やはり俺がウルトラマンジードなのはまちがっている。 (焼き鮭)
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その日、運命は姿なき挑戦者によって変わった。(A)

 

 ――太陽系第三惑星、地球。太陽系銀河で唯一知的生命体が存在、生活している、水と緑の星である。

 

「ショアッ!」

 

 その惑星を背景に、今、宇宙空間に黄金色の人型生物がマントを翻しながら舞っていた。

 通常、地球人類は生身で宇宙空間に存在することは不可能。瞬く間に破裂して死亡する。しかしこの人型生物は、何の防護もしていないのに生存している。また、身体的特徴も地球人には全く以てあり得ない部分ばかりだ。身長も、せいぜい二メートルが限度の地球人の何十倍もある。要するに、明らかに地球人ではない。

 そして、右手には豪奢な杖と剣が一体化したような物が握り締められている。

 

「ハァッ!」

 

 超人は青く吊り上がった双眸を、戦っている相手に一直線に向けている。

 相手は漆黒の煙か靄のようなものに覆われていて、姿は確認できない。ただし、黒い煙――もしくは『闇』――の間から、黄色く光る何かだけがはっきりと覗いていた。

 超人は黒い煙に隠れた何かに何度も斬りかかるのだが、どうにも有効打が与えられていないようであった。やがてその胸の中央にある、丸みを帯びた長方形型の発光体が、青から赤に変色して点滅を始めた。

 超人はこれにより焦りを見せ、動きに変化を起こした。杖を前に突き出すと、杖の上部分が開くように変形し、更に平手にした左手を杖に添えて十字を形成した。

 

『ロイヤルエンド!』

 

 すると杖から金色の粒子が放出され、それが光線となって戦闘相手へと飛ばされた。

 これに対し闇の中に隠れているものは、莫大な黒い炎を放出して対抗。光線と火焔が宇宙空間で衝突し、一瞬宇宙空間を照らすほどの壮絶な爆発を巻き起こした。

 この爆発の中から、赤い球体と紫の球体が飛び出し――いや、転落した。地球の地表へと向かって。

 大気圏に突入し、摩擦熱で炎上しながら落ちていく二つの球体の先にあるのは、太平洋とユーラシア大陸に挟まれた弓状列島――日本の国土であった。

 

 

 

『その日、運命は姿なき挑戦者によって変わった。』

 

 

 

『――先日未明に観測された、宇宙での謎の爆発現象。その詳細と原因に関して、世界中の天文学者が様々な仮説を立てていますが、未だ有力な説は出ていません。果たして真実は何なのか。また、これの直後に関東一帯で起こるようになった、建物の不自然な倒壊や道路の陥没と関連があるのか。謎は深まるばかりです』

 

 千葉市内の住宅地の中に建つ「比企谷」の表札の一軒家、そのリビングのテレビ画面に、最近発生している怪現象を特集した朝のワイドショーが流れている。その番組を、この家に暮らす男子高校生と女子中学生が朝食のトーストをかじりながらぼんやりながめていた。

 テレビ画面の中では、コメンテーターとして出演している中年の学者が、建物の倒壊に関して言及する。

 

『私の見解としましては、これらの倒壊や陥没の原因は、未確認の巨大生物であると思われます』

『それは何故でしょうか?』

『こちらをご覧下さい』

 

 学者は二枚のフリップを取り出した。一枚は道路の陥没を撮った航空写真で、もう一枚は倒壊の現場を書き記した関東地方の地図だ。

 

『この陥没なのですが、明らかに動物の足跡らしき形状をしてます。しかもサイズから類推するに、恐竜をも優に凌ぐほどの巨体です。また倒壊と陥没の発生現場は、この図を見て分かる通り、南へ向かってほぼ一直線に移動してます。とても局所地震などの自然現象とは思えません』

『ですが先生、そんな大きな生物がいるのなら、目撃情報があって然るべきなのでは?』

『恐らく目には見えない、あるいは見えにくいのでしょう。いわば不可視の生物なのですな』

『そんな生物が存在するのでしょうか……?』

『ステルス技術というのは現実に軍隊等で研究、開発されてますし、既存の知識では解明することの出来ない事態なのですから、常識で推し量るのは間違いというものでしょう』

 

 アナウンサーの質問に答えていった学者は、最後に結論を口にする。

 

『もっとも、現状確実に言えることは、この倒壊現象はこれまでのパターンから推測するに、次は千葉市で発生する可能性が高いということです。千葉市に暮らす方々には、十分な注意と警戒をお願いします』

 

 それを最後に、女子中学生がリモコンのボタンを押してテレビを消した。そして男子高校生に話しかける。

 

「見えない巨大生物かぁ……。見えないんじゃ注意しろだなんて無理だと思わない? ねぇお兄ちゃん」

 

 男子高校生は大仰に肩をすくめて、呆れているというポーズを取った。

 

「あんな与太話信じるのかよ。月刊ムー並みの眉唾もんだったぞ」

「えー? でも、他に原因があるとも思えないよ。それに巨大生物なんてのがほんとにいるのなら、ロマンがあるって小町は思うよ!」

「何がロマンだよ。怪我人がもう大勢出てるって話だぜ? 夢もへったくれもあるもんかよ」

 

 などと話しているのは、比企谷八幡と小町の兄妹。八幡の方はひねくれた性格でコミュニティ能力に難があり、友人と呼べるような相手がかなり少ないいわゆる“ぼっち”だが、小町の方は明るく社交的で友人も数多いと、何かと対照的な兄妹なのである。

 八幡はトーストを食べ終え、コーヒーを飲み干すと、口を拭って椅子から立ち上がった。

 

「ともかく、最近物騒だってことには間違いない。お前も何かちょっとでも変だな、って思うことがあったら、すぐにその場から逃げるようにしとけよ。何より優先するべきなのは、自分の命だ」

 

 この八幡の言葉に、小町は眉を寄せた。

 

「うーん……お兄ちゃんが言うとあんまり説得力ないかなぁ。通りすがりのワンちゃんを身を挺して助けて、三週間も入院しちゃったお兄ちゃんがさ」

 

 小町のひと言に、八幡もまた顔をしかめた。

 

「それを言うなよ……。もうあんなこと、二度としねぇから」

 

 傍から聞けば美談かもしれないが、八幡自身にとってはいい思い出とは言えなかった。車に轢かれて骨折した時は、それはもう苦しかったし、事故に遭った日はちょうど高校の入学式の日だったので、八幡は高校の友人作りに一番大事な時期を逃してしまったからである。

 

 

 × × ×

 

 

 八幡は通っている総武高校において、ある特殊な部活に在籍している。というより在籍させられている。その名は「奉仕部」。

 八幡は二年に進級してからの『高校生活を振り返って』という題の作文の課題で、青春を謳歌している者たちへの(逆)恨みつらみを書き綴るという暴挙を行い、その人間性を案じた生活指導の平塚静にこの奉仕部に入部するよう強制されたのであった。部活動の内容は、その名の通りに持ち込まれた相談や問題を解決するように奉仕活動をするというもの。

 しかし奉仕部への依頼というのはそうそうあるものではなく、ほとんどの時間は宛がわれた部室で暇を持て余している。今日もまた、奉仕部の部員仲間と一緒に部室にいるだけの時間を過ごしている。と言っても、同じ空間にいるというだけで、これと言って特別なことがある訳ではないのだが。

 奉仕部の八幡以外の部員は、たった二人のみ。一人は雪ノ下雪乃という女生徒。眉目秀麗にして才色兼備、成績は常に学年一位という優等生だが、歯に衣着せぬ言動が災いして他人から敬遠されている、八幡とは違うタイプの“ぼっち”である。そしてもう一人は由比ヶ浜結衣。雪乃とは対照的に、成績は今一つだが社交性に富んでいる、本来なら奉仕部に在籍する必要のない人間である。八幡と雪乃は生活指導を担当している静の命令による入部だが、結衣だけは本人の志願なのであった。

 八幡と雪乃は自らしゃべり出すことはほとんどなく、部室にいる時は大抵の場合文庫本などを読んで時間を潰している。会話を切り出すのはもっぱら、結衣の役目だ。

 

「ねぇねぇゆきのん、ヒッキー、知ってる? 見えない怪物のこと!」

 

 結衣がそう二人に尋ねかけると、雪乃は文庫本から顔を上げて聞き返した。

 

「見えない怪物と言うと……最近関東域で連続して発生してる、原因不明の建築物倒壊のこと? 確か、学者か誰かがそんな仮説を立てたとか」

「そうそうそれ! ゆきのんのクラスでも話題に上がってた? こっちでもその話で持ち切りだったんだよ」

「ああ、戸部の奴がそんなようなこと頻りに騒いでたな」

 

 適当に相槌を打つ八幡。結衣は若干興奮した様子で話を続ける。

 

「ゆきのんとヒッキーは、見えない怪物なんてホントにいると思う? あたしは、いてほしいなーって思ってるんだけど」

「そりゃまた何でだ」

「もちろん、その方が面白いからに決まってるじゃん! 見えない大怪物なんて、アニメか映画みたいな話が現実にあったら、それだけでサイコーだよぉ!」

 

 お気楽に口走る結衣に、八幡は呆れ顔になっていた。一方で雪乃は、結衣の語ることをばっさり切り捨てる。

 

「ナンセンスね。怪物なんて、フィクションの中だけの存在に決まってるわ。あり得ないわよ」

「えー何でー? お偉い学者さんがそう言ったんだよ?」

「権威があるからその発言は正しいなんて、思考停止の典型よ。そもそも由比ヶ浜さん、少なくない負傷者が出てるというのに面白がるだなんて不謹慎よ」

「そっかぁ~……ごめんねゆきのん。気をつけるよ」

 

 たしなめられて、てへっと舌を出す結衣。とてもじゃないが本心で謝っているようには見えねぇ、と八幡は思った。

 しかし、由比ヶ浜が面白がってるのは、結局彼女自身も本気で怪物の存在なんて信じちゃいないからだろうな、とも八幡は考える。何故なら、由比ヶ浜の態度には恐れの色が見られないからだ。だから平然と茶化してみせる。

 見えない怪物なんて、この部室には信じている人間なんて一人もいやしない。由比ヶ浜もそうだし、雪ノ下ももちろんそうだ。そして自分だって――八幡は微塵も信用してはいなかった。

 今、この時には。

 

 

 × × ×

 

 

 下校時刻になった。奉仕部はあくまで学校の部活という体裁なので、何もしていなくともその時点で一日の活動は終了となり、八幡たちは帰宅していく。

 八幡は学校から自宅までの道を、自転車で走っている。当然のように、彼には一緒に学校から帰る相手はいない。雪乃たちは別方向だし、たとえ同じだったとしても八幡と一緒に帰るなんてことはしないに違いない。特に雪乃。

 

(しっかし、原因の分からない建物の倒壊かぁ……。ホント、世の中おかしなことになったもんだ)

 

 自転車を漕ぎながら、朝にも昼にも話題に上がった内容を思い返していた――その時。

 八幡の行く先のにある住宅の屋根が――いきなり弾け飛んだのだ。

 

「えッ……!?」

 

 流石の八幡も目を見張って、反射的にブレーキを掛けて停止した。

 そんな彼の視界の中で――次は隣家の外壁が砕け散った。電信柱がへし折れて電線が千切れ、道路のガードレールがひしゃげてアスファルトが妙な形に陥没した。周囲の至るところから、混乱と恐怖による悲鳴、怒号が沸き上がっていく。

 間違いない――ちょうど今考えていた事態が、目の前で発生しているのだ。

 

(♪大怪獣出現(B-1))

 

「ひッ……!」

 

 八幡も周囲の人間と同じように恐怖に駆られ、自転車をその場に乗り捨てて逃走し出した。その彼の背後から、立ち並ぶ家屋が次々に砕けていく轟音が連続して発生する。

 しかしその轟音に混じって、何か別の音が起こる。

 

「キイイイイイイイイ! ゲエエゴオオオオオオウ!」

 

 八幡は一瞬冷静になり、今のが何かの獣の鳴き声のようであったと感じた。それも、二種類のものが混ざり合っているかのような……。

 しかし思案している間に、足跡のような陥没が自分に向かって近づいてきた。

 

(のんきに考えてる場合じゃねぇッ!)

 

 我に返った八幡は懸命に走って逃げる。この奇怪な現象の原因は、直に見てもさっぱり分からないが、立ち止まっていたら命が危ないということだけは確かであった。

 そうして必死に自らの命を守り続けていた八幡だったが――途中でその足が、急停止した。

 

「ッ!?」

 

 どこへ行けばいいかも分からずに逃げ惑う群衆の中に――雪乃と結衣の姿を発見したからだ。

 自分がいつの間にか彼女たちの帰宅していった方向に来てしまったのか、二人が混乱する人の波に流されて自分の方に来たのか。多分両方だろう。

 そんなことはどうでもいい。重要なのは、たった今結衣が走る男にぶつかられて転倒し、雪乃がそんな結衣に急いで手を貸している――その現場に、建物の瓦礫が飛んできていることだ。

 

「――!」

 

 八幡は、考える前にもう走り出していた。

 

「おおおおおおおおおおッ!!」

「比企谷くん!?」

「ヒッキー!?」

 

 走ってくる自分に気がついた雪乃たちが驚く。その二人を、八幡は勢いのままに突き飛ばした。それにより、二人は瓦礫の落下地点から外れた。

 その代わりに、八幡が――。

 

 ドズゥンッ!

 

「――っ」

 

 雪乃と結衣は、途端に色を失った。

 八幡が、自分たちの身代わりに、瓦礫の下敷きになったからだ。

 倒れた八幡から、赤い水たまりが広がっていく。

 

「――いっ、いやあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 絶叫を上げたのは結衣だ。目の前で起こったことが受け入れられないというように首を振り回し、八幡へと駆け寄って大声で呼びかける。

 

「ひ、ヒッキー! しっかりして! ヒッキー! ヒッキー!!」

 

 雪乃は、脂汗まみれになりながら、呆然とその場に立ち尽くして、彼女以上に動かない八幡を見下ろすばかりであった。

 そして件の元凶である住宅の連続破砕なのだが――それまでは場所を移動しながら断続的に起こっていたのに、急に一箇所に集中するようになり、気がつけばそのまま収まっていた。

 だが、雪乃と結衣にとっては、それは最早重要なことではなくなっていた。

 

 

 × × ×

 

 

 救急隊員によって瓦礫の下敷き状態から助け出された八幡であったが――搬送先の病院で、その口元に酸素マスクが被せられていた。

 意識は一向に戻る気配がない。それどころか、医者は付き添ってきた雪乃と結衣に宣告した。

 

「残念ですが……助かる見込みは、もう……」

「家族には連絡した? 早くしないと!」

 

 口ごもる医者の後ろでは、看護師たちが余裕のない様子で八幡の家の電話番号を調べていた。

 

「そ、そんな……」

「……」

 

 結衣は口を覆って目尻からポロポロ涙の大粒をこぼし、雪乃は依然として何も言葉を発せずに立ち尽くすばかりだった。

 

「嫌だよぉ、こんなの……。ヒッキーにはあのことのお礼も、ちゃんと言えてなかったのに……こんなお別れだなんて……」

 

 溢れる涙を指で拭いながらも、嗚咽を上げ続ける結衣。

 ――そんな中で、誰の目からも見えていないのだが……ある『者』が意識の戻らない八幡を見下ろしていた。

 

『――少年よ……』

 

 それは、赤と黒の人型の何かであった。『彼』は、当の八幡には聞こえていないことも構わずに話を続ける。

 

『すまなかった……。僕は、間に合わなかった。そのせいで、君はこんなことになってしまった……』

 

 八幡に語りかける人型は、人間の目には映らない姿で、住宅を破壊していた『もの』と戦い、追い払ったのだ。だから破壊は途中で止まったのである。

 そして見えない何かと戦った人型は、八幡に告げる。

 

『このままだと、君は確実に死ぬ。だけど、君は勇敢な人間だ。自らの命も省みず、女の子二人を救った。そんな君を、僕が死なせない!』

 

 人型は八幡の足元に立つ。

 

『君に、僕の命をあげよう! 僕も、今のこの傷ついた状態では満足に戦えない。僕の命を与えるから、どうか僕に君の力を貸してほしい……』

 

 そして残像を残しながら倒れ込むように、八幡の身体と重なった――。

 その瞬間、八幡は飛び起きた。

 

「――ここは?」

 

 マスクを取り外しての第一声がそれだった。そんな八幡に振り返り、医者たちはこっちが死にそうなくらいに驚愕した。

 しかし結衣は、信じられないものを見たような目でありながらヨロヨロと八幡に近寄っていく。

 

「ひ、ヒッキー……ヒッキーなの……?」

「え、いや……それ以外の誰だと?」

 

 キョトンとしている八幡に、結衣は感情のほとばしるままにガバッと抱きついた。

 

「ヒッキぃぃぃ―――――っ!! うわぁぁぁぁんよかったあああぁぁぁぁぁぁぁ! ヒッキー生き返ったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

「おわああぁぁぁッ!? お、おい何だよ由比ヶ浜! 何がどうなってんだ!? 教えてくれよおいッ!」

 

 八幡は自分の置かれている状況が理解できずに、結衣に抱きつかれたまま混乱し切っていた。雪乃はそんな二人を見つめながら、あんぐりと口が開きっぱなしになっていた。

 

「し、信じられない……。奇跡だわ……」

 

 普段は語彙豊かに八幡をなじったりけなしたりする雪乃も、今はそれだけ言うのが精一杯であった。

 

 

 八幡は瓦礫に押し潰されたのが嘘だったかのように、身体は何ともないほどに回復していた。医者たちも全く信じられない様子であったが、それが現実であった。

 ともかく立って歩けるということなので、八幡たちはそのまま病院を後にして帰宅することにした。

 

 

 × × ×

 

 

「うわぁ……すっかりあちこちボロボロだね……」

 

 病院からの帰路、町の様子を見渡した結衣が呆然とつぶやいた。町は至るところの家屋が全壊、もしくは半壊しており、ほんの数時間前までは何の変哲もない普通の穏やかな市街だったのが半ば信じられないくらいの惨状であった。

 一瞬顔を曇らせた結衣だったが、八幡に振り返ると思わずはにかんだ。

 

「でも、ヒッキーが何ともなくてよかった。けれどそれが逆に信じられないかな。あんなに血を流してたのに、もう何ともないなんて」

 

 結衣のぼやきに相槌を打ったのは雪乃だ。

 

「本当ね。比企谷くんって、目は死んだ魚のようなのに反して生命力はあり余ってるのね。長生きしたところで友人もいないんだから虚しいだけでしょうに」

「おい……それが仮にも死にかけた人間に向ける言葉かよ」

 

 ジトーと八幡がにらみ返したのだが、雪乃は肩をすくめるだけだった。

 しかし、雪乃が平然と毒を吐くのは、彼女もまた安堵していることの表れでもあった。

 

「それじゃヒッキー、今日は念のために家でゆっくり休んでるんだよ。何かあったら大変だからね」

「家に引きこもってるのは得意でしょう? どうせいつものことでしょうし」

「雪ノ下、お前はいちいちひと言余計なんだっての」

 

 最後にそう言葉を交わして、八幡は二人と別れた。……しかしその後、ふと立ち止まる。

 

「……何か、さっきから変な違和感があるな」

 

 懐の辺りに妙な感触があるので、服の下をまさぐってみる。――すると、指が変なものに当たった。

 

「あ……? 何だこれ」

 

 懐から出てきたのは、赤黒い握力計みたいな、おかしな道具であった。更に腰のベルトには、二つの穴が並んだケースのようなものと、変な絵が描かれているカプセルが収まったケースが左右に取りつけられている。

 

「何かの玩具か……? 何でこんなもんが……」

 

 当然、こんなものに覚えなどあるはずがない。そんなのを、どうして自分は持っているのか。

 薄気味悪くなって、一瞬どこかに捨ててしまおうかとも考えたが、近くにゴミ捨て場はなかった。それにもしかしたら誰かの所有物かもしれないし、勝手に捨てるのはまずいかもしれないと判断して、とりあえず手元に置いておくことにした。

 八幡は、根は結構なお人好しなのであった。

 

 

 × × ×

 

 

 その日の夜――比企谷家を、暗がりからじっと見上げている一人の女性がいた。肩には竹刀袋を掛けている。

 

「……どうやらここみたいね」

 

 独白する女性の傍らには、金属製の小さな球体が、糸に吊られている訳でもないのに浮遊していた。

 そして女性の足元の影から、別人の声が発せられた。

 

『ホントにここにリクがいるの?』

 

 それに答えたのは女性ではない。金属の球体であった。

 

[この家の中から、リクの生体反応がします。リクは95%の確率で、この家の住人と同化しているものと思われます]

「同化ねぇ……。また面倒なことになってるのかしら」

 

 女性は腕を組んで嘆息する。彼女の影もまたため息を吐いた。

 

『あれだけ激しい戦いだったからね……。リクもひどく傷ついてるのかもしれない。心配だなぁ……』

「でも、今日はもう遅いわ。接触は明日にしましょう。星雲荘に戻るわよ」

[了解しました]

 

 女性の言葉に球体が返事をすると――何もない地面から、いきなりエレベーターらしきものが生えてきた。しかし女性はそれが当然であるかのようにエレベーターの中に入り、エレベーターは女性を収めたまま消えていったのであった。

 



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その日、運命は姿なき挑戦者によって変わった。(B)

 

 千葉市内で奇怪な建物の倒壊事件が発生した、その翌日。

 この日は昨日の混乱の収拾が完了していないので、市内の学校は全て休校となった。そのため八幡と小町は、自宅に留まって大人しくしている。

 そんな中、小町が妙にニヤニヤしながら八幡に話しかけた。

 

「聞いたよーお兄ちゃん。昨日、学校の女の子を命懸けでかばったんだって? かっこい~! あんなこと二度としないとか言っておいて、お兄ちゃんもスミに置けないな~このこの~」

 

 うりうりと肘で小突いてくる小町に、八幡はげんなりとした顔になった。

 

「それで? その人の連絡先はもらった? 命を助けて始まるラブストーリーって鉄板だよね! ってことで今まで腐りに腐ってたお兄ちゃんも遂に甘酸っぱい青春の第一歩を踏み出すんだねー!」

「……リアルってのはドラマとは違げぇんだよ。んな上手い話がある訳ねーっての。そもそも相手は知り合いだから」

 

 一人で勝手に盛り上がる小町を静かにするために八幡はそう返したのだが、小町はむしろ更にテンションをアップした。

 

「お知り合い! ますますドラマチックじゃーんっ! これはもう恋の始まり待ったなしだよぉ!」

 

 八幡は疲れたように頭を振って、小町を放っておくことに決めた。

 

(相手二人だったんだから、その筋書きだと二股になっちまうだろ……)

 

 なんて思いながら、食器棚の上に置かれているカップを取ろうとする。

 しかし微妙に身長が足らず、背伸びして手を伸ばしても指は触れるが、縁を掴むことが出来ない。

 

「んッ……後、もちっと……」

 

 八幡は無意識に、軽くジャンプした。

 

 ゴンッ!!

 

「な、何!? 今の音!」

 

 背を向けていた小町は、突然の物音にギョッとして振り返った。すると目に飛び込んできたのは、八幡が頭のてっぺんを抑えて床の上に転がっている姿。

 

「どうしたのお兄ちゃん!?」

 

 慌てて駆け寄った小町に、八幡は痛がったまま答えた。

 

「……ジャンプしたら、天井に頭ぶつけた……」

「え? 天井に……?」

 

 天井を見上げる小町。ジャンプして、とても頭をぶつけそうな高さには見えない。

 

「……いや何言ってんのさお兄ちゃん。どう考えたって届かないでしょ。目だけじゃなくて、脳みそまで腐っちゃった?」

「お前……散々言ってくれるなオイ……」

 

 目を細めながら起き上がった八幡だが、小町は遠慮のない口振りとは裏腹に、割と本気で心配しているようであった。

 

「何だか変だよお兄ちゃん……昨日は大怪我したんでしょ? 嘘みたいに回復したってお医者さん言ってたそうだけど、やっぱりどっか悪いんじゃない? もう一度、病院で診たもらった方がいいよ」

「いや、別にいいだろ。そんな大袈裟な……」

「大袈裟なんかじゃないよー! お兄ちゃんにもしものことがあったら、小町が悲しいんだからね。あ、今の小町的にポイント高い」

「……最後のひと言がなけりゃあな」

 

 呆れる八幡であったが、小町の忠告には従い、昨日に引き続いてもう一度病院の世話に掛かることにしたのであった。

 

 

 × × ×

 

 

「そんじゃあ行ってくる。遅くなりそうだったら連絡するからな」

「いってらー」

 

 留守を小町に任せ、八幡は一人で玄関から外へ出た。

 しかし家から離れようとしたところで、彼の前に立ちはだかるように、肩に竹刀袋を担いだ見慣れない少女が現れた。

 

「……?」

 

 じっとこちらの顔を見つめてくる少女に、八幡は一瞬目が覚めるような思いになった。雪乃や結衣並みの美貌であることもそうだが、彼女の顔つきには凛とした力強さがあり、それが美しさをより一段と際立たせているからだ。このような女性には、八幡はこれまで一度としてお目に掛かったことはない。

 

「あ、あの……? 何か……?」

 

 しかし会ったこともない少女が、どうしてこんなにも自分を凝視しているのか。呆気にとられた八幡の手を、少女が不意に取った。

 

「えッ……!?」

「一緒に来て」

 

 少女はそれだけ言って、八幡の手を引っ張ってどこかへ誘導し出した。

 見知らぬ美女からいきなり誘われる。男なら夢のようなシチュエーションだが、ひねくれ者の八幡はむしろビクビクしていた。

 

「あ、あの……!? 俺、お金なんて全然持ってないですよ! 出せるものなんか全然ないです! 親だって、俺のために出してくれるなんて思ってたら大間違いですから!」

「……どんな勘違いしてるの? 私を美人局か何かだと思ってるつもり?」

 

 少女は呆れ返った目で八幡に聞き返した。

 

「じ、じゃあ俺に何の用なんですか……?」

「……詳しいことは、ここでは話せないわ。ひとまずは、一緒に来てちょうだい」

 

 少女は有無を言わせずに八幡を引っ張っていった。何が何やら分からない八幡だが、少女の意外なほどの腕力に、抵抗することは出来なかった。

 

「ここよ」

 

 そうして誘導されていった先は、町外れの天文台であった。

 

「天文台……? ここに何が……」

 

 少女は八幡の質問に答えず、代わりにあらぬ方向へ呼びかけた。

 

「レム、お願い」

 

 すると近くの草むらから、小さなオレンジ色の金属の球体が飛び出してきて八幡の目の前でフヨフヨ漂い出した。糸で吊っている訳でもないのに。

 

「な、何すかこれ? 新手の手品?」

 

 目をパチクリさせた八幡に、球体は閃光を発して、八幡の全身に光を浴びせた。

 

「うわッ!? まぶし……!」

 

 一瞬顔を背ける八幡。すると光を放った球体から、今度は声が発せられた。

 

[対象よりリクの反応を確認。間違いありません]

「ありがとう。それじゃあ、彼を星雲荘へ」

[分かりました]

 

 少女が言うと、八幡たちの目の前の、何もない地面から、いきなり鈍色のエレベーターが下から生えてきた。

 

「えッ!? 何これ!? あなた手品師か何か!?」

「違うけど、とにかくこれに乗って。私「たち」の拠点に案内するわ」

「えッ、あの……」

 

 先ほどから理解が及ばない展開の連続に足踏みした八幡だったが、女性に引っ張られる形でエレベーターの中に入らされた。エレベーターは二人を収めると、扉を閉じて地中へと引っ込んでいく。

 八幡は身体の感覚から、エレベーターが下――地下へと向かっているのだと判断した。

 

[到着まで、残り三十秒]

 

 宙を浮く球体が言葉を発するのを見て、少女に質問する。

 

「あの……これ、何でしゃべってるんですか?」

「このユートムがしゃべってるんじゃないの。本体は、これから向かう先にいるわ」

 

 球体は「ユートム」と言うらしい。が、肝心なのはそこではない。

 疑問符が頭に浮かびっぱなしの八幡を連れて、エレベーターは停止。扉が開かれると、そこは八幡が見たことのない光景が広がっていた。

 

「うわ……何だここ……」

 

 銀色の壁が円形に周囲を囲っている、SF映画にでも出てきそうな近未来的な室内。しかし置かれているものは、その非現実的な光景とは裏腹に、ベッドやテーブルやタコのぬいぐるみ、白い変てこなヒーローのDVDケースやポスターなど、誰かの生活臭を感じさせるものばかりであった。

 そしてこの空間の片隅に、こんな看板が立てかけられてあった。「星雲荘」。

 

「星雲荘……?」

『そうだよ。ここは僕たちの秘密基地なんだ』

 

 不意に、少女のものでも、球体のものでもない、少年っぽい声が聞こえた。

 

「ん?」

 

 振り返ると、床に何やら黒い染み――いや、影がある。光をさえぎるものなど何もないというのに。

 

『よいしょ……っと」

 

 しかもその影からいきなり、カタツムリのように飛び出た目玉を持った異形の怪人が這い出てきた!

 

「うわぁぁッ!?」

 

 白黒のジャケットを羽織った怪人の姿に仰天する八幡。一方で少女は、さも当たり前かのように怪人に話しかけた。

 

「こらペガ、いきなり姿を見せちゃ駄目って言ったでしょ? 彼、驚いてるじゃない。宇宙人を知らないのよ」

「ごめんなさい。でも、ペガも早くリクの無事を確認したかったんだ」

 

 八幡は腰が抜けそうになりながらも、先ほどから謎ばかりの少女たちに問いを投げかけた。

 

「あ、あなたたち何なんですか……!? それに、さっきから出てくる「リク」って何のこと……」

 

 その点に触れると、オレンジの球体が部屋の一番奥にある台の上に停まり、代わるように天井から垂れ下がっている球体に黄色い明かりが灯った。

 

[それは消えかかっていたあなたの命を、あなたの身体と一体となることで助けた人物の名前です]

「へ……?」

 

 今日一番の意味が分からない説明にきょとんとする八幡。すると少女は、八幡に呼びかけた。

 

「リク、聞こえてる? あなたから説明するのが一番早いわ」

 

 そうするとどこかから――いや、八幡の「中」から、知らない人物の声が発せられる。

 

『ごめんごめん。でもしばらく意識が朦朧としてたし、現状を彼に上手く説明できる気がしなかったんだ』

「うわぁぁぁッ!?」

 

 八幡は今日一番仰天し、目が頻りに泳ぎながら自分の頭を抑える。

 

「い、今の俺から聞こえたのか? いやそんな馬鹿な……。と、とうとう頭がイカレちまったのか? 俺……」

『落ち着いて。君はおかしくなったんじゃないよ。ひとまず、自己紹介から始めよう』

 

 八幡の中から聞こえる声がそう言うと、まずは少女から名乗りを上げた。

 

「私は鳥羽ライハ。ここは宇宙船『星雲荘』の中よ」

 

 次に、白黒の怪人が名乗る。

 

「ペガッサ星人のペガです」

「ぺがっさ星人……?」

「この地球とは違う、別の星の出身なんです」

 

 八幡の疑問はそのまま置いて、今度は天井から垂れ下がる球体が名乗った。

 

[私はレム。星雲荘の管理システムです]

 

 最後に、八幡の中からする別の者の声が自己紹介した。

 

『僕は朝倉リク。……いや、今の状態なら、ウルトラマンジードと名乗った方がいいかな?』

「うるとらまん、じーど……?」

 

 さっぱり理解が出来ずに立ち尽くす八幡に、リク、いやジードと名乗った声が尋ねる。

 

『君の名前は? いや知ってるけど、君自身の口から聞かせてほしい』

 

 それで我に返った八幡が、自分の名前を口にした。

 

「比企谷八幡……です。よろしく……って言えばいいですか?」

『よろしく!』

 

 たどたどしい口調だったが、ジードたちは快活に返事をした。それからライハが言う。

 

「私たちが何者か、あなたに何が起こったのかを教えるわ。ちょっと長い話になるから、どこか連絡するところがあるなら先にしてちょうだい」

 

 

 × × ×

 

 

 千葉市の中央部の一画。日が落ちていき、薄闇に覆われていく高いビルが立ち並ぶ市街の、街灯の光も届かないような暗闇の中で、蠢いている三つの影があった。

 

「少々遅くなったが、今日もやるぞ」

 

 三つの内、中央に立つ影が言うと、両脇を固める二つが返答するように声を出した。

 

『殿下、またこの街を襲撃するのですか?』

『今日は移動なされませんでしたね』

 

 それに中央の影が、ニヤリと口の端を吊り上げながら答えた。

 

「昨日は、この街で「奴」が現れたからな。大分具合が悪そうだったが……今日は出てくるかどうか確かめてやるのさ」

『何もわざわざ、「奴」を挑発するようなことをせずとも……』

「なぁに、このまま抵抗する者が一人もいないってのも退屈だ。ちょっとは刺激があった方が……物事は面白い」

 

 中央の影は語りながら――その手に、怪物のイラストが描かれたカプセルを二つと、紫色の握力計のような装置を握りながら叫んだ。

 

「宇宙指令S01!」

 

 

フュージョンライズ! エレキング! ネロンガ!

レイデュエス! サンダーキング!!

 

 

 × × ×

 

 

 小町に帰りが遅くなるとの電話を入れてから、八幡はジードたちに、自分が置かれている状況についての説明を受けた。

 

「えーっと……纏めると……あなたたちは別の宇宙、いわゆるパラレルワールドからやってきた人たちで……俺は一度死んで、その一人と融合することで助かった……っていうことになるんですか?」

「概ねはそんなところね」

 

 八幡の問い返しに、ライハがうなずいた。

 レムは今日までの、自分たちの経緯を説明し出す。

 

[私たちの宇宙では、この世界には存在しない超常的巨大生物、通称怪獣や地球以外の惑星の知的生命体、いわゆる宇宙人が存在し、リクことウルトラマンジードは人間に害を成そうとするそれらと戦っていました。ですがある時、この世界に侵入していく不審な宇宙船をキャッチしたのです。ジードは別の宇宙の平和も守ることを希望し、私たちは宇宙船を追ってこの宇宙の地球へと移動してきました]

 

 レムの説明にジードが混じる。

 

『でも僕は、宇宙船の地球侵入を阻止できなかった……。宇宙船から出てきた敵と相討ちになったんだ』

[地表へと落下し消息を絶ったジードを捜している内に、ジードと融合しているあなたを発見したということです、ハチマン]

 

 ここまでの説明を受けて、八幡は――。

 

「……あー、いやいや……ありえないでしょそんな話。SFかアニメじゃないんだから。俺を引っ掛けようったってそうはいきませんからね?」

 

 信じていなかった。

 

「私たちがドッキリを仕掛けてるとでも言うつもり? これまで見た全部が作り物だとでも? その方がありえないでしょ」

 

 と諭すライハだが、八幡は翻意しなかった。

 

「いや分かんないですよ。その手の番組の手の凝りようはすごいですからね」

「じゃあこのペガはどう説明するの? この生々しい質感は着ぐるみなんかじゃ出せないわよ」

「いーや、ハリウッドばりのメイク技術があればどうにか」

「それじゃあレムは?」

「どっかに声優さんがいるんじゃないですか?」

「あなたの内側からする、リクの声は」

「それは……催眠術とか何かで」

 

 かなり無理矢理な論法を唱えてでも信じようとしない八幡の様子に、ライハたちはすっかり呆れ返っていた。

 

「……ここまで意固地だと逆に清々しいわね」

「ペガも、こんなに頑固な人は初めて見たかも」

[どうやら理解力が一般より乏しいように思われます]

「人より乏しい理解力で悪かったですね! ともかく、俺はそんな突拍子もない話、信じたりなんかは……」

 

 と言いかけた八幡だが、その時にいきなり、何もない虚空にモニターが出現した。虚を突かれて思わず身をすくめる八幡。

 

「うわッ!? こ、今度は何?」

[千葉市内の建築物が、昨日に引き続き破壊され始めました]

「えッ!?」

 

 モニターを見やると、確かに見慣れた千葉市の街並みが、昨日と同じように崩れ去っていっている。……しかしモニターにはもう一つ、家よりも大きい怪物の輪郭が赤い影となって街を練り歩いている様子が映されていた。

 

「こ、この赤い影は?」

[赤外線カメラによる映像です。この怪獣には透明化能力があり、肉眼では確認できません]

『街の破壊も、君が一度死んだのも、全てあの怪獣の仕業なんだ!』

 

 と言い切ったジードは、八幡に頼みごとを投げかけてきた。

 

『八幡君、君に頼みがある!』

「な、何ですかいきなり……」

『僕に力を貸してほしい! 君がウルトラマンジードになって、怪獣と戦うんだ!』

 

 その発言に、八幡は目玉が飛び出そうになった。

 

「はぁ!? な、何で俺が!?」

 

 ジードに代わって、レムがその必要性を話す。

 

[ジードはあなたを蘇生させるために融合しました。言い換えれば、あなたの肉体から離れれば、ハチマン、あなたは今度こそ死亡します。次は助かりません]

「なッ……」

 

 一瞬言葉を失った八幡は、戸惑いを覚えたまま立ち尽くす。

 

「い、いや……命を助けてくれたのはありがたいですけど……いきなりそんなこと言われても……」

 

 尻込みする八幡だったが、その時にペガが叫んだ。

 

「あッ! 見てあれ!」

 

 ペガが指差したのはモニターの一角。透明怪獣の進行先に、大勢の人が不安げに寄り集まっている避難所がある。

 

「姿が見えないんじゃ正確な距離が分からない。このままじゃ、あそこが危ないわね……」

 

 つぶやくライハ。そして八幡は、拡大された避難所の様子を見やって、その中に見知った顔があるのに気がついた。

 

「雪ノ下! 由比ヶ浜!」

 

 悩み続けていた八幡だったが、やがてその眼差しが一変した。

 

 

 × × ×

 

 

 既に日が落ちた中、透明怪獣の手前の、無人の地域にエレベーターがせり上がり、その中から八幡が飛び出した。

 

『ありがとう、八幡君。変身はさっき教えた通りにやれば出来る』

「分かりました」

『時間がない。急ごう!』

 

 ジードの指示で、八幡は右側の腰に取りつけてあるケースから、カプセルを一本取り出す。

 

『融合……いや、ユーゴー!』

 

 合図とともにカプセルのスイッチを上にスライドして起動。するとカプセルから、銀と赤の超人のビジョンが現れて右腕を振り上げた。

 

『シェアッ!』

 

 起動したカプセルを、左の腰のホルダー、装填ナックルに差し込む。次に取り出したのは、黒と赤の悪魔の如き超人のカプセル。

 

『アイゴー!』

 

 そちらも起動すると、同じように絵の超人のビジョンが現れて腕を振り上げた。

 

『フエアッ!』

 

 二つ目のカプセルも装填すると、八幡は握力計型の装置――ジードライザーのトリガーを握り込んだ。

 

『ヒアウィーゴー!!』

 

 ジードライザーで、装填ナックルに収めた二本のカプセルをスキャンする。ライザーの液晶画面に、青と紫の螺旋が灯った。

 

[フュージョンライズ!]

 

 八幡の同級生の材木座の声質に酷似した音声が鳴り、八幡はライザーを己の胸の前に持っていって、再びトリガーを握り込んだ!

 

『ジィィィ―――――――ドッ!』

 

 二人の超人のビジョンが、八幡の身体と合わさる!

 

[ウルトラマン! ウルトラマンベリアル!]

[ウルトラマンジード! プリミティブ!!]

 

 一瞬禍々しく吊り上がった双眸が現れ、光と闇の螺旋の中より八幡から姿を変えた超人が飛び出していく!

 

「シュアッ!」

 

 一気に五十メートル級もの巨人となった八幡が、盛大に土埃を巻き起こしながら夜の街の中心に着地した。

 

 

 星雲荘で八幡の様子をモニターしているレムが言う。

 

[フュージョンライズ、成功しました]

「やった!」

 

 ペガがぐっと手を握って喜んだ。ライハもゆっくりとうなずく。

 八幡はジードライザーを使ってフュージョンライズという現象を起こし、超人ウルトラマンジードへと変身を遂げたのである!

 

 

 地上の人々は皆、突然現れた巨人に驚愕していた。そんな中、当事者である八幡は細胞片に取り囲まれたような超空間の中、己の手と身体を恐る恐る見下ろす。

 

『「俺、今どんな姿なんだ……?」』

 

 ふと横に建つガラス張りの高層ビルに目をやると、それが鏡の役割を果たして今の八幡の姿――ウルトラマンジードの姿を映し出していた。

 赤と黒の体色の、人型ではあるが人間とはあまりにかけ離れた容姿。胸の中央で光る、丸みを帯びた長方形の発光体。そして一番目立つのは、青く吊り上がった双眸。それを確かめた八幡がひと言、

 

『「うわッ!? 目つき悪ッ!」』

『人のこと言えないだろ!? それより来るよ!』

 

 突っ込んだジードが警告。八幡が顔を上げると連動してジードの肉体も顔を上げ、双眸をビカビカと光らせて透視能力を発動した。

 それにより、肉眼では映らない怪獣の輪郭が白い影として捕捉できた。

 

『あそこだ!』

 

 怪獣を確認したジードは高々と跳躍して一気に距離を詰め、腕を広げて掴みかかった。しかし透明の怪獣も抵抗しているようで、八幡に殴られる衝撃が伝わる。

 

『「うぐッ……!」』

『こらえて! こいつを投げ飛ばすんだ!』

 

 ジードの指示通りに意識を集中する八幡。するとジードの腕に力が宿り、透明怪獣を頭の上に抱え上げた。

 

「ショアァッ!」

 

 そのまま投げ飛ばすジード! 怪獣は既に破壊されている地帯へと叩きつけられた。

 そこにへし折られた信号機から漏電が走り、その電気に触れたことで、ジードに向かって進んでくる怪獣の姿が、遂に衆人環視の下に晒された。

 

「キイイイイイイイイ! ゲエエゴオオオオオオウ!」

 

 並んだ二つの山脈のように隆起した背面と、白黒の斑模様の胴体を持った、鋭い牙の獰猛な怪物。目のある場所には代わりに回転するアンテナ状の角が生えていて、尾は長くムチのようにしなっている。そして胸部には、紫に怪しく光る七つの発光体が緩いV字に並んでいた。この異形の生物に、市民たちは再び驚愕を覚えた。

 これが街を次々と破壊していた透明の怪物の正体だ!

 

 

 レムは姿を晒した怪獣のデータを分析する。

 

[あの怪獣は、エレキング、ネロンガ、二種類の怪獣の特徴を併せ持っています]

 

 その報告にペガとライハは思わず息を呑んだ。

 

「それってまさか……!?」

「融合獣……!」

 

 エレキングとネロンガの生体情報を掛け合わせた融合獣、サンダーキングがジードに牙を剥く!

 

 

 怪獣の姿を目の当たりにした八幡は、皮肉げな笑みを口の端に張りつけていた。

 

『「はッ……この期になっても怪獣だとか宇宙人だとかは半信半疑だったけど、こうして目の前に出てこられちゃ信じない訳にはいかねぇな……」』

『八幡君……』

『「分かりましたよジードさん。こうなったからには、とことんやってやります……!」』

 

 腹をくくった八幡が、決意を口にする。

 

『「決めるぜ……覚悟!」』

 

 ドン! と地面を手で叩いて勢いをつけて、ジードがサンダーキングへと立ち向かっていった!

 

(♪ウルトラマンジードプリミティブ)

 

「ゼアッ!」

 

 ジードは腕を大きく広げてサンダーキングに飛び掛かり、取っ組み合って相手の首筋を強く打ち据える。こちらが野獣のようなラフなファイトスタイルだ。

 

「キイイイイイイイイ! ゲエエゴオオオオオオウ!」

 

 だがサンダーキングの筋力も強靭で、振り払われて脇腹にヘッドバットをもらった。

 

「グッ……!」

 

 一瞬悶絶したジードだが踏みとどまり、サンダーキングの腹部にドロップキックを決める!

 

「ダァァッ!」

「キイイイイイイイイ! ゲエエゴオオオオオオウ!」

 

 後ずさったサンダーキングは口から刃状の電撃を繰り出すが、ジードは側転して回避。再びサンダーキングに飛び掛かって肉弾戦を挑む。

 この巨人と怪獣の決闘を、市民たちは唖然となりながら見上げていた。

 

「信じられません! 全く、信じられません! しかも、この信じられない事件が今、我々の眼前において展開されています!」

 

 テレビのリポーターたちは巨躯の大決闘を、動揺と興奮の口振りで全国に報じていた。

 

「我々の世界は一瞬の内に、空想の世界に取り込まれてしまったのでしょうか!?」

 

 避難所の雪乃と結衣もまた、他の避難者と同じように唖然としたままジードと怪獣の戦いを見つめている。

 

「ゆ、ゆきのん……すごいよあれ……。夢でも見てるみたい……」

「……」

 

 流石の雪乃も、今回ばかりはあんぐりと口が開きっぱなしであった。

 

「キイイイイイイイイ! ゲエエゴオオオオオオウ!」

 

 一時はジード優勢であったが、不意に戦局が傾く。サンダーキングの長い尾がうなり、ジードの首に巻きついたのだ。

 

「ウッ!?」

 

 もがくジードをサンダーキングはそのまま引きずり、側の貯水湖に踏み込んだ。そして水に浸かってずぶ濡れとなったジードに、尻尾から高圧電流を食らわせる!

 

「ウワアアアァァァァァァッ!」

 

 強烈な攻撃に苦しんだジードが投げ飛ばされる。地面に叩きつけられたジードの胸の発光体、カラータイマーが赤く点滅し始めた。

 

『「こ、この音何ですか!?」』

『まずい……フュージョンライズのタイムリミットが近いんだ!』

 

 ジードが焦りながら教える。

 

『フュージョンライズしていられる時間は約三分間……次に変身できるのはおよそ二十時間後なんだ!』

『「二十……!? じゃあここでどうにかしないと……!」

『そうしたいのは山々なんだけど……今の電撃で、身体が……!』

 

 ジードの肉体は麻痺してしまい、すぐには動けそうにない。

 

「キイイイイイイイイ! ゲエエゴオオオオオオウ!」

 

 サンダーキングは動けなくなったジードを放置し、またも避難所の方へ向かい出した。

 

「っ!?」

 

 雪乃と結衣が、声にならない悲鳴を発した。――その鼓動は、超感覚によって八幡に伝わる。

 

『「!! あいつら……!」』

 

 すると――麻痺しているはずのジードの肉体が、急に軽くなったのだ。

 

『この湧き上がる力は……!?』

 

(♪GEEDの証)

 

「ハァッ!」

 

 ジードが天高く跳躍し、サンダーキングの頭上を越えてその前方に回り込んだ。

 雪乃たちは、その雄大な背中を驚いて見上げる。

 

「あの巨人……」

「あたしたちを、守ってくれるの……?」

 

 ジードは八幡に告げる。

 

『次の一撃で決めよう! 必殺光線だ!』

『「光線!? どうやれば……!」』

『大丈夫だ! 言わなくても、君にも分かる!』

 

 サンダーキングは立ちはだかったジードに向けて、全身に電撃を纏いながら突進してくる。

 

「キイイイイイイイイ! ゲエエゴオオオオオオウ!」

 

 それを前にしてもひるまず、ジードは腰の前で交差した両腕から赤黒いスパークを生じさせる。

 

「アアアアアアアア……!」

 

 腕を頭上に持ち上げて開くとともに、スパークが全身に広がっていく。ジードの両目から光がほとばしり、エネルギーが最大に高まる。

 そして両腕を回しながら十字を作り、ジードと八幡が声をそろえて叫ぶ。

 

「『レッキングバースト!!」』

 

 ジードの右手から光と闇の織り交ざった光線が照射され、サンダーキングに命中した! ジードの必殺の光線、レッキングバーストが決まったのだ!

 

「キイイイイイイイイ!! ゲエエゴオオオオオオウ!!」

 

 全身に纏われた電撃も突き破り、レッキングバーストは一撃でサンダーキングを木端微塵に吹き飛ばした!

 

「やった……!」

「わーいっ! あたしたち助かったんだぁ!」

 

 他の人々がまだ現実を受け止められていない中、結衣は無邪気にジードの勝利を喜んでいた。

 

「シュアッ!」

 

 サンダーキングを見事撃場したジードは、残った力で空へと飛び上がり、はるか遠くへと瞬く間に飛び去っていったのだった。

 

 

 ――サンダーキングが粉砕された地点で、ローブを目深に被った男が、シュウウと煙を噴いているエレキングカプセルとネロンガカプセルの二つを拾い上げた。

 ネロンガカプセルの方は、レッキングバーストの衝撃によってバキバキにひび割れていた。

 

「……こっちはもう使い物にならんな」

 

 二人の怪人を引き連れている男はポイと、その場にネロンガカプセルを投げ捨てた。それからニヤァ……と不気味な微笑を浮かべる。

 

「ウルトラマンジード……これから面白くなりそうだ」

 

 

 × × ×

 

 

 星雲荘に帰還して変身を解いて元に戻った八幡は、そこで力尽きてどっかと腰を落とした。

 

「はぁ~……疲れたぁ……」

「お疲れさま、八幡君」

 

 疲労困憊の八幡をペガがねぎらう。

 

「無事に怪獣をやっつけられてよかったよ。ちょっと危ない場面もあったからハラハラしたけど……安心した」

「はは……確かにもう安心ですね。これで、怪獣とかいう訳の分からんもんと戦うなんて危ないことは……」

 

 しないで済む、という言葉を、ライハは言わせなかった。

 

「何言ってるの。怪獣はきっと、これからも出続けるわよ」

「へッ!?」

 

 唖然と目を丸くする八幡。それに構わず畳みかけるライハ。

 

「私たちの世界でも、怪獣は立て続けに現れてた。こっちでもきっとそうなるわ。今回は、その前触れに過ぎないわよ」

『それに立ち向かうことが出来るのは、僕たちだけだ!』

 

 とのたまうジードに、八幡はブンブンと首を振った。

 

「いやいやいやいや! 冗談じゃないですよ! あんな危険なことをこれから何度もだなんて……それに俺は高校生です! 学校どうしろってんですか!」

「その辺りはこれから対策を考えましょう。きっといい方法があるわ」

「色々環境が変わったから、決めなきゃいけないことはいっぱいあるね」

 

 ペガたちは八幡を置いて話し合いを始める。一方ですっかり魂が抜けたようになっている八幡に、ジードが呼びかけた。

 

『大変な役割を背負わせちゃってごめん。だけど君ならやれるよ! 今回のことで、僕はそう確信した。一緒に頑張ろう!』

「そ、そんな気楽に言ってくれちゃって……」

 

 すっかり途方に暮れている八幡は、心の中でつぶやいた。

 こんなの嘘だ。何でただの高校生、いやそれどころかクラスでも家でもカースト最底辺の俺なんかが、そんな重大な役目を担わなくちゃいけないんだ。どうしてこんな運命になってしまったんだ? もし神さまがいるんだとしたら、こんな風に言ってやる。

 

 ――やはり俺がウルトラマンジードなのはまちがっている。

 

 

 

『ウルトラストーリーナビ!』

 

八幡「今回は『ウルトラセブン』第一話「姿なき挑戦者」だ」

八幡「ある日から、人間が次々と消失していくという怪事件が起こる。その謎を追うウルトラ警備隊と地球防衛軍に、犯人のクール星人が挑戦状を叩きつける。見えない円盤で攻撃してくるクール星人に苦しむウルトラ警備隊を、風来坊モロボシ・ダンが助け、ダンはクール星人を倒すためにウルトラセブンに変身する……という内容だ」

八幡「番組の始まりだけあって、『セブン』がどんな話なのかが凝縮されてるな。最初の敵が宇宙人だったように、セブンは宇宙人を中心とした作劇が成されてたんだぜ」

八幡「そして最初の敵のクール星人は、セブンに瞬殺される。セブンの序盤は、こんな感じに敵との戦いが申し訳程度なのが多かったな」

リク『2017年は『セブン』放送の五十周年だから、『ジード』でもセブンの怪獣が多めに出てきたんだよ!』

八幡「じゃあまぁ、また次回で」

 




「彼の名はウルトラマンジード。地球の皆さんの敵ではありません」
『多分、これからこの地球に来訪する宇宙人はどんどん出てくると思うよ』
「ここは俺のテリトリーだ。勝手な真似はやめてもらおうか」
『「あれ!? 何も起こらないんだけど!?」』
「どうしてセブンカプセルが反応しなかったの?」
「勇気が足りないからウルトラ戦士の力が応えてくれないってところね」
『こういう時こそ、ジードの精神だ!』
『「こうなったからにはやってやるぜ……!」』
『「燃やすぜ……勇気!」』



次回、『果たして比企谷八幡に勇気ある戦いは出来るのか。』



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果たして比企谷八幡に勇気ある戦いは出来るのか。(A)

 

 ――一介の高校生、比企谷八幡が宇宙からやってきた巨大超人に変身し、大怪獣と激戦を展開するという、とても現実とは思えない、しかし確かな現実を体験した、その翌日。

 八幡は登校前に、再び星雲荘を訪れてライハやレムたちとあることを話し合っていた。

 

「融合獣?」

 

 八幡がレムから聞かされた名前を復唱した。話し合いの内容とは、昨日八幡が変身したウルトラマンジードが倒した怪獣についてである。

 

[はい。あの怪獣は90%以上の確率で、自然に生まれた個体ではありません。二種類の怪獣の生体情報を組み合わせて作り出された融合獣と思われます]

『融合獣は、僕のと形は違えども、フュージョンライズによって作り出されるんだ』

 

 レムとジード、そしてライハが融合獣について説明する。

 

「私たちの宇宙では、ある男がウルトラマンベリアルという悪のウルトラマンの力を用いて融合獣に変身してたの。……それが、まさかこっちの世界にも現れるなんて……」

『レム、まさかまたベリアルの陰謀なのか?』

 

 危惧するジードだが、レムはその可能性を否定した。

 

[いえ。昨日の怪獣は融合獣ではありますが、ベリアルが関与しているものではないようです。ベリアルの力の波長が観測されませんでしたから]

「確かに……ちょっと特徴が違うわね」

 

 ユートムが撮影した融合獣サンダーキングの写真から、胸部の七つの発光体の列に目を留めたライハがうなずいた。

 

「ベリアル融合獣の胸にあったのは、カラータイマーだったわ」

『でも、ベリアルじゃないとしたら一体誰が? ベリアル以外に怪獣のフュージョンライズが出来る奴がいるなんて……』

[現時点では回答不能です。情報が不足しています]

 

 熱心に相談し合うジードたちの一方で、今一つ話についていけない八幡は、暇を持て余すように尋ねかけた。

 

「あー……ちょっといいですか」

『昨日も言ったけど、もう敬語なんていいよ。君も僕たちの仲間になったんだ。ずっと敬語口調なんて他人行儀だよ』

「じゃあ……一つ聞きたいんだけど」

 

 口調を変えた八幡が、改めて問いかける。

 

「ペガの奴、さっきから何やってんの?」

 

 ペガは話に混じらず、一人ノートパソコンのキーをカタカタと叩いていた。

 

『ああ。ペガにはこの地球の人たちに向けた、僕からのメッセージを書いてもらってるんだ』

「メッセージ?」

『うん。この世界の人たちみんなにも、自己紹介しないとね』

「リクー、終わったよ」

 

 エンターキーを押したペガがジードに報告した。

 

『ありがとう。じゃあ早速送信して』

「うん!」

 

 ジードの言うメッセージなるものに、八幡は無意識に首をひねっていた。

 

 

 

『果たして比企谷八幡に勇気ある戦いは出来るのか。』

 

 

 

 昨晩その正体が明らかとなった怪獣、そして地球に降り立ったウルトラマンジードの存在は、瞬く間に全世界を騒然とさせた。報道機関はこぞってジードのことを取り上げ、種々多様な仮説を飛び交わせていた。

 そんな中で、ワイドショーに出演している学者が全国の視聴者に向けて、あることを報じた。

 

『先ほど、各国の政府機関宛てに例の巨人に関しての匿名の声明が送られてきたことが発表されました。「彼の名はウルトラマンジード。地球の皆さんの敵ではありません。この度より怪獣退治を行うことになります。ご迷惑をお掛けしますが、何卒よろしくお願い致します」。……えー、この内容に如何ほどの信憑性があるかは定かではありませんが、政府はこの声明に倣い、巨人をウルトラマンジード、巨大生物を怪獣と呼称することを暫定的に決定しました』

 

 授業の合間の休み時間中、八幡のクラスの2年F組で生徒たちがネットに配信されたワイドショーを視聴していた。

 その内の一人、戸部翔が興奮したように鼻息を荒くした。

 

「ジードかぁー! あれマジすごかったよなー! マジ現実のこととは思えなかった! やっべ! マジやっべ!」

 

 などとまくし立てる戸部が、友人たちに問いかける。

 

「ジードってやっぱ、正義の味方って奴なんかな! 隼人くんはどう思う?」

 

 聞かれたのはF組一の好青年、葉山隼人。彼を中心とした友人グループがこのクラスの最上位カーストに位置している。結衣もクラスにいる時は、このグループに属している。ちなみに八幡は、どこのグループにも属していない。

 

「まだ何とも言えないかな。何せ突然現れて、あっという間に去っていったからね。人となりなんかは全然分からないよ」

 

 葉山が爽快感に溢れながらそう答えると、金髪縦ロールの女子生徒、三浦優美子が胡乱な目でつぶやく。

 

「いや、あれが正義の味方とかないでしょ。あの目つきだよ? どっちかってーと悪者の顔つきじゃん」

 

 彼女たちは当然ながら、ジードが同じ教室にいるなどとは露ほどにも思っていない。

 

「優美子、それはちょっと失礼じゃない? あれが普通の種族なのかもしれないよ」

 

 眼鏡を掛けた女子、海老名姫菜がフォローした後に、結衣が不意につぶやいた。

 

「でもあの目の感じ、ちょっとヒッキーに似てたかもね」

 

 すると葉山たちは一瞬静かになり――直後に爆笑した。

 

「いやいや~! それこそジードに失礼ってもんっしょ! よりによってヒキタニくんと一緒にするなんて!」

「少なくとも、ジードの目はヒキオみたいに腐ってないじゃん!」

「そ、それもそっかー」

 

 愛想笑いを浮かべる結衣だが、その口元は若干引きつっている。

 ……あの好き勝手言ってる奴ら、俺がそのジードだったんだって知ったらどんな顔するんだろうな、と八幡はそう思っていた。

 

 

 × × ×

 

 

 放課後、八幡が奉仕部の部室に一番に来ると、その足元の影からニョキッと出てくる者がいた。

 

「ふぅ、ずっとダークゾーンにこもりっぱなしなのも久しぶりだなぁ」

 

 ペガである。宇宙人である彼は当然ながら他の人間の目があるところでダークゾーンから出てこられないので、人があまり来ない場所を探してここに行き着いたのだ。

 八幡は自身の影から頭を出している彼を見下ろしながら聞く。

 

「なぁ……何で俺の影になってついてきちゃってるの?」

「外に出る時は大体いつも、リクの影を借りてたんだ。この姿で人前に出たら大変だからね。だからここでは、八幡、君の影を借りさせてもらうよ。いいかな?」

「はぁ……」

 

 気のない返事をする八幡。それだったらずっと星雲荘にいろよとか、別の誰かの影を借りてくれよ、などとは言わないところが、八幡の根の純朴さを物語っていた。

 そんな彼に、今度はペガが質問した。

 

「ところで八幡。さっきの休み時間、君だけずっと一人で誰とも話してなかったね。……友達いないの?」

 

 ストレートな物言いがグサッと八幡に刺さった。心の痛みをこらえて、八幡は言い返す。

 

「い、いや、作れないんじゃねぇよ? 俺は平等がモットーだから、特別親しい相手を作ろうとしないだけだから! ホントだからな!」

 

 しかしペガから返ってきたのは、同情の目だった。

 

「……大丈夫! これからはペガがいるからね! もう一人じゃないよ!」

『僕だって君の友達だよ、八幡!』

 

 ジードまでそう言ってきた。

 

「やめろ! やめてくれ! これ優しさが逆に辛いパターンだ!」

「珍しく私より先に来てると思ったら、何を一人で騒いでるのかしら」

 

 声を荒げていたら部室の扉が開かれ、雪乃が入ってきたので、ペガは「はわわ!」と八幡の影に引っ込んでいった。

 

「いつも一人なのをこじらせて、イマジナリーフレンドでも見え始めたのかしら?」

「そ、そんな幼少の子供が罹る心の病気は発症してねぇ! その……思い出し笑いみたいなもんだよ!」

 

 無理矢理にごまかす八幡であった。

 

「どちらにせよ気持ち悪いわ。独り言が癖になる前に、やっぱり友達の一人でも作るよう努力してみたら? あぁそのためには腐った目を眼科で治してもらわないとどうしようもないわね、ごめんなさい」

「謝るのか貶すのか、どっちかにしろよ」

 

 相変わらず毒を吐きまくりの雪乃に突っ込む八幡。ペガも「雪ノ下さん、口悪いなぁ……」と影の中からつぶやいていた。

 しかしふと振り返れば、雪乃が何やらその場に立ち尽くしたまま、自分の両手の平をじっと見つめていた。

 

「あ? 何やってんだ雪ノ下?」

「な、何でもないわ。比企谷くんが気にすることじゃないわよ」

 

 妙に歯切れが悪くなる雪乃に八幡は軽く首をひねったが、雪乃はそのまま自分の定位置まで行って椅子に腰を落とす。

 だが彼女が長テーブルに手を置いた瞬間、テーブルがバギッ! と真っ二つにへし折れた!

 

「うおぉッ!?」

 

 お陰で机に肘をもたれていた八幡はずっこけ、椅子から転げ落ちた。

 

「ご、ごめんなさい! 大丈夫!?」

 

 雪乃は慌てて立ち上がって謝罪した。八幡は頭をさすりながら身を起こす。

 

「いっててて……まぁ大丈夫だけどさ、何で謝んの? 今、お前が机折ったの?」

 

 聞かれて、雪乃はハッと強張らせた顔を八幡から逸らした。

 

「そ、そんな訳ないじゃない。私にそんな異常な腕力があるように見える?」

「まぁ、そうだよな。老朽化でもしてたのか? 危ねぇな」

 

 と八幡は判断した。それに雪乃が少しホッとしていたことには、折れたテーブルに注目していたので気がつかなかった。

 

「やっはろー! って、うわっ!? 何かすごいことになってる! 何があったの!?」

 

 直後に部室にやってきた結衣も、机の残骸を目の当たりにして驚愕していた。

 

 

 × × ×

 

 

 本日の部活が終了し、下校時間。八幡が帰路に着くと、彼一人になったことでペガがまた影の中から顔を出して八幡に話しかけてきた。

 

「最初に机が折れたこと以外、特に何もなかったね。奉仕部ってあんな感じなの?」

「まぁ、大体はな。誰かの悩みを解決、って言ったって、あんなところに駆け込まなきゃいけないような問題を抱えたような奴なんてそうはいないだろうしなぁ。現に俺が入部させられてから、来た依頼者はたった三人……」

 

 そう答えていた八幡だが、ふとペガの顔を見つめ返して口を閉ざした。

 

「どうしたの? 急に黙っちゃって」

「いや……昨日は色々ありすぎたから流したけどさ、宇宙人なんて実在したんだなーって改めて思って」

 

 しげしげとペガを観察していると、ジードが話に加わる。

 

『多分、これからこの地球に来訪する宇宙人はどんどん出てくると思うよ』

「えッ、マジで?」

『僕たちがこの地球にたどり着いたということは、他の宇宙人もここを見つけたということだ、ってレムが言ってたから』

 

 宇宙人が地球にやってくる。その場面を想像して、八幡は眉間に皺を寄せた。

 

「……能天気な奴ならファーストコンタクトだーって喜ぶかもしれねぇけど、俺はあんまいいことだとは思えないな。外見も価値観も全然違う奴との接触なんて、問題が起きる気しかしねぇし」

 

 八幡の言うことに同意するペガ。

 

「鋭いね。実際、宇宙人は誰しも礼儀正しい訳じゃない。中には悪い考えを持ってやってくる人だっている。ペガたちが追ってた円盤みたいにね」

『僕も元の地球で、そういうのと戦ったことがある。こっちでも何か問題にならないといいんだけど……』

 

 ジードが案じたその時、八幡の後方から絹を裂くような悲鳴が起こる。

 

「きゃあああああああっ!?」

 

 八幡は途端に立ち止まって振り返った。今のは聞き慣れた声色だった。

 

「今の、由比ヶ浜さんの声だよ!」

 

 何か起きたに違いない。八幡はすぐさま駆け出していた。

 

 

 結衣の元にたどり着いた八幡の目に飛び込んできたのは、結衣が雪乃に抱きつきながら二人で腰を抜かしている光景と――その二人ににじり寄る、両腕が刀状になっている奇怪な人間型の生物の姿だった。

 

「あいつは!?」

 

 咄嗟に腰の装填ナックルを握る八幡。これに触れていると、星雲荘のレムと通信が出来るのだ。

 

[ツルク星人です。非常に残虐性が高く、宇宙各地で殺傷事件を起こしている危険な宇宙人です]

『嫌な予感が、こんなに早く的中するなんて……!』

 

 苦悶するジード。その危険なツルク星人は、腕の刀を振り上げて雪乃と結衣に斬りかかろうとしている!

 

「キュキュウーイ!」

「いやああぁぁぁぁぁっ!」

 

 再び悲鳴を上げる結衣。八幡は咄嗟に、地を蹴ってツルク星人に飛び掛かろうとする。

 

「うおおぉぉぉぉッ!」

「比企谷くん!?」「ヒッキー!?」

 

 ――だが勢いがつきすぎて、ツルク星人を跳び越えて塀に顔から激突してしまった。

 

「へぶッ!? いでえぇぇぇッ!」

 

 ゴロゴロとのた打ち回る八幡。一瞬呆気にとられたツルク星人だったが、自爆した彼を無視して雪乃と結衣に刃を振り下ろす!

 

「きゃあああああっ!」

「――はぁっ!」

 

 しかし凶刃は、別の刃によって弾かれた。

 星雲荘からここまで駆けつけたライハが雪乃たちを救ったのである!

 

「えっ!?」「だ、誰!?」

「ライハさん!」

 

 雪乃と結衣は驚き、八幡はライハの名前を叫んだ。ツルク星人は邪魔をしたライハに怒り、彼女から斬り殺そうと襲い掛かる。

 

「キュキュウーイ!」

「はぁぁぁっ!」

 

 風を切るような速度の凶刃がライハを襲うが、ライハも剣術と体術を組み合わせた剣戟で応戦。人外のツルク星人にも負けない速さの、踊るような剣さばきには、八幡も雪乃たちも思わず目を奪われた。

 

「はぁっ!」

「キュキュウーイ!」

 

 ライハの回し蹴りがツルク星人の横面を捉えた。のけ反ったツルク星人だが、すぐに両腕の剣による二段攻撃で反撃する。

 

「はっ!?」

 

 一段目の斬撃は防げても、二段目は避けられない。今度はライハが危ない!

 ――そこを救ったのは、突然どこからともなく戦いに割り込んできた若い男の拳だった。

 

「キュキュウーイ!」

 

 パンチが腹にめり込んだツルク星人は大きく殴り飛ばされる。受け身を取って身体を支えるが、流石に状況を不利と見たかすぐに踵を返して逃げていった。

 

「逃げたか……」

「助けてくれて、ありがとうございます」

「いえいえ。ご無事で何よりでした」

 

 ライハは自分を助けた男に礼を言い、男は爽やかな笑顔で返した。葉山みたいな感じのイケメンだな、と八幡はその顔つきを内心で評した。

 

「あなたたちも、大丈夫だった?」

「は、はい……。あなたは……?」

 

 ライハが雪乃たちに声を掛けている一方で、男は八幡に近寄ってきて、彼を見下ろした。

 

「君も大丈夫だったかい? 女の子を助けようと我先に飛び出すなんて、勇敢だね」

「い、いえ……。俺、結局何もしませんでしたし……」

「そんなことはない。格好よかったよ」

 

 男は満面の笑みで八幡をねぎらった。――しかし、その途端に八幡の背筋に何かうすら寒いものが走った。

 

「そ、そうだよ! ヒッキーも、助けてくれようとしてありがと!」

「ええ……その……ありがとう……」

 

 結衣と雪乃が取り成すように礼を言った。結衣は男の方にも振り返る。

 

「あなたも、ありがとうござ……あれ?」

 

 しかし、いつの間にか男の姿は影も形もなくなっていた。

 

「いない……。もう行っちゃったのかな?」

「私も、さっきの宇宙人を追いかけるわ。あなたたちは気をつけて帰ってね!」

「あっ、ちょっと!?」

 

 ライハがツルク星人を追って、瞬く間に走り去っていった。後に残されるのは、ポカンとしている結衣たち。

 

「何だったんだろう、あの人たち……」

「……そう言えば比企谷くん。あなた女の人の名前を呼んでなかった? お知り合いなの?」

「えッ!? そ、それはだな……」

 

 目敏い雪乃が問いかけると、結衣が妙に焦りながらズイッ! と八幡に詰め寄ってきた。

 

「そ、それホントなのヒッキー!? あの人誰!? どういう関係なのぉ!?」

「そ、それはえーっと、知り合いって言うか何て言うか……」

 

 説明に窮した八幡が目を泳がせながら、話題をすり替える。

 

「さ、さっきの男の方、何か変じゃなかったか?」

「あーっ! ごまかすなぁ!」

「変って何が? あんな異常な状況で助けてくれた、いい人だったじゃない」

 

 騒ぐ結衣を置いて雪乃が問い返すと、八幡はこの瞬間だけ険しい表情となった。

 

「いや……さっき俺に笑顔向けたんだが……明らかに、嘘っぽかったんだよな……」

 

 

 × × ×

 

 

 逃亡したツルク星人は、総武高校周辺から離れた場所の廃工場に身を隠していた。ほとぼりが冷めたら、次の得物を探しに出向こうというつもりだ。

 だがその場に――先ほどの男が踏み込んできたので、ツルク星人は思わず立ち上がった。

 

「騒動を聞きつけて、興味本位でこの星にやってきたか……。だがその好奇心が身を滅ぼす」

 

 男からは、八幡たちに見せていた爽快さが跡形もなく消え失せていた。――ツルク星人にも負けない悪辣な嗜虐心を表情いっぱいに湛えている。

 

「ここは俺のテリトリーだ。勝手な真似はやめてもらおうか、下郎風情が」

「キュキュウーイ!」

 

 ツルク星人は問答無用で男に飛び掛かり、刀を縦一文字に振り抜く。

 男は簡単に、左右に真っ二つに切り裂かれた。

 

「キュキュウーイ!」

 

 着地したツルク星人が、馬鹿め、とせせら笑いながら振り返るが――。

 後ろから蹴り飛ばされ、仰向けに押し倒された。

 

「馬鹿はお前だよ……!」

 

 男が、手に先端が楕円形に膨らんだ長杖を握りながら、ツルク星人を足で押さえていた。――真っ二つになったままで。

 いや、その身体が映像の巻き戻しでもするかのようにくっついていく。

 

「!?!?!?」

 

 ツルク星人は押さえつけられたまま完全に混乱していた。完全に元通りに再生した男はその顔を見下しながら悪しき笑みを浮かべる。

 

「この俺を手に掛けようという身の程知らずめ。判決を言い渡す……!」

 

 男の握る杖の先端から――紫色の光刃が伸びて、大鎌のようになった。

 

「死刑ッ!!」

 

 それが振るわれ――ツルク星人の首がゴロゴロと転がっていった。

 首を切り離された肉体が粉微塵に爆ぜ散ると――男の後方から、全身肌色の怪人と白いエビが直立したような怪人が現れる。

 

『お見事な手際です、レイデュエス殿下』

『かのツルク星人をこうも容易く屠るとは』

 

 持ち上げながら男をレイデュエスと呼んだ宇宙人――バド星人とゴドラ星人に、レイデュエスは振り返る。

 

「今の奴なんぞどうでもいい。それよりオガレス、ルドレイ、見てたか? さっきの間抜けな男を」

『ええ。しかと』

「あれが、ウルトラマンジードの一体化した奴だぞ……」

『そのようですなぁ……』

 

 レイデュエスがそう言うと、三人は一瞬静かになり――。

 

「――ア―――――――ハハハハハハハハハハハッ!!」

 

 そろって大爆笑した。

 

「よりによってあんなシーリザーみたいな目をした奴と! ウルトラマンジードめ、大気圏から落下した時に頭打ったんじゃないのか!?」

『いやはやおっしゃる通りですなぁ殿下!』

『実に傑作です! ウワハハハハハ!』

 

 八幡を散々笑い飛ばしたレイデュエスは、にやつきながらバド星人オガレスとゴドラ星人ルドレイの間を通り抜ける。

 

「確認ついでに、ちょっと奴らをからかってやろうじゃないか。昨日は上手いこと切り抜けられたが、今度はどうなるかなぁ?」

 

 その手は杖から持ち替えられて、シオマネキのように右腕が肥大化したハサミのようになっているロボットが描かれたカプセルが握られている。

 

「宇宙指令S38!」

 

 レイデュエスは叫びながらカプセルのスイッチをスライドした。

 

「イッツ!」『ウオォンウオォン……!』

 

 起動したカプセルを装填ナックルに押し込むと、次いで卵に手足が生えたようなロボットのカプセルを取り出す。

 

「マイ!」『ギィィィィ……!』

 

 ナックルに収めた二つのカプセルを、レイデュエスは紫色のライザーでスキャンする。

 

「ショウタイム!!」

 

 ライザーのトリガーを握り込んで、その機能を起動させる。

 

フュージョンライズ!

「ハハハハハハハハハッ!」

 

 暗黒の異空間の中、レイデュエスの姿が黒い異形の影に変わるとともにカプセルから二体のロボット怪獣のビジョンが現れ、それらが影の口の中に吸い込まれていく。

 

クレージーゴン! ガメロット!

レイデュエス! クラッシャーゴン!!

 

 黒い影が形を変えていき、フランス人形とレコードプレイヤーを踏み潰して、融合獣が完成した!

 

 

 千葉市内の、自動車の往来が多い大通りの真ん中に、怪しい光の柱とともに、巨大なロボット怪獣が出現。街中の人々は一気にパニックに突き落とされた!

 

 ウオォンウオォンウオォン……! 

「ギィィィィ……!」

 

 顔面が、右半分がスケルトンとなって歯車が見えているガメロットのものであり、右腕がクレージーゴンの巨大なハサミ、左腕がナックル、腹部はシャッターとなっていて、そして胸部に紫に光る七つの発光体を備えたロボット。クレージーゴンとガメロットの機構を合体させたレイデュエス融合獣、クラッシャーゴン!

 

「ギィィィィ……!」

 

 クラッシャーゴンは足元の自動車にハサミを伸ばすと摘み上げ、腹部のシャッターを開いてその中に放り込んだ。入れられた車はたちまちスクラップにされてしまう。

 クラッシャーゴンはまだ人が残っている車も構わずに狙い、ハサミで捕らえ始めた!

 

 

 × × ×

 

 

 自動車を狙って活動を開始したクラッシャーゴンの巨体は、遠くの雪乃たちの目にも映り込んだ。

 

「あ、あれ! また怪獣だよ! や、あれはロボット!?」

「ロボットって……昨日から一体世の中はどうなってしまったというのよ……!」

 

 それまでの日常からでは考えられなかった世界の変化に、雪乃は思わず吐き捨てた。

 

「ゆきのん、遠くだけど早く逃げよう! ヒッキーも……あれ?」

 

 八幡の方へ振り向く結衣だったが、その時には八幡の姿までもが忽然と消えていた。

 

「もぉー! どこ行ったのー!? ヒッキーまでぇぇ―――!!」

 

 

 八幡はクラッシャーゴンの姿を確認してすぐに、無人の街角に飛び込んでいた。

 

「ジード……これってもしかしなくても、俺が変身しなきゃいけない場合……?」

 

 一応八幡が確認を取ると、ジードは即答した。

 

『察しが良くて助かるよ! 八幡、一緒に頑張ろう!』

「やっぱりかー……」

 

 はぁ~……と大きなため息を吐いた八幡だが、ここで問答していても仕方がない。腰のケースからその手にウルトラマンカプセルを取った。

 

『ユーゴー!』『シェアッ!』

『アイゴー!』『フエアッ!』

 

 昨日と同じ手順でカプセルを起動していくと、ウルトラマンとベリアルのビジョンが八幡の左右に現れた。

 

『ヒアウィーゴー!』

 

 そして装填ナックルに収めたジードライザーでスキャン。

 

[フュージョンライズ!]

『ジィィィ―――――――ドッ!』

 

 八幡は二人のビジョンと合体し、ウルトラマンジードへ変身していく!

 

[ウルトラマン! ウルトラマンベリアル!]

[ウルトラマンジード! プリミティブ!!]

「シュアッ!」

 

 飛び出したジードが空を駆け、クラッシャーゴンに襲われる街の中に降り立った!

 



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果たして比企谷八幡に勇気ある戦いは出来るのか。(B)

 

「ギィィィィ……!」

 

 クラッシャーゴンに踏み荒らされる大通りに着地したジードが顔を上げると、その目に飛び込んできたのは、巨大なハサミに摘み上げられたハイヤーであった。しかも車内には人の影がある。

 

『いけない!』

『「こんのぉッ!」』

 

 ジードはすぐにクラッシャーゴンに飛び掛かり、相手の右腕とハイヤーを押さえてシャッターの中に放り込まれるのを防ぐ。

 

「ギィィィィ……!」

「ウゥゥゥ……!」

 

 万力のようなパワーで抵抗するクラッシャーゴンに苦戦するジードだったが、渾身の力で相手の腕をひねり上げ、ハイヤーを奪い取ることに成功した。

 

「タァッ!」

 

 その一瞬、八幡はハイヤーの後部座席に、見知った顔が乗っているような気がした。

 

『「ん? 雪ノ下……?」』

 

 しかし今しがた一緒にいた雪乃がこのハイヤーの車内にいるはずがない。よく確かめている暇もないので、ジードはハイヤーをクラッシャーゴンから離れた道路の上にそっと置いた。ハイヤーは直ちに発進して逃げていく。

 

「ギィィィィ……!」

 ウオォンウオォンウオォン……!

 

 クラッシャーゴンはハイヤーを奪い取られた代わりのように標的をジードに移し、鈍い駆動音を鳴らしながら接近してきた。ジードは振り返ってクラッシャーゴンに殴りかかる。

 

「ハァッ!」

 

 鋭いチョップを頭部に打ち込むが……自分の手を痛める結果になってしまう。

 

『「いっでぇぇぇ!? さっきから痛がってばっかだ!?」』

『硬すぎる……! この姿じゃ不利だ!』

『「この姿じゃって、どうすんだ!?」』

 

 一旦距離を取ったジードは八幡に指示を飛ばした。

 

『フュージョンライズし直そう! セブンカプセルを出して!』

『「あ、ああ!」』

 

 八幡は事前に教えられた通りのカプセルをケースから取り出した。刃物状のトサカが生えた真紅のウルトラ戦士のカプセルだ。

 

『ユーゴー!』

 

 そのスイッチをスライドして起動!

 ……しようとしたのだが、スイッチを入れてもカプセルはうんともすんとも言わない。

 

『「あれ!? 何も起こらないんだけど!?」』

『えッ!? そんな馬鹿な! もう一度!』

 

 八幡は焦りながらもスイッチを戻して、もう一度スライドする。

 

『ユーゴー!』

 

 ……しかし、やはりカプセルは光らなかった。ビジョンも一向に現れない。

 

『ど、どうしてだ!?』

『「壊れてるんじゃねぇの!?」』

『そんな馬鹿な……うわぁッ!』

 

 戸惑っている間に、ジードがクラッシャーゴンに蹴り倒された!

 

(♪進撃(M38A))

 

「ギィィィィ……!」

「ウッ! グゥッ!」

 

 倒れたジードの腹をぐりぐりと踏みにじるクラッシャーゴン。ジードはどうにか相手の足を押し返して脱出、転がって距離を開けるものの、

 

「ギィィィィ……!」

 

 クラッシャーゴンは脚部の関節のバネを軋ませて、大ジャンプでジードに飛び掛かる!

 

「ウワァァッ!」

 

 飛び膝蹴りを顔面に食らって転がるジード。更に七つの発光体からの赤いレーザーを浴びせられて更に苦しめられる。

 

「ウッ! グワアァァァァッ!」

「ギィィィィ……!」

 

 もがくジードの首をクラッシャーゴンのハサミが捕らえ、ギリギリと締め上げる。ジードは余計に悶絶し、カラータイマーが青から赤に変わった。危険信号だ。

 

『「うッ、うぅぅぅぅ……!」』

『まずい、このままじゃ……!』

 

 八幡も苦しめられ、焦るジードだが、状況に合わせたフュージョンライズによる形態の使い分けこそが彼の最大の強み。それが使えないのでは、十全の実力を発揮できないのである。

 

『こうなったら……いちかばちかッ!』

 

 それでもジードはあきらめずに、勝負に出た。

 

「ハァッ!」

 

 最後に残った力を振り絞ってハサミを開くと、その隙に自ら後ろに倒れ込んで拘束から脱する。一瞬身体が自由になった間に、腕を十字に組んでエネルギーを纏わせた。

 

「『レッキングバースト!!」』

 

 ジードの背面が地面につくと同時に発射された光線が、クラッシャーゴンに突き刺さる!

 

「ギィィィィ……!」

 

 光線を正面から受けたクラッシャーゴンから爆発が生じ、もうもうと立ち上った黒煙が辺りを覆い隠す。

 それとともに、ジードもまた忽然と姿を消したのであった。

 

 

 × × ×

 

 

 戦闘後、変身が解けた八幡は星雲荘に帰投し、レムに質問をしていた。

 

「さっきのロボット、あれで倒せたか? 最後どうなったかよく見えなかったんだよ」

 

 出来ればそうであってほしい、と八幡は願っていたのだが、レムの回答は、

 

[いえ、恐らく一時的に撤退しただけでしょう。高確率で、明日にでも再び現れるものと思われます]

「ま、マジでか……」

 

 唖然と立ち尽くす八幡。彼に代わって、ペガが疑問を口にする。

 

「でも、どうしてセブンカプセルが反応しなかったの? こんなこと初めてだよ!」

 

 それについて、レムが分析結果から回答を導き出した。

 

[それはカプセル内のリトルスターの波長と、ハチマンの精神の波長の同調率が著しく低いからと推測されます]

「リトルスター?」

 

 オウム返しに問い返した八幡に、ライハから説明がなされた。

 

「簡単に言えば、ウルトラカプセルを動かしてるエネルギーよ。私たちはこれを巡った戦いをいくつもしたのだけれど……」

 

 次いでレムが語る。

 

[リトルスターはいわば、ウルトラ戦士の力の結晶です。その力を扱うには、彼らの精神の主たる部分を占める勇気の感情が必要となります。ハチマン、あなたは深層心理においてこの感情が必要数値に達していないので、精神の波長がリトルスターとシンクロせずカプセルを起動させられないのです。現状フュージョンライズできるのは、ジードの基本形態であるプリミティブのみとなっています]

 

 レムの話を受けて、八幡がかなり気まずそうに聞き返した。

 

「えーっと、要するに……俺が足引っ張ってるってこと?」

[リクがあなたと一体化した以上、リクはあなたの影響を受けます。良いようにも悪いようにも。そういうことです]

「つまり、勇気が足りないからウルトラ戦士の力が応えてくれないってところね」

 

 ライハのまとめのひと言で、八幡はズーン……と落ち込んだ。

 

「勇気って何だよ……。日食が来れば見えるものなのかよ……?」

 

 どんよりとブツブツつぶやく八幡だが、ジードは彼を励ますように言う。

 

『八幡に勇気がないなんてことはないはずだ!』

「ジード……」

『僕は確かに、八幡の中に強い勇気があるのを見た。きっと、普段は隠れてて見えないだけなんだ。僕は八幡、君を信じるよ!』

 

 と力説するジードだが、そこでペガが水を差すように口を挟んだ。

 

「でもあの融合獣がまた現れた時に、他のカプセルが使えないのはまずいよ。同じ手はもう通用しないだろうし……」

「そうね。それまで、つまり明日までにどうにかしないと……」

 

 ライハも同意し、二人で八幡をじっと見つめた。注目を集めた八幡は、実に気まずそうに目を泳がせる。

 

「そ、そんなこと言われたって、たった一日でどうしろと……」

 

 戸惑う彼にジードが説いた。

 

『とにかくやるしかない! こういう時こそ、ジードの精神だ!』

「は? ジードの?」

 

 何のことか分からない八幡が聞き返すと、ジードが説明する。

 

『ジーッとしてても、ドーにもならない。悩んでないでまずは行動から! それが僕の信条さ』

「信条って……まさかそれが名前の由来?」

『まぁ別の意味もあるんだけど……ところで八幡は何か信条ってあるの?』

 

 聞かれた八幡は、ポツリと答えた。

 

「押してだめなら諦めろ……」

「うわぁ……」

 

 ライハやペガがドン引きしていた。

 

「い、い、いいじゃないか人の信条なんてッ!」

 

 流石にいたたまれなく、どもりながら反論する八幡であった。

 

 

 そんなこんなで八幡が全てのウルトラカプセルを使えるようにする訓練が実施されたのだが――何をどうすれば良いのかも分からない状態であるため、当然のように上手くはいかなかった。

 

「う~ん……一向に変わらないねぇ」

 

 上にライハに乗っかられて、汗だくになりながら腕立て伏せさせられている八幡をながめながらペガが肩をすくめた。

 

「いっそのこと、ジープで追いかけ回すのはどうかしら」

「や、やめて下さい! それだけはッ!」

 

 ライハの提案に八幡が必死な声で懇願した。

 結局、何も変わることのないまま八幡は明日を迎えることとなった――。

 

 

 × × ×

 

 

 翌日、奉仕部の部室。

 

「ふーん……あのライハっていう女の人、ヒッキーの中学の先輩なんだ」

「まぁ……そんなとこだ」

 

 八幡が結衣に、ライハのことをごまかしていた。総武には八幡の中学時代の同級生はいないので、多分ばれる恐れはないだろう。

 

「っていうか俺の人間関係なんかどうだっていいだろ。何で蒸し返すんだよ」

「べっ!? 別に大した理由じゃないよ! 何かすごい剣振り回してたから、ただ興味を引かれただけなんだから!」

「ああいう趣味の人なんだ」

「そうなの? それにえーっと……ろくに友達がいないヒッキーには珍しいなーって思っただけだから!」

「そうですか……」

 

 聞き返された結衣はわたわたしながらそう答えた。それから焦ったように話題を切り換える。

 

「そ、それと、昨日何かすっごいジャンプしてなかった? ヒッキーあんなに運動神経いいの?」

 

 今度は八幡がギクッ! と肩を震わせた。今の彼はジードと一体化した影響で身体能力が人間離れしたほどに向上しているのだが、まだそれを上手にコントロールできていないのであった。

 

「あ、あれはちょっと勢いつき過ぎただけだ! パニくると勢い余っちまうことってあるだろ!?」

「そんなレベルじゃなかったと思うんだけどなぁ……」

 

 ごまかす八幡だが、今度は結衣も疑い深かった。雪乃に振り向いて尋ねかける。

 

「ねぇ、ゆきのんはどう思う?」

 

 すると雪乃は、妙に無言を貫いてから、平坦な口調で答えた。

 

「……由比ヶ浜さん、あまり他人のことについてどうこう言うのは良くないわ」

「えっ? あぁ、うん、そうだね……」

「比企谷くんがたまたま大きくジャンプしたからと言って、特にあげつらうことでもないでしょう。気にすることじゃないわ」

 

 諭されて結衣は質問を取りやめたので助かった八幡ではあったが、しかし雪乃の様子と言動が気に掛かった。いつもの彼女だったら、八幡をかばうようなことを言ったりはしないはずだ。

 

(どうしたんだあいつ……。そう言えば、昨日からちょっと様子がおかしいような)

 

 表面上は変化がないように見える雪乃を密かに観察しながら疑問を抱いていた、その時。

 

「あっ!? あれっ!」

 

 急に町のスピーカーから警報がけたたましく鳴り渡り、三人が何事かと窓の外を見やったら――昨日のクラッシャーゴンが再び町の中に現れていた! 八幡たちの懸念は的中してしまった。

 しかも総武高校からそう遠く離れていない場所だ。

 

「近いな……! 逃げるぞ雪ノ下、由比ヶ浜!」

「う、うん!」

 

 八幡の促しで、三人は駆け足で避難していく――のだが、途中で最後尾の八幡が密かに二人から離れ、無人の廊下へと駆け込んだ。

 

「……」

 

 周囲に誰もいないことを確認してから、セブンカプセルを取り出してスイッチを入れる――が、やはりカプセルは起動しなかった。

 

「駄目か……」

『八幡……』

 

 カプセルにじっと目を落としたまま立ち尽くす八幡。ジードも、無理に変身を命ずるようなことはしない。

 他の形態にフュージョンライズできない以上は、プリミティブのまま戦うか。しかしそれだと勝ちの目は薄い。もし負けてしまったら、自分の命は……。そのことを想像すると、八幡はどうしても二の足を踏んでしまう。

 そう立ちすくんでいると、

 

「比企谷くんっ! こんなところで何をやってるの!」

「おわッ!?」

 

 背後から雪乃がこちらへ駆け寄りながら呼びかけてきた。どうやら自分がついてきていないことに気づいて、引き返してきたようだ。

 

「捜したわよ。一体こんなところで何を油売っているの。一番に逃げることを口にした人間が立ち止まってるなんてどういうことかしら?」

「ゆ、雪ノ下! お前、どうしてわざわざ俺なんかを……」

「一応、一応よ。あなたは奉仕部の部員であり、私は部長なのだから、あなたの安全を図るのは私に課せられた義務なのよ。不本意なことなのだけれどね」

 

 わざわざ毒を吐く雪乃だが、その表情は極めて真剣であり、本心から八幡の心配をしているのが見て取れた。八幡は雪乃の予想外の反応に驚いている。

 

「いや、でも俺は……」

 

 何と言えばいいかと言いよどんでいると、外でクラッシャーゴンが大きく足踏みをして、それで発生した地響きが総武高校の校舎を襲った。

 

「わわッ!」

「きゃっ!」

 

 八幡と雪乃は足元が揺れたことで転倒しそうになり、八幡は咄嗟に雪乃の手を取って彼女を支える。

 

「!? うわっちぃぃッ!?」

 

 ところが雪乃の手の平が異様に熱かったので、思わず叫んで手を放してしまった。

 

「な、何するのよ! 失礼ね!」

「わ、悪い……。けど雪ノ下、お前名前に反して体温高いんだな……」

「こ、これはその……」

 

 八幡が唖然と聞き返すと、雪乃は何故か言葉を濁す。

 一方で、ジードは何かを考え込んでいた。

 

『手の平が熱い……昨日の机を折る腕力……まさか……!』

 

 そんなことは露知らず、雪乃はふと足元に目をやった。先ほど八幡が手を放した際に落としたセブンカプセルが、彼女の足元に転がったのだ。

 

「あら? 比企谷くん、何か落としたわよ。何これ?」

 

 雪乃がそれを拾うと……。

 

「きゃっ!?」

 

 カプセルが青く発光し始めたのだ! 驚く雪乃だが、八幡も目を見張っている。

 

「こ、これは……!?」

 

 咄嗟に装填ナックルに触る八幡。これに触れると、レムと通信できるのだ。

 

[カプセルのリトルスターが彼女に反応しています]

『そうか……よしッ!』

 

 レムの回答で、ジードは決心した。

 

『雪ノ下さん! そのカプセルのスイッチを入れるんだ!』

「ジ、ジード!?」

 

 慌てる八幡。ジードが雪乃にも聞こえる声でしゃべったからだ。

 

「え? 今のは誰が……」

『早くッ!』

 

 当然呆気にとられる雪乃であったが、ジードに急かされて反射的にスイッチをスライドする。

 

『ユーゴー!』

『ダーッ!』

 

 瞬間、カプセルからウルトラセブンのビジョンが現れて腕を振り上げた!

 

「な、何なのこれ!?」

『八幡!』

 

 仰天する雪乃を置いて八幡は彼女からカプセルを取り、ナックルに収めた。そして自分が二つ目となる、レオカプセルのスイッチを入れる。

 

『アイゴー!』

『イヤァッ!』

 

 セブンカプセルと反応してレオカプセルも起動。レオのビジョンが腕を振り上げる。

 

『ヒアウィーゴー!!』

 

 ナックルに装填したカプセルをジードライザーでスキャンし、準備完了! 八幡がトリガーを握り、フュージョンライズを発動した!

 

[フュージョンライズ!]

『ジィィィ―――――――ドッ!』

 

 二人の超人のビジョンが――雪乃も巻き込んで――八幡と重なる!

 

[ウルトラセブン! ウルトラマンレオ!]

[ウルトラマンジード! ソリッドバーニング!!]

 

 螺旋を描く火花と青い炎が弾け、赤い炎と緑の光の螺旋の中から、プリミティブとは姿の違うジードが飛び出していく!

 

「ドォッ!」

 

 

「ギィィィィ……!」

 

 再び出現したクラッシャーゴンは、逃げ惑う人々を蹴散らすように、鋼鉄の巨体で町を蹂躙していく。

 だがその面前に、空から炎の塊が落下してきた!

 

「あ、あれは!?」

 

 思わず立ち止まって振り返る人々。彼らの視線の先で炎が弾け、熱気で大気を歪ませながら、ウルトラマンジードが立ち上がる。

 

「ウルトラマンジード……!?」

「何か鎧着てね!?」

 

 葉山や戸部が驚愕している。今のジードは真紅の身体に、可変のプロテクターを全身に装着しているのだ。頭部にはセブンのトサカとレオの羽状の突起が生えている。そしてぐっと両腕を振り上げると、背面や腕のスラスターからブシューッ! と蒸気が噴出した。

 これがウルトラマンジードの第二の姿、攻勢と防御両方に優れたソリッドバーニングだ!

 

『「な、何なのこれは!? 一体どうなっているの!?」』

 

 そしてジードの内部では、雪乃が普段の冷静沈着な様子が見る影もないほど狼狽していた。流石の彼女も、現在自分が置かれている状況は受け入れられないようだ。

 ソリッドバーニングへのフュージョンライズに、雪乃がセブンカプセルを起動した関係上、彼女もジードの中に入り込んだのであった。

 

『「比企谷くん、ここってまさかジードの体内……!?」』

 

 理解してきた雪乃が八幡に尋ねるが、八幡はクラッシャーゴンから目を離さないままだった。

 

『「悪い雪ノ下。少し集中させてくれ! 敵は目の前なんだ!」』

 

 と言われて、雪乃は思わず口をつぐんで大人しくなった。彼女と入れ替わる形でジードが八幡に呼びかける。

 

『遂にフュージョンライズできた。だけどここからが正念場だよ、八幡!』

『「ああ、分かってる……! こうなったからにはやってやるぜ……!」』

 

 戦意を新たにした八幡が、己に勢いをつけるために宣言した。

 

『「燃やすぜ……勇気!」』

 

(♪ウルトラマンジードソリッドバーニング)

 

「ドォッ!」

 

 クラッシャーゴンへとまっすぐに向かっていくジード。クラッシャーゴンは巨大なハサミを振り回して迎え撃ってくるが、それをジードは手の甲で弾き返した。

 そして右腕を後ろに大きく引き絞ると、腕のスラスターから紅蓮の炎が噴き出してブーストとなる。

 

「ドゥオォッ!」

 

 加速された拳がクラッシャーゴンに入り、その重量感あふれる巨体が後ずさった。ジードの攻撃力が上回ったのだ!

 

『「思い切り殴っても手が痛まない! これならいける!」』

 

 そしてジードの手に、鋼鉄を全力で殴ってもダメージがないことに八幡は感激していた。これで戦いは同じ土俵になったと言えよう。

 

「ギィィィィ……!」

 

 クラッシャーゴンは接近戦を捨て、胸部の七つの発光体にエネルギーを集めた。光線を撃とうという合図だ。

 

「フオオオオ……!」

 

 対して、ジードも胸のプロテクターに光エネルギーを充填させた。両者の光線が同時に放たれる。

 

『ソーラーブースト!』

 

 ジードの光線とクラッシャーゴンの光線が正面衝突し、しばし押し合いとなったが、ジードがエネルギーを高めたことで押し切る。

 

「ハァァァァッ!」

「ギィィィィ……!」

 

 光線を食らったクラッシャーゴンの発光体が潰れ、光線を撃てなくなった。それで脚部のスプリングを軋ませ、ジャンプ攻撃に転じようとする。

 しかしそれを黙って見ているジードではない。頭部の刃物状のトサカ――ジードスラッガーを手に取って脚のスラスターに接続し、飛び蹴りを繰り出す。

 

『ブーストスラッガーキック!』

 

 スラッガーを得たキックはスプリングを切り裂き、クラッシャーゴンはバランスを崩して片膝を突いた。

 

「ギィィィィ……!」

 

 機動力を失ってもクラッシャーゴンは立ち上がろうとする。そのためジードはいよいよとどめの攻撃に入った。

 

『これで最後だ! 二人とも、意識を集中させて!』

『「ああ!」』

『「え、ええ……!」』

 

 ジードの右手首が十字型に開き、緑色の光が溢れた。光と炎に包まれた腕を、クラッシャーゴンを殴り飛ばすかのように前に突き出す。

 

「『ストライクブースト!!」』

 

 握り拳を作った右腕から炎を纏った光線が発射され、クラッシャーゴンに直撃!

 

「ギィィィィ……!!」

 

 一瞬火だるまとなったクラッシャーゴンは、ダメージに耐え切れずに爆散を起こした。

 

「やったぁ!」

 

 ジードの勝利に結衣が短く歓声を上げて喜んでいたが、落ち着きが戻ったところで呆気にとられた。

 

「あれ? ゆきのんとヒッキーは?」

 

 結衣が八幡たちを訝しんでいるとは知らず、ジードはそのまま大空へと飛び上がってどこかへと去っていったのだった。

 

「シュワァッチ!」

 

 

 クラッシャーゴンが爆発した現場では、レイデュエスの足元にバキバキにひび割れたクレージーゴンとガメロットのカプセルが転がっていた。

 レイデュエスはそれを拾おうともせず、ジードの飛び去っていった方向をじっと見上げていた。

 

「なるほど……少しはやるみたいだな」

 

 

 × × ×

 

 

[……というのが、ウルトラマンジードを取り巻くおおまかな現状です]

 

 その後の星雲荘では、ここに案内された雪乃がレムから説明を受けていた。カプセルを使用してジードに力を貸した以上は、放置しておく訳にはいかないからだ。

 

「なるほど……大体のところは理解したわ」

 

 レムの説明にひと言つぶやいてうなずいた雪乃を、ペガが感心したように見つめていた。

 

「飲み込みが早いね、雪乃は。八幡なんか、なかなか信じようとはしなかったのに」

 

 その言葉に、雪乃はさも当然かのように返した。

 

「ここまでの状況を目にして、作り物か何かで片づけようとするなんて、その方が非合理的だわ。それにジードの足を引っ張った挙句に私がいなかったら状況を打破できなかったなんて……全くろくでなしくんは比企谷くんね。間違えたわ、比企谷くんは比企谷くんね」

「おい二重にボケるな。人の名前を何の代名詞にするつもりだよ」

 

 納得して安心したのか毒舌が戻ってきた雪乃に、ペガやライハは苦笑いを浮かべていた。

 しかし雪乃は不意に八幡から顔をそらしたかと思うと、おずおずと恥ずかしそうにしながらこう告げる。

 

「でも……三日前からずっと、比企谷くんが助けてくれていたのね。そのことは……ありがとう」

 

 と結んだ瞬間、雪乃の慎ましやかな胸元からほのかな赤い光が生じた。

 

「えっ!?」

 

 雪乃のみならず全員が驚く。そんな中で光は雪乃から離れ、八幡の腰のカプセルケースに移った。

 八幡がケースから光が宿ったカプセルを取り出すと、白紙だった表面に赤い戦士の絵柄が浮かび上がる。

 

『タァーッ!』

[リトルスターの譲渡を確認。アストラカプセル、起動しました]

『やっぱり……雪乃はリトルスターを発症してたんだ』

 

 レムが淡々と告げ、ジードが納得した。それとは対照的にペガは驚愕している。

 

「リトルスター!? どうしてこの世界にリトルスターが……!?」

「確かに。リトルスターは自然に発生するものじゃなかったはずよ」

 

 ライハも尋ねかけるが、レムは次のように回答する。

 

[不明です。調査の必要があります]

「どうやら、謎はまだまだ多そうね……」

 

 八幡は今一つ話についていけずに呆然としているが、そこに雪乃が呼びかけた。

 

「比企谷くん、これからは私もジードに協力するわよ。でもあなたに力を貸す訳ではないから。変な勘違いをしないでちょうだい」

「わざわざ注釈してくれなくていいっつぅの……ってお前、それ本気か!?」

「当然じゃない。比企谷くんだけではジードが迷惑するのでしょう? 見ていられないから助けてあげるのよ。感謝の気持ちを二千字以内に書き記して明日までに提出すること」

「何で宿題になるんだよ……」

 

 奉仕部だけじゃなく、この星雲荘でもこいつの顔を見なきゃならんのか……とげっそりする八幡だったが、不思議と悪い気分ではなかった。

 

 

 

『ウルトラストーリーナビ!』

 

雪乃「今回は『ウルトラセブン』第三十八話「勇気ある戦い」よ」

雪乃「モロボシ・ダンは心臓手術に恐怖を抱いているオサム少年を励ますために、手術に立ち会う約束をしたのだけれど、同時期に渋滞を起こしていた車両が何十台も消失するという事件が発生。犯人は鉄資源の強奪を狙うバンダ星人。約束の手術までにバンダ星人のたくらみをくじいたように見えたのだけど、円盤を爆破した際の衝撃で車両回収用のロボットが暴走してしまう……という内容よ」

雪乃「話の筋としては、手術を恐れる子供に主人公が勇気を示すという、よくある類のものね。だけど奇をてらわない王道のストーリーは、やはり確かな魅力があるものだわ」

雪乃「ロボット怪獣クレージーゴンの名前は劇中では一切言及されないわ。反対に、バンダ星人は最後まで姿が不明のままで終わるの」

リク『セブンでは姿が分からない宇宙人も結構多かったね。挙句には名前も不明なのもいるんだよ』

雪乃「それでは次回でお会いしましょう」

 




「ゆきのん、ヒッキー……この間は二人でどこに行ってたの?」
『関東圏上空に、宇宙から鳥型の怪獣が飛来しました!』
「もしかして、あのザンドリアス?」
[ライハとペガでは、そもそもハチマンとの波長が合いません]
「由比ヶ浜がいると、何かとやりづらいよな……」
「世間がもっと盛り上がるようにこの俺が演出してやろうというんだ」
[アクロスマッシャーの浄化能力が必要です]
『やろう、八幡!』
『「見せるぜ……衝撃!」』



次回、『大空より愛をこめて、由比ヶ浜結衣が舞う。』



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大空より愛をこめて、由比ヶ浜結衣が舞う。(A)

 

 町外れの天文台地下に設置された、ジードたちの秘密基地『星雲荘』。そこで八幡と雪乃が、レムから教示を受けていた。

 

[それではこれより、リトルスターとは何かをお教えします]

 

 内容は、先日雪乃の胸の中に生じ、今はカプセルに移った光の結晶のことについてである。

 

[リトルスターとは、カレラン分子という物質が生命体の体内に宿り、宇宙を循環する幼年期放射というエネルギーを引き寄せて蓄積されることで生成されるエネルギー体です。このリトルスターを発症した生命体は、ちょうどユキノのように、初期症状として手の異常発熱が起こり、その後本来の能力にない超能力が身につきます。超能力の種類は、リトルスター毎に異なります]

「雪乃の場合は、人間離れした怪力だったという訳だね」

 

 説明に立ち会っているペガがつぶやいた。しかし、今の雪乃の腕力は元の通りに戻っている。

 

[リトルスターはウルトラマンに対して生命体が祈ることによってのみ、肉体から切り離されます。一度肉体から離れると、超能力は失われます。そしてこのリトルスターがウルトラカプセルの原動力であり、一つのリトルスターにつき一個のカプセルが起動するのです]

 

 話を聞きながら、八幡は手の中でセブンカプセルやレオカプセルなど、ジードたちが元々所有していたウルトラカプセルを転がした。

 

「ってことは、ここにあるのはジードたちが元の世界で集めた奴なのか」

『うん。ちなみにリトルスターが宿るのは地球人だけじゃなくて、生き物だったら何でもいいんだよ。宇宙人や宇宙生物が宿主だった時もあった』

「怪獣に宿ってたものもあったわよね」

 

 ジードとライハが補足し、次いでレムに説明が戻る。

 

[そしてここが重要なポイントなのですが、リトルスターの高エネルギーは怪獣を引き寄せる性質があります]

「え!?」

[私たちの世界では、リトルスターの宿主が怪獣や宇宙人に狙われるケースが相次ぎました]

 

 物騒な内容に、八幡と雪乃は思わず顔を見合わせた。ライハたちも渋い顔つきとなっている。

 

「どうしてこっちの世界にもリトルスターがあるのかは分からないけど……雪乃の一つだけで終わりということはないでしょうね」

「うん……。多分、これから続々とリトルスターを発症する人が出てくるはずだよ」

 

 懸念するペガに、雪乃も心配を寄せる。

 

「今度はその人たちが危険な目に遭うということですか? 事前にどうにかならないのでしょうか……」

 

 ジードは残念そうに答えた。

 

『リトルスターの発生は、発症してからでないと分からないからね……外見的な変化は全くないし。僕たちの世界じゃ、リトルスターの宿主を保護する団体があったんだけど……』

[少なくとも、ここにいる私たちだけでは全てのリトルスター発症者を保護することは実質不可能です]

 

 どうすることも出来ないという事実に、八幡と雪乃は胸を痛めた。すると、それを慰めるようにジードが告げる。

 

『ジーッとしてても、ドーにもならねぇ! 次の発症者が現れたら、その時にやれる限りのことをしよう。レムはいつどこでリトルスターが生まれても対応できるように、出来る限りセンサーを張り巡らせてくれ』

[分かりました]

 

 ジードが話を締めくくると、ライハが時計を確認して八幡と雪乃に呼びかけた。

 

「とりあえず、リトルスターのことは私たちに任せてちょうだい。あなたたちはそろそろ学校の時間よ」

「ああ、もうそんな時間なのか」

 

 八幡たちが立ち上がると、ペガが八幡の影の中に入り、レムがエレベーターを総武高校付近にセットした。二人は登校前の時間に星雲荘に立ち寄っていたのだ。

 八幡はエレベーターをしげしげと見つめながらため息を吐く。

 

「いやぁしかし、このエレベーター便利だよな。これがあれば好きなとこにあっという間に移動できる。遅刻とも無縁になるな。ウチに一台欲しいくらいだ」

「比企谷くん、そんな不純な動機での利用なんて人として恥ずかしくないのかしら? 遅刻はあなたが努力すればいくらでも防げることでしょう」

 

 とげとげしく咎めた雪乃だが、ボソッと小さくつぶやいた。

 

「でも確かに便利ね……。これがあれば、道に迷わずに済むでしょうし……」

「ん? 今何か言ったか?」

「な、何も言っていないわ。比企谷くんの空耳じゃないかしら?」

 

 八幡に聞き返され、雪乃が慌ててそっぽを向いたところでエレベーターの扉が閉じた。

 

 

 

『大空より愛をこめて、由比ヶ浜結衣が舞う。』

 

 

 

 その日の奉仕部で、結衣がジトー……という目つきで、八幡と雪乃をにらんでいた。

 

「ゆきのん、ヒッキー……この間は二人でどこに行ってたの? あたし、ずっと心配してたんだからね!」

 

 ぷんぷんという擬音が似合いそうなほどむくれて、二人を糾弾する結衣。彼女はクラッシャーゴンの二度目の出現時――八幡と雪乃がジードとなって戦っている間のことを言っているのだ。

 

「今日こそははぐらかさないでちゃんと答えてよね!」

「え、えーっと、それはだな……」

 

 何と説明したもんか、と八幡が困っていると、彼に代わるように雪乃が結衣に謝った。

 

「ごめんなさい、由比ヶ浜さん。あの時は、この臆病谷くんが怪獣にすっかり怖気づいてあちこち逃げ回るものだから、それを捕まえるのに手一杯だったの」

「おい、お前また変なあだ名作りやがって。それに俺は……」

 

 言い返そうとした八幡だったが、雪乃は肘で小突いた上にそっと顔を寄せて、結衣に聞こえない声量で耳打ちした。

 

(話を合わせなさい。二人で言うことが食い違ったら怪しまれるでしょう)

(だけどな……何も俺が全面的に悪いような言い方しなくたって)

(あなたが先にいなくなったんじゃない。ある程度事実にすり寄せないと、嘘なんてすぐにばれてしまうわ)

 

 と論破された八幡は、自分たちの様子を怪訝な目で見ている結衣にペコリと頭を下げた。

 

「ああ、悪い由比ヶ浜……。今度からは一人で逃げたりなんかしねぇからさ」

「……まぁ、分かってくれたんならそれでいいよ。でも、今の言葉忘れないでね! ヒッキーったらもう二回も勝手にいなくなっちゃうんだもん。これ以上どっかに消えるようなら、もうヒッキーのことなんか知らないんだからね!」

 

 不機嫌さは残りながらも、糾弾をそれで済ました結衣に、八幡は聞き返した。

 

「別に、お前がそんなに俺のこと気に掛けてくれなくたっていいだろ。雪ノ下みたいに部長でもねぇんだしさ。何か理由あんの?」

 

 その途端に結衣は顔を真っ赤にしてわたわたと慌て出す。

 

「べっ!? 別に特に理由なんてないしっ! た、ただ同じ部活なんだしさ、知らない仲でもないんだし心配ぐらいするのは普通だよ! ヒッキーには分かんないかもしんないけどさ!」

「お、おう……」

 

 まくし立ててプイッと背を向けた結衣に、八幡はやや気圧された。そこにペガがちょっとだけ顔を出して、結衣に気づかれないように呼びかける。

 

「八幡、今のはないよ。由比ヶ浜さんが心配してくれるのを、断るようなこと言って。人の厚意は素直に受け取らなくちゃ」

「そうは言ってもなぁ……」

 

 八幡には、結衣がどうして自分のような誰からも見向きもされないような人間に気さくに接してくるのかが今一つ理解できなかった。何か得することなんて一つもないのに。

 まぁ、由比ヶ浜は見た目に反して分け隔てない性格だから、そういう性分なのかもしんないけどな、と八幡は自分を納得させる。

 

「……ところで人の心配といえば、雪ノ下もよくよくジードの役割に積極的だよな。顔すら知らないリトルスターの宿主のことで気を揉んだりして」

 

 八幡がそっと雪乃に尋ねかけると、彼女は神妙な態度で返した。

 

「別に私も博愛主義者という訳ではないわ。でも、望みもしないのに突然身に着いた力のせいで命の危険に晒される、なんて理不尽な目に遭う人がいると知って、自分には関係ないことだなんて切って捨てるほど薄情な人間のつもりもないわよ」

 

 雪乃の返答に軽く感心を覚える八幡。彼女だって、リトルスターが宿って一時は自身の変化に大きな不安を覚えたというので、他人事では済ませられない思いは強いのだろう。

 そんな風にひそひそと話していたら、結衣が怪訝そうに振り返った。

 

「さっきから何話してるの?」

「た、大したことじゃねぇよ。そっちこそ、さっきから何やってんだ?」

 

 結衣が自分のケータイの画面に食い入っていることに気がついた八幡が聞き返すと、結衣は八幡たちに自分のケータイを見せつけた。

 

「怪獣情報を調べてたの。この前からあたしたちの近くに連続して怪獣が出てきて、物騒でしょ? だから時々こうして怪獣が出現してないかどうか調べるようにしてるんだ」

「また危ない目に遭うかもしれないからってか? そんな、何度も怪獣と出くわすような偶然が続く訳が……」

 

 言いかけた八幡だが、その時にケータイ越しに怪獣情報を伝えるアナウンサーが次のことを発言した。

 

『ただいま緊急情報が入りました。関東圏上空に、宇宙から鳥型の怪獣が飛来しました! 怪獣は千葉方面に向かっているとのことです。近隣の方々は避難の準備をお願い致します』

「ほら!」

 

 八幡は気まずそうに口を閉ざした。それから妙にそわそわするので、気づいた雪乃が耳打ちする。

 

「どうしたの?」

「いや、どうやってここを離れたもんか、口実が思いつかないもんでさ……」

 

 怪獣が出たからにはウルトラマンジードの出番だが、先ほど勝手な行動をしないと結衣に宣言したばかりなので、出ていきづらいのであった。

 肩をすくめた雪乃は助け船を出すことにした。

 

「こうも続けて怪獣が出没するなんてね。他の人も不安がって、パニックになってたりするかもね。比企谷くん、あなたのご家族とかはどうかしら」

 

 ハッと雪乃の意図に気がついた八幡は、ありがたくそれに乗っかった。

 

「そうだ! 妹は中学生だから、混乱に巻き込まれてるかもしれねぇ。ちょっと様子を確認してくる!」

 

 と理由をつけて、八幡は部室を飛び出していった。

 

「ちょっとヒッキー!? そんなのケータイ使えばいいじゃん!?」

 

 結衣がもっともなことを言って呼び止めようとしたが、ただの方便であるため、八幡は振り切った。

 

「もぉ~ヒッキーったら。あんなに勢いよく飛び出してくなんて、シスコンなんじゃない?」

 

 憮然としている結衣の後ろで、雪乃は腕を組んで眉をひそめた。

 

「……ちょっと、無理矢理だったかしら」

 

 

 × × ×

 

 

 部室を出ていった八幡は、もちろん小町の中学校などには向かわず、人気のないところで装填ナックルを握り、レムとの通信を開始した。

 

『レム、怪獣の映像をこっちに送ってくれ』

[分かりました、リク]

 

 ジードの指示で、八幡のケータイの画面にユートムからの映像が映し出された。

 

『ピギャアーッ!』

 

 空をふらふらとおぼつかない姿勢で飛ぶ怪獣。それは鳥型というより、ファンタジー作品によく出てくるような飛竜か翼竜のような姿であった。赤い両眼の下の頬からは、羽のような突起が生えている。

 

「こいつも融合獣って奴か?」

 

 八幡の質問を否定で返すレム。

 

[いえ。これは通常の野生怪獣です。種族名は、ザンドリアスです]

『ザンドリアスって……』

 

 その名前を聞いたジードとペガが、何かに思い至ったようであった。

 

「もしかして、あのザンドリアス?」

[はい。以前に遭遇した個体と同一であることを、生体パターンから確認しました]

「何? 知ってるの?」

 

 きょとんとした八幡に、ジードがどういうことかを説明する。

 

『前に僕たちの地球に飛んできて、居座ろうとした宇宙怪獣なんだ。色々あって宇宙に帰したんだけど、まさかこの宇宙で再会することになるなんて……』

 

 ジードたちの宇宙の怪獣が、どうしてこの地球にいるのか。その理由をレムが推測する。

 

[恐らくは、私たちの使用したスターゲートに迷い込んだものと思われます]

「スターゲートって?」

『簡単に言うと、宇宙と宇宙の通り道さ。ウルトラマンキングに頼んで開けてもらったんだよ。でもそれに入ってきちゃう怪獣がいるとは思わなかったなぁ……』

 

 ジードの説明の中に、八幡には分からない言葉が出てきたが、これ以上あれこれ尋ねている場合ではなかった。

 

「あッ、見て! ザンドリアスが落ちる!」

 

 ケータイの画面の中で、ザンドリアスが千葉市街の中に墜落したのだ。あっと口を開く八幡。

 

『ザンドリアス、翼を怪我してるみたいだ……。スターゲートに迷い込んだ時に痛めたのかな……』

 

 心配するジードだが、状況はどんどん進展する。

 

[この星の自衛組織は、ザンドリアスに攻撃を加えることを決定しました。すぐにでも航空機による攻撃が開始されます]

『何だって! それは駄目だ!』

 

 焦ったジードが八幡に呼びかける。

 

『あいつは、迷惑を掛けられたこともあるけど悪い奴じゃないんだ。攻撃なんて止めないと! 八幡、行こう!』

「分かった……!」

 

 うなずいた八幡がウルトラカプセルとジードライザーを取り出した。

 

『ユーゴー!』『シェアッ!』

『アイゴー!』『フエアッ!』

『ヒアウィーゴー!』

 

 二つのカプセルをナックルに装填して、ジードライザーでスキャンする。

 

[フュージョンライズ!]

『ジィィィ―――――――ドッ!』

 

 八幡は二人のウルトラマンのビジョンと融合して、ウルトラマンジードに姿を変えていく!

 

[ウルトラマン! ウルトラマンベリアル!]

[ウルトラマンジード! プリミティブ!!]

「シュアッ!」

 

 ジードは光となって校舎を飛び出し、まっすぐにザンドリアスの元へと向かっていった。

 

 

 ザンドリアスの墜落現場では、既に航空自衛隊によるミサイル攻撃が開始されていた。

 

「ピギャアーッ!」

 

 次々に飛んでくるミサイルがザンドリアスに炸裂し、痛がるザンドリアスは目から光線を発射して反撃している。今のところは戦闘機が光線を回避しているが、このまま続けば被害が出るのは確実だろう。

 

[あれではザンドリアスを刺激するばかりです]

『すぐに止めよう! 八幡、行くよ!』

『「ああ……!」』

 

 ジードは即座にザンドリアスの手前に着地して、戦闘機の編隊に向けて手の平を突き出した。

 

「ハッ!」

 

 待ったのアピールをすると、それが伝わったか、ミサイル発射をしようとしていた戦闘機は機首を上げて上昇。攻撃中止される。

 その間にジードはザンドリアスに向き直って、優しく呼びかけた。

 

『ザンドリアス、僕が分かるか?』

「ピギャアーッ! ピギャアーッ!」

 

 ジードの姿を認めたザンドリアスは、途端にピョンピョン飛び跳ねて喜びを動きで示した。ジードのことを覚えているようだ。

 しかし急に右の翼を抑えてうずくまる。そこを痛めているみたいだ。

 

『大丈夫か!?』

 

 ザンドリアスに肩を貸すジード。それからレムに問いかける。

 

『レム、このままザンドリアスを宇宙に帰せるか?』

[それはやめた方がいいでしょう。今の状態では満足に飛行できず、地球に再度落下するか宇宙をあてどなく漂流するかのどちらかです]

『そうか……。とりあえず、ここじゃ迷惑になる。人のいない場所に移そう』

 

 そう決めると、ジードはザンドリアスに肩を貸したまま浮き上がり、彼を街から離れた山奥へと移していった。

 

 

 × × ×

 

 

 ザンドリアスは知った顔と出会って安心したのかすっかり大人しくなり、今は山中でくつろいでいる。その様子を星雲荘のモニターでながめながら、八幡たちはこれからのことを話し合う。

 

「流石にこのままって訳にはいかねぇよなぁ……。どうにかあいつの怪我を治して、早いとこ宇宙に返ってもらわないと」

 

 と意見する八幡だが、雪乃がそれに言い返す。

 

「でも、怪我を治すと言ってもどうするつもり? 怪獣を診察できる医者なんて、いる訳ないじゃない。比企谷くんは頭の回転数が足りないみたいね」

「いちいち余計なひと言入れなくていいっつーの。そっちで何とかなんないの?」

 

 雪乃に突っ込んだ八幡がレムたちの方へ振り返ると、レムが答えた。

 

[アクロスマッシャーの能力があれば可能です]

「アクロ……何て?」

[ジードのフュージョンライズ形態の一つです。俊敏な動作と、治癒能力に優れています]

 

 それを聞いた八幡が首を振る。

 

「なら話は早いじゃんか。すぐやろうぜ。えーっと、これとこれでいいんだっけ?」

[しかしながら……]

 

 レムの話を最後まで聞かず、八幡は青いウルトラマン同士のカプセル二つを取り出して、片方を雪乃に投げ渡した。

 

「雪ノ下、頼む」

「仕方ないわね……」

 

 嘆息しながらカプセルのスイッチを入れた雪乃だったが……カプセルはまたも反応がなかった。

 

「あれ?」

 

 八幡と雪乃がきょとんとすると、レムがどういうことか解説を入れた。

 

[現在のフュージョンライズの主体は、あくまでハチマンです。ユキノは補助に過ぎません。故に彼女では起動できないカプセルが全体の半数ほどあります]

「何だよ……。全部のカプセルを使えるようになった訳じゃねぇのか……」

 

 面倒くせぇ……と落胆する八幡であった。一方で、ライハが提案する。

 

「じゃあ、私かペガが八幡とフュージョンライズするのはどうかしら?」

「あッ、それいいね! ペガ、ポーズの真似だけじゃなくてホントにフュージョンライズしてみたかったんだ!」

 

 乗り気のペガだったが、彼にとって残念な返答がレムから来る。

 

[ライハとペガでは、そもそもハチマンとの波長が合いません。異なる宇宙の者同士だからと思われます]

「ダメかぁ……」

 

 がっかりと肩を落とすペガ。ライハがここまでの話から来る結論を纏める。

 

「ということは、アクロスマッシャーになろうとするのなら……もう一人くらい、協力者が必要ということね? それも雪乃が機動できないカプセルを動かせる」

[そうなります]

「そんな都合のいい人いるかなぁ……」

 

 ペガと同様に、雪乃も頭を悩ませる。

 

「そこに、信用できる人物という条件も加わるわ。私たちの秘密を誰かにしゃべってしまう口の軽い人や、良からぬ考えを思い浮かぶような人は当然除外しなければいけないから」

「信用できる人間ねぇ……。そこが難しいとこだよな」

 

 八幡も頭を痛めた。過去に様々な人から心無い扱いを受けて育った彼は、人間不信気味なのだ。

 皆が悩んでいると、ジードが話に区切りをつけるように発言する。

 

『絶対アクロスマッシャーが必要って訳じゃない。幸い、ザンドリアスは無闇に誰かを傷つけるような怪獣じゃないし、攻撃も中止の状態が続いてる。自然回復を待つくらいの時間はあるよ』

「そうね。今のところは、ザンドリアスが回復し切るのを見守るのが最善ね」

 

 ライハが結論づけて、ひとまず話し合いはこれで終了となった。

 しかし八幡は、もう一人の協力者についてまだ思案していた。

 

「協力者……俺とフュージョンライズする奴ってことだろ? だったら俺は――」

 

 八幡は顔を上げて、期待を込めた目つきで虚空を仰いだ。

 

「戸塚がいいな」

 



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大空より愛をこめて、由比ヶ浜結衣が舞う。(B)

 

 ザンドリアスがかくまわれた山の手前には、大勢の人間がごった返していた。彼ら全員、初めての温厚な性質の怪獣、ザンドリアスの姿をその目に収めようと全国、いや世界中から集まってきたのだ。

 

「ご覧下さい! ウルトラマンジードによってこの山に運び込まれた怪獣をひと目見ようと集まった人たちの波が、朝からずっと続いております!」

「押さないで下さい! 近づきすぎると危険です! 線より内側には入らないで下さい!」

 

 各国のテレビ局がザンドリアスと観衆の様子にカメラを回し、警察や自衛隊が人の波の整備に追われている。――その様を八幡と雪乃が、人ごみに混じりながら若干呆れたようにながめていた。

 

「全く、現金なもんだよな……。世界中のメディアが昨日までは、怪獣は恐ろしい化け物だとか人間の敵だとか口をそろえて喚いてたってのに、大人しい奴が現れた途端にこれだ」

 

 八幡が目を向けた先では、手の早い集団が早速ザンドリアスのグッズや擬人化もののイラストなどを販売している。突貫で仕上げたものなので正直出来は荒いのだが、それでも売れ行きは良いみたいだ。

 

「人間ってほんと流されやすいもんだな……」

「そんなものでしょう。大半の人は、常日頃からよく物を考えたりしないで、その場の雰囲気に迎合しながら生きている。私たちは彼らとは視点が違うからこそ少数派なのよ」

「だから奉仕部なんかに入れられたんだよな、俺たち」

 

 嘆息する八幡たちだが、ジードとペガは現状を肯定的に捉える。

 

『でも、僕はこれが必ずしも悪いことだとは思わないよ。怪獣も生きてるんだ。怖がってばっかだと、怪獣が可哀想だよ』

『ペガも、こんな姿だから他人事じゃないな。いつかは地球でもダークゾーンの中にいないで済むようになりたいよ』

「ま、そうだな。影の中って窮屈そうだもんな……」

「ヒッキー、何ブツブツ言ってるの?」

 

 前方の結衣が振り返って尋ねてきたので、八幡は慌ててごまかす。

 

「ああいや、大したことじゃねぇよ! あの怪獣、面構えはちょっとおっかないなーって思ってただけだ」

「そうかな? 結構可愛い顔してるじゃん!」

「そうかぁ……? 目なんか真っ赤だぜ」

 

 などと言っていたら、山間からザンドリアスがひょいっと顔を覗かせた。

 

「ピギャアーッ!」

「あっ、見て! こっちに手振ってるよー!」

 

 ザンドリアスがご機嫌そうに手を振ったことで、結衣を始めとした群衆はわっと沸き立った。……結衣の意識がそちらに向いている間に、八幡は雪乃に囁きかける。

 

「薄々思ってんだけどさ……」

「何かしら?」

「由比ヶ浜がいると、何かとやりづらいよな……」

「……ええ、確かに」

 

 同意する雪乃。星雲荘にいる時はともかく、奉仕部の部室では結衣がいるために、肝心な時にジードたちと会話を取りづらいし、ジードに変身しようとしたら、いちいち脱け出す言い訳を考えなくてはならない。他のクラスメイトとかなら八幡をそうそう気に掛けたりはしないので適当でいいのだが、関係が近しい結衣相手だとそうはいかない。

 

「でも、あまり遠ざけようとしたら由比ヶ浜さんに悪いわ。除け者にしようとしてるみたいで」

「だよなぁ。あいつが悪い訳じゃないから、流石に気が引けるしな……」

 

 ウルトラマンジードという秘密を抱えてしまったことで、八幡と雪乃は結衣との適度な距離を取るのに苦心するようになってしまった。

 そんな二人の悩みは露知らない結衣は――ザンドリアスを観覧しながら、首をひねりながら自分の手を揉んでいた。

 

「何だか、手の平がいつもより熱い気がするなぁ……。風邪でも引いちゃったのかな……?」

 

 

 × × ×

 

 

 ――その日の夜遅くになっても、流石に少なくはなったものの、マスコミ関係者や熱心な見物客などは山の前に留まり、警察らはザンドリアスの周囲を見張り続けていた。

 しかし山中を巡回していた自衛隊の隊員たちが、見るからに一般人の若い男が山林の中に入り込んでいるのを発見して駆け寄った。

 

「君! そこの君! 止まりなさい! ここから先は危ないぞ!」

 

 すぐに呼び止めて、ザンドリアスに近づかないように注意する。

 

「どこから入ったんだ? 立ち入り禁止の文字が読めなかったのか? まぁとにかく、すぐ戻りなさい……」

 

 送り帰そうとする隊員たちだったが……男は無言で、彼らに手の平を向ける。

 

「ん……?」

 

 そこから閃光が怪しく発せられて――隊員たちは瞬時に意識を刈り取られて、ドサッとその場に崩れ落ちていった。

 

「この俺の行く手を阻もうとするとは不遜な奴らだ。命は取らないことを感謝しておけ」

 

 尊大な態度で吐き捨てた男――レイデュエスはオガレスとルドレイを連れて、ザンドリアスの元へと踏み込んだ。ザンドリアスは座り込んだままこっくりこっくりと舟を漕いでいる。

 

『これがこの星に墜落した宇宙怪獣ですか。見たところ、ろくな力を持ってなさそうですが……』

『こいつの怪獣カプセルを作ったとしても役に立ちそうもありませんし、わざわざ構わなくともよろしいのではないでしょうか?』

 

 と意見するルドレイだが、レイデュエスはにやつきながらザンドリアスをねめ回す。

 

「この星に初めて出現した野生の怪獣だ。その記念として、世間がもっと盛り上がるようにこの俺が演出してやろうというんだ」

 

 ここでザンドリアスが三人の気配を感じ取って、パチリと目を開けた。

 

「ピギャアーッ?」

 

 ザンドリアスは不思議そうにレイデュエスたちを見下ろしている。それに対して、レイデュエスはおもむろに怪獣カプセルを取り出した。

 

「宇宙指令E04!」

『ゴオオオオオオオオ!』

 

 漆黒の怪人のカプセルを起動して装填ナックルに押し込み、それをライザーでスキャンしてザンドリアスに向ける。

 

「さぁ……ショウタイムだ!」

ワロガ!

 

 ライザーから怪しい光が飛び、ザンドリアスの頭部に浸透していった。

 

「ッ!」

 

 その途端、ザンドリアスの瞳が紫色に濁った。

 レイデュエスはニヤァ……と邪な笑みを浮かべていた。

 

 

 × × ×

 

 

 早朝、八幡はいつものように小町と一緒に朝食を取っていた。

 しかし愛飲しているMAXコーヒーを啜っているところで、いきなり家全体がガタンッ! と大きく震動したので目を白黒させた。

 

「な、何!? 地震!?」

 

 小町も動揺したが、遠くから爆発らしき音が一緒に聞こえてきたので、八幡はすぐに単なる地震ではないことを察した。

 

「これって……!」

「お兄ちゃん、何だか変だよ!?」

 

 わたわたと慌てふためく小町に、八幡は席を立って言いつける。

 

「小町はじっとしてろよ。俺は外の様子を確かめてくる!」

「あっ、お兄ちゃん!」

 

 有無を言わせずに家を飛び出す八幡。彼がすぐに目撃したのは――。

 

(♪破壊の使者(M30))

 

「ピギャアーッ!」

 

 ザンドリアスが町に入り、光線を乱射して家屋を次々に爆破して町を焼いている姿だった!

 

「きゃあああああっ!?」

「うわあああああッ!」

 

 既に町には、ザンドリアスの凶行から逃げる人々の悲鳴が重なって響き渡っていた。八幡は立ち尽くしたまま気を動転させている。

 

「あいつ、どうしたってんだ!? 昨日はあんなに大人しかったってのに! 何か機嫌を悪くするようなことでもあったのか!?」

 

 装填ナックルに触れてレムと通信すると、レムが分析の結果を報せた。

 

[単なる興奮状態ではありません。脳波に異常な変調が見られます。恐らくは、何らかの精神操作を受けたのでしょう]

「精神操作!? それって……!」

『誰かがザンドリアスを暴れさせてるんだ!』

 

 ダークゾーンの中から、ペガが八幡に告げた。ジードはレムに問いかける。

 

『レム、ザンドリアスを元に戻すには!?』

[それには、アクロスマッシャーの浄化能力が必要です]

 

 その返答に、気まずそうに歯噛みする八幡。現状、彼がアクロスマッシャーにフュージョンライズする手段は見つかっていないのだ。

 彼を励ますように、ジードが呼びかける。

 

『ジーッとしてても、ドーにもならねぇ……! 何か出来ることがあるはずだ。とりあえず、ザンドリアスにもう少し近づいてみよう!』

「あ、ああ……」

 

 暴れ回るザンドリアスの様子に八幡は一瞬二の足を踏んだが、破壊されていく町をどうにかしなければならないと己を奮い立たせて、ザンドリアスの方向へと走っていった。

 

 

 × × ×

 

 

 ――八幡がザンドリアスに近づいていくと、その途中で知った顔を発見した。

 

「由比ヶ浜ッ!」

「ひ、ヒッキー!」

 

 結衣であった。八幡に気がついた彼女はすぐに彼の元へと駆け寄り、動揺し切った表情で八幡とザンドリアスを見比べる。

 

「ヒッキー、どうしよう! 怪獣が暴れてるよ! あんなに大人しかったのに……!」

「……由比ヶ浜、とにかく逃げろ。お前が出来ることはないから……」

 

 八幡は結衣を逃がそうとするも、彼女はぐいぐいと八幡の手を引っ張る。

 

「ヒッキーも避難しようよ! 怪獣に向かってってなかった? ヒッキーこそ何するつもりなの!?」

「お、俺は……」

 

 結衣の反応は至極当然。それ故に、どう説得したものか……。八幡が困っていると、

 

「ピギャアーッ!」

 

 ザンドリアスが蹴り上げた建物が砕け、その破片が八幡たちの方へと飛んできたのだ!

 

「! 由比ヶ浜ッ!」

「きゃっ!?」

 

 いち早く気づいた八幡が咄嗟に結衣を突き飛ばしたが、そこに瓦礫の影が覆い被さる。

 死の淵に立たされた時と酷似した状況だが、今はジードの力がある。飛躍的に上がった身体能力がある今なら瓦礫をかわせる、と脚に力を込めた八幡だったが、

 

「ヒッキー! やめてぇぇっ!」

 

 彼が動く前に、結衣が絶叫しながら手を伸ばした。

 ――その胸元から、青い光が生じた!

 

「……えッ!?」

 

 瓦礫をにらんでいた八幡は仰天。何故なら――迫っていた瓦礫が突然、空中に縫いつけられたように停止したのだ。

 そして瓦礫は、八幡から外れてドスンと真下に落下した。唖然としている八幡に、ペガが告げる。

 

『今の、由比ヶ浜さんが……!』

 

 振り返ると、結衣当人が呆然と八幡を見つめていた。

 

「え……? あたし……? 今の、あたしがやったの……?」

 

 己に驚きながら両手に目を落とす彼女の胸元から光が漏れていることに、八幡は気がついた。

 

[リトルスターの反応をキャッチしました]

『念力……!』

 

 そして八幡の腰の、ウルトラカプセルのケースからも青い光が漏れ出た。八幡がケースを開くと、青いウルトラマンのカプセルの一つが、結衣の光と似た輝きを発していた。

 

[カプセルが、リトルスターと同調しています]

 

 その意味するところを察した八幡は――つい皮肉げな笑みがこぼれた。

 

「渡りに船じゃねぇか……。由比ヶ浜が救いの神だなんて、分からねぇもんだな……!」

 

 八幡は決心して、結衣へとカプセルを投げ渡す。

 

「由比ヶ浜! ちょっと、いやかなり驚くだろうけど、まずは俺の動きに合わせてくれ!」

「へ? ヒッキー、何を言って……」

 

 唖然とする結衣を置いて、八幡はもう一つの青いウルトラマンのカプセルのスイッチを入れる。

 

『ユーゴー!』

『テヤッ!』

 

 カプセルから胸にスターマークの並ぶ青いウルトラ戦士、ウルトラマンヒカリのビジョンが現れて腕を振り上げた!

 

「えぇっ!?」

「由比ヶ浜ッ!」

 

 仰天した結衣だが八幡に促されて、反射的に渡されたカプセルのスイッチを同じようにスライドする。

 

『アイゴー!』

『タァッ!』

 

 結衣のカプセルからは青と銀のウルトラ戦士、ウルトラマンコスモスのビジョンが現れる。八幡は結衣からカプセルを取って装填ナックルに収めた。

 

『ヒアウィーゴー!!』

 

 そしてジードライザーで二つのカプセルをスキャンし、トリガーを押し込む!

 

[フュージョンライズ!]

『ジィィィ―――――――ドッ!』

 

 ヒカリとコスモスのビジョンが、八幡と結衣と合わさる!

 

[ウルトラマンヒカリ! ウルトラマンコスモス!]

[ウルトラマンジード! アクロスマッシャー!!]

 

 折り重なる光の直線と水流の煌めきを抜け、黄色い光と青い結晶の螺旋の中から、青い姿のジードが飛び出していく!

 

「ハァッ!」

 

 

 雪乃はザンドリアスの暴走の直後にエレベーターで星雲荘に移動。そこのモニターで、ライハ、レムとともに、ザンドリアスの面前にそっと着地したウルトラマンジードを見つめていた。

 

[アクロスマッシャーへのフュージョンライズ、成功です]

「あれが……」

 

 雪乃の瞳には、青と銀の体色で、尖った耳を持ったジードの出で立ちが映っていた。その姿には、どこか清廉さと清らかさが宿っている。

 これこそがウルトラマンジード第三の姿、アクロスマッシャーだ。

 

「八幡と、誰がフュージョンライズしたの?」

 

 ライハが尋ねると、レムは雪乃に返した。

 

[ユキノ、あなたもよく知る人物です]

 

 雪乃は少しの驚きを表情に浮かべた。

 

「まさか、由比ヶ浜さん……!」

 

 

『「えええぇぇぇぇ!? ヒッキー、これどういうことぉ!?」』

 

 ジードの内部の超空間では、結衣が先日の雪乃と同じような反応を示していた。八幡は少し慣れた調子で結衣に呼びかける。

 

『「悪いが説明は後だ。あいつの暴走を止めてからな!」』

『「あいつって……怪獣!?」』

 

 ジードの視線の先から、ザンドリアスが頭を前に突き出した姿勢で突進してくる。

 

「ピギャアーッ!」

「ハァァァ……!」

 

 それをジードは揺るぎない姿勢で、左手の平を胸の前に立て、右手の平を前に向けて顔の横に置いた独特の構えで待ち受ける。

 

「ハァッ!」

 

 そしてザンドリアスの突進を、相手の勢いに逆らわずに受け流した。いなされたザンドリアスはつんのめりながら停止する。

 

「ピギャアーッ!」

 

 ザンドリアスが方向転換している間に、ジードは頭上に持っていった両手に淡い光の粒子を纏わせ、腕を前に押し出しながらザンドリアスへと照射する。

 

『スマッシュムーンヒーリング!』

 

 光の粒子を一身に浴びたザンドリアスは――目の色が元に戻って濁りが消え、翼の傷が治った。それとともに正気に立ち返る。

 

「ピギャアーッ?」

 

 我に返ったザンドリアスは辺りを見回し――荒れ果ててしまった町の一部を目の当たりにして、己を恥じたようにしゅんと肩を落とした。

 ジードはザンドリアスの背中を撫で、優しく呼びかける。

 

『君が悪いんじゃない。だから落ち込まないで』

 

 一方で八幡は結衣に振り向く。

 

『「サンキューな、由比ヶ浜。お前のお陰で、こいつを元に戻せた」』

『「えっ、あたしのお陰……?」』

 

 まだよく事態を呑み込めていない結衣だったが、八幡の感謝の言葉に思わずはにかんだ。

 

『「よ、よく分からないけど……あたしが役に立てて、怪獣も助けられたのなら、それで十分だよ……」』

『「怪獣の心配もしてたのか……。由比ヶ浜はほんと優しいな」』

『「や、優しい? そうかな……えへへ……」』

 

 褒められて、結衣は頬を赤らめて後頭部を手でさすった。

 

 

 ――しかしザンドリアスの洗脳が解かれたところを、仕掛けた犯人であるレイデュエスが見やっていた!

 

「それで終わりじゃあ物足りないだろう、ジード。俺がもっと盛り上げてやるよ……!」

 

 にやりと嗤いながら、白蛇のような狡猾さを湛えた怪物のカプセルを起動する。

 

「イッツ!」『キィィィィイイィィィィ!』

 

 次いでザンドリアスの洗脳にも用いた、漆黒の怪人のカプセルを起動。

 

「マイ!」『ゴオオオオオオオオ!』

 

 二つのカプセルをナックルに装填し、紫色のライザーを取り出す。

 

「ショウタイム!!」

 

 カプセルをスキャンして、ライザーのトリガーを握り込んだ。

 

フュージョンライズ!

「ハハハハハハハハハッ!」

 

 暗黒の異空間の中、レイデュエスの姿が黒い異形の影に変わり、もがいて抵抗する怪物と怪人のビジョンを口の中に吸い込む。

 

ボガール! ワロガ!

レイデュエス! エヴィルボガール!!

 

 黒い影が形を変えていき、フランス人形とレコードプレイヤーを踏み潰して、融合獣が出来上がった!

 

 

「キィィィィイイィィィィ! ゴオオオオオオオオ!」

「フッ!?」

 

 ザンドリアスを慰めていたジードだが、その前に漆黒の肉体と真っ赤な単眼、大きく裂けた口、刃状の両腕と背面に皮膜状の突起、そして胸に七つの紫色の発光体を持った、レイデュエス融合獣エヴィルボガールが出現した!

 

「キィィィィイイィィィィ! ゴオオオオオオオオ!」

 

 エヴィルボガールは両腕から光弾を連射し――ジードではなく、ザンドリアスを撃った!

 

「ピギャアーッ!」

『「なッ!?」』

 

 はね飛ばされるザンドリアスに八幡たちは息を呑んだ。そして横に倒れたザンドリアスを、エヴィルボガールが踏みつける。

 

「キィィィィイイィィィィ! ゴオオオオオオオオ!」

「ピギャアーッ!!」

 

 エヴィルボガールは繰り返しザンドリアスを踏みにじる。ミシミシと骨が軋み、ザンドリアスから耳をつんざくほどの悲鳴が上がった。

 

『「やめてぇっ! 何でそんなひどいことするの!?」』

 

 結衣は身を乗り出しながら絶叫するが、八幡はそれを押しとどめるように告げた。

 

『「言っても無駄だ、由比ヶ浜。ああいうのには……痛い目見させねぇと理解しねぇよ」』

『「ヒッキー……」』

『やろう、八幡!』

 

 静かな怒りを湛える八幡にジードが呼びかけ、八幡はうなずいて応じる。

 

『「ああ。見せるぜ……衝撃!」』

 

(♪ウルトラマンジードアクロスマッシャー)

 

 ジードが円を描くような動作で両手にエネルギーを溜め、肘の内側に左手を置いた十字のポーズからリング状の光線を発射する。

 

「『アトモスインパクト!!」』

 

 光線はエヴィルボガールに命中し、その身体を持ち上げてザンドリアスから遠ざける。

 

「キィィィィイイィィィィ! ゴオオオオオオオオ!」

 

 今度はエヴィルボガールが地面に叩きつけられる番であった。ジードはこの間に軽やかに跳躍し、ザンドリアスの元へ行って助け起こす。

 

「フッ」

「ピギャアーッ……!」

 

 そしてジェスチャーで指示を出し、ザンドリアスを逃がすことに成功した。

 

「キィィィィイイィィィィ! ゴオオオオオオオオ!」

 

 起き上がったエヴィルボガールはジードに向かって光弾を乱射。だがジードは連続バク転で全て回避する。

 

『スマッシュビームブレード!』

 

 光弾攻撃をかわし切ったところで、右腕から光剣を伸ばして高速移動で間合いを詰める。

 

「ハァァッ!」

「キィィィィイイィィィィ! ゴオオオオオオオオ!」

 

 ジードの一閃がエヴィルボガールに入った。更に空中を変幻自在に走り回り、八方から絶え間なく斬りつけていく。

 

『「すごい……!」』

 

 ジードの感覚が自分にも伝わり、人智を超えた体験に結衣はすっかり圧倒されていた。

 

「キィィィィイイィィィィ! ゴオオオオオオオオ!」

 

 しかし突然エヴィルボガールの姿が薄れて消え、ジードの剣は空振りする。

 

「フッ!?」

 

 思わず立ち止まったジードの背後からエヴィルボガールは出現し、皮膜を広げて内側に牙がズラリと生えた大口に変えてジードに襲い掛かった!

 

「ウゥッ!?」

 

 ジードがエヴィルボガールの大口の中に丸呑みされてしまう!

 

『――クローカッティング!』

 

 しかし大口は内側から破られ、ジードが脱出。その手中には青い鉤爪のハサミ型の武器が新たに握り締められていた。

 

『ジードクロー!』

「キィィィィイイィィィィ! ゴオオオオオオオオ!」

 

 大ダメージを負ったエヴィルボガールが大きくよろめく。その隙に、同じジードクローを手にしている八幡が、クローをジードライザーでスキャンする。

 

[シフトイントゥマキシマム!]

 

 そして鉤爪の間のスイッチを押し、前に突き出して三回トリガーを押した。ジードクローの刃がうなりを上げて回転し、八幡は側面の赤いスイッチを押す。

 

「ハァァァァ……!」

 

 ジードクローの中心にエネルギーが集まり、ジードが天に向かって掲げる。

 

「『ディフュージョンシャワー!!」』

 

 クローから発せられた光がエヴィルボガールの頭上の空に広がって――そこから無数の光の針が降り注ぎ、エヴィルボガールの肉体を貫いていく!

 

『「うわっ!? 痛そー……」』

 

 想像を超える形の攻撃は、結衣が思わず同情するほどであった。

 

「キィィィィイイィィィィ!! ゴオオオオオオオオ!!」

 

 全身を串刺しにされたエヴィルボガールは、耐え切れるはずもなく爆散した。

 悪しき敵を退けたジードはザンドリアスに向き直り、おもむろにうなずいた。ザンドリアスはその意図を感じ取って、治癒された翼を広げて大空に飛び上がる。

 

「ハッ!」

 

 ザンドリアスとともに大空へと飛び立つジード。――その中で、結衣が呆けたようにつぶやく。

 

『「すごい……飛んでる……! 雲がこんなに近くに……!」』

『「ああ、すごいよな。俺も初めて飛んだ時は、内心興奮したもんだ」』

 

 結衣の言葉に共感を示す八幡。――すぐ傍らの彼の顔を見つめた結衣は、ほんのりと顔を赤くした。

 ジードは大空を舞い、大気圏を抜けて宇宙空間へ。そこでは、もう一体のザンドリアスがジードたちを待っていた。

 

『どうやらお迎えが来てたみたいだ』

『「あれは?」』

『ザンドリアスの彼女だよ』

 

 ザンドリアスは大喜びしながら雌の個体の元へと飛んでいき、二体は首をこすり合わせて再会を喜び合う。

 

「ピギャアーッ!」

『「怪獣のくせに、リア充だったのかよ……爆発しろ」』

『こら、そんなこと言わない』

 

 ハートマークが飛びそうなほど仲睦まじくしているザンドリアスたちは、スターゲートに向かって飛び去っていく。これでもうこちらの宇宙に迷い込むことはないだろう。

 そしてザンドリアスたちを羨ましそうに見送った結衣は、八幡に向き直って呼びかけた。

 

『「ヒッキーがジードだったんだね。あたしのことも、ゆきのんも、怪獣も……みんなを助けてくれたんだ。ありがとう……!」』

 

 その言葉とともに――結衣の豊かな胸からリトルスターが離れ、八幡の持つ白紙のウルトラカプセルに宿った。

 

『セェアッ!』

[ルナミラクルゼロカプセル、起動しました]

 

 レムが新しいカプセルの起動を知らせ、ジードは地球へと戻っていったのだった。

 

 

 × × ×

 

 

 結衣もまた星雲荘に案内され、雪乃の時と同じようにレムから説明を受けた。結衣も初めは相当驚いていたものの、素直な性分のため、すぐに受け入れてペガたちと打ち解けていた。

 

「すっごーい! ほんとすごいよぉ! 秘密基地に宇宙人なんて、ほんとにSFの世界! ちょっとこういうのに憧れてたんだよね!」

 

 星雲荘の設備を見回しながらはしゃぎ切っている結衣をペガたちが温かく見守っている一方で、八幡は肩をすくめながら雪乃に話しかけた。

 

「結局、由比ヶ浜も仲間に入れることになったな。あんだけ秘密を隠し通そうと躍起になってたのが馬鹿みてぇだな」

「でも、これで良かったんじゃないかしら。これで部室でも気兼ねなくジードの話が出来るようになったじゃない」

「まぁそりゃそうだ」

 

 まだ平塚先生いるけど、あの人部室には寄りつかないしな、と八幡が考えていると、結衣が振り向いて呼びかけてきた。

 

「ねぇねぇヒッキー、ゆきのん。ジードとして活動する時のチームの名前つけようよ! 奉仕部から取って、ジード部って!」

「は……? おいおい、ジードの活動まで部活扱いかよ。のんきなもんだなおい」

「いいじゃん、奉仕部のメンバーそのままなんだしさ。こういうのは変に凝った名前にするより、分かりやすい奴にした方がいいって」

「だからってなぁ……」

 

 軽く呆れる八幡だったが、意外にも他の面々は乗り気だった。

 

「いいんじゃないかしら。それとも以前批評させられた、ライトノベルの出来損ないに出てくる痛い造語みたいな名称でもつけたいのかしら、中二谷くんは」

「材木座と同列視しようとすんじゃねぇよ。そうは言ってねぇだろ……」

「部活動! いいね! リクが中学生高校生だった時に、ペガもやってみたいって思ってたんだ! その夢がここで叶うなんて!」

「私も、修行に明け暮れてた時はそういうの無縁だったから、ちょっと嬉しいわ」

『よしッ! みんなで頑張ろうか、ジード部!』

「うん! 奉仕部はゆきのんが部長だけど、ジード部はヒッキーが部長ね!」

「あら、性根が曲がりに曲がってしまっている比企谷くんに責任ある役職に就かせるのはあまりお勧めできないわよ」

「えー? ヒッキーならきっと出来るよ。ねーヒッキー?」

 

 ペガやライハ、ジードまでもが結衣の肩を持つので、俺がおかしいのかな……と八幡は軽く自信を喪失していた。

 何はともあれ、結衣発案による「ジード部」はこの日を出発点として発足したのであった。

 

 

 

『ウルトラストーリーナビ!』

 

結衣「今回は『ウルトラマン80』第四話「大空より愛をこめて」だよ!」

結衣「矢的先生のクラスで、スーパーくんが学校をサボることが起こったの。スーパーくんはお姉さんとお父さんの結婚の話で、すっかり拗ねちゃってたんだ。そんな時に日本に二体の宇宙怪獣が現れた! UGMが攻撃するけど、怪獣は親子同士なのが分かって中断。親子怪獣は親子喧嘩をしちゃってて、子供は宇宙に帰ろうとしない。そこで矢的先生こと80は、ある作戦を思いつく……っていうお話しだよ」

結衣「色々とデリケートな時期の子供と親の関係に注目した、学園ドラマが中心だった初期80らしいストーリーだね。そこに怪獣特撮がプラスされてるのが80の特色だったんだよね」

結衣「ザンドリアスは有名な怪獣とは言えなかったんだけど、色々あってクラウドファンディングで復活が決定! 『ウルトラマンジード』に登場したのも記憶に新しいよね!」

ジード『ザンドリアスの別名はだだっ子怪獣。80でもジードでも、予想外の理由で地球に居座ってウルトラマンの手を焼かせたんだ』

結衣「それじゃ次回もよろしくー!」

 




「全くあの人、いくらこっちがおちょくったとは言え生徒を本気で殴るかね」
「友達からあだ名なんてつけてもらうの初めてだなぁ」
「こんな時間に悪い。ちょっとお願いがあってさ」
「このメールを打った人は、いい趣味してるとは言えないわね」
「悪いけれどここから先は私たちで依頼を遂行するわ」
「授業中とかに怪獣が現れたらどうするか、それってもう決まったの?」
「人と会話しなくたって、情報は集められる」
「どの形態が必要になるのか分からないじゃない」
「今更だけど、三人でフュージョンライズって出来るのか?」



次回、『チェーンメールを送って来たのは誰だ。』



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チェーンメールを送って来たのは誰だ。(A)

 

 奉仕部の部室で、八幡が顔をしかめながら自分の腹部をゆっくりさすっていた。

 

「いっててて……まだ痛む。全くあの人、いくらこっちがおちょくったとは言え生徒を本気で殴るかね。いつの時代の熱血を履き違えた教師だよ。PTAに訴え出てやりたいね」

 

 などと愚痴っていると、影の中から顔を出したペガが、呆れ顔で突っ込んだ。

 

「あれは八幡が悪いよ。職場見学希望で、希望場所に自宅だなんてふざけたこと書いて提出したら、そりゃあ先生怒るよ」

『だからやめておけって言ったじゃないか』

 

 総武高校二年生の八幡たちには、先週末に職場見学の希望調査票が配られた。それに八幡は、希望する職業に「専業主夫」と、希望する職場に「自宅」と書いたことで、平塚静にこってりと絞られて再提出を申し渡されたのであった。ついでに年齢のことを茶化したら殴られた。

 ペガとジードの二人に諌められて、八幡は憮然となった。

 

「うるせー。俺は真面目に将来専業主夫になることを考えてんだ。決してふざけてた訳じゃない」

 

 八幡の言い訳に、結衣と雪乃も呆れ返る。

 

「何て言うか……そういうこと本気で思っちゃうのが、ヒッキーのすごいところだよね」

「すごい、ではなくて駄目なところね。性根が腐っているでもいいわ。日本語は正しい意味で用いるべきよ、由比ヶ浜さん」

「お前はオブラートに包まないだけだろ雪ノ下」

 

 雪乃に言い返した八幡は、手を握って力説し出す。

 

「男が主夫を目指して何が悪い。女の子が将来の夢をお嫁さんって言ったらかわいくて、男が主夫って言ったらヒモ扱い? 性差別だろうが。それにヒーローやるんだったら、専業主夫って選択は間違いじゃねぇはずだ」

「まともな理屈が返ってきそうにないけれど、その心は?」

 

 聞き返す雪乃。

 

「ヒーローってのは事件が起こったら何を置いても出動しなきゃ駄目だろ? けど事件ってのはこっちの都合お構いなしだ。ここでたとえば普通の職場で働いてたら、仕事ほっぽり出してかなきゃいけなくなる。それはそいつにとっても職場にとってもまずいことだろ」

「あー、レイトさんもその辺でよく困らされてたね」

 

 ペガがうんうんと同意した。

 

「だろ? レイトさんってのは知らないが。その点自由に使える時間が多い主夫だったら無問題だ。せいぜいタイムセールに事件発生が被らないのを祈るだけで済む。つー訳で、ヒーローに最適な職業は専業主夫。そしてジードに変身する俺が主夫を希望するのは正しいことなんだ。QED」

『そ、そうだったのか……。ヒーローに適した職業が主夫だったなんて、思いもよらなかったよ……』

「ヒッキー色々考えてるんだね……!」

 

 感心してしまうジードと結衣に、ペガと雪乃が突っ込む。

 

「いやいや……流されちゃ駄目だよ二人とも」

「百歩、いえ千歩ほど譲ってそれを認めたとしても、比企谷くんはいつまでウルトラマンをやるつもりでいるのかしら。あなたイコールジードではないのだから、その論法はあなたが想定している未来にまで通用しないでしょう」

「あぁそうだった……。くそぅ、あっけなく論破されちまった……」

 

 悔しがっている八幡の一方で、結衣はふと悲しげに目を伏せた。

 

「そうだよね……。いつかその内、ジードんたちとはお別れしなきゃいけないんだよね……。せっかく一緒にジード部立ち上げたのに……」

『ジードん……? それって僕のこと?』

 

 急に妙な呼び名を使われて、ジードが尋ね返した。

 

「そだよ。あだ名考えてきたの。シートンみたいでかわいいでしょ?」

「シートンにかわいい要素あるかぁ? 「動物記」のイメージだけで語ってねぇか?」

 

 突っ込む八幡。それに構わずに結衣はペガの方に振り向く。

 

「ペガくんはペガっち! レムちゃんはれむれむがいいかな?」

「ライハさんはどうなるのかしら?」

 

 雪乃が聞くと、結衣は少しばかり首をひねった。

 

「ライハさんはー……ライハさんのままで。年上だし、ちゃんと敬わないとね」

『あれ……僕も年上……』

 

 ジードのつぶやきは、虚空に消えていった。

 

「あだ名かぁ……友達からあだ名なんてつけてもらうの初めてだなぁ。ありがとう、結衣!」

「どういたしましてー! それにしてもペガっちってかわいいよねぇ。あたしたちとは顔全然違うけど、愛嬌があって!」

 

 結衣はペガに抱きついて身体をくすぐるように撫でる。

 

「うりうり~。これで男の子だっていうんだから、地球人にしたらさいちゃんみたいな感じなのかな~」

「や、やめてよ結衣~。くすぐったいよ~」

 

 ペガと戯れる結衣の様子を、八幡は半目になりながらながめた。

 

「友達っていうより、犬猫みたいな扱いじゃねぇか」

 

 とぼやいていると、雪乃が何やらペガを撫で回す結衣に食い入って、手をわきわきさせているのに気がついた。

 

「もしもし、雪ノ下さん? あんた何やってんだ」

 

 呼びかけると雪乃はハッ! と我に返って手を引っ込めた。

 

「何でもないわ。少し手のストレッチをしていただけよ。ただそれだけなのに、比企谷くんは私がペガくんを撫で回す由比ヶ浜さんを羨ましがって、自分も同じことしたいと思っているなんて浅はかな妄想でもしていたのではないかしら。そういうのやめてちょうだい。同じ空間にいるのをますます苦痛に感じてしまうから」

「お、おう……」

 

 雪乃は普段の五割増しくらい冷淡な長台詞で八幡の言葉を封殺し、射抜くような視線で威圧した。

 知らない内に後ずさっていた八幡だったが、そんな時に部室の外の廊下からコツコツと足音が近づいてきたので、我に返ってペガに振り向く。

 

「誰か来た! ペガ、隠れろ」

「あッ、うん!」

 

 ペガをダークゾーンの中に隠したところで、部室の扉が開かれて、一人の男子が中に入ってきた。

 

「こんな時間に悪い。ちょっとお願いがあってさ」

 

 入ってきたのは、人付き合いがほとんどない八幡でも知っているほどの、総武高校の有名人の一人、葉山隼人であった。

 

 

 

『チェーンメールを送って来たのは誰だ。』

 

 

 

「へぇ……そんなことがあったんだ」

 

 奉仕部の終了後、八幡たちは星雲荘に立ち寄って、葉山からもたらされた依頼の内容をライハに話していた。

 そのライハは、結衣から借りたケータイで、最近の2年F組の生徒の間に回っているメールの文面に目を走らせて、顔をしかめた。

 

「確かに……このメールを打った人は、いい趣味してるとは言えないわね」

 

 ライハの見ている画面には、『戸部は稲毛のカラーギャングの仲間でゲーセンで西高狩りをしていた』、『大和は三股かけている最低の屑野郎』、『大岡は練習試合で相手校のエースを潰すためにラフプレーをした』という、特定の個人を誹謗中傷する文章が並んでいた。

 あからさまに嫌がらせ目的のチェーンメールである。これがF組の間に出回るようになってから、クラスの雰囲気が悪くなっている。そのため、チェーンメールを止めてクラスの仲を回復してほしいというのが葉山からの依頼であった。

 ちなみに、八幡にだけは来ていない。ごく最近まで、アドレスをクラスの誰とも交換していなかったので。

 

「でも、メールの発信者の特定は依頼されなかったんでしょ? それでも犯人を捜し当てるつもりなの?」

 

 顔を上げたライハが問いかけると、雪乃が真剣な顔つきで首肯した。

 

「ええ。いくらクラスの雰囲気なんて表面上のところを取り繕ったところで、チェーンメールを送った犯人が野放しのままでは、多分同じようなことがまた起こります。根本的な解決には、やはり犯人を見つけ出す以外に手はないと思います」

「まぁ、雪乃の言う通りね。それで、肝心の犯人にはもう目星をつけてるの?」

 

 ライハの続けての質問に、今度は結衣が答えた。

 

「それが実は……メールに名前が出てきてる、三人の誰かって結論になったんですよ」

「中傷されてる三人の中に、犯人が……? それはどうして?」

 

 意外そうに尋ね返したライハ。その結論に至った経緯を、八幡が語る。

 

「まず、メールが最初に出回ったのが先週末だったんです。その先週末には職場見学のグループ分けの話があって。メールに名前のある奴らは、普段葉山と四人の男子グループを作ってるんですけど、見学のグループは三人だけなんすよね。そこまでで由比ヶ浜が、職場見学でハブになりたくない奴が他の奴の心証を悪くしようとしてるって気がついたんです」

 

 わざわざ解決を依頼しに来た葉山が犯人のはずがないから、容疑者は葉山グループの他の三人になるという訳である。三人全員が中傷されているのは、一人だけ露骨に何もないと怪しまれるからの偽装工作だ。

 

「なるほどね……」

「由比ヶ浜さん、相当早い段階で真実に気づいたわよね。勉強は遅れ気味なのに、対人関係についてはよく頭が回るみたいだわ」

「そうだな。その世渡りの才能が勉強の分野にも向いてたら良かったんだけどな」

「ち、ちょっとー!? 褒めてるのか馬鹿にしてるのか、どっちかにしてよー!」

 

 雪乃と八幡の余計なひと言に結衣が喚いた。

 その他方で、ジードとペガは明らかになっているチェーンメール事件の真相についてため息を漏らした。

 

『犯人の子、何でそんな馬鹿なことしちゃうのかなぁ……。たかだが見学のグループに入れなかった程度のことを怖がるなんて。一時のイベントなんて気にしないで、その後もみんなと仲良くやってくようにすればいいだけのことじゃないか』

「だよねぇ。こんなメール送ったところで、むしろ関係がギスギスしちゃって逆効果なだけだって分からないのかな?」

「いやー……一時のイベントでも、案外その後の関係性に関わるものだよ。それが怖いって気持ち、あたしは分からなくもないし……」

 

 人の心情を察しようとするばかりに、人間関係に神経を使ってきていた結衣は取り繕うように言ったが、雪乃の方はバッサリと切り捨てる。

 

「単に、犯人がどうしようもないほどの臆病でなおかつちょっと先のことも想像できない愚か者だというだけのことでしょう。何一つ同情の余地がないわ」

「ゆきのん……ほんと容赦ないよね……」

 

 雪乃の温情というものが欠片もない物の捉え方には、結衣も閉口するばかりであった。

 八幡が話を戻す。

 

「まぁそういうことで容疑者を三人に絞るところまで行ったんですけど、まだ一人に特定する段階には進めてないんです。決定打になる材料がまだなくって」

「あたしも、とべっちたちのことを詳しく知ってる訳じゃないから……」

 

 捜査には情報が必要だが、八幡たちは容疑者の三人のパーソナリティに明るくはない。葉山も、他人に対して好意的すぎて彼の見解は役に立たない。八幡たちには情報が欠けているのだった。

 

「一応、明日俺と由比ヶ浜で探りを入れることになってるんですけど、他に何かいい手はないですかね?」

 

 八幡が問いかけると、それまでは黙っていたレムが申し出た。

 

[私ならば、発端のメールの発信元を特定することが出来ますが]

「えッ、マジでか!?」

[一般のネットワークを逆探知する程度は、造作もないことです]

 

 レムの言葉に八幡は大喜びであった。

 

「そいつはありがたいや。事件があっという間に解決だ。じゃあ早速……」

「待ちなさい」

 

 頼む、という八幡の台詞を、雪乃がさえぎった。

 

「レム、悪いけれどここから先は私たちで依頼を遂行するわ」

「おい雪ノ下、何で断るんだよ。この方が断然手っ取り早いじゃんか」

 

 反論する八幡を雪乃がたしなめる。

 

「これはあくまで奉仕部の仕事、つまり私と比企谷くんと由比ヶ浜さんの三人で行うべき事柄よ。平塚先生も、依頼を通して生徒の成長を図るのが目的で奉仕部を設置した。レムに依存するのは、平塚先生の意図に反してしまうわ」

「そっかー……。ゆきのんって、ほんと賢いなぁ」

 

 はぁ~と感心する結衣。八幡は呆れ半分で雪乃に返した。

 

「雪ノ下、お前ってほんと真面目というか何と言うか……。お前だって望んで奉仕部に入った訳じゃないだろうに、よくそんな熱心になれるよな」

「前に言ったでしょう。頼まれた以上、責任は果たすと。私はどんな形であろうと、請け負った責任を途中で投げ出すようなろくでなしにはなりたくないの」

 

 そんなことをサラリと言ってのける雪乃に、八幡は呆れ半分だが、もう半分は尊敬の念を覚えていた。

 

「そう……。なら私たちに出来ることはないわね。八幡、結衣、大変かもしれないけど頑張ってね」

「は、はい! ありがとうございますっ!」

「うす」

 

 ライハの激励に結衣が反射的に敬礼し、八幡はペコリと頭を垂れた。

 奉仕部の依頼の話題はそこで区切りをつけて、結衣はふとあることを口にした。

 

「そういえば、授業中とかに怪獣が現れたらどうするか、それってもう決まったの?」

 

 学生がウルトラマンに変身する上で一番の問題となる点。それは授業等で拘束されている時間に如何に変身するかである。いつもウルトラマンが現れている間にどこかへ行って、ウルトラマンが帰ってから戻ってきたら、怪しむ者が出てくることだろう。

 

「存在感が限りなく希薄な比企谷くんがどこへ行こうとも気にする人なんていないでしょうけど、私や由比ヶ浜さんが何度も授業を抜け出そうものなら悪目立ちしてしまうでしょうしね。対策は急務だわ」

「おい……確かに事実だがわざわざ言わなくたっていいだろ」

 

 雪乃の毒舌はともかく、そのことについてレムが報告する。

 

[既に用意はあります]

 

 そのひと言とともに、レムの正面にどこからか現れたのは――。

 

「えっ! これってあたしたち!?」

 

 八幡、雪乃、結衣の三人とそっくりそのままの人形のようなものであった。

 

[プロテ星人の分身技術を応用した、質量のある立体ビジョンです。ハチマンたちがジードに変身している間は、これらを身代わりとして動かします]

『なるほど、影武者って訳だ。これなら怪しまれる心配はないね。流石レムだ!』

[ありがとうございます]

 

 称賛するジード。ペガたちは立体ビジョンの出来栄えに感心している。

 

「すごいね、そっくり同じだ! これならばれる心配はいらないね」

「こういうの、レイトさんにも用意してあげたらよかったのに……」

[学校の授業のような受動的行為ならばともかく、仕事のような能動的行為に使用するには無理があります]

「比企谷くんの目の腐り具合を再現するのは大変だったでしょう」

「お前、俺を罵倒するのを誰から義務にされてんの?」

 

 一番の問題点が解消されて安心した結衣がパンと手を叩く。

 

「これでいつ怪獣が出てきても大丈夫だね! それじゃ明日からも奉仕部とジード部の両方の活動、頑張っていこー!」

「怪獣なんか出てこないのが一番なんだけどな」

 

 ため息を吐く八幡。雪乃は結衣に向かって忠告する。

 

「念のため言っておくけれど、授業を抜け出した分は後から取り返さないといけないわよ、由比ヶ浜さん。特に中間試験が近い今はなおさら」

「うっ!? やっぱそうだよね……。ウルトラマンって大変なんだ~……」

 

 途端に結衣が嫌そうに肩を落としたので、周りは思わず噴き出していた。

 

 

 × × ×

 

 

 翌日の正午前後、東京都心。ほとんどの会社は昼休憩の時間であり、大勢の社会人たちが一時の憩いの時間にくつろいだり、あちこちの料理店に繰り出したりしている。

 そんな日常の一部を、一棟のビルの屋上に侵入していたレイデュエスの一味が見下ろしていた。

 

『今日はこの街に襲撃を掛けるのですね、殿下』

 

 ルドレイが尋ねると、レイデュエスは眼下に行き交う人間たちに嘲りの視線を向けながら肯定した。

 

「今までは片田舎が中心だったが、本来の目的のためにはこういう人間が集まる場所の方が効率的だからな」

『ですが派手に暴れますと、あの邪魔者のウルトラマンジードにすぐに気取られますぞ』

 

 オガレスが忠告したが、レイデュエスはむしろ愉悦を浮かべる。

 

「奴が出てきたのなら、また遊んでやるだけのことさ。さぁ行くぞ!」

 

 言いながらレイデュエスが、鼻先がドリルになっている四肢を持った魚型の怪獣のカプセルと全身茶色で蛇腹状の肉体の怪獣を取り出した。

 

「宇宙指令U31!」

 

 ひと言叫び、二つのカプセルのスイッチを入れていく。

 

「イッツ!」『グビャ――――――――!』

「マイ!」『ギャアオオオオオオウ! オオオオウ!』

「ショウタイム!!」

 

 装填ナックルにねじ込んだカプセルを、ライザーでスキャンする。

 

フュージョンライズ! グビラ! テレスドン!

レイデュエス! テレスグビラ!!

 

 レイデュエスが変じた黒い影が、もがいて抵抗するグビラとテレスドンのビジョンを吸い込み、フランス人形とレコードプレイヤーを踏み潰して融合獣へと姿を変えた!

 

 

 いつも通りの街の中心から、いきなり石畳の舗装を突き破って巨大なドリルの先端が突き出てきた。近くに居合わせた人たちは、日常を突然突き破った存在に当然仰天し、本能的にドリルから逃げていく。

 ドリルは穴を拡大しながらせり上がってきて、その本体である巨大怪獣が地上に出現する!

 

「ギャアオオオオオオウ! グビャ――――――――!」

 

 地底怪獣テレスドンのボディに、深海怪獣グビラのドリルと模様を備え、胸部に七つの紫の発光体が並ぶ。新たなるレイデュエス融合獣テレスグビラ!

 

「ギャアオオオオオオウ! グビャ――――――――!」

 

 テレスグビラはドリルを横薙ぎに振るって高層ビルに叩きつけ、真っ二つにへし折った。それを皮切りにして、何千何万もの人間が集まる都会の破壊と蹂躙を開始した!

 



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チェーンメールを送って来たのは誰だ。(B)

 

 葉山からチェーンメール問題解決の依頼を受けた翌日の昼休み、八幡は教室の自分の席で、昼食のパンをかじりながら教室中を見渡していた。

 昨日は雪乃から戸部たち三人の情報の収集を頼まれた八幡と結衣だが、結衣は八幡に、自分が頑張るからヒッキーは何もしなくてもいいよ! と俄然張り切りながら申し出たのであった。が、その結衣の聞き込みの進行状況はというと……。

 

「わたし的に絶対とべっち受けだと思うの! で、大和君の強気攻め。あ、大岡君は誘い受けね。あの三角関係絶対何かあるよ!」

「ぅえ?」

「でもね、でもね! 絶対三人とも隼人くん狙いなんだよ! くぅ~、友達のためにみんな一歩引いてる感じ、キマしたわぁ~!!」

 

 三浦からは適当にあしらわれ、海老名からは彼女のペースに呑み込まれ、でまるで進展していなかった。そのことで、ペガが影の中から八幡に囁きかける。

 

『結衣、全然上手くいってないね……』

「まぁ、のっけから最近の戸部たちどう? なんてド直球な聞き方してる時点でな……。てかペガ、教室で話しかけんな。万が一誰かにお前のこと気づかれたらどうする」

 

 由比ヶ浜には探偵業の才覚はないみたいだな……と思いながら八幡は注意した。

 

『でも……このままじゃ何の成果もなしだよ。八幡は、そもそも人と話しする段階にもこぎつけられないだろうし……』

「お前も何気に言ってくれるな……。まぁ任せてろよ」

 

 微妙に顔をしかめた八幡が請け負う。

 

「人と会話しなくたって、情報は集められる」

『どゆこと?』

 

 その意味が分からなかったペガだが、八幡はそれ以上説明せず、葉山と話をしている戸部、大和、大岡の様子をじっと、それでいて気づかれないように注視し出した。

 クラスにいる時は誰とも会話をしてこなかった八幡は、休み時間等の時間は本を読んだりなどして時間を潰しているが、それ以外にも何となしを装ってクラスの様子をながめたり、届いてくる会話に耳を傾けたりなどもしている。その経験を重ねた結果、八幡は他人の表情や所作の機微を捉え、言葉には表さない思考や心情を読み取る特技を身に着けたのだ。

 さて八幡が葉山たち四人の様子を観察すると、すぐに四人は葉山を中心に会話を行っているということを読み取った。しかしこれくらいはわざわざ観察しなくても既に知っている。葉山は常にF組男子のリーダー格なのだから。

 それ以外には、特筆すべきような点は見当たらない。戸部も、大和も、大岡も自然に会話のキャッチボールをしていて、嫌悪や後ろめたさなどの負の感情は見受けられなかった。もしかしたら犯人あいつらじゃないのかも……とも思いかけたところで、葉山が輪から外れて八幡の方へ寄ってきた。

 

「……んだよ?」

「いや、何か分かったのかなって思ってさ」

「いいや……」

 

 控えめに返しながら八幡が、葉山の抜けた戸部たちの方に目をやると、

 

(ん……?)

 

 三人の様子の変化を見止め、眉間を寄せた。

 

「どうかしたか?」

 

 葉山が聞いてきて、八幡が口を開きかけた時、

 

「うわッ!? また怪獣出たんだって!」

 

 ケータイをいじっていた戸部が大声を出した。それに釣られて八幡もケータイを出してネットにつなぐと、動画つきで怪獣出現のニュースが報じられていた。鼻先にドリルをつけた怪獣が、ビル街を我が物顔に蹂躙している。

 しかしそれは東京でのことだ。

 

「あー、でも東京の方だって」

「なら安心じゃん。ここんとこ避難避難でいい加減うんざりしてたしさー」

「いや、怪獣的には近い方じゃね? こっち来るかも」

「この後の授業だけ潰れてくれればいいんだけどなー」

 

 戸部の言葉で他のクラスメイトもニュースを確認し、その内容にひとまずの危険がないことを知って緊張を解いていた。が、八幡と結衣にとってはそれでは済まされない。

 一瞬結衣と目があった八幡は、おもむろに席から立ち上がる。

 

「どうしたんだ?」

「ちょっとトイレだよ」

 

 葉山を軽くいなして、ごく自然を装って教室から出ていく。結衣も三浦たちに同様の言い訳をして退室していった。二人がほぼ同時に教室を出ていっても、八幡が八幡なので変な勘繰りをする者はいない。

 そして数分後に戻ってきた八幡と結衣は、レムの送った影武者にすり替わっていた。

 

 

 × × ×

 

 

 本物の八幡と結衣はそのまま校舎を脱け出て、エレベーターで怪獣の暴れている現場へと急行する。

 

「……別に、雪ノ下は来なくてもよかったんじゃねぇか?」

 

 ふと八幡がひと言つぶやいた。エレベーターには途中で鉢合わせた雪乃も一緒に乗り込んでいるのだ。

 

「どの形態が必要になるのか分からないじゃない。私だけでも、由比ヶ浜さんだけでも全てもフュージョンライズ形態にはなれないのだから」

 

 雪乃が言い返すと、結衣がそれに同調する。

 

「そうだよヒッキー! それに人数が多い方が心強くない?」

「心強いかどうかは置いといて……まぁ万全を整えるつもりなら雪ノ下が正しいか」

「もっとも、比企谷くんが一人で全部のカプセルを起動させられたのならそもそもこんな集団行動は必要ないのだけれどね」

「あーはいはい、俺が悪いですよー。言われなくたって分かってるよ」

「ひ、ヒッキー、あたしは別に気にしてないよ!? むしろ嬉しいっていうか……じ、ジードになって人の役に立てるのがってことだからね!?」

「由比ヶ浜は優しいよなぁ」

『みんな、そろそろ到着だよ! 気を引き締めて!』

 

 無駄話をしていたところでジードから呼び掛けられ、エレベーターは東京都心の地上に出て三人は外に出た。

 

「ギャアオオオオオオウ! グビャ――――――――!」

 

 そこではニュースの動画の通り、融合獣テレスグビラが片っ端からビルを破壊して猛威を振るっている光景が繰り広げられていた。

 

[怪獣は融合獣のパターンを示しています]

「ってことは遠慮はいらねぇな……。しかしまた派手に壊しやがってんな」

「どこの誰が変身しているのか知らないけれど……一体何の権利があるのかしら。全く以て許しがたいわ」

「早く変身しようよヒッキー! これ以上の被害は出させちゃダメだよ!」

 

 正義感が人一倍強い雪乃と結衣は、テレスグビラの暴れように義憤を抱いて八幡を急かした。

 

「ああ、分かってる……」

 

 ウルトラカプセルを二つケースから取り出す八幡だったが、その時にふとつぶやいた。

 

「今更だけど、三人でフュージョンライズって出来るのか?」

「そんなこと、これからやってみれば分かることでしょう」

「ジーッとしててもドーにもならない、だよ!」

 

 結衣は既にジードの口癖を記憶していた。

 八幡を置いて、雪乃と結衣はさっさとウルトラカプセルを起動していく。

 

『ユーゴー!』『シェアッ!』

 

 雪乃がウルトラマンカプセルを起動して装填ナックルに収め、ナックルを素早く結衣に渡す。

 

『アイゴー!』『フエアッ!』

 

 結衣はベリアルカプセルを起動して、同じようにナックルに装填した。二つのカプセルが入ったナックルは八幡に手渡される。

 

『ヒアウィーゴー!!』

 

 八幡がジードライザーを起動し、装填ナックルのカプセルをスキャンした。

 

[フュージョンライズ!]

『ジィィィ―――――――ドッ!』

 

 ジードの掛け声とともにウルトラマンとベリアルのビジョンが、八幡、雪乃、結衣と重なり合う!

 

[ウルトラマン! ウルトラマンベリアル!]

[ウルトラマンジード! プリミティブ!!]

「シュアッ!」

 

 フュージョンライズしたウルトラマンジードが飛び出していき、破壊の限りを尽くすテレスグビラの面前に堂々と着地した。

 

「ギャアオオオオオオウ! グビャ――――――――!」

 

 テレスグビラはジードの登場によって注意を引きつけられ、ビルを破壊する手を止めて振り返った。

 八幡の懸念は杞憂となり、三人でのフュージョンライズは問題なく成功した。……と言いたいところだが、八幡たちは思いもしなかった問題に直面していた。

 

『「ジードの中……思ったより狭いな……」』

 

 ジードの内部は壁や仕切りなどない超空間のはずなのだが、八幡たちはぎゅうぎゅう詰めになっていた。三人で入るには若干窮屈だったようだ。

 

『「……流石にこれは想定してなかったわね……」』

『「ち、ちょっとヒッキーどこ触ってるの!? やだエッチ! もうちょっとそっち寄ってよぉ!」』

『「いでででで押すなって! 無理言うなよこれが精一杯だッ!」』

 

 流石に巨人の中で痴漢扱いされる日が来るなんて思いもしなかったと内心つぶやく八幡だった。

 

『みんな、すまないけど戦いに集中して! 怪獣が来るッ!』

 

 ジードは多少の罪悪感を抱きつつも、八幡たちに警告した。テレスグビラがこちらへ突進してくるのだ。

 

「ギャアオオオオオオウ! グビャ――――――――!」

『「く、くっそぉやってやろうじゃねぇか……! き、決めるぜ、覚悟……!」』

 

 おしくらまんじゅうのようになりながらも八幡が言い放ち、それを合図にジードがテレスグビラを迎え撃つ!

 

(♪戦い(『ウルトラマン』より))

 

「ダァッ!」

「ギャアオオオオオオウ! グビャ――――――――!」

 

 駆け出したジードが地を蹴り、先手を取って飛び膝蹴りをテレスグビラの横面に入れた。一瞬体勢を崩すテレスグビラだったが、

 

「グビャ――――――――!」

 

 首を戻す勢いで回転するドリルを振るってきたので、ジードは咄嗟に身を引く。あのドリルをまともに食らうのはまずい。

 

『「危ねぇな! 鼻先に凶器ぶら下げてんじゃねぇよ! ポケットにでも仕舞ってろ!」』

『「敵にそんなこと言って聞いてくれる訳ないじゃないの。少し冷静になりなさい余計暑苦しいわ」』

『「ていうかポケットないじゃん」』

 

 つい文句をつけた八幡に雪乃と結衣が突っ込んだ。

 当然テレスグビラが聞き入れるはずもなく、ドリルを足元の地面に突き刺して穿孔を始める。ドリルからは大量の土砂が巻き上がり、ジードの顔面に降りかかる。

 

「ウワッ!?」

 

 一瞬ジードの視界がふさがった内に、テレスグビラは地中に潜り込んで姿を消していた。

 

『「消えた……! どこから来る……!?」』

 

 左右を警戒するジード。だがテレスグビラは既に背後に回り込んでおり、地中から飛び出した勢いで突撃を掛けてきた!

 

「ギャアオオオオオオウ!」

「ウワァッ!」

 

 ドリルの一撃にはね飛ばされるジード。その際の衝撃が八幡たちにも伝わる。

 

『「うおあぁッ!?」』

『「「きゃあぁっ!」」』

 

 超空間が揺れて思わず悲鳴を上げる三人。しかもテレスグビラは倒れたジードを足で押さえつけ、首を狙ってドリルを突き出してくる!

 

「ウッ!?」

 

 危ないところで首を傾け、すれすれでドリルをかわすジード。ドリルは代わりに地面に穴を穿った。

 

『「ぐッ……! 上に乗っかるんじゃねぇッ! 気色悪りぃ!」』

「ギャアオオオオオオウ! グビャ――――――――!」

 

 八幡が怒号を上げると、ジードがテレスグビラの腹を蹴って押し返した。その隙にジードは後転して起き上がる。

 体勢を立て直したジードだったが、テレスグビラのドリルのせいで攻撃の糸口を掴めないでいる。

 

『「ちっくしょう……迂闊に手ぇ突っ込んだらドリルにズタズタにされるな……」』

 

 警戒する八幡だが、その時に雪乃が不敵に微笑んだ。

 

『「全く世話が焼けるわね、比企谷くんは。こういう時こそあの力の出番よ。由比ヶ浜さん」』

『「もう一回フュージョンライズだね!」』

 

 雪乃と結衣が示し合わせてウルトラカプセルを取り出し(『「おい勝手に出すな」』)ジードの合図でスイッチを入れていく。

 

『ユーゴー!』『ダーッ!』

『アイゴー!』『イヤァッ!』

『ヒアウィーゴー!!』

 

 装填ナックルに入れられたセブンカプセルとレオカプセルを、八幡がジードライザーでスキャン。

 

[フュージョンライズ!]

『ジィィィ―――――――ドッ!』

 

 ウルトラセブンとウルトラマンレオのビジョンが八幡たちと合わさり、ジードは姿を変える!

 

[ウルトラセブン! ウルトラマンレオ!]

[ウルトラマンジード! ソリッドバーニング!!]

「ドォッ!」

 

 再変身したジードから飛ばされた熱気が、テレスグビラを一瞬ひるませた。

 

「ギャアオオオオオオウ! グビャ――――――――!」

 

 その間にウルトラマンジード・ソリッドバーニングはスラスターから蒸気を噴き出しつつ、太陽をバックに構えを取り直した。

 

(♪ジード戦い‐優勢1)

 

「ドォッ!」

 

 テレスグビラに肉薄するジード。すぐにドリルが飛んでくるが、硬度の増した手刀は素手でドリルを弾き返す。

 

『「なるほど。これならビクビクしないで済むな」』

 

 更にジードは右腕のスラスターにジードスラッガーを接続し、蒸気を推進力にして腕を突き出す。

 

『ブーストスラッガーパンチ!』

 

 ジードスラッガーがテレスグビラのドリルの根元に叩きつけられ、綺麗にへし折った!

 

「ギャアオオオオオオウ! グビャ――――――――!」

 

 一番の武器を折られてひるんだテレスグビラに、ジードは追撃を掛ける。

 

「ダァッ!」

 

 額のビームランプから緑色のレーザー、エメリウムブーストビームが放たれ、テレスグビラの首筋に命中。爆発を食らわせる。

 

「ギャアオオオオオオウ! グビャ――――――――!」

『「よっしゃ今だ!」』

 

 ジードはテレスグビラに飛び掛かり、首を抑え込んでそのままジードスラッガーでとどめを刺そうとする。が、

 

「グビャ――――――――!」

「ドゥオッ!?」

 

 頭頂部の孔から潮が吹き出され、顔面に食らったジードは思わず手を離した。首を上げたテレスグビラは更に火炎を吐いてくる。

 

「ドゥッ!」

 

 ソリッドバーニングに熱攻撃は通用しないが、テレスグビラは重量級の体躯に似つかわしくないほどの俊敏な動きで飛び掛かってきて、ヒット&アウェイ戦法に切り替えてきた。ジードはなかなか反撃に出られずに防戦一方となる。

 戦いが長引いてきたのでカラータイマーが点滅を始めた。フュージョンライズの制限時間が近い!

 

『「くっそしぶといな……!」』

『「ヒッキー、スピード勝負だったらアレだよ!」』

『「まごついている時間はないわよ。すぐやりましょう」』

 

 雪乃と結衣がヒカリカプセルとコスモスカプセルを出し(『「だから勝手に出すなって」』)、起動してナックルに装填していく。

 

『ユーゴー!』『テヤッ!』

『アイゴー!』『タァッ!』

『ヒアウィーゴー!!』

[フュージョンライズ!]

 

 ウルトラマンヒカリとウルトラマンコスモスのビジョンが現れ、八幡たちと融合!

 

『ジィィィ―――――――ドッ!』

[ウルトラマンヒカリ! ウルトラマンコスモス!]

[ウルトラマンジード! アクロスマッシャー!!]

「ハァッ!」

 

 赤から青い姿、アクロスマッシャーとなったジードは、テレスグビラの突進を左へ受け流した。

 

「ギャアオオオオオオウ! グビャ――――――――!」

『ジードクロー!』

 

 相手の隙を作ったところでジードはジードクローを召喚し、それを片手にテレスグビラに切りかかっていく。

 

「ハァァァッ!」

「ギャアオオオオオオウ! グビャ――――――――!」

 

 縦横無尽に飛び交って切りつけるジードを前にして、テレスグビラは完全に立場を逆転された。

 テレスグビラを弱らせて、八幡はジードクローをライザーでスキャン。

 

[シフトイントゥマキシマム!]

 

 鉤爪部のスイッチを押してトリガーを三回引き、クローを回転させて側面のスイッチを押した。

 

「ハァァァァ……!」

 

 ジードクローに集中させたエネルギーを、テレスグビラの頭上へと発射!

 

「『ディフュージョンシャワー!!」』

 

 空に雲のように広がったエネルギーから、光の雨が降り注いでテレスグビラを串刺しにする!

 

「ギャアオオオオオオウ!! グビャ――――――――!!」

 

 全身を刺し貫かれたテレスグビラは爆破、消滅。勝敗は決したのだった。

 

「ハッ!」

 

 平和が戻った東京の街から飛び立って千葉方面へと帰還していくジード。その内部で、八幡たちはほっと息を吐く。

 

『「大分狭苦しかったが、どうにかなったな」』

『「早いところ元に戻りたいわ。これ以上比企谷くんに圧迫されているのなんてまっぴらよ」』

『「でもちょっと楽しかったかも! 三人の力を合わせての大勝利だよ! ジード部の出だしは上々じゃない?」』

『ちょっと、僕を計算から外さないでよ』

『「分かってるって~。大本はジードんの力だってこと!」』

 

 結衣がわいわいと盛り上がっていると、ふと八幡がつぶやく。

 

『「三人……ああそうか、三人だ。それが答えだわ」』

『「? ヒッキー、何のこと?」』

『「急に訳の分からないことを口走らないでちょうだい。放送倫理機構に訴え出たくなるから」』

『「俺の台詞は全部不適切発言なのかよ……」』

『「冗談はともかく、三人が何の答えだというの? それだけではまるで意味が掴めないわ」』

『「そこんところは後で部室で、葉山も交えて教えてやるよ。二度手間は嫌だからな」』

 

 説明を後に回した八幡を乗せて、ジードは千葉の上空まで帰ってきたのであった。

 

 

 × × ×

 

 

 八幡たちが引き受けた葉山からの依頼、その顛末を、星雲荘でライハが教えてもらっていた。

 

「なるほどね……。それでその三人を、一つのグループにさせたという訳ね」

「そういうことです」

 

 確認を取ったライハに、八幡はコクリとうなずいた。

 八幡が戸部、大和、大岡を観察して抱いた違和感、そこから気づいた事実。それは、この三人のつながりは「葉山の友達」というところしかなく、葉山がいないところでは微塵も仲良くないということだった。要するに、戸部たち同士では友達でも何でもない間柄なのだ。だから職場見学のグループ分けで葉山を巡り、対立した末にチェーンメール騒動が起きたのだろう。

 チェーンメールの発端の犯人自体は分からないままだった。しかし八幡にとって、そこは重要ではなかった。彼は葉山の要望通りに、犯人を暴かずに事態を丸く収める方法を思いついたのだ。

 それが、葉山を抜きにして戸部たち三人だけでグループを組ませるというもの。諍いの原因が葉山にあるならば、葉山をそこから抜いてしまえばいいという発想だ。これで戸部たちが本当に友達同士になれるかというのは、戸部たち自身に懸かってくるのだが、流石にそこまで立ち入るつもりはなかった。

 

「確かに上手い落としどころね。八幡、やるじゃない」

「ありがとうございます」

 

 ライハに褒められて八幡はペコリと頭を下げた。しかし一方で結衣がつぶやく。

 

「でも、隼人君はちょっと寂しそうだったな。揉め事の原因が自分だったってことと、何より仲のいいとべっちたちとはグループを組めなかったってことで」

「そういえば、その葉山君は誰とグループを組んだの?」

 

 それには八幡ではなくペガが回答した。

 

「それが、八幡となんだよ。もう一人は戸塚君って子で」

「なるほど……。三人を友達にさせる一方で、八幡は葉山君と友達になるって訳だ」

 

 ライハのひと言に八幡は驚いたような戸惑ったような、変な顔になった。

 

「い、いやいや、別に友達になるのが必須って訳じゃないじゃないですか。あいつと俺とじゃ友達なんてなれっこありませんって。あいつはクラスの上で、俺は下なんだし」

「別に誰が上でも下でも、比企谷くんは関係ないでしょう。誰とも友達になれないから奉仕部に入れられたのだから」

「本当のことだが、だからこそわざわざ言う必要はねぇよ」

 

 雪乃が微笑みながら茶々を入れた。ペガはライハに続けて話す。

 

「でもさ、葉山君が行きたい場所を書いたら他の人たちが次々同じところにしちゃって。あれじゃあグループ分けした意味ないんじゃないかな?」

「あらら。みんな、まだ将来の職業に真剣じゃないのね」

『みんな、是非ここを見ておきたいっていうのはないのかなぁ。僕だったら断然テレビ局なのに』

「リクの場合はドンシャインみたいな特撮の撮影を見たいからってだけの理由でしょ?」

『あッ、分かった?』

 

 ジードたちは三人で盛り上がっている。こういう時は輪に入れない八幡が少し持て余していると、雪乃が何やら眉間を寄せてうつむいているのに気がついた。

 

「おーい雪ノ下、そんな元が怖い顔を余計怖くしてどうしたんだ?」

「あなたこそひと言多いんじゃなくて? 比企谷くん」

 

 顔を上げた雪乃は、ポツリと言い放った。

 

「この前、私たちを襲った腕が刃物の宇宙人がいたでしょう。あれはどうなったのか、少し気になったの」

「ツルク星人……!」

 

 途端に、ペガたちがサッと顔色を変えた。

 

「そういえば、あれから現れる気配がないね。どうしたんだろ」

「ほとぼりが冷めるまで身を潜めてると思ってたんだけど、もうそんな期間は過ぎてるはずよね」

『もう地球から出ていったんじゃないかな?』

 

 ジードの予想をレムが否定した。

 

[あの程度で退却するとは思えません。あれ以来出現報告が一件もないからには、私たち以外の者によって倒されたという可能性が一番高いと思われます]

 

 レムが口にした、ツルク星人を倒した何者かを、ジードたちは警戒した。

 

『宇宙人を倒した誰か……それが善意の人だったらいいんだけど……』

「それって、融合獣に変身してる人なのかな……」

「まだ分からないけど……そうだったら、これからの戦いはそうそう楽には勝てないってことになるでしょうね……。まだ実力を隠してるはずよ……」

 

 ライハのみならず八幡たちも、場の雰囲気に感化されるように、まだ真の姿を拝んでいない自分たちの敵――レイデュエスへの警戒を強めたにのであった。

 

 

 × × ×

 

 

 テレビのワイドショーでは、ウルトラマンジードに関しての特集が執り行われている。

 

『彗星のように現れ、町を壊す怪獣を倒しては去っていくウルトラマンジード! 先日は都心で姿を変えての大立ち回りを見せました! どこからやってきたのか、何故怪獣と戦うのか、ほとんどのことが謎に包まれているジードですが、人智を超えた力で勇敢に戦う姿と積極的に人命を救う姿勢から既に世間からは現実となったスーパーヒーロー、あるいは世界の救世主との声も上がってます!』

 

 ジードの活躍を称賛する内容を――地球の衛星軌道上に静止しているバド星の円盤で、レイデュエスとその取り巻きが視聴していた。

 オガレスとルドレイは不機嫌そうに鼻を鳴らすと、玉座で頬杖を突いているレイデュエスに振り返る。

 

『ウルトラマンジードの奴、だんだんと調子づいているようですな』

『このまま奴の好きにさせてよろしいのですか? 殿下』

 

 ジードが持ち上げられていることに面白くなさそうな二人だが、レイデュエスはニヤリと含み笑いを見せた。

 

「なぁに、そんなのは今だけのことだ。分かってるだろう? 『コレ』が再起動すれば、奴は今度こそおしまいだ」

 

 レイデュエスが手の平の中で転がしているのは、二つの白紙のカプセル。

 

「それまでは花を持たせてやろうじゃないか。人生が幕を閉じるまでの短い時間、英雄になっている夢という花をな……」

 

 レイデュエスはカプセルを見つめながら、クックックッと声を押し殺しながら愉悦に浸っていた……。

 

 

 

『ウルトラストーリーナビ!』

 

八幡「今回は『ウルトラマン』第三十一話「来たのは誰だ」だ」

八幡「科特隊に新しいメンバーとして、南アメリカ支部からゴトウ隊員がやってきたんだが、彼の周りで火が点かなくなったりフジ隊員に本部ビルの材質をわざわざ聞いたりと不可解なことが起きる。それと前後して町に怪しい植物が生えるという事件まで発生。ゴトウ隊員と植物を調べていく内に、両者の恐ろしい関係ととんでもない正体が判明。そして人類を謎の円盤が攻撃し出す……という内容だ」

八幡「人間並みの知能を得た吸血植物が人間社会に侵略の牙を剥くという、怪奇色の強い一編だ。前作『ウルトラQ』のコンセプトが「テレビで見られる怪獣映画」だったから、その影響が強かったウルトラシリーズ初期はこういう雰囲気の話が多かったんだよな」

八幡「にしてもやってきた奴の正体が怪物だったとか……ぼっちだったらそんな事態に出くわすこともない。やっぱりぼっちは安心安全だな、うん」

ジード『「来たのは誰だ」のサブタイトルは『ウルトラマンオーブ』第五話で、お遊びで劇中の台詞の中に盛り込まれてるよ。自然な台詞だから聞き逃しちゃうかもね』

八幡「じゃあ、また次回で」

 




「今は試験勉強の合間の休憩中なのだから」
「奉仕部の依頼を新しく受けたって?」
「依頼者はウチの生徒の弟さんで……」
「今夜にでもその現場に乗り込んでやめさせましょう」
「あたしにはね、お金が必要なの」
[彼女はリトルスターを発症しています]
「そんな消極的なことを言わずにここで倒しましょう」
『「こっちにも力が溢れてくるぜ……!」』
『「滾るぜ……闘魂!」』



次回、『真夜中に消えた女を捜索せよ。』



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真夜中に消えた女を捜索せよ。(A)

 

 町外れの天文台の地下、星雲荘にて。

 

「ん~……」

 

 結衣がテーブルに並べられたウルトラカプセルをジード、もといじーっとながめながら何やらうなっていた。そこにライハが目を向ける。

 

「何やってるの、結衣? さっきからウルトラカプセルを見つめて」

 

 と聞くと、結衣は振り返って次のように返答した。

 

「ちょっと、ウルトラカプセルってそもそも何なのかが気になったんですよ。いつも何気なく使ってるけど、これって誰が作ったのかなって」

 

 そんな結衣の素朴な疑問に、八幡が軽く肩をすくめた。

 

「そんなこと聞いたところでどうするんだよ。別に知っても知らなくても変わらないだろ?」

「いいじゃん、気になったんだからさ。ねぇ知ってる、れむれむ? ウルトラカプセルのこと」

[お答えします]

 

 ひねくれている八幡とは違い、レムは素直に回答してくれる。

 

[ウルトラカプセルとは、M78星雲・光の国の科学者ウルトラマンヒカリが発明した肉体強化用アイテムです。光の国の反逆者ウルトラマンベリアルとの抗争が長期化したため、それを終結させるために開発されました]

「へぇ~……」

 

 説明を聞きながら、結衣がウルトラカプセルに注目する。

 

[ウルトラカプセルには絵柄のウルトラ戦士の持つ超能力の情報が込められており、一つだけでも戦局を変えるだけの可能性がありますが、二種類をライザーでスキャンすることで、カプセルの情報から特定の属性を抽出し一時的に肉体を変容させて強化するフュージョンライズが可能となります。リク、つまりウルトラマンジードはこのフュージョンライズに特化した肉体をしています]

「なるほどぉ」

 

 うなずいてレムに振り向く結衣。

 

「ジードんは、そのヒカリって人からウルトラカプセルをもらったんだね!」

 

 結衣はレムの説明の内容を先取りするつもりでそう言った。

 しかし、

 

[違います]

「え?」

[リクのカプセルは全て、星雲荘の前所有者が光の国から窃盗したものです]

「えええええぇぇぇぇぇ!?」

 

 目を丸くして叫ぶ結衣。それまで興味なさそうだった八幡と雪乃も、予想外の言葉に思わず振り返った。

 

「ジード……っていうかあたしたち、盗品を使ってたの!? それっていいの!?」

『そ、その辺はまぁ色々と込み入った事情があって……。話すと長くなるんだけど』

 

 釈明するようにジードがそう言うと、雪乃が席を立つ。

 

「長くなるのだったら、またの機会にお願いしましょう。何せ、今は試験勉強の合間の休憩中なのだから。由比ヶ浜さん、そろそろ再開しましょうか」

「うぅっ!? そうだった……」

 

 呼びかけられた途端に声を詰まらせた結衣の視線の先にあるのは、テーブルの上に広げられた教科書やノートの数々。総武高校は中間試験の時期が近づいており、学業に不安が多い結衣は雪乃たちに勉強を見てもらっているのであった。

 現実に引き戻されてげんなりしている結衣に、ペガが呼びかける。

 

「結衣。ペガもお手伝いするからさ、一緒に頑張っていい点数取ろうね!」

「ありがとうペガっち~! ペガっちはほんと優しいなぁ」

 

 励ますペガに結衣がうるうると涙目で抱きついている一方で、八幡は結衣に代わってウルトラカプセルに目を落とした。

 

「ところで、カプセルって白紙の奴がまだいくつかあるな」

 

 八幡の言う通り、現在星雲荘にあるカプセルは起動状態にあるのは、全体の四分の三程度。残りの四分の一は、表面が真っ白のままであった。

 ライハが相槌を打つ。

 

「私たちの世界でもリクが結構集めたけど、それでも全部起動してたんじゃなかったのね」

『残りのカプセルはどのウルトラ戦士のものなんだろ。レム、知らない?』

 

 尋ねるジードだったが、回答は否定であった。

 

[その記録は入力されていません。実際に起動するまでは断定できません]

『そっかぁ。じゃあ起動するまでのお楽しみってことか』

「起動するにはリトルスターが必要で、そのリトルスターは騒動の種なんだから、いいことかどうかは判別つきがたいんだけどね……」

 

 はぁ、とため息を吐くライハであった。

 

「八幡もそろそろ勉強に戻ったらどう? 君、理数系が苦手でしょ? ちゃんと勉強しないとダメだよ」

「いや、俺は大学文系に進むつもりだから……」

「今は理数系のテストもあるでしょ? そうやって言い訳しないの。もう、君は言い訳が多いのが欠点だよ」

 

 ペガに促されて、八幡はウルトラカプセルをケースに戻して試験勉強を再開したのであった。

 

 

 

『真夜中に消えた女を捜索せよ。』

 

 

 

 それから数日後、再び星雲荘にて。

 

「え? 奉仕部の依頼を新しく受けたって?」

 

 ライハが、雪乃から聞かされた内容を意外そうな顔で復唱した。

 

「今は試験前だから、部活動は停止中って言ってなかったかしら」

「本当ならそうなんですけど、今回は深刻な内容でして。早急に対応しなければならないと判断したんです」

「深刻な……。どういう依頼なの? 私にも聞かせて」

 

 物々しい言葉の響きに、ライハも表情が引き締まった。その依頼について、結衣が説明を切り出す。

 

「えっと、初めから話しますけど、依頼者はウチの生徒の弟さんで……」

 

 説明の内容を纏めると、以下の通りになる。

 依頼者は中学三年の川崎大志。彼の姉は八幡と結衣と同クラスの川崎沙希というのだが、大志によると、彼女は二年生になってから不良化したのだという。それまでは家に遅い時間に帰ることなどなかったのに、急に朝の五時に帰宅するようになり、更に聞いたことのない変な名前の店から沙希宛ての電話が掛かるようになったという。大志もそのことで何度も姉に物申そうとしたが、「あんたには関係ない」の一点張りでにべもない。それで困り果てていたのを、塾で友人となった小町に相談し、彼女から八幡たち奉仕部を紹介されて、沙希が夜遅くまでどこに消えているのか、それをやめさせて元の彼女に戻すようにという依頼を受ける流れとなったのであった。

 

「確かに思い返してみたら、川崎さん二年になってから遅刻が増えて、平塚先生にもよく怒られてるっけ」

 

 顎に人差し指を当ててクラスの様子を思い出す結衣は、八幡の方へ振り向く。

 

「そういえばヒッキーも時々遅刻してたけど、最近はなくなったね。まぁいいことだけどさ」

「それは僕が起こしてるからだよ……。八幡、寝起きが悪くって毎日大変だよ」

 

 はぁー……と大きなため息を吐いたペガに八幡は大慌て。

 

「お、おい! 恥ずかしいからそればらすなって言っただろうが!」

 

 恥を知られてしまった八幡に、雪乃と結衣が冷たい視線を浴びせた。

 

「比企谷くん……ペガくんに毎朝心身ともに過酷な重労働を負わせて、己が生を受けたことを後悔しないの?」

「心身ともに過酷って何だよ俺を起こすのどんだけストレスフルなんだよ。あとそんだけで生まれたこと後悔するのなら、俺後悔という文字にとっくに押し潰されちまってるよ」

「いけないんだぁヒッキー、友達をこき使って……。ま、まぁ、ペガっち一人に苦労させるのもアレだから? だから……たまにはその役、あたしがやってあげてもいいかなー!? な、なんて……」

 

 顔を真っ赤にして目をそらしながら申し出た結衣だが、八幡は真顔で手の平を振った。

 

「いや、別にお前にそこまでさせるくらいだったら、俺自力で起きるけど。流石に悪いし、どこのギャルゲーだよ」

「そ、そう……」

 

 結衣がしょんぼりと肩を落としたことは、八幡は気づかなかった。

 

「由比ヶ浜さんはともかく、ジードさんも手伝えば労力が半減するんじゃないかしら?」

「それがリクも早起きしないからさ。実質二人を起こさなきゃならないんだよね。どっちもだらしなくて困るよ」

『ちょっ、ペガぁ!?』

「うわぁ……そろって駄目人間だぁ……」

 

 呆れ返る結衣たち。その一方で八幡は、ライハが腕を組んで何やらうつむいていることにふと気がついた。

 

「ライハさん? 腕組んでどうしたんすか?」

 

 尋ねかけると、ライハは顔を上げて聞き返してくる。

 

「その問題の子の名前……川崎沙希さん、で間違いないのよね?」

 

 うなずく雪乃。

 

「はい……。それが何か?」

 

 すると、ライハはゆっくりと雪乃たちに告げた。

 

「その子……私のバイト先にいるわ」

「ええっ!?」

「偶然同姓同名だとは思えない。同一人物で間違いないと思う」

 

 予想外の告白に、八幡たちはしばし呆然としていた。

 

「……詳しく教えて下さい」

「ていうかライハさん、バイトなんてしてたんだ」

「住居はここがあるからいいとして、それ以外の生活費を稼がないといけないからね」

 

 結衣に答えてから、ライハが事情を口にし出す。

 

「私いま、ホテル・ロイヤルオークラにある『エンジェル・ラダー』という名前のバーでバーテンダーのバイトをしてるんだけど、そこに同じバーテンダーのバイトで、川崎沙希さんっていう子がいるの」

「ライハさん、バーテンダーやってるんだ。カッコいいかも!」

「本当は駄菓子屋がよかったんだけど、求人がなかったのよね」

 

 何で駄菓子屋? 全然違うじゃん、と一瞬思った八幡だが、余計に話をそらしたら雪乃がまた何か罵倒してきそうので黙っておいた。

 

「でも、川崎さん高校生だったのね……。確かに少し幼い感じはしたけど」

「年齢を詐称しているんですね」

「え? 何でそんなこと分かるの?」

 

 結衣がすっとんきょうな感じで聞くと、八幡は若干呆れた。

 

「十八歳未満が夜十時以降働くのは労働基準法で禁止されてるんだよ。だから高二の川崎は、年齢を偽ってバイトしてるって訳。お前も高校生なら、そんくらいのこと知っとけよ」

「あ、あはは……。あたし、夜遅くまでバイトしたことなんてないからさ……」

 

 笑ってごまかす結衣。それを置いて雪乃は話を進める。

 

「こんなにも早く、川崎さんのバイト先が判明したのは僥倖だわ。今夜にでもその現場に乗り込んでやめさせましょう。家庭の問題がなくとも、不法就労はどんなトラブルにつながるか分かったものではないわ」

「でもやめさせるだけだと、今度は違う店で働き始めるかもよ?」

 

 結衣が、今度は建設的な意見を口にした。

 

「確かに。そもそもわざわざホテルにあるような高級バーで働いているからには、相応の事情があるはずね。それが分かれば、対処もしやすいのだけれど」

 

 その事情を知るにはどうすべきか。ライハが手助けしてくれる。

 

「それは本人に伺うのが手っ取り早いでしょう。私が間に入って、話し合いの場を設けるわ。今夜十時にエンジェル・ラダーに来て。ホテルの場所は分かる?」

「大丈夫です。ロイヤルオークラなら知っていますから」

 

 と雪乃が答えて、奉仕部の行動予定が決定した。

 そしてホテル・ロイヤルオークラで再集合するまで解散となったところで、八幡がふとぼやいた。

 

「にしてもバーねぇ……。材木座の奴、全然違うじゃねぇかよ」

「え? ヒッキー、中二が何か言ってたの?」

 

 中二って材木座のあだ名かよ。まぁいいけど……と心の中でつぶやいた八幡は、結衣に告げる。

 

「いや、店名の情報がエンジェル何とかって川崎大志は言ってただろ? で、朝方まで営業してるって条件で材木座に調べてもらって、二件ヒットしたんだそうなんだが、あいつメイドカフェの方で間違いないって言ってたんだよな。それでこの結果だ」

「確かに大外れだね。でも何でメイドカフェ? 中二は何を根拠にしてたの?」

「そこは知らん」

 

 まぁ材木座の考えることだし、どうせろくでもない理由なんだろうな……と八幡は判断した。あと、そのメイドカフェに調査しに行くことにもなっていたのだが、材木座一人だけで行かせるか、とも考える。

 中止にしないところが、八幡の材木座に対する扱いの程を物語っていた。

 

 

 × × ×

 

 

 そして数時間後、十時前。ホテル・ロイヤルオークラのエレベーターホール前で、八幡、雪乃、結衣、そしてライハの四人がそろった。

 

「みんな、もう来てたのね」

 

 そう言ってライハは全員の顔ぶれを見回した。四人とも、普段の私服とは違い、襟付きのジャケットや瀟洒なドレスといった上品な服装である。高級バーはドレスコードがあるので、普段着では入店を断られてしまうからだ。

 

「私は先に行って、川崎さんにある程度話を通しておく。その方がそっちも話しやすいでしょう?」

「ありがとうございます。お願いします」

「任せて。早い内に円満に解決するように、私も説得してみるから」

 

 ライハはそう約束して先にエレベーター(当然普通のもの)に入っていった。それを見送った八幡に、ペガが影の中から呼びかける。

 

『八幡。川崎沙希さんのこと、分かってることだけでも大志君に知らせておいた方がいいんじゃないかな? きっと心配してるからさ。とりあえずホテルのバーで働いてるってことだけでも教えとけば、身の危険はないって分かってもらえるはずだよ』

「そうか? でも大志の奴の連絡先なんて知らねぇぞ」

『だったら、小町ちゃん伝手にさ。小町ちゃんなら大志君と連絡できるようにしてるだろうし』

「小町か……」

 

 小町の名前を出すと、八幡は途端に不機嫌そうな表情になった。それを訝しむ結衣と雪乃。

 

「どしたのヒッキー? 小町ちゃんがどうかした?」

「目だけじゃなくて顔貌まで腐っているわよ」

「おい顔の形は腐ってねぇだろ」

 

 腐ってないよな? と少し不安になりながらも、八幡はボリボリ後頭部をかく。

 

「いや、小町の奴が男と連絡先交換してるって考えたら、微妙な気分になってな……」

「うわっ出た、ヒッキーのシスコンっぷり……」

 

 結衣たちが引くので八幡は言い繕う。

 

「そういうのじゃねぇから! ただアレだよ……ほいほい男に個人情報渡してたら、危ないんじゃないかってな? 小町外面はいいから、勘違いする奴もいるだろうしな」

「心配しすぎじゃないかな? 小町ちゃん、そういうとこはしっかりしてる感じがしたし」

 

 不安がる八幡に結衣はそう言ったものの、ジードは八幡の肩を持つ。

 

『僕は八幡の気持ち分かるよ。小町ちゃんかわいいからね。きっとその分、危険も多くなりそうだ』

「おッ、ジードもそう思うか? ていうか、ジードってきょうだいいるのか?」

『いや……僕にはいないよ。一人も……』

 

 そうつぶやいたジードは、何故だか寂しそうであった。

 

『だから八幡がちょっと羨ましいかなって。小町ちゃんと仲いいしね』

「一人っ子の奴は大抵そう言うよな。けどそんないいもんじゃねぇよ」

 

 八幡とジードが話し込んでいると、雪乃の顔にかすかに影が差しているのに結衣が気づいた。

 

「ゆきのん? どうしたの?」

「何でもないわ……。それよりそろそろ時間よ。移動しましょう」

 

 雪乃が話を打ち切るように告げて、三人はエレベーターのボタンを押して、最上階へと向かっていった。

 

 

 × × ×

 

 

 ホテルの最上階にあるバーラウンジに足を踏み入れた八幡と結衣は、普段彼らが生きている環境とはまるで異なる豪奢な雰囲気に、さながら異世界に来てしまったような感覚を覚えて、すっかりと気圧されていた。

 しかし雪乃だけはいつも通りの様子で、まごまごしている二人を誘導し、三人一緒に木製のドアをくぐっていった。

 入店するとギャルソンの男性が八幡たちを先導して、ガラス張りの窓の前のバーカウンターへと連れていった。そこでは二人の女性バーテンダーが待っている。

 片方はもちろんライハで、もう一方は問題の少女、川崎沙希であった。

 

「……本当に来たんだ。雪ノ下……」

「こんばんは」

 

 沙希は雪乃に向けて、はっきりとした敵意の目を向けた。二人の間に接点はないはずだが、雪乃は総武高校の有名人でありその性格もあって、接点がなくとも快く思っていない人間もいる。沙希もその一人だったようだ。

 八幡たちが席に座ると、仕事開始の前に沙希と話をしたらしいライハが告げる。

 

「川崎さんの事情は伺った。ただ……。まぁバーテンダーが二人も同じお客の相手をしてる訳にはいかないから、本人から聞いて。私は別のお客のところに行ってるから」

 

 そうとだけ言って、ライハは八幡たちから離れていった。口で言った理由だけでなく、八幡たちが沙希と話し合うのに邪魔が入らないようにしてくれるのだろう。

 お陰で八幡たちは気兼ねなく、腰を据えて沙希の説得に臨める。

 

「えっと、川崎さん……まずは、どうしてこんなとこでバイトしてんの? やー、あたしもお金ない時バイトするけど、年ごまかしてまで夜働かないし……」

「あんたたちには関係ないでしょ……って言いたいとこだけど」

 

 雪乃をにらんでいる沙希相手に、結衣が恐る恐る切り出すと、沙希はため息交じりに口を開いた。

 

「もう鳥羽さんには話しちゃったし、どうせあの人から聞くだろうから、教えたげる。全く……鳥羽さんが雪ノ下の知り合いだって分かってたなら、絶対話さなかったのに……」

「それはお生憎さま。こちらとしては好都合だけどね」

 

 素っ気なく口にする雪乃を沙希がジロリときつくにらみつけ、雪乃ではなく八幡と結衣がビビったりしながらも、沙希は己の事情を語り出した。

 

「あたしにはね、お金が必要なの。正確に言えば、学費が」

「学費? そんなの、親に相談すれば……」

 

 結衣が言いかけたが、それを八幡がさえぎる。

 

「その段階で済んでりゃ、こいつここにいないだろ。川崎の家は、そんだけの経済的余裕がないってことだろ」

「でも総武は市立なんだし、学費なんてそう掛からないんじゃ……」

 

 ピンと来ていない結衣に、今度は雪乃が諭す。

 

「学費は学校だけに発生するものじゃないでしょう」

「え? ……あっ、そうか、塾か!」

「由比ヶ浜……あんたも来年は受験なんだから、言われなくても察したら?」

 

 沙希が結衣に、かわいそうなものでも見るような目を向けた。

 八幡が続けて話す。

 

「弟の大志の方は今年が受験だ。塾通ってるんだってな。で、川崎、お前は二人で両立できない学費を弟に譲って、自分の分は自分で稼ぐことにしたんだな」

 

 その指摘に、沙希は沈黙で肯定した。

 

「……あたしは大学行くつもりだから、最低でも夏期講習は行くつもり。その分のお金は、今から溜めないと稼げないの。だから、あんたたちが何と言ったってバイトはやめないからね」

 

 八幡たちの反論を封殺するように言い切って、沙希は三人の注文したドリンクをシャンパングラスに注いでコースターの上に置いた。

 

「お金かぁ……。そればっかりは、流石に出せないな……」

 

 残念そうにポツリとつぶやく結衣。皆の悩みを解決する奉仕部と言っても、所詮は高校生である彼女たちに塾の学費分の金額を出せるはずがないし、そもそもそんなやり方は雪乃の掲げる奉仕部の理念、「相談者の成長を促す」に反する。

 

「……いや、だったら」

 

 黙ってしまった結衣に代わって八幡が何か言いかけたが、そこにちょうどグラスに手をつけた雪乃の声が被さった。

 

「あら……?」

「どしたんだ? 雪ノ下」

 

 雪乃は訝しむように持ち上げたグラスをながめ回し、ドリンクに口をつけてから、沙希に言った。

 

「川崎さん。このグラス、随分と温まっているわよ。ペリエもぬるいし……ちゃんと冷やしているの?」

「えっ? そんなはずは……」

「あっ、こっちのグラスもあったかいよ」

「俺のもだ」

 

 結衣と八幡もそう報告した。沙希も流石に戸惑って、他の客やバーテンダーの様子を一瞥して確かめる。

 

「おかしいな……。他の人には異常がないみたいなのに、どうしてあたしだけ……」

『八幡……!』

 

 ここで、ジードが八幡たち三人にだけ聞こえる声で呼びかけた。それだけで、三人はハッと察する。

 

「川崎さん、ちょっとごめん……!」

 

 結衣が手を伸ばして、沙希の手の平に触れた。

 

「え? 由比ヶ浜、何をして……」

 

 呆気にとられる沙希には構わず、結衣は八幡と雪乃に、愕然とした顔を向けた。

 

「手の平が熱い……!」

 

 直後に、八幡はジャケットの下に隠していた装填ナックルに触れた。その瞬間にレムが報告する。

 

[カワサキサキ。彼女はリトルスターを発症しています]

 

 

 × × ×

 

 

 海浜幕張駅前の、街の灯りが差し込まない暗がりから、オガレスとルドレイがホテル・ロイヤルオークラを観察していた。彼らの目からだと、一般人には見えない、リトルスターの反応を意味する光の柱がホテルの建物から天に伸びているのが映っている。

 

『殿下、間違いありません。リトルスターの輝きです』

「そうか……」

 

 ルドレイから報告を受けたレイデュエスは、ニヤニヤとしながら自身の目でもリトルスターの光を確かめた。

 

「この間からまさかとは思ったが、この宇宙にもリトルスターがあるとはなぁ……。まぁ俺には不要のものだが、ウルトラマンジードの力にはなるものだ。それを巡って争ってみるのも面白い。漠然と暴れるんじゃなく、標的を定めるのもメリハリになるしな」

 

 言いながらオガレスとルドレイの前に出て、二種類の怪獣カプセルを取り出す。

 

「宇宙指令L16!」

 

 レイデュエスは黒と赤で体色が異なるだけで瓜二つの、一本角の怪獣のカプセルを順番に起動して装填ナックルに押し込んでいく。

 

「イッツ!」『ギャアオオオオオオウ! オオオオウ!』

「マイ!」『ギャアオオオオオオウ! オオオオウ!』

「ショウタイム!!」

フュージョンライズ! ブラックギラス! レッドギラス!

レイデュエス! ツインデスギラス!!

 

 怪獣カプセルをライザーでスキャンし、レイデュエスが変身。フランス人形とレコードプレイヤーを踏み潰して、レイデュエス融合獣へと姿を変えた!

 



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真夜中に消えた女を捜索せよ。(B)

 

 沙希がリトルスターを発症していると知って、八幡たち三人は一気に緊迫した顔つきとなった。事情が分からない沙希は、彼らの様子の変化に戸惑いを覚える。

 

「ど、どうしたの、みんな急に怖い顔になって……。あたしの手が熱いと何かあんの?」

「いや、何て言うか……」

 

 八幡が言葉を濁していると、雪乃がライハに目配せとジェスチャーで沙希のリトルスター発症を伝えた。それを読み取ったライハが、すぐに沙希の元へと寄ってくる。

 

「川崎さん、具合が悪いの? ちょっと診せてみて」

「と、鳥羽さん?」

 

 沙希の手を触れて確認したライハが、若干眉間を寄せた。

 

「よくないみたいね……。無理しては駄目よ。今日は早引けしなさい。店長には私から言っておくから」

「そ、そんな、別に気分が悪いとかじゃないですから。そんな大袈裟な……」

「いいえ。風邪はひき始めが肝心よ。特に今は試験前でしょ? そんな大事な時期に倒れるなんてことがあってはいけないから」

 

 とにかく理由をつけて沙希を帰らそうとするライハ。手の発熱の真の意味を知っている彼女は必死だ。

 ひとまずは、逃げ場のないこの高層ビルの最上階から離れさせる。そのために説得していたライハだったが……八幡に、レムからの無情な報告が伝えられた。

 

[そちらに融合獣が出現しました]

 

 八幡は弾かれたように窓から眼下の光景を覗き込む。その目に飛び込んできたのは、こちらにまっすぐに向かってくる一体の怪獣の姿。

 

「もう遅かったか……!」

 

 八幡に続いて外を見た雪乃と結衣が息を呑み、八幡は忌々しげに舌打ちした。

 

「ギャアオオオオオオウ!! オオオオウ!!」

 

 ずんぐりとした大柄な黒と赤の斑模様の体躯に、頭頂部には二本角。背面や肘からは鋭い刃のような角が生えており、剣呑な輝きを発していた。

 ブラックギラスとレッドギラス、双子怪獣の力を一つに凝縮したレイデュエス融合獣ツインデスギラスがホテルを――リトルスターを保有する沙希を狙って進撃してきていた!

 

「きゃあああああああああああ!?」

 

 ホテルの警報が鳴らされ、ツインデスギラスの接近に気がついた客たちから次々と悲鳴が巻き起こり、皆我先にとエレベーターや非常階段に殺到していった。沙希も近づいてくるツインデスギラスを見やって仰天する。

 

「怪獣!? こんな近い場所に……!」

「川崎さん、私たちも避難しましょう!」

 

 ライハが沙希を逃がそうと手を引くが、一方でペガが八幡へと呼びかける。

 

『今から避難してたんじゃ間に合わないよ!』

「言われなくたってそんくらい分かるぜ……!」

「時間稼ぎが必要……いえ、そんな消極的なことを言わずにここで倒しましょう」

 

 雪乃のひと言にうなずき、八幡は結衣に振り返った。

 

「由比ヶ浜はライハさんと一緒に川崎の奴を頼む。あいつが一番危険な立場だからな!」

「融合獣は私と比企谷くんで対処するわ」

「う、うん!」

 

 結衣が了解すると、八幡と雪乃は避難していく人の波に逆らって誰の目にもつかないところへと移動していった。結衣はライハとともに沙希の誘導を行う。

 

「川崎さん、こっち!」

「雪ノ下……あんたのツレたちは!?」

「ゆきのんとヒッキーは先に逃げたよ! あたしたちも早く!」

 

 嘘を吐いて、とにかく川崎を急かす結衣。狙われているのは彼女なのだ。

 そして八幡と雪乃は、沙希を助けるためにウルトラカプセル二本とジードライザーでフュージョンライズを行う。

 

『ユーゴー!』『ダーッ!』

『アイゴー!』『イヤァッ!』

『ヒアウィーゴー!!』

[フュージョンライズ!]

『ジィィィ―――――――ドッ!』

 

 セブンとレオのビジョンが八幡たちと合わさり、ウルトラマンジードに変身!

 

[ウルトラセブン! ウルトラマンレオ!]

[ウルトラマンジード! ソリッドバーニング!!]

「ドォッ!」

 

 ホテルに迫っていたツインデスギラスの面前に、空から炎に包まれたウルトラマンジード・ソリッドバーニングが着地。熱気を飛ばしてデスギラスを牽制して進行を止めた。

 

『二人とも、行くよッ!』

『「よぉし……やってやるぜッ!」』

 

 呼びかけに八幡が応じ、ジードがツインデスギラスに真正面からぶつかっていった。

 

「ギャアオオオオオオウ!! オオオオウ!!」

「ダァッ!」

 

 ホテルを背にしてデスギラスと押し合いになるジード。デスギラスは体格に見合ったかなりのパワーであるが、ソリッドバーニングも力ならば負けない。背面のスラスターからジェット噴射を発して押し返していき、ホテルから遠ざける。

 

「ドォッ!」

「ギャアオオオオオオウ!! オオオオウ!!」

 

 ホテルから距離を開けたところで連続パンチを浴びせてひるませた。隙を作ったところでジードはスラッガーを肘にジョイントする。

 

『ブーストスラッガーパンチ!』

 

 加速した斬撃を叩き込む! まともに食らったデスギラスの動きが更に鈍った。

 

『「相手はあまり素早くないみたい。このまま押し込めば勝てるはずよ」』

『「わざわざ反撃を待つ義理もねぇ。一気にやっちまおう!」』

 

 こちらの優勢に八幡たちは勢いづく。

 そしてジードが戦っている間に、結衣とライハは沙希を連れてホテルから脱出した。

 

「ウルトラマンジードだ……!」

「まだここは危険よ。さぁ、こっちに!」

 

 ジードが融合獣を抑え込んでいてもライハは油断せずに、沙希をもっとデスギラスから遠ざけていく。

 

「ギャアオオオオオオウ!! オオオオウ!!」

 

 戦闘はジードが圧倒しているように見えたが、しかしツインデスギラスの本領はここからであった!

 

(♪迫りくる危機(『ウルトラマンレオ』より))

 

「ギャアオオオオオオウ!! オオオオウ!!」

 

 うずくまるように背を丸めると、その姿勢のまま高速回転を開始。ギュンギュンとうなりを上げてジードに迫ってくる。

 

『「な、何だあの不自然な動き!? どうやって回ってんだ!?」』

「ダァッ!」

 

 動揺する八幡だが、ジードは回転するデスギラスにパンチを突き出す。

 が、

 

「ドゥアッ!?」

『「わぁッ!?」』

『「きゃっ!」』

 

 拳は回転の勢いに弾かれ、ジード自身も突っ込んできたデスギラスによって吹っ飛ばされてしまった!

 

『ぐッ……ソリッドバーニングの防御を物ともしないなんて……!』

『「今、あの角に弾かれたわ……!」』

 

 分析する雪乃。ツインデスギラスの身体に生える角はただの飾りではない。身体を回転させることで殺人スクリューの刃となる、紛れもない武器なのだ。

 デスギラスの必殺技、ツインデススピンがジードに襲い来る!

 

『素手で駄目なら……!』

 

 それに対してジードも必殺技で迎え撃つ。

 

「ダァッ!」

 

 スラッガーを念力で自在にコントロールするサイキックスラッガーを繰り出す。だがこれも弾き返された。

 

『エメリウムブーストビーム!』

 

 ならば光線技、と額のランプから緑色のレーザーを照射。

 しかし光線もツインデススピンにかき消されてしまった!

 

『「何やっても効かねぇぞ!? どうすりゃいいんだ……!」』

 

 焦る八幡は、レムに助言を乞う。レムからの回答はこうだ。

 

[回転には回転。頭上から逆回転をぶつければ、相手の攻撃を止められるはずです]

『回転か! だったら……ジードクロー!』

 

 ジードの行動は早く、ジードクローを召喚。八幡がトリガーを二回握り込み、中央のスイッチを指で押した。

 

『コークスクリュージャミング!』

 

 ジードがクローを前に突き出しながらきりもみ回転して飛び上がる。炎に覆われながらの突撃が、弧を描いてデスギラスに直撃する!

 ジードの回転とツインデススピンがしばらく拮抗する。が、しかし……。

 

「ドゥアァッ!!」

『「わぁぁぁぁッ!!」』

 

 弾かれたのはジードの方であった。

 

『うぅ……! 競り負けた……!?』

 

 地面に強かに打ちつけられたジード。流石にダメージが大きく、すぐには起き上がれそうにない。

 

「ギャアオオオオオオウ!! オオオオウ!!」

 

 スピンを止めたツインデスギラスは、倒れているジードを放置して沙希の方を追い始めた。

 

「な、何でこっちに来るの!?」

「走って! もっと速く!」

 

 本当のことを言う訳にはいかず、ライハと結衣はただひたすらに沙希を連れて逃げ回る。しかし人間と怪獣の歩幅は絶望的なまでに違う。全速力でも逃げ切れるかどうか。

 そんな時に、沙希が前方からこちらに向かって走ってくる人影に気づいて驚愕に染まった。

 

「あれは……大志!?」

「姉ちゃーん!?」

 

 弟の大志であった。ライハと結衣も驚き、沙希はスピードを上げて大志の元へ駆け寄る。

 

「あんた! どうしてこんなところに……!」

「さっき姉ちゃんがホテルのバーにいるって連絡があって、それで様子見に近くに来たら怪獣が出てくるから……! 姉ちゃん大丈夫なの!?」

「馬鹿っ! それはこっちの台詞だよ! こんな危ないとこに来て……!」

 

 大志を一喝する沙希。しかし姉弟で話していられるのはそこまでであった。

 

「ギャアオオオオオオウ!! オオオオウ!!」

 

 デスギラスの二本角が光り、先端から沙希に向けて破壊光線が発射されたのだ!

 

「! 川崎さんっ!」

 

 すぐにライハが駆け出すが、とても間に合いそうにない。光線に驚愕した沙希は咄嗟に大志を抱き寄せる……!

 ドォォォンッ!!

 

「か、川崎さぁ―――んっ!!」

 

 光線が沙希たちの姿を隠して道路をえぐり、結衣はたまらずに絶叫した。

 もうもうと立ち込める硝煙。ライハと結衣は愕然と立ち尽くすが……。

 

「……あれ?」

 

 気がつけば、沙希は大志を抱き締めたまま、別の位置に立っていた。傷一つない。

 

「い、今何が……?」

 

 沙希と大志は理解が及ばずにキョロキョロとしているが、ライハたちは沙希に何があったのかを瞬間的に理解した。

 

「リトルスターの超能力……!」

「瞬間移動だ……!」

 

 リトルスターによって九死に一生を得た沙希であったが、ツインデスギラスがいる以上は助かったとはいえない。まだまだ狙ってくる。

 だがここでジードの気力が戻り、立ち上がった。カラータイマーが鳴る中、どうにか身体を支える。

 

『「何とか立て直したが……どうやって奴の技を破ればいいんだ……?」』

[先ほどより速く、かつ重量のある回転があれば可能です]

 

 とレムは回答するが、

 

『けどさっきのが最大威力だった……! あれ以上なんて……』

 

 戸惑いジードに、レムが告げる。

 

[そのために必要なカプセルは、既にこの星で入手しています]

『「この星で……? そうかッ!」』

 

 レムの言わんとするところを理解した八幡が、装填ナックルからカプセルを抜いて手早く交換を行う。

 

『ユーゴー!』

『イヤァッ!』

 

 雪乃がレオカプセルを改めて起動し、レオのビジョンがカプセルから現れる。

 

『アイゴー!』

『タァーッ!』

 

 続いて八幡がアストラカプセルのスイッチを入れると、レオに似た戦士、アストラのビジョンが腕を振り上げた。

 

『ヒアウィーゴー!!』

 

 交換したカプセルをジードライザーでスキャンし、トリガーを握り込む。

 

[フュージョンライズ!]

『ジィィィ―――――――ドッ!』

 

 レオとアストラのビジョンが八幡たちと合わさった!

 

[ウルトラマンレオ! アストラ!]

[ウルトラマンジード! リーオーバーフィスト!!]

 

 上から降ってきた赤い球が弾けて青い炎が燃え盛り、灼熱の赤い炎の螺旋から新たな姿のジードが飛び出していく!

 

「ダァッ!」

 

 真っ赤な炎を弾き飛ばして、仁王立ちしたジード。その容姿は赤と黒の筋骨隆々としたボディに髪が逆立ったような荒々しいトサカを持った、見るからに力強さに溢れたものである。

 獅子座L77星の戦士兄弟の力をその身に宿した、肉弾戦最強の形態、リーオーバーフィストだ!

 

『「この姿……何だかこっちにも力が溢れてくるぜ……!」』

 

 八幡が己の体温と鼓動が高まるのを感じ、その熱のままに言い放った。

 

『「滾るぜ……闘魂!」』

 

(♪猛る若き獅子)

 

「ギャアオオオオオオウ!! オオオオウ!!」

 

 変身したジードに向き直ったツインデスギラスは、再びツインデススピンを繰り出し、高速回転しながらジードに突撃していく。

 

「トォッ!」

 

 しかしジードは微塵もひるまず、天高く跳躍してデスギラスの頭上を取った。そのまま猛然ときりもみ回転し、真下に急降下していく。

 

『バーニングスピンキック!』

 

 回転する足が炎に包まれ、ツインデススピンと衝突! そして、

 足の先端が、デスギラスの二本角を連続でへし折った!

 

「ギャアオオオオオオウ!! オオオオウ!!」

 

 角を折られて禿頭になったデスギラスがストップ。刃を失っては、回転はもう無意味だ。

 

「ダァーッ!」

 

 着地したジードの方は止まらず、デスギラスの肉体のあらゆる箇所に流れるようにキックを叩き込んでいく。デスギラスは一芸に特化した融合獣。角を砕かれた以上は、最早ジードに対抗する手段は残されていなかった。

 

「イヤァーッ!」

 

 デスギラスが散々蹴られてフラフラになったところで、ジードは再び跳躍。空中から斜めに急降下していき、必殺の飛び蹴りをお見舞いする。

 

「『バーニングオーバーキック!!」』

 

 灼熱の飛び蹴りがデスギラスをかすめ切り、ツインデスギラスは一瞬の内に爆発四散した!

 

「やったぁーっ!」

 

 ジードの大逆転勝利に結衣がピョンピョン飛び跳ねて喜んだ。沙希の方はジードを見上げ、ふっと口元を綻ばせた。

 

「ウルトラマンジード……ありがとう」

 

 そうつぶやくと、彼女の胸元からリトルスターが離れ、ジードに向かって飛んでいく。

 

「あ……?」

 

 リトルスターはカラータイマーから八幡の元に届き、一本のカプセルと同化して表面にウルトラ戦士の姿を描いた。

 

『デヤッ!』

[ダイナカプセル、起動しました]

 

 また新しいウルトラカプセルを手に入れたジードは、空に飛び上がって帰還していく。

 

「タァッ!」

 

 その道中で、雪乃がふと八幡に呼びかけた。

 

『「比企谷くん、あなたジードに変身していると時々柄にもなく暑苦しくなるわね。いわゆる、ハンドルを握ると豹変するタイプなのかしら?」』

『「い、言うなよ! 何かこう……ついテンションが上がっちまうんだ」』

[肉体が精神の影響を受けるように、精神も肉体の影響を受けます]

 

 テンションが上がることに対して、八幡は若干恥ずかしく感じていた。

 

 

 × × ×

 

 

 途中融合獣に襲われるという災難はあったものの、沙希の問題は解決がされた。大志が姉のために危険な場所へ飛び込み、沙希が弟を助けたことで、冷えていた姉弟関係は回復した。これが吊り橋効果か、いや意味がちょっと違うな、と八幡は思った。

 また金銭に関しては、八幡が沙希に塾のスカラシップ制度を教えてあげた。いわゆる奨学金だ。後は沙希の努力次第だろう。

 以上の経緯を八幡が小町に伝えると、彼女は大きく安堵の息を吐いた。

 

「よかったー。大志君のお姉さんのとこに怪獣が出たなんていうからハラハラしたんだけど、丸く収まったんだね。小町もひと安心だよー」

 

 どっとソファに座り込んだ小町は、ふと八幡に呼びかけた。

 

「ところで、よかったねお兄ちゃん。ちゃんと会えて」

「あ? 何のことだ?」

 

 小町の言っている意味がよく分からず、聞き返す八幡。すると小町は、何でもないことのように告げた。

 

「ほら、前言ったお菓子の人。お兄ちゃんが助けたわんちゃんの飼い主さんだよ。会ったなら会ったって言ってくれればいいのに。いやー、よかったねお兄ちゃん。骨折ったお陰で結衣さんみたいな可愛い人と知り合えて」

「ああ、あの犬の飼い主あいつ……」

 

 とつぶやきかけた八幡が、途端に硬直した。

 

「? どしたのお兄ちゃん?」

 

 八幡の不審な様子に気づいた小町が顔を覗き込んできたが、それで我に返った八幡は曖昧な笑顔を返した。

 

「何でもねぇよ。気にすんな」

 

 その八幡の影の中から、ペガが彼を訝しげに見上げていた。

 

『八幡……?』

 

 

 × × ×

 

 

 中間試験が終了し、休みが明けての月曜日。その日が先日問題になっていたチェーンメールの発端である職場見学の日である。

 八幡は戸塚と葉山とグループを組んでいたのだが、ペガが言った通り、五つほどの班が同じ職場を希望したため、葉山や戸塚には別の班の人間がつき纏っている。八幡は集団の最後尾で、必然的に単独行動のありさまとなった。

 見学場所の電子機器メーカーのミュージアムの出口を抜けた時には、他の者たちは既にどこかへ行っていなくなっていた。……否、一人だけ八幡を待っている者がいた。

 

「あ、ヒッキー、遅い! もうみんな行っちゃったよ?」

 

 結衣であった。八幡を認めると腰掛けていた縁石から立ち上がり、八幡の元へ近寄っていく。

 

「あ、ああ、悪い。で、そのみんなはどこ行った訳」

「サイゼ」

「……お前は行かねぇの?」

「え!? ……あ、やー、何というかヒッキーを待っていた、というか。その……置いてけぼりは可哀想かなーとかなんとか」

「……由比ヶ浜は、優しいよな」

「へ!? あ、え!? そ、そんなことないよっ!!」

 

 八幡の言葉に何を思ったのか赤面する結衣だったが……そんな彼女に、八幡は告げた。

 

「あのさ、別に俺のことなら気にする必要ないぞ。お前んちの犬、助けたのは偶然だし、それにあの事故がなくても俺、多分高校でぼっちだったし。お前が気に病む必要全くなし」

 

 今の言葉に、結衣は目を大きく見開いて八幡を見つめ返した。

 

「ヒ、ヒッキー、覚えて、たの?」

「いや、覚えてないけど。一度、うちにお礼に来てくれたんだってな。小町に聞いた」

「そか……小町ちゃんか……」

 

 愛想笑いを浮かべて顔を伏せた結衣に、被せるように八幡が言う。

 

「悪いな、逆に変な気遣わせたみたいで。まぁ、でもこれからはもう気にしなくていい。俺がぼっちなのはそもそも俺自身が理由だし事故は関係ない。負い目に感じる必要も同情する必要もない。……気にして優しくしてんなら、そんなのはやめろ」

 

 この八幡の言葉に、結衣は呆然としたかのように顔を上げると、その表情が笑ったような泣いたような曖昧なものとなり、目線があちこちに泳いだ。

 

「や、やー、何だろうね。別にそういうんじゃないんだけどなー。なんてーの? ……や、ほんとそんなんじゃなくて……」

 

 しばらく愛想笑いを浮かべていた結衣だったが、おもむろに顔を伏せて、声を震わせた。

 

「そんなんじゃ、ないよ……そんなんじゃ、ないのに……」

 

 結衣の様子に、八幡は気まずそうに口を開く。

 

「あー、まぁなんだ、ほら」

 

 しかし何かを言う前に結衣が顔を上げ、目に涙を溜めながらキッと八幡をにらみつけた。八幡は思わず目をそらしてしまう。

 

「……バカ」

 

 ひと言言い残して、結衣は背を向けて走り出していった。

 一人取り残された八幡の影の中から、ペガが顔を出す。

 

「八幡……今のはちょっとないよ。結衣にあんな言い方して」

「何だよペガ、こんなとこで顔出すな。誰か見てるかもしんないだろ」

「それどころじゃないよ……。あれじゃ結衣が可哀想だよ」

『そうだよ……結衣、泣いてたよ。謝った方がいいんじゃ……』

 

 ジードもそう呼びかけるが、八幡は二人の言葉を振り払うように、結衣が走り去った方向に背を向けた。

 

「何を謝んだよ。俺はあいつの負い目を解消しただけだ。それが悪いことなのかよ。謝らなきゃいけないことなんて一つもないだろ」

「負い目だなんて、そんな……!」

「他に理由あるのかよ。学年カーストトップのあいつが、底辺の俺の世話を焼くような面倒なことすることに。本来ありえない状況を正しただけだよ」

 

 と八幡が唱えると、ペガは怒ったように目を吊り上げた。

 

「……もういいッ!」

 

 ひと言吐き捨ててダークゾーンの中に引っ込むペガ。ジードも、呆れたように無言となった。

 八幡は結衣とは逆の方向に歩いていきながら、心の中でつぶやいた。

 

(しょうがねぇだろ……俺は優しい女の子が嫌いなんだよ。俺ってば距離感が掴めないですぐ勘違いするから、俺に優しい人間が他の人間にも優しいってことをすぐ忘れるんだよ。それで今まで何度も期待して、玉砕してきた。だから俺はもう同じことはしない。由比ヶ浜に対しても勘違いしないよう、線引きする必要があるんだ)

 

(俺はもう、希望は持たない)

 

 

 

『ウルトラストーリーナビ!』

 

雪乃「今回は『ウルトラマンレオ』第十六話「真夜中に消えた女」よ」

雪乃「ビニールハウスに幽霊が出るという噂が流れ、実際に女の幽霊に襲われて人が蝋人形のようになって変死するという事件が起こった。その幽霊の正体は、ダンをして恐ろしい奴と言わしめるアトラー星人だったの。アトラー星人は残虐な上に強く、次々と犠牲者を出しながらレオも返り討ちにしてしまったわ。圧倒的な実力のアトラー星人にゲンは心が折れそうになるけれど、ダンは地球を救うために彼を叱咤して、ともにアトラー星人を倒すために命懸けで挑んでいく……という内容よ」

雪乃「これは長いウルトラシリーズでも屈指のホラー回よ。不気味な呼吸音とともに近づき、人間を蝋人形のように固めて殺してしまうアトラー星人……。マンションの人間を皆殺しにして、姿を見せずに百子に迫るアトラー星人の描写は相当な恐怖を煽るわ」

雪乃「そして『レオ』の重要回でもあるわ。何故なら、この話を機にダンとゲン以外のほとんどのMAC隊員が入れ替わるから。アトラー星人に殺害された隊員のシーンもあるし、皆ここで殉職してしまったのでしょうね……」

ジード『MACはシリーズでも群を抜いて殉職者の人数が多い防衛チームだ。第四クールに入ると名実ともに全滅してしまうし、不遇度では他の追随を許さないね……』

雪乃「それでは、また次回でお会いしましょう」

 




「結衣がもう一週間も顔を見せなくなったのは、八幡が原因だって」
「やはり由比ヶ浜さんがここに戻ってくるのが一番理想的な形よ」
「いえいえ。小町も結衣さんの誕生日プレゼント買いたいですし」
「いやぁ実はね、お姉ちゃんちょっとしたお仕事始めたんだ」
「いいや、ちゃんと見てたよ――融合獣の中からしっかりとな」
『言われた通りに来たんだ! 結衣を返せッ!』
『「希望なんか、全てブチ壊してくれる!!」』
『「テメェが希望を壊すって言うのなら……」』
『「守るぜ……希望!」』



次回、『その男を呼び表すならば、怪獣殿下だろうか。』



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その男を呼び表すならば、怪獣殿下だろうか。(A)

 

 ここは町外れの天文台の地下にある秘密基地、星雲荘。

 

「あ、あの、ライハさん……俺は何で正座させられてるんでしょうか?」

 

 たった今、八幡はライハの前で床に正座を強制されていた。それを見下ろす険しい表情のライハに、八幡はびくびくしている。

 怖気づいている八幡に、ライハは言い放った。

 

「ペガから聞いた。結衣がもう一週間も顔を見せなくなったのは、八幡が原因だって」

「そ、そのことですか……」

 

 職場見学の日より一週間。この間、結衣は奉仕部にも星雲荘にも来なくなってしまっていた。しかし学校を休んでいるという訳ではなく、同じクラスの八幡は毎日顔を見ている。だが、向こうは八幡に話しかけようともしなくなった。

 八幡を避けているのは明白であった。

 

「八幡、結衣を突き放すようなこと言ったって? だから結衣は、八幡と顔を合わせづらくてここに来ないのよ。結衣に謝って、発言を撤回しなさい」

 

 ジードにも言われたことをもう一度言いつけられ、八幡は反論した。

 

「確かにあの時は、ちょっと言い方がきつかったかもしれません。でも、撤回する気はありませんよ。俺は、入学初日にあいつの飼い犬をかばって入院した。由比ヶ浜はそれを気に病んで俺に優しくしてた。俺はそれに、もう気にしなくていいと言った。それだけのことなんですから」

 

 八幡は、入学式のその日に車道に飛び出た犬をかばって車に轢かれ、しばらく入院する羽目に陥った。その犬の飼い主が結衣だということを、八幡は小町から聞いたのである。それで結衣にそのようなことを告げたのだ。

 そう説明すると、ペガもライハもはぁー……と大きなため息を吐いた。

 

「全く八幡は……察しがいいようでいて、人の気持ちが分からないんだね」

「な、何だよその言い方……」

「いい? 女の子が負い目なんてもので、いつまでも男の子に優しくするなんてことはないの」

『えッ、そうなの?』

 

 八幡ではなくジードが聞き返した。

 

「リクは黙ってなさい」

『は、はい……』

 

 ライハに凄まれて、タジタジになりながら引っ込んだ。

 

「初めの内ならともかく、結衣が奉仕部に入ってからもう二か月くらいは経つんでしょ? それなら結衣はあなたに、感謝の念だけじゃなく、仲良くしたい、友達になりたいという気持ちがあるはず。それを汲んであげないなんて……」

 

 そう諭すライハであったが、八幡は受け入れなかった。

 

「そんなの分からないじゃないですか。由比ヶ浜は誰にでも優しいし、進んで損を引き受けちまうようなタイプですからね。俺みたいな奴に構うなんて普通は嫌がることも、ズルズル続けちまうのかも」

 

 と言うと、ライハとペガはすっかり呆れ返って顔を見合わせた。

 

「こりゃ駄目ね……。鈍感というか、何というか……」

「リクも鈍い方だけど……八幡は自己評価が低すぎるよ」

 

 そんな二人を見つめて、八幡はやや憮然となる。

 

「何か、失礼なことを言われてるような気がする……」

 

 この様子をそれまで黙って見ていた雪乃が立ち上がった。

 

「由比ヶ浜さんがどう思っているかはともかく、一つだけ確かなのは、今の状態が続くのは良くないということよ。平塚先生からも、これ以上奉仕部に来ないのなら由比ヶ浜さんを除名すると言っていたじゃない」

「まぁ、そうだな……」

 

 うなずく八幡。平塚静は奉仕部を生徒の自己変革の場としており、そこに幽霊部員がいる必要はないとしているのだ。

 

「それに、あまり打算的なことを言うのは好かないけれど……由比ヶ浜さんがいないと、ウルトラマンジードの力は半減したようなものだわ」

「そうだね……。少なくとも、アクロスマッシャーが使えないんだものね」

 

 ペガが相槌を打った。アクロスマッシャーの能力は独特であり有用なので、このまま変身できないとなると後々困る場面が多々出ることだろう。

 

「新しく協力者を見つけるのも難しいでしょうし、やはり由比ヶ浜さんがここに戻ってくるのが一番理想的な形よ」

「戸塚は駄目なのか?」

「今はあなたに意見を求めていないの」

 

 八幡のひと言を雪乃はピシャリとはねのけた。

 

「俺が一番の当事者なのに、発言権がないってどういうことなんだ……」

「そうなると、八幡に結衣と仲直りさせるべきね」

 

 肩を落とす八幡を置いて、ライハが話を進める。

 

「でも普通に二人を対面させるだけじゃ、結衣も話しづらいと思うよ。肝心の八幡はコレだし」

「挙句にはコレ呼ばわりだよ……」

 

 ペガたちが喧々諤々と話し合っていると、雪乃がよく通る声で発言した。

 

「私に、少し考えがあるわ」

 

 

 

『その男を呼び表すならば、怪獣殿下だろうか。』

 

 

 

 六月十七日、日曜日。八幡と雪乃は、東京BAYららぽーとにまで来ていた。

 

「雪乃さん、こんにちは!」

 

 雪乃に元気良く挨拶をしたのは、八幡とともにここへ来た小町である。雪乃は一番に彼女に対して謝りを入れた。

 

「ごめんなさいね。休日なのにつき合わせてしまって」

「いえいえ。小町も結衣さんの誕生日プレゼント買いたいですし、雪乃さんとお出かけ楽しみですし」

 

 雪乃が考えた案。それは、結衣の誕生日が六月十八日と近くに来ているので――もっとも、彼女のアドレスに0618と入っていたことからの推測なのだが――誕生日プレゼントを贈るとともに関係を修復しようというものであった。そのために当然プレゼントの品を用意する運びになったのだが、八幡たちでは結衣の好みに当たりそうなものを探すのは難しそうなので、小町に協力してもらうことになったのだ。そして今、一緒に買い物に来ているという訳である。

 今回の買い物には、ライハは同行していない。軽挙そうでいて意外と敏い小町に対して八幡たちとどんな関係かごまかすのが困難そうだという判断からである。彼女は別にプレゼントを探している。

 そんな訳で、八幡たちは早速プレゼント探しを開始した。

 

「ここのショッピングモールはかなり広いから、効率重視で行こう。俺はこっち回るから」

「ストップです♪」

 

 しかし小町には別の思惑もあるようで、八幡の個別行動の提案を人差し指とともに折った。

 

「指超痛ぇ……!」

「せっかくなのでみんなで回りませんか? その方がアドバイスし合えるし、お得です」

「けれど、それだと回り切れないんじゃないかしら……」

「大丈夫です! 小町の見立てだと結衣さんの趣味的にここを押さえておけば問題ないと思います」

 

 こうして積極的に舵取りをして八幡と雪乃を、十代の女子向けのショップが立ち並ぶコーナーに誘導していった小町だったが……。

 

「小町、この辺りでいいんだったな? ……あ、あれ?」

 

 到着した頃には、いつの間にか小町の姿がなくなっていた。

 

「あいつどこ行ったんだ? ひと言も声掛けないで……」

 

 八幡が小町のケータイに電話をすると、小町は次の通りに答えた。

 

『小町買いたいもの色々あるからすっかり忘れてたよ』

「みんなで回ろうと言ったのはお前だろ……。妹の頭がここまで残念になっていたとは、お兄ちゃんちょっとショックだよ」

 

 と八幡が言うと、電話越しに小町の思い切り馬鹿にしたようなため息が聞こえた。

 

『お兄ちゃんに分かれっていう方が無理か。まぁ、いいや。小町あと五時間くらい掛かりそうだし、何なら一人で帰るから、後は二人で頑張って!』

「ちょ、おい!」

 

 一方的に告げて電話を切る小町。八幡が掛け直しても、あえて無視しているのかもう出なかった。

 

「物買うのに頑張れも何もねぇだろ……。何を考えてんだあいつ」

 

 と八幡がぼやいたら、足元の影からペガもため息を吐いた。

 

『そこが分かんないから、結衣がああなるんだなぁ……』

「おい、今のどういう意味だ?」

『自分でよく考えたら?』

 

 結衣が来なくなってから、八幡に冷たいペガであった。

 

「何なんだよみんな……ジードは何か分かんねぇか?」

『さぁ……』

 

 ジードも大体八幡と同じ体たらくであった。

 

「まぁ、わざわざ休日につき合ってもらっていた訳だし、文句を言える義理ではないわね。由比ヶ浜さんが好みそうなジャンルは分かったのだし、後は私たちで何とかしましょう」

「はぁ……。こうなるんだったら、ライハさんも一緒でよかったかもな」

 

 こんな流れで小町が早々に抜け、八幡と雪乃は近くの店を回りながらプレゼント探しを再開した。

 

 

 × × ×

 

 

 八幡も雪乃も感性が大分結衣からは遠いので、適切なプレゼントを選ぶだけでも悪戦苦闘していたが、それでも時には相談し、時にはペガから助言をもらい、ジードは役立たずなので放っておかれながら、プレゼントを選考していった。

 しかしその道中で――雪乃が誰かから声を掛けられた。

 

「あれー? 雪乃ちゃん? あ、やっぱり雪乃ちゃんだ!」

 

 八幡が振り返り、そして目を見開いた。

 雪乃の名前を呼んだのは、それこそ目が覚めるほどの美人。容姿の端整さもさることながら、人懐っこい笑みと雰囲気が華やかさを添えていて、その魅力を数段引き上げていた。フォーマルなスーツも、彼女が身に着けていると高級ドレスに見えてくる。

 八幡はその美貌にも一瞬面食らったが、彼女と雪乃を見比べて更に驚いた。顔立ちがよく似ているのだ。

 

「姉さん……」

「は? 姉さん? は?」

 

 雪乃はこの美女を、姉と呼んだ。女性が八幡に対して名乗る。

 

「雪乃ちゃんの姉、陽乃です。あなたお名前は?」

「はぁ。比企谷です」

「比企谷……。へぇ……」

 

 八幡をまるで品定めするように観察する陽乃に対して、八幡はささやかな違和感を抱いていた。

 

(……この人、前にどっかで会ったことなかったっけ? いやまさかなぁ……)

 

 どこかで陽乃を見たような気がしたのだが……こんな美人を見かけて忘れるはずがない。既視感という奴だろう、と八幡は自己解決した。

 

「比企谷くんね。うん、よろしくね♪」

 

 やがて何かを得心したように陽乃は八幡をながめ回すのをやめ、にっこりと微笑んだ。

 彼女は八幡を、雪乃の彼氏と勘違いしたらしい。雪乃を人差し指でツンツンしてからかい出す。

 

「二人はいつからつき合ってるんですかー? ほれほれ言っちゃえよー!」

「ただの同級生よ」

「またまたぁ照れちゃって~。君はどうなのかなー? ホントのとこ言ってごらん?」

「ちょ、やめて下さい……! 彼氏じゃないすから……!」

 

 陽乃の人差し指攻撃が八幡にも向けられ、その様子に雪乃が苛立ったように髪をかき上げた。

 

「姉さん、いい加減にしてちょうだい。そもそもその格好は何? 就職活動にはまだ早いんじゃないかしら」

 

 スーツ姿に触れると、陽乃は自分の格好を見下ろしながら答えた。

 

「ああこれ? いやぁ実はね、お姉ちゃんちょっとしたお仕事始めたんだ」

「え? お仕事……?」

 

 話についていけていない八幡を置いて、雪乃は呆気にとられる。

 

「大学はどうしたの? まさか中退なんて、母さんが許すはずないわ」

「大丈夫大丈夫。こんなカッコだけどバイトみたいなものだから、大学とは両立してるから」

「だからって……そもそも何の仕事を……」

 

 と聞きかける雪乃だが、途端に陽乃はポンと手の平を合わせてさえぎるように言った。

 

「そーだ! わたし人を待たせてるんだった。早く行かないと怒られちゃう! それじゃ雪乃ちゃん、またね!」

「あっ、ちょっと……!」

 

 一方的に話を打ち切って雪乃から離れる陽乃。その途中で八幡に振り返って手を振る。

 

「比企谷くん。雪乃ちゃんの彼氏になったらお茶行こうね!」

 

 そうとだけ告げて、陽乃は呆気にとられる雪乃たちを置いて、たったかと走り去っていった。

 

 

 雪乃と八幡と別れた陽乃は、ショッピングモールの別のフロアに向かった。その人気の少ない場所で、彼女と同じ黒いスーツ姿ながら、対照的に仏頂面の男性が陽乃を待っていた。

 

「すみませーん先輩、少し遅れちゃいました」

『別に構わん。時間自体は守っているからな』

 

 男性はどういう訳か、口を全く動かさずに声を発して陽乃に応じた。

 

『しかしいつも正確に、五分前には行動するお前には珍しいことだ。何かあったか?』

「いや大したことじゃないんですよ。途中で妹がデート中なのを見つけて、ちょっと話し込んでただけです」

『そうか。何事もないのならそれでいい』

 

 男性は陽乃の家庭事情には興味を示さず、淡々と自分たちの仕事の話を始める。

 

『問題の奴が、この近隣で目撃されたという情報を入手した。我々はそいつの素性も目的も、まだ何も掴めていない。私たちで捜索して、本人から情報を吐かせる。何か人命に危害を及ぼす行為の兆候が見られたら武力行使を用いても阻止するのだ。いいな』

「……了解です」

 

 指示をされた陽乃は、その瞬間に、それまでの朗らかで華やぐ雰囲気が消え去り、芯まで冷え切ったような表情のない顔で応答した。

 

 

 × × ×

 

 

 八幡たちが陽乃と鉢合わせていた頃、偶然にも結衣が同じショッピングモールを訪れていた。愛犬サブレをトリミングに連れてきていたのだ。

 彼女はすぐ横の店のショーウィンドウに映る自分の顔をぼんやり見つめながら独りごつ。

 

「このままじゃ駄目だよね……。やっぱりちゃんと話し、しなきゃね……」

 

 自分に言い聞かせながら歩き出そうとした時、後ろから誰かに呼びかけられる。

 

「おや、そこの君……。少しいいかな?」

「はい?」

 

 結衣が振り向くと、背後にどこかで見たような顔の男性が立っていた。誰だったかな、と結衣が思い出す前に、相手が答えを口にした。

 

「ああ、やっぱり。君はこの前、怪物に襲われてた子だ。元気だったかい?」

「あっ! あの時の!」

 

 思い出して驚く結衣。その男性は、ツルク星人襲撃の際に助けに入った人物であった。

 

「あの時はどうもありがとうございました! 何かお礼を、と思ってたんですけど、急にいなくなるから……」

「ははは、いいよお礼なんて。たまたま通りがかっただけだから」

 

 ペコペコと頭を下げる結衣に、男は爽やかな笑みで遠慮した。それからふむ、と結衣の顔を見つめてつぶやく。

 

「ところで何だか元気がないみたいだけど……あの時一緒にいた男の子と何かあったのかい?」

「えぇっ!? な、何で分かったんですか!?」

 

 一発で言い当てられ、仰天する結衣。男は苦笑しながら答える。

 

「実はこう見えても占いをやっててね。君みたいな年頃の女の子からよく相談を受ける。だから何となく分かるんだ」

「そうなんですか……。占い師ってすごいんだぁ……」

「そうだ。これも何かの縁だし、君のことを占ってあげようか。何か助言の一つでもあげられるかもしれない。ちょっと行ったところにお店があるんだ」

「えぇ? そんな、いいですよ。お金もそんなないし、きっとご迷惑です」

「まぁまぁいいから。遠慮することはないよ」

「そ、それじゃあお言葉に甘えて……」

 

 男の厚意に預かる結衣であったが……ふとサブレの様子がおかしいことに気づく。

 

「ウゥ~……! ワンワンワンッ!」

 

 男に対して歯を剥き出しにして威嚇し、激しく吠え始めたのだ。

 

「ど、どうしたのサブレ!? ご、ごめんなさい、いつもは人に吠える子じゃないのに……!」

「いやいいよ。動物のすることなんで気まぐれなものだ」

 

 結衣は慌ててサブレを落ち着かせようとする。

 

「やめなさいサブレ! 初対面の人に失礼でしょ。ほら行こう?」

「ウゥゥ~……キャンキャンキャンッ!」

 

 サブレを連れていこうとする結衣だったが、サブレは抵抗。リードを引っ張った際に首輪が壊れ、リードから外れて逃げ出し、ショッピングモールの雑踏に紛れてしまった。

 

「サブレ!? どこ行くの!? 待ってぇ!」

 

 すぐに追いかけようとする結衣だったが、男に手を掴まれて止められた。

 

「女の子一人で追いかけるのは大変だろう。特徴は覚えたし、ウチの者を使いに出して探させるよ」

「で、でも……」

「いいからいいから。さぁ早く行こう。こっちだよ」

 

 男は多少強引に結衣を連れていく。結衣は後ろ髪を引かれながらも、引っ張られるように男についていった。

 結衣を誘導する男は、だんだんと人目のないところに足を向けていく。

 

「な、何だか寂しいところにあるんですね……」

「まぁね。それより、君はあの男の子と随分親しいみたいだね。あんなに寄り添い合って」

「えぇぇ!? よ、寄り添ってはなかったですよ!」

 

 男のひと言に思わず赤面して首を振る結衣。しかし男は重ねて告げる。

 

「いいや、ちゃんと見てたよ――融合獣の中からしっかりとな」

「えっ――」

 

 気がつけば結衣は人の気配が全くないところにまで連れ込まれ、物陰からバド星人とゴドラ星人が飛び出てきた!

 

「!? きゃ――!」

 

 悲鳴を上げかけた結衣だが、男に額に指を当てられると、ショックを与えられて急激に意識が遠のいた。

 どさり、と崩れ落ちた結衣を、バド星人オガレスとゴドラ星人ルドレイがニヤニヤと見下ろす。

 

「全くちょろいもんだ。それじゃあこいつを廃工場まで運べ。こいつを餌に、ジードどもを誘き出すぞ」

 

 男――レイデュエスも嘲笑を浮かべながら、結衣のバッグからケータイを抜き取った。

 

 

 × × ×

 

 

 陽乃が去っていった後、八幡と雪乃は彼女のことについて少しばかり話をしていた。

 

「それにさ、お前と顔が似てるのに、笑った顔が全然違うだろ」

「……馬鹿な理由ね」

 

 しかしそこに、二人の方向へとミニチュアダックスフントが猛然と駆けてくる。

 

「い、犬……」

 

 途端に犬が苦手な雪乃は身をすくませるが、ダックスフントは八幡の方に飛びついて、八幡は咄嗟に抱き止めた。

 

「おい、飼い主どうした。放し飼いかよ」

「ク~ンク~ン」

 

 ダックスフントは急に八幡の頬をベロベロと舐め回し、驚いた八幡は思わず手放す。

 

「うわッ!?」

 

 フロアの床に落ちたダックスフントはそのまま寝転がって、無防備に腹を見せる。

 

「懐きすぎじゃねぇの? ……ん? この犬……」

 

 八幡はやたらと懐くダックスフントに見覚えがあることに気がついた。首に嵌めている壊れた首輪は、間近で見た記憶がある。

 

「まさか由比ヶ浜の犬か? じゃ、あいつここに来てるのか……?」

 

 そうなら本人はどこに? と周囲を見回した時、ケータイがメールの受信を報せた。画面を見ると、その結衣からであった。

 

「ちょうどいいタイミングで。……いや、あいつ俺たちが来てるの知ってんのか?」

 

 訝しみながらもメールを開き――その瞬間に八幡は凍りついた。

 

「どうしたの? 由比ヶ浜さんから何て……」

 

 様子を気にした雪乃が覗き込んで、彼女も急激に息を呑んだ。

 メールには可愛げの欠片もない文章が綴られていたのだ。

 

『今すぐに指定する場所に来い。来なかったらお前の女の命はない』

 

 明らかに結衣が打ったものではない……誰かが結衣をかどわかしたのだ!

 



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その男を呼び表すならば、怪獣殿下だろうか。(B)

 

「はぁ……はぁ……!」

 

 突然何者かから脅迫メールを送られた八幡は、即座に雪乃とともに指定された場所に向かって走り出した。何せ時間の指定は「今すぐに」としかないのだ。ちょっとでももたもたしていたら、結衣の安全の保障がない。

 

[正面の工場が目的地です]

 

 レムのナビゲートの元、二人とついてくるサブレは指定された廃工場へとたどりつく。息を整える暇もなく、八幡たちは入り口の錆びついた扉を開け放って中に踏み込んだ。

 

「おい、どこにいやがる! 来たぞッ!」

 

 ぜいぜい息を荒げながらも、廃工場中に響くように怒鳴る八幡。すると大型のコンテナの陰から、二人の宇宙人を連れた男が八幡たちの前に現れる。

 

「遅かったじゃあないか。お前の女の命が惜しくはなかったのかぁ?」

「時間の指定もねぇのに遅かったも何もねぇだろ……! あと別に俺のじゃねぇ……」

 

 少しずつ呼吸を落ち着かせながら、八幡はニヤニヤと嗤っている男に対して言い返した。雪乃は、男が連れている宇宙人――バド星人とゴドラ星人が羽交い絞めにしている結衣に目を向ける。

 

「由比ヶ浜さん……無事だったのね」

「ゆ、ゆきのん……ヒッキー……」

 

 ひとまず外傷はなさそうだが、安心などは出来ない。雪乃にとっては一週間ぶりに見る結衣の顔だが、こんな場所で、こんな形での再会なんて全く望んでいなかった。

 

「ウゥ~……ワンワンワンッ!」

 

 サブレは主人を捕らえている男たちに牙を剥き出しにして威嚇するが、男はそれに構わずに八幡――の影に向かって言い放った。

 

「そこの影の中にいる奴も出てこい。妙なことをしようとするんじゃないぞ?」

『くッ……』

 

 ダークゾーンに姿を隠しながら結衣を助けに行こうとしていたペガだが、その存在は既に敵に知られていた。やむなく表に姿を出す。

 

『言われた通りに来たんだ! 結衣を返せッ!』

 

 ジードは男たちに向かって恫喝したが、男とバド星人オガレス、ゴドラ星人ルドレイは思い切り笑い飛ばした。

 

「ハッハハハハッ! 何を馬鹿言ってるんだぁ? あっさり返すくらいなら、最初から捕まえたりするものか! 前情報通り、思考が浅はかな奴のようだなぁウルトラマンジード!?」

『何だってぇ……!?』

「……そもそもテメェ誰だよ」

 

 見下されて憤るジードの一方で、八幡は全力で相手の出方に警戒しながら問いかけた。すると男は、

 

「俺が何者かは、これを見ればよく分かるだろう」

 

 言いながら右手に握り締めたものを持ち上げた。紫色という点以外は、ジードライザーそっくりの造形である。

 

「ライザーだッ!」

 

 息を呑むペガたちに、男は自慢するように告げた。

 

「ブラッドライザー。俺のお手製の品でなぁ。性能はオリジナルと遜色ない出来だと、お前らもよく知ってるだろう」

 

 やはり、今までの融合獣は目の前の男が変身していたものだったのだ。八幡たちは理解する。

 しかし、あの時ツルク星人から自分たちを助けた男がその正体だったとは……。あの時は偶然居合わせたのではなく、自分たちの様子を確かめるために近づいたのだろう。

 

『融合獣にフュージョンライズできるということは、お前は……』

「如何にも。ある意味じゃお前の血族だよ、ウルトラマンジード。だがベリアルの血脈ではない」

 

 ジードに答えながら一歩前に出る男の姿が歪み――人間のものから、異形の怪人のものに変化していく。

 

「申し遅れたな。俺の名はレイデュエス。かつて全宇宙を支配したレイブラッド星人の血を受け継ぎしレイオニクスにして、宇宙の王の座を継承する新たな支配者だ。そろそろ面と向かって挨拶しておこうと思って、この席を用意したのさ』

 

 温かみのない鈍色の肌の肉体の各箇所を、紫色の尖った突起が鎧のように覆っている。頭頂部には反り返った角のようなトサカが生え、胸元には融合獣と同じ、紫色の発光体が七つ、緩いV字に並んでいた。その姿は、惑星ヨミの怪人レイバトスに酷似している。

 ブラッドライザーを用いて融合獣に変身し地球を恐怖に陥れる、ウルトラマンジードの新たなる敵、魔導師暴君レイデュエスがベールを脱いだのである。

 

「……宇宙の支配とか、んな中二病発言はどうだっていい。それより今重要なのは……」

 

 八幡は冷や汗を垂らしつつも、魔人態となったレイデュエスに気圧されないように内心で己を奮い立たせながら、捕まっている結衣を一瞥する。

 

「テメェは由比ヶ浜をどうするつもりなんだよ。俺たちは身代金とか用意できねぇんだけど?」

 

 と言うと、レイデュエスは思い切り侮蔑の色を押し出して失笑した。

 

『流石、地球人の考えることは低俗だな』

「あぁ?」

『地球の金になど興味があるものか。俺たちにとっては何の価値もない。俺が求めるのは……』

 

 レイデュエスはどこからともなく長杖、ブラッドスタッフを取り出して結衣に向ける。

 その先端から反った光刃が伸びて大鎌ブラッドサイズとなり、切っ先が結衣の喉元に突きつけられた。

 

「ひっ!?」

『ちょっとしたゲームさ』

「なッ……!?」

 

 色めき立つ八幡たち。喉に死を突きつけられた結衣は、今にも泣きそうに顔を引きつらせている。

 

「ゲームだと……!?」

『ああそうだ。見ての通り、この女の命は俺が握っている。助けたいんだったら、ジード、お前たちの命と交換だ。さぁどうする?』

 

 分かりやすい脅迫と死刑宣告に、雪乃が静かな激昂を見せた。

 

「ジードに勝てないからと、こんな卑怯な手段に訴え出たという訳? 悪党とは現実でも恥を知らないものなのね……!」

 

 雪乃の発言をレイデュエスは鼻で笑った。

 

『おいおい勘違いするな。これはゲームだと言ったろう、これまでの戦いと同じでな。俺はお前らの抵抗を止めない。この女を助け出せる手段があるのなら、存分にやってみるがいい』

「!?」

『ほらほらどうした。正義の味方というのはこういう時、鮮やかな手段で人質を救出してみせるものなんだろう? 早くやってみろよ。それとも出来ないのかぁ? それじゃあこの女がかわいそうだぞ?』

 

 猫撫で声を出して促してくるレイデュエスに、八幡たちはこの行為の意味を感じ取った。

 レイデュエスは本気でこちらの相手をしていない……弄んでいるのだ! こちらが悩み、苦しむ様を見て面白がっている……レイデュエスにとってこれは、ただの遊びに過ぎないのだ!

 

「ちッ、馬鹿にしやがって……!」

 

 敵の舐め切った態度に憤る八幡であったが、その場から一歩たりとも動くことが出来なかった。悔しいが、結衣を無事に救出する手段が彼にはないのだ。だからと言って、言われた通りに自分の首を差し出すことも出来ない。どうしたらいいのか見当がつかず、結果立ち尽くすことしか出来ないでいるのだ。予想外の窮地に立たされてしまった。

 

「比企谷くん……」

「八幡……」

 

 雪乃とペガは戸惑いながら、八幡に目を向けた。八幡は必死に思考を巡らせる。

 この場にはライハに来てもらい、レイデュエスたちの不意を突いて倒してもらうか? いや、いくら彼女の剣の腕でも一瞬の内に三人は難しいだろう。それにペガのことを知っていた以上、ライハの対策もしているはず。上手く行くはずがない。だが、それ以外に取れる手段は……。

 

『おいどうした。さっさと答えを出せ。さもないと、本当にこの女の首を切り落とすぞ?』

 

 冷や汗が滝のような八幡に、レイデュエスは構うことなく返答の要求をしてくる。もうあまり考えている時間はない。だが、やはりいい手など一つも……。

 その時、レイデュエスの額に不意に赤い点が浮かび上がった。

 

『ん?』

 

 ターンッ!

 と、レイデュエスの額が弾丸に撃ち抜かれ、その身体が背後に吹っ飛ぶ。

 

『殿下!?』

 

 段ボールの山に突っ込んで倒れたレイデュエスに衝撃を受けるオガレスとルドレイ。だが衝撃を受けたのは八幡たちも同じであった。

 

「え!?」

「撃たれた!? でも、どこから……!?」

 

 反射的に顔を上げる雪乃。見れば、窓ガラスの一枚に穴が開いている。どうやら誰かが外からレイデュエスを狙撃したようだ。しかし、一体誰が……?

 次の瞬間、工場の物陰からスーツ姿の見慣れぬ屈強な男が宇宙人たちに飛び掛かり、一撃ずつ加えて結衣から手を離させた。

 

『ぐわぁッ!』

『君、大丈夫か! すぐに離れろ!』

「えっ!? は、はい……!」

 

 結衣を助けた男は口を全く動かさずにしゃべりながら、八幡たちの元まで下がらせた。突然の事態の変化に仰天している結衣だが、無事に助け出されて八幡たちに保護される。

 

「由比ヶ浜!」

「由比ヶ浜さん! 怪我はない?」

「う、うん……。でも、あの人は?」

 

 いきなり現れたスーツの男について、ジードとペガが叫んだ。

 

『ゼナさん!!』

「だ、誰?」

『詳しい話は後だ。こいつらを捕まえてからな』

 

 ゼナと呼ばれた男は無表情のまま答え、宇宙人たちに拳銃を突きつけた。

 

『大人しく投降しろ。ここは包囲されている』

『ぐッ……!』

 

 オガレスとルドレイは立ちすくむが、その時……撃たれたレイデュエスが哄笑を上げた。

 

「ハッハッハッハッハッ! いやぁいかんな。死なないと分かっていると……防御が疎かになる」

 

 額を……脳天を撃ち抜かれたにも関わらず、星人態に戻ったレイデュエスはむくりと身体を起こした。しかも額に開いた風穴が……一瞬にしてふさがった。

 

「再生した……!?」

 

 ギョッと息を呑んだ雪乃たちに、レイデュエスは得意げに語る。

 

「惑星ヨミで習得した暗黒魔術だ。撃たれた程度で死んでいられないんでね」

 

 埃を払いながら、背後にオガレスとルドレイを控えたレイデュエスが、ゼナを見やってほくそ笑んだ。

 

「AIB……ベリアル被害者の会か。こっちに来ていたとはな。仕方ない、こうなったからにはゲームの趣向を変えようか」

 

 言いながら取り出したのは、サイケデリックな色彩の口吻を持った宇宙人のカプセル。

 

「怪獣カプセルだ!」

 

 ペガが叫び、ゼナが発砲するが、光弾はレイデュエスの前に張られた闇のベールによって弾かれた。

 

「宇宙指令U26!」

 

 レイデュエスはそのまま怪獣カプセルのスイッチを入れて起動する。

 

「イッツ!」『キョオオオオオオオオ!』

 

 カプセルを腰の装填ナックルにねじ込み、続いてトーテムポールに手足が生えたような怪物のカプセルを起動した。

 

「マイ!」『ポオオオォォォ――――……!』

 

 二つのカプセルを収めると、ブラッドライザーを取り出す。

 

「ショウタイム!!」

 

 ブラッドライザーでカプセルをスキャンし、読み込んだデータを己の肉体に取り込む。

 

フュージョンライズ!

「ハハハハハハハハッ!」

 

 暗黒の異空間の中、哄笑するレイデュエスが魔人態に変化し、カプセルから現れた星人たちのビジョンを口の中に吸い込んで更に変身していく。

 

ヒッポリト星人! ジャシュライン!

レイデュエス! ゴルドヒッポリト!!

 

 フランス人形とレコードプレイヤーを踏み潰して、レイデュエス融合獣へと変身して廃工場を突き破る!

 

『危ない!』

 

 ゼナは八幡たちを連れて工場から脱出。そしてレイデュエス融合獣を忌々しそうに見上げる。

 

「キョオオオオオオオオ!」

 

 毒々しい色取りのボディにヒッポリト星人の顔が縦に三つ並んだ魔像、レイデュエス融合獣ゴルドヒッポリトは、八幡たちを狙わずに周囲に向けて羽型のパーツから金色の光線を照射し出す。

 

「うッ、うわああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!?」

「きゃああああああああ――――――――!!」

 

 光線を浴びせられた町の住人たちが、誰彼構わず黄金像に変えられていく!

 

[町の人々が、ジャシュラインの能力によって黄金にされていっています]

「大変だ! 早く止めないと!」

 

 ゴルドヒッポリトの凶行に慌てるペガ。ゼナは八幡に向き直って告げた。

 

『少年、今は君がウルトラマンジードか。悔しいが、今の我々に融合獣と戦う力はない。我々に代わりに奴を討ち取ってくれ』

『もちろんです! 行こう、八幡!』

 

 ジードが呼びかけるも、八幡はすぐには返答せず、結衣に顔を向けた。

 

「由比ヶ浜……」

「な、何……?」

 

 結衣と目が合うと、八幡はややためらいつつも、時間がないということを意識し、意を決して口を開いた。

 

「初めはただのなりゆきだったし、何の関係もなかったお前に協力させるのは本当はとんだ筋違い、迷惑も甚だしいことなんだろう。現に俺たちに巻き込んじまったせいで、お前死ぬかもしれなかったしな。だけど……俺が情けないせいで、今の状況じゃジードを満足に戦わせてやれねぇんだ。だから、本当に申し訳ないんだが……」

 

 後ろめたさを感じつつも、結衣の目を正面から見据えて頼み込む。

 

「お前の力、貸してくれねぇか」

 

 改めて、今度はなりゆきではなく、確かな意志の元に申し込んだ。

 先ほどまで死を目前としていたことで未だ顔の青ざめていた結衣だったが、八幡の言葉に血色が戻っていった。

 

「……うん! あたしだって、あいつぶっ飛ばしてやりたい気持ちだし! 喜んで協力するよ!」

 

 結衣の答えに、雪乃が嬉しそうに口元を綻ばせた。

 

「私も、この手であの悪党を叩きのめしてやりたいわ。そういう訳だから、始めましょう」

「おう……!」

 

 再び、いや本当のスタートを切ったジード部の三人が、フュージョンライズを敢行する!

 

『ユーゴー!』『シェアッ!』

 

 雪乃がウルトラマンカプセルを起動し、装填ナックルに収める。

 

『アイゴー!』『フエアッ!』

 

 続いて結衣がベリアルカプセルを起動して、ナックルに装填。

 

『ヒアウィーゴー!!』

 

 そして八幡がジードライザーでカプセルをスキャン。ライザーの二重螺旋に光が灯る。

 

[フュージョンライズ!]

『ジィィィ―――――――ドッ!』

 

 ジードの掛け声とともに、ウルトラマンとベリアルのビジョンが八幡たち三人と重なり合った。

 

[ウルトラマン! ウルトラマンベリアル!]

[ウルトラマンジード! プリミティブ!!]

「シュアッ!」

 

 フュージョンライズしたジードが巨大化し、町を荒らしていくゴルドヒッポリトの前に着地した。

 

「キャンキャンキャンッ!」

『頼んだぞ、ウルトラマンジード……!』

 

 サブレはジードを見上げて嬉しそうに飛び跳ね、ゼナはジードに対して強く願った。

 一方でジードの内部の超空間で、雪乃と結衣がはたと顔を上げた。

 

『「あら……心なしか、少し広くなってないかしら、ここ」』

『「ホントだ。まだ狭苦しいけど……前ほどじゃないよ」』

 

 三人はまだ密着している姿勢だが、以前ほど窮屈ではなく、少し余裕が出来ていた。

 しかしそれを気にしている間もなく、ゴルドヒッポリトからの攻撃が来る。

 

(♪大超獣の猛威)

 

「キョオオオオオオオオ!」

「ハッ!」

 

 黄金化光線を止め、猛然と突進してくるゴルドヒッポリト。ジードがそれを迎え撃って格闘戦にもつれ込むも、

 

「キョオオオオオオオオ!」

 

 ジードの平手打ちやキックはことごとく防がれ、パンチの猛打によってあっさりと押し返される。その衝撃で八幡たちにも伝わって三人は顔を歪めた。

 

『「うッ……! 結構強ぇぞ……!」』

「キョオオオオオオオオ!」

 

 一旦距離を取るジードだが、ゴルドヒッポリトはブーメランミサイルを飛ばして追撃してくる。縦横無尽に飛ぶブーメランミサイルがヒットする度にジードは爆撃を食らい、更に苦しめられる。

 

「ウワアアアアッ!」

『「「きゃあああああっ!」」』

 

 このままではまずいと反撃に転ずるジード。

 

『レッキングリッパー!』

 

 両腕を振って光刃を繰り出した……が、光刃はゴルドヒッポリトの念力によって反射され、ジードに返された!

 

「ウワアアアア――――――ッ!」

 

 己の攻撃を食らって倒れ込むジード。それをゴルドヒッポリトが見下ろし……その中のレイデュエスが挑発してくる。

 

『「どうしたぁ! その程度かぁ? お前らがそんなザマじゃ、この星の人間は全員黄金像になってしまうぞ!」』

 

 必死に立ち上がるジード。結衣はレイデュエスに対して問いかける。

 

『「な、何で他の人たちを巻き込むの? みんな、あたしたちとは関係ないじゃん! 何のためにそんなひどいことを……!」』

 

 するとレイデュエスは――顔にまざまざと嘲笑を張りつけながら答えた。

 

『「決まってるだろう? 愉しいからさ!」』

 

 今のひと言に、結衣と雪乃は絶句する。

 

『「圧倒的な力で弱者をねじ伏せ、蹂躙する! これこそが力を持つ者の特権! 弱者どもは逆らうことも出来ずに震えるばかり! その姿こそが、俺が絶対的王者だと実感させるのさ! 弱い奴らにあるのは死の絶望だけで十分ッ! 希望なんか、全てブチ壊してくれる!!」』

『「……何て奴……!」』

 

 レイデュエスのあまりに傲然たる言動に、雪乃と結衣は言葉もなく怒りに打ち震える。

 一方で、八幡は、

 

『「くっだらねぇ」』

 

 ひと言、吐き捨てた。

 

『「ああ?」』

 

 レイデュエスはピクリと片眉を吊り上げるが、八幡はキッと相手をにらみつけながら言い放った。

 

『「子供のアニメに出てくる悪役まんまの台詞だな。んな底のメチャクチャ浅い奴が世の中にいるとは思わなかったぜ。テメェみてぇなくそつまんねぇ奴が無駄にでかい顔してる、その事実だけで……腹の底からむかついてくる」』

 

 それまでの人生で抱いたことのないほどの怒りを覚えている八幡が語り、そして言い切った。

 

『「テメェの愉しみなんざ……こっちがブチ壊してやるよッ!」』

『みんな!』

 

 ジードはレイデュエスのたくらみをくじくために、八幡たちにウルトラカプセルを指示する。

 

『その二つのカプセルでフュージョンライズだ!』

 

 ジードが指定したのは、頭部に二つのスラッガーを持ったウルトラ戦士と大きな二本角のウルトラ戦士のカプセル。三人は即座にそのカプセルでフュージョンライズを開始する!

 

『ユーゴー!』『セェアッ!』

 

 雪乃が一本目のカプセルを起動し、その横にウルトラマンゼロのビジョンが現れて腕を振り上げた。

 

『アイゴー!』『ドゥアッ!』

 

 結衣が二本目のカプセルを起動。ウルトラの父のビジョンが腕を振り上げた。

 

『ヒアウィーゴー!!』

 

 八幡がジードライザーでカプセルをスキャンし、その力をジードの身に宿す。

 

[フュージョンライズ!]

『ジィィィ―――――――ドッ!』

 

 ゼロとウルトラの父のビジョンが、八幡たちと重なり合う!

 

[ウルトラマンゼロ! ウルトラの父!]

[ウルトラマンジード! マグニフィセント!!]

「ハァァッ!」

 

 無数の光の軌道と回転する二つの光点と、緑色の光を抜けて、青と黄の光の螺旋の中からウルトラマンジードが顔を上げて飛び出していく!

 

「ドゥアァッ!」

 

 再変身直後のジードの拳がゴルドヒッポリトの顔面を捉え、殴り飛ばした!

 

『「ぐッ!?」』

 

 よろめいたゴルドヒッポリトの正面に、雄大な姿となったジードが仁王立ちする。

 

(♪ウルトラマンジードマグニフィセント)

 

 青と赤のボディに、上半身は銀色の鎧めいたプロテクターで覆われている。肩部には翼のような赤いプレートが伸び、頭部にはふた振りのスラッガーが角となって備わっていた。

 数あるフュージョンライズ形態の中でも特別なものの一つ。強大な力を秘めた崇高な戦士の形態、マグニフィセントである! その力は現状、八幡、雪乃、結衣の誰が欠けていても扱い切ることが出来ない。

 

『「テメェが希望を壊すって言うのなら……」』

 

 八幡が全身を巡る莫大なパワーと沸騰するような感情を滾らせながら、宣言する。

 

『「守るぜ……希望!」』

『「ほざけぇッ!」』

 

 ゴルドヒッポリトが三つの顔面からビームを発射するが、ジードは回転するバリア、アレイジングジードバリアで弾き、シャットアウトした。

 

「キョオオオオオオオオ!」

「デアァッ!」

 

 ゴルドヒッポリトはビームからブーメランミサイルに切り替える。対するジードは十字の光刃、メガスライサークロスを放ってブーメランミサイルを撃ち、粉砕した。

 

『「何ッ!」』

「オォォォッ!」

 

 ゴルドヒッポリトが一瞬ひるんだ隙にジードが跳び、肩のプレートから生じる振動を纏わせた肘のブレードで斬りかかった。

 

「ドアァッ!」

『「ぐうぅぅッ! やってくれる……!」』

 

 念力による防御も通じず、ダメージが蓄積されていくゴルドヒッポリトは肉弾で応戦するも、パンチはマグニフィセントの強固なボディに受け止められて通じない。逆にエネルギーを乗せた拳で弾き飛ばされる。

 

『「ぐっはぁ……! ならば貴様も黄金像にしてやるッ!」』

 

 ゴルドヒッポリトは最後にして最大の武器、黄金化光線を放とうと構えた。だがそれをわざわざ許すはずもなく、ジードは角からの電撃光線、メガエレクトリックホーンを浴びせた。

 

「ウアァッ!」

『「がぁぁぁッ!?」』

 

 電撃によって溜めていたエネルギーが暴発し、黒焦げになって立ち尽くすゴルドヒッポリト。そしてジードは最大の攻撃の準備を行う。

 

「オォォォォ……!」

 

 両の拳を打ちつけてエネルギーを両腕に充填し、L字に組んで発射する!

 

「『ビッグバスタウェイ!!」』

 

 緑色に輝く光線がゴルドヒッポリトに突き刺さり、その肉体を崩壊させていく。

 

「キョオオオオオオオオ!!」

 

 ゴルドヒッポリトは臨界点を超え、大爆発を起こして消滅した! それとともに魔力も消え、黄金像にされた人たちは皆元に戻っていく。

 

「あ、あれ……身体が動く……」

「あッ! ウルトラマンジードだ!」

「助けてくれたのか……!」

 

 ジードの雄姿を感謝の念とともに見上げる人々。彼らの視線を浴びながら、ジードは大空に飛び立って去っていった。

 

「シュウワッチ!」

 

 

 ――ゼナは小さくなっていくジードの後ろ姿を見送ると、通信機を取り出して誰かにつなぐと、一番に叱りつけた。

 

『確かに武力行使を用いても阻止しろとは言った。だがヘッドショットしろとまでは言わなかっただろう』

『えー? いけなかったんですか?』

 

 通信相手が、場違いなほどに明るい声音で聞き返した。

 

『本人から情報を吐かせると言っただろう。それなのに撃ち殺そうとするとはどういうことだ。そんなつまらんミスをするようなお前ではないだろうに』

『いいじゃないですかぁ。あれで死んでたのなら、どうせ大した奴じゃないですよ。そんなのがやれることなんて、たかが知れてるものでしょ?』

 

 糾弾しても通信相手は全く意に介さず。ゼナの方が呆れて肩を落とす始末であった。

 

『……まぁいい。次からは早まった行動は控えるように。あまり度が過ぎるならば、いくら優秀だろうと解任もあり得るのだからな』

『はーい。以後気をつけまーす』

 

 本当に注意が分かっているのか、通信相手は気の抜けた声で応じて通話を切った。

 その相手――雪ノ下陽乃が通信機を仕舞い、レイデュエスの額を撃ち抜いたライフルをテキパキと片づけた。

 

 

 × × ×

 

 

 ゴルドヒッポリトに勝利したその翌日、結衣の誕生日。八幡と雪乃が用意したプレゼントは無事に彼女に渡せ、また八幡との間にあったすれ違いもどうにか解消。二人は愛犬を助け、助けられた恩人という関係に区切りをつけ、改めて仲間としての関係を開始したのであった。

 ちなみに八幡の用意したプレゼントは、犬の首輪であった。サブレの首輪が壊れていたので、代わりのものを渡したのだったが……結衣は自分へのチョーカーだと勘違い。恥ずかしさのあまり八幡に逆ギレするという、今一つ締まらない展開に。

 でも結衣は八幡にお礼のひと言を告げて、今回の問題はひとまず解決を見たのであった。

 

「ふぅ。色々あったけど、これでひと安心だね。結衣が戻ってくれてよかったぁ!」

 

 部室でペガが安堵の息を吐く。雪乃と結衣は退室し、残っているのはもう彼と八幡の二人だけだ。

 

「ま、確かに安心だな。これで元鞘で、ウルトラカプセルの問題もクリアだ」

「も~、またそんな冷たいこと言っちゃって。八幡も、結衣が戻ってきて嬉しくないの?」

「いや……それはまぁ、別に嫌って訳じゃねぇけどさ」

 

 素直に喜びを表せない八幡。一方で、ジードがふとつぶやく。

 

『結衣が戻ってくれたのはいいけど……僕たちの敵の正体も遂に明らかになったね』

「ああ……とうとう顔を拝んだな」

 

 八幡は融合獣に変身している人物、レイデュエスの憎らしい顔を思い返して、思い切り表情をしかめた。

 

「全く腹の立つ奴だったな……。好き勝手なことぶちまけやがってよ。あんなのがその辺をのうのうとしてるなんて、全くたまらねぇぜ」

『ああ……野放しにしてるのは危険すぎる。どうにかして捕まえたいところだけど……難しそうだね』

 

 ジードはレイデュエスの見せた能力を思い出す。頭を撃ち抜かれても何ともない脅威の再生力に、闇の力。本人は暗黒魔術と言っていたが……ならばあれで終わりではないだろう。他にも厄介な能力をいくつも保有している恐れは高い。

 

「でも、また融合獣となって出てきてもリクたちがやっつければいいんだよ! AIBもこっちに来てるってことが分かったし、いつかは捕まえるチャンスが来るはずさ!」

「そういえば、AIBってのは何なんだ?」

「それはゼナさんたちから直接聞くのが一番だと思うよ」

 

 ペガに質問しながら、八幡はレイデュエスに関してあることを気に掛けた。

 

(けど……あの野郎のやってることは、本当に遊び半分の凶行だけなんだろうか? もう何度も俺たちに倒されてるってのに、そのことについて気分を害してる様子はなさそうだったし……何か、まだ隠してることがあるんじゃないのか? 俺の考えすぎかな……)

 

 ひねくれ者故に案じる八幡だったが、その疑問に対する答えを持ち合わせてはいなかった。

 

 

 × × ×

 

 

 レイデュエスは隠れ家の円盤内で、フュージョンライズ時にジードに殴られた首筋をさすっていた。

 

「ふん……いくら遊びとはいえ、負けるというのはやはり気分のいいもんじゃないな」

『おっしゃる通りです。全く、あのジードめは忌まわしい奴で……』

 

 相槌を打つオガレス。だがレイデュエスは表情を一転させて、一個のカプセルを掴んで持ち上げた。

 

「だが、目的の半分は今回で達成した。見ろ……!」

 

 つまんだカプセルに、黄金像に変えた人間たちから発生した恐怖の感情のエネルギー――マイナスエネルギーが注入され、そのエネルギーによって白紙だったカプセルに絵柄が浮かび上がる。

 

『ピポポポポポ……!』

『おお! EXゼットンカプセルが再起動した……!』

 

 カプセルの起動にルドレイとオガレスは興奮。レイデュエスもニヤリと笑いながら、もう片方の手で別のカプセルを掲げる。そのカプセルはまだ白紙だ。

 

「これでこちらも再起動すれば、最強の力が俺に戻る。そうすれば今回みたいな茶番もおしまいさ……! 俺は殿下から、帝王として全宇宙に君臨するッ!」

 

 二つのカプセルを見上げながら、レイデュエスは邪悪な笑みを浮かべ続けていた。

 

「その時にはウルトラマンジード、お前の首をその記念品にしてやろう。フフフフ……クッハハハハハハ……!!」

 

 

 

『ウルトラストーリーナビ!』

 

結衣「今回は『ウルトラマン』第二十六話と二十七話「怪獣殿下」だよ!」

結衣「科特隊がジョンスン島で、大阪万博に展示する予定のゴモラザウルスの化石を探す探検隊の警護を担当してたんだけど、出てきたのは何と生きてるゴモラザウルス! 探検隊は大発見だとゴモラを生きたままの展示を主張して、科特隊が生け捕りにしたんだけど、ゴモラは脱走! 大阪の街で大暴れを始めちゃったの! ウルトラマンもてこずる強さのゴモラを止めるために、科特隊は走り回る……っていうお話しだよ」

結衣「放送当時は大阪万博が開催されることが決まって話題になってたから、それを物語に取り込んだ、時事ネタだったんだよ! シリーズで最初の前後編なのも特徴かな。話が連続してるってのは『ウルトラQ』にもあったけど、二話連続なのはこれが初めてだったの!」

結衣「ゴモラはお話しの中でも触れられてるけど、そっとしてれば平和に生きられたのに、人間の都合で連れ出されて殺されるっていう仕打ちを受けた、可哀想な怪獣なんだよね……。そのこともあってか、後の作品だと完全な敵の怪獣じゃない扱いが多いんだよね」

ジード『サブタイトルの「怪獣殿下」というのは、シナリオ上のもう一人の主役といえる少年、鈴木治のあだ名だ。最後にハヤタ隊員から流星バッジをもらったのは、当時の子供たちは羨ましがったことだろうね』

結衣「それじゃ次回もよろしくー!」

 




「この人はシャドー星人のゼナさん。AIBのエージェントよ」
『Alien Investigation Bureau。宇宙人による調査局という意味だ』
「こっちでもAIBの助けが得られるなんて、嬉しいニュースだ!」
「別の世界、か……」
『みんな、気をつけて! 普通の人間じゃないよ!』
「今言ってたことって、ほんとのことなのかな?」
『……何だか不思議な感じだ……』
「その力、そうか貴様が……」
『どうして僕のことを……!? あなたは……!?』



次回、『だから、その人たちはTOPに立っている。』


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だから、その人たちはTOPに立っている。(A)

 
※今回は拙作『THE ULTRAM@STER ORB』を読まれていないと話が理解できない部分が多くあります。どうぞご了承下さい。



 

 天文台地下の星雲荘で、八幡たちは珍客を迎えていた。

 

「みんな、改めて紹介するわ。この人はシャドー星人のゼナさん。AIBのエージェントよ」

『よろしく』

 

 ライハが八幡、雪乃、結衣に、廃工場で助けに入ったスーツの男を紹介した。ゼナは無表情のままペコリと頭を下げる。

 口も動かさずに発言したゼナに、結衣は微妙な顔になっている。

 

「えっと……失礼ですけど、何で腹話術してるんですか?」

『シャドー星人は表情筋がほとんどなく、顔が動かない。そのため地球人のように口を開けなくとも会話が出来るのだ』

 

 そう回答するゼナ。ずっと真顔なのもそういう理由みたいだ。

 続いて八幡が質問する。

 

「AIBって聞き慣れない名前ですけど、一体何なんすか?」

『Alien Investigation Bureau。宇宙人による調査局という意味だ』

 

 名称の意味から答えたゼナが、自分たちがどういう組織なのかを詳細に語った。

 

『かつて悪のウルトラ戦士、ベリアルの脅威によって宇宙のあらゆる星に多大な被害が発生し、宇宙の文明が極度の混乱に陥った。それを解決すべく様々な種族の有志が集まって結成されたのがAIBなのだ。我々は宇宙に秩序と平穏を取り戻すことを理念に掲げ、宇宙に起こる犯罪や怪事件を調査し、取り締まっている。ウルトラマンジードとも、リトルスターを巡る一連の事件を通して協力関係を結んだのだ』

「前にリトルスターの宿主を保護する団体があるって話があったでしょう? それがAIBなの」

 

 ライハが補足説明を挟んだ。

 

『本来なら秩序の回復が目的とはいえ、宇宙進出していない惑星にみだりに干渉するのは望ましいことではない。だが、この地球に潜伏している犯罪者がライザーと怪獣カプセルを使用しているとなったら話は別だ。ベリアルと何らかの関係があるかもしれない上に、それを抜いても怪獣カプセルは危険だ。放っておく訳にはいかないと、私を含めたAIBのエージェントの一団がこの宇宙に派遣されたという訳だ』

 

 経緯を説明したゼナが、八幡たちに向き直って告げる。

 

『これからは微力ながら、我々が君たちに協力する。君たちのほとんどは高校生、行動にあまり自由はないだろう。その分は我々が補うことを約束する』

「助かります。わざわざ別の世界、別の宇宙の私たちのために力をお貸し下さること、真にありがとうございます」

 

 雪乃が、八幡に対する態度とは正反対の口調で礼を述べた。意外と礼儀作法には慣れているようだ。

 

「こっちでもAIBの助けが得られるなんて、嬉しいニュースだ!」

「うん! 今までペガっち以外の宇宙人って敵ばっかだけど、味方になってくれるって心強いね!」

 

 味方が増えたことにペガや結衣が喜んでいる一方で、八幡はふとひと言つぶやいた。

 

「別の世界、か……」

『八幡、どうしたんだい? ぼんやりして』

 

 ジードが問いかけると、八幡は次のように答える。

 

「いや、こうして新しい人と出会って、異世界なんてファンタジーが本当にあるんだなって改めて思っただけだよ。まぁジードたちと出会ってから、ファンタジーの連続みたいなもんだけどな」

 

 八幡の語ることに同意を表すジード。

 

『あー、まぁ、最初は実感が乏しいよね。僕もこれでも最初は、自分がウルトラマンってことも知らずに、普通の地球人として生きてたんだ』

「へぇ、そうだったのか」

『怪獣とか宇宙人とか、ウルトラマンとか別の宇宙とか、僕も当初は驚きの連続だったよ』

 

 ウルトラマン、別の宇宙、と聞いて、八幡が再びポツリとつぶやいた。

 

「そういや、ウルトラマンってジード以外にも何人もいるんだよな」

 

 今更ながらにそのことを意識する八幡。種々のウルトラカプセルの元は絵柄のウルトラ戦士なので当たり前のことだが、当人たちと直接会った訳ではないので、その実感が薄かったのだ。

 

『そうだよ。まぁ僕もそう何人も他のウルトラマンと会ってる訳じゃないんだけど』

 

 と返事したジードも、意識を遠くに馳せた。

 

『僕以外のウルトラマンも、今こうしてる間にも、どこか遠くの星や宇宙で活躍をしてるはずさ……』

 

 

 

『だから、その人たちはTOPに立っている。』

 

 

 

 ――宇宙の片隅に浮かぶ平和な惑星、ウサミン星。この星のウサギに似た知的生命体ウサミン星人は、争いを好まない友好的な気質。文明もそれに見合った形に進歩しており、ウサミン星の大地にはメルヘンチックな建物が街を成しており、夢の世界のようだと他の宇宙人たちからは囁かれている。

 だが、そんな夢と平和のウサミン星に今、重大な危機が訪れていた。

 

「ウサー!」

「ウサー!!」

 

 星の首都、ウサミンシティが燃え盛る火の手に呑まれ、大勢のウサミン星人たちが必死に街を襲う『災害』から逃げ惑っている。

 彼らを追い立て、街を焼いて破壊し、夢の世界を冷徹な暴力で灰燼に帰そうとしている『災害』が、金切り声のような咆哮を発した。

 

「グアアァァァ! キィィィヤアアアァァァッ!」

 

 その名はマガオロチ。――爆発的に星が誕生するモンスター銀河から生まれた、宇宙を股に掛けて星を食い尽くす恐るべき生態を持つ「魔王獣」と呼ばれる怪獣、その中でも支配階級に位置する「大魔王獣」である。それが今、全ての命を蹂躙してウサミン星を宇宙から消し去ってしまおうと活動を開始したのである。

 

「グアアァァァ! キィィィヤアアアァァァッ!」

 

 マガオロチの吐き出す迅雷がウサミンシティのシンボル、キャロットタワーを穿ち、タワーが真っ二つにへし折れて倒れていく。その影が、たくさんのウサミン星人に覆い被さる。

 

「ウ、ウサァ―――!!」

 

 逃げるのは到底間に合わない。悲鳴を発するウサミン星人たちは下敷きになる――。

 かと思われたが、折れたタワーは横から飛び込んできた「何か」によって彼らの頭上からどかされ、ウサミン星人たちは間一髪命を救われた。

 

「ウサ……?」

「もう大丈夫ですよ!」

 

 恐る恐る顔を上げたウサミン星人たちの元に、十人あまりの少女たちが駆けつける。その集団の先頭に立つ少女が、頭の左右に結ったリボンを揺らしながら、大声で呼びかけた。

 

「あの人が、街を壊す怪獣を退治してくれます! 皆さんも応援して下さい! ――ウルトラマンオーブを!!」

 

 折れたタワーを無人の場所に下ろした、銀と赤と黒の配色のウルトラ戦士が、取り出した大剣で円を描きながら堂々と名乗りを上げた。

 

『俺の名はオーブ! 銀河の光が、我を呼ぶ!!』

 

(♪オーブオリジン)

 

「グアアァァァ! キィィィヤアアアァァァッ!」

 

 マガオロチは自分と同等の体躯のウルトラマンオーブに目をつけ、迅雷を吐いて攻撃を仕掛ける。だがオーブは大剣オーブカリバーで迅雷を切り裂きながら前進。

 

「テェアッ!」

「グアアァァァ!」

 

 オーブのひと太刀がマガオロチの肩を裂いた。マガオロチは腕や尻尾を振り回して反撃するも、オーブはカリバーによって相手の攻撃を叩き落とす。

 

「頑張れー! オーブー!」

「ウサー!!」

 

 少女たちは声を張って奮闘するオーブを応援。ウサミン星人たちもそれに合わせるように銘々オーブの応援をする。

 ウルトラ戦士は、彼らの応援の声によって背中を押されるのだ!

 

「オォォォリャアッ!」

「キィィィヤアアアァァァッ!」

 

 オーブ渾身の袈裟斬りが入った。マガオロチは深手を負ってよろよろと後ずさる。

 この絶好のチャンスに、オーブはカリバーの柄の四つの象形文字を全て輝かせて、円を描きながら刀身に全エネルギーを集中させた。

 

『オーブスプリームカリバー!』

 

 そして前に振り下ろしたカリバーから、必殺光線を発射!

 

「グアアァァァ!! キィィィヤアアアァァァッ!!」

 

 オーブスプリームカリバーがマガオロチの胴体を貫き――この瞬間、エネルギーが外部より抜かれながら――大爆発させたのだった。

 

「ウサー!」

「ウサー!」

 

 マガオロチが撃破され、星の危機が取り払われたことに、ウサミン星人たちは一斉に歓声を上げた。それを一身に浴びながら、オーブが大空に向かって飛び上がった。

 

「シュワッ!」

 

 

 ウルトラマンオーブから戻った紅ガイは、己を待つ仲間の少女たちの元へと戻ってきた。

 

「お疲れさまです、プロデューサーさん!」

「ああ」

 

 皆を代表して労った少女――天海春香にひと言答えたガイは、少女たちに尋ね返す。

 

「そっちはどうだ? 他の魔王獣の駆除は完了したか?」

「バッチリですよ!」

 

 真がぐっと親指を立ててウィンクした。

 

「六属性の魔王獣全て、退治に成功致しました」

「うふふ、これでウサミン星に平和が戻りますね」

「っていうかウサミン星ってほんとにあったんだ……」

 

 貴音、あずさ、響のひと言にガイは満足げにうなずく。

 

「みんな、よくやってくれた。それじゃあ後のことはこの星の住人に任せて、俺たちは本来のミッションの続きを……」

 

 と言いかけたガイだが――不意に妙な気配を感じ取り、弾かれたように空の一角を見やった。少女たちも釣られて顔を上げる。

 ガイたちの視線の先で、流星のようなものが一瞬走った。しかし普通流星は、地表から宇宙へは走らない。

 

「あれは、確か……!」

 

 何かに気がついた雪歩がつぶやくと、ガイがその先を察してうなずいた。

 

「どうやらこの事件、まだ終わりじゃなさそうだ。追いかけなきゃいけないみたいだな」

 

 そうと決めたガイたちは、グループを二つに分けた。

 

「それじゃあ行ってくる。俺たちが戻るまで、ミッションの方は頼んだぜ」

「うっうー! 分かりましたぁ!」

 

 六人の少女とともに、ウサミン星から飛んでいった『もの』を追いかけるチームに入ったガイに、彼らのミッションを進行するチームから代表してやよいが応じた。

 ガイとともに旅立つ組の律子は、伊織にあるものを渡す。

 

「ライトリングとカードよ。みんな、プロデューサーがいなくても頑張ってね」

「もちろんよ。そっちこそ油断したりしないでよね」

 

 律子がウルトラマンヒカリの協力の下に開発したオーブライトリングと複製したウルトラフュージョンカードを受け取りながら、伊織が不敵に微笑んだ。

 

「善は急げだ。みんな、俺の周りに集まれ。出発するぞ!」

 

 天に向けてオーブカリバーを掲げたガイが同じチームの少女たちに呼びかけた。亜美や真美、千早と美希がガイの元に集まっていく。

 

「それでは行ってくるであります!」

「後のことはよろよろー♪」

「私たちもしっかりと頑張るから」

「行ってきまーす! なの」

「「「「「「「行ってらっしゃーい!」」」」」」」

 

 すぐに旅立とうとしている美希たちを、残留する雪歩たちは笑顔で手を振りながら見送る。

 そして春香がガイに呼びかけた。

 

「準備完了です! 出発しましょう、プロデューサーさん!」

「よしッ! 行くぞッ!」

 

 春香たち六人がガイの背に手の平を置くと、ガイの掲げるオーブカリバーから光がほとばしり、その光に包まれてガイたちは一直線に宇宙へと飛び立っていった。

 向かう先は、宇宙の果ての更に遠くにある、異なる宇宙であった。

 

 

 × × ×

 

 

 総武高校の奉仕部の部室で、結衣が雪乃や八幡に質問を投げかけた。

 

「もうすぐ夏休みだけど、ゆきのんとヒッキーは夏休み何か予定とかある? どっか遊び行くとかさ」

 

 聞かれた二人は、さして面白くなさそうな顔で答える。

 

「私は、遊びに出かけるということはあまり……」

「俺は家でゴロゴロしてる予定だ。クソ暑い中外出ようっていう精神の方が理解できん」

「そんなの予定って言わないよっ!」

 

 ズビシッ! と八幡に突っ込む結衣。

 

「も~。せっかくの夏休みだってのにもったいないなぁ。来年は受験だし、高校の内に遊べるのは今年が最後なんだよ?」

「別にどう過ごそうが勝手だろ勝手。遊びに正解なんてもんはない」

 

 呆れる結衣に八幡は相変わらずのひねくれた言動で応酬。そんな取り留めのない会話をしていると、結衣がふと息を吐いた。

 

「……こうしてるとさ、何だか平和って感じがするよね。ちょっと前だったら、こんなこと思いもしなかったのに」

「まぁ、この一、二か月は激動の日々だったものね……」

 

 結衣のひと言に同意する雪乃。彼女たちは怪獣という存在が現実のものとなり、ウルトラマンジードに協力して戦いに身を投じることになったこれまでのことを振り返っている。

 

「でも最近は怪獣……いいえ、あのレイデュエスという男の蛮行がめっきりと減って、大分落ち着いているわよね」

 

 と雪乃がつぶやいた。

 融合獣に変身して街を襲う男、レイデュエス。その正体が明らかとなってのはもう一か月近く前のことだが、それから融合獣が出現した回数が激減したのだ。お陰で彼らは期末テストや、柔道部から持ち込まれた依頼などに集中できて助かっているのだが。

 その理由について結衣が語る。

 

「やっぱり、ゼナさんたちが見張ってくれてるお陰かな? それであの悪い奴も動きづらくなったんだと思うよ!」

「どんな理由にせよ、このままあの野郎がフェードアウトしてくれたら、俺たちだって危ない目をしなくて済んで、大助かりなんだがな……」

 

 そう八幡がため息を吐いた、その時、

 

「――生憎だが、世の中ってのはそう都合良く出来てないものなんだよ、君たち」

 

 突然、全く聞き慣れない男の声が部室に響いた。

 

「!!?」

 

 反射的に立ち上がる八幡たち。見れば、部室の隅にいつの間にか、黒いスーツの胸元に赤い薔薇を一輪挿した謎の男が立っていた。

 

「だ、誰……!?」

 

 雪乃と結衣は身の危険を感じ、咄嗟に八幡の元へと寄り集まる。三人に対してジードが警戒を促した。

 

『みんな、気をつけて! 普通の人間じゃないよ!』

「んなの見りゃ分かるぜ……!」

「はわわ……!」

 

 ペガもただならぬものを感じたのか、ダークゾーンから出てきて悲鳴をこぼした。

 

「失礼、勝手に上がらせてもらったよ」

「あなたは、誰……? レイデュエスの仲間?」

 

 雪乃が敵意を露わにしながら男をにらみつけると、男は妙に澄ました態度のままに名乗った。

 

「俺の名はジャグラスジャグラー。ちょっとしたさすらい者さ」

「ジャグラー……?」

「俺のことはどうでもいい。今重要なのは、この星に厄介事が持ち込まれてるということだ」

 

 ジャグラスジャグラーなる男の発言に、八幡たちは軽く驚きを見せる。

 

「厄介事……?」

「それってどういう……」

「下手をしたら、この星の存亡に関わるほどの内容だ」

 

 八幡の問い返しにジャグラーは言外に詳細を教えないことを示し、八幡たちにひと言告げる。

 

「このことは、この星を護るウルトラマン、ジードの君たちに伝えておくべきだと思ってな」

「……!」

 

 ジードのことを見抜かれている事態に、八幡は思わず装填ナックルに手を伸ばした。しかしジャグラーはなだめるように手の平を向ける。

 

「まぁ落ち着け。俺に君たちと事を構える意思はない。それより、この星に紛れ込んだあの女をすぐにでも捜し出すべきだぞ」

「女だって……?」

「話はそれだけだ。じゃあな」

 

 ジャグラーは一方的に話を打ち切り、闇に包まれながらその姿を消していった。空間移動でもしたのだろうか。

 八幡は今の男について、レムに質問をする。

 

「ジャグラスジャグラーって奴について、何か知らねぇか?」

[ジャグラスジャグラー。様々な宇宙で大事件を引き起こし、各公的機関から指名手配されている要注意人物です。危険度は高レベルと言えるでしょう]

 

 レムの回答に焦燥を見せる結衣たち。

 

「そんなのが、どうしてあたしたちの前に……。今言ってたことって、ほんとのことなのかな?」

 

 雪乃は顎に指を掛けて思案する。

 

「少なくとも、単なる悪戯で片づけるのはいけないわね……。でも、鵜呑みにするのもまた危険だと思うわ。私たちは、あの男の人となりを何も知らないのだから」

 

 警戒している三人に対して、ジードが指示を飛ばす。

 

『ジーッとしてても、ドーにもならねぇ! とにかく外に出て、怪しい人物が周辺にいないか捜してみよう。もちろん、さっきの男も』

「でも、どこを捜せばいいのか……」

 

 戸惑う結衣に雪乃が言い聞かせる。

 

「捜索すべき地点があるのなら、さっき口にしてるはずよ。それがなかったということは、多分この周辺……。ともかく、まずは行動してみましょう」

「う、うん! 分かった!」

「言ってる端から面倒事が飛び込んできやがったな……。けどやるしかねぇか……!」

 

 八幡はうんざりしながらも、行動しない訳にはいかずに、雪乃たちとともに部室を飛び出していった。

 



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だから、その人たちはTOPに立っている。(B)

 

 奉仕部にジャグラスジャグラーなる男が現れた、その少し前。

 レイデュエスたちが本拠地としている円盤を、ある人物が訪れていた。

 

「ほぉー……こいつはまた珍客が来たものだ」

 

 左右にオガレスとルドレイを控えさせながら、玉座に腰掛けているレイデュエスが興味深そうに目の前の少女をしげしげと観察した。

 美少女ではあるのだが、少し角度を変えただけで、年季の入った老女のようにも、それとは反対に生を受けたばかりの幼女のようにも見える、言い知れぬオーラを醸し出している不思議な少女。レイデュエスは彼女に対して告げる。

 

「噂は聞いているぞ。あちこちの宇宙で暴れ回って、相当危険視されているみたいだな――ビランキとやら」

 

 ビランキと呼ばれた少女は、コロコロと鈴のような明るい笑顔を見せながら返事する。

 

「その辺の凡人の評価なんてつまらないもの、私にはどうでもいいわ。道端の石ころほどの価値もないもの」

「はは、噂通り過激な性格みたいだな。で、この俺に何の用だ?」

 

 レイデュエスが質問すると、ビランキは相変わらずニコニコしながらこう告げた。

 

「あなたにやってもらいたいことがあるの」

「ほう? 俺に依頼とな」

 

 ビランキが片手を挙げると、虚空から三枚のカードが現れてその手中に握られた。

 

「倒してほしい奴がいるの。これあげるから、やって」

 

 何とも簡素な頼み方に、オガレスとルドレイは声を荒げた。

 

『貴様、このレイデュエス殿下に何と無礼な口の利き方だ!』

『超能力少女だか何だか知らんが、あまり礼を欠くようなら許しはせんぞ!』

 

 身を乗り出す二人を、当のレイデュエスがなだめる。

 

「構わん。それで、倒してほしい奴というのはどこの誰だ?」

 

 聞き返すと、ビランキはその詳細を話した。

 

「――多分この星に来てるはずだから、お願いね。それじゃあ!」

『あッ、おい!』

 

 用を済ますと、ビランキはルドレイが制止するのも待たず、空間の歪みを起こして円盤内からあっという間に消えていった。

 しばし呆気にとられたオガレスとルドレイだったが、我に返るとビランキに対して腹を立てた。

 

『全く、何と勝手な娘だ! どんな育ち方をすればああなるんだか』

『殿下、本当にあんな女の言う通りになさるのですか?』

 

 ルドレイに問われたレイデュエスは、ビランキから渡された三枚のカードをながめながら答える。

 

「まぁ、ブツを受け取った手前、無視するというのも道理にもとるからな。それに俺たちにとっても悪い話ではない。光の戦士――ウルトラマンを消すというのは」

 

 カードにはそれぞれ、額に赤いクリスタルを生やした怪獣が描かれている。それを見つめてニヤリをほくそ笑んだレイデュエスは、反対の手を懐に突っ込んだ。

 

「怪獣カードか……。ライザーがあるから不要のものだと思っていたが、こうして手に入ったからには使ってみるか」

 

 懐から抜いた手には、何かが握られていた。

 

「この、ダークリングをな……」

 

 掲げられた赤黒いリングを見つめ、レイデュエスの冷たい笑みが深まった――。

 

 

 × × ×

 

 

 ジャグラスジャグラーから告げられた「あの女」なる人物。その捜索を開始した八幡たち。ライハやAIBとも連絡を取り、三人はそれらしい人物の姿を求めて町中を巡回し始めた。

 本当なら別行動を取った方が効率はいいのだろうが、仮に敵が襲ってきた場合、個人単位では戦闘能力のない雪乃や結衣の危険が大きすぎる。そのため三人は固まって行動している訳なのだが……。

 

「けど……外に出てきたのはいいが、捜すったってどうすりゃいいんだ……? 外見のヒントすらねぇんだぞ……」

 

 八幡は早速途方に暮れていた。しかしそれは無理もないこと。ジャグラーから与えられた手掛かりは、性別だけ。これでどうやって捜し出せというのだ。

 

「今更そんなことを言っても仕方ないわよ。とにかく町行く人を観察して、怪しい点のある人に目星をつけましょう」

「怪しい点って言ってもなぁ……」

 

 やはり困り果てる八幡。そう言われたら、あらゆる人が怪しく見えてくる。

 

「もっとも性別の指定がなければ、一番の容疑者は比企谷くんで決まりなのだけれどね」

「今は冗談飛ばしてる場合じゃねぇだろうがよ」

「とにかく行こうよ! しゃべってても始まらないよ!」

 

 頭をかく八幡を結衣が促した。ジードとペガも申し出る。

 

『僕とペガだったら、普通の人間じゃない人も感覚で察知できるかもしれない』

『もちろん協力するからね! だから安心してよ、八幡!』

「まぁ、二人がそう言うんだったら……」

「あっ、比企谷くんは少し離れて歩いてちょうだい。学校外でもあなたと行動を共にしているところを誰かに見られて変な噂を立てられるなんてことになったら、人生初の不登校になってしまうかもしれないから」

「お前そこまで言うのは最早いじめだろ」

 

 何はともあれ、三人は行動開始。町を回って、道行く人をそれとなく観察して怪しい人間がいないか確かめていく。

 が、すぐに捜査は難航。どこを行けども、それらしい人物は影も見当たらない。

 

「うーん……それっぽい人、全然見つからないね」

「まぁ、そうそうすぐに発見できるとは初めから思っていなかったけれど」

 

 肩をすくめる雪乃と結衣。八幡は二人の少し後からついていきながら、ジードに問いかける。

 

「そっちは何か気配とか掴めてねぇのか?」

『いや、今のところは何も……ん?』

「どうした?」

 

 ジードが不意に怪訝な声を発したその時に、雪乃たちが曲がり角に差し掛かる。すると、

 

「……ビランキいないの。どこに行ったんだろ」

「一度この町に立ち寄ったのは間違いないはずよ」

「早いところ見つけないと……また何かしでかすかも……」

 

 曲がり角の陰から三人分の人影がぬっと出てきて、雪乃たちと出会い頭にぶつかった。

 

「きゃっ!?」

「わっ! たたっ!?」

 

 どんがらがっしゃーん!

 と大袈裟な音を立てて、雪乃たちとぶつかった相手がしりもちをついた。

 

「あったたたぁ……」

「大丈夫なの?」

「もう春香ったら……いつまで経ってもドジなところが治らないんだから」

「ごめんごめん……」

 

 頭の左右にリボンを結んだ少女が、連れの少女たちの手を借りて立ち上がる。

 

「あなたたちもごめんね。大丈夫だった?」

「は、はい……」

 

 リボンの少女に手を貸されて起き上がった雪乃と結衣だが、何故かそのままぽーっ……と立ち尽くしてしまう。

 

「お、おい。大丈夫か?」

 

 流石に何事かと心配した八幡が近づいていくと、相手の少女たち三人の視線がこちらに向いた。

 その途端、八幡もうッ、と思わず息を詰まらせた。三人の少女が、それこそ目が覚めるような美しさであったからだ。――顔の作りならば雪乃たちだって負けてはいないレベルなのだが、纏う雰囲気が、全く異なる。同じ人間とは思えない、天使か女神かと錯覚させるような、恐ろしいほどに神々しいオーラなのだ。上手くは説明できないが、ただそこにいるだけで常人を圧倒する「何か」がある。自分たちとは根本的な部分から違う、そんな強烈な魅力がある――。

 一方のリボンの少女、青みの掛かった長髪の少女、金髪の少女も、八幡たちの立ち姿を観察し、何やらしげしげとうなずいていた。

 

「あなたたち……そっか……」

 

 何だかは分からないが、納得したように顔を上げたリボンの少女が、八幡たちに名乗った。

 

「私は天海春香! こっちは如月千早ちゃんと、星井美希」

「よろしく」「よろしくなのー!」

「あなたたちのお名前は?」

 

 急に問われて、虚を突かれた八幡たちは咄嗟に名乗り返した。

 

「ひ、比企谷八幡です……」

「雪ノ下雪乃……」

「由比ヶ浜結衣、です……」

「比企谷くんたちか……。もしかして、誰か人を捜してるんじゃないかな?」

 

 春香という少女にそう尋ねられ、結衣は度肝を抜かれた。

 

「どうして分かったんですか!?」

「大した理由じゃないよ。ただ、そう思っただけ」

 

 春香は朗らかに笑いながら、不可思議な回答をした。それから千早が申し出る。

 

「私たちも少し人捜しをしてるところなの。あなたたちが捜してる人も、女性じゃないかしら」

「そ、そうですけど……」

「きっと同じ人だと思うわ。それじゃあ一緒に行動しましょう。その方がお互い心強いと思うわ」

「えっ、あの……」

「決まりなのっ! それじゃあ一緒に行こ? ほらほら!」

 

 戸惑う雪乃たちに構わず、美希たち三人は半ば強引に八幡たちと同行し、自然に先導を始めた。八幡たちは彼女たちの押しの強さに逆らえず、流されるままに言う通りになっていた。

 

「ねぇ……あの人たち、何なのかな……」

 

 徐々に我に返る結衣が、前を行く三人の背中を見つめながら雪乃と八幡にこそっと尋ねかけた。

 

「この辺じゃ見ない人だよ。あんなに目を引く人、見かけたら絶対忘れないもん……」

「確かに……ある意味三浦が足元にも及ばないくらいだもんな……」

 

 呆気にとられたようにうなずき返す八幡。

 

「もしかして……さっきの人が言ってたのって、あの人たちじゃないの……?」

 

 訝しむ結衣だが、雪乃は異を唱えた。

 

「私も一瞬そう思ったけれど……複数人だったら、複数形で話していたはずよ。それに、向こうから接触してくるのならもう少し自然さを装うのではないかしら」

「でも、やっぱりあの人たちも普通じゃないよ……。何て言うか、芸能人オーラ! 的なのがバリバリだし! あんなに強烈な人たち、見たことないかも」

 

 その言葉には、雪乃も八幡も同意であった。前を行く少女たちは、後ろ姿だけでも思わずほれぼれしてしまいそうであるのだ。

 

「そっちはどう思う?」

 

 八幡は春香たちに気取られないよう気をつけながら、ジードとペガに尋ねた。すると二人とも、八幡たちと同じようなことを述べる。

 

『僕もただの人じゃないと思うけれど……悪い感じは全然しないよ。むしろ逆……傍にいるだけで、気持ちが温かくなるような……何だか不思議な感じだ……』

『ペガも……宇宙人には見えないんだけれど……。あんなすごい雰囲気を醸し出す地球人っているのかな……』

 

 とにかく妙な感覚に襲われて、実に不思議がっている八幡たちであったが――その時に、春香たちが不意に足を止めた。

 

「? どうしたんですか?」

 

 怪訝に問うた結衣たちの手を――春香たちは突然引っ張り出す。

 

「走って!」

「え、えぇっ!?」

 

 訳が分からないが、引っ張られるままに駆け出す結衣たち。その直後――三人のいた場所に光弾が降ってきて、爆発を引き起こした。

 

「なッ……!?」

「こっち!」

 

 絶句する八幡たちを連れながら、追うように飛んでくる光弾から逃げていく春香たち。八幡はここでようやく、敵の攻撃だと理解した。

 

「こんな町中で堂々と……!」

 

 舌打ちする八幡。しかし同時に疑問も生じる。

 

『その子たち、どうして僕よりも早く攻撃に気づいたんだ……!? しかも慣れてる感じだし……!』

 

 ジードがその疑問をそのまま口にした。普通の地球人が、超感覚を持つジードよりも鋭敏な感覚を持っているなど考えられない。ますます春香たちの正体が怪しくなってくる。

 その疑問に答えが出ないまま、一行は開けた公園へと飛び込んでいった。

 

「ここなら周りの被害はひとまず気にしないでいいかな……」

「今撃ってきた人たち、そろそろ出てきなさい! 近くにいるのは分かってるわ!」

 

 千早がとてもよく通る声で呼びかけると、一行の前に新たに三人分の影が現れる。内の二体分は異形だ。

 

「フッフフフ……久しぶりとでも言っておこうかな? ちょっと激しめな再会の挨拶だったかな」

 

 その正体は、バド星人オガレスとゴドラ星人ルドレイ。それを引き連れた、レイデュエスだ!

 

「やっぱりあいつら……!」

「全っ然、迷惑ってもんを考えねぇな……!」

 

 レイデュエスの顔をひと目見るなり身構える八幡たち。――だが、そんな三人をかばうように、春香たちが前に回った。

 

「比企谷くんたちは下がってて! 危ないから!」

「へ!? いや危ないのはそっち……!」

 

 流石に焦る八幡たち。彼女たちが何者かは知らないが、いくら何でもあの危険人物に相対させるのはまずい。命が危ない。

 だが振り返る美希たちの顔には、異常な状況を前にして少しの恐怖の色もなかった。

 

「だーいじょーぶ! ミキたちに任せてなの!」

「いや任せてって言われても……!」

「おい、こっちを無視してるんじゃないぞ! そんな余裕があるのか!?」

 

 放置して話し込んでいるのに機嫌を害したように、レイデュエスがブラッドスタッフをこちらに向けて怪光弾を飛ばしてきた!

 

「うわッ!?」

 

 思わず身をすくめた八幡たちだったが――春香は焦らず、怪光弾に対して一枚のカードをかざした。

 

『ヘアッ!』

 

 そのカードから生じたバリアが怪光弾を受け止め、はね返した!

 

「何ッ!?」

 

 咄嗟に戻ってきた光弾をかわすレイデュエスたち。オガレスは春香たちの顔を見やり、わなわなと震え出した。

 

『あの娘たち……ま、まさかと思ったが……』

 

 八幡たちは春香がかざしたカードの絵柄を目にして、あっと息を呑んだ。

 

「ウルトラマン……!?」

 

 それは、ジードの所有しているカプセルの一つと同じ、ウルトラマンの姿が描き込まれていた。そして今の超能力……まさか……。

 体勢を立て直したレイデュエスは忌々しげに春香たちをにらむ。

 

「あの女どもは何だ」

『ご存じ、ないのですか!?』

 

 途端、オガレスが全く信じられないように問い返してきた。

 

「は……?」

『彼女たちは辺境の星からスタートし、瞬く間に宇宙中のあらゆる種族の心を掴み、今や全宇宙に愛と平和をもたらす使者としてその名を轟かせる宇宙トップアイドル、765エンジェルズです!!』

 

 オガレスの熱弁に、八幡たちも仰天。

 

「宇宙トップアイドル!?」

「何それ!?」

「あはは、ばれちゃったかぁ」

 

 春香は若干照れくさそうに頭をかいた。

 一方でレイデュエスは、オガレスに胡乱な目を向ける。

 

「……お前やけに詳しいな。まさか……」

 

 オガレスはやや興奮した様子で、春香たちの写真で飾られた記録媒体を取り出した。

 

『私も春香ちゃんたちのライブを見て以来、すっかり虜で。あッ、すいませーん! ちょっとこれにサインをげぶぅッ!』

 

 レイデュエスから顔面に肘鉄を叩き込まれ、オガレスは転倒。それをルドレイが呆れた目で見下ろした。

 

「誰だろうと知ったことかッ! この俺の邪魔をする奴は全員――ぐぅッ!?」

 

 急に、レイデュエスの台詞が途切れた。それと同時に、この場に流れてくる穏やかな、しかし少し寂寥感のあるメロディ。

 

「ハーモニカの音色……?」

 

 呆気にとられる八幡たち。場違いな音楽はもちろんのこと、それによってレイデュエスたちが頭を押さえて悶え苦しみ出したからだ。

 

『うぅッ!? 苦しい……!』

『頭が割れるようだ……!』

「どこだッ! どこから……あそこだッ!」

 

 レイデュエスがスタッフで指した先、公園の時計台の陰から、テンガロンハットとレザージャケットの目立つ男性がハーモニカを吹きながら姿を見せた。

 

「プロデューサーさん!」

「プロデューサー!」

「ハニー!」

 

 八幡たちが誰だと思うよりも早く、春香たちは男性をそれぞれそう呼んだ。

 男性はハーモニカを口から離すと、レイデュエスに向けて不敵に言い放った。

 

「よしな坊主。火遊びはみんなの迷惑だぜ」

「うるさいッ! 次から次へと……オガレス、ルドレイ! やれッ!」

『は、ははぁッ!』

 

 苛立ちを募らせたレイデュエスの命令で、オガレスとルドレイが一気に男性に襲い掛かっていく。それを真っ向から迎え撃つ男性。

 

「はぁッ!」

『ぬわぁッ!?』

 

 男性はオガレスのメリケンサックをさばくと腹に連続パンチを入れて返り討ちにし、ルドレイのゴドラガンは何と素手で弾き、自身も光弾を飛ばしてルドレイを吹っ飛ばした。

 

「強っ……!?」

 

 驚愕する結衣たちだが、春香たちの方はそれが当然とばかりの表情。

 一方で部下が瞬く間にのされたレイデュエスは、ギリリと奥歯を食いしばった。

 

「その力、そうか貴様が……だったらこいつらの出番だッ!」

 

 レイデュエスがブラッドスタッフから持ち替えたのは、赤黒いリング。それをに男性が目を見張る。

 

「ダークリング!」

 

 レイデュエスは更に、三枚のカードを一辺にリングの間に突っ込んだ。

 

「魔王獣ども! ショウタイムだッ!!」

[マガバッサー!]

[マガジャッパ!]

[マガオロチ!]

 

 三枚のカードは闇のエネルギーとなって飛んでいき、町中に巨大怪獣の姿となって召喚される!

 

「ミィィィィ――――! プォォォ――――――!」

「グワアアアァァァァァ! ジャパッパッ!」

「グアアァァァ! キィィィヤアアアァァァッ!」

 

 それぞれ鳥型、半魚型、竜型のおぞましいオーラの怪獣たち。これにジードとペガが驚きの声を発する。

 

『怪獣を召喚した!』

『しかもライザーの力じゃないよ!』

 

 春香たちの方は、男性の元へと駆け寄っていった。

 

「プロデューサーさん! きっとビランキがウサミン星でカードにしたものです!」

「もうこの星の侵略者と接触してたとは……」

「ああ……。しかも三体とはビランキめ、やってくれる……。こいつはちょっと厄介だな……」

 

 そう唱えた男性は、八幡の方へと近寄ってきて呼びかけた。

 

「少年。君が、いや君の中にいるのがウルトラマンジードだな」

 

 言い当てられ、ジード自身が驚愕した。

 

『どうして僕のことを……!? あなたは……!?』

「こいつを見てもらうのが一番分かりやすいと思う」

 

 男性が取り出したのは、レイデュエスが使ったものと似ているが、こちらは正反対に白く清純な気を放つリングであった。それを目の当たりにして再度驚くジード。

 

『まさか……ウルトラマン!』

「ウルトラマン!!」

 

 八幡たちも釣られて驚嘆。つまり春香たちは、自分たちのように、ウルトラマンの仲間であった訳だ。

 男性は八幡たちに誘いかける。

 

「君たちもウルトラマンなら、ここは共同戦線と行こうぜ」

『……!』

 

 迷っている暇はない。ジードたちは無言で了承し、フュージョンライズの態勢に入る。

 リングを持つ男性の左右には、春香と美希が並んでカードを取り出した。

 

「ウルトラマンさんっ!」

『ユーゴー!』

[ウルトラマン!]『ヘアッ!』

『シェアッ!』

 

 春香と雪乃が、ウルトラマンのカードとカプセルをリングと装填ナックルにセットする。

 

「ティガっ!」

『アイゴー!』

[ウルトラマンティガ!]『ヂャッ!』

『フエアッ!』

 

 美希は八幡たちの知らないウルトラ戦士のカードを、結衣はベリアルのカプセルをセット。

 

「光の力、お借りしますッ!」

『ヒアウィーゴー!!』

 

 男性は二枚のカードが通されたリングを天高く掲げ、八幡はジードライザーでカプセルをスキャンする。

 

[フュージョンアップ!]

[フュージョンライズ!]

 

 リングとライザーがそれぞれ叫び、男性と八幡が仲間たちとフュージョンしていく。

 

『シェアッ!』『タァーッ!』

『ジィィィ―――――――ドッ!』

[ウルトラマン! ウルトラマンベリアル!]

 

 二人ずつのウルトラ戦士のビジョンと重なり合った二人のウルトラマンが、巨大化しながら飛び出していく!

 

[ウルトラマンオーブ! スペシウムゼペリオン!!]

[ウルトラマンジード! プリミティブ!!]

 

 そして今にも町を焼き尽くそうとしていた怪獣たちの前に、ウルトラ戦士タッグが堂々と立ち上がった!

 

 

 レイデュエスたちの出現の報を受けて駆けつけたライハが見上げたのは、今まさに変身を遂げたジードたちの背中。

 

「ジードと……もう一人、ウルトラマン……!」

 

 初めて目にするウルトラマンの名前を、側に来た千早が告げた。

 

「あの人はオーブ。私たちのウルトラマン……ウルトラマンオーブです!」

 



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だから、その人たちはTOPに立っている。(C)

 

『俺たちはオーブ! 闇を照らして、悪を撃つ!!』

『「決めるぜ……覚悟!」』

 

 三体の魔王獣と対峙した二大ウルトラ戦士、オーブとジード。その内部の超空間から、春香と美希が八幡たちへ呼びかける。

 

『「あなたたちもウルトラマンになって戦うんだね!」』

『「一緒に頑張ろうね♪」』

 

 フレンドリーに呼びかけた二人に対して、結衣は衝撃を受けていた。

 

『「あれ!? 向こう、三人どころかあと十人は入っても余裕そうなんだけど!?」』

 

 ジードの超空間は三人でキツキツなのに、オーブの超空間はかなり広々としているのだ。

 

『「同じウルトラマンなのに、どうしてこれだけ違うのかしら……」』

『い、いいじゃん別に! よそはよそ、ウチはウチ!』

『「そういう問題かしら?」』

 

 さりげなく不満を漏らす雪乃に言い返したジードに、オーブが注意を促す。

 

『後輩たち、あんまりつまらないことに気を取られてるんじゃないぜ。来るぞッ!』

 

(♪スペシウムゼペリオンのテーマ)

 

「グアアァァァ! キィィィヤアアアァァァッ!」

「ミィィィィ――――! プォォォ――――――!」

「グワアアアァァァァァ! ジャパッパッ!」

 

 話している間にマガオロチ率いる魔王獣軍団が飛び掛かってきて、オーブとジードは迎え撃つ姿勢を取った。

 

「ハァッ!」

 

 ジードはこちらから敵の間に切り込んでいって、平手を振るいマガバッサーを狙って攻撃を仕掛ける。

 

「ミィィィィ――――! プォォォ――――――!」

 

 しかし飛行できるマガバッサーは浮き上がってかわし、ならばとマガジャッパに狙いを移す。が、

 

「グワアアアァァァァァ! ジャパッパッ!」

「ウゥッ!?」

 

 マガジャッパに吐息を浴びせられると、途端にジードの動きが止まって大きくのけ反った。

 

『「うげぇッ!? な、何つぅ臭いだよ……!」』

『「は、鼻が曲がるわ……!」』

『「うええぇ~っ! サイアク~!!」』

 

 マガジャッパの臭いが常軌を逸したひどさだったからだ。悪臭は八幡たちの嗅覚にも襲い掛かり、ジードはとても耐えられずに悶絶。

 

「グアアァァァ! キィィィヤアアアァァァッ!」

「ウワァァッ!」

 

 そこにマガオロチの尻尾が飛んできて殴り飛ばされた。あまりの破壊力にジードは一撃で倒れ伏し、身体が痙攣を起こす。

 

「ミィィィィ――――! プォォォ――――――!」

 

 更にマガバッサーが急降下してきて踏み潰そうとしてくる。とても回避できず、八幡たちは咄嗟に目をつぶったが、

 

「シェアァァッ!」

「ミィィィィ――――! プォォォ――――――!」

 

 この場にオーブが飛び込んできてマガバッサーにアッパーを決め、弾き飛ばしてジードを助けた。彼を背にかばいながら注意する。

 

『しっかりしな。戦いはまだ始まったばっかだぜ』

『す、すみません……』

 

 ジードが立て直すまでの間、オーブが怪獣たちを相手取って時間を稼ぐ。

 

「グアアァァァ! キィィィヤアアアァァァッ!」

「グワアアアァァァァァ! ジャパッパッ!」

「シェアッ!」

 

 マガオロチが太い腕を振り回して襲ってくるが、オーブは身体の青い部分を輝かせることで上げたスピードで回避。マガジャッパの臭気も浴びず、たちまち背後を取る。

 振り返ろうとしたマガジャッパだがオーブは次に赤い部分を光らせて、怪力を発揮しながらマガジャッパを捕まえて、

 

「オリャアァァッ!」

 

 マガジャッパを後ろへ投げ捨てた! 放り出されたマガジャッパはマガバッサーと激突し、二体は地面に墜落する。

 

「グワアアアァァァァァ! ジャパッパッ!」

「ミィィィィ――――! プォォォ――――――!」

『「すごい……数の差を物ともせず翻弄しているわ……」』

 

 怪獣三体を一度に相手して、完全にかき乱しているオーブに感服する雪乃たち。そんな三人に春香と美希が告げる。

 

『「闇雲に飛び込んでも駄目だよ! 相手の動きをよく見て!」』

『「相手のリズムに合わせて、こっちのペースに持ってくの!」』

 

 マガオロチの打撃を全てかいくぐりながらアドバイスする二人。マガオロチは痺れを切らしたように口に電光を溜めるが、それを予測してオーブは両腕を頭上と左方にピンと伸ばした。

 

「グアアァァァ! キィィィヤアアアァァァッ!」

「「『スペリオン光線!!!」」』

 

 マガオロチの吐いてきた迅雷を、オーブは十字に組んだ腕からの光線で相殺。光線と電撃が衝突して爆発が生じるが、オーブはノーダメージだ。

 

『「すっごい……! あの人たち、戦い方が上手……!」』

『「ああ……」』

『「私たちの比ではないくらい、戦い慣れしているみたいね……」』

 

 オーブたちの連携の良さに三人はますます感心。

 しかし怪獣側もさるもので、こちらになかなか反撃のチャンスを与えない。特にパワーもスピードもあるマガオロチのラッシュに押されて、オーブたちは思うように攻撃できないでいる。

 

「グアアァァァ! キィィィヤアアアァァァッ!」

『ちッ、相変わらず厄介だな……!』

 

 舌打ちするオーブ。と、その時、戦いを見守っているライハと千早の元に一台のマイクロバスが停車して、新たな三人の少女が下りてきた。

 

「律っちゃん、戦いはもう始まってるよ!」

「あっ、千早お姉ちゃん! ここにいたんだ!」

「亜美、真美! 律子!」

 

 名前を呼ばれて振り返った千早が、三人をそう呼んだ。眼鏡を掛けた律子という少女は、マガオロチと戦うオーブを見上げる。

 

「プロデューサー、援護しますよ!」

 

 そう言いながら取り出したのは、大型の銃のような装置。それを担いでマガオロチに向ける。

 

「ハイパーSAPガン、発射!」

「いっちゃえ律っちゃーん!」

 

 亜美真美の応援の下、装置から白い弾丸が発射され、弧を描いてマガオロチの頭上に到達。そこで破裂するとマガオロチに大量の粉のようなものが降り注ぐ。

 それを浴びたマガオロチの上半身がカチカチに固まって、身動きが取れなくなった!

 

「!!?」

「大成功!」

「やったーっ!!」

「すごい……!」

 

 マガオロチの動きを封じたことに律子たちは喜び、ライハは驚嘆。

 律子が作った好機にオーブたちがいよいよ反撃に出る!

 

『今だ! まずは周りの奴らを撃破するぞ! 遅れるなよ後輩!』

『は、はい!』

 

 オーブとジードは再びフュージョンアップ&フュージョンライズを行い、形態をチェンジする。

 

『「タロウさんっ!」』『ユーゴー!』

[ウルトラマンタロウ!]『トァーッ!』『ダーッ!』

『「メビウスっ!」』『アイゴー!』

[ウルトラマンメビウス!]『セアッ!』『イヤァッ!』

『熱い奴、頼みますッ!』『ヒアウィーゴー!!』

[フュージョンアップ!][フュージョンライズ!]

 

 オーブがタロウとメビウス、ジードがセブンとレオのビジョンと重なり合う。

 

『トワァッ!』『タァッ!』

『ジィィィ―――――――ドッ!』

[ウルトラセブン! ウルトラマンレオ!]

[ウルトラマンオーブ! バーンマイト!!]

[ウルトラマンジード! ソリッドバーニング!!]

 

 二人のウルトラ戦士が炎を吹き飛ばし、灼熱の戦士、バーンマイトとソリッドバーニングに変身した!

 

(♪バーンマイトのテーマ)

 

『紅に燃えるぜ!!』

『「燃やすぜ……勇気!」』

 

 ジードは頭頂部のスラッガーに手を掛けながらマガジャッパに向き直る。

 

『「どんだけ臭くとも、遠隔攻撃なら関係ねぇよな!」』

 

 ジードスラッガーを投げ飛ばしてコントロールし、マガジャッパの身体を切りつけていく!

 

「グワアアアァァァァァ! ジャパッパッ!」

 

 オーブは高々と跳躍してマガバッサーに飛び蹴りを繰り出した。

 

「セェアァッ!」

「ミィィィィ――――! プォォォ――――――!」

 

 オーブのキックをもらって大きく吹っ飛ばされるマガバッサー。そちらが立て直さない内に、オーブはジードと並んでマガジャッパに狙いを定める。

 

『よし、行くぜッ!』

『はいッ!』

 

 オーブは炎のシンボルが描かれた胸元に火炎を溜め、ジードは右腕にエネルギーを集中。そして、

 

「「『ストビュームバースト!!!」」』

「『ストライクブースト!!」』

 

 二人の火炎弾と光線がマガジャッパに命中! 一瞬の内に粉々に爆散させた!

 

『「ふぅ……汚物は消毒だな」』

『「まだひと息吐く時間じゃないよ! 今度はあっち!」』

 

 マガジャッパを撃破したが、休む暇もなくマガバッサーが滑空しながら猛然と迫ってくる。

 

「ミィィィィ――――! プォォォ――――――!」

 

 ジードがエメリウムブーストビームで迎え撃ったが、マガバッサーは上昇して回避。その素早い動きを捉えるのは困難そうだ。

 

『こっちもスピードを上げてくぜ! 出来るな?』

『もちろんです!』

 

 オーブとジードはスピードに優れた形態に切り替えていく!

 

『「ジャックさんっ!」』『ユーゴー!』

[ウルトラマンジャック!]『ジェアッ!』『テヤッ!』

『「ゼロっ!」』『アイゴー!』

[ウルトラマンゼロ!]『セェェェアッ!』『タァッ!』

『キレのいい奴、頼みますッ!』『ヒアウィーゴー!!』

[フュージョンアップ!][フュージョンライズ!]

『ヘッ!』『テヤッ!』

『ジィィィ―――――――ドッ!』

[ウルトラマンヒカリ! ウルトラマンコスモス!]

[ウルトラマンオーブ! ハリケーンスラッシュ!!]

[ウルトラマンジード! アクロスマッシャー!!]

 

 オーブとジードはそれぞれ青い姿、ハリケーンスラッシュとアクロスマッシャーへと再三の変身!

 

(♪ハリケーンスラッシュのテーマ)

 

『光を越えて、闇を斬る!!』

『「見せるぜ……衝撃!」』

 

 変身の直後にオーブは穂先が二又に分かれた槍型の武器、ジードはジードクローを召喚する。

 

『オーブスラッガーランス!』

『ジードクロー!』

 

 それぞれの得物を握り締めると、空を縦横無尽に駆け巡るような動きでマガバッサーに飛び掛かっていった。

 

「シェアッ!」

「ハァッ!」

「ミィィィィ――――! プォォォ――――――!」

 

 マガバッサーはこちらを取り囲むような動きで高速で切り刻んでくる二人の連携によけることも逃げることも叶わず、なすがままにやられる。

 そしてオーブとジードは武器のレバーとトリガーを二回引き、必殺攻撃を仕掛ける。

 

「「『ビッグバンスラスト!!!」」』

『コークスクリュージャミング!』

 

 スラッガーランスの突き刺しと回転するジードクローの一撃を叩き込まれ、マガバッサーもまた爆散させられた。

 華麗に着地するオーブとジード。しかしここでマガオロチが拘束を砕いて自由になる。

 

「グアアァァァ! キィィィヤアアアァァァッ!」

 

 同時にウルトラ戦士たちも変身の制限時間が近づき、カラータイマーが鳴り出した。オーブはジードへと助言する。

 

『奴に半端な攻撃は無意味だ。強烈な一撃を叩き込んでやれ!』

『分かりました!』

 

 二人は四度目の変身を行う!

 

『「ギンガさんっ!」』『ユーゴー!』

[ウルトラマンギンガ!]『ショオラッ!』『セェアッ!』

『「エックスっ!」』『アイゴー!』

[ウルトラマンエックス!]『イィィィーッ! サ―――ッ!』『ドゥアッ!』

『痺れる奴、頼みますッ!』『ヒアウィーゴー!!』

[フュージョンアップ!][フュージョンライズ!]

『シュワッ!』『トワァッ!』

『ジィィィ―――――――ドッ!』

[ウルトラマンゼロ! ウルトラの父!]

[ウルトラマンオーブ! ライトニングアタッカー!!]

[ウルトラマンジード! マグニフィセント!!]

 

 オーブとジードは閃光を纏いながら、ライトニングアタッカーとマグニフィセントにフュージョンを遂げた!

 

(♪ライトニングアタッカー)

 

『電光雷轟、闇を討つ!!』

『「守るぜ……希望!」』

「グアアァァァ! キィィィヤアアアァァァッ!」

 

 マガオロチが二人に向けて迅雷を吐いて攻撃してくるが、オーブたちはバリアを張って防御。そして腕と角から電撃を放ってやり返した。

 

「テヤッ!」

「ドォッ!」

「グアアァァァ!」

 

 二人分の攻撃を食らったマガオロチの身体が一瞬麻痺した。その隙にオーブは空中に飛び上がり、ジードは両腕にエネルギーを充填する。

 

「「『アタッカーギンガエックス!!!」」』

「『ビッグバスタウェイ!!」』

 

 四肢をピンと伸ばしたオーブから電撃光線が放たれ、ジードは最大級の光線を発射。二人の渾身の必殺技がマガオロチに命中!

 

「キィィィヤアアアァァァッ!!」

 

 マガオロチは肉体の内側から光が溢れ、破裂するように大爆発を起こして消滅していった。

 オーブとジード。力を合わせて魔王獣軍団を全滅させた二人のウルトラ戦士は、顔を見合わせてうなずき合うと、大空高く飛び上がって町を去っていった。

 

「シュワッ!」

「ダァッ!」

 

 

 ――しかしこの時、レイデュエスが空のカプセルを掲げ、倒されたマガオロチのパワーをその中に吸収させていた。

 

『グアアァァァ! キィィィヤアアアァァァッ!』

 

 表面にマガオロチの絵が刻まれ、新たな怪獣カプセルが作り出された――。

 

 

 × × ×

 

 

 戦闘終了後、八幡たちはゼナも交えて、ウルトラマンオーブ=紅ガイとその仲間の少女たちを星雲荘に招き、円卓を囲んで互いの情報を交換し合った。

 

「そっか……。みんなは悪い人に襲われて、普通の高校生だったところをウルトラマンとして戦うことになったんだね」

「いきなり非日常に身を置くことになって、さぞ大変だったでしょう」

 

 春香や律子らは八幡たちの身の上に同情したが、結衣はブンブンと手を振った。

 

「いやいやいや……そっちの方がずっと大変な経験してるじゃないですか! それこそこっちの何倍も!」

「現在の状況にあってなお、にわかには信じがたい話ですね……」

 

 冷や汗を垂らしながらポツリとつぶやく雪乃。彼女らジード側が皆あんぐりするほど、オーブ側……『765プロ』の経緯は波乱万丈であった。

 まずは全宇宙を救う使命を与えられた勇者ウルトラマンオーブとなった紅ガイから始まり、並行宇宙の地球でアイドルの卵だったのをガイとともに星を滅ぼす魔王獣と戦う道を歩むことになった春香たちの日々。いくつもの苦闘を乗り越え、限界を超え、彼女たちは単なるオーブの補佐を超越して「光」となった。そしてアイドルの頂にも立ち、遂には……。

 

「色々なものを限界突破しちゃって、気がつけば兄ちゃんと一緒に宇宙を駆け巡るようになったんだよねー」

「もうたくさんの事件を解決したよねー。ミステラー星とアテリア星の戦争を止めたりとか、復活した根源的破滅招来体をやっつけたりとか、ゴールド星を消そうとしてたグリーザに立ち向かったりとか」

「ええ……どれも楽な戦いじゃなかったけれど、数え切れない人たちが笑顔になって、とても充実した日々だったわ」

 

 しみじみと語る亜美、真美、千早たちの言に、八幡たちは唖然。

 

「あ、あの……皆さん地球人なんすよね? 一体今何歳なんすか……?」

「あら比企谷くん、女の子に年齢の話はしちゃいけないのは常識よ?」

「それに何度も時空超えてるし、歳なんてもう数えられないの」

「俺たちのレベルになると、年齢なんて最早意味のない概念だからな」

 

 律子や美希、ガイたちがアハハと笑い合う。八幡たちはそのノリに到底ついていけなかった。

 

『す、すごい話しする人たちだなぁ……』

「とても同じ地球人だとは思えない……」

『AIBでも史上最高のアイドルだとか噂されていたが、想像以上だな……』

「すっごいな~……! ペガも皆さんみたいに立派になりたい!」

 

 ジードやライハ、ゼナも呆然としている始末。ただペガだけは、春香たちに憧れの眼差しを送っていた。

 ここで結衣、ガイにからかうような目を向ける。

 

「でも紅ガイさん、プロデューサーとか言ってこんな綺麗な人たちに囲まれて、すっごい幸せ者ですね~。とべっち辺りが聞いたらすごい羨ましがりそう!」

 

 更には八幡が下世話な話を口にした。

 

「実は誰かとスキャンダラスな関係にあったりするんじゃないですか? アイドルってそういうの多いとよく聞きますしね」

「こら八幡。初対面の人にそれは失礼でしょ」

 

 ライハがぴしゃりとたしなめたが、春香は何でもないことのように答えた。

 

「そうだね……。正直に言うと、プロデューサーさんに対しては恋愛感情もあるかな。私だけじゃなくて、私たちは」

「えっ!?」

 

 結衣が一番強く興味を引かれた。しかし、

 

「でも……私たちの絆はもう、『恋愛』という段階を超えてるの。喩えて言うなら、みんな家族、仲間……それ以上に、みんなで『一つ』。だからもう特別な関係にあるとも言えるし、特別な関係じゃないとも言えるかな」

 

 春香の言葉に仲間たちはうんうんとうなずいている。ガイもまた、当たり前という風に平然と受け止めていた。

 

「……何だか難しいこと言いますね……」

 

 春香たちの超然とした態度に圧倒される結衣たち。だがしかし、八幡だけは、まるで妬むかのような視線を返した。

 

「絆だとかそんな綺麗なことばっか言って……どこまでホントのことなんですかね」

『ちょっと八幡、何でそんなことわざわざ……』

 

 ジードもたしなめようとしたが、それより早く春香が八幡に笑顔を見せた。

 

「流石に信じられないかな。だけど、本当のことだよ。私たちはみんな――どこまでも信頼し合ってるの」

 

 パァァ、とまばゆく輝くような見事な笑顔。それに八幡は――。

 

「ぐわああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

 突然椅子から転げ落ちて顔を押さえながらジタバタのた打ち回った。

 

「ど、どうしたの!?」

「ちょっとヒッキー!?」

 

 仰天する春香たち。結衣たちも目を丸くしていると、八幡はかすれた声で発した。

 

「だ、駄目だ……。俺には、俺にはまぶしすぎるぅ……! 直視してられねぇ……!」

「……比企谷くんは吸血鬼か何かだったのかしら……」

 

 流石の雪乃も心の底から呆れ返っていた。春香たちも若干引きつった苦笑を浮かべる始末。

 そんな八幡のオーバーリアクションがあったりもしたが、ここでガイが重要な話を切り出した。

 

「ところで、君たちの前にジャグラスジャグラーって名乗った奴が現れたって言ってたな」

「はい……」

「そうか……。やっぱりあいつもビランキを追ってるのか」

 

 八幡が椅子に座り直して聞き返す。

 

「ビランキって? どういうことですか?」

「ひと言で言うなら、暴走しがちな困った超能力少女だ。こいつがまた何回も迷惑な事態を引き起こしててな……。今回の件も、あいつが一枚噛んでる痕跡があるんだ」

 

 眉をひそめながらそう語るガイ。

 

「君たちの言ったレイデュエスって奴……ダークリングを持ってた奴が使った怪獣カードも、きっとビランキが渡したものだろう。きっとこれで終わりじゃないだろうな……」

 

 

 × × ×

 

 

 レイデュエスは地上で隠れ家にしている廃ビルに身を潜めながら、作成したマガオロチカプセルを摘み上げながらニヤニヤとほくそ笑んでいた。

 

「こいつはまたいいものを手に入れたもんだ……! 星を食らう獣の暗黒のエナジー、尋常なものじゃない……!」

 

 言いながらもう片方の手で、別のカプセルを手に取ってマガオロチカプセルと並べた。

 

「こいつなら、今まで組み合わせられるカプセルがなくて宝の持ち腐れとなってたこれとフュージョンライズできる……! 何とも思わぬ収穫だ……!」

『おめでとうございます、殿下!』

 

 上機嫌なレイデュエスにオガレスとルドレイが太鼓持ちする。

 

「ああ、全く……! 今日は最高の日だ!!」

「――随分と嬉しそうな奴がいるな」

 

 レイデュエスが言い切ったその時、彼らのいる廃ビルのフロアに、どこからともなく黒いスーツの男が踏み込んできた。その手には、ひと振りの刀が握られている。

 

「ッ!」

 

 途端にレイデュエスたちは身構え、怪獣カプセルが仕舞われた。警戒態勢の三人に対して、黒いスーツの男が言い放つ。

 

「いきなり失礼。ちょっと、そこの小僧に用があるんだ」

 

 胸元に一輪の薔薇を挿したスーツの男――ジャグラスジャグラーが、レイデュエスに目をつけた。

 



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だから、その人たちはTOPに立っている。(D)

 

 律子や千早らは怪獣カードを使用していたレイデュエスの行方を調べるために、ゼナと話し合っていた。

 

「レイデュエスという男がどこに逃げたか、特定は出来ないでしょうか」

『我々AIBも今も奴らの足取りを追っているが、レイデュエスは特殊な魔術を使っている。追跡も闇の力で妨害されていて、てこずっていてな……』

 

 一方でガイ、春香、美希は主にジードに、彼の話を伺っていた。

 

「へぇ~……基本形態にベリアルさんの力を使ってるんですか。驚き……」

 

 春香たち三人がまじまじとベリアルカプセルを見つめていることに、雪乃が聞き返す。

 

「そんなに驚くようなことなんですか?」

「それはもう! ミキたちもベリアルのカード持ってるけど、最初に使った時は大変だったの」

 

 美希が答える傍らで春香が頻りにうなずいた。

 

「闇の力は扱いがかなり難しい。特に俺たちのような存在にとってはな……。ジード、お前さんはベリアルさんの血を引いてるから、最初から普通に扱えるんだろうな」

『はい……』

 

 ガイの言葉に、八幡たちは内心驚きを覚えていた。彼らは今日まで実際の『ウルトラマン』をジードしか知らなかったから、彼の特異性に実感を持っていなかったのだ。

 結衣はふと雪乃に囁きかける。

 

「そういえばあたしたちって、ジードんのことあんまり知らないよね。生まれのこととか……」

「確かにそうね……」

 

 同意する雪乃。彼女たちは、ジード個人のことの話をあまり聞いたことがない。最初は自分のことを知らず、普通の地球人と思って生活していたということは聞いたが……どうしてそんな生活を送っていたのか。父親のベリアルはウルトラマンたちの国の反逆者らしいが、今はどうしているのか。デリケートな話題であることが容易に窺えるので、詮索するような真似は控えているのだが……。

 そういう話を、いつかジードから進んで教えてもらえる日が来るのか……と八幡たちが思ったその時に、レムが報告の声を発した。

 

[レイデュエス融合獣が出現しました]

「!!」

 

 その途端に全員が反射的に席を立った。ガイがすかさず指示する。

 

「モニターに出してくれ」

[分かりました]

 

 空中に表示された映像、その中の融合獣の容姿に、全員が驚愕させられることとなる。

 

「あ、あれは……!?」

 

 

 × × ×

 

 

 八幡たちがガイたち765プロと話をしている頃、レイデュエス一味は突如自分たちの元に現れた男……ジャグラスジャグラーと対峙をしていた。

 

『何者だ貴様! どうしてここが分かった!』

『無礼な奴め……このお方がどなたか知っているのか!』

「下がれ、お前ら。お前らの手に負える相手じゃない」

 

 オガレスとルドレイがジャグラーにそれぞれの得物を向けたが、レイデュエスは二人を下がらせて自らジャグラーと向かい合った。

 

「お前……ジャグラスジャグラーだな」

「へぇ、俺のことを知ってるのか」

「もちろんだ。有名だからな」

 

 レイデュエスはジャグラーを見据えながら冷笑を浮かべる。

 

「ウルトラマンオーブに執着して何度も勝負を仕掛けているが、その都度返り討ち。元々は光の勢力だったが闇に堕ちて、かと思えば光に未練タラタラ。挙句に当のオーブとは慣れ合いばっかりだとか? そんな情けない半端者だと聞いているとも」

 

 あからさまに挑発してくるレイデュエスだが、ジャグラーは不敵に微笑んだまま動じなかった。

 

「そんな奴がこのレイブラッドの後継者、宇宙の帝王の皇子に何の用だ?」

 

 とレイデュエスが問いかけると、ジャグラーは腰に提げた刀を抜いて、切っ先を彼に向けた。

 

「ダークリング、お前が持ってるんだってな。そいつを分捕りに来た、と言ったら?」

 

 それを聞いて、レイデュエスは弾けたように哄笑を上げた。

 

「ハハハハハハハハ! お前はダークリングに見限られたんだろう? それなのに、リングにも執着してるというのか! 何とまぁ未練がましい奴だ!」

 

 罵倒しながら、レイデュエスはブラッドスタッフを召喚して大鎌に変える。

 

「この俺に対する無礼な態度、それだけで……極刑だッ!」

 

 言い終えるなり飛び出し、ジャグラーにブラッドサイズを振り下ろすレイデュエス! だが同時にジャグラーも駆け出し、互いの刃が刃を弾き返した。

 

『ぬッ!?』

『殿下の闇の一撃を弾くとは……!』

 

 レイデュエスの攻撃を難なく防いだジャグラーに驚嘆するオガレスたち。そのジャグラーは飛びすさるとともに肉体を変容させる。

 

「極刑ねぇ。果たして出来るのかな? お前みたいな小僧に』

 

 ジャグラーの姿が、胸に三日月型の古傷を持った魔人のものに変化した。対するレイデュエスも星人態から魔人態に化けていく。

 

「口の減らない奴だ。地獄に行ってから悔いても遅いんだぞ』

 

 レイデュエス魔人態の容姿をひと目見て、ジャグラーがほうと息を漏らした。

 

『惑星ヨミの怪魔人……じゃないな。姿だけ借りてると言ったところか』

 

 ジャグラーのひと言により、レイデュエスの眉がピクリと吊り上がった。

 

『わざわざ姿を真似るお前は、どこの星の生まれだろうな――』

『貴様が知る必要があるか!?』

 

 ジャグラーの台詞をさえぎるように猛然と斬りかかるレイデュエス。不意打ち気味の一撃をジャグラーは弾き返した。

 

『それもそうだ』

 

 そして飛び出しながら刀を振り抜き、レイデュエスを袈裟にバッサリと斬り捨てた!

 

『クク……!』

 

 だがレイデュエスには再生能力がある。切り口は即座につながり、油断しているであろうジャグラーの背面にブラッドサイズを叩き込もうとする――。

 が、振り返ったレイデュエスの肩口にめり込んだのは、ジャグラーの白刃であった。

 

『がッ!?』

『生憎と俺はひねくれててね。お前の思う通りの反応はしてやらないのさ』

 

 斬られてもすぐ再生するレイデュエスであるが、姿勢は崩れる。ジャグラーはその間にレイデュエスの至るところを音速で切り刻んでいく!

 

『がッ!? ぐッ! ぎあッ!!』

『己の能力に慢心したな。だからお前は小僧なんだよ』

 

 どれほど再生しても滅多切りにされていくレイデュエスのありさまにルドレイたちは焦りを見せた。

 

『まずいッ! 再生の限度を超えるぞ!』

『で、殿下!!』

 

 なます切りにされるレイデュエスからポロリとダークリングが転落。ジャグラーは攻撃の手を止めてそれを拾い上げた。

 

『ふッ、頂いたぜ。さて、お前はどうしようか……。こういうのは俺の仕事じゃあないんだが……』

 

 バランスを崩して片膝を突いたレイデュエスだが、顔を上げると血走った眼でジャグラーを射抜いた。

 

『テッ、テメェぇぇぇ! この俺に、舐めた真似しやがってぇぇぇぇッ!』

 

 語気が荒み、なりふり構わず大鎌を振り上げてくるレイデュエスにジャグラーが嘲笑を浮かべた。

 

『それが本性って訳だ。余裕ぶった態度はメッキ、中身は年端のいかないガキそのもの……年齢相応の、どこにでもいる普通のクソガキだよお前はッ!』

 

 ジャグラーは襲ってくるレイデュエスを一刀の下に斬り伏せた。

 

『がふぅッ!』

『殿下、お気を確かにッ!』

『分が悪すぎます! 一旦退きましょう!』

 

 吹っ飛ばされてきたレイデュエスをオガレスたちが受け止め、レイデュエスは激昂しながらも鎌をスタッフに戻した。

 

『テメェ……このままじゃ済まさねぇからなッ!!』

 

 レイデュエスが足元に光弾を撃つと、閃光と煙幕が生じてその姿をジャグラーから覆い隠した。そして煙幕が晴れると、レイデュエスたちは忽然と姿を消していた。

 

 

「ぐッ……はぁ、はぁ……!」

 

 外に脱出したレイデュエス星人態は、胸を抑えながらも左手で装填ナックルを握り締めた。

 

「あ、あの野郎……ただじゃ置かねぇ……! 町ごと叩き潰してやる……!」

『殿下、そのお身体では流石に無理があるのでは……』

「黙れッ!」

 

 案ずるルドレイを振り払い、レイデュエスは怪獣カプセルを取り出して邪悪な笑みを顔に貼りつけた。

 

「ダークリングが何だ……俺にはコレがあるッ! 宇宙指令UMO!!」

 

 絶叫してマガオロチカプセルと、漆黒の怪獣のカプセルを起動していくレイデュエス。

 

「イッツ!」『グアアァァァ! キィィィヤアアアァァァッ!』

「マイ!」『ウオオアアアッ!』

「ショウタイム!!」

 

 ナックルに収めた二つのカプセルを、ブラッドライザーでスキャン。

 

フュージョンライズ!

「ハハハハハハハハッ!」

 

 暗黒の異空間の中、レイデュエス魔人態が邪悪なる怪獣たちのビジョンを吸収して変身していく。

 

マガオロチ! アークベリアル!

レイデュエス! 禍々アークベリアル!!

 

 フランス人形とレコードプレイヤーを踏み潰して、融合獣となって巨大化したレイデュエスが町中に降臨。漆黒の肉体をマガオロチの装甲で覆った、クリスタルを角のように額と背面から生やしたその威容は、通常の融合獣よりもふた回りほども巨大。胸部の七つの発光体は、中央が特別に真っ赤なカラータイマーとなっている。

 星を食らう恐怖の大魔王獣マガオロチと、ベリアルが怪獣化し更に強大な邪悪となったアークベリアル、二つの力を合体させた禁断の破壊の権化、禍々アークベリアルである!

 

 

 × × ×

 

 

「グオオオオオォォォォォッ!!」

 

 エレベーターで地上に上がった八幡たちとガイたちは、巨躯を用いて町を思うままに蹂躙する禍々アークベリアルを見上げて言葉を失った。

 

「何て恐ろしい姿……!」

「い、いつもよりでっかい……!」

 

 雪乃たちは離れていても肌にビリビリと感じる、禍々アークベリアルの凄まじい威圧感に震え上がっていた。

 しかしガイたちの方は一歩も退かず、強い眼差しで禍々アークベリアルを見据えている。

 

「あれは一筋縄じゃ行かなそうだな……。律子、亜美真美、とっておきので行くぜ!」

「分かりました!」

「「ラジャー!!」」

「千早さん、ミキたちも行くの!」

「ええ!」

 

 ガイの呼びかけに律子たち三人が応じ、千早と美希はスケルトン状のオーブリング、オーブライトリングを取り出した。

 まずは亜美がギンガのカードをガイのオーブリングに通す。

 

「ギンガ兄ちゃんっ!」

[ウルトラマンギンガ!]『ショオラッ!』

 

 続いて真美がビクトリーのカードをリングに通す。

 

「ビクトリー兄ちゃんっ!」

[ウルトラマンビクトリー!]『テヤッ!』

 

 更に、律子がエックスのカードをリングに通した。

 

「エックスさんっ!」

[ウルトラマンエックス!]『イィィィーッ! サ―――ッ!』

 

 三つのカードをリードしたオーブリングをガイが掲げてトリガーを引く。

 

[トリニティフュージョン!!!]

 

 リングに集った光が渦巻き、出来上がったオーブスラッシャーをガイが手に取って側面のウルトラ文字を指でなぞる。

 

「三つの光の力、お借りしますッ!! オーブトリニティ!!!」

 

 三人のアイドルと三人のウルトラマンのビジョンが、オーブオリジンと融合! その姿を、新たなものへと変化させる!

 千早と美希は、セブンとゼロのカードをオーブライトリングに通していく。

 

「セブンさんっ!」

[ウルトラセブン!]『デュワッ!』

「ゼロっ!」

[ウルトラマンゼロ!]『セェェェアッ!』

「「親子の力、お借りしますっ!!」」

[フュージョンアップ!]

 

 千早と美希がセブンとゼロのビジョンとともに、オーブの分身と融合して実体を与えた!

 

『ジュワッ!』『テヤッ!』

[ウルトラマンオーブ! エメリウムスラッガー!!]

 

 ガイたちと千早、美希の変身した二人のウルトラマンオーブが飛び出していき、禍々アークベリアルの面前に着地する。

 

『俺たちはオーブトリニティ!! 三つの光と絆を結び、今、立ち上がる!!!』

『「「私たちはオーブ! 智勇双全、光となりて!!」」』

 

(♪魔王獣)

 

『「あ? 何でお前二人いるんだ!? まぁいい!!」』

 

 ガイたちの変身したオーブトリニティとエメリウムスラッガーを見下ろし、禍々アークベリアルが怒号を上げる。

 

『「俺は今ムカついてんだ! 宇宙根無し草風情なんか、この力で粉砕してやるッ!!」』

 

 オーブが子供に見えるほどの巨体で迫り来る禍々アークベリアルを、オーブトリニティとエメリウムスラッガーは光線技で迎え撃つ。

 

「「「『トリニティウムシュート!!!!」」」』

『「「ワイドスラッガーショット!!」」』

 

 律子がオーブスラッシャーを二回なぞるとオーブトリニティが空中にV字と円を描いて光線を飛ばし、エメリウムスラッガーも腕をL字に組んで光線を発射。

 だが禍々アークベリアルは同時光線をあっさりと受け止め、全く動じなかった!

 

『何ッ!?』

『「効かねぇなぁぁぁぁッ!!」』

 

 禍々アークベリアルが両眼を光らせると念動力が生じ、オーブたちを軽々と弾き飛ばした。

 

「ウワァァァァッ!」

「グオオオオオォォォォォッ!!」

 

 更に禍々アークベリアルは全身のクリスタルをスパークさせて、口から膨大な暗黒光線を吐き出す! 禍々アークベリアル最大の攻撃、マガマガアークデスシウム!

 

『! まずいッ!』

 

 計り知れない危険を感じ取ったオーブたちはバリアを重ね合わせてマガマガアークデスシウムを受け止めるが、防ぎ切れないと判断してどうにか海の方へとそらした。

 軌道をそらされたマガマガアークデスシウムだが、海面を水平線まで真っ二つに割った上に海底をも切り裂いた! 東京湾に、新たな海溝が出来上がってしまう。

 

「……!!?」

 

 最早常識外の威力に、全員が絶句。当の攻撃を放ったレイデュエスは勝ち誇る。

 

『「ハッハハハハハハ!! 軽く吼えただけでこれ! 素晴らしい威力だッ! ウルトラマンめ、たとえ貴様らでもこいつには勝てないッ!!」』

 

 禍々アークベリアルの脅威を目の当たりにした結衣は、八幡へと振り向く。

 

「ヒッキー、ジードん! あたしたちも戦おうよ! あいつほっといたら、千葉壊されちゃうよ!!」

「あ、ああ……!」

 

 ジードライザーに手を伸ばしかけた八幡だったが、そこに雪乃が声を発した。

 

「待って! さっきフュージョンライズしてから、まだほんの数時間程度しか経ってないわ!」

「あッ、そうだった!!」

 

 ハッと目を見開く八幡たち。ウルトラマンジードは、最低でも二十時間経過しないと再度変身することが出来ないのだ!

 

『くッ……こんな時に、見てるだけしか出来ないのか……!』

 

 強く悔しがるジード。オーブたちは、二人でも禍々アークベリアルに押されているのに、その助けになることが出来ない……。

 しかし無力さに歯噛みしているところに、春香が申し出た。

 

「大丈夫! あなたたちの光が足りないのなら、私の光で補ってあげるから!」

『え?』

 

 突然の発言に意味が分からなかったジードたちだが、春香は構わずにオーブライトリングと二枚のカードを取り出した。

 

「ゾフィーさんっ!」

[ゾフィー!]『ヘアァッ!』

「ベリアルさんっ!」

[ウルトラマンベリアル!]『ヘェアッ!』

 

 手慣れた様子で二枚のカードをリングに通すと、ライトリングに宿った光がジードライザーへと移っていく。

 

「えッ!?」

「今度はこっち!」

 

 吃驚している八幡から春香はウルトラマンカプセルとベリアルカプセルを引き抜く。

 

「あッ、ちょっと!?」

「ウルトラマンさんっ!」『シェアッ!』

「ベリアルさんっ!」『フエアッ!』

 

 春香はそのままカプセルを起動し、四つのビジョンが八幡たちの周囲に現れることとなった。

 

『ええええ!?』

 

 カプセルを装填したナックルを、八幡へと渡す春香。

 

「さぁ、変身して!」

『ひ……ヒアウィーゴー!!』

 

 ジードは戸惑いながらも叫び、それに釣られて八幡がジードライザーでカプセルをスキャン。すると動かないはずのライザーが音声を発した。

 

[フュージョンライズアップ!!]

「フュージョンライズアップ!?」

 

 いつもと違う音声にライハたちは仰天。

 四つのビジョンは重なり合って八幡と春香をジードへと融合させる!

 

『ジィィィ―――――――ドッ!』

[ウルトラマン! ウルトラマンベリアル!]

[ゾフィー! ウルトラマンベリアル!]

[ウルトラマンジード! サンダープリミティブ!!]

 

 ――禍々アークベリアルに追いつめられているオーブトリニティとエメリウムスラッガーの前に、天を割るようにウルトラマンジードが猛スピードで着地。その衝撃で禍々アークベリアルの足を止めた。

 

『「ウルトラマンジード……!? 馬鹿な、変身できないはずじゃ……!」』

 

 驚くレイデュエスだが、今のジードの姿に更に驚愕させられた。

 

『「な、何だその姿は!? ビルドアップしてねぇか!?」』

 

 今のジードはプリミティブの形態だが……筋肉が膨張して体格が倍ほどになっており、胸や肩に勲章が並んでいた。身体の黒い模様の面積も増え、威圧感が禍々アークベリアルにも負けないほどになっている。

 そしてジードの超空間に、八幡とともに入っている春香が――マントを翻して叫んだ。

 

『「私たちはジード! 闇を抱いて、覚悟を決めるわ!!」』

『「何かキャラ変わってないっすか!?」』

 

 雰囲気がガラリと変わった春香に仰天する八幡。

 

『「これはベリアルさんの趣味よ」』

『えッそうなの!?』

 

 春香の回答にジードが仰天。

 地上では、雪乃たちが唖然とジード・サンダープリミティブを見上げていた。

 

「ど、どうなっているのかしら、一体……」

[解析不能です。想定外の事態が起きています]

 

 レムですら、そう答える他はなかった。ライハはユートムに振り返る。

 

「つまり、奇跡ってこと……?」

『当たり前のように奇跡を起こすな、あの人たちは……』

 

 ゼナも声を失っていた。

 サンダープリミティブの降臨にしばし固まっていたレイデュエスだが、我に返ると大きく鼻を鳴らした。

 

『「ふんッ! 所詮貴様らが使ってるのはただのベリアルの力! アークベリアルカプセルを使ったこの肉体に敵うはずがねぇッ!!」』

 

 ジードに念力を浴びせる禍々アークベリアル。だが――。

 

(♪サンダーブレスター)

 

「ハァァッ!」

 

 ジードは力ずくで念力を振り払った!

 

『「はぁッ!?」』

 

 ジードは猛然と禍々アークベリアルの懐に飛び込んで首を捉え、そして――。

 

「オォォォォォッ!」

 

 禍々アークベリアルの巨体を、ひっくり返して投げ飛ばした!

 

「グオオオオオォォォォォッ!!」

「すごっ!?」

 

 サンダープリミティブの超怪力に、結衣たちはもう何度目になるのか分からない驚嘆を発した。

 

『「なッ、なッ……こんな馬鹿なッ!」』

『「そこにひざまずきなさいっ!」』

 

 混乱する禍々アークベリアルにジードはアッパーを決め、禍々アークベリアルは宙を待って地面に叩きつけられた。

 

『「ど、どぉなってんだこれはぁ!? 何で俺の方がパワー負けしてんだ!?」』

 

 現実を受け入れられていないレイデュエスに、春香が毅然と告げた。

 

『「力はどこまで行っても力。それを扱う者の力量こそが肝心なのよ。借り物の力を自慢するようじゃあまだまだね!」』

 

 ジードの両隣にオーブトリニティとエメリウムスラッガーが並ぶ。これで状況は逆転したかに見えたが――。

 

『「舐めるなちくしょうがぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」』

 

 逆上した禍々アークベリアルがマガマガアークデスシウムを繰り出し、ジードたちは三人がかりで防御する。

 

「グッ……!」

 

 流石にこの攻撃は三人でも苦しい。しかしその時――。

 

「ゼットンさんッ!」

[ゼットン!]『ピポポポポポ……』

「パンドンさんッ!」

[パンドン!]『ガガァッ! ガガァッ!』

「闇の力、お借りしますッ! 超合体、ゼッパンドン!!」

 

 ジードたちとは別の場所から融合獣とは異なる合体怪獣が出現し、禍々アークベリアルに火炎弾を撃ち込んだ。

 

『「何ぃッ!」』

『ジャグラー!』

 

 オーブトリニティが合体魔王獣ゼッパンドンへと呼びかけ、ゼッパンドンことジャグラーがオーブたちを叱咤した。

 

『「あんな小僧相手に何てこずってるんだ。お前たちの光はそんなもんか?」』

『「貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」』

 

 禍々アークベリアルがゼッパンドンに尻尾を振り下ろしたが、ゼッパンドンはテレポートで回避。

 この間にジードたちは態勢を立て直した!

 

(♪エメリウムスラッガー)

 

『「ジャグラーに後れを取ってはいられないわ!」』

『「ミキたちはまだまだこれからなのー!」』

 

 エメリウムスラッガーが頭部から三つのスラッガーを放ち、縦横無尽の軌道で禍々アークベリアルの全身を切りつける。

 

「グオオオオオォォォォォッ!!」

『俺たちも行くぜッ!』

『「オッケー!」』

『「これでも食らえーっ!」』

 

 禍々アークベリアルがスラッガーを受けている間に律子がオーブスラッシャーを三回なぞり、オーブトリニティが禍々アークベリアルへと突貫。

 

「「「『トリニティウムブレイク!!!!」」」』

 

 三回連続の斬撃が禍々アークベリアルに叩き込まれた!

 

『「ぐがぁぁぁッ!?」』

 

 更に宙に浮き上がったジードが、大きく腕を振るってノコギリ状の光刃を繰り出した。

 

「『レッキングZリッパー!!」』

『「ぐぎいぃぃッ! くそがぁぁぁぁぁッ!!」』

 

 散々に斬りつけられる禍々アークベリアルだが、流石に耐久力は凄まじく、有効打になっていない。再びマガマガアークデスシウムで反撃しようとする。

 

『「ゼッパンドンシールド!」』

 

 しかし四方からバリアを押しつけられて、動きを封じられる。

 

『「何ぃぃぃぃぃッ!」』

 

(♪ウルトラマンオーブのテーマ)

 

 禍々アークベリアルを抑えながら、ゼッパンドンがオーブたちに告げる。

 

『今だ。全力でとどめを刺してやりな』

『「ええ!」』

 

 エメリウムスラッガーが前に出て、L字に組んだ腕を右に伸ばして、持てるエネルギーの全てを集中させる。

 

『「「ES(エメリウムスラッガー)スペシウム!!」」』

 

 両腕を十字に組んで、最大威力の光線を発射! その瞬間にバリアを解かれた禍々アークベリアルに突き刺さる!

 

『「ぐぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅッ!」』

 

 だがこれでも禍々アークベリアルは倒れない。そこで律子がオーブスラッシャーを三回なぞった後にスイッチを叩き、オーブスラッシャーを展開。

 オーブトリニティの握るスラッシャーに、巨大な光輪が作り出された!

 

「「「『トリニティウム光ぉぉぉ輪!!!!」」」』

 

 放たれた光輪は、禍々アークベリアルを通り抜けて上下に両断した!

 

『「がぁぁぁぁぁぁッ!! う、うおおおぉぉぉぉぉぉぉッ!!」』

 

 しかし禍々アークベリアルは自らの念力で肉体を押さえつけて維持している! 何という執念か!

 だが、最後にジードが必殺の攻撃を繰り出す!

 

「オオオオォォォォォォッ!」

 

 両腕を内回りに回しながら赤黒いスパークを起こし、右肩の上に持ち上げてリング状の閃光を発生させて十字を組んだ!

 

「「『レッキングZバースト!!!」」』

 

 ほとばしる絶大な光と闇の破壊光線が、禍々アークベリアルの切り口に命中!

 

「グオオオオオォォォォォ――――――――――――ッ!!!」

 

 禍々アークベリアルは遂に耐え切れなくなって、天まで届くほどの爆炎の中に消えていったのだった。

 

 

 × × ×

 

 

 禍々アークベリアルが散った様を、ビランキが見届けて大きく舌打ちした。

 

「もう、やられちゃってるじゃない! 偉ぶってた割には役に立たないわね!」

「――こんなところにいたか」

 

 そこに後方から、変身を解いたジャグラーが近づいていく。

 

「ジャグラー様……!」

「ビランキ、お前どうしてこんな真似したんだ。オーブを倒すのは俺だって、いつも言ってるだろう」

 

 ジャグラーが問いかけると、ビランキは途端に目を怒らせた。

 

「何よ、ジャグラー様がいけないのよ! あの女三人は何よ! 私に内緒で侍らせて!! だから紅ガイを奪ってやろうと思ったのよ!」

 

 ビランキの言い分に、ジャグラーは思い切り呆れ果てた。

 

「お前……そんな理由だったのか。あいつらはそういうのじゃないって言っただろう?」

「うるさーい! 言い訳なんか聞きたくないわ! もう知らないんだから……!」

 

 きゃんきゃんと駄々をこねるビランキの顎にそっとジャグラーが指をかけて――素早く、唇を重ねた。

 

「ほら、こいつで満足か?」

「……ああ、ジャグラー様ぁ……」

 

 ビランキの表情は一瞬でとろけた。ジャグラーは彼女に言い聞かす。

 

「満足したのなら、今回のことに後始末をつけな。流石に今回は度が過ぎてるぜ」

「はぁーい♪」

 

 ビランキは言われるがままに、強力な念動力を飛ばした――。

 

 

 レイデュエスはオガレスとルドレイに肩を貸されながら敗走をしていた。

 

「はぁッ……はぁッ……流石にきつい……!」

『だからおっしゃったではありませんか……』

「うるさい……! だ、だがカプセルは無事だ……!」

 

 レイデュエスは狂気に彩られた笑みを浮かべながら、マガオロチカプセルとアークベリアルカプセルを取り出す。

 

「ウルトラマンオーブだっていつまでもここにはいないだろう……。ほとぼりが冷めた頃にまた使って、次こそこの星を恐怖のどん底に……!」

 

 と目論むレイデュエスであったが――。

 その瞬間に、二つのカプセルが念力によってパリン、と粉々に割れた。

 

 

「何だか一つ余計に壊したみたいだけど、まぁいいわよね」

 

 

「――」

 

 白目を剥くレイデュエス。オガレスとルドレイはひどく狼狽えた。

 

『く、苦労して手に入れたアークベリアルカプセルが……!』

「――おおおおあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

 途端に癇癪のままに暴れ出すレイデュエス。すぐ側のオガレスとルドレイはそれに巻き込まれる。

 

『で、殿下! お気を確かに! げぶッ!』

 

 八つ当たりで二人を殴り飛ばしながら、レイデュエスは力の限りに絶叫した。

 

「今日は厄日だッッ!!」

 

 

 × × ×

 

 

 戦いの終結後、八幡たちは天文台の外でガイたちの見送りを行う。

 

「もう行ってしまうんですね」

「もうちょっとゆっくりしてけばいいのにぃ。まだ色々お話し聞きたいです」

 

 惜しむ結衣に、千早と律子も名残惜しそうに告げた。

 

「出来ればそうしたいところだけど、私たちも今忙しくてね」

「最近、色んな宇宙で不審な人工惑星が目撃されてるの。その追跡のミッションをしなくちゃいけないから」

 

 ガイと春香の方には、ペガがこう言葉を掛けた。

 

「皆さん、ほんとすごかったなぁ~。ペガたち驚きっぱなしだったよ。ねぇリク」

『うん……。ウルトラマンとして、正直羨ましいくらいだった。あんなにすごいことが出来るなんて……』

 

 正直な感想を口にしたジードに、ガイが言う。

 

「だが、俺たちだって最初からこんだけのことが出来た訳じゃない」

『え……?』

「俺だってウルトラマンになりたての頃は、相当な不出来だった。色んなことにつまずいて、失敗して……。俺たちみんなそうさ。順調だった奴は一人もいない」

「はい。私たちも、たくさんの壁にぶつかりました」

 

 てへへ、と愛想笑いする春香たち。

 

「だけど、どんなことがあってもあきらめずに頑張り続けたからこそ、今のこの時間があるの。私たちだったから、特別な訳じゃない。みんなに、私たちのように輝ける可能性はあるよ!」

 

 春香の力強い呼びかけに、八幡が戸惑ったように目をそらす。

 

「い、いや……俺なんかは、あなたたちみたいな目的意識とかある訳じゃないし……。明確になりたいものだって……」

 

 しかし春香は首を振った。

 

「今はなくても、未来はどうなるか分からない。そして輝く自分は、どんな形でもいいの。どんな形でも、どんな場所でも、人は一番輝ける可能性を持ってるよ!」

 

 春香の言葉に、八幡は呆けたような表情となった。その時に、スペーストータス号から律子が呼びかける。

 

「みんなー、そろそろ出発しましょう! 伊織たちも待ってるわ!」

「それじゃあお別れなの。みんな元気でねっ!」

「兄ちゃん姉ちゃん、また会おうねー!」

「約束だかんねー!」

 

 律子に呼ばれて順々にトータス号に乗り込んでいくアイドルたち。最後に、ガイがジードと言葉を交わす。

 

「それじゃあな。次に会う時は、立派なウルトラマンになってることを期待してるぜ!」

『はい! 頑張って、宇宙の平和を守っていきます!』

 

 ジードの約束の言葉にガイは微笑みを浮かべた。

 

「その意気だぜ。それじゃあ、こいつは餞別だ」

 

 と言ってガイの出したオーブリングから二つの光が飛び、八幡の手の中に収まった。

 

「これは……」

 

 八幡が手を広げると、光は二つのウルトラカプセルに変わっていた。それぞれスペシウムゼペリオンと、エメリウムスラッガーが描かれている。

 

「ヒカリさんから託された新型のカプセルだ。使ってくれ」

『あ、ありがとうございます!』

「しっかり頑張れよ。じゃあ――あばよ!」

 

 爽やかな微笑みを残して、ガイがハーモニカを奏でながらトータス号に乗り込んでいく。

 全員を乗せたトータス号のタイヤが横向きになって浮上し、ハーモニカの音色を残して宇宙へ向かって飛び立っていった。

 

「さよーならー!!」

「お元気でー!!」

 

 大きく手を振って見送る結衣やペガたち。そんな中で、八幡がジード相手にボソリと言った。

 

「……俺も、何だか羨ましいかもな」

『ん?』

「あの人たち、口を開けばリア充的な綺麗事ばっか。だけど、どれもその辺の連中が無責任に言い放つような薄っぺらい言葉じゃない。何つぅか……説得力に溢れてた」

 

 八幡は内心、ガイたちに羨望と嫉妬の念を抱いていた。どんな時も希望に満ちている、生きているのがとても楽しそうな彼らと自分の人生を見比べて。だから突っかかるような態度を取ったし、直視できない時もあった。

 

「多分……ああいうのが、本物なんだろうな。俺も、いつか……」

「本物が……何かしら?」

 

 熱に浮かされたようにつぶやいていたら、雪乃に聞き返されて心臓が跳ねあがりそうになった。

 

「んなななッ!? な、何でもねぇ! 何でもねぇから!」

「え、何なに? ヒッキー、今何て言ってたの?」

『これがまた結構いいこと言ってたんだよ。それがね……』

「おぉぉいやめろぉぉぉッ! 言うなッ! 言うなってぇのぉぉ――――ッ!!」

 

 結衣やライハたちが興味を示してきて、八幡は羞恥に駆られて必死にジードの言葉をさえぎったのであった。

 

 

 

『ウルトラストーリーナビ!』

 

八幡「今回は特別に、『ウルトラマンオーブ』という作品について紹介だ」

八幡「『オーブ』の始まりはロシア、ルサールカから。ここで起きたある事件のせいで、自分本来の姿になれなくなったウルトラマン、オーブがSSPっていうグループと出会ってテレビシリーズの物語は開始した。クレナイガイことオーブはSSPとともに地球を脅かす魔王獣や暗躍するジャグラスジャグラーを始めとした敵と戦い、成長していったんだ」

八幡「オーブは歴代ウルトラマンの力を使って変身するフュージョンアップを目玉にしたウルトラマンだが、この要素を上手いことストーリーに反映させて独自色を形成することに成功した。ガイやジャグラーのキャラクターも支持を集めて、未だに根強い人気を博してるんだ」

八幡「テレビ放送以外にも映画やAmazonでのWebドラマなども作成された。後に十章仕立てのストーリーも発表されて、シリーズの一作品の枠を超えるほどの深みのある世界観が形作られたんだぜ。今は再編集ものの『オーブ THE CHRONICLE』も放送されてるし、これからも何らかの形で『オーブ』を目に掛かる機会がやってくるかもな」

ジード『3月には劇場版『ジード』でジードとの共演も果たすよ! みんな、映画館に行こうね!』

八幡「それじゃ、次回もよろしくな」

 




『せっかくの夏休みなんだから、思い出作りしないと損だよ』
「そんな如何にもめんどそうなこと、絶対やらんからな」
「みんなでキャンプ場なんて楽しそうじゃん!」
「では、早速行こうか。本館に荷物を置き次第仕事だ」
「小学生でもああいうの、あるんだな」
『レクリエーションなのに、ちっとも楽しそうじゃないや……』
『「けど、今は雪ノ下も由比ヶ浜もいねぇよ……!」』
[その二つのカプセルと交換して下さい]
『「飛ばすぜ……光刃!」』



次回、『陽炎の中、彼らはボランティア活動をやらされる。』



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陽炎の中、彼らはボランティア活動をやらされる。(A)

 

 八月某日の比企谷家。八幡がソファに寝そべりながら携帯ゲームで遊んでいると、影の中からペガが顔を出した。

 

「八幡、たまには誰か誘って遊びにでも出かけたら? 夏休みが始まってから君、そんな風にぐうたらしてばっかりじゃない。不健全だよ」

『そうだよ。せっかくの夏休みなんだから、思い出作りしないと損だよ』

 

 ペガの忠告にジードも乗っかる。しかし八幡は煩わしそうに眉間をしかめるだけだった。

 

「うるへー。別に夏休みに遊びに出かけなきゃならん決まりなんてないだろうが。そもそも夏に長期休暇がある理由が何だか分かるか? 暑いからだ。すなわち夏休みとは暑さから身を守るためのもので、それに則ればわざわざ暑いとこに出てく方がギルティなんだよ」

「また出たよ、八幡の屁理屈……」

 

 八幡の物言いにペガは呆れてため息を吐いた。

 その時、八幡のケータイがメールの着信を知らせた。八幡がケータイに手を伸ばして、差出人を確かめる。「平塚先生」とある。

 八幡はメール画面を閉じた。

 

『ちょっと!? メール見なくていいの?』

 

 ジードが思わず突っ込むと、八幡は平然と答える。

 

「いいのいいの。深夜くらいに「ごっめーん、電池切れてたー」とか「ちょっと圏外だったみたいでー」とか返しておけば大丈夫だから。ソースは俺。中学時代に女子にメールしたら四割の確率でそう返されたから。ちなみにあと三割は返信なし、残りの三割はメーラー・ダエモンさんとかいう外国人からのメールだ」

「……恵まれない中学時代を送ってたんだね」

 

 流石に同情するペガだった。

 八幡が平塚からのメールを無視する理由は、奉仕部の活動に引っ張り出されるのを避けるためだった。そもそも八幡を奉仕部に入れたのは平塚であり、彼女は八幡を更生させようと日頃からあれこれ指図してくる。今のメールだって、十中八九奉仕部関連。夏休みにまで奉仕部に追われるのはごめんだ、というのが八幡の考えであった。

 が、そうやってメールを見なかったふりをしていると、ケータイが短時間で何度も着信音をかき鳴らす。

 

「……ホントに見なくていいの?」

 

 ペガが問いかけると、流石に怖くなってきた八幡が最新のメールを開いた。その内容は、

 

『差出人:平塚静

 題名「平塚静です。メール確認したられ んらくをください」

 本文「比企谷くん、夏休み中の奉仕部の活動について至急連絡をとりたいです。折り返し連絡をくださ い。もしかしてまだ寝ていますか(笑) 先ほどから何度かメールや電話をしています。本当は見ているんじゃないですか。

 ねぇ、見てるんでしょ?

でんわ でろ」

 

 八幡とジード、画面を覗き込んだペガは何とも言えない空気になった。

 

「……怖ぇよ。ちょくちょく変換ミスってるし……」

 

 八幡がどんよりしていると、ペガが平塚からのメールの中身を確かめて言う。

 

「へぇ~、ボランティア活動かぁ。それに参加してってことみたいだね」

 

 それを聞いて八幡は顔を背け、ぼふっとクッションで耳をふさいだ。

 

「冗談じゃねぇ。そんな如何にもめんどそうなこと、絶対やらんからな。俺は何も見なかった」

『でも、ボイコットしたら後が怖いんじゃない?』

 

 忠告するジードだが、八幡の心は変わらなかった。

 

「そん時はそん時だ。とにかく、俺はどこにも行かねぇからな。今日まで色々あったんだ。せめて夏休みは安穏に過ごすんだ」

 

 確固たる意志の下に、八幡はそう宣言した。

 のだが……。

 

 

 

『陽炎の中、彼らはボランティア活動をやらされる。』

 

 

 

「……結局こうなんのか……」

 

 数時間後、八幡は照りつける真夏の日差しによってじんわりと汗ばみながら、緑豊かな山の裾野の駐車場でぼやいた。ここは千葉村。群馬県にある千葉市の保養施設である。

 あの後、八幡は小町にせがまれて一緒に外出した。しかしそれは小町に手を回した平塚の仕掛けた罠であり、八幡はバッチリと捕まってしまった。そこに雪乃、結衣たちもやってきて、晴れて奉仕部のボランティア活動に参加させられることになったのであった。

 

「はぁ……俺の安穏とした夏休みが……」

「大袈裟な……たかだか四十日もある夏休みの、三日間だけじゃない」

 

 大きく肩を落とした八幡に雪乃が突っ込むと、八幡はこう言い返した。

 

「俺はな、一日たりとも一年に一度、貴重な夏休みを無駄にしたくないんだよ」

「無駄にって、お兄ちゃん毎日家でゴロゴロしてるだけですけどねー」

 

 小町に夏休みの過ごし方をバラされると、雪乃から実に冷めた視線を向けられた。

 

「そんなところだろうと思ったわ。比企谷くんは無駄の意味を調べ直すべきね」

「そんな嫌がってないで、せっかくなんだし楽しんでいこうよヒッキー! みんなでキャンプ場なんて楽しそうじゃん!」

 

 と結衣が呼び掛けても八幡はしかめ面。

 

「遊びに来たんじゃねぇんだろ? 奉仕部の活動だって。んな気楽に構えられる訳……」

「そう言わないで、前向きに行こうよ八幡。こういうのって多分楽しんだもの勝ちだよ」

「そうだな! 何が待ち受けてたってドンと来いだ!」

 

 戸塚彩加が言った途端に八幡の態度が一変した。奉仕部ではない彼だが、人手が足りないということで平塚に誘われて来たのであった。

 

『相変わらず、戸塚君には甘いなぁ……』

 

 ダークゾーンの中で呆れ返るペガ。戸塚は男ながらその辺の女子顔負けに愛らしく、八幡はそんな彼のことを異様に気に入っているのであった。

 そんなことをしていたら、彼らの近くに別のワンボックスカーがやってきて、四人組の若い男女を下ろして去っていった。その四人というのが、

 

「や、ヒキタニくん」

「葉山……どうしてここに」

 

 葉山、三浦、戸部、海老名の葉山グループ中核メンバーであった。葉山の顔を見た途端に雪乃がいささか顔をしかめたのだが、それには誰も気づかなかった。

 

「学校の掲示板で応募してたんだ。奉仕活動で内申点加点してもらえるってね」

「え、何かただでキャンプできるっつーから来たんですけど?」

「だべ? いーやーただとかやばいっしょー」

「わたしは葉山君と戸部君がキャンプすると聞いてhshs」

 

 葉山はボランティアのつもりのようだが、他三人は完全に遊ぶつもりであった。一人だけ言動がおかしいが。

 

「ふむ。全員揃ったようだな」

 

 葉山たちが来たところで、平塚静がこれから行うボランティアの詳細を説明し出す。

 曰く、八幡たちにはこれから小学生の林間学校サポートスタッフになってもらうということ。平塚は校長から地域の奉仕活動の監督を申しつけられていて、この役目に奉仕部の面々に白羽の矢を立てたということであった。

 

「では、早速行こうか。本館に荷物を置き次第仕事だ」

 

 そして平塚の先導の下に、八幡たちは面倒を見る小学生たちの待つ場所へと移動していった。

 

 

 × × ×

 

 

 八幡たちが相手をする小学生は六年生、小学校の中では最も性差や成長の個人差が表れている子供たちであった。それが百人近くいるのだから、八幡たちは纏まりのない彼らの騒々しさに若干気圧されていた。ただ葉山だけは、自然な調子で小学生の相手をしていた。彼のコミュニケーション力は人を選ばないようだ。

 最初の行事はオリエンテーリングであり、小学生たちは五、六人のグループに分かれて順々に出発していく。八幡たちはゴール地点での昼食の準備を頼まれ、小学生たちを追いかける形でゴールの場所へと向かい出した。子供たちよりも先に着かないといけない訳だが、当然ながら高校生と小学生では歩くスピードが違うし、このオリエンテーリングもあくまでレクリエーション。スイスイと追い抜いていく。

 進んでいく中でいくつかの班と出くわすのだが、その内の女子五人のグループが葉山たちに興味を持って積極的に話しかけてきた。小学生の目線からすれば、高校生は大人に見えるようである。特に葉山や三浦辺りは魅力的に映るようだ。

 

「しっかし、葉山の奴はすげぇよな。初対面の小学生相手に堂々としてて、あっという間に打ち解けてさ。コミュ力のバケモンだよ。とても真似できねぇ」

 

 葉山たちが女子小学生たちの相手をしている間、誰も寄りつかず手持無沙汰になっている八幡が、同じ状況の雪乃に話しかけた。この二人は見た目と雰囲気で子供は怖気づいてしまうようであった。

 

「あなたの場合は、そもそも子供に近寄ろうとしたら警察を呼ばれてしまうでしょうね。だから真似なんてしないことをお勧めするわ」

「うるせ。不審者ルックスで悪かったな……」

 

 雪乃の毒舌を慣れた調子で受け流す八幡は、ふと今行動を共にしている女子グループの中に歪を見つけて口を閉ざした。

 一人だけ、他の四人から二歩ほど遅れてついていっている。物理的な距離だけでなく、精神的な部分でもその子は他の子たちと断絶があるのが見て取れた。話の輪の中に入らず、時折首から提げたデジカメを撮影もしないのにいじっているのだ。

 明らかに、行動をともにしていて、一人だけ同じ時間を共有していない。

 

「……」

 

 雪乃もその少女のことに気がついたようで、小さくため息を吐いた。葉山も同じで、彼女の側に行って目線を合わせる。

 

「チェックポイント、見つかった?」

「……いいえ」

「そっか、じゃあみんなで探そう。名前は?」

「鶴見、留美」

「俺は葉山隼人、よろしくね。あっちの方とか隠れてそうじゃない?」

 

 少女と話しながら、背中を押して誘導していく。その様子の一部始終を目の当たりにして、八幡は半ば戦慄した。

 

「見た今の? あいつ超ナチュラルに誘ったぞ。さりげなく名前聞き出してるし」

「見てたわよ。あなたには一生かかっても出来ない芸当ね」

 

 八幡をこき下ろしてから、雪乃は顔をしかめた。

 

「けれど、あまりいいやり方とは言えないわね」

 

 少女、留美は葉山に連れられてグループの中央に入るのだが、彼女の視線は泳いで同級生たちに向かわない。他の女子たちも、露骨な態度こそ見せないものの、まるで留美を腫れ物のように扱っていて会話を取ろうとしない。話す時には、必ず葉山たちを間に置く。

 

「やっぱりね……」

「小学生でもああいうの、あるんだな」

 

 八幡が言うと、雪乃は言い切った。

 

「小学生も高校生も変わらないわよ。等しく同じ人間なのだから」

 

 留美は結局、八幡たちが彼女たちと別れる段になっても、グループの輪の中に入れずにいた。あの調子では、オリエンテーリング中はずっとそうであろう。

 留美たちとの別れ際、ペガがダークゾーンの中でそっとつぶやいた。

 

『あの子、ちょっとかわいそうだな……。レクリエーションなのに、ちっとも楽しそうじゃないや……』

 

 

 × × ×

 

 

 オリエンテーリングが終わり、昼食を済ませると、小学生たちはその次のイベントをつつがなく受けていった。八幡たちもそのサポートを行っていき、昼過ぎになると子供たちとともに夕食のカレー作りを開始した。

 大勢の子供たちが賑やかにカレー作りを進める中、八幡は一人の少女に目を留めた。

 

『……さっきの子だ』

 

 ペガが言った。八幡の視線の先にいるのは、先ほどのオリエンテーリングで一番八幡の目についた少女、留美。他の子たちは友達同士で作業しているのに、彼女だけは一人だけで黙々とジャガイモを洗っていた。しかも他の子は、それが当然のように振る舞っていて誰もかえりみない。

 そこに、再び葉山が近づいていく。

 

「カレー、好き?」

 

 何気なく話しかけた葉山だが、その様子を目にした雪乃は呆れたようにため息を吐いた。八幡も同じ気持ちであった。

 葉山は既に小学生たちの心を掴んだ、「憧れの大人」的な存在となっている。そんな彼が目を掛けたら留美は悪目立ちして、ますます他の子たちから距離を取られることだろう。これを機に他の子が留美に仲良くしてくれるようなら、そもそもこんな状況にはなっていないのだから。

 葉山は人が好い分、その辺りの後ろ暗い心理の機微が分からないようである。

 

「……別に。カレーに興味ないし」

 

 留美の取った行動は、そっけなく返答してすぐに葉山から離れることであった。人の目を避け、注目を集めない場所に移動してくる。

 そこには八幡と雪乃がいる。留美は人の輪から外れている八幡たちには興味を抱いたようで、結衣も交えて何回か言葉を交わした後、八幡と雪乃に目を向けながら言った。

 

「何か、そっちの二人は違う感じがする。あの辺の人たちと」

 

 留美は八幡と雪乃が、葉山たちとは異なる種類の人間だと見て取っていた。

 

「私も違うの。あの辺と」

「違うって、何が?」

「周りはみんなガキなんだもん」

 

 結衣が聞き返すと、留美はそう答えた。彼女はどうやら、他の子たちよりも大人びている、あるいは冷めた性格をしていて、そのために馴染めないでいるようだ。

 

「まぁ、私、その中で結構うまく立ち回ってたと思うんだけど。何かそういうの下らないからやめた。一人でも別にいっかなって」

「で、でも。小学校の時の友達とか思い出って結構大事だと思うなぁ」

 

 結衣が取り繕うように説いたが、留美はばっさりと切り捨てる。

 

「別に思い出とかいらない……。中学入れば、よそから来た人と友達になればいいし」

「残念だけど、そうはならないわ」

 

 留美の言葉を、雪乃がきっぱりと否定した。

 

「あなたの通っている小学校の生徒も、同じ中学へ進学するのでしょう? なら、同じことが起きるだけよ。今度はその『よそから来た人』とやらも一緒になって」

 

 雪乃の冷然とした、しかし動かしようのない事実の言葉に、留美は反論することが出来なかった。

 

「やっぱり、そうなんだ……」

 

 反論の代わりに留美の口から出たのは、あきらめたようなため息だった。

 

「中学校でも……こういう風になっちゃうのかなぁ」

 

 嗚咽の入り混じったような震える声音を、留美は吐く。たとえ大人びていようとも、やはり彼女も未成熟の子供。今の状態を、何とも思っていない訳ではなかった訳である。

 八幡たちは彼女のひと言を、黙って耳にしていた。

 

 

 × × ×

 

 

 八幡たちがいるところから少し離れたキャンプ場から、バーベキューを焼いていた二人の男が手を止めて、忌々しげに小学生たちのキャンプの方向を見やった。

 

「先ほどから騒がしいと思ったら……地球人のガキどもが集団で来てるみたいだ」

「あんな馬鹿みたいに大騒ぎして……これだからガキは嫌いなんだ。この前が散々だったからと、せっかく気晴らしにキャンプに来たというのに、何たる不運……」

 

 そうぼやく男たちは、人間に化けているものの、その正体は地球人ではない……オガレスとルドレイの変身であった。

 オガレスは双眼鏡で隣のキャンプの様子をながめ回す。

 

「おーおー、いるわいるわ、まるで猿山だな。あっちに行って文句をつけてやろうか……」

 

 不満をこぼしながら双眼鏡を動かす手が、不意に止まった。

 

「ぬッ!?」

「おいどうした?」

 

 怪訝に思ったルドレイが聞くと、オガレスは若干焦った様子で告げた。

 

「ウルトラマンジードたちまでいるぞ!」

「――何だと!?」

 

 それに反応したのは、カレーを焼け食いしていたレイデュエスであった。背を向けていた彼であったが即座に立ち上がり、オガレスから双眼鏡をひったくる。

 

「ぬぅッ! 確かに奴らがいやがる……! まさかこんな場所にいようとは……!」

 

 一気に機嫌を害していくのが声色に表れるレイデュエスに、オガレスたちは途端に怖気づく。

 

「くそッ! あいつら、俺をあれだけの目に遭わせておきながら、のんきに遊びに来たというのか……? ただじゃおかんッ!」

 

 急激に頭が沸騰していくレイデュエスを、オガレスはおろおろしながらなだめようとする。

 

「で、殿下、落ち着きを……。あんな奴らどうでもよいではありませんか。それよりほら、新しく肉が焼けましたよ……」

「お前が食ってろッ!」

 

 だが焼いたばかりの串を自分の口の中に勢いよく突っ込まれた。

 

「あふッあふッ! あふぃッ!」

「ジードめ……貴様らのお楽しみなぞ全部俺が食らって消化してやる! 宇宙指令O11!」

 

 のたうち回るオガレスを放置して、レイデュエスが怪獣カプセルを起動していく。

 

「イッツ!」『ギュルウウ! ギュルウウ!』

「マイ!」『ギアァッ! ギギギィッ!』

「ショウタイム!!」

 

 装填ナックルに収めたカプセルをブラッドライザーでスキャン……しようとしたものの、握ったのはカレースプーンであった。

 

「!」

 

 間違いに気づくとスプーンを投げ捨て、今度こそライザーを出す。

 

「ショウタイム!!」

フュージョンライズ!

 

 変身したレイデュエス魔人態が怪獣のビジョン――バゾブとベムスターを呑み込んでいく。

 

バゾブ! ベムスター!

レイデュエス! ベムスパーク!!

 

 フランス人形とレコードプレイヤーを踏み潰して、レイデュエス融合獣がキャンプ場のある山の中に現れていった!

 



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陽炎の中、彼らはボランティア活動をやらされる。(B)

 
映画ジード観ました。
太平風土記どこにでもあるな!


 

「ギアァッ! ギュルウウ!」

「!?」

 

 キャンプ場の片隅で留美と話をしていた八幡たちだが、山中から突如として出現した巨大怪獣の咆哮によって驚愕しながら振り返った。

 

「怪獣……!」

 

 腹部に五角形の口がある五芒星型の胴体に、バゾブの首が乗っかっている。レイデュエス融合獣ベムスパーク! 八幡たちはすぐに、またもレイデュエスが襲撃してきたのだと察して険しい表情となった。

 

「わぁぁぁぁ――――――! 怪獣だぁぁぁ―――――――!!」

「みんな、こっちだ! 早く!」

 

 ベムスパークの出現はもちろん全員が気づく。すぐ近くに現れた怪獣に子供たちや戸部が一斉に悲鳴を上げ、平塚ら教師たちは急いで彼らを逃がしていく。

 キャンプ場がパニックに陥る中、結衣が八幡に駆け寄って呼び掛けた。

 

「ヒッキー、フュージョンライズ!」

「ああ……!」

 

 ウルトラカプセルを取り出しかけた八幡だったが、それを雪乃が慌てて止めた。

 

「待って、駄目よ……!」

「どうしてゆきのん!?」

「分からない……!?」

 

 雪乃はサッと周りに目を走らせた。それで結衣と八幡もあっ、と声を漏らす。

 彼らのすぐ側には留美がいる。葉山たちや大勢の子供たちの目もある。ここで変身すれば、ジードの秘密が世界中に知れ渡ってしまうのと同義なのだ。

 

「どうしたの!? 私たちも逃げようよ!」

 

 事情を知らない留美が焦りながら八幡たちの腕を引いた。一人で逃げ出さないのが根の優しさを物語っているが、今はそれがもどかしい。

 

「一旦皆のように逃げましょう。それで途中で隠れてフュージョンライズを……」

 

 雪乃が早口で囁きながら指示を出したが、生憎と彼女の言う通りに事を運ぶことは出来なかった。

 

「ギュルウウ! ギギギィッ!」

 

 ベムスパークは八幡たちを直接狙ってきたからだ! 頭頂部の一本角から電撃光線が放たれ、八幡たちに襲い掛かってくる!

 

「うわあああぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

 咄嗟に八幡が突き飛ばしたことで、四人はギリギリのところで直撃を逃れたが、巻き起こった爆発に呑み込まれることとなる。

 

「は、はちま――――――んッ!!」

「お兄ちゃぁ――――――ん!?」

 

 絶叫する戸塚と小町。

 しかし爆発が逆に八幡の姿を周囲から覆い隠すカーテンとなった!

 

『八幡!』

 

 ジードの呼びかけにより、八幡は咄嗟にカプセルを装填ナックルに収めてジードライザーを起動した。

 

[フュージョンライズ! ウルトラマン! ウルトラマンベリアル!]

[ウルトラマンジード! プリミティブ!!]

「シュアッ!」

 

 八幡の肉体が一瞬の内にウルトラマンジードのものに変身し、ジードは雪乃、結衣、留美を手の平の中にすくい上げて救出する。

 

「あッ! ウルトラマンジードだぁ!」

 

 逃走中の子供たちの何人かが、ジードの登場によって弾んだ声を出した。

 

『危ないところだった……』

 

 ほっと息を吐いたジードは三人を安全な場所に下ろした。そこに背後からベムスパークが接近してくる。

 

「ギイアァッ! ギュルウウ! ギイッ!」

「フッ!」

 

 即座に振り向くジード。それを合図として、二者の戦いの火蓋は切って落とされる。

 

(♪オーブのピンチ)

 

「ショアッ!」

 

 ジードが先手を取って飛び膝蹴りを仕掛ける。だがベムスパークに軽くいなされて着地。

 

「ハァッ!」

「ギアァッ! ギュルウウ!」

 

 振り向きざまに平手打ちで追撃するも、ベムスパークには全く通用しない。反対に、ベムスパークの打撃でジードは大きくよろめく。

 

『「ぐッ!? 結構なパワーだな……!」』

 

 キックで反撃するジードだがやはり効かず、ベムスパークに大きく殴り飛ばされてしまう。

 

「ウッ!」

「ギュルウウ! ギギギィッ!」

 

 更にベムスパークは滑空しながら突進。ジードははね飛ばされる。

 

「ウワァァッ!」

 

 背中から地面に叩きつけられて悶えるジード。

 

『くッ……! パワーもスピードも、かなり高い……!』

 

 ベムスパークの想像以上の実力に苦しめられるジード。しかしすぐ近くに大勢の子供たちがいる以上、あまり押されていては彼らに危害が及んでしまう。

 

『「ちまちまやってても駄目だ……! 大技で行こうぜ!」』

『ああ!』

 

 八幡の判断でジードはレッキングバーストの構えを取った。その瞬間にレムが警告してくる。

 

[いけません]

「『レッキングバースト!!」』

 

 だが既にレッキングバーストは発射された。赤黒い光線がまっすぐベムスパークへと飛んでいくが、

 

「ギイアァッ! ギイッ!」

 

 光線はベムスパークの腹部の口の中に全て吸い込まれてしまった!

 

「『はぁッ!?」』

 

 そしてベムスパークは腹部から、より強力になった電撃光線を放って攻撃してくる!

 

「ウワアアアァァァァッ!」

 

 またも吹っ飛ばされるジード。ギリギリで直撃は避けたので立ち上がれるが、それでも相当なダメージを受けたので足元がおぼつかなく、カラータイマーも危険を報せる。

 

[あの融合獣は腹部の器官であらゆるエネルギーを吸収します。正面からの光線は逆効果です]

『「そ、それ早く言ってくれよ……!」』

 

 レムの解説に思わずそう漏らす八幡だった。

 状況は圧倒的に劣勢。そのためジードが八幡へ促す。

 

『八幡、カプセルの交換だ!』

 

 別の形態へのフュージョンライズし直しを考えるジードであったが……。

 

『「けど、今は雪ノ下も由比ヶ浜もいねぇよ……!」』

『そ、そうだった!』

 

 先ほどは咄嗟の変身だったので、二人とフュージョンライズしている暇がなかったのだ。八幡単独では、プリミティブにしかなれない!

 一体どうすれば……とジードたちが焦っていると、レムが助言をしてきた。

 

[その二つのカプセルと交換して下さい]

 

 カプセルを指定するレムに八幡は戸惑う。

 

『「え? でも、俺だけじゃ……」』

[大丈夫です。その組み合わせならば、ハチマンのみでもフュージョンライズ出来る確率は90%以上です]

 

 そう言われても今一つ信じられなかった八幡だったが、今もベムスパークは攻撃してきている。迷っている時間などない。

 

『「仕方ねぇ、やるしかねぇか……!」』

『ああ! ジーッとしてても、ドーにもならない、だ!』

 

 二つのカプセルを手に取って、八幡は一つ目のカプセルのスイッチをスライドした。

 

『ユーゴー!』

 

 するとカプセルからウルトラマンオーブ・エメリウムスラッガーのビジョンが現れて腕を振り上げる。

 

『オリャアッ!』

『「起動したッ!」』

 

 思わず叫んだ八幡だが、感慨に耽っている暇はない。続けて二つ目のカプセルを起動。

 

『アイゴー!』

『フエアッ!』

 

 ウルトラマンベリアルのビジョンが現れて腕を振り上げる。二つのカプセルを装填ナックルに収めてジードライザーを起動。

 

『ヒアウィーゴー!!』

 

 ライザーでカプセルをスキャンし、準備完了。ライザーを胸の前に持ってきてトリガーを握り込んだ。

 

[フュージョンライズ!]

『ジィィィ―――――――ドッ!』

 

 オーブとベリアルのビジョンが八幡と重なり、フュージョンライズ!

 

[ウルトラマンオーブ! ウルトラマンベリアル!]

[ウルトラマンジード! トライスラッガー!!]

 

 背景に一瞬吊り上がった双眸が浮かび上がり、回転する火花と幾重もの光の軌道から生じた光と闇の螺旋の中から、新たな姿となったジードが飛び出していく!

 

「シュアッ!」

 

 荒々しく着地して風圧でベムスパークを牽制したジード。風に煽られながらも顔を上げた結衣たちが、ジードを見上げてあんぐり口を開いた。

 

「フュージョンライズした……!?」

「フュージョンライズ?」

 

 留美が不思議そうに見上げてきたので、雪乃たちは慌ててごまかした。

 今のジードは赤と青の甲冑を着込んだような姿。そして額と側頭部に計三本のスラッガーを備えている。セブンとゼロの力によってフュージョンアップしたオーブ、その力を更に受け継いだ、トライスラッガーだ!

 

『「フュージョンライズ出来た……!」』

 

 雪乃と結衣がそうだったように、八幡もまたフュージョンライズに成功したことに驚いていた。オーブカプセルは元々星雲荘にあったものではない、新開発のウルトラカプセル。そのお陰だろうか。

 理由は何であれ、今は目の前の敵と倒すことが先決だ!

 

(♪エメリウムスラッガー)

 

「ギアァッ! ギュルウウ! ギギギィッ!」

 

 ベムスパークが再度襲ってこようとしている。だがそれをさせじと、ジードが頭部のスラッガーに両手を添えた。

 

『「飛ばすぜ……光刃!」』

 

 八幡が叫ぶと、ジードが三振りのスラッガーを同時に投げ飛ばした!

 

「セアッ!」

 

 三つのスラッガーはそれぞれ別の軌道を描きながら宙を切り、ベムスパークの周囲を取り囲んで攻撃していく。

 

「ギュルウウ! ギイッ!?」

 

 ベムスパークの表面を猛スピードで切りつけていくスラッガー。叩き落とそうとするベムスパークだが、スラッガー同士での連携を捉えられずに手は空振りするばかり。

 

「ハァッ!」

 

 ジードは二本のスラッガーを戻して両手に握り締め、ベムスパークへと突撃。走り抜けながら斬撃を見舞い、宙に飛ばしたままの残りのスラッガーが駄目押しの一撃を食らわせた。

 

「ギュルウウ! ギギギィッ!」

 

 トライスラッガーの能力によって形勢は一気に逆転。ここでジードが八幡へ指示を出す。

 

『よし、必殺技だ!』

『「けど、ただ撃っても吸収されちまうぜ!?」』

 

 戸惑う八幡であったが、

 

『それなら、これでッ!』

 

 ジードが三本のスラッガーをベムスパークの頭上に移動させ、高速回転させる。そこを狙って右腕から赤黒い光線を発射!

 

「『リフレクトスラッガー!!」』

 

 スラッガーに当たった光線は乱反射し、真下のベムスパークへと雨あられのように降り注ぐ!

 

「ギアァッ! ギュルウウ!!」

 

 頭上から乱射される光線は吸収できず、猛撃をひたすら浴びるベムスパーク。ジードは更にジードクローを召喚。

 

『ジードクロー!』

 

 八幡がトリガーを二回引いてスイッチを押し、クローを激しく回転させる。

 

『コークスクリュージャミング!』

 

 クローを突き出して突撃していったジードが、ベムスパークの肉体を貫通!

 

「ギギギィッ!!」

 

 それがとどめとなってベムスパークは爆散。融合獣を倒して綺麗に着地したジードへ、子供たちが一斉に歓声を発した。

 

「やったぁー! 怪獣をやっつけたぞー!」

「ジード、ありがとー!」

 

 子供たちの大歓声を浴びながら、ジードは地を蹴って大空へ飛び上がっていった。

 

「シュアッ!」

 

 

 一方で、ベムスパーク爆散後にレイデュエスが元の星人態となって山林の中に着地した。

 

「ちっくしょう……このままじゃ済まさねぇぞ……!」

 

 レイデュエスは憎々しげに、飛び去っていくジードの背をにらみつけていた。

 

 

 × × ×

 

 

 融合獣は撃破し、被害も最小限に抑えることが出来たため、林間学校はどうにか中止にならずに済んだ。そして八幡たちは、林間学校のサポートの他にも――孤立している留美の助けになるべく動くことを決定した。皆、一日を通して彼女の問題に気づいており、どうにかしてやりたいと思ったのである。

 しかし少し見ただけでも、この問題は根深く、簡単に解決できるものではないことは明白であった。奉仕部メンバーに葉山たちも交えて相談の席が設けられたのだが、それも具体的な方策は出せずに終わったのだった。

 そして完全に日が沈んで、就寝時間になってから、八幡は一人男子のバンガローを抜けて出ていた。月明かりの下に、彼の影からペガが顔を出してくる。

 

「ふぅ。こんな綺麗な自然の中に来たのに、ペガだけずっとダークゾーンの中なのはちょっと寂しいなぁ」

「綺麗な自然って、普通の山だぜ。こんな光景、どこにでもあるだろ」

「ううん。ペガの故郷は宇宙を移動する都市だからさ、山なんて一つもないんだ。だからこういうとこでの生活って羨ましく感じるよ」

「へぇ……。俺はネット環境のない生活なんて御免だけどな」

 

 ペガと他愛ない話をしながら、八幡は周囲をさっと見回した。

 

「それよかあんまはしゃぐんじゃなねぇぞ。いくら山の夜だからって、人がいないとは限らないんだからな」

「大丈夫だよ、ちゃんと注意してるから……」

 

 とペガが言った端から、木立の間から穏やかな歌声が流れてきた。

 

「ひゃッ!?」

「ほれ見ろ……いや、あれは……」

 

 八幡がその方向に目を凝らすと――月明かりに照らされながら歌っているのは、雪乃であった。

 

「……雪乃、歌上手だね……」

「……」

 

 落ち着いたペガと八幡は、思わず雪乃の歌声に聞き惚れる。が、八幡の足が小枝を踏みつけて折ったことで、雪乃がこちらの存在に気がついた。

 

「……誰?」

「……俺だよ」

 

 八幡が雪乃の前に出ていく。

 

「……誰?」

「何でさっきと同じ問いなんだよ。一応顔見知りだろうが」

「こんな時間にどうしたの? 永眠はしっかり取った方がいいわよ」

「優しさに見せかけた死の宣告やめてくんない?」

 

 雪乃と八幡のやり取りに、ペガとジードは苦笑した。

 

「相変わらず、八幡と雪乃は仲良しだねぇ」

『うん』

「いやいやどこをどう切り取ってどの角度で見ればそんな解釈できるんだよ。仲いい要素欠片も見つけられねぇだろ」

「えー、そうかなぁ?」

 

 にやにや笑うペガに八幡は調子が狂わされて、はぁとため息を吐いた。

 それから八幡と雪乃は、ペガとジードを交えて留美のことの相談を始めた。葉山たちの前では、このようなことは出来ない。

 

「留美ちゃんのこと、ほんとどうにかならないかな……。どんな経緯があったのかは知らないけど、一人をみんなで無視し続けるなんてひどいよ……。地球人ってそういうところが良くないよね」

『ジードに変身してる時に、僕からあの子たちに留美ちゃんと仲良くするように言えばよかったかな。葉山君たちじゃ余計な反発を買うだけでも、僕がそんなんじゃ立派な大人にはなれないとか言えば……』

 

 子供たちのヒーローという立場からそう考えるジードだったが、雪乃がそれに反論。

 

「あなたでも駄目よ。もしかしたら一時的には改善されるかもしれないけれど、時間が経てば元に戻ってしまうでしょうね。言葉だけで変われるほど、人間とは易しい存在ではないわ」

『でも、何もしないよりは……』

「第三者が人を変えようと思うのなら、持続が重要なのよ。一度の言葉では、その場限りで終わってしまうわ。ジード、あなたがずっとあの子の面倒を見続ける訳にはいかないでしょう?」

 

 その雪乃の指摘に、ジードは言い返す言葉がなかった。

 

「雪ノ下の言う通りだな。こういうのは、どんな立場であろうと、上から言いつけたって変えられるものなんかありゃしねぇ。当事者の奴らに変えよう、変わろうと思わせられなきゃ解決には至らねぇもんだよ」

『そうか……』

 

 八幡も雪乃の肩を持ち、ジードも完全に意見を取り下げた。

 それから八幡は雪乃に顔を向ける。

 

「しかし、お前もよくよく知らん子のためにやる気になるよな。これが奉仕部の合宿も兼ねてるとはいえ、完全に外部の人間だってのに」

 

 それに対して雪乃はこう返す。

 

「今までだって同じ高校と言っても知らない人ばかりだったわ。それに……由比ヶ浜さんと、どこか似ている気がしない?」

「そうか?」

「多分……由比ヶ浜さんにもああいう経験があるんじゃないかと思ったのよ」

 

 それで八幡も納得した。結衣が頻りに人間関係の調停役になるのは、優しさからではない、過去の苦い経験から来ていることを八幡も知っている。

 それから雪乃が葉山や、自身のことも少し話してから、彼女は女子のバンガローへと帰っていった。その背中を見送りながら、ペガがつぶやく。

 

「みんな、それぞれ苦労してるんだろうね……。結衣も、葉山君も、雪乃も」

「そりゃそうだろうよ。誰だって、生きてりゃ一つや二つくらいは苦い過去があるもんだろ。俺は一つ二つじゃ済まねぇけど」

 

 自虐を交える八幡だったが、ペガもジードもクスリともしなかった。両者とも、自分らの過去を思い返しているのだろう。

 八幡は思う。単なる一市民である自分たちが何らかの過去を抱えているのだから、宇宙人でありながら地球で生活しているペガ、そして並々ならぬ道のりを経験したであろうことが窺えるジードは、自分たちとは比較にならないような苦しみを体験しているはずだ。だからこそ、彼らは特に他人に親身になれるのだ。

 そんな彼らと共にあるようになった自分のこれからには、どんなことが待ち受けているのだろうか……そんなことを、八幡は夜空を見上げながらふと考えていた。

 

 

 

『ウルトラストーリーナビ!』

 

雪乃「今回は『ウルトラマンオーブ THE ORIGIN SAGA』第十一話「かげろう ~陽炎~」よ」

雪乃「惑星カノンの女王アマテはクイーンベゼルブとの対話に臨んだのだけれど、それはベゼルブの罠で、彼女は毒を注入されてしまった。このままではベゼルブの傀儡毒が全宇宙に飛散して、宇宙全ての生物が自由意思を奪われてしまう。オーブ、ガイア、アグルがこの危機に立ち向かうのだけれど、オーブにまで毒が打たれてしまう。悪化する一方の状況にジャグラーや森脇翔平など様々な人が行動を起こす。その結果がどうなるのか……という話よ」

雪乃「『ウルトラマンオーブ THE ORIGIN SAGA』はAmazonプライム・ビデオで配信されている『オーブ』のスピンオフ作品よ。基本一話完結のテレビシリーズとは異なり、十二話で一つのストーリーを形作っているから、途中から観ても話がさっぱりだから注意してね。この物語がオーブ最初の冒険であり、ここからテレビシリーズや映画に物語がつながっていくのよ」

雪乃「直接つながる訳ではなくて、超全集に収録されたエピソードも入れて初めて『ウルトラマンオーブ』を理解できたと言えるようになっているのだけれど……そこまで追いかけるのはちょっと難易度が高いようにも感じるわね」

ジード『僕もそういう外伝的な作品作られないかなぁ』

雪乃「それでは、次回でお会いしましょう」

 




「あんた、変わった友達いるんだね」
「ペガを見ても驚いたり怖がったりしないんだね」
「私だって、普通の人間じゃないみたいだし」
「リトルスターもどうにかしないといけないよね」
「必ず運命の人と巡り合わせてくれる、想い石?」
『何か異常が起きたみたいだ!』
「このカプセルの威力、確かめさせてもらおうじゃないか」
「お願い……助けて……!」
『「挑むぜ……神秘!」』



次回、『汚された二人山伝説に挑戦せよ。』



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汚された二人山伝説に挑戦せよ。(A)

 

 平塚から言いつけられた林間学校のサポート兼奉仕部合宿の二日目。八幡たち奉仕部は作業の合間の自由時間に、昨日の融合獣出現によって駆けつけたゼナと対面していた。

 

『……そういう訳で、レイデュエス一味がまだこの周辺に潜伏している恐れがあるから、我々AIBがしばらく監視をする。しかし君たちの妨害をするようなことはしないから、気兼ねなく合宿を続けてもらいたい』

「お気遣い、ありがとうございます……」

 

 礼を述べた雪乃だが、その口調はどこか上の空。三人とも、あることが気になってしょうがないのだ。

 我慢できず、結衣がゼナに問いかけた。

 

「あの……その格好、暑くないんですか……?」

 

 ゼナは真夏の日差しが降り注ぐ炎天下、しかも野山の真ん中にも関わらず、一分の乱れもないスーツ姿なのだ。正直、見ているこっちが暑くなってくるくらいだ。

 

『シャドー星人は地球人よりも適応力が高い。故に問題ない』

「いや……それ抜きにしても、TPOってもんが……」

 

 尻込みがちに突っ込む八幡。こんな山の中でスーツなど、目立って仕方ない。……もっとも、口が全く開かない時点で目につくのだが。

 

「と、ともかく、お世話になります」

 

 何はともあれ、レイデュエス一味のことをゼナたちに任せた雪乃たちはペコリと頭を下げて頼み込んだ。

 ――そして八幡たち三人の元から離れたゼナは、ケータイである人物と通話する。

 

『先輩、どうでした? 雪乃ちゃんの様子は』

 

 雪ノ下陽乃である。

 

『特に問題はなさそうだった。平常通りのようだ』

『そうですか! よかったぁ、友達とのキャンプ楽しんでるんだ。――あ、すいません先輩、無理言って任務から外してもらって』

『別に構わん。それより、そっちの方がよかったのか? 妹の安全を、お前自身で確保しなくて』

 

 ゼナが聞き返すと、陽乃は電話の向こうで苦笑したようであった。

 

『わたしの顔を見たら、雪乃ちゃんくつろげなくなっちゃいますから。それに母をなだめてないといけませんし。あの人、わたしがついてなかったら今すぐにでも雪乃ちゃんを呼び出そうとするんですよぉ? せめてキャンプが終わるまでは止めとかないと』

『……大分込み入った家庭の事情があるようだな』

『あ、すいません。何だか愚痴っちゃって』

『構わんさ。そちらも上手くやるように』

 

 陽乃との通話を終えてから、ゼナは天に燦々と輝く真夏の太陽を見上げて目を細めた。

 

『……地球人も地球人で、色々と大変なようだ』

 

 太陽は各個人の抱える事情など関係なく、等しく照りつける日差しを降り注がせていた。

 

 

 

『汚された二人山伝説に挑戦せよ。』

 

 

 

 ゼナと別れた後、八幡は山中で見つけた河原の端にどっかと腰を下ろしていた。

 

「はぁ~、水が気持ちいいな~!」

 

 彼の見ている先で、ペガが穏やかな清流の真ん中で水浴びを楽しんでいる。

 現在地の下流では先ほど女性陣が水遊びをしていたのだが、それを目にしたペガが羨ましがり、自分も水浴びがしたいと八幡に訴えたのであった。それで人目につかないであろう上流にまで移動してきたのだった。

 昨晩、人工都市で育ったと語ったように、ペガにとってはこのような自然環境に触れることは新鮮なようで、ただの水浴びでもとても楽しそうである。

 

「八幡も一緒にどう? 暑いのが吹っ飛ぶよ!」

「いや、俺はさっき顔洗ったしいい」

 

 ペガの誘いを断った八幡だが、川で戯れる彼をながめてふと考える。

 

(前も由比ヶ浜が言ってたが、ペガって戸塚に似てるな。雰囲気が。もしここにいるのが戸塚だったなら……)

 

 そう思いながら、脳内でペガの姿を戸塚に置き換える。

 

 

『はちまーん! 八幡も一緒にどう? 暑いのが吹っ飛ぶよ!』

 

 

 妄想している八幡にペガが呼び掛けた。

 

「……八幡、鼻血出てるよ。どうしたの?」

「うおッ!? い、いや、何でもない。気にしないでおいてくれ」

「はぁ……」

 

 我に返って鼻血をぬぐった八幡は、ごまかすようにペガに言う。

 

「それよか、気分が済んだんならそろそろ戻れ。昨日みたいに、また誰かと鉢合わせするかもしれねぇだろ」

 

 八幡に忠告をペガは笑い飛ばす。

 

「心配性だなぁ。大丈夫だって。あんなことがそうそう何度もある訳……」

「へぇ……あんた、変わった友達いるんだね」

 

 台詞の途中で、木陰から件の少女、鶴見留美がひょっこり現れたのでペガは飛び上がった。

 

「はわわ!? み、見られちゃったッ!」

「だから言ったのに……」

 

 はぁぁ、と顔を覆ってため息を吐き出す八幡。ペガは何度も頭を下げながら留美に懇願し出す。

 

「お、お願い! ペガのこと、誰にも言わないで! 何でもするから!」

 

 必死なペガと対照的に、留美の反応は淡泊だった。

 

「言わないよ。どうせ、私の話なんか聞く人いないし」

「ほ、ほんと? と言うか留美ちゃん、ペガを見ても驚いたり怖がったりしないんだね」

「いや、これでも驚いてるけど、どこから観ても悪い奴のようには思えないし、八幡とも普通に話してるしね」

「名前呼び捨てかよ……」

 

 留美に言いふらす気がないようなので、八幡たちはひとまず安堵した。そしてペガが川から上がり、留美を交えて会話を始める。

 

「ところで、お前何でこんなとこにいるんだ? 林間学校どうした?」

「こっちは今日自由行動なんだって。朝ごはん終わって部屋戻ったら誰もいなかったから、その辺ブラブラしてたの」

「……ひどいね。何も言わないでどっか行っちゃうなんて」

 

 眉をひそめて留美に同情するペガ。

 

「いいよ、気になんかしないでくれて。それよりあんた、ペガって言うの? ペガは何なの? 宇宙人って奴?」

「うん、正解。色々あって、八幡の元に厄介になってるんだ」

 

 肯定したペガに留美は軽く感心する。

 

「宇宙人ってほんとにいるんだね。まぁ怪獣がいるくらいだし、いてもおかしくないか。かく言う私だって、普通の人間じゃないみたいだし」

「え?」

 

 唐突なひと言に、八幡とペガは思わず振り返った。

 

「おいおい、中二病にはあと二年早いぜ。まぁお前くらいの歳だったら、妄想と現実の区別がつかなくなりがちかもしんねぇけど。俺もそういうの経験あるわ」

「妄想なんかじゃないよ。証拠、見せてあげる」

 

 と言って留美が立ち上がると、その胸元からほのかな輝きが生じた。

 

「……!」

 

 八幡たちはその光り方から、すぐに正体を察した。――リトルスターだ。

 留美の胸元の輝きが急に強まり、閃光となると彼女の正面にある河原の岩が音を立てて砕けた。

 

「どう? 今朝から、気がついたらこんなことが出来るようになったの。普通の人間じゃないって分かってもらえたでしょ。……みんなからハブられるのも当然だよね」

 

 自嘲めかしてつぶやいた留美の顔を見つめた八幡は、大仰に肩をすくめた。

 

「そりゃ自分が選ばれし人間だとでも言いたいのか? お生憎だったな。全くそんなことはない、お前は普通のガキんちょさ。うぬぼれんなって」

「え? でも……今の見たでしょ?」

「はッ。たかが胸から光が出るのが何だってんだ。それでお前、何か特別なことがやれるのか? 全然勉強しなくてもテストで百点取れるか?」

「いや、それは無理でしょ。関係ないし……」

「だろ? 特別な人間かどうかってのはな、何をやったかで決まるんだ。人と違う能力があったって、使う時と場合がなけりゃ、そんなの存在しないのと同じなんだからな」

 

 そう語った八幡の顔を、今度は留美とペガが見つめた。

 

「……八幡、思ったよりいいこと言うじゃん」

「うん。今のすっごくいい台詞だったよ、八幡!」

「お、おいよせよ。そう言われると、恥ずかしくなるから」

 

 軽く頬を赤らめて顔を背けた八幡に、留美はクスッと微笑む。

 

「もしかして、私を慰めてくれたんだ。……ありがと」

「……だから、うぬぼれんなっての」

 

 と言いながらも頬をかく八幡は、思考を切り替えて留美の身を案ずる。

 

(しかし、よりによってこんなタイミングでリトルスターか……。留美の身が危なくねぇか? まぁ、ゼナさんたちがいるにはいるが……)

 

 

 八幡の懸念は当たり、未だ千葉村のキャンプ地に潜伏中のレイデュエス一味が、木々の間からこちらを監視していたのだ。

 

「リトルスター発症者が現れたか……。リトルスターはジードのカプセルとなる。奴ばかりにカプセルを増やさせてなるものか!」

『ですが殿下、今無暗に動かれては近くをうろついているAIBに見つかってしまいかねません』

 

 いらつきながら吐き捨てるレイデュエスだが、ルドレイの諫言には腕を組んでうなずく。

 

「その通りだ。軽はずみな行動はまずいな。もうしばらくは奴らの様子を窺って、機を待つとしようか……」

 

 

 × × ×

 

 

 それから八幡たちの元に雪乃と結衣もやってきて、彼らは改めて留美の抱える事情について話を伺った。そこから見出されたのは、やはり留美自身、己の現状に辛い気持ちを感じていること、しかし既に留美の周囲で彼女を疎外する状況が出来上がってしまっていて、部外者がそれを改善することは事実上不可能だということであった。

 

『留美ちゃん……どうにかして助けてあげられないかな……。でも、どうすればいいのか考えが出てこないよ……』

 

 留美と別れた後、八幡の影の中からペガがそうぼやいた。雪乃も思案しているが、妙案は出てこないようだ。

 

「あたしたちが関われるのはあと一日だけ……。そんな短い時間で、何が出来るんだろ……」

 

 結衣は悲しげに目を伏している。だが、八幡は何やら含みのある様子で黙っていた。

 実は彼は、留美の話から問題を解決する方法を一つ思いついていた。しかしあまり褒められた手段ではない、もっと言えば更なる問題を引き起こす恐れのある危険な手段であるため、今はまだ口にはしないつもりである。

 八幡が沈黙していると、結衣が続けて言う。

 

「それに留美ちゃんへのシカトだけじゃなくて、リトルスターもどうにかしないといけないよね。レイデュエスたちがまだ近くにいるかもしれないんだし、放っといたらやっぱり危ないよ……」

 

 案ずる結衣だが、ゼナたちに知らせるというのには雪乃が反論した。

 

「けれど、AIBに通報したら間違いなく彼女は林間学校から離れなくてはならないわ。そうしたら私たちはもう彼女に関われず、依頼の達成も完全に不可能となってしまう。きっと、みじめな思いをしたまま小学校を卒業して、それどころか中学、高校もずっとあんな調子で過ごすことになるでしょう」

「だよね……。留美ちゃんの将来のためを思えば、林間学校の間だけでも今のままにするしかないか……」

『うん……。ペガたちで、留美ちゃんのことを守らないと!』

 

 ペガのひと言が結論となって、彼らはAIBへの連絡を保留とすることにした。とそこに、平塚が大きく手を振りながら近づいてくる。

 

「おーい、お前たち。奉仕部の活動は順調かー?」

「あっ、先生」

「それが……」

 

 雪乃が口ごもると、平塚はそれだけで察した。

 

「てこずってるみたいだな。まぁそれも無理のないことだろう、今までとは勝手が違うだろうからな。しかし、君たちならば最後には見事な解決を見せてくれる。私はそう信じてるぞ! 何かあっても責任は私が取る。君たちは心配などせず、思いのままにやってくれ!」

 

 やたらと心強いことを述べる平塚に、八幡が問いかける。

 

「先生、何かやたらと上機嫌ですね。何かいいことあったんですか?」

 

 すると平塚は、よく聞いてくれたとばかりに鼻息を荒くした。

 

「ふっふっふっ、実はそうなのだよ、今しがたね。さて何だと思う?」

「えっ、そう言われましても……」

 

 回答に窮する雪乃たち。八幡が一つだけ思いついて聞き返す。

 

「もしかして、小学校の教師たちの中にいい人を見つけたとかですか?」

「いや、そういうことではないのだが、まぁ近い将来私の元にも伴侶となる男性がやってくることは確定したのだ!」

 

 やけに自信に満ち溢れた発言に、八幡たちは思わず顔を見合わせた。

 

「先生……暑さでやられたのならゆっくり休んでて下さい。林間学校のサポートは俺たちだけでやりますから」

「むっ、馬鹿にしてるな……。だが本当のことだぞ! これがその証拠だ!」

 

 と言って平塚が見せてきたのは、ケータイの画面。その画面の中に、ネット上の記事が表示されている。それを覗き込む八幡たち三人。

 

「何なに……必ず運命の人と巡り合わせてくれる、想い石?」

 

 記事の内容を読み上げる結衣。

 

「想い石とは、元は身分違いの恋によって引き裂かれた侍とお姫様の怨霊を祀った石碑。今ではこの想い石に自分の靴を供えると、霊が運命の相手を探して合わせてくれる。その相手と結婚する確率……100%! しかもこれ、千葉村にあるって!」

「そう! そのためここの山は、伝説になぞらえて別名を二人山と言うのだ!」

「つまり、その想い石とやらに靴を供えてきたんですね、先生は」

 

 雪乃の聞き返しに、平塚は満足げにうなずいた。

 

「うわぁ~、ロマンチックなお話しですね~! あたしも運命の人と合わせてほしいかも! あっ……でも、その人とはもう会ってるのならどうなるんだろ……」

 

 結衣は目をキラキラさせながらも一瞬八幡を見やったが、八幡と雪乃は記事の内容にすっかり呆れ返っていた。

 

「いや、これのどこが証拠なんすか……。こんなの与太話に決まってるでしょ」

「確率100%って、どこの調べですか。先生、悪いことは言いませんから、こんなものはアテにしないでまずは人事を尽くすことを優先すべきでは……」

 

 苦言を呈する雪乃たちに平塚は憤慨。

 

「信じてないな! まぁそう言っていられるのも今の内だ。私に春が来た時は、今の発言全部撤回してもらうからな! ふふふふ! もう友達の結婚報告に危機感を抱く日々はおしまいになるんだ! いやぁ楽しみだなぁ!」

 

 すっかりその気になって高笑いする平塚の姿に、八幡と雪乃はほとほと呆れ果てた。

 

「……まぁ、好きにして下さい」

 

 

 ――平塚が大声で話した内容は、隠れて聞き耳を立てているレイデュエスたちも聞き留めていた。

 

『怨霊を祀った想い石、とは……。地球人はよくそんな迷信を信じ込めるものだな』

『全く。呆れたものですなぁ殿下』

 

 オガレスがせせら笑いながらレイデュエスに同意を求めたが、レイデュエスは何やら含み笑いを浮かべている。

 

「いや……俺も興味があるな、想い石。是非ともこの俺も拝ませてもらおうじゃないか。クッククク……」

『お? もしや殿下……彼女募集中だったのですか! 水臭いですなぁ、言って下さればいくらでも協力をぼべッ!』

 

 笑いながら申し出たオガレスの顔面が裏拳で叩き潰された。

 

「アホ言ってねぇでさっさと山の中探してこいッ! 見つけるまで戻ってくるなよ!」

『は、はい……!』

 

 レイデュエスの命令により、オガレスとルドレイは件の想い石を探しに向かっていった。

 

 

 × × ×

 

 

 夜になり、八幡たちは林間学校二日目の最終イベント、肝試しの用意を整えた。またそれと同時に敢行する、留美の問題解決のための仕掛けの準備も全てセッティングした。後は上手く事が運ぶことを祈るのみだ。

 

「葉山たちが上手いことやってくれるといいんだがな……」

 

 肝試しが始まるまでの間、今回の仕掛けに協力する葉山たちの成功を祈る八幡に、ジードが呼び掛けた。

 

『たとえ何が起ころうとも、留美ちゃんのことは必ず助けてあげよう。彼女のためにも……留美ちゃんのお母さんのためにも』

「ん?」

 

 今のジードの発言を気に掛ける八幡。

 留美の母親は、娘のことをとても心配しているようだ。留美が首から提げているカメラも、林間学校の思い出の写真をいっぱい撮るように母から預かったものだという。しかしジードは、何故わざわざ留美の母親のことも案ずるのだろうか。

 

『子供が不幸な目に遭ってたら、母親は悲しむに決まってる。そんなのは僕も悲しいよ……。だから、留美ちゃんを助けてお母さんを安心させてあげなきゃ……』

 

 八幡が聞き返す隙間もなく、ジードはつぶやき続けた。それは自分に言い聞かせているかのような口ぶりであった。

 

「……」

 

 八幡はそれから、質問してはいけない空気を感じ取って、口を閉ざした。

 そういえば、ジードの母親は誰なのだろう。父親のことは聞いているが……同じウルトラ族なのか? 地球人なのか? その辺りのことが、ジードがいやに「母親」を気にする理由につながっているのだろうか。

 答えは分からぬまま、運命の肝試しがスタートされた。

 



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汚された二人山伝説に挑戦せよ。(B)

 

 小学生たちの肝試しはつつがなく進行し、最後のグループの出発の番がやってきた。そのグループとは留美たちの組。――そうなるように八幡たちは事前に打ち合わせていた。

 その一つ手前の集団が肝試しのルート上の分かれ道を越えると、八幡が封鎖箇所を変えて留美たちの組だけ山に向かうコースを進むように細工する。そのコースの先には、お化けの仮装から普段着に着替えた葉山と三浦、戸部が待機している。

 留美たちが来るのを待つ中で、戸部がポツリとつぶやいた。

 

「いやー、にしてもヒキタニくんやべーわ。やべーこと思いつくわ」

「ホントに。ヒキオがあんなおっかないこと考えるような奴だったなんてねー。ま、ある意味らしいけどさ」

 

 戸部の言葉に同意する三浦。葉山もうなずいて口を開いた。

 

「確かに、普通なら考えつかないよな。――醜い本性を露呈させて、人間関係をリセットさせるなんてやり方」

 

 それが八幡の考え至った、留美を助ける手段であった。留美が無視され続ける環境が出来上がってしまっていて、外部からではどうにも変えることが出来ないのならば、その環境を壊してしまえばいい。そのためには、留美をいじめるグループを危機的状況に追いやって、自分だけが助かろうと醜くもがく様を互いに見せつけ合わせて人間関係にひびを入れ、グループを解体させるのだ。無視を主導する者たちがいなくなれば、留美が新しい人間関係を築く可能性も出来るはずだ。

 いじめっ子たちを恐怖させる役を任されたのが葉山たちである。小学生ならば、高校生から恫喝されればまず間違いなく平気ではいられない。そして他人をいじめる人間性の者たちならば、ピンチの状況で他人を助けようという美徳など持ち合わせてはいない。そこまでが八幡の計算であり、葉山たちも頭ではこれ以外の方法はないと理解はしていたが、心では今になっても子供たちを脅すことに対する後ろめたさがあった。

 

「ヒキタニくん考えがこえーわー。今後のつき合い方考えちゃうわー」

「ろくなつき合いないのによく言うね」

 

 適当なことを言う戸部に肩をすくめる三浦。そんな二人に時刻を確認した葉山が呼び掛ける。

 

「そろそろここに来る頃だと思う。準備しよう」

「はーい」

「うーすッ」

 

 三人は登山コースの中央に待機して、ここにやってくるはずの留美たちを待つ態勢を取った。するとガサガサと、茂みが揺れる音がする。

 

「お、来たんじゃね?」

 

 戸部がそう言うと、葉山が怪訝な顔になる。

 

「え? 今の、後ろからしたぞ?」

「後ろ?」

 

 三人がそろって背後に振り返ると――懐中電灯の灯りに、肌色の怪人の顔面が浮かび上がった。

 

「オォォォ―――――!!」

 

 怪人が奇声を発して腕を振り上げると、葉山は驚愕。戸部と三浦は一瞬で顔が青ざめ絶叫した。

 

「ぎゃあああぁぁぁぁぁぁぁ―――――――――!! 化け物ぉぉぉぉぉぉぉ――――――――――!?」

「あッ、おいッ!」

 

 恐怖に駆られた戸部と三浦は脱兎の如く逃げ出した。比較的冷静だった葉山も捨て置けず、慌てて二人を追いかけていく。

 その後に残された怪人――オガレスは機嫌を害して吐き捨てた。

 

『……人払いが目的とはいえ、化け物呼ばわりとは失礼な! これだから地球人は……こんなナイスガイを捕まえて!』

『よく言うよ、尻頭のくせに』

 

 後ろのルドレイがボソッとつぶやくと、聞き咎めたオガレスがムッと目くじらを立てた。

 

『何だと!? 人のこと言えたクチか、怪奇エビ男!』

『何ぃ!? ――と、争ってる場合ではないぞ。殿下から申しつけられた人払い、ちゃんとやらなくては』

『そうだった……。すっぽかしたら、また杖でボコスカ殴られてしまう』

 

 口喧嘩に発展しそうだったが、我に返った二人はその場から離れて周辺に他の人間がいないか捜しに行った。

 

 

 × × ×

 

 

 八幡は留美たちのグループが本来のコースから外れて、誘導通りに登山コースの方に入ったのを確認すると、念のために気づかれないようにこっそりと彼女たちの後を追跡する。そこにお化け役を終えた雪乃と結衣も合流した。

 留美たちの後を追う道すがら、結衣がジードにふと問いかけた。

 

「でも、ちょっと意外かも。ジードんとペガっちがヒッキーのやり方に反対しないなんて」

 

 ジードは正義の味方として活動しているし、本人もそのような人間であることを志していることを結衣たちは知っていた。星雲荘には『爆裂戦記ドンシャイン』なる特撮ヒーローのグッズがコレクションされていて、時々八幡をつき合わせてまでDVD鑑賞をしているらしいから。

 結衣の言葉に、ジードとペガは次のように返した。

 

『確かに趣味のいいやり方とは思わないけれど、誰かを貶めて維持される関係なんて、それをやってる子たちの方にも良くないよ。怖い目を見てもらってでも、今の内に自分たちのことを反省する機会を与えた方がいいと思う』

『うん……。そういうのは、子供の内に経験するべきだ』

「そうね。歳を重ねるにつれて、人間ってこじらせてしまうものだもの……」

「おいこっち見んじゃねぇよ。俺がその実例ってことかよ」

 

 ジーッと見つめてきながらそう唱えた雪乃に八幡が突っ込んだ。

 その時、戸部たちの悲鳴が彼らの耳を揺さぶった。八幡たちは仰天して正面に向き直る。

 

「今の、優美子たちの声だ……!」

「化け物って……まさか……!」

『八幡! 何か異常が起きたみたいだ!』

「らしいな……!」

 

 八幡たちは咄嗟に駆け出す。戸部たちの悲鳴は当然留美たちの耳にも入り、何事かと立ち止まっている少女たちに三人は近づく。

 

「あっ、お姉さんたち……!」

「あなたたちはここで待ってて。動いちゃ駄目よ……!」

 

 すれ違いざまに雪乃が言いつけ、八幡たちはずんずん登山コースを進んでいった。そしてその先で懐中電灯が照らし出したのは、

 

「あれって……平塚先生が言ってた奴じゃ!?」

 

 登山道の片端に鎮座している石碑。結衣たちは日中に平塚が話していた、想い石を思い出した。近くに無数の靴が散らばっているから、恐らく同じものだろう。

 しかし想い石に供えられていただろう靴は無残に蹴散らされており、石碑の正面には一人の男が立ってカプセルを石碑に向けていた。

 

「レイデュエス!」

「ん?」

 

 八幡たちが名前を言うと、レイデュエスが首をこちらに向けてチッと舌打ちした。

 

「……全くあいつら、人払いもまともに出来ないのか。まぁいい……すぐ完了だ」

「見て! 想い石から、何か光が……!」

 

 石碑からは淡く光るもやのようなものが生じている。祀られた侍の霊魂だ。

 レイデュエスはその魂をカプセルの中に吸引。カプセルの表面に、紅い甲冑の武者が描かれる。

 

「フッフッ……ちょうどいい。このカプセルの威力、確かめさせてもらおうじゃないか。宇宙指令C18!」

 

 レイデュエスはニヤリと笑って八幡たちに向き直り、単眼の鬼のカプセルのスイッチを入れた。

 

「イッツ!」『グオオオオ!』

「マイ!」『ウオオオオオ……!』

「ショウタイム!!」

 

 鬼のカプセルと今作成したカプセルを装填ナックルに押し込め、ブラッドライザーを起動するレイデュエス。

 

フュージョンライズ!

「ハハハハハハハハハッ!」

 

 暗黒の異空間の中、レイデュエスは魔人態となって鬼と鎧武者のビジョンを吸収する。

 

宿那鬼! 戀鬼・紅蓮騎!

レイデュエス! 怨恨凶剣鬼!!

 

 フランス人形とレコードプレイヤーを踏み潰して、レイデュエス融合獣が八幡たちの前にそそり立った。

 

「……!」

「グオオオオオオ――――……!」

 

 紅い甲冑と兜を纏った巨大な鬼が、ギラギラと光る単眼でこちらを見下ろしている。その腰に提げられた鞘から、スラリと太刀が抜かれた。

 一つ目の鬼と武者の亡霊、単なる怪獣の類ではない本物の化生の力によって作り出された大妖怪、怨恨凶剣鬼!

 

『雪乃、留美ちゃんたちを避難させて!』

「え、ええ!」

 

 ジードが即座に判断して、登山道に残してきた留美たちを雪乃に託した。

 

『結衣は八幡と!』

「う、うんっ!」

 

 結衣の方は、八幡とともにフュージョンライズさせる。

 

『ユーゴー!』『テヤッ!』

『アイゴー!』『タァッ!』

『ヒアウィーゴー!!』

[フュージョンライズ! ウルトラマンヒカリ! ウルトラマンコスモス!]

[ウルトラマンジード! アクロスマッシャー!!]

「ハァッ!」

 

 八幡と結衣とでフュージョンライズし、ウルトラマンジード・アクロスマッシャーが着地して怨恨凶剣鬼と対峙した。

 

『スマッシュビームブレード!』

 

 相手は刀を持っている。ジードはこちらも光剣で武装し、怨恨凶剣鬼へとまっすぐに駆けていって剣を振るう。

 

「ハァァッ!」

 

 ビームブレードの乱撃を叩き込むジード!

 ――だが、怨恨凶剣鬼は残像が残るほどの速さで身体を揺り動かし、斬撃を全て回避した!

 

(♪大怪獣の咆哮)

 

『「えぇっ!? な、何今の動き!?」』

 

 怨恨凶剣鬼の物理法則を無視した身のこなしに驚愕する結衣たち。ジードも思わず後ずさる。

 

「オオオオ――――!」

 

 今度は怨恨凶剣鬼が刀を横一文字に振るってきた。ジードは高々と跳躍して怨恨凶剣鬼の背後を取る。

 

「ウオオオオ――――!」

 

 だが怨恨凶剣鬼の後ろ髪がバサリとかき上がると、その下からもう一つの顔面が現れ、その口から鬼火を吐き出す。

 

「ウワアァァッ!?」

 

 着地したところを狙われてまともに鬼火を食らうジード。倒れる彼だが、怨恨凶剣鬼は容赦なく追撃してくる。

 

「オオオオオオ!」

「ウッ……!」

 

 相手の縦横無尽な剣さばきを懸命に逃れるジード。しかし逃げてばかりでは時間制限の短いこちらが不利になるばかり。

 

『ジードクロー!』

 

 逆転するべくジードクローを召喚して、八幡がジードライザーでリード。

 

[シフトイントゥマキシマム!]

 

 エネルギーをマックスにして、クローから光線を天に向けて放った。

 

「『ディフュージョンシャワー!!」』

 

 光線を雨あられとして怨恨凶剣鬼に降り注がせる!

 ――だが、怨恨凶剣鬼はこの攻撃を悠々とすり抜けてきた。

 

『「嘘でしょ!?」』

『「何でもありかよあいつ……!?」』

 

 流石に愕然とする八幡たち。そこにレムが告げる。

 

[あの融合獣は科学の力を超えた、不条理的存在の力を有しています。神秘の力を利用した肉体には、通常攻撃は通用しないでしょう]

『「反則だろそんなん……!」』

 

 毒づく八幡だが当然敵には通じない。怨恨凶剣鬼は妖気を刀に纏わせて、強化した斬撃を繰り出してきた!

 

「オオオオオオッ!」

「ウワアアアァァァァァ―――――!」

 

 避けきれずに吹っ飛ばされるジード。地面に叩きつけられ、カラータイマーが赤く点滅し出す。

 怨恨凶剣鬼はクルリとジードに背を向けると、雪乃にかばわれている小学生たち――リトルスターを宿した留美を狙い始めた。

 

『「や、やばいよ! 留美ちゃんが……!」』

『「分かってっけど、身体が……!」』

 

 ジードはダメージが大きく、しばしまともに動けそうにない。その間に怨恨凶剣鬼は刀を振り上げる。

 

「危ないわ! 逃げて……!」

 

 必死に留美たちを逃がそうとする雪乃だが、そのために自分が剣戟の風圧によって吹き飛ばされてしまう。

 

「ああああああっ!」

「お、お姉さんっ!!」

 

 雪乃を払いのけて、怨恨凶剣鬼は小学生たちを纏めて斬り伏せようと刀を振り上げなおした。

 

「オオオオオオ――……!」

 

 小学生たちは目前に迫る死に打ち震え、ガチガチと歯を鳴らす。

 

「い、いやあぁぁぁ! 死にたくなぁいっ!」

「助けて!! 助けてよぉぉぉぉ!!」

「だれかぁぁぁぁ―――――――!!」

 

 泣き叫んで命乞いする子供たちだが、怨恨凶剣鬼には当然通じない。遂に彼女たちの命を刈り取る凶刃が振り下ろされる――!

 

「――!」

 

 その瞬間、留美が皆をかばうように前に飛び出した!

 

「えっ――」

 

 一瞬唖然とする子供たち。その前で、留美が胸元から強烈な閃光を、怨恨凶剣鬼の眼に向けて焚いた。

 

「オオッ!?」

 

 油断していた怨恨凶剣鬼は目つぶしを食らって後ずさった。その間に、留美が胸の前で手を握り締めてジードに向け祈る。

 

「お願い……助けて……!」

 

 その祈りによって留美からリトルスターが切り離され、ジードのカラータイマーを通して八幡のカプセルホルダーへと飛んできた。

 八幡がカプセルを引き抜くと、新たなカプセルに赤と紫と銀のウルトラ戦士の絵柄が浮かび上がった。

 

『タァーッ!』

[ティガカプセル、起動しました。カプセルを交換して下さい]

 

 レムが告げ、更にカプセルの交換を促した。

 八幡たちは言われた通りに、新しく入手したカプセルを用いてフュージョンライズする!

 

『ユーゴー!』

『タァーッ!』

 

 八幡がカプセルのスイッチを入れ、ウルトラマンティガのビジョンが腕を振り上げた。

 

『アイゴー!』

『セェアッ!』

 

 結衣はルナミラクルゼロカプセルを起動し、青いウルトラマンゼロが腕を振り上げる。

 

『ヒアウィーゴー!!』

 

 二つのカプセルを収めた装填ナックルを、八幡がジードライザーでリード。

 

[フュージョンライズ!]

『ジィィィ―――――――ドッ!』

 

 ティガとルナミラクルゼロのビジョンが八幡たちと重なり、フュージョンライズ!

 

[ウルトラマンティガ! ルナミラクルゼロ!]

[ウルトラマンジード! ムゲンクロッサー!!]

「ハァッ!」

 

 青い輝きと光の軌道を超え、青と紫の螺旋からジードが新たな姿となって飛び出していく!

 

「トォッ!」

 

 怨恨凶剣鬼の頭上を跳び越え、留美たちの盾となるように着地したジード。その姿は青と紫と銀の体色に、左腕から胸に掛けて金色の装甲に覆われている。そして右手の中にふた又の剣が現れ、それを固く握り締めた。

 超古代のウルトラ戦士ティガと、超能力戦士ルナミラクルゼロの力によってフュージョンライズした超戦士ムゲンクロッサー! その力の程は、まだ何もしていなくとも結衣が肌で感じ取った。

 

『「これならイケそう! やろうよヒッキー! お侍さんたちの幽霊を自分勝手に利用するなんてこと、許しておけないよ!」』

『「よぅし……!」』

 

 八幡が怨恨凶剣鬼を見据え、ジードがふた又の剣、ゼロツインソード・ネオを高々と構えた。

 

『「挑むぜ……神秘!」』

 

(♪蘇る巨人2)

 

「オオオオオ――!」

 

 仕切り直しとなった対決。怨恨凶剣鬼が機先を制してジードに斬りかかるが、ジードは『左右』に分かれて回避した。

 そう、『左右』に。ジードは一瞬の内に三人に分身して、怨恨凶剣鬼を包囲した!

 

「ウオオ!?」

 

 突然のことに怨恨凶剣鬼は首を振り回して動揺。ムゲンクロッサーは超能力に特化した形態であり、分身などは最も得意とする能力なのである。

 

「ハァァッ!」

 

 そして攻撃にはゼロツインソード・ネオがある。分身したジードは一斉に、三方向から怨恨凶剣鬼に斬りかかる。

 

「オオオオオオッ!!」

 

 たとえ物理法則を無視した挙動が出来ても、流石に取り囲まれて三方向から繰り出される斬撃をかわし切ることは出来ない。怨恨凶剣鬼は瞬く間に切り刻まれていく。

 

「セアッ!」

 

 最後に本体のジードが突撃を掛け、とどめの一撃を叩き込む。

 

「『マジカルトライデントスラッシュ!!」』

 

 最後の斬撃が怨恨凶剣鬼の胴体を真っ二つに切断し、その身体は霧散して消滅していった。と同時に、カプセルに囚われた戀鬼――侍と姫の魂が、天へと昇っていく。

 それをしっかりと見届けて、ジードは夜空に向かって飛び立って地上を去っていったのであった。

 

 

 × × ×

 

 

 本来の計画とは大分異なる形にはなってしまったが、肝要の留美の問題に関しては、改善の兆しが見られた。同じグループの子たちを留美が身体を張って助けたことで、それまで無視をしていた子たちが彼女を意識するようになったのだ。そこからは、留美本人の努力次第だろう。

 平塚も八幡たちが無事だったことに心から安堵し、また結果的に留美を助けたことを称賛してくれた。それを口にしていた時の平塚はとても上機嫌であった。

 

「それにしても、私の結婚相手はいつ現れるんだろうな。明日かな、明後日かな? 楽しみだなぁ、ふふふ」

 

 彼女は想い石の効果が出るのを待ち望んでいた。しかし、レムがこのように言ったのを八幡たちは知っている。

 

[想い石の力は、戀鬼の霊力が引き起こしていたものです。故に本物だったのですが、その霊魂は融合獣を倒したことで石碑から去りました。想い石はもう何の力もない、ただの墓標です]

 

 すいません、あれもう効果ないんですよ……とは、あまりにも嬉しそうな平塚を見ていたらとても伝えられない八幡たちであった。

 

 

 何だかんだとあった奉仕部合宿が終わり、八幡たちのワンボックスカーは総部高校の前で停車。そこからは各人で解散ということになる。

 

「お兄ちゃん。どうやって帰ろっか?」

「京葉線でバスがいいかな。帰りに買い物して帰ろうぜ」

「あいあいさー。京葉線ですし、雪乃さんも一緒に帰りません?」

「そうね。……では、途中まで」

「んじゃ、あたしとさいちゃんはバスかな」

「うん、そうだね。じゃあ……」

 

 それぞれが帰路につく相談をしていたところに、不意に黒塗りのハイヤーが静かに近づいてきて、八幡たちの前に横づけされた。

 目を丸くしている八幡たちの見ている中、初老の運転手が後部座席のドアを開けた。中から降りてきたのは、

 

「はーい、雪乃ちゃん」

「姉さん……」

「え、ゆきのんの……お、お姉さん?」

 

 陽乃である。初対面の結衣らは雪乃と陽乃を頻りに見比べた。

 

「雪乃ちゃんてば夏休みはおうちに戻ってくるようにって言われてたのに全然帰ってこないから、迎えに来ちゃった! でもお邪魔だったかな? 比企谷くんとデートだったみたいだから!」

「またそのパターンかよ……。違うっつってんじゃないですか」

 

 肘で八幡を突っつく陽乃。すると結衣が八幡の腕を引っ張って陽乃から離した。

 

「あ、あの! ヒッキー嫌がってますから!」

 

 陽乃がピタリと動きを止め、結衣に一見では分からないが、含みのある眼差しを向けた。

 

「あなたとは『はじめまして』だね。わたしは雪ノ下陽乃。雪乃ちゃんのお姉ちゃんです」

「あ、ご丁寧にどうも……。ゆきのんの友達の由比ヶ浜結衣です」

「友達、ね……。雪乃ちゃんにも友達がいるんだ、安心したよ。でも、比企谷くんに手を出しちゃ駄目だよ。それは雪乃ちゃんのだから」

「違うわ」

「違うっつーの」

「ほら! 息ぴったり!」

 

 八幡と雪乃の声がそろったのを面白がる陽乃。そこに平塚が呼び掛ける。

 

「陽乃、その辺にしておけ」

 

 陽乃は平塚の方を向くと、親しげに呼び返した。

 

「久しぶり、静ちゃん」

「その呼び方はやめろ」

 

 二人の様子に八幡が素朴な疑問を投げかける。

 

「先生、知り合いなんですか?」

「昔の教え子だ」

「まぁ積もる話はまた改めて、ね。じゃあ、雪乃ちゃん。そろそろ行こっか」

 

 陽乃が促しても雪乃は動こうとしなかったのだが、

 

「お母さん、待ってるよ」

 

 そのひと言でピクリと反応し、あきらめたようなため息を吐くと小町に向き直った。

 

「小町さん。せっかく誘ってもらったのにごめんなさい。あなたたちと一緒に行くことは出来ないわ」

「え。は、はい……それはまぁ、お家のことなら……」

 

 小町が戸惑ったように答えると、雪乃は消え入りそうな声で別れを告げた。

 

「……さようなら」

「じゃ、比企谷くん。ばいばーい!」

 

 雪乃と陽乃を乗せて、ハイヤーが滑らかに発進した。それを呆然と見送る八幡の袖を、結衣がそっと引く。

 

「ねぇ……あの車、さ……」

 

 言いかける結衣に、八幡は肩をすくめてみせた。

 

「まぁ、ハイヤーなんてどれも似たようなもんだしな。いちいち車なんて覚えてねぇよ」

 

 ――嘘であった。八幡は今のハイヤーが、自分と衝突したものであることに確信を持っていた。そしてあの時……戦いに必死だったのであの時は気づかなかったが、今ならはっきりと言える……クラッシャーゴンに捕まり、自分が助けたハイヤーもまた同じものであった。あの時、後部座席に乗っていた雪乃らしき人影は、きっと陽乃だったのだろう。自分は、六月以前に陽乃と出会っていたのだ。

 

 

 その語の夏休み中に、八幡と雪乃が再び会うことは、なかった。

 

 

 

『ウルトラストーリーナビ!』

 

結衣「今回は『ウルトラマンコスモス』第十八話「二人山伝説」だよ!」

結衣「チームEYESのシノブリーダーが休暇中にやってきた二人山では、リーダーの防衛軍時代の上官の竹越さんが待ってたの。リーダーはその人のことが好きなんだけど、竹越さんは娘さんがいて、その娘さんはお父さんの再婚に反対してるの。一方で二人山ではダム建設の話が持ち上がってたんだけど、業者が建設に邪魔な石碑を壊しちゃって、そのせいで封印されてた怨霊・戀鬼が蘇っちゃった! リーダーみたいに報われない恋のために怨霊化した戀鬼に、コスモスが立ち向かうんだけど……っていうお話しだよ」

結衣「シノブリーダーの恋愛にスポットが当てられた回だけど、それはほろ苦い大人の恋。そこに悲恋で終わった幽霊が敵として登場して、恋とは素敵なだけのものじゃないってことが描かれるストーリーなの」

結衣「恋愛って障害も多くて、報われる訳じゃないんだよね……。あたしの場合もやっぱり難しいんだろうなぁ。相手が相手だしね……」

ジード『戀鬼は『ウルトラマンオーブ』でまさかの復活を遂げたんだよ! でもそのままって訳じゃなくて、メカザムの着ぐるみを改造した紅蓮騎というアレンジキャラとしてだけどね』

結衣「それじゃ、次回もよろしくねっ!」

 




「二か月足りなぁ~い……」
「雪乃、元気にしてるかなぁ……」
「ね、ね、何から食べる? りんご飴? りんご飴かな?」
『えー? 女の子と二人でデートが楽しくないの?』
「あ、そうなんだー! 一緒に来てるんだねー」
「……雪乃ちゃんは、また選ばれないんだね」
レイデュエス! マグマゴメス!!
『このままじゃやばい……! カプセルを交換するんだ!』
『「けど、今は雪ノ下がいねぇ!」』



次回、『融合獣マグマゴメスを倒せ。』



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融合獣マグマゴメスを倒せ。(A)

 

「……」

 

 八幡は自宅のソファに寝転がって、卓上カレンダーの日数を数えていた。

 

「いちにぃ~ち、ふつかぁ~……」

 

 表に出ている八月のページには、日にちのマス毎にバツ印が記されている。バツが入っていないマスは最後の五個だけ。つまり八月――夏休みもあと五日で終わりということである。

 その事実を確認した八幡は、ゴロゴロしながらぼやいた。

 

「二か月足りなぁ~い……」

「八幡、あんまり情けないこと言わないでよ」

 

 ペガがにゅっとダークゾーンから顔を出して突っ込んだ。

 

「もう、ほんとに君って奴は自堕落だなぁ。いつも働きたくないって言ってる上に、今度は学校行きたくないだなんて」

「そんなの普通普通、日本中のほとんど全員の学生が本心で思ってることだろ。早く学校始まらないかなーなんてこと抜かす奴は、自分をごまかしてるか親か教師に洗脳されてるかのどっちかだ」

『そんなことないでしょ。学校に行けば毎日友達に会えるじゃないか!』

 

 ジードの爽やかな発言に、八幡は逆に顔をしかめた。

 

「ダチなら休みの時にだって会えるし、そもそも俺ぼっちだし」

『雪乃や結衣たちがいるじゃん』

「いやぁあいつら別に友達って間柄じゃねーよ。特に雪ノ下」

「材木座君は?」

「材木座って誰だっけ」

『戸塚君は?』

「ああ早く学校始まらねぇかな最後に戸塚の顔を見たのはいつだったか今すぐ会いたいぜ戸塚ぁ!」

 

 華麗なほどの手の平返しっぷりに、ジードもペガも大きなため息を吐いた。

 

「……それはともかく、ペガは雪乃と会いたいな。千葉村から帰ってきてから、一度も顔を見てないよ」

『そうだね……。実家に帰省してるみたいだけど、今頃何やってるんだろう……』

 

 ジードたちが雪乃に思いを馳せ、八幡もまた最後に見た、去り際の雪乃の顔を思い返した。

 

「……」

 

 八幡たちは千葉村からの帰り、陽乃に連れ戻されてからずっと、雪乃と会っていなかった。怪獣が出ても、星雲荘にも顔を出すことがない。ジード部は強制ではないので、そのことで非難するつもりなどはないのだが……。

 

「ちょっと心配しちゃうな……。雪乃、元気にしてるかなぁ……」

 

 雪乃を案じて目を伏したペガに、ばっと飛びつく小さな影。

 

「ひゃんひゃん!」

「わッ! あはは、くすぐったいよサブレ」

 

 ぺろぺろとペガの顔をなめ回すのは、結衣の飼い犬サブレだ。彼女が家族旅行に行っている間、この比企谷家で預かっているのである。

 ペガに遊んで遊んでとじゃれついていたサブレだが、小町の足音が近づいてきたので慌てて影の中に頭を引っ込ませた。

 

「お兄ちゃ~ん、何か騒がしいけどどうかしたの?」

 

 リビングに顔を覗かせた小町に、八幡は身を起こしてごまかしに掛かった。

 

「何でもねぇ。サブレがじゃれついてただけだよ。こいつ飼い主に似てかやたらとはしゃぐからな」

「そぉ? お兄ちゃん、最近何か独り言が多いような気がするんだよね~。その辺自分で注意しないとダメだよ? 元々変な目で見られてるだろうけどさ、ますます不審者扱いされちゃうよ?」

 

 と小町が言うので、八幡はジトッと影をにらんだ。ダークゾーンが申し訳なさそうにもぞもぞ蠢いた。

 とその時に呼び鈴が鳴る。

 

「あ、やっはろー。いやぁありがと! サブレが迷惑掛けてなかった?」

 

 八幡と小町が迎え入れたのは、旅行からの帰り、サブレを引き取りに来た結衣であった。

 

 

 

『融合獣マグマゴメスを倒せ。』

 

 

 

 その日の夕方、八幡は駅の柱に寄りかかっていた。ケータイをいじって時間を潰していると、ころころと下駄を鳴らしながら浴衣の女の子が駆け寄っていく。

 

「あ、ヒッキー。ちょっと、ばたばたしちゃって……遅れちゃった……」

 

 結衣である。恥じらうようなはにかみ笑いを向けてくる彼女に、八幡は思わず目を泳がせる。

 

「いや、それは別にいいんだけどさ……」

 

 八幡はここで結衣と待ち合わせをしていた。これから二人で――まぁ正確にはあと二人が一緒にいる訳だが――千葉市民花火大会へと出掛けるのだ。

 結衣がサブレを引き取りに来た際に、先日に平塚が花火大会は自治体主導なので、良家の娘である雪乃が参加しているかもしれないと八幡が口にしたら、結衣が食いついてきて八幡を誘ったのだ。八幡は小町も連れていくつもりであったが、ある思惑を抱える小町のお膳立てにより、二人で出掛けることになったのである。

 八幡と結衣は、普段とは打って変わって、お互いを変に意識して目を右に左に泳がせながら沈黙している。これが祭りと浴衣の成す、特別感のある空気か。

 

「……とりあえず、行くか」

「……うん」

 

 もどかしい沈黙を破って、八幡が結衣を先導。電車に乗って、花火大会会場の最寄り駅へと向かっていった。

 

 

 × × ×

 

 

 駅前から花火大会会場までに広がる公園は、祭りだけあって普段は閑散としている広間が現在はいくつもの出店と大勢の客でごった返していた。八幡と結衣はその間をかき進みながら、小町から頼まれた品を買いそろえていく。

 

「しっかし、この最後のは実にうぜぇな……」

 

 しかめ面で小町からのメールを見返す八幡。メールは焼きそばやわたあめなど買ってきてほしいもののリストとなっているのだが、その最後の項目が「花火を見た思い出 プライスレス」となっているのだ。

 

「これをドヤ顔で打ったかと思うと……ああ兄として恥ずかしい」

 

 嘆かわしいと頭を振る八幡に、結衣もついつい苦笑いを浮かべた。

 

「まぁ、とりあえずこれ順に買ってくか……」

「うん」

 

 八幡はふー、と息を吐いて気分を入れ替え、結衣とともに出店を回って買い物を始めるが、結衣は軒並み連ねる店の数々に目移りしてはしゃぎまくる。

 

「ね、ね、何から食べる? りんご飴? りんご飴かな?」

「それリストにねぇだろ……。てか食べることが目的になってんじゃねーか」

 

 その買い物の合間に、ペガがダークゾーンからこっそりと八幡に囁きかけた。

 

『結衣、楽しそうだね。八幡ももうちょっと楽しそうにしたら?』

「余計なお世話だよ。つぅか別に買い物なんか楽しかねぇし。俺男だからな」

『えー? 女の子と二人でデートが楽しくないの?』

「デートとか言うな。由比ヶ浜とはそんなんじゃねーって知ってるだろ」

『もう……鈍感なんだから』

 

 ペガは独りごちたつもりだろうが、八幡はしっかりと聞き留めていた。

 

(全く、ペガも小町も余計な世話ばかり焼きやがって……。俺だって、この状況を何とも思わない訳じゃねぇんだよ)

 

 心の内で独白する八幡。彼とて、小町のお膳立ての意図も、結衣の自分に向ける感情の意味も分かっていない訳ではない。

 しかし八幡は、だからと言って安易に行動することはいけないと己を戒めている。これまでのそう長くもない人生で、数え切れないほどの失敗の経験から学んだ教訓だ。軽々しい行動は恥と後悔を招く。結衣だって、サブレを助けられた恩義を好意と間違えているだけだ。ヒーローの比企谷八幡も、あくまで借り物の姿だ。その想いが偽りで、いつか消えてしまうものではないと誰が証明できるのか。

 だから、調子に乗ってはいけない。自分を過大評価してはならない。軽はずみな決断は、自分だけでなく結衣にも不快な思いをさせてしまうことだろう――。

 

「あ、ゆいちゃんだー」

 

 考えに耽っていた時、前方からどこかで見覚えのあるような女子が結衣に小さく手を振って近づいてきた。

 

「お、さがみーん」

 

 結衣の知り合いのようで、結衣も手を振り返して返事する。そして八幡と女子に互いのことを紹介した。

 

「同じクラスの比企谷くん。こちら、同じクラスの相模南ちゃん」

 

 八幡と相模という女子の目が合い――相模は一瞬、ふっ、とかすかな笑みを浮かべた。

 

「あ、そうなんだー! 一緒に来てるんだねー。あたしなんて女だらけの花火大会だよー。いいなー、青春したいなー」

「……。あはは! 何その水泳大会みたいな言い方! こっちだって全然そういうんじゃないよ~」

 

 結衣は一瞬言葉に詰まりながらも相模に合わせて笑うが、八幡は真顔のまま、そっと踵を返した。

 

「焼きそば、並んでるみたいだから先行くわ」

「あ、うん。すぐ行く」

 

 八幡はそれを口実に結衣から離れた。これ以上、相模に彼女を笑わせたくないから。

 結衣が気づいたように、八幡も悟っていた。先ほどの相模の笑みが、嘲笑だということに。彼女は八幡、“由比ヶ浜結衣の連れている男”を値踏みして、結衣のことも内心で侮蔑したのだ。結衣が“価値の低い男”といるとして、優越感に浸っていた。

 軽はずみな行動がいけない実例が、早速現れた。結衣が自分と、祭りというイベント時にいては、彼女までクラス内でのカーストを下げられ、他の女子から舐められてしまうかもしれない。――自分が笑われるだけなら耐えられるが、結衣まで巻き込むのは、心が痛むのが抑えられない。

 

『……ペガ、ああいうの好きじゃないな』

 

 ペガがボソリと、そうつぶやいた。

 

『八幡が何をしたっていうのさ。それなのに、ひと目見ただけで馬鹿にして……。結衣のことまで蔑んでた。誰が誰といたっていいじゃない。人を見下して、一体何になるってのさ……』

「……ま、人ってのはレッテルを貼りたがるもんだ。自分を守るためにな」

『……』

 

 努めてそっけなくペガに返す八幡。ジードは、意味ありげに沈黙を貫いていた。

 

 

 × × ×

 

 

 日が東京湾に沈んで空が完全に夜の闇に染まった頃、八幡は結衣と合流して買い物を済ませていた。そして花火のメイン会場へと移ってきたのだが……。

 

「いやー、混んでるねぇ」

 

 たははと笑う結衣。会場は辺り一面数え切れない人たちがビニールシートを敷いたりして占領しており、座れるようなところが見当たらない。八幡だけなら立ちっぱなしでもいいが、流石に結衣までそうさせる訳にはいかないだろう。

 

「こんなに混むって知ってたら小さなビニールシートくらいは準備してきたんだけどな」

「む、むー。何かあたしが悪いみたい……。ごめん、言っとけばよかったね……」

「……ちげーよ。こういうのに慣れてないんだ。そこまで頭が回らなかった。悪い」

 

 八幡が謝ると、結衣がぽかんと口を開いて八幡の顔を見上げた。

 

「何だよ……」

「……ヒッキーって、気、使えるんだ」

「はぁ? ばっかお前めちゃくちゃ使えるよ。気ぃ使ってるから誰にも迷惑掛けないように静かに隅っこいるんだろうが」

「あはは、そういうことじゃなくてさ……。その、何というか、優しい? というか」

「ほう、よく気づいたな。そうそう俺は優しいんだよ。今まで色々あったが誰一人何一つ俺は復讐せず見逃してやってきてるからな。俺が並の人間だったらジードがそいつら握り潰してるわ。八幡様を大切にしない奴は死ぬべきなんだ! って具合にな」

『流石にそんなことはさせられないなぁ……』

 

 八幡の冗談にジード本人が突っ込んだ。

 

「まぁ何でもいいよ。それよかあっち空いてるっぽいから行ってみようぜ」

 

 ともかく、二人は座れそうな場所を探して、人の少ない方まで移動していった。

 がしかし、そこはトラロープで区切られた有料エリアであった。当然、八幡たちには場違いのところだ。

 

「もうちょっと探してみるか……」

 

 別の場所に移動していこうとしたその時、有料エリアから八幡を呼ぶ声が起こる。

 

「あれー? 比企谷くんじゃん」

 

 振り返ると、そこにいたのは――大百合と秋草模様が涼しげな浴衣を纏った、雪ノ下陽乃であった。

 

 

 そして八幡と結衣は陽乃に招かれ、彼女とともに花火を観覧することとなった。三人がいる場所は打ち上げ場所の正面であり、障害物もない、まさに格別のスペースであった。

 

「父親の名代でね、ご挨拶ばっかりで退屈してたんだ。比企谷君が来てくれてよかったー」

「はぁ。名代、すごいっすね」

「ふふっ、貴賓席っていうのかな。普通は入れないんだから」

 

 八幡は陽乃と見た目上は気さくに話しながらも、内心ではかなり恐々と彼女に接していた。彼はその完璧な外面の下に、底の知れない何かが渦巻いているのを薄々感じ取っているので、彼女がどんなことを考えているのかと思うと気が気でないのだ。

 そんな八幡に陽乃はぼそっとつぶやく。

 

「それはそうと……浮気は感心しませんなー」

「いや、浮気じゃないし……」

「じゃあ、本気か……。なおさら許せませんなー」

「いたたた! 本気でもないですよ……」

 

 ギュッと耳をつねられ、慌てて逃げる八幡。そうしていると、花火の一発目が夜空に打ち上がる。盛大な炸裂音と黒い空を彩る暖色の光輪が、八幡たちの目を引きつける。

 

「ほぉ……」

 

 陽乃がリラックスするように椅子に深く座り直すと、それまでタイミングを窺っていた結衣が意を決して陽乃に話しかけた。

 

「あ、あのっ!」

「えーっと……なにヶ浜ちゃんだったっけ?」

「ゆ、由比ヶ浜ですっ」

「あ、そうだ。ごめんごめん」

 

 軽く謝る陽乃だが、名前を忘れたのがわざとだと八幡は悟って、ますます戦々恐々とした。

 

「今日ってゆきのんは一緒じゃないんですか?」

「雪乃ちゃんなら家にいるんじゃないかな。こういう外向きのことはわたしのやることだし。言ったでしょ、父の名代。こういう場に出るのは長女であるわたし。昔から母の方針なの」

 

 もっともらしい理由を口にした陽乃だが、結衣は尋ね返す。

 

「それって、ゆきのんは来ちゃいけないものなんですか?」

 

 そう聞くと、陽乃は少し困ったように微笑んだ。

 

「んー。まぁ、母の意志だし……。うちって母が強くて怖いんだよー」

「え、それって雪ノ下より?」

「雪乃ちゃんが? 怖い? あんな可愛い子をそんな風に思ってたのー?」

 

 八幡の率直な言葉に陽乃はひとしきり笑ってから、八幡に耳打ちした。

 

「母はわたしより怖いよ」

「……それ人間ですか」

「母が何でも決めて従わせようとする人だから、こっちが折り合いをつけるしかないんだけど……雪乃ちゃん、そういうのへたっぴだから」

 

 どこか含みのある苦笑を浮かべた陽乃は、今度は自分から結衣に問いかける。

 

「で、今日はデートだったのかな? だったら邪魔しちゃってごめんね」

「い、いえ。べ、別にそういう訳では……」

「ふぅん……。その照れ方は怪しいなー。けど、もしデートだったんなら……」

 

 結衣の様子を観察した陽乃は、次の花火が破裂するのと同時に、ぼそりとつぶやいた。

 

 

「……雪乃ちゃんは、また選ばれないんだね」

 

 

「……あの、今のって……」

 

 聞き返す結衣だが、陽乃はそれまで花火に夢中だったとでも言いたげな様子でにっこり笑った。

 

「ん? なぁに?」

「あ、いえ、その……何でもないです」

 

 結衣が言葉を引っ込めて、会話がそこで途切れた。

 その間にも、夜空には断続的に花火が打ち上がっていく。

 

 

 × × ×

 

 

 花火が次々に空に打ち上がる中――花火を見るには適さない鬱蒼とした雑木林の中で、ルドレイが花火会場の様子をざっと観察した。

 

『これ以上は人間は集まりそうにありません、殿下』

「そうか。頃合いだな」

 

 毒々しい紫の浴衣姿に、頭に怪獣のお面を斜めにつけているレイデュエスがうなずいて応じる。

 

「お面は顔につけるものだろうに、顔に被ったらいけないとは世知辛い世の中だ。……まぁそれはともかく、今回の襲撃を始めるとしよう」

『これだけの数の人間を襲うのも久しぶりですな』

「最近は本来の目的を忘れがちだったからな……。このまま宇宙警備隊がしゃしゃり出てこないとも限らんし、少しでも早く『あのカプセル』を再起動させんとな……」

 

 ほくそ笑みながら怪獣カプセルを起動しようとするレイデュエス。……だが、そこにオガレスが呼び掛ける。

 

『ええ? 花火が終わるまでまだ少し時間ありますし、もうちょっと食い物を調達してからでもいいのではありませんか? ほらこのかき氷なんて宇宙になかなか見られない文化……おごご!?』

 

 オガレスは手に持っていたかき氷を口の中に無理矢理流し込まれた。

 

『あががぁ――――! 頭がキーンとッ! キーンってッ!』

「馬鹿はほっといて行くぞッ! 宇宙指令Q01!」

 

 頭を抱えてのたうち回るオガレスを尻目に、レイデュエスが怪獣カプセルを起動。

 

「イッツ!」『ギャアアオウ!』

「マイ!」『アアオオウ! アアオオウ! シャウシャ――――――!』

「ショウタイム!!」

フュージョンライズ! アーストロン! ゴメス・S!

レイデュエス! マグマゴメス!!

 

 レイデュエス魔人態が角のある二体の怪獣のビジョンを吸い込み、融合獣マグマゴメスへと姿を変えて巨大化していった!

 



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融合獣マグマゴメスを倒せ。(B)

 

「アアオオウ! ギャアアオウ! シャウシャ――――――!」

「!!」

 

 八幡たちの見上げていた花火の炸裂音が、耳をつんざく咆哮によってかき消された。見れば、夜の闇の中にいつの間にか巨大な怪物の影がそびえ立っている。

 頭部に巨大で前に曲がった一本角を生やした、毛皮のある恐竜型の怪獣。背筋にはサメのようなヒレがズラッと並び、双眸は真っ赤に爛々と光っている。皮膚には亀裂が走り、裂け目から赤いマグマエネルギーが煮えたぎって煙を噴き出していた。

 八幡と結衣は怪獣の胸部に紫色の光体が七つ並んでいるのを目にして、それが融合獣であることをすぐに見て取った。レイデュエス融合獣マグマゴメスだ!

 

「ヒッキー……!」

「ちッ……まぁた現れやがったか……!」

 

 融合獣の影に会場は一気にパニック状態になり、平穏なひと時は瞬く間に破られた。その混乱の中で忌々しげに舌打ちする八幡。一方で陽乃は何やら手を懐に突っ込んでいたが、

 

「……あっ、今は持ってないんだった……」

「陽乃さん? どうしたんですか?」

 

 小さくつぶやいて手を抜いた陽乃に、彼女の様子を訝しんだ結衣が尋ねかけた。

 

「あっ、何でもないよ。それより早く避難しなきゃね! 怪獣こっちに来るし!」

 

 陽乃の言う通り、マグマゴメスは地響きを引き起こしながらこちらへと接近してきている。そのため確かにすぐ避難すべき状況なのだが、

 

「そ、そうっすね……」

「は、早く逃げないと危ないですよねー! はは……」

 

 当然、八幡たちは他と同じようにはしていられない。しかしどんな口実をつけて陽乃から離れて変身するべきか……。曖昧に返事しながらそれを考えていたら、

 

「じゃ、悪いけどわたし先に行くね! 二人も急いでねー!」

「え……」

 

 意外にも陽乃の方から八幡たちより離れ、あっという間に避難する群衆の中に紛れていった。その背中を呆然と見送る結衣と八幡。

 

「お、置いてかれちゃった……」

「ああ……。まぁ、こっちとしちゃ好都合ではあるが……」

 

 予想外の陽乃の行動にしばし立ち尽くしていた二人だったが、そんなことをしている場合ではない。気を取り直して、自分たちは避難する客たちとは別の方向、身を隠せる植林エリアに飛び込んでいった。

 そこで他に人目がないことを確認してから、ウルトラカプセルとジードライザーを取り出す。

 

『ユーゴー!』『テヤッ!』

『アイゴー!』『タァッ!』

『ヒアウィーゴー!!』

[フュージョンライズ! ウルトラマンヒカリ! ウルトラマンコスモス!]

[ウルトラマンジード! アクロスマッシャー!!]

 

 八幡と結衣はヒカリとコスモスのカプセルをスキャンして、ウルトラマンジード・アクロスマッシャーに変身! 植林を飛び出して、群衆をつけ狙っているマグマゴメスの正面に着地して立ちはだかった。

 

「ハッ!」

 

 ジードの登場に振り返る人々。子供たちの間からは歓声が沸き上がる。

 

「あッ、ウルトラマンジードだぁ~!」

「ジード、がんばれー!」

 

 子供たちの声を背に受けながら、ジードが融合獣に立ち向かっていく!

 

『「よし……行くぜッ!」』

 

 まずは右腕から光剣を伸ばして武装。

 

『スマッシュビームブレード!』

 

 それを片手に、アクロスマッシャー特有の軽やかで素早い身のこなしでマグマゴメスに肉薄。先制の一撃を叩き込む!

 

「ハァッ!」

「アアオオウ! ギャアアオウ! シャウシャ――――――!」

 

 マグマゴメスは反応も出来ずに斬撃を食らう。

 ……が、その体表にはかすかなすり傷しか入っていなかった。

 

『「効いてないよ!?」』

『「ちッ……!」』

 

 ジードはもう一度マグマゴメスに飛びかかって、連続で四肢を斬りつける。しかしやはり微々たるダメージしか与えられない。

 

「アアオオウ! ギャアアオウ! シャウシャ――――――!」

「ウッ!」

 

 てこずっている内にマグマゴメスの反撃により、ビームブレードを半ばからへし折られてしまった。

 

『「だったらこっちだ!」』

 

 ジードはめげずに武器を取り換え、ジードクローを握って一回レバーを握り込んだ。

 

『クローカッティング!』

 

 クローを回転させて光刃を飛ばすも、マグマゴメスの鉤爪によってあっさりと粉砕された。

 

『「ん何……!?」』

『「あいつの身体、チョー硬いよ……!?」』

 

 攻撃が通用せずに動揺するジードたち。マグマゴメスは二体とも重量級の怪獣による融合獣という、生粋のパワータイプ。動きは速くとも、一撃が軽いアクロスマッシャーでは相性が悪かった。

 

(♪ピンチの戦い)

 

「アアオオウ! ギャアアオウ! シャウシャ――――――!」

 

 有効打を与えられない間に、マグマゴメスからの反撃が来た。背びれがビカビカと赤く光ったかと思うと、大口から灼熱の強力熱線を吐き出してくる!

 

「ウワアァァッ!」

 

 熱線はジードに襲い掛かるばかりか、周囲の地面を燃やして火の手で囲い込む。ジードは足が取られて身動きが取れない。

 そこにマグマゴメスが突っ込んできて、ジードはぶちかましをもらった。

 

「アアオオウ! ギャアアオウ! シャウシャ――――――!」

「ウワァァ――――!」

 

 大きく吹っ飛ばされるジード。更に尻尾の殴打も食らい、したたかに地面に打ちつけられる。

 

『「ぐッ……!」』

『「うぅ……!」』

 

 衝撃が伝わってきてうめく八幡と結衣。カラータイマーも鳴り、窮地を報せる。

 

『このままじゃやばい……! カプセルを交換するんだ! パワーのある奴に!』

 

 この状況を脱するためにフュージョンライズ形態の変更を促すジードであったが、

 

『「けど、今は雪ノ下がいねぇ!」』

『ああそうだった……!』

 

 マグマゴメスに張り合えるだけのパワーがある形態といえばソリッドバーニングかリーオーバーフィストだが、どちらも雪乃が不在のために変身することが出来ない。万事休すか!

 

「アアオオウ! ギャアアオウ! シャウシャ――――――!」

「ウッ……!」

 

 マグマゴメスは容赦なくジードへと迫り来る。思わず身構えるジードであったが、その時、

 ターンッ!

 

「アアオオウ! ギャアアオウ!」

 

 どこからか光弾が飛んできてマグマゴメスの左目に炸裂。想定外の方向からの攻撃を急所にもらったマグマゴメスは反射的に動きを止めた。

 

「フッ!?」

 

 突然のことに一瞬驚くジードであったが、これはまたとない好機。このチャンスを逃してはなるまいと、八幡たちは一番勝算のある形態へのチェンジを敢行した。

 

『ユーゴー!』

『オリャアッ!』

 

 八幡がオーブ・エメリウムスラッガーカプセルを起動して装填ナックルに押し込む。

 

『アイゴー!』

『フエアッ!』

 

 結衣はベリアルカプセルを起動し、八幡は再びジードライザーを取り出した。

 

『ヒアウィーゴー!!』

 

 装填ナックルに収めた二つのカプセルをライザーでスキャンし、再変身!

 

[フュージョンライズ!]

『ジィィィ―――――――ドッ!』

 

 オーブとベリアルのビジョンが八幡たちと重なって、ジードは姿を変える!

 

[ウルトラマンオーブ! ウルトラマンベリアル!]

[ウルトラマンジード! トライスラッガー!!]

「シュアッ!」

 

 ジード・トライスラッガーとなって立ち上がり、マグマゴメスとの第二ラウンドを開始した。

 

(♪ジードの戦い・優勢2)

 

「ハァァッ!」

「アアオオウ! ギャアアオウ! シャウシャ――――――!」

 

 マグマゴメスに飛びかかって膝蹴りを決め、その横面に平手打ちを入れる。だがあまり効いている様子は見られない。

 

「アアオオウ! ギャアアオウ! シャウシャ――――――!」

「グゥッ!」

 

 パンチの反撃を食らって押し返されるジード。やはり、雪乃が起動できるカプセルを用いた形態でないとマグマゴメスに対してパワー不足のようだ。

 しかし、それでもジードはあきらめずに戦い続ける!

 

「アアオオウ! ギャアアオウ! シャウシャ――――――!」

 

 マグマゴメスが再び熱線を吐いて攻撃してくる。その瞬間、ジードは三本のスラッガーを同時に放った。

 

「セアッ!」

 

 三振りのスラッガーは渦を描くように飛んでいって熱線と衝突。スクリューのような回転によって熱線を分散させて突き進んでいく。

 

「!?」

 

 熱線を打ち消したスラッガーがマグマゴメスの膝関節を斬りつけた。どんなに頑丈なボディを持っていようとも、関節部はどうしても他より弱くなる。

 

「アアオオウ! ギャアアオウ!」

 

 マグマゴメスは自重を支え切れずに片膝を突いた。今こそが絶好のチャンス!

 

「ハッ!」

 

 ジードは三枚のスラッガーをマグマゴメスの頭上に移動させ、そこへ必殺光線を発射。

 

「『リフレクトスラッガー!!」』

 

 乱反射した光線がマグマゴメスに降り注ぎ、無数の光線がマグマゴメスの全身に突き刺さる。

 

「アアオオウ! ギャアアオウ! シャウシャ――――――!」

 

 全身をズタズタにされたマグマゴメスは爆散。消滅していった。

 

「やった――――――!」

 

 子供たちを始めとした人々はジードの逆転勝利に歓声を発した。途切れていた花火も空に打ち上がり、ジードを称えるように夜空に花を咲かす。

 

「……」

 

 肩で息をしていたジードは空へと飛び上がることなく、その場でスゥッと薄れて消えていった。もう変身時間の残りがほとんどなかったのだ。今回はギリギリの勝利であった。

 

「ふぅ~……危なかったねヒッキー。でも何とかなってよかったぁ」

 

 結衣も元の姿に戻ってからどっと息を吐いた。しかしその一方で、八幡は一つ、あることを気に掛けていた。

 

「……途中で融合獣に攻撃をして助けてくれたのは、一体誰なんだ?」

『それはもちろんAIBでしょ。他にいないでしょ?』

 

 ペガがそう指摘する。

 

「いや、普通に考えればそうだろうけどよ……AIBの誰かって意味だよ。あれ、結構遠くから狙撃したみたいだったぜ」

『多分ゼナさんだよ。あの人、かなりの腕だからそれくらい出来てもおかしくないさ』

 

 ジードはそのように推測したが、八幡は今一つ腑に落ちていなかった。

 

「あの人、花火大会に来てたのか……?」

 

 

 マグマゴメスの左目を狙撃した光弾が飛んできた、その方角で、

 

「ふ~……危ないところだったなぁ。全く、世話が焼けるヒーローなんだから」

 

 陽乃が一人、スナイパーライフルを下ろして安堵のため息を漏らしていた。

 

 

 × × ×

 

 

 融合獣の襲撃はあったものの、どうにか混乱は収まって花火大会は終了。その陰には、AIBの人知れずの尽力もあった。

 八幡と結衣は陽乃と合流し、帰りが混雑する前にとさっさと会場を後にした。有料エリアから駐車場に出ると、彼らの前に雪ノ下家のハイヤーが静かに横づけされる。

 

「よかったら送っていくけど?」

 

 打診する陽乃だが、八幡はそれに返答せずにハイヤーをじっと観察していた。その目の動きに気づいて、陽乃がクスクスと笑う。

 

「そんなに探しても見えるところに傷なんて残ってないよ」

 

 ――彼女としては冗談のつもりだったのだろうが、八幡と結衣がぴくりとも笑わないので、陽乃も戸惑ったようであった。

 

「あ、あれ? 雪乃ちゃんに聞いてなかったんだ。悪いことしちゃったかなぁ……」

「じゃあ……やっぱり……」

 

 小さくつぶやく結衣。陽乃は取り繕うように八幡たちに言い添える。

 

「でも勘違いしないでね。雪乃ちゃんが悪い訳じゃないんだから。あの子はただ乗っていただけだし、何一つ悪いことはしていない。それでいいよね、比企谷くん?」

 

 同意を求められると、八幡はそっけなく返した。

 

「そーっすね。まぁ事故起こしたのあいつじゃないし。なら無関係でしょ。済んだ話ですしね!」

「そっか、もう終わった話なら別にいいよね」

 

 大袈裟に胸を撫で下ろす陽乃。今の言葉は、それでこの話題を終わらせてしまいたいというようであった。

 

「……じゃあ、俺ら帰ります」

「うん。じゃあ、比企谷くん。またね」

 

 陽乃は無理に引き止めることなく、八幡たちに別れを告げてハイヤーに乗り込んだ。最後に「ありがとう」と告げ、ドアを閉められたハイヤーが発進していった。

 八幡と結衣は、しばらく無言のままで駅に向けて歩き始めた。

 

 

 × × ×

 

 

 八幡は結衣を家の前まで送った後に、繁華街を抜けて自宅までの道のりを一人黙々と歩いていた。しかし人通りがない道に入ったところで、ペガが顔だけ出して八幡に呼び掛ける。

 

「八幡……結衣も言ってたけどさ、雪乃のこと悪く思っちゃ駄目だよ……。ほら、話の流れとかあるでしょ? 八幡もいい思い出じゃないって言ってたし、無理に掘り返すのは良くないって雪乃も思ってるんだよ、きっと……」

 

 ペガは陽乃の話を聞いてから、八幡の様子がおかしいということに気づいているようだった。自分を気遣うペガに、八幡は言い返す。

 

「別に雪ノ下を恨んでるとか、そんなんじゃねぇよ。陽乃さんも言ったように、あいつに非がある訳じゃねぇしな。それに、誰にだって触れられたくないことがあるのだって分かってるし。だからそのことについて俺は何とも思わねぇし、何も言わねぇ。ただそれだけのことだ」

『そう……? ならいいんだけど……』

 

 とつぶやいて首を引っ込ませるペガ。――しかし、八幡はこの瞬間、本当のことを言ってはいなかった。

 確かに恨んでいる訳ではないし、雪乃に対して文句をつけるつもりなどは毛頭ない。彼にとってはもう、事故に遭ったという事実自体はどうでもいいことなのだ。

 しかし八幡は、雪ノ下雪乃に対して、どんな時も常に正しく、己にも他人にも正直で、凡人にはたどり着けない完璧さがある、そんな超然とした人物だという、憧憬にも似た感情を抱いていた。――否、そのように見ていた。それが、比企谷八幡が勝手に持っていた雪ノ下雪乃像なのだ。

 だから、真に身勝手なことなのだが――雪乃が「隠し事をしていた」ということに、八幡は複雑な感情を抱えているのであった。

 

 

 × × ×

 

 

 九月一日。四十日間の夏休みは終わりを迎え、いよいよ今日から新しい学期が始まる。

 

「はぁ……始まっちまったなぁ、学校……」

『いきなりそんな暗い顔しないの! 自分から元気出していかないと、気分は落ち込んでくばかりだよ!』

 

 学校の廊下をとぼとぼと歩く八幡をジードが激励する。だがその途中で、ジードが短く声を漏らした。

 

『あ……』

 

 八幡が顔を上げて前方の階段を見やる。そこには、久しく見ていない凛然とした立ち姿――雪ノ下雪乃の姿があった。

 こちらの存在に気がついた雪乃が振り返る。

 

「あら、久しぶりね」

「おう、ご無沙汰」

 

 八幡は平素に雪乃と挨拶を交わし、彼女と等間隔に距離を保ったままに階段を上がっていく。そんな中で、雪乃は背中越しに八幡に問いかけた。

 

「比企谷くん……姉さんと、会ったのね」

「ああ、たまたまな」

 

 それだけ言葉を交わして、二人は二年の教室につながる廊下へと出た。この分かれ道で、雪乃は足を止める。

 

「あの……」

「――部活、今日から始めるのか?」

 

 八幡は雪乃の言葉をさえぎって、そう尋ねた。

 

「え、ええ……。そのつもり、だけれど……」

「了解。また後でな」

 

 そして彼女に何も言わせないまま、八幡は進み出して己の教室へと入っていった。

 ――勝手な理想像を裏切られたという、勝手な失望が心に沸き上がるのを抑えられない、勝手すぎる自分に嫌悪感を抱きながら。

 

 

 

『ウルトラストーリーナビ!』

 

八幡「今回は『ウルトラQ』第一話「ゴメスを倒せ!」だ」

八幡「東海道の弾丸道路の工事現場で、一人の工夫が狂ったように怪物を見たと喚く事態が起き、同時に奇妙な岩石が現場から見つかる。駆けつけた毎日新報の江戸川由利子と星川航空の万城目、一平らは現場周辺を調べ出す。すると本当に怪物ゴメスが見つかり、また岩石の正体が怪鳥リトラの蛹であることが判明する。ゴメスは外に出て工事現場の人間たちを襲い出し、ゴメスとリトラのことを突き止めた少年ジローはゴメスを倒すために、リトラを孵化させる……という内容だ」

八幡「シリーズの全ての始まり。テレビで見られる怪獣映画という特撮番組『ウルトラQ』のスタートに相応しい怪獣同士の対決がメインの作品だ。物語は終始怪獣たちの描写に注力され、主役の怪獣二体がクライマックスで激突するという王道な作りだな」

八幡「だが、実はこれは最初に制作された話じゃない。一番に作られたのはジュランが登場する「マンモスフラワー」だったんだが、視聴者の掴みのためにこの分かりやすく画面映えするエピソードが第一話に据えられたんだ」

ジード『ゴメスがゴジラの着ぐるみの改造、リトラがラドンの操演用人形の改造だというのはファンには有名な話だね』

八幡「それじゃ、また次回でな」

 




「それよか問題なのは、仕事量だよ」
「雪ノ下なんだが、今日は体調を崩して休みだ」
「ゆきのん、あたしとヒッキーを頼ってよ」
「やるなら、『今』しかない」
「――さっきのあれは何?」
レイデュエス! ヴォルカニック・ザンバードン!!
「頑張って、ジードさん!」
『「めぐり先輩から頼まれたら、やらない訳にはいかねぇな……」』
『「示すぜ……未来!」』



次回、『融合獣総武高校に迫る!』



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融合獣総武高校に迫る!(A)

 

 二学期が始まってから数日が経過した。放課後は、一学期の時と同様に八幡、雪乃、結衣の三人が奉仕部の部室に集まっている。八幡と雪乃は長机の両端で文庫本のページをめくり、結衣はケータイをいじって、来るかどうか分からない依頼者を待っている。ジードがこの世界に来てからは、ペガも内職の造花をしながらこの中に混じっている。一見すると、夏休み前と何も変わらない光景。

 残暑が続くので開け放たれていた窓だが、強い秋風が吹き込んでカーテンが大きくなびいたので、結衣が席を立って窓を閉めた。

 

「風、強くなってきたねー」

 

 そのことをきっかけに会話の糸口を切り出す結衣。しかし八幡と雪乃は無言であり、代わりにペガが結衣に応じた。

 

「天気予報だと、台風が近づいてるんだって。知ってる?」

「うん。しばらくは折り畳み傘必要かなー。ねぇ?」

 

 八幡たちの方を見やって同意を求める結衣。それで二人が顔を上げたので、結衣とペガは少しほっと息を吐いた。

 

「そうね。休みの間はいい天気続いてたのに」

「そうだったか? 結構薄暗い日ばっかだった気がするけど」

『それは八幡が家から出ないからだよ。出ても夕暮れになってからの場合が大半だったし』

 

 ジードが呆れながら突っ込んだ。

 

「いいだろ別に。暑いからだ」

 

 八幡がぶっきらぼうに言い放って、会話がしばし途切れた。結衣は深めの呼吸をしてから続きとなる言葉を口にする。

 

「ヒッキーはさ、もっと外出した方がいいよ絶対。何かビタミンC? 作るらしいよ」

「それは多分ビタミンDだけどな。人は体内でビタミンC生成しねぇんだよ」

「そーなの?」

「ああ。ちなみにビタミンDは週二回三十分くらい日光に当たるだけで十分作れるらしい。よってわざわざ家から出る必要性はねぇんだ」

「詳しいね、八幡。何でそんなこと知ってるの?」

 

 ペガは普通に問い返すが、結衣は八幡に対して若干引く。

 

「ヒッキー、健康マニアなの? キモい……」

「……昔、親に同じようなことを言われたから調べたんだよ」

「そこまでして家から出たくないんだ……」

「引きこもりくんらしいわね」

「ほっとけ……」

 

 雪乃の発言に対して八幡が言い返したところで、再び会話は途切れてしまった。沈黙が部室を支配する中で、ペガと結衣は身を寄せ合ってひそひそ囁き合う。

 

「……二学期に入ってから、ずっとこんな感じだね……」

「うん……。前ならもっと、自然な感じで会話も続いてたのに……」

 

 二人は内緒話をしているつもりだろうが、静寂な空間では声が響くので、八幡の耳に入っていた。雪乃にも聞こえているだろうが、彼女もあえて聞こえないふりをしている。

 奉仕部は二学期になってから、誰かが話をしようとして、しかし長続きせずに途切れ途切れになってしまう、というちぐはぐな状況が続いていた。特に八幡と雪乃の間が、表面には出ていないがぎくしゃくしている。――こんな状況は、花火大会から端を発していた。

 ペガははぁと息を吐いてから、窓ガラスの向こう側に見える、どんよりとした雲が立ちこむ空模様を見やった。

 

「雲行き、本当に怪しくなってきたな……」

 

 

 

『融合獣総武高校に迫る!』

 

 

 

 総武高校の二学期最初の学校行事は文化祭だ。各クラスのホームルームでは既に出し物の話し合いが進められており、文化祭実行委員会が立ち上げられて、各クラスから男女二名ずつ選ばれた実行委員が今年の文化祭を成功させるべく業務に当たる。

 そして二年F組の男子の実行委員となったのが、

 

「はぁ……何でこんなことに……」

 

 誰であろう、比企谷八幡であった。

 実行委員の仕事の終わりに、人気のない廊下でMAXコーヒーをすすりながらため息を吐いていると、ペガが影の中から顔を出して苦言を呈した。

 

「それは八幡が役割分担のホームルームサボるからだよ。ちゃんと出てれば、お断りしますって言えただろうに」

 

 八幡は文化祭の役割を決める話し合いの時に、仮病を使って保健室で居眠りをしていた。すると一番やりたくなかった実行委員任命されていたのだ。やる気のない自分なら推薦されることはないだろうという考えは甘かったらしい。

 

「前々から思ってたけど、八幡は何事にも積極性に欠けるのがいけないところだよ。それで損してること多いでしょ」

「いや、あれ決めたの平塚先生らしいし、いたところで同じだったと思うんだが……」

「もう、言い訳しないの。そういうところも欠点だと思うよ」

 

 ペガに説教されて、顔をしかめてコーヒーをすする八幡。呼吸を整えてから話題をすり替える。

 

「実行委員にされたのはまぁいいさ。それよか問題なのは、仕事量だよ。日に日に増えてって、全く嫌になってくる。休む奴も徐々に増えてってるしよ」

 

 八幡の実行委員会での役職は記録雑務なのだが、文化祭が近づくにつれて他の委員の仕事も肩代わりすることが多くなっていた。他の委員の欠席が目立ち、出席している者たちでカバーしないと委員会が回らなくなってきているからだ。

 それというのも、今年の実行委員長となった相模南の出した方針が原因だった。紆余曲折あって彼女は「実行委員もクラスの出し物を優先する」という提案を出し、その影響で実行委員を欠席する者が続出するようになったのだ。その皺寄せは、八幡のようにクラスでの仕事が少ない者や生徒会役員に来ている。今だって下校時間ギリギリだ。

 八幡がそのように唱えると、ジードが悩ましい声を発した。

 

『こんな調子でここの文化祭、大丈夫なのかな……。特に雪乃のことが心配だよ。雪乃、ちょっと働きすぎじゃないかな?』

「だよね……。何か最近疲れてるように見えるし、大丈夫かなぁ……」

 

 ジードの言葉にペガも同意する。

 雪乃は副委員長となったのであるが、同時に彼女は奉仕部に来た相模の「実行委員としての仕事をサポートしてほしい」という依頼も受けていた。それで誰よりも実行委員の仕事をこなし、遅れがちになってきている委員会の進行を相模に代わって挽回している状態が続いているのである。

 これをジードたちは苦々しく思っていた。

 

『やっぱり最近の雪乃、ちょっと様子がおかしいよね。いつもなら相模さんのあんな頼みは引き受けないはずだよ』

「うん。雪乃自身が口にした、奉仕部の精神から丸っきり外れてるよ。今は、雪乃が何もかもやっちゃってる。それじゃ相模さんの成長はないはずだ」

 

 ジードとペガの相談を、八幡はただ黙って聞いていた。

 

『やっぱりさ、今の状況をどうにか変えないといけないと思うんだ。少なくとも、今実行委員から離れてる人たちを呼び戻さないと』

「だね! 八幡、生徒会長の城廻さんに相談してみてよ。彼女を通して相模さんを説得して、みんなに働きかけてもらえば……」

 

 というペガの提案に、八幡は即行で返した。

 

「そりゃ無理だろ」

「な、何でさ」

「そりゃ俺だって、俺に仕事押しつけて楽してる奴がいるってのは許せねぇ。けど、あの相模が、言って聞くように見えるか?」

「そ、それは……」

 

 口ごもるペガ。八幡は、相模が実行委員長になったのは己の虚栄心を満たすためだけで、本気で文化祭を主導する気はないと見ており、その見解はペガたちも同じであった。

 

「第一、やる気のない奴を働かせたところで逆にロスが増えて逆効果になるかもしれねぇし、それだったら最初から一人でやる方が効率いいだろ」

「そんなの分からないでしょ。みんなでやればはかどることの方が断然……」

 

 ペガの言葉を、八幡はやや感情的にさえぎる。

 

「みんなでやることはいいことで、一人でやることは悪いことなのか?」

「え?」

「どうして、一人でも頑張ってきた奴が否定されなきゃならないんだ。そいつの頑張りは、何もかも間違いなのかよ」

 

 八幡の妙な迫力に、ペガは思わず押し黙ってしまった。

 だが代わりに、ジードが言った。

 

『……別に、一人で頑張ることが悪いとか間違いとか、そんなことを言うつもりじゃない。だけど……』

「ん……?」

『僕の場合は……一人だったら、確実に今ここにはいなかった』

 

 突然のジードの言葉に、八幡は虚を突かれてしばし呆然とした。

 

「……ジード……?」

『……ああいや、今は関係ないことだったね。ごめん、今のなしで』

 

 ハッと我に返ったジードが撤回し、とりなすように八幡に呼びかける。

 

『ともかく、今実行委員が苦しいということは確かなんだから、城廻さんにだけでも明日に相談して、ちょっとでも改善してもらうようにはするべきだよ。八幡だって、負担が軽くなるに越したことはないだろ? ジーッとしてても、ドーにもならない』

「まぁ、それはそうだな……」

 

 ジードの提案に八幡は呆気にとられながらもうなずき、時間も差し迫ってきたので今日のところはこのまま下校していった。

 

 

 × × ×

 

 

 翌日以降、ジードの言う通りにしてみた八幡であったが、やはりと言うべきか効果は上がらず、むしろ欠席者は増え続けた。既に欠席してもいいという空気が出来てしまったことが大きく響いているようである。それに比例して八幡たちの、特に雪乃の負担が増大していった。

 そしてとうとう、限界が来てしまったようだ。平塚から八幡へ連絡があった。

 

「比企谷。雪ノ下なんだが、今日は体調を崩して休みだ。一応学校には連絡があったんだが、文実の方に連絡は来てないんじゃないかと思ってな……」

 

 

 そして八幡は雪乃の住所を知っている結衣、そして雪乃を心配して合流してきたライはとともに、雪乃の暮らすマンションへと来ていた。見舞いと、彼女に言うべきことがあるために。

 高級なタワーマンションのエントランスのベルを鳴らし、自動ドアを開けてもらって十五階に向かう。そこの一室が雪乃の部屋であった。

 

「どうぞ、あがって」

 

 雪乃当人に迎えられて、三人はリビングに通された。そこで八幡の影からペガも出てきて、彼らをソファに掛けさせたところで雪乃が切り出した。

 

「それで、話って何かしら」

 

 一番に声を発したのは結衣だった。

 

「あ、えっと……今日、ゆきのん休んだって言うから、大丈夫かなって」

「ええ。一日休んだくらいで大袈裟よ。連絡もしていたのだし」

 

 安心させるように返した雪乃だが、結衣はいつもの覇気がまるでない彼女の様子にそわそわとしていた。

 

「一人暮らしだからな。そら心配くらいされる」

「それにすごい疲れてるんじゃないの? まだ顔色悪いし」

「多少の疲れはあったけれど、それくらい。問題ないわ」

「多少じゃないから、今日は休んだんでしょ?」

 

 雪乃のひと言をライハが聞き咎めた。痛いところを突かれて、雪乃は口をつぐんでうつむく。

 

「大まかな事情は聞いてる。雪乃、やっぱり無理しすぎよ。抜本的に委員会の状態を改善するべきね」

「分かっています。だからちゃんと仕事量は割り振ったし、負担は軽減するように」

「それじゃ足りてないから、そんなに疲弊してるんでしょ」

 

 ライハのもっともな指摘に、雪乃は再び口ごもった。

 

「業務に支障が出てるのなら、休んでる人たちを戻して委員会に集中させるべき。それが分からないあなたじゃないでしょう」

「ライハさんの言う通りだよ」

 

 結衣の語気には珍しく、トゲがあった。

 

「あたし、ちょっと怒ってるからね。だからみんなでやった方がいいって言ったのに……」

 

 結衣にそう言われて、流石の雪乃も申し訳なさそうである。

 また結衣の視線は八幡にも向けられた。

 

「ヒッキーにも、怒ってるから。困ってたら助けるって言ったのに……」

 

 八幡の代わりにペガが謝る。

 

「ごめんね、結衣。ペガもいずれこうなるだろうとは思ってたのに……もっと強く八幡に働きかけるべきだったよ」

「……記録雑務にその役職以上のことを望んでいた訳じゃないわ」

 

 かばうように雪乃がそう言ったが、ペガは首を振る。

 

「そういうことじゃないよ。役割とかそんなのなしに、友達として雪乃の間違いを正すべきだったんだ」

「私の、過ち……?」

 

 ペガの言葉に引き続いて、八幡が雪乃へと告げた。

 

「みんなで助け合うなんてのは理想論だ。それで世界は回ってない。だから俺は、一概に人に頼れとか協力しろなんて言わない。――それでも、お前のやり方は間違ってる」

「……じゃあ……正しいやり方を知っているの?」

「知らねぇよ。だけど、お前の今までのやり方と違ってるだろうが」

 

 八幡に続いて、ジードも雪乃に呼び掛ける。

 

『雪乃、君の掲げる奉仕部の理念は、飢えている人に魚の釣り方を教えるだったね。今の君のやってることは、魚を取って与えることだ。……どんな時でも、初心を忘れちゃ駄目だよ』

 

 ジードたちの説得を受けても、雪乃の顔には迷いが大きく残っていた。結衣はそれを払拭しようと、懸命に言葉を紡ぐ。

 

「ゆきのん、あたしとヒッキーを頼ってよ。誰かとかみんなとかじゃなくて……。あたしたちを頼って? あたしは、その……何が出来るって訳でもないんだけど。でも、ヒッキーは」

「……お茶も出さずにごめんなさい。紅茶でいいかしら」

 

 しかし雪乃は最後まで言わせずに、背を向けてキッチンに向かう。

 

「手伝うわ。一日休んだからと言って、身体は大事にしないと」

 

 ライハが雪乃の後を追いかけて、結衣は意気消沈した様子でソファに座り直した。

 ライハが紅茶のセットを運んできて、誰もが無言のまま飲み干すと、八幡がカップをテーブルに置いて立ち上がった。

 

「じゃあ、俺は帰るから」

「え、あ、あたしも……」

「私はもう少し残るわ。雪乃の容態、ちゃんと確認しないとね」

 

 ペガを影に入れた八幡と結衣が玄関に向かい、雪乃は二人を見送りに立つ。だが結衣が靴を履いているところに、そっと首筋に触れて呼び掛けた。

 

「由比ヶ浜さん……その、今すぐは、難しいけれど。きっといつか、あなたを頼るわ。だから、ありがとう……」

「ゆきのん……」

「でも、もう少し考えたいから……」

「うん……」

 

 雪乃の手に自分の手を重ねる結衣。二人が互いの温度を確かめ合っていると、八幡が立ち上がってドアノブに手を掛けた。

 

「由比ヶ浜、あとよろしく」

「え、ちょ」

 

 有無を言わせずに結衣を残して、ドアを閉める八幡。それからペガが八幡に尋ねかけた。

 

『八幡……どうするの?』

 

 八幡はマンションのエレベーターへと向かいながら、それに答えた。

 

「『いつか』なんて待ってたら、文化祭終わっちまうだろ。やるなら、『今』しかない」

『じゃあ!』

 

 ペガが弾んだ声を出した。八幡はおもむろにうなずきながら、もう姿の見えない雪乃に向けながら独白した。

 

「お生憎だったな、雪ノ下。お前の事情なんか知ったことか。俺は俺がしたいと思ったことをする。したいと思ったことだけをやる。後はお前が勝手に助かれ。それが俺のやり方だ」

 



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融合獣総武高校に迫る!(B)

 

 翌日には、雪乃は登校して実行委員にも出席した。しかしやはり疲れが残っているようであったし、見たところ結衣に助けを求めたようでもない。

 そのため、八幡は彼女に対して急襲を掛けた――。

 

「――さっきのあれは何?」

 

 その内容について、その日の実行委員の会議後に雪乃が八幡にストレートに問いかけた。

 

「何が」

「あの救いようのないスローガンよ。わざわざあんな敵を作るようなことを言って」

 

 今日の会議では、文化祭のスローガンをどうするかが話し合われたのだが、他の人たちは『友情』『努力』『勝利』だののありきたりな言葉を並べたもの、相模からは『絆 ~ともに助け合う文化祭~』などという綺麗事を出す中で、八幡はあえて『人 ~よく見たら片方楽してる文化祭~』という文実の現状を皮肉ったものを出したのであった。

 そのせいで空気が悪くなり、雪乃がスローガンの決定を次の日に先延ばしにする結果となったのであるが――八幡のスローガンを契機に、雪乃はどこか晴れ晴れとした表情になっていた。

 

「雪乃、あれは八幡が今の文実を改善するためにやったことだよ。あんまり責めないであげて」

『うん。八幡なりに真剣に考えた末のことなんだから』

 

 八幡が答えるより早く、ペガとジードが雪乃に弁解した。それに八幡は意外そうな顔となる。

 

「あんな最低なこと言った俺をかばってくれるとは思わなかったな。めぐり先輩からもあれには失望されたってのに」

『確かに言い方はアレだったけどさ、時には言いにくいことをズバリ言うのも大事なことさ。現に、あれを言ってからたるみ切ってたみんなの表情が変わってた』

 

 ジードの言う通り、会議前にはほとんどの実行委員が不真面目な様子であったのに、八幡が「人の仕事押しつけられてる」と口にすると、皆その言葉が胸に突き刺さったような顔つきとなっていた。彼らは八幡のひと言によって、無意識に目をそらしていた現実の問題と直面させられたのである。

 

「うん。きっと明日からは文実の空気は一変するはずだ。雪乃ももう無理しなくて済むはず。上手いことやったね、八幡」

『――ただまぁ、もっと上手いやり方があったような気がしなくもないけどね。あそこまで悪役ぶらなくてもよかったんじゃないの』

「残念。あれが俺流なんだよ」

 

 褒めながらも咎めるジードにぶっきらぼうに言い返す八幡。その態度に雪乃が苦笑。

 

「別に責めるつもりはないわ。ただ、呆れるくらい変わらないわねってだけで」

「人間そうそう変わる訳ねぇだろ」

「特にあなたは元々変だものね」

「おい、ひと言多いぞ」

 

 長らくやっていなかったやり取りをして、雪乃がくすっと笑った。

 

「あなたを見ていると、無理して変わろうとするのが馬鹿らしく思えてくるわ」

「うんうん。無理しないのが一番さ。雪乃はそのままで十分素敵な人だよ」

「あら、口説いてくれているの? ありがたいけど、誰かとつき合うとかいう気分ではないの」

 

 冗談まで口にしながら、雪乃は八幡を連れて会議室を出て施錠した。

 

「それじゃ、私は鍵を返しに行くから」

「ああ、じゃあな」

「ええ、さよなら。……また明日」

 

 雪乃は最後に、わずかに逡巡してから控えめにそうつけ加えた。

 

『うん、また明日!』

『また明日ね!』

 

 ジードとダークゾーンに引っ込んだペガはすぐに返事をしたが、八幡は少し遅れてから返事した。

 

「……。また明日な」

 

 

 × × ×

 

 

 ペガの言葉通り、その次の日からは、文化祭実行委員はそれまでの緩み切っていた空気が嘘だったかのように結束し直し、皆各自の仕事に打ち込んで作業の遅れを急ピッチで取り戻し始めた。八幡の狙いは、見事功を奏した訳であった。

 八幡も他人の仕事を押しつけられることはなくなったが……元々の遅れのせいで本来やるべき仕事が溜まっていたので忙しさはそう変わらず、それどころか周りに悪印象を作ってしまったせいで周囲と溝がある中で作業する、そんないたたまれない状況になってしまっていた。

 

『報われないなぁ……。みんな、八幡をきっかけにやる気を出したのに、そのことに気づいてくれないなんて』

 

 貴重な合間の休憩時に、ペガが八幡を不憫に思ってため息を吐いた。だが当人は気にしていないという風を装う。

 

「はッ、そもそも深刻な遅れを言われねぇと自覚しないようなおつむの足りない連中には初めから何も期待してねぇさ」

『またそんな悪ぶったこと言って。そういう斜めに構えた態度がよくないんだよきっと』

「うっせぇなぁ。いつも思うけどお前ら俺の親かよ。実の親からもこんなに説教されたことねぇけどさ……」

 

 などとジードとペガに言い返しているところ、ふとトイレからの帰りに、階段の踊り場で雪乃がめぐりと立ち話しているところに出くわした。向こうはこちらに気がついていない。

 

「雪ノ下さん、身体はもう治ったんだね。昨日までどこか疲れた様子だったから、心配してたんだよ」

「はい。もう大丈夫です。ありがとうございます」

「うん。ほんとに身体には気をつけなくちゃ駄目だよ」

 

 盗み聞きする趣味もない。八幡はそのまま通り過ぎようとしたのだが――。

 

「私も最近何だか風邪気味っぽくて。手が変に熱いの」

 

 聞こえてきためぐりの言葉に、ピクリと足を止めた。

 

「えっ……」

 

 雪乃も言葉をなくしている。めぐりはそれに気づかず、のんきに話し続けた。

 

「でも手が熱いだけで他はどこも悪くないんだよね。これどういう症状なんだろう……って、意識したら鼻が……」

 

 吹き込んだ秋風がめぐりの鼻をくすぐり、彼女は咄嗟に雪乃から顔をそらした。

 

「くしゅんっ!」

 

 かわいらしいくしゃみとともに――ボウッ! と、めぐりの手の平から炎が生じた。

 

「!!」

「きゃあああっ!?」

 

 驚愕して固まる雪乃と八幡。めぐりは自分が出した炎に、流石に仰天して悲鳴を発した。

 八幡たちはこれが何なのか当然分かっている。――リトルスターだ。

 

 

 × × ×

 

 

 ちょうどその時、レイデュエス一味が遠方から双眼鏡を使って総武高校を――総武高校から伸びている、めぐりのリトルスターの光の柱を観察していた。

 

『殿下、ジードの奴がいる教育機関からリトルスターが』

「言われんでも分かってる」

 

 レイデュエスは双眼鏡を下ろして肉眼でリトルスターの光を確認。

 

「何かこの土地の周辺でばかり発症者が出てないか? まぁいいが……やることは一つだけだ。宇宙指令T17!」

 

 ニヤリと口の端を吊り上げながら、レイデュエスが二つの怪獣カプセルを取り出す。

 

「イッツ!」『ケエエオオオオオオウ!』

「マイ!」『ギャアアアアアアアア――――――!』

「ショウタイム!!」

フュージョンライズ! バードン! ザンボラー!

レイデュエス! ヴォルカニック・ザンバードン!!

 

 

 × × ×

 

 

「な、な、何なの……!?」

 

 己が出した炎によってめぐりは腰を抜かし、へなへなとその場に崩れ落ちた。普段はほんわかとしている彼女でも、この異常には度肝を抜かれたようだ。

 

「城廻先輩、落ち着いて下さい……!」

 

 雪乃は気が動転している彼女をどうにかなだめようとしている。そこに駆けつけた八幡は、雪乃と目が合うとめぐりに聞こえないように囁き合った。

 

「比企谷くん、先輩にリトルスターが……」

「分かってる。すぐにゼナさんたちに連絡をして……」

 

 と言いかけた八幡だったが、それをさえぎるように校舎の至るところから生徒たちの悲鳴が轟いた。

 

「きゃああああああ――――――! 怪獣っ!」

「! くっそ……もう来やがったのか……!」

 

 八幡と雪乃は急いで廊下の窓側へと駆け寄り、外を見やる。

 怪獣の姿はすぐに、こちらに向かって滑空してきている場面で見つけた。赤い羽毛を生やしたドラゴンのような肉体で、翼はずんぐりした胴体とは不釣り合いなほど小さいがスピードは速い。首には赤い結晶型のトサカと太く鋭いクチバシを持っている。バードンとザンボラーという火と熱の怪獣同士によるレイデュエス融合獣、ヴォルカニック・ザンバードンだ!

 

「ケエエオオオオオオウ! ギャアアアアアアアア――――――!」

「ちッ……あのスピードじゃすぐにここ襲われるぞ……!」

 

 舌打ちする八幡。つまり時間の猶予がないということで、八幡は即座に雪乃とともに人の姿がない校舎の死角に飛び込んだ。雪乃はレム伝手に結衣へと、めぐりのことを託す。

 

「あの、比企谷くん……」

 

 雪乃は若干ためらいを覚えていたが、八幡はそれをさえぎるように呼び掛けた。

 

「ボヤボヤすんな。敵が来るんだぞ」

「……ええ、そうだったわね」

 

 その言葉を読み取った雪乃が、表情を変えた。

 そして二人は手早くウルトラカプセルを装填ナックルに収めて、ジードへと変身!

 

[フュージョンライズ! ウルトラセブン! ウルトラマンレオ!]

[ウルトラマンジード! ソリッドバーニング!!]

「ドォッ!」

 

 ジード・ソリッドバーニングが校舎を抜けて飛び立ち、猛然と向かってきているザンバードンにこちらから飛びかかった。

 

「ダァッ!」

「ケエエオオオオオオウ! ギャアアアアアアアア――――――!」

 

 相手のクチバシをはっしと掴んで、地上へと引きずり下ろす。ジードに止められたザンバードンは地表に叩きつけられて、ジードごとゴロゴロと転がったがすぐに起き上がる。

 

「ケエエオオオオオオウ! ギャアアアアアアアア――――――!」

 

 ザンバードンは標的を総武高校からジードに移すと、クチバシを前に突き出してジードに振るってくる。それを咄嗟にかわすジードに、レムからの忠告が入る。

 

[相手のクチバシは鋭利な上に、毒が含まれています。一撃でも食らわないようお気をつけ下さい]

『「一撃でもか……! そりゃちょっときついかもな……!」』

 

 皮肉げに笑う八幡。ソリッドバーニングは機動力についてはあまり優れてはいない。

 それでもザンバードンのクチバシ攻撃を払いながら反撃に転じた。

 

「ドォッ!」

「ケエエオオオオオオウ! ギャアアアアアアアア――――――!」

 

 相手のボディに拳を叩き込んで押し返す。ザンバードンがひるんだ隙にスラッガーを腕にジョイントした。

 

『ブーストスラッガーパンチ!』

 

 ジェット噴射を伴った一撃を繰り出す! が、ザンバードンはその瞬間飛び上がって回避。

 

『「ちッ、スピードもなかなかのもんじゃねぇか……!」』

 

 舌打ちする八幡。攻撃が危険で、動きも速い。単純故に強いタイプだ。

 

「ケエエオオオオオオウ!」

 

 クチバシを突き出して飛び込んでくるザンバードンを、バク転でかわすジード。戦いは一進一退である。

 

(♪燃える大東京)

 

 そう思われたが、着陸したザンバードンの結晶状のトサカが一瞬光ると、目に見えない速度で熱波を飛ばしてきた!

 

「ドアァッ!」

『「うわぁぁッ!?」』

 

 熱と衝撃を正面から食らって大きくよろめくジード。炎の形態のソリッドバーニングでも耐え切れないほどの、凄まじい威力であった。

 それだけではない。周囲に無差別に飛ばされた熱波は、戦場の町の建物を発火させ火災を引き起こす。総武高校にも。

 

「きゃあああああ――――――!」

「うッ、うわあああ! 火事だぁぁぁぁぁぁッ!」

『「ああっ!? 学校がっ!」』

 

 聞こえてくる生徒たちの悲鳴に、雪乃が焦った声を上げた。このままでは学校が、文化祭の準備ごと灰になってしまう。

 

『「くッ……!」』

 

 八幡が焦燥を噛みしめる。ジードはザンバードンの暴虐を止めようと飛びかかるものの、

 

「ケエエオオオオオオウ! ギャアアアアアアアア――――――!」

「グゥッ……!」

 

 動きを止められたジードが、ザンバードンの羽で殴り飛ばされた。

 

「ウワァッ!」

 

 ザンバードンの戦闘能力の高さに追いつめられていくジード。その間にも、周囲の町並みが火の手に覆われていき、人々の悲痛な悲鳴が数を増していく。

 

「い、いやぁぁぁぁっ! 熱い……!」

「助けてくれぇ……!」

「ま、待って! 置いてかないでよ!?」

「うるせぇッ!」

 

 ジードもまたザンバードンの火炎になぶられ、カラータイマーが危機を報せている。

 

「ケエエオオオオオオウ! ギャアアアアアアアア――――――!」

『「く、くそッ……!」』

 

 崖っぷちの窮地。その時、

 

「頑張って、ジードさん!」

 

 結衣に助けられて校庭に出ためぐりが、ジードに向かって叫んだ。

 

『「先輩……!」』

 

 めぐりは苦しめられるジードを懸命に応援する。

 

「ここであなたが倒れたら、みんなの今までの努力が灰になっちゃうんです!」

 

 腕を広げて、文化祭の飾りつけが進められている校舎を示すめぐり。色々問題の続いた文化祭であるが、それでも多くの生徒が楽しみにして準備をしてきていることには違いない。めぐりはそんな総部高校を愛している。

 

「どうか……私たちに、未来を示して下さいっ!」

 

 めぐりの祈りの言葉とともに……彼女の胸からリトルスターが分離し、ジードのカラータイマーへと吸い込まれ、八幡のカプセルホルダーに入り込んだ。

 めぐりのリトルスターが入ったカプセルを引き抜く八幡。菱形のカラータイマーのウルトラ戦士の絵柄が浮かび上がる。

 

『セアッ!』

[メビウスカプセル、起動しました]

 

 レムが報告し、八幡と雪乃は大きくうなずいた。

 

[カプセルの交換を推奨します]

『「よっしゃ!」』

 

 八幡たちは意気込んでレムの指示したカプセル二つを起動していく。

 

『ユーゴー!』

『セアッ!』

 

 雪乃が一つ目のカプセルのスイッチをスライドし、ウルトラマンメビウスのビジョンが腕を振り上げた。

 

『アイゴー!』

『タァーッ!』

 

 次いで八幡が二つ目を起動。胸と肩に勲章を並べた戦士、ゾフィーのビジョンが腕を振り上げる。

 

『ヒアウィーゴー!!』

 

 装填ナックルに二つのカプセルを押し込み、ジードライザーでスキャン。

 

[フュージョンライズ!]

『ジィィィ―――――――ドッ!』

 

 メビウスとゾフィーのビジョンが八幡たちと重なり、ジードが姿を変える!

 

[ウルトラマンメビウス! ゾフィー!]

[ウルトラマンジード! ファイヤーリーダー!!]

「テアッ!」

 

 まばゆい輝きと光のメビウスの輪を抜けて、赤と青の螺旋の中から新しい姿のジードが飛び出していく!

 

「ケエエオオオオオオウ! ギャアアアアアアアア――――――!」

 

 ほとばしる閃光によってザンバードンの目をくらませながら仁王立ちしたジードを見上げる結衣とめぐり。

 

「ジードん! 何か独特な姿になった!」

「ジードさん……!」

 

 今のジードは右半身が赤、左半身が水色という左右非対称の、今までにない特徴の形態となっている。メビウスの炎の力と、ゾフィーの駆使する冷気の力の両極の属性をその身に宿した、ファイヤーリーダーだ!

 

(♪ウルトラ兄弟のテーマ)

 

「ハッ!」

 

 ジードが左腕を伸ばし、早速ファイヤーリーダーの能力を発動。左腕からは冷気が光線状に放たれ、それを周囲に振りまくことによってザンバードンが引き起こした火災を瞬く間に消し止めた。

 

「おおッ! 助かった!」

「ありがとう、ウルトラマンジード!」

 

 命を救われた人々から歓声が沸き上がる。それを一身に浴びるジードの中で、八幡がめぐりを見下ろしつつ苦笑を浮かべた。

 

『「めぐり先輩から頼まれたら、やらない訳にはいかねぇな……」』

 

 顔を上げて視線をザンバードンへ戻すと、気合いとともに見得を切った。

 

『「示すぜ……未来!」』

「ケエエオオオオオオウ! ギャアアアアアアアア――――――!」

 

 全ての火災を鎮火されたザンバードンはいら立ちをぶつけてくるかのように熱波攻撃を仕掛けてきた。しかしジードは、右腕を持ち上げて熱波を手の平で受け止めた。

 

「フッ!」

 

 ファイヤーリーダーの右半身は炎と熱を司る。その力によって、熱波を吸収して無力化したのだ。

 

「ハァッ!」

 

 そして吸収した熱エネルギーは反転変換し、左腕から冷気としてザンバードンにはね返す。

 

「ケエエオオオオオオウ! ギャアアアアアアアア――――――!」

 

 ジードの冷気を正面から食らったザンバードンはみるみる内に凍りつき、動きを取れなくなった。今こそ絶好のチャンス。とどめを刺す時だ!

 

「タァッ!」

 

 右腕を天高く掲げるジード。その手の平から太陽を思わせるような炎の球が生じ、ジードが宙に飛び上がるとともに拡大していく。

 

「『バーニングフロスト!!」』

 

 ザンバードンへ猛然と突貫しながら極大に膨れ上がった火球をぶつける。極低温の状態から超高熱の火の玉をぶつけられたザンバードンは、その衝撃によって粉々に爆散した!

 

「やったぁ―――――っ! 勝ちましたよ先輩! ジードんの勝ちですっ!」

「うん……! ありがとう、ジードさん!」

 

 結衣とめぐりは手を取り合って喜び合う。他の救われた人たちからも、歓声とジードへの感謝の声が上がった。

 

「シュワッ!」

 

 彼らの声を受けつつ、ジードはまっすぐ空に飛び立って去っていった。

 

 

 × × ×

 

 

 ジードの活躍による早期の鎮火によって、総武高校の火災はどうにかボヤ程度で収まった。しかし、それでも文化祭の展示品の一部が燃えて煤となってしまったものがあり、それを作った生徒たちはガッカリと落胆していた。

 

「頑張って作ってたのに……ほんとひどいよね……」

 

 その様子を隠れながら観察した八幡、雪乃、結衣の三人。結衣は大きなため息を吐いたが、それを慰めるように雪乃が呼び掛ける。

 

「けれどまだ取り返しがつく範疇だわ。文化祭当日までには、修繕が完了して展示物が完成するようにこちらからも支援しましょう」

「ってことは、俺の仕事が余計増えるってことじゃねぇか……。くそッ、あの悪党どもめ……」

 

 文実の仕事が増えるということは、それに連鎖して自分のしなければならないことも増加するということに八幡がレイデュエス一味に対する呪詛の念を吐いた。

 そこに、ジードが懸念の言葉を口にする。

 

『これだけで済めばまだいい方だ。文化祭本番に融合獣が暴れる、それが一番の心配だよ……』

「確かに……。あいつらそれやりそうだよな」

 

 同意する八幡たち。その最悪の事態を振り払うように、結衣が八幡と雪乃に強く呼び掛ける。

 

「そんなこと許せないし! ゆきのん、ヒッキー、文化祭だけは絶対守り通そうね!」

「ええ、もちろんよ」

「まぁ、まずは全部の準備を終わらせて問題なく始められるようにするのが先決だけどな」

 

 ジード部の三人は来たる文化祭を守る気概を固め、互いに誓い合ったのであった。

 

 

 × × ×

 

 

 フュージョンライズを解除され、元の星人態に戻ったレイデュエスの元にオガレスとルドレイが参上する。

 

『殿下、ご無事で。またウルトラマンジードの邪魔が入りましたな……』

『いつもいつも殿下に盾突いて、全く忌々しい限りですな!』

 

 ジードへの恨みつらみを吐き出すオガレスとルドレイ。だが肝心のレイデュエスは、何も聞こえていないかのように背を向けたまま肩を震わせた。

 

「ふふふふふ……ハ―――ッハハハハハッ!」

『で、殿下? 如何されましたか?』

『よもや、何度もやられてどこか具合を悪くされたのでは……』

「違うわ馬鹿が! これを見ろッ!」

 

 オガレスを一喝してから、レイデュエスが振り返って手に握っているカプセルを見せつけた。それにより、オガレスたちの目の色も変わる。

 

『お、おお! これはッ!』

「そうだ! 遂にこの時が来たッ!」

 

 レイデュエスの握るカプセルに、火災に襲われた人々の嘆きのエネルギーが吸収され、それによって十字の発光体を持つ漆黒の怪獣の絵柄が浮き上がったのである。

 

「完全復活だ……最早遊びの時は終わりだッ! もうジードの奴に接待する必要もない……。次の戦いが、奴の最期の時となるのだッ!!」

 

 凄惨なほどの笑みを見せつけながら、レイデュエスがウルトラマンジードの終わりを予言した――。

 

 

 

『ウルトラストーリーナビ!』

 

雪乃「今回は『ウルトラマンタロウ』第十七話「2大怪獣タロウに迫る!」よ」

雪乃「東光太郎と健一くんはタケシ少年とともに、タケシの父親が勤める大熊山の地震研究所に遊びに行き、畑からスイカを購入。だけどそのスイカには、大熊山の噴火でよみがえった怪虫ケムジラが潜んでいて、タケシ少年が失明してしまう事態になってしまうの。責任を感じた光太郎とZATはケムジラを退治しようとするけれど、ケムジラはZATガンのエネルギーで巨大化。更に大熊山から出現した怪獣バードンまでやってきて、タロウは絶体絶命のピンチになる……という内容よ」

雪乃「物語が二話にまたがる前後編は何度かあったけれど、この話は三話構成で、これはシリーズで初めてのことだったわ。このことは、元々は普通の前後編の予定だったけれど、光太郎役の篠田三郎さんが多忙で、スケジュール調整のために一話分伸びたからと言われているわね」

雪乃「そのためにバードンが恐ろしいほど強くなって、タロウに続いてゾフィーまで返り討ちにするという異例の事態を起こしているわ。このせいでゾフィーはネタキャラのようになってしまったのだけれど……」

ジード『だけどゾフィーさんはウルトラファイトオーブで見事バードンに対するリベンジを果たしてるぞ! 要チェックだ!』

雪乃「では、また次回でお会いしましょう」

 




「突然だが、今日はお前たちにお別れを言いに来た」
「つまり――お前たち全員、今日で命が終わりになるということだよ」
「俺が最初から『あのカプセル』を使っていたら、お前らなんぞにつき合ってやる必要すらなかった」
「あの時に使用してた怪獣カプセルが、やっと再起動を完了したのさ!」
「終わりにしに来たという訳だ。……この遊びの日々を、お前らの命をッ!」
「今見せてやるさ! このレイデュエス様の、最強の力をッ!」
「宇宙指令M49!」
「イッツ!」
「マイ!」



次回、『彼らの明日に待ち受けているのは、絶望の暗雲なのか。』



「ショウタイム!!」



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彼らの明日に待ち受けているのは、絶望の暗雲なのか。(A)

 

 とある日のテレビのワイドショーで、ジードの特集が組まれていた。

 

『どこからともなく現れて、怪獣の脅威から私たちを救う謎の超人ウルトラマンジード! 姿を変え、武器を変え、目覚ましい活躍を見せるジードを支持し、応援する声は日に日に増えていってます』

 

 ナレーターの女性はジードを好意的に解説したが、その隣のコメンテーターの中年男性の学者は次のように言った。

 

『ですが、彼は危険な存在でもあります!』

『それは何故です?』

 

 聞き返したナレーターに、学者は語る。

 

『仮にあの力が私たちに向けられた場合、対抗する手段がありません。そもそも、ウルトラマンジードが本当に地球人のために戦っているかは不明瞭です。巷では、怪獣の出現はジードによる自作自演ではないかと疑う声もあります。何にせよ、怪獣撃退をジードに頼る現状は極めて危険であると言わざるを得ませんな……』

 

 ワイドショーの録画が、途中で結衣の手により止められて画面が消された。

 ここは星雲荘。八幡たちは今しがた、結衣が持ってきた録画を見せられていたのだ。

 

「これ! ママがこんなのあったって教えてくれたんだけど……ひどいと思わない!? あたしたち一生懸命やってるのに、自作自演だとか勝手なこと言ってくれちゃって! ほんと頭に来ちゃうよ!!」

 

 結衣は番組で語られたことにぷりぷりと怒る結衣とは対照的に、雪乃や八幡は意外なほど冷めた反応を見せていた。

 

「確かに不快であることには違いないけれど、だからと言って声高に批判を口にしたところで、こういうのはどうしようもないわ。所詮人は、自分が聞きたいと思うものしか聞き入れない都合のいい耳をしているのだもの」

「言いたい奴には言わせとけばいいんだよ。いくら言い訳したって、色眼鏡で見る奴は偏見でしか受け取らねぇからな」

「う~、それはそうかもしれないけど……」

 

 うなる結衣。二人の言い分は理解できても、感情では納得がつかないようだ。

 

「ジードんたちはどう思う?」

 

 ジードらに意見を求めると、彼らはこう答えた。

 

『まぁ、いい気分じゃないのは確かだけど……こんなこと言われるのも初めてじゃないんだ。僕たちの世界でも、同じことを言われたことがあるよ』

「結局、どこの世界でも人間は未知の存在を受け入れがたいものなのね」

「ペガは、結衣の気持ち分かるけどね……。リクたちが頑張ってるのに、心ないこと言われるのはやっぱり納得いかないよ……」

 

 ある種達観しているジードやライハとは異なり、ペガは複雑な様子で目を伏していた。

 レムが結衣に対して呼びかける。

 

[憤りを感じるのも当然です、ユイ]

「れむれむ……」

[ですが、言葉で取り繕うよりも行動で物語る方が人の心には響きます。リクも、初めは拒絶されていたのが地道な活躍を重ねることで支持されるようになりました。同じように、焦らずに辛抱強く過ごしましょう]

 

 レムの説得で、結衣もようやくうなずいた。

 

「……分かったよ。ジードんが認められるように、ジード部も頑張っていこうね!」

 

 結衣の呼びかけにうなずいた雪乃が口を開く。

 

「まずは、文化祭を無事に終わらせることを目指しましょう。私たちの敵は、今までの行動からして、きっと必ずまたちょっかいを掛けてくるでしょうから」

「文化祭か……」

 

 八幡が若干遠い目で虚空を見上げた。

 文化祭は、本番の日までいよいよ残り日数がわずかになってきていた。

 

 

 

『彼らの明日に待ち受けているのは、絶望の暗雲なのか。』

 

 

 

 ――文化祭本番まであと四日となった。生徒たちの準備もいよいよラストスパートが掛かり、高校全体が熱を帯びている。

 二年F組も、出し物である『星の王子さま』のアレンジの演劇の舞台作りと練習が並行して行われている。

 

「今晩……君は、来ちゃいけない」

「ぼくたちはずっと一緒だ」

 

 舞台上で台詞合わせをしている葉山ら男子生徒たちとはよそに、実行委員のため舞台には出演しない八幡が、委員会の前にクラスの様子を観察していた。

 

『色々ドタバタしてたみたいだけど、なかなか形になってきてるね』

「まぁな」

 

 話しかけてきたジードに小声で返す八幡。二Fの舞台準備は指揮を執る海老名の強いこだわりによって連日大忙しだったようだが、その甲斐はあってかなり凝った出来に仕上がっているのが準備段階から窺える。この調子ならば、本番は盛況することであろう。

 

『文実の方は色々と問題があったけれど……それでも本気で文化祭を盛り上げたい、成功させたいって人は少なからずいるんだ。その思い、守らなくちゃいけないよ、八幡』

「……まぁ、どんな時だろうとやることは一緒だろ」

 

 ジードの呼びかけに、あえてそっけない感じで返答した。これまでのレイデュエスの行動パターンからして、文化祭本番を狙って攻撃してくる恐れが濃厚。当日は、いつでも迎撃できるように心の用意をしておかなくては。

 そのことを確認しながら、八幡は準備に熱心なクラスからそっと離れて委員会へ向かう。その道中は、どの教室も熱気で溢れていた。

 

 

 熱気に包まれているのはクラスだけではなく、実行委員会も同じであった。八幡の行動以来、委員会は人が戻ってそれまでの遅れをすっかりと取り戻し、今は本番に向けた最終調整の段階に入っている。

 八幡は記録雑務の仕事を進めながら、そんな委員会全体の様子をざっと見回した。一番働いているのは依然として雪乃。その横では相模が人形のようにちょこんと座っている。生徒会長のめぐりは他の委員たちと打ち合わせをしている。

 それを見やりながら、八幡はふとつぶやいた。

 

「そういや、最近陽乃さん来ねぇな」

『言われてみればそうだね』

 

 相槌を打つジード。陽乃は文化祭準備の初期から、外部の有志団体として文実に顔を出す日々が続いていた。頼まれもしないのにこちらの仕事を手伝ってもいた。しかし数日前より、ぱったりと顔を見せなくなった。

 あくまで有志なのだから別に頻繁に出席する必要はない、むしろ今まで当然のようにいたのがおかしいくらいなのだが……あの陽乃が急に現れなくなった、ということが八幡の中では少し引っ掛かっていた。雪乃も、表向きはせいせいしたような顔をしているが内心では気にしているのが見て取れる。一体陽乃はどうしたのであろうか。

 

「……まぁ、あの人にだって都合ってもんがあるだろうしな」

 

 八幡はそうつぶやいて、無理矢理己を納得させた。

 

 

 × × ×

 

 

 その頃、当の陽乃は、ゼナとAIBエージェントのペダン星人とともに、総武高校周辺地域の警戒を行っていた。レイデュエス一味がこの付近に出没する可能性が高いとして、捜索をしているのだ。

 

『……陽乃、少し悪いことをしているだろうか。人手不足とはいえ、連日我々の任務に駆り出して。今は妹の活動を手伝っていたのだろう』

 

 その中でゼナがふと思い出したように陽乃に問いかけると、陽乃はひらひら手を振りながら断った。

 

「いえいえ、いいんですよ~。雪乃ちゃんの方はもう大丈夫みたいですし。比企谷くんのお陰でね。だからわたしは、雪乃ちゃんの文化祭を邪魔するような悪い奴にはとっととお帰りいただくことの方に専念しますっ!」

『大分力が入っているみたいだな』

「そりゃあもう! ……雪乃ちゃんの頑張りや楽しみを踏みにじるような真似は、絶対許さないんだから」

 

 陽乃が一瞬だけ小声で、暗い瞳でつぶやいたのを、ゼナは見逃さなかった。

 鼻歌交じりに先を行く陽乃の背中を見やりながら、ペダン星人がゼナに質問をする。

 

「ゼナさん、前々から気になっていたのですが、臨時とはいえ彼女を積極的に任務に登用しないのはどうしてなんですか?」

『何故か、だと?』

「はい。だって雪ノ下さん、AIB始まって以来の好成績で入局したんでしょう? まぁ、その入局するまでの経緯が経緯ですが……。けど優秀ならもっと多くの場面で活用するべきだと私は思いますが」

 

 と意見するペダン星人に、ゼナは次のように回答した。

 

『私が彼女の登用に消極的な理由。それは端的に言えば……』

「端的に言えば?」

『――彼女が、銃を持たせてはいけない類の人間だからだ』

 

 そのひと言に、ペダン星人は一瞬固まった。

 

「……は?」

『もっとも、そのことは陽乃自身が一番分かっていることだろうがな』

「え、えぇ……?」

 

 ゼナが何を言っているのか、ペダン星人には理解が及ばなかった。

 それをよそに、ゼナは通信機を取り出して別動隊と連絡を取り始める。

 

『定時連絡。B班、そちらは異常ないか? うむ。C班、報告せよ。……よし』

 

 他の班からの報告を受けていくゼナだったが、その流れが途中で止まる。

 

『D班、どうした。何故定時連絡をしない。応答せよ』

 

 ゼナの不審な様子に、陽乃の足がピタリと止まった。

 

『応答せよ、D班! ……まずいッ!』

 

 ゼナもD班の異常に声を荒げ、陽乃と動揺しているペダン星人に振り返った。

 

『総武高校に急ぐぞ!』

「は、はいッ!」

「……了解」

 

 踵を返したゼナを先頭に、三人は総武高校に向けて急行し始めた。

 

 

 ――ゼナが通信を掛けたD班のエージェントたちは、路地裏のゴミ捨て場の陰に押し込まれて人の目から隠されていた。

 彼らの身体の下に、赤い水たまりが広がっていた。

 

 

 × × ×

 

 

『……ッ!』

 

 八幡はひたすら議事録を打っていると、ジードの意識が不意にざわついたのを感じ取った。

 

「おい、どうしたんだ?」

『八幡……!』

 

 何事かと尋ねかけると、ジードが焦った口調で告げる。

 

『レイデュエスが近づいてる! しかも得体の知れない気配を伴って……!』

「何だって……?」

『ペガも感じたよ!』

 

 ダークゾーンの中からペガも言った。

 

『ここからでも分かる、明らかにやばい感じ……! 多分、ペガたちに分かるようにわざとそうしてる……!』

「それどういうことだよ……?」

『とにかく、今までとは様子が全然違うってことだ! きっとこれまでになくやばい……すぐに向かって!』

「ち、ちょっと待ってくれって……」

『急いでッ!』

 

 戸惑う八幡だったがジードに急かされて、仕方なく雪乃に視線で合図を送りながら席を立った。

 

「ごめんなさい、少し席を外すわ」

 

 合図を受けた雪乃もひと言断りを入れてから、速足で会議室から離れていった。突然、雪乃と八幡が示し合わせたように同時に会議室から出ていったことに周りはぽかんとしていたが、八幡たちにはそれに構っている暇もなかった。

 

 

 × × ×

 

 

 途中、レムから連絡を受けた結衣も加わり、八幡たちは人目のない校舎裏に駆けつけた。

 そこでは、レイデュエスがオガレスとルドレイを側に控えさせながらニヤニヤと八幡たちを待ち構えていた。

 

「ふふふ……そろってるようだな」

 

 八幡たち三人が面前に現れると、レイデュエスはもったいぶった態度で口を開いた。八幡たちは彼を激しくにらみつける。近くにはライハも待機しており、レイデュエスたちが怪しい動きを見せたらすぐに飛び出せるようにしている。

 

「まさかここに乗り込んでくるなんてね……」

「何しに来たの! ここのみんなに手を出すつもりなら、許さないんだからねっ!」

「こちとら今忙しいんだよ。それに学校は部外者立ち入り禁止なんだ。とっとと失せやがれ不審者」

 

 八幡たちは敵意を剥き出しにしてレイデュエスに言い放ったが、レイデュエスは完全に無視して告げた。

 

「突然だが、今日はお前たちにお別れを言いに来た」

「はぁ……?」

 

 いきなりの発言に呆気にとられる八幡たち。それにレイデュエスは大仰に肩をすくめる。

 

「言ってる意味が分からなかったか? つまり――お前たち全員、今日で命が終わりになるということだよ。この俺の手によってな」

「……よくある台詞だが、寝言は寝てから言えよ」

 

 呆れる八幡のひと言に結衣は大きくうなずく。

 

「その冗談ちっとも面白くないよ! あんたなんか、いっつもあたしたちにやられてるじゃん!」

 

 と突きつけると――レイデュエスはあからさまに冷笑した。

 

「ハッ! これだからおつむの足りない奴は困る」

「な、何だってー!?」

「今までは、俺が遊んでやってただけのことだよ。出来損ないの集まりのお前ら相手にな。そんなことも分からなかったのか?」

「こ、こいつぅ……!」

 

 発憤する結衣だったが、それを雪乃が押しとどめる。

 

「待って、由比ヶ浜さん。様子がおかしいわ……いきなりあんなことを言い出したからには、何かしらの理由があるはず。気をつけるべきよ」

「そっちはそれなりに察しがいいみたいだな」

 

 レイデュエスは高圧的な態度で雪乃を評しながら、八幡たちに向かって語る。

 

「そもそも俺が最初から『あのカプセル』を使っていたら、お前らなんぞにつき合ってやる必要すらなかった。だがウルトラマンジード、お前のせいでカプセルが動作不良を起こしてしまってなぁ。再起動するのにマイナスエネルギーを集めなくてはならなくなった。そう、最初の戦いの時のことだ」

「最初の戦い……?」

 

 八幡たち三人はピンと来ていなかったが、ペガが顔を出して言う。

 

「この地球に着陸する前! 宇宙空間でのことだ! 地球に迫るあいつらの円盤を、リクが止めようとした……!」

『……まさかッ!』

 

 ジードの声音に緊張が走る。対するレイデュエスはそれを確認して愉悦を見せた。

 

「そうとも! あの時に使用してた怪獣カプセルが、やっと再起動を完了したのさ! 最終調整も済ませて、満を持して終わりにしに来たという訳だ。……この遊びの日々を、お前らの命をッ!」

「はぁぁぁっ!」

 

 ライハが飛び出してレイデュエスに猛然と斬りかかったが、レイデュエスたちの周囲に張られた力場によって弾き返されてしまう。

 

「くっ……!」

「ライハさん!」

「そう焦るな。今見せてやるさ! このレイデュエス様の、最強の力をッ!」

 

 レイデュエスがバッとジャケットを翻し、腰の装填ナックルを露わにした。

 

「宇宙指令M49!」

 

 叫びながら一つ目の怪獣カプセル――EXゼットンカプセルのスイッチをスライドする。

 

「イッツ!」

『ピポポポポポ……!』

 

 EXゼットンカプセルをナックルに装填し、二つ目のカプセル――ハイパーゼットンカプセルを起動。

 

「マイ!」

『ピポポポポポ……』

 

 ハイパーゼットンカプセルも押し込むと、ブラッドライザーを取り出して掲げる。

 

「ショウタイム!!」

 

 ライザーで二つのカプセルをスキャン。ライザーの液晶に紫色の二重螺旋が光った。

 

フュージョンライズ!

「ハハハハハハハハッ!」

 

 レイデュエスが哄笑を発しながら、暗黒の異空間の中で魔人態に変わりながらEXゼットンとハイパーゼットンのビジョンを口の中に吸い込んでいく。

 

EXゼットン! ハイパーゼットン!

レイデュエス! ダークオーヴァーゼットン!!

 

 レイデュエスが姿を変えた融合獣が、フランス人形とレコードプレイヤーを踏み潰して、八幡たちの目の前にそびえ立つ。

 

「ピポポポポポポ……!!」

 

 漆黒の装甲で覆われた人型の肉体に、太く鋭い爪を持った四肢を生やし、胸部には複数の黄色い発光体と、レイデュエス魔人態の七つの紫の光体を持つ。悪魔の角のような触覚を伸ばした頭部には、普通の顔のパーツの代わりに死を暗示する十字架型の黄色い発光体を張りつけた、禍々しいオーラが全身から立ち昇る巨大怪獣に、レイデュエスは変身した。

 最強の怪獣と最強の怪獣を掛け合わせた、最強のレイデュエス融合獣ダークオーヴァーゼットンが、復活を遂げてしまったのだ!

 



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彼らの明日に待ち受けているのは、絶望の暗雲なのか。(B)

 

 総武高校目指して急行していたゼナたちであったが、AIB専用車両の車内から出現したダークオーヴァーゼットンの威容を目撃して、そろって息を呑んだ。

 

『遅かったか……!』

 

 悔やむゼナ。ダークオーヴァーゼットンからおぞましい気配を感じ取って思わず震え上がるペダン星人。

 そして陽乃は、底の見えないほど暗い瞳で、ダークオーヴァーゼットンを見つめていた。

 

 

 × × ×

 

 

 八幡たちはレイデュエスの変身したダークオーヴァーゼットンのあまりの威圧感に身体が自ずと震え、思わず後ずさっていた。その漆黒の巨体から醸し出されるプレッシャーは、それまでの融合獣の比ではないことがすぐに感じられた。

 ペガが大きく目をひん剥きながら叫ぶ。

 

「あ、あいつ! 宇宙でリクが戦った奴だ! 間違いないッ!」

「あの時の……だったらとんでもなくまずいわよ……!」

 

 ゴクリと息を呑むライハ。そのこめかみには、ひと筋の冷や汗が垂れていた。

 結衣はふと空を見上げて、驚愕で絶叫した。

 

「そ、空が! さっきまで晴れてたのに……!」

 

 快晴だった秋の空が、いつの間にか暗雲で閉ざされて夜が来たかのように辺りが暗闇に覆われていた。この異常現象についてレムが告げる。

 

[融合獣の肉体から発せられるエネルギー濃度が高すぎて、周囲の環境に影響を及ぼしています]

「そんな無茶苦茶な……!」

 

 脂汗が額に浮かぶ雪乃。ただ立っているだけで環境に影響するなど……どれだけのエネルギー量だというのか。

 オーヴァーゼットンの中から、レイデュエスが八幡たちを見下ろしながら言い放つ。

 

『「さぁジード! あの時の続きをしようか! 早くフュージョンライズしろ!!」』

「……!」

 

 装填ナックルとカプセルホルダーに手を伸ばしかける八幡だが、それをレムが呼び止めた。

 

[フュージョンライズしてはいけません]

「ど、どうして!?」

 

 聞き返す結衣。レムがその理由を語る。

 

[現状の勝率は、何度計算しても1%にも届きません。戦うのは危険すぎます]

 

 そのひと言に思わず硬直する八幡たち。レムの分析能力の優秀さはよく知っているので、それは確かな真実なのだろう。1%も勝率がない戦いに、命を張れるだろうか?

 しかし当然ながら敵は待ってはくれない。

 

『「どうした! フュージョンライズしないならば、お前らの代わりにこの町を焦土にしてやるぞッ!」』

「……ッ!」

 

 恫喝してくるレイデュエス。それでも八幡は、奥歯を噛みしめたまま立ち尽くしている。最近まで一介の高校生だった身で、死の恐怖をぬぐい切れるはずがあろうか。

 そこに、ジードが声を絞り出す。

 

『たとえ可能性が、1%もなくても……』

 

 ジードも強く逡巡していることが声に表れていたが、それでも彼は宣言した。

 

『ジーッとしてても、ドーにもならねぇ……!』

「……!」

 

 その言葉に八幡も背中を押され、装填ナックルに手を掛けた。

 

「雪ノ下、由比ヶ浜……! 頼む……!」

 

 呼び掛けられた二人も意を決して、ウルトラカプセルを受け取った。

 そして三人が融合し、フュージョンライズを決める。

 

[ウルトラマンジード! プリミティブ!!]

「ショアッ!」

 

 変身したジードが飛び出していき、音を立てて着地。それを目の当たりにしたレイデュエスがニィッと口の端を吊り上げた。

 

『「ようやくか。それじゃあさっさと始めるぞ」』

 

 ウルトラマンジードへの変身まで待っていたダークオーヴァーゼットンが、足を一歩前に出して動き始めた。

 

「ゼットォーン……! ピポポポポポポ……!!」

「シュアッ!」

 

 ジードは動き出したオーヴァーゼットンに飛び膝蹴りを繰り出す。それをオーヴァーゼットンは、あえてガードもせずにそのまま食らった。

 ジード渾身の一撃が綺麗に入ったが、オーヴァーゼットンは一歩たりとも揺るがなかった。

 

「ハァッ!」

 

 ジードはめげずに平手打ちやキックを連続で仕掛けるが、どれだけ打ち込んでもオーヴァーゼットンにはまるで効いている様子がない。

 

「ピポポポポポポ……!!」

 

 逆に、オーヴァーゼットンの鉤爪の一撃だけでジードは軽々と吹っ飛ばされる。

 

「ウワァッ!」

 

 地面に叩きつけられながらもジードはすぐに起き上がり、今度は光線技を繰り出す。

 

『レッキングリッパー!』

「ピポポポポポポ……!!」

 

 両腕を振って光刃を飛ばしたが、オーヴァーゼットンはバリアを展開。それに当たった光刃がもろくも砕け散った。

 プリミティブの如何なる攻撃も通用しないことに、ジードが焦りを見せる。

 

『駄目だ……! カプセルを交換しよう!』

『「ええ……!」』

 

 ジードの呼びかけに雪乃がうなずき、八幡たちはカプセルを交換。

 

[ソリッドバーニング!!]

「ドォッ!」

 

 プリミティブからソリッドバーニングに再変身して、頭部のジードスラッガーに手を掛ける。

 

『サイキックスラッガー!』

 

 猛然とスラッガーを投擲。だがオーヴァーゼットンに鉤爪で簡単に弾かれた。

 戻ってきたスラッガーをキャッチしたジードは脚部にコネクトして、高々と跳躍する。

 

『ブーストスラッガーキック!』

 

 ジェット噴射で勢いをつけた飛び蹴りを、オーヴァーゼットンは腕一本で受け止め――易々とジードを投げ捨てた。

 

「グワァッ!」

 

 ソリッドバーニングのパワーでもオーヴァーゼットンには全く敵わない。だがジードたちはまだあきらめてはいない。

 

『「だったらこっちで!」』

 

 結衣が叫び、八幡たちは二度目のカプセル交換をした。

 

[アクロスマッシャー!!]

「ハァッ!」

 

 スピード重視の形態、アクロスマッシャーになると手を掲げてジードクローを召喚。

 

『ジードクロー!』

 

 武器を片手に高速でオーヴァーゼットンに肉薄し、クローを振るう。

 が、オーヴァーゼットンは黒い筋が空中に残るほどの高速テレポートによって全く食らうことなく斬撃から逃れる。

 

「フッ!?」

「ピポポポポポポ……!! ゼットォーン……!」

 

 オーヴァーゼットンはあっさりとジードの背後を取った。ジードは懸命にオーヴァーゼットンを追いかけて一撃でも浴びせようとするも、オーヴァーゼットンは連続テレポートによって完全に翻弄する。明らかにもてあそばれている。

 

「ピポポポポポポ……!!」

 

 とうとう顔面から放たれた暗黒火炎弾を食らって、ジードはまたも吹っ飛ばされて大きく地面に叩きつけられた。重なる消耗とダメージによって、カラータイマーが赤く点滅し出す。

 融合獣の出現によって緊急避難をしている総武高校の生徒たちは、大苦戦しているジードの姿を目にして蒼白となっていた。

 

「どーなってんだよ!? ジードが手も足も出てねぇじゃんッ!」

 

 あまりのことに戸部が頭を抱えて絶叫した。オーヴァーゼットンはあえてジードの各形態の利点と勝負し、あっさり破ることで絶望的な力の差を見せつけているのだ。

 

「ウゥ……!」

 

 それでもジードは立ち上がる。ここで倒れては、この千葉の土地に暮らす人たちの未来がないのだ。

 

『「もう後がねぇ……! こうなったら奥の手だ……!」』

 

 八幡は意を決して、切り札を行使する。

 

[マグニフィセント!!]

「ハァァッ!」

 

 現ジードの最強形態マグニフィセントとなって立ち上がり、オーヴァーゼットンへと突撃。

 

「ドゥアァッ!」

「ゼットォーン……! ピポポポポポポ……!!」

 

 変身直後にメガスライサークロスを飛ばして攻撃を仕掛けたが、これもバリアで受け止められた。それでもあきらめずにジードはマグニストラトスで攻撃するものの、これでもバリアを破ることは出来なかった。

 

「ピポポポポポポ……!!」

「ウオォッ!」

 

 ジードはバリアごと押し返されて姿勢を崩す。

 

(♪ジード戦い‐劣勢1)

 

 肩で息をするジードに対して、未だかすり傷すらないオーヴァーゼットンから、レイデュエスが哄笑を上げる。

 

『「ハッハハハハハ! どうした! お前の力はこんなものなのかぁジード!」』

 

 オーヴァーゼットンの鉤爪がジードに襲い掛かる。必死に防御するばかりのジードに、レイデュエスは侮蔑の言葉を投げかけた。

 

『「まぁそれも無理のないことかもな! 何せお前は――紛い物のウルトラマンなのだからなぁ!」』

「ッ……!」

『「!?」』

 

 途端、ジードの表情が強張り、八幡たちはそろって絶句した。

 

『「……何訳分かんないこと言ってんの!? ジードんが紛い物だなんて、馬鹿にするのもいい加減にしてよっ!」』

 

 結衣が激昂して怒鳴りつけたが、その反応にレイデュエスは余計に面白がる。

 

『「ん? ふふ……お前さてはそいつらに自分のことを話してないな? つれない奴め、だったら俺から教えてやろう!」』

 

 語る口ぶりに十二分の悪意を含ませながら、レイデュエスが八幡たちへ、ジードの身の上を話した。

 

『「ウルトラマンジードは自然に生まれた、純正なウルトラマンではない。ウルトラマンベリアルが、野望を達成するための駒として己の遺伝子を用いて作らせた人工生命体、ベリアルの劣化コピーなのさッ!」』

『「なッ……!?」』

『「人工……!?」』

 

 初めて知る真実に驚愕する八幡たち。悪のウルトラ戦士の血を引くと聞いた時点で、出生には何か秘密があるとは思っていたが……予想をはるかに超える話であった。

 

『「……劣化コピーなんてあんまりな言い草じゃない。ジードは立派な戦士よ!」』

 

 雪乃がレイデュエスのひと言に言い返すも、レイデュエスはますます嘲ってくる。

 

『「立派!? こんな情けないウルトラ戦士を、俺は見たことがないぞッ!」』

「グオォッ!」

 

 オーヴァーゼットンの鉤爪の殴打がジードの頭部を打ち据えた。

 

『「俺がこの星に狙いをつけた時、一番警戒したのはウルトラ戦士の存在だ! 奴らはすぐにしゃしゃり出てくるからな。だが俺の前に現れたのがジード、お前で助かったくらいだ!」』

『な、何だと……ぐわぁぁッ!!』

 

 ジードの腹部にオーヴァーゼットンの膝がめり込み、ジードは蹴り飛ばされる。

 オーヴァーゼットンはフラフラなジードを執拗に殴り倒していく。

 

『「カプセルを二つ使わないとウルトラマンの姿になれない! 一度変身したら再変身までに二十時間ものインターバルが必要! そんな出来損ないはお前だけだぁッ!!」

「ウオアァァ―――ッ!」

 

 オーヴァーゼットンのアッパーがジードを吹っ飛ばし、ジードは仰向けに倒れる。

 横たわったジードを見下しながら、レイデュエスが傲然と言い放つ。

 

『「所詮お前は本物じゃない、偽物のウルトラマンだ! 挙句女どもの力がなきゃろくにフュージョンライズ出来ないようなクズを選んで……ヒーローもどきのお前にはお似合いだがなぁ!!」』

『「う……うぅ……」』

 

 オーヴァーゼットンの攻撃の威力が高すぎ、雪乃と結衣にまでダメージが響いて二人がうめき声を上げた。一介の学生には、耐えがたい苦痛。

 

『「ふ……ふざけんなよ……」』

 

 しかし懸命に起き上がるジードの中で、八幡が苦しみをこらえてオーヴァーゼットンを強くにらみつけた。

 

『「比企谷くん……」』

『「ヒッキー……」』

『「ああ?」』

 

 ジードがフラフラとよろめきながらも立ち上がるとともに、八幡は必死の形相でレイデュエスへと叫んだ。

 

『「生まれがどうとか、そんなもん関係あるかよ……! ジードは俺が出会った中で、誰よりも真っ当な性根の人間だ! それがいつも命がけで戦ってんだ! それがヒーローもどきなんて……そんなことがあるはずねぇだろぉッ!!」』

『――八幡……!』

 

 いつも斜に構えた態度で、ひねくれた物の見方や発言をするばかり。そんな八幡が、ジードのために全力で真っ向から反論している。

 だがレイデュエスは鼻で笑い飛ばす。

 

『「はッ! それはこれから分かることだ!」』

 

 オーヴァーゼットンが暗黒火炎弾を飛ばしてくる。ジードはその攻撃を耐えながら両腕にエネルギーをスパークさせる。

 

「オオオオ……!」

 

 腕をL字に組んで、全エネルギーを込めた最大威力の光線を発射!

 

「『ビッグバスタウェイ!!」』

 

 緑に輝く光線の奔流がオーヴァーゼットンへまっすぐに飛んでいく!

 が、オーヴァーゼットンの正面にブラックホールが出現し、光線はその中に吸い込まれてオーヴァーゼットンに届かない。

 

『「ま、負けるかぁ……! 他は負けられても……これだけは負けられねぇッ!」』

 

 それでもブラックホールを破ろうと、八幡は力を込め続ける。雪乃と結衣も、自分たちの力を枯れるまでジードに注ぎ続けた。

 ――しかし、限界まで光線を放出し続けても、ブラックホールを破ることは出来なかった。

 

「ピポポポポポポ……!!」

 

 オーヴァーゼットンは吸収したエネルギーを自身の暗黒光線にして撃ち返し、ジードにとどめを刺す。

 

「オアアァァァァァッ!!」

『「わぁぁぁぁぁぁぁぁ―――――――――――!!!」』

 

 きりきりと宙を舞い、うつ伏せに荒れ果てた地表へ叩きつけられるジード。カラータイマーの点滅の間隔が極限まで早まり、最早一歩も動ける力が残っていない。

 レイデュエスはその様に冷笑する。

 

『「終わりだな。結局、お前らには何も守れるものなどない。見ろッ!」』

 

 オーヴァーゼットンが暗黒火球を飛ばした。ただし狙う先はジードではない。

 総武高校の校舎であった。

 

『「あぁっ……!?」』

 

 絶句する雪乃たち。彼女たちの見ている前で、総武高校は爆音を立てて木端微塵に吹き飛ばされ、炎上する。

 

『「あ、あたしたちの学校が……」』

 

 学び舎と、奉仕部の部室と、皆が作っていた文化祭の準備が、燃えていく。その様子に、結衣が絶望に染まる。

 

「ピポポポポポポ……!!」

 

 オーヴァーゼットンは更に暗黒火球を無差別に飛ばしていく。それらが比企谷家や、雪乃のマンションなどにも命中して破壊。千葉の町並みは瞬く間に火の海に変わっていく。

 

『「や、やめろ……」』

 

 八幡はもうそんなひと言を発することしか出来ず――ジードのカラータイマーの輝きが、とうとう消え去った。

 同時にジードの肉体が霧散して消滅。その跡に、失神した八幡たち三人の身体が横たわった。

 

 

 × × ×

 

 

 八幡たちの地球から遠く銀河を隔てた、M78ワールドに浮かぶ光に溢れた惑星、ウルトラの星。

 宇宙警備隊本部で、紅いマントを羽織った三人のウルトラ戦士がある波長を感じ取って空を見上げていた。

 

『今の声は……!』

『確かに聞こえた。あの時と同じ声……だが今は悲鳴だった……!』

 

 ウルトラマンとウルトラセブンが顔を見合わせて確認し合うと、二人の前に立つ、宇宙警備隊大隊長ウルトラの父が重々しくうなずいた。

 

『ウルトラマンジード……彼の身に何かが起きたに違いない』

 

 

 × × ×

 

 

『「ハハハハハハハハ! これで本当におしまいだ!」』

 

 レイデュエスは八幡たちの息の根を完全に止めようと、暗黒火球を作り出す――。

 が、オーヴァーゼットンの肉体が不意によろめき、輪郭が揺らいだ。

 

『「ん? ちッ、オーバーヒートか。力が強い分、過熱速度も他のカプセルとは比較にならないって訳か」』

 

 フュージョンライズの限界が近いことを悟り、レイデュエスは八幡たちの抹殺を取りやめた。

 

『「どうせ結果は変わらん。もうしばらくは生かしておいてやろう。ただしその代わり……」』

 

 オーヴァーゼットンは変身が解ける前に、ジードの消えた跡に手を伸ばして――雪乃と結衣をその手中に捕らえた。

 

『「こいつらは人質だ。その方が盛り上がるだろう? ジード、貴様の最期の舞台を飾るのになッ! ハァ――――ハハハハハハハァッ!!」』

 

 二人を捕まえたダークオーヴァーゼットンが背面に悪魔の如き両翼を生やし、暗黒火炎を噴射しながら暗雲の中へと飛び上がって消えていく。

 八幡たちを救出しようと走っていたライハとペガだが、あと一歩のところで間に合わず、闇の中へ去っていくオーヴァーゼットンを見上げるしかなかった。

 

「た、大変だぁッ!」

「雪乃……結衣……!」

 

 悔しがる二人だが、やむなく八幡だけを救出して星雲荘のエレベーターに運んでいく。

 燃えていく町は、ダークオーヴァーゼットンが去っても厚い暗雲に閉ざされたままであった――。

 

 

 

『ウルトラストーリーナビ!』

 

結衣「今回は『ウルトラマンメビウス』第四十九話「絶望の暗雲」だよ!」

結衣「地球に対して総攻撃を開始した暗黒皇帝! メビウスが必死に立ち向かうんだけど、長く苦しい戦いのせいで、その身体はもうボロボロ……。GUYSもインペライザー軍団に追いつめられてもう後がない、そこに今までメビウスたちが出会った宇宙人たちが助けに来てくれたの! だけどとうとう、暗黒皇帝エンペラ星人が降臨して、太陽までが闇に閉ざされてしまう……。地球は一体どうなるの!? っていう話だよ」

結衣「『メビウス』最終回三部作の第二章だよ。終盤からその存在がほのめかされた物語全体の黒幕、エンペラ星人がとうとう姿を見せたの。その強さは今までの敵とは格が違うレベルで、メビウスたちはどうやって勝つのか……」

結衣「エンペラ星人の名前は『タロウ』の時点で、ウルトラ大戦争の怪獣軍団の大将として語られてたの。それが『メビウス』で正式なデザインとなって登場したんだよね。M78ワールドの世界観の物語を締めくくるのにもってこいな悪役だった訳だ!」

ジード『エンペラ星人の影響は大きく、その後のメビウス外伝やウルトラマンベリアルにまで様々な形で関わってるんだ』

結衣「それじゃ次回で……ってあたしたちがどうなっちゃうのぉ!?」

 




「もう私たちに、明日はないのでしょうか……」
「学校も、部室も、町も、みんな燃えちゃった……」
『ウルトラの星が、明日を照らしてくれる……』
「助けて……ヒッキー……!」
「纏めて仲良く死にたいのなら、望み通りにさせてやろうじゃないか……」
[ウルトラマンジード! プリミティブ!!]
『「やるんだ……立ち上がるんだッ……!」』
『「テメェなんかに進めるはずがねぇぞぉッ!!」』
『「お前が何と言おうとも!」』



次回、『さらばウルトラマンジード……などと言うにはまだ早いぞ。』



『「俺は! 本物になるッ!!」』



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さらばウルトラマンジード……などと言うにはまだ早いぞ。(A)

 

 ――八幡は夢を見た。見慣れない景色、記憶にない街並み。にも関わらず情景が細部まではっきりとしている。まるで、実際に見たことがあるかのように。

 

(これは……?)

 

 その街並みの中で、八幡はウルトラマンジード・ソリッドバーニングとなって怪獣と戦っている。ずんぐりとした体格の人型で、生体と機械が混ざり合った肉体。黒い生体の部分は、奇しくもダークオーヴァーゼットンと似ていた。

 ジードはジードクローを片手に怪獣に応戦するが、怪獣は相当な強さであり、ジードを押している。その戦いの最中に、怪獣から人の声が発せられた。

 

『ウルトラマンジード! ベリアル様に似たその姿を私に殴らせるのは不愉快だったぞ! お前は作られた模造品だぁ!!』

 

 それはジードをなじる言葉であった。

 怪獣はおぞましいほどの執念をにじませた暴力によってジードを投げ飛ばし、どんどんと追いつめていく。そして灼熱の光線を撃ってきて、ジードはストライクブーストでそれを迎え撃った。

 

『ストライクブースト!』

 

 ジードの光線と怪獣の光線が正面衝突し、弾け飛んだエネルギーが周囲に降り注いで被害を増加させる。しかしここで光線を止めたら直撃を食らってしまうので、ジードはストライクブーストを止めることが出来ない。円を描きながら間合いを取り合い、光線を拮抗させる。

 その撃ち合いを続ける中でも、怪獣はジードを罵倒してきた。

 

『お前は自分が救世主か何かだと思っていたな。それは違うぞ! お前が存在しなければ、街も破壊されなかった!』

『怪獣が出るのは、僕のせいだっていうのか!』

『そうだ! 自分の存在と決意が、如何に大勢を不幸にしているか自覚するといい! 今から証明してやろう……! 全力で来いッ!!』

 

 怪獣が光線の勢いを増幅させる。ジードもまた負けじと、ストライクブーストの出力を限界ぎりぎりまで上げたのだが……。

 

『うわああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ―――――――――――!!』

 

 そのせいで飽和したエネルギーが大爆発を引き起こし、街全体が爆炎に呑まれていく。

 八幡の視界もまた、爆炎に呑み込まれて白く塗り潰され、何も見えなくなった……。

 

 

 

『さらばウルトラマンジード……などと言うにはまだ早いぞ。』

 

 

 

「ピポポポポポポ……!!」

 

 総武高校も、八幡たちの家も、建物の何もかもが瓦礫となり果てて焦土となってしまった千葉市内で、ダークオーヴァーゼットンが空に向けて暗黒火炎弾を発射した。

 暗黒火球は音速で大気圏を突き抜け衛星軌道上を走り、日本から遠く隔てたパリを狙撃。エッフェル塔に命中して爆破し、ドロドロに溶かしながらへし折った。パリ市民は、次々に飛んでくる暗黒火球からなす術なく必死に逃げ惑うばかり。

 ジードを破ったレイデュエスは怪獣カプセルの冷却が完了する端からダークオーヴァーゼットンにフュージョンライズし、世界中の主要都市を狙撃する凶行を繰り返していた。既にモスクワなども被害に遭い、全世界で被害者数が急激に増加していっている。

 一歩も動かずに世界中を爆撃しているオーヴァーゼットンの様子を、リポーターが瓦礫の山に隠れながら中継していた。

 

「怪獣は今もなお各国の主要都市への攻撃を続けています。各国は軍を派遣しましたが、戦闘機もミサイルも全て日本領域に入ることもなく撃ち落とされてしまいました……。最早人類の力ではあの怪獣を倒すことは出来ません。ですが……ウルトラマンジードは死んでしまったのでしょうか。もう私たちに、明日はないのでしょうか……」

 

 

 × × ×

 

 

「……うッ……」

 

 八幡が目覚めた時に飛び込んできた景色は、星雲荘の天井であった。

 

「八幡ッ!」

 

 ペガがはらはらとした顔つきで自分の顔を覗き込んでくる。八幡は、星雲荘のベッドで寝かされていた。

 

「ペガ……俺は……」

「大丈夫? どこか痛いところはない?」

[無事に目を覚まして、ほっとしました]

 

 レムも安堵の声を発する。今星雲荘にいるのは、自分も入れてこの三人だけ。

 

「ライハさんは? あと、雪ノ下と由比ヶ浜は……」

 

 八幡が聞くと、途端にペガの顔が大きく曇った。彼に代わってレムが回答する。

 

[ユキノとユイはさらわれました。今はライハが救出に向かっています]

「えッ……!」

 

 

 × × ×

 

 

 壊滅し荒れ果てた町の中に、レイデュエス一味の円盤が堂々と着陸している。雪乃と結衣の二人は、その船内のバリア型の檻に閉じ込められている。

 檻の中で力なく座り込んでいる雪乃たちの様子を、オガレスとルドレイがにやつきながらなめ回すようにながめていた。

 

『ククク……近くで見たらますます上玉だな、これは。こんなのとフュージョンライズしていたジードが羨ましい限りだ』

『これは好事家に高値で売りつけられそうですなぁ、殿下』

 

 自分たちを売り飛ばす相談をするルドレイをきつく見上げる雪乃だが、言葉はない。この状況で反抗的な言葉を口にして自分たちを危険に晒すような真似をする彼女ではない。

 パリを焼け野原にして戻ってきたレイデュエスが、雪乃たちに対する嘲笑を浮かべながらルドレイに返した。

 

「待て待て。こいつらはジードをおびき寄せる餌なんだぞ。そういうのは奴が来てからにしろ。もっとも、ウルトラマンジードならともかく、あの腐れ目玉にわざわざ死にに来る度胸があればの話だけどな!」

『全くですなぁウワハハハ!』

 

 レイデュエスのひと言にオガレスとルドレイは腹を抱えて大爆笑。

 

「俺はカプセルの冷却完了まで休んでくる。それまでしっかりと見張ってろよ」

『お任せ下さい』

 

 上機嫌でその場から立ち去っていくレイデュエス。その姿が見えなくなると、雪乃がうつむいて体育座りしている結衣の肩にそっと手の平を置いて慰め出した。

 

「由比ヶ浜さん、絶望しないで……。ライハさんやAIBがきっと助けに来てくれるわ。それに、私たちがこうして生きているのだから、ジードもきっと生きている。比企谷くんも……。きっと助かるわ……」

 

 しかし、結衣はうつむいたまま顔を上げない。

 

「助かって、どうなるって言うの……?」

「え……」

「学校も、部室も、町も、みんな燃えちゃった……。文化祭、張り切って準備してたのに……まだまだ色んなこと、みんなとしたかったのに……奉仕部の場所まで……。ひどいよ、あんな……ひどすぎるよ……」

 

 肩を震わせる結衣。彼女は自分たちの暮らす町、自分たちの居場所が壊されてしまったこと……それを止めることが出来なかったことで、完全に心が折れてしまっていた。

 

「……」

 

 そのことには、流石の雪乃も何も言うことが出来ず、気まずそうに沈黙するばかりであった。

 

 

 × × ×

 

 

 レムから気絶後の経緯を聞いた八幡は、自責の表情を浮かべる。

 

「雪ノ下、由比ヶ浜……くそッ!」

 

 いてもたってもいられず、ベッドから立ち上がろうとしたが、それをジードに止められた。

 

『行っちゃ駄目だ』

「ジード?」

『……僕だけならともかく、君まで道連れに死なせる訳にはいかない……』

 

 そのジードのひと言に、星雲荘に沈黙が流れた。

 しばしの静寂の中、八幡が口を開いてジードに問いかける。

 

「ジード……あの野郎が言ってたことって……」

『……全部本当のことだ』

 

 ジードは力のない口調で肯定した。

 

『僕はヒーローに憧れてた。たとえ悪人の子供でも、頑張ればヒーローになれると思って努力してた。だけど……ヒーローになるどころか、戦いそのものが用意された芝居だった。僕はヒーローの「役」を演じさせるために作られた、ウルトラマンの偽物だった……』

 

 ジードの言葉により、八幡は理解した。先ほどのリアルな夢は、意識が混濁していたことで垣間見たジードの記憶なのだ。

 

『それでも本物のヒーローになれる、本物のウルトラマンになれると信じて頑張ってきた。だけど……それがこのザマだ。結局、僕は本物には……』

「そんなことは……!」

 

 ペガが励まそうとしたが、レムに止められる。

 

[ペガ。今は、ハチマンと二人で話をさせてあげましょう]

「レム……」

 

 レムのたしなめで黙るペガ。代わりに、八幡がジードに呼び掛ける。

 

「ウルトラマンの偽物とか、本物のウルトラマンとか……そんなもん、俺には区別がつかねぇな」

『え……?』

「俺から見たら、ジードの力はいちいちすごすぎて、正直偽物とか本物とかどうでもよくなるレベルだ。だから気にすることなんかねぇと思うぜ。そんなことより、今やるべきは……」

 

 今度は本当に、八幡はベッドから立ち上がった。

 

『で、でも……次戦えば……!』

「まぁそうだろうな……。俺だって、これが「自分だけなら」、情けなく尻尾巻いて逃げ出してたとこだ」

 

 けどな、とつけ加える八幡。

 

「あの虎の威を借る狐野郎、お前のことまで散々貶しやがったんだぜ。だからあいつの面に一発はぶち込んでやらないことには、どうにも収まりがつかねぇよ」

『八幡……』

「それにお前がよく言ってるじゃねぇか。ジーッとしてても」

 

 八幡からの呼びかけに、ジードは苦笑をこぼした。

 

『ドーにもならない。そうだよな……!』

「ああ。そっちの方がお前らしいや」

 

 八幡も苦笑いし、ピシャッと己の頬を叩いて活を入れた。

 

「よっしゃ! レム、エレベーター出してくれ!」

[分かりました。……どうかお気をつけて]

「絶対、ここに帰ってきてね!」

 

 心配するレムとペガに、八幡は不器用な笑顔で応じる。

 そしてジードが、八幡に次のように呼び掛けた。

 

『ゼロ……僕の仲間が言ってたことなんだけど、あきらめない者の上にはウルトラの星が輝くんだって』

「ウルトラの星が?」

『ああ。ウルトラの星が、明日を照らしてくれる……。僕たちもそれを信じて、あの闇を吹き飛ばそう!』

「ははッ、まるでおとぎ話だな……。でも今はそれがありがたいぜ!」

 

 ジードの言葉に破顔した八幡を乗せて、エレベーターの扉が閉じていった。

 

 

 × × ×

 

 

 雪乃と結衣の檻を監視するオガレスとルドレイ。しかし二人が脱走しようとする気配もないことから、すっかり楽に構えて雑談している。

 

『これでこの星は我々のものになったも同然だ』

『これからは世界中の人間どもの絶望を糧に、超強力な怪獣カプセルをいくらでも作れる』

『殿下のお力はますます強まり、宇宙支配も夢ではなくなる訳だ』

『フフフ……殿下の横暴に耐えた甲斐があったというもの』

 

 野望を夢描いてほくそ笑んでいるルドレイたち。

 その時に、円盤のホールの自動ドアの一つが独りでに開く。

 

『ん? 誰もいないのにドアが……』

『誤作動か?』

 

 オガレスたちの目がそちらに引きつけられると――反対側のドアから、ライハが剣を振り回しながら内部に突入してきた!

 

「はぁぁぁぁっ!」

『何!? うぎゃああッ!』

 

 意識をそらしていたオガレスとルドレイはまともにライハの太刀を食らった。致命傷こそ防いだが、吹っ飛ばされて転倒、そのままのびてしまった。

 それから先に開いたドアから、囮役となったゼナが辺りを警戒しながら進入してくる。

 

『レイデュエスはいないようだな』

「二人とも、大丈夫だった? 手荒な真似はされてない?」

「ライハさん……!」

 

 ライハは真っ先に雪乃と結衣の身を案じた。ゼナは円盤のコンソールを操作して、檻のバリアを解除する。

 

「さぁ、ここから脱出よ。……落ち込むのも分かるけれど、まずは自分たちの安全を確保して」

「はい……!」

 

 ライハは励ましの言葉を掛けながら、二人に手を差し出して立たせる。そしてライハとゼナは、雪乃たちを連れて円盤から外へと脱出していく。

 

『どうやら追っては来ないようだ』

「レムにエレベーターを出してもらうわ。星雲荘まで行けばもう安心……」

 

 レムと連絡を取ろうとしたライハだったが……その瞬間に彼女たちの足元に光弾が着弾し、炸裂を起こす。

 

「きゃあっ!?」

『ぐッ!』

 

 光弾は円盤外から飛んできた。予想外の攻撃にライハたちは倒れ込む。

 

「全くあいつら、見張りもろくに出来ないとは……。あの無能どもでも使い続けなきゃならん現状が恨めしいな」

 

 光弾を撃ったのは、ブラッドスタッフで肩をトントンと叩くレイデュエス。異変に気づいて、脱出直後の油断する一瞬を狙うためにあえて外で待ち構えていたのだ。

 

「ひっ……!」

 

 レイデュエスの顔に怯える結衣と雪乃に、レイデュエスは冷酷な目を向ける。

 

「お前らはジードの餌のつもりだったが……この俺の手を煩わせるのは勘弁ならんな。勝手なことをする目障りな奴は、俺は消すことにしているのさ……!」

 

 二人を撃ち殺そうと、スタッフを向けて光弾を作り出す。倒れ込んでいる雪乃たちは逃げられず、ライハとゼナも間に合いそうにない。

 

「雪乃っ! 結衣っ!」

「……!」

「た、助けて……ヒッキー……!」

 

 雪乃は声も出すことが出来ず、結衣は祈ることしか出来ない。そしてレイデュエスの光弾が発射される――。

 その寸前に、別の方向から飛んできた光線獣の弾丸が光弾に命中し、暴発を引き起こした。

 

「ぐおッ!?」

「えっ!?」

 

 突然助かったことに、むしろ驚く雪乃たち。今の弾丸は誰がやったのだ? 八幡ではないはずだ。

 呆気にとられる雪乃の前に、ザッと飛び込んで盾となるスーツ姿の女性。それは、

 

「雪乃ちゃんを傷つけようとするのは……許さない」

「ね、姉さん……!?」

 

 冷え切った声を発してレイデュエスに銃を突きつける陽乃の後ろ姿に、ゼナ以外が仰天した。

 

「ど、どういうこと……!?」

「……この姿は、ほんとは雪乃ちゃんには見せたくなかったんだけどな」

『すまんな……』

 

 若干落胆する陽乃の隣に起き上がったゼナが並び、二人でレイデュエスに発砲する。

 

「ちッ……! 次から次へと邪魔ばかりが入る……せっかくいい気分だったというのにな……!」

 

 レイデュエスは暴発で負傷を受けた腕を再生させながら、弾丸を闇のバリアでさえぎる。そしてスタッフを怪獣カプセルとブラッドライザーに持ち替えた。

 

「そんなに纏めて仲良く死にたいのなら、望み通りにさせてやろうじゃないか……宇宙指令U39!」

 

 EXゼットンカプセルとハイパーゼットンカプセルをナックルに装填して、フュージョンライズする。

 

レイデュエス! ダークオーヴァーゼットン!!

 

 ダークオーヴァーゼットンの姿に変身、巨大化して陽乃たちの前にそびえ立った。こうなっては、手持ちの銃の銃撃など全く効かない。

 

「ゼットォーン……! ピポポポポポポ……!!」

「ああっ……!」

 

 流石の陽乃とゼナも立ち尽くした。ライハはせめてと雪乃と結衣を背にかばうものの、ダークオーヴァーゼットン相手に何の意味があろうか。

 

『「安心しろ、痛みもない。一瞬で蒸発するぞッ!」』

 

 レイデュエスが一片の慈悲もなく、雪乃たちに暗黒火球を落とそうとする――!

 

[ウルトラマンジード! プリミティブ!!]

 

 まさにその刹那、ジードが横から飛び込んできてオーヴァーゼットンにタックル。暗黒火球はそれて空に打ち上がっていった。

 

「ジード!!」

 

 叫ぶ雪乃たち。ウルトラマンジードが助けに駆けつけたということは――。

 

『「あっぶなかったなぁ、おい……!」』

 

 ジードの超空間で、八幡がどっと息を吐いた。地上に上がった彼だが、その時にダークオーヴァーゼットンが雪乃たちを殺害しようとしていたので咄嗟にフュージョンライズしたのである。

 不意のタックルで横転したオーヴァーゼットンだが、起き上がるとジードに向き直って侮辱の言葉を投げかけた。

 

『「本当に死にに来るとはな! 逃げ出さなかったことだけは褒めてやる!」』

『「ありきたりな台詞だが、テメェに褒められたって何一つ嬉しくねぇよ! それにな……!」』

 

 八幡は虚勢であっても、レイデュエスに負けないように声を張り上げた。

 

『「死にに来たんじゃねぇ! テメェをぶっ倒しに来たんだよ!!」』

『「ハハハッ! もっと現実的なことを口にするんだな!!」』

 

 大きく腕を振って野獣のようなあファイトスタイルを取ったジードが、余裕に構えるダークオーヴァーゼットンへと全力で飛びかかっていった。

 



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さらばウルトラマンジード……などと言うにはまだ早いぞ。(B)

 

 ジードがダークオーヴァーゼットンと戦う間に、雪乃たちは安全確保と彼の邪魔にならないようにと、エレベーターによって星雲荘に退避してきた。

 

「みんな! ……えッ!? 何で雪乃のお姉さんまで一緒に?」

 

 出迎えたペガは、陽乃の顔を目にした途端に仰天した。陽乃はペガに対して軽く手を挙げる。

 

「こうして面と向かうのは初めてだねペガくん。だけど今は事情を説明してる場合じゃないよね」

 

 雪乃も説明してほしそうにしていたが、モニターに映し出されるジードとオーヴァーゼットンの戦闘の様子に注意を向けた。

 

「ここでジード……比企谷くんがやられたら、私たちみんな彼の後を追うしかないかもね」

 

 冗談めかした陽乃の発言であったが、その顔は極めて真剣であった。

 

「ヒッキー……!」

 

 結衣を始めとして、皆がジードに対して祈っていたが、一方で不安もぬぐい切れずにいた。

 何せ、考えられ得るベストの状態でもまるで歯が立たなかったのに……今の八幡には、雪乃の補助も結衣の力添えもないのだ。

 

 

 × × ×

 

 

「シュアッ!」

「ピポポポポポポ……!! ゼットォーン……!」

 

 ジードは地を蹴ってオーヴァーゼットンに飛び膝蹴りを仕掛ける。しかしオーヴァーゼットンは超スピードの瞬間移動により、あっけなくジードの先制攻撃をかわして背後に回り込んだ。

 

「ハァッ!」

 

 ジードが振り向きざまに平手打ちを繰り出しても、オーヴァーゼットンは絶え間ない超高速移動によって逃れてしまう。アクロスマッシャーでも全く追いつけなかった速度なのだ。プリミティブでは、指先をかすらせることさえ出来ない。

 

『「またオーバーヒートになったら興ざめなんでな。今度は手早く、しっかりと息の根を止めてやろう!」』

 

 レイデュエスは確実にジードを葬るつもりのようで、瞬間移動を駆使した四方八方からの鉤爪攻撃の連続でジードを一方的になぶり出す。

 

「ウワァッ!」

 

 少しも反撃できず、瞬く間に追いつめられるジード。しかしこちらとて、今度は負けられない。八幡はダメージをこらえながら、プリミティブの他になれるフュージョンライズ形態に移行した。

 

[トライスラッガー!!]

「ショアッ!」

 

 起き上がりながらトライスラッガーに変身すると、三本のスラッガーを頭部から飛ばしながらジードクローを握り締めた。

 

「ハァァッ!」

 

 気合いとともに、スラッガーを伴いながらオーヴァーゼットンに突進していく。三振りのスラッガーで相手の逃げ道をふさぎ、ジードクローを叩き込む作戦である。

 

「ピポポポポポポ……!!」

 

 だがオーヴァーゼットンはスラッガーが到達するより早くテレポートで逃れ、ジードの斬撃はどれも空を切った。

 更に超高速で飛び回るオーヴァーゼットンが爪でスラッガーを蹴散らし、至近距離まで急接近してジードに暗黒火炎弾を撃ち込んだ。

 

「ウワァァァッ!」

 

 吹っ飛ばされたジードは、地面に叩きつけられると同時に、トライスラッガーの形態が解除されてプリミティブに戻ってしまった。ダメージが激しく、早くもカラータイマーが鳴り出す。

 やはり、力の差は歴然。気力や根性でどうにかなるレベルではない。

 

『「ハハハッ! 女どもがいても敵いやしなかったのに、お前のようなクズ一人で勝てると思っていたのか? 本気だったら度し難い大馬鹿だなぁ!!」』

 

 立ち上がろうとしても腕が震えているジードを傲然と見下し、八幡をあざ笑うレイデュエス。

 八幡は、ジードと同じ姿勢で這い上がろうとしながら歯を食いしばっている。

 

『「う、うるせぇ……! まだ……勝負は捨てねぇ……!」』

『「捨てないのなら、俺が焼き尽くしてやろうッ!」』

 

 オーヴァーゼットンは発光器官の前に、ジードを押し潰せるほどの大きさの暗黒火球を作り出す。

 そのエネルギー量は、ジードといえども耐えられない。対するジードはろくに身動きできない絶望的状況。

 それでも、八幡は決してあきらめようとしていない。

 

『「これだけは……あきらめねぇ……途中で投げ出したりしねぇッ……! やるんだ……立ち上がるんだッ……!」』

 

 この勝負の負けには、後がない。自分どころか、ジード、そして皆の明日がなくなるのだ。だから、立ち上がらないと。

 

「ピポポポポポポ……!!」

 

 しかしジードが起き上がるのも待たず、ダークオーヴァーゼットンは無情に暗黒火球を放ってきた。

 絶対的な死の影が、ジードと八幡に覆い被さる。

 

『「うああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――――――――ッ!!」』

 

 

 暗黒火球が落下し、爆ぜた。

 

 

 星雲荘で戦いを見守っていた面々が、凍りつく。

 

「リク!!」

「ヒッキー!!」

「比企谷くん……!」

 

 皆が、信じたくなかったが、思うしかなかった。もう、終わりだ――。

 

[――いえ]

 

 

『「ハ――――ハハハハハハァッ! さらば、ウルトラマンジード!!」』

 

 勝ちを確信して、哄笑とともに宣言するレイデュエス――。

 

『「――あ?」』

 

 だが哄笑は、途中で途切れた。

 暗黒火球の着弾点――そのすぐ横で、ジードはよろめきながらも立ち上がっていたからだ。

 

『「……目測を誤ったか? ならもう一発ッ!」』

 

 レイデュエスは訝しみつつも、改めて暗黒火球を放つ。先ほどと同じ大きさの火球がジードに迫る!

 ――が、火球が着弾し炸裂しても、ジードは健在であった。先ほどと同じように、着弾点とは違う場所に立っている。

 

『「な、何!? そんな馬鹿な!!」』

 

 はっきりと異常を察してうろたえるレイデュエス。攻撃はちゃんと狙った場所に当たっているのに、ジードには当たらない。――いや、ジードがいつのまにか『別の場所に立っている』。

 

『「だったらこの手で直接カラータイマーを砕いてやるッ!」』

 

 オーヴァーゼットンが猛然とジードに肉薄し、胸のカラータイマーを狙って鉤爪を突き出す――。

 だがたった一瞬の内にジードが目の前からかき消え、爪は空振りした。事ここに至って、レイデュエスは息を呑む。

 

『「まさかッ! いやもう間違いない!!」』

 

 何の予兆もなく逃れたジードに振り向きつつ、レイデュエスは確信した。

 

『「あいつ……時間を止めてやがるッ!!」』

 

 

 八幡は――自分が体験している『現象』に理解が追いつかずに半ば呆然としていた。

 

『「時間が、止まってる……いや、止めてるのか……?」』

 

 異変を感じたのは、最初の暗黒火球が目前まで迫ってきた時。その火球が――突然、ピタリと止まったのだ。そのお陰で回避することが出来たのだが……その時は、何が起こったのか全く分からなかった。

 しかし二発目の火球も、ダークオーヴァーゼットン本体もいきなりビデオを一時停止したかのように停止したことで、短い間だが『時間が停止している』ということに気がついた。――だが、どうしてそんなことが起きているのか――。

 そう思った瞬間、八幡は己の手の平が激しく発熱しているのを感じた。

 

『「俺の、手の平が……!」』

 

 そして――胸に光が芽生える。八幡とジードは、強い衝撃を受けた。

 

『八幡……それは……!!』

 

 レムがはっきりと告げる。

 

[ハチマン。あなたは、たった今、リトルスターを発症しています]

 

 八幡のまぶたが、大きく開かれた。

 

『「俺に……リトルスターが……!」』

 

 八幡のリトルスターは胸元から離れ、腰のカプセルホルダーに移った。八幡はすぐに、自分のリトルスターが宿ったカプセルを引き抜く。

 

『セェアッ!』

 

 浮かび上がった絵柄は、銀と金のウルトラマンゼロ。しかもカプセル本体も、他のものとは違い金色をしている。

 

[シャイニングウルトラマンゼロカプセル、起動しました]

 

 そう告げるレム。八幡がジードに向かってうなずくと、ジードも力を込めてうなずき返した。

 明日を照らすのは、星ではなく――。

 

 

 レイデュエスは狼狽しながらもジードに襲い掛かる。

 

『「どぉいうことだぁぁッ! 貴様にそんな能力はないはずだぞぉぉぉッ!」』

 

 嫌な予感を覚えたレイデュエスは、確実にジードの息の根を止めようと飛びかかっていく。

 

『「時間を止めるより速く殺してやるッ!」』

 

 ――だが、ジードから不意にまばゆい閃光が発せられて、それを一身に浴びたことで思わず動きが止まった。

 

『「ぐわぁッ!? ま、まぶしいッ!」』

 

 それは、明日を照らす輝きであった。

 

 

 八幡はホルダーから、一本目のカプセルを引き抜き起動する。

 

「『ユーゴー!」』

『シェアッ!』

 

 ジードと――八幡が声をそろえて叫び、カプセルからウルトラマンのビジョンが現れる。

 ウルトラマンカプセルを装填ナックルに収め、たった今起動したカプセルを続けて使用。

 

「『アイゴー!」』

『セェアッ!』

 

 シャイニングウルトラマンゼロのビジョンが腕を振り上げ、カプセルをナックルへ。

 

「『ヒアウィーゴー!!」』

 

 そして二つのカプセルをジードライザーでスキャン。

 

[フュージョンライズ!]

『「おおおおお……!」』

 

 カプセルの情報をスキャンしたライザーを、八幡は雄たけびとともに胸の前に持っていく。

 

『「はぁッ!」』

 

 そしてトリガーを握り締め、フュージョンライズ!

 

「『ジィィィ―――――――ドッ!」』

 

 八幡とジードの叫びとともに、二つのビジョンが彼らと重なり合った!

 

[ウルトラマン! シャイニングウルトラマンゼロ!]

[ウルトラマンジード! シャイニングミスティック!!]

 

 二つの逆巻く渦巻きを突き破り、黄金色の粒子を身に纏いながら、銀と金の螺旋の中をジードが飛び出していく!

 

 

 ――強烈な閃光で立ちすくんでいるダークオーヴァーゼットンの正面に、新たな姿となったウルトラマンジードが仁王立ちする。

 

『「な、何だと……!?」』

 

 星雲荘でも、雪乃たちが驚愕で目を見張っていた。

 

「あれは……!?」

「すごい……キラキラ……!」

 

 結衣はジードの姿を目にして、演劇でやるはずだった『星の王子さま』という言葉が脳裏に浮かんだ。

 今のジードは全身黄金色であり、両腕にスラッガーを備えている。それ以外の目立つ装飾などは特にない、至ってシンプルな体躯であるが、その立ち姿は非常に神々しいオーラで包まれていた。

 地球と光の国の始まりを告げた神秘の戦士ウルトラマンと、光を極めた超戦士シャイニングウルトラマンゼロの力を継いだ煌めく希望の形態、シャイニングミスティックである!

 

『「目指すぜ! 天辺!!」』

 

 八幡はジードの中でそう叫んでいた。ジードは右足に力を込め、一歩前に踏み出す。

 

「ゼットォーン……!」

 

 ジードの動作を警戒して身構えるオーヴァーゼットン。

 

『「ちッ……貴様がどんな姿になろうとも、このダークオーヴァーゼットンには……!」』

 

 ――だが、次の瞬間に顎に突き刺さったジードのアッパーに反応することは出来なかった。

 

『「がふッ!?」』

 

 強烈な衝撃が伝わってきて首が上を向くレイデュエス。ジードはまさに光速のスピードで懐に踏み込んできて、一撃を食らわせたのだ。

 

(♪フュージョンライズ!)

 

「シュアッ!」

 

 ジードはアッパーで浮き上がったオーヴァーゼットンの後方に一瞬で回り込み、かかと落としで地表に叩き落とした。

 

『「ぐはぁッ! くそぉッ!!」』

 

 二発連続でもらったオーヴァーゼットンだが、瞬時に体勢を立て直してジードの追撃をガードする。そしてテレポートでかく乱を図るも、ジードは同等の速度で追いかけてくる。

 

「ヘアッ!」

「ピポポポポポポ……!!」

 

 オーヴァーゼットンがどれだけ逃げようとも今のジードは逃さない。振るわれる鉤爪も腕のスラッガーで受け止め、互角の勝負を行ってみせる。

 

『「おのれッ! これでどうだッ!」』

 

 オーヴァーゼットンが停止してバリアを展開。これでジードを近寄せない構えだ。

 

「セェアァッ!」

 

 するとジードは両腕を頭の先に伸ばしてスラッガーを突き出し、きりもみ回転してドリルのようにバリアに突撃。猛烈な回転がバリアを削っていき、

 

『「ぐあぁぁッ!?」』

 

 遂には破砕してオーヴァーゼットンをはね飛ばした!

 

『「ちくしょうがぁッ!」』

 

 先ほどと一転して自分に追いついてきたジードにいら立ったレイデュエスは、オーヴァーゼットンに羽を生やして本気を出し始めた。ジェット噴射で一気に飛び上がりながら暗黒火炎弾を連射する。

 

「ショアッ!」

 

 だがジードは火炎弾と同数の光輪を飛ばして全て相殺。そして光速の突進で、全身を使ってオーヴァーゼットンに激突。

 

「ピポポポポポポ……!!」

「ハァァァァッ!!」

 

 ジードとオーヴァーゼットンは空を縦横無尽に駆け巡りながら何度も衝突し合う。その戦いの様は、最早人間の目では全く捉えられない次元。星雲荘の者たちは残像しか映らないモニターに唖然とするばかり。

 やがてジードとダークオーヴァーゼットンは地上で真正面からの衝突と同時に四つを組み停止。その内部では、超空間同士がつながって八幡とレイデュエスも取っ組み合ってにらみ合った。

 

『「このガキがぁ……! 貴様のようなゴミ溜めの片隅に打ち捨てられてるようなクズが、本気でこの俺に勝てると思ってるのかぁッ!」』

『「テメェが誰かなんか関係ねぇ! 俺はテメェをぶっ倒す! ただそれだけだッ!」』

『「ハァッ! 何の理想も目的もなく、ただ目の前のことに流されるだけ! 薄っぺらさがにじみ出てるぞ!! それでヒーローのつもりかぁ!? 所詮貴様は他人がいなければ何一つ出来ることがない、エセヒーローなんだよッ!!」』

 

 真っ向から罵倒してくるレイデュエスに、八幡は吼える。

 

『「俺がエセヒーローなら、お前は王様ごっこだろうがッ!」』

『「何だと!?」』

『「暴力で恫喝して、ねじ伏せて、それで他人を本当に従えられると思ってんのか!? お前は結局、相手を踏んづけて悦に入ってるだけ! 幼稚にも程があるぜ! そんなのは子供のごっこ遊びに過ぎねぇよッ!!」』

 

 そう突きつけると、レイデュエスのこめかみにビキビキッ! と血管が浮き上がった。

 

『「テメェェェ……俺への侮辱は許さねぇぞぉぉぉッ!!」』

 

 オーヴァーゼットンがジードを力ずくで無理矢理突き飛ばし、宙に飛び上がって極大の暗黒火球を作り出す。標的は、地球そのもの。

 

『「この星ごと消えてなくなれぇぇぇぇぇぇッ!!」』

 

 地球を爆破できる威力の暗黒火球を叩き落とす――!

 ――そうしようとする姿勢のまま、ダークオーヴァーゼットンが空中に縫いつけられたかのようにピクリとも動かなくなった。

 

『「がッ……!? し、しまった……!」』

 

 シャイニングミスティックの時間停止だ。八幡の挑発で精神を乱したところに掛けられたのだ。

 

「ハァッ!」

 

 完全に無防備になったオーヴァーゼットンに飛びかかるジード。レイデュエスは身動きが取れなくなっても八幡に呪いの言葉をぶつける。

 

『「正義の道は、修羅の道ッ! テメェなんかに進めるはずがねぇぞぉッ!!」』

『「お前が何と言おうとも!」』

 

 八幡はレイデュエスの憎悪の眼を受け止めながら、言い切った。

 

『「俺は! 本物になるッ!!」』

 

 その言葉とともに、ジードがダークオーヴァーゼットンの顔面にスラッガーを走らせる。

 斬撃は、レイデュエスの左半面にまで達する。

 

『「うぎゃああああッ!!」』

 

 絶叫するレイデュエス。だがジードはそれで済まさず、オーヴァーゼットンから距離を取ってから両腕を十字に組んだ。

 

「『スペシウムスタードライブ!!」』

 

 腕から放たれる全力の光線が、時間を止められているダークオーヴァーゼットンに叩き込まれる。

 

『「う、ウルトラマンジード……!!」』

 

 ダークオーヴァーゼットンの暗黒空間に光が満ちていき、レイデュエスが呑まれていく。

 

『「――比企谷……はちまぁぁぁ――――――――んッッ!!!」』

 

 レイデュエスの体内からも光が溢れ出て――ダークオーヴァーゼットンが塵も残らないほどの大爆発を起こした。

 その爆風が、暗黒に覆われていた空を一辺に晴れ渡らせる。暖かい陽光の下、ジードが地上に降り立った。

 

「――やったああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ―――――――――――!!」

「勝った! 勝ったよぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

 

 星雲荘ではペガや結衣が、ジードと八幡の大逆転勝利に大声を発していた。結衣は感極まった挙句にわんわん泣き、ライハや陽乃もほっと胸を撫で下ろす。

 しかし皆が喜び安堵する中で、雪乃はポツリとひと言漏らした。

 

「だけど……町はすっかり焼き尽くされてしまったわね……」

 

 その言葉が、結衣たちの心に影を差した。敵は倒せても――破壊された総武高校や町は、元には戻らない。

 ――そう、思われたのだが。

 

「オオオオオオ……!」

 

 ジードが雄々しく右腕を天に掲げると――何と空に輝く太陽が、『東に向かって』傾き出した!

 

「えっ!?」

 

 太陽と月が猛スピードで逆回転する、その超常現象に仰天する雪乃たち。しかもそれだけではない。破壊された町が、映像の巻き戻しのように再生していくのだ!

 

「えええええええええええ!? どうなってるのこれぇぇ!?」

 

 心の底から驚き目が飛び出る結衣。この事態をレムが説明した。

 

[シャイニングミスティックの力により、限定的に時間が逆行しています]

「時間が逆行!!?」

[その結果――]

 

 ダークオーヴァーゼットンによって破壊された物の全てが――総武高校も、それまでの学園祭の準備も――何事もなかったように、元通りとなった。

 

「直った……! 何もかもが……!」

「ヒッキー……!」

 

 完全に再生した町の光景に、皆は逆に言葉もない。復活した町の中に立つジードに、結衣は――雪乃もほのかに――熱い視線を送る。

 しかしジードの姿がその場で消失し、その跡に八幡が力なく倒れ伏すと、彼女たちは大きく色めき立った。

 

「大変! 助けに行かないと!」

[すぐエレベーターを用意します]

 

 即座に動いたライハを先頭に、雪乃たちは急いで八幡の元に向かう。――雪乃の後ろ姿には、陽乃が面白そうな目を向けていた。

 

 

 × × ×

 

 

『――どうやら、我々の出る幕はなかったようだな』

 

 宇宙空間から地球を見下ろしながら、ウルトラマンがそうつぶやいた。彼の目には、はるか先の地表で雪乃たちが失神している八幡を星雲荘へ運んでいくところが見えている。

 ウルトラマンの側で同じ光景を見ているのは、ウルトラセブン、ウルトラマンレオ、ヒカリ、そしてコスモス。彼らは以前にウルトラマンジードの力の波動を感じ取り、今回も彼の窮地を感知して宇宙を超えてここに駆けつけていたのである。

 ダークオーヴァーゼットンがジードを抹殺しようとしていた時は、五人でジードを助けに地上へ降りようとしていたのだが……彼らは、自分たちの力で切り抜けた。

 

『すごい子……いえ、すごい子たちですね』

 

 コスモスが圧倒されたようにつぶやくと、セブンがおもむろに首肯した。

 

『うむ。あの若きウルトラ戦士も、良き仲間を持ったようだ』

『特に彼と一体化している少年は、強い心の光を持っている』

『彼らの心の絆があれば、どんな困難があろうとも乗り越えられることだろう』

 

 レオ、ヒカリがそう判じ、ウルトラマンが最後に言う。

 

『この星はジードたちに任せよう。彼らならば、立派に守り抜いてくれる』

 

 それを信じて、五人はそれぞれの宇宙へと帰還していった。

 

 

 × × ×

 

 

 ジードの時間逆行によって元に戻った町の中を、ルドレイとオガレスが全速力で駆けていた。人の目も構わないほどに焦っている。

 

『おい急げ! AIBに先を越されたら取り返しがつかないぞ!』

『そんなこと言われんでも分かってる! 確か、こっちの方だったはず……!』

 

 二人が道路の角を曲がり――目に飛び込んできた光景に、あっと息を呑む。

 

『で、殿下!』

 

 道の真ん中に――レイデュエスが全身から煙を噴き出しながら、大の字で倒れていた。その側には、砕け散って粉々になったEXゼットンカプセルとハイパーゼットンカプセル、半壊してバチバチとショートしているブラッドライザーが転がっている。

 

『な、何ということ……!』

『殿下、お気を確かに!』

 

 オガレスとルドレイは大慌てで、倒れたまま微塵も動かないレイデュエスを回収していった。

 

 

 × × ×

 

 

 ジードの活躍によって絶望的状況から一転、世界中の都市が元に戻り、ジードの評価は懐疑的なものから賛辞と感謝に塗り替わった。人類には町だけでなく希望も戻ったのだ。

 総武高校もまた、誰もがあきらめていた文化祭を、予定通りに開催をすることが出来た――。

 

「はぁ~……今回はマジしんどかった……」

 

 文化祭の光景を写真に収める撮影の合間に、人通りの少ない廊下で八幡はどっと息を吐いた。見回りの最中だった雪乃がそれでクスリと微笑む。

 

「文化祭ギリギリで目を覚ますなんて……本当、悪運は強いのね」

「こうやってパシらされるんだから、強いかどうかはいまいち判別つきがたいがな……」

 

 シャイニングミスティックとなってダークオーヴァーゼットンを撃破し、破壊された世界中を再生させた後に倒れた八幡は、何と三日間も昏睡状態が続いた。レムの分析によると、シャイニングミスティックは他の形態と違って変身するだけでも莫大なエネルギーを消費する上に、時間を巻き戻す荒業まで行使したので、負担が尋常ではないものになってしまったという。強力なフュージョンライズだが、みだりに使用は出来ないだろう。

 三日間……。オーヴァーゼットンとの初戦が四日前で、再戦が当然二十時間後なので、八幡が目を覚ましたのは文化祭当日の朝であった。小町らは大いに心配したのだが、身体には異常はないため、八幡は登校を選んだ。一番大事な時期を欠席し続け、本番には遅刻して参加する八幡に対する文実の生徒たちの反応は冷ややかなものだったが、事情を知る結衣たちや平塚などは温かく迎えてくれた。

 

「あまりにも突拍子のないことが連続したから、色々と話したいことがあるのだけれど……またの機会にしましょう。今は実行委員の仕事が最優先よ、記録雑務」

「はいはい。相変わらずだよなぁお前って奴は」

 

 クールに命令してくる雪乃に肩をすくめた八幡だが、ここでふと雪乃に問いかける。

 

「ところで、相模の奴はどうした? あいつの顔がどこにもないんだけど」

「えっ、相模さん? ……そういえば、生徒会室にもいなかったわね」

 

 聞かれて、相模のことを思い出す雪乃。八幡は一日目のオープニングセレモニーに間に合わなかったので、この文化祭で相模を目にしていないのだ。

 

「友人と一緒に文化祭を回っているのではないかしら」

「いやまぁ、それならそれでいいんだけどさ」

「……でも、そろそろエンディングセレモニーの打ち合わせをしておきたいから、連絡は入れておきましょう」

 

 八幡のひと言で嫌な予感を覚えた雪乃は、連絡用のケータイで相模に電話を掛ける。

 ……が、電波の届かないところにいるか電源が入っていないという不通の報せのみが返ってきた。

 

「変ね……。電波が届かないはずがないし、文化祭中に電源を切っているとも思えない。単なる電池切れならいいのだけど……」

「流石にそんなうっかりな奴じゃねぇだろ」

 

 嫌な予感が膨らんできた雪乃は、めぐりたち生徒会役員らと連絡を取って相模を捜してもらったが……相模は一向に見つからなかった。昼過ぎ以降の足取りが、ぷっつりと途絶えているのだという。

 相模がいないという事実に、雪乃はにわかに焦り出す。

 

「まずいわね……。優秀賞と地域賞の投票結果を知っているのは、纏めた相模さんしか知らないのよ。このままじゃ、エンディングに支障が出るわ……」

 

 その独白を聞いた八幡は、やおら雪乃に背を向けた。

 

「比企谷くん?」

 

 怪訝な顔をした雪乃に、八幡は振り向きざまに告げる。

 

「流石に校舎から出てったってことはないだろうし、ちょっくら捜してくる。お前はもしもの時のために、時間稼ぎの算段を立てといてくれ。これはお前にしか出来ないことだからな」

 

 ――八幡からそんな言葉が出てくるとは思っていなかった雪乃は、やや戸惑いながらもうなずいた。

 

「え、ええ。分かったわ」

「頼んだぞ」

 

 ひと言言い残して行動を始める八幡。――そんな彼にジードが呼びかける。

 

『八幡、珍しいじゃないか』

「あ? 何がだよ」

『君がこんなにも積極的に行動するなんて。そもそも、相模さんのことを気に掛ける時点でいつもの……いや、『今までの』君らしくないよ』

 

 ジードの指摘にペガも同意する。

 

『だよね。ペガも驚いちゃったよ。基本的に他人のことには我関せず、奉仕部の依頼でようやく行動するのに』

「何でもいいだろ別に。ただちょっと、気が向いただけだ」

 

 八幡は二人に短く言い返しながら、相模の行方を追跡しに足を速めていった。

 

 

 × × ×

 

 

 特別棟の屋上に続く階段は文化祭の荷物置き場になっているが、人が通れる程度の隙間が荷物の間に開いている。八幡はその隙間を抜け、踊り場の扉を開いて屋上に出た。

 フェンスに寄りかかっていた相模は、八幡の顔を見て心底驚いた顔をした。

 

「あんた、何でここに……。もしかしてうちを捜しに来たの? 早くない……?」

「お生憎だったな。どうせエンディングセレモニーにいない自分を捜しに来てほしかったんだろうが、そんな自己満足はご破算だ」

 

 自己満足、というトゲのある言い方に、相模はあからさまに顔をしかめたが、反論はしなかった。

 相模は己の自尊心を満たすために実行委員長となったが、周りから頼られたのは雪乃であり、自分のやることはことごとく裏目に出た。自意識の拠り所を失った相模は、失ったそれを他人に求め出した。それが姿を消した理由。

 八幡はそれを推理し、材木座や沙希の協力も得て、相模が行きそうな場所に目星をつけてここにたどり着いたのであった。

 

「エンディングセレモニーが始まるから戻れ。今ならまだ間に合う」

 

 八幡が単刀直入に告げると、相模は眉をしかめて八幡に背を向けた。

 

「別にうちがやらなくてもいいんじゃないの」

「残念ながら集計結果の発表があるから、お前がいないと始められないんだよ」

「じゃあ、集計結果だけ持っていけばいいでしょ!」

 

 バサッ、と集計結果の記された紙を叩きつける相模。自分の思った通りにならない現実を前にして、すっかりすねてしまっている。

 

「もう、最悪……。せっかく実行委員長になったのに、みんなうちと雪ノ下さんを比較して、誰が委員長か分からないって言うし、うちの出した方針は思いっきり否定されるし……。こんなんで委員長やったって、何も楽しくない……。こんな思いするんだったら……文化祭なんて灰になったままでよかったのに……」

 

 その言葉には流石に目くじらを立てた八幡であったが、ぐっとこらえ、今の自分が何をするべきかを思考する。

 奉仕部に持ち込まれた依頼は、相模の実行委員長の仕事の補佐。つまり相模に委員長の責務を果たさせなければいけない。これが最低条件。これが達成できなければ、奉仕部としては失敗だ。

 そしてそれは、他人による強制ではなく、あくまで相模自身の意志を以てさせなければならない。それが雪乃の志に応じる道。

 相模をこの場から動かすには、彼女が望むような人間に、彼女が望むような言葉を言わせるのが一番だが、もうセレモニーの開始時刻まで間もない。時間稼ぎ用の人員も必要なので、今から呼んでいる余裕はない。こんなことなら初めから誰か連れてくるんだったと悔やむが、そんな後悔が何の役に立つのか。

 だから、八幡は相模に言い放った。

 

「最悪? 何勘違いしてんだよお前」

「え……」

 

 想定外であっただろうひと言に、相模の顔がこちらに向いた。八幡はここぞとばかりに畳みかける。

 

「本当の最悪ってのは、このまんまお前がセレモニーに現れなくて、文化祭を最後の最後で台無しにすることだろうが。お前恨まれるだろうぜ? 明日からはクラスカーストの最底辺に落ちるかもしれねぇな。そう、俺と同じどん底に。そんなことも分かんない頭なのか、お前? だからないがしろにされるんじゃねぇの」

 

 八幡と同じ、という具体例に、相模の表情は驚愕と絶望が入り混じる。そして罵倒してくる八幡には、怒りと憎悪の目が向けられた。

 八幡は言葉を緩めず、むしろ加速させる。

 

「今なら間に合うって言ってんだろうが。それを無視してバックレようってのならこりゃ救いようがねぇな。そうしたいんなら好きなだけここにいろよ。その代わり、俺がお前が自分勝手な理由で逃げ出した最低自己中女って言いふらしてやるぜ。それでもいいのか?」

「……!」

「これだけは言っておいてやる」

 

 八幡は一旦言葉を区切り、スゥッと息を整えてから、はっきりと宣った。

 

「ジーッとしてても、ドーにもならねぇぞ」

 

 八幡から言葉の数々をぶつけられた相模は、しばらく顔色が目まぐるしく変わっていたが――やがてフェンスから離れて集計結果を拾い上げた。

 

「分かったわよ……戻ればいいんでしょ、戻れば! これ以上ここであんたなんかからグチグチ暴言聞かされるなんてまっぴらよ!」

 

 肩を大きく揺らしながら階段に向かっていく相模は、八幡にすれ違いざまに、ボソリと恨み言をぶつけた。

 

「あんた、覚えときなさいよ……!」

 

 そのひと言を残して立ち去っていく相模。――その姿がなくなってから、ジードが八幡に呼びかける。

 

『八幡』

 

 八幡は相模に代わるようにフェンスに寄りかかって、自嘲気味にジードに返した。

 

「相変わらず最低な奴だよな、俺って。こんなやり方しか出来ねぇんだから」

『――確かに最低かもね。いちいち人を怒らせなきゃ気が済まないみたいなんだから』

「っておい。そこはフォローしてくれねぇのかよ」

 

 突っ込みを入れた八幡に苦笑しながら、ジードは告げる。

 

『でも、手厳しいことをズバズバと言うのが君だし、本当は優しいのが君だよ、八幡』

「いや、優しいとかそんなこともないんだけど……」

 

 素直にもなれない八幡に、ジードはクスリと笑いながらひと言、

 

『それに……君は変わったよ』

「は? ……いやどこも変わってないだろ。人がそう簡単に変わる訳ねーっての。そういうのは大体錯覚、単なる気のせいがオチなんだからな」

「えー? そんなことないよ」

 

 ペガもニヤニヤしながら話に混ざってきた。

 

「ペガの目から見ても、八幡は変わったって思うよ。ねぇーリク」

『だよねぇ~。知らぬは本人ばかりって奴?』

「おい、だから俺はどこも変わってないっての! 今も昔も同じ比企谷八幡だ」

『いやいや変わったって~』

「だーかーらー! 変わってねぇって……!」

 

 からかうように変わったと言い続けるジードとペガ、ひたすら否定する八幡。エンディングセレモニーに呼び戻されるまで、彼らはそんなやり取りを続けたのであった。

 

 

 

『ウルトラストーリーナビ!』

 

八幡「今回は『ウルトラマン』最終話「さらばウルトラマン」だ」

八幡「科特隊がある日円盤の大群の姿をキャッチする。地球侵略のために押し寄せてきた宇宙人の大軍団相手に奮戦する科特隊だが、敵はその間に基地に侵入して内側から科特隊基地を破壊してしまう。侵入者はどうにか討ち取られたが、宇宙人は最後に怪獣ゼットンを繰り出してきた。ゼットンには科特隊のあらゆる兵器が効かず、ウルトラマンが登場することとなるんだが、今回の戦いは雲行きが怪しい。果たして結果はどうなるか……という内容だ」

八幡「言わずと知れた『ウルトラマン』の歴史に残るほどの名最終回だ。その内容はまさに伝説。何たって、無敵のヒーローウルトラマンが負け、しかもそのまま番組が終わるんだからな。こんな最終回は後にも先にも『ウルトラマン』だけだ」

八幡「『ウルトラマン』の視聴率は化け物級だったんだが、実は特撮にこだわるあまりに制作がすっかり追いつかなくなってしまってた。だから一年に満たない三クールで最終回になっちまったんだよな」

ジード『だけど、そのこだわりのお陰でウルトラマンは今も続く特撮の金字塔シリーズになったんだ!』

八幡「それじゃあ、また次回でな」

 




「うわああああやぁぁぁぁぁめぇぇぇぇぇぇろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!」
[八幡は以前からリトルスターをその身に抱えていたのではないでしょうか]
「何はどうあれ……本物はそう安いもんじゃないはずだ」
「えいほ、えいほ、えいほ、えいほ、えいほ!」
『八幡……あの子、普通の人間じゃないよ!』
[マラソン小僧と称される人物は、確かに人間ではないようです]
「まさか……あたしたちの体育祭を見物しに来たとか!?」
「城廻先輩の願い、どうにかして守り抜かないと」
「ここからは、ネクストステージだ!」



次回、『体育祭に死神山のスピードランナーがやってきた。』



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体育祭に死神山のスピードランナーがやってきた。(A)

 

 比企谷八幡。千葉の進学校総武高校に通う高校生二年生。目つきは悪く、卑屈で人づきあいが下手な性格が災いして友達はいない。座右の銘は、『押してだめなら諦めろ』。

 そんなろくでなしであったが、何の因果かウルトラマンジードに変身して地球を狙う悪に立ち向かう身となり、そして今は――。

 

「うッ……うわあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ―――――――――!!」

 

 真っ赤になった顔を両手で覆って、星雲荘の床をゴロゴロと転がっていた。尋常ではない恥ずかしさで身もだえしているのであった。

 その理由は、

 

「目指すぜ! 天辺!!」

「わぁ~! ペガっち似てる~!」

「うわああああやぁぁぁぁぁめぇぇぇぇぇぇろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ! 真似すんじゃねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ―――――――――――――!」

 

 ペガが八幡の、シャイニングミスティックになった際の決め台詞を物真似して結衣たちが誉めそやしているからである。

 八幡がジードに変身している間は、話している内容がジードライザーを通して星雲荘に逐一伝わる。もちろん先日のダークオーヴァーゼットン戦の時も、八幡の発言の全てが星雲荘に避難していた全員に聞かれていたのだ。

 そして後から冷静になった八幡は、その時に自分が言い放ったことに対して羞恥心に駆られている真っ最中なのであった。

 

「何であんなこと連発して口走っちまったんだ俺ぇぇぇぇぇぇぇぇッ! これじゃ材木座を笑えねぇよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!」

「そんな恥ずかしがることないよ八幡。かっこよかったよ!」

「うんうん! すっごい見入っちゃったし!」

 

 のたうち回る八幡にペガと結衣が熱弁するが、雪乃は苦笑交じりにこう言った。

 

「なれるといいわね比企谷くん、本物に」

「ぎゃああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――――――――――――ッ!!」

「ちょっと落ち着きなよヒッキー」

 

 一番恥ずかしく感じている台詞を蒸し返されて過剰反応する八幡のありさまに、ライハはすっかり呆れ返っていた。

 

「……ともかく、あなたもリクも無事でよかったわ。あの場面で八幡にリトルスターが発症するなんて……まさしく奇跡的な偶然よね」

 

 とのたまうライハだが、そこにレムが補足を挟む。

 

[偶然の発症ではないと思われます]

「え?」

[推測ですが、八幡は以前からリトルスターをその身に抱えていたのではないでしょうか]

 

 レムの発言に、皆が目をぱちくりさせた。

 

「どういうこと?」

[ハチマンが単独ではウルトラカプセルを使いこなせないということは、リトルスターのエネルギーと同調できていないということです。それと同じように、ハチマンは以前からリトルスターを発症していたものの、同調率が極端に低いために症状が表層化していなかった。それが、極限状態に置かれて光の意志に目覚めたために発症、カプセルへ移動したのではないでしょうか]

「確かに、あの場面でタイミングよく発症したってよりは自然だね」

 

 レムの推測を支持するペガ。結衣は嬉しそうに八幡に視線を戻す。

 

「ってことは、ヒッキーちゃんと本物のヒーローになれたってことだね! やったじゃん!」

 

 本物、と言われて依然として恥ずかしがって顔をそらした八幡は、結衣の言葉を素直に受け止めない。

 

「いや、気持ち一つでヒーローになれるんなら世の中英雄ばっかだろ。そう簡単なことじゃねーって多分。そもそも、光の意志ってふわっとしすぎでよく分かんねぇし」

『いや、僕はヒーローっていうのは、そう難しいものじゃないと思うけどな』

 

 八幡の意見にジードはやわらかく反論。

 

「何はどうあれ……本物はそう安いもんじゃないはずだ」

 

 八幡はそれでも、自分が「本物になれた」とは考えていなかった――。

 

 

 

『体育祭に死神山のスピードランナーがやってきた。』

 

 

 

 それから約一か月後――十月九日。

 八幡は帰宅後、近所をグルッと回るように走り込みをしていた。ジョギングである。

 

『八幡、あれ以来毎日トレーニングに励むようになったね。いいことだけどさ』

 

 ジャージ姿で息を切らしながら走る八幡にジードが呼びかけた。

 八幡はウルトラマンジードと融合して以来、ライハから戦いで生き残るためと、トレーニングを課せられていた。が、そういうことに熱心ではない八幡のこと、今までは何かと理由をこじつけてサボりがちでライハの手を焼かせていた。

 それが、ダークオーヴァーゼットン戦後は一転して、人が変わったようにトレーニングに打ち込むようになった。自主的にジョギングを始めた際には、小町に心底驚かれたりもした。

 

「まぁ、流石にあんな死の淵に追いやられるようなことは二度とごめんだからな。そりゃあ俺だって必死にもなるさ」

 

 と語る八幡に、ペガが指摘する。

 

『とか言って、八幡が自分で自覚してない間に成長したからじゃないの?』

「だぁかぁらぁ、すぐそうやってこそばゆい方向に結びつけようとすんじゃねーって。あちこちかゆくなってくるだろうが」

 

 何かにつけて「成長」に持っていこうとするペガたちにうんざり顔の八幡。それに苦笑するジード。

 

『何はともあれ、この調子なら明日の体育祭もいい結果出せそうだね!』

「体育祭か……」

 

 奉仕部はまた新たに、めぐりから依頼を受けていた。それは、今一つ活気に欠ける総武高校の体育祭を盛り上げてほしいというものである。その解決に向けて新しい目玉競技を用意するなど動いてきたのだが、もう一つ、今年で卒業である依頼者のめぐりを優勝させるという方向でも行動している。これには競技で勝って、得点を稼ぐ以外に方法はない。

 幸い奉仕部は皆めぐりと同じ赤組なので、八幡が身体能力を上げることはそのまま依頼達成につながる訳である。

 

「……しかし、『参加することに意義がある』ってクーベルタン男爵は言ったが、現代では強制参加の脅し文句に扱われてる節があるよな。世の中、行くだけ無駄だったものなんて腐るほどあるだろうに。むしろ参加することに意義があるなら、参加しない勢力に参加することにだって意義があるんじゃないのか」

『またそんな屁理屈こねて……。そういうところは変わらないね』

 

 ひねくれた持論を唱える八幡にペガたちは呆れ果てる。

 そんな時……八幡の背後から、何かがすごい勢いで接近してくる気配がした。

 

「えいほ、えいほ、えいほ、えいほ、えいほ!」

「ん?」

 

 八幡がふと後ろに振り返ると……マタギのように獣の毛皮で出来た服を身に着けた珍妙な中学生くらいの子供が、風のような途轍もないスピードで近づいてくる光景が目に飛び込んできた。

 

「な、何だ……!?」

「えいほ、えいほ、えいほ、えいほ、えいほ!」

 

 子供が唖然とする八幡の横を通り過ぎると、同時に突風が吹いて八幡の身体が煽られる。子供が風を吹かせながら駆けているようであった。

 

「うわぁ!?」

 

 バランスを崩してしりもちをつく八幡。子供はそんな八幡の元に戻ってくると、ニカッと笑いながら呼び掛けてきた。

 

「お前なかなか速いなー! 俺は速い奴が好きだ! どうだ、俺と一発勝負してみないか?」

「は……? いや、お前誰だよ」

 

 いきなりなれなれしく話しかけてきた子供に、八幡が呆気にとられながら聞き返すと、子供は次のように名乗った。

 

「俺はマラソン小僧って呼ばれてるんだ」

「ま、マラソン小僧……?」

 

 何だその安直すぎるあだ名。っていうか本名名乗れよ、と八幡が思う間もなく、自称マラソン小僧は再びせがんでくる。

 

「なぁ~、俺とマラソン勝負しようぜ?」

「いやいや……会ったばっかの奴といきなり勝負とか、俺そんな少年漫画的なノリで生きてねぇから」

 

 八幡が当然のように断ると、マラソン小僧は途端に冷めた顔となる。

 

「なーんだ、つまんねぇの」

 

 あっという間に八幡への興味を失ったマラソン小僧はクルリと踵を返し、そのまま走り去っていく。

 

「えいほ、えいほ、えいほ、えいほ、えいほ!」

 

 マラソン小僧の走る速さはおよそ人間離れしており、彼に追い抜かれた人は皆一様に突風で転げる。

 

「きゃあ!?」

「うわぁッ!」

「おい小僧! 何しやがんだぁッ!」

 

 道行く奥さんやサラリーマン、近所で評判の意地悪じいさん(唐突)などが腰を抜かす様子を、呆然と見やる八幡。

 

「何なんだあれ……変な奴……」

 

 口が半開きのままの八幡に、ペガが重たい口調で呼び掛けた。

 

『八幡……あの子、普通の人間じゃないよ!』

「まぁ、どう見たって普通じゃねぇだろ」

『いやそういうことじゃなくて……』

 

 意図が伝わっていないのでペガは言い直した。

 

『あの子は多分、怪獣の一種か何かだ! 未知のエネルギーを感じたんだよ!』

「怪獣? あれが……?」

 

 ぐんぐんと小さくなっていたマラソン小僧の背中だが……たまたまサブレの散歩中の結衣と出くわす。

 

「きゃんきゃん!」

「うわぁぁぁ―――――!?」

 

 サブレはじゃれつくようにかわいく吠えただけなのに、マラソン小僧が大仰な悲鳴を上げたので結衣は驚愕。

 

「だ、大丈夫!?」

「お、俺は犬だけは駄目なんだ! 助けてくれぇ―――!」

 

 マラソン小僧はまさしく脱兎の如く、ピューッと逃げていった。それを見届ける八幡。

 

「……あんな小さい犬にビビッてんのに?」

『そう言われると、自信なくなるけど……』

 

 ペガが口ごもる一方で、近所で評判の意地悪じいさんは密かにほくそ笑んでいた。

 

「ほほぉ~、犬が苦手なのか……ヒッヒッヒッ……」

 

 

 × × ×

 

 

 八幡たちの前に突然現れた、おかしなマラソン小僧。ペガの言うように怪獣にはとても見えなかったが、八幡たちは星雲荘でレムから衝撃の話を聞くこととなった。

 

[マラソン小僧と称される人物は、確かに人間ではないようです]

「そうなの!?」

 

 目を丸くする結衣たち。レムはその理由を説明し出す。

 

[中部山岳地帯に、死神山という別名で呼ばれる鉱山があるのですが、その山で死亡した足の速い少年がマラソン小僧という足の神となったという伝承があります。このマラソン小僧は年に一度、山から下りてふもとの村を風とともに走り抜けると言われています。ハチマンたちが目撃した少年が起こした現象から鑑みて、これと全くの無関係とは思えません]

「いつ頃からの伝承か知らないが、どうして名前に横文字入るんだよ。日本の伝説なのに」

 

 細かいところを気にする八幡は置いて、レムの解説に異を挟む雪乃。

 

「でも、ここは千葉よ。中部で信じられている神様が、どうしてこんな場所に?」

[マラソン小僧は足の速い者との勝負を好み、その名の通りにマラソンなどの競走を見物することが趣味とも言い伝えられています]

 

 レムの言葉にハッとする結衣。

 

「まさか……あたしたちの体育祭を見物しに来たとか!?」

「偶然通りがかった……と考えるのは楽観的よね」

 

 また新たな問題が飛び込んできたと感じて、雪乃は頭が痛そうに額を押さえた。

 しかもレムの解説はこれで終わりではなかった。

 

[ここからが最も重要な点ですが、マラソン小僧は温厚な気質ですが、一度怒るとイダテンランという巨大な怪物となって、手のつけられないほどに暴れ回るそうです]

「えぇー!? それホント!?」

「……千葉村の想い石も本物だったし、単なる言い伝えと切って捨てない方が賢明でしょうね」

 

 途端に深まる警戒心。ライハは雪乃のひと言にうなずきながら、八幡たちへと振り返った。

 

「八幡たちが出会った子供が本物のマラソン小僧かどうか、イダテンランという怪獣になるかどうか。まだ確定ではないけれど、気をつけた方がいい。きっとマラソン小僧は、もう一度あなたたちの前に現れるでしょうから」

「ですよね! 体育祭だって頑張って準備してきたんだもん、ぶち壊されたくなんかありませんよ!」

「ええ。城廻先輩の願い、どうにかして守り抜かないと」

 

 意気込む結衣と雪乃。そして八幡は、

 

「また怪獣騒動か……。よくまぁ飽きもせずに、次から次へと俺たちのところに飛び込んでくるもんだ。誰かに祟られてるんじゃねぇだろうな?」

 

 うんざりしたような口調でありながら、その目は真剣な輝きを宿していた。

 

 

 × × ×

 

 

 そして一日が経過し、肝心の体育祭が始まる。救護班を任された八幡はその仕事を行いながら、マラソン小僧が現れないかとグラウンド全体に目を光らせている。

 しかしその件とは別のことで顔をしかめていた。

 

「状況は良くねぇなぁ……」

 

 ため息交じりにひと言漏らす。その視線の先にある得点ボードは、終盤にも関わらず赤組が白組に五十点もリードされていることを示していた。

 白組には総武高校一のスポーツマン、葉山がいるのである。彼が競技で次々勝ちまくるお陰で赤組はすっかりと劣勢ムード。それが影響してこのような点差になってしまった。八幡たちがいくら頑張ったとしても、体育祭は団体競技が主。個人ではどうにもならない部分もある。

 ふと見れば結衣も難しい顔をしているが、雪乃はその目に静かな闘志をたぎらせながら得点ボードをにらみつけていた。

 

「……残りの競技は何だったかしら」

「え、ああ。あとは目玉競技の『チバセン』と『棒倒し』だな」

「そう……」

 

 八幡が気圧されながら答えると、雪乃はそれきり押し黙る。そういやこいつ、大の負けず嫌いだったな、と思う八幡。

 ともかく勝利への算段を立てる雪乃であったが……その時に、遂に懸念の事態が舞い込んできた。

 

「えいほ、えいほ、えいほ、えいほ、えいほ!」

「あ、あれっ!」

 

 結衣が指差した先……校門から、件のマラソン小僧が飛び入ってきたのだ!

 



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体育祭に死神山のスピードランナーがやってきた。(B)

 

 体育祭の最中に突然校庭に入り込んできた、珍妙な格好の少年に生徒たちはにわかに騒然となった。そんな中で、少年の正体――マラソン小僧を知る結衣に、雪乃がこっそりと尋ねかける。

 

「由比ヶ浜さん、あれが例のマラソン小僧なのね?」

「う、うん、間違いないよ」

「悪い予測ばかり的中するわね……。きっと、見物するだけでは飽き足らなくなってしまったのね」

 

 と推測する雪乃。その視線の先では、トラックの真ん中で足踏みするマラソン小僧に平塚ら教師が近寄っていく。

 

「こら君、どこの子だ? この体育祭は校内のみの行事で、部外者は招いていないんだ。悪いけれど、出ていってくれないかな」

 

 平塚がたしなめるものの、マラソン小僧はその言葉を全く聞いておらず、自分の目の前にいる者たち全員に向けて呼び掛けた。

 

「なぁ、俺とマラソン勝負しようぜ!」

「は?」

 

 目が点になる平塚たちだが、マラソン小僧は委細構わずにまくし立てる。

 

「みんなで誰が一番速いか勝負してるんだろ? 俺も混ぜてくれよ! 俺、足には自信あるんだ。俺に勝てる奴はいないか?」

「……君、馬鹿なこと言ってないでこっちに……」

 

 教師の一人が呆れながらマラソン小僧の腕を掴もうと手を伸ばしたが、マラソン小僧はひらりとかわして手は空を切る。

 

「ハハハハハ! 遅い遅い!」

「なっ……こら、悪戯はよしなさい!」

 

 平塚たちは総出でマラソン小僧を捕まえようとするも、マラソン小僧は相変わらずの風のようなスピードで駆け回り、難なく教師たちの包囲をすり抜けた。

 

「遅いって! もっと速く走ろうよ! もっと速くさぁ~!」

「こ、このぉ……!」

 

 からかわれた男性教師陣はカチンと来て、腕まくりをして全速力でマラソン小僧を追い回すものの、マラソン小僧は人外。その速度には到底追いつけず、もてあそばれるように振り回される。

 

「は、はひぃ~……!?」

「もう終わり? みんなだらしないな~。先生とか言って威張ってばっかで、運動不足だからだなぁ! ハハハハハハ!」

 

 すぐにヘトヘトになって崩れ落ちていく教師たちを、余裕しゃくしゃくのマラソン小僧が笑い飛ばす。そんなありさまに生徒たちの間から野次が飛ぶ。

 

「おーい、情けねぇぞ先生ー!」

「そんな子供にからかわれてよぉー!」

「これじゃ次の競技できないじゃーん!」

「あのガキむかつくなぁおい!」

「よーし、俺が代わりにあいつを捕まえてやるわー! サッカー部に任せとけってー!」

 

 お調子者の戸部を始めとして、生徒たちからチラホラと俺も、よし俺もとトラック内に駆け込む者たちが現れ、マラソン小僧を追いかけ出す。

 しかしマラソン小僧は自分を追う人数が増える毎にスピードを増していき、彼らからヒョイヒョイと逃れる。

 

「えいほ、えいほ、えいほ、えいほ、えいほ!」

「うっわマジで速えぇ……!?」

「何だあいつ……!?」

 

 戸部たちは複数人がかりでもまるで追いつけず、目を丸くしている。そんな彼らに挑発するように呼び掛けるマラソン小僧。

 

「おーいどうしたどうした。これだけいて、俺を抜ける奴はいないのかよ~」

 

 そう言われても、戸部たちはマラソン小僧の異常なスピードにすっかりと怖気づいて及び腰になっている。

 

「何だ何だ、どいつもこいつもだらしないな~」

「いい加減にするんだッ!」

 

 嘲笑するマラソン小僧に葉山が飛びかかった。しかし惜しいところで逃げられる。

 

「おっと危ない危ない!」

「みんなの迷惑だ。すぐに出ていくんだ」

 

 葉山が説き伏せようとしても、やはりマラソン小僧は聞く耳を持たない。

 

「お前は速いなー。じゃあ俺と勝負だ! 俺に追いつけるかなー!」

「こらッ、待て!」

 

 クルリと背を向けて逃走するマラソン小僧を追いかける葉山。他の生徒、特に女子の間から次々と葉山を応援する声が上がる。

 

「きゃー! 葉山くん、がんばってー!」

「かっこいいー!」

「隼人ー! 負けんなー!」

「あんなに必死になって人の背中を追いかける隼人くん……。その相手がヒキタニくんだったらすごく美味しかったのに、惜しい……」

 

 しかしいくら葉山とて人間の限界がある。足の神様であるマラソン小僧に敵うべくもない。

 

「くッ……!」

「ほらほらー! ピッチを上げろー! えいほ、えいほ、えいほ!」

 

 校庭はマラソン小僧によってすっかりと混沌とした状態。これにめぐりがオロオロと右往左往する。

 

「あわわ、どうしよう。警察呼んだ方がいいのかな。でも体育祭が……」

 

 めぐりが弱り果てる後ろで、雪乃たちはヒソヒソと声を潜めながら相談し合う。

 

「このままではまずいわね。これで万が一、あの子が本当に巨大な怪獣になったとしたら……」

「大惨事だよ……!」

 

 身震いする結衣。マラソン小僧は温厚な性格と聞いているが、それもどこまで本当のことか分からない。今は機嫌が良さそうだが、何かのきっかけで変身するようなことがあったら……校庭のど真ん中など最悪である。

 

「ライハさんやAIBを呼ぶべきかな……」

「でも、今からだと時間が掛かりすぎるわ。それまでマラソン小僧をどうにかしないと……」

「けど、どうにかって言ったって……」

 

 いつ怪獣になるものかと気が気でなく、すっかり弱り果てる結衣。すると、

 

「……ジーッとしてても、ドーにもならねぇ……!」

「あっ、ヒッキー!?」

「比企谷くんっ!」

 

 八幡がそう唱えながら飛び出していき、校門前まで走っていくと声を張ってマラソン小僧に挑発を向けた。

 

「おーいマラソン小僧! 勝負してやろうじゃんか! ついてこいッ!」

 

 そう言い残して、ダッと校門から外へと駆け出していく八幡。マラソン小僧はすぐに食いついた。

 

「そう来なくっちゃ! よーし見てろぉ~!」

 

 マラソン小僧の興味が葉山から八幡に向き、彼の背中を追いかけて総武高校の敷地から飛び出していく。

 

「えいほ、えいほ、えいほ、えいほ、えいほ!」

「ああっこら比企谷! 勝手なことは……!」

 

 平塚が慌てて止めようとしたが、八幡はすぐにマラソン小僧を引き連れて見えなくなってしまった。

 

「……あいつ、あんなに足速かったっけ?」

 

 唖然とする平塚の後方では、葉山がぜいぜい息を切らしながら八幡の消えた跡を見つめていた。

 

「……比企谷……」

 

 

 × × ×

 

 

「えいほ、えいほ、えいほ、えいほ、えいほ!」

 

 八幡の背中を追いかけて駆けるマラソン小僧。八幡はそれに追いつかれないように、ジードの能力を発揮して人間を超えたスピードを出して走る。このような目立つ真似は望ましくないが、時間を稼ぐにはこうする他はない。

 更に八幡は走りながらレムと連絡を取った。

 

「レム、すぐに俺の進行先に、ライハさんとAIBを回してくれ。マラソン小僧を捕まえてもらう!」

[了解しました]

 

 八幡は総武高校から離れて、人気のない町外れにマラソン小僧を引きつけて捕獲してもらう作戦を考えついていた。その成功のためには、自分がマラソン小僧の囮にならなければならない。ゴールまでどうにかマラソン小僧を誘導しなければ。

 

「お前ホント速いな~! こんなに面白い勝負は初めてだ! よーし、俺も本気だぁ~!」

 

 しかしマラソン小僧は更にスピードを上げ、八幡と並んだ。まだまだ本気ではなかったようだ。

 

「えいほ、えいほ、えいほ、えいほ、えいほ!」

「くッ……! おおおおッ!」

 

 八幡は必死にマラソン小僧に食いつき、彼がどこかへ行かないようにする。この頑張りに、町の人たちの安全が懸かっているのだ。

 しかし不運なことに、川沿いの土手を走っているところで、二人の進行先に近所で評判の意地悪じいさん(唐突)の姿が!

 

「むッ! あの小僧は昨日わしを転ばせた……。クククッ、復讐の機会が飛び込んできたわい!」

 

 マラソン小僧の姿を認めた意地悪じいさんはあだ名の通りに意地悪にほくそ笑みながら、土手の陰に身を潜めてマラソン小僧の接近を待ち構えた。

 そして彼が近づいてくると、マラソン小僧に復讐するために連れて歩いていた『秘密兵器』をけしかける!

 

「行け、わしの忠実なペット! 猛犬タイガーよッ! 奴に食らいついてやれぃ!」

「バウバウバウッ!」

 

 柴犬なのにタイガーが意地悪じいさんの手元から解き放たれ、マラソン小僧に襲い掛かる!

 

「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!?」

 

 マラソン小僧は猛犬に驚き、恐怖のあまりに土手から転げ落ちた!

 

「マラソン小僧!?」

 

 八幡も仰天して足を止める。

 

「ワッハッハッ! 作戦大成功! ざまぁみろ!!」

 

 一方で思い通りに事を運べた意地悪じいさんは堂々と高笑いするが……。

 

「ギャアオオオオオオウ!」

 

 マラソン小僧が落ちていった場所から、狛犬のような顔つきの巨大な怪物が立ち上がったのですぐさま腰を抜かすこととなった。

 

「あひゃあああぁぁぁぁぁぁ―――――――――!?」

 

 犬に襲われたマラソン小僧は遂に怒ってしまい、暴風の化身の怪獣イダテンランに変身してしまったのだ!

 

「何てこった! あと少しだったってのに……!」

 

 最も避けたかった事態が現実になってしまったことに歯噛みする八幡。イダテンランは自分に犬をけしかけた意地悪じいさんに目をつける。

 

「ギャアオオオオオオウ!」

「た、助けてくれぇぇぇぇ―――――!」

 

 慌ててほうほうの体で逃げ出す意地悪じいさんであったが、イダテンランが頬を膨らませると、口から猛烈な突風を吹き出して意地悪じいさんを吹き飛ばしてしまう。

 

「ひやあああぁぁぁぁぁぁ――――――――――!!」

 

 突風によって浮き上がった意地悪じいさんは街路樹に引っ掛かってしまった。

 

「ギャアオオオオオオウ!」

 

 それでもイダテンランの怒りは収まらず、総武高校の方角に向かって走り出してしまう! 猛烈なスピードを生み出す脚力はすさまじく、走るだけで大地震のような震動を引き起こす。

 

「き、きゃあぁぁ―――――! 怪獣っ!」

「すっげぇ勢いでこっち来るぞぉ!?」

 

 当然総武高校の生徒たちは大パニック。このままでは学校が危ない!

 

『八幡、行こう!』

 

 この事態はもう人間の力では止められない。ジードは八幡に呼びかけ、いつものようにフュージョンライズの合図を唱えようとしたが、

 

「待ってくれジード」

 

 八幡は毅然とした目つきでイダテンランを見据えながらジードを制止し――彼に促されたからではなく、自身の意志の下にジードライザーを手に取った。

 

「ここからは、ネクストステージだ!」

 

 そう宣言しながら、ウルトラマンカプセルをホルダーから取り出す。

 

「ユーゴーッ!」

『シェアッ!』

 

 そして変身の台詞を、自らの口で唱えながらカプセルを起動。現れたウルトラマンのビジョンが腕を振り上げ、カプセルを装填ナックルに収める。

 

「アイゴーッ!」

『フエアッ!』

 

 続けざまにベリアルカプセルを起動。ウルトラマンベリアルのビジョンが腕を振り上げる。

 

「ヒアウィーゴーッ!!」

 

 二つのカプセルをナックルに装填し、ジードライザーでスキャンする。

 

[フュージョンライズ!]

「おおおおお……!」

 

 液晶画面に二重螺旋が輝いたライザーを、八幡は気勢とともに掲げながら胸の前に持っていく。

 

「はッ!」

 

 己の胸の高さに合わせたライザーのトリガーを握り込み、カプセルの情報を肉体に取り込む!

 

「ジィィィ―――――――ドッ!」

 

 二人のウルトラマンのビジョンが重なると、八幡の肉体がジードのそれに変容していく。

 

[ウルトラマン! ウルトラマンベリアル!]

[ウルトラマンジード! プリミティブ!!]

「シュアッ!」

 

 初期変身を遂げてウルトラマンジード・プリミティブに変身し、一瞬輝く獰猛な双眸をバックに光と闇の螺旋を超えて飛び出していく!

 

「ギャアオオオオオオウ!」

 

 今にも総武高校に突っ込みそうだったイダテンランの頭上を跳び越えて、その面前に着地してイダテンランの進行を制止する。生徒たちはジードの背中を見上げると、途端に安堵の色に染まった。

 

「ウルトラマンジードだ!」

「ジードぉー! 助けてくれぇー!」

 

 ジードは助けを求める声に応じて、イダテンランへと大きく飛びかかっていった!

 

『「決めるぜ! 覚悟!!」』

 

(♪ウルトラマンジードプリミティブ)

 

「ハァッ!」

「ギャアオオオオオオウ!」

 

 ジードの飛び膝蹴りがイダテンランの胴体と一体化している横面を捉えた。先制攻撃を食らったイダテンランは腕を振って反撃するも、ジードはそれをかいくぐって相手の背面に飛びつく。

 

『「傍迷惑野郎め! 大人しく、しろッ!」』

「ギャアオオオオオオウ!」

 

 ジードは相手の重心の高さを利用して、自ら倒れ込みながらイダテンランを投げ飛ばした。バランスを崩されたイダテンランはそのままゴロゴロと転がっていく。

 

「セアッ!」

 

 ジードは更に平手打ちの連発でイダテンランをじりじりと追いつめていく。イダテンランは戦闘に向いた傾向の能力ではないようで、肉弾戦ではジードに敵わず押される。

 

「ギャアオオオオオオウ!」

 

 しかし足の神様イダテンランの武器は圧倒的な走力である。一度駆け出すと、ジードをはるかに超えるスピードを出して彼の攻撃を易々とかわす。

 

『「ちッ、やっぱり怪獣になっても速いのか!」』

「ギャアオオオオオオウ!」

 

 更にイダテンランはジードの周りを高速でグルグル回ることで竜巻を作り出し、彼をその中に閉じ込めた!

 

「ウッ!?」

「ギャアオオオオオオウ!」

 

 ジードは竜巻の風圧によって苦しめられる!

 

「あぁッ、ジードが危ない!」

 

 ジードの窮地に色めく生徒たち。だがしかし、今のジードはこの程度で倒れたりはしないのだ。

 八幡は迷いなくカプセルホルダーに手を伸ばして、一本のカプセルを取り出す。

 

『「ユーゴーッ!」』

『テヤッ!』

 

 ヒカリカプセルのスイッチをスライドすると――ウルトラマンヒカリのビジョンが現れて腕を振り上げた。

 

『「アイゴーッ!」』

『タァッ!』

 

 ヒカリカプセルをナックルに収め、続いてコスモスカプセルを起動。

 

『「ヒアウィーゴーッ!!」』

 

 交換した二つのカプセルを、ジードライザーでスキャンする。

 

[フュージョンライズ!]

『「おおおおお……! はッ!」』

 

 新しいカプセルから引き出した情報をその身に宿して、八幡は再びフュージョンライズ!

 

『「ジィィィ―――――――ドッ!」』

 

 ヒカリとコスモスのビジョンが重なり合い、ジードは青い姿へと変化を遂げていく。

 

[ウルトラマンヒカリ! ウルトラマンコスモス!]

[ウルトラマンジード! アクロスマッシャー!!]

「ハァッ!」

 

(♪ウルトラマンジードアクロスマッシャー)

 

『「見せるぜ! 衝撃!!」』

 

 アクロスマッシャーとなったジードは高々と跳躍して竜巻の中から脱出。ふわりと着地する様に、イダテンランが衝撃を受けて足を止めた。

 

「ギャアオオオオオオウ!?」

「おおおッ!」

「かっこいい~!」

 

 ジードの華麗なる身のこなしにほれぼれとする生徒たち。そんな中で、結衣と雪乃は別のことに意識を引き込まれていた。

 

「ヒッキー……一人でウルトラカプセルを使いこなせるようになったんだ……!」

「そうね……」

 

 それまでは満足にウルトラカプセルを扱えず、プリミティブとトライスラッガー以外の形態には雪乃たちの手を借りなければ変身できなかった八幡。しかし、光の意志に目覚めてカプセルとのシンクロ率が段違いに高まったことにより、単独での全形態への変身が出来るようになったのであった。

 それはもちろん喜ばしいことであるのだが、結衣は少しだけ物憂げな表情となった。

 

「でも、ちょっと寂しいかな……。もうあたしたちの手助けは必要じゃないってことだもんね……」

「……」

 

 結衣の言葉に、雪乃は無言であった。

 

「フッ……」

 

 竜巻から抜け出したジードはクイクイッとイダテンランに手招きして挑発してみせる。

 

「ギャアオオオオオオウ!」

 

 それにまんまと乗っかったイダテンランは猛然とジードに突進していくが、ジードはその勢いを華麗に受け流してイダテンランをすくい投げた。

 

「ハッ!」

「ギャアオオオオオオウ!」

 

 綺麗にひっくり返ったイダテンランは、起き上がるとともに自慢のスピードでジードを翻弄しようとするが――その前方に、ジードが疾風の如き速さで回り込む。

 

「ハァッ!」

「ギャアオオオオオオウ!?」

 

 アクロスマッシャーの速度はイダテンランにも負けないほどであった。一番の武器で負けたイダテンランは自棄になってジードにぶつかっていくが、そんな攻撃ではアクロスマッシャーを捉えることは出来ない。

 

「ハッ!」

「ギャアオオオオオオウ!」

 

 流水のような動きでイダテンランの攻撃を受け流すジード。イダテンランはいたずらに体力を消耗してふらふらになる。

 そこを狙って、ジードは戦いの幕を下ろす。

 

「『スマッシュムーンヒーリング!!」』

 

 手の平から浄化光線を放ち、イダテンランの荒立った感情を癒して落ち着かせた。

 

「ギャアオオオオオオウ……」

 

 大人しくなったイダテンランは縮んでいき、マラソン小僧の姿に戻っていく。それを確認したジードは顔を空に向け、天の彼方へと飛び去っていったのだった。

 

「ハァッ!」

 

 

 八幡は土手の上に寝転んだままでいるマラソン小僧の元まで駆け寄っていくと、立ち上がった彼に呼びかけた。

 

「マラソン小僧。もう死神山に帰れ」

 

 マラソン小僧はスマッシュムーンヒーリングの効果で気分が落ち着いたためか、その言葉に素直に従った。

 

「うん。俺、もう帰るよ」

 

 クルリと背を向けて走り出すマラソン小僧だが、去り際に八幡の方に振り返ってひと言告げた。

 

「楽しかったぜ! 来年また来るからなー! えいほ、えいほ、えいほ……!」

 

 小さくなっていくマラソン小僧の背中に、八幡は――ボソリと、小さくつぶやいた。

 

「いや、もう来んなよ……」

 

 

 × × ×

 

 

 ウルトラマンジードの活躍によって被害は最小限に抑えられ、マラソン小僧は大人しく帰っていった。そのお陰で体育祭もどうにか最後まで進行することが出来たのであった。

 しかし、八幡はマラソン小僧を学校から引き離す際に名前を呼んだことを誤解され、八幡の手引きで学校に侵入してきたという噂になってしまった。そのせいで、八幡は余計に周りから白眼視されるようになってしまったのであった。

 

「……納得いかないなぁ。学校直したのだって、今回だって全部ヒッキーがやったのに、こんな扱いなんて」

 

 奉仕部の部室で結衣が憮然そうに頬を膨らませていた。それに対して当の八幡は手をヒラヒラさせながら述べる。

 

「別に構わねぇよ。他人から悪く思われるなんてのは慣れっこだしな」

「でも……」

 

 不満げな結衣に対し、雪乃は冷静に口を開く。

 

「確かに理不尽な部分はあるけれど、比企谷くんも比企谷くんで、時間がなかったとはいえ独断で学校から飛び出していったり、反則で勝とうとしたりと問題があると言わざるを得ないわ。特に後者がひどいわね」

「うぐ……悪かったよ。誰も見てないと思ってたんだよ……」

 

 雪乃の指摘に言葉を詰まらせる八幡。マラソン小僧を追い返した後の肝心の体育祭は、最後の棒倒しで得点では赤組が上回ったのだが、競技中に八幡が包帯で組を偽装し奇襲するという反則行為が露見して反則負けになるという何とも締まらない結末となったのであった。

 

「でも、めぐり先輩が喜んでくれたのは何よりだったね。一時はどうなるかと思ったもんね~」

「ええ。盛り上がったという意味では、恐らく過去最高だったでしょうから」

 

 めぐりの依頼である、体育祭を盛り上げることには成功したことに結衣たちは安堵した。一方で、ペガは八幡に呼びかける。

 

「でもちょっと意外だったな。八幡が、あの場面で飛び出していったの! お陰でみんな助かったし、あれはファインプレイと言えるんじゃないかな」

「確かに。今までを考えると、意外なほどの行動の早さだったわね」

 

 雪乃もうなずくと、結衣が目をキラキラ輝かせながら八幡に顔を向けた。

 

「やっぱヒッキー、変わったっていうか成長したんじゃないかな! 本物のヒーローになったんだよ!」

 

 八幡は一瞬苦虫を噛みしめたような顔になると、そっぽを向きつつこう吐き捨てた。

 

「だから、簡単に人が変わるようなら誰も苦労なんかしねぇよ。俺は今まで通り……ただ、痛い目に遭うのが前より嫌になったってだけだよ」

 

 そう語る比企谷八幡。千葉の進学校総武高校に通う高校生二年生。

 座右の銘は、『ジーッとしてても、ドーにもならねぇ』。

 

 

 

『ウルトラストーリーナビ!』

 

結衣「今回は『ウルトラマン80』第四十八話「死神山のスピードランナー」だよ!」

結衣「矢的隊員は病気で入院してるお母さんを励ますために中学対抗マラソンに出場するマサオくんのコーチをしてるんだけど、そこに現れたのがマラソン小僧っていうすごいスピードで走る不思議な少年。その子の正体は何と死神山の足の神様だったの! それが悪い中学校の校長に利用されてマラソンに出場する上に、マラソン小僧は怒ると怪獣イダテンランに変身するっていうから二重に大変! マサオくんはマラソンで優勝できるのか、そして矢的隊員はマラソン小僧ことイダテンランを止められるのかな? っていうお話しだよ」

結衣「イダテンランはスポーツをモチーフに取り入れたかなり珍しい怪獣だよ。普段は人間の姿で、しかも昔死んだ人の霊が変化したものだっていうんだから、怪獣っていうよりは妖怪みたいな設定だよね」

結衣「この人間の霊が変化したスポーツ関係の怪獣が悪い人に利用されて、その存在についてオオヤマキャップとイトウチーフが妙に詳しいっていう筋書きは、第四十話にもあるの。どうして同じプロットを二回やったのかな?」

ジード『ちなみに四十八話が、80が単独で怪獣と戦った最後のエピソードなんだ。次の回はユリアンとのタッグ、最終回は戦闘してないからね』

結衣「それじゃ、次回もよろしくね!」

 




「ぱ、パンさんが消えちゃった~!!」
『今起きている人類史上類を見ない大犯罪を知らないなんて言わないでしょうね』
「……雪ノ下……」
「AIBの立場でこうして会うのは初めてだったっけ」
『宇宙広しといえども、こんな珍事を起こすのはこのスチール星人くらいのものだろう』
「要はこのスチール星人というのを捕まえればいいんですね?」
「陽乃さんってどうしてAIBに入ったんですか?」
「パンさんは私が守るわ!」
『「燃やすわ! 勇気!!」』



次回、『パンさんを返して!と雪ノ下雪乃は叫んだ。』




『「それ俺の台詞……」』


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パンさんを返して!と雪ノ下雪乃は叫んだ。(A)

 

「それではパンさんのバンブーファイトの世界に、いってらっしゃーいっ!」

 

 ここは千葉県にあるのに東京の名を冠するテーマパーク、東京ディスティニィーランドのアトラクション、『パンさんのバンブーファイト』。今日も従業員の女性が笑顔で客を乗せたライドを見送る。

 『パンさんのバンブーファイト』は人気アトラクションなだけに、今日も多くの客で賑わっている。……のだが、今日に限っては施設内の一部分に、不自然に開けた箇所が出来ていた。

 

「……」

 

 その原因は、黒い帽子と黒いマントで身を固めた、如何にも不審な黒ずくめの老人がいるからだ。他の客は彼を不気味がり、遠巻きにながめてヒソヒソと囁き合っているのである。

 こんな怪しい人物を、従業員たちが目をつけないはずがない。

 

「何かしら、あの人……。いつの間にここに入ってきたの?」

「あんなどう見ても不審人物が、よく入園できたものね……。エントランスの人たちは何をやってたの?」

「あのままじゃ他のお客様の迷惑だわ。とりあえず、事務所まで連れていきましょう」

 

 従業員たちは黒ずくめの老人をどうするか密かに相談し合い、その結果老人を誘導することが決まる。

 そのために、バンブーファイトの従業員のチーフが老人に近づいていった。

 

「すみません、お客様。お連れの方はいらっしゃいませんか? よろしければアナウンスしますので、お連れ様が来られるまで案内センターの方へ……」

 

 やんわりとした口調ながらも素早く老人を客たちの目につかない場所へ移動させようと考えながら、チーフは老人の対処をする。

 だが、老人の行動は従業員たちの想像を超えた。

 

「ほ……」

「ひょ?」

「ほよよよよよよよ!」

 

 突然不気味な笑い声を上げる老人。その場の客たちはますます不気味がり、従業員たちも冷や汗を垂らす。

 

「な、何なのあの人?」

「誰か、警備員呼んできて!」

 

 力ずくでも引っ張っていこうとするチーフだが、それより早く老人が両腕を振り上げてマントを広げる。

 

「ほよよよ~!」

 

 そしてその場で一回転すると!

 

「あぁっ!?」

 

 一瞬の内に、アトラクション内のパンさんが全て、忽然と消滅してしまったのだ! 施設の壁はペイントが消え、彩りを失ってしまう。

 

「ぱ、パンさんが消えちゃった~!!」

「どうなってるの!?」

 

 途端に沸き上がる混乱の悲鳴。その大騒動の中を、老人がすさまじい勢いで飛び出して逃げていく。

 

「ほよよ~!」

「あっ! 待ちなさいっ!」

 

 何をしたかは分からないが、あの老人が何かをしたに違いない。従業員たちはすぐさま捕まえようと駆け出したが……。

 

「は、速い……!?」

「何てスピード!?」

 

 老人は異常に足が速く、全く追いつけなかった。仰天している人の波の間をすり抜け逃亡していく老人の背中に向けて、チーフは精一杯の叫び声を上げることしか出来なかった。

 

「待ちなさーい! パンさん泥棒―――――っ!!」

 

 

 

『パンさんを返して!と雪ノ下雪乃は叫んだ。』

 

 

 

 早朝の比企谷家のリビングで、ニュースの内容がテレビから流れる。

 

『昨日昼頃、東京ディスティニィーランドで人気キャラクター、パンさんがグッズからオブジェに至るまで全て消失したことが分かりました。この怪奇現象にディスティニィーランドは操業を中断、警察当局は詳しい事情を伺うために……』

 

 ニュースを流し見していた八幡は唖然として、トーストを口に運ぶ手が止まった。

 

「パンさんが消えたって? ……うわぁほんとだ。何があればあんなことになるんだろ」

 

 小町も口をあんぐり開けてテレビの画面に食い入っていた。画面には現在の、パンさんが根こそぎ消えてしまったディスティニィーランド園内の様子が映し出されている。特にバンブーファイトとパンさんグッズの売店が、風が吹き抜けそうなほど寂しいありさまとなっていた。

 

「……なぁ、これって」

 

 八幡はこっそりと、ジードとペガに尋ねかけた。ペガが密かに首を出し、テレビの映像を確認してから返答する。

 

「ほぼ間違いなく、宇宙人の仕業だろうね。地球人にはあんな大胆な泥棒は不可能だよ」

「まぁそうなんだろうが……」

 

 パンさん泥棒? 意味分からん、と思っていると、八幡はふとあることを思い出した。

 

「そういやパンさんって、あいつの好きなキャラじゃ……」

 

 そうつぶやいた矢先に、彼のケータイに着信が入る。

 

「お兄ちゃん電話」

「ああ」

 

 ケータイに手を伸ばして画面に目を落とすと……表示されている名前は「星雲荘」となっていた。

 

「……もしもし?」

 

 まさか、と思って電話に出たら、速攻で冷ややかな声音が耳に飛び込んできた。

 

『比企谷くん? 一応聞いておくけれど、今起きている人類史上類を見ない大犯罪を知らないなんて言わないでしょうね』

「……雪ノ下……」

 

 雪乃の声であった。既に星雲荘にいるようで、しかも今しがたのニュースを知っていなければならないと決めつけている。

 八幡は席を立って廊下に出てから雪乃に答える八幡。

 

「ああ、今ニュース見たとこだ」

『だったら話が早いわ。すぐに星雲荘へ来なさい。パンさんを盗んだなんて世界、いえ宇宙一愚かで罪深い犯人を捕まえるのよ。もたもたして逃げられたらどう責任を取ってくれるというの』

「……お前今日テンションおかしくね?」

 

 思わず大きな冷や汗を垂らす八幡であった。

 

「っていうか今からか!? 学校どうすんだよ。今日月曜だぞ!」

『そんなもの、レムに身代わりを出してもらえばいいだけじゃない』

「いやいや、そんな単純な話じゃ……。一日授業サボる気かよ」

 

 流石に気が引けていると、雪乃はきっぱりと言い放った。

 

『勉学なんて後から取り戻せるけど、パンさんは今でないと取り戻せないのよ』

「……んな名言っぽい迷言言ってくれちゃって……」

 

 呆れる八幡だが、今の雪乃に逆らったら後が限りなく怖そうだ。仕方なしに、彼女に従うことにしたのであった。

 

 

 × × ×

 

 

 エレベーターを降りて星雲荘に入ると、雪乃の他に結衣がもう来ていた。彼女も雪乃に呼び出されたに違いない。

 

「や、やっはろー、ヒッキー……」

「おう……」

 

 軽く困惑している様子の結衣。まぁ無理もない、と八幡は感じた。

 

「遅いわよ比企谷くん。それでもウルトラマンジードの自覚があるのかしら。あなたが宇宙人の引き起こした事件に一分一秒でも遅れるだけで、私……もとい世界中の人が苦しむことになるよ。パンさんを奪われたという心の傷によって」

 

 こんな調子の雪乃が横にいたのなら。

 二人の他にいるのはライハとレム。そしてもう二名、いつもはいない人物たちが星雲荘に来ていた。

 

「ひゃっはろー、比企谷くん。AIBの立場でこうして会うのは初めてだったっけ」

『朝倉リク、比企谷八幡。迷惑を掛けるな』

 

 陽乃とゼナ。AIBの二人である。この両者について雪乃が言う。

 

「ゼナさんは私が協力を仰ぐためにお呼びしたの。……姉さんは呼んでないのだけれど」

「ふふーん、呼ばれなくたって事件があれば出動するよぉ? それがAIBの職員だもの! ねぇゼナ先輩」

『臨時だがな』

 

 聞かれたゼナがため息を吐いた。相変わらずの無表情だが、呆れ返っているのが雰囲気で伝わる。

 

「そういや、陽乃さんAIBなんでしたっけ」

 

 尋ねる八幡。彼はAIBとしての陽乃に会っていなかったので、後から雪乃たちにそのことを聞いてかなり驚いたのであった。

 

「そだよー。ま、今はわたしのことなんかよりパンさんだけど。そうでしょ雪乃ちゃん?」

「当然よ。早速、今回の事件についての話し合いを始めましょう」

 

 雪乃の音頭により、八幡たちはテーブルを囲んでパンさん窃盗事件の対策会議を開始した。

 まず質問をしたのは結衣だ。

 

「ディスティニィーランド中のパンさんを盗むなんて、正直意味分かんないです。一体どこの誰がそんなことするんですか?」

 

 それについて答えたのはゼナ。

 

『一応、目星はついている』

「ついてるんですか!?」

『この宇宙人だ』

 

 ゼナがテーブルの上に出した資料の写真には、黄色と黒の体色の、鉄仮面を被ったような肉体の怪人が写っていた。何故か両手の人差し指が肥大している。

 

『こいつはスチール星人。種族的特徴として、欲しいと思ったものを我慢できない自己中心的な性格だ。故にこれまで宇宙各地で大規模な窃盗事件を引き起こしている、AIBでも要注意リストに入っている厄介な宇宙人だ。宇宙広しといえども、こんな珍事を起こすのはこのスチール星人くらいのものだろう』

「昔もパンダを盗むっていう似た事件があったそうだし、まず間違いないみたいだねー」

 

 陽乃がうんざりしたように息を吐いた。

 

「全く、こういうのほんと迷惑なんだよねー。表向きには宇宙人いないってことになってるのに、こーんな目立つことされたらどうごまかしたらいいのやら。人の苦労も考えてほしいよねー」

 

 愚痴をこぼす陽乃。八幡たちはAIBとしての彼女を知らないが、色々と大変なようであることが窺える。

 怪獣は巨躯で目立つ故、現れたらすぐに分かるが、宇宙人は人間社会に潜伏する分、人間に与える不安と恐怖は非常に大きい。地球人自身で宇宙人に対処する構造が出来ていない現在の社会では、宇宙人の存在を公認するには早いという判断の下に、AIBが不法な宇宙人の起こす事件に裏で対応してその存在を隠匿しているのであった。

 

「それはともかく、要はこのスチール星人というのを捕まえればいいんですね?」

 

 ライハが話を先に進める。ゼナはうなずきながらも苦言を呈した。

 

『しかし手強い相手だ。走行速度は60キロ以上、変身も得意。逃げるという分野はスチール星人の専門と言える。追いつめるのは至難の業だぞ』

 

 そのゼナの言葉に対して、八幡が口を開く。

 

「……けど、結局は行動を起こす以外にないでしょう? なぁジード」

『もちろん』

 

 ジードが勇んで決め台詞を口にする。

 

『ジーッと』

「ジーッとしててもドーにもならないわ。まずはスチール星人の次の出現地点の予測から始めましょう」

 

 ……途中で雪乃に取られた。

 

『……今の僕の台詞……』

「リク、元気出して」

 

 ズーン……と落胆するジードを、ペガが優しく励ました。

 

 

 × × ×

 

 

 その後八幡たちは、AIB専用車両に乗せてもらって東京BAYららぽーとへとやってきた。ここには東京ディスティニィーランドから近い地域で一番大きいディスティニィーショップがある。スチール星人が現れる確率が最も高いとレムに計算してもらったのだ。

 

『こちらライハ。今のところは、まだ異常は見られないわ』

 

 ディスティニィーショップ前ではライハが見張りをしており、駐車場の車内ではゼナ、陽乃、八幡、雪乃、結衣が待機してスチール星人の出現を待ち構えている。

 

『了解。まだしばらくはそのまま見張っていてくれ』

 

 ライハの報告にゼナが応答すると、結衣がふと陽乃に質問を投げかけた。

 

「そういえば、陽乃さんってどうしてAIBに入ったんですか?」

「というより、どういう経緯で秘密組織のAIBの存在を知ったのかしら。そこが気になっているんだけど」

 

 雪乃のもっともな疑問。ペガもダークゾーンから顔を出して同意した。

 

「確かに、AIBの情報を一体どこで掴んだんですか? モアみたいに、宇宙人とばったり出会ったとか?」

「まぁ、ばったり出会ってはいるかな。出会ったのは宇宙人じゃなくて怪獣の方だったけど」

 

 何気なく答えた陽乃は、八幡へチラと視線を送った。

 

「比企谷くんはそれ知ってるんじゃないかな?」

「え? 八幡が?」

 

 眉間に皺を寄せていた八幡が、おもむろに口を開く。

 

「……やっぱり、あの時のハイヤーそうだったんですね。あの融合獣に掴まれてたの」

「そうそう! あの時のお礼がまだだったよね。ほんとありがと、比企谷くん♪ 君は命の恩人だよ!」

「え? え? どういうこと?」

 

 事情が呑み込めていない結衣に、八幡が以前から薄々思っていて、今確信を得たことを説明した。

 まだ八幡がジードと融合したばかりの頃……クラッシャーゴンに潰されそうだったハイヤーを間一髪助けたことがあった。そのハイヤーは雪ノ下家のものであり……あの時雪乃に見間違えた人影は、陽乃だったのだ。以前自分を轢いた車をそうとは知らずに救出するとは、数奇な巡り合わせである。

 

「姉さん、そんなことがあったのね。全然知らなかった……」

 

 雪乃も知らないところで姉が命の危機に瀕していたと知り、流石に心配そうに目を伏した。対する陽乃はあっけらかんと手を振る。

 

「まぁ気にしなくていいよ。比企谷くんのお陰で、無事で済んだんだし」

 

 一つの疑問が氷解したところで、陽乃が話を戻す。

 

「その後この世界に突然現れた怪獣やウルトラマンジードのことにすっごい興味を持って、独自に調べ始めたんだー。そしてAIBという組織に行き着いたの」

「えっ、自力で見つけ出したんですか!?」

 

 驚愕する結衣やペガ。陽乃は何でもないことのようにうなずいた。

 

「まぁね♪」

「……雪乃のお姉さん、すごい人だね……」

 

 唖然とつぶやくペガ。雪乃もまた呆気にとられている。

 

「何でもやってのける人だということは分かっていたけど……まさかそこまでの行動力だとは思ってなかったわ……」

「ふふーん、お姉ちゃんを見直したかい雪乃ちゃん? もっと褒めてくれてもいいんだよー?」

 

 鼻を鳴らして得意げな陽乃。

 

「それで入局を希望して、晴れて臨時職員として雇ってもらえたという訳なの!」

「へ~、そんなことがあったんですかぁ。すごいなぁ……」

 

 結衣は素直に感心しているが……八幡は、ゼナが何やら苦々しい雰囲気を醸し出していることに気がついた。

 

「でも、そこでどうして入ろうと思ったの? 危険な仕事だと分かってのことでしょう?」

「それは……どっかよそから来た宇宙人がわたしたちの周りでコソコソよからぬことしてるなんて考えたら、すっごい不安になるでしょ? そうなるんだったら、自分で自分のことを守らなきゃって考えてね」

 

 雪乃の問いかけに、陽乃は一拍置いてから答えた。その直後にゼナの通信機からライハの声が飛ぶ。

 

『こちらライハ! スチール星人と思しき怪人物が現れたわ!』

『遂に来たか!』

 

 車内の意識は一辺にライハの報告に向く。続けるライハ。

 

『黒いマントの老人が現れて、ショップのグッズを全て消していった! 今そっちに逃げていってる!』

「現れたわね、パンさん泥棒……!」

 

 雪乃は瞬く間に怒りに燃え上がって、静かに濃密な怒気を放った。彼女の両脇の結衣と八幡はそれに当てられてヒヤヒヤする。

 

「ち、ちょっと落ち着けって雪ノ下……」

「ゆきのん、ここで怒ってもしょうがないからさ? ね?」

 

 どうにかなだめようとする結衣の一方で、陽乃は愉快そうに肩をプルプル震わせていた。

 それはともかく、フロントガラスの向こうにららぽーとから飛び出しどこかへと逃走していく黒ずくめの老人の姿が見えた。

 

『あれだ!』

「すぐに追いかけて!」

『もちろん』

 

 身を乗り出して促す雪乃。ゼナは直ちに車を発進させて、逃亡する老人の追跡を開始した。

 



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パンさんを返して!と雪ノ下雪乃は叫んだ。(B)

 

「ほよよよよー!」

 

 ショップのパンさんグッズを盗んで逃げる老人を、八幡たちを乗せた車が追いかける。しかしその距離が縮まることはない。

 

「もっとスピード出せないんですか?」

『既に60キロは出している。これ以上は危ない』

 

 イライラしている雪乃に、ゼナは冷静に返した。

 

「ってことは、あの人時速60キロ以上で走ってるってことだよね。やっぱり人間じゃないってことか……」

「まぁ初めから分かってたことだ」

 

 警戒を深めてつぶやく結衣に、八幡がそう発した。

 

『どこかに盗品を保管する場所があるはず。そこに逃げ込むはずだ。下手に追いつめず、そこへ追い込もう』

 

 ゼナの判断により、車は老人とつかず離れずの距離を保ちながら追跡を続けた。

 その末に、老人は人気のない倉庫群の中へと逃げ込んでいった。

 

「どうやらあそこが隠れ家みたいですね」

『ここからは歩きだ。君たちも降りろ』

 

 倉庫群の側道で停車し、五人は車を降りて倉庫群の敷地に踏み込んでいった。ここのどこかに、黒マントの老人が潜んでいるはずだ。

 

「どこ行ったんだろ。隠れたのかな……」

 

 辺りを頻りに見回す結衣。姿が見えなくなったのはほんの十数秒程度の間なのに、老人の姿は影も形もなくなっていた。

 その代わりのように、作業着を着た清掃員と思しき老人が、敷地の掃き掃除をしていた。

 

「あの人に聞いてみよう! すみませーん!」

 

 結衣が大きな声を出しながら老人に駆け寄っていくが、老人は黙々と箒を掃いたまま振り返ろうともしない。

 

「おじいさん。おじいさーん!?」

『もし、そこの方』

 

 何度呼び掛けても反応せず、見かねたゼナが肩を叩くことでようやく振り向いた。

 

『私たちは今、黒いマントの男を捜してます。ここに逃げ込んだのですが、見ていないでしょうか』

 

 と尋ねるゼナだが、老人は大きく顔をしかめて耳に手をやった。

 

「あぁ~?」

 

 ゼナの言葉が耳に届いていないようだ。結衣の声も聞こえなかったから無反応だったのだろう。

 

『……どうやら耳が遠いみたいだ。この分では、さっきの男にも気がついていないだろう』

「しょうがない。ここは手分けして捜しましょうか……」

 

 八幡たちは早々に老人に見切りをつけて、自分たちで捜索を続けようとしたが……雪乃と陽乃は、ジーッと老人に目を向けたままであった。

 

「? どしたのゆきのん」

 

 結衣が問いかけると、雪乃は老人から目を離さずに返した。

 

「この人……本当に聞こえていないのかしら」

「え? 何で? 今何回呼び掛けても反応しなかったじゃん」

 

 結衣がきょとんとすると、雪乃は言う。

 

「ゼナさんは口が動かないのに、この人はゼナさんが『しゃべっている』ことを察したのよ。おかしいと思わない?」

「あ……」

 

 はた、と結衣たちの動きが止まった。陽乃はニヤニヤしながら、しかし笑っていない眼差しで老人をなめるように見回す。

 

「おじいさん、どうして口の動かないゼナ先輩の声を聞き取ろうとしたのかな~? 雪乃ちゃんの言う通り、おかしいね~?」

「……!」

 

 老人の顔色が一瞬変わったのを雪乃は見逃さなかった。

 

「今動揺したわね。やっぱり、聞こえているじゃない!」

 

 雪乃が突きつけても、老人はとぼけるように目をそらすだけ。すると陽乃が目を細めて、懐から銃を抜いた。

 

「お話しが聞けないんだったら、これで聞いてもらおうかな~?」

『おい、陽乃! まだ確定ではないのだぞ!』

 

 陽乃が独断で銃を出したことを咎めるゼナだったが、老人はそれでいよいよ青ざめ、倉庫の一つに駆け込んでいった。

 

「ほら、黒でしたよゼナ先輩。これで確定ですよね」

『……全く、お前という奴は……』

「行くわよっ! 追いつめなきゃ!」

「お、おい待て雪ノ下!」

 

 額に手をやるゼナを尻目に、先行する雪乃を追いかけるように八幡たちは老人の逃げ込んだ倉庫に踏み込んでいった。

 そして倉庫の中で、逃げ場を失った老人は一瞬物陰に隠れると、黒いマントと帽子の姿で八幡たちと対峙した。

 

「あっ! さっきの奴! 間違いないよ!」

『清掃員になりすまして、我々をやり過ごそうとしていた訳だ』

「へへへへへ……!」

 

 黒マントの老人が不気味な笑い声を上げると、その姿がもう一段階変化し……写真の宇宙人のものとなった。

 

『やはり、スチール星人だったか』

「はいはーい。本格的にこれの出番ですねー」

 

 スチール星人が正体を晒すと、ゼナと陽乃が前に出て銃を向ける。両者にらみ合う中で、八幡が問いかける。

 

「スチール星人……どうしてパンさんなんかを盗んだ。どんな理由があってのことだ?」

 

 八幡は正直なところ、ゼナたちの説明を聞いても、宇宙人がわざわざ窃盗行為のために遠い銀河を越えて地球にまでやってきたとは思えなかった。……いや、思いたくなかった。だって、あまりに低俗ではないか。たかだか絵本のキャラを独占しようとするとか……。

 果たして、スチール星人は答えた。

 

『地球人があんなにも夢中になっているパンさんを、我々の星へ持って帰るのだ!』

 

 ……本当に、それ以外の理由はなかった。

 

「……」

「……普通に買いなよ……」

 

 八幡はもう言葉もなく、結衣もここまで人に対して呆れたことは一度もなかった。

 

『我々が手に入れることの出来なかったパンダ。それをモチーフにし、地球人たちを魅了するパンさん。たまらなく欲しい! 全て奪い取ってくれるぞ!』

『噂通りの貪欲さだな』

 

 あまりにもしょうもないことを豪語するスチール星人に、ゼナも呆れた様子。一方で、雪乃は怒りを露わにしてスチール星人をにらみつけた。

 

「パンさんの魅力が分かるとは、その点だけは認めてあげるわ。だけど、パンさんは原作者のランド・マッキントッシュが息子への愛情とメッセージを込めて作り出したキャラ。それを奪っていこうなんて、原作者の息子への愛を踏みにじる行為よ」

「ゆきのん詳しい……」

「こんな時までユキペディアさんめ……」

 

 呆気にとられている結衣と八幡を尻目に、雪乃はバッと腕をスチール星人へ向けた。

 

「そんなことは許さない。パンさんは私が守るわ!」

「わぁ! 雪乃ちゃんかっこい~!」

「姉さん、茶化さないでちょうだい」

 

 毅然と宣言した雪乃だが、スチール星人は挑発するように笑い飛ばす。

 

『出来るかな? ヘッヘッヘッヘッヘッ……!』

 

 そして一瞬の内に巨大化し、倉庫の天井と突き破った!

 

『危ない! 外へ逃げろ!』

 

 ゼナが誘導し、五人は急いで倉庫から脱出。スチール星人は倉庫の残骸を踏み潰しながら、彼らを狙って攻撃を開始する。

 

『陽乃、反撃だ!』

「はいはーい!」

 

 ゼナと陽乃が発砲するが、スチール星人は鉄仮面のような頭部だけでなく首から下も頑強なのか、銃撃はさしたる効果をあげられなかった。

 

「結衣、こっちだよ!」

「ありがとペガっち!」

 

 ゼナたちが戦う一方で、ペガがダークゾーンから出てきて結衣をスチール星人から逃がしていく。八幡は雪乃へと振り返った。

 

「雪ノ下、お前も早く……」

「いいえ。言ったでしょう?」

 

 しかし雪乃は避難しようとせずに――八幡の腰のホルダーから、セブンカプセルを引き抜いた。

 

「パンさんは、私が守ると!」

「あッ!? お前勝手に……」

 

 熟練のひったくりかのような鮮やかな手並みに八幡は反応できなかった。

 

「つべこべ言ってないでフュージョンライズよ!」

「いや、でも……」

 

 尻込みする八幡であったが、雪乃は彼の承諾を待たずにカプセルを起動する。

 

「ユーゴーっ!」

『ダーッ!』

 

 カプセルからウルトラセブンのビジョンが現れ、腕を振り上げる。雪乃はカプセルを装填ナックルに装入した。

 八幡も有無を言わせない雪乃の押しに負け、仕方なくレオカプセルを起動。

 

「アイゴーッ!」

『イヤァッ!』

 

 ウルトラマンレオのビジョンが腕を振り上げ、ナックルに二つのカプセルが装填された。

 

「ヒアウィーゴーッ!!」

[フュージョンライズ!]

 

 そのカプセルを八幡がジードライザーでスキャンし、準備は完了。ライザーを持ち上げていく八幡。

 

「おおおおお……! はッ!」

 

 そして胸の前でトリガーを押し込み、スキャンしたカプセルのデータをその身に宿す。

 

「ジィィィ―――――――ドッ!」

 

 八幡と雪乃が、セブンとレオのビジョンとともに一体化。ジードへの初期変身をする。

 

[ウルトラセブン! ウルトラマンレオ!]

[ウルトラマンジード! ソリッドバーニング!!]

「ドォッ!」

 

 初期変身からソリッドバーニングへの変身を果たし、ジードがスチール星人の面前に立ち上がった!

 

「ジード! ……えっ、ゆきのんも一緒に!?」

「どうしても、自分の手でケリをつけたいみたいだね……」

 

 結衣とペガが呆然と見上げる中、ジードは全身のスラスターから蒸気を噴き出しながら、スチール星人に対して堂々と胸を張った。

 その内部の超空間で、八幡――ではなく雪乃が叫ぶ。

 

『「燃やすわ! 勇気!!」』

『「それ俺の台詞……」』

 

(♪ウルトラマンジードソリッドバーニング)

 

 ジードは脇を締めて構えを取ると、まっすぐスチール星人へ向かっていく。スチール星人もそれを真っ向から迎え撃つ。

 間合いを詰めたスチール星人がジードにボコボコとパンチを振るう。が、鋼のボディを持つソリッドバーニングに生半可な打撃は通用しない。

 

「ドァッ!」

 

 ジードの蒸気を噴き出しながらのアッパーをもらって高々と宙を舞うスチール星人。しかし流石に正面切って戦いを挑んできただけはあり、一撃でダウンしたりはしない。

 スチール星人はなかなかアクロバティックな身のこなしで高々と跳躍し、勢いをつけた飛び蹴りを仕掛ける。これにはジードも一瞬よろめく。

 

「ハァァッ!」

 

 だが踏みとどまって回し蹴りで反撃。再び吹っ飛ばされるスチール星人。

 ジードの超空間では、雪乃が身を乗り出しながら八幡に指示を飛ばす。

 

『「このまま押し切るのよ!」』

『「お、おう……」』

 

 雪乃に寄りかかられているようになっている八幡であるが、今は女の子に密着されている気恥ずかしさよりも、彼女の放つ異様な熱気に押されて内心たじろいでいた。

 それはともかく、スチール星人は近接戦は不利と判断したか、頭部の丸鋸状の三つの突起から赤い光線を発射してジードを狙ってきた。

 

「ウッ!」

 

 爆撃を食らって一瞬動きが止まるが、ジードはその程度では参らない。

 

「ダァッ!」

 

 エメリウムブーストビームによるお返しをスチール星人の胸部に撃ち込む。スチール星人はのけぞって大きくひるんだ。

 

『「今よ!」』

 

 このチャンスを狙って、ジードの右腕のパーツがスライドして攻撃の準備に移る。

 

『「パンさんを返して!」』

 

 雪乃の叫びとともに、突き出された右腕から火炎状の光線が繰り出される。

 

「「『ストライクブースト!!!」」』

 

 ソリッドバーニング最大の必殺技が命中。スチール星人は爆炎に呑まれて、その巨体を消し去った。

 

『「やったわね……」』

『「ま、まぁな……」』

 

 雪乃は実にやり切ったような晴れ晴れとした表情でつぶやいた。八幡は、終始彼女に押されっぱなしで大変疲れた顔であった。

 

「シュワッチ!」

 

 とにもかくにも勝負に勝ったジードは、大きく飛び上がって倉庫群を後にしたのであった。

 

 

 × × ×

 

 

 その後の顛末について、八幡たちは星雲荘でゼナから話を聞く。

 

『盗まれたグッズに関しては、全て元の場所に戻した。表向きは窃盗団による大規模なトリックによる犯行ということになった。これで騒ぎは収束に向かうだろう』

「よかったぁ」

 

 ほっと安堵するペガ。そして肝心のスチール星人の処置については、

 

『捕獲したスチール星人は、我々の手によって母星への強制送還となった』

「あれだけの大騒ぎを起こして、送り返すだけなんですか?」

 

 結衣が意外そうに聞き返すと、ゼナは肩をすくめながら答える。

 

『AIBはあくまで相互扶助組織。実のところは、そこまで強い権限がある訳ではない。だからこれが限界なのだ』

「そうなんですか……」

 

 落胆する雪乃に、結衣が朗らかな笑顔を浮かべつつ呼び掛けた。

 

「でもよかったね、ゆきのん。パンさんが全部戻ってきて!」

 

 すると雪乃は、うなずきながらも平静な態度を取る。

 

「ええ。よかったわ」

「あれ……? あんまり嬉しそうじゃないね。あんなに熱心だったのに」

「熱心だったのは、宇宙人の人の心を傷つけるような犯罪行為に憤りを感じていたからよ。私個人がパンさんに強くこだわっていたからだとか、そういう理由ではないから」

 

 どうやら雪乃は、パンさんを取り戻したことで冷静になり、自分の行動を振り返って恥ずかしくなってごまかしに掛かっているみたいだった。

 

「今更だろ……」

 

 八幡が呆れ返っていると、その肩を陽乃がポンと叩いた。

 

「比企谷くんもお疲れさま~! 今回も助かっちゃったよぉ。いつかお礼した方がいいかな? たっぷりとね♪」

「いや別にいいですって。あと近いです」

 

 ぐっと顔を寄せてくる陽乃から距離を取る八幡。その頬はほんのり赤くなっている。

 

「あっれぇ~? もしかして変な想像しちゃったかなぁ? 健全な男子高生だもんね、それは仕方ないかな~?」

「だから、そうやってからかうのやめて下さいって」

 

 おちょくってくる陽乃に辟易とする八幡は、話をそらすように尋ねかけた。

 

「にしても雪ノ下さん、今日はやたらと上機嫌でしたね。何でですか?」

「ありゃ、そんな風に見えた? 一応抑えてるつもりだったんだけどな」

 

 肩をすくめた陽乃は、一瞬雪乃を一瞥して微笑を浮かべた。

 それは普段の彼女が見せる作り笑いではなく、本心からの笑顔であった。

 

「どんな理由であれ、雪乃ちゃんがあれだけ自主的に動いたのが嬉しくてさ」

「自主的に? あいつはいつでも自分から動き回る奴でしょ」

 

 普段の雪乃を見ていてそう判じている八幡であるが、陽乃はそれにやれやれという感じの苦笑を返した。

 

「比企谷くんって何でも分かってるようなこと言うけど、まだまだ人のことが分からないみたいですなぁ」

「はい? いや、別にそんなこと言ってないですけど……」

「まぁともかく」

 

 陽乃は八幡の言葉をさえぎって――真剣みを帯びて、彼と目を合わせた。

 

「雪乃ちゃんのこと、これからもよろしくね」

「え? は、はぁ……」

 

 陽乃の頼みを、八幡はやや気圧されながら気の抜けた返事で請け負った。

 彼女の言葉の意味を、この時の八幡は、本当に理解したとは言えなかった。

 

 

 

『ウルトラストーリーナビ!』

 

雪乃「今回は『ウルトラマンA』第四十話「パンダを返して!」よ」

雪乃「ダン少年の友達のモトコちゃんは、パンダ好きのおじさんが経営する薬屋「パンダ堂」でパンダのぬいぐるみをもらう。だけどその直後に店に怪しい男が入り、パンダ堂のパンダグッズを全て盗んでいってしまったの。車並みの速度で走る男を北斗が追跡するけれど、倉庫街で見失ってしまう。そしてパンダ泥棒が宇宙人と言っても、TACの仲間は信じてくれない。仕方なく独自にパンダ泥棒を追いかける北斗は、その正体を突き止め、地球からパンダを奪っていこうとするスチール星人と対決することになる……という話よ」

雪乃「何と言っても、パンダを盗もうとする宇宙人と戦うという、他ではまず見られないような珍奇なシナリオが見どころね。こんな話だけど、登場人物たちは皆至って真面目なのがシュールだわ」

雪乃「『A』の放送された1972年は上野動物園にジャイアントパンダのカンカンとランランがやってきて、世間にパンダブームが起こった年。その熱狂的な騒ぎから、このエピソードが制作されたのでしょうね」

ジード『スチール星人の着ぐるみは、実はセパレートタイプのエースのスーツを改造したもの。だからエース対エースの対決だったとも言えるかもね』

雪乃「それでは、次回でお会いしましょう」

 




「レイデュエスって、ほんとに死んじゃったのかな……?」
『こんなに長く音沙汰がないのは初めてだよね』
『レイデュエスは死んだ!』
『ここからはこの私の時代だッ!』
[あれはダダという種族が使用するロボット兵器です]
「由比ヶ浜、お前は避難しとけ。俺はあれを迎え撃つから」
『ウルトラマンジード、死ねッ!』
『「知るかッ! 迷惑なんだよどっか行けッ!」』
「もうヒッキーたち、あんなギリギリの戦いをしなくていいんだよね!」



次回、『修学旅行を襲う侵略者を撃て。』



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修学旅行を襲う侵略者を撃て。(A)

 

 ある日の星雲荘。ゼナと陽乃がコンソールを借りてキーを叩いているところに、結衣が尋ねかけた。

 

「お二人とも、さっきから何やってるんですか?」

 

 ゼナは手を動かしながら淡々と答えた。

 

『先日、こちら側の超量子通信設備の設置が完了したので、サイドスペースの地球のAIB本部とここから連絡を取るのだ』

「超量子通信?」

 

 それはどういうものなのか、と首を傾げる結衣に、レムが説明を入れる。

 

[それを用いることにより、異なる宇宙同士でのリアルタイムによる通信が可能となります]

「それってすごいじゃん! で、サイドスペースってのは?」

「ペガたちのいた宇宙だね。つまり、リクやライハの故郷の地球がある世界」

 

 ペガの回答に結衣はますます興奮した。

 

「ジードんたちの地球かぁ! どんなとこなんだろ!」

「別にこっちと特別違ったもんはないんだろ? 細かい違いがあるってだけでよ」

 

 とぶっきらぼうにつぶやく八幡に、結衣はジトッと視線を送った。

 

「も~、ヒッキーは相変わらず冷めてるな~」

「でも、どうしてわざわざ星雲荘から通信を入れるんですか?」

 

 雪乃が問いかけると、ゼナはこう答える。

 

『向こうにいるあいつが、朝倉リク、君たちの現況を気にしているだろうからな。ついでに見せようと思ってな』

「あいつ?」

 

 結衣たちは首を傾げるが、ライハは察しがついた。

 

「ああ、モアね。思えばモアの顔を見るのも久しぶりになるかしら」

『モアかぁ! 元気にしてるかな?』

 

 ジードが弾んだ声を出す一方で、結衣が質問する。

 

「モアってどなたですか?」

 

 それに答えたのはペガだ。

 

「愛崎モア。リクのお姉さん代わりだった人だよ。AIB初の地球人の職員なんだ。モアはお留守番でね」

「それってつまり、陽乃さんの先輩ってことになるんだ!」

 

 結衣たちは相当優秀で落ち着いた人なんだろうなぁと想像する。

 その間に陽乃がゼナへ告げた。

 

「ゼナ先ぱーい、準備完了しましたぁ」

『よし。早速つなぐぞ』

 

 ゼナがコンソールのエンターキーを押すと、空中にモニターが浮かび上がり、その画面内に近未来的な背景の室内の様子が表示された。

 そしてその中に、黒髪の妙齢の女性の顔が映し出される。

 

『ゼナ先輩、お久しぶりですっ! こちら愛崎モアです!』

『久しぶりだな。そちらは変わりないようだ』

 

 黒髪のスーツ姿の女性は、ピョンと軽く飛び跳ねながら可愛く敬礼した。この人が愛崎モアだという。

 

「モア先輩、初めまして~。こっちの地球でAIBに入りました、雪ノ下陽乃でーす♪」

『あなたが雪ノ下さんね。ゼナ先輩からの報告メールで聞いてるわ。初めまして! 通信越しだけど、よろしくお願いね♪』

 

 陽乃の敬礼にも、モアはビシッと敬礼で返答した。彼女の画面越しでも伝わってくる活発さ……というよりも子供っぽい所作に、結衣が雪乃と八幡に囁きかけた。

 

「何か……想像してたのとちょっと違うし……」

「確かに……」

「まぁ、陽乃さんだって振る舞いは似たようなもんだしな……」

 

 モアはゼナと陽乃への挨拶を済ますと、ライハたちの方を見やって呼び掛けた。

 

『ライハもペガも、レムも久しぶり~! 全然こっちに戻ってこないから心配してたんだよ。ハルヲさんもね』

「ごめんなさい。思ったよりも戦いが長引いて。ハルヲさんにも、こっちは元気でやってるって伝えて」

「モアも元気そうでよかったよ! しっかりやってるみたいだね」

[そちらに異常がないことは何よりです]

 

 ライハたちと親しげに会話するモアだが、途中でライハに人差し指を向けた。

 

『でもライハ、私がいないからって抜け駆けしようとしたらダメなんだからね~? そっちの子たちは新しい仲間? ……でもりっくんはどうしたの? 一緒じゃないの?』

 

 キョロキョロとこちら側を見回すモア。するとゼナが言う。

 

『そのことなのだが、伝えなければならないことがある。直接見てもらった方が早いと思って報告していなかったが……』

『え? 何ですか、ゼナ先輩?』

 

 ライハがポンと八幡の肩に手を置いて、告げた。

 

「今は、この子がリク……ウルトラマンジードなの」

 

 ――しばしの間、モアは口を半開きにしたまま固まっていた。

 そして叫んだ。

 

『り……りっくんの目が腐っちゃったぁぁぁぁぁ―――――――――――!?』

「……目が腐ってて悪かったですね……」

 

 八幡がそっぽを向いて憮然と吐き捨てた。

 

 

 

『修学旅行を襲う侵略者を撃て。』

 

 

 

『――ほんっっっとぉ~にごめんなさいっ!!』

 

 詳細な事情を聞いたモアは、パンッと勢いよく手を合わせて八幡に平謝りした。

 

『私、初対面の子に何て失礼なことを……。ごめんね、気にしないでね! 私がどうかしてたの!』

「いや、いいですよ……よく言われますし……」

 

 と言いつつも、あまりにストレートな物言いに八幡も少なからず傷ついたようであった。それをどうにか慰めようとする結衣。

 

「し、しょうがないよヒッキー。身体の特徴はどうしようもないことだしさ……」

 

 一方で雪乃はモアの思い切りの良さにプルプルと笑いを噛み殺していた。

 

「でも、目のことを言われたのは久々じゃないかしら」

「まぁ、最近はご無沙汰ではあったな……」

 

 軽く傷心の八幡はひとまず置いて、ジードがモアに告げる。

 

『そういう訳で、僕はこの八幡の命の再生が完了するまで離れられない状態なんだ』

『そうだったんだ……。りっくん、大変だったんだね……』

 

 ジードのことに胸を痛めるモアだが、ジードはそれを慰めるように述べる。

 

『だけど、八幡はとても僕の力