【完結】 ─計算の果てに何があるか─ (ロザミア)
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番外
番外編 純粋な死徒 1花


どうも、ロザミアです。

少し遅めの投稿ですみません。
GW満喫してたものでね!

ところで、fehで龍ルフレ当たらんとよ。


駒王町。

 

一見平和な町であるが、そこはいつでも人外達が関わる厄介事に巻き込まれる損な町。

 

そんな町を駆ける元気そうな男が居た。

 

彼の名前は、兵藤一誠。

元人間、現悪魔の青年であり、『赤龍帝の籠手』という特別な神器を宿した悪魔。

 

彼は今、悪魔の願いを叶え、代価を貰うという仕事を行っている最中であり、今は依頼人の家へと急いでいる。

 

「悪魔の体って不便なところもあるけど基本便利だよなぁ。」

 

そんなことを呟きながら走る。

 

数分後、彼は足を止めて目の前の家を見る。

普通の家より多少大きい家ではあるが、屋敷などの特別な場所でない事が分かる。

 

「ここが依頼人さんの家か。

よし、インターホンを押して……と。」

 

ピンポーン、と気持ちのいい音が鳴り、彼は立って待つ。

そして、すぐにガチャリと鍵が開く音がして、彼はどんな人が出るのかと緊張する。

 

以前、彼は大柄な男でありながら魔法少女を目指すヤベェ存在、通称ミルたんと出会ってから依頼人に対して多少の警戒心が出来てしまった。

 

今回はヤバイ人じゃなくて美人のお姉さんがいいなぁと思春期男子高校生に相応しい思考力をしている一誠は姿勢を正す。

 

扉が開き、中から人が出てくる。

 

「─はい、何かご用でしょうか?」

 

出てきたのは、彼の願っていた美人だった。

しかも彼の大好きな胸がある。

 

内心、ガッツポーズを彼は取る。

 

しかし、顔には出さない。

流石にそれは失礼だと1%の理性が告げたからだ。

 

彼は懐からチラシを取り出して、彼女に見せる。

 

「えっと、このチラシ、ご存じですか?」

 

「チラシ?…あ、はい。私が依頼人です。」

 

おお、よかったと安心する。

これで違ったら違ったで返しはあったので問題はないが、一発正解であったのは嬉しい。

 

女性は扉を開けて中へ入ってくださいと言う。

失礼しますと礼儀正しく言ってから挨拶する彼に女性は少しクスリと笑う。

 

中も中々に普通であり、少し拍子抜けした一誠は、用意されたスリッパを履いて女性に案内されるままリビングへと向かう。

 

リビングへと入って中を見渡す。

これまた普通。

 

「座っててください。お茶を出しますので。」

 

「あ、いえ、お構い無く!」

 

「お客さんですから。それに、私がしたいんです。」

 

「えと……じゃあ、お願いします。」

 

ソファに座り、女性のお茶を入れる姿を見る。

 

(何だろう、見たことあるような。)

 

だけど、見覚えが全くない。

自分のアルバムの写真にもこの人の姿はない。

 

……ドライグは知ってるだろうか。

 

声に出さず、心でドライグを呼ぶ。

 

『……。』

 

「(なあ、ドライグ。

あの人に見覚えが何でかあるんだけど、お前の知り合いだったりは……)」

 

『……、相棒。』

 

「(?どうした?)」

 

『俺からは、話せない。

せめて彼女の話を聞いてからでないと。』

 

知っているが、言えない。

何か訳があるのだろう。

一誠は深くは聞かないでドライグの言うように女性の話を聞くことにした。

 

気付けば、お茶と茶菓子が置いてあり、向かいには女性が座っていた。

 

「…まず、自己紹介を。私は──」

 

彼女は名前を言おうとして、一旦口を閉じてからもう一度口を開く。

どうしたんだろうかと一誠は疑問に思ったが、気にしないでおいた。

 

 

「─フリージアといいます。

良ければ、貴方の名前も聞いていいですか?」

 

その名前を聞いたとき、彼に宿る龍が目を閉じた。

 

一誠は、外国人っぽいし、金髪でそれっぽかったからいい名前だなって思った。

 

「俺の名前は兵藤一誠です。

それにしても、日本語がお上手なんですね。」

 

「そうですか?一生懸命練習した甲斐がありました。

……それで、このチラシに書いてあった悪魔…もしかして、本当に悪魔なんですか?」

 

「えっと……まあ、はい。

あ、でも他言無用っていうか「安心してください、私も人じゃありませんから。」へっ?」

 

「私も、悪魔じゃないですけど、吸血鬼…死徒ですから。」

 

「吸、血鬼……?」

 

「はい…元人間、ですけどね。

ふふっ、悪魔のように羽は出せませんけどね。」

 

儚そうに話すフリージアに一誠は無理矢理されたのだろうかと思ったが

 

「あ、勘違いしないでください!

私が望んであの人にしてもらっただけですから。」

 

「あ、そうなんですか。」

 

「はい、あの人も私とここに住んでいるんですが、仕事で忙しくて。」

 

「へぇ、もしかして、男だったり?」

 

「よくわかりましたね。」

 

「ハハハ……何となくです。」

 

て事は二人とも吸血鬼なのか。

結婚してるのかな?と思ったが、指輪は嵌めてないっぽいし一緒に暮らしてるだけなんだろうなと思い、それ以上は考えないでおいた。

 

「それで、チラシの件なんですけど……」

 

「あ、そうでしたね。

私のお願いは簡単なものです。

その、お話ししたくて。」

 

「お、お話し?」

 

「えぇ。私、吸血鬼ですから弱点も少し多くて。

日差しの下で誰かと話すなんて出来ないから…

だから、せめて同じ異常な存在同士でなら気軽に話したいなぁって。」

 

「えぇと……一緒に住んでいる人とは?」

 

「あ、勿論話しますけど、家族以外と普通に会話したいし、寧ろ愚痴りたい時とかあるし。

……えっと、駄目ですかね?」

 

こちらの時間を取るようで悪いと付け足しながら返事を待つ彼女に、一誠は吸血鬼なのに普通な人だなぁと思った。

もっと奇抜な要求をされると思ったが、そんな事はなく、寧ろ日常的な何かを感じられてホッとしている。

 

彼としては、こんな美人と穏やかにお話しできるなんて夢みたいだと思いつつも、同時に吸血鬼としての生き辛さに多少同情してしまう。

 

「俺でいいなら、話くらいなら聞きますよ!」

 

そう返事をすると、彼女はパァッと花咲くような笑顔を浮かべる。

 

「本当ですか!ありがとうございます!

……あ、代価、とか…」

 

「あー……どうしたもんかな……

そうだ、じゃあ、俺も会話することを代価として貰います!」

 

「会話を代価としてって……それだと単に私だけ得をしてるような?」

 

「いやいや、これは俺も得してますから、大丈夫です!」

 

「うーん……何だか納得できないけど、兵藤さんがそれでいいなら。」

 

釣り合ってないと思いながらもそれでいいと言ってくれる一誠の言葉に甘えようとなった。

 

それから、二人はその場で思い付く会話をあまり暗くならない程度の時間まで話した。

 

最近暑くなってきたことに対する愚痴や、料理でここの味をどうしようかという話、あの人はこんなで~とかいう愚痴。

 

愚痴が大半であったが、一誠は聞きながら、話していって段々口調が砕けていき元気そうな笑みが多くなるフリージアに彼も何時のまにやら笑っていた。

日常的でありながら、非日常的な存在である彼女に、何処と無く親近感を覚えた彼は、何だかいつものような調子のエロ小僧にはなれないでいた。

 

これがフリージアという女性の出せる雰囲気なのだろうか。

 

そうして、夕方になって、フリージアは会話をキリのいいところで止める。

 

「もうこんな時間になっちゃった。

兵藤君も帰らないとだよ。」

 

「うわぉ、時間の流れってスゲェ……。

じゃあ、俺はこれで。」

 

「うん、ありがとうね、今日は楽しかったよ。

……それで、君がいいならなんだけど、また話したいなぁって。」

 

「…勿論!俺も楽しかったですし、また話したいって思ってました!」

 

「わぁ、結構気が合うのかもよ?」

 

「マジですか。」

 

「マジマジ。……さ、帰った帰った!」

 

彼女に言われ、玄関まで移動して靴に履き替えてから扉を開ける。

 

「じゃあ、また今度。」

 

「うん、気を付けて帰るんだよ。」

 

そうして、扉は閉まって彼は外へ出る。

朝方ほどのしんどさは無くなり、いい気分のまま徒歩で帰る。

 

『相棒。』

 

「どうした、ドライグ?」

 

『……いや、彼女は、どうだった?』

 

「どうだったって……普通にいい人で、話してて人間に戻れたような気分だったぜ。」

 

『笑っていたか?』

 

「おう!最初は何話したもんかってなったけど話し出したらお互い止まんなくってさ。

俺が料理に興味持つほどには楽しかったし、フリージアさんも笑いながら会話してたぞ。」

 

『そうか……それはよかった。』

 

心の底から安堵するドライグに、一誠は珍しいなと思った。

もしかしたら昔の関係者なのかもしれない。

 

「ドライグ、結局フリージアさんとはどんな関係なんだ?」

 

『……知らなくていい。

その方が、お前にとっても彼女にとっても幸せだ。』

 

「知らなくていいって……まあ、お前が話したくないってんなら仕方ねぇか。」

 

『それでいい。

後、出来るだけ話してやってくれ。』

 

「親戚のおじさんみたいだな、お前。」

 

『……放っておけ。』

 

 

─────────────────────

 

 

時計が針を進める音が部屋に木霊する。

ソファに座って、外を眺める。

 

「兵藤一誠君、か。」

 

今日あった家族以外の異性の名を口にする。

何かを懐かしむように、安心するように。

 

「ドライグは、彼に宿ったんだ。

……私から抜き出した結果、彼に。」

 

ドライグ、それは自分にとって様々な感情が湧き出る存在。

怒りが、哀れみが、そして安堵があの龍に対してある。

 

目を閉じて、家族の帰りを待つ彼女は、名残惜しいかのように向かい側のソファに見ている。

 

久しぶりに、心行くまで会話ができたと。

 

「……ふふっ、今度が楽しみだなぁ。

話題を作っておかないと。

今度会って話す日が楽しみ。

だから、それまでは……助けてあげてね、ドライグ。」

 

ただ、純粋なまでに友達となった男の心配をする。

 

そして、玄関の扉が開く音がした。

帰ってきた、と少し急ぎめに玄関まで歩く。

 

そこには、今では学園で教師をしている家族の姿があった。

 

「おかえり、ズェピア。」

 

「ああ、ただいま、フリージア。

…む?何だか楽しそうだが、何かあったのかね?」

 

「そう?楽しそう?

ふふ、でしょでしょ~!

でも教えてあげないもんね。」

 

「おや、ならばこのシュークリームは私が全て貰うとしよう。」

 

「えっとね、今日は人が来てね、その人と夕方までお話ししたの。」

 

チョロい。

スイーツに弱い娘に苦笑しながらも、人が来るなんて珍しいとズェピアは思った。

 

リビングまで行って、鞄を置いてシュークリームの入って箱を渡してから椅子に座る。

 

「ふむ、ならば、どのような話をしたのか、夕食後のティータイムに聞くとしよう。」

 

「うん。…あ、今日はズェピアの好きなシチューだよ。」

 

「なんと、それはありがたい。

いやはや、出来た娘を持って、私は感動した。」

 

「大袈裟だなぁ……。」

 

呆れながらも、喜ぶ姿に自身も嬉しく思った。

 

しかし、ズェピアは急に顔を暗くする。

 

「……君が楽しそうで、よかった。

不便な生活をさせてすまない。」

 

「不便なんて、大丈夫だよ。

そりゃ確かに、吸血鬼だと血とかいるし朝とか日傘差さなきゃ歩けないけど、でも平気。」

 

「そう、か。」

 

「それに、私が決めたことでもあるから。」

 

「……そうか、そうだね。

すまない、またこのようなことを。」

 

「ううん、いいの。

ズェピア達が私を大切に思ってくれてるのは理解しているし、私ももっと居たかった。

……それで、いいんだよ。」

 

「……ああ。」

 

「……さ、この話はおしまい!

ご飯にしよっか!」

 

「うむ……君のシチューは美味しいからね。

早く食べたいよ。」

 

他の家族の帰りは遅いので二人で先に夕食を食べてしまうのが最早この家のいつも通りとなっている。

 

そうして、夕食を食べ終えて、敢えて何も言わずにフリージアの食後の今日何があったのかを楽しそうに話す姿に嬉しく思いながら聞くのであった。

 




はい、という訳でリクエストにあった人として死ぬのではなく、人外として生きる道を選んだフリージアというifの世界での話です。
はい、1ってあるから続きあります。

その辺は、本編が進んだらということで。

後、フリージア生きてるのにドライグが何で一誠に宿ってるのかはヒント書いてあります。

そして、一誠とフリージアが友達というかこのまま行くと恋愛系フラグ立つんじゃねとか皆思ってるんだろうなと私は思ってる。


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番外編 純粋な死徒 2花

本編の続きかと思った人、挙手。

残念だったな!
お気に入り3000越えたから記念だよ!

後、この世界線では一誠達がレーティングゲームでライザーに勝ってます。
本編じゃあんまり出てこないご都合主義さ!


暗くはない、明かりの点いていて掃除が行き届いている部屋のソファで向かい合いながら会話をする男女の姿がそこにはあった。

 

「そしたら、焼き鳥の野郎をぶん殴って部長を助け出すことが出来たんですよ!」

 

「へぇー……何だか、可哀想かな、焼き鳥って呼ばれてるヒト。」

 

「え、何処がですか?望んでない結婚なんだから、突っぱねて当然じゃないですか。」

 

男…兵藤一誠は自分の倒したライザー・フェニックスを可哀想だと言う女性…フリージアに不思議そうに聞く。

フリージアはそれに普通ならそれでよかったんだけど、

と言い続きを話し出す。

 

「その部長さんと焼き鳥さんは貴族のヒトだったんだよね?」

 

「はい、部長と焼き鳥は同じとは思いたくないけど貴族悪魔ですよ。」

 

「なら、その婚約は親と親が決めた大事な婚約だった訳だし、部長さんの両親は分からないけど焼き鳥さんの両親にとってはそれがとても大事だったと思うな。」

 

「それは……」

 

違うとは言えなかった。

いや、正しいとすら思った。

二つの家が取り決めた婚約を、自分が嫌だからというだけで破棄させようとするのは、今の内容を思うに中々に酷な事をしたのかもしれない。

 

「それに、部長さんはグレモリー家。

つまりは今の魔王の一人であるサーゼクスさんの家だから、是が非でも成立させたかったとは少なからず思うよ。

こう言ったら汚い大人のやり方に聞こえるかもだけど、魔王っていう後ろ盾も出来るわけだしね。」

 

「そんなの、焼き鳥も部長も利用されそうになったって言ってるようなもんじゃないですか!」

 

「うん、でも、その焼き鳥さんの様子はどうだった?

嫌そうだった?」

 

「それは……嫌そうではなかったと思います。

寧ろ、嬉々としてたって感じでした。」

 

「だよね。

試合するって言って合宿に行っちゃった時に、ウチの人に聞いてみたんだけど、焼き鳥さん…ライザー君は家の事をとても大事にして、眷属にもしっかり向き合ってるって聞いたよ。

じゃなきゃ、いくら眷属でも痛みの伴う犠牲戦術はしないはずだもん。」

 

「…アイツ、そうだったのか……。」

 

家の為にも、ライザーはしなければならない婚約で家の為ならという決意があっての行為だったのかと思うと、悪い気も湧いてきてしまう。

 

「でも、その部長さんが望んでない結婚をしなくて済んでよかったじゃん!

女としては、そういうのを拒むのは理解できるよ。

政治が少し分かる側から見ると我儘にしか見えないけどね。

それに、イッセー君は後悔してないでしょ?」

 

「え、あ、はい……。」

 

「してるの?」

 

「……今の話を聞いて、少しだけ。」

 

「…そっか、でもね、そこまでしちゃったんなら後悔はしちゃダメだよ。

もう終わっちゃった事だし、そこまで分からなかったんなら仕方無いよ。」

 

本当は仕方無くないんだけど、とは言わないでおいたのは一重に彼女の優しさである。

 

「ところで、イッセー君はまだウチの人に会った事ないよね?」

 

「ないっすね……どんな人なんですか?

吸血鬼なのは分かるんですけど。」

 

「三人いるんだけど、内二人は吸血鬼で…もう一人は言いづらいかな。」

 

「あ、なら言わなくて良いですよ?」

 

「そう?ごめんね。

それで、二人とも凄い強いんだよ。

あ、名前はね……」

 

名前を言おうとして、ガチャリと玄関の扉の鍵が開く音が聞こえた。

 

「あれ、今日は早いかな。ごめんね、ちょっと待ってて。」

 

「あ、お構い無く。」

 

フリージアは玄関へと向かう。

話し声が少し聞こえるがよく聞き取れない。

 

そして、こちらへ向かってくる音が段々と大きくなり、扉が開く。

一誠は思わず背筋を伸ばす。

 

 

 

「……ほう、君があの子の話し相手になってくれていたイッセー君かね?」

 

話し掛けてきたのは、どことなく掴みようのない存在感を放つ男性だった。

 

『……。』

 

「は、はい!兵藤一誠ていいます。

……あの、お名前を聞いても?」

 

「そう固くならないでほしい。

私はズェピア。

ズェピア・エルトナムだ。

一応、フリージアの父親をしているよ。」

 

「えっ、ち、父親!?って一応ってことは……」

 

「ああ、本当の親ではない。

あの子は遠い昔に追放された身でね、私が保護して、そこから家族になったわけだ。

あと、私があの子を吸血鬼にした張本人だ。」

 

「貴方が……」

 

「ズェピア、その話はあまりしなくていいから。」

 

「…うむ、君が言うのなら。」

 

「うん。」

 

仲が悪いわけではないが、その話をされるのはフリージア的にはあまり良くないみたいでズェピアはあっさりと了承した。

 

一誠はこの家族関係があまりわからなかった。

 

「……すまない、少しイッセー君と話がしたい。」

 

「分かった、じゃあ、部屋にいるね。」

 

「うむ、終わったら呼ぼう。」

 

フリージアはそう言って自室へと向かう。

一誠はズェピアと二人きりになったせいか緊張している。

 

その様子にズェピアはクスりと笑う。

 

「緊張しなくともいい。肩の力を抜きたまえ。」

 

「あ、はい……。」

 

「ハハハ、私相手に緊張するのは君が初めてかもしれないな、赤龍帝君。」

 

「そうなんですか……へ?い、今、俺の事……!」

 

「どうかしたのかね?

ああ、バレているのがそんなに驚きかね?

安心して良い、私は何もしないよ。」

 

「そう、ですか……」

 

「私がしたい話は、そうではなくてフリージアについてなんだ。」

 

「フリージアさんについてですか?」

 

「ああ……ここ最近、君がフリージアの話し相手になってくれているお陰で、また笑顔を見る機会が多くなってね。

私達がどれだけあの子に吸血鬼というストレスを与えてしまっていたかを痛感したよ。

……ありがとう。」

 

頭を下げるズェピアに、一誠は戸惑っていた。

自分とて自分なりの思惑…まあ、美人とお話ししたいという高校生男子特有の欲で話し相手になっていたのもあるから困惑は大きかった。

 

「あの、頭を上げてください!

俺も話したいから話してただけですから。」

 

「…そうか、分かった。

ちなみに聞くが、君はあの子の事をどう思っている?」

 

「へ?どうって……友達、かな?」

 

「本当かね?

あの子の美しさ、優しさ、健気さを感じておきながらそれだけとはどういうことかね?

もっとこう、あるだろう?

恋に落ちたとかあるだろう!だがそれは私やネロやオーフィスを倒してからでないと認めん絶対に認めん!!

フリージアは純情だから変な男に連れてかれでもしたら、ああ、何ということだ滅ぼさねば!」

 

「あ、あの……ズェピアさん?」

 

「…………すまない、取り乱した。」

 

一誠は確信した。

この人は、極度の親バカだと。

 

「いえ……」

 

「フリージアの事……いや、家族の事になると前が見えなくてね。

さて、話を戻そう。

リアス君はどうかね?」

 

「部長の事も知ってるんですか!?

もしかして、魔王様とも?」

 

「知り合いというより、友人かな、サーゼクスとは。

他の魔王とも既知だ。

それで、どうなのかね?」

 

「婚約の件は知ってますか?」

 

「ああ、サーゼクスから聞いたな。

レーティングゲームで勝ったらしいじゃないか。

よく勝てたね。」

 

「ありがとうございます。

……でも、俺達はライザーの家の未来を縮めたようなもんだと、フリージアさんと話して気付きました。」

 

「ふむ、聞かせてもらっても?」

 

一誠はフリージアとの会話をズェピアに話した。

すると、ズェピアは感慨深そうに紅茶を飲む。

 

「……あの子がそのような話をするとは、意外だ。

私の見えないところで、成長してるということかな。

確かに、君達の行いは常識的に考えればナンセンスだが、レーティングゲームでの賭けだったのだろう?」

 

「はい。」

 

「ならば、気にすることはあるまい。

あちらは了承し、成立した上でのレーティングゲームだ。

ライザー君も、それを承知で戦いに臨んだ筈だよ。

それに罪悪感を感じるのはそれこそ勝者としてあってはならない。

それは敗者の意思すら踏みにじる行為なのだからね。

……いいかね、君は、賭けに勝ち、見事目的を達成した。」

 

「それは、そうですけど……」

 

「どうしても、気になるのなら仕方無い。

その分まで頑張りたまえ。

私から言えるのはそれだけだよ。」

 

「……そうですね、そうします。」

 

「では、そろそろフリージアを呼んでくるよ。

……ああ、一つ言い忘れていた。」

 

「?」

 

「君は一度、主に同意するだけではなく、よく考えてから言葉を発すると良い。

フリージアとの付き合いで、その辺は冷静に考えられるはずだ。

……ではね。」

 

「はぁ……。」

 

ズェピアがフリージアを呼びにいくために部屋を出ていき、部屋には一誠一人になった。

時計の針が進む音を聞きながら、一度考えてみる。

 

─確かに俺は、部長や仲間達の意見に同意したりするだけのイエスマンになってたのかもしれない。

 

そう思った一誠は、感情に身を任せるのではなく一度冷静にモノを考えてから動こうと決めた。

 

『相棒、変わったな。』

 

「そうか?」

 

『ああ、あの娘と話す日々で少しずつだが、相棒は変わっていっている。』

 

「……それは悪くない変わり方かもな。」

 

フリージアとの会話で、自分が変わっていくのが一誠本人も理解していた。

だが、これは嫌な変わり方ではなく、受け入れられる変わり方だった。

 

詳しく言うと、最近覗き行為が無くなった。

彼の友人、知人はこれに驚いた。

それもその筈、一誠と友人二人は変態三人組で知られている犯罪予備軍……いや、もろ犯罪者だ。

だというのに、突然の変わりように心配する声すら挙がったというのだから相当だろう。

 

「ズェピアとの話、どうだった?」

 

「あ、特に変なことは聞かれませんでした。

それどころか、アドバイスを貰って……。」

 

「ズェピアのいつもの癖が出ちゃったかぁ。」

 

「いつもの癖なんすか?」

 

「うん、直せそうな点があったら指摘しちゃう癖。」

 

私も昔からよく指摘されてたんだーと懐かしむように言うフリージア。

だが、目は少し虚ろだった。

 

『塩気が多いかもしれないね。』

『ここ、書き順が違う。カット。』

『ここはこの公式を使うんだ、これではない。リテイク!』

 

「ふ、フリージアさん!」

 

「え、あ、ごめんね!

少し思い出しちゃって……でも、あれのお陰で料理とか上達したし、悪い気はしないんだけど……

本人曰く、監督癖らしいよ。

監督業してないのに。」

 

「ハハハ、なんすかそれ!」

 

「だよね、ちょっとおかしいよね~。」

 

二人して笑い合う。

こうしていて、心が安らぐ。

仲間と居るときとは違った安らぎがここにはあった。

 

「ふふ……ねぇ、イッセー君。」

 

「はい、なんですか?」

 

「もし、私が危ない目に遭ったら、助けてくれる?」

 

突然の質問に、一誠はどう答えたものか一瞬だけ迷った。

そもそも、ズェピアや他の家族が実力者なのは確実だろうし、自分よりも強いだろう。

それなのに自分に聞くのは何でなのかと疑問に思ったが、聞かないでおいた。

 

「任せてください、友達を助けるのは、友達の役目ですから!」

 

「……うん、お願いね。

 

まあ、ズェピア達が居るから大丈夫だろうけどね。」

 

「ですよねー。」

 

夕方まで、談笑は続いた。

 

 

 

 

 

 

「……?ズェピア、何してる?早く中に入る。」

 

「シー……静かに。」

 

「?……フリージア、男と話して笑ってる。」

 

「……ふふふ、彼女は誰にでも影響を与えるのだから、不思議なものだよ。

主役にまでそれが及ぶとは、流石だ。」

 

「ズェピア、嬉しそう。」

 

「嬉しいとも。

娘の笑顔に、喜ばぬ親などいない。」

 

「じゃあ、妻は我?」

 

「君は何を言っているのかね?」

 

部屋の外で、ひっそりと見ている二人に気付かずに。




え?一誠が変わりすぎだって?
フリージアの力だよ(笑顔)

この世界は、色々と優しい世界なので。


─追記─

活動報告をまた作成しました。
見てくださると嬉しいです。


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番外編 純粋な死徒 3花

はい、どうも受験は終えたロザミアです。

こちらでの投稿をしたのは何故か?

終わってないでしょ、番外編。

ではどうぞ


やあ、皆の衆。

俺だ、ワラキーだ。

 

え?このシリーズは完結したって言ってたろって?

 

おいおい、サブタイを見ろよ。

 

まあ、それはいいや。

唐突だが、最近の俺の悩みを聞いて欲しいんだ。

 

 

娘が、構ってくれない(THE親離れ)

 

オイオイオイオイ、死ぬわ俺。

娘がさぁ、主人公と仲良くなって、リアスちゃん達とも仲良くなるのは構わないどころか歓迎だよ?

家も賑やかな時間が多くなったし。

 

でもね?娘が構ってくれないんですよ!

これには悲しみが到来、俺の気分が粉砕な訳よ。

どれくらいの悲しみかって?

 

そりゃお前、グレートレッドに単騎で挑む位の悲しみかな!

 

え?待って?俺の視点終わり?

ちょ待てよ、俺の悲しみの語りは終わってn

 

「ズェピア、フリージア、居ない。二人きり、つまり、そういうこと?」

 

「どういうことかね?」

 

「二人でベッドでゴールイ──」

 

「カット!!」

 

ごめん、場面移って!!

 

 

 

 

──────────────────────

 

 

 

 

おっす、俺はイッセー。

現在、俺はフリージアさんと公園のベンチに座りながら話している。

吸血鬼なのに、外は平気なのかと心配だったが、日傘等、陽が当たらないようにすれば問題はないらしい。

それにしても、美人なのもあってか日傘を持って座る姿は美しい。

 

「今日はごめんね、外で話そうなんて言って。」

 

「いいですよ、俺なんかでよければ。」

 

「ふふ、ありがと。」

 

そう笑うフリージアさんに、俺は自然と安堵する。

何にとかじゃなく、この人との会話は、日常を感じられるから。

 

「結局、フリージアさんは魔王様達と同期って事でいいんすかね。」

 

「それは歳の事についてかなぁ?」

 

勘違いされそうだったので慌てて俺は弁明する。

 

「い、いや!そうじゃなくて!当時のフリージアさんの周りが気になったっていうか。」

 

「…そういうことなら、まあ。

うん、じゃあ教えるね?」

 

「はい!」

 

何となく過去を話すのが楽しそうで、普段のお姉さんといった大人びた表情からは想像もつかない程に少女のように笑うフリージアさんに、俺はドキッとした。

 

ここ最近、何だかこういうのが多い気がする。

 

「私も人間だったのは知ってるよね?」

 

「はい、ズェピアさんが言ってました。」

 

あの時、ズェピアさんが言っていた。

そして、自分が吸血鬼にしたのだとも。

どうしてなのかは分からない。

 

「うん。それでね、人間で、村娘だった私は凄く平凡な暮らしをしていたんだ。

でもね、ある時その生活に変化が起こったの。」

 

「変化?」

 

「…神器。イッセー君が今宿している赤龍帝の籠手が発現したんだ。」

 

「え、村娘の時にだったんですか?」

 

「うん。いきなり、変な赤い籠手が出て、力が沸き上がるっていうか、熱くなるって感じがしてね?

その時、親とか、その時の友達にさ。」

 

『ば、化け物だ!』

 

『ウチの娘は悪魔憑きだったんだ!!』

 

『出てけ!悪魔は出てけ!!』

 

「……って、言われて。

終いには、『悪魔を娘に持った覚えはない!』って。

皆、私に石を投げたり、罵倒したりでね。

だから、怖くなって……逃げたの。

一人になって、寂しい一生で過ごすのかなって不安を抱えながら。」

 

「……なんだよそれ。」

 

怒りがわき上がる。

無意味だと分かっていても、俺は憤った。

 

神器が発現したからって、悪魔だ何だって、そんなのおかしいだろ。

そりゃ、周りとは違うかもしれないけど、それでも同じ人間だろ!

 

同じ家で暮らした娘をそんな風に捨てれるわけないのに、どうして出来るんだよ!

 

「怒ってるの?」

 

「そりゃ、そうだろ!フリージアさんは悪くないのに、そうやって迫害されるのはおかしいだろ!?」

 

「……そうかな。」

 

「そうかなっ、て……」

 

「私も、もし友達がそうなったら怖くて仕方無かったと思う。得体の知れない腕の友人が居たら、怖いよ。

今の裏の事情なら、そういう認識かもしれないけどさ。でも、昔って、そうだったから。悪魔とか、本当にああいった形で出るんだって皆信じてたんだと思う。」

 

「でも、フリージアさんは優しいのに。」

 

「えへへ、ありがと。

でもね、ある意味出ていく事が正しかった気がするんだ。ズェピアに会えたから。」

 

「ズェピアさんに?」

 

過去の事は何時しか笑い話になると母さんや親父から聞いたことがある。

聞く側からすれば笑えないが、フリージアさんは笑っているから、いいか……。

 

「ズェピアが、私を拾ってくれたの。

サーゼクスさんに無理を通してね。

そこから、オーフィスに出会った。」

 

「へぇ~……そんな経緯だったんすね……

でも、やっぱり、許せません。」

 

「ふふ、ありがと。そう言ってくれると、嬉しいかな。」

 

「……でも、オーフィスは何でズェピアさんと?」

 

「それは分からないけど、でもオーフィスはズェピアのこと好きだって言ってるしいいんじゃないかな?」

 

「……あの見た目でアタックし続けてたんですよね?」

 

「うん。」

 

「……うーん……」

 

俺はおっぱいが好きだから分からないが、ズェピアさんはそういう問題じゃなくて娘だから恋人とかの好きにはならないんじゃないかなぁ……?

 

「あはは、まあいいじゃん。」

 

「そっすね。」

 

オーフィス。

無限の龍神だとか言われている凄いドラゴンなのだが、とても家族想いな女の子だったな。

 

『フリージアを泣かせたら、お前の命とその行き先は無いと思え。』

 

……怖かったなぁ。

 

「…あれ?ネロさんとは?」

 

「先生のこと?先生はズェピアが一人で守りきれるか分からないからって協力を扇いだんだって。」

 

「そうだったんすか。」

 

ズェピアさんでも守りきれるか分からない。

そんな状況だったのかと思うとやはり昔は激動の時代そのものだったのかもしれない。

 

「でねでね……」

 

そこから、話を聞いて欲しい子供のようにフリージアさんは俺に昔のことを話してくれた。

 

ドライグに体を乗っ取られた事があることや何回か襲撃があったこと。

魔王様達は今よりも悩みが多かったこと。

ズェピアさんが、実は悩みを抱えてしまうタイプなこと。

 

そして……

 

「私が吸血鬼になったのはね、頼まれたからなの。」

 

「頼まれたって……ズェピアさんにですか?」

 

「うん。あの時は、凄く…触れたら壊れそうって感じだったかな。」

 

 

『どうか、逝かないでくれ。私たちと共に、生きてくれ。』

 

『フリージア、我……寂しい。』

 

『わ、私は……』

 

 

「…頼まれたの。ずっと、一緒に居てって。

先生は静かにそこに居たけど、オーフィスとズェピアは凄く辛そうで。

多分、皆、抱え込んじゃってたんだよ。

不安とか、色々。」

 

「……それで、了承したんすね。」

 

「うん……吸血鬼になって、ずっと生きて、ずっと何かを学んで、ずっと家族と過ごして……ねえ、イッセー君。」

 

「……?」

 

フリージアさんは、俺にその整った顔を向ける。

その表情は……先程言っていた、触れたら壊れてしまいそうな位、脆いような、そんな風に笑っていた。

 

 

「疲れ、ちゃうね。ずっと生きてるって。」

 

「っ、それ、は。」

 

「分かってる。私が選んだことだもん。こうなるかもっていうのも分かってた。

でもさ、でも……ずっと生きてるとね?忘れちゃうの……」

 

「忘れるって……想いでとか、ですか?」

 

「……昔のこと、幾つかもう覚えてないの。

私の、大事な記憶が、幾つか無いの!

ずっと、ずっと一緒だった家族の記憶が、欠けているの!」

 

それは叫びに近かった。

怖いと、辛いと俺に泣きそうになりながらも必死に告げるフリージアさんに、俺はどうしてやれば良いのだろうと悩む。

 

だって、俺は家族じゃない。

俺は友人でしか無いのだ。

この人に俺が何か体のいい言葉を投げ掛けて、それでいいのか?

 

でも、俺は。

 

「フリージアさん。」

 

「っ、イッセー君……」

 

俺は、気付けば抱き締めていた。

公園のベンチだということを忘れ、俺はただ安心させたいと思い、抱き締める。

 

見ていて、辛かったから。

 

「俺は、フリージアさんに会えて良かったです。

他の皆も、きっとそう思ってる。

それに、俺だって今若いけど昔のことを全部覚えてる訳じゃない。

でも、フリージアさんとこうして話して、オカ研の皆と一緒にフリージアさんの家で話したりするのは楽しかった!思い出ってのは、そうやって作られていくんじゃないですか?」

 

「でも、怖いよ……大好きな家族のことを忘れてしまうのって……。」

 

「確かに、俺も怖いです。

でも、ズェピアさんやオーフィス、ネロさんは今も居る!きっとこれからも一緒に暮らしてく。

だから、忘れた分だけ増やせばいい!

ズェピアさん達だけじゃない。俺たちだって居る!

だから、その……大丈夫だから!」

 

「……イッセー君……」

 

『……。』

 

最後に言葉が浮かばなかった。

情けない。

だけど、過去だけじゃないってのは伝えられたはずだ。

 

過去に囚われているのはよくないって、俺でも分かるから。

 

フリージアさんは肩に顔を埋めて泣き始める。

それでも、日傘はしっかりと持っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「落ち着きました?」

 

「うん…ご、ごめんね、私のせいで、周りの目とか……」

 

「え?あ、ああ!大丈夫ですよ!変な目で見られるのは慣れてます!」

 

それも自身の犯した業の数々のせいだが。

 

しかし、泣き止んでから離れたフリージアさんを見て、今更ながら俺は何をしてるんだと思った。

 

「あの、こちらこそ慰め方って言うか、そういうの慣れてないもんで……」

 

「それはいいよ。むしろ、ありがたいって思ったし。

それに……イッセー君も逞しい男の子なんだなぁって分かったしね。」

 

…んー、何か釈然としないが、本人がいいならいいや。

 

以前の俺なら、胸が当たってる~とかで騒いでたろうに。

変わったなぁ……

 

『(相棒も、相棒の周りも変化しているのは自覚しているようだな。)』

 

「(そりゃ、自覚はしてるけどよ……。)」

 

「…今日はありがとね、じゃ!」

 

「え、あ、はい!また!」

 

「うん!」

 

……何か、顔が赤かったな。

 

俺は、どうしよう。

 

『相棒、まさかとは思うが。』

 

「流石に勝てる気がしない。」

 

『だろうな。』

 

 

 

 

────────────────────

 

 

 

 

家まで走って帰ろうと思ったが、疲れるので歩くことにした。

もう暗くなってきているし、ゆっくりでもいっか。

 

駄目だなぁ、と一人呟く。

 

年下の男の子に慰められるなんて、お姉さん失格だよね。

 

「あそこまで、泣いちゃうなんてなぁ……」

 

我ながら、溜め込みやすい性格だと思う。

本当に辛いことを言えない自分に、嫌気が差すこと等、何度もあった。

 

久し振りに吐き出せた気がする。

 

家族以外にこうやって吐露した事がないのに。

それほど、近しい人と認めているのかな。

 

そう思うと、顔が赤くなる。

 

頼もしい人とはまだ思えないけど、もしかしたら。

 

「……えへへ。」

 

何となく、少女みたいに想像する。

でも、きっと無理だ。

 

リアスちゃんとか居るし、私よりも美人な人なんて多いし。

 

ていうか、何でそういう対象として見ているのか分からない。

 

別に特別な事とかあった訳じゃないのに。

 

「よく、分かんないや。」

 

でも、悪い気はしない。

思えば、彼が来てくれてから、話す人が増えた。

一緒に料理もした。

ゲームとかもしたし、ファッションについても話した。

悩んでることの相談にも乗ったし、楽しいことが増えた。

 

ズェピアたちと違う優しさを感じた。

 

……これからも、きっと。

未来に想いを馳せ、家まで急ぎ足で歩く。

今日は先生は帰ってこないし、二人の分のご飯作らなきゃ……

 

帰っている途中で、ぼーっと立っている男の人が見えた。

何だか虚ろな瞳だ。どうしたんだろう……

 

お節介かも知れないけど、心配だ。

 

「あの……こんなところで立って、どうかしましたか…?」

 

「─見ぃぃっけ♪」

 

「えっ───」

 

 

その言葉と共に、私は、首に痛みを感じ、意識がうっすらとしていく中で、悲鳴をあげたく成る程恐ろしい顔で嗤う男の顔を見た。

 

ああ、私が、外で話そうなんて、言ったばかりに……

 

 

怖い、怖い、怖い。

殺される、死にたくない。

生きていたい。

まだ私は、生きていたい。

 

ここまで生きて、空しさを少し抱えた人生にようやく光が見えたのに。

 

消えたくない、壊れたくない。

 

「─ァ。」

 

何かが、軋みをあげた。




怒涛の勢いだぁ……

このシリーズでは、ズェピアは大々的には動きません。

よって、動かねばならないのは、彼です。


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番外編 純粋な死徒 4花

フリージアが帰ってこない。

 

あの後、ドライグを宿した男…イッセーと連絡を取ったが。

 

『え、帰ってないんですか!?あの後、走って帰って……すんません!!』

 

『あ、待っ……』

 

勢いよく切られた。

もしかしなくとも、探しにいったのか。

闇雲に探しても無駄だというのに……

 

やはり、吸血鬼の生に疲れて何処かへ?

 

それとも、誰かに……?

とにかく、皆と連絡を取ろう。

 

 

『家には来てないわ。』

 

『……そう。』

 

 

最後のフリージアの友達の悪魔の家にも来てないそうだ。

 

……これは、どうしたことか?

ガチャリ、とまた勢いよく扉が開いた。

我はすぐに玄関にまで赴いた。

 

「ズェピア!」

 

「……居なかった。ネロはなんと?」

 

「カオスも獣を使って探してるけど…まだ。」

 

「そう、か……」

 

酷く、困惑している。

外はもう夜中だ。

こんな時間になってるのに帰ってこないのはおかしい。

 

やはり、ついていくべきだった。

 

「オーフィス、私はもう一度…」

 

「ズェピアさん!!」

 

「…!」

 

声を荒げ、誰かが入ってきた。

誰かと思えば、先程連絡を取ったイッセーだった。

 

肩で息をして、疲れながらも我とズェピアに話し掛けてくる。

 

「はぁ……はぁ…フリージアさんは……?」

 

「……まだ見つかっていない。」

 

「そんな……」

 

「…イッセー君、君がフリージアと話したときは何もなかったのだろう?」

 

「はい、多少話して、それで別れました…」

 

「……そうか。フリージアが帰ってこないで何処かへ去ったという点は無いとして、やはり……誘拐か?」

 

「そんな!なんで、フリージアさんが!」

 

 

「私とて知りたい!!」

 

「っ……!」

 

ズェピアが、怒りに任せた声を発する。

久し振りにそんな声を聞いた。

これは、本気で怒っている時だ。

 

だが、我はそんなズェピアの腕を掴む。

 

「落ち着いて、ズェピア。」

 

「だが、オーフィス…」

 

「こういう時だからこそ、でしょ?」

 

「……そうだな。」

 

「でも、そうなるとどうすれば?」

 

「…サーゼクスにも聞いてみよう。

オーフィスとリビングで待っていてくれ。」

 

「…はい。」

 

「ん、じゃあ、イッセー、来る。」

 

我はイッセーを連れてリビングへと入る。

座るように言って、お茶をいれる。

 

普通に、緑茶でいいだろう。

我も緑茶は好きだから。

 

「…フリージアさんに、一体何が……」

 

「分からない。

だけど、余りにも急すぎる。

誘拐とすると、誰がやったのか分からない。

フリージアを拐う利点なんて…ズェピアか、我、カオスを引き込む事くらい?」

 

「そんなやり方で、従うわけないんだろ?」

 

「当たり前。家族を裏切ることはしない。」

 

「頼もしいなぁ……」

 

「…でも、もし、フリージアを助けるのならイッセーがやるべき。」

 

「え?」

 

何で俺が?

そりゃ、俺だってそうしたいけど、俺よりもオーフィスやズェピアさん、ネロさんの方が強い。

普通に考えて、三人の内誰かがやるべきだ。

 

「約束したって、聞いた。」

 

「…それは、そうだけど。」

 

「無理を意地で通さないといけないときが、きっと来る。それに、我やズェピアやカオスがどうしても動けない時があるかもしれない。

その時は、お願いね。」

 

「…おう!任せてくれ!」

 

約束、したからな。

俺は弱いけど、やるだけやるさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ズェピア、落ち着いて聞いてくれ。

……先程、僕へ君宛のメッセージが届いた。』

 

「何故君のところへ?」

 

『直接会わないといけないのより、送れる相手に送った方が危険がないからじゃないかな…。』

 

「……それもそうか。それで、内容は?」

 

『…赤龍帝の残滓を宿す少女は貰った。

返して欲しくば、城まで来い。』

 

…。

落ち着け、大丈夫、殺された訳じゃない。

問題はない、いつも通り、相手を殺して──

 

 

『─ただし、ズェピア・エルトナムとオーフィスが来れば殺して残滓を戴く。』

 

「─!!」

 

気付けば、俺は壁に拳を叩き付けていた。

死徒の全力に近い一撃が、壁を粉砕する。

……くそ、物に八つ当たりしても、意味はないのに。

 

このメッセージの主は、何を言っている。

 

娘を拐った挙げ句、俺とオーフィスが来れば殺すだと?

 

「傲慢にも程があるだろう!!」

 

『落ち着いてくれ!』

 

「これが……落ち着けるか!」

 

『それでもだ!君の気持ちは分かるよ!

僕だってミリキャスを誘拐でもされたら気が狂う。

分かるからこそだ、落ち着いてくれ。

…ネロは行けるんだ、後何名かを編成した万全な態勢でいけばいい。』

 

「…くっ、しかし、私やオーフィスに来るなということは、それに近い実力を持つ敵の可能性も…」

 

『否めない。だからこそだ、ネロが倒されてしまった時を考えるんだ。』

 

「君は無理なのか?……まさか。」

 

映像越しでも、サーゼクスの苦虫を噛み締めるような表情は分かった。

そうか、お前もなのか。

ということは、魔王とそれに近い実力者も来てしまえば殺される。

 

だが、何故だ?

 

「何故、同胞が?」

 

『ネロは表立って動いたことはない。

だからだろうね……それに、ネロの存在を知らない可能性もある。獣ならば見たことはあるかもしれないが……ネロ・カオスという個は見たことはないのかも。』

 

そこは分からない、か。

……相手は万全の対策を練っているはずだ。

 

だが、一体相手は誰なんだ?

 

「相手が誰かは分からないのか?」

 

『…いや、律儀に名前を載せてたよ。

 

 

リゼヴィム・リヴァン・ルシファー、とね。』

 

「リゼヴィム……。しかも、ルシファー?」

 

『ああ……僕やアジュカ、君と同じ超越者の一人。

今まで何一つとして興味を示さなかった彼が何故赤龍帝に興味を示したのか……』

 

「……そちらに居るのだろう?リゼヴィムは。」

 

『まだね。いつ気が変わって動くか分からない。

フリージアがどんな状態なのかもね。』

 

「そうか。……また後で会おう。」

 

『ズェピア。…気を付けて。』

 

「……ああ。」

 

通信を切り、ようやく手の痛みに気づく。

握る力が強すぎて皮膚が剥がれ、肉が見えている。

 

まあ、それはいい。

 

これを伝えないと。

 

……リゼヴィム・リヴァン・ルシファー。

お前は必ず、この世から記録もろとも消し去ってくれる。

 

よくも、うちの娘を己の欲望を叶えるための道具として利用してくれたな。

その魂、永劫に報われぬモノと思え。

 

アトラスの地獄が、お前を殺すだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「リゼヴィム?ルシファー!?」

 

「ああ、彼はどうやら、私や私に近い実力者は邪魔らしい。

相当に姑息だ。無理矢理侵入しても…フリージアは殺されるだろう。」

 

「……何のために?」

 

「憶測ではあるが、今の赤龍帝が存在しているのに未だその因子を持っているからかもしれない。

その籠手を抜いたからだろう。

……だが、それならばより強い因子を持つ君を狙えばいいはずだ。」

 

「そうですよ、何で俺じゃなくてフリージアさんなんですか!あの人は、日常を生きるべき人なのに!」

 

「…その言葉はありがたいが、それは置いておこう。

そこだ、そこが分からない。

何故私やオーフィス、ネロを敵に回してまでフリージアに手を出したのか。合理的ではない。」

 

分からねぇ。

リゼヴィムって奴は何がしたいんだ?

だって、俺以外の赤龍帝はもういない。

因子があるからって……

 

 

『─待て、相棒!分かったぞ!』

 

「ほ、本当か!?」

 

ドライグの言葉に俺は既に出してある籠手に驚く。

ズェピアさんとオーフィスも籠手を見る。

 

「ドライグ、君に分かったということはそちらの方面か?」

 

『いや、此に関しては俺かアルビオンしか思い至らない可能性もある。だからこそ盲点だ。

そのリゼヴィムは思い付いてしまったのだろう。

 

二人目の赤龍帝の創造をな。』

 

「二人目の、って……可能なのかよ!」

 

『普通は出来ない。俺の力は所持者以外には残らないからな。

だが、フリージアは違う。

フリージアは生きながらにして別へ俺を流した。

貴様の技術を経由してな。

となると、リゼヴィムは虚言を吐いた。』

 

「虚言?」

 

「─待て、そうなると……」

 

ズェピアさんは答えに至ったみたいだけど、俺とオーフィスは分からない。

早く教えてくれ。

その虚言がとてつもなく怖い。

 

『既に何かされている可能性が極めて高い。』

 

「ッ!?」

 

「……!」

 

隣にいたオーフィスから膨大な魔力が溢れでる。

しかし、それも一瞬。

怒りでつい、といった感じだった。

「…しかし、相手は要求を呑めという。

奴にとっては、単なる興味でしかないのか?

私達の家族を、奪うことが……!

度しがたいぞ……実にだ……。

……イッセー君。」

 

「は、はい!」

 

「本来ならば、私がいきたい。

だが、それでも行けない……私がいけば今度こそ結末は最悪へと変わる。

……だから──」

 

 

ズェピアさんは俺の名を呼び、俺の方を向く。

一体、何を言われるのか。

 

 

「─娘を、助けてくれ。」

 

「─!」

 

 

頭を下げての、頼みだった。

どうか、という程の懇願。

助けてくれと、俺よりも強い人からも言われる。

 

俺は、本当はこの人自身が向かいたいのだろうと理解している。

日々のこの人が、家族への愛を示しているから。

 

だからこそ、どうしようもなく、悔しいのだろう。

こうして頭を下げて頼んでる最中も、手から血が流れている。

気付けば、オーフィスも俺に頼んでいた。

 

俺が、超越者に近い者と戦って、助け出せるのか。

 

俺よりも強く、優しい人の思いを背負って……

 

 

─もし、私が危ない目に遭ったら、助けてくれる?

 

 

……そうだ、俺が、約束したんだ。

やらないと。

 

何より、助けないと伝えられない。

 

「はい、フリージアさんは俺が助けます!

約束したんです。何かあれば、助けるって。」

 

「……そうか、頼まれてくれるか。」

 

「ありがとう、イッセー。」

 

「それでは、イッセー君。

君にひとつ、渡しておこうと思っていた物がある。」

 

ズェピアさんは、そう言って、ついてきてくれとリビングを出る。

オーフィスを見ると、行ってやってくれと視線で伝えられた。

 

俺は何だろうと気になりつつ、ついていった。

 

 

 

─────────────────────

 

 

 

─音がする。

 

足音、だろうか。

コツ、コツと小気味いい音がする。

 

最初に感じたのは、音で。

次に感じたのは、足首に冷たい何かを付けられてる感覚だった。

 

目を開ける。

 

「……っ、ここは……?」

 

目の前に広がっているのは、石の壁。

鉄格子が見える。

 

これは、牢屋?

 

足首を見ると、足枷のようなものが嵌められていた。

 

「な、なんで……?」

 

それに、この牢屋、魔力を感じる……魔法が掛かっているの?

 

捕まっているのは確かだ。

私が、何をしたのかは分からないけれど。

 

そして、ようやく足音は自分の目の前までやって来た。

 

「いやぁ、美少女を牢屋に閉じ込める所業をやるはめになるなんて俺ちゃんったら中々にヤバイ奴じゃなぁい?気分どう?良くないよねぇ!ヘイヘイ、今の気持ちNDK?」

 

「……、えっと。」

 

目の前に来たのは、変なテンションのオジサンだった。

でも、この人、強い。

 

実力は……分からないけど、サーゼクスさんと並ぶかどうかかな。

 

変なテンションのオジサンは私の反応にえ~、と落胆するような仕草をする。

 

「一言目がそれとかもう駄目じゃんキャラ的に何処ここ!?位は言ってくんなきゃさぁ!

これじゃ面白くないよ~。

……まあ、いいか。自己紹介させてもらうけど~…

リゼヴィム・リヴァン・ルシファー。

長いからリゼヴィムでもオッサンでも何でもいいけどオジサマが良いなぁ!」

 

「貴方が、私を捕まえたの?」

 

「無視かよぉ!そうだよぉ!」

 

もう付き合うだけ疲れる部類だと思って、発言の大半を無視する。

冷静に考える。

ルシファー、ってことは魔王……じゃないよね。

近しい人ってことかな?

 

「何で、私を?」

 

「ぶっちゃけちゃうと、面白そうだからってのが理由!ズェピア・エルトナムのご家族さんじゃん?んで元赤龍帝。こんなん利用しない手はないっしょ~。」

 

「利用って……私を?」

 

「そだよ。チミを利用して……てのは違うか。」

 

リゼヴィムはそう言いながら檻の中へと入ってくる。

私に近寄り、目の前で屈んでニヤニヤと見てくる。

正直、気持ち悪い。

本物の悪魔ってこういうのなの?

 

「その体の中の赤龍帝の因子を使って赤龍帝を増やそうと思ってさぁ!

だから、なってくんね?俺ちゃんの赤龍帝に♪」

 

「…えっ?」

 

赤龍帝に、なる?

また……私が?

 

それはつまり、戦えってこと。

 

赤龍帝としての力を解放して、戦えと言っている。

 

「い、嫌です!」

 

「おーハッキリ言うねぇ。

そういうの折るの好きなんだよねぇ。

でもほら、こういう時ってさぁ~──」

 

 

「─まあ、無理矢理よね!」

 

 

「っ──!……?」

 

リゼヴィムは、私に何か綺麗な石を見せる。

何だろうと思う前に、石は独りでに光輝き、私の中へと入り込む。

 

痛みはない、何かが変化したような感じは……

 

 

『殺せ。』

 

……え?

 

「あ、ぐぅ……!?」

 

「効いてきたねぇ。どう?気持ちいい?」

 

「気持ち、よくなんか……ァ"ァ"!!」

 

熱い、体が焼けるように熱い。

胸の奥がマグマに溶かされるような感覚だ。

 

胸を抑え、踞るが、痛みは治まらない。

 

痛い、痛い!

 

加えて、脳に何かが聞こえた。

殺せ……そう言っていた。

 

『殺せ、殺せ、殺せ。』

 

「いや、いやぁ!!ァ、ア…──」

 

冷たく、魂に触れるかのような声。

脳に響く声は、殺せとだけ命じてくる。

 

何を、とは思う暇もない。

 

必死に抗う。

魔法も使えない私じゃ、ただ意思で堪え忍ぶしかない。

 

リゼヴィムは、私の苦しむ様をただ見ている。

悪魔のように、嗤いながら。

 

『殺せ、殺せ、殺せ、殺せ。』

 

「ぅ、アが、ハ───」

 

助けて、誰か、助けて。

怖い、怖いよ。

自分が、自分じゃなくなるような…そんな恐ろしい感覚がする。

 

内側で、何かが爆発しそうな程に熱い。

 

「助けてくれるはずの奴等が、君をまだ助けてない。

見捨てられたんじゃね?」

 

「そ、んな、訳……!」

 

「だって、そうじゃンよー。

今まで何度も助けてくれたズェピア・エルトナムも!

オーフィスも!誰も助けてくれねぇ!

お前が邪魔だったんだよ、内心!

ひ弱で、手を煩わせるだけのお前がさぁ!」

 

「やめ、て─」

 

『そうだ、嘘つきだ。』『嘘をつかれた。』

『虚言だった。』『痛い、辛い、怖い。』

『今も来ない。』『今まで来たのに。』

 

─任せてください、友達を助けるのは、友達の役目ですから!

 

そうだ、何で、来てくれない。

私を、助けてくれない。

約束、したのに。

 

「違うっ!!」

 

「違う?本当にぃ?チミぃ、じゃあ、約束してたとして、その約束をまだ破ってないって言える?

助けてくれないのに、苦しみ続けるのかぁ?」

 

『そうだ、楽になろう。』『痛みも、辛さも、苦しみも。』『全部消える。』『自分を守れるようになる。』

 

自分、を……?

 

『力だ。』『あの吸血鬼たちも力があったから。』

『好きに出来る。』『力を得よう。』『痛くない。』

『苦しくない。』『辛くない。』

 

『力、力があればもう、怖くない。』

 

怖く、ない……

震えることも、ない。

そっ、か……

 

頭に響く声は、胸にストンとパズルのピースがハマるように来た。

 

その瞬間、胸の痛みが消えた。

 

『認めろ。』『己の恨みを。』『人間じゃなくなった。』『人を捨てるはめになった。』『許せない。』

『殺せ。』

 

「ア、ァ──」

 

「肯定しろ、その全てを、そうすれば、強くなる。」

 

「強、さを……?」

 

ああ、強くなれば守られることも、利用されることも、無くなる。

 

怖くない日々を、過ごせる。

独りでもいい、笑える。

辛くない、痛くない。

 

そんなの相手が受けるべきだ。

 

私は、頭に響く声を───

 

 

 

「─アハ。」

 

 

─肯定した。




許されねぇリゼヴィム。

口調は少し違うかもですが、まあほら、悪魔なんてそんなもん。



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番外編 純粋な死徒 5花

あの人と話して、自分が変わって、周りも変わって。

その後、俺は強くなりたいとより一層思った。

 

我欲ではある。

だが、俺という男は何処までいっても端的に言って糞野郎の部類に入る。

何せ、報酬がないとやる気を出せない。

 

やれ胸だ、やれ女だ。

我ながら、利用するならこれ以上の馬鹿はいないと笑う。

だが、だからだ。

 

だから、俺のこの思いは自分から見ても異常だった。

それは俺に見返りなんてない。

来るのは自己満足だけ。

 

報酬がその場での嬉しさなんて、馬鹿馬鹿しい。

 

……でも、仕方がなかった。

 

『イッセー君は、強くなれるよ。』

 

あの笑顔を見たら、こうなるのも仕方なかった。

あんな無垢な笑顔を向けられて、優しさを受けて、少しの厳しさを貰って。

 

落ちない男なんて居ないだろう。

いや、もしかしたら、自分だけなのかもしれない。

 

それなら胸を張って叫んでやる。

俺はこの人に惚れて強くなれた、と。

 

だけど、その叫びは、まだしてはいけない。

まだ俺は弱いから。

 

それでも強くなって、いつか伝える。

その後が怖いけど、負ける気がしない。

寧ろ、勝ててしまうような気がする。

 

……なのに。

 

あの笑顔の人は連れ浚われて。

助けるのは、俺やその仲間達で。

 

俺に出来るのか、と聞かれれば難しいと答える。

誰だって、俺だってそう思う。

 

それでも惚れた人だから。

守ると約束をしたから。

遅くなってでも、俺はあの人を助けなきゃならない。

 

『お前のそれは、恋ではなくて呪いだ。』

 

堕天使の総督は俺にそう言ってきた。

だが、俺には大差なかった。

恋が呪いなら、その呪いを喜んで受けとる。

それで俺が強くなれて守れるのなら。

甘んじてその呪いの苦しみを貰おう。

 

『行きすぎるとそれは破滅だ。』

 

主の兄の魔王はそう言った。

破滅なんて、怖くはない。

だってそうだろ、俺は守るために強くなりたいんだ。

その破滅を砕くために強くなるんだ。

敵が来ただけだろう。

 

『相棒は変わったな。』

 

俺を宿主として俺の内にいる龍が穏やかに言った。

そうだな、と笑って返した。

俺でも意外で、でも誇らしい。

 

ヒーローには程遠い、騎士とも言えないド三流。

それでもやれることはある。

俺には、やるべき役がある。

 

俺という男は、早いか遅いか分からないが…男として、意地を通すステージへと上がったようだった。

 

あの人の父親が、俺にあるものを渡してきた。

とても俺に馴染んで、とても強力な物だった。

俺なんかにいいですかと聞くと。

 

『君の救出劇のサポート位は出来なくては、監督失格だろう?強引に舞台に上がった愚か者を、倒してくれ。』

 

任せてください、直ぐ様そう言えた。

敵がどんなに強くても、仲間がいる。

俺には、頼れる仲間がいる。

 

だから負けられない。

この守るための力を。

ようやく使えるんだ!

俺は、迷わない。

 

 

 

 

────────────────────

 

 

 

冥界にまで移動した俺達はさっそく黒幕、リゼヴィムのいる場所にまで移動を始めていた。

 

「準備は?」

 

「出来てます!」

 

「こっちも万端よ。…でも、私達で勝てるのかしら。」

 

当然ながら、俺の主である部長、リアス・グレモリーと俺と同じ眷属の仲間達がいる。

頼もしく感じる。

それに、部長の不安も分かる。

相手はくそったれだとしても超越者だ。

普通に考えて、勝てる相手じゃない。

 

どうしたって差はある。

 

何かを言った方がいいと思ったその時、同じくついてきてくれたネロ・カオスさんが言葉を発する。

 

「何、不安を感じるのは当然のことだ。

私はともかく、貴様らはまだ強いとは言い切れない。

だが…それでも己より強い相手と戦い、勝ってきたのだ、少しは自信を持て。」

 

「先生…」

 

「確かにリゼヴィムは強い。

負ける可能性は十分にある。

もしそうなったら、主として、間違いのない判断をしろ。」

 

「…はい。」

 

「待ってください、誰か来ます!」

 

「誰だ、こんな時に……!」

 

もし敵なら、消耗させるのが狙いか?

だけど、まだ敵とは……

 

そして、こちらへと飛来してきた奴を見て、俺は構える。

今までのコイツからして、敵だろ!そう思った。

 

だが、飛来してきた白い奴は好戦的な意思を示してない。

 

「何しに来やがった、ヴァーリ!」

 

「リゼヴィムと戦うと小耳に挟んだ。

……俺も同行させろ。」

 

「何だと?」

 

「……一応聞いておく。

俺達はフリージアさんを助けに来た。

お前はリゼヴィムと戦うのが目的なのか?また戦いたいって欲か。」

 

「違う……が戦うのが目的なのは当たっているよ、赤龍帝。」

 

いつもとは違う、強い否定の意思。

これには俺たちも戸惑うが……

 

「詳しくは聞かないぜ。」

 

「いいのか?」

 

「ちょっと、イッセー!」

 

「部長、ヴァーリが味方なら心強いです。

それに、リゼヴィムを相手してる間にフリージアさんを助けられるかもしれない。」

 

「……分かったけど、せめて私に許可をとってからにしなさい。

いいわ、確かに白龍皇が味方なら心強いわ。

皆もいいわね?」

 

「ええ、構いませんわ。」

 

「裏切るというのが無ければそれで。」

 

「今回はそういうことはしないさ。」

 

ヴァーリ・ルシファー。

リゼヴィム・リヴァン・ルシファー。

 

……つまり、そういうことなんだろう。

俺たちが口出ししていい事じゃない。

ヴァーリが決着をつけるってんなら任せる。

元々は敵だしな。

 

だけど、今回は昨日の敵は今日の友だ。

 

「よし、行きましょう部長!」

 

「ええ、皆、行くわよ!」

 

部長の声に皆が応じる。

ヴァーリとネロさんは声こそ出さないものの顔って言うか雰囲気が応じてるって感じだ。

 

諸悪の根源が潜む城の扉を開け、突き進む。

奥の部屋に居ると見たが……。

 

「妙だな。」

 

「先生?」

 

「大勢に攻めてこられるのは分かっているはずだ。

だというのに何も仕掛けてこない。

妙だとは思わないか。」

 

「……確かに……刺客とかも居ないのはどう考えても無用心過ぎる。」

 

「遊ばれてる?」

 

「どんな悪魔なのか分からないし、一言で言えないわね。

今のところはイカれてる、だけど。

でも、いくらそんなでも用心の1つや2つはしてるでしょう?」

 

「……イカれてるからこそ、かもしれぬな。」

 

ネロさんがそう結論付けて、俺はならそれでいいと思った。

どんなに頑張っても俺は馬鹿だ。

なら、考えるのは任せるのが一番だ。

 

「扉見えました!」

 

「律儀に開けてやる必要は?」

 

「当然なしよ。」

 

「了解!」

 

奥に見えた扉に、蹴りを入れて吹っ飛ばす。

あわよくば黒幕に当たればなぁと思ったが……

 

どうやら、無駄だったらしい。

 

魔力の小さな弾丸が扉にぶつかり、爆発する。

あんな小さな魔力でこれだけの威力……やっぱ地力が違う。

 

全員が部屋に入ると、そこはあまりにも広いホールだった。

 

「ちょっとちょっと、そこはしっかり開けてくんなきゃおっさんの頭割れちゃうところでしょうよぉ!

それか人質とかいるのわかってんの?

軽率すぎなぁい!?」

 

部屋の真ん中には少し、いや、大分チャラい口調のおっさんが立っていた。

 

あれがリゼヴィム……!

リゼヴィムの台詞に、ネロさんは鼻で笑う。

 

「人質?実験体でなくか?」

 

「あれまバレてーら!

そーそー、実験体ね実験体……。

その事について大変に申し訳ねぇ事態になりござんますよ!」

 

「……。」

 

「いやぁ、実験体のあの娘さぁ

 

死んじゃったぁ!」

 

「テメェ───ッ!!!」

 

その台詞を聞いて、俺は体が勝手にリゼヴィムへと駆け、殴りかかった。

 

籠手で倍加しまくった殴り、いくら超越者でも!

 

「なぁんて、ウッソ♪」

 

「んなっ……」

 

「イッセー!」

 

「赤龍帝!」

 

俺の渾身の拳は指1つで止められた。

しかも、体の調子が元に戻ったような感覚……

 

「もー突っ走っちゃ駄目じゃーん?

赤龍帝だからってぇ、僕ちんに勝てるとでも思ったかぁ!残念残念はい残~念ッ!

そんなんじゃ勝てないんだなぁ!

無いよ、力ないよぉ!?ハーハハハハハ!」

 

「ガァッ!?」

 

軽く蹴りを鳩尾に入れられて部長達の所へと戻される。

 

くっ、そ……どういうことだ、なんで倍加が!

 

「貴方、よくも!」

 

「よくも、なぁによ?敵を攻撃するのは普通じゃね?

僕ちんは常識に計って蹴っただけだぜ?

そっちも殴ってきた、じゃーん?」

 

「だとしても、私の可愛い眷属を馬鹿にするのは許さない。

いえ…私の友人を傷つけた時点で許す理由はないわ!」

 

「部長、気を付けてください、イッセー君の籠手の力が発揮されて無かったようにも感じました。」

 

「裕斗……それはつまり……」

 

「その可能性もあります。僕やギャスパー君のような神器使いは不利かもしれません。」

 

「……となると、私もか。」

 

「先生も元は『魔獣創造』の魔獣細胞を持ってる故の不死性……」

 

最初からそれがあるから余裕だったのか。

だとすると……くそっ。

 

ネロさんも無言で目を細める。

 

「なるほど……そういうことか。

最初から手のひらとは気に食わないな。

元より屑だとは分かっていたが、アルビオンの力まで対処できると言うことか。」

 

「気に食ってよぉ。

僕ちんもリンチされる訳にもいかないんですわぁ。

……って、そこにいるのは!」

 

「リゼヴィム…ルシファー……!」

 

リゼヴィムの視線の先に居たのはヴァーリだった。

ヴァーリは怒りを込めた声でリゼヴィムの名とルシファーの名を呼ぶ。

それに対し、リゼヴィムはえー、と落胆したような顔で応える。

 

「やぁく立たずぅ?何で居るのさ?

塵は塵らしく箱の中に入ってなきゃ駄目でしょうよ。

あ、堕天使の所が箱か!メンゴメンゴ、でもでも烏に居候の半分悪魔って何か結構笑えるなぁ!

ヒャハッ!」

 

「黙れっ!」

 

「黙れとか言われて黙る悪役居る?ナイナイナイナイ!nothingぅ!……ま、どうでもいいや。

役者は揃ったわけだし?パパッとやろうや。

ま、実験体の娘は僕ちんの計画に適合できなかった。

つまり要らないから返す!」

 

「なっ……無事なのか!?」

 

「無事無事。

別に異常なしであります!

僕ちん嘘つかな~い。

証拠に返しますってんだから気前いいよねぇラスボス僕ちん!」

 

リゼヴィムは指を鳴らす。

すると、俺達の近くに魔法陣が浮かび上がり、そこから人が現れる。

 

間違いない、フリージアさんだ。

 

俺は慌ててフリージアさんを抱き起こす。

 

「フリージアさん!」

 

「……ぅ……い、イッセー君……?」

 

「はい!俺です!助けに来ました!」

 

「そう…なんだ……ごめんね、私が弱いばっかりに…。」

 

「何言ってんですか。

そんな事、俺や部長たちは気にしてませんよ。

立てますか?仲間と避難を……」

 

「そうよ、貴女は悪くない。」

 

「リアスちゃん……イッセー君。」

 

「はい?」

 

フリージアさんが俺の名前を呼ぶ。

とても、とても状況に見合わない程に冷静な声だ。

怖がるとかじゃない。

悔しがるとかでもない。

 

怖いほどに、冷静だ。

 

「私が、弱いからこうなったの。」

 

「それは違─」

 

「違う?ううん、それこそ違うよ。私が弱いからこうなった。

強くないと、虐げられる……。」

 

「フリージア、さん?」

 

「フリージア……どうしたの?」

 

「イッセー君には私と同じ力がある。

リアスちゃんにも生まれもった滅びの魔力……他にも、色々。

力って、大事なんだね……

今思うと……何で手放せたんだろ……」

 

何かをぶつぶつと喋るフリージアさんに皆が違和感を覚える。

おかしい。ここまで力に固執する人ではなかった筈だ。

 

嫌な予感がする。

 

「イッセー君はさ…強いよね。」

 

「俺は、強くなんかないですよ。」

 

「強いよ。私とは違って、挫けてない……だからこそ、私は気付いたんだ。」

 

『(相棒、気を付けろ。)』

 

「(ドライグ?)」

 

ドライグの唐突な忠告に俺は驚くが、相棒の言葉だ、信じて警戒しておこう。

 

フリージアさんはふらりと立ち上がり、少し離れる。

それは何だか、俺とフリージアさんの心の距離に思えて仕方がなかった。

 

「私には、そんな心の強さはない。

信念も、理想も、そんなものはない。

皆が強くて、守ってくれる。

でも、守られていて、思ったの。

私がどんどん惨めになっていくだけなんじゃないかなって。」

 

「そんなこと!」

 

「あるでしょ。

だって、吸血鬼なのに戦う力もない、戦おうとする心すら持てないのに、それを惨めじゃないなんて誰が言えるの?

だからこそ、力がいる。

絶対に自分を救って、自分を守れる力が。」

 

「それは……」

 

それは、いけない力じゃないのか。

独りを助け、独りのために他人を容赦なく排除するなんてのは……そんなの、間違ってる。

 

「それは、孤独ですよ。」

 

「孤独?……うん、そうだね。」

 

 

 

「でも、いいじゃん孤独で。」

 

「……。」

 

「だって、孤独になれば、自分が惨めに感じることなんて無いんだよ?一人で生きて、一人で掴み取る。

守られるだけの私なんて、嫌。

守るなんて、自信がない。

私は結局、自分が大好きなんだよ。

自分がよければそれでいい。そんな女なんだ。」

 

「それは違う!

フリージアさんが居なかったら、俺は絶対に馬鹿な奴のままだった!他の皆も、フリージアさんのお陰で変われたんだ!」

 

「私が弱さを生み出したの間違いでしょ。

私と言う弱味が、貴方達の強みを消している。

なら、私は要らない。私が違う強みになって、居なくなることで……解決でしょう?

 

だからこそ、手に入れたの。

皆を、楽にさせる為の力を。」

 

「……リゼヴィムが、渡したんですか。」

 

必死に説得してもはね除けられる。

心が軋み、辛くなる。

 

─『イッセー君は、絶対に強くなれるよ。』

 

そう言ってくれたのを、覚えている。

その言葉に無性に応えたくて必死に頑張った。

強さは力だけじゃないのは、皆との助け合いで知った。

それもフリージアさんのお陰なのかもしれない。

 

……だから、力に固執するしかないフリージアさんを見て、俺は追い詰められてしまったんだな、と何となくわかった。

 

「そうだよ。でも、元は私の。」

 

「……そうですか。」

 

だけど、だからこそ、許せない。

 

俺に力だけじゃないと言っておいて自分がそれに固執したことにではない。

相談もしてくれなかったことでもない。

 

悪魔としてはそれは普通なのかもしれない。

だけど、それは『やり過ぎ』だ。

 

「部長。皆も、1ついいか。」

 

「……いいわ。」

 

「まだ何も言ってないですよ。」

 

「一人でやるって、そう言うんでしょう?

本当なら貴方だけに重荷は背負わせたくはないけど……お願いね。助けてあげて。」

 

それは部長達全員の言葉だ。

リゼヴィムはしばらくこっちで何とかすると、そう言ってくれた。

 

「……はい!」

 

感謝してもしきれない。

俺は力強く返事をする。部長は微笑んで、すぐに王としての顔で無言で事を見ていたネロさんと仲間と共にリゼヴィムと対峙する。

 

「麗しい友情って奴かぁ……」

 

「黙れ。貴様は骨まで喰らい尽くす。」

 

「出来るのかなぁ?その体で、僕ちんの能力を突破出来るのかなぁ?」

 

「なに、根性論も悪くはない。」

 

「リゼヴィム、貴方は私達が倒すわ。」

 

「……観戦していたかったけど、おっさんモテモテだからやる気出さなきゃなぁ!」

 

リゼヴィムが膨大な魔力を解き放つ。

超越者は伊達じゃねぇってことか……

皆、頑張ってくれよ!

 

…そして、リゼヴィム、人の弱味につけこんでこんなことをして許されると思うなよ。

 

そんな怒りが、込み上げる。

リゼヴィムに怒りの視線を送ってから視線を戻す。

 

目の前の優しかった人は歪んだ笑みで、濁った瞳で俺を見る。

 

「ねぇ、イッセー君。」

 

「はい。」

 

「好きだよ。」

 

「……俺もですよ。」

 

「好きだから…弱い私が好きだったからこそ…

ここで、越えさせてもらうね。弱い私を、殺すために。」

 

フリージアさんの腕から、見慣れたものが現れる。

 

それは、『赤龍帝の籠手』だ。

当然かと思う。

フリージアさんも元は赤龍帝。

力を振るわなくても、あの神器はあったんだから。

 

そうか、それを出せるくらい、僅かしかなかった力が増幅されたのか。

 

『相棒、救ってやってくれ。

俺や、混沌や無限、ズェピアにもこれは出来ない。

相棒しかやれない事だ。』

 

「分かってるよ。…力を貸してくれ、相棒!」

 

『当たり前だ!』

 

籠手が使えることを確認して、構える。

倍加は初期化されてしまった。

吸血鬼の地力に追い付けるか分からないが……

 

やるしかない。

約束のため、魂を燃やす!

 

「俺は、助けて見せる。」

 

「そんな事、しなくていいよ。

今の私は、もう……弱くない!

助けられる必要も、ない!」

 

「そんな強さ、俺が否定してやる!!」

 

 

『『Boost!!』』

 

赤と赤が、ぶつかり合う。



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番外編 純粋な死徒 6花

正直、すまんかった。
でも、やりたかったんや……!な回


拳と拳がぶつかり合う。

 

互いに赤い龍の籠手を有し、片方はその宝玉の中に籠手の主が居て、片方には何もいない。

 

ぶつかり合う男と女。

女が攻め、男はそれを上手くかわしていく。

 

「ほらほら、どうしたのイッセー君!

それじゃあ私を倒せないよ!」

 

「くっそ……戦ったことはないっていうけど、案外しっかりしてるな…」

 

『相棒、早く勝負を決めないとじり貧だぞ!』

 

「わーってる!っ、そらっ!」

 

女─フリージア─の攻撃を男─イッセー─が弾き、左の拳で鳩尾へと放つが

 

「うわ、危ない。」

 

「っくそ…外した。」

 

フリージアはその隙を埋めるように羽で後ろへと飛んで拳をかわす。

吸血鬼の羽、それがイッセーが攻めあぐねる要因であった。

 

攻撃の活路を見出だしても読まれているように逃げられる。

激しく攻めているようでその実堅実な攻めだった。

 

『『Boost!』』

 

「(形振り構わないなら禁手(バランス・ブレイカー)を使っても良いけど、吸血鬼の体が何処まで頑丈か分からない以上は……)」

 

『相棒!』

 

「な、なんだよドライグ。」

 

『よく考えろ。

フリージアは吸血鬼、それもズェピアの眷属吸血鬼となったことにより身体能力が悪魔のお前のそれよりも上を行く。このままだとじり貧だと言っているだろう!

禁手を使え!』

 

「だけど…」

 

『ここまでに来て迷うな!

お前がここで下手に消耗すればリゼヴィムはどうする!

今はネロ・カオス達が抑えているが、それも長くは持たんぞ。』

 

「……」

 

そこまで言われて、考える。

そうだ。

忘れていた。

 

フリージアを助けても、その次は超越者と同等の力を持つリゼヴィムとの対決も待っている。

リアス達というイッセーの信頼する仲間が耐えているが、それも何時までか。

 

イッセーは冷静に考え、決める。

 

今思えば、少々受け身に回りすぎていた。

攻撃の中で隙を見つけて一撃で昏倒させよう、だなんて。

 

元より、自分はバカなのに。

そう思い、決意する。

 

フリージアは攻めるチャンスだというのにただ、じっとイッセーの様子を見ているだけ。

 

「……ドライグ!!往くぞ!」

 

『ああ。ここからが─』

 

「─正念場だ!」

 

 

『Welsh Dragon Balance Breaker!!!!』

 

その声と共に、イッセーは禁手、『赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)』を使用する。

 

『Boost,Boost,Boost,Boost,Boost,Boost,Boost,Boost…』

 

赤龍帝の籠手とは違い、禁手化をすることでその倍加を10秒と待つことなく何度も使用が出来る。

しかし、限度はある。

 

それが訪れたことは無いが、この状態は負荷も強いので早く決めるしか道がなくなった。

フリージアは鎧を身に纏ったイッセーを見て、どこか情熱的な視線を送る。

 

「へぇ……あれが、禁手。」

 

「フリージアさん、リゼヴィムに何をされたんですか。」

 

「特に何も。

ただ、あの人の言葉で目が覚めただけだよ。

結局は、必要なのは個人の圧倒的な力。

……私は、疲れたの。

守られて、その度に自分の惨めさを実感して、その度に自分に言い訳をして。

だから私は、力を求める。」

 

『……フリージア、それは違う。

それは辛いだけだ。それは力という一つに縋り、己の辛さを誤魔化しているだけだ。』

 

ドライグがフリージアと言葉を交わすのは、何時振りか。

どれ程の年月が経ったのか。

自身はフリージアにとって、苦い記憶だと分かっていたドライグはイッセーと仲が深まろうとも話そうとは思えなかった。

 

その方が傷を抉ると思っていたからだ。

だが、それでも今のフリージアは見ていられない。

 

あの時見ていたフリージアではないのだ。

辛いと口にしていた時もあった。

私にも戦える力があればと嘆く姿も知っているし、けれど、ならば俺を使えとは言えなかった。

少女は戦うには向いていないからだ。

 

だが、少女はそれでもそれを認め、それ以外で役に立つことを決意した。

それを見て、ドライグは確かにその時安心感を覚えたのだ。

 

だからこそ、見ていられない。

 

あの決意を、踏みにじられ、それに気付かず力を求めるフリージアがただ見ていられない。

 

「ドライグ?そっか、そうだよね。

いるよね……貴方に何がわかるの。

私の弱さしか分からない癖に!

何も知らない、何も分からない龍の癖に!」

 

『確かに、俺は愚か者だ。

今でも宿命として何物かに俺が宿るのを指をくわえて見るしかできない愚図だ。

だが、それでも俺は知っているぞ。

フリージアという少女は力がなくとも、それを認め、逃げなかった奴だ。

断じて、今のように誰かに促され、従い、それを行使するような奴ではない。

今のお前は、力に酔い、決意を見失ってしまったというのは、馬鹿の俺でも分かることだ!』

 

「そして、俺がその決意を、思い出させる!

何に代えても、何が起ころうとだ!」

 

「……やめてよ…そうやって、そうやって!

私を、助けるとか、思い出させるとか!

力に酔うとか!勝手なことばかり言わないでよ!

そんなに私を、惨めで、弱くて、臆病なフリージアにしたいの!?虚しい思いなんてもうしたくないから、それだけの想いでこの力を手に入れたのに!」

 

「貴女は、惨めでも弱くも臆病でもない!

俺達との日々じゃなくても、フリージアさんの家族との生活はもっと、もっと良かったと思える日々だった筈だろ!」

 

「……うるさい!これ以上、私を、私を……!」

 

 

「惨めにしないでよ!」

 

『Boost!』

 

吸血鬼の身体能力の倍加、それによりイッセーの方が圧倒的に倍加してるのに追い付くのではないかと思うほどの速さで肉薄し、怒りのままに拳を振るう。

 

イッセーはそれを片手で掴む。

 

「くっ、この……!」

 

「速さは確かに今の俺と同じ位だ。

だけど、力は日々鍛えてる俺の方が上だ。」

 

「離、せぇ!!」

 

「離すもんか、離したら、俺は一生後悔する!」

 

もう片方の拳を振るうが、イッセーはそれを弾く。

しかし、攻撃をしない。

 

「何で、何で攻撃しないの!?

私は、敵なんだよ!」

 

「……ドライグ!」

 

『ああ、あったぞ!

ズェピア(・・・・)の言った通りだ!

フリージアとは違う魔力を見付けたぞ、相棒!』

 

「─!離せ!」

 

「うぉっ!?」

 

先程までの力より強い力で掴んでいる方の手を殴られ、手の力が緩み、距離を取られる。

 

フリージアは焦りのような表情を浮かべ、イッセーを睨み付ける。

 

「……ビンゴだな。後は、あれを取り除けば!」

 

『恐らくはな……もしかすればフリージアは本当に洗脳をされた訳じゃなければ……相棒。』

 

「─分かってる。ちゃんと『助ける』。」

 

「これは私の、これは、この力は、この虚しさは、惨めさは、辛さは、苦しさは、私の……!」

 

ぶつぶつ、ぶつぶつと焦点の合わない瞳がイッセーを捉える。

不気味さを感じさせるその瞳に、しかしイッセーは真っ直ぐとフリージアを見る。

そして、ズェピアとの会話を思い返す。

 

 

 

 

 

 

 

 

「これを君に託す。」

 

「これは?」

 

「私でも何故作ったのか分からない。

だが、これは神器使いが使うことを想定した物だ。

……いや、訂正しよう、『君』に託す為に造った。」

 

「俺に?」

 

「もっと言うとだね、フリージアにもしもがあったときのために、可能性として考えて造っておいた。」

 

イッセーはズェピアから受け取ったあるものを見る。

ズェピアはただ、真剣にイッセーを閉じられた瞳で見る。

 

「……フリージアは既に何かをされているかもしれない。神器を埋め込まれたか、洗脳されたとかでね。」

 

「そんな……!」

 

「もし、前者ならば……これを使いたまえ。」

 

「…ありがとうございます!」

 

「感謝はいいが、使い方を説明させてくれないか。」

 

「あ、はい。」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ズェピアさんから貰ったこの道具……使うなら今しかねぇ。」

 

『……だが、分かってるだろうな。それを使えば。』

 

「ああ。部長からも、皆からも許可は得てる。」

 

イッセーは禁手を解き、とあるものを取り出す。

機械のようで、形は四角く、赤い。

真ん中にはコアのような部分があるだけだ。

 

「それは……?」

 

「ズェピアさんが造った物です。

俺はこれを使って、フリージアさん。

貴女を助ける。」

 

「助ける……それにズェピア?

……ふざけないでよ!物にも負けるような女だって、言いたいの!?」

「そんなんじゃない。

これは、ズェピアさんが俺に覚悟を決めたときにしか使えない、そんなものだと言った。

俺は約束したんだ、貴女と。

だから──」

 

 

─俺はフリージアさんだけの赤龍帝になる。

 

 

イッセーは『それ』のボタンを1つ押す。

 

すると、《認証開始》と機械的な音声を発し、コアが光りだす。

イッセーはその機械のコアの部分に籠手の宝玉を当てる。

 

《認証完了。

赤龍帝の神器権を剥奪。

赤龍帝の籠手、最適化完了。》

 

赤龍帝の籠手が粒子となり、機械のコアへと吸い込まれる。

 

「ドライグ、どうだ。」

 

『ああ。中々良いぞ!』

 

ドライグの声が機械から聞こえる。

 

「いけるか?」

 

『無論だ。』

 

「何を───」

 

 

イッセーはフリージアの言葉に耳を貸さず、機械のもう1つのスイッチを押し、声をあげる。

 

 

 

「─変身ッ!」

 

赤龍帝の変機(ブーステッド・ドライバー)起動!

Boost on!』

 

 

ドライグの声と共に機械はイッセーの腰へとはまり、イッセーの体が包まれていく。

先程までの『禁手化』ではない。

その龍を思わせる姿とは違う、赤き戦士の姿。

 

禁手化の時のブースターは大きな見た目より簡易的な見た目へと、両腕には緑の宝玉が。

 

それは鎧ではなく、言うなればスーツのような物だった。

 

子供達が好きなヒーローショーに、テレビで登場するヒーローのようなヒーロースーツを身に纏った戦士の姿がそこにはあった。

 

フリージアはその姿を見て、呆然とする。

それも少しの間の事であり、すぐに憎い者を見る表情へと変わる。

 

「……馬鹿にして!!」

 

 

「いくぞ、こっからが俺らの証明だ!」

 

『応!』

 




ズェピア「ノリで作ったのを改良して、今回のための兵装にした。後悔はしていない、寧ろやりきった感すらある。」


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番外編 純粋な死徒 7花

「君のため、これを造り出した……そう言ったね。

すまない、あれは嘘であり、本当だ。

これは、君のためであり、フリージアの為の物だ。

だが、騙すのは心苦しい。

なので、正直に吐く。

これを使えば、君は神器を失い、この世界の範疇から外れた科学、錬金術を扱うことになる。」

 

「……。」

 

「それの何が問題か……かね?

そうだね、簡単に言うとだ。

君は危険視される。

教会、悪魔、堕天使関係無くだ。

それほどまでに、科学の力はあらゆる勢力にとって恐ろしいものだ。

過酷な道を選び、一人の大切な者を守るか。

安易な道を選び、何かを切り捨てていくか。

それは君が決めること。

君の脚本、君の物語、君の人生だ。

全てが君の選択次第であり、君の舞台となる。

私は、これを渡すだけ。

私は、これを託すだけ。

私は、脚本に手を加えるだけだ。

それしか出来ない。

それだけしか、私には『もう』出来ないんだ。」

 

「……?」

 

「……ああ、確かに、私はそのリゼヴィムとも戦えるし、いざとなれば倒すことも出来る可能性はある。

出来るだろうとも。

それは、事実であり、避けようのない残酷さというものだ。

けれど、だ。

私が向かい、私の選択で家族を失う可能性が0%であると言い切れないのであれば。

私はそれを選ばない。

それを選べば自死すら選ぶだろう。

だからこそ、君らが必要で、それが必要かもしれない。

戦いもせず、逃げていると罵ってくれてもいい。

 

─だが、娘達だけは、家族だけは。

どうか、助けてほしい。

私が死ぬのは構わない。

死んで娘が救われるのなら何十、何百、何千と死のう。

呪いだって受けよう。」

 

「……!」

 

「ハハハ、中々格好いい台詞だ。

私好みの台詞だ。だが、それは置いておこう。

とにかく、これを使えば今後の君を保証は出来ない。

リアス君が許そうと、裏の世間が許すかは別なのだよ。仮にそれが君がその気であろうと無かろうと。

何より、戦争という単語、現象に極端に反応するからね、彼らは。

全くもって質の悪い。

だが、安心してほしい。

そうなったとしても私は、私達は君の味方だ。」

 

「……?」

 

「何故か、かね。

決まったことを言わせないでほしいのだが。

分からないという顔をするとは、もう少し考えてくれ。

……それでも分からない?ならば答えるとも。

 

娘が味方するから、君に味方する。

至極普通ではないだろうか?」

 

 

 

─────────────────────

 

 

 

変身し、新たな力をその身に纏った俺は調子を確かめる。

禁手の比にならない力強さを感じる。

これは確かに、危険視をされるかもしれない。

 

『やあ、イッセー君。』

 

「!?ズェピアさん!?」

 

「ズェピア……?」

 

『(相棒、落ち着け。これは録音だ。)』

 

「(そ、そうなのか……)」

 

『これを着てるということは、使う意思を示したということだね。嬉しくもあり、申し訳無いとも思う。

さて、これから簡易的な説明に入ろう。』

 

どうやら、俺とドライグにしか聞こえないようだ。

フリージアさんはズェピアさんがいるのかと警戒しているようで、すぐに向かっては来ない。

 

『まず、このスーツ……『赤龍帝の変機(ブーステッド・ドライバー)』は神器でいう禁手、赤龍帝と白龍皇の『覇龍』の出力を上回る出力を出せる。』

 

『(何……!?)』

 

『赤龍帝であるドライグの魂を直接媒介することでドライグ本来の力をほぼ100%引き出す。それが『赤龍帝の変機(ブーステッド・ドライバー)』の役割だ。

倍加も出来るし、譲渡も問題なく行えるだろう。

そして、もう1つ機能を付け足しておいた。』

 

「機能……?」

 

『相手の能力、もしくは何かを与えている物体や魔力等を一時的に奪取する機能だ。』

 

「(なんだと!?)」

 

『まあ、恐らくはドライグの籠手ならば出来たことだろうが、やれる確率を上げられるならその方がいい。

さて、ここまでが解説だ。

後は、一言。

 

頼むぜ、主人公。』

 

「主人公……。」

 

そんな大層なモノではないと言いたい。

けれど、録音された声に言っても無駄だ。

それよりも、その前の一言。

 

あれが、ズェピアさんの素なのだろうか。

 

「……ズェピアさんは居ませんよ。」

 

「っ、騙したの?」

 

「そっちが俺の声に過剰に反応したからでしょう。

やっぱり、ズェピアさんには勝てないみたいですね。」

 

「うるさい!……ズェピアは、強い。

吸血鬼として最上位の強さだって、リゼヴィムは言ってた。そんな存在、私が倒せるわけがない。」

 

「力、力と言う割にはすぐに諦めるんですね、フリージアさん。

分かってるんじゃないですか?」

 

「……何を。」

 

「結局、フリージアさんは幾ら強い力を得ても、扱いきれない。いや、十分に使おうとはしない。」

 

「根拠は?私に出来ないと言える根拠がないよ、ヒーロー。」

 

馬鹿馬鹿しいと笑うフリージアさんに、俺は何だか寂しさを覚えた。

何故かは知らない。

 

「先に不安になるからです。

後先を考えず、それを使うとか、そういうのを考えられない。これをしたらこの後は何がある。

こいつを倒したらこの後は誰が来る。

そんなリスクを考えて、使うべきかを迷う。」

 

「……。」

 

「幾ら心が変わっても、根底まではそう簡単に変わらない。それを埋め込まれても、それは同じだ。」

 

「好き勝手言って……!」

 

「フリージアさんが言えたことじゃないはずだ!

ズェピアさんやオーフィス、ネロさんの気も知らない今のフリージアさんが、一番好き勝手なことを言ってる!

どんなにズェピアさんがフリージアさんを心配しているか、どれだけオーフィスがフリージアさんを大切にしているか、どれほどネロさんがフリージアさんに優しくしているか!」

 

「ッ、うるさい!うるさい!!

そんなの、力がある奴の余裕だ!

私にはそんなのは無かった!

不安、苦しみ、妬み、憎しみ!

全部、全部私が今までずっと持ってきて、育った感情!

理解されてたまるか!強いからって、弱いやつを可哀想な者を見る目で、割れ物を触るように扱って!

私が、それにどれだけ苦い思いをしてきたか分かる!?

分かるはずがない!」

 

『来るぞ相棒!』

 

「ああ……!」

 

怒りのままに向かってくるフリージアさんに迎え撃つように俺もまた駆ける。

気絶させて、抜き出すのは簡単だ。

だけど、それじゃいけない。

 

フリージアさんは、確かに辛さや苦しさを抱えて生きてきたんだから。

 

『疲れ、ちゃうね。ずっと生きてるって。』

 

それでも、今まで一緒に生きてよかったと言っていたんだ。家族との絆を、あれほど大切にしていたのはフリージアさんじゃないか。

例え、苦しくても、それでも手放さない強さがあるんだ。それをねじ曲げて、狂わせるんなら……

 

「どんなに戦おうって、どんなに強くなりたいと思っても、体が先に倒れる!心が挫ける!

その籠手があっても、使おうだなんて思えなかった!

足手まといになって、何もかもが駄目になるのが怖くて!でも、今はもう違う!」

 

「違うもんか、今だって怖いはずだ。

俺だって!貴女に拳を向けるのが怖いんだ!」

 

「それなら、倒れてよ、私に倒されてよ!」

 

拳を弾き、右肩を素早く殴る。

それにフリージアさんは悲痛な顔を浮かべるが、すぐにまだ殴りかかってくる。

 

「こんな紛い物の力が無くても、戦う力なんか無くてもフリージアさんは強いんだ!」

 

「っぁ、うる、さい!

出鱈目を口にして、気休めを口にして!」

 

「く、ぐっ……気休めじゃないし出鱈目でもない。

ズェピアさんが言っていた!おかえりの一言を聞くだけで今日も守れたと誇れることを!

オーフィスが言っていた!一緒に遊んでいるときは何物にも代えがたい時間だって!

ネロさんが言っていた!フリージアさんの料理は一度食べれば病み付きだって!

他にも、部長達、魔王様達も、俺だって!

 

純粋な貴女に、助けてもらってるんだ!」

 

「─っ─ァァアアアアア!!」

 

『相棒!!』

 

フリージアさんの籠手に魔力が集まる。

これは……ドラゴンショット!?

 

こんなゼロ距離で撃たれたら防御が間に合わな──

 

 

「ガァァッ!?」

 

案の定、防御が間に合わず、全力のドラゴンショットを受けて吹き飛ぶ。

壁に激突して、地面へと倒れ込む。

 

『相棒!無事か!?』

 

「ぐっ、ぅぅ……!何とか……」

 

『馬鹿か!刺激し過ぎだ!』

 

「確かに、やり過ぎたか……」

 

「ハァ……ハァ……!」

 

頑丈なスーツでよかった。

ズェピアさんに感謝しつつ、立ち上がって肩で息をしているフリージアさんを見る。

 

「何で……何で立ち上がるの……」

 

「まだ倒れませんよ。

俺はまだやるべきことをやれちゃいない。」

 

「やるべき、こと……。

私、も……イッセー君を、倒して、それで……

 

それで……?

あれ…?私は…倒して、それで……何を?

イッセー君を殺して、リアスちゃん達も殺して…その後は……ズェピア達を?」

 

様子がおかしい、フリージアさんは自分の籠手を焦点の合わない目で見ながら、混乱している。

一体、何が?

 

『相棒!今だ!』

 

「ドライグ?」

 

『フリージアの中にあるあのナニカ……あれの魔力を使ってドラゴンショットを撃ったんだ!

あれの魔力が再び充填される前に、抜き取れ!』

 

「っ、分かった!」

 

俺はフリージアさんの元まで抜き取る準備をしながら走る。

その時、フリージアさんと目が合う。

 

「……来るなぁぁぁぁ!!」

 

「っ、2発目!?うぉ危ねぇ!?」

 

『暴走している!

フリージアの自我が、あれの魔力が少なくなったことにより拮抗状態になったんだ。

早く抜き取らないと不味いぞ!』

 

「分かってる、くっ!」

 

見るからに苦しんでいるフリージアさんの元へと急ぐ。

だが、ドラゴンショットを近づく度に放ってくるので思うように近寄れない。

 

けれど……

 

 

「うぉぉぉぉ!!」

 

当たってでも俺はフリージアさんに近付く。

回り込もうにも反応が早くて無理なら、正面突破だ。

 

凄く痛いが、さっきほどじゃねぇ!

 

「ァ、ァァアア……!」

 

「今、助けます!ドライグ!」

 

『ああ!』

 

ドライグの返事と共に俺の右手の宝玉に赤い光が灯る。

わざと食らっての接近の甲斐もあり、ようやく近付けた。

 

俺は右手を素早くフリージアさんへとぶつける。

 

『Absorb!』

 

「これで、どうだ!」

 

リゼヴィムが来てないってことは部長たちはまだ粘ってるんだ。

証拠に、まだ獣の唸り声や雷の音……皆の攻撃の音が聞こえる。

 

フリージアさんにぶつけた右手の宝玉が、フリージアさんから何かを吸い上げている。

これが、フリージアさんを狂わせた……!

 

「あ、ぐ、ぁぁぁぁぁ!!」

 

「大丈夫、俺がいますから!」

 

『相棒、もうすぐだ!』

 

苦しむ声をあげるフリージアさんを両手で抑える。

吸血鬼の力は伊達ではなく、振りほどかれそうになるが、倍加していたお陰で大丈夫そうだ。

 

きっと、これを埋め込まれた時も苦しかったんだ。

でも、あとちょっとの辛抱。

どうか、耐えてくれ!

 

そうして、暴れるフリージアさんを抑えつけ……

 

 

 

しばらくして、宝玉が何かを吸うことをやめた。

 

それと同時にフリージアさんも大人しくなる。

 

『相棒……

 

 

もう、大丈夫だ。』

 

「……よし……!」

 

フリージアさんを助け出せた……!

約束を、果たせたんだ。

 

でも、皆は一体───

 

 

 

 

「終わった?」

 

 

「『ッ!!』」

 

 

おちゃらけたような声が聞こえる。

俺はとっさにフリージアさんを守るように前に出る。

 

そんな、さっきまで皆戦ってた筈……!

 

目の前には、いくつか焦げ跡や噛まれたような後、切り傷があるが未だ健在のリゼヴィムと──

 

 

 

「いやぁ、倒れても抵抗するからね?転がしたりとかで遊んじゃったZE☆」

 

「ぐ、ぬぅぁ……!!くそ……!」

「ごめん、なさい……!イッセー……!」

 

「くっうぅ……」

 

「これ程とは……!」

「小僧……!」

 

 

─倒れ伏す皆の姿があった。

 

ヴァーリとネロさんの傷が特に酷い。

死にはしないが、痛みが常に伴う……そんな悪魔の配慮のされた怪我が多く残っている。

 

「てめぇ!!」

 

「健気だねぇ……そんなにその木端吸血鬼ちゃんが大事?まあ、おっさんはソレもう要らないから素直に返すけどサ!

あーでもなぁ……その子女の子だったもんね、お楽しみもう1つあったの忘れてたわぁうっかりだぬぁー?」

 

「フリージアさんを、仲間をここまで傷付けたテメェは許さねぇ!

俺が、お前を倒す……いや……殺す!!」

 

「殺意MAX!怖ぁいなぁ!

でもさでもさぁ!お前程度じゃおっさん強すぎて倒せない訳よぉ!

実力差って奴?分からないほどOROKAでもないよね!」

 

確かに、俺一人じゃ勝てない。

そんなのは分かりきってる。

だけど……それでも男にはやらなきゃいけない場面ってもんが……!

 

「んーんー、分かるよぉ。

おっさん超分かるゥ!お前さんが何を思ってるか分かるよん。

惚れた女がやられたらそりゃ殺意も沸きますな。

あ、ごめん、おっさん惚れた女いねぇわぁ、ヒャヒャヒャ!!

……言ってて辛いなぁ!

まあ、トニモカクニモ?やるって言うならやるけどぉ、おっさん、殺っちゃうかもしんないなぁ!」

 

「上等だ、やれるもんならやってみやがれ!」

 

「お、言ったね?言っちゃったねぇ?

いやぁ、じゃあ、全力でやっちゃおうか──?」

 

「……?急になんだ?」

 

リゼヴィムが面白そうに肩を回してこれから戦うって時に突然ピタリと止まり、無表情に変わる。

 

そして、無表情は、苦々しそうに歪め、チッと悪態をつく。

 

 

「…空気の読めないなぁ…!」

 

「は?」

 

リゼヴィムの視線の先には俺ではなく、俺が乱雑にぶっ飛ばした扉のあった方。

 

俺も、警戒しながらリゼヴィムの視線を追うように後ろを見る。

 

 

 

「─やあ。」

 

 

 

「ッッ!!?」

 

一声。

たった一声が部屋に響き渡る。

だが、その一声に、俺は恐怖した。

 

まるで、心臓を掴まれたかのような。

首に刃物を突き付けられたかのような。

そんな錯覚を覚える。

 

この声は、知ってる。

だけど、こんな肝の冷える声を、あの人が出すのか。

 

暗い道から、この部屋へと入ってくる人物。

 

 

「来るとは思ってたけどさぁ……激おこじゃーん……」

 

「…君が──リゼヴィム・リヴァン・ルシファーか。」

 

「そだよ──ズェピア・エルトナム。」

 

 

フリージアさんの親であり、魔王様の友人であり、同じく超越者に数えられる人。

 

ズェピアさんが、片手に銃のような物を持ちながら現れた。

 

「ズェピアさん……!?」

 

「お疲れさま、イッセー君。

よくやってくれた……そして、すまないね、皆も。」

 

ズェピアさんの謝罪と、リゼヴィムの周りで倒れていた皆がこちらへと転移するのは同時だった。

 

あれだけの人数を、一瞬で……!

 

「何で、ここに。」

 

「『赤龍帝の変機(ブーステッド・ドライバー)』に細工をね。それで、事が終わったから来た。」

 

「マジか……ドライグ?」

 

『俺に気づけるわけないだろ。』

 

「……フリージア…すまなかった……後で、必ず。」

 

倒れているフリージアさんを申し訳なさそうに一瞥し、リゼヴィムへと視線を戻す。

 

俺には、1つだけ分かることがある。

今、俺の見ているズェピアさんは、今までで一番ヤバイ。

温厚であるズェピアさんが、ここまで怒りを露にしているのは……家族が危険へと陥ったからだ。

 

そして、自分にさえ怒りを覚えている。

 

「流石はズェピアちゃん。

誰が勝つか何てのも折り込み済みかよ。」

 

「そうでもない。

ただ、私は君に大きな……そう、貸しができている。」

 

「へぇ、そりゃ返してもらわないとなぁ!」

 

「ああ、返すとも…。」

 

 

「この舞台から、降りてもらう。

それが私の礼だ、リゼヴィム。

だから、死ね。」

 

「安直だなぁ、吸血鬼ぃ!」

 

嗤うシナリオを、監督自らが台無しにするために来た。




頑張ったイッセー君は、おやすみ。
後は、間違ったシナリオに三流の刻印を押しに来た監督の仕事。


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番外編 純粋な死徒 8花

出番をとってしまったかと内心苦笑する。

だが、許してほしい。

こればっかりは譲れないのだ。

リゼヴィム・リヴァン・ルシファーを倒す……いや、殺す事は、俺がやらねばならない。

 

「同胞よ、無事……ではなさそうだ。」

 

「これを無事に見えるのなら、一度眼科に行くことを勧めてやる。

……私との相性は最悪だった。」

 

「そのようだ。

まさしく、神器キラーな能力だ。

君や、グレモリー眷属では相性が悪すぎる。」

 

「貴様は神器が無いものな。」

 

「そんなものなくとも錬金術で造り出せるからね。」

 

「ふん、ならば、さっさと終わらせてこい。」

 

「ああ。それまで、気長に待っていてくれ……とはいえない。」

 

「何?」

 

訝しげに俺を見る教授に説明をしておかないとと思い、周りの皆を見る。

 

……倒れても、それでも抵抗してくれた皆が、俺を見ている。

一部は勝利を確信している。

 

そんな大それた奴ではないんだがなぁ……

ま、いいか……。

 

「『冥界の砂(ヘルメス)』を使う。」

 

「……何?貴様、まさか。」

 

「無論、全人類……いや、全生命を賢者の石に変える訳ではない。

そうならないようにしているとも。」

 

「…タタリ、それを使えば警戒されるぞ。」

 

「今更かね?前にギリシャ、北欧、インドから勧誘を受けているのに?」

 

「それどころでは済まなくなると言うのだ。」

 

「ハッハッハ、望むところだとも。

その程度で砕ける家庭かな?」

 

「今まさにそうなりかけたが?」

 

「痛いところを突くな、同胞よ。

まあそこは……話し合うさ。

では、皆の衆!」

 

俺が皆に声をかける。

すると、皆は俺に何事かと見てくる。

 

「これより、舞台装置を出す。

だが、すまないね。これから先は私と踊る者しか見れない。避難したまえ。

そうしないと、余波で吹き飛ぶ。」

 

「……なら、そうせざるを得ないか。」

 

「ズェピアさん……!」

 

イッセー君が俺の渡したスーツを解除し、俺を悔しげに見てくる。

分かるよ、確かに、君にやらせるのが一番盛り上がりもあって、スッキリする終わりなのかもしれない。

 

だけど、俺はその終わりを許容しない。

その終わりをして、君にもしもがあれば、俺は自分を許せなくなる。

 

「イッセー君。……よく頑張った。

だが、君ではリゼヴィムにはまだ届かない。」

 

「それでも、それでも俺は!

…フリージアさんをこうしたリゼヴィムが許せない。」

 

「僕ちゃん人気者ぉ!ハリウッドスター並の人気者じゃね?完全にスターだぜぇ!」

 

「……ああふざけてはいるが、実力は君達の倍以上はある存在だ。

ここは、私に譲ってくれ。

何より、目が覚めたときに自分を助けたナイトが居ないと、姫が困ってしまう。頼めるね?」

 

「……っ、分かりました。

皆、立てるか!?」

 

「え、ええ……おじさま、どうかご無事で。」

 

「ハハハ、リアス君は自分の心配をしなさい。

ほら、眷属の皆も早く。……私の娘のために傷付いてくれて、感謝してもしきれない。

終わり次第、華やかなパーティをしよう。

サーゼクスの家で。」

 

「おじさま!?」

 

「い、いいんですか?」

 

「あらあら……」

 

「魔王の食事……じゅるり。」

 

「うわわ……ぼ、僕緊張のしすぎで死んじゃいます!」

 

「魔王様に悪いんじゃ……?」

 

「いやいや、魔王の友人が言うんだ。

魔王も準備してるに違いない。」

 

「そ、そんなことよりズェピアさん!

やっつけてやってくれよ!」

 

戸惑いながらもイッセー君は無理矢理話を締めて皆で出ていった。

出ていく途中、白龍皇に声をかける。

 

「ヴァーリ君。」

 

「……なんだ。」

 

「私が殺してもいいのかね?」

 

「…ズェピア・エルトナム。お前がいつか俺と全力で戦うと約束するなら、殺せ。」

 

「ふむ。構わないが……それでいいのかね?」

 

「……何時までもあんなイカれ男に力を向けるのも馬鹿馬鹿しく思えてきたからな。」

 

「違いない。では、そうしよう。

いつかの挑戦に期待しよう、ヴァーリ・ルシファー。」

 

「ああ。」

 

短い返事と共にヴァーリは出ていった。

……教授には、戻るまで頼むぞと目で伝え、それで終わり。それだけでいいのが家族ってもんよ。

 

そうして、向き直り、俺の前方の馬鹿に話しかける。

 

「待たせてしまったかな?」

 

「いやいや、おじさん感動しちゃって涙出ちゃうよーって感じで見てたから平気だぜぇ。」

 

「そうか。」

 

「何よぉ、何時もの調子の良い劇場口調はどこ行ったんだってのー!?ズェピアちゃんの口調がおかしいじゃんよぉ?」

 

「何時もの、か。

別段、ああした方が楽だったからという理由なのだが。

何せ、姿に似合う口調(ロールプレイ)でなければ劇は始まらない。

その点、君は口調も安定しない、キャラも安定しない。目的もはっきりしないと……何のためにこの世界の役を得ているのか。」

 

残念でならないのだ。

どうして、こうもおかしな道化を演じるしかないのかと。もう少し、何か他のロールは無いのか?

 

……まあいいか。

殺すと決めた奴の役を憂うのは、俺の役ではない。

 

それよりも、奴を倒すのに、黒い銃身(これ)では足りない。

より巨大で、絶望を与えるものでなくてはならない。

 

ともすれば、グレートレッドクラスの奴でなければ。

いやまあ、俺なら奴を無力化出来るけど、他の奴じゃね?

俺の絶望は1つしかないけど……うぅむ。

 

あんまり出したくない切り札なんだけどなぁ。

 

「そんな役柄とか、気にしてたら悪魔は務まらんしょ。

悪魔なんてのは、皆道化なんだぜズェピアちゃん。

俺ちゃんも、サーゼクスも、皆な。

だから演じてるんじゃないの、愚かな道化。

だって、そうなるべく生まれたのが悪魔なんだぜ。」

 

しれっとその役でいいと肯定するリゼヴィムに意外だと思った。

もっと、大層な法螺吹きをすると思ったからではない。

その役が自分の至高だと言える奴だと思わなかったからだ。

 

ならば、コイツにはそこだけは敬意を払える。

娘が浚われ、操られたとしても、だ。

それとは別の感情だ。

 

「…別の形であれば君と私はいい劇場を築けたやもしれぬな。」

 

「それはないぜ?まず、中身の反りが合わねぇからな。」

 

「それもそうか。

……うむ、では出すか。」

 

「ほほう、舞台装置であるな?どんな物かな?」

 

「さて、見てもらってからでも感想は構わない。

出し物が見たいのだ、それがそちらにとってもいいと思うが?」

 

俺は指を鳴らす。

ただ、それだけで館の風景は変わっていく。

いや……

 

塗り替えられる(呑まれる)が正解か。

 

赤い空、いくつもの石柱、そして床は砂へと変わる。

 

ああ、そうだ。

これは、地獄に違いない。

決して我々(アトラシア)は逃れられない。

 

この地獄から、この未来の運営という宿業から。

 

『ちゃんと計算すれば、君も見つける。

あの、暗い絶望の底を。』

 

そうだとも。

これは俺の、ではない。

ズェピア(アトラス)にとっての終着点。

 

「空間転移、じゃないな。

場所ごと塗り替える魔法……と見たが。」

 

「星の終わり。」

 

「あん?」

 

「君は見たことがあるかね?

この星、地球の終わりを。」

 

「んなもん見たことも聞いたこともないにゃー。

どこぞの空前絶後の馬鹿者(ノストラダモス)でもあるまいし。」

 

「私はある。

何度も、何度も見た。」

 

「ふーん……?

そりゃまた、お得意の錬金術で?」

 

「いいや。」

 

赤い空を眺める。

作り出した空間にしては上出来だ。

当たり前か、同じ風景を俺は未来の1つとして見たのだから。

 

「誰しもが滅ぼす。誰もが滅ぼせてしまうのだよ。

この、命ある星はね。それが、石ころ1つの偶然か、植物1つの必然かまでは分からないが。

だが確かにこの星は滅ぶ。それは決定事項だ。」

 

「無数の可能性の最終地点。

人類も悪魔も堕天使も天使も神も妖怪も何もかも関係無い、と?」

 

「その通りだ、リゼヴィム・リヴァン・ルシファー。

我々はいずれ、この星を食い潰すだろう。

その時、地球の意思が何を決定するかは定かではないがね。そして……もしかすれば……」

 

地球という庭から抜け出し、宇宙という外へと赴くかもしれない。

 

あり得ない話ではない。

現に、科学だけで宇宙に行き、月へと到達し、証拠を持ち帰った。

それがどれだけの進歩か、なんて人間には分からない。

自分達の進歩の大きさが分かっても、地球の意思にとってそれがどれほどの意味か。

分かるはずもない。

 

「けどよぉ、ズェピアちゃん。

結局、ズェピアちゃんはどうやって結末を覗いちゃったわけよ。そも、それを見てどう思ったのかを、悪魔的に聞きたいもんだねぇ。」

 

「どう思ったのか……か。」

 

ズェピア・エルトナム。

死徒となる前の彼は終焉を見て狂った。

何度も、何度も方法を試し、打開した。

だというのに……結果は酷くなる。

より残酷な未来へと変わる。

未来を運営するアトラス院が運営しきれないほどの未来にまでなっていく。

 

誰もがこの暗い底へと落ち、計算し、シュミレートしようと。

最後は皆が狂った。

 

だが、俺は。

俺はどうだろうか。

 

 

 

「─とても、淡白だった。」

 

「最後を見て?」

 

「そうだとも。

ああ滅ぶんだな、とそう思った。

その次に、自分ならば変えられるかと考えた。

結論は、無駄な足掻きだと分かった。」

 

「絶望したかい?」

 

「何も。

そもそも、その未来がいつ訪れ、いつ終焉をもたらすのか……分からないのだからね。

故にこそ、思考を止める事はなかった。

そも、考える必要はないと分かったのだ、気楽になれた。」

 

「最後がわかってるのに、気楽なのかい?」

 

「気楽だとも。

何せ、最後が何時か分からないなら、好きに生きられる。

毎日が余生へと変わったに過ぎない。

私にとって、気楽以外の何者でもない。」

 

「んじゃあ人類の守護者にも、世界の救世主にもならないと。」

 

「そんな大層なものを背負って何になろうか。

私にとって、それよりも価値があるものがあるのだ。

そんなものになって、それらを手放すのなら私はそれになるわけにはいかない。」

 

「家族大好き吸血鬼は言うことが違うぜ。

俺ちゃんには出来ねぇわ。」

 

「ならば、君は未来を変えるのかね?」

 

「嫌に決まってんジャーン。」

 

とても面倒くさそうに手で掬って溢れていく砂を見ながら言う。

それは、世界が終わろうが関係はないという顔だ。

 

「俺ちゃんが世界を変えるとか、馬鹿馬鹿しいわ!

悪魔が?全ての種族の救世主ぅ?

皆ヒーローの可能性があるぅ?

馬鹿言っちゃぁいけませんぜ。俺ちゃんは更なる真理に到達してんのYO。」

 

「ほう、聞かせてくれないかな?」

 

「死ぬまでどれだけ楽しめるか、これに尽きるねん。」

 

「ふむ?」

 

「だってさぁ、死ぬときゃ死ぬんだぜ?

あの強くて、完璧で、気持ち悪い四文字君もくっだらねぇ大戦で~死んじゃうし~?

なら俺ちゃんにも、ズェピアちゃんにも、等しく終わりが来るわけよ。

だったら話は簡単だろう?」

 

 

「死ぬまでに楽しめたと、ああこれなら別に死んでも悔いなしと、そう思えるのなら!

俺ちゃんは死んでもいいし、世界は滅んでもらって結構!そもそもそういうキャラじゃねえでしょ?」

 

 

「……ハハハ!違いない!

そうに違いないな。君は何処まで行こうと最後に来るのは今までのツケだ。破滅しかない。

なればこそ、その終着点か。」

 

「賢くね?もう完璧だろー!」

 

「賢いとも。ならば問おう───」

 

 

 

「─君はもう、楽しんだかね?」

 

「人の娘操って救い出すシーン見ながら他の悪魔ボコして役立たずをもっとボコって楽しかったわぁ!

もうやりたいことやり尽くした感あるわぁ!」

 

こりゃ、試合に勝って勝負に負けたか……。

 

自滅思考が凄すぎてこれじゃ怒りも吹き飛ぶ。

 

一思いに殺してやった方がいいな、うん。

…ああうん、楽しい会話をしたと思う。

 

だからこそ、最後のシーンはあっさりと。

 

 

『再演算、開始。』

 

「ハ、ハハ、ハハハハハ!これが俺の終わりか!」

 

「そうだとも。これが、君の未来だ。」

 

「ああ、いい!これがいい!

俺ちゃんの……俺の最期はこれがいい!

 

竜も、悪魔も、あらゆる化け物よりも、これがいい!

これに殺されるなら俺は、どれ程幸せかぁ!

ヒャ、ヒャハハハハハハハハハハハハハハハ!!」

 

地面より現れる冥界の砂。

かつて、全人類を賢者の石へと変える事で人類の歴史を記録しようとした間違った演算機。

 

この狂った悪魔を殺す為だけに生み出した。

 

あらゆる未来が、リゼヴィムという一人の悪魔を滅ぼす。

 

『対象を抹消し、その存在を記録する。』

 

「見せろ、見せてくれよ!

俺にその未来を!死ぬ未来を死ぬほど見せて殺してくれよぉ!」

 

「去らばだリゼヴィム───」

 

ヘルメスがこの巨体からレーザーを放つ。

レーザーは地面へとぶつかり……

 

「アッハハハハハハハハハハハァ────!!」

 

破滅を起こす。

その場にいるものは皆灰塵に帰す程の爆発。

 

しばらくして、砂煙が晴れた頃には。

 

もう、元凶の悪魔の姿はどこにも存在しなかった。

俺は、リゼヴィムが居たであろう位置にまで移動し、砂を掬う。

さらさらと、砂は落ちていく。

呆気ない終わり。

狂人の果ては、狂気の死。

 

「─君はもう、何処にも存在はしない。」

 

それがあの悪魔の、この世界の彼にとっての終わりだった。

 

俺は、消えていくヘルメスと赤い空を眺めつつ、一人の役者の最後を記憶に刻んだ。




ちなみに、このヘルメスはゲージが常にMAXで攻撃力と防御力が原作の三倍になっております。
AI?ビームブッパかな。

後、何故リゼヴィムが抵抗もしなかったのか。
これはリゼヴィムが自滅思考であり、ここでなら死んでいいと判断したからです。え?都合がいい?
二次創作だからね、仕方ないね……

次回、番外編最終話。



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番外編 純粋な死徒 エピローグ『咲いた先に何があるか』

やあ、皆の衆。

俺だ、ワラキーだ。

 

うむ、あの後少しとはいえ時間は経ったからな。

俺も少しだけ説明をするとしよう。

 

まあ、俺は特にこれといった変化はない。

超越者を殺した吸血鬼って警戒されるようになっただけだな。

そんな事で騒がないでほしいんだよなぁ~。

 

んで、教授は神器キラーにやられたのが悔しかったのかラーメン屋をしばらく休業して自分を鍛えていた。

だけどさあ…八極拳は狙ってやってない?

いや、近接も普通に強くなって怖いけどさ。

魔法もいくつか習得したとか悪夢なんだけど。

 

殺して死なない化物が誕生とか笑えない。

元々、性質はそうなんだけどさ。

 

オーフィスは……何か更に大胆になった。

この前、裸で襲われそうになった。

娘のスキンシップが激しくて涙が出そうです、ズェピアです。

フリージアが居なければ俺の貞操は嫌な感じで失われていたことだろう。

家族が浚われて、怖くなったと本人は言うが、さて。

 

んで、一番変化があるのがフリージアだな。

 

どんな変化かと言うと……

 

「イッセー君、いらっしゃい!」

 

「お邪魔します。」

 

「もう、そんな固くならなくてもいいのに。」

 

「いや、後ろ見てくれるといいんだけど……」

 

「ギ、ギギ、ギギギギ……!」

 

─はい、若干嫉妬しております、ズェピアです。

小僧、コロス。

そんな視線をフリージアの後ろで送る俺にフリージアが呆れた視線を送ってくる。

 

何だね我が娘。

俺は今、小僧を呪い殺すので忙しいんDA!

 

「ズェピア?」

 

「何かな?」

 

「嫌いになるよ?」

 

「いやあいらっしゃいイッセー君!さあ、入りたまえ。私の事は気にせず、二人で楽しみたまえ!」

 

……娘が、冷たい。

男か?男が出来るとやはり父親は足蹴にされるものなのか?

 

やだやだぁ!

お父さんはまだ認めませんよ!

そんな男となんて!

 

「じゃあ、イッセー君。今日は何する?」

 

「あ、今日はですね、フリージアさん達ご家族を誘おうかなと思って……」

 

「む、私たちもかね?」

 

「はい、どうやら魔王様が──」

 

どうやら、サーゼクスが俺たちを冥界のパーティに招待状をくれたらしい。

おう、親友よ、何故その招待状がこのにっくき赤龍帝?

マジ許さないからね?

お前、リアスちゃんと赤龍帝がくっついた方が有利になるとかなんとか俺がドン引きする内容を言ってたよね?

 

裏切り者の魔王がぁ……!(旧魔王風)

 

「行く行く!ズェピア、いいよね?」

 

「…ふむ、まあいいだろう。二人には私から伝えておこう。」

 

「うん!ありがとう!」

 

おおう、この笑顔。

間違いない、今この瞬間が俺のHPが全回復する時なのだ。

この笑顔とオーフィスの笑顔さえあれば最早俺に勝てないものはない。

 

今なら小僧を秒で殺せそう!元から出来ますね。

 

にしても…イッセー……!

貴様の魂胆は見え見えよ!

このパーティを利用してフリージアに愛の告白をする気であろう!

そうはいかんざき!俺達フリージア守り隊がそのような愚行を見逃すものか!

ククク、貴様の命運もそのパーティが最期よ!

 

ハハハハハハハ!!

 

「では、フリージアはイッセー君としばらく?」

 

「うん、時間まで話してていい?」

 

「構わないとも。楽しみたまえ。」

 

「すいません、ありがとうございます!」

 

ええい、貴様に言ったのではない!

あの後!

リゼヴィムを消☆炭にした後、俺に感謝するでもなく(されたにはされた)赤龍帝の小僧に抱きついて感謝するとは!

しかも距離が縮まってるし!

二人ともいい雰囲気だしさぁ!

 

娘がとられる!

しかも、原作ハーレム野郎に!

ハーレムを目指してなくともウチの娘は一悪魔にやるなどA☆RI☆E☆NA☆I!

 

「では、私はこれで。」

 

「え、何処か行くの?今日は学校休みでしょ?」

 

「散歩だよ。」

 

「ふーん…?そっか、気を付けてね?」

 

「うむ。…イッセー君。」

 

「は、はい!」

 

俺は小僧の肩を掴み、笑顔で忠告しておく。

 

「何か1つでも娘の気を損ねてみろ。死ぬよりも恐ろしい結末をくれてやるからな。」

 

「ッッッ!!!!」

 

「ズェピア?イッセー君に何吹き込んでるの?」

 

「いやいや、何でもないとも。

さて、邪魔者は退散するとしよう。」

 

クク、精々、楽しむんだな……

娘は俺が守る!

一時とはいえ離れるお父さんを許してくれ!

 

我がフリージア守り隊が、こんな小僧を潰すくらい訳はない!すぐに承認とって全員投入よぉ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「うん、頑張れ」」

 

「何故だ!?」

 

「我はフリージアがいいならそれでいいと思う」

 

「私にはどうでもよいことだ。

危機が迫るのであれば別だがな」

 

「友よ、今がその危機なのでは?ほら、フリージアを狙った赤龍帝の小僧がだね?」

 

「危機でもないし、満更でもないだろう?

あの娘は自分で寄り添う相手を決めたのだ。我らはそれを見守るのが役目なのではないか?」

 

オーフィスと教授は呆れ果てた様子である。

ちなみに、場所は冥界の我が家だ。

どうせ居るならここの方がいいし、呼びやすい。

 

二人は何があったのかと半分ほど理解しながら来て、教授はソファに座り紅茶を飲みながら。

オーフィスは俺の膝に座って俺の手を握りながら聞いていたが話を聞いていくうちに段々とアホを見る目で聞いていたのでもう協力だけを請うことにした。

 

駄目でした。

 

「君達はフリージアが大切ではないのかね!」

 

「いや、大切かどうかとフリージアが相手を選ぶのは別だと思う」

 

「オーフィスの言うとおりだタタリ。

貴様は家族のことになると騒がしい。

もう少し落ち着け。そして二人の仲を容認くらいはしろ」

 

「ぐ、ぬぬ……」

 

「我が子を想うのならばだな……」

 

「分かった、分かったよネロ・カオス!…認めればいいんだろう?」

 

「ズェピア、素、素が出てる。」

 

「今は、いいのだよオーフィス。

確かに前の一件で彼の覚悟は分かったとも!

彼ならば任せてもいいかもしれないとは思ったさ」

 

「ならばそれでいいだろう」

 

「だって、だってさあ…」

 

「だって、なんだ?」

 

 

「フリージアが、構ってくれなくなると寂しいじゃないかぁ……」

 

「「子供かっ」」

 

「いやいや、君達もたまにそう思うことがあるだろう!」

 

「うん」「否定はせん」

 

「だろう!?」

 

「だがな、タタリ……貴様のその寂しさを感じるのは一週間でどれくらいだ?」

 

「一週間でかね?8日だな」

 

「毎日を通り越して次の週いってるではないか!

それは親バカを通り越して娘離れが出来ないだけではないか!」

 

ぐぬっ、と声が出る。

全くもってその通りである……

 

だが、だがしかし!

ここで折れてはタタリが廃る!

 

「納得せん、納得せんぞぉぉぉ!!」

 

「冥界をタタリで包もうとするな!

こんなことで人様に迷惑をかけるんじゃない!」

 

「カオスも人のこと言えない。というか、我達、言えない」

 

「しかしだな……!」

 

俺は最早全力。

タタリで世界を包んで都合のいい世界にしてくれる!

娘を守るのはこの俺だぁぁぁ!!

 

「ふぅ……ズェピア!」

 

「む、何かねオーフィス。私は今、世界をタタリに包もうとだね」

 

「ズェピア、嫌い!」

 

「────」

 

 

 

─きらい、キライ、嫌い?

 

 

 

 

「────」

 

「…オーフィス、タタリが止まったぞ。いや待て、タタリの顔がどんどん青ざめるを通り越して紫に変色しかけてる!」

 

「ズェピアにはこれ、有効。えっへん」

 

「自殺しそうな雰囲気だぞ、大丈夫なのか?」

 

 

─き、嫌い?嫌いってなんだ?機雷か、いや、嫌い?

えっえっえっ、嫌いってその嫌い?嫌いってことはつまり嫌いってこと?

 

い、嫌だ!俺は娘に嫌われたくない!

 

俺はすぐに土下座をする

 

「──すみませんでした」

 

「顔色が戻ったと思えば土下座したぞ」

 

「これが対処法」

 

「憐れに見える対処法だな…」

 

うるせぇ!

俺は娘に嫌われるくらいなら自殺選ぶ男やぞ!

 

ああ…フリージアが遠くに行ってしまうぅ……

 

「ズェピア」

 

「?」

 

「大丈夫、フリージアは我たちから離れない」

 

「だが、フリージアはイッセー君を好いて…」

 

「ん、いつかは我たちから離れていくかもしれない……でもそれは、今じゃない」

 

「オーフィス……」

 

「そもそも貴様は過保護すぎるんだ。今回のような敵でない限り問題あるまい」

 

「……そうだな友よ」

 

二人にこうまで言われたらなぁ……

俺は冷静になり、過保護すぎるかと反省する。

 

だが、あの時のように浚われたのを思い出すと、別にこれぐらいでも構わないんじゃないかと思ってしまう。

 

「ズェピア、大丈夫」

 

「そうかね?」

 

「今のフリージアは、もう弱くない。戦わないに越したことはないけど、それでも何かあったときはフリージアは乗り越えられる」

 

「……今思うと、それも感慨深い」

 

「そうだね、あの守られてばかりの娘が、ああいった形で立ち上がるとはな……」

 

…ふう、俺が変わる時なのかねぇ。

 

癇癪起こしすぎたか。

反省反省。

そうだよな、もう昔のあの子じゃないんだ。

未来へ進むことを決心したんだ。

 

例え、遠くない未来に世界が破滅するとしても。

俺はそれを受け入れた男。

 

なら、出来ることは1つ。

見守ることだ。

 

いつか、あの子たちが乗り越えがたい苦難に見舞われても、大丈夫。

俺たちだけではない、皆がいるからな

 

「うむ……では、私たちはもう、表舞台ではなく、観客席でこれからの舞台を見るとしよう。その先に、何があっても」

 

「ん、カメラも用意する」

 

「ポップコーンを忘れるなよ」

 

「ついでに言うと、マナーもね」

 

三人して、笑いだす。

これからは若い者たちの時代だ。

俺たちはそのためにも一歩引くべきなんだろう。

 

だから、これで俺が動く物語はおしまい。

これからは、フリージア。

 

君が俺たち三人にとっての主役だよ。

 

さあ、しっかりとプロローグを始めなさい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冥界へと来た私たちは早速サーゼクスさんのところまで行き、パーティに参加した。

といっても、祝勝会みたいなものだ。

操られていた私でも、参加させてくれた皆には感謝しかない。

 

それにしてもズェピアたち、遅いな……

 

「フリージアさん」

 

「あ、イッセー君」

 

デザートばっかりに目がいって何を食べた方がいいのか

悩んでいた私にイッセー君が話しかけてきた。

イッセー君。

操られていた私を助けてくれた恩人の一人。

リアスちゃんたちもその恩人なのに、どうしてイッセー君だけに意識が向くんだろう。

 

……うん、わかってるよ。

どうしてかぐらい。

それを自覚すると、少し顔が熱くなる。

 

「どうしたの?」

 

「さっきから悩んでるような様子だったから、見てこいって部長が」

 

「リアスちゃんが?」

 

私はリアスちゃんたちの方を見る。

 

すると、リアスちゃんは私の視線に気付いたのか、微笑んだ右手の親指を立てた。

所謂、頑張れみたいなエールだ。

 

……もう、そうやられたら頑張っちゃうよ?

 

「そっか、でも、何食べようかなって思ってただけだから気にしなくていいよ」

 

「そっすか?」

 

「そうそう。……でも、うん。イッセー君、少しだけ話さない?」

 

「……分かりました」

 

了承してくれたイッセー君に感謝して、ベランダに出る

 

外は涼しくて、気持ちがいい。

 

昔からよく知ってる空で、ずっと過ごしてきた世界。

ズェピアに拾われて、オーフィスと遊んで過ごして、ネロ先生に色々と教わった。

サーゼクスさんをからかったり、セラフォルーさんとファッションについて話したり、アジュカさんの発明を喜んだり、ファルビウムさんのだらけっぷりを叱ったこととか。

 

思い出が多い。

これからも、ずっとそうでありたい。

だから、それを守りたいから。

私はもう、逃げない。戦うよ。

 

でもまずは、この戦いから。

 

「涼しいね~」

 

「ですね、あんまりいると冷えますよ?」

 

「そういうのは今はいいの。それに、ほら」

 

イッセー君の手を握る。

ちょっとゴツゴツしてる感じ。

男の子なんだなって分かる手で、安心する。

 

「こうすれば、温かいよ」

 

「えっと、はい」

 

照れてる顔が可愛い。

多分、私も顔が赤いと思う。

だってこういうこと言わないもん。

 

少し強引だけど……話をしないと

 

「まず、最初に感謝を。あの時、操られていた私を助けてくれてありがとう…二回目だけど、それでも感謝したりないよ」

 

「いえ!俺はその…部長たちがいないと出来なかったですし」

 

「うん、それでも…ね。それでね!私、あの時の記憶はあるって言ったじゃない?」

 

「そう言ってましたけど……」

 

「…だから、ほら、イッセー君にあんな状況で告白しちゃったのも覚えてるんだ」

 

「……えっ」

 

イッセー君と戦っているとき、互いの気持ちをぶつけ合ったとき。

私は好きだって、正直に言った。イッセー君も、好きだって言ってくれた。

 

あんな形で言いたくなかったけど……。

 

思い出したのか、イッセー君は顔をさらに赤くする。

 

「えぇぇぇ!?」

 

「イッセー君が好きだって言ってくれたのもね」

 

「待って!待ってください!あの時はその、そう!助けたい一心って言うか……」

 

「ねえ、イッセー君」

 

「は、はい!?」

 

「……私でいいの?」

 

「…えっと?それはどういう……」

 

「私なんかで、いいの?リアスちゃんとか、朱乃ちゃんとか居るよ?それでも私なの?」

 

真剣に問う。

確かに、ああ言ってくれたのは嬉しい。

でも、私はしっかりと、確認をしたい。

このまま恋人になれるならそれでいい。でも、色々なものをうやむやにはしたくないの。

 

イッセー君も、それを感じ取ったのか真剣な顔になる。

 

「…俺は、フリージアさんがいいんです」

 

「でも、あんな風に操られたり、浚われたりして、皆に迷惑をかけちゃったんだよ?」

 

「そんなのは関係ない!そうなったとしても、俺が、俺たちが助けます!」

 

「……そっか」

 

「…俺は、その、恥ずかしいんですけど、悪魔になった理由はハーレムを築きたいとかいう願いなんです」

 

「は、ハーレム?」

 

女を大量に侍らすあのハーレム?

イッセー君ってそうだったの?

 

「あ、今は違います!あー…フリージアさんと出会って、話をするうちに、フリージアさんに惹かれていったんです。貴女の優しさと暖かさに、惹かれていった」

 

「……」

 

「俺は馬鹿だけど、自分の気持ちには嘘をつきたくない。それからはフリージアさんに何があっても助けられるように鍛えてきました。部長たちも、それを分かってくれてました」

 

「…リアスちゃんたちが。そっか…」

 

何だか、悪いことしちゃったなぁ……

でも、謝ったら、怒られるだろうから。

 

「リゼヴィムに浚われた時は自分の無力さを呪いました。でも、ズェピアさんに頼まれて、自分の気持ちを改めて認識して、助けなきゃって思って……」

 

「それで、助けてくれたんだ」

 

「はい、だから…俺はフリージアさんだからなんです。陽だまりのような貴女だから、俺は好きになったんです!」

 

 

「─だから、もう一度言います。

俺と付き合ってください!」

 

 

 

真剣な気持ちを聞いて、嬉しくなる。

ここまで想われるなんて思ってなかった。

私も、自分の気持ちに嘘を言いたくはない。

 

どれだけの言葉を込めても、今から言うであろうこの一言には及ばないだろう。

 

だから、一言に私の気持ちを全部込めて言おう。

 

 

 

「─私でよければ、ずっと、側にいさせてください」

 

 

 

そう言って、私は勢いよく抱き付いた。

イッセー君も、抱き返してくれた。

 

気持ちが通じ合うってこんなに気持ちのいいことなんだ

 

「……良かったぁぁぁぁ…」

 

「不安だったの?」

 

「そりゃ……あの時だけの気持ちでした、だったら泣きたくなります」

 

「大丈夫だよ、現にこうして私たち、恋人になれたでしょ?」

 

「…そうですね」

 

「……でもね、1つ、いいかな?」

 

「な、なんでしょう」

 

「敬語はやめてほしいなぁって…他人行儀で嫌だもん……あの、さん付けもやめて」

 

「…わ、分か…分かった。これでいいか?フリージア」

 

「うん」

 

口調を元に戻してもらい、嬉しくなる。

また一歩、いい関係に近づいた。

 

「これからも、二人で頑張ろうね」

 

「二人じゃなくて、皆もだけどな」

 

「む…そうだけど、空気を読んでよ。今のは、そうだとしてもそうだなって言うところだよ」

 

「そ、そうなのか?ごめん…」

 

「うん、よろしい。許してあげます」

 

イッセー君の胸に埋めて隠していた顔をあげて、イッセー君の顔を見て、笑う。

イッセー君もつられて笑う。

こんな関係が、いつまでも続けばいいと思う。

 

これから、ずっと手を繋いで未来へ歩いていきたい。

 

大好きな皆と、彼と一緒に。

 

守られてばかりじゃなくて、この日常を私も守りたい。

 

「イッセー君」

 

「ん?」

 

「大好き」

 

「…俺も、大好きだ。フリージア」

 

どちらともなく顔を近づけて、触れ合うだけのキスをする。今は、これだけでいい。

 

この先とかは、また今度。

もっと互いを理解して、歩み寄れたら。

 

だから、今はまだ、これだけで。

 

ああ……幸せだなぁ。




はい、という訳で番外編 純粋な死徒 完結となります!

いやあ、長きにわたるズェピアの旅も、これで終わりです。
感想や、メッセージなどが私に力を与えて、完結まで辿り着きました!

これからのズェピアたちを書くことはないかもしれません。なので、皆様にご想像をお任せします!

ではでは、私はこれで。

…次回作も考えてたりしまーす


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【創■世■幸■】

HAPPYENDのエピローグ出しといてBADENDのエピローグ出してないと思ったから投稿しました(激遅)

二名によるいちゃつき度が今作トップとなっております






夢を見ている。

いつか、見たような現実の夢を。

どこか懐かしさを感じさせる夢を。

 

そうして、離れて、壊れていった、夢を。

 

──■■ピ■

 

だけど、呼ばれた名前に心当たりはなくて。

それを聞くと苦しさと悲しさが沸き上がって。

 

『ごめんなさい』

 

自然と、謝罪の言葉が出る。

涙が溢れる。

 

夢を見ている。

もう、ありはしない日々の夢を。

 

そんな、泣きたくなる夢を見ていた。

 

 

 

─────────────────────

 

 

 

「起きて。」

 

「……ん──」

 

体を揺すられる。

綺麗な鈴の音のような声がする。

 

俺は、その声に愛しさを感じて目を覚ます。

 

「……」

 

「どうかした?」

 

起こしてくれた少女、オーフィスは首をこてんと傾げる

 

その仕草が可愛くて、微笑む。

 

「何でもない。おはよう、オーフィス。」

 

「うん、おはよう、■■」

 

笑顔で俺の名前を呼んでくれるオーフィスを、俺は抱き締めてベッドに引きずり込む。

オーフィスは抵抗しないで引きずり込まれた。

その気になればびくともしない癖に、こういう時は無抵抗。そこがまた可愛らしい。

 

「ん、何?」

 

「可愛いなって」

 

「好き?」

 

「好きだ」

 

「えへへ」

 

頬を赤く染めて笑顔で抱き返してくる。

今日は何もしたくない。

ただ、こうしていたい。

 

──■■ピ■

 

あの、俺じゃない名前を呼ぶ声が怖いから。

 

頭に鮮明に焼き付いた夢の内容を、思い出して一層強く抱き締める。

ただ、この少女を感じていたい。

この、俺の名前を呼んでくれる愛しい少女を。

 

「■■…?」

 

心配そうに顔をあげて俺の顔を見るオーフィス。

 

「何か、怖い夢でも見た?」

 

「…誰かが、俺じゃない奴の名前を呼ぶ夢。」

 

「──そう。───」

 

オーフィスが小さく、俺に聞こえないくらい小さく、何かを喋った。

けど、オーフィスはすぐに俺の頭に手を回す。

 

そのまま、俺の頭を自身の胸に当てる。

 

「大丈夫、貴方は貴方。我の愛しい、貴方だよ。」

 

優しく、母性すら感じる声で頭を撫でながらオーフィスは自身の鼓動を感じさせてくれた。

 

俺の名前を呼んでくれる人の鼓動。

それを感じたら先程まで感じていた恐怖は無くなった。

 

「どう?」

 

「…ありがとう、落ち着いた。」

 

「ん、これくらい言ってくれればやる。」

 

「ああ…」

 

「…■■、今日はこのままがいい?」

 

「……駄目かな。」

 

「ううん、我もこのままでいい。」

 

暖かい温もりを感じる。

 

ふと、やってみようと思ってオーフィスの首筋にキスをする。

ビクッとするオーフィスが珍しくて、もう一回だけ同じことをする。

 

「んっ…■■?」

 

「少しだけ。」

 

「…まだ朝だから、駄目。」

 

「ケチだな。」

 

「朝からそんな事は、駄目。」

 

「……分かったよ。」

 

少し残念に思いながら、目を閉じる。

オーフィスも俺が寝ると感じてくれたのかまた頭を撫で始めた。

ゆっくりと、母親が子供を寝かせるように撫でる手を感じてすぐに意識を手放しそうになる。

 

「おやすみ」

 

「起きても…いるよな?」

 

「大丈夫、我は■■と一緒。」

 

「……そっか…おやすみ…」

 

「うん」

 

そうして、俺は眠気に身を任せて、意識を手放した。

 

今度は、苦しい夢は見なかった。

 

 

 

─────────────────────

 

 

 

穏やかな寝息を聞いて安心する。

そして、抱擁を解いてベッドから出る。

 

「……夢。」

 

夢を見たという彼の話を聞いて、まさかと思った。

彼の記憶からは消しておいたが…ここまで邪魔をするとは。

 

けれど、今日でそれも終わりだ。

悪あがきのつもりだったのかもしれないが、選ばれたのは、我ということを忘れてもらっては困る。

 

所詮は死者の干渉だ。

 

これまで少しずつ干渉したのだろうが、結果は残酷だ。

もう既に、お前を覚えてもいないのだから。

 

既に不要とされたお前がこの世界に干渉する術はもう二度と無い。

 

混沌はもう少し素直に死んでくれたのに。

魔王達は心臓を抜いた程度で死んだのに。

 

お前は内臓を破壊して、頭を潰してようやく死んだ。

ああ、しつこい。

 

しつこすぎるのも醜いよ。

もう名前を呼ぶ気は無いけど。

でも、これで。

これで、ようやく完成した。

 

誰からの干渉も受けない、背負うこともしなくていい。

地獄(現実)を塗り潰し、造り上げた我と彼…二人だけの天国()

 

外を見れば、蝶が舞う草原。

それを見ながら笑う。

 

「もう、何も苦労しなくていい。」

 

苦しさも、悲しさも、辛さも、痛みも、絶望も。

ありとあらゆる地獄を感じずに生きられる天国にいればいいのだ。

数百年を生きた報酬というわけではない。

 

そんな、下らない事であの人と生きようとは思ったことは一度として無い。

 

ただ、あの時。

あの時から、ずっと。

 

我が彼の家に落ちてきた日。

彼の魂を認識した日。

あの時はまだ感情を理解できず、彼の人間としての面を理解できなかったが……。

 

彼から教えてもらって、彼の日記を見て、彼と過ごして分かった。

 

彼がどれだけ強がっても、それは臆病で。

彼がどれだけ優しくても、それは怖くて。

 

そうだ。

彼はただ、自分をひたすらに隠した。

自分の弱さを見失う程、彼そのものを消すほどに。

 

それを、見ていられなかった。

真実を知っていたからこそ、見ていられなかったのだ。

 

だから一人の人間が死んだとき、これで休めると思った。ずっと、心を殺してまで死を待ってあげた日々もこれで終わる。

これで、彼は我を見てくれる。

 

対等に生きられるのは我だけだ。

あの人間でも、混沌でもない。

我だけ。

 

「だって、奴等は狂わなかった。」

 

それを見るだけで、感じもせず、狂いもせず。

それは違う。

それは愛じゃない。

 

愛しいのなら、狂わずにはいられない。

だから、我は狂った。

 

どんな事をしても、どんなに利用しても、どんなに殺しても。

それで彼とこの揺り籠に居られることを夢見て。

 

ずっと、ずっと…。

抑えて、抑えて、抑えて。

 

感情を抑えて、それが爆発したとき、一人芝居をしていた事に気付いた。

馬鹿だと思った。

けれど、その時爆発した感情が抑えていた言葉を放ってくれたお陰で…彼を手に入れた。

 

そこでようやく間違ってはいなかった事に気付いた。

 

ああ、我はそうして…この世界を造り上げることに成功した。

 

醜悪な者共を殺した事に戸惑いはなかった。

というより…何も感じなかった。

 

だって、選んでくれた彼以外は要らないから。

 

使いきった道具を捨てないなんて事はしない。

さっさと捨てる。

彼が選んでくれた時点で、全神話、全生命が要らない物となった。

 

彼以外は要らない。

 

だから、あの人間も、混沌も、魔王も…夢幻も潰した。

 

ああでも、一番醜悪だったのは夢幻だったか。

我と同列と扱われる龍。

あの時は負けてしまったが、今度はあっさりだった。

なぜ負けてしまったのだろう。

やはり、感情だろうか。

 

『これは結末ではない。結末であってたまるか!

私が見た未来は、世界はこのような先もない物では─』

 

『うるさい。』

 

大層な名前な癖して、鱗全部と目を剥かれた程度で叫ばないでほしい。

我は彼のためならそれくらいは耐えられるのにおかしくはないだろうか。

 

どうして負けたのだろう。

今生の疑問になりそうだ。

 

あんなのが同列だったなんて、泣きたくなる。

 

まあ、そんな過ぎたことはもういい。

 

それよりもずっと不満なことがある。

 

「…出来ない。」

 

二人で幸せな生活をして、何者にも侵されぬ日々を過ごしているのに。

一緒に寝ているのに。

いつも、愛してもらっているのに。

 

おかしい。

何故出来ないのか…?

 

正直、今までで一番ショックな事かもしれない。

 

世界を造り上げられても、生命を宿すのは難しいなんて思いもしなかった。

無限の権能を使えば簡単だが、それは愛の結晶ではない

 

どうしたら……────

 

 

「─オーフィス。」

 

「ぁ…──」

 

 

後ろから抱き締められる。

 

誰か、なんて気にすることはない。

起きてしまったのだろう。

 

抱き締めてくる腕を見ると、彼の腕だと分かる。

何にしても、彼だと分かると安心感がする。

 

その腕に両手を添えて、微笑む。

 

「起きたとき、居なくて怖かった。」

 

「ごめんね、少し考え事してた。」

 

「…なあ、悩みがあるなら言ってくれないか?」

 

「…■■?」

 

「こんな俺だけど、やっぱり力になりたいよ。」

 

「……。」

 

ああ、本当に。

この声が、この優しさが…たまらなく愛しい。

 

彼がそう言うのなら、悩みを打ち明けてみよう。

彼の顔が見えるように上を向いて、少しからかうように笑って打ち明けてみる。

 

「実は───」

 

「え、な──」

 

思った通り、意外と純情な彼は顔を赤くした。

可愛らしい。

恥ずかしがる反応を楽しんでいると、突然彼が真面目な顔をする。

 

何かするのかなと思った時、彼は我を抱えてベッドへと行く。

まさかと思うけど、真に受けてしまったのだろうか?

 

「あの、■■?」

 

「欲しいか?」

 

「え?」

 

「…欲しいか?」

 

ベッドに寝かされた我に、そう問い掛けてくる。

今度は、我の顔が熱くなる。

 

でも、同時に嬉しくなる。

それは、彼も同じ想いということ。

嬉しくないわけがない。

 

「うん…」

 

「ッ──」

 

そう頷いたとき、もう我と彼は止まらなかった。

 

愛しい彼を、誰にも渡さない。

そう思いながら、その時間を楽しんだ。

 

誰にも、彼を渡さない。

誰にも、聞かせない。

彼の名前を聞いていいのは、我と、彼だけだ。

 

そうして、我と彼は過ごしていく。

この何もかもを壊して造り上げた、理想郷で。

永遠に───。

 

 

 




そうして、いつか二人には小さな生命が誕生する。

それがこの世界で幸福の形なのか、それとも───



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本編
転生したんだけど、何かおかしい







白い空間だ。

病院の白い天井とか、そういうのではなく、本当に何もない真っ白な空間。

そこに俺は立っていた。

 

…いや待て待て、俺は確か……

 

「君は死んだよ、鉄骨事故であっさりとね。」

 

そうそう、鉄骨事故であっさりと……

 

─え、誰ですか……。まさか、菌糸類の奈須神!?

 

突然話し掛けられて驚いた。

見た目金髪青目の完璧なイケメンに話し掛けられたと分かると心の中で舌打ちをした。

何やねん、全然ちゃうやん。

こういう時話し掛けてくるのはグランドクズのキャスターじゃないんですか!

 

「夢見すぎだろ、相手が夢魔だけに。それと、僕は神だよ。」

 

─ハァ?頭おかしいんじゃねぇの?神様なんてね、神代の世界くらいしか居ないんだよ?バーカバーカ。

 

「まあ、信じなくても話は続けさせてもらうけどね。

まあ、なんだ、よくあるアレなんだ、すまない。」

 

─はいはい、アレね、アレ。

 

こいつ(イケメン)が、仮に神でこういった俺が空間に居るならよくある神様転生とかいうご都合主義を詰め込みまくった小説のアレだ。まあ、中には神様転生で碌な目に遭ってない奴もいるが……

夢だと思いたいが、笑い飛ばしたいが、口ではああ言ったものの不思議と納得している自分がいる。

認めるのは辛いが……死んだのだろう、俺は。

 

「心中お察しするよ。僕のミスで隣の田中さんが死んでしまう予定が君が死んでしまう事になってしまった。

申し訳無い。」

 

─いや、本当だよ。アポの本買ったのにそりゃねぇよ。読みたかったんだよ?それをさぁ……。

 

アポ、というのはFate/Apocryphaの事であり、何でか手を付けてなかったFate本である。

アニメが始まったので有り金叩いて買ったのだが……

この通りである。これには演算も追い付きませんよ、えぇ。

 

「本当に申し訳無い。代わりといっては何だが、君を転生という形で生き返らせたい。どうかな?」

 

─まあ、うん。いいですけど……世界とかは?

 

「決めちゃった。クジだったけど、ハイスクールD×Dの世界だね。」

 

─うぉい!ガチインフレのご都合主義世界じゃねぇか!型月の作品時空が良かったのに!

 

ハイスクールD×Dというのは、主人公である兵藤一誠(乳龍帝)が堕天使に殺され、悪魔でありメインヒロインであるリアス・グレモリー(スイッチ姫)に悪魔にされ、人外蔓延る世界で頑張るというラブコメバトル漫画である。アニメもやってたね、見てねぇけどよ。

詳しくねぇぞ、友人が単語連発してたくらいしか知らないといえば分かるだろうか。

 

「うん、そうだね。だから普通に送るのは流石にヤバイと思ったから特典をあげようかなって。チートでも普通でも何でも……そうだね、3つあげよう。」

 

─いいのか、一つじゃなくて。チートにチート重ねたらヤバイだろ。

 

「この話を持ち掛ける前に君の一生を見させてもらったけど君は俗に言う踏み台のような傲慢でもないし、勝手でもないからね。まあでも、やりたいならご勝手に。」

 

随分と優しいことで。

まあ、決まってるんだけどね。

昔っから好きなキャラが居たんだ。

それになる……というのは本人には失礼だろうし、声優さんにも申し訳無いから、同じ姿をした別人って感じでやりたいし……

 

─じゃあ、一つ目、ズェピア・エルトナム・オベローン(ワラキアの夜)の容姿と能力をくれ。

 

「何というか、意外なのを選んだね。型月が好きなら『王の財宝』とか『無限の剣製』を選ぶかとばかり。」

 

─いや、それも魅力的だけどやっぱ好きなキャラになれるならなりたいじゃん?

 

俺は、ワラキアの夜、又はタタリが大好きだ。

死徒二十七祖第十三位の吸血鬼。

存在が現象と化した者であり、過去は頭がおかしい兵器開発企業のアトラス院の院長を務めた天才錬金術師。

滅びの未来を視てしまい、それを覆そうと模索するも滅びの未来しか視えなかったせいで発狂し、死徒となり、第六法へと挑んだものの敗れた。

しかし、彼という個は滅びたものの彼ではない意識すらない霊子を漂流させ、タタリとして活動する。

 

まあ、活動といっても、一定の条件が揃った地域でのみ発生する嵐のような存在なのだが……。

 

しかし、型月作品の格ゲー『MELTY BLOOD』、通称メルブラの舞台である日本三咲市に現れたせいで主人公のシオン・エルトナムと遠野志貴に討伐される。

 

あの眼鏡の所に行ってしまったのが運の尽きというか、周りの面子も問題だったから仕方ない。

 

彼の設定を見た瞬間、俺は何故だか彼が気に入った。

 

理由なんて知らない。

ていうか、そんなもの好きなものに一々問うだけ無駄だ。

 

まあ、その後はずっとメルブラをやりまくった。

格ゲー得意じゃなくて碌にコンボも決めれなかった記憶しかないが、ワラキアの夜を使いまくった。

使う度に好きになったし、どんどん投票数zeroの無限転生者さんが可哀想に見えてきた。

 

─という訳であるが、文句は?

 

「うん、まあ、ない。それで、二つ目は?」

 

─二つ目は、死徒のデメリットを無くしてほしい。流石に出来るだけ弱点は残しておきたくないからね。

 

死徒は確かに強力な存在ではあるがその分、デメリットもある。

血を定期的に吸ったりしないとならんし、太陽とかは弱点だし、衝動に支配されていくっぽいし……

 

「無難だね。三つ目は?」

 

─三つ目は、タタリを改造したい。内容は……

 

「……ふむふむ、なるほどね。分かった、ご要望通りにするとしよう。」

 

使いたいとは思わないがな。

まあ、この改造通りなら、下手に人を襲わなくてもいいから安心だ。

 

「……じゃあ、これで特典は決まったね。何か言いたいことはあるかい?その姿で言葉を発する事が出来る最後の機会だよ。」

 

─そうだな……じゃあ……

 

 

これから、俺は彼の姿、彼の声となる。なら、この台詞を言うべきだろう。

 

 

 

─「開幕といこう。」

 

 

 

これは、ワラキアの夜……死徒ズェピアとなった俺の物語である。

 

 

────────────────────────

 

 

「……さて、と。形は良好、声も良好、視点も良好だ。」

 

やあ、皆の衆。

転生した俺もといワラキーだよ。

何ていうか、あっさりと転生したな。

視界が真っ白になったと思ったら大地に立っていた。

現在、太陽の下に晒されているが、要望通り、痛みも何も無し。

しかし、これが増谷ボイス!素晴らしいなぁ…イケボですな、うん。

俺としてはこのまま戦いとかはしないで街とかで監督していたいんだけどなぁ。

 

でもな、D×Dの世界はね、強者を野放しにしてくれねぇんだって友人が言ってたんだよ。

わざわざ一般人Aにならずにワラキーになったのはなぜかって問われたらさ…成れると言われたら、好きなモノになりたい衝動は皆も分かると思うのだよ。

このキャラになって舞台で役者を演じる……それはとても素晴らしいことなのだ。

 

っと、こうしてる間にも時間は過ぎる訳だから、ずっと立ってたらおかしいよな。

そろそろ移動しようかな……。

 

何と清々しい朝か。

目の前に広がる緑の大地、空は雲一つない青空と来た。

絶好の転生者日和ですな!

普通の死徒には毒ですな!

 

まあ、効かないからって油断はしない。

下手して死んだら俺も現象になる羽目になる。

初日から死んだら困るしな。

 

さて、歩く前に太陽成分を受け取りながら深呼吸といこうか!

俺は深呼吸の動きをして、空を見上げる。

 

 

すると空には天使みたいのがこちらへ飛んできていた。

 

 

「─少し、背景(年代)を誤ったな。」

 

とか言ってはみたが、あれ、天使だよね、みたいのじゃなくて天使だよね……。

 

時代ミスったなアイツ()

原作どころかそれより前じゃねぇか!

待ってくれよ、流石に設定は知ってるぞ。

原作なら、普通にこちらに天使が羽開いて来ねぇよな!?

冥界じゃないよねここ!

 

つまりは……

 

 

「戦争よりも前の劇場ということかね。(三勢力の戦争中かよぉぉぉぉぉ!!)」

 

 

拝啓、神へ

 

時代ミスりやがってありがとう、ファッ○ュー。

 




最後まで読んでくださり、感謝です。

初投稿となりますが、頑張らせていただきます。

3000位の文字数ですが……これから増やせていけたらと思ってます。


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住居もねえ、金もねえ、身分証明もなけりゃ身内いねえ

どうも、ロザミアです。

物凄く下手な文過ぎて自分が悲しい。

話が急に飛んだりなどしますが、お許しください。

ではどうぞ。


やあ、皆の衆。

ワラキーだよ。

俺は現在訳あって逃走している。

というのも、天使(前話参照)に追われているのだ。

出会い頭に『貴様悪魔か!』とか言われて光の槍を投擲されて、反射的にマントを硬化させて弾いて、こりゃ不味いと逃げ出した訳だ。

 

え?お前死徒二十七祖だろって?

ハハハ、何で自ら面倒事に突っ込まなきゃいけないんだ?

俺はあまり争いはしたくないんだよ。

必要ならするけど、今は違うと判断したわけだ。

 

だって三勢力に喧嘩売ったら二天龍みたいに殺られるかもしれないじゃん。

しかも、神がご存命なんでしょ?

なら、出来るだけ関わらない方が身のためだ。

俺の対策とか出来るかもしれないし。

 

「いつまで逃げる気だ貴様!」

 

と現在進行形で追ってきているおっさん天使が怒りの表情で言うので、

 

「いつまで、と言われればいつまでもと答えさせてもらおう。君達に関わっても私に益はない。そも、私は悪魔ではない。」

 

と言っておく。

 

「戯れ言を!」

 

ええ……(呆れ)

信じてくれてもええやん。

まずは歩み寄ることが先だと思うのだが。

まあ、悪魔だと思われているし、聞く耳持たないのは当然とも言える。

 

ていうか、疲れないな、この体。

流石は死徒の体だな。

人間としての俺はあまり身体能力は良くなかったのだが、この体は羽のように軽く、獅子のように力強く大地を駆ける事が出来る。

浮くことも出来るが、まだやったことないからやめておく。

 

「(しかし、しつこいな。面倒だから黙らせるか…いやいや、下手に殴ったりでもしたら困るしなぁ─

 

─いや待てよ?確か、コミック版のワラキアの夜はエーテライトを使ってクラッキングさせたりしてたな。)」

 

ならば、相手を操ったりして情報を吐かせたり、俺のことを忘れさせたりも出来るかもしれない。

ちなみに、エーテライトとは、元は治療用の繊維なのだが、こうして戦闘などにも使えるように改良された。

よし、思い立ったが吉日ともいうし、早速やってみよう。

 

俺は走る足を止め、おっさん天使の方へと向き直る。

天使も浮きながら止まり、こちらを警戒している。

 

「逃げても無駄だと分かったようだな。我らが主のために滅ぶがいい悪魔よ!」

 

「悪魔ではないと言っても聞かないのは理解したとも天使君。

しかし、君はどうやら実力差も分からないようだ。

それ故に軽々しく滅ぶなどと言える。

君の脳は筋肉だけで出来てるのではないかな?」

 

「っ、貴様ぁ!」

 

おお、怒った怒った。

なんだ、煽り耐性が無いじゃないか。

もしや本当に脳筋なのか?

 

おっさんは激情のままに光の槍を構成し、投げてくる。

だが、槍はまるでゆっくりと歩いてくる亀のように遅くくるようにこの優れた目は見えた。

なので、さっさと避けてエーテライトをおっさんの首筋へと伸ばして刺した。

 

直後、俺に情報が流れ出す。

一瞬混乱したが、そこは天才錬金術師の体だ。

すぐに処理できる程に留めることに成功した。

まずは相手の動きを止めるようにエーテライトを使い、脳へと信号を伝達する。

 

すると、おっさんの動きはピタリと止まり、浮遊する力を無くした体は重力に従って地面へと落下した。

おっさんは訳が分からないといった様子だが、どうでもいい。

 

次はこちらの質問に答えるように催眠状態にする。

 

「一体、何、が……。」

 

その一言を最後に、おっさんは喋らなくなり、目が虚ろになる。

おっさんの催眠プレイとか得がないのでさっさと終わらせることにする。

 

「さて、今の情勢を聞かせてもらおうじゃないか。」

 

 

 

 

 

 

俺氏、先程得た情報に歓喜。

何と、もう二天龍は三勢力にまで被害を及ぼしていたらしい。

まあ、まだ休戦にまでは持ち込まれてないが、時間の問題だろう。

 

 

まあ、それさえ分かれば後は用はないので、俺の事は忘れて本拠地に戻るように命令してからその場を後にして、催眠状態を解除した。

エーテライト先輩マジパネェっす。

変態ではないのでそういうことには使う気はないが、一応演算能力も鍛えた方がいいのかな。

相手を操れることは分かったからね、よかったわ。

 

そうそう、何で天使が天界じゃなくて地上に居たのかといえば、普通に天使としての活動をしていたそうな。

しかし、俺を見つけて先程の状況に至ると。

戦時中なのに布教を忘れない宗教の鑑やな。

下っぱ過ぎると駆り出されるのはあまりないのかね、戦力にならなすぎて。

何だか、悪いことをしてしまった。

 

結局、家もなけりゃ身内もいない俺は野宿するしかないわけだが。

まあ、適当に歩くさ。

んで、気付けば戦争も終わって二天龍も何とかなってるだろうさ。

 

行き当たりばったり万歳。

どうせ戦争なんて関係ないんだからな!

 

「……刺激のない生活を求めている訳ではないのだがなぁ。いかんせん、時代が違いすぎる。」

 

転生する前の俺も散歩が好きだった。

ネットや本だけじゃ分からない事なんてザラだ。

それを知りたいがためにずっと歩いたことなんてあるし、資金がある限り遠くまで行って怒られたこともある。

百聞は一見にしかず、という言葉を俺は気に入っている。

 

原作よりも前の時代だ。

それこそ見てみないと分からないことだらけだ。

だから、少し旅するだけだ。

その後、ゆっくりと関わるとしようじゃないか。

 

俺は笑みを浮かべて歩き始める。

目的とか、そういうのはないし、金もないけど、現代より前の時代なら、何とかなるかもしれない。

 

 

───────────────────────

 

それから俺は結構な時間を旅に費やした。

 

最初は寝る場所に困ったが、何とか宿屋に頼み込んで一日働くという条件で泊まらせてもらったりもしたし、気に入ってしまってそのまま少しの期間滞在したりもした。

 

勿論、悪魔などが多くいる時代なだけあって神秘も多かった。

人の世であって神の世でもあるこの世界は英雄というものが多く存在する。

 

fateをやってたから少しの知識はあったが、生前の英雄に会えた時は興奮した。というか、狂喜乱舞だった。

 

修行もした。

ワラキアの夜としての力や、死徒の身体能力の向上など、やれることをずっとやって来た。

YAMAに籠ってINOSHISHIやSHIKAといった鬼畜動物達相手にエーテライト使って情報処理速度上げたり、操る速さの短縮を行ったり。

分割思考とかもやり方をマスターした。

 

あれ凄いよ、一度に五人の俺が話し合いをするっていうか、脳内会議を開いて、すぐに結論が出るんだもの。

 

後は、タタリの扱いだな。

改造に改造を重ねたから、元々の噂云々のタタリじゃなくて、云うなれば、タタリ・改だな。

内容はまだ秘密だけど、いつか披露することだろう。

 

そして、最大の発見、それは…

 

冥界への行き方だ。

 

いや、意外と簡単だった。

転送魔法陣というものがあって、それを管理してる悪魔と話し合いの末に行けるようになったのだ。

 

一番の決め手はやはりタタリで造った金塊ですね。

 

そりゃまあ、えぇ、錬金術師の能力もしっかりありますよ。

どうすればこれを生み出せるのかが頭の中のファイルを開けば出てくる出てくる。

アトラス院はやべぇな。

まあ、素材は頑張りましたとも。

そりゃもう必死に集めたからな。

 

んで、冥界に行ったら、二天龍を見つけた。

迫力のある大きさだったね。遠目から見てもでかいんだから内心ビクビクしてたよ。

 

無事に倒されて神器にされてたから安心したけどね。

これでようやく原作の土台が完成したわけだ。

 

二天龍との戦いに介入とかしなかったのかって?

おいおい、俺は臆病なんだよ。

というか、好き好んであんなのと戦わないって。

 

俺は好きに生きたいんだからさ。

 

 

 

───────────────────────

 

 

 

まあ、そんなこんなで、冥界で暮らしているワラキーです。

領地もらって何とかなってるんだが、皆は何でそうなったし状態だろうから説明するよ。

 

 

あれは偶然の奇跡だった。

 

冥界の四大魔王の一人であるサーゼクスに出会ったのがきっかけだった。

 

 

 

 

 

 

 

俺は冥界の首都リリスを観光気分で歩いていた。

何せ、初の冥界の首都だ。どのような発見があるのか楽しみで仕方がなかった。

そんなウキウキ気分の俺は急に肩に手を置かれ、驚いた。

何だ、と思いそちらを向くと、彼は居た。

 

 

「君、悪魔ではないな。一体何者だい?」

 

 

「(サーゼクス・ルシファー……!)」

 

そりゃもう驚いた。

だって魔王が話し掛けてくるんだよ?

ただのチンピラなら逃げればいいんだが、魔王となるとにげるコマンドが押せない。

それに彼は疑いの目を向けている。

悪魔ではない……その通りすぎて何も言えねえ!

 

「答えられないのか?」

 

「……いやいや、魔王様に話しかけられるとは思っていなかったものでして。確かに私は悪魔ではありません。私は吸血鬼です。」

 

「吸血鬼?ルーマニアの……」

 

「それもまた違います。私はルーマニア出身ではない吸血鬼です。まあ、はぐれものとでも思ってくだされば。」

 

いや、外面こうだけど正直めっちゃ焦ってます。

下手すれば消☆滅させられるのは目に見えている。

というか、魔王がこんなところ出歩いてていいのか?

 

「……そうか。ここで話すのもなんだし、僕の家で話そうじゃないか、はぐれ吸血鬼殿。」

 

「魔王様の言うとおりにしますとも。……ところで、私の名はズェピアと申します。」

 

「分かった、ズェピアだね。」

 

結構話のわかる人なのかもしれない。人じゃねぇけど。

こう真面目なのがシスコンだってんだから世の中分からないよな。

 

───────────────────────

 

俺が連れてこられたのは応接室のような部屋だった。

いや、城とかびっくりしたよ……。

顔には出さないけどさ。

 

「さて、君の事を詳しく聞かせてほしい。」

 

「まず、私はルーマニアの吸血鬼ではない。それは話しましたね。次に、私は錬金術師でもあります。」

 

「へえ、吸血鬼が錬金術師なんて珍しいね。」

 

「私くらいでしょうね、こんなの。」

 

本職が錬金術師だけどな!

元人間の吸血鬼です、はい。

言わないでおこう。ややこしくなるし。

 

「出身地は言えませんが、地上で人の営みに紛れながら生きてきましたが、最近になって冥界に行けるようになり、こうして来てみた次第。ああ、手続きは踏んだのでご心配なさらず。」

 

「それは安心したよ。それで、君は観光気分で歩いていた、と。……正直、怪しいね。」

 

「私が貴方なら、同じ事を思うでしょうね。

しかし、そうとしか言えないのが辛いものです。

しかし、私は何かしようという訳ではないのです。

……ふむ、どうすれば信用してくれますかな?」

 

「……一日で信用というのも、難しい話だと思わないかい?だから手伝ってほしい事があるんだ。」

 

「と言いますと?」

 

「僕達悪魔もそうだが、三勢力は戦争と二天龍の討伐で被害が甚大だ。こういう時にこそ、四大魔王として民を安心させなきゃならない。だけど、人手が足りないのは事実だ。それこそ、猫の手を借りたいほどにね。

そんなときに、君が来たわけだよズェピア。」

 

「……ふむ、つまりは、魔界復興の手伝いをしろ、と?」

 

「ああ、もしやってくれるなら、小さいながらも領地を与えたいと思う。どうかな?」

 

その提案は願ってもないモノだった。

領地を貰えるということは根無し草からランクアップして家をもつ男になれるわけだ。

……今から思うと長かったが、あの生活と別れとなると少し感慨深いモノがある。

…少しの間天井を見上げてからサーゼクスの方へ向き直り、返事をする。

 

「勿論、受けさせてもらいましょう。」

 

「そうかい!受けてくれると思っていたよ。では、これからは君は冥界の住民というわけだ。よろしく頼むよ。ついでに、敬語は無しで頼むよ。君には似合わない気がしてね。」

 

「ふむ、それならば、こちらこそよろしく頼むよサーゼクス。しかし、よく見知らぬ男を冥界復興の手伝いをさせようと思ったな。」

 

「ハハハ、僕も不思議な事に、君ならばこの話を持ち掛けても大丈夫だという確信が何故かあったのさ。僕はそれに従っただけだ。」

 

「それはそれは……間違ってなかったようで何よりだね。」

 

───────────────────────

 

こうして俺は、魔界復興の手助けをすることを条件に冥界に住居を得た。

今思えば、戦後直後じゃなかったらこうはならなかったろう。

死徒ズェピアとしてのスペックのお陰で力仕事も知恵働かせるのも楽で助かる。

頼りきりなのもどうかと思うけど、使えるものは使うに限るよね。

 

まあ、そんなこんなで意外と広い領地に家っていうか屋敷建てて住んでいる。

一人暮らしなんですけど、何でこんな広いの建てたんだろ……。

 

周りがデカいのばかりなのがいけないんや!

俺だって見栄くらい張りたかったんや!

 

屋敷で何すりゃいいんだよ、錬金術でもやってればいいのか。

この際ブラックバレルでも作ってやろうか!

作れそうな型月系の武器とか作ってやろうか!

 

多分、再現程度で終わるんだろうなぁ……

エクスカリバーとか下手に作れないしなぁ。

確か、原作でも7つに別れてたでしょ?

7つに別れるとか凄いよね。

ドラゴンボールみたいだよね。

 

 

まあ、思い付く限りでやってみるか。

 

ところで、錬金術っててっきり手を合わせてから錬成陣に手をついたりとかしてやるのだと思ってたよ。

今度そうやれるようにしてみようかな。

 




なんじゃこのぐだぐだハイスクールD×Dは。
最初の文から漂う駄文臭はどうにかならんのか猿ぅ!

とまあ、こんな風に適当に過ごして適当に原作の人とかと関わってくのがこの作品となります。
それでもよければこれからも見てやってください。

早くワラキーっぽい場面出したいなぁ……


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ゴスロリ幼女が来たんだが、どうしよう

どうも、ロザミアです。

お気に入りが五人ですよ、五人。
こんな作品をお気に入りに入れてくれるなんて何と心の広い人達……

これには私もネコアルク・カオスのように目からビームが出そうです。


では、どうぞ。


やあ、こんにちわ皆の衆。

今一ワラキーっぽくないワラキーだよ。

いや、ぶっちゃけワラキーなのかもう分からなくなってきたぜ。

ワラキーっぽくしたの錬金術位だよ?

全くさぁ、こうして思うと小説の皆さんは行動力高いよな。

高くないと主人公張れないけどね。

その点、俺はただの死徒二十七祖の十三位の皮被っただけの元人間だもんな。

 

というか、俺は主人公よりも悪役の方が好きになるタイプだから主人公はどうでもいいぜ。

……まあ、悪役やる気はないよ?多分。

 

そんなネコアルクの愚痴並にどうでもいい事を考えながら広すぎる屋敷の一室で一人紅茶を飲んでいる俺氏。

今更ながら、使用人の一人くらいは欲しい広さなんだよなぁ。

 

俺の様子を見に来たサーゼクスも『君一人にしては広すぎないか?』って言ってきたのを使用人は自分で用意するって言っちゃったから今更見繕ってとか言えねえしな。

後、貴族じゃないからな。

 

まあ、そんな事気にしていてもしゃーない。

紅茶飲み終えたら修行だ。

今日はやることを朝のうちに済ませた後だからな。

 

ハイスクールD×Dの世界は物騒だと聞いていたけど、今日まで侵入者は居なかったしなぁ。

 

ま、コナン時空とかじゃないんだから毎日のように何か起こるわけないよな。

いくらなんでも起こらなすぎだけどな!

 

「…空虚だ。実に空虚な時間だ。私もそろそろイベントに招待してもらいたいモノだが、監督というポジション故か、私は壇上にあがれない訳だな。脚本も描いていないから、仕方がないと言えば仕方がないのだが。」

 

と言ってワラキー節を出してみる。

これがアニメのワンシーンなら大物感出るぞ!

なんせワラキーだからな!

中ボスの二十七祖とはちがうのだよ!

 

え?投票数zero?……いやあ、誰だろうねその祖は。

死徒ネットワークを以てしても分からんわぁ。

 

しかし、地上の方がコミュ多いってどういうことだよ。

友人が魔王一人ってこれには悲しみがラストアークフィニッシュだよ。

 

ったくさぁ、大体、話し掛けてもゴミを見るような目で見てくるのは勘弁───

 

 

 

─その時、脳に信号が流れ、その場から後退する。

 

後退した瞬間、天井から俺の座っていた場所へとピンポイントに何かが落ちてきた。

 

「……やれやれ、一体何だというのか。

確かに私は招待して欲しいとは言ったが厄介事に巻き込まれたいとは一言も言っていないのだが?」

 

それに、飲んでいたアールグレイが台無しだ。

襲ってくるようなら迎撃して、違うのならば叱るだけだが……。

 

土煙が晴れると、そこに居たのは……

 

 

「……ん、場所あってる。」

 

 

ゴスロリ風ワンピースの黒髪美少女が立っていた。

 

 

…うん、何だ、その、何だお前!?

いやいや、困惑しているんだがね……

だが、見たところ少女は俺に何かしてくる訳でもなくこちらをじっと観察するように見ている。

 

ちなみにだが……こいつ、俺より断然強い。

気配というか、そこにいるだけで危機感を感じるくらいにはヤバイ。

 

「…失礼、お嬢さん、君が何者か聞いても?」

 

「我、オーフィス。」

 

うん、知らね。

誰だそら。

友人の話をもっとよく聞いておくんだった……!

主人公とその周りをちょっとしか知らん俺には到底分かる筈もないので

 

「ふむ、ではオーフィス君。紅茶を飲みながら話でもしようじゃないか。」

 

と、話し合いをするように持ち掛けた。

 

「ん、分かった。」

 

オーフィスちゃんは快く了承してくれた。

なんだ、即決だったけど、警戒もしないのか?

もしや、お前風情、一撃よという余裕の表れなのか…。

 

まあいいや、こうして危険もなく話し合いをさせてくれるんだからな。

 

早速紅茶を淹れるとしよう。

 

 

 

 

紅茶(先程と同じアールグレイ)を淹れてから座り、オーフィスちゃんと向き合う。

オーフィスちゃんは静かに紅茶を飲んでいる。

 

んー、絵になるな。

少女という形として完成された容姿故に、座って紅茶を飲むというだけで美しさと可憐さを感じる。

だが、完成され過ぎている。

あまりにも無感情なのだ、彼女は。

普通、味のあるものを食べれば何か小さいながらも反応するはずだ。

それを何とも思わないかのように飲んでいるのを見ると、不気味さすら感じる。

 

よし、紅茶の味を聞いて、そこから話を始めよう。

 

「…どうかな、紅茶の味は。」

 

「ん、苦い。」

 

「……そうかね。ところで、君は何故ここへ?」

 

「お前、存在が不思議。魂が人間のようで、体は吸血鬼に似たナニカ。でも、よく分からない。」

 

的確に言い当ててはいるが、流石にタタリまでは分からないか。

まあ、長生きしてようとタタリは文献にもないからな。

それを一発で理解しろというのは難しい話だ。

 

「だから、私に直接聞きに来たと?」

 

「そう。」

 

「……ハァ、いいかね、私は紅茶を楽しんでいたところを突如天井を突き抜けて落下してきた君に邪魔をされた訳だ。これだけならいい。だが、理由が私が気になったからというのは些か非常識ではないか?」

 

「……?」

 

あ、これだめだ分かってない。

常識が抜けているのか。

それとも、無頓着なだけか。

多分、無頓着なだけなんだろうなぁ。

 

「…要は、私に会いたいなら玄関から入ってくればいいということだよ。」

 

「ん、分かった。次からはそうする。」

 

「そうしてくれたまえ。……それで、他に目的はあったりするのかね?」

 

「ん、グレートレッド倒す。」

 

「グレートレッド?」

 

「グレートレッド、知らない?」

 

「知らないな。君の事も何一つ知らないよ私は。」

 

「……そう。」

 

何となく、雰囲気がショボーンとしている。

……そうだな、手っ取り早く知れる方法はある。

 

「……どうやら、君の話は君自身やグレートレッドとやらを知ってないと始まらないらしい。なら、今すぐ知る方法があるのだが……」

 

「なら、早くそれをやる。」

 

「まあ、君がそういうのならいいのだが……今から少しチクリとするかもだが、何もしないよう頼むよ。」

 

「分かった。」

 

話が早くて助かる。

俺は早速オーフィスの首筋へエーテライトを刺した。

 

すると、今までとは比べほどにならない情報量が流れ込んでくる。

まるで津波のように俺を飲み込みに来るソレを、俺は分割思考を総動員させて捌く。

 

ヤバイ、油断するとこっちがフラッシュバックとかして脳がイカれる。

情報量が多いということはそれだけ生きた年月も多いということだ。

 

この少女はどれだけ生きてきたってんだ……?

 

 

 

 

 

 

ようやく終わった。

辛いなんてもんじゃない。

もう一生やりたくねぇぞ。

んで、分かった事は、こいつが無限の龍神と呼ばれている規格外の奴って事と、グレートレッドはこいつよりもヤバイ奴って事だ。

後は、こいつの個人情報だったので無視しておいた。

 

そして、こいつ、性別というものが無いということも分かった。

なんて都合のいい設定もってんだおい!

……タタリだから文句いえねぇ。

「……本当のズェピア・エルトナムはこれよりも多くの情報、未来を演算してきたのだろうか……。」

 

心の声を思わず出してしまい慌てかけるが、オーフィスには聞こえてなかったようだ。

 

「?終わった?」

 

「ああ、終わったともオーフィス。

知った上で聞かせてもらうが、私のような死徒を仲間に加えてもあまり意味はないぞ?」

 

「…お前、弱い?」

 

おっとぉ?今の発言は頂けないぞ?

ワラキー好きとして怒りたいところではあるが、この子は知らないのだから仕方ないと冷静になる。

 

「さあ、私はあまり腕試しはしない方でね。

この世界でどれ程強いのか私にも興味はあるが、まあ、それはその内分かるだろうさ。」

 

しかし、しかしだ。

 

「……そう…「だが。」…?」

 

「私には利益がない。私には見識がまだ足りない。

この世界に対する知識が足りない。

足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない!

足りない事だらけだ。

それではいけない。

それは錬金術師……いや、死徒二十七祖十三位であるタタリではない。

それはアトラス院の元院長ではない。

それは滅びを見てしまった者ではない。」

 

それは確かに、(タタリ)足り得ない。

 

「……。」

 

「私は、より洗練された私でなくてはならない。

そのためには、あらゆるものが必要だ。

故に、君に協力しつつ世界をまた見ていくのも悪くはないと思っている。

私だけでは気付けない物も、純粋な君といれば気付くことが出来るやもしれぬ。」

 

より多くのものを知らなければならない。

ワラキアの夜が好きだから、お気に入りだから、それもある。

だが、一番の理由は限界を知りたいのだ。

この死徒ズェピアが何処までこの世界に通用するのか。

何処まで彼のようになれるのか。

 

俺が彼の体を借り受けているからこそ、知りたいんだ。

 

……ふ、決まったな。

それっぽく言ってみたいという衝動に負けてしまった。

死徒だからね、仕方無いね。

 

「……つまり、我に協力してくれる?」

 

「ああ、するとも。だが、私が動くのはもう少し先だ。それまで君はどうするのかね?」

 

「……なら、我もしばらくここにいる。」

 

……えぇ?

 

「いや、待て、何故そのような結論に至ったのか聞かせてほしい。」

 

「?協力者だから、一緒にいた方がいいと思った。」

 

「……いやまあ、間違ってはいない。分かった、ここにいるといい。」

 

いやぁ、性別無しとはいえ、幼女の姿をした龍神と一つ屋根の下。

一体何が始まるんです?そういったことはしないから。

 

「……ああそうだ、それなら、時期が来るまでの間──」

 

俺は本棚からいくつか本を取り出して、テーブルの上に置いていい笑顔で

 

「君に常識を教えるとしようか、オーフィス。」

 

「」

 

この時のオーフィスは、無表情ながらも固まって積み重なった本の山を見てからギギギと壊れかけの機械のように俺を見ていた。

 

あ、なんだろう、あの麻婆神父の気持ちが少し分かったかもしれない。

 

これは……相手を弄り倒したりして楽しむ事。

 

ある人はこれを、愉悦と呼んだ。

 

絶望の雰囲気を漂わせたオーフィスを見ながら飲む紅茶は今まで生きてきた中で最高の味だった。

 

愉悦ッ!!




オーフィスって、別に最初からメスでも良かったと思うんですよね。
原作見る限りだと特に。

まあ、私がおかしいだけなのかもしれませんが……


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何気無い日常を

どうも、ロザミアです。

お気に入りが10を越えたので吐血しながら投稿しました。

この小説が面白いのか分かりませんが、見てくれるだけでも嬉しい限りですね。

では、どうぞ。


やあ、皆の衆。

最近家族が増えたワラキーだよ。

……いや、オーフィスは家族と呼んでいいのか?

いいか、オーフィスは家族だ。

さて、あのオーフィス天井落下事件から実に十日は経っている。

なので、いくつか報告をしたいと思う。

まず、オーフィスが少し感情が出るようになった。

まだぎこちない気もするけど、笑うときの顔がええんや。

きっと娘を持つ親とはこんないいものを毎回見てるんやな。

……そして、ギャルになった娘を悲しい目で見ながら仕事に勤しみ、無茶振りに答えるという毎日に……

 

やめよう、この話はやめよう。

自分も社会で働いていた身でもある。

え?ニートじゃないのかって?

ニートで型月大好きやってけるわけねぇだろ型月嘗めてんのか。

特にワラキーの事ならいくらでも費やせる覚悟があるぞ。

メルブラでもうお役御免だったのにワラキー出るって聞いた瞬間の俺の反応はそらもう凄かった。

フルムーンでBLOOD HEATしてからアークドライブフィニッシュだったね。

いやぁ、あの時はもう最高だった。

使いまくったね。負けまくったけど。

基礎コンとかやれる程度の俺には辛いわ。

 

……んん、脱線しすぎた。

続きといこう、魔界復興の手伝いをして早十日あまりが経っているが、その中でお偉いさんと会ったりするのはとても辛かった。

小声で薄汚い吸血鬼とか、溝鼠とか言われるんやで?

言うのは心の中だけにしなさいよって言いたかったけど、面倒くさいからやめておいた。

だけど仕返しに退出するときにタタリの一端を見せて脅かしたからいいけどね。

 

一緒にいたサーゼクスはいいぞもっとやれと言わんばかりに笑ってたね。

しかも親指立てて。

おい魔王、退出した後だからよかったけどお前それお偉いさんの面前でやったら俺の胃が死ぬからやめろよ。

あいつ、結構気さくというか絡みやすい奴で俺としても楽だからいいんだけどそれはひやひやするから止めてほしかった。

 

さて、後は……

 

 

「ズェピア、廊下で静かに立って、どうかした?」

 

おっと、うちの娘が話し掛けてきたのでちょっと報告は中断させてもらおう。

あ、ちゃんと自己紹介したよ。

素っ気なかったけど。

 

まあ、今では懐いてくれて素っ気なさはどっか行ったけどな。

二度と帰ってこなくていいぞ素っ気なさよ。

 

白いワンピースを着たオーフィスは本をもってこちらへ寄ってくる。

 

「いや、何も問題はないよ。ところでオーフィス、その本は?私の持ってる本では無いようだが……」

 

「知らないおじさんから貰った。」

 

「貰っただけなら、心優し「ただ、鼻息が荒かった」オーフィス、その男は何処かな。」

 

うちの娘を物で釣るなど何と許しがたき行為を…。

これは絶対にぶっ殺案件ですわ。

 

「殴ってから貰っておいた。」

 

「それならば問題はない。」

 

うちの子賢い。

ちゃんとぶん殴ってから貰ったんだね。

 

「それで、その本を読んでほしいと?」

 

「そう。…駄目?」

 

くっ、上目遣いで首を傾げて聞いてくるとは何というテクニックを覚えたんだオーフィス……

これでは断るに断れないではないか!

 

「家族の頼みを断る理由など無いよ。

私の部屋で座って読もうではないか。さて……。」

 

内容を流しで読む。

読んだのだが……これは悲劇ものだな。

よくある話だ。

国を救うために立ち上がった男が、国に後々危険とされて殺される。

そんなありきたりな話。

こういうのよりハッピーエンドな話を読み聞かせたいが、あの子の頼みだ。

 

たまにはバッドエンドを聞かせるのも、いい勉強になることだろう。

 

俺はオーフィスと共に自分の部屋へ戻り、紅茶を淹れてから椅子に座る。

そして、オーフィスは俺の膝の上に座る。

……流れるように座るなぁ。

 

オーフィスはまだかとこちらを見上げてくる。

うん、可愛いから読んじゃう。

 

「では、読むとしよう。

始まりは王妃がある魔物により病に患ったところからだった──」

 

 

 

 

───────────────────────

 

 

 

「男は怒りもなく、悲しみもなく、ただ全てを受け入れた。

自分が死ぬことによって貴殿方が安心なさるのならと抵抗することもなく王にその命を差し出した。

 

……これで終わりだね。」

 

「……すぅ…すぅ………」

 

「おやおや、これは……」

 

読み終えた時にはオーフィスは寝てしまっていた。

何とか起きようとしていたが、無理だったようだ。

やはり、何百年も生きていてもこの子はずっと一人だったせいか精神が幼い、幼すぎる。

……それ故に利用しようとするやつも出てくるだろう。

まあ、そんなやつはタタリの恐怖を味合わせるだけだから大丈夫大丈夫。

 

ところで、王妃の病を断ち切って助けた男がこうして殺されるのはちょっと酷いと思うのよ。

英雄は出番が終われば要無しということか。

 

閉じた本をテーブルの上に置いてオーフィスを起こさぬように抱いてベッドへ寝かせる。

……うんうん、ゆっくりとお眠り。

 

今までの孤独を埋めるように出来るだけこの子に時間を割いているが、こうして寝たりしているときは俺がやりたいことをやれる時間だ。

 

俺は地下のプライベートルームへと転移する。

元々この場所は俺個人が研究などやりたいことをするための場所だ。

無論、サーゼクスも知らない。

 

まあ、俺が出来ることなんて、錬金術位でしょ。

ずっと製作しているが、俺は体はそうでも、元はアトラス院の者ではないので当然時間はかかる。

何を作ってるか気になるかな?

 

まあ、すぐに分かるよ、すぐね。

これは、アルテミット・ワンも撃ち落としたという程の力がある。

神殺しの上位互換、星殺しといったところか?

 

でもね、効果そのままなんてするわけ無いでしょ?

もっと強くしますよ、そりゃ。

錬金術師ですもの、改良くらいお手の物よ。

 

いやぁ、楽しみだなぁ。

 

…オーフィスを手伝うと決めた以上は全力で手伝うし、全力で俺の欲も叶える。

だが、うちの子を利用しようとするやつがどれ程強いのか分からない。

だからこそ、ズェピア・エルトナムがしたように幾つかの保険を確保しておく。

邪魔されない今だからこそ準備に専念する。

 

オーフィスという存在は居るだけで実力者は察知してしまう。

サーゼクスも気付いている筈だ。

グレートレッドを倒したら世界に何が起こるか分からないからという理由で俺と対立するだろう。

アイツはそういう奴だ。

 

まあ、どれ程強かろうとも、どれ程賢かろうとも、最終的には全て俺が越えればいい。

 

ああ、これから戦うであろう強者に胸が高鳴る。

生前無かった感覚だ。

そも、競争という意思があの世界にはそこまで無かった。

俺には現実が機械にしか見えなかったのだ。

 

だからこそ、俺はこの世界がより美しく見える。

 

もう、つまらない事なんて無い。

俺は、彼として生きて彼として死ぬ。

 

その事に何の戸惑いがあろうか。

 

 

……と、いかんいかん、またおかしくなりかけた。

ワラキーの狂人としての影響も受けてたりするのかねこりゃ。

 

それとも、俺自体がこんな奴だったとか。

 

それも又吉。(なお誤字にあらず)

 

 

──────────────────────

 

 

錬金術も大事だけど、買い物も大事である。

 

お金は働き口のお陰で何とかなってるけど、食材などはどうしようもない。

こればかりは買うしかないのだ。

農園なんざ作る気ないし。

 

それに、うちはしょっちゅう食材が消え失せる。

何故かというと、まあ、分かると思うけどオーフィスがよく食べるからである。育ち盛りなんだよ。

育たないけど。

アルトリア並に食べるものだから驚いた。

けれど本当に美味しそうに食べてくれるから苦でもないし、作った側として嬉しい。

 

え?料理できたのかって?

じゃなきゃ一人暮らししようとしないって。

そこら辺は生前の経験が活きたわけだ。

 

特殊な方面はズェピアの力だが、普通に日常の方面は俺の力である。

しかし、働いた後に自分で家事をするのは疲れる。

オーフィスには任せたくない。

俺よりも小さい見た目で家事をされると申し訳ないという感情でいっぱいになるからである。

だからといって大人の体に変化しなくていい。

これは俺がロリコンなのではなくてもう幼女の姿の方が定着して接しやすいという理由がある。

 

お前な、いくら相手が俺よりも長生きで無知で小さい見た目でも、犯罪はダメだよ犯罪は。

 

ていうか、それはワラキーじゃねぇ。

 

まあ、そういった理由で買い出しも俺が請け負ってる。

首都だからかリリスは復興中でも多少は賑わってる。

 

悪魔の食事って想像つかない人もいるだろう。

だけど、安心してくれ。

人間と全く変わらん。

普通に牛とかいるし、豚もいる。

野菜も育ててりゃ、果物もある。

 

悪魔って魂とか喰ってるのかと思ってたよ俺は。

 

悪魔の貴族社会でもそこは変わってなくてありがたい。

 

「おや、ズェピアさん。また食材切れたのかい。」

 

「ハハハ、まあ、そんなところだ。」

 

「アンタ一人暮らしの筈だろう?あんなに買い込んでるのに無くなるって、アンタどんだけ大食いなのさ。」

 

「いやそれがな、我が家の近くに大きな魔物が居てな。そいつが懐いてきたからこうして多めに買ってるわけだよ。」

 

「へぇ、そりゃ相当でかいんだろうなぁ。アンタも苦労してんな。手に負えなくなったら始末した方がいいよ。アンタの財布のためにもね。」

 

「こうして多めに買う分、君の店は儲かってるわけだがね。」

 

「まあ、そうだな。じゃあ、倍は買ってくれ。」

 

「断る。これ以上買うようなら私の財布の中身が本当に塵と化すからね。」

 

俺はそう言って店の男に金を出して食材の詰まった袋を持って店を出る。

あの店長は最近冥界に住み始めた俺に対しても周りと態度を変えない数少ない者だ。

 

やっぱり戦後ってのもあって新参者のことを疑うのは仕方ないと思うし、こればかりは時間の問題だ。

無理に関わっても痛い目を見るだけ。

 

まあ、俺の事は自然と慣れてくれればいいってだけだ。

 

そんなこんなで我が家に着いた。

 

この体だとこの量も大した重さじゃないので、肩は凝らないし背筋も曲がらない。

すばらしいぞ、死徒は。

 

改めてこの体の便利性を小さいながらも実感した俺は扉を開けて中に入る。

 

中に入ると、玄関にオーフィスが立っていた。

帰ってくるまで待ってたのだろうか?

何だか嬉しそうな雰囲気を出している。

 

「ズェピア、おかえり。」

 

「ただいま、オーフィス。よく眠れたかな?」

 

「ん、でも、最後まで聞けなかった…。」

 

「落ち込むことはないよ。また続きを聞かせよう。」

 

「ん、約束。それ、ご飯?」

 

「まだ作ってないがね。今日は何が食べたい?」

 

オーフィスは少し悩んだ様子で

 

「……ハンバーグ。」

 

と言った。

しかし、ハンバーグとは…この時代だと中々レアじゃないか?

18世紀かは知らないけど、食べてるところを見たことがないし。

 

「では、夕飯はそうしよう。」

 

…時代ねぇ。

退屈しなければいいんだけどなぁ。

 

「…ズェピア、暇?」

 

「どういう意味での暇かな。」

 

「計画。」

 

「ああ、それか。別段、私は始まりまで退屈を感じてはいないよ。

君はどうなのかな?」

 

「退屈、感じない。」

 

「そうか、なら、もう少しこの日常を過ごしてもいいということだよ。」

 

「…そう。」

 

「そうだとも。」

 

他愛のない会話。

家族の会話。

それがどれだけ大事かを俺は理解している。

前世でも俺は一人暮らしをしていたが、親との会話がないのは実に空虚だ。

帰ってくれば親がいた生活はもう無くて、代わりに帰ってくれば暗く寂しい玄関があった。

だからこそ、オーフィスがいることに俺は喜びを感じている。

だって、家で会話がある。帰ってくれば、出迎えがある。

こんな日常を大切にしたい。

無論、計画が始まっても、終わってもだ。

 

食材を俺自作の冷蔵庫に入れてから自室へ戻る。

 

今日の紅茶は何にしようかな。

 

たまにはキーマンにしよう。

皆はどんな紅茶が好きかな?

俺はダージリンのオータムナルが好きだよ。

 




私が好きなのはウバですね。

でも、最近は紅茶を飲むと腹痛が起こる。
何でですかね……。

感想をくれるとこの連鎖から抜け出せるかもしれない(露骨な要求)

では、また。


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新しい家族

どうも、ロザミアです。

感想が来たり、お気に入りがまた増えたりととても嬉しい限り。

元気が出たので内蔵ぶちまけながら投稿しました。

では、どうぞ。


やあ、皆の衆。

現在胃が痛いワラキーだ。

何で胃が痛いのかって?

まあ、なんだ。

簡単に説明すると……

 

サーゼクスの依頼で地上にいる。

 

これがまた、面倒にもほどがある依頼でね。

 

事のなり行きから話した方が早そうだ。

長くなるから覚悟するがいい。

 

 

 

 

 

 

朝早くに起きて朝食を作ってオーフィスと食べてから歯を磨いて着替えをする。ちなみに、今日のオーフィスの服装は最初に会ったとき着てたゴスロリ風ワンピースだ。

そこまではいい。

 

今日は何もない予定なのでオーフィスに一日中付き合おうと思っていた時に玄関の扉が慌ただしく開いたのを察知した。

 

「……オーフィス、客人が来たようだから私の部屋で本でも読んでなさい。来てはいけないよ。」

 

「……ん。」

 

「いい子だ。」

 

オーフィスを自室へ置いてから玄関へ赴くと、サーゼクスが少し慌てた様子でこちらへやって来た。

 

「これは、サーゼクス。魔王ともあろう者がそんなに慌ててどうしたのかね。」

 

「慌てもするさ、君が適任だと思ったから大慌てで来たんだ。……ふぅ、座って話させてくれないかい?」

 

「……とても嫌な予感がするがいいだろう。」

 

俺はサーゼクスと客間まで行き、ケーキと紅茶を出す。

座っているサーゼクスはありがとうと感謝の言葉を述べる。

……さて、どんな事を言うのやら。

 

「それで?私に頼みたいこととは?」

 

「ああ、赤龍帝は知っているだろう?」

 

「待て、私は今非常に不愉快なモノを予想している。

……当ててみよう。赤龍帝の神器を得た人間が現れたか?」

 

「流石はズェピアだ。当たりだよ。

単刀直入に言おう。赤龍帝の力を持つ人間と接触してほしい。」

 

「他の魔王か君が行くべきだろう。」

 

「僕達が離れてしまうと現状の警備では支障を来してしまう。

冥界に何かあったときのために魔王がいなければならない。

仮に堕天使が攻めてきて、魔王三人では止めきれなかったでは笑い話にもならないだろう?」

 

「それを言ってしまえば殆どの国は動けないよサーゼクス。

君は焦りすぎだ。赤龍帝がこちらを攻めてくるとは限らないだろう。」

 

俺はサーゼクスを諭すように嗜める。

何でわざわざ赤龍帝に一人で会いに行かなきゃいけないんだっての。

それに、俺がいない間、家は?オーフィスは?

当然、放置となる。

それはいけない。

 

「……そうだね。確かに、焦りすぎたかもしれない。

だけど、僕が思うに、君が適任なのは間違いない。

君は恨みを買われていないから調査には君以上の役はいないんだ。」

 

「君達が招いた結果でもあるだろう。」

 

「それでもだ。頼まれてはくれないか?」

 

……分かってるとも。

彼は友と決めた者をこうも軽く危険に行かせはしないというのは。

だが、彼は魔王だ。

最善を打てるのなら打つべきなのは王として当然だ。

 

俺は溜め息を吐く。

 

「……分かった、分かった友よ。

だが、多少の準備をさせてくれ。後少しで完成するのだ。」

 

「受けてくれるのはありがたいけど、何を造ってるんだい?」

 

「……そうだな、一言でいうならば、神滅具に届く物だ。」

 

「なっ……そんなものを?」

 

「そう驚くことはないだろう。私は錬金術師だ。

錬金術師とは真理を探求する者であり、世を暴く者だ。

ならば、神滅具に近しい物を造っても何もおかしくはあるまいよ。」

 

「それは、そうだが……君は何をする気なんだ?」

 

心配してくれるのか。

いつかお前と対峙するであろう俺を。

知らぬとはいえその情を俺に向けてくれるのか。

 

お前は優しい。

優しさを持つ王だ。

お前は優しすぎる。

確かにお前は冷酷になりきれる才を持っている。

 

だからこそ、その情を向けるべきではない。

どうかこの話を持ち出した真の意味を察してくれ。

 

お前が俺の友だというのなら。

 

「ハハハ、どうだろうね?私はただ来るべき敵を倒す為の力を欲してるだけだよ。」

 

お前が気付くまで、俺は言葉を偽るとしよう。

 

「そうか…安心したよ。

君は力に溺れる奴には見えないし、戦いを楽しむようにも見えない。

じゃあ、行くときは連絡してくれ。」

 

「ああ。なに、すぐに完成するとも。

すぐに、ね。」

 

「見せては……くれないだろうね。」

 

「分かってるようで結構。私も、自信作はあまり見せびらかしたいとは思えない方だ。」

 

「……やっぱり、アジュカと気が合うんじゃないか?」

 

「アレはダメだ。私と彼では価値観がずれているからね。さ、用が済んだのなら帰った方がいい。

君の妻が待ってるぞ。」

 

「……何も言わずに出ていったから怒ってるだろうなぁ……」

 

彼はこれから起こる妻の怒りに土下座する覚悟を決めて出ていった。

……さて。

 

「……ズェピア、客、帰った?」

 

「ああ、帰ったとも。

……オーフィス、私は依頼でね、しばらく家を離れなければならなくなった。

すまないが一人で留守番を「やだ。」…オーフィス。」

 

「ズェピアが居なくなると、我寂しい。ついてく。」

 

「確かに君ならば問題ないかもしれないが、他の勢力に何をされるか分からない。

安全のためにここで留守番をしてなさい。」

 

確かに、ついてきてくれるのは嬉しい。

だが、無限の力を欲する輩が地上に居ないとは限らない。

連れていけないという意思を込めて話す。

 

「…ズェピア、何しに行く?」

 

オーフィスはついていけないと察したのか諦めた様子で俺の家を離れる理由を聞きに来る。

 

「赤龍帝の様子を見に行くだけだよ。」

 

「…ドライグの?アルビオンもいる?」

 

「可能性はあるね。」

 

「なら、やっぱり我も連れてく。

我なら一捻り。」

 

「……。」

 

俺の事が心配なのだろう。

孤独に生きてきたからこそ、家族というものを知った今が愛しいのだろう。

家族の俺が居なくなればまた一人なのだ。

 

俺は、彼女を抱き締めながら頭を優しく撫でる。

子供をあやすように、ゆっくりと優しく。

 

「オーフィス、心配せずとも私は強い。

たかだか龍の力を得た人間風情に負けはしないさ。

それとも、私が信じられないかな?」

 

「……帰ってくる?」

 

「すぐに。」

 

「……ん、なら、約束。」

 

「ああ、約束だとも。」

 

約束をしたんだから帰らないといけない。

いいか、これは、死亡フラグではない。

露骨な死亡フラグは生存フラグと化すのは世の理だからな。

家族を残して死ねません。

 

 

 

 

 

 

ていうフラグと我が娘を冥界に残してサーゼクスに準備が整ったのを伝えてから地上に来たわけよ。

長い?もっと短くできたろって?

おま、オーフィスとのやり取りまでがこの話なのが分からないのか。

そんなのアルクルートのない月姫じゃない!

 

まあ、そんなこんなで赤龍帝の調査な訳ですが、何一つとして手掛かりなんぞありません。

 

サーゼクス曰く

 

『龍のオーラというのは色々と呼び寄せるモノでね、それが君を導いてくれるかもしれない』

 

だそうで。

何それ○ォース?○ーブレード?

あれなの?○ォースの導きなの?鍵の導く心のままになの?

はい無能。

優秀と思ってた俺の評価はがた落ちだぞ!

ちくしょう、そんな曖昧なもんで見つかる訳ねえだろうが。

 

……まあ、探しながら皆に神器のおさらいといこうか。

 

神器ってのは聖書の神が作り出した人間のための武器だ。

といっても宿るのは一部の人間のみで、発現しても皆が強いって訳でもない。

かといって、弱すぎる物もない。

そして、神器とはその人間の魂と同じような物で、奪われたり、壊されたりすると当然ながらその魂も傷ついたり、消滅したりする。

そして、神器にも例外がある。

それが神滅具…まさに神を殺せる可能性がある神器だ。

今のところ神滅具の数は13種類とされている。

今回俺が調査する『赤龍帝の籠手』も神滅具だ。

 

こんなもん作るなんて聖書の神は自殺願望でもあったのか?

まあ、とっくに死んでるけども。

 

…実は人間だけに宿ると言われてるが、奪われないとは言われてない。

実際、原作の登場人物であるアーシア・アルジェントは堕天使に神器を奪われてる。

 

このように、人外も神器を得る方法があるのだ。

悲しいね、バナージ。

 

……まあ?俺の造った『コレ』は神器ではないからその摂理には当てはまらないけどね。

 

さて、神器の説明も適当に終わらせたんだが……

 

取り合えず、魔術でこの地域一体をサーチして、強い力の反応の場所に来たんだが……

 

 

「……なんだって、こんな……」

 

うん、それっぽいのが居たね。

赤い籠手なんて嵌めてるのは現状赤龍帝位じゃないか?

しかし、少女か……。

しかも、金髪のスタイル抜群美人ときてやがる。

年齢的にまだ二十歳越えてないのに、凄いなおい。

だがすまない、俺は一誠じゃないからそこまで露骨に反応はしないんだ。

 

……んー、なんだか消沈してるなあれは。

 

まあ、突然強い力を手に入れればこうもなるか。

俺もそうだろうし。

 

そりゃ、人生おかしくもなるか。

 

さて、接触といこうか。

戦闘になれば?

ハッハッハ、死徒二十七祖に挑むのだから相手がどうなるか分かるだろう?

 

俺は女の前へと降りて話し掛ける。

 

「そこの君。そんな所で座り込んでどうしたのかね?」

 

「……何よ、アンタも私を化け物呼ばわりするの?」

 

これはネガネガしてますね。

しかし、彼女がここにいる理由が分かったぞ。

 

「いやいや、話し掛けただけなのだが……。

まあ、少し話を聞きたまえよ。」

 

「……話を聞いても、良いことなんか……」

 

「…それについて知ってると言ったら?」

 

「!アンタ、もしかしてこの変な籠手について知ってるの!?もし知ってるなら教えて!」

 

うわ、凄い食い付きだな。

まあ、そりゃ食いつきもするか。

望んでもない、それも知らない力が急に自分のものになったんだ。

こうもなるわ。

 

「落ち着きたまえ。

焦っても仕方無いだろう?」

 

「……そうね。よく考えれば、アンタを疑うべきよね。」

 

「まあ、うん。そうだね、その通りだよ。

いや、本当に知ってるんだがね?」

 

「そう、じゃあ勿体振らずに教えてくれる?」

 

「……一つ、確認だ。これを知るということはこの世界の裏側に介入するということ。

その覚悟はあるかな?」

 

「……私は知りたいだけよ、私のコレが何なのかね。

まあ、何か来るんなら殴る。それじゃ駄目?」

 

大雑把だな、と薄く微笑む。

彼女は中々見ない類いの人間だ。

 

「いやいや、初めてにしては及第点じゃないか?

よろしい、ならば教えるとしようか。

君のその、『赤龍帝の籠手』について。」

 

それから俺は語った。

『赤龍帝の籠手』には龍が入っていて未だ意識があること。

10秒毎に能力を倍加することができること。

いずれは白龍皇と戦う運命にあることを。

 

「……何よ、それ。そんな昔の喧嘩の為に私に死ねって言うの!?ふざけないでよ、何でよ、私は何もしてないのに!」

 

彼女の泣き叫ぶ声は絶望と怒りと悲しみに満ちていた。

俺には何もできない。

俺はただ泣いている彼女を見ているしかできなかった。

こんな、こんな年若く、二十歳にも満たない少女にこの運命は酷だろう。

俺には神器として二天龍を封印した聖書の神がどうしても悪魔としか思えなかった。

 

この少女に、花冠を作り笑う運命すらやらないのだから。

 

 

 

 

 

「……落ち着いたかな?」

 

「…えぇ。それで、私はどうすればいいの?」

 

「それは私に聞くことではない。他人の示した道を歩くのはオススメしない。」

 

「…それもそうね。」

 

彼女は考え込んでしまった。

 

何か名案でも思い付いたのか顔をあげて俺を見ている。

 

「じゃあ、貴方についてく!」

 

「……はい?」

 

「はい?じゃないでしょ。私に説明するだけして逃げようたってそうはいかないわよ。」

 

「…いや、それもそうだが……私についてきても危険なだけだぞ?冥界だぞ?悪魔が沢山居るんだぞ?」

 

「だから?」

 

「だから?じゃなくてだな君……ハァ、仕方ない。少し待っていたまえ。」

 

俺は彼女から少し離れた場所でサーゼクスに連絡をいれる。

 

『やあ、ズェピア。赤龍帝は見つけたかな?』

 

「ああ、見つけたとも。二十歳にも満たぬ少女だったよ。」

 

『……そうか。それは、辛い運命だね。』

 

「ああ、ところでだな、その少女が私についていきたいと言ってるのだが。」

 

『え"っ』

 

サーゼクスからこんな声が漏れるのは初めてだな。

楽しくなってきたぞ!

 

「いやぁハッハッハ、どうした方がいいかな?」

 

『駄目だ!絶対に駄目だ!』

 

「え?いいよ?君は優しいなサーゼクス!流石は魔王だ!」

 

『いやいやいやいや、了承してないよ!?

怒ってる?やっぱり怒ってるだろ君!?』

 

「いやぁ、怒ってるわけないだろう。

私は寛大な方だと自負してるよ、うん。

いくら君が人の休日に危険な依頼を持ち込んでくる酷い友人だとしても許すとも。」

 

『嘘だ!絶対に怒ってるだろそれ!』

 

「ダイジョウブダヨ。」

 

『大丈夫じゃない、大丈夫じゃないよ。とにかく!何とか彼女を──』

 

「……おや、通信が切れてしまったなぁ。

いやこれは、一応連れてきた方がいいと思うから連れていくか!ハッハッハ。」

 

─俺の休日をぶち壊した報い、冥界で受けるがいい。

 

その想いのままにやってしまったが、後悔どころか達成感に満ちております。

 

「よし、大丈夫なようだよ。」

 

「本当?よかった、断られたらどうしようかと思ってたの。」

 

「……ソウダネ。」

 

「あ、そういえば名前聞いてなかったわ。

私はフリージア。貴方は?」

 

「私はズェピア。ただのズェピアだ。それ以上でも、それ以下でもない。」

 

「ふふ、変な自己紹介の仕方ね。かっこつけてるの?」

 

「さて、どうだろうね?」

 

「よし、じゃあ、その冥界とやらにレッツゴー!」

 

「連れてくのは私だがね。」

 

 

──────────────────────

 

 

「冥界の空は何だか毒々しいわね~……」

 

「まあ、冥界という名前だからね。そういうのは天界に期待してくれ。」

 

そんなこんなで転移でやってきました冥界。

フリージアは冥界の空がおきに召さないようだが、そこは我慢してもらおう。

 

家の側に転移したからすぐに着いた。

 

「……貴方、お金持ちだったの?」

 

「……私は小さい家でいいと言ったのだが、友人がね。」

 

「苦労してるのね。」

 

「それなりにはね。

さて、ただいまオーフィ─「ズェピア!」おっと、力の入った出迎えだ。」

 

扉を開けると、可愛い娘が飛び付いてきたので、キャッチしてから降ろす。

オーフィスはとても嬉しそうにしている。

約束を守れたからかな?

 

「ズェピア、帰ってきた。約束、守った。

我、嬉しい。」

 

「約束は守る主義でね。……さて、オーフィス、新しい家族が出来た。紹介しよう、こちらフリージア。

赤龍帝だよ。」

 

「えーと……よろしくね?オーフィスちゃん。」

 

「……ん、よろしく。…ドライグ、反応しない?」

 

「まだ寝てるんじゃないか。知らないが。」

 

「もし反応するようになったら言いたいことがあるから早くしろって感じだけどね。」

 

「…ズェピア、食費、平気?」

 

「そういうのは気にしなくていいんだよオーフィス。

さて、フリージアの部屋へ案内しようか。」

 

その後は、サーゼクスに話をつけないとな。

多分、怒ってる。

 

面倒だなぁ……。

 

ま、無理矢理やってしまったのは俺だし、何とかするとしよう。

 

「ねえオーフィスちゃん。ズェピアはどんな人なの?」

 

「ズェピア、優しい。後は……父?」

 

「ハハハ、今更ながら結婚もしていないのに父親とは、中々に面白いな。」

 

それも、龍神だしな。

 

…うん、やっぱり、この選択は間違ってない。




展開を無理矢理やってもいいじゃない、二次創作だもの。
というわけで赤龍帝ちゃんを家族に迎え入れました。

フリージアという名前でキボウノハナー思い浮かべた人は挙手しなさい。
ただの花の名前からもじっただけです。

まあ、赤龍帝である以上、イベントが盛りだくさんなのですが……
それはもうちょっと先ですね。
ではまた


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駒と家族

やあ、皆の衆。

家族が増えてご満悦のワラキーだ。

 

そして、喜びつつもサーゼクスを説得もとい言い負かしに行ってる途中だ。

あの後、サーゼクスから連絡がまた入って今すぐこちらへ来いとイイ笑顔で言われたのだ。

ちなみに、反省なんぞこれっぽっちもしてません。

 

ところでだが、皆は昼には何をしてるかな?

俺は普段は錬金術とかオーフィスと遊んだりとかだけど

皆はゲームとか仕事とかで忙しい感じかな?

ハッハッハ、まあ、これも元二次元の時空ですし。

俺からしたらここがリアルだから何とも言えないけども

そっちはそっちで頑張ってくれ。

お給金のために!

 

こっちはこっちで忙しいんやで。

冥界復興はまだ完全には終わってないし。

 

と、脳内会話をしていたら着いたな。

さっさと入ってさっさと説得してさっさと帰ろう。

 

この時の俺は、そんな気分だった。

 

 

──────────────────────

 

 

「遅くないようでよかったよズェピア。

さて、確認だけど、赤龍帝の少女は?」

 

「ああ、今頃我が家で暇を潰してるだろうね。」

 

「…それで、君はどうするつもりなんだい?」

 

「どうするも何も、普通に人並みの暮らしをさせる。

それが何か?」

 

「何か、じゃないだろう。彼女が冥界に害を為すとは考えなかったのか?」

 

「ない。それはないよサーゼクス。あり得ないとすら言っていい。」

 

俺は断言する。

フリージアは戦うことすら知らない少女だ。

幸福を過ごすべきだった少女なのだ。

 

「理由は?そこまで言うのなら、何か理由があるんだろう?」

 

「理由も何も。……私が、理由だが?」

 

「……意味が分からないな。」

 

「だろうね。要は、私が彼女の安定剤になるだけだ。

それに、あのまま野に放っていたら逆に何か起こっていたと思うがね。

それこそ、ドライグに何か言われ…とかね。」

 

「そうかもしれないが……」

 

「それと一つ。忘れていないか?

赤龍帝をどうするか任せたのは君だよ。

だから、任された通りに探しだし、任された通りに処分した。

……もう一度聞くが、それの何が問題なのかね?」

 

「……君、詐欺師って呼ばれたことはないかい?」

 

「心当たりがまるでないな。

私は依頼通りにしただけだよ。」

 

サーゼクスはこれ以上は意味はないと理解して溜め息を吐いてから、いつもの穏やかな笑みを浮かべる。

 

「…今回はもうやってしまったことだし仕方ないとして許そう。今回だけだからな?

君がこちらに何かする気がないのは分かってるが、心臓に悪いよズェピア。」

 

「それは失礼。だがね、サーゼクス。

あの子はもうこちらに関わった以上はもう自分がどんな立ち位置なのかも理解してる。

故に、命の終わりまでは、赤龍帝としての役目など忘れてほしいという我儘を私は選んだ。

元より、私は放浪者だった身だよ。融通が効きにくいのは知ってるだろう。」

 

「知ってるけど、まさか強行手段に出るなんて思わないって。魔王の許可云々を度外視するのは度胸があるね。」

 

「褒めてるのかね?」

 

「呆れてるんだよ。」

 

笑い合う俺達。

今この時は、ただの個人でいられる。

先程の会話は魔王として、今は、ただのサーゼクスとして。

きっとこれから、その時間が少なくなるであろう彼に多少の申し訳なさを感じながら俺は笑う。

 

しかし、その時間と雰囲気は、サーゼクスが振りだした話によって壊される。

またサーゼクスが魔王として話をしだしたからだ。

 

「ところで、ズェピアには伝えておこうと思ってね。

 

アジュカが今開発中の悪魔の駒というものについて。」

 

「……悪魔の駒、かね?」

 

悪魔の駒…確か、チェスに見立てた駒で、人間とか種族問わずに転生悪魔にして眷族とする物。

しかし、これは悪用されてるのを知ってる。

例えば、私利私欲の為に問答無用で女を転生悪魔化させて性欲の捌け口にしたり、強い神器を持っている人間を無理矢理転生させたり。

悪魔化して逆らった眷族ははぐれ悪魔とされて討伐される。

 

そんな、道具だった気がする。

 

そして、サーゼクスが説明したのも、概ねそんなものだった。

 

「……なぁ、サーゼクス。それは、やめた方がいい。」

 

「何故だい?確かに、問題は発生するかもだが悪魔という種を存続させるにはこれ以上ない手だと思うんだが……。」

 

「君の言い分は分かる。現在の悪魔が少ないというのも知っている。

だが、その悪魔の駒はこれからの冥界に本当に必要なのかを考えてくれ。

私には、それが後に大きな問題となるようにしか思えないのだ。」

 

「……ふむ、君が言うなら、アジュカとも相談してみるよ。

それか、君がアジュカと話をするかい?」

 

「いや、それは勘弁してくれ。殺し合いになる。」

 

「ハハハ、物騒な冗談だなぁ。」

 

サーゼクス…前にアジュカ・ベルゼブブと会ったときの険悪なムードを忘れたのか。

もしや、気づいてなかったのか!?

おま、お前ぇ!

それでも魔王かよぉ!

 

しかし、悪魔の駒か……人間も無理矢理転生させられる……ね。

 

 

─フリージア。

 

 

彼女も、もしかしたら……

 

いや、やめよう。

それはさせない。

俺が守ると決めたじゃないか。

あの子は、俺の家族だ。オーフィスの家族だ。

 

だから、今は、考えなくていい。

 

「サーゼクス、話は終わりでいいかな?一刻も早く帰ってあの子の生活用品を揃えねばならないのだが。」

 

「……過保護にならない程度にしなよ?」

 

「過保護になる分には問題はない。」

 

「いや、それはどうなんだろう……。」

 

「ハハハ、まあ、君もいつか分かる。

では、然らばだ。」

 

俺は焦る気持ちを抑えて転移をする。

 

 

 

 

 

家にはすぐに着いた。

 

さっさと玄関の扉を開けて中に入る。

 

すると、今日に限ってオーフィスの出迎えがない。

 

楽しむような声も聞こえない。

 

まさか、とは思ったが、悪魔の駒はまだ開発中だ。

それに、攻め入られてるのなら俺にすぐに連絡が来るはず。

俺はフリージアの部屋に急ぎ足で向かった。

 

「……フリージア?居るかな──」

 

軽くノックしてから開ける。

すると

 

オーフィスと一緒に寝ているフリージアの姿があった。

とても、気持ち良さそうに寝ている。

 

俺は安堵の息を漏らす。

よかった、何もなかった。

あの話を聞いたとき、もしかしたらを考えてしまった。

怖かった。

招いたばかりとはいえ、新しい家族を早々に失うのは。

 

自分は弱いなと苦笑する。

どこまで人外の体を得ていようとそこは人間なのだと実感する。

 

「─私が守る。君の終わりまで。」

 

だが、既にこの身は死徒二十七祖。

そして、身勝手で助けた子がここにいる。

 

分かってる。

自由には責任が伴う。

俺の負うべき責任は、この子達を守ることだ。

親が守るのは当然だろう。

俺が親で、フリージア達が娘。

そういう家族構成でいい。

苦労を負うのは、俺一人でいい。

 

この子達は笑ってるべきだ。

片や孤独を永遠と過ごし、片や覚醒した力のせいで追放された身。

それに対して俺は?

俺は孤独を永遠と過ごしてないし、覚醒した力なんざない。

この力と姿は転生という反則で手に入れただけだ。

自分の望んだモノを手に入れてる俺は恵まれ過ぎている。

ならば、その恵みを、幸福を分けてもいい筈だ。

 

俺は笑みを浮かべながら部屋を後にしてプライベートルームへと向かう。

より力を得るために。

より高みを目指すために。

 

そして、よりあの子達を守る決意を強固にするために。

 

「……後は、服とかも買わねばな。」

 

 

 

──────────────────────

 

 

おっす俺ワラキー。

決意に満たされた日から数日は経った訳だが、報告がある。

 

フリージアとオーフィスが姉妹のようでとてもホッコリします。

何だそんなことかって思ったろう?

バッカお前ら、これは重要なことだ。

数日経った後もずっと円満にやれるかは分からないんだ。

だからこそ、少し様子を見てたんだが、全然心配要らなくて損しました。

 

現在はフリージアがオーフィスに本を読み聞かせてる。

俺の役目が奪われてる気が否めないけどそこはいいや。

寧ろ奪われていい。

微笑ましい光景だからね。

 

しかし、フリージアは知らない時もあるのでたまに聞きに来るのだが、勉学を教える父親とはきっとこんな気分に違いない。

 

ああ、もう幸せである。

 

「…フリージア、まだ数日しか過ごしていないが、聞かせてほしい。

ここに来て、今の生活はどうかな?」

 

聞きに来たフリージアに俺は尋ねる。

フリージアはキョトンとしてすぐに笑顔になり

 

「幸せよ。貴方とオーフィスが居てくれるからね。」

 

「……そうか、それはよかった。」

 

それを聞けて、俺はとても喜ばしく感じた。

笑顔で言われたのだ。嬉しくないわけがない。

 

 

 

 

 

「ところで、パパと呼んでくれたりは?」

 

「ごめん、無理。」

 



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日記1

明けましておめでとうございます!
ロザミアです。

そして、今回はとっっっっても短いです!

ではどうぞ。


・はじめに

 

この日記を読んでいるということは君はさぞかし暇なのか他人の思いを見るのが大好きに違いない。

それとも、ただ読者に徹したいが為か。

まあ、これはただの日記。

そこら辺にある自分のその日に起こったこと思ったことを正直に綴るだけの日記だ。

 

それでも見たいなら、好きにするといい。

 

 

○月○日 紫色の曇り

 

今日から日記をつけることにした。

暇だからという理由ではなく、単に昔こんなことがあったという事を懐かしみながら読みたいという未来への想いによる行為だ。

 

今日はフリージアとオーフィスの服を買いに行くことにして、二人の意見を聞きに行った。

二人とも特にこれといって欲しい服がないので、適当に見繕ってと言うので仮に外に出ても問題のない服を選りすぐった。

というのも、彼女達を外に出しては何をされるか分かった物でないしサーゼクスからもフリージアの事は口酸っぱく言われてるのでこうして俺が買いに行くわけだ。

 

店員からは白い目で見られてたので適当に親戚に贈る服と言っておいたら納得してくれた。

 

二人に渡したらとても嬉しそうにしてくれた。

笑顔でありがとうと言われたらこちらもまた嬉しくなる。

 

その後、暇になったので秘密兵器の開発に時間を費やした。

幸い、フリージアがオーフィスの面倒を見ると言ってくれたので個人の時間が多く取れる。

勿論オーフィス達との時間が少なくなるのは耐えがたいが……これからの事に備えるためだ、仕方ない。

 

数値にして55%といったところか。

これさえ出来れば後はもう試したりとかするだけなんだが、いかんせん追加機能に問題が生じる。

 

一体どうすれば……。

 

 

■月∀日 今日も曇り

 

体が重い。

今日は寝ていたい気分だ。

しかし、オーフィスが今日は俺に読んで欲しいと言うので眠い自分を叩き起こして付き合うことに。

 

あの子達を想えば、俺はまだまだ頑張れる。

 

 

☆月・日 天気を書くのはもうだるい

 

忙しくなって日記を書く暇が無かったせいで日にちが空いてしまった。

簡単に書くが、冥界復興がようやく区切りが付きそうな段階までいった。

サーゼクスとセラフォルーは現場監督を任されていた俺に感謝を述べてくれたが逆に俺の方が感謝すべきなのですると二人ともいやいやこちらの方がと譲らなかった。

アジュカ・ベルゼブブはこちらに中指立てながら感謝してきた。どうやら、悪魔の駒の批判が苛立ったらしい。

ファルビウム・アスモデウスに関しては気だるげにしているとしか言えない。

 

家族には働き詰めで心配されたが、何て事はないと答える。

これくらい、現代でもやってきたことだ。

 

寧ろ加害者が生物で安心すらしている。

天災なら本当に何も出来ないからな。

 

後は、個人の開発の方も問題を解決して完成に近づきつつある。

やり過ぎたとだけ言っておく。

これは世界の敵になる気かと怒られても仕方がない。

 

これは神器ではない。

 

これは地獄を生み出す可能性を持った兵器だ。

 

 

◇月▽日

 

困った。

悪魔の駒が完成してしまった。

アジュカはサーゼクスと共にすぐに実証をすると言って自分の眷属になってくれそうな者を探しに行ってしまった。

セラフォルーはとても困り顔をしていたが、大丈夫だろうか。

ファルビウム?あれは知らん。

 

悪魔の駒が現在の悪魔社会に適した物だと判断されれば一部の家に配布されることだろう。

……困った。

実に困った。

 

もし、もしフリージアがそれに巻き込まれでもしたら……

 

俺は自分を保てるか分からない。

 

もしかすれば

 

本当にアトラス院のズェピアの道を辿りかけるかもしれない。

 

 

・月"日

 

サーゼクスとアジュカが帰ってきた。

実証は成功したらしい。

その後、サーゼクスは妻のグレイフィアも自分の眷属にしたいと言っていた。

何でも、グレイフィアから言い出したらしく、成功すれば自分も眷属にしてほしいと頼んだそうな。

 

俺も何故か駒を渡されたが、どうすればいいんだ?

眷属なんて持っても面倒だし……

 

フリージアに一度聞いてみたが、やはり人として死にたいと言っていた。

 

人間が突然長く生きれる体になれば、きっとおかしくなる。

俺は、そう思う。

事実、型月世界でも人から人外になった奴は正気がおかしくなったりする奴が多い。

だから、フリージアがなりたくないと言ったときは心の底から安心した。

 

そうだ、それでいい。

君は、君のまま、人のままに死になさいとそう思いながら。

 

それと、開発の方は完成間近と言わせてもらおう。

完成した暁にはオーフィス達に時間を割くとしよう。

 

ああ、楽しみだ。

 

願わくば、このままの平和で────。

 

 

★月☆日

 

今日はいつものように過ごした。

開発の方に勤しみつつも家族と笑い合うような生活を過ごした。

 

…だが、今日は時折、フリージアが浮かない顔をする。

一体どうしたのだろうか?

悩み事でもあるのかと聞くと、すぐに何でもないと言ってはぐらかされた。

 

困った。

そうはぐらかされるとこちらは何も出来なくなる。

 

オーフィスも心配してたし、何かある前に早めに相談してくれと言えば、笑みを浮かべて頷いた。

 

……何だろうか?

外にはバレない範囲で出しているし、本人も不満そうにはしていなかった。

 

……駄目だな、分からない。

だが、早く打ち明けて欲しい。

俺が出来ることならば、何でもしよう。

家族が悩む姿はこちらも辛いものだから。

 

 

月 日

 

 

今日、フリージアが姿を消した。

 

 



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赤い龍、白い龍、タタリの夜

どうも、ロザミアです。

お気に入りが40越えて感無量といった感じで書き上げました。

展開が早いかもですが、そこはお許しください。
後、ドライグ君がかませです。


……やあ、皆の衆。

俺だ、ワラキーだ。

 

…いや、守ると宣っておきながら守れていない大馬鹿者だ。

 

何故、テンションが低いのか?

ハハハ、まあ、説明するよ。

 

簡単だ、フリージアがいなくなった。

まさかと思って冥界中を探した。

居なかった、どこにも居なかった。

オーフィスも探してくれているが、未だ発見の報告はない。

 

何故だ、何故居なくなった?

生活に不満が?

いや、不満があれば逃げ出してもよかった筈だ。

彼女はそれが出来る人間だ。

 

…赤龍帝の役割を重視する気になったか?

違う、絶対に違う。

彼女は戦いを望まない人間だ。

 

……。

…………。

………………。

 

……ドライグか?

ドライグが、操っているという線は?

アルビオンと戦う為に操り人形にしている可能性は?

 

 

「─キ、キキ…」

 

可能性は、ある。

地上を旅していたときに怨念が人を操るという事例を何度も目撃した事がある。

 

それと同じ方法ならば?

 

─彼女はドライグに操られ、地上に行った可能性がある

─ドライグの目的は、アルビオン

 

ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな。

 

あの子は戦いを望まなかった筈だ。

あの子はただ幸せに生活していたかった筈だ。

 

何故だ、何故そんな塵にも満たない運命に巻き込む?

 

「……オーフィス。」

 

俺はオーフィスへ通信を入れる。

すぐに返事が来る。

 

『ん、ズェピア?フリージア、見つけた?』

 

「地上にいる可能性の方が高い。今から私は向かうが君は?」

 

「行く。」

 

返事は通信からではなく、後ろからにした。

流石は無限の龍神。力だけでなく速さも末恐ろしい。

俺は『ある物』を懐へ仕舞ってからオーフィスと共に地上へ転移をする。

 

 

───────────────────────

 

 

─怖い。

 

目の前にいる龍が、私を睨む。

 

確か、私は……寝ていた筈だ。

気分が優れないからとズェピアに言って一人ベッドで寝ていた。

 

『おい、人間。何故戦いに身を投じない?』

 

赤い龍は私に疑問を投げ掛ける。

喋ろうにも、声がでない。

恐怖で震えてしまって、目の前の龍が私を殺そうとしているように見えて喋れない。

前までずっと会えたら文句を言ってやると思っていたのにいざ目の前に出るとなにも言葉を発することができない自分が、とても弱く感じた。

 

「ぁ、あ──」

 

『ふん、恐怖に支配されているのか。

やはり軟弱な人間だな。

まあ、いいだろう──』

 

何がいいのだろうか。

私が戦わなくてもいいということだろうか?

私が、平和に過ごしてもいいということだろうか?

 

しかし、目の前の龍はニヤリと笑いながら私を─

 

 

『代わりに、俺が貴様の体で戦ってやる。』

 

「え───」

 

─呑み込んだ。

 

ああ、熱い、熱い、熱い!

燃えたぎる炎の中に放り込まれたかのように私の精神を焼いてくる。

きっと私を殺して、体を乗っとる気なんだ。

 

 

─ああ……助けて…ズェピア。

 

 

全身を焼かれている私の意識はそこで途絶えた。

 

 

 

───────────────────────

 

 

オーフィスと共に空を飛びながらフリージアを探す。

 

もし白龍皇と出会ってしまえば殺されてしまう可能性が高い。

 

「……!ズェピア、ドライグの気配。」

 

「案内してくれ。」

 

オーフィスが先行して俺を案内してくれる。

……。

 

「オーフィス、白龍皇の気配は?」

 

「まだ遠く。でも、急いだ方がいい。」

 

「遠くか……くそ、何なら知らぬところで死んでしまっていればいいものを。」

 

今出せる最高速でフリージアの元へと急ぐ。

これで突如白龍皇にでも接触なんてことがあれば俺は対処しなくてはいけない。

困る、非常に困る。

 

フリージアを連れ戻せても彼女により強い恐怖が残ってしまうだろう。

それは回避しなくてはならない。

 

気配はしても大怪我をしてないとは限らない。

龍のオーラは厄介事を呼び寄せると聞く。

 

オーフィスが止まり、こちらを見ながら下へと指を指す。

 

「ズェピア、下にいる。アルビオン、まだ。」

 

「ああ、よかった……。」

 

下へ降りるとフリージアが静かに立っている。

 

「……ズェピア、ドライグの気配、濃い。」

 

「そうか…探したよフリージア。」

 

「……チッ、白いのより早くに見付かったか。」

 

普段より荒々しい口調でフリージアはこちらを見る。

 

「吸血鬼、貴様のせいでこの人間は白いのとの戦いが遅れた。」

 

「おや?君の宿命には宿主は付き合わないと言っていたが?元々、彼女の命は彼女のものだ。

平穏に生きようとするのを戦いに追いやるなど私にはとてもとても。」

 

俺は苛立ちながら口を開いたフリージア…ドライグに正論をぶつける。

何が宿命だ、お前の遊戯に付き合うこちらの身にもなれというものだ。

 

「そんなもの、俺らの戦いを邪魔したのが悪い。

お前らさえこちらを邪魔せずに勝手に滅んでいればこの娘もこうはならなかったろうよ。」

 

「それで人類も巻き添えを食らえば本末転倒だよドライグ。君のそれはただ舞台を終わらせたくない子供の我儘に過ぎない。

それに、君達は三勢力にやられずとも他の神話体系にやられていたろうさ。

それほど、君達は邪魔でしかなかった。

分かるだろう?君達が弱者を殺すように、世界も君達を殺しただけだ。

それが真実だよドライグ。」

 

「貴様……俺を弱者と同列に扱う気か!!」

 

「おや?他の種族に寄生してまで宿命の相手と殺し合いを続けたいなど我儘が過ぎると言っただけだが?

ああ、そうだったね、今の君はとても弱かったなこれは失敬。」

 

ドライグは煽りに耐えきれなかったのか俺に向かって殴りかかってきた。

オーフィスが止めようとしたが俺はそれを手で制止して

からこちらへ来る拳を壊れない程度に手に力を入れて受け止める。

 

これは俺が招いた結果でもある。

煽るだけ煽ってさっさとご退場願おう。

 

「かの二天龍も、所詮は依存しなければ生きれない存在に成り下がった。

それでは私を越えることは愚か白龍皇に呆れながら殺される事だろう。」

 

「チィ……!やはり宿主が雑魚ではどうにもならんか!」

 

「雑魚とは酷いな、心優しいと言ってくれないか?

君は少々、強さで物事を考えるようだ。

流石は龍だよ。

これからの時代で遅れていくその思考、私は褒め称えたいね。」

 

「貴様ァ……!!」

 

おお、怖い怖い。

怒りの表情で俺にラッシュを仕掛けてくる。

倍加したのか先程よりかは力が上がっている。

……まあ、生娘の体にしては、が付くが。

 

俺はそれを後ろに下がりながら体を反らしたりして避ける。

 

「……ふむ、もういいかな。」

 

俺はドライグの後ろへと転移して首筋へとエーテライトを刺す。

まずは体の自由を奪うとしよう。

 

「なっ、くそ、体が……貴様、何をした!」

 

「対処しただけだが?さて、君にはさっさとご退場願おう。そうだな、期間は……この子が死ぬまで。」

 

「まさか、く、動け、動け!」

 

口だけは動くので焦りながら何とかその状態から抜け出そうとしているが無駄無駄。

脳に信号を送り返せる位になってから出直してもらおう。

 

俺は脳へとある命令を送る。

するとドライグはピタリと止まってから糸の切れた人形のように首を垂れる。

 

よし、エーテライトはもう抜いていいかな。

 

「ズェピア、フリージア戻ってくる?」

 

「そうなるようにしたから、大丈夫だと思いたいがね。」

 

「……ん、ここは……」

 

「ズェピア、フリージア目を覚ました。」

 

「そのようだね。やあ、気分はどうかなフリージア。」

 

「ズェピア……?それにオーフィス…あれ、私、なんで?

さっきまで、あの龍に呑み込まれて、それで、燃やされて……!」

 

「落ち着きなさい。もう大丈夫だから。」

 

だんだんと思い出してきたのか体と声を震わせるフリージアを抱きしめ、落ち着かせる。

オーフィスも不安そうにしている。

 

……チッ、あの赤い蜥蜴が。

 

「ぁぁ…もう、平気?呑まれたりしない?」

 

「ああ、もうないとも。すまなかった、君の異常に気付けなかった私の責任だ。

許してくれ。」

 

「……ううん、ズェピアは悪くない、私が悪いの。

抗えなかった私が……オーフィスも心配かけてごめんね。」

 

「…ん、心配した。でも、もう安心。」

 

「うん……。」

 

「さ、帰ろうか。」

 

「うん…。」

 

立てるか不安だったが普通に立てたので、すぐに転移───

 

「……オーフィス、すまないが、フリージアを連れて先に行っててくれないかな。」

 

「……分かった。」

 

「え、ズェピアは──」

 

「ではまた後で。」

 

俺はフリージアの喋っている途中で二人を我が家へ転移させる。

何故俺も転移しなかったのかと言うと……

 

「おいおい、何で逃がしちまったんだよ。」

 

「いやすまないね。あの子は私の家族でね、危険な男に会わせるわけにはいかないだろ?」

 

この飛んできた男に会うために転移しなかった訳だ。

丁度いい、白龍皇にも話をつけようじゃないか。

 

「だが、アイツは赤龍帝だろう?なら、白龍皇の俺と戦うのが運命って奴だと思うがね。」

 

黒髪長身の男は俺に好戦的な笑みを向ける。

チッ、そういう類いの人間はもう少し後の奴で十分なんだがな。

 

「そのような運命、私は認めるつもりはないよ。

ところでだが、この際、もうあの子に関わるのはやめてくれないかな白龍皇。

私としてもあの子としても、もう二天龍関連は勘弁したいモノでね。」

 

「なら、俺を殺すことだな。

俺はようやくこれ程の力を得れたんだ。

それを使わないなんて勿体無いだろう?

俺は戦いたいんだよ、強さを競うとかじゃない。

ただ純粋に楽しみたいんだよ、戦いを!」

 

「その手の戦闘狂は私達にではなく他の神話に向けるべきだと思うがね。」

 

「そこは、アルビオンがうるさくてよ。

赤いのとの長きに渡る決着をってな。

正直俺にとってはどうでもいいんだが、使ってる力の大元の頼みだしな。

片付けてからやろうかと思ってたんだが……保護者の方が強そうだな?」

 

「いやいや、私は全く強くないとも。

君と戦うより読書をしている方が有意義だ。

そんなか弱い舞台監督気取りと戦いたいと?」

 

露骨すぎると思ったろうが、乗ってくれたら俺としては嬉しいね。

何故って……ほら、ウチの子を怯えさせるゴミ屑を消せるでしょ?

殺しに対する恐怖とか、そういうのはもうとっくに耐性付いてるんだよ。

家族を失うよりも怖いのか?んな訳ないでしょ?

向こうから関わらなくなるならそれでいいけどこいつは

またやってくるかもしれない。

なら、こいつは邪魔だ。

家族に害をなすなら、全部邪魔者だ。

 

「そういう奴ほど強いって相場は決まってるだろ。

なあ、アンタも本当は戦いたいんだろ?

だから露骨に誘ってきやがる。

構えろよ、保護者さん!

お前を殺したら次は赤龍帝だ!」

 

……堂々と宣言しちゃってまぁ。

まあ、確認は取ったからな。

逃げなかったアンタが悪い。

 

「そうか……非常に残念だ。

関わらないという選択肢はないということかね。

逃げないということかね。

ああ、仕方がない。

こんな所を劇場にするなど舞台監督として三流もいいところだが役者からの希望に応えるのもたまには一興というもの。

さぁ──」

 

辺りが暗くなる。

空が夜へと変わっていく。

本当はこんな事しなくてもいいんだが、冥土の土産というヤツだ。

少し、やる気を出して殺すとしよう。

 

そして、空が赤く染まり───

 

 

「─虚言の夜を始めよう!」

 

 

─舞台は幕を開ける。

 

 




はい、次回はついに戦闘です。
上手く書けるかは分かりませんが、頑張ります。

何故急に夜になったかというと特典の改造版タタリにあります。

まだ説明できませんが。

後、感想をくれると嬉しいです。
やる気が上がります……


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白龍皇、蹂躙

どうも、ロザミアです。
白龍皇との戦いなんて言ったけど、タイトル通りです。

マトモな戦闘なんて書けるわけ無いだろ!(開き直り)

では、どうぞ


舞台は幕を開けた。

夜は赤へと染まった。

役者は既にこの場に揃った。

ならば始めよう、ならば終わらせよう。

 

この下らない三流劇を。

 

 

───────────────────────

 

 

「何だ、空が……」

 

「よそ見をしていいのかね。」

 

俺は空を見て隙だらけの男にほぼ一瞬といっていいほどの速さで接近して鋭く伸ばした爪で肉と骨を裂かんとする。

 

「うぉっとぉ!中々速いなアンタ!」

 

反射的といった様子で大きく跳んで後退し、『白龍皇の光翼』を展開し俺には多少劣るがそれなりの速さで肉薄し鳩尾へ拳を叩き込みに来る。

 

まあ、当たるわけないでしょ。

分割思考もあってこちらの防御姿勢は完璧よ。

即座に体を逸らすだけで避けて腕を掴み、地面へと叩き付けるが

 

『divide!』

 

という声が響くと共にこちらの力が弱くなったのを感じる。

現に地面がクレーターも出来ないでただ叩き付けたという結果になっている。

まあ、本人は威力を殺しきれずにガハッと言ってますが。

なるほど、こういう感覚か。

今の内に把握しておかないとな。

 

「ふむ、これが半減の力か。なるほど確かに厄介だ。」

 

『宿主よ、この男は危険だ。お前では勝てん、一時撤退をするべきだ。』

 

この声はアルビオンか。

なるほど、賢い選択だが数分遅かったな。

当の本人は即座に立ち上がって俺から距離を取って

 

「撤退だぁ?ふざけんじゃねぇ!」

 

と怒ってますね。

いやいや、お前よりも長く生きた実力者の忠告なんだから従えよ。

これには俺も呆れる。

 

「君、一応年長者の言葉は聞き入れるものだよ。」

 

「知らないね、俺の体は俺のものだこいつのものじゃない!俺が何をしようと勝手だ。

それで死んだのならそれまでだ、そうだろう?」

 

「私に同意を求められても困るな。

私は至って平凡な死徒だからねぇ。

まあ?力の差を自覚しながらも挑む勇気は認めよう。

蛮勇ともいうがね。」

 

「ハッ!だったら俺の力が通じるくらいに半減させてやるだけのことよ。」

 

……どうやら、まだ勝てると思われているらしい。

心外だな、とても心外だ。

仮にもこの身は死徒二十七祖。

それを龍の力の一部を使える程度の若造が勝てるつもりでいる。

嘆かわしきかな、その無謀さは報われることなく打ち砕かれる。

彼はこの場で赤い花を咲かせ即座に散らす運命だ。

 

「不愉快、実に不愉快だ。

君は私に勝つ腹積もりなのだろう?

半減、半減ねぇ。

なあ?後、何回半減すれば君のその貧弱な拳は私の腕を砕くのだね?

君のその脚は私の足を壊すのだね?

可能性の、それも低い可能性の話を私の前でするのは愚行というもの。

君は逃げなかった。君は忠告を聞き入れなかった。

故に、この地で死ね、若輩者。」

 

「へっ、今すぐ死ぬ訳じゃねぇんだ。

足掻ける処まで──」

 

『後ろだ!避けろ!』

 

アルビオンの言うとおり、白龍皇の後ろから巨大でいてかつ鋭い獣の爪のような攻撃が迫るが、寸でのところで避けられてしまった。

あーあ、それで死んでりゃよかったものを。

 

「─ッ!?なんだ、こいつ!?さっきまで気配を感じなかったぞ……!」

 

「当然だ、今この場(・・・・)で出したのだからね。」

 

白龍皇の後ろに突如現れたコートを着た大男─ネロカオスが不敵に笑いながら地面へ溶け込み、俺の隣へと現れる。

まず、一人。

 

「今出しただと?そんな準備をするような仕草、どこにも……」

 

「あったとも、最初にね。ほら、見たまえ空を。

赤い夜(タタリ)があるだろう?」

 

「まさか……まさか!この夜の顕現してる範囲内全てがそうだってのか!?」

 

「そうだ、そうだとも。だから宣言したじゃないか。

虚言の夜を始めようとね。

さぁ、足掻きたまえ藻掻きたまえ!

一人増えれば二人増え、二人増えれば三人増える。

君が何に挑んだのかその身でじっくり味わうといい。

戦いたいのだろう?戦いの場はもう用意してやったぞ!」

 

次々と白龍皇の周りから黒で塗り潰された人型が現れる。

それはナイフを構えた青年であったり、黒鍵を握る少女であったり……真祖であったり。

 

白龍皇はこの状況を予想していなかったのか唖然としており、勝ち気な笑みは消え、冷や汗が止まらず、青ざめていき、震えていく。

 

「あ、あ?」

 

さあ、蹂躙の時間だ。

五分持てば褒めてやる。

 

「ああ、安心したまえ、君の要望通り──」

 

俺は普段閉じている赤く染まった目を開け、三日月のように笑いながら

 

「─全て、本来の強さだよ。」

 

そう告げた。

 

「あ、ぁぁ……アァァァァァァァッッ!!?」

 

 

男は悲鳴をあげながら、傷付きながらも半減し、殴り、蹴り、抗う。

 

抗う、抗う、抗う抗う抗う抗う抗う抗う抗う抗う抗う抗う抗う抗う抗う抗う抗う抗う抗う抗う抗う抗う抗う抗う抗う抗う抗う抗う抗う抗う抗う抗う抗う抗う抗う抗う抗う抗う抗う抗う抗う抗う抗う抗う抗う抗う抗う抗う抗う抗う抗う抗う抗う抗───

 

 

 

 

─おうとして、ついに千切れかけていた両腕が落ちて、痛みに耐えきれずに声をあげたところを青年のナイフに喉元を刺されてしまった。

 

男は当然のように倒れる。

血溜まりの上にベチャリと音を立てながら倒れる。

苦しそうに、可哀想に、滑稽に掠れた声を出しながら。

 

俺はタタリを解除して男の側まで拍手をしながら歩み寄る。

生きている、まだ生きているじゃないか。

 

「ハハハハハハ、凄いじゃないか。

手加減に手加減を重ねたとはいえ二分耐えたぞ。

どうした?もっと喜びたまえ!

君が望んでいた闘争だ。

君の見たかった血溜まりだ。

君のしたかった圧倒だ。」

 

「ァ─ヒュー─ヒュー───」

 

「さて、どうやらもう劇は終わりらしい。

嘆かわしいな、本当に。

これからが本番だというところで役者が息絶えては一人芝居ではないか。

まあ、よく踊ったよ君は。

これは監督としてお礼を与えなくてはね。」

 

体を動かす事も儘ならない可哀想な男の頭を掴んで持ち上げる。

男は俺に恐怖に染まった顔で睨み付けてくる。

まだ睨めるか。凄いじゃないか。

 

「─化け─物─め──!」

 

「化け物?化け物ときたか……いやはや、実に、実に的を射ている!

ようやく真理に辿り着けたようでよかったよ。

そうだとも、私は化け物、タタリ、ワラキアの夜だ。

本当は殺して放置という形にしようと思ったがこれはもっとも相応しい最後にしてあげよう。

 

血を全て吸われて死ねるなんてそうそうない体験だよ。」

 

そして俺は、男の生き血を飲み干す。

ネロカオスが暴食ならばワラキアの夜は暴飲。

そんな俺がチロチロと飲むわけないだろ。

一瞬だ。

 

白龍皇だった者は既に死に絶え、神器である『白龍皇の光翼』も消える。

……結局使う機会が無かったな。

いや、無いだけマシか。

これを使うということは俺の敗北の危険性が高いということだからな。

 

ああ、しかし……

 

「脆いなあ……脆い、弱い、馬鹿と三つも揃っている役者はそう居ない。その点で言えば彼は名役者といえよう。

まあ、この世界ではそれは大根役者という奴だがね。」

 

こんなんに苦戦するようなら俺はとっくに死んでいる。

アルビオンは不運だったとしか言いようが無いな。

宿主の性質は間違ってはなかったが、そいつが驕るような奴だったのが今回の出来事の原因といえる。

ま、龍の事情なんざ知ったことではない。

人様の家族に手を出すからこうなるんだ。

アイツらも学べばいいが……。

 

俺はさっさと転移して我が家へと戻ることにした。

 

「次はもっと上手くやりたまえ。

誰を標的にし、誰を避けるのか。

それが出来てようやく一般の役者と言えよう。」

 

既に物言わぬ死体に、俺は言葉を言い残して転移した。

 

 

───────────────────────

 

 

さあ、帰ってきましたよ冥界の我が家へ!

ハハハ、ワラキーキメたから今日の俺は絶好調だ。

 

さてさて、フリージアとオーフィスの様子はと……

 

俺は玄関から中に入り、フリージアの部屋へと向かった。

オーフィスが一緒にいるから大丈夫だと思うけど…。

 

部屋の前へ着いたのでノックして居るかどうか確認する。

 

「っ、ズェピア!?」

 

「やあ、待たせたかな?私だよ。」

 

「ん、おかえり。」

 

「ああ、ただいまオーフィス。……フリージア、悪い虫は追い払ったからもう安心だよ。……フリージア?」

 

フリージアからの反応がなかったので見ると、顔を俯かせ、泣いていた。

え、あれ?

何故泣くのか。

オーフィスと顔を合わせて困惑する。

とりあえず何故泣いているのか聞こう。

 

「フリージア、何故泣いているのかな?」

 

「だって、だって……貴方、無事だったから…突然、転移しちゃったからずっと心配で。

私のせいで貴方が居なくなっちゃうんじゃって…それで、それで……!」

 

ああ、そういうことか。

…思えば、自分の強さを知ってるのは誰も居ないからなぁ。

そりゃ、心配するのも当然か。

それに、この子は優しいからな。

白龍皇邪魔だったんで殺しましたなんて言ったら私のせいでって言うに決まってるし……。

 

俺はいつまで立ってても仕方ないと思い、中に入って扉を閉めてから優しくフリージアを抱きしめる。

オーフィスはフリージアの頭をよしよしと撫でている。

可愛いなおい。

 

「心配せずとも私は君達を置いて死にはしないとも。

私はこう見えて強いんだ。それに、無事に帰ってきたのだから何か一言あってもいいと思うのだが…具体的には、帰ってきた者に対する台詞が私は欲しいものだ。」

 

「ぐすっ、うん─」

 

フリージアは泣き止み、抱擁を解いてから涙を拭ってから花が咲いたような笑顔で言った。

 

「─おかえりなさい。」

 

「─ああ、ただいま。」

 

この子は、この表情が一番似合う。

守れてよかった、この笑顔。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ところで、これだけ頑張ったからそろそろパパと呼んでほしいのだがね……」

 

「それは無理。」

 

「ズェピアは、親戚の叔父さん、みたいな?」

 

「これは手厳しいな……叔父さんはやめてくれ、叔父さんは。」

 

今年一番心が傷ついた瞬間かもしれないワードを言われて心の奥で涙を流したのは言うまでもない。

あ、そういえば白龍皇の血って飲んだけど平気だろうか?

半減の力が俺の物に!

 

後日試したけどそんなことはなかった。くそが。




あくまで気ままに生きる物語なんで戦闘も適当に終わります。

ほのぼのが主流なんで……主流なんで……。


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まだ魔王少女じゃないのに片鱗が少し見える件に

どうも、ロザミアです。

すいません、お気に入りが自分のものかと五度見したほどに驚いてました。
泣きました。

皆さんありがとう、ありがとう!

ではどうぞ(真顔)


やあやあ皆の衆。

お元気かな?

俺だ、最近白龍皇とかいう奴を殺sゲフン!

…バッドエンドへ導いたワラキーだよ。

そちらはもう終わってるかもだが冬休み等がそろそろ終わるので一部は宿題に明け暮れてたりするのではないかな?

 

まあ、俺は冥界復興も後は魔王達に任せるという形で年中休みだよ。

手伝わなくていいのかって思うだろうけど、後は政治的な細かい部分だからな。

俺が手を出しても意味はないだろう。

こういうのはサーゼクス達がやるに限る。

これぐらいやらないと魔王やってられんしね。

 

さてさて、例の如くまたしても日が飛んでるんだ。

どれくらいかというと6日位。

 

というのもフリージアが立ち直るのも時間がかかったからね。

まあ、何度も言うが只人が突然力を得て争わずにいたら操られていたのだから仕方がない。

全く世の中どうなってやがるってんでぇ。

これティアマットとかは優しい方やったんやなって。

あっちは話が分かるからね。

どっかの白と赤の蜥蜴よりも貫禄あるね。

 

そういえばだが、皆は前回の話で見た通り、ワラキアの夜の能力である……というか、まあ名前でもある

『タタリ』を使った。

ここで疑問に思うだろう事の解決をしていこう。

幸い、家族は事情があって今日は別室で遊ばせてるからね

 

さて、タタリというのはいわゆる噂の具現化だ。

人々の不安、期待、渇望等を聞き取り、その中で一番都合のいい噂を選びとりその噂通りの姿になって虐殺を行っていくというもの。

つまりは、メディアとかのを利用したってことだ。

 

だが、皆はうん?なら何で前回は噂もないのに具現化出来たんだって思ったことだろう。

というわけでそれに対する解答だ。

今更だがメタい話、プロローグでタタリの改造を施したろう?結構な要望にしたけど神は叶えてくれた。

その特典がこの『無条件の具現化』だな。

いうなれば、アルクェイドの『空想具現化』と同じような事を俺はしてるわけだ。

俺の場合はしっかりとした形をイメージした上での具現化だから、妄想具現化の方がしっくり来るだろう。

 

あの赤い夜も俺がイメージして作り上げたものだ。

何で赤い夜かと問われるとまた長い話になるんだ。

アルトルージュ・ブリュンスタッドとの契約期限でのおよそ千年後の赤い月の夜を再現したわけだ。

ワラキアの夜を知ってる人なら、ならタタリとしての力も削がれるのではと思うかもだが、俺は契約してないからね、再現しただけで、俺には何の害もない。

え?特典のデメリット?

 

……あるよ、一応。

なんであるのかって?お前、能力に穴がないなんてそれつまんねぇからな?

どんだけ強いビーストも倒せる仕様でしょ?

そういうことだよ。

 

他にも改造は施してあるが、それは企業秘密だな。

また使ったときに解説するよ。

分かりづらいと思うけど……。

 

さて、今日はお客が来るのだ。

準備準備……ん?誰が来るのかって?

ああ、そういや言ってなかったな。

 

セラフォルー・レヴィアタンだよ。

まだレヴィアたん☆とかじゃない時の。

まあ、唐突すぎて分からないよね。

簡単に説明すると、この前の白龍皇についての報告とかだね。

サーゼクスじゃない理由としてはアイツが一番働かないといけない役職だからだ。

 

外交担当も働かないといけないんだが…魔王の中でサーゼクス以外で仲いいのセラフォルーなのよね。

まあ、アイツから来るとか言ってたしこうして掃除とかして待ってるわけよ。

こらそこ、ご都合主義とか言わない。

ご都合主義ならもっと簡単に事が進むからね。

 

そろそろ来るかな。

 

…おや、結界に反応あり。

丁度いいタイミングで来たようだ。

 

俺は玄関へと赴き、扉を開ける。

 

「やっほー、報告を聞きに来たよ☆」

 

扉を開けると予め俺が来ると予測してたのか可愛らしい()ポーズでピースキメながら挨拶してきた友人魔王の姿が。

 

…なんだろう、もう原作状態に片足突っ込んでない?

おっかしいなぁ、まだ魔法少女という概念は誕生してないんだけどなぁ……え、俺がおかしいの?

目の前のツインテール黒髪美少女悪魔がゴキブリさながらこれからの世に対応していくのを喜べばいいの?

嫌なんだけど、だってあれだよ?

友人の魔王が未来で魔王少女レヴィアたん☆とか言うんだよ?

喜べる奴は中々の鋼鉄の精神持ってるよ?

仕方無いね、俺は諦める。

もうこっちが対応するのに疲れるよ。

 

「……なあ君、恥ずかしくないのかね?」

 

「…正直、ちょっとだけ抵抗感はあるかな。」

 

「それでもちょっとな辺り私は尊敬するよ。」

 

「うん、何とかフォロー入れてくれようとしてくれるのは有り難いけど辛い現実に目を当てて頑張ることにするね。」

 

偉い。素直にそう思ったのは俺だけではないはず。

この少女?は場の空気すら乗り越える選択を選んだのだ。

それがお前の選択か○ドガー。

 

「まあ、上がりたまえよ。ここじゃ寒いだろう。」

 

「うん、お邪魔しまーす。

相変わらずデカいんだね、ズーちゃんの家。」

 

「ズーちゃんはやめろ。」

 

…生前の友達の女を思い出すなぁ。

ズケズケと入ってきては酒を共に飲んで騒いで帰っていったっけかな。

セラフォルーはそんな風には見えない。

というか、未来でめっちゃ満喫しててその姿を想像できない。

 

…友人、ね。

 

いずれは敵対するというのに友人とは、笑える。

何をしてるんだか俺は……もうちょっとスリルのある生活にすりゃよかったか?

いやいや、俺は平穏な生活を決行日まで過ごすと決めてるんだからそれはアウトでしょうが。

 

そんなこんなで客間まで案内して座らせ、紅茶を淹れる。

 

「紅茶淹れて貰ってるところ悪いんだけどもう話始めていい?」

 

「構わないとも。白龍皇についての報告をすればいいんだろう?」

 

「うん、お願いね。あ、嘘つこうとはしないでね?」

 

「ハハハ、すると思ってるのかな?」

 

「うん、思ってる♪」

 

「わあいい笑顔、私はとても信頼されてるようで嬉しいよ。」

 

この子辛辣じゃね?

確かに初対面に遊んだのは俺だけどさ……。

具体的にはタタリの無駄な使い方をして、具現化させたゾンビを後ろからつつかせたりしてました、すいません。

セラフォルーファンの皆!ごめんね!

涙目可愛かったよ!ごめんね!

 

「あの時の事まだ許してないから、今度スイーツ奢って貰うからねっ。」

 

「金が飛ぶのが見えたぞ。

さて、話を戻すが……結論から言うと、白龍皇なら殺したよ。」

 

「へぇ~…中々の実力があるって聞いてたんだけどなぁ。」

 

「ほう、何処情報かね?」

 

「逃げ延びた悪魔君からかな。

ま、力も無かった子からの証言だし宛にならなかったって事かな。」

 

「意外と驚かないのだね。」

 

「まあ、ね。ズーちゃんの強さは今話してるだけでも分かるし。」

 

「ただの人間で半端な戦闘狂だったからね。

恐怖を与えて蹂躙しただけだよ。

後ズーちゃんはやめろ。」

 

「…ところで保護してるっていう赤龍帝ちゃんなんだけどね。」

 

ニコニコと文字表記出来そうな位先程から笑顔で話しているセラフォルー。

実に不気味というか、底が知れない。

 

「ふむ、フリージアがどうかしたのかな。」

 

「フリージアって名前なんだ。

その子、眷属にはしないの?駒は貰ってるでしょ?」

 

「…それは、どういう立ち位置としての発言かね…。」

 

「友人としての私。確かに貴方がそういうことを好まないのは分かってる。でも」

 

「眷属にした方が危険は少ない、だろう?」

 

「…そう。」

 

「セラフォルー、それくらい私は理解してるとも。

だがあの子には既に断られた身でね。

強制して悪魔にするのは簡単だ。

だが、その行為によって家族としての絆が崩れるのは割りが合わない。」

 

「…そっか~断られたんなら仕方無いね。

でも、気を付けて。悪魔の駒を手に入れて悪い考えを持っている貴族も少なからずいる。

下手に外に出せば……分かるでしょ?」

 

セラフォルーの言うことはもっともだ。

万が一に対応するのが難しいことは赤龍帝の件で十分に理解させられた。

万が一、フリージアが悪魔にでもされたら困るからな。

 

俺というものを理解してくれてるようで安心したよセラフォルー。

紅茶を渡して座り、自分も飲む。

 

「忠告感謝しよう我が麗しき友人よ。

しかしだな、どうも解せない事がある。

その危険性を理解した上で何故悪魔の駒を造ることに賛同した?」

 

俺の質問にセラフォルーは顔に影を作る。

 

「分かってるよ。いつかこれに関連した暴動の類いが起きる可能性があることは。

でもね、今の悪魔は繁栄という問題だけじゃなくて、三勢力による戦争の事で精神的なダメージも高いの。

だからこそ…」

 

「新しいナニカで四大魔王としての信頼と信用が欲しかった、と。」

 

「そう。」

 

「……まあ、いいんじゃないか?

そういう理由で何かをするのは仕方がないことだ。

戦争により古くから民を統治してた真の王は皆死んだ。

それによるダメージは多大なるモノだろう。

若い君たちが魔王として引っ張らなければ動かないほどにね。

そういった意味では君達は賞賛されるべきだ。

まあ、悪魔の駒の性質は気にくわないが、それはそれだ。」

 

「それアジュカちゃんの前で言っちゃ駄目だからね?

本人なりの解決策を探した結果なんだから。 」

 

「彼と私は仲良くするということはないと思うがね。

錬金術師と開発者ではあるが…価値の見方が違うからね。悪魔の駒は凡そ全ての存在を悪魔に出来る代物だ。忌み物と言ってもいい。

だが、これだけは覚えておいてほしい。

これからは人の世であり、人が世界を使い潰す時代だ。

それが悪であれ善であれ、我々が関わりすぎては全てが破綻する。

まるで積み上げてきたトランプタワーが少しつつくだけで崩れるようにね。

我々人外が好き勝手出来る時代は過ぎたのだと。

まあ、人の世を満喫するくらいは、いいんじゃないかな?」

 

「随分と、人間が好きなのねズーちゃんは。

冥界に住む前に人間に関して良いことでもあった?」

 

人間に関して良いこと……ううん、あったか?

いや、どうだろうか。

ああでも、一つだけ思ってることがある。

 

「それに関してはどうも言えないが…一つだけ断言しよう。

人はとてつもなく畜生な存在だ。」

 

「ええ!?さっき散々支持するような事言ってたじゃない!?」

 

「あくまでこれからの世に対しての発言だよ。

私の感性からの言葉ではないし、私の本心でもない。」

 

「そ、そう……じゃあ、本心ではどう思ってるの?」

 

「……そうだな。」

 

人の世界

人が全てを利用し尽くした世界

地球の意思が救援を送るほどの世界

 

─鋼の大地

 

あれを考えると元人間の俺でもこんな結論が出る。

 

「滅びるべきだろう。文字通り、全てね。

地球の為を思えばだがね。

だが、それをする権利が誰にあろうか?

この世界にはあれど私達という個体には何も権利はない。

そう、どれだけ強くても、どれだけ賢くてもね。」

 

「…貴方はやろうとは思わないの?」

 

「まさか。私がやろうとしてもせいぜい、滅びの回避に全てを費やして……最後に狂うだけだろうさ。

君はしたいと思うのかな?思わないだろう?

これは神話などは関係がないのだよ。

世界からすれば、皆何れは滅びる存在に過ぎない。

なら、今に全力を注ぐのが一番得策だろう?」

 

そう、どんなに強大な存在でも、それを打ち倒す存在はいる。見下ろす存在はいる。

例えば、真祖を倒した魔法使いのように。

例えば、強大な吸血鬼を殺した青年のように。

 

「まあ、そんなところだよ。

私の見解など意味はない。

報告の続きというより、話を続けようじゃないか。

結局のところ、白龍皇は何時ぐらいに人間へと宿る?」

 

「それに関してはどうにもならないとしか言えない。

神器が一部の人間に発現するように神滅具も同じなの。

見つけたという観測はできても事前に、というのは無理。」

 

「それはまた、厄介なものを置き土産にしたな。

聖書の神は世を乱したかったのか、それとも人間に扱いきれない遺産を送りつけたかっただけなのか。」

 

「さぁ?本心から言わせてもらうけど、要らない措置だったと思うわ。」

 

「同意見だな。過保護は保護対象に害悪になる場合もある。

フリージアもまた被害者だ。

…ところでだな、これからの社会に当たって冥界の悪魔は一部を除いて地上に出れないようにした方がよいと思うのだが……。」

 

「それは検討してるんだけど、上のお爺さんたちがうるさくて。いっそズーちゃんがお得意の錬金術で何とかしてくれたりしない?」

 

「出来ないことはないが、その後の報酬をどうするのだね?ゼクラム・バアル達の消去など、それ相応の物を貰わなくては。後ズーちゃんはやめろ。」

 

「だよねぇ…錬金術師は対価を求めるもんね、悪魔と同じだよ。」

 

「そちらのように契約内容以上の報酬を貰うような事はしないからね。

知ってるぞ、かつて契約でただ女を振り向かせるというだけで男の魂を奪い去ったという悪魔がいたのを。」

 

「あ、悪魔だから…じゃだめ?」

 

「これからが不安になるなとだけ言っておこう。」

 

悪魔としてはいいんだろうが契約としてはどうなんだろうか。

ちゃんと見合った報酬じゃなきゃ信頼は勝ち取れないだろうに。

人間社会での基本でもあるが…何でか一部の悪魔はそれを無視した行動を取る。

困ったものだ。

 

それがナニカの火種になろうと俺には関係ないし、関わる気はない。

これ以上の尻拭いを俺にやらせるのは御門違いというものだ。

 

「……まあ、白龍皇の報告などあまり出来なくてすまないね。」

 

「いやいや、報告があるだけマシだからいいよ。

謝られたら冥界の事情に巻き込んでるこっちが申し訳無いわ。」

 

「そうかね?なら、有り難く思ってくれたまえ。」

 

「それはそれでムカつくかな~」

 

じゃあどうすりゃいいんだってばよ。

これじゃあ喋ることも出来ないじゃないか。

 

「ところで、フリージアちゃんに会いたいんだけど駄目かな?」

 

「まだ心が癒えてなくてね。少し休ませてる。」

 

嘘です思いっきりオーフィスと遊んでます。

 

「そっか、じゃあ仕方ないね。」

 

「ああ、悪いね。……帰るのかね?」

 

「うん、まだ仕事あるし。」

 

「…セラフォルー、本当ならば通信でも報告を聞けたろう。

何故直接私の家に来た?赤龍帝であるフリージアの様子見も兼ねてか?」

 

「そういうのは直接聞くものじゃないと思うけどなぁ。

ま、それもあるんだけど……。

 

ちょっとサボりたかったからかな!」

 

俺は我慢せずにチョップした。

いや、仕方ないじゃん。

仕事のサボり場として家に来られちゃ堪ったもんじゃない!

ここは一度説教をするべきか……?

 

「うっ、何だかズーちゃん怖いから退散退散!」

 

「怖いとはなんだね怖いとは。

意図せずともサボりに付き合った友人に対する言葉かね。

後ズーちゃんはやめろ。」

 

「ごめんごめん、それじゃ、私はこれで。」

 

「……ああ。さっさと行って仕事をしろ。」

 

「はーい……」

 

セラフォルーは肩を落としながら家から出ていった。

どんだけ嫌なんだアイツ。

追い出しといてあれだが背中から哀愁が漂ってるぞ。

 

……まあいいや、アイツも帰ったことだし後は家族と過ごすか。

 

結局、アイツの来た本当の理由が分からなかったな。

まあ、何もなかったしいいか。

そんな事より家族と団欒するんだよ!

 

…それに、人間は人外よりも早く死ぬからな。

時間は作らないと、俺が悲しい。

 




この作品はまったりと過ごしながらたまに起こるシリアスをさっくり解決するものです。
これで察してください、後々の展開。

次回、日にちがまた飛びます。


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ジョーカーを手にしたのは

どうも、ロザミアです。
お気に入りが60越えてて緊張と感謝のあまり投稿しました。

今回はちょっとした日常回です。


やあ、皆の衆。

俺だよ、家族団欒を全力で楽しんでいるワラキーだ。

 

最近少し寒くなってきた気がするんだが、冥界にも季節はあるのだろうか。

冬服を買い揃えるべきかな。

主にオーフィスとフリージアの。

俺?俺は寒くても死にはしないから平気平気。

 

現在、三人でババ抜きをしているんだが、これまた難航してる。

ババは持ってないんだが、残り二枚のところでストップしてるんだ。

キングのカードを取れればなぁ…。

 

「うぅ、また違うの来た……」

 

「……。」

 

「ハハハ、簡単に来ては面白くないだろう?」

 

ババが誰かは分かりきってるんだが……中々移動しない。

 

もうカード違うの入ってるんじゃと思うくらい進まない。

 

…色々と動きを見てなのだが、フリージアからまったくババが動かないのだ。

フリージアは先程から位置を変えまくってるのに俺が1つも引かない。

 

「ズェピアの番だよ。」

 

さて、俺の番か。

 

……左か、右か。

さて、どうしたものかな。

 

「悩んでるね、怖いのかなぁ?」

 

「そろそろ上がりたいのは私も同じでね。真剣に選ばせてもらおう。

……これだ。」

 

左のカードを取る。

 

…へぇ!なるほどなぁ!

 

「上がりだ。」

 

「えぇ!?」

 

「……!フリージア、サシでの、勝負!」

 

「ハハハ、存分に争いたまえ!ハハハ!」

 

「くぅ…1抜けしたからって調子に乗って……!

運が良いところを見せてやるんだから!」

 

「ん、負けない。ビリは罰ゲームがある…ズェピアの罰ゲーム、恐ろしい。」

 

「無限の龍神に恐れられる罰ゲームって一体…?」

 

「激辛麻婆豆腐だが?」

 

「よし、全力で勝つわ、覚悟しなさいオーフィス。」

 

……そんなに辛いかなぁ?

俺だけ死徒で痛みに耐性があって脳への負担を感じにくいから例外とか?

いや、分からんけど。

あれ美味いんだけどなぁ。

 

オーフィスが食べた瞬間汗がぶわっと出て若干表情崩しながら水を飲んでたけど……そんなか?

 

わかんねぇなぁ。

 

あー、ダージリンうめぇ。

決して俺は「こんな格言を知ってる?」なんて言わないし戦車に乗ったりしないからな?これ紅茶だからな?

あのアニメ面白かったけどさ。

 

「アーーッ!!?」

 

「…我の勝ち。」

 

「何で、何で右側取らないのよぉ…凄い突きだして置いたのに!」

 

「いや、それは露骨すぎないか?」

 

「フリージア、顔に出やすい。」

 

「え、うそっ」

 

「本当、この前、大富豪でもにやつき凄かった。」

 

「ああ、あの革命をフリージアが出したと思ったら私が革命返ししてオーフィスがこちらを二度見してきた時か。」

 

あれは酷かった。

たまたま揃ってた状態で革命されたらそりゃ返したくもなるよ。

ならない?

 

あれだ、ロイヤルストレートフラッシュ決めた気分になるよ、革命返し。

そうできるもんじゃないし。

 

ま、それは置いといて……さてさて、フリージアはどんな反応をするかなぁ?

 

「フリージア、罰ゲームの時間だよ。」

 

「ねぇ、その、食べなきゃダメ?激辛麻婆豆腐…。」

 

「ならばトマト25個を休まずに食べて貰うしか……」

 

「何やってるのよ、さっさと麻婆持ってきなさいよ!」

 

「清々しい程の拒否反応どうもありがとう。」

 

「フリージアはトマト、嫌い。我は好き。」

 

オーフィスは何でも食べるいい子なんだが、フリージアは唯一トマトが嫌いなんだよな。

この前もこっそり混ぜたのに気付いて逃げ出したし。

そう好き嫌いがあると後々困るぞ。

これから家庭を持つかもしれないんだから。

 

……ん?家庭を持つって事は彼氏を連れてくる?

彼氏を連れてくるってことは俺は父親として面会しなければならない?

面会しなければならないってことは……

 

「フリージア、お父さんは許さないからね。」

 

「何を!?」

 

「私の基準以上の能力がなければ付き合うことすら許さないからな!」

 

「オーフィス、ズェピアが急におかしくなったんだけど……」

 

「稀によくある。」

 

「それ言葉として成立してない……。」

 

「具体的には魔王二人以上の実力と家事全般出来るのと収入のいい仕事を持っていて尚且つ素晴らしい感性と性格を持ってないと認めない。」

 

「ハードル高すぎるよ!何でいきなり彼氏の基準語りだしたの!?」

 

「…脳内で暴走が起こっただけだよ。取り乱してすまない。何だったか、ああ、そうそう麻婆豆腐だったね。」

 

「そこは忘れてて欲しかったかな……」

 

ふぅ、やっちまった。

しかし、俺ってこんなに親バカだったかな?

うーむ、前世は家庭を持ってなかったからよく分からないけど、多分娘をもつ父親の気分はこんなだな。

……あれ、前にもこんな気分になってなかったか俺?

まあ、いいか。

 

そんなこんなで麻婆豆腐作るで。

勿論アツアツで食べてほしいしね!

どんな顔になるのか楽しみだぜ!

 

 

 

──────────────────────

 

 

 

皆、まず聞いてくれ。

結論から言おう、フリージアは辛さに負けた。

んで、倒れてベッドへと運んで寝かせてる。

 

「ズェピア、ドヤ顔しない。」

 

「おっと、すまない。フリージアは平気かね?」

 

「辛いのはやめてって魘されてる。」

 

「……今度から自重しよう。」

 

「もう遅い。」

 

くっ、やり過ぎたか…魘されるくらいってどんだけだよ。

…おっと、もういいかな。

 

「……さて、オーフィス。」

 

「なに?」

 

「君から見て、『コレ』はどう思う?」

 

「……!これは…」

 

俺は懐からある物を取り出してテーブルの上に置く。

それを見たオーフィスは目を見開いた。

お、珍しい反応。

まあ、仕方無いか。

これが効かない奴は宇宙に居るか居ないかだろう。

過大評価し過ぎか?

 

「ズェピア、これ、作った?」

 

「そうだとも。元の物をより強力にしたのがコレだ。

そうだな、試したことはないが、君にも効くんじゃないか?」

 

「……危険物。」

 

「私がそんな誰彼構わずこんな取り返しのつかない物を使うとでも?」

 

「ない。でも、盗まれたりでもしたら…」

 

「私以外では使えないようにしてる。

パスワードを付けるのは当たり前だろう?」

 

「なら、安心?」

 

そう首をかしげながら聞いてくるオーフィスに俺は頷く。

少し悩むような表情だが、所持自体は許してくれるらしい。

オーフィスが拒むなら遠慮なく壊したが許可してくれて良かった。

 

「いつか、君の願いを叶えるのに必要となるかもしれない。

保険として、対グレートレッド用の武器として。」

 

「そう。…ありがとう。」

 

「感謝される程ではないよ。錬金術師として造りたいものを造った。それが偶然後の展開に必要になりそうだった。それだけだよ。」

 

「……そう。」

 

「急ぐことはない。いつか終わる日々ではあるがそこにあるのには変わらない。

君はまだ、未来の事を気にしないで過ごしていいんだよ。

まだ、家族と楽しんでいいんだよ。」

 

「うん、そうする。」

 

……シリアスにしそうになるのが俺の悪い癖だな。

それとなく言おうとしてるのにちょいと引っ張られる。

 

おかしいな、俺はコレについて話したかっただけなんだけどなぁ。

 

ま、いっか。

 

 

─────────────────────

 

 

そういえば、皆に言ってなかった事があったぜ。

実は二人には内緒で探してる神器があるんだ。

というより、神滅具かな。

 

名前なんだったかな……そうそう、『魔獣創造』だっけ。

昔友人が言ってたなって思い出して探してる。

効果はその名の通り、魔獣を作り出すというもの。

 

んで、閃いたのよ。

魔獣創造が手に入ったら護衛造れてより事故が起こりにくくなるじゃん。

……更に閃いたのが、改造版タタリとの相性の良さだ。

 

これが出来れば擬似的にネロ・カオスとかの死徒も再現できるというヤツよ。

 

ん?あれだけ人間云々言ってたのにお前はやるのかって?

おいおい、俺は好き勝手やるって言ったと思うけども。

寧ろ、やらない手はない。

俺だって元人間、やりたいものはやりたいのよ。

 

まあ、見つかってないから何ともならんのだが…

んー、どうしたもんかな。

安全な神器の抜き出しのやり方でも考えとくかな。

 

皆も、思い付いたら即行動だぜ。

手遅れになるまえにやるんだぜ。




魔獣創造とタタリってちょっと似てません?
ほら、具現化の辺り。

ワラキーが何したいかについてですが…
用は、魔獣創造で命と型を作ってそれにデータを入れるわけです。
それで出来上がるのが、本物より少し劣るか同じくらいかのキャラですね。
ちゃんと人外キャラにしますよ、えぇ。


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不穏

どうも、ロザミアです。

少し遅くなりましたが、内容は特別長いわけではありません。
お気に入りがまた少しずつ増えて嬉しい限りですが、その度に吐血してる気がします。

ではどうぞ


 

とある領の屋敷、そこには悪魔が何名か集まっていた。

 

一人の男が忌々しそうに発言する。

 

「あの男が冥界へと移り住んだせいで、首都の復興が数年縮んだ!

やはり、邪魔な存在だ。」

 

一人の女は賛同するように発言した。

 

「その通り、我々の邪魔者でしかないあの吸血鬼は排除するべきよ。

しかし、白龍皇を一人で蹂躙するほどの力を持ってると聞くわ。

如何様に始末するの?」

 

一人の初老の男は自信ありげに発言した。

 

「ならば、あの男の家族を狙うのはどうだ。

奴とて身内には甘かろう。」

 

数名の悪魔はそれがいいと言う。

しかし、家族とは誰だ。

あの屋敷にいるのかと疑問が上がる。

 

男は言った。

 

「奴が特殊な趣味がなければだが、女性ものの服を買っていた。

ならば、あの屋敷にいる可能性は高い。」

 

「そうか、魔王と会いに行ってる間に攻め込めば…!」

 

「家族を人質に取られれば、手も足も出せまいて。」

 

悪魔達はどんどんと作戦を立てていった。

 

八つ当たり、鬱憤晴らし、ストレス発散。

ただの我が儘のようなもの。

だが、悪魔達はそれでよかった。

 

憎き現魔王達に間接的にでも苦汁を舐めさせる事が出来る。

それだけでする価値があるのだ。

 

彼等の領の名は───

 

 

 

 

──旧魔王領と呼ばれている。

 

 

 

─────────────────────

 

やあ、皆の衆。

俺だ、最近視線を感じる気がするワラキーだ。

 

なんだろね、ストーカーかな。

まあ、何か来てもやっつけてやりますよ。

家族に手を出すなら殺すけども、因果応報だし、問題ないな。

 

しかし、バレバレという程雑な気配遮断ではないし……

これはあまり外出すべきではないかな。

いやいや、それをしては困るのはこちらだし、出向くか?

 

馬鹿言うな、出向いてる途中で何かあったらどうするんだ。

 

わざと気付かせてるのか?何のために?

誘き寄せる為にしちゃわざとらしすぎる。

……下手に考えても無駄だな。

向こうが何かしてきそうになれば動けばいいや。

 

まあそんなことよりも重要なことは沢山ある。

まず、秘密兵器の調整。

完成というにはまだまだ荒削りな部分が多いため、中身の性能がまだ発揮しきれていない。

 

こういう開発には後々の後悔がないように今のうちに完璧にするのが一番だ。

もしまた何か不具合が発生したらその時に対処すればいいだけの事。

 

現状での問題点は重量と射程だろうか。

 

重量はどうとでもなるが、射程はなぁ…ちょいと地上の知識をまた蓄えなきゃどうにもならんかな。

ま、出来るだけの範囲で弄くり回すか。

 

どっちにしろ……

 

「早めに済ませて、妙な包囲網から逃れなければな。」

 

何とかしなきゃなぁ、バレないように頑張るか。

 

取り敢えず、今夜は寝れないということが決まったので

少し憂鬱になるが、表には出さないで笑顔を張り付ける。

 

改良だけにそんなに時間を使うのかと問われれば他にも俺には仕事がある。

困ったことに、俺にまた依頼してきやがった。

 

というのも、悪魔の駒の件だ。

 

…もう分かると思うけど、はぐれ悪魔の討伐ね。

そりゃもう、怒ったよ。

怒ったけど近隣に被害を与えてるのは事実だし、自業自得だけど、俺の家が被害に遇わないという保証は全くない。

なので、家の近くの地域のみというのを条件に引き受けたのだ。

 

困った話、俺はどうも頼まれたら何やかんやで断りきれない質のようだ。

 

そんなお人好しの俺はこうしてはぐれ悪魔を討伐する立場にいるわけだが、一つだけ気にくわない事がある。

駒の開発者であるアジュカ・ベルゼブブは全くと言っていいほどこの駒がもたらす現状に興味も示さないということだ。

責任者であるこいつが飄々としているのはおかしいだろうに、被害を被っている元人間、元他種族の奴等を好き勝手に悪魔にしてるんだからもっと感じてほしいね。

責任って奴を。

 

これだから研究者は嫌いなんだ。結果だけ見て後は関与しない。

俺も迷惑してるんですよ、ふざけんなってんだ。

 

…駒の摘出もしてあげたいところなのだが、悲しいことにまだ確立してないのが現状だ。

 

こちら側が迷惑をかけてるのだから何とかして早めの解決をしたいが、未だに目処は立っていない。

サーゼクスも魔王としての責任が人一倍強いのか手伝ってくれているが……うむ。

 

今後の課題は多いが、やれるだけやるとしよう。

 

さて、着いたな。

 

家の周りにも勿論他の悪魔の家はありますとも、そんなに広すぎなくていいと言ったからちょうど良さそうな土地をもらっただけだから、俺は新参者な訳だしね。

 

なので、ご近所への被害拡大を防ぐためにも──

 

 

「─おや、ここで当たりのようだ。」

 

鉄臭い、これは間違いなく血の臭いだ。

 

「隠れてないで、出てきたらどうだね。

あまり引き込もっていては舞台役者としてナンセンスだ。」

 

「……なんだ、今日は客が多いな。」

 

出てきたのは、異形だ。

人の形を取れなくなったのだろう、説明しづらい程にまで歪んだ体を暗がりから現す。

言葉は理性的だというのに、姿は狂気的だ。

元の種族がキメラと言われた方がまだわかるというもの。

 

「客、ということは他にも来てたのか。

君を討伐しに?」

 

俺がそう尋ねるとはぐれ悪魔の男は苛立ちを隠さずに頭を激しく掻きながら答える。

 

「ああそうさ、俺はただ元の生活に戻りたかっただけなのに!

それなのにアイツは聞き入れちゃくれなかった!

それどころか下卑た笑み浮かべてお前は奴隷だとか言ってきやがったんだ!

だから殺した、どんなに頼んでも無理なら、もう実力で何とかするしかないじゃないか!

さっきの奴もそうだ、話を聞かずに殺しに来た。

だから殺したんだよ。」

 

悲痛な叫びだった。

それはどうしようもないという絶望に満ちた目で俺に訴えかけてるようにも見えた。

きっと、俺が対話の姿勢を見せたからだろう。

 

「……私には、駒をどうすることも出来ない。

君のその姿を元に戻すことも出来ない。」

 

「…そうかい。アンタも、俺を殺しに来たのか?」

 

「そうなるな。

……だが、本音を言ってしまえば、無駄な殺生は好まない。

君がおとなしく捕まるというのならまだ刑は軽くなるだろう。」

 

「だから投降しろって?馬鹿言うな、こんなことをした手前、おめおめと帰れるか。

それに、刑が軽くなるなんて信用できるか。

貴族社会の思想に染まったお上が、懲役なんて生温い考え出来るかよ。」

 

「主人を殺して、何人かの追手も殺したらしいがそうなったのも我々冥界側の責任だ。

こちらが言えば少なくとも死刑は免れる。」

 

「それでも嫌だね。第一、悪魔なんかの世話になるのが嫌なんだ。

俺の人生を無茶苦茶にしておいた挙句逆らったら独房か処刑だって?好き勝手するのも大概にしろ!

悪魔ってのは契約を厳守するんじゃないのか、人を陥れるだけが悪魔のやり方なのか!」

 

「いや何とも反論しづらいな。

ぐうの音も出ないとはこの事だ。

いやはや、これ程までにボロボロに言われるとは将来安泰だな冥界も。

将来があればの話だが……。」

 

「……なあ、アンタ本当に俺を殺しに来たのか?」

 

「ああ、そうだが。何だ、今すぐやりあいたいのかね?」

 

そんなに戦闘狂なのか……どこぞの白い蜥蜴を思い出すから止めてほしいんだが。

 

男はんな訳あるかと言う。

 

「やりにくいんだよ、アンタ。

殺しに来てるのにこうやって呑気に会話しだすし、悪魔の事は擁護する気全く無さそうだしよ。

結局どっちなんだよ……からかってるのか?」

 

「対話で済むなら、それに越したことはない。

……だが、そうだな。君は投降を拒否したからね。

 

残念ではあるが……ここで、死にたまえ。」

 

ひとえに、俺が話したかっただけなのかもしれない。

はぐれ悪魔の訴えを、どうにかしてくれという懇願を。

 

被害者は彼だ。

加害者は俺らだ。

だが、それでも、世界というのは汚いもので、どうにもならない事はある。

今回はそれがはぐれ悪魔だったというだけ。

 

俺は少しでも危険分子を排除しなければならない。

自分のために、家族のために。

 

 

「結局、アンタも俺達を救っちゃくれないって事かよ……」

 

「そうなるな。運がなかったと、諦めたまえよ。」

 

だから、死んでくれ。

 

 

 

──────────────────────

 

 

 

当然のように、俺は勝った。

 

男は腕は千切れ、腹を鋭い爪で抉られたようになっており、そこから血が止まることなく流れている。

もう、助かることはないだろう。

 

「が、ぐぅ……」

 

「異形故か、意外と耐えたな。……苦しいだろう、安心したまえ、すぐに楽にする。何か言い残すことは?」

 

男はただ、俺を睨むのではなく、少し笑みを浮かべている。

なぜ、笑っているんだろう。

殺されるのに笑えるのは何故なんだろう。

 

「へっ……アンタ、お人好しだな……」

 

「お人好しは殺しに来ないと思うが。」

 

「ただ殺しに来たなら、ダラダラと喋らねぇよ。」

 

「…言い残すことは。」

 

男はこうして何ともないように喋ってはいるが口からも血は大量に垂れているし、もう長くはない。

 

「……悪魔なんざ、滅びちまえ。」

 

「…ああ、そうなるといいな。さようなら、抗おうとした者よ。」

 

俺はその後、構えていた『銃』を発砲する。

 

弾は一直線に男の眉間へと当たり、男はまるでそこに居なかったかのように消えた。

 

「安らかに眠りたまえ。その魂が救われるかは分からないが、次はもう少し後の時代に生まれることだ、君。」

 

俺は通信を入れる。

相手は勿論、魔王様だ。

 

『やあ、ズェピア。

はぐれ悪魔の討伐は終わったかい?』

 

「今終わったところだよ。正直、我々こそが討伐されるべきだと思ってしまったがね。」

 

『それに関しては、否定しきれない。

いや、加害者たる僕達が事の発端だ。』

 

「理解しているようで、結構だ。

これが続くといつか必ず鉄槌が下る。

それこそ、三勢力ではない、誰かから。

そうなる前に、何とかしなければならないよ。

魔王の君ならば分かってるだろう、サーゼクス。」

 

『…ああ、分かってる。』

 

ああ全く、儘ならないもんだな。

俺達は常に何かを犠牲にしなければ進めない。

人間と何ら変わらない。

いや、人に根深い存在だからこそ、似てるのかもな。

 

さて、帰って体洗って家族団欒と洒落混むか──

 

 

「─何?」

 

 

その時、脳に警報が鳴り響く。

 

結界に何者かが侵入した事を知らせる警報が。

 




はい、次回から少しだけシリアスに突入します。

後、無事に邪ンヌお迎えしたんですけど、QP無くてスキルが悲しいです……

アビーも育てなきゃなのになぁ


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襲撃

どうも、ロザミアです。

少し遅れてしまってすいません。
今回は主人公の視点がほとんどありません。

それでもいいって方はゲージ溜めしながら見てください。



 

椅子に座って彼を待つ。

彼がこの屋敷にいない間は我が守る事になっている。

 

自分で淹れた紅茶を飲むが、彼が淹れる程の味ではないので少し満足しない。

彼とこの屋敷で住むようになってもう数ヵ月が経過している。

その途中で、新しい住人─フリージアが来た。

 

赤龍帝であるが戦いを望まない彼女は彼についてくる事にしたという。

確かに、迫害されてしまっては行く宛もないだろうし彼なら断ることなく匿ってくれるだろう。

 

赤龍帝の力が欲しい輩は無数にいる。

勿論、我の無限の力を欲する輩も。

 

理不尽に見舞われて殺されてしまうかもしれない運命に彼女を、彼は放ってはおけなかったと我にだけ告白してくれた。

 

他の友人が彼の本音を知らない中、我だけが知っている。

何だかそれは優越感を感じて嬉しくなる。

彼は我の事を家族だといった。娘のようだとも。

 

けれど、我は───

 

「オーフィス?何だかボーッとしてるけど大丈夫?」

 

そう話し掛けるのは同じく向かい側で椅子に座って本を読んでいるフリージアだった。

フリージアとはよくこうして読書をしてるのだが、フリージアも我の知らない事を知っていてそれを聞くのは楽しい。

本の中だけじゃ分からないことを知れるのは、楽しい。

 

「ん、大丈夫。少し、考え事。」

 

「そう?ならいいんだけど、悩みとかなら相談してね?私にはそれぐらいしか出来ないから。」

 

「…ん。」

 

彼女は自分が弱いことを自覚している。

だから彼の仕事を手伝うなんて言わなくて家事をするだけだ。

無力感に打ちひしがれている訳ではないので心配はないと思う。

 

赤龍帝…ドライグに二度と操られないように神器に細工をしたというが、聖書の神が創った神器を弄るのは言うほど簡単ではない。

それほどまでに彼が錬金術師として優れている証拠だ。

だというのに彼は真理を探求するでもなく、何かの最奥を見るための実験などをするでもなくいつか始めるであろうグレートレッドの打倒のためにその才能を使っている。

 

他に何かしないのかと聞いてみれば、彼は決まってこう言うのだ。

 

『オーフィス、私は君のためにこの才能を振るうと決めている。

だから、他の事にはまるで見移りしないのだよ。

するとしても、終わってからじゃないかな?』

 

そう言うのだ。

不満はないのかと聞けば無いと言い、欲しいものはと聞けばもう手に入ってると言う。

 

よく分からない、けれど彼は家族と過ごしている時間を大切にしている。

それこそ、失われるのを恐れている位に。

 

彼が今の冥界に多少の憂いを抱いているのは何となく察している。

悪魔の駒というのが開発され、それぞれの貴族悪魔に配布されたのだという。

あらゆる種族を眷属にする駒。

 

恐ろしいものだ。

 

彼にも配られたらしいが、今のところ眷属は必要ないしこれからも必要ないと言っている。

下手な上下関係を生みたくない彼にとって駒は正に要らないものなのだろう。

 

ふと、気になった事がある。

 

全てが終わったら、彼はどうするのだろう。

もし何もすることがないのなら、我と居てほしい。

 

その方が、安心する。

前までは静寂を欲していたというのに、誰かを求めてしまうというのは矛盾している。

それほどまでに彼は我に影響を与えてくれたという事なのか、それとも単に我が何も知らなすぎたというだけなのか。

 

恐らく、両方なのだろう。

 

そして、フリージアにも共に居て欲しい。

ただ、三人で暮らせれば、我はいい。

 

でもグレートレッドは苛立つから倒す。

 

「……フリージア。」

 

「ん?どうかした?」

 

「フリージアは、寿命を克服出来たら、する?」

 

「どうしたの急に。」

 

「フリージア、人間だから…すぐ死んじゃうから。」

 

「…うん、そうだね。私がいないと、寂しい?」

 

「ん。ズェピアも、寂しい。」

 

彼女は困ったように人差し指で頬を掻く。

 

「そう言われると迷っちゃうんだけどね…

うん、でもごめん。私、人のまま生きて死にたいな。」

 

「どうしても?」

 

「うん、どうしても。

寿命を克服するっていうのは凄いことだって分かってる。ずっと皆と過ごせるのがどんなに素敵なのかも。

でも、私は人間だから。

いつか死んじゃうのは仕方無いことだし、受け入れるって決めたから。

だから、ごめんね。」

 

彼女は、少し申し訳なさそうに、しかし笑みを浮かべて答える。

何となく、分かってはいた。

彼女は変なところで自分を曲げない。

今回はそれが生き死にに関してだっただけ。

 

どちらであれ、答えが聞けてよかった。

その日が来るまでに、我とズェピアは楽しかったと思えるように過ごすだけ。

 

そう、それだけ。

 

「ん、フリージアが決めたなら、我は何も言わない。

きっと、ズェピアもそう言う。」

 

「あはは、ズェピアも悪魔にならないかって聞いてきたんだけどね。」

 

「……断った?」

 

「うん。」

 

そうか、どちらも断られてしまったということになる。

それは、完敗だ。

 

「じゃあ、フリージア、トランプ。」

 

「お、今日は何で遊ぶ?」

 

「ん、スピード。」

 

「うげ、スピードって一番オーフィスが強いヤツじゃん。」

 

「我の誘いを断った、仕返し。」

 

「…そっか、じゃあ、仕返し食らうしかないかな。」

 

「ん。」

 

「じゃ、トランプ出してくるね──」

 

フリージアはそう言って席を立ち、棚からトランプの束を取り出───

 

 

 

「っ!フリージア、隠れて!」

 

「へ?え、えぇ!」

 

─せなかった。

 

結界が干渉される時に、ズェピアだけでなく我にも知らせが来るようにしてもらっていた。

その知らせが来たということは、何者かが侵入してきたということ。

 

フリージアは咄嗟に言われて驚いてはいるもののすぐに身を隠せそうな場所へと隠れた。

 

気配を探る。

一体、誰が来たというのか……。

 

扉を開けて、気配を探りながら玄関の方へと歩く。

 

数は、15人。

意外と多い……。

 

隠れながら歩き、辿り着く。

 

玄関の扉は無造作に開けられており、そこからゾロゾロと悪魔達が入ってくる。

 

…靴も脱がないで、常識知らず。

 

「よし、侵入には成功したな。手当たり次第探すとしよう。

確か、女一人の確保だろ?」

 

「ああ、家主が居ねえなら楽勝楽勝。

すぐ終わらせようぜ。」

 

…こいつら、フリージアを狙ってる?

それとも、我?

 

「なあ、対象の女が別嬪ならよ…」

 

「おいおい、拐ってからにしろ。

味わうのはその後だろ。」

 

拳に力が入る。

屑だと分かった以上、生かす理由もない。

どうしてこうもただ生きて死にたい少女に邪魔が入るのだ。

 

奇襲してそのまま皆殺しといこう。

こういう輩は容赦しない方がいい。

 

消し飛ばす方がいいだろうか。

けれど、殴ったり蹴った方が早い気がする。

 

うん、打撃で消せばいいか。

そうと決まればさっさと行動に移そう。

 

悪魔達がこちらへと歩いて来る。

 

「…ッ!」

 

「な、貴様──」

 

曲がり角へと来る瞬間、一番近くの悪魔の腹へ拳を叩き込む。

悪魔は腹に大穴を開けて絶命した。

 

…消せなかった。

力の入れ方、相変わらず難しい。

 

「……床、汚れた。」

 

「しょ、少女…?貴様、何者だ!」

 

「何者は、こっちの台詞。でもいい、さっさと殺す。」

 

「こいつが、対象の……!?」

 

相手は悪魔で、家族を狙ってる。

それだけの情報で十分。

調べるとかはズェピアの領分。

 

「怯むな、相手は力があるだけの小娘─」

 

「煩い。」

 

近づいて、力を入れて蹴る。

 

今度は消せた。

この感覚、覚えた。

 

「ヒィ!?な、なんだこいつ、化け物だ!?」

 

悪魔達は力の差を理解したのか怯えてしまっている。

だったら来るなと言いたい。

 

「後、13人。」

 

「う、撃て、撃てェェェェ!!」

 

「死ね、小娘がぁぁぁ!」

 

「喧しい。」

 

魔力の塊を放ってくるが、同じく魔力を適当に槍の形にして投げる。

槍は悪魔達の魔力の塊を消してざっと8人くらい殺して向こうの壁を壊してしまった。

 

「あっ。……怒られる。」

 

「こ、こんな、あっさり……」

 

「ま、いいか。」

 

戦意を失ってしまった五人をさっさと殺して後で掃除しようと思いながらフリージアの元へ戻ろうと─

 

 

─したところで、また結界の知らせが届く。

 

 

「──!」

 

マズイと思い、フリージアの元まで急ぐ。

 

やられた、奴等は囮役。

本命はこっちだった…!

 

部屋が遠く感じる。

 

 

 

 

─瞬間、強大な気配を感じた。

 

──────────────────────

 

 

部屋の外から大きな音と声がする。

オーフィスが戦ってるのだろうか。

 

隠れている私の代わりに…。

私は、役立たずだ。

でも、私が行ったところで邪魔になる。

自分の強さくらいは分かっているつもりだ。

 

きっとすぐに、倒して戻ってくるはず。

ズェピアも、危険を察知して帰ってくるはず。

 

私に出来るのは、邪魔にならないようにすることだけ。

赤龍帝の力なんて使っても、下級の悪魔にすら勝てはしないだろう。

戦おうなんて思えないから、倒そうなんて思えないから。

 

 

……音が止んだ。

 

「…終わった、かな?」

 

確認しようかと思い、隠れていた場所から出る。

オーフィスが負ける相手なんて早々居ないだろうし、勝ったと思うけど……。

 

私は扉を開けようとして─

 

 

─後ろから窓を破って入ってくる悪魔に対応出来なかった。

 

「っ!しまっ─あぐっ!?」

 

「ハハハ!どうだ?終わったと思ったろう?

残念でした、俺が本命でーす。」

 

後ろから腕を掴まれ、地面へ叩きつけられる。

そのまま魔法か何かで体の自由を奪われてしまう。

 

悪魔の男は悪戯が成功した子供のように笑って私の髪を乱暴に掴み、顔を上げさせる。

 

「おい、おいおいおい、中々上物じゃねぇの。

いいねぇ、いいねぇ。」

 

「っ、何よ、私を人質にでもするつもり?」

 

「大当たり!アンタを捕らえて、この屋敷の主様に嫌がらせをするって寸法よ。

身代金みたいな感じで何か貰おうかな~。」

 

「貴方、最低ね。か弱い乙女縛って、挙げ句そんな薄汚い真似をしようだなんて。」

 

「悪魔にそれは褒め言葉だねぇ。

ま、せいぜいキャンキャン吠えてなよ。」

 

男はこれから起こることを楽しむかのように喋る。

 

……ああ、私が弱いばっかりに。

また皆に迷惑をかけてしまう。

 

何で、私なんかがこうして彼の家族になってしまったのだろうかと、思ってしまう。

彼があの時断れば私は勝手に死んで終わりだったというのに。

 

今だって、戦う力があるのに経験を積まなかったばっかりに簡単に捕まってしまっている。

 

駄目だなぁ、私。

 

私じゃ、何も出来やしない。

単に足手纏いじゃない。

舌噛んで死のうとする勇気すらない、平凡以下の女。

 

だからこうやって、静かに生きたいという願いも叶わない。

願うことすら駄目なの?

 

(役立たずだなぁ、私。)

 

自然と、涙が出る。

こんなとき、ズェピアならどうするんだろう。

そもそも、ズェピアはこんな様にならないよね。

 

こうして捕まって、何もできない薄ノロだけど…

でも、私は生きたい。

利用されて殺されるなんて真っ平ごめんだ。

死ぬのなら、せめて、家族に看取られて死にたい。

 

でも、私に今何が出来るの?

神器を使っても、無駄な足掻きにしかならない。

倍加なんて、弱い私が何度倍加すればこの拘束を破れるのか。

 

……ああ、でも。

 

あの時も、私は捕まっていた。

ドライグに主導権を奪われ飲み込まれていた時、確かに

私は呼んだんだ。

 

来てくれるって、あの時は思ってて、すぐに来てくれた。

 

なら、もう一度呼んでも、すぐに飛んできてくれる。

 

 

 

「─助けて、ズェピア。」

 

 

 

 

 

「─ああ、すぐに助けよう。」

 

とても聞き覚えのある声がした。

ああ、来てくれた。

 

「おいでなすったか……っとぉ!?」

 

悪魔が入ってきた窓から黒い風が悪魔を飲み込まんと入ってくる。

 

悪魔は私を抱えて跳んで避ける。

風は家具を切り刻んでから、やがて止んだ。

部屋が荒れたせいか、はたまた風のせいか煙が出てきてしまいよく見えない。

 

「中々手荒く、そして遅い歓迎じゃねぇか主人さんよぉ。」

 

悪魔は冷や汗を垂らしながら笑みを浮かべ、先程まで悪魔がいた場所を見ている。

 

「─いやなに、家族に手を出されては一家の大黒柱たるもの激怒するのは仕方あるまい?」

 

煙から私のヒーローが出てくる。

自然と、涙が止まる。

 

「ズェピア!」

 

「ああ、私だとも。帰りが遅れてすまないね。

さて、狼藉者君、ごきげんよう。

君、いや君たちは何の目的があってこの屋敷へ来たのかね?」

 

「言うわけねぇだろ?」

 

「まあ、そうだろうとも。しかし、よくもまあ荒らしてくれたな。」

 

「へっ、さっきの攻撃でこの部屋はもっと荒れたなぁ。」

 

「そのようだね。……さて、賊はさっさと始末するに限るかな。」

 

「おっと、いいのかい?下手に動くとこの嬢ちゃんが死ぬぜ?

いやなら、こっちの要求に従って─」

 

「その必要はないな。」

 

「……つまり、嬢ちゃんはどうでもいいってことか?」

 

悪魔はズェピアの反応がつまらないのかそう質問する。

ズェピアは何も答えず、ただいつものように目を閉じて静かに立っている。

 

「…ああそうかい、んじゃまぁ、嬢ちゃんは殺すとする─」

 

「君は、あれかね?一々喋らないと行動に移せないのかね?特撮かね?何れにせよ、展開もそうだがありきたりすぎて飽きが来るよ、君。」

 

「何を言って…ガフッ!?」

 

男が突然口から大量の血を吐き出しながら痛々しい声をあげる。

腹付近を見てみると真ん中を蟷螂の鎌のような形をした巨大な黒いナニカが貫いていた。

 

「な、ん…アギャ」

 

悪魔の後ろには同じように黒い大男が腹からそれを出していた。

大男は獰猛な笑みを浮かべて鎌で男を引き寄せる。

すると鎌が消えて今度はワニの顔が出て来て丸ごと食べてしまった。

大男は満足したかのように霧状になって消えた。

 

呆気ない終わりだと、驚愕より先に思う。

恐怖は無かった。

だってこれはズェピアがやったことだと私には分かる。

 

いつの間にか、私の拘束は解けていた。

ズェピアは私の方へ近付き、立たせてくれる。

 

「…ふぅ、無事かね?」

 

「え?う、うん……今の、ズェピアがやったんでしょ?」

 

「まあ、ちょっとした手品だよ。」

 

「そう、なんだ。」

 

「…どうかしたかね?」

 

「……うぅん、なんでもない。ごめんね、また私のせいで。」

 

「君のせいではない。周りの馬鹿どもが狙ったのは私のようであったし、君は利用されかけていただけだ。

君とオーフィスには謝らなければならない。

もう少し君達に気を配っていれば……すまなかった。」

 

「へ?あ、謝らないで!私が悪いんだから!」

 

ズェピアはそう言って頭を下げる。

私は謝られるとは思ってなかったので慌てて頭を上げさせる。

 

「いいや、保護者として私は君を守れていなかったのは事実だ。

自分の甘さが嫌になるくらいには悔しかった。

故に、自分への戒めとして私が悪いということにしてくれないか。」

 

ズェピアは極めて真剣な口調で私に言う。

 

「ズェピアがそこまで言うなら、いいけど…でも、私に力がなかったからこうなったのも事実だから……」

 

自分の弱さを嘆きたい。

そう思いながら顔を俯かせていると扉が突然開く。

 

「フリージア、無事!?」

 

オーフィスはいつもは見せないような焦った顔で私の安否を聞いてくる。

オーフィスも無事だったのが嬉しかった私は抱き付いた。

 

「オーフィス!よかった!無事だったんだ…!」

 

「ああ、ただいまオーフィス。私が賊を始末したから問題はない。」

 

「ズェピア…?じゃあ、さっきの気配は…」

 

「私ということになるな。」

 

オーフィスはそれを聞いて安堵の溜め息を吐く。

そして、私の事を抱き締める。

 

「フリージア、無事でよかった。」

 

「うん、ごめんね、私のせいで……」

 

「悪いのは、悪魔達。」

 

「…うん。」

 

それから私達は、荒れてしまった部屋を掃除した。

色々と壊れてしまい、しばらく私の部屋は使えなくなってしまったが、ズェピアが責任をもってすぐに買い揃えると言っていた。

 

…トランプ等の遊び道具も無くなっていた。

 

それとズェピアが何度もブツブツと何かを言っていて不気味だった。

 

───────────────────────

 

 

ああ、全く以て忌々しい。

 

どうしてくれようか、あの蝙蝠共。

どうせ他にもいるだろうし。

 

やはりアイツに聞くのが一番か。

 




あっさり終わらせていいのかと思いましたが、自分としては下手にシリアスは要らないかなと思い、さっさと終わらせました。
事実すぐに終わりますし。

次回はシスコン魔王と怒りの話し合いです



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愛と恋とは

どうも、ロザミアです。
大分遅れての投稿となりました事、申し訳ないです。

モンハンとFGOで忙しゲフンゲフン用事がありましてね。

ではどうぞ。


やあ、皆の衆。

俺だ、ワラキーだ。

すまないが、今の俺は少し怒っていて冷静であるとは言い難い。

いや、こういったことはこれからも起こるだろうし、覚悟はしていた。

だが、いざ現実になると覚悟なんて関係はない。

 

結局のところ、想像したことへの覚悟とは意味はない。

そのときの自分を保つために必要なだけだ。

 

まあ、そんなことはいい。

 

俺は今、友人の家に足を運び、話し合いの席を設けてもらっている。

俺はソファに座り、向かい側に居るのは勿論彼だ。

 

「ズェピア、事情は君が連絡を寄越した時に聞いたが本当に悪魔の仕業だったんだね?」

 

「ああ、そうだ。といっても、君の眷属でも無いだろうし、他の首都に住む悪魔でもないのは分かりきっているが。

……ところで、君が同席してるのは『女王』としてかね、それとも『妻』としてかね?」

 

サーゼクスの隣を見て俺は問う。

今の今まであまり会話したことがない君が来るのは意外だった。

 

グレイフィア・ルキフグス。

 

彼女は淡々と言葉を発する。

 

「両方でございます。私も事情を理解していた方が良いかと思いまして。」

 

「なるほど、確かに君がいれば多少難しい話もそこまで難航せずに進むと。」

 

「ああ、そう思って私も同席させた。

それで、話を戻すがその悪魔達は恐らく旧魔王領の者だろう。」

 

「ふむ?」

 

「旧魔王領に住む悪魔達は正直、過激的過ぎた。

いや、悪魔最上思考が顕著に出てた部類というべきかな。

しかし、同じ冥界に住む同士達なのは変わりない。

だから私達も歩み寄ろうとはしたのだが…」

 

「はね除けられ、恨みを買ってしまったと。」

 

俺が出した解答にサーゼクスは頷く。

なるほど、傲慢な悪魔の本性を色濃く持っているのが旧魔王一派ということか。

 

「そこから彼等は私達新魔王に事あるごとに反発してきた。

……今の冥界は建て直しもそうだが新しい時代に備えていかなければならない。

だからこそ、政治に関われないように追放したというわけさ。」

 

「……まあ、露骨にやっていればそうもなる。

しかし解せない。

なぜ君たちを襲うのではなく私達を襲った?

直接直談判でもすれば多少の余地はあったろうに。」

 

「それはズェピア様が四魔王のご友人であるからかと。」

 

グレイフィアが閉じていた口を開く。

友人だから襲われたって、結構泣きたい。

 

「加えていえば、冥界復興へ加担したからだろうね。

君が来てくれたお陰で期間をより短くできた。」

 

「…なるほど、だから私は邪魔者として見られた訳か。君の友人をやめたら関わってこなくなるかね?」

 

「勘弁してくれ。事あるごとに交友関係が破綻したら流石の私も崩れる。

けど、確かにこれは卸し切れなかった私達四魔王の責任だ。」

 

「…一つ、いいかね。

襲撃してきた不届きものが旧魔王というのは分かった。

襲ってきたのは彼等だ。

つまり、私が彼らを葬っても問題ないのでは?」

 

「ズェピア様、落ち着いてください。

下手に動かれてはまた不在を狙って襲われる可能性があります。」

 

……確かに、今のは早すぎるな。

 

「すまない、少し冷静さを欠いていた。

だが、そうしたいほどには私は彼らを許しがたいと思ってくれ。

私単体を狙うのは構わない。家族を狙うのは別だ。

君も、そこのグレイフィア君や、両親がそうなれば自分を律しきれるかね?」

 

「……そうだな、確かに私にも家族はいる。

しかし、下手に圧力を掛ければ彼等がより反発するのは目に見えている。

だからといって旧魔王一派を滅ぼすというのは違う。

そうだろう?」

 

「……ふむ。では、どうすると?」

 

「私が出向く。」

 

「……ほう、魔王の君がかね?」

 

「ああ、これは今まで保留にしておいた問題が悪化してしまったからだ。

なら、その問題を解決しようというわけだよ。

悪魔の問題は悪魔が解決しなければならない。

でなきゃケジメがつかないからね。

……問題はあるかな、グレイフィア。」

 

「いいえ、下手な人員を送るよりかは効果的です。

しかし、同じ魔王でよいのならセラフォルー様でもよいのでは?」

 

「いや、セラフォルーにはまだやることが多い。

ならば、まだ手の空いている私が出向くべきだ。

それに、私への執着心の方が高そうだしね。」

 

確かに、魔王の中での頂点に位置するサーゼクスは追いやられた旧魔王からすれば一番憎いだろう。

わざわざそのサーゼクスが行くということはそこの解決もするということだろうか。

 

「待て、もし解決できなければどうするつもりだね?」

 

「話し合いの余地がないとこちらが判断すれば、それなりの対応をさせてもらう。

もう彼らの思想ではこれからの世界を生きていくのは難しいと言うしかないさ。」

 

「…余計恨まれるのでは?」

 

「こればかりは仕方のないことだよズェピア。

何かがあれば何かが起こる。

私達が魔王になって彼等が私達に憎しみを抱いた。

それだけの事だよ。」

 

そうキッパリと言うサーゼクスには、迷いがなかった。

こういった時の彼は見事に仕事をこなす。

その場に合った適切な判断をして解決をする。

 

……俺自身が出向けないのは残念でならないが、彼が行くのなら仕方ないか。

 

元よりこれは彼等の問題でもある。

先客に譲るとしよう。

 

「分かった、今回は君に譲ろう。

ただし、次何かあれば私は冷静さを保てるか保証しかねる。

……では、私は帰るよ。」

 

「ああ。グレイフィア、玄関まで頼む。」

 

「かしこまりました。」

 

グレイフィアは了承すると俺を玄関へと案内する。

 

…ふむ。

 

「ところでだな、グレイフィア君。」

 

「何でしょうか?」

 

「サーゼクスとの馴れ初めはどのようなモノだったのかね?」

 

「……あまり昔を掘り下げようとするのは感心しませんよ?」

 

「いやなに、友人の家族というのをあまりよく知らないのでね。

今のうちに知っておいた方が良いかと思ってね。」

 

「サーゼクス様にお聞きになっては?」

 

「いやぁ彼も話してくれなくてね。

それほどまでに壮絶な恋愛だったのか、それとも─

 

─昔の情勢などで考えれば不味い事でも仕出かした末での婚約か。」

 

「…詮索せずともそこまで危ない橋は渡っておりません。」

 

「そうかね。」

 

その割には間があったが。

まあいいや、人様の恋愛事情に首を突っ込んでも意味はない。

 

からかってみただけだ。

 

しかし、そのからかいが良くなかったのか彼女も俺に問うてくる。

 

「ズェピア様にはいらっしゃらないのですか?」

 

「伴侶がかね。居ないな。」

 

「赤龍帝の少女はあくまで保護対象ということですか?」

 

「保護対象というには過保護だとは思うが……

家族としてしか見れないのは確かだ。

私はもう少しゴタゴタが片付いてから探すとするよ。」

 

「セラフォルー様とは気が合うようですが。」

 

「なぜ初回から魔王を勧めてくるのかね……?

彼女とはそれこそ気が合う友人だよ。

あちらがどう思ってるかは知らないが私は恋愛面での好意は持てないな。」

 

「知り合いに居ないのですか?」

 

「中々攻めてくるのだね君は。

ふむ、知り合いか………。」

 

……あれ、知り合いってそんなにいない?

待って待って、地上の人達を数に入れよう。

……あ、あれ……俺の交流、狭すぎ……?

 

それっぽく言ってはぐらかそう。

 

「すまないが、知り合いの多くはあまり存在を明かせない者が多くてね。だが、知り合いにもいないな。」

 

「はぁ、そうですか。…ついここまで聞いてしまい、申し訳ございません。」

 

…しかし、結婚、結婚ねぇ。

うーん。

 

「構わないとも。…そうだな、もっと私の本心を出して言うと、そういう感情が分からないのだよ。」

 

「分からない?」

 

「皆口々に言うだろう?

愛している、大切にする、恋をしている。

それが分からないのだ。

恋とは?愛とは?

それはどのようなものなのだろうか。

どうすれば私もそれを知れるのだろう?とね。」

 

恋愛というものに尽く触れてこなかったからだろう。

俺にはそれが何一つとして理解ができない。

家族の愛とかは分かる。

俺が二人に向けているものだから。

だが、こと恋愛となるとさっぱりだ。

 

「グレイフィア君、恋をし、愛へと発展させ、その先へと行き着いた君には答えられるだろうか?

恋とはなにかね?愛とはなにかね?

 

─それは必要なのかね?」

 

彼女は俺の問いに対して一度瞑目する。

考えを纏めるように、記憶という箪笥から『恋と愛』を

取り出して纏める。

 

やがて纏まったのか目を開けて俺をしっかりと捉えながら話し出す。

 

「……私では満足のいく答えを出せるかは分かりません。

しかし、言えることがあります。

恋愛とは、不確かなモノです。

それがいつ自身の中に湧き出るのかも分からない。

水を掘り当てるようなものです。

そして─きっと、恋をしたらソレに気付かぬ内に目の前の相手に走ってしまう。

そんなものだと思います。

必要かは分かりません。しかし、私には必要だった。

それだけです。」

 

ハッキリと、自分の意見を述べる。

それは過程を懐かしむように、未来へ想いを馳せるように。

まだ見ぬ先への憧憬、希望が彼女にはあるのだろう。

 

難しいモノだ。

錬金術より奥が深いのかもしれない。

だからこそ生命の神秘があるのかもしれない。

 

羨ましい、密かにそう思った。

 

それをいち早く気付いて成就させた彼女が心底羨ましい。

 

だが、焦ることはないとも思う。

時間はこうしてる間にも過ぎているが、俺には然程焦るほどの早さではない。

 

ゆっくりと理解していこう。

 

「なるほど、ありがとうグレイフィア君。

君にこのような事を聞くことになるとは思わなかった。

お陰でまた学ぶことが増えた。」

 

「いえ、お役に立てたのなら幸いです。

……着きましたね。」

 

いつの間にか、玄関まで着いていたようだ。

気付かないとはそれほど真剣な話だったと言うことか。

 

「ああ。それでは私はこれで。

またお互い暇なときに会おう。」

 

「ええ、お気をつけて。」

 

外へと出て、家まで歩く。

先程の事を思いだし、自分なりに考えながら。

 

家族にも聞いてみるべきだろうか。

 

……そうだな、今度、聞いてみることにしよう。

きっと、参考になる筈だ。

 

 

 




主人公は前世では恋愛と言うものを経験したことがなく、年中働くかゲームするかだったので疎いのです。

後、FGOでえっちゃんをお迎えしました。
アルトリア顔が増えていくぅ……。

よければ感想をいただければ作者が全力で執筆作業に移ります。


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仮面

どうも、ロザミアです。

剣式さんとふじのん同時に当たってホクホクですわ。
ところで、青王の強化は?

ではどうぞ。


やあ、皆の衆。

俺だ、ワラキーだ。

 

この挨拶も定着してきたな。

固定の挨拶が出来るのは心が平常な証拠だ。

さて、現在俺はいつも通り家にいる。

 

まあ、通信が来て話してるというのを除けば概ねいつも通りかな。

 

「それで、どうなった?」

 

通信の相手─サーゼクスは多少疲れたような顔付きで話し出す。

 

『最後のチャンスと通告したらかなり不満そうだったけど手は出さないって約束してくれたよ。』

 

「滅ぼされるか退くかと問われれば間違いなく後者を選ぶだろうさ。

君、半ば脅しをかけてないか?」

 

『強気な態度を維持しておかないとあちらが付け上がる。

ならば脅しを掛ける勢いで事の解決をするまでだよ。

君が行ったら皆殺しにしてただろう?』

 

「ハハハ、いずれ子を持てば分かる。

我が子が害されるのがどれ程の苦痛であり耐え難い屈辱か、ね。」

 

『子供って…君、やっぱり親馬鹿だろう?』

 

「かもしれないな。」

 

君もいずれこうなるんやでと思いながら言葉を返す。

これで旧魔王一派が俺達を襲おうとしないということが

確約されたので安心安心。

 

さて、ずっと前から頼んでいたもう一つの方も聞くか。

 

「サーゼクス、例のアレは見つかったかね?」

 

『アレは見付けるのは比較的簡単な方だけどまだ見付かってないかな。

見つかるとしたらそれこそ何か起こそうとするだろうし。』

 

「ふむ……」

 

『そもそも君は何故アレを探してるんだい?』

 

「アレが手に入ればこの家の守りもより堅く出来ると思ってね。

今回の旧魔王の件でよりそれを実感した。」

 

『……それは神器を抜き出すってことかい?』

 

「その通りだ。

だが安心したまえ、魂と結合しているそれのみを抜き出す。」

 

『…もうその技術が君にはあると?』

 

「ああ、錬金術というのは便利なものだよ。

見極めが楽になる。どこをどのように錬成すればいいかとかね。」

 

『その内ホムンクルスを大量に作りそうだね。』

 

「何なら作ってあげようか?」

 

『頼むからやめてくれ。僕の胃が持たない。』

 

まるで俺が毎回何かをやらかしているかのような発言。

おいおい、俺はなにもしてないだろ。

今までやったのだって金作ったり白龍皇殺したりドライグ沈めたり旧魔王一派ぶちのめした位しか……

 

あれ?俺って結構やらかしてない?

力見せつけてるような気がする……。

 

ま、まあ、しばらくはそういうのとは無縁になれるし?

モーマンタイモーマンタイ。

 

「胃薬を処方してもいいが?」

 

『君、医者だったのか?』

 

「体の構造を把握するのは得意でね。」

 

『人体錬成でもする気か君はっ。』

 

「そんな事しても私に得はないからしないよ。」

 

つまり得があればやってたのか…と呆れたような声を出すサーゼクス。

おいおい、利益を求めるのは普通だろ?

 

「さて、そろそろ通信を切らせてもらおう。

君の時間を取りすぎるのも失礼だろうしね。」

 

『ああ、じゃあ、また「待ちたまえ」…?』

 

「今聞くべき事があるのを思い出した。

 

月桂樹の花は好きかね?」

 

『月桂樹?いや、僕は赤色の薔薇が好きだな。』

 

「そうかね。…すまない、意味のないことを聞いた。」

 

『構わないさ。じゃあね。』

 

そう言って彼は通信を切る。

 

たまにこのような遠回しなヒントを出しているのだが気付く様子はない。

 

友よ、我が友よ。

その日が来るまで楽しませてくれよ。

俺はお前とのやり取りが結構好きなんだ。

俺はお前を裏切る。

だからこそ、この一時が楽しいんだよ。

 

いつか、お前と未来の主人公達が俺に向かってくる。

まるで本当の悪役のようじゃないか?

これを楽しまないで何を楽しむんだ。

 

「時間は廻る。世界は廻る。

関係は逆しまに。感情も逆しまに。」

 

廻れ廻れ、滑稽なまでに廻れ。

我々は既に敵になる運命だ。

 

その日まで、待つがいい。

 

 

 

─────────────────────

 

 

 

「地上を散歩したい?」

 

「ええ、駄目?」

 

夕食を食べ終わり読書をしていたら突然フリージアが私に今の話を持ち掛けてきた。

一体何故だろうか。

もしや、この生活に不満が?

ナンテコッタイ、訳を聞かなければ……!

 

「ふむ、それは元々生まれ育った大地ゆえかね?」

 

「それもあるけど、何より、ズェピアとオーフィスと私の三人で歩きたいなって。」

 

「……。」

 

純粋な願いに近いものだった。

ただ、美しい大地を家族で歩きたい。

どこにでもある平凡な願い。

 

この子は、世界に純粋であれと願われたのだろうか?

この時俺はそう思った。

 

「構わないが、君は大丈夫なのかね?

白龍皇の件、忘れたわけではないだろう?」

 

「それは、まあ…。

確かに怖かったけど、また何かあっても助けてくれるって信じてるから。」

 

「素直で結構だが中々他力本願だね?」

 

「ええ、悪い?」

 

「悪くはないとも。

君は自分の力を弁えているとすらいえる。

それに、頼るというのは、そう簡単に出来ないことだ。

ふむ、たまには太陽の下を歩くのも悪くはないか。」

 

「吸血鬼なのに面白いことを言うのね。」

 

「逆だよ。吸血鬼だからこそだ。

それも普通を知る吸血鬼だからだよ。

普段は我々吸血鬼は太陽という不愉快極まりないものを睨んでいるが、時折あの太陽の下で歩くことができればどれ程良いことかと思うのだよ。

私は幸い、弱点となるものへの耐性が粗方付いているから問題はない。」

 

「ズェピアって、割りと何でもありだよね。」

 

「何でもはできない。出来ることだけだよ。

オーフィスには?」

 

「オーフィスはズェピア次第って言ってた。」

 

そういうのは俺に判断を投げてくるから困る。

いつか選択するときが来るかもしれないんだからそこらへんもやれるようになってほしいんだがなぁ……。

ま、信頼されてると思っておくかな。

 

「では、明日にでも行くとしようか。

滅多にない君からの誘いだからね、しっかり準備したい。」

 

「そんなに誘ったことないかな……?」

 

「主にしたとしてもトランプじゃないか。

それに、地上を散歩だなんてまるでピクニックだ。

柄にもなく楽しみにしているよ。」

 

俺の発言が意外だったのか、彼女はキョトンとした後に

可愛らしく笑う。

まあ、大人が子供のように楽しみで待ちきれないと言ったらそりゃ笑うか。

 

「ふふ、結構子供なところあるのね。」

 

「知らないのかね?男はいつまで経っても子供だよ。」

 

「初めて知ったわ。

ねぇ知ってる?女はいつまで経っても大人になろうと必死なのよ。」

 

「それは知らなかったな。しっかり覚えておくとしよう。」

 

「うん、そうしてね。

いつまで経っても覚えておいて、私の事。」

 

急に、儚げにそんな事を言う彼女に俺は一瞬どう反応すべきか迷った。

やはり、無理してるんじゃないだろうか。

覚えておいてなんてまるで最期の思い出作りみたいで。

 

「ああ、永遠に忘れないよ、家族なんだからね。」

 

俺は内心、人外と人の寿命の差を嘆いた。

彼女は人間、俺は吸血鬼、オーフィスは龍。

 

どうしてだろうか、急に何かが怖くなった。

こわい、怖い、恐い。

 

何に恐怖しているんだ?

 

「…ズェピア?」

 

「─どうか、したかね?」

 

「何だか疲れたような顔をしてるから、私の話、無理して聞いてない?

疲れてるなら寝た方がいいわ。」

 

「疲れてる?私は今日は特に疲れるような仕事をしていないよ。

何、少し明日の事を考えていただけだよ。」

 

「…そう、ならいいんだけど……。」

 

心配させてしまったようだ。

いかんいかん、俺がこんな様でどうする。

明日、何もないとは限らないんだぞ。

 

「何も心配はいらないよ。

それより、そろそろ寝た方がいい。

明日は目一杯楽しむのだから、眠くていけないなんて事はつまらないオチは無しにしたいからね。」

 

「…うん、そうね。お風呂入って寝るね。

おやすみなさい。」

 

「ああ、おやすみ。」

 

パタンと、彼女は扉を閉めて風呂場へと行った。

私は栞を挟み、本を閉じてから紅茶を飲む。

 

よく飲む茶葉を、いつものように淹れた筈なのに。

 

「……分かっている、分かっているとも。」

 

先程感じた恐怖の事を考えていた。

悟られないように考えながら、彼女の出ていく後ろ姿を見ていた。

 

その時、また恐怖が大きくなった。

止まっていた筈の爆弾が急に爆発するように。

 

決意を固めた彼女に言えるわけがなかった。

言ってしまえば彼女は揺らいでしまう。

 

それはダメなのだ。

それは俺の望む形ではない。

彼女は自分の望む最期を迎えるべきだから。

 

「だが、それでも──」

 

彼女の願いを聞いた身で、挙げ句それを良しと言った分際で。

世界の残酷さを理解した癖に。

悲しみを置いていこうと決意した筈なのに──

 

 

─君を失うのが恐いだなんて

 

言えるわけがないんだ。

君を邪魔したくないから、我が儘だと分かっているから。

 

 

「─最後まで、偽り続けるとも。」

 

だから、無駄にカッコつけて気取るんだ。

 

ワラキアの夜という仮面を被って、真実の自分を隠すように。

俺は自分を騙すんだ。




よければ、ご感想ください。
是非ください。


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ピクニックだが、俺は森で熊さんとあった記憶しかない。

どうも、ロザミアです。

キアラピックアップに若干ガッカリしてます。
いやまあ、分かってましたけど……

これは強化クエストに期待するかな……

青王の強化はよ。


やあ、皆の衆。

俺だ、ワラキーだ。

 

皆さんはピクニックというのを楽しんだ経験はあるだろうか?

学校の行事、家族または友人と等々の理由で行くであろうピクニックだ。

 

俺?俺はあまりないよ。

何せそんなに行った記憶がないからね。

 

そうだよ、友人は皆俺と同じインドア派だったんだよ!

 

だって、外で遊ぶより中でゲームしたり談義してた方が楽しかったんだもん!

 

…ま、ここまで言えば&前回を見てくれた汝らには全て

分かることだ。

そう、地上を散歩もといピクニックに来てます。

 

家族で!

 

家族で!(いい笑顔)

 

大事な事なので2回言いました。

あまりなかったフリージアのお願いを断るなんて儂に出来るだろうか?いやできない(反語)

 

「ズェピア、楽しそう?」

 

「オーフィス、これを楽しまないでどうするのかね。

娘の頼みだよ、サーゼクスを殴ってでも仕事をキャンセルしたとも。」

 

「……それは、ダメだと思う。」

 

「む、そうか……ならば、後で謝罪の気持ち10%で謝ろう。」

 

「100%にしなさいよ……」

 

家族に呆れられてるが、そんなの関係ないね。

俺には家族以上の宝は無いからね!

 

『ズェピア!?何をいってるんだ!困ると言ってるだろ!』

 

と言ってくる友人を自分達の問題だろ!自分で何とかしろ!と無茶振りをして俺は逃走した。

 

完璧な説得だ、まるで無駄(しか)なし!

 

 

 

…正直な話、この企画には感謝が絶えない。

何故なら、俺が元は一人の人間であったから。

こうして地上を誰かと歩くなんてなかった。

人なら当たり前の事なのに、地上を見て歩き、冥界に住み家族を得たのに今までそんな事したことがなかった。

前世では出来たことが、今世では出来ていなかったのだ。

 

だったら、休日のどこかで二人を連れて歩けばよかっただろって話なんだが、これまた俺は難儀な人間でね。

ぶっちゃけると怖かった。

また何かあったらと、また救うのが遅れたらと。

何度も誰にも打ち明けないで苦悩していた。

 

守ると誓って、はたして俺はそれが出来ているのか?

否、断じて否である。

前回のアレで守れたというのなら、俺はそれに甘んじているだけだといえるだろう。

例えこの体がワラキアの夜、死徒二十七祖だとしても。

この精神だけは人なのだ。

俺はどちらにも成りきれない中途半端な存在なんだ。

 

いっそ、化け物にでもなれたら、こう悩むことはないだろう。

だが、代わりにこの陽射しのように暖かい日々は過ごせなかったろう。

いっそ、人にでもなれたら、悩み続けてでも前を向いて歩けたろう。

だが、代わりに嵐のように劇的な日々を過ごせなかったろう。

 

どちらもを過ごしたいという我が儘。

願ってもなれなかった妄想。

 

それを手にした途端、この無様。

 

全く、俺はダメだなぁ。

この子達が居ないと、俺は本当にダメな男だ。

 

「─ありがとう、二人とも。」

 

「また感謝の言葉?昨日何度も言ってたじゃない。

さすがに聞き飽きたわ。」

 

「……ズェピア、しつこい。」

 

「いや、違うんだ。違くはないが、違うんだよ。」

 

自分でも、何を言ってるのだろうと思う。

突然、感謝を口にして、それは昨日何度も言った言葉で。

でもそれは昨日とは別の意味を込めていて。

 

言葉遊びをしたい訳じゃない。

意味を理解してと強要してる訳じゃない。

 

ただ、何物にも代えがたい時間を貰ったから。

 

前を踏み出せる自信を持てる何かを貰ったから。

 

だから、ありがとう。

 

俺はたった一言にそれを込めたのだ。

 

「今日は一段と、変なズェピアね。ね、オーフィス。」

 

「ん、ズェピアは毎回変。」

 

「君達中々酷いことを言うな……。」

 

「それだけ、色々してるじゃない。」

 

「それを言われると、何とも言えないのだがね。」

 

「じゃあ、これから変じゃないって思われることをしてね。」

 

「例えば?」

 

「んー…分からないかな。」

 

「何だねそれは。

自分で言っておいて分からないとは。」

 

「我も、分からない。」

 

時折、フリージアは難しい事を言う。

生きた年数も、経験も俺の方が多いと言うのに俺にはそれが分からなかった。

 

「私はズェピアじゃないから、私がこうすべきって言ってもそれが正解じゃないかもしれないから。

そういうのはズェピア本人が見付けてってこと。」

 

「それはまた難しい事を言う。」

 

「フリージアは、そういうのをしてる?」

 

「私にも分からないかな。

変かな、自分自身の事なのに分からないって。」

 

「そうでもない、私もたまに自分の事で疑問に思うところがある。

それと同じで君が君の事を分からないのは普通だと思うがね。」

 

オーフィスは俺の言葉にうんうんと頷く。

彼女も自分の感情が分からなかった時期があるからこそ分かるのだろう。

 

しかし、自分で変じゃないと思えることを、か。

 

今後の課題だな。

 

「まあ、この話は終わりにして、散歩を楽しもう。

どうかね?久し振りの地上の外は。」

 

「心地いいわ、冥界は太陽がなくて、少し暗いから。」

 

「我は、眠くなる。」

 

「ハハハ、まるで猫だなオーフィス。」

 

「む、我は龍。」

 

「分かっているとも。だが、自由でいて陽射しの下では眠くなるなど猫という表現が一番と思ってね。」

 

「むー……。」

 

拗ねてしまった。

後で好きな食べ物を作ってご機嫌とりをしないといけないな。

 

「帰ったら好きなものを作る。それで機嫌を直してはくれまいか?」

 

「…ん、許す。」

 

「単純だなぁ……。」

 

「それほど、純粋であるということだよ。」

 

帰ったら何を俺に作らせるか考えているオーフィスの頭を撫でながら微笑む。

 

人間、か。

そうだよな、限りある命だからこそ、決意を堅く出来るのかもしれない。

 

永く生きすぎると思考が腐るらしいし。

 

「しかし、それにしても少し肌寒い。」

 

「そう?私はあまり寒くはないけど…歳なんじゃない?」

 

「我、平気。」

 

「……そんなに老人に見えるかね?」

 

「ううん、普通に整った顔だと思うけど?

吸血鬼も老いることあるの?」

 

「私もそこまでは詳しくないから何とも言えないが…

吸血鬼が見た目的に成長するのは幅があるんじゃないだろうか。」

 

「じゃあ、子供みたいな顔つきから老人みたいな顔つきまであるのね。

不思議ね~……。」

 

「オーフィスは何にでもなれるがね。」

 

「我、この姿が一番楽。

でも、着せ替え人形は勘弁して。」

 

割と切実に言うオーフィスは、何だかいつぞやのセラフォルーのような哀愁に似た何かを感じた。

 

そう、オーフィスはフリージアによく『似合う』服を着させられている。

メイド服やら、ドレスやら。

買ってと頼まれたので買ったのだがこういう狙いとは思ってなかった俺は頬をひきつらせるしかなかった。

 

その時のオーフィスの目は今みたいにハイライトが仕事してなかった。

 

「う、善処します……。」

 

「善処じゃなくて、やめて。」

 

「はーい……。」

 

「ここまで拒絶するとは…オーフィス、死んだ魚のような目はやめなさい。

こちらが申し訳無さで悶え死ぬ。」

 

「ん、分かった。」

 

よし、これ以上の被害はない。

俺たちの、勝利だ……!

 

何の勝負なんですかねぇ……?

 

「ズェピア、昨日とは違って楽しそうな顔ね。」

 

「む、そうかね?私は君達と居ればいつでも楽しいが?」

 

「ううん、昨日は…少し辛そうだったから。

また私が何か迷惑をかけちゃったのかなって。」

 

「そんな事はない。寧ろ、助かってるよ。」

 

「助かる?」

 

「こうして、誰か親しい人、それも家族と話せるだけでも違うものだよ。

そんな存在が二人も居るんだ。

私は恵まれ過ぎている。」

 

「ん、なら、我とフリージアに何かお礼。」

 

お礼とな。

現金な奴め、でもパパあげちゃうぞ!

 

「ふむ、何がいいかね?」

 

「くれるんだ……ええと、ちょっと待って、悩む。」

 

「ん、我は…一緒に寝てほしい。」

 

「ほう、構わないよ。」

 

おお、もしや俺の事をようやく父と認識し始めたか?

クク、いいぞぉ、その調子だぁ…どんどん認識しろぉ!

 

オーフィスは右手で小さくガッツポーズを取っている。

かわいい。

 

「うーん……もうちょっと考えておくね。」

 

「うむ、存分に悩みたまえ。」

 

「そうするわ。」

 

「……さて、いい時間だな。」

 

俺達は地面にシートを敷いて昼食の準備をする。

ピクニックといえばサンドイッチですよ。

ふふん、こういう知識はあるんだなぁこれが。

 

「そろそろ昼食の時間だ。

ふむ、太陽の下で食す…実にいい。

そう思わないかね?」

 

「そうね、久し振りにいい気分で外に来れたし。」

 

「ん、早く、食べる。」

 

「慌てずともサンドイッチは逃げないよ。」

 

玉子サンド、ハムサンド等、前世では一般的なサンドイッチは一通り作ったからすぐに無くなるとは思えない。

 

だが食事最終兵器『喰らい尽くす無限の龍』ことオーフィスの胃袋は底無しといってもいい程だ。

さて、どうなることやら……。

 

こう考えてる間にもサンドイッチは無くなっていく。

無論、俺とフリージアも食べてはいるもののオーフィスはそれよりも早く食べている。

…やっぱり、顔と声は違うけどアルトリア種なのでは?

 

それか混沌の教授?

 

まあ、どちらでもいいか。

そんなことより嬉しそうにサンドイッチを頬張るうちの娘可愛い。

くそ、何故カメラがないっ!

ここにカメラがあれば軽く150枚は撮ってたというのにっ!!

 

「ズェピア、何だか険しい顔してるけどどうしたの?」

 

「この光景を脳にしか保存できないことを悔やんでいるだけだよ。」

 

「えぇ……?」

 

今にも血涙流しそうだがグッと堪える。

大丈夫、俺はまだ戦える!

 

こうして、俺達はピクニックを楽しむのだった。

山、登ったほうがいいかな…ピクニックだし(小学生感)

 

──────────────────────

 

 

 

 

この時、俺とオーフィスは忘れていた─

 

 

 

 

 

─龍のオーラという、厄介極まりないものを。

 

 




この小説は
ほのぼの(するとは言ってない)8割
シリアス(愉悦)2割
で出来ています。


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魔獣摘出

どうも、ロザミアです。

今回はワラキー頑張ります。


突然だが、話をしよう。

 

皆は怪物が来たらどうする?

 

何を言ってるんだ、そんな事あるわけ無いって?

そりゃ、そっちじゃないだろうな。

ここと違って、元からがノンフィクションなんだから。

 

だが、ここはフィクションの世界がそのままになったと思って聞いてくれ。

どうする?

 

俺は逃げる。

何故なら、そんなのに会ったら十中八九勝てはしない。

殺されるがオチだからだ。

 

だが、ここで俺に力があるとする。

 

そしたらどうなるか?

 

「■■■■■■!!」

 

「ふんっ!」

 

「■■■!?」

 

「「えぇ……。」」

 

殴ります、全力で。

 

はい、という訳で!

やあ、皆の衆。

俺だ、ワラキーだ。

 

何かキメラみたいなのが来たけどごめん、俺フォーリナーなんだ(嘘)。

昼食食べ終わった途端に来るのやめろよ!

 

俺がワラキーの力がなくて精神耐性無かったら……

別にやばくはないな。

オーフィスが居るし。

 

まあ、そんなオーフィスも引いてるんだが。

そりゃそうですよね。

キメラ来る→殴る→沈黙

こんな4コマ漫画より早く終わったらそりゃ反応しづらいよ。

俺だってしづらいもん。

 

そんな事よりもこのキメラについておかしい点が三つある。

 

一つ、この生物を造り上げる技術はまだ地上にはないという点。

これに関しては実際に見てきた俺が確かな証拠となっている。

生物実験なんてそれこそまだ先の話だろう。

 

二つ、キメラにしては弱すぎるという点。

必ずしも強いという訳ではないのだろうが複合生物ならばそれこそ強い部分のみを合わせて造られたモノの筈だ。俺ならばわざわざ弱い部分を残さない。

 

三つ、そもそも魔獣は冥界の、それもタンニーンクラスの強者が管理している場所にのみ生息している点。

これは前にサーゼクスに聞いたので間違いないだろう。

 

この三つの事柄から見て分かることは一つ。

 

『魔獣創造』を持つ人間がいる可能性が高い。

 

ならば、あのキメラは尖兵かもしれない。

 

「オーフィス、フリージアを頼む。」

 

「ん、任せて。」

 

「ズェピア、さっき殴った生き物って……」

 

「キメラという個体だ。だが、この個体は繋ぎ合わせた跡も無い、遺伝子を組み換えて造る技術は作られてはいない。

こうなるように創られたと考えるのが妥当だろう。」

 

「神器?」

 

「恐らくは。それも神滅具だね。」

 

「私と、同じ……。」

 

同じく神滅具を持ってるフリージアは思うところがあるようだ。

しかし、どうしたものか。

魔獣創造によって創られる魔獣はどこまで応用が利くか未知数だ。

 

それに、創造に制限があるのかも不明ときた。

 

やはり、一番得策なのは術者を倒すことか。

 

「オーフィス、フリージアを守ってくれ。

私が神器使いを倒そう。」

 

「ん、気を付けて。」

 

「……ズェピア、そのっ…」

 

「分かっているよ。

まずは話し合いで解決しに行く。

それでダメならば最悪…分かるね?」

 

「うん…気を付けてね。」

 

「任せたまえ。」

 

俺よりもオーフィスの方がこの場での護衛は適していると判断して俺はキメラが来た方へと進んでいく。

 

それに、交渉なら俺の方が舌が回る。

オーフィスはまだそういったものを覚えてないからな。

適材適所という奴だ。

 

『■■■■──ッ!!』

 

「またキメラか。」

 

同じ個体…いや、先程のより力を感じるから強化個体だろうか。

それが俺に襲い掛かって来るが死徒の俺からすればそれほど速い攻撃でもなく、マントを伸ばして顔面を突き刺し、断末魔を上げる事もなくキメラは絶命する。

 

「ふむ……カット!」

 

「「「■ァァっ……」」」

 

空から鋭い嘴で俺の脳天を突きに来る鴉に似たナニカを爪で切り裂く。

チッ、これ以上物量で攻められると面倒だ。

さっさと無力化しないと。

 

空を見ると何体かオーフィス達の方へと向かっていくのが見える。

今から落とそうにも取り逃すだろう。

 

落とすより創造者の方へと向かう方が得策だ。

 

そう思い俺はさらに奥へと跳んだ。

無論、邪魔する魔獣共は殺した。

面倒だからタタリを使ったが、こういう時の教授は本当に頼りになる。

相手が多ければ多いほど彼の混沌がどれ程絶望的か分かる。

単純な物量ならば彼はこの世界でも上位に位置するだろうな。

しかも殺すのも困難と来たら誰でも匙を投げる。

 

あの眼鏡やっぱおかしいわ(褒め言葉)。

直死の魔眼はチートだなぁ。

この男を殺すことができるんだから。

七夜の血と体術にこの魔眼という鬼に金棒、アーサー王にエクスカリバーみたいな感じで相手からしたらやってられねぇ状態だよ、うん。

俺なら間違いなく逃げるね。

 

両儀?あれも嫌だね。

というかあの手の人間に勝てると思えん。

 

……ん?この世界にはそれがない。

 

教授を再現→殺すのが一握り程度→冥界の生命のピンチ→やったぜネロカオス

この流れ……完璧だ。

 

まあ、それはともかく。

 

かなりの数を殺してる筈だが未だに術者の姿が見えやしない。

気配はするんだがな……。

 

「些か飽きたな。あまりしたくはないのだが……

本番中にアクシデントはよくあることだ。

そう、例えば竜巻とかね。」

 

俺を中心に巨大な竜巻を発生させて森を吹き飛ばす。

森在住の動物達には悪いが、弱肉強食の一部と思ってくれ。

 

竜巻が消える頃には見晴らしがよくなってるだろう。

 

「さて、術者は……そこかね。」

 

「ひっ……」

 

思ったより小さいな。

男の子とも女の子とも取れる中性的な顔立ち。

声も子供だからあまり宛にならない。

布のようなものを着ていて顔しかわからん。

 

困った。

実に困ったぞこれは。

……交渉しづらいなぁ。

 

「君かね、先程から私達に獣を差し向けてくるのは。」

 

「うっ、ぅん。」

 

「……ふむ、私は敵ではない。

君が攻撃をやめてくれればだがね。

そちらが何もしなければ危害を加えることはしないと誓おう。」

 

会話の姿勢を取ってくれるように出来るだけ優しく話し掛ける。

忠告も含めてだけどな。

 

子供は警戒しながらも話しかけてくる。

 

「僕を、捕まえない?」

 

「捕まえないよ。何故、そう思ったのかな?」

 

「黒い羽の人達が、僕の村を襲ってきて…それでっ」

 

「堕天使か……」

 

チッ、アイツら面倒なことを。

 

確か堕天使のトップはアザゼルだった筈だ。

サーゼクスから人とナリは聞いている。

 

神器を研究する事が生き甲斐、とかなんとか。

 

成る程、確かに魔獣創造は神滅具で研究しがいはあるだろう。

だが、子供一人を拐うのに村を襲うのはどうかと思う。

 

「……こんな力が、あるからっ。」

 

「要らないと?」

 

「いらない!

パパも、ママも、皆あいつらに殺された!

こんなのがあるからこうなったんだ!

だから、こんな力いらない!欲しくなかった!!」

 

いつかのはぐれ悪魔と重なって見えた。

悲痛な叫びだ。

異常な力より、平凡な日々を求める声だ。

 

聖書の神。

お前は確かに人間の為と作ったのかもしれない。

だが、現状がコレだ。

力を喜ぶ者よりも、力を嘆く者が多い。

これからの世界にこのような物がいるのか。

 

否、断じて否である。

 

神が人間を守る時代はもうありはしないのだ。

 

「…私なら、その力を奪い取れると言えばどうする?」

 

だから、こんな提案をした。

こうせざるを得なかったと涙を流す者が目の前に居て。

それをどうにか出来る力があって。

 

どうして助けないという選択が出来ようか?

俺には出来ない。

 

家族という宝を求めた俺には出来っこないんだ。

 

目の前のこの子を助けたい。

 

いつか覚悟を決めるためにも。

 

「出来る、の?」

 

「可能だ。だが、失敗して死ぬ可能性もある。

……どうする?」

 

死ぬかもしれない。

その可能性を幼いながらも子供は必死に考える。

力を持って、異常に生きるか。

力を無くし、平凡へ生きるか。

 

5分だろうか、それぐらい時間が経った後に子供は俺を真っ直ぐと見た。

 

「お願いします。」

 

「─ふふ、いい目だ。

了解した、必ずや私が君を助けよう。

死徒二十七祖十三位タタリとして誓おうではないか。」

 

「死徒二十七……え?」

 

「気にしなくていい。……他人()の肩書きだ。」

 

そう、俺は彼じゃない。

彼という皮を被った元人間だ。

そうだとも、俺は彼のような大層なことは何一つしちゃいない。

けれど、それでも俺は。

 

「さあ、座りたまえ。少し、いやかなり苦痛を伴うやもしれんが、意識を失わないように。」

 

これは魂に干渉する。

つまり、その魂を宿す者には異物感がするだろう。

俺というその身にないナニカが侵入するわけだからな。

 

そして、その魂に強く結び付いている神器のみを取り除くのは決して簡単ではない。

 

だが、今まで俺は何もしなかった訳ではない。

俺は神器を取り除く方法を模索した。

何度も、何度もだ。

 

そしてついに見付けたのだ。

 

アトラス院院長であり、才能あるこの身だから出来ることだ。

 

「では、手術の時間だ。」

 

エーテライトを首筋へと刺す。

この子の情報というより、魔獣創造の情報を得ることによりコンタクトを楽にする。

 

……うん、思ったより早く見つけた。

相手が子供でよかったといえる。

大人だったらもう少しかかってた事だろう。

 

だが、休んでる暇はない。

この間にもこの子は消耗している。

このまま魂の方へと接続する。

 

『─中々、凶暴なモノを飼ってるな。』

 

意識が魂に着くと、多くの怪物がそこにはいた。

 

『『『■■■■■■■■■!!!』』』

 

本当にいるわけではない。

魔獣創造という神器が俺を拒むために無意識的に造り出した悪性データだろう。

 

これを切り分けながらさらに深層へと進む。

 

「うっ、ぐぅ……!」

 

子供が激痛に悶える。

だが、暴れないところを見るに耐えているのだろう。

この子の頑張りにも応えねば。

 

少し急いで進む。

 

『……見えたぞ、暴れ馬よ。』

 

データの海の底に、光る物体を見付ける。

酷く歪ながらも輝くこれこそが魔獣創造だろう。

 

他のデータよりもより濃いからな。

 

さて、ここからが本番だ。

手早く済ませないと子供が死ぬ。

 

するのはデータの分解、そして取り込みだ。

分解しただけでは取り除けない。

分解したソレがまたくっついてしまう可能性があるからだ。

 

周りの悪性データに比べ大人しいコレを繊細かつ素早い動きで分解していく。

 

何故だろうか。

もう少し何かあると思ったが……。

 

無事に分解し終え、俺の中へと取り込む。

 

…これが、神器か。

なるほど、白龍皇の男の気持ちも分かるかもしれない。

これは強大な力だ。

こんなのを突如手に入れればああもなる。

まあ、俺には起こらないが。

 

力に酔えば家族が危ない。

それこそが俺の抑止力となっているからな。

 

さて、終わったな。

 

「……終わったぞ。」

 

「ぅ……」

 

「っと、よく耐えたと言うべきだなこれは。

終わるまでずっと激痛を耐えていたのか。」

 

子供は俺に倒れかかり、俺はそれを受け止める。

 

……うん、よく頑張ったな。

 

「ともあれ、さっさと家族の元へ戻らねば。」

 

子供を抱えて戻る。

軽いな、ちゃんと食べて……る訳ないか。

 

 

 

 

 

 

「あ、お帰りなさいズェピア。」

 

「ん、おかえり。モグモグ」

 

「……何を焼いているのか、聞いても?」

 

「「魔獣。」」

 

「ずいぶん野性的になってお父さん悲しいよ。」

 

【悲報】戻ったら娘達が魔獣殺して焼いて食ってました

 

おい、おいおい、待ってくれ。

ソレさっきの飛んでった奴だよね?

食えるの?

いやその前によく食べようって思ったね。

 

「ズェピア、その子が神滅具の?」

 

「神滅具ならもうないがね。」

 

「えっ?まさか、殺したの!?」

 

「違う違う。取り除いた…は違うか。

移植した。」

 

「移植って…もしかして」

 

「予想は当たってると言っておこう。」

 

「…そっか。よかったぁ…その子殺しちゃったのかなって思っちゃった。」

 

「我、信じてたから平気。」

 

「まあ、それは後々でいいとして。

この子の目が覚めるまでしばらくここで休むとしよう。」

 

二人とも頷く。

さて……この魔獣のこんがり肉どうしよう。

上手に焼けちゃってて困ったんだけど。

 

美味しくなさそうなんだけど?ハァ……。

 

 

その後、魔獣の肉を一口食べたが案外美味くてさらに困惑してしまった。

 

 



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騙し騙され

どうも、ロザミアです。

今回はシリアス多めです。


ある一室にてソファに座り対面する男が二名居た。

 

一人は無に近い表情で、もう一人は疑うような表情で対面していた。

 

「君は、何を言っているんだ……?」

 

「分からないのか。

アイツは困ったことに俺たちにとっても非常に扱いにくい存在だ。

立場が違うといえど情愛ならお前と同じぐらいじゃないか?」

 

「……だが、君がやろうとしてることはっ」

 

「なら、お前がアイツを必要とするのは何故だ?

天才的な錬金術の才能か?

弱いとはいえ二天龍を圧倒する力か?

違うな、甘いお前はそんな理由で守ろうとはしない。」

 

「彼は今後の冥界にも必要だ。

彼という存在は一部への抑止力にもなり得る。」

 

「同時に脅威にもなり得る。

よく考えろ、今でも制御出来ていないのにこれからの冥界で裏切らない確証はないだろ?」

 

淡々と告げる。

あれは自分達の今後にとっての障害物となると。

それもまた事実であるが故に向かい合う紅髪の男は押し黙る。

 

「……俺はお前の判断に委ねるよ。

だが、これだけは言っておく。

もしお前の身内に何か起こったとしてもそれはお前の責任だ。

お前は王だ。

よく考え、決めてくれよ。」

 

そう言って、緑髪の男は部屋を出た。

 

残ったのは、未だ王として未熟な男一人のみだった。

 

「私はっ……」

 

 

 

─────────────────────

 

 

 

やあ、皆の衆。

俺だ、ワラキーだ。

 

さて、俺氏待望の魔獣創造をゲッチュしたが、困った事がある。

 

教授を造り出すにしても何時にしようかな。

 

という、初歩的すぎて就職面接なら面接官三人に笑顔で親指首にかけられて仕舞いになるレベルの悩みで馬鹿してる。

 

まあ、これはさておき。

そろそろ子供の意識が回復する頃合いだろう。

 

「ん……」

 

「おや、起きたようだね。気分はどうかな?」

 

「……あれ、おじさんは……」

 

お、おじさん……待ってくれ。

そこまで歳を取って…ますね、はい。

確かにおじさんだがワラキーの見た目は美青年と言われてもおかしくはない筈だ。

声か、声なのか!

 

子供は先程の出来事を思い出したのか、バッと起き上がり俺を見ている。

フリージアとオーフィスはじっと子供を見ている。

俺に対応は任せる、ということだろう。

 

まあ、そうだよな。

 

「おじさん、そのっ、あの力は!?」

 

「安心したまえ、もう君は無力な人間だよ。」

 

子供は俺の言葉を聞き、魔獣創造が無くなったのを理解したのか、力が抜けたように座り込む。

 

そして、涙を流しながら俺に頭を下げる。

俺は慌てて顔を上げさせる。

 

「ありがとうございますっ……!ありがとうございます!!」

 

──。

 

「…よかったね、ズェピア。」

 

「ん、良い事した。」

 

─違う、感謝なんてされるべきじゃない。

 

「……よしてくれ、私は善意だけで助けたわけではない。」

 

心からの感謝の言葉だなんて、言われる価値が俺にあるのか。

俺はこの子を利用したようなものだ。

それに、俺はあの時に思ってしまったのだ。

 

 

─『別に死んでも問題はないか』だなんて。

 

そんな事、思ってはいけないはずなのに。

助けると言った手前、そんな掌を返すような事を少しでも思ってしまったのに。

 

この子達からこんな暖かい言葉を貰って良いのか?

笑顔を貰って良いのか?

 

俺はこの子に包み隠さずに言った。

 

「私はあの時、君が死んでしまっても良いかもしれないと一瞬思ってしまったのにかね?」

 

子供は少し戸惑ったようだが、それでも俺に笑顔を向ける。

 

「…それでも、僕は…おじさんに助けられました。

おじさんは僕にとっての『ヒーロー』です!」

 

─ああ。

 

「ズェピア、この子も言ってるように助けたのは事実なんだから。

それに助けられてばかりの私がいうのも何だけど…過程がどうあれ人を助けるのは凄いことだと思うな。」

 

「凄いこと…?」

 

「ん、人を助けるのは簡単じゃない。

それをやれるのは凄いこと。」

 

凄いこと。

そう言われて、俺はまた馬鹿になっていた事に気付く。

駄目だな、冥界での過激な生活で死徒の考えに近づいてたようだ。

 

…うん、もう大丈夫。

「……そうか。うむ、それならば、もう少し君の助けになりたい。いいかね?」

 

「え?」

 

「私が昔世話になった村があってね。

私が頼んで君をそこに預けようと思う。

…どうかな?」

 

「い、いいんですか……?」

 

「私は、君がどうしたいかを聞いている。

私では君の答えにはなれない。

私は道を作るだけだ。後は、君が選ぶべきだろう。」

 

子供は考える。

自らに宿してしまった力で故郷を無くした子供はきっとこう思うだろう。

 

『またあの時のような事が起こるんじゃないか』と。

 

だからこそ、俺は言わねばならない。

それは過去に恐れて逃げているのだと。

 

俺が言えることではないかもしれないけど。

 

「君の恐怖は分かる。

同じ悲劇が起こるのではと恐れるのも当然だ。

だが、出来ればでいい。

私は君に本心での言葉を言ってほしい。」

 

「僕、は……僕は──

 

──僕は、居場所が、欲しいです。

普通の人間としての居場所が、欲しいです!」

 

「…ハハハ、言えるじゃないか。

うむ、了解した。

では、行くとしよう。」

 

俺は転移を発動した。

行き場所はもちろん世話になった村だ。

 

 

 

 

 

 

……あの後、路銀もなくて一日働かせてくれと頼み込んだ時のように村長に頼んだところ、快くあの子を迎え入れてくれた。

どうやら、俺に恩があるとか何とか。

おかしいな。逆だと思うんだけど……

 

娘さんの病気を治した位だしなぁ……うーん?

 

まあ、何はともあれ、あの子もこれで普通の生活をすることが出来るだろう。

また何度も感謝されたが、実際のところ感謝したいのはこちらだ。

 

『ヒーロー』、そんな事を言われたのは初めてだ。

 

俺はズェピア・エルトナムのように滅びを回避しようなどとは思わないし、衛宮士郎のように正義の味方になりたい訳でもない。

 

だが、ああ呼ばれたことで確かに俺の中でよかったと思ったのは確かだし悪い気はしなかった。

 

なる気は起きないけどな。

 

「よかったね、無事に預けれて。」

 

「ああ、もし駄目なら少し困っていた。」

 

「何をする気だったのかは聞かないでおくわ……。」

 

そんな思ってるような事はしないが、まあいいや。

 

現在俺達はやることが済んだので我が家に戻っている。

うむ、長いこと住んでるから落ち着くな。

 

空は青くないけど、まあそこは妥協である。

 

さて、そろそろ魔獣創造で新たなる死徒二十七祖を……

 

「む、連絡が……」

 

創ろうと思ったらこれだよ。

誰かは見当がついてるっていうか絶対サーゼクス。

 

「やあ、どうかしたのかね。」

 

『……僕が言いたいこと分かるかい?』

 

「ああ、ただいま。」

 

『あ、おかえり。じゃなくて!僕の頼んでいた仕事を放ってどこか行ったよね!』

 

「楽しかったよ。」

 

『それはよかったね!でもこっちはよくないんだよ!

今日は何とかなったからいいけどもっと早めに連絡を入れてくれ!』

 

「うむ、了解した。用件はそれだけかね?」

 

『いや、少し別件で話があるんだ。

すくにでも来れるかい?』

 

「すぐにかね。分かった、行こう。」

 

『…ああ。』

 

通信が切れる。

……最後の返事だけ何やらおかしかったような?

気のせいか。

 

「ズェピア、ごめんね……私の無茶なお願いのせいで。」

 

「いやいや、謝ることはない。

家族との時間が一番大切だからね。

オーフィス、留守は頼んだよ。」

 

「ん、任せて。」

 

「任せた。では、行ってくる。」

 

急いだ方が良さそうかな。

怒ってるだろうしなぁ……。

 

俺は少し気怠さを感じながら家を出た。

 

 

 

「……さて、片付けをしよっと……熱っ!」

 

─パリン

 

「あーっ!?ず、ズェピアのティーカップがぁ!!」

 

「フリージア、ドジ……。」

 

「うぅ……いつもはこんなことにならないのに…ピクニックで浮かれてるのかなぁ……?」

 

 

──────────────────────

 

 

さて、サーゼクスの説教の時間&依頼か。

どんな無茶振りをするのやら。

グレイフィアではないメイドに案内され、彼の待つ部屋の前に着く。

 

「ありがとう、しかし妙だ……。

いつもならばグレイフィア君が案内をしてくれるのだが。」

 

「グレイフィア様ならば、ご多忙により手が離せないとのことで私が案内を務めましたが…何か至らぬ事をしてしまいましたか?」

 

「いや、疑問が晴れた。

仕事に戻ってくれて構わない。

無駄な時間を取らせてすまないね。」

 

「いえ、では私はこれで……。」

 

メイドは急ぐ様子もなく去っていく。

時間に余裕があるのだろうか?

まあいいか……。

 

俺は扉をノックする。

 

「サーゼクス、私だ。」

 

『入ってくれ。』

 

「うむ、失礼するよ。」

 

俺は扉を開けて中へと入る。

 

何やら重苦しい雰囲気だ──

 

 

「─なぜ君がここにいる?アジュカ・ベルゼブブ。」

 

「久しぶりだな、吸血鬼。」

 

この技術者悪魔が何故ここにいる?

おかしい、大分おかしいぞ……

 

「……久しぶりだね。

私の事を嫌っている君が居るなどとは思いもしなかったよ。

…どういう風の吹き回しかね?」

 

「まあまあ、落ち着いてくれ二人とも。

今日は…アジュカも必要な案件なんだ。

何で仲が悪いのか分からないけど抑えてくれ。」

 

サーゼクスが苦笑しながら俺たちを止める。

何で分からないのさ、こいつと俺では色々と合わないのが……。

 

それに、先程から何か様子が変だ。

焦っている?

いや、違うな……ふぅむ?

 

「…それは構わないが、それほどの案件を何故私に?」

 

「……それは、アジュカから聞いてくれ。」

 

こいつから聞かなきゃいけないのは凄く嫌なんだけど……友人の頼みだし、仕方無いか。

 

「では、聞かせてくれ、アジュカ君。」

 

「君付けはやめろ。

手っ取り早く言うと、今回はセラフォルーとファルビウムじゃなくお前が必要な案件ってことだよ。」

 

アジュカは俺に指を指してくる。

あの、人に指を指すのは駄目だって習わなかったのかこいつ。

 

いや待て、それにしたっておかしくないか。

セラフォルーとファルビウムは決して無才ではない。

むしろ才能ある方だ。性格が問題だけど。

 

そんな二人じゃ……いや、まして四大魔王揃って無理な案件を俺に持ってきたって事になる。

「サーゼクス、君はまさか──」

 

 

「─必要だよ、これからの為にもな。」

 

俺がサーゼクスに問おうとした瞬間だった。

アジュカがそう言って魔法で鎖を出して両腕を拘束しに来る。

 

どういう事だ、これは。

おかしいと思ったが、まさかこれか?

 

不意を突かれたが即座に反応して俺は向かってくる鎖をマントで──

 

 

「─ぐぅっ!?」

 

「…すまない、ズェピア。」

 

 

─壊そうとしてマントが一部消し飛んだ。

 

サーゼクスの謝罪の声に振り向いて見ると彼が小さく滅びの魔力を放ったのが理解できた。

 

怯んでしまった俺はあっさりと腕を縛られる。

 

……何故、何故だ?

 

おかしい。

どうしてこうなったんだ?

 

俺の今回の行動のせいか?

 

「……何故だ、サーゼクス、アジュカ!」

 

「……。」

 

「提案したのは俺だ。」

 

「何……?」

 

サーゼクスに本当なのかという視線を送ると、サーゼクスは顔を俯かせる。

 

……どうやら、本当のようだ。

 

「ならば、何故このような事をしたアジュカ・ベルゼブブ。」

 

「邪魔だからだ。今後の冥界の為にもな。

俺も最初は頼りになる存在だと思っていた。

だが、最近のお前はどこか不穏だった。

聞けば、神滅具に届く兵器を作ったらしいな。」

 

「……ああ、だが、君達に害を与える物ではない。」

 

「仮にそうだとしても、他にも不安材料が多すぎるのさ、お前はな。

それに、最終的に決めたのはサーゼクスだ。」

 

「…なるほど、そうか、そうか……」

 

馬鹿な俺でももう分かったよ。

確かに、余所から来て、二天龍を倒す実力を持ち、錬金術と相手からすれば謎の力を持っていて、さらに力を付けるために兵器を作った奴は不安でしかない。

それに、最近は勝手な行動が過ぎた。

 

ああくそ、馬鹿だ馬鹿だと思ってたがここまでとは。

笑ってしまうほどの愚かさだな、俺。

 

「……私を殺すと?」

 

「そうだな、追放しても良いがその場合仕返しが怖い。殺す方が得策と考えるがどう思う?」

 

「私がそちらの現在の立場ならそうするだろうね。」

 

「……随分と落ち着いてるな?」

 

「いやなに、私は少々勝手が過ぎたようだと内心自嘲してただけだよ。

だが、そうだな……フリージアはどうなる?」

 

アジュカは俺の問いにハッと笑い飛ばす。

 

「なんだ、身内の心配か?

まあ、記憶を消して地上のどこかにでも放るさ。」

 

「…ハ、随分と甘いことだ。

記憶を消すといえどそれは魔法の力だ。

効果が消えるとは考えないのかね?」

 

「…では殺すか?

仲良く墓にでも埋めてやる位はしてやる。」

 

……中々、面白くないな。

殺すか、記憶を消すかの二択しかないとはな。

それと一つ、分かったことがある。

 

「フフ、ハハハ!君は中々に下らない発言をする阿呆で笑ってしまうよ。アジュカ君……いや?偽者と呼ばせてもらおう。」

 

「……何を言っている?追い詰められたからと一芝居打とうという魂胆か?」

 

「いやいや、これは確証だよ。

何なら、説明しても良い。

それに、この拘束具に縛られるのも飽きてきたからね。」

 

「だからどうした、悪いが芝居に付き合うつもりは」

 

「いや、付き合ってもらうよ。

まんまと騙されている未熟者の為にもね。」

 

俺は自分の近くに魔獣を数体造り出し、襲わせる。

 

「チッ、魔獣だと!?」

 

「ズェピア、まさか手に入れてたのか!」

 

「その通りだ、特別しぶとい魔獣を造っておいた。

存分に楽しみたまえ。」

 

魔獣には俺が狙われないように撹乱しながら襲えと事前に命令を送ってある。

魔獣はその通りに動き、殺されていく。

 

さて、と……俺を縛ったツケは高いぞ。

 

「ふむ、脆い。お陰で確信が持てた。」

 

「拘束を解いたのか……!」

 

「サーゼクス、妙だとは思わないか?

君の友人であり超越者たるアジュカ・ベルゼブブ。

彼は根っからの研究者だ。

そして、遊び心も持っている。

私はね、この点から気付いた。

 

どうして鎖に何も仕込まなかったのかと。」

 

「サーゼクス、聞く意味などない!

さっさとこいつを「君は黙りたまえ。」チィッ…!」

 

魔獣は良い子だ。

機械より可愛いげがあるし命令通りに動く。

偽アジュカを対処してる間にサーゼクスと答え合わせをしよう。

 

サーゼクスも自分の気質故か俺の言葉に耳を傾ける。

甘いが、今はその甘さが俺を助けてくれる。

 

「うむ、聞いてくれることを感謝する。

先程の点ともう一つ。

彼、弱すぎやしないかな?」

 

「……!そうだ、アジュカはどうして『覇軍の方程式』を使わないんだ?」

 

「そう、『覇軍の方程式』を使えばあの程度の魔獣は一瞬で殺せる。いや、使わずとも一瞬だろうがね。

それとだが……君、一つ彼に話題を振ってみたまえ。

彼がアジュカ・ベルゼブブであるのなら、必ず理解できる話題をね。」

 

そう、俺は知ってるぞ。

お前の開発したあの駒の存在を。

何で知ってるか?

 

……ふふ(黒い笑み)

 

サーゼクスは偽アジュカの真偽を確かめるために魔獣を滅ぼし、偽アジュカに訊く。

 

「助かった、サーゼクス。さぁ、アイツを…」

 

「アジュカ、一つ聞きたい。

『王』の駒について、知ってるか?」

 

「『王』の駒?知ってるもなにも、俺が作った物だろう。」

 

「どんな効果かも?」

 

「…そんな事聞いてる間に逃げられたらどうする?

さっさと─「答えろ、アジュカ!」……チッ。」

 

おいこいつ今舌打ちしたぞ。

マヌケは見つかったようだな。

 

「良いとこまでいったんだけどな…勘が鋭い奴だ。」

 

偽アジュカは観念したのか真の姿を現す。

今まで見たことがない悪魔だ。

長身細身の体に黒い短髪の男……誰だ?

 

「君は……旧魔王の…」

 

「ゲアプ家、聞いたことはあるだろ?」

 

「ゲアプ家…もう潰れてしまったと聞いていたが…」

 

「ああ、俺で最後さ。

隠されてた存在って奴さカッコいいだろ?」

 

ゲアプ…ガープの事か。

 

「感情を意のままに操るというゲアプかね。」

 

「そう、それ。だが、俺の感情催眠は俺より強い奴には効き目が薄くてね。

まさか、魔王様に多少の誤魔化し程度の効果があるとは思ってなかったが。」

 

「友の姿ということで心を許してしまっていた…といったところか。」

 

「ぐっ……確かにそうだ。

まんまと騙されて不甲斐ない……」

 

「いや、実に巧妙な擬態だった。

私も引っ掛かっていた可能性は高い。」

 

サーゼクスがちょろいのではなく、相手が上手だった。

心理戦が強いのは流石は感情を操れる悪魔といったところだな。

情愛を利用するとはな。

 

「そりゃどうも。……だが、ここまでみたいだが。」

 

「ああ、君はここでゲームオーバーだ。

……だが、君は中々の役者だった。

来世に期待したまえ。」

 

「悪魔にそんなもんあるとは思えないがな。」

 

「…なぜそんなにもすぐに諦めきれるんだ?」

 

「魔王様、この状況で諦められないなんてそれこそ主人公ですよ。

ま、俺は旧魔王とかそんなんどうでもいいんですよ。

俺は単にやれるところまでやりたいだけだった。

俺個人としてなんで大人しくしてる旧魔王の皆さんにはお仕置きとか無しで頼むわ。」

 

「…いいだろう。では、君の生に幕を引こう。

……サーゼクス、君が王だろう。

後は分かるね?」

 

「分かっている。」

 

「超越者直々に俺を殺してくれるなんて、中々無いんじゃないかこんな体験。

…魔王さん、あんたはもうちょっと賢くなるべきだぜ、良くも悪くもね。」

 

「ああ、痛感させられたよ。

……去らばだ!」

 

「おお……こりゃ、痛みもなさそうだ──」

 

ゲアプ家最後の悪魔は滅びの魔力で消し飛ばされた。

 

「…してやられた訳だ、我々は。」

 

「そうだな、もっと、魔王として強くあらねばならないとな……。

すまなかった、王としても、友人としても…

僕は君を勘違いという最低な理由で殺すところだった。

どうか許してほしい……!」

 

……いや、あながち間違ってないから何とも言えないんだよなぁ……

いつか俺はお前を裏切るし、お前は俺を倒さなきゃならない。

 

そう、今回は今の立場だから出来たわけだし。

 

だが、うん。

俺もまだまだということが分かってよかった。

お互い強く在らねばならないからな。

 

…そういう意味ではあの悪魔は強敵だった。

ズェピア・エルトナムとしてだらしなかった。

 

「いや、謝罪しなくともいい。

私もまんまと乗せられた身だ。

今回の事は私と君により向上心を持たせる良い機会だったといえる。

ならば、ここはこういこうではないか。

 

今回の失敗を糧に頑張ろう、とね。」

 

俺はそう言ってサーゼクスに握手を求める。

彼はそれを聞いて一瞬だけ呆けていたがすぐに苦笑して

それに応じてくれた。

 

「全く、君という奴は。

…ありがとう、これからも頼むよ。」

 

「ああ、君は私の友人(宿敵)だからね。

任せてくれたまえ。」

 

そうして俺達はより絆を深めた。

 

そう、いつか崩れる絆でも、今は本物だ。

 

彼は真に王としての道を駆けるだろう。

ならば俺も駆ける。

 

俺が()を越えるために。

 

 

 

 

 

 

「だけど、朝の件は別だ。」

 

「チッ、忘れてくれてよかったものを。」

 

「どさくさに紛れて何無かったことにしようとしてるんだ。」

 

そこに関してだけ説教されてげんなりしながら家に帰った俺でしたとさ。

 

そして、俺のティーカップが『壊れた幻想(ブロークンファンタズム)』したと知ったとき俺は血の涙を流した。

 

フリージアが必死に謝られたが怒ってない。

決して怒ってるわけではなく、ただ疲れた。

 




少し話が急展開でしたかね?

まあいいや(無責任)

今回の話を見てくれた通り、サーゼクス君はランクアップエクシーズチェンジします。

まだだけど。


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混沌、顕現

どうも、ロザミアです。

今回はあの人が出ます。


やあ、皆の衆。

俺だ、ワラキーだ。

 

前回の後に俺は俺自身の強化と身の回りの強化をしようと励んだ。

 

最初に俺自身の強化についてだが単純に演算能力の強化だな。

後は片っ端から想像力をあげれそうな本を読んだ。

タタリの為の強化だね。

……もう一個あるけど秘密な。

今できるのはこれくらいだ。

 

んで、身の回りの強化についてだが今からやる予定だ。

 

ん?今回は何日掛けたのかって?

 

鋭いな諸君。

うむ、うむ。

今回はね。

 

三週間掛けたよ。

それまではぐれ悪魔の討伐だとか色々あったが最近は順調だ。

サーゼクスもより一層民の期待を裏切らないような魔王になると励んでいる。

最近はアイツとそれぞれの改善点を述べていって互いを高めあったりもしている。

セラフォルーは何故かそのシーンを見て奇妙な笑みを浮かべていたけど何だったのか……。

 

さぁて、皆さんお待ちかねだ。

 

魔獣創造とタタリを用いて『あの人』を作るよ!

 

まずは魔獣創造を使って凡そ666体の姿形全てが違う魔獣から因子を摘出。

 

そして、タタリで『あの人』の情報を使って再現を行う。

これはメルブラのタタリと同じ要領での再現だな。

 

だが、困ったことに噂を糧にしてないから中身は空っぽだ。

 

そこで、『あの人』の情報の通りに獣の因子を組み込む。

魔獣の因子だから強化個体だなこれ。

特性もろもろは改造版タタリのお陰で弱体化ではなく本体そのものの性能だ。

 

そして、最後に組み込むのは『魂』だ。

 

最難関だろうと思われるが、忘れたのかな?

俺は神器の摘出も行える。

つまりは、魂のみを抜き出す事も可能だ。

 

安心してほしいが、抜き出したのは特別悪どいはぐれ悪魔の魂だ。

これは悲劇的な奴ではなく自分から悪魔になって主を裏切った畜生だ。

 

そして、この魂にエーテライトをぶっ刺してはぐれ悪魔の情報を抜き取り、削除を行って綺麗な染まってない魂にする。

 

これを組み込むことにより完成する。

 

そうして出来上がった灰色の髪でロングコートを着た大柄な壮年の『同胞』に話し掛ける。

 

「……気分はどうかね?

 

死徒二十七祖第十位『混沌』殿。」

 

「─悪くない目覚めだ。

私を喚ぶということは混沌という世に交わるべきものではない異端が世界に組み込まれること。

それを理解しての喚び出しか、第十三位『タタリ』?」

 

お、おお……おおぉ!?じょ、譲治だ…完璧な譲治や!

こ、興奮してきた!

いや待て、抑えろ。

 

俺は彼に死徒二十七祖第十三位として対応しなくてはならない。

 

「キ、この世界にとって異端だとしても貴方は同胞だ。なればこそ、これから始まるであろう舞台に出演を願いたい。」

 

「…ふ、いいだろう。

だが私は混沌。ただ喰らうのみの獣である。

貴様の意に従うとしよう。」

 

「従う、とは。

よろしいのかね?

私は比較的新参者の死徒だ。

貴方のプライドが許さないと思っていたが?」

 

「確かに『私』ならばそうなっていただろう。

だが、この場に居るのは貴様という存在が造り出した新たなる私だ。

多少の相違はあろうよ。」

 

なるほど、言い得て妙だ。

 

確かに、彼はネロ・カオスという情報を元に創られた。

だが、そこに本物のネロ・カオスという意思は存在しないでここにいるのは魔獣創造とタタリによって創られた少し違ったネロ・カオスということだ。

 

だが、こうでいてくれた方が俺もやりやすい。

 

「ふむ、では協力感謝しよう偉大なりし先達よ。

私は貴方とこれからの道を歩めることを誇りに思う。」

 

「仮にも死徒二十七祖であるのならば、先達としてその考えは勧めんな。

本来ならば喰うか喰われるかの関係。

だが、一つの違いによって我らをこのようなプラスの関係へと変えたのだ。

故にこそ、よろしく頼もう。」

 

「……ハハ。」

 

「…クク。」

 

そう、そうだ、これだ。

こんなやり取りこそを俺は求めた!

 

嗚呼、最高だ。

俺は彼との共闘が出来るんだ!

ハハハ、本来ならばあるわけがない!

 

けれど、この世界が可能にした。

してしまった!

全く、この世界には飽きないな……。

 

「では、家族を紹介したい。ついてきてくれ。」

 

「家族?広すぎる屋敷と思ってはいたが…いや、何も言うまい。」

 

やっぱりそこはネロ・カオス。

疑問に思ってしまったようなので今までの俺の経緯を歩きながら説明した。

 

彼は合点がいったという様子で歩いている。

 

……あ、しまった。

 

「すまない、一つ頼みたいことが…。」

 

「む、なんだ?」

 

「…もう少し身なりを整えてくれると助かる。」

 

「…女か。」

 

「うむ、そういうことなのだ。」

 

首から下が黒く染まってるからかは知らないが、注意が遅れた。

危なかった、もう少し遅ければ露出狂の祖になるところだった。

 

俺はタタリを使って黒のジーンズを作りだし、彼に渡す。

彼は落ち着いた様子でそれを着用する。

 

……お、中々似合ってるな。

 

「感謝する。では、行くとしよう。」

 

「…女とはな、嫁か?」

 

「いや違う、娘だ。」

 

「娘?血を吸った訳ではあるまい。

貴様は暴飲だからな。…なるほど、察した。」

 

おい、なんだその顔は。

その微妙にニヤけた顔はなんだ。

 

「紹介した後にこの世界についてもう少し詳しく話すとしよう。

故に、その顔をやめてくれると私は嬉しいのだが?」

 

「いやすまない。

貴様がまさか人間を保護するとは思わなかった故な。」

 

だろうよ。

本来のワラキアの夜はそんな事しないしな。

ズェピア・エルトナムなら…まあ、あるかも?

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっと……ズェピア、この人誰?」

 

「不審者。」

 

「いやいや、彼は助っ人だよ。

私だけでは守りきれない時が多い。

そこで彼だ。

自己紹介を頼む、偉大なりし先達よ。」

 

「我が名はネロ・カオス。

人間の娘、貴様を護れと頼まれこうしてここに居る。」

 

多少不服そうではあるがフリージアに対して挨拶をする。

まあ、その内仲は良くなる……と思いたい。

 

「えっと、よろしくお願いします?」

 

「疑問形…?我、オーフィス。

よろしく。」

 

「…よろしく頼む。

人間、貴様の終わりまでだがな。」

 

「は、はい。

……うぅ、またちょっと変わったタイプだなぁ……。」

 

「まあ、こう言っているが安心してほしい。

彼の同意の元だ、しっかりと守ってくれるだろう。」

 

「うん……ごめんね、ズェピア。」

 

「気に病む事はない。

私は私がしたいからしているだけだからね。」

 

というか、謝られると反応に困る。

この子は自分のせいで苦労を掛けていると思ってるのだろうがそれは違う。

これは俺がしたかった事でもあり、恩返しなんだ。

 

今まで俺が俺でいれるのは二人の存在があったからだ。

 

きっと、少しでも選択を間違えていればこうならなかった。

 

だから、この選択は間違ってない。

俺はこれからも選び続ける。

周りと共に、延々と生を謳歌する限りは選択の連続だ。

間違いもあるだろう、批判もあるだろ。

 

それがどうしたというのか。

選び直しは出来ないのだ。

世界はゲームじゃない。

やり直しなんて、あってはならない。

 

そっと、選んだ結果、家族となった娘の頭に手を乗せる。

 

突然だったのでビクリとしたものの気になったのか俺を見上げてくる。

 

「どうしたの、ズェピア?」

 

「いいや、何でもない。

ただこの光景を見て、私は間違ってなかったと実感できるのだ。」

 

「えっと…?」

 

「気にしなくていい。気持ちの整理、というヤツだ。」

 

優しく、撫でる。

 

うん、まだ、ここにいる。

まだこの日常を過ごしてもいいんだ。

 

「……ズェピア、座る。」

 

「む?突然どうしたのかねオーフィス。」

 

「いいから、座る。」

 

「あ、ああ……了解した。……これでいいだろうか?」

 

「ん。」

 

突然椅子に座らされ、何をされるのかと思うと、肩を揉まれる感触がした。

 

「…オーフィス?」

 

「いいから、大人しくしてる。」

 

後ろから聞こえる、安心させるような優しい声。

今まで頑張ったと労るような、だが俺にはこれからも頑張ってという鼓舞にも聞こえた。

 

…涙腺、脆くなくてよかったな。

 

「……ああ、ありがとう。」

 

「あ、ズルい、私もやる!いいよね?」

 

「ん、少ししたらフリージアの番。」

 

「……ふむ、ところで、私もする流れか?」

 

「「それはない。」」

 

「そうか……。」

 

待ってくれ、このネロ・カオス、少しネタ方面にも振れてないか?

ノリがいいというか……いや、その方が助かるんだけどさ。

魔獣創造の影響か…?

 

ていうか、教授、そのニヤニヤをやめてくれ。

 

恥ずかしくて敵わん。

 

その後、交代したフリージアにもマッサージをされた。

うん、疲れが吹き飛んだどころか今なら第六法に勝てる気すらするぞっ!(気のせい)

 

尚、その間教授はずっとからかうような笑みを浮かべて紅茶を飲んでいた。

馬鹿な……紅茶の場所は教えてないはず…獣の嗅覚恐るべし。

 

まあ、これが終わったら他の奴にも紹介しようかな…。

 

 

 

 

 

・ ・ ・

 

 

 

 

 

「という訳で、同胞を紹介しにきた。」

 

「何がという訳なのか分からないし急すぎて何とも言えないんだけど……彼がその同胞なのかい?」

 

「うむ、自己紹介を頼む。」

 

「ネロ・カオス。呼称はどう呼ぼうが構わん。

タタr……ズェピアの頼みを受け、赤龍帝の娘を守る立場にいる。

よろしく頼む、魔王よ。」

 

「では、ネロと呼ばせてもらうよ。

私はサーゼクス・ルシファーだ。よろしく頼む。

……それで、ズェピア。彼は強いのかい?」

 

「私と同等かそれ以上の強さと考えてくれればいい。」

 

「またか……ハァ……」

 

それを聞いたサーゼクスは警戒よりも先に溜め息を吐く。

またか、とはなんだオイ。

後、二人の時の雰囲気になってるぞ。

魔王の時の雰囲気消えてるぞ。

 

「……うん、分かった、前の襲撃で守りを固めると言っていたのを許可したのは僕だしね。

ただ、今回は僕だけでなく他の魔王にも紹介してくれると助かる。…ファルビウムは僕から言っておくからいいよ。」

 

まあ、あの雰囲気の相手は疲れるから助かるけどいいのか?……あ、胃薬……俺は気にしないでおくことにした。

 

苦労人ポジを確立したサーゼクスの胃の明日はどっちだ!

 

「君のせいなのもあるからね?」

 

「いやぁ聞こえなかった、もう一度頼む、何と言ったのか?」

 

「…うん、何でもないよ。」

 

(魔王よ、強く生きろ……)

 

教授が憐れみの視線をサーゼクスに送ってる……

スッゴクカワイソである。

 

 

 

・ ・ ・

 

 

 

~セラフォルーの場合~

 

「へぇー……ネロ・カオスって名前なのね。

……うーん……」

 

「どうかしたのかね?」

 

「私の名前に心当たりがあるのか?」

 

「いや、ないんだけど……何だろ、やっぱりインパクトのある格好とか大事なのかな……?」

 

「やめろ、やめるんだセラフォルー。

私は今の君の方が好ましい。」

 

「え、そう?」

 

「うむ。変なキャラを作るより、ありのままで輝くべきだと私は思うよ。」

 

「そっかぁ……考えてみるわ。」

 

そう、魔王少女レヴィアたん☆なんていうイタイ事はしなくていいんだ……裏切るまで俺の胃がラストアークフィニッシュされるのだけは防がねばならない!

 

「…魔王とは、中々に緩いのだな。」

 

教授、それは言わないお約束なんやで……。

 

 

 

・ ・ ・

 

 

 

~アジュカの場合~

 

「新入りだと?これ以上俺やサーゼクスの胃を痛め付ける気か!?

死ね!この監督気取り吸血鬼!」

 

「監督気取りとは、いきなり失礼極まりない罵倒だ。

貴族の出の君が乱暴な口を利くものではないぞ?

ああすまない、貴族であっても矯正の効かないやんちゃ坊主だったかな?」

 

「「……よし、表に出ろ。」」

 

「子供か貴様らは。

ズェピア、落ち着け。

仮にも祖の一人である貴様がそれでどうする。

魔王である貴様もだ。

上に立つものとして余裕をもて。」

 

「しかしだな、私は個人としてこの男が役者然としないのがとても度しがたい。」

 

「何が役者然とだ。お前はさっさと館にこもってろ。」

 

アジュカ・ベルゼブブ、最も俺が好きになれない奴だ。

あちらも俺に対して良く思ってないようなので幸いだ。

喧嘩売られたらハッ倒してやる。

 

「…おい?」

 

「……チッ、紹介は済んだろう。帰れ、俺は忙しい。」

 

「そうさせてもらう。ここは埃臭くて敵わん。

無駄な研究に励みたまえ。」

 

俺は扉を乱暴に閉めて家に帰る。

 

しばらくしてから教授が俺に話しかけてきた。

 

「……ズェピア、奴もまた実力者だ。

計画の邪魔になるという事は?」

 

「ない。彼という存在一つでの影響は0と言ってもいい。」

 

「……そうか、ならば、私から言うことはあるまい。」

 

「そうかね。……ところで、夕食は何がいいかな?」

 

「夕食か。」

 

彼はそう言って少し顎に手を当て考える。

考えが纏まったのはそう長い時間はかからなかった。

 

「質のいい人間…と言いたいが、この体はそこまでの飢えはない。

任せるとしよう。

だが、サラダがあると私としてはいい。

この身は菜食主義でな。」

 

「ふむ、分かった。そうしよう。」

 

くつくつと笑う彼に俺は内心ご冗談をと思った。

メルブラの勝利台詞でもあるが、アンタのような菜食主義者が居てたまるか。

 

 

ちなみに、この後要望通り野菜多めで夕飯を出したが文句を言うこともなく寧ろ嬉しそうに食べていた。

まさか、本当に菜食主義者なのだろうか。

ちなみにフリージアはトマトが多く出ていたので死にそうな目で食べていた。

食えている分マシだよな、うん。




この世界でのネロ・カオスは本家とあまり差異はない実力を持っています。

教授って志貴が倒したからいいけど、普通は絶望的な敵ですよね。
666の命を一度に殺すって難しいですし…直死の魔眼はこの世界にはないですし、さて、どうなることやら。


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王とはって聞かれても俺にはそこまで道は示せません

どうも、ロザミアです。

今回はサブタイ通りの内容です。

そこまで長くないのはモウシワケナイ。



やあ、皆の衆。

俺だ、ワラキーだ。

 

現在、俺はサーゼクスと話している。

 

いつもと違うところは俺の家に彼が来ていて、彼の表情は悩みに満ちているといったところだろうか。

 

俺は心配になってさっさと座らせて紅茶を出したところだ。

 

サーゼクスは紅茶を飲んでから悩みのある声で俺に疑問を投げ掛ける。

 

「ズェピア、王とは……何だろうか…。」

 

「……ふむ、難しい質問だ。」

 

王、それは国の柱である。

一家の大黒柱があるように。

タワーを支える鉄骨のように。

なくてはならない存在だ。

 

「いや、うん…そうだよね。魔王でもない君に頼るのはおかしいよね。」

 

「…私の主観でいいのなら話そう。

まあ、参考にしてくれればそれで構わないよ。」

 

「……ああ、ありがとう、頼むよ。」

 

王、王か。

そうだよな、お前はまだ未熟者だ。

最初から未熟者でない王など居はしない。

悩み、悔やみ、嘆いて…そうして形を得ていくのだ。

名君であれ、暴君であれ、いずれは居なくなる存在だがどのような世であれ必要な存在だ。

王なくして国は成り立たない。

 

彼はこの冥界を統治する王の一人だ。

善き王であろうという姿勢でこれまでの不安定極まりない冥界を不安定ながらも安定させて来た王だ。

 

そんな彼が王の在り方について悩んでいる。

当たり前の壁であり、乗り越えるのが困難な壁だ。

 

…友を助けるのも友の役割、か。

 

「まず、君は四大魔王の一人だ。

君だけが王ではない。

分担して行う政治なのだろう?」

 

「ああ、初代四魔王が生きていた頃からそうやって統治してきた。

今の冥界よりは安定していたと思うよ。

……だが、僕達ではまだ力不足なようでね。

現状をみれば、分かると思うけど。」

 

「それに携わってきた者の一人だからね、私は。

痛いほどに分かるとも、政治側の事も、国民側の事も。

ハッキリと言わせてもらうと、全くもって駄目だな。

民の様子も、王の様子も…暗い雰囲気だ。

それでは良き国など創れはしない。

確かに君たち魔王は悪魔の駒という『危険物』で一時的な処置を施し、多少の安定化をさせた。」

 

「危険物……まあ、そうだろうね。」

 

「ああ、私は決して全てが間違ってるとは言ってない。

ある意味では正しい判断だよ。」

 

間違ってもいるが、間違ってはいない。

矛盾ではあるが、政治ならばそれはあり得ることだ。

どうあっても民全てが良く思う、などという事は無い。

必ず不満を抱く者がいる。

それが多ければ多いほどその政治が現状良くないのだ。

 

「……そうだな、では唐突だが問おうか。

君はどのような王になりたい?」

 

「どのような………分からない。」

 

「分からない。当然の答えだ、何せ君はまだ王として未熟だ。

故にこそ、ここで例を出そう。」

 

そう、王とは千差万別。

全てが同じな訳がない。

 

「己を殺し、民を想い、政治をした王がいた。

その王は民が理想とする王だった……が。

あまりにも理想的過ぎたのだ。」

 

「理想的過ぎた?それはどういうことだい?」

 

「うむ、臣民に応えすぎたのだ。

そこに己の感情など入れはしない。

王として王たらんとする機械のように。

ただ、良き政治をしてきた。

民を守るために人でなくなり、そしてその結果滅んでしまった。」

 

「なるほど……完璧な答えを出しすぎたのか。」

 

あまりにも完璧だと、こうなる。

臣民想いも行き過ぎると良くないことも起こるということだな。

 

「そう、その王は完璧すぎたが故に国は崩壊した。

次に、別の王を例に出そう。

その王は闘争をし続けた王だった。

勝利しては征服し、臣民を増やしていく。

征服した土地の民さえも王にとっては自身の民だ。

そして、それを繰り返し、彼方へと至るであろう王へ民は憧憬を抱いた。」

 

「それは、凄いな。

実在した王なんだろう?」

 

「そうだとも。

……だが、この王は少々勝手でな。

他を顧みる事を全くしなかったのだよ。」

 

「……暴君じゃないか!」

 

「そう、暴君的性質を持っていた。

だが、それでも民はその王に身命を捧げた。

当時の世界にとって、彼こそが王として求められていたものを持っていたのかもしれないな。

勝手ではあるが、その勝手が民を幸せにする。

そんな王も居たということは覚えて欲しい。」

 

まあ、東方遠征を成し遂げたのは凄いよ。

勝手も行き過ぎるのも駄目だけどな。

あれはあの王だからこそだと俺は思うね。

 

「ああ……だが、ズェピア。

どうして性質が真逆のような二人を例に出したんだい?」

 

「うむ、私の理想とする王はこれがまた難題なモノでね。

それに近い二人を先に紹介させてもらったよ。」

 

「君の理想かい?」

 

「ああ。……私の理想はね、大雑把に言うとだ。

程々の勝手であり、程々の臣民想いであり、程々の道化であってほしい。」

 

「うん?二つは分かるが、最後の道化とは?」

「多少の悪ふざけをすることも大事だろう。

民を呆れさせるのも王の務めと私は思うよ。

それに、アドリブがある作品は意外にも人気になることが多いからね。」

 

「悪ふざけ……」

 

「王とて役者だ。

この世界という舞台にいる限り、どのような生命も役者なのだよサーゼクス。

私も例外ではない。

だからこそ、本来その役に似合わないアドリブを適宜入れるのは役者として上出来と思わないかね?」

 

サーゼクスはそれを聞いて苦笑する。

「ハハハ……君の感性はたまに分からないよ。」

 

「私も君の情愛が時折理解できないよ。」

 

「お互いに分かってないな。」

 

「うむ、まあ、これから理解していけばいい。

我々は無駄に寿命が長いからね。」

 

「そうだね……ありがとう、少しだけ自分のなりたい王としての姿が分かった気がする。

まだそれになれるかは分からないが…どうか見届けてくれると嬉しい。」

 

見届ける。

それを聞いて多少俺の役目なのかと疑問に思った。

いや、彼は知らないのだ。

 

俺がいつか裏切ってしまうことを。

 

「私でいいのかね?

君の最愛の妻であるグレイフィア君は?

君と同じ超越者であるアジュカ・ベルゼブブは?」

 

彼は少しだけ考える。

だが、俺の問いに対してしっかりと俺を見て答える。

 

「…いや、君に頼みたい。

これまで僕達の期待に応えてくれた。

それが君自身の為だったとしても僕達を助けてくれた。

今だってそうだ、王として悩む僕に助言してくれた。

だから、僕はそれに応えたい。

僕なりの魔王として誇れる姿を君に見せることで。」

 

「……君はお人好しだな。それは情愛かね?」

 

「いや、これは僕としての意思だ。

グレモリーとしての情愛は関係ない。」

 

…そう頼まれたらなぁ。

 

あんなバッタリとした出会いからこうなるんだから分からないものだ。

 

「ならば、その役目、引き受けよう。

ただし、君だけではない。

君達四大魔王が真に王としてやっていけるのか。

それを見定めさせてもらう。」

 

「…ああ、分かった。

じゃあ、これは契約だ。」

 

「悪魔との契約かね?

代償が気になるところだが?」

 

「それは後々ってのは駄目かな。」

 

後々に払う代償か。

正直何要求されるか分かったもんじゃないが、嫌ではない。

どちらが払うのやら。

 

「悪魔としてそれはどうなのだろうか……。

だが、それもまたよし。

うむ、期限不明の契約といこう。」

 

固い握手をすることで、契約を結ぶ。

別に本物の契約ではない。

本人の心意気といったところだ。

 

……ああ、しっかりと見定めるとしよう。

 

俺とお前の、闘争の中で。

 

きっと、どちらかが欠けるだろうから。

 

だからこそ───

 

「……さて、こうしてる間にも時間は過ぎてく。

僕は戻るとするよ。

じゃあ、明日また何かあれば。」

 

「…ああ、また明日会おう。我が友(好敵手)よ。」

 

サーゼクスはそう言って家を出ていく。

 

さて、と……夕食の準備といくかな。

 

「キ、キキキ……」

 

笑いが止まらないとは、この事だ。

お互いに、未来は分かりはしない。

未来の計算なんて、そんなものはしない。

分かりきってしまったら俺の敗けだ。

逆に分からないからこそ勝負は面白い。

 

「実に、楽しみだよ。」

 

 

代償(フィナーレ)はその時に。




裏切る場面?
いやもう、皆分かってるんじゃないかな……。

結構定番な場面ですし。

ではまた次回。


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日記2

どうも、ロザミアです。
今回は短めです。




日記を書くのは楽しいが、もし見られているのならば恥ずかしいものだ。

何せ、黒歴史を晒しているようなものだ。

まあ、これを見ているということは見つかるような場所に置いた俺が悪い。

 

俺本人に会ったなら、その時は存分にネタにして笑ってやるといい。

 

まあ、下手したらその時が来ないで終わるかもしれないが……。

 

ああ、すまない。

これを見ているかもと思うとこうやって前書きを書くのも悪くないと思ってしまった。

 

 

『これは私が居たという記録である。』

 

 

─────────────────────

 

◆月@日

 

今日はオーフィスから話があるらしいので俺の部屋で話すことに。

 

何でも、計画を始める少し前に自分で少しやらせてほしいそうな。

俺が動きやすくするためでもあるとの事。

 

なるほど、舞台は仕上げておいてくれるって事か。

 

俺がやるんじゃなくていいのかと聞いたら逆に俺がいるとやりにくくなるらしい。

 

うーん……利用相手が分かったような……。

 

あまり無理はしないでくれと頼むと、心配してくれてありがとうと言われた。

 

まだやるわけでも無いのだが、そんな話出たらもう心配で心配で。

家族が危ない橋……いや、オーフィスは俺より強いし危なくはないか。

まあ、変な所に行くのを心配するのは何もおかしくはない。

 

そんな一面を見せたせいか、教授がまた笑っていた。

そんなに笑えるかぁ!?

 

その後、四人でトランプで大富豪をした。

 

珍しくオーフィスが一位だった。

 

そして、教授とフリージアの最下位を決める戦いではフリージアの勝利だった。

その時の教授の発言が『お前が─私の死か……』という原作でも有名な方の台詞を出したときは吹いた。

 

おっかしいなぁ……他の譲治キャラの性格でも入ってんのかな……?

 

夕食はシチューにした。

オーフィスと教授がよく食うので食費がゴミのように消えていく。

稼ぐのは俺なんやで……

 

 

 

∀月∵日

 

教授が冥界の獣……幻想種を見たいと言うので連れていったら味見してしまった。

この時、俺はオーフィスとフリージアを連れてこなくてよかったと割とガチめに思った。

 

ネロ・カオスは666という獣の因子の集合体だ。

当然、それを保つのにかなりの燃費がいる。

故に暴食としての彼が成り立っている。

 

というのが原作での彼の設定。

俺の造り上げたネロ・カオスは燃費というのはそこまで悪くはない。

魔獣を使った結果なのかもしれない。

 

本質は変えられなかったので彼の『食事』の風景は凄まじいものだったけど。

 

その後、『食事』を終えた教授は意外にもつまらなそうな顔をして『粗悪な味だ。これでは貴様の手料理を喰らう方がまだマシというものだな。』と言っていた。

 

ドラゴンは幻想種だが、この世界では神秘が薄れているのか……?

あり得るな、神話がごった煮のこの世界なら。

 

 

 

 

 

 

ゞ月◇日

 

……時間ってのは随分と経つのが早いもので、けれど俺は死徒の体のお陰か老けることはない。

 

もう、ずっと幸せを味わってきた。

これからやることを考えると俺には勿体無い事だらけだった。

 

オーフィスも、教授も、何も変わらない。

 

ただ一人を除いて、何も変わらない家の風景。

しかしその一人が変わってしまって。

どうしようもないのだ。

これは、俺達と彼女の約束だから。

あの子の今までで一番決意を込めての願いだったから。

 

だから、だから。

 

フリージアは、もう幾つだったか。

 

40になったんだったかな。

家事とかも、前よりずっと上手くなった。

……だが、その分、ある未来が見えた。

 

その間世界で何が起こったかとかはよく覚えてない。

 

こうもあっという間だなんて、思いもしなかった。

 

辛い、怖い、苦しい。

 

だが、それを言うわけにはいかない。

だって、俺達は約束したんだ。

 

彼女の終わりまで、俺達はただ少し異常でいて素晴らしい日常を過ごす。

そして、彼女は人のままに死ぬ。

 

それでいい、いいんだ。

 

どんなに歳を取っても、どんなに何かを忘れても。

何よりも、美しいと。

 

そう言える自信が、俺にはある。

 

だからこそ、最後まで、その名前のとおり、純潔でいなさい。

 

 

 

 

 

 

 

 

☆月△日

 

……。

 

この日記も長く書いたなぁ。

 

フリージアは…もう長くはない。

 

彼女が寝ているときに少しだけ魂を見てみた。

もう、輝きが薄くなってきている。

これは生命の終わりが近づいている証拠でもある。

 

その事をオーフィスと教授に伝えた。

オーフィスは無言で俺に抱き付いてきた。

俺にはかける言葉なんて分からなかった。

大丈夫だとかそういう言葉を送るなんて出来なかった。

 

ただ、俺はずっとオーフィスの必死に抑えた泣き声を聞きながら背中を優しく叩くしか、出来なかった。

 

教授はいつものように紅茶を飲んでいた。

だが、その表情はいくらか暗かった。

君にも思うことがあるのかと聞くと、『特にはない』と言われた。

ただ、その後に『喪失というのは、苦しいものだな。』とだけ言って黙り混んでしまった。

 

そして、フリージアはというと……

 

元気と言えば、元気だ。

 

 

車椅子に乗ってることを除けば、だが。

 

もう、足がいつものように動かないらしい。

その歳でなるのは意外ではあったが、体が元々良いとは言い切れなかったし、仕方無いと思った。

60代の彼女は、そこまで老けてるようではないが、体は別らしい。

 

もう、何かを悟ったような顔をして。

よく俺に話しかけてくる。

オーフィスにも、教授にも。

 

その度に、何かが胸を締め付ける。

 

その度に、俺の決意が揺らぎそうになる。

 

だが、駄目だ、駄目なんだ。

 

俺は、人間ではない。

俺はもう、人の姿をした化け物だ。

だからこそ、俺は彼女を見届ける。

変えようだなんて何度も思った。

だけど、その度に抑え込んできた。

 

俺も、頑固なんだ。

彼女と同じように頑固なんだよ。

 

うん、大丈夫。

 

俺達は、もう大丈夫だから。

 

もういっぱい貰った。

十分だ。

だから、その日まで笑ってくれると嬉しい。

それが俺達の宝だから。

 



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さようなら、純潔の花

どうも、ロザミアです。

皆、ひとつ言わせて。

前回の日記の時点ではまだフリージア死んでないですからね!?

では、どうぞ。


早朝だろうか、それくらいの時に俺は珍しく起きていたフリージアに二人だけで地上に行きたいと言われ、車椅子に乗せて行くことにした。

その時の表情は…何と言えばいいのか、どうしても、といった感じだ。

 

地上の朝は少し肌寒い。

 

「寒くはないかね?」

 

「大丈夫、ごめんね…また我儘を言って。」

 

「構わないよ。娘の我儘を叶えるのは、父親の役目だからね。」

 

父親と聞いて、フリージアはクスクスと笑う。

…少し、寂しそうな声。

 

「娘より、随分と若そうな見た目なのにねぇ……。」

 

「…私は吸血鬼で、君は、人間だからね。

差が出るのは仕方無いことだ。」

 

「…そうね、だから、こうなるのも仕方がない事。」

 

車椅子を押しながら話し、目的の場所まで向かう。

 

そうだ、仕方のないことだ。

人間と吸血鬼。

人と人外。

本来なら、相容れない。

相容れてはならないのだ。

 

人外の常識と人の常識は互いに非常識なのだから。

 

……そんなこと、ずっと分かってた筈なんだがなぁ。

 

「…私達と過ごして、楽しめたかね?」

 

「えぇ、楽しかった。

家族に捨てられた私にまた家族というモノを与えてくれたから。

私には勿体無いくらい優しかった。

オーフィスも、ネロさんも、時折来てくれる魔王様も……貴方も。」

 

「家族には出来るだけ優しくしたいと思ってしまうのだよ。

甘い、と言われればそれまでだが。

だが、そうか。……よかった。」

 

「色んな事から守ってくれて。

知らないことを教えてくれて。

綺麗なものを見せてくれて。

……本当に、私は幸せだったよ。」

 

……ああ、そうか。

そんな笑顔で言われたら、信じるしかない。

花が咲くように美しい笑顔。

 

俺は、彼女を守れたんだ。

 

「そうか………さ、着いたよ。」

 

「……うん、ここ。

ここで貴方に会った。」

 

「ある意味で、始まりの場所だね。」

 

「えぇ……。」

 

着いたのは、初めて会った場所。

普通の、木が数本見える程度の草原。

 

「昔、ここで絶望して、このまま死ぬしかないって思ってた時に、貴方が来た。」

 

「そして、君に赤龍帝の事、冥界の事を話した。

どうするかと聞けば、ついてきて、家族になった。」

 

「そこから、色々なことがあった。

大変なこともあったけど、それでも楽しいことの方が多かった。

私にとって、ズェピア……貴方は正義の味方だった。」

 

「私はそのような破綻者ではないが…君をこれまで守り通せたのは私だけの力ではないが……だが、その言葉は受け取っておこう。」

 

正義の味方。

いつだったか、魔獣創造を宿していた子供にも似たようなことを言われたのを思い出す。

あの子供は今どのような人生を送っているのだろうか。

 

もう会うこともないだろうが、良き人生を送れてることを願うとしよう。

 

……正義の味方、か。

いつか悪役になる者からしたら勿体無さ過ぎる称号だ。

 

家族から贈られた称号。

 

嬉しい筈なのに、喜ぶべきなのに。

 

「……ズェピアが泣いているところ、初めて見たわ。」

 

「――泣いている?私が?」

 

涙、今まで一度も流したことのなかった涙が、ゆっくりと頬を伝う。

 

「うん、辛そうな顔して泣いてる。」

 

「…それは……」

 

「…ごめんね、本当に無理させて。

ずっと、ずっと…苦しかったのを我慢させて。

私は、貴方の優しさに甘えてた。

…本当に、ありがとう。」

 

優しく労るように、俺の顔を歳を取っても健康的な手で触れる。

 

俺は、胸の内を静かに語りだす。

 

「……私は、約束を守る。

君という存在が、人で死ねるように。

ずっと、君を守ってきた。

だが、真にそれを否定したかったのは私だった。

…吸血鬼に、死徒になる気はないかね?」

 

「無い。……最初に言ったけど、私は人として死ぬって貴方に言ったでしょ?」

 

「……私に力も劣るというのに?」

 

「じゃあ、やる?」

 

やるのかという顔で静かに俺を見る。

挑発的、とも取れなくもない。

 

……ああ、全く。

 

「する訳がない。君は、私の娘だ。

勿論、死徒になっても娘ではある。

だが……約束をして、それを破る気はない。

父親である私が、娘を傷つける事をするわけがないだろう。」

 

「……やっぱり、優しいね。

約束だなんて理由にしてるだけで、本当は貴方がしたくないからでしょう?」

 

「なら、聞かないでくれると私としても嬉しいのだがね。」

 

この子は、分かってて言うんだから質が悪い。

いつの間にか、涙は止まっていた。

 

そして、とある物を見て、俺は悟る。

 

 

 

「……もう、駄目なのかね?」

 

「…………気づいてたんだ。」

 

彼女の終わりが、もう近い。

…こんな時でも、笑って。

俺は泣きそうだよ。

 

「娘の事は、よく知ってるとも。」

 

「…なに考えてるかも?」

 

「…それは分からないな。」

 

「じゃあ、もうちょっと父親修行ね。」

 

「手厳しいな、君は。」

 

少しでも長引かせようと、少しでも声が聞きたいと話を続ける。

手を握ると、少しだけ、暖かかった手は冷めてきていて。

 

それが存在が遠退いていくのを実感させていく。

 

「……眠くなってきちゃった。」

 

「─っ、そう、か。」

 

彼女がそう呟くと、俺は手を握る力が弱まっていくのを理解する。

 

俺は、俺は……

 

「…大丈夫、またいつか、絶対に会えるから。」

 

「……会えるものか、私達は容易く死ねない。

君と死後会えるのも、期待は薄い。」

 

「夢が、ないなぁ……そうだ、最期に、また約束をしましょう。」

 

「約束……?」

 

微笑みを絶やさないで、意識の薄れてきているであろう目で俺を見つめる。

 

「貴方が生きている、内に……また会うって。」

 

絶対に再会すると、あり得ないことはないと。

そう語りかける彼女に、俺は信じたいと思ってしまう。

あり得ないと言っておいて、娘の言葉ひとつで変わるとは随分とチョロいなと笑ってしまう。

 

「…ああ、約束だ。必ず会おう、フリージア。」

 

「……うん、今度は……今度は……。」

 

掠れていく声。

手を握る力は、もう感じない。

 

 

「私から…………会いに…………」

 

 

握っていない方の手が、だらりと落ちる。

 

「…………っ。」

 

そうして、言いたいことを言い切ったのか満足そうに、笑顔で─

 

 

「──親より先に、逝かれると、ここまで苦しいものなのだな。」

 

 

─旅立ったのだ。

生命の終わり、彼女はこの世で旅を終えたのだ。

 

俺達のように人外からしたら短く、けれど彼女からすれば長い旅を終えたのだ。

 

ああ、終わってしまう。

 

忙しくも、楽しく、幸福に満ちた日々が終わってしまう。

 

もう、俺の名前を呼ぶ優しい声は聞けない。

 

もう、聞けないのだ。

 

 

「─さようなら、フリージア。」

 

次の再会はきっと、全部が終わった後だから。

 

だから、今はおやすみ。

 

「……帰ろう、皆が待ってるよ。フリージア。」

 

俺はマントを彼女に掛けてから、転移する。

 

 

─────────────────────

 

 

月 日

 

彼女はもう寝てしまった。

 

それを知らせると、オーフィスは彼女に抱きついて泣き出してしまった。

教授は『契約は終えた。安らかに眠るがいい、娘。』と言って戻っていってしまった。

ああでも言わないと、きっと彼も……いや、やめておこう。

 

帰って来た俺にあったのは悲しみではなくただ期待だけがあった。

 

彼女とまた約束をしたから。

いつか、会おうと。

今度は彼女から会いに来ると。

 

そう、約束したから。

彼女が来るのをいつまでも心待ちにしておくとしよう。

 

ゆっくりと来るといい、俺は、俺達はずっと待っている。

 

だから、今は。

 

 

─旅先で、休んでいなさい。

 

 

また、いつでも会えるから。

 

俺達は待ってるから。

 

 

─────────────────────

 

……この日記を書くことは、もうないだろう。

 

これからは、書くべきではない内容だ。

望みながらも、まだ平和を過ごしていたいと思っていた。

 

そう、俺はこれから計画を始める。

 

俺の望みを叶えるときが来た。

オーフィスの願いを叶えるときが来た。

夢に見た同胞との共闘の時が来たのだ。

 

だから、どうか、これを見ている君は、この日記の最後のページは俺達の前で話題に出さないでくれ。

 

あの子は俺にとっての宝物だから。

あの子は無限の少女にとっての宝物だから。

あの子は混沌にとっての宝物だから。

 

故に、汚そうとしないでくれ。

 

これは俺が親としていられた最後の記録である。

 

 

「さあ、開幕といこう。」




というわけで、待ちに待った原作編、開始となります。

さぁ、虚言の夜を始めましょう!


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勝負になるのは同じ土俵の奴等だけってそれ一番言われてるから。

どうも、ロザミアです。

もうね、飛ばし飛ばしですよ。

それでもよろしい方はDホイールに乗ってどうぞ。




やあ、皆の衆。

俺だ、ワラキーだ。

 

さてさて、俺は計画を始めて何をしてるかというとだな。

 

 

 

駒王町に来てます。

 

うん、分かってる。分かってるからその『は?』な顔をやめなさい。

説明するぞ。

 

愛娘が逝った後に、俺はそらもう準備した。

何をしたかは具体的には説明を省くが。

したら何十年も経っててね。

気付いたら原作が始まってました。

少し時間が掛かったが何とか間に合わせた。

サーゼクスの話とかを聞いたが、ライザー・フェニックスの婚約騒動は終わったようだ。

オイィ……ガバガバで笑うわぁ。

まあ、引っ越しましたがね!

 

え?冥界やサーゼクスとかの警戒はいいのかって?

 

…ま、分からない方が楽しいしね、いい場所を見付けたから移り住むわって言ったらいつもの溜め息の後に許可してくれた。

 

あ、そういえばリアス・グレモリーの誕生とかちゃんと立ち会ったよ。いやぁ、子供は皆可愛いもんさ。

後は…ミリキャス君とソーナちゃんかねぇ。

 

そして引っ越しました。

引っ越しにどうこう言われる筋合いはないがな。

 

そして、駒王町で職を見つけて前世と変わらないように働いていた訳だ。

 

教授も働いているが、何をしてるかというとラーメン店を開いてる。

……完全にプリヤとかの方面なんだよなぁ!

声優同じ別キャラなんだよなぁ!

しかも麻婆なんだよなぁ!

狙ってるよねぇ?何で夕食にたまに出してくるの!?

……まあ、美味かったけど。

 

オーフィスは単独行動を取ってるがたまに帰ってきては甘えてくる。

 

……ただ、ベッドに入り込んでくるのはびっくりする。

まあ、娘も甘えたい時期なんだろう。

いつもだけどな。

 

それで、俺の職業だけど……

 

 

「件先生、おはようございまーす。」

 

「ああ、おはよう。今日も元気で大変結構。」

 

名前を変えて、髪色黒くして教師やってます。

 

名前?虚夜 件(うつろや くだん)だな。

虚言の夜とタタリの元ネタの件という妖怪から取った訳だ。

安直でナンセンスな名前だが、それくらいは我慢する。

 

生徒の皆も急に就任した俺に最初は驚いてはいたが次第に馴染んでくれた。

良きかな良きかな。

今なんて廊下を歩きながら挨拶してくれてるぜ!

 

いやぁ、錬金術が活きたな!

物理なんだよなぁ(セルフ突っ込み)

 

主に三年を受け持ってるが……。

 

よりにもよって、何でかなぁ……

 

俺は自分の担当授業をする教室の扉を開ける。

すると、一人の生徒が挨拶をしてくる。

 

 

 

「おはようございます、件先生。」

 

「おはよう、リアス君。」

 

 

……あのさぁ、何でよりにもよってこの子のクラスも受け持たなあかんの?

 

いや、うん…問題はない。

逆に考えろ、様子を見やすいと。

 

……欲を言えば、赤蜥蜴…じゃなくて赤龍帝の少年の主人公君のクラスがよかったね。

もう、目覚めてるだろうし。

 

……赤龍帝か…。

 

「先生、どうかしましたか?」

 

「…いや、何も。ところで、何時見ても思うのだが、その髪は本当に地毛かね?」

 

「正真正銘、地毛です!」

 

ほう、兄と同じ返しだ。

そこまで似なくてもよかったのでは?

 

「ハッハッハ、すまない、少し反応がいいのでね。

もう少し突っ込みを鋭くすることをオススメするよ。」

 

「もう少し教師としての言葉を生徒に送るべきだと思いますけど……!」

 

「私は言ってるつもりだがねぇ……さ、そろそろチャイムが鳴るから皆席に座りたまえ!」

 

さて、授業を始めようか。

偽りの姿ではあるが、まあ、それなりに楽しむとしよう。

 

 

 

 

 

 

その日の夜、俺は教授と家で話をしていた。

 

「そうか、動いたか。

楽しみだね、堕ちた天使の企みの崩壊。

知ってるかね、同胞よ。

自分は強者と思い込む愚者を壊す方法を。」

 

「いや、知らんな。寧ろ、興味がない。」

 

「ふむ、それは意外だ。

では、答えを提示しよう。

それはね、より強い者をぶつける事だ。」

 

「…動くのか?」

 

「そろそろ、私が動かねばね。

それに、絶好のタイミングだ。

大戦を生き抜いた者の力、見せてもらうとしよう。

久しぶりの戦闘ゆえ、鈍ってないといいのだがね。」

教授はそれを聞いて、クッ、と笑う。

 

「貴様がそれを言うか。

貴様の中に鈍りなどないのを、私と無限は知っている。

存分に蹂躙するがいい。」

 

「キキ、蹂躙、そうだ、蹂躙だ。

私は、私達は、これより始まる闘争を望んでいた。

火種はもうすでに撒かれた。

神仏さえも我が掌の上だ。」

 

「吸血鬼が、神を掌へ乗せるか。

それは傲慢か?」

 

「いいや、それは違う。

私は、私達の望みのために食い潰す。

それを孫悟空の話に例えただけのこと。」

 

「そうか。……私も出るべきか?」

 

「いや、まだだ。

君のソレはもう少し後の登場がいい。

絶望感という点ならば君に勝るものはいない。」

 

「混沌が絶望か。……悪くはない。いいだろう、では、貴様の演目に追加される時を心待ちにしている。」

 

「ああ、必ず近い内に招待するとも。」

 

…クックク、動くときは近いぞ、主人公諸君?

 

俺が、俺達がどこまでお前らに通用するのか、教えてくれよ。

 

「ところでだな、我が店の看板となるメニューをもう一つ程作りたいのだが、希望は?」

 

「また私を実験台にするのかね。

もう勘弁してくれ。」

 

あれ本当に胃にクルから。

 

 

 

 

 

 

新しい朝が来た。

よっしゃ、そろそろ動くで~。

幸いにも今日は『何でか』休校日だからな。

 

「……ふむ、エクスカリバーか。」

 

調査の結果、エクスカリバーが教会から盗まれたそうな。

ウケる。

つまりは、エクスカリバー編って事だな。

 

エクスカリバー。

小耳に挟んだことがある程度だが、確か聖剣計画とかいうので一時期騒ぎになった筈だ。

 

しかし、それだとおかしい。

この世界は神話やら伝説やらがごった煮状態ではあるが……それではおかしいのだ。

 

まず、何故聖剣エクスカリバーが未だこの世に残ってるのか。

皆もアーサー王伝説…最悪fateをやっていれば知ってるだろうが、エクスカリバーは最期に湖に返還され、その後は行方知らずとなっている筈だ。

 

それを、何故、聖書陣営が、持っているか。

……答えは簡単だ。

 

聖書のいうエクスカリバーは聖剣計画…今のとは別の奴だな。…で非人道的な方法で造り出したなんちゃって聖剣な訳だ。

じゃなきゃ、星の聖剣たるエクスカリバーが折れる筈もなし。

え、fateじゃねぇって?

いや、あの伝説の通りなら逆に折れると思う?

 

俺は思わないなぁ。

ところで、伝説って? ああ!それって○ネクリボー?

 

「幸いにも役者が動いているようだからね、それを見ながら動くとしよう。」

 

ま、楽しめるかはさておき、どうやって真犯人に辿り着くのか、見るとしようか。

 

 

──────────────────────

 

 

いやぁ今回は場面が飛ぶなぁ!

巻きで行こう巻きで、カットカット!

 

さて、傍観した結果、リアス・グレモリー一行は教会の戦士とかいうどうみても死んでこい要員二人と協力関係を結び、堕天使コカビエルを討つらしい。

 

が、これがまた若手の悪魔に有りがちな事が。

 

「まさか、サーゼクスに救援を頼まないとは…」

 

いや、うん、確かに若手悪魔として名を上げるチャンスだ。魔王という立場の兄が妹の彼女にとって重荷であることも昔から承知している。

 

だが…勇気と無謀は違うものだ。

そこを履き違えるのは王として無能というもの。

だが、まだ修正の効く範囲だ。

 

俺は携帯に番号を入力する。

勿論、アイツだ。

 

「……もしもし。」

 

『もしもし、どうしたんだい、君からなんて珍しいね。』

 

「堕天使コカビエルの件は知ってるかね。」

 

『…コカビエルが聖剣を盗み、悪事を働いてるのはアザゼルから聞いたよ。』

 

「そうか、なら話が早い。今すぐに来てくれると助かる。」

 

『…それはコカビエルが駒王町に居るって事でいいんだね。分かった、向かうとしよう。

しかし、何故領主であるリアスではなく君が連絡を?』

 

「王たる君に、頼るのはまだ若い彼女からすると疎ましいらしいからね。

手遅れになる前に連絡させてもらった。」

 

それを聞いて理解したのかサーゼクスは溜め息を吐く。

電話越しからでも分かるが、少し怒ってる。

 

『…リアスはまだ若い。

これからの冥界を担うのはそれぞれの家を代表する若手悪魔だ。失っては今後の冥界の為にも危ない。

それだと言うのに、どうして頼ってくれないのか…。』

 

「もっと慌てたりすると思ったのだがね。

情愛を切り離して考えることが出来るようになったか。」

 

『兄としては大慌てだよ。

でも、僕は未熟だけど王だからね。

少しは今後の事も考えないと。』

 

「そうか。……ところで、私が動いても問題ないかね。」

 

『君が?いや、三勢力の問題に友とはいえ君の助けを借りるのは……』

 

「友を手助けするのも、友の役目だろう。」

 

『……分かった、どのみち急いでも時間が掛かる。

それまで足止めか倒すかしてくれ。

最悪私がコカビエルを倒す。

それに、堕天使への貸しを作れるしね。』

 

「その発想が出来れば結構。

相手を存分に利用したまえ。

王として、国を第一に考えるのは普通だとも。

では、また後で会うとしよう。」

 

……さて、アイツの成長もちょいと見れた所だし、やるかな。

 

取り合えず、コカビエルの居るとかいう校庭まで赴くとしよう。

 

何だか、人払いの結界も見えるし。

 

……これは、俺が連絡しなくても支取生徒会長がしてくれたかな?

出過ぎたかもしれないが、まあいい。

 

 

さて、校庭前まで転移すると、案の定だが居ましたね。

セラフォルーの妹であるソーナ・シトリーとその眷属が。

なるほど、結界を保つのに精一杯ですか。

 

俺は近寄りながら話し掛ける。

 

「大変そうだね、ソーナ君。」

 

「……え?ず、ズェピア様!?どうしてここに…?」

 

めっちゃ驚かれてますやん。

あ、眷属が俺について聞いてる。

ソーナちゃんが俺について説明すると、どっひゃあという音が聞こえそうな程驚いていた。

そんな驚く事かな、傷付くよ?

 

「そ、それで…何故ここに?」

 

「いや、友からの指示でね。

入れてくれると助かるのだが?」

 

「それは構いませんが、魔王様は?

呼んだ筈ですが……」

 

「冥界から駒王町までそんなすぐに来れるわけないだろう。あっちも直に来る。

……まあ──」

 

俺は結界を通り、激戦区へと足を運ぶ。

 

「─相手がどこまで足掻けるかを楽しむだけだよ、私は。」

 

そう言って、少し口角が上がるのが分かった。

オイオイ、興奮してるのか?

まだ余興だぞ、落ち着けよ、俺。

 

さて、状況は……と

 

 

「ぐっ……くそぉ…!」

 

「何て強さ…これが大戦を生き抜いた堕天使の力なの……!」

 

……いやぁ、ボロボロだぜ。

原作とか知らないからアレだけど、もうちょっと善戦するかと思ってたけどなぁ。

イケメン金髪悪魔君と教会の戦士の女二人は特に。

女二人なんて「神が、主が…死んでいた……?」なんていってますよ。

あー、教会…天使達は隠蔽してたの?

ウケる。

 

まあ、あれでも一応は蜥蜴駆除の際にも生き抜いた奴だしね、これくらいは当然と思いたい。

 

おっさんが光の槍を持ち、羽を広げて飛んでいる。

その表情は落胆だ。

 

「ふん、赤龍帝ならば或いは…と思ったが所詮は下級悪魔か。

やはり貴様らを殺し、この街を破壊し、戦争を再開するとしよう!……む?」

 

あ、気付いた。

視力いいんだね、いくつ?

俺は……知らね。

 

挨拶しとこうかな……あ、待てよ?

堕天使相手にどんな挨拶をしよう…くそ、思い付かない。

ワラキーフィルターに期待しよう!

 

「やあ、堕天使君。ああ、幹部だったかな?

お初にお目にかかる。」

 

「貴様は…吸血鬼か。

吸血鬼が一体何の用だ?まさかこの悪魔達の連れか?」

 

「吸血鬼……?え、ず、ズェピアおじ様!?」

 

お、リアスちゃんお久し振り。

この姿ではだけど。

おじ様かぁ、昔からの呼び名で安心した。

ソーナちゃんは様付けだもんなぁ。

ま、手を振っとこう。

 

「連れ、というよりかは手伝いか。

サーゼクスに君の事を頼まれてね。

……ああ、名乗るのを忘れるとは監督として根本的ミスをした。

私は、ズェピア・エルトナム。

よろしく、堕天使コカビエル君。」

 

「サーゼクスだと……いや、それより、ズェピア…聞き覚えがあるぞ。

貴様が超越者に並ぶ実力者とされるズェピアか!」

 

コカビエルの顔が、歓喜に染まる。

うわぁ、スパイス与えたかな?

 

すげぇ嬉しそうだよあいつ。

少しうっとりとした目をしてない?

ホモかよお前ぇ!

ホモビエルですか(汗)

 

「ハ、ハハハ!いいぞ、魔王でないのは唯一の不満ではあるが貴様ならば申し分無い!

俺と戦え!そして、堕天使の力を思い知るがいい!」

 

「…何か、勘違いをしているらしい。」

 

「……何?」

 

「私は、戦いには来ていない。」

 

「─そうか。貴様ならばと思ったが、期待外れだったようだ。さっさと殺すと──」

 

 

「私は、駆除に来たのだよ、コカビエル。」

 

「─駆除、だと……?」

 

駆除、ソレを聞いた周りの連中は驚きを隠せなかった。

それもその筈だ、先程まで圧倒的とさえ言えるほどリアス・グレモリーと教会の戦士に力を見せつけたコカビエルに、駆除というまるで勝負にならなそうな単語を投げ掛けたのだから。

 

「どうして、羽虫を前にして脅威を感じなければならない?

どうして、毒の入ってない料理を食べるのに躊躇しなくてはならない?

分かるかね?君のしていることは子供の遊戯、駄々に過ぎない。

玩具を買って貰えないからと、遊んで貰えないからと泣きわめく子供だよ、君は。」

 

「………れ…」

 

「まあ、もっと分かりやすく言うとだ──」

 

俺は、閉じていた目を開く。

血溜まり、そう言ってもいいほどに目から血がドロドロと溢れる。

口角が自然と上がる。

目の前の愚者を前に、笑いが止まらないように、三日月の形になるまで上がる。

 

そうだ、俺は──

 

 

 

「─舞台にとって最早君は邪魔なんだよ、鴉君。」

 

「黙れぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

 

─ワラキアの夜だ。




コカビーが不憫?

……コカビエルなんてね、所詮は阿呆の中の阿呆。
なして原作でもうん、で?な奴にいい勝負書かなきゃいけないんです?
こちとらワラキーやぞ!(圧倒的自信)

では、次回は蹂躙です。


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伝説の堕天使がなんだよこっちは虚言の王だよ!

どうも、ロザミアです。

コカビエルというだけで書く気が湧かなくなるのはなんなんだろう……
安心してください、クオリティは下がってない……筈。


やあ、皆の衆。

俺だ、ワラキーだ。

 

いやぁ非常に悪いが今回は少し待っててくれると嬉しい。

 

何故かって、そりゃ、前回を見てくれたなら分かるだろうが……

 

 

「おぉっと危ない危ない、もっとしっかりと狙いたまえ。」

 

「黙れ!馬鹿にしおって……貴様だけは殺す!」

 

「貴様だけは?おや、おかしいな。

君の目的は戦争を起こす事では?

私だけを殺すということは戦争は起こさないということか!

いやぁ目的をすぐに忘れるとは、鴉ではなく鶏の類だったとはこれは失敬!」

 

「貴様ぁぁぁぁ!!」

 

煽りすぎたわぁ、楽しいわぁ。

さっさと終わらせるのも味気無いし少し遊んでるんだが、駄目だ、これは愉快過ぎて飽きない!

 

煽っては避け、煽っては避けを繰り返しているとコカビエルは血管が千切れそうな位激怒してがむしゃらに攻撃してくる。

 

周りの奴等は相手にできる奴とやり合ってるな。

よしよし、ターゲットは1つも逃しちゃいけないぜ。

今回は主役達の役目をかっさらうが、まあここら辺でしか丁度良く入れそうになかったからな。

利用させてもらうよ。

 

コカビーが巨大な光の槍を生成し、俺にぶん投げてくる。

 

「俺のこれを受けても、その減らず口が叩けるか見せてもらおう!」

 

「ふむ、君にとって自信のある一撃のようだが……」

 

段々と俺に迫ってくる光。

しかし、俺には恐怖は疎か劣等感すらも感じなかった。

伝説の堕天使だか、大戦を生き抜いただとか、大層な言われようだがな──

 

俺は爪を横に振るうと、光の槍は真っ二つに裂かれ、俺の横を通り、後ろで爆発する。

コカビエルは信じられないのか呆然と立ち尽くしたままだ。

 

「………な、に…?」

 

「このように、私にとっては然したる脅威ではない。

巨大ならば良いとでも?

これならば高圧縮した方がよかったとすら思うね。」

 

─こちとら死徒二十七祖十三位という人気者のズェピアさんやぞ、お前のネームなんぞ怖くもないわ。

 

「だから言っただろう。これは駆除だと。

だが、恐れることではない。

受け入れるべき事だ。

常に時代は進む、実力者も増えていく。

君はそれに置いていかれ、圧倒されただけだ。

戦争主義も構わんが、別の国でやってくれないか?」

 

平和主義国で戦争戦争って何言ってんだってなるしな。

人外同士だから関係はない?

冥界でやれよと。

 

「…何故だ、何故ソレほどまでの力を持っていて何もしない!闘争心の赴くままに蹂躙しようとしない!?

答えろ、臆病者の蝙蝠が!」

 

「……臆病者か。」

 

臆病者、確かに。

俺は臆病者に違いない。

家族を看取るしか出来なかった、中身をさらけ出すのを戸惑った愚か者だ。

 

臆病者、構わない。

蝙蝠、ああそうだとも。

 

それでも、家族以外の他人にそう罵られるのは勘弁願いたい。

俺は臆病者で、蝙蝠で、道化だとしても。

 

「不愉快だ、吐き気を催すほどに不愉快だ。

確かに私は力を持ちながら何もしようとはしなかった臆病者だ。

だが、それを言っていいのは君という存在ではない。

君のような力を振りかざす事でしか己を保持できぬ愚か者が、私を罵倒する権利などない。」

 

それでも俺はあの子の、あの子達の正義の味方なんだ。

 

俺はもう語ることはないと黒い竜巻を三つほどコカビエルの周囲を囲うように創り出す。

死なない程度に創ったから問題はないと思うが……。

あ、よかった。何も出来ないのかコカビエルは悔しげに叫びながら竜巻に吸い込まれ、切り刻まれていく。

 

「グ、ガァァァァ……!!」

 

やがて竜巻は止み、ボロボロになり、意識の途絶えたコカビエルが落ちてくる。

 

「……ふぅ、少し感情的になりすぎた。

それと、お遊びが過ぎたか……」

 

俺は倒れているコカビエルに近寄り、鎖を創り、縛る。

一件落着かな、これは。

 

ありゃ、神父…間違えた、悪魔払いが一人居なくなってらぁ。

相当逃げ足が速いんだな。

 

「ズェピアおじ様!お久し振りですわ。」

 

「久し振りだねリアス君。

ソーナ君とは違って昔のように呼んでくれるとは私は嬉しくて涙を流しそうだよ。」

 

リアスちゃんが話し掛けてきたのでそちらを振り向く。

うっわ、すげぇ見られてらぁ。

そんな凄いことはしてないと思うんだが……。

 

「君の眷属か。ふむ、中々に個性派揃いだね。」

 

「あと一人居ませんが、私の自慢の眷属達です。」

 

本当、個性派揃いだなぁ。

堕天使の力を感じる女一名、妖怪の力を感じる女一名、ちょいと聞こえたけど聖魔剣だっけ?を使えるようになった男一名、先程から神器で治療してる女一名……

 

……そして、赤龍帝の男、原作主人公君、か。

 

俺は自己紹介をしようと思い、少し前に出る。

 

「ふむ…初めまして、リアス君の眷属達よ。

私は、ズェピア。ズェピア・エルトナムだ。

好きに呼んでくれて構わないよ。

…後は、そうだな。昔はリアス君の世話もしたことがある。」

 

「ぶ、部長の小さい頃……!?よ、良ければ教えてください!」

 

「おじ様!その話はしないでください!イッセー、貴方も詳しく聞こうとしないの!」

 

恥ずかしそうに慌てて止められてしまった。

……ふむ、ドライグからは、反応がないな。

あの時の俺に何か思うことでもあるのか、それとも…

 

あの子の事を思い出してるのか。

その籠手の中で、お前の心はどう育ったのか。

 

「ハハハ、好かれているようだねリアス君。

…さて、真っ先に好奇心を示した君は…イッセーでいいのかな?」

 

「あ、はい。兵藤一誠です!…えぇっと、やっぱり冥界の偉い人とか?」

 

「ああ、気にする質…いや、眷属としては当然の反応とも言えるかなこれは。一応答えておくと偉いかどうかはリアス君に任せるよ。」

 

えぇ…って感じで俺をジト目で見てくるリアスちゃん。

後、もう一名…妖怪悪魔ちゃんもジト目である。

 

「…分かりました、後でおじ様については説明するとして……」

 

「ああ、そうしてくれると助かる。まだ、少しだけ劇は終わらないらしいからねぇ。」

 

「?それはどういう─」

 

 

リアスちゃんが言い終える前に、空から誰かが急降下で降りてくる。

しかもコカビエルの側だから俺の近くだ。

 

白い鎧を見るに…白蜥蜴ぇ!!

 

「新手…しかもその白い鎧、まさか!?」

 

「そのまさかだ、グレモリー。俺が今代の白龍皇だよ。

アザゼルからの指示でね、コカビエルは俺が回収する事になっている。

悪魔側と天使側には迷惑を掛けたと言っていたよ。」

 

「今代の白龍皇は堕天使の方に居たのね……。」

 

「白龍皇…俺の…宿敵って奴か。」

 

「ふっ、今代の赤龍帝は君か。

…だが、まだ弱いな。俺の期待通りとはいかないか。

そして……。」

 

「おや?私は弱いからやめておけ。

アルビオンもそう言っているだろう?」

 

「そのアルビオンは、俺に警告してる訳だがな。

まあ、近い内にまた会う事になるだろう。

では、俺はこれで。」

 

白龍皇は俺と戦いたいらしい。

何か、雰囲気が言ってたね。ま、今回じゃないけど。

戦闘狂かぁ、いつぞやの馬鹿を思い出すなぁ。

 

白龍皇はコカビエルを担ぎ、その神器の翼で飛ぼうと──。

 

『無視か、白いの。』

 

『ほう、起きていたのか、赤いの。

今代はこちらが有利らしいな。』

 

『それはどうかな。今代の相棒は少し特殊だ。

すぐに追い付くだろうさ。』

 

『それは楽しみだな。』

 

何か急に喋りだしたぞあの翼と籠手。

白龍皇が話は終わったと判断したのか、飛び去っていった。

 

「さて、回収されてしまったが、やることはやった。

……正直に言えば、そこの籠手の中にいるドラゴンには言いたいことがいくつかあるのだが、まあ、それはいい。

私はそろそろ帰るとしよう。

君達も大変だったろう、早く体を休めることをオススメするよ。」

 

「お気遣い感謝しますわ……。」

 

リアスちゃん、結構疲れてるようだな。

眷属達もかなりフラフラだし。

教会の戦士二人に関してはもう意気消沈というか、事実を事実として受け入れがたいといった様子。

だよなぁ、崇拝していた神が死んでましたとか急に言われたらそうもなるよな。まあ、頑張れ。

 

「白龍皇君が言っていたように、また会う機会があるだろう。それも近い内にね。

その時に質問なり何なりしてくれたまえ。

では。」

 

俺は歩いて帰ることにした。

転移で帰ってもいいんだが、気分じゃない。

兵藤一誠の横を通り過ぎる一瞬、声がした。

 

『あの時はすまなかった。』

 

「…あの子は運命に打ち勝った。

それが全てだよドライグ。」

 

「……?」

 

大人しくなったじゃないか、こいつ。

謝れるくらいになったのは意外だが……ま、これが一番の収穫かな。

 

何を言ってるか良く分かってない一誠はスルーしてそのまま帰る。

 

途中でソーナ君にも会ったので報告は俺がしようと言っておいた。

あの子も疲れてるようだし、一番疲労の少ない俺がやるべきだろう。

 

…さて、いつ始めるかな。

 

 

 

 

 

 

『そうか、途中でアザゼルから連絡が入ったから把握していたが、報告ありがとう。それとお疲れ様。』

 

「ほう、堕天使総督が君に連絡を。

何をする予定なのかな?」

 

『相変わらず鋭いね、君は。

近頃、三勢力会談を行う予定だよ。

そろそろした方がいいと思ってね。

今更な感じも否めないんだが……こちらとしても都合が良い。今は争いの世ではない、いつまでも睨み合ってても良いことなんてないからね。』

 

へぇ、あのアザゼルがね。

よくもまぁ信用の薄い身でやれたな。

行動力があるなら今回の件も直接動いてくれって感じだよホント。

 

「思い切ったな、彼も。

…その思い切りを部下の管理にも使ってほしいモノだがね。」

 

『それに関しては同意するよ。

それで、ズェピア。良ければ君も出席しないか?』

 

「私が?重要人物という程では……ああなるほど。

コカビエルか。

そういう事か、今回のコカビエルの騒動を使ってやるということか。

分かった、是非そのイベントに参加させてほしい。」

 

『そう言ってくれると思ってたよ。

じゃあ、日程は後程また連絡を入れるからその時に。』

 

「ああ、待ってるよ。」

 

通信を切って、俺は紅茶を飲む。

茶葉を変えたが、前の方がやっぱりいいな。

でもあれ地味に高いんだよなぁ……紅茶中毒になりかけている俺にはとても辛い。

 

さて、話も終わったし。

 

「……終わった?」

 

「ああ、終わったとも。」

 

隣の部屋の扉からひょっこりと顔を出すオーフィスに俺は微笑む。

癒しだわぁ……。

オーフィスに連絡を終えたことを伝えると、本を持ってトコトコとこちらに歩いてきて、膝に乗る。

 

拝啓、グレートレッド様。

貴方の追い出した無限の龍神は元気です。

娘として貰っていいですか。

 

「…ズェピア、カオスは?」

 

「彼ならまだラーメン屋だろう。

今日は私が作るから安心したまえ。」

 

「ん、なら、問題ない。…ズェピアから、ドライグとアルビオンの匂いする。」

 

「ああ、会ったからね。

中々に個性的ではあったよ。…もっとも赤龍帝の学校での評判は酷いものだがね。」

 

「……そう、赤龍帝に会った。…ズェピア、その……」

 

オーフィスは言いにくそうにしているので、俺は頭を撫でながら安心させるように言う。

 

「分かっている。ちゃんと会いに行くとも。

君はもう行ったのかね?」

 

「…うん、何をやっているかの報告した。」

 

「そうか、ならば私もしなくてはね。

しかしそうか……そろそろあの日か。」

 

あの日というのは、お察しの通り『彼女』の命日だ。

行って、今までの事を報告とかをしている。

 

特に、オーフィスは命日でなくともよく行くらしい。

大好きだったもんな、彼女と過ごすの。

けれど、死んだのがまだ堪えてるとかそういうのではなくて、世話してもらったから、今度は自分がやると、掃除とかで行くらしい。

 

……寧ろ、俺が一番堪えてるのかもな。

 

「ズェピア、大丈夫、我とカオスは、すぐに死なない。」

 

「…お見通しということか。」

 

「ん、家族だから。それに……」

 

「それに?」

 

「……何でもない。」

 

「そうかね?」

 

それで、オーフィスは単独で行動してるんだが、たまにこうして帰ってくる。

何でも、旧悪魔やら何やらと交渉してグレートレッドを倒す代わりに願いを叶えてやんよと言ったらしい。

ドラゴンボールじゃねぇか!

 

「そういえば、悪魔の一人に蛇をあげた。」

 

「蛇を?」

 

「ん、でも、無駄死にすると思うから細工した。」

 

「少し腹黒くなったね、オーフィス。」

 

「ズェピアは、嫌い?」

 

「いやいや、黒くない者など、そういない。

私はそちらの方が好ましい。

さて、夕食は何が良いかな?」

 

「……ん、じゃあ、ハンバーグ。」

 

「君も好きだなぁ……」

 

「ズェピアのだから、特別。」

 

おいおい、嬉しいこと言ってくれるじゃねぇか。

娘にそう言われて涙出てきそうだわ。

 

マジで良い子に育ったなぁ…テロ組織作ってる時点で良い子じゃない?

分かってないな。そこも魅力なのだよ!

 

 

その後、夕食を作ってる途中で帰って来た教授に今回の件を教えると、どう動くかは任せるとの事。

 

会談の時、事件は絶対に起きる!

旧悪魔の奴等が会談の時を見逃す筈もない。

まあ、オーフィスの細工も見てみたいしな

 




次回は主人公以外の視点を書こうかと思いますが、作者の気分で変わるかもです。


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無限の龍神は何を想い、赤龍帝は何を見つける

どうも、ロザミアです。

今回は前半オーフィスちゃんで後半は皆の変態一誠君の視点です。

一誠の方が長いかもしれません。


「……。」

 

蛇を創りながら、少しだけ思考する。

フリージアが死んでしまってから、もう何十年も経った。

それでも彼女の事を忘れた事など一度もないし、墓参りだって一年の内に何度も行っている。

 

あの時、あの瞬間を忘れることなど不可能だ。

 

『…フリージアは疲れてしまったようで、寝ている。

今はそっと、寝かせておいてあげなさい。』

 

帰って来たズェピアに言われたあの言葉を、最期を今でも昨日の事のように思い出せる。

 

その後、彼女の死体…骨はちゃんと墓に埋めた。

三人で墓を通じて彼女へと語りかけた。

……そして、立ち直れた、と思う。

 

その後、我は単独で行動することにして、まず向かったのは旧魔王領だった。

フリージアを襲ったのはとても許しがたい行為ではあり、今でも殺したいほどではあるが、ならば活用しようと思った。

 

幸い、あの時の悪魔達はあの時全員殺したので我の事はバレていない。

 

どころか、チャンスが来たと喜ぶ始末。

 

その喜びも利用しようと彼等にとって体のいい言葉を投げ掛ける。

 

『我、グレートレッド、倒したい。

倒すのに協力してくれるなら、お前らの願い叶える。』

 

そう言ったと思う。

グレートレッド、我を追い出して我が住んでいた次元の狭間を飛んでいる我と同等以上の龍。

 

我も最初は迷惑を掛けたりしていたが、アイツは我にとって最大の迷惑者だ。

 

次元の狭間も心地がよかったので、グレートレッドを倒した暁にはズェピア達を連れてそこで暮らしていたい。

 

まあ、今それはいいとして。

 

旧魔王達は大いに喜び、協力してくれると言ってくれた。

まあ、力だけを貰って好き勝手する気なのはバレバレなので蛇に細工でもして死に様でも見るとしよう。

 

そして出来上がったのが『禍の団』。

我は担ぎ上げられているだけ、という事にしておいてはいるが、悪魔達や、他の者達の動向はしっかりと見ているし、聞いている。

 

予想より多くの者達が集まって、我を利用しようと企んでいるが、逆に利用されていることに気付いていないのは滑稽だ。

 

だが、厄介な連中も存在する。

英雄派という連中、これは実に利用しにくい。

曹操を筆頭に英雄の生まれ変わり…いや、末裔だろうか?それが集まって出来た集団で、目的が人外を倒して高みを目指すという、馬鹿馬鹿しい内容だが面倒なことに能力が高いせいか一層出来ると思ってしまっている。

 

他には我にとっても普通に好ましいのも居たりする。

 

それが白龍皇が率いるチームだ。

まあ、戦闘狂だったり、妖怪だったり聖剣使いだったりがいるのだが、真面目に我の話を聞いてくれたりもするメンバーでもある。

 

「……出来た。」

 

今出来たばかりの蛇を見て嗤う。

この蛇を飲み込めば、面白い物が見れるのだから。

 

「オーフィス、オーフィスは居ますか!」

 

「……何?」

 

女悪魔が我を呼ぶので応じると、こちらに歩いて寄ってくる。

名前はなんだったか。

カテレア・レヴィアタンだったかな……。

 

「ここに居ましたか。あの憎き偽りの魔王達が会談を開くようなので、そこを襲撃します。

貴女の蛇を授けていただきたい。」

 

「分かった。」

 

実験台が来てくれた。

昔の我のように振る舞っているからか疑う素振りも見せずに蛇を受け取ったカテレアは礼も言わずに去ってしまった。

人から物を貰っておいて何もないのはどういうことか。

あれでも元は貴族の令嬢の筈なのだが……

 

まあ、それはいい。

いい結果を残せるといいが、まあ無駄だろう。

魔王四名の一人にも勝てない実力では魔王に返り咲く事など出来はしない。

 

「……ちょっとしたら、帰ろう。」

 

窓から外を見る。

 

我は帰ってみせる。

グレートレッドを倒し、次元の狭間へ戻り、そこで家族とずっと暮らす。

それだけでいい。

彼処で平穏に、何者にも害されずに生きていくのだ。

 

でも、ズェピアは自らの限界に挑戦しようとしてる。

なら、もう少し予定を延ばしてそれに協力しよう。

その為の蛇の細工なのだから。

 

愛というのはとても難しいものだ。

昔の我ならここまで行動はしてないだろう。

人形のように、何もせずに利用され、捨てられていただろう。

 

そんなのはゴメンだ。

 

「……。」

 

問題は、魔王クラスの強者だが……

 

まあ、そこはズェピアとカオスに任せよう。

 

そんな事よりも、早く帰りたい。

最近は教師らしいので生徒という身分でありながらすり寄ったりする害虫がいるかもしれないので早く帰って確認しなければ。

 

 

 

─────────────────────

 

 

 

オッス、俺は高校生悪魔の兵藤一誠。

 

突然女の子に告白されてそれにOKしてデートしていたら、その子は堕天使だった!

堕天使に殺され、死んだと思っていたが、目が覚めたら……

 

俺はリアス・グレモリー先輩の眷属悪魔になってしまっていた!

兵藤一誠が悪魔になったと両親に知られれば色々とヤバイ気がしたので今は黙って部長の為に頑張ってる。

 

……何で俺はコ○ンの冒頭シーンをやっているんだ!

 

まあ、それは置いといて。

 

コカビエルを倒して数日経った訳だが…いや、倒したのは部長の知り合いのズェピア・エルトナムという人なんだが、凄まじい強さだった。

 

それと、教会の戦士のゼノヴィアがいつのまにか部長の眷属になってたのは驚いた。

何でも、教会に神の不在を問い質したら追い出されたとか。

教会が隠していた事実なのにそれを問い質されたら追い出すなんて…許さねぇ!

 

…まあ、それはそれとして、俺はオカルト研究部、略してオカ研に部長達と居る。

折角なので、ズェピアという人について聞いてみよう。

 

「部長、この前コカビエルを倒したズェピアって人居たじゃないですか。」

 

「ああ、おじ様の事?どうかしたの?」

 

おじ様って呼ばれてるズェピアさん何となく羨ましいぞ!

俺がおっさんだったら呼ばれたい!部長に呼ばれたい!

ついでにその聖なる果実が今日も素晴らしい!

 

「いやぁ、どんな人なのか気になりまして…部長は昔から知ってるんですよね?」

 

「知ってるけど、そんな詳しくはないわよ?」

 

「それでもいいんで、お願いします!」

 

「部長、僕も気になります。」

 

「あら、私も気になりますわ。」

 

「……(無言の挙手&無言の羊羮食い)」

 

「わ、私も……」

 

「ふむ、私も気になるな。あの強さもだが。」

 

部長は少し恥ずかしそうにしながら、紅茶を飲んでから話し始める。

 

「……皆気になるなら、仕方無いわね。

でもさっきも言ったけどそれほど詳しくはないわ。」

 

ゴクリ、一体、どんな話が聞けるのか……!

 

「おじ様は冥界の復興を条件に冥界に移住してきた吸血鬼らしくて、故郷はお兄様も知らないらしいわ。

それで、錬金術や能力を使って復興に貢献したの。

実力もあったようで、はぐれ悪魔の討伐も一部請け負っていたって聞いたわ。

お兄様も自分と並ぶ位かも知れないって言ってたし……少なくとも魔王級の強さね。」

 

「大物じゃないっすか!?」

 

「部長、あの人は眷属を持ってないのですか?」

 

「えぇ、持たないどころか寧ろ悪魔の駒については反対していたと聞いたことがあるわね。」

 

「反対?何でですか?」

 

「さぁ……そこまでは知らないわ。

お兄様もグレイフィアもあまりおじ様について話さないのよ。

あ、でも同じように私たちの面倒を見てくれた人ならもう一人居るわ。」

 

うわ、もう一人居るのか。

その人も只者じゃないんだろうなぁ……。

魔王様が自分の妹である部長の面倒を任せるなんて相当な信頼だし。

 

「確か、名前はネロ・カオス。

おじ様と違ってたまにしか来なかったけど、来たときは楽しく過ごせたわ。色々な動物を出して遊んでくれたのを思い出すわ。」

 

「動物を出すって……まるでその人自体が動物園みたいですね。」

 

「間違いじゃないわね。本当に体から出していたもの。」

 

「「「「「「えっ。」」」」」」

 

「驚く気持ちは分かるけど、本当よ。」

 

俺自身が動物園となることだってか?

悪魔でも居ないだろそんなの…色んな意味で化け物じゃないか!

 

皆で驚いていると、部長は思い出したようにあっ、と声を出す。

 

「そういえば……二人とも共通で私達を見ながら何かを思い浮かべてるような様子をよく見たわ。」

 

「えっと……それはあまり関係ないんじゃ?」

 

「そ、そうよね。

ごめんなさい、私ったら変なことを言っちゃったわね。

さ、この話はおしまいよ。

私自身、そんなに話せないからね。」

 

「はい!ありがとうございました!」

 

何だかいい人なんだな、ズェピアって人とカオスって人は。

また会えるってズェピアさんは言ってたけど、会えるといいなぁ。

……でも、何で俺は別に知り合いでもない男にこんなに興味が惹かれたんだ?

 

お、俺はホモじゃねぇ!

おっぱいが大好きなんだ!

美人が大好きなんだーーっ!

 

 

 

 

 

 

あれから色々とやってから俺は帰宅して自分の部屋に居る。

夕飯も食べて風呂にも入って寝るだけなのだが気になった事が一つある。

 

『あの時はすまなかった。』

 

『…あの子は運命に打ち勝った。

それが全てだよドライグ。』

 

あのやり取りが、頭から離れない。

 

「なあ、ドライグ。」

 

『どうした相棒?』

 

「ドライグは、ズェピアさんの事を知ってるのか?」

 

『……ああ、よく知ってる。

アイツはとても強く、優しく……

そして悲しみが多い男だ。』

 

「悲しみが多い?

歴代赤龍帝と関係があるのか?」

 

『無いと言えば嘘になる。

だが、あの赤龍帝…いや、あの娘は赤龍帝ではない。

あの娘は俺という力を宿しながらただの一つもソレを振るわなかった強い女だ。

その者はズェピアと家族だった。』

 

「赤龍帝とズェピアさんが!?」

 

驚きの事実だ。

この一日で色々とあの人に近付けている。

何だろう、冥界と赤龍帝ととても関係の深い人なのだろうか。

 

『…すまん、相棒。

俺は奴を、奴の家族を語ることはできない。』

 

「え、何でだよ。家族だったってことはお前もじゃないのか?」

 

『俺は違う。

逆だ、俺はあの家族を引き裂こうとした…愚か者なのだ。』

 

そう言って、ドライグはその日喋ることはなかった。

後悔を強く感じる、反省したような声だった。

俺はドライグに何も言うことは出来なかった。

 

ドライグは、何をしたんだろうか……。

 

その日俺は気になってあまり眠れなかった。




ちょくちょく原作編ではオーフィスちゃんと一誠君の視点が出ると思いますので期待……はしないでください。

オーフィスちゃんはフリージアを失った事もあり、家族を大切にしています。
それが傷つけられるとヤバイかもしれない


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『禍の団』 ~混沌~

どうも、ロザミアです。

なんですかね、ランキングに載ってましたね。
……ええ、怖い。

ま、まあいいや。
どうぞ。


さて、皆さん、突然だが学生が一部嫌がる行事の一つを知ってるだろうか。

答えられるかな?

 

体育祭とかじゃないよ。

 

答えが知りたいかな?

よし、答えましょう。

 

授業参観だ。

 

そうです、今日は駒王学園の参観日なのだ。

ついでに言うと俺の授業が親御さん達に見られる日でもある。こんな日は滅びてしまえ。

 

しかも、だ、俺がここまで嫌悪感を出す理由は親御に見られる以外にもある。

 

「どうも、貴方が今回授業をしてくれる先生ですね。

(やあ、ズェピア。顔を合わせるのは久し振りだね。)」

 

「えぇ、虚夜 件と申します。

今回は頑張らせてもらいます。

(うむ、久しいなサーゼクス。)」

 

こいつだ。

この紅髪の野郎、絶対来るとは思っていたが…

 

「ソーナちゃーん!元気にしてた~?」

 

「お姉様!恥ずかしい格好で来ないでください!」

 

……まさか、シスコンまで来るとは…いや、分かってた。

分かってはいたよ。だって、こいつらだもん。

絶対に参観(という名の遊び)に来るのは分かってたもん!

いやね?俺もリアスちゃんの受け持ちじゃなければ何とも思わなかったよ。

でもさぁ、何でか知らないけど紅髪妹の担当授業俺だし、しかも来るのは母でも父でもなく兄だよ。

見ろよ、アイツ無駄にイケメンなせいで女子が集まってるんだよ!

 

ふっざけんなよお前!

マジで、嫉妬とかじゃなくて純粋にキツいんだよ俺は!

ストレス溜めさせないでよ頼むからぁ!

 

「リアスはどうですか?しっかりとやれてますか?

(セラフォルーに関しては止められなかった。

申し訳無い。後、三勢力会談はここになった。)」

 

「えぇ、まあ。所属してる部活は意外な物ですが授業態度などは問題ありません。

(だから知らせが遅れたのか。君、後で殴らせろ。)」

 

「ハハハ、そうですか。

(正直すまなかった。僕は言おうとしたよ?

でもセラフォルーが「ズーちゃん顔合わせてくれないからドッキリ仕掛けよう!」って言って圧力掛けてくるから……)」

 

セラフォルー……会談始まる前に一発ビンタ入れても俺は問題ないでしょう。

故に私は、命題A『セラフォルーにビンタする』が正しいと思います。(ロストロイヤル感)

 

こいつも同罪で殴っておこう。

 

その後、授業は滞りなく進み、俺の胃は守られた。

サーゼクスなら何かしそうと思ったが、はて?

……アイツなりに何かあるのかな、魔王だし。

 

ちなみに、リアスちゃんは普通だった。

サーゼクスが何かしてたら俺と同じく胃が悲鳴をあげていただろう。

 

 

 

 

 

 

今日は部活も何もない、という事になっている。

 

アイツら、冥界でやりゃあいいのに地上でやるんだぜ?

しかもわざわざ魔法使って校長とかの教師陣操っての予定総替え。

いやぁ、駒王学園の未来は暗いぞ。

マジで冥界でやれよ……。

 

まあ、そんなこんなで一足先に俺は会談をするデカい部屋で座って待ってるわけだが。

サーゼクス達もそろそろ来るだろう。

 

「よう、来たぜ。」

 

「…おや、仕事しないで有名な堕天使総督君こんにちわ。ついでに白龍皇君も。」

 

「ついで扱いとは、余裕があるな。」

 

「なに、これから始まる今更感満載な和平に比べれば、この場の皆は余興に過ぎないだろう。

ほら、さっさと座りたまえよ。」

 

最初に来たのがこいつらか。

アザゼルと白龍皇は座る。

……凄い興味ありそうな目で俺を見るのやめてくれよ。

堕天使の評判がそこまでよくないの知ってるだろ?

 

「お前がうちのコカビエルを倒してくれたんだっけな。

礼を言うぜ、ズェピア・エルトナムさんよ。

あ、俺コーヒー。」

 

「暇だったものでね。

それに我が家が壊される可能性があると思うと居ても立ってもいられなかったのだよ。

それと、ブラックでいいかね?」

 

「へ、よく言うぜ。

俺達が会談するのを見越してコカビエルを倒し、ここの席に座る権利を得たとも見えなくはないぜ?

後、それで頼む。」

 

「さて、私には何の事やら。」

 

コーヒーを淹れながら会話しているが、こいつ怖いよ。

確かに会談をするのは可能性として見てはいたが、ここまで考えがつくとは恐れ入った。

おい、どうしてその推理力を別のに変えて部下の管理に役立てなかった。

 

白龍皇は会話の途中でコーヒーの話をしているせいか微妙な顔をしてらっしゃる。

あ、君のもコーヒーだからね。

 

「そもそも、だ。

サーゼクスから聞いた話からお前を知ったときは疑ったぜ?」

 

「ほう、私を?」

 

「ああ、悪魔達の都市復興の時に『偶然』現れてサーゼクスと出会い、そのまま領を持つにまでなったなんざ、誰でも疑うだろうよ。」

 

「ふむ、私は時期が被っただけでそれまでは何もしていなかったがね。

強いて言えば旅をしていたくらいかな。」

 

「旅ねぇ……どうだか。」

 

「随分と疑うな、アザゼル。」

 

「ヴァーリ、こりゃ同族嫌悪って奴だよ。

俺とアイツは似てる部分があるからな。

無駄に疑っちまうのさ。」

 

研究とかに関しては似てますね。

捕らえたりはしないけどな!

その分俺の方が人類に優しいわけだ。

 

コーヒーを二人に渡し、会話を中断する。

これは、これからの会談の為にもやめておけという注意でもある。

アザゼルは理解したのか、コーヒーを飲んで黙りこむ。

白龍皇…ヴァーリ君か。

彼もまた、静かになる。

 

しかし、またしても扉が開き、誰かが入ってくる。

 

「あ、ズーちゃん!久し振り~元気してた?」

 

「やあ、ズェピア。授業参観の時はどうも。」

 

「…ああ、気にしなくていい。

後、ズーちゃんはやめろ。」

 

「お、おじ様?何故おじ様が……」

 

「彼もまた、重要な存在だからだよ。」

 

「なるほど、コカビエルを倒したあの人にもこの会談に参加する資格はあると言うことですね、魔王様。」

 

「その通りだ、ソーナ君。」

 

サーゼクスとグレイフィアや、普通やな。

お、リアスちゃんとソーナちゃん。それとその眷属ぅ達。

そして、出たな見た目少女マジカル☆レヴィアたん。

 

グレイフィアよ、セラフォルーと競いあった仲なんでしょ?ちょっと真面目モードに切り替えるくらいしておいてよ。

そういう視線を送ったが、グレイフィアは無理ですと視線を送り返してきた。

お前も届かぬ領域か。

なら無理だな。

 

「ズーちゃん、ちょっと見ない間により大人っぽくなったね。レヴィアたん、友達の成長を見れて嬉しいぞ☆」

 

うわキツ。

 

「あ、ああ…教師だからね、生徒達に教えている内にそうなったのかもしれないな。

それと、ズーちゃんはやめろ。」

 

「……頑なにズーちゃん呼びを否定してくるわね。」

 

「君もしつこいな。

大体、そのような呼び名は私に相応しくはない。

可愛らしいお嬢さん等にそのちゃん付けをすることをオススメするよ。

……それと、君には以前、そのキャラはやめた方がいいと言ったと思うのだが……」

 

「あの時の私から進化した結果がこの魔王少女レヴィアたんなんだから、仕方無いわね!」

 

「……妹君のソーナ君がとても可哀想だよ。

まあ、君の趣味にどうこう言っても仕方ない。

さて、後はミカエル達か…。」

 

神の死を隠し、信者を集める宗教ねぇ、正しくはあるが、裏の事を知ってるやつに位はしっかり説明すべきとは思うが。いや、何名かには教えてるだろうが。

まあ、いつかそのツケは来るだろう。

それに、俺の知ったことではない。

 

そして、最後の勢力代表者が来る。

 

「私達が最後のようですね。」

 

「そのようですね、ミカエル様。」

 

「い、イリナ!?」

 

……ふむ、転生悪魔の技術でも応用したか?

擬似的な天使化、ある意味それは酷な事だぞミカエル。

 

そのお付きの転生天使ちゃんはイッセー君と話してるし、しばらく待つか……おい、なんでこっち来る天使長!

 

「貴方がズェピアですね、私はミカエル。よろしくお願いします。」

 

「これはご丁寧に。

既に知られてるようですが、私はズェピア・エルトナム。こちらこそよろしくお願いするよ。」

 

「貴方は冥界でも有名な方ですので、知らないものはここに殆ど居ないかと。」

 

「それほどの事をした覚えはないが。

それで?魔王や総督よりも先に私に挨拶とは、いいのかね?」

 

「…それもそうですね、挨拶はこれぐらいにしておきましょう。」

 

シッシ、天使とかいうのはあまり好かない。

良い顔していても秘匿していたのは変わらない。

腹黒い天使とかゲームでもよく見るわ。

信用なりません。

 

全員揃ったこの場で、堕天使総督が真っ先に声をあげる。

 

「よし、じゃあやるか。三勢力会談をよ。」

 

「そうだね、早く始めよう。」

 

「ええ、そうしましょう。」

 

ようやくか……さて、どうなるかな。

楽しめる劇になるといいが……オーフィスの面白い物と言うのも気になる。

十中八九来るだろうし、その時に見せてもらおう。

 

いやでも、見てるだけで良いのだろうか、仮にも俺はこれに参加してる身。

いやいや、俺は勢力代表でもなく、ただこの会談を開くのに良い機会だったコカビエル事件の解決者の一人だからって理由で来ただけだし……

 

 

 

 

 

 

ブツブツ……

 

「ズェピア、君はどう思う?……ズェピア?」

 

ハッ!?

えーと……ああ、深く考えすぎて途中から聞いてなかった。

皆凄い見てるよ。ヤバイでやんす……!

ここはやんわりと聞くか。

 

「……すまない、考え事をしていた。

もう一度手短に聞かせてほしい。」

 

「君がそこまで考え込むなんて珍しいな。

分かった、これから私達三勢力は和平を結ぶことで睨み合いを無くそうって事になってるんだけど…君はどう思うかな、君も冥界に深く関わってきた者の一人だ。

意見を聞かせてほしい。」

 

あー、それか。

もうとっくに済ませてるのかと……

俺の意見、ねぇ……

 

若者が期待の目っていうか何を言うのか気になるって感じだしなぁ……期待が重いよ。

 

「私の意見か…正直に言っても?」

 

「ああ、構わないぜ。

お前の意見ってのもそう聞けねぇだろうしよ。」

 

「ふむ、分かった。

では、言うとしよう。

正直、今更すぎて呆れている。

今まで何年…いや、何百年以上も睨み合い、小さな争いをしてきた。

私も勿論それは見てきた身だ。

まあ、こういった三勢力を巻き込むような事件が起きないと会談を開けないというのは分かるがね。」

 

「……まあ、君ならそう言うとは思っていたよ。」

 

「言うとも。

だが、別に咎めるような事はしない。

所詮は私は吸血鬼という存在だ。

悪魔という勢力に寄ってはいたが、あくまで私は他人。

そんな私が意見を言って何になろうか。

ただ、少し長くなるがこれだけは言わせてくれないか。」

 

『……。』

 

皆がこれから俺が言う言葉に集中している。

所詮は俺の意見なのに、真剣に聞こうとしている。

 

俺が言うことなんて、一つしかないよ。

俺が、誰と、どんな種族と数十年を共にしてきて、それを愛してきたか。

それを考えればね。

 

ほら、サーゼクスやグレイフィア、セラフォルーはもう察してる。

 

「種の存続、それも理解はできる。

人間にのみ宿る神器の研究、研究者として私も分かる。

信者を増やし死した主を絶対とする、間違いではない。

だが……人の時代だ、発展していく時代だ。

私達人外の時代はもうひっそりとしていくべきだ。

今のように、和平を結び、自分達の世界でただ自分達だけで生きるべきだ。

人間を過剰に巻き込むのは、やめなさい。」

 

「過剰にたぁ…だが、神器使いが世界に仇なさないとは限らねぇだろ?」

 

「だから、まだ知恵も浅い子供を殺すか監禁すると?」

 

「事前に被害を抑えるためだ。」

 

「小さな被害者だけで済むと。

愚かだよ、アザゼル。

神は人間に神器を渡した。

確かに一つ一つが恐ろしいものなのかもしれない。

だが、だからといって若葉を摘んでは、大樹にもならん。

人間の可能性をどうして見ないのか。

理解ができない。」

 

「逆によ、お前はどうしてそこまで人間の可能性を信じれる?」

 

どうして?どうしてと聞かれても。

俺はもう信じるしかない。

だって、あの子は人間だった。

最初は旅をしていた時は汚い部分も多く見てきた、失望が芽生えかけていた位には。

 

だが、可能性に賭けたら、勝った。

あの子は、強く、優しく、それでいて儚い存在だった。

汚くとも、人間は輝くのだと。

それを教えられたのだ。

 

「美しいものを見たからだよ、アザゼル。

人間が好きで、堕天したのが堕天使というが、君は飽きたようだが。

……私は、本当に美しいものを人間に、あの子に見た。

良い機会だ、今一度、しかと人間と向き合ってみたまえ。」

 

あの子は、フリージアはもう居ないけど、俺は信じると決めたんだから。

お前にも、可能性を見てほしい。

 

計算しきれぬ未来を、可能性を見てほしいんだ。

 

「…分かったよ、俺もあんたも頑固になっても仕方ねぇ。少し考えるさ。」

 

「ああ、私も柄にもなく熱くなってしまった。

価値観の押し付けをしてしまった。

すまないな、アザゼル。」

 

「いや、いい。

お前の言葉を真剣に考えさせてもらうぜ。」

 

「…ズェピアさん、私は間違っていたと言うのですか?」

 

「主は死んだ。それは事実だ。

だが、現代の者は神すら実在するとは思うまい。

故に、我らのような者を知り、関わった信者には虚言を吐かず、導くべき……いや、違うな。

多少の虚言もいい、しかし、度というものを知りたまえ。」

 

「…ええ、そうですね…検討します。」

 

「検討するだけでも良いと思うよ。

……サーゼクス達は、私がよく知ってるからね、後はもう少し自重を覚えれば良いと思うよ、外交担当君。」

 

「き、気を付けるってば~……」

 

「ハハハ……。」

 

「よろしい。……私からは、以上だ。

和平には賛成だよ。

……どうかしたかね、若者の諸君。」

 

リアスちゃん達は俺の語りを聞いて呆けていたので、聞いてみたら何でもないと首を横に振る。

いやいや、絶対なんかあるだろ。

 

熱く語ってしまった。

だが、これは俺のエゴのようなものだ。

そう、自分の理想を語っただけ。

…だけど、これだけは言いたかったんだ。

 

この関係が、終わる前に。

 

「んじゃ、和平の件は解決。

本題にいこうか。」

 

先程の会話も束の間、アザゼルが切り出す。

 

ミカエルはそれに頷き、アザゼルに問う。

 

「本題……そうですね、アザゼル、貴方に問いたいことがあります。

ズェピアさんにも言われていた神器の研究やら神器使いの確保やら……貴方は戦争でもしたいのですか?」

 

「いいや、備えていたのさ。」

 

「備えていた……?君がそれほど警戒する程の相手なのかい?」

 

「一応だよ、一応。

相手はテロ組織でな、組織名は──」

 

「─『禍の団』だろう。私も知っている。」

 

「……へぇ、お前もか。

なら、それの頭領も知ってるんだろ?」

 

「ああ、『無限の龍神』オーフィスだろう?」

 

オーフィス。

その名に聞き覚えがある者は驚いている。

約数名を除いて。

 

「へっ、良い性格してるぜ、お前。

この話をするのも見破ってたってか?」

 

「いや?縁があってね、それで知っていた。」

 

今もその縁は続いてますがね。

寧ろ家族ですがね。

 

「まあいい、だから俺は戦力を多少なりとも整えてきた。

俺達…特に悪魔はこいつらに狙われるだろうしな。

何せ組織の中には──」

 

アザゼルが続きを言おうとする。

 

───瞬間。

 

 

「─来たか。」

 

その場の数名がピタリと、動かなくなってしまった。

 

「な、なんだぁ!?」

 

「だよなぁ、奴さん達もこれを見過ごす訳ないもんなぁ。

しかもこれは『停止世界の邪眼』だな。

ってこたぁ……」

 

「ギャスパー……!」

 

「これも『禍の団』の仕業と見て良いんだなアザゼル!」

 

 

「─その通りです、偽りの魔王 サーゼクス・ルシファー。」

 

魔法陣から人が現れる。

艶かしい女だ、しかし、それでいて邪悪。

 

「君は……!?」

 

「カテレア・レヴィアタン。

偽りの魔王を殺し、真なる魔王として返り咲く者の名よ。

覚えておきなさい、まあ、貴方達魔王は殺すけれど。」

 

「カテレア…復讐って事でいいのよね?」

 

セラフォルーの問いに、カテレアは怒りを表しながら、憎悪を沸かせながら答える。

 

「それ以外に何がある!貴様らのような温い魔王では冥界は崩壊の一途を辿る!

私達こそが、魔王に相応しいというのに!

何故貴様らのような出来損ないがっ!」

 

「…ふむ、出来損ないとは言い過ぎではないかな?

そも、魔王は先代が彼らに渡した物だ。

選ばれなかったからと君達が癇癪を起こして何になる?」

 

「貴様は…ズェピア・エルトナム…!

黙れ!貴様にも我ら旧魔王の憎悪は向けられている!」

 

「私の場合は正当防衛だが。

しかし、確かにあの時の愚か者達とは違う。

愚か者ではあるがね。

ふむ、君だけという訳ではないだろう。」

 

「外には大勢の魔法使い達がいる。

いくら貴様らといえどあの数では無事には済むまい。」

 

外をチラリと見る。

確かに、多い。

もう既に侵入している奴もいるな。

 

「…じゃあ、テメェが小僧の神器を無理矢理禁手化させたってことか。」

 

「ええ、舞台のためにも犠牲は必要です。

真なる魔王の生誕の舞台のために犠牲になれるのです。

ふふ、あはははは!むしろ光栄と思ってほしい!」

 

「テメェ……!許さねぇ!テメェは俺が…」

 

俺は今にも飛び出しそうなイッセー君の肩を掴んで引き止める。

離せという目をしている。

 

「ここは、私達大人に任せてくれると嬉しい。

君たちは大切な仲間を助けてきたまえ。

それが先決の筈だ、感情に任せて動いては碌な事が無いぞ。」

 

「っ……部長!行きましょう!」

 

「ええ!」

 

リアスちゃん達は、行ったな。

よしよし、大人として良いところ見せられないのはちょいと寂しいが、まあいいか。

 

「さて……」

 

「ズェピア、お前さんは何か隠し持ってねぇだろうな?」

 

「この状況、然程ピンチでもないから使いたくない手なのだが?」

 

「被害がデカくなる前に終われると考えればどうだ?」

 

「使うしかないな。

……ただ、彼は暴食でね。

その場がたちまちグロテスクになってしまう。

ああ、そうだ。

ヴァーリ君、君も雑魚の掃討をこれから呼ぶ彼と共にやってくれ。

数だけは多いからね。」

 

「弱いのを相手にするのは好きじゃないが、仕方無いか。

先に行ってる、早く呼ばないと無駄になるかもしれないぞ?」

 

そう言って、ヴァーリは飛んで外の奴等を倒し始める。

 

「ズェピア、暴食とはもしや……彼の事か?」

 

「察しがいいなサーゼクス。

うむ、いいぞ、舞台は整った。

一方的な虐殺という三流にもならない舞台ではあるが、君の一番得意な事でもある。

さぁ、喰らいたまえ混沌──」

 

さあ、文字通りこの世界での貴方の初舞台になるぞ。

存分に喰らい、魅せてくれ。

 

 

「─ネロ・カオス!」

 

「─存外、想定よりも早く呼ばれたな。

だが、いいぞ。

この世は所詮弱肉強食。

私という存在に喰われれば弱者であり、私を殺せれば強者となる。

者共、その肉──」

 

混沌は、嗤い出す。

初の舞台など関係はない。

そんなもの彼にはどうでもよいことだ。

ただ、彼はそうするだけ。

 

ようやく蹂躙(食事)が出来るのだと。

 

 

「─尽くを喰い砕こう!」

 

蹂躙劇を始めよう。

 

全ては、私達の願いを叶えるために。




長めに書いた分、おかしな部分があるかもです。
その場合はお知らせください。

さて、次回は旧魔王との対決。
そして、教授の蹂躙劇。
ヴァーリは添えるだけ


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娘が病んでてヤバイ。助けて教授。

どうも、ロザミアです。

アナスタシア当たらないからアヴィ先生を80レベルにした。
QPが無くて辛いです。

では、どうぞ。


そこは地獄だった。

いや、地獄ではない。

彼からすれば当然の行動をしているだけで、他の者からすれば地獄と言っていい。

 

「う、あぁぁァぁァあギャッ」

 

「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!死にたくない、死にたくなあがっ」

 

「腕が!腕が喰われた!うわぁぁぁぁぁ!!?」

 

「■■■■■■──ッ!」

 

世界が創られたときよりある原初のルール。

弱肉強食がそこにはあった。

弱き者は死に絶え、強き者は生きる。

喰い喰われ、殺し殺されの世界がその場にだけあった。

 

陸海空の生き物の形をした獲物を喰らう化け物。

 

そして、化け物が現れる中心にソレは居た。

 

「味は粗悪ではあるが、魔力は多いな。

流石は魔法使いといった所か。

我が内に呑まれ、その魔力を私へと還元するが良い。

それが貴様らの最後の役目だ。」

 

逃げ場は無かった。

どれ程高く空に飛ぼうと、落とされ喰われる。

いくら早く動こうが獣は本能をもって仕留め喰らう。

転移をしようとしてもそれよりも速く喰われる。

 

絶望だけがそこにはあった。

この場に来た侵略者は後悔と共に死んでいく。

獣は止まらない。

どれ程喰らおうと足りぬとばかりに貪っていく。

 

勇気を出した者が中心にて立つ男に攻撃を仕掛ける。

炎、雷、氷……ありったけの魔力を使って攻撃をした。

 

だが。

 

「ふむ、終わりか?ならば死に絶えるが良い、人間。」

 

彼にそれは通じない。

風穴を空けようと、頭を吹っ飛ばそうとも通用しない。

マトモな方法で倒せる化け物ではないのだから。

 

「バ、バケモ──」

 

言い終えるより先に多くの獣が無謀者を押し倒し、腕を、足を、腹を、頭を喰らっていく。

悲鳴よりも先に喰われるよりも早かった。

 

「……俺が出る必要はあったのか?」

 

白龍皇の男、ヴァーリは黒いコートの男─ネロ・カオスに問い掛ける。

ヴァーリがそう言うのも悪くはない。

先程まで自分が蹂躙していたというのに、この男が出た瞬間に獣が蹂躙するのを見るだけの立場になった。

この景色を見て、気分が良いものではないのは確かだ。

 

彼はヴァーリを見やると、小さく笑う。

 

「ふっ、あるとも。」

 

「ほう、それは何だ?」

 

「不安要因の始末を私は友に頼まれた。

我が獣は、貴様をも見張っている。」

 

「……この状況で、常に俺にも警戒の目が向いてるのか。

通りで下手に動こうと思えない訳だ。」

 

禁手を使えば、目の前の男に『対抗』は出来るだろう。

だが、男が奥の手を隠してないとは言い切れない。

それどころか、男を相手取りながら百を優に越える獣を相手取れるか……

 

元より、強者と戦うのが目的で堕天使を裏切る気ではいたが、バレているとは思っていなかった。

いや、少しながら思ってはいた。

 

ズェピアではなく親代わりのアザゼルにだが。

 

気づけば、断末魔は聞こえなくなっていた。

辺りを見渡すと、血溜まりとこちらを見る獣たちだけが残っていた。

 

「腹の足しにはなった。

だが、貴様の動き次第では餌が増えるわけだが。」

 

「…お前とズェピア・エルトナムとは戦う気は今はない。

俺は赤龍帝と戦いたい。

それは許してほしい。」

 

「……ふむ。」

 

「─構わないよ、我が友人。

私達に危険がなければ、今はそれでいい。」

 

ヴァーリの後ろから声がする。

振り向くと、まるで最初からそこに居たかのように立っていた。

狂気を微かに感じさせながら。

 

 

──────────────────────

 

 

「おお……力が湧いてくる……コレが無限の龍神の蛇の力!

どうです!?恐ろしいでしょう!これ程の力を得た私は貴様らを殺す位造作もない!

あははははははは!」

 

オーフィスが細工した蛇をカテレアが取り込む。

うーん……どんな細工なんだろう?

もしかすれば、アイツを殺したら何かあるのか?

現状では力が少し上がった位だしなぁ。

それに、麻薬を服用したかのように気分が高揚しているようだ。

 

……でもなぁ、ちょっと、気に食わない。

何でかは知らないが、目の前の女に怒りに似た感情を感じる。

 

「さあ、誰が来ますか?一斉に来ても問題はないんですよ?」

 

何だろうかこれは?

今まで生きてきて感じたことがあったか……?

フリージアが襲われた時は純粋な怒りだ。

あれとは違うナニカ……

 

「(…ああ、そうか。)」

 

理解した。

その感情を理解できた。

それを理解した瞬間、俺は自己嫌悪に苛まれた。

馬鹿馬鹿しい、こんな事を思って何になる。

吹っ切れたと思ってたのに引き摺るなど道化じゃないか。

 

家族愛もここまで来ると犯罪だ。

 

誰でもないどこの誰とも知れぬ悪魔が、オーフィスの、

娘の作った蛇を使うことに俺は苛ついている。

そう、嫉妬に近い。

 

家族を独占でもしたいのか俺は。

違う、そうじゃない。

また居なくなると思っている、思ってしまっている。

フリージアが死んだから?

 

……いや、今はいい。

この状況の事を考えることで一度この思考の連鎖から外れる。

 

「…私が相手になろう。

サーゼクス達は侵入してきた者達の対処を。

一斉に来るだろうからね。」

 

「俺がやろうと思ったが、やる気はお前の方が高そうだ、譲るぜ。」

 

「ズェピア、君ならば問題はないと思うが、気を付けてくれ。」

 

「復讐に生きるものは何をするか分かりません。

お気をつけて。」

 

「分かっているとも。

多少今の私は荒れているが、まあ、負ける気はしないな。」

 

荒れている。

自分勝手な理由で荒れている。

 

だが、この苛立ちをぶつけても良いだろう。

だってこいつは、あの時の奴等と同じだ。

愛娘を襲った憎い者達と同じ奴だ。

 

だから、ぶつけても俺は悪くない。

長きに渡る怒りをぶつけるときが来てしまったようだな。

 

「負ける気がしないだと……馬鹿にしているのか!?

私はオーフィスの蛇を取り込み、更なる力を得た!

真なる魔王たる私に─」

 

「君は、それしか言えないのかね?

君はあれか、オウムかね?いや、オウムの方が賢いか。動物である分、差というものを理解している。

しかし、君にはそれよりも高度な脳がありながら下らぬ憎悪に囚われ、自らを縛る。

だからそうやって同じことしか言えない。

正直、見ていて滑稽の極みだよ。」

 

いつものように煽る。

よしよし、調子が出てきた。

 

それに、サーゼクス達は、侵入してきた連中に対処しにこの部屋を出たから、気にすることなく戦える。

 

「……いいでしょう…!そこまで死にたいのなら殺してあげる!」

 

「君では、私を殺せない。

君ではダメだ、私を殺すのは、彼でなくてはならない。

君の三流芝居に付き合うのは気が進まないが、仕方無い。

この舞台で死ねるのだから中々に運がいい役者だよ、君は。」

 

言ってることが悪役だなぁ俺。

カテレアは俺のテメェじゃ勝てねぇ宣言+伝家の宝刀監督式煽り術により怒りに染まってる。

 

「私を、愚弄するな!

私をそんな道化のように言うな!

私を、ワタシを……

ワタシを、可哀想ナ者を見ルよウな目で見るナぁァぁァぁァァァ!!」

 

む、何か変わった……?

魔力のような物が一気に跳ね上がっただと?

 

いや、だがしかし魔力だけだ。

驚異ではない。

だが様子がおかしい。

これが細工?…いや、あの子が俺の不利になるような事だけをするはずがない。

これは、恐らく蛇本来の強化だ。

 

そして、その力に溺れた…いや、精神が壊れたか?

 

「力、チカラが!これさエあれba!

誰モ、だレもォ!

ぐっ、ぅうゥぅう!」

 

苦しんでいる……というより、狂ったか。

その方が殺りやすいが、いいのかこれで。

原作でもこんなだった?

俺は知らないから何とも言えないんだけど。

 

まあいいや、仕留めよう。

 

まず小手調べとしたカテレアの真後ろに学生服の青年……七夜志貴を出現させてナイフで横一閃。

格ゲーでもよく使ったなぁ。

技名もいいよね。

バッドニュースとか諸々。

 

「ァあ!邪魔ヲすルなぁ!」

 

カテレアは思考の纏まらないながらも乱暴に避けて俺に対して大小様々な魔力弾を放ってくる。

その数は十。

少ないな、もっと撃ってくると思ったが。

もしかしたらガス欠しないためとか?

 

馬鹿かな?

 

「カット、カットカット!

ダンスは苦手なのかね?

私はもう少し激しい曲だと期待していたのだが?」

 

爪で切り裂いても全く痛くもない!

そう、ワラキアの夜ならね。

 

おっかしいなぁ、俺はそんなに強くないと思うんだが……言ったの俺だけど実力差があるのは本当なのね。

ワラキアロールプレイはね、それっぽく言わないと心が軋むんだ。

でも、あれだ。ギルガメッシュとかよりやりやすいと思うよ。

そう、狂気っぽく叫んだり、早口言ったり監督口調するだけで世を渡り歩けるからね。

 

しばらく遊んでいたが、周りの皆はそろそろ終わりそうだ。

うむ、ではやるか。

 

カテレアの方はだんだんと言語が安定してきた。

……うーん、わざと時間を掛けたのは間違いだったか?

 

「殺されろ!死ね!忌々しい吸血鬼!

貴様のせいで、冥界は本来よりも早く復興されてしまった!そのせいで我々が介入する隙が予想よりも無くなった!貴様さえ居なければ!」

 

「私に言われても困るな。

私も困っていた身なのでね。

……まあ、君との会話も飽きてきた。

そろそろご退場願おう。」

 

俺は先程のようにタタリを使い、何人もキャラを造り、攻撃させながら接近しマントで突き刺す。

前々から思ってたけどこのマント便利だよな。

突き刺したり、切り裂いたり、伸びたり、ラジバンダリ。

 

カテレアはキャラの対処は出来たが俺には対処出来ずに肩に突き刺さる。

 

「あがっあぁ!?」

 

「ハハハハ、痛そうだ苦しそうだ辛そうだ!」

 

俺はそのまま爪で腹を切り裂く。

悲鳴が響き渡る。

この悲鳴に動じなくなったのは元々俺が畜生の類いだからか長く生きたが故か、さて。

 

俺は距離を取って様子を見る。

これでまだ向かってくるなら殺すし、逃げるなら逃げてくれて構わない。

 

カテレアはフラフラと立ち上がり、手に魔力を込める。

 

「ま、だ……私はァ……!

 

 

─ッ!?ァアアあぁぁぁ!!」

 

「む……?」

 

急に苦しみ出した?

何も俺は仕込んでないが……

 

まさか、蛇が?

 

カテレアの魔力が急速に無くなっていくのが俺には分かる。

もしや、中から喰われてる?

 

オーフィス…お前、何てものを開発してんだ…!

 

カテレアは倒れ込み、首元を手で抑えて悶え苦しむ。

魔力が、生命力がどんどんと無くなっていく。

 

「ァ"ガ、苦し、ギィ……ァ……助…け……」

 

その言葉を最後に、カテレアは枯れ果てたかのように死んだ。

そして、口から蛇が出てきて、俺の方へと寄ってくる。

俺に寄生しようという事ではないようだ。

 

……一時的な強化をして、宿主が死にかければ生命力等を全て吸ってから殺すってことか。

 

毒薬か何かか?

 

帰ったらオーフィスに連絡をしよう。

これが細工なら、この後どうするか聞くべきだ。

 

……教授の方も終わったようだし、そっちに向かうか。

 

俺は少し靄がかかったかのように何とも言えない気持ちになりながら、転移した。

 

 

 

 

 

 

「─構わないよ、我が友人。

私達に危険がなければ、今はそれでいい。」

 

そして、今に至るって事だ。

会話が途中から聞こえたんで、言ってみたぜ。

 

「今は、か。良いだろう、ズェピアよ。

して、貴様も用は済んだのか?」

 

「この後は、白龍皇と赤龍帝の戦いだろう。

私が見ても面白くはなさそうなので帰るよ。

和平は成った、ならば私がいる意味もない。

……それに、確かめるべき事が増えた。」

 

「なるほど、ならば早急に消えるとしよう。

白龍皇よ、貴様の闘争の果てに何があるか、楽しみにするとしよう。」

 

「実力者たるお前達は見ないということか。」

 

「本来なら見たいのだがね、私にも急ぎの用事が出来た。

すまないが、君がより強くなってから君本人と踊ることでこのお詫びはするとしよう。」

 

「ほう、そちらから誘われるとはな。

……分かった、ソレまでに俺も更なる力を身に付けるとしよう。」

 

いい顔をする。

いつぞやの自分の力の無さを理解しない馬鹿とは違う。

その顔を、いつか俺と戦うときまで保って欲しいものだ。

 

「では、私達はこれで。

サーゼクス達には急用が出来たと言っておいてくれ。」

 

そう言って、俺は教授と共に転移した。

 

 

「ズェピア・エルトナム……いつかお前も倒せるほどに強くなって見せる。」

 

 

─────────────────────

 

 

家に到着し、オーフィスが帰ってきてないか確認する。

 

すると……

 

「おかえり、お疲れさま。」

 

帰ってきてたよ……しかも読書しながら。

可愛いけれど、それよりも先に確認だ。

俺は教授に二人だけで話させてほしいと伝える。

教授は了承し、消える。

 

「オーフィス、この蛇は……」

 

「カテレア、どうだった?」

 

「どう、とは?強くはなかったが……」

 

「やっぱり。」

 

…分かってて渡したのか。

それで細工をした蛇がカテレアを喰って、オーフィスの元へ戻ってくることも分かってて。

利用するつもりが利用されてたとは、哀れなりカテレア。

 

それに、オーフィスは若干笑っているのが分かる。

自分の元に戻ってきた蛇を見て、笑っている。

 

「これは、カテレアを喰った。カテレア自身の魔力と生命力、その他を吸収した。

…ズェピア、これはズェピアの為の蛇。」

 

「私の、だと?」

 

「そう、この蛇からカテレアの魔力諸々を取り込んで、強くなる。

こいつは我を利用しようとした。

だから我も利用した、ズェピアが強くなれるように利用してやった。

そしたら、まんまと騙されて使って、この様。

……ふふ、哀れな悪魔、ズェピアもそう思う?」

 

「……オーフィス、君は「ズェピア。」…?」

 

「我は、ズェピアが好き。大好き。

だから、死んでほしくないし、居なくならないでほしい。勿論、カオスも大切。

でも、ズェピアはもっと大切。

我の家族、我の理解者。

ズェピアの為なら、こいつみたいに他の『禍の団』の連中だって殺すし、蛇を使って吸収する。

ズェピアは、我の事嫌い?」

 

「──。」

 

─これは、俺の罪か。

 

愛というのにはいくつも種類がある。

だが、これは病的だ。

俺の為なら何だってやる、この娘なら絶対にやる。

世界だって壊そうとする。

そんな確信が、俺にはあった。

 

これは、今のうちにどうにかしなければならない。

俺の責任だ、いつからこうなったのかは分からないが……娘を正すのも、父親の役目だ。

 

「オーフィス、私はそんな事望んではいない。」

 

「知ってる。

ズェピアは優しいから、こんな方法での強化は好かない。」

 

「知っていて、何故?」

 

「さっきも言った。

死んでほしくないから。

ズェピアは家族、フリージアのように家族が死ぬのは嫌。

フリージアの願いは理解していたから我慢できた。

でも、他は別。

ズェピアだって限りある命の筈。

なら、死んでしまう。

それは嫌。」

 

「…だから蛇による強化で私が死なぬようにと?」

 

「そう、ダメ?」

 

ヤバイ、結構ヤバイぞ。

分かっててやってるってのは一番直しにくいんだ。

こういうのを直すのは骨が折れる。

というか、俺が直し方を知らない。

ヤンデレ混じってるよねこれ?

ハイライト仕事してないよ……?

 

娘のヤンデレとか誰得だよ。

 

オーフィスは本を閉じて、俺に近寄ってくる。

女神のような笑みだ、だが、その目はヤバイ。

蛇を俺に使う気満々だ。

 

「ずっと、ずっと我と居る。

グレートレッドを始末して、次元の狭間でもずっと。

家族が居ない生活は考えられない。

でも、この世界は煩くなった。」

 

「…オーフィス、私は確かに限りある命だ。

だが、全てが終わっても君と居れるように今まで全力を尽くしてきた。

だからそのような物を使わずともいいんだ。」

 

「駄目。ズェピアが無理してきたのは知ってる。

でも無理しなくても手っ取り早い方法がある。

それがこれ。悪魔共は馬鹿だからすぐ使う。

だからすぐに育った蛇も集まる。

…ズェピア、我なりの親孝行。」

 

常識教えた筈なのになぁ!

親孝行が他人殺しての延命とか怖すぎる。

俺だと勝てないし、教授も足止め位しか出来ないだろう。

あの娘は口じゃ止まらない。

どうすりゃいい?

 

「─オーフィス、そこまでにしろ。」

 

「…カオス、何?」

 

教授が現れ、オーフィスの腕を掴んで止める。

オーフィスも家族に乱暴は出来ないのか、見つめるだけ。

 

「何、ではない。

確かにフリージアが死んで身内への死の恐怖が強くなったのはある。私とてそうだ。

あの喪失感は二度と味わいたくもない。

だが、そのような永遠は認めるわけにはいかん。」

 

「…ズェピアもカオスもいつか死ぬ。

独りは嫌。

これがダメならどうすればいいの?」

 

「どのような者も何れは死ぬ。

真に不死な者など居はしない。

…そう、貴様も何れは死ぬのだ。

私達はその同胞達の死を乗り越えて『今』を立っている。」

 

「……我は無限。死ぬことは…」

 

「0ではあるまい。

龍殺しの性質を持つ武器、生物に殺される確率は大いにあるのだからな。

……それに、フリージアがこのような事を望むとは思えん。」

 

フリージア、その名前を出すとオーフィスの顔は苦しそうに歪む。

そして、観念したのか蛇を仕舞う。

 

「っ……分かった、今はやめておく。

でも、ズェピア。使いたくなったら、言って。

我は、いつでも待ってる。」

 

「……ああ。君にはとても心配を掛けたようだ。

お詫びに何か頼みを聞こう。

その蛇は無しで頼む。」

 

「……ん。

分かった、じゃあ、今度遊園地行く。

家族皆で行く。」

 

「分かった、そうしよう。

…友人、助かったよ。

君が居なければ……」

 

「私とてオーフィスとは同じ思いではあった。

だが、私は限りあるからこその生が嫌いにはなれん。

故にああした。…貴様が主ということもあるがな。」

 

…これは、ちょいとギスギスしてるなぁ。

オーフィスは、約束を取り付けてから黙ってるし。

 

「……うむ、私達はあの子に依存していたようだ。」

 

「……ん。」

 

「でなければ、先程の事態にはなっていまい。

私は少し外に居る。夕食には呼んでくれ。」

 

教授はそのまま外に出ていった。

……気まずいなぁ。

 

「オーフィス。」

 

「…なに?」

 

「ありがとう、心配してくれて。

私は、望みがある。

…死ぬかもしれない望みだ。

だが、死ぬつもりなど毛頭ないし、君を置いて逝ったりなどしない。

……だからどうか、私の我儘を聞いてはくれないか?」

 

「……死にそうになったら、これを使う。

それでいいなら、協力する。」

 

「ああ、それでいい。

……最初から、こうすればよかったのに、私達は不器用なようだ。」

 

本当、不器用だ。

こうして皮を被って生きている俺も、家族の死を怖がって強引になっていたオーフィスも、どちらも分かっていながら中間としている教授も。

オーフィスも分かってるのか少し申し訳なさそうに苦笑する。

 

「ん、似た者同士。」

 

「その通りだ。」

 

…不器用でも、家族でいれる。

大丈夫、君の好きな家族は少し崩壊しそうだったけど何とかなったよ。

 

君がこの場に居たら、説教食らってたろうなぁ…。

 

本当、難しい。

 

それでも夜は一緒に寝た。

抱き枕にされるのは未だに慣れない。




色々と家族間でもありますが、一旦解決。

こうしてみると、教授は必要な存在。
オーフィスもフリージアが死んで病んできてますし。
ズェピアもズェピアで、色々とあるし。

まあ、そんなもんです、家族って。
カテレアは犠牲になったのだ。
家族仲の修正、その犠牲にな……


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どうも、ロザミアです。

学校始まって更新が遅れ気味になる可能性が大いにある!
不定期更新のタグ入れるべきですかね……入ってたかすら覚えてないけど。

ではどうぞ。


やあ、皆の衆。

俺だ、ワラキーだ。

久々にこの挨拶をしたな。

 

そして、唐突だが悩みが俺にはある。

 

そう、裏切りポイントの決め所である。

 

三勢力会談の時にやればよかっただろって?

オイオイ、あの場面じゃ駄目なんだよ。

何故かって?

 

弱いからだよ、主人公達が。

俺自身それほど強くないとは思うがそれでもコカビー風情に苦戦するようじゃ駄目なんだよね。

なので、もう少しだけ経過を見ようと思う。

禁手に至っても俺は機が熟したとは見ない。

 

そりゃ、能力の爆発的な向上は素晴らしいと思うよ?

でもそこまでだ。

いくら能力が強くなろうが本人が未熟なのには変わりなし。

皆、能力=強さと思いがちだが、NOUMINとかを忘れてはいけない。

あれは純粋に強い。

ああいった強さも手にしてからじゃなきゃ俺はやるにやれない。

慢心と言われたら違うと言いたいが、まあ、どうとでも思ってくれ。

 

敵対するとしてもやりがいを感じたいというか、何というか。

かませの考えな気がするが俺は気にしないぜ。

だってねぇ?元々の俺ならかませだし。

ワラキーの体使っておいてそれは今更過ぎるでしょ?

 

ただ、今更といえば何だけど、他の転生者とか転生モノ特有の多数の転生者が居るとかはないんだよな、安心した。

 

…まあ、話を戻そう。

で、俺も主人公達も強くならなきゃいけないのが現実で、でもそろそろ少し楽したいなってのもある。

……後半はどうでもいいとして、どうしたもんか。

 

最終的には俺が敵でなきゃ俺の望みは達成されないのよね。

んでもって、グレートレッドも殺さないにしても倒さなきゃいけない、ヘビーだぜ。

 

そも、皆さんは俺に『何でわざわざ高みを知りたいって理由で敵側になるの?』って思うことだろう。

 

お答えしよう!

 

そんなの俺がそうしたかっただけ。

理由なんてね、後から出てくるもんだよ。

最初はしたいからすると言う今は亡き好き勝手要素があった頃の俺の野望も、いつの間にやら『いつかオーフィスの願いを達成させなきゃいけない』ってのに変わってたもんです。変える気もないし。

 

そりゃ、裏切るのは心が苦しいですよ、元々仲がよかったんだからね。

でも、俺はやりたいって思っちゃったんだぜ。

ならやるしかないじゃん?

それに、俺的にはワラキアの夜は敵でなきゃ輝けない気がするんだよ。

ズェピア・エルトナムは確かに善人で人類を救おうとした立派な人なのかもしれない。

でも、俺が好きなのは彼だけではないんだ。

ワラキアの夜だから好きなんだよ。

 

ほらね、理由とかポンと出たでしょ?

その場での使命感とか、そういうのは下らない。

結局は皆自分勝手なんだから。

自分勝手にやって、それが結果を生んで、善か悪かは他人が勝手に決める。

それでいいんだよ、世界なんて。

本人の気持ちが大切なんだから。

 

さて、そんな事を思っていたら思い付いたぜ。

俺が悪役であり、主人公達も俺も強くなれて、そしてグレートレッドを倒す計画をな。

何て事はなかった。

答えはもう俺の中にあったわけだ。

 

舞台は思い付いた。

次は……何人かにはチケットは渡せないな。

お引き取り願おう。

 

ついでに、俺の悩みも解決するかなぁ。

解決したら、俺は俺でいれるのかは不安だが。

まあ、何でも簡単に終わったらつまらない。

賭けなんて何回もやって来た、掛かってこいってもんよ。

 

痛感したよ。

俺の今までの考えは甘かったということだな。

俺は少し調子に乗っていた。

原作よりも前にスタートしたから幾分か楽になるなんて思っていた自分がいたのは事実で、そしてその慢心を今後もしていこうとしていたのも事実だった。

 

……うん、やめにしよう。

少し、非道になるしかない。

俺は確かにあの子達の正義の味方でありたい。

だけど、それと同じくらいに──

 

 

 

──悪役でありたい。

 

だって、その方が楽しそうだろ?

 

 

 

─────────────────────

 

 

ウィッス、先程まで頑張って計画練ってたワラキーでっす。

 

あれからオーフィスの病み度はいくらか減少したようで、昔みたいに普通に甘えてくるぐらいにはなった。

教授に感謝したところ、

 

『私は何もしていない。

こうして戻ったのも、貴様の努力の賜物だろうよ。』

 

と言われたのでそういうことにしておいた。

俺の努力ねぇ……。

 

まあ、いいか。

さて、皆さん、聞いてくださいよ。

 

俺は今、冥界に居るのだ。

 

リアスちゃん達が他の若手悪魔達とレーティングゲーム……だったっけ?をやることになったと聞いて来たわけよ。

教授も居るけど、冥界の幻想種をまた見に行きそうになったから命令気味に止めてます。

 

そのせいか顔には出てないけどションボリとした雰囲気が出てる。

 

「…おい、訂正しておけ、グレモリーの令嬢の試合を観るのはついでだとな。」

 

「地の文をどうして読めるのかは聞かないでおくよ。」

 

不満気味にそう言った後、また黙り混んでしまった教授。

 

そうなんですよ、俺が来たのは別の理由なんですよ。

ちょっと欲しいものがあって、仕方無く。

ぶっちゃけるとリアスちゃん達の試合は興味はない。

まあ、観るけどさ。

突然付き合いが悪くなると変な心配掛けちゃうでしょ?

動きにくくなるのは勘弁したい。

 

「それで?その欲しい物を私は聞いていないが。

貴様ならば、大抵のものは手に入ろう。」

 

「買い被りすぎだよ、同胞。

私は冥界では中々の有名人なようだが、君が知るように私は凡弱な吸血鬼だよ。

……まあ、何が欲しいかと言うとだね──」

 

 

 

 

「─魂が欲しくてね。」

 

「……魂か。何故だ?私のように新たな祖を生み出すわけではあるまい。」

 

「流石にそこまではしない。

だがね、私はこの世界と戦う上で何度も脳内でシミュレートした。

足りない、圧倒的に足りないのだ。

力ではない、知力でもない、魂の質がね。」

 

「故に、他者から魂を抜き取り、己が魂を補強するということか。」

 

「あまり好ましくない手ではあるがね。」

 

そう、外側は吸血鬼の中でも上位の強さを持つ死徒ズェピアの体でも、中身の俺は違う。

中身ごと死徒になったのではなく、俺という人間が死徒の皮を被っているだけなのだ。

 

そして、俺は魂の質がそれほど強くはない。

一誠君よりないんじゃないか?って位強くはない。

 

結構困ってるんだよ。

俺が悪役であるためにも、そんな小さな問題も見逃せない。

 

だから、俺はワラキアの夜と同じように大量に飲む必要がある。

血ではなく、魂を。

幸い、魂を綺麗にするという何言ってんだな技術は持ってるんで何とかなる。

 

魂の質が上がりさえすれば色々な問題をクリア出来る。

手っ取り早く強くなるってのは分からんが、ゲームでいうと…あれだ、強さの上限が上がる。

 

まだ誰も知らない方法だろうけどね。

これだとどっかの吸魂鬼だよ。

 

それで、冥界に来たわけです。

そこかしこの悪魔を喰ってもまるで意味はないので、他の悩みを解決すると共にある特定の奴等を殺すことにした。

 

まあ、皆察しがいいんで誰やるかは理解してると思うんだけどね。

 

「しかし、貴様が何かを吸うという行為をするのは久しいのではないか?」

 

「穏便に過ごすのが今までの私だったからね。

冥界の不手際を処理したとき以外は然程戦いをしてはいないかな。勿論、血を吸ってもない。」

 

「ふっ、吸血鬼としては、下の下もいいところだ。」

 

「手厳しい、しかし、事実ゆえに私は反論もできない。

君は見ていて貰えると助かる。

もし私がおかしくなれば、殴ってでも止めてくれ。」

 

魂を補強なんて外道に近い行為だ。

そんなもんして、俺が歪む可能性は大いにある。

だから、止め役として教授を同伴させてる訳である。

幸い、あの武器は俺の手元にはないからね。

 

教授は心配はないだろうといった様子である。

俺への信頼度高いなぁ。

 

「一応戦闘の態勢は整えておこう。」

 

「そうかね。……さてそろそろ到着かな。」

 

今回のワラキアの夜の被害に遭うのは~?

 

 

「─昔の憂いを断つのには、丁度いい舞台だ。

三流役者の集まりには消えてもらわねばね。

 

旧魔王諸君。」

 

旧魔王領でした。

 

さぁ、大人しく我が糧となるがよい。

 

……ごめん、ガラにもなくクッサイ台詞吐きそうになった。

 

ま、ぼちぼちやるかね。

昔の屈辱を倍返しする時が来たってことで、諦めてくれ。

俺から逃れようと思うなよ。

逃れようとしたら怖いタタリを見る羽目になる。

逃れなくても怖いタタリを見る羽目になる。

 

つまり、デッドエンドという事ですな!

 




やるなら徹底的に。

どうせ害悪でしかないならその魂を明け渡すことで貢献してねっていう。

ところで、アポイベはまだですかね。


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旧き魔王は消え去り、虚言の王は嘲笑う

どうも、ロザミアです。

ついにお気に入りが2000を突破しました!
これまで続けられたのは読者様達のお陰です。

では、どうぞ。


部屋で二人、本を読みながら話していたときを思い出す。

 

何故かは分からない。

何故今なのかも不明だ。

 

「ねえ、ズェピア。」

 

「どうしたのかね、また分からない部分でも見付けたかな?」

 

すると、少しムッとしてしまう。

失言だっただろうか。

 

「すまない、からかうつもりはなかったのだが。」

 

「いいよ、別に。

でも、もう私は子供じゃないんだから。

……それでね、ズェピアって、何かしたいことってないのかなって。」

 

「また唐突だね、どうしてその疑問を持ったのか聞いても?」

 

何かしたいこと…か。

確かに、ある。

だが、彼女が幸せに死ねたらやると決めたのだ。

 

彼女にはこの事を知られたくはなかった。

軽蔑はしないとわかってる。

彼女はそんな事は出来ないと知ってる。

 

「何となく。人間ゆえの知的好奇心ってやつ?」

 

「何故疑問形なのかは聞かないでおこう。

……しかし、そうか。

したいこと、か……無いな。」

 

だから、俺は平然と嘘をついた。

彼女は、とてもそれが意外だったようで驚く。

 

「えぇ!?割と何でもできるのに何もやらないの?」

 

「うむ、そんな事、考えたこともなかった。」

 

「そっかぁ……勿体無いなぁ。

ズェピアなら、凄いことが出来ると思うのになぁ。」

 

「凄いことかね?」

 

「うん。例えば───」

 

彼女は笑顔で、俺に言う。

俺の目的と真反対なもしもを。

 

 

「─────。」

 

「─それは、私も憧れるかもしれないな。」

 

教えてくれ、愛しい家族。

 

あのとき、君は何を言ったのか。

 

何を願っていたのか。

 

 

「ズェピアは、何となくそれはしなさそうだけどね。」

 

もう、そのもしもを思い出せなくなってしまった俺に。

 

もう一度だけ、聞かせてほしい。

 

 

 

 

──────────────────────

 

 

 

 

 

怒号が鳴る、悲鳴が響く、狂笑を奏でる。

 

「き、貴様はズェピ─」

 

「カット。」

 

爪で切り裂く、死ぬ。魂を回収する。

 

「殺せ!憎き吸血kァガッ」

 

「化物がァ─」

 

「カット、カット。」

 

マントで切り裂く、死ぬ。魂を回収する。

 

切る、伐る、斬る、きる、キル、kill、killkill、killkillkill、killkillkillkillkillkillkillkillkillkillkillkillkill──

 

「カット、カットカット、カットカットカットカットカットカットカットカットカットカットカットォォ!」

 

何人も殺し、魂を回収し、絨毯を血の色に染めていく。

血を飲んでみたいが、やめておこう。

飲んで腹を壊したら事だ。

 

ああ、でも───

 

 

 

─脆いなぁ。

 

脆くて、弱くて、愚かで。

数だけは一人前だ、だが、弱い。

弱いのはいけない。

 

「キ、キキ、キキキキキ─!」

 

笑ってしまう、こんな奴等が真なる魔王とほざいていたのか。

冥界も未来が明るいな。

ハ、ハハハハ!

これが傲慢これが慢心これが駄心!

 

……駄目だ、少し落ち着け。

引っ張られるな、彼は彼で、俺は俺。

同じであって同じではない。

 

…よし。

駄目だな、声優はキャラ性に引っ張られる事があるというが、もしや同じようなモノだろうか。

いや、これはそんな優しいものではない。

 

困った、これがずっと彼になってた代償とでも?

吸血鬼のデメリットではなく、俺の魂の問題ということか。

 

それに、改めて思うと、本当に何も感じなくなったんだなぁって。

昔は一般人で、殺人事件のニュースを聞くだけで怖いなぁって思ってた自分が、もうこんなに殺しても吐き気すら来なくなってるのに、少し恐ろしさを感じる。

 

まあ、それだけ。

 

「…大分殺したなズェピアよ。」

 

「……ああ、想定よりも回収できている。」

 

「その分、貴様も変貌しかけているがな。

どうする?このままでは貴様は本当に貴様でいられなくなる可能性が高いぞ。」

 

「構わない、続けるとしよう。

私が私でいられなくなるなど、千差万別のタタリにとって有り得ぬ事だ。

私は私であり、私ではない。

そうであるように生きたのだ。

今のは、テンションに乗ってしまったという奴だよ。」

 

「……貴様がそれでいいなら、私は構わんがな。」

 

察してるのか、勘違いかは分からないが、前者だろう。

 

「後どれぐらいいるかね?」

 

「2、3人程だ。」

 

「魔獣を使っているお陰か、空間把握能力も高いな。」

 

「今更だろう。」

 

2、3人か。

 

ハハハ、こんなものか。

旧魔王達はこんなものか。

昔、俺を嵌めた奴も旧魔王の一人ではあるが、あれ以下だな。

 

迅速な対応くらいはしてほしいもんだ。

 

じゃ、さっさと殺ろうか。

 

こんな劇をいつまでも続けてたら観客が去ってしまうからね。

 

 

 

──────────────────────

 

 

 

「嫌だ、まだ死にたくない!まだ死ぬわけにはいけない、まだ私は誰にも示して──ガァッ」

 

「知ったことではないな。これが君の運命だったということだ。」

 

そう、俺に存在を知られなければこうはならなかった。

俺に敵対しなければこうはならなかった。

最初から、魔王に憎悪なんていう無駄な感情を燃やさなければこうはならなかった。

 

始めから間違えていたのだ、お前らは。

 

俺も間違えてるが、お前らはその極みだ。

 

だが、何れ俺も報いを受ける。

俺も死ぬことだろう。

 

だが、それは全て済ませた後だ。

俺は生きて、お前らは死ぬ。

理想を掲げても、達成できなければ意味はない。

ほら、現実はこれだ。

 

結局無意味だったな。

 

自虐も出来るなんて、変な人生を歩んでるなぁ俺。

 

「それで最後だ。どうする?今ここでやるか?」

 

「……それもいいな。

ここで事を済ませてしまおう。

何、自分達の拠点で自分達の魂が喰われるという体験をしたのは彼等が初だろう。」

 

そう言って俺は作業を始める。

前にやったように魂を綺麗にしていく。

エーテライトを使ったのも、久し振りかもしれない。

 

しかし、情報を捌く能力は今の方が上のようで次々と終わらせていく。

 

やはり、相当恨みがあるらしい。

何とも言いがたいが、こうなる覚悟もあった奴は居た筈だ。

それがたまたま、俺だっただけで。

 

「……では、始めよう。」

 

俺は、情報を綺麗さっぱりに無くした魂を喰らう。

 

喰らった瞬間、体がマグマのように熱くなる。

拒否反応ではない、単純に魂が強化されていってるのだ。

 

「ぐ、ぬぅ……!」

 

それでも、俺は残りの魂を吸収した。

苦しさが増し、立てなくなる。

教授が支えてくれたお陰で地面に倒れるという無様は晒さなかった。

 

「…無事か?」

 

「何とか、ね……これは、中々に、危険な方法だ……」

 

少しだが、体が自分の物で無くなるような感覚に陥った。

だが、自分を強く保つことにより、耐えた。

その感覚も薄れていき、次に来たのは力の向上だった。

 

狂ってしまいそうなほどの高揚感、優越感を感じる。

だが、それではない。

俺が真に求めた結果はそんなどうでもいいことではない。

 

「どうだ?」

 

「……うむ、やはり私が強くなるということはタタリもまた成長するということ。

それでいい、そうすることで私は私の望む舞台へと辿り着ける。」

 

「……私は貴様に従うのみだ。

他にやることはあるのか?」

 

「……ふむ、どうしたものか。

リアス君達の様子を見に行ってもいいが……」

 

…行くか。

敵になる存在の現状を知るのも必要だ。

 

「行くとしよう、私達が何れ相対する彼等の様子を見にね。」

 

「……ならまずは倒れかけの体を起こすことからだな。」

 

「…決め台詞を台無しにするとは、役者根性がなってないな。」

 

「生憎と台本通りに踊ってやるほど器用ではない。

元より私は獣だ、暴虐を尽くす方が似合っているだろう。」

 

「君は、自分の事をよく分かってるのだな。」

 

「創造主に言われるとは驚きだな。

私を造り上げたのは貴様だろう。」

 

「……そうだね。」

 

そうだ、俺はここでは終われない。

俺は、強くならなきゃいけないんだ。

 

それでようやく、悪になれる。

 

嗚呼、でも──

 

 

 

『─────────。』

 

 

 

 

─やっぱり、あの子の言葉が、思い出せない。

 

 

何か、なにか大切な言葉だった筈なのに。





2000を記念して、活動報告の方に新たに投稿しました。見てくれると嬉しいです。

これからズェピアはどうなるのか。
フリージアが生前ズェピアに言った言葉とは?


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あの時の感想を

どうも、ロザミアです。

今回は、色々と出てきます。

そして、最後には……。

では、どうぞ。


拳と拳がぶつかり合う。

力は互角で、体格差もない。

速さは俺が上で、堅実性はあちらが上といった処か。

 

「やっぱり、君ちょっと万能過ぎやしないかい!」

 

「ハハハ、何を言うサーゼクス。

能力の多様性ならばそちらも負けてはいまい。」

 

にしても、コイツどんどんと強くなっていくな。

俺が最初は接近有利だったんだがな。

滅びの魔力頼りは何とかなったか。

 

俺が何してるかと言うとサーゼクスと休日によくしている模擬戦…もとい軽い運動だ。

 

近接戦、遠距離戦等、その日の気分でやっている。

動かないと体が凝ってしまうのもあるが、お互いの高め合いというバトル系漫画ならよくあるイベントをやってます。

 

互いに強くなってるのが分かるのはいいんだが、ちょいとこいつ成長早くないですかね……?

お前が兵藤一誠でしたか。

 

「君、体の構造どうなっているのかね?

どうしてこう強くなるのが早いというか……」

 

「君のお陰だよ。

自分の無力さにいち早く気付けたのは、君がいてくれたからだ。

それに僕は王だ。

民にも、眷属にも、妻にも情けない所なんて見せられないだろう?」

 

「一理あるな。……それに比べれば、私は気軽だがね。」

 

今のコイツに完膚なきまでの圧勝は今の俺では難しい。

本気同士ならどうなるかも分からない。

 

ところでですね、何だか拳の力強くなってきてるような……

 

「君、私が気軽だと言ってから少しパンチが痛いのだが?」

 

「あはは、そんな事無いさ。

別に僕はよくこちらを無視されてるのに苛ついてなんかない!」

 

「ぬぅっ!?

その発言は明らかに苛ついてる、苛ついてるよ。」

 

痛い、痛いです。

やめてくれよ……(泣)

 

しばらく避けたりしているとサーゼクスが攻撃をやめる。

むむ、話をする時の合図だ。

 

「……正直、未だに僕は自分の理想が分からない。

こうして君と鍛練しても、誰かと話していても。

家族と接していてもだ。

僕は未熟だ。

だが、いくら未熟とはいえ、今も理想を見つけられてない僕が王でいいのか?」

 

辛そうに、苦しそうにそう俺に問い掛けてくる。

真面目な話だったようだ。

 

……前にも、王についての話をしたが、少し前とは違うな。

彼は今、壁の前にいる。

王というモノを見付けるための試練の壁だ。

 

俺なりの答えを示すしかない。

でも、俺が言えることなんて賢いことじゃない。

誰だって思うことだ。

 

「私には分からないな。

君が王でいいのかなんて、私には分かるはずもない。

もし、私が時間を遡って来て、そして、その未来の君がろくでなしの屑ならば今すぐにでも家族の目の前で公開処刑しているかもしれない。

だが、それは今の私には分からないから、どうしようもないが。」

 

「……そうだね、君に聞いても、すぐに分かるはずもない。ごめん─「だがね。」─?」

 

「だが、私は一つだけ意見を出せる。

それが正解か、間違いかは私の知るところではないが。」

 

「……良ければ、聞かせてくれないか。」

 

「勿論だとも。

私が言えるのは一つだけだ。

 

そうして悩み、民を想える君は、道を踏み間違えなければ民に慕われる王にはなれるんじゃないかな。」

 

「民に、慕われる…。」

 

「まあ、私の意見なだけで、民の気持ちは知らないが。

だが、それでも、その想う心を忘れてはいけないよ。」

 

政治を知らぬ、馬鹿だが、友人の悩みを解決するのに助言くらいは出来る。

それに、こいつがこうなっていると困る。

 

サーゼクスはまだ悩んでいるようだが、先程よりは晴れた顔をしている。

 

「…うん、ありがとうズェピア。

もう少し、周りの皆とも話してみるよ。

もしかしたら、民や友人との会話の中で、僕の理想を見付けられるかもしれない。」

 

「うむ、それでいい。

君が悩んでいては私も気分が悪い。

悩み、苦しみたまえ。

それを乗り越えてようやく答えにありつける。

人生という数式は、そんなものだよ。」

 

「ハハハ、人生を数式なんて言うのは君くらいだよ。」

 

「そうだろうか。」

 

その先に俺が居る事はあり得ないだろうけど。

それでもお前の答えを最期には聞きたいもんだな。

 

 

─────────────────────

 

 

「……。」

 

そんな事もあったと思い出しながら、冥界の民を見る。

 

とても、賑やかだ。

何というか、暗いというのが無いっていうか頑張るぞというオーラに満ち溢れてるのが多いというか。

 

まあ何にせよ上手く行ってるんじゃないか?

 

教授が予定外の場所に訪れた事への疑問を俺に投げ掛ける。

 

「ズェピア、何故会場ではなくここに?」

 

「私にも分からない。

ただ、何となく来てみたいと思ってね。

うむ、だが、理解した。」

 

「ほう。……その答えは、聞かないでおこう。」

 

「そうしてくれると助かるよ。

少し時間を掛けてしまった。

さぁ、行こうか。」

 

そう言って俺達はレーティングゲームとやらをやる会場へと転移する。

 

さて、何かもう色々終わってそうだけど、様子だけでも把握せねば!

 

 

 

 

 

終わってるっぽい雰囲気だな、これは。

 

サーゼクスがこちらに気付いたのか近寄ってくる。

タイミングよくそこに居てくれるとはなんて偶然(棒読み)。

まあ、お前の近くにわざと転移したんだがな。

 

「ズェピア、それにネロまで!

来てくれたのかい?

救援に来てくれたのは嬉しいが、何とかこの場に居た者だけで事態を終わらせることが出来たから問題ないよ。」

 

「待て、救援?話が見えないのだが……」

 

うん、本当に何言ってるんだ状態だ。

確かに荒れた感じはするし、何か厄介事があったって雰囲気だが……。

 

「え、違うのか。……分かった、取り合えず君にも何があったのか教えよう。」

 

そこから教えられたのは予想とは結構違った。

要約すると、若手悪魔のディオドラ・アスタロトは禍の団と繋がっていたようで、リアスちゃんの眷属のアーシアという少女が欲しいが為に禍の団の連中と結託してリアスちゃん達を倒しに。

そこに北欧の主神 おでん…もといオーディンが助太刀したこともあってかリアスちゃん達はディオドラを倒し、見事アーシアを救出……と思いきや。

 

「新たな旧魔王派がまた現れ、アーシア君を転移させ、それが要因となって一誠君が暴走したと。」

 

「そう、それでリアスが見事イッセー君を止めたんだ。」

 

「……方法は?」

 

「ネロ、それは……胸を触らせたら暴走が止まった。」

 

「すまない、理解が追い付かない。」

 

「生物本来の性欲によって怒りを抑制したということか?いやそれでも理解できん。」

 

「僕も最初はどういうことなんだって困惑したよ。

でも、昔の君のお陰ですぐに諦めて理解することにした。」

 

「遠回しに私が好き勝手やっていたと責めるのはやめてくれないか。」

 

……いや待ってくれ、どういうことだってばよ。

分かるように説明しろ。

まるで意味がわからんぞ!

 

サーゼクスはもう諦めた顔してるし。

 

「……しかし、オーディンか。

アザゼルも来てるのだろう。」

 

「よく分かったね。アザゼルも手伝ってくれたよ。」

 

「そうか。」

 

「オーディンというと、北欧の主神であろう。

何故それほどの者が三勢力へ?」

 

「ああ、それは─「三勢力との会談が目的じゃよ。」……オーディン殿、もうよろしいのですか?」

 

声がした方へと俺達は振り向く。

 

存在感だけでも気圧されそうになる存在がそこにいた。

 

なるほど、伊達に主神を務めてないってことか。

老いてる見た目でこれほどまで圧倒されそうになるとは。

 

後、お付き…主神のお付きというとヴァルキリーって奴か?

美人の女性が隣で静かに立ってる。

彼女も主神のお付き故に実力はあるらしい。

 

「うむ、久し振りに動いたもんだから肩が凝るわ。」

 

「これはこれは、初めましてということになりますかな?北欧の主神、オーディン殿。

まさか、私のような若輩者に会いに来たのかと期待してしまいますが。」

 

「その喋りは煽っておるのか、素なのかはこの際問うまい。

何、魔王の小僧からお主の話は聞いていたのでな、一度会ってみたいと思っておった。

頭のキレる吸血鬼とな。

…ふぅむ、お主、中々に面白い。

どうじゃ?このまま北欧に来ぬか?」

 

「主神自らの勧誘とは、私も捨てた物ではないというもの。

しかし、申し訳無いがその誘いは断らせてもらおう。

確かに北欧は興味深いが、私の目的は果たせそうに無いのでね。」

 

「ほう、お主の目的とな。」

 

「何、気にするほどの事ではないかと。

北欧『には』関係はありません。」

 

俺は言外に伝えている。

この爺が知識に貪欲であり、俺の目的も知ろうとしているくらい、お見通しだ。

故に、俺は生意気にも伝えているのだ。

 

─手を出せば北欧にも容赦はしないと。

 

オーディンは顎に手を当て、考える素振りを見せる。

これには一連の会話を間近で聞いていたヴァルキリーは少しオロオロしている。

ちなみに教授はくつくつと笑ってる。

 

「……中々吠える若造じゃ。

アザゼルの小僧とは違い生意気ではあるがそこに芯がある。

よかろう、儂らはお主には一切関与せん。

しかし惜しいのぉ!

ようやくこのヴァルキリー…名はロスヴァイセというんじゃが、彼氏もできん残念娘でのぉ。こやつの婿候補が見付かるやもと思ったがどれも無理ときた。

試しにお主も誘ったがこの通りじゃ。

すまんの、ロスヴァイセ。お主は後5年以上は独身やも知れぬグホォ!?」

 

「こういう場でそのような話はやめてくださいオーディン様!」

 

ロスヴァイセと呼ばれたヴァルキリーは何処からか取り出したハリセンでオーディンをぶっ叩く。

あの、その人貴方のテラ上司……

上司にそんな真似すると左遷処かクビ……

 

う、うわぁぁぁぁぁ!!(思い出す過去)

 

「ほう、貴方が貰えばいいのでは?」

 

「儂好みではないのぉ。

お主はどうじゃ?見た目は上物じゃが。

一度しっかり鑑定してみてはどうじゃ。」

 

「ふむ……」

 

俺は悪ふざけの一環でロスヴァイセにわざと距離を縮めてじっくり観察する。

 

「ほう、中々にいい。」

 

「え、ほ、本当ですか!」

 

「ああ、だが断る。

私には必要の無いからね。」

 

「ぐぅっ!?ひ、酷い断られ方をされた……っ!」

 

「ちなみに言うが、私も断る。」

 

「ターゲットにしてない大男さんからも事前に断られた!」

 

「もうお主は駄目かもわからんの」

 

「まだ、まだチャンスはあります!ワンチャンあります!」

 

「ハハハ……。」

 

サーゼクス、これには笑うしかない。

俺とオーディンは悪ふざけが成功したので互いにやったぜとグーサイン。

 

「……して、何故北欧が三勢力と?」

 

「まあ、保険みたいなもんじゃ。

三勢力が現状世界の中では安定しとる。

ならば、早めに会っておいた方が得策と思った訳じゃ。」

 

「ふむ、それは北欧の神々で決めた事ということでよろしいだろうか?」

 

「いや、反対派も多くてな。北欧内で揉め事になる前にこちらから先に事を済ませれば大人しくなろうと思っておるが?」

 

「…それは少し困ったな。」

 

「君も理解したかねサーゼクス。」

 

険しい表情で俺に頷いて同意するサーゼクス。

 

うむ、それだと少しマズイ。

 

「今一度、じっくりと話し合うことを奨めよう。

このままでは反対派が強行に出る可能性が高い。」

 

「む、何故じゃ。」

 

「早めに手を打つというのは正解でもあり間違いでもあるということですオーディン殿。

反対派が自らの意見を聞かずに勝手に事を済ませてしまった貴方を理由に暴れる可能性があると私は危惧しています。」

 

「……むぅ、ちと早まり過ぎたということか。

こちらが済ませてしまえば黙るという考えは甘かった訳じゃな。

……うむ、今一度北欧の皆で話し合うとしよう。」

 

うむ、そうしてくれると俺もサーゼクス達も助かる。

オーディンに反対する神々は結構予想は付くし、ここはじっくりと話し合った末でこちらにまた来てほしい。

そういう考えな訳だ、俺とサーゼクスは。

 

ロスヴァイセが何か言ってくるのではと思ったが、こちらの方が正しいと思ったのか何も言ってこない。

黙ってるとめっちゃ美人なのにな。

先程の傷付きようでいじられキャラを確立できたよ、凄いね!

 

「王の独断で良い方向に働いた例はあまりない。

というか、一時そう働いても後に壮大な破滅が待っている。

故に、今回は未然に防げたと言えるだろう。」

 

「うむ、すまんの。」

 

「いや、こういったことは世界ではよくあること。

もう慣れたものだ。

……さて、私は少しリアス君の所へ赴くとしよう。」

 

「ああ、ありがとうズェピア。

リアス達の事、少し頼むよ。」

 

「うむ、任せてくれ。」

 

俺と教授はそう言ってサーゼクスとオーディン達と別れ、リアスちゃん達の所へと向かう。

 

 

 

「……しかし、お主もそのような道を進む必要もあるまいに。」

 

「どうかなさいましたか?」

 

「いんや、何も。

儂らもさっさと帰るべきかの。」

 

 

──────────────────────

 

 

やって来たはいいが、少しどんよりとしてるな。

兵藤一誠も疲れ気味というか、なんというか。

 

「やあ、リアス君。」

 

「ズェピアおじさま?それにネロさんまで……戻ってきていたんですね。」

 

「あら…お茶を出しますわ。」

 

「ありがとう。」

 

なんだか、無力感いっぱいって感じだな。

うーん……どうしたもんか。

一部は本当に疲れきっているのか寝てしまってるし。

 

あ、紅茶美味しい。

嘘、俺より上手い……

 

「冥界に戻ってきたのは、用事ですか?」

 

「ああ。…話はサーゼクスから聞いたよ。」

 

「そうですか………私は王として失格なのかもしれません。」

 

「ふむ、それは何故かね?」

 

「ディオドラ…禍の団の件で、王の筈なのに私はイッセーに頼ってばかりで、私が王でいいのかって……」

 

「…君は、眷属が嫌いかね?」

 

「そんな事ありません!イッセー達は私の大切な家族です!家族を嫌いになんて…」

 

物凄い勢いで否定してきて、内心引いたが、確認はとれた。

 

うんうん、何ともまあ、サーゼクスに似て情が深いというか、甘いというか。

 

「少し嫌な質問をしてしまったね、すまない。

だが、その気持ちがある限り、君は主人だ。」

 

「それは、どういう?」

 

「君は眷属を愛している。眷属も君を愛している。

だから眷属はこれ程傷ついても君の側を離れることはないと、考えたことはないかね?

君は自信を持ちなさい。

ソーナ君より優れた戦術論はないし、サーゼクスのように個人の力もないのかもしれないが、君には君にしかないモノがある。

他の者には持ち得ないものだ。」

 

「私にしか持ち得ない?」

 

「君の『愛』は、他人のものではないだろう?」

 

「……愛……」

 

俺の言ったことを確認するように一度自分でも言う。

誰でも持っている、持てる物だか、これがまた馬鹿にならない。

俺もそれで人に希望を持てたわけだし。

 

「君は、どのような出会いの形であれ今居る眷属を愛している。それが君の弱みであり強みともいえる。

君なりに今まで努力を続けてきたんだろう?」

 

「……はい…っ。」

 

「君なりに眷属の気持ちに応えてきたんだろう?」

 

「はい……!」

 

「それを自信に変えて、更に頑張りなさい。

君は、確かに眷属から王と見られているのだから。

君が愛を捨てない限り、君は王だ。」

 

「はいっ!ありがとうございます……!」

 

「そうですよリアス。

私達はいつだって貴女の側に。」

 

「僕達は貴女の剣であり盾なんですから。」

 

「ぼ、僕も頑張ります……!」

 

「今は疲労で倒れてるイッセー君達も同じ気持ちの筈ですわ。」

 

「貴方達……ありがとう、本当にありがとう……!」

 

先程まで静かに聞いていた眷属の皆も励ましてる。

 

あらら、泣いちゃったよ。

昔と変わらず、泣き虫だなぁ。

 

「……世話焼きだな?」

 

「さて、私は言いたいことだけを言っただけだよ。」

 

「ふっ、ならばそうしておこう。

……しかし、裏切るのは変わりないのだろう?」

 

「無論。私はその為に今を生きている。」

 

「ならば、何処まで世話を見るつもりだ。

今でさえ情を抱いているというのにこのまま面倒を見ていて後に支障はないのか?」

 

「無いとも。

別段、私が居なくとも結果は変わらない。

ただ、セッティングと役者が変わるだけで、彼等の成長はそう変わるまいよ。」

 

「……ならばいいが。」

 

教授はそのまま黙って紅茶を飲み始める。

俺は泣き止んだリアスちゃんに用事を伝える。

 

「すまない、リアス君。

一度一誠君を見させてほしいのだが。」

 

「イッセーを?今は寝ていますけど、それでいいのなら……。」

 

「ああ、構わないとも。」

 

「なら、イッセーが起きたら教えてくださいね。」

 

「任せたまえ。同胞よ、貴方はどうするかな?」

 

「私はしばらくここに居よう。

用事を済ませてくるがいい。」

 

「ふむ、ならば私一人か。ではね。」

 

俺は兵藤一誠の安静に寝ている部屋まで移動する。

用事があるのは、彼ではないが。

 

お、流石に近いか。

過保護だからな、なるべく側に置いておきたいか。

 

扉を開けると、やはりまだ起きていないようだ。

安心安心。

 

「……さて、久し振りに対話といこうか。」

 

俺は、寝ている彼にエーテライトを刺して、彼の深層意識……神器の中へと入り込む。

 

お前の今までも聞かないと俺的には未練なんでね──

 

 

 

 

 

 

 

『─いつか来るとは思ってはいたぞ。

お前が俺の心を聞きに。

こうして会話するのは久しいなズェピア。』

 

それは、赤。

赤い龍だった。

いつか見た、白い龍との戦いを思い出す。

まるで姿は変わっていない。

だが、声は以前会話した時のような狂暴で威圧するような声でなく、俺を歓迎するように穏やかな声だった。

 

変わるもんだな、龍も。

お前が変われたのには、あの子も要因なのか?

あの子の最期は、お前にどう映った?

利用しようとしたお前の瞳には、どんな彼女が見えたのか。

 

 

「─ああ、その通りだ。

私達がこうして話し合う機会を得れたのはこの少年のお陰だ。

…では、君の感想を聞くとしようか、ドライグ。」

 

そのために、俺はここに来た。

 

 




おでんとか、そういうのどうでもいいんで。

この物語では、北欧はもう出ないかもしれない。
なるべく現在の彼らだけで終わらせたいので。

そして、次回は遂にドライグとの対面です。
長谷川さん、職どころか種族変わってんじゃん。


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ドライグとフリージア

どうも、ロザミアです。

ようやくのドライグの心境を聴く回です。
今回は、ドライグ視点


 

「では、君の感想を聞くとしようか、ドライグ。」

 

そう言って、俺の目の前に居る吸血鬼は静かに佇む。

どうやって入ってきたのかは奴の家族を除いて俺がよく知ってる。

 

『……そうだな、俺のあの娘への心境、虚言なく聞かせるとしよう。』

 

昔、相棒がまだ生まれるより前に俺はとある少女の力となった。

助力とかの意味ではなく、俺の力が、あの少女の力になった。

 

そう、女は『赤龍帝(誰よりも優しい女)』であった。

しかし、俺を宿しながら、俺の力を使わぬと。

闘いに生きるのは御免だと。

 

そう言って、日常を生きると決めた。

 

 

 

 

 

 

俺はある時、闘う事を放棄したこの女…フリージアに憤りを感じた。

 

ドラゴンは、力を見せつける存在であり、力無きものは龍とすら呼ばれない。

何より、白いのとの決着もつけようとしないなど、俺には考えられなかった。

 

そう言った自分勝手の感情に支配されていた俺はフリージアを自らの意思で戦わないならば、その意思を殺し、俺自らがその体で戦うと彼女の意思を飲み込んだ。

 

しかし、結果は惨敗。

しかも白いのに負けたのではなくフリージアの保護者のズェピアという吸血鬼に負けた。

おまけにフリージアが死ぬまで俺は表に出ることは出来なかった。

 

戦いを縛られ、傍観しか出来ない当時の俺は平穏なだけの生温い日常を延々と見ているだけだった。

 

フリージアがミスをする時は誰にも聞かれないのを良いことに大笑いしたし、ズェピアが家族と過ごすのを見て何がいいのか理解はできなかった。

 

更に言えば、何故最強の一角たる無限の龍神 オーフィスがこの吸血鬼の家族となって、仲良く団欒しているのかも分からなかった。

 

オーフィスとグレートレッドは俺達ドラゴンにとって畏怖する存在であり、越えたいと尊敬を抱く程の龍だった。

力こそが全ての龍社会で、この二体は別格だった。

 

その筈の一体が何故?

 

分からない、何故この龍神が吸血鬼に恋心すら抱いているのか。

 

……まあ、それはいい。

 

俺は彼等の日常を見ていく中で、何かが芽生え始めていた。

 

そして、ある時、いつものようにフリージア達の会話を聞いていた時だ。

 

「ねぇ、ズェピア。」

 

「何かな?」

 

「ドラゴンって何で戦いたがるの?」

 

「……ふむ。」

 

いつも通り、彼女が質問して、彼が答える時間。

ネロ・カオスという男が来てからはこの時間も増えた。

オーフィスの相手はよく彼がしてるからだ。

 

「ドラゴン、といってもオーフィスのように戦いに無関心なのもいる。

だが、そうだね、ほとんどのドラゴンは戦いを好むといってもいい。」

 

「うん、ドライグも戦いたがってたしね。」

 

「その結果君は操られていた訳だが。

まあいい。

何故戦いたがるのかという疑問については、こう答えるしかない。

それが龍の世界だと。」

 

「……龍の、世界。」

 

「うむ、基本的に、龍達の世界は弱肉強食。

強き者が生きて、弱き者が死ぬ世界だ。

強大な存在でも、全てと争わないなど不可能である以上、仕方の無い摂理だ。」

 

「戦って勝つことで、自分は生きて、周りにあいつは強いって思わせるって事?力を見せ付ければ大半は寄ってこないから?」

 

「その通り。

だからこそ、アルビオンとドライグの戦いはその弱肉強食に従った戦いというのもあるだろうし、単なる喧嘩というのもあるだろう。」

 

「……でも、二体は龍の中でも強すぎた。」

 

「強すぎる力は破滅を招く。

それが個人ならば尚更の事だ。

故に、彼らは聖書の神に封じられ、君の持つ『赤龍帝の籠手』のような神器となった。」

 

「……そう聞くと、何だか、可哀想。」

 

『……可哀想……だと……?』

 

俺は、迷惑だとか、ふざけるなだとか、そういった罵倒を言われるモノだと思っていた。

当然だろう、俺とて操られれば腸が煮え繰り返る程に腹立たしい筈だ。

それを基本的に俺よりも弱い存在である人間が思わない筈がない。

 

人外の世界で、人間はあまりにも弱い。

 

だというのに、俺を宿すこの女は怒りや恨みよりも先に出たのは哀れみだった。

 

「ほう?何故可哀想と?

君はあの龍に操られたというのに。

怒りは感じないのかね?」

 

「ううん、勿論、何で私が~とかふざけんな~とかはあるよ。

でも、それはドライグ達も同じなんじゃないかなって。

だって、ドライグ達からしたら、いつも通りの生活をしていたら、他人に邪魔された挙げ句いつものように満足に戦えもしない、ご飯も食べれないようになってしまったんだから。

…それは、可哀想だと思うよ。」

 

俺の事を、可哀想だと。

俺のこの感情を、自分の持つ感情と同じなのではと。

 

同じにするなと悪態をつく筈なのに、その時の俺は何故か。

 

『…人間は、分からん。』

 

悪態をつこうとも思えなかったのだ。

俺は、俺を哀れんでいながらも俺に怒りを持っている存在が、分からなかった。

 

「ハハハハ!そうかそうか。

君は、本当に心優しい人間だ。

…ドライグを、籠手から出してあげたいと思っているのかね?」

 

「それはない!

出たら今度は何されるか分からないし……

もしかしたら、食べられるかも知れないじゃん!」

 

『誰がお前のような人間を食うか。

……お前なんぞを食ったら──』

 

変な心配をして、それこそ本気で俺を拒絶していないこの女に俺は──

 

 

『─食ってしまえば、知れなくなるだろう。』

 

─確かに、謝罪と感謝をこの女に向けていたのだ。

 

すまなかったと、そして俺をそこまで真剣に哀れんでくれてありがとうと。

 

強い、怖いと恐れられてきた俺には、その哀れみは、暖かなモノだった。

心優しいからこそ、そう思えたのだろうから。

きっと、これから続く代では思いもしないと確信できるからこそ。

 

俺は、この女の最期までの人生を人知れず見ていこうと決意したのだ。

 

 

─────────────────────

 

 

それから、ずっと見てきた。

俺自身でも驚く程に穏やかな気分で見れたと思う。

 

だが、悪魔共がフリージアを襲った時はどうしてこの場に自分が出れないのかと憤りすら感じた。

そして、吸血鬼が助けたときは安堵した。

 

それほどまでにフリージアという存在に感情移入していたのだ、俺は。

 

そして、魂と繋がっている俺は恐らく吸血鬼よりも先に気付いた。

 

もう長くないのだと。

その時は、何だろうか。

俺でも分からない感情が渦巻いていた。

 

…悲しみ、なのかもしれない。

 

勝手に心を許して、勝手に人生を見守った振りをしてきて、勝手にこうして悲しんで。

これがきっと俺の罰なのだろう。

思えば、こうして声を届ける事が出来ず見ることしか出来ない事が最初から吸血鬼が俺に課した罰だったのだ。

 

最期の死に際に一言すら掛けてやれない。

最期の瞬間を、近くで(遠くで)見ることしか出来ない。

 

苦しかった。

龍たる俺が、人間にここまでの感情を抱くなど無かったからこそ、更に苦しかった。

 

初めての理解者だった女は、もう会うこともない。

怨念としてこの神器に残る事すらあり得ない。

幸福だったと感じていたのを知っているから。

誰よりも一生懸命に生きてきたと自信を持ってるとよく分かっているから。

故に、彼女はここには来ない。

 

もう、見守ることもないのだ。

 

俺は人知れず、神器の中で生まれて初めて涙を流した。

 

そして、更に決意した。

 

俺は、俺を宿してしまった者に、全てを委ねようと。

彼女を見守るしか出来なかった分、これからの者を助けてやろうと。

 

 

そうして俺は、彼女から離れていったのだ。

 

 

──────────────────────

 

 

『……お前は、俺をまだ恨んでいるか?』

 

「いいや。恨みなど、持ってはいない。」

 

『何故だ、お前は俺を恨む権利があるだろう。』

 

「……確かに、君が私の娘に手を出したのは許しがたい事だ。

だがね、私は君を恨みはしない。

恨めないのだよ。」

 

『恨めない、だと?』

 

そう言うズェピアは穏やかだった。

俺を恨むことはあり得ないと言っている。

それこそあり得ないだろう。

恨んでいたからこそ、こいつは俺を封じたのだから。

 

「これは彼女風に言ってしまえばロマンがあるというヤツなのだろうが……。

 

君が居なければ、私があの子と出会う事はあり得なかった。

これは、神ではなく、君が繋いだ縁なのだと、今なら確信して言える。」

 

『……お前は、賢そうに見えて馬鹿なのだな。』

 

「そうかもしれないな。

何せ娘のためならば何でもしようと思えてしまうほどだ。馬鹿なのだろう。

しかし、どうしようもないほどに誇らしい。

君だって、そうではないのか?

君は、見てきたのだろう。

彼女の道程を、そして、その最期を。」

 

『……ああ、あの娘は歴代最弱だ。

そして、歴代で最も心優しかった。

俺は、あの娘よりも綺麗な存在は知らん。

故に、あの娘を、フリージアを見守れた俺は誇らしい。

その最期を、見れたのだから。

最期まで純粋で、優しさを捨てなかった者を見て、どうして恨めようか。』

 

「…うむ、君の感想を聞けて安心した。

私は、去るとしよう。」

 

満足したような顔でズェピアは用事は済んだとこの空間から去ろうとする。

 

『もう行くのか。』

 

「いつまでもここに居たら、どうなるか分からないからね。

……そうだ、別に私の事を君から話してもいい。

変な罪の意識を持つ必要はもうあるまい。」

 

『……一つ聞かせろ。

お前は、何をしようとしている?』

 

俺は、一つ気掛かりだった。

相棒達が気付かないだけで、ズェピアは学園にも教師という形で居た。

それに、堕天使の件も、突如として存在を示し始めた。

 

ここ数十年以上、何も音沙汰も無かったというのに。

 

俺には、嵐の前の静けさのように、ズェピアが何かするのではという不安に近いモノを感じていた。

 

ズェピアは背を見せたまま立ち止まる。

 

「…何をしようとしている、か。

そうだな、いいだろう。

君には答えるとしよう。

それを今の相棒君に伝えるもよし、黙りを決め込むのもよしだ。」

 

『……。』

 

「私は──。」

 

その時、振り向いたズェピアは──

 

 

「──────。」

 

 

 

─見たことも無いほど歪んだ笑みを浮かべていた。

 

そして、答えた直後にこの空間から消えた。

 

「……お前は、何故そのような…?」

 

俺には、疑問だけが残った。

 

 




ドライグはこれからどうするのか。
それはもう少し先の出来事。

次回は続きではなく番外編を予定しています


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京都にて

どうも、ロザミアです。

今回は短めとなっております。

では、どうぞ。


さて、ようやく終わった。

時間はロスしたも同然だが、それは構わない。

もうすぐピースは揃う。

本当はやりたくもない計算を使う日になるとは思わなかったが、これで次の段階まで安全且つ大胆に始められる。

 

ズェピア・エルトナムに出来て、その体を持つ俺に出来ないわけがない。

そうやって俺は今までの生を紡いできた。

 

世界すら驚かせて見せよう。

 

それまで、君の出番を譲るよ。

 

兵藤一誠。

いや、主人公。

 

 

─────────────────────

 

 

「ぅん……?ここは……?」

 

「起きたかね、イッセー君。」

 

「へっ、ズェピアさん!?」

 

驚かせてしまったか。

まあ、起きたと思ったら目の前に俺がいるんだから仕方無い。

リアスちゃんとかならあまり驚きはしなかったんだろうが。

 

「君は、強いのだね。」

 

「へ……?つ、強いって、ズェピアさんの方が強いじゃないですか。」

 

「違う、そうではない。

君が、君である事が強いと言っているのだよ。

君という個が、悪魔という群れよりも輝きを放っている。

それが君自身の強さゆえか、それとも……」

 

「……?」

 

「…いや、何でもない。

さて、私は帰ろうかな。

リアス君にも起きたと伝えておこう。」

 

そう言って俺は病室を後にしようとする。

 

「待ってください!」

 

「何かな、監督による質問は上映が終わってからだが、特別に許可しよう。」

 

「……俺に、赤龍帝にそこまで接するのはもしかして貴方の「違う。」じゃ、じゃあ何で?」

 

この少年…いや、こいつ、何をいっている。

俺が、こいつを?

 

……まさか、あり得んな。

俺は過去の憂いを断った側だ。

今更、そんな事はあり得ない。

 

「アンサーの前に確認を。その問いが出たのは家族として赤龍帝が居たから、かね?」

 

「…はい。」

 

「ならば、不正解。

私はあの子を赤龍帝というそのような可哀想な者と見たことはない。

私にとって、あの子は娘だった。

……そう、親よりも先に消えてしまう人間だった。」

 

「でも、魔王様と友人なら、悪魔の駒位─「その場で壊した。」なっ……!」

 

「リアス君から聞かなかったかね?

私は、あのような道具は反対だった。

あのままではいつか必ず批判の波紋は広がり、冥界は崩れる。

それは友として、一人の住民としてあってほしくはない未来だ。

故に反対した。

だが、結果として、君のように人が、或いは他種族が悪魔へと変わっている世界。

……サーゼクスは、いつか悪魔の駒を無くすだろう。」

 

「そしたら、今の眷属悪魔達は!」

 

「それは安心したまえ、全員の駒を抜くなどという事はしない。

…さて、話が変わってしまったが、私の答えだったね。

簡単だとも─

 

 

─君が、中心部だからだよ、兵藤一誠。」

 

「俺が、中心部……?」

 

兵藤一誠、お前は主人公だ。

龍のオーラ、それもある。

だが、それは『世界』の建前だった。

 

お前が主人公である限り、世界はお前を中心として回る。

当たり前だ、そうでなければ物語は成立しない。

メイン無くして物語などあり得ない。

 

だからこそ、俺はお前を利用する。

主人公であるお前のこの世界に、俺という個を組み込むことにより、物語を分岐させる。

 

……というのは、もう既に終わっている。

よって、俺がこいつと関わるのは、ただの確認だけとなった。

どれ程にまで成長したのか。

それさえ分かればいい。

 

……どのみち、後はやることを済ますだけだ。

 

「回答は出した。

後は知らないよ。

私も少し忙しいものでね、また会おう。」

 

「え、あ、はい……。」

 

俺は、病室を出て、リアスのいる部屋へ向かった。

 

 

 

 

 

 

「イッセーが目を覚ました!?」

 

「うむ、行ってあげるといい。」

 

「はい!知らせてくださり、ありがとうございます。

行くわよ、皆!」

 

リアスは嬉しそうに眷属達と共に出ていく。

一人を除いて。

 

「……。」

 

「……君は行かなくていいのかね。

元教会の戦士。」

 

名前は、確かゼノヴィアだったか?

ゼノヴィアは俺を真っ直ぐに見ながら

 

「いや、行く。……だが、それよりも確認したいことがある。」

 

「ふむ、私にかね。」

 

「ああ。……何か企んでないか?」

 

「ふむ?私が企んでいる、とは?」

 

「……ディオドラの件は知ってるだろうか?」

 

「うむ、知っている。」

 

「そのせいで、少し疑心暗鬼でな。

下衆の類いであったが、テロ組織と繋がっているとは思ってなかった。

だから、貴方もその可能性があるのではと…勘繰ってしまった。」

 

いやぁ、鋭い。

戦士の勘か?

確かに、繋がっているとも言えるか。

 

「なるほど。

だが、私がテロ組織…『禍の団』と繋がっているのなら、障害となる君たちを仕留めて魔王に首でも渡していよう。違うかね?」

 

「……それもそうか。

疑ってしまいすまない。」

 

「いや、構わんとも。

私が怪しいというのもまた事実。

仕方のないことだ。

……さあ、行きたまえ。君だけがあの場にいないのはそれこそ違うだろう。」

 

「…そうだな。」

 

ゼノヴィアはそう言って部屋を出る。

……さてと。

 

静かに座って茶を飲んでいた教授が話し掛けてくる。

 

「終わったか、ズェピア。

問答はどうだった。」

 

「ここまで変わるとは正直予想外だった。

だが、これもまたあの子という人間が成し遂げた事であるのは誇らしい。」

 

「そうか。

それで?次は何処へ行く?」

 

「次の場所は決めている。」

 

「ほう?」

 

「観光といこう、京都にね。」

 

そこで、ようやく事に当たれる。

 

さて、見せてくれよ、英雄の成り損ない共。

せめてその姿に英雄の魂を感じさせてくれ。

じゃなきゃ、奪っちまうぞ。

 

 

 

──────────────────────

 

 

 

はい、やって参りました、皆一度は行ってみたいかもしれない京都にね。

え?行きたくねぇ?そうですか……。

まあ、何しに来たかはまだ教えられないっていうかもう分かってる人も居るだろ。

 

いやぁ、困っちゃうね。

劇団の人かな、とかスゲェコスプレだな、とか周りの人に言われる我々。

すいません、これワラキー本来の服装なんすよ。

 

参っちゃうね。

こんなに言われちゃうと、気にしちゃうぜ。

 

「おい、ズェピア。」

 

「何かね?」

 

「貴様、何故団子を食っている。

優先すべき事では無かったのか?」

 

「まだ時間はある。

それまで満喫しようというスタイルだが、理解できないかね?」

 

「いいや、理解できるとも。

だが、何故団子なのだ。そこは餅だろう。」

 

「……君、餅派か。」

 

「貴様は団子派か。」

 

「……いや、やめよう。不毛な争いだ。

我々の真の目的は別にある。」

 

「それもそうだな。」

 

「ん、ちなみに我はどっちもいける。」

 

「そうか、それは平和だな。」

 

「好き嫌いが激しくないのはいいことだ……」

 

『……!?』

 

「?」

 

俺と教授は、突如現れた娘を凝視する。

いつからそこにいたんだ。

いや、それより……どうして、ここに来た?

 

「お、オーフィス……何故君が?」

 

「……英雄派が、動いたから、監視。

後、我への対抗策への探り。

ズェピア達は、知らない?」

 

「貴様への対抗策?

無限である以上、死を超越しているも同然だと言うのにか?」

 

……オーフィスへの対抗策…無限の龍神を打倒しうる策?そんなものがあるとは到底──

 

 

─まさか。

 

「──『サマエル』か。」

 

「『サマエル』だと?龍を殺すためだけのような存在のアレか。

まさか、存在していたとでも言うのか。」

 

「……『サマエル』。

『究極の龍殺し』。アレなら、我も怖い。」

 

「……ふむ、どうやってそれを持ってくるかは知らないが……許しがたい。

私の家族に、毒を与えようなどとは愚かな。」

 

怒りが沸き上がる。

未来の内容の多くは知れない故に、危うく娘を失いかけるところだった。

英雄の魂を継ぐだのと大口を叩くのはいいが、さて、俺のような化け物にどう勝つのか。

 

さて、と。

 

多分、これは原作で言う彼が解決すべき事なのかも知れないが、悪いな兵藤一誠。

原作は既に破綻させちゃってるんだなぁこれが。

 

だから、俺が家族のためにちょっと怒って君の解決場面を根こそぎ奪っても、問題ないですね。

未来なんて知り得ないんだし。

 

「ああ、そうだ。オーフィス、頼みがあるのだが。」

 

「何でも言って。」

 

ん?今なんでもって…じゃねぇ。

おいやめろ、その妙に期待した目をやめなさい。

お父さんそんな風に育てた覚えはない。

 

「君の蛇を貸してほしい。」

 

「蛇を?」

 

「ああ、少し細工をするのに必要でね。

旧魔王にまた貸したんだろう?」

 

「ん、当たり。

また吸収した。」

 

「それは何より。

……では、まずは妄想思考の激しい阿呆共の元へと向かうとしよう。」

 

旧魔王の次は、英雄志望かぁ。

楽しめるといいけど。

 

 




早く、投稿しなきゃ(使命感

皆待ち望んでいた英雄派(笑)を書かなきゃ!
……キャラ設定覚えてねぇや


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英雄ってあれだよね、面倒だよね。

どうも、ロザミアです。

今回は英雄派と戦……いません。
まだちょっとあるんじゃ。



英雄派、中々に優れた戦闘力を有する集団であり、一人一人が英雄の生まれ変わりとリーダーである曹操は自信満々に語っていた。

 

我は、だからどうしたと鼻で笑おうかと思ったが、馬鹿にした結果数人が激昂して襲い掛かってくるのは目に見えていたので面倒なのでやめた。

 

というより、どうしてリーダーが曹操なのか。

 

ヘラクレス、ジャンヌ・ダルク、ゲオルグ、ジークフリート等の面子で曹操では微妙なネームだ。

 

曹操という英雄を馬鹿にしてるのではない。

曹操は確かに英雄として語られるべき存在の一人だ。

 

だが、何だか見劣りするというか…ヘラクレスという名前が大きすぎる。

今その名前を継いでいる男は馬鹿の一言に尽きるが。

 

そんな連中が京都で何か事を起こすと聞き、結果だけでも見ようかなという建前と我を倒せる可能性を持つものを所持していると言うので、その真偽を確かめるべく来たというのが本心だ。

 

そんな中、ズェピアとカオスに会った。

偶然にしては出来すぎているので、恐らく何らかの方法で知ったというのが当たりか。

 

しかし、ズェピアの顔…いや、雰囲気が少し焦っているように感じる。

何というか、何かを保とうとしているような。

 

「……ズェピア。」

 

「何かね?」

 

「何か、あった?」

 

「何も。突然そう聞いてくるとは、どうしたのかな。」

 

「……何でもない。

ただ、無理はしないで。

ズェピアが頼むことなら、何でもやるから。」

 

「娘にそう言われては、無理はできないな。」

 

「…それより、オーフィス。

英雄派は何故京都に来たのだ。

ここに妖怪等の古来より日本で生きてきた人外の集まりではあるが……」

 

カオスが、そう聞いてくる。

実は我も、詳しくは分かってはいない。

妖怪を倒しても何の意味もないし、日本勢力に戦いを挑むという事はしないだろうし。

 

「……我も分からない。

でも、英雄派が京都に来るという事は、ここに何かあるってこと。」

 

「それは確実、か。

……私の予想ではあるが、英雄派が『絶霧』を持っているんだろう?」

 

「ん、当たり。」

 

「やはりか。そうなると……面倒だ。」

 

『絶霧』。

神滅具の一つであり、結界系の神器。

霧で包んだ対象を防御、または転移させることが可能であり、使い手次第で国一つの人全てを異空間に閉じ込めるなんて事も出来る厄介極まりない神器。

 

面倒だというのには我とカオスも同意する。

 

「ズェピア、『絶霧』欲しい?」

 

「む?アレをかね?…………いや、どうだろうか…。」

 

「……そう。我、どうあれやる気出す。」

 

「ほう、貴様がそうするのなら、私もそうするか…。」

 

ズェピアが欲しいなら、それが出来る段階まで少し力を出してもいいかもしれない。

 

カオスもいるし、何より我の隣にはズェピアがいる。

失敗する道理はない。

 

意気込む我達にズェピアは苦笑する。

何だか懐かしむように。

 

「ありがとう。では、そろそろ行動に移すとしよう。

どのような劇になるかは不明ではあるが、まあ旧魔王よりかは楽しい舞台にはなるだろう。」

 

そう言って、ズェピアと我達は転移する。

 

……結局、ズェピアは我に言ってはくれない。

フリージアと我の違いは、何なんだろうか。

 

 

 

─────────────────────

 

 

 

さて、会話しながら特定した場所へと転移したが、ビンゴかな?

何やら奇妙な感じだ。

 

ていうより……

 

 

「─まさか、来るのがそちらとは。

やはりやってみるものだな。」

 

「ふむ、私は予想外のキャストだったかな?」

 

「全くもってその通りだ、ズェピア・エルトナム。

そして、オーフィスと不可思議な男。」

 

話し掛けてきたのは、20に届かない程度の、制服の上に漢服を纏った出で立ちの男。

 

恐らくは、こいつがリーダーか。

周りにも人間はいるが、いやはや、警戒心たっぷりなご様子。

 

「まさか、オーフィスが貴方と繋がっていたとは驚きだ。」

 

「我、最初からズェピアと家族。」

 

「それは見抜けなかった俺達の未熟ってことか……

自己紹介が遅れたな、俺は曹操。

そして、周りにいるのは英雄派の幹部、ジャンヌ、ジークフリート、ヘラクレス、ゲオルグだ。」

 

「全員が英雄の名を継ぐ者達かね。

なるほど、英雄派、という名前は伊達ではない。」

 

ゲオルグって英雄でいいのかな?

俺はあまり知らないけど。

 

そも、こいつら英雄派って言っても名前だけだしなぁ……

 

「君達のここに来た目的は何かな。」

 

「……まあ、言っても言わなくても差違は無いか。

俺達は、英雄になりたいんだ。

だからこそ、俺達は人外を倒し、高みを目指さなくてはならない。

それこそが英雄になる条件の一つだ。」

 

「……ふむ。その為にサマエルも?」

 

「そこまで知り得ているとは。

そうだ、どうやったかは言えないが、龍殺しとしては、あれに勝るものはない。」

 

…そのサマエルは、隠してるようだ。

 

にしても、英雄に成りたいねぇ。

 

正直、馬鹿馬鹿しい。

英雄ってのは人外倒せばいいってもんじゃないだろうに。

曹操とジャンヌに至っては人と人の戦いで活躍した奴だし。

 

ヘラクレスとジークフリートもただ人外を倒したわけではないし。

 

ゲオルグは知らん。

 

「…では、君の言葉通りなら私を倒せば君達は英雄になるのかな?」

 

「そうだ、貴方は超越者に近い存在だ。

それを倒せば俺達は英雄として一層名をあげる。」

 

「それは誰に対しての英雄かな。」

 

「……誰に対してだと?」

 

「確かに、人外を殺し英雄になった者はいる。

だが、それも多くの過程あればこそ。

そして何よりも、多くの者に英雄と讃えられなければそれは成り上がり志願者にしかなるまいよ。

……君は、君達は私を倒しただけで、誰に讃えられるのか?」

 

俺の質問に、曹操は詰まる。

まるで、予想外の回答が来たときの顔だ。

分類的には驚愕。

 

答えを待っていると、控えていた筋肉ムキムキマッチョマンの変態…ではなく、大男が前に出る。

 

「おい、言葉で惑わそうったってそうはいかねぇ!

リーダー、聞く必要なんかねぇぜ。

こいつをぶちのめせば俺達は英雄としての第一歩を踏める!

まずはこのヘラクレスが相手してやるぜぇ!」

 

意気揚々と馬鹿らしい言葉を並べ、俺へと突っ込んでくるヘラクレスを名乗る男。

……こんなのが?

ギリシャの大英雄の子孫?

 

…そもそも、ヘラクレスに子供は居たか?

ギリシャ神話も詳しくはない。

でもなんか、子供殺したんじゃなかったっけ?

 

まあ、いいか。

曹操の方を見ると、仲間の言葉で我に返りヘラクレスの戦いを見ている。

……所詮こんなもんだよな。

 

オーフィスと教授が出ようとするのを腕で制してから俺が前に出る。

 

「ヘラクレス、か。

かの大英雄の名を継ぐのなら、それ相応の実力はあるのだろうな。

それに、先程不愉快な言葉を聞いた。

……私が、第一歩?」

 

「ああそうだ、アンタを踏み台にして俺達は更に強くなる!」

 

…黙って聞いてりゃ調子に乗りやがってこのデカブツが。

 

殴りかかるヘラクレスの後ろに七夜志貴を出してナイフで背を切るように命じる。

 

「ヘラクレス、後ろだ!」

 

「っ、なんだこいつ!」

 

もう一人の男…多分、ジークフリートの言葉でいち早く気付けたヘラクレスは七夜のナイフが当たる瞬間、爆発を起こす事で事なきを得る。

 

ああ……七夜君、消えちゃった……

そして、俺の中の怒りは一気に冷めてしまった。

 

まあでも、程度は知れた。

忠告しておこう。

 

「神器か…?」

 

「…爆発する神器か。

私の敵に成り得ないな。」

 

「何だと……?」

 

「私を倒したいのならばもう一芸位は欲しいものだよ。

先程の奇襲に自ら気付けない君では私の相手は務まらない。」

 

「テメェ、俺を馬鹿にしてるってのか!?」

 

「正当な判断だよ。

君だけではなく、君達が束になっても私に勝てはしない。

私は、君達には殺されない。」

 

「……!」

 

「何が正当な判断だ、俺がそんなもの覆して「ヘラクレス、やめろ。」リーダー!?何で止めるんだよ!」

 

周りの者も曹操が止めたことに不満そうであったが、曹操が前に出た事により、ソレは消えた。

 

「……俺がやる。」

 

先程まで黙っていた曹操が槍を出し、俺と対峙する。

……あの、槍は。

 

神滅具……それも最強の神滅具である『黄昏の聖槍』か。

 

「ほう、君一人でかね?」

 

「ああ。…それと、答えを知りたい。」

 

「答え?」

 

「俺の心の中の英雄の成り方はこうなんだと、ずっと思っていた。

俺は、一人で決めつけていた。

けれど、違うのかもしれないと思う俺がいる。

……俺の心に、答えが欲しい。

だから戦ってくれ。」

 

「……。」

 

「ズェピア、付き合う必要ない。

さっさと終わりにする。」

 

「……すまない、オーフィス。

私も、馬鹿なようだ。

こう誘われると断れない質のようだ。」

 

「……むぅ。」

 

いじけてしまった。

後で何か奢ろう。

 

静かに俺達のやり取りをオーフィスと見ていた教授がオーフィスの頭を撫でた後に俺に聞く。

 

「…ズェピア、何故そのような事に付き合う?」

 

「彼が人間だからだよ。」

 

「……人か。」

 

人間。

そう、人間だ。

かつて俺もそうだった種族。

あの子も、人間だった。

 

そして、目の前のやつらもまた人間だ。

 

その中で、今の曹操の目はいい。

悩みを抱えながらも戦う意思を捨てはしない。

それを拒むのは、俺にはとても無理だ。

大分こちらの世界に毒されてきたな、俺。

 

「…貴様の好きにするといい。」

 

「やる気を出してくれたというのに、二人ともすまない。」

 

「「高いヤツ奢りで許す。」」

 

「いやぁ容赦ないなぁ!」

 

つっら……つっら……。

こいつら、絶対に俺を高いレストランにぶちこむぞ……未来が、見える……!

 

「……戦ってくれるようで感謝する。それと、御愁傷様。」

 

「やめろ、敵に言われるのが一番辛い台詞を監督たる私にぶつけるな。

……さて、気を取り直して始めよう。」

 

「どうあっても財布は飛ぶようだが。」

 

「君はあれかね?煽りで私を殺そうというのかね?

財布は飛ぶが君に首を飛ばされる事はあり得ないぞ。」

 

「俺は、相手が超越者に近い者であり、今後の食事がカップ麺になるであろう吸血鬼にこれより挑む!」

 

「ネタに走るなぁぁぁぁぁぁ!!」

 

こいつ、絶対にぶちのめす。

ていうか、先程までの少し暗い顔はどこ行きやがった英雄もどき!




シリアスに成りきれないのは確実にこの家族が悪い。

それと、曹操も目の前のやり取りを見て俺も深く考えなくてもいいのではとなったからああなった。
尚仲間は白目である。

え?他の英雄派喋ってないって?
……次回待ってね。


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英雄志願者の答え

どうも、ロザミアです。

感想が曹操の吹っ切れに関することが多くて草生えました。

では、どうぞ。


ガキン、と金属がぶつかるような音が辺りに響く。

 

漢服を着た男、曹操は今までの戦いで一番昂った気分だった。

 

目の前の聖槍をマントを硬化でもさせているのかそれで弾き、黒い人を出し四方から攻撃を仕掛けてくる。

 

加減をしていると曹操は分かりきっていた。

だが不思議と嫌な気分にはならなかった。

 

「死角からの攻撃にまだ反応しきれていないな。

君的に丸太でも使って修行してみるといい。」

 

「っ、余裕そうだな!」

 

「余裕だとも。

私を誰だと思っているのかな?」

 

「それも、そうか!

ところで、どうして俺に指導するような真似をする?」

 

分からなかった。

戦いを始めてからずっと何か至らぬ点があれば指摘して改善案を出してくる目の前の吸血鬼が分からなかった。

いや、これは戦いと言えるのだろうか。

 

質問に答えるべく吸血鬼は一旦攻撃をやめる。

 

曹操も聖槍を構え直して息を整える。

 

「君が前に進もうとしている人間だからだよ、曹操。

私はそのような人間が好きでね。

停滞をするのはいつでも出来る。

前進することは停滞するよりもずっと困難だ。

だが、現に君は新たな答えを得ようと前進している。

故に、私はこうして教えている。」

 

「……人が好きなんだな、貴方は。」

 

「大好きだとも。

脆く、儚く、愚かで──

 

─故に、美しい。

人は今も前へと進んでいる。

停滞を選んだ人外と違い、我らよりも圧倒的に短い命の灯火を、終わる最後まで灯し続ける姿のなんと美しき事か。」

 

純粋に人を愛している。

この男が何故全面的に三勢力に組していないのかがほんの少しだけ分かった気がする。

 

「人と、生きたことがあるのか。」

 

「…それは君の答えと関係があるのかね?」

 

「分からない。けれど、知りたいんだ。」

 

「ハハハ、知りたいのならば教えるしかないな。

そうとも、その人間の終わりまで、共に生きてきた。

その生き様を見てきた。

その最期を見てきた。

とても、とても充実していた。

……私が、私で居れたのだよ、あの子との生活は。

いや、あの生活で私を確立できた、が正しいか。」

 

「……そうか。」

 

この吸血鬼と暮らしたなんてどんな人間なのかとても気になるところではあるが、そこまで聞くのは野暮だと曹操は判断した。

 

「…突然の質問すまない。

再開しよう。」

 

「おや、質問は以上かね?

よろしい。では、そうしよう。」

 

そうして、終わらせる気があるのかと問いたくなるような撃ち合いを再開する二人を、曹操の仲間である英雄派幹部達はただ見ていた。

 

「楽しそうね、あの二人。」

 

「そうだね、何だかマイナスの感情を感じない位には楽しそうだ。

曹操の財布ネタにキレていたとは思えないな。」

 

「やめないか!!」

 

あの財布事情への煽りが壺にはまったのか笑いを堪えるジークフリートにゲオルグは叱責する。

……いや、ゲオルグも堪えているのは誰が見ても明らかだった。

ジャンヌはそれを見て呆れ、視線を撃ち合っている二人に戻す。

 

ヘラクレスはジャンヌと同じく二人を見ながら疑問を仲間へと投げ掛ける。

 

「なあ、変な質問かもだけどよ。

俺達が今まで通りの方針で人外共を倒して、それでいいのか?」

 

「それはどういうことよ?」

 

「いやよぉ、俺達が仮にあの吸血鬼みたいな大物を倒せても、誰が称賛してくれんのかって、思ってな。」

 

「…誰かに讃えられてこそ、英雄か。

俺達は大きな間違いを起こしそうになったのか……。」

 

幹部全員は暗い顔になる。

当然だ、正解だと思っていたのが大きな間違いで、それが英雄ではなく外道に成り下がる可能性があったのだから。

 

「ぐぁっ!」

 

「終わりかね?」

 

「ぐっ……く、まだだ!」

 

腹に蹴りを入れられ吹き飛ばされても尚立ち上がる曹操に、ズェピアは歓喜していた。

 

これだ。これこそが人だと。

強大なモノを前にして尚挑み続ける。

それはずっと昔から続いてきた人間の軌跡。

 

段々と腐っていくだけの人外にはないもの。

 

「…何故禁手をしないのか、聞いても?」

 

その当然の質問に、曹操は聖槍(頑丈な槍)を強く握る。

 

「今、それをしたら、俺は駄目なんだ。

ただの槍同然のコレでなきゃ、答えが見つからない!

ただ強いだけの力に頼っても、溺れるだけだと、今分かった!」

 

「……ふむ、なんだ、理解しているではないか。」

 

「何……?」

 

「力に溺れて生きるのは簡単だ。

何せ、それは逃げなのだから。

だが、君は今抗った。

ただの強い力から何か意味を持ち得る力へと変わる可能性へと繋げた。

その抗う心さえあれば、君は、君達は間違いはしない。」

 

「抗う、心……。

だ、だが、俺にはまだ答えが出ない。」

 

戸惑うような顔で、そう言う曹操にズェピアは優しい笑みを浮かべる。

 

「答えなどそうすぐに出るものではない。

その答えは君の生き様によって出るモノだ。

人は、我々とは違い酷く短い限りある命だ。

故にこそ、人は抗い、微かな幸福を口授し、次へ繋げていく。

間違いもあれば、正解もある。

君の生き様も同様だ、曹操。」

 

「俺の……生き様……。

……そうか、焦っても仕方がないと、貴方はそう言うんだな。」

 

「さて、君の言葉の捉え方に任せるとも。

だが、その捉えた意味を、仲間と共有し、今後の課題を決めるといい。

英雄を、諦めきれないのだろう?」

 

「……──」

 

曹操は、自分を信じ、自分についてきてくれた仲間を見る。

皆暗い顔だ。

間違いに気づき、これからどうすればいいのかと、分からないでいる顔だった。

 

目を閉じて、開く。

 

覚悟を決めたような瞳を、ズェピアは見た。

 

「─ああ、俺は、俺達は英雄になる。なりたいんだ。

けど、少しやり方を変えて、皆と話し合うとする。

……ありがとう、俺は危うく、屑に成り下がる所だった。」

 

「……いや、私も、いいものを見た。

君達が良き道を歩むことを期待しよう。」

 

聖槍を消し、仲間の方へと歩いていく曹操を、ズェピアは見送り、家族の下へ向かう。

ここからは、自分が関わる物語ではないと。

彼らが紡ぐ物語だと。

 

「……ズェピア、良かったの?」

 

「良かったとも。

久々に面白い人間に会えた。」

 

「…あの娘ではないがな。」

 

「それは承知してるとも。

だが、これでこちらには関わってはこまい。

……そろそろだ。」

 

「ようやく始めるのか。」

 

ネロの問いに、頷く事で返事をするズェピア。

ネロはそれにこれからが楽しみだと笑みを浮かべる。

しかし、オーフィスは暗くなる。

 

「どうかしたのかねオーフィス。」

 

「ズェピアは、辛くない?」

 

「全く。」

 

「何で?ズェピアは親友を裏切るのに、どうして辛くない?苦しくない?」

 

オーフィスの疑問に、何だか今さらだけど重要な質問だなと困ったように苦笑し、オーフィスの前へとしゃがんで頭を撫でる。

 

「家族だからだよ。

君が家族だから、他の誰かを裏切っても、辛さは感じない。

つくづくおかしな男だと自嘲してしまいそうなものだがね。コレばかりは変えられない。

家族に勝る宝はないのだよ、オーフィス。」

 

「……ん。」

 

「納得してくれたかな?」

 

「…ちょっとは。」

 

「そうかね。

では、行くとしよう。

 

……?同胞よ、どうしたのかね?」

 

立ち上がったズェピアの肩にネロの手が置かれる。

 

ネロはイイ笑顔でズェピアに死刑宣告をする。

 

 

「では、貴様の財布、尽くを使いきろう!」

 

「……あ、食べ放題がイイ。」

 

「キ、キキ……」

 

ズェピアは、血の涙を流した。

それは自分の財布が空になることに嘆いているのか、それともうっかりとチャンスを与えた自分に怒りを抱いているのかは分からない。

彼にしか分からない。

 

「キキキキキキ───」

 

「狂ったところで貴様が奢るのは変わらない。」

 

「じゃ、ズェピア、行く。」

 

「イヤダヤメテヨシテ行キタクナイィィィィィィ!」

 

両腕をガッシリと捕まれ、引き摺られていくズェピアは、今日一番の叫びをあげる。

 




逃れられる定め。

こんな風に若干コメディ感があるときは、隠れシリアス(隠れてない)があります。

英雄派の今後についてですが、それはこの話の最後にチラッと出るかもです


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『■■■』

どうも、ロザミアです。

さて、ようやく始まる最後の劇場。

今回はその、プロローグみたいなものです。


さて、始めるときは来た。

 

邪魔者はいない。

 

居るとすれば、それは『俺』に他ならない。

 

 

ああ、そうだ。

 

 

俺は、『俺』を越えてみせる。

そして、その時こそ、娘の願いを叶えるんだ。

 

 

これが最後の劇になる。

ならば、最高の劇にしなくては。

監督役が出たとしても、おかしくはあるまい。

 

 

だからみっともない演技だけはないよう頼むぞ、親友。

 

 

 

■リ■ジ■、どうか、見ていてほしい。

 

 

 

 

 

 

 

──────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

ここは、とても安らぐ場所だ。

 

 

名前の刻まれた墓で座り込んで寝かけているなんて中々におかしい行為だ。

 

でも、もう少し、もう少しだけこうさせて欲しい。 

 

君が忘れられなくて、こうしていると、君が側に居るんじゃないかと思えてくる。

 

■■ー■ア……

 

 

 

「──」

 

 

 

─まさか、ここまでボロついてくるとはなぁ…俺も変なデメリットを神に頼んだもんだ。

長く生きれば、生きるほどに、おかしくなっていくだなんて、俺はあの時、どこかで人を望んでいたのだろうか。

 

それとも、永遠に近い命が怖かったか。

 

 

まあ、いい。

 

 

しばらくそうしていると、足音が聞こえた。

珍しい、誰だろうか。

 

 

「あれ、ズェピア。」

 

 

「む……サーゼクスかね。

墓参りかね?」

 

 

「うん、僕も彼女の明るさには助けられたことがあるしね。

こうして仕事に空きがあれば今でも来ているよ。」

 

 

「……そうか。」

 

 

花束を墓へ置く。

彼は、■れないのだろうか。

 

 

「君は……」

 

 

「ん?」

 

 

「いや……君の王としての姿は、見つかったかね?」

 

 

「ここで、聞くのかい?」

 

 

「あの子も聞いてくれてるかもしれないからね。」

 

 

「それだと成仏出来てないような…まあ、いいけどさ。

それが、まだ見付かりそうにないんだよね。」

 

 

困ったように、頬を掻く彼。

 

 

「でも、一つだけ決めていることがある。」

 

 

「ほう、それは?」

 

 

「悪魔の駒の廃止だ。」

 

 

「それは君達魔王が言い渡せば良いのでは?」

 

 

「そう簡単じゃなくてね。

魔王の実権というのはソレほど大きくはない。

君も知ってるだろうけどね。

僕らよりも長く生き、民を都合よく動かせるのが居るだろう?」

 

 

「ああ……大王の方にそんなのが居たか。」

 

 

「うん。

……僕達魔王は悪魔の代表だ。

その代表の権力が薄いなんてあっちゃならない。

僕達は、未熟だ。

人間や、他種族を悪魔に変えるなんて、世界からすれば人拐いをして無理矢理国民にしてるようなモノだ。

だからこそ、僕達はあの駒を廃止にしなきゃならないんだ。

次へこぎ出す為にも。」

 

 

「それが君の今の信念か。」

 

 

「そんな綺麗なものではないけどね。

三勢力が多くの罪を重ねてきたのは事実だし、償うためにも今の方法を撤廃しなきゃならないってだけだよ。」

 

 

「……そうかね。」

 

 

政治についてはさっぱりだが、立派なもんだ。

あの駒を無くすことが、どれだけの反響を生むか分からないわけでもあるまいに。

それでも前へと進まねばならぬと無くすことを決意したのだ。

 

……いや、きっと、前から決意はしていたのだろう。

 

あの駒の存在がいずれ害になることは彼も分かっていたから。 

 

…うん、俺もそろそろ動き出さないと。

 

俺が、俺の望みを叶えるためにも。

 

「すまない、急用を思い出した。

またしばらく会えないだろう。」

 

 

「そっか、あまり無茶はしないようにね。

君が無茶をして倒れでもしたら、フリージアが怒るよ。」

 

 

 

──。

 

 

 

「─ああ、そうだね。

無茶をしない範囲での事だ、心配はいらないとも。

ではね。」

 

 

「うん。

 

……あ、ズェピア!」

 

 

「む?」

 

 

呼び止められ、再度振り向く。

 

 

 

「何かあれば、頼ってくれ。

僕達は仲間なんだから。」

 

 

 

「……ハハハ、無論、存分に頼らせてもらうよ。

その時は頼むよ、サーゼクス。」

 

 

そう言って、俺は今度こそその場を去る。

 

 

全く、仲間、だなんて。

ああ、頼らせてもらう。

何せ、これはお前に頼めるのは最後なんだからな。

 

 

 

それにしても…………。

 

 

……いや、まあいいか。

 

 

 

 

 

忘れるってことは、そう重要ではないって事なんだろう。

 

 

 

 

 

──────────────────────

 

 

 

 

結局、彼のどこか暗い顔をしていた原因がわからなかった。

 

心でも読めれば、とは思わないが、もう少し位こちらを頼ってくれても構わないだろうに、とは思う。

 

彼は何でも一人で解決しようとする。

 

それが、彼女を連れてきた理由の大半だろう。

 

というか、本人が言ってた。 

 

それでも、いきなり通信を切って事を済ませてから澄まし顔で来るのは流石にイラッときたが、それも過去の話。 

 

今の彼の顔は、とても見ていられなかった。 

 

何かを失ったような顔をしていた。

 

それはやはり、今は亡き彼の家族…フリージアの事を未だに引き摺っているからなのか、それとも他に何かあったのか。

 

原因は分からない。 

 

だからといって、彼の心に土足で踏み入るような真似はしたくはなかったから、あの場では頼ってくれとだけ伝えて去った。 

 

ズェピア・エルトナムは僕が知る限り、かなりの強者の部類だ。

 

けれど、強いからといって精神まで強いとは限らない。

 

だから、それを支える存在が必要だった。 

 

……彼にとって、唯一の支えはフリージアという人間の少女ただ一人だったのではと、考える。

 

僕は、良いとこ友人止まりだろう。

 

支えにはなれない。

 

セラフォルーも、アジュカもなれはしない。 

 

彼はそれでも外面は何ともなさそうに振る舞う。

 

だが、時折見せる暗い顔は、辛さを隠しきれない時だ。

 

……それを放置して、今もこうして仕事をしてる僕は正しいのだろうか。

 

『魔王』としては正しいのだろう、冥界を管理する者として、これは欠かせてはいけない。

 

だが、『友』としては?

 

間違っているのだろう。

 

だが、二つ同時を得るのは無理なのだ。

 

故に、民を護る『魔王』を僕は選び取った。

 

 

そして、彼は僕に自分の描く王を語った。

 

だけど、僕の目指す王は少し違う。 

 

……頑張らなくては。 

 

他の皆も共に頑張ろうと、言ってくれた。

 

とてもありがたいものだ。

 

僕のような無能に、ついてきてくれるのだから、支えてくれるのだから。

 

僕にはこんなにも心優しいヒト達が支えてくれている。

 

それが僕の生きる原動力にもなる。

 

 

理想の王になり、この冥界を、後の世代が不自由なく生きれるようにするためにもまだ僕は死ねない。

 

 

……頭の中で一人ずっと王としての自分を描きながら、最早慣れた仕事をする。

 

 

この後、このままのペースでやっていけば時間があるはずだから少し街に出ようかな。

 

そう思っていたら、扉をノックする音が聞こえたので手を止める。

 

 

 

「誰だい?」

 

 

「サーゼクス様、グレイフィアです。」

 

 

「入ってどうぞ。」

 

 

「はい、失礼します。」

 

 

……珍しい。

 

いつもなら、この時間は彼女も色々と忙しいはずだが……

グレイフィアは少し険しい表情で入室してくる。

彼女が表情を露にするなんて……一体どんな案件なのか。

 

 

 

「サーゼクス様、緊急のご報告が─

 

 

─旧魔王領の悪魔全員が、死亡したとの連絡がありました。」

 

 

「なっ……!」

 

 

馬鹿な……旧魔王領の悪魔が全滅?

僕達現魔王はそのような事はしていないし、眷属に命じてもいない。

……とすると、現魔王の悪魔でなく、旧魔王の悪魔の内乱?

 

 

 

いや、それならばもっと早い段階で起こっていた筈だ。

しかし、可能性は捨てきれない。

 

……残る可能性としては、第三者による犯行。

 

 

 

一体誰が……?

堕天使、天使…他の神話勢力……疑ったらキリがない。

 

 

「誰がやったかは?死体の状態は?」

 

 

「誰がやったかについては不明ですが、状態としては奇妙な共通点があります。」

 

 

「共通点?悪魔の死体全てにか?」

 

 

「はい──魂が、抜けていたと。」

 

 

「────。」

 

 

数秒ほど、自分の中の時が止まった。

 

 

 

魂が、抜けていた?

 

いや、そんな。

 

 

昔の会話を、思い出す。

 

 

 

 

 

『……それは神器を抜き出すってことかい?』

 

 

 

『その通りだ。

だが安心したまえ、魂と結合しているそれのみを抜き出す。』

 

 

 

『…もうその技術が君にはあると?』

 

 

 

『ああ、錬金術というのは便利なものだよ。

見極めが楽になる。どこをどのように錬成すればいいかとかね。』

 

 

 

 

 

「─まさか。」

 

 

 

 

 

『すまない、急用を思い出した。

またしばらく会えないだろう。』

 

 

 

そう言うことなのか?

 

 

 

あのタイミングで、冥界に来たのも。

 

 

 

いや、待て、落ち着け。

 

もう少し整理しよう。

 

 

 

まだ犯人とは決まって─

 

 

 

『月桂樹の花は好きかね?』

 

  

 

「…グレイフィア、少し、良いかな。」

 

 

「何でしょう?」 

 

 

「月桂樹の花の、花言葉を知ってるだろうか?」 

 

 

「月桂樹の花……ですか?

ゲッケイジュ全般では、『栄光』『勝利』『栄誉』。

 

月桂樹の花では確か──

 

 

 

 

─『裏切り』、だったかと。」

 

 

 

「……そう、か……ありがとう。

すまない、至急、セラフォルーとアジュカ、ファルビウムを呼んで欲しい。

ファルビウムは脅してでも連れてきてくれ。」

 

 

「は、はい。」

 

 

少しドスの効いた声で頼んでしまったせいか、グレイフィアが困惑していたが、すぐに呼びに行ってくれた。

 

仲間でいたと、親友でいたと、思っていた。

 

 

拳に力が籠り、気付けば机を叩いていた。

 

割ってないかと心配するところだが、それどころではなかった。

 

 

 

僕は、無能だ。

 

君のヒントをこうまで気付けなかったなんて。

 

 

 

……ああ、そうか、君はずっと僕に伝えていたんだね。

 

 

 

自分は、いつか、そうすると。

 

止めるなら、今の内だぞ、と。

 

 

 

 

─ズェピア・エルトナム。

 

 




致命的な見落としが、ここまで波紋を広げてきた。

物語は、終盤へ。
最後の劇が始まる。
それが誰にとっての最後なのかは、さて。

もう少し、観客にはこの三流役者だらけの舞台を見守ってもらおう。


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始まり

さあ、物語も終章、役者は揃い、舞台もまた整った。
ならば後は幕を開くのみ、それが監督としての最後の役目だ。

願わくば、これが良き演目であるように。


何かが割れるような音が頭の中に響いた。

 

気のせいだ。

 

何かが崩れ落ちる音が頭の中に響いた。

 

…気のせいだ。

 

何かが、砕けるような音が頭の中に響いた。

 

……気のせいだ。

 

何かが壊r気のせいだ気のせいだ気のせいだ気のせいだ気のせいだ気のせいだ気のせいだ気のせいだ気のせいだ気のせいだ気のせいだ気のせいだ気のせいだ気のせいだ気のせいだ気のせいだ気のせいだ気のせいだ気のせいだ気のせいだ気のせいだ気のせいだ気のせいだ気のせいだ気のせいだ気のせいだ気のせいだ気のせいだ気のせいだ気のせいだ気のせいだ気のせいだ気のせいだ気のせいだ気のせいだ。

 

俺は、俺だ。

俺は、ワラキアの夜で、ズェピア・エルトナムで、■■■■で……

 

あれ……

 

俺の名前、なんだっけ?

 

……まあ、いいか。

 

俺の家族は、オーフィスとネロ・カオスと──

 

 

─■■■■ア

 

あ、れ……。

 

俺の、家族は?

もう一人、居た筈なのに、誰だか、思い出せない。

会話を、思い出そうとする。

記憶の引き出しを開ける。

 

『君は、どうしてそうも頑固なのかね。』

 

『そ■■のき■■■るじゃ■い。』

 

『ふむ?』

 

『■■■■■■だ■ら■!』

 

 

……は?

 

待て、待て。

忘れちゃ、駄目な存在だろう?

俺がこうして生きてこられたのも、その存在が居たからだろう!?

 

『■■に、■た■束を■■し■う。』

 

思い出せ、思い出せ。

それだけは、忘れてはならないんだ!

その約束だけは、忘れないと誓っていたんだ!

 

あの子との、最後の繋がりを、消したくない!

 

『貴方が生きている、内に……また会うって。』

 

大事なナニカは、音を立てて崩れていく。

 

それでも俺は──

 

 

 

 

─この欠片を、離しはしない。

 

 

──────────────────────

 

 

 

「ズェピア!」

 

「……む、眠ってしまっていたようだ。

すまない、オーフィス。」

 

「……謝らなくて良い。

ズェピアはたまに無理するから。」

 

眠っていたようで、オーフィスが心配そうな顔で俺を見つめていた。

謝罪すると、思い詰めた表情で別に良いと言う。

……何か、あったのか?

 

「オーフィス、どうかしたのかね?」

 

「…別に何もない。

それより、もう行くの?」

 

「もう、というより、やっと、が正解かな。

私達はこの時をずっと待っていたではないか。

……グレートレッドを倒す為にもね。 」

 

「……ん。」

 

思い詰めた表情は、直らない。

 

何だろう、何が原因なのか……。

困ったもんだ。

こういうとき、頭を働かせないと。

 

■■ー■■なら、どう接したか思い出……

 

……。

 

ハ、ハハハ……ここまで影響が早いか。

 

大丈夫、まだ俺は俺だ。

ったく、HF編の士郎君かよ俺は。

 

「さあ、行こうか。」

 

「ん。」

教授は先に行って待っててくれている筈だ。

術式の最終確認も、彼が行ってくれているから問題はない。

 

……もう、何気無い日常も、過ごせないのは少し寂しいもんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

帰ってきたのは、ずっと掃除されてきたかのように綺麗な冥界にある家だった。

……ああ、ここだ。

 

少しだけ、思い出す。

 

『チェック。』

 

『あーー!また負けた……負けてくれてもいいじゃない!』

 

『いやぁ、親として負けるわけにはいかないよ。』

 

『次、フリージア、我と。』

 

『ふっ、騒がしい連中だ。

チェスならば静かにやるべきだろうに。』

 

『そう言って一度もやらないが、君はもしや負けるのが怖いのでは?』

 

『……ほう、ならばやるか。』

 

『うむ、もう一つ用意して正解だったようだ。

死徒同士の殺し合い(チェス)に講じるとしよう!』

 

『『騒がしいのはそっちなんじゃ……』』

 

ああ、懐かしい。

この部屋だ。

この部屋で、よく本を共に読み、道具を用意しては皆で遊び、話をした。

 

「ズェピア。」

 

「……大丈夫、大丈夫だから……じゃない。

すまない、少し感傷的になってしまっていた。

ハハハ、歳は取るものではないな。」

 

本当に、歳は取るもんじゃない。

 

「…フリージアは、もういない。」

 

「……理解しているとも。」

 

「我じゃ、フリージアの代わりにはなれないの?」

 

「誰かが死んだ者の代わりになどなってはいけない。

それは死者を侮辱する行為だ。

大丈夫だよ、私はまだ、私だ。」

 

「……うん。」

 

そう悲しそうな顔をするんじゃない。

まだ始まってもないし、死んでもいないんだから。

 

ああ…無情なもんだ、世界ってのは。

 

そうさ、神に転生させてもらって、この姿や力を貰って、好き勝手して……

でも、世界は残酷で、周りは古くなっていき、無くなっていく。

そんなこと、分かってた。

昔から、それこそ前世から理解してた。

 

……分かってても、辛いものは辛い。

 

約束したのにな。

ずっと、待つって約束したのに。

早く会いたいと、早く言葉を交わしたいと…焦がれるのは間違いなのか?

君との時間を恋しく思うのは間違いなのか?

 

間違いではない。

だから、俺は待っているんだ。

 

「遅かったな。

あの人間と過ごした家を、今一度隅々まで確認したくなったか。」

 

「…そうかもしれないな。

……問題は?」

 

「ない。

再現において、この世界では貴様の上は居なかろう。」

 

「ん、なら、後は……アイツらを倒してから、グレートレッドを倒す。」

 

そう、これを起動すれば、俺達は……俺は、ようやく悪になれる。

 

「貴様は済ませたのか?」

 

「うむ、準備は終えた。

これでキャストは揃う。

我々は、ようやく終わりへ漕ぎ出すのだ。」

 

「貴様のこだわりには呆れしか出んな。」

 

「……ハハ、私なりの、我儘だよ。」

 

「……ところで、私が来る前に誰かがこの家に入り込んだ形跡があったぞ。」

 

言うの遅いよ!

ったく……まあ、犯人はヤス……じゃなくてサーゼクス辺りだろう。

 

「それ、早く言うべき案件だろう。

しかし、そうか……それは放っておいても構わない。

気付いたからこそここに一度来たのだろう。」

 

「そうか。」

 

会話が終わると、裾を引っ張られる感覚がして、引っ張っているオーフィスの方を見る。

 

「ズェピア……まだ、時間ある?」

 

「あるにはあるが、どうかしたのかね?」

 

「ズェピア、疲れてる。

だから、一度休む。」

 

ソファに座って、膝をポンポンと叩く。

……全く、この子は。

 

ネロを見ると、好きにしろと術式を見ていた。

俺は仕方無いかと苦笑して、ソファに座って、オーフィスの膝を枕にして横になる。

 

撫でられる感覚がする。

恐らく、俺がしてるようにオーフィスが頭を撫でてるのだろう。

 

「…我とカオスは、ずっとズェピアの支えになるから。

だから、無理はしないで。

これから、大変だから、今はおやすみ。」

 

「……ありがとう、オーフィス。」

 

俺は、礼をした後眠気が襲い、それに身を任せ、すぐに眠った。

 

 

 

──────────────────────

 

 

 

すぐに寝たズェピアに、微笑みながら頭を撫で続ける。

起きるまで、ずっと。

 

カオスがふっ、と笑いズェピアを見ながら我に話しかけてくる。

 

「貴様も、難儀なものだ。」

 

「我は我の意思でここにいるから、いいの。

それに、家族だから。」

 

「そうだとしてもだ。

貴様も気付いているだろう。

奴の異常に。」

 

「……。」

 

何かを探すかのように、無くした何かを見つけようとする表情を、最近よくしていた。

何を見付けようとしているのかは……もう分かりきっている。

 

ズェピアは、恐らく、フリージアを忘れかけている。

 

きっと、他にも今までの記憶のいくつかは欠落している。

 

「タタリは最早死徒とは違う存在だ。

が、何らかのデメリットかは知らんが、記憶の欠落が起こっている。

それに気付いたのは、何気無い会話からだ。」

 

『トマト……思い出すな。

フリージアはこれが大の苦手であったな。』

 

『?……ああ、そうだったね。

よく、料理に出しても残そうとしていた。』

 

『……そうだな。』

 

「あの時の何かを確認するかのような顔、そして我々との記憶の食い違い。

……奴がそれ以外であの娘の事で忘れるものか。」

 

「……そう。でも、それでもズェピアはズェピア。

我の大好きで、恋してるズェピア。」

 

「…それもそうか。

私も、死の瞬間までそれに付き合うとしよう。

……尤も……その瞬間も近いかもしれんな。」

 

「駄目。カオスも家族。

死んじゃいや。」

 

「ククク、我儘な龍神だ。」

 

「それが我だから。」

 

一時だけの穏やかな時間を、今生きている家族三人で過ごした。

 

 

 

───────────────────────

 

 

 

ところ変わって、会議室。

そこには四人の悪魔……魔王が座り、話していた。

 

「…ズェピア・エルトナムは裏切っていたと。」

 

「その通りだ。」

 

「ま、待ってよ!

ズーちゃんが私達を裏切るなんて考えられないよ!

何かの間違いでしょサーゼクスちゃん!」

 

どこかそうであってくれという懇願に近い様子でそう聞いてくるセラフォルーにサーゼクスは沈痛な面持ちで静かに首を横に振る。

 

「そんな……」

 

「証拠はあるのー?」

 

「ああ、まず、旧魔王領の悪魔全てが魂の抜けた状態で死んでいたのは知っているだろう。

だが、そのようなことをする犯人はこの時点でかなり限られてくる。」

 

「魂を抜くなどという行為は繊細だからな。

それを旧悪魔全員に、となると実力者だろう。

しかし、それをズェピア・エルトナムがやれるというのか?」

 

「……出来る。

事実、彼は『魔獣創造』を人間から魂と切り離して入手している。」

 

「……でも、それだけだと出来るってだけで犯人とは断定できないじゃない。」

 

「そう、これだけなら僕も気のせいだと思えたんだ。

でも、彼は僕らにずっと裏切りのヒントを残していた。

それこそ、フリージアの生きている時から。」

 

サーゼクスの言葉に、アジュカとセラフォルーは驚愕した。

そんな前から決めていたのかと。

ファルビウムは依然と怠そうにしながらも話を聞いている。

 

「例えば、月桂樹の花だ。」

 

「裏切りの花言葉を持つアレか。」

 

「彼は意味もなく、それを聞いてきたことがあった。

 

……決定的な証拠もある。」

 

サーゼクスは、懐から手記を出してそれをテーブルの上に置く。

 

それを手にしてセラフォルーは読み始める。

読み進めていくと同時に段々と彼女の表情は暗くなっていき、最後のページになると、アジュカに手記を渡して伏して泣いてしまった。

 

アジュカも読み終えると、舌打ちをしてからファルビウムに読むか聞く。

ファルビウムは別に良いと言うので、手記はサーゼクスの元へ戻ってきた。

 

「……オーフィスとも関係があったとは思わなかったけどね。」

 

「腹立たしいのが俺達がアイツの芝居に付き合わされたということだ。

……それで、サーゼクス。

お前はどうするんだ。」

 

「グレートレッドを倒す……それがどのような影響を世界全体に与えるか未知数だ。

それに、彼の計画事態がどれ程のモノかも分からない。

……ズェピア・エルトナムを、倒そう。」

 

「…ふん、一度殴りたいと思っていたからな。

丁度良い機会だ。」

 

「ありがとう、アジュカ。

……セラフォルーとファルビウムはどうする?」

 

「……私も、やる。」

 

「じゃあ、僕はやらなーい。」

 

「えっ!?どうしてよ!」

 

「悲しみで判断力鈍ったかな?

外交担当しっかりしてよー。

君達魔王三人が行ったら、必然的に僕は残らなきゃでしょー?」

 

ファルビウムはへらへらとした笑みを浮かべながら行ってらっしゃ~いと手を振る。

サーゼクスは、感謝の念を抱いた。

 

「…じゃあ、任せるよファルビウム。」

 

「はいは~い、面倒事はそっちが片付けてきてね~。」

 

「ああ、任せてくれ。」

 

「……それで、奴が何処にいるのか分かるのか?」

 

「一度、彼の家に……「サーゼクス様!」グレイフィア?どうしたんだい?」

 

慌てた様子で、サーゼクスの『女王』であるグレイフィアが部屋へ入ってくる。

 

「申し訳、ございません……。

サーゼクス様、こちらを。」

 

「これは……手紙?

こんな時に誰から……」

 

手紙を受け取り、それを裏返してみる。

 

─ズェピア・エルトナム

 

そう、名前が書いてあった。

 

「……全て、お見通しか。」

 

手紙を開けて、どのような内容かを確認する。

 

『家で待つ。

そこで、最後の劇の開幕といこう。』

 

……それが、誰にとっての最後かは分からない。

 

「彼は家にいるようだ。

何かされぬ内に行こう。」

 

「ああ。」

 

「うん……。」

 

サーゼクス達の精神的なダメージは決して小さくはない。

長年の付き合いだった友人が裏切ったのだ、当然だろう。

セラフォルーはサーゼクスの次に仲が良く、ズェピアの知恵には何度も助けられた。

だからこそ、ダメージは大きかった。

アジュカも、何ともなさそうな風を装ってはいるが内心は傷付いていることだろう。

 

「……サーゼクス、お前は大丈夫か?」

 

「大丈夫と言えば、嘘になる。

けれど、僕はここで立ち止まれないから。」

 

「…そうか。」

 

「うん。では、行ってくるよ、ファルビウム、グレイフィア。」

 

「お気をつけて……。」

 

「じゃあね~」

 

そうして彼らは会議室を後にした。

ファルビウムはそれを見送った後、溜め息を吐く。

 

「はぁ~、あの三人が行っちゃったら僕大変どころの騒ぎじゃないよ。」

 

「……ですね。」

 

「ま、引き受けたからにはやるけどね。

久し振りに働くぞ~。……面倒だけど。」

 

 

 

──────────────────────

 

 

 

そうして、三人はズェピアの家へと着いた。

魔獣の一匹くらい襲ってくるかと思ったが、これといった襲撃はなかった。

 

だが、彼らはここに居る筈のない人物たちを目撃する。

 

「リアス……!?それに眷属の皆も……」

 

「お兄様、それにアジュカ様にセラフォルー様も!」

 

「魔王様達が何でここに……?」

 

それはサーゼクスの妹であるリアス・グレモリーとその眷属達であった。

特にリアスとイッセーの驚きは大きかった。

 

「…何故ここに居るんだい?」

 

「ズェピアおじ様から手紙が来て、それでここに来たのですが……何かあったの、お兄様?」

 

「……言った方がいいだろうな。」

 

「…そうだね。」

 

サーゼクスはリアス達に説明した。

ズェピアが裏切っていたこと、オーフィスと家族であったこと。

グレートレッドを倒す目的があること……そして、ズェピアからここに呼ばれたことを。

 

リアス達は驚愕を隠せなかった。

特に幼少期から優しい彼の姿を知っているリアスの衝撃は計り知れない。

 

「ズェピアさんが、そんな……」

 

「……あの時の問いも、嘘だったと言うことか。」

 

「そういう訳だから、彼は何をするのか分からない。

君達は早く避難を…「嫌です!」…リアス、危険なんだ、分かってくれ。」

 

「お断りします。

それに、魔王様方がいくら強くても、おじ様…ズェピアとネロ、そしてオーフィスを相手取るのは自殺行為です!

ならば、一人でも戦力が多いに越したことはないはず!」

 

「しかし……君達は未来ある若者だ、失うわけには…」

 

「……魔王様、俺からもお願いします!」

 

「イッセー君まで…」

 

他の眷属からも、頼み込むような視線をサーゼクスは受けて、葛藤した。

確かに、戦力が多い方がいい。

だが、彼らが戦いについていけるかは別だ。

 

それこそ、ズェピア・エルトナムとネロ・カオス、オーフィスは今までの敵とは桁違いの強さを有している。

……数で叩けば勝てるとは到底思えない。

 

「……いいんじゃないか、連れていっても。」

 

「アジュカ!?何を言ってるんだ!」

 

「言っても聞くまいだろうから、連れていく。

それだけだ。」

 

「だが……」

 

「実力差があるなんて百も承知だろう。

それでも戦うと言っているんだ。」

 

「…えっとね、リアスちゃん達。

私たちも全力で戦うけど、守りきれないかもしれない。

それでも来るの?」

 

「はい!」

 

「……ほらな。それに、一刻を争う可能性も否めん、さっさとした方がいい。」

 

「サーゼクスちゃん。」

 

「……分かった。では、協力感謝する。」

 

「…!ありがとうございます!

皆、聞いたわね。

これは危険な戦いよ、それでも来てくれる?」

 

『はいっ!』

 

皆、強い意思を持っての返事だった。

それがたまらなく彼女には嬉しかった。

 

それを見て、サーゼクス達はこの若者達は守らねばと決意した。

サーゼクスは、魔王としての自分に切り替える。

 

「……行こう!」

 

そうして、彼らは入っていった。




割れていくナニカ、それはもうすぐ全て消えていく。

だが、それでもこの『約束』はこの手の内に。


次回、『ワラキアの夜』


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ワラキアの夜

最終章であり、序章は彼らの足音より始まりを迎えた。

楽しみで仕方ない。



廊下を走る。

彼が居るであろう部屋へと急ぐ。

 

「サーゼクス、さっきから奴が何処にいるか分かってるかのようだが……?」

 

「何となくだけどね。

でも、合ってる筈だよ。」

 

「何となくなのか……。」

 

呆れながらもついてきてくれる友に内心感謝する。

 

……奥の扉が見えてきた。

扉の前に着き、アジュカとセラフォルーと僕は顔を見合わせて頷き、ゆっくりと扉を開ける。

 

そして、見えたのは──

 

 

 

「やあ、諸君。

この即席舞台によく来てくれたね。」

 

「館ごと吹き飛ばすかと思ったが、予想以上に律儀な奴等だ。」

 

「……。」

 

僕達を支えてくれていた、友だった。

ズェピアはいつものような笑みを張り付けて、ネロもまたいつものようにくつくつと笑う。

オーフィスと思わしき少女だけは、ズェピアにくっついて無表情でこちらを見つめている。

 

「……本当に、君なんだね。」

 

「そうだとも、サーゼクス。

いやはや、ようやく気付いてくれたか。」

 

僕は、拳を強く握る。

 

「…何故、旧悪魔達を?」

 

「使い古し、それももう使えない大道具をいつまでも舞台裏に置いておくのはどうかと思ってね。

よかったじゃないか、もう襲撃は起こらないよ。

疑問は解決したかね、アジュカ・ベルゼブブ。」

 

アジュカは舌打ちをして黙る。

 

「仲間って言うのは、嘘だったの?ズーちゃん。」

 

「その呼び名は固定なのかね?まあ、もうツッコミはないがね。

仲間であったとも。

だが、私には私の目的がある。

故に、裏切り、君達の前に居る。」

 

セラフォルーはその言葉を聞いて、俯いてしまった。

やはり、堪えているのだろう。

 

「君の目的……グレートレッドの打倒かい?」

 

「可愛い娘の頼みだ。

断れまいよ。」

 

「だが、君とネロ、オーフィスでグレートレッドを倒せるのかい?」

 

「倒せる。確実に(・・・)。」

 

「根拠があっての台詞だろうな、それは。」

 

「ハハハ、君よりも計算が得意な私にそれを言うのかね。

勝てる、ああ勝てるとも。

(アトラス)が造り上げた物は、最強であらねばならない。

それをただ証明するだけのこと。

私が造り出した、神滅具さえも越える力を持つ兵器を、奴にぶつけるだけだ。」

 

「神滅具を、越える……!?」

 

確かに、彼の日記や発言から地獄を生み出す兵器だとか神滅具に相当するものとは分かっていたが越えるというのは想定外だ。

それはつまり、この世界に存在する聖書の神が創った神器全てを上回っているということだ。

 

神さえ滅ぼす可能性を秘めた神器を越えるのならば、それはいったいどれ程の強さを秘めているのだろう。

 

「私は、ずっと悩んでいた。

例え、『黒い銃身(ブラックバレル)』が強力といえどかの龍の一撃に耐えられるのかと。

寧ろ、相対するだけでも死にかねない存在だ。

私の結論は、魂の強化だった。

魂が強くなればその外側である肉体も強くなる。

だから皆殺しにして、魂を喰らった。」

 

何処までも理性的に、何処までも狂ったように彼は告げる。

ただそれだけだと。

害虫駆除をした者が、その虫に対して申し訳無さのあまりに泣いてしまうことが無いように。

彼にとってもまた旧悪魔は害虫その物だった。

 

「だからといって、その行為が許される訳じゃない。」

 

「ハハハ、そうだろうとも!

許されはしない、そんな事は分かりきっている。

だが、それがどうかしたのかね?

私は、私達の目的のためにあらゆる物を利用する。

それは友である君達もまた同じだ。」

 

「……許せねぇ…」

 

僕達は一斉に怒りに身を震わせながら言葉を発したイッセー君を見る。

彼はいつの間にか、『赤龍帝の籠手』を出していて、握りしめた拳をズェピアへと向けていた。

 

「ただ、そんな目的の為だけに友達だった魔王様達を裏切って、旧悪魔の連中を食い物にするなんて、許せねぇ!」

 

それを聞いたズェピアは、歓喜するでもなく、妙に冷めた表情を浮かべていた。

 

「……まあ、言われる気はしていたがね。

逆に聞こうか、君は自分こそが正義と思ってるのか?」

 

「当たり前だろ!

あんたが悪いのは皆分かってる!」

 

「ああ、私が悪いとも。

悪役は私だとも。

だが、それは『今回』に限った話だ。」

 

「……何が言いたいんだよ。」

 

「君達が、いつから害悪でないと思っていたのか、という事を言いたいんだよ、兵藤一誠君。」

 

「俺達が、害悪……?」

 

僕達魔王は…その言葉に何も言えなかった。

違うだなんて、言える訳無い。

今の悪魔社会の現状を知るがゆえに、何も言えないのだ。

 

「悪魔の駒、聖剣計画、神器の研究、危険の事前排除……他にもあるが、君達にとって聞き覚えがあるのはこれくらいだろう。

これ全てが、人間に対して人外共が勝手にしてきたことだ。

種の繁栄、神の為、神器が興味深い、世界の危険分子になりかねないから……勝手にも程がある。

自らの価値観、考えを押し付け、あまつさえそれに歯向かえばはぐれ悪魔のような理不尽が待っている。

それが正しいと、何故言えるのか?」

 

「それは……」

 

答えられずに、悔しげに顔を俯かせるイッセー君に、僕は申し訳無い気持ちで一杯だった。

そうだ、どう足掻いても僕らは人間にとって害ある生き物でしかない。

それこそが事実なんだ。

 

「答えられないのなら、それが君の限界だ。」

 

「ズェピア、貴方は自分のしてることが正しいと思ってるのかしら?」

 

「正しい。

でなければこのような行動に出るものか。

私が、私の意思を肯定できなくてどうする。」

 

リアスは、その答えを聞き、一瞬悲しそうに目を伏せたが、すぐに覚悟を決めた顔をして彼に向き合う。

 

「…そう……おじ様…今まで、ありがとうございました。」

 

「おや、敵の私にもその呼び名を使ってくれるのかね。」

 

「いいえ、『もう』使わないわ。」

 

「そうかね。

……もういいだろう、頃合いだ。

どのみち、こうして道を違えた以上は我々は敵だ。

ならば、戦って終わらせるしかあるまいよ。」

 

どこか楽しそうに、彼は笑う。

 

「話は終わりか。」

 

「申し訳無い、最後くらいはこうして話しておくのも悪くはないと思ってね。」

 

「それによって貴様の意思が揺るがなければ構わんがな。

では、さっさと始めるがいい。」

 

「…貴方には助けられてばかりだ。」

 

「貴様は私の主だ。

忘れたわけではあるまい。」

 

「それも、そうか。

うむ、始めるとしよう、夜を。

私達の夜、始点であり、終点を。」

 

突如、目映い光が辺りを包み始める。

いったい何がと思えば、後ろには何かの術式があった。

あれが作動したのだろう。

 

「一体、いつから……アジュカが気付きもしないだなんて!」

 

「君達に対する手段を、私が有していないとでも?

なに、何てことはないよサーゼクス。

感知されないようにしただけの事だ。」

 

「高レベルな事をしてると分かっていて何てことはないとは、相も変わらず苛立つ奴だ!」

 

「何を作動させたの、ズェピア・エルトナム!」

 

「─部長、体がっ!」

 

リアスの眷属の言葉を聞き、皆自分の体を見始める。

すると、体が透けてきているのが分かり、焦燥感に駆られる。

 

一刻も早く、あの術式を壊さねばと、魔力で強化した体で接近し、滅びの魔力を手から放つ──

 

 

「おっと、駄目じゃないか、舞台装置を壊そうとする等君らしくもない。

どのみち、もう逃げ場はない。

私達の世界は、これより広がっていくのだから!」

 

─放とうとして、彼が伸ばした透明な糸のような物が腕に刺さり、滅びの魔力が僕の意思に逆らって消える。

 

「ズェピア──!!」

 

「キヒ、キヒハ、ハハ、ハハハハ!!

ソウダ、ソノ顔ダ!

焦燥スル顔、恐怖スル顔、泣キ叫ブ顔ガ私ヲヨリ楽シマセル!」

 

その血溜まりのような目を開き、狂ったように笑う彼に僕は絶句する。

次の瞬間には僕は腹を蹴られてリアス達の方へと戻される。

 

「ぐっう!?ズェピア、君は……!」

 

「大丈夫、サーゼクスちゃん!?

うっ……もう、体が……」

 

「万事休すとはこの事か……」

 

「貴方達……!!」

 

「くっそ……こんなところで、終わってたまるかよ……!」

 

体が、完全に消える瞬間──

 

 

「─さぁ、始まるよサーゼクス。

君の『理想』を、私に示したまえ。」

 

「──。」

 

 

そう言ったのが聞こえて、僕の意識は闇へ落ちた。

 

 

 

 

──────────────────────

 

 

 

 

 

その異常は、世界の裏に住まう人外達に即座に伝わった。

 

北欧等各種神話にも当然、伝わっている。

 

「オーディン様、冥界を中心に結界が侵食しており、このままでは世界全体が包まれてしまうと……」

 

「……やりおったか、あの小僧め。

儂らも迎撃準備だけでもしておくかの。」

 

北欧の主神 オーディンは唸るような声をあげ、どこかを睨むような形相で、その場で黙り混んでしまった。

 

何が起こるのか、分かっていたのかどうか。

それは老いた主神のみが知る。

 

 

 

 

 

 

「─あ"ぁ?サーゼクス達があの結界に呑まれただぁ!?」

 

『うん、嘘じゃないよぉ。』

 

堕天使総督 アザゼルは通信の相手、ファルビウム・アスモデウスに怒鳴るような声をあげる。

全てを聞かされた彼は露骨に舌打ちをする。

 

「チッ、んで、俺に連絡してきたのは何でだ?」

 

『僕達と同じくらいぎとぎとに汚れた総督さんに無茶な仕事をしてほしくてねー。』

 

「喧嘩売ってるなら切るぞ。」

 

『まあまあ、話は聞いてよ。

君の育てたっていう白龍皇君をさ、呼び戻して欲しいんだよね。』

 

「呼び戻せたぁ……マジでムズい事頼みやがる。

何でヴァーリを呼ぶんだよ?」

 

『彼が居ないと結構キツいかもしれないからさ。

……ていう言葉は置いといて~まあ、一応の準備だよ~。』

 

「……分かった、やるだけやるが、後で聞かせろよな。切るぞ。」

 

『はいはーい。』

 

「……ハァ……ったく、ほんと世話かかるぜ。

……にしても、あいつも裏切るたぁな。」

 

通信を切り、己の側近に仕事を押し付けて飛んでいく総督に、側近はまたかと呆れながらも仕事に取り組むのであった。

 

 

 

─────────────────────

 

 

 

舞台は始まった。

タタリは広がっていく。

俺はようやく黒幕らしくやれる。

 

夜の街を見下ろし、笑みを浮かべる。

 

「……ズェピア、ここが、タタリ?」

 

「その通り、この世界こそが最後の舞台だ。

情報の書き換え、あり得ぬ残像、あり得た日々を再現するのがこの世界。

言うなれば、舞台を作り上げる術式だ。」

 

「貴様のいうその術式のほんの一部がこの世界なだけだろう。

貴様は、ここだからこそ強く在れるのだからな。」

 

こらそこ、言わないお約束。

余計な事を言うんじゃないよまったく。

 

……その通り、俺は今まで全力を出さなかったんじゃない。

出せなかった。

それこそが俺の枷であり、誓いでもあった。

 

……この世界で再現できぬものはあまりない。

 

だが、駄目だ。

■■を再現するのだけは俺が出来ない。

 

 

「さあ、まずは序章だ。

どうか思い出してくれたまえ。

君の日々で、偽物の日々を塗り潰したまえ。」

 

俺の敵は、お前しかいないんだからさ。

 

これくらいの試練は乗り越えてくれよ。

 

サーゼクス?

 

 

 

─────────────────────

 

 

 

不透明な世界だ。

 

最初に来たとき、そう思った。

だが、これだとすぐに『異物』として排除されてしまうだろうと本能的に分かった。

 

変えなければ。

 

「──止めなくては。」

 

……キャラに引っ張られてしまうのは、仕方のない事か。




舞台は出来た。
さて、今更ながら面接だ。
役者に相応しいかどうかテストといこうじゃないか。

……しかし、この心に穴が空いたような感覚はなんだろうか?

分からない。

…本当に?


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『駒王町』

どうも、ロザミアです。

今回はズェピアさん出ません、モウシワケナイ。





オッス、俺は兵藤一誠。

駒王学園の生徒で、一般人よりちょっと変わった物を持ってる人間だ。

 

いつものように、元浜と松田と共に素晴らしい本を教室で開き、見て興奮した。

素晴らしい、やはりおっぱいは最高だぜ!

 

この後はオカルト研究部、通称オカ研に行って活動だし、頑張るぜ。

 

まさか、駒王学園の二代お姉さまである姫島 朱乃さんとリアス・グレモリーさんがいるなんて、夢にも思ってなかったけどな!

 

……でも、なんだろう?

何だか、歯車が噛み合わないような感じがして、頭がたまに痛む。

何でなのか……分からない……。

 

 

 

 

 

 

「あら、イッセー遅かったわね。」

 

「すいません、部長!

ちょっとボーっとしてました。」

 

「体調でも悪いのかしら?

あまり無理をしてはダメよ。」

 

少し遅刻してしまったが、部室にはいると、部長であるリアス先輩が遅れた訳を聞いて心配してくれた。

周りの部員の皆も心配してくれて、少し申し訳無い気持ちになった。

 

「大丈夫です、心配してくれてありがとうございます。」

 

「そう?ならいいけど……

じゃあ、活動を始めるわ。

今回は─────」

 

 

 

 

 

 

 

 

活動が終わって、帰る。

今日は寺辺りの心霊スポットで本当に出るのかとかいう調査をした。

 

「……うーん?」

 

何か、頭に引っ掛かる。

本当にこんな活動だけだったか?という疑問が、頭からこびりついて離れない。

いつもしてきた事の筈なのに、嘘のように思えてしまうのは何故だろうか?

 

歩きながら、考える。

何故、俺はこんなにも疑っている?

 

公園のところまで来たところで、足を止める。

 

「─?」

 

「……。」

 

公園の真ん中に、紫の制服を着て、長い紫の髪を三つ編みにした女性が何かを考えるかのように顎に手をやっている。

 

俺はその女性から目が離せなかった。

決して変態な目で見ていたわけではない。

何だか、ここで帰ったらダメな気がして。

 

「……─兵藤一誠ですね。」

 

「っ!?ど、どうして俺の名前を……!」

 

突如、こちらを見て俺の名前を口にした女性に俺は警戒心を強めた。

女性納得したようにこちらへ近寄る。

 

「当たっているようですね。

……貴方は、悪魔というのに聞き覚えは?」

 

「あ、悪魔?そんなの知らな─ぐっ!?」

 

悪魔という単語を聞いた瞬間頭が割れるように痛くなる。

聞き覚えがない筈なのに、聞き覚えがあるように感じる。

 

「やはり、情報操作されていましたか。

安心しなさい、すぐに認知できるようにしましょう。」

 

「な、何を、言って……!」

 

女性は痛みに悶える俺の首筋へと何かをチクリと刺す。

瞬間、俺の頭に情報が流れ込む。

 

『歓迎するわ──悪魔としてね。』

 

『やあ、君がリアスの新しい眷属かい?』

 

『宿敵である赤龍帝の君には期待してるよ。』

 

 

『キヒ、キヒハ、ハハ、ハハハハ!!』

 

鮮血の目が、狂気の笑いが頭に映り、そこでようやく情報は途切れる。

そして、自分が何なのかを思い出す。

 

「──そうだ、俺は……なんで……」

 

『思い出したか、相棒。』

 

「……ドライグ?お前も無事だったか!」

 

『ああ…と言っても、俺も先程まで意識が無かった。

あの女がお前に掛かっていた術か何かを解いたんだ。』

 

思い出した、何で忘れていたんだろう。

それに、俺はズェピアによって消された筈じゃあ……?

 

「…ありがとうございます。

……あの、貴女の名前は?」

 

「名前を聞くなら自分から……というのは私が貴方の名前を知っているからしなくていいですね。」

 

立ち上がった俺に女性は向き直り、真っ直ぐと俺を見捉える。

 

 

「─シオン・エルトナムといいます。

長いので、シオンとお呼びください。」

 

「シオンさん……って、エルトナム!?」

 

俺は距離を取って籠手を出して構える。

エルトナム……ズェピアと同じ……!

 

なら、娘さんか!?

いや、あの場には居なかった……なら、何者……?

 

シオンさんは構える俺に呆れた様子で溜め息を吐いてやれやれと首を横に振る。

 

「確かに、エルトナムという名はタタリの……いえ、この世界ならズェピア・エルトナムですね。

それと同じではあります。

ですが、私がズェピアと同じ名を持ってはいますが敵ならば貴方を戻すような事はしないと思いませんか?」

 

「ぅ……確かに…でも、シオンさんはあの場には居なかったじゃないか!

どうしてここに!それに、駒王町に俺が居るのもおかしいし、何か食い違いみたいなのも発生してた!」

 

「疑問をいくつも投げ掛けるのはやめてください。

順を追って説明します。

まず、この駒王町は厳密にいうと偽物です。

ズェピアの固有結界『タタリ』により造り出した虚像の町。

次に、食い違いが発生していたのはズェピアが『タタリ』を使って取り込んだ者の記憶を改竄…いえ、催眠に似てますね。それをしたからでしょう。

最後に、私がここにいるのは、私はもうこのタタリでしか姿をとれないからです。

だから、私もここの住民のようなものですね。」

 

「なっ……なら、何で「何で手助けするような事が出来るのかですか?」は、はい。」

 

「そうですね……私は多少特別だからです。

他のタタリで存在できている住民とは違い、私には彼らにないものがある。

だからこそ動けているわけです。」

 

「そ、そうなのか……」

 

まるでマシンガンのように口からどんどんと答えが出てくるシオンさんに俺は納得しかできなかった。

……にしても、エルトナムを名乗ってるんだから何かあるんじゃ……?

 

「名前については聞かないで。

どこで彼が見てるか分からないので。

……それに──」

 

「え……?」

 

それに、の後に何か言ったようだが聞き取れなかった。

……何だろうか?

 

「─いえ、何も。

では、行きましょう。」

 

「行くって、どこに……」

 

「貴方の仲間の催眠も解かなくては。」

 

「い、今からかよ!?」

 

シオンさんは冷たい目を俺に向ける。

 

「当たり前です。

何ですか?家に帰りたいと?

所詮、偽の両親しか待ってませんよ。」

 

「……それでも、俺の親だ。」

 

「…それでも、か。

分かりました、貴方の意思を尊重しましょう。

その代わり、私も貴方の家に居させてもらいます。

また催眠が掛かっては面倒ですから。」

 

「えぇ……。

わ、分かった。

そうだ、ついでに明日どうするか決めようぜ。」

 

「そうですね。

……しかし、意外ですね。」

 

家に帰ると決めたので、共に歩いて俺の家まで向かう。

向かう途中で、シオンさんの言葉に俺は疑問を持つ。

 

「何がだよ?」

 

「貴方は後先を考えない…いわゆる猪のような男だと思っていました。

後は、猿のような変態とも。」

 

「ぐっ……こういう時くらいはしっかりしねぇと、ずっとこのタタリって世界にいたら危ないんだろ?

今日は一度作戦のために家に行くとしても、それで最後にしようって位の考えは俺も出来るって。」

 

「…なるほど。

ちなみに、言い忘れていましたが、現実の方ではタタリが冥界を中心に侵食していっています。」

 

「はぁ!?どうして先に言ってくれなかったんだよ!」

 

「いえ、すみません。

素で忘れていました。」

 

俺は思わずガクッとする。

意外と抜けてるのかもしれない。

俺が言えたことではないが。

 

 

─────────────────────

 

 

その後、母さんと父さんにこっそり勉強を教わっていた大学生の知り合いと結構無理がある説得をしたら信じてくれた。

その時のシオンさんは『えぇ……』って顔をしていた。

 

そして、掃除した俺の部屋で今後の方針を決める。

 

「しかし……貴方の両親は人が善すぎる。

あれでは詐欺で騙されそうですね。

現実でもああなのですか?」

 

「現実でもああだな。」

 

「ちゃんと守ってあげなくてはなりませんよ。

家族は、大事なんですから。」

 

優しい目で言うシオンさんに、ドキッとしつつも俺はこの人にも家族が居たのかなと考える。

 

「さて、明日はまず貴方の王…リアス・グレモリーと魔王の一人であるサーゼクス・ルシファーの催眠の解除です。」

 

「まずはって事はその次は誰にするんだ?」

 

「催眠を解除した魔王を通じて他二名の魔王の催眠解除とその後は、貴方の仲間の催眠解除ですね。」

 

「おう、分かった。

そんで、その後は、ズェピアに挑むってことか?」

 

「……そうですね、しかし、その前に難関が……」

 

「ネロ・カオス……だっけか。」

 

ズェピアが信頼を置く男、ネロ・カオス。

どれ程強いのかもズェピア以上に未知数だ。

何せ、ズェピアの能力は少しは分かってるのに対してネロ・カオスの能力は不明だ。

 

部長の話では生き物を体から出すらしいが……。

 

「ええ、彼を倒さないことにはズェピアと戦うのは無理でしょう。」

 

「無視ってのも出来なさそうだしな。

オーフィスは?」

 

「オーフィスは私達を倒しには来ないでしょう。

ズェピアなら、そうすることを頼む。」

 

「やけに、ズェピアの事を知ってるんだな。」

 

「…まあ、エルトナムである以上は仕方ないことです。」

 

「そういうもんか。」

 

「そういうものです。

いいから、他にも確認することはあるんですよ!」

 

「は、はい……。」

 

強引に話を切られてしまった。

まあ、仕方ないことだろうが……。

 

その後は、俺の神器の能力や、仲間の能力を教えてほしいと頼まれ、教えた。

その後、一人で考え込んでしまったので、夕飯までテレビを見ていることにした。

 

母さんが扉を開けて、夕飯が出来たと伝えると考え事をやめて俺と共に下に行くが……

 

「あら、シオンさんはトマトが苦手なのね。」

 

「え、ええ…ちょっと……少し……かなり……結構苦手です。」

 

「そう……食べれなければ一誠に渡しちゃってね。」

 

「すみません、用意してもらったのに……」

 

「いいのよ、ウチの人も未だにゴーヤが食べれないんだから。」

 

「おい、ゴーヤが食えない大人は意外と居るだろう!」

 

…トマト、苦手なんだなぁ。

俺は問題なく食えるけど。

やっぱり、食感とか味が嫌だったりすんのかな。

 

夕飯を食べて風呂に入った後は母さんが用意してくれた部屋でシオンさんは寝た。

俺は少し考え事をした後寝ようとしたが、ドライグが呼び止めてきた。

 

『…相棒、仮に事が上手く進んでズェピアに挑めても、奴の神滅具を越える兵器にだけは警戒を怠るなよ。

何があるか分からないからな。』

 

「分かってる、ありがとなドライグ。」

 

『宿主の心配をしただけだ。』

 

ドライグはそれ以降話すことはないのか反応しなくなり、俺はそれを確認したあとすぐに寝た。




……メルブラキャラはもう出ないと思った人、挙手。

まあ、このシオン、中々の訳ありのようですが……


今更な事を言わせてください。
感想ください 待ってます!


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『私の出来ること』





暗い空間、浮いているのか、落ちているのか何百年経っても未だに分からない空間で、私は『彼』と居た。

あの時保護?されて、私は『彼』とずっと二人でこの空間に居た。

 

そんな『彼』が、私に頼み事をしてきた。

 

『私の代わりに、あの現象を解決してきてくれないか。』

 

(何故?私が行かなくても、貴方が行けばすぐに終わるはずだ。)

 

『私が行けば、確実に世界は混沌と化すだろう。

それは避けたい。

だが、私はこの現象を解決したい。』

 

(……そこで、私の出番ということですね。

分かりました、非力な身ではありますが、やるだけやってみます。)

 

『……すまんな。』

 

それはどれに対しての謝罪なのか。

私を行かせることに対しての謝罪なのか。

私の未来を見据えた上での謝罪なのか。

それとも……

 

『では、頼む。

私も、最初だけは干渉して手助けしよう。

何度もやってはバレてしまう。』

 

(貴方は、世界のために私を送るのですね。)

 

『無論だ、あの現象を放置すれば世界があれに呑まれる。

そうすれば、何が起こるのか……。

それだけが怖くて、君を送る。』

 

(貴方でも、怖いものがあるのですね。)

 

『私とて生物の枠組みからは外れられぬ身。

どうして先の見えぬ暗闇を鼻から笑う事が出来ようか。』

 

そう言う彼は、言葉通りに目が不安そうだった。

私は自然と笑みが出た。

何時ぶりに笑ったのか、覚えてはいない。

思えば、私も性格というか言葉遣いもこの日々で知らぬ間に変わった。

 

……うん、私のためにも解決しようという決意は出来た。

どこまでいっても弱い私でも、あの世界なら多少は通じるかもしれない。

 

(では、行きますね。)

 

『ああ、どうかよい最期を。』

 

最期はもう味わったのに、変な気分だ。

また終わりを迎えるなんて。

 

そうして、私は暗い空間から、『あの人』のいる場所へと向かった。

 

 

 

────────────────────

 

 

 

「おはよう、シオンさん。」

 

「おはようございます、一誠。」

 

「今日は大忙しだな……一緒に頑張ろうぜ!」

 

「ええ。」

 

眠そうな様子を見せないシオンさん。

恐らく、あの後すぐに寝て俺よりも早くに起きたんだろう。

 

俺達は朝食を食べてすぐに家を出る。

何せ、今日は都合のいいことに学校は休み。

 

部長の家に向かいながら会話をする。

 

「結局、シオンさんの目的は俺達と同じでいいんだよな?」

 

「貴方の目的はズェピアを倒すことですが、私は違います。」

 

「えっ。」

 

「私の目的はズェピアを『止める』事です。」

 

「……どう違うんだ?」

 

「深く考えなくていい。

それよりも、着いたようですよ。

中々に大きな家だ。」

 

「……うーん、最近ゴタゴタしてて忘れてたけど部長は貴族だから、家もデカいよな。」

 

二人して、デカいと感想を述べる。

城とかじゃないが、周りの家より数段デカい。

 

「……それで、一誠。

一応のために聞いておきますが、貴方はどういった口実で家に入れてもらう気で?」

 

「一応考えちゃいる。

部長は部員には甘いんだ。

そこに付け入るようで心が苦しいが……俺が同級生から逃げてるってことにして入れてもらう。」

 

「なるほど、一部高校生ではありがちな虐めを使うと。

……なら、少し怪我しておいた方が信憑性も高くないでしょうか。」

 

「あー、それもそうか……」

 

「なんなら、今からやりますか?」

 

「ここでかよ、本末転倒だろ。」

 

俺達、抜けてるなぁ……。

あ、そうだ。

 

「シオンさん、何か尖ったもんってありますか?」

 

「小型のナイフなら……」

 

「あるんだ……貸してくれます?」

 

「どうぞ。」

 

すんなりと貸してくれたし。

まあ、ちょっと痛むが……

 

俺は、片腕にナイフをあてがい、それを振るう。

服ごと皮膚は切れて、そこから血が流れる。

 

「っ……よし、これでどうだ!」

 

「周りに人がいなくてよかったですね。

それなら襲われたと信じてくれるでしょう。

本当に身内に甘いのならですが。」

 

「大丈夫だって、まあ見てな(笑)」

 

「一瞬で信用できなくなりました。」

 

「えぇ……。」

そんなノリで俺はインターホンを押す。

すると、声が聞こえてくる。

よし、演技、演技……

 

『どちら様でしょうか。』

 

「ひ、兵藤一誠です!」

 

『い、イッセー?ちょ、ちょっと待っててちょうだい!』

 

ブツッという音がしたので部長か家の人が来た瞬間の台詞を考えておこう。

どうしようか……

 

ガチャリ、という音と共に扉が開く。

 

「イッセー、家に何か用……!?どうしたの、その腕は!」

 

「ぶ、部長……助けてください!

知らない奴が俺を襲い掛かってきて……」

 

「……貴女が、助けてくれたの?」

 

「腕に切られた傷があり、酷く怯えた様子でしたので。

それより、傷の手当てをしましょう。」

 

「そ、そうね……。」

 

シオンさんも、ゴリ押してくれたからか部長は信じてくれたようで入れてくれた。

リビングで、座らされて少し待っててと言われたのでじっとすることに。

 

「……あー…すげぇ罪悪感だな。」

 

「そうですね、しかし、もうやったことです。

あまり引き摺らないように。」

 

「そう、だな。」

 

そうだ、こんなことで一々沈んでたらズェピア達との戦いで負けちまう!

 

「戻ってきた瞬間に、彼女を元に戻します。

騙しうちのようで私も心が痛みますが、必要経費だ。」

 

「……ずっと嘘を見るより、マシだと思う。」

 

「…ですね。」

 

心苦しいけど、やるしかない。

そんでもって、この悪夢を終わらせるんだ。

 

しばらくして、扉が開き、部長が入ってくる。

 

「イッセー、待たせてごめんなさ──」

 

「ふっ!」

 

シオンさんは即座に動き、俺にも刺した糸のような物を首筋へと刺す。

 

「っ!貴女、一体──ぁあっ!?」

 

「……申し訳ありません、こうする方が早いと思ったので。」

 

「ぅ、ぁぁ……!」

 

部長が、その場で頭を抑えて踞る。

 

「部長、大丈夫ですか!」

 

多分、俺と同じような状態なんだろう。

さっき演技してた身としては白々しい気もするが、あれは仕方無かったから……。

 

「い、イッセー……」

 

「部長、俺です!眷属のイッセーです!」

 

「…ええ、ごめんなさい、思い出したわ。」

 

部長は妙に冷静な様子で立ち上がる。

 

「部長…本当に大丈夫ですか?」

 

「大丈夫よ、私は…王なんだからずっと調子が悪いといけないわ。」

 

「あ、はい。」

 

「……そりゃあ確かに何かあるごとに驚いたり何だったりしてたけども、その反応は酷くない?」

 

「いや、いやいや……大丈夫です!

俺は部長を信じてます!」

 

「これが終わったらお仕置きね。」

 

「マジ震えてきやがった……怖いです。」

 

「……あの。」

 

『あっ。』

 

「……頑張ってくださいね、さようなら。」

 

「待ってくれ、待ってくれ!」

 

「私達が悪かったわ!だから行かないでちょうだい!」

 

二人でシオンさんに謝罪する。

 

やばい、部長との会話で忘れていた!

これは明らかに謝罪案件、土下座も惜しまない!

 

「いえ、いいんですよ?

私は別に。

私はもう居ないような存在ですし、ズェピアを止めるのも元々難しそうでしたし、楽ができるからいい。

どうぞ二人はこの家で良い雰囲気出しながら仲良くしてればいいじゃないですか。

私の事は、どうぞ、御構い無く!」

 

消えてる!目からハイライト消えてる!

仕事してないぞこれ!

 

その後、必死の謝罪にシオンさんは次やったらもう知らないと拗ね気味に許してくれた。

可愛かった。

 

 

 

 

 

 

全てを話した後、部長は納得してくれたのか魔王様が来るまでこの家で待つことに。

父さんと母さんには友人の家で泊まり込みの勉強会と言っておいた。

 

俺は難しい話はよく分からんのでシオンさんと部長の会話を聞いている。

 

「結局、私には貴女が何者か分からないのだけれど。

このタタリの中でしか生きられない存在と考えればいいの?」

 

「そうであり、そうでないといったところですね。

私はズェピア・エルトナムを止めるために来た者であり、元からタタリの住民ではない。

そして、私のこの体は本来の私の体ではありません。」

 

え、じゃあシオンさんの体は借り物みたいなもんなのか。

幽霊か何かなのか……?

 

「実体を持てない存在なの?」

 

「そうなります。」

 

「なら、その体になった方法で元の姿になれば……」

 

「それはいけません。

それをすれば、私達は確実に詰みます。」

 

「それはどうして?」

 

「『私』は彼に対しての切り札になり得る。

それまで、この姿で居なければ、最悪な事態が訪れたときの対処が難しくなる。」

 

「最悪な、事態……?

それはタタリが世界を包み込むこと?」

 

「いいえ。

……すみませんが、言えません。

あまり、言いたくはない。」

 

「……そう。

なら、言いたくなったときに言ってくれればいいわ。

それに、貴女が味方なら心強いし。

よろしくね、シオン。」

 

「ええ、タタリの中だけでの協力ですが、よろしく頼みます、リアス。」

 

微笑んで握手をする二人に、俺はよかったと安堵した。

何せ、部長は最初警戒心MAXだったからな。

俺も説明したんだが、俺自体シオンさんをあまり知らないから疑いは深まるばかりで、シオンさん自身から説明してくれたのだ。

 

その後、シオンさんは紅茶を飲む。

 

「……紅茶。」

 

「紅茶がどうかしたのかしら?」

 

「……いえ、少し、思い出していただけです。」

 

「…それは、ズェピアとの思い出?」

 

「…。」

 

部長の問いに、黙りこむ。

多分、肯定なんだろう。

 

「私は弱いから、だから、今頑張らなきゃ。」

 

「…そう。」

 

「……。」

 

俺は、何も言えない。

彼女をよく知らないから。

何処か嘲笑するような彼女に、俺は弱くないなんて、言えなかった。

 

 

だって、その時のシオンさんは本当に自分の弱さを悔いるような顔をしていたから。

いつかの自分の無力にうちひしがれる俺に似ていたから。

 

 

 

────────────────────

 

 

 

 

「……行くのかね?」

 

「いつ出るのかの判断を任せたのは貴様だ、タタリ。

どれ程に楽しめるかは知らんが、何、一度限りの生だ。

存分に楽しもうと思ってな。」

 

クツクツと、彼はいつものように笑う。

楽しそうに、本当に楽しそうに笑うのだ。

私も、それにつられて笑う。

 

「…もし私が死ねば、次は貴様だ。」

 

「元より、黒幕たる私が出なければ物語は終わりにならない。

ならば、華々しく舞台にあがるのが常識というものだ。」

 

お互い、承知の上だ。

思えば、彼にはずっと助けられてきた。

あの子を失ってからは、それを埋めるかのように接してくれた彼に、私とオーフィスは感謝しかない。

 

先程まで黙っていたオーフィスが、口を開く。

 

「カオス、勝つ?」

 

「無論。貴様を遺して死ねば何があるか分かった、ものではないからな。

だが、仮に私が死ねば……その時は頼む。」

 

「……ん、任せて。」

 

「ふ、良い返事だ。

……ではな。」

 

「ああ。

……良き舞台を、偉大なる先達者。」

 

「さて、私は喰らうだけの獣。

舞台は荒れに荒れるだろうよ。」

 

彼の体が、地面に溶ける。

……気配は、この周辺からは消えた。

 

「……ズェピア、心配?我は心配。」

 

「ハハハ、そうかね?

私は彼が負けるとは到底思えないよ。

私達は私達の舞台を、彼は彼の舞台を造り上げるだけの事。」

 

「……たまに、ズェピアの言葉は分からない。」

 

「全てが分かっては、監督として失格だからね。」

 

私は、私のやることをやろう。




彼は『混沌』だ。

だが、あの世界での『混沌』とは違う部分がある。

それは判明するまでのお楽しみ──


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『混沌─序章─』

どうも、ロザミアです。

タイトル通り、彼が出ますが、まだ本番ではないとだけ。


昼過ぎほど、昼食も食べさせてもらった。

シオンさん、料理うまいなぁ……。

部長と俺とシオンさんはまだ部長の家で魔王様が帰ってくるのを待っている。

 

中々魔王様が帰ってこないので不安になってはいるが、宛もなく探しても意味はないので、こうして座って待っているわけだ。

 

「……ねえ、ズェピアの目的は何なのか分かる?」

 

「いえ、私にも分かりません。

彼がなぜこうしてタタリで世界を覆おうとしているのか……」

 

「そう…」

 

「なあ、ズェピアはシオンさんの『切り札』で勝ちの可能性があるのは分かったけどよ。

ネロ・カオスはどうやって倒すんだ?

ズェピアの相棒って感じだったから、強いんだよな?」

 

「ええ、ネロ・カオス…彼はある意味ではズェピアよりも厄介な存在です。

彼は個を相手するより、群を相手することに長けている。」

 

「一対多数を出来るほどの能力、実力はあるって事ね。

……だとしても、一人で挑むのは危険ね。」

 

「はい、それどころか、私達だけで挑んでも勝てるかどうか……」

 

「そんなに、強いのか……」

 

コクリと頷き、紅茶を飲むシオンさん。

冷静に見えるが、本心までは分からない。

 

「シオンさん、勝機はあるのか?」

 

「魔王達を戻せればチャンスはあります。

これは完璧にネロ・カオスの動きによります。」

 

「そうか……なら──「静かに!」えっ」

 

じっとしておいた方がいいか、と言おうとしたときシオンさんが何かを察知したかのように俺の言葉を遮る。

 

「……何か、聞こえませんか?」

 

「何かって……」

 

俺と部長も耳を凝らしてその何かを聞こうと試みる。

 

時計の針が進む音、心臓の動く音──

 

 

─何かの、唸り声のようなものが聞こえた。

 

「確かに、聞こえるわ。」

 

「……獣か?でも、犬の声には程遠いよな……。」

 

「…まさか!

 

二人とも、今すぐ家を出ますよ!」

 

「え、お、おう!」

 

「わ、分かったわ!」

 

凄い気迫で言われ、俺達は玄関まで走る。

 

玄関まで着いたその時、上の方でバリンッと窓ガラスが割れる音が聞こえた。

マズイと感じ、俺達は外まで出る。

まだ昼頃の筈なのに、夜のように暗くなっていた。

 

「今のは、ネロの仕業か!?」

 

「はい、獣の一匹を差し向けて来たのでしょう。

後何体来るか分かりません。

何処かへ逃げますよ!」

 

「なら、一番後ろは俺が!」

 

「ええ、任せるわ、イッセー!」

 

俺を後ろに配置して、走る。

何処へとは決めていないが、取り敢えず開けた場所。

ここだと戦うとしても狭すぎる。

 

顔だけ後ろを向かせて部長の家の方を確認する。

 

「なんだ、あれ……!?」

 

「魔獣……?」

 

ライオンに近い姿をした黒い獣が家から出てきて、俺達を見捉える。

 

獣は俺達に向かって走り出した。

 

マズイマズイマズイ、あれ一体ならまだしも他にも来る可能性があるならマズイ!

 

「二人とも、公園へ行きます!

あそこなら十分に戦える!」

 

「ええ。

イッセー、あの獣が迫ってきたら対処お願い!」

 

「はい!」

 

くそ、アイツ速いぞ!

着々と距離を縮めて俺達を喰おうとしてくる。

 

そして、十分な距離になると、獣は俺目掛けて飛び掛かってきた。

 

「でぇいっ!」

 

「■■■─!」

 

振り向き様に蹴りを顔にぶつけて横に吹き飛ばす。

 

手応えは感じるのに、何処か変な感覚がする。

今のうちに倍加で、身体を強化する。

 

『相棒、これは誘い込まれてるぞ。』

 

「んなの、分かってる!」

 

ドライグの言葉に乱暴気味に答える。

 

獣は執拗に俺達を追い掛けてくる。

知らぬうちに、地面から他の形の獣も湧き出て俺達へ向かってくる。

 

数は今のところ、15体。

 

『■■■!』

 

無限に湧き出るとか……無いよな……?

 

「公園が見えました!」

 

「でも、これは……」

 

「ええ、確実に誘い込まれています。

追い込まれてる、の方が正しいですが。

 

……居ました。」

 

真ん中で待ち構えるように立っている大男は、俺達が公園まで入ると振り向く。

獣たちも、俺達へ唸りながらも止まる。

 

「来たか。存外、早く釣れたな─む?」

 

「…。」

 

コートを着た大男─ネロ・カオスはシオンさんを訝しげに見る。

 

改めて、相対して分かった。

こいつは、強い!

 

「─姿はシオン・エルトナムだが、中身は違うな。

貴様は……いや、お前は……。

 

クク、ハハハ……!」

 

「っ……。」

 

ネロは傑作だと言わんばかりに笑う。

シオンさんとは知り合いなのか……?

 

シオンさんを見ると悲しそうに目を伏せている。

 

「ハハハ!よもや、お前が私達へか。

その殻を被ってまで、過去の幻影に過ぎないお前が私達を止めに来たか。

誰の差し金だ?」

 

正体を察してるのか、親しそうに話し、聞いてくるネロにシオンさんはネロをしっかりと見る。

 

「答え、られませんね。

私は…っ、私は、貴方や、ズェピア、オーフィスを止めるために来た。

たとえ、私が過去の幻影で、弱虫で、戦いから逃げてきた者だとしても……それでも私は!」

 

「…そうか。

ならば殺すか、私を、ズェピアを。」

 

「殺すのではありません!止めるんです!」

 

「甘い、実に甘い答えだ。

最早、止める止めないの域ではないのだ。

既に、我らは殺すか殺されるか。

至って簡単な弱肉強食な域までになった。

よもや、その可能性を考慮しなかったお前ではあるまい。」

 

「っ……でも、私達は……」

 

「……迷いを捨てきれないのは親に似たか。

ならば、逃げ帰るが良い。

口先だけ宣うのならばそれこそ童にも出来る。

今のお前は、見るに堪えん。」

 

ネロはシオンさんの考えを、尽くを否定する。

心を折ろうとしているのか、それとも、知り合いだから見逃そうとしているのか。

 

シオンさんは、俯いて押し黙る。

 

ネロは、黙ってしまったシオンさんを冷めた目で見る。

まるで、人とすら思ってないような目だ。

 

「……私は…」

 

「あの頃の、お前の意思の固さは、もう残っていないのか?

私が、私達がお前を通じて見つけた人間の美しさは、お前にはもう無いというのだな。

逃げ帰る力も湧かぬか。

ならば、いっそ苦痛無く喰らうのが私にできる最後の礼だ。」

 

その言葉を皮切りに獣が次々と俺達へ襲いかかってくる。

目の前で餌を食べることを待たされ、ようやく許可されたような勢いで、俺達へとその牙を向ける。

 

俺は一発でも貰わないようにしながら獣を殴ったり蹴ったりして倒していき、部長は消滅の魔力をぶつけることで獣を消し去る。

シオンさんは、余程ネロの言葉が効いたのか、黙ってしまったままだ。

 

「…シオン!貴女、ズェピアを止めるって言ってたじゃない!

それを敵の言葉だけで貴女が止まってどうするの!?」

 

部長が、シオンさんの説得をしている。

動けと、止まってはいけないと。

 

俺は、更に身体を倍加で強化して獣達を倒す。

ああくそ、俺一人でこれの対処は長く出来ねぇ!

 

「……リアス、しかし、私は…彼の言葉が、正しく思えるんです……!

私は、現に迷ってしまっている!

分かってたんです……もう、彼らは死ぬまで止まることはないなんて事はっ…

それでも、私は……」

 

「……シオン、一つだけ聞かせて。」

 

泣き叫ぶように、シオンさんは言葉を吐き出す。

部長はシオンさんを真っ直ぐに見て問う。

 

「─貴女は殺したいの、殺したくないの?」

 

「……!」

 

「貴女の、本心を言いなさい。」

 

「部長!獣がどんどん……!ぐぁっ!」

 

深くはないが爪が肩を引っ掻かれた。

くっそ、こんなんじゃ部長とシオンさんが!

 

「私、は──」

 

どのみち、シオンさんが居ねぇと俺達は勝てない。

なら、時間を稼がないと……そう思って戦っているのに、体にどんどんと疲れが溜まっていく。

 

そのせいか、一匹の獣が俺の横を通り過ぎて部長達の方へ行ってしまうのを許してしまった。

 

「─部長!シオンさん!」

 

「っ!……?」

 

銃声が、辺りに鳴り響いた。

 

部長を 喰おうとしていた獣の頭に穴が空いている。

 

「シオン…!」

 

 

 

「──私は……殺したくない。

あの人達との約束を、こんな形ではなくて、しっかりとした、笑顔を浮かべて……ただいまって、言いたい!」

しっかりとした足取りで立ち上がり、決意の籠った目でネロを見捉える。

 

ネロはそれを見て、獰猛な笑みを浮かべる。

先程のような冷めた目が、嘘のように。

 

「そうだ、その目だ。その頑固さ、戻ったか。」

 

「ええ、私は、何があっても……もう、私を見失わない。」

 

「ならば、止めてみろ。

この暴虐を為す私を、壊れても家族がために動く奴を!」

 

「ネロ・カオス…貴方を必ず『止めます』!」

 

シオンさんは、そう言って銃をネロへと向ける。

 

「部長、やりましたね!」

 

「ええ、でもイッセー、終わったわけではないわ。

私達が不利なのは依然として変わってない。

何か、後一手……いえ、二手はないと……」

 

絶望的状況には変わりない。

だけど、シオンさんはもう諦めはしない。

なら、何かあるはずだ。

 

その時、突然対処していた獣達が消え失せた。

何があったのかと後ろを振り向くと、傷だらけのシオンさんが倒れていた。

 

しかし、周りには獣の死体が多くあるところを見るに一方的ではなかっただろう。

 

「シオンさん!」

 

俺はすぐにシオンさんを抱き起こす。

あの短時間でこんなに……くそ、強すぎる。

そもそも、獣が多過ぎて本体までが遠い。

 

「お前の強さは意思の固さだ。

……だが、実力はやはりその殻に頼った戦術だったようだな。」

 

「ぅ…ぐっ……まだ、まだです……!」

 

「…その傷だらけで尚立ち上がるか。

……ふ、いいだろう。

今日はここまでとしよう。」

 

「どういうつもりだ!」

 

「シオン・エルトナムに免じて……という訳ではないが、私はお前との戦いをもう少し楽しみたい。」

 

「勝機を、逃すというのですか……?」

 

ネロはくつくつと笑う。

 

「勝機を逃す、そうとも見えるか。

しかし、私は強欲でね、もう少しだけ、お前と別の面で語らいたいという欲が出た。

それに従うまでの事よ。」

 

「……ネロ、貴方は……」

 

「確かに要二人を目覚めさせたのは最良とも言える。

だが、後一手遅かったな。

短期間とはいえ時間のある内を、存分に活かせ。」

 

「……。」

 

ネロはそう言って、地面へ溶け込む。

獣もまた同じように消え去った。

 

欲に従って、か……後悔させてやるぜ、俺達に時間を与えたこと……!

 

「すみません、イッセー……私のせいで。」

 

「謝ることじゃないぜ。それどころか、シオンさんのお陰で時間が出来たんだから俺達が感謝しなきゃな。」

 

「ええ、その通りよ。

ネロがあんな事をするとは思ってなかったけど、これでお兄様達の催眠を解けるわ。」

 

「いえ、ネロがああしたのはきっと……」

 

「シオン?」

 

「……。」

 

「シオンさん?……よかった、寝てるだけだ。」

 

二人して安堵のため息を吐く。

戦闘が初めてだったのか……?

その割には、あんなに獣を倒せてたけど。

 

「部長、どうしますか?

家の方はもう……」

 

俺はシオンさんを背負ってどうするかを部長と相談する。

 

「そうね……でも、お兄様はまだ催眠に掛かってるから家に帰ってくるはずよ。

一応、私達も家へ戻りましょう。

情報もある程度掴めたしね。」

 

「はい!」

 

傷の手当てもしなくっちゃな。

 

……ネロ・カオス。

アイツとズェピアが一緒に来なくてよかった。

二人が相手だったら確実に俺達は殺されていた。

 

いや、ネロ一人が相手でもあの状況は本気を出せば殺せたはずだ。

 

……本当に、欲に従ったから、なのか?

 

 

公園に、カラスの不気味な声が鳴り響いた。




シオン・エルトナムの中身はもうこの物語を見てきた皆様なら分かりますね。

問題は、他にあるんですけどね。


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『欠片』

どうも、ロザミアです。

今回はズェピアと後三人くらいしか出ません。




夢を見ている。

何時寝てしまったのかも分からないが、夢を見ているのだけは理解できた。

ポツンと一人、部屋に取り残されたように立っている。

 

「……ふむ、ここは私の家、とすると、私の記憶を元にした夢ということだろうか。」

 

「───…」

 

「む……?」

 

ふと、声が聞こえた。

よく聞き取れないが、呼ばれたような気がした。

後ろを見ると、誰かが私のベッドでぐっすりと寝ている。

 

金の髪が綺麗な、女性だ。

 

「─おやおや、可愛らしいお嬢さんだ。」

 

「──ズェピア?」

 

「起こしてしまったかな。

おはよう、お嬢さん。

君は、私の事を知っているようだが、君は──」

 

 

 

「─貴方、誰?」

 

「…………私は、ズェピア・エルトナムだが。」

 

そう答える私に、女性は微笑みを浮かべて私の頬へ手を伸ばす。

私は、何もせずにそれを受け入れた。

頬へそれが触れた瞬間、懐かしい温かさだと感じた。

 

「違う、貴方は違う。

私の知っている、『貴方』じゃないもの。

……ねえ、思い出して、貴方は──」

 

 

 

─本当に、『そう』なの?

 

意識が、闇へ落ちる。

 

 

 

 

─────────────────────

 

 

 

「……夢……?」

 

椅子に座った体勢で、寝てしまっていたらしい……

立ち上がり、辺りを確認する。

 

「……ここは、違う。

タタリではない……。」

 

辺りは、白い空間だった。

私が一人、居るだけの空間。

 

どういうことだ……?

 

「─そう、ここはタタリじゃない。」

 

「……君は…姿が見えない。

いや……?ノイズか、これは。」

 

後ろから声がして、また振り向くと、今度はノイズがかかったかのように、姿が分からない。

 

なのに、声は鮮明に聞こえる。

一体、誰だろうか。

 

「■は、何者でもない。

■は、お前が忘れた誰かだ。」

 

「私が忘れた……誰か?

舞台には登場する予定のない役者、エキストラですらない裏方という事かね。」

 

「いいや、■は既に登場している。

そも、ずっと『ここ』に居る。」

 

「……ふむ。

君が、登場している…一体いつなのか聞いても?」

 

「いつ?おかしな事を言う。

■は最初からいるじゃないか。

お前が『忘れている』だけだ。」

 

不愉快だ。

何者なのかは知らないが、目の前の存在は私に大きな不備があると抗議している。

私が、劇場に大きな見落としを作る?

何をバカなことを。

 

「勿体振るのは感情を引き出すソースになるが、長引くとただの煽りとなってしまう。

いい加減教えてはくれまいか?」

 

「常に教えている。

最初から、それこそお前がこの世界に居るときから、そして居ないときからも。

■を忘れるなんて、監督としてどうなんだ?

役割を忘れるも同義だ。

実にナンセンスだと思わないか?」

 

「私自身が思い出さなくてはならないと?」

 

「その通りだ。

どうか、思い出してほしい。

手遅れになる前に。」

 

……手遅れ?

未だ手遅れではないというのか。

私が、友を裏切り、世界を敵に回した今でもまだ間に合うと?

 

「そうだ。

お前に必要なモノを、忘れたままなのはそれこそ損というものだ。

思い出せ、今がある理由を。

あの約束を。」

 

「約束……?

オーフィスとの約束ならば今……」

 

「本当に?

それよりも、大切な約束があったはずだ。」

 

「それより、大切な……?

……だが、思い出せないということは、今は重要なことではないのでは?

ならば、思い出すのは諦めても問題はないだろう。」

 

「それは諦めではない。

停滞だ。」

 

ノイズは、パズルをどこからか取り出す。

あれは、私か。

私が描かれたパズル……顔だけ、ピースがはまってない。

 

「─これを、お前の記憶とする。

■は欠片だ。

だが、お前が思い出さない限り、たとえどんな結末になろうと■は自分からはまる気は毛頭ない。

そして、他にも欠片は存在する。

名前、日々、家族…これらを思い出さなくては、お前は真に望む対決を、満足に出来ないだろう。」

 

「……。」

 

「それに、このような雑なパズルを残して、終わりへ向かうというのか?

それはいけない。

神へ要求し、その姿になったのに、そんな雑ではいけない。

…お前がこのピースを忘れて、果たしてこの舞台は─」

 

ノイズは、パズルを私に渡すように差し出す。

私は、それを受けとる。

 

 

 

「─交じり合ったコレに相応しいに足る、終わり(トゥルーエンド)になるのか?」

 

「──君はっ……!」

 

そこで、夢に近い何かは途切れた。

 

 

──────────────────────

 

 

 

「……私は…。」

 

「ズェピア?どうかした?」

 

「……オーフィス、ネロは?」

 

「カオスは、まだ帰ってこない。

多分、殺るか殺られるかまで帰ってこないと思う。」

 

「……そうか。」

 

「…ズェピア、元気ない。

どうしたの?」

 

オーフィスが心配そうに私を見る。

 

……一瞬、誰かの顔と被ったように見えた。

おかしいな、私はこの子を通じて誰かを無意識に見ているのか?

 

「オーフィス……私には、大切なナニカが抜け落ちている。

心当たりはあるだろうか?」

 

「……大切な、ナニカ?」

 

「ああ……私が、私でなくなるような感覚がして、気になるのだよ。

私を構成する上で欠かせないようなナニカなのだろうが……どうだろうか?」

 

 

 

「───知らない。そんなの、知らない。」

 

「オーフィス……?」

 

オーフィスは、顔を俯かせて知らないと強く否定した。

何故、そんなに拒絶するように否定するのか。

知っているのか?

 

「……ズェピアは、我をしっかりと見てくれてない。

どうして?我はこんなにもズェピアを見ているのに。

なのに、どうしてズェピアは……幻影ばかり見る?」

 

「幻影……?私は、君をしっかりと見ている「嘘をつかないでっ!」…。」

 

「我に無くて、アレにあるのは、何?

我はずっと、ズェピアの為、ズェピアの為と頑張ってきたのに、アレはただ居るだけだったのに!

どうして、どうして……!!」

 

腕が折れないように、だが自分の存在を示すように強く握り、涙を流して私を睨むオーフィスに、私は何も言えなかった。

 

……取り繕った言葉だけではダメということが分かった。

 

「……私は、君のいう、アレすら覚えてない。

だから、それを思い出したい。

君に答えを提示するためにも。」

 

「要らない、そんなもの要らない。

ただあの連中を殺して、アイツも殺して、皆殺して、我と居てくれればいいの。

どうして分かってくれない?

我は、ずっとズェピアの事を愛しているのに。

ズェピアは我の愛に見向きもしない!

何が足りない?

力ならある、知恵なら身に付けてきた。

魅力がない?娘としての我だから?」

 

「落ち着きたまえ!」

 

私は一人暴走しているオーフィスを落ち着かせようとする。

どうして、こうなったのか。

私が、聞いたからか。

アレとは、誰だ……早く、思い出さなくては……。

 

「……ごめん、少し、一人になる。」

 

「……ああ。

すまない、オーフィス。」

 

「……。」

 

オーフィスと私との間にある壁……この正体を私はきっと忘れてしまっている。

思い出さなくてはならない。

そうだ、嘘の終わりなんて許さない。

脚本家としても、個人としても……そんな終わりなどごめんだ。

 

このタタリは私にとっての戦いでもあるということか。

自分に襲われるとは、何と不可思議なことか。

 

やってやろうじゃないか。

 

■■■■■、君を思い出して見せる。

 

 

 

──────────────────────

 

 

 

どうして、こんなにも求めてしまうのか。

時折、感情に身を任せてしまう自分が恐ろしい。

ずっと昔、我には感情がなかった。

……いや、感情はあったが、出す機会がまるでなかった。

 

我を見てくれてるのは、分かっているのに。

どうして、あんな言葉が……。

 

「……我は……」

 

怒りをただぶつけるような言動。

あれはいけない。

あれは、良くない。

確かに、我はズェピアが好きだ。

けれど、フリージアも好きだ。

……好きな、はずなのに。

 

どうして、あの時我は邪魔だと思ってしまったのだろう?

 

大切な、家族なのに。

再会を待ち望んでいる筈なのに。

 

いつか帰ってくる彼女を、どうして……。

 

ああでも……一つだけ、ハッキリしている。

 

 

 

─我だけを見てもらいたい。

 

そんな、どす黒くも一途な願いを我は持ってしまったということを。

 

人が願いを叶えようとするのは……当たり前、だよね?

 

 

ズェピア。




ずっと溜めに溜めていた感情が、爆発した結果がこれだよ!

あ、でも女性が好きな男性に自分(だけ)を見てほしいのは当たり前の事だから普通ですね!


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『衝突』

どうも、ロザミアです。

ハッピーエンドがいいかバッドエンドがいいか……悩むなぁ。

関係ないけど、fgoの岡田以蔵さんが大好きになったぜ。
ナーサリーの方が好きですが。

ではどうぞ。


劇場は狂い始めている。

歯車は逆へと廻り始めた。

 

世界はより混沌へと落ちる。

一人の男が愛ゆえに起こした行動は、一つの食い違いで化け物を生む。

 

それでも、『あのまま』ならば……

 

 

きっと、それを己の愛を、その獣に示すだろう。

 

 

 

──────────────────────

 

 

 

「っぐ……ぅ……」

 

一人で頭を片手で抑え、ふらつきながらも家を目指す。

 

突如として、起こったこの現象に、僕は戸惑いを隠せない。

割れるように痛いと同時に、何かが流れる。

痛みと津波のように流れ込む情報に、僕は蹲る。

 

これは……

 

『……いやいや、魔王様に話しかけられるとは思っていなかったものでして。確かに私は悪魔ではありません。私は吸血鬼です。』

 

「これ、は……?」

 

これは、彼との最初の…… 

 

次々と、『本来』の僕の記憶が流れてくる。

 

『サーゼクス、君が王だろう』

 

そうだ、君は、こんな情けない僕を王だと、友人だと言ってくれた。

理想を見付けるのは、僕だと。

 

僕たちを、何度も助けてくれた。

 

『ならば、その役目、引き受けよう。

ただし、君だけではない。

君達四大魔王が真に王としてやっていけるのか。

それを見定めさせてもらう。』

 

「……。」

 

君は、見定めると、僕に言った。

元より僕が頼んだ事だ。

 

でも、君は……

 

『─さぁ、始まるよサーゼクス。

君の『理想』を、私に示したまえ。』

 

「──……ああ、そうだ、僕は…。」

 

……君は、僕達の理想を確かめるために、何より家族の為に、道を違えた。

 

なのに、あの時──

 

 

─酷く、苦しそうに見えたのは僕だけなのだろうか。

 

君の、あの顔は何なんだ?

何をそんなに苦しんでいるんだ?

 

僕達が、君をそこまで追い込んでしまったのか?

 

…もし、そうなら……

 

「─それでも、君は友だ。」

 

たとえ身勝手と蔑まれても、僕は、僕達は君を助け出して見せる。

 

僕は立ち上がって、家へと急いだ。

もし僕でこうならば他の皆は……!

 

まずは、近い場所から。

リアスや他の皆も心配だ、もし襲撃でもされていたらひとたまりもない……。

 

 

 

─────────────────────

 

 

 

「これは…!?」

 

戻ってきたら、仮初めの家は少しボロついていた。

荒らされたにしては、損傷が少し大きい……特に玄関の扉は粉砕に近い形で壊されている。

 

まさか、リアスはもう……!

 

「リアス!無事か!」

 

僕はすぐに家へ入る。

 

すると、奥の方から声が聞こえた。

 

「お兄様!」

 

「リアス、よかった…!無事なんだね。」

 

リビングから顔を出したリアスに、僕は安堵する。

よかった……。

 

「リアス、この惨状は、ズェピアか、ネロ…どちらが?」

 

「お兄様、もしかして催眠が……」

 

「催眠?ああ……僕なら大丈夫だ。

それより……」

 

「え、ええ。

ネロ・カオスです。

襲われたけど、イッセーとシオンのお陰で何とか……」

 

「待ってくれ、シオンとは誰だい?」

 

「シオンは……」

 

そこから、僕は今までの顛末を聞いた。

シオン・エルトナムという少女がイッセー君とリアスの催眠を解除してくれたこと、ズェピアを殺すのではなく止めるために来たこと、ネロに襲われたがシオンのお陰かは不明だがしばらくの猶予ができたこと。

 

「……そうか、彼女は今どうしてるんだい?」

 

「疲れて寝ています。

イッセーも休んでいいと言ったんですけど、『起きてないと不安なんです』って……。」

 

「そうか…。

取りあえず、ここは危険だ、別の場所へ行かないと何時襲われるか分からない。」

 

「ですが、何処へ……」

 

「駒王学園のオカルト研究部はどうだろう。

必ず安全とはいえないが、僕らが一番集まるのはそこくらいだろう。

冥界までは再現してないみたいだしね。

 

……ところで、起きているにしてはイッセー君の反応がないね。」

 

「そういえば……少し見てきます。」

 

そう言ってリアスは二人を見に行った。

……僕は素で話してるのにリアスは敬語なのはなんだかなぁと空気を読まない事を考えながら待つ。

 

やがて戻ってきたリアスは苦笑して首を横に振る。

僕も思わず、苦笑してしまう。

 

「…そうか、なら、仕方無いね。

少しだけ、ここに居よう。」

 

「そうですね。

 

……ところで、どうしてお兄様だけ催眠が勝手に解けたんでしょう?」

 

「それは……多分、ズェピアから僕への挑戦だからかもしれない。

僕が僕でなければ、僕の理想は彼へと届かない。

……でも、僕だけじゃダメだ。」

 

「アジュカ様とセラフォルー様ですね。」

 

「ああ、これは僕たちの理想を示す戦いでもある。

ファルビウムの分まで頑張らなくてはならない。」

 

そうしてようやく、第一歩なのかもしれない。

君への本当の恩返しはこれしかないのかもしれない。

 

だが、僕たちの隣で、それを見届けてほしいと思ってしまうのはきっと僕の甘さなのだろう。

……それでも、僕は君を止める。

 

 

…それにしても、シオンという少女の話を聞く限りだと

僕の知る人物では一人しか浮かばない。

でも、それだとおかしい。

魂はこの世に長く留まれない筈なのに、どうやって今まで留まれたのかという疑問が生じる。

 

…なるべく早めに聞いた方がよさそうだ。

全てを明るみにしないと、この事件は終わりそうにない。

そんな予感が、僕にはあった。

 

 

 

─────────────────────

 

 

 

何かがぶつかり合う音が響く。

ぐちゃり、と獣が弾けとんだ。

それを使役する男は未だに不敵な笑みを崩さない。

 

対して、獣を拳一つで消し飛ばした少女は不機嫌そうに睨む。

その目から光は消え、闇が見える。

 

「どうして、邪魔をする?」

 

「貴様は動かぬという話であったはずだろう。

貴様が動けばそれこそ全てが呆気なく片が付く。」

 

「それの何が悪い?

我は、ズェピアの役に立ちたい。」

 

「そのような目には見えんな。」

 

「…!」

 

少女は男へと体を向けながら後ろの空へと手を伸ばし、掴む。

その手には、鴉が首を折られ、だらんと死んでいた。

 

「この程度の奇襲、我には通じない。

これ以上邪魔をするなら、カオスでも、容赦はしない。」

 

「貴様の『無限』ならば私を殺せると?」

 

「余裕。」

 

「ふっ、そうか。

ならば今ここで試してみるか?」

 

「……どうして、邪魔をする?

我は、ズェピアに振り向いてほしいだけ。

その為にあの悪魔どもを殺して全員の首をズェピアに見せて褒めて貰おうとしてるだけ。

それの何がいけない?」

 

「タタリめの頼みとはまるで真逆だな。

貴様のその行為は悲しみを連鎖的に生み出すのみだぞ。

感情に身を委ねるのは感心せんな。

今更、恋に気づかれない焦りが出たか?」

 

「……うるさい、うるさいうるさい!!」

 

乱暴に力を強めたせいで周囲がどんどんと崩れ去る。

感情の暴走。

それを表すように地面にクレーターが出来ていく。

 

その後、顔を俯かせて、少女は薄く笑う。

 

 

「……もう、いらない。

カオスも、フリージアも、皆いらない。

結局は『あの』ズェピアだけが…あの人間だけが我の理解者で、我の『恋』を受け止められる存在だった。

なのに、ズェピアはアレを忘れるだけならまだしも自分も忘れた!

我が恋したズェピアはもういない。

 

─でも、身体はあの時のまま。

ふ、ふふ…なら、我の愛を受け入れてくれるのはあの身体だけなの。

我に、残ってるのは、『ズェピア』だけなの。

邪魔を、しないで─!」

 

「恋は盲目とはいうが、これでは失明ものだな。

タタリも甘やかしが過ぎるというものだ。

……だが、ここまで力をセーブする気のない奴が相手ではな。

……三分が限度か、それまでに止めるしかあるまい。」

 

男…ネロ・カオスはそれでも自分は死なぬと信じて疑わない。

あの時のような失敗は繰り返さないと心に決めていても、彼にとっての絶対は自分の混沌だ。

 

故に、彼は臆することなく『無限』と戦う決心があっさりとついた。

だが、彼に油断はない。

 

 

 

─何故なら、策はもう練られた。

 

少女…オーフィスは突如懐疑そうにネロを見る。

 

 

「─さっきから何をしている?」

 

「さて、何だろうな。」

 

「…まあ、罠でも踏み抜いて殺すだけ。

我の邪魔をするなら、家族でも容赦はしない。」

 

「現代の言語でいう、ヤンデレ、というやつか。

厄介なものだ。

だが、龍を喰らうのも一興か─!」

 

かつて家族であった無限と混沌が、人知れずぶつかり合う。

 

夜の街は、まだ終わらない──。




いやぁ、恋は盲目っていい言葉ですよね。

にしても、無限の龍神を惚れさせるズェピア氏は罪深いなぁ(本人の現状を見てワインを飲みながら)

教授は無限に勝てるのか!?


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主役

どうも、ロザミアです。

今回、二人しか出ません。


夢を見ている。

 

男が必死に何かを読んでいる夢を。

 

『─ああ、そうだ。

忘れちゃいけない。

俺はまだ果たせてない……。』

 

ピタリと、五ページは読み進めてそこで手を止めてある一ヶ所を大事そうに見ている。

忘れまいとしているように、私は見えた。

 

『これがあるなら、しばらくは忘れない。

……でも、いつかこれが意味を無くす…それまでに。』

 

男は急がねばならない理由があるようだ。

忘れない内に、何かを終わらせようとしている。

 

─ああ、これは私だ。

 

間違いなんてあり得ない。

これは、私だ。記憶があり、この『私』になる前の『私』だ。

何と、羨ましい。

 

今の私は、一つも思い出せなくなったというのに、夢のお前はまだその域ではない。

 

『…結局、俺はアンタを越えない。

当然か……俺は、アンタじゃないもんなぁ。』

 

諦めのような声。

この男は、ワラキアの夜を越えようとしていたのだろうか。

憧れが挑戦へと変わり、それが無理だと断じる彼は、それでも弱気な表情を浮かべなかった。

 

『まあ、家族を大事にした点は、俺の勝ちだな。

これが俺の誇れる唯一の点だから、負けれませんわ。』

 

寧ろ、一つだけでも勝てた。

ならば、それでいいと笑う彼に、私は呆れた。

 

「─君も、逸般人じゃないか?」

 

そこまでボロついて笑えるとは、私も呆れるというもの。

 

なんだ、最初から答えはあるじゃないか。

 

そうして私は、意識を落とす。

どうせまた出てくる奴を叱るために。

 

こういう展開は、好きじゃない。

 

だが、悲劇的すぎるのはもっと好きじゃない。

 

 

 

 

──────────────────────

 

 

 

 

目を開けるとそこはまたしても白い空間だった。

 

「芸がないな、ここは。」

 

「そうかな、■は好きだけどなぁ。」

 

「私は、このように殺風景が続くと観客が減ると言いたいのだがね。

まあ、それはどうでもいい。

君のいうように私は答えを見つけてきたぞ。」

 

「わお、そりゃ凄いや。

聞かせてもらっても?」

 

「構わないとも。」

 

推理など柄でもないし、元より自分との会話なのだからイタイだけなのだがね。

まあ、戻るためにはこのノイズとしてしか居られない存在を舞台に戻さなくてはならない。

 

「まず、私は君の神からの特典の一つであるタタリの改造、それに忘却という機能を追加した。

合っているね?」

 

「まあ、せやな。」

 

「これによって君はタタリを使う毎に死徒のデメリットを無くしたにも関わらず何かを忘れるようになった。

それは使えば使うほどに効力の増す、いわば呪いだ。

人として無意識に願ったのか?」

 

「……どうだろうな。

もう今となっては分からない。

だけど、あの時は多分、忘れることが人であった証と考えたのかも知れない。」

 

自分は元々人であると認識するための忘却。

だから半端な死徒なのだ彼は。

 

元より全てを覚えるなど辛い以外の何物でもない。

それを彼は何処かで理解していたから無意識に頼んだのだろう。

 

「そうして、現代に至るまでタタリを使い続けてきた君はとうとう重要なモノを忘れた。

ああ、『今ここにいる』君ではない。

─もう消え去った『君』だよ。」

 

そう、本物の『彼』はいない。

だが、目の前の彼もまた本物だ。

 

「んー……そこまで理解が及ぶとは、流石はアトラス院院長殿…を元に作られた人格様。」

 

「私がいるのは君のせいなのだがね。

さて、彼は事前に自分と同じ存在をこのタタリに作り出していた。

自分が消えたときの為の保険として、彼と同じ記憶を持ち、彼自身でもある君をね。

記憶は全て忘れる前のモノと忘れた後の出来事を君にインストールして、彼は消えた。

そうして存在するのが、『忘却』というデメリットの影響を受けていない君だ。」

 

私もだが、彼もまた変わった存在だ。

私はズェピア・エルトナムを元に作られた人格であり、彼は『彼』を元にして作られた人格だ。

 

私が覚えているはずもない。

私は忘れた後に出来た存在なのだから、記憶の不備が多少あるのは当然の事だ。

対して彼は全てを覚えている。

そうなるように作られた存在だからだ。

私とは違う。

 

「そこまで言えるのは凄いっすよ。」

 

「いやいや、ヒントを彼処まで出されたからこそだ。

……さて、交代の時間だよ、■■■■。」

 

「その名前はもう捨てたっ!

よし、言えた。

……でもよ、交代ってことは今度はお前がここに閉じ込められるんだぜ?

ずっとだ。

時間の影響も何もない空間だぞ?」

 

「何だ、そんな事か。」

 

「そんな事って……」

 

そんな悲しそうな顔をされても困る。

元より、私は彼が消えなければいなかった存在だ。

それに、死ぬわけではないのに大袈裟な。

 

ああ、そういえば、顔が見えるようになってるな。

なんとも凡人らしい顔だ。

前世はサラリーマンかな?

 

「君の物語だろう。」

 

「えっ。」

 

「君が始めた劇場だというのに、どうして主役がいないのか?

それではいけない。

折角完璧な状態なんだ、舞台に戻り、演じたらどうかな。」

 

「お前が演じれないのはいいのか?」

 

「おかしな事を言う。

私は舞台として常に演じているだろう。」

 

「は?」

 

「私はタタリだ。

いわば、この舞台が偶然人の形をとって少しはしゃいだだけの事。

私は本来の私に戻るだけで、君は本来の役に戻る。

全てがあるべき形に落ち着くだけなのだよ。」

 

そう、私はタタリ、現象のタタリだ。

 

今更、結界としての役割に戻ることに何の抵抗があろうか。

寧ろ、この舞台になることで役者たちの演技を見落とすことなく観賞できるのだから、これ以上の娯楽はあるまい。

 

こんなにも楽しみにしてる私に対し彼は不安そうだ。

 

「でも、■に出来るのか?

■が、ズェピア・エルトナムの体に戻って、そこから本当の終わりへ導けるのか?」

 

「それは、君次第だ。

私はただ本来の役割に戻り、君はいつも通り、ロールプレイをするだけだ。

……だが、もう君はズェピア・エルトナム足り得ない。」

 

「難しい言葉は分からん。」

 

「む、噛み砕いて説明しろと。いいだろう。

君は君の目指すズェピア・エルトナムとしてのロールは出来ない。

何故なら、この世界のズェピア・エルトナムは本物には無いものを得たからだ。」

 

「……そうか、家族か。」

 

「その通り、この世界での君は、君でしかない。

いや、君でなければならない。

約束を守れない私より、守ろうと必死に足掻く君の方が相応しいのだよ。

……さあ、もういいかね?」

 

「……。」

 

彼は、まだ迷っている。

あれほどこの世界を楽しんでいたくせに、いざ折れるとこれか。

我が身ながら不甲斐ない。

 

「何が不安なのか?」

 

「…いやさ───」

 

彼は悲痛そうな顔で、自らの不安を吐露する。

 

 

 

「─ヤンデレを制御できる気がしねぇよ院長。」

 

「……。」

 

「……。」

 

……ええ?

 

「そこかね!?」

 

「いや、当たり前でしょ!

あの病み度はヤバイって!

もう意☆味☆不☆明なほどにズェピアスキーになってるんだぜ?やべぇよ、マジ震えてきやがった……。

■が■として接しても、絶対ナイフでぶっ刺すって!」

 

本当に震えてるのが彼の恐怖度を示している。

泣きそうな目をしてるからこれは本当に怖がってる顔だ。

だが、私には怒りをぶつける権利がある。

 

「分からなくはないが、君のせいだろう!

そこは何とかしたまえ!

私もよく分からずにあんな暗い目で言い寄られた恐怖があるんだぞ!」

 

「何とかって何さ!

くっそぉ……いやでもさぁ……。」

 

自分がしでかした事だろうに、自分で解決してほしいものだ。

 

そう思い、呆れて彼を見ていると彼が突然苦笑し出した。

 

「……でもさぁ、■がやるしかないのも事実だよなぁ。」

 

「おや、やっとやる気を出したか。」

 

「いや、うん。

■が招いた結果だしね、■が何とかしないと。

もう死んでも娘を元に戻します。」

 

「そうか。

なら、主役交代だ。」

 

「─ああ、そうだな。」

 

私は手をあげる。

彼もまた、手をあげる。

 

凡人の手と、非凡の手。

だが、これの何が違おうか。

行き着く果てはどれも同じこと。

ならば、私という非凡が生み出す今のありふれた終わりより、この凡人の生み出す終わりこそが相応しい。

 

さあ、見せてくれ。

君らしい終わりを。

君らしい家族への愛を。

 

そして、ここで願っていよう。

 

そうして私たちは、ハイタッチをして、それぞれの道を進む。

 

「ここからは、俺が演じて─」

 

「─私が観るとしよう。

監督兼観客として配点は厳しくさせてもらおう。」

 

「お手柔らかに頼むよ。」

 

「それは出来ない相談だ。

シリアスを崩した罪を味わうがいい。」

 

「酷いや。」

 

「─再会を、願っているよ。」

 

「……俺も、ずっと願ってる。」

 

彼はそう言って、この場から消えた。

……さて、私が舞台となったか。

 

これはまた面白い題材だ。

 

彼の計算は何処まで答えを出せるのか。

方程式が合っているのか、ここで見させてもらおう。

 

 

……

………

 

…おや?まだ私にスポットライトを充てるのかね?

 

やめておきたまえ、そんな事をしていては重要な場面を見過ごす。

退場した役者の一言でも期待しているのか?

 

だとするならば、私は一言だけ言いたい。

 

 

「─願わくば、次のタタリが良き演目でありますように。」

 

 

 

 

──────────────────────

 

 

 

 

戻って、来れたのか。

……ああ、この感覚だ。

俺の感覚は、これだ。

 

シリアスを崩すのは十八番だなぁ、俺。

 

意外と早く交代したな。

……そうか、今、ヤバイ状況だな。

 

いや、それよりも、だ。

 

言うことがあるだろうに。

 

開幕といこう、はもう言った。

幕といこう……はまだだな。

 

「……ふふ、そう、そうだった。」

 

ああ、これこれ。

 

この姿の俺といったら、これだ。

 

 

 

 

やあ、皆の衆。

俺だ、ワラキーだ。

 




戻ってきた馬鹿野郎。

書いてて思ったけど
卑屈になったり決意決めたりで忙しい親父だなこいつ。



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叫び

どうも、ロザミアです。

ポケモンの作品作りたい、他の原作もしたい。
そんか最近です。


俺が戻ってきたときには色々とマズイ状況になっていた。

俺は教授を通じてモノを見れる(あのズェピアは忘れていたようだが)がまさかああなるとは。

 

……あ、もう始まってます?

えー、監督、言ってよ。

俺が監督だよ!

 

さて、やあ、皆の衆。

俺だ、ワラキーだ。

 

この挨拶は欠かせないよなぁ?

え、要らない……?

そう……。

 

現在、俺は教授とオーフィスの元へと向かっている。

 

ヤンデレを拗らせたオーフィスを止めようと教授が奮闘したらしい。

というか、俺みたいな奴に惚れるとか教育間違えたな。

 

俺?俺は好かれるのは嬉しいよ。

でも、家族だし、そういう目で見れないっていうか……

いくら体をボンキュッボンとかにしても『あ、今度からその姿になるの?』って感じだし。

 

寧ろさ、娘に言い寄られるのは同人誌だけでいいって言いますか。

 

応えられないってことなのよ、これが。

 

「……ふむ、ここか。」

 

着いたぞ、ここがあの二人の戦闘場ね!

 

冗談はここまでにしよう。

 

辺りを見渡すと、まあ酷い位にボッコボコだ。

ビルは倒壊とかのレベルを通り越して消滅しとるし、クレーター凄いし、DBじゃないんだからさぁ……。

 

オーフィスの姿は見当たらない。

撤退したのか、それとも……。

 

「……酷い有り様だ─先達よ。」

 

「……貴様は、そうか……戻ってきたか。

遅刻は厳禁だろうに、馬鹿者め。」

 

「申し訳無い。」

 

クレーターの中心地には、教授が地に伏していた。

死んではいない。

無限の力を使われる前に『使った』か。

 

教授を起こして、質問する。

 

「もしや、『創生の土』を?」

 

「捕らえ続けるのは不可能なのでな、埋め込んだ。

いつまで持つかは知らんが、元々真祖を捕らえるためのモノだ、三日は持つだろうよ。」

 

マジか、『創生の土』で三日かよ。

 

「……ふむ。

だが、因子の半数を使ったが故に消耗が激しく、去り際の一発で先程まで気を失っていたと。」

 

「そのメタ読み、正真正銘の貴様だな。

だが、あのズェピアはどうした?」

 

「タタリとして、あるべき形へ。」

 

「……そうか。

貴様よりも反応が良いもので弄り甲斐があったのだが、残念だ。」

 

「私にリアクションのセンスはないと?」

 

「無いわけではない。

だが、貴様は何かと知ったような面持ちゆえに演技に粗がある。

それは否定できまい?」

 

「……ふむ、確かに。」

 

イタイ所を突かれた。

俺のリアクションは53万の筈なのに……くっ!

 

「居場所は分からないのかね?」

 

「本人が痛みに悶えているのか動きすぎて把握できん。

今のうちに事を済ませるべきだろうよ。」

 

「……私も出ようか?」

 

「要らん。

私が戦い、どのような結末に至るのかを私自身の目で確認したい。

……体が思うように動かんな。」

 

「ふむ……魔獣の因子が不足しているせいか、君の存在にまで影響を及ぼしている可能性があるな。

修復しても?」

 

「出来るのならば頼む。」

 

「任せたまえ。」

 

久々に魔獣創造を使うときが来たか。

まあ、また因子を教授にぶちこむだけ……ん?

 

いや、そうか、因子……そういうことか。

 

何故、気づかなかったんだ、俺。

 

「ところでだね。」

 

「何だ、手短に言え。」

 

「この魔獣創造、君が貰う気はないかね?」

 

「何?」

 

そう、魔獣創造を入れれば教授の因子の役割を果たせるかもしれない。

それに、俺の仮説が正しいなら、サーゼクス達が教授を倒すなら……あのやり方をするだろう。

 

「どうだろうか。」

 

「…なるほどな、私が仮に現存し、内包している因子が消えたとしてもそれさえあれば随時補給が出来るからか。

無駄手間を割くのにいい考えだ。

……ならば、頼む。」

 

「うむ。」

 

すぐに終わるんだがな。

魔獣創造は元から俺の魂に定着してはいないから取り出しは楽だ。

 

ん?神器は魂と同一化してるような物じゃないのかって?

それは宿してしまった者ならだな。

俺のように他者から取り出した神器は魂に定着することはなく、魔力のような力として内側にあるだけだ。

 

というわけで、俺は教授にエーテライト先輩を刺すことでエーテライト先輩を経由して魔獣創造をぶちこんでやるぜ。

 

「…完了だ、気分はどうかね?」

 

「中々に心地いい。

だが、妙な気分だな、私を創造した神器を私が宿すというのは。」

 

「まあ、違和感がないだけマシでは?

私は、君がそれを手にしたというだけで自分がやったことでありながら身震いがするよ。」

 

「私が裏切らぬように震えているがいい。

……まあ、あり得んがな。」

 

「君も律儀だな、本来の君なら獣の名の通りに動いたろうに。」

 

「ふっ、家族を持ったからなのかもしれんな。」

 

その言葉に俺は少し呆然とする。

彼が家族と言ってくれたのはかなり久しいかもしれない。

嬉しいという気がするがそれを言ったら面倒なので言わないでおいた。

 

「……貴様は、オーフィスに狙われているぞ。」

 

「だろうね。

今回、君が邪魔したことで主役達への干渉は困難と理解しただろう。

ならば、直接私へ向かってくる可能性もあるはずだ。

……もしかすれば、懲りずにサーゼクス達を殺そうと画策するかもだが。」

 

「貴様で勝てるのか?」

 

「結論を言うと無理だ。

私が彼女に戦闘で勝つことは不可能に近い。

あの子は本来神仏を歯牙にもかけない程に強いからね。

いやはや、それすら上回るグレートレッドは何なのだろうね。」

 

「文字通り、星に属する化け物だろう。」

 

「どの神話にも属さぬが故に不明、か。

これならば妄想神話の方がまだ優しいな。

……では、私は戻るよ。

君がどうするかは任せたいが……だが、欲を言わせてくれ。」

 

「何だ、戻った途端に多少女々しいな貴様は。」

 

「そこはもう変えようがないからね。

…どうか、死なないでくれ。」

 

俺の本心だった。

彼が戦い、死ぬのは彼にとっての吸血鬼の死。

無論、彼が死ぬとは思っていない。

だが、それでも、言いたかった。

 

我ながら面倒臭い性格だよな。

でも、家族を失う覚悟なんて俺には持てない。

俺はそこまでおかしくない。

 

「しかし、オーフィスが彼処まで狂うとは……私の何がいけなかったのか。」

 

「何だ、気付いてないのか馬鹿者め。

オーフィスは貴様の家族への愛に狂ったのだ。」

 

「私の?」

 

「そうだ、貴様のソレは暖かすぎる。

加えてオーフィスは貴様に恋をしている。

それがいけなかったのだろうか、混じり合った結果が歪な感情を暴れさせる恋と愛を見分けられなくなった奴だ。」

 

「……ふむ。」

 

CCCでも愛と恋と現実について結構語られていたが、こう聞くと納得してしまうというか、何というか。

 

「とても困った事態なのを再認識したよ。」

 

「貴様の中の『人間』が好きでたまらないのだろうな、喜べ。」

 

「全くもって嬉しくない。私は父と慕われればそれでいい。」

 

「親馬鹿め。」

 

「そうだが、何か?

そのようなルートはIFに投げ捨ててしまえばいい。

私は家族が大事なだけのひ弱な吸血鬼でいいとも。」

 

それだけが取り柄だし、それだけでいい。

多くは望まない。だってねぇ……望みすぎるのはよくないよね。

 

……サーゼクス達はそろそろ■イズだよ全員集合してるかな。

 

 

 

──────────────────────

 

 

 

「ァ、ァ"ア"─────」

 

熱い、体が焼けるように熱い。

何かが体の中を食い破るように暴れている。

 

「ァガ──カオ、ス、ゥゥ──!!」

 

元家族へ恨みを込めて叫ぶ。

 

許さない、許さない、許さない!

憎い、ある人を除いて全てが憎い。

邪魔をするなんて、許さない。

 

これでは、ズェピアに何も渡せない。

魔王達の、首、主役の首、殺して、殺して……!

 

カオスも、殺す…!

 

ズェピア以外、殺してやる。

ソレ以外要らないんだから殺してもいいんだ。

我が、悪いなんてあり得ない。

我は我の愛に殉じているだけだ。

人が人へ贈り物をするのは普通だ。

 

我はソレが『ズェピア以外の生命』を贈るだけだ。

 

グレートレッドも、殺して、ズェピアと一緒に生きて、生きて生きて生きて生きて生き続ける。

 

「我と、ズェピアだケの世界ヲぉ……!」

 

でも、あれはズェピアじゃない。

あの人間なズェピアはどこ?

きっと隠れてるだけだ。

姿を見せて、そしたら、我の物にする。

この因子を逆に食い潰して、会いに行くからね。

 

その時は、我を、受け入れてくれるよね?

 

 

「アは、あははハハハはハHAhahaha──」

 

痛くない、こんなの、その時が来るまで痛くない。

ズェピアも言ってた、痛みを我慢するのも必要だって。

我が、痛みを我慢した、きっと褒めてくれる。

我が、みんな皆殺したら、よくやったねって言ってくれる筈だ。

 

我を拒むはずないんだ、我はアイツと違う、ずっと隣に居られる。

 

だから、だから───ズェピアも。

 

 

「─我ヲ、求めテよォ……!」

 

 

ああ、何で?

何で、その日がすぐにあるはずなのに涙が流れるの?

 

痛い、イタイよ、ズェピアぁ……。




ヤンデレを溢れさせていくオーフィスちゃん。

私、興奮しません。(涙目)


んー……息抜きに何かの作品での短編でも挙げようかなぁ…って思ってます。
やるかはしりませんが。


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集結

どうも、ロザミアです。

今回はズェピア視点はないです。




あの後、イッセー君とシオンが起き、リアスが事情を説明してくれたおかげで事は拗れずに進んだ。

 

次の日になってから、リアスの眷属達を元に戻すのには時間は掛からなかった。

彼らにも事情を説明し、次にアジュカ達を戻す為に彼らを電話で学校へと呼んだ。

その時、今日は授業参観じゃないとか面倒だとか言われたけどそれでも来てほしいと頼んだら渋々と了承してくれた。

 

しかし、ズェピアは僕達と戦って、尚且つグレートレッドを倒さねばならないのに、何故ネロに確実に仕留めるように言わなかったのか……。

 

いつでも殺せるという余裕……ではないな。

なら、ネロが独断で行ったということ。

そして、ズェピアは全権をネロに委ねた。

前半戦という、全権を。

 

……それにしても、シオンは誰かに少し似ている。

何だろう、それが何かまでは分からないが……。

 

「お兄様、考え事ばかりしていては疲れてしまいます。」

 

「え?ああ……いいんだ、こうしている方が今は落ち着く。

…ネロを倒し、ズェピアを倒す。

最初から難関だ。」

 

「魔王様はズェピアとネロとは手合わせとかしたことないんですか?」

 

「ネロとはないけど、ズェピアとならある。

……そうだね、僕から言えることは一つだけだ。

今のズェピアは単体でも僕らを相手取れるくらいには強い。

加えて、切り札の『黒い銃身』…どんな能力を秘めているのか不明だ。

情報がないということはそれだけで強みになるからね。」

 

「な、なるほど……。

シオンさんは、何か知らないのか?」

 

「…彼には吸血鬼としての弱点がありません。

それに、彼は他にもタタリを用いた攻撃や、エーテライトによる精神掌握等もあります。

彼自身、吸血鬼…死徒としても上位でしたし、下手に近付いて攻撃するのは愚策でしょう。」

 

「エーテライトというのは、私達を戻すのに使った糸のような物の事ですか?」

 

「ええ、姫島さん、その通りだ。

私の情報処理能力とズェピアの情報処理能力には差がありますので彼の方が早く私達の体を動けなくできるでしょう。

刺されたら一貫の終わりと思ってください。」

 

……やっぱり、彼は強い。

だというのに、彼の行動原理は自身の目的を入れても家族という要素が大半を占めている。

 

本当、君の親馬鹿加減には呆れてしまうよ。

無限の龍神も娘として扱うなんて、誰もしないだろうに。

 

そういえば、何度か彼に聞いたことがある。

 

『君はどうしてそんなに強いんだい?』

 

『私は強くはない。

君よりも弱いとも。』

 

『そんな事ないだろう?

現に僕は負けたじゃないか。』

 

『ハハハ、君には未だ足りていないからだよ、サーゼクス。』

 

『足りていない?』

 

『うむ、私にはもう理由があるからね。』

 

『理由って、どんなだい?』

 

『それは、教えられないな。

なに、君もすぐに見付けられるとも。

頑張りたまえよ。』

 

僕が聞くと、いつもいつも笑って流してしまう。

でも、今なら分かる。

君の言う理由は、家族なんだろう?

 

これが、僕の妄想かも知れなくてもいい。

家族のためにも、負けられない、無様は晒せない。

君は心の底ではいつだって怖がっていたんだろう。

 

自分と言う家族にとって『父』という立ち位置が負けたらその後に何が起こるのかが怖かった。

 

だから襲撃の時にも決して屈服しなかった。

それを為すための力を身に付けてきたから。

 

……もしこの妄想が真実なら、君は……。

 

「魔王様。」

 

「どうしたんだい?」

 

「いえ、深く考えていたようなので、私達でよければ何か力になれればと。」

 

確か、搭城 小猫だったかな。

丁度いいから皆に聞いてみよう。

 

「…なら、聞きたいんだが、いいかな?」

 

「はい。」

 

「君達はオーフィスが動くと思うかい?」

 

「シオンさんがそれはないと言ってました。

ズェピアがまずそれをさせないと。」

 

「……だろうね。

彼ならそうする。」

 

「魔王サーゼクス、何か引っ掛かりでも?」

 

「いや…僕は動かないとはどうにも思えなくてね。」

 

「何故です?

オーフィスは貴方達がタタリに呑まれた時も何もせずに見ていたと聞きました。

それに、ズェピアが娘のオーフィスを動かすとは思えない。」

 

「……普通なら、僕もそこで動かないと思うよ。

だが、僕は見てしまったんだよ。

あの、恐ろしい目を。」

 

「……目?」

 

あの時、タタリを阻止しようと結界を破壊すべく突っ込んでズェピアに蹴られたとき、確かに見たんだ。

 

 

『……あはっ。』

 

あの時、確かに彼女は笑っていた。

それも僕を見てじゃない、ズェピアを見て。

 

まるで、彼を龍の姿になって喰らうのではと錯覚するほどの目だった。

 

「オーフィスは、ズェピアとは別の目的で動く。

そんな予感が僕の頭から離れない。

……一応、心に留めておいて欲しい。」

 

「もし戦うとしたら……無限の龍神に勝てるんですか?」

 

「ハッキリと言いますが、0です。」

 

「分かってはいましたが、悔しいですわね…」

 

「こ、怖すぎますぅ……!」

 

「…ドライグ、お前は何かないか?」

 

『……。いや、無い。』

 

ん?何だか歯切れが悪いというか、隠しているような感じだ。

この緊急事態なのに隠す事……?

 

「…?そうか、魔王様達の次にズェピアを知ってるのはお前だから、頼りにしてるぜ。」

 

『ああ……任せろ。

…シオンだったか、少しいいか?』

 

「…なんです?」

 

『お前が来たのは、約束(・・)?』

 

「…止めるためです。

約束など、何も。」

 

『そうか。

おかしな質問をした、許せ。』

 

「構いません。」

 

…気になるが、今は他の事を考えよう。

 

「安心したのはネロとズェピアは別々で動いているという点だ。

ズェピアがネロとの戦いに介入することはないだろう。

……だが、聞かせて欲しい。

シオンはどうやってネロを止めるつもりだい?」

 

「それは今から来るであろう二人の魔王を戻してから説明します。

二度説明するのは嫌なので。 」

 

「そうか、じゃあ、その時に頼むよ。」

 

説明は後々か。

まあ、何をするかは大体分かるし、いいんだが。

 

そして、扉をノックする音が部屋に響いた。

シオンは立ち上がって、いつでもエーテライトをさせるようにしている。

この魔力は二人のだ。

 

「いいかい?僕が出るから、君達はもし二人が抵抗したら止めてくれ。

恐らく、悪魔という事すら覚えてないから其ほどの強さはない筈だ。」

 

『はい…!』

 

シオンを除いた全員が小さく頷く。

 

 

「……私が外すと?」

 

「そうは言ってないけどさ。

事前に言っておいた方がいいだろう?」

 

僕は扉を開けて、声をかける。

 

「やあ、来てくれたんだね、二人とも。」

 

「もう!今日は学校休みの日じゃない!」

 

「なのに開いていたが。

少し外で探したくらいだ。」

 

二人とも、変な格好はしてない……

変な格好をしてないっ!?あのセラフォルーが!?

こんなの何十年、何百年振りだ……?

 

最早、魔王少女な格好をしていないセラの姿を見た僕は異様な体験をした気分になっていた。

これがズェピアの言っていたSANチェック

 

「ハハハ、ごめんよ。

ま、中に入ってくれ。」

 

「そうさせてもらう、外は暑くて敵わん。」

 

「ああ──シオン、今だ!」

 

僕が扉を開けて退いた瞬間に僕の後ろに居たシオンに指示を飛ばす。

 

「了解。」

 

シオンは即座に行動へと移し、二人の首筋へとエーテライトを飛ばし、刺すことに成功した。

 

「何を──!?」

 

「イタッ──!」

 

二人は続きを喋れなかった。

頭を抑えて苦しみだしたからだ。

イッセー君やリアス、そしてリアスの眷属達にもこのような反応が出たので、解除は出来たようだ。

 

シオン曰く、情報が流れ込むような感じなので処理するのに脳が働いているので痛いらしい。

僕だけは別なので、その感覚は分からないが皆はうんうんと頷いているのでそうなんだろう。

 

しばらくして、アジュカとセラフォルーが頭を抑えながらも立ち上がる。

 

「─おれは しょうきに もどった!」

 

「裏切りかな?」

 

「いや、今のは遊んだだけだ。」

 

「う~……頭が痛い……飲んでないのに。」

 

「帰ったら飲むといいよ。

二人とも、手荒な真似をしてしまってすまない。」

 

「こうするしかなかったのなら、仕方のないことだ。」

 

「そうよ、それに……今はそれどころじゃないんでしょ?」

 

「ああ、二人の力が必要だ。

力を貸してくれ。」

 

二人は当たり前だと言わんばかりに頷く。

周りの皆はその様子にホッとしたようだ。

 

「そっか、私達が最後だったのね。」

 

「それは別にいい。

サーゼクス、諸々の説明を頼む。

元の状態には戻ったが、現状が分からん。」

 

「そうだね、手短に説明しよう。」

 

僕は今まで何があったかを説明した。

ネロとズェピアを止めること、ここがタタリで世界がどんどんタタリに呑まれていってること。

 

…ズェピアが、僕達をこの事件を通して確かめようとしていることを。

 

他にも色々だ。

 

「…ふん、これだからあの家族馬鹿は好かんのだ。

娘の願いを叶えるのもいいが、度が過ぎる。

あの娘が見たら何を思うか分かってるのか?」

 

「絶対分かってないって。

あの子なら『ズェピアの馬鹿、嫌い!』とか言うわ。」

 

「いや意外と軽い罵倒だな……。」

 

「多分それ、ダメージでかいよね。」

 

「「それな。」」

 

「は、話は済みましたか!

早く作戦を伝えたいのですがっ!」

 

突然シオンが乱暴に話を切ってきた。

何で顔を赤くしてるんだろうか?

まあ、少し三人の空間になってたから周りの皆が各々で別の事し始めちゃってしね、話を進めなきゃね。

 

「すまない、お願いするよ。」

 

「ええ。

まず、この作戦は一度きりです。

失敗すればすぐに対策を取られることでしょう。

……では、内容を伝えます──」

 

 

そこからシオンの考えた作戦は短時間で考えたにしては素晴らしい物だった。

説明している様は、どことなくズェピアに似ていたので少し驚いてしまったが。

 

シオンの言っていたネロの不死性。

 

666の獣の因子が彼を不死身足らしめる。

一度に殺しきらなければならないというのだ。

ともすれば下手な伝説上の生物よりも不死身だ。

 

止めれるなら、そうした方が得策なのは間違いない。

 

だが、シオンの場合は別の事情がありそうだ。

それが何かは分からないが……僕は僕の使命を全うするだけだ。

 

彼の期待に応えるというのはもうしない。

彼はもう友でなく敵になったのだから。

 

だが、夢だけは諦めるものか。

 

彼を殴って止めて、それから見せてやるんだ。

人を食い物にしなくなった冥界を、彼にその景色を見せるという彼への『罰』を僕は彼に与える。

 

それが僕の彼への答えだ。




次回、『混沌─決戦─』

彼らの作戦は通用するのか、それとも無駄に終わってしまうのか。


……それはそうと、テスト怠いです。



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混沌─決戦 前編─

どうも、ロザミアです。

今回は前編なのでそれほど派手な戦闘ではないです。


彼の黒のコートが風に靡く。

夜の街道には彼以外に人が居らず、彼も佇むのみ。

 

…先程までは。

 

「……私を止める作戦は思い付いたようだな。

シオン・エルトナム。」

 

彼の発言に答えるように何人もの人が対峙するようにして現れる。

 

先頭に立つ銃を構える少女は静かに答える。

 

「ええ。

貴方の不死性は滅びの魔力を使っても殺しきれない程のもの。

それに、私は貴方を殺すのではなく止めると決めました。」

 

その言葉を聞き、目の前の相手の数と相対しても彼は不敵な笑みを崩さない。

 

「ふっ、数も揃えたか。

なるほど、私一人では骨が折れる。

特に……魔王三人も相手となれば敗北の色は濃いな。」

 

「ならば、戦わずに敗けを認めて欲しい。」

 

「それは出来ぬ相談だな。

私はタタリの同盟者としてここにいる。

タタリを倒したくば、私を越えてからにするがいい。」

 

「……一つ聞かせてください。」

 

「オーフィスの事か。

─が心配にでもなったか?」

 

「…っ。」

 

彼、ネロ・カオスの言葉にシオンは考えが読まれているのが悔しそうに下唇を噛む。

 

「あれはもう我等の知る無限の龍神ではない。

あれはズェピア・エルトナムという存在に酔った化物だ。」

 

「な……それはどういう……」

 

「これ以上知りたいのならば、私を捕らえるなりするのだな。

私は、貴様らが相手にしてきたような者達より多少手強いぞ?」

 

戦いは避けられない。

彼は彼なりの覚悟でこの戦いに臨んでいる。

 

「……ええ、分かってます。

皆さん、準備はよろしいですか。」

 

「ええ、シオン。

私も、私の眷属達も全力でやらせて貰うわ。」

 

「魔王様達も居るんだ、負ける要素があるかよ!」

 

「そう言ってくれると嬉しいんだけどね。

うん、こちらもいけるよ。」

 

「……では、いきます!

ネロ・カオス、貴方を越えて、ズェピアと会わせて貰うためにも!」

 

こうして戦いは、始まった。

 

シオン達は、数名を除いてネロ・カオスの元へと走り、近づいていく。

だが、ネロ・カオスは瞬時に100は優に越える獣を自らの因子から生成し、向かわせる。

 

地上と空から獣の波が押し寄せる。

 

あれに呑まれれば一堪りもないだろう。

体が喰い尽くされ骨すら残るまい。

 

「ここは僕達に」

 

「任せてもらいますわ!」

 

「獣の処理は任せてもらおう!」

 

しかし、リアスの眷属である木場、朱乃、ゼノヴィアが獣を切り裂き、焼き焦がし、道を切り開く。

 

獣の波は勢いが弱まる。

しかし、こと数においては彼を上回るのは至難の技。

『666』である以上は彼はほぼ無限に獣を出せる。

獣を倒しても彼を倒さねばならない。

 

「数が多い…イッセー君達から話を聞いていたが、まさかこれ程とは!」

 

「長期戦は不利ですわね。」

 

「ああ、なら短期戦に出来るように更に殺せばいい!」

 

「脳筋極まってるなぁ……!同感だけどね。」

 

ならばこちらも更に多く殺すまでと進みながら獣を殺す。

 

当然、彼らも無傷ではない。

爪により浅く切られた傷や、一部噛まれたような痕が進むごとに増えていく。

 

それを見て、イッセーは自分も彼らと共に斬り込み役をしようとする……が。

 

「駄目だ、イッセー君!」

 

木場は獣を切り殺しながらもそれを声を荒げることで止める。

 

「な、どうしてだよ!俺もやった方が……」

 

「そうしたら駄目なんだ、作戦の通りにするんだ!」

 

「っ……シオンさん!」

 

「いけません。

私達はなるべく温存した形でネロ・カオスの本体と対峙せねばなりません。

あの三人が自らあの役を担うと申し出た勇気を忘れたのですか!」

 

「……くそっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

時間は彼らがネロ・カオスに挑む前まで遡る。

シオンが作戦の内容を説明し終えたところだ

 

「斬り込み役?」

 

「ええ。

ネロ・カオスは厄介なことに獣を大量に出すことができます。

しかも一体一体が魔獣クラス……。

全員でやろうとすればこちらがジリ貧で負けるのは目に見えています。

ですので、斬り込み役です。」

 

「負担を減らし、余裕を作って後続に繋げるためか。

何人だ?」

 

「……三人です。」

 

「なっ……!三人だって!?

だって、ネロ・カオスは100体なんて余裕で魔獣クラスの獣を出せるんだろ!?

そんなのをずっと殺し続けて道を開けるなんて……」

 

イッセーの言葉に何人かは同調する。

しかし、サーゼクス達魔王やそれ以外の者はシオンのそれが最適解だと分かっている為、否定できずに居た。

 

そんな中、極めて冷静に手を挙げる者が三人。

 

イッセーはその三人を見て、動揺した。

 

「木場、朱乃さん、ゼノヴィア……?」

 

「そう言うことなら僕たちの出番だ。」

 

「ええ、殲滅は得意ですし、私達は本体との戦いに着いていけるのかと問われれば正直キツいでしょうし。

ならば、こういう形で支えるしかないでしょう?」

 

「二人の言うとおりだ。

どの道、こういう役はいないといけない。

それなら私達が適役ということさ。」

 

「だ、だけど……死ぬかもしれないんだぞ!?

そんなことになったら─」

 

「─イッセー君。

君は、王の為に死ねないのかい?」

 

「は……?」

 

木場の唐突な問いに、イッセーは答えられなかった。

いや、答えられはしたのだろう。

だが、イッセーは木場達の目を見たら、答えられなかった。

 

それは、覚悟を決めた者の目だ。

 

「僕は死ねる。

元より、騎士とはそういう者。

王に仕え、王を守り、王の為に死ぬ。」

 

「女王もまた、同じですわ。」

 

「死ぬつもりは勿論無いが、そうなるかもしれないという覚悟は済ませてるんだ。」

 

「……僕達は君にずっと頼ってばかりだった。

強くなっても、君もまた強くなって。

だから、これは王である部長だけじゃなくて、君に恩を返す為でもあるんだ。」

 

「…木場……」

 

「いいんですね?」

 

「うん、斬り込み役は任せて。

その代わり、ネロ・カオス本体は任せるよ。」

 

「ええ、任せてください。」

 

 

 

 

 

 

 

 

「中々どうして根性のある。

我が獣の波を押し返すか。

だが、限界のようだな?」

 

「っぐ、くっ……!」

 

「まだ、やれますわっ…!」

 

「貴様の無限に獣を出せるそれはズルいと思うのだがな……!」

 

「何をいう。

私よりも化け物な奴など数多に居よう。

……だが、見事なものだな。

ならば、手向けとして受けとるがいい!」

 

ネロの影より、何かの腕が生えてくる。

その腕は今までの獣には該当しないほどの巨大さであり、腕が地面を支えに影より全体が出てくる。

 

 

「─グォオォオオオ─!!」

 

 

「──」

 

それは、外見は獣ではなく龍だった。

暴威を撒き散らし、恐怖を振り撒き、悪虐を成す邪龍。

 

「予め言っておくが、これは正確には龍ではない。

あくまで獣だ。」

 

「これが……獣!?」

 

「そうだ。

だが、これは龍と寸分違わぬ力を持ち、貴様らを容赦なく喰らうだろう。

気を付けろよ、ソイツは大喰らいで暴れ馬だ。

早々に倒さねば喰われるぞ。」

 

獣龍は木場達を捉え、ニタリと笑った。

活きのいい餌だ、と言うような笑みだった。

 

「シオンさん、消耗とか言ってられねぇ!」

 

「ええ…っ、まさか、このような手を残しているとは!」

 

「獣にしても冗談が過ぎるぞ………ん?」

 

アジュカは周りを見てあることに気付き、ネロ・カオスに挑発的な笑みを浮かべる。

 

「貴様、もしやこの龍擬きが出ている間は獣が出せんのではないか?」

 

「…年中ゲームをやっていたわけではないか。

如何にも、こいつが出ている間は私は獣を出せん。

私以外を餌としか認識しないのでな。

……では、前哨戦といこう。

さあ、喰らい尽くせ。」

 

「─グォオオオオオォ!!」

 

ネロの声を合図に獣龍は思わず耳を塞ぎそうなほど大きな声を挙げ、その巨体を動かし始める。

 

対するは、獣龍に比べればあまりにも小さい存在達。

だが、その目には未だ諦めの色は見えない。

 

「…サーゼクスちゃんはあまり力を使わないで。」

 

「同意見だ。

魔王二人に任せておけ。」

 

「二人とも…?

いや、僕も魔王だ。

全力で臨まないと……」

 

「そうじゃない。

お前はこのメンバーの最大戦力。

なら、それは出来るだけ温存するに限る。」

 

「いざとなれば、流石に頼むけど、まだ力を温存しててね。」

 

「……分かった。」

 

本当はもう一つ理由があるのだが、それは言わない二人。

後方から攻める事になったサーゼクスに不安そうな様子はない。

 

「シオンさん、こいつ相手にしてどれくらいだ?」

 

「……あの巨体ですから、生半可な攻撃は効かないでしょう。

ならば、一気に叩き込むしかない。

瞬間火力なら…イッセー、貴方の出番だ。」

 

「なるほどな、ドラゴンショットか!

ドライグ、どうだ?」

 

『……まだ足りんな。

もう少し時間を寄越せ、そうすれば何とかなる。』

 

「そう、じゃあ時間を稼げばいいのね。

皆、聞いたわね!

裕人達がここまでやってくれたのだから、それに応えなくてはならないわ。

イッセーとお兄様には近付けさせないよう、戦うわよ!」

 

『はいっ!』

 

気合いの籠った声。

そして、魔王二人もまた前に出る。

 

「リアスちゃん達が頑張るなら年長者も頑張らなきゃね☆」

 

「うわっ、戻った……

まあ、そうだな。面倒だが、やるしかない。」

 

 

─消耗戦が始まる。

 




始まりましたネロ・カオス戦。

まずは従える獣龍との戦いです。

ゲームでいうなら、獣龍を出来るだけ早く倒せ!とかですかね。

余談ですが、セラフォルーとかで氷漬けにする方法は獣を瞬時に盾にされるので無理です
獣龍の見た目はお竜さんの宝具としての姿に近いです


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混沌─決戦 中編─ ─狂乱─

お久しぶりです、ロザミアです。

色々と忙しくて投稿が遅れました、申し訳ありません。

ではどうぞ。


獣龍の遠吠えはこちらにまで届いた。

ようやく出番だとはしゃいでいるのか、単に腹が減っているのか……確実に後者だろう。

彼の用意した獣龍は腕を振り下ろす。

 

当然ながら、皆対抗しようとはせずに素直に避ける。

 

これぐらいはしてもらわなくてはこれから起こるかもしれない予測外の事態に対応できない。

 

……のだが。

 

「─シオン、だと?

何故、彼女が?タタリが強い意思を具現化した…はないな。

ならば、あれは姿を借り受けた誰か……。」

 

どう見ても、ワラキアの夜に血を吸われ、半死徒化したアトラシアの少女、シオン・エルトナムその者だ。

どういうことだ?

おかしい、イレギュラーが多発しすぎだ。

 

可能性で言えば先程口にしたモノと…夢幻の仕業か、或いはその2択か。

 

駄目だな、情報が無さすぎる。

もう少し近寄れれば魂を見れるのだが。

 

……誰か……だなんて、俺は希望を見てしまう。

やめてくれ、俺に下手な希望を与えるな。

脆くなってしまう、俺の人としての精神が浮き彫りになってしまう。

 

「……彼女は、死んだ。

それが事実だ。

魂が今までさ迷っていたとでも?

……あり得ないな。」

 

それにしても……

 

「……いやはや、ここまで動くとは。

恐ろしいものだ、巨大な的ではあるが、耐久を越えるには生半可な攻撃では無意味だが……さて。

ここは、君に期待しよう、シオン。」

 

偽者であれ、本物であれ、演じるならば素晴らしいものであって欲しい。

……娘、か。

さて、俺も準備をしますかね────……!

 

 

 

 

─────────────────────

 

 

 

「くっ!巨体に身を任せたとはいえここまで破壊力が出るのですか……っ!」

 

「だが、巨体故に動きが鈍い、その隙をついて攻撃を与えるんだ。

赤龍帝が十分な力をチャージできるように時間を稼ぐぞ!」

 

全員が獣龍へ攻撃を仕掛ける。

魔力をぶつける等の全力に近い攻撃は獣龍の肉を抉るまではいかなかった。

 

顔から腕を退けた獣龍はまた吼える。

なんだその攻撃は、とでも言いたげな顔だ。

 

「くっ、やっぱり効かないか……頭付近ならば効くか?」

 

「恐らくは。

あの獣、頭に当たりそうな攻撃は腕でガードしていました。」

 

「それより、来るわよ!

皆避けて!」

 

獣龍は腕を薙ぎ払う。

巨大さも相まって一撃一撃が災害に相応しい攻撃はまさしく龍のソレだ。

 

建物を壊して迫る腕を全員飛んで避ける。

シオンは咄嗟にリアスが抱えたので無事だ。

アーシア等の過剰な戦闘についていけない者は後ろへ下げて回復に徹しているので問題はない。

 

「すみません、私にも羽のようなものがあれば。」

 

「大丈夫よ。

それより、イッセー!

いけそう?」

 

リアスはシオンと共に降りてイッセーへと問い掛ける。

 

「……もう少しだけ、待ってください!」

 

「分かったわ。

皆はまだいけそう?」

 

「…進行させるわけにもいかないので、行くしかないんですけど。」

 

「ぼ、僕の神器も効きません~!」

 

「動きも止められないとなると…セラフォルー様!」

 

「どうしたの?」

 

「あの巨体を凍らせる事は出来ますか?」

 

「…あの大きさだと出来るとは思うけどそれでも長くは持たないわね。

でもま、やらないよりはマシか……!」

 

セラフォルーは自身の得意とする氷の魔法を最大にまで威力を高め、獣龍へと放つ。

 

「──ォォオオ……!」

 

獣龍は腕と体の一部を凍らされ、鈍重な動きが更に鈍った。

しかし、それも彼女の言った通り長くは持たない。

氷はすぐにヒビが入り、今にも砕けそうだ。

 

「──?」

 

「こうなったら意地なんだから!

こんなデカい獣凍らせたら魔王少女伝説に新たな1ページが加わっちゃうわね!

それに、さっさと倒さないといけないんでしょ、今の内に早く!」

 

氷が割れそうになるがセラフォルーが更に魔法を放つことにより、割れずに拮抗している。

 

「むっ……力押しとはな。」

 

「今なら急所も狙える筈……!」

 

『相棒、いけるぞ!』

 

「よっしゃぁ!行くぞデカブツ野郎!」

 

「熱血漢め…だが、嫌いじゃない。」

 

イッセーはアジュカと共に獣龍の頭の部分にまで駆ける。

発射の準備はもう出来ている、後はこれを放つだけ。

 

そして、ようやく辿り着いた。

この肌を刺激する寒さが、セラフォルーが全力でこの巨体を食い止めていると思うと気にもならない。

 

鈍重な頭は隙だらけだ。

獣龍は倍加して自身を打倒しうる力を感じとり焦っているのか全身に力を込めるが長時間凍らされている部位は思うように動かない。

 

やるならば、今しかない。

 

「ハァッ!」

 

「ドラゴン……ショットォォォォ!!」

 

アジュカが放った魔力の塊は首の皮膚を抉り、内部の肉をさらけ出す。

 

そしてそこへイッセーの全力のドラゴンショットが放たれる。

初めての痛みと恐怖を同時に味わった獣龍は動けない。

自らが圧倒的に強いという自信すらあったというのに、何故と自問する。

しかし、答えを出す前に、ソレは弱点となった首へ到達した。

 

─ォォオ"オ"オ"オ"オ"──ッ!!

 

獣龍はその苦痛に満ちた叫びを最後に、頭が吹き飛び粒子となって消えた。

 

一部を除き、全員が消耗した。

イッセーに到っては肩で息をし、ふらつきかけている。

 

そこへネロ・カオスが地面からぬるりと現れる。

拍手をし、褒めるかのようだ。

 

「見事だ。

流石といったところか。

もう少し粘ると思ったが、存外すぐに殺されたか。」

 

「どうだ……アンタの、奥の手の一つを、潰してやったぜ……!」

 

「奥の手?何をいうのかと思えば……

私は言った筈だ、前哨戦(・・・)とな。

元より私は666の獣の因子を宿す死徒。

あの獣龍も、10の因子と竜の因子を混ぜ合わせた獣に過ぎん。」

 

「規格外の化け物め。

あの怪物を未だ作り出せると?」

 

「いや、竜の因子があればこそ出来た欠陥品。

私の獣ならばいくらでも出てこようが、あの獣龍はもう出てくることはない。

安心するがいい。」

 

「本体の貴様が無事な時点で安心など出来るか。」

 

悪態をつくアジュカにネロ・カオスはただ周りを見渡すのみ。

 

「シオン・エルトナム。

貴様の策は崩れたか?」

 

「……いいえ、概ね作戦通りです。

一つ、いいですか。」

 

「下らない質問ならば答えんが。」

 

「何故、貴方はオーフィスと敵対してまでズェピアにつくのです?」

 

「……知れたことを。

奴が我が創造主であり、契約者であるからに他ならない。」

 

「それで死んだらどうするのです!」

 

「何も。

そこで死ねば私はそこまでだったということ。

二度目の死を味わうことに何の恐怖がある。」

 

二度目、彼の言葉に皆が驚く。

このような化け物が死ぬというのか、と。

 

ネロ・カオスはコートのポケットに手を入れくつくつと笑う。

 

「貴様らが私を止めると言っても、半数はもう消耗した状態だ。

さて、ここからどうやって私を止めるのか、確かめさせてもらおう。

そしてそれを打ち砕き、貴様らを喰い尽くした後に他の目的を果たすとするか。」

 

「…他の目的が何かは分かりませんが、私達が喰い殺されるのはない。

私達は貴方を越え、ズェピアを引きずり出さないといけないのだから。」

 

「ひ弱な小娘がよく言う。

貴様はその皮を被らねば戦えぬ臆病者に過ぎん。」

 

「そんな事は、分かってます。

私が今でも弱い存在なくらい。

けれど、私は娘として止めなくてはならないのです。」

 

「娘…やはり、君は……。」

 

「魔王サーゼクス。

その話は、全て終わってからにしましょう。」

 

「……娘か。

死人がおいそれと出てくるのは良くないが?」

 

正体を元から知るネロ・カオスは介入を快くは思わなかった。

その正体が他の誰かならば…別に何も思わずに喰らうのみと判断した。

 

唯一の拠り所であった少女が、何の因果か戻ってきた。

殺さずともいずれは消える存在であるが、それでも創造主に今の少女を見せてやりたいという気持ちは確かにある。

 

…しかし、既に敵として立ち塞がった。

ならばこの思いを消し去り、ただ敵として喰らうのみ。

 

シオンはネロ・カオスの言葉に『彼女』としての笑みを浮かべる。

 

「そんなの、私にはよく分かりません。

善くも悪くも普通過ぎたので。」

 

「ふ……一理あるな。

では、始めようか。

我らは闘争で決するしか道はない。

無論、手加減はせん。

獣の群れに何処まで持つか……!」

 

「くっ……」

 

サーゼクスは判断に迷う。

今ここで真の姿を出せば勝てなくはない。

いや、寧ろあの力とネロ・カオスとは相性がいい。

圧勝すら狙えるかもしれない。

 

……だが、ズェピア・エルトナムの存在が彼の判断を鈍らせる。

ネロ・カオスを倒せても、彼がいる。

いや、それだけじゃない。

 

『あれはもう我等の知る無限の龍神ではない。

あれはズェピア・エルトナムという存在に酔った化物だ。』

 

あの言葉、もし本当ならオーフィスは二人とも敵対している。

どうしてなのかは分からない。

 

それより先決なのは現状の解決。

なるか、ならないか。

 

「……シオン、僕が力を解放して彼を止める。

その間にアジュカと君で何とか出来るかい。」

 

「しかし、それではズェピアを……」

 

「大丈夫、僕を信じてほしい。

…人間の君が悪魔の僕を信じれるかは分からないが……」

 

「…いいえ、信じます。」

 

サーゼクスはその言葉に確信したように笑みを浮かべる。

やはり変わらない。

彼女は、何も変わっていない。

 

「なら、その信頼に応えなくてはね。

アジュカ、シオンと作戦通りに頼むよ。

イッセーとセラフォルーは退いてくれ。」

 

「任せろ。」

 

「でも、魔王様!」

 

「ううん、イッセー君。

退くわよ。」

 

「レヴィアタン様まで!」

 

「いいから退くの!

サーゼクスちゃんが力を解放するなら、消耗してる私達だと邪魔になる。

それに、ネロも本気を出さざるを得ない。

悔しいけど、三人に任せるしかないわ。」

 

「……分かりました。」

 

同じ魔王でありながら二人についていけないセラフォルーは悔しそうに言う。

その表情を見て、イッセーもまた悔しげに退いていく。

 

ネロ・カオスは意外そうにサーゼクスを見やる。

 

「ほう……私に見せるか、その力を。」

 

「ああ、君の足止めはここから僕が務めよう。

ズェピアとの戦いにとっておきたかったけどね。」

 

サーゼクスの力が高まっていく。

いや、違う。

縛っていた力が解放されていく。

 

自分の力の危険性を知っているからこそ、己を縛った。

 

この姿ならば、あの不死性に食らい付ける。

ズェピアとの戦いに対する不安は残るが、仲間を信じずして王にはなれない。

 

(ああ、この姿でようやく五分だ。

分かっている、見たときから。)

 

この世界に閉じ込められる前、彼と相対した瞬間に悟った。

そして、魂を喰らった結果の強さを知った。

 

あれは、よくない力だ。

 

(どうして、君がそこまで家族のためにやれるのかは分からない。

まるで、怖がるように家族のため、家族のためと頑張るのか……。)

 

それでも、と彼は真の姿を現し、彼の信頼する家族の一人と相対する。

 

それは、滅びの魔力が人の姿をしたナニカだった。

 

周り全てを消し去るそれは、味方であるシオン達にも威圧を与える。

 

しかし、この威圧を受けて尚─

 

 

「ク、クク、ハハハハ!

いいぞ、それでこそだ!

貴様が本気で来なければ面白くはない。

見せてもらうぞ、タタリが貴様を宿敵と見なした力を!」

 

 

─笑っていた。

解放すると期待していたのかもしれない。

戦闘狂という部類ではないにも関わらず彼は笑った。

 

「君を止めて、僕達はズェピアを止めて、この世界を壊す!」

 

「遠くから援護をしながらネロ・カオスの隙を突きます。」

 

「ああ、それでゲームクリアだ。」

 

「シオン・エルトナム、サーゼクス・ルシファー、アジュカ・ベルゼブブ……獣の波に呑まれるがいい、ここが貴様らの終焉だ!」

 

ようやく、本番が始まる。

 

 

 

───────────────────────

 

 

 

ねえ、ねえ、答えて。

 

「…。」

 

一緒になる気はない?

 

「すまないが、『今の』君とは勘弁願おう。 」

 

そう。

でも、一緒になっちゃった。

ほら、ほら、欲しかったものの『一部』、手に入った。

 

「…何故。」

何故、と聞くの?

どうして、と?

ソレは違う、違う。

 

聞くのはこちら。

どうして?

 

応えてくれないの?

どうして、この身体を貪ってくれないの?

どうして、交わってくれないの。

 

「何処からそうしてしまった、私は。」

 

貴方と、暮らして、感情を得て、妹が出来て、それが死んだ時から。

 

ねえ聞いて、貴方はまだ夢を見てる。

だからこんな夢の世界を作った。

無意識に可能性に賭けたの?

 

■が、アレの代わりになれればいいって我慢してたのに、そんな、酷いよ。

 

だったら、この世界を二人だけの世界にしましょう。

姿も、貴方の愛した者の姿よ。

 

ねえ、聞いて。

決めたの。

貴方は■の物にするって決めたの。

でもね、そうやって抵抗するからね。

 

「─ぐっ、ぬ……」

 

─腕、もげちゃった。

 

「─あは、美味しい。」

 

「っ─!」

 

これが、貴方の味。

美味しい、美味しい美味しい美味しい美味しい。

 

貴方と交わってるような感覚。

貴方をお腹の中に入れてるよう。

でもね、お腹に欲しいのは違う。

もうちょっと小さいの。

 

興奮するけど、違う。

 

味も、匂いも、何もかも。

こんなにも愛しい、憎らしいと思っても、抵抗しちゃうなら仕方無い。

 

次は、どこを引き千切ろうか。

痛みが、■の貴方への愛になる。

「オー、フィス……!」

 

 

─拒まないで、逃げないで、傷付けないで。これは、貴方の娘の姿で中身も貴方の娘だから。




オーフィスちゃんおかしくなってる気がする?
いえ、これが物語の結果ですよ。
しかし、腕を食べるなんてワイルドだなぁ(白目)


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かぞくけいかく

ズェピアが日記というのをつけていたので、我もつけることにした。

字の練習にもなるし、何よりこれを見て思い出せる。

我ながら素晴らしい名案だ。

ズェピアも褒めてくれるに違いない。

 

 

 

■月☆日

 

ズェピアが人間を拾ってきた。

お人好しなズェピアのことだ、放っておけなかったに違いない。

フリージアという名前らしい。

意味は確か、純潔とかだったはず。

いい名前だ。

 

…それにしても、フリージアの体は何処がとは言わないが大きい。

……我も変化すればあれぐらいなれるし。

 

我よりも色々なことを知っていたので教えてもらっていたら仲良くなれた。

これから家族になるんだから仲が深まるのは良いことだ。

 

でもズェピア、我が妹は酷いと思う。

絶対に見た目で判断した。

 

……むう。

 

 

○月△日

 

これは我の日記だから記すが、我はズェピアが好きだ。

何でかと問われたら、彼の優しさに惚れたのか、それともあの人間性に惚れたのか。

どちらにしろ、彼が我をそういった目で見ていないのは確かだ。

 

頑張って振り向かせて見せる。

 

フリージアにこっそりと聞いてみたのだが、完全に父としてしか見ていないそうで、でも父さんと呼ぶのは恥ずかしいそうな。

 

何だかホッコリした。

 

 

゜月ゞ日

 

彼がどんどんと強くなっていくのは嬉しいのだが、時折不安になる。

 

どこか遠くへいってしまうのではないかと。

 

けれど、今はこうして近くにいるのだから、杞憂だと振り払った。

 

どうか、家族の仲が裂かれませんように。

 

 

 

 

 

 

・月ω日

 

カオスが家族になって、何年何十年も年月が過ぎて、フリージアはもうすっかりと車椅子生活になってしまった。

我がもっぱら世話しているのだが、そうする度に「ごめんね」と言うのはやめてほしい。

我がやりたいからやっていることだから、感謝何てしなくていい。

 

我が、我が少しでも居たいだけだから。

 

もう、長くないから。

 

 

 

 

 

 

 

×月×日

 

ショックから立ち直ってばかりだが、今日のを書かないと。

 

フリージアが死んでしまってからもう何年目だったか覚えていない。

もう会えないのは分かっているのにたまに呼ぶような声が聞こえてしまう。

 

少し、寂しい。

 

家族を失うのは、もう嫌だ。

 

特にズェピア、彼だけは……。

カオスにこの気持ちを相談したら落ち着いてもう一度考えろと言われた。

 

その通りにしたら、先程の自分が怖くなった。

細かく記載するのもおぞましい程に嫉妬深い自分を知ってしまった。

 

どうして、こんな……。

 

 

■月■日

 

怖い夢を見た。

 

ズェピアを殺してしまう夢だ。

 

起き上がってしばらく月を見ていた。

 

どうして、どうして……。

 

 

■月■日

 

ズェピアを見たら、何だか安心した。

不安が悪夢となっただけかもしれない。

 

そうだ、その筈だ。

そうでないと……

 

四肢をもいで、胸に腕を突っ込んで殺して永遠と愛を囁き続けるなんて……するわけないのに。

 

どうしてだろう。

 

……日に日に狂っていってる気がする。

何が、原因なの?

 

助けて、ズェピア。

 

 

■月■日

 

感情が爆発してズェピアに怒鳴ってしまった。

我が悪い。

ズェピアは変なところで鈍感だから、ストレス抱えてたのかも。

 

─ああ、でも(急いで消したような跡)

 

──!───!!

 

(読めないほどグチャグチャな字)

 

 

■月■日

 

怖いよ、怖いよ。

どうして、こんなおかしな事を考えてしまうのか。

我は、正常ではないのか?

 

ズェピアに恋をしているだけだ。

それが悪いことな訳がない。

 

やはり、この世界は我に害悪なのかもしれない……静寂な世界で家族皆で……。

 

そうじゃないと、壊れてしまう。

 

 

■月■日

 

今日のズェピアは隙だらけだった。

いつ頭を吹き飛ばすか考えた。

 

……ああ、おかしくなっていってる。

駄目だ、どうして?

 

 

─もしかして。

 

 

■月■日

 

ズェピアがフリージアの名前を呼んでいた。

無性に舌を引き千切りたくなった。

ダメ、その女はもう死んだのに。

約束なんて律儀に守らなくてもいいのに。

 

我が、我が代わりに。

我が同じように隣に寄り添い続けるから!

 

だから、その女の名前を、呼ばないで。

 

 

■月■日

 

何で。

 

■月■にち

 

どうして。

 

■が ■ ち

 

ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな、ふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるな。

 

 

■ ■

 

今日は、計画始動日。どうでもいい。

あの世界、ズェピアの世界。

もしかして、それはズェピアの中なのでは?

ああ、そう考えたら……駄目だ、これは記載できない。

……でも、害虫が多い。

早く、死なないかな、消えないかな。

潰れて死ねばいいのに、燃えて死ねばいいのに、泣き叫びながら死ねばいいのに。

何で我とズェピアの世界にゴミがいるの?

おかしい、こんなのはおかしい。

ここが静寂な世界としたら、それはあってはならない

 

消さないと…

 

 

■ ■

 

もう自分を隠すのはやめよう。はっきりとわかった。

 

我はズェピアが好きで、それ以外はどうでもよくて、ズェピアはその有象無象共に影響されてきて、我はソレを守ろうとしているだけ。皆邪魔しようがしまいが殺す。ズェピアは…そうだ、拘束しよう。そしたら動けない。動けないって事はズェピアは逃げずに我の愛を受け入れてくれる。子が成せるかは分からないが、頑張る。

ズェピア、ズェピアぁ…えへ、えへへ……貴方が望むなら、(わたし)は何でもしてあげる。死ねって言われたら死ぬし、殺せと言われたら殺す。性欲の捌け口に使ってくれてもいい。それで、お互いに満たされる。何て素敵な関係。でも、拒むのは駄目。拒まれたら

 

 

どうなるかわからない。でも、拒まなければ何度でも囁くから。愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる!!どんなに世界が壊れても、貴方が壊れても、愛すから。

 

─だから。

 

 

 

だからどうか、逃げないで。

(わたし)は貴方と生きていたい。

ただ、それだけだから。

拒まないで。

(わたし)を一人に、しないで。

 

 

 

─────────────────────

 

 

 

「……ねぇ。ズェピアはドMじゃないよね?

なら、そろそろ受け入れてほしいんだけど。

このままだと死んじゃうよ?」

 

もう片方の腕を引き千切る。

 

「ギッ……ガッ、ぐっ……受け入れれば、どうなる……」

 

魔力の鎖で縛っているので、ろくに動けないズェピアは痛みに耐えながら聞いてきたので、優しく微笑んで答えることにした。

 

「全部、あげる。

(わたし)を、拒まないでくれるなら、全部あげる。

何が欲しい?やっぱり、まずはこの体?

本当ならいつもの姿でヤりたいけど、ズェピアが望むなら、とっっっても嫌だけど我慢するよ。

あ、でもズェピアは劇が好きだもんね。

なら、あの戦ってる害虫共を殺して殺して殺しまくって全員の首をここに並べて鑑賞会でもどう?

劇も見れて邪魔者も殺せて思い出作れて一石二鳥どころか一石三鳥。」

 

(わたし)の言葉に悲しそうに、苦痛を耐えるように顔を伏せる彼を心配する。

痛めつけてしまったが、勘違いしないでほしい。

さっさと受け入れてほしいだけだ。

 

「ズェピア、どうしたの?」

 

「……私が、君を追い詰めすぎた。

私が、君を見ていなかった。

すまない、本当に…」

 

「…大丈夫、これからでも家族(ふたり)の仲はやり直せる。」

 

「オーフィス……?」

 

「うん、だから、要らないからやっぱり殺そう?

さっきから煩いから。

周りが煩いと、ズェピアも興奮しないよね。

これから夫婦になれるのに、本当空気読まない連中……。」

 

「っ……やめろ!」

 

強い制止の言葉に苛立つが、それがズェピアの望みならとやめておくことにした。

 

「これ以上見たって面白くないよ。

大体、こんな有象無象共の戯れを見て何がいいの?

そんな事より貴方に本を読んでもらう方がよっぽど有意義。

貴方の膝元に座って、読んでもらって……それだけでよかったのに。

でも、振り向いてくれない。

娘としてしか見てくれない。

なら、こうするしかなかった。」

 

「だが、君は……」

 

「そう、でも、ここでいい。」

 

「ここで……?」

 

「悪魔共も、魔王達も、グレートレッドも…何もかもどうでもいい。

もう(わたし)はここでいいの。

(わたし)と、ズェピア……二人でずっとここに居よう?

ここは悲しみを感じなくて済むの、もう無理しなくていいの。

……だから、あのゴミ共を殺して、最後にしよう。

約束なんて、どうでもいいじゃない(・・・・・・・・・・)。」

 

「──!」

 

語りかけるように、囁くようにもうやめようと告げる。

だって、無理をしてるのは分かる、分かるから、止めてあげなきゃ。

 

「君は、私に約束を捨てろと?」

 

「捨てたくないの?」

 

「無論、死んでも。」

 

「……どうして?

どうして、フリージアなの?

何が違うの?

視点(カメラ)の違い?いつも、貴方の口から出るのはそればかり……そんなに大切?

今の家族よりも、過去の死んだ女一人がそんなに大切?」

 

「そうではない。

だが……また会うと、約束した。

約束は果たさなければならない。」

 

 

─理解した。してしまった。ズェピアを縛っているのは約束で、そのせいで全てを削って生きているのだと。そして、それが(わたし)よりも大切なのだと。

 

どこまでも、目障りな女だ。

 

まさか、気付いていないとでも思っているのか。

すぐそこに居るのは分かってる。

 

やはり、魂を残すことなく殺すべきか。

そうすれば解放される。

あまりにも辛い生から、解放される。

 

ズェピアを救わなきゃ。

 

「……ねぇ、気付いてる?」

 

「…何に?」

 

「そう、ならいい。

……あのシオンとかいう女、今から殺してあげる。

そうすれば貴方を縛る鎖は無くなる。

そうすれば……今度こそ、(わたし)に向くでしょう?」

 

「どうして、私にそこまで執着する。

私では、君の愛に応えられない…私はどうあっても君の親にしかなれない。」

 

「親として、娘の愛には応えるのね。

なら、それでいいよ。そうじゃないといけないなら、許容する。

だから……面倒が起きる前にアレを殺させてね。」

 

「君には何が見えているのだ!」

 

必死にやめろと伝えるズェピアは、普段とは違ってそれこそ一般人の泣き叫ぶそれに似ていた。

……本能的になのか、それとも本当はわかってるのか。

 

まあ、どうでもいいか。

 

「じゃあ、ズェピア。

そこで待っててね。

 

……まあ、来てもいいけど、その時はもう、動けなくしてから全部済ませるから。」

 

「─オーフィス!」

 

(わたし)はそう言ってからゆっくりとカオス達の遊んでいる方へと向かう。

 

ああ、楽しみだ。

 

腕、美味しいなぁ……。






ちなみに、もうオーフィスちゃんの目は常にハイライトが無いです。

次回、混沌─決戦 後編─となりますが……

どうなりますことやら。


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混沌─決戦 後編─

獣の波が押し寄せる。

絶望的なまでの数、嵐のような暴力を伴った波はただ一人を喰らう為にその食欲を働かせる。

 

しかし、波は突如として止まる。

いや、止まるどころか押し返されてさえいる。

その一人が獣の波を消していっているのだ。

 

波の発生源たるネロ・カオスは足りぬかと一言漏らす。

 

「流石は超越者、といったところか。

貴様の滅びの魔力は我が獣さえも消し去るか。」

 

「これを君がくらえばただでは済まない。

それでもやる気かい?」

 

「無論。

貴様の滅びの魔力とて無限ではあるまい。

その力が尽きるまで私もまた獣を出せばいいだけの事。」

 

「チッ、鬱陶しい……!」

 

獣の波を押し返せども、元よりあちらは獣をいくらでも出せる。

何せ、彼さえ無事ならば獣自身が死んでも支障はないからだ。

 

対してサーゼクスは真の姿になろうと無限に魔力があるわけではない。

いくら超越者という存在でも限界はある。

 

出鱈目な不死性と物量に後退している者達は恐怖すら出てくる。

 

だが、獣を消滅させ、後ろを守るサーゼクスにずっと魔力を放出する辛さはあれど恐怖はない。

何故なら、あの二人ならばあの不死性を無視してネロ・カオスを突破できると信じている。

 

それまで時間を稼ぐまで、とジリジリと近寄る。

 

「滅びの魔力を使い続けながら私を拘束する気か。

無謀なことはやめておけ、それでは貴様の魔力より先に脳が処理しきれずに死ぬぞ。」

 

獣の処理と魔力の消費を続ける行為は脳を酷使している事を彼は見抜いていた。

視覚情報による獣の感知と獣を捌く魔力をどれ程の消費を抑えた上で一撃の撃破が出来て、尚且つどれだけの数を減らせるか。

 

それを先程から休みなく行うことで脳への負荷は多大なる物になる。

 

「これぐらい、リアス達の頑張りに比べれば…辛くもない。」

 

「痩せ我慢は褒められたものではないな。」

 

「痩せ我慢ではない、これは僕なりの矜持ってやつだよ。」

 

「変わりない事だ。

確かに正面からの獣は対処可能だろう。

だがそれは貴様の死角ではないからに過ぎない。

……ならば」

 

「……っ!?」

 

サーゼクスはようやく気付いた。

地中より湧き出る黒い沼に。

そしてそこから出てくる巨大な鰐に。

 

「っ、ォオオオオ!」

 

「■■■─!」

 

食らいつかんと大顎を開け、迫る鰐にサーゼクスはリソース等を無視して滅びの魔力を鰐にぶつけることで頭を消滅させる。

 

「───」

 

「なっ、ぐぅっ!」

 

しかし、まだ意思が残っていたのか尾を振るうことでサーゼクスを壁へと打ち付ける。

ダメージ自体は大したことはないので、すぐに立ち上がる。

 

狼が襲ってきたが魔力を込めた拳で殴ることで消滅させる。

 

「さて、今ので計算が狂ったようだが。」

 

「……どうかな。」

 

…やるしかない。

サーゼクスは今この場で後の事を考えるのは無駄と断定し、決行することにした。

 

サーゼクスは手に魔力を集中させる。

先程までの節約を無駄にするかのように多くの滅びの魔力が圧縮されていく。

 

自棄になったか、とはネロ・カオスは考えなかった。

そんな目をしていない、あれは諦めてはいない。

寧ろ、勝てる確信をしている目だ。

 

「計算なんて、元からしてないさ……

僕は、馬鹿だからね。

そんなのは親友に任せて、僕はただ力を振るうだけだ。

だからこそ、この一撃が─」

 

─君を追い詰める。

 

そう言う彼は普段の彼とは違う笑みを浮かべていた。

ニッと笑う、まるで好戦的な笑み。

 

こうしてる間にも彼の手はネロ・カオスへと向けられ、魔力は未だに圧縮されている。

 

ネロ・カオスはすぐに行動に出た。

奴は確実に自分を追い詰めるための一撃を放つ。

この身が負けるとは微塵も思ってはいないが何かあれば遅い。

 

自らが持ち得る最大の防御手段を彼は用いた。

 

「集え我が魔獣─!」

 

全ての魔獣を自らの盾とする。

それだけである。

 

だが、侮るなかれ。

この盾は単純ゆえに強力。

あのオーフィスの一撃を辛くもだが耐えきれるほどだ。

 

魔獣を今サーゼクスに放っても、圧縮している魔力と同時にバリアのようなモノを展開している。

確実に溜めきる為の術。

 

「くらえ、ネロ・カオス──!!」

 

「─来いッ!」

 

紅い光が、閃光の如くネロ・カオスへと迫る。

圧縮しきった滅びの魔力をレーザー状に放つことで貫通力を極限にまで上げた一撃。

 

彼はあの魔獣の盾を貫かんとする。

 

魔獣の盾は、それすらも耐えようと身を固める。

 

そして、魔獣の盾と滅びの閃光がぶつかり合う─

 

 

 

 

─勝負は、一瞬だった。

 

「──ぐっ。」

 

「─ふっ、見事だ……!」

 

閃光は見事獣を貫き、その奥にいる獣の王をも貫いた。

 

そして、消滅の魔力をまともにくらったネロ・カオスにも効果は訪れた。

 

「ぐっ、おぉぉぉ…!我が混沌をも食い破ろうとするかッ!

…だが、だが足りぬ!

我が混沌は消えはせん──」

 

 

「─ああ、だから、これは君を追い詰める一撃だ。」

 

「何……まさか─」

 

「そのまさかだ、ネロ・カオス。」

 

続きを口にする前に、更なる異常がネロ・カオスへ叩き込まれる。

 

倒れ伏していた魔獣が消え去っていくのだ。

元から、居なかったかのように。

 

魔獣だけでなく、ネロ・カオスもまたその場で膝をつく。

 

「なん、だ…これはっ─!」

 

「…あの瞬間、敵がそいつだけだと思ったお前の敗けだ、ネロ・カオス。」

 

そう言って空から着地する二人の姿。

シオン・エルトナムとアジュカ・ベルゼブブだった。

 

ネロ・カオスは苦痛の中で得心した。

 

「そうか、貴様か、アジュカ・ベルゼブブ!

貴様が我が混沌に細工をしたな……!」

 

「ああ、そうだ。

覇軍の方程式(カンカラー・フォーミラ)』を使ってお前の『666(不死性)』を弄った。

シオンのお陰でできた荒業だ。」

 

「…シオン・エルトナム。」

 

シオンは頷く。

 

「ええ、だからこそ、貴方に『苦痛』を与え、そちらに意識を向けさせねばならなかった。

即席の作戦でしたが上手くいきました。」

 

覇軍の方程式(カンカラー・フォーミラ)』。

アジュカ・ベルゼブブのみが有する能力で相手の魔力などの軸をずらすことによって、術式を乗っ取ることが出来るといったもの。

 

それによって、ネロ・カオスの『666(不死性)』を攻略したのだ。

 

「流石に焦りはしたがな。

だが、まあ……これで貴様の『666(不死性)』は『1(不死ではなくなった)』というわけだ。

獣の因子という術式を書き換えるのは至難の技だったぞ。」

 

「──。」

 

己が不死性が破られる。

それが、彼の琴線に触れた。

 

あの少年は魔眼によって不死性を無視しての殺害をした。

そうだ、二度目だ。

形は違えど、ネロ・カオスは攻略された。

 

己の絶対的な不死性が今や1となった。

 

彼は今、この世界で初めて──

 

 

「─ふざけるなぁッッ!!」

 

『ッ!!?』

 

 

─初めて、憤怒を露にした。

 

破られるはずがない不死性。

 

こんな事があってたまるものかと。

 

シオン達は初めて激昂するネロ・カオスを見てたじろいだ。

見たことがないほどに憤怒に歪んだ顔。

 

「我が混沌を無効化するなど、あってたまるものか…!

一度ならず、二度までもッ!」

 

自分にとっての絶対能力が対処されてしまった。

故に彼は激怒している。

だが、窮地なのには変わらない。

彼には最早敗北しかない。

 

彼はシオン達に『止められて(負けて)』しまうのだ──

 

 

「ぬ、ぅおおぉぉォォぁァァァ!!」

 

 

─彼の足掻きを止められた後に、だが。

 

「くっ、なんだ!?」

 

「不死性を剥がし、重傷を負わせ、勝敗は揺るぎないというのに……まだやるつもりか!」

 

「ネロ・カオス……!もうやめてください!

これ以上は無意味です!」

 

「無意味なものか、貴様らを一人でも多く仕留める。

ズェピア・エルトナムの勝利を揺るぎないモノとするためにな……!

さあ、止めて見せろ!」

 

ネロ・カオスの体が隆起していく。

彼の奥の手である『武装999』。

獣の因子で自らを強化することで圧倒的な破壊力のみを得る。

 

灰色の化物は、このままでは負けられないと吼える。

 

サーゼクスとアジュカ、そしてシオンはその巨体に怯んだ。

いや、違う。

彼の己の身を省みずに一歩でも創造主を勝利へと近づけようとする精神力に怯んだのだ。

 

今までの敵にこれほどの執念を持つ者はいなかった。

シオンに至っては膝をついていないだけでも上々と言える。

 

化物(ネロ・カオス)はその強化された膂力でこちらへと突進する。

一歩進むだけでも地鳴りがするほどの力。

それをまともに受ければ待っているのは死。

 

「■■■■■■■■■!!」

 

「っ……!」

 

そうして、彼らは灰色の嵐に飲み込まれ──

 

 

 

 

「─させ、ねぇよ……!」

 

「イッセー君!?」

 

─なかった。

それどころか、化物(ネロ・カオス)は止まっていた。

兵藤一誠に止められていた。

 

赤い鎧を身に纏い、歯を食い縛って、彼は止めていたのだ。

 

「■■■─なんだと……貴様、あれほどの消耗をしたにも関わらず、どこにそのような力がっ!?」

 

「そんなの、決まってんだろ…気付いたらやれたんだよ!」

 

「そんな、そんな理屈が通ってたまるかぁぁァァァァ!」

 

巨人はさらに力を込める。

一誠は辛いのか段々と押される。

このままでは一誠は競り負ける。

元々、力の差は歴然。

それでもこの巨人を止めれているのは単に意思の力というものなのか、それとも。

 

「ならばこれでどうだ!」

 

「ぬぐぅ!?」

 

虚空から鎖が現れ、巨人の腕を後ろから縛る。

アジュカも既に『666』の解析と操作に魔力リソースを殆ど割いていたせいか、そこまで大掛かりな魔法は使えないでいた。

 

巨人の動きが若干鈍る……だが

 

「ナメるなッ!!」

 

巨人は鎖を意図も容易く引きちぎる。

 

「チッ!?」

 

「くそっ、滅びの魔力が使えない……!」

 

「くっそぉぉぉぉ……!」

 

「終わりだ、赤龍帝の小僧!」

 

 

「いいえ、終わりは貴方です。」

 

「なっ……──」

 

しかし、巨人の進行は突如として終わりを告げる。

 

ネロ・カオスは姿が元に戻り、その場で動けなくなってしまった。

一体何が、と考えるがすぐに結論に達する。

 

そして、確信する。

 

「……エーテライトか!」

 

「ええ……これで─」

 

 

「─これで、終わりです、ネロ。」

 

これで終わりだと彼女は告げる。

腕を動かそうとするが、出来ない。

獣を出そうと魔獣創造を使おうにも、エーテライトから流れる信号がそれを許さない。

 

……打つ手無し。

 

彼は諦めたようにふっと笑う。

 

「─強くなったな、フリージアよ。」

 

「っ、はい……!」

 

混沌は、遂に敗けを認めた。

 

 

 

─────────────────────

 

 

 

……。

オーフィスはもう、皆の所へ到着して殺戮を始めているのだろうか。

 

何を間違えた、とかではない。

俺は、応えなさすぎた。

心の何処かでフリージアの代わりになろうと必死なオーフィスに甘えてしまっていた。

 

そんな自分に腹が立つ。

俺は所詮、弱い人間だった。

俺には家族を何者からも守るなんて事は出来やしなかったのだ。

 

…それでも俺は。

 

俺は、家族を守りたいんだ。

何に代えても、俺はあの子ともう一度向き合いたい。

 

思えば、父として何をしてやれただろう。

勉学を教えた程度か……。

フリージアとの時間を割きすぎたんだろう。

 

それでもオーフィスは俺を父と…否、男として見ていた。

俺には勿体無い位いい子になった。

 

そのいい子を歪めたのもまた俺だ。

我ながら情けない。

 

…。

 

……。

 

………。

 

腕をタタリで生成し、感覚を確かめる。

問題なし。

 

今から俺は、無謀な戦いをする。

勝率なんて存在しない。

勝てはしないのだ、当然だ。

あの子はそういう存在だ。

 

殺すなんて出来るものか。

倒すなんて出来るものか。

傷つけるなんて、出来るわけ無い。

 

父親が怒ってる娘に出来ることなんて、1つしかないんだ。

父親が暴れてる娘に出来ることなんて、1つしかないんだ。

 

…家族だもんな、俺が、やらなくちゃ。

 

例えこの身が砕け散ろうとも、オーフィス。

あの子だけは……

 

元の優しいあの子に戻してあげないと。

 

俺に応え続けてくれたあの子に、今度は俺が応えないと。

ああ、いいとも。

 

元は一般人でも、元は弱くても、今は違う。

 

俺は誰だ。

 

そうだ、ワラキアの夜だ。

ズェピア・エルトナムだ。

 

家族が大切で、その為に力を求めた親馬鹿なズェピア・エルトナムだ。

 

もう、目を背けるのは無しにしよう。

しっかりと娘と向き合おうじゃないか。

 

そうして、俺はオーフィスの元へと急いだ。



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叫び

どうも、面白い話にできてるか不安なロザミアです。

今回は戦闘は無しです。


ネロ・カオスが敗北を認め、ようやく中盤を過ぎたと消耗しきった体で座り込みそうになるサーゼクス。

 

だが、そのまま座るのは許されない。

何が起こるかまだ分からない。

既にここは敵地で、不確定要素しかないオーフィスがいるのだ。

 

ここで襲撃されれば一溜まりもない。

 

同じく警戒を怠らないシオンに、サーゼクスは話しかける。

 

「…やっぱり君は、フリージア、なんだね。」

 

「……はい。」

 

儚そうな笑み。

シオン・エルトナムという殻を通じてその笑みを浮かべているフリージアの姿を思い浮かべると胸が痛くなる。

 

「僕たちがもっとしっかりしていれば、こんな事態にならずに済んだのに、申し訳ない。

いや、謝罪したところで許されるかどうか……」

 

「いいえ…多分、遅かれ早かれこうなっていたとは思います。

ですね、ネロ・カオス。」

 

拘束され、動けないでいる彼もまたふっと笑う。

最早抵抗の意思はない。

だが、念には念を、というやつだ。

 

「タタリは少々親馬鹿でな。

娘のためなら世界を相手取ろうとする時点で馬鹿さは察せ。

……だが、まさかこうなるとは、彼奴も思ってはいなかったろう。

元より、色恋沙汰には興味を示さない男だったからな。

ある意味では必然か……。」

 

「オーフィスは、今どんな状態なんですか?」

 

「…戦う前に言った通り、あれは長年にタタリを求めるがゆえに溜まった負の感情が入り混ざった状態で暴れている。

所謂、ヤンデレというやつだ。」

 

「『無限』のヤンデレとか誰得なんだ、まったく。」

 

アジュカが悪態をつき、それに多くが賛同する。

 

ネロは突如、笑みを消して真剣な目で話し出す。

 

「おい、そろそろ拘束を解いてくれると助かる。」

 

「……どうする?」

 

「ネロは約束を違えない性格だ。

自決だって出来たろうに、律儀に捕まったのが証拠だ。

拘束と彼の不死性も戻してくれ。

……いつ、オーフィスが来るか分からない。」

 

「不死性を戻されても恐らくは殺されるだろうがな。」

 

「…そうか、『無限』の権能か。」

 

拘束が解除され、不死性も戻ったネロ・カオスは理不尽極まると吐き捨てるように言った。

なるほど、と魔王三人とシオンは納得したように頷く。

しかし、周りはよく分かっていない。

何せ、無限の龍神とは存在を聞いたことがあまり無ければ、話したことすらない。

イッセーが手を挙げてサーゼクスに聞く。

 

「魔王様、『無限』の権能とは?」

 

「僕も詳しくは分からない。

けれど、アザゼルから聞いた話だと…

曰く、無限の龍神はゼロ以外の可能性を持ってきてあらゆる事を可能にできる。」

 

「そんなものが……?」

 

「私を殺せる可能性を引っ張り出せば殺せるというわけだ。

…昔はそれを使う方向性がおかしかったがな。」

 

「…聞かないでおくよ。」

 

「そうしてくれ。」

 

話したくないという雰囲気が溢れていたので聞かないでおくのが一番だろうと判断したサーゼクスは辺りを確認する。

戦闘の跡が目立つものの未だに誰かが向かってくるような気配はない。

 

……だが、無限ならば、と考えると油断はならない。

 

気配を消す、姿を消す等造作もないだろう。

 

「……それで、貴様らはどうする。」

 

「…ネロ、オーフィスの襲撃の可能性は?」

 

「ほぼ間違いなく来るだろうな。

タタリを仕留めた後か、それともその前に前菜感覚でな。」

 

「まともに戦える相手でもない……サマエルはなくともせめて白龍皇がいれば時間稼ぎくらいは出来た…だが。」

 

「それも無しならば、打つ手はなしか。」

 

「…いや、あるにはある。

けれど、無限はあらゆる事柄に対応できる…これが効くかどうか。」

 

「一か八かというわけか。」

 

「サーゼクスちゃん、アザゼル達が外で何かしてたりはしないの?」

 

「してはいるだろうけど、この結界を壊すには至らないだろうね。

そうなんだろう?ネロ。」

 

「その通りだ。

タタリに入ることも容易ではないが、破壊するのは更に困難を極める。

結界への干渉も厳しいだろうな。」

 

「うー……そっかぁ……」

 

セラフォルーは嘆くようにへたり込む。

情けないように見えるが、仕方のないことだ。

事実、周りもそのような状態だ。

ネロ・カオスだけでも厳しいのにその後が二人も残ってる。

しかも無限を除いてズェピアは厄介さはネロ・カオス以上だろう。

 

いや、そもそもズェピアは無事なのか。

 

「ズェピアは…生きているのかい?」

 

「生きている。」

 

「根拠は?」

 

「そんなものはない。

だが……あの馬鹿は死んでも死にきれない理由があるからな。」

 

「そんなものが……」

 

「想いというのは時に何物にも勝る。

ズェピア・エルトナムという死徒はその想いを原動力に今までを生きてきた屍だ。」

 

「屍……か。」

 

サーゼクスは腑に落ちたような感覚がした。

娘のためなら、という想いで動き、己を削っているのはネロ・カオスの言葉からわかってしまう。

 

自分には到底理解出来ない。

自己犠牲に近い精神性を持ち得ない限りは自分には一生理解することはないだろう。

 

そういえば、と聞きたいことを思い付いたサーゼクスはネロ・カオスに問おうとする。

 

「ネロ、またズェピアの事についてなんだが──」

 

 

 

 

「─ズェピアが、どうかしたの?」

 

とても落ち着いた、鈴のような声。

化け物の、声が辺りに響く。

 

 

『─ッッ!!!?』

 

ネロ・カオスを除く全員が声のする方を振り向いて驚く。

 

魔王三人とシオンにいたってはその驚愕は計り知れない。

 

「…フリー、ジア?」

 

「え、な、あ……?」

 

「……これは……」

 

「ど、どういうことなの!?」

 

フリージアの姿がそこにはあった。

いや、すぐに違うと理解する。

理解しても、それでも驚愕は消え去らない。

 

唯一違う点はフリージア本人の金髪ではなく黒髪ということだろうか。

 

そして、次に気付くのはその存在感。

間違いない。オーフィスだ、無限の龍神だ、と頭が警報を鳴らす。

 

そうして、目に光を宿していないオーフィスは無表情で

 

「うるさい羽虫、黙って。」

 

と言い、次の瞬間にはシオンの目の前にまで居た。

 

「─ぁ」

 

「─お前さえ、居なければよかったのに。」

 

その拳をシオンの胸にぶつけようとして─

 

 

「それは嫉妬というのだ、愚か者。」

 

黒い獣がオーフィスに体当たりをして、拳の位置をずらした。

 

「…ネロ、さん……?」

 

「何を呆けた顔をしている。

……家族を守るのは家族の役目だろう。

それに、貴様がここにいる以上……」

 

契約は続いているということになる、と笑みを浮かべてシオン…フリージアの隣に立つ。

 

その笑みは、フリージアが何度も見たことがある笑みだ。

戦いの時の獰猛な笑みではない。

面倒見のいい人の笑み。

 

分からない事を手取り足取り教えてくれた先生のような存在。

 

ズェピアと同じ位に頼もしい、家族。

 

恐怖が来るよりも先にずっと頼ってきた存在が味方についたことへの喜びで視界が潤む。

 

しかし、泣いてばかりではいられない。

涙を拭って、フリージアからシオンへ切り替える。

 

獣は既に消され、オーフィスは立ち上がる。

 

「……また、邪魔をするの?」

 

「無論。

……創生の土は然程効果がなかったか。」

 

「あれはもう効かない。

耐性を得なかったら三日は悶え苦しんでた。

…最後の警告、そこを、どいて。」

 

「出来ん相談をするほど愚かになったか。

何度でも教えてやろう、貴様の恋は叶わない。」

 

「っ、黙れッ!!!」

 

見破られた事への苛立ちか、それとも単に煩わしかったのか。

オーフィスは声だけで殺すのではというほどの声量で叫んだ。

 

一部の構えていた周りがその悲痛なまでの叫びに怯えが混じる。

 

黙ったことに満足したのか怒りの表情は消え去り、無表情に戻る。

 

「…黙ってくれればいい。

あとは静かに、殺すだけ。」

 

「何故殺す?奴は貴様に今も応え続けている。

貴様は奴を裏切るのか。」

 

「違うっ、違う!

ズェピアが裏切ったの!

ズェピアが、ズェピアがフリージアをずっと求めているからっ!

(わたし)はフリージアの代わりでもいいから支えようとしたのに!!

……ああ……ああ、お前、お前が!」

 

シオンを睨み、感情の爆発を止めようとせず、それどころか更に決壊していく。

シオンは睨まれてもただオーフィスを見捉えるだけだ。

何も言わない、言えない。

 

「お前が来てから、ズェピアはお前しか見なくなった……この世界だってそう!

お前が、もしかしたら来てくれるかもしれないという希望を持って展開した!

隣にたまたま並べたから?唯一人としての自分を最初に見つけ出したから?何で、お前なの……!

何だってしてきたのに、『禍の団(不良品集団)』を創ったときもズェピアの為!

……なのに、なのにどうしてお前に勝てない!

お前という存在を少しでも小さくして彼の心を休めてやれない!?」

 

「…オーフィ「黙れ亡霊風情が!」ッ!」

 

「……どうして来たの?

嘲笑いに来たの?それともこの世界を壊しに来たの?

させない、もうここはズェピアと(わたし)の…我の世界!何者にも邪魔はさせない、何者にも壊させない!」

 

憎しみをフリージアに向けるオーフィスに、彼女はどれだけ自分が後の家族を歪めたのかを目の当たりにする。

それはもう、彼女の知るオーフィスではない。

歪みに歪んで、溜め込んできた感情を爆発させて、自身の涙にすら気付けなくなってしまった。

 

「…それでも。」

 

それでも、諦めない、諦められない。

自分は家族一の頑固者だ。

あの時の死への選択への後悔なんてあるわけがない。

 

確かに、自分が折れて、死徒になったIFを想像せずには居られない時はあった。

…けれど、それはもしもの世界。

選択した後の世界はここなのだ。

 

だからこそ、無茶な選択をする。

家族に戻る(あの頃)』を選択する。

どうしても、あの頃の皆の笑顔を見たい。

 

シオンは真っ直ぐとオーフィスの瞳を見る。

暗く、深い闇を孕んだ瞳。

 

「それでも私は、貴女とまた家族に戻りたい。」

 

「お前は家族なんかじゃない。」

 

「いいえ、家族です。

貴女であっても絶対に否定しきれない。

…否定させはしない。

貴女が、貴女として笑っていたあの時を、忘れさせはしない。

貴女を追い込んでしまった、貴女に背負い込ませてしまった。

……ごめんなさい、それでも─」

 

 

─貴女とまた一緒に本を読んで、トランプをして、食事をして、同じベッドで寝たい。

 

「その為に、私は貴女を助けます。」

 

「…覚悟を決めるとすぐだな、フリージア。

いいだろう、手伝おう。」

 

ネロ・カオス(教授)がいる。

 

「元々人間の君にばかり無茶はさせられないよ。

僕も、出来る限りの事をしよう。」

 

「あの貧弱娘がよく吠えたものだ。

……嫌いじゃない。」

 

「もう、フリージアちゃんが頑張るなら私も頑張るんだから!」

 

魔王達(彼の友)がいる。

 

「俺たちだって…やってやる!」

 

「どれだけ強くても…シオン(仲間)が戦っているなら私達も戦うわ。」

 

「ボロボロなのに辛いけどね。」

 

「全く、過労で死ぬぞ。」

 

「あら、帰ったらお茶会ですよ?休む暇なんてありませんわ。」

 

「…頑張ります。」

 

「ぼ、僕もやってやります!」

 

「はい、私達も戦えます!」

 

仲間(ここで会えた友)がいる。

 

皆がいる。

 

怖くなんてない。

第一、家族を怖がる必要なんてない。

死ぬかもなんて考える意味なんてない。

 

今からやるのは、喧嘩なのだ。

 

感情を出すのが苦手だった姉との喧嘩。

迷惑をかけてしまったのだから、叱らなければならない。

 

なら、怖くはない。

 

「オーフィス、初めての喧嘩をしましょう。」

 

「フリージア─!!」

 

拳骨を落として、叱って、仲直りをして、終わりにしよう。

この戦い(初めての家族喧嘩)』を。




世界を巻き込む家族喧嘩とか今思うも三島家かよ……と思いましたがあっちよりマシですよね。


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絶望を

書いてて思った。

番外編の平和さ凄いなぁって


暴威の嵐が吹き荒れる。

力の差は歴然、勝てる要素など万に一つもありはしない。

 

「オォ──!」

 

「……。」

 

それでも向かってくる。

拳を、剣を、魔法を、自らが持ち得る力を振り絞って向かってくる。

 

殴りかかってきたドライグの宿主を腕を掴んで放り投げる。

不屈の精神で向かってくる様は敬意を表するが、何度来ても無駄だ。

 

寧ろ、よく我の攻撃を7回も耐えたものだ。

 

「うぉあっ!?ガハッ……!」

 

「ハァッ!」

 

「これならばどうだ!!」

 

圧倒的に強いのは我の筈だ。

その気になれば世界ごとこいつらを沈めるのだって造作もない。

こいつらも理解してる筈だ。

 

……なのに。

 

魔剣を此方へと振るう男と女を纏めて横凪ぎに蹴ることで吹き飛ばす。

今ので何本か逝っただろう。

 

「きゃぁっ!」

 

「くっ!」

 

「うわぁぁ!」

 

何人も、諦めずに向かってくる。

何故?実力差は明確なはず……勝てるなどという幻想をまだ見ているのか?

 

「不愉快。」

 

…フリージアやカオス、魔王達に負けるとでも思われているのだろうか?

 

「……!」

 

背後から鹿一匹、空から烏が数羽、目の前には鰐とライオンが襲い掛かってくる。

 

魔力を放出することにより一掃する。

こんなのが効くとでも思われている?

屈辱的だ。

 

……いや、カオスがそんな無駄なことをするとは到底思えない。

なら、何かあるはず…。

 

だが、何が来ようと無駄だ。

あらゆる可能性は我の手にある。

だというのに……

 

何故足掻くのか、いや、足掻けるのか。

絶望を思い知った筈なのに。

 

どうして……諦めることをしない?

勝てる確率なんてないのに、助けるなんて言い出せるのか。

そもそも、何から助ける?

 

……くだらない。

所詮は羽虫の考えだ。

何から助け出すとか、そんなことは考えなくていい。

こいつらを殺して、ズェピアを呪縛から解き放つだけ。

 

あの女の約束を、忘れさせる。

存在も消して、声も消して、言葉も消してしまおう。

もう苦しみから解放させるんだ。

約束のために身を削って、記憶も削って。

……やはり駄目だ、これ以上の無茶をさせればおかしくなってしまう。

 

多少手荒になってもいい。

それでズェピアが我の物になってくれるなら。

我の元にいることが真の安寧を得れる。

我を倒せるものはたった一体を除いて存在しない。

 

今度は我が助けるんだ……そうすることが一番なんだ。

本当に愛してる我だからこそ出来ることなんだ。

 

「我の邪魔をするな。

大人しく死を受け入れろ。」

 

「ほう…素で話すようになったな。

死を恐れている貴様が死を受け入れろと言うとはな。

些か傲慢が過ぎるぞオーフィス。」

 

「黙れ、もう挑発には乗らない。

まずはお前から始末する。」

 

「ククッ、いいぞ。

貴様が私を殺す、私は貴様を殺さずに捕らえる。

良いハンデだ。

折角だ、あの時の大富豪の屈辱も晴らすとしよう。」

 

……馬鹿にして。

そんなに死にたいなら殺してやる。

 

「邪魔をするなら、家族でも許さない…ズェピア以外、皆消してやる。」

 

「…奴は世界を壊すほどの価値がある聖者でも何でもないがな。

我らはそうして奴を知らぬうちに追い詰めていたのだろうな。」

 

「僕たちの期待が、彼を精神的に追い詰めていた、か。…フリージアは普通の人間だったからこそ隣に並べたのかもしれないね。」

 

「私がいる前でそう言うのはやめてください。

私はただ、過ごしていただけです。

……ずっと、頼りきりでした。」

 

「……我の前で、その話をするのは、我よりも寄り添えたという優越感の見せしめ?」

 

「違います。」

 

対峙するフリージアはまだ諦めの目をしていない。

 

「我に勝つ気でいるの?」

 

「勝つのではありません。」

 

「なら何。

なら、何なの?

無駄なことばかりして、家族喧嘩だとか妄言吐いて、我はそんな意味のないことをする暇はない。」

 

「なら何故殺さなかったのです。」

 

「……お前かカオスから先に殺すから。」

 

「効率的には考えないのですね。」

 

いちいち感に触る事ばかり。

自然と体が怒りに震え、今すぐ殺したいという気がわき出る。

だが、まだだ。

彼の苦痛を教え、後悔させてやる……

 

考えても、考えても苛立ちが発生する。

もう面倒だ。

 

「うるさい、お前にはこの気持ちが分かるわけない。

お前を失った後のズェピアがどんなだったかも知らないで!

必死に生きて、約束を果たすまでと何度も一人で言葉を吐き出していたのをずっと見てきた。

どうして、どうしてすぐに来てくれなかった!?」

 

「……。」

 

「黙りか、それだけの存在だったのか!

我も、ずっと待っていた!

それまではフリージアの代わりを務めて、少しでも心を休ませようと思った。

でも駄目だった、だって、お前はお前しか居ない!

代わりになんてなれない!

なら、もう全て終わりにさせて止めるしかない。

気苦労も何も感じさせない世界を、ここなら創れる。

そう思っていたのに……お前がここに来た!

何故今来た?誰の差し金?誰がその魂を今まで留めていた!?」

 

力ある限りこの女の罪を叫ぶ。

今更来ても、もう遅いと。

もっと早くにお前が来てくれれば、何も狂わなかったと。

 

「今更、どの面下げて来た!

ねぇ、見てて楽しかった?滑稽だった?無様だった?

娘のため、娘のためと身を削って、心を削ってきたズェピアを見るのはその心を満たした?

ふざけるな、我らはお前の観察道具でも何でもない!

すぐに戻ってきてくれて良かったのに!

何で、何ですぐに来て、『ただいま』を言わなかった!?」

 

ここまで追い詰めておいて、何なんだ、この女は。

家族喧嘩とか、そんな事をして仲直り?

ふざけるのも大概にしろ。

 

感情がぐちゃぐちゃに混ざって荒れ狂うのを感じる。

そして、それを受け入れる。

だってこれは正当な怒りだ、憎しみだ、悲しみだ。

 

「もう懲り懲りだ。

ズェピアは我が助ける。

あんな約束、忘れさせればよかった。

あんな約束をしなければよかった!

我も苦しませていた!

だからこそ、我が救うんだ、世界なんてもういい。

我が欲しかったのはただ一人。

ズェピアを手にいれて、全部忘れさせて、苦しみも悲しみも存在しない世界を創り上げる。

お前にも、カオスにも、グレートレッドにだって邪魔はさせない!」

 

感情のままに叫ぶ。

夢を叶えると、全てを終わりにして、彼の幸せを創ると。

 

「…それが貴女の本心ですか。」

 

「そう。

どうせいつでも来れたんでしょ?

それなのに来なかったのは、愉しむ為だった。」

 

「違います。」

 

「どこが違う。

お前がもっと早くに来なかったからこうなった。

自分の無力さに耐えれないからと、見捨ててきた癖に。」

 

「……何もかも、違います。」

 

頑なな女だ。

そういえば、頑固さなら我の知る者の中では一番だった。

 

フリージアが、微かに体を震わせているのに気付く。

 

「何もかも、違う。

私だって、行きたかった。

でも、行けなかった。行かせてもらえなかった。

折角、転生も何もしていないフリージアとしての魂だったのに、アレは行かせてくれなかった。」

 

「……フリージア、アレとはなんだい?」

 

「…グレートレッドです。」

 

「─!」

 

グレートレッド?

あの、グレートレッドが?

 

「グレートレッドは、私が死んだ後に私の魂を次元の狭間へと保管しました。

……ズェピア・エルトナムへの抑止力として、私を。」

 

そんな、バカな。

あり得ない。

アイツが、そんな事をするなんて。

 

いや、でも……

 

『グレートレッドは、星に属する龍だ。』

 

もし、そうなら……フリージアは……

 

いや、違う。

そんなわけがあるか。

そんな事があってたまるか。

 

「お前が、ズェピアの抑止力だとするなら、グレートレッドはこうなるのが分かってた。

分かっていて、放置していたのか?」

 

「……はい。

事が起こるまで、あの空間を出ていくことも、会いに行くことも許さないと。」

 

ズェピアを討伐する理由を求めた?

アレが直接出向けばいいのに?

 

「無駄な混乱を避けるためにも私をここに送ったのです。」

 

「そん、な……じゃあ、フリージアは……。」

 

「私も、会いに行けなかった理由があった…ごめんなさい、オーフィス。」

 

「……だ……そだ……!」

 

「…オーフィス?」

 

そんな、そんな都合の良いことがあってたまるか。

グレートレッドがフリージアをズェピアの抑止力として保存していた?

 

馬鹿にするのも、程々にしろ。

 

「嘘だ、嘘だ!」

 

「嘘ではありません!

信じてください、オーフィス!」

 

「嘘を、つくなぁぁぁぁぁぁ!!」

 

どうして今さらそんな嘘をつくんだ。

どうして言い訳しか述べない!

 

苛立つ。

毎回そうだ、こいつは何かを盾にしないと何も言えない!

今度はグレートレッドか!

 

殺してやる、この害悪がっ。

 

「フリージアァァッ!」

 

「っ!」

 

がむしゃらに拳を振るった。

フリージアは必死の形相で何とか避けている。

 

どうして避ける!当たれ、当たれ、当たれ!

 

「っく、オーフィス……!」

 

「黙れ、喋るな!

もう騙されてたまるか!

信じられるか!」

 

「くっ、疑心暗鬼にも程があるだろう…!?」

 

「邪魔をするな!蝙蝠風情が!」

 

「ぐぉあっ!」

 

雑魚の魔王の一人が我に魔力弾を放つが、振り向き際にこちらも魔力弾を放つ。

威力はこちらが上。

あちらの魔力弾は消え去り、代わりに我の魔力弾が奴にぶつかり、数メートル先まで吹き飛ばした。

 

「アジュカ!」

 

「これならどうかしら!」

 

「っ、こんなもの!」

 

今度は女が我を凍らせようと魔法を行使する。

無駄だ、こんなものは効きはしない。

魔法を無効化し、同じく魔力弾を放つ。

 

我の魔力は無限大だ。

何をしようが、無駄だ。

 

あまりの早さに対応できず、女もまた吹き飛ばされる。

 

「セラフォルー!」

 

「……」

 

気付けば、フリージアの隣にはカオスが居た。

 

後は、魔力をほぼ使い果たし役に立たなくなった魔王一人とカオスとフリージアだけ。

魔王は後回しにして、カオスを殺そう。

 

地面を蹴り、また一瞬の内にカオスの懐へと潜り込む。

 

「むっ……!」

 

「死ね、獸。」

 

もう我は、お前を殺せる。

拳が、カオスに吸い込まれていく。

 

これで──『divide!』─!?

 

唐突に、横から蹴られる感覚と共に力が抜ける感覚が襲う。

 

これ、は─

 

 

「アル、ビオン───!!」

 

「─その通りだ、オーフィス。」

 

何故、何故こいつがここに。

おかしい、何故……

 

「ヴァーリ……!」

 

「見ない間に醜い顔をするようになったな。

それに、何故俺たちがここに……という顔だ。」

 

俺たち(・・・)

……気付かなかった、どうして……!

 

四人ほど、気配が増えている……どうやってタタリに侵入した……?

 

「余計な真似を…!」

 

「確かに、お前の戦いを邪魔したのは謝ろう。

だが、頼まれたからな。

存分に邪魔させてもらおう。

それに……」

 

ヴァーリは、より一層獰猛な笑みを深める。

待ちわびていたといわんばかりの笑みだ。

 

「無限と戦い、俺の力が何処まで通用するか試すのも一興だ!」

 

「この、くたばり損ないが───ッ!!!」

 

 

 

 

─────────────────────

 

 

 

 

一時間前まで、時間は遡る。

 

「俺たちがあの結界の中に、だと?」

 

「ああ、頼まれちゃくれねぇか?」

 

ヴァーリは訝しげに自身を頼ってきた男性、アザゼルを見つめる。

アザゼルは至って真面目な態度だ。

それも、今まで見たことがないほどの真面目さと焦りようだ。

 

どうやら、本当らしいと判断したヴァーリは考える。

 

「…何故、お前を裏切った俺を頼る?」

 

「俺達はあの結界…タタリって言うんだけどよ。アレの進行を止めるのに出向けねぇ。

サーゼクス達があの中に居るが、本当に勝てるかも不明だ。

だから、お前らを頼りたい。」

 

「これはズェピア・エルトナムの仕業か。」

 

「ああ、ズェピアとネロ・カオス。そして、オーフィスだ。」

 

「オーフィス……か。」

 

「なんだ?何か予感でもあったのか?」

 

「予感も何も、ズェピア・エルトナム達は何かを起こすと分かっていた。

……まさか、オーフィスもとは思ってはいなかったが。」

 

「そうかい。で、どうだ?やってくれるか?」

 

ヴァーリは考える。

自分たちを頼ってきたということはあの中にチームのメンバーも入るということ。

そして、相手の実力は未知数で結界の中もどうなっているのか分からない。

 

ヴァーリは戦闘狂ではあるが仲間を蔑ろにするほどの愚か者ではない。

 

故に、悩んでいた。

自身の判断で決めて良いものかと。

 

しかし、今は緊急事態なのも理解していた。

ヴァーリ自体はこの頼みを受け入れてもいいと考えているが、他はどうなのかと。

 

そこで、ヴァーリはアザゼルに条件を突きつける事にした。

 

「……なら、こちらの条件を受け入れればやろう。」

 

「その条件ってのは?」

 

「ああ、それは───」

 

こうして、アザゼルはその条件を受諾し、ヴァーリもまた、その依頼を受けるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「へえ、俺たちがあの中に?」

 

「うにゃー……話聞く限りだと死んでこいみたいな話にも感じるにゃ~」

 

「でも、受けたんだろう?何か考えがあるのかい?」

 

「途中で進行が止まったと思ったら三勢力と他の神話勢力が塞き止めてたんですね。」

 

「待て、一斉に喋るな。俺は聖徳太子でも何でもない。」

 

全員で話し掛けてくるメンバーにヴァーリは手でやめろでもと伝える。

 

一人一人の質問に答えるとも伝える。

 

真っ先に質問したのは、自身と同じ戦闘狂の部類の美猴だった。

 

「俺たちがあの中に入って、平気って保証は?」

 

「アザゼル曰く、大丈夫との事だ。」

 

「分かったぜぃ。」

 

次に質問してきたのは猫又である黒歌である。

 

「何か見返りとかあるの?」

 

「ああ、それは後で教える。

お前ら全員が喜ぶ内容ではある筈だ。」

 

「ってことは白音に会わせてくれるとか?」

 

「…よく気付いたな。」

 

「ちょっと今から全力出すわ。」

 

美猴以上に張り切った様子の黒歌に苦笑するヴァーリにアーサー・ペンドラゴンが質問する。

 

「勝つ算段は?」

 

「難しいな。俺達全員が全力でかかっても勝てないまである。」

 

「それは辛いね。」

 

そこまで辛そうには見えない表情で言うが、内心は何か考えているんだろう。

 

最後に、アーサーの妹のルフェイ・ペンドラゴンが質問をする。

 

「結界が世界を呑み込んだらどうなりますか?」

 

「それもアザゼルの解析でもよく分かってはいない。

質問に満足の行く解答が出来なくてすまない。」

 

「いえ、構いません。

私もあの結界は曖昧に感じてよく分かりませんし…。」

 

魔法使いとして才能に優れたルフェイでも分からない結界。

アザゼルでさえも分かってはいないタタリとは一体なんなのか……。

 

思考が深く入る前に打ちきり、これから作戦を提案する。

 

「まず、タタリに侵入するのは全員参加でいいんだな?」

 

「当たり前にゃ!」

 

「野暮なことは聞くなだぜぃ、ヴァーリ。」

 

「世界の危機だし、構わない。」

 

「私達で出来ることがそれなら。」

 

「…感謝する。

それでは、作戦についてだが……

まず、既に中にいる魔王達との合流をする。」

 

顎に手を当て、考える仕草をするアーサーが質問を投げ掛ける。

 

「やられているという可能性は?」

 

「あり得る。

だが、今回はまだ全滅していない線で話す。

合流した後、怪我人を治療しなくてはならない。

そこは全員に頼む。」

 

「ヴァーリはどうするにゃ。」

 

「俺はその間の足止めなりするさ。

重要なのは一人でも戦力を失わないことだ。」

 

「……ですね。」

 

「でもよぉ、オーフィスはどうするんだ?

ネロ・カオスとズェピア・エルトナムを倒せても無限の龍神様が残ってるぜぃ?」

 

ここで全員が黙ってしまう。

……オーフィスの打倒など、土台無理な話である。

元々、無限は何処まで強いのか、どうすれば倒せるのか。

それすら分からない。

 

「それでも、やれることをやる。

全員での脱出も視野に入れる。」

 

「それがいいね。」

 

「では、行くぞ。」

 

全員が頷く。

この中の誰かが一人でも欠けないことを密かに願いながらヴァーリはアザゼルの元へと向かった。

 

 

 

 

─────────────────────

 

 

 

 

存分に邪魔させてもらおう、とは言ったものの……

 

「死ねッ!!」

 

「グッ、オォ!」

 

禁手化しても及ばない、か。

流石は無限の龍神か。

一撃一撃が重いなんてもんじゃない。

 

避けながら半減させるのも無理がある。

 

もう既に三発程喰らってしまった。

後、どれだけの時間を稼げるか。

 

ネロ・カオスが何故味方になっているのかは分からないが、オーフィスに殺させてはならないと直感的に察した。

 

ネロ・カオスと側にいた女の支援攻撃で戦えてはいる。

だが、こちらの攻撃が効いている様子はない。

邪魔はできてもダメージがない。

 

「足掻くな、もがくな、生きるなァ!」

 

「チッ……!?」

 

『ヴァーリ!』

 

また鳩尾に一撃が入る。

吐き気と共に意識が揺らぐ。

 

しかし、気合いで倒れそうになる体に鞭をいれて意識を保つ。

 

「悪いが……まだ、付き合ってもらうぞ……!!」

 

「混ざりものの屑が……!」

 

赤龍帝もやられてしまった。

奮闘したが、及ばず。

ならば、俺も足掻こう。

ライバルよりも耐えて見せようとも。

 

オーフィスは一度離れ、その膨大な魔力を放出する。

一体何を……

 

「消してやる……!

原型も残らないほどに消してやる!

お前らなんか、要らないッ!」

 

オーフィスの手にあったのは、巨大な剣だった。

俺達を飲み込んでも余りある大きさ。

無限の魔力で造り出したそれは禍々しい黒でオーフィスの心を表してるかのようだった。

 

「ここまで、か……」

 

「…流石にこれは、防げんな……」

 

「ここまで来て……!」

 

皆が諦める。

勝てはしない。

無限の龍神は、最強だ。

どれだけ強くあろうとも、頂点にいるのは無限と夢幻なのだと。

 

その剣は絶望を俺達へと伝えていた。

 

俺達は、もう終わりなのだと。

 

オーフィスは嗤っている。

これで終わりだと、これで死ねと。

 

「アハ、アハハハハハ!

死ねェェェェェェ!!」

 

剣が、振り下ろされた。

 

憎悪の剣は迫ってくる毎に力の差を否が応にも理解させてくる。

そんな中、銃で援護をしていた女だけが、諦める様子もなく、目を閉じていた。

 

俺も、諦めているのに。

 

俺は聞いてみることにした。

 

「おい、何かあるのか?」

 

「いいえ、私にはもう、手はありません。」

 

「なら、何故諦めない?」

 

迫る剣を見ながら女は微笑んで、一言。

 

 

「─父がいますから。」

 

「なに─?」

 

 

次の瞬間─

 

 

「─え?」

 

 

 

 

 

─剣が、ガラスのように音をたてて割れ、消え去った。

 

分かっていたのか、この女は。

この展開を?

そんな馬鹿な。

 

「お前が諦めなかったのは、これか……?」

 

「……いいえ。

単に約束が諦められなかった。

それだけです、私とあの人は。」

 

理解できなかった。

約束の事も、それだけのために諦めない女の事も。

 

オーフィスも、理解できないように呆然と立ち尽くしている。

女は後ろを見て、微笑む。

 

「遅いよ……本当。」

 

一体、誰が……。

俺も、ネロ・カオスと魔王もまた後ろを見る。

 

 

 

 

「いや、すまない。

先程まで、チケットが売っていなかったものでね。

 

─無事かね、シオン(フリージア)?」

 

「……うん、また、助けられちゃったね。」

 

「構わないとも。

君が無事でよかった。

再会の挨拶は、また後でにしよう。」

 

「うん……!」

 

そこに居たのは、穏やかな笑みを浮かべ、女に話しかけるズェピア・エルトナムがいた。

 

女もまた、泣きそうな顔でズェピアと言葉を交わす。

 

「……白龍皇君、感謝する。

君が時間を稼がなかったらこの結果は無かった。」

 

「…いや、感謝しなくても良い。

それより、任せても良いのか?」

 

「ああ、安心して任せてくれたまえ。」

 

「……そうか。」

 

俺は、壁に寄りかかる。

疲れがどっと出てきた。

それだけの、俺にとっての死闘だった。

 

オーフィスは、ズェピアを見ると、体を震わせる。

 

「どうして……守ったの……」

 

「君に、殺しをさせないために。

娘を守るため、叱るために。」

 

「…邪魔をしないで。」

 

「それは出来ない。

私は、君に受け止められてばかりだった。

だから、今度は私が……()が、受け止める番だ。」

 

「っ、ズェピア……!」

 

ズェピアは俺達の前に出て、オーフィスに告げる。

 

「終わりにしよう。

この狂った劇を。」

 




ようやく再会した二人。

そして、ようやく向き合える二人。

次回でようやく、オーフィス戦本番



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終わりの分岐点

それを選ぶのは主役足る彼次第。


「終わりにしよう。

この狂った劇を。」

 

ああ、くそ。

素で喋ってしまった。

ワラキアはこんなことを言わない。

だって、悲劇も喜劇も彼にとっては同価値なんだから。

 

……けれど、寧ろ、本心を告げるのが一番なのだろうか。

 

俺は、後ろにいるようやく再会できた少女を見る。

彼女は、俺を信じている。

……ハァ、本当、敵わない。

 

父親の弱味というか、なんというか。

娘の期待には応えたくなる。

 

でも、目の前の娘は、叱らなければ。

 

元を辿れば逃げてきた俺の罪だ。

謝罪なんかで事足りるか、どうか。

 

「ズェピア、フリージアがそんなに大事?」

 

「同じぐらいに、君も大事だ。

娘に優劣はつけられない。

……だが、君を頼りすぎてしまった結果が、これだ。」

 

「頼らなくても、してたよ。」

 

「いいや、しないさ。

君は純粋で、優しい子だ。

少し親孝行の方向性が違っただけで、悪ではない。

……だが、これはやりすぎだ。」

 

「我を叱るの?」

 

「勿論。

家族同士での問題は家族で解決しなければならない。

私は、君とフリージアの保護者だからね。」

 

「もうアレは家族じゃない。」

 

「家族だッ!」

 

「──ッ。」

 

「否定はさせない!

忘れたとも言わせない!

君も、笑っていただろう?

皆で遊び、皆で食卓を囲み、皆で過ごした日々を!

君も幸せを確かに感じていた筈だ!」

 

あの日々を、嘘にしたくはない。

あの子の笑顔を、嘘にしたくはないんだ。

 

それを聞いてオーフィスは押し黙る。

俺相手なら多少は会話に応じてくれるらしい。

何だかなぁ……父親として見られてないっぽいし、辛いわ。

 

それでもいいかって思うのはやっぱり親馬鹿なのかな。

 

「オーフィス、もうやめよう。

再会も出来た。約束は、果たされた。」

 

「でも、そいつは、ズェピアを何年も、何十年も待たせたんだよ?

そいつの言い訳なんて、我は信じない。

信じられない。」

 

「(…これも俺が招いた結果か。)

すぐに信じろとは言わない。

だが、頑なに自分の意見だけを貫くのは良くないな。」

 

慎重に言葉を選ぶ。

オーフィスは今、感情の制御が出来ていない。

初めてここまで爆発させたのだ、歯止めが利かないのだろう。

俺も、そんな時があった。

 

だから、下手な言葉は刺激して暴れさせてしまうかもしれない。

そうなったら力づくになるが、俺はそれを好まない。

 

「…ズェピアにとって、我は娘?」

 

「……ああ。すまない、私は君をどうしても一人の少女として見ることが出来ない。無論、フリージアもだ。

故に、私は君の愛に応えられない。恋に応えられない。」

 

「……そう。」

 

顔を俯かせたままのオーフィスは静かになる。

 

……理解、してくれたのだろうか。

 

俺を含めた皆がオーフィスの反応を待っていると、オーフィスは体を震わせる。

 

まずい、何か刺激してしまったか!

 

「……あはっ、アはハは……」

 

「オーフィス…私は、「馬鹿みたい。」……。」

 

オーフィスは、俯かせていた顔をあげる。

俺は、その表情を見た瞬間、心が痛んだ。

 

「…本当、馬鹿みたい。」

 

泣いていた。

あの滅多に泣かないあの子が。

その笑いながら、泣いていた。

 

俺はその涙を見て、今までのとは違う意味の涙なのだと理解した。

フリージアが死んだときの涙ではない。

俺が記憶を失っていったときの涙ではない。

 

あれは、自身を惨めだと嗤う涙だった。

 

「我は、結局一人でおかしくなって、一人でズェピアを救おうと躍起になって、一人でフリージアを恨んで、一人で狂言回しをしてた。

嗤うしかない、こんなの、馬鹿馬鹿しすぎて、嗤うしかない!」

 

「だが、それは私を思っての行動なのだろう?」

 

「違う、我の為の行動だった。

我はね……ずっと、ズェピアが欲しかった。

保護者としてじゃない。

一人のヒトであるズェピアが、欲しかった。

吸血鬼としての貴方だけじゃない、『人間』としての貴方が、ひたすらに欲しかった!」

 

─人間の、俺を?

 

「だって、吸血鬼の貴方は、何かの殻を被ってる貴方だって知ってるから。

中身の貴方は、本当は弱くて、脆いって知ってるから!

だから、我の物にして、他との関わりを消して、ずっと平穏で辛くもない日々を与えたかった!」

 

「…君は、ずっと?」

 

「ずっとじゃない……フリージアが死んでから、その想いが強くなった。

……ズェピアの日記、見たよ。

本当は、辛かったんでしょ?期待だけなんて嘘でしょ?

見てれば分かる。

ズェピアはずっと、フリージアの死を誰よりも悲しんで、誰よりも無力感に打ちひしがれていた…。」

 

「……。」

 

よく、人を見てる。

そう教えたのは俺だけど、ここまでしっかりと見てるとは、思わなかった。

 

…狂っていたのは俺なのかもしれない。

 

オーフィスは俺を過剰なまでに好いている。

それは事実だ。

だが、オーフィスが俺の事を誰よりも身を案じていてくれていたのも事実だ。

 

何処までも、俺は弱い。

弱くて、脆い。

狂わせるしか出来ないのか、俺は。

 

「我は誰よりも貴方を理解してる。

ずっと、見てきたから。

痛みを隠すのも知ってる。

そうやって、元々の貴方は消えたから。

……ズェピアは、強い。

でも、本当は弱いのを、ズェピア自身が分かってない。」

 

「そのようなことは…」

 

ない、とは言い切れなかった。

無意識に苦し紛れの言い訳をしようとしている自分が情けない。

 

ずっと、あの子に無理をさせてきたんだ。

 

オーフィスは俺に微笑みながら、ゆっくりと近付く。

止めようとは思わなかった。

 

目の前まで来たオーフィスを、俺は見た。

 

そうして改めて理解した。

 

「(ああ、この子はこんなにも小さい。

中身が大きくても、この子の心はまだ、無垢なままだったんだ。)」

 

それを狂わせた。

それをねじ曲げた。

 

オーフィスは俺に抱き付いて話始める。

 

「…ね、今から、終わらせよう。」

 

「……。」

 

優しく、言い聞かせるようにオーフィスは俺に抱き付きながら言う。

 

「ズェピアはもう、頑張らなくてもいい。

だってずっと頑張ってきた。

我を怖がらずに家族と言ってくれた。

我に知識をくれた。

我を個人として、接してくれた。」

 

「…ッ。」

 

「でも、もういいの。

頑張りすぎた位に、ズェピアはやってきた。

この世界で、終わりにしよう?

これ以上は、持たないよ……。

ズェピアが壊れるところなんて、もう見たくない。

ここで、終わらせて、二人で永遠に静かに過ごす。

それだけで、ズェピアは…『貴方』は、楽になれる。」

 

「それはっ……」

 

「……ズェピア。

もう、いいんだよ。」

 

「ぁ────」

 

心が崩れる。

それが最悪の結末を示す提案なのも理解しながら、放棄しそうになる。

 

……そうだ。

 

ずっと、頑張ってきた。

家族に弱いところを見せたくはないと。

家族を何者からも守れる程に強くならないと、と。

 

ずっと、隠してきたんだ。

怖い、辛い、悲しいという心の叫びを隠してきた。

 

それを、この子は見付けてくれた。

 

密かに、誰か気付いてほしいという願いに気付いて、叶えようとしてくれていた。

 

これ以上頑張ったら、心だけじゃなく、文字通り俺の全てが壊れてしまうと。

そう、言ってくれている。

 

甘言かもしれない。

でも俺には救いのようにも聞こえた。

 

もし、オーフィスを選べば俺はもう、何もしなくてもいい。

 

オーフィスに縋れば全てを終わらせて、この世界という殻で平穏を与えてくれるだろう。

きっと、幸せで、怯えることもない夢を、見せてくれる。

 

それは、とても素晴らしいに違いない。

 

心がそれを求めているのが、嫌でも分かる。

否定なんて、出来る筈がない。

 

「……オーフィス……」

 

「…『貴方』が願ってくれればそれでいい。

そうしたら、何も怖がることのない世界で二人きり。

我が怖い?」

 

「……いいや。」

 

「よかった。」

 

優しく、包み込むような温かさだ。

何もかもを安心させてくれるような、温もりだ。

 

……どうするかは、俺次第、なのだろう。

 

 

「(俺は────)」

 

決断は、すぐに出た。

 

後は、言葉にするだけだ。

 

「オーフィス、私は───」

 




はい、ここで終わらせたということは皆さまお察しでしょう。

バッドエンド、ハッピーエンド。
どちらもを投稿します。

皆さま、勿論バッドエンドを先に所望しますよねぇ?

次回、『安らぎを得た先で。』


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BADEND 安らぎを得た先で

俺は、言葉を告げた。

それがどんな結果に繋がってしまうかを知りながら、告げたのだ。

 

「オーフィス、私は───もう、休みたい。」

 

もう、戻れない。

引き返すことは出来ない。

本心から、安らぎを求め告げた言葉を覆すことは不可能だった。

 

オーフィスは俺の顔を見上げて、聖母のように微笑んだ。

 

「うん、分かった。

すぐ、終わらせるね。」

 

そう言って、顔を近づけてくる。

俺は何もせず、拒まなかった。

 

唇と唇が重なり、何かを失う感覚に陥る。

だが、それはオーフィスが俺に安心を与えるための行為だと理解していたから恐怖はなかった。

 

─俺は、タタリを失い、ワラキアの夜…ズェピア・エルトナムの姿ではいられなくなったのだ。

 

長くも、短くも感じる口付けは力を失う感覚が無くなると同時に終わった。

 

顔を赤らめながらも、しっかりと意識が薄れていく俺を見つめるオーフィスは笑顔で言った。

 

「─待っててね。」

 

─ああ、待ってる。

 

そうして俺は、意識を闇へと沈めた。

ふと、抱き締められる感覚がした。

 

何だろうか、オーフィスが俺を抱いているのだろうか。

だとすれば、何だか可愛いな。

 

 

 

──────────────────────

 

 

 

眠るズェピア…いや、愛しい人を壁に寄り掛かる形でそっとしておく。

選んでくれたのだ、我を。

 

ずっと、待っていた。

タタリも我の物になった。

もうこれで、あの人はただの人だ。

 

これでいい、これこそが彼にとっての至上の揺りかごとなる。

怖いものは、誰でも怖いのだ。

逃げてもいい。

 

ずっと立ち向かってきた彼にはそろそろ休みが必要だろうから。

 

我はそれ(場所)を与える。

我はそれ()を見せる。

 

ずっと、ずっと。

怖くないように、安心させるように優しい夢を見せるのだ。

 

「あ、ああ……ズェピア……?」

 

「ズェピアじゃない。もう、彼はズェピアでいられない。

休ませるためにも、もう殻は取り除く。

次は、お前らを取り除く。

…受け入れて、潔く死ね。」

 

絶望する奴等の顔を見る。

可哀想に。

頼ってきたツケが来たのだ。

お前らを滅ぼすのはお前らの甘さだ。

 

それを理解して、何も出来なかった事を悔やんで死んでしまえばいい。

 

「さようなら、フリージア。

これでお前は、もうおしまい。」

 

起こさないよう、静かに殺してあげる。

 

だから、抵抗をするな。

苦しむ時間が長引くだけだ。

苦しいのは嫌だろう。

 

我は、お前らも苦しみから解放してあげる。

生きる苦しみ、死ぬ事への苦しみから。

 

死ねば、何も苦しむことはない。

 

「これが終われば、次はお前。」

 

 

─グレートレッド。

 

我はタタリの星空を睨み付けてから、視線を戻す。

 

そして、作業に取りかかった。

全部終わらせて、二人だけの楽園を築き、そこで永遠に過ごすための作業を。

 

骨を砕く音も、肉を裂く音も、仲間が死んだ事を嘆く声も、助けてくれと懇願する声も、我を恨んで叫ぶ声も……

 

痛みも、辛さも、恐怖も、絶望も。

 

何もかもを作業曲として、これからの我らを想像し、楽しみに思いながら『作業』を続ける。

 

お前らは、その為の楽器。

でももう、楽器はいらない。

 

だから、壊すね。

 

魔王は、血涙を流し、悔しい、憎いと言いながら何も出来ずに死んだ。

 

獣の王は、結果がこれならば、何も言うことはないと潔く死んだ。

 

純潔の少女は───

 

 

「ぁ、あ……皆、そんな……嘘だ、そんなの……これじゃ、ズェピアは屈しただけです……!」

 

世迷い言もここまで来ると滑稽だ。

屈したのではない。

頼ったのだ。

自分はもう疲れたからと、全てを頼んだだけだ。

 

「これで、後は……お前だけ。」

 

目の前で倒れ付しながらも我を睨み付けてくる少女に何の感慨も湧きはしない。

家族としての関係も絶った。

敵ですらない蟻同然の少女に何の感情を抱けばいいのか。

 

「オー、フィス……貴女は「うるさい口を閉じろ。もう終わりだ。」あぐっ…!」

まだ説得か何かを続けようというのだろうか。

五月蝿いので腹を蹴った。

内臓、ほとんど潰れたかな。

死ぬからいいか。

 

「ズェピアが選んだのは我。

選ばれなかったのは、お前ら。

それだけだ。

それが真理で、それがお前らの最期だ。」

 

「待っ──」

 

「─さようなら、純潔の花。

もう二度と、会わないだろうから。」

 

そう言って、何かを喋ろうとした彼女の頭に足を置いて……

 

 

グシャリ、という音と共に踏み潰した。

 

そうしてこの世界からは、我と愛しい人だけになった。

 

「お前の番は……まだ、いいや。」

 

別にいつでも殺せる。

今じゃなくても構わない。

どのみち、世界が塗り変わればグレートレッドは、ただの龍に成り下がる。

所詮は星のバックアップがあるからこその強さ。

我とは違う。

 

タタリの力を無限の魔力で増幅させる。

 

世界を変えるために、創るために。

 

その為に、表の世界は消えてしまえばいい。

新世界創造の礎になれる。

二人の楽園のための犠牲になれる。

 

さぞ幸福だと思い、死ぬことだろう。

 

もう世界を包み込んだ頃かな。

 

ボロボロの街を見る。

ここでは駄目だ。

安らぎは得れない。

創り直そう。

 

タタリの力で、世界を創り変える。

どんな世界にしようか。

 

ずっと、二人で過ごしても問題はない世界……

 

少女的過ぎるけれど、これでいいかな。

 

変わっていく世界を後はタタリに任せながら、眠っている彼の所まで歩く。

 

顔を見て、微笑む。

 

─ああ、安らぎの表情だ。

 

苦しむの表情でも、作った笑顔でもない。

 

心の底から安堵している表情だ。

 

ズェピアじゃない本当の貴方の顔も、素敵だ。

 

少し疲れた。

久し振りに……貴方の、膝元で……。

 

次に会うときは、幸福な世界になっているから。

 

 

 

─────────────────────

 

 

 

─ふと、目を覚ました。

 

どうやら寝ていたらしい。

起き上がり、辺りを見渡すと、優しい風の吹く草原だった。

 

はて、俺はこんなところに居ただろうか。

 

前に何をしていたのか……思い出せない。

 

だけど、不思議と誰と過ごしていたのかは分かる。

 

その少女が何処に居るのかと探す。

 

「何処にもいない……。

どうしたもんか……ん?」

 

奥から、誰かこちらに来る。

 

いや、誰か、ではない。

既に知っている人物だ。

それも、ずっと一緒に過ごしてきた人だ。

 

こちらへと走ってきているので、俺も嬉しくなって駆け寄る。

 

そして、白いワンピースの少女を抱き締めて、名前を呼ぶ。

 

「オーフィス。」

 

「…うん、終わったよ、全部。」

 

終わった。

何が終わったのか、分からないが、きっと俺にも関係があることなんだろう。

無力な俺は待つことしかできないが、オーフィスは何も悪いことじゃないと慰めてくれる。

……ああ、いいんだ、何も出来なくても。

 

風によって靡く、黒く長い髪はとても綺麗で、オーフィスは意外と髪とかに気を遣ってるというのが分かる。

可愛い。

 

「そっか。」

 

「ずっと二人で居ようね。

これから、ずっと……一緒。」

 

「当たり前だろ、今までもそうだったじゃないか。」

 

「─そうだった。ごめんね。」

 

「おかしなオーフィスだ。」

 

二人して笑い合う。

ああ、幸せだ。

 

抱き締めるオーフィスの温もりが、俺を安心させる。

 

俺はこの少女を好いているのだと、実感する。

オーフィスは、スルリと俺の腕から離れると微笑む。

もう少しああしてたかった。残念だ。

 

「ね、帰ろ?」

 

「…そうだな。」

 

「拗ねてるの?」

 

「少し。」

 

「家でいつでも出来る。」

 

「ここだと少し違う感じかもしれないだろ。」

 

「何それ、変だね。」

 

変と言われた。

泣きそうだ。

 

少し落ち込んでいると手を握るような感覚。

言うまでもなく、オーフィスが俺の手を握っていた。

 

「帰るまで、こうしよ?」

 

「……うん。」

 

「もう、子供じゃないんだから。」

 

そうだよ、俺は子供ではない。

れっきとした大人である。

 

「そういえば、何をしてたんだ?」

 

「内緒。」

 

「えぇ……」

 

「それより、貴方の料理が食べたい。」

 

「…まあいいか。

それじゃあ、今日は好きなハンバーグにしよう。」

 

「…うん、ありがとう。」

 

礼を言われるほどの事はしてないのに、妙に暗い表情で礼を言われる。

 

どうしたんだろうか。

 

「オーフィス、どうしたんだ?

そんな顔して……」

 

「……ううん、何でもない。

あ、家、見えたよ。」

 

「お、本当だ。

……悩みがあれば聞くからさ、あんまり暗くなるなよ。」

 

オーフィスは俺の言葉にキョトンとした後に、すぐに嬉しそうに微笑む。

 

俺の手を握る力が強くなる。

まるで、俺の存在を確かめるように握ってくるので、俺も同じように握る力を強くする。

 

「ねえ──この世界にいて、幸せ?」

 

オーフィスは、そう聞いてくる。

この世界で自分と過ごして幸せかどうかを聞いてくる。

 

「…ハハハハハハ!」

 

俺は、思わず笑った。

今更な質問をされたら笑うしかない。

 

「むぅ……」

 

真剣な質問をしてるのに、といった風に拗ねてしまった。

笑いすぎたかもしれない。

 

「ハハハ、ごめんごめん。

 

─幸せだ、物凄く。俺には勿体無いくらいに。」

 

「……ん、そっか。

なら、いいの。」

 

意外とあっさりだな。

もっと神妙な表情になるかと思ったが。

 

安堵した様子なので、別にいいが。

 

「ほら、さっさと家に入ろう。

それとも、まだ悩みがあったりするのか?」

 

「ううん、無いよ。

……うん、これからも一緒。」

 

当たり前なことを言うので、変なオーフィスだなと言うと、お互い様、と返された。

はて、俺も変なのか?

 

……まあ、いいか。

 

俺達は今日も二人で、平穏に過ごした。

 

二人で食事をして、二人で他愛のない話をして、二人で一緒に寝た。

 

 

─ああ、幸せだ。

 




はい、というわけでバッドエンドとなります。

一見幸せに見えますね。
しかし、主人公は力を失い、記憶を操作されてオーフィスとずっと居たという記憶に改変されています。
それも、記憶に誤差がないようにしっかりと。

世界もまた、タタリに包まれ、生きている人は一切いません。
オーフィスが始末しました。

……そういえば、オーフィス、最後に何かしてたみたいですけど、何したと思いますか?
そこはご想像にお任せします。


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HAPPYEND 1 The road to the truth

どうも、ロザミアです。

HAPPYENDが一話だけだといつから言った?

なにげに英語のタイトルって初めてですね、これ。


その誘いは、正しく俺の心に響いた。

 

屈する、というより縋るに近い。

オーフィスに縋りつけば、きっと言葉通りに終わらせて、言葉通りの安らぎを俺に与えるのだろう。

それがどうやってなのかも分かる。

 

確かに、俺は今までが怖かった。

 

ずっと、隠してきた。

それをこの子は見破っていた。

 

……この子なりの救い方で俺を救おうとしていたんだ。

それを俺は…なにも分かりもしないで拒もうとした。

 

きっと、このどちらかの選択肢を選べば結果は確定する。

 

オーフィスを選べば、『(本来の自分)』が望んでいたのかもしれない終わりへと。

フリージアを選べば、俺個人が望んではいない、だが『(この世界の自分)』が目指す終わりへと。

 

…もし、フリージアを選べば、オーフィスとは……。

 

だが、かといってオーフィスを選べば、何もかもが消え去り、本当の意味での新世界で二人になる。

 

……幸い、オーフィスはずっと待っててくれる。

 

だが、長い時間悩むのは、失礼だ。

 

「(俺は結局、何を目指した?

再会か?平穏か?闘争か?)」

 

何かが、噛み合わない。

 

俺が目指したもの……俺は、ズェピアは何を目指してこの世界の今を生きてきた?

 

再会は違う、俺はそれを待っていただけだ。

平穏も違う、それは、俺の望みであって、目指す果てじゃない。

闘争も違う、戦って、果てを知りたいなんてのは過程にすぎない。

 

……どうする、どうすれば俺にとって、オーフィスにとって、教授にとって、フリージアにとって……俺達家族にとってのハッピーエンドを……

 

ハッピーエンド(・・・・・・・)

 

ハッピーエンド……そんなものを目指すのは当たり前だ。

誰だって自分にとってのハッピーエンドを目指す。

 

オーフィスにとってのハッピーは俺を自分なりのやり方で救ってその後の世界で二人で過ごす事。

 

フリージアにとってのハッピーエンドは家族でまた笑い合う事。

 

きっと、教授にとってのハッピーエンドは、俺次第なのかもしれない。

 

……なら、俺にとっての、ハッピーエンドは……?

 

再会は、出来た。

これが俺の目指したハッピーエンドなら、俺はオーフィスの言葉で崩れたりはしない筈だ。

 

再会ではない。

それは約束であって、ハッピーエンドではない。

 

…ああ、いや、そうなると、俺にとっての最良の終わりは我儘が過ぎるんじゃないか……?

 

…………ふう、参ったな。

 

「オーフィス。」

 

「何、ズェピア?」

 

「私は…我儘なのだろう。

君の言う終わりも、フリージアの言う終わりも…私が欲するものではない。」

 

「…じゃあ、どんな終わりが良いの?

貴方は……ズェピアはどんな終わりならいいの?」

 

いつの間にか、オーフィスは俺から距離をとっており、穏やかな笑みを浮かべて俺を見ている。

 

……威圧感が無いからこそ、分かることがある。

 

きっと俺の願いにこの子は否定的(・・・)だ。

 

それも、俺の願いを取り潰して強引に自分なりの終わりに導くに違いない。

 

だが、それは許されない。

ここは、俺の舞台だ。

これは、俺の物語だ。

誰にも俺のエンドを決めさせはしない。

俺が決めるからこそ納得できる終わりになるんだ。

 

俺は覚悟を決めて、同じように穏やかに自分の願いを伝える。

 

「私の願いは……家族と共に笑い合いながらもう何もしなくていい、平穏な日々を過ごすことだ。」

 

自嘲する。

自分で事を起こしておいて何て勝手な奴だ。

 

これが終われば死ぬかもしれないのに?

 

……だが、それでこそなのだろう。

 

人としての生を失い、吸血鬼(化け物)としての生を得たからこそ、俺なりの結論が出来たんだ。

 

人間は自分勝手で、傲慢で、臆病な生き物だと。

 

当たり前な日常を望みながらも、常に現状を良くも悪くも壊そうとする。

それ故に、ここまで生きてきた。

 

人類は存続してきた。

 

生き物を食い潰し、自然を食い潰し、星を食い潰しても尚、朽ちることがない欲望。

 

……俺の中身もまた、どこまでいっても人間でしかなかったってことか。

 

当然か、人が人でなくなれる訳が無いんだ。

 

ワラキアの夜も、最初から化け物の感性だけの現象じゃなかった。

 

ズェピア・エルトナムという人間が計算の果てになってしまった姿。

 

救いを求め、救いを計算し、救いの方程式を生み出そうともがいた人であったひとでなし。

きっとそれは執念の塊だ。

だからこそ、人を惹き付けた。

俺もそうだった。

 

……俺は、ワラキアの夜になりたかった。

でも、本人になれるのは本人だけ。

俺がなれるのはワラキアの夜を形取ろうと必死になっていた阿呆だ。

 

だから、奴がやるわけがないこともやれる。

 

悲劇なんて、俺には要らない。

欲しいのは喜劇だけだ。

 

やっと、気付けた願い。

これを手放しはしない。

 

「それは、駄目。」

 

「それを決めるのは君ではない。」

 

「駄目、ズェピアはもう休むべき。

だから我が元凶を消してないといけないのに…どうしてズェピアも邪魔をするの?」

 

「私の願いを邪魔するからだね。

第一、私はフリージア達を元凶と思ってはいない。

……長い生を受けた私は、いずれはこうなる定めだった。」

 

「違う!」

 

オーフィスは大声で否定する。

そんな事はあり得ないと。

どこまでも優しい子だ。

だからこそ、歪むのもすぐだったのかもしれない。

 

「そんな事ない!

ズェピアは、頑張りすぎたからそうなった。

それもこれも、フリージアや魔王達や…我のせい。

だから、我が終わらせるの。」

 

「……それこそ違う。

私は、私がやりたいからやったのだ。

私なりのエゴだ。

私の意思がやると決めたことを、君が否定する要素などない。

……君たちは悪くはない。全て私の責任だ。」

 

「どうして否定するの?

苦痛をずっと耐えるなんて出来はしない。

その殻に閉じ籠ってばかりで何になるの?」

 

「閉じ籠るか。

的を射た言葉だ。

……諦めることが出来たら、楽だったのかもしれない。

だが、ズェピア・エルトナムという人物は諦めることをしなかった。

ワラキアの夜は悲劇も喜劇も良きものとしていた。

だが、私は……喜劇が見たい。

この殻を閉じ籠ろうと、私は私だ。」

 

「……ズェピアの願いがそうでも、我は……。

やっぱり、駄目。

そんな無茶をしてまでズェピアに笑っていてほしくない。

我は間違ってなんか、ない。」

 

「ああ、そうだ。

君は間違っていない。

正解なのかもしれない。

だが、それならば私も正解な筈だ。

元より願いに解答などありはしない。

だからこそ、私は私の願いを叶えるために、君の願いを否定する。」

 

これは結局、押し付けあいだ。

願いを叶えるのに、気に入らない願いを持った奴がいるから叩き落とすようなもの。

 

だからといって俺はオーフィスが嫌いなわけでもない。

対峙するだけでも心苦しい。

お父さん泣いちゃう。

 

……それでも、俺はその願いを叶えさせるわけにはいかないから。

 

はっきりと否定させてもらう。

監督審査はもう俺がやることではないので、この世界の役者(生きる者)として否定する。

 

オーフィスは否定されたのが苛立つのか、俺を少し睨んでくる。

確かに、自分なりとはいえ俺を助けようとしているのに否定されたら何で?とか思うかもしれん。

 

まあ、でもね、俺の平穏=全人類抹殺は違うやん?

 

なので、俺は彼女の怒りを受け止める。

今度は俺がしっかりと受け止める。

 

「それは、ズェピアとして否定してるの?

それとも、貴方?」

 

「両方の意見だ。」

 

「……そう」

 

「君と私の願いは相容れない。

……そうなれば、1つしかない。」

 

「……ズェピアは我に勝てない。」

 

「勝て『は』しないだけだよ。

そんな勝負、もう味わった。」

 

「……。」

 

それに、今は感情が爆発してないように見えるかもしれないが、俺には分かるんだぜ。

その静かな狂気が俺に向けられてるのはさ。

 

オーフィスは仕方無いか、と構える。

 

げ、構えるのか……さっきまで自然体だったのに。

 

俺の時だけそれはせこくないですか。

 

「否定された分と、相容れない分だから……今度は四肢をもいで、動けないように拘束する。」

 

「それは困る。

そうされると、君を受け止められないからね。」

 

「それは告白?」

 

「いや、まったく。」

 

「…期待させた分で内臓追加。」

 

「(やっべ地雷踏んだわ)」

 

軽い会話でもしないと俺の心が軋むのでしっかりやっていこう。

オーフィスも会話には応じてくれるしね。

 

……俺の時だと会話に応じるって相当なんだよなぁ…病み度。

 

まあ、何はともあれ…決戦って奴だろ。

ラスボス…ではないな、うん。

 

持ってくれよ、俺の体。

娘を助けるときくらいは、頑張るかな。

 

俺は、後ろの皆を巻き込まないように結界を張る。

これで、衝撃は向こうにまでいかない。

 

……よし、やるか。

 

俺は、意識を切り替える。

分割思考、展開。

 

さあ、殺し合おう(受け止めよう)

 

 




タイトルの意味は真実への道です。

さて、次回はオーフィス対ズェピアですね。

もうちょっとだけ付き合ってください。


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HAPPYEND 2 親子喧嘩

どうも、ロザミアです。

遂に始まった親子喧嘩。
その結末や如何に。

今回は長めです、どうぞ。


結界が張られてしまい、手出しが出来なくなった。

あの人は、オーフィスと決着をつける気だ。

 

『私の願いは……家族と共に笑い合いながらもう何もしなくていい、平穏な日々を過ごすことだ。』

 

彼の願いを思い返す。

 

私の願いと殆ど同じように思えるが、違う。

 

彼は、オーフィスとの蟠りを解決し、本当の意味で笑い合いたいのだ。

私は、違う。

私の願いはズェピアの願いのような先が無い。

 

そこで終わってしまう停滞。

 

「フリージア。」

 

「……ネロさん。」

 

声がして、振り返るとネロさんがズェピアとオーフィスの戦いを見ていた。

あくまであの戦いを見ながらの会話。

 

私もまた、二人の戦いを見る。

 

やはり、力の差は歴然。

ズェピアはオーフィスの攻撃に手も足も……いや、違う。

 

私は、理解して、驚愕した。

 

「ズェピアは、どうして……?」

 

「ズェピア・エルトナムなりのオーフィスへの謝罪なのやもしれんな。」

 

「それでも、あれは…」

 

そこまで言って、その後の言葉を、私はわざと言わないことにした。

どのみち、結界で何も出来ない。

いや、しない方がいい。

 

したら悪化する。

 

そんな確信が私にはある。

 

「フリージア……少し、いいかな。」

 

サーゼクスさんがいつの間にか隣にいた。

立っていたが、もう限界なのか座り込む。

断る理由もないので会話に応じることにした。

 

「ありがとう。

……君とネロは分かってるのかもしれないけど、僕達にはまだよく分かっていない事があるんだ。」

 

「オーフィスの暴走の原因、ズェピアの言葉の意味ですね。」

 

サーゼクスさんはそれに頷く。

 

実を言うと、私にもよく分かってはいない。

オーフィスの言葉通りだと、ズェピアは『ズェピア・エルトナム』という殻を被った誰かという事になるのだ。

 

流石に、変装などではないだろう。

誰かが化けているというのもない。

……そうなると、本当に言葉通りの?

 

「二人とも理解が追い付いてないようだな。

いいだろう、私が説明しよう。

……といっても、言葉通りの意味なのだがな。」

 

「待ってくれ、それだとズェピアは僕達だけじゃなく、君やフリージア、オーフィスにもズェピアという殻で接していたことになる。」

 

「違うな、魔王。

ズェピアという殻でしか、接することが出来なかったのだ。」

 

「……その方法でしか僕達に接し続けられなかった、或いはそうせざるを得ない事態だったのか?」

 

「前者が正解だな。

ズェピア…いや違うな、この場合は名前が分からんからAとしておこう。

Aは、臆病故に化け物という殻を頼るしかなかった。

殻にさえ籠れば、後は演じるだけだからな。

だが、奴はその殻に同化しすぎた。」

 

「本来の自分を、出せなくなったの?」

 

「内面でしかな。」

 

「それは……」

 

…じゃあ、ずっと演じてたんだ、あの時から。

家族に、せめてオーフィスに位は本来の自分を出してあげればよかったのにと今更な怒りが沸き上がるが、すぐに静める。

 

臆病、かあ……そんなズェピア、想像が……

 

 

『……ズェピアが泣いているところ、初めて見たわ。』

 

『──泣いている?私が?』

 

 

……ああ、そっか。

確かに、臆病なのかもしれない。

そして、内面を出すことが出来なくなったのも納得した。

出来る筈がない。

でなければ、あの時、初めて泣いたように驚かない。

思えば、あの時だけは、素の彼だったんだ。

 

最期に、見せてくれたんだ。

 

「……でも、ネロさんは知ってたんだね。」

 

「随分と前からな。

あれは、私の記憶するタタリではないからな。

ズェピア・エルトナムの姿を借りた誰かというのは分かっていた。」

 

「そっか。」

 

「…まだ聞きたい事があるけど、今は戦いを見ることに集中するよ。」

 

「負けるとは考えないのだな、魔王。」

 

「…どうだろうね。」

 

サーゼクスさんは、戦いを眺めながら、神妙な面持ちだった。

 

「やっぱり身内とか友人の事になると甘いんだろう。

ズェピアが負けるとは思わない。

それが単にグレモリー特有の情愛が原因なのか、はたまたサーゼクス・グレモリーという個人の感情なのかは僕にも分からない。」

 

「ふむ。王が自らの感情を理解できていないとはな。」

 

「そんなもんだよ。

自分の事は自分がよく分かってるなんて言葉があるけど、実際は他人が見る自分の方が本性だ、なんてよくあることだ。」

 

「違いない。」

 

「……。」

 

会話を聞く限り、ネロさんも負けるとは思ってないようだ。

まあ、私もなんだけど。

 

「何にせよ、僕達は傍観者……いや、ズェピア風に言うのなら、観客としてこの戦いを見届けなければならない。」

 

「それが終わり、ズェピアが無事ならどうするつもりだ?」

 

「……彼は犯罪者何て言う枠組みで収まる人物ではない。どうあっても今の法で裁かれるだろうね。」

 

「…何とか、なりませんか?」

 

「ならない。これは悪魔とかの問題ではないんだ。

僕程度が口出しできるとは思えない。」

 

「奴が素直に裁かれるといいがな。」

 

「ハハ、妙なところで律儀だし、問題ないんじゃないかな?」

 

「でも、ズェピアは演技……」

 

「例え演技だったとしても、彼が心から笑えていた時間はあった。君が分かってないといけないところじゃないかな、フリージア。」

 

「……。」

 

「それに、僕は本来の彼とか知らないからね。

長年の付き合いはズェピア・エルトナムという『彼』だ。どっちにしろ、僕は信じるけどさ。」

 

「そう…ですね。」

 

会話はそこで終わり、後は彼の戦いを見ていた。

 

 

 

 

─────────────────────

 

 

 

 

正しくそれは身を削る戦いだった。

どれだけ強くなろうと、相手は無限だ。

勝てる算段など、1つも無し。

いや、あるにはある。

だがそれは、家族(父親)としてやってはならない。

 

龍だからと、龍を殺す生き物を再現するなどやってはならない。

向き合うと決めて、また逃げの一手を打つのか。

 

否、否である。

この戦いは覚悟を決めて受け止めるための戦いだ。

 

故に、自分は──

 

 

「─ギィッ……!」

 

「……どうして……?」

 

オーフィスの一撃を腕で受ける。

当然のように、腕は吹き飛ぶ。

痛い。

焼けるような痛みという表現も生温い。

 

オーフィスは構えを解かない。

そうだ、それでいい。

ぶつけてこい、お前の全てを。

 

「どうして、攻撃しない!?」

 

「ッ、くっ…ははは……」

 

─何もしない。

 

俺は攻撃を一切しない。

放棄する。

どうせ、勝てないのだ……等という諦めではない。

 

最初からこうする予定だった。

我ながら、狂気的な行動をしている。

 

一撃一撃が体の一部を欠損させるというのに、それを敢えて受けるなんて笑ってしまう。

 

ああ、これでいい。

お前の全てを俺は受けきって見せるとも。

 

全身を消すほどの一撃、受けるとも。

星を砕く程の一撃、受けるとも。

君の全力、受けるとも。

 

全部受ける。

 

オーフィスは、理解が出来ないように、俺を見る。

俺は、笑いかける。

 

右腕が、吹き飛んだ。

腕一本になったな。

困った。

 

横腹も抉れている。

……が、吸血鬼の再生力のお陰で塞がる。

 

「中々、苦痛を伴うものだな……!」

 

「何で?どうして我の攻撃をくらうだけ?

どうして我を攻撃しない!?」

 

「私は、娘を攻撃する父親、ではない……」

 

「なら、結界を解いて!

無駄なことをしないで!」

 

「君の力で、壊せばいい……させんがね」

 

「~ッ!」

 

困惑を隠しきれない、といった様子だ。

当然か、俺は、さっきから結界を壊す一撃を代わりに受けている。

 

こういう時、分割思考は便利だ。

オーフィスの動きがよく分かる、予測できる。

 

……まあ、準備は終わったから次からは結界への一撃は構わないが。

 

にしても、死徒でも痛いもんだね。

いやはや、予想より痛みがありますね。

1割増しですよ……誤差ですね。

 

「ズェピアは、それでいいの!?

我は、我はズェピアに安らぎを与えたいだけなの!」

 

「理解している。

君の言うように、私はそれを欲している。」

 

「ならどうして……?」

 

「それでも、私は君と、フリージアと、ネロ・カオスと。

……家族で、共にいたいのだ。

君の願いを否定するはめになろうとも、君の想いを無駄にすることになろうともだ。」

 

「……分からず屋……!!」

 

「君が言うか!」

 

オーフィスはその言葉を皮切りに俺に肉薄し、拳を、脚を、魔力をぶつけてくる。

 

避けるなんてしない。

受け止めよう。

 

だが、そうだな……言葉を告げる体力諸々は欲しい。

 

俺は身体強化の魔法を自身に掛ける。

勿論、体の耐久力も上がることだろう。

付け焼き刃にしかならないが。

 

容赦ない攻撃が俺を襲う。

 

「頑固者、監督気取り、三流役者!

どうして、どうして!!」

 

「ぬ、ぐぁ……!」

 

「我の事を選んでよ!

選んでくれたら、選んでくれたら何もかも、ズェピアの、貴方の心に安らぎを与える楽園を創るのに!

どうして理解ってくれない!」

 

この娘は、俺を諦めさせるためにこうして攻撃している。

確かにここまで殴られたり蹴られたりして、泣き叫ばれたら心が折れそうだ。

 

言葉による説得は無駄だと俺から伝えたようなものだからな。

そりゃ、最終手段の暴力しかないわな。

 

「ずっとそうだ、ずっと、ずっと、ずっと!

理解してくれるようで、理解してくれてない!

フリージアが死んだとき、我は確かに悲しんだ!

それでも、それでも先に出てきた感情は貴方に求められるという期待だったっ!」

 

「それは、初耳だ…な……」

 

─ちょっと、待ってください。

 

 

死ぬ、これは死ぬ。

痛いなんてもんじゃない。

死徒、それもズェピア・エルトナムの肉体じゃなければ粉微塵になって死ぬレベルだ。

 

訴えるのはいいけど、その暴力を一旦止めてください!

無理なのは分かってるけどやめて、全部聞けなくて死ぬ!

 

くっそ、シリアスを貫こうとした俺の心がガラスのように砕け散った!

無理だ、内心だけでもこうやってないと持たない!

 

そんな俺の心の叫びが届いたのか、オーフィスは攻撃をやめる。

 

「期待したのに、貴方は理解ってなかった……!

我は、ずっと求めてくれる、頼ってくれると思ってた!

それなのに、貴方は一言も、側に居てくれとも言わない!

怖いとも、寂しいとも言わない!」

 

「…そこまで想われるとは、父親冥利に尽きるね。」

 

「っ、まだそんな……」

 

「まあ、聞け。

…確かに、あの時から私はまた家族を失うことが怖かった。ズェピア・エルトナムの仮面を被り、心さえも誤魔化そうとするほどにはね。」

 

「なら、どうしてそれをっ!」

 

「言える筈がない。

私なりの見せたくない一面というやつだよ。」

 

「…そんな事の為に?

そんな、意地の為に、自分を壊したの!?」

 

ああそうだ……とは、言えなかった。

オーフィスがその俺の意地の為の被害者なのを分かっていて俺の心配をしているのが苦しかった。

 

理解しているのに、それでもと俺を選んでいる。

こんな男の何処に惚れたのやら…。

 

「もっと、自分を大切にして!

家族のために磨り減らしてきた精神を、今度こそ消す気?そんなことされても嬉しくも何ともない!

やっぱり分かってない!」

 

「……すまない。」

 

「謝罪なんか……!」

 

「…すまない、私は父親として、守らねばならなかった。」

 

「っ、我はっ!」

 

全く以て、俺はダメな男だ。

今もオーフィスを苦しめてるのが分かっていて、こんな事を言っている。

 

怒りをぶつけるように、拳が飛んでくる。

無論、受ける。

とても痛いが、内臓とかには影響がないので問題はない。

幸い、意識は無事で足も無事だ。

なら、問題はない。

 

もっと言えば生きているので問題はない。

 

無限チャレンジ、サンドバッグ編ってか。

俺じゃなきゃ死んでるぞこれ。グレートレッドのド畜生ならどうだろ。

……死ねるかな、多分。

 

俺に対してだけこうして手加減してくれてるので、嬉しいが、それでもこれである。

肉片になってないだけ褒めて欲しい。

 

「どうしてこんなにしてるのに……!」

 

「倒れない、かね?」

 

「!もう、黙って!」

 

「ぐぅっ、ふ、ふふ……倒れることはあり得ない。

娘の攻撃で倒れる父親はいないからね…」

 

「黙れ!黙れ!黙れ!」

 

鳩尾ばかり狙うのはやめてください、吐いてしまいます。

 

意識が若干遠退いたが、気合いで耐える。

根性論って、当てにならないと思ってたけどそんな事はなかった。

娘のためと思ってたらやれるもんだ。

 

にしても……

 

「どうしたのかな、段々と威力が下がっているが。」

 

「黙って!!」

 

さっきから攻撃を受けてばかりでドMに思われるかもだが……いやもう、そう思われてもいいんだが。

そもそも無限と戦おうなんていう無謀行為に走ってるんだ。

当然、勝負になるわけがない。

 

多分、本当の意味での戦ったら俺は瞬殺だろう。

俺が仮に強い部類だとしても、小細工をしても勝てはしない。

 

……可能性があるとしたら、初めて会ったあの日なら勝てたかもしれない。

今の俺の強さで出会っていたらという無理ゲーだが。

 

サマエル使っても今のオーフィスに勝てる気がしない。

毒が刺さる前に殺しそうなんだもの。

 

賢くなるって、凄いなぁ……。

 

何度も殴られ、蹴られて。

そろそろ意識が途絶えそうだ。

 

途絶えそうなだけなので、問題はない。

俺がこの娘に出来るのは、受け止めることだけだ。

今まで溜まっていた行き場のなくした感情の渦を受け止めることしか俺には出来ない。

でも、その後にこの娘が……。

 

攻撃を受けながら、思考をしていると腹部に衝撃が走る。

 

……あー。

 

「……っく、はは…いやはや、ここまで殴られるとは、私は相当な愚か者だったか。」

 

「ズェピアが、悪いの……ズェピアが……!」

 

腹にオーフィスに拳が埋まってる……というか入ってる。

痛い、痛いぞこれは……中に異物感が凄まじく、吐血する。

 

…いや、これはヤバイ。

 

人間ならマジでヤバイ。

 

その後、拳を引き抜かれた後に、蹴られたのか、吹き飛ばされる。

 

痛い。

死ぬかもしれない痛さだ。

このままだと、失血死するかも。

吸血鬼が失血死とか笑えないな。

 

そんな馬鹿な事を考えながら立ち上がる。

 

「ああ…確かに、私が悪い。

君がここまでなったのは、私の責任だ。

……故に、私は何もしない。

叱ったが、聞いてくれないからね。

しかも私が叱られる始末だ。」

 

「どうしてまだ立つの……?

おかしい、もう何本も骨を折った、腕も片腕を残して吹き飛ばした…腹に、穴も空けたのに……?」

 

「……死徒だからね、痛みに強くできている。

が、これは少々キツいな。」

 

不屈の精神を持っている俺が倒れるとかあり得ない。

俺が倒れたら結界も消える。

それだけはいけない。

 

あっちは死がいつくるか恐れている。

だが、俺は攻撃を耐えるだけだ。

何と楽なことか。

 

「…──。」

 

血を流しすぎたせいでふらつく。

倒れるものかと堪えて、立つ。

 

あと何発受けれるか。

 

……なら、動くか。

オーフィスに近付こうと足を動かす。

上手く動かずに倒れそうになる。

分割思考を体の命令に回す事で何とか動かす。

 

「っ、動かないで。

それ以上動くと、今度こそもう片方の腕を引きちぎる!」

 

「…オーフィス、その台詞はね……」

 

一歩一歩確実に、オーフィスへと近付いていく。

オーフィスは先程のような勢いは何処へやら、完全に俺に対して怯んだような反応だ。

近付くな、それ以上近付くと云々はなぁ……

 

しかし、考えても見て欲しい。

願いを否定するとか言っておいて何するかと思ったらただ攻撃食らうサンドバッグになってその後にゆらゆらと近付いてくる男だぞ俺は。

 

あーそりゃ怯むわ。

後で謝ろう。

 

「動かないで、そんなに……これ以上我の邪魔をするなら!」

 

「むっ……」

 

オーフィスは掌に魔力を集中させる。

多分、当たったら消し飛ぶかな、あれは。

まあ、でも。

 

そんな事で怯んでたら父親やれないわな。

構わず俺は歩いて近付く。

もう走れないからな。

 

俺を脅すつもりなら、その百倍は最低でも持ってこないと話にならないぞ。

 

と意地をはっておく。

本当は怖いです。

 

「オーフィス……!」

 

「結界を解いて、それだけでいい!

ズェピアはもう、もう休んでいいの!

お願いだから、お願いだからぁ……!」

 

「休んでもいいのは……君だ。

君に、私は頼りすぎた。

このような事態になるまで君に頼りすぎた。」

 

「…今更、今更そんなこと「娘をっ!」っ……」

 

「娘を理解できなかった私は父親として失格だ。

あの時も、フリージアの心の全てを理解できなかった。

君の心も、そうだ。

私は、何も出来ない父親だった……。

だからこそ、だからこそだ……」

 

足がふらつく。

今にも倒れそうだ、だが、倒れていないので歩く。

もう少しだ。

魔力のせいで体が震えそうになるがそれを気のせいだと言い聞かせて震えを止める。

 

「父親とは何かと問い続けてきた。

父親とは家族を守る者だと答えを得た。

だが……守れたのは、平凡な少女だけだった。

私は、愚か者だ。

君が強いからと、勝手に決めつけていた。

心まで、強くはないというのにだ……。

その結果が、現状だというのなら元凶たる私が何とかしなければならない。

それでフリージアや君から…家族と見られなくなってもだ。」

 

「ぁ、あ…」

 

頭に浮かんだ言葉だけを紡ぐ。

それが俺の本心なのだと。

 

そうして俺は、オーフィスの目の前まで、やってきた。

その気になればもうすぐに死ねる。

それでも死なないのはきっと……。

 

俺は魔力をこちらに向けている方の掌に前まで、来たのだ。

俺の言葉が届いたのかは分からない。

単に気味が悪いということで動けていないだけかもしれない。

それでも、やってきた。

 

右腕が、無かったのを思い出した。

なので、左手でこちらに向けている腕を掴む。

 

「……放つなら、放つがいい。

だが、宣言しよう。

例えこの身が消えようと、この腕は、君を離さない。」

 

「っ……アァァァァ!」

 

魔力の球が強く輝き始める。

何があっても、この選択は間違ってない。

 

死なすも生かすも、お前次第だ、オーフィス。

 

…。

 

……。

 

 

掴んだ腕は、震えている。

輝きが消えると、掌に集中していた魔力が消えていた。

 

どうやら、俺は賭けに勝ったようだ。

 

目の前には、顔を俯かせて泣いているオーフィスが。

また、俺は娘を泣かせたようだ。

 

俺はボロボロな左腕に鞭を打ち、腕を引っ張り、抱き寄せる。

 

「……もう一度、君の家族として、父親として…生きていいだろうか。

君とフリージアとネロ・カオス……あの時のように…平和で楽しい時間を過ごそう、オーフィス。」

 

「でも、我は……我は…もう、否定して……!」

 

「否定しても、謝ればいい。

私が側にいる。」

 

「でも、世界を壊そうとした!」

 

「罪は私が背負う。」

 

「ズェピアを、貴方を、殺そうと……」

 

「娘からの過剰な愛情だと受け取らせてもらうとも。」

 

「どうして…?どうしてこうなってまで……我を、カオスを、フリージアを……」

 

「至極当然な答えしか出せないが……。

 

…俺の、願いだからだよ、オーフィス。」

 

「ぁ……」

 

オーフィスは俺の言葉に顔をあげる。

俺は、意識が飛びそうになりながらも今出来る最高の笑顔を向ける。変な顔になってなければいいが、そこはズェピア・エルトナムの顔だし、問題はないか。

 

「君が、家族だから。

……だから、一緒に帰ろう。」

 

「…ズェピア…ぁぁ…」

 

オーフィスは俺にしがみつき、また泣き出してしまった。

俺は、昔みたいに頭を撫でて、泣き止むのを待った。

 

……結界も、解除していいか。

 

まだ、泣き止みそうにない。

好きなだけ、泣くといい。

 

今まで溜め込んできた分、ここで流すべきだ。

 

この娘の心に、それだけ重荷を背負わせていたのだと改めて自覚する。

 

その役目も、俺が背負う。

今まで背負ってくれてありがとう。

俺が、本来背負うべきものを背負ってくれていた娘に、感謝の念を抱く。

 

「…本当に、ありがとう、オーフィス。」

 

聞こえるか分からない位小さい声で感謝する。

もう大きな声出せないからね、仕方ないね。

 

…それにしても、あの糞蜥蜴……どうしてやろうか…

 

ああ、くそ、終わったと安心すると意識が…まだ仲直りさせていないのに。

 

……まあ、泣き止んだら、落ち着いてるだろう。

 

「オーフィス、私も、少し……」

 

「ズェピア……?」

 

駆け寄ってくる音が、聞こえてくる。

多分、皆も回復してるだろう。

後は、頼んだぞ教授。

 

ちょっと、働かなかった分働いたから…疲れてしまった。

 

「ズェピア……ズェピア……!」

 

死にはしないと、言葉にできたら良かったのだが。

 

恨めしいことに、そこで俺の意識はそこで途切れた。

 

この後、とても赤い蜥蜴に怒りの鉄拳を下すと誓いながら。

 




言葉とは、力以上に発揮するときがある。

次回、HAPPYEND 3です。

…あの蜥蜴、どうなるんでしょうね?


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HAPPYEND 3 舞台の終わり

どうも、ロザミアです。

文字通り、片を付ける回です。


…白い空間だ。

見覚えがある空間で、世話になった奴がいる筈だ。

 

辺りを見渡すと、あっさりとソイツは見つかった。

 

椅子に座り、紅茶を飲んでこちらを見ている。

テーブルの上には紅茶のカップを置くための皿があるだけだ。

 

「やあ、役者君。」

 

「…よう、監督さん。」

 

「存外、早く再会できたな。」

 

「……だな。」

 

俺はその場で座り込む。

姿を気にする必要はない。

この空間では俺は■■■■だ。

 

あちらが、監督としてのワラキアの夜の姿なら、俺は評価を貰うだけの役者。

 

さて、アイツの評価を聞こう。

 

「悪いが、まだ評価を言い渡せない。

君にはやるべき事が幾つも残っている。」

 

「グレートレッドか。」

 

「それもあるが、それだけではない。」

 

「…人生終えるまではお預け、ね。」

 

「理解が早くて何より。

それに、私が評価するのではない。

君を評価するのは君自身だ。」

 

「そうだとしても、採点するといったのはお前じゃないのか?」

 

「勿論、私からの評価もあるとも。

だが、それを教えるのは君が君という幕を終えた後だ。」

 

「……なるほどな。」

 

そうしたいなら構わないが。

そも、何で俺はここにいるんだ?

ぶっちゃけると会うことは死ぬまでないと思っていたが……あ、もしかして死にそうなのか?

 

「その通りだ。

君は死の危機に瀕している。

まあ、治るだろうから安心したまえ。

治療が終わるまで、ここにいるといい。」

 

「……だな、それまで暇だし話といこうか。

お前はタタリ……この世界を通じて情報を全て持ってるんだろ?

ちょいと狡いかもしれないが教えちゃくれないか。」

 

「この『秘密』は感情共有が発生しないが?」

 

「シ○ビガミかな?」

 

「冗談だ。いいとも、君は私だからね。

何を知りたいのかな?」

 

「グレートレッドが何をしたのかを教えてくれ。」

 

奴がフリージアに何かしたのは明白だ。

それが俺たちにとって逆鱗に触れることも、だ。

だからこそ、何をしたかを知りたい。

大体は予想通りだろうがな。

 

目の前のワラキアの夜はカップを皿の上に置いて溜め息を吐く。

 

「あまり口にはしたくないのだがね。

まあ、教えると言ったのは私だからね。

グレートレッドは、フリージアの死後、その魂を自身のいる次元の狭間へと閉じ込めた。

君への対抗策としてね。

結果としてはオーフィスの行き過ぎた家族愛が原因で効果は見込めなかった。」

 

「…やっぱりな。」

 

「フリージアが嘘をいってなければの話だ。」

 

「あの娘がそんな器用な真似が出来るとでも?」

 

「ハハハ、無いな。

人の感情を理解できない獣に嘘を吐く技術を身につける意味もない。

さて、続きだ。

グレートレッドはフリージアの外への干渉を禁じた。

これは下手な干渉をされたら自身に…いや、星にとって厄介な事になると踏んだからかもしれないね。」

 

「馬鹿な龍だ。

会わせてくれたらこんな大掛かりなことはしなかった。」

 

所詮は蜥蜴か。

ドライグでも学んで宿主を尊重するようになったってのに。

多分、アルビオンもだな。

 

さてさて、どうしたもんか、あの蜥蜴。

 

「シオンの姿にしたのは…さて、私にも分からない。」

 

「ま、その辺は予想通りだろうからいいよ。

……ふぅ、殺す?」

 

「一時の感情に身を任せるのか?」

 

「そうじゃない……とは言えないか。

だが、俺は家族を不幸に貶める輩を許す気はない。

それに、今ならあいつを殺しても問題はない。」

 

「ふむ、答えは聞かないでおこう。

君を止めれないのは分かってるからね。好きにするがいいさ。」

「そうさせてもらう。」

 

この時ばかりは1%も感情を抑えようとは思わなかった。

殺されても当たり前なことをしたのはあちらだ。

俺の心には殺意しかなかった。

俺はグレートレッドに強制的に殺意の感情を取得した。

 

……おや?

 

俺は自分の体が薄くなっていくのに気付いた。

ワラキアの視線から見るに、意識が戻り始めているのか。

 

「君の物語の一幕を終わらせにいくといい。

何、会いたければ、またすぐにでも。」

 

「……なあ、聞きたいこと、もう一個あったわ。」

 

「む?手短に言いたまえ、その状態も長くはないぞ。」

 

「…お前にとっての俺を、教えてくれないか?」

 

「ほう、質問の意図が読めないが……良いだろう。

私にとって、君は相棒だ。

生憎と本物のワラキアの夜ではないのでね、そのような答えしか出せない。」

 

「……いや、それでいい。

ありがとな。また会おうぜ、ワラキア。」

 

「ああ、また会おう、■■■■」

 

俺達は、別れの挨拶を済ます。

後はもう、消えるのを待つのみ。

 

相棒か、そうだよな、タタリはこの世界に来てからずっと俺と在ったものだ。

それくらいが、丁度良いか。

 

…そうして、俺はこの空間から居なくなった。

 

 

 

 

 

 

─────────────────────

 

 

 

 

 

 

「…む、ぅ…」

 

体が痛む。

その痛みのお陰ですぐに意識は覚醒した。

 

治療をしても、流石に全回復…なんてのは期待してない。

寧ろ、本来敵であるはずの俺を助けてくれたんだから感謝するべきだ。

 

まず最初に視界に映ったのは……

 

「あ、意識、戻ったんだね。」

 

「……フリージア。」

 

「うん。」

 

フリージアだった。

最初の言葉は何を言うべきか迷ったので、名前を呼ぶことにした。

フリージアは、嬉しそうに頷く。

 

シオン・エルトナムの姿が解けたのか。

…何故かは、もう分かってるが。

 

「皆を呼んでくるね。」

 

「いや、オーフィスと同胞…後は、サーゼクスだけでいい。

他の者はまだ休ませた方がいいだろう。」

 

「…そうだね、分かった。」

 

フリージアも疲れているだろうに、走って俺の指名した三人を呼びにいった。

 

すぐに三人と共に戻ってきたのではしゃいでいるのかもしれないと笑っておく。

 

オーフィスだけは…少し暗い表情だ。

当然か。

 

「ズェピア、呼んできたよ!」

 

「ああ…ありがとう、フリージア。」

 

「ううん、いいよ別に。」

 

本当に、俺には勿体無い位に良い子だ。

オーフィスもそうだが、また違った善性がある。

 

教授は呆れた様子で俺に話しかける。

 

「随分と無茶をしたな、ズェピアよ。」

 

「私は不器用でね。

あれしか浮かばなかった。」

 

「死にさえしてなければそれでいい。」

 

「そうかね。」

 

「ああ。」

 

満足したのか、教授は話をやめる。

俺達の間ではそれだけでよかった。

要は、心配させるな、という事らしい。

 

サーゼクスは苦笑しながら俺に話しかける。

 

「君、頑丈になったな。」

 

「一言目にそれか。」

 

「その状態の君を殴っても気が済まないからね。」

 

「…冥界は私を罰するか?」

 

「……ああ、君は世界を巻き込む程の大罪を犯した。

死罪は免れないかもしれない。」

 

「……それは困るな。」

 

「…この話は、後でまた。

取り合えず、無事でよかった。」

 

「裏切った友を心配するか。」

 

「するさ。」

 

「御人好しだな、君は。」

 

「親馬鹿だよね、君。」

 

「…ふむ、一本取られたか。」

 

他の者も心配なのか、去り際に一言もらってしまった。

皮肉言えるようになりやがって。

 

オーフィスは、黙ったままだ。

 

暴れない事を見るに、和解はしたのだろう。

 

俺はオーフィスの言葉をただ待った。

フリージアもじっと待つ。

 

しばらくして、オーフィスは言葉を発した。

 

「………………ごめん、なさい。」

 

「謝るようなことをしたかね?」

 

「えっ……?」

 

えっ、て言われても。

驚くことではないだろう。

 

「私は君からの過剰な愛情を貰っただけだよ。

……今まで、苦労を掛けた。」

 

「……ぅ、うぅ……」

 

「あ~、また泣かした。

いけないんだ~ズェピアは。」

 

「私の責任……だな、これは。」

 

体を起こして、泣いてしまっているオーフィスを左腕で抱きしめる。

 

オーフィスも、泣きながらこちらを抱きしめる。

 

俺は、フリージアを見る。

 

 

「─おかえり、フリージア。」

 

「─うん、ただいま、ズェピア。」

 

それだけを告げる。

ようやく言えた、再会の挨拶。

 

互いに、笑顔で。

 

その後は、オーフィスが泣き止むのを待った。

 

今度はすぐに泣き止んだ。

 

「……フリージアも、ごめんなさい。」

 

「ううん、私もごめんなさい。

オーフィスの気持ち、理解できなかった。」

 

「…我も、そう。」

 

「じゃあお互いに悪かったって事で…どう?」

 

「…それで、許してくれるの?」

 

「当たり前でしょ。」

 

「……カオスも、ごめんなさい。」

 

「構わん。

……ただ、家族に相談位はしろ。」

 

「……ん。」

 

「ハハハ、何はともあれ仲直りは出来たわけだ。」

 

また揃えた家族に俺は笑う。

よかった、俺の選択は間違ってなかった。

 

さて、後は……。

 

俺は立ち上がり、思考を回転させる。

今ならタタリで修復も可能か。

 

流石に吹っ飛んだ腕は再生しないので、タタリで複製する。

 

「ズェピア?」

 

「ふむ……良好だ。」

 

「まだ何かあるのか。」

 

「…用事が残ってる。

サーゼクスに逃げはしないから安心しろと「駄目ッ!」……オーフィス。」

 

察してしまったのかオーフィスは声を荒げて俺の腕を掴む。

 

君のような察しのいい娘は大好きだよ。

 

「ズェピア、駄目。

グレートレッドのところに行っちゃ、駄目。」

 

「えっ……?」

 

「…どういうつもりかは問うまい。

貴様の事だ、家族のため、だろう。」

 

「その通りだよ。

こればかりは一言でも言ってやらないと気が済まないからね。」

 

「その割には殺気があるな?」

 

「娘にここまで乱暴な真似をされて黙っている父親など、屑の極みだと思うが?」

 

「……今度こそ死ぬかもしれんぞ?」

 

「あり得ない。

私という存在の幕はあの凡百の龍による一撃では断じてない。」

 

こればっかりは反対を押し切ってでもいかないとならない。

じゃないと、今度は何をされるか。

 

今回の件で俺を仕留めるつもりだったグレートレッドはしかし失敗した。

なら、今度はどうするか?

 

この世界に来る……そうなったらこの世界が抑止に見られたも同然だ。

折角世界を包み込むという荒業で奇跡的に感知されてないのに来られては困る。

 

ならばいっそこちらから、というやつだ。

 

「オーフィス、私は帰ってくる。

何、私には"とっておき"があるからね。」

 

「……それでも、駄目。

折角、また皆揃ったのに。」

 

「離れ離れにならないようにするための処置だ。

頼む、行かせてくれ。」

 

「………………。分かった。」

「オーフィス!?」

 

渋々といった様子で手を放し、了承するオーフィスにフリージアはどうしてといった様子だ。

 

「ズェピアなら……ズェピアなら、帰ってくるって信じてるから。」

 

「だって、グレートレッドだよ!?

オーフィスよりも強いんでしょ?

そんな、無謀だよ!」

 

「……同胞よ、フリージアとオーフィスを頼む。」

 

「さっさと行け、そして戻ってこい。

貴様の裁判は終わるどころか始まってすらいないからな。」

 

「ネロさんも……。」

 

凄い淡々と言われてしまった。

信頼されてるのか、呆れてるのか。

両者なのか。

 

さて、後は……フリージアか。

 

「駄目だよ、ズェピア…今度こそ死んじゃうよ!」

 

「おや、私が弱いと?」

 

「違う、ズェピアは強いよ?

でも、グレートレッドはもっと強い。

一息で死んじゃうかもしれない。

私、もう嫌だよ…ボロボロなズェピアを見るの。」

 

「…なら、私から約束をさせてもらおう。」

 

「約束…?」

 

「うむ。

約束しよう、私は必ずやかの龍を倒し、戻ってくる。

……信じてくれないか?」

 

「…でも……。」

 

まあ、流石に断るか……?

 

さっきまでのやられようでここまで渋ってんならやらかしたな。

いやでも、あれしかなかったし。

 

「……フリージア、ズェピアは勝てる。」

 

「寧ろ、負ける要素がない。」

 

「ネロさん、オーフィス……勝てるって、どうして思えるの?」

 

「フリージアの知らない秘密兵器。」

 

「さっきも使ってたがな。」

 

「……必ず、勝てる?」

 

「勝てるとも。」

 

「……。」

 

突然、何かがぶつかるような感触がした。

何がぶつかってきたかはすぐに分かった。

フリージアが俺に抱きついてきたのだ。

 

不安そうに俺の顔を下から覗き込むフリージアに俺は安心させるように笑う。

 

「必ず、帰ってきてよね。」

 

「ああ、待っててくれ。」

 

家族がそこにいれば、俺は諦めないから。

だから、そこで待っててくれ。

 

フリージアは満足したのか、オーフィスと教授の元まで行って、俺を見る。

 

三人とも、信じてくれている。

……なら、大丈夫。

 

俺はゲートを作る。

行き先は当然、次元の狭間だ。

 

「……行ってくる。」

 

「いってらっしゃい。」

 

「夕飯は麻婆だぞ。」

 

「本を読んで貰うから。」

 

「うむ、分かった。」

 

後ろから伝わる言葉に俺は頷く。

俺はゲートに入る。

最後にもう一度だけ、後ろを振り向く。

 

「…!」

 

「頑張りなよ、ズェピア。」

 

俺を殴る予約を入れてきた友が、フリージア達の隣に立っていた。

 

…全く、友人にまで言われちゃ、一層やる気を出せるってもんだ。

 

俺は、誰も入らないよう、ゲートを閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

─それは、すぐそこに居た。

 

俺を見捉えている巨大な赤。

 

赤龍神帝(グレートレッド)』が、そこに居た。

 

心なしか、苛立っているようにも感じる。

良い気味だ。

 

俺はやあ、と挨拶をする。

 

「お初にお目にかかるグレートレッド(くそ野郎)

私はズェピア、ズェピア・エルトナムだ。」

 

『…何故このような場所に来た。

異世界の人間。』

 

何故、何故とな。

馬鹿にしているのかこの蜥蜴。

まだ優位に立ててると思ってるのか。

 

……それに、知っているのか。

 

「知れたこと。

君という舞台装置が気に入らないから来たのだ。」

 

『気に入らない?』

 

「君が我が家族にしたことを、忘れたとは言わせないぞ。」

 

『私は星に属する者、星の為ならば娘一人の魂程度、何の意味もあるまい。』

 

「それが本心か?」

 

『少し彼女の前では申し訳無さを出してやっていた。

まんまと騙されてくれて扱いやすいことこの上無かった。

…だというのに、貴様を始末することも出来なかったようだ。』

 

「タタリの中を覗けないようだな。」

 

『タタリだけでなく、貴様の事も観ることは出来なかった。

異世界の人間だからかは分からない。

……私を消しに来たのか?』

 

「どうしようかと迷っていたがね。

君が馬鹿正直に答えてくれたから決まったよ。

 

君はここで死ね、グレートレッド。」

 

この害悪龍はここで仕留める。

俺は懐から最終兵器を取りだし、それをグレートレッドに向ける。

 

グレートレッドもその脅威性は理解できたようで少し焦った反応をする。

 

『私を殺せばどうなるか分からないのか。』

 

「君こそ、理解していないらしい─」

 

 

 

─今の世界に抑止はないぞ?

 

 

『─何?』

 

「今、世界を覆っているタタリ。

あれは元々抑止力の介入を阻止するために展開した代物でね。もしかしたら私か私の武器に引っ掛かる可能性があった。君の言いたいことは分かるよ。

君を殺せば、世界に影響があると言いたいのだろう?

残念ながら、抑止に属している君を、抑止のないここで殺しても何も起こらない。」

 

『なんだとっ……貴様、何をしたか分かっているのか!?』

 

「君こそ、私の家族に何をしたか、本当に、分かっているのか?

君の権能も把握しているよ。

夢幻()』は世界線を見ることが出来てそこから運命を取り寄せることが出来る。

元々、おかしいことだと思っていたのだ。

本来なら法が介入する筈の場面でも、それがなかった。

例えば、『この世界(原作)』の始まりとかね。

…君、主役を知っているのだろう?」

 

『……その通りだ。

兵藤一誠こそがこの世界での救世主足り得る存在の一人だ。

ならば私が支援するのは同然だ。』

 

「舞台ジャック常習犯ということか。」

 

『…だが、貴様だ。

貴様という存在が全てを狂わせた歯車となった!

私の支援も、その瞬間からうまくいかなくなった。

それよりも上位の存在によってな!』

 

「……ふむ。思い当たる人物がいるにはいるが、まあいい。」

 

『貴様の存在が邪魔だ、貴様の存在が世界を崩壊させる!

私のやり方が理解できないのか!

私のやり方こそが最善なのだ!』

 

……子供か、こいつ。

力を持っただけの子供だ。

まるで分かってない。

 

自分こそが正しいという態度が気に食わない。

これを殺して、俺の気分は晴れるのか?

 

いや、晴れるわ。

 

「……自分勝手で結構。

躊躇が無くなる。」

 

『待て!家族であるフリージアは戻ってきたではないか!』

 

「は?」

 

『大切な家族が戻ってきたのだろう?

ならば良いではないか!

何も殺す事はあるまい!?』

 

こいつ……は?

はー……呆れたわ。

ここまでとは。

 

分かってないなぁグレートレッド君はぁ。

 

俺は思わず片手で顔を押さえて笑い出す。

 

「……ヒヒ、ヒヒハハハ!」

 

『何がおかしい。』

 

「ハハハハハハ!……いやはや、失礼。

君はどこまで愚かになるのかと思ってね。

 

舞台があり、名優があり、血肉がある、

足りないものは脚本だけだが―――

なに、私は生の感情が好みでね、筋書きの無い世界(ドラマ)の方が楽しめる。」

 

『何を言っている?』

 

「君という脚本は不要だということだよ。

君の方が正しいのかもしれない。

だが、それはあくまで本来の世界の君だ。

君ではない。

舞台ジャックはここまでにしてもらおう。

君もまた、役者ではあった。」

 

『私が、役者?星の守護者足る私が?』

 

「…星の守護者ならば、もう少しこの星からバックアップが事前にあった筈だろう。

もう君は、見放されていたのではないかね。」

 

『なんだと……私はここで死んでいい存在ではない!

あの世界では私は……!

私こそが、正しいというのに!

ふざけるな、ふざけるな……』

 

「いいや、幕だ。

奈落に落ちる役者に次はない。

その闇で、永久に訪れることのない再演を待つがいい。

何、消えた先は心地のいい場所だろう。」

 

『ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!』

 

グレートレッドは最後の足掻きとばかりに自身の最大の攻撃をしてくる。

その巨大な口から俺を容易く飲み込む程の破壊の息吹。

 

龍のブレス…それも赤龍神帝のとくれば威力は予想できる。

くらえば確実に死ぬだろう。

くらえばな。

 

俺はブレスの奥にいるグレートレッドを目を見開き、睨む。

さあ、お前の本来の出番だ

 

黒い銃身(ブラックバレル)

 

「私達の運命は、私達が決める。

君のような存在が決めることではない!!」

 

俺は黒い銃身(ブラックバレル)から銃弾を放つ。

 

お前も、お前の脚本も、これでおさらばだ。

この一発は、教授と俺とオーフィス…そしてフリージアの分だ。

 

一発の銃弾は、ブレスを霧散させ、グレートレッドにまで真っ直ぐ飛んでいく。

 

『私の、終わりがこんな一発で……!!』

 

 

 

─そうして、銃弾はグレートレッドさえも突き破り、どこまでも飛んでいった。





次回 エピローグ 『計算の果てに何があるか』


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エピローグ 『計算の果てに何があるか』

前を向き、足掻いた先に何があったか。



ズェピア・エルトナムによる世界を巻き込んだタタリは無事に終わりを告げた。

これといった犠牲者も何もなく終わり、ホッとする。

ただ、一体だけ報い…というか、当然のように倒された龍もいたけど、些細な話だ。

 

最強の龍が一体だけになっただけの話。

 

現在は冥界ではなく、駒王にある家に住んでいて、オーフィスもネロさんも忙しいらしく、私は一人だ。

というのも、オーフィスは利用した禍の団の事後処理を魔王様たちと共にしていて、これが大変らしい。

まあ、したのはオーフィスだから庇えないんだけど。

 

ネロさんは拉麺屋での店主なので、家に帰ってくる時はいつも遅めだ。

確か、店名は『泰山』だったかな……。

行ってみたけど、辛いものしか無くてあの時ズェピアが作った麻婆豆腐が余程気に入ったのが分かった。

食べてみたら、死ぬほど辛かったけど不思議と食は進んだ。

まあ、それだけじゃなくてオーフィスの手伝いもしてるらしいけど、オーフィスが自分でしたことだからと少ししか手伝わせないので店の方に集中してる、とか。

 

私は…取り敢えず、皆が帰ってきたときの為に料理したり、洗濯したり……家事担当をしている。

 

肝心のズェピアはまだ駒王学園にいるだろう。

教師としてか、リアスたちの顧問でもしてるのか……。

ズェピアはタタリを起こした者として重い罪が課せられる筈だった。

だけど、タタリが無くなった後、冥界の様子などを見に行ったところ、あの時タタリに居た人以外、誰も覚えてないらしい。

世界中を飲み込んだタタリはそれこそ夢のように誰からも忘れ去られた。いつも通りの生活を送ったという記憶に改変させたとズェピアは言っていた。

 

流石にその前に事情を知ってたファルビウムさんやグレイフィアさんには説明したらしい。

 

サーゼクスさんは、何もなかったのなら罪はないねと言い、それを他の魔王様たちが駄目に決まってるだろと言った結果として、異常事態が発生したとき必ず来るようにという罰を課せられた。

これは罰……なのかな?

 

というか、堕天使と天使陣営が覚えてないからと悪魔陣営が勝手にそうするのはやはり悪魔らしく腹黒いなと思った。

 

そのお陰でズェピアは殆ど自由の身だ。

というか、もう何かをするのは疲れたと真顔で言っていたので何もしないだろう。

娘の私が保証する。

 

そういえば、オーフィスはまだズェピアを諦めてないらしい。

娘という存在じゃなくてオーフィスという一人の女として見てほしいそうな。

あんなことがあった後なのにブレないのは凄いと思う。

この前なんか夜中まで帰ってこなかったから遂に…と思ったけどそんな事はなかったらしい。

項垂れてるオーフィスを元気付けるのに結構時間が掛かった。

 

「今日、どうしようかな……シチューにしようかな……。」

 

夕飯を作る為に冷蔵庫の中身と睨めっこしながら考える。

シチューなら、残ってもまた食べられるし、そうしようかな……。

皆、シチュー好きだし、そうしよ。

 

皆好き嫌いがないし約二名がよく食べるから作り甲斐が

ある。……私のトマト嫌いは多分直らないんだろうなぁ。

 

……皆早く帰ってこないかなぁ。

 

 

 

─────────────────────

 

 

 

「すみません、先生も忙しいというのに……。」

 

「いや、構わんよ。

私が手伝いたいからしていることだ。

君も大変だな、支取君。」

 

やあ、皆の衆。

俺だよ、ワラキーだよ。

何か真面目じゃない場面でようやく挨拶できた気がする。

現在俺はソーナちゃんたち生徒会の荷物を持って生徒会室まで向かっているところだ。

 

さて、あれから何があったかを説明しよう。

 

黒い銃身によって貫かれたグレートレッドは苦悶の声をあげながら消滅した。

元々、黒い銃身はグレートレッドを倒す為だけの兵器。

どんな事があろうとそれを起こしたのがグレートレッドならば負けることはない……と思いたい。

グレートレッド特攻という誰得な性能だ。

 

その後はさっさと皆の元に帰ってからタタリを解除。

その際に記憶改変を行ったがそこまでの改変はしていない。

あの数日の記憶は全て日常を過ごしたという記憶にしてある。

 

ま、事前に知ってる奴への説明はサーゼクスたちに任せたがね。

 

しかし、お咎めが実質無しになるとは思ってなかった。

いやまあまだ強敵がいてそれを倒す役目を背負いましたけども。

お陰で黒い銃身はまだ破棄してないです。

 

後は、何やかんやあって俺達家族は駒王で暮らしている。

オーフィスの手伝いにも行ってるのだが大半はあの娘が終わらせるのでもう俺は要らない子状態。

 

…そろそろ禍の団の事後処理も終わる頃だな。

 

そうしたらいよいよ束縛が無くなって精神的にもちゃんと落ち着けるってもんだ。

 

フリージアには家事を任せる事になって申し訳無い気分だが、本人は寧ろやらせてくれと言うのでそうすることにした。

フリージアは魂の状態だったので、タタリで彼女の体を用意して器に魂を入れることで存在を安定させることに成功した。

 

教授に至っては拉麺屋で店主だ。

激辛麻婆拉麺とか……どこの神父だよ……。

いよいよもってあの人は声優ネタのキャラなのではと思い始めてきた。

これで他のキャラネタ言ってきたら確定だ。

 

リアスちゃんたちは俺たちを許してくれた。

理由が、サーゼクスたち魔王の判断がそれなら従う、だそうだ。

何だかタタリの一件で皆成長したようにも感じるし、この先の困難も俺がいなくてもやれそうな気がする。

 

ついでに虚夜 件先生は俺だということを教えるとそこまで驚かれなかった。

驚き疲れたからもういい、だそうだ。

ソーナちゃんにも教えたのだが、予想はしていたそうだ。

くそぅ、驚く反応が見たかった。

 

…ま、後は本来の役者に任せよう。

グレートレッドがいなくなったということは多少は運命も変わるだろう。

だが、それは悪いことではない。

他者に縛られ、望まぬ未来を押し付けられるのは誰にとっても屈辱だろう。

故に、これでいい。

 

「先生、ありがとうございます……先生?」

 

「…ん?ああ、すまない。考え事をね。」

 

「そうですか。私たちに出来ることがあれば相談してください。リアスたちも手伝ってくれるでしょうし。」

 

「ハハハ、それはありがたい。

いつか頼らせてもらうよ。

多少重いが持てるかね?」

 

「流石に後は中に入って置くだけですので……。」

 

考え事ばかりで生徒会室に着くまで話してないやん……

教師失格だ、気まずい雰囲気だったかもしれないのに俺というやつは……。

 

取り合えず、荷物を渡して生徒会室に入っていくソーナちゃんに一言告げねば。

 

「支取君。」

 

「はい、何でしょうか?」

 

「生徒会は大変だろうが、頑張りたまえ。」

 

「…はい、そのつもりです。」

 

そう言って、話は終わったと判断したのかソーナちゃんは生徒会室へ入っていった。

 

俺も残った仕事をさっさと終わらせて帰るかな。

そう思い、職員室へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ようやく終わった…現代社会は厳しいね。

今それを思い出しましたわ。

 

気付いたら、夜になっていたので俺はさっさと帰ることに。

他の教員たちも帰るところだ。

 

「虚夜さんはどうします?」

 

「どうする、とは?」

 

「いや、これからどっかに寄って食べようってなってるんですが、虚夜さんもどうかなって。」

 

「あー……申し訳無い、娘たちと食べる予定が……」

 

「えっ、虚夜さん結婚してたんですか!?」

 

「いやいや、引き取った子でね。

けれど、私にとっては本物の娘だ。」

 

「へぇ~じゃあ今度ということで。」

 

「ええ。」

 

申し訳無いことをした。

今度奢ろう。

 

俺は支度を済ませてさっさと帰る。

 

学園を出て、街灯はあれど暗い道を一人歩く。

そろそろ夏も終わるなぁ。

そういや、メルブラも夏だったか。

妙なところで一致するのな。

 

家までが遠く感じる。

転移すればいいって?何となく、歩きたいんだよ。

そんなときが皆もあるっしょ。

 

……っと、誰かがこっち来るな。

いや、他にも歩いている人はいるけど、一際気配的なのがね。

 

というか、家族でしたね……

 

「ほぼ同じ時間に終わったようだな。」

 

「そのようだ。オーフィスは一緒ではないのかね。」

 

「もうすぐ終わるとは思うが……」

 

「ん、もう終わった」

 

「そうかそうか、それはよかった……」

 

『……!?』

 

「?」

 

いつの間にかオーフィスが俺の隣に居たので、俺と教授は驚く。ほ、いつのまに!?

てか、京都でもこんな事あったよね?

 

肝心のオーフィスは首を傾げている。

あーもう可愛い娘だなぁもう。

俺は驚愕からすぐに戻り、オーフィスの頭を撫でる。

 

「えへへ。」

 

「驚いた、いつのまに?」

 

「ついさっき。ズェピアとカオスの姿が見えたから。」

 

「跳んできたと。」

 

「ん。」

 

「心臓に悪い……帰るぞ、二人とも。

フリージアが待ってるだろう。」

 

「そうだね、早く帰るとしよう。」

 

「ん。」

 

オーフィスが俺の腕に抱きついてくるが、別に邪魔じゃないので好きにさせておく。

教授はその様子に呆れ顔で見るが、まあ仕方ないよ。

 

「こうして三人で歩いて、家では失った筈のあの娘がいる。……中々に良い結末だと思わないか。」

 

「唐突だな。

だが、そうだな…1つ問いたい。

貴様のいう舞台の終わりは、これでいいのか?」

 

質問してくる教授に俺はふっと笑い、答えを提示する。

ずっとやってきた事だ。

それを日常で出来るのは素晴らしい。

 

「いや、まだこの物語には続きがある。

…まあ、見せなくても良い話だがね。

その先は観客の想像に任せるとしよう。」

 

「ふっ……そうか。」

 

「ん、家、着いた。」

 

愛しの我が家に着いた。

夕飯作って待ってるだろうし、早く入るか。

俺は鍵を開けようとして、やめてからインターホンを押す。

オーフィスと教授は俺の意図を察したのか苦笑する。

 

ピンポーン、と前世の俺も今の俺も聞き親しんだ音が響く。

 

その後、家の奥からドタドタという音がする。

鍵を忘れたのかと思ってるのかな。

 

ガチャリと玄関の扉が開く。

 

「はい……ってズェピア?それに、二人も。

鍵忘れたの?」

 

「いや、何となく、開けてほしかったといったところかな。」

 

「え~?何それ、変なの。」

 

少し話してから中に入ると良い匂いがする。

……シチュー、かな?

 

やったぜ、俺はシチューが紅茶の次に大好きなんだ。

なんて良い日なんだ。

俺はもう死んでもいい、よくない。

 

さて、今日も言おう。

この言葉は、俺にとっては重要な言葉だからな。

 

「フリージア。」

 

「ん、なあに?」

 

「─ただいま。」

 

いつも言っているけれど、何よりも大事な台詞。

俺という舞台から降りた役者がそれでも使い古していくと決めた台詞。

 

俺の気持ちを察してくれたのか、それともいつも通りの返しを言えば良いと思っただけなのかは分からない。

でも、彼女はいつも咲いた花のように笑っていうのだ。

 

「─うん、おかえり、皆。」

 

「さて、待たせてしまったかな?

早く夕飯にしようか。支度は?」

 

「お皿並べるから手伝ってくれる?」

 

「あ、我がやる。」

 

「私は飲み物でも出すか。」

 

「ありがとう、ネロさん、オーフィス。」

 

「ふむ?私は何をすれば?」

 

「んー……じゃあ、座って待ってて。

一家の大黒柱なんだから。」

 

「むぅ、承知した。楽しみに待つとしよう。

では、二人とも、存分に働きたまえ!」

 

「「財布からクレカむしりとるぞ。」」

 

「やめて。」

 

日常的な会話を、きっとこれからも繰り返す。

それがたまらなく嬉しい。

これが俺にとってのハッピーエンド……とは言わないでおく。

まだ俺は終わってないからね。

 

だけど、これから先の話は俺たちだけの劇場とさせてほしい。

観客は…未来の自分ってところかな。

 

長く続いた計算はついに答えを導きだした。

公式は完成したのだ。

 

足掻いた甲斐はあったのだ。

俺の望む未来への道に出来ると信じた。

その思いは無駄ではなかった。

 

目の前には、望んだ光景が広がっているのだから。

今日の紅茶は今までで一番の味となることだろう。

 

もう舞台は終わった。

役者も去った。

脚本のページは最後まで進んだ。

 

名残惜しい。

どれだけ愚かであってもこの劇を続けた意味はあった。

どれだけ臆病であっても、逃げなかった意味はあった。

 

ならばこれでいいのだろうさ。

 

最後に、一言だけ。

 

「……願わくば──」

 

 

─次のタタリ(物語)も良きモノでありますように。

 

 

さあ、幕を下ろせ、喜劇は終わった。

 




これにて『ハイスクールD×D ─計算の果てに何があるか─』は終幕となります。

この作品が良きものと感じてくれたのならば私も書いてきた甲斐があります。

語りたいことが多いのですが……!
しかしあまり長ったらしいとワラキーにくどいと言われてしまいますからね。
これで終わりとさせてもらいます!

最後に、活動報告も1つ更新しましたので、見てくれると幸いです。

では、皆様も良き演劇を。


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ぼくのつくったサーヴァントズェピア

どうも、ロザミアです。

頭悪くして作ってみたサーヴァント版ズェピアです。

壊れ性能だろとか弱すぎィとか思ってもええんやで。




サーヴァント:ズェピア・エルトナム/ワラキアの夜

 

適性クラス:バーサーカー/キャスター/ファニーヴァンプ

 

レベル最大時

HP:13580 ATK:14800

 

キャラクター詳細

 

アトラス院院長 ズェピア・エルトナム・オベローン。

とある時空にて滅びの未来を見てしまい、それを阻止するために死徒となり、二十七祖にまでなった人物。

死徒名はタタリ或いはワラキアの夜。

序列十三位をもつ。

しかし、どうやらこの彼は事情が違うらしい。

 

 

 

パラメーター

 

筋力:B+ 耐久:B+

敏捷:B+ 魔力:A+

幸運:A(自己申告) 宝具:EX

 

 

絆1で開放

 

身長/体重:180cm/67kg

出典:MELTY BLOOD

出身地:アトラス院

属性:混沌・善 性別:男性

 

「タタリとは千差万別の姿を取れる。

故にズェピアとしての私の詳細を提示しようとも。」

 

 

絆2で開放

 

このズェピア・エルトナムはこの世界とは全く違う異世界のズェピア・エルトナムであり、何かの原因でたまたま次元が繋がってしまった時に抑止力によりその特異性を保存された。

故に、このズェピアと違って本体は未だ異世界にて存命しているとのこと。

 

「度しがたいが、これも何かの縁だ。抑止は無視して君に付き合うとも。」

 

 

絆3で開放

 

『虚言の夜』

ランク:EX 種別:???

最大補足:???

 

タタリ。

スキルであり、固有結界であり、彼そのものである。

常時展開型の固有結界であり、基本的にズェピアの再現できる範囲の人物を造り上げる事が可能である。

最大にまで展開すると、引きずり込んだ相手への最適解を出すという変わったものとなる。

抑止の監視からも逃れられる。

 

「所詮は中身のない空想だ。生の傑物には劣るが、贋作が劣るとは決まってはいまい?」

 

 

絆4で開放

 

計算の旅路:EX

彼が思考を止めず、何かを成すと定めそれを達成するまで自身に+補正を与えるスキル。

諦めず、ただひたすらに自身の望む終わりへと足掻いた彼の生きざまの1つ。

 

アトラスの叡知:A

アトラス院院長としてのスキル。

数多くの兵器を造り、未来を運営してきたアトラスの叡知は、敵の不利な状況を作り出し、味方を支援する。

 

 

絆5で開放

 

『黒い銃身』

ランク:B+~EX 種別:対エーテル宝具

最大補足:一人

 

ブラックバレル。

彼の創りあげたアトラス院仕様の兵器。

拳銃に近い形をしており、効果は至って簡単である。

当たった者のエーテル体を消滅させる。

弾丸に込めた魔力が多ければ多いほどその効果範囲は広まる。

普段は使えないのだが、あまりに行き過ぎた存在と対峙したときにのみ使える宝具。

 

最初に喰らったのは無能な龍とのこと。

その事からかおまけとして龍への特効もある。

 

 

絆5で開放

 

監督口調、家族想い、意外と家庭的と最初のを除けばより平凡なものならば親近感の湧く存在であるが、本人は自分は化け物ゆえにあまり深入りするなと苦言を呈している。

中身の彼が言ってるのか、建前として言っているのかはお任せする。

 

基本的にサーヴァントとの関係は良好であり、他人への配慮も出来るが嫌いな者はとことん嫌う。

異様なまでの破綻者は役に当てはまらないが故だろう。

 

だが、覚えておいてほしいが、元の『彼』は院長でも死徒でもない平凡な人生を歩んでいた人間である。

殻に籠りすぎて壊れてしまう程に平凡さを隠そうとするが、仮に彼を認識してあげられたのならば、彼はきっと彼の家族と同じように貴方を扱うだろう。

 

─それが彼の願いとなり得るから。

 

 

 

 

 

──────────────────────

 

 

 

 

 

召喚時

「おや、これはこれは。このような舞台に招待されるとは。サーヴァント、ファニーヴァンプ…ズェピア・エルトナムだ。

此度の劇は君の監督としてではなく、君に付き従い、守る者として演じよう。どうかよい劇を。」

 

 

会話1

「別に私は冒険に行けだとか、世界を救うぞとは言わないさ。君の準備が整うまで、君の分まで紅茶を作ろう。」

 

会話2

「暇をもて余した時はどうするか、かね?

ふむ、本を読んでいると気付けば時間が結構経っている事がある。君の暇潰しはどのような物なのかな?」

 

会話3

「複雑な事情なのは御互い様といったところか。

まあ、マイルームで位は肩の力を抜きたまえ。

何かあったら知らせてあげるとも。」

 

会話4(龍種系)

「……いや、分かっては居るが、龍の血を持ってたりする者には変な警戒心を抱いてしまう。早くなれたいものだ……特に赤いのとか。」

 

会話5(ヴラド三世 バーサーカー)

「串刺し公、その吸血鬼としての側面か。

人々にされてしまった側とは違うからかどうにも対応しにくい所はある。……それだけだが?」

 

会話6(ギルガメッシュ)

「英雄王か。彼処まで自分を貫ける者は頼りになる。

私の娘もそうだったからね。まあ、比べるのは愚かというものだが。勿論、娘の方が上だとも……親バカなのでね。だが、尊敬はしているよ、誇り高きウルクの王よ。」

 

会話7(フォーリナー)

「創作神話が本物だったというのかね?それは驚きだ。ああでも、あり得そうなのが怖いところか……。」

 

会話8(絆5)

「体には気を付けたまえ、健康に気遣うのも良いマスターに必要な要素の1つだ。

働きすぎは辛いからね、ハハハ。」

 

絆1

「あまり私のことに深入りしない方がいい。

どのみちいつ消えるか分からぬ身だからね。

まあ、それでもいいなら構わないが。」

 

絆2

「異世界の話が聞きたい?ふむ…まあ、言ってしまえば奇想天外な世界だよ。こことは違い、神秘が残っているからね。ただそのお陰で今の私があるのは間違いない。君にはどのような体験がここにあるのか。」

 

絆3

「あまり無理や無茶をしないように。君は我々よりも脆い。だが、その脆さを感じさせないほどに強い意思を持っている。…まあ、何が言いたいかと言うと、何かするなら私や他の英霊を連れなさい、ということだ。」

 

絆4

「君も変わり者だな……いずれ霧のように消え行くこの身に構い続けるとは。いや、嬉しいよ。私にもこの世界での繋がりを持てるというのはとてもね。君という人間に感謝を。」

 

絆5

「多くの言葉を送りたいが、それは舞台裏ではなく舞台の上で送らねば意味がない。よって、ここで告げることが出来るのは微々たる物でしかない。

ありがとう、マスター。この世界での何かを守る意義を私に見出ださせてくれた。何かあれば頼ってくれ。

それが私にとってのハッピーエンドに繋がると信じよう。」

 

聖杯について

「願望器に然したる興味はないな。もう既に叶っているからね。

まあ、叶えろと言われれば真っ先に浮かぶのは向こうの家族の平穏か。」

 

好きなもの

「私の好むものかね?勿論、劇だとも。喜劇でも悲劇でも生の感情の入り交じった劇ならば大歓迎だ。

後は……家族だな。」

 

嫌いなもの

「赤い龍は全力で殺したくなるほどには嫌いだ。

後、財布ネタかな。あれは酷かった。」

 

イベント開催

「新たな劇場の上映があるようだ。君が行くのならついていこう。まあ、君も欲しい物があるのではないかな?フフフ……」

 

誕生日

「ハッピーバースデー、マスター。

今日は君だけの舞台を設けよう。…もう私は誕生日が分からないからね、その分、君や他の者を祝うことで楽しませてくれ。」

 

 

 

 

──────────────────────

 

 

バトル、育成

 

開始1

「命に保険はかけたかね…?」

 

開始2

「開幕といこう!」

 

開始3

「舞台で踊るのは少々心が踊るな。」

 

スキル1

「さて、これはどうかな。」

 

スキル2

「手荒な真似は避けたいのだがね。」

 

スキル3

「キ、キキ、キキキキキ!」

 

コマンドカード1

「ふむ。」

 

コマンドカード2

「それでいいかね?」

 

コマンドカード3

「良い指示を。」

 

コマンドカード4

「キ、キキ……」

 

宝具カード1

「幕といこう!」

 

宝具カード2

「舞台を創ろう。楽しみたまえ。」

 

アタック1

「カット!」

 

アタック2

「キャスト!」

 

アタック3

「キヒヒヒィ!」

 

アタック4

「ふんっ!」

 

アタック5

「戻りたまえ!」

 

宝具1

「さあ、此度のタタリは如何な劇となり得るか、それは全て脚本の中にある。虚構の舞台へ沈むが良い。

これより、虚言の夜を始めよう!」

 

宝具2

「鼠よ回せ!秒針を逆しまに、誕生を逆しまに、世界を逆しまに!廻せ廻せ廻せ廻せ廻せ廻せェェェェ!!」

 

エクストラアタック1

「些か飽きたな、ここで消えたまえ。」

 

エクストラアタック2

「Cut! life led break down ,beckon for the fiction! 駄作!」

 

ダメージ1

「ギィ"ァ"ァ"ァ"ァ"……!」

 

ダメージ2

「ぬぅ…。」

 

戦闘不能1

「ハ、ハハハハ!私が崩れるとは、中々…面白い結末だ。」

 

戦闘不能2

「何度計算しても、何度思考しても、結末には程遠いか……」

 

勝利1

「もう終わりかね?これでも気を使ったつもりなのだが。」

 

勝利2

「君は君自身の物語に敗れたのだ、私ではない。」

 

 

レベルアップ

「ふむ、強化されたようだ。」

 

霊基再臨1

「やはり監督にはマントが無くては。

生前の姿に戻ってきたな。」

 

霊基再臨2

「これではまだ遠い。もう少し頑張りたまえ。」

 

霊基再臨3

「控えめな変化ですまない。私の姿ではこれが限度だ。その代わり、家族写真の入ったペンダントがある。

これで勘弁してくれないかな?」

 

霊基再臨4

「フィナーレだ。ここまで私を強くしてくれるとは。

その恩に、この力で報いよう。」

 

 

 

──────────────────────

 

コマンドカード構成

 

バスター2枚

アーツ2枚

クイック1枚

 

バスター:4ヒット

アーツ:4ヒット

クイック:5ヒット

 

エクストラアタック:6ヒット

 

 

スキル構成

 

スキル1 チャージタイム:6(レベル10)

舞台作成:A

NPを多く増やす(最大時30)(対象選択可能)&弱体解除&ダメージカット(1500)付与(3ターン)

 

スキル2 チャージタイム:7(レベル10)

計算の旅路:EX

自身にクリティカル威力アップ&攻撃力アップ&防御力アップ&スター発生率アップ&強化解除耐性アップ付与(3ターン)

(それぞれ最大時40% 強化解除耐性とクリティカル威力アップのみ100%)

 

スキル3 チャージタイム:5 (レベル10)

アトラスの叡智:A

相手全体のチャージを減らす&味方全体に攻撃力アップ(25%)&自身を除いて宝具威力アップ(25%)(3ターン)

 

宝具

『虚言の夜』(ARTS)

 

相手のアーツ耐性ダウン(オーバーチャージで効果アップ)&防御力ダウン(オーバーチャージで効果アップ)&強化解除

味方全体のアーツ性能アップ(20%固定)(オーバーチャージで効果アップ)&NPを増やす(20%固定)(3ターン)

 

 

クラススキル

 

狂化:B

バスター性能アップ

 

暴飲鬼:A

弱体耐性アップ&毎ターン終了時HP回復(500)

 

死徒二十七祖:EX

即死耐性アップ&〔太陽〕の属性を持つ敵から受けるダメージ増加

 




反省はしてないし後悔もしてない。
寧ろスッとしている。

だって、いつか出ると信じてるんだもん!


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少しだけの幕開け

完結作品ではありますが、メッセージのリクエストやリアル友人から何故か頼みに頼まれたので投稿。
何やかんやで書いてて楽しい奴らです。


では、ほんの少しだけ舞台の幕を上げてみましょうか


何だかとても久しぶりな気がする。

舞台に上がるのはこれまで何度もあったが…うむ、こういうのはあれだな。色々なメタがあるから言わぬが花だ。

 

というわけで…やあ、皆の衆。

俺だ、ワラキーだ。

久し振りだねぇ皆。

幕下ろした癖にとかの苦情はこの際無しにしようじゃないか。

メタいのは監督ゆえにということで一つ。

 

まあ、あれからの話をしようと思う。

あの『虚言事変』の後、俺達は三勢力への全力支援…とまではいかないもののそれなりの協力を要求された。

フリージアやオーフィス、教授という三人と居るためなので引き受けた次の日には引っ張りだこだった。

やれ錬金術の最奥だの、吸血鬼の強さだの、エトセトラエトセトラ…おちおち家族シチューを楽しむ暇もないと来た。

エンディングといっても一つの事変の終わりに過ぎないということだろう。

 

だが…次期当主となる悪魔達には関心と呆れと溜め息の三セットが付き物だった。

何というか、ピンからキリというか。

ワラキーもここまで面倒見るのは疲れるよ。

ていうか魔王、丸投げするな。

悪魔至上主義とまではいかないが自身の種を誇りとする輩もいるからか突っ掛かって来る面々もいた。

いいのかなぁ、こんなので。

人間達や他二勢力との交流も今後控えてる彼らには不安しかない

 

やっぱ過激な事変にすべきだったかな?

うむ、まあそれをしたら今の状況はないということで勘弁してやる。無論、突っ掛かってきた馬鹿野郎達はぶちのめすという有難い教えをプレゼントした。若造が調子乗んなということだ。

しかしこれもまた失策だった。

強さを見せつけることで少しは大人しくなるかと思えば…一人嬉々として突っ掛かって来やがった。

サイラオーグ・バアル、次期当主の中でもNo.1の実力。

バアルの持つ滅びの魔力を一切持たない彼には好感を覚えている。

 

いや、弱いのいいよねじゃないよ?努力する姿勢だ。

血の滲む努力が彼をここまで強くしたのだ。

うむ、素晴らしい!人間だったら拍手したね。

 

そんな彼に一勝負挑まれた俺は…うん、全力を出すわけにもいかないからね、こんなことを口走ってしまった。

 

「10分の3でいいだろうか」

 

「それは俺が弱いと?」

 

馬鹿野郎。

何してんのよ?そりゃサイラオーグ君もムッとした顔になるよ。

俺だってなるわ。

まあでも、自慢ではないが俺の実力は超越者を越えてたり越えてなかったり。

超越者を越えるってそれ超越者じゃ?ってなるけどこまけぇこたぁいいんだよ!

 

そんな俺だが失言に気づいたのは発言の後だった訳で。

 

「気分を害したのならすまない。だが、これでも私はサーゼクスやアジュカと同等程だからね」

 

嘘です、最近相手しましたけど負けたことないです。

せこいこともしたけどさ。

彼の本気を引き出したら…そうさね、七割は出すかな?

まあ、ただの取っ付きあいみたいな勝負にそこまで全力出すかとなればサイラオーグ君もそれには同意。

 

そういうわけで戦ったわけだが…うん、脳筋って怖いねぇ。

毎度の事ながら俺みたいな頭脳派の戦いを真っ向から否定するのやめてくんないかなぁ!ぶちギレそう!

主人公君然り、君然りさぁ…どうしてこう、パワーオブパワーを地で行くかなぁ!?

 

まあ、それでも三手先を見据えることが出来るのがワラキークオリティよ。覇王翔吼拳を会得せん限り貴様が俺に勝つことなど出来んわ!

 

「君は確かに強いだろう。その力は確かに今の悪魔の貴族社会に革命をもたらすだろう。が、私を舞台から退けようとするにはまだまだだよ」

 

「…何故そこまで強いのか、聞かせてもらいたい!」

 

光を失わない目は確かな強さを俺に伝える。

うんうん、俺の経験が聞きたいかね?

壮大に言うとするか!

 

「私は私のために強くなった。私の舞台のために、私の脚本から私が外れぬためにね」

 

「なるほど、己が為に…か」

 

「うむ、それと愛すべき家族のためにね。君にも守り通したい家族がいるのではないかね、サイラオーグ君?」

 

「…ええ、います。俺には敬愛すべき母が」

 

「ハハハ、良いことだ。ならば背負えるほど大きくなることだ」

 

母かぁ…偉大だよね。

俺はパッパにしかなれんからなぁ。

うむ、こいつは強くなるぜ。

俺が手を加えるんだ、主人公の出鱈目パワーアップ程度で負けない程度には仕上げてやるか。

まあ若手の数名ほどはもう意気消沈してるけど…

 

とはいえNo.1のサイラオーグ君を互いが全力も出さないとはいえ片手間に倒した俺に怯んだのかリアスちゃんやソーナちゃん以外の他の若手悪魔達は攻撃的視線を向けることはなくなった。

それから渡されたデータを元に個別指導をして各々の強化を施していった。

馬鹿者は拳骨一発叩き込んだけど、別にええやろ。

 

…お上の悪魔達はどうだったって?

おう、サーゼクス氏が黙らせたよ。

あの事変が転機になったのかあいつらも強くなって、色々と政治にも力入れたようだし。

安心して俺は色々とやれるわけです。色々と、ね。

世界に何かするとかはもうやらんよ?ワラキー嘘つかない。

 

まあ、そんなこんなで俺もやることやって魔王様方へとご報告に来たわけです。

 

「皆とは言わないけど何人かは真面目に取り組んでいるようだね」

 

「ズーちゃん流石!私の見立て通り!」

 

「ズーちゃんはやめろ。君の見立てでは私が洗脳するんじゃと疑ってた癖によくもまあ」

 

「うっ…だってズーちゃんが裏切る気満々で関わってきたからでしょ!」

 

「初めからではないよセラフォルー。私が裏切ると決めたのは冥界復興に力を入れた後だ。あとズーちゃんはやめろ」

 

「そういうの屁理屈っていうのよ!」

 

「純然たる事実だがね」

 

「うるさい二人だ、外で遊んでこい」

 

セラフォルーの言葉に俺が口を挟んでからの言い合いにアジュカは呆れたようにしっしと手を振ってあっち行けと言ってくる。

この古ぼけ研究者がぁ…!

俺はワラキーだぞ!(名護)

 

「まーまー…ズェピアの件は今後の対応への協力ってことで片付いたじゃん。僕も楽が増えるから嬉しいしね~…というか、帰って寝ていい?」

 

「資料を見てくれないと私がこうした意味がないのだがねファルビウム君?」

 

「後で部下に見せるじゃ駄目かな?」

 

「サーゼクス、やはり軍事統括が彼なのは何かの間違いでは?」

 

「は、ははは…後でしっかり見るようには言っておくよ。

それで、君としてはどうなんだい?」

 

サーゼクスの目線逸らしに露骨な話題変更のコンボに溜め息で返した後に乗ってやることにした。

まあ、ファルビウム氏が本来働いたら優秀なのは分かる。

普段がこれなのが問題なのだが!

 

「結論から言うとサイラオーグ君の勝ちで終わりだと思うがね」

 

「その理由は?」

 

「周りの若手を見てから彼を見ると…言ってはなんだがステージが違う。君も分かるだろう?彼は戦う力を得るために捧げるべき物を捧げている。等価交換だよ、彼の青春の時間は強さのために潰された」

 

「随分と買っているじゃないか?そのまま依怙贔屓、とならぬことを祈ろうか」

 

「対抗馬としては…さて…いるのだろうか」

 

「リアス達はどうだい?磨けば光ると思うんだが」

 

「ソーナちゃんだって強いわ!」

 

「黙れシスコンども。お前らは妹に勝って欲しいだけだろう」

 

「身内贔屓は褒められたものでは無いと思うが、二人とも。

しかし、磨けば光る者が多いのは事実だ。リアス嬢達だけでなくね」

 

もっとも、リアスちゃんの眷族は抱えてるもんがあるせいで全力出さないんだが。

辛口で悪いがリアスちゃんを想うならそういうのは片隅に追いやって戦って欲しいもんだ。私情を挟んで戦うなんぞいない方がマシだ。俺ならまだアーシアちゃんや吹っ切れた木場君を支持するね。

ソーナちゃんの方はそうだな、今一つ足りない。

少し位過激に出ないと強みに持っていけないかもしれないな。

それこそ策に策を重ねて相手の土俵そのものを崩すのが一番いいかもしれない。

 

「それにしても、私のせいとはいえ延期した次期当主の交流戦か。…良いのかね?彼らの管理を任せるのが私で?まあ、君たちのいずれかに報告や同行がいるのは妥当ではあるが」

 

「私は問題ないと思っているよ。君はもう敵対する理由がないだろうし」

 

「まあ、今更でしょ」

 

「気に食わん」

 

「別にいいんじゃない?」

 

「四人のうち一人しかマトモな理由がないのは如何なものか。

まあ、それなら私が管理することにしよう。では、次に─」

 

次の話題に移ろうとするとコンコンと扉をノックする音が。

おっとこの気配は…

 

「開いてるよ。好かれてるね、君も」

 

「申し訳ない」

 

一言謝罪。

いやはや、これはお開きムードですな。

セラフォルーはあまりいい顔してないが…あれか、あの時ぶっ飛ばされたの根に持ってるな。

俺知ってますよ、君意外と執念深いの。

 

扉が開くと、ワンピース姿の我が娘、オーフィスが入ってきた。

 

「ん、迎えに来た」

 

「もう終わったのかね?」

 

「あれくらいすぐ終わる。帰ろ、ズェピア」

 

「あー…オーフィス、少しいいかな?」

 

「何、サーゼクス」

 

「まだ報告や相談の途中だったんだけど少し待ってもらえないかな?」

 

「…うん」

 

少し不満げだったがそれは一瞬。

すぐに無表情に戻ったオーフィスは俺の膝にちょこんと座った。

はいかわいい、かわいい一等賞。

もうまぢ無理尊死する。

世界は今日も娘の愛で色づいてます。

 

さて、それはそれとして…

 

「例のあれはどうなってる?」

 

「上手くいってるよ。このままいけば早くても3ヶ月以内には上のご老人方を納得させれる筈だ」

 

「そうかね。では、その後については?」

 

「そこは私達だけじゃ決定できないわ。『王』の子達もだけど、眷族の子達がどうしたいか…」

 

「どのみち、責任は取る。どんな形であってもな」

 

「よろしい。ならば、私からは何もない」

 

「…ズェピア、何の話?」

 

オーフィスが俺の顔を見上げて聞いてくる。

話すべきか?

視線で他四人に問うと構わないと返ってくる。

 

「悪魔の駒撤廃の話だよ」

 

「撤廃…出来るの?」

 

「絶対に反発する者は出るだろうけど、そうしないと進めないからね」

 

「俺達がした仕出かしは俺達で終わらせないといけない」

 

「そう」

 

関心があるのか無いのか。俺の手を撫でたりして遊んでるオーフィスに俺達は苦笑するしかない。

そう、撤廃だ。

少しずつ時間をかけてやっていく。

当然ながら面倒事はこれでもかと押し寄せるだろう。

けれど、それがツケなのだ。

神話や人類に寄生をした悪魔がしっかりと道を直して歩むためのツケだ。

俺はその手助けをするだけだが。

 

「まあ、そういうことで私も意見箱として残るわけだ。とはいえ、既に提出した案の経過を聞きたかっただけなのだが」

 

「本当に感謝してる。君の技術提供で活路が見出だせたよ」

 

「流石だね~」

 

「それ程でもある。…ふむ、では私もここら辺で失礼しても?」

 

「ああ」

 

「またねズーちゃ~ん」

 

「ズーちゃんはやめろ」

 

「ん、帰ろ。フリージア、待ってる」

 

何と、それは早く帰らねばなるまい。

一礼してから退室してから転移する。

いやほら、その場でやってもよかったけど急いでるのバレバレなの嫌じゃん…

というわけで駒王町の家の前。

ふっ…俺にかかれば何処からでも我が家へテレポートする程度造作もないのだよ!

 

さて帰宅。

そういや今日は教師の仕事はないのかって?

そりゃ君、こんな描写してきたんだから休みな事くらい分かるやろ。リアスちゃん達も居たんだしね。

というか、これからもやること山積みと考えると何か疲れるな…

 

「おかえり、ズェピア、オーフィス。先生はまだ帰ってきてないよ」

 

「まあ、彼にも色々とあるだろうしね」

 

「あの辛い拉麺はどうにかならないの」

 

「私は…うん、しばらく勘弁かな」

 

教授、また改悪もとい改良したのか…今度はどんなスパイスを追加しやがったん?

まあ、それはいいとして…フリージアも今やほぼ人間同然だ。

けど、タタリの応用で造り出した器なので人間より頑丈にはしている。特に、魂への干渉はほぼ許さない位には。

殆ど人間に近いけど厳密には違う。

タタリである以上、俺が消えれば彼女も消える。

俺の死=フリージアの消滅になるわけだ。

 

死んでやるつもりは毛頭無いがな!あれからブラックバレルの改造も進んだし?残念ながらあの糞蜥蜴よりヤバイのが来てもワラキーが全て弾丸で撃ち抜いてしんぜよう。

余裕ですよ、余裕。

子を想う親は強いというのは世界全体の真理だからね。

 

ここだけの話だが、未来をこっそりと観たんだが…やってくれやがったな主人公!そこで首突っ込まなかった俺が悪いのか?いや、俺も知らんし…

異世界繋いじゃったからか色々と面倒が増えたじゃねぇか!!

少し観ただけでこれですよ!

かーっ!かーっ!!

冗談は女子更衣室の覗きだけにしてくんねぇかな!

ちなみに我が娘達にやったら殺す。

 

「…むぅ」

 

「どうかしたかね?」

 

「ズェピア、今我の事娘扱いした」

 

「いや、娘だろうに…」

 

「腕食べた仲。最早赤い糸で繋がってる」

 

「その赤は血ミドロの赤だと思うがね?」

 

「屁理屈ばかり。いい加減何とか言えこのやろー」

 

おお、オーフィスよ。

どうしたというのだ…俺に愛のプロポーズとはいっちょまえになりおってからに。

いや分かってますよ。

そりゃ分かってるけどその目で見れないって断ったでしょ!

分かってる?その手の話題の度にハイライト消えた目になってんの!フリージアもドン引きしてんの分かってます!?

あと腕食べた仲じゃねぇよ!腕食ったの君だけだよ!!

赤い糸ぉ?くそが赤蜥蜴ェ!!死んでも俺に迷惑かける気か!?(責任転嫁)

 

「オーフィス、そこまでにしろ」

 

「む…カオス、来るの早い」

 

黒いコートの巨漢こと教授…良いところで帰ってきた!

感謝の念を送ると伝わったのか微妙な表情をされた。

何故だ、解せぬ。

 

「大体貴様も貴様だ。身を固める位はしたらどうだね」

 

「何故私が悪いみたいな扱いなのだろう…」

 

「貴様がオーフィスからのプロポーズを断る以上、浮いた話が消え失せるからだが?」

 

「今のは浮いてた話かね?私にはヤンデレCDでも始まるようなおぞましいシーンとしか思えなかったが!大体、私に妻や彼女は必要ない」

 

「見たかフリージア。ああいった男は内なる欲望を秘めているのだ。お前も男は選ぶのだぞ」

 

「えっと、先生は?」

 

「私は存在自体が特殊だからな、必要はない。そもそも混沌としての私にそれは要らぬものだ」

 

「ズェピア、これが完璧な回答」

 

「何かな、今日は私を虐める日かな」

 

どうしてそういうところで親みたいなこと言うん?

そもそもオーフィスは娘としてしか見れないと言ったじゃろ。

脈とかあるわけないだろいい加減にしろ!

 

「そも、本来ならば私は大罪人だ。そのような者についてくる者は君達のような元より大切な者位だろう」

 

「ん、感知スキルクソ雑魚発言」

 

「これは酷い」

 

「耄碌したな、13位ともあろうものが」

 

「泣いていいかな」

 

もうなんか最近の無限と混沌は容赦ないね。

これがタタリから殆ど独立した友の姿ですよ。

獣因子は美味いか!?くそぅ…

 

「…うむ、それはそうとだがな。今更ながら、フリージアはこのままで通す気か?」

 

「む、それは…私も考えてはいる」

 

「ほう」

 

「いやしかしだな、一度大往生したフリージアにまた学びの舞台へ上げる、というのは…うむ、退屈ではないだろうか?」

 

「え?私が学生?」

 

「確かに私と貴様で大抵のことは教えはしたがな。学舎とはそれだけではあるまい。死徒たる私が言うのも可笑しな話だが、交流関係を築くことは大事だと思わないのか」

 

「…フリージア、行きたいかね?」

 

「いいの!?なら、リアスちゃん達がいる駒王…」

 

「ギギギギギ…やはりか!」

 

「うわっ!」

 

俺が勢い良く立ち上がったことでフリージアが驚く。

だが、許さん!お父さんは許しませんよ!

色欲にまみれた猿が数名いる学舎に…娘を!ましてや初の学校で!覗きを平然と行う猿どもの被害に遭わせる訳にはいかない!

そうなった日には俺は世界をまたタタリに包み込んで今度こそ人理漂白をしてくれるわぁ!!

 

「兵藤一誠…!彼及びその友人のいるあの学園は駄目だ!」

 

「始まった…」

 

「うむ…」

 

「な、何で?」

 

「彼らはあの学園で悪名高い男どもだ。私も教師をしているが、一体何回彼らの悪行を目で見て耳で聞いてきたか…」

 

「ん…確かに、ドライグがフリージアの着替えを覗くのは万死」

 

「ふむ…ならば、こうすればいいだろう」

 

そこで教授が提案した事は、俺とオーフィスがしようかしまいか考えていたことであり、提案されたことでやってしまおうかとなったため可決。

フリージアのオロオロとした様子を背に俺とオーフィスは少し据わった様子で虚空を見つめることとなる。

 

「…うむ、君が良いのならば入るかね?」

 

「う、うん…その、あまりトラウマにならないようにね?」

 

「うむソウスルトモ」

 

「本当かなぁ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「席につくように。今日は一つ、お知らせがあるが分かる人はいるかね?」

 

「はい!先生に彼女が出来た!」

 

「リテイク、一点もあげられない解答ですね」

 

「転校生とか?」

 

「うむ、正解だ」

 

「マジ?」「でも、結構来てるし、あり得るよね?」「女の子?男の子?どっちでもいいけど同性愛に発展して」「ほう、聞かせて」

 

「いつの間にこの教室は腐ってしまったのだろうね」

 

こらそこ、男子に見せられないような顔をして話すな。

先生感心しませんね。

ということで…どうぞ、入ってと言うと返事がして、その人物は入ってきた。

まあ、フリージアなんだけどさ。

 

「?…????」

 

あ、知ってる人の脳内が宇宙猫してるな。

だろうなぁ…まさかなぁ…

君たちより推定百歳くらい年上なのに二年生だもんなぁ。

 

「では、挨拶を」

 

「えっと…フリージアです、皆さんこれからよろしくお願いします!」

 

「なんて美少女なんだ!」

 

「素晴らしい、どうぞ隣に座って?」

 

「…うむ、その通りだがね。そちらの女子の隣の席だ」

 

「あ、はい」

 

…うむ、その目は何だね兵藤君?

俺はその視線を笑顔で答える。

 

─手を出したらどうなるか分かるね?

 

─あ、はい…

 

うん、ヨシ。

殺意を飛ばしてないからバレてないバレてない。

 

「さて…と」

 

おはようございます、ということでこれから授業まで色々と注目の的かもしれないが頑張れ!

何かあったら言ってくれよな!

猿とかが盛り始めたら絶対に撃ち込んでやるから安心してくれよな!歴史から消す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(ズェピア、名前違うだけで話し方あまり変わらないんだ)

 

席について、まず思ったことはそれだった。

昔から変わらない喋り方で、立場が違うのは新鮮というか、噛み合いが変な感じだった。

それを言うなら私も同じではあるけど…

 

一年からじゃないの?二年からなのと聞いたら

 

『君は世間一般的な高校生の修めるべき学びは既に教えた筈だが?忘れたのなら、またやろうかな?』

 

『覚えてるからやめてぇ!!』

 

またあれをやるのは勘弁願う。

あれは、よくない…!スパルタだった…

そっか、あの時教わったことって…現代のだったんだ。

うん?それだとズェピアは未来の知識があったってことじゃ?

…まあ、今更、かな?

 

というか、今の学生ってこういう服なんだ…へぇ…ハイカラっていうのかな?

今更ながらおばあちゃんな私がいていいのだろうか。

学生気分を味わったことが無いからと来たはいいものの、私って実年齢高いんだよね。

今の体に引っ張られてか若い頃と同じだけど、まあ老人時代の記憶はあるわけで…ふ、複雑。

 

「フリージアさん!」

 

「へ、はい?」

 

「フリージアさんは普段何してるの?」

 

「え?えーと…裁縫と、料理とか?」

 

「家庭的~」

 

「あはは…そう?教えられたから身に付いちゃった感じだから…」

 

「ご両親厳しいの?」

 

「ううん、優しいよ。自慢のお父さん。あ、これ秘密ね?」

 

「会うか分からないけど、秘密にしとくね!」

 

担任です…

後、裁縫はおばあちゃん時代だった!

あー駄目だ、ここら辺ごっちゃごちゃになってる!

ズェピア風に言うならキャラ作らないと…

 

質問責めに答えていると、授業の時間になった。

教科書…あ、知ってる奴。

あ、でもノート取っといた方がいいんだよね?

ネロ先生が言ってた。

というかアーシアちゃんとか話しかけてくれなかった…あれ、私忘れられてる?嘘だぁ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フリージアは楽しんでいるようだ。

あの後、無事にアーシア嬢や赤龍帝君に話し掛けられて部活動へ行ったようだった。

部活動はオカルト研究部になるのかねぇ。

俺としては、あまりそっちで活動はやめて欲しいんだがな。

数ある未来を引きそうで恐ろしい。

 

しかし、頷いてしまった都合上俺からやめろというのは野暮だろう。

せっかく事件でとはいえ手に入れた友人だ。

フリージアには是非とも友情を育んでもらいたい。

 

そんな俺は悲しいことにお仕事中です。

何って?

実は生徒会で手伝いをしてるんだよね。押し付けともいう。

 

「先生」

 

「何かな、生徒会長?」

 

作業の手伝いといっても書類に不備がないかの審査だから問題はない。ぶっちゃけ教師のやることかと思うだろうが、この学園…大きいもんだから生徒会からすれば猫の手も借りたい状況なのだ。

ソーナちゃんは俺の手際の良さを知ってしまっているから俺を頼ってるわけだな。

うむ、おじさん頑張っちゃうぞ。

分割思考とか高速思考って便利だな…

 

「フリージアさんの入学の件です」

 

「ああ、それか…何か、問題が?」

 

「問題はありませんが、あの人一度寿命で亡くなってるのでは?

本人からすれば複雑な環境なのではないかと…」

 

「うむ…君の懸念はもっともだ」

 

「何度か会話させてもらいましたが、フリージアさんは高校レベルの教育は叩き込まれたと言っていました。

その…退屈なだけでは…?」

 

「いやいや、娘からすれば数十、数百年ぶりの勉学だ。

とてもではないが、知識の穴はあるだろう。まあ、私自らが教鞭を取ったのでついていくのは造作もないだろうがね」

 

「だとしてもです。フリージアさんは悪魔の私が言うのも何ですがご高齢でしょうに」

 

「うむ、それなんだがね…彼女の肉体を構築する上で基礎的な情報をその時の物にしたせいで困ったことに引っ張られてるようなのだよ。今の彼女は年相応の精神だ」

 

「はぁ…」

 

ソーナちゃんは少し納得がいかないご様子。

まあ、言いたいことは分かる。

無駄なことではないか?と言いたいのだろう。

悶々としてもらうのは申し訳ないが主目的を話すのは気が引けるし、放置で。

 

…フリージアは学舎等とは縁がなかったからなぁ

奇跡のような現在で、学舎を体験して欲しいと願うのは傲慢だろうか?否、俺がしてるのは至って普通の親父心である。

それに、この学園にいてくれれば何かあった時も対応が早く済むし俺としても良いことはある。

 

何時何処で糞蜥蜴マークIIが現れるか分からんからな。

 

それに異世界が相手とか笑えないんでやめてもらって良いですかね。

相手の性質が良く分からないんで対策が面倒なんですよ。

知ってる?未来の演算ってダルいんだよ?

そりゃズェピアさん狂うよ。俺も面倒クセェもんよ。

 

それに、この世界自体問題は山積みだしな。

俺も協力する手前手を抜くのは主義に反する。

というより、未来設計はアトラス的に手を抜く訳にはいかない。

 

「先生は大変ですね」

 

「む?」

 

「今もそうして色々と考えている。私には到底理解の及ばない事なんでしょう」

 

「そう言われるとどう答えて良いものか。

だがね、ソーナ君」

 

そう悲観されるのもあれなんで助言だけしておくことにした。

ただ、少しひねくれた助言だが。

 

「しっかりと計算すれば、誰でも導きだせるとも。賢い君なら、きちんと計算すれば答えが分かる筈だよ」

 

「…相変わらず、先生は厳しいんですね」

 

「私にしては珍しい大ヒントなのに心外だ」

 

「先生のヒントは答えに近いほどひねくれていくんですよ」

 

「ふむ…そうか…」

 

バレテーラ、カッコ悪い。

ワラキーポイント減少間違いなし。

さてと…審査も終わったので少し伸びをする。

死徒の体といっても精神的に疲れるもんだ。

 

お疲れさまですと周りのソーナちゃんの眷属ぅが言ってくれるので俺とソーナちゃんもお疲れ様と返す。

 

さて…?フリージアは、と…ああ、問題ないなまだオカ研だ。

よいしょっと立ち上がる。

 

「では、私もこれで」

 

「はい、ありがとうございました。このお礼はまた」

 

「ハハハ、構わないとも。生徒を助けるのは教師の役目だ。

いつでも頼ってくれたまえ」

 

そう言って俺は生徒会室を後にする。

肩凝るわ、ホント…

 

それから俺はフリージアと帰るべくオカ研に顔を出したら親バカを見る視線を喰らって若干不機嫌になりかけるも娘の前なので平静を保った。

フリージアも帰ろうと思ってたようで頷いてまた明日と皆に言ってから一緒に退室する。

現在は共に歩いて帰宅中だ。

 

「どうだったかね」

 

「楽しかった!学校って良いね!」

 

「…そうか、それはよかった」

 

「また、ズェピアに教わっちゃったかな~」

 

「ハハハ、いやいや。今回は私ではないとも。

私ではなく、周りが君に教えてくれたんだよ」

 

「そうかな?そうかも」

 

上機嫌な娘に安心感を抱く。

うんうん、こういう日常が似合うよ。

出来れば、ずっと俺達の日常でいて欲しい。

これからも、俺達の帰る場所であって欲しい。

俺達の宝であって欲しい。

 

「よーし、今日は美味しいの作ってあげるからね!」

 

「私が作っても良いが?」

 

「ズェピアが作ると私の面目丸潰れなので座っててください…」

 

「うむ、了解した」

 

これでも家庭料理教えたの俺やぞ。

ワシに勝とうというのかね?と思ったら座ってろと言われたのでやめておくことに。

大人げないって?親は何時までも子より上でありたいものだよ。

上から、子が安全かどうか知りたいからね。身近な上にいたいもんなのさ。

 

それから俺達は帰宅して、帰ってきた教授達と共にフリージアの作った料理を食べた。

確かに一際美味しかった。

何度も食べて、何度も見た食卓の光景も、俺にとってはいつまでも新鮮で自然と笑うことが出来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「というわけでアプローチに来た」

 

「見てるこっちも寒いからもう少し暖かい服装に着替えたまえ」

 

ホッコリするシーンが変わってオーフィスのターンが来てしまった。寝室に侵入されること何回目か覚えてません。

どうしてこう、君は遠慮がないかな。

というかそのネグリジェはどこから手に入れた。

微妙に透けてるじゃねぇか何処で買ったし。

 

「枯れてるズェピアに花を咲かせに来た」

 

「そんな花咲爺でもあるまいに。というか私は枯れてない」

 

「ちょっと何言ってるから我には分からない。この魅惑のボディの誘惑を弾くとか間違いなくズェピアは枯れてる」

 

「魅惑(笑)」

 

「今日は腕食べて良いの?」

 

「勘弁してくれないかな」

 

あれ痛いからやめて。

というか食べてるシーン知ってるからやめて。

許してください何でもしませんから。

オーフィスはため息をついた後にベッドに乗り込んできた。

身構えかけたが、大人しくベッドに入ってきて微笑んでくるだけのオーフィスに今日も諦めたかと安堵して脱力する。

 

「今日はこっちで寝て良い?」

 

「構わないよ」

 

「えへへ…」

 

極楽とばかりに腕に抱き付いてくる娘に苦笑して頭を撫でてやると嬉しそうに目を細めるもんだからいつまでもしていたくなる。

 

「不安なら、いつでもこうしてあげる」

 

「…不安、か」

 

「我の前で隠す必要はない。

我は貴方の事なら結構分かってる、えへん」

 

不意打ちが過ぎる、と毎度思う。

オーフィスは俺の内面を知る数少ない理解者の一人だ。

きっと俺が死ぬまでこの子以上の理解者は現れないだろう。

全て分かった上で、俺を好いてくれて俺に委ねてくれる。

 

不安だ。

ふとした拍子に崩れ去るかもしれない日常が不安だ。

俺はどうしようもなく弱いから、皮を被っているんだ。

被った皮で何でもないように取り繕って、それでも見つけてくれるこの子に感謝したい。

気付けば俺が撫でられていた。

 

「未来が怖い?」

 

「…異世界の存在が相手らしい」

 

「そんなの問題ない。我達なら倒せる」

 

「出来るだろうか?」

 

「出来る。貴方ならやれる」

 

「…ありがとう」

 

弱気な自分さえ肯定してくれる。

その上で、背中を押してくれる。

惚れてるのだろうか、惚れてるのかもしれない。

でも、俺はそういう気はなくて。

それでも俺は娘としてしか見れないのだ。

滑稽な話だが…なんとも俺らしい。

 

「このまま溺れてくれても良いよ?」

 

「断る。私は君の親だよ」

 

「撫でられてるのに強気」

 

「娘が父を労ってくれてるのはありがたいなぁ」

 

「…もうやめる、おやすみ。ふんだ」

 

これもいつものやり取り。

オーフィスも本気で拗ねてる訳じゃなくて、寝る口実になるからそうしてるだけ。

俺も、これ以上やられてたら色々と困るので助かった。

そのまま、俺も意識を手放すことにする。

俺はワラキアの夜だ。ズェピア・エルトナムだ。

やってやれないことはまあない。

タタリの力とアトラスの知恵があれば何とでもなる。

…それに、家族がいるから。

 

不安を拭い去ってくれた子の頭を一度撫でた後に俺は眠った。

 

きっと俺は、こうして生きていくのだろう。

支えられて、かっこつけて、ただ一人にバレながら。




何処までいっても中身は人間な彼。
これからも家族大好きで頑張って中身大好きな龍神がよしよしと励ましてくれるのでしょう。
契約だけでなく居心地の良さで助けてくれる混沌がいて、ようやく再開できた純粋な少女は笑顔でそれを見守ってくれるのでしょう。

何てことの無い家族の一幕。

龍神が監督とどうなるか、教授の激辛道はどうなるか、彼女の学園生活はどうなるか、全ては貴方のご想像にお任せします。


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