鳥ウナギ骨ゴリラ (きりP)
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短編
鳥ウナギ骨ゴリラ


「長かった……本当に長かったね、モモンガさん!」

「ユグドラシルで12年……私思うんですけど、ここまでバカなことに全力を尽くした3カ月は無いと断言できますね」

 

 DMMORPGユグドラシル。只今その最終日の終了一時間前、ナザリック地下大墳墓円卓の間で語り合う人間種(・・・)の男性二人は朗らかに……いや黒髪の決してイケメンとは言えない二十代前半程の男性は、困り顔アイコンを出し、もう一人の茶髪のイケメンは十代後半程の年齢だろうか。鼻息も荒くこれから行われるイベントに胸を高鳴らせている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 今から三カ月ほど前、このゲームの最終日が告知された。ギルド『アインズ・ウール・ゴウン』のギルド長モモンガは、この告知に憤りを覚えもしたが、心のどこかで「そろそろか」と言う気持ちもあり暗く沈んでいた。

 

 だが、その告知当日にロリコ……いやペロロンチーノさんが復帰したのは意外すぎる事件だった。いや今思えば事案であった。

 

「モモンガさん久しぶり! 俺このキャラ消して人間種のキャラ作るから手伝って!」

「ふぁっ!?」

 

 理由を聴けばもうとんでもなくバカで最低で、それでいて納得もできてしまうアホらしいこと。ペロロンチーノは自身が創りあげたNPC。シャルティア・ブラッドフォールンと結婚したいのだと言う。

 

「ほら、誓いのキスが(くちばし)で突っつくとか無いじゃない」

「もうほんと……変わってなくて安心と言うか……変われよ!」

 

 膝をついてガックリとするモモンガであったがギルメンの復帰が嬉しくないわけがない。その言葉にも笑みが生じている。

 

 久しぶりに語り合うゲーム内の友人との会話。おどけて話してはいるが、ペロロンチーノが現状かなり大変なことは想像がついた。業績の悪化に伴う倒産という近い将来が目に見えているようで、今頑張らなければならないのは分かってはいるのだが、それを回避できるのは到底無理なようで。このご時世再就職などヘロヘロさんの例を見れば明らかでもあったが、彼の将来も暗いものがさしている。

 そんな折、ネットで目に付いたのはユグドラシルの終了を告げる告知であったという。昇進に伴い付いて回る責任と重圧。今までゲームに充てていた時間を仕事と睡眠に変えるために引退したのではあるが、心残りがあったそうだ。

 

「目の前にいるのに……なんで抱きしめられないんだ……」

「まあハラスメント警告受けて最悪垢BANですからね」

 

 電脳法なんて法律を詳しく調べたことは無いが、リアルの生活にも影響を及ぼすらしい。怖い。

 

「だからユグドラシルが終了する直前に抱きしめてブチューってやっちゃえばセーフじゃね?」

「天才」

 

 そんな理由である。

 

 

 無論モモンガにも葛藤はあった。これから3カ月、ギルド拠点防衛のための維持費を稼ぐだけの、ゲームとも言えない無意味なログインを続けるのか。

 続けるんだろうな……それしかないのだもの。

 

 それがこの男はどうだ。人間種になると言う。つまりはギルド加入のルールすら破って……

 なんだよルールって……ここ数年自分一人しかいなかったじゃないか……

 

「実はすっごいパンツ履かせてるんだけど見れないんだ……」

「うん、ちょっと黙ってて」

 

 だんだん考えるのすら馬鹿らしくなってくる。自分のナザリックへの愛着はすごいのだと自負できるけど、彼のシャルティアへの思いもまた本物なのだろう。友達の望みを叶えてあげて大団円。うん、それでいいじゃない。それになんかちょっと……この3カ月が楽しくなりそうじゃないか。

 

「わかりました手伝いましょう。けどなんで人間種なんですか? アバターを変えれば……ああ……」

「多分だけどものすごい金額になると思う」

 

 そうだ、外装を変えられると言ってもお金がかかるのだ。むしろ格好いい、可愛いキャラを作りたいなら人間、エルフなどの基本的な人間種を選ぶのは当たり前。ヤツメウナギや大口ゴリラにいったいいくらの金銭をつぎ込んだのかを聴けば、想像もつくだろう。

 

 例えばこのオーバーロードの外装を人間種っぽくすることだって出来なくはない。3桁万円程かかるらしいが……外装変更部分が多ければ多い程、お金がかかるわけで、だからこそ『異形種の見た目の人間種』も『人間種の見た目の異形種』も少ない(・・・)のだ。

 

「でも手伝うって……レベル上げでもするんですか?」

「当然じゃないかモモンガさん! 嫁より弱くてどうするよ!」

 

 ぶっちゃけLv90までなら課金ブースト&壁で3日で上げることも可能だ。だがLv100となるとどれくらいかかるのか……

 

 そしてペロロンチーノさんの新キャラ作成が始まるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 キャラコンセプトは今までの武装がもったいないので弓手系の方向性はそのままに、種族特性を盗賊系の職業(クラス)スキルで補っていく。レベル上げと言っても単純に言えば最大火力で矢を放つだけの作業なのだが、遊びが入った魔法特化のモモンガのキャラではタゲ取りに向いていないかと言えばそうでもなかった。

 

「デスナイト無双」

「もうデスナイトに足を向けて寝れないね」

 

 過疎に拍車がかかった誰もいないからこそできる経験値狩場でのDQN狩り(他のプレイヤーに迷惑になるような狩り方)。一か月を過ぎるころにはレベルは早くも99を迎えていた。

 

「……折り返し地点ですね」

「ほんと運営はクソ」

 

 レベル1からレベル99までの経験値とレベル99からレベル100までの経験値は一緒だった。

 

「で、実際のところどのくらいの時間抱きしめてられるんですかね?」

 

 モモンガは過去に見た掲示板での勇者(・・)の報告を思い出そうとするが、『やわらかかった』『いいにおいがした』などの賢者(・・)の言葉しか思い出せなかった。

 

「勿論調べてきましたよ!」

 

 ペロロンチーノの情報によるとハラスメント行為に限らず、『接触行為』は機械的に運営に感知されるのだそうだ。つまり握手やハイタッチなどもそれに含まれることになる。それを30秒続けると注意喚起のアナウンスが流れ1分で凍結。ログを解析されOUTなら垢BANといった流れだ。

 

「なんかずいぶん大雑把というか……穴がありすぎません?」

 

 そうモモンガが思うのも仕方がないことだが、実際五感のうち味覚と嗅覚は完全にシャットアウトされているし、触覚も曖昧なものだ。そんなものに触れて、運営の公式ホームページにキャラ名と実名と国民番号を晒され、社会的に抹殺される行為を誰が望んでするだろうか。

 

「うーん、結局ハラスメント行為って曖昧なんですよね。実際に人の目でそれを確認しないと分からない事とか多いんですよ」

 

 ペロロンチーノが語ってくれた勇者の話。ある拠点のPCであるモンクがNPCとしてビキニアーマーの女戦士を作ったそうな。そしてそれを相手に連日稽古と言う名の性的部分への掌底を繰り出し、数日後に垢BANされている。

 

「……人間のエロへの欲望はすさまじいですね。でもそれなら今抱きしめちゃっても変わらないんじゃないですか?」

「モモンガさん勘違いしているかもしれませんが、キスとか性的部分への接触とか、通常は出来ませんからね?」

「え?」

 

 つまりそれが出来てしまうと疑似的な風俗と変わりないわけで、常識的に禁止されているのは勿論、物理的にできない仕様なのだ。唯一可能なのがPVPやPVN、PKなどの対人行為なのだが、確実にログが取られ一瞬で垢BANされる。

 

「公式HPの最後の方に『このHPは最終日を持ちまして更新終了いたします』って書いてあるんですよね。だけどリアルの安全を考えるなら30秒が限界だと思います。つまり俺が最終日にやるのは、シャルティアとのPVNです!」

「な……なんだってーーー!!」 

 

 言ってみたかったセリフなだけにモモンガもノリノリだった。

 

 ペロロンチーノの作戦とは、ユグドラシル終了1分前にシャルティアとのPVNを開始。 相手を抑え込み『サバ折』と『吸血』を決めるといったものらしい。

 

「弓手のペロさんが『サバ折』とか……それはいいとして『吸血』なんて持ってないでしょうに」

「大義名分ですよモモンガさん。シャルティアを作るのに命を懸けていたのでつい自分も出来ると錯覚してしまった……そんな理由でいいんです!」

「……」

 

 お前それ大義名分の使い方が違うだろうとも思ったが、もう、なんか面倒くさいので言うのはやめておいた。

 

「あれ? 1分前? 30秒前じゃないんですか?」

「さっき話したモンクのせいです。PVNモードでNPCの待機設定が出来なくなりました。ガチで行かないと押し倒せません」

 

 ユグドラシルには対人練習用としてPVPモードとPVNモードがあったりする。ギルド拠点や特定の街にもあるのだが、拠点の場合は場所を指定できる。

 ナザリックにおいては第六階層闘技場と、なぜか円卓の間がそれだ。主に茶釜さんがペロさんを殴るのに使用されていた。

 そしてマスターソースから場所指定が出来るので、今回は玉座の間を指定して戦い(結婚式)を行う予定だと言う。

 無論シャルティアには謹製のウェディングドレスを着せる予定なので、防御耐性はお察し。戦闘AIはそれほど賢くも無いので、スキルで足止めして接触するのは簡単だが30秒の余裕は見ておきたいとのこと。

 

「なんかもうペロロンチーノさんが馬鹿なのかロリコンなのか、わかんなくなってきましたよ……」

「いやーそんなに褒めないでくださいよ」

 

 まったく褒められていないのだが、愉快に笑うペロロンチーノ。とにもかくにも、あとはレベルを一個上げるだけ。一度シャルティアを玉座の間に移動させて、テストをしてみないかってことになり、狩場から転移する二人であった。 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやーアルベドは美人ですねー。可愛さではシャルティアに劣りますけど」

「確かに美人ですけど……なんでギンヌンガガプ持ってるんだ……」

 

 第ニ階層死蝋玄室からシャルティアを引き連れ、玉座の間にたどり着き、三人を迎え入れたのは、にこやかに微笑みかける守護者統括アルベドであったが、何故か右手に宝物殿にあるべき至宝、世界級アイテムのギンヌンガガプが光り輝いていた。

 

「なんでもなにも、モモンガさんが持たせたんじゃないんですか? あれ? モモンガさんいつからここ来てないの?」

「そういえば二年以上来ていませんでしたね……たぶんだけどタブラさんかなあ?」

 

 一言断ってくれてもいいのにとも思ったが、数年も気づかないこの現状。そういえばボーナスぶっこんだシューティングスターの指輪も使わずに消えていくんだなあと考えたら、宝物殿の肥やしになるよりタブラさんの望みが叶ったってことで良しとしておこう。多分だけどアルベドに範囲攻撃装備を持たせたかったんだな。

 

「まあいいか……ってペロさんなにしてんですか?」

「ん? タブラさんに電話」

「ぶふぉっ!?」

 

 こういうところが自分と彼の違いなんだろうなあと感じる。現在の人間種の姿はリアルの彼を若返らせた感じのものだ。つまりイケメンで、即断力があり、倒産しそうだが中堅企業の部長職。これでロリコンを拗らせなければモテモテだっただろうに……

 

「あーごめんね、忙しかったみたいで。うんモモンガさんに伝えとくね、それじゃ、はーい」

「なんか言ってました?」

「アルベドをモモンガさんの嫁にあげるから許してだって」

「ふぁっく!」

 

 あの人はなにを言ってるんだと思いながらもチラリとアルベドを見ると、小首をかしげてこちらに微笑みかけている。

 

「うっ……かわいい……」

「なんでかモモンガさんの方ばっかり向いて、アルベドは俺の方見ないんですよね。 設定かなあ?」

 

 シャルティアは俺の方向いてくれるのにと、ぶつぶつ呟きながら玉座へ歩いて行きマスターソースを開くペロロンチーノ。モモンガも興味があったので二人でアルベドの設定を覗き込む。

 

「意外に家庭的って……長いなおい!?」

「確かに長い……そして最後でドン引きです……」

 

 『ちなみにビッチである。』

 

「うーん……アリか無しかで言えば……アリですかね。エロゲー的にですけども」

「いや無いでしょう!? シャルティアがビッチ設定だったらどうなのよ!?」

「無しですね!」

「もうお前がわかんねーよ!」

 

 くだらない、本当にくだらないことでお互いの主張を述べ合う二人。だが二人とも半笑いであり、こんなバカげた議論が楽しくてしょうがないのだとの思いは隠せてはいない。

 

「まあ、もうモモンガさんの嫁ですからね。『モモンガを愛している。』とかにでも変えちゃえばいいんじゃないですか?」

「いやそれは……なんか愛を強要してるみたいじゃないですか……ってなにを本気になってるんだ俺は」

「……モモンガさん」

 

 ペロロンチーノはそれはそれは優しい声色でモモンガの名前を呼び、右手を差し出す。

 

「なっ、なんですか!?」

「こっちの世界へようこそ!」

「ぐっ!?」

 

 否定できない。彼を否定できないのだ。だって綺麗で可愛いのだもの。今一度ちらっとアルベドを見ると、再びにこっと微笑んでくれる。本当にAIなのかよと思ってしまうほどのタイミングの良さに完全に心を射抜かれる。そして『笑顔アイコン』を出しっぱなしのペロロンチーノを見つめ……差し出されたその手を固く握るのだった。

 

 

 

 

 

 

 なお、アルベドの設定の書き換えは、散々悩んだモモンガが一文字だけ変更するに留めている。

 

 『ちなみにエッチである。』

 

 このせいでペロロンチーノが過呼吸に陥るほど爆笑したのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「それにしてもそのアバター最初から用意してたんですか? オフ会の時のモモンガさんそっくりですよ」

「ええと、アバターラというか……ゴーレムを作る練習で作ってたものがあったんですよ」

 

 現在二人はナザリック玉座の間特別スペース、単に椅子と机を用意しただけであるが、そこにアルベドとシャルティアを侍らせて語り合っている。

 あの固い握手の後、ペロロンチーノから合同結婚式にしようと提案され、ちょっと楽しくなってきたモモンガはそれに同意する。

 その後結婚式の話で盛り上がっていたのだが「でもモモンガさん唇無いからキスっていうより前歯押し付ける感じだよね」「大丈夫? 歯磨いてる?」「エッチなのにエッチできないね!」などなど。

 煽りに煽られたモモンガは自身も人間種になることを決意する。勿論葛藤はあったのだが、自身が欲していたのがこのアバターでもナザリックでもなく、ギルメン……いや友人であったことに気づかされていたこともあり、意外に早い決断でもあった。ゲーム終了まで2カ月を切っている事も、それを後押ししたのかもしれない。

 

 二人で……いや四人でモモンガの育成方針を考えていく。とにかく時間が無いのでやはり火力職一択。つまりは装備面も含めて魔法職にはなってしまうが、ここで一つ問題が発生する。

 

「壁がいないね……罠だけじゃ効率悪いよなぁ」

「しまった……死霊術か他のサモン系魔法でも……MPきっついかもしれないですね」

「姉貴のキャラでも使えればよかったんだけどなぁ」

 

 ペロロンチーノ育成ではモモンガのアンデッド創造や召喚などで簡易のタンクを作り出していたのだが、モモンガを育成するための壁がいない。

 ここで颯爽と登場するギルメンでもいれば良いのだが、ペロロンチーノの連絡網により全滅。

 無論草生えまくりの返信メール文は『超行きたいwwww でもごめん無理』などなど。混ざりたいけどリアルが忙しすぎるために不可能といったものがほとんどで、これにはモモンガも「みんな辞めていった理由があるんですもんね……」と、一人黄昏ていたのだが、

 

「ね、ねぇ……なんかペロさんの電話の相手泣いてなかった?」

「あぁ、姉ちゃんモモンガさん好きだったからなぁ。いろんな意味でショックだったんじゃない?」

「おぃい!? 先に言ってよぉおおおお!!」

 

 リアルのあったかもしれないフラグをバッキバキに折りながら、ペロロンチーノが壁になることが確定した瞬間だった。

 

 

 

 

…………

 

……

 

 

 

 

 

「やっとレベル90の大台に乗りましたね」

「まぁ俺もレベル90になっちゃったけどね……」

 

 基本戦術はペロロンチーノがヘイトを抱え込んで走り回り、モモンガが範囲大魔法で撲滅するといった原始的な方法であったが、一週間ほどで大台に乗っている。

 代わりにペロロンチーノがデスぺナを受けまくり、一月掛けて上げたレベルを下げまくっていたりするのはご愛敬である。

 途中から二人のレベル差が10になったことで、『公平パーティ』と呼ばれるパーティを組むことが出来、撲滅に回らない方も公平に経験値を得ることが出来たため、初期のデスナイトによる壁を使った戦闘に戻している。

 

「しっかしこのキャラ遊びが足りないよなぁ」

「あっ、ペロさんもそう思います? 私も効率に括りすぎてバフと攻撃魔法しか取ってないですしね」

 

 目的が完全に効率的Lv上げになってしまっているので、ロールプレイもくそもない。それでいてガチビルドでも無いのだ。モモンガなどは現状、魔力系魔法職レベル90で取れるはずの270個の魔法の内、50個程度しか取っていない。

 

「人間種になった設定とか欲しいよね」

「私の場合は受肉とかですかね……なんか怖いな……」

 

 元は中二病ロールプレイヤーの二人。狩りを行いながらも自身の設定を考えていく。無論フレーバーテキスト的な脳内設定なので意味は無いのだが、こういうのを考えるのはやはり楽しいものなのである。

 

「羽とか欲しいな……『昇天の羽』と『堕落の種子』だっけ? あれ使って羽とか生えないかな?」

「根本的に種族が変わっちゃいますからねぇ、アバター変更で結構お金かかっちゃいますよ? それ以前に属性(アライメント)が偏ってないと使えなかったかと」

 

 キャラを作り直してからPKをすることもされることもなく、属性にかかわるゲーム内イベントもこなしていない。あーだこーだ言い合いながら、何故か『二つ名』だけは確定する。

 

 そしてもう一点。レベルはある程度まで妥協し遊びを入れていくことに。つまりモモンガは興味のあった前衛職のファイターを。そしてペロロンチーノはウィザードを選択する。

 

「モモンガさん、すっごいこれ! ヌルッヌルだよ!」

「なんでまっさきに<グリース>の魔法を取るのよ!?」

 

 ステータス補正なんざ知ったこっちゃねぇ、とばかりに選択した低級職業(クラス)であったが、

 

「モモンガッッ!! その構えはっ!?」

「知っているかペロロンチーノ……アバンストラッシュは闘気を飛ばすことが出来ることを……」

 

 もうやりたい放題であった。

 

 そんなこんなで、狩りではっちゃけ、玉座の間ではそれを活かしたロールプレイを、まるで妻たちに言い聞かせるように語り合い、ついには最終日を迎えるのであった。 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヘロヘロさん爆笑してましたね……まっ、まあ元気になってくれたみたいだから良かったですが」

「タブラさんもウェディングドレス着せてスクリーンショット撮って帰っちゃいましたもんね。 まあアルベドの設定見て膝をついてプルプルして笑いをこらえていたのはモモンガさんのせいですけどね」

「なんで!? そんなに『エッチ』だめだった!?」

 

 だってサキュバスですよ、なんか可愛くなっちゃってるじゃないですか、などと二人で談笑しながら最後の時間を楽しんでいたが、不意に空白が出来ると言うか会話が止まる。

 一つ息を吐いてモモンガは、まるでこれからプロポーズでもするかのようにペロロンチーノに語り掛けた。

 

「ペロロンチーノさん……三か月間ありがとうございました。それで……よっ、よかったらですが明日にでも飲みに行きませんか? いや、早出残業なんで夕方からになってしまうんですが、もっ、もう本当によかったらなんですけど……」

「くくっ、姉ちゃんがそのセリフ聴いてたら大歓喜ですよ。あの人ちょっと腐女子入ってましたから」

「!? いっ、いや、そういう意味じゃなくって! あっ、あの……」

「ありがとうはこっちのセリフですよモモンガさん! こんなバカに付き合ってくれるのはやっぱりモモンガさんだけかもしれんですね。よしっ! 二次会ですね! いやー楽しみだなぁ、会社の付き合いの酒じゃなくて友達と飲めるなんて何年ぶりだろう」

「はいっ……はいっ! 友達ですよねっ!」

「? だから俺はノンケですよ?」

 

 ペロロンチーノには理解できなかったが、モモンガにとっては初めてと言える友達だった。無論彼を友達だと言う人は他にもいたはずなのだが、環境が悪いのか、タイミングが悪かったのか、それともユグドラシルが悪かったのか。

 いや、今はそんなことはどうでもいいか。彼に少しだけ光がさしたのだから。

 

 さて、と二人して立ち上がり、指輪の転移でレメゲトンまで移動する。二人して並んで玉座の大扉の前まで歩き、扉に手をかける。

 

「さて、いくぜモモンガ! 俺たちの闘いはっ!!」

「ああ、ペロロンチーノ! これからだっっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 身体の痛みをこらえて、ゆっくりと目を開いていく……なんだ? 何が起こったんだ? 視界が定まらずぼんやりとした輪郭しか見えないが、白い服を着た黒髪の女性が自身の手を握っているのが分かった。

 

「な……なにが……おごっで……」

 

 何が何だかわからず頭もうまく回らないが、口もうまく動いてくれない。

 

「あぁああああ!! モモンガ様ぁ! 良かった……よかったよぉ……」

 

 目の前の女性が絶叫を上げ、ぽろぽろと涙をこぼしているのがわかる。だんだんと視界がはっきりしていき、それがアルベドであることに驚愕する。

 

「あ……ある……べど?」

「はい……はいっ! ですがどうかそのままで、身体をお安めください。そして心苦しいのですが一つだけ教えてくださいませ……シャルティアの為に……『蘇生の短杖』をお持ちかどうかだけ教えてくださいませ」

 

 『蘇生の短杖』ならアイテムボックスに大量に入っているが……アルベドの後ろにいるのはシャルティアだろうか。両手を組み、祈るような眼差しでこちらを向きながら大粒の涙をこぼしている。

 チャイナドレスなんてあったっけと思いつつも、なんだかよくわからないが、なんとか片手を動かし中空から消耗品をまとめておいた無限の背負い袋を引き出す。

 

「あぁ……良かった……これでシャルティアの自らの身体を引きちぎるほどの葛藤にも終止符が打たれます……いつか、褒めてやってください。今やあの子は私の半身。最強の盾と矛は……旦那様方の帰りを5年も待ち続けたのだと……そして矛が可能性を信じて盾に選択を譲った事実を……」

 

 アルベドが何か言っているのだが微塵も理解できない……無理に身体を動かしたせいだろうか……瞼に力が入らなくなってくる……

 そうだな、今はとりあえず眠らせてくれ…… 

 

 遠くからアルベドとは違う少女の歓喜ともいえる絶叫を聴きながら眠りにつくモモンガであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「モモンガさん……どう? 俺たち王様らしいんだけど大体理解できた?」

「私結構ね、異世界転生とか異世界転移とかのラノベ読んでたんですよ。でもね、全然理解できてないです」

 

 寝起き以降ちゅっちゅくちゅっちゅくしてくるアルベドのせいで、再三思考停止させられるのだが、あの時の状況を必死で思い出そうとする。

 誓いのキスを時間限界30秒前に出来たことは覚えている。そして目を開いたときに草原のような場所にいたことも。

 

 たぶんあれはギンヌンガガプの一撃だったと思う……いや、世界級アイテムとかそんなことは関係ないか。鈍器で人間がぶん殴られたのだ。

 舌を噛み千切られ、袈裟懸けに振り降ろされた杖の一撃は、モモンガの意識を奪うに十分な痛み(・・)だった。

 

 彼女らに聞いたそこから先の蹂躙は、聞くも絶えない事ではあったが、『かっ、身体が言うことを聞いてくれなくて……私はモモンガ様を……』『延々と爪と手刀で切り裂いていたのでありんす……必死に≪血の狂乱≫を抑えることはできたのでありんすが、止まって……止まって! と叫んでも身体は止まってくれなかったのでありんす……』などの本当に辛そうな涙声の言葉を聞いては、例え彼女たちに殺されたのだとしてもなにも言うことが出来ない。 これは不幸な事故であったのだと。

 

 

 そして始まる波乱万丈の『デスペラードな妻たち』の一大スペクタクル物語。

 

 

『夜明け……ここはユグドラシルではないの? 立ち上がりなさいシャルティア!』

『……』

『『太陽を堕とせし黒翼(・・・・・・・・・)』の妻シャルティア!! あなたの思い人が落とした太陽が今昇っているのよ!! ここがユグドラシルとは別世界だと知りなさい!!』

『ハッ!? 別…… 世界?』

 

 

『モモンガ様は愛を知ってしまった……『その身に愛する心を宿したオーバーロード(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)』……私がモモンガ様を人間にしてしまったというのに……』

 

 

 などなど、冒頭から『二つ名はかんべんしてください、心がしんでしまいます』的な説明を受け止めさせたのだが、いわゆる異世界転移だということしか理解できなかった。

 

「とりあえず……王と言うのは柄じゃないですね。あのジルさんとラナーさんに丸投げしましょう」

「くくっ、モモンガさん吹っ切れたなー。宰相らしいですよ? あの二人」

「これが夢なのか現実なのかとかどうでもいいんです。理解の範疇を超えていますもの。あの約束ですが……四人でどうですか?」

「いいですね……家族計画とか語り合っちゃいますか?」

「では行きますか! 結婚式の二次会に!!」

 

 

 

 その日、わずか数年で近隣諸国を平定し、驚くほど平和的に(・・・・・・・・)一大国家を築き上げた異形の二人の女王は忽然と姿を消した。彼女たちの伴侶と共に。

 

 後にその女王の伴侶を復活させたとされる、とあるアダマンタイト級の女性は語る。

 

「不幸中の幸いだったのかしら……私も知らなかったのだけど<死者蘇生(レイズ・デッド)>の費用が難度によって違ったのは。もし一国の……いえ、数国の国庫で蘇生が可能だったのならこの平穏は無かったのよ……あの人たちビーストマンが金貨を使ってないと知ったら一瞬で滅ぼしてたもの……ホント胃が痛い5年間だったけど、良い意味で目的の為に手段は選んでられないって教えてもらったわ」

 

 

 一人は朗らかに笑い、一人は髪の毛を掻き毟り。丸投げされた二人の宰相による一大国家は、国費ゼロの状態からわずか数年で、安定した国を創り上げるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「モモンガさん、昨日シャルティアとヌルヌル大相撲したんですけどこれがまたすごくって!」

「そのために取ったの!?」

 

 

 

 

 おしまい

 

 

 

 

 

 




蘇生魔法の費用はどれくらいかかるんだろう。ネトゲとしての考察だと無料。D&D準拠だと版数によって違ったりする。
ラナーが少なくない黄金が必要と言ってたり、冒険者が触媒が必要とかも言ってたけど、それって英雄級以下の人たちに対する蘇生だし……なんて考えてたらこうなったw
シャルティア復活費用ぐらいの金貨が必要になってしまったという捏造設定でしたw



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鳥ウナギ骨ゴリラIf――異世界新婚旅行編――
1 異世界は四人で


短編の異世界転移までを導入にして、普通に四人で転移しちゃった話になります。
なおメンツがアレなので下ネタが多めになるのはご勘弁を。


「ペロロンチーノさん! 俺、アルベドを幸せにします! 彼女にいい暮らしをさせてあげたいです!」

「モモンガさん顔怖っ!? ゲッソリしすぎだからね!? まあ俺も水分全部シャルティアに持ってかれた感じだけど、とにかく落ち着こうよ」

 

 卒業しちゃうと変な自信が沸いてきちゃうのも分からないでもない。それもあの絶世の美女を相手にだ。なんか立場が逆のような気もしないでもないが、モモンガを言葉巧みに落ち着かせていくペロロンチーノ。

 正直自分だってシャルティアを相手に丸一日狂ったように盛っていたのだ。性癖の合致って怖いと思いつつも疲労無効装備に感謝する。無かったら二人とも腹上死していたかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 幸せなキッスをキメた彼らは草原にいた。唐突な舌が絡みあう感覚に驚愕したのは一瞬で、その心地よさに夢中になっていた。

 彼女から香るちょっときつい香水の匂いや「くちゅっ……ちゅっ……ぺろろんちゅ……ちーのさまぁぁん」などの脳髄を焦がす艶めかしい声も後押しするが、意を決してシャルティアを自身から離すペロロンチーノ。

 

「ぺろ……ペロロンチーノ様?」

「モモンガさん!!」

 

 アルベドとのキスに夢中になっていたモモンガも、その叫び声に驚きアルベドを離してペロロンチーノを見つめる。

 

「時間は過ぎてる!!」

「!?」

 

 モモンガもペロロンチーノの叫び声にあたりを見回し我に返る。

 目の前の情欲に濡れそぼった瞳のアルベドは置いておいて、満天の星空の元、大地の匂いさえ感じる草原に驚愕する。

 

「夢でもバグでもいい!!」

「!?」

 

 

 

 ザァアアアっと草原に一陣の風が通り過ぎていく。

 

 

 

「……なら最後までやっちまおうぜ!」

「おうよ!!」

 

 モモンガは中空に手を差し込むと『グリーンシークレットハウス』と呼ばれる拠点制作用のアイテムを取り出し起動する。そしてアルベドの手を握り優しく抱き寄せた。

 

「アルベド……お、お前の全てをもらってもいいかい?」

「あっ!? あぁぁ……もちろんでございますモモンガ様ぁ……」

 

「シャルティア。部屋は複数あるんだ……野外プレイも乙なもんだが、お前の初めては優しく奪ってやりたい」

「ふわっ!? ぐすっ……だいすきで……大好きでありんすペロロンチーノ様ぁ」

 

 両者寄り添いあい、まるで焦らすかのようにゆっくりと大きなテントの中に足を踏み入れる。

 踏み入れた先はリビングスペース。中央に大きな丸テーブルがあり、キッチンスペースも見受けられるが、テーブルの奥に四つの扉が見て取れる。

 

「右端はモモンガさん、左端は俺の部屋だ。間の二部屋はお前たちの部屋になるだろうが……ふふっ、いつお前たちは自分の部屋に戻れるんだろうなあ?」

「え? 戻すつもりなんか無いよ?」

「くっ!? クフゥウウウ!!」

「はうっ!? どうなってしまうのでありんす!? どうなってしまうのでありんす!?」

 

 もう四人ともテンションマックスであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれですよね、美人は三日で飽きるとか聞いたことありますが、これ言った人の相手はそれほど美人ではなかったんでしょうね」

「表情がな~、コロコロ変わるんだよ……それが可愛くて可愛くて……って!? ちがうちがうモモンガさん。そろそろ真面目にこの状況を考えようよ」

「あっ!? あぁそうでしたね。確実に夢と言う線はありえませんからね」

 

 さすがにこれが夢だったら自分の想像力にドン引きですよと笑いながら二人で考察を話していく。

 なおシャルティアとアルベドは二人でバスルームへ。今頃ガールズトークに花が咲いている頃であろう。二人の仲については気になるところではあるが、二人がいない間にしなければならない話もある。

 

「まず問題は食料ですね」

「え? そこ?」

 

 ユグドラシルが終了しているのにということや、ナザリックの玉座の間から草原のような場所にいたことなど、考えることはそっち方面のことばかりと思っていたモモンガは、ペロロンチーノの発言に呆気にとられる。

 

「このままだと俺たちあと三日も持たずに死にます」

「……は?」

 

 この男は何を言ってるんだと思いもしたが、若干頬がこけたペロロンチーノを見て合点がいった。ああ、そうか、このままヤリ続けてたら確実に死ぬよなと。

 

「転移? 転生? ゲームに取り込まれた? そんなことはどーーでもいいんです。俺怖くてコンソール出せませんもの。うっかりログアウトに触れてしまったらとか考えちゃって」

「うわっ……なるほど。でもそれについては安心してください。コンソールは出ませんでしたよ」

 

 『うわっ』じゃないし『安心』でもないのだが、ペロロンチーノは心底安堵した表情で笑顔を見せる。

 

「俺自身がびっくりですが、はっきりいって丸一日セックスし続けてたって尋常じゃないですよね」

「……言葉にするともう、バカ丸出しというかサル丸出しというか」

 

 時間の感覚がなくなる程夢中になっていたのだが、壁に掛けけられているデジタル時計は20:27と表示されている。これはゲーム内時間ではなくリアルの時計だ。この場所に来たのが24時であるのは間違いないので、本当に丸一日ってことだ。

 

「これを可能にしたのは間違いなく俺たちが彼女たちを愛しているからなんですが」

「それが一番ですけどもう一つは……ステータスかなあ? 疲労無効装備とリング・オブ・サステナンス(睡眠・飲食不要効果)のおかげってこともあるかも?」

「あーステータスですか。俺は疲労無効装備のことしか考えてなかったです」

 

 確かに後衛職だけどレベル90台なら体力もそれなりにあるよなと納得するペロロンチーノ。つまりはそれってリアルの身体ではなくゲームのアバターのままなのかと思い立つ。二人とも若くは作っているが無駄にリアルに寄せすぎたためそれに気づくのが遅れたのだ。

 

「飲食不要、疲労無効……でもあれだけ出したら痩せもするわなぁ」

「腹が減らないから食べなくても大丈夫なことは間違いないんでしょうが、それとこれとは別問題なんでしょうね」

 

 二人にとっては大問題である。彼女たちに抗うことは出来ないが、死んでしまったら元も子もない。逆に言えば食料問題さえ解決すれば永遠が約束されるのだと。

 そういえば人間種になったから食料が必要になり、指輪に課金するまでの間システムとして食べていたことを思い出すモモンガ。あれ? このグリーンシークレットハウスはどうやって出したんだ? もしかしたらと思い右手を中空に突き出す。

 

「あっ! いけます! ありますよペロロンチーノさん」

「うぉっ!? もしかしてアイテムボックス? お? 俺も出来たよ!」

 

 嬉々として食料を取り出すのだが、出てきたものは虹色に輝くお団子のような丸い物体であった。

 

「そういえば試しに買っておいた『携行丸』しか持ってなかった……」

「ゲームとしてはまったく気にしてなかったけど……えぇ……これ食べられるの?」

 

 携帯食料としては一般的なアイテムではあるのだが、リアルで目の当たりにすると困惑するしかない。

 テーブルの上を転がしたりしながら、頭を捻るが食べて見なければ始まらないと、モモンガは意を決してかぶりつく。

 

「ど、どう? モモンガさん」

「う、うーんなんの味もしなくて逆に怖いんですが、お腹が膨れた感はありますね」

 

 とりあえず問題解決? なんて二人して首をひねりながら言葉を交わしていくのだが、何故か嫁の手料理の話へと話題が変わったり『無限の水差し』で飲んだ水に感動したりと、話題が二転三転しながらお互いの嫁自慢が始まっていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……アルベド。泣いているのでありんすか?」

 

 ナザリックと比べたら格段に小さな風呂ではあるが、足を十分に延ばせるほどの浴槽につかり、二人は言葉を紡いでいく。

 

「ふふっ、ごめんなさいね。嬉しすぎても涙って出るのね……感情のキャパシティを越えてしまって……あぁ……もう、すごかったわ!」

「その話ならペロロンチーノ様だって……う、ダメダメ、この話長くなるでありんすよ! お風呂から出てまた求められたら抗えないでありんす! 今のうちに出来る考察だけはしておくべきでありんす!」

「くっ、シャルティアに諭されるなんて思ってもみなかったけど……そうね、一蓮托生よ?」

「当然でありんす」

 

 二人してにこやかに笑いあう。いがみ合う要素などないのだから。

 

 問題点は多岐に及び、ここがどこであるのか、ナザリックはどうなったのかなどの考えておかなければならないことは山積みであるが、最終的に愛する旦那様を守れればそれでいいのだ。

 

「私が盾で」

「妾が矛でありんす」

 

 モモンガがマジックキャスターでペロロンチーノが弓師。ある意味理想のチームにも見えるが回復役がいない。

 

「自身を回復する術はあるのでありんすが、皆を瞬時に癒すことは出来ないでありんす」

「治療アイテムはあるのでしょうし、例えばトーチャーなどを召喚して、なども可能でしょうけど不安が残るわ」

 

 一手遅れれば戦況などひっくり返る。チームとしては中途半端であることは否めない。

 

「……嫌でありんすけど、回復役を引き込むことも頭には入れておきんす、それで他には?」

「……正直シャルティアがびっくりするぐらい大人で頼りがいがあるのだけど、まぁわかるわ。それだけ本気なのですものね。なら言わせてもらうわね……人間種にはね寿命があるの」

「……」

 

 これは今必要な話ではないとは理解はしていたが、シャルティアのあまりにも必死な態度に、自身の最大級の懸念材料を述べていく。

 

「今が最高の幸せすぎて、その懸念がちらつく程度で済んではいるのだけど、人間は百年も生きられない種族なのよ……」

「……はっきり言ってそれは懸念材料にはならないでありんすよ?」

「シャルティア!?」

 

 眉根を寄せて咎めようとしたアルベドであったがシャルティアの次の言葉で平静を取り戻す。

 

「それは些細な問題でありんすよアルベド。御方達が生きている時間が私たちの生きている時間でかまわないのだから」

「あっ!?」

 

 覚悟の違いというわけではないが、永遠を求めたアルベドと同じ時間だけを求めたシャルティアの違い。一つ息を吐いてアルベドはフフッと微笑む。

 

「完敗よシャルティア、その通りだわ。恐れることなどなかったのね……」

「でも永遠も捨てがたいでありんすね。これは御方……ん、うん! 旦那様たちにも相談するべきでありんすね」

「えぇ……そうだ! シャルティア、身体を洗ってあげるから一旦湯船から出ましょう」

「な、なんなんでありんすかその笑顔は!? ……まぁいいでありんすけど、ちょ、ちょっと敏感になっているでありんすから優しくお願いするでありんす」

「えぇ了解よ」

 

 ふんふんと鼻歌を歌いながら優しい表情でシャルティアの背中を洗っていくアルベド。二人の仲は良好ではあるのだが、あまりにも重い『覚悟完了』状態の美女と美少女。

 

 バスタオルだけを巻いた湯上りの煽情的な姿を見て、即自室へと連れ込んだ二人にはまだ知りえない事である。

 





今まで書いてきたのと変わらないコメディほのぼの路線ですw


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2 護りたい嫁

なんというか昔から新しいことを始めようとするとPCがぶっ壊れたり、マウスやキーボードが反応しなくなったりするんですよ。

今回はスマホが洗濯されました;;



「日が昇ってるって事は少なくともヘルヘイムではないですね」

「助かったわ……モモンガさんとアルベドが止めてくれなかったら太陽があることすらわからんかったかも」

 

 それでも一昼夜盛り上がっていた四人であったが、それを止めたのは意外にもサキュバスのアルベドであった。愛される喜びと『二夜目の御食事』に興奮も覚めやらぬアルベドであったが、傍目に見てもわかる程に頬がこけてきたモモンガに危険を感じる。

 弱々しい抵抗ではあったが、数回後に何とかモモンガの視線を時計の方向に向けさせることに成功したのだった。

 

「ハッ!? ってなりましたもん。それでも12時間ぐらい経っちゃってますが」

「ヤバイよなぁ……俺モモンガさんが<伝言(メッセージ)>してくれなかったらまた夜までコースだったわ……エッチなのにすげぇよアルベド」

「エッチやめてくれる!?」

 

 などと話しながら二人の視線は上空を向いたまま。すでに豆粒ほどの大きさになって見えるが、アルベドとシャルティアは周囲を探索中である。

 

「シャルティアのあの黒いの大人っぽすぎません!?」

「意外だなぁアルベドは白なんだ……あれモモンガさんの趣味?」

 

 今日も緊張感は皆無であった。

 

 

 

 

…………

 

 

 

……

 

 

 

 

 

 

 

 現在四人はグリーンシークレットハウス内のリビングスペースで食事をとっている。食事はあのマーブル模様の団子ではなく、ペロロンチーノが興味を引かれて買っておいたバフ料理の『ペペロンチーノ』だ。

 

「うわぁ……美味しいなぁ。リアルの麺料理とは全然違いますね!」

「うん、思い出してよかったよ。名前に惹かれて買ったけどバフ効果が魔力upだから全然使ってなかったんだ。あ、シャルティアもありがとな!」

「れ、礼など不要でありんすよ! 実際これはペロロンチーノ様が持たせてくれたものでありんすし」

「料理も紅茶も美味しいわね。ペロロンチーノ様、シャルティア、ありがとうございます」

 

 水よりもこちらの方がとシャルティアが出した無限の水差し(紅茶バージョン)のサプライズもあり、四人は楽し気に食事を堪能していく。

 一息ついてお代わりの紅茶を飲みながら、話題は周辺状況の報告へと代わっていく。

 

「あちらの方向。かなり遠くに広大な森林が見えました。しかしながらこの近辺はただの平原としか言いようがないですね。特に気になる点は森林とは反対方向、十数キロ先から煙のようなものが立ち上っているのが見えたくらいで……シャルティア?」

「現在眷属たちをその場まで送っていんす。何分視界などの同調は出来んせんので報告待ちになりんすが……」

 

 なにも分からなくて申し訳ないといった悔し気な表情の二人を『よしよし』『なでなで』と、イチャイチャしながら、これからの行動方針などを含めた本題に入っていく。

 

「あー……私が言うのもなんですが、初回だけは脱線しないようにしましょう」

 

 重要なことなのでとモモンガが前置きしながら話を進めていく。

 

「そして行動方針の前にまずは全員の能力・装備・アイテムの確認から始めましょうか」

 

 自身が制作者であるペロロンチーノは勿論であるが、モモンガもあの三カ月の間にアルベドの能力などを把握しなおしている。だが彼女たちが人間種になったモモンガたちの能力を把握しているかといえばそうではない。

 対人が可能なMMOでは絶対あり得ない情報開示をモモンガは率先して始め、続くようにペロロンチーノもスキルや手持ちアイテムを時間をかけて説明していく。

 

 だって俺たちは家族なんだからとでも言わんばかりに。

 

 彼女たちもその誠意に答えるようにアイテムボックスの中身を披露していくのだが、大量に出てくるマニアックな衣装の数々は彼らが持たせたものであり、恥ずかしくて赤面する一幕もあったりする。

 

 そしてすでに帰還していたシャルティアの眷属たちの報告から、立ち上っていた煙は襲撃された『村』であることが判明。わずかだが生き残っている『人間種』がいることも報告された。

 

「……物騒な話ですが朗報ですね。村と呼べるレベルの物があって人型の生物がいるのは」

「あとはそれがゴブリンとかリザードマンでもいいけど会話が可能かどうかですよね、それと俺達が食べられるものがあるといいんだけど」

 

 すでに大前提としてここがユグドラシルでないことや、環境汚染された元世界ではない事は周知している。ナザリックを出たことが無いアルベドとシャルティアにとっては、どこであったとしても未知の場所なのだ。Lvが1000を超えているなんてのがいたら大変ですね、なんてとんでもない会話を真剣な表情で理解しようとしていく。

 

「ただ魔法もスキルも使えるのは確認できてよかった。この分だとアイテムも問題ないでしょうし、誰か欠けてもリカバリー出来るように分配しておきましょう」

「あーそうだなあ……シャルティアのメイン装備には復活アイテムを仕込んであるけど全員に蘇生の短杖は必須だよな」

 

 あっさりと最悪な状況を、まるで日常会話でもするかのように語っていく二人に戦慄する彼女たち。「そんなことはさせません!!」と叫びたい気持ちを抑えて、会話の内容を頭に刷り込んでいく。

 

「それとアルベドのギンヌンガガプはそのままでいいとして、これとこれどうしましょ。こっちは一応手持ちの杖の先端に付けただけなんですが」

「モモンガ玉とスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンか……両方とも拠点防衛ならめちゃくちゃ優秀だけど、派手だなぁこれ」

 

 テーブルの上には真っ白な杖の台座にはめられた禍々しい紅玉が目立つ杖と、なぜか直立しくるくると回転しているド派手な杖がある。

 結局のところ、この場にワールドアイテムが二つとギルド武器があることは幸運だったのだが、モモンガのアイテムボックスに戻されることになった。

 その理由がモモンガの次の発言になるのだが。

 

「よしこんなところかな? 一応偽装的な身分も作っておきますか。私は剣士……いや近衛騎士がいいなあ」

「じゃぁ俺は宮廷魔導士だな! 第一位階しか使えないけど!」

 

「ちょ!? ちょっと待っておくんなまし!」

「ふぉ、フォーメンション的な話ではないんですよね!?」

 

「姫を守護する騎士とか……実際は夫婦なんだから……こうラブロマンス的なあれでも……」

「いやまてよ……魔法より短剣とかの方が使えるんだから盗賊……いやプレイ的にはアリだけど守護剣士あたりが無難か?」

 

 どこまでいっても根はロールプレイヤー。さっきまでの慎重論はなんだったのかと思われる程に散々妄想を吐き出したものの、最終的には「お願いですからそれは安全が確認出来てからで」と女性陣に諫められるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんで言葉が理解できるのかは置いといて、これはあれかな……ラノベ的な中世ファンタジーって考えればいいのかな?」

「隊長格の二人が話してた内容から考えると、盗賊がここらへんの村々を襲っててこの戦士たちが追ってるってことだよな……うーん」

 

「こいつらがこの世界の平均と考えるのは時期尚早だけど、この程度で仮にも戦闘を生業にする者たちなのだから一段落ね。シャアルティアはどう?」

「なんの脅威も感じないでありんす……でも油断はしないでありんすよ!」

 

 あれから色々と大目標、小目標などの行動方針を固めた一同は、テントを畳んでフル装備フル支援不可視化で上空から煙の出ている集落へ接近を試みた。

 だが丁度そこへ騎馬の一団が接近してきたため行動を見守ることにしたのだ。

 戦士団は必死に瓦礫を撤去していき、生存者を探しだそうとしているその状況を、はるか上空から観察している一行であった。

 

「ここでの接触は避けるべきかなあ? 俺たちが犯人だと思われてもなんだし」

「そうですねぇ……現存している村があるなら先にそっちに接触した方が無難かもしれないですね。シャルティア、アルベドどうだ?」

 

「あれは集落だったのかしら……モモンガ様、大森林の方角にちょっとした空き地というか空白地帯があったのですが、もしかしたら生きている村かもしれません」

「あーあれでありんすか。さすがに10キロを超えると村かどうかの視認は困難でありんすが確かに不自然であったかもしれんせん」

 

 もしここが地球であったのなら上空100mも昇れば周囲40kmは視認できるはず。この世界が球状であるかどうかとか大きさがどうであるかとか不確実性が高すぎて、この場では言葉にすることは無かったが、モモンガは行動方針を提案する。

 

「そこへ行ってみましょう。集落であるなら次に襲われる可能性が高いし、襲われなかったとしても情報収集の最初の拠点にするのもいいと思います。日暮れまではまだまだありますし善は急げです。なにか他の意見などはありませんか?」

「いいね! さっきのロールプレイも出来そうだし!」

 

 笑顔で即答するペロロンチーノだったが、先ほどとは打って変わって複雑な表情をしているモモンガに気付き首をかしげる。

 

「リアルの襲撃された集落を見ちゃったからなんでしょうが……私たちの強さ的には多分問題ないと思うんですよ……でも戦えるんでしょうか? 盗賊とはいえ人間相手に剣を振れるのかどうか……」

「あ……うーん……」

 

 はっきりいって調子に乗りすぎていた。何でもできてしまえるような万能感が自身を支配していた感も否めない。

 だが、もしリアルの世界であったと考えると……例えば駅前で鉄パイプを振り回す暴漢に居合わせ、こちらに向かってきたとしたら一般のサラリーマンはどうするだろうか……全力で逃げるにきまってる。

 

「もしアルベドが暴漢に襲われて……あれ? 殺せるなそいつ」

「あ、ほんとだムカムカしてきた」

 

 あれ? おかしいな……ラノベだったら殺す覚悟がなんて展開だと思ったのに、なんて考えながらがっちりお互いの嫁を抱きしめる。

 

「クフゥ!? いえ、待ってください! 何か大事なお話だったような気が、あふぅ!?」

「ふにゃぁ……あ! そこは敏感でありんすから!? 待って、待って!」

 

「あ! あぁごめんアルベド……絶対守るからな!」

「あぁ! 二度とシャルティアと離れるもんか!」

 

 なんて嬉しい言葉を与えられたならもうどうにでもなってしまう。これから始まる『姫プレイ』というのはよくわからないものの、全力でサポートさせていただきますと考える女性陣であった。




実際モモンガさんが人のままだったら殺しは難しいんじゃないかなーと思いますw


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3 夕陽に輝く王子様

ハーレムとかは無いゾ!



 一行は目的の集落が目視確認できた段階で地上に降り、例のロールプレイを開始したのだが、ちょっとしたハプニングというか事前練習になってしまったというか。

 とにもかくにも大の字になって倒れこむ男性陣がそこにいた。

 

「あれはだめ……あれはダメですって……」

「見つけた瞬間心臓がキュッってなったよ……とっさに弓出しちゃったし……怖かったあ」

 

 なお接戦とかそんな事はあり得ず瞬殺。両者、騎士だ宮廷魔導士だなんて言っていたのにもかかわらず、魔法と弓でオーバーキルである。

 

「こないだペロロンチーノさんがあんなエロゲ貸してくるから……」

「それな……オークはダメだよな……」

 

 ものすごいくだらない理由であった。

 

 なお、女性陣はなんで倒れこんでいるのかさっぱりわからないものの、あまりにも素早い対応に自身の伴侶の強さを再確認し興奮に震えている。

 

「み、見えたでありんすかアルベド!? すごい! すごすぎるでありんす!」

「弱いモンスターの反応はわかってたのよ? でもどんな姿かたちかは確認する暇もなかったわぁ。この分ではモンスターの死骸すら残っていないのでは……やはり私たちの旦那様は最強ね!」

 

 結果オーライであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 カルネ村の少女、エンリ・エモットの今日の最後の仕事は小麦畑の見回りだ。これは持ち回りの役目なのだが、村共有の畑はそろそろ実りが目に見えるようになり、妹のネムと一緒に夕暮れ時の畑を見回るこの作業は、エンリの一番好きな仕事でもあった。

 

「もうすぐオレンジ色になるね! お姉ちゃん!」

「そうね。今日も問題無さそうかな」

 

 なんて妹の言葉にそっけなく答えるエンリであったが、その表情はにこやかだ。自分もこの小麦畑が夕陽で染まる美しさが大好きであるからなのだが。

 今日も畑は何事も無く仕事も終わり。畑の最端から自宅へ戻る頃のあぜ道はさぞ綺麗だろうなと思いを馳せながらゆっくりと歩いていると、唐突に馬の蹄がたてるような音が聞こえてくる。

 

「お、おねえちゃん、あれ……」

「ね、ネム! 下がって!」

 

 それはまるでおとぎ話のような光景であった。

 

 まず一番に目立つであろう大きくて凶悪そうで、それが馬であるのか不審に思うほどの騎馬がまったく目に入らない程の美しい女性が二人。

 黒髪の真っ白なドレスを着た涼やかに微笑む女性が、少し小さな同じく白いドレス(・・・・・)を着た黒髪の美少女(・・・・・・)を前に抱くようにして馬上で揺られている。

 両脇に控えるのは軽装鎧に身を包んだ騎士というよりは傭兵のような出で立ちであるものの、優しげな、そして親しみやすそうな笑顔を浮かべる青年と、精悍な顔つきをしながらも、いたずらっ子のように微笑む美少年。

 

 エンリたちの数十歩前で立ち止まった一団の中から、青年が数歩だけ前に出て声をかけてくる。

 

「はじめましてお嬢さん、私はモモンガという者です。決して怪しい者ではありません。できれば安全の為に一晩この村に滞在させていただきたいのですが……あ、あれ? 言葉は通じているかな?」

 

 冒険者とは違う。エ・ランテルで見たことがある兵隊さん達とも明らかに違う。強いて言うなら貴族のお姫様と従者といったところであろうが、目線を合わせるように片膝をつくその素振りに偉そうな態度は一切見られない。

 

 頬を夕陽に染められたせいかどうか真っ赤に染めながら呆けていたエンリであったが、その優しげな声を聴いてさらに顔を赤くしながら我に返る。

 

「あ! はい! ちょっと……あの! すぐに大人を呼んできますので!」

「良かった~言葉通じて! あ、ここから入らない方がいいなら待ってますので! よろしくお願いしますね」

 

 あまりにも丁寧すぎる物言いにズッコケてしまいそうなエンリであったが、妹の腕をつかんで黄金色の畑をつっぱしるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「お、覚えきれないでありんす! メモを! メモの許可をお願いするでありんす!」

「シャルティア無駄だわ……最後に『その場その場で内容が変わったりもするから臨機応変に』と言われてしまえばどうしようもないもの。ふふっ」

 

 アルベドもシャルティアも困っているような素振りをしながらも、時折出てしまう笑顔は隠せない。

 

 初戦をあっけなく乗り切った一行は、それではと装備の変更を開始した。

 ペロロンチーノはレベリングの中盤に使用していたバンデット・メイルに換装。魔法使い初期セットはレベルが低く、シャルティアのクラス、カースドナイトのペナルティの影響で装備が破壊されてしまうことを察し、触れ合えないことに我慢ならなくなりこうなった。

 

 モモンガは剣士の初期セットにしたのだが、ペロロンチーノと並ぶと低級すぎて違和感が多く、クリエイト・グレーターアイテムで同じようなバンデット・メイルに換装した。

 なお、初めて使った<伝言(メッセージ)>を含めた魔法の数々はこの世界で取得したものになる。

 あの三カ月のレベリング作業では必要な魔法しか取っていなかったのだが、この世界でペロロンチーノに連絡をしようと思った際に取得出来てしまったのだ。

 頭の中でどのレベルの魔法が取れるかなどが理解できたモモンガは、この世界で楽しく暮らせるために必要な魔法を取っていこうと考えていたりもする。

 

 アルベドは普段着ではあるが白いドレスを纏っている。もちろんウェディングドレスを筆頭に数々の衣装をアイテムボックスに詰め込まれていたのだが、防御力の観点から今回は残念ながら見送られた。

 

 シャルティアは逆に先述のカースドナイトのペナルティにより弱い装備を身に付けられなかったため、もとより高レベルな衣装を多数買い与えられていたというのもあり選び放題。

 もちろんこれはモモンガが詰め込んでおいたアルベドの衣装の見た目が劣っているというわけではなく、あくまでも戦闘装備としては不向きという事だ。

 そしてシャルティアがアルベドを見て選んだのは真っ白なドレス。ついでにと皆の顔を見直して若干茶色かかった黒髪に染めている。

 

「妾だけ銀髪では違和感がありんすから」

「なんだか可愛いわねシャルティア!」

「あぁ! 結構新鮮だな、可愛いぞ!」

「あぁああああああ! かわいぃいいいいい!! くそぉおおお! 抱きしめたら止まらなくなりそうで出来ないぃいい!!」

 

 1人悶絶していたが装備に関しては以上である。

 

 そして姫を連れているんだから馬車だよな、なんて移動手段の話になったのだが馬車どころか馬すらいない。ナザリックに戻れればなんとかなるものの、その手の装備は現状皆無。

 シャルティアが<サモンモンスター・10th>を使おうかと申し出るが、出せる怪物の容姿を思い出し嫌な予感しかしないのでと却下される。

 モモンガが魔法で何とかできないかななんて考えていると、アルベドから自身の騎獣を召喚しようとの提案があり呼び出してみることにした。

 

「黒王号だな」

「角が生えた黒王号だね。これはありなんじゃない? 二人乗りは出来るのかなアルベド?」

 

「なにぶん呼び出したのは初めてなものですが、可能だと思いますよペロロンチーノ様。あ、あとバイコーンです」

「へぇ~結構強そうでありんすなぁ」

 

 二人にまたがらせてみると難なく乗れてしまう。なんだか馬も嬉しそうだし、大人しそうな感じだしと決定することになった。なお、

 

「つまり道中で馬車は壊れたんだろうな……戦火の中追手を掻い潜りボロボロの馬車でひた走る。そして前方には進むしかない大森林」

「そんな悲壮感が漂う中、姫たちを馬に乗せ換えて迫りくる魔獣たちにも一歩も引かず護り抜いたんだねぇ俺たちは。そしてなんとか森を抜けた先に出たのはあの村だったわけだ」

 

「え、もう始まってるでありんすか!?」

「大丈夫です。ま、まだ付いて行けてます!」

 

 唐突に彼らが追ったらしい波乱万丈のストーリーが語られ始めるのだが、所謂カバーストーリーも出来上がり、日が暮れる前にと村へ急ぐことになったのだった。

 

 

 

 

…………

 

 

 

……

 

 

 

 

 

 

 

「うははは! そりゃこんな美人だもんな! モモンガ殿も手を出しちゃうわなぁ!」

「うーん即効バレたなあ。実はこの子、妻なんです! あははは!」

「俺は健全なお付き合いをしているのだぜ!」

「嘘を付けペロロン君! ワシの村長としての目はごまかしきれんぞ!」

「すいません。この子、妻なんです! わははは!」

 

「……」

「……」

「ごめんねぇ。いやぁこんな娯楽の無い寒村だからねぇ、お嬢さんたちみたいな美人さんが来てくれてうちの人らはしゃいじゃって! 後でエモットの嫁にも言いつけとかなきゃ」

 

 先ほどまでの設定はなんだったのか。カルネ村、村長宅では小さな宴会が開かれている。

 

 もちろん最初からこうだったわけではないし、姫と従者の立ち位置はキープしている。

 エンリに呼び出された父親は初対面では驚いていたものの、村長宅へ案内する間に垣間見ていた親し気な雰囲気と絡めあう指に斜め上に状況を察していた。

 対面した村長夫妻も、これはどこぞの貴族のご令嬢かと驚いたものだが、どうにも主導しているのは護衛とみられる男性陣であると察し、熱を帯びた瞳でその男性たちを見つめ続ける仕草などに、ああこれは恋仲かと察してしまったのであった。

 

「おばちゃんがからかったったせいよね! ホントごめんねぇ」

 

 まぁ極めつけはそれを指摘してしまった村長婦人の言葉からなのだが、モモンガたち男性陣にとっては違和感なく受け入れてもらえれば設定なんてどうでもいいとすら思っていたのでそれは問題ないのだが。

 

「うー……頑張って覚えたでありんすのに」

「うふふ、まぁ良いじゃないの。それで奥方様、次の質問なのですが」

「もうやめておくれよぅ、おばちゃんでいいですから、あははは」

 

 この光景にちょっと不思議だなぁと考えるシャルティアがいたりする。

 自身もそうだがアルベドも人間種に対して問題なく演技が出来ているのが不思議だなあと。考えてみれば旦那様が人間種であるのだから、それも当然なのかなあなんて。

 

 実際アルベドは守護者統括の任を現在強制的に外されているのだから、長文で書きこまれた設定が少し機能していないのは確かだ。

 ナザリックが不明であり人妻になっているのだから。

 

 両者とも多少のヘイトはあるのだろうが、余裕で抑えられる程度に収まっているこの現状はモモンガ・ペロロンチーノにとっても良い事であるようにも思えるし、これはこれで楽しいかもしれないなあと考えるシャルティアであったのだが、

 

 

 

 

 

「でもうちの娘も残念だったなぁ。あれは完全に惚れたような瞳をしていたが……ンフィーレア君が報われないぞ……」

「その話詳しく!」

「ちょっとペロロンチーノ! エモットさんもそんなわけないですって!」

 

 

「ふふっ、あの娘ですか……まるで王子様のようなシチュエーションでしたものねモモンガ様?」

 

 

 ヒュッと場に冷気があふれ出る。はっきりいってモモンガ様の慈愛の心は半端ではない。ペロロンチーノ様が戻られなければモモンガ様にこの身をと考えていた自分を否定できない。

 あの小娘がやられてしまうのも頷けるというものだ。

 

 なんて考えながらやっぱりコイツあんまり変わってないのかな、なんてことを同時に考えつつアルベドの暴走を抑えに奔走するシャルティアであった。

 





後にオリキャラ的なモブが出てくるのですが、直近小説に似たネタを見つけてしまって涙目;; 二次創作だし同じこと考えてる人もいるんだなーとw


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4 だってシャルティアが好きだから

4人が自由すぎるので主役が変わったりしますw



 村長宅をお暇した一行はエモット氏の案内で広場を紹介してもらうことになった。要はテントがあるので場所を貸してほしいといったお願いだ。

 一瞬で現れた大型テントにかなり驚いていたようだが、それではまた明日と別れ、現在四人はいつものリビングスペースに腰を下ろし……なぜか全員が頭を下げていた。

 

「本当にゴメン。いくらなんでも設定をないがしろにしすぎた……あと惚れられたなんてことはないから」

「すまんちょっと楽しくなっちゃって……自慢の嫁を紹介したい気持ちが……あぁあ違うか! ホントすまん!」

「申し訳ございませんちょっと暴走してしまって……いえ、おモテになるのは分かっていたのですから……いけませんね」

「村長に泊っていきなさいと言われた際に『え、ここでヤッテしまったら声を聴かれてしまうでありんす』なんて本音が出てしまって申し訳ないでありんす」

 

 一部おかしなところもあったが早々に反省会を終了させて、話題……いや議題は本題へと入っていく。なぜなら彼らには時間が無いのだから。

 

「ペロロンチーノさんが早く部屋に連れ込みたい以上に私だってそうしたいんだ。けど今この時にも野盗がこの村を襲ってくるかもしれない懸念がある」

「ある程度の情報は手に入れましたが、まるで足りておりません」

「そうだ。せっかくのこの世界での足掛かりなんだ。滅ぼされるわけにはいかん」

 

「モモンガさん声変わってるね、魔王みたい」

「かっこいいでありんすね」

 

「そこ、いちゃいちゃしない! ついでに言うとここで野盗に襲われてしまうと、私たちが野盗を引き込んだ……なんて考えられてもおかしくないんじゃないですか?」

「設定的にも追われる身なんだよな……まあその件は話してないから関係ないけどあるっちゃあるよな」

「なので早々に防衛対策をしちゃいましょう」

 

 今から探しに行くのも罠を仕掛けるのも時間がもったいないからと、モモンガが見張りを召喚することを提案する。

 

「ですがまだ深夜にもなっておりんせん。効果時間を延長しても早朝まで持つのでありんしょうか?」

「ああ、超位魔法を発動する」

 

 こんな場面での超位魔法宣言。一番部屋に連れ込みたがっていたのはモモンガだったのかもしれない。

 そんなこんなでここでは目立ってしまうからと全員で上空から近隣の森の中へ。少し開けた場所を見つけ、こちらで行うことに。

 

「第十位階より上の魔法だとは聞いたことがありますが……初めて拝見するので楽しみです」

「ワクワクするでありんすね!」

「それで召喚ってなにがあったっけ? <天軍降臨(パンテオン)>とか?」

 

 さすがに魔法職でなくともユグドラシルユーザーなら超位魔法は有名でありペロロンチーノもすべてを知っていたりするのだが。

 

「うーん……それより人数多めがいいかな。それじゃぁいきますよ、超位魔法発動!」

 

 途端モモンガを中心に幾何学模様の魔法陣が現れ、くるくると複雑に回転し始める。そしてこれから約一分程の発動準備時間があり、通常なら課金アイテムで短縮するのだが。

 

「うわぁ……綺麗」

 

 常にアルベドを視界に納めていたモモンガは笑みを浮かべ、それをすることはなかった。

 そして長いようで短い光の鑑賞会を終え、ついに魔法が発動する。

 

「いくぞ! <指輪の戦乙女たち(ニーベルング・Ⅰ)>!」

 

 この時ペロロンチーノは(あれ? ニーベルング・プリーモ? アイって読むんじゃないの?)なんて考えていたのだが。最後のあれは英単語の『アイ』ではなく、ローマ数字の『1』であったりする。

 北欧神話に因む舞台楽劇、その第一夜『ワルキューレ』に由来するこの超位魔法は、九体の天使を降臨させるのだが、ここでモモンガにちょっとしたミスがあった。

 従来の天使の容姿に不満を持ったユーザーの熱心な要望により、一年ほど前に小さなアプデが入っていたのを忘れていたのだ。

 モモンガ自身も九体とは言えLv70台の天使を降臨させる魔法など使えない魔法であり、この場で初めて使ったのであって、決してアルベドを怒らせたかったわけではないのだが。

 

「え?」

 

 それははっきり言って美少女であった。ヴァルキリーと言えば想像できるだろうか、その様な出で立ちの光に包まれた天使が九体、空から舞い降りモモンガの周囲に着地すると同時に跪く。

 

「ご主人様! ご命令を!」

 

 その中から長女と思われる、それでも二十代前半と思しき美少女が頭を上げ声を上げると『ご命令を!』と他の八人が復唱する。

 

 それははっきり言って金髪美少女天使祭りであった。運営おい頑張りすぎだろう、それにこの娘ら近いんですけど!? なんて慌てふためいていると不意にアルベドの顔が視界に入る。

 

 ぷくーと頬を膨らまして涙目で見つめていらっしゃった。

 

 そこから先のモモンガの行動は早かった。

 『この村を召喚限界まで守ってほしい』『この四人の命令には従うように』と二つの命令だけを与えるとすぐにアルベドを抱えテントの方向に飛び去る。

 

 あとに残されたのは、深夜の森に『大好きだ』『愛してる』などの声をこだまさせながら消えていく主人を呆然と見送る天使たちと、腹を抱えてうずくまり、大爆笑するペロロンチーノとシャルティアがいたりする。

 

 

 

 

…………

 

 

 

……

 

 

 

 

 

 

 

「なかなか粒ぞろいで美味しそうでありんしたなぁ」

「俺が覚えてたのは毛玉天使が九体だったんだが……仕様が変わってたのかな? まあそれはいいとしてちょっと困ったことになったな」

 

 邪悪な笑みを浮かべたカップルに、嘗め回すように観察されていた天使たちは警備に赴いている。一安心ではあるものの自分たちもテントに戻るという選択は、ペロロンチーノには出来なかった。

 

「こっちからモモンガさんへ連絡する手段が無い。完全防音だから開けるしかないわけだけど……ヤダぞ俺、友達の見るのは」

「そういうもんでありんすか? 私は問題ないでありんすけど」

 

 AVを見るのとはわけが違う。今後の付き合いに影響が出ても何だしとシャルティアを説得する。

 

「それにしてもハーレム大いに結構じゃありんせんか。独占したい気持ちはわかりんすけどモモンガ様やペロロンチーノ様程の男をほおって置く女などいないでありんしょうに」

「お、お前の過大評価は置いといて、お前たちはちょっと勘違いしているぞ」

 

 若干話がずれながらも、ペロロンチーノは盛大にため息を吐いて続ける。

 

「今はお前ら以外に割く時間なんか無いし眼中にも無いんだよ、あのアルベド最後に笑ってたけどちょっとした茶目っ気だったのかもしれんが後悔するぞ」

「な、アルベドのあれは演技だったでありんすか!? でも後悔とおっしゃるのは?」

「俺でさえどんだけ我慢してると思ってんだ……エンドレスエイトとか勘弁してくれよ? せめて24時間以内には抑えてほしいもんだが……食料も持ってるし参ったな」

「ひ、ひぃ!?」

 

 自分ですら何度意識を飛ばされたか覚えていない。めくるめく甘い時間であると同時に気持ち良すぎて死んでしまいそうになるかと思ったが、意識を戻した際には優しく抱きしめられてもいた。つまり休憩を貰えていたのだ。

 モモンガ様スゴイ必死な形相だったな……などと思い出し、白目を剥いてカエルのようにつぶれているアルベドが幻視できてしまい戦慄するシャルティアであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「しまった……村囲んでんなこれ。あの娘らだけじゃ抜けられるぞ。シャルティア! 数を減らす!」

「了解でありんす! 眷属たちよ!」

 

 時刻は早朝。あれから村周辺を散策したり、いちゃいちゃしたり、天使たちをからかったり、いちゃいちゃしたり、空中散歩を楽しんだり、ちゅっちゅしたり、昔話を語ったり、いちゃいちゃしたりしながら、思いのほか楽しめてあっという間に朝を迎えたペロロンチーノたちだったが、日が昇る直前に敵の気配を感じることが出来た。

 翌日に来るとは思いもしなかったものの、これ幸いにと上空から観察していたのだが、野盗どころか甲冑を着込んだ軍隊であり、しかも村を包囲してからの一斉攻撃とかいう本気っぷりに頭を抱える。

 

「殺すなとは言わんがお前には血の狂騒(アレ)がある。お前は……そうだな、俺を応援していてくれ」

 

 シャルティアに跨って飛んでいる今の状況では格好がつかなかったが、震えそうになる手をスキルで補正し弓を構える。

 威力を最大限に抑えたスタンアローではあるが、殺せない武器などナザリックに置いてきたネタ武器以外に存在しない。

 

 この子にだけは殺しをさせたくはないなんて、ラノベの脆弱野郎たちに何度憤怒したことだろう。だが今は自分もその気持ちが少しだけ理解できてしまったことに唇をかみしめる。

 

(どんな設定ぶっこんだと思ってんだ……シャルティアの方がうまくやれるって)

 

 頭の中で最善の選択肢が思い浮かぶのだが今はその時じゃない、今は俺を支えてくれているだけでいいと弓を引き絞る。

 

(慢心にもほどがあるだろう、強者の余裕ってやつかあ? 敵が倒れないことを考えてもいねぇなんて笑えてくるぞ……)

 

 殺さない、殺せない。そんな相反した思いを浮かべるが目を見開いて標的を狙う。

 

「とにかく当たれ!!」

 

 そう叫びながら矢を解き放つペロロンチーノだった。

 

 

 

 

…………

 

 

 

……

 

 

 

 

 

 

 

 結果だけ見れば圧勝、いや蹂躙と言っても過言ではなかった。とにかく予想以上に弱すぎたのだ。皮肉なことに生き残ったのはペロロンチーノに撃たれた者達のみ。とはいえ重症ではあるのだが。

 

「ふぅ……制圧完了かな? ありがとうシャルティア……お前の応援で勇気が出たよ、ホント愛してる、大好きだぁ」

「な!? 私の方が大好きでありんす! あ・り・ん・す!!」

 

 完全に脱力してしまっているペロロンチーノを抱きしめながらゆっくりと降下する。

 

 シャルティアには何故これほど憔悴しきっているのか理解できなかったが、これがペロロンチーノがやりたかったことではないことはわかった。

 

「世界一格好良かったでありんす! 半端ないでありんす!」

 

 だから思った事を全部吐き出す。仕留められなかったのは偶然じゃない。矢の速度が速すぎて貫通した初撃を見て少し安堵した顔をしたペロロンチーノをシャルティアは見ている。

 スキルを載せたりそれこそゲイ・ボウでも持ち出せば粉砕していたことだろう。

 

「あそこまで精密な狙撃は誰にもできんせん! だから……そんなお顔はしないでくんなまし……」

 

 その瞬間ペロロンチーノはビクッっと震える。だめだだめだなんだこれ。シャルティアを悲しませてなにやってんだ俺はと頬を叩いて気合を入れなおす。

 

「あの理論で行けるかと思ったんだが……こっちから一方的に狙撃してたんじゃ関係ないわな。後で詳しく話すけどあんまり俺たちは人間を殺したくないんだよ。ふふっ、なんだよあの鎧。紙装甲にもほどがあんだろ、なあ?」

「おどけてみせなくても分かっていんす……もうしばらくこのままで……」

 

 震えを抑えるように二人抱きしめあって目を閉じる。この時間がたまらなく嬉しいだなんて考えながら……

 

 

 

 

 そのころアルベドが何百回目かの『ひぎぃ!』という言葉を吐いていたのかを二人はまだ知らない。




コメディだからシリアスなんていらないんだけどね。ずっとHしてるだけだと話が進まないんだよねw


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5 王国戦士長

ガゼフさんは前回散々書いたので書きやすいかもしれないw



「お前らあれだよな、結構容赦ないんだな」

「光栄でございますご主人様の御友人様。ですがあなた様の不殺の心得感服いたしました。妹のオルトリンデなどほら……あれは完全に惚れこんだ瞳をしておりますね。どうでしょう側室などは」

「あぁあ、ご所望じゃないです! そんなことより周辺警戒とそいつらの見張りを頼むよ」

「かしこま!」

「こら! グリムゲルデ! 申し訳ございませんご主人様の御友人様。勅命拝命いたしました」

 

「名前どころか個性もあるのかよ……すごいな」

「さっきの長女ブリュンヒルデはモモンガ様のような優し気な方に言葉で責められると興奮するそうでありんす」

「いつ聞いたの!?」

 

 何とか平静を取り戻したペロロンチーノは戦乙女たちと合流。村の者たちの手も借り騎士たちを縛り上げ、ようやく話が出来るように落ち着けるまでかなりの時間がかかってしまった。

 

 そもそも村人の、特に女性陣があんなにも早く起きて戸外に出ようとしていたのは想定外だったのだ。あとで聞いた話では水汲みは女の仕事なのだそうで、偶然だか必然だか狙い撃ちになった形になり、天使たちはなりふり構っていられなかったそうだ。

 

 その結果が敵兵死者20名近く。村人に怪我人はいたものの死人がいなかったことだけは幸いだ。

 

「もう一度言うが、ありがとうペロロン君! それで……モモンガ君とアルベドさんは大丈夫なのかね?」

 

 何故か助けられた村人たちは女性たちを筆頭に笑顔で感謝を伝えに来る者ばかりだ。もう少しあの翼の生えた天使たちを不審がってもおかしくは無いが、確かネムといったか。あの子と一緒に走り回って遊んでいるようにも見える一番年下の天使を見て納得もする。

 そりゃ見た目美少女で悪意のカケラも見当たらないもんなと。

 

 ただあの天使たちを説明するために、『モモンガさんとアルベドの合同召喚術で……テントで今頑張ってるんすよ! 激しく!』なんてぶっちゃけちゃったのは、あいつらが全く出てこないせいだから仕方ないよね! なんて理由だとかなんとか。

 

 それより問題なのは捕らえた騎士たちの素性なのだが、天使たちの中に信仰系マジックキャスターがいたことにより、傷は癒せたのだがまったくしゃべらない。

 いや、違った。うるさいぐらいしゃべる隊長だとか言うのがいたが天使に殴られて気絶している。

 

 シャルティアの魔眼という手も無いではないが、手の内を見せる必要すらないし、ビクビクとペロロンチーノの後ろに隠れ、儚い気弱な姫の演技を頑張っているシャルティアを邪魔することも無い。

 お前昨日村長たちの前でぶっちゃけたよな? とは決して言わない。

 

 その後天使たちが離れた場所にいたらしい予備兵らしきものたちを拘束してきたりと色々あったが、村の奥様方が広場で炊き出しをしてくれているのを見てペロロンチーノはあることを思い出す。

 

「あ……テントに食えるもんあるかも」

「あそこになにかありんしたでしょうかえ?」

 

 そもそもあのテントはモモンガとペロロンチーノが三か月間のレベリングで使用していたものだ。ペロロンチーノも持っていたのだが、単純に役回りというかモモンガが担当していただけで他意は無い。

 ゲーム内でテントなんてそんなに使わないだろうと思うかもしれないが、ドロップアイテムの類が膨大であったのだ。

 そしてゲーム末期であったためレアの類は売りようもない二束三文。むしろ何の価値も無い通常ドロップの方がNPC商人に売りつけられる為に価値があったりしてしまう。

 つまりクリスタルを筆頭に三か月分のレア素材をどうすることもできないままテント内倉庫にしまったままであったのだ。

 

 シャルティアを伴ってテントに戻ったペロロンチーノは、リビングスペースの一角の宝箱のような倉庫を開けて手を伸ばす。頭の中に何がどれくらいあるかという情報が入ってくることに驚愕するが、してやったりとピンク色の座布団のような大きさの物体を取り出した。

 

「お肉……でありんすか?」

「うん。所謂調理素材でバフ料理に使う系の肉だな。数百程あったけどこれ食えるんじゃないかなって」

 

 コック技能がある人であれば他の素材も加えてバフ料理が作れるんだけど、肉は肉だし食えるんじゃないかと考える。

 物は試しだとそれを抱えて広場にいる奥様方にお願いしてみた。

 

 あまりにも巨大な肉にものすごくびっくりして恐縮していた奥様方だったが、この地方独特の料理なのだろうか。先日食べた麦粥のようなものに味付けされて煮込まれたり、塩焼きにしたりと大盤振る舞い。

 先日は苦い顔をしていたシャルティアも笑顔になるような美味しい料理を振る舞ってくれた。

 

 そんなこんなで縛られた兵士たちに見せつけるように昼食を堪能していたのだが、天使たちの報告で事態は急展開を迎える。

 なにやら戦士の一団が迫ってきていると。

 

 詳細な情報を得てその一団にピンときたペロロンチーノは、対峙することを選択。ちらっとテントを見ながらそっちの方を心配しつつも、天使たちに引き続き村人の守りをお願いし、戦士団へはこちらで対応することを伝えた。

 

「感服するばかりですご主人様の御友人様。見てください妹のジークルーネがあなた様を……あれは完全に惚れた瞳をしておりますね。どうでしょう側室にもう一人」

「わかったから! いや、いらないから! 村人の守りは頼むよ!」

 

 自分が突っ込み役に回るとは思いもしなかったなんて考えつつ、まだまだ新しい発見もありそうだぞと考えつつ、シャルティアの手を握り締めてその時を待つペロロンチーノであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 王国戦士長ガゼフ・ストロノーフは村から立ち上る煙を見とめ、自身の騎馬の速度を上げる。

 

「くそっ! また間に合わなかったか!」

 

 それがまさか村の炊き出しの煙だとは思いもしない戦士団は、全速力で村へと侵入。早々に村の中央広場へたどり着き村がまだ健在であったことに安堵の息を吐く。

 

 見とめられたのは三人。村長と思わしき年嵩の男性と、傭兵のような少年。そして村には場違いなドレスを纏った黒髪の美少女が、少年の後ろに隠れるようにしてチラリと目に入る。

 よくよく周囲を見渡せば、広場の物見やぐらに帝国騎士が縛られており、藁をかぶせてはあるが、これも帝国騎士の死体であることが想像される。

 

 いったい何があったのか。いやそんなことより無事であったことの方が大事だ。部隊から馬を進め三人に対峙して声を上げる。

 

「私は王国戦士長、ガゼフ・ストロノーフ。この近隣を荒らしている帝国騎士を討伐するために、村々を回っているものである」

 

 瞳を広げポカーンと口を開いた少年傭兵が気になるが、さすがに村人と言う線は無かろうと村長と思わしき男性に声をかける。

 

「村長だな? 無事で何よりだがそちらの……少年少女はいったい?」

 

 もしかしたらあの少年が村を救ってくれたのかもしれないと幻想を抱くも、それは無理であるかと考えつつ答えを待つ。

 なにやら村長に耳打ちされた少年は笑顔を見せて答えてくれた。

 

「はじめまして。俺はペロロンチーノと言います。とりあえず味方とみていいんですよね? この村を助けたのは俺だけじゃないんですけど……先日から居合わせたよしみというかなんというか。とにかく助けが来たのはありがたいです」

 

 どうやら先ほどまではいたのであろう。遠くの住居からの視線も感じるということは、先ほどまでここで炊き出しの最中であったのだろうと察する。そこに仲間の傭兵もいるのだろうなと。つまりは彼……もしかしたら彼女が傭兵団の代表であるのだろうかと考えながら礼を述べる。

 

「この村を救っていただき、感謝の言葉も無い」

 

 偶然居合わせたのかどうかは定かではないが、どう見ても純真無垢な青少年たちだ。その秘めた実力に感服するも頭を下げざるを得ない。

 良かった……本当に良かったと……

 

 だがそこで事態は一変する。一人の青年が近くの見慣れない大型テントから現れたのだ。そして少年と少女を見とめると声を上げる。

 

「ペロロンチーノさん! シャルティア! 助けて! アルベドが動かなくなっちゃって!」

 

 まるで笑いをこらえるようにテントに入っていく二人と、げっそりとした表情の青年を見送ると、その場に沈黙が訪れる。

 

「村長……すまんが説明をお願いする」

 

 ガゼフには全く分からない展開であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「彼らは大丈夫なのかい? ペロロン君」

「全然平気っすよ。ほら、あそこで肉食わせてますからそのうち回復するでしょう。それよりすいません話の途中で」

「いやなに、村長からある程度の話は聞かせてもらった。あの方々が『翼の生えた女性騎士たちを魔法で召喚して』云々というのは理解し難いのだが……あの黒い翼の女性も?」

「いえ、あれはファッションです」

「ツノのようなものが頭に……」

「アクセサリーです」

 

 自身の鋭い切り替えしに満足気な表情のペロロンチーノであるが、ガゼフが納得しているかどうかは定かではない。

 

 離席時間は十分ほど。さすがに友達の嫁の痴態を見ることが憚られたペロロンチーノはシャルティアに様子を見てきてもらうことに。『おなかぱんぱんでありんしたけど、起きておりました。触るとビクンとなって面白いでありんす』という報告に安堵(?)し、モモンガを一発殴ってから風呂掃除の罰を与えることを決め現在に至る。

 ガゼフに対峙しているのは村長とペロロンチーノのみ、完全に蚊帳の外であり状況が呑み込めてないモモンガとアルベドはシャルティアに任せることにした。

 

「まだその女性騎士の方々を見ていないのだが……お会いすることは可能か?」

「はい。おーいモモンガさんあいつら呼んでくれ」

 

 天使たちは複数の家と村の倉庫にまとまって避難していた村人たちを守るために分かれて警護している。自身が呼んでも来ないだろうが召喚主なら呼べるだろうと。

 

「わかりましたー。ワルキューレ集合!」

 

 声が届くのかなんなのかはわからないが、複数の方向から広場に向けて天使たちが飛んでくる。そしてまたしてもモモンガを……いや今回はモモンガとアルベドとシャルティアを囲むようにして跪く。

 

「ご主人様、残念ながら丁度召喚限界になります。次回お呼びの際はぜひこのブリュンヒルデにも」

 

 言葉の最中にビュン!と上空へ飛び上がるように消えていった。

 

「……え、最後すごい気になるんですけど。今何時だ? 昼時だと思ったけど10時くらいなのかな? それなら召喚時間は12時間なのかな……そもそもこっちの一日が24時間なのかもわからんが」

「もう呼ぶのはやめましょうモモンガ様。あの者は危険です、まだ私だけで大丈夫です!」

「えー、また呼んでほしいでありんす。あいつら結構面白いでありんすよ」

 

「あの……ホントすいません」

「いや……本当に魔法で召喚された者達であったのだな……」

 

 全員で空を見上げながらとかいうおかしな絵面で会話が行なわれていたのだが、丁度そこへ戦士団の騎馬兵からの報告が入るのだった。

 

「隊長! 村を囲うように複数の敵兵らしき者たちが!」

 

 事態は第二の局面を迎える。

 

 

 

 

 




アルベドさんの翼や角は今後誰も触れてこないと思いますが、そういう事でお願いしますw


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6 異世界ホームラン競争


今更だけどこれ連載に変えた方がいいのかな? 短編も入ってるからこのままでいいのかな? 分離して投降すると見る人が面倒くさいと思ってこうしたんだけど、まぁなんか言われたら変えようと思いますw



「モモンガ様、あれも天使なんでありんすか?」

「うん、炎の上位天使(アークエンジェル・フレイム)だな。でもあれは野盗とは言わないよなあ?」

「確かに盗賊の類ではありませんね。軍隊なのかしら?」

「お前らそろそろこっち来て座れー。相談始めるぞ~」

 

 まるで電車内で外の景色を眺める子供のような光景だが、膝をついて窓の外を覗き見る三人のうち二人はまるで状況が呑み込めていない。

 シャルティアの説明ではペロロンチーノの雄姿しか語られていないからだ。

 

 現在四人は村長宅を間借りしているのだが、先ほどまでいたガゼフ戦士長はペロロンチーノと村長との会話を終え出立している。

『できれば……村人を守っていただきたい』との言葉を残し答えも聞かず死地に向かって行った。

 

 ―――未知数な力を持っているかもしれないが少年が一人に、病弱であるかのように白い肌の華奢な美少女。ふらふらとよろけるように歩いていた虫も殺したことが無いようなとてつもない美女と、ゲッソリと頬がこけてはいるが優しさが服を着たような笑みでその女性を献身的に支える青年―――

 

 ぶっちゃけガゼフの想像はほとんど幻なのだが、そのような手合いに共闘を申し出るほど彼は鬼ではなかったのだ。

 

「モモンガさん……最初に要点だけ言うと『人を殺す覚悟』ってやつ……アレ舐めてた。ラノベとかでは馬鹿にしてたんだけど結構厳しかったよ」

 

 手がすっげー震えちゃってさなんておちゃらけながら、今朝がた起こった出来事を順序良く詳細に説明していくペロロンチーノ。

 最初の一言で大声を上げてしまいそうになったが、モモンガは最後まで何とか黙って話を聞くことができた。

 シャルティアがまるで聖母のような表情でペロロンチーノの横に侍っていたことにも理由があったりする。

 

「ぐっ!? すいません、俺がいない間にそんな思いをさせちゃって……」

「いやいや殺してはいないぞ。そもそも俺らの行動自体が行き当たりばったりなんだからモモンガさんのせいってわけじゃないって」

 

 今はもうなんともないよと朗らかに笑うペロロンチーノ。その瞳に嘘は無い。

 それでもと追いすがろうとしたモモンガであったが、それを止めたのはアルベドであった。

 

「……正直お二方の気持ちが理解できていないのが私だけ(・・・)だというのが悔しくてなりません。ですが今は時間が無いのではないかと察します。ペロロンチーノ様、行動方針を」

 

 自身の膝を爪が食い込むほどに握っていたモモンガの手をギュッと包み込むようにして、アルベドはそう言葉を挟み込む。

 

「アルベドの言う通りだ。俺たちは村を野盗から守ると決めて行動してたのに、なんだこれ? ってくらいに規模がでかくなってきたからな」

「小目標は『食料調達』……でありんしたのに戦に巻き込まれておりんす」

「ですね……接触ついでに野盗をふん捕まえても良しって考えだったけど……国と国の争いに関係しているみたいな」

 

 なんでこんなことになってるんだと嘆きそうになるが、ここでもやはりアルベドはぶれない。

 

「つまりは村を救うという確定事項の元に行動されるのですよね? モモンガ様、お願い致します」

「ふぁっ!?」

 

 思わず変な声を上げてしまったモモンガであったが、考えてみればここで逃げ出すというのは憂いを残す選択であり当然ない。ペロロンチーノも当然そう考えてはいるだろうが、吹っ切れない理由があるとすればその経験のせいだろう。

 本来なら蚊帳の外だった自分の選択肢は『ペロロンチーノの考えに全て従う』というものだったのだが、それは相手を思いやる気持ちだったとしても、ある意味投げっぱなしの行為だ。

 逃げないというのはつまり戦うということで、それを酷な経験をしたペロロンチーノに言わせるというのは避けたい。

 

 ああそうか、だからアルベドはいつもと違ったそんな態度であえて俺に選択権を振ったのか、とハッとする。

 

 過程を省いてはいるがモモンガが選択した方が……いや、モモンガならもっとうまい解決策を提案できると確信しているのだろう。

 もしかしたらそれに『モモンガ様の恰好良いお姿を私も拝見させていただきたいです』というシャルティアを羨む思いもあったのかもしれないが。

 

 頭良すぎる上に信頼が天元突破してんぞと考えながら、長考に瞳を閉じていたモモンガはペロロンチーノの顔を見つめなおす。

 ドンと来い! といったいつもの朗らかな笑顔に安心して言葉を紡ぐことにした。

 

 

「よし、プランBで行きましょう」

「ねぇよ!? じゃなくてわかんねぇよ!!」

 

 

 両者瞳を滲ませ笑い出す。いつも通りの空気感が戻ってきた瞬間だった

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさかあれをやることになるとはなあ。でもこの世界で通用するならいっそメインの攻撃手段にしてもいいかも? 俺も出来るのになんで忘れてたかなあ」

「なんの話でありんすか? それよりモモンガ様が心配でありんす……」

「見えないけどアルベドが付いてるから大丈夫だって、それより来るぞ。今回はさくさく狩ってやるから安心しろ」

「戦場は遥か下でありんすが狙い撃つのでありんすか?」

「いや、この空が戦場になるんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 村の包囲網をこちらに引き付けることは出来たが膠着状態……いや完全に劣勢だ。反転して戻ってきた部下たちも、力量的には負けてはいないのだが、天使たちや飛んでくる魔法にどうすることもできていない。

 かくなるうえは指揮官を狙うしかと目標を定めた直後、ガゼフの横まで走りこんでくる人影を見受け、それが部下ではないと気づいて驚愕する。

 

「あなたは!? 確かモモンガ殿! 何故ここへ!」

「ストロノーフさん、天使たちは全部私がやります! そしたらどうにかなるんでしょう?」

 

 何の変哲もない金属の棒を握り締め、青白い顔をしながらも鬼気迫る程の覇気。彼がどれほどの実力の者かは知れないが、村人を守る人員をこちらに割くわけにはイカンと声を上げる。

 

「モモンガ殿! 御助力ありがたいが貴殿は村へ」

 

 そう告げるガゼフの言葉を遮り届いた言葉は、まるで自身を鼓舞するかのような悲痛な雄叫びだった。

 

 

 

「私も……俺もやってみないとですね……友達の隣に立てんのですよ!!」

 

 

 

 歯をガチガチに食いしばって緊張はしているものの、その目は引いて堪るかと、本気だと訴えかけているようで。

 

 不思議と彼をまるで10年来の親友のように信頼してしまう自分がいた。

 

「狙うは敵指揮官! 突貫する!!」

「続きます!!」

 

 

 

 

 

 

 走る、走る、走る。

 

 距離的には300mもないはずだ。ただそれを阻むのは無数の天使たち。敵兵45名のうちほとんどが第三位階の使い手のマジックキャスターである陽光聖典。

 その人数と同じ数の天使たちが、一体、そして二体と数を増して迫りくる。

 

 だがそれは私の相手ではない。

 

 まずはと一体の天使がガゼフと並走するモモンガに向けて剣を前方に向けながら突っ込んでくるが、一閃。その金属の棒で下から掬い上げるようにぶちかます。

 

 『カキーン!』といい音がしたかと思うとその天使は影も形も見当たらない。

 

「なるほど……頼もしい!」

 

 何が起こったんだと考える前に思わず笑みを浮かべてしまう。聴きたいことは生き残ってから聴けばいいと改めてすべてを無視して……いや全てを任せて走る。

 続けざまに二体の天使が両脇から迫りくるも、モモンガは素早いステップで『カキーン! カキーン!』とその天使たちを打ち上げていく。

 

「よしっ……怖かったけど大分動けるようになってきたな」

 

 なんて小さな声を漏らすモモンガの横では荒い女性の鼻息が聞こえたとかなんとか。

 

 

 

 

 

 

 

 

「よっと! さすがモモンガさん、狙いばっちりだぜ!」

「な、なんなんでありんすか!?」

 

 上空ではシャルティアに跨って飛んでいたペロロンチーノが、打ちあがってきた天使たちを次々と撃ち抜き、光の破片へと変えていく。

 

「これモモンガ様がやっているのでありんすか? またとんでもなくスゴイですけど面倒なことを……そのまま倒さないのは?」

「ああ、俺のリハビリも含んでるわけだ」

 

 というか対人の場合、横に吹き飛ばすという不殺を考えたモモンガの策だったわけだが、表向きは今度こそカッコイイ自分をシャルティアに見せるためにモモンガが提案してくれたということになっている。

 そもそも王国戦士を支援するだけならモモンガの魔法でどうにか出来るのだが、レベリングに必要な魔法しか取っていなかった彼は、新たに低位階の滅多に使わないような捕縛魔法なりを選択しなければならないということになるそうだ。

 そんなことを早口で捲し立てていたモモンガの真意は別にあったのだが、単独で迎撃すると言う彼の言葉には全員が驚きを隠せなかった。

 

 スパーンと一撃で花開く光の環はまるで花火大会の様相であるが、シャルティアがうっとりと見つめるのはペロロンチーノであったりして、その作戦は成功のようである。

 それでも疑問に残るのはあの鉄の杖だと考えるシャルティア。持っているのは以前あのテントで教えてもらっていたのだが、何故そんなものを持っていたのか疑問であったのだが、ペロロンチーノの言葉が解消してくれた。

 

「俺とモモンガさんのペアはさ、ちょっと特殊なんだ。普通なら後衛二人なんてペアはまず組まない。でも俺たちにはそれしか出来なかったからいろいろ工夫したりしてたんだぜ」

 

 そう言ってペロロンチーノは弓をさっと装備換装。飛び上がってきた天使を撃ち抜くと、まるでピンボールのように同じ軌道で降下していき、モモンガたちの背後の地面に叩きつけられ消滅する。

 

「ありゃ、ぶつかったら死ぬのか……そりゃそうだよな。でもこの武器もモモンガさんの『金属バット』って名前の杖も攻撃力は殆ど無いんだ」

「……ヘイトコントロールでありんすか?」

「お! いいとこ突いてくるな。俺たちはさ大量の敵を一まとめにして倒してきたんだけど、数が増えてくるとまとめきれなくて抜け出てきちゃう敵が出てくるんだわ」

「うーん……つまりペロロンチーノ様がまとめた敵からこぼれたのがモモンガ様のもとに行くのでありんすね? それを打ち返すのでありんすか」

「そう、『お手玉』って戦法に近いかな? 俺も範囲や直線貫通攻撃があるわけで、敵モンスターを纏めるのに結構便利なんだ」

 

 まあ混雑した狩場でやったら掲示板に晒し上げだけどなんて呟きながら、いまだ打ちあがってくる天使たちを、またしても装備換装してサクサクと狩っていく。

 本来は養殖……いや相手にのみ経験値を与えるために無傷でまとめる為、または被弾しない為の策であったのだが、上手い説明が浮かばず、ペロロンチーノはそのことには触れてはいない。

 

 そして一際大きな天使が浮かび上がってきたことで地上での戦闘は終焉を迎えるのだった。

 





そろそろ連続投降が止まりますw すまんのw


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7 極上の美食

美人で可愛くて飯が旨くて旦那のことが大好きでエッチ。モモンガ爆発しろ!




「なんでなの……奥様方には出来るのに……」

「おかしな話だねぇ。あなた意識飛んだようだったよ」

 

「あれ? この村のお肉なら出来るでありんすね?」

「あはは、今度は炭にしないようにね。うん、そろそろ野菜を入れようか。ネム! つまみ食いしない!」

「はーい」

 

 明けて翌日。テント前広場には香ばしい……若干焦げ臭いが、食欲を誘うにおいが漂っている。

 

「あー……君たち料理が気になるのはわかったから、戦士長様のお話を聴いてあげてくだされ」

「妻と娘たちならお嬢さんたちに料理を教えられるさ。だから、な?」

 

 そわそわと落ち着かない様子で炊き出しの調理を見守るモモンガとペロロンチーノ。ガゼフ・ストロノーフはそんな微笑まし気な状況を笑顔で見つめながら話し出す。前日の戦闘を思い出しながら。

 

 

 

 

 

 最後の攻防は実に呆気ないものであった。

 

 敵指揮官が召喚した他のものより大きな天使をモモンガが打ち上げると、ガゼフは身体強化の武技を最大限に発揮し一撃。

 魔法的防御があったのか、その装備のせいなのか。即死させるまでには至らなかったが瀕死の重傷を負わせ、無力化させることに成功したのだった。

『ま、待て! まだ私にはこれが!! アッー!?』などと最後に口走っていたが待つ同義など皆無である。

 

 正直陽光聖典の部隊がすぐさま撤退を始めたのは僥倖だった。その統率の取れた動きと魔法による情報の共有だろうか。無駄に足搔こうとするでもなく撤退を選択する練度の高さに驚愕するも、こちらも満身創痍。

 頼みの綱であるモモンガ殿も、鉄の棒を地面に付き肩で息をして大粒の汗を流している。

 

 その理由は知れないが奴らの狙いは確実に王国戦士長である自分であり、村を襲う帝国騎士もその陽動であると判明している以上、深追いは不要。

 

 完全勝利とは言えないものの、この騒動に終止符を打つことが出来た。

 

 積もる話はあるものの村へと帰還し、村長へ簡単な報告を済ませてから我らは広場へ。テントの前で待っていた三人に……いや白磁の女神に彼を託し、すべては翌日にと告げ、今に至る。

 無論こちらは交代で見張りをしながらではあったが、そういえば彼は眠ることが出来たのだろうか。

 別れ際に『寝たい……あ、そういえば三日も寝てなかったな』なんておかしなことを呟いてはいたが、眠ることで頭と体をリセットするのは大事なことだ。

 彼らの表情を見返せば休息はとれたのだろう。若干ほほもふっくらとしているようだ。

 

「あらためて、此度の御助力感謝する。モモンガ殿が来られなければ我らは壊滅していたことだろう。だがそれを置いたとしても君らの素性が伺えん。もちろん無理にではないし話したくないと言えば構わないのだが……」

「もちろん構いませんが……ちょっと突拍子の無い話になるんで……」

「ガゼフさんから見れば俺らってどう見えるんだ?」

 

 帰ってきた言葉に安堵しそれに答えるように一考。貴族の娘とその従者であるというのが第一印象であったが『貴族の娘と、その従者に扮した貴族の男性』というのが正直なところだと返答した。

 

 まず武具と言えど身なりが整いすぎている。単なる傭兵に揃えられるものではないのは一目瞭然だ。

 もうひとつは戦闘中に垣間見た不自然なまでの力のアンバランスさ。あの武器のネタ晴らしは聞いてはいたが戦士としての技量はありそうにも思えるのだが、どうにも戦闘を生業にしている者ではないと断言できる。

 

「あーバレバレですね」

「はずれてるけどバレバレだったな」

 

 そこから語られたのは、彼女たちもある意味『箱入り娘』ではあるものの貴族ではないし、彼らもただの一般人だということや、どこか遠くの国から転移してしまった等々。

 到底信じられるものではなかったが、信じてもらえないだろうからアンダーカバーを用意したという話には納得もしてしまった。

 

 これも王に伝えねばならないがと頭を悩ますが、彼らの行為は賞賛されてしかるべきもの。どうか王宮へご同行できないだろうかと問うも、すげなく断られる。

 

「これ以上面倒事は勘弁願いたいんです……すみません」

「でも王都は行ってみたいな」

 

 なんて返答に『なら是非我が家へ。君たちなら大歓迎でもてなすぞ』なんて言っちゃったことで後に大変なことになるかもしれないのだが、丁度そこへ料理の皿を持って女性陣があらわれ、楽し気な昼食会が始まるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁ、うちの嫁は天才ですね! こんなうまい飯初めて食べたよ。考えてみればオーバーロードのままだったら出来ないことが沢山あったんだなぁ……ペロロンチーノさんにも感謝しきれないよ」

「いやいやそんなことより、シャルティアの肉野菜炒めも最高だったよな! う~……愛妻の手料理とか最高かよ!」

 

「もう……本当に勘弁して下さい。本気でおっしゃっているのはわかるのですがあまりにも恥ずかしくて……」

「焦げ焦げでありんした……精進するでありんす……」

 

 一方は天にも昇るような表情で、もう一方は顔から火が出るほどに赤くなり、嬉しさよりも羞恥に身を縮こませている。

 

 あれから戦士長達は早々にこの村を出立している。早急に王への報告と対策が必要であるらしく、村の荷馬車を借り受け、捕縛した騎士五名と未だ昏睡状態の指揮官を載せて、まずは城塞都市のエ・ランテルに向かうそうだ。

 荷馬車はエ・ランテルから返却され、その際には支援物資も詰め込んでなどと村長と約束していた。

 

 村長たちは現在村の代表者たちで会議中であるらしい。そもそもオークやらゴブリンやらがいる世界で柵すらない村など正気の沙汰とは思えないが、それにも理由があったらしく、それでも今回のことを教訓にしなければということになったらしい。

 

 モモンガたちの立場はそのまま。貴族とその従者という装いは一部の人たちを除きそのまま受け止められているものの、村を救った勇者たちであることに間違いはないのだが、遠慮されたのか会議には呼ばれてはいない。

 

 そんなこんなでリザルトというか報告会をいつものリビングでおこなっているのだ。

 

「それより少し奇妙な出来事がございまして……」

 

 から始まるアルベドの報告は、ペロロンチーノの持ち込んだ肉だけ調理が不可能であったとのこと。この世界の食材なら不器用ではあったものの扱えたことを。

 

「でも昨日食べたよな? あれはなんだったんだ?」

 

 理由は分からないが村の奥様方は調理が可能だった。エンリやネムでさえもだ。

 

「つまり私たちはなんらかの……って決まってるか。ユグドラシルの法則に縛られてるんでしょうかね?」

「あー……料理そのものじゃないよな。バフ料理が作れないって事かな?」

 

 うんうん考えながらこれはどうだろうとペロロンチーノは弓を取りだす。レベリング中盤に使っていた威力強化に特化してはいるが一般的な弓だ。

 

「ユグドラシルなら俺以外弓って使えないよな? 試してみてくれよ」

 

 モモンガもアルベドもシャルティアも弓を扱うクラスは取得していない。順番に試してみると持つことは出来ても弦を引くことも矢をつがえることも出来ずに取り落としてしまった。

 

「この世界の食材ではバフ料理は作れないんだろうな。つまり手持ちの食材を俺らが調理するにはコックかなんかのクラスが必要なんだろうね」

「この世界の者たちにはその法則が無いから料理できちゃうわけか」

 

 だんだんとその理由が分かっていき残念な気持ちもあるが光明も見えてくる。

 

「でも大したことないな!」

「そうですね、この世界の食材で作ればいいんですから……あー思い出してきた、めちゃくちゃ美味しかったなあ」

 

 それでも嫁の手料理は食えるのだ。そんな嬉しさでいっぱいな男性陣は些細な問題だなと笑顔で語りあう。

 そんな様子を、嬉しくて照れくさくて、そして申し訳なくも思いながら笑顔をこぼす女性たち。そんな優しい時間が流れていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「綺麗なものだなあアルベド。稲穂が風に揺れてキラキラと輝いているみたいだ」

「ふふっ。昨日もおっしゃっていましたが確かにナザリックには無い美しい光景ですね。第六階層に近いところはありますが……あ、すみませんモモンガ様どちらがどうという訳では……」

「いや、いいんだ。あの階層を作り出したブルー・プラネットさんだってそう言うに違いないよ。むしろ彼が目指したのはこれなんだからな」

 

 手を繋ぎ寄り添いあい、にこやかに語り合う二人が何をやっているのかと言うと……ただのデートである。

 単純にテントを追い出されたという理由でもあるのだが今夜は彼らの番であるようだ。別に部屋が違うんだから問題ないじゃないかと問えば、何かがあった時対応できないだろうと前日起きていてくれた彼らに論破されてしまう。

 

―――「ぺ、ペロロンチーノ様どうかお手柔らかに……それとアルベド。デートも存外楽しいものでありんしたよ。エッチであるのはわかりんすが、もう少し自制すべきでありんす」

「そ、それは私に言わないで頂戴!? いえ自覚はあるしその通りなんだけど、今は完全に自信を無くしているわ……私サキュバスなのに……」

「よし! よおし! アルベド、デートだデート! い、行くぞ!」―――

 

 なんて会話が直前に会ったことは置いておいて、あれほど爛れた関係でありながら、傍から見ればまるで付き合いたてのカップルのように見えるのは不思議ではないのだろう。

 

 妻だ夫婦だなどと言う前の過程を吹っ飛ばしすぎなのだから。

 

「モモンガさーーん。……やっぱりやめませんか? この呼び方はどうにも」

「やっぱり嫌か? 勿論無理強いはしないけど、出来ればその呼び方も慣れておいてほしいかな」

「あのアンダーカバー的役割はどうやら的確であるようですしね……確かに必要ではあるのでしょうが」

 

 やはり深層意識に刷り込まれた『至高の御方』という思いが先行してしまう。

 

「ふ、夫婦なんだからむしろ呼び捨てでも構わないんだが、様も含めて好きなように呼んでほしいかな。アルベド様」

「もう、モモンガさんたら。ふふっ、あぁ楽しいですね」

 

 なんていちゃいちゃしながらアルベドは昨日の光景を思い出す。自身にすべてをゆだね、指輪を外して眠りについたモモンガを。

 自身に抱き着き眠る主にエッチな気持ちが抑えられず色々してしまったが、あれもまた格別であったなあなんて。

 

「どうしたんだ? 何か嬉しそうだな?」

「いえ、少し先日のことを思い出してしまって」

 

 そうにこやかに答えるアルベドであったが、モモンガは少し笑顔を曇らせる。

 

「昨日は済まなかったな……私が押し切ったのに無残な姿を晒しちゃって。見ていたのだろうが信じてくれ、お前を守りたい気持ちは本当なんだ」

「あれのどこを無残だとおっしゃるのですか……むしろペロロンチーノ様に嫉妬してしまう程でございましたよ」

 

 震えて虚勢をはり、肉体的には掻くはずも無い汗を精神的疲労によって垂れ流す。そんな姿を見せつけられたら女性は残念に思うだろうななんて考えていたモモンガにはその答えは意外であった。

 

「強さとしては当然卑下するべくもあらず。御身はマジックキャスターでございますよ? むしろ誇りに思うほどかと。それに……こう言ってはなんですが胸躍るものがございました。か、格好良かった……です」

 

 そう言って頬を桜色に染めるアルベド。

 

 二人の夜はまだこれから。モモンガが押し倒すことを我慢できたのは奇跡ともいえる。

 

 

 

 

 

 

 なお、やはりその頃シャルティアが人に見せられないような顔で気絶しているのを彼らは知らない。

 

 




『肉が焼けない』ってやつアレ書籍だと無いんだよね。ゴブ軍団が飯の用意が出来ないって描写があったくらいかな?
 捏造解釈かもしれませんが、嫁の飯を食べるためにそういう事でお願いしますw

↑書籍四巻にありました! すいませんw


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8 恋のキューピッド(悪魔)

「くらぇええ! チェストォオ!!」

「いっけーモモンガ! そいつで最後だ!!」

 

 秘境トブの大森林。その奥には知恵ある大魔獣が住み、その一帯を縄張りにしているという。他にもゴブリンやオークにオーガなどなど凶悪な怪物が跋扈する森に壮絶な雄叫びがこだまする。

 

「いや……普通にスゴイんだけども、あまり大声は出さないようにね」

「まぁここは森の浅いところだから問題ないが……よく剣で大木が切れるもんじゃのぅ」

 

 あの激闘から一週間ほど経っているのだが、何故か彼らはいまだカルネ村に居座っていた。

 

「す、すいませんエモットさん、ラッチモンさん。つい調子に乗ってしまって」

「掛け声的なもんだったんです……そっか魔獣とかいる世界なんだよな、危ない危ない」

 

 主に魔獣の方が危ないような気もするのだが、ここのところモモンガたちは木材の伐採作業に精を出していた。

 事の発端は料理の話にあり、エモット家でもう少し修行させてもらいたいとアルベド・シャルティア両名が申し出たことに起因する。

 早く都市部にも行ってみたい気持ちも彼らにはあったのだが、考えてみればここを逃すと彼女たちに料理を教えてくれる者など現れないのではないかという思いもあった。

 前世界で美食の類など触れたことも無い彼らにとっては十分美味しく感じたのではあるが、彼女たちには納得いかないのであろう。

 もちろん愛する嫁たちの可愛いお願いを断るわけもなく、一行はカルネ村でスローライフを始めるに至ったのだった。

 

 二児の母であるエモット夫人はかなり姉御肌な面倒見のいい性格であり快く了承してくれたものの、二人の性格というか、種族というかが少し心配ではあったのだが。

 

「そんな技が!?」

「もはや格闘技ではありんせんかえ!?」

「うふふ、じゃぁそっちも教えていきましょうね」

「お母さん!? それ、え、エッチな話だよね!?」

 

 なんて会話があったりなんてことは彼らは知らないが、関係は良好。何故か師匠と呼んでいたりする。

 

 そうなってくると元社畜の魂が疼くのか、のんびりとしてなどいられない。

 

「ペロロンチーノさんあのさ、仕事から帰ってくると嫁が」

「みなまで言うなよモモンガさん……つまり」

 

 言葉など不要とばかりに『裸エプロン』を連呼しながら村長宅へ。さすがに村の英雄に仕事などと一度は断られたものの、是非にと頼み込む二人に、丁度村の柵を作る木材の調達に苦心していた村長にとっては渡りに船でもあったりして、簡易的に現在の職を得たのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ンフィーレアさん! こちらの荷馬車を追い抜いては困ります! 逸る気持ちはわかりますが、もう少しですから」

「あ……ごめんなさいペテルさん。どうしてもエン……いえ無事だとは分かっているのですが心配でつい……」

「そりゃ他の村々は壊滅って話だからなぁ、彼女が心配なのも分かるぜ」

「ルクルット、心配を煽るのはよすのである」

「い、いや彼女ってわけじゃあ!?」

「ふふっ、好きな人でしたっけ。昨日聞かせてもらいましたからね」

 

 日が高く昇りはじめそろそろ昼時といったころ。街道とも言えぬあぜ道を、二台の荷馬車と冒険者たちが進んでいく。

 

 

 

 

 冒険者チーム『漆黒の剣』が今回選んだ依頼は……いや幸運にも一早く発見できたこの依頼はかなりの好待遇であった。

 依頼の内容は盗賊の被害にあったカルネ村への支援物資の供給である。

 本来なら国の兵士の仕事であるのだろうが、言っちゃ悪いがこの国にそんな優しさは皆無。さすがに自国の民であるのでいずれかは訪問なりするのであろうが、温情など微々たるものであろう。

 

 だが今回の依頼者は王国戦士長ガゼフ・ストロノーフその人であったらしい。

 

 実際本人が冒険者組合に依頼をしに来たわけではないが、戦士団の方々が平服……つまり一般人として依頼しに来たそうだ。

 隊員のほとんどが平民であった彼らにとって、村の共有財産であり必需品である荷馬車は一刻でも早く返却をと考えたのは当然で、エ・ランテル都市長を信頼していないわけではないが、早急にとはいかないことも分かっていた。それゆえのこの依頼だったのだ。

 彼らもすぐさま王都へ立つために支援物資の調達も冒険者組合に依頼しており、ついでに言うとその金もガゼフの懐から出ていたりする。

 

 まあそんなわけで容易なお使いクエストではあるのだが、銀級以上の(組合が信頼できると判断した)冒険者に限られており、それを『漆黒の剣』が掴んだというわけだ。

 

 戦士団がエ・ランテル入りしたことで、近隣の野盗が討伐されたという噂は巷では噂になっていたのだが、研究的な意味で籠るタイプのンフィーレアがこの噂を聞いたのは翌日に冒険者が店舗に訪れた際の雑談が発端であった。

 

「近隣の村は壊滅的だそうだけど、運よく戦士団に助けられた村もあるそうだぜ」

 

 取るものもとらず急いで冒険者組合へ向かった彼は、その奇跡的に助かった村がカルネ村であったことに安堵するも、すぐさま冒険者を雇い村へと急ごうと受付に申し出た。

 それならと組合の好意で『漆黒の剣』を紹介され、支援物資なら多い方が良いだろうと店の荷馬車に自作のポーションなどを目いっぱい詰め込んで同道することになったのだった。

 

 

 

 

「速度落とせ! ……なんだあ? 検問じゃねーよな? 動いてる?」

 

 幸いなことに接敵などもなく夜営を終え再び進行を開始した一行は、カルネ村まであと数十分といったところで、チームの目であるルクルットの声により速度を落とすことになった。

 他の者には点のようなものが見えたくらいだったが、徐々にそれが街道をふさぐ宙に浮く『横棒』のようなものが見えてくる。

 

「えぇえ!? なにやってんの!?」

 

 思わずそう叫んでしまったルクルットであったが、それを彼らは責められない。近づくにつれてそれが何かがわかったからだ。

 横に10メートルはあろう一本の大木を両腕に抱えた二人組がカルネ村方向へ歩いているのを見とめてしまったからだ。

 

「ま、まずい馬車来た! はぁ、はぁ、ペロさん前行って、前!」

「うぉ!? はぁ、ふぅ、わかった! きっついなこれ!」

 

 街道をふさぐようにして歩いていた二人のうちの一人が前方へと回り込み、二人してその両腕で掬い上げていた大木を手放した途端壮絶な音が響き渡るのだが……その二人も力尽きて倒れこむ。

 報告も忘れ口を大きく開けて見つめることしかできないルクルットであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「すいません、この木持ち難くって。どうぞ先行ってください、はぁはぁ」

「ふぅ、ちょっと休憩しようモモンガさん。あんたたちカルネ村に行くんだろ? 道塞いじゃってゴメンな」

 

 汗を流し呼吸は荒いが大木にもたれかかって休憩を始める二人にかけたい言葉は多数あったが、すでに村の畑が見え始めている距離でもあり、軽く質問する程度にとどめて一行は村へと進んでいく。

 

「村にしばらく厄介になってるって言ってましたけど、悪そうな人たちじゃなかったな」

「黒髪は少し珍しいのである」

「異国の方かな? 農夫のような恰好でしたけどンフィーレアさんの知っている人でしたか?」

「いえ……でもあの服エンリのお父さんが……」

 

 なおモモンガたちは絶賛『村人プレイ』満喫中である。

 

「おいおいお前ら! あの行動に驚けよ!? それにしてもすげぇ力だったな」

「確かに……でも俺とダインなら……厳しいか?」

「出来なくはないのであるな」

「時たまあるのかないのか分からなくなりますが……やはり前衛職はすごいですね」

 

「良かった……村は本当に無事みたいだ」

 

 あの状態で一時間以上歩いてるなど知る由もないペテル達だったが、不可能と言えるほどのことではなかったのと、行動の理由が現在引いている荷馬車にもあるとわかり、ンフィーレアが上げる安堵した声にその疑問も霧散する。

 荷馬車を広場のテント近くに停めると、ンフィーレアはエンリの家へと走り出す。漆黒の剣はそれを笑って見送り、近くにいた村人の案内で村長宅へ向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「アルベド、おんし今夜は大変でありんすよ。妾と同じ目に合うに違いないでありんす」

「そういばあなた朝方プルプル震えてたわね。師匠の技は試したの?」

「試す暇もありんせん……『スローライフとスローセックスって似てるよな』なんて言葉から始まって朝までずーーーっと」

「シャルティアちゃんそれ詳しく!」

「師匠、シャルティアそれよりモモンガさん(・・)達がそろそろ帰ってくる頃だから昼食の用意を急ぎましょう。そのあと詳しく!」

 

「え、エンリ……あの、無事で良かった……けどあの方々は」

「ンフィーあっちは無視でいいから。それにしてもよく来てくれたわね、ありがとう」

 

 村が無事だったとしても怪我人がいるかもしれない。それがエンリだったらと不安を胸にしていたのだが、いざ会ってみるとピンピンしているどころか「ンフィー? 今回は早いわね、また薬草を取りに来たの?」なんて明後日の答えが返ってくる。

 とにかく安堵しエンリが心配でと答えようとしたのだが、家に招かれるとその光景に思わず言葉が出てこない。

 エンリのお母さんはわかる。村で一番の美人だと冗談でエンリのお父さんが言っていたけど、確かに綺麗な人だった。

 その母親につられるように振り向く両脇の黒髪の女性たち。服装はエンリたちのような村娘そのものだったのだが、その美貌に驚いて声も出ないほどであった。

 

 一応挨拶などを交わしたのだが何も覚えちゃいない。ただ「ンフィー君その態度は無理もないけどダメよ? あっちでエンリとお話しててね」と言われ今に至るのだが。

 

「私はどっちでもいいのよ? ンフィー君でもモモンガさんでも」

「なるほど……理解しました」

「クククッ、アルベドいきなり真顔になるのはやめておくれなんし。お腹が痛いでありんす」

 

 なんてひそひそと聞こえてくる会話を流し、エンリに事の経緯や村の状況などを伺っていたのだが、丁度食事が出来上がったのかこちらのテーブルの方へ三人がやってきた。

 

「わざわざありがとうねンフィー君。お昼まだでしょ?」

 

 そう言ってテーブルの上に料理を配膳していく三人と手伝いに戻るエンリだったが、不意に年上の美女と目線が会い微笑まれてドキッとしてしまう。

 

「なかなかできることではありませんよ、素晴らしい事です。確かエ・ランテルまでは二日ほどかかると伺っております。愛する人がどうにかなってしまっているのではないかと不安で一目散に訪れたのでしょう? 確かにもう二度と会うことが叶わなくなる展開もあったのかもしれません……なら、そう今がその時なのではないのですか? ンフィーさん?」

 

 諭すように顔を近づけてくるのだが、その美しさよりその真摯な言葉に心臓をつかまれた思いだった。

 

「おぬし必死すぎでありんす。行くでありんすよ」

 

 そう言ってケタケタと笑う美少女に手を引かれ、かごに丁寧に入れた料理を持って家を出ていく二人。最後まで何かを訴えかけるように目線を反らさない美女に、何故か心が温かくなってくる。

 

 気付けば何故かエンリと二人だけ。エンリは不思議そうに頭をコテンと傾げるが、それもまた可愛いなあなんて……

 

(あの方は僕に勇気をくれたんだ……今でしょ!って)

 

 話から本当に今エンリが生きているこの状況は奇跡なんだと分かってしまった。あの方々の仲間や戦士団がいなければ蹂躙されていたことだろう。

 

「え……エンリッ! ぼくは!」

 

 少年の思いは届くのか。この天然属性を攻略するのは大変だぞとこっそり扉から笑顔でのぞき見していたエンリの母親であった。

 

 

 

 

 

 





確かエンリちゃんは村の男性と結婚して村に居たいはず。
ンフィー君は頑張らないとキツイっすねw


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9 可能性の話

 村長との会話を終え、少し早い昼食を頂いた漆黒の剣一同は、その荷馬車を村の倉庫へ移動させた後再びンフィーレアの馬車がある広場に戻ってきたのだが、その馬車の前で佇む二人の女性の後ろ姿に気が付いた。

 

「あぁ、アルベドさんたちか。そろそろモモンガ君たちも戻ってくる頃合いかな? 出来れば馬車を少し移動させてくれますかな、あの娘らは今日も外でお昼を食べるんだろうて。私は家に戻りますがなにかありましたらまた。今回は本当にありがとうございました」

「いえいえこれは依頼ですから。それよりしまったな、人が住んでいるテントだったなんて。ルクルット頼む」

「あいよー。はーいお嬢さんがたー、すぐに馬車をどけ……」

 

 振り向いた女性たちに完全に動きを止めるルクルット。これが普通の美しい女性たちだったとしたら彼は舞い上がり、すぐさま口説きにかかっていたであろうが、この世の美を超えた存在に時を止められる。

 ペテルやダイン、それにニニャまでもが息を止めてしまうほどの美貌にさらされ困惑してしまった。

 

 正直それは運が良かったとも言える。

 

 その時丁度女性たちを挟んで反対側から『ズドン!』という重いものが落とされる音がして、さきほどの男性たちがテントに歩いてきたからだ。

 

「ただいまアルベド。あ、さっきの人たちじゃないか」

「ただいまーシャルティア! ふぃー疲れたあ、さてお前にするか」

 

「おかえりなさいませモモンガさん。まぁ汗だくじゃないですか……はぁはぁ」

「おかえりでありんすペロロンチーノさん。それと嬉しいのですがいきなり私を選択するのは勘弁してほしいでありんすよ……今日は美味しくできた自信作でありんすのに」

 

 いちゃいちゃと人目もはばからず触れ合いながら、傍から見てもあーそうゆう関係なのかとわかるほど。ただもしそれが数分遅れていたならルクルットに悲劇が起こっていたかもしれないなんて、彼らには想像もつかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 この場で依頼主を待つそうなのでテントから椅子とテーブルを用意。自分たち用にはアイテムボックスからいつも使っているものを出したのだが、どこから現れたのか分からないテーブルと椅子に驚かれる一場面もあった。

 女性陣には端からそんな気などなかったのだが、限られた料理を冒険者四人に振る舞う余裕などはさすがになく、どうしようか悩むモモンガたちだったが、食事は済ませていますのでお気になさらずと言われ、それならとシャルティアにお願いして紅茶を振る舞うことに。

 

 あまりの空腹と上達してきている美味しそうな料理……といってもパンと煮込み野菜のスープといった質素な物であるが、歓談も忘れて食べ始める。

 もりもりと嬉しそうに美味しそうに食べる男性二人とそれを花開く笑顔で見つめる女性二人。

 

 なんともアンバランスな不思議な四人ではあったが、一人を除いて微笑ましく眺める冒険者一行だった。

 

 

 

 

 食事も済み一息ついた彼らは忘れていたとばかりに自己紹介を。

 

 それが妻であるなどと紹介されればさすがのルクルットでも美しさを賞賛こそすれ、口説いたりなどはしない。ただモモンガの顔を見て納得いかない表情になってしまうのもわかるとは言えるのだが。

 

「ルクルット、そろそろその仏頂面をやめるのである」

「だってよぉお、あー天国と地獄を同時に味わってる気分だぜ」

「私たちまですみません、この紅茶とても美味しいですね……まるで御貴族様の……」

「ごほん! というわけで私たちは冒険者『漆黒の剣』です。組合の依頼とンフィーレアさんの護衛も兼ねてこのカルネ村にやってきた次第です」

 

「へー冒険者っているんですね! お話伺ってみたいです!」

「チーム名恰好良いなあ! 黒い剣で戦うんだぜきっと! 魔法もあるか!」

 

 食いつきが半端ない二人ではあったが、あまり冒険者の話には食指がふれなかったりもする。話題はその黒い剣についてに代わっていくのだが、

 

「あれはニニャが欲しがって」

「やめてください! あれは若気の至りで」

 

 から始まるチーム名誕生秘話を聞かせてくれたのだが、『十三英雄』のうちの一人が持っていた四本の剣にちなんでのことなのだとか。

 中二心沸く剣の名前にワクワクするも、致命的なまでに情報が足りない。

 

「十三英雄ってなんでありんすか?」

「おとぎ話の類かしら?」

 

 小首をかしげて問いかける女性二人に、待ってましたとばかりに熱を込めてルクルットが語ってくれたのは、ちょっと奇妙な符号が見られる興味深い昔話だった。

 

 なんでも二百年前に世界に現れた魔人をその英雄たちが撃つというストーリーなのだが、最後に英雄のうちの一人が天から九体の天使を召喚して(・・・・・・・・・・・・・)魔人を滅ぼしたと聴かされてしまっては呆けてしまうのも仕方がない。

 

「……え、どういうことだ?」

「それってアレとは違うんでありんすか?」

「つまりは……まあ私たちがいるんだし当然と言えば当然だけど」

「いたのでございますね……いえ、いると言った方がよいのかしら」

 

 思わず『漆黒の剣』の存在すら忘れ、議論し始めてしまうモモンガたちであったが丁度そこへ可愛い少女の声が響き渡る。

 

「ただいまー! すっごいすっごかったよー!」

 

 空から九体の天使と抱えられた少女ネムが、くるくると回転する羽のようにふんわりと降下していき、モモンガたちの周囲に着地する。

 

「ご主人様、ネム様と遊ぶという任務は無事に完遂しましてございます!」

「すっごいんだよ! エ・ランテルがね上から見たらね、マルにマルでマルなの!」

 

 もう何を言っているのか分からないが興奮した少女は置いておいて、冒険者たちにどう説明しようか頭を抱えるモモンガであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 事の発端は少女ネムの小さなお願いだった。つまり一緒に遊んでいたのにお別れも言えなくて寂しかったと。出来るならもう一度会って遊びたいなと。

 眼尻に涙を溜めてそうお願いされてしまえば、どうにかしてあげたいと考えてしまう。あの時の状況を思い浮かべて納得するしか無い訳で、アルベドを三人がかりで説得することに。

 

「今回だけですからね! ……でも残念なことになるかもしれませんよ? 召喚されたものが同じ個体であるかどうかなんてわかるのでしょうか?」

 

 どうにか了承は得たものの同時に懸念材料が生まれてしまう。まあそれは杞憂だったわけだが事前確認でどうにも前回現れた者たちであった事は不思議でもあったり。

 

 そんなこんなで今日は朝からネムを天使たちに預け(もちろんエモット家の了承のもと)完全に放置していたのを忘れていたのだった。

 

 現在ネムは一人の小さな天使と手をつないで自宅へとお昼を食べに戻っている。それが終わったらまた遊ぶのだとか。

 今回は召喚限界までまだまだあるのできちんとお別れも言えるだろう。

 

 なんて現実に目を背けるモモンガであったが、漆黒の剣の三人による怒涛の質問攻めは止まらない。なおそのうちの一人は天使たちのもとで愛を語っていて実にたくましかったりする。

 

 

 

 

…………

 

 

 

……

 

 

 

 

 

 

 

「いやー今日も一日色々あったなあ」

「そうですねー、それでなんですけどそろそろ次に行く場所を決めましょうか。拠点は今のところここでいいと思うんですけどね」

 

 夜も更け、夕食もとり終えた四人はいつものリビングで歓談を楽しむ。まあ別のお楽しみはこれからなのだが。

 昼時の騒動はなんとか例のカバーストーリーをまくし立て完全に納得はしていないだろうが、収めることは出来た。

 どうやら他にも女性騎士の方々が村を助けてくれたという情報を村長から聴いていたようで、それがあの天使なのだろうと。

 

「ちょっといい機会ですもんね。他にも俺らと同じくしてこの世界にいるプレイヤーがいるかもしれない……時間のずれは気になるけど」

「正直四人でいれれば何も必要ないと思っていたからなんですけど、情報収集をしなさすぎにもほどがありましたね」

 

「妾はあまりよくわかりんせんですけど、新しい食材が欲しいでありんす。もっと喜んでほしいでありんすのにレパートリーが増えんせん」

「それはあるけど、基本は大事よ。あぁすみませんモモンガ様ペロロンチーノ様。私もその件に賛成でございます。つまりはゲートを使ってここを拠点にするわけですよね」

 

「全然問題ないさ、会議じゃないんだしな」

「できればお金も稼がないとなあ、村におんぶにだっこじゃ申し訳たたんぞ」

 

 村の恩人だという事や、大量の食肉の提供。アホほど早く集まる木材などその恩恵は計り知れないのだが、彼らにはその自覚は無いらしい。

 

 候補は三つあり、一つは王都。つまりガゼフ・ストロノーフという知り合いがいるのだから最終的にはここに行くことは決めていたのだ。

 二つ目は帝都。どうにもこの国は誰に聞いても良いところが無く、まぁ新婚旅行の為の観光スポットを聴いているのでしかたがないところではあるのだが、他国。特に帝国には見るものが多いらしい。

 三つ目はエ・ランテル。カルネ村に一番近い城塞都市であるらしく、近隣三国の交易の要であり、冒険者漆黒の剣がやってきた都市と聞いてはもう迷うことは無い。

 

「そんなわけでとりあえずはエ・ランテルを目指そうかと思ってはいるんですが……」

「ンフィーレア君か……あはは、実るといいな!」

 

 あの騒動を結果的に収めたのはンフィーレアだった。

 

『あ、アルベドさんすいません……伝えたんですがその……あ、漆黒の剣の皆さん! すいません追加依頼でもう少しカルネ村に居させてください!』

 

 どうにも自身渾身の愛の告白をかましたのだが、『うふふ、私も好きよ、ンフィーのこと』友達として……などとまったく理解してくれなくてと、アルベドの前で首を垂れていたのを思い出す。

 

 親身になって再度ンフィーレアを焚きつけるアルベドの弁舌に舌を巻く思いであったが、明日は一緒に森へ薬草採取に向かうことになり、漆黒の剣は護衛にあたるそうだ。

 

 そしてここで丁度いいからとモモンガはペロロンチーノと交わしていた相談を妻たちに教えることにした。

 

「それとなんだが……上手く理解してくれるといいのだけど最後まで黙って聞いてほしい。悪い話じゃないから」

 

 それはつまり自分たちの子供の話になる。さすがにそろそろそれに気づくだろうし、絶望してほしくないからこそのこのタイミングだ。

 

「結果的には可能だと信じている。その過程の上で聞いてくれ」

 

 このしゃべりだしもペロロンチーノと相談してのことだ。絶望なんて一瞬でも与えちゃダメだって。

 

「現在のところあれだけ数をこなして妊娠の兆候が無いのは俺たちもわかっている……それでいてまだ数日なのだからって思いもあるけど、お前たちも微かにそんな思いも抱いてるんじゃないかと思う。アルベドは事あるごとにそれを笑顔で妄想するし、でもそんな絶望を感じてほしくないから……」

「俺的には情けないんだが、すべてモモンガさんの魔法とアイテム次第になるんだ。ひとつは超位魔法<星に願いを(ウィッシュ・アポン・ア・スター)>」

 

 ギリギリなんだけど自分たちのレベルは97。もしかしたらそれで願いをかなえることが出来るかもしれないと。

 

「もう一つはシューティングスターの指輪だ……三回だけ同じように願いをかなえてくれる魔法が使える。両方とも以前話したが覚えているよな」

 

 もう一度言うが信じてると、絶対これらでお前たちの望みは叶うから今は悩んだり絶望したりはしないでくれな、とモモンガとペロロンチーノは慈愛の籠った笑顔を見せて女性陣に語り掛ける。

 

 そんな説明の数々を無言で聞いていた彼女たちは口を大きく開けて呆けるしかなかった。

 

 シャルティアなどは諦めてもいたし、そんなのどうでもいいとすら思っていた。アルベドの妄想を聞いてはグギギとなるくらいで不死者の自分に生命を宿すなどありえないのだから。

 

 アルベドはそれに驚愕していた……掌の上というかもう数日もすれば『妊娠できていない』という葛藤が顔に出てしまったかもしれないことに先手を打って答えをくれたことに。

 

 実はアルベドとシャルティアは以前ある相談をしていたのだ。

 

『あの指輪がうまく使えれば……』

『永遠が約束されるかもしれんでありんすね』

 

 いつかは口にしようとしていた話題であったがそれが別の目的で語られてしまい……それが嬉しくてなのかなんなのか……二人して涙をぽろぽろとこぼしながら困惑するばかり。どう言葉を紡いでいいかわからないくらいに。

 

 その光景にあたふたとしながらも喜ばせる方法はと模索した結果、『スローライフ・スローセックス』だなと行動に出た彼らは実は鬼畜の類であったりもする。 





一番最初に書いた小説で使おうと思ってた13英雄ネタ。あってるかどうかは知らないw


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10 金玉

「なあモモンガさん頼むよー、もう一回呼べないの? もう少しで落とせそうだったんだって」

「お前名前すら教えてもらってないじゃないか……コイツのことは放っといていいですから」

「いやーもう国に帰ってもらったんで会えないんじゃないかなーって」

 

「あまり詮索するものではないのである」

「ダインの言う通りですよ。お姫様だと言うのはびっくりしましたが……うん、好感も持てますし」

「そうだね、もう俺の嫁だしね」

 

「そろそろ行きますよー……エンリに良いとこ見せなくっちゃ……」

「ん? なにか言った? それにしてもモモンガ様はあの鎧を着てないのね、ちょっと残念かも」

「エンリ!?」

 

 出発前からグダグダであった。

 

 なお余談ではあるが、あの『姫と従者』というカバーストーリーの中で天使たちの役は、姫を陰から見守っていた近衛騎士団ということになっている。

 さすがに口説かれるために呼ぶことは無いが、別に超位魔法を隠しているわけでも何でもない。アルベドとの約束とロールプレイを重視しただけだったりする。

 自分たちがある意味弱いとわかっており力を隠すなんてさらさら考えてもいないので、利便性を考えてまた呼び出すこともあるかもしれない。

 

 漆黒の剣がそれを信じてるんだか信じてないんだかわからないが、断じて二百年前の英雄ではないということだけは納得してもらっている。

 

 

 

 

 

 先日別れ際にアルベドがンフィーレアにした『愛してる、結婚しようで良いじゃありませんか』から始まる説教という名のアドバイスは、直球どころかまだそんな仲でもないのに一足飛びすぎると拒否された。

 内心イライラしながらも慈愛の籠った表情でアピールポイントなどは無いのかと聞くアルベドだったが、本人が薬師であることが判明する。

 しかも漆黒の剣の面々から『エ・ランテル一の薬品店の孫』『貴重なタレント持ち』などの結構すごい評価を聞かされてしまう。

 当然『タレント』なんて技能があることを知らなかったモモンガたちはそれに驚愕すことになるのだが。

 

 曰く誰にでもあるわけではないが生まれた時から持っている能力らしく、日常生活がちょっと便利になる程の者からニニャのように『魔法適正(通常より倍速く魔法を覚えられる)』という魔法詠唱者という職業にかみ合った稀有なタレントもあるそうなのだ。

 

 そしてンフィーレアのタレントは『ありとあらゆるマジックアイテムを使用可能』というものらしい。

 

 あまりに危険すぎる能力に驚愕するモモンガ一行だったが、アルベドの頭の中では家族四人が持つアイテムの数々がフラッシュバックしていた。

 

 この少年は支援要員……いざという時のバックアップ要員を任せられるのではないだろうかと。

 

 仲間に加えると言うのはシャルティアも言っていたが御免被りたいが、今は知己を交わしておくのが正しい選択だと。

 恩を売るわけではないがこちらの利にもなるし、第一モモンガへ思いを寄せるエンリを排除できて万々歳であると考えたならば答えは早かった。

 

 つまりそれがエンリを誘っての薬草採取になったわけだ。

 アルベドもエモット家でエンリが薬草を潰したりなどの仕事をしているのを見ていたし、それが収入にもなっていることを教えられていたのだから、ンフィーレアのアピールチャンスに丁度良いと提案する。もちろん私もフォローしますよと。

 

 

 

 

「あれ? アルベドさんとシャルティアさんがいませんが」

「……すいません。ちょっと動けない……というか立てないというか、今日はテントで休ませようと」

「……ホント申し訳ない」

 

 もう本当にグダグダだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「それにしてもすごいのですね……私たちにはどれがどの草だとかの見分けがさっぱりです」

「漆黒の剣のみんながいるから護衛にもならないし……俺らじゃこれで生計は立てられんなあ」

 

 すでにここはトブの大森林内部。今のところ魔獣などの姿は見られず、それでも警戒しながら森の中を進んでいる。

 モモンガたちがこれについていくのはアルベドの役目を引き継ぐ目的もあったが、もう一つ、自分たちに何が出来るかの確認のためだ。

 嫁を幸せにするために仕事を見つけるのは必須事項であるなどと、あの世界ではありえなかったモチベーションを発揮していたのだが今はその気分も駄々下がりだ。

 

「いや、そこは役割分担ですよ。モモンガさん達も戦えることは聞いておりますから頼りにしていますって」

「そうですよ村を救ってくれた英雄なんですから!」

 

 ンフィーレアを引き立てる意味でもあったのだが、その本心からくる呟きにペテルやエンリに慰められてしまったりと本末転倒であった。

 

「さっきの話だけどエ・ランテルに行くんだろ? 冒険者になんのか?」

「うーん、それも悩みどころなんですよね……」

 

 ルクルットの質問に曖昧に答えるモモンガであったが、昨日の会話であまり冒険者という職業に魅力を感じなくなっていた。

 だがこの世界に来てまだ貨幣を手に入れることが出来ていない。一応換金可能なものとして用意しているのは金塊だ。

 手持ちのユグドラシル金貨を数枚アルベドにギュッ♪ってしてもらったら拳大くらいの大きさの金玉が出来た。

 別に金貨のままでもよかったのだが、なんとなくユグドラシル金貨を流通させるのは躊躇われたのだ。

 ペロロンチーノがユグドラシルでシャルティアだけ容姿が割れているのに危機感を持ったせいでもあり、いまのところ新婚旅行を楽しもうという行動方針のもと、小目標大目標を達成していくことになっている。

 

「モモンガ様は村にずっといてほしいのに……」

 

 ちょっと口をとがらせて残念がるエンリの仕草は、やはり初恋の淡い恋心程度であり、アルベドが心配するほどのところは皆無なのだが、ンフィーレアは涙目であったりする。

 

 そんなこんなで雑談を交わしながら薬草採取に専念する一行。

 

 もちろん森に怪しげな屋敷が出来ていたせいで混乱する魔獣はいないし、『森の賢王』など出てくるはずもないのだが、さすがにここまで森の奥までくれば遭遇しないのも稀だったりする。

 

「なんか来るな……いち……に……三体以上だ」

 

 唐突に地面に耳を押し当てるルクルット。いつものチャライ雰囲気など微塵も感じられず目つきは真剣そのもの。

 他の漆黒の剣メンバーもエンリ・ンフィーレア、そしてモモンガたちを守るように武器を構える。やはり彼らにとってはモモンガたちは力量的に未確定人物ではあるのだろう。

 

 モモンガたちもそれに気づいてはいたのだがンフィーレアを活躍させるための好材料としか思っていなかったので、自分たちが出ることも無く甘んじて守られることを受け入れている。

 

「俺は好きな奴を全力で守りたい……お前もだろ?」

 

 ンフィーレアの耳元でぼそっと告げるペロロンチーノ。その声に隠れている目を見開き、エンリを守るように一歩前に出る。

 

「エンリは僕が守るから」

 

 静かに……だが当たり前だとでもいうように堂々と宣言するンフィーレア。

 

「ンフィー君はやはり私たちと同じですね、愛する人を守りたいという気持ちは」

 

 なんて、エンリの後ろから小さく呟くモモンガのダメ押しなんかもあったりして、その少女は頬を染めていく。

 

 なお現れたウルフ三体は漆黒の剣とンフィーレアの魔法によって難なく倒されている。

 

 

 

 

「全部だなんて受け取れないよ!? 元々半分づつって……それでも多いくらいなのに」

「僕の今回の目的は復興支援なのに持ってきたポーションは役に立たなかったからね。だからこれを支援だと思ってほしいんだ」

 

 夕暮れまではまだまだあるが、一度戦闘があったなら血の匂いなどを警戒して戻ることは決めていたので、一行は早くもカルネ村に戻ってきていた。

 成果は大量ではないものの、貴重薬草が多く取れていたりとンフィーレアの活躍が目立っている。

 

「あちらはまだまだかかりそうだし、こちらはこちらで休憩しませんか?」

「そうだな、聞きたい事も結構あるし座ってよ」

 

 なおアルベドとシャルティアはすでに回復しており、出迎えてくれたのだが、夕食の用意の為にエモット家へ赴いている。

 あのお肉も持たせており、漆黒の剣のメンバーの分もお願いしているのだが、思惑もあるので彼女たちに抵抗感は無い。

 

 一行は例のごとくモモンガが入れた冷たい水を飲みつつ歓談していく。

 

 話題の序盤は先ほどまでの薬草採集や戦闘のことなど、自分たちに冒険者は難しいかもしれないという話だ。

 まず薬草の見分けがつかない。これは漆黒の剣には判断できたところからこれも職業やスキルに由来するんじゃないかと考えているが不明。

 もう一つはあのウルフを倒した際のことだ。ぐちゃぐちゃになった狼の死骸が三頭分。それを見るのも結構きつかったのだが、彼らは討伐部位を採取したり、自分たちも手伝ったが匂いの痕跡を消すために埋めたりと、気分的にどうにも率先してやりたい仕事では完全になくなってしまっていた。

 

「まぁあんたら騎士っていうより一般人だもんな、それでよくお姫様を……お前ら大金星なんだから頑張れよ!?」

 

 何故かルクルットにより理不尽な説教を受けてしまったりもしたが、村の青年の恰好をしている今の状態では、ただの平凡な青年と少年にしか見えない。

 モモンガに至ってはこの世界の顔面偏差値が高すぎるせいもあってか並み以下。もし若く作っていなかったら残念とさえ呼ばれていたかもしれない。

 なおそんなルクルットの言いように彼らは結構喜んでいた。見た目の年齢的にもペテルとルクルットがモモンガと。ニニャがペロロンチーノと近いこともあり、徐々に敬語も少なくなり友達感覚で接してくれてるのが嬉しかったりしている。

 

 続いて話題は金銭の問題へ。数日間滞在していることもあり貨幣経済であることも、手持ちのユグドラシル金貨がこの国の金貨に対してどれくらいの価値があるかなどは知っているが、街での一般的な貨幣価値がわからない。

 金貨と金玉を見せつつこれを換金できるかなどを聞いてみる。

 

「へぇ~綺麗な金貨ですね。でも安心しましたよ、それだけあれば四人で一年は暮らせるほどですね。あとさっきから、き、金玉はやめてください」

 

 そう答えるニニャがペテルに視線を送り、金庫番らしい彼がこの国の貨幣を見せてくれた。彼らも銀級冒険者であることでそれなりの金貨は持っていたが、その十倍の価値がある白金貨は持ち合わせがなかったりする。

 それとテントにあったクリスタルも見せたが宝石の部類になるんじゃないか? ぐらいの反応しか得られなかった。なおこのデータクリスタルの効果は<防御+2>とかいうゴミ評価であったりもする。

 

 そんなこんなで雑談という名の情報収集をしていると良い匂いが。アルベド達がエモット一家と一緒にやってきた。

 

「頂いたお肉は赤ワインでソテーにしてみたの。私たちもここでいただかせてね」

 

 とっておきのワインなんだからなんてエモット夫人が言いながら、女性陣が次々とテーブルの上に料理を載せていく。お肉のあまりはエモットさんが村に回してくれたそうだ。

 

「えー!? こんな旨そうな肉食べちゃっていいんですか!?」

 

 などと遠慮されつつもその匂いに堪えきれずがっつきはじめる冒険者たち。

 

「うっそだろおい!? すげぇ旨いぞ!」

「これほどの肉とは驚いたのである」

 

 評価は上々であるがモモンガやペロロンチーノは嫁たちに注いでもらったスープに夢中になっていて聞いていなかったり。

 

「もうモモンガさんったら、うふふ。それでいかがでしょうか皆さん、このお肉は販売可能でしょうか?」

 

 そう、もう一つの金銭を得る方法がこれだった。誰かに料理してもらうしか使い道がないお肉。ダメならこの村で消費していこうなんて考えていたのだが。

 

「確かに美味しいですし誰もが求めてすごい値が付きそうですが、食料の卸となると専門外で……それよりどうやって手に入れたかの方が気になりますよ」

 

 アルベドとシャルティアの案ではあったがやはりそういう答えになるかと納得する。出所不明の食肉を買ってもらうのは難しいだろうと。

 

「むー残念だわ」

「そうでもないさ、料理店に渡して料理してもらうって手もあるしな。理解があれば売れることもあるかもしれんぞ」

 

 でも私はこっちで十分だけどななんて笑いながらスープを飲みアルベドを慰めるモモンガ。ペロロンチーノもであるが他に人がいようとイチャイチャしっぱなしである。

 

「あら、熱いわねぇ二人とも。あら……あちらの方も熱くなっているかしらね?」

 

 そう言葉を紡いだエモット夫人の視線の先を見て全員が頬を緩ませる。黄金色の日差しを浴びながらエンリとンフィーレアが恥ずかしそうに手をつないでやってくるのが見えたのだった

 

 





次回(多分)エ・ランテル


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11 夜の装備

「14……いや15くらいかな?」

「惜しいですね16になります」

 

 この国には雨が降らないのかなんて感じるほど、いまだ天気が荒れるようなことを体験していないモモンガたち一行は漆黒の剣のメンバーと麗らかな日差しを浴びて街道を行く。

 なお今やっているのは暇つぶしという名の年齢当てクイズだったりする。

 

「あははニニャさんはやっぱりお若いですね、じゃあ私はどうでしょうか」

 

 自身としては20代前半を意識して作ったつもりではあるのだが、周りの……いやこの世界の評価はどうだろうと若干ドキドキしながら答えを待つモモンガ。

 

「17……18くらいかなあ? ペテル達と一緒くらいに見えます」

「こらニニャ! それじゃ俺たちの年バレバレじゃんか!」

「あれ? そんなに若く見えるんですか……自分としては22くらいの……あ、ちがう22なんですけどね」

 

 そんな答えを返すモモンガであったがこれは意味が無いかもなんて考えて居たり。この世界の一年がリアル世界と同一とは限らないし、年の取り方も違うかもしれないなんて。

 実際はそんなことも無く日本人らしく童顔に見えるだけなのだが。

 

「妾は! わらわはどうでありんすか!」

「14くらいかなあ?」

「14であるな」

「エンリちゃんよりは年下……俺も14だと思うぜ!」

「14ですね」

 

「ペロロンチーノさーーん! 正解は?」

「は、はい……14さい……です」

 

 シャルティアの問いに顔を真っ赤にしながら(うずくま)るペロロンチーノ。モモンガは馬を引きながら爆笑であったりする。

 

 村の衆総出の盛大なお見送りの中出立したモモンガたちではあるが、その中にンフィーレアは含まれてはいない。冒険者組合と祖母あてに手紙を預かっているが、しばらくカルネ村に滞在するそうだ。

 祖母あての手紙の厚さに必死さがうかがえるのに苦笑してしまったが。

 

 なおモモンガたちは名誉村民であるらしく、村に家を建てないかとお願いされていたりもして、スローライフ拠点としてそれを受け入れている。

 いつかログハウスを建てようだなんて夢を描きながら。

 

 現在の彼らの恰好は村に居た時の素朴な服のまま。何気にこの格好を気に入ってしまっているのもあるが、どうやらエ・ランテル入場の際には当然ながら検問があるらしく、他国から逃亡してきたなんて面倒くさいロールプレイを説明するより楽になるんじゃね? なんて理由でもあったりする。

 アルベドの騎獣だけは朝方歩けなくなることが多い(?)彼女たちの為でもある。

 

「この馬……馬でいいんですよね? 私だけ寄ると避けるような……」

「なんででしょうねぇ? それはともかく私はいくつに見えるのでしょうか!」

 

 そんなニニャのつぶやきを遮るように若干ワクワクとした笑顔でアルベドが爆弾を投入する。なお爆弾と思っているのはアルベドとモモンガを除く者たちであったり。

 美しい上に色気がありすぎるのだ。それでいて今のように子供っぽい仕草をしたりと判別がつかない。地雷を回避しようと口をつぐむ一行であったが、モモンガが正解を教えてくれる。

 

「難しいですかね? 私は18と聞いているんですがアルベドは色気があるからな。私と同じくらいに見えるかもしれんな」

「タブラさ……お父様がそんなことを……あぁ私の前で跪き涙を流していた御方が遥か昔に思えます……」

 

 それはお前の設定がビッチからエッチに変わってて爆笑して(うずくま)っていたただけですと答えそうになったペロロンチーノであるが空気を読んで何も言わない。彼も日々成長しているのだ。

 

「私とペテルとルクルットと一緒であるな!」

 

 まあモモンガ一行が一番驚いたのはダインのその一言だったりして。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ものすごい呆気なく入城出来ちゃったんですがこんなもんなんですかね?」

「俺すげー質問攻めにあうと思ってたんだけど肩透かしだなあ」

 

 そんなこんなで翌日にはエ・ランテルに入城。女性陣は馬鹿正直に質問攻めに合わせる必要など無いので、なんでもありな方向(空飛んで)で入場させている。

 

「モモンガさん達は言っちゃ悪いのですが髪色に違和感はあるけど、どう見ても平民ですし、ここって入城者が多いから荷馬車とか以外はほとんどスルーなんですよ」

「人は2銅貨だけど馬車だとすげー取るんだよな。で……本当にいるのか?」

 

「ええ、おっと、あそこで待ってま……」

「ナンパか? ……モモンガ、殺すなよ? 消し飛ばすだけでいい」

「おう」

 

「まてまてまてまて!! ペテルもダインも止めろ!! ニニャ! あの娘らんとこ行って連れてきてくれ!!」

 

 溢れ出るえげつない程の覇気というか怒気に一瞬周りの空気が歪み、たじろぐ漆黒の剣一行であったが、ルクルットの機転で何とか合流。

 村を救った英雄と呼ばれる力の片鱗を初めて垣間見た瞬間であったが、ルクルットが二度と彼女たちにちょっかいを出さないことを決めた瞬間でもあったり。

 

 

 

 

 

 まず向かったのは当然ながら冒険者組合。漆黒の剣の依頼の完遂報告とンフィーレアの手紙の受け渡しの為だ。

 

「とりあえずお前らも興味あるんだろ? 行こうぜ」

 

 なんて言われて興味がありませんなんて言える異世界転移人がいるだろうか。確かにその仕事に興味はさらさらなくなってしまったが、気になることは気になるわけで、互いの嫁の手をがっちり握りながら冒険者組合に入っていく。

 

「へぇ~……」

「意外と……普通? 荒くれ者が飲んだくれてたりとかはしないんだなあ」

 

 予想より遥かに広い木造建築の一階。室内は明るく、いくつか長椅子なども見受けられるが飲食をするスペースというわけではないらしい。

 奥にカウンターがあり数人の受付嬢が動きを止め口を開けっぱなしなのが気にもなるが、その隣には二階へ上がる階段も見える。

 

「確かどこかの街で酒場を併設してる組合もあると聴きましたが、ここで騒がれたら受付の人たちなんか仕事にならんでしょうね」

 

 ペテルはそんな言葉をペロロンチーノにかけながら受付へと歩いて行く。

 

「おかしいわね? この服では目立たないと思うのだけれど」

「見られているでありんすね」

 

 自身の服をつまみながら首をかしげる女性陣。

 

「しまった……そりゃあのタイミングの村とは違うよな……」

「ロールプレイ続行してたら危なかったかも」

 

 少なからず残っていた冒険者たちに容赦ない熱い視線を向けられる彼女たちの手をさらに強く握りしめる。

 姫プレイをしなかったのは正解だったが粗末な衣装を着ていてもぬぐえない美しさに、どうしたもんだろうと頭を悩ますモモンガだった。

 

 そしてなぜか今自分たちは3階にある会議室に通されている。なんでも結構重要な案件だったらしく組合長に直接口頭で村の様子を説明してほしいそうなのだ。

 受付嬢に自分たちの素性を聞かれ、素直に『村の方達です』と答えちゃったペテルが悪いわけではないし無関係とはいえず、ならご一緒にという言葉に従ってここまで来てしまったのだ。

 

 組合長プルトン・アインザックは見た目屈強な白髪アフロな男性だった。もちろんここでも彼女たちに目を向けて驚かれる一場面もあったが、依頼報告は順調に終了した。

 

「そうか……村からの買い出し要員か……しかし本当に村娘なのか? よく今まで生きてこられたものだ……ああ、ちがう失礼なことを言ったスマン。まぁ王の直轄領である意味幸いだったのか……」

 

 そこから始まる組合長が親身になって語ってくれた話は、ある意味この国の現状を表しているようなもので、違う貴族の領地では『処女税』なんてやりたい放題な話もあったりと、とにかく治安が良いとは口が裂けても言えないので女性たちはとにかく気を付けなさいとのありがたいお言葉だった。

 

「うー俺たち市場とかも行ってみたいんだけど困ったなあ」

 

 シャルティアが傷つけられたら大変だなんて、実際はあり得そうもない事を考えながら発するペロロンチーノの言葉に頭をひと掻きし、漆黒の剣に声をかけるアインザック。

 

「君たちの仕事は完遂したがどうだね? 今日だけでも彼らを護衛してやっては。ある意味村への支援になるし、報酬は出せんが依頼として処理してもいいぞ」

 

「本当ですか! まあそれは無くとも案内する予定でしたからお受けします」

「こいつら危なっかしいからなあ……心配は絡んでくる方なんだが……」 

「……怖かったであるな」

「私少し漏らし……いえなんでもありません!」

 

 当初より冒険者組合、バレアレ薬品店を巡り商店と換金所を紹介する予定だったこともあったが、依頼として評価につながるのはありがたい。

 という事で一つ目の用事を済ませた一行は次なる目的地に向かう。

 なお他の冒険者たちがちょっかいをかけてくるかとも期待……いや警戒していたが、一般人や依頼者になりうる人物に手を出そうとするバカはさすがにおらず、ラノベのあのお約束展開は無かったりする。

 

 

 

 

 

 

 

 

「嘘ッ…‥だろっ?」

 

 エ・ランテルを目的の人物と一緒に出立していた冒険者たちが戻ってきた。これでやっと計画に移れるかと観察していたが当のその人物がいない。

 只でさえヤキモキして切れかけていたというのに……その不在を確かめる為と情報収集ついでに嬲り殺そうかと屋根伝いに尾行していたのだが……

 

「目があったのは偶然じゃない……四人全員に気付かれた?」

 

 一般人じゃない……農民のような平素な衣服を着ているが少なくとも女の方は確実に一般人だとは思っていなかった……だが男の方もだと?

 冒険者の方は銀級相応なので無視できるのは幸いだが……チッ、なにを恐れているというの!?

 

「全員笑っていたのはなんなんだよ……」

 

 あまりにも不気味な笑みに鳥肌が立つ。

 っつ!? ぐっ!! 殺す!! 絶対殺してやる!!

 

 や、やるぞ! 絶対やってやるぞと意気込む女性クレマンティーヌであったが膝が笑っていた。

 戦士としての勘が『止めておきなさい。本当にお願いだから止めなさい』と警告している。

 

 なお、その一斉に振り返った四人の表情からなにを考えているかはさっぱり理解できなかったが、

 

(またモモンガ様に気をやる(メス)が! ふふっ、いいでしょう……)

(おやぁ……また面白そうなおもちゃがやってきんしたねぇ)

 

(くそっ!? 忘れてた……それがあったんだ……まだ一回も試していなかっただなんて!?)

(ビキニアーマーだあれ! ビキニアーマーだあれ!!)

 

 そんなの理解できる訳が無かったりする。

 





クレマンさんはマントを羽織っていますが下から見えましたw


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12 闇の王

「くくくっ! 必死だねぇあの子も……で、どうなんだい? 脈はありそうなのかい?」

「今押していかないと厳しいのではないかと思うわ。その点では村に残ったのは正解とも言えるわね」

 

 手紙を読み終えて大笑いする老婆の質問に、まるで恋愛の達人であるかの如く答えるアルベド。確かに思いが通じ始めた段階で距離を置くのもアレだよなあなんて、モモンガたちやペテルたちもそれに同意するように頷いてしまう。

 漆黒の剣メンバーは一月後に遠征がてらカルネ村に彼を迎えに行くことにもなっており、今からどうなっているだろうと考えるとそれもまた楽しみなイベントだったりして微笑んでしまう。

 

 これで用件は済んでしまったが、気になるのはやはりこの薬品店だったりして。

 

 自前の物が大量にあるとはいえ無駄使いは現状御法度。『ラストエリクサー症候群』よろしく最後まで使わないなんてことはしないが、現地の物を使えるならありがたい。

 

「それでいつかは購入しようとは考えているんですが、よろしかったらお値段とか効能とかを知りたいと思って。これと同じような物もあるんですかね?」

 

 ンフィーレアが村に持って来ていた支援物資も見てはいる。傷薬なのか風邪薬なのかはわからないが青い色が不思議だなあなんて思っていたくらいで、特に突っ込んで質問はしていなかった。

 モモンガが取り出した赤い下級治癒薬に驚き、だんだんと口調が荒くなり、老婆の顔が妖怪の類に見えてくる。いや、最初からそれっぽかったが。

 見せてくれと言う彼女がちょっと怖かったので言われるがままに手渡すと、流れるように魔法による鑑定をおこない……そして狂ったように笑いだす。

 

 曰くこれは『神の血』であると。通常の青いポーションは劣化するが、この赤いポーションは劣化しないんだと。どこで手に入れたんだと。なんでもするからよこしやがれ犯すぞと。

 

 最終的に金貨32枚でどうじゃと一方的に告げられ、モモンガは結構あっさりと売却してしまった。

 

「モモンガさんいいのか?」

「劣化しないという希少的価値を考えなければ同じ効果で金貨8枚という情報があれば十分でしょう。ペロロンチーノさんに頂いたあの料理、いつ買ったものですか? 私たちにとっては普通の事だったから気づいてなかったんですけどつまりは」

「あぁ、よくある時間が止まってるやつだったのか」

 

 自分たちの使っているアイテムボックスの中では時間が止まっているなら、劣化とか考えなくていいじゃないかと。

 数的には全然問題ないし、情報流出の懸念もあるがそこまで臆病になっていたらこの世界で何もできないと。

 

「お前らすげぇな! ある程度は驚かなくなってきたけど」

「あの金玉も売ったら数年楽に暮らせるであるな」

「ダインも……」

 

 そんなこんなでこの世界の貨幣を労せずゲット。その後もやたらと質問攻めにあったが、そのうちカルネ村の家まで聞きに来てくれと、まだ出来てもいない家の情報を仄めかしお暇することに。

 老婆の頭の中では孫がここを継いでくれるなら嬉しいが、カルネ村に移住して研究生活するのもアリかななんてそんな未来の妄想を膨らませ始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃぁあなた方の無事な旅程を祈って」

「漆黒の剣の皆さんの目的が叶いますようにと」

「あはは! それじゃかんぱーい!」

 

 夕暮れ時、すでに買い物などを済ませた一行は、街一番とは言えないがそれなりの格式の飲食店に訪れていた。

 ポーションの販売代金で懐が厚かったのもあるのだが、

 

「純金だったんですね、あの金玉……」

 

 そんなニニャのつぶやきも分かると言うもの。手持ちの金塊が予想よりはるかに高額で売れたのもある。どうやらこの世界の鑑定魔法は優秀らしく金の含有率までわかってしまい、手数料はそれなりにとられたがあのポーション以上の硬貨を得ることが出来てしまった。

 そんなわけで宿の手配を済ませた彼らは、案内料というわけではないが食事を奢ることにしたのだった。

 

「俺らが懇意にしてる宿は安いんだけど飯が出ないんだよ。寝に帰るだけだから十分なんだけどな」

 

 宿は漆黒の剣と同じところで、四人部屋をキープしている。カルネ村に移動して夜はハッスルマッスルするので仮拠点と言ったところか。

 もちろんそれ以外の理由もあるのだが。

 

「なんで狙われてるんだろうな? お金目的……じゃないよなあ、組合からだったし」

「なんにしても良いものを見せてもらったから俺は満足だよ」

 

「私のとも違ったけれど、シャルティアの持っているのは紐みたいだったわよね」

「マイクロビキニアーマーだそうでありんす」

 

 会話の内容が意味不明ではあったが『狙われて』の部分が気になったペテルの質問に、冒険者組合からずっとつけられていたんですよ……下からだったんでパンツしか見えませんでしたけどなんて正直に答えるペロロンチーノ。

 いろいろ突っ込みどころはありますがと前置きして、ペテルたちも追われる理由に心当たりは無いと言う。それより護衛を買って出たのに気づかなくて申し訳ないとも。

 

「いえいえ大変助かりましたよ。あなた方がいなければアルベドやシャルティアに言い寄ってくる人がいたでしょうし」

「釣り合ってないとでも言うのかねぇ? くくっ、俺ら程彼女たちを愛してる奴なんかいやしないのに迷惑なもんだな」

 

 そんなペロロンチーノの言葉に頬を染めるシャルティアだったが、漆黒の剣のニニャは顔を真っ赤にして閉じそうな瞳をこじ開けて言葉を紡ぎだす。

 

「甘く考えては駄目なのです……この世は力あるものが正義なんですから……くそっ……ねえさん」

 

 その言葉を最後にグラスを倒しテーブルに突っ伏すニニャ。

 

「あーまずった。全員同じものを頼んだんだったな」

「ここのエールは度数が高かったのである」

 

「……気にはなるでしょうがニニャが話したくなったら聞いてあげてください。ただこれだけは覚えておいて欲しいのですが、この国であなた方程美しい女性を私は知りません……それも平民のです。貴族の冗談みたいなお遊びかと思えば、仲睦ましそうに手をつないで歩く男性もまた平民です。今日はまだ街のお調子者程度の者にちょっかいをかけられただけですが、権力や暴力でどうにかしてくる輩が必ず現れると思います……正直その『狙われて』の話なんですが」

 

 つまり平民の男たちの連れが極上の美女となれば、カモにしか見えないと。そのうえこの国は以前まで奴隷制がまかり通っていて、今でも非合法ながら連れ去られた女たちが働く娼館まであるのは有名な話だと。

 ペテルの『狙っていた相手』に対する予想はまったくはずれてはいるのだが、その真摯な眼差しには心の底からモモンガたちを心配しているのがありありと窺え、その言葉も嘘偽りのない真実だった。

 

「警戒心が……足りな過ぎましたか」

「そうだよな……言われてみれば俺なんか小僧だし、モモンガさんは人の良さそうなあんちゃんにしか見えないよな」

「よく言ってくれましたペテルさん。モモンガさーーんたちは警戒心が足りなさすぎるのです。もう少し御身を大事にしていただきたいと」

 

 あれ? アルベドさん話通じてるのかなこれ? なんて首をかしげてしまうペテルであったが言うべきことは言った。これ以上はお節介にもなるだろうし、彼らの力強さもこの目で見ている。

 ここからはお前の出番だと言わんばかりにルクルットに視線を送るペテル。

 

「そんなことより俺はアルベドさんやシャルティアちゃんに会えなくなるのが寂しいぜぇ。辛気臭い話はよして飲もうぜ!」

「あはは、ルクルットの言うとおりであるな」

 

 以降は話題を変え、料理の話や冒険譚、さらには『夜に一度も勝てないんですけれど』なんて下世話な相談まではじまったりと、復活したニニャが再度顔を赤らめる場面もあったり。

 冒険者漆黒の剣との歓談は、楽し気に続いていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 先頭は槍というよりは柄の長い斧のような巨大な長物を悠然と持つ、漆黒の全身鎧を身に着けた翼の生えた女性。鎧の形状で女性だとは判断できるが放つ威圧感が半端ではない。

 

 その半歩後ろの両脇には二人の男女が見て取れる。

 一方は金色のガントレットにグリーブ。これまた金色の腰当や肩当は飾りだと言わんばかりに鍛え抜かれた腹筋は見事なもので、顔面を覆う鳥の嘴のような奇怪なマスクさえ無ければ見とれるほどの肉体美だ。

 

 もう一方は血のように真っ赤な全身鎧をまとった少女。だがその鎧の精緻さより整った顔より、銀の髪を揺らして狂気に笑う表情に震えが止まらない。

 

 そして最後の一人は闇の王だった。

 

 漆黒に金の刺繍が施された豪奢なローブの前を開け、研ぎ澄まされた胸筋をさらけ出した黒髪の男。立ち上る赤黒い禍々しいオーラでその表情は伺えないが、狂気すら感じる。

 宝石をちりばめられた見事な意匠の豪華な杖を振りかぶると、四人を遮るかのように炎の渦が舞い踊った。

 

 「あはは……炎の妖精さんだぁ……きれい」

 

 霊廟の出口からこっそりと窺い見えるその光景に漏れた言葉はそれだけ。思わずくらりと倒れかけたところに当身のようなものを当てられ昏倒する。

 あ、私死んだな、なんて思いながらクレマンティーヌは意識を手放すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「フォーメーションの言い分に納得はしましたが……やはりみんなに守られているようで釈然としないと言うか……アルベド、胸さわさわするのやめてね」

「そう言ってもやっぱり理にかなってるよ。自分たちをゲームの駒に見立てたら俺でもこうすると思うぜ……シャルティア、おなかナデナデするのやめてな」

 

「そうは言われましてもこの御姿を拝見させていただくのは夫婦になってから初めてのことで……はぁはぁ、夜にもリクエストしてよろしいでしょうか?」

「ここがフサフサだったのでありんすよね……でも、じゅるっ、今はこれがしゅきでありんすぅ」

 

 久々に立場が逆転というか本来の姿というか。

 

 それならササッと終わらせて帰ろうかなんて、あらかじめ召喚していた九人の天使たちに首謀者たちを簀巻きにさせ、予定通りの場所に放置。ゲートを開いてカルネ村のテントまで戻る。

 

 これから始まる闘いはビキニアーマーの戦士たちと魔王と翼王の闘い。これは初めて女性陣に負けてしまうかな? なんて考えつつ夜を迎えるモモンガたち一行であった。

 

 

 

 

 

 

 




ペロロンチーノさんの画像を見て思ったのは、あの装備を人間が着ると蛮族みたいになるなーとw


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13 王の服

 先日の戦いのあらましはこうだ。

 

 『漆黒の剣』のパーティとの晩餐を終え宿に戻ってきた一行は、あのビキニアーマーの女性にどう対処するべきか話し合った。

 あらかじめシャルティアの眷属が空と地上から追跡していたので居場所は分かっていたのだが、地上を行った眷属がすべて倒されたという報告からそれなりの力もあることも確認でき、このまま放置してしまうと『漆黒の剣』が狙いだった場合殺されてしまう確率が高いと判断する。無論それを防ぐために同じ宿を取ったのではあるが。

 ペテルが言ったように女性陣が狙いの誘拐目的だった場合はどうにでも対処できるのだが、もしかしてそれがユグドラシルから来た連中で狙いが自分たちであった場合を考えると後手に回るのは避けたかった。

 

 そんなこんなで完全装備でエ・ランテル西地区にある共同墓地、報告された小さな霊廟の前まで来たのだが、そこに居るのは分かっているのに誰も出てこようとしない。

 こういった霊廟の場合出口が複数あるのが普通だったりするので、あらかじめ呼んでおいた天使たちに周囲を警戒させているのだが『スケルトンがいたので倒しました』ぐらいの報告しか来ない。

 

 追跡までしてきたのに出てこないんじゃ話にもならないとプライマル・ファイヤーエレメンタルを召喚してあぶりだそうとしたのだが、霊廟の出口でふらりと倒れる人影をアルベドが発見して即座に(スキルを使用して)捕縛。

 口から泡を吹いて気絶している女をよくよく見ると、ビキニアーマーの部分に複数の冒険者プレートが張り付けてあるのを確認できた。

 

 要はハンティング・トロフィー。狙いは漆黒の剣でこいつはただの犯罪者であったのだ。

 

 ならばと犯罪者の証である鎧以外をすべて押収して簀巻きに。ペロロンチーノの縛り方がアレだったものでシャルティアが興奮する一面もあったり、突然出てきたスケリトル・ドラゴンがプライマル・ファイヤーエレメンタルに触れて、ジュッと消えたりもしたが特に危険なことは無かった。

 

 どうにもユグドラシル勢とは関係なさそうだと判断して霊廟に突貫させた天使たちは、他の複数のフードを被った怪しげな男たちを連れてくる。

 生きてはいるもののボッコボコで完全に気絶してるのをいいことに、ペロロンチーノに教わりながら見事な亀甲縛りを披露してくれた。

 

 墓地の衛兵にこいつらを引き渡そうかと思ったが、天使たちを見られてはなんなので、冒険者組合の軒先につるしてもらい、ようやくカルネ村に戻ってきたのだった。

 

 

 

「本当は早く宿に戻らなきゃなんだけど……くぅ~旨いなぁ」

「アルベドもシャルティアもどんどん料理が上手くなるな!」

 

「味付け自体はそれほど変わっていないので、そ、そこまでとは」

「品数が増えただけでありんすのに、ふふっ」

 

 いつも通りのいつものテント。リビングで四人は昨日のことなど完全に忘れている風で、仲良く談笑しながら朝食を堪能する。

 話題は今日のショッピングについてだ。食料品店を中心に色々と案内はしてもらったのだが、まだまだ見るべきところはたくさんあるのだ。

 

「これで少しはちょっかいが減るといいんだが……フォーマルよりに作っといてよかったですね」

「染色で少し落ち着いた色にもしたからな、ビジネススーツって言っても違和感ないよね」

 

 それをうっとりとした瞳で見つめる女性陣。思わずあの誓いのキスを思い出してしまう。

 

 二人が着ているのは結婚式のときに着用していたタキシードだ。もとより彼女たちに見合うようにとその出来は素晴らしいの一言に尽きる。

 そしてそれが見事に似合っているのは、守護者としての勘違いでも妻としての贔屓目でも何でもなく本当に似合っていたのだった。

 イケメンを地で行くペロロンチーノは当然ながら、ニニャやンフィーレアと同年代と見られていたのは鳴りを潜め、落ち着いた貫禄までうかがえる。

 その若さまで戻した作りからこの世界で三枚目に届くかといったモモンガも、見事に着こなし……というよりは着慣れたというのだろうか、一流のビジネスマンといった風貌は、ある種の威圧さえ感じるほどだ。

 

 これを提案したのはアルベドであるのだが今はシャルティアと手を取り合って飛び跳ねている。まさに狂喜乱舞であった。

 

 これはあの晩餐のペテルの言葉が発端であるのだが、全員が平民の……農民のような恰好をしているのが付け込まれる要因であると理解したのだった。

 ならまた『姫プレイ』に戻るかと提案したモモンガであったがそれをシャルティアに止められる。

 

『もっと他に策はないのでありんしょうか……やはりあれはペロロンチーノ様やモモンガ様を下に見られているようで落ち着かないのでありんす』

 

 俺たちに上下関係なんか無いさと笑って言うペロロンチーノやそれに頷くモモンガであったが、アルベドはシャルティアの気持ちと同様であるかのように考えながら言葉を紡ぎ正解を導き出そうとする。

 

『農民の服……農民は農民の服を着ているから農民に見られるのよね……モモンガ様という王が農民の服を着て、いつものように慈愛の微笑みを振りまいていたら……知らないから理解できないのだもの……モモンガ様、あの服はいかがでしょうか?』

 

 王としての服なら昨日の装備が一番であるのだが、あれは決戦装備だ。自分たち全員が平凡で非力な平民だと見られるなら構わなかったのだが、どうにも私たち女性が目立ってしまうらしい。

 それなら見せてやろうじゃないか! 知らしめてやろうじゃないか! 旦那様の素敵な姿を! と提案したのだが、もうなんかそんなことも忘れてウッキウキで飛び跳ねている。

 

 

 結果的にはこれは正解であった。ある程度の知識のある人間にはそれが南方に伝わるスーツという物であるという理解があるのも手助けしたのだが、いつもの白いドレスのアルベドと黒いポールガウンを羽織るシャルティアと手を握り、仲睦ましく街を歩く姿は絵になる程に似合っていた。

 煌びやかな貴族の服というわけでもなく、裕福な商人のそれともまた違う。シンプルながら洗練されたそれは高貴な人には見えるのだろう。

 

「あはは、なんだかよくわからないがアルベドの提案は正解だったみたいだな」

「俺たちの方が目立っちゃってる……あー違うのか、この目は昨日はシャルティアたちだけに向けられてたわけだ。酷なことをしちゃってたなあ」

 

 そういって互いの嫁に語りかける二人であったが、当の女性陣はのぼせるように頬を染めるだけ。そんな楚々とした二人の仕草も男性陣の評価を上げることにつながっていたりと、好循環であった。

 

「と、とにかくまずはあそこだな」

「毎日洗うのはいいんだけど、一着しかないからなあ」

 

 そんな会話を交わしながら四人が辿り着いたのは衣料店。ペテル達が言うには普通は古着の店が一般的であるのでここは入ったことが無いと言ってはいたが、モモンガたちは古着ではない切実に欲しいものがあったのだ。

 

「シャルティアのは大量にあるのに……」

「これでパンツ一着生活とはおさらばできますね……」

 

 突然異世界生活も突き詰めると不便がいっぱいであったりするのだった。

 

 

 

 

…………

 

 

 

……

 

 

 

 

 

 

 

「意外な展開になったけど、結果オーライかな。アルベドよろしく頼むよ」

「お任せください、モモンガ様の下着姿は目に焼き付いておりますので」

 

「私もアルベドに教えてもらうのでありんすよ」

「お! がんばれ! う~良妻だなぁ二人とも。飯はうまいし家事も出来るし!」

 

 残念ながらこの高級衣料店は仕立て屋さんだった。なにやら受付と思われる年嵩の女性に興奮気味に応接室のような場所に通され、ものすごい勢いでやってきた店長直々に対応して貰ったのだが、どうやら自分たちは南方からやってきた貴族の類と思われているようだった。

 単なる観光で訪れた一般人ですとは言ったものの、それでもかまわないので仕立師たちに私たちの衣服を見せてやってくださいとお願いされてしまう。

 対価としてアルベドたちに渾身のパーティドレスを贈らせていただきたいと言われてしまえば、これも社会見学として楽しそうだと了承することに。

 

 ただ対象が女性たちだけと思っていたのだが、モモンガたち全員が仕立師ほかその徒弟たち十数人に囲まれてファッションショーのように歩かされたり、血走った瞳で囲まれスケッチされたりしたのは想定外だった。

 

 その様子に満足顔の店長にため息をつきつつ下着は取り扱っていないのかと聞いてみれば、御作り出来ますよとのこと。出来合いの物は無いらしく、ブラウスやドレスの類なら複数デザインとして既製品がございますと。

 なら平民はどうしてるんだとぼやいてみれば自前で作ったり、古着を直したりするのが普通だそうな。

 

 魔法はあるけど中世ヨーロッパ時代の文明レベルなんて考えていたくせに服飾の既製品販売……いや同一製品の大量販売が無いとは気づけなかったのは失敗だった。

 

 それならばとアルベドが布の販売はしていないのかと聞いてみると、織布から高級シルクまで各種扱っておりますと答えが聴ければ話は早い。

 

『私、裁縫には一家言ございますので。子供の靴下から抱き枕まで自由自在でございます』

 

 自信満々に私が作りますよと言うアルベドに全てを託したのだった。

 

 

 

「大分時間取られちゃったけど楽しかったしいいか。さてお昼はどうしようか」

 

 なんて談笑しながら市場の方向を目指す。昨日は通り過ぎてしまったが出店を散策して買い食いなんてのもいいかもしれないと。

 途中『冒険者組合が大変なことになってんぞ!』『なんか縛られたロープが全然切れないらしい』なんて噂話も聞こえてきたが、聞こえなかったことにしてスルー。

 肉焼き串の匂いにつられるように一つの露店へ。

 

「へい! うぇっ!? 御貴族様でございたてまつりますのでしょうか……」

 

 なんて若いお兄さんに恐縮されてしまったが、「良い匂いにつられてしまった只の旅人ですよ」と笑顔で返し、帝国では有名なんだと言う羊の焼き串を頂いた。

 

「ははっ! 確かに御貴族様はこんなところで立ち食いなんかしないわな! どうだい、タレが自慢なんだよ!」

「あっつ! うまっ!」

「羊ってこんなんなんだなあ!」

 

「独特の臭みがありんすけど、出来立ては美味しいでありんすね」

「これ、テントの調味料を使ったら面白いかもしれないわ」

 

 女性陣は一言あるものの、おおむね満足。おいしいおいしいと頬張る高貴な衣服を着た男性たちに、麗しい笑顔を見せる女性陣。遠巻きに見ていた他の客たちが焼き串店に殺到するハプニングもあったが、店主にも感謝されたり、偶然居合わせた食料品取引の商会長だと言う方とも仲良くなったりと、楽しい昼食を過ごすことが出来た。

 

 

 

 

 

「あんたたちありがとう! うちのは精力が付くって評判なんだ! もっと食ってくかい?」

「ほう! それじゃもう一本いっちゃおうかな」

「俺は二本くれ!」

 

「も、モモンガ様!? そ、そろそろお暇しましょう!」

「ひぃ!? これ以上つけてどうするんでありんすか!?」

 

 

 

 





最後にちょろっと出てきたのはバルド・ロフーレさんです。


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14 それは異世界のお約束

「さてこのまま散策を続けてもいいんですが……どうします?」

「行きたいところが多すぎてなぁ……馬車はどうすっかなぁ」

 

 やりたいことが多々あるのだけれど、少々気疲れ気味のモモンガとペロロンチーノ。美しい女性二人に見合う出で立ちであるが故、やたらと注目されてしまうのは仕方のないところでもあろう。

 おかげで女性たちがナンパの類には会うことは無くなっているのだが、まだ慣れるまでにはいかないようだ。

 

「そうですね……まだ昼を過ぎたばかりですが、私は下着の制作に取り掛かろうかと。シャルティアには途中まで教えるけど、時間がかかると思うから夕食を一人で用意してもらえるかしら?」

「ふふっ、そうでありんすね。食材も増えたでありんすし師匠のところで作らせてもらおうかしら。ペロロンチーノ様たちは明日の計画を相談していただきたいでありんす」

 

 モモンガたちがアルベドたちを無茶苦茶大好きなのは事実であるのだが、彼女たちのそれも偏執すぎるほどの愛であったりして。旦那様方の心の機微にも反応できちゃう観察眼は、良妻でもあるのだろう。

 

 

 

 

 そんなこんなでカルネ村に転移。天気も良かったのでいつものテントの外にテーブルを用意してモモンガとペロロンチーノは紅茶を飲みながら会話を楽しむ。

 着替えた村人装備はもはやジャージやスウェットの域にも達しているらしく、くつろぎモードになっている。

 

「気軽に転移魔法を使った生活って考えてたけど思ったより難しいですね」

「ニニャにもう少しこの世界の魔法事情を聴いておくべきだったよなぁ」

 

 銀級冒険者チームのニニャが第二位階までの魔法を使えることを聞いてはいる。それが結構すごい事だという事も。

 ただ魔法がある世界なのにいまだ街中で魔法を使っている人を見たことが無かったのだ。いやンフィーレアのお婆さんや金玉を売り払ったお店のように鑑定魔法は見たのだが。

 

 餅は餅屋だとばかりに近場にある昨日訪れた換金所に行ってみると、その服装に驚かれたりはしたが魔法に関するルールを教えてもらうことが出来た。

 要は一般的に攻撃魔法の使用はアウト。生活魔法と呼ばれるものにその規定は無いが鑑定魔法など一部を除いて『街中での魔法使用に関する規定』という法に触れるのだそうな。

 

 そして人気のない場所まで出てようやく戻ってこれたという経緯があった。第二位階以上の魔法など一般人は見たことも無いそうだからだ。

 

「法律あるに決まってるよなあ……わかってはいましたがゲームの世界を基準に考えちゃダメなんだよね」

「ここリアルよりユグドラシルに近いんだもん……馬車1k(金貨千枚)とかなにそれ安いって一瞬思っちゃうくらいには」

 

 色々と愚痴が出てしまうのは仕方が無いが、嫁と幸せに暮らせればそれでいいわけでさしたる問題ではない。これは会話による確認作業のようなものだ。

 

「馬車1kってなんです? あぁロフーレさんと何か話してましたね」

「うん、あなたたちに見合う馬車だとそれくらいでしょうかとか。俺らこの国の金貨100枚も持ってないし……でも手持ちのユグドラシル金貨の方を先に考えちゃって」

「あぁ……それじゃ店売りNPCの短剣すら買えませんものね」

 

 当然ながらDMMOユグドラシルの貨幣に銀貨や銅貨なんてものはなく金貨のみだ。そしてこれも当然ながらMMOの経済は、モンスターを倒せば金貨がドロップするという永遠に貨幣が生み出される構造上インフレしていくことになる。

 それを回収するために運営側は、例えば『100レベルNPC復活費用500M(五億枚)』などあらゆる手を尽くしてはいたが、一般的な廃人プレイヤーには屁でもない金額だったりするほど金貨が溢れていた。

 所謂MMO末期の症状だが、つまり彼らが今手持ちにどれくらいの金貨を持っているかというと。

 

「俺大して持ってないけど手持ち放出したらカルネ村が埋まるくらいあるもんな」

「私の足したらエ・ランテルが埋まりますよ……金貨がスタック出来てありがたいですが我々は経済を破壊したいわけではないですからね」

 

 御多分に漏れずユグドラシルも他のMMOや一般的なゲーム同様金貨はスタック出来る。アイテムボックスには重量の制限があるが金貨は別枠ということだ。

 余談だが宝物殿の入り口にはスタックした金貨を演出としてぶちまけていたりする。

 

「しょうがない馬車はあきらめましょうか。明日はロフーレさんに誘われたから商会の見学もしてみたいね」

「シャルティアたちが喜ぶ食材があるかもしれないしな。でももう少しこう……スマートに観光したいなあ、誰かに街のガイドとか……あ、丁度良い人材が走ってきますね」

「あぁ! ンフィーレア君か! シャルティアがエモットさんの家に行ってるから聞いてきたのかな?」

 

 なおシャルティアはどうにも裁縫のような細かい作業には向かず、早々にエモット宅へ料理を作りに行っている。アルベドが言うには料理は楽しいらしいのでそっちを頑張ってくれれば良いと、まるで母親のような表情で語ってくれた。

 

 ンフィーレアがここに来たのはシャルティアのお使いだ。エンリも含めて『なんでいるの!?』と驚いていたようだが、エ・ランテルで購入してきた食材で料理を開始したものの、その中に肉類が無かった。エモット家の備蓄もそれほど多く無いらしく、『テントに行ってお肉を貰ってきて欲しいのでありんす』とお願いされて走ってここまで来たのだそうな。

 

 今更ながら思い出した『お肉』の存在にモモンガとペロロンチーノは見つめ合って笑顔で頷きあう。明日の商会見学に役立つかもしれないと。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほらほら! 早く座るでありんすよ。思えば我が家第一号のお客様でありんすね」

「そういえばそうだな、エモットさんたちとも外で食べたんだっけ」

「我が家って言ってもテントだけどね」

「どうしたのかしらこの子、呆けていますけど」

 

「い! いえっ!? はいっ、座らせていただきます!」

 

 料理をしていたシャルティアさんを迎えにやってきたモモンガさんたちに、夕食をご一緒にと招待されてしまった。

 エンリの家でみんなで一緒にでもよかったのだがこの人数では厳しいだろうとの判断で、自分だけが誘われたのだが、難しい話ではなくどうやら街のことについて詳しく教えて欲しいらしい。

 

 そんなことならお安い御用ですと現在居候の身であるのも手伝って広場のテントに向かった。

 場所は違うけれどエンリとシャルティアさんが作った料理を食べるのも楽しみだ。もちろん今頃エモット家でも彼女たちが作った料理を囲んでいる事だろう。

 道中『お婆さんスゴイ人でしたよ』なんて笑うモモンガさんに、本当にエ・ランテルまで行って帰ってきたの!? なんて驚いたものだが、テントの中に入った瞬間それ以上に驚くことになった。

 

「なんというか……外観の大きさの倍以上ありませんか? それに他にも部屋があるようだし明るいし……え? どうなってるんですか?」

 

「……気のせいです」

「……目の錯覚じゃないかな」

 

 結局マジックアイテムであることは教えてもらったもののまったく理解できていないンフィーレアであったが、女性陣の眼力に押し切られた形で食事を始めることになったのだった。

 

 

 

 

「お肉に……おイモだ。じゃがいもかな? これ好きだなあ……」

「も、モモンガさん泣くなよ、ははっ、でもなんだろうな、初めて食べたのに懐かしい感じがするな」

 

「うー、嬉しい反応でありんすがほとんどエンリが調理したのでありんす。そのお肉が絡むとどうにもならず、お芋の皮むきと味付けくらいしか……」

「それは……残念だけれどもこの味。テントの調味料を使ったのでしょう? それなら次回はこの世界のお肉で挑戦してみようじゃないの」

 

 そんな四人の会話に思わずほっこりしてしまい、それでは自分もと肉とお芋の煮物のようなものを頂いたのだが……

 

「うわぁ……ものすごく美味しいですね」

 

 味が濃厚で、煮汁を十分に吸った芋も美味であるのだが、このお肉がとんでもない絶品であった。これはあのエ・ランテルで贔屓にしているパン屋で買ったのかな? なんて思われる出来立てのパンにもよく合い言葉を忘れてしまう。

 

「シャルティア……ありがとう」

「も、モモンガさまぁ……」

 

「おいモモンガさん!? なに人様の嫁の手を握ってるんですかねえ? 表出ろ!」

「シャルティアあなた……お話が必要そうね……」

 

 食卓の上で火花が散っているような気もするが美味しすぎてそれどころではない。それでも恐々と窺ってみれば喧嘩しているように見えてすごく楽しそうなのがわかり、羨ましい気持ちになってしまった。

 

 

 

 

「そういえばンフィーレア君……年も近そうだし俺もンフィーって呼んでいいか? で、結果はどうだったんだよ」

「あはは……それがちょっと難しくって」

「何を言ってるのあなた、もっと頑張りなさい」

 

 食事を終えて紅茶を頂きながらエ・ランテルのについて教えていく。どうやら漆黒の剣のメンバーに冒険者組合の場所と露店を教わったくらいで、他の行きたい場所を探すのに難儀していたらしい。

 一番必要なのはロフーレ商会と一番美味しい食事が出来るお店だそうなので、『黄金の輝き亭』の情報を教えたり、必要ではないでしょうがと前置きして娼館が立ち並ぶ裏道の場所や貧民街なども教えておいた。あそこは治安も悪いし間違って行ってしまって女性たちが悪いことになってしまっても心配だからだ。

 それ以外にも自分のお気に入りの商店などを雑談を交えながら話していたのだが、不意に先ほどの話をペロロンチーノさんが振ってきたのだった。

 

 かれらは村を守ってくれた英雄と聞いているし、現在村人の恰好をしてはいてもさすがに女性たちは無理がある程高貴な何かなんだろうという事は分かる。

 それ以上に親身になってくれていたアルベドさんに報いるために、相談という名の現状を報告することにした。

 

「要はうまいこと告白は出来たのだけどエンリはこの村を離れたくないのでありんすな」

「うん……エンリは育ったこの村が好きだって、もう少し考えさせてと言ってはくれたけど……僕も店があるしおばあちゃんもいるから」

 

「うーんなんというか社畜的な意味で放っておけんな」

「俺らは仕事なくなったら即死でしたからね、低い給料でも次が決まってなきゃユグドラシルに……おっと、でもこの村もいいぞ! 俺たちもセーフハウスの一つとしてここはキープしたいしな」

 

「つまりあの妖怪を説得してここに住めば良いのね。モモンガ様」

「そうだな、仕事も大事だろうけど好きな人も大事だもんな。一度おばあさんと相談してみると良いよ、じゃぁ行こうか」

「え?」

 

 

 

 

…………

 

 

 

……

 

 

 

 

 

 

 

「……ンフィーレアや。わしは先ほど冒険者組合に呼ばれての、今朝がた犯罪者七名が組み合の軒先につるされておったそうでその紐が切れないんだとな」

「お、おばあちゃん何の話!? 今はそんなことを言ってる場合じゃ」

「それで鑑定魔法を試してみるとアダマンタイト製の組紐ということがわかったんじゃ……」

「アダマンタイト製の紐!?」

 

 移住の話云々より今しがた起こった奇跡に呆けていたンフィーレアも、そんな未知の物質の話に興味を注がれる。

 

「正直そんな物この国にはないし作る技術も無い……先日先ほどの四人組が赤色の『神の血』と呼ばれるポーションを売りに来たんじゃが……間違いなく犯罪者を捕らえたのはあいつらじゃろうて」

「……」

 

 頭の中が真っ白だ。口を大きく開けて呆けることしかできない。

 

「先ほどの移動魔法でカルネ村から戻ってきたのじゃろう? わしの理解を越えておるが……あの者たちは神かなにかなのかもしれんのう……『神の血』の製法、研究意欲が沸くってもんじゃ。どうじゃンフィーレアや、カルネ村に移住するのは。都市長を説得するのは難儀じゃが組合にポーションを定期的に卸せば問題ないじゃろうて」

 

 まるで自分の事などなんでもお見通しだと言わんばかりな茶目っ気ある笑顔でそう問いかける祖母に、ここへ戻ってきた意味をようやく思い出して言葉をかける。

 

「おばあちゃん!」

「くくっ、なんじゃ嬉しそうな顔をしおって。わしはまだまだここから動けんから新居の用意でもしておくんじゃな」

 

 あの方たちに聞きたいことは山ほどあるが、突拍子もない行動の本質は優しさにあふれているのだろう。根掘り葉掘り聞かれるのを煙たがられるのは自分もこのタレントのせいで知っている。

 なら今はあの方たちの恩義に感謝するだけにしよう、いつかそれに報いられたらなんて考えながら改めて祖母に『結婚したい人がいる』との報告を始めるのだった。

 

 

 

 

 

「モモンガさん……俺たちがやった事って『俺なにかやっちゃいました?』ってやつなんじゃ」

「いやぁあああああ!?」 

 

 





MMO廃人だった自分はどうもユグドラシルをMMO方面に妄想してしまうので、このお話は捏造ですが、実際は『未知を発見してもらうために金貨を得やすい』ゲームだったようですね。


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15 わらしべ長者

「ふふっ、漢の顔をしておりんしたな。アルベドを崇拝しているのが笑えてくるでありんすが」

「なんとでもおっしゃい。これで一人目は排除完了ね……あとは距離が近いのはニニャかしら」

 

「え?」

「モモンガさん気づいてなかったのか? あいつ女の子だぜ、()()が違うからな。まあなんかあるんだろうし指摘はしてないけど、他のメンバーも気づいてるんだろうしさ」

 

 変態的な特技を持つペロロンチーノさんはともかくみんなすごいな、確かに先日の会食で魔法談議に盛り上がってしまいましたが全然気づかなかったよなんて会話をしながら、一行は商業地区画へと歩いて行く。

 途中またしても『軒先から降ろされたらしいぜM字』『あぁ強制M字開脚の』なんて声も聞こえたが華麗にスルーするのはお約束でもあったり。

 

 ンフィーレア曰くよくそんな大物と知己を交わせましたねと驚いていたが、バルド・ロフーレと言う人はエ・ランテルの食料取引の多くを担う有名な商人なんだそうな。

 そして到着してみればその店のでかいことでかいこと。マーケットスペースは元より多数の荷馬車が出入りする倉庫区画なども併設しており規模が半端ない。

 もちろん商売をするつもりではないので小売り店舗の方を見学していくのだが、その商品量に圧倒される程だ。

 

「これが全部食料なんだなあ……食肉はわかるけど他の野菜なんかは色とりどりで綺麗なものですね」

「画像的知識はあったけどこうやって実際に見ると楽しいな!」

 

「見た目で味の想像がつかんでありんすなあ」

「そうね、試食……いえ調理法なんかを、あら? あの方ではないかしら、モモンガ様?」

 

 見られているのは分かっていたがやはり私たちは目立つらしい。他の職員から伝わったのか、ロフーレさんと付き人の方達がやってくるのが見えたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「すいません我儘を言ったようで……妻たちも喜びますよ」

「あいつら料理が好きなんで……いや趣味になってくれたら嬉しいなあって思うから助かりました」

 

「いえいえ、お代は頂いてますので……いや、こういった食事の提供方法も面白いですな。やはり異国の方と接すると新たな発見があり刺激になりますよ」

 

 現在小売店舗に併設している飲食店のVIP席らしき所で料理を頂いているのだが、モモンガとペロロンチーノはロフーレさんと普通に会食を。

 隣の席ではあるがアルベドとシャルティアはテーブルに大量の食事を用意してもらい、ワゴンで運ばれてきた食材を説明されながら試食を行っている。

 

 食材の購入も目的の一つであるが、フルーツなのか野菜なのかもわからない食材の数々に困惑しており、アルベドがこんなことは出来ないでしょうかと問いかけてみれば快く了承してくれたのだ。……多少頬が赤くなっていたのは仕方が無いが。

 

「それで馬車はいかがいたしますか? 伝手がございますのでご紹介することは可能ですが」

「いえいえ私たちではとても手がでませんよ」

 

 なんて軽い食事を頂きながら談笑をしていると、白い制服を着た一人の老齢な男性がワゴンを押してやってきた。どうやらメインディッシュ、先ほど渡したお肉の調理が完了したのだろう。

 

「お前が出てくるとは珍しいな料理長」

 

 料理長と呼ばれた男はロフーレに鋭い視線を送ると、私たちを見て納得がいったような顔をして語りだす。

 

「なるほど異国の方だったのですか……失礼致しました、私料理長を務めさせていただいている者でございます。この度は大変すばらしいものに触れさせていただき感謝の念に堪えません。どうぞ、こちらになります」

 

 私たちの目の前に出されたのは綺麗な皿に盛りつけられた……単純と言っても過言ではないのだろうが分厚いステーキだった。

 

 本来はロフーレさんは遠慮するつもりだったのだろう。それはそうだ、中空から突然現れた一メートル四方の肉の塊など不思議を通り越して恐怖の対象であったかもしれない。『私たちの国に伝わる収納の生活魔法です』とフォローはしたが、それとこれとは別問題だ。困惑気味に料理長を伺うロフーレさんだったが、彼は笑顔でこう告げた。

 

「店長……いやバルド、お前も食べてみろ。これを食べないなんて人生の損だぞ。私の50年の料理人人生をかけて保証する」

 

 その言葉に負けたのか、目の前の料理の香しさにやられたのか。恐る恐る肉にナイフを通すロフーレさんや私たちだったが、あまりにも抵抗感なく切れる肉にこれまた驚愕してしまう。

 一口また一口と咀嚼していく五人だったが、最初に言葉を発せたのは女性陣だった。

 

「これほどまでに違うのでありんすか……完敗でありんす」

「私たちはまだ食したことは無いけれどナザリックの美食に近いのだと思うわ。料理長ありがとうございます」

 

 若干悔しさも含ませてはいるが異形種の彼女たちの最大限の賞賛がそこにはあった。もちろん男性陣の方もであるが、

 

「すごい美味しいなあ……多分筋力アップかな」

()()()()()方なんでしょうね、そこまでの効果は無いかもしれませんが驚きです」

 

 おいしおいしいと食べてはいるが嫁の手料理を超えるものは感覚的に無いらしく、冷静に分析が出来てしまうぐらいの美味しさにとどまっていたりする。

 

「……神の料理だ」

 

 ロフーレさんにとっては四人を超えるほどの感動であったようで、打ち震えながらも食事の手は休まらない。

 

 

 

 

…………

 

 

 

……

 

 

 

 

 

 

「こんな物でよろしいのですか? 型は落ちますし一月ほど頂ければ最新式の物を用意できますよ」

「いえいえ十分ですよ! 私たちの方が恐縮しちゃうくらいで」

 

 なんというか結果的にあの食肉が馬車になった。なんでも料理長が言うには<保存(ブリザベーション)>の魔法と冷凍倉庫で最大一年は持つらしく、あの一枚でステーキ二百食は軽いと告げられたロフーレさんは商談モードに。

 お肉を一枚二枚と数えていいのか謎ではあるが、ざぶとん大の食肉十枚を交渉に金貨千枚で手を打つことにはなったのだが、すぐに手に入るなら馬車と交換とか出来ませんかね、なんて要求にすぐさま答えられる彼はまさに大商人であった。

 ロフーレにとってもあのステーキ一皿で金貨一枚出してもいいという輩は相当いるはずだと考察しており、商談の一歩としての半値交渉であったのだが、あっさりとそれを飲まれて困惑してしまう。

 自身が使用している馬車を用意したのだが、少々申し訳ないような気になっていた。

 なおついでだが、『馬はいりませんので』と言われて召喚された大型騎馬を見せられて、こんな規格外な大得意を相手にこれでは本当にぼったくり商人になってしまうと危惧したロフーレは、馬の差額としては破格な金貨五百枚を付け足すことを勝手に決めて支払っている。

 

「紹介状も書いていただいたり、ありがとうございます」

「いえ、『黄金の輝き亭』は私も懇意にしているものですから、馬車を見て勘繰られてもなんですし、それで御者はどうされるのですか?」

「あ!」

 

 あまりにもサクサクと進む展開に喜んでいた一行は、御者の必要性を忘れていたりする。

 

「交代交代で……そもそもアルベドの騎獣に命令すればいいだけだからいらないかな?」

「それはそうだけど、外から見られて常識的に拙いんじゃね?」

 

「もうあの娘たちをレギュラーにすればいいでありんすよ」

「レギュラーってなに!? うーん……でもあの女は、うーん……」

 

 自分たちの旅の都合上、馬車自体がカモフラージュ的なものであるので御者を雇うと言う発想は無く、今のところは良案が浮かばないものの、一度やってみたかったこともあって男性陣が交代で御者席に座ることに。

 一行は熱い見送りの中、今日の目的のもう一つである『黄金の輝き亭』を目指す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ロフーレさんの紹介状のせいかどうかは文字が読めないために分からないが、すんなりと宿を取ることが出来た一行は、まだ夕食には早い時間だったのもあり、馬車を宿に預けて宿周辺の散策を行う。

 歯ブラシやタオルなんて生活雑貨も一応テントには用意されているのだが、この世界の様式や生活スタイルも学んでいかなければと雑貨屋を中心にウインドウショッピングを楽しんでいる。

 

 ――今更な話だが彼らの言う『大目標』というのは『四人で安全に暮らせる場所を探す』というもので、あったらいいとは思いつつもナザリックを探すなんて話ではなかったりする。

 異世界転移を納得理解はしたものの、あの状況を経験して拠点が転移してくるなんて考えてもいないからだ。

 この世界にある『浮遊都市』の情報を知っていたならその可能性も考えたが、今の彼らにその考えは無い。

 逆に異世界転移のお約束なんてカケラも知らないアルベドやシャルティアはその大目標を『ナザリックを見つけること』と勘違いしているのだが、戻ったらイチャイチャできる時間が減ったりライバルたちが大量にいるのを危惧して、あまり積極的では無かったりする――

 

「モモンガ様ここは貴金属のお店では? 私たちには必要ありませんが」

「うーんちょっとな……結婚指輪とかあるのかなって思って」

 

「妾たちはすでにリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを頂いておるでありんすよ?」

「あーでもモモンガさんの気持ちわかるかも、この世界に来てから結婚指輪として渡したけどあれじゃあなあ」

 

 彼女たちにとっては最大級の結婚指輪ではあったのだが、彼らにとってはただの予備でもあるしと思うところがあるのだろう。

 冷やかし気味に店内を回っていたのだが、やはりあれ以上の意匠を施されたものなど見つからず、そろそろ宿に戻るかと思っていた際に、ある一点のアクセサリーにペロロンチーノは足を止めてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「さすがに美味しいですね! それに……ちょっとした変化でもドキドキしちゃって」

「わかる! 嫁が可愛すぎて飯どころじゃ……あ、でも美味しいな!」

 

「モモンガ様に喜んでもらえるならそれだけでも嬉しいです。でもちょっと恥ずかしいわ」

「髪形を変えるなんて今まで考えにも思いつかなかったのはなんででありんすかね? でもこのバレッタ大切にするでありんす!」

 

 現実だってわかっているのにそんな単純なことも思いつかなかったなんてと、そのアクセサリーの前で笑ってしまったが、ペロロンチーノが見つけたのは宝石をちりばめられた『バレッタ』や『カチューシャ』『ティアラ』といったものであり、どれが似合うかとあれこれ悩みながらプレゼントしたそれらを女性店員がさらに美しく見えるようにと奮起してしまった結果がこれだったりする。

 

 アルベドはカチューシャを付けているのだが、角が一体型のアクセサリーのように見えるのがカモフラージュ的な面でも高評価であり、オデコを出しているのがなんとも可愛らしい。

 

 シャルティアはまとめた髪をバレッタで束ねているだけだが、そのほっそりとした首筋が見えるだけで大人の色気を醸し出していたりする。

 

 そんなこんなで今回は二人に違った装いをとリクエストした結果、シックな黒いドレスを纏っての登場となったわけだ。

 

「翼を不審がられて楽しい雰囲気を台無しにされてもなんですので、この色にしたのです。翼を前に抱くようにすれば」

「え、辛くないのか? そんな無理をするようだったら」

「いえいえモモンガ様、腕組みするようなこととお考えくだされば」

 

「シャルティア今度ツインテールやってくれよ」

「み、見本が欲しいでありんす! 他のメイドで言うと誰でありんすか?」

「あれ……いないぞ……あの変態の巣窟にいないっておかしくね? 巻いてないソリュシャンかな?」

 

 なんて楽し気に『黄金の輝き亭』で夕食を楽しむモモンガ一行。目立ちすぎているせいか先ほどちょっと場違いな赤い鼻の男に声をかけられる一幕もあったが、店員の素早い対応でつまみ出されている。あの紹介状のせいなのだが相当な賓客とみなされているようだ。

 

「正直これ以上は隠れた名店を探すレベルになっちゃうしどうだろう、そろそろ王都に向かってみないか?」

「たしか衣料品店の店長がドレスが出来るまでは一か月ほどとか言ってましたっけ」

「それを待つのもアリですけれど、転移が使えるのですから行動範囲を広げるのもアリでございますね」

「私も賛成でありんす! 黄金姫っていうのも見てみたいでありんすよ!」

 

 たびたびアルベドとシャルティアがエ・ランテル住民に比較されていた人物。当然耳に届くのでこの国の第三王女という情報程度は得ているわけだが、さすがに会えるわけは無いと思うもののペロロンチーノは微笑ましく笑顔で答えるのみ。

 

「王女は私たちの中では二人だけで十分ですよ」

「だな! もう俺楽しくってしょうがないよ!」

 

 綺麗な世界が広がっていて大好きな嫁がいる。指輪を外しているうえに少しお酒が入っているせいか、少し目を潤ませるようにして言葉を紡ぐモモンガとペロロンチーノ。その思いは彼女たちも当然同意であるがゆえに楽しそうに笑顔で会話を進めていく。

 

 このままだと今宵の主導権は完全に女性陣に取られてしまうが、それもまた一興か。

 エ・ランテルの夜は更けていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

某所

 

「なんだ? 急に寒気がしてきたんだが……」

「ブレインの旦那、風邪ですかい? なんでも今度の獲物はものすごいらしいですぜ。あ……すいやせん男の子がよかったんでしたっけ?」

「お前ちょっと表出ろ!」

 

 

 

 

某牢屋

 

「クレマンティーヌ……そういった趣味は控えるべきだと思うのだが……」

「趣味でやってんじゃねーよ! ってか見るなニグン!」

 

「はい、エ・ランテルでM字ハゲとM字開脚を発見しました風花聖典隊員は連行を」

 

「禿げてないし!?」

「くっぅううう!? あいつら絶対殺してやるっ!!」

 

 




ガゼフさんたちは王都に急行するために、ニグンさんたちを置いて行ってます。
カジっちゃんはズーラーノーンが回収に来るのかなあ? 一応法国の人だから一緒に連れて行ってもらえるかもねw


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16 にちあさ

「ご主人様! 野盗を排除拘束いたしました!」

 

「北門を出てから一時間も経ってませんよ……この世界こんなに危ないの?」

「びっくりだよなあ、モモンガおにいちゃん」

「おにいちゃん止めてくれる!?」

 

「アルベド昨夜はどんなプレイだったのでありんす!? ありんす!?」

「ちょっと口が滑っただけじゃないの。もうしょうがないわねぇ、あれは背徳的で」

「アルベド!? ストップ! ストーップ!!」

 

 城塞都市エ・ランテルを背に、一路王都を目指すモモンガ一行。御者にアルベド苦渋の選択だったが天使たちの長女ブリュンヒルデを擁し、他七名に周辺警戒を。最後の末っ子は『ネムちゃんは?』と言うのでカルネ村に遊びに行かせている。

 

「まあそれは後で聞くとして……あの赤い鼻の男だなあれ」

「うわぁ……なんか常習犯ぽいですね。身形だけはあの男が一番のようだし、高級宿とかで狙う対象を探してたんでしょうか」

 

 完全に白目をむいて伸びている拘束された男を見ながら考察するが、考えるのはそんな事じゃなくてこいつらどうしようか? なんて話に変わっていく。

 急ぐ旅でもないし、夜にはペロロンチーノさんの方のテントを出して夜営してバーベキューしてなんて馬車の中で盛り上がっていただけに、出立していきなりの出来事にテンションも駄々下がりだ。

 さらにそれに追加するように『ご主人様! 妹たちが野盗の塒を発見したようでございます』なんて報告まで入ってしまう。

 嫁を危険に晒すわけにはいかないしとモモンガたちがどうするかと相談していると、アルベドが少し困ったように声をかけてくる。

 

「モモンガ様、ペロロンチーノ様……私たちはそんなに弱い存在でしょうか」

「妾達は妻でありんすが守護者でもありんす」

 

「うっ……」

「わかってはいるんだがなあ……お前たちが俺たちより強いことも」

 

 圧倒的なプレイヤースキルという経験により同レベルだったのなら勝つことも可能だったであろうが、レベル差わずか『3』とはいえ現状対峙したならば確実にモモンガたちは負けるだろう。しかも高速育成のための対人を無視したスキル構成・魔法構成ではどうにもならない。

 それでも、それでもだ。愛する人を矢面に立たせたくないと思ってしまうのは、やはり人間としては当然の感情なのだろう。

 

「いえ、それはどうでしょう? モモンガさまにはアレがありますし、ペロロンチーノ様に至っては常軌を逸しております。すべてを知らされている現状、勝率は五分五分……いえ、そんな話ではありませんでしたね」

「私たちはこの世界に来て守られてばかりで……いえ、それは嬉しいのでありんすが……あーもう! 私たちはパーティでありんす! 私も私の()()を果たしたいのでありんす!」

 

 この世界に来て何度か戦闘の機会が会ったがまともに戦ったことは皆無。シャルティアは眷属たちがあの騎士たちを嬲ったのみ。アルベドに至っては鼻息荒くモモンガの陰に潜んで見守っていたくらいのことしかしていない。

 

「モモンガさん……諦めようぜ。思いはシャルティアたちも一緒なんだよ」

「はい……そうですね。でも確実に強敵だとわかるまでは前にはださせませんよ」

 

 

 

 

…………

 

 

 

……

 

 

 

 

 

 

 

「ペロロンチーノ様……可愛い衣装なのはわかるのでありんすが思ってたのと違うでありんす。これ夜の装備だと思っておりんした」

「どっからどう見ても魔法少女だろうが! よしキュア・シャルティアのキメポーズを考えよう!」

「きゅあ!?」

 

「モモンガ様……これは水着とかレオタードといったものではないのでしょうか? いえ防御力があることは体感できるのですが」

「結構有名なんだぞ? 昔はエロゲーだったなんてデタラメ言う人もいたけど日朝お約束の対魔忍だ!」

「にちあさ!?」

 

「よし、やらない善よりやる偽善! ブリュンヒルデはこの場を確保。誰か通りかかったら衛兵を呼んできてもらってくれ。他の姉妹は塒までの案内と連絡役を頼む」

「俺たちのロールプレイ(()()演技)第二幕だ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「へぇ……ただ者じゃぁなさそうだな」

 

 腰を落として刀に手をかけ最初から臨戦態勢。久々に感じる強者の感覚……これだ、これを求めていたんだ。

 前衛三人の中で確実に強いのは女だろうか。煽情的な衣装は相手を油断させるための罠か? 確実にデカい方の剣士は論外、剣をかじった程度の素人臭がしており、短剣をかまえる少年剣士の方がましに見える、いや一番危険な存在か。

 

「第三位階とは恐れ入ったな」

 

 そして後方にはフワフワとしたオレンジ色の衣装をまとった宙に浮く銀髪少女。杖を前に構えてなにがしかの言葉をぶつぶつと呟いている……詠唱では無さそうだが。

 

「アルベド!」

「問題ございません」

「よし! 続行!」

 

「は?」

 

 何が問題ないのかさっぱりわからないが、何故か緊張した空気が霧散するかのように殺気が消える。ふざけるなよ舐めやがってと武技<領域>を発動したブレインであったが、透き通るような少女の声に時を止めてしまった。

 

「き、きらきら輝く夜空の星! キュア・シャルティア! 魅了しちゃうでありんすよ、<人間種魅了(チャーム・パーソン)>」

「くそっ!? 魅了なのか!? うおぉおっ!」

 

 咄嗟に抜いた刀で自身を傷つける。この程度の低位階の魔法などに影響を受けるほどやわな精神は持っていないはずだったが、予想を超える効果に緊急処置を施す。驚きながらも多少の痛みはあるが戦闘には全く支障がないと全身の感覚を再確認する。

 

「はじめてレジストされたでありんすね」

「逃げるでもなく攻撃に転じるわけでもなく……カウンターでも狙っているのかしら。なら」

 

「ちっ」

 

「待ったアルベド」

「それならちょっと話が出来そうじゃないか。あんた盗賊とはなんか違うし、シャルティアやアルベドにカケラの興味も無さそうだしな」

 

 こいつら本当にべらべらと……確かに魅力的なのだろうが、今俺が求めるのは強さのみ。そう考えながら再度<領域>を発動して答える。

 

「あぁ俺はただの用心棒だ。からきし出番は無かったんだがお前らのような女には興味があるぞ……おっと怖いな、やはり小僧。お前がこの中で最強の存在か」

 

 少し漏れ出た殺気に敏感に反応するブレイン。何気に彼の考察は当たっていたりもする。モモンガとシャルティアは抜きにして、アルベドは現状短剣を持っているもののその技術が無いので無手と変わらない。この狭い洞窟通路では自前の武器は使えず仕方ないのではあるが、盗賊・レンジャーの技能を持つペロロンチーノの方が確実に強い。

 それはつまり、

 

「へぇ……綺麗な刀だな」

「異世界物に和刀が入ると途端にファンタジー色が濃くなりますね」

 

「なっ!?」

 

「さすがの速さでありんす!」

「規格外のスピードだわ……本当に何をもって弱いと言うのかしらね? ふふっ」

 

 <領域>は発動させていた。その三メートルの間合いを詰めて武器を奪ったと言うのか。生き残ることを是として逃げるかと考えるも、<領域>で知覚できない速度を見せられては無駄だと察するブレイン。武器が無いのでは闇雲に切りかかる無駄な抵抗さえさせてもらえない。

 

 俺が努力して得た<領域>で知覚できない……

 

「俺は馬鹿だ……こんなに弱いのか……」

 

 突如膝をついて涙をぽろぽろと零しながら呆然と呟くその姿に、呆気にとられるしかないモモンガ一行であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「頼む! 俺を弟子にしてくれ! なんでもする! なんでもするからっ!!」

「ひぃ!? こわっ!?」

「おんしペロロンチーノ様から離れんさい! ふんっ!! あ……モモンガ様これすっごい飛ぶでありんすね」

「あー……まぁ頑丈そうだったしいいか。付きまとわれてもなんだし」

 

「そういうことだから私たちは先を急ぐの、あとのことはよろしくお願いね」

 

「へへへ……お安い御用ですよ……うへへ」

「リーダーでれでれしすぎですよ!」

「……あの美貌では仕方が無いだろうよブリタ」

 

 馬車まで戻ってくると六人ほどの冒険者たちがいた。なんでも街道の警備と野盗の塒が近くにあると言う情報から様子をうかがっていたそうなのだが、その野盗が馬車の周囲で縛られているのを発見してしまう。

 その馬車の御者席に悠然と座っていた美しい女性騎士に話を伺うと『ご主人様がたが野盗の塒を強襲しているので協力してほしい』とのこと。

 翼のような装備や馬鹿でかい馬は気になるが『これを預かっております』と渡された手紙には、私たち宛では無いものの、あの有名なバルド・ロフーレ氏の書状であることと、馬車の経緯や今の持ち主が南方の高貴な方々なんて情報が書かれており、警戒を解いて協力をすることになったのだ。

 控えのレンジャーを他にもいるらしいパーティへの連絡に放ち待機していると、森の方からふらふらと……そして続々と野盗があらわれる。

 一瞬で警戒態勢を取る冒険者たちだったがどうやら魔法で魅了されていることがわかり、流れ作業のように拘束を開始していくのだった。

 

「ブリタさんとおっしゃいましたね。妹たちが囚われていた女性たちを癒しもうすぐここに到着いたします。おわかりになるとは思いますがよろしくお願いします」

「はっ、はい! 他のチームにも女性がいますので! お任せください!」

 

 白金の女性騎士に首筋をなでられながら、なんだか違う性癖が呼び出されるような感じをしつつ頬を赤らめながらも良い返事で答えるブリタ。

 40人を超えるような大捕り物ではあるが自身は何もしていない。それでも自分に出来ることはあるのだと。

 

「ふふっ可愛いわぁ。あなたがカルネ村にいたらまた会えるかもしれないのに残念ね」

「!?」

 

「ほら。あいつ面白いでありんしょう?」

「くそっ!? ネットで性格知っておきたかった!」

「公式は頭おかしい」

「そっち系ならOKよ。それじゃぁそろそろ行きましょうか」

 

 

 

 

 まだまだ昼を過ぎた頃合いの晴天の街道を馬車が走り出す。

 

「カルネ村……お姉さま……」

 

 1人の冒険者の人生を変えてしまったかもしれないが、それはそれ。馬車の中では『新しい自分を発見したようで面白かったでありんす』『違う職業を演じる……昨日の夜に通じるものがあり興奮いたしました』などなど先ほどまでのロールプレイ談議に花が咲いたりして。

 

 

 なお余談だが、夜の魔法少女と対魔忍は無茶苦茶強敵だったらしい。




次回は(多分)王都 ツアレどうしよw


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17 初代はレジェンド

「なんだあの馬……おい、イビルアイ! むちゃくちゃデカい馬だったな!」

「……」

「どうしたんだ呆けちまって? あれ、ティアがいねぇ!?」

「……どこかで見たことが……あの女騎士……くそっ! 思い出せん! とにかく追うぞ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 通称『南方の高貴なお方』モード。スーツとドレス姿の装いの四人は、エ・ランテルから一週間以上かかってしまったがようやく王都リ・エスティーゼに入城を果たしたのだが。

 

「拙ったよなぁ……ストロノーフさん家どこよ」

「王国戦士長って言うくらいですから王宮に近いんでしょうが……王宮近くの宿を取れたものの参りましたね」

 

 誰かに聞ければ話は早いのだが、その『誰か』の選定が難しい。自分たちが目立つことを理解しているので下手に勘繰られても困るのだ。

 困ってはいるものの焦っているわけではなく、メインは新婚旅行なのだからとその宿屋の一階部分。酒場兼食堂でお昼を頂きながら会話を楽しんでいる。

 

「大都市であるほど味付けが濃くなる気がするでありんす」

「なんでも魔法で塩や香辛料を作れるそうよ。郊外ではその手の魔法使いが少ないのではないかしら」

 

 旅をすれば出会いがある。良い人たちばかりではなかったものの、そういったこの世界の一般的な情報や噂話を得られたのは僥倖だった。

 悪い人たちはことごとく残念なことになってしまっていたりするが。

 

「……それで、あいつはなにをやっているんだ?」

「ナンパかな?」

 

「あいつ多分両刀でありんす」

「……モモンガ様。御者を変えましょう、チェンジです」

 

 何やらこの宿は腕に自信がある冒険者が多く集う高級宿だったらしく、食堂に面して大きな庭がありここからもその様子が窺えるのだが、何故かブリュンヒルデが少年剣士と剣を交えているのが見えたのだった。

 

 

 

 

「あれは何者だ? ラキュースみたいな装備をしているけど相当できるぞ!」

「かっこいいわね! 聖王国の女性騎士かしら?」

「ガガーラン、鬼リーダー。それよりこいつらを止めてほしい」

「綺麗な人と可愛い人が店内に。それに麗しの女性騎士……だと?」

「あぁあ! あのバカ者! 公共の場で素顔を晒すなんて……牙が見えているじゃないか!? ティナ、離せっ!」

 

 一方同じ食堂内ではあったが奥まった席では五人の女性がてんやわんやの大騒ぎであったりもする。

 

 

 

 

 

 

 

 

「八重歯でありんす」

「嘘を吐けっ!!」

 

「あっちは放っておくかな。シャルティアがなぜか楽しそうだし」

 

「マントの下見せてもらっても良いかしら? まあ! 本場の対魔忍が見れるなんて感激だわ!」

「なんでも見せる。むしろ全部を見てほしい」

 

「あっちも楽しそうだしいいか。外は……増えてる!?」

「本当は俺っちが行きたいんだがスマンな。うちのリーダーの理想らしいんだわ」

 

「大きくなりすぎ。惜しい」

「同意見だ。あんたも惜しいな」

 

 スラリとした金髪美少女にため息を吐かれるペロロンチーノだったが、すぐさま理解し素で返せるあたりは同類なのだろう。ガッチリ握手まで交わしている。

 

 どちらから見ても目立つ存在なのが幸いしたのか、何故かこの女性冒険者たちと相席することになった。

 シャルティアとイビルアイと呼ばれる少女が隣の席へ。アルベドとティアと呼ばれる仮装忍者娘(最低でも60レベルは必要な職業であるため)も隣の席で談笑をしており、モモンガとペロロンチーノは庭での戦いを観察しながら女戦士ガガーランとティナと呼ばれる双子忍者の片割れと席を共にしている。

 

「あれが御者だってのか!? まああんたらの恰好からすると、御者兼護衛騎士って感じなんだろうがスゲェな。ラキュースの奴完全に攻めあぐね……あ、違うあれ。見とれてるだけだ」

「む。大人げない。あの少年に譲って上げるべき」

 

「すごい人たちなんだか残念な人たちなんだか」

「お姉さんたち冒険者なんだろ? ちょっとお願いがあるんだけどさ」

 

 なんて切り出したペロロンチーノの問いは勿論ガゼフ・ストロノーフ戦士長の家を知らないか? なんて話になるのだが、やはりと言うべきか不審に思われてしまう。

 

「お、お前たち不感症なのか!? なんで平然としてられるんだ!?」

「妾は結構敏感でありんすよ。もう色々開発されすぎて大変なことになっているでありんす」

「ちょっとお前!? あぁああ! もう!」

 

 なにがしかの魔道具を使ったのか途中からシャルティアたちの声は聞こえなくなったが楽しそうなのでスルー。

 誤解を解くためにもカルネ村での共闘などを嘘偽りなく話していく。誤解でも何でもないペロロンチーノは白い目で見られてもいるが。

 

「一か月くらい前だったか? 戦士団が戻ってきたのは。まあ嘘じゃないのはわかるんだが生憎俺っちは知らん。ティナは?」

「調べることは可能。だけどあの少年に聞いた方が早いと思う」

 

 ティナ自体は初見だったそうだが、ガガーランは結構面倒を見ていたりもしたあの童貞少年はクライムという名の王国の兵士なんだそうな。

 それなら後で聞けば良いかなと、童貞だけは本当に勘弁してあげてくださいと熱を込めてガガーランに語るモモンガの瞳は真剣そのものだったりして。

 なんだかんだと楽し気に食事会というより宴会のような盛り上がりになっていたりはしたが、王都初日は『蒼の薔薇』という冒険者たちと新たに知己を交わし大変実りあるものになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あんな愉快な連中は珍しいな! 俺っち男に説教されるなんて初めてだったぞ……あぁぁモモンガの初めて奪いたかったなぁ! ティナもすげぇしゃべってたじゃないか。ペロロン気に入ったのか?」

「う、うるさい。あれは同志」

 

「首筋をね、こう優しく撫でられて『君は筋がいい』って……カルネ村ってどこにあるのかしら」

「アルベドお姉さまはきっとスゴイエッチ。格が違う」

 

「お、お前らいいかげんにしろよっ! 私がどれだけあの女に苦労させられ……あぁあ! 違う! あの魔窟でなんで正気でいられるんだ!」

 

 あいつら私たちが束になっても敵わんぞなんて叫んでみてもラキュース以外は首をかしげるばかり。格が高すぎるための弊害でもあるのか、あの御者が多分強いんじゃないかということぐらいしかイビルアイ以外は理解できていなかったりする。

 びっしょりになっている手汗を見せても『イビルアイって汗かくのね』なんてそっちの方に驚かれたり。

 とにかくこのままじゃ王都が危ないと説教するも『あいつら新婚旅行だとよ。帝国にもいきたいって言ってたな』なんてお気楽な答えが返ってくれば力も抜けてしまうと言うもので。

 あれ……私って仮面外しても全然大丈夫なんじゃ? なんて別なことを考えながらテーブルに突っ伏すイビルアイであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 珍しく転移で戻らず宿にきちんと泊ることにした一行は、またしても食堂で少し遅めの朝食を頂いている。少し遅めといっても日の出と共に活動を始める冒険者たちはすでに出立しており、一人の仮面の少女以外の人影は従業員ぐらいのものだ。

 

「おんしは食べんのでありんすか? 結構いけるでありんすよ」

「……味がわかるのか? なんてデタラメな吸血鬼なんだ」

 

「この国に来て初めてまともに指摘された気がしますね。でもそっか、ペロロンチーノさんの設定の影響かな?」

「俺ナイス。紅茶のあれかあ」

 

「それで何か用があるのでしょう? 言っておきますけどモモンガ様はダメですからね」

 

 最初こそ悲壮な決意を胸に秘めていたイビルアイだったが、あまりにもユルイ空気にさらされてシャルティアの隣の席に座り困惑してしまう。隣の席で『モモンガ様あ~ん♪』なんてやられてしまえば尚更だろう。

 もしかして本当に私が間違っているのか? なんて思いまで頭を巡る程だ。

 

「もしよかったら王都を案内してもらいたいんですが、お暇だったりしますか?」

「……吸血鬼の方を流されるとは思いもしなかったが、勘弁してくれ。これでも仲間に頼み込んで今日の依頼から外させてもらったんだ」

 

 なお『蒼の薔薇』メンバーは黒粉と呼ばれる麻薬の生産拠点を探るために各地へ赴いている。下調べという段階であり、イビルアイも実行には参加する予定だ。

 クライムの方は案内することは可能だが一度主に許可を貰いに行きたいと、明日にはこの宿を訪れることになっている。

 聞きたいことが多々ありすぎる上に『お前たちの目的はなんだ!』なんて一番の質問は『新婚旅行』で返されるだろうことは前日のガガーランの言葉で把握しているためすることはないが、そうすると言葉に詰まってしまう。

 ただ自分は彼らが安全であると言う確証が欲しいだけだったのだなと。

 

「あぁそうだ。あの御者のことなんだが……どうにも昔見たことがあったような記憶があるんだ。人を難度で計っていいものか憚られるが200を超えているとも思えるし、彼女の名前だけでも教えてくれないか?」

「ブリュンヒルデですけど、難度ってなんですか?」

「あれじゃね、超人パワーみたいなやつじゃね?」

 

 その名前だけ聴いてもやはり記憶にない。仕方ないなどと思いながらこの世界のモンスターの脅威度を示す数字を教えていくのだが。

 

「スケリトル・ドラゴンが難度48ですか……およそ三倍ってみればいいのかな。なら私たちは290くらいですね」

「だな、ブリュンヒルデは210か。お、当たってるな!」

「妾は300でありんす」

「私も馬も300ね」

 

「……もう、私はどうしたらいいんだ」

 

 とうとう仮面の下で泣き出してしまうイビルアイであった。

 

 

 

 

● 

 

 

 

 

「ほら、仮面を取りなんし。なんだかわかりんせんが濡れタオルがありんす」

 

 もうはっきり言って抵抗する気力も無いとばかりに大人しく仮面を外すイビルアイ。なおモモンガとペロロンチーノに断りアルベドと二人で部屋に連れ込んでいる。

 

「あら? シャルティアと同族だったのかしら。あぁこの仮面がマジックアイテムなのね」

「ほら可愛い顔が台無しでありんすよ。おんし化粧もしてないのでありんすか? ふふっ子供が出来たらこんな感じになるんでありんすかねぇ」

 

 優し気に涙の跡をぬぐってあげるシャルティア。何故か母性にあふれた表情は彼女を安心させていたりして。

 

「さすがに大きすぎるでしょう。うーん……そうだ化粧は私がしてあげるわ。さすがに飲食が出来ないアンデッドとなるとモモンガ様が特に不憫に思われるでしょうし」

 

 そんな確実に吸血鬼と亜人種だと思われる女性たちに優しくされてしまい困惑してしまうイビルアイ。悪魔の方は下心があったりもするのだが。

 

「なんで……」

 

 自分の感覚は正しかった。今も二人から感じる邪悪な気配も間違いではないのだろう。それはカルマ値極悪という観点からは正しい気配でもあったのだが、どうにも二人が取り繕っているようには全く見えない。むしろ自分に優しくすることを楽しんでいる気配さえある。

 

「シャルティア。色違いいっぱいあるのでしょう? 二人で着てみたらペロロンチーノ様も喜ばれるのではない?」

 

 この日とある宿で『二人のプリキュア』が誕生したことと、一人の少年が転げまわって歓喜していたことはあまり知られていなかったりする。




時間軸としてはセバスが王都に付いたのと同時くらい。なおゲヘナが一か月以上先に起こるような時期です。


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18 暗殺者とか許せんな(悪人)

「うわぁ……そんなに大変なんですか?」

「はい。ストロノーフ様は城へ帰還されてからまだ一度も帰宅していないのだそうです。ですが明日には出迎え歓迎したいとのことで、その趣をお伝えに参りました」

「なんか無理させちゃったみたいで悪いなあ……うーん」

 

 先日はイビルアイで遊んでしまって一日を潰してしまったので、今日は約束されていたクライムの到着を待って予定を決めようと考えていたのだが、朝食の時間にわざわざ走ってやってきてくれた。

 彼に席を促し、会話からどうやらストロノーフさんとも連絡を取れたことを聞かされたのだが、異世界であるのにその同じような労働環境に絶句してしまう。

 お役所勤めで偉い立場の方だとはわかっていたが、平民からの叩き上げでは苦労が絶えないのだろう。クライムの懐きようからも慕われる上司であることは伺えるが、リアルの自分たちをつい重ねてしまい申し訳ない気持ちになってしまった。

 

「まあおんしも食べなんし。それでずっと疑問だったのでありんすけど、なんであの時ブリュンヒルデと剣を交えていたのでありんすか?」

「確かに珍しいわね。今までの道程で私たちの代わりに絡まれることは多かったけれど」

 

 食事はさすがに平民の私が高貴な方達となどと遠慮していたクライムであったが『俺らも平民だから』『そういえば自己紹介もしていませんでしたね』なんて言葉と、『彼らも平民だそうな』なんて戦士長の言葉を思い出し、納得はしていないもののせっかく用意してくれたのだからと頂くことにした。

 そしてあの時の状況を思い出しながら笑顔で話しだすクライムによると。店の前で女騎士が五人程のがらの悪い男たちに絡まれていたのだそうな。

 助けに入ろうと思ったのだが平手打ち一発で道のはずれまで吹き飛ばされるリーダー格の男を見て唖然としてしまう。男たちはニヤリと笑う女騎士に恐怖を感じたのか逃げ出してしまったが、自分はどうしてもその強さに焦がれ師事を仰ぎたいと思って声をかけてしまったらしい。

 

「逆ナンじゃなかったのか」

「御者以外は自由行動させてますからね。クライムさんの熱心さにやられたのかな?」

 

「あいつ純粋な奴をたぶらかしてヴァルハラ(カルネ村)へ導くと言っておりんした」

「……モモンガ様チェンジで」

 

「ですが力量が違いすぎました。壁に向かって剣を打ち付けているかのようでなんとも……いえ、大変勉強になりました!」

 

 どうにも教師役には向いていなかったのだろう。なぜそこまで強さを求めるのか気にはなるが、少し不憫に思ってしまう。自分らに出来ることは何も無いとは言わないが、まずは本題だとペロロンチーノが質問を投げかける。

 

「それでクライム君は今日大丈夫なのか? 明日伺うならストロノーフさんの家を教えておいて欲しいんだが」

「そうですね。本来なら明日自分が案内できればよかったのですが、二日続けてですと主に迷惑をかけてしまいますので。アインドラ様と()()()女性騎士の方に稽古をつけていただいたと報告しましたら連絡ついでに街を案内してあげればとお休みを頂けまして」

「それはありがたい。優しい御方なのですねクライムさんの上司は」

「はい! 私の太陽です!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ご主人様。先ほどから暗殺者と思われる者に遠距離から攻撃を受けているのですが、反撃してもよろしいでしょうか? あ、気配が消えましたね」

 

「うーん王都も大概物騒だなあ。ブリュンヒルデは御者として私たちの盾にもなってたから、いらない恨みでも買ってしまったんでしょうか」

「彼女はともかく周囲が危ないかもだから、カルネ村でお手伝いでもしていてもらおうか。徒歩圏内みたいだし馬車はいらんでしょう」

 

「許せない! 王都の民を守るものとして謝らせてください!」

 

 出掛けにちょっと物騒なことにもなってしまったが、五人は歩いてガゼフ邸へと出発。道すがらクライムから『八本指』なる犯罪組織が大手を振るっているなどとの情報を得たが実際はどうか分からない。

 

 ほど近い別の場所で、

 

「そりゃコッコドールさんの顧客が手に入れろと騒ぐわけだぜ。御者もそうだが出てきた二人もとんでもないな。お前たちは尾行を続けろ。それにしてもなんだったんだ?」

「同胞ですかね? 殺っちまいましたが、かち合いませんかサキュロントさん」

「俺はそこんとこ調べてくるわ」

               

 なんて会話がされている事など知らないモモンガたちは『汚い、さすが八本指汚い』などと会話しつつ歩いて行く。

 無論尾行には気づいているが実害が無ければ放置の方向だ。慣れって怖いとは思うものの街中で白昼堂々襲ってくることは無いだろうと言う判断でもあり、出番はまだかと隠れて護衛している天使たちを信頼しているのもある。

 余談だが末っ子はカルネ村専属になっている。

 

 歩いてみると分かるのだが表通りというか、あの宿の通りは石畳で綺麗に舗装されていたのだが、一歩違う通りに出ると地面むき出し。なんというかエ・ランテルより寂れているのではないかと思うほどの古臭さであった。

 

「王都ってもっと派手なイメージがあったけど観光スポットには向いてないね」

「ここからでも見えるお城はすごいですけどね」

 

「ははは……後で市場の方にご案内します。見えてきましたね、あちらがストロノーフ様のお屋敷です。何でも老齢の夫婦に住んでもらって管理をお願いしているのだとか」

 

「ははっ、あの方らしいですね。それにしても綺麗な住居ですねぇ!」

「……一か月帰れてないらしいけどな」

 

 門から見えるくらいでしか分からないが大きな庭もあり、芝も綺麗に駆り揃えられていたりして。二階建ての白亜の家屋はこじんまりとしながらも貴族の別邸といっても過言ではない程だ。

 

「あの男には似合いんせん……あぁ、奥方の趣味でありんしょうか?」

「そういえば左手薬指に指輪をはめていたわね」

 

 お前らそんなところよく見てたなと思いつつも、クライムが言うにはガゼフ・ストロノーフは独身であるらしい。

 誠実そうな人なのに意外だなんて話しながらクライムには恋の相手はいないのか? などとからかいつつ次は市場へ向かうことに。

 ストロノーフ邸まで30分くらいかと考えながら、立地の把握にスキル<鷹の目>を使ったペロロンチーノは、何気に遠回りして辿り着いたことに気づき尋ねてみると『危険な場所を避けようと思いまして』との返答に納得。

 元から真面目な青年だと高かったクライムの好感度は、それを聞いてさらに上がってしまった。

 

 道すがら『あちらの通りは危険ですので』などと注意を受けながら歩いていた五人だが、少し妙な二人組にすれ違う。自分たちが目立つことは自覚していたが、すれ違いざま嘗め回すようにこちらの女性陣を窺いつつ、金髪女性を引きづるように歩いていた大男だ。

 引きづると言っても抵抗しているわけではなく、全てをあきらめているような瞳に見えたのはモモンガの勘違いではないのだろう。

 クライムも振り返りながら眉を寄せているが何もできない。

 

 ただ、

 

「……どっかで嗅いだことが」

 

 なんてペロロンチーノの呟きは気にもなるも助けを叫ばれたわけでもなく必ずしも犯罪に結びつくとも限らない。それでも少し無言になりながら市場まで歩いて行く一行であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 さっきまでの少し暗い雰囲気など吹き飛んだように、小さなカフェとでも言うのだろうか。その店先のテーブルを囲みモモンガたちとクライムは一人の男と楽し気に会話を交わすことになった。

 

「もうこれは運命じゃ……あーやめやめ! 人妻口説いてどうするってんだ俺は。ははっ、なんかすげー格好してるなモモンガさん。ペロロンも。似合ってるが俺からすれば違和感があんぞ」

「あはは、私もあっちの恰好の方が楽で気に入ってるんですけどね、ルクルットさんはどうしてこちらへ?」

 

 話を聴いてみるとなんと金級に上がるための試験のようなもので、あの依頼や案内などで昇格試験の為の商隊護衛依頼を受けることになり、無事にここまで完遂出来たのだそうだ。

 護衛は片道だけで終了なのだが、手ぶらでエ・ランテルまで帰るのはなんなので他の護衛依頼を待ちつつ王都で依頼をこなしていこうと考えているらしい。

 

 先に安い宿を探すためにルクルットだけ組合から出ていたのだが、市場で目立つ美女を発見したところモモンガたち一行だったというわけだ。

 

「ならもう金級? ってやつなんだな! おめでとう!」

「一応な! エ・ランテル所属だからプレートは帰ってから貰うことになってっけどな」

 

 そう言って首から下げたプレートを持ち上げながら朗らかに笑うルクルット。そういえば階級制なんだっけと思い出したぐらいの知識しかなかったが、知人の昇進にモモンガたちも笑顔がこぼれてしまう。

 

「これはお祝いだろ!」

「ですね! あぶく銭をため込んでても仕方がありませんしどうでしょう? ルクルットさんあの肉あり得ない価格で売れてしまいまして、ちょっと使い道がない程の額なんで還元したいんですが」

「あー分かる気がするけど……いいのか?」

 

 金貨として600枚弱とは言えものすごい大金なのだが、しょせんはあぶく銭。自分が働いたという感覚はさすがになく、村の方達に還元なども考えていたが丁度いいとばかりに同じ宿へ誘うモモンガ。

 ペロロンチーノも大賛成であるし、女性陣もちょっと思いつめた表情をしていた彼らを笑顔にしてくれたルクルットの登場には喜んでおり、是非にと美女と美少女に笑顔で言われては断れない。

 

 一人蚊帳の外であったクライムも、空気が和らいだことに安堵し『私も金級程度はあると言われたことがありまして、是非お話を伺ってみたいです』などと便乗。

 続きは宿でしましょうかという事で、市場の観光ならいつでもできると宿の名前と場所を教え一旦別れてから再度集まることになったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「まーたお前らこんな美女たちと知り合いになりやがって! ……ってあれそのプレートって」

「おーう嬉しいこと言ってくれるじゃんか。さすがモモンガの友達だな! どうだ? 俺様とヤルか」

 

「高級宿ってだけでも驚いてたのに……モモンガさんアダマンタイトですよ!」

「え? なにそれ?」

 

「彼らと知り合ってから我らの運勢上向きであるな!」

「僕は胃が痛いですよ……」

 

「あれは違うだろうペロロン」

「あ、わかっちゃった? 内緒っぽいから黙っててね」

 

「お前! だから離せ! もう絶対着ないからな!」

「えー、楽しんでた癖に恥ずかしがり屋さんでありんすなあ」

 

 あちこちでカオスな状況が出来上がっているがそれも仕方のないという物。『漆黒の剣』四名『蒼の薔薇』五名とモモンガたちにクライムという大所帯での昇格を祝う宴ともなればこうもなろう。

 この宿も金級以上のものが多いとはいえ、新たな力ある者たちの台頭に、他の席で食事をしていた冒険者たちもにこやかに『おめでとう!』と声をかけてくれる。

 冒険者ご用達でもあるためか宿の方も気を利かせて特別料理などを出してくれたりと大盛り上がりであった。

 

 

 ただ一つその盛り上がりを止める誤算があったとすれば変態の特殊能力が思いのほか強力であった事だろうか。

 

 

「あーわかった! ニニャの匂いだったんだ!」

「え? ちょっと怖いんですけど本当にやめてくれません?」

 

 素でドン引きしていたニニャであったが続く言葉に持っていたグラスを落としてしまう。

 

「あーちょっとな。昼間お前と似た匂いの女性に……よくよく見ると似てたな。ニニャってお姉ちゃんとかいるのか?」 





人増えすぎて大変なんだけどこれw


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19 そのたとえは分かりやすい

 場所はモモンガとアルベドが宿泊している部屋。さすがに高級宿と言うべきか二人部屋にしてはかなりの広さだが、10人を超える人数ではやはり少し手狭に感じる。

 食って掛かるような剣幕でペロロンチーノに詰め寄ったニニャにより、静まり返った食堂を離れたはいいものの、『その場所を教えてください!!』と叫ぶ彼女を落ち着かせるのにかなりの時間が……かからなかった。

 

「大丈夫か? びっくりさせちゃったな? ちゃんと教えるから、よし偉いぞ」

「……はい、すみませんでした」

 

 見た目は同じくらいの年でもその人生経験が違う。こちらもディストピアとまで呼ばれるリアルで命がけで生きてきたんだ。部下や上司の癇癪には慣れっこだとでも言わんばかりに一人の少年……いや少女の背中をなでながら落ち着かせる様子はモモンガを除いた周りの者を驚かせる。

 

「も、モモンガ様、アルベド……旦那様が格好良すぎてヤヴァすぎでありんす」

「自慢の友人だからな」

「当然でしょう至高の御方ですもの、でもこういった一面もおありになったのですね」

 

「ティナどうしたの? 顔が赤いわよ?」

「なんだろう、ドキドキしてる」

 

 初見で『惜しい』と言わしめたショタコン忍者少女に火をつけてしまったりもしたが、当人は気づいてなかったりする。

 

「教えるのは構わないんだがこの真夜中に宿を飛び出していきそうな気がしてな、クライム君も言ってたが治安が悪い地区のようだし心配なんだ。ここにはお前の仲間を含めて頼りにならない奴なんていないはずだぞ? 話せるところだけでいいから話してくれないかな?」

「……わかりました。そうですね……もう六年も経っているのですから今更慌ててはいけませんよね」

 

 そこから語られたニニャの昔話はこの国ではありふれているらしい不幸な話だった。寂れた寒村で両親を亡くした10歳と13歳の姉妹が懸命に暮らしていたこと。その姉が悪評高い領主に連れ去られたこと。そこから別の貴族の妾へと売られたこと。

 

 

 だから私はその年の税金は払わなくていいのだと言われた事。

 

 

 姉を売った村を出て街へ出たこと。幸運にも師匠と呼べる人に出会い魔法の才能を見出されたこと。その力で姉を見つけるために冒険者になった事。

 

 そんな小さな少女の六年間の始まりを、ぽつりぽつりと話してくれた。

 

 その話を聴いていた漆黒の剣のメンバーは知らされていたのだろうが無言で俯き、蒼の薔薇の面々は舌打ちを打つ者、目頭を押さえる者、無表情ながら爪が食い込むほど拳を握る者など反応はさまざまであったが『この少女の助けになりたい』という気持ちは同じだった。

 

 そしてモモンガとペロロンチーノはどうかと言うと……号泣だった。

 

「ダメだって……俺そっち系(泣きゲー)の耐性無いんだって……」

「境遇を重ねるわけじゃないが……ぐすっ、大変だったんだろうなあ……」

 

 高貴な衣服を着てはいるものの、頑張ったなあなんて呟きながら本人を放って涙と鼻水をたらたら流す姿は周りを呆れさせもしたが、苦笑が混じりながらも場が穏やかになってくる。

 ああ、こいつら他人の気持ちを思いやれるいいやつなんだなって。

 

「イビルアイちょっとこっち来るでありんす」

「な、なんなんだいったい」

 

 ただその時アルベドとシャルティアはそんな和やかな場の中イビルアイを部屋の隅に呼び出していた。

 

「今の話の泣き所を教えて欲しいの」

「オチはどこだったのでありんす?」

「……」

 

 仮面の向こうで口をあんぐりと開けてしまうが……あーなるほどと解ってしまう自分がいたりして。不死者になって人に少し共感できなくなってしまった当時を思い出すが、そんな感じなんだろうかと。

 なんでも以前こんなことがあったらしく、人間の気持ちを理解しようと頑張ってはいるのだが難しいのだと。

 そんなある意味必死に愛する人と思いを共感したいと懇願する二人に、思わず笑みを浮かべてしまうが、さてどうしようと考えて出てきた言葉にはものすごく後悔することになった。

 

「例えば……そうだな、昨日シャルティアが子供を産むんだとか訳が解らんことを言っていたが、さっきの話の姉妹をその子供に置き換えて考えてみたらどうだ?」

 

 昨日は散々イジラレ、一方的に遊ばれ、あり得ない夢まで語りだしていたが、ちょっとだけ自分も楽しかったななんて思いだしつつそれを答えてみれば二人は動きを止めてしまう。

 

「……」

「……」

 

 数秒後、二人から暴力的なまでの禍々しい波動が膨れ上がりイビルアイは思わず座り込んでチョッピリ漏らしてしまったが、部屋にいるメンバーも同様で、蒼の薔薇の面々は思わず武器に手をかけるほど。

 漆黒の剣の面々やクライムも顔を青ざめさせ恐怖に凍り付く程の大惨事であった。

 

 もちろんすぐさま駆け寄る旦那たちのおかげで黒い波動は収まったが『イビルアイのおかげで共感できたでありんす』『早くあの時の大男を殺しにいきましょう』などとのたまう始末。

 

 話を再開するのに大分時間がかかってしまったり。

 

 

 

 

…………

 

 

 

……

 

 

 

 

 

 

 

「話を聴いて憤慨してしまった……って言うのは分かるのだけど……なんだったの?」

 

 シャルティアが謝りながら淹れてくれた紅茶に口を付けながら一息。周りの皆も落ち着きを取り戻したけれどラキュースがそんな言葉を吐くのも仕方ないと言うもので。

 

「モモンガさんたちも怒ると怖いぜ……嫁がナンパされかけててエライぶち切れてたからな」

「あれより怖くなかったか?」

「……あの時以上である」

「僕一度着替えに……いえ、なんでもありません!」

 

「いえそういう事では……あーまあいいわ。積もる話は後ででも。でもちょっと騒ぎすぎたかしらね? イビルアイが一応見回りに行ったけど大丈夫かしら」

「鬼リーダー……あれは着替えに」

 

 一部の人たちがちょっと大丈夫ではなかったが、安心しろとばかりにペロロンチーノが答えてくれる。

 

「ここはアルベドがいくら泣こうが喚こうが外に音が漏れないようになってるから安心してくれ。な! モモンガさん」

「な! っておい!?」

「な、なんでアルベドさん限定なのかはわからないけど、今はイビルアイが言ってたように規格外の人たちって事で納得することにするわ」

 

 さすが純潔乙女を地でいく聖職者。素でわかってないのが素晴らしい。

 

「さて……今のこの状況なら大丈夫そうかな? 場所は教えるが本人かどうかは定かじゃない。調べるときは俺たちも手伝うよ」

「はい。情報なんて今まで無いも同然でしたから。焦りすぎでしたね」

 

 さっきのアレがショック療法だった……以前にすでに落ち着いていたのだが、今更話を聴いて外に飛び出していくこともなかろうとニニャに正確な場所を教えることにする。 

 

「俺はとあるスキルで上空から俯瞰して視界を確保することが出来るんだけど、俺らが見た二人組があの通りから20mくらい先の通りを曲がって建物に入るのを確認したんだ。俺はここら辺の地理を知らんから上手く説明が出来ないんだが……クライム君、あそこで『あちらは危険です』って言ってた通りわかるか? あそこなんだが」

「えーと……他の皆さんに分かりやすく言うと……市場から王城方面へ3ブロック、そこから魔術師組合とは反対方向へ3ブロックにある通りですね」

 

 いやそれ誰にも分らんだろと思わず突っ込みかけたペロロンチーノであったが、蒼の薔薇の面々の目つきが変わり、ラキュースが思わずといった感じに言葉を発する。

 

「まさか……ティナ! ティア!」

「……今はあっちの方にかかりっきりで内偵だけ進めてたけどたぶんそこ」

「……以前報告した通り、裏娼館の場所」

「まじかよ……」

 

 蒼の薔薇どころか漆黒の剣の面々も悲痛な顔になっている。モモンガたちには以前ペテルに聞いた上辺の知識しかないが『裏』というのだから非合法な娼館なのだろう。

 なら連れだしちゃっても何も言われないだろうなんて考えていたモモンガであったが、『蒼の薔薇』がその場所を調べていたという話に違和感を覚える。

 それは冒険者の仕事なのか? と。それにこの人たちなら潰そうと思えばやれるんじゃないだろうかとも。

 血の気を失い真っ白な顔をしているニニャには悪いが、私たちが迂闊なことをしてここにいる誰かが大変な目にあってしまう可能性もあるかと、昔のように……そう、ギルドの調整役としての立場でしかなかったが、この場を取り持つことを決めた。

 

「まずは確認だ。蒼の薔薇の諸君、我々がその場へ行ってニニャの姉がいるとして連れだすことに問題はあるか?」

 

 なんか変な魔王ロールスイッチが入ったのか雰囲気やオーラといったものがガラッと変わり声まで威厳ある物に。

 

「む、無理です……ってそんな話ではないのね。可能なら問題ないわ。でもそれって裏娼館を潰すって話でしょ? 王都最後の裏娼館……まだ八本指に繋がっている証拠は無いけれど絶対奴隷売買の部門に……あ!?」

 

 その声や態度に惹かれるものを感じてしまったためか思わず心の内を吐露してしまう。

 

「なるほど……内偵ってそういう事か……だから強襲しなかったのですか」

「私だってあんな奴らぶっ殺してやりたいわよっ!! ってまた!?」

「わははは! ラキュースもう諦めろや、こいつらなら信用できるし問題ないだろう。なっ、おチビさん」

「信用できるかは置いてこの世界で一番頼りになるのは間違いないぞ。あ、あと外なんだが誰か張ってるな」

 

 しれっと戻ってきていたイビルアイだったが目ざとくガガーランに声をかけられるも、断じて着替えに行っていたわけではないと宿の外に感じる気配を報告する。

 

「昼間から尾行してるやつらですね。まあ放っておきましょうか」

「なるほど……俺たちがここにいるという証拠にもなるか。それよりそろそろ始めよう、ニニャが不憫だ」

 

 完全に二人の気配が変わり、周りが言葉をかけることも許してくれないような張りつめた空気感。まずは確認からかとモモンガは中空から無限の背負い袋を取り出す。

 

「モモンガさん俺がやろうか? 暗視もあるし」

「あ、そっか。ペロロンチーノさんの方が上空から見てる分早そうだ。お願いします」

 

 魔術師lv1のことを素で忘れていたが袋から次々とスクロールを取り出しペロロンチーノに手渡していく。

 

「よし<千里眼(クレアボヤンス)>……ちょっと待っててな」

 

 目の前で起きている光景に疑問が沸くが無言で二人を見つめ続ける一同。『大丈夫ですから』と励ましながら背中をさするアルベドのおかげで幾分か復調したニニャも、目の前で綴られる未知の魔法に釘付けになる。

 

「っと着いた! <水晶の画面(クリスタル・モニター)>……あとは感覚器官を付けるんだっけか」

 

 突如空中に浮かんだ楕円形の鏡とでも言うのだろうか。それに驚愕する一同であったが映る光景に言葉が出ない。夜間であるのに綺麗に映るその建物は不確かではあるが裏娼館なんだろうということは全員に察せられた。

 ペロロンチーノがもう一度放り投げたスクロールを合図に視界が移動していく。鉄の扉をすり抜けた先は通路になっており一人髭面の大男がアップで映った瞬間映像が止まる。

 

「あの時の男ですね」

 

 クライムの呟きにモモンガ一同も頷く。場所が当たっていたことに安堵しつつ視界が先に進むと大きな部屋が。複数の屈強な男たちがカードゲームをしたり談笑したりと、声も聞こえるのでまるで暇をもてあそぶようにしているのが窺えた。

 

「おぉ怖っ……武装してるな……二階かな?」

 

 まるでヤクザの事務所のような光景にペロロンチーノが零すが、()()()()場所ではないのは一目瞭然だ。上階への階段が見えるので視界をそちらに動かそうとすると、忍者娘が声を上げる。

 

「地下があるはず。店舗はそこ」

 

 簡潔に述べられたそれに頷き視界を床に向けて罠を感知。隠し階段を見つけると視界をそこに潜らせていく。

 階段を下りた先は一本の通路になっており、両脇に複数の扉が見て取れる。

 

「んじゃ行くぞ見つけたら確認してくれ」

 

 一つ、二つ、三つ目の扉を出終わった時にはペロロンチーノは心が折れそうだった。少女や少年に対する残酷なまでの性的虐待。手は出してしまったが『いえすロリータノータッチ』の心は彼の中で息づいているのだ。こんなリアルは間近で見たくは無かったと。

 

 もちろん周りのメンバーも同じだ。言葉を発せば邪魔になると思い大声をあげる者はいなかったが、ギリリと噛む歯ぎしりの音が聞こえるほど。『許せない』と呟いたのは何人いたのかと思うほどだ。

 

 そして四つ目の扉をくぐった先にそいつはいた。引き締まった筋肉は場違いではないかと思えるほどに今までの客達と打って変わった軍人のような男だった。

 それに組み伏せられていたのはあの時の女性だった。殴られているのか口から血を流し『痛い……たすけて……』とかすれた声を上げるも男の暴力は止まらない。

 取り分けラキュースが驚愕していたが、それを無視してニニャに問いかける。

 

「この人だ……どうだ?」

 

 大粒の涙をぽろぽろ零しながらしゃくりあげ、唇を震わせながら小さな声で答えてくれた。

 

 

 

「ね、ねえざんでず……がおは似ているぐらい、ですっ、が……声……が……」

 

 

 

 そこまで聞ければ話は早いとばかりにペロロンチーノは叫ぶ。

 

「モモンガッ!!」

「おうよ!! <上位転移(グレーター・テレポーテーション)>!!」

 

 アルベドとシャルティアが止める暇もない程の阿吽の呼吸で転移魔法を発動するモモンガ。呆気にとられる一同だったが、

 

『ふっっざけんな!! おらぁっ!!』

『ぐわぁああああ!?』

 

 なにがなんだかわかっていない面々にも、画面の向こうで筋肉ダルマを蹴り上げるモモンガの雄姿は、見ていてスカッとする心地よいものであったり。 




プロットは『転移して連れてくる』これだけ。
なんでこんなに長くなるのかw


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20 大相撲初場所

「治療は出来る範囲でだけど終わったわ……あとは何か消化に良いものでも……ってあなたたちまだやってるの?」

 

「あそこまで慎重に行動しておきながら何故単独で、しかも防具さえ纏わずに飛び出して行かれたのですか!」

「そ、その通りです御免なさい」

「反省しろよ! モモンガさん!」

 

「ペロロンチーノ様もでありんす! あの場はモモンガ様に振るのではなく私たちに相談してほしかったでありんす! バックアップもできんせん!」

「あ、あぁ本当にその通りでございます……反省してます」

 

 ニニャの姉をシーツに包み御姫様抱っこをしながら颯爽と帰還した英雄は、現在部屋の隅で正座をしながら嫁に延々と叱られていた……かれこれ30分は経っている。

 ラキュースとしても聞きたい事やお願いしたい事など。話したいことが山ほどあるのだがあの状態ではどうにもならない。

 漆黒の剣の面々や特にニニャなどもお礼すら出来ていないありさまなのは、帰還直後から首根っこひっつかまれて怒涛の説教が始まったからであり、今は彼らの部屋で看病をしながらこれが終わるのを待っているところだ。

 

『お前ら死にたくないならあれに口出ししない方がいいぞ』

 

 そう真剣な……いや必死とでも言った方がいいイビルアイの助言に恐怖しつつ、黒いオーラを放つ女性陣の愛するが故の怒りが収まるのを待つしかないのだ。

 

「もうあれだな、あいつらは別として考えないと話が進まねぇよ。あの魔法はなんだのとか聞いても理解できないだろう」

「ガガーランの言うとおりね……こっちはこっちで洒落にならないのが出てきちゃったし……」

 

「巡回吏のスタッファン・ヘーウィッシュ。結構黒い噂が絶えなかった」

「小物はいい。もう一人は本物?」

 

 名前までは知らなかったが巡回吏が一番目の部屋にいたのは気づいていた。ただニニャの姉を嬲っていた人物の方に問題があったのだ。

 

「あれだけ鮮明に映ってたのよ、それに声まで……バルブロ第一王子に間違いないわ……」

 

 噂の域を出ないが八本指と金銭のやり取りがあったなどとは聞いてはいたが……他の部屋には護衛や子飼いの貴族がいるのかもしれない。

 

 私たちへの依頼の最大の目的は八本指を潰すこと。不確実だった裏娼館を置いて黒粉を生産する村の破壊工作にシフトしたのは要は身バレを回避するためだ。

 強襲は可能だが下種な性癖を持つ者たちの最後の楽園。確実に強固な抵抗があり、大騒動になることが目に見えているため出来なかったのだ。

 ギルド規約を無視している依頼だと言うのも関係している。

 

「もし……モモンガさんたちに手伝っていただけるならこれは起死回生のチャンスになるんだけど……」

 

「暗殺者廃業案件」

「多分あの裏娼館いまだに誰も気づいてない可能性がある」

「だよな。頭おかしくなんぞ」

「……」

 

 怖い。恐ろしいのだ。遠く離れた場所から誰の目にも気づかれず強固に守られた目的の場所に容易く侵入し得る能力……イビルアイが自分たちより強いと断言し、王国の危機だと叫んだ理由に気付いてしまう。だからつい彼らを視界に映すのだが。

 

「目覚まし時計は良案だと私も思いました! ですがいくら至高の御方の御声とはいえ女性であるぶくぶく茶釜様の声で営みを止められた私の気持ちがおわかりになりますか!?」

「はい……あれは私もビクッとなってものすごく気まずかったです……」

 

「あはははははは!!」

「ペロロンチーノ様、笑いす……ぷっ……ダメでありんす、腸がよじれるでありんす!」

 

 あ、大丈夫そうだ。全然怖くなかった。

 

 何やら今朝方起こった悲劇(?)の話題にまで説教が飛び火し始めていたが、傍から見て彼らが恐怖の対象には全く見えず、一段落したのかモモンガたちが立ち上がり申し訳なさそうに謝ってきたのには笑うしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「それでお願いなんですけど他の人たちを助けるにはどうしたらいいでしょうか?」

「見ちゃったもんなあ……放って置けないけどどうしようもなくて」

 

「は?」

 

 そうだ。八本指だなんだと呑気にこんなことをしている場合ではなくて、他の部屋にいた娼婦を助けるのは当然じゃないかと……だがあの光景をまざまざと見せつけられて『どうしよう』は無いではないかと。

 

「10人くらいでしょうか? 病院……じゃなくて神殿? それと衛兵に突き出せばいいのか?」

「俺たちじゃ抱えきれん案件だからな……」

 

 その答えに納得すると同時に戦慄するラキュース。あの襲撃に抵抗は無意味だ。もうすでに彼らは制圧とかより娼婦たちの今後についての意見を求めているのだと。

 

「私がラナー様に」

「やめなさいクライム。それは本当にどうしようもなくなった時の話よ。治療は私が、あとは父に頭を下げて領地に囲ってもらいます」

 

 実家に戻れば見合いの一つでも受けなければならなくなるかもしれないが背に腹は代えられない。

 

「……ただの犯罪じゃないのか裁く側も犯罪者なのか遠回りなのがわからないわね。根が深いのかしら? モモンガ様。どうやら彼女たちは秘密裏に事を進めたい様子」

「やっぱりか。じゃあとりあえずは私たち流にやってしまいましょう」

「カルネ村だろ? シャルティア、エモットさんに話して村の倉庫貸してもらえるようお願いしてきてくれないか。10人分くらいの寝床が欲しいから」

「あい了解いたしました。村長にもでありんすね」

 

「え? え?」

 

 

 翌朝、王城正門前に王子を含む素っ裸の男たちと、屈強な男たちが奇妙な縛り方で吊るされ、半日以上もの間晒され続けたのは多くの者に目撃された。

 『裏娼館の客』『従業員』とご丁寧に落書きまでされて。

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんでもします! そうだ、僕実は女なんです! 貧相な身体かもしれませんが」

「いらんから! 私の妻の前で怖い事を言わないでくださいよ、国が消えます」

「くに!?」

 

 翌朝しれっと食堂で食事をとるモモンガたちを発見した漆黒の剣一同は、昨日は結局会うことは叶わなかったためでもあるのだが、詰め寄って頭を下げてお礼を述べるばかり。またしても遅い時間であるために他のお客に見られることは無かったが。

 

「お願いというのはそうではなくてですね、この街をすぐに出ていただきたいんですよ」

「え……でも」

 

「お姉さんは俺たちが一度カルネ村に運ぶ、ペテルたちは組合に行って……そうだな『やっぱり金のプレートを早く身に付けたくって』とでも何でもいいから告げてからがいいか」

「……危険かもしれないということですか」

 

「接点は無いから尾行は無いと思うんですけど念のためです。街を出てしばらくたったら全員カルネ村に送りますので」

 

 なにからなにまで頭が上がらない。ここで姉が見つかることも繋がりを知られることも拙いのだと理解できる。それほど凶悪な組織に対抗してしまったのだから。

 だからこそ、それに対する対価が見つからない……それどころかほのかな恋心を抱いてしまっている自分を恥じるばかりなニニャであったが、姉にも会って欲しいと言葉を続ける。

 

「姉が……お礼をと……」

「ニニャさん……昨日のあれを見て何を感じました? ねぇ……あなたのお姉さん……私の旦那様に惚れてしまったなんてことは……」

 

 怖い。ものすっごく怖い。必死に首を横にぶんぶん振るが……ゴメンなさいアルベドさん。私も含めてその通りです、てへ♪ なんて言った瞬間死ぬ。あ、違う国が消える。

 変なことを言わないように釘を刺しておかなければと心に決めるニニャであった。

 

「モモンガさんたちに従おうぜ。どう考えても蒼の薔薇が手こずる相手に俺ら程度じゃ話にならんだろうさ」

「ツアレ殿も療養が必要なのである」

「あれ? ラキュースさんが治療したと……病気は治せないのかな。シャルティアでもいいけど向こうに本職がいるから頼んでおくよ」

 

 神官戦士となると手落ちの魔法もあるのだろうか? いや、重篤な状況で限界があったのかもしれない。シャルティアの病気治療は正悪関係ないので可能だけど、天使たちの中の次女だったか? あの娘なら可能だろうとペロロンチーノは考える。

 あの娘たち万能すぎるのは嬉しいのだけど、ただ……

 

「……昼時くらいに空の彼方に消えていく女騎士たちがいますが気にしないでくださいね」

 

 こればっかりはどうにもならないなーなんて。

 

 

 

 

 

 

 

 

「次は俺たちの番だな」

「食事中にごめんなさいね」

 

 漆黒の剣との話し合いが終わるのを待っていたのだろう。入れ違うように入ってきたのは蒼の薔薇のラキュースとガガーランだ。

 

「あら、他の三人は?」

「イビルアイはいじられるのが嫌だって。他の二人は()()()()()()()仕事に出てもらったわ。会いたがってたけれど」

「素直になれない妹でありんすね」

 

「……姉妹か」

「言わせないですよ!」

 

 前日あんなことがあったのに普段と変わらないような態度に呆れてしまうが、とにかく報告はしておかなければとラキュースが話し始める。

 

「資料と呼べるものは根こそぎ持ち出せたわ、検証はこれからだけど八本指との接点を見つけ出せると思う……最初はぬるい制裁だと思ってたんだけど……あれ切れるの?」

「考えると怖いからよそうぜラキュース。とにかく礼を言わせてくれ」

 

 ペロロンチーノが持っているロープは盗賊関連のスキル取得時にイベントNPCから貰ったもので、本人はどんなものか分かっていないが、ガゼフクラスが宝剣を使って武技を叩きこめば切れるかもしれないなんてことは今の所誰も分かっていない。

 

「成り行きですので礼はいいんですが……村にこっそり支援してくれたら嬉しいかな」

「村長には迷惑かけちゃうけどなんとかなりそうなのは幸いだな」

 

 ニニャの姉を抜いて女性六人少年一人を救出したが、そのうちの三人は元冒険者だったのだそうな。考えてもみればあんなことを続けられていればすぐ死んでしまうわけだが、それを耐えきれてしまうレベルがあったのだろう。

 

 後に全員がカルネ村に住むことを決め、自警団及び食肉調達の猟師などとして活躍することになるのだが、今は心を癒してほしいと望むばかりだ。

 

「当然です。あの村に迷惑をかけることが無いようにこちらでも手を打ちますし支援も……あれを全部使わせていただきますよ。ロフーレ商会でよろしかったですよね」

「はい、信頼できる方ですので」

 

 根こそぎ持ち出したものの中には当然ながら金貨や宝石の類も。モモンガたちは不要と言うので全て蒼の薔薇が預かっているが、すべて元娼婦や村に還元しようと考えている。

 正直神聖視されている現状モモンガたちからは受け取ってもらえないだろうと言う配慮だ。

 

「それでクライムが来てから話そうかと思ったんですが……来れないでしょうし一つだけ。いつか私たちの依頼主に会っていただけませんか」

 

 雇用主の情報をばらすことは出来ないが、前日クライムが零した時点でバレているだろう。変に取り繕うのもなんだがラナーも絶対会いたがることは確信できる。

 

「なんかそんな予感がしたんで絶対いやですって言おうと思ったんですが……」

「うちの嫁たちが乗り気なんですよね」

 

「さすがにどこの街でも比較されれば会ってみたくもなります」

(イビルアイ)クラスならプリキュアに入れてあげるでありんす」

 

 なぜか第三王女に変なフラグが立ったが、今度こそ厄介ごとがありませんようにと祈るばかりなモモンガ一行であった。

 

 

 なおこの日、宿を発ってガゼフ宅へ訪れた一行だが『急な呼び出しで王城に戻ることになった済まない、好きに使ってくれて構わないので戻るまで滞在していてくれ』と言われたことで、ペロロンチーノ念願の『ヌルヌル大相撲』が開催されたりしている。

 

 

 

 

 

 




次回は未定です。すまんのw


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21 九つの宝石

 モモンガの朝は早い。

 

 エ・ランテルを出立してからというもの、御者である天使たちを召喚するために朝六時前にはカルネ村に赴いている。

 召喚時間は12時間。つまり一日に二回超位魔法を放てば一日中活動できるのだが、面倒なのと夜間は彼女たちの仕事がほとんど無いので行っていない。

 

 一昨日は裏娼館で大捕り物があり、緊急的に夜間に呼び出したせいで翌日昼間、丁度モモンガたちがガゼフ宅に着いた頃には消えていた。

 

 本日もその召喚の為にと嫁を起こさないようにお借りしている部屋を出る。もちろんアルベドが起きていない訳はないのだが、日課は把握しておりその為だけに妻を起こすことを良しとしないモモンガの気持ちを汲んで同行することは控えている。

 

「ちょっと出てくるな」

 

 瞳を閉じてはいるが、頭をなでられ額にキスされ耳元で『愛してる』とささやいてから部屋を出ていくモモンガを見越し、シーツを被って身悶える。なにこれ……幸せすぎて死んでしまうと。

 さすがに他人の家で事に及ぶことはなかったモモンガだったが、アルベドは一度寝たらなかなか起きない旦那を相手にものすごいことを平気でしていたのだ。

 だがそれを超えるカウンターを食らい頬を真っ赤に染めて震えるさまは、清純な少女のようであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 カルネ村に転移してくると、テント前には真っ白なシーツが干されてあった。そして何故かヌラヌラと照り輝くこの場には不自然な地面に置かれたベッドの前で呆然としているペロロンチーノとシャルティアと()()()()()()()()()()の姿が。

 

「てへ! やっちゃったぜ!」

「好奇心を抑えられなかったでありんす! なので勝負に出たのでありんす!」

 

 とりあえずペロロンチーノにアイアンクローをかましながら情報を聞き出して脱力するモモンガ。もうそれはどうにもならんから老夫婦に謝ってきなさいと促す。

 シャルティアのエインヘリアルもヌルヌルなのはどういうわけだと聞くことは無かったが、昨日はペロロンチーノの完全敗北だったらしい。むしろすごく嬉しいらしい。

 

 二人を帰還させモモンガはいつもの森の広場で超位魔法を発動。天使たちを召喚する。

 

「ごしゅじんさま! だいしゅき!」

 

 どうやら召喚時にランダムで掛け声が変わるらしい事は知っていたが今日は末っ子の番だったようで、続くように『だいしゅき!』と復唱される8人の声にガックリと膝をつく。

 寝起きの連続攻撃にしばらく立ち上がれないモモンガであった。

 

 

 

 

 気を取り直したモモンガは天使たちを連れて倉庫へ。先日も召喚限界の昼まで元娼婦たちの面倒を頼んでいたのだが、やはりカルマ値が高い天使であるためなのか率先して真摯に対応してくれるのはありがたいと思っている。あの客達にはかなり苛烈な対応だったが……

 

「モモンガさん! えへへ……おはようございます!」

「お、おはようございますニニャさん。昨日はよく眠れましたか?」

 

 その『えへへ』はなんなの? なんて一瞬たじろいでしまったがやたらと笑顔がまぶしいニニャに、そりゃあ会いたがっていた姉に会えたのだから嬉しいに決まっているかと一人納得し、昨日からの状況の報告などを行いながら倉庫内へ。

 

 ペテルたちは薪拾いや薪割り水汲みなどの朝の作業を率先して行っているのでこの場にはいなかったが、ニニャの姉や元娼婦の女性六人と少年一人は起き上がって笑顔で出迎えてくれた。

 ニニャの報告によるとやはりまだ男性は怖いらしく、おどおどした様子が窺えるので離れた場所から天使たちを紹介する。

 

 今日から彼女たちの仕事は二人をモモンガたちの御者兼護衛役に。六人にカルネ村の雑事、元娼婦たちが落ち着くまでの介護を。最後の末っ子はいつものようにエモット家へ駆けだしていったので放って置くことにした。

 この倉庫内のことは村人たちもすでに周知しており『またしてもモモンガ君たちが弱者を救済してくれた!』などと大盛り上がり。奥様方を中心に食事などの支援をしてくれたのは大変ありがたかった。

 金貨は受け取ってくれず無理やり食料だけは提供したのだが、この村の温かみを再度認識してしまい末永く付き合っていきたいなんて考えている。

 

 

 

 

…………

 

 

 

……

 

 

 

 

 

 

 

「行っちゃった……どうしよ姉さん頬が熱いよ」

「うふふ……素敵な……人ね」

 

 まだ言葉がたどたどしいツアレであったがニニャの手を握り笑顔で答える。ニニャの名前についてだが辛い過去を思い出させる本名は捨て、改めて『ニニャ』を名乗っていくことに決めたようだ。

 

「格好良かった……」

「素敵だったわ」

 

 少年を含めてそこかしこで先日の雄姿を思い出す元娼婦たち。さきほどの自分たちを気使い一歩引いて対応してくれる紳士な姿勢にも好感がうなぎのぼりであり、ニニャの気持ちも分かると言うものだ。

 高貴な衣服をまとっているせいで貴族ではないのかと、ついどんな方なのかを知りたくて天使たちに問う彼女たちだったが、その答えに驚愕してしまう。

 

「ご主人様は貴族などではありません。奥方様から大墳墓の王であると伺っております」

 

 『ダイフンボ』なるものがなにかは分からないが『王族』であることが断定されてしまった。全員口を開けて呆けてしまうが、何かを思い出したのか少年がぼそっと零す。

 

「王さまは奥さんいっぱい必要……ぼくも……」

 

 なるほど確かにそんな話も聞いたことがあるし、そうなれば嬉しい事だなどと思ってしまったが、とりあえずはこの少年を更生させなければと一致団結。

 言葉通りの『可愛がり』により後に年上女性大好きな青年へと成長していくのだが、それはまた別のお話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 二人の天使を引き連れてストロノーフ宅へ戻るといい香りが。彼女たちは食事は必要ないらしいので馬車に案内して自由にしてもらう。

 屋敷に入り二階の部屋には向かわずリビングを通ってキッチンを覗くと、アルベドとシャルティアがお婆さんと一緒に料理をしていた。

 

「みなさんお若いですからねぇ。昨日の料理は薄味だったでしょうがどうでしたか?」

「特に村の料理より薄いとは感じなかったかしら? 品数が多かったので素材の味を知れて参考になったわ」

「ハーブは勉強になったでありんす。紅茶に使えないでありんすかねぇ……」

 

 仲良く料理を続ける様子にほっとしつつ声をかけ、促されるようにリビングへ。丁度ペロロンチーノさんも部屋の掃除を終えたのかやってきたので、二人で会話をしながら朝食が出来るのを待つ。

 

「<クリーン>とかそういう魔法があってもいいと思うんだ……」

「……ありますよ第一位階に。なんでMMOにあるのか不思議でしたが取ってる人は見たこと……あ、私取れるな」

 

 ごく一部の『汚れたオブジェクト』に使用可能だった魔法ではあったが、ゲーム上プレイヤーに汚れという概念が無いので取得理由がまったくなかったこの魔法。

 確かにこの世界なら便利かもしれないと取得を提案するが、ペロロンチーノに止められる。

 

「いや待って! さすがにモモンガさんの魔法は生命線だから! あの指輪と一緒で落ち着けるところが見つかるまでは保留の方向でお願いします」

「そうですか? まああとで嫁たちと相談してみますか。私今の所転移くらいしか魔法使ってないんですよね。この世界で取得した<伝言(メッセージ)>と<クリエイト・グレーターアイテム>を除くと範囲攻撃魔法ばっかりで使い道がなくって」

 

 魔法使いなのに杖で殴り飛ばすか蹴り飛ばすぐらいしかしてませんでしたねと笑うモモンガであったが、それだけで危険が回避できている現状はありがたい。

 

「ここまで危険な出来事ばっかりでしたけどね」

「あはは! おっと出来たみたいだぜ! 今日は何かなあ」

 

 老夫婦は二人そろって後でいただくらしく、いつもの四人での朝食だ。

 

「モモンガ様はもっと濃い味付けの方がよろしいですか?」

「さっきの話か? アルベドの作ってくれる飯はなんでも旨すぎてなあ。ただ村で食べた塩漬け肉だったか? 保存の意味もあるんだろうけどあれは辛すぎだったかな」

「あの時は料理を習いたてで……本来はあのまま焼いてはダメなのだそうで」

 

「おばあに聞きましたが海が遠いので魚貝の類は難しいそうでありんす。でも『海回』は必須とペロロンチーノ様から聴いておりんしたので一度は行ってみたいでありんすね」

「ああ『魚って見ないな』って話を覚えていてくれたのか。いいな! 夢は広がりまくりだな! ん~うめぇ!」

 

 他人の家であることを忘れているかのように寛ぐ四人であったが、事件は意外なところからやって来るもので。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あいつら見てればコッコドールさんの逆転のシナリオも納得できるぜ」

「本当かねぇ? まあ仕事だからやるけどガゼフ・ストロノーフは不在ときてれば私も必要なかったんじゃないの?」

 

 目標の三人を連れ去るのは難しいとさえ思わないが面倒だ。一人連れだしてあとはおびき寄せればいいなんてサキュロントの安易な策に辟易する六腕の紅一点エドストレームだったが、奴隷売買の部門はもう終わりだと内心思っている。

 先日起こった娼館襲撃事件の真相は何もわかっていない。忽然と娼婦が連れ去られ、客や従業員が城門に吊るされたのだ。

 こんなことが出来るとすれば『蒼の薔薇』以外にいないのだが、別件でサキュロントの部下が宿を見張っておりありえないことがわかってしまう。

 しかも縄がほどけなくて貴族に根回しして解放させる以前の問題が起こっているとの噂もあり、城壁を壊して引き下ろしたとの真実からそれも嘘ではないのだろう。

 

「見えた……あれ? この間の御者と違うような……」

「へぇ……確かに女の私から見ても見とれてしまうわね」

 

 馬車を下り目立たないようにカップルを装ってストロノーフ宅までやってきた二人は、門の内側近くに停められた馬の居ない馬車に悠然と座り瞳を閉じる女騎士を見つける。

 確かにあの女を娼婦に出来れば引く手あまただろう。他に二人も同程度の者がいるとするならば、娼館再開の目途も立ち、コッコドールのメンツも保たれるというシナリオに頷いてしまうと言うものだ。

 

 辺りの人気を確認し、一気に詰め寄る二人だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「お食事の所申し訳ございません。三女ヘルムヴィーゲがノリノリで賊に連れ去られて行きました。賊の本拠地を探るために丁度いいかと私も(不可視化で)スルーしたのですがドMな性癖の為少し不安です」

 

「もう私朝から内容が濃すぎて……大丈夫なんだよな?」  

「はい、不安なのは賊の方です」

「何度来られてもそれはそれで面倒ですから良い機会です。一気に潰してしまいましょうモモンガ様」

 

「確か三女は耐久力にガン振りのタンクだったと聞いておりんす。嬲られることに喜びを感じてしまうと言っておりんした」

「あいつらは性癖の宝石箱だな!?」

 





月曜と木曜を目途に書いておりますが十二月から年末年始は不定期とさせてください。すまんのw


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22 新しいベッドを買いに行くついでの話

 今の所女の顔や身体に傷をつけるのは拙い……なんてことは治療のポーションがある以上考えには及ばない。相手が本当に騎士であるならば殺さない程度に痛めつけて連れ出せればそれでよかった。

 

「……」

「……っつ!」

 

 私が剣の領域で反撃や逃走を警戒、サキュロントの幻影を混ぜた右拳が鎧の無い女の腹部にめり込みあっさりと……本当にあっさりと昏倒させ、馬車で拠点へと逃走中なのだが。

 

「くそっ! 無駄な出費だ!」

「お前それ本来はこの娘に使う……どこを殴ったのよ」

 

 拳を痛めるどころか完全に折れている指をポーションで治す様子に呆れてしまう。どうせ外して鎧を殴ったんだろうが……だとしたらこの娘は本当に戦士なのかと悩んでしまう。

 鎧は脱がせることが叶わなかった。どういった仕組みであるかは分からないが、魔法のかかった品であると言われても納得できる一品だ。この狭い馬車内での検証はあきらめ両腕両足を縛り、猿轡を噛ませて目の前の座席に転がしている。

 ただ一点武器の類を一切所持しておらず暗器などを警戒していたが、それすら見つからないのはどういうことだと頭をかしげる。

 無遠慮に鎧や肌に触れていたせいか目を覚ました少女は、驚愕に瞳を開け『ふぅふぅ』と荒い吐息を上げる。

 年の頃は17、18の金髪の娘。瞳は青く釣り目が特徴的だが、今は弱々しく瞳を潤ませ涙を零さんばかりの表情には男でなくても嗜虐心をそそられる。

 

「誘ってんのかよ……外せねぇのか?」

「無理だね、馬鹿なことやってんじゃないよ」

 

 サキュロントが腹いせなのか娘の胸部を揉むように撫でるが、冷たい金属の感触しか得られず眉を顰める。どうにか隙間に突っ込めないかと悪戦苦闘する馬鹿を止めて、今一度娘を眺める。

 華奢な体躯の割に十分に育っていると見えるそれに真っ先に手を伸ばした馬鹿を責めるのは酷という物か。

 嫉妬するのも烏滸がましい美貌を朱に染め、震える素肌にはしっとりと薄い汗をかき、布を噛まされた口元からでは聞き取れないが、何かを懇願するような声が聞こえる。

 この娘一人で裏娼館などお釣りがくるのではないかとほくそ笑むエドストレームであったが、ペロロンチーノやモモンガであったなら彼女が何を言っているか理解できただろう。

 

『くっ……殺せ!』

 

 そのお約束とまで言えるセリフを吐く機会を与えられた天使は絶対に歓喜の笑みは見せない。一流の女優であるかのように『捕らえられた女騎士』の役を演じその時を待つのだ。

 

「ふっふぉふぉ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「白昼堂々それも不在とは言え王国戦士長宅に乗り込んで人攫いとか……前々から思っていましたがカルネ村を除いて王国は無しですね」

「だなあ、治安が悪いとは聞いてたけど国に喧嘩を売ってまで……あぁそういえばモモンガさんが蹴ったの王子だったか。なんかガゼフさんが気の毒になってきたなあ」

 

 ある意味国からの介入などどうにでもなると言わんばかりな杜撰(ずさん)な犯行であったが、貴族や王族とずぶずぶの癒着状況を知ってしまうと、これまで出会ってきた誠実な人たちはさぞ生きづらい国なんだろうと考えてしまう。

 一般人として普通に考えるならここは逃げの一手だ。もちろん三女を奪還するのは当然だが悪党には構わずこの国を去るのが最善だろう。自分たちは神でも法の番人でも、そもそも国民ですらないのだから。

 

 ただ脳裏にちらつくのだ。村を守ってくれと悲壮な決意で飛び出す漢の顔が。姉の居場所を教えてくれと懇願していた少女の顔が。あんな奴らぶち殺してやりたいのにと叫ぶ女性の悲痛な表情が。

 

「逃げるのは……無しの方向で行きましょうか」

「あぁ! でもロープが少ないんだよなあ」

 

 いつもの方法は使えない。自己満足ではあるが悪人と言えども人殺しを避けたいのは人としての優しさなのか我儘なのか。命の価値が軽いこんな世界で甘すぎるほどの思考に到達してしまうのは、妻たちの手前申し訳ないとも思ってしまう。

 

「フル装備でありんすかえ?」

「いえ……少なくとも王都にはいないんじゃないかしら。どうあっても目立つもの」

 

 妻たちの懸念は別方向にあったようだが、プレイヤーがいたとして目立たず過ごすにはこの環境では無理があるとのアルベドの考えには同意してしまう。厄介ごとが山となって襲ってくるのだから。

 

 とにかくあとは三女からの連絡待ちかと思った矢先、席を外していた長女ブリュンヒルデが気絶した男を抱えてリビングへやってきた。

 

「困ったことになりましたご主人様。犯行声明と我々を呼び出す時間と場所を示した物を持参した賊を捕まえたのですが……読めなかったので尋ねたところ、その時間ですと召喚限界なので助けに行く意味が無くなります」

 

「俺たちは何をしに行くんだ……」

「天使を攫うプレイヤーはいませんよね……」

 

「そう言わず支度を済ませましょう」

「今日のロールプレイはなんでありんすか?」

 

 内心これもう放って置いてもいいんじゃないかと思いもしたが、問題を先送りにするだけだと思いなおし、捕らえた賊を案内役にして目的の場所へと出発する一行だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「デイバーノックが近づきたくないって……処女か?」

「関係あるのか? わからんがボスが商品価値が落ちるから手は出すなだとよ」

「……チッ」

 

「あんたらうるさいんだよ!」

 

 同じ女だといってもそれを壊すことに抵抗は無い。ガサツな男たちにやられるよりはマシだろうといった優しさでもあったが、水に溶いた黒粉を女の口に流し込む。猿轡のせいでかなり零れてしまったが、そのトロンとした瞳には見覚えがある。

 多幸感と陶酔感をもたらすが依存性の高いこの麻薬は即効性があることでも知られている。逆に依存性が高いことを馬鹿な国民のほとんどは知る由もない。

 防音されたこの部屋なら別に騒がれても問題ないけれど、こいつらが何者かなのがさっぱりわからない。尋問ついでにどうせこれから毎日飲まされる……いや、欲しくてたまらなくなるんだからと奴隷にするための第一段階を終えた。

 

「ヒュウ! ラナーとか言うメスガキなんて足元にも及ばねぇじゃねぇか!」

 

 優男のマルムヴィストが称賛の声を上げるのも分かるというもの。美しいとはいえまだ子供である王女ではこの色香は出せないであろう。

 ただ紐を解かれた艶のある口元からこぼれた言葉は全く理解できないのだが。

 

「くっ……殺せ♪ あ、違う! なにを飲ませたんだ! いや、わかるぞ……この身体の火照り。私の恥ずかしい部分すべてが敏感になっていく感覚……媚薬だな! はっ!? さっきの禿げ頭の大男……あの入れ墨の数から察すると私に淫紋を刻むための準備にはいって」

 

「……エド」

「……わかった」

 

「いや!? 待てこれかフグーフゥー!」

 

 口元から黒いよだれを垂らしながら目を爛々と輝かせ、満面の笑みで妄想を語る女に再び猿轡を噛ませるエドストレーム。抵抗しないだけマシだが頭を抱えたくなる。

 

「サキュロント……これ本当に黒粉なの?」

「……コッコドールさんが直接渡してきたものだ。手が空いていたら飲ませておいてくれって」

 

「いや、ある意味キマッてたんじゃ……」

「……」

 

 淑女が台無しだった。

 

 え、どうする? 会話は成立するのか? などと相談に入る六腕サキュロント、マルムヴィスト、エドストレーム。一人寡黙な男ペシュリアンはヘルムで表情を窺うことは出来ないが『あれは無い』と言わんばかりに両腕でバツを描く。

 部屋に沈黙というか発情した猫の威嚇音のようなものが響く中、扉を開いてやってきた警備部門トップの男ゼロの登場は救世主でもあったが、その怒声と血だらけの姿は想像外のことであった。

 

「おいサキュロント! あいつらは一体なんだ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「着いちゃいましたね、まだ昼前なんですけど」

「あいつが消えたら大義名分も無くなるからなあ。それにしてもなんだあ? 家……じゃないよな塀が高いから刑務所みたいだけどスキルで見ると奥の方にでかい建物があるな」

 

「逃亡防止というよりは中を見せない為の塀でしょうか?」

「あそこに入り口っぽいのがありんすよ」

 

 さすがに真昼間の都市内で人妻にコスプレさせる勇気は無いので、最近定番の高貴なお方モードで馬車を下りる一同。ブリュンヒルデはここで待機だ。

 飛び越えてもいいのだが目的は救出とはちょっと違う。というか呼べば戻ってくるだろうし……

 辺りの様子は静かなもので、道を行きかう人の気配さえないのはある意味願っても無い状況だ。

 

「まあ最初は穏便に行きますか。誰かいませんか!」

 

 その鉄格子の門と思われるものをゴンゴンと叩くと近くにいたのだろう守衛らしきいかつい男があらわれる。用件を言うのも面倒くさいので貰った手紙を渡すと、女性陣を二度見し驚きあからさまに嫌そうな表情になる。

 

「お前らこれ時間が違うだろうが……でも出直せって話でもないようだし……上に掛け合ってくるから待ってろ」

「本当すいません……こちらも事情がありまして」

 

 元社畜の悲哀でもあるのか、何故か訳の分からない謝罪の言葉が出てきてしまうモモンガ。言葉節から話の分かる頼れる取引き先相手のように感じてしまったのかもしれない。

 

「……モモンガさん、待つ意味なくね?」

「あ! そうでしたね、道なりに行けば問題ないかな」

 

 『ガゴン!』と鈍い音がしたがアルベドがまるで施錠などされていないかのように普通に門扉を開けてくれたので、そのまま進むことにする。

 ここが都市の中の一部とは思えないほどの木立の中の小道を散歩でもするかのように進んでいくと、訓練所のような開けた場所に出た。正面には三階建ての屋敷というよりは屋上が平べったい団地のような施設が見える。

 

「四人か……一人はさっきの人だから、どれが偉い人だろ?」

 

 向こうもこちらに気付いたようで広場で会話をする男たちから驚愕の瞳を向けられる。アルベドとシャルティアを外側に横一列に歩み寄り対峙する。

 

「お前は……まあいい、持ち場に戻ってろ。それでこいつらなのか? 確かに女はとびきりの上物だが……」

「えっ、ええ! 伝えられた特徴とは一致するけど……え? こいつらだけできたの?」

 

 肌の黒い禿げた大男が、オカマのような男と困惑気に話し出す。先ほどの守衛の男は叱責を恐れるように走っていったが……もう一人フードを被った人物はアンデッドだった。

 

「アンデッドもいるんですね。モモンガさんなんだかわかる?」

「え? エルダーリッチでしょ?」

「妾も分かっていたでありんす」

「あら、二人ともすごいわねぇ」

 

 よく骸骨の顔だけで種族がわかるなあなどと盛り上がる四人であったが、対する三人は困惑を深めるばかりだ。

 

 まず問題点として呼び出した時間が違う。まだお偉方や顧客は到着しておらず、これでは余興が成立しないのだ。

 その余興についてだが、コッコドールが六腕全員を雇った背景に捕らえる予定の女たちが『蒼の薔薇』と繋がりを持っていることを報告されていたためであり、依頼で不在なのは確認済みだが安全を喫してのことだった。

 ゼロとしては『六腕』対『蒼の薔薇』のドリームマッチでも構わないという姿勢だったが、それが叶わずとも相応の用心棒でも雇って来ると思っていたのに、まさか高貴な衣服を着ているとはいえ強さのカケラも窺えない一般人がノコノコとやって来るとは思ってもいなかったからだ。

 

 女三人が楽に手に入った事実より、色々と想定外すぎて困惑してしまうのも仕方がないと言えるのだが。

 

「男はいらないのだろう? 不快な人間ごときが」

「ちょっとまってよ! そっちのボーヤはタイプだから残しておいてね」

 

「やりましたねペロロンチーノさん!」

「おい! モモンガおい!」

 

「……もういい。やれデイバーノック」

「この『不死王』にふざけた態度を……」

 

 デイバーノックが魔法を放つ前に……いや言葉を続けることが出来なかったのは、アルベドがいつの間にか手に持っていたバルディッシュで頭から両断したためであり、その体が消滅するより早く粉微塵になったのはシャルティアの手刀によるものだった。

 

「ふざけるな! 下等アンデッド如きが!!」

「その名は……あれ? アルベド。モモンガ様はもう人間でありんすよ」

「あ! 私ったらつい。モモンガ様の二つ名は『その身に愛する心を宿したオーバーロード』だものね」

 

 そのアルベドの一言に崩れそうになったモモンガであったが、嫁に向けられたその殺気は見逃せない。

 

「お! おんなぁああああ!!」

 

 これは仲間を倒され逆上しての攻撃ではない。あの一撃でわかってしまったが故の死を覚悟した戦士としての矜持だ。無論それを受けてもびくともしない腹筋であったりするのだが、愛する男はそれさえ許してくれない。

 

「俺の女に何してくれてんだハゲぇえええ!!」

 

 物理攻撃で対応したのは咄嗟の対応だったのか、素で殴ってやりたかったのか。金属バッドでぶちかまされたゼロは屋敷の中へと吹き飛ばされて行く。

 

「モモンガさん本気の時は一人称変わるのな」

「アルベド愛されているでありんすなあ」

「私朝から火を付けられっぱなしで……今夜はテントに戻ってもよいかしら?」

 

 なおすでに残されたコッコドールは気絶しており、モモンガが落ち着くのを待つ間余っていたロープで手首だけ縛っておいた。

 

「はぁ……はぁ……すいません、アルベドが殴られそうになって血が上ってしまって……自分が危なかったですね」

「結構ギリギリだったぞ。フォローは入るつもりだったけどあいつ30レベルくらいありそうだな」

 

「愛の力です」

「あぁモモンガ様は前衛としてみるとレベル30くらいなのでありんすね……拙いじゃありんせんか!?」

 

 一人惚気ている者もいたが他の二人には厳重注意を受けてしまう。ここまでカルマ値極悪の二人が人間相手に普通に接してくれているのに、自分が冷静さを失って逆上するなんてと反省しきりのモモンガであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「女たちは化け物だ……デイバーノックが一撃でやられた」

 

 その一言に絶句する一同だったが、否定の言葉は出てこない。このゼロという男、己の拳一つで八本指警備部門の長にまで上り詰めたのだ。ガゼフ・ストロノーフなどいつか俺が倒して最強の称号を手に入れてやると豪語していたのだ。

 その男がモンクとしてのスキルで体を鉄のように固くできるはずの右拳からポタポタと血を流し、顔を蒼褪めさせながら語るのだ……信じないわけにはいかない。

 

「男の内一人は少なくとも俺と同格……女を人質にして逃げ……」

 

 そこまで言ってはたと思い出す。本当にサキュロントが殴り倒して連れてきたのかと。もしやあの女たちと同格の存在では無いのかと。

 

 

 

「逃げると言うのは困ります。()()()()()()()()()()()()()()?」 

 

 

 

 縛られていたのではないのか。口を封じられていたのではないのか。ゆらりと立ち上がり、そんな言葉を吐く女から意識を反らせられない。逃げるという判断をさせてもらえない。

 

 ()()()この女をいたぶってやりたくて堪らないのだ。

 

「ふふっ、さあ私を鳴かせてごらんなさいな」

 

 あぁ分かった。これは戦士で言うところの『挑発スキル』だ。それが分かったゼロでさえ嗜虐心を抑えることが出来ない。全員完全な臨戦態勢で華奢な女戦士と対峙する。

 

 闘鬼ゼロ、空間斬ペシュリアン、千殺マルムヴィスト、踊る三日月刀エドストレーム、幻魔サキュロント。その五人の攻撃をあんあん言いながら恍惚の表情ですべて受けきり、はぁはぁと喜びの吐息を漏らす。

 

「あぁあああん♪ もっとぉお♪」

 

 

 

 

 

 なお屋敷に入ると戦闘音とおかしな嬌声が聞こえたために三女を見つけるのは容易かったが、急ぐ必要も無いと判断して先に屋敷の散策を開始。

 他に捕らえられた人などはいなかったがその部屋にたどり着くのが遅れてしまい、満足しましたとニッコリ笑う天使の足元には、完全に心が折れた六腕のメンバーが息も絶え絶えで転がっていた。





毎度オチをつけて次回にぶん投げるせいで、わけのわからない縛りプレイみたいな執筆を強要されている気分になりますw


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23 厨二的必殺技名相談会

 失敗したと言わざるを得ない。

 

 予想を外された最初の出来事はガゼフ・ストロノーフの凱旋だ。五宝物を取り上げられ死地へと出立した戦士長が生きて戻って来るとは想像していなかった。

 詳しくは王以外知るところではないが、南方から訪れた傭兵団と共闘して戦果を挙げたという事。捕えた者たちはエ・ランテルに置いてきたが、とてつもない力を秘めた水晶を手土産に……いや証拠にと王へ献上している。

 

 二つ目はその捕らえた連中がことごとく逃亡した事件の裏にあった出来事。余罪が多数あると思われる冒険者殺しの女を筆頭に、複数の犯罪者が冒険者組合の軒先に()()()()()()で吊るされていた事件だ。この者達も同日に逃亡していることから何らかの繋がりがあるとみられる。

 

 何故ここまで連れてこなかったのだと物理的に不可能なことで叱責する上の兄や貴族たちには呆れてしまうが、数日後に同様の事件が城の城門で起こり、王族や貴族の権威を失墜させることになっている。が、それはまだいい。

 王派閥が割れたままであった方が都合が良かったが他の道が無い訳ではないのだ。

 

 問題なのは私が衝動的に殺させようと思った人物が、一連の事件の裏にいる者達であることがわかってしまったからだ。

 

「ラナー? どうしたの顔色が悪いわよ?」

「ううん、なんでもないの。恐ろしい話だったからかしら」

 

 前々日遅く帰城したクライムは翌日のあの事件のせいで他の騎士や戦士長総出の対処に追われ、今日の朝になってやっとその報告を受けたのだが、とある高貴なお方が例の裏娼館を瞬く間に潰してしまったというのだ。

 とにかくもっと情報が欲しいと思っていたところやはりと言うべきか、早朝からのラキュースの登城はそれほどの事態ということで、自室で詳細を聞いているのだがすべてが滅茶苦茶といっても過言ではなかった。

 

 曰く遠方からの転移による娼館襲撃。末っ子はお友達の家で就寝するらしいなどのいらない情報もあったけれど八人の()()()()()()を伴い制圧捕縛。

 蒼の薔薇やクライムが手伝えたのは娼婦をカルネ村まで運ぶために抱えたことと、双子忍者が上の兄たちを含む客や従業員に落書きをしたことくらいで、実質正体が露見することが無かったのはありがたいが何もできなかったと。

 

「彼らの素性については不明……というより何を問えばいいのか分からないわ。往復した私が言うのもなんだけれど辺境の村まで何百キロもあるのよ。何でも教えてくれるような全てはぐらかされるような……でも一人の冒険者の姉を救いたい一心での行動を止める気はさらさらなかったの。今は宿を出てストロノーフ様の住居に行くと言っていたけれど。そうそう、彼ら戦士団とも共闘したんですって」

 

 遅い……遅すぎるが全てが繋がってしまった。あの冒険者ご用達の宿で『美しい女性騎士』という情報だけでは関連性を窺い知ることなどできたはずも無いのだが迂闊すぎたと。

 

「イビルアイ様が酷く怯えていらっしゃいましたが、あの光景を見せつけられたならわかるというものです」

「多分あれでも一端なのよね。引き出しが多すぎて彼らが何が出来るのか見当もつかないわ。ねぇラナー会いたくなってきたでしょ?」

 

 冗談ではない。この国で一番魔法に精通している蒼の薔薇のイビルアイが恐れる相手に会うなど御免被るというものだ。私が暗殺者を雇ったことはどんな経路を使っても知られるはずは無いのだが、万に一つの可能性が出てきてしまった。

 

「うふふ、ラキュースやクライムがそんなに瞳を輝かせているのだもの。もちろん私も会ってみたいわ。でも今の警備の物々しさを考えるとすぐにとはいかないでしょうね」

 

 その転移という事象を考えると不可能ではないが正攻法では難しいだろう。なにせその彼らが貴族や王族を吊るした犯人なのだから。

 そう、今の所その英雄たちは犯罪者扱いなのだ。縄が切れないとはいえ口をふさがれているわけではなく、自らの無実を訴える者ばかり。襲ってきた相手の顔を誰一人覚えてはいなかったが自分たちは被害者であると。

 確かに裏娼館なる場所がどこにあるのかも、あるのならいるはずの娼婦の存在も確認できていないのだ。

 ただ自らの足で歩くことも手を動かすことも出来ず、食事や排泄も介助が必要な状況。彼らも八方塞がりではあるのだが。

 

「あー……そういえばそんな状況だったのよね。よくも恥ずかしくなく無実だって言えるのかしら。ほんと、えっ!? メッセージ!?」

 

 話の途中で驚いたように耳に手を当てるラキュース。どうやら私でも知っている<伝言(メッセージ)>の魔法のようだが。

 

「え、えぇ、それなら私が懇意にしているところを紹介しますよ。え? 今日ですか? 会うのは構わないのですけれど……ええ……うん……は!? あなたたちなにやっているのよ……わかったわ、ストロノーフ様の家まで行けばいいのね……」

 

 しばらく頭を抱えていたラキュースだったが、こちらに瞳を向けはっきりとこう告げた。

 

 

 

 

「ベッドが欲しいから家具屋を紹介してほしいって……ついでに八本指奴隷売買の長コッコドールと六腕全員を捕縛したから殴りに来てくれって」

 

 

 

 

 

 

 

 

「これは……どういう状況なの?」

 

「ラキュースさんを待っている間に第二ラウンドが始まりまして……いや彼らも頑張っていたんですよ。ぶっちゃけ三女は瀕死でしたし」

「二時間近く()()がかりで囲まれたらそうなるだろうけど、あの笑顔で高笑いを上げてて瀕死ってわかりづらいよな」

 

「でも瀕死になったらリジェネートとオートカウンターが発動してしまいまして……フルマラソンのゴールラインでぶん殴られた感じでしょうか」

「まあ起き上がれないよね」

 

「全然わからないんだけど!? それにあれってブレイン・アングラウスじゃないの!?」

 

 その知らせが本当ならば、いや本当だからこそ急ぎ参じることは出来なかった。仲間は出先で合流は夜になるので不可能。ラナーの献策とそれに納得したからでもあるのだが、とある方々と一緒にストロノーフ宅へとやってきたのだ。

 老齢な男性に『皆で訓練をしておるそうです』と裏庭を促され訪れてみると一人の女性騎士の周りで円を描くように倒れている人々が。あれが六腕かと思いきや一人見知った王国戦士長と互角の強さを誇る人物が含まれていたとなるとぼやきたくもなる。

 

「名前は知らん」

「ちょっと料理の味見に呼ばれて席を外してたんですが戻ってきたら加わってました」

 

 なんでしたっけ? 野盗の用心棒でしたっけ? なんて話す様子から彼らも会った事はあるのだろう。庭の奥で腕を縛られ死んだふりをしているのがコッコドールですと言われたが、何から聴けばいいのか頭が働いてくれない。

 

「それでそちらの男性三人はラキュースさんの知り合いってことですか?」

「え、えぇ、まあ知り合ったのはさっきなんですけれど」

「んじゃそっちに隠れてるのは排除していいんだな?」

 

 途端身の毛もよだつ感覚。二人の戦乙女がとある空間に詰め寄り、無機質な表情で今まで見せたことも無い長剣と槍をかまえる姿に戦慄する。至近距離で死の恐怖を感じ、否定の言葉を吐きたいのに口が動いてくれない。

 

「まっ!? まってくれ!!」

 

 恐怖に慄き絶叫を上げることができたのは幸運だったのか、経験のたまものなのか。レエブン候配下の元オリハルコン級冒険者、ロックマイアーは脂汗をべったりと掻きながら姿を現すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「今夜はなんとアレでありんす!」

「以前お二方が絶賛していた『肉じゃが』を私たちで作ってみました。所謂リベンジでございますね!」

 

「あー確かンフィー君と一緒に食べた」

「以前はエンリちゃんがほとんど作ってしまったって言ってましたね。うわぁ! いい匂いだなあ!」

 

「ごめんなさいね家族の団欒にお邪魔しちゃって」

「良いのでありんすよ。正直食事に関しては第三者の意見も参考になるのでありんす」

「……嬉しいのですが美味しいしか言ってくれないものですから。ふふっ」

 

 夕闇迫るストロノーフ邸リビングで楽し気に寛ぐ五人。すでに他のうるさい連中は天使たちも含めてここにはいない。

 

「それより事の経緯を話しておきたいのですが……聴いてないわね」

 

 がっくりとしてしまうものの、自分の目の前に置かれた食事の優し気な匂いについ笑顔になってしまう。そういえば私も昨日から何も食べていなかったな、なんて。

 

 この屋敷への到着が遅れたのは自身の考察とラナーの献策によるものだ。彼らは六腕たちをどうするのかという質問に、悩みながらも先日のようにするか衛兵に突き出すのではと答えたところ、ラナーに言われるまでも無く拙い状況かもしれないと察する。

 つまりこの騒動が公になると危険を感じた八本指が潜伏してしまう可能性があるのだ。すぐにでも全拠点への一斉攻撃を始めたいが、まだその拠点の詳細が不確かな現状。それに頭数も足りていない。

 衛兵に突き出された場合は現状維持だろう。すぐに解放されてしまう未来が見えてしまうのだ。それなら情報だけでも入手しなければならないがやつらを確保し続ける手立てがない。

 

 ならばとラナーが白羽の矢を立てたのが蝙蝠とも揶揄されるレエブン候であった。

 

 どんな経緯があったのかは定かではないが、一時エ・レエブルで保護することを約束してくれたレエブン候は護衛の五人の中から四人を貸し出し、どんな賄賂を使ったのか王城から護送用馬車を駆ってようやくここまで辿り着けたのだった。

 

 その中の一人が不可視化して侵入したのは盗賊の性分であるのだろうが知らない。私は止めたのだから失禁していたのは私のせいじゃない。

 

 ついでにブレイン・アングラウスもここにはいない。どこか路地裏にでも捨ててきてと言われ連れ去られるまでもなく逃げ出した彼は……なんか泣いていた。いやさすがに不法侵入だからとその哀愁漂う背中に心を痛めることはさらさら無かったが。

 

「えっ!? イモよね? すごい不思議な味で……うわあ、中までしみ込んでいるのね! すごい美味しいわ」

 

 まあ今はそんなことより頂きましょうと『肉じゃが』なるものに手を伸ばす。要はイモと肉を煮た家庭料理の類だと思っていたのだが、その味付けと完成度に驚いてしまう。

 

「蓋を押さえ込むのが秘策です」

 

 とか訳の分からないことを言うアルベドさんだったけれど、私も食べたことがある市場で売っている普通のイモがここまで柔らかくなるのは想像がつかない。

 そのイモが肉や野菜の煮汁をたっぷり吸い、塩だけではない独特の調味料で豊かな旨味を生み出しているのだ。

 

「牛はどこかにいるのでありんすかねぇ? 鳥・豚・羊の中から一番癖のない鳥を使ってみましたがどうでありんすか?」

「鶏肉もありえないくらいトロトロで柔らかくて美味しいわ! 牛とは違うかもしれませんが聖王国に水牛がいるとは聞いたことがあるわよ」

「あら、素敵な情報をありがとうございます。モモンガ様、次は聖王……モモンガ様!?」

 

 何故か無言で黙々と食べていた男性二人を改めて視界に収めると……号泣していた。

 

「旨い……ぐすっ……幸せだなあ」

「なんでか涙が止まらねーし、あ~旨いなあ。俺これを故郷の味ってことにするよ」

 

 それは大絶賛の言葉なんだろう。その声に安堵し甲斐甲斐しく涙をぬぐう女性たちにこちらもほっこりと笑顔になってしまう。

 

 もし叶うならお願いしたいことが多々あったラキュースではあったが、それを胸に押し込む度量はさすがアダマンタイト級冒険者チームのリーダーを務めるだけのことはあるのだろう。

 その後は料理の話や楽しかった旅の話などに終始し、ラキュースの恋の話にまで飛び火してしまうのだが。

 

「なんででありんしょう? おんしと旦那様方を組ませるのは拙い気がするでありんす」

「空気感が似ているのよね……グヌヌ、モモンガ様はダメですからね!」

 

 必殺技の話で男性陣と盛り上がってしまったのが拙かったのか、かなり怖い視線を向けられ慌てて否定したものの、ラキュースにとってここ数年で一番楽しかった時間だったなんてことは彼女の秘密だったりする。

 

 

 




水牛はモンスターだったかも。13巻で見た覚えがあるんだけど読み直す時間が無いわなw


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24 ネムと天使とペロペロおじいちゃん

「じい! どうした? そこまで深刻な報告では無かろう?」

 

 いつもの皇帝執務室での会議。ただ今回は帝国を富ませるための政策会議ではなく、密偵からの報告から始まる不可思議な事件。それに対する検討会のような様相を見せていた。

 

 王国からの、いや王国会議に出席していた内通している貴族からもたらされた<伝言(メッセージ)>による第一報は、『ガゼフ・ストロノーフ生還。南方の傭兵団と思しき者たちの救援があった模様』とのこと。

 ガゼフ生還に関しては以前にエ・ランテルの密偵からも報告を受けてはいたが、第三者の存在が明らかにされたのは初めてのことだった。

 

 カルネ村なる王国辺境の地を詳しく調査するまでの事ではないと思われていたが、ここへ来て俄然その傭兵団に興味を持つ皇帝ジルクニフの考えも分かるというもの。

 ガゼフを救い()()()()()()()()()()()()()を退けた強者たちがいるというのだ。そう、エ・ランテルに一時護送したのが運の付きというわけではないが、法国の関与は帝国の者たちであるからこそ容易に想像がついていた。

 ただそれについては容疑者全てが逃亡してしまうなどというお粗末な結末もあり、法国に関しては今は論じる段階ではない。

 

 そしてこの『じい』と呼ばれた男。帝国最強の魔法詠唱者フールーダ・パラダインが、口をぽっかりとあけて呆けてしまった理由は、別の密偵によるカルネ村周辺に関する報告にあった。

 それが虚偽ではなく複数の村が襲われたことが事実であるかを確認していた密偵は、数日にわたって不可思議なものを見たというのだ。

 

『明け方トブの大森林から朝日とは違う明滅する眩い光を目撃。その後空から複数の光の粒のような物が舞い降りるのを確認』と。

 

 現地までは赴いていないがそれがカルネ村方向の森であることも報告されていた。ただこれがあまり信用されていない<伝言(メッセージ)>による第一報であったので、不思議なこともある物だと流す程度の話題であったのだが、とある者たち(十三英雄)をある意味ライバル視しているフールーダには聞き逃すことが出来なかった。

 

 

「失礼しました陛下。それでですがお願いの儀がございます、私をそのカルネ村の調査に向かわせていただきたい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 開拓村の朝は日の出と共に働き出し、夜は暗くなったら就寝する。たとえ子供であってもある程度の年齢になれば、水を汲みに行ったり薪を集めたり。収穫時ともなれば大人と変わらぬ作業を割り当てられたりもする。

 ただ村に余裕が出てくれば、やはり子供には自由に伸び伸びと育ってほしいと思ってしまうのは親の性というもので。

 

 

 

 

「ねーむーちゃー! あーそーぼ~!」

 

 

 

 

「はぁーい!」

 

「こらネム座って食べなさいよ」

「ネムちゃんだって、ふふっ。ネムは最近すっかり早起きさんになったわね」

「危ないことはしないようにな。ネムがお姉ちゃんなんだから」

 

「わたしお姉ちゃんなの!? よしっ、いってきまーす!」

 

 慌てて朝食を食べきり外へと飛び出していく少女を優しい笑顔で送り出すエモット夫妻とエンリ。そういえば村にネムと同世代の子供はいなかったななんて。

 言葉通りの『天から降りてきた幸運』に感謝し、小さな二人の少女を話題にエモット家の一日が始まっていく。

 

 

 

 

…………

 

 

 

……

 

 

 

 

 

 

 

「ネムちゃーおはよう!」

「グリムちゃんおはよう!」

 

 ネムには『召喚された天使』という話は理解できていないが、新しくできた自分よりちょっと背の低いお友達との毎日は、とても楽しくて嬉しい、それでいてスリリングな日常となっている。

 今日は何をしようかと早速手をつないで歩きながら相談を始める二人。少し近すぎるような距離ではあるが『真っ白なワンピースに麦わら帽子』の少女と二人、確かに姉妹と見られてもおかしくは無い。

 

 一昨日は森で大きな魔獣とお友達になった。グリムが瞳をキラキラさせながらドーンとつっこんでいったのには驚いたが、ドッタンバッタンした末にお友達になったんだと思っている。

 

『トトロじゃないでござるよ……いやもうそれでいいでござる』

 

 ちょっと舌ったらずなところがあるグリムが『トロル』と間違えたのかな? なんて思っているが今日もトトロに会いに行くのも楽しそうだ。少し焦げていた毛皮が治っているといいけど。

 もちろん森で食べられる木の実を集めたり薪を拾ったりと、友達とやるだけでなんでこんなに楽しいんだろうと思ってしまうのだが、子供たちのやるべき仕事もきちんとこなしていたりする。

 

「このまえからねー、おねーちゃんたちが来てるの」

「ほんとぉ! じゃぁあいさつに行くー!」

 

 確か朝の父親の話にも出ていたけれど村の倉庫に新しい移住者が来ているのだそうな。じゃぁグリムもずっとこの村にいてくれるのかなあなんて思いもしたけれど、姉たちはその者たちの護衛らしい。

 

「あら、あなたがネムちゃんね。グリムゲルデに新しいお姉ちゃんが出来たわね、ふふっ」

 

 そう言って柔らかく笑う胸が巨大なお姉さんが次女のゲルヒルデさん。あの時村の者たちを癒してくれた神官さんだ。

 なんでも『衣装チェンジだと私は看護師さんらしいわ』と言っていたが、騎士の姿では覆い隠されていた大きな胸が、今の清潔な真っ白な衣服を着ていると突き破らんばかりに盛り上がっているのが窺える。

 

「このおねーちゃんはだいじょぶ」

「だいじょうぶ?」

 

()()()()()()()手を出したりしないわよ。それじゃ私は食事の介助に行くから、ネムお姉ちゃん妹と仲良くしてあげてね」

「えへへ」

「やっぱりネムお姉ちゃんなんだ……うん! もう仲良しだからまかせて!」

 

 他の姉たちは村長宅へ伺っているそうで会えなかったが、またいつでも機会はあるだろう。それより自分に妹が出来た喜びに胸がぽかぽかと温かくなってくる。

 でも姉ってどうすればいいんだろう。自分の姉はすぐ怒るし……でも姉が繋いでくれる手は暖かかったななんて思いだし、再び彼女の小さな手をギュッと握る。

 何故か頬を染め『えへへ』と笑うグリムにドキドキしてしまったのはなんでだろう。そんなことを考えながらまずは仕事を終わらせちゃって遊びに行こうと村に面した雑木林まで駆け出していく二人だった。

 

 

 

 

「やったー! よろしくおねがいします!」

「ダインおじさんありがと!」

「いやなんてことないのである。おじさんか……おじさんであるな……」

 

 途中以前ンフィーレアと連れだってやってきた冒険者のおじさんに会い、森の歩き方などを教えてもらった。ついでにグリムの被っている帽子に興味を持ち、ネムの為に編んでくれると約束もしてくれた。なんでもこういった細かい作業は得意なのだそうな。

 

 そしてその場を離れやっと森手前の雑木林へ。ただこの辺りは薪を取りつくしてしまった感もあり、いつもより奥まった場所までやってきている。

 

 

 そこで出会ってしまった。

 

 

 森から現れたそれは最初はなんだかわからなかった。あきらかにゴブリンとかそういった魔獣などではなく、人間であることはわかるのだが「おー! おー!」と声を上げる姿が怖くて不気味すぎて身体が固まってしまう。

 倉庫に戻ると言っていたダインも近くにはおらず助けを呼ぶことも出来ない。

 

「第七位階……いや、それを超える力の奔流は第八位階? おぉー……女神がここに顕現された」

 

 真っ白な髭が地面に付きそうな老人が荒い息を上げ涙を零しながら、じわじわと這うように近づいてくる。身体は鳥肌が立ち声を上げることもできないけれど、大好きな妹を守らなければと無意識にグリムを抱きしめるネム。

 グリムの方はそれがなにかわからないようで興味深そうに瞳をクリクリと輝かせながら佇むのみ。「ネムちゃーあったかい」なんて場違いな声まであげている。

 

「何卒……なにとぞ……私に魔法の深淵を……」

 

 完全に跪きながらも、足の指を使ってじわじわと前進してくる様はホラーとしか言えない。老人の唇から出された舌がグリムの靴まであと数センチといったところで、救世主があらわれた。

 

 

 

 

「なにやってるのよ糞じじい!? 武技<重量爆撃>!!」

「げふぉぉおおおお!?」

 

 

 

  

 黒いフードを纏った金髪の女性が、槍の石突ではあったが完全に殺す勢いで老人を吹き飛ばしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「陛下にダメ出しされたくせに一人で飛びだして……戦争前の休暇ついでにお鉢が回ってきたかと思えばとんだ厄介ごとですわ……回収班は()()を縛って届けなさい。私は謝罪を済ませてから一人で帰るわ」

「はっ!」

 

 正直あの場面をまともに見てしまった供である帝国騎士たち(見た目は旅人のような恰好)は、国の重鎮を粗雑に扱う四騎士が一人『重爆、レイナース・ロックブルズ』の態度になんとも思わない。むしろよくやってくれたと言わんばかりだ。

 すぐさま縛り上げ担ぎ上げ森に沿うように消えていく。

 

 レイナースも立場上逃げ出すのが最善ではあるのだが、未だになにがなんだかわかっていない震える少女たちを前に、そうすることを自分自身が許してくれない。そんな人間ではありたくないのだ。

 目線を合わせるようにしゃがみ込み、優しく声をかけた。

 

「怖かったでしょう、もう大丈夫よ。私がポーンてふきとばしちゃったからね」

 

 擬音としては『ドゴーン!!』といった感じではあったのだが、安心させようと努めて明るく怖いのはいなくなっちゃったよと語り掛けるレイナース。

 抱きしめあう二人の背中をなでながら緊張を解いていく。

 

「ネムちゃーいなくなっちゃったって! だいじょぶ!」

「グリムちゃんごめんね……おねえちゃんなのになにもできなくて……ぐすっ」

 

 瞳に涙をいっぱいに溜めながら、決してそれを零してやるものかと必死に言葉を紡ぐ少女に、本当にやるせない気持ちになってしまう。あのじじいどうしてくれようかと。

 もうすでにぶん殴ってはいたがそれでも足りなくなってくる。

 

「ぐすっ……お姉さんありがとう」

「ええ、どういたしまして。むしろ私にも謝らせてください、私の遠い知り合いがあなたたちを怖がらせてしまったことを」

 

 片膝を突きながら頭を下げる。ただなんの気無しの目線を合わせていた状態からの謝罪は、もう一人の少女に見られて欲しく無いものを見せてしまった。

 

「おねえちゃん、お顔にけがしてる! ちぃーねえちゃんところにつれて行かなきゃ!」

「えっ!? あっ! これは怪我じゃないのよ……でもちぃねえちゃんてどなたなのかしら?」

 

 年端もいかない少女におぞましいものを見せてしまった事を後悔するも、さすがにさっきの爺よりはマシですわよねと気を取り直し、ここがガゼフ・ストロノーフが救われた奇跡の地であるカルネ村であることを今更ながらに思い出す。

 そしてそこに連れていこうという美しい少女の理由に一抹の期待を持ってしまうのも仕方がないと言えるだろう。

 

「えっとね! グリムちゃんのお姉ちゃんは魔法が使えるんだよ! 村の人たちもみんな治してもらったんだ!」

 

 さっき泣いたクアランベラト(カラスのような鳥)がもう笑ったと言わんばかりに、姉妹かと思われた二人だったがどうやら友達のようで、麦わら帽子の少女の姉はすごいんだよと我がことのように褒めるもう一人の少女。

 神官だろうかそれとも森司祭(ドルイド)だろうか。それほど多くの人々を癒した存在。この呪いを解ける者がいるのなら全てを差し出しても構わない。

 一応は敵地であるのだが二人に手を引っ張られ動き出す足は止まってはくれない。

 

 残念なことに彼女の願いもむなしくそれが叶うことはやはりなかったが、明け方もう一度来ていただければ、少女や胸の巨大な女性の主に相談できると言われ、ここまで来たならばと居座ることに。

 他の村人や偶々いたのであろう冒険者たちに不審の目を向けられたりもしたが、ネムやグリムを()()()から救ってくれた恩人であると知れ渡り、大歓迎で受け入れられたのには苦笑してしまったが。

 

 

 

 

 

 

 

 

「レイナースさんだそうです。多分呪いなんでしょうが次女が匙を投げたらしくて……お願いされて連れてきちゃいました」

「レイナース・ロックブルズです……え? ここはどこですか?」

 

「いきなりだな!? でも本職が匙を投げるって相当だぞ?」

「うーん……なんでありんしょう。イビルアイとは違った似た感覚というか……」

 

「モモンガ様が女を連れ込んで……」

 

 違うから! 愛しているのはお前だけだから! と、いつものパターンで消えていくモモンガとアルベド。残された三人のうち二人は階上を見上げながら『アルベドお前ら朝までヤッてただろう……また墓穴掘ってるぞ』なんて考えがよぎり、新しいベッドがもう一台必要になるかもなんて考えていたり。

 




出すぎなのでオリキャラタグを付けました。

書いている作者すら名前を憶えていないので憶える必要もありませんが、一応メモとして今まで出てきたことを書いておきます。長女とか次女とか本来どうとかは知りませんw

ブリュンヒルデ    長女 指揮役 両刀
ゲルヒルデ      次女 神官  胸が巨大
ヘルムヴィーゲ    三女 タンク ドM  
オルトリンデ
ヴァルトラウテ
ジークルーネ
ロスヴァイセ
シュヴェルトライテ
グリムゲルデ     末っ子 魔力系魔法詠唱者(第八位階?) ヤンデレ?


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25 解呪

「連れてきたでありんす……」

「連れられてきました。ふふっ」

「デカイな……え? えっと名前憶えてなくてスマンが次女だよな? なんで装備が違うんだ?」

 

 先日厄介ごとを片付けて、やっと今日から王都観光が出来るぞなんて考えていたペロロンチーノだったが、早朝から再び厄介ごとが転がり込んできた。

 要点だけ言えばとりあえずテーブル席に座ってもらった彼女の呪いを解けばいいのだろうが、経緯がさっぱりわからない。

 もうすでに大変なことになっているであろうモモンガの部屋に行くのは嫌なので、とりあえずシャルティアにカルネ村から次女を連れてくるようにお願いしたのだが、連れてきた女性を見て一瞬誰だか分からなかった。

 その果実をもぎ取らんばかりに睨みつけるシャルティアが連れてきた看護師が次女らしいのだが。

 

「次女のゲルヒルデでございます。鎧姿では介助に支障が出るかと着替えさせてもらったのです」

「着替えとかあるんだ?」

「はい。私たち9姉妹それぞれに公募で選ばれた服と水着が備えられています。私のこの看護師の装備は第三アーコロジーにお住まいの、ハンドルネーム死獣天朱雀さん56歳大学教授の応募作品です」

 

「え!? 死獣天朱雀様でありんすか!?」

「教授ぅうううう!? ええぇえ!? いやいや待て待て。すごい興味があるけどお客様置いてけぼりの話は拙いな。それは今度みんな揃ったら聞かせてもらうよ」

 

 あまりの衝撃的な発言に一瞬我を忘れかけたペロロンチーノであったが、肩身の狭そうなレイナースが視界に入り軌道修正を試みる。正直話の続きを聞きたくてたまらないのであろうに「レイナースさん失礼しました」なんて謝れる彼もやはりモモンガと同じく気配りのできる男なのだろう。

 

 軽く自己紹介を済ませ、次女に会うまでの経緯を聞いてみるとネムや末っ子の恩人であることが分かった。

 

「幼女は国の宝だからな……ありがとう」

 

 大真面目な顔でレイナースに礼を言う彼は気配りのできるロリコンなのだろう。

 

「いえ、殺しきることが出来なかったのが残念ですが無事で良かったですわ」

 

 こちらも大真面目な顔で言えてしまう彼女のそれは本心なのだろうが、それはどうなのだろう。

 

「それで本題なんだが、魔法関連の事はさっきの彼が一番詳しいんだけど、うちの嫁も神官(悪)なんだ。あ……神官で思い出したけどもう一人いたんだった」

 

 リビングから見える階段を見上げ、降りてくる女性を全員が見つめる。疲れがたまっていたのか、眠る暇が無かったのか、飲ませすぎたお酒が強かったのか。

 前日歓談中に電池が切れたようにテーブルに突っ伏して眠ってしまった蒼の薔薇のラキュースであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「その名前は蒼の薔薇の……いえ、もうこの際そんなことはどうでもいいですわ。私いまだにここがどこなのかわかっていませんのですし」

「その名前は四騎士の……いえ、もうこの人たちなんでもありなんだから深く考えちゃダメよね」

 

 自己紹介をしたのち固まっていた二人だったが、何かを諦めたようにガッチリと握手を交わす。何かこの現状などに通じるところがあったようだ。

 

「ラキュースさんまた厄介ごとみたいなんですが、今日は時間だいじょうぶですか? 出来ればアドバイザーとして少し残っていただきたいのですが」

「アドバイザー……よくわかりませんが私でお役に立てるなら。昨日は本当にごめんなさいね、あの日から裏娼館の資料の検証で寝て居なくて……それでラナーに会いに行って……あなたたちに呼ばれて……はぁ。でも昨日の夕食会が楽しかったのは覚えているわよ」

 

 かなりのハードスケジュールを強いてしまっていたようだが、幸か不幸かたっぷりと睡眠を取れてしまったので笑顔で答えてくれる。

 

「あはは、そう言っていただけるなら幸いです。知らない仲じゃないようですので進めますが、そちらのレイナースさんが呪いを解いてほしいそうなのですよ」

 

 テーブル席に四人掛け。ペロロンチーノの隣に看護師が座り相対するようにラキュースとレイナースが。巨大な胸を握りつぶさんばかりだったシャルティアはペロロンチーノに抱えられて膝の上で大人しくなっていたりする。

 

「それで三女が匙を投げたと聞いたんだけど……<解呪(リムーブ・カース)>だろ? 取ってなかったのか?」

「いえ、行使しましたが効果がありませんでした。『呪いのアイテム』に掛けた場合と同じですね」

「え? どういうことだ?」

 

「<解呪(リムーブ・カース)>は呪いをかけられた対象を解呪するのでありんす。例えば『呪いの武器』が手から離れなくなった際にかければ、手からは離れますが、武器自体には呪いの発動効果はそのまま残るのでありんす」

「あー……え? いやありがとうシャルティア。でも……え? どういうことだ?」

 

 呪いをかけられたのだからその魔法で解呪できるはずなのに、まるで呪いの武器のようにその本体を解呪できないと。

 

「……シャルティアさんも聖職者だったのね。アドバイザーってそういう事ですか」

「多くの方に解呪を依頼しましたが……ここまで具体的なことを聞かされたのは初めてですわ。ほ、他に何か気付いたことでも! 私に出来ることならなんでもいたします!」

 

 解呪は叶わなかったが他に道があるのかもしれない。そんな思いを込めて深々と頭を下げるレイナース。はらりと舞う髪が彼女の恥部を見せてしまうが、まず最初に聞いておくべき『どんな呪いなのか』に察しがついてしまった。

 試しにもう一度とシャルティアが<解呪(リムーブ・カース)>を掛けるも不発に終わる。少し不満顔で呪いを負った経緯を尋ねるのだが、なんというか『お転婆姫の大冒険』といった感じのラノベのようだなとペロロンチーノは感じていた。

 

 貴族令嬢だった彼女はお茶会なんかより木剣を振るって男の子たちと走り回ることが大好きな、ちょっと変わった少女だった。年を経てもその傾向は変わらず、領内にモンスターがあらわれたと聞けば家宝の槍を引っ掴んで自ら討伐に出かけるような、お転婆姫に育っていた。

 もちろん自身も家族もその功績に誇りを持っていたのだが、ある日現れたモンスターに人生を狂わされる。

 満身創痍で何とか倒した初めて見るモンスターの死に際の呪いなのだろうか。返り血を浴びた顔の右半分は爛れてしまった。

 遅れてやってきた家臣たちに運ばれ治療を受けたのだが、その爛れは汚らしい膿を延々と分泌するものに変えられてしまったのだ。

 

「波乱万丈だな」

「人に歴史ありですね。私天使ですけど」

「最後に家族や婚約者を嬲り殺したというのが面白かったでありんす」

「……本物の暗黒騎士じゃない」

 

 一人こういった物語が大好きなラキュースであったが、さすがに本人を前にして顔には出さない。趣味の執筆のネタにはするかもしれないが。

 そしてラキュースのその一言でシャルティアの脳裏にある考えがよぎる。

 

「会った時から気にはなっていたのでおりんすが、おんしカースド・ナイトでありんすか? あ……この世界ではわからんのでありんすね」

「カースド・ナイト……初めて聞きましたわ」

 

「あー……そういうことか。呪いのアイテムになっちゃったわけか」

 

 その表現が正しいのかは分からないが、その戦闘で職業(クラス)を取得もしくは選択してしまったのだろう。自身が呪いそのものになってしまったのだから<解呪(リムーブ・カース)>が効かないというのも納得できる。

 

「つまり……呪いのアイテムの効果をなくす魔法とかを掛ければ……あったか?」

「妾の知識には無いでありんす」

「天使の知識にもありませんね」

「私も聞いたことが無いわ。神殿の手段としては封印とか破壊とかするのではないかしら……」

 

 その言葉に項垂れるレイナースを見て、頭をポリポリと掻きながら眉を顰めるペロロンチーノ。『破壊』という言葉から()()()の解決方法があることに気付いたのだが、危険すぎて踏み切れないのだ。

 一つ目二つ目は勿論超位魔法<星に願いを(ウィッシュ・アポン・ア・スター)>とシューティングスターの指輪だが、これについては使うことも教えることも無い。さすがにそこまでお人好しではないのだ。

 そして三つ目はカースド・ナイトの職業(クラス)を無くすこと。簡単に言えばユグドラシルのようにデスぺナのレベルダウンを用いて取得していない状態まで戻せばいいのだ。

 ただ全てにおいて確証がない現状。それを告げるのもどうなのだと思い悩む。

 

「ペロロンチーノ様……モモンガ様もでありんすがあったばかりの他人の為にそこまで気を使うのはどうかと思うのでありんす。それが美徳でもあるのでしょうが、それで旦那様方が傷つくのは納得いきんせん。なにかあるのでございましょう? ズバーッと言ってやっておくんなまし! その方がお互いすっきりするでありんすよ」

「クックク、あーそうだな。どうだ? うちの嫁素敵だろ?」

 

 密着しているからというわけではないが、いつものように心の機微を察する良妻は一瞬でペロロンチーノの葛藤を粉微塵にしてくれる。

 シャルティアの色んなところを揉みくちゃにしながら他の三人に自慢するペロロンチーノであったがピンクの吐息を上げる少女をそのままに本題に入っていく。

 

「今から言うのは何一つ確証がない話だ。それで呪いが解けるって保証は無いしそれを行使するためにこちらのリソースを削ることは絶対にしない。それでもいいなら話すけど……どうだ?」

「お願いします!!」

 

 その目に宿るのは絶対の意思。涙などとうに枯れ果てているのだ。可能性があるのならどんなことでもやってやると力強く即答する。

 その答えに頷き、くたぁっとしたシャルティアを看護師に預けて先ほどの頭の中での考察を披露する。

 

「……死んで……生き返る」

「無茶だわ!? わけがわからないわよそれ! レイナースさんなら大丈夫でしょうけれど<死者蘇生(レイズ・デッド)>は大量の生命力を消費するのよ! 最悪塵になってしまうこともあるんだから……」

 

「あれ? もしかしなくてもラキュースさん<死者蘇生(レイズ・デッド)>使えるのか……生命力ってデスぺナのことかな? 看護師は?」

「私は<リザレクション>だけですね。即時効果の無い<死者蘇生(レイズ・デッド)>も同時に持つ理由がございません」

()()ならそうだよなあ。でも二人がいれば蘇生の短杖を使わないで済むか……そうなるとあとは金貨があればいけるなこれ」

 

 蘇生魔法や方法も複数あったりするユグドラシル。一番簡単でよく使われるのは所謂『死に戻り』だ。その場での復活を諦めてセーブ地点に戻る。リアルとなったこの世界ではこれを選択できないが、<死者蘇生(レイズ・デッド)>なら5レベル分ダウンするペナルティは同じ。位階が高い蘇生魔法程レベルダウンが少なくなる。

 この世界で消費したリソースと呼べるものは下級ポーション一本にロープが一束。あの肉もリソースと言えなくも無いが自分たちでは消費できない物であり、金貨に至ってはナザリックという拠点が無い現状まったく使い道がない。

 その中にあって限られた蘇生の短杖を他者に使うなどさすがにあり得ないし、家族会議でもそれだけはしないようにと嫁たちに釘を刺されてもいる。

 つまりそれを抜きにしても準備と呼べるものがすべて整ってしまったのだ。

 

 だが「じゃぁ死ね」と言われて「はい」と言える人間はそうそういないものなのだが、

 

「死ねばよろしいのですね! ラキュースさんお願いしますわ!」

「ちょ、ちょっと落ち着きましょうレイナースさん。この中で……まあ確かに私しかいないように見えますが聖職者に人殺しをさせようとしないでください!」

 

 目の前には荒事には不向きに見える少年が一人にのほほんとした看護師が一人。もう一人の少女は巨大な胸に頭を埋もらせてぐったりしている。

 ちょこちょこ放たれる未知の魔法の話に期待が上回り、熱にうかされているとしか言いようがないのだがそれも分かるというもの。この人たちどこまで規格外なのよと呆れるほどだ。

 まあかなりの時間を要したがレイナースを落ち着けたラキュースも、大概にして規格外のお人好しであるのだろうが。 

 

 

 

 

…………

 

 

 

……

 

 

 

 

 

 

 

「で、あれはなにをやっているんです?」

「模擬戦ですね。レイナースさんのある程度のレベルがわからないと怖いんだよ。さっきも話したけど低レベルは塵になるらしいし」

「なるほど……カースド・ナイトは確認できたんですか?」

「あの旅人みたいな装備には見られなかったんだけど武器が特殊だった。あの槍実家の秘宝らしいんだけどミスリルかオリハルコンかな? あの得物以外だと長時間持っていると持ち手が腐食するんだって」

「へぇ……それほど職業(クラス)レベルが高くないのかな? シャルティアは最大の5取ってましたよね」

「うん。だからレベル5は無いと思うんだけどこればっかりは分からんからなあ」

 

 昼時に戻ってきたモモンガはペロロンチーノにロメロスペシャルを極められながら謝罪を済ませ、事の経緯を聞きながら庭で行われる模擬戦を観戦している。

 対戦相手はシャルティアの眷属。レベル20のそれらを難なく倒していたところを見るとそれ以下ではないはずだ。

 

「……適任はモモンガさんなんだけどやらなくていいぞ。でもほっといても自殺しそうな勢いで乗り気なんだよね。アルベドやシャルティアなら嬉々としてやってくれそうだけど……痛いだろうなあ」

「……ありがとうございます。元々レイナースさんにネムたちを救ってくれた恩を感じて連れてきたのですがトラウマを抱えたくありませんし」

 

 なんて厄介な呪いなんだと項垂れてしまうが、どんなにお願いされようとこればかりは譲れない。生き返らせることが出来るとしても、この手で殺したという感覚は一生残るのだろうから。

 

 

 

 

 その夜夕食の場で淡々とその旨を語ったモモンガであったが、意外にも素直にレイナースはそれを受け入れていた。

 

「その申し訳なさそうなお顔はおやめください。藁にも縋る気持ちなのは変わりませんがこれだけの検証をしていただいた人たちを困らせる気はさらさらございませんわ」

「それでどうするの?」

「死にますけど?」

 

 仕事で一旦ストロノーフ邸を離れていたラキュースも心配であったのか戻ってきており、同じく食卓を囲みながら質問するが、あまりにもの即答に口をあんぐりと開けてしまう。

 

「ふふっ、いい覚悟だわ。モモンガ様、ペロロンチーノ様。女の顔は命と同等なのですよ。私でもシャルティアでも同じ状況ならそうすると思います。ヤツメウナギや大口ゴリラを好いて頂けますか?」

「アルベド!?」

 

「……今変わっても別にそれは変わらないけど、初対面なら確かに無いな」

「……そのプレイはちょっと興味があるかも」

 

 何気にここらへんはぶれないモモンガとペロロンチーノ。言外にそのすべてを愛しているのだとの答えはシャルティアとアルベドの頬を一瞬で染め上げる。

 

「ちょ、ちょっと意外な答えでしたが、そ、そうですか好きでいてくれるのですか……いえ、そうではなくて……」

「早くテントに戻りたくなってきたでありんす……おんし庭に出んさい、サクッと済ませるでありんすよ!」

 

 

 それはあっという間の出来事であった。

 

 

 いえ金貨もそうですが対価も今は持っておらずと渋るレイナースであったが、庭へ引きずられていきその言葉通りの爪の一刺しであっけなく昇天。

 

「モモンガ様。蘇生の短杖の件ですが、効果確認のため一度は使ってみるべきかもしれません」

「あ、あぁそうだな。いやそんなこと言ってる場合じゃないぞ!」

 

「シャルティア! あー……怒るところじゃねーわこれ。いやはっきりいってこの件で言えば俺たちの方がクズなんだよな……手を汚させてすまん!」

 

 アイテムボックスから蘇生の短杖を慌てて抜き出しレイナースに駆け寄るモモンガ。こちらも慌ててシャルティアを抱き寄せ、ぶつぶつと独り言を口走りながら謝罪を伝えるペロロンチーノ。

 断るつもりの当初の予定とはだいぶ変わってしまったが、その夜無事レイナースの呪いは解けたのだった。

 

「四騎士を小指で一撃……え? 聖職者じゃなかったの? イビルアイごめんなさい……あなたが正しかったみたいだわ」

 

 一人ラキュースだけが呆然とそんなことを呟いていた。

 

 

 




 昔からいろんな方々の二次小説を見てはこの場面で「私もそれだなあ」とか「その案もいいなあ」なんて考察するのが楽しくて、いざノリノリで自分が書いてみたら最後の最後で殺す選択を迫られて涙目でしたw
 


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26 対価

 呪いが解けたら何をしよう。

 

 まずは髪形を変えてみようか、それなら腰まで伸びてしまった髪をバッサリ切ってしまうのも面白いかもしれない。

 それに合わせて服も新調しようか。ダンスは苦手だったわけじゃないのだから新しいドレスを着て社交界を席巻してやったり……町娘のような恰好で気になっていたお店を巡ってみるのも楽しそうだわ……それから……それから……

 

「ここは……どこでしたっけ……」

 

 薄いカーテン越しに柔らかな光が差し込み夢から覚める。あぁどんな夢でしたっけ……久しぶりにとても楽しい夢をみたような。

 

「あぁ……そういえば結局ここがどこなのか教えてもらっていなかったのですわ……」

 

 上体を起こし立ち上がろうとするものの、少しの違和感を感じてベッドに腰掛ける。まるで厳しい訓練をした翌日のようにやけに身体が重いのだ。

 手の届く距離にあるサイドチェストの上に水差しが置いてあるのが目に入り、少し喉を潤そうかと手を伸ばそうとするのだが、そこに裏返しにされた手鏡を見つけてしまう。

 

「あ……あぁ……」

 

 そうだ、前日の夜左胸に一瞬の痛みを感じこの屋敷の庭で倒れたのだ。すぐに意識を取り戻したけれども身体も頭も上手く働いてくれず、疲労からなのだろうか再び瞳を閉じてしまったのだった。

 ただあの時周りにいた方達が口々にこう言ってくれていたのは覚えている。『成功して良かった』と。

 

「くくっ……なんて顔しているのよレイナース……涙は……ううっ、枯れてしまったのではなくって?」

 

 恐る恐る鏡を手に取り、あえてその部分に触れないように髪をかき上げて覗き込む。あれから何年経ったのだろう。あぁ……私ってこんな顔をしていたんだっけ。

 あとからあとからこぼれてくる涙で視界がぶれて、もっともっとと見ていたいのにそれを邪魔してくるのが憎らしい。

 

 嬉しくて……それでも困ってしまって。そんな涙との熱い格闘は、過去の戦歴を遡ってみても永遠に忘れられない大切な思い出(ベストバウト)になりそうだと感じていたり。

 

 

 

 

 

 

 

 

「恩を感じるのは分かりますが、また我が身を差し出すとか言い出したら今度は塵にするわよ?」

「アルベド……おんし毎回言っておりんすが考えてみんさい。御方達と致したらこの程度の娘の内臓など一発で破裂するでありんすよ」

「え!?」

「それもそうなのだけれど……」

 

「え? ねぇちょっと待って! 冗談だよな!?」

「そ、そんなわけないじゃないですか……真顔で納得するのやめてアルベド!」

 

 温かい料理を囲んで少し早い昼食の席。何とか起き上がることが出来たレイナースを交えて、いつもの他愛のないやりとりをしながら今後について話し合う。

 

「それにしても……びっくりするくらい可愛らしくなっちゃいましたね」

「シャルティアに合わせたつもりなんだが……怖いくらい似合ってるな」

 

 寝起きの下着姿で涙をぽろぽろ零しながら床に頭を擦り付けんばかりの勢いで礼を言う彼女を女性陣に託したはいいが、身支度を整えて上げたのはわかるのだが何故かゴスロリメイド服に着替えていたりする。

 

「プリキュア衣装が驚くほど似合わなかったのでありんす」

「そうか……なかなか増えないものだな」

 

 何故かペロロンチーノとシャルティアは五人集めることを目標にしているらしい。

 

「こんなかわいい衣装が着れて感激ですわ……また一つ夢が叶いました。本当にありがとうございます」

「あはは、それより礼の件を含めて色々と話しておかなければなりませんね」

「そうだな。対価なんかより断然欲しい情報が手に入りそうだしな」

 

 この身に加え、自宅や自前の装備を売り払い全てを差し出しますと言うレイナースの発言を四人は全力で断った。無論与えられるだけで何も返せないのでは良心の呵責に耐えかねるだろうという思いはありありと伝わっているので、別のことを対価としてお願いしたわけだ。

 

 一つは帝国に観光に行った際の案内役だ。帝国の『四騎士』というのが実際何なのかわかっていない一行だったが、その国の住人なら可能だろうと。

 これについては帝都一等地にある屋敷も宿としてお使いくださいと喜んで了承してくれた。

 

 もう一つが重要なのだがレイナースのレベル上げをモモンガたちが手伝うということだ。

 

 それでは全然対価になりませんわと驚くレイナースであったが、モモンガたちの思惑は自身のレベル上げに必要な情報を得る大事な検証がおこなえることにあった。

 

「えーとレイナースさんは一度死んで大量の……生命力(経験値)を奪われて……難度が15(レベルが5)ほど下がっています」

「う、うーん……難度15というのはわかりませんが酷く弱くなっているとは理解しましたわ」

「そうか。根本的にレベルって概念が無いから名前を変えても伝わらないのか。一応補足としてレイナースさんは難度60くらいのモンスターを倒せるくらいの強さでしたが、今は難度45くらいのモンスターしか倒せない強さだと思ってください」

「なるほど……そんなにも弱く……」

 

「私たちが知っている知識としてはその生命力を上げるのにモンスターを狩る必要がある。冒険者が一般人とは隔絶した強さであることからさほど間違ってはいないと思っています」

「そうですね……幼いころからモンスターを倒していた私は特殊だったのでしょうが、カッツェ平野でアンデッドを間引いている帝国の専業兵士もそう考えれば強くて当然なのでしょうね」

 

 新たな地名の話に興味を持つが、それは後だ。 

 

「それでですね……ここから説明が難しくなるのですが、難度15分の生命力のうちいくつかはカースド・ナイトに割り当てられていたので他の職業(クラス)を取るか、今持っている職業(クラス)が限界ではないなら伸ばす必要があるんです」

「……よくわかりませんが、結局のところ私の強さを取り戻すためのノウハウを知りたいということでしょうか。それでしたら如何様にもこの身をお使いください」

 

「やっぱり伝わらないよな……とにかくしばらくは首輪プレイだからよろしくお願いしますね!」

「へ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 毎度のことながらストロノーフ邸の裏庭ではおかしな光景が繰り広げられていた。目元涼やかな金髪のゴスロリメイドが槍をかまえ、一体の真っ黒な犬を相手に戦闘を行っているのだが、その女性の首元には鎖が垂れ下がった金属製の大きな首輪が嵌められていた。

 

「昨日はもりもり倒してましたけど、今は一体でも拮抗しちゃってますね」

「カースド・ナイトはステータス上昇効果が高いからな。元のレベルに戻っても同じ強さとはいかないかもしれないね」

 

 はっきり言って見られたら通報されてもおかしくは無い光景だが、自分たちも三カ月の間着用していた『取得経験値が増大する首輪』に違和感を覚えていない為、そこまでの発想に至っていない。

 

「シャルティアの眷属に経験値あるかなあ?」

「対モンスターの場合はありましたけど、対人の場合は無効でしたからね。ただそこらへんこの世界で変わっていてもおかしくないと思うんで」

 

 フィールドに出てくるモンスターの召喚や取り巻きと言われるものに経験値はあった。だが対人戦においてプレイヤーの召喚したものには経験値などは無かったのだ。

 養殖を可能にする行いに制限を付けられるのはゲームとしては当然だが、リアルと化したこの世界ではその境界が曖昧である上にフレンドリーファイアも解禁されている。

 

「……俺たちがレベル上がったら職業(クラス)って選択できるのかな? そもそもレベル上がったかどうか知る方法が無いよな」

「レイナースさんには悪いですが、いろんな意味で知りたい情報が得られるといいですね」

 

 この日、生傷を大量に負いながら倒した眷属の数は10にも届かなかったが、次の日にはかなり楽に多くの眷属を倒したレイナースに驚くことになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「元オリハルコン級冒険者の護衛から報告です。我々で対抗できる者たちではないと……ガゼフ殿と一騎打ちをした方がまだましだとも言っていましたね」

「……それほどかよ、ラナーの言っていた通りか」

 

 先日ラナーからレエブン候に至急の話があると伝えられ、面白そうだと同席したはいいが頭のおかしくなりそうな状況に困惑してしまう第二王子ザナック。兄であるバルブロの完全失脚と言える状況に歓喜していたのに冷水を浴びせられた気分になってしまった。

 なんでも八本指の一人と六腕を捕らえたので拘束に協力してほしいというのだ。その者たちが裏娼館を潰し兄を縛って吊るした張本人であるとも。

 

『お父様が兵を差し向けたら後継者争い以前に国がなくなると思います』

 

 蒼の薔薇や戦士長も懇意にしており下手をすると国がひっくり返る事態になりますねと。違うだろうが……お前が何も言わなければ問題ないではないかと。あいつ国を人質に取りやがった。

 

「それがブラフであろうともラナー殿下に従う……というよりバルブロ王子を解放させないためには口外する必要はありませんからな」

「あいつがペットと暮らせることを条件に俺を王位へ着かせたいというのはわかるんだが、それだけか? うーん……」

「どうかされましたか?」

「いや、ちょっと焦っているように思えてな。引き続き八本指のちょっかいが掛からないように護衛してやってくれ。これ以上動かれると面倒だ」

 

 巻き込んだ理由の一つに、自分への意識を反らし一枚でも多く敵意を向けさせる相手を作ることがあったりするのだが、彼らに暗殺者を仕向けたなんて知らないザナックに理解できるはずも無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうでした? なにかつかめましたか?」

「ええ、なにかカチリとハマるものがありました。それよりあのお方の強さの底が窺えませんでしたわ」

「レイナースさん戦闘スタイルがブリュンヒルデと似ているからかな。『ワルキューレ』は難しいかもしれないけど『ランサー』とか前衛クラスが取れてるといいな」

 

「ワルキューレなら妾でもよかったでありんすのに」

「私たちでは手加減が難しいでしょう。あの娘は一応指揮役だし宿とは違ってモモンガ様に直接命令されていたから真面目に指導していたわね」

 

 本日も五人で夕食を頂きながら昼間の訓練のことなどを話題に楽し気な空気感。

 なんでもレイナースも夕食作りを手伝ったのだが、その際恐怖候の眷属があらわれたのだそうな。それをあっさり退治した彼女をアルベドとシャルティアは勇者として褒めたたえたらしく少し仲良くなっていたりする。

 

「それと変態の三女からの報告ですが、以前ラキュースさんが連れてきた元冒険者がこの辺りを巡回しているそうです。多分悪い人たちではないと思うので手は出さないように言ってありますが」

「なんだろな? このあたり危険なところがあったりするのかな」

 

 まぁそんなことより今日もすごい美味しいな、帝国風の料理とかあるのか? などとサクッと流される話題でもあるのだが、彼らが八本指の間者を排除しているのは知られていなかったり。

 

「今更だけどレイナースさんは帰らなくても大丈夫なのか? あ、カルネ村においてある馬はあっちの姉妹が世話してるから大丈夫だぞ」

「あ……ありがとうございます。そうですわね、対価を断られたとはいえ職を辞しては皆さまを帝国で迎えることも出来ませんし……まだ若干劣るとはいえ四騎士を外されることも無さそうですわね」

 

「その『四騎士』って『蒼の薔薇』みたいなチームなんでありんすか?」

「……これでも帝国では有名な皇帝直属の四人の騎士の中で、恥ずかしながら最強を誇っていたのですが。知りませんでしたか?」

「あ、あぁ私たち異邦人ですので……なんか偉い人だったんですね」

「すげぇな。俺ら有名人に縁がありすぎだろう……」

 

「……最強って何がでありんすか?」

「……まぁ良かったじゃない。帝国での安全が確認できたと思えば」

 

 女性陣は可哀そうなものを見る目で見ていたが、努力で得た訳ではない力を誇るわけにはいかない男性陣は素直に感心していた。

 

「言ったではありませんか、この身を如何様にもと。あちらはどうにでもなりますし、どうでもいいとすら言えますので皆さまの検証を優先して頂ければ嬉しいですわ」

 

 この一週間後レイナースは当時の力を取り戻して帝国に戻ることになるのだった。少女のように儚げに笑う笑顔の美しいゴスロリメイド服姿は、皇帝のみならず出会ったすべての者たちを驚かせて。

 

 





次の休みは忘年会なので、今年最後の投稿になると思います。それではみなさん良いお年を。


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27 スゴイ経験

だって書けちゃったから……w 次回は流石に来年です。


 黒粉を生産する村から情報を持ち帰った蒼の薔薇。第三王女ラナーの卓越した知能と知識により、八本指の拠点が判明し『大至急動くことになりそうだ』という伝言を頼まれたクライムは、その任務を果たし次の場所へ向かう。

 

『ラキュースの提案か? 受けてくれるとは思わんが信頼できる人手が足りんわけか……うーん、ゴブリン退治に竜王を呼ぶようなものだぞ』

 

 その趣を告げた際のイビルアイの言葉が気になったが、娼婦たちを救った義侠心溢れるあの方達ならきっと答えてくださるはずだと思っている。

 

 ただ門の内側にいた美しい女騎士。ブリュンヒルデが言うにはモモンガたちはある方を見送りに出ており、いつ戻ってくるかまではわからないらしい。

 作戦が今夜になるかもしれず、自分もすぐにでも城へ戻らなければならないが用件を告げて少しだけ待たせてもらうことにした。

 

「……以前もいらした方が裏庭で三女と戦闘訓練をしていますよ。その方もあなたと同じく強くなりたいとおっしゃっていましたね」

 

 思わず是非自分も参加させていただきたいですと頼み込んでしまい、何故か首筋をなでられながら案内された場所には一人の男がぶっ倒れていたのだった。

 

 

 

 

…………

 

 

 

……

 

 

 

 

 

 

 

「なんであの少年はあそこまで立ち向かっていけるんだ……何故心が折れない!」

「うーん……純真な子には三女の挑発は理解できてないんじゃないかしら」

 

「もっとぉ♪ いいわよもっときなさい♪」

「はぁはぁ、わかりました! せいっ、せいやっ!!」

 

「どこに打ち込もうと正確に左右の乳首の上を掠っているんだぞ!? 何故気づかない!」

「攻撃が当たるようになって楽しくなってきたんじゃないかしら? さっきまでは片手で弾かれていたし」

 

 そうか、直向(ひたむ)きなまでの純真さ……剣に全てを懸けていたはずの俺に足りていなかったのはこれなのかと、熱い気持ちで少年を見守るブレイン・アングラウス。

 ちょくちょく長女の解説が入るが彼には剣尖が掠る音しか聞こえない。貪欲なまでに真剣に痴女にぶつかっていく少年を、ある意味俺より強いんじゃないかと認めた瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「初めて会った時の顔に戻ったじゃないか」

「なんか落ち着きましたね」

 

「ほっとけ。あー違うか……すまなかったな。もうお前たちを追い掛け回すこともしないし、弟子にしろとも言わないさ」

 

 なにか憑き物が落ちたかのようなブレインと今更ながらに自己紹介を済ませる。最初からこうであったならここまで邪険に扱われることは無かったであろうに。

 

「お水をありがとうございます。熱中してしまいまして時間の感覚を忘れてしまいました。是非ともまたお手合わせをお願いしたいものです」

 

 三女とクライムがすごい良い笑顔で戦闘訓練(?)を行っていたのに呆気に取られてしまったが、クライムの今後の為にも違う姉妹とチェンジしようと考えるモモンガたちだった。

 

「それよりクライム君も久しぶりだな。こっちもいろいろあって君の主人に会うどころか観光もままならなくてな、やっと一段落ついたところなんだよ」

「シャルティアたちはもう少ししたら帰って来るかな」

 

 アルベドは師匠とエンリにこちらで作った『肉じゃが』を持っていくんだとか。シャルティアは一緒にいたネムと末っ子にハーブを育てる使命を与えるそうで、丁度そこに居た漆黒の剣のダインを道連れにしていた。なんでもここのお婆さんに『ハーブティに使えるわよ』と苗を貰っていたそうな。

 そんな二人の行動にも少しほっこりしていたのだが、クライムのお願いごとに眉を顰めてしまう。

 

「そうでした、今日はモモンガ様たちに連絡とお願いをしにきたのでした」

 

 連絡というのは『ガゼフ・ストロノーフは私たちが裏娼館を落とした件を知らないのでそのまま秘密にしておいて欲しい』という事。

 教えることに何か不都合なことがあるのかと気になったが、王の側近である彼に息子である第一王子をあのような状態にしたモモンガたちの行動を教えるのは拙いと。

 愚直で真面目な彼に教えてもさすがに密告することは無いだろうけども、いらぬ葛藤をさせたくないと聞けば納得してしまう。

 

 そしてお願いの件は八本指の拠点が判明したので撲滅に協力してほしいとのこと。出来るならクライムと一緒に王城まで来て欲しいのだとか。

 

「え? いやですけど」

「行くわけないじゃないか……なんで俺らなんだ?」

 

「え? いや……その……」

 

 そんな答えが返って来るとは思っていなかったので、頭の隅に追いやっていたがそうだ……どちらに転んでもいいのだけれど、()()()()()()()()()()()()()()()()と命令されていたのだった。

 

「この件を知っているザナック第二王子とレエブン候の要望なのだそうですが……」

 

 確かに実際に会ってみたいとは言っていたが……いや別に誰の提案でも構わないが、ここまですっぱりと拒否されてしまったことに驚いてしまう。

 

「その王子様は勘違いをしていると思うんですよ。別に私たちはこの国を良くするために動いたわけじゃありませんし。ツアレさんにしても……聞いているでしょうけどこっちはそう取られてもおかしくありませんが三女奪還に関しても、知り合いの姉と仲間を救うために動いたにすぎません」

「ぶっちゃけ俺ら戦争どころか戦闘すら本当はやりたくないからな。クライム君の主に会うとは言ったけど面倒事は御免だぞ?」

 

 あのとき裏娼館でペロロンチーノが言っていた言葉を咄嗟に思い出す。『見ちゃったもんなあ……放っておけないけどどうしようもなくて』

 

 あぁそうか、この方たちは善良で類まれなる力はあるけれどもただの一般人であるのだと再認識してしまう。

 

 目の前で助けを叫ぶ人がいたなら彼らは救ってしまうのだろう。降りかかる火の粉があるならそれを払うのだろう。だが決して泥をかぶる義侠心も、見ず知らずの国民を救うことになる愛国心も持ち合わせていないのだ。

 訪れたばかりの国外からの旅人であったことを今更ながらに思い出してしまった。

 

「あ……あぁ、すみません」

 

「いやクライム君が謝ることじゃないですって。あんだけのことをやっちゃったんだから期待されるのもわかるよ。ただそれって国の衛兵の仕事なんじゃないかなあ? なんで私たちにお鉢が回ってくるのかさっぱりなんだ」

 

 衛兵が八本指に繋がっているかもしれない。だからレエブン候の私兵に協力を仰いでいるのだが、そんな情報を当然モモンガたちは知らないし、国の恥部を晒す知ってほしくは無い情報でもあり人手が足りないのですと答えることが出来ない。

 

「なあ……俺はこの話聞いてていいのか? まあペラペラしゃべる気は無いが」

 

「あっ!?」

「聞かれて拙い話でもないんじゃね?」

「私たちにとってはですけどね」

 

 先ほどまで一緒にストロノーフ邸の裏庭で訓練をしていたせいなのか、勝手に部外者ではないと思い込んでいたクライムだったが、許されてはいるもののブレインはただの不法侵入者だったりする。

 

「ブレイン・アングラウス様と言えばストロノーフ様と互角の戦いをされたという方ですよね? そんな方と一緒に同じ師を持てたのは嬉しくもありますが、出来れば内密にお願いします」

「俺は絶対あの女を師とは認めないけどな!? はぁ……どうだクライム君。そいつらに対しての罪滅ぼしってわけじゃないが俺を雇わないか?」

 

 ペロロンチーノに敗れた時点で自分が弱いと自覚できていたのはある意味良かったのだろう。前回あの女に完全に心を折られず再戦する気力があったおかげで、自分より能力の劣る少年の強さを知ることが出来たのだから。

 周辺諸国最強の男に肉薄して敗れたのを悔しく思っていたはずが、いつの間にかそう呼ばれる強さに納得し心のどこかで誇ってすらいたのかもしれない。

 

「錆落とし……かな? いつの間にか錆びついていたみたいでな。あの女はこりごりだが初心に戻って振るってみたいんだ」

「ぜ、是非お願いします!」

 

 多分いい話なんだろうなあとブレインの独白を聞きつつも、こいつのせいで死んでいった善良な冒険者や商人もいるんだよなあと考えるモモンガとペロロンチーノだったが口には出さない。

 命の価値が軽いこの世界で戦闘を生業として生き続けてきた彼らとは根本的に考えが違うのだろうし、それを問いただしても無意味だろう。

 

 連れだって出ていく二人を申し訳なさそうに見送るモモンガとペロロンチーノ。動かないと決めたもう一つの理由に『自分たちが何かすると事が大きくなりすぎてガゼフ・ストロノーフが帰ってこれない』と察していたからだったりするのだが、さすがに言えるはずも無かったり。

 

 

 

 

 

 

 

 

「犯罪シンジケートを潰したらどうなります?」

「二番目が台頭したり残党が新しい組織作っちゃったり……興味ないから詳しくは知らないけどそんな歴史は聞いたことがあるぞ。この国だと可能性は高そうだよな」

 

 夕食をいただきながらリ・エスティーゼ王国の現状を今までの旅で得た情報を元に考察していく。

 

「税率七割八割当たり前の圧政で革命どころかテロすら起きてないのはモンスターのせいなんですかね?」

「それもあるけど個人の武力の違いもじゃないか? 農民がレベル1で兵士が……例えばレベル5だとしても五倍どころじゃない差があるからな」

 

 アーコロジー内で少なからず環境汚染から護られていた自分たち。城壁の内側でモンスターの脅威から逃れることが出来ていたこの世界の住民。

 ある意味似たところもあるが自分たちがいたリアルと同等に考えることは出来ないこの世界。搾取される側は自分たちのように飼いならされていたわけではないのかもしれない。覆せない能力の壁があったり、考えてみれば魔法なんてものがあったりするのだ。

 

「なるほど……アルベド、この国を良くする方法はあると思うか?」

「上から下まで不正が横行していますからね。それでいて排除しては国政が立ちいかなくなるのでしょう。モモンガ様とペロロンチーノ様が王位に就けば可能でしょうが……望まれない方法では何年かはかかるのではないかと」

「面倒事を背負う為に国の王になるって……罰ゲームみたいでありんすね」

 

 それが当然のように王になれば可能ですなどとのたまうアルベドに苦笑してしまうが、それぐらい突飛な事を為さなければ不可能なほどに難しいのはわかった。

 

「まあ良い国になるかもしれないし俺たちが考えてもしょうがないな。今はクライム君たちが無事なことを祈ろうぜ」

「ですね。六腕とかいうのもいませんし苦労しないで済むといいんですけど」

 

 難しい話はここまでだと、以降の話題はレイナースは今どこらへんだろうとか、ブレインはクライムを狙ってるんじゃないのかだとか、もうこの家貰っちゃってもいいんじゃないのかなどと二転三転し、いつもの終始笑顔の絶えない家族団欒の光景に戻っていくのだった。

 

 

 

 

「それでですねレイナースさんのレベル上げを見てて思い出したことがあるんですが、戦闘などは殆どしたことが無いと言っていた第二位階魔法を使える少年を思い出してしまって」

「あー……ンフィー君のことか?」

「そうです。つまり戦闘じゃなくても経験値を得られるんじゃないかなーと」

 

「私はモモンガ様のおかげでスゴイ経験をいっぱいしていますから、カンストしていなければレベルが上がっていたかもしれませんね。うふふ」

「なるほど……妾もスゴイ経験なら負けていないでありんすよ!」

 

「……」

「……」

 

 その夜は(経験値増加の)首輪プレイで大いに盛り上がったという。

 





エンリちゃんとかスゲー経験いっぱいしてるからね、この世界絶対イベント経験値があると思ってますw


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28 普通の女性とファッションショー

「ストロノーフ様!」

「おぉ、クライム。お前も班長を……アングラウス? ブレイン・アングラウスなのか?」

「よぉガゼフ・ストロノーフ。こんな形で再会するとは思わなかったが息災のようだな」

 

 今回襲撃する八本指の拠点は八か所だったのだが、一週間ほど前に散歩でもするかのように潰された拠点が除かれたため、蒼の薔薇、ガゼフ・ストロノーフ、そしてクライムの七名を班長にして、同時に七つの拠点の制圧にあたることになった。

 集合場所で待機中だったクライムがガゼフに声をかけたのはモモンガから『早く帰ってきてくださいよ』との伝言を伝える為だったのだが、それを皮切りにあれよあれよと有名どころが集まり何故か討論会のようになってしまう。

 

「正直肌で感じる強さは今でも御者のブリュンヒルデさんだと思ってるんだけど……私はシャルティアさんが一番だと思うわ」

「ふむ……全員が彼らと既知であったのには驚いたがあの色白の華奢な娘か。とてもそのようには見えなかったが、私はモモンガ殿を推そう。深くは話せないが戦う時の覚悟は相当なものだったぞ」

「お前らは一度でも相対したことがあるのか? ペロなんとかと呼ばれてたあの少年が最強に決まってるだろうが」

 

 誰かしらどこかで関わった風変わりな四人組。その素性はほとんど知れないが、六腕を倒したその力量から誰が一番強いのかなんて話題で盛り上がってしまう。

 

「あー……でも御者ってあの女騎士だろ? 三姉妹なのか知らんが三女はやべーぞあれ」

「……アングラウスさん九姉妹よ」

「嘘だろ!? 変態がそんなに……いや違う、そいつらも強いのか?」

(九姉妹? あの女騎士たちか……召喚魔法とは告げていないのだろうか)

 

 ガゼフ・ストロノーフ、ブレイン・アングラウス、ラキュース・アルベイン・デイル・アインドラ。人間種の世界で最高峰の力を持つ三人が接触した経緯はさまざまであり、それぞれに違った断片的な情報しか与えられていないのではあるが、その底知れぬ実力に思うところがあるのだろう。

 

「イビルアイ、なんか知ってるんだろ? 俺っちに教えてくれよ」

「……どうにもならんことを教えるつもりは無いさ」

 

 一人その実力の全容を知るイビルアイは仮面の下のハイライトの消えた目で強者たちの語らいを見つめる。気楽なものだなあと。

 それでもあの者たちだからこそ救えた命もある。カルネ村と呼ばれる村人たちや裏娼館の娼婦たちのみならず、我々が知らないだけで他の多くの人たちが救われていたとしても不思議ではない。

 ただこの場に彼らがいないことに安堵もしていた。あれらの力はたやすく振るわれていいものではない。振るう機会を作ってはいけないのだと。

 クライムの行動を見過ごしはしたが、嬉々として戦闘に参加しようとする輩ではないと再確認できたのは僥倖だった。

 

「でもアルベドさんだけ謎なのよね。()()()()()()()()()()()()()()()()。そもそも冒険者チームというわけでもないのだし」

「女二人もそれなりの強者だろ。一人は第三位階の使い手だし、もう一人は……そこの双子のような恰好だったが剣士なんじゃないか?」

 

「!? すまない用事が出来た」

「ティア!? 待ちなさい!」

 

 出発前から班長の一人が飛び出していくトラブルもあったがこの日の夜、八本指の拠点はすべて制圧された。

 ただ予想されていたことだが、数名の部門長や幹部は逃げ出しており拠点がもぬけの殻だった場所さえあったほどだ。

 モモンガたちが悪いわけではないが六腕が消えてから一週間も経っており、警戒されて当然ではあるのだがこれでも拠点を変えられる前に出来た最速のタイミングだったのだ。

 

 消化不良なところはあったものの、以降八本指の名前だけは王国では過去のものになっていくことになる……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 いつもの場所のいつもの時間。天使たちを呼び出したモモンガは連れだってテントの方に歩いて行く。今日のご主人さまは何故首輪をしているのだろうと首をかしげる天使たちだったがモモンガはそれに気づいていなかったり。

 途中村の倉庫へ寄り例の看護師の姿を見せてもらおうと思っていたのだが、漆黒の剣のメンバーを確認して足を止めた。

 挨拶を交わし話すのはそろそろエ・ランテルに戻らなければならないといったこと。考えてみればあれから10日ほど経っている。王都から帰還したと辻褄を合わせるには確かにそれがいいと納得するのだが、問題はニニャとその姉ツアレに関することだった。

 

「みんなにもここに住むように勧められたんですけど、姉さんはみんなと一緒に行きなさいって。僕は……」

「なるほど……お姉さんが心配だよな」

 

 漆黒の剣を抜けて姉と一緒にこの村で暮らす。それを優しい仲間たちが推してくれるけれどその仲間も大切であるのだ。どちらとも一緒にありたいと思ってしまうのは我儘ではないだろう。

 それに試験をクリアしたとはいえ少人数チームの中から魔法詠唱者が抜けてしまえば金級を剥奪されるおそれもあるかもしれない。

 

「私にはどれが正解かわからない。ただツアレさんは……いや村の住人に危害を加えるものがいれば私たちがいる限り全力で守ることを約束するよ」

 

 モモンガの後ろで微笑み頷く美しい天使たち一人一人の強さは一騎当千。裏娼館でそれを目の当たりにした彼らにとってもこれほど頼もしい守護者は存在しないだろう。

 

「これは私たちにも言えることなんですけど、今の所はツアレさんを含む彼女たちに選択肢を増やして上げられればなと思っています。それにあなたたちも金級で済む器なんですか? もっと上の階級に上がれば調整役……マネージメント役の仲間が増えてもいいんじゃないですか?」

 

「それって」

「あぁ! なるほどそんな選択肢もありますね!」

「まぁ確かに俺たちがここで終わるわけがないっつーか当然だろ」

「ははっ。ツアレ殿の未来を勝手に決めてしまうのも失礼であるが楽しそうであるな。もしかしたら同じ魔法の才があってもおかしくは無いのであるし」

 

 後に第二位階魔法詠唱者を新たに加えた漆黒の剣が白金級に昇格したりもするのだが、それはまた別のお話である。

 

 

 

 

…………

 

 

 

……

 

 

 

 

 

 

 

「ふぁっ!? あっ! ペロロンチーノさんか驚かせないでくださいよ……ってかなんでプリキュアの衣装着てるの?」

「いやぁ俺どっちかって言えばSだと思ってたんだけどMもいけるわ。あとモモンガさんも首輪着けっぱなしだからな」

「あっ!?」

 

 ニニャ達との相談も済ませテントに戻ってきたモモンガ。テーブル席に座る知らない魔法少女に驚くも、晒された二の腕がムキムキで、腹筋がバッキバキに割れているのが怖すぎた。よくよく見れば着け毛かなにかで長髪になっているもののペロロンチーノだとわかり対面するように腰掛けるのだが、美少年であるがゆえに似合ってしまうその姿に驚いてしまう。

 肉体から目を逸らせればだが。

 

「嫁の要望は全力で応える主義だからな。新たな扉が開きそうで怖かったけどスゴイ経験値が増えた気がする。まあ気がするだけだけど!」

「あはは、いやぁでも女装もいけますね。変装のパターンとしてはありかなってくらい首から上は可愛いですけどその衣装は無しかなあ。メイド服とか素肌を晒さないような衣装じゃないと筋肉質すぎて張り倒しそうになりましたよ」

 

 朝食をテントのキッチンで用意していた女性二人も満面の笑顔で席に座り話に加わる。

 

「ふふっ、ペロロンチーノ様をあまり困らせてはダメよ。でも私も初めて征服する側に立ったって言うのかしらね。あぁモモンガ様可愛かったわぁ」

「ペロロンチーノ様も負けてないでありんすよ。あの頬を染めて恥じらう表情は……あっヨダレが」

 

 さすがに恥ずかしすぎて早々に話題を転換することにする男性陣。ただ前日に王城に呼ばれたことを鑑みれば今日が八本指討伐の翌日であり、混乱も予想されるため王都観光はしないつもりであった。

 

「一度戻って長女に留守番を頼んでからエ・ランテルに行きましょうか。心配ですけどさすがに忙しいでしょうし私たちに連絡が来ることは無いと思いますから」

「そういえばそろそろ一か月でございますね。あの衣料店の店主がパーティドレスを進呈すると言っておりましたが頃合いかもしれませんね」

 

「あー……そんなこともあったなあ。普通の日常なら絶対忘れないんだけど色々ありすぎて忘れてたわ」

「お肉も食べに行きたいでありんす!」

 

 服より肉なのかと笑ってしまうペロロンチーノであったが、よほどあの時食べたステーキが気に入ったのだろう。じゃぁお昼はあの店でなどと予定が決まり、何故か再び前夜のプレイ内容に話が戻ってしまったりするのはご愛敬だったり。

 

 

 

 

 

 

 

 

 エ・ランテルのあの時訪れた服飾店に顔を出すと店員が挙ってやってくる。有無を言わさず店の地下まで引っ張られてくれば小規模な舞台と客席がある部屋に連れ込まれた。

 ドレスはすでに完成しておりますので早速着て欲しいと請われ、何故かモモンガたちはオーナーと制作陣らと一緒に観客席へ。アルベドたちも舞台袖へそれぞれ連れ去られて行った。

 

「正直私共は悩みました……アルベド様の純白のマーメイドドレス。シャルティア様の黒地に赤のボールガウンドレス。身体を先に作ったのかドレスを先に作ったのかと疑うほどにお似合いになられている。これを超えるパーティドレスは容易ではないぞと」

 

「色々な衣装を着たのを見たけど確かに一番似合ってますね」

「うへへ、嬉しい評価だな。うーんでも確かに難しそうね」

 

「ならばとアルベド様へ黒のドレス、シャルティア様へ白のドレスという職人からの発言がありましたが……バカを言えと。あの方達ならそんなの当然のようにお持ちだろうと」

 

「あはは、当たりです」

「何回か着てもらったよな」

 

「ほう……やはり。出来れば後でそちらも拝見させていただきたく、おっと。準備が出来たようでございます。それでは登場していただきましょう! お二方どうぞ舞台へ!」

 

 舞台の中央に簡素なスポットライトがあたる。舞台袖から押し出されるように飛び出してきたのはアルベドだった。

 

「……あぁ……そっか。俺たちは思い違いをしていたのかもしれん」

「うわぁ……アイドルみたいだ。可愛いなぁ」

 

 その声が届いているのかいないのか。どうしたらいいのか分からずアワアワしながらもポーズを取る姿にモモンガとペロロンチーノ以外の観客は口をぽっかりと開けて、その美しさに呆然としてしまう。

 

「……はっ!? し、失礼しました。私共は白や黒といった落ち着いた色が彼女に似合うのは当然とは理解したうえで、違う方向性を模索した結果がこれでございます」

 

 色は薄い青。ごてごてした印象は無くシンプルなそれは膝まで見えるミニドレス。若さを全面に押し出すその衣装はアルベドの普段とは違った姿を見せてくれる。

 

「考えてみれば18だっけ? それは抜きにしても若い女性なんだよな。お姉さんキャラだけど俺らより全然年下だし……って聞いてないねモモンガさん」

「可愛い……すごい可愛い! 足が長い!」

 

 子供のようにはしゃぐ語彙の少ないモモンガに笑ってしまうペロロンチーノであったが、次に出てきたシャルティアに目が釘付けになる。

 

「……うっ!? またも見とれてしまい失礼しました。まず頭の大きなリボンの付いたヘッドセット。あれを考慮しなければシャルティア様のボールガウンは古風と言ってもいい色合い。製作者はリボンとトータルで全体のバランスを取っているのだろうと感じました。それほどまでに可愛らしい少女に血のように濃い赤色を着せたかったという執念を感じたのですが、私共はシンプルに提案させていただきました」

 

 こちらの色は淡いピンク。アルベドのドレスほどでは無いものの膝が隠れる程度のミモレ丈。そして特筆すべきは詰め物を外され、肩ひもなしのオフショルダーというよりベアトップにワンポイントのリボン。

 首から胸元まで大胆に晒されたそれは、胸がない事など問題ないと言わんばかりに格好良くそして全体として可愛らしく仕上がっていた。

 

「カジュアルなドレスなんですけどそれでいて子供っぽくない。ペロさんが持たせてるのパットを考慮してるからなのか首筋まで隠れてるのが多いですけど、これもまた新鮮だなあ。あっ……聞いてませんね」

「可憐だぁ……これが見たかったはずなのに俺はなんてことをしてしまったんだ!?」

 

 胸元を気にしながらもポーズを取るシャルティアを見上げながらペロロンチーノは涙を流し絶叫する。シャルティアを制作する際のデザイン発注で頼んだのは『貧乳吸血鬼』だったのだが、出来てきたものは巨乳吸血鬼のイラストだった。

 ここで再発注を掛ければよかったのだが、イラスト自体は気に入ってしまったので『貧乳を恥じてパットを何枚も詰め込んでいる』という設定を付け足してしまったのだ。

 つまりそれに合わせて他のドレスなども制作したり買い漁っていたおかげで、コスプレ衣装以外のまともなドレスは『巨乳ありき』のドレスしか持っていなかったのだった。

 

 モモンガ、ペロロンチーノ、そしてオーナーと職人たち。全員が涙を流しながら立ち上がる。

 そして誰からともなく拍手が始まり割れんばかりの大歓声で、このなんだかよくわからないファッションショーは幕を閉じたのだった。

 

 

 

 

「これ装備には入らんのでありんすね。防御力も無いので当然でありんすけどペナルティで腐食しなくて良かったでありんす。それにしてもアルベドは印象ががらりと変わりんしたねぇ、可愛いでありんすよ」

「シャルティアも素敵じゃない。人間にもこういったプロがいるとは驚いたわ。でもわざわざ翼を出す穴まで開けているんだけれど……あの職人たちがそれを何とも思っていないのはなんなの?」

 

 本物の美しさの前では常識さえ霞むのか。採寸の時から気になっていたのだが、一本気な職人には亜人種だろうがなんだろうがそれは些細な問題だったようだ。

 舞台の上から見える人間たちに少し呆れてしまうが、思わず口元が緩み()()()()()()()()()優しい笑顔を見せるアルベドだった。

 

 





あけおめ!


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29 王都出立

 バルド・ロフーレさんのお店で昼食を終え、女性二人は足りなくなってきた食材の買い出しへ。モモンガとペロロンチーノはロフーレさんと蒼の薔薇から送られてきた例の『支援金』についての話し合いなどを行い、あっという間に日が暮れる頃合いになりガゼフ邸へ戻ってきた。

 あのドレスはすでに彼女たちのアイテムボックスに仕舞われており、しばらくは出てくることは無いであろう。

 

「燃やしたら燃えそうでありんす」

「切ったら切れそうよね」

 

 いや服なんだから当たり前だろうとは思うものの、魔法の装備とは違うのだ。汚れたら洗わなければならないし、とてもじゃないけれど()()()()にも使えない。

 それを少し残念にも思うけれど、口の端を緩めて大事そうにドレスを仕舞う二人にほっこりしてしまった。

 

 

 何故かブリュンヒルデと蒼の薔薇の女忍者の片割れが裏庭の片隅にあるベンチでイチャイチャしていたがあえてスルー。

 もう一人いる女騎士、三女と交代した五女に話を聴いてみるとガゼフ・ストロノーフが戻ってきていると言う。

 

「あーしご主人様も好きだけどー、あーゆうオジサンもちょー大好きなんよー。奥さんとかいるん?」

 

 髪の毛を人差し指でクルクルといじりながらそんなことをのたまう五女は変態ではなかったがギャルだった。

 

「あーゆう男の加齢臭ってゆーの? 嗅ぐだけで足ピンしてイきそうじゃね?」

 

 いや、匂いフェチの変態だった。

 

 言葉節に思うところがあったアルベドも『いないから頑張りなさい』などとモモンガに手を出さない娘ならOKらしく煽っていたりする。

 

 

 

 

 まるで我が家のように普通に家に入りリビングまで来ると、会話を交わしていたガゼフと老夫婦が気づき声をかけてくれた。

 

「あらお帰りなさい。それじゃ早速夕食を温めてくるわね。アルベドちゃんとシャルティアちゃんはいいから今日は任せて頂戴」

 

 普段は率先して台所に立つアルベドたちもそういうことならと席に座り、何とも久しぶりにガゼフ・ストロノーフと再会を果たすことが出来た。

 

「とにかくまずは謝らせてくれ。多忙だったとはいえ客人を長期間待たせることになってしまった。申し訳ない」

 

 上座に座っていたガゼフが立ち上がり頭を下げる。その多忙の一端をモモンガたちが作り出してしまったのは明らかであり、慌てて声を上げる。

 

「やめてくださいよ、こんなに良くしてもらっているのに戦士長様が謝ることなんて無いですから」

「ホントだよ。いろいろあったけど宿に泊まるより全然いい生活が出来ちゃったし」

 

 ベッドもヌルヌルにしちゃったし、裏庭もいろいろありすぎてボッコボコになっちゃったしなどと、今更ながら他人の家でやりたい放題だったことを反省する。

 しかしお互いにぺこぺこと頭を下げていても仕方ないとばかりにアルベドが話題を振ってくれた。

 

「そろそろストロノーフ様も、あ、あなたもお座りになって下さい。それで……少し不思議なのですがここまで忙しいものなのですか? 戦士長というのは」

「王城まで馬車で30分ぐらいでありんしょうか。別に家に帰ってもよかったのでありんせんか?」

 

 確かに一番の原因があの娼館の件で吊るされた王子だとしても、一週間以上も王城に寝泊まりする理由にはならない気もする。それ以前に王城に帰還してから一か月以上帰れていないとも聞いている。

 

「うーん……まあ君たちなら構わないか。あの時君たちが受け取ってくれなかった水晶がまず一つの原因だ」

 

「あー……あの残念な」

「ラストアタックはストロノーフさんですしね。なんにしても私は受け取る気はありませんでしたよ」

 

 カルネ村での一戦。敵大将が持っていた魔道具は使われることは無かったが、鑑定の結果第七位階天使が封じ込められている水晶だった。

 

「魔術師組合の者の鑑定でどういった物であるかはこちらも把握できたのだが……アレを奪おうとする輩がいたんだ。幸いなことに賊を捕らえたはいいんだが、首謀者は教会から洗礼名までもらっている貴族だった」

 

「教会って確か法国が関与してるんだっけ」

「……あいつらストロノーフさんが言ってましたけど法国の部隊でしたね。取り返しに来たのかな?」

 

「その貴族は取り潰しになったが……今度は別の賊が宝物庫を狙ってきてな。王宮に寝泊まりというよりは昼は王族警護、夜は宝物庫の番人のような生活だった。そんな中クライムから連絡があって、なんとか王に許可を取り一カ月ぶりに自宅へ帰ってきてみれば、緊急連絡ですぐさま王城に戻ることになったわけだ。目撃者も多く隠すつもりも無いが王族が吊るされた事件だな」

 

「あー……」

「た、タイヘンデシタネ……」

 

「全部妾達が」

「シャルティア!? あら、夕食が温まったようよ! ほら配膳を手伝いましょう!」

 

 シャルティアが言いかけたが一端どころではなく多忙の原因の殆どにモモンガたちが関与していたらしかった。アルベドもなんだかんだで状況は察したらしく面倒な話に時間を取られるのは御免だと、シャルティアを連れてキッチンへ。

 そんな中扉を思いっきり開けて飛び込んできた女忍者ティアの登場は、ある意味救いだったのかもしれない。

 

「ブリュンヒルデ様が空に消えていった……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 話をがらっと変えることが出来た功労者のティアは、アルベドとシャルティアの間の席を用意され現在至福の時を迎えている。女なら誰でもいいわけではないのだが、絶世の美女と美少女に引っ張られれば例えレズではなかったとしてもホイホイついていってしまうのは仕方がないのかもしれない。

 

「じゃぁ作戦は上手くいったんですね」

「あぁ。だが君らが六腕を倒したと聞いたときは驚いたものだぞ」

「倒したのはうちの御者なんだけどね」

 

「よく見るとこの娘結構可愛いわね」

「ふわぁ……そこ……んっっ!?」

「イビルアイ程ではありんせんがあのチームは粒ぞろいでありんすよ」

 

 食事を頂きつつガゼフに昨夜の作戦について教えてもらったのだが、主要メンバーはもちろん襲撃側に死者は出なかったそうで一安心だ。

 

 女性陣はこちらの話には加わらずにテーブルが邪魔で何が行なわれているかは見えないが、自ら『男も女もいける』と設定した吸血鬼に、『エッチである』と設定されたサキュバスの行為を止める理由がない。相手が男だったり、嫌がっていたりすれば止めもするのだが。

 たぶん太ももを撫でているだけだろう。うん、きっとそう。

 

「そういえば王都には何か用事が? それとも王宮に来てくれる気になったのなら嬉しいのだが」

 

「あはは、そんなんじゃなくて……あれ? なんでだっけモモンガさん」

「あー……こっちに知り合いがいないから、とりあえず家に来ていいって言ってくれたストロノーフさんにでも会いに行こうかと観光ついでに王都に行き先を決めたんでしたね。あれ? 考えてみたら居座る理由が無かったですね」

 

 王都についてからイベントの連続で流されるままに過ごしてきたが、特にガゼフ・ストロノーフにこれと言った用事は無かったりする。

 

「ははっ、どんな理由でもいいさ。共に戦った仲間とこうしてまた会えたのだからな」

「仲間……ストロノーフさんにそんなこと言われると……なんか嬉しいですね!」

「クククッ飲もう! とっておき出しちゃおうぜ、モモンガさん!」

 

「ここは……どうでありんすか? 旦那様の得意技でありんす」

「あっ!? らめっ!」

「ふふっ、何がダメなのかしら? 私たちはいつもこれの数十倍の刺激を12時間くらいぶっ続けで与えられているのだけど……これはこれで女体に関する勉強になりそうね」

 

 男性陣と女性陣で盛り上がり方が多少違ったが、王都の夜は更けていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「行くのか……いや、もう何も言わん。君たちにはすっかり心を折られたからな」

「人聞きが悪いな!?」

「エ・ランテルの方が王都より栄えてるって聞かされた上に、お城以外の観光地も無いんじゃ散策する理由が……それにガゼフさんに会うっていう目的も果たせましたしね」

 

 明けて翌日。急ではあるがモモンガたちはこの都市を離れることを決断した。

 

 昨夜女性陣は早々に三人で寝室に行ってしまったが、夜遅くまで再会を喜ぶ宴は続けられた。ただ話の中で観光名所やこの都市の名物。美味しい食べ物などの情報を聞き出すも、ある程度分かっていたことだが『趣がある古都』というより『寂れた古臭い都市』であることが分かってしまった。

 ガゼフ自身もそんなことを言うつもりなどさらさら無かったのだが、改めて聞かれると全く思いつかず、三国の中継地であるエ・ランテル以上に食料をはじめとした物資が集まる都市は無い訳で、ありのままエ・ランテルを超える場所は王都には無いと言ってしまったのが発端であったり。

 

「それにこれ以上ここにいるとガゼフさんが言いたくないことを話してしまいそうなので」

「まぁ絶対に応えられんしな」

 

「……そうか」

 

 最後まで言う事は無かったが、王の安寧の為に第一王子の解放に助力してもらう事。不確実ではあるがそれが可能なら、つまりはあんなモノが切れるならその者が犯人である可能性が高いのだ。

 今のやり取りでその確信も高まったが、モモンガたちの誠実さは身に染みて理解しているのもあり、それ以上の言葉を発するのはやめた。

 

 それに昨夜散々に心をえぐられたのにも理由がある。

 

Q1 働き口を探しているのなら王に仕えてみないか。

A1 もう一度自分の仕事内容を把握して他人に勧められるかどうか考えてみてください。

 

Q2 この国に住むのはどうだ。

A2 以前家族とも相談しましたが、子供を産んで育てるのに適した環境とは言えません。ガゼフさんはどう思いますか?

 

 もちろん酒の席でのマイルドな言い回しではあったが、内容に間違いは無い。逆に問われて言葉に窮するほどに王国の現状は酷いものなのだから。

 

「ただいつでも遊びに来てくれて構わんぞ。あれらも喜ぶ」

「えぇ、そうですね」

「また王都に遊びに来るときは泊めてもらうことにするよ」

 

 近くで老婆に抱きしめられるシャルティアを見ながらそんな答えを返す。

 

「おばあが生きている間に子供を見せに来てくださいね。それと二人とも身体に気を付けるんだよ」

「はい、必ず」

「当然でありんすよ」

 

 普通の笑顔で答える二人を見ていればこの出会いだけでも値千金。この都市まで来た甲斐もあると言うもの。

 御者の一人が多少不服そうであったものの、馬車はストロノーフ邸を後にするのだった。

 

 

 

 

 

「うおっ!?」

 

 ただ自室に置き土産があった。両足をガクガクと震わせあられもない姿で気絶する女忍者の対処に、顔を赤らめながら頭を抱えることになるガゼフ・ストロノーフであった。

 





どうにか王女に会わせようと思ったけど大して面白い展開にならなかったので大幅カットw そのうち会うでしょう。


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30 ごちうさ

 バハルス帝国が誇る帝都アーウィンタール。その大通りを歩くオスクは護衛である従者のお尻から飛び出す丸い尻尾を見ながら不機嫌な表情で考え事をしていた。

 オスクは帝都闘技場では最も力のある興行主だ。自身の趣味と愛情をこれでもかと注ぎ込み手塩にかけて育てた……いや、育てさせてもらった武王ゴ・ギンに絶対の自信を持っており、自身の興行にも間違いは無く、熱い漢達の胸躍る闘いに観客たちも熱狂してくれていると肌で感じていたはずだった。

 ただ先ほどの興行主たちの会合で、ある男から言われた言葉に腹を立てつつも、それを無視することも無く別視点で考えることが出来る彼はやはり一流の商人でもあった。

 

『お前らの興行には華が無い』

 

 闘技場と言っても年中闘いだけを行っているわけではない。大人数を収容できるあの場所では定期的にだが『皇帝による演説会』『帝国騎士の演武披露』『古物商、古武具商によるバザー』変わり種としては『合唱祭』『ファッションショー』なんてものも一年に一度くらいは行われていたりする。

 酔っぱらった男の戯言だと吐き捨ててもいいのだが、男くさい興行とは無縁の興行を行い成功させている彼の意見は一理あるかもしれないと。

 

 華と言えば思い出すのは蒼薔薇の戦士ガガーランだ。一度お会いした時には何故自分は童貞ではなかったのだと血の涙を流して悔しがったものだが、確かに彼女を闘技場に呼べるのなら盛り上がることは確実だろう。

 だが彼女は隣国の最上位の冒険者だ。そんな絵空事より目の前のメイド服に身を包むラビットマンならどうだろうと女装した彼の尻尾を見ながら考えているのだが、そんなことを言い出したら護衛契約を解除されてしまうだろう。

 

 やはり武王は美しい華だ。己の興行に間違いは無いと顔を上げ迷いを断ち切ろうとしていると前方からやってきた馬車の御者席に一瞬目を奪われてしまう。一般的には絶世の美女たちであるのだろうが、その薄すぎる体躯はオスクになんの性的興奮も与えてはくれない。

 ただ戦士としての面構えと精巧な武具のきらめきに棒立ちになってしまったのだが、自身に倒れ掛かってくる腰が抜けたかのような護衛を慌てて抱き受け驚きの声を上げる。

 

「ど、どうした首狩り兎!? まさか今の御者……いや女騎士たちか?」

 

 この兎獣人である彼はこんな格好をしてはいるけれど冒険者で言えばオリハルコン級は確実な戦士であり暗殺者だ。経験から来る特技として相手の強さを見抜く才能を持っているのだが、ここまで護衛の立場を忘れ狼狽した彼を見たのは初めてだった。

 

「超級にやばい……女騎士なのか馬なのか馬車の中なのか……わからないけど気持ちが悪い」

「馬も!?」

 

 これは一大事だと思うもののしなだれかかってくる彼を抱き受けながら、その硬いまんまるな手をさわさわと撫でているオスクは超一流の変態だったりもする。

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわぁ、木組みの家と石畳の街だ……ペロロンチーノさん心がぴょんぴょんしてきますねっ!」

「ゴフッ!? も、モモンガさん絶好調だな!?」

 

「あ、アルベド! ウサギが歩いているでありんす!」

「それはウサギだって歩くわよ……どれ? メイド服着てる!?」

 

 帝都を行くそんな馬車の中はいつも以上のハイテンションで大騒ぎだった。

 

 今度こそ旅を楽しむぞと意気込む一行がバハルス帝国に到着するまで、王都のガゼフ邸を出てから一カ月以上かかっていたりする。

 無論ずっと馬車の旅をしていたのではなく王都を出たところでカルネ村に転移していたのだが、ンフィーレアの家を建てる手伝いのため、村とエ・ランテルを往復したりと大忙しであったのだ。

 最終的には自分たちの家も建てるのだが、施工方法など知らないずぶな素人であるモモンガたちにそんな家が建てられるはずも無く、経験を積むための手伝いとも言える。

 土木組合で設計図を書いてもらったり、生木の乾燥魔法なんてものを見せてもらったりとそれはそれで楽しく興味深い時間を過ごしていたのだが、建設に入るまではたとえ魔法と言えども、もう少し時間を置いて良い木材に仕上げないといけないらしい。

 

 そんなこんなで新婚旅行再開とばかりにエ・ランテルから街道を使い、一週間ほどかけて帝都までやってきたのだった。

 

「とにかくまずは宿ですね」

「そうだな、レイナースさんに連絡を忘れていたのは失敗だったけど、いきなりお世話になるのも失礼だしな」

 

 今回は野盗などに襲われることも無く、念願だったキャンプやバーベキュー。青空を見上げてのプレイ(?)などで大変盛り上がってしまい、帝国に入ったところでやっとレイナースの存在を思い出したのだった。

 

「ご主人様。食事が美味しい宿を道行く騎士に尋ねたところ、最高級の宿があるけれども紹介が必要らしいのです」

「他には『歌う林檎亭』ってのが近くにあるって。ワーカー? ってのが多いけどご飯は美味しいらしいよー」

 

 小窓から聞こえる御者二人の言葉に「じゃぁそこで」と即答し、新たな土地と出会いに胸を弾ませる四人であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 食事は大変美味しいものだった。店名と林檎にあまり関係は無いそうなのだが「リンゴは無いのかな?」なんて言葉に店主が気を利かせて焼いてくれた林檎のパイも絶品であった。考えてみれば甘味の類はフルーツを除けば初めてだったかもしれない。

 

「このアイスマキャティアってのも初めて飲みましたが美味しいよ。アルベドちょっとそっちも飲ませてよ」

「こちらは後味が少し甘すぎると思いますが、うふふ。それでは交換で」

 

「これはどこかで嗅いだ香りが……あぁ! おばあに貰ったハーブでありんす。こんな味になるのでありんすね」

「おぉ! それは楽しみだな。甘味に合いそうだし今度はお菓子の類も探してみようか」

 

 カウンター席に座る屈強な神官のような恰好をした男と、こちらの女性陣をチラ見しては何かを熱く語っている男を除けば静かなもので、食後の飲み物を頂きつつゆったりとした心地よい時間が流れていた。

 

 

 そう、本当に食事を終えた後で良かったと。

 

 

 宿の扉に付いていた鈴がチリンと鳴り、耳の長さが少し特徴的なほっそりとした女性が入ってきたまではよかったのだが、その後ろを歩いていたローブを着込んだ少女が入店したとともに倒れこんだのだ。

 

「――おげぇぇぇぇ!」

 

 途端あたりに酸っぱいような何とも言えない匂いが漂う。それに気づいて汚れるのも構わずしゃがみ込み介抱しようとする女性に感心するものの、あまりの展開にモモンガたちは口をぽっかりと開けて見つめることしかできない。

 

「ど、どうしたのアルシェ!? ヘッケラン水をお願い!」

「お、おう! オヤジすまんコップに水を貰えるか? ロバーはアルシェを頼む」

「は、はい。ですが怪我でも無さそうですし神官として何をしたら」

 

 どうやらこの四人は知り合いというよりかは仲間であるようなのだが、そのアルシェと呼ばれた少女が苦し気に涙を浮かべて見つめるのはモモンガたちであった。

 

「化け――おぇぇええ! 逃げて! みんな逃げてぇ!!」

「これは……<獅子の如き心(ライオンズ・ハート)>!」

 

 多分に恐慌状態であると思われたのだろう。ロバーと呼ばれる神官が魔法を放つと、その少女は一応の落ち着きを保つことが出来た。

 

「――あなたは、な、何者?」

「いや、アルシェ。戦闘中とかならわかるけど、ただ食事をとっているだけのお客さんにそれは失礼よ?」

 

 女性に背中を撫でられながら咎められるものの、ぷるぷると震える指先で示し、恐怖の表情で見つめるのはモモンガ()()ではなく、モモンガその人だったりする。

 

「え、えっと、大丈夫ですか? 店員さんすいません! おしぼりと雑巾をお願いします!」

「窓も開けるぞ? 俺らしかいなくてよかったなあ。飲食店でこれは致命的だからな」

 

 よくわからない展開であるものの良識的に対処しようとするモモンガたちの中身は、見た目とは違いやはり大人であるのだろう。

 女性陣も失礼な娘だとは思ったものの、さすがにこの展開に至る理由が理解できず咎める言葉を出さずに見守っていたりする。

 

 

 

 

…………

 

 

 

……

 

 

 

 

 

 

 

「看破の魔眼ですか……私どんなふうに見えてるんです?」

「――あ、あの、目の前に大きな光の柱が立ち上っていて、しょ、正直お顔もまともに見れていません」

 

「そりゃ辛いわ。酷い奴だなモモンガさんは」

「まぁモモンガ様は太陽のような御方でありますからね。そういうことなら致し方ありません」

「ペロロンチーノ様、アルベド……まぁいいでありんすけどモモンガ様。また吐かれても困りんすし指輪を付けた方がよろしいのではありんせんか?」

 

 一人カウンター席で震える少女が不憫であるが何もできない。とにかく会話をしなければ進まないと、かなり離れた距離で聞きづらくもあるが、その原因が本当にモモンガにあった事に驚いてしまう。

 シャルティアの言葉に最近は指輪をほとんどしていなかったことを思い出し『隠蔽の指輪』を身に着けることでようやくまともに話が出来るようになったのだった。

 

 場所を移して敷居で覆われた奥まった所にあるテーブル席に腰掛ける一同。ワーカーチームのリーダーであるヘッケランが、お詫びと称した奢りの酒を注ぎ簡単な自己紹介を終える。

 

「確かになんか空気が軽くなった感はあるけど……元から威圧感なんて無かったし、アルシェ本当なの?」

「――力の桁が違う。お願いですからそのアクセサリーは外さないでいただきたい」

 

「え、えぇ分かりました。それにしてもタレントですか……パッシブで発動してるなんてスゴイですね」

「ンフィーとかもスゴイからな。他にどんなのがあるんだろ」

 

 あなたが一番スゴイんだってと呆れるアルシェではあったが、その能力を十分に知っているフォーサイトのメンバーが首をかしげてしまうのも分かると言うもの。

 高貴な衣装を着ているとはいえ、今は全く普通の人にしか見えないのだから。

 

「彼のフールーダ・パラダインと同等という事でしょうか? それにしても冒険者にもワーカーにも見えませんがあなたたちは一体……」

 

 小さい声で「それ以上」なんて聞こえもしたが、チームの神官であるロバーデイクは女性たちの方を少し気にしながらもそんな声を漏らす。

 

「旅の一般人です」

「それに無職だな……これはどうにかせんとなぁ」

「妻です」

「妻でありんす」

 

 さすがにその成りでそれは無いだろうと思うフォーサイトのメンバーであったが、悪びれもせず答える四人の表情に嘘は無かったり。

 

「なんだよぉ……人妻だったの、イテッ!? ツネるなってイミーナ! わ、悪かったって」

「フンッ……でもこの美貌じゃ仕方ないか。ホント綺麗よね、って何か聞こえない?」

 

 それは二人の男の声ではあったが、一人は明らかにこちらに聞かせるように一部分を大きくしてしゃべる声であった。

 

「いえいえオスクさんと争う気は御座いません。私は日を改めますが『フルト家の娘がいましたら期限は近い』と伝えて頂ければ幸いでございます」

 

 聞こえる声にまたもや首をかしげる一同であったが、一人アルシェだけはまるで先ほどまで……というほどでもないが顔を蒼褪めさせて頭を抱えている。

 

 衝立を叩く音が聞こえ、近くにいたアルベドとシャルティアがそれを動かし覗き込むように立ち上がると、姿が見えた兎頭のメイドがひっくり返るのが見えたのだった。

 

「あれ? もしかしてここ本当に」

「うーん……否定する要素が無いな」

 

 何故かモモンガとペロロンチーノの顔が輝いたりもしているが、結局はどこへ行ってもトラブルに巻き込まれる体質であるらしい。 

 

 




毎度書いたことが無い人が出てくると大変ね。でも帝国は一度書いてみたかったので楽しかったりするw


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31 イケメンが言う可愛いとロリコンが言う可愛い

 帝都アーウィンタールの皇城。その一室で次回の戦争に対する会議が行なわれているのだが、皇帝ジルクニフの顔色はすぐれない。まるで意味のない足枷に鉄球をはめられた老人と、涼やかに微笑む美しい女騎士を眺めながら頭を悩ますばかりだ。

 遅れて戻ってきたレイナースと同道した近衛からフールーダの犯した狂気的な行動は報告を受けている。曰く幼女に這い寄り足を嘗め回そうとし、心に消せないトラウマを生み出すところだったと。

 国の重鎮であり自身も『じい』と慕うフールーダに限ってそんなことをするはずがあるものかと尋ねてみれば、悪びれもせず女神を前に地にひれ伏し足を舐めて忠誠を誓うことに何の問題があるのだとのたまう始末。

 

 もう完全にアウトだった。

 

 ただこのイカレタ老人を信頼していないわけではなく、その10にも満たない愛らしい幼女が第八位階の魔法を使えるというのは本当なのだろう(願望)。

 そして今はいつもの帝国騎士の恰好をしているレイナースも問題だ。白と黒のメイド服のような美しいドレスを纏った姿には驚いたものだが、髪をかき上げて笑う呪いの解かれた素顔を見て度肝を抜かれたものだ。

 

『別に何も隠し立てすることは無いと言われておりますのでお話ししますが……あの方々の不利益になるようなことは一切するつもりはありませんわ』

 

 その不利益というのがカルネ村を調査したり特にフールーダを二度とあの村に行かせないという至極普通な要望でもあったため、彼の者たちと面識を持ったレイナースのとある()()も条件付きで呑み、その不思議な体験を語ってもらったのだ。

 幼女の姉である美しい神官を紹介され呪いを解いてもらうことになったが叶わず、そこから彼女たちの主を紹介されることになったこと。

 魔法の暗闇を抜けた先は多分王国の王都にある屋敷。聞けば答えてくれたのであろうが驚きの連続で最後まで聞くことは無く、蒼薔薇のラキュースに会った事からの予想らしい。

 そしてそこにいた四人とラキュースの尽力により解呪に成功したのだと。

 

 第八位階を使える幼女に姉の神官。馬車で七日以上かかる距離を転移でつないだ男性と呪いを解いた者たち。それに解呪で落ちてしまった力を取り戻すために、圧倒的に格上の女騎士たちに指導を受けさせてもらったと。

 このドレスは一番お世話になった方に戻るまで心配だからと借り受けただけで、帝国においでの際にお返しすることになっていますなどと嬉しそうに微笑み裾をつまむそれは、難度60程度の魔物(シャルティアの眷属)に何度噛まれても傷つくことは無かったそうだ。

 

 もう色々と訳が分からず勘弁してほしかった。

 

 驚いたことに元より忠誠心が低いレイナースが四騎士を抜けてその者たちに流れることが無かった事に安堵するも、今もその不安はぬぐえない。とにかくフールーダの行動だけが悔やまれるが、それが無ければ彼女が面識を持つことも無かったわけで、ゴミを見るような眼で老人を見ている点を除けば快挙であり、事前にそれだけの情報を得られたのは大きい。

 詳細不明であるが()()()()()()()()()を口実に蒼の薔薇に依頼を出して呼び寄せてはいるけれど乗って来るだろうか。

 戦争が始まる前にその動向が知りたくて会っておきたい謎の一団であるけれど現状訪れるまで待つ以外に方法は無いかと眉を顰めていると、視界の隅でレイナースが耳に手を宛て歓喜の笑みを浮かべるのが見えたのだった。

 

「陛下。私の恩人が城下に訪れたようでございます。要望通りしばらくお暇を頂かせてもらいますわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「もし男だったら殺してしまいそうだけどな、ははっ」

「そんなわけないでありんすよ」

「こんな種族もいるのね。ふわふわだわ」

 

 一人のラビットマンの心境は他所にシャルティアはそのメイドに抱えられるように座り、挟むようにアルベドとペロロンチーノが興味深そうに眺めている。

 それに相対するように座るモモンガは微笑まし気に見ていたが、オスクと自己紹介を済ませ、何故か脂汗を浮かべる彼から相談を受けている。

 

 フォーサイトの面々は何やら別口の問題が出来たらしく先ほどの衝立の裏に籠っている。まだまともな会話すらしておらず知人の領域を出ないが、漆黒の剣に通じる気持ちのいい連中であったため、モモンガは友人になれないかななんて考えていたり。

 

「本題は表にいた女騎士についてなのですが……ここへ来てこの状況に混乱しておりましてね、少しお待ちください」

 

 この方々もなのかとぶつぶつ呟きながら頭を抱えるオスクに、時間がかかりそうだと感じたモモンガは丁度いいかとばかりにレイナースに一応の到着を伝えることにした。

 

「<伝言(メッセージ)>あ、レイナースさんですか? 今日帝都に着きまして『歌う林檎亭』というところに……あっはい……いやそんなに急がな……で、ではお待ちしておりますね」

「なんだってレイナースさん?」

「あはは、すぐ来るそうです……悪いなと思ったんですがすごい嬉しそうでいて有無を言わさぬ感じでして」

 

「なんでかシャルティアに懐いていたわよね」

「あれでなかなか可愛いのでありんすよ。弱い者ではありんしたが一ミリと二ミリの違いを感じられて、育て甲斐がありんした」

 

 確かに殺したのも育てなおしたのもほとんどシャルティアなわけで、変わった形ではあるが仲が良いなら嬉しい事だとモモンガが思っていると、隣で頭を抱えていたオスクがガバリと頭を上げたのだった。

 

「あの……失礼ながらそのレイナースという方は四騎士のレイナース・ロックブルズ様でしょうか?」

「あぁ知り合いでしたか? ちょっと縁がありましてね」

 

 よく見れば目の前の四騎士を弱い者と断言した少女を抱えることになった首狩り兎の毛は総毛立ち、他の者にはわからないであろうが瞳が助けを求めるようにパチクリと合図を送っていたりする。

 首狩り兎の四騎士に対する評価は『やばい』だ。もうこの者達が強者であることは確定したも同然であるのだが、そもそもここまで追いかけてきた目的が武王の対戦者を探していたわけではなく『華のある興業』のヒントになればとの思いからだ。

 後々の為にも腹を割って懇意にもなっておきたい。そんな思いを込めてオスクは『首狩り兎の性別』以外全てをさらけ出し、教えを請う事にしたのだった。

 

「闘技場のプロモーターですか……出場するとかいう話なら即断っていましたけど、私こういう話結構好きなんですよ」

「華ねぇ……そこでガガーランが出てくるのは分からないけど、それで女騎士に目を付けるのは分る気がするよ」

 

「な、なんと!? ガガーラン様とも懇意だったとは……私は童貞でも()()でもありませんので相手にはされませんでしたが、華のある素敵な方でございますよね」

 

「こいつヤベーでありんす」

「……さらっとカミングアウトしたわね。人間て意外にすごいのね」

 

 モモンガたちをドン引きさせるオスク。屈強な漢たちが好きだとの意味合いが少し変わってきてしまうものの、変態として負けてはいられないとばかりにペロロンチーノが体験談と共にこんな闘いはどうだろうと提案していく。

 

「おぉ! 泥んこレスリングにヌルヌル大相撲ですか! 一体それはどんな!」

 

 ノリノリで語るペロロンチーノであったが時間切れ。チリンと扉のベルが鳴り、レイナースが満面の笑みを浮かべて現れたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ペロロンチーノさん、最後に言っていた『ラキュースVSレイナース』とはなんでございますの?」

「い、いやどっちが強いのかなーなんて。あはは」

 

 オスクとフォーサイトの面々に一応の挨拶を済ませ一行は王都一等地にあると聞いていたレイナースの邸宅へ。皇城が見える距離とは言えどれだけ急いでくれば徒歩でここまで来れたのかと驚くものの、彼女も馬車に乗せ久々の再会を楽しみながら会話を楽しむ。

 

「ビキニアーマーでヌルヌルになりながら……なるほど、なるほどでありんす。二人なら確かに興味深いでありんす」

「シャルティア!? あっ! ちょっと止めてくれブリュンヒルデ!」

 

 この対戦は熱いだろうと饒舌に語っていたペロロンチーノであっても面と向かって本人に尋ねられては言葉を濁すと言うもので、馬車の窓から見える景色に視線を逸らすも興味深いものを見つけてしまう。

 

「うわぁ! お馬さんおーきい!」

「うわぁ! きしさまスゴーイ!」

 

 屋敷の門扉をつかみながら誰かを待っているのだろうか。双子の愛らしい幼女を目ざとく見つけてしまうロリコンは流石とも言える。

 

「ここは……フルト家でしたか。まだ居座っていられるなんてどれだけ残された資産があったのかしら」

 

 レイナースが呟くその家名に既視感を覚えるモモンガたちであったが、ペロロンチーノは構わず馬車の扉を開けてその幼女たちに相対するのであった。

 

「よーっしゃ! わしゃわしゃぁ~、かーわいいなぁ!」

「きぁー♪ くすぐったーい!」

「きぁー♪ お姉さまみたいに硬ーい!」

 

 躊躇なく頭を撫でまくるペロロンチーノにされるがままの幼女たち。イケメンな少年であるがゆえなのか傍から見れば微笑ましい光景だ。

 

「ペロロンチーノさんなにが硬いんですか!? アルベド! いざとなったらスキルを使ってでも止めろ!」

「え!? はっ、はい!」

「モモンガ様声が魔王モードでありんすよ!? た、たぶん大丈夫でありんすから!」

 

「モモンガさん酷くね!?」

 

 ただ一人数年間にわたり友誼を交わし、その性癖の殆どを知るモモンガは気が気じゃなかったりしていたものの、大好きな姉のように硬い手だと思ったそうで安堵の息を吐いていたり。

 

「この匂いは……うーんアレの匂いが強烈すぎたからなあ……そういえば目元がアルシェに似てるな。当たりか?」

 

 女性に対してのみ発動するのだろうか、その尋常じゃない嗅覚はここでも発揮されたのだが、片方の幼女の頭の上で深呼吸するその姿はギリギリアウトだったりする。

 

「アルベド! シャルティア!」

「はっ!」

「了解でありんす!」

 

「待て待て待て!?」

 

 一応幼女たちの「お姉さまの名前!」「あたりー!」という声によりスプラッタなものを見せずに済んだのは幸いだったり。

 





書籍が付箋だらけになりますw


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32 激風と重爆

「ガゼフさんとこより大きいなあ」

「メイドさんもいましたね」

 

 そんなこんなで色々あったもののレイナース邸に到着。白亜のお屋敷とでも言うのだろうか、馬車から見えていた屋敷の中ではかなり小さな部類に入るのだろうが。

 

「皇城から近いと言う理由で没落したどこぞの貴族の別邸をもらい受けただけですわ。今何か聞いたことがあるような名前が……」

 

 二人の若いメイドさんに用意してもらった飲み物に口を付けリビングのソファーで寛ぐモモンガとペロロンチーノ。女性二人はそのメイドさんを引き連れて屋敷の探検という名の『愛の巣探し』に向かっている。

 

「それで……早速で申し訳ないのですが皇帝が是非あなたたちに会って謝りたいと……話がしたいとおっしゃっているのです」

「皇帝!? ってああそうか。直属の上司になるんでしたか」

「謝るって……何かされたっけ俺たち?」

 

 レイナースが暇を得る条件がこれだった。勿論断られたら辞めるまであったので彼女にしては大した制約ではないのだが、一応皇帝に恩はあるのでその旨を話し出す。

 フールーダ・パラダインというカルネ村に現れた妖怪。実はその糞じじいが主席宮廷魔術師であり、城を抜け出して末っ子に迷惑をかけた件について謝罪したいと。

 なぜカルネ村に来ることになったかということや、糞じじいが変態的行為に出た理由も含めてすべて隠さずに話していく。

 ついでに皇帝の真意までも告げ「面倒でしょうし断って頂いて構いませんわ」などと涼やかに微笑まれては会った事は無いとはいえ皇帝に同情してしまったり。

 

「いやいや、それでレイナースさんがクビになったら困るでしょうが」

「だな。それにしても看破の魔眼みたいなもんか……アルシェだけじゃないんだな」

 

 その言葉に少しだけ興味を引いたレイナースに問われれば、歌う林檎亭で会ったワーカーの少女でさっきの双子のお姉さんだと答える。

 

「いえそのタレントは希少だと思われますわ。そうでしたかフルト家の令嬢はワーカーに……なるほどその娘も苦労しているのね」

 

 ジルクニフが中央集権を為すための改革。そして無能貴族を排し、有能であれば平民でも取り立てる政策は鮮血帝の名に恥じぬ過激なものであったが、帝国の新たなる礎を築いたのだ。

 そんな時代の波に乗り遅れ、いまだ貴族という名にしがみつく者などいるはずも無いと思うものの、あの双子を探していた少しだけ会話を交わした執事の疲れ切った表情に不安を覚えるレイナース。

 思ったままをついつい言葉にしてしまったけれど雰囲気を暗くしたいわけではないのだからと務めて明るく振る舞ってみたり。

 

「と、まあ私の推測に過ぎないので気にしないでいただけるとありがたいですわ」

 

「その投げっぱなし精神は自分たちに通じるところがあって好きなんですが、うわぁ……当たってそうだなあ」

「……双子大丈夫だよな?」

 

 とにかく皇帝に会うのは了承。多分近いうちに向こうから連絡をよこすでしょうから今はモモンガたちの観光を優先してくれと言われれば、確かにいつも面倒事に首を突っ込みすぎだよなと反省してしまう。

 ただ、家も近いし少しでもいいのであの子たちを気にかけてやって欲しいと困った顔で言うモモンガとペロロンチーノに、優し気に微笑み了承するレイナースは言葉に出すことを控えている親愛と忠誠心をグングンと上げてしまうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あらためましてクリアーナ・アクル・アーナジア・フェレックです」

「パナシス・エネックス・リリエル・グランです。よろしくお願いします」

「他に通いの庭師がおりますが料理人などはおりませんわ。そもそも仕事柄皇城の騎士寮の方が通いやすくて……でも最近はこちらで暮らしてシャルティアさんたちを真似て料理の勉強もしていますの」

 

 そう言ってはにかむご主人様……いえお嬢様は本当に変わられたなあなんてクリア―ナは考えていたり。

 貴族と言っても領地を持たない騎士爵。ただ皇帝直属の四騎士ともなればその権威は跳ね上がり、いかな大貴族といえども下手には扱えない。

 そんなお嬢様に仕える様になって数カ月。最初は気難しい方だと思っていたけれども、知らされていた呪いのせいであまり他人と関わりにならないようにしているだけの、ごく普通の貴族令嬢であると分かってしまう。

 私の決して美人とは言えないけど人を安心させると言われたこともある顔が良かったのか、パナシスの朗らかな性格が良かったのか。そもそもほとんど帰られないこの邸宅にメイドが必要であるとは思えないのだが、それも貴族としての面倒な務めなのだろう。前任から次いで追い出されることも無く仕えていられるのはそういうことなのだろうなと感じていたのだが、いかんせんその仕事量が少なすぎる。

 もしや前任は暇すぎて辞めたのだろうかと失礼なことを思ってしまったけれど、数週間前に久しぶりに帰ってきた呪いの解けたお嬢様により一変する。近いうちに大切なお客様が訪れると。

 

「えっとモモンガです。お世話になりますね」

「ペロロンチーノです、よろしくお願いします。俺らも家名とかあったほうがいいのかな?」

「シャルティア・ブラッドフォールンでありんす。それを言ったら妾はどうなるのでありんす?」

「アルベドよ。うーん……いっそのことモモンガ様たちに新しく作ってもらうのもいいわね」

 

 豪華とは言えないけれど高貴と思える衣服を着こんだ男性二人と、絶世の美女と美少女の来訪。聞かされてはいたけれども特に女性陣のこの世のものとは思えない美しさに驚愕しきりだ。つまりこの御方達がお嬢様の呪いを解いた恩人であるのだろう。

 先ほどパナシスが御者の方達に挨拶に行った際彼らが王族であるとの情報を得たのだそうな。

 

「こういった場合、名前・洗礼名・家名とかでしたっけ?」

「確かタブラさんに昔貴族名についての蘊蓄を聴いたんだけど、治めてる領地名とか所属名とかも入ったり、洗礼名なんかはバンバン貰って長くなるんだとか聞いたことがあるな」

「となるとモモンガ様でしたら……モモンガ・アインズ・ウール・ゴウン・ナザリックでしょうか」

「それ格好いいでありんすね!」

「素敵なお名前でございますわ!」

 

 お嬢様の最近見せるようになった微笑みに嬉しくなってしまう。ただ、今の微笑みが一番年若い少女に向けられているように感じてしまったのは気のせいだろうか。

 それはともかく毎日のように帰ってきては念入りな掃除を指示するようになったことや、私たちと一緒に料理をするようになったのもこの御方達の為なのだろう。

 極めつけはあの日着ていたドレス。嬉しそうに『お借りしているメイド服よ』とおっしゃっていたのは、新たにこの王に仕える立場を得たという事なのだろうか、もしや愛妾として……。

 いや無粋な詮索は無しだ。お嬢様とついでに私たちの幸せの為なら全力でバックアップしますからねと鼻息も荒いクリアーネであったりする。

 

 

 

 

 ただ翌日早朝までの嬌声。あれは拙い。

 

「すいません……聞こえてました……よね? モモンガさんたちは()()()行ってたのか……忘れてた」

「あれ? 聞かせていたのではないのでありんすか?」

 

「……す、すごいのですね殿方というのは。知りませんでした」

「……ま、まったく寝ておりませんよね?」

「……」

 

 無言で真っ赤になっているお嬢様を見ればその手の経験が全くないのも推測できる……いや私たちもなのだが。

 だ、大丈夫。きっとこれが普通の男女の営みなのだろうと間違った性知識を手に入れ、レイナースをより一層焚きつけていくクリアーネだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 謝罪と朝食を済ませたあと、さて今日はどうしようかとレイナースを含めたみんなで案を出し合っていると、ガゼフ邸を出てから新たなオッサンとのラヴを探している五女が来客を告げてくる。

 

「ご主人さま~イケメン連れて来たよぉ……あーし、こーゆう真面目なの好きじゃないんだけど」

「す、すみません……失礼致します、四騎士が一人ニンブル・アーク・デイル・アノックです」

 

 一方的に興味ない発言されても困るだろうに律儀に謝るイケメンはレイナースの同僚である四騎士の一人らしい。

 

「驚いたわ。陛下の事だから直接やって来るなんてことも考えていたけど、まさかあなたが来るなんてね」

「戦争前ですので時期が悪いですね。ロウネ殿が止めなかったらそうなっていたことでしょう。フールーダ様も陛下でなければ止められませんし……大変でした。モモンガ様御一行ですね、帝国への御来訪歓迎いたします」

 

 内心ひどく疲れているんだろうなと思ったものの笑顔でそういうイケメンを見て、モモンガとペロロンチーノが感じた第一印象は苦労人なんだろうなといったことと少しの違和感。

 考えるまでも無く自分たち……特に女性陣を見て驚くようなそぶりを見せなかったことなのだが、それほど気になることではない。

 ただアルベドの瞳だけはそれを見逃さなかった。女としての勘なのか、サキュバスとしての感覚なのかはわからないが。

 

「……代表という事になるのでしょうか。私がモモンガ・アインズ・ウール・ゴウン・フォン・ナザリックです」

「げほっ!? げっふぉっ! フォンって、卑怯だぞモモンガさん!?」

 

 どや顔でそう言うモモンガに少し見とれてしまったが、この男が気にしている女は……意識しているのはレイナースなのだろうとアルベドは感じていた。

 恋愛感情とは違うとは言えないけれど何かが違う。カタカタとスーパーコンピューター並みの頭脳がはじき出す答えは異常なほどに早かった。あぁ皇帝とやらの差し金かと。

 レイナースが私たちに傾倒しているのを防ぐ為の対策……いえそんな難しい話ではなく可能性を増やそうとしているのだろうか。

 皇帝とかなり近しい立場であろうこの男がせっつかれて意識してしまっているものの、言動からも分かるこの真面目な男が呪いを解かれて途端に美しくなった女にすぐさま言い寄るわけにはいかないという感情がありありと見えてしまう。

 あれ? こういうの考えるの楽しいわね! なんて大当たりな予想を立てたアルベドは自分が安泰なせいかサキュバスの性なのか他人の恋愛って面白いわねなんて感じ、新たな楽しみを見つけてしまったり。

 

「モモンガ……フォン……はっ!? 失礼いたしました。そ、それでレイナース例の件は」

「了承していただきましたわ。今日は無いとしても……シャルティア様♪ なにかご要望などございませんか?」

「え? そ、そうでありんすねぇ……せっかく作ってもらったパーティドレスがありんすし着る機会があれば嬉しいでありんすね」

 

 ピンポイントでシャルティアに振るレイナースの表情を見つめながら『あ、これ本当に面白いわね』なんて一人思うアルベドだった。

 





Web版からアインズ辺境候のメイドさんを賑やかし要員として拝借。多分もう出ないw


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33 モモンガVSペロロンチーノ

 どうしてこんなことになったのだろう。

 

 きっと今もフールーダ様の足止めの為ナザミやバジウッドが苦労しているのだろうが、こちらもそれどころではなくなってしまった。

 ここへ訪れた理由はレイナースから回答を貰うためだったのだが、それだけならば一般の伝令に命令すれば済むこと。一応は伯爵の地位を持つ自分が指名されたのは、それだけの要人に対するこちら側の誠意なのだろう。レイナースが彼らに通達していない線を陛下が考えていたのかもしれないが……

 軽い冗談の類だとも思えないが、最近陛下からレイナースを娶ればどうだなどと言われるのは、姉や妹から結婚をせっつかれてしまっているのを愚痴ってしまったのが切っ掛けだろう。

 確かに美しい……というより呪いが解かれ笑った顔を初めて見た時可愛いと思ってしまったのは否定はしないが。

 

「なにをボーッとしているのかしら? 剣をかまえなさい!」

 

 模擬戦ですよね? それあなたの元実家の家宝の槍じゃなかったでしたっけ? 若干涙目になりながら与えられた木剣をかまえるニンブルであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「うふふっ、シャルティアだめよあなた。お腹が痛いわ」

「はあ? わけがわからんでありんすよ?」

 

「なんでペロロンチーノさんじゃなくてレイナースさんがキレるんでしょうね?」

「いや俺そこまで心狭くないよ!? あぁそっか、そういうことか」

 

 庭にあるベンチに腰掛けながら二人の模擬戦を鑑賞するモモンガたち。『ドゴーン!』という爆音とともに庭に穴が開いていくのは大丈夫なのだろうかと考えながら。

 

 シャルティアのパーティドレスが着たいと言う要望に舞踏会などを提案されてもこちらは誰も踊れない。貴族を多数集められて皇帝に謁見とかいうよくあるシチュエーションはお断りしたかったので、そこを考慮してくれたのか少人数での『お茶会』や『食事会』を提案してくれた。

 どうもニンブルは美味しいお茶を探すことが趣味らしくシャルティアと意気投合。意見交換などで嬉しそうに微笑むシャルティアをモモンガとペロロンチーノは『一般の人間に対してそういう意識を持ってくれるのは嬉しい』とほっこりしていたのだが、ただ一人レイナースだけはハイライトの消えた目でニンブルを見つめていたり。

 

 話も変わり最近レイナースの調子はどうなのと聞くシャルティアに満面の笑みで『お見せいたしますわ! 瞬殺です!』などとのたまい連れ出されたニンブルが大層気の毒だったがこれはこれで見ていて楽しかったりする。

 

「ついに手持ちの剣を抜きましたね!」

「木剣は一撃で柄しかなくなってるからな……」

 

「行け―! 行くでありんすよ!」

「スピードは男の方が上かしら? 激風なんて二つ名なのだから奥の手もありそうなのだけど……ふふっ。まあ防御に専念してしまうわよね」

 

 目の前で模擬戦(?)とはいえ本物の対人戦を見る機会などリアルには無かった。ゲームとは違う剣尖の音や風圧をダイレクトに感じ、持っているレベルのせいで多少遅くは感じるもののその大迫力な光景に思わず手に汗を握ってしまう。実際二人は戦闘を経験もしているのだが当時はいっぱいいっぱいだったのだろう。

 女性陣の方も一人はブリーダー感覚で。もう一人は違う意味で楽しんでしまったり。

 

 もともとニンブルが伝令にその旨を告げここに残る予定だったのは情報の収集の為だ。高貴な方々というのは分かるけれど皇帝との接触の前に自分もある程度の傭兵団としての実力を知っておきたかったのだが、戦闘を生業にするものが持つある種の威圧というもののカケラも感じられない。

 どういうわけかレイナースと死合いなどと言う訳の分からない事にもなってしまったが、その戦闘を終えへたり込んでいると予想外だが望む光景を見ることが出来た。

 

「ちょっと私もやってみたくなりました」

「お! 俺も俺も。ちょっとやってみようぜ!」

 

 戦闘に興味が無いと言ってもそれはこの世界が死や痛みを感じるリアルであるからなわけで、棒を振り回して遊ぶチャンバラ遊びが嫌いな男の子ではなかった二人は、早速とばかりに木剣を構えて対峙する。

 

「立ち合いは強く当たって後は流れでお願いします!」

「八百長はねーよ!? んじゃまぁ俺は魔法剣士って感じで行くぜ!」

 

 

 

「モモンガ様もなかなかやるでありんすね!」

「ペロロンチーノ様を信頼しているからでしょう。それに完全に受けに回りながら隙をついて<魔法の矢(マジック・アロー)>を放てるのはレベル1の魔法詠唱者としてはすごいことよ?」

 

「いたっ!? それ卑怯ですよペロロンチーノさん! 必中魔法は避けられないから。デコピン食らうぐらい痛いですって」

「それじゃヌルヌルになるか? そもそも俺戦闘用の魔法これしかないし、って剣が折れる!? モモンガさん本気ヤメテ!?」

 

 はぁはぁ言いながらも本気のお遊び。額に汗を浮かべながら二人は楽しそうに剣を振るう。レイナースに匹敵する剣を振るう青年とそれをいとも容易く受け流す少年。ついでに<魔法の矢(マジック・アロー)>とはいえ魔法まで飛び出すとはと感嘆するニンブル。

 確かにこれならガゼフを救った傭兵団の主というのも頷けると言うものだ。

 

「ただなんというか安心しました……私でもなんとかなりそうですね」

 

 少し悪い事をしたとでも思ったらしいレイナースに介抱され水を受け取りながらニンブルはついそんな言葉を呟いてしまう。

 確かにモモンガの攻撃はすごいのだが単調にすぎる。受けに回る少年の方に感嘆するが第一位階の魔法を使っている時点で戦士としてはお察し。そんな言葉が出てきてしまうのも仕方がない。

 

「ふふっ、面白いわ。ニンブル、きちんと陛下に報告してあげてね」

「? そ、それは勿論ですが……」

 

 なぜか優しげな瞳でそう言われて困惑してしまうニンブル。その美しい顔にドキリとしてしまいその言葉の違和感には気づかなかったが、レイナースはこの世界でモモンガたちの強さを知る数少ないうちの一人でもあったりする。

 七日以上の戦闘訓練という名の共同生活でモモンガがフールーダを越えていてもおかしくない魔法詠唱者であることは知っていたし、シャルティアが自身より強いことも身をもって体験している。

 まあその程度ではあるのだが、本人たちが望まない以上教えることも無い。あぁこうやって騙されてしまうのだわと、ある意味違う方向に驚愕するレイナースであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここらへん?」

「たぶんあっちー!」

 

 モモンガたちが模擬戦を楽しんでいる頃、帝都の閑静な住宅街を麦わら帽子をかぶり同じようなワンピースを着た二人の愛らしい少女が歩いていた。どんどん行動範囲が広くなっているネムと天使の末っ子グリムだったりする。

 ネムの麦わら帽子は漆黒の剣のダインから。そして真っ白なワンピースの方は当然のように所持していたシャルティアからハーブを育てる報酬として貸し出されていたり。防御力は言うに及ばず固定値での身体能力向上補正も施されており、偶然ではあるのだが身の安全が保障されてしまったりしている。

 そんな少女たちが何故ここにいるかというと、ネムの『レイナースおねえちゃんはちゃんとお家に帰れたかな?』なんて他愛無い発言がきっかけであり、姉妹の位置が特定できるグリムが遊びに行こうと提案しただけの事で、空を飛んできたもののここが帝国だとかいうことはわかっていない。

 手をつないで歩く姿は微笑ましく、道行く人や巡回の兵士もついつい頬が緩むというもの。傍目にも高級素材であると思われる輝きすら放つワンピースにどこぞの貴族の娘だろうかと思われる程度で、高級住宅街であることも幸いしたのか兵士に『気を付けるんだよ』と言われたぐらいの事で済んでいる。

 

 ここが王国なら秒で攫われていそうなのだが……人攫いが帝国に居ないわけでもないのだ。

 

 路肩に停められた一台の馬車。そこからとある家の門柱を内側から掴み通りを眺めている双子を監視していた二人の男は望外な別の少女たちを発見してしまう。門を越える手間を考えても少し大きいとはいえ幼女と少女の違いでしかない。

 まだ下調べの段階ではあったものの思わぬ幸運に飛びついてしまった二人のワーカーは双子を発見して気がそれた少女の後ろから近づいていく。

 

「すらっしゅたん、すらっしゅたん」

「え? スラッシュさん? わっ!?」

 

 存外に悪意に対して敏感な天使がちょっとしたジャブとして放った第一位階魔法<舌切り(スラッシュ・タン)>。ゲームでは言葉が上手くしゃべれないように変換される程度。舌を切りわずかなダメージを与える程度の魔法なのだが、現実にそれをやられた方は堪ったものでは無い訳で。

 

「がっ!? ひゅっ」

「んんんん!? んぐんんっ!!」

 

 声にならない悲鳴を上げながら自分たちの後ろでのたうち回る大人二人を見て驚いてしまうネム。グリムの方は可愛らしく首をかしげる程度だが、ちゃっかりと取り落とされたナイフを蹴り飛ばしていたりする。

 さすがにここまで大きな音を立てれば不審に思われるわけで、巡回中の兵士があっさりと拘束。事の経緯を少女たちに聞きたいものの、すでに彼女たちはこちらは眼中になく門を挟んで幼女たちとおしゃべりに興じている始末。

 

「私はネムだよ! こっちはグリムちゃん!」

「グリムゲルデ!」

 

「ネムおねえちゃん、わたしはクーデリカ!」

「グリムおねえちゃん、わたしはウレイリカ!」

 

 これは聞いてもしょうがないかと聞こえた名前だけをメモし、応援の到着を待って男を引き渡しあたりに静けさが戻ってきたのはある意味幸いだったのだろう。

 とある覚悟を決めて屋敷に戻ってきた少女アルシェは、昨日に引き続き驚愕の光景を見ることになる。

 

「――おげぇぇぇ! なん……なの!?」

 

 取り乱すことが無かったのは昨日より若干光の奔流が弱いためなのか、慣れたのかはわからないが実家の前で四人の子供たちに見つめられながらも吐いてしまうのは止められなかったり。

 

 

 

 

 

 

 

 

 すでに役目は果たしたとニンブルは帰城しており、先ほどの戦闘についてや午後はどうしようかなどと食事をしながら談笑していたモモンガたちだが、再び来客……というか妹をアイアンクローで吊り上げて連れてきた五女とそのメンツに驚いてしまった。

 

「いや……君も毎度災難だな。じゃなくて二人を送ってくれてありがとう」

「――この家を探していたみたいだから。ロックブルズ様の家が近くにあるのは知っていましたし。あの子……モモンガさんの娘さんですか?」

 

 そう言ってペロロンチーノに叱られているネムと末っ子を指さす。まあ叱るといってもストライクな少女二人がドストライクな恰好で目の前にいるわけで形だけではあるのだが、遊びに来るなら次の日モモンガが呼び出した際に言ってくれれば危険は無いのだからと諭している。

 シャルティアとアルベドは見張り(?)として一緒についていたり。

 

「あー……()()()んですよね。私たちの従者の妹です。辛くないですか? 指輪は一つしか無いもので」

「――大丈夫です。慣れたくは無いのですが最初に強烈なものを見せていただきましたから……」

 

 そう言って儚く笑うアルシェの目元にうっすらと涙の跡が見受けられてしまい申し訳ない気持ちになってしまうモモンガであったりする。あぁまた吐いちゃったんだなと。

 ただその涙の跡を別の意味に感じていたレイナースは、自己紹介と共にフルト家の現状についてお節介だとは思ってはいるのだが尋ねる。何気に子供に対してはものすごく優しいレイナースではあるのだが、その本位はモモンガたちに向いていたりする。

 

「他家のことについてとやかく言われたくは無いでしょうが、話してくれませんか? 私の恩人と約束した以上は例え陛下の意に反するとしても力になりますよ」

 

 眼がマジだった。近い上に瞳孔が開いていて怖かった。四騎士の『重爆』ってこんな方だったの!? なんて驚愕してしまうけれどこの人の目は本気だと分かってしまう。

 自分としてもここで今の境遇やこれからどうするつもりなのだとかと話すつもりなどさらさら無かったのだが、度重なる衝撃に心が壊れかけてでもいたのだろうか。

 

「――私は」

 

 後にこの出会いと吐き気に感謝することになるとは、今のアルシェには知る由も無かった。

  





久々にコメントの意見も加えて更新

ブリュンヒルデ    長女 指揮役 両刀
ゲルヒルデ      次女 神官  胸が巨大 看護服
ヘルムヴィーゲ    三女 タンク ドM  
オルトリンデ
ヴァルトラウテ    五女     ギャル おっさん好き匂いフェチ  
ジークルーネ
ロスヴァイセ
シュヴェルトライテ
ネム         末っ子の姉 村娘 純真   麦わら帽子に白のワンピース 
グリムゲルデ     末っ子 魔力系魔法詠唱者 麦わら帽子に白のワンピース

四女を飛ばしたのは以前名前が出ているのに気づいたからで意味はありませんw


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34 この大好きな妹たちに幸せを

 鮮血帝に貴族位を剥奪されたフルト家。その家計を支えるために帝国魔法学院を辞めワーカーになった少女アルシェ。

 家族の為の思いは空回り、父親は借金を繰り返し浪費を止めようとしてくれない。働いてすらいないのに。

 

「……働いてすらいないのに」

「……地味に効くわ。あ、ゴメン続けて」

 

 ワーカーの仕事は当たり外れが大きいけれど高収入だ。仲間に悪いとは思いつつ自身の装備を整えるのを諦め、全ての収入を家に入れていたがそれも限界。今はこれといった仕事も無く金貨三百枚なんて大金すぐさま用意などできない。

 

「――もうお金を入れることは出来ない。妹たちを連れて家を出ると両親に伝えに行くつもり」

 

「レイナースさん、これアルシェさんどうなります? たぶん借金取りの方昨日声だけ聴きましたけど、両親にもしているんでしょうが彼女に返済期日を告げてるんですよね」

「……その金貸しも無能では無いのでしょう。誰がお金を稼いでいるのか把握しているのでしょうね。どんな契約を交わしているかは知りませんが最終的には全てを差し押さえて終わりです」

 

「そうだよな……借金して買った調度品やら家も売れば回収できるか」

「ただ……この手の貴族崩れはプライドばかり高いのですわ。特にあれほどの家屋となると貴族としての象徴を失うことになるので……まあ貴族ではないのですが。家を売る前に娘を売ってもおかしくはありませんわ」

 

 無駄な延命行為。元をたどればアルシェの行動もその延命行為と同じだったのだろうが、必死に家族を助けようと足搔いた子供を誰が責められようか。

 誤算は彼女が魔法詠唱者として非常に優秀であり大金を稼ぐことが出来てしまったことなのだが。

 

「例えばお金を貸したり……現実的にありえませんが家督を彼女に無理やり譲り貴族として再興を果たしてもその両親の行動は変わらないでしょうね。始末するのが一番手っ取り早いですわ」

 

「れ、レイナースさん!?」

「レイナースさんはそれが出来ちゃった人だから……うーん」

 

 現在ネムとグリムはメイドさんと一緒にキッチンで昼食を頂いている。ちょっと子供たちには聴かせたくない話なので助かったのだが、今までかかわってきた事件と全く違い困惑してしまう。

 

 その先に人命の危機があるのかもしれないが、これはただの家庭の問題だからだ。

 

「――それじゃあ、行く」

 

 自分たちの行動原理はただ『あの双子が可哀そうな目に遭わなければいい』といった酷く漠然としたものでもあったため、ただ彼女につらい現実を告白させただけで何の解決方法も提示できない。魔法だって万能ではないのだ。

 

「……妹たちを連れだしたとしても、それではあなたが何もできないでしょうに。あなたたちを養う程度何の問題もありませんけれど、少しは働いてもらうわよ」

「――え?」

 

 だからそのレイナースの言葉が魔法のようで、頬を染めて言い切る彼女が羨ましくなってしまう。

 

「この家に住まわせてあげると言っているのですわ! 分かったら早く行きなさい!」

 

「シャルティア、これがツンデレ?」

「クククッ、王道でありんすね。勉強になりんす」

 

 後ろで大人しく……いや『プリキュア二人目確保でありんす』とか聞こえていたが、アルベドとシャルティアもレイナースのその言葉には噴き出してしまうわけで、茶々を入れてしまいたくもなろう。

 

 何度も何度も頭を下げてはホロリと涙を零すアルシェを見送るそのあとで、モモンガとペロロンチーノはレイナースに感謝の言葉を伝えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「アルシェ! 昨日はずいぶん思いつめた顔を……その服可愛いわね」

「わはは! ふりっふりだなあ!」

「若草色がお似合いですよ」

 

「――それについては聞かないで欲しい。大事な話がある」

 

 明けて翌日の昼前。アルシェはフォーサイトの拠点である『歌う林檎亭』を訪れていた。何故かフワフワした感じの短いスカートが特徴的な薄緑色のドレスを着ており、本人には思うところがあるようだが良く似合っていた。

 普段からぶっきらぼうな口調なアルシェだけれど、本当に申し訳ないという気持ちがありありと伝わる表情でチームからの脱退を希望する言葉を告げる。はっきり言って言葉不足であった。

 それでも二年以上一緒に死線をくぐり抜けた仲間たちには分かってしまう。その決意が硬いのだという事を。

 

「……それは、というより私たちはアルシェが心配なのよ。その服もスケベ貴族にあてがわれてとかそういう話? 親の借金の話は驚いたけど……そいつ殺しに行くわ! 場所を教えなさい!」

「イミーナ落ち着け! 昨日も言ったけどそういう話なら俺らがお前の両親に説教くれてやんぞ?」

「神の裁きですね。私も容赦しませんよ」

 

 チームの最年少でありながら第三位階を使える魔法詠唱者なんて肩書は他のワーカーからの評価だ。ただ彼らにとっては守るべき家族であり妹なのだ。彼女が理不尽な目に遭うなんてことになるならそれこそ命を懸けてだって救いたいと思ってしまう。

 その時何故か緊張した雰囲気がふわっと優しくなるような感じがしたのだが、それが何なのかは彼らにはわからない。

 鼻息荒く見当違いの考察で憤慨する仲間を止めるために言葉を発しようとした瞬間、まるで見張られていたかのようなタイミングでそいつが現れたのだった。

 

「おっと! いらっしゃいましたかフルトさん。昨日もこちらに伺ったのですが今日は会えて良かった」

「――私はあなたに会った事が無い」

「やはりあなたでしたか。美しい御召し物ですぐにわかりましたよ」

「――チッ」

 

 言葉節は丁寧で上機嫌なように聞こえるが笑顔には見えない。小奇麗な恰好はしているものの分厚い筋肉は暴力を躊躇わない者のそれだ。

 前日声だけ聞こえたこの男がつまりは借金取りであるのだろう。

 

「フルト様のお父様にもお話したのですがね、もう10お借りしたいと言われましてもまずは誠意を見せていただかなければと。それで……アルシェ・いーぶ・りいる・フルト様。期限はまもなくでございますが金貨300枚のお支払いをお願いしたく伺った次第でございます」

 

 この状況でまだお金を借りようと言うのか。その言葉に頭を抱えそうになったけれど、前に出てくれようとする仲間を遮り毅然とした態度で言葉を発した。

 

「――私はもうフルト家の人間ではない。昨日妹たちと共に家を出ている」

「……ほう。それはそれは」

 

 なにかがおかしい。どうしてこの娘は()()()()()()()()()()()()()宿()()()()()()()()と金貸しの男は考える。

 入れ違いになったが昨日フルト家から妹ともども消えていたのは知っていたし、そのまま雲隠れされたのではたまらないと部下にこの宿を張らせていたのだ。

 最後の別れに訪れても不思議ではないと思った勘は当たったが、まるで貴族に戻ったかのようなドレス姿には驚愕を隠せない。

 

「家を出られたとおっしゃっても親子ではありま」

「――()()()フルト家を出ることになった」

 

 危ない。借用書は最後の手段にと思ったがこれは雲行きが怪しい。借金奴隷として娘も返済の契約に入ってはいるが、それを知っているのは父親のみだろう。

 正式な契約ではあるけれどそれは娘の同意があってこそ。もちろんそんなものどうにでも出来るのだがこの落ち着きようはなんだ。

 

 長年培った嗅覚が引き際は今だと訴えかけている。

 

 この鮮血帝の世で違法ギリギリの金貸しをやれているのはこの勘のおかげだった。王国で暴力に訴えかけ犯罪まがいの事を嬉々として行う同業とは潜った場数が違う。

 最後にまだどれだけ搾り取れるかと脅しと質問の意味を加えて言葉を発しようしたが、娘の正直な告白に折れることになった。

 

「――本当にもう1銅貨も持っていない。昨日あの家の執事に全て渡してしまった」

「くっ!?」

 

 潮時だ。あの家から使用人がいなくなる。貨幣としての回収はここまでだろう。この娘が稼いで家に入れることはもう無いのだから。

 

「……わかり、ました。最後に……どういうことだ? 俺がお前をどうにかするとは思わなかったのか? それとも出来ないと踏んでの事か?」

 

 下手に出る言葉はお終い。娘の冷静な態度と、自身が手に握る汗に苛立ち、己の勘を否定するかのように疑問を呈する。

 

「――私にかかわらない方がいい。本当に後悔することになる」

「!?」

 

 まるで女神のような慈愛の籠った瞳。よく見れば乾いて間もない涙の跡が見て取れる。

 

 あぁ、この娘はもうすでに自分を売り払っているのだと察する。貴族……それも飛び切り質の悪い輩か、誰も手を出せない程の者かは知れないが、よくよく見れば()()()()()()()()()()()()小刻みに震えているのに気付いてしまう。

 自分は完全に出遅れたのだろう。思えば商売として考えれば確かにこの娘は女神だった。多少名残惜しくはあるがそれ以上は何も言わずこの宿を後にするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「――もう、限界」

 

「え? アルシェ顔が真っ青よ!?」

「おいおい!? 今の男にしても言葉を挟む余地が無かったけどなんだってんだいったい」

「それよりアルシェさんにお水を」

 

 急に力が抜けてしゃがみ込むアルシェ。急いで水を渡そうとしたロバーデイクの器を受け止めたのは、突如虚空より現れたアルシェの手を握る小さな愛らしい幼女だった。

 あまりにも唐突な出現に声を上げるより時を止めてしまうフォーサイトの一同。そしてまた別方向の誰もいなかったはずの場所から二人の男女の声がかかる。

 

「グリム護衛ありがとう。ちょっとアルシェさんギリギリだからこっちおいで」

「それにしてもずいぶん頭のいい男でしたわね。予定が狂いましたわ」

 

 柔らかな笑みで幼女を抱き上げる青年。帝国の騎士姿で現れる絶世の美女。モモンガとレイナースが不可視化を解いて現れたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「つまりアルシェはレイナースさ、様の元にいるわけですか?」

「本当に一文無しになって戻って来るとは思っていませんでしたが、使用人の賃金を払うためとの答えは逆に好感が持てましたよ。聴けば糞じじ……フールーダ様に師事していたようですし、学院に戻らせて最終的には国の役人になるのが最良と判断しましたの。勿論強要ではないわよ?」

 

 イミーナの詰問に涼しい顔で答えるレイナース。当事者であるアルシェはグリムが現れた瞬間に気絶しカウンター席に寝かされている。

 

 本来の計画としてはアルシェを泳がせ、予想ではあるけれども借金取りがアルシェを借金奴隷として扱うのを待ってから証拠を押さえ捕える予定だったのだ。

 さらにはその違法な契約を交わした両親も処罰の対象になり投獄及び家屋の接収まで頭にあったレイナースにとっては肩透かしな展開でもあったりする。

 多分この後あの男は屋敷以外の接収に当たるのだろう。それで十分に金貨300枚の回収は出来るがその後だ。金貨数千枚はくだらない屋敷がどうなるかはあの夫妻次第と言えるだろう。

 

「あなたたちのチームから抜けるように言ったのは私よ。まさかあなたたちは私に子守をさせてワーカー家業を続けさせようなんて言わないわよね?」

「そ、それは……」

 

 はっきり言って失礼な口調で問いかけてしまったが、どう考えてもこれはアルシェにとっては素晴らしい好機なのではないかと思うものの、まるで大事な妹を取られたかのようにそれを受け入れられない。

 いや、受け入れてはいるのだがそれを信じてしまった時点で二の句が告げられないでいるのだ。自分たちが何の力にもなれなかったことを悔やんでしまう。

 

「へぇ~グリムちゃんて言うのか。アルシェのアレは……つまりこの娘ってことか? モモンガさん」

「グリムゲルデ!」

「そうですね。私だけでも良かったんですが仲間がそれを許さなくってグリムを連れてきてしまいました。他の仲間でもよかったんですけど色々ありましてね」

「この幼女も……信じられませんがなんというか神の息吹を感じられますね」

 

 和やかに語り合うヘッケランたちを片隅にイミーナは最後の言葉をレイナースに告げる。

 

「アルシェは……幸せになれますか?」

「四騎士が一人レイナース・ロックブルズの名に懸けて誓います。最善を尽くすと」

 

 それではあまりに言葉が足りない。それでもその言葉の力強さに納得もしてしまう。

 

 

 その日ワーカーチーム『フォーサイト』はチームの大切な妹である魔法詠唱者を笑顔で送り出すことに決めたのだった。




がっつり風邪ひいてました。すまんのw


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35 不動

「えっ? そんな認識なんですか?」

「傭兵団か……そういえば姫と従者スタイルは長いことやってないな」

 

「え、えぇ。今でこそ私は違うとはわかるのですが、陛下たちの認識としては『ガゼフ・ストロノーフを救った南方の傭兵団』ということになっていますわ。訂正しようにも()()()などと正直に答えてよいのかわかりませんでしたので」

 

「下手に警戒されても面倒ですからね。レイナースの判断は正しいわ。クーデとウレイは私たちのことをどう思うかしら?」

「アルベド姫さま!」

「シャルティア姫ねぇさま!」

「ほらほら頬にべっとりスープが付いているでありんすよ。ふふっ、わかる娘にはわかってしまうのでありんすねぇ」

 

 明けて翌日。レイナースさんの認識も違うからね!? などと騒ぎながら和やかな朝食の席ではあるけれど、今日の皇帝との会合についての打ち合わせも兼ねていたりする。面倒事はなるべく早くと提案したはいいけれど帝都の観光前になるとは計算外であった。

 前日から将来の為の子守の練習台になっている双子はアルベドとシャルティアにべったりであり、楽しそうに食事をする姿が微笑ましくそんなことなど忘れてしまいそうだが。

 

 アルシェは歌う林檎亭にそのまま泊まっている。最後のお別れというわけではないが、積もる話もあるだろうとフォーサイトに託している。

 一人欠けてしまうチームがどうなるかはわからないけれど、カルネ村のテントという仮宿に無職であるという実情のモモンガにはどうすることもできない。むしろワーカー(何でも屋)を名乗る彼らを助けようなんて話は逆に失礼とも言えるしこちらが仕事を紹介してほしいくらいなのだから。

 昼過ぎに皇城から迎えが来るらしくアルシェも拾って一緒に会合に赴く予定であり、嫌かもしれないが彼女たち姉妹の更なる安全の為に国の最高権力者と会っておくことは悪い事ではないだろう。多少聞こえてくる話に不安はあるものの師事していたという人物もいるようだし。

 

「でも武装して行くわけにもいかないですし、私たちはこのままでいいんじゃないですか?」

「ある意味別ギルドの拠点に行くわけだし、決戦装備……あ、ダメだあれ俺蛮族じゃん」

 

 そんな装備もあるのですかとレイナースに問われ朝食後に見せることになったが、久々に着たことにより思い出される死闘(注、あの夜の性的な闘い)からか溢れ出る覇気と闘気を垂れ流し、漆黒と金のオーラを漂わせれば、腰を抜かし震えて泣いてしまう帝国最強の騎士がいたりして取りやめとなった。なんか可愛くてゾクゾクしたのは内緒だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「陛下、先触れが到着いたしました。構成はレイナース様と屋敷に滞在していらっしゃる四名。それに護衛の女性騎士の方が一名に先日追加してくれるようにと報告がありました少女が一名になります」

「うん? 護衛は二名ではなかったか? あぁ屋敷の警護に充てるわけか」

 

 皇城執務室にて書類にペンを走らせていたジルクニフは近衛の報告にも動きを止めず案件を片付けていく。

 

「余裕ですねぇ陛下。こっちはどんな化け物が来るのかとぶるっちまいそうなのに」

「嘘をつくのはやめてくださいバジウッド。きちんと報告したではないですか」

 

 そんな二人の声を聴きながら並列思考で先日の会議の事を思い出す。衝撃的だったのは代表であると言う男の名前だ。

 それが冗談であり申し訳ないと謝罪も受けたというけれどニンブルは腑に落ちないと言っていた。その場にいたわけではないので空気感までは分からないが、まるでその名前が当然であるかのような周囲の態度に違和感を覚えたという。

 確かに『モモンガ・アインズ・ウール・ゴウン・フォン・ナザリック』なる名前が咄嗟に出てくること自体おかしなことで、傭兵団という認識を捨て仮ではあるが他国の王族を迎え入れる態度で接することに決めていた。勿論モモンガ以下の名前については文献などを調べさせてもいる。

 

 肉体的な強さとしての指標は自分に判断出来るものではないと理解しているので、強者である四騎士の判断を仰ぐ以外ないが、『侮っていい方達ではありませんが、過剰に構える必要は無いです。女性騎士たちの力量は判断出来ませんでしたが……』との言葉から機会があれば傭兵団の力も見せてもらおうと考えている。

 

 ニンブル経由でレイナースからもたらされた注意事項は一つだけ。

 

『驚くほど温厚な方達ではあるのですが、彼ら二組は夫婦であり家族であるらしく、こちらに取り込むために女を手配するなどという愚策は絶対におやめくださいとのことです』

 

 そうは言っても性的関係を構築して懐柔する単純で効果的な作戦は捨てるわけにはいかない。ニンブル曰く『あの女性たちを越える美貌の貴族の子女を探すのは困難かと』という程度で、まだ実際に見たわけではないが揃えられないわけではないのだ。

 現在二名ほど選抜していつでも呼び出せるようにはしているが、カードを切るかどうかは会ってからでも遅くはあるまい。

 

「じいは、アルシェと言ったか。その者も気になるのではないか?」

「はい……急な退学は気にはなっておったのでございますが、在野で第三位階にまで上り詰めているとは知りませんでした。私と()()をつなぐ架け橋になれば……」

「……じい、分かっているだろうな」

 

 ある意味一番心配なのはフールーダなのだが、謝罪という建前の都合上退席させるわけにもいかない。鮮血帝という改革を素早く推し進めようとする愚か者のせいで、こういった才能の芽を潰していたかもしれないということは思いもしなかったが、無能の子が無能では無いという例外には驚かされたものだ。

 

 アルシェ・ロックブルズ

 

 特例中の特例だがその両親を伴わず養子としての公的な書類を認めたのは外ならぬジルクニフだ。自身のミスを拭うわけではないが結果として恩になり第一の枷にも出来たのは僥倖かもしれない。

 

「陛下。城門にお着きになられたようでございます。手筈通り城内の軽い案内を済ませてからとなりますのでそろそろお支度を」

「あぁ、わかった……楽しみだな」

 

 ペンで最後の書類にサインを済ませ筆頭秘書官であるロウネの言葉に頭を上げる。その顔に憂いは一切見られなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「――本当に、い、いない?」

「だ、大丈夫ですって。今日はネムと遊ぶって言ってましたから」

「なんでこの娘こんなに怯えているのでしょうか?」

 

「あー……グリムちゃんがアルシェの反応を面白がってしまい、昨日『歌う林檎亭』に着くまで出たり消えたりと。私はモモンガさんと一緒に隠れていたので止めることも出来なくて」

「子供は構ってくれる人を好きになっちゃうところがあるからなあ」

「微笑ましく聞こえるでありんすが鬼畜の所業でありんすね」

「妹が大変申し訳ありませんでした。気分が悪くなったら私に言ってくださいね」

 

 そんなこんなでアルシェを回収した一行はいよいよバハルス帝国の皇城へとやってきた。護衛にカルネ村から天使たちの次女であるゲルヒルデが看護師ではない騎士姿で参加している。咄嗟の事態に対応するためチームとして不足している回復要員として連れてきてはいるけれど、本人はニコニコと微笑み窓の外を楽しそうに眺めながら観光気分だったりする。

 この世界にもいるのかと六足馬(スレイプニル)に驚いたり、七名という大人数でありながらさほど狭さを感じさせない手持ちの馬車に比べて全く揺れない高級仕様に驚いたりと早速のサプライズに気分も上々だ。

 

「綺麗なお城ですね! え? あれは……」

「うそっ……だろ?」

 

 城門まで辿り着いた一行はここからは歩きに。観光の一環として城の様子などを見せてくれるらしい。レイナースを案内にして台地のような堀の上の通路を進んでいくのだが、下の方で騎士たちが訓練をしているのが窺えた。

 ただその中の一人。他とは格の違いさえ感じるフルプレートを身にまとった大柄な騎士にモモンガとペロロンチーノは目が釘付けになってしまう。

 

「『不動』、ナザミ・エネックです。四騎士が一人で最硬の騎士という……み、みなさんどうかなされましたか?」

 

 気付けばモモンガ、ペロロンチーノどころかアルベドとシャルティアも驚愕の瞳でその訓練の様子を見つめていた。

 

「リアル……だからかな? そんな使い方もアリですけど驚きましたね」

「あ、あぁ。姉ちゃんのアレは実際は有利でも何でもないからな。防御ステが上乗せされるわけじゃないし……なんだろう。でもなんか嬉しいな」

 

 シャルティアですらあまり見たことのない儚げな笑みを持って呟くペロロンチーノ。守護者二人はそれにも驚愕しつつ件の騎士の動きを解析しようと射貫くような鋭い視線を飛ばしている。

 

「攻撃を捨てた楯二枚はこの世界……じゃなくてこの国では珍しくないんですか?」

「い、いえ珍しいと思いますよ。昔目撃した戦士の真似事だと本人は言っておりましたけど、私でもあの守りは抜けませんわ」

 

 ユグドラシルで楯二枚なんて装備をしているのは自分の姉以外にはいなかった。それが役割である『楯』として有効なら誰もが取る選択肢であるけれど、ゲームバランスを壊す行為として運営がそんなことを許すわけがない。

 ステータスとしての防御追加効果は最初に装備をしたほうだけに限られ、クリスタルの効果を載せるなら武器を装備した方がいい。それでも『粘液楯』の二つ名に恥じない双方向へのシールドバッシュ等取り回しを意識しこだわった姉の魂がこんなところで息づいているのを目にしてしまうと嬉しくなってしまう。

 

「クククっ。姉ちゃんに見せてやりたいなあ。本物がいるぞって」

 

「前線指揮。バフにデバフに加えてヒーラーとしても活躍されていた御方とは比べるべくもありませんが……」

「動きが無さ過ぎてよくわかりんせんが、問題ないでありんすね」

 

 アルベドやシャルティアに言わせたらそれは稚拙にも過ぎるだろうがそうではない。運動はおろかちょっと太り気味の姉にリアルであんな動きなどできないのだから。反応速度というプレイヤースキルに特化した姉だからできるゲーム内だけで見られる特技に今更ながらに驚愕してしまう。

 

「茶釜さんを知っている人がいたりなんて可能性もありますかね」

「本人がいたら怖いなあ……シャルティアと本当に結婚したなんて言ったらぶん殴られそうだよ。あ、違うか成長するまで待ちなさいかな? あはは」

 

 この世界へ転移してきたのが自分たちだけではないと把握してはいるがギルドのメンバーがこの世界に居ないというのは時期早々だろう。現実的じゃないなんて話は何度も議論し合ったが、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 あの場にログインしていなかった、キャラをデリートしていたなんて論理だてた話は通用しないかもしれないのだから。

 

 敬愛する姉を思い出させてくれたこの出会いに感謝し、レイナースに話が出来るか聞いてみるとこの演習自体が帝国の力を見せつける演出であるらしく可能とのこと。

 

「ちと行って来るぞ」

「妾もいくでありんす」

 

「あ……でも彼は無口すぎて話にならないかと……行っちゃいましたわ」

 

 堀を滑り降り大楯二枚を地面に降ろした騎士の前に立つペロロンチーノとシャルティア。何かを話しかけているがどうにも会話が成立していない様子。

 

「あの人『言葉は不要、戦いで会話しろ』なんて感じの人なんですか?」

「能力は申し分ないのですが……武人気質というか滅多にしゃべらないのですわ。あ、楯を構えましたわね……え!?」

「あー……シャルティアがキレる前にペロさんがやっちゃいましたか。新しいドレス汚したら拙いもんな」

 

 モモンガとレイナースの実況の通り、まったく口を開かない騎士にしびれを切らしたシャルティアが蹴りを放つ直前に、ペロロンチーノが後ろに回り込みバックドロップ。地面ににめり込むナザミ・エネックは虫の息だったり。

 

「すまんゲルヒルデ、いきなり出番だ。これペロさんたち悪くないですよね?」

「わ、悪くないのは当然でございますが、ペロロンチーノさんの動きが見えず驚きました……」

 

 なお次女に手厚い看護を受けたナザミが一目惚れでもしたのか「結婚しよう!」などと熱く流暢にしゃべりだし、再度城壁にめり込む事態にもなったり。

 

 

 

 この報告を受けた皇帝の髪がパラッと数本抜け落ちたりもしていたのは誰も気付かなかったりする。

 

 

 




ペロロンチーノさんが弓を使うにはどうすればいいんだw


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36 夜勤病棟~清純看護師の裏の顔~

「あいつしゃべれるじゃありんせんか!?」

「よーし、偉いぞ。咄嗟に金属バットに持ち替えてくれて助かった。パンツ見られないで済んだな」

 

 モモンガがたまに使用していた敵を吹き飛ばすことだけに特化した武器は、現在シャルティアが保有している。四人の中で一番キレやすいという理由でもあるのだが、一番物理攻撃力が高い少女の『なんでやねん!?』といった軽い突っ込みが相手を殺してしまう可能性もあり、こらえられなかったらそれを使うようにと渡されていたのだ。

 まあペロロンチーノが蹴り足をはたき落としバックドロップしたのも、杖でぶっ飛ばすのを放置したのも過剰にやりすぎない為というより妻のパンツを見せない為だったとは誰も気付かなかったが。

 

 城壁に突き刺さったナザミは引き抜かれ、次女の魔法で回復したものの完全に伸びていたので、レイナースが他の近衛騎士に預けて再び皇城の見学を開始したのだった。

 

 今更ながら一行が着用している衣服を説明すると、モモンガとペロロンチーノがいつもの高貴なスーツ姿で。妻二人はエ・ランテルで作ってもらったドレスであり、アルベドは水色のミニドレス。シャルティアも膝が隠れる程度の短いピンクのドレスを着用している。

 レイナースは何故かあのゴスロリメイド服を装備。「服を買いに行く服がありませんでしたので……」などと引きこもりのようなことを言い出す帝国騎士姿の彼女にシャルティアが再度渡し着せていた。「今度おんしもエ・ランテルの店に連れて行くでありんすから」という言葉に涙をこぼし感激していたのは微笑ましいエピソードだったのかもしれない。シャルティアは若干引いていたが。

 アルシェも前日シャルティアから受け渡された服をそのまま着ている。落ち着いた若草色のスカートは誰よりも短いがスパッツらしきものを履いているので見えることは無いのだが、ドレスというよりは変わった学生服。この世界で言うなら踊り子のようでもあった。つまりイビルアイに続いて二人目のプリキュア衣装だったりする。

 可愛すぎて恥ずかしくて結構嫌々だったのだが先ほどの光景を間近に見てしまい、拒絶の言葉は二度と出ることは無かったり。

 

「ご、護衛の方。ここで武器の類をお渡し願えますか」

 

 そして天使の次女ゲルヒルデは戦乙女そのもの。左の腰に短剣をぶら下げているものの、本来の武器であるメイスは戦闘にならなければ取り出すことは無い。

 これから皇城屋内に入るに伴い武器の携帯を許されないのは当然でもあるのだが、美しすぎる女性たちを前にして動揺しながらも仕事を全うしようとする騎士の言葉に、元より装備の譲渡が出来ない召喚された天使は困ってしまう。

 

「ご主人様、どうしましょう?」

「あーそっか、看護師姿でお願いするよ。形式的な物だろうし見た目に武器を所持していなければ大丈夫だろう」

 

 まるで困っていないかのように小首をかしげて微笑む次女の問いかけを瞬時に理解したモモンガは、魔法がある世界で武装解除も無いよなあなんて思いもあり、衣装変更を促した。

 光が集まっての変身バンクシーンなどは当然なく、一瞬で真っ白な看護師衣装に着替えるゲルヒルデ。今日も巨大な胸は健在だ。

 

「でかい……え?」

「大きい……よ、鎧はどこに?」

 

「仕事ですから気になるのでしょうが、目を潰して……ではなくて目をつぶってくれませんか。四騎士が一人レイナース・ロックブルズが彼女の安全を保証いたします」

 

 視線が完全に胸にしかいっていなかった憲兵二人は、かなりの怒気が溢れるレイナースに気付き素早く脇によって道を開ける。

 そこまで気にするほどの事ではないが彼女もまた微乳(シャルティア)側の人間であったりするのは内緒だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「怒らせたわけではないのだな?」

「どうでしょう……近衛から酷く陽気に護衛騎士の女性を口説いていたとの信じられない報告もありなんとも……」

「あいつ……真面にしゃべれたんですかい?」

 

 なんでそんなことになっているんだと頭を抱えそうになる。確かに演習を見学することになる彼らと交戦の機会があるなら試してくれと命令したのはジルクニフだが、地面に倒され手当てされ、口説き始めてなおかつ城壁に突き刺さったとかいう訳の分からない報告は聞きたくなかった。

 すでに彼らは賓客を招く際に使用するかなり大きめな部屋へ案内されている。文官一の切れ者であるロウネであれば対応を誤ることは無いだろうが急がねば。

 もはや相手方の出方や対応を知るために敢えて遅れて登場などとは言ってはいられない。バジウッドとニンブル、それに近衛を引き連れて小走りになりたい気持ちを抑えながら堂々と通路を歩いて行く。

 

「時にじいの方は大丈夫なんだろうな?」

「今は隣室で大人しく待機しているようです。出ていらっしゃいましたね」

 

 ニンブルが言うように前方の一室からすでに足枷を外されたフールーダが出てきたのだが、あれほど会いたがっていたのに少し気落ちした表情に首をかしげてしまう。

 

「うーん……では行こうかジルよ」

「待て、どうしたじい? なにかわかったのか?」

「窓から皇城内に入るのが窺えましたのでな……アルシェは()()わかりましたが、他に一人第一位階の魔法が使える者がいる程度で、他の者には魔法の輝きを見出せませんでした」

「ふむ……報告通りならその者がペロロンチーノ殿だな。確かにマジックアイテムなどで隠蔽する方法があったとしても彼が装備していないならじいの求める者達ではないのか。だが護衛騎士はかなり高位の信仰系魔法が使えるようだぞ?」

「なんと!? それは本当でございますか!」

「ははっ、現金だなじい。とにかく私が良いというまでは大人しくしているのだぞ」

 

 魔力系魔法・精神系魔法・信仰系魔法の三つの系統を修め三重魔法詠唱者(トライアッド)とも呼ばれるフールーダは魔力系魔法に秀でてはいるが別にその系統にこだわったわけではなく魔法の深淵を知りたいのだ。自身の眼で感じられないのは残念だがそういうことならばと、女神に通じる者達であるという事も思い出し瞳に力を取り戻す。

 満を持してというわけにはいかなかったが、フールーダ、バジウッド、ニンブルを伴い開かれる扉を威厳を持って潜るジルクニフであった。

 

 

 

 

「陛下がいらっしゃいました」

 

 聞こえるロウネの声を耳に室内へ入ると、招いた内の男性二人が浅く腰掛けていたソファからゆっくりと立ち上がる。倣うように伴侶と思われるとてつもない美貌の女性二人が立ち上がり、慌てたようにレイナースの側に座っていた少女も立ち上がるまではよかったのだが、男性二人が軽く礼をする姿勢に驚いてしまう。

 お前がこうするように促したのかと確認するようにロウネに視線を送るが瞳を閉じて首を振る。

 

 このような非公式の場に決して特別な作法などは無いけれども、流れるような綺麗な所作に思わず感心してしまった。

 この場で出迎えた貴人の多くは似た行動を取ることが多いが、私だって同じような場に招かれたならばたとえ一国の王であろうとも彼らと同じ行動を取るだろう。

 ただあまりにもスマートすぎる示し合わせたわけでもない完璧なタイミングで二人が立ち上がって礼をしたことに驚いたのだ。

 最初から立ったままであったならロウネを叱らなければならなかっただろう。タイミングが早すぎても見逃していたかもしれない。深く礼をされたならば仮ではあるが王族として見くびっていただろう。

 たったこれだけの行動で決めつけるわけにはいかないが、あまりにも自然な態度と肝の据わり具合に王族としての推測を確信に変えていく。

 

(まあ営業に出向いて偉い人が出てくるってなったらこうだよな)

(社長来たらこうするよなあ。あってるんかな?)

 

 あの世界のブラック企業でボーナスまで獲得し、陰で『営業無敗』などと噂されていたモモンガと、中堅企業で部長職にまで上り詰めたペロロンチーノにとっては一般的なビジネスマナーとして慣れた行動であったのだが、ジルクニフどころか自身の妻たちも迷走させていく。

 

(これは王としての礼だわ……ふふっ、そうですか装うのをお止めになられたのですね)

(なんでペロロンチーノ様が頭を……アルベド? わかったでありんすよ……妾もすればいいのでありんしょう!)

 

 ほんの数秒の出来事ではあったものの元社畜二人の行動に勝手に翻弄されて行く一同。誰が悪いわけではないのだが緊張感が一層と増していくのだった。

 

 

 

 

「面を上げてくれ。モモンガ殿たち家族の訪問を心より歓迎する。私がバハルス帝国皇帝ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクスだ。非公式の場であるし長ったらしい名を呼んで頂かなくて結構。ジルと呼んでくれても構わん」

「お招きありがとうございますジルクニフ皇帝陛下。そして家族と言ってくれてとても嬉しく思います。私が代表のモモンガ。こちらが友であるペロロンチーノとその妻シャルティア。そして私の最愛の妻アルベドでございます」

 

 本当にうれしそうに優しい笑顔を見せるモモンガに、注意事項をくれたレイナースを心の中で褒めつつその熟達した丁寧な言葉遣いを賞賛する。

 なるほど二家族に格差は無く、紹介順からも窺えるが男性二人は同等の存在であると示したのだろう。

 

 それにしてもこの二人の女性の美しさはなんだ。今まで出会ってきた美姫たちが霞むほどの美貌に思わず息を呑んでしまう。普通の男なぞある程度美しい者に言い寄られれば悪い気はしないであろうが、これほどまでに格が違うと()()()は保留にせざるを得ない。

 

「そして今回縁がありまして連れてきましたアルシェです。どうやら特別な取り計らいをしていただいたようでお礼申し上げます」

 

 再度綺麗なお辞儀をするモモンガに少し驚いてしまった。情に厚いと聞いてはいたものの優しすぎるのは王としては頂けない。王族としてはその度量に賞賛はするけれども自身に並び立つものとしては不服か。

 少し不思議な美しい衣装を着た少女がコチコチになって礼をする後ろには、何故かあのメイドドレスのレイナースが。そして並び立つ一部分を盛大に主張する真っ白な衣服を着た女性が胸に手を置きながらニコニコと微笑んでいる。

 

「最後に護衛のゲルヒルデです。えーと……私どもの国に伝わる神官の正式な衣装ですので礼を欠いているわけではないことをご了承ください」

「ははは、こんな美しい女性たちに出会えてそんな事など気にはしないさ。皆楽にしてくれ。それよりモモンガ殿固すぎるぞ……貴殿と私は年も近そうだし出来れば普段通りに話してくれないか」

 

 ここで示し合わせていた通りバジウッドに目線を送る。これは公式の場ではないから出来るこちらからの謝罪の場。そして一行の本来の姿を知るべき場でもあるのだ。

 こうまで謁見の体を取られては(モモンガ的には精一杯頑張った礼を尽くした態度なのだが)個人として謝ることすらできない。

 

「そうですぜぇ皆さん方。陛下は寛大なお方だ。少しくらい口が悪くっても咎められることは無いってものよ。俺が牢に入れられていないのがその証拠だな。おっと挨拶が遅れた、四騎士が一人『雷光』バジウッド・ペシュメルだ」

「まあこれほど砕けろとは言わんが……こちらも紹介を済ませておくか。秘書官のヴァミリネンと四騎士は済んでいるだろうから最後の一人だな、じい」

 

「はっ。フールーダ・パラダインでございます。この度は私の謝罪の為に皆様をお呼び立てしてしまい申し訳ございません」

 

 フールーダがしでかした幼女の姉の仲間だからか、瞳は胸の巨大な女性を捕らえて離さない。余計なことを言わないことに安堵したもののその瞳のギラツキは変質者にも見えてしまう。

 不安になってその女性を視界に入れると、何故か首をかしげて自身の服をまさぐる様子に疑問を覚える。不快な思いをさせたのだろうかと声をかけると、服のボタンを外しだし慌ててしまう。

 

「あれ? これ脱げますね。もしかすると短剣も預けられたのかもしれませんご主人様」

 

 時が止まるというのはこういうことか。王や近衛や平民であるなどとは関係なく、この場にいる全ての男たちの意識がシンクロし、一体感さえ感じるほどの言葉を全員が呑み込んだのは言うまでもないだろう。

 

 

(下着は紫色なの!? エロすぎるだろ!?)

 

 

 そのチラリと見えてしまった唐突なストリップ寸前の行動が良かったのかはわからないがおかしな団結心が生まれ、この先の会談は緊張感も吹き飛び言葉も崩して和やかなものになっていくことになる。

 

 ただ若干女性陣の瞳が冷たくなっていたのは男の性として許して頂きたいものであった。

  




 自己紹介回。次回はきっと普通に会話しているはずw


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37 使徒、襲来

「あいつはなにがやりたかったんでありんすか?」

「……行動自体はアレだけど、驚くべきことよ。必要ないけど彼女たちの武器防具をはぎ取ることも出来るし、逆に私たちの武器を彼女たちに渡して強化なんてことも可能になる。モモンガ様たちがよく言っていらっしゃる『この世界の仕様』ってことね。召喚……いえそれだけじゃなくてシャルティアのエインヘリヤルだって仕様が変わっているかもしれないわ」

「そういえば一緒に全裸になってヌルヌルになりんした」

「……脱げてるじゃない。後で詳しく話してよね」

 

 うん、聞こえてるからね。もう少し小さい声で話すように。でも確かにここにナザリックがあったとして、自動ポップするオールドガーダーあたりから武器防具をはぎ取れれば資源調達など永久機関だろう。

 元世界で出来ていたことがこの世界で出来ない。ゲームで出来なかったことがこのリアル世界で出来るようになっている。告知の無い仕様変更には困ったものだが、彼女も何の気なしに触れたボタンをいじったらはずれてしまったというだけで、出来るとすら思っていなかったのはわかる。

 色々考えることはあるけれどこの雰囲気を作り出してくれた偶然に感謝し、男達の話の輪に交じっていくモモンガであった。

 

「いやあれはもう暴力でさあ……あの瞬間に間者が現れたら下手を打ってたかもしれませんぜ。なあ激風」

「否定できません……」

「確かにな……アレはモモンガ殿の策なのか?」

「モモンガさんおっぱい星人だからね、仕方がないね」

 

「そんなわけあるか!? あっ、いやもう取り繕うことも無いか……ホントすいません。彼女も悪気があったわけじゃないんで」

 

 そう、こうやって普通に会話が出来るのはありがたい。そもそも村長から始まりギルド長、商会長、戦士長。アダマンタイト級冒険者に、四騎士などなど。偉ぶる人がいなかったのもその理由だけれど、皇帝にだけ態度を変えてもしょうがない。

 アルシェの件で敬う気持ちはあるけれど、その役職に過剰になりすぎたかといつもの自分たちらしく言葉を崩していく。まあ元からモモンガは敬語がデフォではあるのだけれど。

 

 なおこの隙を突いたのかはしれないが枯れた老人は同室内の別席にアルシェと次女を招きつつ何やら話をしている。レイナースが鬼のような形相で同席し見張っているので安全でもあるが怖かったりもする。

 

「謝罪は承りましたけどそれだけじゃないんですよね?」

「レイナースさんからある程度聞いちゃったけどたぶん応えられんぞ」

 

 嫁の幸せの為に仕事をしなければという思いはあるものの、この国のために働こうという意識はまだない。オフレコの話を嬉々として話してくれるレイナースの言葉から、傭兵団という意識が皇帝にあるなら戦争に駆り立てられることもあるはずだとペロロンチーノは最初からやんわりと否定の言葉を口にする。

 

「あはは、四騎士の忠誠心もあったものではないな、誰に仕えているのやら。どう思うバジウッド」

「そりゃぁ陛下が悪い。それも込みであいつを四騎士に引き入れたんですから。大丈夫ですぜ俺らの忠誠は本物ですよ」

「それは心強い。だがそれは自分で言うものでは無いのではないか? あぁペロロンチーノ殿の心配には及ばないさ。こちらもレイナースから聴かされているので君たちに無理を通すことはしないと約束しよう」

 

 余裕とも言える笑みを持った返しに驚くとともに安堵するモモンガとペロロンチーノ。アルベドとシャルティアも優し気な笑みを持って答えるが瞳の奥は冷淡だ。今の所その本心は誰にも読めない。

 

「そもそもこちらも戦争を控えている身。()()()()()()()()との初めての戦になるわけだ。モモンガ殿たちををこの国に引き入れたいのは山々だが、今はそうも言っていられないのでな」

 

 モモンガたちが知るところではないし知ったこっちゃない事ではあるのだが、数日前にリ・エスティーゼ王国の王は退位し第二王子ザナックが即位していた。戦争を通達されたばかりだというのにだ。

 なお王宮の一室にて隔離されていた第一王子は何者かにバラバラにされて殺され、縛られていた紐を奪われ『ウェヒヒ』と笑う声だけを残して消えていたことまではジルクニフは知らない。その間諜が()()()()()()()()()()()()()()()()に雇われ帝国に潜んでいることも。

 

「貴君らが無視できない存在であり動向が読めない以上、まずは親交を深めておきたいのだ。ナザミの件にしても知っておき」

 

 

 

「使う気でございますね」

「ふ、ふむ……アルベドが言うのなら間違いないか」

 

 

 

 皇帝の言葉を遮り真剣な表情でモモンガを見つめて言葉を紡ぐアルベド。最愛の妻がこの国の最高権力者に礼を欠いてまで……いやそんな事など露ほども気にしてはいないだろうけれど、そこまでされてしまえば例えモモンガでも気づいてしまう。()()()()()()()()()()()()ヤバイんだなってことを。

 

 つい空気を読んで魔王モードで受け答えしてしまったが静まり返った室内で瞳を閉じ、全力思案中であるのは察してほしい。好きな女性にいいところを見せたいのは既婚者であろうとも変わらないのだから。

 

(使うってなんだ……戦争の事だよな? 王様が変わったことに関係するのか? 戦争は毎年消耗戦で王国の国力を削っているって聞いているけど今回は違うって事か? いや違う。アルベドはそんなことではあの表情にはならない。どっちが勝とうが負けようが失礼な話自分たちの暮らしに影響しなければどうでもいい話でもあるのだ。使う……つかう……)

 

「レイナースも戦に出るのでありんすよね? 短い付き合いになってしまうのは惜しいでありんす」

 

 シャルティアはお馬鹿キャラではあるけれども、それは設定によるものだ。洞察力や直観力などはなかなかのものだと家族全員が理解している。

 そのシャルティアの言葉でモモンガにもそしてペロロンチーノにも()()()()()だと気づくことが出来た。

 

「魔封じの水晶……レイナースさんでは対抗できないか……」

 

 なんとか正解にたどり着くモモンガ。この世界において異形種のアルベドやシャルティアが手を出さないと決めた人々は嬉しいことにかなりの数に上るけれども、その存在を良しと認めた人物は限りなく少ない。

 

 エンリの母・ガゼフ邸の老婆・蒼の薔薇のイビルアイなど。そして……レイナースもここに入るのだろう。

 

 なるほどそう考えるとアルベドが述べた短い言葉の本当の意味が理解できてくる。王が変わった事に理由があるのだろうが、王国は次の戦争で確実な勝利を収めようとしているのだと。消耗戦などではなく打撃を与えようとしているのだと。

 水晶に入れられていた『威光の主天使(ドミニオン・オーソリティ)』。第七位階を使えるあの天使のレベルはいくつであったか。気にするようなMobではなかったので詳しくは覚えてはいないけれどその魔法が限界ならばLv50から60といったところだろうか。帝国最強の騎士であってもレイナース程度では瞬殺されるだろう。

 

 話題が自身の事だと察したのかレイナースを含めた別席の者たちも固唾を飲んでモモンガたちを見つめている。

 ただ一人言葉を遮られたジルクニフは口を閉ざしてなどいられない。

 

「……王国になにがしかのアイテムが渡っていて帝国が敗れると言うのか?」

 

 一言二言の言葉からここまで正確に事態を察するジルクニフに目を見開いて驚いてしまうモモンガ。聴いていた通りの頭のいい人なんだなあと。

 

「話しちゃってもいいんじゃない? モモンガさん」

「関わる気さえなかったんですが、巡り巡って自分たちの行動でレイナースさんが危険に晒されるなら話は別ですね。助けたい人は助けたいですから」

 

 もう俺たちは何をやっているんだよと自分たちの行動に呆れたように眉間にしわを作り深いため息を放つ二人。何度も厄介ごとに巻き込まれているけれどスケールがどんどん大きくなるなと苦笑してしまう。

 

「カルネ村の事は知っているんですよね。そこであったことなんですが」

「ついでだから試してもらってもいいんじゃね?」

 

 

 

 

…………

 

 

 

……

 

 

 

 

 

 

 

「ふぁー! ふぁー!」

 

「あいつはなんでファーファー言ってるんだ?」

「ラミエルの鳴き声だそうです。私もよくわかりませんが製作者の趣味が反映されてるんじゃないんですかね」

「で、でかいな……それに飛べるのか……」

 

 先ほどの帝国騎士が訓練をしていた広場にはニコニコ笑顔の巨大な戦乙女が浮かんでいた。同じモンスターを召喚できるわけではないので、次女が仮想敵の役割をしていたりする。

 <巨人化(エンラージ・パースン)>により大きさを補正し、同じくらいの高さを飛んでもらっていると説明したけれどジルクニフだけが言葉を返せたのみ。他の騎士や近衛は口をぽっかりと開けてそれを見つめることしかできない。

 

 皇帝に詳しく説明し『相手方にフールーダがいるという認識でいいのか?』などと戦闘には疎い身でありながら脅威を理解してくれたけれど、それだけでは伝わりにくいので模擬戦を提案してみたのだ。

 何の裏表もない厚意であることもわかり、ついでに言えばモモンガたちの力の一端を知る機会でもあると快諾したジルクニフではあったが、今は冷や汗しか出てこない。

 

 相対するのはフールーダと四騎士。説明の段階から目を爛々と輝かせ身を乗り出してきた妖怪を誰も止められず、復活したナザミを含む四騎士も参加することになったけれど飛行体だとは知らなかったので地上で構えるのみ。

 実質フールーダ対次女の一騎打ちのようになってしまっている。

 なお何故ここまでフールーダが乗り気なのかと言うと、戦闘時に高位階の新たな魔法が見れるかもしれないという期待と、『私に勝てたら先ほどの質問に答えて上げますね』という言葉に食いついたからだったり。

 

「ご主人様! 私<善なる極撃(ホーリースマイト)>撃てませんけどー!」

「それはしょうがない! メイス主体で頼むよ! それじゃ、あー……ジルさん始めますよ」

「あ、あぁ」

 

 自分がそう呼べといった事ではあるけれど、この絶大な力を持つ者達の主にそう対等に呼んでくれるのを嬉しく思いながら(名前が長すぎてそこしか覚えていなかったからなのだが)離れた場所からその戦闘訓練を見守る。いや、さながら龍退治(ドラゴンスレイ)とでも言った方がよいのではないか。

 

「ふぁー! ふぁー!」

 

 あの巨体でフールーダが放つ火の玉を避けず、受け止めたり弾き落したりしながらゆっくりと近づいて行く様は恐怖としか呼べない。いや違う、避けないのは周りへの被害を考えての事か。

 

「なにをしているんでありんすかおんしらは!」

「飛べないなら弓を使いなさい!」

 

 美しい女性陣たちから檄が飛び、慌てたように予備武器である弓で攻撃を始めるレイナース。二枚楯のナザミは除くが他の二人はさすがに躊躇してしまう。

 

「弓も様になってるじゃない」

「レイナースはわしが育てた。でありんす」

 

 持つことさえ叶わなかった弓で次々と次女に直撃させていくが「カン!」という音とともに弾かれるだけ。それでもその強弓はなかなかのものである。

 

「あなたたちも! あの人たちは次元が違うの! 手加減なんて考えてはなりませんわ! ベストを尽くしなさい!」

「お、おう!」

「わ、わかりました!」

 

「(可憐だ……)」

 

 一人のぼせるような表情で天使を見つめていた大男は、次の瞬間死の恐怖を感じて必死に楯をかまえるのだが、大木のようなメイスの掬うような一撃で数十メートルほど吹き飛ばされて気絶した。

 

「……あれで手加減してくれているのよ」

「全力だ! 激風! とにかく全力で動き回れ!!」

「はいっ!!」

 

 防御全振りでアレなら自分たちでは即死ではないか。息も絶え絶えになりながら走り回り、矢を撃ち込んでいく三人。仮想敵のダメージは皆無なのだが、本来の敵のダメージ判定で計算してみるそうで意味のない行動ではないのだ。それにフールーダのための牽制にもなる。

 

 約一時間ほど続いた怪獣大戦争は次女のストップという言葉と空を真っ赤に染める信仰系第八位階魔法<炎の嵐(ファイア・ストーム)>による合図で終了。『多分倒されたと思いますよ』と笑顔で言い放つが、相対した五人は満身創痍。フールーダのみ満面の笑顔で昇天しそうであったけれど、四騎士はよろよろとへたり込んで意識を手放していたり。

 

「か、勝ったのか? それでもこれでは……モモンガ殿。……モモンガ?」

 

 後ろを振り返ってみれば何故かモモンガとペロロンチーノは正座をして嫁に叱られていた。なんでも『あっちからならパンツ丸見えですね』なんて会話がバレたらしく『見るなら私たちがいるじゃございませんか!』とわけのわからない説教がはじまり、呆然とそれを眺めるしかないジルクニフであった。

 

 




 もうすぐ新刊発売ですね! フィリップがどうなるのか楽しみですw


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38 夕食会と就職説明会

 時刻は夕暮れ時。モモンガたちの望む通りの派手ではない食事会が始まろうとしているのだがジルクニフの顔色はすぐれない。もっと豪華な歓迎の宴を準備するべきだった。皇城の料理人が手を抜くことは無いだろうが最高のものを用意しろと厳命しておくべきだったと。

 

「やはり私は立って」

「座っとけ激風。陛下とモモンガ様たちの好意だ。癒してもらったとはいえ疲労は抜けてねぇんだから。それにこの席に座ってることの意味を考えろ」

 

 長いテーブル席の上座にジルクニフ。そこまではいいのだが後ろに控える予定であった四騎士のうち二人はジルクニフに一番近い左右の席に座っている。

 本来の席順ではそこにモモンガとペロロンチーノが来るはずであったが『せっかく奮闘して頂いたのですからご一緒に』と言われたならば応えないわけにはいかないわけで、護衛としての立場を考えたらそこしかないのだ。力を見せつけられた今となっては護衛の意味など無いのは承知ではあるけれど、会話の都合上こちら側に居てもらわなければならず、非公式とは言え会食マナーもあったものでは無い。

 主催として席順ですら段取り悪くなってしまったことに申し訳ない気持ちになってしまうジルクニフの気持ちも分かるというものだ。

 

「ご主人様。あの……」

「ん? そろそろ時間か? 天井突き破っちゃうことは無いよな?」

 

 また何かトラブルだろうかと、こちらも護衛というより今回の殊勲者である女性が席に座り、その主に問いかけるのを思わず見つめてしまう。

 先ほどまでの戦闘が嘘であったかのようにニコニコと笑顔の美しい女性であったが、困ったように眉を寄せる仕草に不安を覚え室内を見回してフールーダを探すジルクニフであったのだが、

 

「おじいちゃんがテーブルの下で私の靴をペロペロ舐めているんですけどどうしましょう」

「えぇぇ、うわっホントだ!? こわっ!? ジルさんおじいさんご乱心です!」

「爺ぃいいい!?」

 

 四騎士は疲労で動けずナザミに至っては命に別状は無いがまだ意識が戻らないのでこの場にはおらず、他の近衛が何とか引きずり出し椅子に縛り付ける。

 このハプニングのどさくさに紛れて召喚限界の次女はこの場から消えていたりするのだが、そのせいで顔を蒼褪めさせて大人しくなるフールーダより、この世の終わりのような顔をするジルクニフの方が可哀そうだったと後にモモンガが語っていたりする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 この国の最高権力者である立場から頭を下げたい気持ちをぐっと抑え謝罪を述べる皇帝の顔には申し訳なさがにじみ出ており、当の本人であるフールーダは縛られた椅子ごと頭を床にこすりつけて、『け、決して不快にさせるつもりでは』と、なんとも器用に謝罪の姿勢を取っていた。

 フールーダをこの部屋から引きずり出さないのはモモンガ個人が話を聞いてみたいとジルクニフに伝えていたからで、それが無ければ今頃は地下牢であったかもしれない。

 

「あの娘たちは悪意には敏感ですけどあの様子なら気にしていないでしょうから大丈夫ですよ。今いないのはちょっと用事を申し付けて帰らせただけですから」

 

 力を隠す気などさらさらないモモンガであってもアレを召喚したのが自分だと伝えてしまったら、ペロペロされる対象が自分に変わるかもしれないと誤魔化す。考えると鳥肌が立ってくるので無心だ。

 

「そうもいかない。このあと必ず懲罰委員会にかけそれ相応の罰は与えるつもりだ。ただフールーダにもこの場にいてもらわないとこちらも話が進まないので許してほしい」

 

 多少の(?)トラブルはあったけれども前菜が運び込まれモモンガやペロロンチーノが笑顔を見せてくれて一段落。ジルクニフにしてももはや策を弄する状況ではなくホストとして真摯に対応している。

 

「あぁおじいさん。次女からの伝言で最後に見せたのが第八位階の魔法だそうですよ。約束したから教えておいてくれと言われていたので」

「お、おぉ! やはりそうでございましたか! ありがとうございます!」

 

 その態勢はきついだろうと起こされジルクニフの後ろで椅子に縛られたままのフールーダに声をかけるモモンガ。主菜のパスタと肉料理が運び込まれご満悦であったのだが、忘れないうちにとそれを伝える。

 

「第八位階……モモンガ殿たちの傭兵団はとんでもないな……」

 

 魔力系第六位階を使えるフールーダが帝国軍全てを相手に出来るというのに、それを越える者がただの従者であるのだ。正直今落ち着いて話をしている場合では無いのではないかと思うが、努めて余裕ある態度で感心するジルクニフ。いやなんかもう感覚がマヒしているのかもしれない。

 

「肉料理よりパスタの方が新鮮でありんすね。あとで作り方を教えて欲しいでありんす」

「そうね。麺類にはまだ挑戦していなかったから興味があるわ。あぁそれとだけどあの娘は特殊だからあまり気にしない方がいいわよ」

 

 特殊と言われてもジルクニフには理解が出来ない。言外にあの娘が一番強い存在で他は大したことが無いのだろうかと思案するのだが、その思いも粉々にされる。

 

「九姉妹の上から三人は特殊なんだっけモモンガさん?」

「はい、指揮役・支援・タンクですね、純粋な攻撃職ではないです。四・五・六女は前衛職で七・八・九女が後衛職だそうです。ただ九女は一人だけ幼いしかなりおかしな存在なんですけどね」

 

「そういえばなんで四女をとばして五女がこちらにいるのかしら」

「……言いたくないのでありんすが四女と六女はペロロンチーノ様ガチ勢なんでありんす」

「ふふっ。ハーレム推奨とか言ってた癖にシャルティアったら……え、まって? それじゃほかの娘はモモンガ様ガチ勢なの!? でも五女はおっさん趣味だって」

「根本的に全員モモンガ様大好きでありんすよ? ただ以前長女があの二人を焚きつけたせいで(五話参照)ガチで狙いに来ているのでありんす」

「誰が一番危険なのか分かったわ……」

 

 そんな会話から傭兵団が九姉妹である真実と、先ほどの女性が戦力に数えられていない事。ついでに全員が主人を敬愛しているらしいという関係性までうかがえてしまう。

 

「モモンガ様。俺らがやり合うかもしれない敵はあのお嬢さんより強いんですかい? いや違う……本来の敵との詳しい違いを教えてもらえねぇですか」

「そうですね……事前に言ったように大きさと飛ぶ高度。体力と速度もあの娘(公式天使)なら見誤ることは無いでしょうしそれほど違いは無いです。ただ本来なら小規模範囲の攻撃魔法を撃つんですよ」

「魔法ですか。詳しくお願いします」

 

 バジウッドの指摘は正しい。力を過大に見せつけているわけでもなくフールーダと四騎士を足しても一人の女性に届かないのだ。これ以上彼らの強さを探るのは意味が無いと戦争に目を向けているのがわかる。

 その方面はバジウッドとニンブルに任せ、彼らの語らいが終わるのを待ってから本題に入ろうとするジルクニフ。

 ただ後ろでぶつぶつと『九姉妹……やはり十三英雄の末裔という事か?』などと衝撃的な事を口走るフールーダは後で問い詰めなければと考えながら。

 

「モモンガ殿、ペロロンチーノ殿。答えは分かるのだが確認の意味を込めて問おう……()()()()()()()()は無いのだな」

「はい。私たちに出来るのは先ほどの模擬戦までが限界です。即死の危険性を理解しながらレイナースさんが参戦するなら、個人的には彼女にのみ支援をしようとは思いますが」

「どっちかに加担することはないですね。肩入れしちゃった気もしますけど」

 

 ジルクニフの当初の目的はモモンガたちを帝国に引き入れること。ただそれも王国の王の代替わりを含む不穏な動静と間近に迫った戦争を考えて、後回しでも構わないので顔を合わせ親交を深められればそれで十分だった。

 勿論策を巡らし可能ならすぐにでも引き込むつもりではあったのだが、予想を超えた危険性……絶対に敵対してはいけない存在だと知ることが出来てしまった。

 

 なら首を垂れてその力を借りるのか。膨大な対価を以って臣下に加えるのか。

 帝国と王国を同時に相手に出来る勢力を臣下に? その戦力が忠誠を誓う相手が皇帝(自分)ではないというのにか?

 

「結構! その言が聞ければ良し。ただ……戦争は慣れたものだが戦闘には疎いのだ。後ろのフールーダを含むこの者達に攻略の糸口を指南してくれないだろうか……頼む」

 

 そう言って毅然とした態度で、この世に生まれて初めてかもしれない深々とした礼を取る。

 

 誰もが口をぽっかりと開けて驚くような光景であったのだが、ただ二人の人外はそれは面白そうに微笑んでしまう。

 

「ただ中途半端に賢いだけかと思ったら……あなた格好良いじゃない」

「てっきりあの娘たちの力を貸せと言われるのかと思っていんしたが……おんし嫌いじゃないでありんすよ」

 

 失礼を通り越して無礼とも言えるような言動に誰も異を唱えないのはその常軌を逸した美しさゆえだったのかもしれないが、誰もが皇帝の礼を好ましく思っている中、最悪は別の方向からやってくる。

 

「若くてイケメンで賢くて、その上男気がある皇帝で……アルベドが私から離れていってしまう……」

「困ったわ……勝てんぞ無職だし……」

 

 嫁大好きが天元突破しているバカとも言える二人が黒いオーラを垂れ流し、見当違いの嫉妬を皇帝に叩きつける。

 幸いなことにすぐさま手を取り嫉妬してくれたのが意外と嬉しいのか優しい笑顔で『ありえませんから』と答える嫁たちのおかげで事なきを得ることができ、精神耐性のネックレスを身に着け下を向いていたジルクニフはそれに気づくことはなかった。

 ただそれを向けられた方向にいたバジウッド、ニンブル、フールーダの三人は脂汗を浮かべて気絶寸前だったりする。

 

 

 

 

 

 

 

 

「――私が魔法省に!?」

「復学したいというならそれもいいだろう。だがすでに第三位階を行使できるお前に教える者などおらんぞ? 同じ位階を使えない者がいないわけではないが、それは教師の中ではだ。最終的に魔法省に勤めようというなら今からでも構わんぞという話じゃな」

 

 会食を終え食後の飲み物を頂きながら、話題はアルシェの進路とモモンガの質問へと移る。この長いテーブル席では会話がしづらいというのもあって、最初の部屋に戻ってきている。

 ジルクニフ、フールーダとソファで相対するのはモモンガの他にアルシェとレイナース。他の者たちはペロロンチーノを中心にして別席で『威光の主天使(ドミニオン・オーソリティ)』対策会議を行っている。

 

「悪い話ではないのではないかしら? 少し驚いたけどクソじじいにしてはいい提案だと思いますよ」

「そうだな。それでクソじい。モモンガ殿の質問には答えられるのか?」

「お前たち容赦がないのう!?」

 

 完全に自業自得なのだがフールーダの扱いはこの場では地に落ちている。次女がいないせいで完全に素に戻っているものの周囲の目は冷たかったり。

 

「モモンガ君が()()()()()()()()()というならこれも魔法省じゃな。学院は基本的に魔力系魔法全般を教えている。太平の世なら生活魔法こそが人生において重要とは思うのだがままならんの。まぁ両方とも戦後の話にはなるだろうが魔力系魔法が使えないお主には少し厳しいかもしれんぞ?」

「それでかまいませんので是非お願いしたいです!」

 

 この世界には自分たちの知らない不可思議な魔法がある。手から塩や香辛料を生み出したり、紙を作り出したり。指先に小さな火種を作ったり、お皿の上の食べ物を温めたり。そのうえ新たな魔法を作り出す者までいるという。

 ユグドラシルにおいてレベル100魔法詠唱者の取得魔法数上限は300個。課金やゲーム時代のモモンガのように儀式によって取得魔法数を増やすことも出来るけれど、今のモモンガでは300に届かないのが現状だ。

 このルールが覆らないであろうとは思う反面、数々の仕様の変化を知ってしまうと試してみたいという気持ちが湧いてくるのだ。

 

「それとアルシェさ……アルシェの就職の件ですけれど」

 

 ここからがモモンガの戦いだった。ガゼフ戦士長とかいう特異な例を知ってしまったので、国に仕えることになるかもしれないアルシェを気遣ってか、細かい労働状況を根掘り葉掘り訊ねていく。

 ブラック企業勤めだった自分と同じ目に合わせてやるものかという使命感すら纏い、出される条件に首を振りつつ改革案まであげていく。

 

「私も12のころから働いておりましたが16といえばまだまだ子供です。体力的にも・・・」

「この年で第三位階と言えば有望ですよね。将来はきっと・・・」

「それに若くて可愛いじゃないですか。そんな娘がスゴイんだぞって知れば現場の・・・」

 

 教師然とはしているものの、こういった話には疎いフールーダは流されるままに納得し、ほぼすべての案を了承していく。もちろん負い目もあり最初からどんな条件でも飲むつもりではあったのだが、気押された感の方が強い。

 ジルクニフは面白いものを見たという表情を見せつつも、交渉人としてのモモンガの弁舌に感心していたりして。

 レイナースもモモンガの新たなる一面を知り驚きを隠せない。少し格好いいですわなんて感謝こそすれど今まで思ってもいなかった気持ちが芽吹き始める。

 

 そしてアルシェも年上の男性に初めて「可愛い」と言われたことに頬を染めつつ、それ以上に自分の両親に幼いころは受けていたであろう同じような温かさを感じてしまう。出会って数日しか経っていないというのに自分のアピールポイントがどれだけ出てくるのだろうと感心してしまい、それだけよく見ていてくれているのだと嬉しくもなってしまう。

 極めつけは自分を気遣ってか『魔法が使えない者』との評価を涼しい顔で受け止め、隠蔽のアクセサリーを外さない優しさに胸の内が温かくなる。

 

 まあ、自分がぺロペロされたくないが故の勘違いでしかないのだが、何故か好感度はうなぎのぼりだったり。

 

 

 

 

 なお別席から凍えるような視線を放つアルベドに二人の女性はまだ気づいてはいない。勿論対策会議は順調に進んではいたのだが、

 

「そういえばバジウッドさん看護師のパンツ何色だった?」

「赤でしたよペロロンさん……上が紫で下が赤とかうちの妻たちのようなリアルさが生々しくて正気を保つのが大変でしたぜ。なあ激風」

「わ、私に振らないでください!」

 

「うわぁエロっ」

「なるほど……色を揃えればいいというわけでもないのでありんすね、勉強になりんす」

 

 変態二人と、妻と愛人を何人も抱えるバジウッドのせいで度々脱線してしまうのはご愛敬だったり。

 




新刊読み終わったら投稿しようと思ってたら遅くなった。すまんのw


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39 レイナースの大切なもの

「聞きなれない言葉もあったんですがボスやレイド。違いはさっぱり分かりませんが群れの中で一番強いモンスターがボスで、大人数で倒すことが前提のモンスターをレイドって言うらしいんですよ……つまりそんな特別な敵ではなくてただのモンスターらしいんですわ」

「あれが……いやあれは仮想敵だったな……あんな強さの怪物をただのモンスターと言えてしまうのか」

 

「ペロロン殿が言うには国にそれが大量に湧く寺院のような大迷宮があったそうです」

「……悪夢だな」

 

 会食を終えほんの数分前にモモンガたちはこの部屋を出ている。城門まで見送るべきだろうかと考えたが、何でも厨房も見学していきたいらしくレイナースを案内役にしてそれを終えたらそのまま帰還するそうだ。

 ならばとそちらはロウネを付き添いとしてレイナースに任せ、こちらは早速とばかりにバジウッドとニンブルの報告を聞くことにしたのだ。

 

「まず一点。ダメージリソースの九割はフールーダ様でしたが、我々の攻撃も通っているらしいです。仮想敵のゲルヒルデ様の装備に阻まれていただけで実際の敵は防具などしていないので『闇の錬金溶液』があればもう少しダメージが通るはずと言っておられました」

「じい。闇の錬金溶液とは?」

「聞いたことはありませんが……錬金術銀と同じような物かと。対アンデッド戦では武器に銀の油膜のようなものを張り攻撃を通します。闇と言うからにはその反属性的な物でしょうが……」

「無いというわけか……ふむ」

 

 フールーダさえ知らない錬金術。畑違いとは言えあらゆる魔法を追求しようとする魔法省のトップが眉を寄せる仕草に溜め息すら出てしまう。戦力面どころか魔法技術においても彼らの国に遅れているのだと。

 なおユグドラシルのNPC露店で普通に売っているのを彼らは知らない。

 

「あぁ毒とかでもいいらしいですぜ」

「それを早く言え」

 

「もう一点。ペロロンチーノ殿は上空の不可視化した皇室空護兵団(ロイヤル・エア・ガード)に気付いておられました。数もピッタリ当てられて冷や汗が出ましたよ。あれを全部とフールーダ様と同じように上空から魔法を放てる者がいたならかなり時間は短縮できるのではとおっしゃられておりました」

「参ったな……ニンブル、してやられたな」

「くっ、申し訳ございません。あの覇気を中てられた今ならわかります。モモンガ殿とペロロンチーノ殿の恐ろしさが」

 

 最初にモモンガとペロロンチーノに関してはそれほど警戒する必要は無いと皇帝に進言してしまっていただけに、ニンブルは顔を引きつらせる。ジルクニフにとっては少し実力を見誤ったなと言う程度で叱責するほどの事ではないのだが、当の本人はそこまでの脅威には気づいてなかったり。

 

「うん? 何の話だ? とにかく明日以降もモモンガ殿の護衛が()()()来てくれるそうだから試させてもらうとしようか。しかし王国に全軍どころかフールーダまで出さねばならぬとは……」

 

 自身の護衛どころか国の守りが薄くなる。それを見越して戦闘ではなく個人の護衛としてゲルヒルデを借り受けることが出来たのは僥倖だった。ただこの借りはかなり大きい。

 

「本当は戦争なぞしている場合ではないのだがな……よし。それではフールーダの罰でも考えようか。しかし本当に温厚な方達で良かった……」

「レイナースが出合い頭に武技をぶっ放したって聞いとりましたが……あっしでもそうしてますな」

「レイナースは良い仕事をしましたね」

 

「あれは道を追求するものには避けて通れないものなのだよ……魔法の深淵……おい!? 待つのじゃ!」

 

 それでも頑なに自分の正当性を語ろうとするフールーダに良い笑顔で拳を振り上げる三人だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて……戻ってきたところでレイナースとアルシェを問い詰め……モモンガ様!? どうされましたか!?」

「ちょっと……限界。あはは、どこまでいっても恰好がつかんなあ私は」

 

 生パスタをお土産に厨房見学を終え、献上品というわけではないが『あのお肉』をロウネ・ヴァミリネンさんに渡して転移で早々とお暇させてもらった。

 レイナース邸の庭先に出るなりぐったりとした表情で膝を突くモモンガ。一行の代表ということもあってかモモンガなりに言質を取られない様に、嫁たちに手を出されない様になどとひどく気を使っていた反動が出たのだろう。

 アルシェの件にしても熱を入れて語りすぎたかもしれない。

 

「何言ってんだよ。すげー格好良かったって! アルベド。モモンガさんには今癒しが必要だ。添い寝と……そうだな適度におっぱいを与えてやってくれ。()()()()()()()()

「ちょ!?」

「お任せください!」

 

 さっとモモンガをお姫様抱っこして風のように屋敷内へ消えていくアルベド。その様子をうんうん頑張ったなモモンガさんと微笑ましく眺めていたペロロンチーノだったのだが、

 

「わ、妾にだって出来るでありんす!」

「シャルティア様……わかります、わかります!」

「――ペロロンさん、最後は余計」

 

「い!? いやそういう意味じゃ!? 俺はむしろ大好きだから!」

 

 微乳三人娘に囲まれジト目で見つめられる。あれ? でもなんかこれご褒美じゃね? とか考えてしまうペロロンチーノはやはり度し難い変態だったりするのかもしれない。

 

 

 

 

…………

 

 

 

 

……

 

 

 

 

 

 

 

 

 就寝するにはまだ早い時間と言うのもあってかリビングで雑談に興じる四人。アルシェの妹たちはすでにぐっすりだったようで、メイド二人にお茶を入れてもらい今日の出来事を語り合う。シャルティアは勿論ペロロンチーノの膝の上だ。 

 

「ペロロンさん、シャルティア様。モモンガさんはなんで生活魔法を学びたいなんて言い出したのです?」

「……お二方に『様』はやめてくれと言われているのを知ってはおりんすが、なんで私だけ変わらないのかの方が疑問でありんす」

「――私も気になってた。モモンガさ……モモンガ様はあんなに強大な力を持つマジックキャスターなのに」

 

「あはは、アルシェもやめてあげてくれよ。いきなり様付けで呼ばれたらモモンガさん泣いちゃうぞ? そうだなあ、一応は聞いているんだけど……大魔法使いのジレンマって感じかなあ」

 

 この世界に降り立って二カ月余り。日課になってしまった超位魔法を除くと転移以外の魔法使用は殆ど無いと言っていいだろう。

 爆炎魔法が放てたとしても竈に火を付けることが出来ない。都市を水に沈められるとしてもコップに一杯の水も出せない。

 

 以前にも述べたがモモンガは、この世界に来るまでレベル上げに効率の良い魔法しか取っておらず、選択枠を残しておいたおかげかこの世界において新たに<伝言(メッセージ)>などの魔法を選択できた。

 低位階に生活の質を向上させる有意義な魔法もあるとはいえ選択数の限界はある。『身体をきれいに洗える魔法』を取得したせいで『命の危機を打開できる魔法』を選択できなくなったとしたらそれこそ本末転倒であり、だからこそ生活魔法というものに興味を引かれたのだろう。

 

「――でもあれは本来魔力系魔法第一位階に届かない者たちが使うゼロ位階とも言える魔法で…‥」

「ちょっと理解できないだろうけどだからこそなんだよな。俺たちの使用する魔法とは違うものが選択できたとしてそれが選択数に入るのかどうか。まあ俺もモモンガさんも内心無理だとは思ってるんだけどね」

「つまり好奇心から……ということですの?」

 

「あー……違うのでありんすよ。なんともむず痒いというか……申し訳ないというか……」

「料理を頑張ってくれてるアルベドやシャルティアに火や水を楽に出せたら助かるかなって。それだけだな」

 

 大体よくあるラノベの魔法と違いすぎるんだよなあ、なんて他の三人には全く理解できないことをぶつぶつ呟くペロロンチーノ。

 話自体はあまり理解できなかったけれどその動機に温かいものを感じ、ついつい笑顔になってしまうアルシェとレイナース。抱っこされるシャルティアが頬を染める様子にも微笑ましくなってしまう。

 

 大好きなんだなあ愛されてるんだなあと男性二人への好感度はさらに上がってしまうのだが、残念なことにアルベドの尋問タイムが伸びることにもなるようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぬぅううう!! ふんずぅぉおおおお!!」

 

「――れ、レイナースさんファイトです!」

「レイナースおねえさまがんばえー!」

「がんばえー!」

 

「婦女子が出しちゃいけない声出してますね……」

「細い目が開きまくってて怖いんだが……」

 

「……シャルティアどうするのよ。あなた無茶苦茶慕われているのだから言動には注意を払いなさいよ?」

「え? 妾のせいでありんすか!? まあ、あそこまでメイド服が欲しかったとは予想外でありんしたけど」

 

 明けて翌日。レイナース邸では例のごとく奇妙な光景が繰り広げられていた。

 

 朝食を終えた一行がまず尋ねたのはレイナースが戦争に参加するかの確認だ。元々は皇帝の護衛騎士という立場であり、近年では戦場に立つことは無かったのだが状況が変わってしまった。

 皇帝ジルクニフからどちらでも構わないとの特例を言い渡されてはいるものの、帝国が王国に負けて安寧を妨げられるのは個人としても避けたい事実。たった一人の進退でどうにかなる話ではない様にも思えるのだが、個人の技量差が激しいこの世界では四騎士という一騎当千の自分が出れば確実に戦況に良い影響を与えることも分かっている。

 つまりは選択肢など初めから無かったのだ。

 

 それを聞き終えたペロロンチーノは虚空より一本の弓を取り出す。この世界でもカルネ村で使用したことのある美しく真っ黒な弓だった。

 それを貸し渡されたレイナースではあったのだが、どう力を入れようともびくともしない。残念ですがとお返ししようとした瞬間シャルティアから悪魔の囁きが聞こえたのだ。

 

『出来ないのでありんすか? 妾からはペロロンチーノ様に頼んであのゴスロリメイド服を上げてもよかったのでありんすのに、それなら』

『お待ちくださいませ!!』

 

 そんなこんなで場所を庭に移して全力奮闘中のレイナースなのだった。

 

「装備制限あるからなあ。でもあれが手持ちで最弱の弓なんだけど」

「初期装備はナザリックですからね……重量制限があるから当然なんですがレベル50からでしたっけ? でも私たちと違って矢をつがえてますし、弓も少し引けてますよ」

 

 なお今のレイナースの装いは朝食時のままの簡素なノースリーブワンピース姿であり二の腕が丸見えなのだが、普段の倍ほどに筋肉が膨れ上がっているのが見て取れた。能力向上などの武技を全部腕へと集中させ闘気を放ち雄たけびを上げる姿は修羅のようで、あの清楚系涼しい目元のお姉様はどこにもいない。

 

「ぺ、ペロロンさん!! 足は! 足も使ってよろしいですの!?」

「う、うん。壊れたりしないから存分にやっちゃって」

「ありがとうございます! ふんぬぉおおお!!」

 

 弓を汚さない様にと靴を脱ぎ棄て座り込み、両足で弓を支え両腕の渾身の力を込めて弦を引く。

 

「……なにがあの娘をそこまでさせるのかわからないけど面白いわね。レベル制限を覆しているわ」

「あのメイド服を気に入っていたのは知っていたのでありんすけどここまでとは……パンツ丸見えなのに鬼気迫りすぎて嬉しくないでありんす。別の意味で滅茶苦茶面白いでありんすけど」

 

 奮闘むなしく弦を引くことは出来たけれど、矢は力も無く狙いもあったものでは無かった。ぐったりと肩を落とすレイナースを不憫に感じたモモンガは、手持ちの多少筋力が上昇するイルアングライベルという名の籠手を貸し与えることにした。大股開きで可愛らしいピンクのパンツを見せてくれたお礼とは思ってても言わない。

 

「あ! 結構苦しいですけれどいけますわ!」

「それならあの服を着ればもう少し楽になりんすね。それにしてもなんでそこまで」

 

「わたくしの大事な恩人の中で一番お世話になったシャルティア……さんを感じられたからでしょうか? デザインが可愛らしくて惚れ込んでしまったのもありますけれど、シャルティアさんに守られているような安心感が嬉しくて、本当に頂けるのならと無我夢中でしたわ」

 

「も、もう降参でありんすよ。でもあれはレイナースに似合うでありんすけど普段着では無いのだから……ペロロンチーノ様、モモンガ様。今日は帝都の観光へ行く予定でありんしたけれどできれば」

「ふふっ。何を照れてるのよシャルティア。まあ双子に入用の物もあるし良い案だと思うわ」

 

「クククっ。エ・ランテルだろ?」

「あはは。アルシェたちの普段着もなんとかしませんとね。あの職人たちの事だからもしかするとアルベドとシャルティアの追加衣装とかも作ってそうだな」

 

 その数時間後にまさかスポットライトを浴びて舞台に立つとは思いもしないレイナースたちではあったが、庭先では先ほどとは打って変わった朗らかな笑いが溢れていたのだった。

 

 

 




時間が取れなくてすまんのw

普通のラノベとかで出る魔法って水を冷やして氷の矢にしたり、お風呂のお湯にしたり汎用性がすごいのが多くてずるいよねw


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40 初めては上に乗ってするってお母さんが

「良いのではないでしょうか。お兄様が死んでも実質王はまだ健在なのですから現状維持ですし。ラキュースたちも依頼を受けてくれましたからお父様を癒すための貴重薬草も見つかるかもしれません」

「……お前兄に対して辛辣すぎじゃないか? まあその通りなんだがエリアス(レエブン候)は一応止めようとしたぞ」

 

 積み重ねてきた心労と年齢。そこへ息子であるバルブロ第一王子の惨殺という件も重なり立つこともままならなくなったランポッサ王。療養という名目で姿を隠してはいるがこのまま退位するのであろうことは王派閥、貴族派閥に限らず全ての臣下の暗黙の了解だった。

 まだ正式な儀式や式典を行ったわけではないけれどザナック第二王子の即位は時間の問題であり、諸外国には王が成り代わったと伝えられていてもおかしくは無い現状。

 そんな中、翌日に王国総大将として戦場に赴くザナックは、宮殿の私室で忙殺されそうな書類仕事を妹であるラナーの来訪に止められ、しばしの休憩をとることになった。

 

「戦闘としての適任は戦士長だとは思いますけれど、政治としての戦争ならばお兄様がやるのは当然じゃないですか。違いましたか?」

「違わないが普通はそれを当然とは考えんぞ……なんだ……お前この戦争で王国が()()()()だろう事も分かってるんだろ?」

()()()()のでしょう? 王国貴族の求心力も高められて一石二鳥どころか三鳥なのですからお兄様があの水晶を自らお使いになるのは面白いと思いますよ」

「……俺は全然面白くも無いんだがな」

 

 話題は此度の戦争の要とも言われているアイテム。鑑定の結果『威光の主天使(ドミニオン・オーソリティ)』を呼び出すことが出来ると判明した水晶についてだ。その結果が主要貴族にも知られたものとなっているのは、ガゼフ・ストロノーフ帰還後頻繁に訪れる賊の存在にも起因するのか、戦場への投入も早い段階から王へ進言されていた。

 盗まれる前に使っちゃえと言う考えではないだろうけれども、魔法に疎い王国貴族でもそれだけの価値がある物だと気づかされたのだ。

 それを仮ではあったとしても王が使うのは表向きに八本指討伐を指揮したことになっているザナックにとっては更なる追い風。王家簒奪ではないかなどと見当違いな陰口をたたく貴族を黙らせることも出来、強い王を内外に知らしめることも出来る。

 

 

 ただこれは想定以上にうまくいった場合の話に他ならない。

 

 

 まず魔法詠唱者でなくても扱えるという事以外不明な点が多すぎるのが難点か。一度きりの召喚であり、召喚時間がどれくらいあるのかも分かっていない。元より呼び出してみなければどんな姿形なのかも想像できない。

 十三英雄の話にも出てくる天使という存在がどんなものかは分かっていないけれど、絵本や絵画の類には大きな翼を生やした人間のような美しい女性が描かれることが多いのだが。

 

「どんな化け物が出てくるのでしょうね」

「……だな。正規兵ならともかくとんでもないものが出てきたら招集された民兵は蜘蛛の子を散らすように逃げ出してもおかしくないな」

 

 お前みたいな容姿の化け物なら混乱は抑えられるだろうけれども、実際に見てみなければ何とも言えない。目の前の化け物を相手にお前が出てきたら俺だけは逃げ出すがなとは思ってても言わないけれど。

 

「それでも一撃……貴族や騎士や民兵が王国が勝ったと思える一撃を放てさえすれば、例年通りの負けたとは言わないだけの引き分けでいいんだ。俺が死んだら帝国との交渉は頼んだぞ」

「……別に生きててもお兄様は私を()()()()の場に連れて行く気ですよね? そんなどうでもいいことより私はモモンガ様一行の行方を調べた方がいいのではと思うのです」

 

「お前、俺今すごい格好良い事言ってるのにどうでもいいはないだろう……」

 

 ザナックの戦争における真意はラナーの掌の上。何をやり遂げようとしているのかは理解していたが、なんで今切なそうな顔になっているのかはさっぱりわかっておらず兄の返答に可愛らしく首をかしげる。

 なんだかんだで傍目には仲のよさそうな兄妹に見えるのに残念極まりなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「依頼を受けるとは言ったけど……ロバーだけじゃなくって俺たちもいいのか?」

「えぇ。ヘッケランさんはリーダーとしてだけではなく近接戦闘において類まれなる才能を持っていると聞いてますし、イミーナさんの弓の腕は超一流だとアルシェから伺っていますので」

 

「も、もう。アルシェったら嬉しいけど言い過ぎよ」

「王国で虐げられていた元娼婦たちですか……私に出来るのならそんな方達の為にこの力を使ってみたいですね」

 

 久々にモモンガと護衛の長女ブリュンヒルデが訪れたのは『歌う林檎亭』。戦争直前という事で冒険者のみならずワーカーの仕事も激減しているらしく、いなければ伝言だけでもという心持だったのだが、昼近くにもかかわらず三人に会えたのは僥倖だった。

 なおアルベドたちは一足先にカルネ村へ赴いており、アルシェも妹たちと共に遠足気分で参加している。

 

「アルシェは知らないだろうから聴いてないと思うけど俺たちチームも潮時だったんだよ。あいつが抜ける抜けないに拘わらずイミーナと結婚するならこの家業から足を洗えってロバーに散々言われてたからな。ただもうちょっと貯えが欲しくてヘビーマッシャーのとこの大型チームに籍だけ置かせてもらうかって話をしてたんだ。まあそれでも今の時期は仕事が無いんだがな」

「ちょっとヘッケラン!? そんなの私も今初めて聞いたわよ! け、結婚って……」

 

「私もいずれは小さな村で神官……そんな大層なものではありませんが人々を癒せる仕事をしたいと思っていたのでモモンガさんのお話はとても興味深いです」

「ロバーも私をスルーしないでよ! もう!」

 

 今日から天使の次女である看護師と三女の変態は皇城へと通っている。仮想敵の役割と数日後に戦場へと出立するフールーダと高弟・四騎士・皇室空護兵団の代わりの護衛でもあるのだが、表向きはただの観光という事になっている。

 あの救出劇から一か月以上経っているのもあってか、元娼婦たちは心身ともに回復の兆しを見せており、足の健を切られ歩くこともままならなかった元冒険者の娼婦たちも倉庫の外へ出て運動をすることまでできるようにはなった。それでもたとえ過保護と言われようとも回復要員を数日もカルネ村から離すのは頂けない。

 

「期間は戦争終結まで。帝国騎士が戻ってくるまでになりますから往復で長くても三週間ぐらいでしょうか。依頼料はどれくらいになりますかね? 相場が分からなくって」

「三週間の護衛とリハビリの手伝い。それに戦闘訓練と弓の指導か。期間は長いけど飯も出るうえ危険も無いし金貨一枚でも多いくらいなんだが……それでいいか?」

 

 正直これは仕事でも何でもないボランティアだ。金貨一枚と言えば同じ期間この宿に泊まれるほどの大金ではあるけれども、冒険者であればミスリル級の腕を持つフォーサイトを雇うには値しない。

 それでもあの場所で行われる戦争終結までアンデッドの間引きという常設依頼とも言える仕事すらなく手をこまねいていたのだ。それにアルシェの恩人からの心温まる依頼ともなれば金にがめついヘッケランと言えども高額な請求は出来ない。無償でとは言わないのが彼らしいとも言えるのだが。

 

「あぁ良かった。それと名前は伏せますけどとある方からカルネ村から抜ける二人に給与が出るそうなので半額をお渡ししますね」

 

 三週間後に何故か一日一人一枚相当の金貨63枚と、その給与の半額だという金貨500枚を渡され困惑することになるフォーサイトの三人なのだが、モモンガとヘッケランは朗らかに笑いあい固い握手を交わすのだった。

 

 

 

 

…………

 

 

 

 

……

 

 

 

 

 

 

 

 

「準備は出来てるとは言ったけど真っ暗な穴に入ったら村に着くなんて信じられんだろ普通……」

「弓を教えるってレイナース様に!? ってかあれなにやっているのよ!?」

「あのご婦人はアルベドさんでしたか……あれ? 今モモンガさんを見つめている間に身体に当たりませんでしたか!?」

 

「モモンガ様ぁ♪」

「アルベド―! おまたせー!」

 

「聞けよ!?」

「聞きなさいよ!?」

「なるほどアルシェの怯えようにようやく合点がいきました……」

 

 カルネ村の広場にあるモモンガたちのテントの近くではレイナースが弓の特訓を受けていた。メイドドレスを着こみ右腕に無骨なガントレットを装備し真っ黒な弓を構えるレイナースが狙う先はアルベドだ。

 まだまだ粗い狙いではあるもののどこに飛ぼうともさっと飛んできた矢を()()()それをアルシェと妹たちに優しく手渡す。

 

「レイナースお姉さま持ってきた!」

「わたしも持ってきた!」

「――汗びっしょりですよ。大丈夫ですか?」

 

 矢先が潰れるのがもったいないと始まった練習は、最初こそ驚いていたアルシェであったけれどこの人たちに常識が通用しないのは今に始まった事ではないと思い立ち、屋敷に籠りきりだった妹たちの運動兼レクリエーションとして楽しんでしまっていた。

 

「はぁはぁ……ありがとう! やっぱりアルベドさんもただ者じゃなかったのですわね……服に当たったのなら納得は出来るのだけどそもそも『飛び道具が無効』ってこういう事だったのね」

 

「どうでありんすか? ペロロンチーノ様」

「う~んやっぱり俺には教えられんなあ……感覚的に撃ってるわけだしどうやっても当たるし。よしモモンガさんも戻ってきたしそろそろ休憩にするか」

 

 ペロロンチーノとシャルティアは監督役。『世界最高峰の弓手でありんす!』と熱弁してくれたもののそれを否定する気は無いけれどレイナースにかけるアドバイスが見つからない。小一時間ほど観察していたけれど良い悪いさえ言えないのは仕方のないところでもあろう。

 モモンガで例えるならリアルで使った事も無い魔法をどう教えると言うのか。ギルメンであるたっち・みーのように警察官であり武道に長けたものであれば違ったのだろうが、ペロロンチーノがリアルで弓を扱った事など皆無であった。

 

「そろそろお昼でありんしたか。『ばーべきゅう』をするのでありんすならエンリたちも呼んでくるでありんす。クククっ……そろそろンフィーレアとどうなっているのか聞いてみるのも面白いでありんすね」

「あはは、そうだな! あのお肉も俺たちじゃ調理できないし頼むとするか」

 

 まさかエンリから『アルベドさんとシャルティアさんにだけですよ……すごく……気持ちいいものだったんですね』なんて返答が帰って来るとは思ってもいなかった二人は内緒にすることを約束するとともに大爆笑であったという。

 なおアルシェと双子にフォーサイトやレイナースといった面々も初めて食べる極上の肉に大満足であったようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃帝国皇城にある訓練場では天使たち二人が楽しそうに戯れていた。まあ楽しんでいたのはその二人だけなのだけれど。

 

「ふぁー! ふぁー! もっと♪ もっとよぉおお♪」

 

「ふふっ、それまでよヘルムヴィーゲ。確実にとは言えませんけれど30分切りましたねぇ。ここにご主人様たちに鍛えられたレイナース様を加えれば10分もかからずに済むかもしれませんよ。どうでしたかジル君?」

「ゲルヒルデ殿より華奢で少々不安であったのだがなんとも……た、ただ『ジル君』はむず痒いというかやめていただ」

「もっとお姉さんに甘えていいのよ? おっぱい揉む?」

「なっ!?」

 

 母性溢れるというか巨大な母性の象徴に手を添え、愛くるしく微笑む看護師姿のとんでもない美女に翻弄されるジルクニフ。『鮮血帝』とまで呼ばれる殿上人の頬を赤く染め上げられたのは帝国始まって以来の快挙かもしれない。

 

「へ、陛下は楽しそうだな……いやそうでもないか。次女だとおっしゃられていたゲルヒルデ殿より酷いなあの方は……戦争に行く前に心を折られそうだぜ」

「反撃が無い分三女とおっしゃるヘルムヴィーゲ様の方が楽なのですが……あの高笑いと涎を垂らさんばかりの言葉攻めは心を壊しに来てますよね……」

「……(おっぱい揉む!)」

 

 四騎士を含め弓に長けた近衛たちも地面に仰向けに寝転び肩で息をするほどの地獄絵図。怪我人などはいないのは幸いだけれども大分心を折られかけている。

 一人レイナースの盾になる予定の『不動』ナザミ・エミックは陛下に嫉妬の瞳を向けてはいたが。

 

「……紐だったな。あの大きさだから縄になるのか? どう思う激風?」

「あれパンツなんですか? 何にも隠してなくってアレはちょっとずるいですよね」

 

 疲れもあったのか大分毒され始めてきたニンブルに、整え始めた呼吸を再び荒くして笑うバジウッドだった。




おかしいな……そろそろ闘技場へ遊びに行ってエルヤー君が残念なことになる展開があってもいいはずなのに全然進まないw


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41 奥義

 そんなこんなでバーベキューを堪能した一行はアルシェを含むフォーサイトの面々に元娼婦たちを紹介し、仕事の打ち合わせをすることに。

 神官であるロバーの仕事は言わずもがなだが、ヘッケランとイミーナにはレイナースではなく彼女たちの戦闘訓練を担当してもらうことになる。

 現在村の狩猟および食肉担当、そして自警団としてラッチモン氏とエ・ランテルより移住してきた元アイアン級冒険者ブリタが頑張っているのだが、元冒険者であった数人の娼婦たちは大恩ある村にいつかは貢献したいと自警団に参加することを希望していたからだ。

 そして魔法の素養がある者もいるかもしれないと、近く魔法省に勤めることになるアルシェには人にものを教えるという新人研修的な意味合いで一緒に参加してもらうことになった。妹二人は元娼婦たちの癒し要員にもなるだろう。

 後の話ではあるけれどその過程で漆黒の剣ニニャの姉であるツアレが魔力系第一位階魔法を使えることがわかり、両者の自信にもつながっていくことになる。

 

 そのほか村長や村の顔役であるエモット夫妻の紹介などを済ませ、再びレイナースの戦闘訓練を始めるために今度は森へと向かうことになった。

 なおアルベドとシャルティアは昼食の支度の途中からエンリと花開くように笑いあい、何を話していたのかは知れないが大層盛り上がっていたので不参加の方向だ。勿論付き従おうとしていたけれど二人に友人と呼べる者たちを増やしたい気持ちから、夕食やエ・ランテルで足りなかったアルシェと妹たちの普段着などの制作を頼み、護衛に長女ブリュンヒルデを擁し四人で大森林へと分け入っている。

 

「ご主人様。妹が度々申し訳ございません」

「二人でこんなところまで来ているのか……」

 

「ものすごく強大な力を感じる魔獣ですわ……これが噂の森の賢王」

「俺にはデカいハムスターにしか見えないんだけどな……」

 

 小一時間程進んでもゴブリンどころか野生動物にも遭遇しない。以前ンフィーレアたちと薬草を取りに来た方向とは違うけどあの時も結局ウルフ数頭を倒しただけだった。

 この森、意外にモンスターとか少ないのだろうかと考えていた矢先に巨大な魔獣に跨ったネムとグリムを発見。色々と突っ込みどころがあったが、双子が遊びに来ていることを教えたらすっ飛んで村へと帰って行った。

 

「早朝からたたき起こされて散々でござるよ。それで娘子たちの主が何の用でござるか?」

 

 なんでもちょくちょく連れ出されては森を駆け回っているのだとか。そのおかげか縄張りがより強固なものになったようで、ここらへんのモンスターは遠くに散ってしまったそうだ。

 

「ネムとグリムが迷惑をかけたようですまないな」

「なあに良いのでござるよ。それがしも暇であったし子供をあやすのも楽しいものでござる。母性本能というやつでござろうか」

 

「雌なのか……まあそれはおいといて、ここじゃぁレイナースさんの練習にならんな。かなり遠くまで行かないと」

「これだけの魔獣を前にしてもお二人は平常ですのね……」

 

 もう少し話してもみたいけれどレイナースには時間が無い。このまま森を進むのは時間がかかりすぎると森の賢王に別れを告げ、空からの探索を開始するのだった。

 

「な、慣れませんわ!? 手を! 手を離さないでくださいね!?」

「ひゅーひゅー! モモンガさん役得だな!」

「ん、んん! そういえばペロロンチーノさんもアイテムで飛べたんでしたね……なんでいつもシャルティアに跨って……って聞くまでも無いか」

 

 レイナースに<フライ>の付与されたネックレスを渡し、使い方を教えるように手をつなぐモモンガ。普通に飛び上がるペロロンチーノに若干あきれ顔なのは、照れ隠しでもあったり。

 美人の嫁がいようとも、こうまで近いと女性に免疫の少ないモモンガはドギマギしてしまう。

 

 そんな楽し気な空の旅も辺りの風景が一変したことと、先行していたブリュンヒルデの一声で終わりを告げるのだった。

 

「ご主人様! 微弱ながら生体反応がございます!」

 

 

 

 

…………

 

 

 

……

 

 

 

 

 

 

 

「う~気づいてくれてよかったあ。あ、もう少しそこへお水をかけてくれないかな」

「こっち? あぁこの木が本体なのか」

「葉っぱが髪の毛みたいになってるんだな、結構可愛いなあ。ユイチリは……エロゲか。ドライアードでいいのかな」

 

「良く気付きましたねブリュンヒルデさん」

「霧が深くて広範囲は索敵できなかったのですが、一帯が枯れ果てているのにこの木にだけ生命力を感じまして。偶然に近いですよ」

 

 詳しく話を聞いてみると彼女はドライアードで名前はピニスン・ポール・ペルリア。時間の感覚が人間種と違うせいか正確には分からないが、少し前に『世界を滅ぼす魔樹』が目覚めこの一帯の養分を吸い取り始めたのだと言う。

 というか霧が晴れ始め、すでに遠くの方に天まで届きそうな巨木が見えていたりする。

 

「君たちは以前約束してくれた七人組かな? 羽の生えた人もいるし! お願いだよ、前みたいにあの魔樹を倒しておくれよ!」

 

 残念ながら全くの別人だけど丁度良い練習相手になるかとピニスンの願いを叶えてあげることにした。

 

「か、叶えてあげることにしたじゃありませんわ!? 大丈夫なのですか!?」

「うーん辺り一帯の様子から養分を吸い上げているっていうのはわかりますが、全く動かないですね」

「でかさ的にレイドボスかなあ? 危なかったら逃げることも考えておこうぜ。ピニスンは後で植え替えてやるから待っててな」

「久々の実戦で腕が鳴ります。前衛はお任せ下さいご主人様!」

 

「ごめん……自分でお願いしておいてなんだけど、あの大きさは違う……」

 

 飛び立つ四人を見つめながら思わず出た言葉は驚愕に震えていた。辺りの霧が晴れたことで改めてはっきりとその姿を現した魔樹。はるか遠くに見えるそれは魔樹本体であり、ピニスンが昔見たものとは桁外れの大きさだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「誰だっけ? 30年前にアダマンタイト級の冒険者が達成できたのなら楽勝だわ、なんて言ってたのは」

「鬼リーダー」

「鬼ボス」

 

「し、仕方ないじゃない! 組合の記録では踏破までに時間がかかったけど薬草採取は問題なく行えたって書いてあったんだから!」

 

「ラキュース声が大きいぞ。それであれはなんなんだ? というかツアーが何故ここにいるんだ?」

「まあ色々あって見張りのようなものだね。あれを起こした者たちがまた現れるんじゃないかと張っていたんだけど、君たちが現れたのは予想外だったよ」

 

 モモンガたちがいる場所から魔樹を挟んで反対方向。王国アダマンタイト級冒険者『蒼の薔薇』一行と白金のフルプレートメイルの騎士が木々に隠れるように潜んでいた。

 すでに自己紹介も済んでおり、元『蒼の薔薇』の仲間リグリット・ベルスー・カウラウの古い友人であるとイビルアイは紹介していた。

 

「……多分頭の上のボコッとしたのが薬草」

「……帰ろう鬼ボス。カルネ村経由で」

「おっ! それはアリだな。モモンガにも久々に会いたいぜ!」

 

「もう! 帰ろうとしないでよ! でも……さすがにこれはどうにもならないわね」

 

「30年前の冒険者というのはリグリットやガゼフの師であるローファンだろう? 奴らはこれを倒したのか? いや……そっと近づいて採取だけすればいいのか?」

「あー……それもありなのかな? ボクは一度攻撃したんだけど苛烈な反撃にあってね。どうやら攻撃判定を受けると活性化するみたいなんだよ」

 

 蒼の薔薇メンバーの視線が一斉にツアーに向けられる。知らない者達でもないし悪意ある者たちでもないのは明白であり、彼女たちの薬草採取という依頼を達成するための相談に参加することにした。

 

 

 ツアーことツァインドルクス=ヴァイシオンはアーグランド評議国の竜だ。この白金鎧は遠隔操作で動かしている身体の()()であり、それは彼女たちに教えることは無い。

 二カ月ほど前のある日いつものようにこの白金鎧を使って世界中を駆け回り、ユグドラシル由来の物を捜索していたのだが、偶然立ち寄った森でこの巨大なモンスターを発見した。

 一当たりしてみたところ()()()()()()()()()()()では触手の一本で撃ち返されてしまった。それでは()()()()で潰してしまうかと思ったものの反撃が来ない。どうやらある程度離されると戦闘態勢が解除されると分かったのは僥倖だった。

 

 ならばと今一度この場所に思いを馳せてみれば、一番最初の記憶は400年かそれよりもっと以前。突然空を割き現れた魔物の内の一体を、この地に封印したという竜王たちの話を。

 

 次の記憶は十三英雄などと呼ばれていた200年ほど前のこと。この場で仲間と一緒に触手の一体を滅ぼした事実を。

 

 最後の記憶は30年ほど前。リグリット(盟友)の土産話はアレが生えていた地に霊薬が育っていたという、竜としては大して興味も無い話を思い出す。

 

 確かあの時リーダーが『あれ絶対外宇宙からやってきたんだって! ザイクロトルだよ! あー同じ名前は拙いよな……ザイトルクワエと名付けるか!』なんて興奮して話していたが、つまりあれが封印されていた魔樹なのだろう。

 ただあれほど好戦的だった200年前の触手とは違った今の生態に違和感を覚える。それでもやはり倒しておくべきだろうかと思案していると、感覚に複数人の気配を感じ軽装鎧を身に着けた人間を発見する。気配を殺し観察していた結果、彼らがスレイン法国の隠密部隊だということと、魔樹の状態を確認しに来ただけだというのが分かった。

 

 ツアーが知るところではないが、数日前に法国の漆黒聖典と呼ばれる部隊が魔樹と交戦していた。とある秘宝を使い使役しようとしたのだが、射程が届かず限界まで近づいたものの300メートルはある六本の触手に阻まれ半壊。その秘宝を操るセクシーチャイナの老婆が死亡するという散々な結果だけを残し去って行ったのだ。

 

 この場でツアーが知ったのは、つまり魔樹を故意であるかは知れないが起こしたのは法国であるということと、隠密の会話からその者たちが再び現れるはずという情報だった。

 この魔樹が動きもせず、本能のままに大地の力を吸い上げるだけなのは法国の者たちによる魔法かなにかが原因であるのなら確かめなければいけない。

 幸いなことにこの身体は遠隔操作のがらんどうであるし、この場に待機させることは簡単なことだったのだが、何かトラブルでもあったのか一向に現れない。

 そんな中やっと現れた人間の気配に警戒していれば、現れたのは蒼の薔薇の一行という予想外の結果に驚き、数百年ぶりにリグリットが『泣き虫』などと呼ぶ少女を見つけてしまえば声を掛けずにはいられない。

 

 そんなこんなで現在に至るわけなのだが、キーノ(イビルアイ)が<フライ>や<転移>で接近して取ってくるという方針が決まり実行に移そうとしたところ、突如ザイトルクワエが覚醒し暴れ出す。

 触手の一本を振り上げたところその触手がスパンと切断されるありえない光景に、身動きすら取れず呆然とする一同だった。 

 

 

 

 

 

 

 

 

「当たりましたわ! すごい……私が300メートル近い遠距離を弓で飛ばせるなんて」

 

「お、おう。まあ的がデカイからな……って違うか。普通は届かないんなら成長してるって事だな。動き出したか……どう、モモンガさん」

「魔法で確認してみましたけどMHP(マックスヒットポイント)はレイド級ですね。レベルは分かりませんけどあまり威圧感が無いんだよなあ。逃げるのが最善ですけど村から近いのもあるし一当てはしておきたいです」

 

 そう言って大地に降り立ったモモンガは腰に差した剣を抜き放ち斜めに構え、魔樹を見据えつつつ腰を落とす。今更ではあるがモモンガとペロロンチーノはこの森に入るに至り初期のバンデッドメイル姿に装備変更しているわけなのだが、その行動に瞬時に反応したペロロンチーノは全てを察し言葉を紡ぐ。

 

「モモンガ……俺が天を落としてやろうか?」

 

 突如変わる二人の雰囲気に戦慄するレイナース。凍えるような冷たい瞳のペロロンチーノに膝が震えだす。

 

「邪魔をするなよペロロンチーノ? 大地を斬り、海を割り、空を裂くのはこの俺……モモンガだ」

 

 凄まじい威圧感についには尻もちを搗くレイナース。これから何が起ころうというのかと生つばを飲み込む。小さい声で何やら魔法の詠唱が聞こえた気もするが、ペロロンチーノの言葉にかき消される。

 

「この星を壊してくれるなよ? モモンガ」

「ひぃ!?」

 

 ついその言葉に声を漏らしてしまい、恐怖から口を押さえて震えを押し込もうとするのだが、モモンガから膨れ上がる覇気にこの世の終わりを感じてしまう。

 

「いくぞ! これが我が師直伝の技! 奥義!! リアリティ・スラッシュ(アバンストラッシュ)!!」

 

 不可思議な構えから振りぬかれた剣。その刃から飛び出す斬撃は大地を削り空を割り、遠方にいる巨大な魔樹の振り上げた触手を鮮やかに切り飛ばしたのだった。

 




アレの影響で趣味とはいえ執筆が滞ってしまって申し訳ない。腰がぶっ壊れても働かなきゃならんのは辛いねw 不定期投降ですがゆっくり続けていこうと思います。


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