ソードマンと呼ばれた者について (諸葛ナイト)
しおりを挟む

ジャップマニア
現在


勢いで書き始めました。
そこまで長くはならないと思いますのでお付き合いのほど、よろしくお願いします。


【1998年 7月10日 山口県】

 

 人類は戦争をしていた。

 それは『人類に敵対的な地球外起源種』と呼ばれ英語で言えばさらに長ったらしくなる存在。

 人々はそれを略しBETAと呼んでいる。

 

 BETAとの戦争が始まり約30年。人類は敗走をただただ重ね続けていた。

 そしてそれは極東の地である日本も同じだった。

 

 BETAが九州から日本に上陸したのは昨日。だというのにすでに福岡から熊本県までBETAが占領し山口県、愛媛県へと上陸を始めている。

 

 そんななかで在日米軍、日本帝国軍、国連軍は共に本州への本格上陸を防ぐために出撃、防衛を行なっていた。

 

「くそ!死ね!死ね死ね死ねぇ!!」

 

「120、残弾ゼロ!36はまだ余裕があるが……くそ!もうないのと変わらねぇよ!」

 

「後方は何やってんだ!支援砲撃の要請は!?」

 

「全部蹴られた。ッッ!次の集団が来るぞ!」

 

 戦場で、管制ユニットと呼ばれる場所でそれぞれが叫びを上げる。

 

 米国軍所属のF-15E、ストライク・イーグル12機で編成された中隊が群がり迫るBETA集団に対し、突撃砲による射撃を行っていた。

 他の部隊もおそらくそうしているのだろうが中隊の形を維持できている部隊はどれほどあるか、と疑問に思えるほど彼ら、人類は押されに押されていた。

 

 戦闘が始まってどれほどだろうか、と1人思う。

 彼は戦場に立ちまだ半年。しかし思考に混乱はない。ただ冷静に引き金を引き続ける。

 突撃砲から劣化ウラン弾が放たれ、それはBETAを肉片へと変えていく。

 

 彼の網膜に投影されている装備ウィンドウに残弾が表示されている。36㎜チェーンガンの隣に表示されている数字がかなりの早で数を減らしていき、そしてゼロになった。

 

「こちら、ドッグ11。36、残弾0」

 

 命綱とも言える突撃砲の残弾が0になった。だというのに彼の声はいったって冷静だ。

 その理由は部隊の中で彼のF-15Eの兵装担架にのみあるものが理由。

 

 弾切れになった突撃砲を雑に投げ捨てると背中の兵装担架を展開、そこにマウントされていた74式近接戦闘用長刀を装備。

 

 その光景を見たアーリードッグ中隊隊長、エヴァリス・バードウィンは頷き、彼に通信を送る。

 

「了解した。小型種は私の方で対処しよう。貴様は大型を狩れ」

 

「ドッグ11了解」

 

 声が帰って来るや否や声の主は跳躍ユニットを吹かし急前進、前腕が岩のようにゴツゴツしていることが特徴の要撃(グラップラー)級にその長刀を振り下ろす。

 

 瞬間、肉が切り裂かれ鮮血が舞い、F-15Eを濡らした。

 

 それを気にする様子もなく、膝の装甲ブロックから短刀を展開、逆手に持つと飛び上がってきた赤く大きな口を持つ戦車(タンク)級を切る。

 逆方向から迫る要撃級、それが振り下ろす一撃を機体を軽く反らすことでかわし短刀を突き刺し、間髪入れず長刀でも切った。

 

「へ、また始まったよ」

 

「ジャップマニアかよ」

 

 まるで余裕を見出そうとするように数名が嘲笑うように言う。

 

 事切れたそれを盾にしながら前進、別の個体に近づくと盾にしていたそれを短刀ごと捨て長刀での横薙ぎ。

 

 鮮血が舞う。傷は浅く殺すことはできてはいないが確実に動けなくはなっている。

 目的は動ける数を減らすことであるためトドメは刺さない。

 

 さらに両側から二体の要撃級が迫る。確認するとすぐさま跳躍、最後方にいる光線級のレーザー照射を受ける前に急降下、接近していた要撃級の背後に着地すると同時に振り向きざまの横薙ぎ。

 無防備なその背中を切ると高く長刀を構え直し一息に振り下ろす。

 その二撃により要撃級は完全に沈黙した。

 

 沈黙したそれを踏み台にして跳躍、先ほどと同じ要領でもう一体の要撃級の背後に着地と攻撃を行う。

 

 さらに次の標的に狙いを定めようとした時だった。

 

「こちらドッグ1。各機、ようやく後退命令が出た。これより指定されたポイントに後退する」

 

「「「了解」」」

 

 アーリードッグ中隊全機から声が上がる。

 

 その声音に不満が大量に含まれているが全員がそれを吐き出せるほどの余裕はない。後退の命令が出たというのであれば早々に下がるに限る。

 それが確実に長生きできる方法だ。

 

「私がしんがりを務める。ドッグ2、ドッグ11貴様らが先頭を行け」

 

「「了解」」

 

 指示を受けて彼らはすぐさま行動を始め、後退した。

 後退は国連軍の援護もあり思いのほかスムーズに行え、戦線を離脱することに成功した。

 

 戦線離脱を確認すると背もたれに体重をかけ、肩の力を抜く。

 

(今回も、生き残れた……)

 

 ジャップマニア。

 近接戦闘を得意とし、日本人設計の74式近接戦闘用長刀を扱うがゆえについた異名。

 半ば不名誉なその異名をつけられた青年、ナフト・アーリストは息を吐いた。

 

 

 彼らはただ全力を尽くした。全力を尽くし、役割を果たした。しかし、それは数の暴力で迫るBETAに対しては意味のないことだ。

 

 その日、日本帝国軍、国連軍そして在日米軍は戦線を下げることを決定。舞鶴、神戸を結ぶ京都方面に三軍共同での防衛線を構築することを決定させた。

 

 それはその後、日本で語られることになる帝都防衛戦の序章であった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ジャップマニア

【1998年 7月11日 滋賀県】

 

『––––先日決定された三軍共同防衛線の構築に伴い避難命令地域が新たに指定されています。避難地域は大阪府、滋賀県、奈良県、和歌山県、三重県、愛知県……』

 

 琵琶湖近くに在日米軍が急遽建設した仮設基地。

 その食堂ではテレビの音声が流れていた。ほとんどの者が日本語がわからないため表示される字幕を熱心に見ている。

 

 そんな中でナフトはテレビの音声を聞きながら黙々と朝食を食べていた。

 

 ほとんどの者が真剣な目でそれを見てはいるが心の中ではなんと思っているのだろうか。少なくとも目は笑っていることだけはわかった。

 明日は我が身かもしれないと言うのに、呑気なものだ。

 

(……いや、俺もゆっくり食べてる時点で同族だな)

 

 思いながら騒ぎ始めた者たちへと視線を向ける。

 

「んで、上の連中はどうするんだろうなぁ……」

 

「もう終わりだろ?こんな国の戦力でどこまでやれる?BETAに斬りかかるような奴らだぞ?」

 

「はははっ!!確かに!こうだろ?やー!ってな」

 

 先ほどまでの真剣な表情は嘘だったのか、今は剣を適当に振るうような動きをしては笑いあっている。

 

 彼らもまた不安なのだろう、この国が戦うと言うことは日米安保理を結んでいる自分たちも戦うということだ。

 

 自国のために戦って死ねる。それならば死ぬとしてもまだいい。

 せめて自国の土の上で死にたい。それが彼らの願いだろう。しかし、そんなことは自分たちにはできない。

 在日米軍基地に配属された者であるのならば仕方のないことだ。

 

 そう思いたい。

 自国以外はどうでもいいなどと思っているわけがない。

 そんな希望的観測をナフトはアーリードッグ中隊へと配属されてから繰り返している。

 

「おい。そこら辺にしとけ……」

 

 騒いでいた1人がナフトに気がつき騒いでいた者を止め、彼らに気付かせるように指を指す。

 

「はぁ?何言っ……っち。わかったよ」

 

「悪かったなぁ!ジャップマニアぁ!!」

 

 起こる笑い声の山。

 最初こそ戸惑いはしたがもう慣れてしまった。

 結局のところ彼らは言葉で言うしかない。暴力沙汰は絶対に起きない。

 

 理由は単純だ。

 ナフトは中隊の、基地のエースだからだ。

 

 近接戦闘を得意としているため死ぬ可能性は高いがそれと同時にBETAにいち早く接敵する。

 ナフトは他の者たちが弾を放つ前に長刀を使ってBETAを切り刻む。

 他の者がその個体にサイトを合わせ、弾を放つ頃にはすでにナフトはそのBETAを切り裂いているのだ。

 

 それ故に弱冠18歳でありながらキル数は常にトップ。

 そしてその長刀捌きからついたものが【ジャップマニア】だ。

 狂ったように長刀を振るい、狂ったようにBETAを切り殺す様からついた侮蔑の名がそれだった。

 

 しかし彼がトップなのは間違いない。キル数に間違いはあり得ないのだ。

 そのため、下手に怪我をさせてみれば上官たちから何を言われるかわかったものではない。

 

「……ここ、いいかな?」

 

「中隊長……」

 

 アーリードッグ中隊、中隊長エヴァリス・バードウィンがナフトの目の前にいつの間にか立っていた。

 男性軍人らしいがっしりと鍛え上げられた肉体、無骨な顔には髭が生え始めている。

 

 反射的に敬礼しようと立ち上がったがそれはエヴァリスの手で止められた。

 

「構わんよ。前、いいかな?」

 

「はい。大丈夫です」

 

 エヴァリスが座るのを確認してからナフトも席に着く。

 

「ジャップマニア……か。言われてるが、いいのか?」

 

 その言葉にナフトは眉をひそめた。

 上官たちはおそらく彼ら自身もそう思っているからだろうがナフトへの罵倒の言葉に対し何も言わない。

 

 そしてそれはエヴァリスも同じだった。

 だと言うのに何故わざわざ聞いてきたのか。

 違和感を感じたが素直に意見を口にすることにした。

 

「……構いません。言うだけでしたら問題はありません。実戦での連携に支障もないですし、気にするだけ無駄と少ししてわかりました」

 

「そうか……戦闘の時とは違い、冷静なんだな。貴官は」

 

「お言葉ですが、中隊長。近接戦闘時の方が冷静でなければなりません。でなければ、すぐに死にます」

 

「ふむ。それはそうだな……」

 

 そう頷くとエヴァリスはパンをかじり、スープを飲む。

 

 やはりよくわからない。なぜ彼が自分に声をかけたのか。戦闘の時以外は無視すれば良いというのに。

 

 そんな心情を読み取ったのかエヴァリスは息を吐いてから口を開いた。

 

「いや、なに。少し前に格納庫に行ったときに貴官に伝えてくれと頼まれてな」

 

「伝言、ですか」

 

「ああ、『機体を大切にしてくれてありがとう』だそうだ。聞いたぞ。接近戦をしていると言うのに消耗部品の数がかなり少ないそうじゃないか」

 

 言われたが特別なにもしていない。

 

 無理な動きをしなければ良いだけだ。動きに流れを作り、それを崩さなければ良いだけだ。

 それを繰り返していれば自ずと殺す順位が決まる。

 あとはその順番通りに動いて殺せばいい。

 

 そんなことを言うとエヴァリスは驚いたように、感心するように生えかけたあごひげをさする。

 

「……貴官は本当に人間か?」

 

「それ以外に、何に見えるのでしょう?それとも、私がBETAとでも?」

 

「い、いや、そう言うわけではない。貴官が我が中隊に配属されて一週間。互いにわからんことが多いからな。少し話すついでに探りを入れたのだが––––」

 

 エヴァリスは深く息を吐きこれはダメだとでも言うように首を横に振る。

 

「あわよくば真似てやろうと思ったのだが、とても出来そうではないな」

 

「そう難しくはありませんよ。機体の空力機特性、重心の移動を意識すれば誰でも出来ます。私はそのサイクルの中に攻撃を加えているだけです」

 

 アメリカ人であればまず思いつかない発想だった。

 空力特性も多少は意識しているがそれを攻撃にまで生かそうとは考えていない。そもそも殆どの衛士が跳躍ユニットでの方向転換をしている。

 それに重心の移動というがその操作はコンピュータが自動でするはずだ。それを操作するとは?

 

 疑問が絶えないそれらを平然と言い切るナフトにエヴァリスは目と耳を疑った。

 だが、彼の実績はそれが出来ていることを証明している。

 

 でなければ彼はすでに死んでいたことだろう。

 

「貴官は、それを誰かから習ったのか?」

 

「いえ。ご存知のとおりアメリカでは長刀は命知らずのバカが使う物として有名ですからね。誰も知りませんでしたから独学です。強いていうのであれば日本の戦術機の動きから自分で考えました」

 

「……なぜそこで日本だったんだ?たしか東ドイツにもいただろ?長刀使い」

 

 東ドイツで長刀使い、と言われて浮かぶのはある1人の女性衛士だろう。

 彼女は相当に有名だ。なにせ光線級吶喊(レーザーヤークト)と呼ばれるものを各軍に広めた者の1人であるからだ。

 

 その者は第1世代機であるMig-21バラライカとは思えないような動きをする。その動きもまた参考にできたはずでは?

 エヴァリスはそう聞いているのだ。

 

「確かにあの動きには眼を見張るものがありました。ですが、攻撃はやはり力任せの一撃ばかりで、動きが単調でした。77式はトップヘビーの長刀であるため威力は確かにありますが、どうしてもそうなります」

 

 ナフトは頭の中で映像で見たその女性衛士の動きを思い出しながら「しかし」と言葉を区切り続ける。

 

「BETA戦は密集戦です。一撃の威力より、切り返しのしやすい物の方が良いと思っていました。それは74式の特徴であり、それを使っているのは日本だけでしたから自ずとそうなっただけです」

 

 やはり彼が言うことはアメリカ人らしくない。ここまで柔軟に対応できる者などいるのだろうか?

 先入観ばかりで判断しているものが多い中では確かに彼と言う存在は浮くだろう。

 

 なにせ考え方がまったく違うのだ。他の者たちからしてみれば相当異質に映り、彼をジャップマニアと罵倒するのもわかる。

 

 その考えに至ったと同時にある懸念がエヴァリスの中に芽生えた。

 

「……貴官は、本当にここに、米軍に来て良かったのか?」

 

「……わかりません。ですが、私は顔も知らない者のために死ぬのはごめんです。せめて家族を守って死にますよ。失礼します」

 

 ナフトはいつのまにか朝食を食べ終えていた。

 盆を持ち席を立つと一礼してからエヴァリスの前から去った。

 

 彼にはその背中はとても小さく見えた。

 

「目的無き最強、か……」

 

 ふと浮かんだ言葉を口ずさむ。

 彼が言った「家族を守る」。それはとても薄っぺらく聞こえた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

帝都侵攻

【1998年 7月12日 兵庫県】

 

 そこはすでに戦場と化していた。

 BETAの肉塊が並び、戦術機だった物が残骸として転がっている。

 まごう事なき戦場。そこにアーリードッグ中隊のF-15Eストライクイーグルが並び防衛戦を行なっていた。

 

「第6波来ます!」

 

 1人が報告を上げると同時にエヴァリスは声を荒げる。

 

「よし、補給は済ませたな?各機、ハンマーヘッド1!BETAを可能な限り押しとどめろ!トドメは後方の砲撃部隊が行う」

 

「「「了解」」」

 

 その中にも当然ながらナフトの姿がある。

 彼のF-15Eの両手には突撃砲が、背中の兵装担架には二本の長刀が装備されている。

 

 今は指示に従い突撃砲による射撃を行なっていた。

 足が止まったBETAへと戦車や自走砲から放たれた砲弾が向かい、肉片へと変える。

 しかしそれだけでBETAは抑えきれない。

 

 後方に光線級がいるためあまり派手に動けないのだ。当然ながら航空支援も望めないため別働隊が光線(レーザー)級を殲滅するまでここで耐えるしかない。

 

「ちっ!右翼から群れから外れた奴らが来る!」

 

「このままでは身動きが取れなくなるか……仕方ない。ドッグ4、6、8、10は右翼へ!頭を抑えろ!」

 

「「「了解!!」」」

 

 答えると同時に指示された者たちが駆るF-15E移動を始めた。それを確認してから新たに指示を出す。

 

「よし、ドッグ3、5、11は私に続け!正面を抑えるぞ!」

 

「「「了解!!」」」

 

 呼ばれた3機がエヴァリスの機体に続き少し前へ展開、射撃を始めた。

 

 ナフトのF-15Eへと要撃(グラップラー)級が重い一撃を振るう。それをかわし銃口を接触させるとそのままチェーンガンで36㎜弾を放ちトドメと言わんばかりに滑腔砲の120㎜も与えて肉片へと変える。

 

 その足元から迫ろうと戦車(タンク)級が迫る。それを吹き飛ばすように軽く跳躍。一瞬、レーザーの照射警報が出たがすぐに地面に着地してかわす。

 それと同時に突撃砲を放ち戦車級の群れを吹き飛ばす。

 

 次に現れたのは要撃級三体、その足元には戦車級が群がっている。

 ナフトはすぐさま判断し、要撃級の足を滑空砲で撃ち抜いた。自重を支えられなくなり倒れる要撃級、それに戦車級が数体巻き込まれた。

 

 それを一瞥して次の要撃級に向けて射撃。二丁の突撃砲から放たれた銃弾は要撃級を穴だらけにした。

 もう一体を滑空砲で手短に仕留めると足元に近づいてきていた戦車級たちをチェーンガンで潰す。

 

 次から次へと迫り寄るBETAへと弾種を変え、大型種は足を狙うなど可能な限り無駄なく攻撃を加えて行くが一向に数が減っている様子はない。

 

 リロード中にレーダーへと視線を移す。

 少し前に右翼から来ていたBETAは殲滅され、戻ってきた機体と連携してはいるがやはり向こうの方が物量が上だ。

 すでにだんだんと囲まれ始めている。

 

「上からの指示だ。後退をこれより始める。戦線を京都まで下げ、そこで連携して叩くそうだ」

 

「「「了解」」」

 

 ここはギリギリ光線級のレーザーの照射範囲内に入ってはいない。だが、高く飛び過ぎれば即座に撃ち落とされる事だろう。

 そのため、全機が噴射地表面滑走(サーフェイシング)を行い地表すれすれを飛べば安全に下がれる。

 

 そう、思っていた時だった––––

 

 ビーッ!ビーッ!ビーッ!

 

 という甲高い警報音共にウィンドウが網膜に投影された。

 

「ッッ!!」

 

 それは中隊全ての管制ユニットに鳴り響き、全ての衛士の網膜に現れた。

 それらは戦場に出た者が一番見たくない、そして聞きたくないものを表す。

 

 光線(レーザー)属種からの照射警報だ。

 

「全機!散開!!」

 

 言われるのが先だったのか、動くのが先だったのか。

 とにかくエヴァリスが言う頃にはすでに速度を上げ、散開していた。

 

「い、いやだ……!いやだ!俺はこんなところで––––」

 

 その通信を響かせながら一機のF-15Eが高度を上げた。相当に混乱しているらしくそのことにその衛士は気付いていない。

 

「ッッ!バカ!高度を––––」

 

 それをナフトが注意しようとした時、光がその機体の胸を貫いた。

 光に穿たれたその場所が焼き焦げ、煙をわずかに上げながらそれは墜落、そのまま爆発した。

 

「クソ!」

 

 ナフトはそれを一瞥するとさらに速度を上げ地表ギリギリを滑るように飛ぶ。

 地面に近づきすぎているせいでアラートが鳴るが気にしている余裕はない。

 

 今飛んでいる場所も照射範囲に入っているということは光線級の殆どが丘陵を越えているということだ。

 少しでも高度を上げればすぐに撃ち落とされる。

 

 再び、F-15Eが撃ち落とされ地面に激突、爆発した。別の機体は跳躍ユニットに直撃、そのまま空中で爆発し、破片を地面へと落とす。

 

 全員そのことを気に止める余裕はない。そんな彼らの前に小さな丘が現れた。

 

「あと少しだ!全機、一気に飛べえええ!!!」

 

 エヴァリスの声で全機わずかに高度を上げ、丘の向こうへと飛び込んだ。

 だが、一機は高度を下げるタイミングが遅くレーザーの直撃を受けて落ちた。その同時に爆発。

 

 アーリードッグ中隊は四機の犠牲を出しながらも撤退に成功した。

 

◇◇◇

 

【同年 同月同日 京都府】

 

 アーリードッグ中隊含む在日米軍は京都にまで撤退。そこで国連軍と合流、京都に新たな防衛線を築いていた。

 

 そこは先程まで彼らが戦っていた県境ではなく、完全に京都の中へと入ってしまっている。

 そしてそこは彼らに残された最後の防衛線でもある。

 

 アーリードッグ中隊8機のF-15Eは前衛5、後衛3機が並び射撃による攻撃を行なっていた。

 

 少し離れた場所では国連機を示すブルーカラーのF-4ファントムや武家を示すらしい黒や白の瑞鶴が並んで同じように射撃を行なってはいるがあまり意味はなしていない。

 

(……まずいな。このままだと、ここもいずれ食い破られる)

 

 ここまで撤退し、少し休めるかと思えばすでに目前までBETAが迫っていると聞き今に至る。

 

 おかげでまともに休めずに戦闘を行なっている。集中力もそろそろ限界だ。

 いや、すでに限界だ。騙し騙ししているが、それもどこまで持つかわからない。

 

 しかし、かといってこれ以上は下がれない。

 下がれないならば––––

 

「ドッグ11。これより前に出て注意を引きます」

 

 言うや否やすぐさまエヴァリスから声が飛ぶ。

 

「貴官は死ぬ気か!?ここで前に出ても無駄死にだ!」

 

 それはナフトも自覚している。

 もうここも限界だ。今度は市街地にまで戦線を下げることになるだろう。

 そんな場所で下手に前に出ても意味はない。しかし、とナフトは声を荒げる。

 

「少しでも前線を上げなければいずれ食い破られます!光線級だって今は殲滅できましたが次がいつ来るかもわからない状況です!今ここで叩かな––––」

 

 その言葉を遮るようにエヴァリスへと通信が入った。

 通信は短いものだった。その通信を切ったがナフトの言葉の続きを聞く気は無いらしく、指示を出す。

 

「各機へ通達。これより市街地へと撤退する。向こう(日本)も覚悟を決めたらしい。BETA群を市街地へ誘引した後、艦砲射撃を行うようだ」

 

 ナフトはその指示をレバーを握りしめながら聞いていた。

 下がれと言うのであれば光線級がいない今がチャンスだ。これを逃せば再び撤退に犠牲が出てしまう。

 

「ついでに良い知らせ、と言えるかどうかは微妙なところだが……F-14(トムキャット)が増援としてきてくれるそうだ」

 

 出すだけマシだがやはり動きがワンテンポ遅い。もっと早ければ少なくともここまで大きく戦線を下げることはなかった。

 

 ナフトたちアーリードッグ中隊はBETA群を指定されたポイントまでへと誘導を始めた。

 ほかの部隊も似た命令をされたらしくゆっくりと後退しながら射撃を行っている。

 

 そうして彼らが市街地へと十分な数を引きつけた後、艦砲射撃が行われ日本の首都である京都の街もろともBETAを潰した。

 

 そのおかげかBETAの進行は一気に弱まりそのまま各軍で連携、京都から先に突破されることはなかった。

 しかし、当然ながら京都の街並みは見る影もなく、いたるところに瓦礫が並び、BETAの肉片が並び、破壊された戦術機と怪我人であふれかえった光景が広がることになった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

帝都防衛

【1998年 8月5日 京都】

 

「よし……タイミング合わせろよ……」

 

 エヴァリスの声に合わせ“7機”のF-15Eストライクイーグルが両手に突撃砲を構え、前を見据える。

 その先にはBETA群の尖兵である突撃(デストロイヤー)級の群れが猛然と進んでいた。

 

「3……2……1……0!!」

 

 0のタイミングと同時に全ての突撃砲から120㎜滑腔砲が放たれた。数発は突撃級の甲殻に弾かれたがほとんどは足に命中している。

 かなりの速度で走っていたため足を吹き飛ばされた突撃級は勢いはそのままに地面をえぐりながら止まった。

 それにより後続の突撃級、さらに要撃(グラップラー)級や小型種も動きを止め、進行が鈍る。

 

 BETAの群れを止めたアーリードッグ中隊の上空を12機のF-14トムキャットが飛ぶ。

 光線属種はすでに日本帝国軍が行った光線級吶喊により殲滅済みであるため撃ち落とされることはない。

 

 そのF-14の両肩にはミサイルコンテナが積まれている。

 全機ほぼ同じタイミングでそのコンテナからフェニックスミサイルと呼ばれるものを放った。

 

 フェニックスミサイルは大型のクラスターミサイルだ。放たれたミサイルはその名の通り爆散しBETAへと降り注ぎ、その大半を潰した。

 それを確認するとトムキャットの部隊はそのまま戦線を離脱、ミサイルの補給へと戻る。

 

 さらにここからは彼らアーリードッグ中隊や国連軍部隊と連携して叩く。

 

「ドッグ3、11は私に続き前衛で残党を狩る。残りは援護を!ドッグ2指示は任せる」

 

「「「了解」」」

 

 名を挙げられたものたちはそれぞれ答え行動を始めた。

 

 ナフトの駆るF-15Eは右手の突撃砲を捨て、背中の兵装担架から長刀を装備、一気に跳躍ユニットを吹かし前に出る。

 

 彼の前にいるのは2体の要撃級、1体は36㎜チェーンガンで足止め、その間に別の1体へ一息に近づく。

 

(要撃級の特徴は両腕の甲殻を使った広範囲の攻撃、だが!!)

 

 要撃級の腕が振られる前に斬りかかった。それは的確に胴を捉え、血が吹き上がる。しかしそれでは殺すまではできていない。

 すぐさま切った部分に銃口を突きつけ36㎜を叩き込みトドメを刺した。

 

 しかしその間に別の1体はナフトへと迫っていた。その要撃級は攻撃を加えようと腕を振るう。

 その瞬間、F-15Eは地面を蹴ると同時に跳躍ユニットをほんのわずかに吹かし攻撃をかわした。

 

 そのまま要撃級の上を通過しながら体を捻らせ長刀を振るう。

 空中であるためバランスが悪く力も上手く加わっていないため傷は浅い。

 

 それをすぐに判断するとその要撃級の背後に着地と同時に滑腔砲を2発叩き込んだ。

 

 今度こそ息が耐えたのを横目で確認しながらリロード、別のBETAへと迫る。

 

「……あんな動きが、できるのか。こいつ(ストライクイーグル)は」

 

 エヴァリスは突撃砲をリロードしながらナフトの機体の動きを見ていた。

 

 京都付近が主戦場になってから10日。

 人類側は一時的に兵庫県まで前線を押し上げることに成功したが突発的な増援により再び京都付近へと押されることになった。

 

 全ての軍は少しずつ戦力の消耗が増え続けている。だが、彼らのその防衛戦のおかげでどうにかBETAの進行を京都で押しとどめていた。

 

 そして、その間にアーリードッグ中隊の隊員が1人死んだ。

 

 他の中隊の戦力もかなり損耗しているため部隊員の増員はない。7機でどうにか連携を回して維持できている。

 それを維持できていることに一躍買っているのがナフトだった。

 

 彼は1人で前衛2人分と同じ働きをしている。

 ナフトだけに多大な負担を背負わせることに気後れするが今はただ任せるしかない。

 

「チッ、またあいつがトップかよ……」

 

「俺たちが撃ったやつだけ狙いやがって……」

 

 そんな状況であってもナフトへの侮蔑の言葉は消えていなかった。だが、それを止めることはエヴァリスには出来ない。

 

 他の者たちも不安なのだ。

 死の恐怖を何かで紛らわせなければ壊れてしまうかもしれない。それを無意識下に感じるほどに。

 

 ナフトのF-15Eへと戦車級5体が飛びかかる。

 2体は突撃砲で撃ち、2体は長刀を一振り、剣を振り抜いた勢いそのままで機体をそらせ、残りの1体の攻撃をかわす。

 その戦車級が地面に着地した瞬間、長刀で突き刺した。

 

 ナフトはさらに別の個体へとターゲットを変え切り裂いていく。

 

 

 戦闘エリアのBETAが殲滅されたのは10分後だった。

 その間ナフトはアーリードッグ中隊へと向かうBETA群を途中から短刀と長刀のみで大半を潰していた。

 

◇◇◇

 

【同年 同月同日 滋賀県】

 

 滋賀県、琵琶湖近くの仮設在日米軍基地。その滑走路へとアーリードッグ中隊のF-15Eたちが着地していく。

 

 2機のF-15Eは片腕を失ってはいたが目立った損傷はその程度だ。

 

「おい!すぐに洗浄準備だ!11番機はすぐにやれ。いつもどおりかなり時間がかかるはずだからな!!」

 

 戻ってきた機体たち、特にナフトのBETAの返り血で赤黒く汚れた機体を見るや否や整備班長が叫んだ。

 

 米軍所属の衛士は基本的にBETAとの近接戦闘はしない。そのためここまで汚れることは珍しいが今では全ての整備兵が慣れてしまっている。

 

 

 

「はぁ……」

 

 自分のF-15Eを着陸させるとナフトは今回も生きていることを確認すると重く息を吐いた。

 そのあとウィンドウを開き、中隊全機とのデータリンクができていることを確認した。

 

(今回は……誰も死ななかったな……)

 

 そんなことをどこか他人事のように思いながらそれを閉じ、別のウインドウを開く。

 

 そこにはBETAの殲滅数が表示されている。表示されている数字は273。他の部隊員と比べると2倍から3倍の数だが彼にとってはいつもとあまり変わらない数字だ。

 

 そのウインドウも閉じたタイミングで通信が入ってきた。

 機体の洗浄を行うため専用の格納庫へ行けという指示だった。

 

 いつも機体の損傷はほとんどない代わりにかなり汚してくるため整備兵たちに少し申し訳なく思いながらナフトは自機を歩かせ指定された場所へ向かう。

 

◇◇◇

 

 ナフトは強化装備姿のまま洗浄されているF-15Eを意識半ばで見ていた。

 渡された紙コップに入れられたコーヒーを飲む。

 

 本物のコーヒーを飲んだことがある者は口を揃えて「まずい」と言うが彼にとってコーヒーといえばこの味だ。

 例えそれが合成された擬きであるとしても。

 

「お疲れ様だな。ナフト少尉」

 

 そんな彼に声をかけたのは40代後半の男性だった。ガタイが良く声も大きくよく響く。

 

「……整備班長」

 

「あいかわらずのトップキルだな。さすがはジャップマニアと言うべきか……」

 

 整備班長が言うジャップマニアは侮蔑の色を感じない。本当に賞賛の意味で使っているのだろう。

 そう言う呼ばれ方をされればこそばゆくはあるが悪くは思わない。

 

「ありがとうございます」

 

 そのため、少し気恥ずかしくはあるが素直に礼を言える。

 

 その後は少しの間があいた。

 横目で見るとどうやら彼は何かを言おうとしているらしい。だが何かが邪魔をしているようだった。

 しかし意を決したように少し表情をきつくさせて聞く。

 

「……そんでよ。少し気になったんだが、お前さんなんでBETAと戦ってるんだ?」

 

 その質問にナフトは少し拍子抜けしてしまった。まさかそんな事を聞くことに躊躇っていたとは思ってもいなかった。

 

「なんでって、そりゃ……」

 

 即答しようと口を開いたがすぐに言葉に詰まってしまった。

 

「……あ、れ?」

 

 よく思い出してみるがこれと言った理由が浮かばない。

 軍に志願した時に「国のため、家族のため」とは言ったがあんなものは方便だ。少しも、とは言わないがそれが第一の理由ではない。それは確信して言える。

 

 では、なんのためだろうか。

 

 家族のためだろうか。

 両親はまだ生きている。ある時から疎遠になってしまっている。だが死んだと言う話は聞いていない。

 

 大切な友人のためだろうか。

 いや、大切と呼べるほどの者はいない。友人はいたがほとんどは実戦に出て死んだ。何人かはテストパイロットをしているが彼らのためではない。

 そもそもそんな者たちは自分で自分を守れる。そこで死ねばそれまでだ。

 

 彼女のため?

 論外だ。そもそも彼女などいない。

 付き合ったことはありはするが今はフリーだ。

 

(なら、なら俺は……なんで戦っているんだ?)

 

 ナフトには確かに軍に進む以外の道もあった。だと言うのに彼は今その道全てを蹴って軍にいる。

 それには理由があるはずだ。なのに、何も浮かんでこない。

 

 そんなナフトを見て整備班長は「やはりな」とでも言いたげな視線で彼を見ていた。そこには慈悲のようなそんなものを感じる。

 

「お前さんの動きは確かにすごい。正直、なんでこんなところにいるんだ?本当に18か?って聴きたくなるレベルでな」

 

 そうやって褒めていたが一転、どこか物悲しげな表情へと変え、言葉を続ける。

 

「だが、時々焦りみたいなのを感じるんだよ……お前さんは戦闘のセンスは抜群だ。それに加えて頭も良いときた。正に戦うために産まれたって言っても良いぐらいの才能がある……しかしな、なにも戦うことだけが生き方じゃない」

 

 整備班長の言葉をコーヒーを眺めながら静かに聞く。

 

「焦るな。もう少し周りを見てみろ。そうすれば何か分かるかもしれん……」

 

 ちょうどその話が終わった頃だった。

 彼らの目の前のF-15Eに付いていたBETAの血は綺麗に洗い流されており残ったのは浅い傷が様々なところになる機体だった。

 

「迷った時には気分転換をお勧めするぜ」

 

 班長は言うと整備作業に戻るためにナフトの元から去った。

 

「……焦り、か」

 

 ナフトは残ったコーヒーを一気に飲み干すと着替えるためにロッカールームへと向かう。

 

 戦う理由、軍に入った理由。それを自分自身に問いながら彼は基地通路を歩き始めた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

理由

【1998年 8月5日 滋賀県】

 

 珍しく在日米軍基地にあるバーのカウンター席にナフトの姿があった。

 いつ出撃があるかわからないためアルコールは飲めず、ジュースを飲むぐらいしかできないが自室で飲むよりは気分がまだマシなような気がしたのだ。

 

(やっぱり……ここに来ても何も変わらないか)

 

 しかし、やはり気分が晴れることはなかった。

 聞かれた質問が頭の中でぐるぐると回り続けている。

 自分に問うがやはり「これだ」と言える答えは返ってこない。

 

 これを飲んだら部屋に戻って眠ろう。そう思った時だった。

 

「ん?珍しいな。貴官がここにいるのは」

 

 声をかけて来たのはエヴァリスだった。

 反射的に敬礼をしそうになったが少し前の食堂の時のように手で制された。

 どこでも変わらないナフトの様子にエヴァリスは苦笑いを浮かべ、肩をすくめると隣に座る。

 

「どうかしたのか?」

 

 エヴァリスはおそらく整備班長から話を聞いているはずだ。

 中隊長として整備班長から衛士のメンタル面について話し合うようなところを見たことがある。

 ともかく、それでも聞いて来たと言うことは直接相談しなければそのことには触れない、と言う意思表示だろうか。

 

 黙っていたい気持ちが少しあったがナフトは素直に口にすることにした。

 とにかくこのモヤモヤを一度外に吐き出しておきたかった。

 

「……なぜ、自分が戦っているのか、軍に入っているのかがわからなくなりました」

 

「そうか……」

 

「はい。整備班長からは焦るな、とだけ……」

 

「まぁ、それが妥当だろうな。貴官はまだ若い。実力もある。少なくともあと10年は生きていけるだろう」

 

 不思議だった。

 今のは褒める言葉だったはずだ。称賛の言葉だったはずだ。

 

 ならばなぜ嬉しくないのだろう。

 こそばゆい気持ちは感じている。しかし嬉しいとはほとんど思っていない。

 

「私は、自分という存在がわからなくなりました。守りたいものも救いたいものもなく、ただ戦っているのが誰よりも劣っているように思って仕方がないのです……」

 

 エヴァリスの前にいつのまにか頼んでいたカクテルが差し出される。

 何があるのかわからないのにアルコールを取るのか、と少し小言を言いそうになったが自分は相談する側だ。今回は目を瞑ることにした。

 

 差し出された赤いカクテルを見下ろしながらエヴァリスはゆっくりと口を開く。

 

「私が任官して1年ぐらい経った時に大陸派遣する部隊に着任してな。そこで配属された部隊に君と同じようなものがいた」

 

「私と……ですか」

 

 1回しっかりと頷き、その光景を思い出すかのようにじっとカクテルを見つめながら話を続ける。

 

「彼は、強かった。君のように短刀や長刀を使うことはなかったが彼の機動は見てて惚れ惚れしたよ。あんな力強い動きがF-4に出来るのか、と舌を巻いた。とにかく強かった」

 

 エヴァリスが言うには彼も1回の出撃で200後半、多ければ400以上のBETAをたった1人で倒したという。

 確かにそれは今のナフトとほとんど同じだ。

 

「だがな。戦術機を降りたそいつはそんな強そうな印象はないんだ。軍人にしては少し細いようだった」

 

 戦術機に乗るだけの体力はあったのだろうが初見ではまず彼が400オーバーのキル数を叩き出せるものとは思えないような人相をしているらしい。

 

「そんな狂気じみた数字を叩き出す理由を知りたくて、私はそいつに聞いたよ『なんでそんな動きができるんだ?』ってな。そしたらあいつは臆面なく『欲と本能で戦っているから』って答えた」

 

「欲と、本能?」

 

 答えを聞いてイマイチわからない。

 欲や本能。たしかに人間にあるものではあるがそれが戦闘にどう作用するのだろうか。

 

 その答えはエヴァリスが与えた。

 

「ああ、なんでも人間は欲や本能……そんなものに従う方が強いらしい。そいつはな『破壊したい。殺したいって欲と本能を解放させて戦ってるんだ』って答えた」

 

「ッッ!!?」

 

 ナフトの中で繋がって欲しくなかったものが繋がってしまった。耳を塞ぎたくなったがそれでもエヴァリスは話を続ける。

 

「そいつは本能で戦っていた。欲でBETAを殺していたんだ。たしかに戦闘中のあいつはわかりにくかったが……少し笑っていたんだ」

 

 そこまで言われナフトはカウンターを叩きながら叫ぶ。

 

「違うッッ!!俺は……俺はそんなもので戦ってなんかいない!」

 

 無意識に言葉が荒くなる。

 欲で戦っているはずがない。そんな自分勝手な感情で戦っているのではない。

 本能で戦っているはずがない。そんな人ではない、殺すだけの獣ではない。自分は人間だ。

 自分には目的があり。目標があるのだ。

 決して欲や本能で目的もなくがむしゃらに戦っているわけがない。そんなことがあるわけがない。そんなことであって欲しくない。

 

「俺は守りたいから、救いたいから戦っ––––」

 

「では、貴官が守りたいものとはなんだ?」

 

「それは!……ッ、それ、は……」

 

 答えを返せなかった。

 ただ歯を食いしばり拳を作るしかできなかった。

 

「何も、私は君が彼と同じとは思っていない。君は彼とは少し違う。君にはまだ理性がある。しかしそうでありながらもおそらく本能に従い殺している」

 

「……何が違うんですか?結局はほとんど本能で動いているような物です」

 

 そのナフトの言葉にしかしエヴァリスは首を振る。

 

「君は少し前に言ったな。『機体の空力特性と重心を意識して動かしている』と……」

 

「……はい」

 

 そのことは覚えている。

 まだ京都までの進行を許していなかった頃、基地の食堂で「あの動きはどうしている?」というエヴァリスの問いに対してした答えだ。

 

 しかし、思い出しているというのに言わんとしていることに行き当たらないナフトにエヴァリスは少し呆れたように肩をすくめた。

 

「それが君の理性が残っている証拠だ。彼の動きは力強かったし、凄まじかった。だが、それだけで綺麗とは言えなかった」

 

 エヴァリスはまるでその衛士の動きをカクテルの液面に見るようにしていたがそれを飲んだ。

 半分ほど残ったカクテルに今度はナフトの動きを見るようにして語り出す。

 

「しかし、君の動きは彼とは正反対にある。綺麗なんだよ。君の動きは……」

 

 カクテルに写しているその光景を見てエヴァリスは目を細める。

 

「本当に、踊るように君のF-15Eは動いている。無理やりじゃない。流れがある。そんな動き、本能や欲でできるわけがないだろう?」

 

「そんなことが、理由ですか?」

 

「十分だ。戦術機の動きにはその者の特徴や癖が必ず現れる。何があろうとも絶対だ」

 

 それはまさに長年実戦に身を置いているからこそ出た言葉だろう。不思議な説得力がある。

 

「……本当に、そうでしょうか」

 

 例え動きがどれほど綺麗であっても、どれほど誰かを魅了できたとしても結局、振り回すのは剣であり、振りまくものは死だ。

 どう綺麗な言葉で飾ろうともそれだけは変わらない。変えられようがない。

 

「まぁ、なんであれ答えは君が出すしかない。私たちはどこまでいっても他人でしかないからな」

 

 エヴァリスは言うとカウンターのマスターに別のカクテルを注文した。

 そのタイミングでナフトは質問を投げる。

 

「……その衛士は今、何を?」

 

 ふと気になっただけで深くは考えていない質問だった。

 生きているのならばその衛士と話してみたい。死んでいるのならばなぜ死んだのかを聞きたかった。

 

「……死んだよ。大陸派遣中にな。BETAと密集戦やって戦車級に喰われた」

 

 なんとなく察していた。

 エヴァリスの声音や雰囲気はなんとなく死者を話すようなものだったからだ。

 

「最後まで、笑ってたよ……」

 

 ナフトは「そうですか」とだけ答えてジュースの液面に視線を下ろす。

 ふと自分が死ぬときは一体何を言うのだろうか。その時までには戦う理由が見つかっているのだろうか、と思った。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

帝都陥落(上)

【1998年 8月10日 京都】

 

 その日、京都は再び戦場と化した。

 

 これまで通り、京都の前面で防衛線を張っていたがその防衛線の後方からBETA群が姿を現したのだ。

 それもそれが本隊と言うべきほどの数だった。

 当初は空爆を敢行しようとしていたが後方に光線属種を確認できたため中止、光線級吶喊の部隊を選別している頃だろう。

 

 ともかくとしてそんな数を不意打ちで食らってしまっては当然ながらまともな連携など取れるわけもなく防衛線は瓦解、文字通りBETAに食い破られた。

 

 ほとんどの部隊は東進していたBETA群と後方から現れたその本隊との挟み撃ちで壊滅。

 かろうじて残った部隊同士が合流、急遽連携体制をとってはいるが焼け石に水状態だ。

 

 そして、それは彼らアーリードッグ中隊もだ。

 元々数が少なかった中隊は不意打ちで1機が落とされ、6機となり最低限の連携すら取れなくなった。

 

 たまたま近くにいた8機編成の国連部隊と合流し、BETAの迎撃を行なってはいるがこのままではいつ潰されるか分かったものではない。

 

 ナフトはレーダーを一瞥すると奥歯を噛み締め、レバーを握る手に力を入れる。

 

(このままだと、いつ破られるか……!)

 

「ドッグ1!このままだと俺たちも食われる!」

 

「ドッグ6の言う通りだ。火力を一点に集中して包囲を突破。その後再び陣形を組み直しての迎撃を進言する!」

 

 部隊員は簡単に言うがレーダーを見ればわかるがBETAの包囲はかなりの数でされている。

 これを突破するのは容易ではないことなど誰にでもわかる。

 

 少なくとも最初に突入した者には特に相当な負担を与える。下手をすれば死ぬ可能性もあった。

 しかし、このままここで迎撃していても火力を集中させることが出来ず、いずれ全員が仲良くBETAに食われることだろう。

 

 ならば、取る行動は一つだ。

 

「こちらドッグ11。私も彼らの作戦に賛同します」

 

「……貴官が先頭を行くことになってもか?」

 

「はい。ドッグ1もわかっているはずです。このままではいずれ全員が死ぬ。ならば、動くべきです」

 

「何か案がある、と?」

 

 その問いにナフト頷いた。すぐにレーダーの表示範囲を広げ、それをデータリンクで全機に流す。

 

 青い光点が味方、緑は自分、そしてその周りを取り囲むように赤い光点が無数にあった。

 しかしどこも包囲は厚く突破は難しいだろう。

 

 そんな者たちの考えや思いを読んでナフトは言う。

 

「当然突破は容易ではありません。ですが包囲が厚いのならば薄くすれば良いだけです。

 そこで、まずは私の機体から見て5時と7時方向にいる大型種の足を撃ちます。そうすれば小型種は抜けてくるでしょうが自ずと大型種は分散します。

 その分散したBETA群を迎撃、タイミングを合わせ、6時方向から一気に抜けます。その時に優先するのは小型種です」

 

 そこまで言ったところで国連軍衛士が手を挙げた。ナフトが視線でそれを許すと質問が飛んだ。

 

「待て、なぜだ?ここは大型種ではないのか?」

 

「いえ、大型種を倒してしまえばBETA群全体の進行自体が鈍ります。可能な限りBETAの広がりを横ではなく縦にしたいのでそれは避けます。小型種はある程度ふさがれても跳んでくるなどの行動をして戦術機機動の邪魔が入る可能性がありますので、優先して殲滅します」

 

「……了解した。質問を挟んですまない」

 

「では、続けます。このプランの注意点はBETA群が早く横に広がり出した場合です。この時は6時方向に近い大型種のみを倒してください」

 

 中隊衛士と国連衛士たち全員がナフトの計画を察し、息を飲んだ。

 そのことを彼は各々の表情から読み取り、肯定する幼稚頷く。

 

「はい。BETAを壁にした道を作ります」

 

 6時方向にいるBETA群を足止めすれば自ずとその集団は分散する。特にそれに近い5時と7時方向は密度が高くなることだろう。

 そしてそれは6時方向のBETA集団の密度が他の場所よりも低くなることを意味する。

 そうすれば少なくとも今すぐに突入するよりは被害は減らせるかもしれない。

 

 それは集団の密度が低いところがないのならば自分たちで作ってしまえばいいという発想から生まれたものだった。

 

 だが、それにはある問題がある。

 

 その問題点も当然ナフトは考えていた。

 

「その際、先頭は光線級吶喊時のように安全なルートを選べる判断力が必要となります。そして可能であればこれは2機。後方は最低3機必要です。この3機で後方から追ってくるBETA集団の大多数を足止めします。私の作戦は以上です」

 

 ナフトは一息に言い切ると肩の力を抜いた。

 

 中隊長であるエヴァリスと国連部隊の中隊長は悩んでいたが互いに目を合わせて頷いた。

 

「そのプランで行こう」

 

「ああ、私も反対しない」

 

 2人とも反対意見、代替え案はないようだ。

 となればこの作戦でBETAの包囲網から抜けることになる。あと決めることは先頭を行く2機と後方に残り足止めをする3機。

 

 連携を考えるのならばそれぞれ同じ部隊員で揃えるべきだ。

 

「……では、私とドッグ6、ドッグ11が後方を担当しよう」

 

「了解した。では、先頭は我々が努めよう」

 

 役割はすぐに決められた。ならばあとは動くだけだ。

 

 バラバラに撃っていた機体たちが一斉に6時の方向を向いた。

 タイミングを合わせるようにカウントダウンを開始、0になったタイミングでエヴァリスと国連部隊中隊長の2人が叫んだ。

 

「「撃てぇええ!!!」」

 

 その咆哮と同時に辺りに滑腔砲が発射された音が響き渡る。

 放たれた120㎜弾は大型種に穴を開け、集団の動きを封じ込めた。

 

 その直後にレーダへと視線を移し、赤い光点たちを見つめる。

 

(……きたッ)

 

 その光点たちはナフトが狙った通りの動きを始めた。

 突撃級、要撃級の大型種は進む方向を変え、5時か7時の方向へと流れ始めたのだ。

 

 その新たに入ってきたBETAに押されるように元々そこにいた集団は広く広がり出した。

 足止めをしたBETA集団の前に新たな壁が生まれる。その前に6時方向に近い大型種の足を打ち抜き、動きを止めた。

 

 広がるその動きは予想よりも早く壁を完全に作る余裕はない。

 

「時間はない。このまま進め!」

 

「了解した。全機!俺のケツを追ってこい!!」

 

 言うと国連部隊中隊長の青いF-15Eは匍匐飛行を始めた。

 その後を追うように他の機体たちも匍匐飛行を開始、多少は密度が低くBETA集団の中に突入していく。

 

 そして、残ったのはアーリードッグ中隊のF-15E3機。

 

「ドッグ11。彼らが戻ってくるのはどれほどの時間を要するかわかるか?」

 

「……10分前後でしょう。増援が出されたようですので少し減るかもしれませんが、少なくともそれぐらいはかかると思います」

 

「3機で10分……この数を、か」

 

 ドッグ6が苦言を漏らす。

 それはそうだ。これから約十分という長い間、3000を超えるBETA相手に耐え続ける必要があるのだ。

 

 どう頑張ろうとも弱音の一つや二つはどうしても漏れてしまう。

 

 そんな絶体絶命な状況だというのにナフトの声はいつも通りだった。

 なんの変化もない、いつもの声で彼は2人に言う。

 

「私が6時方向のBETA集団に突っ込みます。2人は12時方向を、余裕があれば援護をお願いします」

 

「は、はぁ!?お前何言ってんだ!その方向だけでも1,000を超えてる!それをたった1機で抑えるなんて、不可能だ!」

 

「やります。そうでなければ生き残れません」

 

 淡々ときっぱりと言い切った。

 そして、その「生き残れない」と言う言葉に2人は息を飲んだ。

 

 彼らは元々ここに残る時点で死ぬ覚悟だった。しんがりを務め、残るとはつまりはその者たちを切り捨てることだ。

 エヴァリスが先行を国連軍部隊にしたのは米国への責任を問われないようにするためだった。

 

 そのはずなのにナフトはまだ生きることを諦めてはいない。

 彼の声はいつもどおりの冷静そのものだがその目はまだ諦めは写っていない。

 

(すまない。君と彼は同じではない。君はおそらく……)

 

 彼のあることにようやく合点がいった彼は一瞬表情を緩めたがすぐに真剣なものへと戻し言う。

 

「了解した。しかし、私たちでは君を援護することはできないかもしれないが、構わないな?」

 

「はい。構いません」

 

「……ドッグ6行くぞ。一人頭1,000だ。3割は減らすぞ」

 

「は、え?りょ、了解」

 

 2機のF-15Eは方向転換、両手の突撃砲をリロード、背中にある兵装担架のサブアームも展開し、さらに突撃砲2門を構える。

 

 反対にナフトのF-15Eは右手の突撃砲を放り捨てると同時に右側の兵装担架を展開、そこに保持されていた長刀を握り取った。

 

 それぞれの前にはBETA集団が猛然と突き進んでいる。それぞれが相手にするのは最低でも1,000という膨大な数。

 

 エヴァリスとドッグ6の機体は4門の突撃砲による射撃を開始、ナフトの機体は跳躍ユニットを吹かした。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

帝都陥落(下)

 今回で在日米軍編終了です。

 明日も2話更新を目指しますが……もしかしたら1話だけになるかもしれません。


【1998年 8月10日 京都】

 

 BETA集団へと長刀を持った米国軍のF-15Eが突き進む。

 

 飛びかかってくる小型種はそのほとんどを回避、もしくは踏み潰すだけで進路上にいないものは無視する。

 今優先すべきは大型種、要撃級集団だ。

 

 1体の要撃級に急接近、双腕が振るわれる前に左の腕を切り飛ばした。そのまま踏み付けると長刀を突き刺し、36㎜を放つ。

 息絶えたことを確認することなく、その要撃級を踏み台にして跳躍、着地付近にいる戦車級を射撃で潰し、着地の直前に長刀を振るい残った個体を切る。

 

 新たな戦車級などの小型種にとりつかれる前にサーフェイシングで目の前にいた要撃級に接近、しかしわずかに要撃級の腕のほうが早い。

 長刀の攻撃範囲に入るよりも早く腕を振るおうと大きく掲げる。

 

 それを見るやいなや跳躍ユニットの噴射口を前面に向け一気に吹かし、急ブレーキをかける。

 しかし、勢いを完全に殺すことはできずにわずかに滑る。

 その勢いを生かすように主脚で着地すると思いっきり地面を踏み込む、跳んだ。

 

 そのまま空中で回転しながら要撃級の一撃をスレスレでかわし、その背後を取る。

 120㎜滑腔砲が放ち要撃級に大穴を開けた。

 

 鳴り響く警報音が新たなBETAが近づいてくることを告げる。

 自機の位置を確認、周辺のBETA密度も確認、進行方向も確認、そして種別を確認するとすぐさま行動を始めた。

 

 小型種は可能な限り無視することは変わらない。いちいち相手にしていては燃料も弾も足りなくなる。

 

 ナフトは標的として定めた要撃級へ向けて36㎜弾を放つ。無数の穴を開けようやくその個体は息絶えた。

 さらにその左にいる要撃級には跳躍ユニットを吹かして急接近、その個体の右側から一気に後方に回り込むと長刀で切る。

 

 ほんの数秒で要撃級2体を仕留めるとすぐさま移動。

 近接戦闘でじっとしていればあっという間に食われる。

 

 そもそも第2世代戦術機であるF-15Eは止まっているよりも動き続けているほうがずっと強い。

 

 向かってくる戦車級の群れをかわし、新たな要撃級へと肉薄。攻撃を受ける前に腕を断ち切り、36㎜弾を放つ。

 左にいたもう1体は足を撃ち抜き、右にいた個体は長刀で突き刺しトドメで120㎜滑腔砲。

 

 3体を倒す頃には足元に戦車級の群れがあった。

 

 飛びかかろうとする個体は突撃砲で掃討、飛びかかってきた個体は長刀で薙ぎ払う。

 足元にいたほとんどを倒すと移動を再開し、再び大型種狩りへと戻る。

 

 しかしその途中で突撃砲の弾が切れた。

 そして目の前にいるのはもはや見飽きてきた要撃級だ。

 

「はぁ……はぁ……、のッ!!」

 

 ナフトは弾切れになった突撃砲をその要撃級に向けて投げる。

 対する要撃級はその突撃砲を右腕で弾き飛ばした。それと同時に大きな隙が生まれた。

 

 すぐさま膝装甲ブロックから短刀を逆手に持つと急速接近、要撃級の腕が大きく振るわれた右に滑り込むと短刀を一息に突き刺す。

 

 しかし、わずかに浅い。

 さらに要撃級が腕を振るおうと大きく掲げ始めている。

 このままではあと数秒後にはぺしゃんこになるだろう。

 

(なら!!)

 

 その現状を悟るやいなやすぐさま跳躍ユニットを前方に向け吹かした。

 短刀で引き裂きながらF-15Eは後退、要撃級の攻撃範囲から逃れるとすぐにわずかに跳躍ユニットを吹かし空中へ、そこで1回転するとその背後に着地、長刀で2回クロス字を作るように切った。

 

 ナフトは時間を確認。そして驚いた。

 まだ他の機体が撤退してから2分ほどしか経っていない。体感的にはすでに2時間以上はここで戦い続けていた。

 

 BETAの光点は少し減ってはいるがまだまだだ。

 

 わずかに動きが止まっているF-15Eへと戦車級が飛びかかるがそれを短刀で切り飛ばし、別の方向から来ていた個体は長刀で串刺しにする。

 

 再びレーダーを確認。まだ青い光点は残っている。それぞれに「ドッグ1」、「ドッグ6」の文字が振られている。

 後方に残った2人と自分はまだ生きてはいる。

 

(ああ、だが……)

 

 そろそろ限界だ。

 燃料は3割を切った。戦闘機動はどう頑張ってもあと数分が限界だろう。

 疲労もあってか目の前がわずかに霞む。

 動きもだんだん悪くなっている。

 

 レーダーには未だ無数にある赤い光点。

 

(だが、どうせここで死ぬのならば……)

 

 ナフトのF-15Eは短刀を放り捨てると新たな短刀を装備、今度は順手に持ち構えた。

 

「より多くを、道連れにする」

 

 その直後だった。

 レーダーにアンノウンを示す白い光点が4つ現れた。

 それらの光点が通り過ぎた場所の赤い光点は次々と消えていく。

 それは次第にこちらに近づき、目視の範囲に入った。

 

「な……んだ。あれは」

 

 目視で確認して驚きと同時に疑問が浮かんだ。

 

 近づいて来たのはやはり4機の戦術機だ。しかし、見たことがない。全く知らない戦術機だった。

 

 機体の形状は全て同じたが色がバラバラだった。赤と黄色と白が2機。

 たしかにBETAは色を認識できていないらしいが、とはいえナフトからしてみれば開発者や設計者はトチ狂ってしまったのかと疑いたくなった。

 

 ナフトは知り得ないことだがそれらは後に武御雷と呼ばれるようになる戦術機、その先行量産機たちだった。

 

 そのうちの赤い機体から通信が送られて来た。

 

『米国部隊に告げる。帝都防衛に感謝する。我々は帝国斯衛軍に所属する者だ。事情があり己が所属を示せない無礼を許してくれ』

 

 その声は女性だった。

 それに少し驚きながらも送られてきた通信に対し、最近どうにか覚え出した日本語でナフトは答える。

 

「助かった。助け、ありがとう。感謝。私たち、する」

 

『英語で構わん。今は時間が欲しい。違うか?』

 

 その国に住む文化や習慣、言葉を使ったほうがその国に馴染める。その思いで勉強を続けていたが、やはり他国の言語を覚えるのは難しい。

 

 そう思うと同時に少し申し訳なく思いながらナフトは一息ついた。

 

「すまない。日本語はまだ勉強中でね。次に貴官らに会う時にはもう少し話せるようにしておくよ。少し待ってくれ。中隊長に通信を繋ぐ」

 

 「頼む」の声を受けながらエヴァリスへと通信を送る。

 

『どうかしたかドッグ11。アンノウンが来たようだが』

 

 応答に応じたエヴァリスは肩で息をしているが様子を見るにまだ無事なようだ。

 振動もないあたりBETAの進行も少し落ち着いているらしい。

 

「帝国斯衛軍です。もしかしたら連携してここから抜けられるかもしれません」

 

『斯衛が?我々と協力する、と?』

 

 帝国近衛軍は将軍家の護衛が主な任務である。そのため、わざわざ米国軍がいるここまで出てくる必要はないはず、と言うことは何かしらの理由がある。

 そこにつけ込めれば––––。

 

「はい。可能性はあります。今通信を繋ぎます」

 

 言うとすぐにその斯衛の機体とのデータリンクを一時的に許可して通信を繋ぐ。

 

『こちらアーリードッグ中隊隊長。エヴァリス・バードウィンだ』

 

『申し訳ない。私たちは諸事情に多くを話せない。それは許してほしい』

 

 見たことがない戦術機、それを駆ってまで現れた斯衛。

 明らかに何か目的がある。それはわかるがその言い方だと察することすら許されることはないらしい。

 

『了解した。深くは詮索しないようにしよう。ただし、代わりと言ってなんだが我々の後退の援護を頼みたい』

 

『もちろんだ。我々はそのために来た。3機が先行する。しんがりは私が勤めよう』

 

『了解した。感謝する』

 

 それからすぐさま行動を始めた。

 先頭を行くのは白2機と黄色の戦術機。そのすぐ後ろをエヴァリスとドッグ6の機体が飛びその少し後ろにナフト、一番後ろに赤い戦術機が並ぶ。

 

 先頭を行く白と黄色の戦術機は突撃砲を放ち、長刀を振るい可能な限り安全な道を作りながら先を行く。

 

 驚いたのはその速さだ。

 F-15Eよりもさらに速い速度でBETAに接近したかと思った時にはすでにそのBETAは死んでいる。

 

『すごいな……あいつら』

 

『ああ、さすがは帝国斯衛(インペリアルロイヤルガード)ってところだな……』

 

 2人の通信を聴きながらナフトも目の前の見知らぬ戦術機を見る。

 圧倒的な機動力。それを充分に生かした格闘戦。どれを取ってもあの機体に隙はない。

 

 さらにそれを圧倒なものにしているのは乗っている衛士も理由だろう。

 迷いなく突っ込み切る。飛んでくる攻撃を見切りかわすとすぐさま反撃。

 

 無駄を極限までなくした近接戦。これこそまさに惚れ惚れすると言うことだろう。

 

 そんな彼女らの協力により、アーリードッグ中隊3機は無事にBETAの包囲網から抜けることに成功、そのままCPの指示に従い戦線を離脱した。

 

 結局彼女たちの真意を知ることなく包囲網を抜け、安全圏に入ってすぐに謎の戦術機4機とは別れた。

 

 ナフトが基地に戻った頃、帝都の放棄が決定した。

 整備班長の「よくもここまで使ってくれたな」と怒り混じりの安心したような声を聞いて申し訳なく思いながら感謝したことは印象的だった。

 

 

 

 かくして、日本帝国軍、在日米国軍、国連軍は一ヶ月の奮闘虚しく帝都防衛に失敗。関東圏まで戦線を大きく下げることになった。

 

 そこから大きく巻き返すことが出来ず、佐渡島にBETAはハイヴを建造。

 それが引き金となり、米国軍は日本の度重なる命令不服従を訴え、日米安保条約を一方的に放棄、在日米軍を全て引き上げた。

 

 事実上、日本を見捨てた戦力引き上げであることなどナフトからは容易にわかった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

バトルダンサー
明星見える前(上)


【1999年 2月4日 カリフォルニア州】

 

 アメリカのカリフォルニア州にある米軍基地の資料室でナフト・アーリストは1人パソコンの前にいた。

 

 画面には半年前のニュースの記事が表示されており、それには「帝国軍敗北、横浜にハイヴ建設」の文字がある。

 

 これは米軍にも責任があることのはずだ。米軍が全軍を一斉に引き上げなければ少なくとも後3ヶ月はこうなることを防げた。

 しかし、上層部は「これ以上自国の兵を失うわけにはいかない」などと言い、日本を見捨てる行動に出た。

 

 自国主義があるのはどこも同じではあるがこの国は特にその色が強い。

 その証拠に米軍は日本から戦力の引き上げを行ってから主だった行動を起こしていない。

 

 それがおかしいとは思わない。自国が大事なのは当然だ。

 だが、それでもせめて手を貸すぐらいはしてもいいはずでは?とナフトは思う。

 

 このモヤモヤを誰かに言いたいが白い目で見られるのがオチだ。

 

(にしても、なんで上は何もしない……このまま日本が落ちれば次はここだ……)

 

 流石にそこまで上もバカではないはずだ。

 と言うことは何か狙いがあって傍観していると見るべきか。

 

(それとも……何かしらの策があるとか)

 

 そう、例えるならばハイヴを一瞬で制圧できる物がある、もしくは開発しているとか……。

 それを試すための場所と状況を待っているとか……。

 

 理想は核兵器のような広範囲への強力な攻撃が可能なもの、それでいて光線属種のレーザーですらものともしないものか意味がないもの。

 

 そこまで考えてナフトはそれを鼻で笑った。

 あまりにも夢物語だ。そんな兵器など人間の技術で作れるわけがない。

 

「あ!こんなところにいた!」

 

「ん?ああ、エルヴィア少尉か」

 

 資料室に入ってきたのはシルヴィ・エルヴィア。

 アーリードッグ中隊に3ヶ月前に配属された女性衛士だ。

 

 短く切りそろえられた銀髪と青い目。目鼻のはっきりとした顔立ち。髪を伸ばし黙っていればさぞかしモテることだろう。

 

「もー!アーリスト“中尉”!私に近接戦闘教える約束ほっぽり出して何してるんで、あわわっ、あう!」

 

 怒りを露わにしながら歩いてきたが急に躓きバタンッ!と言う音ともに倒れた。

 

 この通り彼女は少し抜けている。かなり、と言わないのは一応は軍に入っており、衛士であるからだ。

 しかしそれも最近は「運が良かっただけなのでは?」とナフトは思い始めている。

 

 ちなみにナフトはあの帝都防衛での功績を認められ中尉に昇進した。

 それとほぼ同時期に「ジャップマニア」と呼ばれることはなくなり、代わりに「バトルダンサー」と呼ばれるようになった。

 

 曰く、踊るように戦場を動き回りBETAを殺す。

 

 安直かつ恥ずかしい呼ばれ方ではあったが「ジャップマニア」と違い侮蔑は込められていない。

 尊敬の意味で呼ばれているのならなおさら本人がとやかく言えない。そもそも言ったところで誰も聞かないだろう。

 

「大丈夫か?エルヴィア少尉」

 

 言いながら転んだ部下へと手を伸ばした。

 

「へ。あ、その……だ、大丈夫……です」

 

 シルヴィはその手を取って立ち上がった。軽く服をはたき埃を落として咳払いをすると再びナフトを問い詰める。

 

「そ、それで!なんで教えにきてくれなかったんですか!シミュレータの前で強化装備で1時間待ったんですよ!全然来ないし、周りからは笑われるしでもう散々でした……」

 

「……すまない。少し調べ物だ。すぐに終わると思っていたんだが、思いのほか探してしまってね」

 

「あ、そうだったんですか?もう終わりました?」

 

「ああ、終わったよ」

 

 ナフトは使っていたパソコンをシャットダウンさせようと操作をする。

 

「あ、よかった。なら、今からPX行きませんか?お腹空きました」

 

「……私を待ってただけだろう?なのに腹が空くのか?」

 

「空きます!」

 

 シルヴィはナフトの質問に「当然です!」と強く答えた。

 

「太るぞ」

 

「……中尉って、本当にデリカシーないですよね」

 

 シルヴィはため息をつきながらお腹のあたりを軽くさすった。

 そしてちらりとナフトを見て、自分の体を見て「ちょっと太ったかな」と小声で言うとさらにため息をつく。

 

 そんな彼女の行動の意味が分からずナフトは首をかしげるしかなかった。

 

◇◇◇

 

 昼時もあってかPXにはそこそこの人がいた。

 人が混む前にナフトはAセット(パン二個とスープ、牛肉を炒めたもの)、シルヴィはパスタを頼み、それぞれ受け取り、適当な席に座る。

 

 三分の一ほど食べた辺りでシルヴィが聞く。

 

「あ、そう言えば、中尉って半年ぐらい前は日本に居たんですよね?」

 

「ああ、居たが。どうかしたか?」

 

「日本のご飯が美味しいって本当ですか!私食べてみたいんですよ〜寿司とか!」

 

 目を輝かせながら言う彼女にナフトは肩をすくめる。

 

「残念だが。私は食べたことがない。向こうではアメリカ人はあまり好意的に見られないからな……まぁ、合成食は普通だったな」

 

 期待に添えずにすまない。と言外に伝えた。

 それを聞くやシルヴィは少ししょんぼりしたように「そうですか……」と言い食事に戻った。

 

 シルヴィはスプーンでパスタを遊びながらため息をつく。

 

「なんで……仲良くなれないんですかね……」

 

「……さぁな」

 

 「人類に共通の敵ができれば自ずと人類は手を取り合う」そんなことを誰かが言っていたような気がする。

 

 しかし現実はどうだろうか。

 

 結局は責任の押し付け合い、損得勘定、そんなものばかりだ。何一つとして変わっていない。

 これから先も変わることはないだろう。

 

(少しぐらい変わってもいいだろうに……)

 

 このまま考え込み始めてはまたとなりの少女に何か言われかねない。思考の海に入りそうになったのを無理矢理引き上げる。

 

「まぁ、そう言うことは哲学者なりその手のプロに考えさせればいいさ」

 

「んー、それもそうですねぇ」

 

「食べたらやるぞ。みっちりな」

 

「ん!そうですよ!みっちりきちんと1から10まで教えてくださいね!じゃないと怒ります」

 

 もうすでに怒ってるじゃないか。と言うツッコミはパンを飲み込むことで一緒に流した。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

明星見える前(下)

【1999年 2月11日 カリフォルニア州】

 

 荒野の戦場を2機のF-15Eストライクイーグルが飛ぶ。

 どちらの機体も両手に突撃砲を持ち、2つの兵装担架にはそれぞれ長刀が装備されている。

 

『アーリスト中尉!止まってください!』

 

「そう言って素直に止まる奴があるか。まずは追いついてみせろ。エルヴィア少尉」

 

 ナフトの駆るF-15Eが狙いを定めさせないように蛇行しながら飛び、その後ろをシルヴィが駆る機体が追う。

 

 先頭を行くナフトのF-15Eは蛇行をやめ、すぐさま跳躍ユニットを前方に向けると一気に吹かし、バックしてきた。

 当然その進路にはシルヴィ機がある。

 

『え?きゃッ!?』

 

 反射的にシルヴィは機体を下降させ、ぶつかることを防ぐ。

 それによりナフトはなんの苦労もなくシルヴィ機の上を取ることに成功した。

 

『な、なんですかぁ!それぇ!!』

 

「これで、終わりだな」

 

 ナフト機が突撃砲の砲門を構える。そのままトリガーが引かれる直前だった。

 

『ッッ!!まだぁ!!』

 

 先程降下したシルヴィ機が跳躍ユニットを吹かし急上昇、そのままナフト機へと向かう。完全に激突コースだ。

 

「なっ!!?」

 

 あまりにも無謀すぎるその行動にナフトは驚きながらもすぐさま後退、すれすれのところで激突をかわす。

 シルヴィ機がそのままナフト機の上空をとった。

 

「……エルヴィア少尉!」

 

『中尉も言ってたじゃないですか。重要なことは真似ることだって』

 

 言いながらシルヴィは口をつり上げる。

 先ほどの動きはついさっきしたナフトの動きを真似、応用したものだ。

 

 彼女が中隊に配属されて3ヶ月。ナフトが本格的に彼女に戦術機の動きを教え始めて今日で1ヶ月。

 ナフトはシルヴィの強みを実感していた。

 

 いつもの抜けたところが嘘かのように衛士としての腕は一流だった。特に技術の吸収能力が普通の衛士の桁違いだ。

 先ほどのように少し前に見た動きを平気で真似る。その度胸、そしてそれを成し遂げられる天賦の技術。

 

 ここまで教え甲斐があるとナフトも教えることに身が入り、自ずと教えるつもりがなかったことまで教えるようになっている。

 そしてそれを簡単に覚え、さらにそれを越えるためにナフトも新たな動きを行う。

 

 それの繰り返しが特にこの一週間は続いていた。

 

(もしかしたら……少尉なら俺の、本当のエレメントに……)

 

 ナフトは無意識にニヤリと口をつり上げる。

 彼とまともに組めた者はいない。エレメントを組むときは必ずと言っていいほどナフトが相手に合わせていた。

 

 理由は単純にナフトの機動を誰も予測できないからだ。

 長刀をメインとした戦い方に米国の衛士がまともに対応できない、というのは彼自身もわかってはいる。そのために彼の方から動きをわかりやすくしていた。

 

 しかしシルヴィはどうだろうか?

 ナフトの教えたことを難なく吸収し、応用までもしてみせる彼女となら本当に自分の力をフルに使ってもついてこれるかもしれない。

 いや、確実について来る。

 

 ナフトが部下の成長を喜び、期待を込める中でシルヴィ機が降下しながら突撃砲を構えた。

 

『今度こそ!』

 

「悪いが、まだやらせるわけにはいかない!」

 

 ナフト機はそのまま直進、その後をシルヴィ機が追いかける。

 

『くっ!』

 

 焦りからかシルヴィは狙いを付けられていないというのにもかかわらず36㎜を放つ。

 しかし当然ながら1発も当たることはなく、ナフト機は一気に距離を離した。

 

 少し進みナフト機は四肢を広げ、跳躍ユニットの噴射口を前に向けて急ブレーキ。

 

『ッッ!!?』

 

 先ほどのこともありシルヴィ機は一瞬動きを止めた。

 しかし、それをすぐに失策と悟る。

 

 そんな姿を見るやいなやナフト機は真後ろを向き、突撃砲をシルヴィ機へと向け、ロックオン。

 

『しまっ!』

 

「相手の動作で見切れと言ったはずだ!少尉!!」

 

 36㎜を容赦なく放った。

 シルヴィはすぐさま持っていた突撃砲を投げ捨て、急後進。

 投げ捨てられた二丁の突撃砲は爆発。機体の装甲にも弾丸がわずかにかするがどうにか戦闘機動に支障はないレベルで抑えられた。

 

『はぁ、はぁ、はぁ……ず、ずるくないですか?中尉……』

 

「手加減をしては少尉に失礼だろ?それに、かわせたじゃないか」

 

『かわせたからいいって問題じゃ––––』

 

 シルヴィ機は長刀を装備しながら前進、狙いを定めさせないように蛇行しながら近づくと両手でそれを掲げる。

 

『––––ないです!!』

 

 ナフトが狙いを付けるよりも早く、シルヴィ機は長刀を振り下ろした。

 ナフト機が右手に持っていた突撃砲はその一太刀を受け爆発、それに巻き込まれないようにそれぞれが間を開け、そこに爆煙が広がる。

 

(ここで下がっても撃たれるだけ……なら!!)

 

 シルヴィ機は迷わず爆煙の中に突っ込んだ。

 

「やはり肝は座ってる。だが!!」

 

 爆煙の中へと入ったシルヴィ機へと一閃が走る。

 

『ッッ!!』

 

 とっさに長刀で防ぐが反射的な動きだったためか姿勢が悪く吹き飛ばされてしまった。

 

「だが、せめて外から回り込んで来るべきだったな」

 

 爆煙が晴れたそこには左手に突撃砲を持ち、右手に長刀を装備したナフト機があった。

 それを見てシルヴィは奥歯を噛みしめる。

 

 まだ長刀を使った近接戦闘ではナフトに及ばない。

 しかも彼の機体の左手にはまだ突撃砲が残っている。あれをどうにかしなければ一方的にやられる。

 

「さぁ、行くぞ」

 

『ッッ!!』

 

 ナフト機がまず行ったのは36㎜による牽制。

 防ぐ手立てがないシルヴィ機がはそれをかわすように上昇、しかし当然ながらその動きはナフトの予測通りだ。

 

 シルヴィ機を追うようにナフト機は急上昇、下から長刀で切り上げる。

 それを長刀の横薙ぎで防ぐ。

 

 両手でしっかりと握っている分同じ機体でもわずかにシルヴィ機が押せている。だが、ナフト機は左手に突撃砲を持っている。

 その銃口が管制ユニットへと向けられた。

 

「ッッ!!?」

 

(このままじゃ負ける……いや、まだ!!」

 

 一瞬息を飲むがすぐに判断を下す。一か八かの賭けだ。

 

 長刀を翻すように扱いナフト機が持っていた長刀を弾き飛ばした。成功はしたが完全とは言えず自機が持っていた長刀も一緒に飛んでいったが構う必要はない。

 

「何ッ!?」

 

 まだ突撃砲は自機の方を向いたままだ。

 トリガーを引かれる前に膝装甲ブロックから短刀を取り出し突き出した。

 それは狙い通り突撃砲に突き刺さる。爆発こそしなかったが砲門が完全にひしゃげもはや使い物にはならないだろう。

 

 しかしナフトもされるがままではない。

 すぐさま同じように短刀を装備するとシルヴィ機との短刀による格闘戦を始めた。

 

 互いの短刀は管制ユニットや跳躍ユニット、腕に集中して向かう。時々フェイントで足を狙うがメインはその3つだ。

 

 向かう短刀の切っ先を弾き、時には腕で攻撃を逸らし、ほとんど0に近い近接戦闘が繰り広げられる。

 

 そんなこう着状態の中でチャンスが先に訪れたのはナフトだ。

 

 逆手で持たれた短刀の刃がシルヴィ機が持つ短刀の刃によって受け止められた。その瞬間、ナフトは口をつり上げ、シルヴィは失敗を悟り奥歯を噛み締めた。

 

 ナフト機は互いに止まっている中で左の兵装担架から長刀を装備、そのまま振り下ろした。

 シルヴィ機はそれを後退することでかわしたが形勢は完全にナフトの方へと傾いた。

 

 当然逃すわけがなくナフト機は跳躍ユニットを一気に吹かし近づく。

 リーチは当然ながら長刀の方が長い。シルヴィが一方的に押され出す。

 

 長刀による斬撃を短刀で上手にそらすがそれと一緒にわずかに機体もそれた。

 振りかぶった長刀を逆手に持ち替えそのまま突き刺した。

 

 それはたしかにシルヴィ機の管制ユニットに直撃した。

 

◇◇◇

 

「あぁーもう!また負けたぁ!!」

 

「まだまだだなシルヴィ少尉」

 

 シュミレータからそれぞれ現れ、言葉をかわす。

 

「今回の敗因は?」

 

「短刀での勝負で読み負けました……」

 

「ああ、そうだ。長刀での切り返しは見事なものだったが、そのまま自分の長刀まで投げ捨てたのも敗因だな」

 

 痛いところを突かれシルヴィは肩を下ろし、明らかにしょんぼりとする。

 そんな様子を見てナフトは肩をすくめるとその少女の肩を励ますように軽く叩き言葉をかけた。

 

「そんな顔をするな。動きはどんどん良くなっている。この調子で技術を身につければそれでいい」

 

 そう言いシルヴィに背を向けてロッカーに向けて歩き出す。少し先を行ったところで思い出したように振り向いた。

 

「ま、私も技術を磨かせてもらうがね」

 

 不敵に笑うナフトに対しシルヴィは頬を膨らませながら早足でナフトの隣に並ぶ。

 

「むぅ〜!それじゃ私追いつけないじゃないですか!!」

 

「当然だ。追いつくよりも追い越すことを目指すべきだな」

 

「そうですけど……!そうですけど、それじゃあ私、中尉との賭けに勝てないじゃないですか……」

 

「賭け?」

 

 ふとそんなことをしたっけ?という顔を浮かべた。

 記憶を探るがそんなことをした覚えは彼にはない。

 

 そんなナフトに対しシルヴィは怒りを露わにし、声を荒げる。

 

「し・ま・し・た!!なんで忘れてるんですかぁ!私がシュミレータで中尉に勝てたら中尉にできる範囲でなんでもしてくれるって言ったじゃないですか!!」

 

「……言ったのか?私は?」

 

 やはり覚えがなく聞き返したがシルヴィは「うんうん」と強くうなずく。

 なんとなく覚えているようないないような。曖昧な記憶があるような気がしないでもない。

 

「別に変なことでなければ言ってくれれば私ができる範囲でどうにかするが……?」

 

「……言えるわけないじゃないですか」

 

 ボソリと言われたそれは当然ながらナフトに聞こえるわけもなく、彼は疑問符を浮かべた。

 

「……どうかし––––」

 

「なんでもないです!!」

 

 シルヴィは語気を強くさせてずんずんとナフトを追い越し、ロッカールームへと向かった。

 そんな背中を見てあることを思い出し、今の彼女の状態を顧みて言おうか少し悩んだがやはり言うことにした。

 

「少尉。夕食一緒に食べないか?」

 

「食べます!少し待っててください!!」

 

 言葉は少し刺々しかったが一緒に食べるらしい。

 

 他人の気持ちはわからないというがそれが異性になればさらにわからないな。とナフトは息を吐くとロッカールームがある方向へと向かった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ある青年の考察

【1999年 3月10日 カリフォルニア州】

 

 米軍基地内にあるバー、そのカウンター席には少し珍しい2人がいた。

 

「––––で、こうすると良いと思うんですけど……」

 

「いや、そう動くなら突出するよりも引き込んで––––」

 

 ナフトとシルヴィだった。

 2月末に彼女は初戦を経験した。ハイヴにいるBETAに対して定期的に行われる間引きではあったが彼女にとっては実戦であったことに間違いはない。

 

 そしてそれからはシミュレータでは対BETA戦を主にするようになっていた。

 今しているのは今日のシミュレータの反省だ。彼女がどうしてもバーでしたいと言うことだったために珍しくここでしている。

 

「はぁ〜」

 

 話が落ち着きシルヴィはカクテルを飲むと息を吐き、カウンターに突っ伏した。

 

「今日はここまでにするか」

 

 ナフトも珍しくカクテルを飲んだ。ほのかな甘みが舌に訪れる。それを少し楽しみながらゆったりとする。

 

 彼はアルコールを飲めないわけではない。もともと強い方だ。ただ単にいつ何があるかわからないから飲まない。と言うだけだ。

 しかし今日は別だ。

 

 今日の午後から明日1日は非番だ。そしてそれは彼女も一緒だ。

 久々の休みであるためゆっくりと羽根を伸ばしたくてここに来たかったのだろうとナフトは結論付けている。

 

「……BETAって、なんなんですかね?」

 

「訓練校で勉強しなかったか?それとも忘れたのか?」

 

 少し茶化すナフトにシルヴィは頬を膨らませると「バカにしないでください」と彼の肩を軽く殴った。

 

「悪かったな。お詫びと言ってはなんだが、少し面白い話をしてやろうか?」

 

「面白い話?」

 

「ああ、私のBETAに対する考察。いや、妄想と言い換えてもいいな」

 

 何を言ってるんだ?と残っている頭の冷静な部分が思ったが酒の勢いもあって口に出たことだったがシルヴィは体を起こした。

 どうやら興味があるらしい。それを確認するとゆっくりと話を切り出した。

 

「BETAって少し不思議で同じ戦術は1週間で見破られるようになる。そこで思ったんだ。なぜ1週間なんだろうなって」

 

「んー、戦闘で残った個体が伝えた?」

 

「どうやって?発声器官もないのに、どうやって細かい戦術を伝える?それにだ。もしそうだとして、1週間と言う時間でどうやって全てのBETAに伝えるんだ?」

 

 その問いに対してシルヴィは答えることができず場を濁すようにカクテルを飲んだ。

 少し攻め過ぎたな。と自分を悔いて言葉を続ける。

 

「私が考えたのが『ハイヴに情報伝達する何かがある』ってことだ」

 

「ハイヴに情報を伝える何か?」

 

 もしそんなものがあるのだとすればそれならたった1体残っただけで全てのBETAに人類の戦術を教えられる。

 

 しかし、そうなってくると今度は1週間という期間は対策を考えるにしてもあまりにしては長過ぎ、伝えるにしては短過ぎる。

 そもそもBETAの数は無限に近い。ならば浮かんだ策を手当たり次第にぶつけていけば良い。だが、そうしてこない。

 

 と言うことは––––

 

「どこかに情報を集めているBETA、もしくはハイヴがある。ハイヴだとしたらそれはおそらくオリジナルハイヴ」

 

 そう考えれば不思議と納得ができる。

 

 戦闘で残ったBETAがハイヴに情報を持ち帰り、そのハイヴからオリジナルハイヴに情報を送り、そこで出た対策をそのハイヴへと送り返す。

 そしてその送られてきた情報を各BETAに伝達する。

 

 これに1週間かかるのだとしたら妥当と言えるのではないだろうか?

 

「あとは……そうだな。なぜBETAの中に飛べる種類がいないのか……ってことだな」

 

「……むしろ出てきたらマズイですよね」

 

「そうだな……だが、それが幸運によってなっていないのだとしたら?」

 

「どいうことですか?」

 

 まずは月面戦争。

 そこでは人類は慣れない月での戦闘ということもありあっという間に制圧された。

 

 そしてそこから地球、ウィグル自治区カシュガルへとハイヴが落ちてきた。

 それを受けた中国政府はそれを独占するために各国の部隊の受け入れを拒否。自国のみで対処した。

 

 結果は全世界の人が知っている通り月にはいなかった光線属種が出現、航空戦力を完全に封じられるとあっという間に通常部隊は壊滅。それから今に至る。

 

 人類がここまで押されている大きな原因が光線級だ。

 唯一数的優位を覆せる航空戦力を使えないことが人類が敗走を続けるしかない。

 

 と、そこで一つの疑問が生まれる。

 

「なんでBETAは航空戦力に対応するために飛ぶことを考えなかったんだろうな」

 

「……そりゃ、わざわざ追うより来たのを撃ち落とした方が楽だからじゃないですかね?」

 

「本当にそれだけか?空を飛べた方が行軍距離は今の倍だ。なのに奴らは飛ぶことを考えなかった。少し不思議じゃないか?」

 

 飛べれば山や海など関係なくなり、行動範囲も移動時間も今とは段違いになる。だというのに飛ばなかった。

 

 しかし光線級は産まれた。それはまさに航空戦力を問題視したという証拠だ。

 

「つまり、光線級は生まれることができて、飛ぶBETAが生まれることができなかった理由があるってことだ」

 

「……もしかして、BETAは進化してる?」

 

 シルヴィが恐る恐る言ったそれをナフトは頷いて肯定した。

 

 光線級は新たに産まれたのではなく、何か別のBETAが進化して生まれた。

 そう考えれば空を飛ぶBETAが生まれないのは納得できるのではないだろうか?

 

 そこで話を切るとナフトは残っていたカクテルを飲み干し、カウンターの奥にいるマスターに別のカクテルを注文した。

 

「ますますBETAってなんなんですかねぇ?中途半端な知能を持ってたり、急激な進化ができたり……」

 

「資源採掘用の道具」

 

「……え?」

 

 ボソリと言われた言葉に一瞬耳を疑い、反射的に聞き返す。

 差し出されたカクテルを一口飲むとナフトは少し笑いながら言う。

 

「いや、ただの直感だ。ほら、BETAが制圧した土地って文字通り何もなくなる。それはBETAたちが採掘したからじゃないか?と思っててな」

 

「……じゃぁ、BETAってボーリングマシンとかクレーン車とか、そんな感じのものって事ですか?」

 

「例えば……要撃級だな。あいつは、たぶん穴を掘ったりするやつ、戦車級は、たぶんその資源を持って帰るやつ。みたいな感じじゃないか?」

 

 ナフトは話はここまでだ、と言うように肩をすくめると再びカクテル飲む。

 シルヴィも同じように飲むとマスターにそのお代わりを頼み、質問を投げる。

 

「その話、上層部には?」

 

 ナフトは笑みを浮かべながら無理無理と手のひらで埃でも払うかのようにすると答えた。

 

「私が言ったものはただの考察。妄想と蹴られて当然のようなものだ。なにせ、証拠が何一つとしてない」

 

「むー、いいと思うんだけどなぁ」

 

「まぁ、こんな話を最後まで聞いてくれてありがとう。少尉」

 

「ああ、良いんですよ。聞いてて面白かったですし……」

 

「そう言ってもらえると嬉しいよ」

 

 ちょうどそのタイミングで新たなカクテルが差し出された。

 これで5杯目だがまだ夜は長い。

 明日は久々の1日非番でゆっくりできる。もう少し飲んでいこうかと思いながらナフトはそれに口をつけた。




少し中途半端ですが明日も更新するのでお許しを……。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

2人の過去とこれから

【1999年 3月10日 カリフォルニア州】

 

 ナフトがBETAの考察。もとい妄想を話してから30分。

 その間に彼らに会話はなかったが悪い雰囲気ではなかった。

 しかしその心地よい静寂を先に壊したのはシルヴィだった。

 

「……その、中尉」

 

「ん?どうかしたか?」

 

「え、えーっと、その……よかったら、で良いんですけど……中尉のご両親ってどんな人ですか?」

 

 その唐突な質問に疑問符を浮かべたが特に答えにくいこともないのでナフトは素直に事実を口にする。

 

「かなりの反日家だよ」

 

「え?そうなんですか?てっきり親日家だと……」

 

 本当に驚いたような表情を浮かべるシルヴィにナフトは苦笑いを浮かべながら首を横に振る。

 

「何かあれば日本を引き合いに出す人達だったよ。罵倒や侮蔑の言葉もセットで。……だが、そのせいかもな。日本に興味を持ったのは」

 

 両親がそこまで蔑む国、それに興味を持ったから調べ始めたのは事実。

 そして、それが原因で74式長刀や戦術機の近接戦闘を映像で見るようになった。

 

 少したち、訓練校に入学すると一般人よりも少し詳しく調べることができ、そこで日本人の異常さを知った。

 

 一体どういう生き方をすれば戦術機も含んで初めて完成する長刀などを設計できるのか。

 しかもその汎用性と完成度の高さは異常としか言えない。

 

 BETA戦では弾切れは日常茶飯事だ。無駄撃ちを避けてもどうしても長期戦になることが多いため弾はなくなる。

 そこで74式長刀を使い始めた。

 

 突撃砲よりも確かにリーチは劣るが耐久性はピカイチだ。

 最初こそその独特な特性に四苦八苦していたが元々個人的に調べていたため半年ほどで使えるようになった。

 

 しかし、それを知った両親は今まで見たことがないぐらいに怒った。

 

「あんな卑怯者どもが作った物を使うなど貴様はアメリカ人の面汚しだ!」

 

「なぜBETA相手に近接戦などを仕掛けるのか!あんなことはバカがすることだ!」

 

 などなど罵倒の言葉がいくつもぶつけられた。

 

「まぁ、そのまま言い合いになってな。くだらない理由で何くだらない事言ってるんだって言ってしまってな。それからは親とはほぼ疎遠だ」

 

 確かに日本にも責められるところはある。だが、それはこのアメリカも同じではないのか?

 いや、アメリカだけではない。どの国にも良いところと悪いところはある。

 そうやって悪いところばかり見て良いところを全く認めないなど、子どものわがままと何が違うのだろうか。

 

 ナフトはそうやって話していたところでふと思い至った。

 

「もしかしたら、私は親に反発したかっただけなのかもしれない」

 

 子どものわがままのようなことしか言わない両親に辟易していたのかもしれない。そんな親の言葉など信用したくなかっただけなのかもしれない。

 今更そんなことに至って何になる。と小さく自虐的な笑みを浮かべる。

 

 何も感想が返ってこないのを不思議に思い隣を見るといつのまにかシルヴィがカウンターに突っ伏し、眠っていた。

 

 ナフトは肩をすくめると会計を済ませてバーを出た。

 

◇◇◇

 

 バーを出てからナフトは基地の通路をシルヴィを背負いながら歩き、彼女の部屋の前に来ていた。

 

「少尉。鍵はどこだ?」

 

「むぅ〜」

 

 しかしシルヴィは頭の位置を少し変えただけで鍵を取り出す様子はない。

 

 おそらく服のポケットを探れば出てくるのだろうがいくら寝ていたからとはいえそんなことをして良いのだろうか?と疑問が生まれた。

 悩むナフトのすぐ後ろから気持ち良さそうな寝息が変わらず聞こえている。

 

「……仕方ない、な」

 

 ナフトは息を吐き、肩をすくめると自室へと向かった。

 

 

 

 シルヴィの部屋から少し歩き、自室の前に来るとズボンのポケットからどうにか鍵を取り出すとそれを使い部屋へと入る。

 

 入ってすぐにあるパイプベッドにゆっくりとシルヴィを寝かし、掛け布団をかけた。

 

「これで……よし、と。さて、私はどこで寝るかな」

 

 いや、とりあえずはシャワーでも浴びて酔いを少し覚ますべきか。と思いベッドから離れようとした時、服の裾を掴まれた。

 ゆっくりとその方向を向くとそこには目を開けたシルヴィがいて、ナフトを見上げていた。

 

「中尉は、何もしないんですね……」

 

「何かを期待していたような言い方だな」

 

「ダメ……ですか?」

 

 シルヴィの目は確かに潤み、その顔は酒以外の理由で真っ赤になっている。

 ゆっくりと上半身を起こしナフトの目をしっかりと見つめながら意を決して言った。

 

「私は、私は中尉が好きです」

 

「……とりあえず、シャワーでも浴びないか?少し酔いを覚ました方がいい」

 

「はぐらかさないで下さい!」

 

 シルヴィは叫んだ。

 ナフトの服の裾をさらに強く握りしめながら続けて言う。

 

「私は中尉が、ナフト・アーリストが大好きです。それに対する答えは、ないんですか?」

 

 言葉でつめられているというのに、酒を飲んだ後だというのに不思議と思考は比較的冷静だった。

 

「……私は本気で誰かを好きになったことがない。軍に入る前にも何人かと付き合ったことはあるが、好きという感情がわからない。だから君が私のことを好きだと言っても私は君をどう思っているのかわからない」

 

 どう思っているのか自分ですらわからない。

 それがシルヴィの問いに対するナフトの答えだ。

 

「……中尉。今付き合ってる方は?」

 

「いないが、それがどうかッ!!?」

 

 ナフトが全てを答える前にシルヴィは素早い動作で起き上がると体術を用いてナフトをベッドへと押し倒した。

 その足捌き、体捌きは明らかに酔っている者ができたものではない。

 

「酔っていなかったのだな。君は」

 

「私、アルコールにはかなり強いんですよ?あれぐらいじゃ酔えません」

 

 シルヴィは笑みを浮かべるとゆっくりと顔を近づけナフトの耳元に口を近づける。

 

「嫌だったら突き飛ばして下さい」

 

 言ってすぐにナフトの唇を奪った。

 ほんの少しの時間だった。軽く触れる程度のキス。

 

 ナフトは突き飛ばすことはしなかった。

 それを見て少し安心したように笑みを浮かべるとシルヴィはゆっくりと服を脱ぎ始めた。

 

 そして、彼女の上半身がブラだけになった時、それが目に入った。

 

「……幻滅、しちゃいましたか?」

 

 彼女の腹には火傷の跡のようなものが腹にあった。腕の方には何かで切られたような跡も見える。

 綺麗な肌に踊るようにあるそれらは禍々しく見えてしまう。

 

「私、母親に虐待されていたんです……」

 

 父親は衛士だった。

 しかしユーラシア大陸でのBETA戦で死んだ。

 

 それから母親は変わった。

 優しい笑みを浮かべる母だったのに目の下にクマを作り、痩せ細り、母親としての面影などなくなってしまった。

 

 それと時を同じくして突然癇癪を起こしたように暴れ出すようになった。

 その矛先は物などではなく、娘であるシルヴィ。

 

 熱湯をかけられ、カッターや包丁などでも切られた。彼女の体にある傷はその時につけられたものだ。

 

 母親の虐待は近所の人たちが気が付き、シルヴィが保護施設に行くことで逃れることができた。

 

「それから私は軍に志願しました。軍に入れば1人で生きていける。母とは違い、誰にも頼らずに1人で……」

 

 母はたぶん色々な人に頼っていた。父にも娘であるシルヴィにも……。

 そうはなりたくなかった。誰に頼りきって生きていたくなかった。母と同じような生き方だけは絶対にしたくなかった。

 だから軍に志願した。

 

 そして、訓練校に通っている時だった。日本の帝都防衛時の映像が流された。

 

「勇敢なる我が軍の衛士たちの姿を参考にせよ」

 

 ほとんどの候補生はその映像を嫌々ながらに見ていた。

 こんな映像を見せるぐらいなら訓練をさせろ、休ませろ。それが彼らの本音だった。

 

 それはシルヴィも同じ。退屈そうな目でそれを見ていた。

 だが、それもある戦術機の動きを見て変わる。その機体、米軍所属のF-15Eが長刀を持ち、BETAへと切りかかっていた。

 

 周りからは小さく失笑が聞こえてきたがシルヴィは違う。

 素直に、見惚れていた。綺麗だと思った。

 

 BETAの血を浴びながらも華麗に戦場を舞う戦術機。戦術機にあんな動きができるのかと現実を疑った。

 

 それから教官に聞いて回った。

 どうすればあんな動きができるのか、と。しかし、誰も答えられなかった。

 

「それからは苦労しましたよ。長刀の扱いは難しいし、他の人からは笑わられるしで……でも、成績だけはよくてこの部隊に着任できたんです」

 

 シルヴィは胸もとに両手を添えると優しく笑みを浮かべる。まるで、長年探し続けていたものを見つけたかのような安心した笑みだ。

 

「初めて中尉を見たとき、やっぱりこの人だって思いました……一目惚れって本当にあるんですね」

 

 今度は恥ずかしそうな笑みを浮かべた。

 コロコロと表情が変わるのはいつもと同じだ。そのまま彼女は続ける。

 

「一緒にいるうちにもっと好きになって……わたッ!?」

 

 シルヴィが全てを言い切る前にナフトは口で彼女の口を塞いだ。

 先ほどとは違い、少し深いキス。

 それを終えるとゆっくりと顔を話してシルヴィの頭を撫でる。

 

「もういい……もう、わかった。あまり言ってくれるな。恥ずかしくなる」

 

「中尉……?あの、私、こんな体ですけど……その」

 

「自分から押し倒しておいて何言ってるんだ?」

 

 冷静なナフトのツッコミにシルヴィは自分がした事を思い出し顔を赤くさせ、ナフトの胸に顔を埋めた。

 

「少尉の気持ちはわかった。私も、君の気持ちに答えよう」

 

「……名前で呼んでください」

 

「シルヴィ少尉」

 

 茶化すように呼ぶとシルヴィはバッ!と顔を上げた。

 その頬を膨らませ、視線で遊ぶなと訴える。

 

 ナフトはその頬を優しく撫でると笑みを浮かべて呼ぶ。

 

「シルヴィ」

 

「はいッ!!」

 

 その返事は今までのどの返事よりも大きいものだった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

明星作戦(上)

【1999年 8月5日 太平洋海上】

 

 戦術機用の輸送艦の中にはアーリードッグ中隊所属の12機のF-15Eストライクイーグルが格納されていた。

 中隊長であるエヴァリスは全機に通信を送る。

 

『すでにA-6イントルーダー隊が橋頭堡を築いている。我々はそこに上陸し、橋頭堡を維持すると同時に前線を押し上げる。

 光線属種については重金属雲がすでに張られているため多少は防げるだろうが、念のため海面ギリギリのサーフェイシングで行く。

 近くには国連軍部隊があるため、上陸後は彼らとも連携していく。以上だ。何か質問は?』

 

 聞くが部隊員から声は返ってこない。

 しかしそれぞれの顔を見てエヴァリスは満足気に頷き、待機を命じた。

 

 オペレーション・ルシファー。別名、明星作戦。

 目的は日本の本州。より正確には横浜に建設されたハイヴ。

 

 それはすでに開始されており第1段階である艦砲射撃を終え、第2段階であるA-6イントルーダー部隊の上陸、橋頭堡確保も今終えようとし第3段階、戦術機部隊の上陸へと移ろうとしていた。

 

 参加する軍は日本帝国ならびに斯衛軍、大東亜連合軍、国連軍、そして米軍だ。

 各軍から大量の戦力が集められ艦砲射撃をしている光景はまさに砲弾の雨と言うにふさわしい光景だった。

 

(……規模としてはパレオロゴス作戦並みだな)

 

 そこ自体はいい。それほどまでに日本も本気だと言うことだからだ。

 しかし、妙な違和感を感じている。

 

(なぜ、アメリカが首を突っ込む……)

 

 1年前に確かにアメリカは日本を見捨てた。それ以降は特に干渉することもなく、BETAの間引きの際に部隊をいくつか送るだけでいた。

 

 だが今はどうだろうか。

 戦術機3個大隊、艦艇も輸送艦を含めれば10隻という数としては少なくない戦力を送り込んでいる。

 

(それに……)

 

 レーダーの東の光点を見つめる。

 そこには味方を示す青の光点が光っていた。

 なんでも「もしもの時の秘密兵器」という噂が整備兵たちの間で流れていたが嫌な何かを感じる。

 

『ナフト中尉、ナフト中尉』

 

 思考の海に半ば沈みかけていた意識を引っ張り上げたのはシルヴィの声だった。

 

「ん?どうした?」

 

『中尉、賭けをしましょう。今回の出撃でより多くをBETAを倒せた方がなんでも言うことを聞くってことで!』

 

「……別に構わんが。少尉は私に勝てたことがないだろ?負債はたまる一方だぞ?」

 

 この手の賭けはもう何度もしている。

 ふっかけてくるのは決まってシルヴィの方で負けるのも決まってシルヴィだった。

 しかし、ナフトは勝っても何も要求しないためその命令権は溜まっている。

 

『……今回こそ勝ちます!バトルダンサーなんて怖くない、です』

 

 言うがその声は少し震えているように聞こえた。

 懲りない後輩にナフトは肩をすくめたが別の衛士が通信を入れてきた。

 

『お!言うな〜。よっし!なら俺のキル数も少尉のキルってことで数えていいぞ』

 

「はぁ!!?」

 

 ナフトの驚愕の声をよそに「俺も!俺も!」と言った声が出る。エヴリスを除いた10人対ナフト1人と言ったところだろう。

 流石に勝ち目はない。そんな数的不利をひっくり返すのは無理だ。

 

 諦めたようにナフトはため息をつく。流石に今回勝つのは諦めた方が良さそうだ。

 

 彼女にお願い事は一度もしていないためそれを使って帳消しに……なんてことも考えたが今回は素直に従おうかなどと考えいたその時、CPから通信が入る。

 

『出撃まであと60秒です』

 

 その声は少し笑っている。

 しかしそこで話は止まった。

 

 今回はまごうことなきハイヴ制圧戦だ。まだ人類が一度も成功したことがないことだ。

 死ぬ可能性の方が圧倒的に高いのは知っている。

 

 またここに戻ってくる。それは全員が思っていることだった。

 

 30秒を切り、輸送艦の上へとF-15Eが持ち上げられる。

 空には光線級のレーザーと砲撃が爆発している光景があり、日本へと目を移せばうっすらとだがA-6イントルーダーが並び射撃を行っていた。

 

 10秒を切ると全ての機体の跳躍ユニットに火がつく。

 完全に付いたタイミングでカウントダウンは0へと変わった。

 

『出撃!』

 

 エヴァリスの声に応えるように全ての機体が輸送艦から出撃、海面すれすれを突き進みながら戦場へと向かう。

 

◇◇◇

 

【同年 同月同日 神奈川県】

 

 アーリードッグ中隊は全機無事に上陸に成功。大隊を組んでいる他の中隊の機体たちも全て無事に上陸できているようだった。

 

『よし!これより前進、一気に押し上げるぞ!』

 

「「「了解」」」

 

 中隊の先頭を行くのはドッグ3とドッグ12。ナフトとシルヴィだ。

 どちらの機体も両手に突撃砲、2つの兵装担架には長刀が装備されている。

 

「シルヴィ少尉!背中は任せる」

 

『了解!!ナフト中尉の背中には1匹も触れさせません!』

 

 2人はあの日から名前で呼び合うようになった。

 そのせいで中隊の面々からすぐに関係がバレてしまったが、そんなことはどうでもいい。

 

 シルヴィは実戦と訓練を繰り返すたびに実力を身につけていき、それと同じようにナフトも実力を伸ばしていき、今ではエレメントを組めるのはシルヴィだけとなった。

 

 2機の前に突撃(デストロイヤー)級の小さな群れが現れる。

 何も合図を出さずに2機はすぐさま二手に分かれた。

 

 それぞれの前にあるのは突撃級の無防備な横腹。そこへ36㎜を放ち、無数の穴を穿つとトドメと言わんばかりに滑腔砲を2発続けざまに放ち群れの大半を潰す。

 

 2機は突撃級の群れの後ろで合流、先頭からナフト機、シルヴィ機で縦に並んで進む。

 すぐ次に現れたのは5体の要撃(グラップラー)級、その足元には15体ほどの戦車(タンク)級がいる。

 

 ナフト機はすぐさまチェーンガンと滑腔砲で要撃級2体を撃ち抜くと軽くジャンプ、その瞬間、シルヴィ機が36㎜を戦車級の群れへと叩き込む。

 その戦車級がひき肉のようになったタイミングでナフト機が着地、それと同時に1体の要撃級に120㎜を放つ。

 シルヴィ機はナフト機の背後にいた残った2体を36㎜で落とした。

 

 ターゲットにしていた集団が沈んだのを確認すると2機はすぐに別の群れへと向かう。

 

 次々とBETAを物言わぬ肉片へと変えて行く2機を見て隊員たちは皆同じように息を飲む。

 

 圧倒的過ぎるほどの連携力で危なげなく倒して行く姿は見惚れもする。

 

「見ている暇があれば2人が作った道を広げろ!補給コンテナの投下もある。出し惜しみなしだ!撃ち尽くせ!!」

 

「「「了解!!」」」

 

 中隊各機は小隊規模に散開、射撃によりBETAを倒しながら指定されているポイントまで進む。

 

 2人はあれでも速度を下げているのだが、それでも他の隊員たちよりも早い。

 そのせいで大半のBETAは先行するナフト機、シルヴィ機を狙う。

 

 しかしそのおかげで隊員たちは2機に向かうBETA群を叩くだけで安全に先へ進めている。

 

 ナフトの死角から向かうBETAをシルヴィが撃ち抜き、シルヴィの死角から向かうBETAはナフトが撃ち抜き、そんな2人へと集中し過ぎないように射撃で援護を行いながら前進を続けた。

 

 そんな調子だったためかアーリードッグ中隊は指定されたポイントに到着した。

 ハイヴへの突入は日本帝国、斯衛軍の役割であるため、彼らはここで間引きと同じ要領でBETAを引き付ければいい。

 

『ドッグ3、ドッグ12。ご苦労だった。一度下がって補給を受けろ』

 

「『了解!』」

 

 エヴァリスの指示に従い2人は隊員たちの援護を受けながら後方に下がり、補給コンテナから燃料と弾薬を補給を開始した。

 

 ナフトが息をつくとシルヴィから通信が送られてきた。ウインドウに映る彼女の顔は真剣だ。

 

「どうした?」

 

『……あなたの背中は絶対に守ります。ナフトの隣が私がいるべき場所ですから』

 

「ああ、頼むよ。私もシルヴィ以外とはエレメントが組めそうにもない。私も君を守ろう。死力を尽くして、な……」

 

『はい!』

 

 2人の短い会話が終わるのと同時に弾薬と燃料の補給が終わり、それを告げるウインドウが現れる。

 それを確認してナフトはシルヴィに告げた。

 

「行くぞ。少尉」

 

『了解しました。中尉』

 

 2機のF-15Eは中隊の隊列の中へと入り向かいくるBETAを撃ち抜いていく。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

明星作戦(中)

【1999年 8月5日 神奈川県】

 

 1機のF-15Eが向かってくる要撃級の一撃を回避しながら横に回り込み、右手に持っている長刀を振り下ろした。

 吹き上がる鮮血を浴びながら左から集まっていきている戦車級の群れへと36㎜を放ち、肉片へと変える。

 

 その後ろから2体の要撃級が迫るが別のF-15Eが1体へ120㎜滑腔砲を2発、もう1体は長刀を振るい切り殺した。

 

「まだか……!」

 

『通信は、ないですね……』

 

 作戦開始からすでに5時間。彼らの戦闘が始まってから1時間。30分ほど前に日本帝国軍、斯衛軍、大東亜連合軍が軌道降下でハイヴに突入したとの報告は受けている。

 しかし、その後の定期報告が全く上がって来ない。

 

 BETAの数も少しずつだが増えてきている。

 国連が行なった光線級吶喊も成功しており光線級がほとんどいないため艦砲射撃はまだ続けられているが、それもいつまで持つか分からない。

 

(このままだと、すり潰されるな……)

 

 突撃級集団の突進を跳躍ユニットを吹かし、飛ぶことで回避。その後、そのまま進む突撃級の無防備な背中を突撃級で撃ち抜く。

 

 先にナフト機が着地、寄ってきた戦車級に36㎜をばら撒き、長刀を振るって片付けたタイミングでシルヴィ機も着地して同じように戦車級を肉片へと変える。

 

『前衛、交代だ。今のうちに補給を!』

 

「『『了解』」」

 

 ナフトとシルヴィ含めた4人がエヴァリスへと返事を返し、ターゲットにしていたBETAを倒すと後方へと下がる。

 その穴を埋めるように別の4機が前に出てBETAの駆逐を始めた。

 

 その間に燃料と弾薬を補給する。

 それと同時に管制ユニット内にある水筒で水を飲む。

 

「ふぅ……」

 

 あとどれだけこの戦闘が続くのかわからない。

 

 ゆっくりと呼吸を繰り返していると頭上を艦艇から放たれた砲弾がいくつも飛び、群がるBETAへと着弾、それと同時に爆発し大量のBETAを吹き飛ばす。

 

『はは……どうしたんですか?中尉。数あんまり変わりませんよ?』

 

「持久戦だからな。いきなり飛ばすと後が続かないぞ?」

 

 そう言いながら心の中で安堵する。

 まだ軽口を言える余裕がある。ギリギリだがまだどうにかなる。

 

「補給が終わったらまた俺たちで前に出る。少し押され始めたからな。ここが踏ん張りどころだ」

 

『了解。任せてください』

 

 その後、補給を終えた2機は再び前線へと舞い戻り、迫り来るBETAをなぎ倒していく。

 

◇◇◇

 

 それから約1時間ほどが経った時だった。

 ちょうどナフトとシルヴィが補給へと戻ろうとしていた時、CPからの通信が響いてきた。

 

『こちらCP。全部隊へ通達。ハイヴへの進攻部隊全滅。繰り返す。ハイヴへの進攻部隊全滅』

 

「ッッ!!?」

 

 それは薄々予想していたとはいえ彼らに衝撃を与えるには充分過ぎる情報だった。

 

 しかし、それだけではない。

 

 突如として地面が揺れ始めた。

 一瞬地震かとも思ったがこれは違う。帝都防衛の頃にも経験した揺れ方だ。

 すぐに戦術機のレーダーを使って確認するがやはり同じ結果を導き出している。

 

「地中……進攻!」

 

 ナフトの言葉を肯定するかのように地面に大穴が開くとそこから大量のBETAが現れた。

 

『ちゅ、中尉!BETAの数が……』

 

 レーダーへと視線を移すとハイヴがある方向はあまりの数で真っ赤に染まっている。

 あっという間に測定不能を表す表示が現れた。

 

『全機!このポイントを一時的に放––––』

 

 エヴァリスが全てを告げる前に警報音がけたたましく鳴り響き、彼らの網膜に表示を映し出す。

 

「照射––––」

 

『––––警報!?』

 

『全機!散開ぃいい!!』

 

 その声と同時に動き出せたのは11機。1機は補給中であったため、わずかに動きが間に合わずレーザーに撃ち抜かれた。

 

(まずい……ここで光線級はまずいぞ……)

 

 まだかろうじて光線級吶喊は出来るがそれでも確実に戦力は削られる。

 そんな状態からハイヴへ突入するなど至難を通り越してもはや無謀だ。

 

 全艦が対光線級用のAL弾頭に切り替え、重金属雲の濃度を上げようとしているが完全に展開し終えるのはいつになるか分かったものではない。

 

 そんな時に通信が入った。

 そこに映るのは部隊のCPオフェンサーでなく米国部隊を統括する者だった。

 

『我々はこれよりG弾を使い、BETAを一掃する。予想効果範囲をこれより送る。全部隊はこの範囲より900秒(15分)以内に離脱せよ。繰り返す––––』

 

 送られてきた情報を表示させ、部隊員は息を飲んだ。

 

「なん、だ?この範囲は……」

 

『こんなの……戦術核よりも、ずっと広い』

 

 表示されている情報は明らかに何かの悪ふざけか希望的観測となじられても仕方がないような広さだった。

 どうやら2発使うようだがそれでも範囲が明らかに大き過ぎる。

 

(第1に光線級はどうする?どれほどの物であれ光線級がいたらどうしようもないはず……)

 

 それは上層部もわかっているはず。

 しかしそれでも何も指示してこないというのはおかしい。

 

『全機、これより我々は効果範囲外まで後退する。フォーメーション、アローヘッドワン。先頭はドッグ3。いけるな?』

 

 気にする様子もないエヴァリスにナフトは少したじろぎながらも返答を返す。

 

「りょ、了解」

 

 ナフトが移動を始めると他の機体もそれぞれのポジションへと並び、移動を始めた。

 

◇◇◇

 

 度々BETAの生き残りが数体出て来るがこの調子なら問題なく後退ができる。

 

 そんな時、自機を低く飛ばしながらナフトは考えていた。

 

(にしてもアメリカは何をするつもりだ?)

 

 詳しい情報は何一つとして与えられなかった。ただ逃げろと言われ、素直にそれに従って動いているだけだ。

 

 嫌な予感がする。本能が訴え続けている。

 

 ただ逃げろ、と。

 

「ん?」

 

 そんな時だった。中隊の横を2機の戦術機が通り過ぎた。

 

(青い、不知火(Type94)?)

 

 不知火。

 それは世界で初めて実戦投入された第3世代戦術機だ。

 しかし、開発に時間がかけらなかったのか別の理由からか拡張性がほとんどなく。また、日本製戦術機の特徴が強く現れ過ぎ、あまり国連仕様の機体は見たことがない。

 

「ッ!あの2機!!」

 

 だが問題はそこではない。問題はその2機の向かう方向。

 その方向はG弾と言われるものの効果範囲内へと入る方向。少なくとも後退命令が出ている者が取るルートではない。

 

(まさか!米軍のみへの通達?)

 

 浮かんだ瞬間、一蹴しようとしたがすぐにやめた。

 米軍のみに通達されているのであれば他の軍が、例えば先ほどの不知火のように前へと進むのにも納得が行く。

 

 中隊各機は動く気配がない。もしかしたら重金属雲の影響でレーダーに支障が出ているのかもしれない。

 そしてそれは彼も同じ。ただ目視(カメラ)で偶然に見えただけだ。

 

 だから彼も無視しようとも考えた。だが、妙に頭にチラつく。気になって仕方がない。

 

「……クソ!」

 

 ナフトは悪態をつき、操縦桿を握りしめると自機を今まで進んでいた方向とは真逆へと変えた。

 

『なっ!?』

 

『ちょっ!』

 

「先ほど国連軍の戦術機を見つけました。後退を知らせてきます!」

 

『待て!中尉!』

 

 エヴァリスの静止の声を振り切り一気に跳躍ユニットを吹かす。

 

『私が追います!皆さんはこのまま後退を!』

 

 その後に続くようにシルヴィは言うと機体を反転、ナフト機を追い跳躍ユニットを吹かした。

 

◇◇◇

 

「……おい!そこの2機!聞こえるか!」

 

 ナフトはF-15Eを駆りながらオープンチャンネルで呼びかける。

 だが、返答はない。

 

 重金属雲が厚くなり通信状況がかなり悪くなっているのだ。おそらくここからでは通信は届かない。

 レーダーにも自分は写っていない可能性まである。

 

(もう少し近づかなければダメか)

 

 ナフトが奥歯を噛み締めているとノイズ混じりの通信が入ってきた。

 

『ま、待ってください!中尉!』

 

 叫ぶのはシルヴィだった。

 

「少尉!?なぜ付いてきた!」

 

『こんな状況で1人にできるわけないじゃないですか!中尉こそどうして急に。国連軍機なんて……レーダーには!』

 

「重金属雲でレーダーは役に立たない!たまたまカメラで見えただけだ。国連はG弾の投下を知らないかもしれない。全部は救えなくとも、目に付いた奴はどうにかする」

 

 早口でまくし立てると速度を上げる。

 それに続くようにシルヴィも速度を上げ、ナフト機の隣に並んだ。

 

『まさか!なんでそんな!』

 

「米軍がこれに首を突っ込んできたのはあの兵器を試すためだ。他国が反対したとしても強行する!いや、したんだろう。だとしたら他の国へは無通告でやっている可能性が9割だ」

 

 佐渡ヶ島にハイヴが出来てからアメリカは日本への援軍はほとんど送っていなかった。横浜にハイヴが出来た時もそうだった。

 しかし、なぜかハイヴ制圧という時になってようやく腰を上げた。G弾というよくわからない兵器とともにこの作戦に介入した。

 

 それは米軍は最初からこの作戦を実験場としか見ていなかったと考えられないだろうか。

 もしそれが事実だとしたらだ。米国は他国を切り捨てることだってやりかねない。

 例え日本やその他の国から責められようともハイヴを攻略した。という実績があればそう大きな声で言うものは少ない。

 確実を期すために2発も持ってきたのだろう。

 

(クソ!自国主義もここまでこれば感に触る!)

 

 怒りをぶつけるように要撃級の横っ腹通り抜けざまに叩き切る。

 わずかに止まったナフト機へと戦車級が飛びかかるがそれを36㎜をばら撒くことで肉片に変えた。

 それを一瞥すると再び跳躍ユニットを吹かし飛ぶ。

 

『でも!だからって中尉が言いに行く必要はないはずです!』

 

「救える者がいるのに切り捨てろというのか!目の前に、手を伸ばせばそこにいるんだぞ!」

 

『ッ!中尉は偽善者にでもなるつもりですか!』

 

「偽善がなんだ!動かなければ何も変わらない!それにな、それでも善であることに変わりはない」

 

 息を飲むシルヴィを無視してナフト機は速度を上げ、BETA集団の間を縫うように進む。

 しかし機体の性能差が影響してかとてもだが追いつけない。

 

(もっと早く動け。もっと、もっと!)

 

 焦っていたせいだろう。

 

『ッ!中尉!!』

 

「ッッ!!?」

 

 BETAの死骸かと思っていた場所から要撃級の腕が伸びてきたことに気が付かなかった。

 

 声をかけられて気がつきはしたがもう間に合わない。このまま攻撃が当たれば管制ユニットに直撃する。

 とっさに判断できたがかなりの速度で動いていたため急ブレーキをかけても止まらない。

 

 その時だった。横から衝撃が訪れた。

 自機が横から何かに突き飛ばされたのだとすぐにわかったが目の前の光景の意味がわからなかった。

 

「な、ん……」

 

 吹き飛ばされるナフトの網膜にはシルヴィ機の管制ユニットに要撃級の腕が当たり、装甲が散らばる姿が映されていた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

明星作戦(下)

 

「シルヴィイイイイ!!!」

 

 ナフトはすぐさま自機の姿勢を直すと突撃砲を投げ捨て長刀で要撃級を突き刺した。

 間髪入れず膝装甲ブロックから短刀を取り出し、逆手で持つとそれでも突き刺し、確実に息の根を止める。

 

「シルヴィ!シルヴィ!!」

 

 通信を必死にかけてようやく声が返ってきた。

 

『ちゅ……い……』

 

 しかしその声は弱々しいものだった。内部カメラも破壊されたのか声のみで内部映像は入ってきていない。

 

 だが、それでも彼が安心するには充分だった。

 

「ま、待っていろ。今––––」

 

『だめ……です』

 

 一瞬その言葉が理解できなかった。できなかったたが視界の端にあるタイマーが目に入った習慣、理解してしまった。

 

 残り約360秒。

 その時間では彼女の機体を抱えながら飛ぶのは無理だ。一機が全力で飛ばせばギリギリ離脱できるかもしれないという時間。

 機体を抱えていれば絶対に間に合わない。

 

「いや!管制ユニットを切り、離……せ、ば」

 

 言葉は出たが無理だと悟る。

 シルヴィのF-15Eの胸部は完全に歪んでいる。

 そんな状況で中にいる者を傷つけずに管制ユニットのみを取り出すなど無理だ。同じ理由で緊急脱出(ベイルアウト)も無理。

 

 そもそも胸部のこの凹み具合を見れば中の衛士の状態など容易に想像できた。

 おそらく下半身は潰されている。かろうじて上半身と顔が無事というところだ。

 もし離脱できたとしてもその時にはもう死んでいる。

 

 その考えを否定し、何か策はないかと考え込むナフトにシルヴィの声が届く。

 

『私を……殺、して……』

 

 息を飲むナフトにシルヴィは続ける。

 

『最後は……好きな人に、殺され、ゴホッ』

 

 彼女の苦しげな言葉は水っぽい咳が入ってしまい最後まで言われることはなかった。

 

 ナフトは奥歯を噛み締めながら操縦桿を強く握りしめる。

 

◇◇◇

 

 なんて酷なことを言うんだろうとシルヴィは思う。

 しかし同時にもしナフトに同じことを言われれば自分はどうするだろうと考える。

 

 悩むはずだ。戸惑うはずだ。もしかしたら諦めることに怒りを感じるかもしれない。

 

 そして、結局は何もできないような気がする。

 

 「殺して」と言ってから彼の答えは聞こえない。

 かろうじて見えるナフトのF-15Eを見つめながら答えを待つ。

 

 それからどれほどだったのだろうか。ほんの数秒であったはずなのにとても長い間待っていたような気がする。

 

 ナフトは答えることなく兵装担架に残っていた長刀を装備、それの切っ先をシルヴィへ向け両手で握りしめた。

 

(ああ、よかった……)

 

 彼は決められた。

 多くを語れない自分の意志を汲み取り実行に移してくれた。

 

(あ〜あ、なんで、また好きにさせるんですか……)

 

 本当に仕方のない人だと思う。

 

 何にでも真面目に取り組み、細かいことにもすぐに気が付き、善悪がはっきりしている上に自分の意見を臆面なく言う。しかもそれらに加えて行動力まである。

 

 そのくせ自分に向けられる感情には無関心ときた。

 

 でもそこが好きだった。

 1人で大概のことをしてしまえる。自分の進むべき場所を知っている。

 

 シルヴィにはナフトが完璧な人間に見えた。まだ彼は戦う理由を見出せていないのに。

 

(あ、でも……)

 

 心配事がある。

 彼はなんでもできてしまう。しようとしてしまう。

 だからかも知れないが、彼はなんでもかんでも1人で背負いこみすぎてしまう。それを少しでも楽にさせる者が必要だ。

 

 自分には無理だった。

 ただ彼の背中を追い、支えることしかできなかった。

 

 しかし、彼に必要なのは隣に立てる者だ。背中にある物を無理矢理下ろせるだけの強さを持つ者だ。

 自分よりももっと強い。本当の意味で隣に立てる者が彼には必要なのだ。

 

 薄れゆく意識の中はナフトについていっぱいだった。

 

(初めて、私を愛してくれた人……)

 

 彼だけは自分を愛してくれた。

 体にある傷を見せても驚きはしていたがすぐに柔らかい笑みを浮かべて優しくそこに触れてくれた。

 

「生き……て」

 

 本来ならもっと言いたいことがある。

 だが、時間と自分の体がそれを許さない。

 四肢は潰されて内臓もいくつか潰されているせいで這い上がってきた血が口から伝い落ちる。

 そのせいで続く言葉が言えない。

 

 ナフトが駆るF-15Eは長刀を掲げた。

 

(あ〜あ、でも––––)

 

 最後に脳裏に走るのは彼との記憶。

 ほんの半年と少し。彼の彼女になれたのは半年程度。

 親にすら愛されることなく生きていて幸せだったのはほその時だけだった。

 

(––––もっと)

 

 最後にただ望むのは彼が生き続けてもっといい人を見つけること。

 

「生きていたかったなぁ」

 

 そう小さく呟き、少女は力なく笑い、その目からは涙が伝い落ちた。

 

◇◇◇

 

「……」

 

 ナフトは胸部の管制ユニットに長刀が突き刺さっているF-15Eを見下ろす。

 彼の目に涙はない。苦悶の表情もない。

 いつもの彼の顔がそこにはあった。

 

 視界の端になるタイムリミットは330秒を表示していた。

 離脱できるかどうかはギリギリというところだ。

 

 しかしなんとしてでも離脱しなければならない。生き残らなければならない。

 

 それが彼女が最後に望んだことだから。

 

 ナフトは跳躍ユニットに火を入れると離脱ポイントへ向けて飛ぶ立つ。

 BETA集団が所々に残ってはいるが迂回する時間はない。一直線に突き抜けて行く。

 

 F-15Eを駆る彼の顔はいつもと同じ。だが、その手は怒りをぶつけるかのように、悲しみを押し込めるかのように強く握りしめられていた。

 

◇◇◇

 

 ナフトがG弾の予測効果範囲から離脱できてから約30秒後。それはハイヴへと落とされた。

 

 ハイヴを飲み込み、BETAを飲み込んだ黒い半球。それにより明星作戦は成功を収めた。

 人類が初めてBETAに一矢報いた作戦であったことなど言うまでもない。

 

 しかし、離脱の通達を受けていたのは米国軍、国連軍のみだった。

 何者かの活躍により帝国軍、斯衛軍の一部も離脱できていたがそれでもほとんどの部隊を失ったことに変わりはない。

 

 特に酷かったのか大東亜連合軍だ。

 こちらは前線に出ていた部隊の8割を消失。壊滅的被害を受けることとなった。

 

 人類側の被害は相当ではあったがこれにより西日本に残っていたBETA集団は大陸への移動を開始。

 それに対し残存部隊並びに日本帝国軍、斯衛軍の戦術機甲大隊の追撃によりBETA集団に大きな被害を与えて明星作戦は終了した。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ソードマン

【1999年 8月10日 カリフォルニア州】

 

 明星作戦から5日が過ぎた。

 ナフトたちアーリードッグ中隊はあの後、2日ほど敗走するBETA集団を追撃していたが損耗していたこともあり別の中隊と交代で昨日基地に戻ってきていた。

 

 ナフトは格納庫でその戦場を駆け抜けた自分のF-15Eを見上げる。

 

 整備兵が言うにはいたるところでガタがきているらしく今回の修理で集中的にオーバーホールするらしい。

 

 見上げていた視線をポケットから取り出した物へと落とす。

 それはシルヴィのドッグタグだった。

 

 彼女は作戦前には必ずこれを整備兵に預け「もし私が戻らなかったら彼に渡して」と言っていたらしい。

 

 遺留品の整理は別の者がしている。本当は全て自分が受け取りたかったが流石に全てとなると女々しいような気がしていた。

 

(でも……これだけは許してくれよ)

 

 ナフトはそのドッグタグをポケットに押し込むと格納庫から出た。

 

◇◇◇

 

 その日の夜エヴァリスに呼ばれた。

 入って早々に渡されたのは一つの封筒。誰が書いたものかは問う必要がない。

 

 「シルヴィ・エルヴィア」と言う名前が真ん中に書いてあるからだ。

 これは間違いなく彼女の遺書だろう。

 

「申し訳ないが先に封を開けて読んだ。それは、君が持っておくべきものだと思ってな」

 

「……ありがとうございます」

 

 ナフトはそれを受け取ると読んことなく真剣な表情でエヴァリスに言う。

 

「大尉。私は国連軍に移ります」

 

 その言葉にエヴァリスは驚いたように目を見開いたがすぐに「そうか」とため息と合わせて言った。

 彼には自分の考えに察しがつけられているのだろう。しかし、それでもきちんと言っておかなければならない。

 

「私は、もう米国のやり方についていけません」

 

 今までの米国のやり方に違和感を感じていた。言い換えればまだその程度でしかなかった。

 だが、明星作戦での無通告のG弾の投下。その光景を見てナフトは愕然とした。失望した。

 

 結局は他国を切り捨ててでも自国の優位性を保ちたいだけなのだとようやく気がついた。

 BETAと戦うために死ぬのはいい。しかし、そんな国の道具に成り下がって死ぬのだけはごめんだ。

 

 それに加え、明星作戦でG弾の有用性は証明された。理由は定かではないが光線級がいても問題なくハイヴを消失させたのだ。

 であればおそらく米国はそれを全世界のハイヴへと落とそうと言い出しかねない。

 

 あんな兵器が周りにどんな影響を与えるかもわからないと言うのにだ。

 もしかしたらそのせいで人類はまともに地球で過ごせなくなるかもしれないと言うのに目先の利益にすがりついている姿は醜く見えしまった。

 

「……わかった。どうにかしてみよう」

 

「どうにか、出来るものなんですね」

 

 呆れを含ませながらナフトは言った。

 

(国連はやはり米国の傀儡か……)

 

 それでもいい。名前だけでも違ってくれれば、米国のためではなく世界のために戦っているのだ。と自分に言い聞かせられる。

 

 ナフトからは言うことはもうない。部屋から出ようと敬礼をして扉の方を向いた時にエヴァリスから質問が投げられた。

 

「貴官はBETAを恨んでいるか?」

 

「……私がするべきは復讐ではありません。生きることです」

 

 ナフトはエヴァリスの部屋から出た。

 

 頭に甦るのは彼女が最後に言った言葉。

 

 ––––生きて

 

 ならば生きていなければならない。復讐に囚われたものがどうなるか。それは決まって同じだ。

 そんなことはしない。ただ生き続ける。

 

 しかし戦場に立ち続けることだけは許してほしい。

 まだ自分は戦う理由を見出せていない。それを見つけなければそもそも死ねない。

 

 ナフトはポケットからドッグタグを取り出すとそれを握りしめ、歩き出した。

 

◇◇◇

 

 エヴァリスはここ5日間を思い出す。

 確かに彼はいつも通りだった。

 変わったのは整備兵からあのドッグタグを渡された時だけだ。その時にに浮かべた悲しげな表情が少し印象に残っていた。

 

(死者の願い(呪い)、か……)

 

 それは大概が復讐心へと至る。

 だが恐らくナフトはそんなことにはならない。そんな気がする。

 

 しかしそれは本当にいいことなのだろうか。

 

 復讐。

 それは託されたものを外へと吐き出す行為ではないのだろうか。残された者が自分を責めるための行為ではないのだろうか。

 

 復讐しない。

 それはただ背負いこむだけの行為ではないのだろうか。

 外に吐き出すことなく背負いこみ続ける行為ではないのだろうか。果たして彼はそれを背負い続けられるのか。

 

(いや……考えるのはやめよう)

 

 エヴァリスは息を深く吐き、椅子に体重をかけ、窓から見える夜空を眺めながらポツリと呟く。

 

「ソードマン……か」

 

 その声はどこか哀れむようなものを感じられた。

 

◇◇◇

 

『 恐らくこの手紙をあなたが読んでいる頃、私はもうこの世にはいないのでしょう。

 どうかこの手紙があなたに届いて、読んでいることを祈りながら私は筆をとります。

 

 私は確信します。私は世界で一番の幸せ者です。

 だって、私は憧れていた人に出会えて、同じ部隊で同じ時を過ごせて、しかもその人の彼女になれたのですから!

 

 これほどの贅沢を私1人が受けて良いのでしょうか?なんて思っちゃうぐらいです。

 

 今まで生きてて良いことなんてなかった。

 母に何度も死にそうな目に合わさるし、保護施設でも暴力はないだけでとてもではないけど楽しい生活なんて出来なかった。

 

 でもあなたに出会えてそんな人生は変わりました。

 あなたと過ごせてとても楽しかった。悔しい思いも確かにしました。

 でも、それ以上に私はあなたと同じ時を生きて、同じものを見れて、あなたに抱かれて幸せだったんです。

 

 あなたは私の過去を聞いても私を認めてくれた。いつもと変わらない声で私に接してくれた。

 本当に、嬉しかった。

 

 どれほどあなたと同じ時を過ごせたのかこれを書いている私にはわかりません。でも、確信していることがあるので書きます。

 

 素敵な思い出をありがとうございます。

 私はこの世界のどんな人よりも本当に幸せでした。

 

 P.S

 あと、『バトルダンサー』ってダサすぎです。ネーミングセンスなさ過ぎです。

 【ソードマン】の方がかっこいいのでこれからはソードマンと名乗ってください!』

 

「……どっちもそう変わらないだろ」

 

 ナフトは彼女が残した最後のものを読むと呆れたような笑みを浮かべる。

 その頬には涙がゆっくりと伝っていた。

 

 作戦前にしていた賭けは当然ながらナフトの負けだった。

 当たり前だ。11対1だ。勝てるわけがない。

 

 あの時の賭けの報酬は「勝った者の言うことをなんでも聞く」。

 そこに何個までと言った数については何も言ってない。

 

(ここに来て一本取られたな……)

 

 ナフトは読んでいた遺書を机に置くと優しい笑みを浮かべて窓から見える夜空を見上げた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ソードマン
ユーコンへ


【2000年 2月4日 アラスカ州】

 

 輸送機から降りてすぐに寒さで震えた。

 吐かれた息は白く、それは上へと上がって消えていく。同時にかけているメガネが曇った。

 メガネを外して手袋で拭いて再びかける。

 

「寒い、とは聞いていたが。ここまでとはな……」

 

 予想以上の寒さにナフトはもう一度震えると飛行機に繋がれたタラップを降り始める。

 その下には二十代後半あたりの白人男性が敬礼をしてナフトを出迎えていた。

 

「お待ちしておりました。ナフト・アーリスト大尉。私はウルジア・ヴェリア曹長です」

 

 ナフトも敬礼し、すぐに降ろした。それを見てウルジアも手を降ろす。

 

「ああ、ありがとう。すまないが暖かい場所に案内して貰えるか?ここの寒さはきつい」

 

「はっ、すぐにご案内します。こちらへ」

 

 彼が勧める場所には一台のジープが停まっていた。

 ナフトは勧められるがままそれに乗り込むとウルジアが基地の方へと向かってジープを走らせる。

 

 ナフトは寒さで首を縮こませながらもこうなった経緯を思い出す。

 

◇◇◇

 

【2000年 1月20日 シンガポール】

 

 国連軍ユーコン基地では各国の戦術機開発が行われている。

 名目としては国連軍による開発場所の提供と試験運用が目的である。

 だが、本質的には各国が自国の戦術機開発の技術力を見せつける場だとナフトは思っていた。

 

 しかし思惑はどうであれ試験部隊が数多く配属され、そこにいる衛士たちの練度は群を抜く。

 最新の戦術機が集まる場でありながら最優の衛士たちが集まる場でもある。

 

 そのユーコン基地への異動届けがナフトの前に差し出されていた。

 

「……少佐殿。私に、後方へ下がれと仰るのですか?」

 

 言葉は丁寧に、しかしそこには明確に憤りが感じられる。

 

 ナフトが国連軍に入ってすぐに配属された部隊。その隊長である少佐の男性はゆっくりと頷く。

 

 ナフトは歯を食いしばり、拳を握りしめた。

 

 その辞令書には確かにいいことばかりが書いてある。それらに加えてテストパイロットという身分。

 

 それになると言うことは名誉なことだ。少なくともなろうと思ってすぐになれるようなものではない。

 それ故に己の実力が他者に認められたその証明でもある。

 

 だが、ナフトは違うと叫ぶ。

 どれほどの名誉、栄誉であれ自分の力はBETAに向けるためにある。

 それにまだ自分は何も見つけられていない。それを見つけるまでは前線から下がるつもりはなかった。

 

「……申し訳ありませんが、辞退させていただきます」

 

 例えそれを愚かと罵られようともテストパイロットなどになる気にはなれなかった。

 

「貴官は何か勘違いをしているな……これは願いなのではない。命令だ。上から直々に言い渡された……な」

 

 眉をひそめるナフトに男性はゆっくりと息を吐き肩を落とす。

 

「そう嫌そうな顔をするな。貴官は強い……しかし、強いだけでは大切な物を失うぞ」

 

 そう言われ、浮かぶのは明星作戦の光景。

 要撃級に吹き飛ばれたF-15Eとその胸部に突き刺さった長刀。

 放たれた2発のG弾、残された荒野。

 

「もっと広い世界を見てこい。何か見つけられるやもしれんぞ。ソードマン」

 

 結局彼はその命令に従い、ユーコン基地へと向かうことになった。

 その条件の一つとして挙げられていた昇進を受け、ナフトは大尉となったが彼にとってはどうでもいいことだった。

 

◇◇◇

 

【2000年 2月4日 アラスカ州】

 

「どうかされましたか?大尉」

 

 物思いにふけっているうちに目的地に到着していたらしい。ウルジアが不思議そうにナフトを見えた。

 

「いや、なんでもない。にしても––––」

 

 ナフトはウルジアの後を歩きながらその建物を見上げる。

 

「いきなり、格納庫とはな」

 

「申し訳ありません。すぐに案内しろとのことでしたので。しかしご安心をここよりは暖かいですよ」

 

「私は––––」

 

「大尉殿はこうおっしゃりました『暖かい場所に連れていってくれ』と……」

 

 してやったと言わんばかりにニヤリと笑うウルジアにナフトは肩をすくめて小さく笑った。

 

「これは、してやられたな……」

 

「このような者は嫌いですかな?」

 

 ナフトに聴きながらウルジアは操作して格納庫への扉を開く。

 

「いや、むしろやりやすい」

 

「それは良かった。私もノリがいい方で良かったです。さ、こちらへ」

 

 ウルジアに言われるままに先に進む。

 入った格納庫には戦術機は何も入っていなかった。

 ただぽっかりと空いたハンガーが3つ並び、コンテナがいくつか積まれているだけだ。

 

 そのことを聞こうとしたナフトにウルジアが答える。

 

「ここはただの偽装用です。もうしばらくすればフェイクの戦術機を搬入しますがまだ書類上は動いていない計画ですので……」

 

「なるほど、曰くしかない部隊な訳だ」

 

「部隊、と呼べるのか少々疑問に思いますが……衛士はあなただけですし」

 

 言いながら格納庫の奥に来ると隠されるかのようにあるパネルを開いた。

 パスワードを入力、ポケットから取り出したカードを読み込ませると壁が開いた。どうやらエレベータらしい。

 

「これだとまるでニンジャヤシキだな」

 

「申し訳ありません。私で開けられる場所はここぐらいしかなくて……大尉はもう少し自由ですのでお気になさらず」

 

 どこか申し訳なく言いながらウルジアはその中へ入る。

 

(嫌いでは、ないんだがな……こういうものは)

 

 ナフトもその後を追いエレベータへと入った。

 2人が入るとエレベータの入り口がふさがれ、偽装用格納庫には静寂が訪れた。

 

◇◇◇

 

 エレベータが着いた場所も戦術機用のハンガーだった。だが、こちらは地上とは違い一機の戦術機がある。

 

「これは……」

 

「YF-23ブラックウィドウⅡです。ロックウィードのYF-22との正式採用勝負に負けた“世界最強の戦術機”です」

 

 通常の戦術機と比べて一回りほど大きい戦術機が彼らの前のハンガーに固定されていた。

 

「世界最強とは……大きくでたな」

 

「事実ですよ。こいつとYF-22とのスコアは14対18、ドロー5、無効3でこいつが勝ってます。G弾、とかいうやつのせいでこいつは落とされたんですよ」

 

「なるほど。戦術機はG弾でBETAを吹き飛ばした後の掃除役。無駄な性能は必要なし、と……」

 

「ええ、その通りです。そういえば大尉はオペレーション・ルシファーに参加していたんでしたね」

 

 ナフトは「ああ」と答えて再びYF-23を見上げる。

 開発はアメリカのようだが明らかに日本製戦術機のようなシルエットも合わせ持っているように見えた。

 

「大尉にはこいつをベースとした新しい戦術機のテストパイロットをしていただきます。詳しい資料はすでに部屋の方に用意していますのでそちらを確認してください」

 

「新型を?待て。アメリカはそのYF-22を量産するはずだ。何故わざわざ新しく作る」

 

 当然の疑問だ。

 もう正式採用は決まっている機体があると言うのに新しく戦術機を作る意味はない。他国から依頼された、と言うのも考えにくい。

 超がつくほどの自国主義であるあの国が技術流出があり得るそんなことを許すわけがない。

 

「まぁ、結構複雑なんですよ。書類上は技術検証試験機という扱いで開発は日米国連共同、っていうことになってますが所属は米国、開発費は国連持ちで日本も当然ながら技術提携と……割とごちゃごちゃしてますから」

 

 確かに聞く限りではいつもの面倒な政争が起こっていそうだ。

 政争は政治家たちだけでしていろと思ったが口に出すことはない。ただの衛士が言ったところで変わりはしない問題だ。

 

 ナフトはYF-23を見つめて一つ呟く。

 

「……テストパイロット、か」

 

 考えることは戦術機に関することだけではないらしくテストパイロットもそれはそれで大変なのだな、とどこか他人事のようにナフトは思っていた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

継ぎ接ぎ

【2000年 2月5日 アラスカ州】

 

 YF-23ブラックウィドウⅡのハンガーにナフトが入ってきた。

 昨日とは違い作業員が複数いて各々が作業を行なっている。

 

 彼はしばらくあたりを見渡し、目的の人物を見つけると詰め寄りると手に持っていたそれを見せつけながら言う。

 

「こいつの開発者はなにを考えている!」

 

「……わ、私に聞かれましても……私たちはただ指示されている通りに動いているだけですよ!」

 

 周りの視線を集める中、詰め寄られたウルジアはたじろぎながらそう答えた。

 

 その状況になりナフトはようやく怒りを鎮めて息を吐くと、目元を抑える。

 

「す、すまない……取り乱した」

 

「い、いえ……私も同じようなことを思いましたから」

 

「全く……これを書いたものは酔っていたわけではないのだな?」

 

 疑いの目で昨日穴が空くほど見続けた新型機の資料をめくる。

 そこに並ぶ数字や文字はやはりふざけているとしか思えない。

 

「そ、そりゃ……流石にないとは思いますけど」

 

 ウルジアの言葉にそれはそうだと思いながらもやはり信じられずに口に出した。

 

「こんな高性能な戦術機など見たことがない」

 

 開発しようとしているその戦術機はまさに世界最強を余裕で唄えるほどの高い性能でまとまっていた。

 

 YF-23の多任務万能戦術機としての特徴はそのままに各部関節の強度上昇、それに伴い各部大型化。

 

 それのせいで落ちる機動力を補うように高められた跳躍ユニットの出力やエネルギーの効率化。各部に増設されているスラスター、空力特性を生かした設計。

 

 さらに各部エッジ、指先には特殊カーボン製ブレード。脛の装甲ブロックにある大型マチェットに前腕部には短刀と仕込み短刀。

 肩装甲ブロックに移設された兵装担架は片方2つずつの計4つ。

 

 大まかな特徴をまとめただけでも常識を疑う。

 それぞれならわかる。だが、その全てを混ぜようなどと普通は考えつかない。

 

 理由は明白、一機作るのにいくらかかるかわかったものではないからだ。

 確実に従来の3倍から5倍というところだろう。少なくとも正気の沙汰ではない。

 

 それに加えて維持費や整備費も決して安くはないだろう。

 

「色々突っ込みどころはあるが、なんだこのブレードの数は。しかも速度は従来の戦術機よりも圧倒的に速いときた……これじゃあ空飛ぶ剣だぞ」

 

「空飛ぶ剣とは……いい例えですね」

 

「こんなことで褒められてもな……」

 

 ナフトはめくっていた資料を閉じて目の前のYF-23を見上げる。

 このままでも充分に完成されているというのに技術はさらに先をいけるらしい。

 

(まぁ、こいつもこいつで相当高いみたいだがな)

 

「まぁ、いいんじゃないですかね?量産する気は無いようですし……」

 

「当然だ。こんなものを量産したところで金もかかるし満足に使える者など30人もいないだろうからな」

 

 だが、と区切りナフトはウルジアの方へと視線を移す。

 

「私があれほどまでここに行けと言われた理由がわかったよ」

 

 複雑な政争が絡むこの機体。所属は米国だが運用は国連。

 望むのは国連軍所属の米国人。さらに言うなら親日家であることも条件に加えたいところだろう。しかし、米国人でまともに戦術機で格闘戦ができる者かつ親日家といえば相当に限られてしまう。

 

 まさにナフトのような者が適任だったというわけだ。

 

「ご理解が早くて助かりますよ」

 

 申し訳なさそうに言うウルジアにナフトもどこか申し訳なさそうな表情を浮かべて言う。

 

「すまない。邪魔をしたな」

 

「いえ、大尉のようになってしまうのは自然なことですよ」

 

 ナフトがそれでは、と格納庫から出ようとしたところでウルジアが思い出しように声をかけた。

 

「あ、大尉。シュミレータに向かうんですよね?」

 

「ん?ああ。そのつもりだが……YF-23の特性を掴んでおきたいからな」

 

「でしたらそこで今回の件の副担当者がいますよ。あの方に聞けばもう少し詳しいことがわかるかも知れません」

 

「そうか……ありがとう」

 

 ナフトは礼を言うと今度こそ格納庫から出た。

 

 次に向かう先は予定通りシュミレータ。そこに副とはいえ責任者がいるとなれば自然と背筋が伸びる。

 

(さて、どんな者が現れるのか……)

 

 ナフトは戦々恐々としながら強化装備に着替えるためにロッカーへと向かう。

 

◇◇◇

 

「あ、どうも〜。私、国連所属の間藤(まとう) 冬夜(とうや)です〜。よろしく〜」

 

 強化装備に着替えシュミレータルームに入ってきたナフトを出迎えたのはやたらと間延びした言葉遣いをする男性だった。

 

「ま、本当は日本の遠田技術ってところにいたんですがね〜。武御雷が完成して暇になったところを引っこ抜かれちゃいまして〜」

 

「そうか……ん?タケミカヅチ?」

 

 聞きなれない言葉に反射的に聞き返すナフトに冬夜は素直に答える。

 

「もうすぐ実戦配備される斯衛の新型ですよ〜。OSはまだですけど〜、近接格闘戦だけならどんな戦術機にも負けませんよ〜」

 

「それは機密ではないのか?」

 

「このぐらいならどうせすぐに皆さんも知ることになるので問題なしですよ〜」

 

「そ、そうか……」

 

 ナフトはそのゆったりおっとりとした冬夜に少したじろぎながらもすでに起動していたシュミレータの中へと入る。

 

「準備はいいですね〜?」

 

「ああ、いつでも……そう言えば少し質問いいか?」

 

 その問いにやはり間延びした声で返事を返す冬夜にナフトは真剣な面持ちで構わずに聞く。

 

「あの資料に書いていた性能は本当か?」

 

 その問いに対し冬夜はニヤリと笑みを浮かべて答える。

 

「もちろんですよ〜。私が保証しますよ〜」

 

 シュミレータのハッチが閉じる直前に冬夜も真剣な表情を浮かべると続けざまに言った。

 

「あれは、世界を変える戦術機。そのプロトタイプですからね」

 

 ナフトの視界はわずかな明かりと網膜に投影されているウインドウのみになった。

 

「世界を変える戦術機……」

 

 シュミレータが開始され、状況や条件が表示される。

 その一つ一つを確認しながらナフトは思う。

 

(世界を救う戦術機、と言わないあたり何かある)

 

 どちらにせよあれほどの性能があるのだ。救うことも破滅させることもあり得る機体であるのは確かだ。

 

 シュミレータが開始されナフトの網膜に平原が広がった。

 目の前には10体の要撃級。対するは YF-23(自分)一機だけ。

 

 色々と考えるのは後にして今はシミュレータに集中するべきだ。

 裏になにがあろうと自分が今やるべきことはあの戦術機を完成させることだ。

 

 ナフトは操縦桿を握りしめて前を見据える。

 

◇◇◇

 

【2000年 2月25日 アラスカ州】

 

 先程まで降っていた雪が止み、空に青空が広がり始める中、1機の戦術機がユーコン基地近くにある森林で立ち上がろうとしていた。

 

『よ〜し〜、んじゃ、起こして〜」

 

「了解」

 

 ナフトは冬夜に支持されるままにYF-23を戦術機運送用の大型車から地面に立たせる。

 しかし、立ち上がったそのYF-23の各所は少し形が変わっていた。

 

 新型戦術機の外装は流用が多いがナイフシースや頭部モジュールの追加、装甲形状の変更が細かい部分であるため自ずと機動特性は変わる。

 

 そのため先に実機で機動特性を掴んでおきたい、というナフトの要望に冬夜が従った結果の処置で各部形状が新型戦術機へとかなり寄せてある。

 

 その外見はかなり日本製の戦術機へと近くなっていた。

 大型の戦術機であるため四肢は少し太いが前腕部やスカートアーマーなどは不知火に、頭部や手先は武御雷に似ている。

 

 ナイフシースのような部分もあるが形と重量を似せたただのハリボテであるため、初期装備としては何もない。

 

 現在の姿は様々な戦術機のパーツを寄せ集めた状態であるためかYF-23PWブラックウィドウⅡパッチワークと呼ばれている。

 

(さて……かなり変わったこいつを私はどこまで扱えるか……)

 

 このYF-23PWが組み上がったのは昨日のことだ。

 それ以前にYF-23の実機演習をしたがそれからどれほど機体特性が変わっているか、シミュレータで少し触ってはいるがそれとどれぐらいの違いがあるのかも気になるところだった。

 

『聞こえますか?大尉』

 

 ウルジスが声をかける。

 それにナフトは機体の設定を確認すると頷き言う。

 

「ああ、問題なしだ」

 

『了解。試験開始します。統合仮想情報演習システム(JIVES)起動』

 

 その通信ともにナフトの網膜に移されていた映像が森林から暗い洞窟、ハイヴの物へと変わった。

 

「ナフト・アーリスト大尉。これより YF-23PWの慣熟訓練を始める」

 

 言うと跳躍ユニットに火を付け、少し浮くとそのまま前進を始めた。

 

(少し重いな……)

 

 機体の方は問題がなくともF-15Eと比べれば一回りほど大きいのだ。

 しかしこの程度の違和感はYF-23のシミュレータを初めて使った時にも感じたことで大きな問題ではない。

 

 現実ではおそらく森を出たところなのだろう。上昇の指示が出された。

 それに従いナフトは機体を高く上昇すると同時に気がついた。

 

「ッッ!」

 

(速いな)

 

 急上昇をしたのは事実だが、思い機体であるのにも関わらず予想よりも挙動が早い。イメージよりも数コンマほどのズレがある。

 予定高度よりも高く上がってしまったために少し高度を下げて前進、ゆっくりと速度を上げて行く。

 

 指定ルートを進むがやはりシミュレータと実機とでは細かいズレがある。

 

(それに加えてやはり如実に現れたな……)

 

 日本機の特徴はなんといっても稼働時間を向上させるために考案されたナイフシースや頭部、脚部や手腕までをも利用した機動制御だ。

 

  YF-23の頃はまだ米国機らしく跳躍ユニットを用いた機動制御だったが、このYF-23PWは違う。

 

 前腕部、膝装甲ブロックのナイフシースや頭部、脚部と手腕の形状をより日本機に似せることでその機動特性を大きく変えている。

 

 ナフトもシミュレータでその感覚をつかもうとしてはいたがやはり完全にその感覚を得ることはできていない。

 

 ナフトは冷や汗をかきながらも舌を巻く。

 

(すごいな……日本人はこんなものをああも簡単に使うと言うのか)

 

 目の前に壁が迫るのを見て左へ大きく曲がる。その後すぐに再び現れる壁、今度は左へと曲がりながら降下。

 次に現れた壁は右へと曲がりながらの上昇でかわした。

 

「ふぅ……」

 

 一連の動作を終えてナフトは無意識に息を吐く。

 

 確かにF-15Eでも機体の機動特性と重心を考えながら動いてはいたが日本機とはそもそもの特性が違うため、先ほどの動作だけでもかなり苦労を強いられる。

 

 しかし彼は知らない。

 もともと74式長刀を自在に扱っていたため日本機の特徴も体がなんとなく感じていることを。

 

 事実、アメリカ人である者が始めて日本製の機動特性を持つ機体に乗りここまでまともに扱える者はいない。

 

 直進が続く中、マップに予定進路を表示させて見るとそこにはいくつもの曲がり道がある。

 

 視線を前へと向けてナフトは操縦桿を握りしめた。

 これから始まる本格的な慣熟訓練に気を引き締めるように唾を飲み込み、速度を上げて仮想のハイヴを進む。

 

 

 それから実機を使っての訓練が始まったが、開始から10日経つ頃には自在に空を舞う YF-23PWの姿があった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

天剣

【2000年 4月10日 アラスカ州】

 

 ナフトはメンテナンスを受けているすっかりと乗り慣れたYF-23PW(ブラックウィドウⅡパッチワーク)を見上げる。

 

 最初こそ戸惑ったが慣れてしまった今ではF-15Eの機動の方が違和感を感じるようになった。

 

 ちなみにナフトは先ほど計画偽装用の戦術機であるF-15を動かしていたのだが、体に違和感が残っており、どこか気持ちが悪い。

 

 追記だが偽装している計画はフェニックス計画と呼ばれるF-15の改修計画だ。

 

「あ、大尉お疲れ様でした」

 

 話しかけてきたのはウルジアだった。ナフトは「いや」と答えながら視線を真上へと向ける。

 今頃はこの計画を知らない一般の整備兵たちが機体の確認をきちんとしているところだろう。

 

「私も久々にF-15を動かせて改めて実感したよ」

 

 ナフトは肩をすくめるとウルジアへと視線を向けて続ける。

 

「日本機の機動特性はピーキーだ」

 

 断言して言った。

 

 主機出力と機体特性との兼ね合いだけを見れば最悪の機体だ。全くと言っていいほど釣り合ってはいない。

 しかしそこをカバーするのはナイフシースや頭部モジュールのセンサーマスト、四肢だ。

 これらを動かすことによりわざわざ跳躍ユニットを動かさなくとも機動制御を行い、不釣り合いな主機出力と機体特性を違和感なく融合させる。

 

「……ちなみにF-15の方は?」

 

「あれは……いい機体だ。訓練校から上がったやつでもすぐに使えるぐらい衛士に素直に従う。しかし、だ。そうであるがゆえに特徴がない」

 

 無理に言うのであれば特徴がないことが特徴、と言える。

 尖った性能を持たずにバランス良く性能が纏まっている。だがそれは裏を返せば器用貧乏になっていると言える。

 空力特性を日本機ほど重視しておらず跳躍ユニットでの力押しで機動制御を行う。

 

「直感的にあんな動きを簡単にして見せるんだ……日本人は化け物だよ……」

 

「ですが、大尉はF-15Eの頃から似たようなことはしていましたよね?」

 

「しては……いたが所詮は、そう、たしかサルマネと言ったか。そんなものさ。日本機はまさに日本人が乗るための機体だよ」

 

「その言い方では〜あなたはこの計画から降りるとい言う風にきこえますよ〜」

 

 間延びした声に反射的に振り返るとそこには冬夜がいた。

 

 ウルジアとナフトは敬礼しようとしたが彼の手で制す。

 

「あなたはアメリカ人でありながら〜、YF-23PWを使いこなしている。そんなあなたに今降りられては困りますね〜」

 

「降りませんよ。私の修正案に目を通していただけましたでしょう?」

 

 降りる気はない、という証明がそれだとでも言うようなナフトの問いに冬夜は嬉しそうな表情を浮かべながら頷いた。

 

「ええ!もちろん見ましたよ〜。アレは良い案です。早速取り入れてみますよ〜。今回のメンテナンスではその改修も含めてますから〜」

 

「それは良かった」

 

「大尉、いつのまに……」

 

 そう言うウルジアに「あなたも見ますか〜?」と言いながら冬夜はナフトの修正案が描かれた資料を渡す。

 それを受け取り中を読み始め、しばらくすると唸り声をあげた。

 

「……すごいですね。これなら10%は機動力を上げられますよ」

 

 確かにこんなものを提出する者が降りるわけがない。

 ウルジアは礼を言いながら冬夜へと資料を返す。

 

 受け取った冬夜は資料を楽しそうに捲りながら呟く。

 

「いや〜、楽しみですね〜」

 

「ですね……私も早く見て見たいです」

 

 冬夜とウルジアは2人揃ってプレゼントに心を躍らせるように表情を明るくさせながらウンウンと頷いた。

 

「ああ、そうそう、新型機の組み上げは来年の5月になる予定です〜」

 

「来年の5月……」

 

「随分と時間を開けますね……」

 

 ナフトとウルジアの言葉に冬夜はどこか申し訳なさそうに言う。

 

「日本の方でXFJ計画という日米共同の戦術機開発計画が決まりまして……今の計画はそれの第2計画として進めることになったんですよ」

 

 確かにこの新型機開発も日米が関わっているため偽装する計画には丁度いい。

 組み上げはそのXFJ計画始動後にすれば怪しまれることも少なく済むだろうという考えからその時期に合わせて本体の組み上げを行うようだ。

 

「それまではPW(パッチワーク)での試験ですか?」

 

「そうなりますね〜。そういうわけでハリボテではなくナイフシース等の設置も検討中です〜。どうなるかはまだわかりませんけど〜」

 

「フレームや主機の方はどうするんですか?」

 

 聞いたナフトにウルジアも同じ疑問を持っていたらしく頷く。

 

 外装は流用が多いため構わないだろうが内部はほとんどが別物となっている。

 特に跳躍ユニットの方は可変翼機構などを取り入れていたりと複雑化している。

 

 そんな2人の疑問に冬夜は肩をすくめながら答えた。

 

「来年の5月までは無理ですね〜。その辺は第1計画の機材に紛れ込ませて運びますから〜」

 

 それは2人が予想していた通りだった。

 相当に厳重な情報規制が敷かれているこの計画でバレバレの機材搬入などするわけがない。

 今ある物も全てフェニックス計画の物と一緒に運んできてきたものだ。時間はかかるがそれほどまで慎重に進めたいのだろう。

 

「了解。可能な限りこいつでデータを取れと言うことですよね?」

 

 頷く冬夜から視線をYF-23PWへと変える。

 思い描き重ねるのは新たな姿、圧倒的な性能を持つ新たな戦術機だ。

 

◇◇◇

 

【2001年 5月7日 アラスカ州】

 

 ナフトは声を上げることすらも忘れてハンガーに固定されている戦術機を見つめる。

 

「ふっふっふ〜、これが世界最強の戦術機。Type-XM3-00T 天剣(アマツルギ)だ〜!」

 

 ただ一言美しいと思った。それでいながらどこか力強さも感じる。

 

 所々にベースとなった機体の面影は残っている。

 頭部や足先、手先は武御雷に、腕や脚部は不知火、胴と跳躍ユニットはYF-23PWとパーツ単位で見るとまるでバラバラだが全体的にみてしまえば気にならない。

 

 むしろその微妙なデザインのズレはこの機体にとっては美しい調和の形としてなっている。

 

「……すごい、な」

 

「君が〜作ったんですよ〜」

 

 冬夜のそれはいつものように間延びしたおっとりゆったりとした言い方だ。

 しかしいつものその言い方だからこそ彼が自分を賞賛しているのだとわかる。

 

「こいつ……アマツルギの試験はいつ?」

 

 視線を天剣へと向けたまま急かすようにナフトは聞いた。

 それに答えたのはウルジアだった。

 

「現在最終チェック中です。予定では明日までかかりますので……明後日ですね」

 

「明後日……か」

 

 ナフトは起動試験を待ちわびるように呟いた。その言葉は当然ながら2人にも聞こえている。

 

「シミュレータにはデータを入れてるから〜、いつでもできるよ〜」

 

 その冬夜の言葉にハッと我に帰ったナフトは2人の方を向いた。

 2人はナフトの反応を楽しんでいたらしくニヤニヤと笑みを浮かべている。

 

「ッッ!わ、私はシミュレータを使う。こいつの機動特性を確認しておきたい」

 

 言うとナフトは顔を赤くしながら歩き格納庫から去った。

 

 ハンガーに固定されている天剣へとチラチラと視線が向かっているのが尚更微笑ましく彼らには見えたがナフトにはその自覚はないだろう。

 

「嬉しそうでしたね……大尉」

 

「ええ〜それはそうでしょう〜。なにせ自分が丹精込めて作り上げたのですから〜、嬉しさもひとしおと言ったところでしょうね〜」

 

 2人は視線をナフトの背中から天剣へと変える。

 

(はてさて、彼女主導のこの機体で世界がどう変わるのか……)

 

 冬夜は人知れず口を釣り上げたがすぐにいつもの表情へと変えて言う。

 

「いや〜、楽しみですね〜」

 

「ええ!明後日の試験のために私たちもセッティングを終わらせてみせますよ」

 

 ウルジアは言うと駆け足で天剣の方へと戻って行った。

 

「さて……と、私も報告を入れてきますかね〜」

 

 そう呟くと冬夜もハンガーから出て自室へと向かった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

立ち続ける者

【2000年 5月9日 アラスカ州】

 

 早朝、日がようやく登り始めた頃。

 ユーコン基地にある荒野のような試験場に1機の戦術機が立っていた。

 全身を白と灰色で彩り、大きさは通常の戦術機よりも一回りほど大きい。

 

 付け加えるとこの機体は至る所にブレードを持つ。

 膝装甲ブロック内には大型マチェット、前腕には隠し短刀、ナイフシース内に短刀。胴体脇にもナイフシース。

 それに加えて全身のエッジ部分はその全てがスーパーカーボン製ブレードだ。

 

 基本装備だけでもこのブレードの数。

 しかしそれは駆る者の異名、ソードマンにはちょうどいい数も言える。

 

 ナフトは高揚する気分を押さえつけるように操縦桿を握りしめた。

 

 管制ユニットにいるとどうしてもあの日のこと、明星作戦の記憶が蘇る。

 ひしめくBETA、天へと伸びる光線、崩れる戦術機、最後に言われた言葉。

 

 あれから前線に立ち続けようとしていた。しかし米国に使い潰されるのは嫌だった。

 だから国連へと移ったというのに結局はこんなところでテストパイロットをしている。

 

 それが良いのか悪いのかは彼にはよくわからない。ただ、そのことを考えたくなかったからテストパイロットの仕事に集中していた。

 

 人類のため、などと言われても彼には実感できない。できるほど彼は多くのことを知っているわけでも経験しているわけでもないからだ。

 

 何のために軍に入り、なぜ戦うのか。それをもう一度己に問う。

 

 しかし答えは出ない。だが、だからといってそのまま放っておいて良い問題ではない。

 

『大尉、機体の方は問題ありませんか?』

 

「ああ、問題ない」

 

『了解。現在機器の調整中です。少し手こずっていますのでもうしばらくお待ち下さい』

 

「了解。待機を継続する」

 

 ウルジアとの会話を終えて思考の海へとナフトは戻る。

 

 なぜ軍に入ったのか。それはよくわからない。

 同じ訓練校に通っていたあの日系アメリカ人。彼には明確な目的があったようだが。

 

(確か……テストパイロットになって認めさせる、だったか……)

 

 彼はかなりの実力を持っていた。理由は不明だがかなりの反日家ではあったが技術は本物。

 性格はどうであれ彼ほどの実力者であればテストパイロットになれているだろう。

 

 ナフトは息を吐き、ゆっくりとシートに体重をかけて自問を続ける。

 

 なぜ戦うのか。それもよくわからない。

 

 少なくとも何かを守りたいから戦っているのではない。助けたいものがあるから戦っているのではない。

 

(シルヴィ……)

 

 いや、ないのではない。失ったのだ。あの日、あの場所で、目の前で、自分の手で。

 

 操縦桿に巻きつけてあるドッグタグを見つめる。少し汚れてきてはいるがまだまだ掘られている文字ははっきりと読める。

 

 もし、とどうしても考えてしまう。

 もし彼女が今も隣にいたら自分はこの自問の答えを出せていたのではないか?と、今のように悩んでいたわずかな期間を笑いながら彼女に話していたのではないかと。

 

 そして、その話を聞いて彼女はどんな反応を返してくれるのだろうか、と……。

 

(女々しいな……私らしくもない)

 

 ナフトはフッと自虐の笑みを浮かべる。

 静寂だといつもこうだ。ずっと考え込んでしまう。

 

 その静寂は一つの通信によって終わりを告げた。

 

『大尉。お待たせしました。機材の準備終わりました』

 

「了解した」

 

『今回は統合仮想情報演習システム(JIVES)を使用しません。規定の飛行エリアを自由に飛んでください』

 

 その通信とともにその飛行エリアが表示される。

 普通ならそこそこの広さだなと感じられるがこの天剣には少し狭いような気がする。

 こいつはそんなエリアだけでは足りないと確信できる。

 

 少々不服ではあったが素直に了解と言葉を返す。

 

(さぁ……行こうか)

 

 ゆっくりと息を吐き少し前のめりして前方を見据える。

 

「Type-XM3-00T天剣(あまつるぎ)、ナフト・アーリスト。これより試験を始める」

 

 その言葉ともに天剣の跳躍ユニットに火が付く。

 それは次第に大きくなりロケットエンジンの音を辺りに響かせる。

 

(さぁ、行こうか!)

 

 轟音を響かせてその名の通りに体のいたるところに(ブレード)を持つ世界最強の戦術機が天を舞った。

 

 

 ––––彼は答えを求めて戦場に立ち続ける。

 

 それは償いではない。誰かのためなどではない。

 しかし、自分のためだからこそ彼は自分が満足できるものにたどり着くまで答えを探し続ける。

 

 その過程で彼は自ずと様々な人に出会うことになる。

 それによって彼が答えを見つけられるのかはまだ誰にもわからない。

 

 

〜fin〜



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

あとがき

 皆さまこんにちは。作者のナイトです。

 

 ソードマンと呼ばれた者について(以下ソードマン)を最後まで読んでいただき誠にありがとうございました。

 

 結局、彼は答えを出せずに天剣が完成してテストが始まり終了とどこか打ち切り感が漂う終わり方となってしまいました。

 しかし、私が書くのは彼の過去の話であって現在と未来は私が書くことではありませんので、ご了承ください……。

 

 彼がどんな人と出会って、どんな経験をして、どんな答えを得るのかはゲス猫1229(紅月叶理)氏が書いている『マブラヴオルタネイティヴ The root of tree』を読むことをお勧めします。

 

 ちなみに私はナフト・アーリストと天剣の設定を考えて差し上げただけで話の展開は全く知らされておりません。私もその辺かなり楽しみです。

 

 まぁ、面倒なところ全部投げつけたような後ろめたさがあって気持ち悪いですが……。協力は惜しみませんので。

 

 

 さて、なぜこの話を私が無理を言ってまで作ったか。

 ただ単に私がナフトのキャラについて全くイメージできていなかったからです。

 

 彼の過去について説明しようと書き出してても妙にキャラがイメージ出来なくて「ならもういっそ過去編的な感じで書くか!」となり書き始めました。

 

 京都防衛、明星作戦の2つに参加していた。というのは元からありましたがシルヴィはこの作品を書いていなければ産まれてませんでした。

 この作品がなかったらナフトはもう少し薄いキャラになってたのかもしれませんね……。

 

 天剣は元々いつか書こうと考えていたマブラヴ二次創作のやつをそのまま持ってきました。

 ただ怖かったのは性能が飛び抜けてたからちょっと出しにくいなぁと思ってて書けなかったんですよね。

 でもあの作品の方ではチート戦術機が出てるのでまぁちょうどいいかなと思いそのまま出しました。

 

 長々と話してもあまり意味はないのでここで閉じさせていただきます。

 何か質問等がございましたらコメントやTwitterのDM(naito0710)などでも受け付けておりますので気軽にどうぞ……。

 

 今回のことがなければマブラヴの二次創作を書こうとはなりませんでしたから紅月叶理氏にはとても感謝してます。

 

 半ば見切り発車的な感じで始めたせいで後半がかなり駆け足気味だったり投げやりだったりと至らぬ点は多々ありましたがどうにか完結することができました。

 

 そしてそんな今作を読んでいただき本当にありがとうございました。

 

 それでは皆様、またどこか別の作品でお会いできるのを心待ちにしております。

 

2017/11/29



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。