しに来ただけじゃよ‼︎」

 

 

バーナードが慌ててイヴに弁解していると

イヴは溜息をつきながら

 

 

「まぁ、良いわ…今日の私は機嫌が良いから…」

 

 

イヴがバーナードにそう言うとバーナードは

何かを察したのかイヴを怒らせないように

慎重に質問する。

 

 

「イヴちゃん何か良い事があったのかのぅ?」

 

 

バーナードが聞くとイヴは先程の不機嫌な

表情とは思えないほどの上機嫌で肘を机につけて

右手を軽く握って頬に当ててバーナードに

視線を向ける。

 

 

「ついさっき『彼』に特別な任務を与えたのよ?」

 

 

「そうじゃったか…んで、イヴちゃん、

その任務とはなんなのじゃ?」

 

 

『廃棄女王、エルミアナ女王の護衛を

頼まれたのよ』

 

 

「へ…? え⁉︎ 陛下がそんな事を⁉︎」

 

 

バーナードは驚きを隠せないでいるとバーナードは

『ある疑問』をイヴに聞いてみた。

 

 

「し、しかし…イヴちゃんがよくその任務を

許したのぉ?」

 

 

「当たり前じゃない?

『悪魔の生まれ代わりの廃棄女王』でもせめて敵を

誘い出す役割ぐらいはしてもらわないとこちら

だって困るもの」

 

 

「…イヴちゃん」

 

 

バーナードはイヴの言葉や言い方に言いたい事が

あったがバーナードは『一番気になっていた事』を

質問する。

 

 

「イヴちゃん…ノア坊の事……」

 

 

「バーナード、今の彼は『ノア=アイゼア』

という名前じゃないわ‼︎『ウィル=オリバー』、

それが今の彼の名前よ?」

 

 

イヴはバーナードにそう言うがバーナードは

今回のイヴのやり方が気に入らないようだった。

 

 

「じゃが、良いじゃろうか…?」

 

 

 

「…それは…どういう意味かしら

詳しく教えて欲しいわね、バーナード?」

 

 

 

イヴは【ギラリ】とバーナードに敵意のような

視線を向けているとバーナードはそんなイヴの

表情に気がついたのか慌てて答える。

 

 

 

『い、いや…だって…ノア坊はセラの忘れ形見

じゃろ…?なのに…記憶が全く無いノア坊に

これは良くないと思うのじゃが…?』

 

 

「……」

 

 

バーナードが言う事も事実である。

 

 

 

実際、イヴ達特務分室が駆けつけた時、

グレンがジャティスを倒した後だった。

 

 

更に現場にはノアとグレンしかいなかった。

 

 

(なぜ、彼があそこにいるの⁉︎ 彼はあの研究室で

横になっているはずなのにどうして…まさか…⁉︎

ジャティスが彼をあの研究室から連れ出しの⁉︎

でも、ジャティスならあり得るわね……)

 

 

 

 

 

イヴがそう考えて我に返って倒れているノアに

近づき生きているか確認して何回も体を

揺さぶった。

 

 

「貴方、大丈夫? しっかりしなさい‼︎」

 

 

「……う、うーん…」

 

 

ノアは目を覚ますとキョロキョロと周りを

見渡しながら開口一番、イヴ達にはあまりにも

信じられない一言が飛んできた。

 

 

『…ここはどこ…? 僕は……誰?

そして……貴方達は…お姉さんは…誰?』

 

 

「……は?」

 

 

イヴはそんな間抜けな声を上げてノアの表情を

見る。イヴの記憶が正しければノアには自己紹介を

したはずなのだが、しかし、ノアの反応から見て

どうやら嘘をついている様に見えなかった。

それはまるで記憶がリセットされたようだった。

 

 

 

「貴方…名前は…?」

 

 

イヴは確認する為にノアに自分の名前を聞くが

 

 

「…名前?…名前……ごめんなさい…自分が

一体、誰なのかすら全く分からないみたい…

ごめんなさい…」

 

 

 

ノアが名前考えるが全く思い出せず頭を抱えて

そう言う姿はまるで演技とは思えずむしろ確信に

変わった瞬間、イヴは心の中で

 

 

(記憶を失っているならむしろ好都合だわ‼︎)

 

 

 

そう思っているとイヴはノアに手を差し伸べて

 

 

 

「じゃあ、私の元で働きなさい‼︎」

 

 

イヴがそう言うとノアは手を差し伸べるイヴを

虚ろな瞳で見続けて

 

 

 

「貴方の名前は…『ウィル』…

『ウィル=オリバー』と今から名乗りなさい!』」

 

 

 

「ウィル…オリバー…それが僕の名前………

分かった……お姉さん達についていく。」

 

 

 

ノアはイヴがさっき名付けたウィルという

名前を小さな声でゆっくりとそう言って

差し伸べられたイヴの手を握って手を引かれた。

 

 

イヴはその頃の事を思い出していると

バーナードは困った表情でイヴに

 

 

「イヴちゃん…ノア坊にセラの事を今からでも

伝えるのは遅くないと思うんじゃよ…それに、

今すぐにでもノア坊に真実を打ち明けた方が

良いと思うのじゃよ…それに…もし、ノア坊の

記憶が戻ったりしたらまずいと思うし、

今からグレ坊の所に行って…「ダン‼︎」」

 

 

 

 

 

バーナードが罪悪感で顔を歪めながら『グレン』

の名前を言った瞬間、ダン‼︎と凄まじい音が

鳴ってバーナード音がした方に視線を向けると

イヴが睨みつけながら両手で室長室の机を力強く

叩きつけていた。

 

 

 

 

 

「…は?バーナード、貴方馬鹿じゃないの‼︎

あの時、乱心して帝国に仇なしたジャティスの

せいで『セラという貴重な駒』を失った後、

グレンもたった『セラを失ったくらい』の理由で

この特務分室を辞めていったのよ‼︎更にグレンが

勝手に辞めて行ったせいで特務分室の戦力は

今まで以上に減っていった中、『彼』という

素晴らしい駒を手に入れる事が出来たのよ‼︎

なのに、任務を完璧にこなすあれ程の優秀で

有能な駒を自らの手で捨てろって言っているの?

あれ程、優秀な駒は中々いないわよ⁉︎」

 

 

 

「イヴちゃん………」

 

 

 

バーナードはなんとかイヴを説得しようと

思ったが失敗してイヴの言葉に更なる沢山の

苛烈さが増していった。

 

 

「とにかく、貴方の意見には必要性が全く無いわ、

バーナード?後、これ以上この話を掘り返したり、

ウィルに『この事件の事』や『セラの事』を

言ったらいくら古株の貴方でも絶対に

許さないわよ?」

 

 

「わ、分かったのじゃよ…イヴちゃん……」

 

 

バーナードはイヴにそう言って室長室から

退室して室長室はイヴ一人だけになった。

 

 

「私は…間違ってないんだから…」

 

 

イヴは誰もいない室長室でただ一人で呟いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「イタタ…この森は枝や茂みが多くて痛いなぁ…」

 

 

 

白いローブを着た者がそう言いながら溜息を

つきながら一人で歩いていると

 

 

 

「久しぶりだな…この街は……」

 

 

 

ローブを着た一人のある人物がフェジテを見て

誰もいない芝生の上で眺めていた。




読んで頂きありがとうございます‼︎
これからよろしくお願いします‼︎


(高評価が欲しいでござる‼︎
欲しいでごさる‼︎欲しいでござる‼︎)


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虚ろな観測者

遅くなってしまってすみません!

『評価』、『感想』更に『意見』など
よろしくお願します‼︎

後、応援もよろしくお願いします‼︎


「~♪」

 

少女は誰かを待っているらしい。背中に背負った

皮製カバンのベルトに手をかけ、機嫌良さそうに

ハミングしながら時間をつぶしている。

 

 

と、その時だった。

 

 

「……痛っ!」

 

 

背後から上がった苦痛の声に、何事かと少女が

振り返る。 すると、そこには指を押さえて顔を

しかめている一人の老人の姿があった。足元には

落ち葉や小枝が詰められた金属バケツ。そして、

火打石が落ちていた。

 

 

「ど、どうしたんですか? お爺さん」

 

 

見知らぬ老人ではあったが、少女は心配そうな

表情を浮かべ、迷わず老人の元へと駆け寄った。

 

「おや? いやぁ、ははは……お嬢ちゃんには

格好悪い所を見せてしまったのう」

 

 

心優しい少女を前に、老人は相好を崩し、

照れ臭そうに苦笑いする。

 

 

「実は片付けたこのごみを燃やそうと

したのじゃが、わしとしたことが、手元が狂って

火打石で指を打ってしまってのう……

いやぁ、歳は取りたくないわい」

 

見れば、老人の指が少し腫れて血が出ている。

かなり強く打ってしまったらしい。

特に大事はなさそうだが、

それなりに痛そうだった。

 

 

「やれやれ、帰ったら婆さんに薬草を

出してもらわんとな……」

 

 

少女は老人の指の様子を確認すると、周囲を

きょろきょろと見渡す。誰もいないことを

確かめ、老人にいたずらっぽく微笑みかけながら

人差し指を口元にあて、ウインクする。

 

「内緒ですよ? お爺さん」

 

 

「……ん? 」

 

首をかしげる老人の手を、少女は柔らかく

取り、ルーン語で呪文を唱えた。

 

 

「《天使の施しあれ》」

 

 

すると、老人の手を包む少女の手が淡く発光し、

光に包まれた老人の手の怪我がみるみるうちに

癒されていく。

 

 

白魔【ライフ・アップ】。

 

被術者の自己治癒能力を高めて傷を癒す

白魔術だ。

 

 

「……お、おぉ……!?」

 

 

老人はその様子を、目を丸くして見つめていた。

 

 

「うん、よし。それから……

《火の仔らよ・指先に小さき焔・灯すべし》」

 

 

少女は次に、黒魔【ファイア・トーチ】の呪文を

唱えた。すると少女の指先に小さな炎が灯る。

その小さな炎を金属のバケツの中に落とすと、

中に入っていたごみが、めらめらと燃え始めた。

 

 

「お嬢ちゃん……今の不思議な力……

話に聞く魔術ってやつかい?」

 

 

「はい。本当は学院外で魔術を使ったら罰則が

あるんですけど」

 

 

驚きながらも感心したような表情を浮かべる

老人に、少女はぺろっと小さく舌を出して

茶目っ気たっぷりに破顔した。

 

 

「そういえば、その服……あの奇妙な学院の

生徒達の制服じゃな。お嬢ちゃんのお友達は

皆、今みたいな不思議な術が使えるのかい?」

 

 

「はい。皆、私よりも上手で色々なことが

できますよ?」

 

 

「ほえぇ……便利なものじゃのう。

わしらもそんな不思議な術が使えたら色々と

楽になるんじゃがのう……」

 

 

 

「あはは、そうかもしれませんね。

ところでお爺さん、私が魔術を

使ったことは、その……できれば……」

 

 

「おうおう、内緒にしておけばいいんじゃろ? 

わかっとるよ」

 

 

「はい、ありがとうございます」

 

 

「なんの、こちらこそ。

ありがとうな、お嬢ちゃん。助かったよ」

 

 

 

少女と老人が笑みを交わし合っていると。

 

 

「ルミア——っ! 

遅くなってごめん——っ!」

 

 

遠くから駆け足の音が近づいてくる。

見れば、通りの向こうから少女と似たような

衣装に身を包んだ、もう一人の少女が駆け寄って

来ている。

 

 

 

「おや、あの子は……お嬢ちゃんのお友達かね?」

 

 

 

「はい。今、私がお世話になっている家の娘さん

で、私の親友です。それじゃあ、お爺さん。私、

そろそろ行きますね? ごきげんよう」

 

 

 

「おう、お勉強、頑張ってな」

 

 

最後に少女は会釈をして老人に別れを告げ、

駆け寄ってくる友人の元へ向かった。

 

 

 

早朝ゆえに閑散としたフェジテの表通り。

花崗岩で綺麗に舗装された道を、二人の少女は

並んで歩いていた。

 

 

「もう、ルミアったら律儀なんだから……

先に行っててって言ったのに……」

 

 

「うぅ、そんな……お嬢様を置いて行ったら、

しがない居候に過ぎない私は、旦那様と奥様に

お叱りを受けてしまいますわ……」

 

 

「馬鹿。冗談でもやめてよね、

私達は家族なんだから」

 

 

「あはは、ごめん、システィ」

 

 

「それにしても、珍しいね。

システィが忘れ物するなんて」

 

 

老人と別れ、友人と合流した少女——

ルミアは隣を歩く友人を不思議そうに見つめた。

 

 

「そのせいで屋敷まで往復することになって、

貴女まで待たせて……本当にごめん」

 

 

ルミアの隣で少し肩を落として、とぼとぼ歩く

少女——システィーナは憂鬱そうにため息を

ついていた。 システィーナは純銀を溶かし

流したような銀髪のロングヘアと、やや吊り気味

な翠玉色の瞳が特徴的な、ルミアと同い年くらい

の少女である。雪も欺く白い肌、彫像のように

硬く精緻に整った端麗な容姿はいかにも誇り高く

勝ち気そうで、まるで妖精のように凜々しく、

眩い。今、その表情はいささか消沈している

ものの、それでも涼やかながら凛とした覇気が、

その立ち振る舞いの端々から見てとれる——

そんな少女だ。

 

 

ルミア、そしてシスティーナ。二人の少女には

タイプこそ違うが、ただの町娘には決して

真似できない、生まれながらの美と気品——

華があった。着用している衣服こそ魔術学院の

生徒が着る制服だが、なんの変哲もないはずの

町の一角が、その二人がいる場所だけ社交界の

ように華やいでいるようだった。

 

 

「ひょっとして……システィ、

やっぱり……あのことが響いてる?」

 

 

ルミアが心配そうにシスティーナの顔を

のぞき込む。ルミアが知るシスティーナは、

忘れ物をしてしまうなどという隙とは

無縁の存在なのだ……基本的には。

 

 

「かも、……ね」

 

 

親友に心配かけまいと、システィーナは健気に

笑みを作って応じる。だが、どうにも消せない

憂鬱さが表情の端々に残っていた。

 

 

 

「やっぱり、残念でさ……ヒューイ先生、

なんで急に講師を辞めちゃったのかなぁ?」

 

 

「仕方ないよ。

先生にだって色々と都合があるもの」

 

 

「あぁ、惜しいなぁ……ヒューイ先生の授業は

凄くわかりやすくて、質問にもちゃんと答えて

くれて……凄くためになったのに……」

 

 

 

「それに凄く格好良い人だったもんね?」

 

 

「ばっ! 何を言ってるの! 

格好良さなんて関係ないでしょ!?」

 

 

からかうようなルミアの言葉に、

システィーナはぱっと頬を赤らめていた。

 

 

「私は誇り高き魔術の名門フィーベル家の

次期当主として、魔術の勉強のために学院に

通っているの! 講師に求めるものなんて

授業の質だけよ!」

 

 

だが、システィーナのまくし立てに、

ルミアは訳知り顔でくすくすと笑うだけだ。

 

 

「あ、そうそう、システィ。

話は変わるけど、今日、代わりの人が

非常勤講師としてやって来るみたいだよ?」

 

 

「……知ってるわ」

 

 

いかにも興味なさそうにシスティーナは応じた。

 

 

 

「せめてヒューイ先生の半分くらいは

良い授業してくれるといいんだけど」

 

 

「そうだよね。ヒューイ先生の授業に

慣れちゃうと、他の講師の方の授業じゃちょっと

物足りない気がするよね」

 

 

二人がそんな会話を交えながら、

十字路に差しかかった時だ。

 

 

「うぉおおおおおおお!? 

遅刻、遅刻ぅうううううううううッ!?」

 

 

目を血走らせ、修羅のような表情で口にパンを

くわえた不審極まりない男が、右手の通路から

二人を目掛けて猛然と走って来た。

 

 

「……え?」

 

 

「きゃあっ!?」

 

 

「な、何ィいいいッ!? 

ちょ、そこ退けガキ共ぉおおおお——ッ!」

 

 

勢いのついた物体は急には止まれない。

そんな古典物理法則を正しく踏襲し、

男が二人のいたいけな少女を

轢き飛ばそうとしていた——その時。

 

 

「お、《大いなる風よ》——ッ!」

 

 

システィーナがとっさに一節詠唱で、

黒魔【ゲイル・ブロウ】の呪文を唱えた。

瞬時にその手から巻き起こる猛烈な突風が

男の身体を殴りつけるようにかっさらい、

そして——

 

 

「あれ——ッ!?

 俺、空飛んでるよ——ッ!?」

 

 

首の角度を上に傾けなければ捕捉できないほど、

男の身体は天高く空を舞い——放物線を描いて——

通りの向こうにあった円形の噴水池の中へと

落ちた。

 

 

遠くで盛大に上がる水柱を、二人の少女は

遠巻きに呆然と眺めるしかなかった。

 

 

「あの、システィ? ……やりすぎじゃない?」

 

 

「そ、そうね……あはは……

つい。どうしよう?」

 

 

二人の注視を受けながら男は無言で立ち上がり、

ばしゃばしゃと水を蹴りながら噴水池から

這い出る。そして、つかつかと二人の前まで

歩み寄って、そして言った。

 

 

「ふっ、大丈夫かい? お嬢さん達」

 

 

「いや、貴方が大丈夫?」

 

 

男は爽やかな笑みを浮かべて精一杯決めている

つもりなのだろうが、哀しいくらいに決まって

いなかった。

 

 

 

妙な男だった。システィーナ達よりも、

幾ばくか年上の青年だ。黒髪黒瞳、長身痩躯。

容姿そのものに特筆する所はないが、問題は

その出で立ちだ。仕立ての良いホワイトシャツ

に、クラバット、黒のスラックス。かなり洒落た

衣装に身を包んでいる。だが、この男はこの服を

着るのがどれほど面倒臭かったのか、徹底的に

だらしなく着崩していた。服を選んだ人と、

着用する本人が別人であったことが素人目に

見ても明らかであった。

 

 

「あはは、道を急に飛び出したら

危ないから気をつけた方がいいよ?」

 

 

「いや……急に飛び出して来たのは

貴方だったような……」

 

 

思わずシスティーナが突っ込んだ、その時だ。

 

 

「だ、だめよ、システィ!」

 

 

 

金髪のショートボブの女の子ルミアが

システィーナにそう言って更に注意していく

 

 

この人ばっかり責められないよ!

システィだっていきなり人に向かって

魔術を撃つなんて…一歩間違ったら怪我

じゃすまなかったんだよ?」

 

 

「う……ごめんなさい」

 

 

 

「全く‼︎親の顔が見てみたいね!一体、

お前はどんな教育受けてんだ‼︎ あ⁉︎」

 

 

「……こっちが下手に出れば、途端にこの態度

……なんなの?この人」

 

 

「まー完全にお前らが100%一方的に悪いのは

明白なんだが俺は優しいから何か礼になるもん

でもありゃ許してやらんでも…」

 

 

「す 、すみません私からも謝ります…」

 

 

もう一人の女の子が男に謝ると何故か

その女の子の顔をずっと見続けていた。

 

 

(……………?)

 

 

【むにっ】

 

その後、男はもう一人の女の子の頬を優しく

ひねり更には体をいきなり触りだし確認していく

 

 

「うーーん」

 

 

「キャ…」

 

 

その男はその女の子の額を指で突きながら

 

 

「お前どっかで……」

 

 

「アンタ、何やっとるかぁあああーッ⁉︎」

 

 

システィーナと言う銀色の髪の女の子は男に

怒りの上段回し蹴りが男の延髄を見事に捉え、

吹き飛ばした。

 

 

「ズギャァアアアアアアアアアアーッ⁉︎」

 

 

情けない悲鳴を上げて男は転がって下ろしたて

だったであろう男の衣服はずぶ濡れの上に、

擦り切れて汚れて、もはや洒落た原形の見る影

もなかった。

 

 

「不注意でぶつかって来るはまだいいとして、

何よ今のは⁉︎ 女の子に無遠慮に触るなんて

信じられないッ!最ッ低!」

 

 

「ちょと待て、落ち着け⁉︎ 俺はただ、学者の

端くれとして、純然たる好奇心と探究心でだな⁉︎

やましい考えは多分、ちょとしかないッ!」

 

 

「なお悪いわッ!」

 

 

「ごぼほぉっ‼︎」

 

 

 

システィーナの拳が脇腹に良い角度で

刺さり、男は悶絶していた。

 

 

「ルミア、警備官の詰所に連絡。

この男を突き出すわよ。やっぱりただの変態だわ」

 

 

 

「え⁉︎ ちょ、勘弁してください⁉︎

仕事の初日からそんなんなったらセリカに

殺される!マジごめんなさい! 許してください!

調子乗ってすんませんでしたッ!」

 

 

 

僕がそう思っているとがルミアがシスティーナに

かなり甘い提案をしていた。

 

 

「あの…反省はしているみたいだし

許してあげようよ」

 

 

「はぁ? 本気? 貴方って本当に甘いわね、

ルミア……」

 

 

「ありがとうございます!

このご恩は一生忘れません!

ありがとうございます!」

 

 

男は立ち上がり居丈高に二人に言った。

 

 

「さて、お前達。その制服は魔術学院の

生徒だろう? こんな所で何やってる?」

 

 

 

「許してもらえるとなった途端に、

これよ……なんなの? この人」

 

 

「あ、あはは……」

 

 

もはや呆れるしかなかった二人だった。

 

 

「今、何時だと思っている?

急がないと遅刻だぞ?わかっているのか?

おぉ…今の俺、なんかスゲェ教師っぽい」

 

 

男が自分の台詞に陶酔しているのをよそに、

少女達は顔を見合わせて首をかしげた。

 

 

「……遅刻? ですか?」

 

 

「嘘よ、そんなの。

まだ余裕で間に合う時間帯じゃない?」

 

 

「んなわけねーだろ!

もう、八時半過ぎてるじゃねーか!」

 

 

 

男が懐中時計をシスティーナの

眼前に突き出す。

 

 

 

「その時計、ひょっとして針が

進んでませんか? ほら」

 

 

 

システィーナも負けじと懐中時計を

取り出し、男の前に突きつける。

 

 

 

時計の針が指すのは八時だ。

ちなみに本日の授業開始時間は

八時四十分である。

 

 

「…………」

 

しばらくの間、不思議な沈黙が

両者を包み込む。

 

 

そして。

 

 

 

「撤収!」

 

 

 

「逃げたーー ッ⁉︎」

 

 

 

出会った時と同様、男は猛然とした勢いで二人の前

から走り去っていく。

 

 

更に男は「チクショーッ!あの女、

時計ズラしやがったなぁ⁉︎」など意味不明なこと

を叫びながら遠ざかるその背中を、二人の少女は

見送るしかなかった。

 

 

 

「な……なんなの? あの人」

 

 

 

「……」

 

 

 

「ルミア…?」

 

 

 

「え、えーと、何だっけ…システィ?」

 

 

 

「だからさっきの男の話だったでしょ?

ルミア…大丈夫…?」

 

 

 

「……うん。

でも、なんだか面白い人だったね?」

 

 

 

「面白いを通り越して、だめ過ぎるわよ、

アレは」

 

 

 

相も変わらず親友の感覚のズレっぷりに

システィーナは嘆息する。

 

 

「私はああいう手合いにはもう二度と会いたく

ないわね。見ててイライラするのよ、あんな

情けないダメ男は!やっぱり容赦なく警備官に

引き渡すべきだったかしら?」

 

 

 

あいまいに笑うルミアを伴い、システィーナは

学院への道を再び歩き始める。そして、そのまま

あの奇妙な変態男のことを忘れるように努めた。

魔術師にとって記憶整理は基礎中の基礎だ。

事実、システィーナの頭の中からその男の存在は

見事に抹消された。 もっとも——後にその存在は

再び強烈に記憶へ焼き直されることになるのだが。

 

 

「さてと、今日も一日頑張りましょう? 

 

 

「うん」

 

 

やがて歩く二人の前に、その敷地を鉄柵で

囲まれた魔術学院校舎の壮麗な威容がいつもの

ように現れるのであった——

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「実に興味深い…」

 

 

ウィルはそう言って石段に座って読んでいた

本をパタンと音を立てながら閉じて更に言葉

を紡ぐ

 

 

 

「彼女は貴重なサンプルデータと判断した」

 

 

ウィルはそう言った後、虚ろな瞳で

アルザーノ学院を見て

 

 

 

「故に検証及び任務を開始する」

 

 

 

ウィルはそう言って立ち上がりながら

アルザーノ学院に向かって行った。




読んで頂きありがとうございます‼︎
これからも応援よろしくお願いします‼︎



『報告』
次の小説を書くかもしれないので
応援して頂けたら幸いです!


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傀儡と少女

どうも!また新しいお話を作りました‼︎
『お気に入り』や『しおり』、『評価』など
よろしくお願いします‼︎

因みにある人物達が登場します‼︎


アルザーノ帝国魔術学院。アルザーノ帝国の人間

でその名を知らぬ者はいないだろう。今から

およそ四百年前、時の女王アリシア三世の提唱に

よって巨額の国費を投じられて設立された国営の

魔術師育成専門学校だ。今日、大陸でアルザーノ

帝国が魔導大国としてその名を轟かせる基盤を

作った学校であり、常に時代の最先端の魔術を

学べる最高峰の学び舎として近隣諸国にも名高い。

現在、帝国で高名な魔術師のほとんどがこの学院

の卒業生である確固たる事実が存在し、それゆえに

学院は帝国で魔術を志す全ての者達の憧れの聖地と

なっている。その必定の流れとして、学院の生徒

や講師達は自分が学院の輩であることを皆等しく

誇りに思っており、その誇りを胸に日々魔術の

研鑽に励んでいる。

 

 

 

彼らに迷いはない。そのひたむきなる研鑽が、

将来、帝国を支える礎になることを、自らに

確固たる地位と栄光を約束してくれることを

正しく理解しているからだ。 よって、

この魔術学院において授業に遅刻する、サボる

などというその辺の日曜学校のような意識の

低いことはまずめったに発生しない。ましてや

生徒のひたむきな熱意に応えるべき講師が授業に

遅刻するなどという事態は通常ありえない。

ありえないはずなのだ。

 

 

 

「失礼します」

 

 

 

ウィルは学院長室に入るとアルザーノ学院の

理事長のリック理事長は理事長室の椅子に

座ってウィルを見ていた。

 

 

 

「おお…君が『ウィル=オリバー』君じゃな?

話しは上から聞いておるよ?」

 

 

 

「はい。自分はイヴ室長の命令により本日より

アルザーノ学院に来たウィル=オリバーと

言います。」

 

 

 

ウィルはリック理事長に敬礼しながら淡々と

そう言うと

 

 

 

「そんなに硬くなくていいんじゃよ…?」

 

 

 

 

リック理事長はウィルとの話に躊躇いながらも

「どうするかのぅ…」とか「じゃが、これは彼女

のたっての希望じゃからのう……」リック理事長

は小声で呟いて唸っている姿を見てとウィルが声を

掛けようとすると『ある女性』の声がウィルの背後

から 聞こえてきた。

 

 

 

「それについては大丈夫だ問題はない

この件は私の方でなんとかしよう。」

 

 

 

(この声は……)

 

 

 

後ろを振り返ると髪が金髪で

黒いドレスを身に纏っている

上品で魔性の大人の女性が立っていた。

 

 

 

「おぉ‼︎ セリカ君! 君も来ていたのか?」

 

 

「やあ、学院長。暇だから見に来たぞ〜」

 

 

 

(…『灰燼の魔女 セリカ=アルフォネア』)

 

 

 

ウィルは振り返ってセリカを見てイヴから

貰った資料を思い出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

元宮廷魔道士団特務分室、執行者No.21《世界》

またも『灰燼の魔女』セリカ=アルフォネア

 

 

 

彼女は《愚者》の育ての親で魔術の師匠。

見た目は20歳ほどの美女だが、真の永遠者

(イモータリスト)と呼ばれる原因不明の

不老不死体質。

 

 

 

400年前に記憶喪失となり、それ以前の記憶を

持たないらしい。更に「メルガリウスの魔法使い」

の登場人物であるアール=カーンとも面識があり

「空(セリカ)」と呼ばれているなど謎が多い

存在だ。長い時を孤独の中で過ごし、大切な者たち

との別れを幾度となく繰り返してきたせいで

《愚者》を拾うまでは酒に溺れ、自傷行為を

繰り返す荒んだ生活を送っていたらしい。

 

 

更に200年前の戦争で外宇宙から召喚された

邪神の眷属を殺害した伝説を持つ、人外と評される

第七階梯に至った大陸最高峰の魔術師である。

 

 

元同僚コードネーム《塔》アンリエッタの暴走で

滅ぼされた村の唯一の生き残りである《愚者》を

引き取ったことを機に特務分室を引退、現在は

教授職と並行している。

 

 

 

その、セリカ=アルフォネアが今、教授として

学院にいる。

 

 

 

真の永遠者(イモータリスト)と呼ばれる

彼女は原因不明の不老不死体質でも反則級なのに

更には人間離れした【固有魔術】や200年前の

『魔導大戦』邪神の眷属を殺すという偉業を

成して更には【究極の攻性呪文】があるからだ。

 

 

【固有魔術】『私の世界』

 

 

【究極の攻性呪文】

『イクスティクション・レイ』

 

 

 

非常に厄介過ぎる魔術師である。いや、そもそも

彼女は人間なのだろうか?もはや化物や人外など

の類いの者ではないのかと思ってしまう。だが、

もし、彼女と戦っても無傷では済まないだろう。

という導かれた単純でシンプルな一つの回答だ。

更にはこの任務をする前に特務分室の資料室の

資料を見ると更に見ていると実に興味深い内容が

書いてあった。

 

 

 

 

何故だろう……分からないが資料から目が

離せない…どうして…?

 

 

 

 

ウィルは思考を切り替えようとするが好奇心が

勝ったのか更に過去の資料を手に取ってパラパラと

ページをゆっくりめくる。すると『ある内容』が

目に写った。

 

 

 

 

それはーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「愚者……?」

 

 

 

 

そう、何故だろう…愚者…愚者って誰だろう…

と思い更に資料を読む。

 

 

 

 

■■■=■■■■、彼は彼女の一番弟子であるが

残念な事に魔術師としての位階は第三階梯で

魔術特性は「変化の停滞・停止」で、魔力操作の

感覚と略式詠唱のセンスが致命的にないため、

初歩の汎用魔術ですら呪文の一節詠唱ができない為

魔術師としては三流である。

 

 

 

 

「なんだ、それなら意味がないじゃないか……」

 

 

 

 

 

ウィル溜息つきながら愚者についての過去の資料

をまとめたファイルを閉じようとすると

 

 

 

 

 

(いや、待てよ…いくらなんでもおかしいぞ…)

 

 

 

 

アルザーノ帝国が誇るアルザーノ帝国国軍省管轄

の、帝国宮廷魔導士団の中でも魔術がらみの案件

を専門 に対処する部署がそんな簡単な見落としを

するだろうか?

 

 

 

いや、そんなことは絶対にないはずだ。

なにか…なにか理由があるはずだ。

 

 

 

ウィルはそう考えながら本棚にある資料を

片っ端から調べ始める。

 

 

 

すると

 

 

 

「あった、これだ…‼︎」

 

 

 

9冊目を読み終えて10冊目でやっとお目当の

資料を見つけたウィルはペラペラとページを

めくっていく。そしてある内容が目に入った。

 

 

 

 

魔術師としては三流だが魔導士としては

間違いなく一流である。一定の時間、自分を

中心に有効射程半径50メトラの範囲内で

魔術起動を完全封殺する固有魔術【愚者の世界】

と常識破りな固有魔術を編み出している。

この固有魔術は自分や近くにいる仲間も魔術を

使えなくなるという重大な欠陥があるが、

宮廷魔導師団時代に身につけた卓越した帝国式

軍隊格闘術や魔銃《ペネトレイター》という

魔術に頼らない武器を持つため、魔術のみに

傾倒した敵相手には有利に立ち回れる。

ただ、すでに発動している魔術を封じることは

できないため、相手より先んじて発動させる

必要があるうえ、あくまで初見殺しなので手の内が

割れれば自分を窮地に追い込むまさに『諸刃の剣』

になり得る。

 

 

 

 

 

「魔術の完全封殺ですか…」

 

 

 

 

なるほど…確かに魔術に偏っている魔術師達の

武器である魔術を封じ込められれば後は肉弾戦

に持ち込んで行けば間違いなく勝てる。それに

魔術師達から見ればなんと反則的で厄介な

魔術だと思うだろう。

 

 

 

 

ウィルが納得しているとその資料には

更に続きが書いてあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

特務分室帝国宮廷魔道士団No.0《愚者》

こと『魔術師殺しの愚者』と呼ばれていた

■■■=■■■■は街の人達から英雄のように

功績を崇められていた。そして三年間の間

外道魔術師達を毎日暗殺する任務の日々を

繰り返しだった末に精神的に疲弊していた。

だが、そんな彼にも心の支えが生まれる。

 

 

 

 

それがーーー

 

 

 

 

 

 

 

『■■=■■■■■■』

 

 

 

 

 

 

「これは…」

 

 

重要な部分が分からなかった。

 

 

 

 

 

いや、詳しく言うなら読めなかったのだ。

 

 

 

 

何故なら何故かは分からないが肝心な部分は

真っ黒なインクらしきものがべったりと

塗り潰されていて全く読めなかったのだ。

塗り潰された部分は気になったが今の時点では

知ることは確実に出来ないため諦めた。

 

 

 

 

とはいえ、帝国宮廷魔道士団特務分室執行官

No.21《世界》として活躍していた彼女がその

弟子に対象を根源素(オリジン)まで分解消滅

させてしまう最高峰の威力を持っている黒魔術の

『イクスティクション・レイ』その神殺しの魔術

を使えるらしいから彼女とその弟子の二人を敵に

回せば実に厄介過ぎる。

 

 

 

 

ウィルがそう考えていると知らないうちにセリカと

リック理事長が更に話を進めていた。

 

 

 

 

 

「学院長、そいつがグレンのクラスに

新しく入って来る転入生か?」

 

 

 

「あぁ、彼はウィル=オリバー君。14歳で成績は

稀に見る優秀過ぎる天才じゃな…彼を二組に

入れようと思うじゃよ」

 

 

 

「おぉ‼︎ グレンのクラスかあいつなら

大丈夫だろう‼︎」

 

 

 

(……グレン…どこかで…)

 

 

 

ウィルは『グレン』という聞き覚えのある名前を

聞いて考えるが全く記憶にない。そう考えていると

 

 

 

「よし‼︎ ならば学院長。私がその転入生を

グレンが担当する教室まで一緒に連れて行こう‼︎」

 

 

 

セリカは両手を腰に当てて興奮気味に「ふん‼︎」と

鼻息をたてていると

 

 

 

「おぉ‼︎ 流石はセリカ君‼︎それは助かるわい。

なんせ、グレン君はまだ来ていなくてのう」

 

 

「何⁉︎ あの…馬鹿者が〜〜‼︎

遅刻しやがって、帰ってきたら絶対にあいつの顔に

イクスティクション・レイをぶち込んでやる‼︎」

 

 

(…………)

 

 

ウィルはそんなセリカとリック学院長を見て

リック学院長がセリカを宥めていた。

 

 

 

「ま、まあまあ……セリカ君。

まずは彼を教室に連れて行ってくれ?」

 

 

 

「あぁ、そうだな…オリバーだったな?

私は此処の教授セリカ=アルフォネアだ。

分からない事があったら相談してくれ」

 

 

 

「こちらこそお願いします。

セリカ=アルフォネア教授」

 

 

 

「そんな敬語はやめてくれ‼︎」

 

 

 

「ですが…セリカ=アルフォネアと言えば、

200年前の戦争で外宇宙から召喚された

邪神の眷属を殺害した伝説を持つ、人外と

評される第七階梯に至った大陸最高峰の

魔術師ですので…」

 

 

 

ウィルが戸惑っているとセリカは大きな

溜息をつきながら

 

 

「構わん。私の事はアルフォネアと呼べ」

 

 

 

セリカはウィルにそう言うとウィルは少し

考えこんだ後、

 

 

 

「では…よろしくお願いします…

アルフォネア教授…」

 

 

 

 

「あぁ、こちらこそよろしくな!

では、リック理事長、失礼するぞ?」

 

 

 

 

「ああ、後は頼むぞ、セリカ君」

 

 

 

リック理事長はそう言うとセリカは

学院長室を後にして廊下を歩いていると

セリカがにウィルに質問してきた。

 

 

 

「貴様は学院などは初めてか?」

 

 

 

「はい。初めてなので非常に興味深い

サンプルデータとして判断しました。」

 

 

 

「サンプルデータってお前…」

 

 

 

セリカはウィルの言葉を聞いて戸惑っていると

 

 

 

「教室の扉の前に着いたみたいですよ?

アルフォネア教授?因みに先程の

『忍び足』で僕の背後に来ていましたよね?

魔術の世界にそれは少し興味深かったですよ?」

 

 

 

「⁉︎」

 

 

 

セリカは驚きを隠せなかった。

ましてやそのような態度や素ぶり、

更には仕草などは見られなかったからだ。

 

 

 

 

(ど、どこで、わ、分かっていたんだ⁉︎

こいつは一体、何者なんだ?)

 

 

セリカが考え込んでいると

 

 

 

「アルフォネア教授?

入らなくていいんですか?」

 

 

 

「そ、そうだな…」

 

 

 

 

ウィルとセリカは二組の扉を開けて

教室の中に入って行くと

 

 

「みんな席に座れ!」

 

 

 

セリカが生徒達に指示を出して生徒を

座らせて僕の自己紹介をしてくれた。

 

 

「転入生の紹介をする。じゃあ、本人にも

自己紹介をしてもらうとするか…入って来い」

 

 

 

セリカがそう言うと扉が開いて一人の

白髪の少年が入ってきて教室の教卓の前に

立っていた。

 

 

 

「皆さんはじめまして…

僕はウィル=オリバーです。

どうか…よろしくお願い…「きゃー‼︎」」

 

 

 

「…へ……?」

 

 

 

ウィルは困惑していると生徒達は更に

ヒートアップしていく

 

 

 

「小さくて可愛いですわ‼︎」

 

 

 

「あの子カッコいいわよね⁉︎」

 

 

「彼女とかいるのかしら…?」

 

 

女子生徒達がそうひそひそと話していると

 

 

「ちくしょう‼︎」

 

 

「何で…俺はモテないんだ‼︎」

 

 

 

「クソーー‼︎イケメン死すべし‼︎」

 

 

「このリア充め‼︎ 滅んでしまえ‼︎」

 

 

 

「リア充死すべし‼︎」

 

 

 

スイーツ脳になっている女子生徒達の隣では

心の底からの嘆きの言葉叫び散らしている

眼鏡かけた少年以外の男子生徒達は

血の涙を流していた。

 

 

 

「な、何を言っているのか…分からない…

理解不能……」

 

 

 

ウィルは「理解出来ない」と言っていると

 

 

 

「静かにしろ」

 

 

 

セリカがそう言うというと

先程騒いでいた生徒達は静かになった。

 

 

 

 

「とにかくだ…

今後はこいつと仲良くしてやってくれ…」

 

 

 

セリカがそう言うとウィルは

 

 

「改めてよろしくお願します…」

 

 

 

ウィルは戸惑いながらもそう言って

後ろの席に座ると

 

 

 

「では、私はこれで失礼する…」

 

 

 

セリカはそう言って扉を開けて出て行った。

 

 

 

後ろの席に座ったウィルはいつものように

落ち着いた表情でいると

 

 

 

「ねぇ…」

 

 

「…ん?」

 

 

 

ある女の子の声に気づいて

声がする方に視線を向けると

 

 

「…君、誰?」

 

 

ウィルが聞くと女の子は

 

 

「私…?、私は『ルミア』、

『ルミア=ティンジェル』って言うんだ。

よろしくね?」

 

 

 

ルミアがウィルにそう言うとウィルは

 

 

 

「自分はウィル=オリバーであります

こちらこそよろしくお願いするであります

えーと…『ルミア=ティンジェル』さん…?」

 

 

 

ウィルが頭を傾げながらそう言うとルミアは

 

 

 

「あ、あははは……え、えーと…ウィル君、

私の事は『ルミア』でいいよ? 後、

ウィル君もそんなに堅苦しくなくていいよ?」

 

 

 

ルミアがウィルにそう言うと

ウィルは少し対応に困った表情して

 

 

「け、けど……」

 

 

ウィルはルミアを見て困った様な表情をして

そう言うと

 

 

「じゃあ、私もウィル君って呼ぶから、ね?」

 

 

 

ルミアがそう言うとウィルはルミアの顔を見て

 

 

 

「……わかった…じゃあ、

改めて『ルミア』って呼ばせてもらうね?」

 

 

 

「うん! よろしくねウィル君!」

 

 

 

「私は『システィーナ=フィーベル』よ

私もウィルって呼ばれてもらうわね?」

 

 

 

ウィルの言葉にルミアは太陽のような笑顔を

ウィルに向けてシスティは手を差し伸べて

握手していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……遅い!」

 

 

魔術学院東館校舎二階の最奥、

魔術学士二年次生二組の教室。

正面の黒板と教壇を、木製の長机が

半円状に取り囲む構造の座席、

その最前列の席に腰かけるシスティーナは、

苛立ちを隠そうともせずに吐き捨てた。

 

 

「どういうことなのよ! 

もうとっくに授業開始時間

過ぎてるじゃない!?」

 

 

「確かにちょっと変だよね……」

 

 

システィーナの一つ隣の席に

腰かけるルミアも首をかしげる。

 

 

「何かあったのかな?」

 

 

見渡せば、一向に現れる気配を

見せない講師に、同クラスの学友達も

訝しむようにざわめき立っている。

 

 

『今日はこのクラスに、

ヒューイ先生の後任を務める

非常勤講師がやってくる』

 

 

一から七まである魔術師の位階、

その最高位、第七階梯(セプテンデ)に

至った大陸屈指の魔術師である

セリカ=アルフォネア教授が

直々にこのクラスに赴き、

そう発表した朝のホームルームから

早一時間過ぎ。セリカが構築した

『まぁ、なかなか優秀な奴だよ』という

前評判は早くも瓦解しそうな勢いだった。

 

 

「あのアルフォネア教授が

推す人だから少しは期待してみれば……

これはダメそうね」

 

 

「そ、そんな、評価するのは

まだ早いんじゃないかな? 

何か理由があって遅れている

だけなのかもしれないし……」

 

 

システィーナは

そんなルミアに振り返り、

猛然と抗議する。

 

 

「甘いわよ、ルミア。いい? 

どんな理由があったって、

遅刻をするのは本人の意識の低い証拠よ。

本当に優秀な人物なら遅刻なんて

絶対ありえないんだから」

 

 

「そうなのかな……?」

 

 

「まったく、この学院の講師として

就任初日からこんな大遅刻だなんて良い度胸だわ。

これは生徒を代表して一言

言ってあげないといけないわね……」

 

 

システィが悪態をついているとウィルは

 

 

 

「その事なら大丈夫…だと思うよ?」

 

 

 

「え…?、どう言う事なの?」

 

 

「ウィル…?何か知ってるの?」

 

 

 

システィとルミアがウィルにそう聞いた

 

 

その時だ。

 

 

「あー、悪ぃ悪ぃ、遅れたわー」

 

 

がちゃ、と教室前方の扉が

どこかで聞いたような声と共に開かれた。

 

 

どうやらその噂の非常勤講師とやらが今、

やっと到着したらしい。すでに授業時間は

半ばも過ぎている。恐らく魔術学院設立以来、

前代未聞の大遅刻だ。

 

 

「やっと来たわね! 

ちょっと貴方、一体どういうことなの!? 

貴方にはこの学院の講師としての自覚は——」

 

 

早速、説教をくれてやろうとシスティーナが

男を振り返って……硬直した。

 

 

 

「あ、あ、あああ——貴方は——ッ!?」

 

 

「う、うそ…」

 

 

「ほらね?」

 

 

ずぶ濡れのままの着崩した服。

蹴り倒された時にできた擦り傷、痣、汚れ。

 

 

嫌な記憶は蘇る。

朝、通学途中で会ったあの変態が、

そのままの姿でそこにいた。

 

 

「…………違います。人違いです」

 

 

男は自分に指を差してくるシスティーナの

姿を認めると、抜け抜けとそんなことを

言い放ってスルーの態勢に入った。

そしてルミアも驚きを隠せなかった。

 

 

 

「人違いなわけないでしょ!? 

貴方みたいな男がそういてたまるものですかっ!」

 

 

「こらこら、お嬢さん。

人に指を差しちゃいけませんって

ご両親に習わなかったかい?」

 

 

表情だけは紳士のそれのまま、

男がシスティーナに応じた。

 

 

「ていうか、貴方、

なんでこんなに派手に遅刻してるの!? 

あの状況からどうやったら

遅刻できるって言うの!?」

 

 

「そんなの……

遅刻だと思って切羽詰まってた矢先、

時間にはまだ余裕があることが

わかってほっとして、ちょっと公園で

休んでいたら本格的な居眠りに

なったからに決まっているだろう?」

 

 

「なんか想像以上に、ダメな理由だった!?」

 

 

男の物言いは突っ込み所が多過ぎて、

遅刻をとがめる気にもならない。

 

 

周囲の反応も同様だった。

現れた講師の異様な姿に、

教室中の生徒達がざわめき立つ。

 

 

だが、男はそれを華麗にスルーして教卓に立ち、

黒板にチョークで名前を書く。

 

 

 

「えー、グレン=レーダスです。

本日から約一ヶ月間、生徒諸君の勉学の手助けを

させていただくつもりです。短い間ですが、

これから一生懸命頑張っていきま……」

 

 

「挨拶はいいから、

早く授業始めてくれませんか?」

 

 

 

「違うでしょ…システィ…

まずはあのおじさんの汚い服からでしょ?」

 

 

 

「おい⁉︎この俺を汚いって言うな ‼︎」

 

 

 

苛立ちを隠そうともせず、

システィーナは冷ややかに言い放ちそして

ウィルは冷静に辛辣なツッコミを入れると

グレンはウィルの言葉が気に入らなかったのか

ウィルに食いかかる。

 

 

「あー、でも、まぁ、そりゃそうだよな……

かったるいけど始めるか……仕事だしな……」

 

 

すると、先ほどまでの取り繕った口調は

どこへやら。たちまち素が出てきた。

 

 

「よし、早速始めるぞ……

一限目は魔術基礎理論IIだったな……あふ」

 

 

あくびをかみ殺して

グレンがチョークを手に取り、

黒板の前に立つ。

 

 

途端にクラス中の生徒が気を引き締める。

システィーナもグレンに対するさっきまでの

わだかまりを捨て、その一挙手一投足に

注視し始めた。

 

 

(さて、どの程度のものかしらね……)

 

 

第一印象こそ最悪だったものの、

このグレンと言う男は、大陸でも屈指の

魔術師であるセリカ=アルフォネアに

『なかなか優秀』とまで言わせたほどの

男なのだ。その男が行う授業、

期待していないと言えば嘘になる。

 

 

かと言って、システィーナはセリカの評価を

鵜呑みにする気はさらさらない。

あくまで評価を下すのは自分だ。

今までがそうだったように、わかりにくい所は

どこまでも突っ込んで質問するし、

あいまいに誤魔化そうとしてもそうは

問屋が卸さない。いつの間にか

『講師泣かせのシスティーナ』などという

ありがたくない二つ名で学院内に知られるように

なってはいるが、それも全て自分が魔術という

崇高な道に対してひたすら真摯であるがためだ。

妥協する気はない。むしろ誇りにさえ思う。

 

 

(さて、お手並み拝見させてもらうわ、

期待の非常勤講師さん?)

 

 

システィーナはもちろん、

クラス中の注目が集まる中、

グレンは黒板に文字を書いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 自習。

 

 

 

黒板に大きく書かれたその文字に、

クラス中が沈黙した。

 

 

「え? じしゅ……え? 

じしゅ……う? え? ……え?」

 

 

システィーナはその文字について、

自分が真っ先に思い当たる意味とは

別の意味についての解釈を何度も試みた。

だが、ことごとく失敗した。当然である。

そんな短い単語に込められた意味など、

たった一つに決まっているからだ。

 

 

「えー、本日の一限目の授業は自習にしまーす」

 

 

 

さも当然、とばかりにグレンは宣言した。

 

 

「……眠いから」

 

 

さりげなく最悪な理由をぼそりとつぶやいて。

 

 

「……………………」

 

 

沈黙が支配する。

圧倒的な沈黙がクラスを支配する。

 

 

そんなクラスの面々を置き去りに、

間違っているのは自分じゃなくて

世界だとでも言わんばかりに堂々と、

グレンは教卓に突っ伏した。

 

 

十秒も経たないうちに、

いびきが響いてくる。

 

 

「……………………」

 

 

 沈黙が支配している。

圧倒的な沈黙がクラスを支配している。

 

 

 そして。

 

 

「ちょおっと待てぇええええ——ッ!?」

 

 

 

「システィ…うるさい……」

 

 

 

システィーナはウィルのそんな言葉を

無視しながら分厚い教科書を振りかぶって、

猛然とグレンへ突進していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうかお考え直し下さい、学院長ッ!」

 

 

帝国魔術学院の学院長室に怒声が響き渡った。

声の主は二十代半ばの、神経質そうな眼鏡の男だ。

学院の正式な講師職の証である梟の紋章が

入ったローブを身にまとっている。

名前はハーレイ。多くの魔術師が第四階梯

(クアットルデ)で生涯を終えるこの世界に

おいて、この歳で早くも第五階梯(クィンデ)に

至った若き天才魔術師である。

 

 

「私はこのグレン=レーダスという

どこの馬の骨とも知れぬ男に、非常勤とは

言えこの学院の講師職を任せるのは

断じて反対です!」

 

 

ばん、と両の手で激しく執務机を叩いて、

正面に腰かける初老の男性をにらみつける。

 

 

「しかしなぁ、ハーレイ君。

彼を採用するのは、セリカ君たっての

推薦なのだよ?」

 

 

激しい剣幕で迫られても

初老の男性はどこ吹く風、

好々爺然とした表情を崩さない。

 

 

「リック学院長ッ! 

まさか、あなたはあの魔女の進言を

了承したのですか!?」

 

 

「まさかも何も、了承したからグレン君は

非常勤講師をやっとるんだろうに。

確かに彼は教職免許を持ってない。

だが、教授からの推薦状と適正があれば、

非常勤に限り特例で採用が認められるから

何も問題なし……」

 

 

「その適正が問題なのです! 

これを読んでもう一度お考え直し下さいッ!」

 

 

ずばん、と。ハーレイは書類の束を学院長——

リックの腰かける机に叩きつけた。

 

 

「これは、先日に測定したグレンという男の

魔術適正評価の結果です! なんなのですか、

この惨憺たる結果はッ!」

 

 

「ふむ? ほほぅ、なんつーか特徴がないのう。

魔力容量(キャパシティ)も意識容量(メモリ)も

普通、系統適正も全て平凡、良くも悪くも

普通の魔術師……いや、基礎能力だけ見れば

中の下って所かの」

 

 

リックはハーレイから渡された

書類の束を手に取り、ざっと目を通していく。

 

 

「しかも奴の魔術師としての位階は

たかが第三階梯(トレデ)! 

経歴も合わせてご覧下さい!」

 

 

「む? ……おお、

彼はこの学院の卒業生だったのか」

 

 

「卒業と言うのは語弊がありますがね。

奴は卒業魔術論文を提出していません」

 

 

ふん、と小馬鹿にしたように、

ハーレイは鼻を鳴らした。

 

 

「グレン=レーダス。

十一歳の時に魔術学院に入学……

十一歳じゃと!?」

 

 

書類に眼を通していたリックが

驚きの声を上げた。

 

 

「通常、学院に入学する年齢は

十四、五歳じゃぞ!? 

それを十一歳で、じゃと!?」

 

「……ええ。当時は史上最年少で

難関と名高い学院の入学試験を通った少年、

と言うことでずいぶん騒がれたようですな」

 

 

 忌々しそうにハーレイは顔をしかめた。

 

 

「だが、奴の栄光はそこまでです。

入学後の成績は極めて平凡。そして、

四年の魔術学士課程を経て十五歳の時に卒業……

という名目の退学。最終成績もやはり平凡。

特に見るべき物はありません」

 

 

「ふむ……どうやら、そのようじゃな……」

 

 

「そして、問題は奴のその後の進路です! 

奴は魔術という至高の神秘の求道に一度は

身を置きながら、卒業から今日に到るまでの

四年間、何もせずに無駄な時間を

過ごしていたのです! もし、その間、

魔術の道に邁進していれば、どれほどの

魔術の発展に貢献できたことか!」

 

 

 

確かに見ればグレンの経歴項目欄には

四年間の空白があった。

 

 

「ほう……四年間も無職でのう……

一体、何かあったんじゃろうか?」

 

 

「もう私の言いたいことはわかるでしょう!? 

奴のような低位で低俗な魔術師など、

この学院の講師として、

ふさわしくないということです!」

 

 

「うーむ、別に我らが魔術学院の

講師募集要項には、経歴や位階による制限など

なかったように記憶しておるのだが?」

 

 

「明文化などされてなくても

そんなものは暗黙の掟でしょうが!」

 

 

再び、ずだんとハーレイは机を叩いた。

 

 

「思い出して下さい、

学院に在籍するそうそうたる講師陣を!

 第四階梯(クアットルデ)は当然、

すでに第五階梯(クィンデ)、

第六階梯(セーデ)に到る者すらいます!

そしてその誰もが高度な魔術を修め、

研究成果を残した者達ばかり! 

なぜグレンのような男が彼らと肩を

並べられるのですか!?」

 

 

「ふむ……」

 

 

「あなたもあなたです、学院長! 

こんな重大な書類に目を通さずに、

なぜ二つ返事で彼の採用を

許可したのですかッ!?」

 

 

「そりゃあ、だって、ほら?

 セリカ君が推薦してくれた男じゃろ?

 こう……なんか面白いこと、

やってくれるような気がせんか?」

 

 

リックはいたずら坊主のように口元を歪める。

 

「しません!

 あなたはあの魔女を過大評価し過ぎだ! 

あの魔女は過去の栄光にしがみついて

己が我欲を振りかざし、守るべき秩序を

破壊する旧時代の老害ですッ!」

 

 

 その時だった。

 

 

「言ってくれるじゃないか、ハーレイ」

 

 

学院長室内に突然響き渡った、

その何気ない言葉にハーレイが凍りついた。

 

 

「ふふ、あのハナ垂れ小僧が

まぁ、ずいぶんと偉くなったもんだ。

私は嬉しいぞ?」

 

 

振り向けば、部屋の隅に意地の悪い笑みを

満面に浮かべるセリカがいた。

 

 

「な……いつからいた? 

セリカ=アルフォネア……」

 

 

「さ、いつからだろうな? 

先生からデキの悪~い生徒に問題だ。

当ててみな」

 

 

「転移の術で……いや、時間操作……

そんな馬鹿な……魔力の波動も、

世界則の変動も感じられなかった……」

 

 

「はい、不正解。

お前、まだまだ三流だよ、精進しな。

ついでに課題だ。今の不思議現象を究明して

レポート三百枚以内にまとめろ。

あ、これ、教授命令な」

 

 

「ぐぅ……ッ!」

 

 

屈辱に震えるハーレイを尻目に、

セリカはリックに向かい優雅に一礼する。

 

 

「ごきげんよう、学院長」

 

 

「おお、セリカ君。

相変わらず若くて美人じゃのう、

羨ましいのう」

 

 

「ふふふ、学院長も

まだまだ若くて素敵だぞ?」

 

 

「ほっほっほ、そうか! 

ならばセリカ君、今晩辺りワシと一緒に……

どうじゃ?」

 

 

 

「あはは、お断りだ。てか、

相変わらず学院長はお盛んだな。

いい加減枯れろよ」

 

 

「ふははははっ! ワシは生涯現役よ!」

 

 

そんな温い空気を、

ハーレイが机を叩いて吹き飛ばす。

 

 

「私は認めんぞ、セリカ=アルフォネアッ! 

あのような愚物を講師に据えるなど、

絶対に認めんッ! 何かあったら責任を

取ってもらうぞッ!」

 

 

「……取り消せ」

 

 

その時、その低く漏れたつぶやきに

部屋の空気が凍てついた。

 

 

「別にお前が私をいくら悪く言おうが構わん。

陰であいつを悪く言うのも流す。だが……

私の前で、私に向かってあいつを悪く言うのは

許さん。取り消せ。謝れ」

 

 

セリカの圧倒的存在感がハーレイを

あっと言う間に絡め取っていた。

 

 

「な、にを……グレンとか言う男が……

取るに足らない三流魔術師である……

のは事実……だろう……が……ッ!」

 

 

脂汗を垂らしながら、

ハーレイは喉奥から声を絞り出すように言う。

 

 

そんなハーレイをセリカは目を細めて

冷ややかに流し見る。

 

 

「お前にこれが受けられるか?」

 

 

見れば、セリカは左手に嵌めていた手袋を

ゆっくりと外しにかかっていた。

 

 

「——ッ!?」

 

 

セリカのその動作を見て取ったハーレイは

目に見えて狼狽し、青ざめた。

 

 

「わ、わかった……

取り消す……私が……悪かった……」

 

 

言質を取った瞬間、セリカはにっこりと笑い、

外しかけていた手袋を嵌めなおした。

 

 

「くそぉ……覚えてろよッ!」

 

捨て台詞を吐いて、

ハーレイが学院長室を逃げるように出て行く。

残されたリックとセリカの間にしばらくの間、

沈黙が流れた。

 

 

 

「やれやれ。相変わらずおてんばじゃのう。

学院長室が吹き飛ぶかと冷や冷やしたわい」

 

 

呆れたようにリックはため息をついた。

 

 

「だが、セリカ君。

流石に今回の一件は君の差し金でも無茶だよ」

 

 

「……わかってるよ。本当にすまんと思ってる」

 

 

 

「なんの実績もない魔術師を強引に

講師職にねじ込む。ハーレイ君に

限ったことではない、恐らくあの反応が

学院に関わる者達の総意じゃろうな……」

 

 

 

セリカは少しの間、

押し黙ってから迷いなく言った。

 

 

「責任は取るさ。

アイツがこの学院で為すことやること、

全て私が責任を取る」

 

 

「そこまでして彼を推すか……

彼は君にとってなんなのか……

聞いていいのかな?」

 

 

「はは、別に浮いた話も、

特殊な因縁もないよ。ただ……」

 

 

「ただ?」

 

 

「あいつにはただ、

生き生きとしていて欲しくてな。

まぁ、老婆心だよ」

 

 

セリカがそう言うと

リック理事長に近づいて

 

 

 

「リック理事長…一つ聞きたい事がある」

 

 

「なんじゃ…セリカ君?」

 

 

リック理事長はそう言うと

セリカは鋭い瞳で

 

 

「先程の転校生、

『ウィル=オリバー』についてだ」

 

 

「……」

 

 

「もしかして…あいつは…」

 

 

 

セリカがそう言うとリック理事長は

顔を下に俯きながら、

 

 

 

「そうじゃ…全てセリカ君の

考えている通りじゃ…彼は…

軍から派遣された魔術師なんじゃよ…」

 

 

 

「やはり…そう、だったか…」

 

 

 

セリカはそう言うとリック理事長は

申し訳なさそうな表情で

 

 

 

「すまないのう…」

 

 

「気にするな…私も知っているが

魔術学院はとにかく各政府機関の面子や

縄張り争いがうるさい魔窟だからな…

『ウィル=オリバー』について私も少し

調べてみるよ。だから安心しな、リック理事長」

 

 

「すまんのう…セリカ君……」

 

 

「何を水臭い事を言っているんだ…

私とリック理事長の仲じゃないか?」

 

 

 

「そうじゃのう……」

 

 

 

二人はそう話しながら

苦笑いを浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわー、見ろよ、ロッド、あの講師を……」

 

 

 

「あぁ、スゲェな……目が死んでる……」

 

 

 

「あんなに生き生きとしていない人を

見るのは初めてだ……」

 

 

 

教室のあちこちから、

ひそひそと響く囁き声。

 

 

 

「で~~多分、こうだから~~きっと、

こんな感じで~~で~~大体、こうで~」

 

 

 

生徒達の蔑みきった視線の先では、

脳天に盛大なタンコブを乗せた男……

グレンがまるでゾンビのように緩慢な動作で

教鞭を取っていた。

 

 

「あぁ、ヒューイ先生はよかったなぁ……」

 

 

 

「ヒューイ先生、

なんで辞めちゃったんだろ……」

 

 

 

端的に言えば、グレンの行う授業は

今までに見たことない最低最悪の授業だった。

 

 

とにかく、

聞いていて授業の内容が理解できない。

そもそも説明になっていない。

だらだらと間延びした声で

要領の得ない魔術理論の講釈を読み上げ、

時々思い出したかのように黒板に

判読不能な汚い文字を書いていく。

 

 

 

(汚い文字だな…)

 

 

 

ウィルも含めた生徒達は授業の内容を

何一つ理解できなかったが、

このグレンとかいう非常勤講師が

恐ろしくやる気がないことだけは理解できた。

こんな授業は拝聴するだけ時間の無駄であり、

その時間を自分で教科書を開いて独学した方が

まだましだった。

 

それでもごくわずかに、

この最低の授業からでも何か得るべきものを

得ようとする真面目で健気な生徒もいた。

 

 

 

「あの……先生……

質問があるんですけど……」

 

 

とある小柄な女生徒がおずおずと手を上げる。

 

 

 

名前はリン。少し気弱そうな、

小動物的雰囲気を持つ少女だ。

 

 

「なんだ? 言ってみな」

 

 

「ええと……

先ほど先生が紹介した五十六ページ三行目に

載っているルーン語の呪文の

一例なんですが……これの共通語訳が

わからないんですけど……」

 

 

「ふっ、俺もわからん」

 

 

「えっ?」

 

 

「すまんな。自分で調べてくれ」

 

 

 

 あまりにも堂々とそんな風に返され、

質問したリンは呆然と立ち尽くしていた。

 

 

こんなグレンの対応に、

元々腹を立ててはいたが、

ますます腹を立てたシスティーナが

席を立ち、猛然と抗議した。

 

 

「待って下さい、先生。

生徒の質問に対してその対応、

講師としていかがなものかと」

 

 

刺々しいシスティーナの糾弾に、

グレンは心底面倒臭そうにため息をついた。

 

 

「あのなぁ。だーかーら、

俺もわからんって言ってるだろ? 

わからない物をどうやって

教えりゃいいんだよ?」

 

 

「生徒の質問に答えられなければ、

後日調べて次回の授業で改めて

答えてあげるのが講師としての

務めだと思うのですが?」

 

 

「むぅ……だったら、

やっぱ自分で調べた方が

早いんじゃねーか?」

 

 

 

「そういう問題じゃありません! 

私が言いたいのは——」

 

 

「……あ、ひょっとして、

お前らってルーン語辞書の引き方、

まだ教わってねーの? 

それじゃ調べられんか……

しゃーねぇ。面倒だが、

俺が調べておいてやるよ。

あーあ、余計な仕事増えちまった……」

 

 

「ぐ……辞書の引き方くらい知ってます!

 もう結構ですッ!」

 

 

どこまでもやる気ない態度を

改めようとしないグレン。

 

 

肩を怒らせて、

荒々しく着席するシスティーナ。

それをはらはらした様子で見守るルミア。

教室内の雰囲気は最悪。クラス中で募る苛立ち。

無駄に流れる時間。

 

 

(暇だな…本を読むか…)

 

 

ウィルも自分のが持っていた本を開いて

本を読んでいた。こうしてグレンの

記念すべき最初の授業は、

何も得る物のない不毛な時間の浪費に

終わったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グレンの初授業終了後、

学院の女子更衣室内にて。

身に着けている制服やケープ・ローブを

脱ぎ捨て、上下の下着姿となった

システィーナは木製ロッカーの中に

それら衣類を叩き込みながら、

苛立ちのあまり吐き捨てた。

 

 

「まったくもう、なんなの!? あいつ!」

 

 

「あはは……まあまあ」

 

 

ルミアがあいまいに笑いながらなだめるが、

システィーナの怒りは収まらない。

 

 

「やる気なさ過ぎでしょ!? 

なんであんな奴が非常勤とは言え、

この学院の講師をやってるわけ!?」

 

 

「そうだね……

グレン先生にはもうちょっと

頑張って欲しいかも」

 

 

次にシスティーナ達が

受ける授業は錬金術実験である。

確かにシスティーナ達が普段、

着用している制服やローブは身体回りの

気温・湿度調節魔術——黒魔

【エア・コンディショニング】が永続付呪

(エンチャント)されており、見た目以上に

夏は涼しく冬は暖かい、とても便利な代物だ。

男性と異なり、その生来の外界マナに対する

親和性の高さを伸ばすため、魔術の

習熟初期段階では薄着で過ごすことを

推奨される女性にとって、その制服は

強い味方である。

 

 

だが、錬金術の実験は実際に生徒達の手で

魔法素材を加工し、器具を操作し、

触媒や試薬を扱う授業だ。

その実験内容によっては衣服がひどく汚れたり、

衣服に薬品の臭いが移ったりしてしまう

場合がある。それゆえに、システィーナの

クラスの女子生徒一同はこの更衣室に集い、

実験用のフード付きローブに着替えている

真っ最中であった。半裸になった少女達の、

瑞々しく張りのある肌。

子供から大人へと移行する思春期の

少女特有の艶かしくも清楚な身体の線。

誰もが惜しげもなくその若さの証を

さらしている。年頃の男子生徒達には

目の毒過ぎる肌色のユートピアが

そこにはあった。

 

 

 

「はぁ……確か次の錬金術の実験も

アイツが監督するんでしょ?」

 

 

「うん、そうだよ。

グレン先生はヒューイ先生の後任だから」

 

 

「うぅ……胃に穴が開きそう」

 

 

その時、顔をしかめていたシスティーナが、

突然、何か思いついたかのようにほくそ笑んだ。

隣でするりと肌を滑らせて衣類を脱ぎ、

下着姿となったルミアを流し見る。

 

 

「これは……癒しが必要だわ」

 

 

「システィ?」

 

 

 システィーナは戸惑うルミアに

素早く近づき、ルミアの背後から突然、

抱きついた。

 

 

「えい!」

 

 

「きゃ!?」

 

 

システィーナは思いっきりルミアの

すべすべの背中に肌を密着させ、

下着に包まれたルミアの胸の二つの

ふくらみに手を当てた。

 

 

 

「あー、やっぱりルミアの身体は

気持ち良いなー、肌は白くて綺麗で、

きめ細かくて」

 

 

「ちょ、システィ、だ、だめだよッ!」

 

 

甘える子猫のようにすりつく

システィーナの腕から逃れようと、

ルミアは顔を真っ赤にして抵抗する。が、

システィーナの腕は蛇のようにルミアに

絡みつき、逃げられない。

 

 

「きゃん! システィ、あっ、だめ!」

 

 

「むむむ……ルミア。

貴女、なーんか順調に育ってるわね……」

 

 

 

システィーナは掌に伝わってくる、

微かに芯のある柔らかな感覚が以前とは

微妙に変化している事実に眉根を寄せた。

ルミアの胸は大ぶりではなく、

小ぶりでもない。まるでルミアと言う少女の

身長体格から精緻に計算したかのような、

理想の黄金比と造形美を保った双丘だった。

 

 

「はぁ……良いなぁ、これ。

私はなぜか胸には栄養行かないからなぁ……

うぅ……癒しどころか私、なんだか落ち込んで

来たんだけど……」

 

 

「ちょっと……やめてってば、システィ。

そんなに強く……あ、あんッ!」

 

 

 

「あー、もう、羨ましいなぁ! 

ほれほれ、良いのはここかー? ん? ん?」

 

 

 

「ひゃんっ! い、いやっ! やめて……」

 

 

 

どうやら、こういう場で年頃の少女達の

やることなど同じようなものらしい。

 

 

 

「ず、ずるいですわ、テレサ! 

あなた、いつの間に——」

 

 

「うふふ、成長期ですから」

 

 

「わたくしを差し置いて、

けしからんですわ! ええい! 

こうしてやりますわ!」

 

 

「きゃっ! ウェ、ウェンディさんっ!?」

 

 

 

更衣室のあちこちで似たような

悩ましい光景が展開されていた。

女子生徒一同、きゃいきゃいと

姦しくも楽しげに騒いでいる。

 

 

 

だが、そんな少女達の前で、

更衣室の扉が突如、ばぁんと乱暴に開かれた。

 

 

 

「あー、面倒臭ぇ! 

別に着替える必要なんかねーだろ、

セリカの奴め……ん?」

 

 

 

 全開となった扉の外に、

借り物の実験用ローブを肩に担いだ

不審な男が立っている。

 

 

グレンであった。

 

 

 

扉から最も近い位置にいたシスティーナと

ルミアの二人と、グレンの目が合う。

 

 

 三人とも無言で硬直。

 

 

そして、今まで半裸の少女達が妖精のように

戯れる楽園はどこへやら。突如、

その場に氷結地獄が展開され、

時間すらも完全凍結し、全てが沈黙した。

 

 

「……あー」

 

 

 

 グレンは部屋の中をじっくりと見渡す。

そこに女子生徒達しかいないことを

確認すると、面倒臭そうに頭をがりがりかいて、

更衣室の外のプレートを見やる。

 

 

「昔と違って、男子更衣室と女子更衣室の

場所が入れ替わってたんだな……

まったく余計なコトしやがる」

 

 

 

その場に、なにやら凄まじい殺気が徐々に

渦巻きつつあった。その抗えない流れを前に、

グレンはうんざりしたようにため息をついた。

 

 

「やーれやれ。

これが最近帝都で流行の青少年向け小説で

よくあるラッキースケベ的な展開ってやつか? 

はは、まさか身をもって体験することに

なるとは思わなかったが」

 

 

 

システィーナを筆頭に、

ゆらりと少女達が動きかけた。

グレンは、それを威風堂々と手で制した。

 

 

 

「あー、待て。お前ら落ち着け。

俺は常日頃、こんなお約束展開について

物申したいことがあってな。

まぁ、聞いてくれよ。末期の水代わりに」

 

 

少女達の動きが止まる。

死刑囚も最後に何か言い残すことは

許されるのだ。

 

 

 

「俺、思うんだが……

その手の小説の主人公って馬鹿だよな? 

ラッキースケベ的イベントを発生させた時点で、

ヒロインにボコられるのはもう確定してるのに、

どうして慌てて眼を背けたり手を

引っ込めようとしたりするんだろってな。

たかが女の裸をちらっと一目見るのと

ボコられるのが等価交換だなんて

割に合わねーだろ? どう考えても」

 

 

 

そんな最低最悪な前口上の後、

グレンはここに高々と魂の宣言をする。

 

 

 

「だから、俺は——

この光景を目に焼きつけるッ!」

 

 

 

くわ、と。グレンは目を血走らせんばかりに

見開き、腕を組み、修羅の表情となって

仁王立ちし、眼前に広がる肌色成分多い

光景を凝視して——

 

 

 

「「「「この——ヘンタイ———っ!」」」」

 

 

 

 その日、学士二年次生二組の

女子生徒達による、とある非常勤講師への

目を覆わんばかりの凄惨な校内暴力事件が

発生した。

 

 

 

「何をやっているんだろう…?」

 

 

ウィルは頭を傾げながら遠くから

グレン達のやり取りを眺める姿は

それはまるでグレン達のやり取りを

サンプルデータとして観察する忠実なる

『傀儡』であり『機械』のようであった。

 

 

 

 

 

ちなみに、その日の錬金術実験は

担当する講師が人事不省に陥ったため

中止となった。




読んで頂きありがとうございます!
グレン達が登場させる事が出来たので
良かったです‼︎

評価などの応援よろしくお願いします‼︎


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観測と小さな変化

皆さんお久しぶりです‼︎
『ロクでなし魔術講師と白き大罪の魔術師』を
読んでいただきありがとうございます。


更に投票者4人もありがとうございます‼︎
これからもロクアカの二つの作品の一つ
『ロクでなし魔術講師と死神魔術師』を
よろしくお願いします‼︎

今回のウィルは純粋過ぎるお話です。



「痛ぇ……マジで痛ぇ……

こ、ここまでやるか? 普通……」

 

 

現在十二時過ぎ。昼休みの時間。全身引っかき傷と

痣だらけ、衣服ズタボロの姿となったグレンが、

涙目でゾンビのようによろよろと学院内廊下を

徘徊していた。

 

 

すれ違う生徒達が無様な姿のグレンを見て

ぎょっとするが、人の目を気にしている余裕は

今のグレンにはない。

 

 

「しっかし、最近のガキ共は発育が良いな……

一体、何を食ったらあんなにすくすく育つんだ?

……一人発育不良なのもいたけど。

まぁ、いいや、メシだ、メシ」

 

 

と、当の本人に聞かれたら命を落としかねない

恐ろしいセリフをつぶやきながら、グレンは

魔術学院の食堂へと足を運んでいた。

 

 

アルザーノ帝国魔術学院の食堂は、

巨大な貴族屋敷のような学院校舎本館の

一階に存在する。

 

 

出される料理は安くて美味しいと、

生徒達からは伝統的に評判がある食堂だ。

 

 

「ここを利用するのも久しぶりだなー」

 

 

食堂内には、白いクロスがかけられ、

燭台で飾られた長大なテーブルが何列もあり、

午前の授業を終えて食事を取りに来た生徒達で

混雑していた。

 

 

基本的に、食堂の利用者は奥の厨房カウンターで

料理を注文し、代金を支払って料理を受け取る。

そして、各自、自由にテーブルに腰かけ、

食事を取る。そういう方式だ。

グレンも奥のカウンターごしに、

食堂のコックに向かって料理の注文をした。

 

 

「あー、地鶏の香草焼き、揚げ芋添え。

ラルゴ羊のチーズとエリシャの新芽サラダ。

キルア豆のトマトソース炒め。ポタージュスープ。

ライ麦パン。全部、大盛りで」

 

 

 

グレンはいわゆる、

やせの大食いと呼ばれる人種だ。

おかげで無職のスネかじりだった頃、

セリカに何度嫌みを言われたかわからない。

 

 

しばらく待っていると料理ができ上がった。

グレンは皮袋の財布からセルト銅貨を

数枚取り出して給仕の人に手渡し、

木製お盆に乗せられた料理を受け取る。

 

 

「さて、空いている席は……と」

 

 

 

食事をする生徒達で賑わい、

ほとんどの席が埋まっていたが、

向かって右端のテーブルの隅、

隣り合う席が二つほど空いているのが見えた。

 

 

 

誰かに席を取られてはかなわない。

グレンは早足でそこに向かう。

そして、ふと、気づいた。

 

 

「だからおかしいのよ、

去年発表されたフォーゼル先生の

魔導考古学論文の説は。

貴女もそう思わない? ルミア」

 

 

グレンが座ろうと思っていた席の正面に、

見覚えある顔が二つ並んでいる。

 

 

「あの人の説だと、

メルガリウスの天空城が建造されたのは、

聖暦前4500年くらいになっちゃうの。

確かに次元位相に関する術式が古代文明に

おいて本格的に確立したとされているのが

古代中期なんだけど、フェジテ周辺で

多々発見された古代遺跡の壁画や、

発掘された遺物からすると、

聖暦前5000年にはもうすでに

メルガリウスの天空城らしきものが

空に浮かんでいたってされてるの。

この事実を無視して、魔導技術的に

不可能だからってだけで、4500年説を

ごり押しするのはどうかと思うわけ。

あの人が新しく考案した年代測定魔術は、

どうもこの500年を誤魔化すために

作られたこじつけのような気がしてならないわ!

机の上の思考や文献調査を過剰に重視するあまり、

フィールドワークをおろそかにしがちな現代の

魔術師らしい説ね。そもそも、古代中期の

次元位相術式で、本当に天空城が空に

隠されているのだとしたら、もうとっくに

時間切れになってるはずじゃない? 

だって、当時の大気のマナ密度からして、

エクステンション限界が――(略)

――古代文明が滅ぶ切欠になった二度のマナの

冬もあったし――(略)

――マナ半減期の値だって矛盾――(略)

――そもそも表意系古代語の経時進化過程に

三つの素流分枝系統があるのは明らかで――(略)

――要するに紋章象徴学的な意味合いとしての

神と民間信仰の対立が――(略)

――テレックスの神話分解論でも古代文明が

単一文化じゃなくて――(略)

――(略)――(略)――」

 

 

「そ、そうなんだ……」

 

 

食事も忘れてひっきりなしに

まくし立てる銀髪の少女に、

聞き手に徹していた金髪の少女――

ルミアが、少し脂汗を垂らしながら

あいまいな笑みを浮かべていた。

 

 

どうやら二人は魔導考古学議論の

真っ最中(やや一方的だが)らしい。

 

 

魔導考古学とは、

超魔法文明を築いたとされる

聖暦前古代史を研究し、当時の魔導技術を

現代に蘇らせることを目的とする

魔術学問である。その中でも、

特にメルガリウスの天空城に執心する

魔術師達をメルガリアン、

などと呼んだりする。

 

 

どうやら、あの銀髪の少女は

典型的なメルガリアンのようだった。

 

 

「失礼」

 

 

一応、一言断って、

グレンは金髪の少女の正面、

銀髪の少女の対角線上の席に、

どかっと腰を落ち着けた。

 

 

それで銀髪の少女はようやく我に返り、

グレンの存在に気づいたらしい。

 

 

「――ッ!? あ、あ、貴方は――」

 

 

「違います。人違いです」

 

 

 

「システィ…うるさいし、料理に埃が入る」

 

 

 

 

「ご、ごめん…ウィル…」

 

 

 

 

勢いよく席を立ち上がったシスティがグレンに

警戒しているとウィルがシスティに

鋭く冷たい視線を向けて言うと

システィはウィルの言葉を聞いて

悪く思ったのかしゅんとしていた。

 

 

すると

 

 

 

「そうだ‼︎ そうだ‼︎

食事の時ぐらい少し静かんできねェのかよ?」

 

 

 

「貴方にだけは言われたくありません‼︎

それに貴方は生徒の背後に隠れて

恥ずかしくないんですか‼︎」

 

 

 

システィがグレンにそう叫ぶのも

無理はない今、グレンはみっともなくも

ウィルの背後に隠れてシスティに文句を

言ってるまさにダメ人間の見本の極み

そのものの形だった。

 

 

 

「美味ぇ。なんつーか、

この大雑把さが実に帝国式だなぁ……」

 

 

 

 

「だ か ら 私の話を無視しないで下さい‼︎」

 

 

 

システィは大きな声でグレンに言うが

システィの話を全く聞いておらず

ただキルア豆のトマトソース炒めを

スプーンですくって口に含んでいた。

 

 

唐辛子とニンニクが効いた

トマトソースの風味が実に良い。

一方、先刻の事件からこの矢先、グレンの

このふてぶてしい態度に銀髪の少女――

システィーナは小動物みたいに

威嚇させるしかなかった。

そして、かちゃかちゃ、と食器が

鳴る音が響いていく。

 

 

意外なことに、重苦しい沈黙のまま進む、

気まずい食事風景……とはならなかった。

 

 

「あの……先生ってずいぶん、

たくさん食べるんですね? 

ひょっとして食べるの好きなんですか?」

 

 

 

「ん? ああ、

食事は俺の数少ない娯楽の一つだからな」

 

 

 

「ふふっ、その炒め物、すごく美味しそう。

なんだか凄く良い匂いします」

 

 

というのも、グレンの登場により、

すっかり不機嫌そうに押し黙ってしまった

システィーナに代わり、なぜかルミアが

積極的にグレンへ話しかけるからだ。

 

 

あからさまに敵意を向けてくる

システィーナと違い、このルミアという少女は、

どうやら先ほどの事件をあまり禍根に

思っていないようである。

そう言えば、さっきもグレンに対する折檻には

参加してなかったようだった。

 

 

「お、わかるか? ちょうどこの時期、

「学院に今年の新豆が入るんだよ。

更にキルアの新豆は香りが良いんだ。

これを食べるなら今が旬ってやつって

グレン先生は言いたいんじゃないのかな?」」

 

 

グレンは自発的に人に

話しかけるタイプではないが、

話しかけられればそれなりに

きちんと応じるタイプである。

そしてキルア新豆の事を話そうとしていたら

ウィルはグレンの言いたい事全てを目の前で

話していた。

 

 

 

(コイツ…どうして?)

 

 

 

グレンが考え込んでいると二人の会話が

どんどん進んでいく

 

 

 

「そうなんだ? じゃあ、私も今度、

キルア豆の炒め物、食べてみるね」

 

 

「だったら今、グレン先生の学食の

キルア豆のトマトソース炒めを一口もらったら?」

 

 

「え? で、でも…いいのかな? 

私と間接キスになっちゃうけど?」

 

 

少し心配そうな表情をしていたルミアを

見たウィルだが、そんな事を気にせずに

視線をグレンに向ける。

 

 

 

「別に構わないですよね ?グレン先生?」

 

 

 

「ふん……ガキじゃあるまいし」

 

 

呆れたように肩をすくめ、

グレンが豆炒めの皿を差し出す。

ルミアは嬉しそうに自分のスプーンで

一杯それをすくって口に含んだ。

 

 

 

ルミアの気安く人懐っこい物腰や、

常に笑みを絶やさない柔らかな雰囲気も

手伝ったのだろう。グレンも気づかないうちに

口元を笑みの形に緩めていた。

 

 

「……………………」

 

 

だが、その場においてただ一人、

重苦しい雰囲気を放つ少女がいる。

システィーナである。彼女だけはルミアと

グレンの談笑に参加せず、ただ刺々しい視線で

グレンを射抜き続けている。

 

 

「……ところで、そっちのお前。

お前は…と言うか、お前は確か…

ウィル…だっけか?

お前はそんなんで足りるのか?」

 

 

流石にそこまで凝視されている中

グレンはため息混じりにウィルに話しかける。

グレンが心配するのも無理もなかった。

何故ならウィルのテーブルの上にあるのは

『何の味付けもしていない丸いパン』と

『牛乳』ただそれだけだったのだ。

 

 

そんなグレンの言葉にシスティーナも

ウィルのテーブルに乗っている自分よりも

少ない量を見てかなりの動揺でウィルに

言葉を投げる。

 

 

 

「ウィル…貴方それだけで足りるの⁉︎」

 

 

 

「?」

 

 

 

システィはウィルに質問するが

ウィルはただパンをむしゃむしゃと

口に頬張り首をただ傾げるだけだった。

 

 

 

「それとも…ま、まさか‼︎」

 

 

 

 

だが、ウィルのこの反応が

更に誤解と混乱を招くこととなる。

 

 

 

「ウィル、貴方…先生にお金を取られたの?」

 

 

 

 

「へ?」 【ウィル】

 

 

 

「はぁ⁉︎」 【グレン】

 

 

 

システィの酷い勘違いの言葉に

ウィル頬張っていたパンを外して

システィを見て首を傾げて一方、

グレンは椅子をガタリと勢いよく音を

立てながら倒して

 

 

「おいおい‼︎ 何でそんな展開になったんだ⁉︎」

 

 

グレンがシスティに抗議していると

 

 

「先生の日頃の行いが

悪いせいじゃないんですか?」

 

 

 

「んだと‼︎」

 

 

 

グレンは席を立って少女二人の前

の食事に眼を向ける。

ルミアのメニューはポリッジと呼ばれる麦粥と、

香辛料の効いた鳩のシチュー、そしてサラダ…

ルミアが比較的しっかり食べているのに対し、

システィーナのメニューはレッドベリージャムを

薄く塗ったスコーンが二つ、それだけである。

 

 

「だいたいお前、成長期だろ?

ちゃんと食わないと育たないぞ?」

 

 

実際に育ってねーし、

とはこの状況において

流石のグレンも言えなかった。

 

 

「余計なお世話です。私は午後の授業が

眠くなるから、昼はそんなに食べないだけです。

真面目ですから。まぁ、先生にはそんなこと、

関係なさそうですけどね」

 

 

 

システィーナはグレンの前に

並んだ大量の料理を一瞥して言い放った。

 

 

 

 

「システィ…今のシスティを他の人が見たら

間違いなく性格が悪い人に見えるよ?」

 

 

 

ウィルはシスティにそう言うとシスティは

【はっ‼︎】とした表情をして

 

 

「ち、違うのよ‼︎ 私はただ‼︎」

 

 

 

ウィルがシスティにそう言うとシスティは

顔が真っ赤になってウィルやルミア、

そして他の学院の生徒達に必死になって

弁明していた。

 

 

 

 

すると、いつのまにかグレンとシスティーナの

間の重たい空気がウィルの一言で

一瞬にして消えいた。

 

 

すると

 

 

 

「……回りくどいな」

 

 

食事を続けるグレンの声が半オクターブ下がり

面倒くさそうに頭をガリガリと掻いている。

敏感にそれを察知したシスティーナの表情に

緊張が走った。

 

 

「言いたいことがあるなら、

はっきり言ったらどうだ?」

 

 

「……わかりました。

このままだとお互いのためになりませんからね。

この際、はっきりと言わせてもらいます。

私は――」

 

 

システィーナが、きっとグレンを正面から

にらみつけて何か言いかけて……

 

 

「わかった、わかったよ。降参だ。

そんな必死な顔すんなって」

 

 

「……え?」

 

 

 グレンが突然、両手を上げた。

 

 

「そこまで思い詰めていたとは、

流石の俺も予想外だよ……俺の負けだ」

 

 

あっけに取られるシスティーナを前に、

グレンはスプーンでキルア豆を一粒すくうと、

それをシスティーナの口の中に入れた。

 

 

「ほれ、お前も食いたいんだろ? 

そんなにたくさんあるんだから

少しくらい分けろ、だろ? 

……まったく、いやしんぼめ」

 

呆れたようにシスティーナを流し見て、

グレンは食事を再開した。

 

 

「……ち、ち、違いますッ!

 私が言いたいのはそんなんじゃなくて――」

 

 

グレンのひどい勘違いに、

システィーナは顔を真っ赤にして

屈辱に肩を震わせ、机を叩いて立ち上がる。

 

 

だが、グレンはそれに一向にかまうことなく――

 

 

「代わりにそっちも少し寄こせ」

 

 

フォークを伸ばし、ざくりと、

システィーナのスコーンの一つに突き立て、

あっと言う間にかっさらった。

 

 

「うむ、

たまに食うとスコーンも美味いな……」

 

 

「ああ――――ッ!?

何、勝手に取ってるのよ!?」

 

 

「いや、まぁ、等価交換?」

 

 

「ど こ が 等価なの!? 

どこが!? ええい、もう許さないんだから! 

ちょっとそこに直りなさい――ッ!」

 

 

「うぉわッ!? 危っ!? ちょ、おま、

お食事はお静かにお願いします――ッ!?」

 

 

テーブルごしにナイフとフォークで

チャンバラを始めるグレンとシスティーナ。

 

 

何事かと集まる周囲の痛い視線。

ルミアはそれを苦笑いで見守るしかなかった。

 

 

するとウィルは一人だけ意味が分からんと

言った表情を浮かべていた。

それをルミアだけは見逃さなかった。

 

 

 

「どうしたの、ウィル君?」

 

 

 

「ルミア…僕は分からないんだ…」

 

 

 

「分からない…? 何が分からないの?」

 

 

 

ルミアがウィルに聞くとウィルはルミアの顔を見て

 

 

 

「だって、二人共、たかが食事に

あんなに熱くなってる意味が

全く分からないんだ…」

 

 

ウィルがそう言うとルミアはウィルに

 

 

「それはね、みんなで食事をすると

美味しいし、みんなで食事すると親睦を

深めることもできるからだよ‼︎」

 

 

ルミアが笑顔でウィルにそう言うと

ウィルは何かを考え込んでいた。

そしてウィルはルミアを見て

 

 

 

「じゃあ、早速試してみよう」

 

 

 

「え?」

 

 

 

「だって、誰かと食事をすることによって

僕が知りたい疑問の答えが分かるんでしょ?

だったらルミア僕と一緒に食事を

してみたいんだけど…駄目かな?」

 

 

 

ウィルはしゅんとしていた。

それは、まるで捨てられた子犬の様な

表情を浮かべていた。

 

 

 

 

「そ、そんなことないよ‼︎

私もウィル君とはもっともっと、

仲良くしていきたいと思ってたから‼︎」

 

 

「…本当に? 本当に迷惑じゃない?」

 

 

「うん、大丈夫だよ‼︎」

 

 

ルミアが笑顔でウィルにそう言うと

ウィルは安心した表情を浮かべていた。

そして二人は別の席で食事をした。

 

 

因みにその食事以降二人は親睦が

深まり仲良くなったそうだ。

 




読んでいただきありがとうございます‼︎
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よろしくお願いします‼︎


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身勝手な価値観と決闘

皆さんお久しぶりです‼︎
新しいお話です。読んで頂けたら本当に
嬉しいです‼︎


ありていに言えば、非常勤講師としてやって

きたグレン=レーダスという男にはとにかく、

やる気がなかった。

 

 

前任講師の後を引き継ぎ、二年次生二組の必修

授業を全て受け持つことになったグレンだが、

黒魔術に白魔術、錬金術に召喚術、さらに神話学、

魔導史学、数秘術、自然理学、ルーン語学、

占星術学、魔法素材学、魔導戦術論に魔道具

製造術……ありとあらゆる授業が、いい加減で投げ

やりに行われた。

 

 

なぜなのかは誰も知るよしはなかったが、

不真面目に授業をやることに、ムキになっている

節すら感じられた。

 

 

とにかく、この学院に関わる全ての人間達が等しく

持っているはずである魔術に対する情熱、神秘に

対する探究心という物が、グレンにはまるで

なかったのである。

 

 

ゆえにグレンと生徒達、他の講師達の間には

凄まじいまでの温度差が生まれ、余計な軋轢が

生まれた。特にグレンが受け持ったクラスの

リーダー格であるシスティーナは毎日ように

グレンに小言をぶつけた。だが、グレンのやる気

ない態度が改善される気配は一向になかった。

それどころか、むしろ日に日に悪くなっていく

一方であった。

 

 

最初のうちはグレンも教科書の内容を一応説明し、

要点を一応黒板に書き、授業のようなものを

一応していた。だが、そのうち面倒臭くなった

らしい。

 

それが段々、黒板に教科書の内容をそっくり

そのまま書き写すだけの作業になった。やがて、

それも面倒臭くなったのか、ちぎった教科書の

ページを黒板に貼りつけていくようになった。

 

 

最終的にそれすらも面倒臭くなったらしい。

グレンが黒板に教科書を釘で直接打ちつけ始めた

時、とうとうシスティーナの怒りは頂点に達した。

 

 

グレンの講師着任から一週間、その日、最後の授業

となる第五限目のことである。

 

 

「いい加減にして下さいッ!」

 

 

システィーナは机を叩いて立ち上がった。

 

 

「む? だから、

お望み通りいい加減にやってるだろ?」

 

 

グレンは抜け抜けとそんなことを言い放ち、

教科書を黒板に打ちつける作業を堂々と続けて

いる。金槌を肩に担ぎ、釘など口にくわえている

姿はまるで日曜大工だ。

 

 

「子供みたいな屁理屈こねないで!」

 

 

肩を怒らせ、システィーナは教壇に立つグレンに

ずかずかと歩み寄っていく。

 

 

「まぁ、そうカッカすんなよ? 白髪増えるぞ?」

 

 

「だ、誰が怒らせていると思っているんですか⁉︎」

 

 

「ほら、そんなに怒るからその歳でもう白髪

だらけじゃないか……可哀想に」

 

 

 

 

「えっ…?その髪って、白髪なんですか?

僕はてっきり…システィのその髪は銀色の髪の毛

だと思っていたのに…」

 

 

 

グレンがシスティにそう言うとウィルは

グレンの言葉を鵜呑みしてシスティを見ると

 

 

「これは白髪じゃなくて銀髪です!

本当に哀れむような顔で私を見ないで!

ああ‼︎もう‼︎ウィル、貴方もそんな目で見ないで‼︎

こんなこと、言いたくありませんけど、先生が

授業に対する態度を改める気がないと言うなら、

こちらにも考えがありますからね!?」

 

 

「ほう? どんなだ?」

 

 

「私はこの学院にそれなりの影響力を持つ魔術の

名門フィーベル家の娘です。私がお父様に進言

すれば、貴方の進退を決することもできる

でしょう」

 

 

 

「……」

 

 

 

 

「え……マジで?」

 

 

「マジです! 本当はこんな手段に訴えたく

ありません! ですが、貴方がこれ以上、授業に

対する態度を改めないと言うならば――」

 

 

 

システィがグレンにそう言っていると隣にいた

ウィルは光のない瞳で二人の会話をただ単に

つまらなそうに見ていると

 

 

 

 

「お父様に期待してますと、

よろしくお伝え下さい!」

 

 

グレンは紳士の微笑を満面に浮かべていた。

 

 

「――な」

 

 

このグレンの反応に、システィーナは言葉を

失うしかない。

 

 

「いやー、よかったよかった! これで一ヶ月

待たずに辞められる!白髪のお嬢さん、俺のため

に本当にありがとう!」

 

 

「貴方って言う人は――ッ!」

 

 

 

(システィ…相変わらずうるさい…

そして、とても暑苦しい…)

 

 

 

ウィルがそう思うなかもうシスティーナの忍耐も

限界だった。

 

 

システィーナには、このグレンという男が本当に

講師を辞めたくてそんなことを言ったのか、

それともフィーベル家の力を侮っているだけなのか

は判断がつかない。

 

 

だが、どちらにせよシスティーナはもはや、

このグレンという男の素行を看過することは

できなかった。魔術の名門として誇り高き

フィーベルの名において、魔道と家の誇りを汚す者

を許しておくわけにはいかない。ゆえに決断は

早かった。システィーナ自身の若さと未熟さも

それを後押しした。

 

 

システィーナは左手に嵌めた手袋を外し、

それをグレンに向かって投げつけた。

 

 

「痛ぇ!?」

 

 

手首のスナップをきかせて放たれた手袋は、

グレンの顔面に当たって床に落ちる。

 

 

「貴方にそれが受けられますか?」

 

 

しん、と静まり返る教室の中、システィーナは

グレンを指差し、力強く言い放った。

 

 

その様子を注視していたクラス中から、徐々に

どよめきがうねり始める。

 

 

「お前……マジか?」

 

 

グレンも眉をひそめ、柄になく真剣な表情で床に

落ちた手袋を注視している。

 

「私は本気です」

 

 

グレンを険しくにらみつけるシスティーナの元へ、

ルミアが駆け寄った。

 

 

「し、システィ! だめ!

 早くグレン先生に謝って、手袋を拾って!」

 

 

だが、システィーナは動かない。

烈火のような視線でグレンを射抜き続ける。

 

 

「……お前、何が望みだ?」

 

 

その視線を受け、グレンが半眼で静かに問う。

 

 

「その野放図な態度を改め、真面目に授業を

行ってください」

 

 

「……辞表を書け、じゃないのか?」

 

 

「もし、貴方が本当に講師を辞めたいなら、

そんな要求に意味はありません」

 

 

「あっそ、そりゃ残念。だが、お前が俺に要求

する以上、俺だってお前になんでも要求していい

ってこと、失念してねーか?」

 

 

「承知の上です」

 

 

途端に、グレンが苦虫を噛みつぶしたような、

呆れたような表情になる。

 

 

「……お前、馬鹿だろ。嫁入り前の生娘が

何言ってんだ? 親御さんが泣くぞ?」

 

 

「それでも、私は魔術の名門フィーベル家の

次期当主として、貴方のような魔術をおとしめる

輩を看過することはできません!」

 

 

「あ、熱い……熱過ぎるよ、お前……だめだ……

溶ける」

 

 

グレンはうんざりしたように頭を押さえて

よろめいた。クラス中がハラハラしながら逼迫した

二人の動向を見守っている。

 

 

グレンはシスティーナを見た。強気に見せても

システィーナの身体は緊張でこわばっていた。

それもそのはずだ。これから行う魔術儀礼の

結果次第では、システィーナはグレンに何を要求

されても文句は言えないのだから。だが、それでも

システィーナはグレンに立ち向かったのだ。魔術へ

の信念と、血の誇りにかけて。システィーナ=

フィーベルはこの年齢にして誰よりも何よりも

一流の魔術師だったらしい。

 

 

「やーれやれ。こんなカビの生えた古臭い儀礼を

吹っかけてくる骨董品がいまだに生き残っている

なんてな……いいぜ?」

 

 

グレンは底意地悪そうに口の端を吊り上げた。

床に落ちている手袋を拾い上げ、それを頭上へと

放り投げる。

 

 

「その決闘、受けてやるよ」

 

 

そして、眼前に落ちてくる手袋を横に薙いだ手で

格好良くつかみ取ろうとして――失敗。グレンは

気まずそうに手袋を拾い直した。

 

 

「ただし、流石にお前みたいなガキに怪我を

させんのは気が引けるんでね。この決闘は黒魔の

【ショック・ボルト】の呪文のみで決着をつける

ものとする。それ以外の手段は全面禁止だ。

いいな?」

 

 

クラス中が固唾を呑む中、グレンはルールを

提示する。

 

 

「決闘のルールを決めるのは受理側に優先権が

あります。是非もありません」

 

 

「で、だ。俺がお前に勝ったら……そうだな?」

 

 

グレンはシスティーナを頭の天辺からつま先まで

舐め回すように見つめる。そして、顔を近づけ、

にやりと口の端を吊り上げて粗野な笑みを見せた。

 

 

「よく見たら、お前、かなりの上玉だな。

よーし、俺が勝ったらお前、俺の女になれ」

 

 

「――っ!」

 

 

その一瞬。ほんの一瞬だけ、システィーナが

慄いた。ルミアも息を呑んで青ざめた。こんな

要求があるかもしれないことは、システィーナも

覚悟していたはずだ。が、それでもいざそんな

取り返しのつかない言葉を聞くと思わず弱気が

表に出たのだろう。

 

 

「わ、わかりました。受けて立ちます」

 

 

そんな一瞬の弱気を恥じるかのように気丈に搾り

出した言葉もほんの少し震えていた。

 

 

グレンはシスティーナが微かな後悔と恐怖を

強気の仮面で必死に取り繕い、一生懸命にらみ

つけてくる様をじっくりと堪能し、突然、腹を

抱えて笑い出した。

 

 

「だははははッ! 冗談だよ、冗談! 

そんな今にも泣きそうな顔すんなって!」

 

 

「……っ!」

 

 

「ガキにゃ興味ねーよ。だから俺の要求は、

俺に対する説教禁止、だ。安心したろ?」

 

 

その言葉をそばで聞いていたルミアは胸をなで

下ろし、ほっと息をついた。

 

 

「ば、……馬鹿にして!?」

 

 

一方、自分がからかわれていたことを知った

システィーナは、顔を真っ赤にしてグレンに

食ってかかった。

 

 

「ほら、さっさと中庭行くぞ?」

 

 

それを適当にいなし、グレンは教室を出て行く。

 

 

「ま、待ちなさいよッ! 

もう、貴方だけは絶対に許さないんだから!」

 

 

肩を怒らせてシスティーナはグレンの背中を

追った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(くだらない……)

 

 

 

ウィルはグレン達の先程の行動や発言を眺めて

更に(全く、その程度で…)と内心で呟いて

興味無さげに死んだ魚の様な瞳になっていた。

 

 

 

 

 

魔術師の決闘。それは古来より、連綿と続く

魔術儀礼の一つである。魔術師とは世界の法則を

極めた強大な力を持つ者達だ。呪文と共に放つ

火球は山を吹き飛ばし、落とす稲妻は大地を割る。

彼らが野放図に争いあえば国が一つ滅びる。

 

 

そんな魔術師達が互いの軋轢を解決するために、

争い方に一つの規律を敷いた。それが決闘である。

心臓により近い左手は魔術を効率良く行使するのに

適した手であり、その左手を覆う手袋を相手に

向かって投げつける行為は、魔術による決闘を

申し込む意思表示となる。そして、その手袋を

相手が拾うことで決闘が成立する。もし、相手が

手袋を拾わなければ決闘は成立しない。

 

 

決闘のルールは決闘の受け手側が優先的に決める

ことができ、決闘の勝者は自分の要求を相手に

一つ通すことができる。

 

 

この決闘方式を見ればわかる通り、決闘とは決闘

を申し込む側より受ける側に相当の有利がつく。

天と地ほどの実力差がない限り、誰もが安易に

決闘を仕掛けることをためらう。

 

 

古来より魔術師達は、こうやって魔術による私闘

を極力律してきたのである。

 

 

だが、この決闘も帝国が近代国家として法整備を

行った現在では形骸化された魔術儀礼に過ぎず、

魔術師同士の争いを決闘で解決するなどと言う

事態はめったに起こることではない。そんなこと

をするなら弁護士を雇って法廷で争う方がよほど

効率的で拘束力がある。それでも古き伝統を守る

生粋の魔術師達の間では今もなお、決闘は行われ

続けている。例えば――魔術の名門フィーベル家

の令嬢、システィーナのように。

 

 

等間隔に植えられた針葉樹が囲み、敷き詰められた

芝生が広がる学院中庭にて。グレンとシスティーナ

の二人は互いに十歩ほどの距離を空けて向かい

合っていた。

 

 

「ねぇ、カッシュ。君はどっちが勝つと思う?」

 

 

「心情的にはシスティーナなんだけど……

でも、相手はあのアルフォネア教授、イチ押しの

奴だからな……うーん……セシルはどう思う?」

 

 

 

クラスの生徒たちがコソコソと噂していると

 

 

 

「ねぇ…ウィル君?」

 

 

 

「…なに? ルミア…?」

 

 

 

ウィルが頭を傾げて無表情で答えると

 

 

 

「グレン先生とシスティの件なんだけど……」

 

 

 

ルミアがもじもじしながらウィルに質問していた。

そしてウィルはルミアの表情や仕草を見て自分に

一体、何を聞いたいのかが一瞬にして分かった。

 

 

 

 

 

「二人のうち、どちらが勝つかって事をルミアは

僕に聞きたいんだよね?」

 

 

 

「‼︎……そ、それは……」

 

 

 

ルミアが険しい顔をしていると

 

 

 

 

「…大丈夫、システィが勝つよ…」

 

 

 

「えっ⁉︎ ど、どう言う事なの⁉︎」

 

 

 

 

ルミアがウィルに慌てて聞くとウィルは

席を立って

 

 

 

 

「見れば分かると思うよ?」

 

 

 

ウィルはルミアに興味なさげにそう言うと

教室の扉を開けて図書室に向かって行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クラスの生徒達や、講師と生徒が魔術決闘を行う

という噂を聞きつけて集まった野次馬達が二人を

遠巻きに取り囲み、そこはさながら即席の闘技場

のようだった。

 

 

 

 

(ウィル君はあぁ言ってたけどあれは一体……)

 

 

 

 

ルミアはさっきのウィルの言葉意味を考えていると

 

 

 

 

「さて、いつでもいいぜ?」

 

 

グレンは指を鳴らしながら余裕の表情で

システィーナを睥睨している。

 

 

対するシスティーナはグレンの挙動を注視

しながら油断なく身構えている。その額を脂汗が

伝い落ちた。

 

 

黒魔【ショック・ボルト】は、この魔術学院に入学

した生徒が一番初めに手習う初等の汎用魔術だ。

微弱な電気の力線を飛ばして相手を撃ち、その相手

を電気ショックで麻痺させて行動不能にする、

殺傷能力を一切持たない護身用の術である。

 

 

呪文を唱えれば、指差した相手を目掛けて指先から

真っ直ぐに輝く力線が飛ぶ。なんの奇もてらわない

ストレートな術なだけに、【ショック・ボルト】

の撃ち合いの勝敗は、いかに相手より早く呪文を

唱えるかの否かの一点に集約される。

 

 

「ほら? どうした? かかってこないのか?」

 

 

「……くっ!」

 

 

基本的に魔術戦は後の先を取るのが定石とされる。

現在の魔術には、あらゆる攻性呪文

(アサルト・スペル)に対し無数の対抗呪文

(カウンター・スペル)が存在するからだ。だが、

このグレンという男は【ショック・ボルト】の呪文

しか使えないこの決闘において、システィーナに先

に動くことを促している。呪文を速く唱えること

が勝敗を分けるこの決闘で、だ。考えられること

はただ一つ、グレンという男は恐らく、自身の

【ショック・ボルト】の詠唱速度に絶対の自信を

持っているのだ。

 

 

 

システィーナが先に最速で呪文を唱えても、それに

競り勝てるくらいに節と句を切り詰めた詠唱呪文を

持っているのだ。

 

 

察するに、このグレンと言う男は魔術戦に特化した

魔術師なのだろう。そう考えれば、どうしてこんな

ロクでもない男が講師として学院に招かれたのか

一応の辻褄は合う。全くなんの見所のない魔術師が

この学院で講師をできるわけがないのだから。

 

 

魔術を研究する腕前と魔術を実践する腕前は違う。

魔術師としての位階は低くとも、魔術戦においては

恐ろしく強かった魔術師は歴史を紐解けばいくら

でもいる。

 

 

「おいおい、何も取って喰おうってわけじゃね

ーんだ。胸貸してやっから気楽にかかってきな?」

 

 

そう思い至ると、この余裕も歴戦の魔術師然と

したものに見えてくる。

 

グレンの言動が許せなかったとは言え、衝動的に

決闘を申し込んだことをシスティーナは少し後悔

した。

 

 

(でも、退けないわ)

 

 

システィーナは目前で余裕しゃくしゃくに構える

グレンを鋭くにらみつける。

 

 

(私が私である以上、こんな男を野放しにする

わけにはいかないわ。例え無様に地を舐めること

になっても、私はこいつに否を突きつける。それが

私の魔術師としての誇り。……行くわよ!)

 

 

覚悟を決め、システィーナはグレンを指差し、

呪文を唱えた。

 

 

「《雷精の紫電よ》――ッ!」

 

 

刹那、システィーナの指先から放たれた輝く力線が

真っ直ぐグレンへ飛んでいき――

 

 

 グレンは得意げな顔でそれを受け――

 

 

「ぎゃあああああ――っ!?」

 

 

バチンッと電気が弾ける音。グレンはびくんッと

身体を痙攣させ、あっさりと倒れ伏した。

 

 

「……あ、あれ?」

 

 

システィーナは指を突き出した格好のまま硬直し、

脂汗を垂らした。

 

 

目の前にはシスティーナの呪文によって無様に

地を舐めるグレンの姿がある。

 

 

「これって……?」

 

 

「あ、ああ……システィーナの勝ち……

だよな……?」

 

 

決闘を遠巻きに眺めていた者達もこの結末に

ざわめいている。まさか、あれほどの大口を

叩いて、あれほど大物ぶっておいて、この程度

なのか。この男は実戦に特化した魔術師じゃ

なかったのか。

 

 

「わ、私……なんかルール間違えた?」

 

 

助けを求めるようにシスティーナはルミアを

振り返るが、ルミアは困ったように首を振る

だけだ。

 

 

「ひ……卑怯な……」

 

 

と、その時、ようやく呪文のダメージから回復した

グレンがよろよろと起き上がる。

 

 

「あ、先生」

 

 

「こっちはまだ準備できてないというのに

不意討ちで先に仕掛けてくるとは……お前、

それでも誇り高き魔術師か!?」

 

 

「え? いや、でも、いつでもかかって来て

いいって……」

 

 

「まぁいい。この決闘は三本勝負だからな。

一本くらいくれてやる。いいハンデだろ?」

 

 

「は? 三本勝負? 

そんなルールありましたっけ?」

 

 

「さぁ行くぞ! 二本目! いざ尋常に勝負だッ!」

 

 

強引に二本目の勝負が始まった。あっけに取られる

システィーナの前で、今度はグレンが先に動いた。

 

 

「《雷精よ・紫電の衝撃以て・撃――」

 

 

「《雷精の紫電よ》――ッ!」

 

 

グレンの呪文が完成するより早く、システィーナの

呪文が完成した。

 

 

「うぎょぉおおおおお――ッ!?」

 

 

バチバチと派手な音を立てて感電するグレン。

再び地面に倒れ、ぴくぴくと身体をけいれんさせて

いる。さっきの光景の焼き直しだった。

 

 

「や、やるじゃねーか……」

 

 

よろよろとグレンが立ち上がる。膝はがくがくと

笑っており、見るからにやせ我慢だ。

 

 

「あの……グレン先生?」

 

 

「ふっ。いくらこの勝負が五本勝負だからって、

ちょっと遊び過ぎたかな。俺、反省」

 

 

「さっき、三本勝負だって……」

 

 

 ジト目でシスティーナがぼやいたその時だ。

 

 

「あああああ――ッ!?」

 

 

 グレンが突然、声を張り上げる。

 

 

「嘘だろ!? 

あんな所に女王陛下がいらっしゃるぞ――ッ!?」

 

「えっ!?」

 

 

グレンが指差したあさっての方向を、システィーナ

は思わず目で追った。

 

 

「ふはは、かかったなアホが!

 《雷精よ・紫電の衝撃以て・撃ち倒――」

 

 

「《雷精の紫電よ》――ッ!」

 

 

 グレンの呪文が完成するより早く、やはり

システィーナの呪文が完成した。

 

 

「ぴぎゃぁあああああああああ――ッ!?」

 

 

ビリビリと感電し、のたうち回るグレン。

システィーナはこめかみを押さえながら言う。

 

 

「あの……ひょっとしてグレン先生って……」

 

 

「か、構えろ! まだ終ってないぞ!? 

なにせ七本勝負なんだからなッ!」

 

 

「はぁ……」

 

 

「《雷精よ・紫電の衝撃以て・撃ち――」

 

 

「《雷精の紫電よ》」

 

「ずぎゃぁああああああああ――ッ!?」

 

 

 …………。

 

 

グレンが呪文を唱える。だが、それよりもいち早く

システィーナが呪文を完成させ、グレンを撃ち

倒す。この単純作業が以下、延々と続いた。と

言うのも、グレンが長々とした呪文を詠唱しようと

するので、どんな奇策を用いようともシスティーナ

が唱える短い呪文の方が早く完成するのだ。

 

 

そして、グレンが四十七本勝負と言い張った一戦

が終った時。

 

 

「すみません。無理です。許して下さい。

もう立てません。ていうかこれ以上続けるとボク、

何かに目覚めちゃいます」

 

 

「はぁ……」

 

 

システィーナは大の字で痙攣するグレンを

見下ろしながら、深いため息をついた。

 

 

「いやー、一対一の【ショック・ボルト】のみでの

勝負なんて俺に超滅茶苦茶不利な不公平ルール

だからなーッ! こんなルールじゃなかったら

俺が圧倒的に圧勝したんだけどなーッ!」

 

 

「先生って本当に口が減りませんね」

 

 

 もはや、呆れるしかない。

 

 

「そもそも、さっきから三節詠唱ばかり……

ひょっとしてですが…グレン先生って、

【ショック・ボルト】の一節詠唱ができない

んですか?」

 

 

 

「ふ、ふはは、な、なんのことだか、わわわ私には

サパーリ!? そもそも呪文を省略する一節詠唱

なんて邪道だよね!先人が練り上げた美しい呪文に

対する冒涜だよね!別にできないからそう言って

いるわけじゃなくて!」

 

 

「できないんだ……」

 

 

あまりもの情けなさにシスティーナは泣きたく

なってきたが、気を取り直して当初の目的を

思い出す。

 

 

「と、とにかく決闘は私の勝ちです!

だから私の要求通り、先生は明日から――」

 

 

「は? なんのことでしたっけ?」

 

 

「え?」

 

 

予想外の返答にシスティーナは硬直する。

 

 

「俺達、なんか約束とかしましたっけ? 

覚えてないなぁ~? 誰かさんのせいで、

いっぱい電撃に撃たれたしなー?」

 

 

そう、目の前のグレンという男はシスティーナの

想定を超えて遥かに最低だった。

 

 

このグレンの物言いに、システィーナは流石に

色めき立った。

 

 

「先生……まさか魔術師同士で交わした約束を

反故にするって言うんですか!?貴方、それでも

魔術師の端くれですか!?」

 

 

「だって、俺、魔術師じゃねーし」

 

 

「な……」

 

 

ぬけぬけとそんなことを言ってのけるグレンに、

システィーナはもう絶句するしかない。

 

 

「魔術師じゃねー奴に魔術師同士のルール

持ってこられてもなー、ボク、困っちゃう」

 

 

「貴方、一体、何を言ってるの……ッ!?」

 

 

システィーナにはもうこのグレンという男が全く

理解できなかった。まさか、魔術の薫陶を受けた

身でありながら、魔術師であることを否定する

とは。この男には魔術師であることに対する誇り

はないのか。魔術という世界の神秘を紐解く崇高

なる智慧に対する敬意は欠片もないと言うのか。

 

 

「とにかく今日の所は超ぎりぎり紙一重で

引き分けということで勘弁しておいてやる! 

だが、次はないぞ! さらばだ! 

ふははははははははははは――ッ! ぐはっ!」

 

 

まだ身体にダメージが残っているらしい。グレン

は何度も転びながら、それでも高笑いだけは

一人前に走り去って行く。

 

 

後に残されたのは、しらけきった観客達ばかりだ。

 

 

「なんなんだよ、あの馬鹿」

 

 

「まさか【ショック・ボルト】みたいな初等呪文

すら一節詠唱できないなんてね」

 

 

「ふん、見苦しい人ですわね……」

 

 

「魔術師同士の決め事を反故にするなんて

最低……」

 

 

誰も彼もがグレンを酷評する中、ルミアは心配

そうにシスティーナの隣に歩み寄る。

 

 

「大丈夫? システィ。怪我はない?」

 

 

「私は大丈夫……だけど」

 

 

システィーナは険しい表情でグレンが走り去った

方を見つめていた。

 

 

「心底、見損なったわ」

 

 

まるで親の敵のようにうめく。

 

 

システィーナはこう見えてグレンという男に一応の

敬意を払っていた。グレンは先達の魔術師だ。

確かに講師としてのやる気はないようだったけど、

同じ魔術を志す者として、それでも何か学べるもの

があるはずだと思っていたのだ。だが、自分でも

嫌というほど分かるもうだめだ。あの男だけは

許せなくなった。

 

 

あの男は魔術を侮辱している。あの男がこの学院

にいる限り、自分とあの男は不倶戴天の敵同士だ。

 

「グレン先生……」

 

 

ルミアはウィルの言葉通りの結果に驚きながらも

激しく憤る親友を前に、ただ途方に暮れるしか

なかった。




読んで頂きありがとうございます‼︎
これからもロクアカシリーズを
よろしくお願いします‼︎


天華百剣斬、なかなか出ない…_:(´ཀ`」 ∠):


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矛盾だらけの世界

作品投稿が遅くなってしまい本当にすみません‼︎
ロクでなし魔術講師と禁忌の教典12巻発売記念して
投稿させていただきました‼︎ 作品を頑張って投稿
ができるのも皆さんの応援のお陰です‼︎



お気に入り『70人』としおり『18人』
ありがとうございます!


更に『評価』、『お気に入り』、
『しおり』、『感想』などありましたら
是非、よろしくお願いします。




評価が伸びてほしいよ‼︎ってか、
とにかく沢山‼︎沢山‼︎ほしいでござる‼︎


グレンの学院内における評判を地におとしめた

決闘騒動から三日が経った。グレンの授業に対する

やる気のなさは相変わらずで、学院内の生徒達の

評判はすこぶる悪い。だが、当のグレンは

なんの負い目もないようだ。

のんべんだらりと日々をこなしていた。

 

 

やがて生徒達はグレンの授業中に、自由に自習を

するようになる。元々学習意欲の高い者達ばかり

なので、グレンの怠惰な授業で時間を無駄に

したくないのだ。生徒達は皆、思い思いに魔術の

教科書を広げ、思い思いに必死になって勉強に

励んでいる。そんな生徒達の様子を見て、グレン

も何一つ小言や文句は言わない。いつの間にか

それがグレンと生徒達との間での暗黙の了解に

なっていた。

 

 

 

「はーい、授業始めまーす」

 

 

その日もグレンはいつものように大幅に授業に

遅刻してやって来た。そして、死んだ魚のような

目で、やる気のない授業を始める。生徒達はため息

をついて、教科書を開き、自習の準備に入る。

実にいつもの光景だが、 こんなやる気のない授業

から、まだ何かを学ぼうとする健気で真面目な生徒

がいたらしい。

 

 

「あ、あの……先生。

今の説明に対して質問があるんですけど……」

 

 

授業開始から三十分ほど経過した頃、おずおずと

手を上げる小柄な女学生がいた。初日の授業で

グレンに質問し、あっさりあしらわれてしまった

少女――リンだ。

 

 

「あー、なんだ? 言ってみ?」

 

 

 

「え、えっと……その……今、先生が触れた

呪文の訳がよくわからなくて……」

 

 

するとグレンは、面倒臭そうにため息をついて、

教卓の上に置いてあった本を一冊拾い上げた。

 

 

「これ、ルーン語辞書な」

 

 

「……え?」

 

 

「三級までのルーン語が音階順に並んでるぞ。

ちなみに音階順ってのは……」

 

 

グレンがルーン語辞書の引き方を

解説し始めた時、グレンに関しては

もう無関心を決め込むつもりだった

システィーナも流石に黙っていられなくなり、

立ち上がる。

 

 

「無駄よ、リン。

その男に何を聞いたって無駄だわ」

 

 

 

「あ、システィ」

 

 

質問をしたリンは、グレンとシスティーナに

挟まれて所在なさげにおろおろする。

 

 

 

「その男は魔術の崇高さを何一つ

理解していないわ。むしろ馬鹿にしてる。

そんな男に教えてもらえることなんてない」

 

 

「で、でも……」

 

 

「大丈夫よ、私が教えてあげるから。

一緒に頑張りましょう?

あんな男は放っておいていつか一緒に

偉大なる魔術の深奥に至りましょう?」

 

 

 

 

システィーナがうろたえるリンを

安心させるように、笑いかけたその時だ。

 

 

 

 

「…うっ!」

 

 

 

ウィルは一番後ろの席で頭を押さえて

痛みに抗っているとまるでテレビの砂嵐のように

嫌なノイズが響いて頭痛がウィルを襲う。

 

 

 

(こ、これは……)

 

 

頭の痛みに苦しんでいるとウィルは

頭の中でノイズの砂嵐の中微かながら

途切れ途切れの映像のように浮かんでくる。

 

 

「こ■の■の■■は■■が■こ■し■のか?」

 

 

 

「■■っ■、■■■君‼︎」

 

 

ウィルの記憶の中では男性の遠慮無しの質問に

女性は慌てながら止めようとしていた。

 

 

 

「【■■】……■が■■■……」

 

 

 

 

 

(な、なんだ…これは…)

 

 

 

 

ウィルは疼く頭の痛みを押さえていると

グレンと言うその男の心の琴線に触れたのか。

 

 

 

「魔術って……そんなに偉大で崇高なもんかね?」

 

 

ぼそりと、グレンが誰へともなくこぼしていた。

それを聞き流せるシスティーナではない。

 

 

 

「ふん。何を言うかと思えば。

偉大で崇高なものに決まっているでしょう? 

もっとも、貴方のような人には

理解できないでしょうけど」

 

 

 

鼻で笑い、刺々しい物言いでばっさりと

システィーナは切り捨てた。

 

 

 

普段の怠惰で無気力なグレンならば、

「ふーん、そんなものかね?」などと

ぼやいてこの話は終ったはずだ。 だが――

 

 

「何が偉大でどこが崇高なんだ?」

 

 

その日はなぜか食い下がった。

 

 

「……え?」

 

 

想定外の反応にシスティーナも戸惑う。

 

 

「魔術ってのは何が偉大でどこが崇高なんだ? 

それを聞いている」

 

 

 

「そ、それは……」

 

 

 

即答できない自分にシスティーナは苛立った。

確かに魔術は偉大だ崇高だとは周りを取り巻く

人間がそう連呼するから、そういうものだと

認識していた節もある。

 

 

「ほら。知ってるなら教えてくれ」

 

 

だが、決してそれだけでもない。

呼吸を置いて言葉をまとめ、

自信をもって返答する。

 

 

 

「魔術はこの世界の真理を追究する学問よ」

 

 

 

「……ほう?」

 

 

「この世界の起源、この世界の構造、

この世界を支配する法則。魔術はそれらを

解き明かし、自分と世界がなんのために

存在するのかという永遠の疑問に答えを

導き出し、そして、人がより高次元の

存在へと到る道を探す手段なの。

それは、言わば神に近づく行為。

だからこそ、魔術は偉大で崇高な物なのよ」

 

 

自分では改心の返答だと

システィーナは思っていた。

だから、返ってきたグレンの言葉は

不意討ちだった。

 

 

 

「……なんの役に立つんだ? それ」

 

 

「え?」

 

 

「いや、だから。

世界の秘密を解き明かした所でそれが

一体なんの役に立つんだ?」

 

 

 

 

「だ、だから言っているでしょう!? 

より高次元の人間に近づくために……」

 

 

 

「より高次元の人間ってなんなんだよ?

『神様か?』」

 

 

 

「……それは」

 

 

 

即答できない悔しさにシスティーナは

打ち震えていた。そんなシスティーナに、

グレンはつまらなさそうに追い討ちをかける。

 

 

 

 

「そもそも、

魔術って人にどんな恩恵をもたらすんだ? 

例えば医術は怪我や病から人を救うよな? 

冶金技術は人に鉄をもたらした。

農耕技術がなけりゃ人は空腹に耐え切れずに

ただ飢えて死んでいただろうし、建築術のおかげで

人は快適に暮らせる。この世界で術と名付けられた

物は大体人の糧になって役に立つが、魔術だけは

この世界で全くもってなんの役にも立ってないのは

俺の気のせいか?」

 

 

 

グレンの言うことはある意味真実だ。

魔術を使うことができ、魔術の恩恵を

受けられるのは魔術師だけだ。

魔術師でない者は魔術を使えないし、

魔術の恩恵は受けられない。

まるで当たり前のことだが、

魔術が人の役に立てない最大の理由だ。

魔術は冶金技術や農耕技術のように、

その行使が直接的に広く人の益となる性質の

技術ではないのである。そもそも、魔術は

秘匿されるべきものだという思想が、

大多数の魔術師達の共通認識であり、

魔術の研究成果が一般人に還元されることを

頑として妨げている。ゆえに今でも魔術は多くの

人々にとっては不気味で恐ろしい悪魔の力であり、

普通に生きていく分には見ることも触れることも

ない代物だ。そう、事実として魔術は人々に

直接役に立っているとは言えない。魔術を一般人の

俗物極まりない視点で切り捨てた意見ではあるが、

それは厳然たる事実だった。

 

 

 

「魔術は……人の役に立つとか、

立たないとかそんな次元の低い話じゃないわ。

人と世界の本当の意味を探し求める……」

 

 

 

「でも、なんの役にも立たないなら実際、

ただの趣味だろ。苦にならない徒労、

他者に還元できない自己満足。魔術ってのは

要するに単なる娯楽の一種ってわけだ。 違うか?」

 

 

 

システィーナは歯噛みするしかなかった。

どうしてこの程度の俗物的な意見すら

切り返せないのか。あっさりと圧倒的に

言い負かされてしまっているのか。

 

 

誇り高きフィーベル家の次期当主として、

魔術に全てを捧げてきたこれまでの人生を

真っ向から論破されて否定されているというのに、

何をどうやってもこのグレンという男の言を

崩せそうにない。一応、この男は一つの堅い事実の

上に論陣を張っているからだ。あまりもの悔しさに

システィーナが唇を震わせていると……

 

 

 

「悪かった、嘘だよ。

魔術は立派に人の役に立っているさ」

 

 

「……え?」

 

 

グレンの突然のわざとらしい意趣返しに

システィーナはもちろん、 固唾を呑んで

二人の様子を見守っていたクラスの生徒一同も

目を丸くする。

 

 

 

だが、一人を除いては……

 

 

 

 

「あぁ、魔術は凄ぇ役に立つさ……

「『人殺しに特化した殺人の道具だから…』」」

 

 

「……は?」

 

 

 

酷薄に細められたその暗い瞳、

薄ら寒く歪められた口から紡ごうとした

グレンは自分以外の声が聞こえて情け無い声を

あげて聞こえる方に視線を向けると虚で光が無い

冷たい瞳で後ろの席から立っていたウィルは

コツコツとゆっくりと足音を立ててシスティと

グレンがいる教壇の近くまで来ていた。

 

 

「て、テメェは…確か…」

 

 

ウィルのその言葉は、クラス中の生徒達や先程

ヘラヘラしてたグレンを心胆から凍てつかせた。

その姿は……ルミア達みんながが知っている

普段のウィルとはまるで別人のようだった。

 

 

 

「な、何を言ってるの…ウィル……?」

 

 

システィも今の状態を理解出来ずに

恐る恐ると質問する。

 

 

「別に…驚く事じゃないよ、システィ…僕はただ、

ありのままの『事実』を口にして言っただけだよ…

それに『あの人』が言っていたように現実を見ずに

崇高だの、孤高などと絵空事ばかりの都合のいい

甘ちょろい夢ばかりで他の魔術師達が言う様な事を

この学院の先生やシスティやクラスのみんなが

口を揃えて何度も何度も言ってるから少し呆れて

みんな幼稚だなぁってただ思っただけだけど…?

 

 

 

 

「んだと‼︎」

 

 

 

「私達が幼稚だって言いたいんですの‼︎」

 

 

 

 

ウィルがシスティやクラスのみんなにそう言うと

ウィルのその言葉が気に入らなかったのか最初に

声をあげたのはカッシュとウェンディだった。

しかし、ウィルはそんな二人の声を気にせずに

更に話しを続ける。

 

 

 

 

 

 

 

「みんなも少しぐらい頭を捻って考えてみなよ?

実際、魔術ほど人殺しに優れた術は他にないよ?

剣術が人を一人殺している間に魔術は何十人も

簡単にあっさりと魔術を詠唱するだけで殺せる。

戦術で統率された一個師団を魔導士の一個小隊は

戦術など、まるごと一瞬にして焼き尽くす。

ほら、立派に役に立つし分かりやすいでしょ?」

 

 

「ふざけないでッ!」

 

 

 

流石に看過できなかった。

魔術を無価値と断じられるならまだしも、

外道におとしめられるのは我慢ならない。

 

 

 

「魔術はそんなんじゃない! 魔術は――」

 

 

 

「システィ、この国の現状を冷静に見なよ。

この国は魔導大国なんて呼ばれているけど、

他国から見てそれはどういう意味だと思う?

帝国宮廷魔導士団なんていう物騒な連中に

毎年、莫大な国家予算が突っ込まれているのは

どうしてだと思う?」

 

 

 

「そ、それは――」

 

 

「システィ達の大好きな古くから伝わる伝統の

決闘にルールができたのはなんのためだと思う? 

僕達が手習う汎用の初等魔術の多くがなぜか

攻性系の魔術だった意味は何の為だと思う?」

 

 

 

「――それは」

 

 

「システィ達の大好きな魔術が、二百年前の

『魔導大戦』、四十年前の『奉神戦争』で一体、

何をやらかしたと思う? 近年、この帝国で

外道魔術師達が魔術を使って起こす凶悪犯罪の

年間件数と、そのおぞましい内容を知ってるの?」

 

 

「――っ!」

 

 

 

「ほら、やっぱりね。いくら変わっても今も昔も

魔術と人殺しは切っても切れない腐れ縁だよ。

どうしてかって?他でもない魔術が人を殺すことで

進化・発展してきたロクでもない技術だからだよ…

それに、過去の歴史が物語っている…そんな事は

システィも本当は分かっているでしょ?」

 

 

 

流石にここまで来るとウィルの言は極論だった。

確かに魔術には人を傷つける一面が数多く

存在するが、決してそれだけではないのだ。

 

 

 

だが、普段無表情の顔のウィルがこの時だけは

何かを憎むような形相で瞳の奥には光は全く

映っておらず闇が何重にも渦巻いている様に

見えてその勢いに圧倒された生徒達は

何一つ反論できなかった。

 

 

「まったくはシスティ達の気が知れないよ。

こんな人殺し以外、なんの役にも立たん術を

せこせこ勉強するなんて。こんな下らんことに

人生費やすなら他にもっとマシな――」

 

 

ぱぁん、と乾いた音が響いた。

歩み寄ったシスティが、ウィルの頬を

掌で強く叩いた音だ。

 

 

 

「痛い……!?」

 

 

 

ウィルはシスティを見ると淀んだ目でボロボロと

泣いているシスティを見て一瞬、言葉を失った。

 

 

 

「違う……もの……魔術は……

そんなんじゃ……ない……もの……」

 

 

 

気付けば、システィーナはいつの間にか

目元に涙を浮かべ、泣いていた。

 

 

 

「なんで……そんなに……

ひどいことばっかり言うの……? 

信じてたのに…大嫌い、貴方達なんか」

 

 

 

 

そう言い捨てて、システィーナは袖で

涙を拭いながら荒々しく教室を出て行く。

後に残されたのは圧倒的な気まずさと沈黙だった。

 

 

 

「ーーち」

 

 

 

グレンはガリガリと頭をかきながら舌打ちする。

 

 

「あー、なんかやる気出でねーから、

本日の授業は自習にするわ」

 

 

 

ため息をついてグレンは教室を後にした。

 

 

 

「じゃあ…僕も失礼するね…」

 

 

 

ウィルがそう言うとグレンと同様にニ組の

教室から平然とした表情で出て行った。

 

 

 

(システィ……ウィル君……)

 

 

ルミアは幼馴染のシスティとウィルを心配そうに

見てそう呟くがその日。グレンとウィルは

それ以降の授業に顔を出すことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

放課後。黄昏の色が目に優しい。

その日の授業を全てボイコットしたグレンは

システィーナとの一件以来、ずっと学院東館の

屋上バルコニーにいた。何をするわけでもない。

ただ、ぼんやりと無作為に、その日一日を

つぶした。

 

 

 

「……向いてないのかね、やっぱ」

 

 

屋上を囲う鉄柵に脱力した身体を

だらしなく寄りかからせ、遠くをぼうっと

眺めながらグレンはそんなことをつぶやいた。

この五階建ての豪華な校舎の屋上から見渡せる

学院敷地内の光景は、昔とほとんど変わってない。

複雑に絡み合う敷石の歩道、空中庭園、

古城のような別校舎、薬草農園、迷いの森、

古代遺跡、そして転送塔――人工物と自然が

入り乱れる不思議な光景。そして、

空にはお決まりの、幻影の城。

 

 

「ま、向いているわけねーわな。

魔術が大嫌いなくせに魔術講師とか

どんなギャグだ」

 

 

 

グレンはふと、着任以来やたら自分に

絡んできたあの銀髪の少女を思い出す。

そう言えばまだ、その少女の名前すら

知らないことに今さら、気づいた。

 

 

 

「ったく、あの白髪女め……ったく、

ホント初日から生意気な奴だったな……」

 

 

 

思えば十字路で衝突しかかったのが

出会いだったか。

 

 

 

「……なにが魔術は偉大だ、だよ。アホか」

 

 

たった十日間ほど見ていただけだが、

あの銀髪の少女が本当に魔術に真剣で、

魔術を極めるために日々、なんの迷いもなく

切磋琢磨していることだけはわかった。

魔術の暗黒面や危険性には見て見ぬ振りをし、

魔術の華々しい側面だけに憧れ、世界真理など

と言う耳に心地良いことだけを追い求める……

子供だ。だが、あの少女が子供だと言うなら、

その子供に大人気なく噛みつこうとした自分は

なんなのか。

 

 

 

「……ガキか、俺も」

 

 

 

ひょっとしたら、自分はあの銀髪の少女が

羨ましかったのかもしれない。

魔術が素晴らしいものだとなんの疑いもなく信じ、

それを極めることに全ての情熱を捧げることが

できるあの少女が羨ましかった――

自分は何に対してもさっぱり情熱を

持てないがゆえに。

 

 

 

「しかし…あいつはいったい……」

 

 

そして今、一番気になるのはあの『ウィル』と

言う白髪の少年だった。あの口振りからして

『自分が見てきた暗くて冷たい魔術の闇の部分』

をまるで見た事あるような口振りであった。

更にウィルという少年は話の途中から『あの人』

と言っていた。グレンはもしかしてと

自分自身過去に思い当たる『可能性』や『人物』

などを脳内で想像するとその瞬間、背筋が

ぞくりと寒気がして額から少し冷や汗が

出た気がした。

 

 

 

 

更には、もしかしたら彼は外道魔術師達の仲間かも

しれないと言う『不安感』と『疑念感』が少しずつ

募って『焦燥感』や『焦り』がグレン心をじわりと

蝕んでいく。そしてもしくは『自分の命』を狙って

入ったかもとあり得ないと分かっている筈なのに

一つ抱いた疑問は徐々に増えて膨らんでいって

『不安や疑問』などで疑心暗鬼になってしまい

考えてしまう。

 

 

 

 

「やっぱ、俺、ここにいるべきじゃねーな……」

 

 

正直、あの少女を前にして今後もあの白髪の少年、

ウィルのようなひどいことを言わない自信が

自分自身にはなかった。グレンの魔術嫌いは

根が深く徹底的だからだ。別に自分がどうなろうと

構わないが、目標を持って頑張る者を邪魔するのは

良くないことだ。それだけはわかる。

 

 

 

「セリカにゃ悪いが……」

 

 

 

 

グレンは懐に忍ばせておいた封書を取り出す。

その中身は辞表だ。恐らく魔術講師なんて

自分は一ヶ月ももたないだろうと思い、

密かにしたためておいたのだ。

 

 

今、ここにグレンはなんとしてもセリカのスネを

かじって生きていく決意をしたのだ。

 

 

「よし、帰ったら土下座の練習だ。

一生懸命謝ればきっとセリカも許してくれるさ……

俺が無職の引きこもりに戻ることをな!」

 

 

 

最低最悪な前向きさを胸に抱き、

屋上を後にしようと鉄柵から離れたその時だ。

 

 

「ん?」

 

 

 

この魔術学院校舎は本館の東西に東館と西館が

翼を広げるように、屈折して隣接する構造を

取っている。

 

 

 

 

今、東館の屋上にいるグレンは、西館が正面に

見下ろせる。西館のとある窓のそばで影が

動いたような気がした。

 

 

 

「……なんだ?」

 

 

 

確かあの部屋は魔術実験室だ。流石に

こんな時間まで生徒が残っているはずはない。

 

 

「《彼方は此方へ・

怜悧なる我が眼は・万里を見晴るかす》」

 

 

 

グレンは右目を閉じて三節のルーンで

遠見の魔術―黒魔【アキュレイト・スコープ】の

呪文を唱えた。その瞬間、まるで窓のすぐそばから

実験室の中をのぞき見ているような光景が、

右目のまぶたの裏に広がる。実験室の中には一人の

少女と少年の姿があった。

 

 

 

「あの金髪娘と白髪少年は……」

 

 

思い出した。件の銀髪少女にいつも子犬のように

ついて回るあの少女と先程、銀髪少女を論破した

白髪少年だ。確か、銀髪の少女にはルミアと

ウィルと呼ばれていたか。

 

 

「何やってんだ? こんな時間に」

 

 

ルミアは教科書を開き、それを見ながら

水銀で床に円を描き、五芒星を描いた。

さらにルーン文字を五芒星の内外に書き連ね、

霊点に魔晶石などの触媒を配置していく。

 

 

 

どうやらルミアとウィルは二人で

法陣の構築を実践しているらしかった。

 

 

「ほう? 流転の五芒……

あれは……懐かしいな。魔力円環陣か」

 

 

この法陣は特に何か起こるものではない。

法陣上を流れる魔力の流れを視覚的に

理解するための、言わば学習用の魔術だ。

これを何も見ずに構築できるようになれば、

まずは法陣構築術の基礎を抑えたことになる。

 

 

「しっかし、下手くそだな……

ほら、第七霊点が綻んでるぞ?

あーあ、水銀が流れちまってる……

って、おい、触媒の配置場所はそこじゃねー

……お、流石に気づいたか」

 

 

 

まるで昔、どこかで見たような失敗だ。

 

 

「そういやガキの頃、よくセリカや

セラとノアと一緒に遊びでやったっけな、あれ」

 

 

思えばあれが、グレンが初めて実践して

ノアと一緒にやった一番魔術らしい魔術だったか。

特に何が起こるわけでもないチンケな魔術に、

あの頃はなぜか胸が躍ったのを覚えている。

 

 

 

グレンがのぞき見ているとは露知らず、

ルミアは試行錯誤の末、なんとか法陣を完成させ、

呪文を唱えた。だが、法陣は起動せず、

ルミアは不思議そうに首をかしげるばかりだ。

 

 

「ばーか。そんなんで上手くいくかよ」

 

 

 

ルミアは何度も教科書と床の法陣を

見比べて確認し、ちょこっと法陣の端を

手直ししては呪文を唱える。

やっぱり上手くいかない。

困ったように肩を落とす。

 

 

「……アホくさ」

 

 

見てられなかった。

グレンは遠見の魔術を解除して、

ため息をつき、屋上を後にする。

 

 

「ま、頑張りな、若人」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「痛っ……」

 

 

ウィルはシスティに叩かれた真っ赤な右の頬を

手で押さえながら廊下を歩いていると突然、

魔術実験室の内側から声が聞こえてきた。

 

 

 

(…なんだろう?)

 

 

 

ウィルは魔術実験室をそっと覗いてみると

 

 

 

「どうして上手くいかないんだろう…」

 

 

 

ルミアが流転の五芒の魔力円環陣を見て

頭を抱えて考え込んでいた。

 

 

 

すると

 

 

 

 

「銀水が足りないからだと思うよ?」

 

 

 

ルミアが振り返って魔術実験室の入り口を

見ると入り口にはウィルが立っていた。

 

 

 

 

「‼︎ ウィル君⁉︎ どうしてここに‼︎」

 

 

ルミアが慌てているとウィルは

 

 

 

「とりあえず落ち着いてルミア…

僕といるのは嫌かも知れないけど…

まずは銀水の足りないところを足して

試しにやってみたら?」

 

 

 

 

「う、うん‼︎ 分かった‼︎ ありがとう‼︎

やってみる‼︎ それに私、ウィル君のことは

嫌いじゃないよ‼︎」

 

 

 

ルミアはウィルに花が咲いた様な笑顔を

向けて笑っていた。

 

 

 

だか、

 

 

 

(彼女はどうして…笑っているのだろう…?)

 

 

 

ウィルは何故、ルミアが笑っているのか

分からないで考え込んでいると

 

 

 

 

 

ばんっ!

 

 

 

 

突然、魔術実験室の扉が外から乱暴に

開けられ、ルミアは思わず飛び上がった。

 

 

 

「ぐ、ぐ、グレン先生!?」

 

 

 

開かれた扉の向こうには、

グレンが仏頂面で突っ立っている。

 

 

 

「相変わらずボロいんだな、ここ」

 

 

グレンは室内を見渡しながらぼやく。

比較的広い間取りの部屋だ。

壁の棚には髑髏やらトカゲの瓶詰めやら

結晶やら、妖しげな魔術素材達が並んでいる。

並ぶ机の上には羊皮紙に描かれた魔法陣や

フラスコ、拗くれたサイフォンのような

ガラス器具達。奥には大きな魔力火炉や

錬金釜までもがある。この部屋の胡散臭さが

昔とちっとも変わっていないことを、

グレンは懐かしく思った。

 

 

「グレン先生…少し服が汚いですし、

匂いますよ…?」

 

 

 

 

ウィルは溜息をついて無表情でグレンに

そう言うと

 

 

 

「べ、別にく、臭くないし‼︎

……臭くなんてないからな‼︎」

 

 

 

グレンは同じ事をウィルに二回言うとウィルは

意味が分からんと言った表情をしてルミアは

苦笑いを浮かべていた。

 

 

 

「ど、どうしてここに……?」

 

 

 

「そりゃこっちの台詞だ。生徒による魔術実験室

の個人使用は 原則禁止のはずだろ?」

 

 

 

言って自分でも白々しいとグレンは思った。

辞表を提出するために学院長室まで行こうと

すれば、必ずこの魔術実験室の前を通ること

になる。なんとなく気になって実験室の扉の

隙間から中を見れば、やっぱり実験が上手く

行かず四苦八苦しているルミアと手伝っている

ウィルの姿があった。気づけばグレンは扉を

開いていた。

 

 

「ごっ、ごめんなさい!実は私、法陣が苦手で

最近授業についていけなくて……でも、今日は

いつも教えてくれるシスティがいないし……

どうしてもこの法陣を復習しておきたくて……

その……」

 

 

 

 

「まぁ、その原因を作ったのは間違いなく

僕のせいですけどね……」

 

 

 

「ご、ごめん‼︎ そんなつもりで言ったわけじゃ…」

 

 

 

(何だ…こいつら…?)

 

 

 

 

グレンは無表情で言うウィルと自分の言葉で

慌てて謝るルミアのやり取りを見てまるで

子供同士の様なやり取りの雰囲気を感じた。

だが、グレンはそんな事、自分には関係ないと

いった無関係の表情しながら話を続ける。

 

 

 

「忍び込んだわけか。てか、魔法錠が

かかっていたはずだろ。一体、どうやって」

 

 

 

「え、えへへ……

ちょっと事務室に忍び込んで……」

 

 

 

ぺろっと小さく舌を出して、

ルミアは手に持った鍵をかざして見せた。

 

 

 

「……見かけによらず意外と

やんちゃなんだな、お前達」

 

 

 

グレンが呆れたように肩をすくめる。

 

 

 

「なんで、僕も入っているんですか…?」

 

 

 

 

「いや、だって…なんかお前さぁ、

そういう事をしそうなイメージだったから?」

 

 

 

 

「それ、偏見ですからね……」

 

 

 

「っ⁉︎」

 

 

 

ウィルはグレンにそう言いながら無表情に近いが

少しだけ頬を膨らませてグレンを睨んでいる様な

気がした。すると、グレンは少し驚いた表情を

してウィルの顔を見ていた。

 

 

 

「グレン先生…?」

 

 

 

ルミアもグレンの驚く表情見たからか、

ルミアも心配そうな表情を浮かべていた。

 

 

 

(何を驚いているんだ…俺は……大体、

こいつがノアのはずがないだろう‼︎

だって、ノアは……………)

 

 

 

グレンは自分に言い聞かせる様に頭に浮かんだ

幻影を振り払っていると

 

 

 

 

「グレン先生…大丈夫ですか……?」

 

 

 

 

ウィルはグレンの肩をポンポンと叩いて

質問をする。するとグレンは

 

 

 

 

「大丈夫だ…気にすんな……」

 

 

 

 

溜息ついてウィルにそう言うといつも通り何事も

なかった様にグレンの表情は平然と戻っていた。

そんな中、ルミアは先程のグレンの話や表情を

見て驚いて戸惑っていたが二人の話しが終わると

はっ‼︎ した表情をして思い出したのか

 

 

 

「ごめんなさい、すぐに片付けます! 

後でどんなお叱りでもお受けしますから!」

 

 

 

慌てて後片付けをしようとするルミアの腕を、

グレンがつかむ。

 

 

 

「先生?」

 

 

 

「いーよ。最後までやっちまいな。

もうほとんど完成してんじゃねーか。

崩すのはもったいねーだろ」

 

 

 

「で、でも……」

 

 

 

少し言いにくそうな表情をしていると

 

 

 

 

「馬鹿。それは「水銀なら言いましたよ…?」」

 

 

 

「え?」

 

 

グレンは間抜けな顔と声を

無意識のうちに出していた。

 

 

 

「だから、言いましたよ?」

 

 

 

ウィルがそう言うとグレンは溜息をつきながら

 

 

 

 

「そうかい…じゃあ、邪魔したな…」

 

 

 

グレンは魔術実験室の扉に手を掛けようと

していた。

 

 

すると、

 

 

「あ! 待ってくださいグレン先生…

お願いします…流転の五芒の 魔力円環陣を

やってくれませんか?」

 

 

 

ウィルはもじもじしとながらグレンにそう言うが

グレンは

 

 

 

「流転の五芒の 魔力円環陣くらいの簡単な

魔術は誰でも出来るし、お前も知ってるだろう?

だったら、お前が教えてやれば良いじゃん?」

 

 

 

 

グレンは溜息をつきながら

怠そうにウィルにそう言うと

 

 

 

 

「本でしか見た事ないので実際に見た事は

ないですし、何故か分かりませんが……

どうしても…グレン先生にしてほしいんです‼︎」

 

 

 

 

ウィルがそう言うとグレンは驚いた表情を

しながら観念した表情をしながら

 

 

 

 

「はぁー、分かったよ…やれば良いんだろ?

やれば……変わってるな……お前…」

 

 

 

 

 

グレンはウィルにそう呟きながら

面倒そうに床の法陣のかたわらに歩み寄り、

水銀の入っている壷をつかみ上げ、酌を

するかのように片手で眼前に構える。

目を細めて法陣を凝視し、じわりと手に

持った壷を傾ける。その手には震え一つなく、

やがて壷の口から水銀が糸のように法陣へと

零れ落ちる。不意にグレンが壷を持つ腕を

素早く動かした。機械のような正確さで、

水銀の糸が法陣を構築する各ラインを

なぞっていく。そこになんの迷いも淀みもない。

 

 

 

「……凄い」

 

 

 

「流石…ただの怠惰でヘタレでなんちゃっての

先生ってわけじゃじゃないですね?」

 

 

 

「おい…誰がヘタレでなんちゃってなのか

今、ここで、はっきりと、分かりやすいように

詳しく聞かせてもらおうか…?」

 

 

 

 

グレンのこめかみの辺りには青い筋が見えて

鋭い眼差しでウィルを睨んでいるが

 

 

 

 

「えっ? 勿論、グレン先生の事ですけど…?」

 

 

 

 

「ちょ、ちょっと、ウィル‼︎ それは‼︎」

 

 

 

「えっ…? 僕、何か悪い事、言った?」

 

 

 

「あはは……」

 

 

当の本人のウィルは何の悪気が無い表情で

苦笑いを浮かべるルミアに聞いていると

 

 

「良し‼︎ 表に出ろ‼︎

お前を完膚無きまでに泣かしてやる‼︎」

 

 

 

「せ、先生‼︎ 落ち着いてください‼︎

ウィル君も早くグレン先生に謝って‼︎」

 

 

 

「ほぇ…? 何が?」

 

 

グレンは怒りながら指の骨ををポキポキと

ウィルに向けて鳴らすとルミアが必死になって

グレンを宥めてウィルは意味がわからんとした

表情で頭を傾げていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その手際にルミアは 目を丸くして息を呑んで

ウィルは無表情で眺めながらグレンに

そう言っていた。

 

 

「ちょっと慣れた奴はよく素材ケチって

魔力路を断線させちまうんだよ」

 

 

 

グレンは壷を置くと、

床に落ちていた手袋を左手に嵌めた。

床の水銀法陣に指をつけ、卓越した手さばきで

水銀を動かし、要所の綻びを修繕していく。

 

 

「お前達は目に見えない物に対しては異様に

神経質になるくせに、目に見える物に対しては

なぜか疎かになる。魔術を必要以上に

神聖視している証拠だ……よし」

 

 

 

グレンは立ち上がり、

左手に嵌めていた手袋を投げ捨てた。

 

 

「もう一回、起動してみな。

教科書の通り五節だ。横着して省略すんなよ?」

 

 

「は、はい」

 

 

ルミアは再び法陣の前に立つ。深呼吸をして、

詠うように涼やかな声で呪文を唱えた。

 

 

 

「《廻れ・廻れ・原初の命よ・

理の円環にて・路を為せ》」

 

 

 

その瞬間、法陣が白熱し、

視界を白一色に染め上げた。

 

 

「――っ!」

 

 

やがて光が収まれば、鈴鳴りのような

高音を立てて駆動する法陣が視界に現れる。

魔力が通っているのだろう。法陣のラインを

七色の光が縦横無尽に走っていた。

七つの光と輝く銀が織り成す幻想光景。

 

 

 

その姿は神秘的で――

そして何よりも単純に美しかった。

 

 

 

「うわぁ……綺麗……」

 

 

 

「これは……」

 

 

ルミアはその光景を感極まったように

じっと見つめているとウィルはその七つの光を

見た瞬間、頭の中がまた、ノイズが走り

途切れ途切れの顔がぼやけた映像が流れてくる。

 

 

 

 

「■■■君…これ凄く■■だね‼︎」

 

 

 

 

「■■…お■、■袈■■■だろ?

■■…お前からも■って■れよ…」

 

 

 

頭の中でその記憶の映像が流れていると

 

 

 

 

「やーれやれ……

そんなに感激するようなもんかね? コレ」

 

 

ウィル達が見てる中、

グレンは冷めた目で法陣を一瞥する。

 

 

 

「だって……今まで見た誰の法陣よりも

魔力の光が鮮やかで…それに繊細で力強い…

先生って凄い……って、ウィル君…?」

 

 

 

「おいおい……」

 

 

 

 

二人が戸惑うのも無理もなかった。

 

 

何故なら、

 

 

 

 

 

 

 

 

『どうして…泣いてるの…?』

 

 

 

ルミアがウィルに聞くと

 

 

 

「えっ? …… 分からない……どうして……」

 

 

ウィルがそう呟いて涙を拭うがいくら拭っても

目の涙は一向に止まらないでいるとグレンは

それを見ていてかなり気まずくなったのか

 

 

「と、とにかく‼︎ この程度、誰だってできる。

そもそもこれを組んだのは、ほとんどお前だ。

お前が精製した素材や触媒の質が

よかったんだろ、きっと」

 

 

「……先生?」

 

 

ルミアはウィルと話してる中、

実験室をそそくさと出て行こうとする

グレンの背中に気づいた。

 

 

「帰る」

 

 

「あっ……ちょ、ちょっと待って下さい!」

 

 

 

ルミアは慌ててグレンの

後ろ袖をつかんで引き止める。

 

 

「……なんだよ?」

 

 

「え? あ、……その……」

 

 

引き止めてからどうしたものかと

考えているようだ。ルミアは目を白黒させていた。

 

 

 

「ええと……そうだ、先生、

今からもう帰るんですよね?」

 

 

 

「ん? ……まあな」

 

 

 

本当はこれから学院長室に辞表を提出しに行く

はずだったが、今となってはなぜかそんな

気分じゃない。別に明日でもいいだろう。

 

 

 

「じゃあ、途中まで一緒に帰りませんか?」

 

 

「……はぁ?」

 

 

 

意外過ぎるルミアの申し出に、

グレンは眉をひそめる。

 

 

「その……私、一度、

先生とゆっくりお話したかったんです」

 

 

「やだ」

 

 

にべもなくグレンは切り捨てる。

 

 

「そう……ですか」

 

 

残念そうに、哀しそうにルミアは肩を落として

目を伏せた。その姿からは、なんとなく

飼い主に置いていかれた子犬の姿が被る。

 

 

 

「一緒に帰るのはごめんだが……」

 

 

 

どうにも調子狂うなと思いながら、

グレンはボソリとつぶやいた。

感覚としては可哀想な捨て犬を見て、

後ろ髪を引かれるような気分である。

 

 

 

「勝手について来る分には好きにしろよ」

 

 

 

「あ、……ありがとうございます、先生!

じゃあ、ちょっともったいないけど、

急いで片付けますから待ってて下さいね!」

 

 

 

ルミアは嬉しそうにふわりと笑って、

急いで法陣の後片付けを始めた。

グレンはそんなルミアの無邪気な様子を見て

やれやれと肩をすくめた。

 

 

 

 

「んで、さっきから俺を見てるけど

俺に何か用があんのか?」

 

 

「実は…先生に質問があって…」

 

 

「なんだ…」

 

 

ウィルそう言いながらずっと

気になっていた事を質問していた

 

 

「どうして…ルミアが魔術実験室でこっそりと

流転の五芒の魔力円環陣をやっている事を

グレン先生は知っていたんですか?」

 

 

 

「そ、それはだな……」(こいつ…余計な事を…)

 

 

 

 

ウィルはグレンに聞くとグレンは

ドキッとした表情をして冷や汗を流しながら

目を逸らしていた。

 

 

 

「先生終わりました。……先生?

どうしたんですか?」

 

 

 

ルミアの頭の上に(?)が浮かんで

訳もわからずにグレンにそう聞くと

 

 

 

「先生…もしかして…前から…

「よ、良し‼︎ルミアも来たし帰るぞ‼︎」」

 

 

「逃げた……」

 

 

グレンはルミアが来たと同時にその場を

すぐ逃げるかのように去っていく

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわぁ、先生、ウィル君あれ見て下さい!」

 

 

学院を出て、フェジテの表通りに

さしかかった三人の視界に

飛び込んで来たのは、空に浮かぶ幻の城だ。

延々と緩やかな下り坂の先へと続く大通りは

空に視界が開けており、彼方に浮かぶ天空の城の

全容を仰望できる。夕暮れ時、緋色に美しく

染まる天蓋が、その荘厳なる城を黄金色に

燃え上がらせ、その偉容をより一層

映えさせているようだった。

 

 

 

「私の友人にあの城が大好きな子がいて、

私はその子みたいに城の謎解きには

興味ないんですが……あんなに綺麗で

雄大な姿を見てしまうと……そうですね、

私も一度はあの城に行ってみたいって

思ってしまいます」

 

 

 

「……そうか?」

 

 

 

「………」

 

 

やや頬を上気させて空を仰ぐルミアとは

裏腹に、グレンの反応は冷め切って

ウィルはそんな二人を眺めていた。

 

 

 

「あんな城があるから魔術に勘違いする

バカが出てくるんだ。まったく、

鬱陶しいったらありゃしない」

 

 

 

「先生?」

 

 

 

「……それは」

 

 

 

その言い草は誰かを非難していると言うより

むしろ、どこか自嘲のような響きがあった。

 

 

 

「ほら、よそ見してないで行くぞ」

 

 

「あ、はい……」

 

 

 

「了解、分かった……」

 

 

グレンが歩き出す。

ルミアが慌ててそれについて行って

ウィルはグレンの背中を眺めながらついていく。

フェジテの町の表通りを、グレンとルミアの

三人が一緒に歩いていく。

 

 

 

一緒に、とは言っても、グレンが大股で

無遠慮にずかずか歩くのに対し、

ルミアが早足で必死についていき、

ウィルはグレンの後ろをゆっくりとした

歩幅でついてくという構図だったが。

今は夕方なので、昼間ほどではないが、

表通りにはそれなりに人が行き交いしている。

ルミアがついて来ていることなどすっかり忘れ、

グレンが人を避けることに専念していると。

 

 

 

「先生って……

本当は魔術がお好きなんですよね?」

 

 

 

(ルミア…?)

 

 

 

隣に並んだルミアが不意に、そんなことを言った。

 

 

「どうしてそう思う?」

 

 

 

「いえ、その……

先生が私の法陣を手直ししてくれていた時……

先生、凄く楽しそうだったから」

 

 

 

 

グレンは思わず口元を押さえて

言葉に詰まった。楽しそう? 

自分は楽しそうな顔をしていたのか? 

魔術を実践して?

 

 

「ははっ……ねーよ」

 

 

グレンは笑い飛ばした。

 

 

「もうわかっちゃいるとは思うが

俺は魔術が大嫌いなんだ。

楽しいだなんて、ありえん」

 

 

 

「ふふ、そうですか」

 

 

だが、ルミアは訳知り顔で微笑むだけだ。

まるで自分の内を見透かされているようで、

なんとなくグレンは面白くない。

 

 

 

「でも……もし、

先生が本当に魔術をお嫌いだったとしても、

今日の言い方はちょっとひどいですよ? 

それにウィル君も今日のは少し言い過ぎって

思うかな…システィ……システィーナ、

泣いてたから……」

 

 

 

「う、うん…」

 

 

 

あの銀髪の少女の名前は

システィーナだったらしい。

更にウィルはルミアの話しを聞いて

一言言った後、ただ俯いたままだった。

 

 

 

「明日、謝ってあげて下さいね? 

システィにとって魔術は、

今は亡きお爺様との絆を

感じていられる大切なものなんです。

偉大な魔術師だったお爺様をシスティは

大好きで、ずっと尊敬していて……

いつかお爺様に負けない立派な魔術師になる…

それが亡くなったお爺様との約束なんです」

 

 

 

「……そうか。

そりゃ流石に悪いことをしたな」

 

 

 

(分からない…僕は、僕は…

一体、どうすれば良いの…?)

 

 

ウィルが考える中、グレンは思った。

自分の尊敬している人を間接的にとは言え、

無価値で下らない物におとしめられたら、

誰だって怒るだろう。

 

 

 

「それは置いといて、なんだ?

お前は俺に説教するために誘ったのか?」

 

 

「あ、いえ……それもありますけど、

そうじゃなくて……」

 

 

言葉をまとめるように

ルミアはしばらく沈黙する。

 

 

「あの……聞いてもいいですか?」

 

 

「内容による」

 

 

 

「ええと……この学院の講師になる前は……

グレン先生って何をされてたんですか?」

 

 

 

言葉に詰まったように、

グレンは一呼吸置いてから

堂々と胸を張って言った。

 

 

 

「引きこもりの穀潰しをやってました」

 

 

 

「え? 引きこもり? 穀潰し?」

 

 

 

「引きこもり……? 穀潰し……?」

 

 

 

「学院にセリカって言う偉そうな女が

幅をきかせてるだろ? 俺がガキの頃、

そいつにはお袋代わりに世話になってたんだけど、

そのよしみで今までずっとそいつに

養ってもらってたんだ。ふっ、凄いだろ?」

 

 

 

「あ、あはは……

なんでそんなに得意げなんだろう……?」

 

 

 

「ルミア……多分……

ただの自意識過剰なだけだと思う…」

 

 

ルミアは苦笑いをして隣にいるウィルは

遠い目をしながら視線をグレンにするしかない。

 

 

 

「でも、それ嘘ですよね?」

 

 

 

どうしてそんなに自信を持って断言するのか、

グレンは戸惑いを隠せない。

 

 

「嘘じゃねーよ。この俺がマトモに働くような

殊勝な人間に見えるか?この一年はセリカの

スネを齧りまくりだったんだぞ?」

 

 

「一年……それよりも前は?」

 

 

「……あー、悪ぃ、カッコつけ過ぎた。

あの学院を卒業して以来ずっと、だ。

どうも働くってのが性に合わなくてなー、

本当の自分探しをしてたっつーか……」

 

 

 

「自分探し……?」

 

 

 

どうにも納得いかなそうに

ルミアはグレンを見つめてウィルは

言葉の意味を理解出来ていなかった。

 

 

「あー、俺の黒歴史を掘り返すのは

終わりだ、終わり! 今度は俺が聞くぞ!」

 

 

この話は蒸し返されたくないので、

グレンは強引に話題を変えた。

別にこのルミアとか言う小娘になど

興味の欠片もないが、背に腹は変えられない。

 

 

 

「お前らってさ。

なんでそんなに魔術に必死なの?

システィーナって奴と言い、お前達と言い、

魔術ごときにマジになり過ぎだろ?」

 

 

 

「それは……」

 

 

「今日、話したがな。

魔術って本当にロクでもない術なんだぞ? 

別になくても困らないし、あればあったで

ロクなことにならん。そこの白髪…お前、確か……

ウィル、だっけか…?こいつも言っていただろう?

なのに何を好き好んでこんなもんやってんだ?」

 

 

話題を変えるために

何気なく問いかけたことだが、

ルミアという少女は思いの他、

グレンの問いを真摯に受け止めたらしい。

しばしの時を、考え込むようにうつむいた。

 

 

 

「他の人達が何を思って魔術の勉強に

励んでいるかはわかりませんけど……

私は魔術を勉強する理由があります」

 

 

「ふうん、アレか? 

世界の真理探究とか、人間の進化とやらか?」

 

 

「あはは、違いますよ。そんな高尚なこと、

私にはとても無理ですから」

 

 

 

「違うの……?」

 

 

 

「うん、それは違うかな…」

 

 

 

「……ほう?」

 

 

ウィルが質問した後、

グレンは初めて、ほんの少しだけ、

このルミアという少女に興味が沸いた。

 

 

 

「じゃあ、なぜ、魔術を志す?」

 

 

「そうですね……私は魔術を真の意味で

人の力にしたいと考えています。

そのために今は魔術を深く知りたい」

 

 

 

グレンはその言葉を自分の魔術否定に

対する遠回しな批判と受け止めた。

 

 

 

「やれやれ、

力は 使う人次第ってありきたりな理屈か?

剣が人を殺すんじゃない、

人が人を殺すんだってか?」

 

 

 

「はい。でも……

私はもう少し違うことも考えています」

 

 

「?」

 

 

 

(どう言う事…? 僕には分からない……)

 

 

ルミアはグレンと話す中、

ウィルは困惑しているとルミアは

更に話しを続ける

 

 

 

「今日、先生が仰ったとおり、

人を傷つける可能性を大いに秘めた

魔術なんて、きっとない方がいいんです。

なければ少なくとも魔術で傷つけられる人は

いなくなるから。でも、現実として

魔術はすでに在るんです」

 

 

「……まぁな」

 

 

(そうだよ…そもそも、

人を傷つける可能性を大いに秘めた魔術なんて、

きっとない方がいいんだよ。なければ少しでも

魔術で傷つけられる人はいなくなるから…。

でも、現実として魔術はすでに在るんだ…

だから……)

 

 

 

ウィルがそう考えていると

ルミアは更に話しを続ける

 

 

 

「それがすでに在る以上、それが無いことを

願うのは現実的ではありません。

なら、私達は考えないといけないんです。

どうしたら魔術が人に害を与えないようにするか」

 

 

 

(ルミアの言いたい事は…

分からなくもないけど…けどさぁ…)

 

 

 

「でも、魔術のことをよく知らなければ、

それを考えることなんて到底できません。

知らなければ魔術はどこまでもただの得体の

知れない悪魔の妖術で、人殺しの道具で、

法も道もない外法なんです」

 

 

「要するに……

盲目のままに魔術を忌避するより、

知性をもって正しく魔術を制する、と? 

全ての魔術師がそうなるように

働きかける、と?」

 

 

 

「はい。私みたいな凡才に

それができるかどうかわかりませんが……」

 

 

 

「お前、魔導省の官僚……

魔導保安官にでもなる気か?」

 

 

 

「ふふ、そうですね。

それが私の目指す道に通じるなら……

それが今の私の目標です」

 

 

 

グレンは能天気な少女に

深くため息をつきながら諭す。

 

 

 

「言っておくが徒労に終るぞ? いや、

努力すりゃ官僚くらいにはなれるかもしれん。

だが、お前の目指している物は

あまりにも高過ぎる。お前一人が

どうこうできるほど、魔術の闇は浅くない」

 

 

「わかってます。それでも……です」

 

 

 

「なんでだよ?

なんでそんな報われない道をあえて行くんだ?」

 

 

 

(どうして…どうして…理解出来ない…)

 

 

 

 

すると、ルミアはなぜかグレンに

優しく微笑みかけ、それから何かを

懐かしむように遠くを見た。

 

 

ウィルが理解出来ないのは無理もない何故なら

この魔術世界では官僚になったからって

何とかなるほどこの魔術世界の闇の根は

そんなに浅くないからだ。

 

 

「私……恩返ししたい人達がいるんです」

 

 

 

「恩返し? なんなんだそりゃ?」

 

 

「あれは今から三年くらい前の話です。

私が家の都合で追放されて、

システィの家に居候し始めた頃。

私、悪い魔術師達に捕まって殺されそうに

なってしまったことがあって……」

 

 

「見かけによらず、

なかなかハードな人生送ってんだな。

てか、家の都合で追放って……

お前って、ひょっとして、どっかの

有力貴族かなんかの生まれ?」

 

 

「あ、いえいえ! 

そんな大層な家じゃないです!

ホント! 貧乏でした! 貧乏!」

 

 

ルミアが慌てたように手を振って否定する。

だが、貧乏人が生活に困って子供を

捨てるのは普通、『追放』とは言わないだろう。

 

 

「待てよ……ていうか、お前……」

 

 

ふと、何を思ったのか。

グレンが不意にルミアの顔をのぞき込んだ。

目を細め、遠くを透かし見るかのような表情だ。

 

 

「……先生? どうかしましたか?」

 

 

するとルミアは、何かに期待するような表情で、

グレンを見つめ返す。

 

 

だが。

 

 

 

「うんにゃ、なんでもない。

……で? 話の続きは?」

 

 

 

ありえん、とでも言いたげにグレンが頭を振って、

ルミアに話の続きを促す。

 

 

 

ほんの少し残念そうにルミアは

息をつくと、話の続きを始めた。

 

 

「あの時の私、

前の家を追放されたこともあって不安定で……

どうして私ばっかりこんな目にって、

怯えて震えて泣いて、もうだめだと諦めて……

でも、そんな時、どこからともなく

現れた別の魔術師達があわやと言うところで

私を助けてくれたんです」

 

 

「なんだそりゃ。

そいつ絶対、タイミング狙ってんだろ。

ったく格好つけやがって」

 

 

「その時の私は、私を守るために

悪い魔術師達をためらいなく殺害していく

その人達がとても恐ろしかった。

あの人達も悪い魔術師を殺すことが

自分の仕事だって言ってました。

でも、あの人達は人達を殺めるたびに

凄く辛そうな顔をしていて……

それでも私を守るために最後まで

戦ってくれて。なのに、あの時の私は

怖くてその人達にお礼すら言えなくて……」

 

 

 

「………」

 

 

 

「ふーん」

 

 

 

 

「あの人達と過ごした時間は

ほんのわずかでしたけど……

あの人は本当に 優しい人達だったんだと思います。

だから自分の心を痛めながら、

自分以外の誰かを守るために戦っていた。

あんな風に道を外してしまった

悪い魔術師達さえいなければ……

あの人達は、私のためにあんなに悲しい顔を

しないで済んだはずなのに……」

 

 

 

「ふーん」

 

 

「私はあの人達に命を救われました。

あの事件の後、今度は私があの人達を

助ける番だと思いました。

人が魔術で道を踏み外したりしないように

導いて行ける立場になろうって。

そのために魔術のことをよく知ろうって。

そんな道を歩んでいけば……

いつかあの人達に、あの時のお礼が言える日が

来るんじゃないかって。暗闇の中、

ただ一人きりで泣いていた幼い頃の

私に光をくれた……あの人達に」

 

 

 

そこまで聞いて、ウィルは黙っている中

グレンは肩を震わせて含み笑いを始めた。

 

 

 

「くっくっく……ご都合展開過ぎだ、それ。

そんな三文大衆小説もびっくりな超展開、

ベタ過ぎて売れないぞ、きっと」

 

 

 

「ふふ、そうかも。でも、

事実は小説よりも奇なりって言いますし」

 

 

真摯な想いを無神経に

笑い飛ばされたと言うのに、

ルミアは穏やかに笑うだけだ。

 

 

「ははっ、ねーよ」

 

 

 

それきり、特に会話はなかった。

相も変わらず自分のペースでずかずかと歩く

グレンに、なぜか機嫌の良いルミアが

ちょこちょこと子犬のようについていく。

そんな構図を保ちながら、二人は二人が

初めて顔を合わせた例の十字路まで辿り着いた。

 

 

 

「あ、先生。私、こっちです。

システィのお屋敷に下宿しているので」

 

 

 

「…僕もこっちなんで失礼します……」

 

 

 

「そうかい。じゃあな、気をつけて帰りな」

 

 

 

「大丈夫ですよ? もう近いですから」

 

 

 

「そうですよ…それにまだ明るいですから?」

 

 

 

「そうか。だが、

万が一ってこともある。一応、気をつけな」

 

 

 

「ふふ、先生って意外と心配性なんですね?」

 

 

 

「先生は意外と優しいですね?」

 

 

 

「馬鹿。

それだけお前が危なっかしいっつーコトだ」

 

 

 

「あはは、気をつけます。

それじゃ先生、また、明日!」

 

 

 

「先生じゃあ、また明日会いましょう」

 

 

 

 

「……ん」

 

 

 

グレンは次第に小さくなっていく

ルミアとウィルの背中を、なんとなく眺めていた。

ルミアは途中何度も振り返って、グレンの姿を

見つけては嬉しそうに手を振っていた。

 

 

「……犬か、あいつは」

 

 

何気なくこぼれた言葉だが、

それはなんとなく的を射ている気がした。

ルミアが犬なら、システィーナとかいう

少女は猫かね、あぁ、なるほど、

つんとお高くすましている様などぴったりだ……

などと益体もないことをつい考えてしまう。

 

 

 

「しかしまぁ……ぼ~っとしているようで

色々考えてるんだな、あいつ……」

 

 

 

グレンは先ほど、ルミアが言っていたことを

胸中で反芻した。

 

 

 

「……『考えないといけない』……か……」

 

 

 

 そして、グレンは懐から辞表を取り出し、

それを空に掲げ、中身を透かすように眺めた。

 

 

「さぁて……どうしたものかね?」

 

 

 

グレンはそう言いながら辞表を握りしめて

夕陽に染まって空中に浮かぶ天空の城を

眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グレンと別れた後、ルミアとウィルは

夕陽に染まる通学路を一緒に歩いていた。

 

 

 

「…………」

 

 

「…………」

 

 

二人は無言で更に歩き続ける。

 

 

 

すると

 

 

 

「…………ねぇ、ウィル君…」

 

 

 

無言の空間の中、

最初に言葉を発したのはルミアだった。

 

 

 

「……なに、ルミア?」

 

 

そんなルミアの声に反応して

ウィル振り返ってルミアを見た。

 

 

 

「実は…聞きたい事があるの…」

 

 

ルミアはそう言うと少し深呼吸をして

真っ直ぐウィルを見て更に言葉を紡いでいく。

 

 

 

「ウィル君…あの時、

どうしてあんな事を言ったの?」

 

 

「………」

 

 

ルミアの言う『あの時』、『あんな事』とは

恐らくシスティと魔術について問答した時の

話しだろうとウィルはルミアを見て分かったが、

ウィルが理解出来たのはそれだけで

それ以外は全く理解出来なかった。

 

 

「……どうして聞くの? それに

僕はルミアの友達だったシスティに

魔術の事を酷い事を言ったんだよ…

そんな僕の事を嫌な奴と思ってるでしょ?」

 

 

ウィルはルミアにそう言うと

 

 

 

「そんな事ないよ‼︎ ウィル君は大事な友達だよ‼︎

そりゃあウィル君がシスティに言った事は

良くないと思うけど…でも‼︎魔術実験室で

流転の五芒の 魔力円環陣の光を見た時に

見せた『あの涙』を見て意味もなく

あんな事言うとはとても思えないんだよ‼︎」

 

 

「‼︎ そ、それは……」

 

 

ウィルはルミアの真剣な言葉で表情を見て

額に脂汗を流しながら慌てた表情を浮かべていた。

ルミアの今の言葉にウィルは答えを持っておらず

ただ言葉が詰まって言葉に出来なかった。

 

 

「だから私にも教えてほしい‼︎

ウィル君はどうしてそう思ったのか、

魔術を否定するのか、私はそれを知りたいの‼︎ 」

 

 

ルミアがそう言うとウィルはルミアを見て

 

 

 

「……分かった…ルミアだけには話すよ…」

 

 

 

ウィルはルミアにそう言うと

ウィルは過去を話し始めた。

 

 

 

「実は、僕には記憶が全く無いんだ…

そして僕が目が覚めた時には戦いの後で

大量の人の死体や焼き焦げた匂いなどが

大量に溢れている中で目覚めたんだ…

だから僕は分かんないんだ…

何故、あの時、涙など流したのか…

分からない…分からないんだ……」

 

 

「そうか…ごめんね…

私が余計な事を言わなければ…」

 

 

ルミアがそう言ってウィルを見て

今にも泣きそうで申し訳なさそうな表情で言うと

 

 

 

「どうしてルミアが謝るの……?」

 

 

 

 

ウィルは頭を傾げて無表情でルミアに聞くと

 

 

 

「だって…記憶が無いのは…辛いでしょ…?」

 

 

 

ルミアはウィルにすまなそうな表情をしながら

ウィルに聞くが

 

 

 

 

「…………」

 

 

 

「ウィル君……?」

 

 

 

ルミアが声を掛けるがウィルはルミアの顔を

見たままで何の返事がなかったからだ。

 

 

 

 

「‼︎ …ごめん…さっきのルミアの言葉に

少しびっくりして動揺しちゃてた…後、

さっきの事についてだったら別に気にしてないし

ルミアが気にしなくて良いよ?」

 

 

 

 

「で、でも……」

 

 

 

 

 

ウィルはルミアにそう言うが当の本人の

ルミアが納得をしておらず、先程の太陽のような

明るい表情から暗い表情変わっていて更には

今にも泣きそうな表情浮かべていると

 

 

 

「う〜〜ん…そうだ…

じゃあ、ルミアが教えてよ?」

 

 

 

「えっ…?」

 

 

 

「僕という存在は何もかもが欠落してるんだ…

だから、ルミアに教えてほしいんだ…

なにが正しくてなにが間違いだったのか

僕に教えてほしい…僕には分からないから…」

 

 

ルミアはウィルの言葉を聞いた瞬間、

ウィルと言う小さき少年はどれだけ魔術の残酷な

深き闇の存在に触れてその小さい体でいろんな事を

沢山、背負いこんでいるんだと思うととても

悲しい過ぎる人生だとルミアは思ってしまう。

 

 

彼がもし、そのまま『幸せ』、『自由』や

『世界』や『感情』と言う『言葉の意味』を

何も知らないままだったらそれは彼には

あまりにも残酷過ぎて悲し過ぎる…

 

 

だったら…

 

 

 

「分かった…じゃあ、改めて友達として

よろしくね‼︎ウィル君‼︎」

 

 

「うん…よろしくね、ルミア…」

 

 

 

「後、明日はちゃんとシスティに謝ってね?」

 

 

 

「分かった……」

 

 

夕陽に染まる中、ルミアは笑顔でウィルの手を

取って夕陽に吸い込まれる様に通学路を

歩いて行った。その時のルミアの表情はまるで

子供のようなとても明るい笑顔で笑っていた。




読んでいただきありがとうございます‼︎
ロクでなし魔術講師と死神魔術師は近いうちに
投稿する予定です。


白き大罪の魔術師などの作品も読んで高評価や
しおりなどをよろしくお願いします‼︎


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魔術の真理と動き出す悪意

皆さまお久しぶりです‼︎
11月20日のロクでなし魔術講師最新巻の
発売を記念して早めに投稿させて頂きました。
お話はかなりのボリューミーに書かせて
頂きましたので出来れば楽しんで読んでもらえたら
嬉しいですね。



後、他の作品も読んでもらえると嬉しいです‼︎

後、『お気に入り』や『投票』、『しおり』、
更には『意見』や『感想』などありましたら
ぜひ、よろしくお願します。


ルミアと別れた後、ウィルは大きな屋敷の中に

入っていくと

 

 

 

「「「「お帰りなさいませ」」」」

 

 

 

ロビーでは沢山のメイド達がウィルを出迎えて

ウィルが持っていた鞄などの荷物を受け取って

 

 

 

 

「お着替えはお部屋にありますので…」

 

 

 

 

「ありがとうございます…」

 

 

 

ウィルがメイド達に丁寧に挨拶すると

 

 

 

「ようやく帰ってきたわね。ウィル」

 

 

 

 

 

ウィルがロビーの奥の階段の方から声がする方に

視線を向けるとイヴがいた。

 

 

 

 

 

「お父様が貴方の事を探してたわよ。

早くお父様の所に行きなさい……」

 

 

 

 

 

「分かりました。では、今すぐにでも

『イグナイト公爵』のいる部屋に向かいます。

ありがとうございます。イヴ様。」

 

 

 

 

 

ウィルがそう言うとイヴはロビーの階段をゆっくり

と降りてウィルに近づいて

 

 

 

 

「ウィル、貴方の宮廷魔道士団特務分室として

そして駒としての最近の任務などの功績はしっかり

聞いたわ。実に素晴らしい。むしろ予想以上だわ。

これからも己が果たすべき任務と責務を忘れずに

勤めなさい」

 

 

 

イヴが右手をウィルの肩に乗せて満足そうな

表情で言うがその表情は一瞬にして消える。

 

 

 

「イヴ様……」

 

 

 

「何かしら…?」

 

 

 

 

イヴがウィルにそう言うとウィルは今日、今迄に

感じた事がなかった不思議な感覚に疑問を感じて

ウィルはイヴに思った事を質問する。

 

 

 

 

「『グレン……グレン=レーダス』っていう

人物の名前を知ってますか?」

 

 

 

 

「‼︎ どうしてそんな事を聞くの…?」

 

 

 

 

イヴはグレンの名前を聞いて不安と焦燥感が

止まらなかった。

 

 

 

 

 

何故、今になってかつて自分の元で働いていた

部下で『メルガリウスの魔法使い』に出てくる

『正義の魔法使い』なんて夢物語みたいなに

絵空事に憧れて宮廷魔導師団特務分室に入って

夢みた元同僚であるグレンの名前を?

 

 

 

「今日の非常勤講師の名前が『グレン=レーダス』

って言う名前だったので….それにその名前を聞くと

何故かで聞いた事がある様な…『忘れなさい』」

 

 

 

ウィルが話しているとイヴは途中でウィルの

話しを一瞬にして遮った。

 

 

 

「 今、貴方の違和感は気の所為だから

その記憶の違和感は忘れなさい…良いわね?」

 

 

 

不快だわ。あの男の名前を聞いただけで

実に不愉快だわ……

 

 

イヴがそう言うがウィルはイヴの話しに納得が

いかないと言う表情を浮かべて

 

 

 

「しかし…「しかしも何も無いわよ‼︎

貴方は余計な事を考えずにただ私の指示に

従って任務を遂行をしていれば良いのよ‼︎」

 

 

 

イライラした表情で自分の指の爪をガリガリと

噛んでヒステリックに叫びながらウィルに

そう言うと

 

 

 

「……分かりました。イヴ様。」

 

 

 

イヴの言葉を聞いた後、ウィルは忠実な犬の様に

イヴに頭を下げてそう答えて「失礼します。」と

言うとイヴは安心した表情をして

 

 

 

(まさか……あのアルザーノ学院にグレンが

いるなんてね……今のウィルの反応を見て

まだ気づいていないみたいだけど…『セラ』を

失ってどこまで行っても貴方は私の前に立って

『正義の魔法使い』であり続けるのね…グレン)

 

 

 

 

イヴはグレンやセラ、そしてウィル事、ノアの事を

思い出し更には特務分室の執行官の《正義》事、

ジャティス=ロファンが起こしたエンジェルダスト

事件について考えていた。その表情はまるで何かを

後悔しているような表情だった。

 

 

 

 

「……私、馬鹿みたいじゃない…」

 

 

 

 

 

イヴは誰もいない部屋でそう呟いてその場を

後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここは…どこ…?」

 

 

 

 

 

ウィルは辺りを見回す。だが、いくら周りを確認

してもあるのは真っ白な部屋の空間だけだった。

 

 

 

すると

 

 

 

 

 

「素晴らしい‼︎」

 

 

 

 

ウィルの背後から声が聞こえて振り返ると

『白衣を着た老人達』がまるで子供の様に

声を出していた。

 

 

 

「これは…なんなんだ…あ、頭が痛い…」

 

 

 

頭を抑えながらウィルも驚いていた。何故なら、

ぼやけていたせいで見えなかったが『白い人の影

の姿』が白い椅子に座っていたいたからだ。

 

 

 

「これ程までとは…‼︎」

 

 

 

「もっとこの崇高で名誉な研究を続ければ

素晴らしい結果だけじゃない‼︎ 最強の兵器として、

世界の覇権すら握る事だって夢じゃない‼︎」

 

 

 

「彼は『裁く者』として…いや、それどころか

『白き聖杯』があれば『我らが理想の神』を

作る事すら出来る可能性だって‼︎」

 

 

 

白衣を着た研究者達は邪悪な笑みを浮かべながら

座っていた白い人影を見て怪しい薬が入っていた。

 

 

 

注射器などの道具を手に持って右腕に注入される

途中でと白い人影はこちらを見てゆっくりとした

口調だが何かを伝えようと口を動かしていた。

 

 

 

 

 

 

「…■■■■■■■…■■■■■■■■

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■…

 

 

 

 

(えっ…? 何を言っているの……?)

 

 

 

ウィルは頭痛を我慢しながら理解出来ないといった

表情を浮かべていると科学者達は白い人影に薬を

注射器でゆっくりと注入するとウィルの意識が

少しずつ途切れていき瞼を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「‼︎ 今のは一体…夢…?」

 

 

 

ウィルがそう言うと更に頭の痛みが増していた。

 

 

 

 

「い、痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い‼︎

イタイイタイイタイいたいイタいいたイ‼︎」

 

 

 

 

先程の真っ白な世界の記憶のせいだろか頭痛の

せいで正常な判断が出来ず更には右手で胸を

押さえて「はあ、はあ…」と荒くなっていた

必死に呼吸を整えようとする。

 

 

 

 

(どうして…こんなに痛いの……?)

 

 

 

 

 

ウィルは感じた事のない頭痛に苦しみながらも

必死になって近くにあった頭痛の薬を飲んで

なんとか抑える事が出来た。

 

 

 

 

だが、ウィルの右手は震えていた。

それは自分が感じた事のない未知の感覚で

更にはどうすれば良いのかすら分からなかった。

 

 

 

 

『何故なら、誰も教えてくれなかったから……』

 

 

 

 

 

「…誰か、助けて………」

 

 

 

 

ウィルは誰もいなくて誰も聞いているはずのない

暗い部屋の中で無意識のうちに小声で呟いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日、授業の予鈴前。

 

 

隣で熱心に授業の予習を行うルミアを尻目に、

システィーナは窓の外、フェジテの空に浮かぶ

『メルガリウスの天空城』を頬杖つきながら、

ぼんやりと 眺めていた。フェジテを象徴する

空の城。どうしてそこにあるのか。いつからそこに

あったのか。誰も知り得ない謎と不思議に満ちた

幻の城。授業開始前に余裕があれば、それを

遠望し、その神秘に思いを馳せるのがシスティーナ

の密かな日課だった。

 

 

 ……。

 …………。

 

 

『ごらん、わしの可愛いシスティーナ。

あれがメルガリウスの天空城だよ』

 

 

昨日、無神経な講師に偉大なる祖父を間接的に

侮辱されたからだろうか。ふと、システィーナ

の脳裏に懐かしい祖父の言葉が思い浮かんだ。

 

 

 

『どうじゃ? 綺麗じゃろう? あの城は気が

遠くなるほど昔から、フェジテの空にあのように

浮かんでいたのだよ。そう、何百年も……何千年も

……ずっと、ずっと長い間……』

 

 

 

天空の城を語る祖父の目はいつだって、

きらきらと輝いていたのを覚えている。

 

 

 

『ははは、皆がわしのことを、偉大な功績を

残した魔術師だのなんだのと煽てるが……実は

なんてことはない。わしが魔術を極めんとした

理由はな……そう、たった一歩だけ、あの城に足を

踏み入れたかった。あの荘厳なる全容を間近で

一目だけ見てみたかった。何千年もの間、誰にも

解けなかった空の城の謎を解き明かしたかった。

それだけなのだよ』

 

 

 

その顔は幾ら歳を経て貫禄を得ても、

まるで夢見る少年のようで――

 

 

 

『なにしろ、あの城は遥か太古に滅んでしまった

魔法文明の残滓とも、母なる神がお創りたもうた

神の御座とも、言われておる。伝説によれば、

この世界の全ての叡智が眠っているとも。

もし、それが真実ならば、一体誰が作ったのか、

なぜあそこに存在しているのか……

わしの頭上にはいつだってこの世で極上の

不思議があったのだよ。思うだけで胸躍る

この浪漫……一魔術師として、この謎、

挑んでみたくないわけなかろうて』

 

 

 

 

システィーナは天空城に関する祖父の考察や

仮説、研究成果を聞くのが大好きだった。

 

 

 

だが……晩年、足腰が弱り、身体の調子の

良くなかった祖父は、この話をする時、

少しだけ寂しそうだった。

 

 

足を踏み入れてみたかった、一目だけ見て

みたかった。語られる夢はみんな過去形で。

実体の無い、ただそこに見えるだけのまやかしの城。

 

 

魔術で空を飛んでそこへ至ろうにも、寄れば

夢幻と消えてしまう蜃気楼の城。それは、

なまじ目の前にある分だけ、とても残酷な夢だ。

恐らく、晩年の祖父は悟っていたのだろう――

もう、自分があの城に至ることはないのだ――と。

 

 

 

 

――お爺様は夢を諦めてしまったの?

 

 

 

いつだったか、システィーナはたまらなくなって、

祖父にそう聞いたことがある。今思えばそれは

とても残酷な質問だったかもしれない。

 

 

 

 

『……残念ながら、この世にはままならんことが

多々あるものなのだよ……わしの父も、祖父も、

曾祖父もな、皆、そうだった……あの城に至る

糸口すらつかめずに……な』

 

 

 

 

だが、祖父はただ、優しくシスティーナの

頭をなでた。

 

 

 

『本当に……残念なことじゃ……』

 

 

 

そう言って。遠く懐かしく、眩い物を見るかの

ように、祖父は再び空の城に目を向ける。天気は

明朗、抜けるような青空に煌々と降り注ぐ陽光、

半透明の城はとてもよく映えた。

 

 

 

その時。その燦爛たる城と、それを望む祖父の

姿が、システィーナの魂を捕えた。その祖父の

背中が、眼差しが、あまりにも切なかったから――

その空に浮かぶ幻影の城の姿があまりにも眩く、

綺麗だったから――だから、その日、その時から、

祖父の夢はシスティーナの夢になったのだ。

 

 

――だったら、私がやる――

 

 

――私が、お爺様以上に立派な魔術師になって――

 

 

――私が、お爺様の代わりに

『メルガリウスの天空城』の謎を解いてみせるわ――

 

 

…………。

 ……。

 

 

 

 

「おい、白猫」

 

 

 

頭上から突然、ぶっきらぼうな言葉が降って来る。

システィーナの背中がびくりと震え、その意識が

現実に立ち返る。目を向けずともわかる。

 

 

いつのまにか自分のかたわらに立っている

その男は、あの憎き非常勤講師と転校生だ。

 

 

「おい、聞いてんのか、白猫。返事しろ」

 

 

 

「先生、多分頭を撫でたり顎をゴロゴロを

してあげないと多分反応しませんよ?」

 

 

「し、白猫? 白猫って私のこと……?

な、何よ、それ!?」

 

 

がたん、とシスティーナは肩を怒らせて

席を立ち、グレンとウィルをにらみつけた。

 

 

 

「人を動物扱いして頭を撫でないで下さい!? 

私にはシスティーナっていう名前が――」

 

 

 

 

「先生が余計な事を言うからですよ?」

 

 

 

 

「うるさい、話を聞け。

昨日のことでお前に一言、言いたいことがある」

 

 

 

「な、何よ!? 昨日の続き!?」

 

 

システィーナは身構え、敵意に満ちた視線を

グレンとウィルに送った。

 

 

「そこまでして私を論破したいの!? 

魔術が下らないものだって決めつけたいの!? 

だったら私は――」

 

 

 

 

弁舌はグレンやウィル達の方が上手だ。口論に

なれば勝てないだろう。だが、それでも、退く

わけにはいかない。自分は祖父の夢を背負っている

のだ。システィーナは無様をさらすことになろう

とも徹底抗戦の決意を固めて――

 

 

 

「……昨日は、すまんかった?」

 

 

 

「え?」

 

 

 

そして、最も予想だにしてなかった言葉に、

システィーナは硬直した。

 

 

 

「まぁ、その、なんだ……大事な物は人それぞれ

……だよな? 俺は魔術が大嫌いだが……その、

お前のことをどうこう言うのは、筋が違うっつー

か、やり過ぎっつーか、大人げねえっつーか、

その……まぁ、ええと、結局、なんだ、あれだ、

……悪かった」

 

 

 

グレンは気まずそうなしかめっ面で、目を

そらしながら、しどろもどろと謝罪のような

言葉をつぶやき、ほんのわずかな角度だけ頭を

下げた。

 

 

ひょっとして、それは謝っているつもり

なのだろうか?

 

 

「…………はぁ?」

 

 

 

「本当に素直じゃないですね。グレン先生は?」

 

 

 

「う、うるせぇ‼︎」

 

 

 

グレンとウィルが話しをしている中、二人の 

真意を量りかねて戸惑うシスティーナの前で、

話はこれで終わりだと言わんばかりにグレンは

踵を返し、教壇の方へと向かっていく。そもそも、

グレンは何しにここにやってきたのだろうか。

まだ授業開始時間前だ。グレンが遅刻せずに

教室にやってくるなんて……何かおかしい。

 

 

「なんだよ……? 何が起きてるんだよ……?」

 

 

「なぁ、カイ? ありゃ一体、

どういう風の吹き回しなんだ?」

 

 

「お、俺が知るかよ……」

 

 

 

 

それはクラスの生徒達も同様で、あのグレンが

授業開始前に教室に姿を現したことに困惑を

隠せないようだった。

 

 

 

 

「その……僕も、昨日は…言い過ぎた……

ご、ごめんなさい……」

 

 

 

「は、はぁ………」

 

 

 

ウィルも昨日の会話の事でルミアに

アドバイスを貰っていたがあまり慣れておらず

小声でシスティに謝るとシスティはウィルが

謝ろうとしてる事だけは分かった。

 

 

 

「おいおい、ウィル君、テメェも随分と

恥ずかしがってまるで乙女みたいに随分と顔を

赤く染めて素直じゃねーじゃん?」

 

 

 

「せ、先生に言われたくありません‼︎

今すぐ乙女みたいだって言葉を撤回して下さい‼︎」

 

 

 

グレンとウィルがキャンキャンと

言い合ってる中システィーナはどういうつもり?

と言わんばかりの露骨な敵意に満ちた視線を

グレンとウィルに送った。だが、当のグレンは

腕組みをして黒板に背を預けて眼を閉じ、

自身に集まるクラス中の猜疑の視線に完全無視を

決め込んで更にウィルはルミアに手を引かれて

隣の席に座っていた。やがて予鈴が鳴る。

 

 

 

どうせ遅刻せずには来たけど立ったまま

寝ているんだろ、との大方の予想を見事に

裏切ってグレンは目を開き、教壇に立った。

 

 

 

そして信じられないことを言った。

 

 

 

「じゃ、授業を始める」

 

 

 

どよめきがうねりとなって教室中を支配した。

誰もが顔を見合わせる。

 

 

 

「さて……と。

これが呪文学の教科書……だったっけ?」

 

 

 

グレンが教科書を開いてぱらぱらとページを

めくっていく。めくるごとにその顔が苦い物に

なっていく。やがて、グレンは露骨にため息を

ついて教科書を閉じた。

 

 

 

何事かと構える生徒達の前で、グレンは窓際へと

ずかずか歩み寄り、窓を開き……

 

 

「そぉい!」

 

 

窓の外へとその教科書を投げ捨てていた。

 

 

 

そしてクラスの全員はそんなグレンの姿を

目にして呆れていた。ああ、やっぱりいつもの

グレンだ。もうすっかり見慣れたグレンの奇行に、

生徒達は失望のため息と共に各々自分の好きな

教科書を開いた。今日も自習の時間が始まるのだ。

 

 

だが。

 

 

「さて、授業を始める前にお前らに一言

言っておくことがある」

 

 

再び教壇に立ったグレンは一呼吸置いて――

 

 

 

 

「お前らって本当に馬鹿だよな」

 

 

 

なんかとんでもない暴言を吐いた。

 

 

 

 

 

今、まさに羽ペンを手に教科書を開き、

魔術式の書き取りを行おうとしていた

生徒達が硬直する。

 

 

 

「【ショック・ボルト】程度の一節詠唱も

できない三流魔術師に言われたくないね」

 

 

 

誰が言ったか。しん、と教室が静まり返る。

そして、あちらこちらからクスクスと

押し殺すような侮蔑の笑いが上がった。

 

 

 

「ま、正直、それを言われると耳が痛い」

 

 

 

「って言うか、先生がそうやって子供みたいに

もったいぶってアホな事をするからみんなに

馬鹿にされるんですよ?」

 

 

 

ウィルに正論を言われるとふて腐れたように

グレンは慌ててそっぽを向きながら

小指で耳をほじる。

 

 

 

「ぐっ‼︎ た、確かに…残念ながら、俺は男に

生まれたわりには魔力操作の感覚と、後、

略式詠唱のセンスが致命的なまでになくてね。

学生時代は大分苦労したぜ。だがな……

誰か知らんが今、【ショック・ボルト】『程度』

とか言った奴。残念ながらお前やっぱ馬鹿だわ。

ははっ、自分で証明してやんの」

 

 

 

教室中に、あっと言う間に苛立ちが

蔓延していく。

 

 

 

 

「まぁ、いい。じゃ、今日はその件の

【ショック・ボルト】の呪文について話そうか。

お前らのレベルならこれでちょうど良いだろ」

 

 

 

あまりにもひどい侮辱にクラスが騒然となった。

 

 

 

「今さら、【ショック・ボルト】

なんて初等魔術を説明されても……」

 

 

 

「やれやれ、僕達は【ショック・ボルト】なんて

とっくの昔に極めているんですが?」

 

 

 

 

 

 

「はいはーい、これが、黒魔【ショック・ボルト】

の呪文書でーす。ご覧下さい、なんか思春期の

恥ずかしい詩みたいな文章や、数式や幾何学図形が

ルーン語でみっしり書いてありますねー、

これ魔術式って言います」

 

 

生徒達の不平不満を完全無視して

グレンは本を掲げて話し始めた。

 

 

「お前ら、コイツの一節詠唱が

できるくらいだから、基礎的な魔力操作や

発声術、呼吸法、マナ・バイオリズム調節に

精神制御、記憶術……魔術の基本技能は

一通りできると前提するぞ? 魔力容量

(キャパシティ)も意識容量(メモリ)も

魔術師として問題ない水準にあると仮定する。

てなわけで、この術式を完璧に暗記して、

そして設定された呪文を唱えれば、あら不思議。

魔術が発動しちゃいまーす。これが、あれです。

俗に言う『呪文を覚えた』っていう奴でーす」

 

 

そして、グレンは壁を向いて

左指を指し、呪文を唱えた。

 

 

 

《雷精よ・紫電の衝撃以て・撃ち倒せ》

 

 

 

グレンの指先から紫電が迸り、壁を叩いた。

相変わらずの三節詠唱に軽蔑の視線が集まるが、

グレンは気にする素振りを見せない。

たった今、自分が唱えた呪文を ルーン語で

黒板に書き表していく。

 

 

 

「さて、これが【ショック・ボルト】の基本的な

詠唱呪文だ。魔力を操るセンスに長けた奴なら

《雷精の紫電よ》の一節でも詠唱可能なのは……

まぁ、ご存知の通り。じゃ、問題な」

 

 

 

グレンはチョークで黒板に

書いた呪文の節を切った。

 

 

 

 

《雷精よ・紫電の・衝撃以て・撃ち倒せ》

 

 

 

 

すると三節の呪文が四節になった。

 

 

 

「さて、これを唱えると何が起こる?当ててみな」

 

 

 

クラス中が沈黙する。

 

 

何が起こるかわからないというより、

なぜそんなことを聞くのかという困惑の沈黙だ。

そんな中、ウィルだけがグレンの問題の内容を 

理解していた。 

 

 

 

 

 

 

「詠唱条件は……そうだな。

速度二十四、音程三階半、テンション五十、

マナ・バイオリズムはニュートラル状態……

まぁ、最も基本的な唱え方で勘弁してやるか。

さ、誰かわかる奴は?」

 

 

 

沈黙が教室を続いて支配していた。

答えられる者は誰一人いなかった。

優等生で知られるシスティーナすら、

額に脂汗を浮かべて悔しそうに押し黙っている。

 

 

 

「これはひどい。まさか全滅か?」

 

 

 

「そんなこと言ったって、そんな所で節を

区切った呪文なんてあるはずありませんわ!」

 

 

 

クラスの生徒の一人、ツインテールの少女――

ウェンディがたまらず声を張り上げ、

机を叩いて立ち上がる。

 

 

 

「ぎゃ――はははははッ!? ちょ、お前、

マジで言ってんのかははははははっ!」

 

 

 

返ってきたのは下品極まりない嘲笑だった。

 

 

 

 

「その呪文はマトモに起動しませんよ。

必ずなんらかの形で失敗しますね」

 

 

 

クラスではシスティーナに次ぐ成績を持つ

男子生徒――ギイブルが立ち上がり、

眼鏡を押し上げながら負けじと応戦する。

 

 

 

「必ずなんらかの形で失敗します、だってよ!? 

ぷぎゃ――ははははははははっ!」

 

 

 

「な――」

 

 

 

「あのなぁ、あえて完成された呪文を

違えてんだから失敗するのは当たり前だろ!? 

俺が聞いてんのは、その失敗がどういう形で

現れるのかって話だよ?」

 

 

 

打ちひしがれたようにうつむく

ギイブルを尻目に、

 

 

 

「何が起きるかなんてわかるわけありませんわ! 

結果はランダムです!」

 

 

 

ウェンディはさらに負けじと

吠え立てるが――

 

 

 

「ラ ン ダ ム!? 

お、お前、このクソ簡単な術式捕まえて、

ここまで詳細な条件を与えられておいて、

ランダム!? お前らこの術、

極めたんじゃないの!?俺の腹の皮を

よじり殺す気かぎゃははははははははははっ! 

やめて苦しい助けてママ!」

 

 

 

ひたすらグレンは人を小馬鹿にするように

大笑いし続ける。この時点でクラスの苛立ちは

最高潮に達していた。

 

 

 

「さてと、次は…ウィル。

この問題を解いてみろ」

 

 

「え? えーと……これは…グレン先生……

この【ショック・ボルト】の改変の

問題の答えを言えば良いんですか?」

 

 

 

「おう、そうだ。

早くこの【ショック・ボルト】の四節の答えな?」

 

 

 

 

グレンは悪役みたいなゲスい表情をしながら

ウィルを煽る様にそう言うと

 

 

 

 

「無理に決まっているぜ…」

 

 

 

 

「全く、これだから階級の低い低級の第三階梯

(トレデ)の三流魔術師は困りますわ…」

 

 

 

 

 

「こんな出鱈目な詠唱の問題がある筈がないし、

解ける筈がない。」

 

 

 

 

カッシュ、ウェンディ、そしてギイブルなどの

生徒達がヒソヒソとグレンの愚痴を話していると

ウィルはつまらなそうに教科書をペラペラと

めくって席を立って

 

 

 

 

 

 

「ふむ、分かりました……

答えは……右に曲がるですか?」

 

 

 

 

「え?」 【生徒全員】

 

 

 

(えっ? どうしてクラスのみんなは

こんな簡単な答えに驚いているんだろう?)

 

 

 

ウィルが能面の様に平然とした表情して答えると

クラスの全員はすっとぼけた声を出していて

ウィルはクラスのみんなの反応に頭を傾げていた。

どうやらこの展開はグレン以外、誰も予想は

出来なかったみたいだった。

 

 

 

「?…グレン先生これでいいですか?

それともどこか間違っていますか?」

 

 

 

「あぁ、正解だ。じゃあ、今から手本で

呪文を四節にして唱えますね〜」

 

 

 

 

 

グレンは四節になった呪文を唱えるとウィルは

元の席に座っていた。そしてグレンの宣言通り、

狙った場所へ直進するはずの力線は大きく弧を

描くように右に曲がって壁へと着弾した。

 

 

 

「さらにだな……」

 

 

 

《雷・精よ・紫電の・衝撃以て・撃ち倒せ》

 

 

さらにチョークで節を切る。

 

 

 

「加えて射程が三分の一くらいになるかな」

 

 

 

これも宣言通りになった。

 

 

「で、こんなことをすると……」

 

 

 

《雷精よ・紫電  以て・撃ち倒せ》

 

 

今度は節を元に戻し、呪文の一部を消す。

 

 

 

「出力が物凄く落ちる」

 

 

 

グレンはいきなり生徒の一人に向けて

呪文を撃った。だが、撃たれた生徒は

何も感じなかったようで目を白黒させる。

 

 

 

「ま、極めたっつーなら、

これくらいはできねーとな?」

 

 

 

(なるほど…流石はセリカ=アルフォネアが

押すだけの人物ではありますね……)

 

 

ウィルは指先でチョークをくるくる回転させ、

見事なまでのどや顔のグレンを見ていた。

腹立たしいことこの上ないが、誰も何も

言い返せない。このグレンという三流魔術師には

術式や呪文について、自分達には見えていない

何かが確かに見えているからだ。

 

 

(しかし…この程度も理解出来ずに初歩の

凡庸魔術の【ショック・ボルト】を

極めたと言うとは……)

 

 

 

ウィルが黙ってしまったシスティ達を

見てそう思う中、グレンはシスティ達に

更に話しを続ける。

 

 

 

 

 

「そもそもさ。

お前ら、なんでこんな意味不明な本を覚えて、

変な言葉を口にしただけで不思議現象が

起こるかわかってんの? だって常識で

考えておかしいだろ?」

 

 

 

「そ、それは術式が世界の法則に干渉をして――」

 

 

 

とっさにこぼれたギイブルの

そんな発言を、グレンは即座に拾う。

 

 

 

「とか言うんだろ? わかってる。

じゃ、魔術式ってなんだ? 式ってのは人が

理解できる、人が作った言葉や数式や記号の

羅列なんだぜ?魔術式が仮に世界の法則に

干渉するとして、なんでそんなものが世界の

法則に干渉できるんだ?おまけになんでそれを

覚えないといけないんだ? で、魔術式とは

一見なんの関係もない呪文を唱えただけで

魔術が起動するのはなんでだ? 

おかしいと思ったことはねーのか? 

ま、ねーんだろうな。

それがこの世界の当たり前だからな」

 

 

 

これはまさにグレンの指摘どおりで、

生徒達の誰もが――システィーナすらも、

そういうものだと勝手に

流してしまっていたことだった。

なにしろ、そんなことを考えなくても

術式と呪文を一生懸命覚えれば

使える魔術はどんどん増えていく。

魔術の勉強で浮かぶ疑問と言えば

習得や実践法に関することばかりで、

根本的な理屈に関しては二の次だった。

そして、習得することそれ自体が楽しくて

誇らしくて、皆、覚えた呪文の数ばかりを

競ってきた。習得した呪文の数が優秀さの

証だった。そういう根本的なことを突き詰めて

考える余裕は生徒達にはなかったのだ。

 

 

 

「つーわけで、今日、俺はお前らに、

【ショック・ボルト】の呪文を教材にした

術式構造と呪文のド基礎を教えてやるよ。

ま、興味ない奴は寝てな」

 

 

 

 

しかし、今この教室内において欠片でも

眠気を抱いている生徒は誰一人いなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グレンはまず魔術の二大法則の一つ

『等価対応の法則』の復習から始めた。

大宇宙すなわち世界は、小宇宙すなわち人と

等価に対応しているという古典魔術理論である。

世界の変化は人に、人の変化は世界に

影響を与えるというものだ。

 

 

 

「占星術なんてまさに等価対応の賜物だよな。

星の動きを観察して、人の運命を読む。

つまり、世界の影響が人に及ぼす影響を

計算する術だ。魔術ってのはその逆なわけだ」

 

 

 

では、魔術式とは何か?

それは世界に影響を与えるものではない。

人に影響を与えるものだ。人の深層意識を

変革させ、それに対応する世界法則に結果として

介入する、それが魔術式の正体だ。

 

 

 

「要するに魔術式ってのは超高度な

自己暗示っつーコトだ。だから、

お前らが魔術は世界の真理を求めて~なんて

カッコイイことよく言うけど、そりゃ間違いだ。

魔術は人の心を突き詰めるもんなんだよ」

 

 

 

つまりルーン語とは最も効率良く、

効果的かつ普遍的に、自己暗示による

深層意識変革を起こせるよう、

人間が長い歴史の中で編み出した

暗示特化専用言語に過ぎない。

 

 

「何? たかが言葉ごときに人の深層意識を

変えるほどの力があるのが信じられないだって? 

……ったく、あー言えばこう言う奴らだな

……おい、そこの白猫」

 

 

「だから私は猫じゃありません!

私にはシスティーナって名前が――」

 

 

「……愛している。

実は一目見たときから俺はお前に惚れていた」

 

 

「は? ……な、……な、なななな、

貴方、何を言って――ッ!?」

 

 

 

「ルミア。どうしてシスティの顔色が

あんなに真っ赤になってるの?」

 

 

 

「あ、あははは……それはねぇ……」

 

 

グレンの言葉に真っ赤になっているシスティの

今の症状を見てウィルはルミアに質問するが

ルミアはどう答えていいか分からず悩んでると

グレンは平然と更に話しを続ける。

 

 

 

 

 

「はい、注目ー。

白猫の顔が真っ赤になりましたねー? 

見事に言葉ごときが意識になんらかの

影響を与えましたねー? 

比較的理性による制御のたやすい

表層意識ですらこの有様なわけだから

理性のきかない深層意識なんて――ぐわぁっ!? 

ちょ、この馬鹿! 教科書投げんなッ!?」

 

 

「馬鹿はアンタよッ! 

この馬鹿馬鹿馬鹿――ッ!」

 

 

 

(この状況は非常に興味深い……)

 

 

ウィルが二人の会話や行動を観察して

一騒動の後、顔を真っ赤に腫らしたグレンは

術式と呪文の関係について話し始める。

 

 

「核心を先に言っちまえば、やっぱ文法と

公式みたいなのがあるんだよ。深層意識を

自分が望む形に変革させるためのな」

 

 

そして、グレンは呪文とは深層意識に

覚え込ませた術式を有効にするキーワードと

説明する。このキーワードを唱えることで、

術式が深層意識を変革させる。

 

 

「ま、要は連想ゲームだわな。

例えば、そこの白猫娘と聞けば白髪、

と誰もが連想するように呪文と術式の

関係も同じだ。ルーンで呪文を括ることで

相互――痛ぇッ!? ちょ、頼むから

教科書投げないでぉおぶはぁッ!?」

 

 

(うわぁ…痛そう…)

 

 

ウィルは両手で顔を触りながらグレンを

見るとグレンの顔に、さらに本の痕がつく。

 

 

「要するに、呪文と術式に関する魔術則……

文法の理解と公式の算出方法こそが

魔術師にとっては最重要なわけだ。

なのにお前らと来たら、この部分を

平気ですっとばして書き取りだの翻訳だの、

覚えることばっか優先しやがって。教科書も

『細かいことはいいんだよ、とにかく覚えろ』

と言わんばかりの論調だしな」

 

 

生徒達も今度こそ、ぐうの音も出ない。

 

 

「要するに、だ。呪文や術式を分かりやすく

翻訳して覚えやすくすること、これがお前らの

受けてきた『分かりやすい授業』であり、

ガリガリ書き取りして覚えること、

これがお前らの『お勉強』だったんだろ? 

もうね、アホかと」

 

 

グレンは肩をすくめて、

呆れ返ったように鼻を鳴らした。

 

 

「で、その問題の魔術文法と魔術公式なんだが……

実は全部理解しようとしたら、寿命が足らん……

いや、怒るな。こればっかりはマジだ。

いや、本当に」

 

 

ここまで持ち上げておいてなんだと、

非難めいた視線がグレンに集まる。

 

 

「だーかーら、ド基礎を教えるっつったろ? 

これを知らなきゃより上位の文法公式は

理解不可能、なんていう骨子みたいなもんが

やっぱあるんだよ。ま、これから俺が

説明することが理解できれば……んーと」

 

 

少しの間、グレンはこめかみを

小突きながら考え込んで。

 

 

「《まぁ・とにかく・痺れろ》」

 

 

三節のルーンで変な呪文をゆっくり唱えた。

すると、驚くことに【ショック・ボルト】の

魔術が起動した。生徒達は目を丸くした。

 

 

「あら? 威力が思ったより弱いな……

まぁいい…次にウィル、お前もやってみろ?」

 

 

グレンがそう言うとウィルが頭を傾げて

 

 

 

「は、はぁ……でも、どうして僕なんですか?」

 

 

 

「そりゃ…お前がここにいる生徒達よりも俺の

言いたい事を理解しているみたいだからなぁ?」

 

 

 

 

グレンがニヤニヤしながらそう言うと

ウィルにそう言うとウィルは溜息を出して

 

 

 

 

「《稲妻よ・ビリビリ・流れろ》」

 

 

 

ウィルが三節のルーンを唱えるとグレンよりも

威力が凄い【ショック・ボルト】が発動した。

それを見たグレンや生徒達はポカーンとしていた。

 

 

 

(こいつマジかよ……)

 

 

 

 

グレンはウィルを見てそう考えていると

 

 

 

「先生? グレン先生‼︎」

 

 

 

 

「お、おう…ど、どうした?」

 

 

 

ウィルはグレンに声を掛けるとグレンは

ウィルの声に驚いていた。

 

 

 

 

「こんな感じでいいんですか?」

 

 

 

 

 

「あ、あぁ……そうだな…こんな風に即興で

この程度の呪文なら改変することくらいは

できるようになるか? まぁ、普通なら

大抵精度落ちるからお勧めしないが」

 

 

 

グレンが説明している中、ウィルは自分の席に

戻って見ると生徒達はここに来て、ようやく

グレンを見る目が変わってくる。

 

 

「流石、グレン先生だね‼︎」

 

 

「そうだね…それにルミア、

なんだかとっても嬉しそうだね?」

 

 

 

 

ルミアが嬉しそうにそう言うとウィルは

分からないと言った表情を浮かべていた。

 

 

 

 

 

「だってみんなグレン先生を最初見た時は

あまり関係が良くなかったのに今では

みんなが仲良くなってくれているからね?」

 

 

 

 

「そ、そうなんだ……」

 

 

 

 

そんな嬉しそうなルミアの顔を見てウィルは

理解出来ずに考え込んでいるとグレンが

 

 

 

 

「じゃ、これからいよいよ基礎的な文法と公式を

解説すんぞ。ま、興味ない奴は寝てな。

正直マジで退屈な話だから」

 

 

 

 

グレンがそう言って魔術の基礎についての

方程式を黒板に書いて更に本格的に授業を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――。

 ――同時刻。フェジテの某所にて。

 

 

『計画は順調か?』

 

 

「ええ、順調ですよ?」

 

 

一筋の光も差さぬ真っ暗闇の中、

その男は柔和な笑みを浮かべながら、

耳元に当てた半割りの宝石から

響いてきた声の質問に答えた。

 

 

『で? その講師……

ヒューイ=ルイセンは今、どこに?』

 

 

「はは、『彼』ですか?

 もちろん『消えました』」

 

 

『ふっ、はははっ、そうか『消えた』か』

 

 

「……はい。

問題は『彼』の後釜に

入ってきた方なのですが」

 

 

『グレン=レーダス、か。

講師の補充は想定内だが、

まさかここまで早いとはな。

どうもあの魔女の差し金らしい』

 

 

「はは、万事が上手くいくと

いうわけはありませんから」

 

 

男は肩をすくめて、おどけてみせる。

 

 

「しかし、あのアルフォネア教授が

直々に連れて来た魔術師……

大丈夫なのでしょうか?」

 

 

『グレンが我々の計画の

障害となるか否かについてだが、

私は問題ないと判断した』

 

 

「そうなのですか?」

 

 

『ああ。このグレンという男。

あの魔女が連れて来た魔術師と

いうことで警戒して調べてみれば……

なんてことはない。第三階梯(トレデ)

止まりの三流魔術師。我々の敵ではない』

 

 

「となるとやはり……」

 

 

『ああ、計画実行予定日はやはり、

件の魔術学会開催の日だ。

その日、学院の主要な教授、

講師格の魔術師達は全員魔術学院を出払う。

そして、その日は『あの』クラスの生徒達だけが、

魔術学院に来ることになる。まさに絶好の日だ』

 

 

「……目標がなんらかの事情で

学院の授業を欠席した場合はどうしますか?」

 

 

『計画を破棄すればいいだけの話。

元よりあの組織にとって今回の作戦、

そして我々の価値などその程度だ』

 

 

「はは、難儀な組織に忠誠を

誓ったものですね、我々も」

 

 

『構わん。あの組織は

私に全てを与えてくれる』

 

 

「お互い様、というわけですか?」

 

 

『ああ』

 

 

「ふふ、では計画の成功を祈りましょう。

『天なる智慧に栄光あれ――』」

 

 

 

 

 

 

 




読んでいただきありがとうございます。
今は新しい作品も書いたり、現実の用事があって
投稿が難しいですが頑張って書いていますので
出来れば皆さまの応援をしてくれると自分としては
嬉しいですし、ありがたいです


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見えない傷と赤き雫

みなさんお久しぶりです‼︎
色々と忙しかったので投稿日が遅れました。
本当にすみませんでした‼︎m(_ _)m



そして『投票者7人』、『お気に入り94人』
誠にありがとうございます‼︎



後、『ロクでなし魔術講師と禁忌の教典14巻』
の発売記念も兼ねて必要に頑張って投稿しました。



今回も膨大な量を書かせてもらいましたので是非、
読んで見て『投票』や『お気に入り』をお願い
します‼︎更には『意見』、『感想』がありましたら
是非、よろしくお願いします‼︎


そして今現在書いている『他の連載中の投稿作品』
の『ロクでなし魔術講師と死神の魔術師』や
『落第騎士と幻影の騎士』、更には最近投稿をした
『隠密者が斬る!』などありますのでこれからも
よろしくお願いします。


――――。

 

――あっと言う間に時間が過ぎた。

グレンの授業は別に、よくいる似非カリスマ

講師の授業――奇抜なキャラクター性や巧みな

話術で生徒達の心をつかむような物でも、やたら

生徒達に迎合し、媚を売るような物でもない。

ただ、教授する知識を真の意味で深く理解して、

それらを理路整然と解説する能力があるゆえに

為せる、本物の授業であった。

 

 

 

「……ま、【ショック・ボルト】の術式と呪文に

関してはこんな所だ。何か質問は?」

 

 

 

グレンは小奇麗な文字や記号、図形でびっしりと

埋まった黒板をチョークで突いた。

 

 

質問者は誰一人いない。グレンの存在感に圧倒

されていることもあるが、質問の余地がないと

いうのが本音だった。

 

 

 

 

「今日、俺が話したことが少しでも理解できる

なら、三節を一節に切り詰めた呪文がいかに綱渡り

で危険極まりない物だったか多少はわかった

はずだ。確かに魔力操作のセンスさえあれば実践

することは難しくない。だが、詠唱事故による暴発

の危険性は最低限理解しておけ。軽々しく簡単

なんて 口にすんな。舐めてると、いつか事故って

死ぬぞ」

 

 

 

そして、グレンはかつてないほどの真剣な表情を

生徒達に向けた。

 

 

 

「最後にここが一番重要なんだが……説明の通り、

魔力の消費効率では一節詠唱は三節詠唱に絶対

勝てん。だから無駄のない魔術行使と言う観点では

三節がやはりベストだ。だから俺はお前らには

三節詠唱を強く薦める。別に俺が一節詠唱できない

から悔しくて言ってるんじゃないぞ。本当だぞ。

本当だからな?」

 

 

 

(やっぱり、悔しいことは悔しいんだ……)

 

 

 

その瞬間、生徒達の心中は見事に一致した。

 

 

 

「とにかくだ、今のお前らは単に魔術を使うのが

上手いだけの『魔術使い』に過ぎん。将来、

『魔術師』を名乗りたかったら自分に足らん物は

なんなのかよく考えておくことだな。まぁ、お薦め

はせんよ。こんな、くっだらねー趣味に人生費やす

くらいなら、他によっぽど有意義な人生がある

はずだしな……さて」

 

 

 

グレンは懐から懐中時計を取り出し、針を見る。

 

 

「ぐあ、時間過ぎてたのかよ……やれやれ、

超過労働分の給料は申請すればもらえるのかねぇ?

まぁ、いいや。今日は終わり。じゃーな」

 

 

ぶつぶつ愚痴をこぼしながらグレンは教室から

退室していく。生徒達はそれを放心したように

見送る。ばたんと扉が閉まった瞬間、それが

まるで合図であったかのように、生徒達は一斉に

板書をノートに 取り始めた。皆、何かにかこく

取り憑かれているかのような勢いだった。

 

 

 

「なんてこと……やられたわ」

 

 

 

システィーナが顔を手で覆って深くため息を

ついた。

 

 

「まさか、あいつにこんな授業が

できるなんて……」

 

 

「そうだね……私も驚いちゃった」

 

 

 

 隣に座るルミアも目を丸くしていた。

 

 

 

 

「悔しいけど……認めたくないけど……あいつは

人間としては最悪だけど、魔術講師としては

本当に凄い奴だわ……人間としては最悪だけど」

 

 

 

「あ、あはは、二回も言わなくたって……」

 

 

 

「ルミア。多分、大丈夫だと思うよ?」

 

 

 

 

「えっ? どうしてなの…ウィル君?」

 

 

 

 

目を丸くしていたルミアがウィルに聞くと隣の席

に座ってペラペラと音を立てながらページを

めくっていたウィルはパタンと音を立てて本を

閉じて無表情で光無き瞳の視線をシスティと

ルミアに向けて

 

 

 

 

「今、東方の本読んだけど今のシスティに

ぴったりな『とある言葉』があったんだけれど…」

 

 

 

 

「へぇ〜‼︎ 凄いね。ウィル君‼︎ 東方の本を

持っているなんて、東方の本なんて手に入れる

のはなかなか難しいって聞いた事があるけど?」

 

 

 

 

「…………………………」

 

 

 

 

「ウィル君…?」

 

 

 

ウィルがルミア達にそう言うとルミアが笑顔で

ウィルを褒めるがウィルは俯いて静寂に包まれて

いたが、ウィルが少しして俯いていた顔を少し

上げて

 

 

 

「……別に。僕の今、世話になっている人が用意

してくれるから……」

 

 

 

(今、ウィル君……照れた…?)

 

 

 

 

普段から褒められ慣れていないのか真っ赤に頬を

染めてウィルは俯きながらも視線を向けて

ポツリポツリとではあるがルミアに言葉を

発していた。

 

 

 

ルミアはそんなウィルの今の表情を見てとても

驚いていた。ルミアが驚くのもその筈だ。今まで

短い間だったがルミアなりにウィルを見てきた

つもりだった。最初、ウィルに初めて会った時に

感情が乏し過ぎて感情が読み取りづらかったけど

一瞬、ほんの一瞬だけであるが少しだけウィルの

感情を感じ取れるようになった。

 

 

 

 

 

 

しかし、どうしてなのか本人のルミアには全く

分からず気にしなかった。そしてその違和感が

一体、それが何なのかが分かった。その理由は

グレンとシスティのこの世界の『魔術師』の

在り方や『魔術の善悪』について話し合った時に

何故かは分からないがその時のウィルはどこか

悲しそうで憎んでいる様に見えた。だが、それでも

ウィルの言っている事は正しい。だが、それでも

ルミアはウィルの事がとても心配だった。

 

 

 

その小さな体には一体、どれだけの深い闇を

背負っているのだろう、と心配していると

システィがイキイキとした表情で話しをする。

 

 

 

 

「それでも凄いわよ‼︎ あ、後、も、もし…

良かったら、今度、是非、本を貸してほしい

のだけど……」

 

 

 

「良いよ。別に……」

 

 

 

システィも驚いて戸惑いながらも魔術師や魔術

についての議論などの事を思い出してウィルに

話しづらかったがルミアがウィル話しているのを

見てシスティも勇気を出してウィルに話しかけた。

もしかしたらあの時みたいに暗くて冷たい瞳を

こちらに向けてくるかもしれないとブルッと体が

身震いしたが話しかけてみればどうと言う事は

なかった。更には前から気になってた東方の本が

読めるので喜ばすにはいられなかった。

 

 

 

 

「それで、私にピッタリな言葉って何かしら?」

 

 

 

システィは気になったのか興味津々でウィルに

聞いてみた。

 

 

 

 

『嫌よ嫌よも好きのうちって言葉がある…』

 

 

 

 

 

「嫌よ嫌よも…? どういう意味なの?」

 

 

 

 

 

ルミアがウィルに言葉の意味を聞くとウィルは

「システィみたいな人の事を言う言葉」と二人

に言ったがシスティとルミアは全く分からないと

いう表情を浮かべているのが分かったウィルは

 

 

 

「主に女性が男性に誘いを掛けられた際などに、

口先では嫌がっていても実は好意が無いわけでは

ないと解釈するって意味…」

 

 

 

 

 

「ん、んにゃ‼︎ にゃにを⁉︎」

 

 

 

 

 

ウィルの言葉で意味を理解したシスティの顔は

真っ赤にしてオロオロした表情で動揺しながら

ウィルに返事をした。

 

 

 

「なるほど…確かに、ウィル君の言う通りかも…」

 

 

 

 

「でしょ?」

 

 

 

「ちょ、ちょっと‼︎ ルミアまで‼︎」

 

 

 

ウィルの言葉で納得したルミアを見て更に顔を

真っ赤して動揺した。

 

 

 

 

「どうしてそんなに恥ずかしがるのシスティ?

恋をするのは人として当然の機能でしょ?

それに本に書いてあったんだけど?」

 

 

 

 

「ぜ、全然恥ずかしくないしっ‼︎ そ、それに

貴方、もう少し『女心を……いや、人の心』を

理解する事を心掛けた方が良いわよ‼︎」

 

 

 

 

 

「女心を…人の心を…理解する……」

 

 

 

 

ウィルはシスティの言葉を聞いてただ一言、

「難しい…」と深く考える様な仕草をして言うと

ルミアは「そんなに深く考えなくて良いよ?」と

言うがウィルは更に集中して考え込んでいた。

 

 

 

(良かった…魔術についてウィル君とシスティが

揉めたあの時はとても心配だったけど何の問題も

なく話せていて本当に良かった…もし、叶うなら…)

 

 

この時、ルミアはシスティとウィルのたわいもない

平凡で幸せな日常がいつまでも続きますようにと

密かに願った。

 

 

するとシスティはそんなウィルを見て顔を真っ赤に

しながらも動揺して噎せながらながらもさっきの

話を必死になって逸らそうとする。

 

 

 

 

「で、でも、あいつ、なんで突然、真面目に授業

する気になったのかしら? それにあいつも昨日

はあんなこと言っていたのに……あれ?」

 

 

 

 

慌てながらもルミアに目を向けて、システィーナ

は気づいた。

 

 

 

 

「ルミア……貴女、どうしてそんなに

嬉しそうなの? なんか笑みがこぼれてるわよ?」

 

 

「ふふ、そうかな?」

 

 

 

「そうよ。なんかかつてないほど、

ごきげんじゃない。何かあったの?」

 

 

 

「えへへ、なんでもないよー?」

 

 

 

「嘘よー、絶対何かあったってその顔は

ウィルもそう思うでしょ?」

 

 

 

「ーー僕にはよく分からない……」

 

 

 

 

 

「えへへへ……」

 

 

 

何度もルミアに聞いてウィルにも同意をウィルに

求めるがウィルは頭を傾げてルミアはのらりくらり

とかわして嬉しそうな微笑みを崩さない親友に

システィーナは首をかしげていると

 

 

 

 

「分からない……分からない…」

 

 

 

 

ウィルはシスティとルミア、二人を見て心の底の

モヤモヤするこの感覚にかなり戸惑って胸が苦しく

ながら幼い子供の様に無意識にただ小声で

呟いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダメ講師グレン、覚醒。

 

 

その報せは学院を震撼させた。噂が噂を呼び、他所

のクラスの生徒達も空いている時間に、 グレンの

授業に潜り込むようになり、そして皆、その授業の

質の高さに驚嘆した。

 

 

 

これまで学院に籍を置く講師達にとっては、

魔術師としての位階の高さこそが講師の格であり、

権威であり、生徒の支持を集める錦の御旗だった。

だが、学院に蔓延する権威主義に硬直したそんな

空気は一夜にして破壊された。まさに悪夢の

日だった。

 

 

 

「セリカ君の連れてきた彼、

凄いそうじゃないか!」

 

 

 

ごきげんなリック学院長の興奮気味な声が、

学院長室に響き渡った。

 

 

 

「最初の十日はえらく評判が悪くて、

どうなることやらと懸念してたが杞憂に

終わったようで何より何より」

 

 

 

「……くっ」

 

 

 

ハーレイが悔しげにうめく。グレンが真面目に

授業し出した日以来、自分が行う授業の出席率が

微妙に目減りしたからだ。つまり、ハーレイの

授業を欠席してまでグレンの授業に参加しようと

する生徒がいるのだ。

 

 

 

 

「ふふふ……何を隠そう、グレンはこの私が

一から仕込んだ自慢の弟子だからな」

 

 

 

ここぞとばかりにセリカは胸を張って宣言した。

 

 

 

「なんと! セリカ君、君、弟子を取って

いたのかね!? 弟子は取らない主義じゃ

なかったのかな?」

 

 

「アイツが唯一の例外だ。

ま、デキは悪かったけどな」

 

 

「ほう、なんとなんと。でも、なぜ今まで

そのことを隠されていたのかな?」

 

 

「ん? 決まってるだろ? グレンが講師として

ダメダメだったら、師匠の私が恥ずかしいだろ?

だから黙ってた」

 

 

 

「根本的に似た者師弟だな、あんたら!」

 

 

 

学院長室にハーレイのツッコミが虚しく響く。

 

 

 

「よせよ、ハーレイ。

そんなに褒めても何も出ないさ」

 

 

 

 

「やかましい! 褒めてないわッ! 

この師匠バカめ!」

 

 

 

 

「いやぁ、グレンって魔術の才能は残念なやつ

なんだが、これがまた努力家でさー、あいつが

子供の頃、お前には向いてないから別のこと

やれって何度言っても、アイツ、私みたいな

凄い魔法使いになりたいって聞かなくてさぁー、

それが今では三流とは言え、一応人並みの魔術師に

なっただろ? だから私は知ってたんだよなー、

やればできる子だって。あ、そうそう、

そう言えば、アイツに魔術を教え始めた頃、

こんなことがあってな――」

 

 

 

にへらにへらと。

 

 

 

セリカは普段の鉄面皮からは信じられないほど

緩んだ顔で、弟子自慢を始める。

 

 

まったくもって聞きたくも知りたくもない

マル秘情報開示に、ハーレイはぶるぶると肩を

震わせながら、こめかみに青筋を浮かべていく。

 

 

 

(おのれ……グレン=レーダス……ッ!)

 

 

 

ハーレイは苛立ちに打ち震えながら、ふと、

つい先日の出来事を思い出す――

 

 

 

 

「おい、グレン=レーダス。おい、聞いてるのか

グレン=レーダス! 返事をしろ!」

 

 

 その日。

 

 

ハーレイは素行の悪さで有名なグレンを先輩講師

として締め上げてくれようと、学院内廊下を

のそのそ歩くグレンの背中に威圧的な言葉を

浴びせかけた。するとグレンは突然、きょろきょろ

と周囲を見渡し、ちらりとハーレイを一瞥すると、

不思議そうに首を傾げ、ハーレイを無視して再び

歩き始めたのだ。

 

 

 

「って、おい!? 貴様、なんだその『アイツは

一体、誰に声をかけているんだ?』的な態度は⁉︎

 グレン=レーダスはお前だろ!? お前しか

いないだろ!?」

 

 

 

 

ハーレイはグレンの前に回り込んで進路を塞ぎ、

凄まじい形相でグレンを睨みつけた。

 

 

 

「違います。人違いです」

 

 

 

 

「んなわけあるか!? この間抜けな面は

間違いなくグレン=レーダスだッ! そもそも

この間、貴様の採用面接をしてやったのは

この私だろうがッ!」

 

 

「あ、誰かと思ったら先輩講師のハーレムさん

じゃないっすか! ちぃ~っす!」

 

 

 

「ハーレイだッ! ハーレイッ! 

貴様、舐めてるのか!?」

 

 

 

 

「いえいえ、そんなコトはないっすよ、えーと、

ハー……何とか先輩」

 

 

 

「貴様、そんなに覚えたくないか? 

私の名前……」

 

 

 

ハーレイは怒りと屈辱に身を焼き焦がしながらも、

本題に入った。

 

 

「噂は聞いているぞ、グレン=レーダス。

貴様、講師にあるまじき態度らしいな?」

 

 

 

「…………」

 

 

 

 

「調子に乗るなよ? 貴様が今のような破格の

立場を享受できるのは貴様の器でも実力でも

なんでもない!あの魔女……セリカ=アルフォネア

の増上慢があってこその物であると知れ! 

いくらセリカ=アルフォネアが――」

 

 

 

「そのいちいち姓名合わせて呼ぶの疲れね?」

 

 

 

 

「やかましい! 話の腰を折るな! いくら

セリカ=アルフォネアが神域の第七階梯

(セプテンデ)に至った魔術師とは言え、

このような横暴がいつまでも通るとは

思わないことだ!」

 

 

 

「ですよねー? セリカって最近、調子乗り過ぎ

ですよねー? ありゃいつか絶対、天罰下るわー」

 

 

 

「なんでそんなに他人事なのお前!? 

とにかく契約期間は一カ月だが、貴様、一ヶ月間も

この学院にいられると思うなよ!? あらゆる手を

尽くして貴様をこの学院からすぐに叩き出して

やる、覚悟しろ……ん?」

 

 

 

ハーレイが気付くとグレンはハーレイの前で

深々とお辞儀をしていた。

 

 

 

「ありがとうございます! どうかよろしく

お願いします! 俺、めっちゃ期待してますから

頑張って下さい! えーと、ハー……? あ、

ユーレイ先輩!」

 

 

 

「き、き、き、貴様ァアアアアアアア――ッ!?」

 

 

 ……。

 

 

 

 

あれだけなら私も我慢出来ただろう……それに

グレン=レーダスはまだマシだと本当に思う。

だが、『あいつ』だけは許せない……ああ‼︎

思い出すだけで腹立たし過ぎてしまう‼︎

そう、『ウィル=オリバー』だけは‼︎

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それでは三属呪文についてのおさらいするぞ」

 

 

 

 

ハーレイはそう言うと黒板にルーン文字書いて

更に説明していく

 

 

 

 

「んで、こうなることにより三属呪文は根本的に

同じだ。更に導力ベクトルは根源素中の電素の

振動の方向と流動方向がある。そして……」

 

 

 

 

ハーレイは前回グレンが授業した三属呪文に

対抗する様に授業していた。

 

 

 

 

「ってなわけだ。質問ある者はいるか?」

 

 

 

 

ハーレイが質問するが誰も手を上げる

生徒はいない。

 

 

 

 

(ふっ…私が言うのも何だがどうやら私の授業

は完璧だったみたいだな…)

 

 

 

 

 

ハーレイは安堵しながら「今日はここまでだ‼︎」

と言って満足そうに教室から立ち去ろうとすると

 

 

 

 

 

「はい。質問があります。」

 

 

 

 

 

静寂の中、『ある一人の生徒』の声が静かな教室

に響いた。

 

 

 

 

「貴様は……」

 

 

 

 

「はい。ウィル=オリバーと言います。実は

ハッピー先生に教えなきゃいけない事が

ありましてよろしいでしょうか?」

 

 

 

 

 

「ハッピーじゃない‼︎ 何故、間違える‼︎

私の名前はハーレイ‼︎ハーレイ=アストレイだ‼︎

全く…最近は貴様といい…あの男といい…非常に

不愉快極まりない…んで、何の用だ。

ウィル=オリバー?」

 

 

 

ハーレイが不満そうにギロリとウィルを睨みつけ

ながらそう言うとウィルはハーレイがいる教卓

辺りに近づいて

 

 

 

 

「バーゲン先生…貴方の授業見ていましたが非常

に効率が悪過ぎます。」

 

 

 

 

 

 

「バーゲンじゃない‼︎ 何度言えば分かるんだ‼︎

ハーレイ‼︎ ハーレイ=アストレイだ‼︎ それに

効率が悪過ぎるだと…?」

 

 

 

 

 

 

「そうです。貴方の授業は効率が悪過ぎます。

それにこの問題の間違いすら分からないなんて

講師としては貴方よりグレン先生の方が優れて

います。」

 

 

 

 

 

「何だと…?第五階梯(クィンデ)である私より

あの怠惰で不真面目なあの第三階梯(トレデ)の

非常勤講師が私よりも優れていると、更にこの

説明に間違いがあると貴様は言っているのか…?」

 

 

 

 

 

「そう言ったのですが、貴方の耳には

聞こえなかったのですか?」

 

 

 

 

 

ウィルがハーレイに堂々と言うと二人の会話を

聞いていた後ろの席に座っている生徒達は

ざわざわと騒ぎ始めていた。

 

 

 

 

「ふん‼︎ なら、私の授業の一体、どこが違う

のか教えてもらおうか…ウィル=オリバー‼︎」

 

 

 

 

 

 

 

ハーレイは怒りを込めた声でギロリとウィルを

睨みつけながら【ダン‼︎】と右手で黒板を力強く

叩きつけて説明を要求するとそんな緊張感の中

周りの生徒達は「どうなるんだ…?」と言う者や

「ハーレイ先生の授業は完璧だったわよ?」と

ざわざわと騒ぎ始めていた。

 

 

 

 

 

「分かりました…それでは今から分かりやすい

様に説明されてもらいます」

 

 

 

 

ウィルはハーレイにそう言って視線を黒板に向けて

チョークを持ってカツカツと音を立てている中、

ハーレイは何か言いたげにウィルを睨みつけていた

がウィルはそんなハーレイを無視してハーレイが

書いた術式に何の迷いや躊躇いもなく淡々と色々な

書き足しをしていていた。

 

 

 

 

「そもそも…この三属呪文の説明があまりにも

回りくど過ぎるんですよ。少し誤字がありますし、

更にはこの不必要過ぎる大量のルーン文字。

こんなに術式にルーン文字を引き詰めては意味

ないですし、前にグレン先生が言うにはルーン語

とは最も効率良く、効果的かつ普遍的に、自己暗示

による深層意識変革を起こせるよう、人間が長い

歴史の中で編み出した暗示特化専用言語に過ぎない

らしいですよ?」

 

 

 

 

ウィルがハーレイにそう言ったと同時に【ガッ‼︎】

黒板から音が鳴って書き終えた後だった。

 

 

 

 

 

「んな⁉︎ ば、馬鹿な‼︎こ、こんなに事が…

だ、だが…この術式なら…あり得ない…だが、

これは…一体、どうして?」

 

 

 

 

 

「この程度の魔術の方程や式術式で驚くくらいなら

貴方はやはり教師としてはそれが限界ですよ?貴方

が三流と馬鹿にしたグレン先生に負けて更に魔術師

の階級を根本的に覆されたからっと言って駄々を

ごねるその態度…貴方はグレン先生の足元にも全く

及ばない…グレン先生の方が経験も知識もむしろ、

貴方の方が三流です。」

 

 

 

 

ウィルがハーレイにそう言うと周りの生徒達も

「確かに……」とか「そっちが分かりやすいね‼︎」

と複数の人の声が聞こえてきた。

 

 

 

 

 

 

「他の生徒達の様子を見れば結果は一目瞭然

ですね。階級に拘るからですよ?全く…この程度

すら全く分からないなんて貴方はもう一度、魔術に

ついて 勉強し直した方がいいのでは?もしくは、

グレン先生に魔術理論を教わった方がいいのでは?

えーとー…ハ…ハゲ先生?」

 

 

 

 

「お、お、お、おのれェエエエエエエエーーー‼︎」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

未だかつて、あれほどこの自分をコケにし輩達が

いただろうか。しかも第五階梯(クィンデ)である

この私に魔力容量(キャパシティ)も意識容量

(メモリ)も普通、系統適正も全て平凡、更に講師

としてあるまじき振る舞いをしている第三階梯

(トレデ)であるグレン=レーダスに教えを請え

だと…?更には第五階梯(クィンデ)である

この私に、魔力容量(キャパシティ)も意識容量

(メモリ)も普通、系統適正も全て平凡の魔術師の

第三階梯(トレデ)で優って魔術の発展に貢献を

しているこの私があの男、グレン=レーダスに魔術

もそして魔術師としてもよりも劣っているなどと

生徒達の前であんな戯言を並べて私に恥を屈辱を

かかせて……思い出しただけますます胃がキリキリ

してきたわ‼︎

 

 

(おのれ‼︎ ウィル=オリバーめ‼︎ 私の授業を邪魔

をして更にあんなふざけた男が講師としては私より

格上だとぉッ!? 認めん! 認めんぞぉ!)

 

 

 

 

 

「それでさー、アイツが一生懸命頑張って、初めて

その魔術を成功させてさー、セリカありがとうって

泣きついてきてさー、いやー、可愛い時期も

あったなぁー。とにかく、あの一件で私はアイツを

見直したね。お前もそう思うだろ? ん?」

 

 

 

ハーレイの煮えたぎる胸中など露知らず、

セリカの誰得弟子自慢は続いている。本当に師弟、

更にはその弟子の生徒もそろって鬱陶しい連中

だった。

 

 

 

(ぐぬぬ……おのれ、グレン=レーダスッ!

いつか、絶対、この学院から追い出してやるぞ

……ッ! そして、ウィル=オリバーッ!貴様も

絶対にグレン=レーダスよりも私の方が優れている

と言う事を認めさせてやる。 覚悟しろ……ッ!)

 

 

 

顔を真っ赤にしてハーレイは打倒グレンを密かに

誓うのであった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

専属講師としてグレンがあてがわれた

システィーナ達二年次生二組のクラスはとにかく、

学院の生徒達の羨望を集めた。教室で空いている

席は日を追うごとに他のクラスからの飛び入り

参加者で埋まっていき、さらに十日経つ頃には

立ち見で授業を受ける者も現れた。

 

 

 

グレンが生徒達に一目置かれるようになるにつれ、

学院の講師達の中には今まで自分達が行っていた

『位階を上げるために覚えている呪文の数を増やす

だけの授業』に疑問を持ち始める者も現れる。

若く熱心な講師の中にはグレンの授業に参加して、

グレンの教え方や魔術理論を学ぼうとする者も

いた。だが、自分がそんな注目を集めていること

など露知らず、相も変わらずグレンはやる気

なさげな言動を繰り返しながら、今日も面倒臭そう

に授業を行っていた。

 

 

 

 

「……魔術には『汎用魔術』と『固有魔術

(オリジナル)』の二つがあって、今日はお前らが

誰でも扱えるからと馬鹿にしがちな汎用魔術の術式

を詳しく分析してみたが、固有魔術(オリジナル)

と比較して汎用魔術がいかに緻密に高精度に完成

された術なのか理解できたかと思う」

 

 

 

黒板に書かれた魔術式の一節をチョークで

突きながらグレンは言った。

 

 

 

「そりゃ当然だ。【ショック・ボルト】みたいな

初等の汎用魔術一つをとっても、お前らの何百倍

も優秀な何百人もの魔術師達が何百年もかけて、

少しずつ改良・洗練させてきた代物なんだからな。

そんな偉大なる術式様に向かって、やれ独創性が

ないだの、古臭いだの……もうね、お前ら

アホかと」

 

 

授業の当初、固有魔術(オリジナル)こそ至高

だと主張していた生徒達は肩を落とすしかない。

 

 

 

「お前らは個々の魔術師にオンリーワンな術である

固有魔術(オリジナル)をとてつもなく神聖視して

いるが、実は固有魔術(オリジナル)を作るなんて

全然、たいしたことじゃねーんだ。魔術師としちゃ

三流の俺だって余裕で作れる。じゃ、固有魔術

(オリジナル)の何が大変かと言えば、お前らの

何百倍も優秀な何百人もの魔術師達が何百年も

かけてやっと完成させた汎用魔術を、固有魔術

(オリジナル)は自分たった一人で術式を組み

上げて、かつ、それら汎用魔術の完成度をなんらか

の形で越えてなければならないという一点に

尽きる。じゃねーと固有魔術(オリジナル)なんて

使う意味がない」

 

 

 

あからさまに意気消沈する生徒達を見て、グレンは

底意地悪そうに笑った。

 

 

 

「ほーら、頭痛くなってきただろ? 

今日見たとおり、お前らが小馬鹿にした汎用魔術は

とっくに隙も改良の余地もない完成形だ。並大抵の

ことじゃ、固有魔術(オリジナル)は汎用魔術の

劣化レプリカにしかならんぜ? 俺も昔やってみた

けど、ロクなものができんかったから馬鹿馬鹿しく

なってやめたわ。はっはっは、時間の盛大な

無駄遣いだった」

 

 

 

この物言いに、くすくすと笑う生徒が半分、眉を

ひそめる生徒が半分。グレンの授業手腕は

認めても、魔術に対して欠片の敬意も払わない

その態度に反感を覚える者は多い。そんな中、

ウィルはグレンの授業を聞いてはいたが視線は

グレンを向けて追いかけながら心ここにあらずと

言った表情だった。

 

 

 

 

(非常勤講師…グレン…グレン……レーダス……)

 

 

 

「ーーグッ⁉︎」

 

 

 

 

そして無意識のうちにグレンの名前などの

フルネームを心の中で呟いていた。だが、グレンの

事考えるとノイズが走り頭痛が異常なまでに酷く

なってきた。

 

 

 

 

 

(■は■■■であり、■■なんだよ‼︎)

 

 

 

 

 

(■■‼︎ この■は■■の■を■■■■■■

■の■■ぞ‼︎)

 

 

 

 

(ま、また、映像が……‼︎)

 

 

 

荒いながらも痛みを和らげようと必死になって呼吸

して片手で頭を押さえて痛みを落ち着かせようと

いると

 

 

 

 

 

「ウィル君…大丈夫……?」

 

 

 

「えっ? る、ルミア……?」

 

 

 

 

ウィルはルミアの今の行動に予想をしていなかった

のかウィルがそんな情け無い声を出す中、ルミアは

そんなウィルを見ていて心配だったのかとにかく声

をかける。

 

 

 

 

「ほら、ウィル君の額にこんなにも…

汗が出るよ?」

 

 

 

 

「る、ルミア…ルミアのハンカチが汚れる…」

 

 

 

 

「いいから‼︎ それに、ハンカチを使って

良いから…ねっ?」

 

 

 

 

ルミアはそう言ってハンカチを使って必死に

なってウィルの額をポンポンと汗を拭いていく。

だが何故だか分からないが男子生徒達から

睨まれている様な気がした。

 

 

 

 

更には「クソッ‼︎ クソッ‼︎ リア充が‼︎」とか

「見せ付けやがって…」と目から血の涙を流し

そうな表情だったが、本人のウィルは男子生徒達

が何故、そんな表情をしているのか全く分かって

いなかった。そんな中、ルミアは先程のハンカチ

をウィルに渡してにっこりと笑っていた。

 

 

 

 

 

「この領域の話になってくると、センスとか

才能とかが問われるな。だが、それでも先達が

完成させた汎用魔術の式をじっくりと追っていく

ことには意味がある。自身の術式構築力を高める

意味でも、ネタ被りを避ける意味でもな。お前ら

が将来、自分だけの固有魔術(オリジナル)を

作りたいなんて思っているなら、なおさらだ。ま、

そんな屁の突っ張りにもならん自己満足に時間

費やすくらいなら他に有意義な人生の過ごし方が

ある気がするがな……さて」

 

 

 

グレンが懐から取り出した懐中時計を見る。

 

 

 

「……時間だな。じゃ、今日はこれまで。

あー、疲れた……」

 

 

 

授業終了を宣言するとクラスに弛緩した空気が

蔓延し始める。

 

 

グレンは黒板消しをつかんで、黒板に書かれた

術式や解説をおもむろに消し始めた。

 

 

「あ、先生待って! まだ消さないで下さい。

私、まだ板書取ってないんです!」

 

 

 

システィーナが手を上げる。

 

 

 

すると、グレンは露骨にニヤリと意地悪く笑って、

腕が分身する勢いで黒板を消し始めた。クラスの

あちこちから悲鳴が上がる。

 

 

 

「ふはははははははは――ッ! 

もう半分近く消えたぞぉ!? ザマミロ!?」

 

 

「子供ですか!? 貴方はッ!」

 

 

 

システィーナは呆れ果てて机に突っ伏した。

 

 

 

「あはは、板書は私が取ってあるから後で

見せてあげるね? システィ」

 

 

「グレン先生…大人気ない……」

 

 

 

「ありがとう……しかしまぁ、良い授業してくれる

のはいいんだけど、ホントウィルの言う通りあの

ねじ曲がった大人気ない性格だけはなんとか

ならないかしら?」

 

 

 

システィーナが目を向ければ、黒板を消している

最中にグレンは爪で黒板を引っかいてしまった

らしい。耳を押さえて悶えていた。なんとも哀愁

漂う間抜けな姿である。

 

 

 

 

「そう? 私、先生はあれでいいって思うな」

 

 

 

「ルミア……それ、本気?」

 

 

 

「うん、なんだか子供っぽくて可愛い人だと思う」

 

 

 

「僕も何故か分からないけど…グレン先生は

あのままで良いと思う…」

 

 

 

 

「私、貴方達の感性、よくわからない……」

 

 

 

システィは疲れて混乱した表情をしながら

ルミアとウィルに言っていると

 

 

 

「……あ、先生!」

 

 

 

その時、突然ルミアが席を立ち、子犬のように

グレンの下へと駆けていった。

 

 

「あの、それ運ぶの手伝いましょうか?」

 

 

 

見ればグレンは分厚い本を十冊ほど抱えて、

教室から出て行こうとする所だった。

 

 

 

「ん? ルミアか。手伝ってくれるなら助かるが

……重いぞ? 大丈夫か?」

 

 

「はい、平気です」

 

 

 

 

「そうか……なら少しだけ頼む。あんがとさん」

 

 

 

グレンは本を二冊取ってルミアに手渡した。

普段は決して見せない穏やかな表情をグレンは

ルミアに向けている。それを受けてルミアは実に

嬉しそうに笑っている。まるで仲睦まじい兄妹の

ような光景。その様子を見ていたシスティーナは

どうにも面白くない。

 

 

 

 

「システィ……」

 

 

 

 

「な、何よ…?」

 

 

 

 

システィはウィルの言葉に反応して視線を向けると

無表情に近いウィルだったがシスティに対して何か

言いたい事がありそうな表情だって事は分かった。

 

 

 

「もしかして…嫉妬?」

 

 

 

 

「し、し、嫉妬なんか…し、してないわよ‼︎

だ、誰があんな根性が捻じ曲がった奴なんかに…」

 

 

 

 

システィは顔を真っ赤になってウィルの言葉を

必死になって否定する。

 

 

 

「そもそも、嫌いなら先程の授業中やルミアと

一緒にいる時、そんなに熱心に見る必要がない…」

 

 

 

 

 

「そ、それは、アイツの授業の内容が実に興味深い

から真剣に見ていただけよ‼︎」

 

 

 

 

システィはウィルに正論を言われたからかかなり

動揺していた。

 

 

 

 

 

「だったら、そんなに顔を真っ赤にしながら動揺

する必要がない筈…?」

 

 

 

 

 

「そ、それは……」

 

 

 

システィは必死になってウィルの言い訳を

考えていた。

 

 

 

 

「それはいいけど、グレン先生とルミアが

行っちゃうみたいだけど大丈夫なの?」

 

 

 

「えっ…?」

 

 

 

 

 

 

考え事に集中し過ぎたのかシスティはウィルの

言葉で情け無い声を上げて視線をグレン達に

向けると本を持って教室を出ようとしていた。

 

 

 

 

「ま、待ちなさいよ!」

 

 

 

(これは…そう‼︎これはルミアの為よ‼︎ルミアが

あの男の毒牙に犯されないようにする為に‼︎)

 

 

 

ウィルが溜息をつく中、そう考えながら必死と

なった表情でシスティーナもグレンに歩み寄る。

 

 

 

「ん? お前は……えーと、シス……テリーナ?

 だっけ?」

 

 

 

「システィーナよ! システィーナ! 貴方、

わざと言ってるでしょ!?」

 

 

 

「へーいへいへい。そのシスなんとかさんが

ボクになんの御用でしょうか?」

 

 

 

「わ、私も手伝うわよ……ルミアだけに手伝わせる

わけにもいかないでしょうが……」

 

 

 

「……ほう? じゃ、これ持て」

 

 

 

 

ニヤリと口の端を吊り上げて、グレンは持っていた

残りの本をいきなり全部システィーナに押しつけた。

 

 

「きゃあっ!? ちょ、重い!?」

 

 

 

よろめいて倒れそうになるのをすんでの所で、

こらえるシスティーナ。

 

 

「いやぁ、あはは、手ぶらは楽だわー」

 

 

 

それを尻目にグレンは意気揚々と歩き始める。

 

 

 

「な、何よコレ!? アンタ、ルミアと私で

どうしてこんなに扱い違うの!?」

 

 

「ルミアは可愛い。お前は生意気。以上」

 

 

 

 

「この馬鹿講師……

お、覚えてなさいよ――ッ!?」

 

 

 

背中に罵声を浴びながらも、グレンの口元は笑み

を形作っていた。

 

 

 

 

(なんでだろう…グレン先生達を見ていると

何故かモヤッとする…?)

 

 

 

ウィルはグレン達を見て何故か分からないが心が

モヤモヤとした気持ちになって胸を抑えながら

ウィルにとっては感じた事がない未知の感覚に

戸惑っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

生徒達がすっかりと帰宅した放課後。グレンは一人

学院の屋上の鉄柵に寄りかかり、閑散とした風景を

遠目に眺めていた。夕日に燃え上がるフェジテの

町並みは、紅に染め上げられた幻の城は、やはり

あの頃と変わらない。変わったのは自分だけだ。

ふと、グレンはこの学院に非常勤講師としてやって

来てからの日々を思い出す。なんと言っても強く

思い出されるのは、自分によく絡んできた二人の

少女と一人の少年の姿だ。

 

 

 

 

なぜか妙に懐いてくる、可愛い子犬みたいな少女、

ルミア。なぜか妙に突っかかってくる、生意気な

子猫みたいな少女、システィーナ。そして、かつて

自分の大切な人達の一人にかなり酷似している確か

……ウィル=オリバーだったか…彼を見ていると

かつて一緒にいた少年、『ノア=アイゼア』の事を

思い出してしまう……だが、アイツは誰よりも

賢こい。だがーーいや…今は言うまい……

 

 

 

 

 

そして彼等が何を思って自分のような人間に積極的

に接してくるのかは わからない。だが、なんだ

かんだで彼女達との交流を心地良いと感じる自分が

いなかったか?それに見てみたいとも思ったのだ。

彼女達がこれからどう成長するのか。どんな道を

歩むことになるのか。魔術と言うロクでもない物に

新しい可能性を切り開いてくれるかもしれない

ルミア。かつて自分が見失った魔術への情熱を胸に

抱き、なんの迷いなく突き進むシスティーナ。

そして魔術や他の知識までも知っているウィル。

いまだ若く、そして幼い彼女達は何をやってくれる

のか、どう成長していくのか。その手助けをして

やりたくないと言えば……嘘になる。

 

 

 

「まぁ、なんつーか……」

 

 

 

相変わらず魔術は嫌いだ。反吐が出る。こんな

もの早くこの世からなくなるべきだ。この考えは

きっとこれからも変わらないだろう。だが、

こんな穏やかな日々は――

 

 

 

「悪くない……か」

 

 

 

自分でも気づかずグレンは笑みを浮かべていた。

 

 

「おー、おー、夕日に向かって黄昏ちゃって

まぁ、青春しているね」

 

 

 

突然、背中に冷やかすような声を浴びせられ、

グレンは首だけ回して振り返る。

 

 

 

「いつからいたんだよ? セリカ」

 

 

 

そこには淑女然とすました顔のセリカが静かに

たたずんでいた。燃える紅に染まる美女。夕日に

輝く麦畑を思わせる美しい髪が優しい風に

揺れていた。

 

 

 

「さ、いつからだろうな? 先生からデキの悪~い

生徒に問題だ。当ててみな」

 

 

 

「アホか。魔力の波動もなければ、世界則の変動も

なかった。だったら、たった今、忍び足で来たに

決まってる」

 

 

 

「おお、正解。あはは、こんな馬鹿馬鹿しいオチが

皆、意外とわかんないんだよな。特に世の中の神秘

は全部魔術で説明できると信じきっちゃってる奴に

限ってね」

 

 

 

グレンの即答に、セリカは満足そうに微笑んだ。

「何しに来たんだよ? お前、明日からの学会の

準備で忙しいんだろ?」

 

 

 

「おいおい、母親が息子に会いにきちゃ

悪いのか?」

 

 

 

「なにが息子だ。俺とお前は元々赤の他人

だっつーの」

 

 

 

「だが、私はお前がまだこんな、ちっちゃな頃

からお前の面倒見ているんだ。母親を名乗る権利

は充分にあるんじゃないか?」

 

 

「年齢差を考えろ魔女め。母親と息子っつーより

婆さんと孫、下手すりゃ曾孫かそれ以上だろ」

 

 

 

セリカの外見はどこをどう見ても二十歳前後の

妙齢の女だ。だが、グレンはセリカが外見通りの

年齢でないことは知っている。なにしろグレンと

セリカは、グレンの幼少の頃からのつき合いだと

言うのに、セリカの外見は出会った当初から

まったく変化していないのだ。

 

 

セリカがなぜ歳を取らないのか。本当は一体何歳

なのか。セリカは自身について頑なに語ろうと

しないが……三桁は確実に達しているだろうと

グレンは踏んでいる。

 

 

 

「あーあ、子供の頃はあんなに素直で可愛い

男の子だったのに、今じゃこんなスレた男に

なっちゃって……時の流れは残酷だな」

 

 

「……放っとけ」

 

 

 

ふて腐れたようにグレンはセリカから視線を

外した。

 

 

 

「元気が出たようで……よかった」

 

 

 

「はぁ?」

 

 

意図のわからないセリカのつぶやきに、

グレンは間抜けな声を上げた。

 

 

「お前、気づいてないのか? 最近のお前、

結構生き生きしてるぞ? まるで死んで一日

経った魚のような目をしている」

 

 

「……おい」

 

 

 

「前は死んで一ヶ月経った魚のような目だった」

 

 

 

それを聞いたグレンはため息をついて頭を

かいた。

 

 

 

「……心配かけたな。悪かったよ」

 

 

 

 

「いや、いい。私のせいなんだからな」

 

 

 

セリカは目を伏せ、いつもの自信に満ちた声とは

かけ離れた、か細い声で言った。

 

 

 

「きっと、親馬鹿だったんだろうな。私はお前の

ことが誇らしかったんだ。だから――」

 

 

 

「よせよ。何度も言ったがお前は関係ない。

浮かれてのぼせて現実を見てなかった俺が馬鹿

だっただけだ」

 

 

 

「でも、お前はまだ魔術を嫌悪してる」

 

 

 

その一言でグレンはようやくセリカの真意を

悟った。

 

 

 

「……なるほどな。で、少しでも魔術の楽しさを

思い出して欲しくて、魔術の講師か?」

 

 

 

 

グレンは思い出した。そう言えば、子供の頃の

楽しかった記憶は、いつだってセリカと一緒に

行った魔術の勉強や実験の中にあった気がする。

 

 

 

「ったく、お前、何年生きてんだよ? 意外と

ガキだよな。俺とお前を結びつけているのは

魔術だけじゃねーだろ。確かに俺は魔術が嫌いに

なったが、だからと言ってお前まで嫌いになる

ことはありえねーよ」

 

 

 

 

「そうか。うん、そうだよな……よかった」

 

 

 

 

グレンの言葉を聞いてセリカは穏やかに笑った。

どこか晴れやかな笑みだった。

 

 

 

 

「あー、くそ、そういうことかよ。じゃあなんだ?

最初にそう言ってやれば、俺は非常勤講師なんぞに

ねじ込まれずに済んだのか?」

 

 

 

「馬鹿、それとこれとは別だ。いい加減、

自分の食い扶持くらい自分で稼げ」

 

 

 

「あー、あー、聞こえなーい」

 

 

 

「このダメ男が……」

 

 

 

セリカは呆れたように肩をすくめて、

言葉を続ける。

 

 

 

「まぁ、いい。何はともあれ、社会復帰が順調

そうでなによりだ。その調子で例の病気も治して

おけよ?」

 

 

 

 

「病気? 何、言ってんだ。俺は健康――」

 

 

 

「自分には他人と深く関わる資格がないと

思ってる、なるべく他人を自分に近づけたくないと

思ってる――それゆえにあえて他人の神経を逆なで

するような態度を取ったり、好意を向けてくれる

人を素っ気なくあしらう――そんな病気」

 

 

 

「…………う」

 

 

 

セリカの指摘に、グレンは脂汗を額に浮かべて

頬を引きつらせた。そして、セリカは底意地悪く

にやにやしながら、肩をすくめてみせる。

 

 

 

「なぁ、グレン。お前の場合は過去が過去だが、

それ、普通、子供の病気なんだぞ? その歳にも

なってこんなに拗らせちゃって、まぁ。社会復帰

ついでに、いい加減治し――」

 

 

 

「う、うっさいわい! 放っとけ!?」

 

 

 

羞恥で真っ赤になりながら、グレンは叫いた。

 

 

「大体、好意を向けてくれる人うんぬんってのは

俺のせいじゃねーぞ!? ガキの頃からお前

みたいなスタイル群バツの女に見慣れちまって

たら、そんじょそこらの女に興味なんか持てる

かっつーの!?」

 

 

 

「おや? ということは、つまり、お前は

母親に欲情してたのか? このド変態」

 

 

 

嗜虐的で妖しげな笑みを浮かべながら、セリカが

背後からグレンへと歩み寄って身を寄せ、両腕を

グレンの首に絡めた。

 

 

 

「んなワケあるか! そして、いちいち母親面

すんな! ええい、寄るな!胸を押しつけんな! 

耳に息を吹きかけんな! 気色悪い!」

 

 

 

「ふふ、つれない男だな。何、たかだか親子の

スキンシップじゃないか」

 

 

 

そんなグレンの反応に、満足そうに口の端を

釣り上げながらグレンから離れ、セリカは

グレンに背を向けた。

 

 

「じゃ、私は明日からの魔術学会の準備が

あるからそろそろ行くぞ?」

 

 

 

「……ああ。帝国北部地方にある帝都オルランド

まで行くんだろ?」

 

 

ぶすっとした態度でグレンが応じる。セリカの

この手の悪ふざけは今に始まったことではないので

流して忘れるのが一番だ。

 

 

 

「そうだ。私を含めた学院の学会出席者は今夜、

学院にある転送法陣を使って帝都まで転移する

予定だ」

 

 

 

「早馬で三、四日かかる距離を一瞬で移動できる

なんてな……やれやれ、魔術は偉大だ」

 

 

 

 

「まぁ、お前も明日からの授業、頑張れよ?」

 

 

 

 

「……は? 明日から学院は一週間休みだろ?」

 

 

 

想定してないことを言われ、グレンは焦った。

 

 

 

「俺は非常勤だから参加しないが、明日からお前達

教授陣や講師達は揃って件の魔術学会だろ?それに

合わせて学院は休校になるんじゃなかったか?」

 

 

 

「ああ、それ、お前の担当クラスだけ例外だぞ。

なんだ? 聞いてなかったのか?」

 

 

「はぁ!?」

 

 

 

「お前の前任講師だったヒューイがある日、

なんの前触れもなく突然、失踪してな。お前の

クラスだけ授業の進行が遅れてんだ。だからお前

のクラスだけその穴を埋める形で休み中に授業が

入っているんだ」

 

 

 

「なっ……聞いてねーぞ!?」

 

 

 

「守衛が学院の門番している以外には、学院の

関係者は明日からいないからな? お前、学院で

変なイタズラすんなよ?」

 

 

 

「するかっ!? ……いや、ちょっと待て」

 

 

グレンはセリカの話の違和感に気づいた。

 

 

 

「前任の講師が……失踪? ちょっと待て。

そりゃどういう意味だ?」

 

 

「どういう意味も何も……そのままの意味だよ。

お前の前任だった講師、ヒューイ=ルイセンは

ある日、突然、失踪した。足取りはいまだに

つかめない。行方不明だ」

 

 

 

「おい、話が違うぞ。ヒューイとかいう奴は

一身上の都合で退職したって……」

 

 

 

「そりゃ、一般生徒向けの話だ。そもそも、

正式な手続きで退職するなら、代わりの講師が

一カ月も用意できないなんて事態は起こらんよ」

 

 

 

グレンはなんとも言えないしかめ面で

頭をかいた。

 

 

 

「どーにも、きな臭い話になってきたな……」

 

 

 

 

 

「ま、近頃はこの近辺も何かと物騒だ。お前に

心配はいらんと思うが、まぁ、私の留守中気を

つけてくれ」

 

 

 

「……ああ」

 

 

 

 

 

「後、お前のクラスに『ウィル=オリバー』が

いるだろうと思うがあいつには気をつけろ…」

 

 

 

「あ? どうしてだよ? セリカらしくねえな?」

 

 

 

 

グレンが意味が分からんという声出してセリカに

聞くようにそう言うとセリカは先程のふざけた

表情ではなく、真剣な表情で

 

 

 

 

「奴は『軍から来た魔術師だ。』」

 

 

 

 

 

「なっ⁉︎ ぐ、軍からだと…?」

 

 

 

 

グレンはかつてない筈の驚いた表情をしていた。

 

 

 

「ああ、最近、書類が送られてきたんだ。しかも

奴はあの『宮廷魔導士団』だ。入学の時に軍から

入学手続きが必要な資料が一気に送られてきた。」

 

 

 

 

 

セリカが『宮廷魔導士団』の名前を聞くとグレンの

顔色が悪くなっていた。

 

 

 

 

「そうか…ってことは奴は『特務執行官』か?」

 

 

 

 

「ああ、だろうなあ…そして奴はイグナイト家、

イグナイト公『アゼル=ル=イグナイト』の推薦だ。

更にこの案件は女王陛下も認めた。それに魔術学院

はとにかく各政府機関の面子や縄張り争いが

うるさい魔窟だ。グレン、お前なら分かるだろ?」

 

 

 

 

「なるほど……」

 

 

 

(って、事はイヴも一枚、噛んでいるって訳か…)

 

 

 

 

 

 

ヒューイの失踪と言う言葉には確かに事件性が

感じられる。だから奴、『ウィル=オリバー』が

この魔術学院の生徒として任務を遂行してる。

だが、イヴがこれだけの為に執行官を派遣する

はずがない…きっと何か大きな目的があるはずだ。

だが、それが何か自分に影響するかと言えば間違い

なくそんなことはない。だが、グレンはなんとなく

心に棘のような不安が刺さった感覚が

抜けなかった。

 

 

 

 と、その時だ。

 

 

 

 

「あ、やっぱりここにいた! 先生!」

 

 

 

屋上への出入り口の扉が開かれ、もうすっかり

見慣れてしまった、いつもの二人組が姿を見せた。

片や笑顔で、片や仏頂面で。

 

 

 

 

「あれ? アルフォネア教授。

ひょっとして、私達お邪魔でしたか?」

 

 

 

 

「いいや。私はもう上がるところだ。どうした? 

グレンに用か?」

 

 

 

「はい」

 

 

 

花のように笑ってルミアはグレンの前に歩み寄る。

不機嫌そうなシスティーナがそれに渋々続く。

 

 

 

 

「グレン、あんまり気にするなよ…?」

 

 

 

 

セリカは心配だったのかグレンにこっそりと耳打ち

していた。それはそうだ。なんせグレンがこんな風

になってしまった原因は幼い頃『正義の魔法使い』

に憧れて『宮廷魔導士団』に入ったのに魔術の闇

を見過ぎてしまい更にはグレンの唯一の心の支え

の『セラ』と『ノア』を死なせてしまって魔術師

である事をやめようとしていたのだから…

 

 

 

 

「大丈夫だ…後、もう少しだけ非常勤講師を

続けてみるよ…」

 

 

 

 

 

 

グレンはセリカに苦笑いしながらシスティと

ルミアの元に向かう。

 

 

 

 

 

 

「お前ら、帰ったんじゃないのか?」

 

 

 

 

 

「あ、私達、学院の図書館で板書の写し合いと

今日の授業の復習をしていたんですけど、

どうしても先生に聞きたいことがあるって……

システィが」

 

 

 

 

「ちょ、ちょっと!? それは言わないって

約束でしょ!? 裏切り者ッ!」

 

 

 

 

 

真っ赤になってシスティーナが怒鳴り立てるが、

すでに後の祭りだった。

 

 

 

 

「ほーう? つまりなんだ? システィーチェ君。

まさかまさか、君はこの天才で稀代の名講師、

グレン=レーダス大先生様に何か質問があると

でも言うのかね? んー?」

 

 

 

 

グレンは清々しいほど、なんの迷いもなく図に

乗った。上から目線で、思わず拳を顔面のど真ん中

にめり込ませたくなるような、実に腹立たしい笑い

を浮かべている。

 

 

 

 

「だからアンタにだけは聞きたくなかったのよ!

後、私はシスティーナよ! いい加減覚えてよ⁉︎」

 

 

 

 

「なーんか覚えにくいから、やっぱ、お前は白猫で

いいや」

 

 

 

「ああ、もう――っ!」

 

 

 

 

とうとうシスティーナは涙目になってしまう。

 

 

 

「先生、今からお時間少しよろしいですか? 私も

その部分、後で考えてみたら実はよくわかって

なくて……」

 

 

 

「ああ、悪かったな、ルミア。俺も今日の授業に

関しちゃ少し言葉足らずな所があった気もした

んだ。多分、そこだろ。見せてみな」

 

 

 

 

「だ、だから、私とルミアのこの扱いの差は

なんなの……ッ!?」

 

 

 

「ルミアは可愛い。お前は生意気。以上」

 

 

 

「む、ムキィイイイイイ――ッ!」

 

 

 

 

やんややんやと騒ぎ立てる三人をしばらくの間、

セリカは微笑ましく見守って。何かに安堵した

ようにそっと屋上を後にした。

 

 

 

 

グレンに頭を下げて教えを請うという屈辱の一時を

なんとか耐えきったシスティーナは、その苛立ちと

不機嫌さを隠そうともせず、ルミアを伴って帰路に

ついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……まったく、なんなのよ、あいつ!」

 

 

 

 

そんなシスティーナの心境とは裏腹に、フェジテ

の町はいつも通り平和そのものだ。夕方ゆえに

閑散とした中央表通りに、システィーナの荒げた

声は虚しく霧散していく。夕焼けの緋色が目に

優しい、落ち着いた顔色の町並み。自分一人

こうしてカリカリしているのが馬鹿みたいである。

 

 

 

 

「ルミアもホント、あいつのどこが良いわけ? 

妙に気に入ってるみたいだけど!」

 

 

 

「え? だって、先生、優しいよ?」

 

 

 

「ええ、そうね! 貴女だけには、

妙に優しいわね! 貴 女 だ け に は!」

 

 

 

 

腹立たしさのあまり、システィーナはぷるぷると

拳を振るわせていた。

 

 

 

 

「普通、あそこまであからさまに、露骨に贔屓

する⁉︎いくらなんでも、もうちょっと人の目とか、

世間体とか気にするものじゃない!? 

それなのにあいつったら……ッ!」

 

 

 

ルミアが、まぁまぁ、と苦笑いする。

 

 

 

「これは絶対、何かあるわ! そうだ! きっと、

あいつ、ルミアの優しさに勘違いして、ルミアに

邪な下心でも持っているに違いないわ! ええ、

そうよ! きっとそう! いい? ルミア、あいつ

がいるときは私から離れちゃだめだからね⁉︎

あいつめ……ルミアに手を出したら、今度こそ、

本当に容赦しないんだから……ッ!」

 

 

 

 と、その時である。

 

 

 

「ふふっ」

 

 

 

ルミアが含むように笑い始めた。

 

 

 

「……どうしたの? ルミア」

 

 

 

「うん、その、システィがそこまで私の心配して

くれているのが、おかしくて」

 

 

 

「心配するに決まってるじゃない、私達は家族

なんだから!」

 

 

 

怒ったような素振りのシスティーナに、

ルミアがぽつりとつぶやいた。

 

 

 

「三年前のこと、覚えてる?」

 

 

 

「三年前……貴女が私の家にやって来た頃よね?

それがどうかしたの?」

 

 

 

なぜ突然、そんな話が出てくるのか。

システィーナにはルミアの意図が読めない。

 

 

 

 

だが、ルミアは懐かしむような笑みを絶やさず、

言葉を続けていく。

 

 

 

「あの頃の私達って、いつも喧嘩ばっかりだった」

 

 

 

 

「そ、それは……だってほら、あの頃のルミア

って卑屈で、わがままで、泣き虫でさ……その、

実の両親から捨てられた当時の貴女の心情を

汲めなかった私も私だけど……」

 

 

 

 

気まずそうにシスティーナが頬をかく。

 

 

 

「そんなある日、私がシスティと間違えられて、

悪い人に誘拐されちゃって」

 

 

 

「……そんな事件、そう言えばあったわね」

 

 

 

「私、なんとか無事に帰って来て、そうしたら、

システィがいきなり抱きついてきて」

 

 

 

「……う」

 

 

 

「あの時は一晩中、一緒に抱き合って泣いたね。

ごめんね、無事でよかった、って」

 

 

 

「…………ぅ、そ、それは……その……」

 

 

 

 気恥ずかしさにシスティーナの顔が、夕日も

かくやと言わんばかりに染まっていく。

 

 

「思えば、あの時からかな。

私とシスティがこうして仲良くなったの」

 

 

 

 

そんなシスティーナに、ルミアは暖かな笑みを

向けていた。だが、ここまで聞いても、ルミアが

どうして突然そんなことを蒸し返したのか、

システィーナには見当もつかなかった。

 

 

 

「……どうしたの? 急に」

 

 

 

「なんかね、最近、よく昔のことを思い出すの」

 

 

 

そして、ルミアはシスティーナに少し切なげな

笑みを向けた。

 

 

 

「……なんでだろうね?」

 

 

 

問われてもシスティーナにわかるわけがない。

何が切欠で、ルミアが三年前のことを物思うように

なったかなど、ルミアのその真意は知る由もない。

ただ、ルミアにとって三年前の記憶は、色々な

不幸が重なった辛い思い出であろうことはわかる。

 

 

 

だから――

 

 

 

「私達は家族よ」

 

 

 

ぽつり、と。システィーナは素直な思いを口に

する。

 

 

 

「なんで貴女が突然、三年前のことを思い悩む

ようになったかはわからないけど、いつだって

私はルミアの隣にいるわ。だからさ、その……」

 

 

 

 照れたようにしどろもどろ言葉を

紡ぐシスティーナに。

 

 

 

「……ありがとう、システィ」

 

 

 

ルミアは春風のように微笑みかけるのであった。

黄昏の夕日に燃える、フェジテの町並み。二つの影

が寄り添うように、どこまでも延びていた――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「報告は以上です。イヴ室長、今のところ観察対象

のルミア=ティンジェルに異常はありません。」

 

 

 

 

 

暗がりの路地裏で外道魔術師達の死体は一人二人

ではなく、何十人の死体が沢山転がっており、顔や

体中には外道魔術師達の血が沢山付着しているにも

かかわらず何事もなかったかのように平然と魔法石

で通話していた。

 

 

 

 

『ご苦労様、助かったわウィル。廃棄女王の観察を

してもらっているのに外道魔術師達の殲滅の任務

まで完璧にこなして実に素晴らしい功績だったわ。

これからも廃棄女王の観察を頼むわよ?』

 

 

 

 

 

「…………」

 

 

 

 

『ウィル…?』

 

 

 

違和感を感じたイヴはウィルの名前を呼ぶ。

 

 

 

 

 

『ウィル‼︎ 話しを聞いているの⁉︎』

 

 

 

「ーーッ‼︎ だ、大丈夫です…聞いてました。」

 

 

 

「……ウィル。まさか…貴方、あの廃棄女王に余計

な感情が移ったんじゃないわよね?」

 

 

 

 

「…それは……分かりません」

 

 

 

ウィルは魔法石を耳に当てながらもまた胸が苦しく

なって右手を胸に当てて自分の中にまた未知の感覚

になってしまう

 

 

『良い?何度も言うけど貴方は私の大事な戦力と

言う名の駒なのよ?貴方は余計な事を考えないで

私の指示に黙って従って任務をいれば良いのよ。

いい、分かったわね?』

 

 

 

「…分かりました…イヴ室長…」

 

 

 

 

ウィルはそう言ってイヴとの通話を切った。

その後、頬に違和感を感じて触ってみると

 

 

 

 

「…なに…これ…?」

 

 

 

 

ウィルは暗い路地裏でそう言って暗くて全く

見えなかった自分の頬に付着していた赤黒い

『外道魔術師達の血の雫』で流れたものなのか

それとも『涙の雫』が流れたのか分からないが

ウィルの頬にまるで涙のように流れて星空が全く

見えない真っ暗な夜空の世界を一人で眺めながらも

ポタリポタリと音をたてて地面に落ちた。

 

 

 

その後、夜空を眺めるウィルの後ろ姿は人間に

あるはずの『喜怒哀楽』の表情は本人は全く

出さなかったがその後ろ姿はまるで寂しそうな

『子供のような』寂しそうな姿だった




読んでいただきありがとうございます‼︎
これからも豆腐メンタルな自分ではありますが
一生懸命に頑張っていきますのでよろしく
お願いします‼︎





【報告】


新しい作品の投稿も考えています。なので今、
連載中の作品の投稿が遅れるかもしれません。
本当にすみません……


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学院テロ事件編
日常の崩壊


皆さん。お久しぶりです‼︎
仕事などで忙しくて時間がなかったので本当に
すみませんでした。


後、前のお話は納得がいかなかったので新たに
作り直しました。すみません…読んでもらえたら
嬉しいです。


そして久しぶりの『ロクでなしシリーズ』なので
どうか是非、読んでいって下さい‼︎


『感想』や『評価』、『投票』そして『しおり』
などもよろしくお願いします‼︎

皆さんの応援メッセージもよろしくお願いします‼︎
豆腐のような脆い精神ですので応援メッセージなど
くれれば創作の意欲にも繋がりますのでよろしく
お願いします‼︎

  

【注意】



この話は『グロい出演や描写』がとても多いです。
それでも大丈夫と言う方だけ見ることをオススメ
します。


それでもし、何かあった場合は『自己責任』で
お願いします。


「うぉおおおおおおお!? 

遅刻、遅刻ぅうううううううッ!?」

 

 

 

どこかで見たような光景が、学院へと続く道中で

展開されていた。叫び声の主は言わずもがな、

グレンである。しかも今回ばかりは時計のズレは

ない。正真正銘の寝坊による遅刻だった。

 

 

 

「くそう! 人型全自動目覚まし時計が昨夜から

帝都に出かけていたのを忘れてた!」

 

 

 

パンを口にくわえ、必死に足を動かし、

ひたすら駆ける。

 

 

 

「つーか、なんで休校日にわざわざ授業なぞ

やんなきゃならんのだ!?だから働きたく

なかったんだよっ! ええい、無職万歳!」

 

 

 

とにかく遅刻はまずい。遅刻したら小うるさい

のが一人いるのだ。今は一刻も早く学院に辿り着く

のが先決である。上手く行けば、なんとかぎりぎり

間に合うかもしれない。グレンは居候している

セリカの屋敷から学院までの道のりをひたすら

駆け抜けた。表通りを突っ切り、いくつかの路地裏

を通り抜け、再び表通りへ復帰する。そして学院

への目印となるいつもの十字路に辿り着いた時。

グレンは異変に気づき、ふと、脚を止めていた。

 

 

 

「……っ!?」

 

 

 

不自然なまでに誰もいない。朝とはいえこの時間帯

なら、この十字路には行き交う一般市民の姿が

少なからずあるはずなのだ。なのに、その日に

限っては辺りはしんと静まりかえり、人っ子一人

いない。周囲に人の気配すら感じられない。

明らかに異常だった。

 

 

 

「いや、そもそもこれは……」

 

 

 

間違いない。周囲の要所に微かな魔力痕跡を感じる。

これは人払いの結界だ。この構成ではわずかな時間

しか効力を発揮しないだろうが、結界の有効時間中

は精神防御力の低い一般市民は、この十字路を中心

とした一帯から無意識の内に排除されるだろう。

 

 

 

(……なぜ、こんなものが、ここに?)

 

 

 

危機感がちりちりとこめかみを 焦がすような感覚。

こんな感覚は一年振りになるか。グレンは感覚を

研ぎ澄ませ、周囲に油断なく意識を払う。

 

 

 そして。

 

 

 

「……なんの用だ?」

 

 

 

グレンは静かに威圧するように問う。

 

 

 

「出てきな。そこでこそこそしてんのはバレバレ

だぜ?」

 

 

 

グレンは十字路のある一角へ、突き刺すように

鋭い視線を向けた。

 

 

すると――

 

 

 

「ほう……わかりましたか? たかが第三階梯

(トレデ)の三流魔術師と聞いていましたが……

いやはや、なかなか鋭いじゃありませんか」

 

 

 

空間が蜃気楼のように揺らぎ、その揺らぎの

中から染み出るように男が現れた。

 

 

 

ブラウンの癖っ毛が特徴的な、年齢不詳の小男

だった。

 

 

 

「まずは見事、と褒めておきましょうか。

ですが……アナタ、どうしてそっちを向いている

のです?私はこっちですよ?」

 

 

 

「……………………別に」

 

 

 

 グレンは気まずそうに自分の背後に出現した

男へと改めて振り返る。

 

 

 

「ええーと。一体、どこのどちら様で

ございましょうかね?」

 

 

 

「いえいえ、名乗るほどの者ではございません」

 

 

「用がないなら、どいてくださいませんかね? 

俺、急いでいるんですけど?」

 

 

 

「ははは、大丈夫大丈夫。

急ぐ必要はありませんよ?アナタは焦らず、

ゆっくりと目的地へとお向かい下さい」

 

 

噛み合わない男の言葉に、グレンは露骨に眉を

ひそめた。

 

 

 

「あのな……時間がないっつってんだろ、

聞こえてんのか?」

 

 

 

「だから、大丈夫ですよ。 アナタの行先は

もう変更されたのですから」

 

 

「はぁ?」

 

 

「そう、アナタの新しい行先は……あの世です」

 

 

 

「――っ!?」

 

 

一瞬、グレンが虚を突かれた瞬間、小男の

呪文詠唱が始まった。

 

 

 

「《穢れよ・爛れよ・――」

 

 

 

(や、やべ――ッ!?)

 

 

場に高まっていく魔力を肌に感じ、グレンの

全身から冷や汗が一気に噴き出した。先手を

許してしまった。警戒を怠ったつもりはないが、

これほどまでに問答無用の相手とは予想外だった。

こうなればグレンの三節詠唱ではどんな対抗呪文

(カウンター・スペル)も間に合わない。

 

 

 

(しかも、あの呪文は――)

 

 

 

とある致命的な威力を持つ、二つの魔術の

複合呪文。しかも極限まで呪文が切り詰め

られている。呪文の複合や切り詰めができるのは

超一流の魔術師の証だ。

 

 

 

「――朽ち果てよ》」

 

 

 

小男の呪文が三節で完成する。

その術式に秘められた恐るべき力が今、ここに

解放される――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

樹木と鉄柵で囲まれる魔術学院敷地の正門前に今、

奇妙な二人組がいた。一人はいかにも都会の

チンピラ風な男。もう一人はダークコートに身を

包む紳士然とした男だ。手ぶらなチンピラ男と

異なり、ダークコートの男は巨大なアタッシュ

ケースを手にしている。

 

 

 

「キャレルの奴、上手く殺ったかな?」

 

 

 

「上手くやったに決まっている。

あの男が標的を討ち損じたことがあったか?」

 

 

 

「ケケケ、ねえな。ま、つーことは……」

 

 

 

「今、あの学院校舎内に講師格以上の魔術師は

一人として存在しない」

 

 

 

「ケハハハ! 例のクラスで可愛い可愛い

ヒヨコちゃん達だけがぴよぴよ言ってるワケか!

はーい、よちよち、お兄サン達が可愛がって

あげるよー?」

 

 

 

「キャレルのことは放って置けばいい。

我々は我々の仕事をするぞ」

 

 

 

その二人は言動も装いも、まるで印象正反対な者

同士の組み合わせであり、さぞかし好奇の視線を

集めそうだが、なぜかその日に限っては周囲に人

が誰一人いなかった。

 

 

 

「うーん、レイクの兄貴。やっぱ、オレ達じゃ中に

入れないみたいだぜ?」

 

 

 

チンピラ風の男が、一見、何も阻む物がない

アーチ型の正門に張られている、見えない壁の

ようなものを叩きながらぼやいた。これは学院側

から登録されていない者や、立ち入り許可を受けて

いない者の進入を阻む結界だった。

 

 

 

「遊ぶなジン。早くあの男から送られてきた

解錠呪文を試せ」

 

 

 

「へーいへい」

 

 

 

 と、その時だ。

 

 

 

「おい、アンタ達、何者だ!?」

 

 

正門のすぐ隣に据えられている守衛所から、

守衛が二人の姿を見とがめてやって来る。

 

 

 

「学院敷地内には特殊な結界が施されているぞ。

学院関係者以外は立ち入りが――」

 

 

 

その時、ジンと呼ばれたチンピラ風の男が、

守衛の左胸に指を当て、一言つぶやいた。

 

 

 

「《バチィ》」

 

 

 

その瞬間、守衛はびくんと大きく身を震わせ、

それが不運な彼がこの世界で耳にした最後の言葉

となった。

 

 

 

「えーと、よし、これだな」

 

 

 

打ち捨てられた人形のように倒れ伏した守衛になど

目もくれず、ジンは懐から一枚の符を取り出し、

そこに書かれているルーン語の呪文を読み上げる。

すると、ガラスか何かが砕けるような音が辺りに

響き渡った。

 

 

 

「おおー、事前調査通りじゃん! さっすが!」

 

 

 

門を覆っていた見えない壁がなくなったことを

確認し、ジンが子供のようにはしゃぐ。

 

 

 

「ふっ。あの男の仕事は完璧というわけだ」

 

 

 

「ま、時間かけただけあったもんね。

じゃ、報告と行きますかい」

 

 

 

二人は正門を潜って学院敷地内に侵入。

ジンは懐から半割りの宝石を取り出し、

耳にあてた。

 

 

 

「はいはい、こちらオーケイ、オーケイ。

もう〆ちゃっていいよーん」

 

 

 

数秒後。正門から金属音が響き渡る。

学院を取り囲む結界が再構築されたのだ。

 

 

 

「恐ろしいな、あの男は」

 

 

 

ダークコートの男――レイクが氷の笑みを

浮かべた。

 

 

 

「仮にも帝国公的機関の魔導セキュリティを

こうまで完璧に掌握するとはな」

 

 

 

「執念ってヤツかな? へへ、噂の魔術要塞も

こうなりゃカタナシだぜ」

 

 

 

「さて、行くぞ」

 

 

 

二人は正面を見上げる。左右に翼を広げる

ように別館が立ち並ぶ、魔術学院校舎本館が

そこにあった。

 

 

 

「標的は東館二階のニ‐二教室だ」

 

 

 

「へーいへいっと」

 

 

 

 

そう言いながら、黒いローブの男達は

アルザーノ魔術学院に侵入して行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……遅い!」

 

 

 

システィーナは懐中時計を握りしめる手をぷるぷる

震わせながら唸っていた。現在十時五十五分。

本日の授業開始予定時間は十時三十分。すでに

二十五分が経過している。

 

 

 

なのにグレンは教室に姿を見せない。つまりは、

遅刻だ。

 

 

 

 

「あいつったら……最近は物凄く良い授業を

してくれるから、少しは見直していたのに、

これだから、もう!」

 

 

 

「システィ、うるさい…グレン先生のサボり癖

なんて今に始まったことじゃないでしょ?」

 

 

「そうだけど…‼︎」

 

 

「別に良いじゃん、一日くらいむしろ今まで

よくサボりをしなかったと思うよ? それとも

一度の失敗も許さないの? それってハード過ぎ

でしょ、そんな無理難題を今迄の先生たちにも

押し付けていたんでしょ?」

 

 

 

「そ、それは…‼︎」

 

 

 

「ふ、二人共落ち着いて…」

 

 

 

ルミアはシスティとウィルの二人を必死に宥めた。

そのおかげか前みたいなビンタする程の喧嘩にまで

は発展しなかった。

 

 

 

 

「システィ…ごめん。また、言い過ぎた…」

 

 

 

「わ、私の方こそ、ごめん…少し言い過ぎた…

反省してる…そうね…グレン先生も何か問題が

起きて遅れているかもっていう可能性だって

あり得ない可能性だけど絶対にそうだとも

確実に言い切れないしれないわ…」

 

 

システィがそう言うとルミアは別の話にしようと

別の話を離しはじめた。

 

 

 

 

「で、でも、珍しいよね? 最近、グレン先生、

ずっと遅刻遅刻しないで頑張っていたのに」

 

 

 

ルミアがそう言うとシスティはダラダラと滝の

ように冷や汗を流していた。

 

 

 

「あいつ、まさか今日が休校日だと勘違いしてる

んじゃないでしょうね…?」

 

 

 

「だ、大丈夫だよシスティ‼︎今のグレン先生なら

きっと……「って、ルミアは言っているけど…

どうして目が泳いでいるの?」」

 

 

 

「そ、そんなことは…ナイヨ……」

 

 

「はあぁぁ〜…ルミア、本当にそう思っているなら

まずは今、泳いでいるその目をどうにかしなよ?

それに途中から言葉が片言になってたよ?」

 

 

「ーーッ‼︎」

 

 

ウィルに指摘されて気づいたのか顔の頰の色が

まるで真っ赤な林檎のようになっていき両手で

真っ赤になった顔を隠していた。

 

 

「ルミア? どうしたの…? 」

 

 

ウィルがルミアの顔を覗き込むがルミアは更に

顔を隠していた。

 

 

 

「う、ウィル君…だ、大丈夫だから…今は

こっちを見ないで……」

 

 

 

「え? でもルミア、いつもと様子が明らかに

違うし顔も真っ赤だよ? まさか…病気じゃ⁉︎」

 

 

 

「本当に大丈夫だって…システィ…助けて…」

 

 

 

ルミアはシスティに助けを求めるとシスティは

「はあぁぁ〜…」と溜息をしながら

 

 

「少しは落ち着きなさい‼︎」

 

 

 

「グエッ‼︎」

 

 

 

ウィルの制服の襟元を掴み引っ張りながら

そう言うと

 

 

「で、でも…実際、ルミアの様子がおかしいし…」

 

 

「大丈夫よ、それに貴方が気にしていたら

いつまでたってもルミアも安心出来ないわよ?」

 

 

 

システィがウィルにそう言うとウィルはシスティ

を少しの間、じぃーと見た後

 

 

 

「そこまで言うなら…分かった…」

 

 

ウィルはシスティにそう言った後、先程自分が

座っていた席に座り直した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あいつ……ここ最近、ホント人気出てきたわね」

 

 

システィーナがグレンの人気にかなり不機嫌で不満

な顔と愚痴を言ってるとウィルはシスティーナに

呆れて溜息をついてルミアはクスクスと笑いながら

システィーナに聞いた。

 

 

 

「あれ?

先生が人気者になって寂しいのシスティ?」

 

 

 

「な…何言ってんのルミア‼︎」

 

 

「それとも…嫉妬?」

 

 

「もうウィルまで‼︎」

 

 

顔を真っ赤にして二人に対して否定と反論する

システィだったがルミアとウィルの質問攻めは

収まるところを知らず更に増していく

 

「だって、最初に先生の相手したのはシスティ

だったもんね?ケンカばっかりだったけど……」

 

 

 

「そ…そんなじゃないわよ‼︎ 私は…‼︎」

 

 

 

システィーナとルミアが会話していると扉が

勢いよく開く音がした。

 

 

 

『バァン‼︎』

 

 

クラスの全員がその音が鳴った方を見ると黒い

ダークコートを着た二人がいきなり教室に

入って来た。

 

 

 

「ちいーっす。邪魔するぜー」

 

 

「なんだ……」

 

 

「先生の代理か?」

 

 

「そんなん聞いてねーぞ」

 

 

「それに先生の代理にしては……」

 

 

 

 

(こいつらは…まさか‼︎)

 

 

 

生徒達が動揺しながら話しあっている中、ウィル

は何か察したのかダークコートを着た二人に

バレないように警戒しながらもダークコートを

着た二人のうち一人がヘラヘラと笑いながら

生徒達にペラペラと説明を始めた。

 

 

「まずは自己紹介した方がイイかな?

お兄サン達はねまぁ そうだ…簡単に言えば君ら

拘束しに来たテロリストってやつかな?」

 

 

男はヘラヘラと子供のように面白そうに喋って

いるクズたちを見ていたウィルは自分たち学院

の生徒を舐めているのが見ていて分かります。

 

 

 

「ふざけないで下さいこの学院では部外者は

立ち入り禁止ですあなたみたいなチンピラが

どうやって浸入できたかは知りませんがすぐ出て

いかないのなら無力化した後警備官に貴方達を

引き渡します」

 

 

「きゃははつかまっちゃうのボク達⁉︎

いやーん、こわーい‼︎」

 

 

チンピラみたいな男がゲラゲラとシスティーナを

馬鹿にするように笑っているとシスティーナには

どうやらカチンときて

 

 

「……警告しましたからね?」

 

 

 

システィーナはチンピラみたいな男に

【ショック・ボルト】唱えていた。

 

 

《雷精のーー》

 

 

 

「駄目だ‼︎ システィ‼︎」

 

 

 

《ズドン》

 

 

 

ウィルは何か気づいたのかチンピラみたいな男が

呪文を唱えた瞬間、ウィルは何のためらいもなく

全力で走ってシスティーナを庇った瞬間、右肩を

貫いて学院の壁に穴を開けた。

 

 

 

「うがっ‼︎」

 

 

「ウィル‼︎ 」

 

 

「ウィル君‼︎ 大丈夫‼︎」

 

 

ウィルはジンに貫ぬかれた右の肩を抑えて倒れて

いるとウィルの右肩からゆっくりとではあるが血

がじわりじわりと流れ出る痛々し過ぎてまさに見る

に耐えない目の前のあり得ない現実の姿を見て

システィは顔を真っ青にしてルミアはウィルに

近寄っていた。

 

 

「ほーう、学生ごときが俺の改変した第一詠唱の

『ライトニング・ピアス』を避けるとはなかなか

やるじゃねえか」

 

 

 

「『ラ…ライトニング・ピアス…⁉︎』」

 

 

 

「へへっ よく知ってんじゃーんお前ら坊ちゃん

嬢ちゃんは生で見た事ねーだろ?」

 

 

男は口元をニヤリとさせて自慢しながら

答えていく

 

 

「見ためは【ショック・ボルト】によく似てん

だがなこいつの前じゃ鎧も盾も意味を成さねぇ

『正真正銘の人殺しの術だ』」

 

 

チンピラみたいな男が学院の生徒達に満面の笑み

を浮かべていた。

 

 

「う……うわあああ」

 

 

「きゃああああっ‼︎」

 

 

「うるせーなァ おい静かにしろよガキ共」

 

 

チンピラの男は苛立ったのか、かなりの殺気を

出しながら

 

 

『殺すぞ』

 

 

 

男の言葉で学院の生徒は恐怖で支配させていた。

 

 

「そーそー子供は素直が一番だそんじゃ全員

ちょっと集まりな」

 

 

男はシスティーナ達、学院の生徒達を集めている

と男はヘラヘラと学院の生徒達に質問していた。

 

 

 

「さて、この中にさ……ルミアちゃんって

女の子いる?」

 

 

すると学院の生徒達は何故『ルミア』がここで

出てきたのか全く分からなかった。

 

 

「ルミア…?」

 

 

 

「何でルミアが?」

 

 

 

「んー……どれがルミアちゃんだ?」

 

 

 

チンピラみたいな男は面白そうに笑いながら

学院の生徒達を眺めていた。

 

 

「君かな?」

 

 

男が声を掛けた生徒は、眼鏡を掛けた少女、

リンだった。

 

 

「ち…違います…」

 

 

「あっそじゃどの子がルミアちゃんか知ってる?」

 

 

「…し…知りま…せん」

 

 

「ホント? 俺 ウソつき嫌いだよ?」

 

 

男はリンに顔を近づけながら威圧をかけていると

 

 

「貴方達…ルミアって子をどうするつもりなの?」

 

 

 

システィーナは男達に質問していた。

 

 

「おお さっきの何? お前ルミアちゃんを

知ってるの?」

 

 

 

「それとも「私の質問に答えなさい‼︎

貴方達の目的は一体」」

 

 

システィーナは男達の目的を聞き出そうとすると

チンピラみたいな男がそんなシスティーナに

苛立ったのかシスティーナに指差しながら

 

 

 

「ウゼェよ、お前」

 

 

(え…)

 

 

 

《ズドーー》

 

 

 

男が一節詠唱を唱えようとすると

 

 

 

「やめて下さい‼︎」

 

 

 

集められた生徒達の中から大きな声が聞こえた。

 

 

「私がルミアです他の生徒達に手を出すのは

やめて下さい」

 

 

 

「へえ……君がルミアちゃんなんだうん実は

知ってたよ最初から名乗り出るか我が身可愛さで

教える奴が出るまで関係ない奴を一人ずつ殺ってく

ゲームだったんだけどねいやぁークリアが早すぎ

だよつまんないなー」

 

 

ルミアは男の物言いに絶句する。この男は

狂っていた。

 

 

「ああ、安心しな。もうやる気はねーから。だって

ルミアちゃんが名乗り出ちゃた今となっちゃ、もう

ただの一方的な殺しになっちゃうじゃん?保身の

ためにお友達を裏切るか、それともお友達のため

に名乗り出るか……その狭間の顔を見るのが楽しい

んだもんな、コレ! だから、ナイスだったね、

ルミアちゃん。ファインプレー!」

 

 

「外道……ッ!」

 

 

ぱちぱちと拍手する男に、ルミアは普段見せない

ような怒りの灯った視線を向ける。

 

 

「遊びはその辺にしておけ ジン」

 

 

これまで黙っていたダークコートの男が突然口を

開いた。

 

 

「私はその娘をあの男の元へ送り届ける。

お前は第二段階へ移れ。この教室の連中のことは

任せたぞ」

 

 

「あーもう、面倒臭いなぁ。なぁ、レイクの

兄貴ぃ、やっぱこいつら全員に【スペル・シール】

をかけていくの? 別にいいでしょ、こんな雑魚共。

束になって暴れ出した所でオレの敵じゃねえし?

そもそも、もう牙抜かれちまってるじゃん?」

 

 

ジンと呼ばれたチンピラ風の男が教室を睥睨する。

誰もが目を合わせないように視線をそらした。

 

 

「それが当初の計画だ。手筈通りやれ」

 

 

「へーいへい」

 

 

面倒臭そうにチンピラ風の男は頭をかいた。

 

 

 

「ご足労、願えるかな? ルミア嬢」

 

 

 

 

ダークコートの男ーーレイクがルミアを尊大な

態度で見下ろした。

 

 

「拒否権はないんですよね?」

 

 

 

毅然とした態度を崩さず、ルミアが男を真っ直ぐ

にらみ返す。

 

 

「理解が早くて助かる」

 

 

「……少し、彼女と話をさせて下さいませんか?」

 

 

ルミアが床で震えながらへたりこむシスティーナに

眼を向ける。

 

 

「いいだろう。だが、妙な真似はするなよ」

 

 

レイクの一分の油断も隙もない、鋭い視線を全身に

感じながら、ルミアはシスティーナの眼前に膝を

ついてシスティーナに視線を合わせた。

 

 

「……行ってくるね、システィ」

 

 

ジンがルミアに行くように促すとシスティーナは

怯えた声で

 

 

 

「ダ……ダメよ…ルミア……行ったら

殺されるわ…!」

 

 

 

「大丈夫だよシスティ、グレン先生が助けに

来てくれるから…」

 

 

ルミアがシスティーナにそう言うとシスティーナの

頭の上には(?)が何個も浮かんでいた。何でここに

きてグレンの名前が出てくるのが分からなかった。

そんな中、ルミアがシスティーナに触れようとする

とレイクがルミアの首元に剣を突き立ていた。

 

 

 

『貴方が魔術師に触れる事は許さん』

 

 

 

「なぁ、レイクの兄貴。グレン先生って誰?」

 

 

レイクの言葉を受け、ジンが割って入った。

 

 

「このクラスを担当することになった非常勤講師

の名前だろう。それくらい覚えてたおけ」

 

 

「あー、グレンね? あの雑魚キャラのグレンね、

オーケイ、オーケイ思い出した。ケケケ、グレン

先生ツイてないねぇ」

 

 

ルミアがそう言えば、ジンが『先生は取り込んで

いる』と言っていたことを思い出した。

 

 

「あなた達……グレン先生に一体、

何をしたんですか?」

 

 

 

 

あー、そのグレン先生なら、 俺達の仲間が

ブッ殺したよ」

 

 

 

「なーー」

 

 

「⁉︎」【クラス全員】

 

 

 

「錬金改【酸毒刺雨】っつー魔術の使い当初から

手キャレルって男だ毒と酸を合わせた悪趣味な

術なんだがこいつでやられた獲物は本当にひでえ

になるから俺もドン引きでさー今ごろどっかで

身元不明のグロ死体があがってるころだろうぜ」

 

 

 

 

 

「せ…先生が…ウソ…そんな…」

 

 

 

システィーナはジンのそんな絶望的な事実を

告げられ絶望していた。

 

 

「無用な期待をせずにすんだなそれでは

来てもらおうか」

 

 

レイクはルミアにそう告げるとルミアは絶望

どころか目の光はまだ消えておらず、それどころか

希望を信じて続けてるようだった。

 

 

 

「私は彼女をあの男の所へ連れて行く

お前は生徒達に【スペル・シール】で封じておけ」

 

 

 

「了解」

 

 

ジンとレイクのやりとり終えた後、ルミアとレイク

が教室を出て階段を降って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ルミアはレイクに警戒しながらも恐る恐ると

質問をする。

 

 

「あなた達の目的はなんですか?私のような者に

一体、何の用があるんですか?

 

 

 

「それはあなた自身がよくご存知だろう?

ルミア……いや、『エルミアナ王女』」

 

 

 

「ーーっ!」

 

 

エルミアナと呼ばれて息を飲むが、すぐに冷静さ

を取り戻して静かに言う。

 

 

 

「私の素性をあなた達がどこで知ったかは

知りません。ですが先に言っておきますけど

私にはもう王女としての価値はありませんよ?」

 

 

「それは知っているあなたは本来、生きていては

ならぬないはずの存在だ。だが現在女王の

アリシア七世の温情によって、貴女はここにいる」

 

 

 

レイクはそっけなく応じ、値踏みするような

冷たい目を肩越しにルミアへと向けた。

 

 

「いないはずなのに、いる。

そこに貴女を利用する価値がある」

 

 

「……っ⁉︎」

 

 

 

「貴女のような廃棄された忌むべき存在でも、

然るべき機会で使えば、現在の王家、帝国政府を

揺さぶることも不可能ではない。それに……貴女の

特性には我が組織の幹部達もおおいに興味を持って

おいでだ。安心しろ。貴女は珍しいからそう邪険

には扱われないだろう。最悪でも標本止まりだ。

これは幸運だと言ってもいい」

 

 

「そんなーー」

 

 

こらえ難い悪寒と共にルミアは肩を抱いた。

この人間を乖離した意識の差異に、生理的嫌悪感を

覚える。

 

 

「あなた達の目的が私だということは

わかりました。だったら皆は関係ないはず…

システィを…皆を解放してあげてください!」

 

 

 

 

「やはりたいした女だ、貴女は。こう聞かされて

まだ人を気遣うとは。やはり血筋か」

 

 

感心したようにレイクが応じる。

 

 

 

「だが、残念ながらそれはできない相談だ。」

 

 

「せっかく卵といえど活きの良い若い魔術師達が

大量に手に入ったのだ。彼らを実験材料にしたい

と申し出ている仲間がいる」

 

 

 

「そ……そんな……あなた達はそれでも人間

なんですか⁉︎」

 

 

 

 

「人間? 何を馬鹿な。 魔術師さ」

 

 

 

 

もう話しは終わりだと言わんばかりに、レイクが

これ以降口を開くことはなかった。

 

 

 

 

「先生……グレン先生……」

 

 

 

そう言ってレイクとルミアはそのまま廊下を

歩いて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さてと俺もやることやっとかないと後で

レイクの兄貴にとやかく言われちまうからなぁ…」

 

 

ジンはそう言うとシスティなどの生徒達の殆どが

【スペル・シール】で封じられて残ったのはウィル

だけだったのか視線をウィルに向ける。

 

 

「まあ、俺の【ライトニング・ピアス】で右肩を

深々と貫かれたんだだから大丈夫だろうがな」

 

 

ジンはニヤリと悪魔のような狂気的な満面の笑み

を表情を浮かべた後、視線をシスティに向けて

いた。

 

 

「お? こいつはなかなかの上玉じゃあねえか‼︎

新鮮なうちに食っとかねーと勿体ねーよな?」

 

 

「い、嫌‼︎ は、離して‼︎」

 

 

ジンはそう言って【スペル・シール】を貼られて

嫌がるシスティを無理矢理引き寄せて別の場所に

連れて行こうとしていると

 

 

「ほーう、俺の【ライトニング・ピアス】を間近で

受けたのに立つとはなかなかやるじゃねえか?」

 

 

「………」

 

 

ジンは背後に気配に気付いて振り返ると血塗れの

ウィルの姿を見て一瞬だが少し驚いた表情をして

いたがその後、ジンは面白いといった表情を浮かべ

 

 

《ズドーー》

 

 

《霧散せよーー》

 

 

「ぐっ‼︎ こ、こいつ‼︎」

 

 

ジンがウィルに『ライトニング・ピアス』を放とう

とするとウィルはジンの『ライトニング・ピアス』

の一説詠唱を察したのか『ディスペル・フォース』

で霧散させてジンに勢いに身を任せて体当たりして

押し倒した後、ジンの身体に跨った。

 

 

 

「ドキやがれ‼︎ こんのクソ餓鬼がーーー‼︎」

 

 

ジンは喚き散らしジタバタと暴れるがウィルは必死

になりながらもジンを押さえ込んでいた。

 

 

(こんな餓鬼さっさと引っぺがして俺の一説詠唱の

『ライトニング・ピアス』で串刺しにしてやる‼︎)

 

 

ジンは憎たらしそうにウィルを睨みつけながら

必死に引き剥がそうとするが

 

 

「さっさとドキや…ぐっ‼︎ がはっ‼︎」

 

 

ジンが言おうとした瞬間ウィルはジンの顔面を

殴りつけた。

 

 

「う、ウィル……?」

 

 

 

システィは恐る恐ると顔色を真っ青ににしながら

ウィルの名前を呼ぶ。もちろん目の前にいる男も

怖くてしょうがなかったが目の前のウィルという

人物が本当に自分達と同じ人であり同じ人間なのか

と、彼に感情はあるのかとさえ疑ってしまう。

 

 

 

(ウィル…貴方、どうして…どうして……)

 

 

 

何故ならーーー

 

 

 

 

 

 

(今にも殺されるかもしれないのにどうして…

どうして…『当たり前のように冷静な表情』で

落ち着いていられるの……?)

 

 

 

システィは目の前で起きていることに怯え恐怖で

体が震えて動けなかった。それはシスティだけでは

なかった。カッシュやギイブル、そしてウェンディ

などの生徒たちが同じ考えだったようで目の前の男

も怖かったが同じ学院の生徒であるはずのウィル

にもとてつもなく恐怖の存在として見えていたの

だろう。

 

 

 

ウィルがジンを殴り続けているとジンの血がウィル

の白くて綺麗な頰にべちゃとついてしまいそれに

気付いたウィルは血がついた頰を触る。

 

 

いつも見慣れている外道魔術師の血だ。

何の問題もない。何も問題は……

 

 

そう考えていたウィルは何の迷いや躊躇いなく

ジンの顔を何度も何度も殴りつけたその拳を

振り上げた時、視界に怯えて顔色が真っ青してる

システィを見た瞬間、

 

 

 

「ーーッ‼︎」

 

 

 

問題はないはずなのに…何故、何故……

 

 

 

『震えているんだ…?』

 

 

 

今迄こんなこと一度も無かったのに…どうして?

 

 

 

ウィルが手や身体の震えを必死になって止めようと

するが混乱してるせいか鈍くなった思考を必死に

巡らせて考えていると

 

 

 

「う‼︎ うぐっ‼︎」

 

 

 

いきなり激しい頭痛がしてまるで重い鈍器のような

物で何度もおもいっきり叩きつけられたような

激しい痛みがして頭を抱えて蹲ってしまう。

 

 

 

「な、なん、なんだ……」

 

 

「…よ、◼️◼️◼️◼️……◼️◼️、◼️…が◼️◼️に

◼️◼️が◼️◼️◼️◼️◼️で………◼️◼️君…◼️◼️◼️

まで、◼️◼️て…」

 

 

 

(なんなんだ…この記憶は…それに、なんなんだ

この感覚は‼︎‼︎)

 

 

ウィルにとって未知で処理しきれない感覚(感情)

に更に恐怖していた。

 

 

 

何故だ…? 何故……あの時システィを見た瞬間、

頭の中は激しく打ち付けられたような痛みがきた。

ということは…僕は昔、どこかでシスティと会った

ことがあるのか……?

 

 

 

そんな中ジンは自分を抑えつけていたウィル力が

弱まったのに気付いたのかウィルを払い除ける。

 

 

「ふざけてんじゃねーぞ‼︎このクソ餓鬼がーー‼︎‼︎

テメェはさっさと死んでくたばりやがれ‼︎」

 

 

 

ジンは先程ウィルに殴られて苛ついていたのか感情

に身を任せて一節詠唱の『ライトニング・ピアス』

を詠唱して複数の『ライトニング・ピアス』が

ウィルの身体を刺し貫いていく

 

 

「オラ‼︎ オラ‼︎ 俺を殴りつけて余裕ぶっていた

あの威勢は一体どこにいきやがった‼︎ ああん?」

 

 

 

ジンは激昂して先程の『ライトニング・ピアス』

だけでは足りなかったのか更に先程詠唱した倍の

『ライトニング・ピアス』を詠唱してその複数の

『ライトニング・ピアス』が容赦なくウィルの身体

が貫かれて目の前で倒れている血塗れで更にかなり

の出血多量に近いぐらいのウィルに近づいて先程の

憂さを晴らす為か『ライトニング・ピアス』で

貫かれた腹部を何度も何度も踏み付けていく。

 

 

「おいおい‼︎ なんか言ったらどうだ‼︎ なあ‼︎」

 

 

「がはぁ‼︎」

 

 

 

ジンは更に追い討ちをかける様に最後に踏み付け

てボロ雑巾の様になってしまったウィルの身体を

おもいっきり蹴り上げる。

 

 

 

「や、やめ…やめなさい‼︎」

 

 

「……あ?」

 

 

システィは怯えながらもジンを止める。

 

 

「今、俺に言ったのか……?」

 

 

 

「そ、そうよ…‼︎ 弱って動けない傷だらけの人間

を踏み付けて何が楽しいのよ‼︎ 馬鹿じゃないの‼︎」

 

 

 

システィは怯えながらもジンに言うがシスティの

いまの気持ちは

 

 

 

『怖い』ただそれだけだった。

 

 

 

 

でも、それでも、私は魔術の名門フィーベル家の

次期当主として魔術をおとしめる輩を看過する

ことは決してできない。

 

 

 

「テメェ…やっぱり、ウゼェわ……」

 

 

「ーーッ‼︎」

 

 

 

システィがそう言うとジンは人差し指をらさ先程

とは非にならないぐらいの今にも殺さんとばかりの

凄い殺意をシスティに向けていた。

 

 

 

 

《ズドーー》

 

 

 

《霧散せよーー》

 

 

 

「ちぃ…‼︎ クソが‼︎ 」

 

 

その瞬間、ジンの背後から声が聞こえて振り返ると

ウィルがいて右手には羽ペンが握られていた。

 

 

 

「テメェまだ生きてやがったのかよ…いい加減に

さっさとーー「お前がくたばれ…」」

 

 

 

ジンが舌打ちしながらそう言おうとするとウィル

はジンが話を最後まで聞かずにジンの背後に回り

込んで容赦なく首を締め付けて更には肩の辺りに

羽ペンで何度も何度も刺し続ける。

 

 

「クソがぁ…クソがぁーー‼︎‼︎ 

ナメてんじゃねぇぞ‼︎ このクソガキがーー‼︎‼︎」

 

 

 

だが、ジンも負けずと肘でウィルの腹部を何度も

打ち付けてくる。

 

 

 

「ぐ、ぐふっ…あがっ‼︎」

 

 

 

 

肘で打ち付けられたせいかジンを締め付けていた

腕の力が弱いなってしまい、ましてや大人と学生の

体格などのせいで振り解かれてしまう。

 

 

 

「そんなに死にたいならお前から殺してやるよ‼︎」

 

 

 

ジンは「ハァ…ハァ…」と息を荒くしながらも

ニヤリと口角を上げて狂気的な笑顔をさせながら

そう言ってジンの得意であり十八番《ズドン》と

軍用魔術である『ライトニング・ピアス』を

一節詠唱してウィル身体に一発二発と容赦なく

打ち込んでいくる。

 

 

 

「テメェは何発打ち込めば死ぬんだろう、な‼︎」

 

 

 

「うがぁ‼︎」

 

 

 

ジンはそう言ってウィルに更に打ち込んでくる。

 

 

 

「お願い‼︎ もうやめて‼︎ ウィルが‼︎ ウィルが

死んじゃうわ‼︎」

 

 

 

システィが言う通りだった。ウィルの身体はすり傷

や擦り傷、更には致命傷に近い傷がいっぱいで

フラフラな千鳥足になりながらも窓にもたれるので

精一杯だった。もし、システィがその場で止めて

なければ間違いなくウィルは死んでいただろう。

 

 

 

「ふーん、そうなんだ。でも残念だけど俺には

関係ないし興味もないわ」

 

 

 

ジンがシスティに笑顔でそう言った後、《ズドン》

と『ライトニング・ピアス』の一説詠唱を唱えた

後、窓のガラスはパリーンと音を立てて破れた後、

ウィルの身体は破れた窓から落ちていった。

 

 

 

「ウィルーーー‼︎‼︎」

 

 

 

システィが泣きながらウィルの名前を呼んで必死に

手を伸ばすがギリギリで届かず助けられなかった。

 

 

 

 

(システィ…どうしてそんな悲しそうな顔をして

いるの…? それに…どうして泣いているの…?)

 

 

 

「システーー」

 

 

 

ぐちゃりーー

 

 

ウィルがそう呟いた瞬間、生々しい鈍い音がして

目の前の視界が真っ暗になって意識が途切れた。




読んで頂きありがとうございました‼︎
これからも『落第騎士と幻影の騎士』や
『◼️◼️◼️の精霊』や『隠密者が斬る!』
『ロクでなし魔術講師と死神魔術師』をこれからも
よろしくお願いします‼︎

本当に読んでいただきありがとうございました‼︎


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人間の悪意

皆さん読んで頂きありがとうございます。

『デート・ア・ライブ■■■の精霊』を投稿後
に『白き大罪の魔術師』を投稿させて頂きました。



豆腐メンタルなので満足して貰えるか分かりません
が一生懸命に書いたので読んで頂いたら本当に
ありがたいです‼︎


他の投稿作品も投稿しているので読んで頂き
更に『投票』や『お気に入り』、『しおり』
そして『感想』など頂けましたら原動力に
なります‼︎


「こ、これは……ッ‼︎」

 

 

 

『白いローブを被った人物』は串刺しにされて

血塗れに染まって目を開いたままの警備員の姿は

まるで糸が切れた人形みたいに仰向けになった

状態で倒れていた。

 

 

「ゆっくりと休んでください……」

 

 

ローブを被った人物はそう言って死んだ警備員の

ところにゆっくりとであるが近づいて右手を出して

目を開いた警備員が安心して眠れるようにして

あげたのだろう目に置いて丁寧に閉じてあげた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、街の広場では、かなりの人が

ざわついていた。

 

 

「う…っ」

 

 

「こりゃひでぇ…」

 

 

「警備官はまだ来ないのか?」

 

 

「こんなの…人間のやる事じゃないわ…」

 

 

「ああ…一体だれがこんな事を…」

 

 

 

「ママ、あれ何?」

 

 

 

「こら! 見てはいけません‼︎」

 

 

 

 

 

街の人達は亀甲縛りのキャレルを見ながら縛られた

キャレルに同情する者や軽蔑している者がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここは……どこ…?」

 

 

 

ウィルは周りを見渡す。

 

 

 

周りにはか細い光しかない暗い部屋で消毒液の

ような薬品の匂いと赤黒い液体がべったりと周りに

飛び散っていた。

 

 

「あれは……」

 

 

そんな散乱した部屋の周りを確認すると奥から

光が漏れてきたのに気付いたのかゆっくり、

ゆっくりとであるが 奥から漏れてくる光に

近づいて扉を開ける。

 

 

「これは…」

 

 

 

すると奥にある水槽の目の前に二つの影が見える。

一人は銀の十字架を首にかけている神父ともう一人

は人なのだろうか? 体育座りをしている白い人影

だった。

 

 

 

「だ、誰……?」

 

 

 

ウィルがそう呟くと

 

 

「はじめまして君が■の■■……つまり

『選ばれし者』だな?」

 

 

「おじさん、誰…?」

 

 

 

(この人は…神父?)

 

 

ウィルがそう呟く間、神父は白い人影に

話しかけると白い人影は神父に質問する。

 

 

「私か? 今はそんなくだらないことなんて

どうでもいいじゃないか。それよりもだ……」

 

 

神父はニヤリと不気味な笑みを浮かべていた。

 

 

 

「いいかい…? 忘れないでくれよ。君はーー」

 

 

 

神父がそう言った瞬間、目の前の視界がぐにゃりと

歪んでいき目の前が真っ暗になった。

 

 

その最中、一瞬

 

 

 

「君は選ばれしーー」

 

 

(えっ? 何? なんなの…?)

 

 

神父が何かを言おうとしているのは分かって

いたが何故だか分からないが聞き取れないのだ。

 

 

だが、神父は最後に

 

 

 

「■■達が認めた素晴らしい■■の■■■

なのだから」

 

 

「えっ……?」

 

 

神父がそう言った瞬間、神父の最後の言葉も

聞こえなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……っ‼︎ こ、此処は……?」

 

 

ウィルは目を覚ましたのか飛び上がって周りを

見渡すとどうやら学院の外にいた。

 

 

 

だが、ウィルが一番驚いたのは自分の周りに

ある飛び散った周囲の大量の赤黒い液体だった。

 

 

 

「これは……血…なの?」

 

 

ウィルは右手で血溜まりをべったりと触って

確認する。

 

 

 

そして上から自分が落ちてきた二階の窓を見た。

普通にあり得なかった。何故ならあんなに大量の

出血な状態で地面に打ちつけたのだ今生きている

こと自体が奇跡と言っても過言ではない。

 

 

「ッ‼︎ そうだ…ルミア=ティンジェルを、

ルミアの救出しなければ‼︎」

 

 

 

『全てはイグナイト家の為にーーー』

 

 

 

そしてこれは『任務』なのだからーー

 

 

 

イグナイト家ではそれ以外の余計な知識は

要らないとそう教わってきたのだから……

 

 

 

『■■に■はいらない』

 

 

 

ウィルはそう言って学院内に入って行った。

 

 

 

 

 

その時ウィルは気付いていなかった。

自分自身の身に何が起こっているのかを……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オラこっちだ早くしろ」

 

 

 

「きゃあっ」

 

 

 

「ククク、せっかくなかなかの上玉を

見つけたんだ暇な時間に食っとかねーと

勿体ねーよな」

 

 

 

「…………っ‼︎」

 

 

 

ジンは舌をペロリと舐めながら システィーナに

近づいていく

 

 

「ふ…ふざけないで私はフィーベル家の娘よ⁉︎

私に手を出すとお父様が黙ってないんだから‼︎」

 

 

 

 

「はァ? フィーベル家ってナニ?

偉いの?ソレ」

 

 

 

ジンはシスティーナにそう言ってシスティーナに

近づきながら倒れていた体を起き上がらせる。

 

 

 

「あっ‼︎」

 

 

 

「ルミアちゃんみてーなタイプはさー嬲っても

面白くねーのよありゃ か弱そうだか辱めや苦痛

じゃ絶対心が折れない人種だその点お前は一見

強がっているが自分の弱さに仮面をつけて隠して

いるだけのお子様さそーいうチョロい女を壊すのが

一番楽しんだ」

 

 

 

「……私を慰み者にしたいなら好きにすればいいわ

けれどフィーベル家の名にかけてウィルを殺した

貴方だけはいずれ地の果てまで追いかけて殺して

やるわ覚悟しなさい‼︎ 必ずこの屈辱をーー…」

 

 

システィーナはジンを睨みつけて

言っていると、

 

 

 

「はいはい、じゃー、どこまで保つかなー?」

 

 

『バリリッ‼︎』

 

 

 

ジンはなんの迷いもなくシスティーナの着る制服

の胸元に手をかけ、それを引き裂いた。白い下着に

包まれた胸と肌が露わになる。

 

 

『……え? ……ぁ』

 

 

 

掠れた声がシスティーナの喉奥から絞り出される。

肌がひんやりした外気にさらされ、いよいよ

これから自分がどのような末路を辿るのか、強く

実感する。じわりと。だが、もう誤魔化し様も

なく致命的な恐怖と嫌悪が心の中で醸造される。

 

 

 

「…………ぅ、ぁ」

 

 

 

「ひゅーッ! 胸は謙虚だが綺麗な肌じゃん!

うわ、やっべ勃ってきた……おや?どうしたのー?

なんか急に押し黙っちゃってさー、元気ないよ?」

 

 

 

負けるものか。屈するものか。私は誇り高き

フィーベル家の娘だ。魔術師にとって肉体など

しょせん、ただの消耗品ではないか。唇を震わせ

ながら自分自身に言い聞かせる。

 

 

 

「そもそもさぁ〜あの白髪の少年、確か……

ウィルだっけか? あの餓鬼が死んだのはさぁ

ぜえ〜んぶお前の身勝手な行動のせいなんだぜ?」

 

 

ジンはニヤリと悪意ある笑顔でシスティーナに

そう言うとそんなシスティーナの脳裏にはウィルが

窓から落ちていく姿が浮かび理性とは裏腹に口は

勝手に違う言葉を紡ぐ。

 

 

 

「……あ、あの……」

 

 

 

「ん? 何?」

 

 

 

「……やめて…ください……」

 

 

その一言が出てしまった瞬間、もうどうしようも

なかった。これから我が身を汚されてのだという

悲嘆に、初めては本当に好きになった人に捧げた

かったという密かな夢の思うと理不尽な終焉と

そして自分自身の身勝手な行動のせいでウィルは

ジンの《ライトニング・ピアス》を身に受けて

しまいには教室の窓から落下していく姿を思い出

してしまったシスティーナは恐怖と罪悪感二つの

感情がぐちゃぐちゃと混ざり合って涙をぼろぼろ

とあふれさせ、身体を震わせていた。

 

 

 

「あ、あの……お願いします……それだけはやめて

……許して……」

 

 

 

システィーナはジンの声を聞いた瞬間、先程教室

の窓から落下した血塗れのウィルの姿が脳内で

フラッシュバックして鮮明に思い出してしまう。

 

 

 

忘れたくても自分身体を舐めるように触っている

この『目の前の人でなしの外道魔術師』の声が

忘れることを許さない。

 

 

 

「ぎゃははははははーーッ!

落ちんの早すぎんだろ、お前!

ひゃははははははッ!」

 

 

 

ひとしきり笑ってから、冷酷な目でジンは

なきじゃくるシスティーナを見下ろした。

 

 

「悪いがそりゃできねえ相談だ……

ここまで来ちゃ引っ込みつかねーよ」

 

 

 

「……やだ……やだぁ……お父様ぁ……

お母様ぁ……助けて……誰か助けて……」

 

 

 

「うけけ、お前、最っ高!

てなわけでいただきまーす!」

 

 

 

「嫌……嫌ぁあああああああーーッ!」

 

 

 

 

ジンの手が必死に身じろぎするシスティーナの

肌に伸びて行った、その時だった。

 

 

 

『がちゃ。』

 

 

 

実験室の扉間抜けな音を立てて開いた。

 

 

 

「は?」

 

 

 

「……え?」

 

 

 

開かれた扉の向こうに男が棒立ちしていた。

グレンだった。

 

 

 

「えーと?」

 

 

 

グレンは身体を重ね合っている二人を見て

気まずそうに頬をかく。

 

 

 

「すまん。邪魔したな。ごゆっくり……」

 

 

 

そい言って、開いた扉をゆっくりと閉めてーー

 

 

 

「行くな閉めるな助けなさいよーーッ⁉︎」

 

 

 

システィーナの叫びに、グレンは渋々といった

表情でため息をつきながら、再び扉を開いて部屋

の中に入ってくる。

 

 

「あー、やっぱりそうなの? そういう胸くそ悪い

展開だったの?てっきり両者合意の上でやってる、

ちくしょうバカップル爆発しろ的展開かとだと

思ったのだが……」

 

 

 

「んなわけあるかーーッ⁉︎」

 

 

 

一方、グレンの出現にあっけに取られていたジン

だったが、すぐに我に返ってシスティーナから

飛び退き、グレンに向かって身構えた。

 

 

 

「何者だテメェはッ⁉︎」

 

 

 

「一応、この学院の講師をやってる者です。

一応、先生として忠告するが、お前、そういうの

一応、犯罪だぞ? いくらモテないからってだな、

一応……」

 

 

グレンは何かズレた事を言っていた。

まるで不良生徒に説得する接し方だ。

 

 

 

(ーーしまった)

 

 

システィーナは思い出した。切羽詰まった

状況だったため、ついグレンに助けを求めて

しまったが、このジンという男は強大な力を持つ

魔術師だ。グレンは講師としての力量は優れて

いるが、魔術師としての力量に優れているとは

言えない。

 

 

 

「うるせぇ! 一体、どっから湧いて

出てきやがったんだテメェッ⁉︎」

 

 

 

「おい、人をゴキブリ扱いするな。

ゴキブリに失礼だろ⁉︎」

 

 

 

「誰もそこまで言ってねーよ⁉︎

っていうかお前、どんだけ自虐思考なの⁉︎」

 

 

 

グレンとジンが魔術で争えば……間違いなく

グレンは殺される。グレンは三節詠唱しか

できない。ジンのあの超高速一節詠唱に対抗

できるはずもない。

 

 

 

「だ、だめ……ッ! 先生、逃げて!」

 

 

 

「お前、助けろっつたり、逃げろっつたり、

一体どっちなんだよ?」

 

 

 

「いいから早く! 先生じゃそいつには敵わない!」

 

 

 

 

「もう遅ぇよッ!」

 

 

 

痺れを切らしたジンがグレンに指を向けた。

それに応じ、グレンも手を動かすーーが、遅い。

 

 

 

「《ズドン》ッ!」

 

 

瞬時に呪文は完成し、ジンの指先から迸る雷光が

グレンに容赦なくーー

 

 

 

「…………は?」

 

 

黒魔【ライトニング・ピアス】は起動しなかった。

完成と共に指先から飛ぶはずの雷光が一向に

発生しない。

 

 

 

「くっ……《ズドン》ッ!」

 

 

 

 

ジンは再度、呪文を唱える。 結果は同じだ。

 

 

 

 

「ど……どうなってやがる……ん?」

 

 

 

 

その時、ジンはグレンが手に何かを持っている

ことに気づいた。

 

 

 

「愚者の……アルカナ・タロー?」

 

 

 

総数二十二枚からなるアルカナのナンバー0、

愚者のカードだ。

 

 

「てめぇ……なんだ、そりゃ?」

 

 

 

「これは俺特製の魔導器だ」

 

 

グレンがカードの絵柄をジンに見せ付けながら

言った。

 

 

 

「この絵柄に変換した魔術式を読み取ることで、

俺はとある魔術を起動できる。それはーー俺を中心

とした一定領域内における魔術起動の封殺」

 

 

 

「な……」

 

 

 

「残念だった。お前の呪文詠唱速度が

どれだけ速かろうが、もう関係ねーよ」

 

 

 

「魔術起動の……遠隔範囲封印だとぉ?」

 

 

 

確かにシスティーナ達が受けたような、

魔術の起動を封印する術式はある。

黒魔【スペル・シール】と呼ばれる魔術だ。だが

それは付呪が前提であり、しかもこの魔術に限って

は相手の身体に呪文を書き込み、 魔術効果付与する

という特殊な手順を踏まなければならない。実戦で

そんな手間のかかることを許す魔術師はいない。

それに対し、グレンは紙切れ一枚をちらっと見る

だけで広範囲にわたる魔術起動を完璧に封殺できる

と言うのだ。

 

 

 

「それが俺の【固有魔術】 『愚者の世界』」

 

 

 

「ま…魔術の固有魔術⁉︎ まさか‼︎

テメェそんな域に至ってるってのか⁉︎」

 

 

 

「……‼︎」

 

 

 

(そんな術…聞いた事もない…‼︎

どれだけ素早い詠唱もこの術の前じゃ無意識…‼︎

先生が三節詠唱しかできなくてもワンサイドゲーム

なんてもんじゃないわ‼︎そんな反則級の術の使い手

だったなんて…‼︎)

 

 

システィーナがそんな事を考えているとグレンは

ある爆弾発言を二人にした。

 

 

『ま、俺も魔術起動できないけどな』

 

 

「…………」

 

 

 

「は?」 【システィーナ、ジン】

 

 

 

グレンが不意につぶやいた言葉にシスティーナと

ジンも思わず目が点になった。

 

 

たっぷりの数秒間、不思議な沈黙がその場を

支配する。

 

 

 

「いや、だって、俺も効果領域内にいるじゃん?

俺中心に展開する魔術なんだし」

 

 

「な、なーーなんの意味があるのよ、それ⁉︎」

 

 

 

システィーナもたまらず突っ込み入れてしまった。

 

 

 

「ぎゃははははーーッ⁉︎ お前、馬鹿じゃねーーの⁉︎

魔術師が自分の魔術まで封印しちまってテメェ

どうやって戦う気なんだよ⁉︎」

 

 

 

「は? いや……別に魔術なんかなくたって拳が

あるだろ?」

 

 

 

グレンは口元を緩めながら、魔術師らしからぬ、

おかしなことを言った。

 

 

「は? 拳?」

 

 

「うん、拳」

 

 

 

突如、グレンが爆ぜるように動いた。

 

 

一瞬でグレンとジンの距離が詰まる。剃刀のように

鋭い踏み込みから放たれた左ジャブがジンの顔面を

軽捷に突き、刹那に続く右ストレート一閃。

 

 

「ぐぁあああああっ⁉︎」

 

 

 

電光石火のワンツーによってジンの身体は

吹き飛ばされ、壁に叩きつけられた。

 

 

「え? 嘘……何、今の動き……」

 

 

 

全然、見えなかった。システィーナは呆然と

グレンを見つめる。

 

 

グレンは身体を半身に、やや猫背に、両の手の甲を

相手に向けてわずかに回転させるーー古式拳闘に

似た構えを取っている。軽くステップを踏みながら

油断なくジンを見据えていた。

 

 

「や、野郎ぉーーーッ!」

 

 

 

起き上がったジンは激情に任せてグレンに

殴りかかった。

 

 

 

だが、グレンはジンが放った拳に、上から

被さるようなカウンターを合わせる。

 

 

 

その挙動はバネのようにしなやかで、荒波の

ように力強く、そして、速い。

 

 

 

「がーーッ⁉︎ ふぐ⁉︎」

 

 

 

拳がジンの素顔に再びめり込むと同時に、グレン

は鋭く体重をする。ジンの脇腹に深く膝蹴りを

入れ、ジンの腕と胸元を取り、足払い、背負う

ように投げ飛ばす。

 

 

「ぎゃあああああっ⁉︎」

 

 

再び壁に叩きつけられて、ジンが悲鳴を上げる。

 

 

「うーん、やっぱり鈍ってるなー。

久しぶりだからなー」

 

 

当のグレンは指をぽきぽき鳴らしながら、

だるそうにそんなことをぼやいていた。

 

 

 

「て、てめぇ……」

 

 

鼻血を拭きながら、よろよろとジンが起き上がる。

 

 

「あら?驚きました? 実はボク、昔、近所の道場

で拳闘などを少々……」

 

 

「ふ、ふざけるな!妙なアレンジが加わっちゃ

いるが、今のはれっきとした帝国式軍隊格闘術

じゃねえか⁉︎しかもかなりの使い手……テメェ、

一体、何者なんだ⁉︎」

 

 

『グレン=レーダス。非常勤講師だ』

 

 

その言葉にジンが幽霊に出会ったかのような

表情で目を見開く。

 

 

 

「グレン、だとぉ……テメェがか⁉︎ まさか、

キャレルの奴が敗れたってのか⁉︎冗談だろ……⁉︎

アイツほどの 魔術師が……ッ⁉︎」

 

 

 

だが、それもありえる話はあった。このグレンと

いう男は周囲一帯の魔術を含めて封印するなどと

いう、マトモな魔術師なら考えもつかない馬鹿げた

ことを平気でやる男だ。この格闘術の異常な練度の

高さも恐らく、対魔術戦をその封印魔術を前提に

しているからだろう。

 

 

この男の前では生粋の魔術師ほど、無力な存在と

なってしまうのだ。

 

 

 

「クソッ! ふざけるな、ふざけるなよっ!

魔術師が肉弾戦で雌雄を決するだと⁉︎ てめぇ、

魔術師としてのプライドはねーのか⁉︎」

 

 

「お前、そんなに魔術以外で倒されるの嫌なの?

もう、しょーうがねーな。じゃあ、これからお前に

放つ一撃は【魔法の鉄拳マジカル☆パンチ】って

いう伝説の超魔術な? 今、開眼した」

 

 

 

「は?」  「え?」

 

 

 

唖然とするジンに向かって、グレンが拳を構えて

突進した。

 

 

 

「魔法の鉄拳ーーー」

 

 

 

 

「う、おおお⁉︎」

 

 

 

 

グレンが引き絞った拳に反応して、ジンが両腕を

交差させて顔面をガードする。

 

 

 

「マジカル☆パァアアアアアンチッ!」

 

 

そのままグレンは右足を振り上げて、ジンのガード

の隙間を縫うように、旋風のような上段回し蹴りを

ジンの側頭部へと叩き込む。

 

 

 

「ぎゃぁあああああああああーーっ⁉︎」

 

 

 

猛烈に蹴り倒されたジンは床を派手に

転がっていった。

 

 

 

『説明しよう。【魔法の鉄拳マジカル☆パンチ】

は、なんかよくわからない魔法の力で、パンチ

の二倍と言われるキックに匹敵する威力が出る、

なんかもう凄い魔法のパンチなのだ』

 

 

 

 

「ていうか……『パンチ』じゃなくて実際に、

『キック』だった……だろ……」

 

 

 

「ふっ、そこがなんとなくマジカル」

 

 

 

「くっそ……このオレがぁ……ッ!

こんな……ふざけた奴に……ッ! がは……」

 

 

 

 

その言葉を最後に、ジンの意識は完全に暗闇へと

落ちた。

 

 

 

 

 

システィーナはほんのちょっとだけ、ジンに

同情していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これでよし、と」

 

 

グレンは気絶したジンに油断なく注意を払い

ながら、自分の範囲封印魔術の効果が切れるのを

待ち、【マジック・ロープ】でジンの手足の動きを

封じ、【スペル・シール】を付呪してジンの魔術を

封じ、【スリープ・サウンド】を重ねてかけた。

 

 

 

それから全裸にひん剥いて、さらに亀甲縛りに

縛り上げ、全身に見るにも無惨な落書きを

書き込んで、最後に股間へ『不能』と書いた紙を

貼った。

 

 

 

 

「ふぅ、これで完全無力化だ。

やれやれ魔術師の捕虜の扱いはこれだから

厄介なんだ」

 

 

 

それでもそこまでするのになんの意味があるんだと

システィーナが思っていると、システィーナの肩

に、ばさりと男物のシャツがかけられた。

 

 

 

「先生……?」

 

 

 

 

振り返って見ればタンクトップ姿になったグレン

がシスティーナの、あられもない姿をなるべく

見ないように、あさっての方を向いている。

 

 

 

 

「怖かったろ。怪我はないか?」

 

 

 

「私は大丈夫……先生が助けてくれたから」

 

 

 

「そうか。間に合ってよかった。

今、その【マジック・ロープ】を解いてやる」

 

 

 

 

グレンは黒魔【ディスペル・フォース】の呪文を

唱え、システィーナの腕をを縛りつけていた

【マジック・ロープ】と【スペル・シール】の

付呪効果を打ち消した。

 

 

 

 

腕が自由なったシスティーナはグレンのシャツに

腕を通し、ボタンを留める。

 

 

グレンはシスティーナと目を合わせようとは

しなかった。

 

 

 

「せ、先生……貴方……」

 

 

 

微妙な沈黙に耐えられず、システィーナがグレンに

声をかける。

 

 

 

「聞くな。頼む」

 

 

 

すると、グレンはばつが悪そうに拒絶した。

 

 

 

「わかっちゃいたんだよ……俺には人を教える

資格なんてないってな。誰かを教え導くには、

手が汚れ過ぎている……」

 

 

 

「いや、そうじゃなくて、あの……ズボン、

ずり落ちてますよ?」

 

 

 

「おおぅっ⁉︎」

 

 

 

どうやら最後の回し蹴りでベルトの金具が

弾けたらしい。グレンのズボンはいつの間にか

膝下までずり下がり、下着が丸見えになっていた。

 

 

「ああ、もう、ちくしょう!

これだから安物はーっ!」

 

 

 

「先生ってホント締まりませんね……」

 

 

慌ててズボンを引き上げる間抜けな姿に、

システィーナは呆れるしかない。

 

 

 

 

『でも……生きててよかった……』

 

 

 

 

「ん? なんか言ったか?」

 

 

 

「別に」

 

 

 

システィーナはどこか不機嫌そうに、ぷい、と

そっぽを向いた。

 

 

 

「……? まぁ、いい。とにかくだ。

状況を教えろ、白猫。一体、何が起こったんだ」

 

 

 

 

「あ……はい……」

 

 

 

システィーナは一連の出来事を説明した。

いきなりテロリストを名乗る二人の魔術師が教室に

やって来た事、教室の生徒達がなんの抵抗も出来ず

拘束されて閉じ込められていること。そしてグレン

はウィル窓から落とされた事を聞いて自身の無力さ

を感じてしまう。

 

 

 

しかしーーー

 

 

 

 

 

「ルミアが連れて行かれた?」

 

 

 

「……はい」

 

 

システィーナは悔しそうに、哀しそうに目を

伏せる。

 

「なんでアイツが?」

 

 

 

「わかりません」

 

 

「そうか……しかし、となるとやっぱ

早まったか?」

 

「先生?」

 

 

 

「あー、いや、すまん。独り言だ。お前を

助けられたんだ。判断は正しかったとしよう」

 

 

「で…でも…ウィルも……こいつの…こいつの

《ライトニング・ピアス》のせいで…ッ‼︎」

 

 

システィは【ギリッ‼︎】と歯ぎしりを立てながら

【マジック・ロープ】で縛られているジンに

向けて睨みつける。

 

 

「白猫‼︎ 落ち着け‼︎」

 

 

 

「でもこいつのせいでルミアとウィルが‼︎」

 

 

「あぁ、二人共死なせられないよな……死なせて

たまるかよ」

 

 

グレンはシスティを落ち着かせながらも決意を瞳

に宿し、そして言った。

 

「俺が動く。敵の残りは二人だと決めつけて

暗殺する。もう、それしかない」

 

 

 

暗殺。その時、システィーナはそんな事をあっさり

と言ってのけたグレンに背筋が凍えるような恐怖

を覚えた。

 

 

 

だが、それ以上にやるせなさも感じた。

グレンは人殺しを覚悟した冷徹な瞳を

していたが……どこか辛そうだったからだ。

 

 

 

 

「くは、くはははは……」

 

 

 

突然、その場に乾いた笑い声が響き渡った。

 

 

 

 

「……暗殺、か。けっけっけっ、まさかそんな

言葉があっさりと出るとはな……タダ者じゃねー

とは思っていたが……なんだ、お前もコッチ側の

人間かよ……クハハ……」

 

 

 

見れば、転がされているジンが意識を取り戻して

いた。

 

 

 

どうやら【スリープ・サウンド】の効きが

甘かったらしい。グレンは舌打ちしながらジンを

流し見る。

 

 

 

 

「否定はしねーよ。しょせん俺も下種だ」

 

 

 

 

「ほう? じゃ、俺を殺さねーのか?

それとも可愛い生徒の前じゃ殺せねーかぁ?」

 

 

 

「先生と貴方を一緒にしないで!」

 

 

 

ジンの不愉快な言を聞いていられず、システィ

が肩を怒らせて叫んだ。

 

 

 

 

「先生と貴方とは違うわ! 

なんもためらいなくゴミみたいに人を殺せる

貴方達とはーー」

 

 

 

「くはは! お前、そいつの何を知ってるんだ?

そいつは最近やって来たばかりの非常勤講師

なんだろ?」

 

 

 

 

「そ、それは……」

 

 

 

 

思わず言葉に詰まった。確かにシスティは

この約十二日間ばかりのグレンしか知らない。

セリカが連れて来た謎の講師。グレンが過去に

何をやっていたなんて何一つ知らない。

 

 

 

「断言してやる。 そいつは絶対、ロクな奴

じゃねえ。もう何人も殺ってきた……オレら

同じ外道さ。そういう人間だ。そういう目を

してやがる。オレにはわかるぜ」

 

 

 

システィはグレンに違うと一言否定して

欲しかった。

 

 

だが、グレンは何も言い返さない。

それは限りなく肯定に近い沈黙だった。

 

 

 

 

そして次の瞬間

 

 

 

 

 

 

「あ、あがああぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎」

 

 

 

実験室ではジンの叫び声が響き更には顔は痛み

のせいか顔を歪めていた。

 

 

 

グレンとシスティは今なにが起きたのか

分からなかったがジンを見るとジンの脇腹には

小さくて丸い穴が貫かれた後があった。

 

 

 

そして

 

 

 

 

「天の智慧研究会…いや、ジン=ガニス……

これより貴様の粛正を開始する……」

 

 

 

そう、これは『正義』為の『粛正』であり

『秩序を守る為執行』なのだから

 

 

 

グレンは声する方へ振り返ると血塗れの制服を

着ていたウィルが立っていた。

 




ここまで読んで頂きありがとうございます‼︎



『新しい作品』も考えていますのでこれからも
よろしくお願いします‼︎



『あつまれどうぶつの森』やってみて凄く楽しい‼︎


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善悪の立ち位置と消えぬ■■

皆様‼︎どうも‼︎ どうも‼︎お久しぶりです‼︎
【デートア・ライブ】『■■■の精霊』の
『リメイク版』でご報告した通り投稿させて
もらいました‼︎


『豆腐メンタルな自分』なのでどうか『感想』
や『評価』、『栞』などの応援お願いします‼︎


【注意】

『表現に良くない内容』や『グロい内容』を
多く含まれています。それでも良いなら是非、
読んでいってください‼︎


どのようなことがあってもこちらで責任は
取れませんのでよろしくお願いします‼︎


「■■■、■■■にとって『■■』はどういう

存在なの?」

 

 

少女は少年に笑顔で微笑みながら問い掛ける。

 

 

「■にとって■■はーーー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う、ウィル…貴方、その姿…ッ‼︎」

 

 

 

システィは目の前にいるクラスメイトの姿を

見て言葉を失った。

 

 

何故なら目の前にいるクラスメイトであるウィル

の姿は『全身血塗れ』だったからだ。

 

 

「ウィル‼︎ お前‼︎」

 

 

グレンは目を見開き慌ててウィルに近づいて

怪我がないか確認している。

 

 

 

「大丈夫ですよ。相変わらず心配し過ぎですね

グレン先生はこの通り元気ですよ」

 

 

 

ウィルは光なき瞳と無表情でありながらも右手を

左肩に置いてぐるんぐるんと回して見せた。

 

 

 

「て、テメェ…‼︎ テメェは‼︎ 」

 

 

 

そんな中、ジンはありえないといった青ざめた

表情をウィルに向けて必死に叫んでいた。

 

 

 

だって、テメェは血塗れの状態で二階から

落ちて死んだはずだろうが‼︎

 

 

 

ジンがウィルの血塗れの学生服の姿を見ながら

亡霊を見かの如く信じられないと言った表情を

浮かべていた。

 

 

「残念だったなーー」

 

 

「ッ‼︎」

 

 

ジンはビクリ‼︎と肩を怯えていた。

 

 

何故ならウィルが一歩また一歩と歩みを進めて

ジンの元へと進む姿を見て言葉では言い表せない

恐怖心が芽生えていた。

 

 

(ヤバイ‼︎ヤバイ‼︎ヤバイ‼︎ コイツはただの学生

なんかじゃない‼︎)

 

 

 

間違いない…コイツはーー

 

 

 

「ジン=ガニス。先程、システィに自慢をしながら

教えていたよね」

 

 

ウィルは無表情でジンに問い掛ける。

 

 

そう、【ライトニング・ピアス】を

 

 

「う、ウィル…?」

 

 

システィは今の状態を理解出来ないのか

恐る恐ると小さな声でウィルの名前を呼ぶ。

 

「だったらなんだよ‼︎ それともテメェ何か?

そこのガキに謝れってか? そんなーー」

 

 

 

「うるさい…自分の立場を弁えろ。咎人」

 

 

 

《貫け閃槍よ》

 

 

 

ウィルはジンが言う前に小声で言っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(一体、どういうつもりだ…?)

 

 

グレンはウィルに違和感を感じていた。

 

 

何故なら

 

 

 

「ジン=ガニス。先程、システィに自慢をしながら

教えていたよね」

 

 

ウィルは無表情でジンに問い掛けている。

 

 

そう、それだけなのに何故こんなにも胸騒ぎが

するんだろうか…?

 

 

この胸騒ぎの原因は恐らく昨日セリカが

俺に忠告した時だろうか?

 

 

 

『ウィル=オリバー』がいるだろうと思うが

あいつには気をつけろ…

 

 

と言われたことか?

 

 

いや、違う。

 

 

 

それとも奴はあの『宮廷魔導士団』だと

言われた聞かされたことか?

 

 

いや、これも違う。

 

 

 

グレンは謎の違和感について考えていると

 

 

 

「う、ウィル…?」

 

 

グレンが声がする方へ視線を向けてみるとシスティ

は今の状態を理解が出来ないのか恐る恐ると小さな

声でウィルの名前を呼んでいた。

 

 

 

「だったらなんだよ‼︎ それともテメェ何か?

そこのガキに謝れってか? そんなーー」

 

 

 

「うるさい…自分の立場を弁えろ。咎人」

 

 

《貫け閃槍よ》

 

 

 

ウィルはジンに冷たい光なき瞳を向けながら

そう言った後、ジンはある違和感を感じた。

 

 

「えっ…?」

 

 

なんだ、この違和感は…?

 

 

「う、うそ……」

 

 

さっきのあの女の表情が真っ青になっていや、

がる…?

 

 

 

べちゃりッ‼︎

 

 

特に左肩に違和感あるその自分自身の左肩と

べちゃりッ‼︎ 生々しいくて不愉快な音がする

方向へと恐る恐ると見ると

 

 

「う、ウソ…だろ……?」

 

 

ジンの左肩はピンポン玉ぐらいの大きさの穴が

空いて貫通していた。

 

 

「うっ‼︎ ウガアアアァァァァアアア‼︎」

 

 

痛い、痛い‼︎痛い‼︎痛い‼︎痛い‼︎痛い‼︎痛い‼︎

イタイ‼︎イタイ‼︎イタイ‼︎イタイ‼︎イタイ‼︎

イタイ‼︎いたイ‼︎イタい‼︎イタイ‼︎いたい‼︎

イタイ‼︎イタイ‼︎イタイ‼︎イタイ‼︎イタイ‼︎

 

 

この目の前にいるこのクソガキがさっき放った

【ライトニング・ピアス】のせいで右肩が貫通して

【ライトニング・ピアス】一説詠唱どころか右腕

どころか右指すら出来ない‼︎

 

 

 

それどころかーー

 

 

 

「騒ぐな…罪人。」

 

 

「う、うぐっ…‼︎」

 

 

嘘だ…嘘だ‼︎嘘だ‼︎嘘だ‼︎嘘だ‼︎嘘だ‼︎嘘だ‼︎

こんなことがあってたまるかッ‼︎

 

 

オレがこんなクソガキごときにこんな屈辱的な

行いをされるなんて…ほんとうに屈辱だ…ッ‼︎

 

 

ジンは顔を歪ませながらもウィルを睨みつける

ようにウィルはジンにそう言ってジンのバンダナを

外して髪をガシッと乱暴に掴んで視線をウィルに

無理矢理向ける。

 

 

「ウィル‼︎ やめろ‼︎」

 

 

 

そんなウィルの行いに納得がいかなかったのか

グレンはウィルに今の酷くてまさに悪趣味な

『尋問』という名の『拷問』をやめさせようと

するが

 

 

 

「………」

 

 

 

ウィルはグレンを一瞬見るが不愉快だったのか

何も答えず視線を続けてジンに向ける。

 

 

 

 

「て、テメェ…タダ者じゃねぇな…?」

 

 

「はあ…今更気付いたの? 察するのが遅過ぎるし

【ライトニング・ピアス】一説詠唱しか出来ない

なんてテロリストどころか魔術師に向いてないよ」

 

 

 

「ンだと‼︎ テーー」

 

 

《誰が口を開いて良いと言った?》

 

 

 

ウィルがジンにそう言って一説詠唱を唱えた瞬間、

 

 

 

「うぎゃあああああああああああぁぁぁぁ‼︎」

 

 

 

ジンが叫び声が部屋中に響き暴れ出す。

更にはジンが暴れるせいかウィルが風穴を開けた

左肩と腹部分からはドロドロと赤黒い血液が

流れ出してくる。

 

 

「ウィル‼︎ やめろって言っているだろうが‼︎」

 

 

グレンはウィルの非人道的な行いに我慢が

出来なかったのかジンに向けて右手の人差し指を

刺しているのに気が付いて右腕をガシッ‼︎と

握っていた。

 

 

「…なんのつもりですか、グレン先生?」

 

 

グレン先生は一体、なんのつもりだろうか?

そいつは天の智慧研究会、沢山の人間達を

娯楽感覚で無実の人を殺しているんですよ? 

 

 

なのにーー

 

 

 

 

 

なんでそんな『人殺しを庇うんですか?』

 

 

 

 

「ーーッ‼︎」

 

 

 

 

グレンは掴んでいたウィルの右腕を無意識に

手放して帝国式軍隊格闘術の構えを取っていた。

 

 

「なんでだ……」

 

 

「何がですか?」

 

 

グレンが顔を俯かさせながらもウィルに聞くが

ウィルはグレンが自分に何を言いたいのか理解

出来ないという表情を浮かべていた。

 

 

「どうしてお前は何の躊躇いなく人を傷つける

ことが出来るんだ‼︎」

 

 

グレンにとってウィルの行いは許せなかった。

非人道的な悪人とはいえ身動きが取れない者を

ましてや軍用魔術の《ライトニング・ピアス》を

使って左肩と腹部を貫いている。

 

 

 

「いくら宮廷魔導士団のましてや特務分室

だからってやって良いこと悪いことがあるだろ‼︎」

 

 

 

「えっ…? う、ウィルがと、特務、分室…?」

 

 

 

グレンがそう言う中、システィは信じられないと

言った表情でウィルを見ていた。

 

 

信じられなかった。自分と同じ学院の生徒である

ウィルがあのアルザーノ帝国国軍省管轄の、

帝国宮廷魔導士団の中でも魔術がらみの案件を

専門に対処する部署。『最大人員は22名』で、

それぞれに大アルカナにちなんだコードネームが

付けられているそのメンバーの一人だなんて

思わなかった。

 

 

 

更には室長は代々『イグナイト公爵家の者』が

務めるのが慣例となっている筈だ。

 

 

 

 

 

システィがそう考える中、グレンもウィルを

見て改めて思う。

 

 

もし自分が止めなければ自分より歳下のウィルは

『なんの躊躇いなど一切なく敵を殺してしまう』

と本能が言っているような胸騒ぎがした。

 

 

それにーー

 

 

 

グレン‼︎

 

 

 

ウィルはどこか自分の名前を呼ぶノアに似ている。

むしろ面影が似ているそんな奴に人殺しなんて

させたくない。

 

 

グレンはそう思ってウィルに問うが

 

 

 

「何を言っているんですかグレン先生?

ルミアが攫われたんですよ? 何事も一分一秒争う

そんな緊急で絶望的なそんな今の状況だというのに

『綺麗事』や『人間の道徳』などとそんな甘いこと

を言っていてルミアを誰かを命を守りそして救える

と思っているんですか?」

 

 

「ーーッ‼︎ だ、だからって誰かをルミアを

救う為に他人を傷つけて良い理由にはならない

だろうがッ‼︎」

 

 

恐らくウィルがジンに【ライトニング・ピアス】を

使ったのは『ルミアの居場所』を聞き出す為にした

ことだろう。

 

 

理屈は分かる。だがーー

 

 

 

「だからと言って『犠牲なしに平和を人を救うは

ことは出来ないですよ?』」

 

 

我らは『メルガリウスの正義の魔法使い』では

決してないのだからーー

 

         

「ぐっ…‼︎」

 

 

 

ウィルはグレンに無表情で淡々と言うとグレンは

『正義の魔法使い』という『キーワード』をノアと

瓜二つであるウィルが人を殺すことに何の一切の

躊躇いなくまるで冷たい機械のような彼に躊躇いを

感じてしまう。

 

 

(魔術が人殺しに特化したロクでもない技術だって

言うのは分かっている……だが‼︎)

 

 

 

いくらルミアを救う為とはいえ目の前にいるウィル

は宮廷魔導士団の特務分室とはいえまだ学院の

生徒だ。目の前にいる外道魔術師とはいえ人間だ。

 

 

 

「はあ…全くもって話になりません。これ以上、

僕の任務を邪魔すると言うなら職務妨害と見做して

グレン先生、貴方の身柄を捕縛しないといけない」

 

 

 

ウィルがグレンを見ながら無表情でそう言う。

そんな中、グレンは警戒解こうとしない。

 

 

 

(こうなった、か…それに……)

 

 

 

グレンはシスティを見るとシスティは顔色の真っ青

にして身体を震わせて動かせずにいた。

 

 

 

 

「……躊躇いなし、か。けっけっけっ、まさか

そんなにあっさりと出せるとはな……ただのクソ

ガキだと思っていたが……なんだ、お前も俺達と

同じコッチ側の人間かよ……クハハ……」

 

 

 

見れば、痛みに苦しんでいたジンが正気を

取り戻していた。

 

 

 

「……………」

 

 

 

「だんまりかよ? それに俺を殺さねーのか?

それとも大切な人達の前じゃ殺せねーかぁ?」

 

 

ジンがウィルを煽るがウィルは何も言わず

ただ黙り続けた。

 

 

 

「う、ウィルと貴方を一緒にしないで!」

 

 

 

ジンの不愉快な言を聞いていられず、震えながら

もシスティーナが肩を怒らせて叫んだ。

 

 

 

 

「ウィルと貴方とは違うわ! 楽しみながら

愉悦を感じてゴミみたいに人を殺せる貴方達

とはーー」

 

 

 

「く、くはは……! お前等、一体そいつの何を

知ってるんだ?そいつは最近やって来たばかりの

学院の生徒なんだろ?」

 

 

 

 

「そ、それは……」

 

 

 

 

思わず言葉に詰まった。確かにシスティーナは

この約十二日間ばかりのウィルしか知らない。

セリカが連れて来た謎の生徒。ウィルが過去に

何をやっていたなんて何一つ知らない。

 

 

 

「断言してやる。そいつは絶対、そこにいる講師

なんかよりもロクな奴じゃねえ。もう何人何十人

も殺ってきた……オレら同じ外道さ。そういう

人間だ。そういう目をしてやがる。オレには

わかるぜ」

 

 

 

 

システィーナはウィルは貴方とは違うと一言否定

してやりたかった。

 

 

だが、システィは何も言い返せなかった。

それは目の前で酷い光景を見てしまったせいで

ジンの言葉に何も言い出せずに限りなく肯定に

近い沈黙だった。

 

 

 

だが、『一人』を除いて……

 

 

 

 

 

「黙れ…ッ‼︎」

 

 

 

不愉快だった。自分だけならまだ良い。

でも、ウィルを…こいつを『ロクでもない人間』、

そして自分達と同じ『外道』と言っているのだ。

 

 

「グレン先生…‼︎」

 

 

システィは驚いていた。あのふざけてばかりいる

グレンがこんなにも怒りを露にしているからだ。

 

 

 

「テメェが…こいつの何を知っていやがる…ッ‼︎」

 

 

 

グレンがそう言ってジンの胸ぐら掴んでジンを

睨みつける。

 

 

「何を熱くなってやがるん、だよ……

ああ、そうか…」

 

 

 

ジンはそう言ってニヤリと悪魔のような邪悪な

笑みを浮かべて「ケケケッ…」と笑っていた。

 

 

 

 

 

 

 

『テメェはあのガキに『誰かの面影』を

重ねているんだろ?』

 

 

 

 

ぷちんーー

 

 

何が切れる音が聞こえた。

 

 

 

「テメェ……歯を食いしばれ……」

 

 

グレンはジンの胸ぐら掴んだ状態で「ギリッ‼︎」と

歯軋りしてジンに向けて握り拳を作る。

 

 

「ハッ‼︎ やれるもんならやってみな‼︎」

 

 

ジンがそう言うと、その時。偶然、場に魔力の

共鳴音が響き渡ったかと思うと、グレン達を取り

囲む空間が波紋のように揺らいだ。

 

 

「何ーーッ⁉︎」

 

 

「これはーーッ‼︎」

 

 

空間の揺らぎから何かが無数に出現する。

 

 

 

 

それらは骸骨だ。二本で立ち、剣や盾などで

武装している。その数本、いや、今もなお、

その数はどんどん増え続けているーー

 

 

 

「やっとお出ましだぁ! ナイス!

レイクの兄貴!」

 

 

 

歓声をあげるジン。

 

 

 

グレンとシスティーナとウィルはあっという間に、

大量の骸骨達に包囲されていた。

 

 

 

 

「せ、先生……これはーー」

 

 

 

「くそ、ボーン・ゴーレムかよ⁉︎ しかも、

こいつら、竜の牙を素材に錬金術で錬成された

代物じゃねえか⁉︎ ずいぶんと大盤振る舞いだな、

おい⁉︎」

 

 

 

召喚【コール・ファミリア】。

本来は、小動物のような使い魔を読んで使役する

召喚魔術の基本術だが、この術者は自己作成した

ゴーレムを使い魔として、しかも遠隔連続召喚する

などという、恐ろしく高度なことをやっている。

しかもグレン達の前に現れたゴーレム達は

竜の牙製。

 

 

 

「どうやらこのゴーレムの素材はかなり

こだわっているみたいですね…」

 

 

 

それゆえに脅異的な膂力、運動能力頑強さ、

三属性を持っている。並みの戦士や魔術師では

対処できない危険な相手だ。

 

 

 

「てか、なんだこのふざけた数の多重起動は⁉︎

人間業じゃねーぞ⁉︎」

 

 

「グレン先生そんなことを言っている場合じゃ

ないですよ‼︎」

 

 

術者の卓越した技量に驚愕する暇もない。

ボーン・ゴーレムの一体が剣を振りかざして、

システィーナに襲いかかった。

 

 

 

「きゃあ⁉︎」

 

 

《貫け閃槍よ》––––《第二射ツヴァイ》

《第三射ドライ》!

 

 

「ぐっ…‼︎ グレン先生‼︎ 目の前のゴーレム達の

武器を落としました‼︎ 後はお願いします‼︎」 

 

 

 

「分かった。下がってろ!」

 

 

 

だが、ウィルはシスティの前に立って

【ライトニング・ピアス】を詠唱して骸骨の

ゴーレムが武器を持っている右腕の関節部分を

狙って撃ち落としていく。グレンが間に割って

入る。

 

 

 

「くらえぇぇぇえええ‼︎」

 

 

グレンはチャンスだと思い全身のバネと共に

渾身の右ストレートをボーン・ゴーレムの頭部

に叩き込むーーが。

 

 

「ち、硬ぇ⁉︎」

 

 

 

多少、のけぞらせたがそれだけだ。ひびの一つ

も入っていない。

 

 

 

体勢を立て直し背後にいたボーン・ゴーレムが、

再び剣で斬りかかって来るーー

 

 

 

「こいつら牛乳飲み過ぎだろコンチクショウ⁉︎

炭酸水でも飲んどけ!」

 

 

 

竜の牙製のゴーレムに物理的な感情はほとんど

損害にならない。拳打のような打撃攻撃は

もちろん、攻性呪文の基本三属と呼ばれる、

『炎熱』、『冷気』、『電撃』も通用しない

 

 

 

このゴーレムを倒すならば、もっと直接的な

魔力干渉をしなさければならない

 

 

 

 

(【ウェポン・エンチャント】だ!

くそ、間に合うか⁉︎)

 

 

 

 

三節詠唱しか出来ないのは、こういう時ネックだ。

 

 

とっさの反応が非常に困難である。 二回ほど刃

を身体で受ける覚悟を固めて、グレンは呪文を

唱えようとしていると

 

 

「先生‼︎ 危ない‼︎ 後ろ‼︎」

 

 

ウィルがグレンに叫びながら言うとグレンは

ウィルの言う通り背後振り返ると竜の牙製の

ゴーレムいた。

 

 

 

「《その剣に光在れ》ッ!」

 

 

 

システィーナが一節詠唱で唱えた、

黒魔【ウェポン・エンチャント】が完成する。

 

 

 

グレンの拳が一瞬白く輝き、その拳に魔力が

付呪された。

 

 

 

 

「先生!」

 

 

 

 

「すまん、助かった!」

 

 

 

礼を言いながらグレンが素早くステップを

踏んだ。

 

 

拳三閃。正面と左右から襲いかかってきた

ボーン・ゴーレムの頭蓋が今度こそ粉砕される。

 

 

 

 

「《大いなる風よ》!」

 

 

 

 

 

続いてシスティーナが黒魔【ゲイル・ブロウ】の

呪文を唱える。

 

 

 

猛烈な突風が吹き荒れ、出入り口の扉を塞いで

いたゴーレム達を扉ごと吹き飛ばした。

 

 

 

ダメージは無に等しいだろうが、これで外までの

道が開けた。

 

 

 

「ナイスだ!走れ、ウィル! 白猫!」

 

 

「は、はい!」

 

 

「分かりました!」

 

 

システィーナとウィルが実験室の外へと続く

道を駆ける。

 

 

 

すかさず、左右のボーン・ゴーレム達が

システィーナに襲いかかる。

 

 

 

「させるかよ!」

 

 

 

システィーナの背後についていたグレンの拳と

足が、それらを薙ぎ倒し、振り払う。

 

 

「グレン先生‼︎ こっちです‼︎ 早く‼︎」

 

 

「ッ‼︎」

 

 

かろうじて実験室の外へと脱出に成功。

 

 

「ウィル、助かった‼︎」

 

 

「僕はただ当たり前のことをしただけです」

 

 

 

グレンとウィルがそう言いながらも休む暇も

一切なく、三人は廊下を駆け出した。

 

 

 

「先生、どこに逃げればいいの⁉︎」

 

 

「さあな⁉︎」

 

 

「二人とも無駄口は良いので一秒でも早く

足を動かしてください‼︎」

 

 

 

 

と、その時。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぎゃあああーーーーーッ⁉︎」

 

 

 

背後の方から悲鳴が響いた。

 

 

 

 

「ま、待て⁉︎ な、なんで俺まで……

ぁああああああああああああーーッ⁉︎」

 

 

 

悲痛な断末魔がそれにアンサンブルする。

システィーナは顔を青ざめさせ、気分が悪そうに

口元を押さえた。

 

 

「い、今のって……ま、まさーー「システィ」」

 

 

システィが恐る恐ると話そうとするウィルが

システィの名前を呼んでシスティの言葉を遮る。

 

 

「気にする必要はない。それにシスティを襲おう

とはしていたんだからむしろ因果応報だよ」

 

 

「ーーッ‼︎」

 

 

「それにルミアを攫ったんだ。多分、ルミア以外の

他の生徒達を拘束したのは実験台のモルモットと

して良い素材だとしか思っていないだろうね」

 

 

「そ、そんな…ッ⁉︎」

 

 

 

システィはウィルの顔を見て驚いていた。

自分と同じ学院の生徒なのに顔色を変えずに

平然と冷たい表情していたからだ。

 

 

「そうだな…助ける義理はないし、余裕もない」

 

 

 

 

グレンはまるで自分に言い聞かせるように、

冷淡に言った。

 

 

 

「それよりも明日は我が身だ。来たぞ」

 

 

 

別の所から新しいゴーレム達が三人を追って

ぞろぞろとやって来るーー

 

 

 

「ーーふ!」

 

 

グレンの右ストレートが一閃する。

 

 

立ち塞がったボーン・ゴーレムの頭蓋が

粉砕される。

 

 

「《大いなる風よ》ッ!」

 

 

システィーナが【ゲイル・ブロウ】の呪文を

唱える。

 

 

両手から巻き起こる突風が背後に迫る

ボーン・ゴーレム達を吹き散らす。

 

 

 

「《貫け閃槍よ》ッ!」

 

 

ウィルがそう言って上を見上げて天井に向かって

《ライトニング・ピアス》を唱えると天井の瓦礫

ボロボロと雪崩れのように勢いよく崩れ落ちて

ボーン・ゴーレム達を飲み込んだ。

 

 

「こっちだ!」

 

 

「はい!」

 

 

「了解」

 

 

 

廊下の端に到達し、続く階段を駆け上がる。

だが、瓦礫に埋もれても背後から先程以上の

大量のボーン・ゴーレムの群れが三人の後を追う。

 

 

「くそ、ジリ貧だな……」

 

 

 

強化されたグレンの拳闘で対応するには敵の数が

多過ぎる。システィーナの知る魔術では時間稼ぎ

にはなるが決定打は与えられない。

 

 

それゆえに、どうしても逃げるしかない。

 

 

システィとウィルの魔力も無限じゃない。

先ほどから間断なく魔術を行使し続けている。

 

 

それゆえに、どうしても逃げるしかない。

 

 

システィーナの魔力も無限じゃない。先ほどから

間違いなく魔術を行使続けている。気丈にも

表情には出さないが相当消耗しているはずだ。

 

 

魔術適正評価によればシスティーナの魔力容量は

生まれながらにずば抜けているが、連続行使は

辛いだろう。

 

 

「先生! ゴーレムはカテゴリー的には

魔法生物ですよね⁉︎」

 

 

グレンの後ろに続くシスティーナが息も

絶え絶え言った。

 

 

「先生のあの固有魔術でなんとかならない

んですか⁉︎」

 

 

「ならん!」

 

 

グレンは即答した。

 

 

「俺の【愚者の世界】は魔術の起動そのものを

シャットアウトするだけだ! すでに起動して

現象として成り立ってる魔術には意味がない!

例えば、あいつらみたいにな!」

 

 

グレンは背後からぞろぞろと迫って来る大量の

ボーン・ゴーレム達へ、忌々しそうに目を向ける。

 

 

「あいつらをなんとかしたかったら、むしろ

【ディスペル・フォース】ーー魔力相殺の魔術だ」

 

 

「それなら私が使えます!やってみましょうか⁉︎」

 

 

「ちょ⁉︎ できるのか⁉︎ かなりの高等呪文だぞ⁉︎」

 

 

「はい。学院じゃなくて、お父様から手習った

術ですけど………」

 

 

「いや、システィそれは意味がないないから

辞めといたほうが良いと思うよ」

 

 

「ど、どうして⁉︎」

 

 

システィがウィルに慌てて質問するとグレンは

「それはだなぁ…」と言って視線をシスティと

ウィルに向けるとシスティは視線をウィルから

グレンに向けた。

 

 

「あいつらをディスペルしていった所で、竜の牙

………素材に戻るだけだ。更に再び術者が魔術を

吹き込めばゴーレムとなってまた襲いかかって

来る。要するに魔力無駄遣いだ。」

 

 

「ーーっ⁉︎」

 

 

「更に【ディスペル・フォース】に必要な魔力量は

対象物に潜在する魔力量に比例する。半自立行動の

ために魔力増幅経路が組み込まれているあの大量の

ゴーレム達を、いちいち【ディスペル・フォース】

をしようとすれば、システィの魔力が一気に枯渇

するよ? だから今のシスティの魔術の援護が必要

だし重要なんだよ」

 

 

「じ、じゃあ、まだ魔力に余裕がある先生が

【ディスペル・フォース】をーーー」

 

 

「俺がやったら余計無駄だ。散々長ったらしく呪文

唱えて、大量に魔力消費して、一時的に減らせる数

が一体じゃ意味がない。むしろ魔力強化された拳で

殴った方が手っ取り早い。再利用されるのを防ぐと

いう意味も含めてな!」

 

 

「でも、このままじゃーー」

 

 

三人は階段上がりきり、再び廊下に復帰する。

 

 

「先生⁉︎ この先はーー」

 

 

「あぁ、行き止まりだな」

 

 

システィーナが察した通り、ここから先に延々と

一直線に続く廊下の先は袋小路だ。

 

 

「ど、どうする⁉︎」

 

 

「グレン先生」

 

 

ウィルがグレンに視線を向ける。

グレンはウィルが何を言いたいのかを察したのか

グレンは「そうだなぁ」と言いながら覚悟したを

表情をしてギュッと力を込めて拳を握り締める。

 

 

「俺が…いや、俺達がここで食い止める。お前は

先に奥まで行って……即興で呪文を改変しろ」

 

 

「え⁉︎」

 

 

「改変する魔術はの内容はもちろんお前の得意な

【ゲイル・ブロウ】だ。威力を落として、広範囲

に、そして持続時間を長くなるように改変しろ。

完成したら俺に合図しろ。

後は俺がなんとかしてやる。」

 

 

「で、でも……」

 

 

不安げにシスティが隣を走るグレンの横顔を

見上げる。

 

 

「わ、私にそんな高度な魔術の改変をすることが

できるかどうか……」

 

 

「大丈夫だ」

 

 

返ってくるグレンの言葉はどこか自信に満ちた

物だった。

 

 

「お前は生意気だが、確かに優秀だ。

生意気だがな」

 

 

「生意気を強調しないでください!」

 

 

システィが叫びながらグレンに抗議していた。

 

 

 

「大丈夫だよ。システィ」

 

 

二人が言い合って中、ウィルがシスティに声を

掛ける。

 

 

そ、そうよね…ウィルも信じてーー

 

 

 

「もし、システィが失敗したら僕とグレン先生

が死ぬだけだから」

 

 

 

「ッ‼︎」

 

 

 

システィはウィルの言葉を聞いて理解した。

 

 

 

この彼は『自分自身の命を捨てることさえ

厭わないただの道具』としか見ていないという

ことに

 

 

 

そしてそれはまるで

 

 

 

 

自身を『捨て駒』のように扱っているように

見えた。

 

 

「……わ、わかりました。やってみます」

 

 

「よし、じゃあ、先に行け!」

 

 

「はい!」

 

 

 

とにかく今はこの状態をどうにかしなければ‼︎

ウィルの言う通りグレン先生どころか私も此処で

死んでしまう‼︎

 

 

 

システィは肩を硬らせながらグレンに返事を

しながら魔術の改変の準備をすると

 

 

「おい、白猫」

 

 

グレンがシスティにそう言ってシスティの肩に

ポンっ‼︎と手を置く。

 

 

『自分らしさを忘れるなよ?』

 

 

「ッ‼︎ グレン…先生…ッ‼︎」

 

 

グレンがシスティにそう言った瞬間、システィは

一瞬にして理解した。

 

 

「分かりました‼︎」

 

 

 

システィがグレンにそう言うと安心したのか

グレンはほっとした表情をして足を止めて踵を

返し、向かってくるボーン・ゴーレムの群れに

向き直る。

 

 

 

「グレン先生、僕はグレン先生の援護しますね」

 

 

「ああ、頼むぜ‼︎」

 

 

グレンはウィルにその言った後、

 

 

「おおおおーーッ!」

 

 

グレンの放った拳が先頭のボーン・ゴーレムを

粉砕した。

 

 

ボーン・ゴーレム達が怒涛の勢いでグレンに

襲いかかって来る。

 

 

 

(行ける。あのチンピラ男を先に襲ったことから

予想してだが、こいつらは自分に近い奴を優先的

に襲う単純な命令しか受けてない。なら、俺が

ここで生きて踏ん張る限り白猫娘を襲おうとは

しない。壁は俺一人で十分だ)

 

 

ゴーレム達の無数の剣を、グレンは少しずつ後退

しながら体さばききれなかった刃がグレンの身体を

少しずつ刻んでいく。

 

 

 

 

 

 

 

 

廊下の最奥に到達した私は息を整えていた。

この時間、一秒も無駄にはできない。

 

 

廊下の向こうでグレン先生がゴーレム達を

足止めしてくれているが、何しろ敵の数が多い。

長時間はきっと持たないだろう。

 

 

グレン先生に指示された通りに【ゲイル・ブロウ】

の魔術式と呪文を思い浮かべ、呪文の改変に

取りかかった

 

 

 

遥か廊下の先ではグレンが獅子奮迅の戦いをして

その背後にはウィルがグレンの向けて一切の容赦

などなく剣を振り翳そうとしてくる大量の牙竜の

ボーン・ゴーレム腕の関節軽々と打ち抜く。

 

 

 

だが、

 

 

 

(う、うそ…)

 

 

 

 

システィはウィルの背後にいる二体の牙竜の

ボーン・ゴーレムがいることに驚いていた。

 

 

「ウィルうしーー「心配無用だ」」

 

 

 

《貫け閃槍よ》

 

 

ウィルが脇の間から人差し指を立てて一節詠唱を

すると一体目の牙竜のボーン・ゴーレムの膝を

打ち抜き

 

 

「《第二射ツヴァイ》ッ!」

 

 

と唱えるともう一体のボーン・ゴーレムが

右手に剣を持っているのを理解していたのか

手首の関節を貫いて

 

 

そして

 

 

      

「《その剣に光在れ》」

 

 

ガッ‼︎ ゴキッ‼︎

 

 

ウィルが黒魔【ウェポン・エンチャント】を

詠唱して一体目のボーン・ゴーレムは脇腹を

粉砕して二体目のボーン・ゴーレムは首を

何の躊躇いもなく勢いよく音をへし折ると

鈍い音が鳴りボーン・ゴーレム達を一瞬にして

粉砕する。

 

「す、すごい……」

 

 

 

システィは驚いていた。

 

 

ボーン・ゴーレム達を一瞬にして倒したのも

そうだが一切の無駄のない正確で繊細な動きを

軽々と目の前でやってのけたのだから

 

 

 

「システィ、これぐらいのことで初歩で一々

驚いていないで早く【ゲイル・ブロウ】の改変を

してくれない?」

 

 

 

「ッ‼︎ そ、そうね…ッ‼︎」

 

 

 

そうだ。グレン先生とウィルはやるべきことを

したのに『自分だけ何も出来ていない…』

それどころか『自分だけ守られている。』

 

 

 

「《風ーー静かなるーー》うんん、だめ。

これじゃ威力がーー《嵐ーー奔放なる》ーー」

 

 

ルーンが引き起こす深層意識の変革結果を、

グレンに教わった魔術文法と魔術公式を使って

頭の中で演算しながら、望む呪文へと少しずつ

近づけていく。

 

 

一方、目の前ではグレンが少しずつ、少しずつ

刻まれていた。ぱっと朱が宙を舞うたびに、

システィの胸中は焦燥に焦がされる。

 

 

「システィ。思い出して、グレン先生が授業で

言っていたでしょ?」

 

 

 

「えっ…?」

 

 

 

グレン先生が授業で言っていた内容…?

 

 

 

システィが言ったウィルの言葉を自身も

口にしてした瞬間、

 

 

 

思い出せ。

 

 

 

 

「では、魔術式とは何か?」

 

 

 

グレン先生が私達に教えてくれ『魔術』に

ついて『魔術師』について

 

 

「それは世界に影響を与えるものではない。

人に影響を与えるものだ。人の深層意識を変革

させ、それに対応する世界法則に結果として介入

する、それが魔術式の正体だ。」

 

 

難しく考えるな…

 

 

「要するに魔術式ってのは超高度な自己暗示

っつーコトだ。だから、お前らが魔術は世界の

真理を求めて~なんてカッコイイことよく言う

けど、そりゃ間違いだ。魔術は人の心を突き

詰めるもんなんだよ」

 

 

そして、何より……

 

 

「つまりルーン語とは最も効率良く、

効果的かつ普遍的に、自己暗示による深層意識

変革を起こせるよう、人間が長い歴史の中で

編み出した暗示特化専用言語に過ぎない。」

 

 

 

私を信じてくれたグレン先生を私が裏切る

わけにはいかないッ‼︎

 

 

 

「《阻む風ーー拒む風ーー風の壁》?

持続時間を延ばすにはーーー」

 

 

 

それでもグレンが敵に背を見せることはない。

少しでも長く時間を稼ぐために、右へ左へと身体

をさばき、敵の猛攻を受け流しつづけている。

そんな中、ウィルもグレンの負担少しでも

減らそうと【ライトニング・ピアス】の詠唱を

している

 

 

「詠唱速度は二十二に落として……テンションは

四十五とすれば……」

 

 

 

私はグレン先生やウィルのように強くない。

いつも名家の名に相応しくあるように強がって

いるだけで、本当は誰よりも臆病で弱い。

そのことは私でも自覚していた。

 

 

 

 

それでもシスティの心を動かしたのは

 

 

 

 

 

 

 

 

『ルミア』

 

 

 

脳裏に浮かんだ、今は離れている大事な親友。

 

 

彼女は恐ろしい敵を前にしても、一歩も

怯まなかった。怖かった筈だ、戸惑いも

あったろう。それでも、彼女は連れて行かれる

最後まで毅然とした態度を崩さないままだった。

 

 

今だけでいい……誰かを励ませるグレン先生や

冷静な判断出来るウィルみたいな……ルミア

みたいな強さを……ッ!!

 

 

私はルミアに、グレン先生に、そしてウィルに

救われた。

 

 

だから、今度は私が助ける!

 

 

システィはそう思った瞬間、カチリ、とパズルの

ピースが嵌はまるように、最後のルーンを選び、

呪文改変が完成した。

 

 

「先生、ウィル、できた!」

 

 

待ってましたとばかりに踵を返し、グレン先生

が駆け寄ってくる。当然、ボーンゴーレム達も

追ってくる。

 

 

「何節詠唱だ!?」

 

 

「三節です!」

 

 

「初めての魔術改変にしては上出来」

 

 

叫びながら発せられた問いかけに、

私も叫んで返す。

 

 

「よし!俺の合図に合わせて唱え始めろ!

奴らにぶちかませ!」

 

 

「はい!」

 

 

「了解」

 

 

グレン先生がこちらを目掛けて走ってくる。

その後ろを追いかけて来るボーンゴーレム。

 

 

「今だ、やれ!」

 

 

「《拒み阻めよ・ーー  」

 

 

 合図と同時に開始した詠唱。

 

 

「《ーー嵐の壁よ・ーー  」

 

 

グレン先生が私の横をスライディングして

通り抜けた瞬間。

 

 

「ーーその下肢に安らぎを》ーーッ!!」

 

 

グレンとウィルが跳躍する。呪文が完成。

システィのかたわらを転がりながら通り過ぎる

その瞬間、呪文か完成。システィの両手から

爆発的な風が生まれた。

 

 

それは【ゲイル・ブロウ】のような局所に集中

する突風ではない。廊下全体を埋め尽くすような、

広範囲にわたって吹き抜ける指向性の嵐だった。

 

 

命名するならば、黒魔【ストーム・ウォール】。

システィから遥か廊下の彼方向かって駆け流れる

風の壁は迫り来るゴーレム達の進行速度は目に

見えて落ちていた。

 

 

いや、それだけではない。私が起こした風に

その動きを阻害している。

 

 

だが、即興ゆえに威力が足りなかったのか、

完全に足止めはできなかったようで。

 

 

 

「ごめんなさい、先生……ッ!」

 

 

 

即興ゆえ威力が足りなかったのか。ゴーレム達は

気流に逆らって少しずつにじり寄ってくる。

連中がここまで辿り着くのは時間の問題だ。

システィは脂汗を垂らした。

 

 

「いいや、上出来だ。よくやった、お前ら」

 

 

荒い息をつきながら先生が立ち上がった。

そして、ゴーレム達の前に向き直る。その手には

何か小さな結晶のようなものが握られていた。

 

 

 

その結晶をぴん、と親指で頭上に弾き飛ばし、

落ちてくるそれを横に薙ないだ手で掴み取る。

 

 

「俺が今からやる魔術何かの片手間に唱えるのは

無理なんでね……しばらくそのまま耐えてろ」

 

 

一呼吸置いて、グレンは目を閉じ、

呪文を唱え始めた。

 

 

 

「《我は神を斬獲せし者・ーーー》」 

 

 

 

ゆっくりと

 

 

「《我は始原の祖と終を知る者・ーーー》」

 

 

殊更にゆっくりと。

 

 

 

グレンは魔力を高めながら、意識を集中させ、

一句一句呪文を紡いでいく。

 

 

唱えた呪文に応じて、グレンの左拳を中心に、

リング状の宴法陣が三つ、縦、横、水平噛み合う

ように形成され、それぞれ徐々に速度を上げながら

回転を始めた。

 

 

 

「……え? 嘘……?」

 

 

システィはグレンが唱えようとしている呪文の

正体に気づいた。

 

 

「そ、その術は……」

 

 

 

《素は摂理の円環へと帰還せよ・五素より

成りし物は五素に・象と理を紡ぐ縁は乖離すべし・

いざ森羅の万象は須らく此処に散滅せよ・ーー」

 

 

そして。

 

 

グレンがあっけに取られるシスティの前に

踊り出る。

 

 

 

「ーー遙かな虚無の果てに》ーーッ!」

 

 

都合七節にも渡って紡がれた、渾身の大呪文が

完成する。

 

「ええい!ぶっ飛べ、有象無象!

黒魔改【イクスティンクション・レイ】—ッ!」

 

 

 

グレンが前方に左拳を開いて突き出す。

 

 

左拳を中心に高回転していたリング状の円法陣が

前方に拡大しながら展開した。

 

 

次の瞬間、三つ並んだリングの中心を貫くように

発生した巨大な光の衝撃波が、前方に突き出された

グレンの左掌から放たれ、廊下の遥か向こうまで

一直線に駆け抜けた。

 

 

 

そしてーーー殲滅。その射線状にあった物……

ボーン・ゴーレムの群れはおろか、天井や壁まで、

光の波動は抉り取るように全てを呑み込み、一瞬

で粉みじんに消滅させていた。

 

 

「……え?」

 

 

あっけない幕切れシスティが忘我する。

天井は完全になくなり上階の天井が見える。

右手の壁も全て消滅し、外の風景が丸見えだ。

まるで長大な円柱を廊下から切り出したかのような

その光景だ。ただ、吹きさらしになった廊下に風が

吹いたいた。

 

 

「す、凄い……こんな、高等呪文……」

 

 

黒魔改【イクステクション・レイ】。対象を

問答無用で根源素にまで分解消滅させる術である。

個人で詠唱する中では最高峰の威力を誇る呪文

でありーーー二百年前の『魔道大戦』で、

セリカ=アルフォネアが邪神の眷属を殺すために

編み出した、限りなく固有魔術近い神殺しの術だ。

 

 

 

グレンはこの呪文を詠唱する際、何らか魔術触媒

を使ったようだが……それでも詠唱できるだけで

掛け値なしの賞賛と驚愕に値することである。

 

 

 

「システィ‼︎ 早く‼︎」

 

 

 

「えっ…?」

 

 

ウィルがシスティに来るように叫びながら言う

がシスティは訳が分からないと言った表情を

していると

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「い、いささかオーバーキルだが、俺にゃこれしか

ねーんだよな……ご、ほ……っ!」

 

 

「グレン先生‼︎」

 

 

当たり前だ…『あのセリカ=アルフォネア』という

魔術師(化物)だから出来る神殺しの魔術だ。

 

 

ウィルが叫ぶとグレンは更に血を吐いて

頽れてすらいる。

 

 

「先生⁉︎」

 

 

グレンの異変に、システィーナは慌ててグレンの

元へ駆け寄り、その全身に触れていた。

この現象から考えるからに、今の技は自らの命と

引き換えに振るう諸刃の剣だったみたいだ……

 

 

「まぁ……分不相応な術を、

裏技で無理矢理使っちまったからな……」

 

 

 

更にグレン先生は『第三階梯の魔術師』であり、

『世界最高峰である全知全能の灰塵の魔女』と

『第七階梯の魔術師』である呼ばれた最強の

『セリカ=アルフォネア』ではないのだから……

 

 

 

「だ、大丈夫なんですか⁉︎」

 

 

「これが大丈夫に見えたら病院に行け……」

 

 

 

グレン先生が死んでしま、う…?

 

 

「ぐっ‼︎」

 

 

嫌、だ…いやだ…いやだ‼︎いやだ‼︎いやだ‼︎

いやだ‼︎いやだ‼︎いやだ‼︎いやだ‼︎いやだ‼︎

いやだ‼︎いやだ‼︎いやだ‼︎いやだ‼︎いやだ‼︎

いやだ‼︎いやだ‼︎イヤだ‼︎イヤだ‼︎イヤだ‼︎

 

 

 

「システィ‼︎ 早くッ…‼︎ 早く‼︎

グレン先生に【ライフ・アップ】の詠唱をッ‼︎」

 

 

 

「わ、分かったわ……」

 

 

 

「《慈愛の天使よ・彼の者に安らぎを・

救いの御手を》」

 

 

システィは、怪我を治す白魔【ライフ・アップ】

の呪文でグレンの傷を癒そうとする。しかし、

どうやらシスティーナは運動やエネルギーを扱う

黒魔術や、物質と元素を扱う錬金術は得意だが、

【ライフ・アップ】のような肉体と魔力を精神を

扱う白魔術はそれほどでもないらしい

 

 

「馬鹿、やってる場合か……」

 

 

グレンが口元を伝う血を拭って無理矢理立ち

上がった。しかし、その膝は笑っていた。

 

 

 

『『グレン‼︎ 』貴方こそ黙っていてください‼︎』

 

 

 

「えっ? う、ウィル…?」

 

 

「ぐ、グレン…?」

 

 

 

自分でも何を言っているか分からなかった…

なんで『グレン先生』のことを『グレン』なんて

呼んだのか分からなかった……どうして……?

グレン先生とシスティとは初めて会ったばかり

なのに………

 

 

 

 

「そ、そんなことより今すぐ、ここを離れるぞ……

早くどこかに身を隠……」

 

 

 

言いかけて、グレンは苦い顔をした。

 

 

 

「んな呑気なことを許してくれるほど、

甘い相手のはずないよなぁ……くそ」

 

 

かつん、と。破壊の傷跡が刻まれた廊下に

靴音が響いた。

 

 

「【イクスティクション・レイ】まで

使えるとはな。少々見くびっていたようだ」

 

 

(あいつは……)

 

 

廊下の向こう側から姿を現したのはーー

ダークコートの男が立っておりかつん、と。

破壊の傷跡が刻まれた廊下に靴音が響いた。

更には『殺意の五本の剣』が浮いて剣の鋒を

グレン達に向けたこちらにいた。

 

 

 

 

 

最悪のタイミングだった。システィは息を呑んで

震えてグレン先生はすでに満身創痍の状態である

姿を見て僕は『ある覚悟』を決めた。

 

 

 




読んで頂きありがとうございます‼︎

次回は【新しいシリーズ】を作ろうと考えて
います。これからもよろしくお願いします‼︎


これからも楽しみしていてください‼︎


オネガイシマス……_:(´ཀ`」 ∠):


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愚者と■■の正義

皆さん‼︎ お久しぶりです‼︎

『ロクでなし魔術講師と白き大罪の魔術師』
【最新話】を投稿させて頂きます。


今回の見どころは『ウィル』だと思います‼︎


『お気に入り』や『投票』、『感想』などを
してもらえたらありがたいです‼︎


『他の作品』もよろしくお願いします‼︎
(豆腐メンタルなまたたび猫)


 

「ーーっ⁉︎」

 

 

システィーナは息を呑んだ。最悪のタイミングだ。

グレンはすでに満身創痍。おまけにレイクの背後

には五本の剣が浮いていた。

 

 

(あれは恐らく、アイツの魔導器具なのだろう

……更にすでに発動してる辺りからグレン先生の

【愚者の世界】対策をすでに発動しているし…)

 

 

ウィルは注意深くレイクの様子を伺いながらも必死

になってレイクの剣を避けながら背後にいるグレン

とシスティーナを守るように立っていた。

 

 

「もう、浮いている剣で嫌な予感がするよなぁ……

あれって絶対、術者の意思で自由に動かせるとか、

手練れの剣士の技を記憶していて動くとか、

そんななんだぜ? ちくしょう」

 

 

「グレン=レーダス。全調査では第三階梯

《トレデ》にしか過ぎない三流魔術師しか

聞いてなかったが……まさか貴様に二人も

やられるとは思わなかった。誤算だな」

 

 

「ざけんな。内一人を完全に殺したのはお前

だろうが。人のせいにすんな」

 

 

「命令違反だ。任務を放棄し、勝手なことをした

報いだ。聞き分けのない犬に慈悲をかけて

やるほど、私は聖人じゃない」

 

 

「それに……」とレイクはそう言ってギロリと

グレンを睨んでいたがレイクは視線を変える。

 

 

「『賢者』と呼ばれた『ウィル=オリバー』が

まさかここに居るとは思わなかったがな……

しかし、この学院にあの『賢者』が紛れ込んで

いたとは…相手にとって不足はない‼︎ 

まさに尚更好都合だ‼︎それに貴様相手なら

我が心も満たしてくれるだろう‼︎」

 

 

レイクはそう言ってウィルの背後にいるグレン達

を邪魔だと言わんばかりと睨みつけ剣を向けて

放とうとする。

 

 

「ではまずは…貴様から死ね、グレン=レーダス」

 

 

 

「《善悪の法を持って照らし導け》ッ‼︎」

 

 

 

ウィルがそう唱えると白い棒が現れて三本の剣を

軽々と弾いた。

 

 

 

 

「そんな御託を考えている暇があるならさっさと

自慢の剣を構えたらどうですか…第二団《地位》

ーー《竜帝》レイクフォーエンハイム」

 

 

 

 

「ほう…俺の名前を知っていたどころかあの

三本の剣を軽々と全てを弾いてグレン=レーダスを

守り切るとは…」

 

 

レイクは更に三本から四本に増やして飛ばすが

ウィルの軽々と振り回す棒捌きを見て驚きを

隠せなかった。

   

 

 

「 馬鹿な⁉︎ 四本の剣を軽々と弾いただと⁉︎」

 

 

 

グレンはウィルの棒捌きに驚いた表情をしていると

 

 

 

「今の剣の範囲からしてグレン先生とシスティを

確実に狙って殺そうとして剣を放ったな…

レイク=フォーエンハイム」

 

 

 

ウィルは光すら写さない冷たい瞳でレイクを

見ながらそう言うと

 

 

 

「当たり前だ。今、俺たちがやっているのは

『殺し合い』だぞ? 生優しくない」

 

 

 

「そうか…殺し合い…か……」

 

 

 

確かにアイツの言う通りだ…

 

 

ウィルが何かを悟ったのかレイクにそう言った

瞬間、

 

「ぐっ‼︎ 」

 

 

 

 

ーー 一線‼︎

 

 

 

 

レイクの首筋には白い棒が擦り当たった。

しかも白い棒の先端部分は刃となって変化して刃を

当ててガリガリとお互いの刃が当たり火花が散って

今にもその首を差し貫かんとしていた。

 

 

「ぐっ‼︎ く、くそッ…‼︎」

 

 

レイクはそう皮肉を言いながら頬に一筋の血が

ポタリポタリと垂れ落ちながらも今、自分の首を

刈り取らんとしてくる『殺意の刃』を浮いている

数本の剣でなんとか防ぎながらウィルから距離を

取った。

 

 

「仕留め損ねたか……」

 

 

ウィルは無表情で白き棒を構えながらレイク

を睨みつける。

 

 

「貴様…一体、何だ? それは……?」

 

 

「これ?」

 

 

レイクは驚きを隠せなかった。何故ならレイクほど

の魔術師なら人の気配を逃す事は絶対にないし杖の

鋒が刃物になっていたからだ。

 

 

 

ウィルは白い棒をクルクルと綺麗な円を描くように

していると刃が消えていた。

 

 

 

「これは僕の『固有魔術』の『賢者の杖』と言って

武器の姿を変化させることが出来るんだよ?」

 

 

「こんなふうに、ねっ!」とウィルがそう言った

瞬間、『白い槍』だったのが『白い双剣』になって

レイクに攻撃した。

 

 

 

 

 

 

 

 

ウィルとレイクが殺し合いをしている中、

グレンとシスティはただ見る事しか出来なかった。

 

 

「先生…あれって…ッ‼︎」

 

 

「あれは…ウィルの『固有魔術』か⁉︎」

 

 

グレンは驚いた顔ながらその言うとシスティも

グレンの言葉に驚いていた。

 

 

「白猫、すまねえが【ライフ・アップ】の詠唱を

してもらってもいいか?」

 

 

「は、はい‼︎」

 

 

システィは今の状況に戸惑いながらもグレンに

【ライフ・アップ】施していた。

 

 

「ちくしょう……」

 

 

生徒に頼ることしか出来ない今の状況にグレンは

唇を噛み締めながら己の無力感に悔しくて小声で

システィに聞こえないように呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『貴様の目的は廃棄女王の警護か?』

 

 

「今から死ぬお前に答える事は何もない」

 

 

ウィルがそう言うと白き杖は剣になってレイク

へと向かって走る。

 

 

「舐めるな‼︎」

 

 

レイクがそう叫ぶと三つの鋭い剣の鋒がウィルに

向かって飛んでくるがウィルが白き刃の剣で軽々

と弾き飛ばす。

 

 

だが、

 

 

 

 

 

「鈍間だな…」

 

 

とウィルがそう言うとレイクが飛ばした三つの剣

を弾き飛ばして

 

 

そして右目から頬まで切り裂いた。

 

 

「う、うがああぁぁ‼︎」

 

 

 

レイクが痛みに悶絶している中、ウィルがレイク

の心臓に目掛けて白き剣を突き刺そうとするが

  

 

「うぐっ‼︎」

 

 

右目を押さえながらも必死になって二つの剣で

剣撃を塞ぐ。

 

 

「クソッ‼︎」

 

 

そして一つの剣がウィルに目掛けて飛ばしてくる。

 

 

「緩いな……」

 

 

 

レイクの剣を軽々と避ける。

 

 

「そんな⁉︎ 馬鹿な‼︎」

 

 

ウィルが更に左の腕を軽々と切り捨てる。

 

 

「うぐっ‼︎ がああぁぁ⁉︎」

 

 

 

よし、これであいつはころーー

 

 

 

 

 

「ウィル‼︎ やりすぎだ‼︎」

 

 

ウィルの背後からグレンが立っていて容姿なく

頭を叩いた。

 

 

「それは…そうですが……こちらはルミアを

奪われただけではなく殺し合いをしましょうと

言われたんですよ? これで手打ちになる筈が

ないじゃないですか?」

 

 

ウィルはグレンに叩かれた部分をすりすりと

摩りながら撫でていた。

 

 

「だが、ウィルのおかげで俺たちの勝ち

みたいだな…」

 

 

「その様だな……お前たちの勝ちだ……」

 

 

レイクがそう言うとポタポタと左腕の大量の出血と

【愚者の世界】を発動したのかレイクが操作をした

剣が動くことはなかった。

 

 

「そうか……愚者、か。なるほどな」

 

 

グレンが持っている『愚者のアルカナ』を一瞥し、

何かを納得したようにレイクはつぶやいた。

 

 

「………」

 

 

「活動期間はおよそ三年。その間に始末した達人級

の外道魔術師の数は明らかになっているだけでも

二十四人。誰もが敗れる姿など想像つかなかった

凄腕ばかり。裏の魔術師の誰もが恐れた魔術師

殺し、コードネームはーーー『愚者』」

 

 

「何が……言いたい?」

 

 

暗く冷えたかった目をするグレンの問いに、レイク

は口の端を吊り上げ壮絶に笑った。

 

 

「運がなかったなと思ってなあ………」

 

 

「運がなかった…?」

 

 

グレンは理解出来ないといった表情を浮かべて

いた。

 

 

「そうだ……愚者だけではなく『賢者』さえも

いるとはな……」

 

 

「『賢者』…だと……」

 

 

『ウィルのことを賢者と言っているのか?』

 

 

 

「賢者、ウィル=オリバー……始末した達人級の

外道魔術師の数は明らかになっているだけでも

千七百七十七。誰もが敗れる姿など全くもって

想像つかなかった凄腕ばかり。コードネームは

故にーーー『賢者』」

 

 

レイクがそう言うと言いたいことは言った満足

したような表情を浮かべていた。

 

 

「早く…俺を、殺せ……」

 

 

レイクがそう言うがグレンは躊躇ってしまう。

生徒であるシスティの前で人を殺す訳にも

いかない…ッ‼︎

 

 

グレンが躊躇っていると

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「グレン先生、躊躇う必要ないよ」

 

 

ウィルは白き剣から白いナイフに変化させて

躊躇いなく 取り出してレイクの首を力一杯

振って刈り取った。

 

 

 

『良い?何度も言うけど貴方は私の大事な戦力と

言う名の駒なのよ?貴方は余計な事を考えないで

私の指示に黙って従って任務をいれば良いのよ。

いい、分かったわね?』

 

 

 

そう、だってーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だって、こいつらは僕たちの敵だから……」

 

 

 

『ルミア』の為、いや……

 

 

 

 

 

 

 

 

全ては『任務』の為なのだから……

 

 

 

 

そして白いナイフには赤黒く大量の血が付着

していて廊下には【ピチャ、ピチャ】と気持ちが

悪い垂れ落ちる音と声が暗くして呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




読んで頂きありがとうございました‼︎

楽しんで読んでもらえたらとても嬉しいです‼︎

さて、ウィル君は果たして『ルミア』の為に
レイクを切ったのか『任務』の為に切ったのかは
皆さんのご想像にお任せします‼︎


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