やはり俺がウルトラマンジードなのはまちがっている。 (焼き鮭)
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その日、運命は姿なき挑戦者によって変わった。(A)

 

 ――太陽系第三惑星、地球。太陽系銀河で唯一知的生命体が存在、生活している、水と緑の星である。

 

「ショアッ!」

 

 その惑星を背景に、今、宇宙空間に黄金色の人型生物がマントを翻しながら舞っていた。

 通常、地球人類は生身で宇宙空間に存在することは不可能。瞬く間に破裂して死亡する。しかしこの人型生物は、何の防護もしていないのに生存している。また、身体的特徴も地球人には全く以てあり得ない部分ばかりだ。身長も、せいぜい二メートルが限度の地球人の何十倍もある。要するに、明らかに地球人ではない。

 そして、右手には豪奢な杖と剣が一体化したような物が握り締められている。

 

「ハァッ!」

 

 超人は青く吊り上がった双眸を、戦っている相手に一直線に向けている。

 相手は漆黒の煙か靄のようなものに覆われていて、姿は確認できない。ただし、黒い煙――もしくは『闇』――の間から、黄色く光る何かだけがはっきりと覗いていた。

 超人は黒い煙に隠れた何かに何度も斬りかかるのだが、どうにも有効打が与えられていないようであった。やがてその胸の中央にある、丸みを帯びた長方形型の発光体が、青から赤に変色して点滅を始めた。

 超人はこれにより焦りを見せ、動きに変化を起こした。杖を前に突き出すと、杖の上部分が開くように変形し、更に平手にした左手を杖に添えて十字を形成した。

 

『ロイヤルエンド!』

 

 すると杖から金色の粒子が放出され、それが光線となって戦闘相手へと飛ばされた。

 これに対し闇の中に隠れているものは、莫大な黒い炎を放出して対抗。光線と火焔が宇宙空間で衝突し、一瞬宇宙空間を照らすほどの壮絶な爆発を巻き起こした。

 この爆発の中から、赤い球体と紫の球体が飛び出し――いや、転落した。地球の地表へと向かって。

 大気圏に突入し、摩擦熱で炎上しながら落ちていく二つの球体の先にあるのは、太平洋とユーラシア大陸に挟まれた弓状列島――日本の国土であった。

 

 

 

『その日、運命は姿なき挑戦者によって変わった。』

 

 

 

『――先日未明に観測された、宇宙での謎の爆発現象。その詳細と原因に関して、世界中の天文学者が様々な仮説を立てていますが、未だ有力な説は出ていません。果たして真実は何なのか。また、これの直後に関東一帯で起こるようになった、建物の不自然な倒壊や道路の陥没と関連があるのか。謎は深まるばかりです』

 

 千葉市内の住宅地の中に建つ「比企谷」の表札の一軒家、そのリビングのテレビ画面に、最近発生している怪現象を特集した朝のワイドショーが流れている。その番組を、この家に暮らす男子高校生と女子中学生が朝食のトーストをかじりながらぼんやりながめていた。

 テレビ画面の中では、コメンテーターとして出演している中年の学者が、建物の倒壊に関して言及する。

 

『私の見解としましては、これらの倒壊や陥没の原因は、未確認の巨大生物であると思われます』

『それは何故でしょうか?』

『こちらをご覧下さい』

 

 学者は二枚のフリップを取り出した。一枚は道路の陥没を撮った航空写真で、もう一枚は倒壊の現場を書き記した関東地方の地図だ。

 

『この陥没なのですが、明らかに動物の足跡らしき形状をしてます。しかもサイズから類推するに、恐竜をも優に凌ぐほどの巨体です。また倒壊と陥没の発生現場は、この図を見て分かる通り、南へ向かってほぼ一直線に移動してます。とても局所地震などの自然現象とは思えません』

『ですが先生、そんな大きな生物がいるのなら、目撃情報があって然るべきなのでは?』

『恐らく目には見えない、あるいは見えにくいのでしょう。いわば不可視の生物なのですな』

『そんな生物が存在するのでしょうか……?』

『ステルス技術というのは現実に軍隊等で研究、開発されてますし、既存の知識では解明することの出来ない事態なのですから、常識で推し量るのは間違いというものでしょう』

 

 アナウンサーの質問に答えていった学者は、最後に結論を口にする。

 

『もっとも、現状確実に言えることは、この倒壊現象はこれまでのパターンから推測するに、次は千葉市で発生する可能性が高いということです。千葉市に暮らす方々には、十分な注意と警戒をお願いします』

 

 それを最後に、女子中学生がリモコンのボタンを押してテレビを消した。そして男子高校生に話しかける。

 

「見えない巨大生物かぁ……。見えないんじゃ注意しろだなんて無理だと思わない? ねぇお兄ちゃん」

 

 男子高校生は大仰に肩をすくめて、呆れているというポーズを取った。

 

「あんな与太話信じるのかよ。月刊ムー並みの眉唾もんだったぞ」

「えー? でも、他に原因があるとも思えないよ。それに巨大生物なんてのがほんとにいるのなら、ロマンがあるって小町は思うよ!」

「何がロマンだよ。怪我人がもう大勢出てるって話だぜ? 夢もへったくれもあるもんかよ」

 

 などと話しているのは、比企谷八幡と小町の兄妹。八幡の方はひねくれた性格でコミュニティ能力に難があり、友人と呼べるような相手がかなり少ないいわゆる“ぼっち”だが、小町の方は明るく社交的で友人も数多いと、何かと対照的な兄妹なのである。

 八幡はトーストを食べ終え、コーヒーを飲み干すと、口を拭って椅子から立ち上がった。

 

「ともかく、最近物騒だってことには間違いない。お前も何かちょっとでも変だな、って思うことがあったら、すぐにその場から逃げるようにしとけよ。何より優先するべきなのは、自分の命だ」

 

 この八幡の言葉に、小町は眉を寄せた。

 

「うーん……お兄ちゃんが言うとあんまり説得力ないかなぁ。通りすがりのワンちゃんを身を挺して助けて、三週間も入院しちゃったお兄ちゃんがさ」

 

 小町のひと言に、八幡もまた顔をしかめた。

 

「それを言うなよ……。もうあんなこと、二度としねぇから」

 

 傍から聞けば美談かもしれないが、八幡自身にとってはいい思い出とは言えなかった。車に轢かれて骨折した時は、それはもう苦しかったし、事故に遭った日はちょうど高校の入学式の日だったので、八幡は高校の友人作りに一番大事な時期を逃してしまったからである。

 

 

 × × ×

 

 

 八幡は通っている総武高校において、ある特殊な部活に在籍している。というより在籍させられている。その名は「奉仕部」。

 八幡は二年に進級してからの『高校生活を振り返って』という題の作文の課題で、青春を謳歌している者たちへの(逆)恨みつらみを書き綴るという暴挙を行い、その人間性を案じた生活指導の平塚静にこの奉仕部に入部するよう強制されたのであった。部活動の内容は、その名の通りに持ち込まれた相談や問題を解決するように奉仕活動をするというもの。

 しかし奉仕部への依頼というのはそうそうあるものではなく、ほとんどの時間は宛がわれた部室で暇を持て余している。今日もまた、奉仕部の部員仲間と一緒に部室にいるだけの時間を過ごしている。と言っても、同じ空間にいるというだけで、これと言って特別なことがある訳ではないのだが。

 奉仕部の八幡以外の部員は、たった二人のみ。一人は雪ノ下雪乃という女生徒。眉目秀麗にして才色兼備、成績は常に学年一位という優等生だが、歯に衣着せぬ言動が災いして他人から敬遠されている、八幡とは違うタイプの“ぼっち”である。そしてもう一人は由比ヶ浜結衣。雪乃とは対照的に、成績は今一つだが社交性に富んでいる、本来なら奉仕部に在籍する必要のない人間である。八幡と雪乃は生活指導を担当している静の命令による入部だが、結衣だけは本人の志願なのであった。

 八幡と雪乃は自らしゃべり出すことはほとんどなく、部室にいる時は大抵の場合文庫本などを読んで時間を潰している。会話を切り出すのはもっぱら、結衣の役目だ。

 

「ねぇねぇゆきのん、ヒッキー、知ってる? 見えない怪物のこと!」

 

 結衣がそう二人に尋ねかけると、雪乃は文庫本から顔を上げて聞き返した。

 

「見えない怪物と言うと……最近関東域で連続して発生してる、原因不明の建築物倒壊のこと? 確か、学者か誰かがそんな仮説を立てたとか」

「そうそうそれ! ゆきのんのクラスでも話題に上がってた? こっちでもその話で持ち切りだったんだよ」

「ああ、戸部の奴がそんなようなこと頻りに騒いでたな」

 

 適当に相槌を打つ八幡。結衣は若干興奮した様子で話を続ける。

 

「ゆきのんとヒッキーは、見えない怪物なんてホントにいると思う? あたしは、いてほしいなーって思ってるんだけど」

「そりゃまた何でだ」

「もちろん、その方が面白いからに決まってるじゃん! 見えない大怪物なんて、アニメか映画みたいな話が現実にあったら、それだけでサイコーだよぉ!」

 

 お気楽に口走る結衣に、八幡は呆れ顔になっていた。一方で雪乃は、結衣の語ることをばっさり切り捨てる。

 

「ナンセンスね。怪物なんて、フィクションの中だけの存在に決まってるわ。あり得ないわよ」

「えー何でー? お偉い学者さんがそう言ったんだよ?」

「権威があるからその発言は正しいなんて、思考停止の典型よ。そもそも由比ヶ浜さん、少なくない負傷者が出てるというのに面白がるだなんて不謹慎よ」

「そっかぁ~……ごめんねゆきのん。気をつけるよ」

 

 たしなめられて、てへっと舌を出す結衣。とてもじゃないが本心で謝っているようには見えねぇ、と八幡は思った。

 しかし、由比ヶ浜が面白がってるのは、結局彼女自身も本気で怪物の存在なんて信じちゃいないからだろうな、とも八幡は考える。何故なら、由比ヶ浜の態度には恐れの色が見られないからだ。だから平然と茶化してみせる。

 見えない怪物なんて、この部室には信じている人間なんて一人もいやしない。由比ヶ浜もそうだし、雪ノ下ももちろんそうだ。そして自分だって――八幡は微塵も信用してはいなかった。

 今、この時には。

 

 

 × × ×

 

 

 下校時刻になった。奉仕部はあくまで学校の部活という体裁なので、何もしていなくともその時点で一日の活動は終了となり、八幡たちは帰宅していく。

 八幡は学校から自宅までの道を、自転車で走っている。当然のように、彼には一緒に学校から帰る相手はいない。雪乃たちは別方向だし、たとえ同じだったとしても八幡と一緒に帰るなんてことはしないに違いない。特に雪乃。

 

(しっかし、原因の分からない建物の倒壊かぁ……。ホント、世の中おかしなことになったもんだ)

 

 自転車を漕ぎながら、朝にも昼にも話題に上がった内容を思い返していた――その時。

 八幡の行く先のにある住宅の屋根が――いきなり弾け飛んだのだ。

 

「えッ……!?」

 

 流石の八幡も目を見張って、反射的にブレーキを掛けて停止した。

 そんな彼の視界の中で――次は隣家の外壁が砕け散った。電信柱がへし折れて電線が千切れ、道路のガードレールがひしゃげてアスファルトが妙な形に陥没した。周囲の至るところから、混乱と恐怖による悲鳴、怒号が沸き上がっていく。

 間違いない――ちょうど今考えていた事態が、目の前で発生しているのだ。

 

(♪大怪獣出現(B-1))

 

「ひッ……!」

 

 八幡も周囲の人間と同じように恐怖に駆られ、自転車をその場に乗り捨てて逃走し出した。その彼の背後から、立ち並ぶ家屋が次々に砕けていく轟音が連続して発生する。

 しかしその轟音に混じって、何か別の音が起こる。

 

「キイイイイイイイイ! ゲエエゴオオオオオオウ!」

 

 八幡は一瞬冷静になり、今のが何かの獣の鳴き声のようであったと感じた。それも、二種類のものが混ざり合っているかのような……。

 しかし思案している間に、足跡のような陥没が自分に向かって近づいてきた。

 

(のんきに考えてる場合じゃねぇッ!)

 

 我に返った八幡は懸命に走って逃げる。この奇怪な現象の原因は、直に見てもさっぱり分からないが、立ち止まっていたら命が危ないということだけは確かであった。

 そうして必死に自らの命を守り続けていた八幡だったが――途中でその足が、急停止した。

 

「ッ!?」

 

 どこへ行けばいいかも分からずに逃げ惑う群衆の中に――雪乃と結衣の姿を発見したからだ。

 自分がいつの間にか彼女たちの帰宅していった方向に来てしまったのか、二人が混乱する人の波に流されて自分の方に来たのか。多分両方だろう。

 そんなことはどうでもいい。重要なのは、たった今結衣が走る男にぶつかられて転倒し、雪乃がそんな結衣に急いで手を貸している――その現場に、建物の瓦礫が飛んできていることだ。

 

「――!」

 

 八幡は、考える前にもう走り出していた。

 

「おおおおおおおおおおッ!!」

「比企谷くん!?」

「ヒッキー!?」

 

 走ってくる自分に気がついた雪乃たちが驚く。その二人を、八幡は勢いのままに突き飛ばした。それにより、二人は瓦礫の落下地点から外れた。

 その代わりに、八幡が――。

 

 ドズゥンッ!

 

「――っ」

 

 雪乃と結衣は、途端に色を失った。

 八幡が、自分たちの身代わりに、瓦礫の下敷きになったからだ。

 倒れた八幡から、赤い水たまりが広がっていく。

 

「――いっ、いやあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 絶叫を上げたのは結衣だ。目の前で起こったことが受け入れられないというように首を振り回し、八幡へと駆け寄って大声で呼びかける。

 

「ひ、ヒッキー! しっかりして! ヒッキー! ヒッキー!!」

 

 雪乃は、脂汗まみれになりながら、呆然とその場に立ち尽くして、彼女以上に動かない八幡を見下ろすばかりであった。

 そして件の元凶である住宅の連続破砕なのだが――それまでは場所を移動しながら断続的に起こっていたのに、急に一箇所に集中するようになり、気がつけばそのまま収まっていた。

 だが、雪乃と結衣にとっては、それは最早重要なことではなくなっていた。

 

 

 × × ×

 

 

 救急隊員によって瓦礫の下敷き状態から助け出された八幡であったが――搬送先の病院で、その口元に酸素マスクが被せられていた。

 意識は一向に戻る気配がない。それどころか、医者は付き添ってきた雪乃と結衣に宣告した。

 

「残念ですが……助かる見込みは、もう……」

「家族には連絡した? 早くしないと!」

 

 口ごもる医者の後ろでは、看護師たちが余裕のない様子で八幡の家の電話番号を調べていた。

 

「そ、そんな……」

「……」

 

 結衣は口を覆って目尻からポロポロ涙の大粒をこぼし、雪乃は依然として何も言葉を発せずに立ち尽くすばかりだった。

 

「嫌だよぉ、こんなの……。ヒッキーにはあのことのお礼も、ちゃんと言えてなかったのに……こんなお別れだなんて……」

 

 溢れる涙を指で拭いながらも、嗚咽を上げ続ける結衣。

 ――そんな中で、誰の目からも見えていないのだが……ある『者』が意識の戻らない八幡を見下ろしていた。

 

『――少年よ……』

 

 それは、赤と黒の人型の何かであった。『彼』は、当の八幡には聞こえていないことも構わずに話を続ける。

 

『すまなかった……。僕は、間に合わなかった。そのせいで、君はこんなことになってしまった……』

 

 八幡に語りかける人型は、人間の目には映らない姿で、住宅を破壊していた『もの』と戦い、追い払ったのだ。だから破壊は途中で止まったのである。

 そして見えない何かと戦った人型は、八幡に告げる。

 

『このままだと、君は確実に死ぬ。だけど、君は勇敢な人間だ。自らの命も省みず、女の子二人を救った。そんな君を、僕が死なせない!』

 

 人型は八幡の足元に立つ。

 

『君に、僕の命をあげよう! 僕も、今のこの傷ついた状態では満足に戦えない。僕の命を与えるから、どうか僕に君の力を貸してほしい……』

 

 そして残像を残しながら倒れ込むように、八幡の身体と重なった――。

 その瞬間、八幡は飛び起きた。

 

「――ここは?」

 

 マスクを取り外しての第一声がそれだった。そんな八幡に振り返り、医者たちはこっちが死にそうなくらいに驚愕した。

 しかし結衣は、信じられないものを見たような目でありながらヨロヨロと八幡に近寄っていく。

 

「ひ、ヒッキー……ヒッキーなの……?」

「え、いや……それ以外の誰だと?」

 

 キョトンとしている八幡に、結衣は感情のほとばしるままにガバッと抱きついた。

 

「ヒッキぃぃぃ―――――っ!! うわぁぁぁぁんよかったあああぁぁぁぁぁぁぁ! ヒッキー生き返ったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

「おわああぁぁぁッ!? お、おい何だよ由比ヶ浜! 何がどうなってんだ!? 教えてくれよおいッ!」

 

 八幡は自分の置かれている状況が理解できずに、結衣に抱きつかれたまま混乱し切っていた。雪乃はそんな二人を見つめながら、あんぐりと口が開きっぱなしになっていた。

 

「し、信じられない……。奇跡だわ……」

 

 普段は語彙豊かに八幡をなじったりけなしたりする雪乃も、今はそれだけ言うのが精一杯であった。

 

 

 八幡は瓦礫に押し潰されたのが嘘だったかのように、身体は何ともないほどに回復していた。医者たちも全く信じられない様子であったが、それが現実であった。

 ともかく立って歩けるということなので、八幡たちはそのまま病院を後にして帰宅することにした。

 

 

 × × ×

 

 

「うわぁ……すっかりあちこちボロボロだね……」

 

 病院からの帰路、町の様子を見渡した結衣が呆然とつぶやいた。町は至るところの家屋が全壊、もしくは半壊しており、ほんの数時間前までは何の変哲もない普通の穏やかな市街だったのが半ば信じられないくらいの惨状であった。

 一瞬顔を曇らせた結衣だったが、八幡に振り返ると思わずはにかんだ。

 

「でも、ヒッキーが何ともなくてよかった。けれどそれが逆に信じられないかな。あんなに血を流してたのに、もう何ともないなんて」

 

 結衣のぼやきに相槌を打ったのは雪乃だ。

 

「本当ね。比企谷くんって、目は死んだ魚のようなのに反して生命力はあり余ってるのね。長生きしたところで友人もいないんだから虚しいだけでしょうに」

「おい……それが仮にも死にかけた人間に向ける言葉かよ」

 

 ジトーと八幡がにらみ返したのだが、雪乃は肩をすくめるだけだった。

 しかし、雪乃が平然と毒を吐くのは、彼女もまた安堵していることの表れでもあった。

 

「それじゃヒッキー、今日は念のために家でゆっくり休んでるんだよ。何かあったら大変だからね」

「家に引きこもってるのは得意でしょう? どうせいつものことでしょうし」

「雪ノ下、お前はいちいちひと言余計なんだっての」

 

 最後にそう言葉を交わして、八幡は二人と別れた。……しかしその後、ふと立ち止まる。

 

「……何か、さっきから変な違和感があるな」

 

 懐の辺りに妙な感触があるので、服の下をまさぐってみる。――すると、指が変なものに当たった。

 

「あ……? 何だこれ」

 

 懐から出てきたのは、赤黒い握力計みたいな、おかしな道具であった。更に腰のベルトには、二つの穴が並んだケースのようなものと、変な絵が描かれているカプセルが収まったケースが左右に取りつけられている。

 

「何かの玩具か……? 何でこんなもんが……」

 

 当然、こんなものに覚えなどあるはずがない。そんなのを、どうして自分は持っているのか。

 薄気味悪くなって、一瞬どこかに捨ててしまおうかとも考えたが、近くにゴミ捨て場はなかった。それにもしかしたら誰かの所有物かもしれないし、勝手に捨てるのはまずいかもしれないと判断して、とりあえず手元に置いておくことにした。

 八幡は、根は結構なお人好しなのであった。

 

 

 × × ×

 

 

 その日の夜――比企谷家を、暗がりからじっと見上げている一人の女性がいた。肩には竹刀袋を掛けている。

 

「……どうやらここみたいね」

 

 独白する女性の傍らには、金属製の小さな球体が、糸に吊られている訳でもないのに浮遊していた。

 そして女性の足元の影から、別人の声が発せられた。

 

『ホントにここにリクがいるの?』

 

 それに答えたのは女性ではない。金属の球体であった。

 

[この家の中から、リクの生体反応がします。リクは95%の確率で、この家の住人と同化しているものと思われます]

「同化ねぇ……。また面倒なことになってるのかしら」

 

 女性は腕を組んで嘆息する。彼女の影もまたため息を吐いた。

 

『あれだけ激しい戦いだったからね……。リクもひどく傷ついてるのかもしれない。心配だなぁ……』

「でも、今日はもう遅いわ。接触は明日にしましょう。星雲荘に戻るわよ」

[了解しました]

 

 女性の言葉に球体が返事をすると――何もない地面から、いきなりエレベーターらしきものが生えてきた。しかし女性はそれが当然であるかのようにエレベーターの中に入り、エレベーターは女性を収めたまま消えていったのであった。

 



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その日、運命は姿なき挑戦者によって変わった。(B)

 

 千葉市内で奇怪な建物の倒壊事件が発生した、その翌日。

 この日は昨日の混乱の収拾が完了していないので、市内の学校は全て休校となった。そのため八幡と小町は、自宅に留まって大人しくしている。

 そんな中、小町が妙にニヤニヤしながら八幡に話しかけた。

 

「聞いたよーお兄ちゃん。昨日、学校の女の子を命懸けでかばったんだって? かっこい~! あんなこと二度としないとか言っておいて、お兄ちゃんもスミに置けないな~このこの~」

 

 うりうりと肘で小突いてくる小町に、八幡はげんなりとした顔になった。

 

「それで? その人の連絡先はもらった? 命を助けて始まるラブストーリーって鉄板だよね! ってことで今まで腐りに腐ってたお兄ちゃんも遂に甘酸っぱい青春の第一歩を踏み出すんだねー!」

「……リアルってのはドラマとは違げぇんだよ。んな上手い話がある訳ねーっての。そもそも相手は知り合いだから」

 

 一人で勝手に盛り上がる小町を静かにするために八幡はそう返したのだが、小町はむしろ更にテンションをアップした。

 

「お知り合い! ますますドラマチックじゃーんっ! これはもう恋の始まり待ったなしだよぉ!」

 

 八幡は疲れたように頭を振って、小町を放っておくことに決めた。

 

(相手二人だったんだから、その筋書きだと二股になっちまうだろ……)

 

 なんて思いながら、食器棚の上に置かれているカップを取ろうとする。

 しかし微妙に身長が足らず、背伸びして手を伸ばしても指は触れるが、縁を掴むことが出来ない。

 

「んッ……後、もちっと……」

 

 八幡は無意識に、軽くジャンプした。

 

 ゴンッ!!

 

「な、何!? 今の音!」

 

 背を向けていた小町は、突然の物音にギョッとして振り返った。すると目に飛び込んできたのは、八幡が頭のてっぺんを抑えて床の上に転がっている姿。

 

「どうしたのお兄ちゃん!?」

 

 慌てて駆け寄った小町に、八幡は痛がったまま答えた。

 

「……ジャンプしたら、天井に頭ぶつけた……」

「え? 天井に……?」

 

 天井を見上げる小町。ジャンプして、とても頭をぶつけそうな高さには見えない。

 

「……いや何言ってんのさお兄ちゃん。どう考えたって届かないでしょ。目だけじゃなくて、脳みそまで腐っちゃった?」

「お前……散々言ってくれるなオイ……」

 

 目を細めながら起き上がった八幡だが、小町は遠慮のない口振りとは裏腹に、割と本気で心配しているようであった。

 

「何だか変だよお兄ちゃん……昨日は大怪我したんでしょ? 嘘みたいに回復したってお医者さん言ってたそうだけど、やっぱりどっか悪いんじゃない? もう一度、病院で診たもらった方がいいよ」

「いや、別にいいだろ。そんな大袈裟な……」

「大袈裟なんかじゃないよー! お兄ちゃんにもしものことがあったら、小町が悲しいんだからね。あ、今の小町的にポイント高い」

「……最後のひと言がなけりゃあな」

 

 呆れる八幡であったが、小町の忠告には従い、昨日に引き続いてもう一度病院の世話に掛かることにしたのであった。

 

 

 × × ×

 

 

「そんじゃあ行ってくる。遅くなりそうだったら連絡するからな」

「いってらー」

 

 留守を小町に任せ、八幡は一人で玄関から外へ出た。

 しかし家から離れようとしたところで、彼の前に立ちはだかるように、肩に竹刀袋を担いだ見慣れない少女が現れた。

 

「……?」

 

 じっとこちらの顔を見つめてくる少女に、八幡は一瞬目が覚めるような思いになった。雪乃や結衣並みの美貌であることもそうだが、彼女の顔つきには凛とした力強さがあり、それが美しさをより一段と際立たせているからだ。このような女性には、八幡はこれまで一度としてお目に掛かったことはない。

 

「あ、あの……? 何か……?」

 

 しかし会ったこともない少女が、どうしてこんなにも自分を凝視しているのか。呆気にとられた八幡の手を、少女が不意に取った。

 

「えッ……!?」

「一緒に来て」

 

 少女はそれだけ言って、八幡の手を引っ張ってどこかへ誘導し出した。

 見知らぬ美女からいきなり誘われる。男なら夢のようなシチュエーションだが、ひねくれ者の八幡はむしろビクビクしていた。

 

「あ、あの……!? 俺、お金なんて全然持ってないですよ! 出せるものなんか全然ないです! 親だって、俺のために出してくれるなんて思ってたら大間違いですから!」

「……どんな勘違いしてるの? 私を美人局か何かだと思ってるつもり?」

 

 少女は呆れ返った目で八幡に聞き返した。

 

「じ、じゃあ俺に何の用なんですか……?」

「……詳しいことは、ここでは話せないわ。ひとまずは、一緒に来てちょうだい」

 

 少女は有無を言わせずに八幡を引っ張っていった。何が何やら分からない八幡だが、少女の意外なほどの腕力に、抵抗することは出来なかった。

 

「ここよ」

 

 そうして誘導されていった先は、町外れの天文台であった。

 

「天文台……? ここに何が……」

 

 少女は八幡の質問に答えず、代わりにあらぬ方向へ呼びかけた。

 

「レム、お願い」

 

 すると近くの草むらから、小さなオレンジ色の金属の球体が飛び出してきて八幡の目の前でフヨフヨ漂い出した。糸で吊っている訳でもないのに。

 

「な、何すかこれ? 新手の手品?」

 

 目をパチクリさせた八幡に、球体は閃光を発して、八幡の全身に光を浴びせた。

 

「うわッ!? まぶし……!」

 

 一瞬顔を背ける八幡。すると光を放った球体から、今度は声が発せられた。

 

[対象よりリクの反応を確認。間違いありません]

「ありがとう。それじゃあ、彼を星雲荘へ」

[分かりました]

 

 少女が言うと、八幡たちの目の前の、何もない地面から、いきなり鈍色のエレベーターが下から生えてきた。

 

「えッ!? 何これ!? あなた手品師か何か!?」

「違うけど、とにかくこれに乗って。私「たち」の拠点に案内するわ」

「えッ、あの……」

 

 先ほどから理解が及ばない展開の連続に足踏みした八幡だったが、女性に引っ張られる形でエレベーターの中に入らされた。エレベーターは二人を収めると、扉を閉じて地中へと引っ込んでいく。

 八幡は身体の感覚から、エレベーターが下――地下へと向かっているのだと判断した。

 

[到着まで、残り三十秒]

 

 宙を浮く球体が言葉を発するのを見て、少女に質問する。

 

「あの……これ、何でしゃべってるんですか?」

「このユートムがしゃべってるんじゃないの。本体は、これから向かう先にいるわ」

 

 球体は「ユートム」と言うらしい。が、肝心なのはそこではない。

 疑問符が頭に浮かびっぱなしの八幡を連れて、エレベーターは停止。扉が開かれると、そこは八幡が見たことのない光景が広がっていた。

 

「うわ……何だここ……」

 

 銀色の壁が円形に周囲を囲っている、SF映画にでも出てきそうな近未来的な室内。しかし置かれているものは、その非現実的な光景とは裏腹に、ベッドやテーブルやタコのぬいぐるみ、白い変てこなヒーローのDVDケースやポスターなど、誰かの生活臭を感じさせるものばかりであった。

 そしてこの空間の片隅に、こんな看板が立てかけられてあった。「星雲荘」。

 

「星雲荘……?」

『そうだよ。ここは僕たちの秘密基地なんだ』

 

 不意に、少女のものでも、球体のものでもない、少年っぽい声が聞こえた。

 

「ん?」

 

 振り返ると、床に何やら黒い染み――いや、影がある。光をさえぎるものなど何もないというのに。

 

『よいしょ……っと」

 

 しかもその影からいきなり、カタツムリのように飛び出た目玉を持った異形の怪人が這い出てきた!

 

「うわぁぁッ!?」

 

 白黒のジャケットを羽織った怪人の姿に仰天する八幡。一方で少女は、さも当たり前かのように怪人に話しかけた。

 

「こらペガ、いきなり姿を見せちゃ駄目って言ったでしょ? 彼、驚いてるじゃない。宇宙人を知らないのよ」

「ごめんなさい。でも、ペガも早くリクの無事を確認したかったんだ」

 

 八幡は腰が抜けそうになりながらも、先ほどから謎ばかりの少女たちに問いを投げかけた。

 

「あ、あなたたち何なんですか……!? それに、さっきから出てくる「リク」って何のこと……」

 

 その点に触れると、オレンジの球体が部屋の一番奥にある台の上に停まり、代わるように天井から垂れ下がっている球体に黄色い明かりが灯った。

 

[それは消えかかっていたあなたの命を、あなたの身体と一体となることで助けた人物の名前です]

「へ……?」

 

 今日一番の意味が分からない説明にきょとんとする八幡。すると少女は、八幡に呼びかけた。

 

「リク、聞こえてる? あなたから説明するのが一番早いわ」

 

 そうするとどこかから――いや、八幡の「中」から、知らない人物の声が発せられる。

 

『ごめんごめん。でもしばらく意識が朦朧としてたし、現状を彼に上手く説明できる気がしなかったんだ』

「うわぁぁぁッ!?」

 

 八幡は今日一番仰天し、目が頻りに泳ぎながら自分の頭を抑える。

 

「い、今の俺から聞こえたのか? いやそんな馬鹿な……。と、とうとう頭がイカレちまったのか? 俺……」

『落ち着いて。君はおかしくなったんじゃないよ。ひとまず、自己紹介から始めよう』

 

 八幡の中から聞こえる声がそう言うと、まずは少女から名乗りを上げた。

 

「私は鳥羽ライハ。ここは宇宙船『星雲荘』の中よ」

 

 次に、白黒の怪人が名乗る。

 

「ペガッサ星人のペガです」

「ぺがっさ星人……?」

「この地球とは違う、別の星の出身なんです」

 

 八幡の疑問はそのまま置いて、今度は天井から垂れ下がる球体が名乗った。

 

[私はレム。星雲荘の管理システムです]

 

 最後に、八幡の中からする別の者の声が自己紹介した。

 

『僕は朝倉リク。……いや、今の状態なら、ウルトラマンジードと名乗った方がいいかな?』

「うるとらまん、じーど……?」

 

 さっぱり理解が出来ずに立ち尽くす八幡に、リク、いやジードと名乗った声が尋ねる。

 

『君の名前は? いや知ってるけど、君自身の口から聞かせてほしい』

 

 それで我に返った八幡が、自分の名前を口にした。

 

「比企谷八幡……です。よろしく……って言えばいいですか?」

『よろしく!』

 

 たどたどしい口調だったが、ジードたちは快活に返事をした。それからライハが言う。

 

「私たちが何者か、あなたに何が起こったのかを教えるわ。ちょっと長い話になるから、どこか連絡するところがあるなら先にしてちょうだい」

 

 

 × × ×

 

 

 千葉市の中央部の一画。日が落ちていき、薄闇に覆われていく高いビルが立ち並ぶ市街の、街灯の光も届かないような暗闇の中で、蠢いている三つの影があった。

 

「少々遅くなったが、今日もやるぞ」

 

 三つの内、中央に立つ影が言うと、両脇を固める二つが返答するように声を出した。

 

『殿下、またこの街を襲撃するのですか?』

『今日は移動なされませんでしたね』

 

 それに中央の影が、ニヤリと口の端を吊り上げながら答えた。

 

「昨日は、この街で「奴」が現れたからな。大分具合が悪そうだったが……今日は出てくるかどうか確かめてやるのさ」

『何もわざわざ、「奴」を挑発するようなことをせずとも……』

「なぁに、このまま抵抗する者が一人もいないってのも退屈だ。ちょっとは刺激があった方が……物事は面白い」

 

 中央の影は語りながら――その手に、怪物のイラストが描かれたカプセルを二つと、紫色の握力計のような装置を握りながら叫んだ。

 

「宇宙指令S01!」

 

 

フュージョンライズ! エレキング! ネロンガ!

レイデュエス! サンダーキング!!

 

 

 × × ×

 

 

 小町に帰りが遅くなるとの電話を入れてから、八幡はジードたちに、自分が置かれている状況についての説明を受けた。

 

「えーっと……纏めると……あなたたちは別の宇宙、いわゆるパラレルワールドからやってきた人たちで……俺は一度死んで、その一人と融合することで助かった……っていうことになるんですか?」

「概ねはそんなところね」

 

 八幡の問い返しに、ライハがうなずいた。

 レムは今日までの、自分たちの経緯を説明し出す。

 

[私たちの宇宙では、この世界には存在しない超常的巨大生物、通称怪獣や地球以外の惑星の知的生命体、いわゆる宇宙人が存在し、リクことウルトラマンジードは人間に害を成そうとするそれらと戦っていました。ですがある時、この世界に侵入していく不審な宇宙船をキャッチしたのです。ジードは別の宇宙の平和も守ることを希望し、私たちは宇宙船を追ってこの宇宙の地球へと移動してきました]

 

 レムの説明にジードが混じる。

 

『でも僕は、宇宙船の地球侵入を阻止できなかった……。宇宙船から出てきた敵と相討ちになったんだ』

[地表へと落下し消息を絶ったジードを捜している内に、ジードと融合しているあなたを発見したということです、ハチマン]

 

 ここまでの説明を受けて、八幡は――。

 

「……あー、いやいや……ありえないでしょそんな話。SFかアニメじゃないんだから。俺を引っ掛けようったってそうはいきませんからね?」

 

 信じていなかった。

 

「私たちがドッキリを仕掛けてるとでも言うつもり? これまで見た全部が作り物だとでも? その方がありえないでしょ」

 

 と諭すライハだが、八幡は翻意しなかった。

 

「いや分かんないですよ。その手の番組の手の凝りようはすごいですからね」

「じゃあこのペガはどう説明するの? この生々しい質感は着ぐるみなんかじゃ出せないわよ」

「いーや、ハリウッドばりのメイク技術があればどうにか」

「それじゃあレムは?」

「どっかに声優さんがいるんじゃないですか?」

「あなたの内側からする、リクの声は」

「それは……催眠術とか何かで」

 

 かなり無理矢理な論法を唱えてでも信じようとしない八幡の様子に、ライハたちはすっかり呆れ返っていた。

 

「……ここまで意固地だと逆に清々しいわね」

「ペガも、こんなに頑固な人は初めて見たかも」

[どうやら理解力が一般より乏しいように思われます]

「人より乏しい理解力で悪かったですね! ともかく、俺はそんな突拍子もない話、信じたりなんかは……」

 

 と言いかけた八幡だが、その時にいきなり、何もない虚空にモニターが出現した。虚を突かれて思わず身をすくめる八幡。

 

「うわッ!? こ、今度は何?」

[千葉市内の建築物が、昨日に引き続き破壊され始めました]

「えッ!?」

 

 モニターを見やると、確かに見慣れた千葉市の街並みが、昨日と同じように崩れ去っていっている。……しかしモニターにはもう一つ、家よりも大きい怪物の輪郭が赤い影となって街を練り歩いている様子が映されていた。

 

「こ、この赤い影は?」

[赤外線カメラによる映像です。この怪獣には透明化能力があり、肉眼では確認できません]

『街の破壊も、君が一度死んだのも、全てあの怪獣の仕業なんだ!』

 

 と言い切ったジードは、八幡に頼みごとを投げかけてきた。

 

『八幡君、君に頼みがある!』

「な、何ですかいきなり……」

『僕に力を貸してほしい! 君がウルトラマンジードになって、怪獣と戦うんだ!』

 

 その発言に、八幡は目玉が飛び出そうになった。

 

「はぁ!? な、何で俺が!?」

 

 ジードに代わって、レムがその必要性を話す。

 

[ジードはあなたを蘇生させるために融合しました。言い換えれば、あなたの肉体から離れれば、ハチマン、あなたは今度こそ死亡します。次は助かりません]

「なッ……」

 

 一瞬言葉を失った八幡は、戸惑いを覚えたまま立ち尽くす。

 

「い、いや……命を助けてくれたのはありがたいですけど……いきなりそんなこと言われても……」

 

 尻込みする八幡だったが、その時にペガが叫んだ。

 

「あッ! 見てあれ!」

 

 ペガが指差したのはモニターの一角。透明怪獣の進行先に、大勢の人が不安げに寄り集まっている避難所がある。

 

「姿が見えないんじゃ正確な距離が分からない。このままじゃ、あそこが危ないわね……」

 

 つぶやくライハ。そして八幡は、拡大された避難所の様子を見やって、その中に見知った顔があるのに気がついた。

 

「雪ノ下! 由比ヶ浜!」

 

 悩み続けていた八幡だったが、やがてその眼差しが一変した。

 

 

 × × ×

 

 

 既に日が落ちた中、透明怪獣の手前の、無人の地域にエレベーターがせり上がり、その中から八幡が飛び出した。

 

『ありがとう、八幡君。変身はさっき教えた通りにやれば出来る』

「分かりました」

『時間がない。急ごう!』

 

 ジードの指示で、八幡は右側の腰に取りつけてあるケースから、カプセルを一本取り出す。

 

『融合……いや、ユーゴー!』

 

 合図とともにカプセルのスイッチを上にスライドして起動。するとカプセルから、銀と赤の超人のビジョンが現れて右腕を振り上げた。

 

『シェアッ!』

 

 起動したカプセルを、左の腰のホルダー、装填ナックルに差し込む。次に取り出したのは、黒と赤の悪魔の如き超人のカプセル。

 

『アイゴー!』

 

 そちらも起動すると、同じように絵の超人のビジョンが現れて腕を振り上げた。

 

『フエアッ!』

 

 二つ目のカプセルも装填すると、八幡は握力計型の装置――ジードライザーのトリガーを握り込んだ。

 

『ヒアウィーゴー!!』

 

 ジードライザーで、装填ナックルに収めた二本のカプセルをスキャンする。ライザーの液晶画面に、青と紫の螺旋が灯った。

 

[フュージョンライズ!]

 

 八幡の同級生の材木座の声質に酷似した音声が鳴り、八幡はライザーを己の胸の前に持っていって、再びトリガーを握り込んだ!

 

『ジィィィ―――――――ドッ!』

 

 二人の超人のビジョンが、八幡の身体と合わさる!

 

[ウルトラマン! ウルトラマンベリアル!]

[ウルトラマンジード! プリミティブ!!]

 

 一瞬禍々しく吊り上がった双眸が現れ、光と闇の螺旋の中より八幡から姿を変えた超人が飛び出していく!

 

「シュアッ!」

 

 一気に五十メートル級もの巨人となった八幡が、盛大に土埃を巻き起こしながら夜の街の中心に着地した。

 

 

 星雲荘で八幡の様子をモニターしているレムが言う。

 

[フュージョンライズ、成功しました]

「やった!」

 

 ペガがぐっと手を握って喜んだ。ライハもゆっくりとうなずく。

 八幡はジードライザーを使ってフュージョンライズという現象を起こし、超人ウルトラマンジードへと変身を遂げたのである!

 

 

 地上の人々は皆、突然現れた巨人に驚愕していた。そんな中、当事者である八幡は細胞片に取り囲まれたような超空間の中、己の手と身体を恐る恐る見下ろす。

 

『「俺、今どんな姿なんだ……?」』

 

 ふと横に建つガラス張りの高層ビルに目をやると、それが鏡の役割を果たして今の八幡の姿――ウルトラマンジードの姿を映し出していた。

 赤と黒の体色の、人型ではあるが人間とはあまりにかけ離れた容姿。胸の中央で光る、丸みを帯びた長方形の発光体。そして一番目立つのは、青く吊り上がった双眸。それを確かめた八幡がひと言、

 

『「うわッ!? 目つき悪ッ!」』

『人のこと言えないだろ!? それより来るよ!』

 

 突っ込んだジードが警告。八幡が顔を上げると連動してジードの肉体も顔を上げ、双眸をビカビカと光らせて透視能力を発動した。

 それにより、肉眼では映らない怪獣の輪郭が白い影として捕捉できた。

 

『あそこだ!』

 

 怪獣を確認したジードは高々と跳躍して一気に距離を詰め、腕を広げて掴みかかった。しかし透明の怪獣も抵抗しているようで、八幡に殴られる衝撃が伝わる。

 

『「うぐッ……!」』

『こらえて! こいつを投げ飛ばすんだ!』

 

 ジードの指示通りに意識を集中する八幡。するとジードの腕に力が宿り、透明怪獣を頭の上に抱え上げた。

 

「ショアァッ!」

 

 そのまま投げ飛ばすジード! 怪獣は既に破壊されている地帯へと叩きつけられた。

 そこにへし折られた信号機から漏電が走り、その電気に触れたことで、ジードに向かって進んでくる怪獣の姿が、遂に衆人環視の下に晒された。

 

「キイイイイイイイイ! ゲエエゴオオオオオオウ!」

 

 並んだ二つの山脈のように隆起した背面と、白黒の斑模様の胴体を持った、鋭い牙の獰猛な怪物。目のある場所には代わりに回転するアンテナ状の角が生えていて、尾は長くムチのようにしなっている。そして胸部には、紫に怪しく光る七つの発光体が緩いV字に並んでいた。この異形の生物に、市民たちは再び驚愕を覚えた。

 これが街を次々と破壊していた透明の怪物の正体だ!

 

 

 レムは姿を晒した怪獣のデータを分析する。

 

[あの怪獣は、エレキング、ネロンガ、二種類の怪獣の特徴を併せ持っています]

 

 その報告にペガとライハは思わず息を呑んだ。

 

「それってまさか……!?」

「融合獣……!」

 

 エレキングとネロンガの生体情報を掛け合わせた融合獣、サンダーキングがジードに牙を剥く!

 

 

 怪獣の姿を目の当たりにした八幡は、皮肉げな笑みを口の端に張りつけていた。

 

『「はッ……この期になっても怪獣だとか宇宙人だとかは半信半疑だったけど、こうして目の前に出てこられちゃ信じない訳にはいかねぇな……」』

『八幡君……』

『「分かりましたよジードさん。こうなったからには、とことんやってやります……!」』

 

 腹をくくった八幡が、決意を口にする。

 

『「決めるぜ……覚悟!」』

 

 ドン! と地面を手で叩いて勢いをつけて、ジードがサンダーキングへと立ち向かっていった!

 

(♪ウルトラマンジードプリミティブ)

 

「ゼアッ!」

 

 ジードは腕を大きく広げてサンダーキングに飛び掛かり、取っ組み合って相手の首筋を強く打ち据える。こちらが野獣のようなラフなファイトスタイルだ。

 

「キイイイイイイイイ! ゲエエゴオオオオオオウ!」

 

 だがサンダーキングの筋力も強靭で、振り払われて脇腹にヘッドバットをもらった。

 

「グッ……!」

 

 一瞬悶絶したジードだが踏みとどまり、サンダーキングの腹部にドロップキックを決める!

 

「ダァァッ!」

「キイイイイイイイイ! ゲエエゴオオオオオオウ!」

 

 後ずさったサンダーキングは口から刃状の電撃を繰り出すが、ジードは側転して回避。再びサンダーキングに飛び掛かって肉弾戦を挑む。

 この巨人と怪獣の決闘を、市民たちは唖然となりながら見上げていた。

 

「信じられません! 全く、信じられません! しかも、この信じられない事件が今、我々の眼前において展開されています!」

 

 テレビのリポーターたちは巨躯の大決闘を、動揺と興奮の口振りで全国に報じていた。

 

「我々の世界は一瞬の内に、空想の世界に取り込まれてしまったのでしょうか!?」

 

 避難所の雪乃と結衣もまた、他の避難者と同じように唖然としたままジードと怪獣の戦いを見つめている。

 

「ゆ、ゆきのん……すごいよあれ……。夢でも見てるみたい……」

「……」

 

 流石の雪乃も、今回ばかりはあんぐりと口が開きっぱなしであった。

 

「キイイイイイイイイ! ゲエエゴオオオオオオウ!」

 

 一時はジード優勢であったが、不意に戦局が傾く。サンダーキングの長い尾がうなり、ジードの首に巻きついたのだ。

 

「ウッ!?」

 

 もがくジードをサンダーキングはそのまま引きずり、側の貯水湖に踏み込んだ。そして水に浸かってずぶ濡れとなったジードに、尻尾から高圧電流を食らわせる!

 

「ウワアアアァァァァァァッ!」

 

 強烈な攻撃に苦しんだジードが投げ飛ばされる。地面に叩きつけられたジードの胸の発光体、カラータイマーが赤く点滅し始めた。

 

『「こ、この音何ですか!?」』

『まずい……フュージョンライズのタイムリミットが近いんだ!』

 

 ジードが焦りながら教える。

 

『フュージョンライズしていられる時間は約三分間……次に変身できるのはおよそ二十時間後なんだ!』

『「二十……!? じゃあここでどうにかしないと……!」

『そうしたいのは山々なんだけど……今の電撃で、身体が……!』

 

 ジードの肉体は麻痺してしまい、すぐには動けそうにない。

 

「キイイイイイイイイ! ゲエエゴオオオオオオウ!」

 

 サンダーキングは動けなくなったジードを放置し、またも避難所の方へ向かい出した。

 

「っ!?」

 

 雪乃と結衣が、声にならない悲鳴を発した。――その鼓動は、超感覚によって八幡に伝わる。

 

『「!! あいつら……!」』

 

 すると――麻痺しているはずのジードの肉体が、急に軽くなったのだ。

 

『この湧き上がる力は……!?』

 

(♪GEEDの証)

 

「ハァッ!」

 

 ジードが天高く跳躍し、サンダーキングの頭上を越えてその前方に回り込んだ。

 雪乃たちは、その雄大な背中を驚いて見上げる。

 

「あの巨人……」

「あたしたちを、守ってくれるの……?」

 

 ジードは八幡に告げる。

 

『次の一撃で決めよう! 必殺光線だ!』

『「光線!? どうやれば……!」』

『大丈夫だ! 言わなくても、君にも分かる!』

 

 サンダーキングは立ちはだかったジードに向けて、全身に電撃を纏いながら突進してくる。

 

「キイイイイイイイイ! ゲエエゴオオオオオオウ!」

 

 それを前にしてもひるまず、ジードは腰の前で交差した両腕から赤黒いスパークを生じさせる。

 

「アアアアアアアア……!」

 

 腕を頭上に持ち上げて開くとともに、スパークが全身に広がっていく。ジードの両目から光がほとばしり、エネルギーが最大に高まる。

 そして両腕を回しながら十字を作り、ジードと八幡が声をそろえて叫ぶ。

 

「『レッキングバースト!!」』

 

 ジードの右手から光と闇の織り交ざった光線が照射され、サンダーキングに命中した! ジードの必殺の光線、レッキングバーストが決まったのだ!

 

「キイイイイイイイイ!! ゲエエゴオオオオオオウ!!」

 

 全身に纏われた電撃も突き破り、レッキングバーストは一撃でサンダーキングを木端微塵に吹き飛ばした!

 

「やった……!」

「わーいっ! あたしたち助かったんだぁ!」

 

 他の人々がまだ現実を受け止められていない中、結衣は無邪気にジードの勝利を喜んでいた。

 

「シュアッ!」

 

 サンダーキングを見事撃場したジードは、残った力で空へと飛び上がり、はるか遠くへと瞬く間に飛び去っていったのだった。

 

 

 ――サンダーキングが粉砕された地点で、ローブを目深に被った男が、シュウウと煙を噴いているエレキングカプセルとネロンガカプセルの二つを拾い上げた。

 ネロンガカプセルの方は、レッキングバーストの衝撃によってバキバキにひび割れていた。

 

「……こっちはもう使い物にならんな」

 

 二人の怪人を引き連れている男はポイと、その場にネロンガカプセルを投げ捨てた。それからニヤァ……と不気味な微笑を浮かべる。

 

「ウルトラマンジード……これから面白くなりそうだ」

 

 

 × × ×

 

 

 星雲荘に帰還して変身を解いて元に戻った八幡は、そこで力尽きてどっかと腰を落とした。

 

「はぁ~……疲れたぁ……」

「お疲れさま、八幡君」

 

 疲労困憊の八幡をペガがねぎらう。

 

「無事に怪獣をやっつけられてよかったよ。ちょっと危ない場面もあったからハラハラしたけど……安心した」

「はは……確かにもう安心ですね。これで、怪獣とかいう訳の分からんもんと戦うなんて危ないことは……」

 

 しないで済む、という言葉を、ライハは言わせなかった。

 

「何言ってるの。怪獣はきっと、これからも出続けるわよ」

「へッ!?」

 

 唖然と目を丸くする八幡。それに構わず畳みかけるライハ。

 

「私たちの世界でも、怪獣は立て続けに現れてた。こっちでもきっとそうなるわ。今回は、その前触れに過ぎないわよ」

『それに立ち向かうことが出来るのは、僕たちだけだ!』

 

 とのたまうジードに、八幡はブンブンと首を振った。

 

「いやいやいやいや! 冗談じゃないですよ! あんな危険なことをこれから何度もだなんて……それに俺は高校生です! 学校どうしろってんですか!」

「その辺りはこれから対策を考えましょう。きっといい方法があるわ」

「色々環境が変わったから、決めなきゃいけないことはいっぱいあるね」

 

 ペガたちは八幡を置いて話し合いを始める。一方ですっかり魂が抜けたようになっている八幡に、ジードが呼びかけた。

 

『大変な役割を背負わせちゃってごめん。だけど君ならやれるよ! 今回のことで、僕はそう確信した。一緒に頑張ろう!』

「そ、そんな気楽に言ってくれちゃって……」

 

 すっかり途方に暮れている八幡は、心の中でつぶやいた。

 こんなの嘘だ。何でただの高校生、いやそれどころかクラスでも家でもカースト最底辺の俺なんかが、そんな重大な役目を担わなくちゃいけないんだ。どうしてこんな運命になってしまったんだ? もし神さまがいるんだとしたら、こんな風に言ってやる。

 

 ――やはり俺がウルトラマンジードなのはまちがっている。

 

 

 

『ウルトラストーリーナビ!』

 

八幡「今回は『ウルトラセブン』第一話「姿なき挑戦者」だ」

八幡「ある日から、人間が次々と消失していくという怪事件が起こる。その謎を追うウルトラ警備隊と地球防衛軍に、犯人のクール星人が挑戦状を叩きつける。見えない円盤で攻撃してくるクール星人に苦しむウルトラ警備隊を、風来坊モロボシ・ダンが助け、ダンはクール星人を倒すためにウルトラセブンに変身する……という内容だ」

八幡「番組の始まりだけあって、『セブン』がどんな話なのかが凝縮されてるな。最初の敵が宇宙人だったように、セブンは宇宙人を中心とした作劇が成されてたんだぜ」

八幡「そして最初の敵のクール星人は、セブンに瞬殺される。セブンの序盤は、こんな感じに敵との戦いが申し訳程度なのが多かったな」

リク『2017年は『セブン』放送の五十周年だから、『ジード』でもセブンの怪獣が多めに出てきたんだよ!』

八幡「じゃあまぁ、また次回で」

 




「彼の名はウルトラマンジード。地球の皆さんの敵ではありません」
『多分、これからこの地球に来訪する宇宙人はどんどん出てくると思うよ』
「ここは俺のテリトリーだ。勝手な真似はやめてもらおうか」
『「あれ!? 何も起こらないんだけど!?」』
「どうしてセブンカプセルが反応しなかったの?」
「勇気が足りないからウルトラ戦士の力が応えてくれないってところね」
『こういう時こそ、ジードの精神だ!』
『「こうなったからにはやってやるぜ……!」』
『「燃やすぜ……勇気!」』



次回、『果たして比企谷八幡に勇気ある戦いは出来るのか。』



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果たして比企谷八幡に勇気ある戦いは出来るのか。(A)

 

 ――一介の高校生、比企谷八幡が宇宙からやってきた巨大超人に変身し、大怪獣と激戦を展開するという、とても現実とは思えない、しかし確かな現実を体験した、その翌日。

 八幡は登校前に、再び星雲荘を訪れてライハやレムたちとあることを話し合っていた。

 

「融合獣?」

 

 八幡がレムから聞かされた名前を復唱した。話し合いの内容とは、昨日八幡が変身したウルトラマンジードが倒した怪獣についてである。

 

[はい。あの怪獣は90%以上の確率で、自然に生まれた個体ではありません。二種類の怪獣の生体情報を組み合わせて作り出された融合獣と思われます]

『融合獣は、僕のと形は違えども、フュージョンライズによって作り出されるんだ』

 

 レムとジード、そしてライハが融合獣について説明する。

 

「私たちの宇宙では、ある男がウルトラマンベリアルという悪のウルトラマンの力を用いて融合獣に変身してたの。……それが、まさかこっちの世界にも現れるなんて……」

『レム、まさかまたベリアルの陰謀なのか?』

 

 危惧するジードだが、レムはその可能性を否定した。

 

[いえ。昨日の怪獣は融合獣ではありますが、ベリアルが関与しているものではないようです。ベリアルの力の波長が観測されませんでしたから]

「確かに……ちょっと特徴が違うわね」

 

 ユートムが撮影した融合獣サンダーキングの写真から、胸部の七つの発光体の列に目を留めたライハがうなずいた。

 

「ベリアル融合獣の胸にあったのは、カラータイマーだったわ」

『でも、ベリアルじゃないとしたら一体誰が? ベリアル以外に怪獣のフュージョンライズが出来る奴がいるなんて……』

[現時点では回答不能です。情報が不足しています]

 

 熱心に相談し合うジードたちの一方で、今一つ話についていけない八幡は、暇を持て余すように尋ねかけた。

 

「あー……ちょっといいですか」

『昨日も言ったけど、もう敬語なんていいよ。君も僕たちの仲間になったんだ。ずっと敬語口調なんて他人行儀だよ』

「じゃあ……一つ聞きたいんだけど」

 

 口調を変えた八幡が、改めて問いかける。

 

「ペガの奴、さっきから何やってんの?」

 

 ペガは話に混じらず、一人ノートパソコンのキーをカタカタと叩いていた。

 

『ああ。ペガにはこの地球の人たちに向けた、僕からのメッセージを書いてもらってるんだ』

「メッセージ?」

『うん。この世界の人たちみんなにも、自己紹介しないとね』

「リクー、終わったよ」

 

 エンターキーを押したペガがジードに報告した。

 

『ありがとう。じゃあ早速送信して』

「うん!」

 

 ジードの言うメッセージなるものに、八幡は無意識に首をひねっていた。

 

 

 

『果たして比企谷八幡に勇気ある戦いは出来るのか。』

 

 

 

 昨晩その正体が明らかとなった怪獣、そして地球に降り立ったウルトラマンジードの存在は、瞬く間に全世界を騒然とさせた。報道機関はこぞってジードのことを取り上げ、種々多様な仮説を飛び交わせていた。

 そんな中で、ワイドショーに出演している学者が全国の視聴者に向けて、あることを報じた。

 

『先ほど、各国の政府機関宛てに例の巨人に関しての匿名の声明が送られてきたことが発表されました。「彼の名はウルトラマンジード。地球の皆さんの敵ではありません。この度より怪獣退治を行うことになります。ご迷惑をお掛けしますが、何卒よろしくお願い致します」。……えー、この内容に如何ほどの信憑性があるかは定かではありませんが、政府はこの声明に倣い、巨人をウルトラマンジード、巨大生物を怪獣と呼称することを暫定的に決定しました』

 

 授業の合間の休み時間中、八幡のクラスの2年F組で生徒たちがネットに配信されたワイドショーを視聴していた。

 その内の一人、戸部翔が興奮したように鼻息を荒くした。

 

「ジードかぁー! あれマジすごかったよなー! マジ現実のこととは思えなかった! やっべ! マジやっべ!」

 

 などとまくし立てる戸部が、友人たちに問いかける。

 

「ジードってやっぱ、正義の味方って奴なんかな! 隼人くんはどう思う?」

 

 聞かれたのはF組一の好青年、葉山隼人。彼を中心とした友人グループがこのクラスの最上位カーストに位置している。結衣もクラスにいる時は、このグループに属している。ちなみに八幡は、どこのグループにも属していない。

 

「まだ何とも言えないかな。何せ突然現れて、あっという間に去っていったからね。人となりなんかは全然分からないよ」

 

 葉山が爽快感に溢れながらそう答えると、金髪縦ロールの女子生徒、三浦優美子が胡乱な目でつぶやく。

 

「いや、あれが正義の味方とかないでしょ。あの目つきだよ? どっちかってーと悪者の顔つきじゃん」

 

 彼女たちは当然ながら、ジードが同じ教室にいるなどとは露ほどにも思っていない。

 

「優美子、それはちょっと失礼じゃない? あれが普通の種族なのかもしれないよ」

 

 眼鏡を掛けた女子、海老名姫菜がフォローした後に、結衣が不意につぶやいた。

 

「でもあの目の感じ、ちょっとヒッキーに似てたかもね」

 

 すると葉山たちは一瞬静かになり――直後に爆笑した。

 

「いやいや~! それこそジードに失礼ってもんっしょ! よりによってヒキタニくんと一緒にするなんて!」

「少なくとも、ジードの目はヒキオみたいに腐ってないじゃん!」

「そ、それもそっかー」

 

 愛想笑いを浮かべる結衣だが、その口元は若干引きつっている。

 ……あの好き勝手言ってる奴ら、俺がそのジードだったんだって知ったらどんな顔するんだろうな、と八幡はそう思っていた。

 

 

 × × ×

 

 

 放課後、八幡が奉仕部の部室に一番に来ると、その足元の影からニョキッと出てくる者がいた。

 

「ふぅ、ずっとダークゾーンにこもりっぱなしなのも久しぶりだなぁ」

 

 ペガである。宇宙人である彼は当然ながら他の人間の目があるところでダークゾーンから出てこられないので、人があまり来ない場所を探してここに行き着いたのだ。

 八幡は自身の影から頭を出している彼を見下ろしながら聞く。

 

「なぁ……何で俺の影になってついてきちゃってるの?」

「外に出る時は大体いつも、リクの影を借りてたんだ。この姿で人前に出たら大変だからね。だからここでは、八幡、君の影を借りさせてもらうよ。いいかな?」

「はぁ……」

 

 気のない返事をする八幡。それだったらずっと星雲荘にいろよとか、別の誰かの影を借りてくれよ、などとは言わないところが、八幡の根の純朴さを物語っていた。

 そんな彼に、今度はペガが質問した。

 

「ところで八幡。さっきの休み時間、君だけずっと一人で誰とも話してなかったね。……友達いないの?」

 

 ストレートな物言いがグサッと八幡に刺さった。心の痛みをこらえて、八幡は言い返す。

 

「い、いや、作れないんじゃねぇよ? 俺は平等がモットーだから、特別親しい相手を作ろうとしないだけだから! ホントだからな!」

 

 しかしペガから返ってきたのは、同情の目だった。

 

「……大丈夫! これからはペガがいるからね! もう一人じゃないよ!」

『僕だって君の友達だよ、八幡!』

 

 ジードまでそう言ってきた。

 

「やめろ! やめてくれ! これ優しさが逆に辛いパターンだ!」

「珍しく私より先に来てると思ったら、何を一人で騒いでるのかしら」

 

 声を荒げていたら部室の扉が開かれ、雪乃が入ってきたので、ペガは「はわわ!」と八幡の影に引っ込んでいった。

 

「いつも一人なのをこじらせて、イマジナリーフレンドでも見え始めたのかしら?」

「そ、そんな幼少の子供が罹る心の病気は発症してねぇ! その……思い出し笑いみたいなもんだよ!」

 

 無理矢理にごまかす八幡であった。

 

「どちらにせよ気持ち悪いわ。独り言が癖になる前に、やっぱり友達の一人でも作るよう努力してみたら? あぁそのためには腐った目を眼科で治してもらわないとどうしようもないわね、ごめんなさい」

「謝るのか貶すのか、どっちかにしろよ」

 

 相変わらず毒を吐きまくりの雪乃に突っ込む八幡。ペガも「雪ノ下さん、口悪いなぁ……」と影の中からつぶやいていた。

 しかしふと振り返れば、雪乃が何やらその場に立ち尽くしたまま、自分の両手の平をじっと見つめていた。

 

「あ? 何やってんだ雪ノ下?」

「な、何でもないわ。比企谷くんが気にすることじゃないわよ」

 

 妙に歯切れが悪くなる雪乃に八幡は軽く首をひねったが、雪乃はそのまま自分の定位置まで行って椅子に腰を落とす。

 だが彼女が長テーブルに手を置いた瞬間、テーブルがバギッ! と真っ二つにへし折れた!

 

「うおぉッ!?」

 

 お陰で机に肘をもたれていた八幡はずっこけ、椅子から転げ落ちた。

 

「ご、ごめんなさい! 大丈夫!?」

 

 雪乃は慌てて立ち上がって謝罪した。八幡は頭をさすりながら身を起こす。

 

「いっててて……まぁ大丈夫だけどさ、何で謝んの? 今、お前が机折ったの?」

 

 聞かれて、雪乃はハッと強張らせた顔を八幡から逸らした。

 

「そ、そんな訳ないじゃない。私にそんな異常な腕力があるように見える?」

「まぁ、そうだよな。老朽化でもしてたのか? 危ねぇな」

 

 と八幡は判断した。それに雪乃が少しホッとしていたことには、折れたテーブルに注目していたので気がつかなかった。

 

「やっはろー! って、うわっ!? 何かすごいことになってる! 何があったの!?」

 

 直後に部室にやってきた結衣も、机の残骸を目の当たりにして驚愕していた。

 

 

 × × ×

 

 

 本日の部活が終了し、下校時間。八幡が帰路に着くと、彼一人になったことでペガがまた影の中から顔を出して八幡に話しかけてきた。

 

「最初に机が折れたこと以外、特に何もなかったね。奉仕部ってあんな感じなの?」

「まぁ、大体はな。誰かの悩みを解決、って言ったって、あんなところに駆け込まなきゃいけないような問題を抱えたような奴なんてそうはいないだろうしなぁ。現に俺が入部させられてから、来た依頼者はたった三人……」

 

 そう答えていた八幡だが、ふとペガの顔を見つめ返して口を閉ざした。

 

「どうしたの? 急に黙っちゃって」

「いや……昨日は色々ありすぎたから流したけどさ、宇宙人なんて実在したんだなーって改めて思って」

 

 しげしげとペガを観察していると、ジードが話に加わる。

 

『多分、これからこの地球に来訪する宇宙人はどんどん出てくると思うよ』

「えッ、マジで?」

『僕たちがこの地球にたどり着いたということは、他の宇宙人もここを見つけたということだ、ってレムが言ってたから』

 

 宇宙人が地球にやってくる。その場面を想像して、八幡は眉間に皺を寄せた。

 

「……能天気な奴ならファーストコンタクトだーって喜ぶかもしれねぇけど、俺はあんまいいことだとは思えないな。外見も価値観も全然違う奴との接触なんて、問題が起きる気しかしねぇし」

 

 八幡の言うことに同意するペガ。

 

「鋭いね。実際、宇宙人は誰しも礼儀正しい訳じゃない。中には悪い考えを持ってやってくる人だっている。ペガたちが追ってた円盤みたいにね」

『僕も元の地球で、そういうのと戦ったことがある。こっちでも何か問題にならないといいんだけど……』

 

 ジードが案じたその時、八幡の後方から絹を裂くような悲鳴が起こる。

 

「きゃあああああああっ!?」

 

 八幡は途端に立ち止まって振り返った。今のは聞き慣れた声色だった。

 

「今の、由比ヶ浜さんの声だよ!」

 

 何か起きたに違いない。八幡はすぐさま駆け出していた。

 

 

 結衣の元にたどり着いた八幡の目に飛び込んできたのは、結衣が雪乃に抱きつきながら二人で腰を抜かしている光景と――その二人ににじり寄る、両腕が刀状になっている奇怪な人間型の生物の姿だった。

 

「あいつは!?」

 

 咄嗟に腰の装填ナックルを握る八幡。これに触れていると、星雲荘のレムと通信が出来るのだ。

 

[ツルク星人です。非常に残虐性が高く、宇宙各地で殺傷事件を起こしている危険な宇宙人です]

『嫌な予感が、こんなに早く的中するなんて……!』

 

 苦悶するジード。その危険なツルク星人は、腕の刀を振り上げて雪乃と結衣に斬りかかろうとしている!

 

「キュキュウーイ!」

「いやああぁぁぁぁぁっ!」

 

 再び悲鳴を上げる結衣。八幡は咄嗟に、地を蹴ってツルク星人に飛び掛かろうとする。

 

「うおおぉぉぉぉッ!」

「比企谷くん!?」「ヒッキー!?」

 

 ――だが勢いがつきすぎて、ツルク星人を跳び越えて塀に顔から激突してしまった。

 

「へぶッ!? いでえぇぇぇッ!」

 

 ゴロゴロとのた打ち回る八幡。一瞬呆気にとられたツルク星人だったが、自爆した彼を無視して雪乃と結衣に刃を振り下ろす!

 

「きゃあああああっ!」

「――はぁっ!」

 

 しかし凶刃は、別の刃によって弾かれた。

 星雲荘からここまで駆けつけたライハが雪乃たちを救ったのである!

 

「えっ!?」「だ、誰!?」

「ライハさん!」

 

 雪乃と結衣は驚き、八幡はライハの名前を叫んだ。ツルク星人は邪魔をしたライハに怒り、彼女から斬り殺そうと襲い掛かる。

 

「キュキュウーイ!」

「はぁぁぁっ!」

 

 風を切るような速度の凶刃がライハを襲うが、ライハも剣術と体術を組み合わせた剣戟で応戦。人外のツルク星人にも負けない速さの、踊るような剣さばきには、八幡も雪乃たちも思わず目を奪われた。

 

「はぁっ!」

「キュキュウーイ!」

 

 ライハの回し蹴りがツルク星人の横面を捉えた。のけ反ったツルク星人だが、すぐに両腕の剣による二段攻撃で反撃する。

 

「はっ!?」

 

 一段目の斬撃は防げても、二段目は避けられない。今度はライハが危ない!

 ――そこを救ったのは、突然どこからともなく戦いに割り込んできた若い男の拳だった。

 

「キュキュウーイ!」

 

 パンチが腹にめり込んだツルク星人は大きく殴り飛ばされる。受け身を取って身体を支えるが、流石に状況を不利と見たかすぐに踵を返して逃げていった。

 

「逃げたか……」

「助けてくれて、ありがとうございます」

「いえいえ。ご無事で何よりでした」

 

 ライハは自分を助けた男に礼を言い、男は爽やかな笑顔で返した。葉山みたいな感じのイケメンだな、と八幡はその顔つきを内心で評した。

 

「あなたたちも、大丈夫だった?」

「は、はい……。あなたは……?」

 

 ライハが雪乃たちに声を掛けている一方で、男は八幡に近寄ってきて、彼を見下ろした。

 

「君も大丈夫だったかい? 女の子を助けようと我先に飛び出すなんて、勇敢だね」

「い、いえ……。俺、結局何もしませんでしたし……」

「そんなことはない。格好よかったよ」

 

 男は満面の笑みで八幡をねぎらった。――しかし、その途端に八幡の背筋に何かうすら寒いものが走った。

 

「そ、そうだよ! ヒッキーも、助けてくれようとしてありがと!」

「ええ……その……ありがとう……」

 

 結衣と雪乃が取り成すように礼を言った。結衣は男の方にも振り返る。

 

「あなたも、ありがとうござ……あれ?」

 

 しかし、いつの間にか男の姿は影も形もなくなっていた。

 

「いない……。もう行っちゃったのかな?」

「私も、さっきの宇宙人を追いかけるわ。あなたたちは気をつけて帰ってね!」

「あっ、ちょっと!?」

 

 ライハがツルク星人を追って、瞬く間に走り去っていった。後に残されるのは、ポカンとしている結衣たち。

 

「何だったんだろう、あの人たち……」

「……そう言えば比企谷くん。あなた女の人の名前を呼んでなかった? お知り合いなの?」

「えッ!? そ、それはだな……」

 

 目敏い雪乃が問いかけると、結衣が妙に焦りながらズイッ! と八幡に詰め寄ってきた。

 

「そ、それホントなのヒッキー!? あの人誰!? どういう関係なのぉ!?」

「そ、それはえーっと、知り合いって言うか何て言うか……」

 

 説明に窮した八幡が目を泳がせながら、話題をすり替える。

 

「さ、さっきの男の方、何か変じゃなかったか?」

「あーっ! ごまかすなぁ!」

「変って何が? あんな異常な状況で助けてくれた、いい人だったじゃない」

 

 騒ぐ結衣を置いて雪乃が問い返すと、八幡はこの瞬間だけ険しい表情となった。

 

「いや……さっき俺に笑顔向けたんだが……明らかに、嘘っぽかったんだよな……」

 

 

 × × ×

 

 

 逃亡したツルク星人は、総武高校周辺から離れた場所の廃工場に身を隠していた。ほとぼりが冷めたら、次の得物を探しに出向こうというつもりだ。

 だがその場に――先ほどの男が踏み込んできたので、ツルク星人は思わず立ち上がった。

 

「騒動を聞きつけて、興味本位でこの星にやってきたか……。だがその好奇心が身を滅ぼす」

 

 男からは、八幡たちに見せていた爽快さが跡形もなく消え失せていた。――ツルク星人にも負けない悪辣な嗜虐心を表情いっぱいに湛えている。

 

「ここは俺のテリトリーだ。勝手な真似はやめてもらおうか、下郎風情が」

「キュキュウーイ!」

 

 ツルク星人は問答無用で男に飛び掛かり、刀を縦一文字に振り抜く。

 男は簡単に、左右に真っ二つに切り裂かれた。

 

「キュキュウーイ!」

 

 着地したツルク星人が、馬鹿め、とせせら笑いながら振り返るが――。

 後ろから蹴り飛ばされ、仰向けに押し倒された。

 

「馬鹿はお前だよ……!」

 

 男が、手に先端が楕円形に膨らんだ長杖を握りながら、ツルク星人を足で押さえていた。――真っ二つになったままで。

 いや、その身体が映像の巻き戻しでもするかのようにくっついていく。

 

「!?!?!?」

 

 ツルク星人は押さえつけられたまま完全に混乱していた。完全に元通りに再生した男はその顔を見下しながら悪しき笑みを浮かべる。

 

「この俺を手に掛けようという身の程知らずめ。判決を言い渡す……!」

 

 男の握る杖の先端から――紫色の光刃が伸びて、大鎌のようになった。

 

「死刑ッ!!」

 

 それが振るわれ――ツルク星人の首がゴロゴロと転がっていった。

 首を切り離された肉体が粉微塵に爆ぜ散ると――男の後方から、全身肌色の怪人と白いエビが直立したような怪人が現れる。

 

『お見事な手際です、レイデュエス殿下』

『かのツルク星人をこうも容易く屠るとは』

 

 持ち上げながら男をレイデュエスと呼んだ宇宙人――バド星人とゴドラ星人に、レイデュエスは振り返る。

 

「今の奴なんぞどうでもいい。それよりオガレス、ルドレイ、見てたか? さっきの間抜けな男を」

『ええ。しかと』

「あれが、ウルトラマンジードの一体化した奴だぞ……」

『そのようですなぁ……』

 

 レイデュエスがそう言うと、三人は一瞬静かになり――。

 

「――ア―――――――ハハハハハハハハハハハッ!!」

 

 そろって大爆笑した。

 

「よりによってあんなシーリザーみたいな目をした奴と! ウルトラマンジードめ、大気圏から落下した時に頭打ったんじゃないのか!?」

『いやはやおっしゃる通りですなぁ殿下!』

『実に傑作です! ウワハハハハハ!』

 

 八幡を散々笑い飛ばしたレイデュエスは、にやつきながらバド星人オガレスとゴドラ星人ルドレイの間を通り抜ける。

 

「確認ついでに、ちょっと奴らをからかってやろうじゃないか。昨日は上手いこと切り抜けられたが、今度はどうなるかなぁ?」

 

 その手は杖から持ち替えられて、シオマネキのように右腕が肥大化したハサミのようになっているロボットが描かれたカプセルが握られている。

 

「宇宙指令S38!」

 

 レイデュエスは叫びながらカプセルのスイッチをスライドした。

 

「イッツ!」『ウオォンウオォン……!』

 

 起動したカプセルを装填ナックルに押し込むと、次いで卵に手足が生えたようなロボットのカプセルを取り出す。

 

「マイ!」『ギィィィィ……!』

 

 ナックルに収めた二つのカプセルを、レイデュエスは紫色のライザーでスキャンする。

 

「ショウタイム!!」

 

 ライザーのトリガーを握り込んで、その機能を起動させる。

 

フュージョンライズ!

「ハハハハハハハハハッ!」

 

 暗黒の異空間の中、レイデュエスの姿が黒い異形の影に変わるとともにカプセルから二体のロボット怪獣のビジョンが現れ、それらが影の口の中に吸い込まれていく。

 

クレージーゴン! ガメロット!

レイデュエス! クラッシャーゴン!!

 

 黒い影が形を変えていき、フランス人形とレコードプレイヤーを踏み潰して、融合獣が完成した!

 

 

 千葉市内の、自動車の往来が多い大通りの真ん中に、怪しい光の柱とともに、巨大なロボット怪獣が出現。街中の人々は一気にパニックに突き落とされた!

 

 ウオォンウオォンウオォン……! 

「ギィィィィ……!」

 

 顔面が、右半分がスケルトンとなって歯車が見えているガメロットのものであり、右腕がクレージーゴンの巨大なハサミ、左腕がナックル、腹部はシャッターとなっていて、そして胸部に紫に光る七つの発光体を備えたロボット。クレージーゴンとガメロットの機構を合体させたレイデュエス融合獣、クラッシャーゴン!

 

「ギィィィィ……!」

 

 クラッシャーゴンは足元の自動車にハサミを伸ばすと摘み上げ、腹部のシャッターを開いてその中に放り込んだ。入れられた車はたちまちスクラップにされてしまう。

 クラッシャーゴンはまだ人が残っている車も構わずに狙い、ハサミで捕らえ始めた!

 

 

 × × ×

 

 

 自動車を狙って活動を開始したクラッシャーゴンの巨体は、遠くの雪乃たちの目にも映り込んだ。

 

「あ、あれ! また怪獣だよ! や、あれはロボット!?」

「ロボットって……昨日から一体世の中はどうなってしまったというのよ……!」

 

 それまでの日常からでは考えられなかった世界の変化に、雪乃は思わず吐き捨てた。

 

「ゆきのん、遠くだけど早く逃げよう! ヒッキーも……あれ?」

 

 八幡の方へ振り向く結衣だったが、その時には八幡の姿までもが忽然と消えていた。

 

「もぉー! どこ行ったのー!? ヒッキーまでぇぇ―――!!」

 

 

 八幡はクラッシャーゴンの姿を確認してすぐに、無人の街角に飛び込んでいた。

 

「ジード……これってもしかしなくても、俺が変身しなきゃいけない場合……?」

 

 一応八幡が確認を取ると、ジードは即答した。

 

『察しが良くて助かるよ! 八幡、一緒に頑張ろう!』

「やっぱりかー……」

 

 はぁ~……と大きなため息を吐いた八幡だが、ここで問答していても仕方がない。腰のケースからその手にウルトラマンカプセルを取った。

 

『ユーゴー!』『シェアッ!』

『アイゴー!』『フエアッ!』

 

 昨日と同じ手順でカプセルを起動していくと、ウルトラマンとベリアルのビジョンが八幡の左右に現れた。

 

『ヒアウィーゴー!』

 

 そして装填ナックルに収めたジードライザーでスキャン。

 

[フュージョンライズ!]

『ジィィィ―――――――ドッ!』

 

 八幡は二人のビジョンと合体し、ウルトラマンジードへ変身していく!

 

[ウルトラマン! ウルトラマンベリアル!]

[ウルトラマンジード! プリミティブ!!]

「シュアッ!」

 

 飛び出したジードが空を駆け、クラッシャーゴンに襲われる街の中に降り立った!

 



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果たして比企谷八幡に勇気ある戦いは出来るのか。(B)

 

「ギィィィィ……!」

 

 クラッシャーゴンに踏み荒らされる大通りに着地したジードが顔を上げると、その目に飛び込んできたのは、巨大なハサミに摘み上げられたハイヤーであった。しかも車内には人の影がある。

 

『いけない!』

『「こんのぉッ!」』

 

 ジードはすぐにクラッシャーゴンに飛び掛かり、相手の右腕とハイヤーを押さえてシャッターの中に放り込まれるのを防ぐ。

 

「ギィィィィ……!」

「ウゥゥゥ……!」

 

 万力のようなパワーで抵抗するクラッシャーゴンに苦戦するジードだったが、渾身の力で相手の腕をひねり上げ、ハイヤーを奪い取ることに成功した。

 

「タァッ!」

 

 その一瞬、八幡はハイヤーの後部座席に、見知った顔が乗っているような気がした。

 

『「ん? 雪ノ下……?」』

 

 しかし今しがた一緒にいた雪乃がこのハイヤーの車内にいるはずがない。よく確かめている暇もないので、ジードはハイヤーをクラッシャーゴンから離れた道路の上にそっと置いた。ハイヤーは直ちに発進して逃げていく。

 

「ギィィィィ……!」

 ウオォンウオォンウオォン……!

 

 クラッシャーゴンはハイヤーを奪い取られた代わりのように標的をジードに移し、鈍い駆動音を鳴らしながら接近してきた。ジードは振り返ってクラッシャーゴンに殴りかかる。

 

「ハァッ!」

 

 鋭いチョップを頭部に打ち込むが……自分の手を痛める結果になってしまう。

 

『「いっでぇぇぇ!? さっきから痛がってばっかだ!?」』

『硬すぎる……! この姿じゃ不利だ!』

『「この姿じゃって、どうすんだ!?」』

 

 一旦距離を取ったジードは八幡に指示を飛ばした。

 

『フュージョンライズし直そう! セブンカプセルを出して!』

『「あ、ああ!」』

 

 八幡は事前に教えられた通りのカプセルをケースから取り出した。刃物状のトサカが生えた真紅のウルトラ戦士のカプセルだ。

 

『ユーゴー!』

 

 そのスイッチをスライドして起動!

 ……しようとしたのだが、スイッチを入れてもカプセルはうんともすんとも言わない。

 

『「あれ!? 何も起こらないんだけど!?」』

『えッ!? そんな馬鹿な! もう一度!』

 

 八幡は焦りながらもスイッチを戻して、もう一度スライドする。

 

『ユーゴー!』

 

 ……しかし、やはりカプセルは光らなかった。ビジョンも一向に現れない。

 

『ど、どうしてだ!?』

『「壊れてるんじゃねぇの!?」』

『そんな馬鹿な……うわぁッ!』

 

 戸惑っている間に、ジードがクラッシャーゴンに蹴り倒された!

 

(♪進撃(M38A))

 

「ギィィィィ……!」

「ウッ! グゥッ!」

 

 倒れたジードの腹をぐりぐりと踏みにじるクラッシャーゴン。ジードはどうにか相手の足を押し返して脱出、転がって距離を開けるものの、

 

「ギィィィィ……!」

 

 クラッシャーゴンは脚部の関節のバネを軋ませて、大ジャンプでジードに飛び掛かる!

 

「ウワァァッ!」

 

 飛び膝蹴りを顔面に食らって転がるジード。更に七つの発光体からの赤いレーザーを浴びせられて更に苦しめられる。

 

「ウッ! グワアァァァァッ!」

「ギィィィィ……!」

 

 もがくジードの首をクラッシャーゴンのハサミが捕らえ、ギリギリと締め上げる。ジードは余計に悶絶し、カラータイマーが青から赤に変わった。危険信号だ。

 

『「うッ、うぅぅぅぅ……!」』

『まずい、このままじゃ……!』

 

 八幡も苦しめられ、焦るジードだが、状況に合わせたフュージョンライズによる形態の使い分けこそが彼の最大の強み。それが使えないのでは、十全の実力を発揮できないのである。

 

『こうなったら……いちかばちかッ!』

 

 それでもジードはあきらめずに、勝負に出た。

 

「ハァッ!」

 

 最後に残った力を振り絞ってハサミを開くと、その隙に自ら後ろに倒れ込んで拘束から脱する。一瞬身体が自由になった間に、腕を十字に組んでエネルギーを纏わせた。

 

「『レッキングバースト!!」』

 

 ジードの背面が地面につくと同時に発射された光線が、クラッシャーゴンに突き刺さる!

 

「ギィィィィ……!」

 

 光線を正面から受けたクラッシャーゴンから爆発が生じ、もうもうと立ち上った黒煙が辺りを覆い隠す。

 それとともに、ジードもまた忽然と姿を消したのであった。

 

 

 × × ×

 

 

 戦闘後、変身が解けた八幡は星雲荘に帰投し、レムに質問をしていた。

 

「さっきのロボット、あれで倒せたか? 最後どうなったかよく見えなかったんだよ」

 

 出来ればそうであってほしい、と八幡は願っていたのだが、レムの回答は、

 

[いえ、恐らく一時的に撤退しただけでしょう。高確率で、明日にでも再び現れるものと思われます]

「ま、マジでか……」

 

 唖然と立ち尽くす八幡。彼に代わって、ペガが疑問を口にする。

 

「でも、どうしてセブンカプセルが反応しなかったの? こんなこと初めてだよ!」

 

 それについて、レムが分析結果から回答を導き出した。

 

[それはカプセル内のリトルスターの波長と、ハチマンの精神の波長の同調率が著しく低いからと推測されます]

「リトルスター?」

 

 オウム返しに問い返した八幡に、ライハから説明がなされた。

 

「簡単に言えば、ウルトラカプセルを動かしてるエネルギーよ。私たちはこれを巡った戦いをいくつもしたのだけれど……」

 

 次いでレムが語る。

 

[リトルスターはいわば、ウルトラ戦士の力の結晶です。その力を扱うには、彼らの精神の主たる部分を占める勇気の感情が必要となります。ハチマン、あなたは深層心理においてこの感情が必要数値に達していないので、精神の波長がリトルスターとシンクロせずカプセルを起動させられないのです。現状フュージョンライズできるのは、ジードの基本形態であるプリミティブのみとなっています]

 

 レムの話を受けて、八幡がかなり気まずそうに聞き返した。

 

「えーっと、要するに……俺が足引っ張ってるってこと?」

[リクがあなたと一体化した以上、リクはあなたの影響を受けます。良いようにも悪いようにも。そういうことです]

「つまり、勇気が足りないからウルトラ戦士の力が応えてくれないってところね」

 

 ライハのまとめのひと言で、八幡はズーン……と落ち込んだ。

 

「勇気って何だよ……。日食が来れば見えるものなのかよ……?」

 

 どんよりとブツブツつぶやく八幡だが、ジードは彼を励ますように言う。

 

『八幡に勇気がないなんてことはないはずだ!』

「ジード……」

『僕は確かに、八幡の中に強い勇気があるのを見た。きっと、普段は隠れてて見えないだけなんだ。僕は八幡、君を信じるよ!』

 

 と力説するジードだが、そこでペガが水を差すように口を挟んだ。

 

「でもあの融合獣がまた現れた時に、他のカプセルが使えないのはまずいよ。同じ手はもう通用しないだろうし……」

「そうね。それまで、つまり明日までにどうにかしないと……」

 

 ライハも同意し、二人で八幡をじっと見つめた。注目を集めた八幡は、実に気まずそうに目を泳がせる。

 

「そ、そんなこと言われたって、たった一日でどうしろと……」

 

 戸惑う彼にジードが説いた。

 

『とにかくやるしかない! こういう時こそ、ジードの精神だ!』

「は? ジードの?」

 

 何のことか分からない八幡が聞き返すと、ジードが説明する。

 

『ジーッとしてても、ドーにもならない。悩んでないでまずは行動から! それが僕の信条さ』

「信条って……まさかそれが名前の由来?」

『まぁ別の意味もあるんだけど……ところで八幡は何か信条ってあるの?』

 

 聞かれた八幡は、ポツリと答えた。

 

「押してだめなら諦めろ……」

「うわぁ……」

 

 ライハやペガがドン引きしていた。

 

「い、い、いいじゃないか人の信条なんてッ!」

 

 流石にいたたまれなく、どもりながら反論する八幡であった。

 

 

 そんなこんなで八幡が全てのウルトラカプセルを使えるようにする訓練が実施されたのだが――何をどうすれば良いのかも分からない状態であるため、当然のように上手くはいかなかった。

 

「う~ん……一向に変わらないねぇ」

 

 上にライハに乗っかられて、汗だくになりながら腕立て伏せさせられている八幡をながめながらペガが肩をすくめた。

 

「いっそのこと、ジープで追いかけ回すのはどうかしら」

「や、やめて下さい! それだけはッ!」

 

 ライハの提案に八幡が必死な声で懇願した。

 結局、何も変わることのないまま八幡は明日を迎えることとなった――。

 

 

 × × ×

 

 

 翌日、奉仕部の部室。

 

「ふーん……あのライハっていう女の人、ヒッキーの中学の先輩なんだ」

「まぁ……そんなとこだ」

 

 八幡が結衣に、ライハのことをごまかしていた。総武には八幡の中学時代の同級生はいないので、多分ばれる恐れはないだろう。

 

「っていうか俺の人間関係なんかどうだっていいだろ。何で蒸し返すんだよ」

「べっ!? 別に大した理由じゃないよ! 何かすごい剣振り回してたから、ただ興味を引かれただけなんだから!」

「ああいう趣味の人なんだ」

「そうなの? それにえーっと……ろくに友達がいないヒッキーには珍しいなーって思っただけだから!」

「そうですか……」

 

 聞き返された結衣はわたわたしながらそう答えた。それから焦ったように話題を切り換える。

 

「そ、それと、昨日何かすっごいジャンプしてなかった? ヒッキーあんなに運動神経いいの?」

 

 今度は八幡がギクッ! と肩を震わせた。今の彼はジードと一体化した影響で身体能力が人間離れしたほどに向上しているのだが、まだそれを上手にコントロールできていないのであった。

 

「あ、あれはちょっと勢いつき過ぎただけだ! パニくると勢い余っちまうことってあるだろ!?」

「そんなレベルじゃなかったと思うんだけどなぁ……」

 

 ごまかす八幡だが、今度は結衣も疑い深かった。雪乃に振り向いて尋ねかける。

 

「ねぇ、ゆきのんはどう思う?」

 

 すると雪乃は、妙に無言を貫いてから、平坦な口調で答えた。

 

「……由比ヶ浜さん、あまり他人のことについてどうこう言うのは良くないわ」

「えっ? あぁ、うん、そうだね……」

「比企谷くんがたまたま大きくジャンプしたからと言って、特にあげつらうことでもないでしょう。気にすることじゃないわ」

 

 諭されて結衣は質問を取りやめたので助かった八幡ではあったが、しかし雪乃の様子と言動が気に掛かった。いつもの彼女だったら、八幡をかばうようなことを言ったりはしないはずだ。

 

(どうしたんだあいつ……。そう言えば、昨日からちょっと様子がおかしいような)

 

 表面上は変化がないように見える雪乃を密かに観察しながら疑問を抱いていた、その時。

 

「あっ!? あれっ!」

 

 急に町のスピーカーから警報がけたたましく鳴り渡り、三人が何事かと窓の外を見やったら――昨日のクラッシャーゴンが再び町の中に現れていた! 八幡たちの懸念は的中してしまった。

 しかも総武高校からそう遠く離れていない場所だ。

 

「近いな……! 逃げるぞ雪ノ下、由比ヶ浜!」

「う、うん!」

 

 八幡の促しで、三人は駆け足で避難していく――のだが、途中で最後尾の八幡が密かに二人から離れ、無人の廊下へと駆け込んだ。

 

「……」

 

 周囲に誰もいないことを確認してから、セブンカプセルを取り出してスイッチを入れる――が、やはりカプセルは起動しなかった。

 

「駄目か……」

『八幡……』

 

 カプセルにじっと目を落としたまま立ち尽くす八幡。ジードも、無理に変身を命ずるようなことはしない。

 他の形態にフュージョンライズできない以上は、プリミティブのまま戦うか。しかしそれだと勝ちの目は薄い。もし負けてしまったら、自分の命は……。そのことを想像すると、八幡はどうしても二の足を踏んでしまう。

 そう立ちすくんでいると、

 

「比企谷くんっ! こんなところで何をやってるの!」

「おわッ!?」

 

 背後から雪乃がこちらへ駆け寄りながら呼びかけてきた。どうやら自分がついてきていないことに気づいて、引き返してきたようだ。

 

「捜したわよ。一体こんなところで何を油売っているの。一番に逃げることを口にした人間が立ち止まってるなんてどういうことかしら?」

「ゆ、雪ノ下! お前、どうしてわざわざ俺なんかを……」

「一応、一応よ。あなたは奉仕部の部員であり、私は部長なのだから、あなたの安全を図るのは私に課せられた義務なのよ。不本意なことなのだけれどね」

 

 わざわざ毒を吐く雪乃だが、その表情は極めて真剣であり、本心から八幡の心配をしているのが見て取れた。八幡は雪乃の予想外の反応に驚いている。

 

「いや、でも俺は……」

 

 何と言えばいいかと言いよどんでいると、外でクラッシャーゴンが大きく足踏みをして、それで発生した地響きが総武高校の校舎を襲った。

 

「わわッ!」

「きゃっ!」

 

 八幡と雪乃は足元が揺れたことで転倒しそうになり、八幡は咄嗟に雪乃の手を取って彼女を支える。

 

「!? うわっちぃぃッ!?」

 

 ところが雪乃の手の平が異様に熱かったので、思わず叫んで手を放してしまった。

 

「な、何するのよ! 失礼ね!」

「わ、悪い……。けど雪ノ下、お前名前に反して体温高いんだな……」

「こ、これはその……」

 

 八幡が唖然と聞き返すと、雪乃は何故か言葉を濁す。

 一方で、ジードは何かを考え込んでいた。

 

『手の平が熱い……昨日の机を折る腕力……まさか……!』

 

 そんなことは露知らず、雪乃はふと足元に目をやった。先ほど八幡が手を放した際に落としたセブンカプセルが、彼女の足元に転がったのだ。

 

「あら? 比企谷くん、何か落としたわよ。何これ?」

 

 雪乃がそれを拾うと……。

 

「きゃっ!?」

 

 カプセルが青く発光し始めたのだ! 驚く雪乃だが、八幡も目を見張っている。

 

「こ、これは……!?」

 

 咄嗟に装填ナックルに触る八幡。これに触れると、レムと通信できるのだ。

 

[カプセルのリトルスターが彼女に反応しています]

『そうか……よしッ!』

 

 レムの回答で、ジードは決心した。

 

『雪ノ下さん! そのカプセルのスイッチを入れるんだ!』

「ジ、ジード!?」

 

 慌てる八幡。ジードが雪乃にも聞こえる声でしゃべったからだ。

 

「え? 今のは誰が……」

『早くッ!』

 

 当然呆気にとられる雪乃であったが、ジードに急かされて反射的にスイッチをスライドする。

 

『ユーゴー!』

『ダーッ!』

 

 瞬間、カプセルからウルトラセブンのビジョンが現れて腕を振り上げた!

 

「な、何なのこれ!?」

『八幡!』

 

 仰天する雪乃を置いて八幡は彼女からカプセルを取り、ナックルに収めた。そして自分が二つ目となる、レオカプセルのスイッチを入れる。

 

『アイゴー!』

『イヤァッ!』

 

 セブンカプセルと反応してレオカプセルも起動。レオのビジョンが腕を振り上げる。

 

『ヒアウィーゴー!!』

 

 ナックルに装填したカプセルをジードライザーでスキャンし、準備完了! 八幡がトリガーを握り、フュージョンライズを発動した!

 

[フュージョンライズ!]

『ジィィィ―――――――ドッ!』

 

 二人の超人のビジョンが――雪乃も巻き込んで――八幡と重なる!

 

[ウルトラセブン! ウルトラマンレオ!]

[ウルトラマンジード! ソリッドバーニング!!]

 

 螺旋を描く火花と青い炎が弾け、赤い炎と緑の光の螺旋の中から、プリミティブとは姿の違うジードが飛び出していく!

 

「ドォッ!」

 

 

「ギィィィィ……!」

 

 再び出現したクラッシャーゴンは、逃げ惑う人々を蹴散らすように、鋼鉄の巨体で町を蹂躙していく。

 だがその面前に、空から炎の塊が落下してきた!

 

「あ、あれは!?」

 

 思わず立ち止まって振り返る人々。彼らの視線の先で炎が弾け、熱気で大気を歪ませながら、ウルトラマンジードが立ち上がる。

 

「ウルトラマンジード……!?」

「何か鎧着てね!?」

 

 葉山や戸部が驚愕している。今のジードは真紅の身体に、可変のプロテクターを全身に装着しているのだ。頭部にはセブンのトサカとレオの羽状の突起が生えている。そしてぐっと両腕を振り上げると、背面や腕のスラスターからブシューッ! と蒸気が噴出した。

 これがウルトラマンジードの第二の姿、攻勢と防御両方に優れたソリッドバーニングだ!

 

『「な、何なのこれは!? 一体どうなっているの!?」』

 

 そしてジードの内部では、雪乃が普段の冷静沈着な様子が見る影もないほど狼狽していた。流石の彼女も、現在自分が置かれている状況は受け入れられないようだ。

 ソリッドバーニングへのフュージョンライズに、雪乃がセブンカプセルを起動した関係上、彼女もジードの中に入り込んだのであった。

 

『「比企谷くん、ここってまさかジードの体内……!?」』

 

 理解してきた雪乃が八幡に尋ねるが、八幡はクラッシャーゴンから目を離さないままだった。

 

『「悪い雪ノ下。少し集中させてくれ! 敵は目の前なんだ!」』

 

 と言われて、雪乃は思わず口をつぐんで大人しくなった。彼女と入れ替わる形でジードが八幡に呼びかける。

 

『遂にフュージョンライズできた。だけどここからが正念場だよ、八幡!』

『「ああ、分かってる……! こうなったからにはやってやるぜ……!」』

 

 戦意を新たにした八幡が、己に勢いをつけるために宣言した。

 

『「燃やすぜ……勇気!」』

 

(♪ウルトラマンジードソリッドバーニング)

 

「ドォッ!」

 

 クラッシャーゴンへとまっすぐに向かっていくジード。クラッシャーゴンは巨大なハサミを振り回して迎え撃ってくるが、それをジードは手の甲で弾き返した。

 そして右腕を後ろに大きく引き絞ると、腕のスラスターから紅蓮の炎が噴き出してブーストとなる。

 

「ドゥオォッ!」

 

 加速された拳がクラッシャーゴンに入り、その重量感あふれる巨体が後ずさった。ジードの攻撃力が上回ったのだ!

 

『「思い切り殴っても手が痛まない! これならいける!」』

 

 そしてジードの手に、鋼鉄を全力で殴ってもダメージがないことに八幡は感激していた。これで戦いは同じ土俵になったと言えよう。

 

「ギィィィィ……!」

 

 クラッシャーゴンは接近戦を捨て、胸部の七つの発光体にエネルギーを集めた。光線を撃とうという合図だ。

 

「フオオオオ……!」

 

 対して、ジードも胸のプロテクターに光エネルギーを充填させた。両者の光線が同時に放たれる。

 

『ソーラーブースト!』

 

 ジードの光線とクラッシャーゴンの光線が正面衝突し、しばし押し合いとなったが、ジードがエネルギーを高めたことで押し切る。

 

「ハァァァァッ!」

「ギィィィィ……!」

 

 光線を食らったクラッシャーゴンの発光体が潰れ、光線を撃てなくなった。それで脚部のスプリングを軋ませ、ジャンプ攻撃に転じようとする。

 しかしそれを黙って見ているジードではない。頭部の刃物状のトサカ――ジードスラッガーを手に取って脚のスラスターに接続し、飛び蹴りを繰り出す。

 

『ブーストスラッガーキック!』

 

 スラッガーを得たキックはスプリングを切り裂き、クラッシャーゴンはバランスを崩して片膝を突いた。

 

「ギィィィィ……!」

 

 機動力を失ってもクラッシャーゴンは立ち上がろうとする。そのためジードはいよいよとどめの攻撃に入った。

 

『これで最後だ! 二人とも、意識を集中させて!』

『「ああ!」』

『「え、ええ……!」』

 

 ジードの右手首が十字型に開き、緑色の光が溢れた。光と炎に包まれた腕を、クラッシャーゴンを殴り飛ばすかのように前に突き出す。

 

「『ストライクブースト!!」』

 

 握り拳を作った右腕から炎を纏った光線が発射され、クラッシャーゴンに直撃!

 

「ギィィィィ……!!」

 

 一瞬火だるまとなったクラッシャーゴンは、ダメージに耐え切れずに爆散を起こした。

 

「やったぁ!」

 

 ジードの勝利に結衣が短く歓声を上げて喜んでいたが、落ち着きが戻ったところで呆気にとられた。

 

「あれ? ゆきのんとヒッキーは?」

 

 結衣が八幡たちを訝しんでいるとは知らず、ジードはそのまま大空へと飛び上がってどこかへと去っていったのだった。

 

「シュワァッチ!」

 

 

 クラッシャーゴンが爆発した現場では、レイデュエスの足元にバキバキにひび割れたクレージーゴンとガメロットのカプセルが転がっていた。

 レイデュエスはそれを拾おうともせず、ジードの飛び去っていった方向をじっと見上げていた。

 

「なるほど……少しはやるみたいだな」

 

 

 × × ×

 

 

[……というのが、ウルトラマンジードを取り巻くおおまかな現状です]

 

 その後の星雲荘では、ここに案内された雪乃がレムから説明を受けていた。カプセルを使用してジードに力を貸した以上は、放置しておく訳にはいかないからだ。

 

「なるほど……大体のところは理解したわ」

 

 レムの説明にひと言つぶやいてうなずいた雪乃を、ペガが感心したように見つめていた。

 

「飲み込みが早いね、雪乃は。八幡なんか、なかなか信じようとはしなかったのに」

 

 その言葉に、雪乃はさも当然かのように返した。

 

「ここまでの状況を目にして、作り物か何かで片づけようとするなんて、その方が非合理的だわ。それにジードの足を引っ張った挙句に私がいなかったら状況を打破できなかったなんて……全くろくでなしくんは比企谷くんね。間違えたわ、比企谷くんは比企谷くんね」

「おい二重にボケるな。人の名前を何の代名詞にするつもりだよ」

 

 納得して安心したのか毒舌が戻ってきた雪乃に、ペガやライハは苦笑いを浮かべていた。

 しかし雪乃は不意に八幡から顔をそらしたかと思うと、おずおずと恥ずかしそうにしながらこう告げる。

 

「でも……三日前からずっと、比企谷くんが助けてくれていたのね。そのことは……ありがとう」

 

 と結んだ瞬間、雪乃の慎ましやかな胸元からほのかな赤い光が生じた。

 

「えっ!?」

 

 雪乃のみならず全員が驚く。そんな中で光は雪乃から離れ、八幡の腰のカプセルケースに移った。

 八幡がケースから光が宿ったカプセルを取り出すと、白紙だった表面に赤い戦士の絵柄が浮かび上がる。

 

『タァーッ!』

[リトルスターの譲渡を確認。アストラカプセル、起動しました]

『やっぱり……雪乃はリトルスターを発症してたんだ』

 

 レムが淡々と告げ、ジードが納得した。それとは対照的にペガは驚愕している。

 

「リトルスター!? どうしてこの世界にリトルスターが……!?」

「確かに。リトルスターは自然に発生するものじゃなかったはずよ」

 

 ライハも尋ねかけるが、レムは次のように回答する。

 

[不明です。調査の必要があります]

「どうやら、謎はまだまだ多そうね……」

 

 八幡は今一つ話についていけずに呆然としているが、そこに雪乃が呼びかけた。

 

「比企谷くん、これからは私もジードに協力するわよ。でもあなたに力を貸す訳ではないから。変な勘違いをしないでちょうだい」

「わざわざ注釈してくれなくていいっつぅの……ってお前、それ本気か!?」

「当然じゃない。比企谷くんだけではジードが迷惑するのでしょう? 見ていられないから助けてあげるのよ。感謝の気持ちを二千字以内に書き記して明日までに提出すること」

「何で宿題になるんだよ……」

 

 奉仕部だけじゃなく、この星雲荘でもこいつの顔を見なきゃならんのか……とげっそりする八幡だったが、不思議と悪い気分ではなかった。

 

 

 

『ウルトラストーリーナビ!』

 

雪乃「今回は『ウルトラセブン』第三十八話「勇気ある戦い」よ」

雪乃「モロボシ・ダンは心臓手術に恐怖を抱いているオサム少年を励ますために、手術に立ち会う約束をしたのだけれど、同時期に渋滞を起こしていた車両が何十台も消失するという事件が発生。犯人は鉄資源の強奪を狙うバンダ星人。約束の手術までにバンダ星人のたくらみをくじいたように見えたのだけど、円盤を爆破した際の衝撃で車両回収用のロボットが暴走してしまう……という内容よ」

雪乃「話の筋としては、手術を恐れる子供に主人公が勇気を示すという、よくある類のものね。だけど奇をてらわない王道のストーリーは、やはり確かな魅力があるものだわ」

雪乃「ロボット怪獣クレージーゴンの名前は劇中では一切言及されないわ。反対に、バンダ星人は最後まで姿が不明のままで終わるの」

リク『セブンでは姿が分からない宇宙人も結構多かったね。挙句には名前も不明なのもいるんだよ』

雪乃「それでは次回でお会いしましょう」

 




「ゆきのん、ヒッキー……この間は二人でどこに行ってたの?」
『関東圏上空に、宇宙から鳥型の怪獣が飛来しました!』
「もしかして、あのザンドリアス?」
[ライハとペガでは、そもそもハチマンとの波長が合いません]
「由比ヶ浜がいると、何かとやりづらいよな……」
「世間がもっと盛り上がるようにこの俺が演出してやろうというんだ」
[アクロスマッシャーの浄化能力が必要です]
『やろう、八幡!』
『「見せるぜ……衝撃!」』



次回、『大空より愛をこめて、由比ヶ浜結衣が舞う。』



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大空より愛をこめて、由比ヶ浜結衣が舞う。(A)

 

 町外れの天文台地下に設置された、ジードたちの秘密基地『星雲荘』。そこで八幡と雪乃が、レムから教示を受けていた。

 

[それではこれより、リトルスターとは何かをお教えします]

 

 内容は、先日雪乃の胸の中に生じ、今はカプセルに移った光の結晶のことについてである。

 

[リトルスターとは、カレラン分子という物質が生命体の体内に宿り、宇宙を循環する幼年期放射というエネルギーを引き寄せて蓄積されることで生成されるエネルギー体です。このリトルスターを発症した生命体は、ちょうどユキノのように、初期症状として手の異常発熱が起こり、その後本来の能力にない超能力が身につきます。超能力の種類は、リトルスター毎に異なります]

「雪乃の場合は、人間離れした怪力だったという訳だね」

 

 説明に立ち会っているペガがつぶやいた。しかし、今の雪乃の腕力は元の通りに戻っている。

 

[リトルスターはウルトラマンに対して生命体が祈ることによってのみ、肉体から切り離されます。一度肉体から離れると、超能力は失われます。そしてこのリトルスターがウルトラカプセルの原動力であり、一つのリトルスターにつき一個のカプセルが起動するのです]

 

 話を聞きながら、八幡は手の中でセブンカプセルやレオカプセルなど、ジードたちが元々所有していたウルトラカプセルを転がした。

 

「ってことは、ここにあるのはジードたちが元の世界で集めた奴なのか」

『うん。ちなみにリトルスターが宿るのは地球人だけじゃなくて、生き物だったら何でもいいんだよ。宇宙人や宇宙生物が宿主だった時もあった』

「怪獣に宿ってたものもあったわよね」

 

 ジードとライハが補足し、次いでレムに説明が戻る。

 

[そしてここが重要なポイントなのですが、リトルスターの高エネルギーは怪獣を引き寄せる性質があります]

「え!?」

[私たちの世界では、リトルスターの宿主が怪獣や宇宙人に狙われるケースが相次ぎました]

 

 物騒な内容に、八幡と雪乃は思わず顔を見合わせた。ライハたちも渋い顔つきとなっている。

 

「どうしてこっちの世界にもリトルスターがあるのかは分からないけど……雪乃の一つだけで終わりということはないでしょうね」

「うん……。多分、これから続々とリトルスターを発症する人が出てくるはずだよ」

 

 懸念するペガに、雪乃も心配を寄せる。

 

「今度はその人たちが危険な目に遭うということですか? 事前にどうにかならないのでしょうか……」

 

 ジードは残念そうに答えた。

 

『リトルスターの発生は、発症してからでないと分からないからね……外見的な変化は全くないし。僕たちの世界じゃ、リトルスターの宿主を保護する団体があったんだけど……』

[少なくとも、ここにいる私たちだけでは全てのリトルスター発症者を保護することは実質不可能です]

 

 どうすることも出来ないという事実に、八幡と雪乃は胸を痛めた。すると、それを慰めるようにジードが告げる。

 

『ジーッとしてても、ドーにもならねぇ! 次の発症者が現れたら、その時にやれる限りのことをしよう。レムはいつどこでリトルスターが生まれても対応できるように、出来る限りセンサーを張り巡らせてくれ』

[分かりました]

 

 ジードが話を締めくくると、ライハが時計を確認して八幡と雪乃に呼びかけた。

 

「とりあえず、リトルスターのことは私たちに任せてちょうだい。あなたたちはそろそろ学校の時間よ」

「ああ、もうそんな時間なのか」

 

 八幡たちが立ち上がると、ペガが八幡の影の中に入り、レムがエレベーターを総武高校付近にセットした。二人は登校前の時間に星雲荘に立ち寄っていたのだ。

 八幡はエレベーターをしげしげと見つめながらため息を吐く。

 

「いやぁしかし、このエレベーター便利だよな。これがあれば好きなとこにあっという間に移動できる。遅刻とも無縁になるな。ウチに一台欲しいくらいだ」

「比企谷くん、そんな不純な動機での利用なんて人として恥ずかしくないのかしら? 遅刻はあなたが努力すればいくらでも防げることでしょう」

 

 とげとげしく咎めた雪乃だが、ボソッと小さくつぶやいた。

 

「でも確かに便利ね……。これがあれば、道に迷わずに済むでしょうし……」

「ん? 今何か言ったか?」

「な、何も言っていないわ。比企谷くんの空耳じゃないかしら?」

 

 八幡に聞き返され、雪乃が慌ててそっぽを向いたところでエレベーターの扉が閉じた。

 

 

 

『大空より愛をこめて、由比ヶ浜結衣が舞う。』

 

 

 

 その日の奉仕部で、結衣がジトー……という目つきで、八幡と雪乃をにらんでいた。

 

「ゆきのん、ヒッキー……この間は二人でどこに行ってたの? あたし、ずっと心配してたんだからね!」

 

 ぷんぷんという擬音が似合いそうなほどむくれて、二人を糾弾する結衣。彼女はクラッシャーゴンの二度目の出現時――八幡と雪乃がジードとなって戦っている間のことを言っているのだ。

 

「今日こそははぐらかさないでちゃんと答えてよね!」

「え、えーっと、それはだな……」

 

 何と説明したもんか、と八幡が困っていると、彼に代わるように雪乃が結衣に謝った。

 

「ごめんなさい、由比ヶ浜さん。あの時は、この臆病谷くんが怪獣にすっかり怖気づいてあちこち逃げ回るものだから、それを捕まえるのに手一杯だったの」

「おい、お前また変なあだ名作りやがって。それに俺は……」

 

 言い返そうとした八幡だったが、雪乃は肘で小突いた上にそっと顔を寄せて、結衣に聞こえない声量で耳打ちした。

 

(話を合わせなさい。二人で言うことが食い違ったら怪しまれるでしょう)

(だけどな……何も俺が全面的に悪いような言い方しなくたって)

(あなたが先にいなくなったんじゃない。ある程度事実にすり寄せないと、嘘なんてすぐにばれてしまうわ)

 

 と論破された八幡は、自分たちの様子を怪訝な目で見ている結衣にペコリと頭を下げた。

 

「ああ、悪い由比ヶ浜……。今度からは一人で逃げたりなんかしねぇからさ」

「……まぁ、分かってくれたんならそれでいいよ。でも、今の言葉忘れないでね! ヒッキーったらもう二回も勝手にいなくなっちゃうんだもん。これ以上どっかに消えるようなら、もうヒッキーのことなんか知らないんだからね!」

 

 不機嫌さは残りながらも、糾弾をそれで済ました結衣に、八幡は聞き返した。

 

「別に、お前がそんなに俺のこと気に掛けてくれなくたっていいだろ。雪ノ下みたいに部長でもねぇんだしさ。何か理由あんの?」

 

 その途端に結衣は顔を真っ赤にしてわたわたと慌て出す。

 

「べっ!? 別に特に理由なんてないしっ! た、ただ同じ部活なんだしさ、知らない仲でもないんだし心配ぐらいするのは普通だよ! ヒッキーには分かんないかもしんないけどさ!」

「お、おう……」

 

 まくし立ててプイッと背を向けた結衣に、八幡はやや気圧された。そこにペガがちょっとだけ顔を出して、結衣に気づかれないように呼びかける。

 

「八幡、今のはないよ。由比ヶ浜さんが心配してくれるのを、断るようなこと言って。人の厚意は素直に受け取らなくちゃ」

「そうは言ってもなぁ……」

 

 八幡には、結衣がどうして自分のような誰からも見向きもされないような人間に気さくに接してくるのかが今一つ理解できなかった。何か得することなんて一つもないのに。

 まぁ、由比ヶ浜は見た目に反して分け隔てない性格だから、そういう性分なのかもしんないけどな、と八幡は自分を納得させる。

 

「……ところで人の心配といえば、雪ノ下もよくよくジードの役割に積極的だよな。顔すら知らないリトルスターの宿主のことで気を揉んだりして」

 

 八幡がそっと雪乃に尋ねかけると、彼女は神妙な態度で返した。

 

「別に私も博愛主義者という訳ではないわ。でも、望みもしないのに突然身に着いた力のせいで命の危険に晒される、なんて理不尽な目に遭う人がいると知って、自分には関係ないことだなんて切って捨てるほど薄情な人間のつもりもないわよ」

 

 雪乃の返答に軽く感心を覚える八幡。彼女だって、リトルスターが宿って一時は自身の変化に大きな不安を覚えたというので、他人事では済ませられない思いは強いのだろう。

 そんな風にひそひそと話していたら、結衣が怪訝そうに振り返った。

 

「さっきから何話してるの?」

「た、大したことじゃねぇよ。そっちこそ、さっきから何やってんだ?」

 

 結衣が自分のケータイの画面に食い入っていることに気がついた八幡が聞き返すと、結衣は八幡たちに自分のケータイを見せつけた。

 

「怪獣情報を調べてたの。この前からあたしたちの近くに連続して怪獣が出てきて、物騒でしょ? だから時々こうして怪獣が出現してないかどうか調べるようにしてるんだ」

「また危ない目に遭うかもしれないからってか? そんな、何度も怪獣と出くわすような偶然が続く訳が……」

 

 言いかけた八幡だが、その時にケータイ越しに怪獣情報を伝えるアナウンサーが次のことを発言した。

 

『ただいま緊急情報が入りました。関東圏上空に、宇宙から鳥型の怪獣が飛来しました! 怪獣は千葉方面に向かっているとのことです。近隣の方々は避難の準備をお願い致します』

「ほら!」

 

 八幡は気まずそうに口を閉ざした。それから妙にそわそわするので、気づいた雪乃が耳打ちする。

 

「どうしたの?」

「いや、どうやってここを離れたもんか、口実が思いつかないもんでさ……」

 

 怪獣が出たからにはウルトラマンジードの出番だが、先ほど勝手な行動をしないと結衣に宣言したばかりなので、出ていきづらいのであった。

 肩をすくめた雪乃は助け船を出すことにした。

 

「こうも続けて怪獣が出没するなんてね。他の人も不安がって、パニックになってたりするかもね。比企谷くん、あなたのご家族とかはどうかしら」

 

 ハッと雪乃の意図に気がついた八幡は、ありがたくそれに乗っかった。

 

「そうだ! 妹は中学生だから、混乱に巻き込まれてるかもしれねぇ。ちょっと様子を確認してくる!」

 

 と理由をつけて、八幡は部室を飛び出していった。

 

「ちょっとヒッキー!? そんなのケータイ使えばいいじゃん!?」

 

 結衣がもっともなことを言って呼び止めようとしたが、ただの方便であるため、八幡は振り切った。

 

「もぉ~ヒッキーったら。あんなに勢いよく飛び出してくなんて、シスコンなんじゃない?」

 

 憮然としている結衣の後ろで、雪乃は腕を組んで眉をひそめた。

 

「……ちょっと、無理矢理だったかしら」

 

 

 × × ×

 

 

 部室を出ていった八幡は、もちろん小町の中学校などには向かわず、人気のないところで装填ナックルを握り、レムとの通信を開始した。

 

『レム、怪獣の映像をこっちに送ってくれ』

[分かりました、リク]

 

 ジードの指示で、八幡のケータイの画面にユートムからの映像が映し出された。

 

『ピギャアーッ!』

 

 空をふらふらとおぼつかない姿勢で飛ぶ怪獣。それは鳥型というより、ファンタジー作品によく出てくるような飛竜か翼竜のような姿であった。赤い両眼の下の頬からは、羽のような突起が生えている。

 

「こいつも融合獣って奴か?」

 

 八幡の質問を否定で返すレム。

 

[いえ。これは通常の野生怪獣です。種族名は、ザンドリアスです]

『ザンドリアスって……』

 

 その名前を聞いたジードとペガが、何かに思い至ったようであった。

 

「もしかして、あのザンドリアス?」

[はい。以前に遭遇した個体と同一であることを、生体パターンから確認しました]

「何? 知ってるの?」

 

 きょとんとした八幡に、ジードがどういうことかを説明する。

 

『前に僕たちの地球に飛んできて、居座ろうとした宇宙怪獣なんだ。色々あって宇宙に帰したんだけど、まさかこの宇宙で再会することになるなんて……』

 

 ジードたちの宇宙の怪獣が、どうしてこの地球にいるのか。その理由をレムが推測する。

 

[恐らくは、私たちの使用したスターゲートに迷い込んだものと思われます]

「スターゲートって?」

『簡単に言うと、宇宙と宇宙の通り道さ。ウルトラマンキングに頼んで開けてもらったんだよ。でもそれに入ってきちゃう怪獣がいるとは思わなかったなぁ……』

 

 ジードの説明の中に、八幡には分からない言葉が出てきたが、これ以上あれこれ尋ねている場合ではなかった。

 

「あッ、見て! ザンドリアスが落ちる!」

 

 ケータイの画面の中で、ザンドリアスが千葉市街の中に墜落したのだ。あっと口を開く八幡。

 

『ザンドリアス、翼を怪我してるみたいだ……。スターゲートに迷い込んだ時に痛めたのかな……』

 

 心配するジードだが、状況はどんどん進展する。

 

[この星の自衛組織は、ザンドリアスに攻撃を加えることを決定しました。すぐにでも航空機による攻撃が開始されます]

『何だって! それは駄目だ!』

 

 焦ったジードが八幡に呼びかける。

 

『あいつは、迷惑を掛けられたこともあるけど悪い奴じゃないんだ。攻撃なんて止めないと! 八幡、行こう!』

「分かった……!」

 

 うなずいた八幡がウルトラカプセルとジードライザーを取り出した。

 

『ユーゴー!』『シェアッ!』

『アイゴー!』『フエアッ!』

『ヒアウィーゴー!』

 

 二つのカプセルをナックルに装填して、ジードライザーでスキャンする。

 

[フュージョンライズ!]

『ジィィィ―――――――ドッ!』

 

 八幡は二人のウルトラマンのビジョンと融合して、ウルトラマンジードに姿を変えていく!

 

[ウルトラマン! ウルトラマンベリアル!]

[ウルトラマンジード! プリミティブ!!]

「シュアッ!」

 

 ジードは光となって校舎を飛び出し、まっすぐにザンドリアスの元へと向かっていった。

 

 

 ザンドリアスの墜落現場では、既に航空自衛隊によるミサイル攻撃が開始されていた。

 

「ピギャアーッ!」

 

 次々に飛んでくるミサイルがザンドリアスに炸裂し、痛がるザンドリアスは目から光線を発射して反撃している。今のところは戦闘機が光線を回避しているが、このまま続けば被害が出るのは確実だろう。

 

[あれではザンドリアスを刺激するばかりです]

『すぐに止めよう! 八幡、行くよ!』

『「ああ……!」』

 

 ジードは即座にザンドリアスの手前に着地して、戦闘機の編隊に向けて手の平を突き出した。

 

「ハッ!」

 

 待ったのアピールをすると、それが伝わったか、ミサイル発射をしようとしていた戦闘機は機首を上げて上昇。攻撃中止される。

 その間にジードはザンドリアスに向き直って、優しく呼びかけた。

 

『ザンドリアス、僕が分かるか?』

「ピギャアーッ! ピギャアーッ!」

 

 ジードの姿を認めたザンドリアスは、途端にピョンピョン飛び跳ねて喜びを動きで示した。ジードのことを覚えているようだ。

 しかし急に右の翼を抑えてうずくまる。そこを痛めているみたいだ。

 

『大丈夫か!?』

 

 ザンドリアスに肩を貸すジード。それからレムに問いかける。

 

『レム、このままザンドリアスを宇宙に帰せるか?』

[それはやめた方がいいでしょう。今の状態では満足に飛行できず、地球に再度落下するか宇宙をあてどなく漂流するかのどちらかです]

『そうか……。とりあえず、ここじゃ迷惑になる。人のいない場所に移そう』

 

 そう決めると、ジードはザンドリアスに肩を貸したまま浮き上がり、彼を街から離れた山奥へと移していった。

 

 

 × × ×

 

 

 ザンドリアスは知った顔と出会って安心したのかすっかり大人しくなり、今は山中でくつろいでいる。その様子を星雲荘のモニターでながめながら、八幡たちはこれからのことを話し合う。

 

「流石にこのままって訳にはいかねぇよなぁ……。どうにかあいつの怪我を治して、早いとこ宇宙に返ってもらわないと」

 

 と意見する八幡だが、雪乃がそれに言い返す。

 

「でも、怪我を治すと言ってもどうするつもり? 怪獣を診察できる医者なんて、いる訳ないじゃない。比企谷くんは頭の回転数が足りないみたいね」

「いちいち余計なひと言入れなくていいっつーの。そっちで何とかなんないの?」

 

 雪乃に突っ込んだ八幡がレムたちの方へ振り返ると、レムが答えた。

 

[アクロスマッシャーの能力があれば可能です]

「アクロ……何て?」

[ジードのフュージョンライズ形態の一つです。俊敏な動作と、治癒能力に優れています]

 

 それを聞いた八幡が首を振る。

 

「なら話は早いじゃんか。すぐやろうぜ。えーっと、これとこれでいいんだっけ?」

[しかしながら……]

 

 レムの話を最後まで聞かず、八幡は青いウルトラマン同士のカプセル二つを取り出して、片方を雪乃に投げ渡した。

 

「雪ノ下、頼む」

「仕方ないわね……」

 

 嘆息しながらカプセルのスイッチを入れた雪乃だったが……カプセルはまたも反応がなかった。

 

「あれ?」

 

 八幡と雪乃がきょとんとすると、レムがどういうことか解説を入れた。

 

[現在のフュージョンライズの主体は、あくまでハチマンです。ユキノは補助に過ぎません。故に彼女では起動できないカプセルが全体の半数ほどあります]

「何だよ……。全部のカプセルを使えるようになった訳じゃねぇのか……」

 

 面倒くせぇ……と落胆する八幡であった。一方で、ライハが提案する。

 

「じゃあ、私かペガが八幡とフュージョンライズするのはどうかしら?」

「あッ、それいいね! ペガ、ポーズの真似だけじゃなくてホントにフュージョンライズしてみたかったんだ!」

 

 乗り気のペガだったが、彼にとって残念な返答がレムから来る。

 

[ライハとペガでは、そもそもハチマンとの波長が合いません。異なる宇宙の者同士だからと思われます]

「ダメかぁ……」

 

 がっかりと肩を落とすペガ。ライハがここまでの話から来る結論を纏める。

 

「ということは、アクロスマッシャーになろうとするのなら……もう一人くらい、協力者が必要ということね? それも雪乃が機動できないカプセルを動かせる」

[そうなります]

「そんな都合のいい人いるかなぁ……」

 

 ペガと同様に、雪乃も頭を悩ませる。

 

「そこに、信用できる人物という条件も加わるわ。私たちの秘密を誰かにしゃべってしまう口の軽い人や、良からぬ考えを思い浮かぶような人は当然除外しなければいけないから」

「信用できる人間ねぇ……。そこが難しいとこだよな」

 

 八幡も頭を痛めた。過去に様々な人から心無い扱いを受けて育った彼は、人間不信気味なのだ。

 皆が悩んでいると、ジードが話に区切りをつけるように発言する。

 

『絶対アクロスマッシャーが必要って訳じゃない。幸い、ザンドリアスは無闇に誰かを傷つけるような怪獣じゃないし、攻撃も中止の状態が続いてる。自然回復を待つくらいの時間はあるよ』

「そうね。今のところは、ザンドリアスが回復し切るのを見守るのが最善ね」

 

 ライハが結論づけて、ひとまず話し合いはこれで終了となった。

 しかし八幡は、もう一人の協力者についてまだ思案していた。

 

「協力者……俺とフュージョンライズする奴ってことだろ? だったら俺は――」

 

 八幡は顔を上げて、期待を込めた目つきで虚空を仰いだ。

 

「戸塚がいいな」

 



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大空より愛をこめて、由比ヶ浜結衣が舞う。(B)

 

 ザンドリアスがかくまわれた山の手前には、大勢の人間がごった返していた。彼ら全員、初めての温厚な性質の怪獣、ザンドリアスの姿をその目に収めようと全国、いや世界中から集まってきたのだ。

 

「ご覧下さい! ウルトラマンジードによってこの山に運び込まれた怪獣をひと目見ようと集まった人たちの波が、朝からずっと続いております!」

「押さないで下さい! 近づきすぎると危険です! 線より内側には入らないで下さい!」

 

 各国のテレビ局がザンドリアスと観衆の様子にカメラを回し、警察や自衛隊が人の波の整備に追われている。――その様を八幡と雪乃が、人ごみに混じりながら若干呆れたようにながめていた。

 

「全く、現金なもんだよな……。世界中のメディアが昨日までは、怪獣は恐ろしい化け物だとか人間の敵だとか口をそろえて喚いてたってのに、大人しい奴が現れた途端にこれだ」

 

 八幡が目を向けた先では、手の早い集団が早速ザンドリアスのグッズや擬人化もののイラストなどを販売している。突貫で仕上げたものなので正直出来は荒いのだが、それでも売れ行きは良いみたいだ。

 

「人間ってほんと流されやすいもんだな……」

「そんなものでしょう。大半の人は、常日頃からよく物を考えたりしないで、その場の雰囲気に迎合しながら生きている。私たちは彼らとは視点が違うからこそ少数派なのよ」

「だから奉仕部なんかに入れられたんだよな、俺たち」

 

 嘆息する八幡たちだが、ジードとペガは現状を肯定的に捉える。

 

『でも、僕はこれが必ずしも悪いことだとは思わないよ。怪獣も生きてるんだ。怖がってばっかだと、怪獣が可哀想だよ』

『ペガも、こんな姿だから他人事じゃないな。いつかは地球でもダークゾーンの中にいないで済むようになりたいよ』

「ま、そうだな。影の中って窮屈そうだもんな……」

「ヒッキー、何ブツブツ言ってるの?」

 

 前方の結衣が振り返って尋ねてきたので、八幡は慌ててごまかす。

 

「ああいや、大したことじゃねぇよ! あの怪獣、面構えはちょっとおっかないなーって思ってただけだ」

「そうかな? 結構可愛い顔してるじゃん!」

「そうかぁ……? 目なんか真っ赤だぜ」

 

 などと言っていたら、山間からザンドリアスがひょいっと顔を覗かせた。

 

「ピギャアーッ!」

「あっ、見て! こっちに手振ってるよー!」

 

 ザンドリアスがご機嫌そうに手を振ったことで、結衣を始めとした群衆はわっと沸き立った。……結衣の意識がそちらに向いている間に、八幡は雪乃に囁きかける。

 

「薄々思ってんだけどさ……」

「何かしら?」

「由比ヶ浜がいると、何かとやりづらいよな……」

「……ええ、確かに」

 

 同意する雪乃。星雲荘にいる時はともかく、奉仕部の部室では結衣がいるために、肝心な時にジードたちと会話を取りづらいし、ジードに変身しようとしたら、いちいち脱け出す言い訳を考えなくてはならない。他のクラスメイトとかなら八幡をそうそう気に掛けたりはしないので適当でいいのだが、関係が近しい結衣相手だとそうはいかない。

 

「でも、あまり遠ざけようとしたら由比ヶ浜さんに悪いわ。除け者にしようとしてるみたいで」

「だよなぁ。あいつが悪い訳じゃないから、流石に気が引けるしな……」

 

 ウルトラマンジードという秘密を抱えてしまったことで、八幡と雪乃は結衣との適度な距離を取るのに苦心するようになってしまった。

 そんな二人の悩みは露知らない結衣は――ザンドリアスを観覧しながら、首をひねりながら自分の手を揉んでいた。

 

「何だか、手の平がいつもより熱い気がするなぁ……。風邪でも引いちゃったのかな……?」

 

 

 × × ×

 

 

 ――その日の夜遅くになっても、流石に少なくはなったものの、マスコミ関係者や熱心な見物客などは山の前に留まり、警察らはザンドリアスの周囲を見張り続けていた。

 しかし山中を巡回していた自衛隊の隊員たちが、見るからに一般人の若い男が山林の中に入り込んでいるのを発見して駆け寄った。

 

「君! そこの君! 止まりなさい! ここから先は危ないぞ!」

 

 すぐに呼び止めて、ザンドリアスに近づかないように注意する。

 

「どこから入ったんだ? 立ち入り禁止の文字が読めなかったのか? まぁとにかく、すぐ戻りなさい……」

 

 送り帰そうとする隊員たちだったが……男は無言で、彼らに手の平を向ける。

 

「ん……?」

 

 そこから閃光が怪しく発せられて――隊員たちは瞬時に意識を刈り取られて、ドサッとその場に崩れ落ちていった。

 

「この俺の行く手を阻もうとするとは不遜な奴らだ。命は取らないことを感謝しておけ」

 

 尊大な態度で吐き捨てた男――レイデュエスはオガレスとルドレイを連れて、ザンドリアスの元へと踏み込んだ。ザンドリアスは座り込んだままこっくりこっくりと舟を漕いでいる。

 

『これがこの星に墜落した宇宙怪獣ですか。見たところ、ろくな力を持ってなさそうですが……』

『こいつの怪獣カプセルを作ったとしても役に立ちそうもありませんし、わざわざ構わなくともよろしいのではないでしょうか?』

 

 と意見するルドレイだが、レイデュエスはにやつきながらザンドリアスをねめ回す。

 

「この星に初めて出現した野生の怪獣だ。その記念として、世間がもっと盛り上がるようにこの俺が演出してやろうというんだ」

 

 ここでザンドリアスが三人の気配を感じ取って、パチリと目を開けた。

 

「ピギャアーッ?」

 

 ザンドリアスは不思議そうにレイデュエスたちを見下ろしている。それに対して、レイデュエスはおもむろに怪獣カプセルを取り出した。

 

「宇宙指令E04!」

『ゴオオオオオオオオ!』

 

 漆黒の怪人のカプセルを起動して装填ナックルに押し込み、それをライザーでスキャンしてザンドリアスに向ける。

 

「さぁ……ショウタイムだ!」

ワロガ!

 

 ライザーから怪しい光が飛び、ザンドリアスの頭部に浸透していった。

 

「ッ!」

 

 その途端、ザンドリアスの瞳が紫色に濁った。

 レイデュエスはニヤァ……と邪な笑みを浮かべていた。

 

 

 × × ×

 

 

 早朝、八幡はいつものように小町と一緒に朝食を取っていた。

 しかし愛飲しているMAXコーヒーを啜っているところで、いきなり家全体がガタンッ! と大きく震動したので目を白黒させた。

 

「な、何!? 地震!?」

 

 小町も動揺したが、遠くから爆発らしき音が一緒に聞こえてきたので、八幡はすぐに単なる地震ではないことを察した。

 

「これって……!」

「お兄ちゃん、何だか変だよ!?」

 

 わたわたと慌てふためく小町に、八幡は席を立って言いつける。

 

「小町はじっとしてろよ。俺は外の様子を確かめてくる!」

「あっ、お兄ちゃん!」

 

 有無を言わせずに家を飛び出す八幡。彼がすぐに目撃したのは――。

 

(♪破壊の使者(M30))

 

「ピギャアーッ!」

 

 ザンドリアスが町に入り、光線を乱射して家屋を次々に爆破して町を焼いている姿だった!

 

「きゃあああああっ!?」

「うわあああああッ!」

 

 既に町には、ザンドリアスの凶行から逃げる人々の悲鳴が重なって響き渡っていた。八幡は立ち尽くしたまま気を動転させている。

 

「あいつ、どうしたってんだ!? 昨日はあんなに大人しかったってのに! 何か機嫌を悪くするようなことでもあったのか!?」

 

 装填ナックルに触れてレムと通信すると、レムが分析の結果を報せた。

 

[単なる興奮状態ではありません。脳波に異常な変調が見られます。恐らくは、何らかの精神操作を受けたのでしょう]

「精神操作!? それって……!」

『誰かがザンドリアスを暴れさせてるんだ!』

 

 ダークゾーンの中から、ペガが八幡に告げた。ジードはレムに問いかける。

 

『レム、ザンドリアスを元に戻すには!?』

[それには、アクロスマッシャーの浄化能力が必要です]

 

 その返答に、気まずそうに歯噛みする八幡。現状、彼がアクロスマッシャーにフュージョンライズする手段は見つかっていないのだ。

 彼を励ますように、ジードが呼びかける。

 

『ジーッとしてても、ドーにもならねぇ……! 何か出来ることがあるはずだ。とりあえず、ザンドリアスにもう少し近づいてみよう!』

「あ、ああ……」

 

 暴れ回るザンドリアスの様子に八幡は一瞬二の足を踏んだが、破壊されていく町をどうにかしなければならないと己を奮い立たせて、ザンドリアスの方向へと走っていった。

 

 

 × × ×

 

 

 ――八幡がザンドリアスに近づいていくと、その途中で知った顔を発見した。

 

「由比ヶ浜ッ!」

「ひ、ヒッキー!」

 

 結衣であった。八幡に気がついた彼女はすぐに彼の元へと駆け寄り、動揺し切った表情で八幡とザンドリアスを見比べる。

 

「ヒッキー、どうしよう! 怪獣が暴れてるよ! あんなに大人しかったのに……!」

「……由比ヶ浜、とにかく逃げろ。お前が出来ることはないから……」

 

 八幡は結衣を逃がそうとするも、彼女はぐいぐいと八幡の手を引っ張る。

 

「ヒッキーも避難しようよ! 怪獣に向かってってなかった? ヒッキーこそ何するつもりなの!?」

「お、俺は……」

 

 結衣の反応は至極当然。それ故に、どう説得したものか……。八幡が困っていると、

 

「ピギャアーッ!」

 

 ザンドリアスが蹴り上げた建物が砕け、その破片が八幡たちの方へと飛んできたのだ!

 

「! 由比ヶ浜ッ!」

「きゃっ!?」

 

 いち早く気づいた八幡が咄嗟に結衣を突き飛ばしたが、そこに瓦礫の影が覆い被さる。

 死の淵に立たされた時と酷似した状況だが、今はジードの力がある。飛躍的に上がった身体能力がある今なら瓦礫をかわせる、と脚に力を込めた八幡だったが、

 

「ヒッキー! やめてぇぇっ!」

 

 彼が動く前に、結衣が絶叫しながら手を伸ばした。

 ――その胸元から、青い光が生じた!

 

「……えッ!?」

 

 瓦礫をにらんでいた八幡は仰天。何故なら――迫っていた瓦礫が突然、空中に縫いつけられたように停止したのだ。

 そして瓦礫は、八幡から外れてドスンと真下に落下した。唖然としている八幡に、ペガが告げる。

 

『今の、由比ヶ浜さんが……!』

 

 振り返ると、結衣当人が呆然と八幡を見つめていた。

 

「え……? あたし……? 今の、あたしがやったの……?」

 

 己に驚きながら両手に目を落とす彼女の胸元から光が漏れていることに、八幡は気がついた。

 

[リトルスターの反応をキャッチしました]

『念力……!』

 

 そして八幡の腰の、ウルトラカプセルのケースからも青い光が漏れ出た。八幡がケースを開くと、青いウルトラマンのカプセルの一つが、結衣の光と似た輝きを発していた。

 

[カプセルが、リトルスターと同調しています]

 

 その意味するところを察した八幡は――つい皮肉げな笑みがこぼれた。

 

「渡りに船じゃねぇか……。由比ヶ浜が救いの神だなんて、分からねぇもんだな……!」

 

 八幡は決心して、結衣へとカプセルを投げ渡す。

 

「由比ヶ浜! ちょっと、いやかなり驚くだろうけど、まずは俺の動きに合わせてくれ!」

「へ? ヒッキー、何を言って……」

 

 唖然とする結衣を置いて、八幡はもう一つの青いウルトラマンのカプセルのスイッチを入れる。

 

『ユーゴー!』

『テヤッ!』

 

 カプセルから胸にスターマークの並ぶ青いウルトラ戦士、ウルトラマンヒカリのビジョンが現れて腕を振り上げた!

 

「えぇっ!?」

「由比ヶ浜ッ!」

 

 仰天した結衣だが八幡に促されて、反射的に渡されたカプセルのスイッチを同じようにスライドする。

 

『アイゴー!』

『タァッ!』

 

 結衣のカプセルからは青と銀のウルトラ戦士、ウルトラマンコスモスのビジョンが現れる。八幡は結衣からカプセルを取って装填ナックルに収めた。

 

『ヒアウィーゴー!!』

 

 そしてジードライザーで二つのカプセルをスキャンし、トリガーを押し込む!

 

[フュージョンライズ!]

『ジィィィ―――――――ドッ!』

 

 ヒカリとコスモスのビジョンが、八幡と結衣と合わさる!

 

[ウルトラマンヒカリ! ウルトラマンコスモス!]

[ウルトラマンジード! アクロスマッシャー!!]

 

 折り重なる光の直線と水流の煌めきを抜け、黄色い光と青い結晶の螺旋の中から、青い姿のジードが飛び出していく!

 

「ハァッ!」

 

 

 雪乃はザンドリアスの暴走の直後にエレベーターで星雲荘に移動。そこのモニターで、ライハ、レムとともに、ザンドリアスの面前にそっと着地したウルトラマンジードを見つめていた。

 

[アクロスマッシャーへのフュージョンライズ、成功です]

「あれが……」

 

 雪乃の瞳には、青と銀の体色で、尖った耳を持ったジードの出で立ちが映っていた。その姿には、どこか清廉さと清らかさが宿っている。

 これこそがウルトラマンジード第三の姿、アクロスマッシャーだ。

 

「八幡と、誰がフュージョンライズしたの?」

 

 ライハが尋ねると、レムは雪乃に返した。

 

[ユキノ、あなたもよく知る人物です]

 

 雪乃は少しの驚きを表情に浮かべた。

 

「まさか、由比ヶ浜さん……!」

 

 

『「えええぇぇぇぇ!? ヒッキー、これどういうことぉ!?」』

 

 ジードの内部の超空間では、結衣が先日の雪乃と同じような反応を示していた。八幡は少し慣れた調子で結衣に呼びかける。

 

『「悪いが説明は後だ。あいつの暴走を止めてからな!」』

『「あいつって……怪獣!?」』

 

 ジードの視線の先から、ザンドリアスが頭を前に突き出した姿勢で突進してくる。

 

「ピギャアーッ!」

「ハァァァ……!」

 

 それをジードは揺るぎない姿勢で、左手の平を胸の前に立て、右手の平を前に向けて顔の横に置いた独特の構えで待ち受ける。

 

「ハァッ!」

 

 そしてザンドリアスの突進を、相手の勢いに逆らわずに受け流した。いなされたザンドリアスはつんのめりながら停止する。

 

「ピギャアーッ!」

 

 ザンドリアスが方向転換している間に、ジードは頭上に持っていった両手に淡い光の粒子を纏わせ、腕を前に押し出しながらザンドリアスへと照射する。

 

『スマッシュムーンヒーリング!』

 

 光の粒子を一身に浴びたザンドリアスは――目の色が元に戻って濁りが消え、翼の傷が治った。それとともに正気に立ち返る。

 

「ピギャアーッ?」

 

 我に返ったザンドリアスは辺りを見回し――荒れ果ててしまった町の一部を目の当たりにして、己を恥じたようにしゅんと肩を落とした。

 ジードはザンドリアスの背中を撫で、優しく呼びかける。

 

『君が悪いんじゃない。だから落ち込まないで』

 

 一方で八幡は結衣に振り向く。

 

『「サンキューな、由比ヶ浜。お前のお陰で、こいつを元に戻せた」』

『「えっ、あたしのお陰……?」』

 

 まだよく事態を呑み込めていない結衣だったが、八幡の感謝の言葉に思わずはにかんだ。

 

『「よ、よく分からないけど……あたしが役に立てて、怪獣も助けられたのなら、それで十分だよ……」』

『「怪獣の心配もしてたのか……。由比ヶ浜はほんと優しいな」』

『「や、優しい? そうかな……えへへ……」』

 

 褒められて、結衣は頬を赤らめて後頭部を手でさすった。

 

 

 ――しかしザンドリアスの洗脳が解かれたところを、仕掛けた犯人であるレイデュエスが見やっていた!

 

「それで終わりじゃあ物足りないだろう、ジード。俺がもっと盛り上げてやるよ……!」

 

 にやりと嗤いながら、白蛇のような狡猾さを湛えた怪物のカプセルを起動する。

 

「イッツ!」『キィィィィイイィィィィ!』

 

 次いでザンドリアスの洗脳にも用いた、漆黒の怪人のカプセルを起動。

 

「マイ!」『ゴオオオオオオオオ!』

 

 二つのカプセルをナックルに装填し、紫色のライザーを取り出す。

 

「ショウタイム!!」

 

 カプセルをスキャンして、ライザーのトリガーを握り込んだ。

 

フュージョンライズ!

「ハハハハハハハハハッ!」

 

 暗黒の異空間の中、レイデュエスの姿が黒い異形の影に変わり、もがいて抵抗する怪物と怪人のビジョンを口の中に吸い込む。

 

ボガール! ワロガ!

レイデュエス! エヴィルボガール!!

 

 黒い影が形を変えていき、フランス人形とレコードプレイヤーを踏み潰して、融合獣が出来上がった!

 

 

「キィィィィイイィィィィ! ゴオオオオオオオオ!」

「フッ!?」

 

 ザンドリアスを慰めていたジードだが、その前に漆黒の肉体と真っ赤な単眼、大きく裂けた口、刃状の両腕と背面に皮膜状の突起、そして胸に七つの紫色の発光体を持った、レイデュエス融合獣エヴィルボガールが出現した!

 

「キィィィィイイィィィィ! ゴオオオオオオオオ!」

 

 エヴィルボガールは両腕から光弾を連射し――ジードではなく、ザンドリアスを撃った!

 

「ピギャアーッ!」

『「なッ!?」』

 

 はね飛ばされるザンドリアスに八幡たちは息を呑んだ。そして横に倒れたザンドリアスを、エヴィルボガールが踏みつける。

 

「キィィィィイイィィィィ! ゴオオオオオオオオ!」

「ピギャアーッ!!」

 

 エヴィルボガールは繰り返しザンドリアスを踏みにじる。ミシミシと骨が軋み、ザンドリアスから耳をつんざくほどの悲鳴が上がった。

 

『「やめてぇっ! 何でそんなひどいことするの!?」』

 

 結衣は身を乗り出しながら絶叫するが、八幡はそれを押しとどめるように告げた。

 

『「言っても無駄だ、由比ヶ浜。ああいうのには……痛い目見させねぇと理解しねぇよ」』

『「ヒッキー……」』

『やろう、八幡!』

 

 静かな怒りを湛える八幡にジードが呼びかけ、八幡はうなずいて応じる。

 

『「ああ。見せるぜ……衝撃!」』

 

(♪ウルトラマンジードアクロスマッシャー)

 

 ジードが円を描くような動作で両手にエネルギーを溜め、肘の内側に左手を置いた十字のポーズからリング状の光線を発射する。

 

「『アトモスインパクト!!」』

 

 光線はエヴィルボガールに命中し、その身体を持ち上げてザンドリアスから遠ざける。

 

「キィィィィイイィィィィ! ゴオオオオオオオオ!」

 

 今度はエヴィルボガールが地面に叩きつけられる番であった。ジードはこの間に軽やかに跳躍し、ザンドリアスの元へ行って助け起こす。

 

「フッ」

「ピギャアーッ……!」

 

 そしてジェスチャーで指示を出し、ザンドリアスを逃がすことに成功した。

 

「キィィィィイイィィィィ! ゴオオオオオオオオ!」

 

 起き上がったエヴィルボガールはジードに向かって光弾を乱射。だがジードは連続バク転で全て回避する。

 

『スマッシュビームブレード!』

 

 光弾攻撃をかわし切ったところで、右腕から光剣を伸ばして高速移動で間合いを詰める。

 

「ハァァッ!」

「キィィィィイイィィィィ! ゴオオオオオオオオ!」

 

 ジードの一閃がエヴィルボガールに入った。更に空中を変幻自在に走り回り、八方から絶え間なく斬りつけていく。

 

『「すごい……!」』

 

 ジードの感覚が自分にも伝わり、人智を超えた体験に結衣はすっかり圧倒されていた。

 

「キィィィィイイィィィィ! ゴオオオオオオオオ!」

 

 しかし突然エヴィルボガールの姿が薄れて消え、ジードの剣は空振りする。

 

「フッ!?」

 

 思わず立ち止まったジードの背後からエヴィルボガールは出現し、皮膜を広げて内側に牙がズラリと生えた大口に変えてジードに襲い掛かった!

 

「ウゥッ!?」

 

 ジードがエヴィルボガールの大口の中に丸呑みされてしまう!

 

『――クローカッティング!』

 

 しかし大口は内側から破られ、ジードが脱出。その手中には青い鉤爪のハサミ型の武器が新たに握り締められていた。

 

『ジードクロー!』

「キィィィィイイィィィィ! ゴオオオオオオオオ!」

 

 大ダメージを負ったエヴィルボガールが大きくよろめく。その隙に、同じジードクローを手にしている八幡が、クローをジードライザーでスキャンする。

 

[シフトイントゥマキシマム!]

 

 そして鉤爪の間のスイッチを押し、前に突き出して三回トリガーを押した。ジードクローの刃がうなりを上げて回転し、八幡は側面の赤いスイッチを押す。

 

「ハァァァァ……!」

 

 ジードクローの中心にエネルギーが集まり、ジードが天に向かって掲げる。

 

「『ディフュージョンシャワー!!」』

 

 クローから発せられた光がエヴィルボガールの頭上の空に広がって――そこから無数の光の針が降り注ぎ、エヴィルボガールの肉体を貫いていく!

 

『「うわっ!? 痛そー……」』

 

 想像を超える形の攻撃は、結衣が思わず同情するほどであった。

 

「キィィィィイイィィィィ!! ゴオオオオオオオオ!!」

 

 全身を串刺しにされたエヴィルボガールは、耐え切れるはずもなく爆散した。

 悪しき敵を退けたジードはザンドリアスに向き直り、おもむろにうなずいた。ザンドリアスはその意図を感じ取って、治癒された翼を広げて大空に飛び上がる。

 

「ハッ!」

 

 ザンドリアスとともに大空へと飛び立つジード。――その中で、結衣が呆けたようにつぶやく。

 

『「すごい……飛んでる……! 雲がこんなに近くに……!」』

『「ああ、すごいよな。俺も初めて飛んだ時は、内心興奮したもんだ」』

 

 結衣の言葉に共感を示す八幡。――すぐ傍らの彼の顔を見つめた結衣は、ほんのりと顔を赤くした。

 ジードは大空を舞い、大気圏を抜けて宇宙空間へ。そこでは、もう一体のザンドリアスがジードたちを待っていた。

 

『どうやらお迎えが来てたみたいだ』

『「あれは?」』

『ザンドリアスの彼女だよ』

 

 ザンドリアスは大喜びしながら雌の個体の元へと飛んでいき、二体は首をこすり合わせて再会を喜び合う。

 

「ピギャアーッ!」

『「怪獣のくせに、リア充だったのかよ……爆発しろ」』

『こら、そんなこと言わない』

 

 ハートマークが飛びそうなほど仲睦まじくしているザンドリアスたちは、スターゲートに向かって飛び去っていく。これでもうこちらの宇宙に迷い込むことはないだろう。

 そしてザンドリアスたちを羨ましそうに見送った結衣は、八幡に向き直って呼びかけた。

 

『「ヒッキーがジードだったんだね。あたしのことも、ゆきのんも、怪獣も……みんなを助けてくれたんだ。ありがとう……!」』

 

 その言葉とともに――結衣の豊かな胸からリトルスターが離れ、八幡の持つ白紙のウルトラカプセルに宿った。

 

『セェアッ!』

[ルナミラクルゼロカプセル、起動しました]

 

 レムが新しいカプセルの起動を知らせ、ジードは地球へと戻っていったのだった。

 

 

 × × ×

 

 

 結衣もまた星雲荘に案内され、雪乃の時と同じようにレムから説明を受けた。結衣も初めは相当驚いていたものの、素直な性分のため、すぐに受け入れてペガたちと打ち解けていた。

 

「すっごーい! ほんとすごいよぉ! 秘密基地に宇宙人なんて、ほんとにSFの世界! ちょっとこういうのに憧れてたんだよね!」

 

 星雲荘の設備を見回しながらはしゃぎ切っている結衣をペガたちが温かく見守っている一方で、八幡は肩をすくめながら雪乃に話しかけた。

 

「結局、由比ヶ浜も仲間に入れることになったな。あんだけ秘密を隠し通そうと躍起になってたのが馬鹿みてぇだな」

「でも、これで良かったんじゃないかしら。これで部室でも気兼ねなくジードの話が出来るようになったじゃない」

「まぁそりゃそうだ」

 

 まだ平塚先生いるけど、あの人部室には寄りつかないしな、と八幡が考えていると、結衣が振り向いて呼びかけてきた。

 

「ねぇねぇヒッキー、ゆきのん。ジードとして活動する時のチームの名前つけようよ! 奉仕部から取って、ジード部って!」

「は……? おいおい、ジードの活動まで部活扱いかよ。のんきなもんだなおい」

「いいじゃん、奉仕部のメンバーそのままなんだしさ。こういうのは変に凝った名前にするより、分かりやすい奴にした方がいいって」

「だからってなぁ……」

 

 軽く呆れる八幡だったが、意外にも他の面々は乗り気だった。

 

「いいんじゃないかしら。それとも以前批評させられた、ライトノベルの出来損ないに出てくる痛い造語みたいな名称でもつけたいのかしら、中二谷くんは」

「材木座と同列視しようとすんじゃねぇよ。そうは言ってねぇだろ……」

「部活動! いいね! リクが中学生高校生だった時に、ペガもやってみたいって思ってたんだ! その夢がここで叶うなんて!」

「私も、修行に明け暮れてた時はそういうの無縁だったから、ちょっと嬉しいわ」

『よしッ! みんなで頑張ろうか、ジード部!』

「うん! 奉仕部はゆきのんが部長だけど、ジード部はヒッキーが部長ね!」

「あら、性根が曲がりに曲がってしまっている比企谷くんに責任ある役職に就かせるのはあまりお勧めできないわよ」

「えー? ヒッキーならきっと出来るよ。ねーヒッキー?」

 

 ペガやライハ、ジードまでもが結衣の肩を持つので、俺がおかしいのかな……と八幡は軽く自信を喪失していた。

 何はともあれ、結衣発案による「ジード部」はこの日を出発点として発足したのであった。

 

 

 

『ウルトラストーリーナビ!』

 

結衣「今回は『ウルトラマン80』第四話「大空より愛をこめて」だよ!」

結衣「矢的先生のクラスで、スーパーくんが学校をサボることが起こったの。スーパーくんはお姉さんとお父さんの結婚の話で、すっかり拗ねちゃってたんだ。そんな時に日本に二体の宇宙怪獣が現れた! UGMが攻撃するけど、怪獣は親子同士なのが分かって中断。親子怪獣は親子喧嘩をしちゃってて、子供は宇宙に帰ろうとしない。そこで矢的先生こと80は、ある作戦を思いつく……っていうお話しだよ」

結衣「色々とデリケートな時期の子供と親の関係に注目した、学園ドラマが中心だった初期80らしいストーリーだね。そこに怪獣特撮がプラスされてるのが80の特色だったんだよね」

結衣「ザンドリアスは有名な怪獣とは言えなかったんだけど、色々あってクラウドファンディングで復活が決定! 『ウルトラマンジード』に登場したのも記憶に新しいよね!」

ジード『ザンドリアスの別名はだだっ子怪獣。80でもジードでも、予想外の理由で地球に居座ってウルトラマンの手を焼かせたんだ』

結衣「それじゃ次回もよろしくー!」

 




「全くあの人、いくらこっちがおちょくったとは言え生徒を本気で殴るかね」
「友達からあだ名なんてつけてもらうの初めてだなぁ」
「こんな時間に悪い。ちょっとお願いがあってさ」
「このメールを打った人は、いい趣味してるとは言えないわね」
「悪いけれどここから先は私たちで依頼を遂行するわ」
「授業中とかに怪獣が現れたらどうするか、それってもう決まったの?」
「人と会話しなくたって、情報は集められる」
「どの形態が必要になるのか分からないじゃない」
「今更だけど、三人でフュージョンライズって出来るのか?」



次回、『チェーンメールを送って来たのは誰だ。』



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チェーンメールを送って来たのは誰だ。(A)

 

 奉仕部の部室で、八幡が顔をしかめながら自分の腹部をゆっくりさすっていた。

 

「いっててて……まだ痛む。全くあの人、いくらこっちがおちょくったとは言え生徒を本気で殴るかね。いつの時代の熱血を履き違えた教師だよ。PTAに訴え出てやりたいね」

 

 などと愚痴っていると、影の中から顔を出したペガが、呆れ顔で突っ込んだ。

 

「あれは八幡が悪いよ。職場見学希望で、希望場所に自宅だなんてふざけたこと書いて提出したら、そりゃあ先生怒るよ」

『だからやめておけって言ったじゃないか』

 

 総武高校二年生の八幡たちには、先週末に職場見学の希望調査票が配られた。それに八幡は、希望する職業に「専業主夫」と、希望する職場に「自宅」と書いたことで、平塚静にこってりと絞られて再提出を申し渡されたのであった。ついでに年齢のことを茶化したら殴られた。

 ペガとジードの二人に諌められて、八幡は憮然となった。

 

「うるせー。俺は真面目に将来専業主夫になることを考えてんだ。決してふざけてた訳じゃない」

 

 八幡の言い訳に、結衣と雪乃も呆れ返る。

 

「何て言うか……そういうこと本気で思っちゃうのが、ヒッキーのすごいところだよね」

「すごい、ではなくて駄目なところね。性根が腐っているでもいいわ。日本語は正しい意味で用いるべきよ、由比ヶ浜さん」

「お前はオブラートに包まないだけだろ雪ノ下」

 

 雪乃に言い返した八幡は、手を握って力説し出す。

 

「男が主夫を目指して何が悪い。女の子が将来の夢をお嫁さんって言ったらかわいくて、男が主夫って言ったらヒモ扱い? 性差別だろうが。それにヒーローやるんだったら、専業主夫って選択は間違いじゃねぇはずだ」

「まともな理屈が返ってきそうにないけれど、その心は?」

 

 聞き返す雪乃。

 

「ヒーローってのは事件が起こったら何を置いても出動しなきゃ駄目だろ? けど事件ってのはこっちの都合お構いなしだ。ここでたとえば普通の職場で働いてたら、仕事ほっぽり出してかなきゃいけなくなる。それはそいつにとっても職場にとってもまずいことだろ」

「あー、レイトさんもその辺でよく困らされてたね」

 

 ペガがうんうんと同意した。

 

「だろ? レイトさんってのは知らないが。その点自由に使える時間が多い主夫だったら無問題だ。せいぜいタイムセールに事件発生が被らないのを祈るだけで済む。つー訳で、ヒーローに最適な職業は専業主夫。そしてジードに変身する俺が主夫を希望するのは正しいことなんだ。QED」

『そ、そうだったのか……。ヒーローに適した職業が主夫だったなんて、思いもよらなかったよ……』

「ヒッキー色々考えてるんだね……!」

 

 感心してしまうジードと結衣に、ペガと雪乃が突っ込む。

 

「いやいや……流されちゃ駄目だよ二人とも」

「百歩、いえ千歩ほど譲ってそれを認めたとしても、比企谷くんはいつまでウルトラマンをやるつもりでいるのかしら。あなたイコールジードではないのだから、その論法はあなたが想定している未来にまで通用しないでしょう」

「あぁそうだった……。くそぅ、あっけなく論破されちまった……」

 

 悔しがっている八幡の一方で、結衣はふと悲しげに目を伏せた。

 

「そうだよね……。いつかその内、ジードんたちとはお別れしなきゃいけないんだよね……。せっかく一緒にジード部立ち上げたのに……」

『ジードん……? それって僕のこと?』

 

 急に妙な呼び名を使われて、ジードが尋ね返した。

 

「そだよ。あだ名考えてきたの。シートンみたいでかわいいでしょ?」

「シートンにかわいい要素あるかぁ? 「動物記」のイメージだけで語ってねぇか?」

 

 突っ込む八幡。それに構わずに結衣はペガの方に振り向く。

 

「ペガくんはペガっち! レムちゃんはれむれむがいいかな?」

「ライハさんはどうなるのかしら?」

 

 雪乃が聞くと、結衣は少しばかり首をひねった。

 

「ライハさんはー……ライハさんのままで。年上だし、ちゃんと敬わないとね」

『あれ……僕も年上……』

 

 ジードのつぶやきは、虚空に消えていった。

 

「あだ名かぁ……友達からあだ名なんてつけてもらうの初めてだなぁ。ありがとう、結衣!」

「どういたしましてー! それにしてもペガっちってかわいいよねぇ。あたしたちとは顔全然違うけど、愛嬌があって!」

 

 結衣はペガに抱きついて身体をくすぐるように撫でる。

 

「うりうり~。これで男の子だっていうんだから、地球人にしたらさいちゃんみたいな感じなのかな~」

「や、やめてよ結衣~。くすぐったいよ~」

 

 ペガと戯れる結衣の様子を、八幡は半目になりながらながめた。

 

「友達っていうより、犬猫みたいな扱いじゃねぇか」

 

 とぼやいていると、雪乃が何やらペガを撫で回す結衣に食い入って、手をわきわきさせているのに気がついた。

 

「もしもし、雪ノ下さん? あんた何やってんだ」

 

 呼びかけると雪乃はハッ! と我に返って手を引っ込めた。

 

「何でもないわ。少し手のストレッチをしていただけよ。ただそれだけなのに、比企谷くんは私がペガくんを撫で回す由比ヶ浜さんを羨ましがって、自分も同じことしたいと思っているなんて浅はかな妄想でもしていたのではないかしら。そういうのやめてちょうだい。同じ空間にいるのをますます苦痛に感じてしまうから」

「お、おう……」

 

 雪乃は普段の五割増しくらい冷淡な長台詞で八幡の言葉を封殺し、射抜くような視線で威圧した。

 知らない内に後ずさっていた八幡だったが、そんな時に部室の外の廊下からコツコツと足音が近づいてきたので、我に返ってペガに振り向く。

 

「誰か来た! ペガ、隠れろ」

「あッ、うん!」

 

 ペガをダークゾーンの中に隠したところで、部室の扉が開かれて、一人の男子が中に入ってきた。

 

「こんな時間に悪い。ちょっとお願いがあってさ」

 

 入ってきたのは、人付き合いがほとんどない八幡でも知っているほどの、総武高校の有名人の一人、葉山隼人であった。

 

 

 

『チェーンメールを送って来たのは誰だ。』

 

 

 

「へぇ……そんなことがあったんだ」

 

 奉仕部の終了後、八幡たちは星雲荘に立ち寄って、葉山からもたらされた依頼の内容をライハに話していた。

 そのライハは、結衣から借りたケータイで、最近の2年F組の生徒の間に回っているメールの文面に目を走らせて、顔をしかめた。

 

「確かに……このメールを打った人は、いい趣味してるとは言えないわね」

 

 ライハの見ている画面には、『戸部は稲毛のカラーギャングの仲間でゲーセンで西高狩りをしていた』、『大和は三股かけている最低の屑野郎』、『大岡は練習試合で相手校のエースを潰すためにラフプレーをした』という、特定の個人を誹謗中傷する文章が並んでいた。

 あからさまに嫌がらせ目的のチェーンメールである。これがF組の間に出回るようになってから、クラスの雰囲気が悪くなっている。そのため、チェーンメールを止めてクラスの仲を回復してほしいというのが葉山からの依頼であった。

 ちなみに、八幡にだけは来ていない。ごく最近まで、アドレスをクラスの誰とも交換していなかったので。

 

「でも、メールの発信者の特定は依頼されなかったんでしょ? それでも犯人を捜し当てるつもりなの?」

 

 顔を上げたライハが問いかけると、雪乃が真剣な顔つきで首肯した。

 

「ええ。いくらクラスの雰囲気なんて表面上のところを取り繕ったところで、チェーンメールを送った犯人が野放しのままでは、多分同じようなことがまた起こります。根本的な解決には、やはり犯人を見つけ出す以外に手はないと思います」

「まぁ、雪乃の言う通りね。それで、肝心の犯人にはもう目星をつけてるの?」

 

 ライハの続けての質問に、今度は結衣が答えた。

 

「それが実は……メールに名前が出てきてる、三人の誰かって結論になったんですよ」

「中傷されてる三人の中に、犯人が……? それはどうして?」

 

 意外そうに尋ね返したライハ。その結論に至った経緯を、八幡が語る。

 

「まず、メールが最初に出回ったのが先週末だったんです。その先週末には職場見学のグループ分けの話があって。メールに名前のある奴らは、普段葉山と四人の男子グループを作ってるんですけど、見学のグループは三人だけなんすよね。そこまでで由比ヶ浜が、職場見学でハブになりたくない奴が他の奴の心証を悪くしようとしてるって気がついたんです」

 

 わざわざ解決を依頼しに来た葉山が犯人のはずがないから、容疑者は葉山グループの他の三人になるという訳である。三人全員が中傷されているのは、一人だけ露骨に何もないと怪しまれるからの偽装工作だ。

 

「なるほどね……」

「由比ヶ浜さん、相当早い段階で真実に気づいたわよね。勉強は遅れ気味なのに、対人関係についてはよく頭が回るみたいだわ」

「そうだな。その世渡りの才能が勉強の分野にも向いてたら良かったんだけどな」

「ち、ちょっとー!? 褒めてるのか馬鹿にしてるのか、どっちかにしてよー!」

 

 雪乃と八幡の余計なひと言に結衣が喚いた。

 その他方で、ジードとペガは明らかになっているチェーンメール事件の真相についてため息を漏らした。

 

『犯人の子、何でそんな馬鹿なことしちゃうのかなぁ……。たかだが見学のグループに入れなかった程度のことを怖がるなんて。一時のイベントなんて気にしないで、その後もみんなと仲良くやってくようにすればいいだけのことじゃないか』

「だよねぇ。こんなメール送ったところで、むしろ関係がギスギスしちゃって逆効果なだけだって分からないのかな?」

「いやー……一時のイベントでも、案外その後の関係性に関わるものだよ。それが怖いって気持ち、あたしは分からなくもないし……」

 

 人の心情を察しようとするばかりに、人間関係に神経を使ってきていた結衣は取り繕うように言ったが、雪乃の方はバッサリと切り捨てる。

 

「単に、犯人がどうしようもないほどの臆病でなおかつちょっと先のことも想像できない愚か者だというだけのことでしょう。何一つ同情の余地がないわ」

「ゆきのん……ほんと容赦ないよね……」

 

 雪乃の温情というものが欠片もない物の捉え方には、結衣も閉口するばかりであった。

 八幡が話を戻す。

 

「まぁそういうことで容疑者を三人に絞るところまで行ったんですけど、まだ一人に特定する段階には進めてないんです。決定打になる材料がまだなくって」

「あたしも、とべっちたちのことを詳しく知ってる訳じゃないから……」

 

 捜査には情報が必要だが、八幡たちは容疑者の三人のパーソナリティに明るくはない。葉山も、他人に対して好意的すぎて彼の見解は役に立たない。八幡たちには情報が欠けているのだった。

 

「一応、明日俺と由比ヶ浜で探りを入れることになってるんですけど、他に何かいい手はないですかね?」

 

 八幡が問いかけると、それまでは黙っていたレムが申し出た。

 

[私ならば、発端のメールの発信元を特定することが出来ますが]

「えッ、マジでか!?」

[一般のネットワークを逆探知する程度は、造作もないことです]

 

 レムの言葉に八幡は大喜びであった。

 

「そいつはありがたいや。事件があっという間に解決だ。じゃあ早速……」

「待ちなさい」

 

 頼む、という八幡の台詞を、雪乃がさえぎった。

 

「レム、悪いけれどここから先は私たちで依頼を遂行するわ」

「おい雪ノ下、何で断るんだよ。この方が断然手っ取り早いじゃんか」

 

 反論する八幡を雪乃がたしなめる。

 

「これはあくまで奉仕部の仕事、つまり私と比企谷くんと由比ヶ浜さんの三人で行うべき事柄よ。平塚先生も、依頼を通して生徒の成長を図るのが目的で奉仕部を設置した。レムに依存するのは、平塚先生の意図に反してしまうわ」

「そっかー……。ゆきのんって、ほんと賢いなぁ」

 

 はぁ~と感心する結衣。八幡は呆れ半分で雪乃に返した。

 

「雪ノ下、お前ってほんと真面目というか何と言うか……。お前だって望んで奉仕部に入った訳じゃないだろうに、よくそんな熱心になれるよな」

「前に言ったでしょう。頼まれた以上、責任は果たすと。私はどんな形であろうと、請け負った責任を途中で投げ出すようなろくでなしにはなりたくないの」

 

 そんなことをサラリと言ってのける雪乃に、八幡は呆れ半分だが、もう半分は尊敬の念を覚えていた。

 

「そう……。なら私たちに出来ることはないわね。八幡、結衣、大変かもしれないけど頑張ってね」

「は、はい! ありがとうございますっ!」

「うす」

 

 ライハの激励に結衣が反射的に敬礼し、八幡はペコリと頭を垂れた。

 奉仕部の依頼の話題はそこで区切りをつけて、結衣はふとあることを口にした。

 

「そういえば、授業中とかに怪獣が現れたらどうするか、それってもう決まったの?」

 

 学生がウルトラマンに変身する上で一番の問題となる点。それは授業等で拘束されている時間に如何に変身するかである。いつもウルトラマンが現れている間にどこかへ行って、ウルトラマンが帰ってから戻ってきたら、怪しむ者が出てくることだろう。

 

「存在感が限りなく希薄な比企谷くんがどこへ行こうとも気にする人なんていないでしょうけど、私や由比ヶ浜さんが何度も授業を抜け出そうものなら悪目立ちしてしまうでしょうしね。対策は急務だわ」

「おい……確かに事実だがわざわざ言わなくたっていいだろ」

 

 雪乃の毒舌はともかく、そのことについてレムが報告する。

 

[既に用意はあります]

 

 そのひと言とともに、レムの正面にどこからか現れたのは――。

 

「えっ! これってあたしたち!?」

 

 八幡、雪乃、結衣の三人とそっくりそのままの人形のようなものであった。

 

[プロテ星人の分身技術を応用した、質量のある立体ビジョンです。ハチマンたちがジードに変身している間は、これらを身代わりとして動かします]

『なるほど、影武者って訳だ。これなら怪しまれる心配はないね。流石レムだ!』

[ありがとうございます]

 

 称賛するジード。ペガたちは立体ビジョンの出来栄えに感心している。

 

「すごいね、そっくり同じだ! これならばれる心配はいらないね」

「こういうの、レイトさんにも用意してあげたらよかったのに……」

[学校の授業のような受動的行為ならばともかく、仕事のような能動的行為に使用するには無理があります]

「比企谷くんの目の腐り具合を再現するのは大変だったでしょう」

「お前、俺を罵倒するのを誰から義務にされてんの?」

 

 一番の問題点が解消されて安心した結衣がパンと手を叩く。

 

「これでいつ怪獣が出てきても大丈夫だね! それじゃ明日からも奉仕部とジード部の両方の活動、頑張っていこー!」

「怪獣なんか出てこないのが一番なんだけどな」

 

 ため息を吐く八幡。雪乃は結衣に向かって忠告する。

 

「念のため言っておくけれど、授業を抜け出した分は後から取り返さないといけないわよ、由比ヶ浜さん。特に中間試験が近い今はなおさら」

「うっ!? やっぱそうだよね……。ウルトラマンって大変なんだ~……」

 

 途端に結衣が嫌そうに肩を落としたので、周りは思わず噴き出していた。

 

 

 × × ×

 

 

 翌日の正午前後、東京都心。ほとんどの会社は昼休憩の時間であり、大勢の社会人たちが一時の憩いの時間にくつろいだり、あちこちの料理店に繰り出したりしている。

 そんな日常の一部を、一棟のビルの屋上に侵入していたレイデュエスの一味が見下ろしていた。

 

『今日はこの街に襲撃を掛けるのですね、殿下』

 

 ルドレイが尋ねると、レイデュエスは眼下に行き交う人間たちに嘲りの視線を向けながら肯定した。

 

「今までは片田舎が中心だったが、本来の目的のためにはこういう人間が集まる場所の方が効率的だからな」

『ですが派手に暴れますと、あの邪魔者のウルトラマンジードにすぐに気取られますぞ』

 

 オガレスが忠告したが、レイデュエスはむしろ愉悦を浮かべる。

 

「奴が出てきたのなら、また遊んでやるだけのことさ。さぁ行くぞ!」

 

 言いながらレイデュエスが、鼻先がドリルになっている四肢を持った魚型の怪獣のカプセルと全身茶色で蛇腹状の肉体の怪獣を取り出した。

 

「宇宙指令U31!」

 

 ひと言叫び、二つのカプセルのスイッチを入れていく。

 

「イッツ!」『グビャ――――――――!』

「マイ!」『ギャアオオオオオオウ! オオオオウ!』

「ショウタイム!!」

 

 装填ナックルにねじ込んだカプセルを、ライザーでスキャンする。

 

フュージョンライズ! グビラ! テレスドン!

レイデュエス! テレスグビラ!!

 

 レイデュエスが変じた黒い影が、もがいて抵抗するグビラとテレスドンのビジョンを吸い込み、フランス人形とレコードプレイヤーを踏み潰して融合獣へと姿を変えた!

 

 

 いつも通りの街の中心から、いきなり石畳の舗装を突き破って巨大なドリルの先端が突き出てきた。近くに居合わせた人たちは、日常を突然突き破った存在に当然仰天し、本能的にドリルから逃げていく。

 ドリルは穴を拡大しながらせり上がってきて、その本体である巨大怪獣が地上に出現する!

 

「ギャアオオオオオオウ! グビャ――――――――!」

 

 地底怪獣テレスドンのボディに、深海怪獣グビラのドリルと模様を備え、胸部に七つの紫の発光体が並ぶ。新たなるレイデュエス融合獣テレスグビラ!

 

「ギャアオオオオオオウ! グビャ――――――――!」

 

 テレスグビラはドリルを横薙ぎに振るって高層ビルに叩きつけ、真っ二つにへし折った。それを皮切りにして、何千何万もの人間が集まる都会の破壊と蹂躙を開始した!

 



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チェーンメールを送って来たのは誰だ。(B)

 

 葉山からチェーンメール問題解決の依頼を受けた翌日の昼休み、八幡は教室の自分の席で、昼食のパンをかじりながら教室中を見渡していた。

 昨日は雪乃から戸部たち三人の情報の収集を頼まれた八幡と結衣だが、結衣は八幡に、自分が頑張るからヒッキーは何もしなくてもいいよ! と俄然張り切りながら申し出たのであった。が、その結衣の聞き込みの進行状況はというと……。

 

「わたし的に絶対とべっち受けだと思うの! で、大和君の強気攻め。あ、大岡君は誘い受けね。あの三角関係絶対何かあるよ!」

「ぅえ?」

「でもね、でもね! 絶対三人とも隼人くん狙いなんだよ! くぅ~、友達のためにみんな一歩引いてる感じ、キマしたわぁ~!!」

 

 三浦からは適当にあしらわれ、海老名からは彼女のペースに呑み込まれ、でまるで進展していなかった。そのことで、ペガが影の中から八幡に囁きかける。

 

『結衣、全然上手くいってないね……』

「まぁ、のっけから最近の戸部たちどう? なんてド直球な聞き方してる時点でな……。てかペガ、教室で話しかけんな。万が一誰かにお前のこと気づかれたらどうする」

 

 由比ヶ浜には探偵業の才覚はないみたいだな……と思いながら八幡は注意した。

 

『でも……このままじゃ何の成果もなしだよ。八幡は、そもそも人と話しする段階にもこぎつけられないだろうし……』

「お前も何気に言ってくれるな……。まぁ任せてろよ」

 

 微妙に顔をしかめた八幡が請け負う。

 

「人と会話しなくたって、情報は集められる」

『どゆこと?』

 

 その意味が分からなかったペガだが、八幡はそれ以上説明せず、葉山と話をしている戸部、大和、大岡の様子をじっと、それでいて気づかれないように注視し出した。

 クラスにいる時は誰とも会話をしてこなかった八幡は、休み時間等の時間は本を読んだりなどして時間を潰しているが、それ以外にも何となしを装ってクラスの様子をながめたり、届いてくる会話に耳を傾けたりなどもしている。その経験を重ねた結果、八幡は他人の表情や所作の機微を捉え、言葉には表さない思考や心情を読み取る特技を身に着けたのだ。

 さて八幡が葉山たち四人の様子を観察すると、すぐに四人は葉山を中心に会話を行っているということを読み取った。しかしこれくらいはわざわざ観察しなくても既に知っている。葉山は常にF組男子のリーダー格なのだから。

 それ以外には、特筆すべきような点は見当たらない。戸部も、大和も、大岡も自然に会話のキャッチボールをしていて、嫌悪や後ろめたさなどの負の感情は見受けられなかった。もしかしたら犯人あいつらじゃないのかも……とも思いかけたところで、葉山が輪から外れて八幡の方へ寄ってきた。

 

「……んだよ?」

「いや、何か分かったのかなって思ってさ」

「いいや……」

 

 控えめに返しながら八幡が、葉山の抜けた戸部たちの方に目をやると、

 

(ん……?)

 

 三人の様子の変化を見止め、眉間を寄せた。

 

「どうかしたか?」

 

 葉山が聞いてきて、八幡が口を開きかけた時、

 

「うわッ!? また怪獣出たんだって!」

 

 ケータイをいじっていた戸部が大声を出した。それに釣られて八幡もケータイを出してネットにつなぐと、動画つきで怪獣出現のニュースが報じられていた。鼻先にドリルをつけた怪獣が、ビル街を我が物顔に蹂躙している。

 しかしそれは東京でのことだ。

 

「あー、でも東京の方だって」

「なら安心じゃん。ここんとこ避難避難でいい加減うんざりしてたしさー」

「いや、怪獣的には近い方じゃね? こっち来るかも」

「この後の授業だけ潰れてくれればいいんだけどなー」

 

 戸部の言葉で他のクラスメイトもニュースを確認し、その内容にひとまずの危険がないことを知って緊張を解いていた。が、八幡と結衣にとってはそれでは済まされない。

 一瞬結衣と目があった八幡は、おもむろに席から立ち上がる。

 

「どうしたんだ?」

「ちょっとトイレだよ」

 

 葉山を軽くいなして、ごく自然を装って教室から出ていく。結衣も三浦たちに同様の言い訳をして退室していった。二人がほぼ同時に教室を出ていっても、八幡が八幡なので変な勘繰りをする者はいない。

 そして数分後に戻ってきた八幡と結衣は、レムの送った影武者にすり替わっていた。

 

 

 × × ×

 

 

 本物の八幡と結衣はそのまま校舎を脱け出て、エレベーターで怪獣の暴れている現場へと急行する。

 

「……別に、雪ノ下は来なくてもよかったんじゃねぇか?」

 

 ふと八幡がひと言つぶやいた。エレベーターには途中で鉢合わせた雪乃も一緒に乗り込んでいるのだ。

 

「どの形態が必要になるのか分からないじゃない。私だけでも、由比ヶ浜さんだけでも全てもフュージョンライズ形態にはなれないのだから」

 

 雪乃が言い返すと、結衣がそれに同調する。

 

「そうだよヒッキー! それに人数が多い方が心強くない?」

「心強いかどうかは置いといて……まぁ万全を整えるつもりなら雪ノ下が正しいか」

「もっとも、比企谷くんが一人で全部のカプセルを起動させられたのならそもそもこんな集団行動は必要ないのだけれどね」

「あーはいはい、俺が悪いですよー。言われなくたって分かってるよ」

「ひ、ヒッキー、あたしは別に気にしてないよ!? むしろ嬉しいっていうか……じ、ジードになって人の役に立てるのがってことだからね!?」

「由比ヶ浜は優しいよなぁ」

『みんな、そろそろ到着だよ! 気を引き締めて!』

 

 無駄話をしていたところでジードから呼び掛けられ、エレベーターは東京都心の地上に出て三人は外に出た。

 

「ギャアオオオオオオウ! グビャ――――――――!」

 

 そこではニュースの動画の通り、融合獣テレスグビラが片っ端からビルを破壊して猛威を振るっている光景が繰り広げられていた。

 

[怪獣は融合獣のパターンを示しています]

「ってことは遠慮はいらねぇな……。しかしまた派手に壊しやがってんな」

「どこの誰が変身しているのか知らないけれど……一体何の権利があるのかしら。全く以て許しがたいわ」

「早く変身しようよヒッキー! これ以上の被害は出させちゃダメだよ!」

 

 正義感が人一倍強い雪乃と結衣は、テレスグビラの暴れように義憤を抱いて八幡を急かした。

 

「ああ、分かってる……」

 

 ウルトラカプセルを二つケースから取り出す八幡だったが、その時にふとつぶやいた。

 

「今更だけど、三人でフュージョンライズって出来るのか?」

「そんなこと、これからやってみれば分かることでしょう」

「ジーッとしててもドーにもならない、だよ!」

 

 結衣は既にジードの口癖を記憶していた。

 八幡を置いて、雪乃と結衣はさっさとウルトラカプセルを起動していく。

 

『ユーゴー!』『シェアッ!』

 

 雪乃がウルトラマンカプセルを起動して装填ナックルに収め、ナックルを素早く結衣に渡す。

 

『アイゴー!』『フエアッ!』

 

 結衣はベリアルカプセルを起動して、同じようにナックルに装填した。二つのカプセルが入ったナックルは八幡に手渡される。

 

『ヒアウィーゴー!!』

 

 八幡がジードライザーを起動し、装填ナックルのカプセルをスキャンした。

 

[フュージョンライズ!]

『ジィィィ―――――――ドッ!』

 

 ジードの掛け声とともにウルトラマンとベリアルのビジョンが、八幡、雪乃、結衣と重なり合う!

 

[ウルトラマン! ウルトラマンベリアル!]

[ウルトラマンジード! プリミティブ!!]

「シュアッ!」

 

 フュージョンライズしたウルトラマンジードが飛び出していき、破壊の限りを尽くすテレスグビラの面前に堂々と着地した。

 

「ギャアオオオオオオウ! グビャ――――――――!」

 

 テレスグビラはジードの登場によって注意を引きつけられ、ビルを破壊する手を止めて振り返った。

 八幡の懸念は杞憂となり、三人でのフュージョンライズは問題なく成功した。……と言いたいところだが、八幡たちは思いもしなかった問題に直面していた。

 

『「ジードの中……思ったより狭いな……」』

 

 ジードの内部は壁や仕切りなどない超空間のはずなのだが、八幡たちはぎゅうぎゅう詰めになっていた。三人で入るには若干窮屈だったようだ。

 

『「……流石にこれは想定してなかったわね……」』

『「ち、ちょっとヒッキーどこ触ってるの!? やだエッチ! もうちょっとそっち寄ってよぉ!」』

『「いでででで押すなって! 無理言うなよこれが精一杯だッ!」』

 

 流石に巨人の中で痴漢扱いされる日が来るなんて思いもしなかったと内心つぶやく八幡だった。

 

『みんな、すまないけど戦いに集中して! 怪獣が来るッ!』

 

 ジードは多少の罪悪感を抱きつつも、八幡たちに警告した。テレスグビラがこちらへ突進してくるのだ。

 

「ギャアオオオオオオウ! グビャ――――――――!」

『「く、くっそぉやってやろうじゃねぇか……! き、決めるぜ、覚悟……!」』

 

 おしくらまんじゅうのようになりながらも八幡が言い放ち、それを合図にジードがテレスグビラを迎え撃つ!

 

(♪戦い(『ウルトラマン』より))

 

「ダァッ!」

「ギャアオオオオオオウ! グビャ――――――――!」

 

 駆け出したジードが地を蹴り、先手を取って飛び膝蹴りをテレスグビラの横面に入れた。一瞬体勢を崩すテレスグビラだったが、

 

「グビャ――――――――!」

 

 首を戻す勢いで回転するドリルを振るってきたので、ジードは咄嗟に身を引く。あのドリルをまともに食らうのはまずい。

 

『「危ねぇな! 鼻先に凶器ぶら下げてんじゃねぇよ! ポケットにでも仕舞ってろ!」』

『「敵にそんなこと言って聞いてくれる訳ないじゃないの。少し冷静になりなさい余計暑苦しいわ」』

『「ていうかポケットないじゃん」』

 

 つい文句をつけた八幡に雪乃と結衣が突っ込んだ。

 当然テレスグビラが聞き入れるはずもなく、ドリルを足元の地面に突き刺して穿孔を始める。ドリルからは大量の土砂が巻き上がり、ジードの顔面に降りかかる。

 

「ウワッ!?」

 

 一瞬ジードの視界がふさがった内に、テレスグビラは地中に潜り込んで姿を消していた。

 

『「消えた……! どこから来る……!?」』

 

 左右を警戒するジード。だがテレスグビラは既に背後に回り込んでおり、地中から飛び出した勢いで突撃を掛けてきた!

 

「ギャアオオオオオオウ!」

「ウワァッ!」

 

 ドリルの一撃にはね飛ばされるジード。その際の衝撃が八幡たちにも伝わる。

 

『「うおあぁッ!?」』

『「「きゃあぁっ!」」』

 

 超空間が揺れて思わず悲鳴を上げる三人。しかもテレスグビラは倒れたジードを足で押さえつけ、首を狙ってドリルを突き出してくる!

 

「ウッ!?」

 

 危ないところで首を傾け、すれすれでドリルをかわすジード。ドリルは代わりに地面に穴を穿った。

 

『「ぐッ……! 上に乗っかるんじゃねぇッ! 気色悪りぃ!」』

「ギャアオオオオオオウ! グビャ――――――――!」

 

 八幡が怒号を上げると、ジードがテレスグビラの腹を蹴って押し返した。その隙にジードは後転して起き上がる。

 体勢を立て直したジードだったが、テレスグビラのドリルのせいで攻撃の糸口を掴めないでいる。

 

『「ちっくしょう……迂闊に手ぇ突っ込んだらドリルにズタズタにされるな……」』

 

 警戒する八幡だが、その時に雪乃が不敵に微笑んだ。

 

『「全く世話が焼けるわね、比企谷くんは。こういう時こそあの力の出番よ。由比ヶ浜さん」』

『「もう一回フュージョンライズだね!」』

 

 雪乃と結衣が示し合わせてウルトラカプセルを取り出し(『「おい勝手に出すな」』)ジードの合図でスイッチを入れていく。

 

『ユーゴー!』『ダーッ!』

『アイゴー!』『イヤァッ!』

『ヒアウィーゴー!!』

 

 装填ナックルに入れられたセブンカプセルとレオカプセルを、八幡がジードライザーでスキャン。

 

[フュージョンライズ!]

『ジィィィ―――――――ドッ!』

 

 ウルトラセブンとウルトラマンレオのビジョンが八幡たちと合わさり、ジードは姿を変える!

 

[ウルトラセブン! ウルトラマンレオ!]

[ウルトラマンジード! ソリッドバーニング!!]

「ドォッ!」

 

 再変身したジードから飛ばされた熱気が、テレスグビラを一瞬ひるませた。

 

「ギャアオオオオオオウ! グビャ――――――――!」

 

 その間にウルトラマンジード・ソリッドバーニングはスラスターから蒸気を噴き出しつつ、太陽をバックに構えを取り直した。

 

(♪ジード戦い‐優勢1)

 

「ドォッ!」

 

 テレスグビラに肉薄するジード。すぐにドリルが飛んでくるが、硬度の増した手刀は素手でドリルを弾き返す。

 

『「なるほど。これならビクビクしないで済むな」』

 

 更にジードは右腕のスラスターにジードスラッガーを接続し、蒸気を推進力にして腕を突き出す。

 

『ブーストスラッガーパンチ!』

 

 ジードスラッガーがテレスグビラのドリルの根元に叩きつけられ、綺麗にへし折った!

 

「ギャアオオオオオオウ! グビャ――――――――!」

 

 一番の武器を折られてひるんだテレスグビラに、ジードは追撃を掛ける。

 

「ダァッ!」

 

 額のビームランプから緑色のレーザー、エメリウムブーストビームが放たれ、テレスグビラの首筋に命中。爆発を食らわせる。

 

「ギャアオオオオオオウ! グビャ――――――――!」

『「よっしゃ今だ!」』

 

 ジードはテレスグビラに飛び掛かり、首を抑え込んでそのままジードスラッガーでとどめを刺そうとする。が、

 

「グビャ――――――――!」

「ドゥオッ!?」

 

 頭頂部の孔から潮が吹き出され、顔面に食らったジードは思わず手を離した。首を上げたテレスグビラは更に火炎を吐いてくる。

 

「ドゥッ!」

 

 ソリッドバーニングに熱攻撃は通用しないが、テレスグビラは重量級の体躯に似つかわしくないほどの俊敏な動きで飛び掛かってきて、ヒット&アウェイ戦法に切り替えてきた。ジードはなかなか反撃に出られずに防戦一方となる。

 戦いが長引いてきたのでカラータイマーが点滅を始めた。フュージョンライズの制限時間が近い!

 

『「くっそしぶといな……!」』

『「ヒッキー、スピード勝負だったらアレだよ!」』

『「まごついている時間はないわよ。すぐやりましょう」』

 

 雪乃と結衣がヒカリカプセルとコスモスカプセルを出し(『「だから勝手に出すなって」』)、起動してナックルに装填していく。

 

『ユーゴー!』『テヤッ!』

『アイゴー!』『タァッ!』

『ヒアウィーゴー!!』

[フュージョンライズ!]

 

 ウルトラマンヒカリとウルトラマンコスモスのビジョンが現れ、八幡たちと融合!

 

『ジィィィ―――――――ドッ!』

[ウルトラマンヒカリ! ウルトラマンコスモス!]

[ウルトラマンジード! アクロスマッシャー!!]

「ハァッ!」

 

 赤から青い姿、アクロスマッシャーとなったジードは、テレスグビラの突進を左へ受け流した。

 

「ギャアオオオオオオウ! グビャ――――――――!」

『ジードクロー!』

 

 相手の隙を作ったところでジードはジードクローを召喚し、それを片手にテレスグビラに切りかかっていく。

 

「ハァァァッ!」

「ギャアオオオオオオウ! グビャ――――――――!」

 

 縦横無尽に飛び交って切りつけるジードを前にして、テレスグビラは完全に立場を逆転された。

 テレスグビラを弱らせて、八幡はジードクローをライザーでスキャン。

 

[シフトイントゥマキシマム!]

 

 鉤爪部のスイッチを押してトリガーを三回引き、クローを回転させて側面のスイッチを押した。

 

「ハァァァァ……!」

 

 ジードクローに集中させたエネルギーを、テレスグビラの頭上へと発射!

 

「『ディフュージョンシャワー!!」』

 

 空に雲のように広がったエネルギーから、光の雨が降り注いでテレスグビラを串刺しにする!

 

「ギャアオオオオオオウ!! グビャ――――――――!!」

 

 全身を刺し貫かれたテレスグビラは爆破、消滅。勝敗は決したのだった。

 

「ハッ!」

 

 平和が戻った東京の街から飛び立って千葉方面へと帰還していくジード。その内部で、八幡たちはほっと息を吐く。

 

『「大分狭苦しかったが、どうにかなったな」』

『「早いところ元に戻りたいわ。これ以上比企谷くんに圧迫されているのなんてまっぴらよ」』

『「でもちょっと楽しかったかも! 三人の力を合わせての大勝利だよ! ジード部の出だしは上々じゃない?」』

『ちょっと、僕を計算から外さないでよ』

『「分かってるって~。大本はジードんの力だってこと!」』

 

 結衣がわいわいと盛り上がっていると、ふと八幡がつぶやく。

 

『「三人……ああそうか、三人だ。それが答えだわ」』

『「? ヒッキー、何のこと?」』

『「急に訳の分からないことを口走らないでちょうだい。放送倫理機構に訴え出たくなるから」』

『「俺の台詞は全部不適切発言なのかよ……」』

『「冗談はともかく、三人が何の答えだというの? それだけではまるで意味が掴めないわ」』

『「そこんところは後で部室で、葉山も交えて教えてやるよ。二度手間は嫌だからな」』

 

 説明を後に回した八幡を乗せて、ジードは千葉の上空まで帰ってきたのであった。

 

 

 × × ×

 

 

 八幡たちが引き受けた葉山からの依頼、その顛末を、星雲荘でライハが教えてもらっていた。

 

「なるほどね……。それでその三人を、一つのグループにさせたという訳ね」

「そういうことです」

 

 確認を取ったライハに、八幡はコクリとうなずいた。

 八幡が戸部、大和、大岡を観察して抱いた違和感、そこから気づいた事実。それは、この三人のつながりは「葉山の友達」というところしかなく、葉山がいないところでは微塵も仲良くないということだった。要するに、戸部たち同士では友達でも何でもない間柄なのだ。だから職場見学のグループ分けで葉山を巡り、対立した末にチェーンメール騒動が起きたのだろう。

 チェーンメールの発端の犯人自体は分からないままだった。しかし八幡にとって、そこは重要ではなかった。彼は葉山の要望通りに、犯人を暴かずに事態を丸く収める方法を思いついたのだ。

 それが、葉山を抜きにして戸部たち三人だけでグループを組ませるというもの。諍いの原因が葉山にあるならば、葉山をそこから抜いてしまえばいいという発想だ。これで戸部たちが本当に友達同士になれるかというのは、戸部たち自身に懸かってくるのだが、流石にそこまで立ち入るつもりはなかった。

 

「確かに上手い落としどころね。八幡、やるじゃない」

「ありがとうございます」

 

 ライハに褒められて八幡はペコリと頭を下げた。しかし一方で結衣がつぶやく。

 

「でも、隼人君はちょっと寂しそうだったな。揉め事の原因が自分だったってことと、何より仲のいいとべっちたちとはグループを組めなかったってことで」

「そういえば、その葉山君は誰とグループを組んだの?」

 

 それには八幡ではなくペガが回答した。

 

「それが、八幡となんだよ。もう一人は戸塚君って子で」

「なるほど……。三人を友達にさせる一方で、八幡は葉山君と友達になるって訳だ」

 

 ライハのひと言に八幡は驚いたような戸惑ったような、変な顔になった。

 

「い、いやいや、別に友達になるのが必須って訳じゃないじゃないですか。あいつと俺とじゃ友達なんてなれっこありませんって。あいつはクラスの上で、俺は下なんだし」

「別に誰が上でも下でも、比企谷くんは関係ないでしょう。誰とも友達になれないから奉仕部に入れられたのだから」

「本当のことだが、だからこそわざわざ言う必要はねぇよ」

 

 雪乃が微笑みながら茶々を入れた。ペガはライハに続けて話す。

 

「でもさ、葉山君が行きたい場所を書いたら他の人たちが次々同じところにしちゃって。あれじゃあグループ分けした意味ないんじゃないかな?」

「あらら。みんな、まだ将来の職業に真剣じゃないのね」

『みんな、是非ここを見ておきたいっていうのはないのかなぁ。僕だったら断然テレビ局なのに』

「リクの場合はドンシャインみたいな特撮の撮影を見たいからってだけの理由でしょ?」

『あッ、分かった?』

 

 ジードたちは三人で盛り上がっている。こういう時は輪に入れない八幡が少し持て余していると、雪乃が何やら眉間を寄せてうつむいているのに気がついた。

 

「おーい雪ノ下、そんな元が怖い顔を余計怖くしてどうしたんだ?」

「あなたこそひと言多いんじゃなくて? 比企谷くん」

 

 顔を上げた雪乃は、ポツリと言い放った。

 

「この前、私たちを襲った腕が刃物の宇宙人がいたでしょう。あれはどうなったのか、少し気になったの」

「ツルク星人……!」

 

 途端に、ペガたちがサッと顔色を変えた。

 

「そういえば、あれから現れる気配がないね。どうしたんだろ」

「ほとぼりが冷めるまで身を潜めてると思ってたんだけど、もうそんな期間は過ぎてるはずよね」

『もう地球から出ていったんじゃないかな?』

 

 ジードの予想をレムが否定した。

 

[あの程度で退却するとは思えません。あれ以来出現報告が一件もないからには、私たち以外の者によって倒されたという可能性が一番高いと思われます]

 

 レムが口にした、ツルク星人を倒した何者かを、ジードたちは警戒した。

 

『宇宙人を倒した誰か……それが善意の人だったらいいんだけど……』

「それって、融合獣に変身してる人なのかな……」

「まだ分からないけど……そうだったら、これからの戦いはそうそう楽には勝てないってことになるでしょうね……。まだ実力を隠してるはずよ……」

 

 ライハのみならず八幡たちも、場の雰囲気に感化されるように、まだ真の姿を拝んでいない自分たちの敵――レイデュエスへの警戒を強めたにのであった。

 

 

 × × ×

 

 

 テレビのワイドショーでは、ウルトラマンジードに関しての特集が執り行われている。

 

『彗星のように現れ、町を壊す怪獣を倒しては去っていくウルトラマンジード! 先日は都心で姿を変えての大立ち回りを見せました! どこからやってきたのか、何故怪獣と戦うのか、ほとんどのことが謎に包まれているジードですが、人智を超えた力で勇敢に戦う姿と積極的に人命を救う姿勢から既に世間からは現実となったスーパーヒーロー、あるいは世界の救世主との声も上がってます!』

 

 ジードの活躍を称賛する内容を――地球の衛星軌道上に静止しているバド星の円盤で、レイデュエスとその取り巻きが視聴していた。

 オガレスとルドレイは不機嫌そうに鼻を鳴らすと、玉座で頬杖を突いているレイデュエスに振り返る。

 

『ウルトラマンジードの奴、だんだんと調子づいているようですな』

『このまま奴の好きにさせてよろしいのですか? 殿下』

 

 ジードが持ち上げられていることに面白くなさそうな二人だが、レイデュエスはニヤリと含み笑いを見せた。

 

「なぁに、そんなのは今だけのことだ。分かってるだろう? 『コレ』が再起動すれば、奴は今度こそおしまいだ」

 

 レイデュエスが手の平の中で転がしているのは、二つの白紙のカプセル。

 

「それまでは花を持たせてやろうじゃないか。人生が幕を閉じるまでの短い時間、英雄になっている夢という花をな……」

 

 レイデュエスはカプセルを見つめながら、クックックッと声を押し殺しながら愉悦に浸っていた……。

 

 

 

『ウルトラストーリーナビ!』

 

八幡「今回は『ウルトラマン』第三十一話「来たのは誰だ」だ」

八幡「科特隊に新しいメンバーとして、南アメリカ支部からゴトウ隊員がやってきたんだが、彼の周りで火が点かなくなったりフジ隊員に本部ビルの材質をわざわざ聞いたりと不可解なことが起きる。それと前後して町に怪しい植物が生えるという事件まで発生。ゴトウ隊員と植物を調べていく内に、両者の恐ろしい関係ととんでもない正体が判明。そして人類を謎の円盤が攻撃し出す……という内容だ」

八幡「人間並みの知能を得た吸血植物が人間社会に侵略の牙を剥くという、怪奇色の強い一編だ。前作『ウルトラQ』のコンセプトが「テレビで見られる怪獣映画」だったから、その影響が強かったウルトラシリーズ初期はこういう雰囲気の話が多かったんだよな」

八幡「にしてもやってきた奴の正体が怪物だったとか……ぼっちだったらそんな事態に出くわすこともない。やっぱりぼっちは安心安全だな、うん」

ジード『「来たのは誰だ」のサブタイトルは『ウルトラマンオーブ』第五話で、お遊びで劇中の台詞の中に盛り込まれてるよ。自然な台詞だから聞き逃しちゃうかもね』

八幡「じゃあ、また次回で」

 




「今は試験勉強の合間の休憩中なのだから」
「奉仕部の依頼を新しく受けたって?」
「依頼者はウチの生徒の弟さんで……」
「今夜にでもその現場に乗り込んでやめさせましょう」
「あたしにはね、お金が必要なの」
[彼女はリトルスターを発症しています]
「そんな消極的なことを言わずにここで倒しましょう」
『「こっちにも力が溢れてくるぜ……!」』
『「滾るぜ……闘魂!」』



次回、『真夜中に消えた女を捜索せよ。』



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真夜中に消えた女を捜索せよ。(A)

 

 町外れの天文台の地下、星雲荘にて。

 

「ん~……」

 

 結衣がテーブルに並べられたウルトラカプセルをジード、もといじーっとながめながら何やらうなっていた。そこにライハが目を向ける。

 

「何やってるの、結衣? さっきからウルトラカプセルを見つめて」

 

 と聞くと、結衣は振り返って次のように返答した。

 

「ちょっと、ウルトラカプセルってそもそも何なのかが気になったんですよ。いつも何気なく使ってるけど、これって誰が作ったのかなって」

 

 そんな結衣の素朴な疑問に、八幡が軽く肩をすくめた。

 

「そんなこと聞いたところでどうするんだよ。別に知っても知らなくても変わらないだろ?」

「いいじゃん、気になったんだからさ。ねぇ知ってる、れむれむ? ウルトラカプセルのこと」

[お答えします]

 

 ひねくれている八幡とは違い、レムは素直に回答してくれる。

 

[ウルトラカプセルとは、M78星雲・光の国の科学者ウルトラマンヒカリが発明した肉体強化用アイテムです。光の国の反逆者ウルトラマンベリアルとの抗争が長期化したため、それを終結させるために開発されました]

「へぇ~……」

 

 説明を聞きながら、結衣がウルトラカプセルに注目する。

 

[ウルトラカプセルには絵柄のウルトラ戦士の持つ超能力の情報が込められており、一つだけでも戦局を変えるだけの可能性がありますが、二種類をライザーでスキャンすることで、カプセルの情報から特定の属性を抽出し一時的に肉体を変容させて強化するフュージョンライズが可能となります。リク、つまりウルトラマンジードはこのフュージョンライズに特化した肉体をしています]

「なるほどぉ」

 

 うなずいてレムに振り向く結衣。

 

「ジードんは、そのヒカリって人からウルトラカプセルをもらったんだね!」

 

 結衣はレムの説明の内容を先取りするつもりでそう言った。

 しかし、

 

[違います]

「え?」

[リクのカプセルは全て、星雲荘の前所有者が光の国から窃盗したものです]

「えええええぇぇぇぇぇ!?」

 

 目を丸くして叫ぶ結衣。それまで興味なさそうだった八幡と雪乃も、予想外の言葉に思わず振り返った。

 

「ジード……っていうかあたしたち、盗品を使ってたの!? それっていいの!?」

『そ、その辺はまぁ色々と込み入った事情があって……。話すと長くなるんだけど』

 

 釈明するようにジードがそう言うと、雪乃が席を立つ。

 

「長くなるのだったら、またの機会にお願いしましょう。何せ、今は試験勉強の合間の休憩中なのだから。由比ヶ浜さん、そろそろ再開しましょうか」

「うぅっ!? そうだった……」

 

 呼びかけられた途端に声を詰まらせた結衣の視線の先にあるのは、テーブルの上に広げられた教科書やノートの数々。総武高校は中間試験の時期が近づいており、学業に不安が多い結衣は雪乃たちに勉強を見てもらっているのであった。

 現実に引き戻されてげんなりしている結衣に、ペガが呼びかける。

 

「結衣。ペガもお手伝いするからさ、一緒に頑張っていい点数取ろうね!」

「ありがとうペガっち~! ペガっちはほんと優しいなぁ」

 

 励ますペガに結衣がうるうると涙目で抱きついている一方で、八幡は結衣に代わってウルトラカプセルに目を落とした。

 

「ところで、カプセルって白紙の奴がまだいくつかあるな」

 

 八幡の言う通り、現在星雲荘にあるカプセルは起動状態にあるのは、全体の四分の三程度。残りの四分の一は、表面が真っ白のままであった。

 ライハが相槌を打つ。

 

「私たちの世界でもリクが結構集めたけど、それでも全部起動してたんじゃなかったのね」

『残りのカプセルはどのウルトラ戦士のものなんだろ。レム、知らない?』

 

 尋ねるジードだったが、回答は否定であった。

 

[その記録は入力されていません。実際に起動するまでは断定できません]

『そっかぁ。じゃあ起動するまでのお楽しみってことか』

「起動するにはリトルスターが必要で、そのリトルスターは騒動の種なんだから、いいことかどうかは判別つきがたいんだけどね……」

 

 はぁ、とため息を吐くライハであった。

 

「八幡もそろそろ勉強に戻ったらどう? 君、理数系が苦手でしょ? ちゃんと勉強しないとダメだよ」

「いや、俺は大学文系に進むつもりだから……」

「今は理数系のテストもあるでしょ? そうやって言い訳しないの。もう、君は言い訳が多いのが欠点だよ」

 

 ペガに促されて、八幡はウルトラカプセルをケースに戻して試験勉強を再開したのであった。

 

 

 

『真夜中に消えた女を捜索せよ。』

 

 

 

 それから数日後、再び星雲荘にて。

 

「え? 奉仕部の依頼を新しく受けたって?」

 

 ライハが、雪乃から聞かされた内容を意外そうな顔で復唱した。

 

「今は試験前だから、部活動は停止中って言ってなかったかしら」

「本当ならそうなんですけど、今回は深刻な内容でして。早急に対応しなければならないと判断したんです」

「深刻な……。どういう依頼なの? 私にも聞かせて」

 

 物々しい言葉の響きに、ライハも表情が引き締まった。その依頼について、結衣が説明を切り出す。

 

「えっと、初めから話しますけど、依頼者はウチの生徒の弟さんで……」

 

 説明の内容を纏めると、以下の通りになる。

 依頼者は中学三年の川崎大志。彼の姉は八幡と結衣と同クラスの川崎沙希というのだが、大志によると、彼女は二年生になってから不良化したのだという。それまでは家に遅い時間に帰ることなどなかったのに、急に朝の五時に帰宅するようになり、更に聞いたことのない変な名前の店から沙希宛ての電話が掛かるようになったという。大志もそのことで何度も姉に物申そうとしたが、「あんたには関係ない」の一点張りでにべもない。それで困り果てていたのを、塾で友人となった小町に相談し、彼女から八幡たち奉仕部を紹介されて、沙希が夜遅くまでどこに消えているのか、それをやめさせて元の彼女に戻すようにという依頼を受ける流れとなったのであった。

 

「確かに思い返してみたら、川崎さん二年になってから遅刻が増えて、平塚先生にもよく怒られてるっけ」

 

 顎に人差し指を当ててクラスの様子を思い出す結衣は、八幡の方へ振り向く。

 

「そういえばヒッキーも時々遅刻してたけど、最近はなくなったね。まぁいいことだけどさ」

「それは僕が起こしてるからだよ……。八幡、寝起きが悪くって毎日大変だよ」

 

 はぁー……と大きなため息を吐いたペガに八幡は大慌て。

 

「お、おい! 恥ずかしいからそればらすなって言っただろうが!」

 

 恥を知られてしまった八幡に、雪乃と結衣が冷たい視線を浴びせた。

 

「比企谷くん……ペガくんに毎朝心身ともに過酷な重労働を負わせて、己が生を受けたことを後悔しないの?」

「心身ともに過酷って何だよ俺を起こすのどんだけストレスフルなんだよ。あとそんだけで生まれたこと後悔するのなら、俺後悔という文字にとっくに押し潰されちまってるよ」

「いけないんだぁヒッキー、友達をこき使って……。ま、まぁ、ペガっち一人に苦労させるのもアレだから? だから……たまにはその役、あたしがやってあげてもいいかなー!? な、なんて……」

 

 顔を真っ赤にして目をそらしながら申し出た結衣だが、八幡は真顔で手の平を振った。

 

「いや、別にお前にそこまでさせるくらいだったら、俺自力で起きるけど。流石に悪いし、どこのギャルゲーだよ」

「そ、そう……」

 

 結衣がしょんぼりと肩を落としたことは、八幡は気づかなかった。

 

「由比ヶ浜さんはともかく、ジードさんも手伝えば労力が半減するんじゃないかしら?」

「それがリクも早起きしないからさ。実質二人を起こさなきゃならないんだよね。どっちもだらしなくて困るよ」

『ちょっ、ペガぁ!?』

「うわぁ……そろって駄目人間だぁ……」

 

 呆れ返る結衣たち。その一方で八幡は、ライハが腕を組んで何やらうつむいていることにふと気がついた。

 

「ライハさん? 腕組んでどうしたんすか?」

 

 尋ねかけると、ライハは顔を上げて聞き返してくる。

 

「その問題の子の名前……川崎沙希さん、で間違いないのよね?」

 

 うなずく雪乃。

 

「はい……。それが何か?」

 

 すると、ライハはゆっくりと雪乃たちに告げた。

 

「その子……私のバイト先にいるわ」

「ええっ!?」

「偶然同姓同名だとは思えない。同一人物で間違いないと思う」

 

 予想外の告白に、八幡たちはしばし呆然としていた。

 

「……詳しく教えて下さい」

「ていうかライハさん、バイトなんてしてたんだ」

「住居はここがあるからいいとして、それ以外の生活費を稼がないといけないからね」

 

 結衣に答えてから、ライハが事情を口にし出す。

 

「私いま、ホテル・ロイヤルオークラにある『エンジェル・ラダー』という名前のバーでバーテンダーのバイトをしてるんだけど、そこに同じバーテンダーのバイトで、川崎沙希さんっていう子がいるの」

「ライハさん、バーテンダーやってるんだ。カッコいいかも!」

「本当は駄菓子屋がよかったんだけど、求人がなかったのよね」

 

 何で駄菓子屋? 全然違うじゃん、と一瞬思った八幡だが、余計に話をそらしたら雪乃がまた何か罵倒してきそうので黙っておいた。

 

「でも、川崎さん高校生だったのね……。確かに少し幼い感じはしたけど」

「年齢を詐称しているんですね」

「え? 何でそんなこと分かるの?」

 

 結衣がすっとんきょうな感じで聞くと、八幡は若干呆れた。

 

「十八歳未満が夜十時以降働くのは労働基準法で禁止されてるんだよ。だから高二の川崎は、年齢を偽ってバイトしてるって訳。お前も高校生なら、そんくらいのこと知っとけよ」

「あ、あはは……。あたし、夜遅くまでバイトしたことなんてないからさ……」

 

 笑ってごまかす結衣。それを置いて雪乃は話を進める。

 

「こんなにも早く、川崎さんのバイト先が判明したのは僥倖だわ。今夜にでもその現場に乗り込んでやめさせましょう。家庭の問題がなくとも、不法就労はどんなトラブルにつながるか分かったものではないわ」

「でもやめさせるだけだと、今度は違う店で働き始めるかもよ?」

 

 結衣が、今度は建設的な意見を口にした。

 

「確かに。そもそもわざわざホテルにあるような高級バーで働いているからには、相応の事情があるはずね。それが分かれば、対処もしやすいのだけれど」

 

 その事情を知るにはどうすべきか。ライハが手助けしてくれる。

 

「それは本人に伺うのが手っ取り早いでしょう。私が間に入って、話し合いの場を設けるわ。今夜十時にエンジェル・ラダーに来て。ホテルの場所は分かる?」

「大丈夫です。ロイヤルオークラなら知っていますから」

 

 と雪乃が答えて、奉仕部の行動予定が決定した。

 そしてホテル・ロイヤルオークラで再集合するまで解散となったところで、八幡がふとぼやいた。

 

「にしてもバーねぇ……。材木座の奴、全然違うじゃねぇかよ」

「え? ヒッキー、中二が何か言ってたの?」

 

 中二って材木座のあだ名かよ。まぁいいけど……と心の中でつぶやいた八幡は、結衣に告げる。

 

「いや、店名の情報がエンジェル何とかって川崎大志は言ってただろ? で、朝方まで営業してるって条件で材木座に調べてもらって、二件ヒットしたんだそうなんだが、あいつメイドカフェの方で間違いないって言ってたんだよな。それでこの結果だ」

「確かに大外れだね。でも何でメイドカフェ? 中二は何を根拠にしてたの?」

「そこは知らん」

 

 まぁ材木座の考えることだし、どうせろくでもない理由なんだろうな……と八幡は判断した。あと、そのメイドカフェに調査しに行くことにもなっていたのだが、材木座一人だけで行かせるか、とも考える。

 中止にしないところが、八幡の材木座に対する扱いの程を物語っていた。

 

 

 × × ×

 

 

 そして数時間後、十時前。ホテル・ロイヤルオークラのエレベーターホール前で、八幡、雪乃、結衣、そしてライハの四人がそろった。

 

「みんな、もう来てたのね」

 

 そう言ってライハは全員の顔ぶれを見回した。四人とも、普段の私服とは違い、襟付きのジャケットや瀟洒なドレスといった上品な服装である。高級バーはドレスコードがあるので、普段着では入店を断られてしまうからだ。

 

「私は先に行って、川崎さんにある程度話を通しておく。その方がそっちも話しやすいでしょう?」

「ありがとうございます。お願いします」

「任せて。早い内に円満に解決するように、私も説得してみるから」

 

 ライハはそう約束して先にエレベーター(当然普通のもの)に入っていった。それを見送った八幡に、ペガが影の中から呼びかける。

 

『八幡。川崎沙希さんのこと、分かってることだけでも大志君に知らせておいた方がいいんじゃないかな? きっと心配してるからさ。とりあえずホテルのバーで働いてるってことだけでも教えとけば、身の危険はないって分かってもらえるはずだよ』

「そうか? でも大志の奴の連絡先なんて知らねぇぞ」

『だったら、小町ちゃん伝手にさ。小町ちゃんなら大志君と連絡できるようにしてるだろうし』

「小町か……」

 

 小町の名前を出すと、八幡は途端に不機嫌そうな表情になった。それを訝しむ結衣と雪乃。

 

「どしたのヒッキー? 小町ちゃんがどうかした?」

「目だけじゃなくて顔貌まで腐っているわよ」

「おい顔の形は腐ってねぇだろ」

 

 腐ってないよな? と少し不安になりながらも、八幡はボリボリ後頭部をかく。

 

「いや、小町の奴が男と連絡先交換してるって考えたら、微妙な気分になってな……」

「うわっ出た、ヒッキーのシスコンっぷり……」

 

 結衣たちが引くので八幡は言い繕う。

 

「そういうのじゃねぇから! ただアレだよ……ほいほい男に個人情報渡してたら、危ないんじゃないかってな? 小町外面はいいから、勘違いする奴もいるだろうしな」

「心配しすぎじゃないかな? 小町ちゃん、そういうとこはしっかりしてる感じがしたし」

 

 不安がる八幡に結衣はそう言ったものの、ジードは八幡の肩を持つ。

 

『僕は八幡の気持ち分かるよ。小町ちゃんかわいいからね。きっとその分、危険も多くなりそうだ』

「おッ、ジードもそう思うか? ていうか、ジードってきょうだいいるのか?」

『いや……僕にはいないよ。一人も……』

 

 そうつぶやいたジードは、何故だか寂しそうであった。

 

『だから八幡がちょっと羨ましいかなって。小町ちゃんと仲いいしね』

「一人っ子の奴は大抵そう言うよな。けどそんないいもんじゃねぇよ」

 

 八幡とジードが話し込んでいると、雪乃の顔にかすかに影が差しているのに結衣が気づいた。

 

「ゆきのん? どうしたの?」

「何でもないわ……。それよりそろそろ時間よ。移動しましょう」

 

 雪乃が話を打ち切るように告げて、三人はエレベーターのボタンを押して、最上階へと向かっていった。

 

 

 × × ×

 

 

 ホテルの最上階にあるバーラウンジに足を踏み入れた八幡と結衣は、普段彼らが生きている環境とはまるで異なる豪奢な雰囲気に、さながら異世界に来てしまったような感覚を覚えて、すっかりと気圧されていた。

 しかし雪乃だけはいつも通りの様子で、まごまごしている二人を誘導し、三人一緒に木製のドアをくぐっていった。

 入店するとギャルソンの男性が八幡たちを先導して、ガラス張りの窓の前のバーカウンターへと連れていった。そこでは二人の女性バーテンダーが待っている。

 片方はもちろんライハで、もう一方は問題の少女、川崎沙希であった。

 

「……本当に来たんだ。雪ノ下……」

「こんばんは」

 

 沙希は雪乃に向けて、はっきりとした敵意の目を向けた。二人の間に接点はないはずだが、雪乃は総武高校の有名人でありその性格もあって、接点がなくとも快く思っていない人間もいる。沙希もその一人だったようだ。

 八幡たちが席に座ると、仕事開始の前に沙希と話をしたらしいライハが告げる。

 

「川崎さんの事情は伺った。ただ……。まぁバーテンダーが二人も同じお客の相手をしてる訳にはいかないから、本人から聞いて。私は別のお客のところに行ってるから」

 

 そうとだけ言って、ライハは八幡たちから離れていった。口で言った理由だけでなく、八幡たちが沙希と話し合うのに邪魔が入らないようにしてくれるのだろう。

 お陰で八幡たちは気兼ねなく、腰を据えて沙希の説得に臨める。

 

「えっと、川崎さん……まずは、どうしてこんなとこでバイトしてんの? やー、あたしもお金ない時バイトするけど、年ごまかしてまで夜働かないし……」

「あんたたちには関係ないでしょ……って言いたいとこだけど」

 

 雪乃をにらんでいる沙希相手に、結衣が恐る恐る切り出すと、沙希はため息交じりに口を開いた。

 

「もう鳥羽さんには話しちゃったし、どうせあの人から聞くだろうから、教えたげる。全く……鳥羽さんが雪ノ下の知り合いだって分かってたなら、絶対話さなかったのに……」

「それはお生憎さま。こちらとしては好都合だけどね」

 

 素っ気なく口にする雪乃を沙希がジロリときつくにらみつけ、雪乃ではなく八幡と結衣がビビったりしながらも、沙希は己の事情を語り出した。

 

「あたしにはね、お金が必要なの。正確に言えば、学費が」

「学費? そんなの、親に相談すれば……」

 

 結衣が言いかけたが、それを八幡がさえぎる。

 

「その段階で済んでりゃ、こいつここにいないだろ。川崎の家は、そんだけの経済的余裕がないってことだろ」

「でも総武は市立なんだし、学費なんてそう掛からないんじゃ……」

 

 ピンと来ていない結衣に、今度は雪乃が諭す。

 

「学費は学校だけに発生するものじゃないでしょう」

「え? ……あっ、そうか、塾か!」

「由比ヶ浜……あんたも来年は受験なんだから、言われなくても察したら?」

 

 沙希が結衣に、かわいそうなものでも見るような目を向けた。

 八幡が続けて話す。

 

「弟の大志の方は今年が受験だ。塾通ってるんだってな。で、川崎、お前は二人で両立できない学費を弟に譲って、自分の分は自分で稼ぐことにしたんだな」

 

 その指摘に、沙希は沈黙で肯定した。

 

「……あたしは大学行くつもりだから、最低でも夏期講習は行くつもり。その分のお金は、今から溜めないと稼げないの。だから、あんたたちが何と言ったってバイトはやめないからね」

 

 八幡たちの反論を封殺するように言い切って、沙希は三人の注文したドリンクをシャンパングラスに注いでコースターの上に置いた。

 

「お金かぁ……。そればっかりは、流石に出せないな……」

 

 残念そうにポツリとつぶやく結衣。皆の悩みを解決する奉仕部と言っても、所詮は高校生である彼女たちに塾の学費分の金額を出せるはずがないし、そもそもそんなやり方は雪乃の掲げる奉仕部の理念、「相談者の成長を促す」に反する。

 

「……いや、だったら」

 

 黙ってしまった結衣に代わって八幡が何か言いかけたが、そこにちょうどグラスに手をつけた雪乃の声が被さった。

 

「あら……?」

「どしたんだ? 雪ノ下」

 

 雪乃は訝しむように持ち上げたグラスをながめ回し、ドリンクに口をつけてから、沙希に言った。

 

「川崎さん。このグラス、随分と温まっているわよ。ペリエもぬるいし……ちゃんと冷やしているの?」

「えっ? そんなはずは……」

「あっ、こっちのグラスもあったかいよ」

「俺のもだ」

 

 結衣と八幡もそう報告した。沙希も流石に戸惑って、他の客やバーテンダーの様子を一瞥して確かめる。

 

「おかしいな……。他の人には異常がないみたいなのに、どうしてあたしだけ……」

『八幡……!』

 

 ここで、ジードが八幡たち三人にだけ聞こえる声で呼びかけた。それだけで、三人はハッと察する。

 

「川崎さん、ちょっとごめん……!」

 

 結衣が手を伸ばして、沙希の手の平に触れた。

 

「え? 由比ヶ浜、何をして……」

 

 呆気にとられる沙希には構わず、結衣は八幡と雪乃に、愕然とした顔を向けた。

 

「手の平が熱い……!」

 

 直後に、八幡はジャケットの下に隠していた装填ナックルに触れた。その瞬間にレムが報告する。

 

[カワサキサキ。彼女はリトルスターを発症しています]

 

 

 × × ×

 

 

 海浜幕張駅前の、街の灯りが差し込まない暗がりから、オガレスとルドレイがホテル・ロイヤルオークラを観察していた。彼らの目からだと、一般人には見えない、リトルスターの反応を意味する光の柱がホテルの建物から天に伸びているのが映っている。

 

『殿下、間違いありません。リトルスターの輝きです』

「そうか……」

 

 ルドレイから報告を受けたレイデュエスは、ニヤニヤとしながら自身の目でもリトルスターの光を確かめた。

 

「この間からまさかとは思ったが、この宇宙にもリトルスターがあるとはなぁ……。まぁ俺には不要のものだが、ウルトラマンジードの力にはなるものだ。それを巡って争ってみるのも面白い。漠然と暴れるんじゃなく、標的を定めるのもメリハリになるしな」

 

 言いながらオガレスとルドレイの前に出て、二種類の怪獣カプセルを取り出す。

 

「宇宙指令L16!」

 

 レイデュエスは黒と赤で体色が異なるだけで瓜二つの、一本角の怪獣のカプセルを順番に起動して装填ナックルに押し込んでいく。

 

「イッツ!」『ギャアオオオオオオウ! オオオオウ!』

「マイ!」『ギャアオオオオオオウ! オオオオウ!』

「ショウタイム!!」

フュージョンライズ! ブラックギラス! レッドギラス!

レイデュエス! ツインデスギラス!!

 

 怪獣カプセルをライザーでスキャンし、レイデュエスが変身。フランス人形とレコードプレイヤーを踏み潰して、レイデュエス融合獣へと姿を変えた!

 



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真夜中に消えた女を捜索せよ。(B)

 

 沙希がリトルスターを発症していると知って、八幡たち三人は一気に緊迫した顔つきとなった。事情が分からない沙希は、彼らの様子の変化に戸惑いを覚える。

 

「ど、どうしたの、みんな急に怖い顔になって……。あたしの手が熱いと何かあんの?」

「いや、何て言うか……」

 

 八幡が言葉を濁していると、雪乃がライハに目配せとジェスチャーで沙希のリトルスター発症を伝えた。それを読み取ったライハが、すぐに沙希の元へと寄ってくる。

 

「川崎さん、具合が悪いの? ちょっと診せてみて」

「と、鳥羽さん?」

 

 沙希の手を触れて確認したライハが、若干眉間を寄せた。

 

「よくないみたいね……。無理しては駄目よ。今日は早引けしなさい。店長には私から言っておくから」

「そ、そんな、別に気分が悪いとかじゃないですから。そんな大袈裟な……」

「いいえ。風邪はひき始めが肝心よ。特に今は試験前でしょ? そんな大事な時期に倒れるなんてことがあってはいけないから」

 

 とにかく理由をつけて沙希を帰らそうとするライハ。手の発熱の真の意味を知っている彼女は必死だ。

 ひとまずは、逃げ場のないこの高層ビルの最上階から離れさせる。そのために説得していたライハだったが……八幡に、レムからの無情な報告が伝えられた。

 

[そちらに融合獣が出現しました]

 

 八幡は弾かれたように窓から眼下の光景を覗き込む。その目に飛び込んできたのは、こちらにまっすぐに向かってくる一体の怪獣の姿。

 

「もう遅かったか……!」

 

 八幡に続いて外を見た雪乃と結衣が息を呑み、八幡は忌々しげに舌打ちした。

 

「ギャアオオオオオオウ!! オオオオウ!!」

 

 ずんぐりとした大柄な黒と赤の斑模様の体躯に、頭頂部には二本角。背面や肘からは鋭い刃のような角が生えており、剣呑な輝きを発していた。

 ブラックギラスとレッドギラス、双子怪獣の力を一つに凝縮したレイデュエス融合獣ツインデスギラスがホテルを――リトルスターを保有する沙希を狙って進撃してきていた!

 

「きゃあああああああああああ!?」

 

 ホテルの警報が鳴らされ、ツインデスギラスの接近に気がついた客たちから次々と悲鳴が巻き起こり、皆我先にとエレベーターや非常階段に殺到していった。沙希も近づいてくるツインデスギラスを見やって仰天する。

 

「怪獣!? こんな近い場所に……!」

「川崎さん、私たちも避難しましょう!」

 

 ライハが沙希を逃がそうと手を引くが、一方でペガが八幡へと呼びかける。

 

『今から避難してたんじゃ間に合わないよ!』

「言われなくたってそんくらい分かるぜ……!」

「時間稼ぎが必要……いえ、そんな消極的なことを言わずにここで倒しましょう」

 

 雪乃のひと言にうなずき、八幡は結衣に振り返った。

 

「由比ヶ浜はライハさんと一緒に川崎の奴を頼む。あいつが一番危険な立場だからな!」

「融合獣は私と比企谷くんで対処するわ」

「う、うん!」

 

 結衣が了解すると、八幡と雪乃は避難していく人の波に逆らって誰の目にもつかないところへと移動していった。結衣はライハとともに沙希の誘導を行う。

 

「川崎さん、こっち!」

「雪ノ下……あんたのツレたちは!?」

「ゆきのんとヒッキーは先に逃げたよ! あたしたちも早く!」

 

 嘘を吐いて、とにかく川崎を急かす結衣。狙われているのは彼女なのだ。

 そして八幡と雪乃は、沙希を助けるためにウルトラカプセル二本とジードライザーでフュージョンライズを行う。

 

『ユーゴー!』『ダーッ!』

『アイゴー!』『イヤァッ!』

『ヒアウィーゴー!!』

[フュージョンライズ!]

『ジィィィ―――――――ドッ!』

 

 セブンとレオのビジョンが八幡たちと合わさり、ウルトラマンジードに変身!

 

[ウルトラセブン! ウルトラマンレオ!]

[ウルトラマンジード! ソリッドバーニング!!]

「ドォッ!」

 

 ホテルに迫っていたツインデスギラスの面前に、空から炎に包まれたウルトラマンジード・ソリッドバーニングが着地。熱気を飛ばしてデスギラスを牽制して進行を止めた。

 

『二人とも、行くよッ!』

『「よぉし……やってやるぜッ!」』

 

 呼びかけに八幡が応じ、ジードがツインデスギラスに真正面からぶつかっていった。

 

「ギャアオオオオオオウ!! オオオオウ!!」

「ダァッ!」

 

 ホテルを背にしてデスギラスと押し合いになるジード。デスギラスは体格に見合ったかなりのパワーであるが、ソリッドバーニングも力ならば負けない。背面のスラスターからジェット噴射を発して押し返していき、ホテルから遠ざける。

 

「ドォッ!」

「ギャアオオオオオオウ!! オオオオウ!!」

 

 ホテルから距離を開けたところで連続パンチを浴びせてひるませた。隙を作ったところでジードはスラッガーを肘にジョイントする。

 

『ブーストスラッガーパンチ!』

 

 加速した斬撃を叩き込む! まともに食らったデスギラスの動きが更に鈍った。

 

『「相手はあまり素早くないみたい。このまま押し込めば勝てるはずよ」』

『「わざわざ反撃を待つ義理もねぇ。一気にやっちまおう!」』

 

 こちらの優勢に八幡たちは勢いづく。

 そしてジードが戦っている間に、結衣とライハは沙希を連れてホテルから脱出した。

 

「ウルトラマンジードだ……!」

「まだここは危険よ。さぁ、こっちに!」

 

 ジードが融合獣を抑え込んでいてもライハは油断せずに、沙希をもっとデスギラスから遠ざけていく。

 

「ギャアオオオオオオウ!! オオオオウ!!」

 

 戦闘はジードが圧倒しているように見えたが、しかしツインデスギラスの本領はここからであった!

 

(♪迫りくる危機(『ウルトラマンレオ』より))

 

「ギャアオオオオオオウ!! オオオオウ!!」

 

 うずくまるように背を丸めると、その姿勢のまま高速回転を開始。ギュンギュンとうなりを上げてジードに迫ってくる。

 

『「な、何だあの不自然な動き!? どうやって回ってんだ!?」』

「ダァッ!」

 

 動揺する八幡だが、ジードは回転するデスギラスにパンチを突き出す。

 が、

 

「ドゥアッ!?」

『「わぁッ!?」』

『「きゃっ!」』

 

 拳は回転の勢いに弾かれ、ジード自身も突っ込んできたデスギラスによって吹っ飛ばされてしまった!

 

『ぐッ……ソリッドバーニングの防御を物ともしないなんて……!』

『「今、あの角に弾かれたわ……!」』

 

 分析する雪乃。ツインデスギラスの身体に生える角はただの飾りではない。身体を回転させることで殺人スクリューの刃となる、紛れもない武器なのだ。

 デスギラスの必殺技、ツインデススピンがジードに襲い来る!

 

『素手で駄目なら……!』

 

 それに対してジードも必殺技で迎え撃つ。

 

「ダァッ!」

 

 スラッガーを念力で自在にコントロールするサイキックスラッガーを繰り出す。だがこれも弾き返された。

 

『エメリウムブーストビーム!』

 

 ならば光線技、と額のランプから緑色のレーザーを照射。

 しかし光線もツインデススピンにかき消されてしまった!

 

『「何やっても効かねぇぞ!? どうすりゃいいんだ……!」』

 

 焦る八幡は、レムに助言を乞う。レムからの回答はこうだ。

 

[回転には回転。頭上から逆回転をぶつければ、相手の攻撃を止められるはずです]

『回転か! だったら……ジードクロー!』

 

 ジードの行動は早く、ジードクローを召喚。八幡がトリガーを二回握り込み、中央のスイッチを指で押した。

 

『コークスクリュージャミング!』

 

 ジードがクローを前に突き出しながらきりもみ回転して飛び上がる。炎に覆われながらの突撃が、弧を描いてデスギラスに直撃する!

 ジードの回転とツインデススピンがしばらく拮抗する。が、しかし……。

 

「ドゥアァッ!!」

『「わぁぁぁぁッ!!」』

 

 弾かれたのはジードの方であった。

 

『うぅ……! 競り負けた……!?』

 

 地面に強かに打ちつけられたジード。流石にダメージが大きく、すぐには起き上がれそうにない。

 

「ギャアオオオオオオウ!! オオオオウ!!」

 

 スピンを止めたツインデスギラスは、倒れているジードを放置して沙希の方を追い始めた。

 

「な、何でこっちに来るの!?」

「走って! もっと速く!」

 

 本当のことを言う訳にはいかず、ライハと結衣はただひたすらに沙希を連れて逃げ回る。しかし人間と怪獣の歩幅は絶望的なまでに違う。全速力でも逃げ切れるかどうか。

 そんな時に、沙希が前方からこちらに向かって走ってくる人影に気づいて驚愕に染まった。

 

「あれは……大志!?」

「姉ちゃーん!?」

 

 弟の大志であった。ライハと結衣も驚き、沙希はスピードを上げて大志の元へ駆け寄る。

 

「あんた! どうしてこんなところに……!」

「さっき姉ちゃんがホテルのバーにいるって連絡があって、それで様子見に近くに来たら怪獣が出てくるから……! 姉ちゃん大丈夫なの!?」

「馬鹿っ! それはこっちの台詞だよ! こんな危ないとこに来て……!」

 

 大志を一喝する沙希。しかし姉弟で話していられるのはそこまでであった。

 

「ギャアオオオオオオウ!! オオオオウ!!」

 

 デスギラスの二本角が光り、先端から沙希に向けて破壊光線が発射されたのだ!

 

「! 川崎さんっ!」

 

 すぐにライハが駆け出すが、とても間に合いそうにない。光線に驚愕した沙希は咄嗟に大志を抱き寄せる……!

 ドォォォンッ!!

 

「か、川崎さぁ―――んっ!!」

 

 光線が沙希たちの姿を隠して道路をえぐり、結衣はたまらずに絶叫した。

 もうもうと立ち込める硝煙。ライハと結衣は愕然と立ち尽くすが……。

 

「……あれ?」

 

 気がつけば、沙希は大志を抱き締めたまま、別の位置に立っていた。傷一つない。

 

「い、今何が……?」

 

 沙希と大志は理解が及ばずにキョロキョロとしているが、ライハたちは沙希に何があったのかを瞬間的に理解した。

 

「リトルスターの超能力……!」

「瞬間移動だ……!」

 

 リトルスターによって九死に一生を得た沙希であったが、ツインデスギラスがいる以上は助かったとはいえない。まだまだ狙ってくる。

 だがここでジードの気力が戻り、立ち上がった。カラータイマーが鳴る中、どうにか身体を支える。

 

『「何とか立て直したが……どうやって奴の技を破ればいいんだ……?」』

[先ほどより速く、かつ重量のある回転があれば可能です]

 

 とレムは回答するが、

 

『けどさっきのが最大威力だった……! あれ以上なんて……』

 

 戸惑いジードに、レムが告げる。

 

[そのために必要なカプセルは、既にこの星で入手しています]

『「この星で……? そうかッ!」』

 

 レムの言わんとするところを理解した八幡が、装填ナックルからカプセルを抜いて手早く交換を行う。

 

『ユーゴー!』

『イヤァッ!』

 

 雪乃がレオカプセルを改めて起動し、レオのビジョンがカプセルから現れる。

 

『アイゴー!』

『タァーッ!』

 

 続いて八幡がアストラカプセルのスイッチを入れると、レオに似た戦士、アストラのビジョンが腕を振り上げた。

 

『ヒアウィーゴー!!』

 

 交換したカプセルをジードライザーでスキャンし、トリガーを握り込む。

 

[フュージョンライズ!]

『ジィィィ―――――――ドッ!』

 

 レオとアストラのビジョンが八幡たちと合わさった!

 

[ウルトラマンレオ! アストラ!]

[ウルトラマンジード! リーオーバーフィスト!!]

 

 上から降ってきた赤い球が弾けて青い炎が燃え盛り、灼熱の赤い炎の螺旋から新たな姿のジードが飛び出していく!

 

「ダァッ!」

 

 真っ赤な炎を弾き飛ばして、仁王立ちしたジード。その容姿は赤と黒の筋骨隆々としたボディに髪が逆立ったような荒々しいトサカを持った、見るからに力強さに溢れたものである。

 獅子座L77星の戦士兄弟の力をその身に宿した、肉弾戦最強の形態、リーオーバーフィストだ!

 

『「この姿……何だかこっちにも力が溢れてくるぜ……!」』

 

 八幡が己の体温と鼓動が高まるのを感じ、その熱のままに言い放った。

 

『「滾るぜ……闘魂!」』

 

(♪猛る若き獅子)

 

「ギャアオオオオオオウ!! オオオオウ!!」

 

 変身したジードに向き直ったツインデスギラスは、再びツインデススピンを繰り出し、高速回転しながらジードに突撃していく。

 

「トォッ!」

 

 しかしジードは微塵もひるまず、天高く跳躍してデスギラスの頭上を取った。そのまま猛然ときりもみ回転し、真下に急降下していく。

 

『バーニングスピンキック!』

 

 回転する足が炎に包まれ、ツインデススピンと衝突! そして、

 足の先端が、デスギラスの二本角を連続でへし折った!

 

「ギャアオオオオオオウ!! オオオオウ!!」

 

 角を折られて禿頭になったデスギラスがストップ。刃を失っては、回転はもう無意味だ。

 

「ダァーッ!」

 

 着地したジードの方は止まらず、デスギラスの肉体のあらゆる箇所に流れるようにキックを叩き込んでいく。デスギラスは一芸に特化した融合獣。角を砕かれた以上は、最早ジードに対抗する手段は残されていなかった。

 

「イヤァーッ!」

 

 デスギラスが散々蹴られてフラフラになったところで、ジードは再び跳躍。空中から斜めに急降下していき、必殺の飛び蹴りをお見舞いする。

 

「『バーニングオーバーキック!!」』

 

 灼熱の飛び蹴りがデスギラスをかすめ切り、ツインデスギラスは一瞬の内に爆発四散した!

 

「やったぁーっ!」

 

 ジードの大逆転勝利に結衣がピョンピョン飛び跳ねて喜んだ。沙希の方はジードを見上げ、ふっと口元を綻ばせた。

 

「ウルトラマンジード……ありがとう」

 

 そうつぶやくと、彼女の胸元からリトルスターが離れ、ジードに向かって飛んでいく。

 

「あ……?」

 

 リトルスターはカラータイマーから八幡の元に届き、一本のカプセルと同化して表面にウルトラ戦士の姿を描いた。

 

『デヤッ!』

[ダイナカプセル、起動しました]

 

 また新しいウルトラカプセルを手に入れたジードは、空に飛び上がって帰還していく。

 

「タァッ!」

 

 その道中で、雪乃がふと八幡に呼びかけた。

 

『「比企谷くん、あなたジードに変身していると時々柄にもなく暑苦しくなるわね。いわゆる、ハンドルを握ると豹変するタイプなのかしら?」』

『「い、言うなよ! 何かこう……ついテンションが上がっちまうんだ」』

[肉体が精神の影響を受けるように、精神も肉体の影響を受けます]

 

 テンションが上がることに対して、八幡は若干恥ずかしく感じていた。

 

 

 × × ×

 

 

 途中融合獣に襲われるという災難はあったものの、沙希の問題は解決がされた。大志が姉のために危険な場所へ飛び込み、沙希が弟を助けたことで、冷えていた姉弟関係は回復した。これが吊り橋効果か、いや意味がちょっと違うな、と八幡は思った。

 また金銭に関しては、八幡が沙希に塾のスカラシップ制度を教えてあげた。いわゆる奨学金だ。後は沙希の努力次第だろう。

 以上の経緯を八幡が小町に伝えると、彼女は大きく安堵の息を吐いた。

 

「よかったー。大志君のお姉さんのとこに怪獣が出たなんていうからハラハラしたんだけど、丸く収まったんだね。小町もひと安心だよー」

 

 どっとソファに座り込んだ小町は、ふと八幡に呼びかけた。

 

「ところで、よかったねお兄ちゃん。ちゃんと会えて」

「あ? 何のことだ?」

 

 小町の言っている意味がよく分からず、聞き返す八幡。すると小町は、何でもないことのように告げた。

 

「ほら、前言ったお菓子の人。お兄ちゃんが助けたわんちゃんの飼い主さんだよ。会ったなら会ったって言ってくれればいいのに。いやー、よかったねお兄ちゃん。骨折ったお陰で結衣さんみたいな可愛い人と知り合えて」

「ああ、あの犬の飼い主あいつ……」

 

 とつぶやきかけた八幡が、途端に硬直した。

 

「? どしたのお兄ちゃん?」

 

 八幡の不審な様子に気づいた小町が顔を覗き込んできたが、それで我に返った八幡は曖昧な笑顔を返した。

 

「何でもねぇよ。気にすんな」

 

 その八幡の影の中から、ペガが彼を訝しげに見上げていた。

 

『八幡……?』

 

 

 × × ×

 

 

 中間試験が終了し、休みが明けての月曜日。その日が先日問題になっていたチェーンメールの発端である職場見学の日である。

 八幡は戸塚と葉山とグループを組んでいたのだが、ペガが言った通り、五つほどの班が同じ職場を希望したため、葉山や戸塚には別の班の人間がつき纏っている。八幡は集団の最後尾で、必然的に単独行動のありさまとなった。

 見学場所の電子機器メーカーのミュージアムの出口を抜けた時には、他の者たちは既にどこかへ行っていなくなっていた。……否、一人だけ八幡を待っている者がいた。

 

「あ、ヒッキー、遅い! もうみんな行っちゃったよ?」

 

 結衣であった。八幡を認めると腰掛けていた縁石から立ち上がり、八幡の元へ近寄っていく。

 

「あ、ああ、悪い。で、そのみんなはどこ行った訳」

「サイゼ」

「……お前は行かねぇの?」

「え!? ……あ、やー、何というかヒッキーを待っていた、というか。その……置いてけぼりは可哀想かなーとかなんとか」

「……由比ヶ浜は、優しいよな」

「へ!? あ、え!? そ、そんなことないよっ!!」

 

 八幡の言葉に何を思ったのか赤面する結衣だったが……そんな彼女に、八幡は告げた。

 

「あのさ、別に俺のことなら気にする必要ないぞ。お前んちの犬、助けたのは偶然だし、それにあの事故がなくても俺、多分高校でぼっちだったし。お前が気に病む必要全くなし」

 

 今の言葉に、結衣は目を大きく見開いて八幡を見つめ返した。

 

「ヒ、ヒッキー、覚えて、たの?」

「いや、覚えてないけど。一度、うちにお礼に来てくれたんだってな。小町に聞いた」

「そか……小町ちゃんか……」

 

 愛想笑いを浮かべて顔を伏せた結衣に、被せるように八幡が言う。

 

「悪いな、逆に変な気遣わせたみたいで。まぁ、でもこれからはもう気にしなくていい。俺がぼっちなのはそもそも俺自身が理由だし事故は関係ない。負い目に感じる必要も同情する必要もない。……気にして優しくしてんなら、そんなのはやめろ」

 

 この八幡の言葉に、結衣は呆然としたかのように顔を上げると、その表情が笑ったような泣いたような曖昧なものとなり、目線があちこちに泳いだ。

 

「や、やー、何だろうね。別にそういうんじゃないんだけどなー。なんてーの? ……や、ほんとそんなんじゃなくて……」

 

 しばらく愛想笑いを浮かべていた結衣だったが、おもむろに顔を伏せて、声を震わせた。

 

「そんなんじゃ、ないよ……そんなんじゃ、ないのに……」

 

 結衣の様子に、八幡は気まずそうに口を開く。

 

「あー、まぁなんだ、ほら」

 

 しかし何かを言う前に結衣が顔を上げ、目に涙を溜めながらキッと八幡をにらみつけた。八幡は思わず目をそらしてしまう。

 

「……バカ」

 

 ひと言言い残して、結衣は背を向けて走り出していった。

 一人取り残された八幡の影の中から、ペガが顔を出す。

 

「八幡……今のはちょっとないよ。結衣にあんな言い方して」

「何だよペガ、こんなとこで顔出すな。誰か見てるかもしんないだろ」

「それどころじゃないよ……。あれじゃ結衣が可哀想だよ」

『そうだよ……結衣、泣いてたよ。謝った方がいいんじゃ……』

 

 ジードもそう呼びかけるが、八幡は二人の言葉を振り払うように、結衣が走り去った方向に背を向けた。

 

「何を謝んだよ。俺はあいつの負い目を解消しただけだ。それが悪いことなのかよ。謝らなきゃいけないことなんて一つもないだろ」

「負い目だなんて、そんな……!」

「他に理由あるのかよ。学年カーストトップのあいつが、底辺の俺の世話を焼くような面倒なことすることに。本来ありえない状況を正しただけだよ」

 

 と八幡が唱えると、ペガは怒ったように目を吊り上げた。

 

「……もういいッ!」

 

 ひと言吐き捨ててダークゾーンの中に引っ込むペガ。ジードも、呆れたように無言となった。

 八幡は結衣とは逆の方向に歩いていきながら、心の中でつぶやいた。

 

(しょうがねぇだろ……俺は優しい女の子が嫌いなんだよ。俺ってば距離感が掴めないですぐ勘違いするから、俺に優しい人間が他の人間にも優しいってことをすぐ忘れるんだよ。それで今まで何度も期待して、玉砕してきた。だから俺はもう同じことはしない。由比ヶ浜に対しても勘違いしないよう、線引きする必要があるんだ)

 

(俺はもう、希望は持たない)

 

 

 

『ウルトラストーリーナビ!』

 

雪乃「今回は『ウルトラマンレオ』第十六話「真夜中に消えた女」よ」

雪乃「ビニールハウスに幽霊が出るという噂が流れ、実際に女の幽霊に襲われて人が蝋人形のようになって変死するという事件が起こった。その幽霊の正体は、ダンをして恐ろしい奴と言わしめるアトラー星人だったの。アトラー星人は残虐な上に強く、次々と犠牲者を出しながらレオも返り討ちにしてしまったわ。圧倒的な実力のアトラー星人にゲンは心が折れそうになるけれど、ダンは地球を救うために彼を叱咤して、ともにアトラー星人を倒すために命懸けで挑んでいく……という内容よ」

雪乃「これは長いウルトラシリーズでも屈指のホラー回よ。不気味な呼吸音とともに近づき、人間を蝋人形のように固めて殺してしまうアトラー星人……。マンションの人間を皆殺しにして、姿を見せずに百子に迫るアトラー星人の描写は相当な恐怖を煽るわ」

雪乃「そして『レオ』の重要回でもあるわ。何故なら、この話を機にダンとゲン以外のほとんどのMAC隊員が入れ替わるから。アトラー星人に殺害された隊員のシーンもあるし、皆ここで殉職してしまったのでしょうね……」

ジード『MACはシリーズでも群を抜いて殉職者の人数が多い防衛チームだ。第四クールに入ると名実ともに全滅してしまうし、不遇度では他の追随を許さないね……』

雪乃「それでは、また次回でお会いしましょう」

 




「結衣がもう一週間も顔を見せなくなったのは、八幡が原因だって」
「やはり由比ヶ浜さんがここに戻ってくるのが一番理想的な形よ」
「いえいえ。小町も結衣さんの誕生日プレゼント買いたいですし」
「いやぁ実はね、お姉ちゃんちょっとしたお仕事始めたんだ」
「いいや、ちゃんと見てたよ――融合獣の中からしっかりとな」
『言われた通りに来たんだ! 結衣を返せッ!』
『「希望なんか、全てブチ壊してくれる!!」』
『「テメェが希望を壊すって言うのなら……」』
『「守るぜ……希望!」』



次回、『その男を呼び表すならば、怪獣殿下だろうか。』



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その男を呼び表すならば、怪獣殿下だろうか。(A)

 

 ここは町外れの天文台の地下にある秘密基地、星雲荘。

 

「あ、あの、ライハさん……俺は何で正座させられてるんでしょうか?」

 

 たった今、八幡はライハの前で床に正座を強制されていた。それを見下ろす険しい表情のライハに、八幡はびくびくしている。

 怖気づいている八幡に、ライハは言い放った。

 

「ペガから聞いた。結衣がもう一週間も顔を見せなくなったのは、八幡が原因だって」

「そ、そのことですか……」

 

 職場見学の日より一週間。この間、結衣は奉仕部にも星雲荘にも来なくなってしまっていた。しかし学校を休んでいるという訳ではなく、同じクラスの八幡は毎日顔を見ている。だが、向こうは八幡に話しかけようともしなくなった。

 八幡を避けているのは明白であった。

 

「八幡、結衣を突き放すようなこと言ったって? だから結衣は、八幡と顔を合わせづらくてここに来ないのよ。結衣に謝って、発言を撤回しなさい」

 

 ジードにも言われたことをもう一度言いつけられ、八幡は反論した。

 

「確かにあの時は、ちょっと言い方がきつかったかもしれません。でも、撤回する気はありませんよ。俺は、入学初日にあいつの飼い犬をかばって入院した。由比ヶ浜はそれを気に病んで俺に優しくしてた。俺はそれに、もう気にしなくていいと言った。それだけのことなんですから」

 

 八幡は、入学式のその日に車道に飛び出た犬をかばって車に轢かれ、しばらく入院する羽目に陥った。その犬の飼い主が結衣だということを、八幡は小町から聞いたのである。それで結衣にそのようなことを告げたのだ。

 そう説明すると、ペガもライハもはぁー……と大きなため息を吐いた。

 

「全く八幡は……察しがいいようでいて、人の気持ちが分からないんだね」

「な、何だよその言い方……」

「いい? 女の子が負い目なんてもので、いつまでも男の子に優しくするなんてことはないの」

『えッ、そうなの?』

 

 八幡ではなくジードが聞き返した。

 

「リクは黙ってなさい」

『は、はい……』

 

 ライハに凄まれて、タジタジになりながら引っ込んだ。

 

「初めの内ならともかく、結衣が奉仕部に入ってからもう二か月くらいは経つんでしょ? それなら結衣はあなたに、感謝の念だけじゃなく、仲良くしたい、友達になりたいという気持ちがあるはず。それを汲んであげないなんて……」

 

 そう諭すライハであったが、八幡は受け入れなかった。

 

「そんなの分からないじゃないですか。由比ヶ浜は誰にでも優しいし、進んで損を引き受けちまうようなタイプですからね。俺みたいな奴に構うなんて普通は嫌がることも、ズルズル続けちまうのかも」

 

 と言うと、ライハとペガはすっかり呆れ返って顔を見合わせた。

 

「こりゃ駄目ね……。鈍感というか、何というか……」

「リクも鈍い方だけど……八幡は自己評価が低すぎるよ」

 

 そんな二人を見つめて、八幡はやや憮然となる。

 

「何か、失礼なことを言われてるような気がする……」

 

 この様子をそれまで黙って見ていた雪乃が立ち上がった。

 

「由比ヶ浜さんがどう思っているかはともかく、一つだけ確かなのは、今の状態が続くのは良くないということよ。平塚先生からも、これ以上奉仕部に来ないのなら由比ヶ浜さんを除名すると言っていたじゃない」

「まぁ、そうだな……」

 

 うなずく八幡。平塚静は奉仕部を生徒の自己変革の場としており、そこに幽霊部員がいる必要はないとしているのだ。

 

「それに、あまり打算的なことを言うのは好かないけれど……由比ヶ浜さんがいないと、ウルトラマンジードの力は半減したようなものだわ」

「そうだね……。少なくとも、アクロスマッシャーが使えないんだものね」

 

 ペガが相槌を打った。アクロスマッシャーの能力は独特であり有用なので、このまま変身できないとなると後々困る場面が多々出ることだろう。

 

「新しく協力者を見つけるのも難しいでしょうし、やはり由比ヶ浜さんがここに戻ってくるのが一番理想的な形よ」

「戸塚は駄目なのか?」

「今はあなたに意見を求めていないの」

 

 八幡のひと言を雪乃はピシャリとはねのけた。

 

「俺が一番の当事者なのに、発言権がないってどういうことなんだ……」

「そうなると、八幡に結衣と仲直りさせるべきね」

 

 肩を落とす八幡を置いて、ライハが話を進める。

 

「でも普通に二人を対面させるだけじゃ、結衣も話しづらいと思うよ。肝心の八幡はコレだし」

「挙句にはコレ呼ばわりだよ……」

 

 ペガたちが喧々諤々と話し合っていると、雪乃がよく通る声で発言した。

 

「私に、少し考えがあるわ」

 

 

 

『その男を呼び表すならば、怪獣殿下だろうか。』

 

 

 

 六月十七日、日曜日。八幡と雪乃は、東京BAYららぽーとにまで来ていた。

 

「雪乃さん、こんにちは!」

 

 雪乃に元気良く挨拶をしたのは、八幡とともにここへ来た小町である。雪乃は一番に彼女に対して謝りを入れた。

 

「ごめんなさいね。休日なのにつき合わせてしまって」

「いえいえ。小町も結衣さんの誕生日プレゼント買いたいですし、雪乃さんとお出かけ楽しみですし」

 

 雪乃が考えた案。それは、結衣の誕生日が六月十八日と近くに来ているので――もっとも、彼女のアドレスに0618と入っていたことからの推測なのだが――誕生日プレゼントを贈るとともに関係を修復しようというものであった。そのために当然プレゼントの品を用意する運びになったのだが、八幡たちでは結衣の好みに当たりそうなものを探すのは難しそうなので、小町に協力してもらうことになったのだ。そして今、一緒に買い物に来ているという訳である。

 今回の買い物には、ライハは同行していない。軽挙そうでいて意外と敏い小町に対して八幡たちとどんな関係かごまかすのが困難そうだという判断からである。彼女は別にプレゼントを探している。

 そんな訳で、八幡たちは早速プレゼント探しを開始した。

 

「ここのショッピングモールはかなり広いから、効率重視で行こう。俺はこっち回るから」

「ストップです♪」

 

 しかし小町には別の思惑もあるようで、八幡の個別行動の提案を人差し指とともに折った。

 

「指超痛ぇ……!」

「せっかくなのでみんなで回りませんか? その方がアドバイスし合えるし、お得です」

「けれど、それだと回り切れないんじゃないかしら……」

「大丈夫です! 小町の見立てだと結衣さんの趣味的にここを押さえておけば問題ないと思います」

 

 こうして積極的に舵取りをして八幡と雪乃を、十代の女子向けのショップが立ち並ぶコーナーに誘導していった小町だったが……。

 

「小町、この辺りでいいんだったな? ……あ、あれ?」

 

 到着した頃には、いつの間にか小町の姿がなくなっていた。

 

「あいつどこ行ったんだ? ひと言も声掛けないで……」

 

 八幡が小町のケータイに電話をすると、小町は次の通りに答えた。

 

『小町買いたいもの色々あるからすっかり忘れてたよ』

「みんなで回ろうと言ったのはお前だろ……。妹の頭がここまで残念になっていたとは、お兄ちゃんちょっとショックだよ」

 

 と八幡が言うと、電話越しに小町の思い切り馬鹿にしたようなため息が聞こえた。

 

『お兄ちゃんに分かれっていう方が無理か。まぁ、いいや。小町あと五時間くらい掛かりそうだし、何なら一人で帰るから、後は二人で頑張って!』

「ちょ、おい!」

 

 一方的に告げて電話を切る小町。八幡が掛け直しても、あえて無視しているのかもう出なかった。

 

「物買うのに頑張れも何もねぇだろ……。何を考えてんだあいつ」

 

 と八幡がぼやいたら、足元の影からペガもため息を吐いた。

 

『そこが分かんないから、結衣がああなるんだなぁ……』

「おい、今のどういう意味だ?」

『自分でよく考えたら?』

 

 結衣が来なくなってから、八幡に冷たいペガであった。

 

「何なんだよみんな……ジードは何か分かんねぇか?」

『さぁ……』

 

 ジードも大体八幡と同じ体たらくであった。

 

「まぁ、わざわざ休日につき合ってもらっていた訳だし、文句を言える義理ではないわね。由比ヶ浜さんが好みそうなジャンルは分かったのだし、後は私たちで何とかしましょう」

「はぁ……。こうなるんだったら、ライハさんも一緒でよかったかもな」

 

 こんな流れで小町が早々に抜け、八幡と雪乃は近くの店を回りながらプレゼント探しを再開した。

 

 

 × × ×

 

 

 八幡も雪乃も感性が大分結衣からは遠いので、適切なプレゼントを選ぶだけでも悪戦苦闘していたが、それでも時には相談し、時にはペガから助言をもらい、ジードは役立たずなので放っておかれながら、プレゼントを選考していった。

 しかしその道中で――雪乃が誰かから声を掛けられた。

 

「あれー? 雪乃ちゃん? あ、やっぱり雪乃ちゃんだ!」

 

 八幡が振り返り、そして目を見開いた。

 雪乃の名前を呼んだのは、それこそ目が覚めるほどの美人。容姿の端整さもさることながら、人懐っこい笑みと雰囲気が華やかさを添えていて、その魅力を数段引き上げていた。フォーマルなスーツも、彼女が身に着けていると高級ドレスに見えてくる。

 八幡はその美貌にも一瞬面食らったが、彼女と雪乃を見比べて更に驚いた。顔立ちがよく似ているのだ。

 

「姉さん……」

「は? 姉さん? は?」

 

 雪乃はこの美女を、姉と呼んだ。女性が八幡に対して名乗る。

 

「雪乃ちゃんの姉、陽乃です。あなたお名前は?」

「はぁ。比企谷です」

「比企谷……。へぇ……」

 

 八幡をまるで品定めするように観察する陽乃に対して、八幡はささやかな違和感を抱いていた。

 

(……この人、前にどっかで会ったことなかったっけ? いやまさかなぁ……)

 

 どこかで陽乃を見たような気がしたのだが……こんな美人を見かけて忘れるはずがない。既視感という奴だろう、と八幡は自己解決した。

 

「比企谷くんね。うん、よろしくね♪」

 

 やがて何かを得心したように陽乃は八幡をながめ回すのをやめ、にっこりと微笑んだ。

 彼女は八幡を、雪乃の彼氏と勘違いしたらしい。雪乃を人差し指でツンツンしてからかい出す。

 

「二人はいつからつき合ってるんですかー? ほれほれ言っちゃえよー!」

「ただの同級生よ」

「またまたぁ照れちゃって~。君はどうなのかなー? ホントのとこ言ってごらん?」

「ちょ、やめて下さい……! 彼氏じゃないすから……!」

 

 陽乃の人差し指攻撃が八幡にも向けられ、その様子に雪乃が苛立ったように髪をかき上げた。

 

「姉さん、いい加減にしてちょうだい。そもそもその格好は何? 就職活動にはまだ早いんじゃないかしら」

 

 スーツ姿に触れると、陽乃は自分の格好を見下ろしながら答えた。

 

「ああこれ? いやぁ実はね、お姉ちゃんちょっとしたお仕事始めたんだ」

「え? お仕事……?」

 

 話についていけていない八幡を置いて、雪乃は呆気にとられる。

 

「大学はどうしたの? まさか中退なんて、母さんが許すはずないわ」

「大丈夫大丈夫。こんなカッコだけどバイトみたいなものだから、大学とは両立してるから」

「だからって……そもそも何の仕事を……」

 

 と聞きかける雪乃だが、途端に陽乃はポンと手の平を合わせてさえぎるように言った。

 

「そーだ! わたし人を待たせてるんだった。早く行かないと怒られちゃう! それじゃ雪乃ちゃん、またね!」

「あっ、ちょっと……!」

 

 一方的に話を打ち切って雪乃から離れる陽乃。その途中で八幡に振り返って手を振る。

 

「比企谷くん。雪乃ちゃんの彼氏になったらお茶行こうね!」

 

 そうとだけ告げて、陽乃は呆気にとられる雪乃たちを置いて、たったかと走り去っていった。

 

 

 雪乃と八幡と別れた陽乃は、ショッピングモールの別のフロアに向かった。その人気の少ない場所で、彼女と同じ黒いスーツ姿ながら、対照的に仏頂面の男性が陽乃を待っていた。

 

「すみませーん先輩、少し遅れちゃいました」

『別に構わん。時間自体は守っているからな』

 

 男性はどういう訳か、口を全く動かさずに声を発して陽乃に応じた。

 

『しかしいつも正確に、五分前には行動するお前には珍しいことだ。何かあったか?』

「いや大したことじゃないんですよ。途中で妹がデート中なのを見つけて、ちょっと話し込んでただけです」

『そうか。何事もないのならそれでいい』

 

 男性は陽乃の家庭事情には興味を示さず、淡々と自分たちの仕事の話を始める。

 

『問題の奴が、この近隣で目撃されたという情報を入手した。我々はそいつの素性も目的も、まだ何も掴めていない。私たちで捜索して、本人から情報を吐かせる。何か人命に危害を及ぼす行為の兆候が見られたら武力行使を用いても阻止するのだ。いいな』

「……了解です」

 

 指示をされた陽乃は、その瞬間に、それまでの朗らかで華やぐ雰囲気が消え去り、芯まで冷え切ったような表情のない顔で応答した。

 

 

 × × ×

 

 

 八幡たちが陽乃と鉢合わせていた頃、偶然にも結衣が同じショッピングモールを訪れていた。愛犬サブレをトリミングに連れてきていたのだ。

 彼女はすぐ横の店のショーウィンドウに映る自分の顔をぼんやり見つめながら独りごつ。

 

「このままじゃ駄目だよね……。やっぱりちゃんと話し、しなきゃね……」

 

 自分に言い聞かせながら歩き出そうとした時、後ろから誰かに呼びかけられる。

 

「おや、そこの君……。少しいいかな?」

「はい?」

 

 結衣が振り向くと、背後にどこかで見たような顔の男性が立っていた。誰だったかな、と結衣が思い出す前に、相手が答えを口にした。

 

「ああ、やっぱり。君はこの前、怪物に襲われてた子だ。元気だったかい?」

「あっ! あの時の!」

 

 思い出して驚く結衣。その男性は、ツルク星人襲撃の際に助けに入った人物であった。

 

「あの時はどうもありがとうございました! 何かお礼を、と思ってたんですけど、急にいなくなるから……」

「ははは、いいよお礼なんて。たまたま通りがかっただけだから」

 

 ペコペコと頭を下げる結衣に、男は爽やかな笑みで遠慮した。それからふむ、と結衣の顔を見つめてつぶやく。

 

「ところで何だか元気がないみたいだけど……あの時一緒にいた男の子と何かあったのかい?」

「えぇっ!? な、何で分かったんですか!?」

 

 一発で言い当てられ、仰天する結衣。男は苦笑しながら答える。

 

「実はこう見えても占いをやっててね。君みたいな年頃の女の子からよく相談を受ける。だから何となく分かるんだ」

「そうなんですか……。占い師ってすごいんだぁ……」

「そうだ。これも何かの縁だし、君のことを占ってあげようか。何か助言の一つでもあげられるかもしれない。ちょっと行ったところにお店があるんだ」

「えぇ? そんな、いいですよ。お金もそんなないし、きっとご迷惑です」

「まぁまぁいいから。遠慮することはないよ」

「そ、それじゃあお言葉に甘えて……」

 

 男の厚意に預かる結衣であったが……ふとサブレの様子がおかしいことに気づく。

 

「ウゥ~……! ワンワンワンッ!」

 

 男に対して歯を剥き出しにして威嚇し、激しく吠え始めたのだ。

 

「ど、どうしたのサブレ!? ご、ごめんなさい、いつもは人に吠える子じゃないのに……!」

「いやいいよ。動物のすることなんで気まぐれなものだ」

 

 結衣は慌ててサブレを落ち着かせようとする。

 

「やめなさいサブレ! 初対面の人に失礼でしょ。ほら行こう?」

「ウゥゥ~……キャンキャンキャンッ!」

 

 サブレを連れていこうとする結衣だったが、サブレは抵抗。リードを引っ張った際に首輪が壊れ、リードから外れて逃げ出し、ショッピングモールの雑踏に紛れてしまった。

 

「サブレ!? どこ行くの!? 待ってぇ!」

 

 すぐに追いかけようとする結衣だったが、男に手を掴まれて止められた。

 

「女の子一人で追いかけるのは大変だろう。特徴は覚えたし、ウチの者を使いに出して探させるよ」

「で、でも……」

「いいからいいから。さぁ早く行こう。こっちだよ」

 

 男は多少強引に結衣を連れていく。結衣は後ろ髪を引かれながらも、引っ張られるように男についていった。

 結衣を誘導する男は、だんだんと人目のないところに足を向けていく。

 

「な、何だか寂しいところにあるんですね……」

「まぁね。それより、君はあの男の子と随分親しいみたいだね。あんなに寄り添い合って」

「えぇぇ!? よ、寄り添ってはなかったですよ!」

 

 男のひと言に思わず赤面して首を振る結衣。しかし男は重ねて告げる。

 

「いいや、ちゃんと見てたよ――融合獣の中からしっかりとな」

「えっ――」

 

 気がつけば結衣は人の気配が全くないところにまで連れ込まれ、物陰からバド星人とゴドラ星人が飛び出てきた!

 

「!? きゃ――!」

 

 悲鳴を上げかけた結衣だが、男に額に指を当てられると、ショックを与えられて急激に意識が遠のいた。

 どさり、と崩れ落ちた結衣を、バド星人オガレスとゴドラ星人ルドレイがニヤニヤと見下ろす。

 

「全くちょろいもんだ。それじゃあこいつを廃工場まで運べ。こいつを餌に、ジードどもを誘き出すぞ」

 

 男――レイデュエスも嘲笑を浮かべながら、結衣のバッグからケータイを抜き取った。

 

 

 × × ×

 

 

 陽乃が去っていった後、八幡と雪乃は彼女のことについて少しばかり話をしていた。

 

「それにさ、お前と顔が似てるのに、笑った顔が全然違うだろ」

「……馬鹿な理由ね」

 

 しかしそこに、二人の方向へとミニチュアダックスフントが猛然と駆けてくる。

 

「い、犬……」

 

 途端に犬が苦手な雪乃は身をすくませるが、ダックスフントは八幡の方に飛びついて、八幡は咄嗟に抱き止めた。

 

「おい、飼い主どうした。放し飼いかよ」

「ク~ンク~ン」

 

 ダックスフントは急に八幡の頬をベロベロと舐め回し、驚いた八幡は思わず手放す。

 

「うわッ!?」

 

 フロアの床に落ちたダックスフントはそのまま寝転がって、無防備に腹を見せる。

 

「懐きすぎじゃねぇの? ……ん? この犬……」

 

 八幡はやたらと懐くダックスフントに見覚えがあることに気がついた。首に嵌めている壊れた首輪は、間近で見た記憶がある。

 

「まさか由比ヶ浜の犬か? じゃ、あいつここに来てるのか……?」

 

 そうなら本人はどこに? と周囲を見回した時、ケータイがメールの受信を報せた。画面を見ると、その結衣からであった。

 

「ちょうどいいタイミングで。……いや、あいつ俺たちが来てるの知ってんのか?」

 

 訝しみながらもメールを開き――その瞬間に八幡は凍りついた。

 

「どうしたの? 由比ヶ浜さんから何て……」

 

 様子を気にした雪乃が覗き込んで、彼女も急激に息を呑んだ。

 メールには可愛げの欠片もない文章が綴られていたのだ。

 

『今すぐに指定する場所に来い。来なかったらお前の女の命はない』

 

 明らかに結衣が打ったものではない……誰かが結衣をかどわかしたのだ!

 



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その男を呼び表すならば、怪獣殿下だろうか。(B)

 

「はぁ……はぁ……!」

 

 突然何者かから脅迫メールを送られた八幡は、即座に雪乃とともに指定された場所に向かって走り出した。何せ時間の指定は「今すぐに」としかないのだ。ちょっとでももたもたしていたら、結衣の安全の保障がない。

 

[正面の工場が目的地です]

 

 レムのナビゲートの元、二人とついてくるサブレは指定された廃工場へとたどりつく。息を整える暇もなく、八幡たちは入り口の錆びついた扉を開け放って中に踏み込んだ。

 

「おい、どこにいやがる! 来たぞッ!」

 

 ぜいぜい息を荒げながらも、廃工場中に響くように怒鳴る八幡。すると大型のコンテナの陰から、二人の宇宙人を連れた男が八幡たちの前に現れる。

 

「遅かったじゃあないか。お前の女の命が惜しくはなかったのかぁ?」

「時間の指定もねぇのに遅かったも何もねぇだろ……! あと別に俺のじゃねぇ……」

 

 少しずつ呼吸を落ち着かせながら、八幡はニヤニヤと嗤っている男に対して言い返した。雪乃は、男が連れている宇宙人――バド星人とゴドラ星人が羽交い絞めにしている結衣に目を向ける。

 

「由比ヶ浜さん……無事だったのね」

「ゆ、ゆきのん……ヒッキー……」

 

 ひとまず外傷はなさそうだが、安心などは出来ない。雪乃にとっては一週間ぶりに見る結衣の顔だが、こんな場所で、こんな形での再会なんて全く望んでいなかった。

 

「ウゥ~……ワンワンワンッ!」

 

 サブレは主人を捕らえている男たちに牙を剥き出しにして威嚇するが、男はそれに構わずに八幡――の影に向かって言い放った。

 

「そこの影の中にいる奴も出てこい。妙なことをしようとするんじゃないぞ?」

『くッ……』

 

 ダークゾーンに姿を隠しながら結衣を助けに行こうとしていたペガだが、その存在は既に敵に知られていた。やむなく表に姿を出す。

 

『言われた通りに来たんだ! 結衣を返せッ!』

 

 ジードは男たちに向かって恫喝したが、男とバド星人オガレス、ゴドラ星人ルドレイは思い切り笑い飛ばした。

 

「ハッハハハハッ! 何を馬鹿言ってるんだぁ? あっさり返すくらいなら、最初から捕まえたりするものか! 前情報通り、思考が浅はかな奴のようだなぁウルトラマンジード!?」

『何だってぇ……!?』

「……そもそもテメェ誰だよ」

 

 見下されて憤るジードの一方で、八幡は全力で相手の出方に警戒しながら問いかけた。すると男は、

 

「俺が何者かは、これを見ればよく分かるだろう」

 

 言いながら右手に握り締めたものを持ち上げた。紫色という点以外は、ジードライザーそっくりの造形である。

 

「ライザーだッ!」

 

 息を呑むペガたちに、男は自慢するように告げた。

 

「ブラッドライザー。俺のお手製の品でなぁ。性能はオリジナルと遜色ない出来だと、お前らもよく知ってるだろう」

 

 やはり、今までの融合獣は目の前の男が変身していたものだったのだ。八幡たちは理解する。

 しかし、あの時ツルク星人から自分たちを助けた男がその正体だったとは……。あの時は偶然居合わせたのではなく、自分たちの様子を確かめるために近づいたのだろう。

 

『融合獣にフュージョンライズできるということは、お前は……』

「如何にも。ある意味じゃお前の血族だよ、ウルトラマンジード。だがベリアルの血脈ではない」

 

 ジードに答えながら一歩前に出る男の姿が歪み――人間のものから、異形の怪人のものに変化していく。

 

「申し遅れたな。俺の名はレイデュエス。かつて全宇宙を支配したレイブラッド星人の血を受け継ぎしレイオニクスにして、宇宙の王の座を継承する新たな支配者だ。そろそろ面と向かって挨拶しておこうと思って、この席を用意したのさ』

 

 温かみのない鈍色の肌の肉体の各箇所を、紫色の尖った突起が鎧のように覆っている。頭頂部には反り返った角のようなトサカが生え、胸元には融合獣と同じ、紫色の発光体が七つ、緩いV字に並んでいた。その姿は、惑星ヨミの怪人レイバトスに酷似している。

 ブラッドライザーを用いて融合獣に変身し地球を恐怖に陥れる、ウルトラマンジードの新たなる敵、魔導師暴君レイデュエスがベールを脱いだのである。

 

「……宇宙の支配とか、んな中二病発言はどうだっていい。それより今重要なのは……」

 

 八幡は冷や汗を垂らしつつも、魔人態となったレイデュエスに気圧されないように内心で己を奮い立たせながら、捕まっている結衣を一瞥する。

 

「テメェは由比ヶ浜をどうするつもりなんだよ。俺たちは身代金とか用意できねぇんだけど?」

 

 と言うと、レイデュエスは思い切り侮蔑の色を押し出して失笑した。

 

『流石、地球人の考えることは低俗だな』

「あぁ?」

『地球の金になど興味があるものか。俺たちにとっては何の価値もない。俺が求めるのは……』

 

 レイデュエスはどこからともなく長杖、ブラッドスタッフを取り出して結衣に向ける。

 その先端から反った光刃が伸びて大鎌ブラッドサイズとなり、切っ先が結衣の喉元に突きつけられた。

 

「ひっ!?」

『ちょっとしたゲームさ』

「なッ……!?」

 

 色めき立つ八幡たち。喉に死を突きつけられた結衣は、今にも泣きそうに顔を引きつらせている。

 

「ゲームだと……!?」

『ああそうだ。見ての通り、この女の命は俺が握っている。助けたいんだったら、ジード、お前たちの命と交換だ。さぁどうする?』

 

 分かりやすい脅迫と死刑宣告に、雪乃が静かな激昂を見せた。

 

「ジードに勝てないからと、こんな卑怯な手段に訴え出たという訳? 悪党とは現実でも恥を知らないものなのね……!」

 

 雪乃の発言をレイデュエスは鼻で笑った。

 

『おいおい勘違いするな。これはゲームだと言ったろう、これまでの戦いと同じでな。俺はお前らの抵抗を止めない。この女を助け出せる手段があるのなら、存分にやってみるがいい』

「!?」

『ほらほらどうした。正義の味方というのはこういう時、鮮やかな手段で人質を救出してみせるものなんだろう? 早くやってみろよ。それとも出来ないのかぁ? それじゃあこの女がかわいそうだぞ?』

 

 猫撫で声を出して促してくるレイデュエスに、八幡たちはこの行為の意味を感じ取った。

 レイデュエスは本気でこちらの相手をしていない……弄んでいるのだ! こちらが悩み、苦しむ様を見て面白がっている……レイデュエスにとってこれは、ただの遊びに過ぎないのだ!

 

「ちッ、馬鹿にしやがって……!」

 

 敵の舐め切った態度に憤る八幡であったが、その場から一歩たりとも動くことが出来なかった。悔しいが、結衣を無事に救出する手段が彼にはないのだ。だからと言って、言われた通りに自分の首を差し出すことも出来ない。どうしたらいいのか見当がつかず、結果立ち尽くすことしか出来ないでいるのだ。予想外の窮地に立たされてしまった。

 

「比企谷くん……」

「八幡……」

 

 雪乃とペガは戸惑いながら、八幡に目を向けた。八幡は必死に思考を巡らせる。

 この場にはライハに来てもらい、レイデュエスたちの不意を突いて倒してもらうか? いや、いくら彼女の剣の腕でも一瞬の内に三人は難しいだろう。それにペガのことを知っていた以上、ライハの対策もしているはず。上手く行くはずがない。だが、それ以外に取れる手段は……。

 

『おいどうした。さっさと答えを出せ。さもないと、本当にこの女の首を切り落とすぞ?』

 

 冷や汗が滝のような八幡に、レイデュエスは構うことなく返答の要求をしてくる。もうあまり考えている時間はない。だが、やはりいい手など一つも……。

 その時、レイデュエスの額に不意に赤い点が浮かび上がった。

 

『ん?』

 

 ターンッ!

 と、レイデュエスの額が弾丸に撃ち抜かれ、その身体が背後に吹っ飛ぶ。

 

『殿下!?』

 

 段ボールの山に突っ込んで倒れたレイデュエスに衝撃を受けるオガレスとルドレイ。だが衝撃を受けたのは八幡たちも同じであった。

 

「え!?」

「撃たれた!? でも、どこから……!?」

 

 反射的に顔を上げる雪乃。見れば、窓ガラスの一枚に穴が開いている。どうやら誰かが外からレイデュエスを狙撃したようだ。しかし、一体誰が……?

 次の瞬間、工場の物陰からスーツ姿の見慣れぬ屈強な男が宇宙人たちに飛び掛かり、一撃ずつ加えて結衣から手を離させた。

 

『ぐわぁッ!』

『君、大丈夫か! すぐに離れろ!』

「えっ!? は、はい……!」

 

 結衣を助けた男は口を全く動かさずにしゃべりながら、八幡たちの元まで下がらせた。突然の事態の変化に仰天している結衣だが、無事に助け出されて八幡たちに保護される。

 

「由比ヶ浜!」

「由比ヶ浜さん! 怪我はない?」

「う、うん……。でも、あの人は?」

 

 いきなり現れたスーツの男について、ジードとペガが叫んだ。

 

『ゼナさん!!』

「だ、誰?」

『詳しい話は後だ。こいつらを捕まえてからな』

 

 ゼナと呼ばれた男は無表情のまま答え、宇宙人たちに拳銃を突きつけた。

 

『大人しく投降しろ。ここは包囲されている』

『ぐッ……!』

 

 オガレスとルドレイは立ちすくむが、その時……撃たれたレイデュエスが哄笑を上げた。

 

「ハッハッハッハッハッ! いやぁいかんな。死なないと分かっていると……防御が疎かになる」

 

 額を……脳天を撃ち抜かれたにも関わらず、星人態に戻ったレイデュエスはむくりと身体を起こした。しかも額に開いた風穴が……一瞬にしてふさがった。

 

「再生した……!?」

 

 ギョッと息を呑んだ雪乃たちに、レイデュエスは得意げに語る。

 

「惑星ヨミで習得した暗黒魔術だ。撃たれた程度で死んでいられないんでね」

 

 埃を払いながら、背後にオガレスとルドレイを控えたレイデュエスが、ゼナを見やってほくそ笑んだ。

 

「AIB……ベリアル被害者の会か。こっちに来ていたとはな。仕方ない、こうなったからにはゲームの趣向を変えようか」

 

 言いながら取り出したのは、サイケデリックな色彩の口吻を持った宇宙人のカプセル。

 

「怪獣カプセルだ!」

 

 ペガが叫び、ゼナが発砲するが、光弾はレイデュエスの前に張られた闇のベールによって弾かれた。

 

「宇宙指令U26!」

 

 レイデュエスはそのまま怪獣カプセルのスイッチを入れて起動する。

 

「イッツ!」『キョオオオオオオオオ!』

 

 カプセルを腰の装填ナックルにねじ込み、続いてトーテムポールに手足が生えたような怪物のカプセルを起動した。

 

「マイ!」『ポオオオォォォ――――……!』

 

 二つのカプセルを収めると、ブラッドライザーを取り出す。

 

「ショウタイム!!」

 

 ブラッドライザーでカプセルをスキャンし、読み込んだデータを己の肉体に取り込む。

 

フュージョンライズ!

「ハハハハハハハハッ!」

 

 暗黒の異空間の中、哄笑するレイデュエスが魔人態に変化し、カプセルから現れた星人たちのビジョンを口の中に吸い込んで更に変身していく。

 

ヒッポリト星人! ジャシュライン!

レイデュエス! ゴルドヒッポリト!!

 

 フランス人形とレコードプレイヤーを踏み潰して、レイデュエス融合獣へと変身して廃工場を突き破る!

 

『危ない!』

 

 ゼナは八幡たちを連れて工場から脱出。そしてレイデュエス融合獣を忌々しそうに見上げる。

 

「キョオオオオオオオオ!」

 

 毒々しい色取りのボディにヒッポリト星人の顔が縦に三つ並んだ魔像、レイデュエス融合獣ゴルドヒッポリトは、八幡たちを狙わずに周囲に向けて羽型のパーツから金色の光線を照射し出す。

 

「うッ、うわああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!?」

「きゃああああああああ――――――――!!」

 

 光線を浴びせられた町の住人たちが、誰彼構わず黄金像に変えられていく!

 

[町の人々が、ジャシュラインの能力によって黄金にされていっています]

「大変だ! 早く止めないと!」

 

 ゴルドヒッポリトの凶行に慌てるペガ。ゼナは八幡に向き直って告げた。

 

『少年、今は君がウルトラマンジードか。悔しいが、今の我々に融合獣と戦う力はない。我々に代わりに奴を討ち取ってくれ』

『もちろんです! 行こう、八幡!』

 

 ジードが呼びかけるも、八幡はすぐには返答せず、結衣に顔を向けた。

 

「由比ヶ浜……」

「な、何……?」

 

 結衣と目が合うと、八幡はややためらいつつも、時間がないということを意識し、意を決して口を開いた。

 

「初めはただのなりゆきだったし、何の関係もなかったお前に協力させるのは本当はとんだ筋違い、迷惑も甚だしいことなんだろう。現に俺たちに巻き込んじまったせいで、お前死ぬかもしれなかったしな。だけど……俺が情けないせいで、今の状況じゃジードを満足に戦わせてやれねぇんだ。だから、本当に申し訳ないんだが……」

 

 後ろめたさを感じつつも、結衣の目を正面から見据えて頼み込む。

 

「お前の力、貸してくれねぇか」

 

 改めて、今度はなりゆきではなく、確かな意志の元に申し込んだ。

 先ほどまで死を目前としていたことで未だ顔の青ざめていた結衣だったが、八幡の言葉に血色が戻っていった。

 

「……うん! あたしだって、あいつぶっ飛ばしてやりたい気持ちだし! 喜んで協力するよ!」

 

 結衣の答えに、雪乃が嬉しそうに口元を綻ばせた。

 

「私も、この手であの悪党を叩きのめしてやりたいわ。そういう訳だから、始めましょう」

「おう……!」

 

 再び、いや本当のスタートを切ったジード部の三人が、フュージョンライズを敢行する!

 

『ユーゴー!』『シェアッ!』

 

 雪乃がウルトラマンカプセルを起動し、装填ナックルに収める。

 

『アイゴー!』『フエアッ!』

 

 続いて結衣がベリアルカプセルを起動して、ナックルに装填。

 

『ヒアウィーゴー!!』

 

 そして八幡がジードライザーでカプセルをスキャン。ライザーの二重螺旋に光が灯る。

 

[フュージョンライズ!]

『ジィィィ―――――――ドッ!』

 

 ジードの掛け声とともに、ウルトラマンとベリアルのビジョンが八幡たち三人と重なり合った。

 

[ウルトラマン! ウルトラマンベリアル!]

[ウルトラマンジード! プリミティブ!!]

「シュアッ!」

 

 フュージョンライズしたジードが巨大化し、町を荒らしていくゴルドヒッポリトの前に着地した。

 

「キャンキャンキャンッ!」

『頼んだぞ、ウルトラマンジード……!』

 

 サブレはジードを見上げて嬉しそうに飛び跳ね、ゼナはジードに対して強く願った。

 一方でジードの内部の超空間で、雪乃と結衣がはたと顔を上げた。

 

『「あら……心なしか、少し広くなってないかしら、ここ」』

『「ホントだ。まだ狭苦しいけど……前ほどじゃないよ」』

 

 三人はまだ密着している姿勢だが、以前ほど窮屈ではなく、少し余裕が出来ていた。

 しかしそれを気にしている間もなく、ゴルドヒッポリトからの攻撃が来る。

 

(♪大超獣の猛威)

 

「キョオオオオオオオオ!」

「ハッ!」

 

 黄金化光線を止め、猛然と突進してくるゴルドヒッポリト。ジードがそれを迎え撃って格闘戦にもつれ込むも、

 

「キョオオオオオオオオ!」

 

 ジードの平手打ちやキックはことごとく防がれ、パンチの猛打によってあっさりと押し返される。その衝撃で八幡たちにも伝わって三人は顔を歪めた。

 

『「うッ……! 結構強ぇぞ……!」』

「キョオオオオオオオオ!」

 

 一旦距離を取るジードだが、ゴルドヒッポリトはブーメランミサイルを飛ばして追撃してくる。縦横無尽に飛ぶブーメランミサイルがヒットする度にジードは爆撃を食らい、更に苦しめられる。

 

「ウワアアアアッ!」

『「「きゃあああああっ!」」』

 

 このままではまずいと反撃に転ずるジード。

 

『レッキングリッパー!』

 

 両腕を振って光刃を繰り出した……が、光刃はゴルドヒッポリトの念力によって反射され、ジードに返された!

 

「ウワアアアア――――――ッ!」

 

 己の攻撃を食らって倒れ込むジード。それをゴルドヒッポリトが見下ろし……その中のレイデュエスが挑発してくる。

 

『「どうしたぁ! その程度かぁ? お前らがそんなザマじゃ、この星の人間は全員黄金像になってしまうぞ!」』

 

 必死に立ち上がるジード。結衣はレイデュエスに対して問いかける。

 

『「な、何で他の人たちを巻き込むの? みんな、あたしたちとは関係ないじゃん! 何のためにそんなひどいことを……!」』

 

 するとレイデュエスは――顔にまざまざと嘲笑を張りつけながら答えた。

 

『「決まってるだろう? 愉しいからさ!」』

 

 今のひと言に、結衣と雪乃は絶句する。

 

『「圧倒的な力で弱者をねじ伏せ、蹂躙する! これこそが力を持つ者の特権! 弱者どもは逆らうことも出来ずに震えるばかり! その姿こそが、俺が絶対的王者だと実感させるのさ! 弱い奴らにあるのは死の絶望だけで十分ッ! 希望なんか、全てブチ壊してくれる!!」』

『「……何て奴……!」』

 

 レイデュエスのあまりに傲然たる言動に、雪乃と結衣は言葉もなく怒りに打ち震える。

 一方で、八幡は、

 

『「くっだらねぇ」』

 

 ひと言、吐き捨てた。

 

『「ああ?」』

 

 レイデュエスはピクリと片眉を吊り上げるが、八幡はキッと相手をにらみつけながら言い放った。

 

『「子供のアニメに出てくる悪役まんまの台詞だな。んな底のメチャクチャ浅い奴が世の中にいるとは思わなかったぜ。テメェみてぇなくそつまんねぇ奴が無駄にでかい顔してる、その事実だけで……腹の底からむかついてくる」』

 

 それまでの人生で抱いたことのないほどの怒りを覚えている八幡が語り、そして言い切った。

 

『「テメェの愉しみなんざ……こっちがブチ壊してやるよッ!」』

『みんな!』

 

 ジードはレイデュエスのたくらみをくじくために、八幡たちにウルトラカプセルを指示する。

 

『その二つのカプセルでフュージョンライズだ!』

 

 ジードが指定したのは、頭部に二つのスラッガーを持ったウルトラ戦士と大きな二本角のウルトラ戦士のカプセル。三人は即座にそのカプセルでフュージョンライズを開始する!

 

『ユーゴー!』『セェアッ!』

 

 雪乃が一本目のカプセルを起動し、その横にウルトラマンゼロのビジョンが現れて腕を振り上げた。

 

『アイゴー!』『ドゥアッ!』

 

 結衣が二本目のカプセルを起動。ウルトラの父のビジョンが腕を振り上げた。

 

『ヒアウィーゴー!!』

 

 八幡がジードライザーでカプセルをスキャンし、その力をジードの身に宿す。

 

[フュージョンライズ!]

『ジィィィ―――――――ドッ!』

 

 ゼロとウルトラの父のビジョンが、八幡たちと重なり合う!

 

[ウルトラマンゼロ! ウルトラの父!]

[ウルトラマンジード! マグニフィセント!!]

「ハァァッ!」

 

 無数の光の軌道と回転する二つの光点と、緑色の光を抜けて、青と黄の光の螺旋の中からウルトラマンジードが顔を上げて飛び出していく!

 

「ドゥアァッ!」

 

 再変身直後のジードの拳がゴルドヒッポリトの顔面を捉え、殴り飛ばした!

 

『「ぐッ!?」』

 

 よろめいたゴルドヒッポリトの正面に、雄大な姿となったジードが仁王立ちする。

 

(♪ウルトラマンジードマグニフィセント)

 

 青と赤のボディに、上半身は銀色の鎧めいたプロテクターで覆われている。肩部には翼のような赤いプレートが伸び、頭部にはふた振りのスラッガーが角となって備わっていた。

 数あるフュージョンライズ形態の中でも特別なものの一つ。強大な力を秘めた崇高な戦士の形態、マグニフィセントである! その力は現状、八幡、雪乃、結衣の誰が欠けていても扱い切ることが出来ない。

 

『「テメェが希望を壊すって言うのなら……」』

 

 八幡が全身を巡る莫大なパワーと沸騰するような感情を滾らせながら、宣言する。

 

『「守るぜ……希望!」』

『「ほざけぇッ!」』

 

 ゴルドヒッポリトが三つの顔面からビームを発射するが、ジードは回転するバリア、アレイジングジードバリアで弾き、シャットアウトした。

 

「キョオオオオオオオオ!」

「デアァッ!」

 

 ゴルドヒッポリトはビームからブーメランミサイルに切り替える。対するジードは十字の光刃、メガスライサークロスを放ってブーメランミサイルを撃ち、粉砕した。

 

『「何ッ!」』

「オォォォッ!」

 

 ゴルドヒッポリトが一瞬ひるんだ隙にジードが跳び、肩のプレートから生じる振動を纏わせた肘のブレードで斬りかかった。

 

「ドアァッ!」

『「ぐうぅぅッ! やってくれる……!」』

 

 念力による防御も通じず、ダメージが蓄積されていくゴルドヒッポリトは肉弾で応戦するも、パンチはマグニフィセントの強固なボディに受け止められて通じない。逆にエネルギーを乗せた拳で弾き飛ばされる。

 

『「ぐっはぁ……! ならば貴様も黄金像にしてやるッ!」』

 

 ゴルドヒッポリトは最後にして最大の武器、黄金化光線を放とうと構えた。だがそれをわざわざ許すはずもなく、ジードは角からの電撃光線、メガエレクトリックホーンを浴びせた。

 

「ウアァッ!」

『「がぁぁぁッ!?」』

 

 電撃によって溜めていたエネルギーが暴発し、黒焦げになって立ち尽くすゴルドヒッポリト。そしてジードは最大の攻撃の準備を行う。

 

「オォォォォ……!」

 

 両の拳を打ちつけてエネルギーを両腕に充填し、L字に組んで発射する!

 

「『ビッグバスタウェイ!!」』

 

 緑色に輝く光線がゴルドヒッポリトに突き刺さり、その肉体を崩壊させていく。

 

「キョオオオオオオオオ!!」

 

 ゴルドヒッポリトは臨界点を超え、大爆発を起こして消滅した! それとともに魔力も消え、黄金像にされた人たちは皆元に戻っていく。

 

「あ、あれ……身体が動く……」

「あッ! ウルトラマンジードだ!」

「助けてくれたのか……!」

 

 ジードの雄姿を感謝の念とともに見上げる人々。彼らの視線を浴びながら、ジードは大空に飛び立って去っていった。

 

「シュウワッチ!」

 

 

 ――ゼナは小さくなっていくジードの後ろ姿を見送ると、通信機を取り出して誰かにつなぐと、一番に叱りつけた。

 

『確かに武力行使を用いても阻止しろとは言った。だがヘッドショットしろとまでは言わなかっただろう』

『えー? いけなかったんですか?』

 

 通信相手が、場違いなほどに明るい声音で聞き返した。

 

『本人から情報を吐かせると言っただろう。それなのに撃ち殺そうとするとはどういうことだ。そんなつまらんミスをするようなお前ではないだろうに』

『いいじゃないですかぁ。あれで死んでたのなら、どうせ大した奴じゃないですよ。そんなのがやれることなんて、たかが知れてるものでしょ?』

 

 糾弾しても通信相手は全く意に介さず。ゼナの方が呆れて肩を落とす始末であった。

 

『……まぁいい。次からは早まった行動は控えるように。あまり度が過ぎるならば、いくら優秀だろうと解任もあり得るのだからな』

『はーい。以後気をつけまーす』

 

 本当に注意が分かっているのか、通信相手は気の抜けた声で応じて通話を切った。

 その相手――雪ノ下陽乃が通信機を仕舞い、レイデュエスの額を撃ち抜いたライフルをテキパキと片づけた。

 

 

 × × ×

 

 

 ゴルドヒッポリトに勝利したその翌日、結衣の誕生日。八幡と雪乃が用意したプレゼントは無事に彼女に渡せ、また八幡との間にあったすれ違いもどうにか解消。二人は愛犬を助け、助けられた恩人という関係に区切りをつけ、改めて仲間としての関係を開始したのであった。

 ちなみに八幡の用意したプレゼントは、犬の首輪であった。サブレの首輪が壊れていたので、代わりのものを渡したのだったが……結衣は自分へのチョーカーだと勘違い。恥ずかしさのあまり八幡に逆ギレするという、今一つ締まらない展開に。

 でも結衣は八幡にお礼のひと言を告げて、今回の問題はひとまず解決を見たのであった。

 

「ふぅ。色々あったけど、これでひと安心だね。結衣が戻ってくれてよかったぁ!」

 

 部室でペガが安堵の息を吐く。雪乃と結衣は退室し、残っているのはもう彼と八幡の二人だけだ。

 

「ま、確かに安心だな。これで元鞘で、ウルトラカプセルの問題もクリアだ」

「も~、またそんな冷たいこと言っちゃって。八幡も、結衣が戻ってきて嬉しくないの?」

「いや……それはまぁ、別に嫌って訳じゃねぇけどさ」

 

 素直に喜びを表せない八幡。一方で、ジードがふとつぶやく。

 

『結衣が戻ってくれたのはいいけど……僕たちの敵の正体も遂に明らかになったね』

「ああ……とうとう顔を拝んだな」

 

 八幡は融合獣に変身している人物、レイデュエスの憎らしい顔を思い返して、思い切り表情をしかめた。

 

「全く腹の立つ奴だったな……。好き勝手なことぶちまけやがってよ。あんなのがその辺をのうのうとしてるなんて、全くたまらねぇぜ」

『ああ……野放しにしてるのは危険すぎる。どうにかして捕まえたいところだけど……難しそうだね』

 

 ジードはレイデュエスの見せた能力を思い出す。頭を撃ち抜かれても何ともない脅威の再生力に、闇の力。本人は暗黒魔術と言っていたが……ならばあれで終わりではないだろう。他にも厄介な能力をいくつも保有している恐れは高い。

 

「でも、また融合獣となって出てきてもリクたちがやっつければいいんだよ! AIBもこっちに来てるってことが分かったし、いつかは捕まえるチャンスが来るはずさ!」

「そういえば、AIBってのは何なんだ?」

「それはゼナさんたちから直接聞くのが一番だと思うよ」

 

 ペガに質問しながら、八幡はレイデュエスに関してあることを気に掛けた。

 

(けど……あの野郎のやってることは、本当に遊び半分の凶行だけなんだろうか? もう何度も俺たちに倒されてるってのに、そのことについて気分を害してる様子はなさそうだったし……何か、まだ隠してることがあるんじゃないのか? 俺の考えすぎかな……)

 

 ひねくれ者故に案じる八幡だったが、その疑問に対する答えを持ち合わせてはいなかった。

 

 

 × × ×

 

 

 レイデュエスは隠れ家の円盤内で、フュージョンライズ時にジードに殴られた首筋をさすっていた。

 

「ふん……いくら遊びとはいえ、負けるというのはやはり気分のいいもんじゃないな」

『おっしゃる通りです。全く、あのジードめは忌まわしい奴で……』

 

 相槌を打つオガレス。だがレイデュエスは表情を一転させて、一個のカプセルを掴んで持ち上げた。

 

「だが、目的の半分は今回で達成した。見ろ……!」

 

 つまんだカプセルに、黄金像に変えた人間たちから発生した恐怖の感情のエネルギー――マイナスエネルギーが注入され、そのエネルギーによって白紙だったカプセルに絵柄が浮かび上がる。

 

『ピポポポポポ……!』

『おお! EXゼットンカプセルが再起動した……!』

 

 カプセルの起動にルドレイとオガレスは興奮。レイデュエスもニヤリと笑いながら、もう片方の手で別のカプセルを掲げる。そのカプセルはまだ白紙だ。

 

「これでこちらも再起動すれば、最強の力が俺に戻る。そうすれば今回みたいな茶番もおしまいさ……! 俺は殿下から、帝王として全宇宙に君臨するッ!」

 

 二つのカプセルを見上げながら、レイデュエスは邪悪な笑みを浮かべ続けていた。

 

「その時にはウルトラマンジード、お前の首をその記念品にしてやろう。フフフフ……クッハハハハハハ……!!」

 

 

 

『ウルトラストーリーナビ!』

 

結衣「今回は『ウルトラマン』第二十六話と二十七話「怪獣殿下」だよ!」

結衣「科特隊がジョンスン島で、大阪万博に展示する予定のゴモラザウルスの化石を探す探検隊の警護を担当してたんだけど、出てきたのは何と生きてるゴモラザウルス! 探検隊は大発見だとゴモラを生きたままの展示を主張して、科特隊が生け捕りにしたんだけど、ゴモラは脱走! 大阪の街で大暴れを始めちゃったの! ウルトラマンもてこずる強さのゴモラを止めるために、科特隊は走り回る……っていうお話しだよ」

結衣「放送当時は大阪万博が開催されることが決まって話題になってたから、それを物語に取り込んだ、時事ネタだったんだよ! シリーズで最初の前後編なのも特徴かな。話が連続してるってのは『ウルトラQ』にもあったけど、二話連続なのはこれが初めてだったの!」

結衣「ゴモラはお話しの中でも触れられてるけど、そっとしてれば平和に生きられたのに、人間の都合で連れ出されて殺されるっていう仕打ちを受けた、可哀想な怪獣なんだよね……。そのこともあってか、後の作品だと完全な敵の怪獣じゃない扱いが多いんだよね」

ジード『サブタイトルの「怪獣殿下」というのは、シナリオ上のもう一人の主役といえる少年、鈴木治のあだ名だ。最後にハヤタ隊員から流星バッジをもらったのは、当時の子供たちは羨ましがったことだろうね』

結衣「それじゃ次回もよろしくー!」

 




「この人はシャドー星人のゼナさん。AIBのエージェントよ」
『Alien Investigation Bureau。宇宙人による調査局という意味だ』
「こっちでもAIBの助けが得られるなんて、嬉しいニュースだ!」
「別の世界、か……」
『みんな、気をつけて! 普通の人間じゃないよ!』
「今言ってたことって、ほんとのことなのかな?」
『……何だか不思議な感じだ……』
「その力、そうか貴様が……」
『どうして僕のことを……!? あなたは……!?』



次回、『だから、その人たちはTOPに立っている。』


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だから、その人たちはTOPに立っている。(A)

 
※今回は拙作『THE ULTRAM@STER ORB』を読まれていないと話が理解できない部分が多くあります。どうぞご了承下さい。



 

 天文台地下の星雲荘で、八幡たちは珍客を迎えていた。

 

「みんな、改めて紹介するわ。この人はシャドー星人のゼナさん。AIBのエージェントよ」

『よろしく』

 

 ライハが八幡、雪乃、結衣に、廃工場で助けに入ったスーツの男を紹介した。ゼナは無表情のままペコリと頭を下げる。

 口も動かさずに発言したゼナに、結衣は微妙な顔になっている。

 

「えっと……失礼ですけど、何で腹話術してるんですか?」

『シャドー星人は表情筋がほとんどなく、顔が動かない。そのため地球人のように口を開けなくとも会話が出来るのだ』

 

 そう回答するゼナ。ずっと真顔なのもそういう理由みたいだ。

 続いて八幡が質問する。

 

「AIBって聞き慣れない名前ですけど、一体何なんすか?」

『Alien Investigation Bureau。宇宙人による調査局という意味だ』

 

 名称の意味から答えたゼナが、自分たちがどういう組織なのかを詳細に語った。

 

『かつて悪のウルトラ戦士、ベリアルの脅威によって宇宙のあらゆる星に多大な被害が発生し、宇宙の文明が極度の混乱に陥った。それを解決すべく様々な種族の有志が集まって結成されたのがAIBなのだ。我々は宇宙に秩序と平穏を取り戻すことを理念に掲げ、宇宙に起こる犯罪や怪事件を調査し、取り締まっている。ウルトラマンジードとも、リトルスターを巡る一連の事件を通して協力関係を結んだのだ』

「前にリトルスターの宿主を保護する団体があるって話があったでしょう? それがAIBなの」

 

 ライハが補足説明を挟んだ。

 

『本来なら秩序の回復が目的とはいえ、宇宙進出していない惑星にみだりに干渉するのは望ましいことではない。だが、この地球に潜伏している犯罪者がライザーと怪獣カプセルを使用しているとなったら話は別だ。ベリアルと何らかの関係があるかもしれない上に、それを抜いても怪獣カプセルは危険だ。放っておく訳にはいかないと、私を含めたAIBのエージェントの一団がこの宇宙に派遣されたという訳だ』

 

 経緯を説明したゼナが、八幡たちに向き直って告げる。

 

『これからは微力ながら、我々が君たちに協力する。君たちのほとんどは高校生、行動にあまり自由はないだろう。その分は我々が補うことを約束する』

「助かります。わざわざ別の世界、別の宇宙の私たちのために力をお貸し下さること、真にありがとうございます」

 

 雪乃が、八幡に対する態度とは正反対の口調で礼を述べた。意外と礼儀作法には慣れているようだ。

 

「こっちでもAIBの助けが得られるなんて、嬉しいニュースだ!」

「うん! 今までペガっち以外の宇宙人って敵ばっかだけど、味方になってくれるって心強いね!」

 

 味方が増えたことにペガや結衣が喜んでいる一方で、八幡はふとひと言つぶやいた。

 

「別の世界、か……」

『八幡、どうしたんだい? ぼんやりして』

 

 ジードが問いかけると、八幡は次のように答える。

 

「いや、こうして新しい人と出会って、異世界なんてファンタジーが本当にあるんだなって改めて思っただけだよ。まぁジードたちと出会ってから、ファンタジーの連続みたいなもんだけどな」

 

 八幡の語ることに同意を表すジード。

 

『あー、まぁ、最初は実感が乏しいよね。僕もこれでも最初は、自分がウルトラマンってことも知らずに、普通の地球人として生きてたんだ』

「へぇ、そうだったのか」

『怪獣とか宇宙人とか、ウルトラマンとか別の宇宙とか、僕も当初は驚きの連続だったよ』

 

 ウルトラマン、別の宇宙、と聞いて、八幡が再びポツリとつぶやいた。

 

「そういや、ウルトラマンってジード以外にも何人もいるんだよな」

 

 今更ながらにそのことを意識する八幡。種々のウルトラカプセルの元は絵柄のウルトラ戦士なので当たり前のことだが、当人たちと直接会った訳ではないので、その実感が薄かったのだ。

 

『そうだよ。まぁ僕もそう何人も他のウルトラマンと会ってる訳じゃないんだけど』

 

 と返事したジードも、意識を遠くに馳せた。

 

『僕以外のウルトラマンも、今こうしてる間にも、どこか遠くの星や宇宙で活躍をしてるはずさ……』

 

 

 

『だから、その人たちはTOPに立っている。』

 

 

 

 ――宇宙の片隅に浮かぶ平和な惑星、ウサミン星。この星のウサギに似た知的生命体ウサミン星人は、争いを好まない友好的な気質。文明もそれに見合った形に進歩しており、ウサミン星の大地にはメルヘンチックな建物が街を成しており、夢の世界のようだと他の宇宙人たちからは囁かれている。

 だが、そんな夢と平和のウサミン星に今、重大な危機が訪れていた。

 

「ウサー!」

「ウサー!!」

 

 星の首都、ウサミンシティが燃え盛る火の手に呑まれ、大勢のウサミン星人たちが必死に街を襲う『災害』から逃げ惑っている。

 彼らを追い立て、街を焼いて破壊し、夢の世界を冷徹な暴力で灰燼に帰そうとしている『災害』が、金切り声のような咆哮を発した。

 

「グアアァァァ! キィィィヤアアアァァァッ!」

 

 その名はマガオロチ。――爆発的に星が誕生するモンスター銀河から生まれた、宇宙を股に掛けて星を食い尽くす恐るべき生態を持つ「魔王獣」と呼ばれる怪獣、その中でも支配階級に位置する「大魔王獣」である。それが今、全ての命を蹂躙してウサミン星を宇宙から消し去ってしまおうと活動を開始したのである。

 

「グアアァァァ! キィィィヤアアアァァァッ!」

 

 マガオロチの吐き出す迅雷がウサミンシティのシンボル、キャロットタワーを穿ち、タワーが真っ二つにへし折れて倒れていく。その影が、たくさんのウサミン星人に覆い被さる。

 

「ウ、ウサァ―――!!」

 

 逃げるのは到底間に合わない。悲鳴を発するウサミン星人たちは下敷きになる――。

 かと思われたが、折れたタワーは横から飛び込んできた「何か」によって彼らの頭上からどかされ、ウサミン星人たちは間一髪命を救われた。

 

「ウサ……?」

「もう大丈夫ですよ!」

 

 恐る恐る顔を上げたウサミン星人たちの元に、十人あまりの少女たちが駆けつける。その集団の先頭に立つ少女が、頭の左右に結ったリボンを揺らしながら、大声で呼びかけた。

 

「あの人が、街を壊す怪獣を退治してくれます! 皆さんも応援して下さい! ――ウルトラマンオーブを!!」

 

 折れたタワーを無人の場所に下ろした、銀と赤と黒の配色のウルトラ戦士が、取り出した大剣で円を描きながら堂々と名乗りを上げた。

 

『俺の名はオーブ! 銀河の光が、我を呼ぶ!!』

 

(♪オーブオリジン)

 

「グアアァァァ! キィィィヤアアアァァァッ!」

 

 マガオロチは自分と同等の体躯のウルトラマンオーブに目をつけ、迅雷を吐いて攻撃を仕掛ける。だがオーブは大剣オーブカリバーで迅雷を切り裂きながら前進。

 

「テェアッ!」

「グアアァァァ!」

 

 オーブのひと太刀がマガオロチの肩を裂いた。マガオロチは腕や尻尾を振り回して反撃するも、オーブはカリバーによって相手の攻撃を叩き落とす。

 

「頑張れー! オーブー!」

「ウサー!!」

 

 少女たちは声を張って奮闘するオーブを応援。ウサミン星人たちもそれに合わせるように銘々オーブの応援をする。

 ウルトラ戦士は、彼らの応援の声によって背中を押されるのだ!

 

「オォォォリャアッ!」

「キィィィヤアアアァァァッ!」

 

 オーブ渾身の袈裟斬りが入った。マガオロチは深手を負ってよろよろと後ずさる。

 この絶好のチャンスに、オーブはカリバーの柄の四つの象形文字を全て輝かせて、円を描きながら刀身に全エネルギーを集中させた。

 

『オーブスプリームカリバー!』

 

 そして前に振り下ろしたカリバーから、必殺光線を発射!

 

「グアアァァァ!! キィィィヤアアアァァァッ!!」

 

 オーブスプリームカリバーがマガオロチの胴体を貫き――この瞬間、エネルギーが外部より抜かれながら――大爆発させたのだった。

 

「ウサー!」

「ウサー!」

 

 マガオロチが撃破され、星の危機が取り払われたことに、ウサミン星人たちは一斉に歓声を上げた。それを一身に浴びながら、オーブが大空に向かって飛び上がった。

 

「シュワッ!」

 

 

 ウルトラマンオーブから戻った紅ガイは、己を待つ仲間の少女たちの元へと戻ってきた。

 

「お疲れさまです、プロデューサーさん!」

「ああ」

 

 皆を代表して労った少女――天海春香にひと言答えたガイは、少女たちに尋ね返す。

 

「そっちはどうだ? 他の魔王獣の駆除は完了したか?」

「バッチリですよ!」

 

 真がぐっと親指を立ててウィンクした。

 

「六属性の魔王獣全て、退治に成功致しました」

「うふふ、これでウサミン星に平和が戻りますね」

「っていうかウサミン星ってほんとにあったんだ……」

 

 貴音、あずさ、響のひと言にガイは満足げにうなずく。

 

「みんな、よくやってくれた。それじゃあ後のことはこの星の住人に任せて、俺たちは本来のミッションの続きを……」

 

 と言いかけたガイだが――不意に妙な気配を感じ取り、弾かれたように空の一角を見やった。少女たちも釣られて顔を上げる。

 ガイたちの視線の先で、流星のようなものが一瞬走った。しかし普通流星は、地表から宇宙へは走らない。

 

「あれは、確か……!」

 

 何かに気がついた雪歩がつぶやくと、ガイがその先を察してうなずいた。

 

「どうやらこの事件、まだ終わりじゃなさそうだ。追いかけなきゃいけないみたいだな」

 

 そうと決めたガイたちは、グループを二つに分けた。

 

「それじゃあ行ってくる。俺たちが戻るまで、ミッションの方は頼んだぜ」

「うっうー! 分かりましたぁ!」

 

 六人の少女とともに、ウサミン星から飛んでいった『もの』を追いかけるチームに入ったガイに、彼らのミッションを進行するチームから代表してやよいが応じた。

 ガイとともに旅立つ組の律子は、伊織にあるものを渡す。

 

「ライトリングとカードよ。みんな、プロデューサーがいなくても頑張ってね」

「もちろんよ。そっちこそ油断したりしないでよね」

 

 律子がウルトラマンヒカリの協力の下に開発したオーブライトリングと複製したウルトラフュージョンカードを受け取りながら、伊織が不敵に微笑んだ。

 

「善は急げだ。みんな、俺の周りに集まれ。出発するぞ!」

 

 天に向けてオーブカリバーを掲げたガイが同じチームの少女たちに呼びかけた。亜美や真美、千早と美希がガイの元に集まっていく。

 

「それでは行ってくるであります!」

「後のことはよろよろー♪」

「私たちもしっかりと頑張るから」

「行ってきまーす! なの」

「「「「「「「行ってらっしゃーい!」」」」」」」

 

 すぐに旅立とうとしている美希たちを、残留する雪歩たちは笑顔で手を振りながら見送る。

 そして春香がガイに呼びかけた。

 

「準備完了です! 出発しましょう、プロデューサーさん!」

「よしッ! 行くぞッ!」

 

 春香たち六人がガイの背に手の平を置くと、ガイの掲げるオーブカリバーから光がほとばしり、その光に包まれてガイたちは一直線に宇宙へと飛び立っていった。

 向かう先は、宇宙の果ての更に遠くにある、異なる宇宙であった。

 

 

 × × ×

 

 

 総武高校の奉仕部の部室で、結衣が雪乃や八幡に質問を投げかけた。

 

「もうすぐ夏休みだけど、ゆきのんとヒッキーは夏休み何か予定とかある? どっか遊び行くとかさ」

 

 聞かれた二人は、さして面白くなさそうな顔で答える。

 

「私は、遊びに出かけるということはあまり……」

「俺は家でゴロゴロしてる予定だ。クソ暑い中外出ようっていう精神の方が理解できん」

「そんなの予定って言わないよっ!」

 

 ズビシッ! と八幡に突っ込む結衣。

 

「も~。せっかくの夏休みだってのにもったいないなぁ。来年は受験だし、高校の内に遊べるのは今年が最後なんだよ?」

「別にどう過ごそうが勝手だろ勝手。遊びに正解なんてもんはない」

 

 呆れる結衣に八幡は相変わらずのひねくれた言動で応酬。そんな取り留めのない会話をしていると、結衣がふと息を吐いた。

 

「……こうしてるとさ、何だか平和って感じがするよね。ちょっと前だったら、こんなこと思いもしなかったのに」

「まぁ、この一、二か月は激動の日々だったものね……」

 

 結衣のひと言に同意する雪乃。彼女たちは怪獣という存在が現実のものとなり、ウルトラマンジードに協力して戦いに身を投じることになったこれまでのことを振り返っている。

 

「でも最近は怪獣……いいえ、あのレイデュエスという男の蛮行がめっきりと減って、大分落ち着いているわよね」

 

 と雪乃がつぶやいた。

 融合獣に変身して街を襲う男、レイデュエス。その正体が明らかとなってのはもう一か月近く前のことだが、それから融合獣が出現した回数が激減したのだ。お陰で彼らは期末テストや、柔道部から持ち込まれた依頼などに集中できて助かっているのだが。

 その理由について結衣が語る。

 

「やっぱり、ゼナさんたちが見張ってくれてるお陰かな? それであの悪い奴も動きづらくなったんだと思うよ!」

「どんな理由にせよ、このままあの野郎がフェードアウトしてくれたら、俺たちだって危ない目をしなくて済んで、大助かりなんだがな……」

 

 そう八幡がため息を吐いた、その時、

 

「――生憎だが、世の中ってのはそう都合良く出来てないものなんだよ、君たち」

 

 突然、全く聞き慣れない男の声が部室に響いた。

 

「!!?」

 

 反射的に立ち上がる八幡たち。見れば、部室の隅にいつの間にか、黒いスーツの胸元に赤い薔薇を一輪挿した謎の男が立っていた。

 

「だ、誰……!?」

 

 雪乃と結衣は身の危険を感じ、咄嗟に八幡の元へと寄り集まる。三人に対してジードが警戒を促した。

 

『みんな、気をつけて! 普通の人間じゃないよ!』

「んなの見りゃ分かるぜ……!」

「はわわ……!」

 

 ペガもただならぬものを感じたのか、ダークゾーンから出てきて悲鳴をこぼした。

 

「失礼、勝手に上がらせてもらったよ」

「あなたは、誰……? レイデュエスの仲間?」

 

 雪乃が敵意を露わにしながら男をにらみつけると、男は妙に澄ました態度のままに名乗った。

 

「俺の名はジャグラスジャグラー。ちょっとしたさすらい者さ」

「ジャグラー……?」

「俺のことはどうでもいい。今重要なのは、この星に厄介事が持ち込まれてるということだ」

 

 ジャグラスジャグラーなる男の発言に、八幡たちは軽く驚きを見せる。

 

「厄介事……?」

「それってどういう……」

「下手をしたら、この星の存亡に関わるほどの内容だ」

 

 八幡の問い返しにジャグラーは言外に詳細を教えないことを示し、八幡たちにひと言告げる。

 

「このことは、この星を護るウルトラマン、ジードの君たちに伝えておくべきだと思ってな」

「……!」

 

 ジードのことを見抜かれている事態に、八幡は思わず装填ナックルに手を伸ばした。しかしジャグラーはなだめるように手の平を向ける。

 

「まぁ落ち着け。俺に君たちと事を構える意思はない。それより、この星に紛れ込んだあの女をすぐにでも捜し出すべきだぞ」

「女だって……?」

「話はそれだけだ。じゃあな」

 

 ジャグラーは一方的に話を打ち切り、闇に包まれながらその姿を消していった。空間移動でもしたのだろうか。

 八幡は今の男について、レムに質問をする。

 

「ジャグラスジャグラーって奴について、何か知らねぇか?」

[ジャグラスジャグラー。様々な宇宙で大事件を引き起こし、各公的機関から指名手配されている要注意人物です。危険度は高レベルと言えるでしょう]

 

 レムの回答に焦燥を見せる結衣たち。

 

「そんなのが、どうしてあたしたちの前に……。今言ってたことって、ほんとのことなのかな?」

 

 雪乃は顎に指を掛けて思案する。

 

「少なくとも、単なる悪戯で片づけるのはいけないわね……。でも、鵜呑みにするのもまた危険だと思うわ。私たちは、あの男の人となりを何も知らないのだから」

 

 警戒している三人に対して、ジードが指示を飛ばす。

 

『ジーッとしてても、ドーにもならねぇ! とにかく外に出て、怪しい人物が周辺にいないか捜してみよう。もちろん、さっきの男も』

「でも、どこを捜せばいいのか……」

 

 戸惑う結衣に雪乃が言い聞かせる。

 

「捜索すべき地点があるのなら、さっき口にしてるはずよ。それがなかったということは、多分この周辺……。ともかく、まずは行動してみましょう」

「う、うん! 分かった!」

「言ってる端から面倒事が飛び込んできやがったな……。けどやるしかねぇか……!」

 

 八幡はうんざりしながらも、行動しない訳にはいかずに、雪乃たちとともに部室を飛び出していった。

 



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だから、その人たちはTOPに立っている。(B)

 

 奉仕部にジャグラスジャグラーなる男が現れた、その少し前。

 レイデュエスたちが本拠地としている円盤を、ある人物が訪れていた。

 

「ほぉー……こいつはまた珍客が来たものだ」

 

 左右にオガレスとルドレイを控えさせながら、玉座に腰掛けているレイデュエスが興味深そうに目の前の少女をしげしげと観察した。

 美少女ではあるのだが、少し角度を変えただけで、年季の入った老女のようにも、それとは反対に生を受けたばかりの幼女のようにも見える、言い知れぬオーラを醸し出している不思議な少女。レイデュエスは彼女に対して告げる。

 

「噂は聞いているぞ。あちこちの宇宙で暴れ回って、相当危険視されているみたいだな――ビランキとやら」

 

 ビランキと呼ばれた少女は、コロコロと鈴のような明るい笑顔を見せながら返事する。

 

「その辺の凡人の評価なんてつまらないもの、私にはどうでもいいわ。道端の石ころほどの価値もないもの」

「はは、噂通り過激な性格みたいだな。で、この俺に何の用だ?」

 

 レイデュエスが質問すると、ビランキは相変わらずニコニコしながらこう告げた。

 

「あなたにやってもらいたいことがあるの」

「ほう? 俺に依頼とな」

 

 ビランキが片手を挙げると、虚空から三枚のカードが現れてその手中に握られた。

 

「倒してほしい奴がいるの。これあげるから、やって」

 

 何とも簡素な頼み方に、オガレスとルドレイは声を荒げた。

 

『貴様、このレイデュエス殿下に何と無礼な口の利き方だ!』

『超能力少女だか何だか知らんが、あまり礼を欠くようなら許しはせんぞ!』

 

 身を乗り出す二人を、当のレイデュエスがなだめる。

 

「構わん。それで、倒してほしい奴というのはどこの誰だ?」

 

 聞き返すと、ビランキはその詳細を話した。

 

「――多分この星に来てるはずだから、お願いね。それじゃあ!」

『あッ、おい!』

 

 用を済ますと、ビランキはルドレイが制止するのも待たず、空間の歪みを起こして円盤内からあっという間に消えていった。

 しばし呆気にとられたオガレスとルドレイだったが、我に返るとビランキに対して腹を立てた。

 

『全く、何と勝手な娘だ! どんな育ち方をすればああなるんだか』

『殿下、本当にあんな女の言う通りになさるのですか?』

 

 ルドレイに問われたレイデュエスは、ビランキから渡された三枚のカードをながめながら答える。

 

「まぁ、ブツを受け取った手前、無視するというのも道理にもとるからな。それに俺たちにとっても悪い話ではない。光の戦士――ウルトラマンを消すというのは」

 

 カードにはそれぞれ、額に赤いクリスタルを生やした怪獣が描かれている。それを見つめてニヤリをほくそ笑んだレイデュエスは、反対の手を懐に突っ込んだ。

 

「怪獣カードか……。ライザーがあるから不要のものだと思っていたが、こうして手に入ったからには使ってみるか」

 

 懐から抜いた手には、何かが握られていた。

 

「この、ダークリングをな……」

 

 掲げられた赤黒いリングを見つめ、レイデュエスの冷たい笑みが深まった――。

 

 

 × × ×

 

 

 ジャグラスジャグラーから告げられた「あの女」なる人物。その捜索を開始した八幡たち。ライハやAIBとも連絡を取り、三人はそれらしい人物の姿を求めて町中を巡回し始めた。

 本当なら別行動を取った方が効率はいいのだろうが、仮に敵が襲ってきた場合、個人単位では戦闘能力のない雪乃や結衣の危険が大きすぎる。そのため三人は固まって行動している訳なのだが……。

 

「けど……外に出てきたのはいいが、捜すったってどうすりゃいいんだ……? 外見のヒントすらねぇんだぞ……」

 

 八幡は早速途方に暮れていた。しかしそれは無理もないこと。ジャグラーから与えられた手掛かりは、性別だけ。これでどうやって捜し出せというのだ。

 

「今更そんなことを言っても仕方ないわよ。とにかく町行く人を観察して、怪しい点のある人に目星をつけましょう」

「怪しい点って言ってもなぁ……」

 

 やはり困り果てる八幡。そう言われたら、あらゆる人が怪しく見えてくる。

 

「もっとも性別の指定がなければ、一番の容疑者は比企谷くんで決まりなのだけれどね」

「今は冗談飛ばしてる場合じゃねぇだろうがよ」

「とにかく行こうよ! しゃべってても始まらないよ!」

 

 頭をかく八幡を結衣が促した。ジードとペガも申し出る。

 

『僕とペガだったら、普通の人間じゃない人も感覚で察知できるかもしれない』

『もちろん協力するからね! だから安心してよ、八幡!』

「まぁ、二人がそう言うんだったら……」

「あっ、比企谷くんは少し離れて歩いてちょうだい。学校外でもあなたと行動を共にしているところを誰かに見られて変な噂を立てられるなんてことになったら、人生初の不登校になってしまうかもしれないから」

「お前そこまで言うのは最早いじめだろ」

 

 何はともあれ、三人は行動開始。町を回って、道行く人をそれとなく観察して怪しい人間がいないか確かめていく。

 が、すぐに捜査は難航。どこを行けども、それらしい人物は影も見当たらない。

 

「うーん……それっぽい人、全然見つからないね」

「まぁ、そうそうすぐに発見できるとは初めから思っていなかったけれど」

 

 肩をすくめる雪乃と結衣。八幡は二人の少し後からついていきながら、ジードに問いかける。

 

「そっちは何か気配とか掴めてねぇのか?」

『いや、今のところは何も……ん?』

「どうした?」

 

 ジードが不意に怪訝な声を発したその時に、雪乃たちが曲がり角に差し掛かる。すると、

 

「……ビランキいないの。どこに行ったんだろ」

「一度この町に立ち寄ったのは間違いないはずよ」

「早いところ見つけないと……また何かしでかすかも……」

 

 曲がり角の陰から三人分の人影がぬっと出てきて、雪乃たちと出会い頭にぶつかった。

 

「きゃっ!?」

「わっ! たたっ!?」

 

 どんがらがっしゃーん!

 と大袈裟な音を立てて、雪乃たちとぶつかった相手がしりもちをついた。

 

「あったたたぁ……」

「大丈夫なの?」

「もう春香ったら……いつまで経ってもドジなところが治らないんだから」

「ごめんごめん……」

 

 頭の左右にリボンを結んだ少女が、連れの少女たちの手を借りて立ち上がる。

 

「あなたたちもごめんね。大丈夫だった?」

「は、はい……」

 

 リボンの少女に手を貸されて起き上がった雪乃と結衣だが、何故かそのままぽーっ……と立ち尽くしてしまう。

 

「お、おい。大丈夫か?」

 

 流石に何事かと心配した八幡が近づいていくと、相手の少女たち三人の視線がこちらに向いた。

 その途端、八幡もうッ、と思わず息を詰まらせた。三人の少女が、それこそ目が覚めるような美しさであったからだ。――顔の作りならば雪乃たちだって負けてはいないレベルなのだが、纏う雰囲気が、全く異なる。同じ人間とは思えない、天使か女神かと錯覚させるような、恐ろしいほどに神々しいオーラなのだ。上手くは説明できないが、ただそこにいるだけで常人を圧倒する「何か」がある。自分たちとは根本的な部分から違う、そんな強烈な魅力がある――。

 一方のリボンの少女、青みの掛かった長髪の少女、金髪の少女も、八幡たちの立ち姿を観察し、何やらしげしげとうなずいていた。

 

「あなたたち……そっか……」

 

 何だかは分からないが、納得したように顔を上げたリボンの少女が、八幡たちに名乗った。

 

「私は天海春香! こっちは如月千早ちゃんと、星井美希」

「よろしく」「よろしくなのー!」

「あなたたちのお名前は?」

 

 急に問われて、虚を突かれた八幡たちは咄嗟に名乗り返した。

 

「ひ、比企谷八幡です……」

「雪ノ下雪乃……」

「由比ヶ浜結衣、です……」

「比企谷くんたちか……。もしかして、誰か人を捜してるんじゃないかな?」

 

 春香という少女にそう尋ねられ、結衣は度肝を抜かれた。

 

「どうして分かったんですか!?」

「大した理由じゃないよ。ただ、そう思っただけ」

 

 春香は朗らかに笑いながら、不可思議な回答をした。それから千早が申し出る。

 

「私たちも少し人捜しをしてるところなの。あなたたちが捜してる人も、女性じゃないかしら」

「そ、そうですけど……」

「きっと同じ人だと思うわ。それじゃあ一緒に行動しましょう。その方がお互い心強いと思うわ」

「えっ、あの……」

「決まりなのっ! それじゃあ一緒に行こ? ほらほら!」

 

 戸惑う雪乃たちに構わず、美希たち三人は半ば強引に八幡たちと同行し、自然に先導を始めた。八幡たちは彼女たちの押しの強さに逆らえず、流されるままに言う通りになっていた。

 

「ねぇ……あの人たち、何なのかな……」

 

 徐々に我に返る結衣が、前を行く三人の背中を見つめながら雪乃と八幡にこそっと尋ねかけた。

 

「この辺じゃ見ない人だよ。あんなに目を引く人、見かけたら絶対忘れないもん……」

「確かに……ある意味三浦が足元にも及ばないくらいだもんな……」

 

 呆気にとられたようにうなずき返す八幡。

 

「もしかして……さっきの人が言ってたのって、あの人たちじゃないの……?」

 

 訝しむ結衣だが、雪乃は異を唱えた。

 

「私も一瞬そう思ったけれど……複数人だったら、複数形で話していたはずよ。それに、向こうから接触してくるのならもう少し自然さを装うのではないかしら」

「でも、やっぱりあの人たちも普通じゃないよ……。何て言うか、芸能人オーラ! 的なのがバリバリだし! あんなに強烈な人たち、見たことないかも」

 

 その言葉には、雪乃も八幡も同意であった。前を行く少女たちは、後ろ姿だけでも思わずほれぼれしてしまいそうであるのだ。

 

「そっちはどう思う?」

 

 八幡は春香たちに気取られないよう気をつけながら、ジードとペガに尋ねた。すると二人とも、八幡たちと同じようなことを述べる。

 

『僕もただの人じゃないと思うけれど……悪い感じは全然しないよ。むしろ逆……傍にいるだけで、気持ちが温かくなるような……何だか不思議な感じだ……』

『ペガも……宇宙人には見えないんだけれど……。あんなすごい雰囲気を醸し出す地球人っているのかな……』

 

 とにかく妙な感覚に襲われて、実に不思議がっている八幡たちであったが――その時に、春香たちが不意に足を止めた。

 

「? どうしたんですか?」

 

 怪訝に問うた結衣たちの手を――春香たちは突然引っ張り出す。

 

「走って!」

「え、えぇっ!?」

 

 訳が分からないが、引っ張られるままに駆け出す結衣たち。その直後――三人のいた場所に光弾が降ってきて、爆発を引き起こした。

 

「なッ……!?」

「こっち!」

 

 絶句する八幡たちを連れながら、追うように飛んでくる光弾から逃げていく春香たち。八幡はここでようやく、敵の攻撃だと理解した。

 

「こんな町中で堂々と……!」

 

 舌打ちする八幡。しかし同時に疑問も生じる。

 

『その子たち、どうして僕よりも早く攻撃に気づいたんだ……!? しかも慣れてる感じだし……!』

 

 ジードがその疑問をそのまま口にした。普通の地球人が、超感覚を持つジードよりも鋭敏な感覚を持っているなど考えられない。ますます春香たちの正体が怪しくなってくる。

 その疑問に答えが出ないまま、一行は開けた公園へと飛び込んでいった。

 

「ここなら周りの被害はひとまず気にしないでいいかな……」

「今撃ってきた人たち、そろそろ出てきなさい! 近くにいるのは分かってるわ!」

 

 千早がとてもよく通る声で呼びかけると、一行の前に新たに三人分の影が現れる。内の二体分は異形だ。

 

「フッフフフ……久しぶりとでも言っておこうかな? ちょっと激しめな再会の挨拶だったかな」

 

 その正体は、バド星人オガレスとゴドラ星人ルドレイ。それを引き連れた、レイデュエスだ!

 

「やっぱりあいつら……!」

「全っ然、迷惑ってもんを考えねぇな……!」

 

 レイデュエスの顔をひと目見るなり身構える八幡たち。――だが、そんな三人をかばうように、春香たちが前に回った。

 

「比企谷くんたちは下がってて! 危ないから!」

「へ!? いや危ないのはそっち……!」

 

 流石に焦る八幡たち。彼女たちが何者かは知らないが、いくら何でもあの危険人物に相対させるのはまずい。命が危ない。

 だが振り返る美希たちの顔には、異常な状況を前にして少しの恐怖の色もなかった。

 

「だーいじょーぶ! ミキたちに任せてなの!」

「いや任せてって言われても……!」

「おい、こっちを無視してるんじゃないぞ! そんな余裕があるのか!?」

 

 放置して話し込んでいるのに機嫌を害したように、レイデュエスがブラッドスタッフをこちらに向けて怪光弾を飛ばしてきた!

 

「うわッ!?」

 

 思わず身をすくめた八幡たちだったが――春香は焦らず、怪光弾に対して一枚のカードをかざした。

 

『ヘアッ!』

 

 そのカードから生じたバリアが怪光弾を受け止め、はね返した!

 

「何ッ!?」

 

 咄嗟に戻ってきた光弾をかわすレイデュエスたち。オガレスは春香たちの顔を見やり、わなわなと震え出した。

 

『あの娘たち……ま、まさかと思ったが……』

 

 八幡たちは春香がかざしたカードの絵柄を目にして、あっと息を呑んだ。

 

「ウルトラマン……!?」

 

 それは、ジードの所有しているカプセルの一つと同じ、ウルトラマンの姿が描き込まれていた。そして今の超能力……まさか……。

 体勢を立て直したレイデュエスは忌々しげに春香たちをにらむ。

 

「あの女どもは何だ」

『ご存じ、ないのですか!?』

 

 途端、オガレスが全く信じられないように問い返してきた。

 

「は……?」

『彼女たちは辺境の星からスタートし、瞬く間に宇宙中のあらゆる種族の心を掴み、今や全宇宙に愛と平和をもたらす使者としてその名を轟かせる宇宙トップアイドル、765エンジェルズです!!』

 

 オガレスの熱弁に、八幡たちも仰天。

 

「宇宙トップアイドル!?」

「何それ!?」

「あはは、ばれちゃったかぁ」

 

 春香は若干照れくさそうに頭をかいた。

 一方でレイデュエスは、オガレスに胡乱な目を向ける。

 

「……お前やけに詳しいな。まさか……」

 

 オガレスはやや興奮した様子で、春香たちの写真で飾られた記録媒体を取り出した。

 

『私も春香ちゃんたちのライブを見て以来、すっかり虜で。あッ、すいませーん! ちょっとこれにサインをげぶぅッ!』

 

 レイデュエスから顔面に肘鉄を叩き込まれ、オガレスは転倒。それをルドレイが呆れた目で見下ろした。

 

「誰だろうと知ったことかッ! この俺の邪魔をする奴は全員――ぐぅッ!?」

 

 急に、レイデュエスの台詞が途切れた。それと同時に、この場に流れてくる穏やかな、しかし少し寂寥感のあるメロディ。

 

「ハーモニカの音色……?」

 

 呆気にとられる八幡たち。場違いな音楽はもちろんのこと、それによってレイデュエスたちが頭を押さえて悶え苦しみ出したからだ。

 

『うぅッ!? 苦しい……!』

『頭が割れるようだ……!』

「どこだッ! どこから……あそこだッ!」

 

 レイデュエスがスタッフで指した先、公園の時計台の陰から、テンガロンハットとレザージャケットの目立つ男性がハーモニカを吹きながら姿を見せた。

 

「プロデューサーさん!」

「プロデューサー!」

「ハニー!」

 

 八幡たちが誰だと思うよりも早く、春香たちは男性をそれぞれそう呼んだ。

 男性はハーモニカを口から離すと、レイデュエスに向けて不敵に言い放った。

 

「よしな坊主。火遊びはみんなの迷惑だぜ」

「うるさいッ! 次から次へと……オガレス、ルドレイ! やれッ!」

『は、ははぁッ!』

 

 苛立ちを募らせたレイデュエスの命令で、オガレスとルドレイが一気に男性に襲い掛かっていく。それを真っ向から迎え撃つ男性。

 

「はぁッ!」

『ぬわぁッ!?』

 

 男性はオガレスのメリケンサックをさばくと腹に連続パンチを入れて返り討ちにし、ルドレイのゴドラガンは何と素手で弾き、自身も光弾を飛ばしてルドレイを吹っ飛ばした。

 

「強っ……!?」

 

 驚愕する結衣たちだが、春香たちの方はそれが当然とばかりの表情。

 一方で部下が瞬く間にのされたレイデュエスは、ギリリと奥歯を食いしばった。

 

「その力、そうか貴様が……だったらこいつらの出番だッ!」

 

 レイデュエスがブラッドスタッフから持ち替えたのは、赤黒いリング。それをに男性が目を見張る。

 

「ダークリング!」

 

 レイデュエスは更に、三枚のカードを一辺にリングの間に突っ込んだ。

 

「魔王獣ども! ショウタイムだッ!!」

[マガバッサー!]

[マガジャッパ!]

[マガオロチ!]

 

 三枚のカードは闇のエネルギーとなって飛んでいき、町中に巨大怪獣の姿となって召喚される!

 

「ミィィィィ――――! プォォォ――――――!」

「グワアアアァァァァァ! ジャパッパッ!」

「グアアァァァ! キィィィヤアアアァァァッ!」

 

 それぞれ鳥型、半魚型、竜型のおぞましいオーラの怪獣たち。これにジードとペガが驚きの声を発する。

 

『怪獣を召喚した!』

『しかもライザーの力じゃないよ!』

 

 春香たちの方は、男性の元へと駆け寄っていった。

 

「プロデューサーさん! きっとビランキがウサミン星でカードにしたものです!」

「もうこの星の侵略者と接触してたとは……」

「ああ……。しかも三体とはビランキめ、やってくれる……。こいつはちょっと厄介だな……」

 

 そう唱えた男性は、八幡の方へと近寄ってきて呼びかけた。

 

「少年。君が、いや君の中にいるのがウルトラマンジードだな」

 

 言い当てられ、ジード自身が驚愕した。

 

『どうして僕のことを……!? あなたは……!?』

「こいつを見てもらうのが一番分かりやすいと思う」

 

 男性が取り出したのは、レイデュエスが使ったものと似ているが、こちらは正反対に白く清純な気を放つリングであった。それを目の当たりにして再度驚くジード。

 

『まさか……ウルトラマン!』

「ウルトラマン!!」

 

 八幡たちも釣られて驚嘆。つまり春香たちは、自分たちのように、ウルトラマンの仲間であった訳だ。

 男性は八幡たちに誘いかける。

 

「君たちもウルトラマンなら、ここは共同戦線と行こうぜ」

『……!』

 

 迷っている暇はない。ジードたちは無言で了承し、フュージョンライズの態勢に入る。

 リングを持つ男性の左右には、春香と美希が並んでカードを取り出した。

 

「ウルトラマンさんっ!」

『ユーゴー!』

[ウルトラマン!]『ヘアッ!』

『シェアッ!』

 

 春香と雪乃が、ウルトラマンのカードとカプセルをリングと装填ナックルにセットする。

 

「ティガっ!」

『アイゴー!』

[ウルトラマンティガ!]『ヂャッ!』

『フエアッ!』

 

 美希は八幡たちの知らないウルトラ戦士のカードを、結衣はベリアルのカプセルをセット。

 

「光の力、お借りしますッ!」

『ヒアウィーゴー!!』

 

 男性は二枚のカードが通されたリングを天高く掲げ、八幡はジードライザーでカプセルをスキャンする。

 

[フュージョンアップ!]

[フュージョンライズ!]

 

 リングとライザーがそれぞれ叫び、男性と八幡が仲間たちとフュージョンしていく。

 

『シェアッ!』『タァーッ!』

『ジィィィ―――――――ドッ!』

[ウルトラマン! ウルトラマンベリアル!]

 

 二人ずつのウルトラ戦士のビジョンと重なり合った二人のウルトラマンが、巨大化しながら飛び出していく!

 

[ウルトラマンオーブ! スペシウムゼペリオン!!]

[ウルトラマンジード! プリミティブ!!]

 

 そして今にも町を焼き尽くそうとしていた怪獣たちの前に、ウルトラ戦士タッグが堂々と立ち上がった!

 

 

 レイデュエスたちの出現の報を受けて駆けつけたライハが見上げたのは、今まさに変身を遂げたジードたちの背中。

 

「ジードと……もう一人、ウルトラマン……!」

 

 初めて目にするウルトラマンの名前を、側に来た千早が告げた。

 

「あの人はオーブ。私たちのウルトラマン……ウルトラマンオーブです!」

 



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だから、その人たちはTOPに立っている。(C)

 

『俺たちはオーブ! 闇を照らして、悪を撃つ!!』

『「決めるぜ……覚悟!」』

 

 三体の魔王獣と対峙した二大ウルトラ戦士、オーブとジード。その内部の超空間から、春香と美希が八幡たちへ呼びかける。

 

『「あなたたちもウルトラマンになって戦うんだね!」』

『「一緒に頑張ろうね♪」』

 

 フレンドリーに呼びかけた二人に対して、結衣は衝撃を受けていた。

 

『「あれ!? 向こう、三人どころかあと十人は入っても余裕そうなんだけど!?」』

 

 ジードの超空間は三人でキツキツなのに、オーブの超空間はかなり広々としているのだ。

 

『「同じウルトラマンなのに、どうしてこれだけ違うのかしら……」』

『い、いいじゃん別に! よそはよそ、ウチはウチ!』

『「そういう問題かしら?」』

 

 さりげなく不満を漏らす雪乃に言い返したジードに、オーブが注意を促す。

 

『後輩たち、あんまりつまらないことに気を取られてるんじゃないぜ。来るぞッ!』

 

(♪スペシウムゼペリオンのテーマ)

 

「グアアァァァ! キィィィヤアアアァァァッ!」

「ミィィィィ――――! プォォォ――――――!」

「グワアアアァァァァァ! ジャパッパッ!」

 

 話している間にマガオロチ率いる魔王獣軍団が飛び掛かってきて、オーブとジードは迎え撃つ姿勢を取った。

 

「ハァッ!」

 

 ジードはこちらから敵の間に切り込んでいって、平手を振るいマガバッサーを狙って攻撃を仕掛ける。

 

「ミィィィィ――――! プォォォ――――――!」

 

 しかし飛行できるマガバッサーは浮き上がってかわし、ならばとマガジャッパに狙いを移す。が、

 

「グワアアアァァァァァ! ジャパッパッ!」

「ウゥッ!?」

 

 マガジャッパに吐息を浴びせられると、途端にジードの動きが止まって大きくのけ反った。

 

『「うげぇッ!? な、何つぅ臭いだよ……!」』

『「は、鼻が曲がるわ……!」』

『「うええぇ~っ! サイアク~!!」』

 

 マガジャッパの臭いが常軌を逸したひどさだったからだ。悪臭は八幡たちの嗅覚にも襲い掛かり、ジードはとても耐えられずに悶絶。

 

「グアアァァァ! キィィィヤアアアァァァッ!」

「ウワァァッ!」

 

 そこにマガオロチの尻尾が飛んできて殴り飛ばされた。あまりの破壊力にジードは一撃で倒れ伏し、身体が痙攣を起こす。

 

「ミィィィィ――――! プォォォ――――――!」

 

 更にマガバッサーが急降下してきて踏み潰そうとしてくる。とても回避できず、八幡たちは咄嗟に目をつぶったが、

 

「シェアァァッ!」

「ミィィィィ――――! プォォォ――――――!」

 

 この場にオーブが飛び込んできてマガバッサーにアッパーを決め、弾き飛ばしてジードを助けた。彼を背にかばいながら注意する。

 

『しっかりしな。戦いはまだ始まったばっかだぜ』

『す、すみません……』

 

 ジードが立て直すまでの間、オーブが怪獣たちを相手取って時間を稼ぐ。

 

「グアアァァァ! キィィィヤアアアァァァッ!」

「グワアアアァァァァァ! ジャパッパッ!」

「シェアッ!」

 

 マガオロチが太い腕を振り回して襲ってくるが、オーブは身体の青い部分を輝かせることで上げたスピードで回避。マガジャッパの臭気も浴びず、たちまち背後を取る。

 振り返ろうとしたマガジャッパだがオーブは次に赤い部分を光らせて、怪力を発揮しながらマガジャッパを捕まえて、

 

「オリャアァァッ!」

 

 マガジャッパを後ろへ投げ捨てた! 放り出されたマガジャッパはマガバッサーと激突し、二体は地面に墜落する。

 

「グワアアアァァァァァ! ジャパッパッ!」

「ミィィィィ――――! プォォォ――――――!」

『「すごい……数の差を物ともせず翻弄しているわ……」』

 

 怪獣三体を一度に相手して、完全にかき乱しているオーブに感服する雪乃たち。そんな三人に春香と美希が告げる。

 

『「闇雲に飛び込んでも駄目だよ! 相手の動きをよく見て!」』

『「相手のリズムに合わせて、こっちのペースに持ってくの!」』

 

 マガオロチの打撃を全てかいくぐりながらアドバイスする二人。マガオロチは痺れを切らしたように口に電光を溜めるが、それを予測してオーブは両腕を頭上と左方にピンと伸ばした。

 

「グアアァァァ! キィィィヤアアアァァァッ!」

「「『スペリオン光線!!!」」』

 

 マガオロチの吐いてきた迅雷を、オーブは十字に組んだ腕からの光線で相殺。光線と電撃が衝突して爆発が生じるが、オーブはノーダメージだ。

 

『「すっごい……! あの人たち、戦い方が上手……!」』

『「ああ……」』

『「私たちの比ではないくらい、戦い慣れしているみたいね……」』

 

 オーブたちの連携の良さに三人はますます感心。

 しかし怪獣側もさるもので、こちらになかなか反撃のチャンスを与えない。特にパワーもスピードもあるマガオロチのラッシュに押されて、オーブたちは思うように攻撃できないでいる。

 

「グアアァァァ! キィィィヤアアアァァァッ!」

『ちッ、相変わらず厄介だな……!』

 

 舌打ちするオーブ。と、その時、戦いを見守っているライハと千早の元に一台のマイクロバスが停車して、新たな三人の少女が下りてきた。

 

「律っちゃん、戦いはもう始まってるよ!」

「あっ、千早お姉ちゃん! ここにいたんだ!」

「亜美、真美! 律子!」

 

 名前を呼ばれて振り返った千早が、三人をそう呼んだ。眼鏡を掛けた律子という少女は、マガオロチと戦うオーブを見上げる。

 

「プロデューサー、援護しますよ!」

 

 そう言いながら取り出したのは、大型の銃のような装置。それを担いでマガオロチに向ける。

 

「ハイパーSAPガン、発射!」

「いっちゃえ律っちゃーん!」

 

 亜美真美の応援の下、装置から白い弾丸が発射され、弧を描いてマガオロチの頭上に到達。そこで破裂するとマガオロチに大量の粉のようなものが降り注ぐ。

 それを浴びたマガオロチの上半身がカチカチに固まって、身動きが取れなくなった!

 

「!!?」

「大成功!」

「やったーっ!!」

「すごい……!」

 

 マガオロチの動きを封じたことに律子たちは喜び、ライハは驚嘆。

 律子が作った好機にオーブたちがいよいよ反撃に出る!

 

『今だ! まずは周りの奴らを撃破するぞ! 遅れるなよ後輩!』

『は、はい!』

 

 オーブとジードは再びフュージョンアップ&フュージョンライズを行い、形態をチェンジする。

 

『「タロウさんっ!」』『ユーゴー!』

[ウルトラマンタロウ!]『トァーッ!』『ダーッ!』

『「メビウスっ!」』『アイゴー!』

[ウルトラマンメビウス!]『セアッ!』『イヤァッ!』

『熱い奴、頼みますッ!』『ヒアウィーゴー!!』

[フュージョンアップ!][フュージョンライズ!]

 

 オーブがタロウとメビウス、ジードがセブンとレオのビジョンと重なり合う。

 

『トワァッ!』『タァッ!』

『ジィィィ―――――――ドッ!』

[ウルトラセブン! ウルトラマンレオ!]

[ウルトラマンオーブ! バーンマイト!!]

[ウルトラマンジード! ソリッドバーニング!!]

 

 二人のウルトラ戦士が炎を吹き飛ばし、灼熱の戦士、バーンマイトとソリッドバーニングに変身した!

 

(♪バーンマイトのテーマ)

 

『紅に燃えるぜ!!』

『「燃やすぜ……勇気!」』

 

 ジードは頭頂部のスラッガーに手を掛けながらマガジャッパに向き直る。

 

『「どんだけ臭くとも、遠隔攻撃なら関係ねぇよな!」』

 

 ジードスラッガーを投げ飛ばしてコントロールし、マガジャッパの身体を切りつけていく!

 

「グワアアアァァァァァ! ジャパッパッ!」

 

 オーブは高々と跳躍してマガバッサーに飛び蹴りを繰り出した。

 

「セェアァッ!」

「ミィィィィ――――! プォォォ――――――!」

 

 オーブのキックをもらって大きく吹っ飛ばされるマガバッサー。そちらが立て直さない内に、オーブはジードと並んでマガジャッパに狙いを定める。

 

『よし、行くぜッ!』

『はいッ!』

 

 オーブは炎のシンボルが描かれた胸元に火炎を溜め、ジードは右腕にエネルギーを集中。そして、

 

「「『ストビュームバースト!!!」」』

「『ストライクブースト!!」』

 

 二人の火炎弾と光線がマガジャッパに命中! 一瞬の内に粉々に爆散させた!

 

『「ふぅ……汚物は消毒だな」』

『「まだひと息吐く時間じゃないよ! 今度はあっち!」』

 

 マガジャッパを撃破したが、休む暇もなくマガバッサーが滑空しながら猛然と迫ってくる。

 

「ミィィィィ――――! プォォォ――――――!」

 

 ジードがエメリウムブーストビームで迎え撃ったが、マガバッサーは上昇して回避。その素早い動きを捉えるのは困難そうだ。

 

『こっちもスピードを上げてくぜ! 出来るな?』

『もちろんです!』

 

 オーブとジードはスピードに優れた形態に切り替えていく!

 

『「ジャックさんっ!」』『ユーゴー!』

[ウルトラマンジャック!]『ジェアッ!』『テヤッ!』

『「ゼロっ!」』『アイゴー!』

[ウルトラマンゼロ!]『セェェェアッ!』『タァッ!』

『キレのいい奴、頼みますッ!』『ヒアウィーゴー!!』

[フュージョンアップ!][フュージョンライズ!]

『ヘッ!』『テヤッ!』

『ジィィィ―――――――ドッ!』

[ウルトラマンヒカリ! ウルトラマンコスモス!]

[ウルトラマンオーブ! ハリケーンスラッシュ!!]

[ウルトラマンジード! アクロスマッシャー!!]

 

 オーブとジードはそれぞれ青い姿、ハリケーンスラッシュとアクロスマッシャーへと再三の変身!

 

(♪ハリケーンスラッシュのテーマ)

 

『光を越えて、闇を斬る!!』

『「見せるぜ……衝撃!」』

 

 変身の直後にオーブは穂先が二又に分かれた槍型の武器、ジードはジードクローを召喚する。

 

『オーブスラッガーランス!』

『ジードクロー!』

 

 それぞれの得物を握り締めると、空を縦横無尽に駆け巡るような動きでマガバッサーに飛び掛かっていった。

 

「シェアッ!」

「ハァッ!」

「ミィィィィ――――! プォォォ――――――!」

 

 マガバッサーはこちらを取り囲むような動きで高速で切り刻んでくる二人の連携によけることも逃げることも叶わず、なすがままにやられる。

 そしてオーブとジードは武器のレバーとトリガーを二回引き、必殺攻撃を仕掛ける。

 

「「『ビッグバンスラスト!!!」」』

『コークスクリュージャミング!』

 

 スラッガーランスの突き刺しと回転するジードクローの一撃を叩き込まれ、マガバッサーもまた爆散させられた。

 華麗に着地するオーブとジード。しかしここでマガオロチが拘束を砕いて自由になる。

 

「グアアァァァ! キィィィヤアアアァァァッ!」

 

 同時にウルトラ戦士たちも変身の制限時間が近づき、カラータイマーが鳴り出した。オーブはジードへと助言する。

 

『奴に半端な攻撃は無意味だ。強烈な一撃を叩き込んでやれ!』

『分かりました!』

 

 二人は四度目の変身を行う!

 

『「ギンガさんっ!」』『ユーゴー!』

[ウルトラマンギンガ!]『ショオラッ!』『セェアッ!』

『「エックスっ!」』『アイゴー!』

[ウルトラマンエックス!]『イィィィーッ! サ―――ッ!』『ドゥアッ!』

『痺れる奴、頼みますッ!』『ヒアウィーゴー!!』

[フュージョンアップ!][フュージョンライズ!]

『シュワッ!』『トワァッ!』

『ジィィィ―――――――ドッ!』

[ウルトラマンゼロ! ウルトラの父!]

[ウルトラマンオーブ! ライトニングアタッカー!!]

[ウルトラマンジード! マグニフィセント!!]

 

 オーブとジードは閃光を纏いながら、ライトニングアタッカーとマグニフィセントにフュージョンを遂げた!

 

(♪ライトニングアタッカー)

 

『電光雷轟、闇を討つ!!』

『「守るぜ……希望!」』

「グアアァァァ! キィィィヤアアアァァァッ!」

 

 マガオロチが二人に向けて迅雷を吐いて攻撃してくるが、オーブたちはバリアを張って防御。そして腕と角から電撃を放ってやり返した。

 

「テヤッ!」

「ドォッ!」

「グアアァァァ!」

 

 二人分の攻撃を食らったマガオロチの身体が一瞬麻痺した。その隙にオーブは空中に飛び上がり、ジードは両腕にエネルギーを充填する。

 

「「『アタッカーギンガエックス!!!」」』

「『ビッグバスタウェイ!!」』

 

 四肢をピンと伸ばしたオーブから電撃光線が放たれ、ジードは最大級の光線を発射。二人の渾身の必殺技がマガオロチに命中!

 

「キィィィヤアアアァァァッ!!」

 

 マガオロチは肉体の内側から光が溢れ、破裂するように大爆発を起こして消滅していった。

 オーブとジード。力を合わせて魔王獣軍団を全滅させた二人のウルトラ戦士は、顔を見合わせてうなずき合うと、大空高く飛び上がって町を去っていった。

 

「シュワッ!」

「ダァッ!」

 

 

 ――しかしこの時、レイデュエスが空のカプセルを掲げ、倒されたマガオロチのパワーをその中に吸収させていた。

 

『グアアァァァ! キィィィヤアアアァァァッ!』

 

 表面にマガオロチの絵が刻まれ、新たな怪獣カプセルが作り出された――。

 

 

 × × ×

 

 

 戦闘終了後、八幡たちはゼナも交えて、ウルトラマンオーブ=紅ガイとその仲間の少女たちを星雲荘に招き、円卓を囲んで互いの情報を交換し合った。

 

「そっか……。みんなは悪い人に襲われて、普通の高校生だったところをウルトラマンとして戦うことになったんだね」

「いきなり非日常に身を置くことになって、さぞ大変だったでしょう」

 

 春香や律子らは八幡たちの身の上に同情したが、結衣はブンブンと手を振った。

 

「いやいやいや……そっちの方がずっと大変な経験してるじゃないですか! それこそこっちの何倍も!」

「現在の状況にあってなお、にわかには信じがたい話ですね……」

 

 冷や汗を垂らしながらポツリとつぶやく雪乃。彼女らジード側が皆あんぐりするほど、オーブ側……『765プロ』の経緯は波乱万丈であった。

 まずは全宇宙を救う使命を与えられた勇者ウルトラマンオーブとなった紅ガイから始まり、並行宇宙の地球でアイドルの卵だったのをガイとともに星を滅ぼす魔王獣と戦う道を歩むことになった春香たちの日々。いくつもの苦闘を乗り越え、限界を超え、彼女たちは単なるオーブの補佐を超越して「光」となった。そしてアイドルの頂にも立ち、遂には……。

 

「色々なものを限界突破しちゃって、気がつけば兄ちゃんと一緒に宇宙を駆け巡るようになったんだよねー」

「もうたくさんの事件を解決したよねー。ミステラー星とアテリア星の戦争を止めたりとか、復活した根源的破滅招来体をやっつけたりとか、ゴールド星を消そうとしてたグリーザに立ち向かったりとか」

「ええ……どれも楽な戦いじゃなかったけれど、数え切れない人たちが笑顔になって、とても充実した日々だったわ」

 

 しみじみと語る亜美、真美、千早たちの言に、八幡たちは唖然。

 

「あ、あの……皆さん地球人なんすよね? 一体今何歳なんすか……?」

「あら比企谷くん、女の子に年齢の話はしちゃいけないのは常識よ?」

「それに何度も時空超えてるし、歳なんてもう数えられないの」

「俺たちのレベルになると、年齢なんて最早意味のない概念だからな」

 

 律子や美希、ガイたちがアハハと笑い合う。八幡たちはそのノリに到底ついていけなかった。

 

『す、すごい話しする人たちだなぁ……』

「とても同じ地球人だとは思えない……」

『AIBでも史上最高のアイドルだとか噂されていたが、想像以上だな……』

「すっごいな~……! ペガも皆さんみたいに立派になりたい!」

 

 ジードやライハ、ゼナも呆然としている始末。ただペガだけは、春香たちに憧れの眼差しを送っていた。

 ここで結衣、ガイにからかうような目を向ける。

 

「でも紅ガイさん、プロデューサーとか言ってこんな綺麗な人たちに囲まれて、すっごい幸せ者ですね~。とべっち辺りが聞いたらすごい羨ましがりそう!」

 

 更には八幡が下世話な話を口にした。

 

「実は誰かとスキャンダラスな関係にあったりするんじゃないですか? アイドルってそういうの多いとよく聞きますしね」

「こら八幡。初対面の人にそれは失礼でしょ」

 

 ライハがぴしゃりとたしなめたが、春香は何でもないことのように答えた。

 

「そうだね……。正直に言うと、プロデューサーさんに対しては恋愛感情もあるかな。私だけじゃなくて、私たちは」

「えっ!?」

 

 結衣が一番強く興味を引かれた。しかし、

 

「でも……私たちの絆はもう、『恋愛』という段階を超えてるの。喩えて言うなら、みんな家族、仲間……それ以上に、みんなで『一つ』。だからもう特別な関係にあるとも言えるし、特別な関係じゃないとも言えるかな」

 

 春香の言葉に仲間たちはうんうんとうなずいている。ガイもまた、当たり前という風に平然と受け止めていた。

 

「……何だか難しいこと言いますね……」

 

 春香たちの超然とした態度に圧倒される結衣たち。だがしかし、八幡だけは、まるで妬むかのような視線を返した。

 

「絆だとかそんな綺麗なことばっか言って……どこまでホントのことなんですかね」

『ちょっと八幡、何でそんなことわざわざ……』

 

 ジードもたしなめようとしたが、それより早く春香が八幡に笑顔を見せた。

 

「流石に信じられないかな。だけど、本当のことだよ。私たちはみんな――どこまでも信頼し合ってるの」

 

 パァァ、とまばゆく輝くような見事な笑顔。それに八幡は――。

 

「ぐわああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

 突然椅子から転げ落ちて顔を押さえながらジタバタのた打ち回った。

 

「ど、どうしたの!?」

「ちょっとヒッキー!?」

 

 仰天する春香たち。結衣たちも目を丸くしていると、八幡はかすれた声で発した。

 

「だ、駄目だ……。俺には、俺にはまぶしすぎるぅ……! 直視してられねぇ……!」

「……比企谷くんは吸血鬼か何かだったのかしら……」

 

 流石の雪乃も心の底から呆れ返っていた。春香たちも若干引きつった苦笑を浮かべる始末。

 そんな八幡のオーバーリアクションがあったりもしたが、ここでガイが重要な話を切り出した。

 

「ところで、君たちの前にジャグラスジャグラーって名乗った奴が現れたって言ってたな」

「はい……」

「そうか……。やっぱりあいつもビランキを追ってるのか」

 

 八幡が椅子に座り直して聞き返す。

 

「ビランキって? どういうことですか?」

「ひと言で言うなら、暴走しがちな困った超能力少女だ。こいつがまた何回も迷惑な事態を引き起こしててな……。今回の件も、あいつが一枚噛んでる痕跡があるんだ」

 

 眉をひそめながらそう語るガイ。

 

「君たちの言ったレイデュエスって奴……ダークリングを持ってた奴が使った怪獣カードも、きっとビランキが渡したものだろう。きっとこれで終わりじゃないだろうな……」

 

 

 × × ×

 

 

 レイデュエスは地上で隠れ家にしている廃ビルに身を潜めながら、作成したマガオロチカプセルを摘み上げながらニヤニヤとほくそ笑んでいた。

 

「こいつはまたいいものを手に入れたもんだ……! 星を食らう獣の暗黒のエナジー、尋常なものじゃない……!」

 

 言いながらもう片方の手で、別のカプセルを手に取ってマガオロチカプセルと並べた。

 

「こいつなら、今まで組み合わせられるカプセルがなくて宝の持ち腐れとなってたこれとフュージョンライズできる……! 何とも思わぬ収穫だ……!」

『おめでとうございます、殿下!』

 

 上機嫌なレイデュエスにオガレスとルドレイが太鼓持ちする。

 

「ああ、全く……! 今日は最高の日だ!!」

「――随分と嬉しそうな奴がいるな」

 

 レイデュエスが言い切ったその時、彼らのいる廃ビルのフロアに、どこからともなく黒いスーツの男が踏み込んできた。その手には、ひと振りの刀が握られている。

 

「ッ!」

 

 途端にレイデュエスたちは身構え、怪獣カプセルが仕舞われた。警戒態勢の三人に対して、黒いスーツの男が言い放つ。

 

「いきなり失礼。ちょっと、そこの小僧に用があるんだ」

 

 胸元に一輪の薔薇を挿したスーツの男――ジャグラスジャグラーが、レイデュエスに目をつけた。

 



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だから、その人たちはTOPに立っている。(D)

 

 律子や千早らは怪獣カードを使用していたレイデュエスの行方を調べるために、ゼナと話し合っていた。

 

「レイデュエスという男がどこに逃げたか、特定は出来ないでしょうか」

『我々AIBも今も奴らの足取りを追っているが、レイデュエスは特殊な魔術を使っている。追跡も闇の力で妨害されていて、てこずっていてな……』

 

 一方でガイ、春香、美希は主にジードに、彼の話を伺っていた。

 

「へぇ~……基本形態にベリアルさんの力を使ってるんですか。驚き……」

 

 春香たち三人がまじまじとベリアルカプセルを見つめていることに、雪乃が聞き返す。

 

「そんなに驚くようなことなんですか?」

「それはもう! ミキたちもベリアルのカード持ってるけど、最初に使った時は大変だったの」

 

 美希が答える傍らで春香が頻りにうなずいた。

 

「闇の力は扱いがかなり難しい。特に俺たちのような存在にとってはな……。ジード、お前さんはベリアルさんの血を引いてるから、最初から普通に扱えるんだろうな」

『はい……』

 

 ガイの言葉に、八幡たちは内心驚きを覚えていた。彼らは今日まで実際の『ウルトラマン』をジードしか知らなかったから、彼の特異性に実感を持っていなかったのだ。

 結衣はふと雪乃に囁きかける。

 

「そういえばあたしたちって、ジードんのことあんまり知らないよね。生まれのこととか……」

「確かにそうね……」

 

 同意する雪乃。彼女たちは、ジード個人のことの話をあまり聞いたことがない。最初は自分のことを知らず、普通の地球人と思って生活していたということは聞いたが……どうしてそんな生活を送っていたのか。父親のベリアルはウルトラマンたちの国の反逆者らしいが、今はどうしているのか。デリケートな話題であることが容易に窺えるので、詮索するような真似は控えているのだが……。

 そういう話を、いつかジードから進んで教えてもらえる日が来るのか……と八幡たちが思ったその時に、レムが報告の声を発した。

 

[レイデュエス融合獣が出現しました]

「!!」

 

 その途端に全員が反射的に席を立った。ガイがすかさず指示する。

 

「モニターに出してくれ」

[分かりました]

 

 空中に表示された映像、その中の融合獣の容姿に、全員が驚愕させられることとなる。

 

「あ、あれは……!?」

 

 

 × × ×

 

 

 八幡たちがガイたち765プロと話をしている頃、レイデュエス一味は突如自分たちの元に現れた男……ジャグラスジャグラーと対峙をしていた。

 

『何者だ貴様! どうしてここが分かった!』

『無礼な奴め……このお方がどなたか知っているのか!』

「下がれ、お前ら。お前らの手に負える相手じゃない」

 

 オガレスとルドレイがジャグラーにそれぞれの得物を向けたが、レイデュエスは二人を下がらせて自らジャグラーと向かい合った。

 

「お前……ジャグラスジャグラーだな」

「へぇ、俺のことを知ってるのか」

「もちろんだ。有名だからな」

 

 レイデュエスはジャグラーを見据えながら冷笑を浮かべる。

 

「ウルトラマンオーブに執着して何度も勝負を仕掛けているが、その都度返り討ち。元々は光の勢力だったが闇に堕ちて、かと思えば光に未練タラタラ。挙句に当のオーブとは慣れ合いばっかりだとか? そんな情けない半端者だと聞いているとも」

 

 あからさまに挑発してくるレイデュエスだが、ジャグラーは不敵に微笑んだまま動じなかった。

 

「そんな奴がこのレイブラッドの後継者、宇宙の帝王の皇子に何の用だ?」

 

 とレイデュエスが問いかけると、ジャグラーは腰に提げた刀を抜いて、切っ先を彼に向けた。

 

「ダークリング、お前が持ってるんだってな。そいつを分捕りに来た、と言ったら?」

 

 それを聞いて、レイデュエスは弾けたように哄笑を上げた。

 

「ハハハハハハハハ! お前はダークリングに見限られたんだろう? それなのに、リングにも執着してるというのか! 何とまぁ未練がましい奴だ!」

 

 罵倒しながら、レイデュエスはブラッドスタッフを召喚して大鎌に変える。

 

「この俺に対する無礼な態度、それだけで……極刑だッ!」

 

 言い終えるなり飛び出し、ジャグラーにブラッドサイズを振り下ろすレイデュエス! だが同時にジャグラーも駆け出し、互いの刃が刃を弾き返した。

 

『ぬッ!?』

『殿下の闇の一撃を弾くとは……!』

 

 レイデュエスの攻撃を難なく防いだジャグラーに驚嘆するオガレスたち。そのジャグラーは飛びすさるとともに肉体を変容させる。

 

「極刑ねぇ。果たして出来るのかな? お前みたいな小僧に』

 

 ジャグラーの姿が、胸に三日月型の古傷を持った魔人のものに変化した。対するレイデュエスも星人態から魔人態に化けていく。

 

「口の減らない奴だ。地獄に行ってから悔いても遅いんだぞ』

 

 レイデュエス魔人態の容姿をひと目見て、ジャグラーがほうと息を漏らした。

 

『惑星ヨミの怪魔人……じゃないな。姿だけ借りてると言ったところか』

 

 ジャグラーのひと言により、レイデュエスの眉がピクリと吊り上がった。

 

『わざわざ姿を真似るお前は、どこの星の生まれだろうな――』

『貴様が知る必要があるか!?』

 

 ジャグラーの台詞をさえぎるように猛然と斬りかかるレイデュエス。不意打ち気味の一撃をジャグラーは弾き返した。

 

『それもそうだ』

 

 そして飛び出しながら刀を振り抜き、レイデュエスを袈裟にバッサリと斬り捨てた!

 

『クク……!』

 

 だがレイデュエスには再生能力がある。切り口は即座につながり、油断しているであろうジャグラーの背面にブラッドサイズを叩き込もうとする――。

 が、振り返ったレイデュエスの肩口にめり込んだのは、ジャグラーの白刃であった。

 

『がッ!?』

『生憎と俺はひねくれててね。お前の思う通りの反応はしてやらないのさ』

 

 斬られてもすぐ再生するレイデュエスであるが、姿勢は崩れる。ジャグラーはその間にレイデュエスの至るところを音速で切り刻んでいく!

 

『がッ!? ぐッ! ぎあッ!!』

『己の能力に慢心したな。だからお前は小僧なんだよ』

 

 どれほど再生しても滅多切りにされていくレイデュエスのありさまにルドレイたちは焦りを見せた。

 

『まずいッ! 再生の限度を超えるぞ!』

『で、殿下!!』

 

 なます切りにされるレイデュエスからポロリとダークリングが転落。ジャグラーは攻撃の手を止めてそれを拾い上げた。

 

『ふッ、頂いたぜ。さて、お前はどうしようか……。こういうのは俺の仕事じゃあないんだが……』

 

 バランスを崩して片膝を突いたレイデュエスだが、顔を上げると血走った眼でジャグラーを射抜いた。

 

『テッ、テメェぇぇぇ! この俺に、舐めた真似しやがってぇぇぇぇッ!』

 

 語気が荒み、なりふり構わず大鎌を振り上げてくるレイデュエスにジャグラーが嘲笑を浮かべた。

 

『それが本性って訳だ。余裕ぶった態度はメッキ、中身は年端のいかないガキそのもの……年齢相応の、どこにでもいる普通のクソガキだよお前はッ!』

 

 ジャグラーは襲ってくるレイデュエスを一刀の下に斬り伏せた。

 

『がふぅッ!』

『殿下、お気を確かにッ!』

『分が悪すぎます! 一旦退きましょう!』

 

 吹っ飛ばされてきたレイデュエスをオガレスたちが受け止め、レイデュエスは激昂しながらも鎌をスタッフに戻した。

 

『テメェ……このままじゃ済まさねぇからなッ!!』

 

 レイデュエスが足元に光弾を撃つと、閃光と煙幕が生じてその姿をジャグラーから覆い隠した。そして煙幕が晴れると、レイデュエスたちは忽然と姿を消していた。

 

 

「ぐッ……はぁ、はぁ……!」

 

 外に脱出したレイデュエス星人態は、胸を抑えながらも左手で装填ナックルを握り締めた。

 

「あ、あの野郎……ただじゃ置かねぇ……! 町ごと叩き潰してやる……!」

『殿下、そのお身体では流石に無理があるのでは……』

「黙れッ!」

 

 案ずるルドレイを振り払い、レイデュエスは怪獣カプセルを取り出して邪悪な笑みを顔に貼りつけた。

 

「ダークリングが何だ……俺にはコレがあるッ! 宇宙指令UMO!!」

 

 絶叫してマガオロチカプセルと、漆黒の怪獣のカプセルを起動していくレイデュエス。

 

「イッツ!」『グアアァァァ! キィィィヤアアアァァァッ!』

「マイ!」『ウオオアアアッ!』

「ショウタイム!!」

 

 ナックルに収めた二つのカプセルを、ブラッドライザーでスキャン。

 

フュージョンライズ!

「ハハハハハハハハッ!」

 

 暗黒の異空間の中、レイデュエス魔人態が邪悪なる怪獣たちのビジョンを吸収して変身していく。

 

マガオロチ! アークベリアル!

レイデュエス! 禍々アークベリアル!!

 

 フランス人形とレコードプレイヤーを踏み潰して、融合獣となって巨大化したレイデュエスが町中に降臨。漆黒の肉体をマガオロチの装甲で覆った、クリスタルを角のように額と背面から生やしたその威容は、通常の融合獣よりもふた回りほども巨大。胸部の七つの発光体は、中央が特別に真っ赤なカラータイマーとなっている。

 星を食らう恐怖の大魔王獣マガオロチと、ベリアルが怪獣化し更に強大な邪悪となったアークベリアル、二つの力を合体させた禁断の破壊の権化、禍々アークベリアルである!

 

 

 × × ×

 

 

「グオオオオオォォォォォッ!!」

 

 エレベーターで地上に上がった八幡たちとガイたちは、巨躯を用いて町を思うままに蹂躙する禍々アークベリアルを見上げて言葉を失った。

 

「何て恐ろしい姿……!」

「い、いつもよりでっかい……!」

 

 雪乃たちは離れていても肌にビリビリと感じる、禍々アークベリアルの凄まじい威圧感に震え上がっていた。

 しかしガイたちの方は一歩も退かず、強い眼差しで禍々アークベリアルを見据えている。

 

「あれは一筋縄じゃ行かなそうだな……。律子、亜美真美、とっておきので行くぜ!」

「分かりました!」

「「ラジャー!!」」

「千早さん、ミキたちも行くの!」

「ええ!」

 

 ガイの呼びかけに律子たち三人が応じ、千早と美希はスケルトン状のオーブリング、オーブライトリングを取り出した。

 まずは亜美がギンガのカードをガイのオーブリングに通す。

 

「ギンガ兄ちゃんっ!」

[ウルトラマンギンガ!]『ショオラッ!』

 

 続いて真美がビクトリーのカードをリングに通す。

 

「ビクトリー兄ちゃんっ!」

[ウルトラマンビクトリー!]『テヤッ!』

 

 更に、律子がエックスのカードをリングに通した。

 

「エックスさんっ!」

[ウルトラマンエックス!]『イィィィーッ! サ―――ッ!』

 

 三つのカードをリードしたオーブリングをガイが掲げてトリガーを引く。

 

[トリニティフュージョン!!!]

 

 リングに集った光が渦巻き、出来上がったオーブスラッシャーをガイが手に取って側面のウルトラ文字を指でなぞる。

 

「三つの光の力、お借りしますッ!! オーブトリニティ!!!」

 

 三人のアイドルと三人のウルトラマンのビジョンが、オーブオリジンと融合! その姿を、新たなものへと変化させる!

 千早と美希は、セブンとゼロのカードをオーブライトリングに通していく。

 

「セブンさんっ!」

[ウルトラセブン!]『デュワッ!』

「ゼロっ!」

[ウルトラマンゼロ!]『セェェェアッ!』

「「親子の力、お借りしますっ!!」」

[フュージョンアップ!]

 

 千早と美希がセブンとゼロのビジョンとともに、オーブの分身と融合して実体を与えた!

 

『ジュワッ!』『テヤッ!』

[ウルトラマンオーブ! エメリウムスラッガー!!]

 

 ガイたちと千早、美希の変身した二人のウルトラマンオーブが飛び出していき、禍々アークベリアルの面前に着地する。

 

『俺たちはオーブトリニティ!! 三つの光と絆を結び、今、立ち上がる!!!』

『「「私たちはオーブ! 智勇双全、光となりて!!」」』

 

(♪魔王獣)

 

『「あ? 何でお前二人いるんだ!? まぁいい!!」』

 

 ガイたちの変身したオーブトリニティとエメリウムスラッガーを見下ろし、禍々アークベリアルが怒号を上げる。

 

『「俺は今ムカついてんだ! 宇宙根無し草風情なんか、この力で粉砕してやるッ!!」』

 

 オーブが子供に見えるほどの巨体で迫り来る禍々アークベリアルを、オーブトリニティとエメリウムスラッガーは光線技で迎え撃つ。

 

「「「『トリニティウムシュート!!!!」」」』

『「「ワイドスラッガーショット!!」」』

 

 律子がオーブスラッシャーを二回なぞるとオーブトリニティが空中にV字と円を描いて光線を飛ばし、エメリウムスラッガーも腕をL字に組んで光線を発射。

 だが禍々アークベリアルは同時光線をあっさりと受け止め、全く動じなかった!

 

『何ッ!?』

『「効かねぇなぁぁぁぁッ!!」』

 

 禍々アークベリアルが両眼を光らせると念動力が生じ、オーブたちを軽々と弾き飛ばした。

 

「ウワァァァァッ!」

「グオオオオオォォォォォッ!!」

 

 更に禍々アークベリアルは全身のクリスタルをスパークさせて、口から膨大な暗黒光線を吐き出す! 禍々アークベリアル最大の攻撃、マガマガアークデスシウム!

 

『! まずいッ!』

 

 計り知れない危険を感じ取ったオーブたちはバリアを重ね合わせてマガマガアークデスシウムを受け止めるが、防ぎ切れないと判断してどうにか海の方へとそらした。

 軌道をそらされたマガマガアークデスシウムだが、海面を水平線まで真っ二つに割った上に海底をも切り裂いた! 東京湾に、新たな海溝が出来上がってしまう。

 

「……!!?」

 

 最早常識外の威力に、全員が絶句。当の攻撃を放ったレイデュエスは勝ち誇る。

 

『「ハッハハハハハハ!! 軽く吼えただけでこれ! 素晴らしい威力だッ! ウルトラマンめ、たとえ貴様らでもこいつには勝てないッ!!」』

 

 禍々アークベリアルの脅威を目の当たりにした結衣は、八幡へと振り向く。

 

「ヒッキー、ジードん! あたしたちも戦おうよ! あいつほっといたら、千葉壊されちゃうよ!!」

「あ、ああ……!」

 

 ジードライザーに手を伸ばしかけた八幡だったが、そこに雪乃が声を発した。

 

「待って! さっきフュージョンライズしてから、まだほんの数時間程度しか経ってないわ!」

「あッ、そうだった!!」

 

 ハッと目を見開く八幡たち。ウルトラマンジードは、最低でも二十時間経過しないと再度変身することが出来ないのだ!

 

『くッ……こんな時に、見てるだけしか出来ないのか……!』

 

 強く悔しがるジード。オーブたちは、二人でも禍々アークベリアルに押されているのに、その助けになることが出来ない……。

 しかし無力さに歯噛みしているところに、春香が申し出た。

 

「大丈夫! あなたたちの光が足りないのなら、私の光で補ってあげるから!」

『え?』

 

 突然の発言に意味が分からなかったジードたちだが、春香は構わずにオーブライトリングと二枚のカードを取り出した。

 

「ゾフィーさんっ!」

[ゾフィー!]『ヘアァッ!』

「ベリアルさんっ!」

[ウルトラマンベリアル!]『ヘェアッ!』

 

 手慣れた様子で二枚のカードをリングに通すと、ライトリングに宿った光がジードライザーへと移っていく。

 

「えッ!?」

「今度はこっち!」

 

 吃驚している八幡から春香はウルトラマンカプセルとベリアルカプセルを引き抜く。

 

「あッ、ちょっと!?」

「ウルトラマンさんっ!」『シェアッ!』

「ベリアルさんっ!」『フエアッ!』

 

 春香はそのままカプセルを起動し、四つのビジョンが八幡たちの周囲に現れることとなった。

 

『ええええ!?』

 

 カプセルを装填したナックルを、八幡へと渡す春香。

 

「さぁ、変身して!」

『ひ……ヒアウィーゴー!!』

 

 ジードは戸惑いながらも叫び、それに釣られて八幡がジードライザーでカプセルをスキャン。すると動かないはずのライザーが音声を発した。

 

[フュージョンライズアップ!!]

「フュージョンライズアップ!?」

 

 いつもと違う音声にライハたちは仰天。

 四つのビジョンは重なり合って八幡と春香をジードへと融合させる!

 

『ジィィィ―――――――ドッ!』

[ウルトラマン! ウルトラマンベリアル!]

[ゾフィー! ウルトラマンベリアル!]

[ウルトラマンジード! サンダープリミティブ!!]

 

 ――禍々アークベリアルに追いつめられているオーブトリニティとエメリウムスラッガーの前に、天を割るようにウルトラマンジードが猛スピードで着地。その衝撃で禍々アークベリアルの足を止めた。

 

『「ウルトラマンジード……!? 馬鹿な、変身できないはずじゃ……!」』

 

 驚くレイデュエスだが、今のジードの姿に更に驚愕させられた。

 

『「な、何だその姿は!? ビルドアップしてねぇか!?」』

 

 今のジードはプリミティブの形態だが……筋肉が膨張して体格が倍ほどになっており、胸や肩に勲章が並んでいた。身体の黒い模様の面積も増え、威圧感が禍々アークベリアルにも負けないほどになっている。

 そしてジードの超空間に、八幡とともに入っている春香が――マントを翻して叫んだ。

 

『「私たちはジード! 闇を抱いて、覚悟を決めるわ!!」』

『「何かキャラ変わってないっすか!?」』

 

 雰囲気がガラリと変わった春香に仰天する八幡。

 

『「これはベリアルさんの趣味よ」』

『えッそうなの!?』

 

 春香の回答にジードが仰天。

 地上では、雪乃たちが唖然とジード・サンダープリミティブを見上げていた。

 

「ど、どうなっているのかしら、一体……」

[解析不能です。想定外の事態が起きています]

 

 レムですら、そう答える他はなかった。ライハはユートムに振り返る。

 

「つまり、奇跡ってこと……?」

『当たり前のように奇跡を起こすな、あの人たちは……』

 

 ゼナも声を失っていた。

 サンダープリミティブの降臨にしばし固まっていたレイデュエスだが、我に返ると大きく鼻を鳴らした。

 

『「ふんッ! 所詮貴様らが使ってるのはただのベリアルの力! アークベリアルカプセルを使ったこの肉体に敵うはずがねぇッ!!」』

 

 ジードに念力を浴びせる禍々アークベリアル。だが――。

 

(♪サンダーブレスター)

 

「ハァァッ!」

 

 ジードは力ずくで念力を振り払った!

 

『「はぁッ!?」』

 

 ジードは猛然と禍々アークベリアルの懐に飛び込んで首を捉え、そして――。

 

「オォォォォォッ!」

 

 禍々アークベリアルの巨体を、ひっくり返して投げ飛ばした!

 

「グオオオオオォォォォォッ!!」

「すごっ!?」

 

 サンダープリミティブの超怪力に、結衣たちはもう何度目になるのか分からない驚嘆を発した。

 

『「なッ、なッ……こんな馬鹿なッ!」』

『「そこにひざまずきなさいっ!」』

 

 混乱する禍々アークベリアルにジードはアッパーを決め、禍々アークベリアルは宙を待って地面に叩きつけられた。

 

『「ど、どぉなってんだこれはぁ!? 何で俺の方がパワー負けしてんだ!?」』

 

 現実を受け入れられていないレイデュエスに、春香が毅然と告げた。

 

『「力はどこまで行っても力。それを扱う者の力量こそが肝心なのよ。借り物の力を自慢するようじゃあまだまだね!」』

 

 ジードの両隣にオーブトリニティとエメリウムスラッガーが並ぶ。これで状況は逆転したかに見えたが――。

 

『「舐めるなちくしょうがぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」』

 

 逆上した禍々アークベリアルがマガマガアークデスシウムを繰り出し、ジードたちは三人がかりで防御する。

 

「グッ……!」

 

 流石にこの攻撃は三人でも苦しい。しかしその時――。

 

「ゼットンさんッ!」

[ゼットン!]『ピポポポポポ……』

「パンドンさんッ!」

[パンドン!]『ガガァッ! ガガァッ!』

「闇の力、お借りしますッ! 超合体、ゼッパンドン!!」

 

 ジードたちとは別の場所から融合獣とは異なる合体怪獣が出現し、禍々アークベリアルに火炎弾を撃ち込んだ。

 

『「何ぃッ!」』

『ジャグラー!』

 

 オーブトリニティが合体魔王獣ゼッパンドンへと呼びかけ、ゼッパンドンことジャグラーがオーブたちを叱咤した。

 

『「あんな小僧相手に何てこずってるんだ。お前たちの光はそんなもんか?」』

『「貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」』

 

 禍々アークベリアルがゼッパンドンに尻尾を振り下ろしたが、ゼッパンドンはテレポートで回避。

 この間にジードたちは態勢を立て直した!

 

(♪エメリウムスラッガー)

 

『「ジャグラーに後れを取ってはいられないわ!」』

『「ミキたちはまだまだこれからなのー!」』

 

 エメリウムスラッガーが頭部から三つのスラッガーを放ち、縦横無尽の軌道で禍々アークベリアルの全身を切りつける。

 

「グオオオオオォォォォォッ!!」

『俺たちも行くぜッ!』

『「オッケー!」』

『「これでも食らえーっ!」』

 

 禍々アークベリアルがスラッガーを受けている間に律子がオーブスラッシャーを三回なぞり、オーブトリニティが禍々アークベリアルへと突貫。

 

「「「『トリニティウムブレイク!!!!」」」』

 

 三回連続の斬撃が禍々アークベリアルに叩き込まれた!

 

『「ぐがぁぁぁッ!?」』

 

 更に宙に浮き上がったジードが、大きく腕を振るってノコギリ状の光刃を繰り出した。

 

「『レッキングZリッパー!!」』

『「ぐぎいぃぃッ! くそがぁぁぁぁぁッ!!」』

 

 散々に斬りつけられる禍々アークベリアルだが、流石に耐久力は凄まじく、有効打になっていない。再びマガマガアークデスシウムで反撃しようとする。

 

『「ゼッパンドンシールド!」』

 

 しかし四方からバリアを押しつけられて、動きを封じられる。

 

『「何ぃぃぃぃぃッ!」』

 

(♪ウルトラマンオーブのテーマ)

 

 禍々アークベリアルを抑えながら、ゼッパンドンがオーブたちに告げる。

 

『今だ。全力でとどめを刺してやりな』

『「ええ!」』

 

 エメリウムスラッガーが前に出て、L字に組んだ腕を右に伸ばして、持てるエネルギーの全てを集中させる。

 

『「「ES(エメリウムスラッガー)スペシウム!!」」』

 

 両腕を十字に組んで、最大威力の光線を発射! その瞬間にバリアを解かれた禍々アークベリアルに突き刺さる!

 

『「ぐぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅッ!」』

 

 だがこれでも禍々アークベリアルは倒れない。そこで律子がオーブスラッシャーを三回なぞった後にスイッチを叩き、オーブスラッシャーを展開。

 オーブトリニティの握るスラッシャーに、巨大な光輪が作り出された!

 

「「「『トリニティウム光ぉぉぉ輪!!!!」」」』

 

 放たれた光輪は、禍々アークベリアルを通り抜けて上下に両断した!

 

『「がぁぁぁぁぁぁッ!! う、うおおおぉぉぉぉぉぉぉッ!!」』

 

 しかし禍々アークベリアルは自らの念力で肉体を押さえつけて維持している! 何という執念か!

 だが、最後にジードが必殺の攻撃を繰り出す!

 

「オオオオォォォォォォッ!」

 

 両腕を内回りに回しながら赤黒いスパークを起こし、右肩の上に持ち上げてリング状の閃光を発生させて十字を組んだ!

 

「「『レッキングZバースト!!!」」』

 

 ほとばしる絶大な光と闇の破壊光線が、禍々アークベリアルの切り口に命中!

 

「グオオオオオォォォォォ――――――――――――ッ!!!」

 

 禍々アークベリアルは遂に耐え切れなくなって、天まで届くほどの爆炎の中に消えていったのだった。

 

 

 × × ×

 

 

 禍々アークベリアルが散った様を、ビランキが見届けて大きく舌打ちした。

 

「もう、やられちゃってるじゃない! 偉ぶってた割には役に立たないわね!」

「――こんなところにいたか」

 

 そこに後方から、変身を解いたジャグラーが近づいていく。

 

「ジャグラー様……!」

「ビランキ、お前どうしてこんな真似したんだ。オーブを倒すのは俺だって、いつも言ってるだろう」

 

 ジャグラーが問いかけると、ビランキは途端に目を怒らせた。

 

「何よ、ジャグラー様がいけないのよ! あの女三人は何よ! 私に内緒で侍らせて!! だから紅ガイを奪ってやろうと思ったのよ!」

 

 ビランキの言い分に、ジャグラーは思い切り呆れ果てた。

 

「お前……そんな理由だったのか。あいつらはそういうのじゃないって言っただろう?」

「うるさーい! 言い訳なんか聞きたくないわ! もう知らないんだから……!」

 

 きゃんきゃんと駄々をこねるビランキの顎にそっとジャグラーが指をかけて――素早く、唇を重ねた。

 

「ほら、こいつで満足か?」

「……ああ、ジャグラー様ぁ……」

 

 ビランキの表情は一瞬でとろけた。ジャグラーは彼女に言い聞かす。

 

「満足したのなら、今回のことに後始末をつけな。流石に今回は度が過ぎてるぜ」

「はぁーい♪」

 

 ビランキは言われるがままに、強力な念動力を飛ばした――。

 

 

 レイデュエスはオガレスとルドレイに肩を貸されながら敗走をしていた。

 

「はぁッ……はぁッ……流石にきつい……!」

『だからおっしゃったではありませんか……』

「うるさい……! だ、だがカプセルは無事だ……!」

 

 レイデュエスは狂気に彩られた笑みを浮かべながら、マガオロチカプセルとアークベリアルカプセルを取り出す。

 

「ウルトラマンオーブだっていつまでもここにはいないだろう……。ほとぼりが冷めた頃にまた使って、次こそこの星を恐怖のどん底に……!」

 

 と目論むレイデュエスであったが――。

 その瞬間に、二つのカプセルが念力によってパリン、と粉々に割れた。

 

 

「何だか一つ余計に壊したみたいだけど、まぁいいわよね」

 

 

「――」

 

 白目を剥くレイデュエス。オガレスとルドレイはひどく狼狽えた。

 

『く、苦労して手に入れたアークベリアルカプセルが……!』

「――おおおおあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

 途端に癇癪のままに暴れ出すレイデュエス。すぐ側のオガレスとルドレイはそれに巻き込まれる。

 

『で、殿下! お気を確かに! げぶッ!』

 

 八つ当たりで二人を殴り飛ばしながら、レイデュエスは力の限りに絶叫した。

 

「今日は厄日だッッ!!」

 

 

 × × ×

 

 

 戦いの終結後、八幡たちは天文台の外でガイたちの見送りを行う。

 

「もう行ってしまうんですね」

「もうちょっとゆっくりしてけばいいのにぃ。まだ色々お話し聞きたいです」

 

 惜しむ結衣に、千早と律子も名残惜しそうに告げた。

 

「出来ればそうしたいところだけど、私たちも今忙しくてね」

「最近、色んな宇宙で不審な人工惑星が目撃されてるの。その追跡のミッションをしなくちゃいけないから」

 

 ガイと春香の方には、ペガがこう言葉を掛けた。

 

「皆さん、ほんとすごかったなぁ~。ペガたち驚きっぱなしだったよ。ねぇリク」

『うん……。ウルトラマンとして、正直羨ましいくらいだった。あんなにすごいことが出来るなんて……』

 

 正直な感想を口にしたジードに、ガイが言う。

 

「だが、俺たちだって最初からこんだけのことが出来た訳じゃない」

『え……?』

「俺だってウルトラマンになりたての頃は、相当な不出来だった。色んなことにつまずいて、失敗して……。俺たちみんなそうさ。順調だった奴は一人もいない」

「はい。私たちも、たくさんの壁にぶつかりました」

 

 てへへ、と愛想笑いする春香たち。

 

「だけど、どんなことがあってもあきらめずに頑張り続けたからこそ、今のこの時間があるの。私たちだったから、特別な訳じゃない。みんなに、私たちのように輝ける可能性はあるよ!」

 

 春香の力強い呼びかけに、八幡が戸惑ったように目をそらす。

 

「い、いや……俺なんかは、あなたたちみたいな目的意識とかある訳じゃないし……。明確になりたいものだって……」

 

 しかし春香は首を振った。

 

「今はなくても、未来はどうなるか分からない。そして輝く自分は、どんな形でもいいの。どんな形でも、どんな場所でも、人は一番輝ける可能性を持ってるよ!」

 

 春香の言葉に、八幡は呆けたような表情となった。その時に、スペーストータス号から律子が呼びかける。

 

「みんなー、そろそろ出発しましょう! 伊織たちも待ってるわ!」

「それじゃあお別れなの。みんな元気でねっ!」

「兄ちゃん姉ちゃん、また会おうねー!」

「約束だかんねー!」

 

 律子に呼ばれて順々にトータス号に乗り込んでいくアイドルたち。最後に、ガイがジードと言葉を交わす。

 

「それじゃあな。次に会う時は、立派なウルトラマンになってることを期待してるぜ!」

『はい! 頑張って、宇宙の平和を守っていきます!』

 

 ジードの約束の言葉にガイは微笑みを浮かべた。

 

「その意気だぜ。それじゃあ、こいつは餞別だ」

 

 と言ってガイの出したオーブリングから二つの光が飛び、八幡の手の中に収まった。

 

「これは……」

 

 八幡が手を広げると、光は二つのウルトラカプセルに変わっていた。それぞれスペシウムゼペリオンと、エメリウムスラッガーが描かれている。

 

「ヒカリさんから託された新型のカプセルだ。使ってくれ」

『あ、ありがとうございます!』

「しっかり頑張れよ。じゃあ――あばよ!」

 

 爽やかな微笑みを残して、ガイがハーモニカを奏でながらトータス号に乗り込んでいく。

 全員を乗せたトータス号のタイヤが横向きになって浮上し、ハーモニカの音色を残して宇宙へ向かって飛び立っていった。

 

「さよーならー!!」

「お元気でー!!」

 

 大きく手を振って見送る結衣やペガたち。そんな中で、八幡がジード相手にボソリと言った。

 

「……俺も、何だか羨ましいかもな」

『ん?』

「あの人たち、口を開けばリア充的な綺麗事ばっか。だけど、どれもその辺の連中が無責任に言い放つような薄っぺらい言葉じゃない。何つぅか……説得力に溢れてた」

 

 八幡は内心、ガイたちに羨望と嫉妬の念を抱いていた。どんな時も希望に満ちている、生きているのがとても楽しそうな彼らと自分の人生を見比べて。だから突っかかるような態度を取ったし、直視できない時もあった。

 

「多分……ああいうのが、本物なんだろうな。俺も、いつか……」

「本物が……何かしら?」

 

 熱に浮かされたようにつぶやいていたら、雪乃に聞き返されて心臓が跳ねあがりそうになった。

 

「んなななッ!? な、何でもねぇ! 何でもねぇから!」

「え、何なに? ヒッキー、今何て言ってたの?」

『これがまた結構いいこと言ってたんだよ。それがね……』

「おぉぉいやめろぉぉぉッ! 言うなッ! 言うなってぇのぉぉ――――ッ!!」

 

 結衣やライハたちが興味を示してきて、八幡は羞恥に駆られて必死にジードの言葉をさえぎったのであった。

 

 

 

『ウルトラストーリーナビ!』

 

八幡「今回は特別に、『ウルトラマンオーブ』という作品について紹介だ」

八幡「『オーブ』の始まりはロシア、ルサールカから。ここで起きたある事件のせいで、自分本来の姿になれなくなったウルトラマン、オーブがSSPっていうグループと出会ってテレビシリーズの物語は開始した。クレナイガイことオーブはSSPとともに地球を脅かす魔王獣や暗躍するジャグラスジャグラーを始めとした敵と戦い、成長していったんだ」

八幡「オーブは歴代ウルトラマンの力を使って変身するフュージョンアップを目玉にしたウルトラマンだが、この要素を上手いことストーリーに反映させて独自色を形成することに成功した。ガイやジャグラーのキャラクターも支持を集めて、未だに根強い人気を博してるんだ」

八幡「テレビ放送以外にも映画やAmazonでのWebドラマなども作成された。後に十章仕立てのストーリーも発表されて、シリーズの一作品の枠を超えるほどの深みのある世界観が形作られたんだぜ。今は再編集ものの『オーブ THE CHRONICLE』も放送されてるし、これからも何らかの形で『オーブ』を目に掛かる機会がやってくるかもな」

ジード『3月には劇場版『ジード』でジードとの共演も果たすよ! みんな、映画館に行こうね!』

八幡「それじゃ、次回もよろしくな」

 




『せっかくの夏休みなんだから、思い出作りしないと損だよ』
「そんな如何にもめんどそうなこと、絶対やらんからな」
「みんなでキャンプ場なんて楽しそうじゃん!」
「では、早速行こうか。本館に荷物を置き次第仕事だ」
「小学生でもああいうの、あるんだな」
『レクリエーションなのに、ちっとも楽しそうじゃないや……』
『「けど、今は雪ノ下も由比ヶ浜もいねぇよ……!」』
[その二つのカプセルと交換して下さい]
『「飛ばすぜ……光刃!」』



次回、『陽炎の中、彼らはボランティア活動をやらされる。』



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陽炎の中、彼らはボランティア活動をやらされる。(A)

 

 八月某日の比企谷家。八幡がソファに寝そべりながら携帯ゲームで遊んでいると、影の中からペガが顔を出した。

 

「八幡、たまには誰か誘って遊びにでも出かけたら? 夏休みが始まってから君、そんな風にぐうたらしてばっかりじゃない。不健全だよ」

『そうだよ。せっかくの夏休みなんだから、思い出作りしないと損だよ』

 

 ペガの忠告にジードも乗っかる。しかし八幡は煩わしそうに眉間をしかめるだけだった。

 

「うるへー。別に夏休みに遊びに出かけなきゃならん決まりなんてないだろうが。そもそも夏に長期休暇がある理由が何だか分かるか? 暑いからだ。すなわち夏休みとは暑さから身を守るためのもので、それに則ればわざわざ暑いとこに出てく方がギルティなんだよ」

「また出たよ、八幡の屁理屈……」

 

 八幡の物言いにペガは呆れてため息を吐いた。

 その時、八幡のケータイがメールの着信を知らせた。八幡がケータイに手を伸ばして、差出人を確かめる。「平塚先生」とある。

 八幡はメール画面を閉じた。

 

『ちょっと!? メール見なくていいの?』

 

 ジードが思わず突っ込むと、八幡は平然と答える。

 

「いいのいいの。深夜くらいに「ごっめーん、電池切れてたー」とか「ちょっと圏外だったみたいでー」とか返しておけば大丈夫だから。ソースは俺。中学時代に女子にメールしたら四割の確率でそう返されたから。ちなみにあと三割は返信なし、残りの三割はメーラー・ダエモンさんとかいう外国人からのメールだ」

「……恵まれない中学時代を送ってたんだね」

 

 流石に同情するペガだった。

 八幡が平塚からのメールを無視する理由は、奉仕部の活動に引っ張り出されるのを避けるためだった。そもそも八幡を奉仕部に入れたのは平塚であり、彼女は八幡を更生させようと日頃からあれこれ指図してくる。今のメールだって、十中八九奉仕部関連。夏休みにまで奉仕部に追われるのはごめんだ、というのが八幡の考えであった。

 が、そうやってメールを見なかったふりをしていると、ケータイが短時間で何度も着信音をかき鳴らす。

 

「……ホントに見なくていいの?」

 

 ペガが問いかけると、流石に怖くなってきた八幡が最新のメールを開いた。その内容は、

 

『差出人:平塚静

 題名「平塚静です。メール確認したられ んらくをください」

 本文「比企谷くん、夏休み中の奉仕部の活動について至急連絡をとりたいです。折り返し連絡をくださ い。もしかしてまだ寝ていますか(笑) 先ほどから何度かメールや電話をしています。本当は見ているんじゃないですか。

 ねぇ、見てるんでしょ?

でんわ でろ」

 

 八幡とジード、画面を覗き込んだペガは何とも言えない空気になった。

 

「……怖ぇよ。ちょくちょく変換ミスってるし……」

 

 八幡がどんよりしていると、ペガが平塚からのメールの中身を確かめて言う。

 

「へぇ~、ボランティア活動かぁ。それに参加してってことみたいだね」

 

 それを聞いて八幡は顔を背け、ぼふっとクッションで耳をふさいだ。

 

「冗談じゃねぇ。そんな如何にもめんどそうなこと、絶対やらんからな。俺は何も見なかった」

『でも、ボイコットしたら後が怖いんじゃない?』

 

 忠告するジードだが、八幡の心は変わらなかった。

 

「そん時はそん時だ。とにかく、俺はどこにも行かねぇからな。今日まで色々あったんだ。せめて夏休みは安穏に過ごすんだ」

 

 確固たる意志の下に、八幡はそう宣言した。

 のだが……。

 

 

 

『陽炎の中、彼らはボランティア活動をやらされる。』

 

 

 

「……結局こうなんのか……」

 

 数時間後、八幡は照りつける真夏の日差しによってじんわりと汗ばみながら、緑豊かな山の裾野の駐車場でぼやいた。ここは千葉村。群馬県にある千葉市の保養施設である。

 あの後、八幡は小町にせがまれて一緒に外出した。しかしそれは小町に手を回した平塚の仕掛けた罠であり、八幡はバッチリと捕まってしまった。そこに雪乃、結衣たちもやってきて、晴れて奉仕部のボランティア活動に参加させられることになったのであった。

 

「はぁ……俺の安穏とした夏休みが……」

「大袈裟な……たかだか四十日もある夏休みの、三日間だけじゃない」

 

 大きく肩を落とした八幡に雪乃が突っ込むと、八幡はこう言い返した。

 

「俺はな、一日たりとも一年に一度、貴重な夏休みを無駄にしたくないんだよ」

「無駄にって、お兄ちゃん毎日家でゴロゴロしてるだけですけどねー」

 

 小町に夏休みの過ごし方をバラされると、雪乃から実に冷めた視線を向けられた。

 

「そんなところだろうと思ったわ。比企谷くんは無駄の意味を調べ直すべきね」

「そんな嫌がってないで、せっかくなんだし楽しんでいこうよヒッキー! みんなでキャンプ場なんて楽しそうじゃん!」

 

 と結衣が呼び掛けても八幡はしかめ面。

 

「遊びに来たんじゃねぇんだろ? 奉仕部の活動だって。んな気楽に構えられる訳……」

「そう言わないで、前向きに行こうよ八幡。こういうのって多分楽しんだもの勝ちだよ」

「そうだな! 何が待ち受けてたってドンと来いだ!」

 

 戸塚彩加が言った途端に八幡の態度が一変した。奉仕部ではない彼だが、人手が足りないということで平塚に誘われて来たのであった。

 

『相変わらず、戸塚君には甘いなぁ……』

 

 ダークゾーンの中で呆れ返るペガ。戸塚は男ながらその辺の女子顔負けに愛らしく、八幡はそんな彼のことを異様に気に入っているのであった。

 そんなことをしていたら、彼らの近くに別のワンボックスカーがやってきて、四人組の若い男女を下ろして去っていった。その四人というのが、

 

「や、ヒキタニくん」

「葉山……どうしてここに」

 

 葉山、三浦、戸部、海老名の葉山グループ中核メンバーであった。葉山の顔を見た途端に雪乃がいささか顔をしかめたのだが、それには誰も気づかなかった。

 

「学校の掲示板で応募してたんだ。奉仕活動で内申点加点してもらえるってね」

「え、何かただでキャンプできるっつーから来たんですけど?」

「だべ? いーやーただとかやばいっしょー」

「わたしは葉山君と戸部君がキャンプすると聞いてhshs」

 

 葉山はボランティアのつもりのようだが、他三人は完全に遊ぶつもりであった。一人だけ言動がおかしいが。

 

「ふむ。全員揃ったようだな」

 

 葉山たちが来たところで、平塚静がこれから行うボランティアの詳細を説明し出す。

 曰く、八幡たちにはこれから小学生の林間学校サポートスタッフになってもらうということ。平塚は校長から地域の奉仕活動の監督を申しつけられていて、この役目に奉仕部の面々に白羽の矢を立てたということであった。

 

「では、早速行こうか。本館に荷物を置き次第仕事だ」

 

 そして平塚の先導の下に、八幡たちは面倒を見る小学生たちの待つ場所へと移動していった。

 

 

 × × ×

 

 

 八幡たちが相手をする小学生は六年生、小学校の中では最も性差や成長の個人差が表れている子供たちであった。それが百人近くいるのだから、八幡たちは纏まりのない彼らの騒々しさに若干気圧されていた。ただ葉山だけは、自然な調子で小学生の相手をしていた。彼のコミュニケーション力は人を選ばないようだ。

 最初の行事はオリエンテーリングであり、小学生たちは五、六人のグループに分かれて順々に出発していく。八幡たちはゴール地点での昼食の準備を頼まれ、小学生たちを追いかける形でゴールの場所へと向かい出した。子供たちよりも先に着かないといけない訳だが、当然ながら高校生と小学生では歩くスピードが違うし、このオリエンテーリングもあくまでレクリエーション。スイスイと追い抜いていく。

 進んでいく中でいくつかの班と出くわすのだが、その内の女子五人のグループが葉山たちに興味を持って積極的に話しかけてきた。小学生の目線からすれば、高校生は大人に見えるようである。特に葉山や三浦辺りは魅力的に映るようだ。

 

「しっかし、葉山の奴はすげぇよな。初対面の小学生相手に堂々としてて、あっという間に打ち解けてさ。コミュ力のバケモンだよ。とても真似できねぇ」

 

 葉山たちが女子小学生たちの相手をしている間、誰も寄りつかず手持無沙汰になっている八幡が、同じ状況の雪乃に話しかけた。この二人は見た目と雰囲気で子供は怖気づいてしまうようであった。

 

「あなたの場合は、そもそも子供に近寄ろうとしたら警察を呼ばれてしまうでしょうね。だから真似なんてしないことをお勧めするわ」

「うるせ。不審者ルックスで悪かったな……」

 

 雪乃の毒舌を慣れた調子で受け流す八幡は、ふと今行動を共にしている女子グループの中に歪を見つけて口を閉ざした。

 一人だけ、他の四人から二歩ほど遅れてついていっている。物理的な距離だけでなく、精神的な部分でもその子は他の子たちと断絶があるのが見て取れた。話の輪の中に入らず、時折首から提げたデジカメを撮影もしないのにいじっているのだ。

 明らかに、行動をともにしていて、一人だけ同じ時間を共有していない。

 

「……」

 

 雪乃もその少女のことに気がついたようで、小さくため息を吐いた。葉山も同じで、彼女の側に行って目線を合わせる。

 

「チェックポイント、見つかった?」

「……いいえ」

「そっか、じゃあみんなで探そう。名前は?」

「鶴見、留美」

「俺は葉山隼人、よろしくね。あっちの方とか隠れてそうじゃない?」

 

 少女と話しながら、背中を押して誘導していく。その様子の一部始終を目の当たりにして、八幡は半ば戦慄した。

 

「見た今の? あいつ超ナチュラルに誘ったぞ。さりげなく名前聞き出してるし」

「見てたわよ。あなたには一生かかっても出来ない芸当ね」

 

 八幡をこき下ろしてから、雪乃は顔をしかめた。

 

「けれど、あまりいいやり方とは言えないわね」

 

 少女、留美は葉山に連れられてグループの中央に入るのだが、彼女の視線は泳いで同級生たちに向かわない。他の女子たちも、露骨な態度こそ見せないものの、まるで留美を腫れ物のように扱っていて会話を取ろうとしない。話す時には、必ず葉山たちを間に置く。

 

「やっぱりね……」

「小学生でもああいうの、あるんだな」

 

 八幡が言うと、雪乃は言い切った。

 

「小学生も高校生も変わらないわよ。等しく同じ人間なのだから」

 

 留美は結局、八幡たちが彼女たちと別れる段になっても、グループの輪の中に入れずにいた。あの調子では、オリエンテーリング中はずっとそうであろう。

 留美たちとの別れ際、ペガがダークゾーンの中でそっとつぶやいた。

 

『あの子、ちょっとかわいそうだな……。レクリエーションなのに、ちっとも楽しそうじゃないや……』

 

 

 × × ×

 

 

 オリエンテーリングが終わり、昼食を済ませると、小学生たちはその次のイベントをつつがなく受けていった。八幡たちもそのサポートを行っていき、昼過ぎになると子供たちとともに夕食のカレー作りを開始した。

 大勢の子供たちが賑やかにカレー作りを進める中、八幡は一人の少女に目を留めた。

 

『……さっきの子だ』

 

 ペガが言った。八幡の視線の先にいるのは、先ほどのオリエンテーリングで一番八幡の目についた少女、留美。他の子たちは友達同士で作業しているのに、彼女だけは一人だけで黙々とジャガイモを洗っていた。しかも他の子は、それが当然のように振る舞っていて誰もかえりみない。

 そこに、再び葉山が近づいていく。

 

「カレー、好き?」

 

 何気なく話しかけた葉山だが、その様子を目にした雪乃は呆れたようにため息を吐いた。八幡も同じ気持ちであった。

 葉山は既に小学生たちの心を掴んだ、「憧れの大人」的な存在となっている。そんな彼が目を掛けたら留美は悪目立ちして、ますます他の子たちから距離を取られることだろう。これを機に他の子が留美に仲良くしてくれるようなら、そもそもこんな状況にはなっていないのだから。

 葉山は人が好い分、その辺りの後ろ暗い心理の機微が分からないようである。

 

「……別に。カレーに興味ないし」

 

 留美の取った行動は、そっけなく返答してすぐに葉山から離れることであった。人の目を避け、注目を集めない場所に移動してくる。

 そこには八幡と雪乃がいる。留美は人の輪から外れている八幡たちには興味を抱いたようで、結衣も交えて何回か言葉を交わした後、八幡と雪乃に目を向けながら言った。

 

「何か、そっちの二人は違う感じがする。あの辺の人たちと」

 

 留美は八幡と雪乃が、葉山たちとは異なる種類の人間だと見て取っていた。

 

「私も違うの。あの辺と」

「違うって、何が?」

「周りはみんなガキなんだもん」

 

 結衣が聞き返すと、留美はそう答えた。彼女はどうやら、他の子たちよりも大人びている、あるいは冷めた性格をしていて、そのために馴染めないでいるようだ。

 

「まぁ、私、その中で結構うまく立ち回ってたと思うんだけど。何かそういうの下らないからやめた。一人でも別にいっかなって」

「で、でも。小学校の時の友達とか思い出って結構大事だと思うなぁ」

 

 結衣が取り繕うように説いたが、留美はばっさりと切り捨てる。

 

「別に思い出とかいらない……。中学入れば、よそから来た人と友達になればいいし」

「残念だけど、そうはならないわ」

 

 留美の言葉を、雪乃がきっぱりと否定した。

 

「あなたの通っている小学校の生徒も、同じ中学へ進学するのでしょう? なら、同じことが起きるだけよ。今度はその『よそから来た人』とやらも一緒になって」

 

 雪乃の冷然とした、しかし動かしようのない事実の言葉に、留美は反論することが出来なかった。

 

「やっぱり、そうなんだ……」

 

 反論の代わりに留美の口から出たのは、あきらめたようなため息だった。

 

「中学校でも……こういう風になっちゃうのかなぁ」

 

 嗚咽の入り混じったような震える声音を、留美は吐く。たとえ大人びていようとも、やはり彼女も未成熟の子供。今の状態を、何とも思っていない訳ではなかった訳である。

 八幡たちは彼女のひと言を、黙って耳にしていた。

 

 

 × × ×

 

 

 八幡たちがいるところから少し離れたキャンプ場から、バーベキューを焼いていた二人の男が手を止めて、忌々しげに小学生たちのキャンプの方向を見やった。

 

「先ほどから騒がしいと思ったら……地球人のガキどもが集団で来てるみたいだ」

「あんな馬鹿みたいに大騒ぎして……これだからガキは嫌いなんだ。この前が散々だったからと、せっかく気晴らしにキャンプに来たというのに、何たる不運……」

 

 そうぼやく男たちは、人間に化けているものの、その正体は地球人ではない……オガレスとルドレイの変身であった。

 オガレスは双眼鏡で隣のキャンプの様子をながめ回す。

 

「おーおー、いるわいるわ、まるで猿山だな。あっちに行って文句をつけてやろうか……」

 

 不満をこぼしながら双眼鏡を動かす手が、不意に止まった。

 

「ぬッ!?」

「おいどうした?」

 

 怪訝に思ったルドレイが聞くと、オガレスは若干焦った様子で告げた。

 

「ウルトラマンジードたちまでいるぞ!」

「――何だと!?」

 

 それに反応したのは、カレーを焼け食いしていたレイデュエスであった。背を向けていた彼であったが即座に立ち上がり、オガレスから双眼鏡をひったくる。

 

「ぬぅッ! 確かに奴らがいやがる……! まさかこんな場所にいようとは……!」

 

 一気に機嫌を害していくのが声色に表れるレイデュエスに、オガレスたちは途端に怖気づく。

 

「くそッ! あいつら、俺をあれだけの目に遭わせておきながら、のんきに遊びに来たというのか……? ただじゃおかんッ!」

 

 急激に頭が沸騰していくレイデュエスを、オガレスはおろおろしながらなだめようとする。

 

「で、殿下、落ち着きを……。あんな奴らどうでもよいではありませんか。それよりほら、新しく肉が焼けましたよ……」

「お前が食ってろッ!」

 

 だが焼いたばかりの串を自分の口の中に勢いよく突っ込まれた。

 

「あふッあふッ! あふぃッ!」

「ジードめ……貴様らのお楽しみなぞ全部俺が食らって消化してやる! 宇宙指令O11!」

 

 のたうち回るオガレスを放置して、レイデュエスが怪獣カプセルを起動していく。

 

「イッツ!」『ギュルウウ! ギュルウウ!』

「マイ!」『ギアァッ! ギギギィッ!』

「ショウタイム!!」

 

 装填ナックルに収めたカプセルをブラッドライザーでスキャン……しようとしたものの、握ったのはカレースプーンであった。

 

「!」

 

 間違いに気づくとスプーンを投げ捨て、今度こそライザーを出す。

 

「ショウタイム!!」

フュージョンライズ!

 

 変身したレイデュエス魔人態が怪獣のビジョン――バゾブとベムスターを呑み込んでいく。

 

バゾブ! ベムスター!

レイデュエス! ベムスパーク!!

 

 フランス人形とレコードプレイヤーを踏み潰して、レイデュエス融合獣がキャンプ場のある山の中に現れていった!

 



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陽炎の中、彼らはボランティア活動をやらされる。(B)

 
映画ジード観ました。
太平風土記どこにでもあるな!


 

「ギアァッ! ギュルウウ!」

「!?」

 

 キャンプ場の片隅で留美と話をしていた八幡たちだが、山中から突如として出現した巨大怪獣の咆哮によって驚愕しながら振り返った。

 

「怪獣……!」

 

 腹部に五角形の口がある五芒星型の胴体に、バゾブの首が乗っかっている。レイデュエス融合獣ベムスパーク! 八幡たちはすぐに、またもレイデュエスが襲撃してきたのだと察して険しい表情となった。

 

「わぁぁぁぁ――――――! 怪獣だぁぁぁ―――――――!!」

「みんな、こっちだ! 早く!」

 

 ベムスパークの出現はもちろん全員が気づく。すぐ近くに現れた怪獣に子供たちや戸部が一斉に悲鳴を上げ、平塚ら教師たちは急いで彼らを逃がしていく。

 キャンプ場がパニックに陥る中、結衣が八幡に駆け寄って呼び掛けた。

 

「ヒッキー、フュージョンライズ!」

「ああ……!」

 

 ウルトラカプセルを取り出しかけた八幡だったが、それを雪乃が慌てて止めた。

 

「待って、駄目よ……!」

「どうしてゆきのん!?」

「分からない……!?」

 

 雪乃はサッと周りに目を走らせた。それで結衣と八幡もあっ、と声を漏らす。

 彼らのすぐ側には留美がいる。葉山たちや大勢の子供たちの目もある。ここで変身すれば、ジードの秘密が世界中に知れ渡ってしまうのと同義なのだ。

 

「どうしたの!? 私たちも逃げようよ!」

 

 事情を知らない留美が焦りながら八幡たちの腕を引いた。一人で逃げ出さないのが根の優しさを物語っているが、今はそれがもどかしい。

 

「一旦皆のように逃げましょう。それで途中で隠れてフュージョンライズを……」

 

 雪乃が早口で囁きながら指示を出したが、生憎と彼女の言う通りに事を運ぶことは出来なかった。

 

「ギュルウウ! ギギギィッ!」

 

 ベムスパークは八幡たちを直接狙ってきたからだ! 頭頂部の一本角から電撃光線が放たれ、八幡たちに襲い掛かってくる!

 

「うわあああぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

 咄嗟に八幡が突き飛ばしたことで、四人はギリギリのところで直撃を逃れたが、巻き起こった爆発に呑み込まれることとなる。

 

「は、はちま――――――んッ!!」

「お兄ちゃぁ――――――ん!?」

 

 絶叫する戸塚と小町。

 しかし爆発が逆に八幡の姿を周囲から覆い隠すカーテンとなった!

 

『八幡!』

 

 ジードの呼びかけにより、八幡は咄嗟にカプセルを装填ナックルに収めてジードライザーを起動した。

 

[フュージョンライズ! ウルトラマン! ウルトラマンベリアル!]

[ウルトラマンジード! プリミティブ!!]

「シュアッ!」

 

 八幡の肉体が一瞬の内にウルトラマンジードのものに変身し、ジードは雪乃、結衣、留美を手の平の中にすくい上げて救出する。

 

「あッ! ウルトラマンジードだぁ!」

 

 逃走中の子供たちの何人かが、ジードの登場によって弾んだ声を出した。

 

『危ないところだった……』

 

 ほっと息を吐いたジードは三人を安全な場所に下ろした。そこに背後からベムスパークが接近してくる。

 

「ギイアァッ! ギュルウウ! ギイッ!」

「フッ!」

 

 即座に振り向くジード。それを合図として、二者の戦いの火蓋は切って落とされる。

 

(♪オーブのピンチ)

 

「ショアッ!」

 

 ジードが先手を取って飛び膝蹴りを仕掛ける。だがベムスパークに軽くいなされて着地。

 

「ハァッ!」

「ギアァッ! ギュルウウ!」

 

 振り向きざまに平手打ちで追撃するも、ベムスパークには全く通用しない。反対に、ベムスパークの打撃でジードは大きくよろめく。

 

『「ぐッ!? 結構なパワーだな……!」』

 

 キックで反撃するジードだがやはり効かず、ベムスパークに大きく殴り飛ばされてしまう。

 

「ウッ!」

「ギュルウウ! ギギギィッ!」

 

 更にベムスパークは滑空しながら突進。ジードははね飛ばされる。

 

「ウワァァッ!」

 

 背中から地面に叩きつけられて悶えるジード。

 

『くッ……! パワーもスピードも、かなり高い……!』

 

 ベムスパークの想像以上の実力に苦しめられるジード。しかしすぐ近くに大勢の子供たちがいる以上、あまり押されていては彼らに危害が及んでしまう。

 

『「ちまちまやってても駄目だ……! 大技で行こうぜ!」』

『ああ!』

 

 八幡の判断でジードはレッキングバーストの構えを取った。その瞬間にレムが警告してくる。

 

[いけません]

「『レッキングバースト!!」』

 

 だが既にレッキングバーストは発射された。赤黒い光線がまっすぐベムスパークへと飛んでいくが、

 

「ギイアァッ! ギイッ!」

 

 光線はベムスパークの腹部の口の中に全て吸い込まれてしまった!

 

「『はぁッ!?」』

 

 そしてベムスパークは腹部から、より強力になった電撃光線を放って攻撃してくる!

 

「ウワアアアァァァァッ!」

 

 またも吹っ飛ばされるジード。ギリギリで直撃は避けたので立ち上がれるが、それでも相当なダメージを受けたので足元がおぼつかなく、カラータイマーも危険を報せる。

 

[あの融合獣は腹部の器官であらゆるエネルギーを吸収します。正面からの光線は逆効果です]

『「そ、それ早く言ってくれよ……!」』

 

 レムの解説に思わずそう漏らす八幡だった。

 状況は圧倒的に劣勢。そのためジードが八幡へ促す。

 

『八幡、カプセルの交換だ!』

 

 別の形態へのフュージョンライズし直しを考えるジードであったが……。

 

『「けど、今は雪ノ下も由比ヶ浜もいねぇよ……!」』

『そ、そうだった!』

 

 先ほどは咄嗟の変身だったので、二人とフュージョンライズしている暇がなかったのだ。八幡単独では、プリミティブにしかなれない!

 一体どうすれば……とジードたちが焦っていると、レムが助言をしてきた。

 

[その二つのカプセルと交換して下さい]

 

 カプセルを指定するレムに八幡は戸惑う。

 

『「え? でも、俺だけじゃ……」』

[大丈夫です。その組み合わせならば、ハチマンのみでもフュージョンライズ出来る確率は90%以上です]

 

 そう言われても今一つ信じられなかった八幡だったが、今もベムスパークは攻撃してきている。迷っている時間などない。

 

『「仕方ねぇ、やるしかねぇか……!」』

『ああ! ジーッとしてても、ドーにもならない、だ!』

 

 二つのカプセルを手に取って、八幡は一つ目のカプセルのスイッチをスライドした。

 

『ユーゴー!』

 

 するとカプセルからウルトラマンオーブ・エメリウムスラッガーのビジョンが現れて腕を振り上げる。

 

『オリャアッ!』

『「起動したッ!」』

 

 思わず叫んだ八幡だが、感慨に耽っている暇はない。続けて二つ目のカプセルを起動。

 

『アイゴー!』

『フエアッ!』

 

 ウルトラマンベリアルのビジョンが現れて腕を振り上げる。二つのカプセルを装填ナックルに収めてジードライザーを起動。

 

『ヒアウィーゴー!!』

 

 ライザーでカプセルをスキャンし、準備完了。ライザーを胸の前に持ってきてトリガーを握り込んだ。

 

[フュージョンライズ!]

『ジィィィ―――――――ドッ!』

 

 オーブとベリアルのビジョンが八幡と重なり、フュージョンライズ!

 

[ウルトラマンオーブ! ウルトラマンベリアル!]

[ウルトラマンジード! トライスラッガー!!]

 

 背景に一瞬吊り上がった双眸が浮かび上がり、回転する火花と幾重もの光の軌道から生じた光と闇の螺旋の中から、新たな姿となったジードが飛び出していく!

 

「シュアッ!」

 

 荒々しく着地して風圧でベムスパークを牽制したジード。風に煽られながらも顔を上げた結衣たちが、ジードを見上げてあんぐり口を開いた。

 

「フュージョンライズした……!?」

「フュージョンライズ?」

 

 留美が不思議そうに見上げてきたので、雪乃たちは慌ててごまかした。

 今のジードは赤と青の甲冑を着込んだような姿。そして額と側頭部に計三本のスラッガーを備えている。セブンとゼロの力によってフュージョンアップしたオーブ、その力を更に受け継いだ、トライスラッガーだ!

 

『「フュージョンライズ出来た……!」』

 

 雪乃と結衣がそうだったように、八幡もまたフュージョンライズに成功したことに驚いていた。オーブカプセルは元々星雲荘にあったものではない、新開発のウルトラカプセル。そのお陰だろうか。

 理由は何であれ、今は目の前の敵と倒すことが先決だ!

 

(♪エメリウムスラッガー)

 

「ギアァッ! ギュルウウ! ギギギィッ!」

 

 ベムスパークが再度襲ってこようとしている。だがそれをさせじと、ジードが頭部のスラッガーに両手を添えた。

 

『「飛ばすぜ……光刃!」』

 

 八幡が叫ぶと、ジードが三振りのスラッガーを同時に投げ飛ばした!

 

「セアッ!」

 

 三つのスラッガーはそれぞれ別の軌道を描きながら宙を切り、ベムスパークの周囲を取り囲んで攻撃していく。

 

「ギュルウウ! ギイッ!?」

 

 ベムスパークの表面を猛スピードで切りつけていくスラッガー。叩き落とそうとするベムスパークだが、スラッガー同士での連携を捉えられずに手は空振りするばかり。

 

「ハァッ!」

 

 ジードは二本のスラッガーを戻して両手に握り締め、ベムスパークへと突撃。走り抜けながら斬撃を見舞い、宙に飛ばしたままの残りのスラッガーが駄目押しの一撃を食らわせた。

 

「ギュルウウ! ギギギィッ!」

 

 トライスラッガーの能力によって形勢は一気に逆転。ここでジードが八幡へ指示を出す。

 

『よし、必殺技だ!』

『「けど、ただ撃っても吸収されちまうぜ!?」』

 

 戸惑う八幡であったが、

 

『それなら、これでッ!』

 

 ジードが三本のスラッガーをベムスパークの頭上に移動させ、高速回転させる。そこを狙って右腕から赤黒い光線を発射!

 

「『リフレクトスラッガー!!」』

 

 スラッガーに当たった光線は乱反射し、真下のベムスパークへと雨あられのように降り注ぐ!

 

「ギアァッ! ギュルウウ!!」

 

 頭上から乱射される光線は吸収できず、猛撃をひたすら浴びるベムスパーク。ジードは更にジードクローを召喚。

 

『ジードクロー!』

 

 八幡がトリガーを二回引いてスイッチを押し、クローを激しく回転させる。

 

『コークスクリュージャミング!』

 

 クローを突き出して突撃していったジードが、ベムスパークの肉体を貫通!

 

「ギギギィッ!!」

 

 それがとどめとなってベムスパークは爆散。融合獣を倒して綺麗に着地したジードへ、子供たちが一斉に歓声を発した。

 

「やったぁー! 怪獣をやっつけたぞー!」

「ジード、ありがとー!」

 

 子供たちの大歓声を浴びながら、ジードは地を蹴って大空へ飛び上がっていった。

 

「シュアッ!」

 

 

 一方で、ベムスパーク爆散後にレイデュエスが元の星人態となって山林の中に着地した。

 

「ちっくしょう……このままじゃ済まさねぇぞ……!」

 

 レイデュエスは憎々しげに、飛び去っていくジードの背をにらみつけていた。

 

 

 × × ×

 

 

 融合獣は撃破し、被害も最小限に抑えることが出来たため、林間学校はどうにか中止にならずに済んだ。そして八幡たちは、林間学校のサポートの他にも――孤立している留美の助けになるべく動くことを決定した。皆、一日を通して彼女の問題に気づいており、どうにかしてやりたいと思ったのである。

 しかし少し見ただけでも、この問題は根深く、簡単に解決できるものではないことは明白であった。奉仕部メンバーに葉山たちも交えて相談の席が設けられたのだが、それも具体的な方策は出せずに終わったのだった。

 そして完全に日が沈んで、就寝時間になってから、八幡は一人男子のバンガローを抜けて出ていた。月明かりの下に、彼の影からペガが顔を出してくる。

 

「ふぅ。こんな綺麗な自然の中に来たのに、ペガだけずっとダークゾーンの中なのはちょっと寂しいなぁ」

「綺麗な自然って、普通の山だぜ。こんな光景、どこにでもあるだろ」

「ううん。ペガの故郷は宇宙を移動する都市だからさ、山なんて一つもないんだ。だからこういうとこでの生活って羨ましく感じるよ」

「へぇ……。俺はネット環境のない生活なんて御免だけどな」

 

 ペガと他愛ない話をしながら、八幡は周囲をさっと見回した。

 

「それよかあんまはしゃぐんじゃなねぇぞ。いくら山の夜だからって、人がいないとは限らないんだからな」

「大丈夫だよ、ちゃんと注意してるから……」

 

 とペガが言った端から、木立の間から穏やかな歌声が流れてきた。

 

「ひゃッ!?」

「ほれ見ろ……いや、あれは……」

 

 八幡がその方向に目を凝らすと――月明かりに照らされながら歌っているのは、雪乃であった。

 

「……雪乃、歌上手だね……」

「……」

 

 落ち着いたペガと八幡は、思わず雪乃の歌声に聞き惚れる。が、八幡の足が小枝を踏みつけて折ったことで、雪乃がこちらの存在に気がついた。

 

「……誰?」

「……俺だよ」

 

 八幡が雪乃の前に出ていく。

 

「……誰?」

「何でさっきと同じ問いなんだよ。一応顔見知りだろうが」

「こんな時間にどうしたの? 永眠はしっかり取った方がいいわよ」

「優しさに見せかけた死の宣告やめてくんない?」

 

 雪乃と八幡のやり取りに、ペガとジードは苦笑した。

 

「相変わらず、八幡と雪乃は仲良しだねぇ」

『うん』

「いやいやどこをどう切り取ってどの角度で見ればそんな解釈できるんだよ。仲いい要素欠片も見つけられねぇだろ」

「えー、そうかなぁ?」

 

 にやにや笑うペガに八幡は調子が狂わされて、はぁとため息を吐いた。

 それから八幡と雪乃は、ペガとジードを交えて留美のことの相談を始めた。葉山たちの前では、このようなことは出来ない。

 

「留美ちゃんのこと、ほんとどうにかならないかな……。どんな経緯があったのかは知らないけど、一人をみんなで無視し続けるなんてひどいよ……。地球人ってそういうところが良くないよね」

『ジードに変身してる時に、僕からあの子たちに留美ちゃんと仲良くするように言えばよかったかな。葉山君たちじゃ余計な反発を買うだけでも、僕がそんなんじゃ立派な大人にはなれないとか言えば……』

 

 子供たちのヒーローという立場からそう考えるジードだったが、雪乃がそれに反論。

 

「あなたでも駄目よ。もしかしたら一時的には改善されるかもしれないけれど、時間が経てば元に戻ってしまうでしょうね。言葉だけで変われるほど、人間とは易しい存在ではないわ」

『でも、何もしないよりは……』

「第三者が人を変えようと思うのなら、持続が重要なのよ。一度の言葉では、その場限りで終わってしまうわ。ジード、あなたがずっとあの子の面倒を見続ける訳にはいかないでしょう?」

 

 その雪乃の指摘に、ジードは言い返す言葉がなかった。

 

「雪ノ下の言う通りだな。こういうのは、どんな立場であろうと、上から言いつけたって変えられるものなんかありゃしねぇ。当事者の奴らに変えよう、変わろうと思わせられなきゃ解決には至らねぇもんだよ」

『そうか……』

 

 八幡も雪乃の肩を持ち、ジードも完全に意見を取り下げた。

 それから八幡は雪乃に顔を向ける。

 

「しかし、お前もよくよく知らん子のためにやる気になるよな。これが奉仕部の合宿も兼ねてるとはいえ、完全に外部の人間だってのに」

 

 それに対して雪乃はこう返す。

 

「今までだって同じ高校と言っても知らない人ばかりだったわ。それに……由比ヶ浜さんと、どこか似ている気がしない?」

「そうか?」

「多分……由比ヶ浜さんにもああいう経験があるんじゃないかと思ったのよ」

 

 それで八幡も納得した。結衣が頻りに人間関係の調停役になるのは、優しさからではない、過去の苦い経験から来ていることを八幡も知っている。

 それから雪乃が葉山や、自身のことも少し話してから、彼女は女子のバンガローへと帰っていった。その背中を見送りながら、ペガがつぶやく。

 

「みんな、それぞれ苦労してるんだろうね……。結衣も、葉山君も、雪乃も」

「そりゃそうだろうよ。誰だって、生きてりゃ一つや二つくらいは苦い過去があるもんだろ。俺は一つ二つじゃ済まねぇけど」

 

 自虐を交える八幡だったが、ペガもジードもクスリともしなかった。両者とも、自分らの過去を思い返しているのだろう。

 八幡は思う。単なる一市民である自分たちが何らかの過去を抱えているのだから、宇宙人でありながら地球で生活しているペガ、そして並々ならぬ道のりを経験したであろうことが窺えるジードは、自分たちとは比較にならないような苦しみを体験しているはずだ。だからこそ、彼らは特に他人に親身になれるのだ。

 そんな彼らと共にあるようになった自分のこれからには、どんなことが待ち受けているのだろうか……そんなことを、八幡は夜空を見上げながらふと考えていた。

 

 

 

『ウルトラストーリーナビ!』

 

雪乃「今回は『ウルトラマンオーブ THE ORIGIN SAGA』第十一話「かげろう ~陽炎~」よ」

雪乃「惑星カノンの女王アマテはクイーンベゼルブとの対話に臨んだのだけれど、それはベゼルブの罠で、彼女は毒を注入されてしまった。このままではベゼルブの傀儡毒が全宇宙に飛散して、宇宙全ての生物が自由意思を奪われてしまう。オーブ、ガイア、アグルがこの危機に立ち向かうのだけれど、オーブにまで毒が打たれてしまう。悪化する一方の状況にジャグラーや森脇翔平など様々な人が行動を起こす。その結果がどうなるのか……という話よ」

雪乃「『ウルトラマンオーブ THE ORIGIN SAGA』はAmazonプライム・ビデオで配信されている『オーブ』のスピンオフ作品よ。基本一話完結のテレビシリーズとは異なり、十二話で一つのストーリーを形作っているから、途中から観ても話がさっぱりだから注意してね。この物語がオーブ最初の冒険であり、ここからテレビシリーズや映画に物語がつながっていくのよ」

雪乃「直接つながる訳ではなくて、超全集に収録されたエピソードも入れて初めて『ウルトラマンオーブ』を理解できたと言えるようになっているのだけれど……そこまで追いかけるのはちょっと難易度が高いようにも感じるわね」

ジード『僕もそういう外伝的な作品作られないかなぁ』

雪乃「それでは、次回でお会いしましょう」

 




「あんた、変わった友達いるんだね」
「ペガを見ても驚いたり怖がったりしないんだね」
「私だって、普通の人間じゃないみたいだし」
「リトルスターもどうにかしないといけないよね」
「必ず運命の人と巡り合わせてくれる、想い石?」
『何か異常が起きたみたいだ!』
「このカプセルの威力、確かめさせてもらおうじゃないか」
「お願い……助けて……!」
『「挑むぜ……神秘!」』



次回、『汚された二人山伝説に挑戦せよ。』



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汚された二人山伝説に挑戦せよ。(A)

 

 平塚から言いつけられた林間学校のサポート兼奉仕部合宿の二日目。八幡たち奉仕部は作業の合間の自由時間に、昨日の融合獣出現によって駆けつけたゼナと対面していた。

 

『……そういう訳で、レイデュエス一味がまだこの周辺に潜伏している恐れがあるから、我々AIBがしばらく監視をする。しかし君たちの妨害をするようなことはしないから、気兼ねなく合宿を続けてもらいたい』

「お気遣い、ありがとうございます……」

 

 礼を述べた雪乃だが、その口調はどこか上の空。三人とも、あることが気になってしょうがないのだ。

 我慢できず、結衣がゼナに問いかけた。

 

「あの……その格好、暑くないんですか……?」

 

 ゼナは真夏の日差しが降り注ぐ炎天下、しかも野山の真ん中にも関わらず、一分の乱れもないスーツ姿なのだ。正直、見ているこっちが暑くなってくるくらいだ。

 

『シャドー星人は地球人よりも適応力が高い。故に問題ない』

「いや……それ抜きにしても、TPOってもんが……」

 

 尻込みがちに突っ込む八幡。こんな山の中でスーツなど、目立って仕方ない。……もっとも、口が全く開かない時点で目につくのだが。

 

「と、ともかく、お世話になります」

 

 何はともあれ、レイデュエス一味のことをゼナたちに任せた雪乃たちはペコリと頭を下げて頼み込んだ。

 ――そして八幡たち三人の元から離れたゼナは、ケータイである人物と通話する。

 

『先輩、どうでした? 雪乃ちゃんの様子は』

 

 雪ノ下陽乃である。

 

『特に問題はなさそうだった。平常通りのようだ』

『そうですか! よかったぁ、友達とのキャンプ楽しんでるんだ。――あ、すいません先輩、無理言って任務から外してもらって』

『別に構わん。それより、そっちの方がよかったのか? 妹の安全を、お前自身で確保しなくて』

 

 ゼナが聞き返すと、陽乃は電話の向こうで苦笑したようであった。

 

『わたしの顔を見たら、雪乃ちゃんくつろげなくなっちゃいますから。それに母をなだめてないといけませんし。あの人、わたしがついてなかったら今すぐにでも雪乃ちゃんを呼び出そうとするんですよぉ? せめてキャンプが終わるまでは止めとかないと』

『……大分込み入った家庭の事情があるようだな』

『あ、すいません。何だか愚痴っちゃって』

『構わんさ。そちらも上手くやるように』

 

 陽乃との通話を終えてから、ゼナは天に燦々と輝く真夏の太陽を見上げて目を細めた。

 

『……地球人も地球人で、色々と大変なようだ』

 

 太陽は各個人の抱える事情など関係なく、等しく照りつける日差しを降り注がせていた。

 

 

 

『汚された二人山伝説に挑戦せよ。』

 

 

 

 ゼナと別れた後、八幡は山中で見つけた河原の端にどっかと腰を下ろしていた。

 

「はぁ~、水が気持ちいいな~!」

 

 彼の見ている先で、ペガが穏やかな清流の真ん中で水浴びを楽しんでいる。

 現在地の下流では先ほど女性陣が水遊びをしていたのだが、それを目にしたペガが羨ましがり、自分も水浴びがしたいと八幡に訴えたのであった。それで人目につかないであろう上流にまで移動してきたのだった。

 昨晩、人工都市で育ったと語ったように、ペガにとってはこのような自然環境に触れることは新鮮なようで、ただの水浴びでもとても楽しそうである。

 

「八幡も一緒にどう? 暑いのが吹っ飛ぶよ!」

「いや、俺はさっき顔洗ったしいい」

 

 ペガの誘いを断った八幡だが、川で戯れる彼をながめてふと考える。

 

(前も由比ヶ浜が言ってたが、ペガって戸塚に似てるな。雰囲気が。もしここにいるのが戸塚だったなら……)

 

 そう思いながら、脳内でペガの姿を戸塚に置き換える。

 

 

『はちまーん! 八幡も一緒にどう? 暑いのが吹っ飛ぶよ!』

 

 

 妄想している八幡にペガが呼び掛けた。

 

「……八幡、鼻血出てるよ。どうしたの?」

「うおッ!? い、いや、何でもない。気にしないでおいてくれ」

「はぁ……」

 

 我に返って鼻血をぬぐった八幡は、ごまかすようにペガに言う。

 

「それよか、気分が済んだんならそろそろ戻れ。昨日みたいに、また誰かと鉢合わせするかもしれねぇだろ」

 

 八幡に忠告をペガは笑い飛ばす。

 

「心配性だなぁ。大丈夫だって。あんなことがそうそう何度もある訳……」

「へぇ……あんた、変わった友達いるんだね」

 

 台詞の途中で、木陰から件の少女、鶴見留美がひょっこり現れたのでペガは飛び上がった。

 

「はわわ!? み、見られちゃったッ!」

「だから言ったのに……」

 

 はぁぁ、と顔を覆ってため息を吐き出す八幡。ペガは何度も頭を下げながら留美に懇願し出す。

 

「お、お願い! ペガのこと、誰にも言わないで! 何でもするから!」

 

 必死なペガと対照的に、留美の反応は淡泊だった。

 

「言わないよ。どうせ、私の話なんか聞く人いないし」

「ほ、ほんと? と言うか留美ちゃん、ペガを見ても驚いたり怖がったりしないんだね」

「いや、これでも驚いてるけど、どこから観ても悪い奴のようには思えないし、八幡とも普通に話してるしね」

「名前呼び捨てかよ……」

 

 留美に言いふらす気がないようなので、八幡たちはひとまず安堵した。そしてペガが川から上がり、留美を交えて会話を始める。

 

「ところで、お前何でこんなとこにいるんだ? 林間学校どうした?」

「こっちは今日自由行動なんだって。朝ごはん終わって部屋戻ったら誰もいなかったから、その辺ブラブラしてたの」

「……ひどいね。何も言わないでどっか行っちゃうなんて」

 

 眉をひそめて留美に同情するペガ。

 

「いいよ、気になんかしないでくれて。それよりあんた、ペガって言うの? ペガは何なの? 宇宙人って奴?」

「うん、正解。色々あって、八幡の元に厄介になってるんだ」

 

 肯定したペガに留美は軽く感心する。

 

「宇宙人ってほんとにいるんだね。まぁ怪獣がいるくらいだし、いてもおかしくないか。かく言う私だって、普通の人間じゃないみたいだし」

「え?」

 

 唐突なひと言に、八幡とペガは思わず振り返った。

 

「おいおい、中二病にはあと二年早いぜ。まぁお前くらいの歳だったら、妄想と現実の区別がつかなくなりがちかもしんねぇけど。俺もそういうの経験あるわ」

「妄想なんかじゃないよ。証拠、見せてあげる」

 

 と言って留美が立ち上がると、その胸元からほのかな輝きが生じた。

 

「……!」

 

 八幡たちはその光り方から、すぐに正体を察した。――リトルスターだ。

 留美の胸元の輝きが急に強まり、閃光となると彼女の正面にある河原の岩が音を立てて砕けた。

 

「どう? 今朝から、気がついたらこんなことが出来るようになったの。普通の人間じゃないって分かってもらえたでしょ。……みんなからハブられるのも当然だよね」

 

 自嘲めかしてつぶやいた留美の顔を見つめた八幡は、大仰に肩をすくめた。

 

「そりゃ自分が選ばれし人間だとでも言いたいのか? お生憎だったな。全くそんなことはない、お前は普通のガキんちょさ。うぬぼれんなって」

「え? でも……今の見たでしょ?」

「はッ。たかが胸から光が出るのが何だってんだ。それでお前、何か特別なことがやれるのか? 全然勉強しなくてもテストで百点取れるか?」

「いや、それは無理でしょ。関係ないし……」

「だろ? 特別な人間かどうかってのはな、何をやったかで決まるんだ。人と違う能力があったって、使う時と場合がなけりゃ、そんなの存在しないのと同じなんだからな」

 

 そう語った八幡の顔を、今度は留美とペガが見つめた。

 

「……八幡、思ったよりいいこと言うじゃん」

「うん。今のすっごくいい台詞だったよ、八幡!」

「お、おいよせよ。そう言われると、恥ずかしくなるから」

 

 軽く頬を赤らめて顔を背けた八幡に、留美はクスッと微笑む。

 

「もしかして、私を慰めてくれたんだ。……ありがと」

「……だから、うぬぼれんなっての」

 

 と言いながらも頬をかく八幡は、思考を切り替えて留美の身を案ずる。

 

(しかし、よりによってこんなタイミングでリトルスターか……。留美の身が危なくねぇか? まぁ、ゼナさんたちがいるにはいるが……)

 

 

 八幡の懸念は当たり、未だ千葉村のキャンプ地に潜伏中のレイデュエス一味が、木々の間からこちらを監視していたのだ。

 

「リトルスター発症者が現れたか……。リトルスターはジードのカプセルとなる。奴ばかりにカプセルを増やさせてなるものか!」

『ですが殿下、今無暗に動かれては近くをうろついているAIBに見つかってしまいかねません』

 

 いらつきながら吐き捨てるレイデュエスだが、ルドレイの諫言には腕を組んでうなずく。

 

「その通りだ。軽はずみな行動はまずいな。もうしばらくは奴らの様子を窺って、機を待つとしようか……」

 

 

 × × ×

 

 

 それから八幡たちの元に雪乃と結衣もやってきて、彼らは改めて留美の抱える事情について話を伺った。そこから見出されたのは、やはり留美自身、己の現状に辛い気持ちを感じていること、しかし既に留美の周囲で彼女を疎外する状況が出来上がってしまっていて、部外者がそれを改善することは事実上不可能だということであった。

 

『留美ちゃん……どうにかして助けてあげられないかな……。でも、どうすればいいのか考えが出てこないよ……』

 

 留美と別れた後、八幡の影の中からペガがそうぼやいた。雪乃も思案しているが、妙案は出てこないようだ。

 

「あたしたちが関われるのはあと一日だけ……。そんな短い時間で、何が出来るんだろ……」

 

 結衣は悲しげに目を伏している。だが、八幡は何やら含みのある様子で黙っていた。

 実は彼は、留美の話から問題を解決する方法を一つ思いついていた。しかしあまり褒められた手段ではない、もっと言えば更なる問題を引き起こす恐れのある危険な手段であるため、今はまだ口にはしないつもりである。

 八幡が沈黙していると、結衣が続けて言う。

 

「それに留美ちゃんへのシカトだけじゃなくて、リトルスターもどうにかしないといけないよね。レイデュエスたちがまだ近くにいるかもしれないんだし、放っといたらやっぱり危ないよ……」

 

 案ずる結衣だが、ゼナたちに知らせるというのには雪乃が反論した。

 

「けれど、AIBに通報したら間違いなく彼女は林間学校から離れなくてはならないわ。そうしたら私たちはもう彼女に関われず、依頼の達成も完全に不可能となってしまう。きっと、みじめな思いをしたまま小学校を卒業して、それどころか中学、高校もずっとあんな調子で過ごすことになるでしょう」

「だよね……。留美ちゃんの将来のためを思えば、林間学校の間だけでも今のままにするしかないか……」

『うん……。ペガたちで、留美ちゃんのことを守らないと!』

 

 ペガのひと言が結論となって、彼らはAIBへの連絡を保留とすることにした。とそこに、平塚が大きく手を振りながら近づいてくる。

 

「おーい、お前たち。奉仕部の活動は順調かー?」

「あっ、先生」

「それが……」

 

 雪乃が口ごもると、平塚はそれだけで察した。

 

「てこずってるみたいだな。まぁそれも無理のないことだろう、今までとは勝手が違うだろうからな。しかし、君たちならば最後には見事な解決を見せてくれる。私はそう信じてるぞ! 何かあっても責任は私が取る。君たちは心配などせず、思いのままにやってくれ!」

 

 やたらと心強いことを述べる平塚に、八幡が問いかける。

 

「先生、何かやたらと上機嫌ですね。何かいいことあったんですか?」

 

 すると平塚は、よく聞いてくれたとばかりに鼻息を荒くした。

 

「ふっふっふっ、実はそうなのだよ、今しがたね。さて何だと思う?」

「えっ、そう言われましても……」

 

 回答に窮する雪乃たち。八幡が一つだけ思いついて聞き返す。

 

「もしかして、小学校の教師たちの中にいい人を見つけたとかですか?」

「いや、そういうことではないのだが、まぁ近い将来私の元にも伴侶となる男性がやってくることは確定したのだ!」

 

 やけに自信に満ち溢れた発言に、八幡たちは思わず顔を見合わせた。

 

「先生……暑さでやられたのならゆっくり休んでて下さい。林間学校のサポートは俺たちだけでやりますから」

「むっ、馬鹿にしてるな……。だが本当のことだぞ! これがその証拠だ!」

 

 と言って平塚が見せてきたのは、ケータイの画面。その画面の中に、ネット上の記事が表示されている。それを覗き込む八幡たち三人。

 

「何なに……必ず運命の人と巡り合わせてくれる、想い石?」

 

 記事の内容を読み上げる結衣。

 

「想い石とは、元は身分違いの恋によって引き裂かれた侍とお姫様の怨霊を祀った石碑。今ではこの想い石に自分の靴を供えると、霊が運命の相手を探して合わせてくれる。その相手と結婚する確率……100%! しかもこれ、千葉村にあるって!」

「そう! そのためここの山は、伝説になぞらえて別名を二人山と言うのだ!」

「つまり、その想い石とやらに靴を供えてきたんですね、先生は」

 

 雪乃の聞き返しに、平塚は満足げにうなずいた。

 

「うわぁ~、ロマンチックなお話しですね~! あたしも運命の人と合わせてほしいかも! あっ……でも、その人とはもう会ってるのならどうなるんだろ……」

 

 結衣は目をキラキラさせながらも一瞬八幡を見やったが、八幡と雪乃は記事の内容にすっかり呆れ返っていた。

 

「いや、これのどこが証拠なんすか……。こんなの与太話に決まってるでしょ」

「確率100%って、どこの調べですか。先生、悪いことは言いませんから、こんなものはアテにしないでまずは人事を尽くすことを優先すべきでは……」

 

 苦言を呈する雪乃たちに平塚は憤慨。

 

「信じてないな! まぁそう言っていられるのも今の内だ。私に春が来た時は、今の発言全部撤回してもらうからな! ふふふふ! もう友達の結婚報告に危機感を抱く日々はおしまいになるんだ! いやぁ楽しみだなぁ!」

 

 すっかりその気になって高笑いする平塚の姿に、八幡と雪乃はほとほと呆れ果てた。

 

「……まぁ、好きにして下さい」

 

 

 ――平塚が大声で話した内容は、隠れて聞き耳を立てているレイデュエスたちも聞き留めていた。

 

『怨霊を祀った想い石、とは……。地球人はよくそんな迷信を信じ込めるものだな』

『全く。呆れたものですなぁ殿下』

 

 オガレスがせせら笑いながらレイデュエスに同意を求めたが、レイデュエスは何やら含み笑いを浮かべている。

 

「いや……俺も興味があるな、想い石。是非ともこの俺も拝ませてもらおうじゃないか。クッククク……」

『お? もしや殿下……彼女募集中だったのですか! 水臭いですなぁ、言って下さればいくらでも協力をぼべッ!』

 

 笑いながら申し出たオガレスの顔面が裏拳で叩き潰された。

 

「アホ言ってねぇでさっさと山の中探してこいッ! 見つけるまで戻ってくるなよ!」

『は、はい……!』

 

 レイデュエスの命令により、オガレスとルドレイは件の想い石を探しに向かっていった。

 

 

 × × ×

 

 

 夜になり、八幡たちは林間学校二日目の最終イベント、肝試しの用意を整えた。またそれと同時に敢行する、留美の問題解決のための仕掛けの準備も全てセッティングした。後は上手く事が運ぶことを祈るのみだ。

 

「葉山たちが上手いことやってくれるといいんだがな……」

 

 肝試しが始まるまでの間、今回の仕掛けに協力する葉山たちの成功を祈る八幡に、ジードが呼び掛けた。

 

『たとえ何が起ころうとも、留美ちゃんのことは必ず助けてあげよう。彼女のためにも……留美ちゃんのお母さんのためにも』

「ん?」

 

 今のジードの発言を気に掛ける八幡。

 留美の母親は、娘のことをとても心配しているようだ。留美が首から提げているカメラも、林間学校の思い出の写真をいっぱい撮るように母から預かったものだという。しかしジードは、何故わざわざ留美の母親のことも案ずるのだろうか。

 

『子供が不幸な目に遭ってたら、母親は悲しむに決まってる。そんなのは僕も悲しいよ……。だから、留美ちゃんを助けてお母さんを安心させてあげなきゃ……』

 

 八幡が聞き返す隙間もなく、ジードはつぶやき続けた。それは自分に言い聞かせているかのような口ぶりであった。

 

「……」

 

 八幡はそれから、質問してはいけない空気を感じ取って、口を閉ざした。

 そういえば、ジードの母親は誰なのだろう。父親のことは聞いているが……同じウルトラ族なのか? 地球人なのか? その辺りのことが、ジードがいやに「母親」を気にする理由につながっているのだろうか。

 答えは分からぬまま、運命の肝試しがスタートされた。

 



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汚された二人山伝説に挑戦せよ。(B)

 

 小学生たちの肝試しはつつがなく進行し、最後のグループの出発の番がやってきた。そのグループとは留美たちの組。――そうなるように八幡たちは事前に打ち合わせていた。

 その一つ手前の集団が肝試しのルート上の分かれ道を越えると、八幡が封鎖箇所を変えて留美たちの組だけ山に向かうコースを進むように細工する。そのコースの先には、お化けの仮装から普段着に着替えた葉山と三浦、戸部が待機している。

 留美たちが来るのを待つ中で、戸部がポツリとつぶやいた。

 

「いやー、にしてもヒキタニくんやべーわ。やべーこと思いつくわ」

「ホントに。ヒキオがあんなおっかないこと考えるような奴だったなんてねー。ま、ある意味らしいけどさ」

 

 戸部の言葉に同意する三浦。葉山もうなずいて口を開いた。

 

「確かに、普通なら考えつかないよな。――醜い本性を露呈させて、人間関係をリセットさせるなんてやり方」

 

 それが八幡の考え至った、留美を助ける手段であった。留美が無視され続ける環境が出来上がってしまっていて、外部からではどうにも変えることが出来ないのならば、その環境を壊してしまえばいい。そのためには、留美をいじめるグループを危機的状況に追いやって、自分だけが助かろうと醜くもがく様を互いに見せつけ合わせて人間関係にひびを入れ、グループを解体させるのだ。無視を主導する者たちがいなくなれば、留美が新しい人間関係を築く可能性も出来るはずだ。

 いじめっ子たちを恐怖させる役を任されたのが葉山たちである。小学生ならば、高校生から恫喝されればまず間違いなく平気ではいられない。そして他人をいじめる人間性の者たちならば、ピンチの状況で他人を助けようという美徳など持ち合わせてはいない。そこまでが八幡の計算であり、葉山たちも頭ではこれ以外の方法はないと理解はしていたが、心では今になっても子供たちを脅すことに対する後ろめたさがあった。

 

「ヒキタニくん考えがこえーわー。今後のつき合い方考えちゃうわー」

「ろくなつき合いないのによく言うね」

 

 適当なことを言う戸部に肩をすくめる三浦。そんな二人に時刻を確認した葉山が呼び掛ける。

 

「そろそろここに来る頃だと思う。準備しよう」

「はーい」

「うーすッ」

 

 三人は登山コースの中央に待機して、ここにやってくるはずの留美たちを待つ態勢を取った。するとガサガサと、茂みが揺れる音がする。

 

「お、来たんじゃね?」

 

 戸部がそう言うと、葉山が怪訝な顔になる。

 

「え? 今の、後ろからしたぞ?」

「後ろ?」

 

 三人がそろって背後に振り返ると――懐中電灯の灯りに、肌色の怪人の顔面が浮かび上がった。

 

「オォォォ―――――!!」

 

 怪人が奇声を発して腕を振り上げると、葉山は驚愕。戸部と三浦は一瞬で顔が青ざめ絶叫した。

 

「ぎゃあああぁぁぁぁぁぁぁ―――――――――!! 化け物ぉぉぉぉぉぉぉ――――――――――!?」

「あッ、おいッ!」

 

 恐怖に駆られた戸部と三浦は脱兎の如く逃げ出した。比較的冷静だった葉山も捨て置けず、慌てて二人を追いかけていく。

 その後に残された怪人――オガレスは機嫌を害して吐き捨てた。

 

『……人払いが目的とはいえ、化け物呼ばわりとは失礼な! これだから地球人は……こんなナイスガイを捕まえて!』

『よく言うよ、尻頭のくせに』

 

 後ろのルドレイがボソッとつぶやくと、聞き咎めたオガレスがムッと目くじらを立てた。

 

『何だと!? 人のこと言えたクチか、怪奇エビ男!』

『何ぃ!? ――と、争ってる場合ではないぞ。殿下から申しつけられた人払い、ちゃんとやらなくては』

『そうだった……。すっぽかしたら、また杖でボコスカ殴られてしまう』

 

 口喧嘩に発展しそうだったが、我に返った二人はその場から離れて周辺に他の人間がいないか捜しに行った。

 

 

 × × ×

 

 

 八幡は留美たちのグループが本来のコースから外れて、誘導通りに登山コースの方に入ったのを確認すると、念のために気づかれないようにこっそりと彼女たちの後を追跡する。そこにお化け役を終えた雪乃と結衣も合流した。

 留美たちの後を追う道すがら、結衣がジードにふと問いかけた。

 

「でも、ちょっと意外かも。ジードんとペガっちがヒッキーのやり方に反対しないなんて」

 

 ジードは正義の味方として活動しているし、本人もそのような人間であることを志していることを結衣たちは知っていた。星雲荘には『爆裂戦記ドンシャイン』なる特撮ヒーローのグッズがコレクションされていて、時々八幡をつき合わせてまでDVD鑑賞をしているらしいから。

 結衣の言葉に、ジードとペガは次のように返した。

 

『確かに趣味のいいやり方とは思わないけれど、誰かを貶めて維持される関係なんて、それをやってる子たちの方にも良くないよ。怖い目を見てもらってでも、今の内に自分たちのことを反省する機会を与えた方がいいと思う』

『うん……。そういうのは、子供の内に経験するべきだ』

「そうね。歳を重ねるにつれて、人間ってこじらせてしまうものだもの……」

「おいこっち見んじゃねぇよ。俺がその実例ってことかよ」

 

 ジーッと見つめてきながらそう唱えた雪乃に八幡が突っ込んだ。

 その時、戸部たちの悲鳴が彼らの耳を揺さぶった。八幡たちは仰天して正面に向き直る。

 

「今の、優美子たちの声だ……!」

「化け物って……まさか……!」

『八幡! 何か異常が起きたみたいだ!』

「らしいな……!」

 

 八幡たちは咄嗟に駆け出す。戸部たちの悲鳴は当然留美たちの耳にも入り、何事かと立ち止まっている少女たちに三人は近づく。

 

「あっ、お姉さんたち……!」

「あなたたちはここで待ってて。動いちゃ駄目よ……!」

 

 すれ違いざまに雪乃が言いつけ、八幡たちはずんずん登山コースを進んでいった。そしてその先で懐中電灯が照らし出したのは、

 

「あれって……平塚先生が言ってた奴じゃ!?」

 

 登山道の片端に鎮座している石碑。結衣たちは日中に平塚が話していた、想い石を思い出した。近くに無数の靴が散らばっているから、恐らく同じものだろう。

 しかし想い石に供えられていただろう靴は無残に蹴散らされており、石碑の正面には一人の男が立ってカプセルを石碑に向けていた。

 

「レイデュエス!」

「ん?」

 

 八幡たちが名前を言うと、レイデュエスが首をこちらに向けてチッと舌打ちした。

 

「……全くあいつら、人払いもまともに出来ないのか。まぁいい……すぐ完了だ」

「見て! 想い石から、何か光が……!」

 

 石碑からは淡く光るもやのようなものが生じている。祀られた侍の霊魂だ。

 レイデュエスはその魂をカプセルの中に吸引。カプセルの表面に、紅い甲冑の武者が描かれる。

 

「フッフッ……ちょうどいい。このカプセルの威力、確かめさせてもらおうじゃないか。宇宙指令C18!」

 

 レイデュエスはニヤリと笑って八幡たちに向き直り、単眼の鬼のカプセルのスイッチを入れた。

 

「イッツ!」『グオオオオ!』

「マイ!」『ウオオオオオ……!』

「ショウタイム!!」

 

 鬼のカプセルと今作成したカプセルを装填ナックルに押し込め、ブラッドライザーを起動するレイデュエス。

 

フュージョンライズ!

「ハハハハハハハハハッ!」

 

 暗黒の異空間の中、レイデュエスは魔人態となって鬼と鎧武者のビジョンを吸収する。

 

宿那鬼! 戀鬼・紅蓮騎!

レイデュエス! 怨恨凶剣鬼!!

 

 フランス人形とレコードプレイヤーを踏み潰して、レイデュエス融合獣が八幡たちの前にそそり立った。

 

「……!」

「グオオオオオオ――――……!」

 

 紅い甲冑と兜を纏った巨大な鬼が、ギラギラと光る単眼でこちらを見下ろしている。その腰に提げられた鞘から、スラリと太刀が抜かれた。

 一つ目の鬼と武者の亡霊、単なる怪獣の類ではない本物の化生の力によって作り出された大妖怪、怨恨凶剣鬼!

 

『雪乃、留美ちゃんたちを避難させて!』

「え、ええ!」

 

 ジードが即座に判断して、登山道に残してきた留美たちを雪乃に託した。

 

『結衣は八幡と!』

「う、うんっ!」

 

 結衣の方は、八幡とともにフュージョンライズさせる。

 

『ユーゴー!』『テヤッ!』

『アイゴー!』『タァッ!』

『ヒアウィーゴー!!』

[フュージョンライズ! ウルトラマンヒカリ! ウルトラマンコスモス!]

[ウルトラマンジード! アクロスマッシャー!!]

「ハァッ!」

 

 八幡と結衣とでフュージョンライズし、ウルトラマンジード・アクロスマッシャーが着地して怨恨凶剣鬼と対峙した。

 

『スマッシュビームブレード!』

 

 相手は刀を持っている。ジードはこちらも光剣で武装し、怨恨凶剣鬼へとまっすぐに駆けていって剣を振るう。

 

「ハァァッ!」

 

 ビームブレードの乱撃を叩き込むジード!

 ――だが、怨恨凶剣鬼は残像が残るほどの速さで身体を揺り動かし、斬撃を全て回避した!

 

(♪大怪獣の咆哮)

 

『「えぇっ!? な、何今の動き!?」』

 

 怨恨凶剣鬼の物理法則を無視した身のこなしに驚愕する結衣たち。ジードも思わず後ずさる。

 

「オオオオ――――!」

 

 今度は怨恨凶剣鬼が刀を横一文字に振るってきた。ジードは高々と跳躍して怨恨凶剣鬼の背後を取る。

 

「ウオオオオ――――!」

 

 だが怨恨凶剣鬼の後ろ髪がバサリとかき上がると、その下からもう一つの顔面が現れ、その口から鬼火を吐き出す。

 

「ウワアァァッ!?」

 

 着地したところを狙われてまともに鬼火を食らうジード。倒れる彼だが、怨恨凶剣鬼は容赦なく追撃してくる。

 

「オオオオオオ!」

「ウッ……!」

 

 相手の縦横無尽な剣さばきを懸命に逃れるジード。しかし逃げてばかりでは時間制限の短いこちらが不利になるばかり。

 

『ジードクロー!』

 

 逆転するべくジードクローを召喚して、八幡がジードライザーでリード。

 

[シフトイントゥマキシマム!]

 

 エネルギーをマックスにして、クローから光線を天に向けて放った。

 

「『ディフュージョンシャワー!!」』

 

 光線を雨あられとして怨恨凶剣鬼に降り注がせる!

 ――だが、怨恨凶剣鬼はこの攻撃を悠々とすり抜けてきた。

 

『「嘘でしょ!?」』

『「何でもありかよあいつ……!?」』

 

 流石に愕然とする八幡たち。そこにレムが告げる。

 

[あの融合獣は科学の力を超えた、不条理的存在の力を有しています。神秘の力を利用した肉体には、通常攻撃は通用しないでしょう]

『「反則だろそんなん……!」』

 

 毒づく八幡だが当然敵には通じない。怨恨凶剣鬼は妖気を刀に纏わせて、強化した斬撃を繰り出してきた!

 

「オオオオオオッ!」

「ウワアアアァァァァァ―――――!」

 

 避けきれずに吹っ飛ばされるジード。地面に叩きつけられ、カラータイマーが赤く点滅し出す。

 怨恨凶剣鬼はクルリとジードに背を向けると、雪乃にかばわれている小学生たち――リトルスターを宿した留美を狙い始めた。

 

『「や、やばいよ! 留美ちゃんが……!」』

『「分かってっけど、身体が……!」』

 

 ジードはダメージが大きく、しばしまともに動けそうにない。その間に怨恨凶剣鬼は刀を振り上げる。

 

「危ないわ! 逃げて……!」

 

 必死に留美たちを逃がそうとする雪乃だが、そのために自分が剣戟の風圧によって吹き飛ばされてしまう。

 

「ああああああっ!」

「お、お姉さんっ!!」

 

 雪乃を払いのけて、怨恨凶剣鬼は小学生たちを纏めて斬り伏せようと刀を振り上げなおした。

 

「オオオオオオ――……!」

 

 小学生たちは目前に迫る死に打ち震え、ガチガチと歯を鳴らす。

 

「い、いやあぁぁぁ! 死にたくなぁいっ!」

「助けて!! 助けてよぉぉぉぉ!!」

「だれかぁぁぁぁ―――――――!!」

 

 泣き叫んで命乞いする子供たちだが、怨恨凶剣鬼には当然通じない。遂に彼女たちの命を刈り取る凶刃が振り下ろされる――!

 

「――!」

 

 その瞬間、留美が皆をかばうように前に飛び出した!

 

「えっ――」

 

 一瞬唖然とする子供たち。その前で、留美が胸元から強烈な閃光を、怨恨凶剣鬼の眼に向けて焚いた。

 

「オオッ!?」

 

 油断していた怨恨凶剣鬼は目つぶしを食らって後ずさった。その間に、留美が胸の前で手を握り締めてジードに向け祈る。

 

「お願い……助けて……!」

 

 その祈りによって留美からリトルスターが切り離され、ジードのカラータイマーを通して八幡のカプセルホルダーへと飛んできた。

 八幡がカプセルを引き抜くと、新たなカプセルに赤と紫と銀のウルトラ戦士の絵柄が浮かび上がった。

 

『タァーッ!』

[ティガカプセル、起動しました。カプセルを交換して下さい]

 

 レムが告げ、更にカプセルの交換を促した。

 八幡たちは言われた通りに、新しく入手したカプセルを用いてフュージョンライズする!

 

『ユーゴー!』

『タァーッ!』

 

 八幡がカプセルのスイッチを入れ、ウルトラマンティガのビジョンが腕を振り上げた。

 

『アイゴー!』

『セェアッ!』

 

 結衣はルナミラクルゼロカプセルを起動し、青いウルトラマンゼロが腕を振り上げる。

 

『ヒアウィーゴー!!』

 

 二つのカプセルを収めた装填ナックルを、八幡がジードライザーでリード。

 

[フュージョンライズ!]

『ジィィィ―――――――ドッ!』

 

 ティガとルナミラクルゼロのビジョンが八幡たちと重なり、フュージョンライズ!

 

[ウルトラマンティガ! ルナミラクルゼロ!]

[ウルトラマンジード! ムゲンクロッサー!!]

「ハァッ!」

 

 青い輝きと光の軌道を超え、青と紫の螺旋からジードが新たな姿となって飛び出していく!

 

「トォッ!」

 

 怨恨凶剣鬼の頭上を跳び越え、留美たちの盾となるように着地したジード。その姿は青と紫と銀の体色に、左腕から胸に掛けて金色の装甲に覆われている。そして右手の中にふた又の剣が現れ、それを固く握り締めた。

 超古代のウルトラ戦士ティガと、超能力戦士ルナミラクルゼロの力によってフュージョンライズした超戦士ムゲンクロッサー! その力の程は、まだ何もしていなくとも結衣が肌で感じ取った。

 

『「これならイケそう! やろうよヒッキー! お侍さんたちの幽霊を自分勝手に利用するなんてこと、許しておけないよ!」』

『「よぅし……!」』

 

 八幡が怨恨凶剣鬼を見据え、ジードがふた又の剣、ゼロツインソード・ネオを高々と構えた。

 

『「挑むぜ……神秘!」』

 

(♪蘇る巨人2)

 

「オオオオオ――!」

 

 仕切り直しとなった対決。怨恨凶剣鬼が機先を制してジードに斬りかかるが、ジードは『左右』に分かれて回避した。

 そう、『左右』に。ジードは一瞬の内に三人に分身して、怨恨凶剣鬼を包囲した!

 

「ウオオ!?」

 

 突然のことに怨恨凶剣鬼は首を振り回して動揺。ムゲンクロッサーは超能力に特化した形態であり、分身などは最も得意とする能力なのである。

 

「ハァァッ!」

 

 そして攻撃にはゼロツインソード・ネオがある。分身したジードは一斉に、三方向から怨恨凶剣鬼に斬りかかる。

 

「オオオオオオッ!!」

 

 たとえ物理法則を無視した挙動が出来ても、流石に取り囲まれて三方向から繰り出される斬撃をかわし切ることは出来ない。怨恨凶剣鬼は瞬く間に切り刻まれていく。

 

「セアッ!」

 

 最後に本体のジードが突撃を掛け、とどめの一撃を叩き込む。

 

「『マジカルトライデントスラッシュ!!」』

 

 最後の斬撃が怨恨凶剣鬼の胴体を真っ二つに切断し、その身体は霧散して消滅していった。と同時に、カプセルに囚われた戀鬼――侍と姫の魂が、天へと昇っていく。

 それをしっかりと見届けて、ジードは夜空に向かって飛び立って地上を去っていったのであった。

 

 

 × × ×

 

 

 本来の計画とは大分異なる形にはなってしまったが、肝要の留美の問題に関しては、改善の兆しが見られた。同じグループの子たちを留美が身体を張って助けたことで、それまで無視をしていた子たちが彼女を意識するようになったのだ。そこからは、留美本人の努力次第だろう。

 平塚も八幡たちが無事だったことに心から安堵し、また結果的に留美を助けたことを称賛してくれた。それを口にしていた時の平塚はとても上機嫌であった。

 

「それにしても、私の結婚相手はいつ現れるんだろうな。明日かな、明後日かな? 楽しみだなぁ、ふふふ」

 

 彼女は想い石の効果が出るのを待ち望んでいた。しかし、レムがこのように言ったのを八幡たちは知っている。

 

[想い石の力は、戀鬼の霊力が引き起こしていたものです。故に本物だったのですが、その霊魂は融合獣を倒したことで石碑から去りました。想い石はもう何の力もない、ただの墓標です]

 

 すいません、あれもう効果ないんですよ……とは、あまりにも嬉しそうな平塚を見ていたらとても伝えられない八幡たちであった。

 

 

 何だかんだとあった奉仕部合宿が終わり、八幡たちのワンボックスカーは総部高校の前で停車。そこからは各人で解散ということになる。

 

「お兄ちゃん。どうやって帰ろっか?」

「京葉線でバスがいいかな。帰りに買い物して帰ろうぜ」

「あいあいさー。京葉線ですし、雪乃さんも一緒に帰りません?」

「そうね。……では、途中まで」

「んじゃ、あたしとさいちゃんはバスかな」

「うん、そうだね。じゃあ……」

 

 それぞれが帰路につく相談をしていたところに、不意に黒塗りのハイヤーが静かに近づいてきて、八幡たちの前に横づけされた。

 目を丸くしている八幡たちの見ている中、初老の運転手が後部座席のドアを開けた。中から降りてきたのは、

 

「はーい、雪乃ちゃん」

「姉さん……」

「え、ゆきのんの……お、お姉さん?」

 

 陽乃である。初対面の結衣らは雪乃と陽乃を頻りに見比べた。

 

「雪乃ちゃんてば夏休みはおうちに戻ってくるようにって言われてたのに全然帰ってこないから、迎えに来ちゃった! でもお邪魔だったかな? 比企谷くんとデートだったみたいだから!」

「またそのパターンかよ……。違うっつってんじゃないですか」

 

 肘で八幡を突っつく陽乃。すると結衣が八幡の腕を引っ張って陽乃から離した。

 

「あ、あの! ヒッキー嫌がってますから!」

 

 陽乃がピタリと動きを止め、結衣に一見では分からないが、含みのある眼差しを向けた。

 

「あなたとは『はじめまして』だね。わたしは雪ノ下陽乃。雪乃ちゃんのお姉ちゃんです」

「あ、ご丁寧にどうも……。ゆきのんの友達の由比ヶ浜結衣です」

「友達、ね……。雪乃ちゃんにも友達がいるんだ、安心したよ。でも、比企谷くんに手を出しちゃ駄目だよ。それは雪乃ちゃんのだから」

「違うわ」

「違うっつーの」

「ほら! 息ぴったり!」

 

 八幡と雪乃の声がそろったのを面白がる陽乃。そこに平塚が呼び掛ける。

 

「陽乃、その辺にしておけ」

 

 陽乃は平塚の方を向くと、親しげに呼び返した。

 

「久しぶり、静ちゃん」

「その呼び方はやめろ」

 

 二人の様子に八幡が素朴な疑問を投げかける。

 

「先生、知り合いなんですか?」

「昔の教え子だ」

「まぁ積もる話はまた改めて、ね。じゃあ、雪乃ちゃん。そろそろ行こっか」

 

 陽乃が促しても雪乃は動こうとしなかったのだが、

 

「お母さん、待ってるよ」

 

 そのひと言でピクリと反応し、あきらめたようなため息を吐くと小町に向き直った。

 

「小町さん。せっかく誘ってもらったのにごめんなさい。あなたたちと一緒に行くことは出来ないわ」

「え。は、はい……それはまぁ、お家のことなら……」

 

 小町が戸惑ったように答えると、雪乃は消え入りそうな声で別れを告げた。

 

「……さようなら」

「じゃ、比企谷くん。ばいばーい!」

 

 雪乃と陽乃を乗せて、ハイヤーが滑らかに発進した。それを呆然と見送る八幡の袖を、結衣がそっと引く。

 

「ねぇ……あの車、さ……」

 

 言いかける結衣に、八幡は肩をすくめてみせた。

 

「まぁ、ハイヤーなんてどれも似たようなもんだしな。いちいち車なんて覚えてねぇよ」

 

 ――嘘であった。八幡は今のハイヤーが、自分と衝突したものであることに確信を持っていた。そしてあの時……戦いに必死だったのであの時は気づかなかったが、今ならはっきりと言える……クラッシャーゴンに捕まり、自分が助けたハイヤーもまた同じものであった。あの時、後部座席に乗っていた雪乃らしき人影は、きっと陽乃だったのだろう。自分は、六月以前に陽乃と出会っていたのだ。

 

 

 その語の夏休み中に、八幡と雪乃が再び会うことは、なかった。

 

 

 

『ウルトラストーリーナビ!』

 

結衣「今回は『ウルトラマンコスモス』第十八話「二人山伝説」だよ!」

結衣「チームEYESのシノブリーダーが休暇中にやってきた二人山では、リーダーの防衛軍時代の上官の竹越さんが待ってたの。リーダーはその人のことが好きなんだけど、竹越さんは娘さんがいて、その娘さんはお父さんの再婚に反対してるの。一方で二人山ではダム建設の話が持ち上がってたんだけど、業者が建設に邪魔な石碑を壊しちゃって、そのせいで封印されてた怨霊・戀鬼が蘇っちゃった! リーダーみたいに報われない恋のために怨霊化した戀鬼に、コスモスが立ち向かうんだけど……っていうお話しだよ」

結衣「シノブリーダーの恋愛にスポットが当てられた回だけど、それはほろ苦い大人の恋。そこに悲恋で終わった幽霊が敵として登場して、恋とは素敵なだけのものじゃないってことが描かれるストーリーなの」

結衣「恋愛って障害も多くて、報われる訳じゃないんだよね……。あたしの場合もやっぱり難しいんだろうなぁ。相手が相手だしね……」

ジード『戀鬼は『ウルトラマンオーブ』でまさかの復活を遂げたんだよ! でもそのままって訳じゃなくて、メカザムの着ぐるみを改造した紅蓮騎というアレンジキャラとしてだけどね』

結衣「それじゃ、次回もよろしくねっ!」

 




「二か月足りなぁ~い……」
「雪乃、元気にしてるかなぁ……」
「ね、ね、何から食べる? りんご飴? りんご飴かな?」
『えー? 女の子と二人でデートが楽しくないの?』
「あ、そうなんだー! 一緒に来てるんだねー」
「……雪乃ちゃんは、また選ばれないんだね」
レイデュエス! マグマゴメス!!
『このままじゃやばい……! カプセルを交換するんだ!』
『「けど、今は雪ノ下がいねぇ!」』



次回、『融合獣マグマゴメスを倒せ。』



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融合獣マグマゴメスを倒せ。(A)

 

「……」

 

 八幡は自宅のソファに寝転がって、卓上カレンダーの日数を数えていた。

 

「いちにぃ~ち、ふつかぁ~……」

 

 表に出ている八月のページには、日にちのマス毎にバツ印が記されている。バツが入っていないマスは最後の五個だけ。つまり八月――夏休みもあと五日で終わりということである。

 その事実を確認した八幡は、ゴロゴロしながらぼやいた。

 

「二か月足りなぁ~い……」

「八幡、あんまり情けないこと言わないでよ」

 

 ペガがにゅっとダークゾーンから顔を出して突っ込んだ。

 

「もう、ほんとに君って奴は自堕落だなぁ。いつも働きたくないって言ってる上に、今度は学校行きたくないだなんて」

「そんなの普通普通、日本中のほとんど全員の学生が本心で思ってることだろ。早く学校始まらないかなーなんてこと抜かす奴は、自分をごまかしてるか親か教師に洗脳されてるかのどっちかだ」

『そんなことないでしょ。学校に行けば毎日友達に会えるじゃないか!』

 

 ジードの爽やかな発言に、八幡は逆に顔をしかめた。

 

「ダチなら休みの時にだって会えるし、そもそも俺ぼっちだし」

『雪乃や結衣たちがいるじゃん』

「いやぁあいつら別に友達って間柄じゃねーよ。特に雪ノ下」

「材木座君は?」

「材木座って誰だっけ」

『戸塚君は?』

「ああ早く学校始まらねぇかな最後に戸塚の顔を見たのはいつだったか今すぐ会いたいぜ戸塚ぁ!」

 

 華麗なほどの手の平返しっぷりに、ジードもペガも大きなため息を吐いた。

 

「……それはともかく、ペガは雪乃と会いたいな。千葉村から帰ってきてから、一度も顔を見てないよ」

『そうだね……。実家に帰省してるみたいだけど、今頃何やってるんだろう……』

 

 ジードたちが雪乃に思いを馳せ、八幡もまた最後に見た、去り際の雪乃の顔を思い返した。

 

「……」

 

 八幡たちは千葉村からの帰り、陽乃に連れ戻されてからずっと、雪乃と会っていなかった。怪獣が出ても、星雲荘にも顔を出すことがない。ジード部は強制ではないので、そのことで非難するつもりなどはないのだが……。

 

「ちょっと心配しちゃうな……。雪乃、元気にしてるかなぁ……」

 

 雪乃を案じて目を伏したペガに、ばっと飛びつく小さな影。

 

「ひゃんひゃん!」

「わッ! あはは、くすぐったいよサブレ」

 

 ぺろぺろとペガの顔をなめ回すのは、結衣の飼い犬サブレだ。彼女が家族旅行に行っている間、この比企谷家で預かっているのである。

 ペガに遊んで遊んでとじゃれついていたサブレだが、小町の足音が近づいてきたので慌てて影の中に頭を引っ込ませた。

 

「お兄ちゃ~ん、何か騒がしいけどどうかしたの?」

 

 リビングに顔を覗かせた小町に、八幡は身を起こしてごまかしに掛かった。

 

「何でもねぇ。サブレがじゃれついてただけだよ。こいつ飼い主に似てかやたらとはしゃぐからな」

「そぉ? お兄ちゃん、最近何か独り言が多いような気がするんだよね~。その辺自分で注意しないとダメだよ? 元々変な目で見られてるだろうけどさ、ますます不審者扱いされちゃうよ?」

 

 と小町が言うので、八幡はジトッと影をにらんだ。ダークゾーンが申し訳なさそうにもぞもぞ蠢いた。

 とその時に呼び鈴が鳴る。

 

「あ、やっはろー。いやぁありがと! サブレが迷惑掛けてなかった?」

 

 八幡と小町が迎え入れたのは、旅行からの帰り、サブレを引き取りに来た結衣であった。

 

 

 

『融合獣マグマゴメスを倒せ。』

 

 

 

 その日の夕方、八幡は駅の柱に寄りかかっていた。ケータイをいじって時間を潰していると、ころころと下駄を鳴らしながら浴衣の女の子が駆け寄っていく。

 

「あ、ヒッキー。ちょっと、ばたばたしちゃって……遅れちゃった……」

 

 結衣である。恥じらうようなはにかみ笑いを向けてくる彼女に、八幡は思わず目を泳がせる。

 

「いや、それは別にいいんだけどさ……」

 

 八幡はここで結衣と待ち合わせをしていた。これから二人で――まぁ正確にはあと二人が一緒にいる訳だが――千葉市民花火大会へと出掛けるのだ。

 結衣がサブレを引き取りに来た際に、先日に平塚が花火大会は自治体主導なので、良家の娘である雪乃が参加しているかもしれないと八幡が口にしたら、結衣が食いついてきて八幡を誘ったのだ。八幡は小町も連れていくつもりであったが、ある思惑を抱える小町のお膳立てにより、二人で出掛けることになったのである。

 八幡と結衣は、普段とは打って変わって、お互いを変に意識して目を右に左に泳がせながら沈黙している。これが祭りと浴衣の成す、特別感のある空気か。

 

「……とりあえず、行くか」

「……うん」

 

 もどかしい沈黙を破って、八幡が結衣を先導。電車に乗って、花火大会会場の最寄り駅へと向かっていった。

 

 

 × × ×

 

 

 駅前から花火大会会場までに広がる公園は、祭りだけあって普段は閑散としている広間が現在はいくつもの出店と大勢の客でごった返していた。八幡と結衣はその間をかき進みながら、小町から頼まれた品を買いそろえていく。

 

「しっかし、この最後のは実にうぜぇな……」

 

 しかめ面で小町からのメールを見返す八幡。メールは焼きそばやわたあめなど買ってきてほしいもののリストとなっているのだが、その最後の項目が「花火を見た思い出 プライスレス」となっているのだ。

 

「これをドヤ顔で打ったかと思うと……ああ兄として恥ずかしい」

 

 嘆かわしいと頭を振る八幡に、結衣もついつい苦笑いを浮かべた。

 

「まぁ、とりあえずこれ順に買ってくか……」

「うん」

 

 八幡はふー、と息を吐いて気分を入れ替え、結衣とともに出店を回って買い物を始めるが、結衣は軒並み連ねる店の数々に目移りしてはしゃぎまくる。

 

「ね、ね、何から食べる? りんご飴? りんご飴かな?」

「それリストにねぇだろ……。てか食べることが目的になってんじゃねーか」

 

 その買い物の合間に、ペガがダークゾーンからこっそりと八幡に囁きかけた。

 

『結衣、楽しそうだね。八幡ももうちょっと楽しそうにしたら?』

「余計なお世話だよ。つぅか別に買い物なんか楽しかねぇし。俺男だからな」

『えー? 女の子と二人でデートが楽しくないの?』

「デートとか言うな。由比ヶ浜とはそんなんじゃねーって知ってるだろ」

『もう……鈍感なんだから』

 

 ペガは独りごちたつもりだろうが、八幡はしっかりと聞き留めていた。

 

(全く、ペガも小町も余計な世話ばかり焼きやがって……。俺だって、この状況を何とも思わない訳じゃねぇんだよ)

 

 心の内で独白する八幡。彼とて、小町のお膳立ての意図も、結衣の自分に向ける感情の意味も分かっていない訳ではない。

 しかし八幡は、だからと言って安易に行動することはいけないと己を戒めている。これまでのそう長くもない人生で、数え切れないほどの失敗の経験から学んだ教訓だ。軽々しい行動は恥と後悔を招く。結衣だって、サブレを助けられた恩義を好意と間違えているだけだ。ヒーローの比企谷八幡も、あくまで借り物の姿だ。その想いが偽りで、いつか消えてしまうものではないと誰が証明できるのか。

 だから、調子に乗ってはいけない。自分を過大評価してはならない。軽はずみな決断は、自分だけでなく結衣にも不快な思いをさせてしまうことだろう――。

 

「あ、ゆいちゃんだー」

 

 考えに耽っていた時、前方からどこかで見覚えのあるような女子が結衣に小さく手を振って近づいてきた。

 

「お、さがみーん」

 

 結衣の知り合いのようで、結衣も手を振り返して返事する。そして八幡と女子に互いのことを紹介した。

 

「同じクラスの比企谷くん。こちら、同じクラスの相模南ちゃん」

 

 八幡と相模という女子の目が合い――相模は一瞬、ふっ、とかすかな笑みを浮かべた。

 

「あ、そうなんだー! 一緒に来てるんだねー。あたしなんて女だらけの花火大会だよー。いいなー、青春したいなー」

「……。あはは! 何その水泳大会みたいな言い方! こっちだって全然そういうんじゃないよ~」

 

 結衣は一瞬言葉に詰まりながらも相模に合わせて笑うが、八幡は真顔のまま、そっと踵を返した。

 

「焼きそば、並んでるみたいだから先行くわ」

「あ、うん。すぐ行く」

 

 八幡はそれを口実に結衣から離れた。これ以上、相模に彼女を笑わせたくないから。

 結衣が気づいたように、八幡も悟っていた。先ほどの相模の笑みが、嘲笑だということに。彼女は八幡、“由比ヶ浜結衣の連れている男”を値踏みして、結衣のことも内心で侮蔑したのだ。結衣が“価値の低い男”といるとして、優越感に浸っていた。

 軽はずみな行動がいけない実例が、早速現れた。結衣が自分と、祭りというイベント時にいては、彼女までクラス内でのカーストを下げられ、他の女子から舐められてしまうかもしれない。――自分が笑われるだけなら耐えられるが、結衣まで巻き込むのは、心が痛むのが抑えられない。

 

『……ペガ、ああいうの好きじゃないな』

 

 ペガがボソリと、そうつぶやいた。

 

『八幡が何をしたっていうのさ。それなのに、ひと目見ただけで馬鹿にして……。結衣のことまで蔑んでた。誰が誰といたっていいじゃない。人を見下して、一体何になるってのさ……』

「……ま、人ってのはレッテルを貼りたがるもんだ。自分を守るためにな」

『……』

 

 努めてそっけなくペガに返す八幡。ジードは、意味ありげに沈黙を貫いていた。

 

 

 × × ×

 

 

 日が東京湾に沈んで空が完全に夜の闇に染まった頃、八幡は結衣と合流して買い物を済ませていた。そして花火のメイン会場へと移ってきたのだが……。

 

「いやー、混んでるねぇ」

 

 たははと笑う結衣。会場は辺り一面数え切れない人たちがビニールシートを敷いたりして占領しており、座れるようなところが見当たらない。八幡だけなら立ちっぱなしでもいいが、流石に結衣までそうさせる訳にはいかないだろう。

 

「こんなに混むって知ってたら小さなビニールシートくらいは準備してきたんだけどな」

「む、むー。何かあたしが悪いみたい……。ごめん、言っとけばよかったね……」

「……ちげーよ。こういうのに慣れてないんだ。そこまで頭が回らなかった。悪い」

 

 八幡が謝ると、結衣がぽかんと口を開いて八幡の顔を見上げた。

 

「何だよ……」

「……ヒッキーって、気、使えるんだ」

「はぁ? ばっかお前めちゃくちゃ使えるよ。気ぃ使ってるから誰にも迷惑掛けないように静かに隅っこいるんだろうが」

「あはは、そういうことじゃなくてさ……。その、何というか、優しい? というか」

「ほう、よく気づいたな。そうそう俺は優しいんだよ。今まで色々あったが誰一人何一つ俺は復讐せず見逃してやってきてるからな。俺が並の人間だったらジードがそいつら握り潰してるわ。八幡様を大切にしない奴は死ぬべきなんだ! って具合にな」

『流石にそんなことはさせられないなぁ……』

 

 八幡の冗談にジード本人が突っ込んだ。

 

「まぁ何でもいいよ。それよかあっち空いてるっぽいから行ってみようぜ」

 

 ともかく、二人は座れそうな場所を探して、人の少ない方まで移動していった。

 がしかし、そこはトラロープで区切られた有料エリアであった。当然、八幡たちには場違いのところだ。

 

「もうちょっと探してみるか……」

 

 別の場所に移動していこうとしたその時、有料エリアから八幡を呼ぶ声が起こる。

 

「あれー? 比企谷くんじゃん」

 

 振り返ると、そこにいたのは――大百合と秋草模様が涼しげな浴衣を纏った、雪ノ下陽乃であった。

 

 

 そして八幡と結衣は陽乃に招かれ、彼女とともに花火を観覧することとなった。三人がいる場所は打ち上げ場所の正面であり、障害物もない、まさに格別のスペースであった。

 

「父親の名代でね、ご挨拶ばっかりで退屈してたんだ。比企谷君が来てくれてよかったー」

「はぁ。名代、すごいっすね」

「ふふっ、貴賓席っていうのかな。普通は入れないんだから」

 

 八幡は陽乃と見た目上は気さくに話しながらも、内心ではかなり恐々と彼女に接していた。彼はその完璧な外面の下に、底の知れない何かが渦巻いているのを薄々感じ取っているので、彼女がどんなことを考えているのかと思うと気が気でないのだ。

 そんな八幡に陽乃はぼそっとつぶやく。

 

「それはそうと……浮気は感心しませんなー」

「いや、浮気じゃないし……」

「じゃあ、本気か……。なおさら許せませんなー」

「いたたた! 本気でもないですよ……」

 

 ギュッと耳をつねられ、慌てて逃げる八幡。そうしていると、花火の一発目が夜空に打ち上がる。盛大な炸裂音と黒い空を彩る暖色の光輪が、八幡たちの目を引きつける。

 

「ほぉ……」

 

 陽乃がリラックスするように椅子に深く座り直すと、それまでタイミングを窺っていた結衣が意を決して陽乃に話しかけた。

 

「あ、あのっ!」

「えーっと……なにヶ浜ちゃんだったっけ?」

「ゆ、由比ヶ浜ですっ」

「あ、そうだ。ごめんごめん」

 

 軽く謝る陽乃だが、名前を忘れたのがわざとだと八幡は悟って、ますます戦々恐々とした。

 

「今日ってゆきのんは一緒じゃないんですか?」

「雪乃ちゃんなら家にいるんじゃないかな。こういう外向きのことはわたしのやることだし。言ったでしょ、父の名代。こういう場に出るのは長女であるわたし。昔から母の方針なの」

 

 もっともらしい理由を口にした陽乃だが、結衣は尋ね返す。

 

「それって、ゆきのんは来ちゃいけないものなんですか?」

 

 そう聞くと、陽乃は少し困ったように微笑んだ。

 

「んー。まぁ、母の意志だし……。うちって母が強くて怖いんだよー」

「え、それって雪ノ下より?」

「雪乃ちゃんが? 怖い? あんな可愛い子をそんな風に思ってたのー?」

 

 八幡の率直な言葉に陽乃はひとしきり笑ってから、八幡に耳打ちした。

 

「母はわたしより怖いよ」

「……それ人間ですか」

「母が何でも決めて従わせようとする人だから、こっちが折り合いをつけるしかないんだけど……雪乃ちゃん、そういうのへたっぴだから」

 

 どこか含みのある苦笑を浮かべた陽乃は、今度は自分から結衣に問いかける。

 

「で、今日はデートだったのかな? だったら邪魔しちゃってごめんね」

「い、いえ。べ、別にそういう訳では……」

「ふぅん……。その照れ方は怪しいなー。けど、もしデートだったんなら……」

 

 結衣の様子を観察した陽乃は、次の花火が破裂するのと同時に、ぼそりとつぶやいた。

 

 

「……雪乃ちゃんは、また選ばれないんだね」

 

 

「……あの、今のって……」

 

 聞き返す結衣だが、陽乃はそれまで花火に夢中だったとでも言いたげな様子でにっこり笑った。

 

「ん? なぁに?」

「あ、いえ、その……何でもないです」

 

 結衣が言葉を引っ込めて、会話がそこで途切れた。

 その間にも、夜空には断続的に花火が打ち上がっていく。

 

 

 × × ×

 

 

 花火が次々に空に打ち上がる中――花火を見るには適さない鬱蒼とした雑木林の中で、ルドレイが花火会場の様子をざっと観察した。

 

『これ以上は人間は集まりそうにありません、殿下』

「そうか。頃合いだな」

 

 毒々しい紫の浴衣姿に、頭に怪獣のお面を斜めにつけているレイデュエスがうなずいて応じる。

 

「お面は顔につけるものだろうに、顔に被ったらいけないとは世知辛い世の中だ。……まぁそれはともかく、今回の襲撃を始めるとしよう」

『これだけの数の人間を襲うのも久しぶりですな』

「最近は本来の目的を忘れがちだったからな……。このまま宇宙警備隊がしゃしゃり出てこないとも限らんし、少しでも早く『あのカプセル』を再起動させんとな……」

 

 ほくそ笑みながら怪獣カプセルを起動しようとするレイデュエス。……だが、そこにオガレスが呼び掛ける。

 

『ええ? 花火が終わるまでまだ少し時間ありますし、もうちょっと食い物を調達してからでもいいのではありませんか? ほらこのかき氷なんて宇宙になかなか見られない文化……おごご!?』

 

 オガレスは手に持っていたかき氷を口の中に無理矢理流し込まれた。

 

『あががぁ――――! 頭がキーンとッ! キーンってッ!』

「馬鹿はほっといて行くぞッ! 宇宙指令Q01!」

 

 頭を抱えてのたうち回るオガレスを尻目に、レイデュエスが怪獣カプセルを起動。

 

「イッツ!」『ギャアアオウ!』

「マイ!」『アアオオウ! アアオオウ! シャウシャ――――――!』

「ショウタイム!!」

フュージョンライズ! アーストロン! ゴメス・S!

レイデュエス! マグマゴメス!!

 

 レイデュエス魔人態が角のある二体の怪獣のビジョンを吸い込み、融合獣マグマゴメスへと姿を変えて巨大化していった!

 



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融合獣マグマゴメスを倒せ。(B)

 

「アアオオウ! ギャアアオウ! シャウシャ――――――!」

「!!」

 

 八幡たちの見上げていた花火の炸裂音が、耳をつんざく咆哮によってかき消された。見れば、夜の闇の中にいつの間にか巨大な怪物の影がそびえ立っている。

 頭部に巨大で前に曲がった一本角を生やした、毛皮のある恐竜型の怪獣。背筋にはサメのようなヒレがズラッと並び、双眸は真っ赤に爛々と光っている。皮膚には亀裂が走り、裂け目から赤いマグマエネルギーが煮えたぎって煙を噴き出していた。

 八幡と結衣は怪獣の胸部に紫色の光体が七つ並んでいるのを目にして、それが融合獣であることをすぐに見て取った。レイデュエス融合獣マグマゴメスだ!

 

「ヒッキー……!」

「ちッ……まぁた現れやがったか……!」

 

 融合獣の影に会場は一気にパニック状態になり、平穏なひと時は瞬く間に破られた。その混乱の中で忌々しげに舌打ちする八幡。一方で陽乃は何やら手を懐に突っ込んでいたが、

 

「……あっ、今は持ってないんだった……」

「陽乃さん? どうしたんですか?」

 

 小さくつぶやいて手を抜いた陽乃に、彼女の様子を訝しんだ結衣が尋ねかけた。

 

「あっ、何でもないよ。それより早く避難しなきゃね! 怪獣こっちに来るし!」

 

 陽乃の言う通り、マグマゴメスは地響きを引き起こしながらこちらへと接近してきている。そのため確かにすぐ避難すべき状況なのだが、

 

「そ、そうっすね……」

「は、早く逃げないと危ないですよねー! はは……」

 

 当然、八幡たちは他と同じようにはしていられない。しかしどんな口実をつけて陽乃から離れて変身するべきか……。曖昧に返事しながらそれを考えていたら、

 

「じゃ、悪いけどわたし先に行くね! 二人も急いでねー!」

「え……」

 

 意外にも陽乃の方から八幡たちより離れ、あっという間に避難する群衆の中に紛れていった。その背中を呆然と見送る結衣と八幡。

 

「お、置いてかれちゃった……」

「ああ……。まぁ、こっちとしちゃ好都合ではあるが……」

 

 予想外の陽乃の行動にしばし立ち尽くしていた二人だったが、そんなことをしている場合ではない。気を取り直して、自分たちは避難する客たちとは別の方向、身を隠せる植林エリアに飛び込んでいった。

 そこで他に人目がないことを確認してから、ウルトラカプセルとジードライザーを取り出す。

 

『ユーゴー!』『テヤッ!』

『アイゴー!』『タァッ!』

『ヒアウィーゴー!!』

[フュージョンライズ! ウルトラマンヒカリ! ウルトラマンコスモス!]

[ウルトラマンジード! アクロスマッシャー!!]

 

 八幡と結衣はヒカリとコスモスのカプセルをスキャンして、ウルトラマンジード・アクロスマッシャーに変身! 植林を飛び出して、群衆をつけ狙っているマグマゴメスの正面に着地して立ちはだかった。

 

「ハッ!」

 

 ジードの登場に振り返る人々。子供たちの間からは歓声が沸き上がる。

 

「あッ、ウルトラマンジードだぁ~!」

「ジード、がんばれー!」

 

 子供たちの声を背に受けながら、ジードが融合獣に立ち向かっていく!

 

『「よし……行くぜッ!」』

 

 まずは右腕から光剣を伸ばして武装。

 

『スマッシュビームブレード!』

 

 それを片手に、アクロスマッシャー特有の軽やかで素早い身のこなしでマグマゴメスに肉薄。先制の一撃を叩き込む!

 

「ハァッ!」

「アアオオウ! ギャアアオウ! シャウシャ――――――!」

 

 マグマゴメスは反応も出来ずに斬撃を食らう。

 ……が、その体表にはかすかなすり傷しか入っていなかった。

 

『「効いてないよ!?」』

『「ちッ……!」』

 

 ジードはもう一度マグマゴメスに飛びかかって、連続で四肢を斬りつける。しかしやはり微々たるダメージしか与えられない。

 

「アアオオウ! ギャアアオウ! シャウシャ――――――!」

「ウッ!」

 

 てこずっている内にマグマゴメスの反撃により、ビームブレードを半ばからへし折られてしまった。

 

『「だったらこっちだ!」』

 

 ジードはめげずに武器を取り換え、ジードクローを握って一回レバーを握り込んだ。

 

『クローカッティング!』

 

 クローを回転させて光刃を飛ばすも、マグマゴメスの鉤爪によってあっさりと粉砕された。

 

『「ん何……!?」』

『「あいつの身体、チョー硬いよ……!?」』

 

 攻撃が通用せずに動揺するジードたち。マグマゴメスは二体とも重量級の怪獣による融合獣という、生粋のパワータイプ。動きは速くとも、一撃が軽いアクロスマッシャーでは相性が悪かった。

 

(♪ピンチの戦い)

 

「アアオオウ! ギャアアオウ! シャウシャ――――――!」

 

 有効打を与えられない間に、マグマゴメスからの反撃が来た。背びれがビカビカと赤く光ったかと思うと、大口から灼熱の強力熱線を吐き出してくる!

 

「ウワアァァッ!」

 

 熱線はジードに襲い掛かるばかりか、周囲の地面を燃やして火の手で囲い込む。ジードは足が取られて身動きが取れない。

 そこにマグマゴメスが突っ込んできて、ジードはぶちかましをもらった。

 

「アアオオウ! ギャアアオウ! シャウシャ――――――!」

「ウワァァ――――!」

 

 大きく吹っ飛ばされるジード。更に尻尾の殴打も食らい、したたかに地面に打ちつけられる。

 

『「ぐッ……!」』

『「うぅ……!」』

 

 衝撃が伝わってきてうめく八幡と結衣。カラータイマーも鳴り、窮地を報せる。

 

『このままじゃやばい……! カプセルを交換するんだ! パワーのある奴に!』

 

 この状況を脱するためにフュージョンライズ形態の変更を促すジードであったが、

 

『「けど、今は雪ノ下がいねぇ!」』

『ああそうだった……!』

 

 マグマゴメスに張り合えるだけのパワーがある形態といえばソリッドバーニングかリーオーバーフィストだが、どちらも雪乃が不在のために変身することが出来ない。万事休すか!

 

「アアオオウ! ギャアアオウ! シャウシャ――――――!」

「ウッ……!」

 

 マグマゴメスは容赦なくジードへと迫り来る。思わず身構えるジードであったが、その時、

 ターンッ!

 

「アアオオウ! ギャアアオウ!」

 

 どこからか光弾が飛んできてマグマゴメスの左目に炸裂。想定外の方向からの攻撃を急所にもらったマグマゴメスは反射的に動きを止めた。

 

「フッ!?」

 

 突然のことに一瞬驚くジードであったが、これはまたとない好機。このチャンスを逃してはなるまいと、八幡たちは一番勝算のある形態へのチェンジを敢行した。

 

『ユーゴー!』

『オリャアッ!』

 

 八幡がオーブ・エメリウムスラッガーカプセルを起動して装填ナックルに押し込む。

 

『アイゴー!』

『フエアッ!』

 

 結衣はベリアルカプセルを起動し、八幡は再びジードライザーを取り出した。

 

『ヒアウィーゴー!!』

 

 装填ナックルに収めた二つのカプセルをライザーでスキャンし、再変身!

 

[フュージョンライズ!]

『ジィィィ―――――――ドッ!』

 

 オーブとベリアルのビジョンが八幡たちと重なって、ジードは姿を変える!

 

[ウルトラマンオーブ! ウルトラマンベリアル!]

[ウルトラマンジード! トライスラッガー!!]

「シュアッ!」

 

 ジード・トライスラッガーとなって立ち上がり、マグマゴメスとの第二ラウンドを開始した。

 

(♪ジードの戦い・優勢2)

 

「ハァァッ!」

「アアオオウ! ギャアアオウ! シャウシャ――――――!」

 

 マグマゴメスに飛びかかって膝蹴りを決め、その横面に平手打ちを入れる。だがあまり効いている様子は見られない。

 

「アアオオウ! ギャアアオウ! シャウシャ――――――!」

「グゥッ!」

 

 パンチの反撃を食らって押し返されるジード。やはり、雪乃が起動できるカプセルを用いた形態でないとマグマゴメスに対してパワー不足のようだ。

 しかし、それでもジードはあきらめずに戦い続ける!

 

「アアオオウ! ギャアアオウ! シャウシャ――――――!」

 

 マグマゴメスが再び熱線を吐いて攻撃してくる。その瞬間、ジードは三本のスラッガーを同時に放った。

 

「セアッ!」

 

 三振りのスラッガーは渦を描くように飛んでいって熱線と衝突。スクリューのような回転によって熱線を分散させて突き進んでいく。

 

「!?」

 

 熱線を打ち消したスラッガーがマグマゴメスの膝関節を斬りつけた。どんなに頑丈なボディを持っていようとも、関節部はどうしても他より弱くなる。

 

「アアオオウ! ギャアアオウ!」

 

 マグマゴメスは自重を支え切れずに片膝を突いた。今こそが絶好のチャンス!

 

「ハッ!」

 

 ジードは三枚のスラッガーをマグマゴメスの頭上に移動させ、そこへ必殺光線を発射。

 

「『リフレクトスラッガー!!」』

 

 乱反射した光線がマグマゴメスに降り注ぎ、無数の光線がマグマゴメスの全身に突き刺さる。

 

「アアオオウ! ギャアアオウ! シャウシャ――――――!」

 

 全身をズタズタにされたマグマゴメスは爆散。消滅していった。

 

「やった――――――!」

 

 子供たちを始めとした人々はジードの逆転勝利に歓声を発した。途切れていた花火も空に打ち上がり、ジードを称えるように夜空に花を咲かす。

 

「……」

 

 肩で息をしていたジードは空へと飛び上がることなく、その場でスゥッと薄れて消えていった。もう変身時間の残りがほとんどなかったのだ。今回はギリギリの勝利であった。

 

「ふぅ~……危なかったねヒッキー。でも何とかなってよかったぁ」

 

 結衣も元の姿に戻ってからどっと息を吐いた。しかしその一方で、八幡は一つ、あることを気に掛けていた。

 

「……途中で融合獣に攻撃をして助けてくれたのは、一体誰なんだ?」

『それはもちろんAIBでしょ。他にいないでしょ?』

 

 ペガがそう指摘する。

 

「いや、普通に考えればそうだろうけどよ……AIBの誰かって意味だよ。あれ、結構遠くから狙撃したみたいだったぜ」

『多分ゼナさんだよ。あの人、かなりの腕だからそれくらい出来てもおかしくないさ』

 

 ジードはそのように推測したが、八幡は今一つ腑に落ちていなかった。

 

「あの人、花火大会に来てたのか……?」

 

 

 マグマゴメスの左目を狙撃した光弾が飛んできた、その方角で、

 

「ふ~……危ないところだったなぁ。全く、世話が焼けるヒーローなんだから」

 

 陽乃が一人、スナイパーライフルを下ろして安堵のため息を漏らしていた。

 

 

 × × ×

 

 

 融合獣の襲撃はあったものの、どうにか混乱は収まって花火大会は終了。その陰には、AIBの人知れずの尽力もあった。

 八幡と結衣は陽乃と合流し、帰りが混雑する前にとさっさと会場を後にした。有料エリアから駐車場に出ると、彼らの前に雪ノ下家のハイヤーが静かに横づけされる。

 

「よかったら送っていくけど?」

 

 打診する陽乃だが、八幡はそれに返答せずにハイヤーをじっと観察していた。その目の動きに気づいて、陽乃がクスクスと笑う。

 

「そんなに探しても見えるところに傷なんて残ってないよ」

 

 ――彼女としては冗談のつもりだったのだろうが、八幡と結衣がぴくりとも笑わないので、陽乃も戸惑ったようであった。

 

「あ、あれ? 雪乃ちゃんに聞いてなかったんだ。悪いことしちゃったかなぁ……」

「じゃあ……やっぱり……」

 

 小さくつぶやく結衣。陽乃は取り繕うように八幡たちに言い添える。

 

「でも勘違いしないでね。雪乃ちゃんが悪い訳じゃないんだから。あの子はただ乗っていただけだし、何一つ悪いことはしていない。それでいいよね、比企谷くん?」

 

 同意を求められると、八幡はそっけなく返した。

 

「そーっすね。まぁ事故起こしたのあいつじゃないし。なら無関係でしょ。済んだ話ですしね!」

「そっか、もう終わった話なら別にいいよね」

 

 大袈裟に胸を撫で下ろす陽乃。今の言葉は、それでこの話題を終わらせてしまいたいというようであった。

 

「……じゃあ、俺ら帰ります」

「うん。じゃあ、比企谷くん。またね」

 

 陽乃は無理に引き止めることなく、八幡たちに別れを告げてハイヤーに乗り込んだ。最後に「ありがとう」と告げ、ドアを閉められたハイヤーが発進していった。

 八幡と結衣は、しばらく無言のままで駅に向けて歩き始めた。

 

 

 × × ×

 

 

 八幡は結衣を家の前まで送った後に、繁華街を抜けて自宅までの道のりを一人黙々と歩いていた。しかし人通りがない道に入ったところで、ペガが顔だけ出して八幡に呼び掛ける。

 

「八幡……結衣も言ってたけどさ、雪乃のこと悪く思っちゃ駄目だよ……。ほら、話の流れとかあるでしょ? 八幡もいい思い出じゃないって言ってたし、無理に掘り返すのは良くないって雪乃も思ってるんだよ、きっと……」

 

 ペガは陽乃の話を聞いてから、八幡の様子がおかしいということに気づいているようだった。自分を気遣うペガに、八幡は言い返す。

 

「別に雪ノ下を恨んでるとか、そんなんじゃねぇよ。陽乃さんも言ったように、あいつに非がある訳じゃねぇしな。それに、誰にだって触れられたくないことがあるのだって分かってるし。だからそのことについて俺は何とも思わねぇし、何も言わねぇ。ただそれだけのことだ」

『そう……? ならいいんだけど……』

 

 とつぶやいて首を引っ込ませるペガ。――しかし、八幡はこの瞬間、本当のことを言ってはいなかった。

 確かに恨んでいる訳ではないし、雪乃に対して文句をつけるつもりなどは毛頭ない。彼にとってはもう、事故に遭ったという事実自体はどうでもいいことなのだ。

 しかし八幡は、雪ノ下雪乃に対して、どんな時も常に正しく、己にも他人にも正直で、凡人にはたどり着けない完璧さがある、そんな超然とした人物だという、憧憬にも似た感情を抱いていた。――否、そのように見ていた。それが、比企谷八幡が勝手に持っていた雪ノ下雪乃像なのだ。

 だから、真に身勝手なことなのだが――雪乃が「隠し事をしていた」ということに、八幡は複雑な感情を抱えているのであった。

 

 

 × × ×

 

 

 九月一日。四十日間の夏休みは終わりを迎え、いよいよ今日から新しい学期が始まる。

 

「はぁ……始まっちまったなぁ、学校……」

『いきなりそんな暗い顔しないの! 自分から元気出していかないと、気分は落ち込んでくばかりだよ!』

 

 学校の廊下をとぼとぼと歩く八幡をジードが激励する。だがその途中で、ジードが短く声を漏らした。

 

『あ……』

 

 八幡が顔を上げて前方の階段を見やる。そこには、久しく見ていない凛然とした立ち姿――雪ノ下雪乃の姿があった。

 こちらの存在に気がついた雪乃が振り返る。

 

「あら、久しぶりね」

「おう、ご無沙汰」

 

 八幡は平素に雪乃と挨拶を交わし、彼女と等間隔に距離を保ったままに階段を上がっていく。そんな中で、雪乃は背中越しに八幡に問いかけた。

 

「比企谷くん……姉さんと、会ったのね」

「ああ、たまたまな」

 

 それだけ言葉を交わして、二人は二年の教室につながる廊下へと出た。この分かれ道で、雪乃は足を止める。

 

「あの……」

「――部活、今日から始めるのか?」

 

 八幡は雪乃の言葉をさえぎって、そう尋ねた。

 

「え、ええ……。そのつもり、だけれど……」

「了解。また後でな」

 

 そして彼女に何も言わせないまま、八幡は進み出して己の教室へと入っていった。

 ――勝手な理想像を裏切られたという、勝手な失望が心に沸き上がるのを抑えられない、勝手すぎる自分に嫌悪感を抱きながら。

 

 

 

『ウルトラストーリーナビ!』

 

八幡「今回は『ウルトラQ』第一話「ゴメスを倒せ!」だ」

八幡「東海道の弾丸道路の工事現場で、一人の工夫が狂ったように怪物を見たと喚く事態が起き、同時に奇妙な岩石が現場から見つかる。駆けつけた毎日新報の江戸川由利子と星川航空の万城目、一平らは現場周辺を調べ出す。すると本当に怪物ゴメスが見つかり、また岩石の正体が怪鳥リトラの蛹であることが判明する。ゴメスは外に出て工事現場の人間たちを襲い出し、ゴメスとリトラのことを突き止めた少年ジローはゴメスを倒すために、リトラを孵化させる……という内容だ」

八幡「シリーズの全ての始まり。テレビで見られる怪獣映画という特撮番組『ウルトラQ』のスタートに相応しい怪獣同士の対決がメインの作品だ。物語は終始怪獣たちの描写に注力され、主役の怪獣二体がクライマックスで激突するという王道な作りだな」

八幡「だが、実はこれは最初に制作された話じゃない。一番に作られたのはジュランが登場する「マンモスフラワー」だったんだが、視聴者の掴みのためにこの分かりやすく画面映えするエピソードが第一話に据えられたんだ」

ジード『ゴメスがゴジラの着ぐるみの改造、リトラがラドンの操演用人形の改造だというのはファンには有名な話だね』

八幡「それじゃ、また次回でな」

 




「それよか問題なのは、仕事量だよ」
「雪ノ下なんだが、今日は体調を崩して休みだ」
「ゆきのん、あたしとヒッキーを頼ってよ」
「やるなら、『今』しかない」
「――さっきのあれは何?」
レイデュエス! ヴォルカニック・ザンバードン!!
「頑張って、ジードさん!」
『「めぐり先輩から頼まれたら、やらない訳にはいかねぇな……」』
『「示すぜ……未来!」』



次回、『融合獣総武高校に迫る!』



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融合獣総武高校に迫る!(A)

 

 二学期が始まってから数日が経過した。放課後は、一学期の時と同様に八幡、雪乃、結衣の三人が奉仕部の部室に集まっている。八幡と雪乃は長机の両端で文庫本のページをめくり、結衣はケータイをいじって、来るかどうか分からない依頼者を待っている。ジードがこの世界に来てからは、ペガも内職の造花をしながらこの中に混じっている。一見すると、夏休み前と何も変わらない光景。

 残暑が続くので開け放たれていた窓だが、強い秋風が吹き込んでカーテンが大きくなびいたので、結衣が席を立って窓を閉めた。

 

「風、強くなってきたねー」

 

 そのことをきっかけに会話の糸口を切り出す結衣。しかし八幡と雪乃は無言であり、代わりにペガが結衣に応じた。

 

「天気予報だと、台風が近づいてるんだって。知ってる?」

「うん。しばらくは折り畳み傘必要かなー。ねぇ?」

 

 八幡たちの方を見やって同意を求める結衣。それで二人が顔を上げたので、結衣とペガは少しほっと息を吐いた。

 

「そうね。休みの間はいい天気続いてたのに」

「そうだったか? 結構薄暗い日ばっかだった気がするけど」

『それは八幡が家から出ないからだよ。出ても夕暮れになってからの場合が大半だったし』

 

 ジードが呆れながら突っ込んだ。

 

「いいだろ別に。暑いからだ」

 

 八幡がぶっきらぼうに言い放って、会話がしばし途切れた。結衣は深めの呼吸をしてから続きとなる言葉を口にする。

 

「ヒッキーはさ、もっと外出した方がいいよ絶対。何かビタミンC? 作るらしいよ」

「それは多分ビタミンDだけどな。人は体内でビタミンC生成しねぇんだよ」

「そーなの?」

「ああ。ちなみにビタミンDは週二回三十分くらい日光に当たるだけで十分作れるらしい。よってわざわざ家から出る必要性はねぇんだ」

「詳しいね、八幡。何でそんなこと知ってるの?」

 

 ペガは普通に問い返すが、結衣は八幡に対して若干引く。

 

「ヒッキー、健康マニアなの? キモい……」

「……昔、親に同じようなことを言われたから調べたんだよ」

「そこまでして家から出たくないんだ……」

「引きこもりくんらしいわね」

「ほっとけ……」

 

 雪乃の発言に対して八幡が言い返したところで、再び会話は途切れてしまった。沈黙が部室を支配する中で、ペガと結衣は身を寄せ合ってひそひそ囁き合う。

 

「……二学期に入ってから、ずっとこんな感じだね……」

「うん……。前ならもっと、自然な感じで会話も続いてたのに……」

 

 二人は内緒話をしているつもりだろうが、静寂な空間では声が響くので、八幡の耳に入っていた。雪乃にも聞こえているだろうが、彼女もあえて聞こえないふりをしている。

 奉仕部は二学期になってから、誰かが話をしようとして、しかし長続きせずに途切れ途切れになってしまう、というちぐはぐな状況が続いていた。特に八幡と雪乃の間が、表面には出ていないがぎくしゃくしている。――こんな状況は、花火大会から端を発していた。

 ペガははぁと息を吐いてから、窓ガラスの向こう側に見える、どんよりとした雲が立ちこむ空模様を見やった。

 

「雲行き、本当に怪しくなってきたな……」

 

 

 

『融合獣総武高校に迫る!』

 

 

 

 総武高校の二学期最初の学校行事は文化祭だ。各クラスのホームルームでは既に出し物の話し合いが進められており、文化祭実行委員会が立ち上げられて、各クラスから男女二名ずつ選ばれた実行委員が今年の文化祭を成功させるべく業務に当たる。

 そして二年F組の男子の実行委員となったのが、

 

「はぁ……何でこんなことに……」

 

 誰であろう、比企谷八幡であった。

 実行委員の仕事の終わりに、人気のない廊下でMAXコーヒーをすすりながらため息を吐いていると、ペガが影の中から顔を出して苦言を呈した。

 

「それは八幡が役割分担のホームルームサボるからだよ。ちゃんと出てれば、お断りしますって言えただろうに」

 

 八幡は文化祭の役割を決める話し合いの時に、仮病を使って保健室で居眠りをしていた。すると一番やりたくなかった実行委員任命されていたのだ。やる気のない自分なら推薦されることはないだろうという考えは甘かったらしい。

 

「前々から思ってたけど、八幡は何事にも積極性に欠けるのがいけないところだよ。それで損してること多いでしょ」

「いや、あれ決めたの平塚先生らしいし、いたところで同じだったと思うんだが……」

「もう、言い訳しないの。そういうところも欠点だと思うよ」

 

 ペガに説教されて、顔をしかめてコーヒーをすする八幡。呼吸を整えてから話題をすり替える。

 

「実行委員にされたのはまぁいいさ。それよか問題なのは、仕事量だよ。日に日に増えてって、全く嫌になってくる。休む奴も徐々に増えてってるしよ」

 

 八幡の実行委員会での役職は記録雑務なのだが、文化祭が近づくにつれて他の委員の仕事も肩代わりすることが多くなっていた。他の委員の欠席が目立ち、出席している者たちでカバーしないと委員会が回らなくなってきているからだ。

 それというのも、今年の実行委員長となった相模南の出した方針が原因だった。紆余曲折あって彼女は「実行委員もクラスの出し物を優先する」という提案を出し、その影響で実行委員を欠席する者が続出するようになったのだ。その皺寄せは、八幡のようにクラスでの仕事が少ない者や生徒会役員に来ている。今だって下校時間ギリギリだ。

 八幡がそのように唱えると、ジードが悩ましい声を発した。

 

『こんな調子でここの文化祭、大丈夫なのかな……。特に雪乃のことが心配だよ。雪乃、ちょっと働きすぎじゃないかな?』

「だよね……。何か最近疲れてるように見えるし、大丈夫かなぁ……」

 

 ジードの言葉にペガも同意する。

 雪乃は副委員長となったのであるが、同時に彼女は奉仕部に来た相模の「実行委員としての仕事をサポートしてほしい」という依頼も受けていた。それで誰よりも実行委員の仕事をこなし、遅れがちになってきている委員会の進行を相模に代わって挽回している状態が続いているのである。

 これをジードたちは苦々しく思っていた。

 

『やっぱり最近の雪乃、ちょっと様子がおかしいよね。いつもなら相模さんのあんな頼みは引き受けないはずだよ』

「うん。雪乃自身が口にした、奉仕部の精神から丸っきり外れてるよ。今は、雪乃が何もかもやっちゃってる。それじゃ相模さんの成長はないはずだ」

 

 ジードとペガの相談を、八幡はただ黙って聞いていた。

 

『やっぱりさ、今の状況をどうにか変えないといけないと思うんだ。少なくとも、今実行委員から離れてる人たちを呼び戻さないと』

「だね! 八幡、生徒会長の城廻さんに相談してみてよ。彼女を通して相模さんを説得して、みんなに働きかけてもらえば……」

 

 というペガの提案に、八幡は即行で返した。

 

「そりゃ無理だろ」

「な、何でさ」

「そりゃ俺だって、俺に仕事押しつけて楽してる奴がいるってのは許せねぇ。けど、あの相模が、言って聞くように見えるか?」

「そ、それは……」

 

 口ごもるペガ。八幡は、相模が実行委員長になったのは己の虚栄心を満たすためだけで、本気で文化祭を主導する気はないと見ており、その見解はペガたちも同じであった。

 

「第一、やる気のない奴を働かせたところで逆にロスが増えて逆効果になるかもしれねぇし、それだったら最初から一人でやる方が効率いいだろ」

「そんなの分からないでしょ。みんなでやればはかどることの方が断然……」

 

 ペガの言葉を、八幡はやや感情的にさえぎる。

 

「みんなでやることはいいことで、一人でやることは悪いことなのか?」

「え?」

「どうして、一人でも頑張ってきた奴が否定されなきゃならないんだ。そいつの頑張りは、何もかも間違いなのかよ」

 

 八幡の妙な迫力に、ペガは思わず押し黙ってしまった。

 だが代わりに、ジードが言った。

 

『……別に、一人で頑張ることが悪いとか間違いとか、そんなことを言うつもりじゃない。だけど……』

「ん……?」

『僕の場合は……一人だったら、確実に今ここにはいなかった』

 

 突然のジードの言葉に、八幡は虚を突かれてしばし呆然とした。

 

「……ジード……?」

『……ああいや、今は関係ないことだったね。ごめん、今のなしで』

 

 ハッと我に返ったジードが撤回し、とりなすように八幡に呼びかける。

 

『ともかく、今実行委員が苦しいということは確かなんだから、城廻さんにだけでも明日に相談して、ちょっとでも改善してもらうようにはするべきだよ。八幡だって、負担が軽くなるに越したことはないだろ? ジーッとしてても、ドーにもならない』

「まぁ、それはそうだな……」

 

 ジードの提案に八幡は呆気にとられながらもうなずき、時間も差し迫ってきたので今日のところはこのまま下校していった。

 

 

 × × ×

 

 

 翌日以降、ジードの言う通りにしてみた八幡であったが、やはりと言うべきか効果は上がらず、むしろ欠席者は増え続けた。既に欠席してもいいという空気が出来てしまったことが大きく響いているようである。それに比例して八幡たちの、特に雪乃の負担が増大していった。

 そしてとうとう、限界が来てしまったようだ。平塚から八幡へ連絡があった。

 

「比企谷。雪ノ下なんだが、今日は体調を崩して休みだ。一応学校には連絡があったんだが、文実の方に連絡は来てないんじゃないかと思ってな……」

 

 

 そして八幡は雪乃の住所を知っている結衣、そして雪乃を心配して合流してきたライはとともに、雪乃の暮らすマンションへと来ていた。見舞いと、彼女に言うべきことがあるために。

 高級なタワーマンションのエントランスのベルを鳴らし、自動ドアを開けてもらって十五階に向かう。そこの一室が雪乃の部屋であった。

 

「どうぞ、あがって」

 

 雪乃当人に迎えられて、三人はリビングに通された。そこで八幡の影からペガも出てきて、彼らをソファに掛けさせたところで雪乃が切り出した。

 

「それで、話って何かしら」

 

 一番に声を発したのは結衣だった。

 

「あ、えっと……今日、ゆきのん休んだって言うから、大丈夫かなって」

「ええ。一日休んだくらいで大袈裟よ。連絡もしていたのだし」

 

 安心させるように返した雪乃だが、結衣はいつもの覇気がまるでない彼女の様子にそわそわとしていた。

 

「一人暮らしだからな。そら心配くらいされる」

「それにすごい疲れてるんじゃないの? まだ顔色悪いし」

「多少の疲れはあったけれど、それくらい。問題ないわ」

「多少じゃないから、今日は休んだんでしょ?」

 

 雪乃のひと言をライハが聞き咎めた。痛いところを突かれて、雪乃は口をつぐんでうつむく。

 

「大まかな事情は聞いてる。雪乃、やっぱり無理しすぎよ。抜本的に委員会の状態を改善するべきね」

「分かっています。だからちゃんと仕事量は割り振ったし、負担は軽減するように」

「それじゃ足りてないから、そんなに疲弊してるんでしょ」

 

 ライハのもっともな指摘に、雪乃は再び口ごもった。

 

「業務に支障が出てるのなら、休んでる人たちを戻して委員会に集中させるべき。それが分からないあなたじゃないでしょう」

「ライハさんの言う通りだよ」

 

 結衣の語気には珍しく、トゲがあった。

 

「あたし、ちょっと怒ってるからね。だからみんなでやった方がいいって言ったのに……」

 

 結衣にそう言われて、流石の雪乃も申し訳なさそうである。

 また結衣の視線は八幡にも向けられた。

 

「ヒッキーにも、怒ってるから。困ってたら助けるって言ったのに……」

 

 八幡の代わりにペガが謝る。

 

「ごめんね、結衣。ペガもいずれこうなるだろうとは思ってたのに……もっと強く八幡に働きかけるべきだったよ」

「……記録雑務にその役職以上のことを望んでいた訳じゃないわ」

 

 かばうように雪乃がそう言ったが、ペガは首を振る。

 

「そういうことじゃないよ。役割とかそんなのなしに、友達として雪乃の間違いを正すべきだったんだ」

「私の、過ち……?」

 

 ペガの言葉に引き続いて、八幡が雪乃へと告げた。

 

「みんなで助け合うなんてのは理想論だ。それで世界は回ってない。だから俺は、一概に人に頼れとか協力しろなんて言わない。――それでも、お前のやり方は間違ってる」

「……じゃあ……正しいやり方を知っているの?」

「知らねぇよ。だけど、お前の今までのやり方と違ってるだろうが」

 

 八幡に続いて、ジードも雪乃に呼び掛ける。

 

『雪乃、君の掲げる奉仕部の理念は、飢えている人に魚の釣り方を教えるだったね。今の君のやってることは、魚を取って与えることだ。……どんな時でも、初心を忘れちゃ駄目だよ』

 

 ジードたちの説得を受けても、雪乃の顔には迷いが大きく残っていた。結衣はそれを払拭しようと、懸命に言葉を紡ぐ。

 

「ゆきのん、あたしとヒッキーを頼ってよ。誰かとかみんなとかじゃなくて……。あたしたちを頼って? あたしは、その……何が出来るって訳でもないんだけど。でも、ヒッキーは」

「……お茶も出さずにごめんなさい。紅茶でいいかしら」

 

 しかし雪乃は最後まで言わせずに、背を向けてキッチンに向かう。

 

「手伝うわ。一日休んだからと言って、身体は大事にしないと」

 

 ライハが雪乃の後を追いかけて、結衣は意気消沈した様子でソファに座り直した。

 ライハが紅茶のセットを運んできて、誰もが無言のまま飲み干すと、八幡がカップをテーブルに置いて立ち上がった。

 

「じゃあ、俺は帰るから」

「え、あ、あたしも……」

「私はもう少し残るわ。雪乃の容態、ちゃんと確認しないとね」

 

 ペガを影に入れた八幡と結衣が玄関に向かい、雪乃は二人を見送りに立つ。だが結衣が靴を履いているところに、そっと首筋に触れて呼び掛けた。

 

「由比ヶ浜さん……その、今すぐは、難しいけれど。きっといつか、あなたを頼るわ。だから、ありがとう……」

「ゆきのん……」

「でも、もう少し考えたいから……」

「うん……」

 

 雪乃の手に自分の手を重ねる結衣。二人が互いの温度を確かめ合っていると、八幡が立ち上がってドアノブに手を掛けた。

 

「由比ヶ浜、あとよろしく」

「え、ちょ」

 

 有無を言わせずに結衣を残して、ドアを閉める八幡。それからペガが八幡に尋ねかけた。

 

『八幡……どうするの?』

 

 八幡はマンションのエレベーターへと向かいながら、それに答えた。

 

「『いつか』なんて待ってたら、文化祭終わっちまうだろ。やるなら、『今』しかない」

『じゃあ!』

 

 ペガが弾んだ声を出した。八幡はおもむろにうなずきながら、もう姿の見えない雪乃に向けながら独白した。

 

「お生憎だったな、雪ノ下。お前の事情なんか知ったことか。俺は俺がしたいと思ったことをする。したいと思ったことだけをやる。後はお前が勝手に助かれ。それが俺のやり方だ」

 



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融合獣総武高校に迫る!(B)

 

 翌日には、雪乃は登校して実行委員にも出席した。しかしやはり疲れが残っているようであったし、見たところ結衣に助けを求めたようでもない。

 そのため、八幡は彼女に対して急襲を掛けた――。

 

「――さっきのあれは何?」

 

 その内容について、その日の実行委員の会議後に雪乃が八幡にストレートに問いかけた。

 

「何が」

「あの救いようのないスローガンよ。わざわざあんな敵を作るようなことを言って」

 

 今日の会議では、文化祭のスローガンをどうするかが話し合われたのだが、他の人たちは『友情』『努力』『勝利』だののありきたりな言葉を並べたもの、相模からは『絆 ~ともに助け合う文化祭~』などという綺麗事を出す中で、八幡はあえて『人 ~よく見たら片方楽してる文化祭~』という文実の現状を皮肉ったものを出したのであった。

 そのせいで空気が悪くなり、雪乃がスローガンの決定を次の日に先延ばしにする結果となったのであるが――八幡のスローガンを契機に、雪乃はどこか晴れ晴れとした表情になっていた。

 

「雪乃、あれは八幡が今の文実を改善するためにやったことだよ。あんまり責めないであげて」

『うん。八幡なりに真剣に考えた末のことなんだから』

 

 八幡が答えるより早く、ペガとジードが雪乃に弁解した。それに八幡は意外そうな顔となる。

 

「あんな最低なこと言った俺をかばってくれるとは思わなかったな。めぐり先輩からもあれには失望されたってのに」

『確かに言い方はアレだったけどさ、時には言いにくいことをズバリ言うのも大事なことさ。現に、あれを言ってからたるみ切ってたみんなの表情が変わってた』

 

 ジードの言う通り、会議前にはほとんどの実行委員が不真面目な様子であったのに、八幡が「人の仕事押しつけられてる」と口にすると、皆その言葉が胸に突き刺さったような顔つきとなっていた。彼らは八幡のひと言によって、無意識に目をそらしていた現実の問題と直面させられたのである。

 

「うん。きっと明日からは文実の空気は一変するはずだ。雪乃ももう無理しなくて済むはず。上手いことやったね、八幡」

『――ただまぁ、もっと上手いやり方があったような気がしなくもないけどね。あそこまで悪役ぶらなくてもよかったんじゃないの』

「残念。あれが俺流なんだよ」

 

 褒めながらも咎めるジードにぶっきらぼうに言い返す八幡。その態度に雪乃が苦笑。

 

「別に責めるつもりはないわ。ただ、呆れるくらい変わらないわねってだけで」

「人間そうそう変わる訳ねぇだろ」

「特にあなたは元々変だものね」

「おい、ひと言多いぞ」

 

 長らくやっていなかったやり取りをして、雪乃がくすっと笑った。

 

「あなたを見ていると、無理して変わろうとするのが馬鹿らしく思えてくるわ」

「うんうん。無理しないのが一番さ。雪乃はそのままで十分素敵な人だよ」

「あら、口説いてくれているの? ありがたいけど、誰かとつき合うとかいう気分ではないの」

 

 冗談まで口にしながら、雪乃は八幡を連れて会議室を出て施錠した。

 

「それじゃ、私は鍵を返しに行くから」

「ああ、じゃあな」

「ええ、さよなら。……また明日」

 

 雪乃は最後に、わずかに逡巡してから控えめにそうつけ加えた。

 

『うん、また明日!』

『また明日ね!』

 

 ジードとダークゾーンに引っ込んだペガはすぐに返事をしたが、八幡は少し遅れてから返事した。

 

「……。また明日な」

 

 

 × × ×

 

 

 ペガの言葉通り、その次の日からは、文化祭実行委員はそれまでの緩み切っていた空気が嘘だったかのように結束し直し、皆各自の仕事に打ち込んで作業の遅れを急ピッチで取り戻し始めた。八幡の狙いは、見事功を奏した訳であった。

 八幡も他人の仕事を押しつけられることはなくなったが……元々の遅れのせいで本来やるべき仕事が溜まっていたので忙しさはそう変わらず、それどころか周りに悪印象を作ってしまったせいで周囲と溝がある中で作業する、そんないたたまれない状況になってしまっていた。

 

『報われないなぁ……。みんな、八幡をきっかけにやる気を出したのに、そのことに気づいてくれないなんて』

 

 貴重な合間の休憩時に、ペガが八幡を不憫に思ってため息を吐いた。だが当人は気にしていないという風を装う。

 

「はッ、そもそも深刻な遅れを言われねぇと自覚しないようなおつむの足りない連中には初めから何も期待してねぇさ」

『またそんな悪ぶったこと言って。そういう斜めに構えた態度がよくないんだよきっと』

「うっせぇなぁ。いつも思うけどお前ら俺の親かよ。実の親からもこんなに説教されたことねぇけどさ……」

 

 などとジードとペガに言い返しているところ、ふとトイレからの帰りに、階段の踊り場で雪乃がめぐりと立ち話しているところに出くわした。向こうはこちらに気がついていない。

 

「雪ノ下さん、身体はもう治ったんだね。昨日までどこか疲れた様子だったから、心配してたんだよ」

「はい。もう大丈夫です。ありがとうございます」

「うん。ほんとに身体には気をつけなくちゃ駄目だよ」

 

 盗み聞きする趣味もない。八幡はそのまま通り過ぎようとしたのだが――。

 

「私も最近何だか風邪気味っぽくて。手が変に熱いの」

 

 聞こえてきためぐりの言葉に、ピクリと足を止めた。

 

「えっ……」

 

 雪乃も言葉をなくしている。めぐりはそれに気づかず、のんきに話し続けた。

 

「でも手が熱いだけで他はどこも悪くないんだよね。これどういう症状なんだろう……って、意識したら鼻が……」

 

 吹き込んだ秋風がめぐりの鼻をくすぐり、彼女は咄嗟に雪乃から顔をそらした。

 

「くしゅんっ!」

 

 かわいらしいくしゃみとともに――ボウッ! と、めぐりの手の平から炎が生じた。

 

「!!」

「きゃあああっ!?」

 

 驚愕して固まる雪乃と八幡。めぐりは自分が出した炎に、流石に仰天して悲鳴を発した。

 八幡たちはこれが何なのか当然分かっている。――リトルスターだ。

 

 

 × × ×

 

 

 ちょうどその時、レイデュエス一味が遠方から双眼鏡を使って総武高校を――総武高校から伸びている、めぐりのリトルスターの光の柱を観察していた。

 

『殿下、ジードの奴がいる教育機関からリトルスターが』

「言われんでも分かってる」

 

 レイデュエスは双眼鏡を下ろして肉眼でリトルスターの光を確認。

 

「何かこの土地の周辺でばかり発症者が出てないか? まぁいいが……やることは一つだけだ。宇宙指令T17!」

 

 ニヤリと口の端を吊り上げながら、レイデュエスが二つの怪獣カプセルを取り出す。

 

「イッツ!」『ケエエオオオオオオウ!』

「マイ!」『ギャアアアアアアアア――――――!』

「ショウタイム!!」

フュージョンライズ! バードン! ザンボラー!

レイデュエス! ヴォルカニック・ザンバードン!!

 

 

 × × ×

 

 

「な、な、何なの……!?」

 

 己が出した炎によってめぐりは腰を抜かし、へなへなとその場に崩れ落ちた。普段はほんわかとしている彼女でも、この異常には度肝を抜かれたようだ。

 

「城廻先輩、落ち着いて下さい……!」

 

 雪乃は気が動転している彼女をどうにかなだめようとしている。そこに駆けつけた八幡は、雪乃と目が合うとめぐりに聞こえないように囁き合った。

 

「比企谷くん、先輩にリトルスターが……」

「分かってる。すぐにゼナさんたちに連絡をして……」

 

 と言いかけた八幡だったが、それをさえぎるように校舎の至るところから生徒たちの悲鳴が轟いた。

 

「きゃああああああ――――――! 怪獣っ!」

「! くっそ……もう来やがったのか……!」

 

 八幡と雪乃は急いで廊下の窓側へと駆け寄り、外を見やる。

 怪獣の姿はすぐに、こちらに向かって滑空してきている場面で見つけた。赤い羽毛を生やしたドラゴンのような肉体で、翼はずんぐりした胴体とは不釣り合いなほど小さいがスピードは速い。首には赤い結晶型のトサカと太く鋭いクチバシを持っている。バードンとザンボラーという火と熱の怪獣同士によるレイデュエス融合獣、ヴォルカニック・ザンバードンだ!

 

「ケエエオオオオオオウ! ギャアアアアアアアア――――――!」

「ちッ……あのスピードじゃすぐにここ襲われるぞ……!」

 

 舌打ちする八幡。つまり時間の猶予がないということで、八幡は即座に雪乃とともに人の姿がない校舎の死角に飛び込んだ。雪乃はレム伝手に結衣へと、めぐりのことを託す。

 

「あの、比企谷くん……」

 

 雪乃は若干ためらいを覚えていたが、八幡はそれをさえぎるように呼び掛けた。

 

「ボヤボヤすんな。敵が来るんだぞ」

「……ええ、そうだったわね」

 

 その言葉を読み取った雪乃が、表情を変えた。

 そして二人は手早くウルトラカプセルを装填ナックルに収めて、ジードへと変身!

 

[フュージョンライズ! ウルトラセブン! ウルトラマンレオ!]

[ウルトラマンジード! ソリッドバーニング!!]

「ドォッ!」

 

 ジード・ソリッドバーニングが校舎を抜けて飛び立ち、猛然と向かってきているザンバードンにこちらから飛びかかった。

 

「ダァッ!」

「ケエエオオオオオオウ! ギャアアアアアアアア――――――!」

 

 相手のクチバシをはっしと掴んで、地上へと引きずり下ろす。ジードに止められたザンバードンは地表に叩きつけられて、ジードごとゴロゴロと転がったがすぐに起き上がる。

 

「ケエエオオオオオオウ! ギャアアアアアアアア――――――!」

 

 ザンバードンは標的を総武高校からジードに移すと、クチバシを前に突き出してジードに振るってくる。それを咄嗟にかわすジードに、レムからの忠告が入る。

 

[相手のクチバシは鋭利な上に、毒が含まれています。一撃でも食らわないようお気をつけ下さい]

『「一撃でもか……! そりゃちょっときついかもな……!」』

 

 皮肉げに笑う八幡。ソリッドバーニングは機動力についてはあまり優れてはいない。

 それでもザンバードンのクチバシ攻撃を払いながら反撃に転じた。

 

「ドォッ!」

「ケエエオオオオオオウ! ギャアアアアアアアア――――――!」

 

 相手のボディに拳を叩き込んで押し返す。ザンバードンがひるんだ隙にスラッガーを腕にジョイントした。

 

『ブーストスラッガーパンチ!』

 

 ジェット噴射を伴った一撃を繰り出す! が、ザンバードンはその瞬間飛び上がって回避。

 

『「ちッ、スピードもなかなかのもんじゃねぇか……!」』

 

 舌打ちする八幡。攻撃が危険で、動きも速い。単純故に強いタイプだ。

 

「ケエエオオオオオオウ!」

 

 クチバシを突き出して飛び込んでくるザンバードンを、バク転でかわすジード。戦いは一進一退である。

 

(♪燃える大東京)

 

 そう思われたが、着陸したザンバードンの結晶状のトサカが一瞬光ると、目に見えない速度で熱波を飛ばしてきた!

 

「ドアァッ!」

『「うわぁぁッ!?」』

 

 熱と衝撃を正面から食らって大きくよろめくジード。炎の形態のソリッドバーニングでも耐え切れないほどの、凄まじい威力であった。

 それだけではない。周囲に無差別に飛ばされた熱波は、戦場の町の建物を発火させ火災を引き起こす。総武高校にも。

 

「きゃあああああ――――――!」

「うッ、うわあああ! 火事だぁぁぁぁぁぁッ!」

『「ああっ!? 学校がっ!」』

 

 聞こえてくる生徒たちの悲鳴に、雪乃が焦った声を上げた。このままでは学校が、文化祭の準備ごと灰になってしまう。

 

『「くッ……!」』

 

 八幡が焦燥を噛みしめる。ジードはザンバードンの暴虐を止めようと飛びかかるものの、

 

「ケエエオオオオオオウ! ギャアアアアアアアア――――――!」

「グゥッ……!」

 

 動きを止められたジードが、ザンバードンの羽で殴り飛ばされた。

 

「ウワァッ!」

 

 ザンバードンの戦闘能力の高さに追いつめられていくジード。その間にも、周囲の町並みが火の手に覆われていき、人々の悲痛な悲鳴が数を増していく。

 

「い、いやぁぁぁぁっ! 熱い……!」

「助けてくれぇ……!」

「ま、待って! 置いてかないでよ!?」

「うるせぇッ!」

 

 ジードもまたザンバードンの火炎になぶられ、カラータイマーが危機を報せている。

 

「ケエエオオオオオオウ! ギャアアアアアアアア――――――!」

『「く、くそッ……!」』

 

 崖っぷちの窮地。その時、

 

「頑張って、ジードさん!」

 

 結衣に助けられて校庭に出ためぐりが、ジードに向かって叫んだ。

 

『「先輩……!」』

 

 めぐりは苦しめられるジードを懸命に応援する。

 

「ここであなたが倒れたら、みんなの今までの努力が灰になっちゃうんです!」

 

 腕を広げて、文化祭の飾りつけが進められている校舎を示すめぐり。色々問題の続いた文化祭であるが、それでも多くの生徒が楽しみにして準備をしてきていることには違いない。めぐりはそんな総部高校を愛している。

 

「どうか……私たちに、未来を示して下さいっ!」

 

 めぐりの祈りの言葉とともに……彼女の胸からリトルスターが分離し、ジードのカラータイマーへと吸い込まれ、八幡のカプセルホルダーに入り込んだ。

 めぐりのリトルスターが入ったカプセルを引き抜く八幡。菱形のカラータイマーのウルトラ戦士の絵柄が浮かび上がる。

 

『セアッ!』

[メビウスカプセル、起動しました]

 

 レムが報告し、八幡と雪乃は大きくうなずいた。

 

[カプセルの交換を推奨します]

『「よっしゃ!」』

 

 八幡たちは意気込んでレムの指示したカプセル二つを起動していく。

 

『ユーゴー!』

『セアッ!』

 

 雪乃が一つ目のカプセルのスイッチをスライドし、ウルトラマンメビウスのビジョンが腕を振り上げた。

 

『アイゴー!』

『タァーッ!』

 

 次いで八幡が二つ目を起動。胸と肩に勲章を並べた戦士、ゾフィーのビジョンが腕を振り上げる。

 

『ヒアウィーゴー!!』

 

 装填ナックルに二つのカプセルを押し込み、ジードライザーでスキャン。

 

[フュージョンライズ!]

『ジィィィ―――――――ドッ!』

 

 メビウスとゾフィーのビジョンが八幡たちと重なり、ジードが姿を変える!

 

[ウルトラマンメビウス! ゾフィー!]

[ウルトラマンジード! ファイヤーリーダー!!]

「テアッ!」

 

 まばゆい輝きと光のメビウスの輪を抜けて、赤と青の螺旋の中から新しい姿のジードが飛び出していく!

 

「ケエエオオオオオオウ! ギャアアアアアアアア――――――!」

 

 ほとばしる閃光によってザンバードンの目をくらませながら仁王立ちしたジードを見上げる結衣とめぐり。

 

「ジードん! 何か独特な姿になった!」

「ジードさん……!」

 

 今のジードは右半身が赤、左半身が水色という左右非対称の、今までにない特徴の形態となっている。メビウスの炎の力と、ゾフィーの駆使する冷気の力の両極の属性をその身に宿した、ファイヤーリーダーだ!

 

(♪ウルトラ兄弟のテーマ)

 

「ハッ!」

 

 ジードが左腕を伸ばし、早速ファイヤーリーダーの能力を発動。左腕からは冷気が光線状に放たれ、それを周囲に振りまくことによってザンバードンが引き起こした火災を瞬く間に消し止めた。

 

「おおッ! 助かった!」

「ありがとう、ウルトラマンジード!」

 

 命を救われた人々から歓声が沸き上がる。それを一身に浴びるジードの中で、八幡がめぐりを見下ろしつつ苦笑を浮かべた。

 

『「めぐり先輩から頼まれたら、やらない訳にはいかねぇな……」』

 

 顔を上げて視線をザンバードンへ戻すと、気合いとともに見得を切った。

 

『「示すぜ……未来!」』

「ケエエオオオオオオウ! ギャアアアアアアアア――――――!」

 

 全ての火災を鎮火されたザンバードンはいら立ちをぶつけてくるかのように熱波攻撃を仕掛けてきた。しかしジードは、右腕を持ち上げて熱波を手の平で受け止めた。

 

「フッ!」

 

 ファイヤーリーダーの右半身は炎と熱を司る。その力によって、熱波を吸収して無力化したのだ。

 

「ハァッ!」

 

 そして吸収した熱エネルギーは反転変換し、左腕から冷気としてザンバードンにはね返す。

 

「ケエエオオオオオオウ! ギャアアアアアアアア――――――!」

 

 ジードの冷気を正面から食らったザンバードンはみるみる内に凍りつき、動きを取れなくなった。今こそ絶好のチャンス。とどめを刺す時だ!

 

「タァッ!」

 

 右腕を天高く掲げるジード。その手の平から太陽を思わせるような炎の球が生じ、ジードが宙に飛び上がるとともに拡大していく。

 

「『バーニングフロスト!!」』

 

 ザンバードンへ猛然と突貫しながら極大に膨れ上がった火球をぶつける。極低温の状態から超高熱の火の玉をぶつけられたザンバードンは、その衝撃によって粉々に爆散した!

 

「やったぁ―――――っ! 勝ちましたよ先輩! ジードんの勝ちですっ!」

「うん……! ありがとう、ジードさん!」

 

 結衣とめぐりは手を取り合って喜び合う。他の救われた人たちからも、歓声とジードへの感謝の声が上がった。

 

「シュワッ!」

 

 彼らの声を受けつつ、ジードはまっすぐ空に飛び立って去っていった。

 

 

 × × ×

 

 

 ジードの活躍による早期の鎮火によって、総武高校の火災はどうにかボヤ程度で収まった。しかし、それでも文化祭の展示品の一部が燃えて煤となってしまったものがあり、それを作った生徒たちはガッカリと落胆していた。

 

「頑張って作ってたのに……ほんとひどいよね……」

 

 その様子を隠れながら観察した八幡、雪乃、結衣の三人。結衣は大きなため息を吐いたが、それを慰めるように雪乃が呼び掛ける。

 

「けれどまだ取り返しがつく範疇だわ。文化祭当日までには、修繕が完了して展示物が完成するようにこちらからも支援しましょう」

「ってことは、俺の仕事が余計増えるってことじゃねぇか……。くそッ、あの悪党どもめ……」

 

 文実の仕事が増えるということは、それに連鎖して自分のしなければならないことも増加するということに八幡がレイデュエス一味に対する呪詛の念を吐いた。

 そこに、ジードが懸念の言葉を口にする。

 

『これだけで済めばまだいい方だ。文化祭本番に融合獣が暴れる、それが一番の心配だよ……』

「確かに……。あいつらそれやりそうだよな」

 

 同意する八幡たち。その最悪の事態を振り払うように、結衣が八幡と雪乃に強く呼び掛ける。

 

「そんなこと許せないし! ゆきのん、ヒッキー、文化祭だけは絶対守り通そうね!」

「ええ、もちろんよ」

「まぁ、まずは全部の準備を終わらせて問題なく始められるようにするのが先決だけどな」

 

 ジード部の三人は来たる文化祭を守る気概を固め、互いに誓い合ったのであった。

 

 

 × × ×

 

 

 フュージョンライズを解除され、元の星人態に戻ったレイデュエスの元にオガレスとルドレイが参上する。

 

『殿下、ご無事で。またウルトラマンジードの邪魔が入りましたな……』

『いつもいつも殿下に盾突いて、全く忌々しい限りですな!』

 

 ジードへの恨みつらみを吐き出すオガレスとルドレイ。だが肝心のレイデュエスは、何も聞こえていないかのように背を向けたまま肩を震わせた。

 

「ふふふふふ……ハ―――ッハハハハハッ!」

『で、殿下? 如何されましたか?』

『よもや、何度もやられてどこか具合を悪くされたのでは……』

「違うわ馬鹿が! これを見ろッ!」

 

 オガレスを一喝してから、レイデュエスが振り返って手に握っているカプセルを見せつけた。それにより、オガレスたちの目の色も変わる。

 

『お、おお! これはッ!』

「そうだ! 遂にこの時が来たッ!」

 

 レイデュエスの握るカプセルに、火災に襲われた人々の嘆きのエネルギーが吸収され、それによって十字の発光体を持つ漆黒の怪獣の絵柄が浮き上がったのである。

 

「完全復活だ……最早遊びの時は終わりだッ! もうジードの奴に接待する必要もない……。次の戦いが、奴の最期の時となるのだッ!!」

 

 凄惨なほどの笑みを見せつけながら、レイデュエスがウルトラマンジードの終わりを予言した――。

 

 

 

『ウルトラストーリーナビ!』

 

雪乃「今回は『ウルトラマンタロウ』第十七話「2大怪獣タロウに迫る!」よ」

雪乃「東光太郎と健一くんはタケシ少年とともに、タケシの父親が勤める大熊山の地震研究所に遊びに行き、畑からスイカを購入。だけどそのスイカには、大熊山の噴火でよみがえった怪虫ケムジラが潜んでいて、タケシ少年が失明してしまう事態になってしまうの。責任を感じた光太郎とZATはケムジラを退治しようとするけれど、ケムジラはZATガンのエネルギーで巨大化。更に大熊山から出現した怪獣バードンまでやってきて、タロウは絶体絶命のピンチになる……という内容よ」

雪乃「物語が二話にまたがる前後編は何度かあったけれど、この話は三話構成で、これはシリーズで初めてのことだったわ。このことは、元々は普通の前後編の予定だったけれど、光太郎役の篠田三郎さんが多忙で、スケジュール調整のために一話分伸びたからと言われているわね」

雪乃「そのためにバードンが恐ろしいほど強くなって、タロウに続いてゾフィーまで返り討ちにするという異例の事態を起こしているわ。このせいでゾフィーはネタキャラのようになってしまったのだけれど……」

ジード『だけどゾフィーさんはウルトラファイトオーブで見事バードンに対するリベンジを果たしてるぞ! 要チェックだ!』

雪乃「では、また次回でお会いしましょう」

 




「突然だが、今日はお前たちにお別れを言いに来た」
「つまり――お前たち全員、今日で命が終わりになるということだよ」
「俺が最初から『あのカプセル』を使っていたら、お前らなんぞにつき合ってやる必要すらなかった」
「あの時に使用してた怪獣カプセルが、やっと再起動を完了したのさ!」
「終わりにしに来たという訳だ。……この遊びの日々を、お前らの命をッ!」
「今見せてやるさ! このレイデュエス様の、最強の力をッ!」
「宇宙指令M49!」
「イッツ!」
「マイ!」



次回、『彼らの明日に待ち受けているのは、絶望の暗雲なのか。』



「ショウタイム!!」



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彼らの明日に待ち受けているのは、絶望の暗雲なのか。(A)

 

 とある日のテレビのワイドショーで、ジードの特集が組まれていた。

 

『どこからともなく現れて、怪獣の脅威から私たちを救う謎の超人ウルトラマンジード! 姿を変え、武器を変え、目覚ましい活躍を見せるジードを支持し、応援する声は日に日に増えていってます』

 

 ナレーターの女性はジードを好意的に解説したが、その隣のコメンテーターの中年男性の学者は次のように言った。

 

『ですが、彼は危険な存在でもあります!』

『それは何故です?』

 

 聞き返したナレーターに、学者は語る。

 

『仮にあの力が私たちに向けられた場合、対抗する手段がありません。そもそも、ウルトラマンジードが本当に地球人のために戦っているかは不明瞭です。巷では、怪獣の出現はジードによる自作自演ではないかと疑う声もあります。何にせよ、怪獣撃退をジードに頼る現状は極めて危険であると言わざるを得ませんな……』

 

 ワイドショーの録画が、途中で結衣の手により止められて画面が消された。

 ここは星雲荘。八幡たちは今しがた、結衣が持ってきた録画を見せられていたのだ。

 

「これ! ママがこんなのあったって教えてくれたんだけど……ひどいと思わない!? あたしたち一生懸命やってるのに、自作自演だとか勝手なこと言ってくれちゃって! ほんと頭に来ちゃうよ!!」

 

 結衣は番組で語られたことにぷりぷりと怒る結衣とは対照的に、雪乃や八幡は意外なほど冷めた反応を見せていた。

 

「確かに不快であることには違いないけれど、だからと言って声高に批判を口にしたところで、こういうのはどうしようもないわ。所詮人は、自分が聞きたいと思うものしか聞き入れない都合のいい耳をしているのだもの」

「言いたい奴には言わせとけばいいんだよ。いくら言い訳したって、色眼鏡で見る奴は偏見でしか受け取らねぇからな」

「う~、それはそうかもしれないけど……」

 

 うなる結衣。二人の言い分は理解できても、感情では納得がつかないようだ。

 

「ジードんたちはどう思う?」

 

 ジードらに意見を求めると、彼らはこう答えた。

 

『まぁ、いい気分じゃないのは確かだけど……こんなこと言われるのも初めてじゃないんだ。僕たちの世界でも、同じことを言われたことがあるよ』

「結局、どこの世界でも人間は未知の存在を受け入れがたいものなのね」

「ペガは、結衣の気持ち分かるけどね……。リクたちが頑張ってるのに、心ないこと言われるのはやっぱり納得いかないよ……」

 

 ある種達観しているジードやライハとは異なり、ペガは複雑な様子で目を伏していた。

 レムが結衣に対して呼びかける。

 

[憤りを感じるのも当然です、ユイ]

「れむれむ……」

[ですが、言葉で取り繕うよりも行動で物語る方が人の心には響きます。リクも、初めは拒絶されていたのが地道な活躍を重ねることで支持されるようになりました。同じように、焦らずに辛抱強く過ごしましょう]

 

 レムの説得で、結衣もようやくうなずいた。

 

「……分かったよ。ジードんが認められるように、ジード部も頑張っていこうね!」

 

 結衣の呼びかけにうなずいた雪乃が口を開く。

 

「まずは、文化祭を無事に終わらせることを目指しましょう。私たちの敵は、今までの行動からして、きっと必ずまたちょっかいを掛けてくるでしょうから」

「文化祭か……」

 

 八幡が若干遠い目で虚空を見上げた。

 文化祭は、本番の日までいよいよ残り日数がわずかになってきていた。

 

 

 

『彼らの明日に待ち受けているのは、絶望の暗雲なのか。』

 

 

 

 ――文化祭本番まであと四日となった。生徒たちの準備もいよいよラストスパートが掛かり、高校全体が熱を帯びている。

 二年F組も、出し物である『星の王子さま』のアレンジの演劇の舞台作りと練習が並行して行われている。

 

「今晩……君は、来ちゃいけない」

「ぼくたちはずっと一緒だ」

 

 舞台上で台詞合わせをしている葉山ら男子生徒たちとはよそに、実行委員のため舞台には出演しない八幡が、委員会の前にクラスの様子を観察していた。

 

『色々ドタバタしてたみたいだけど、なかなか形になってきてるね』

「まぁな」

 

 話しかけてきたジードに小声で返す八幡。二Fの舞台準備は指揮を執る海老名の強いこだわりによって連日大忙しだったようだが、その甲斐はあってかなり凝った出来に仕上がっているのが準備段階から窺える。この調子ならば、本番は盛況することであろう。

 

『文実の方は色々と問題があったけれど……それでも本気で文化祭を盛り上げたい、成功させたいって人は少なからずいるんだ。その思い、守らなくちゃいけないよ、八幡』

「……まぁ、どんな時だろうとやることは一緒だろ」

 

 ジードの呼びかけに、あえてそっけない感じで返答した。これまでのレイデュエスの行動パターンからして、文化祭本番を狙って攻撃してくる恐れが濃厚。当日は、いつでも迎撃できるように心の用意をしておかなくては。

 そのことを確認しながら、八幡は準備に熱心なクラスからそっと離れて委員会へ向かう。その道中は、どの教室も熱気で溢れていた。

 

 

 熱気に包まれているのはクラスだけではなく、実行委員会も同じであった。八幡の行動以来、委員会は人が戻ってそれまでの遅れをすっかりと取り戻し、今は本番に向けた最終調整の段階に入っている。

 八幡は記録雑務の仕事を進めながら、そんな委員会全体の様子をざっと見回した。一番働いているのは依然として雪乃。その横では相模が人形のようにちょこんと座っている。生徒会長のめぐりは他の委員たちと打ち合わせをしている。

 それを見やりながら、八幡はふとつぶやいた。

 

「そういや、最近陽乃さん来ねぇな」

『言われてみればそうだね』

 

 相槌を打つジード。陽乃は文化祭準備の初期から、外部の有志団体として文実に顔を出す日々が続いていた。頼まれもしないのにこちらの仕事を手伝ってもいた。しかし数日前より、ぱったりと顔を見せなくなった。

 あくまで有志なのだから別に頻繁に出席する必要はない、むしろ今まで当然のようにいたのがおかしいくらいなのだが……あの陽乃が急に現れなくなった、ということが八幡の中では少し引っ掛かっていた。雪乃も、表向きはせいせいしたような顔をしているが内心では気にしているのが見て取れる。一体陽乃はどうしたのであろうか。

 

「……まぁ、あの人にだって都合ってもんがあるだろうしな」

 

 八幡はそうつぶやいて、無理矢理己を納得させた。

 

 

 × × ×

 

 

 その頃、当の陽乃は、ゼナとAIBエージェントのペダン星人とともに、総武高校周辺地域の警戒を行っていた。レイデュエス一味がこの付近に出没する可能性が高いとして、捜索をしているのだ。

 

『……陽乃、少し悪いことをしているだろうか。人手不足とはいえ、連日我々の任務に駆り出して。今は妹の活動を手伝っていたのだろう』

 

 その中でゼナがふと思い出したように陽乃に問いかけると、陽乃はひらひら手を振りながら断った。

 

「いえいえ、いいんですよ~。雪乃ちゃんの方はもう大丈夫みたいですし。比企谷くんのお陰でね。だからわたしは、雪乃ちゃんの文化祭を邪魔するような悪い奴にはとっととお帰りいただくことの方に専念しますっ!」

『大分力が入っているみたいだな』

「そりゃあもう! ……雪乃ちゃんの頑張りや楽しみを踏みにじるような真似は、絶対許さないんだから」

 

 陽乃が一瞬だけ小声で、暗い瞳でつぶやいたのを、ゼナは見逃さなかった。

 鼻歌交じりに先を行く陽乃の背中を見やりながら、ペダン星人がゼナに質問をする。

 

「ゼナさん、前々から気になっていたのですが、臨時とはいえ彼女を積極的に任務に登用しないのはどうしてなんですか?」

『何故か、だと?』

「はい。だって雪ノ下さん、AIB始まって以来の好成績で入局したんでしょう? まぁ、その入局するまでの経緯が経緯ですが……。けど優秀ならもっと多くの場面で活用するべきだと私は思いますが」

 

 と意見するペダン星人に、ゼナは次のように回答した。

 

『私が彼女の登用に消極的な理由。それは端的に言えば……』

「端的に言えば?」

『――彼女が、銃を持たせてはいけない類の人間だからだ』

 

 そのひと言に、ペダン星人は一瞬固まった。

 

「……は?」

『もっとも、そのことは陽乃自身が一番分かっていることだろうがな』

「え、えぇ……?」

 

 ゼナが何を言っているのか、ペダン星人には理解が及ばなかった。

 それをよそに、ゼナは通信機を取り出して別動隊と連絡を取り始める。

 

『定時連絡。B班、そちらは異常ないか? うむ。C班、報告せよ。……よし』

 

 他の班からの報告を受けていくゼナだったが、その流れが途中で止まる。

 

『D班、どうした。何故定時連絡をしない。応答せよ』

 

 ゼナの不審な様子に、陽乃の足がピタリと止まった。

 

『応答せよ、D班! ……まずいッ!』

 

 ゼナもD班の異常に声を荒げ、陽乃と動揺しているペダン星人に振り返った。

 

『総武高校に急ぐぞ!』

「は、はいッ!」

「……了解」

 

 踵を返したゼナを先頭に、三人は総武高校に向けて急行し始めた。

 

 

 ――ゼナが通信を掛けたD班のエージェントたちは、路地裏のゴミ捨て場の陰に押し込まれて人の目から隠されていた。

 彼らの身体の下に、赤い水たまりが広がっていた。

 

 

 × × ×

 

 

『……ッ!』

 

 八幡はひたすら議事録を打っていると、ジードの意識が不意にざわついたのを感じ取った。

 

「おい、どうしたんだ?」

『八幡……!』

 

 何事かと尋ねかけると、ジードが焦った口調で告げる。

 

『レイデュエスが近づいてる! しかも得体の知れない気配を伴って……!』

「何だって……?」

『ペガも感じたよ!』

 

 ダークゾーンの中からペガも言った。

 

『ここからでも分かる、明らかにやばい感じ……! 多分、ペガたちに分かるようにわざとそうしてる……!』

「それどういうことだよ……?」

『とにかく、今までとは様子が全然違うってことだ! きっとこれまでになくやばい……すぐに向かって!』

「ち、ちょっと待ってくれって……」

『急いでッ!』

 

 戸惑う八幡だったがジードに急かされて、仕方なく雪乃に視線で合図を送りながら席を立った。

 

「ごめんなさい、少し席を外すわ」

 

 合図を受けた雪乃もひと言断りを入れてから、速足で会議室から離れていった。突然、雪乃と八幡が示し合わせたように同時に会議室から出ていったことに周りはぽかんとしていたが、八幡たちにはそれに構っている暇もなかった。

 

 

 × × ×

 

 

 途中、レムから連絡を受けた結衣も加わり、八幡たちは人目のない校舎裏に駆けつけた。

 そこでは、レイデュエスがオガレスとルドレイを側に控えさせながらニヤニヤと八幡たちを待ち構えていた。

 

「ふふふ……そろってるようだな」

 

 八幡たち三人が面前に現れると、レイデュエスはもったいぶった態度で口を開いた。八幡たちは彼を激しくにらみつける。近くにはライハも待機しており、レイデュエスたちが怪しい動きを見せたらすぐに飛び出せるようにしている。

 

「まさかここに乗り込んでくるなんてね……」

「何しに来たの! ここのみんなに手を出すつもりなら、許さないんだからねっ!」

「こちとら今忙しいんだよ。それに学校は部外者立ち入り禁止なんだ。とっとと失せやがれ不審者」

 

 八幡たちは敵意を剥き出しにしてレイデュエスに言い放ったが、レイデュエスは完全に無視して告げた。

 

「突然だが、今日はお前たちにお別れを言いに来た」

「はぁ……?」

 

 いきなりの発言に呆気にとられる八幡たち。それにレイデュエスは大仰に肩をすくめる。

 

「言ってる意味が分からなかったか? つまり――お前たち全員、今日で命が終わりになるということだよ。この俺の手によってな」

「……よくある台詞だが、寝言は寝てから言えよ」

 

 呆れる八幡のひと言に結衣は大きくうなずく。

 

「その冗談ちっとも面白くないよ! あんたなんか、いっつもあたしたちにやられてるじゃん!」

 

 と突きつけると――レイデュエスはあからさまに冷笑した。

 

「ハッ! これだからおつむの足りない奴は困る」

「な、何だってー!?」

「今までは、俺が遊んでやってただけのことだよ。出来損ないの集まりのお前ら相手にな。そんなことも分からなかったのか?」

「こ、こいつぅ……!」

 

 発憤する結衣だったが、それを雪乃が押しとどめる。

 

「待って、由比ヶ浜さん。様子がおかしいわ……いきなりあんなことを言い出したからには、何かしらの理由があるはず。気をつけるべきよ」

「そっちはそれなりに察しがいいみたいだな」

 

 レイデュエスは高圧的な態度で雪乃を評しながら、八幡たちに向かって語る。

 

「そもそも俺が最初から『あのカプセル』を使っていたら、お前らなんぞにつき合ってやる必要すらなかった。だがウルトラマンジード、お前のせいでカプセルが動作不良を起こしてしまってなぁ。再起動するのにマイナスエネルギーを集めなくてはならなくなった。そう、最初の戦いの時のことだ」

「最初の戦い……?」

 

 八幡たち三人はピンと来ていなかったが、ペガが顔を出して言う。

 

「この地球に着陸する前! 宇宙空間でのことだ! 地球に迫るあいつらの円盤を、リクが止めようとした……!」

『……まさかッ!』

 

 ジードの声音に緊張が走る。対するレイデュエスはそれを確認して愉悦を見せた。

 

「そうとも! あの時に使用してた怪獣カプセルが、やっと再起動を完了したのさ! 最終調整も済ませて、満を持して終わりにしに来たという訳だ。……この遊びの日々を、お前らの命をッ!」

「はぁぁぁっ!」

 

 ライハが飛び出してレイデュエスに猛然と斬りかかったが、レイデュエスたちの周囲に張られた力場によって弾き返されてしまう。

 

「くっ……!」

「ライハさん!」

「そう焦るな。今見せてやるさ! このレイデュエス様の、最強の力をッ!」

 

 レイデュエスがバッとジャケットを翻し、腰の装填ナックルを露わにした。

 

「宇宙指令M49!」

 

 叫びながら一つ目の怪獣カプセル――EXゼットンカプセルのスイッチをスライドする。

 

「イッツ!」

『ピポポポポポ……!』

 

 EXゼットンカプセルをナックルに装填し、二つ目のカプセル――ハイパーゼットンカプセルを起動。

 

「マイ!」

『ピポポポポポ……』

 

 ハイパーゼットンカプセルも押し込むと、ブラッドライザーを取り出して掲げる。

 

「ショウタイム!!」

 

 ライザーで二つのカプセルをスキャン。ライザーの液晶に紫色の二重螺旋が光った。

 

フュージョンライズ!

「ハハハハハハハハッ!」

 

 レイデュエスが哄笑を発しながら、暗黒の異空間の中で魔人態に変わりながらEXゼットンとハイパーゼットンのビジョンを口の中に吸い込んでいく。

 

EXゼットン! ハイパーゼットン!

レイデュエス! ダークオーヴァーゼットン!!

 

 レイデュエスが姿を変えた融合獣が、フランス人形とレコードプレイヤーを踏み潰して、八幡たちの目の前にそびえ立つ。

 

「ピポポポポポポ……!!」

 

 漆黒の装甲で覆われた人型の肉体に、太く鋭い爪を持った四肢を生やし、胸部には複数の黄色い発光体と、レイデュエス魔人態の七つの紫の光体を持つ。悪魔の角のような触覚を伸ばした頭部には、普通の顔のパーツの代わりに死を暗示する十字架型の黄色い発光体を張りつけた、禍々しいオーラが全身から立ち昇る巨大怪獣に、レイデュエスは変身した。

 最強の怪獣と最強の怪獣を掛け合わせた、最強のレイデュエス融合獣ダークオーヴァーゼットンが、復活を遂げてしまったのだ!

 



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彼らの明日に待ち受けているのは、絶望の暗雲なのか。(B)

 

 総武高校目指して急行していたゼナたちであったが、AIB専用車両の車内から出現したダークオーヴァーゼットンの威容を目撃して、そろって息を呑んだ。

 

『遅かったか……!』

 

 悔やむゼナ。ダークオーヴァーゼットンからおぞましい気配を感じ取って思わず震え上がるペダン星人。

 そして陽乃は、底の見えないほど暗い瞳で、ダークオーヴァーゼットンを見つめていた。

 

 

 × × ×

 

 

 八幡たちはレイデュエスの変身したダークオーヴァーゼットンのあまりの威圧感に身体が自ずと震え、思わず後ずさっていた。その漆黒の巨体から醸し出されるプレッシャーは、それまでの融合獣の比ではないことがすぐに感じられた。

 ペガが大きく目をひん剥きながら叫ぶ。

 

「あ、あいつ! 宇宙でリクが戦った奴だ! 間違いないッ!」

「あの時の……だったらとんでもなくまずいわよ……!」

 

 ゴクリと息を呑むライハ。そのこめかみには、ひと筋の冷や汗が垂れていた。

 結衣はふと空を見上げて、驚愕で絶叫した。

 

「そ、空が! さっきまで晴れてたのに……!」

 

 快晴だった秋の空が、いつの間にか暗雲で閉ざされて夜が来たかのように辺りが暗闇に覆われていた。この異常現象についてレムが告げる。

 

[融合獣の肉体から発せられるエネルギー濃度が高すぎて、周囲の環境に影響を及ぼしています]

「そんな無茶苦茶な……!」

 

 脂汗が額に浮かぶ雪乃。ただ立っているだけで環境に影響するなど……どれだけのエネルギー量だというのか。

 オーヴァーゼットンの中から、レイデュエスが八幡たちを見下ろしながら言い放つ。

 

『「さぁジード! あの時の続きをしようか! 早くフュージョンライズしろ!!」』

「……!」

 

 装填ナックルとカプセルホルダーに手を伸ばしかける八幡だが、それをレムが呼び止めた。

 

[フュージョンライズしてはいけません]

「ど、どうして!?」

 

 聞き返す結衣。レムがその理由を語る。

 

[現状の勝率は、何度計算しても1%にも届きません。戦うのは危険すぎます]

 

 そのひと言に思わず硬直する八幡たち。レムの分析能力の優秀さはよく知っているので、それは確かな真実なのだろう。1%も勝率がない戦いに、命を張れるだろうか?

 しかし当然ながら敵は待ってはくれない。

 

『「どうした! フュージョンライズしないならば、お前らの代わりにこの町を焦土にしてやるぞッ!」』

「……ッ!」

 

 恫喝してくるレイデュエス。それでも八幡は、奥歯を噛みしめたまま立ち尽くしている。最近まで一介の高校生だった身で、死の恐怖をぬぐい切れるはずがあろうか。

 そこに、ジードが声を絞り出す。

 

『たとえ可能性が、1%もなくても……』

 

 ジードも強く逡巡していることが声に表れていたが、それでも彼は宣言した。

 

『ジーッとしてても、ドーにもならねぇ……!』

「……!」

 

 その言葉に八幡も背中を押され、装填ナックルに手を掛けた。

 

「雪ノ下、由比ヶ浜……! 頼む……!」

 

 呼び掛けられた二人も意を決して、ウルトラカプセルを受け取った。

 そして三人が融合し、フュージョンライズを決める。

 

[ウルトラマンジード! プリミティブ!!]

「ショアッ!」

 

 変身したジードが飛び出していき、音を立てて着地。それを目の当たりにしたレイデュエスがニィッと口の端を吊り上げた。

 

『「ようやくか。それじゃあさっさと始めるぞ」』

 

 ウルトラマンジードへの変身まで待っていたダークオーヴァーゼットンが、足を一歩前に出して動き始めた。

 

「ゼットォーン……! ピポポポポポポ……!!」

「シュアッ!」

 

 ジードは動き出したオーヴァーゼットンに飛び膝蹴りを繰り出す。それをオーヴァーゼットンは、あえてガードもせずにそのまま食らった。

 ジード渾身の一撃が綺麗に入ったが、オーヴァーゼットンは一歩たりとも揺るがなかった。

 

「ハァッ!」

 

 ジードはめげずに平手打ちやキックを連続で仕掛けるが、どれだけ打ち込んでもオーヴァーゼットンにはまるで効いている様子がない。

 

「ピポポポポポポ……!!」

 

 逆に、オーヴァーゼットンの鉤爪の一撃だけでジードは軽々と吹っ飛ばされる。

 

「ウワァッ!」

 

 地面に叩きつけられながらもジードはすぐに起き上がり、今度は光線技を繰り出す。

 

『レッキングリッパー!』

「ピポポポポポポ……!!」

 

 両腕を振って光刃を飛ばしたが、オーヴァーゼットンはバリアを展開。それに当たった光刃がもろくも砕け散った。

 プリミティブの如何なる攻撃も通用しないことに、ジードが焦りを見せる。

 

『駄目だ……! カプセルを交換しよう!』

『「ええ……!」』

 

 ジードの呼びかけに雪乃がうなずき、八幡たちはカプセルを交換。

 

[ソリッドバーニング!!]

「ドォッ!」

 

 プリミティブからソリッドバーニングに再変身して、頭部のジードスラッガーに手を掛ける。

 

『サイキックスラッガー!』

 

 猛然とスラッガーを投擲。だがオーヴァーゼットンに鉤爪で簡単に弾かれた。

 戻ってきたスラッガーをキャッチしたジードは脚部にコネクトして、高々と跳躍する。

 

『ブーストスラッガーキック!』

 

 ジェット噴射で勢いをつけた飛び蹴りを、オーヴァーゼットンは腕一本で受け止め――易々とジードを投げ捨てた。

 

「グワァッ!」

 

 ソリッドバーニングのパワーでもオーヴァーゼットンには全く敵わない。だがジードたちはまだあきらめてはいない。

 

『「だったらこっちで!」』

 

 結衣が叫び、八幡たちは二度目のカプセル交換をした。

 

[アクロスマッシャー!!]

「ハァッ!」

 

 スピード重視の形態、アクロスマッシャーになると手を掲げてジードクローを召喚。

 

『ジードクロー!』

 

 武器を片手に高速でオーヴァーゼットンに肉薄し、クローを振るう。

 が、オーヴァーゼットンは黒い筋が空中に残るほどの高速テレポートによって全く食らうことなく斬撃から逃れる。

 

「フッ!?」

「ピポポポポポポ……!! ゼットォーン……!」

 

 オーヴァーゼットンはあっさりとジードの背後を取った。ジードは懸命にオーヴァーゼットンを追いかけて一撃でも浴びせようとするも、オーヴァーゼットンは連続テレポートによって完全に翻弄する。明らかにもてあそばれている。

 

「ピポポポポポポ……!!」

 

 とうとう顔面から放たれた暗黒火炎弾を食らって、ジードはまたも吹っ飛ばされて大きく地面に叩きつけられた。重なる消耗とダメージによって、カラータイマーが赤く点滅し出す。

 融合獣の出現によって緊急避難をしている総武高校の生徒たちは、大苦戦しているジードの姿を目にして蒼白となっていた。

 

「どーなってんだよ!? ジードが手も足も出てねぇじゃんッ!」

 

 あまりのことに戸部が頭を抱えて絶叫した。オーヴァーゼットンはあえてジードの各形態の利点と勝負し、あっさり破ることで絶望的な力の差を見せつけているのだ。

 

「ウゥ……!」

 

 それでもジードは立ち上がる。ここで倒れては、この千葉の土地に暮らす人たちの未来がないのだ。

 

『「もう後がねぇ……! こうなったら奥の手だ……!」』

 

 八幡は意を決して、切り札を行使する。

 

[マグニフィセント!!]

「ハァァッ!」

 

 現ジードの最強形態マグニフィセントとなって立ち上がり、オーヴァーゼットンへと突撃。

 

「ドゥアァッ!」

「ゼットォーン……! ピポポポポポポ……!!」

 

 変身直後にメガスライサークロスを飛ばして攻撃を仕掛けたが、これもバリアで受け止められた。それでもあきらめずにジードはマグニストラトスで攻撃するものの、これでもバリアを破ることは出来なかった。

 

「ピポポポポポポ……!!」

「ウオォッ!」

 

 ジードはバリアごと押し返されて姿勢を崩す。

 

(♪ジード戦い‐劣勢1)

 

 肩で息をするジードに対して、未だかすり傷すらないオーヴァーゼットンから、レイデュエスが哄笑を上げる。

 

『「ハッハハハハハ! どうした! お前の力はこんなものなのかぁジード!」』

 

 オーヴァーゼットンの鉤爪がジードに襲い掛かる。必死に防御するばかりのジードに、レイデュエスは侮蔑の言葉を投げかけた。

 

『「まぁそれも無理のないことかもな! 何せお前は――紛い物のウルトラマンなのだからなぁ!」』

「ッ……!」

『「!?」』

 

 途端、ジードの表情が強張り、八幡たちはそろって絶句した。

 

『「……何訳分かんないこと言ってんの!? ジードんが紛い物だなんて、馬鹿にするのもいい加減にしてよっ!」』

 

 結衣が激昂して怒鳴りつけたが、その反応にレイデュエスは余計に面白がる。

 

『「ん? ふふ……お前さてはそいつらに自分のことを話してないな? つれない奴め、だったら俺から教えてやろう!」』

 

 語る口ぶりに十二分の悪意を含ませながら、レイデュエスが八幡たちへ、ジードの身の上を話した。

 

『「ウルトラマンジードは自然に生まれた、純正なウルトラマンではない。ウルトラマンベリアルが、野望を達成するための駒として己の遺伝子を用いて作らせた人工生命体、ベリアルの劣化コピーなのさッ!」』

『「なッ……!?」』

『「人工……!?」』

 

 初めて知る真実に驚愕する八幡たち。悪のウルトラ戦士の血を引くと聞いた時点で、出生には何か秘密があるとは思っていたが……予想をはるかに超える話であった。

 

『「……劣化コピーなんてあんまりな言い草じゃない。ジードは立派な戦士よ!」』

 

 雪乃がレイデュエスのひと言に言い返すも、レイデュエスはますます嘲ってくる。

 

『「立派!? こんな情けないウルトラ戦士を、俺は見たことがないぞッ!」』

「グオォッ!」

 

 オーヴァーゼットンの鉤爪の殴打がジードの頭部を打ち据えた。

 

『「俺がこの星に狙いをつけた時、一番警戒したのはウルトラ戦士の存在だ! 奴らはすぐにしゃしゃり出てくるからな。だが俺の前に現れたのがジード、お前で助かったくらいだ!」』

『な、何だと……ぐわぁぁッ!!』

 

 ジードの腹部にオーヴァーゼットンの膝がめり込み、ジードは蹴り飛ばされる。

 オーヴァーゼットンはフラフラなジードを執拗に殴り倒していく。

 

『「カプセルを二つ使わないとウルトラマンの姿になれない! 一度変身したら再変身までに二十時間ものインターバルが必要! そんな出来損ないはお前だけだぁッ!!」

「ウオアァァ―――ッ!」

 

 オーヴァーゼットンのアッパーがジードを吹っ飛ばし、ジードは仰向けに倒れる。

 横たわったジードを見下しながら、レイデュエスが傲然と言い放つ。

 

『「所詮お前は本物じゃない、偽物のウルトラマンだ! 挙句女どもの力がなきゃろくにフュージョンライズ出来ないようなクズを選んで……ヒーローもどきのお前にはお似合いだがなぁ!!」』

『「う……うぅ……」』

 

 オーヴァーゼットンの攻撃の威力が高すぎ、雪乃と結衣にまでダメージが響いて二人がうめき声を上げた。一介の学生には、耐えがたい苦痛。

 

『「ふ……ふざけんなよ……」』

 

 しかし懸命に起き上がるジードの中で、八幡が苦しみをこらえてオーヴァーゼットンを強くにらみつけた。

 

『「比企谷くん……」』

『「ヒッキー……」』

『「ああ?」』

 

 ジードがフラフラとよろめきながらも立ち上がるとともに、八幡は必死の形相でレイデュエスへと叫んだ。

 

『「生まれがどうとか、そんなもん関係あるかよ……! ジードは俺が出会った中で、誰よりも真っ当な性根の人間だ! それがいつも命がけで戦ってんだ! それがヒーローもどきなんて……そんなことがあるはずねぇだろぉッ!!」』

『――八幡……!』

 

 いつも斜に構えた態度で、ひねくれた物の見方や発言をするばかり。そんな八幡が、ジードのために全力で真っ向から反論している。

 だがレイデュエスは鼻で笑い飛ばす。

 

『「はッ! それはこれから分かることだ!」』

 

 オーヴァーゼットンが暗黒火炎弾を飛ばしてくる。ジードはその攻撃を耐えながら両腕にエネルギーをスパークさせる。

 

「オオオオ……!」

 

 腕をL字に組んで、全エネルギーを込めた最大威力の光線を発射!

 

「『ビッグバスタウェイ!!」』

 

 緑に輝く光線の奔流がオーヴァーゼットンへまっすぐに飛んでいく!

 が、オーヴァーゼットンの正面にブラックホールが出現し、光線はその中に吸い込まれてオーヴァーゼットンに届かない。

 

『「ま、負けるかぁ……! 他は負けられても……これだけは負けられねぇッ!」』

 

 それでもブラックホールを破ろうと、八幡は力を込め続ける。雪乃と結衣も、自分たちの力を枯れるまでジードに注ぎ続けた。

 ――しかし、限界まで光線を放出し続けても、ブラックホールを破ることは出来なかった。

 

「ピポポポポポポ……!!」

 

 オーヴァーゼットンは吸収したエネルギーを自身の暗黒光線にして撃ち返し、ジードにとどめを刺す。

 

「オアアァァァァァッ!!」

『「わぁぁぁぁぁぁぁぁ―――――――――――!!!」』

 

 きりきりと宙を舞い、うつ伏せに荒れ果てた地表へ叩きつけられるジード。カラータイマーの点滅の間隔が極限まで早まり、最早一歩も動ける力が残っていない。

 レイデュエスはその様に冷笑する。

 

『「終わりだな。結局、お前らには何も守れるものなどない。見ろッ!」』

 

 オーヴァーゼットンが暗黒火球を飛ばした。ただし狙う先はジードではない。

 総武高校の校舎であった。

 

『「あぁっ……!?」』

 

 絶句する雪乃たち。彼女たちの見ている前で、総武高校は爆音を立てて木端微塵に吹き飛ばされ、炎上する。

 

『「あ、あたしたちの学校が……」』

 

 学び舎と、奉仕部の部室と、皆が作っていた文化祭の準備が、燃えていく。その様子に、結衣が絶望に染まる。

 

「ピポポポポポポ……!!」

 

 オーヴァーゼットンは更に暗黒火球を無差別に飛ばしていく。それらが比企谷家や、雪乃のマンションなどにも命中して破壊。千葉の町並みは瞬く間に火の海に変わっていく。

 

『「や、やめろ……」』

 

 八幡はもうそんなひと言を発することしか出来ず――ジードのカラータイマーの輝きが、とうとう消え去った。

 同時にジードの肉体が霧散して消滅。その跡に、失神した八幡たち三人の身体が横たわった。

 

 

 × × ×

 

 

 八幡たちの地球から遠く銀河を隔てた、M78ワールドに浮かぶ光に溢れた惑星、ウルトラの星。

 宇宙警備隊本部で、紅いマントを羽織った三人のウルトラ戦士がある波長を感じ取って空を見上げていた。

 

『今の声は……!』

『確かに聞こえた。あの時と同じ声……だが今は悲鳴だった……!』

 

 ウルトラマンとウルトラセブンが顔を見合わせて確認し合うと、二人の前に立つ、宇宙警備隊大隊長ウルトラの父が重々しくうなずいた。

 

『ウルトラマンジード……彼の身に何かが起きたに違いない』

 

 

 × × ×

 

 

『「ハハハハハハハハ! これで本当におしまいだ!」』

 

 レイデュエスは八幡たちの息の根を完全に止めようと、暗黒火球を作り出す――。

 が、オーヴァーゼットンの肉体が不意によろめき、輪郭が揺らいだ。

 

『「ん? ちッ、オーバーヒートか。力が強い分、過熱速度も他のカプセルとは比較にならないって訳か」』

 

 フュージョンライズの限界が近いことを悟り、レイデュエスは八幡たちの抹殺を取りやめた。

 

『「どうせ結果は変わらん。もうしばらくは生かしておいてやろう。ただしその代わり……」』

 

 オーヴァーゼットンは変身が解ける前に、ジードの消えた跡に手を伸ばして――雪乃と結衣をその手中に捕らえた。

 

『「こいつらは人質だ。その方が盛り上がるだろう? ジード、貴様の最期の舞台を飾るのになッ! ハァ――――ハハハハハハハァッ!!」』

 

 二人を捕まえたダークオーヴァーゼットンが背面に悪魔の如き両翼を生やし、暗黒火炎を噴射しながら暗雲の中へと飛び上がって消えていく。

 八幡たちを救出しようと走っていたライハとペガだが、あと一歩のところで間に合わず、闇の中へ去っていくオーヴァーゼットンを見上げるしかなかった。

 

「た、大変だぁッ!」

「雪乃……結衣……!」

 

 悔しがる二人だが、やむなく八幡だけを救出して星雲荘のエレベーターに運んでいく。

 燃えていく町は、ダークオーヴァーゼットンが去っても厚い暗雲に閉ざされたままであった――。

 

 

 

『ウルトラストーリーナビ!』

 

結衣「今回は『ウルトラマンメビウス』第四十九話「絶望の暗雲」だよ!」

結衣「地球に対して総攻撃を開始した暗黒皇帝! メビウスが必死に立ち向かうんだけど、長く苦しい戦いのせいで、その身体はもうボロボロ……。GUYSもインペライザー軍団に追いつめられてもう後がない、そこに今までメビウスたちが出会った宇宙人たちが助けに来てくれたの! だけどとうとう、暗黒皇帝エンペラ星人が降臨して、太陽までが闇に閉ざされてしまう……。地球は一体どうなるの!? っていう話だよ」

結衣「『メビウス』最終回三部作の第二章だよ。終盤からその存在がほのめかされた物語全体の黒幕、エンペラ星人がとうとう姿を見せたの。その強さは今までの敵とは格が違うレベルで、メビウスたちはどうやって勝つのか……」

結衣「エンペラ星人の名前は『タロウ』の時点で、ウルトラ大戦争の怪獣軍団の大将として語られてたの。それが『メビウス』で正式なデザインとなって登場したんだよね。M78ワールドの世界観の物語を締めくくるのにもってこいな悪役だった訳だ!」

ジード『エンペラ星人の影響は大きく、その後のメビウス外伝やウルトラマンベリアルにまで様々な形で関わってるんだ』

結衣「それじゃ次回で……ってあたしたちがどうなっちゃうのぉ!?」

 




「もう私たちに、明日はないのでしょうか……」
「学校も、部室も、町も、みんな燃えちゃった……」
『ウルトラの星が、明日を照らしてくれる……』
「助けて……ヒッキー……!」
「纏めて仲良く死にたいのなら、望み通りにさせてやろうじゃないか……」
[ウルトラマンジード! プリミティブ!!]
『「やるんだ……立ち上がるんだッ……!」』
『「テメェなんかに進めるはずがねぇぞぉッ!!」』
『「お前が何と言おうとも!」』



次回、『さらばウルトラマンジード……などと言うにはまだ早いぞ。』



『「俺は! 本物になるッ!!」』



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さらばウルトラマンジード……などと言うにはまだ早いぞ。(A)

 

 ――八幡は夢を見た。見慣れない景色、記憶にない街並み。にも関わらず情景が細部まではっきりとしている。まるで、実際に見たことがあるかのように。

 

(これは……?)

 

 その街並みの中で、八幡はウルトラマンジード・ソリッドバーニングとなって怪獣と戦っている。ずんぐりとした体格の人型で、生体と機械が混ざり合った肉体。黒い生体の部分は、奇しくもダークオーヴァーゼットンと似ていた。

 ジードはジードクローを片手に怪獣に応戦するが、怪獣は相当な強さであり、ジードを押している。その戦いの最中に、怪獣から人の声が発せられた。

 

『ウルトラマンジード! ベリアル様に似たその姿を私に殴らせるのは不愉快だったぞ! お前は作られた模造品だぁ!!』

 

 それはジードをなじる言葉であった。

 怪獣はおぞましいほどの執念をにじませた暴力によってジードを投げ飛ばし、どんどんと追いつめていく。そして灼熱の光線を撃ってきて、ジードはストライクブーストでそれを迎え撃った。

 

『ストライクブースト!』

 

 ジードの光線と怪獣の光線が正面衝突し、弾け飛んだエネルギーが周囲に降り注いで被害を増加させる。しかしここで光線を止めたら直撃を食らってしまうので、ジードはストライクブーストを止めることが出来ない。円を描きながら間合いを取り合い、光線を拮抗させる。

 その撃ち合いを続ける中でも、怪獣はジードを罵倒してきた。

 

『お前は自分が救世主か何かだと思っていたな。それは違うぞ! お前が存在しなければ、街も破壊されなかった!』

『怪獣が出るのは、僕のせいだっていうのか!』

『そうだ! 自分の存在と決意が、如何に大勢を不幸にしているか自覚するといい! 今から証明してやろう……! 全力で来いッ!!』

 

 怪獣が光線の勢いを増幅させる。ジードもまた負けじと、ストライクブーストの出力を限界ぎりぎりまで上げたのだが……。

 

『うわああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ―――――――――――!!』

 

 そのせいで飽和したエネルギーが大爆発を引き起こし、街全体が爆炎に呑まれていく。

 八幡の視界もまた、爆炎に呑み込まれて白く塗り潰され、何も見えなくなった……。

 

 

 

『さらばウルトラマンジード……などと言うにはまだ早いぞ。』

 

 

 

「ピポポポポポポ……!!」

 

 総武高校も、八幡たちの家も、建物の何もかもが瓦礫となり果てて焦土となってしまった千葉市内で、ダークオーヴァーゼットンが空に向けて暗黒火炎弾を発射した。

 暗黒火球は音速で大気圏を突き抜け衛星軌道上を走り、日本から遠く隔てたパリを狙撃。エッフェル塔に命中して爆破し、ドロドロに溶かしながらへし折った。パリ市民は、次々に飛んでくる暗黒火球からなす術なく必死に逃げ惑うばかり。

 ジードを破ったレイデュエスは怪獣カプセルの冷却が完了する端からダークオーヴァーゼットンにフュージョンライズし、世界中の主要都市を狙撃する凶行を繰り返していた。既にモスクワなども被害に遭い、全世界で被害者数が急激に増加していっている。

 一歩も動かずに世界中を爆撃しているオーヴァーゼットンの様子を、リポーターが瓦礫の山に隠れながら中継していた。

 

「怪獣は今もなお各国の主要都市への攻撃を続けています。各国は軍を派遣しましたが、戦闘機もミサイルも全て日本領域に入ることもなく撃ち落とされてしまいました……。最早人類の力ではあの怪獣を倒すことは出来ません。ですが……ウルトラマンジードは死んでしまったのでしょうか。もう私たちに、明日はないのでしょうか……」

 

 

 × × ×

 

 

「……うッ……」

 

 八幡が目覚めた時に飛び込んできた景色は、星雲荘の天井であった。

 

「八幡ッ!」

 

 ペガがはらはらとした顔つきで自分の顔を覗き込んでくる。八幡は、星雲荘のベッドで寝かされていた。

 

「ペガ……俺は……」

「大丈夫? どこか痛いところはない?」

[無事に目を覚まして、ほっとしました]

 

 レムも安堵の声を発する。今星雲荘にいるのは、自分も入れてこの三人だけ。

 

「ライハさんは? あと、雪ノ下と由比ヶ浜は……」

 

 八幡が聞くと、途端にペガの顔が大きく曇った。彼に代わってレムが回答する。

 

[ユキノとユイはさらわれました。今はライハが救出に向かっています]

「えッ……!」

 

 

 × × ×

 

 

 壊滅し荒れ果てた町の中に、レイデュエス一味の円盤が堂々と着陸している。雪乃と結衣の二人は、その船内のバリア型の檻に閉じ込められている。

 檻の中で力なく座り込んでいる雪乃たちの様子を、オガレスとルドレイがにやつきながらなめ回すようにながめていた。

 

『ククク……近くで見たらますます上玉だな、これは。こんなのとフュージョンライズしていたジードが羨ましい限りだ』

『これは好事家に高値で売りつけられそうですなぁ、殿下』

 

 自分たちを売り飛ばす相談をするルドレイをきつく見上げる雪乃だが、言葉はない。この状況で反抗的な言葉を口にして自分たちを危険に晒すような真似をする彼女ではない。

 パリを焼け野原にして戻ってきたレイデュエスが、雪乃たちに対する嘲笑を浮かべながらルドレイに返した。

 

「待て待て。こいつらはジードをおびき寄せる餌なんだぞ。そういうのは奴が来てからにしろ。もっとも、ウルトラマンジードならともかく、あの腐れ目玉にわざわざ死にに来る度胸があればの話だけどな!」

『全くですなぁウワハハハ!』

 

 レイデュエスのひと言にオガレスとルドレイは腹を抱えて大爆笑。

 

「俺はカプセルの冷却完了まで休んでくる。それまでしっかりと見張ってろよ」

『お任せ下さい』

 

 上機嫌でその場から立ち去っていくレイデュエス。その姿が見えなくなると、雪乃がうつむいて体育座りしている結衣の肩にそっと手の平を置いて慰め出した。

 

「由比ヶ浜さん、絶望しないで……。ライハさんやAIBがきっと助けに来てくれるわ。それに、私たちがこうして生きているのだから、ジードもきっと生きている。比企谷くんも……。きっと助かるわ……」

 

 しかし、結衣はうつむいたまま顔を上げない。

 

「助かって、どうなるって言うの……?」

「え……」

「学校も、部室も、町も、みんな燃えちゃった……。文化祭、張り切って準備してたのに……まだまだ色んなこと、みんなとしたかったのに……奉仕部の場所まで……。ひどいよ、あんな……ひどすぎるよ……」

 

 肩を震わせる結衣。彼女は自分たちの暮らす町、自分たちの居場所が壊されてしまったこと……それを止めることが出来なかったことで、完全に心が折れてしまっていた。

 

「……」

 

 そのことには、流石の雪乃も何も言うことが出来ず、気まずそうに沈黙するばかりであった。

 

 

 × × ×

 

 

 レムから気絶後の経緯を聞いた八幡は、自責の表情を浮かべる。

 

「雪ノ下、由比ヶ浜……くそッ!」

 

 いてもたってもいられず、ベッドから立ち上がろうとしたが、それをジードに止められた。

 

『行っちゃ駄目だ』

「ジード?」

『……僕だけならともかく、君まで道連れに死なせる訳にはいかない……』

 

 そのジードのひと言に、星雲荘に沈黙が流れた。

 しばしの静寂の中、八幡が口を開いてジードに問いかける。

 

「ジード……あの野郎が言ってたことって……」

『……全部本当のことだ』

 

 ジードは力のない口調で肯定した。

 

『僕はヒーローに憧れてた。たとえ悪人の子供でも、頑張ればヒーローになれると思って努力してた。だけど……ヒーローになるどころか、戦いそのものが用意された芝居だった。僕はヒーローの「役」を演じさせるために作られた、ウルトラマンの偽物だった……』

 

 ジードの言葉により、八幡は理解した。先ほどのリアルな夢は、意識が混濁していたことで垣間見たジードの記憶なのだ。

 

『それでも本物のヒーローになれる、本物のウルトラマンになれると信じて頑張ってきた。だけど……それがこのザマだ。結局、僕は本物には……』

「そんなことは……!」

 

 ペガが励まそうとしたが、レムに止められる。

 

[ペガ。今は、ハチマンと二人で話をさせてあげましょう]

「レム……」

 

 レムのたしなめで黙るペガ。代わりに、八幡がジードに呼び掛ける。

 

「ウルトラマンの偽物とか、本物のウルトラマンとか……そんなもん、俺には区別がつかねぇな」

『え……?』

「俺から見たら、ジードの力はいちいちすごすぎて、正直偽物とか本物とかどうでもよくなるレベルだ。だから気にすることなんかねぇと思うぜ。そんなことより、今やるべきは……」

 

 今度は本当に、八幡はベッドから立ち上がった。

 

『で、でも……次戦えば……!』

「まぁそうだろうな……。俺だって、これが「自分だけなら」、情けなく尻尾巻いて逃げ出してたとこだ」

 

 けどな、とつけ加える八幡。

 

「あの虎の威を借る狐野郎、お前のことまで散々貶しやがったんだぜ。だからあいつの面に一発はぶち込んでやらないことには、どうにも収まりがつかねぇよ」

『八幡……』

「それにお前がよく言ってるじゃねぇか。ジーッとしてても」

 

 八幡からの呼びかけに、ジードは苦笑をこぼした。

 

『ドーにもならない。そうだよな……!』

「ああ。そっちの方がお前らしいや」

 

 八幡も苦笑いし、ピシャッと己の頬を叩いて活を入れた。

 

「よっしゃ! レム、エレベーター出してくれ!」

[分かりました。……どうかお気をつけて]

「絶対、ここに帰ってきてね!」

 

 心配するレムとペガに、八幡は不器用な笑顔で応じる。

 そしてジードが、八幡に次のように呼び掛けた。

 

『ゼロ……僕の仲間が言ってたことなんだけど、あきらめない者の上にはウルトラの星が輝くんだって』

「ウルトラの星が?」

『ああ。ウルトラの星が、明日を照らしてくれる……。僕たちもそれを信じて、あの闇を吹き飛ばそう!』

「ははッ、まるでおとぎ話だな……。でも今はそれがありがたいぜ!」

 

 ジードの言葉に破顔した八幡を乗せて、エレベーターの扉が閉じていった。

 

 

 × × ×

 

 

 雪乃と結衣の檻を監視するオガレスとルドレイ。しかし二人が脱走しようとする気配もないことから、すっかり楽に構えて雑談している。

 

『これでこの星は我々のものになったも同然だ』

『これからは世界中の人間どもの絶望を糧に、超強力な怪獣カプセルをいくらでも作れる』

『殿下のお力はますます強まり、宇宙支配も夢ではなくなる訳だ』

『フフフ……殿下の横暴に耐えた甲斐があったというもの』

 

 野望を夢描いてほくそ笑んでいるルドレイたち。

 その時に、円盤のホールの自動ドアの一つが独りでに開く。

 

『ん? 誰もいないのにドアが……』

『誤作動か?』

 

 オガレスたちの目がそちらに引きつけられると――反対側のドアから、ライハが剣を振り回しながら内部に突入してきた!

 

「はぁぁぁぁっ!」

『何!? うぎゃああッ!』

 

 意識をそらしていたオガレスとルドレイはまともにライハの太刀を食らった。致命傷こそ防いだが、吹っ飛ばされて転倒、そのままのびてしまった。

 それから先に開いたドアから、囮役となったゼナが辺りを警戒しながら進入してくる。

 

『レイデュエスはいないようだな』

「二人とも、大丈夫だった? 手荒な真似はされてない?」

「ライハさん……!」

 

 ライハは真っ先に雪乃と結衣の身を案じた。ゼナは円盤のコンソールを操作して、檻のバリアを解除する。

 

「さぁ、ここから脱出よ。……落ち込むのも分かるけれど、まずは自分たちの安全を確保して」

「はい……!」

 

 ライハは励ましの言葉を掛けながら、二人に手を差し出して立たせる。そしてライハとゼナは、雪乃たちを連れて円盤から外へと脱出していく。

 

『どうやら追っては来ないようだ』

「レムにエレベーターを出してもらうわ。星雲荘まで行けばもう安心……」

 

 レムと連絡を取ろうとしたライハだったが……その瞬間に彼女たちの足元に光弾が着弾し、炸裂を起こす。

 

「きゃあっ!?」

『ぐッ!』

 

 光弾は円盤外から飛んできた。予想外の攻撃にライハたちは倒れ込む。

 

「全くあいつら、見張りもろくに出来ないとは……。あの無能どもでも使い続けなきゃならん現状が恨めしいな」

 

 光弾を撃ったのは、ブラッドスタッフで肩をトントンと叩くレイデュエス。異変に気づいて、脱出直後の油断する一瞬を狙うためにあえて外で待ち構えていたのだ。

 

「ひっ……!」

 

 レイデュエスの顔に怯える結衣と雪乃に、レイデュエスは冷酷な目を向ける。

 

「お前らはジードの餌のつもりだったが……この俺の手を煩わせるのは勘弁ならんな。勝手なことをする目障りな奴は、俺は消すことにしているのさ……!」

 

 二人を撃ち殺そうと、スタッフを向けて光弾を作り出す。倒れ込んでいる雪乃たちは逃げられず、ライハとゼナも間に合いそうにない。

 

「雪乃っ! 結衣っ!」

「……!」

「た、助けて……ヒッキー……!」

 

 雪乃は声も出すことが出来ず、結衣は祈ることしか出来ない。そしてレイデュエスの光弾が発射される――。

 その寸前に、別の方向から飛んできた光線獣の弾丸が光弾に命中し、暴発を引き起こした。

 

「ぐおッ!?」

「えっ!?」

 

 突然助かったことに、むしろ驚く雪乃たち。今の弾丸は誰がやったのだ? 八幡ではないはずだ。

 呆気にとられる雪乃の前に、ザッと飛び込んで盾となるスーツ姿の女性。それは、

 

「雪乃ちゃんを傷つけようとするのは……許さない」

「ね、姉さん……!?」

 

 冷え切った声を発してレイデュエスに銃を突きつける陽乃の後ろ姿に、ゼナ以外が仰天した。

 

「ど、どういうこと……!?」

「……この姿は、ほんとは雪乃ちゃんには見せたくなかったんだけどな」

『すまんな……』

 

 若干落胆する陽乃の隣に起き上がったゼナが並び、二人でレイデュエスに発砲する。

 

「ちッ……! 次から次へと邪魔ばかりが入る……せっかくいい気分だったというのにな……!」

 

 レイデュエスは暴発で負傷を受けた腕を再生させながら、弾丸を闇のバリアでさえぎる。そしてスタッフを怪獣カプセルとブラッドライザーに持ち替えた。

 

「そんなに纏めて仲良く死にたいのなら、望み通りにさせてやろうじゃないか……宇宙指令U39!」

 

 EXゼットンカプセルとハイパーゼットンカプセルをナックルに装填して、フュージョンライズする。

 

レイデュエス! ダークオーヴァーゼットン!!

 

 ダークオーヴァーゼットンの姿に変身、巨大化して陽乃たちの前にそびえ立った。こうなっては、手持ちの銃の銃撃など全く効かない。

 

「ゼットォーン……! ピポポポポポポ……!!」

「ああっ……!」

 

 流石の陽乃とゼナも立ち尽くした。ライハはせめてと雪乃と結衣を背にかばうものの、ダークオーヴァーゼットン相手に何の意味があろうか。

 

『「安心しろ、痛みもない。一瞬で蒸発するぞッ!」』

 

 レイデュエスが一片の慈悲もなく、雪乃たちに暗黒火球を落とそうとする――!

 

[ウルトラマンジード! プリミティブ!!]

 

 まさにその刹那、ジードが横から飛び込んできてオーヴァーゼットンにタックル。暗黒火球はそれて空に打ち上がっていった。

 

「ジード!!」

 

 叫ぶ雪乃たち。ウルトラマンジードが助けに駆けつけたということは――。

 

『「あっぶなかったなぁ、おい……!」』

 

 ジードの超空間で、八幡がどっと息を吐いた。地上に上がった彼だが、その時にダークオーヴァーゼットンが雪乃たちを殺害しようとしていたので咄嗟にフュージョンライズしたのである。

 不意のタックルで横転したオーヴァーゼットンだが、起き上がるとジードに向き直って侮辱の言葉を投げかけた。

 

『「本当に死にに来るとはな! 逃げ出さなかったことだけは褒めてやる!」』

『「ありきたりな台詞だが、テメェに褒められたって何一つ嬉しくねぇよ! それにな……!」』

 

 八幡は虚勢であっても、レイデュエスに負けないように声を張り上げた。

 

『「死にに来たんじゃねぇ! テメェをぶっ倒しに来たんだよ!!」』

『「ハハハッ! もっと現実的なことを口にするんだな!!」』

 

 大きく腕を振って野獣のようなあファイトスタイルを取ったジードが、余裕に構えるダークオーヴァーゼットンへと全力で飛びかかっていった。

 



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さらばウルトラマンジード……などと言うにはまだ早いぞ。(B)

 

 ジードがダークオーヴァーゼットンと戦う間に、雪乃たちは安全確保と彼の邪魔にならないようにと、エレベーターによって星雲荘に退避してきた。

 

「みんな! ……えッ!? 何で雪乃のお姉さんまで一緒に?」

 

 出迎えたペガは、陽乃の顔を目にした途端に仰天した。陽乃はペガに対して軽く手を挙げる。

 

「こうして面と向かうのは初めてだねペガくん。だけど今は事情を説明してる場合じゃないよね」

 

 雪乃も説明してほしそうにしていたが、モニターに映し出されるジードとオーヴァーゼットンの戦闘の様子に注意を向けた。

 

「ここでジード……比企谷くんがやられたら、私たちみんな彼の後を追うしかないかもね」

 

 冗談めかした陽乃の発言であったが、その顔は極めて真剣であった。

 

「ヒッキー……!」

 

 結衣を始めとして、皆がジードに対して祈っていたが、一方で不安もぬぐい切れずにいた。

 何せ、考えられ得るベストの状態でもまるで歯が立たなかったのに……今の八幡には、雪乃の補助も結衣の力添えもないのだ。

 

 

 × × ×

 

 

「シュアッ!」

「ピポポポポポポ……!! ゼットォーン……!」

 

 ジードは地を蹴ってオーヴァーゼットンに飛び膝蹴りを仕掛ける。しかしオーヴァーゼットンは超スピードの瞬間移動により、あっけなくジードの先制攻撃をかわして背後に回り込んだ。

 

「ハァッ!」

 

 ジードが振り向きざまに平手打ちを繰り出しても、オーヴァーゼットンは絶え間ない超高速移動によって逃れてしまう。アクロスマッシャーでも全く追いつけなかった速度なのだ。プリミティブでは、指先をかすらせることさえ出来ない。

 

『「またオーバーヒートになったら興ざめなんでな。今度は手早く、しっかりと息の根を止めてやろう!」』

 

 レイデュエスは確実にジードを葬るつもりのようで、瞬間移動を駆使した四方八方からの鉤爪攻撃の連続でジードを一方的になぶり出す。

 

「ウワァッ!」

 

 少しも反撃できず、瞬く間に追いつめられるジード。しかしこちらとて、今度は負けられない。八幡はダメージをこらえながら、プリミティブの他になれるフュージョンライズ形態に移行した。

 

[トライスラッガー!!]

「ショアッ!」

 

 起き上がりながらトライスラッガーに変身すると、三本のスラッガーを頭部から飛ばしながらジードクローを握り締めた。

 

「ハァァッ!」

 

 気合いとともに、スラッガーを伴いながらオーヴァーゼットンに突進していく。三振りのスラッガーで相手の逃げ道をふさぎ、ジードクローを叩き込む作戦である。

 

「ピポポポポポポ……!!」

 

 だがオーヴァーゼットンはスラッガーが到達するより早くテレポートで逃れ、ジードの斬撃はどれも空を切った。

 更に超高速で飛び回るオーヴァーゼットンが爪でスラッガーを蹴散らし、至近距離まで急接近してジードに暗黒火炎弾を撃ち込んだ。

 

「ウワァァァッ!」

 

 吹っ飛ばされたジードは、地面に叩きつけられると同時に、トライスラッガーの形態が解除されてプリミティブに戻ってしまった。ダメージが激しく、早くもカラータイマーが鳴り出す。

 やはり、力の差は歴然。気力や根性でどうにかなるレベルではない。

 

『「ハハハッ! 女どもがいても敵いやしなかったのに、お前のようなクズ一人で勝てると思っていたのか? 本気だったら度し難い大馬鹿だなぁ!!」』

 

 立ち上がろうとしても腕が震えているジードを傲然と見下し、八幡をあざ笑うレイデュエス。

 八幡は、ジードと同じ姿勢で這い上がろうとしながら歯を食いしばっている。

 

『「う、うるせぇ……! まだ……勝負は捨てねぇ……!」』

『「捨てないのなら、俺が焼き尽くしてやろうッ!」』

 

 オーヴァーゼットンは発光器官の前に、ジードを押し潰せるほどの大きさの暗黒火球を作り出す。

 そのエネルギー量は、ジードといえども耐えられない。対するジードはろくに身動きできない絶望的状況。

 それでも、八幡は決してあきらめようとしていない。

 

『「これだけは……あきらめねぇ……途中で投げ出したりしねぇッ……! やるんだ……立ち上がるんだッ……!」』

 

 この勝負の負けには、後がない。自分どころか、ジード、そして皆の明日がなくなるのだ。だから、立ち上がらないと。

 

「ピポポポポポポ……!!」

 

 しかしジードが起き上がるのも待たず、ダークオーヴァーゼットンは無情に暗黒火球を放ってきた。

 絶対的な死の影が、ジードと八幡に覆い被さる。

 

『「うああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――――――――ッ!!」』

 

 

 暗黒火球が落下し、爆ぜた。

 

 

 星雲荘で戦いを見守っていた面々が、凍りつく。

 

「リク!!」

「ヒッキー!!」

「比企谷くん……!」

 

 皆が、信じたくなかったが、思うしかなかった。もう、終わりだ――。

 

[――いえ]

 

 

『「ハ――――ハハハハハハァッ! さらば、ウルトラマンジード!!」』

 

 勝ちを確信して、哄笑とともに宣言するレイデュエス――。

 

『「――あ?」』

 

 だが哄笑は、途中で途切れた。

 暗黒火球の着弾点――そのすぐ横で、ジードはよろめきながらも立ち上がっていたからだ。

 

『「……目測を誤ったか? ならもう一発ッ!」』

 

 レイデュエスは訝しみつつも、改めて暗黒火球を放つ。先ほどと同じ大きさの火球がジードに迫る!

 ――が、火球が着弾し炸裂しても、ジードは健在であった。先ほどと同じように、着弾点とは違う場所に立っている。

 

『「な、何!? そんな馬鹿な!!」』

 

 はっきりと異常を察してうろたえるレイデュエス。攻撃はちゃんと狙った場所に当たっているのに、ジードには当たらない。――いや、ジードがいつのまにか『別の場所に立っている』。

 

『「だったらこの手で直接カラータイマーを砕いてやるッ!」』

 

 オーヴァーゼットンが猛然とジードに肉薄し、胸のカラータイマーを狙って鉤爪を突き出す――。

 だがたった一瞬の内にジードが目の前からかき消え、爪は空振りした。事ここに至って、レイデュエスは息を呑む。

 

『「まさかッ! いやもう間違いない!!」』

 

 何の予兆もなく逃れたジードに振り向きつつ、レイデュエスは確信した。

 

『「あいつ……時間を止めてやがるッ!!」』

 

 

 八幡は――自分が体験している『現象』に理解が追いつかずに半ば呆然としていた。

 

『「時間が、止まってる……いや、止めてるのか……?」』

 

 異変を感じたのは、最初の暗黒火球が目前まで迫ってきた時。その火球が――突然、ピタリと止まったのだ。そのお陰で回避することが出来たのだが……その時は、何が起こったのか全く分からなかった。

 しかし二発目の火球も、ダークオーヴァーゼットン本体もいきなりビデオを一時停止したかのように停止したことで、短い間だが『時間が停止している』ということに気がついた。――だが、どうしてそんなことが起きているのか――。

 そう思った瞬間、八幡は己の手の平が激しく発熱しているのを感じた。

 

『「俺の、手の平が……!」』

 

 そして――胸に光が芽生える。八幡とジードは、強い衝撃を受けた。

 

『八幡……それは……!!』

 

 レムがはっきりと告げる。

 

[ハチマン。あなたは、たった今、リトルスターを発症しています]

 

 八幡のまぶたが、大きく開かれた。

 

『「俺に……リトルスターが……!」』

 

 八幡のリトルスターは胸元から離れ、腰のカプセルホルダーに移った。八幡はすぐに、自分のリトルスターが宿ったカプセルを引き抜く。

 

『セェアッ!』

 

 浮かび上がった絵柄は、銀と金のウルトラマンゼロ。しかもカプセル本体も、他のものとは違い金色をしている。

 

[シャイニングウルトラマンゼロカプセル、起動しました]

 

 そう告げるレム。八幡がジードに向かってうなずくと、ジードも力を込めてうなずき返した。

 明日を照らすのは、星ではなく――。

 

 

 レイデュエスは狼狽しながらもジードに襲い掛かる。

 

『「どぉいうことだぁぁッ! 貴様にそんな能力はないはずだぞぉぉぉッ!」』

 

 嫌な予感を覚えたレイデュエスは、確実にジードの息の根を止めようと飛びかかっていく。

 

『「時間を止めるより速く殺してやるッ!」』

 

 ――だが、ジードから不意にまばゆい閃光が発せられて、それを一身に浴びたことで思わず動きが止まった。

 

『「ぐわぁッ!? ま、まぶしいッ!」』

 

 それは、明日を照らす輝きであった。

 

 

 八幡はホルダーから、一本目のカプセルを引き抜き起動する。

 

「『ユーゴー!」』

『シェアッ!』

 

 ジードと――八幡が声をそろえて叫び、カプセルからウルトラマンのビジョンが現れる。

 ウルトラマンカプセルを装填ナックルに収め、たった今起動したカプセルを続けて使用。

 

「『アイゴー!」』

『セェアッ!』

 

 シャイニングウルトラマンゼロのビジョンが腕を振り上げ、カプセルをナックルへ。

 

「『ヒアウィーゴー!!」』

 

 そして二つのカプセルをジードライザーでスキャン。

 

[フュージョンライズ!]

『「おおおおお……!」』

 

 カプセルの情報をスキャンしたライザーを、八幡は雄たけびとともに胸の前に持っていく。

 

『「はぁッ!」』

 

 そしてトリガーを握り締め、フュージョンライズ!

 

「『ジィィィ―――――――ドッ!」』

 

 八幡とジードの叫びとともに、二つのビジョンが彼らと重なり合った!

 

[ウルトラマン! シャイニングウルトラマンゼロ!]

[ウルトラマンジード! シャイニングミスティック!!]

 

 二つの逆巻く渦巻きを突き破り、黄金色の粒子を身に纏いながら、銀と金の螺旋の中をジードが飛び出していく!

 

 

 ――強烈な閃光で立ちすくんでいるダークオーヴァーゼットンの正面に、新たな姿となったウルトラマンジードが仁王立ちする。

 

『「な、何だと……!?」』

 

 星雲荘でも、雪乃たちが驚愕で目を見張っていた。

 

「あれは……!?」

「すごい……キラキラ……!」

 

 結衣はジードの姿を目にして、演劇でやるはずだった『星の王子さま』という言葉が脳裏に浮かんだ。

 今のジードは全身黄金色であり、両腕にスラッガーを備えている。それ以外の目立つ装飾などは特にない、至ってシンプルな体躯であるが、その立ち姿は非常に神々しいオーラで包まれていた。

 地球と光の国の始まりを告げた神秘の戦士ウルトラマンと、光を極めた超戦士シャイニングウルトラマンゼロの力を継いだ煌めく希望の形態、シャイニングミスティックである!

 

『「目指すぜ! 天辺!!」』

 

 八幡はジードの中でそう叫んでいた。ジードは右足に力を込め、一歩前に踏み出す。

 

「ゼットォーン……!」

 

 ジードの動作を警戒して身構えるオーヴァーゼットン。

 

『「ちッ……貴様がどんな姿になろうとも、このダークオーヴァーゼットンには……!」』

 

 ――だが、次の瞬間に顎に突き刺さったジードのアッパーに反応することは出来なかった。

 

『「がふッ!?」』

 

 強烈な衝撃が伝わってきて首が上を向くレイデュエス。ジードはまさに光速のスピードで懐に踏み込んできて、一撃を食らわせたのだ。

 

(♪フュージョンライズ!)

 

「シュアッ!」

 

 ジードはアッパーで浮き上がったオーヴァーゼットンの後方に一瞬で回り込み、かかと落としで地表に叩き落とした。

 

『「ぐはぁッ! くそぉッ!!」』

 

 二発連続でもらったオーヴァーゼットンだが、瞬時に体勢を立て直してジードの追撃をガードする。そしてテレポートでかく乱を図るも、ジードは同等の速度で追いかけてくる。

 

「ヘアッ!」

「ピポポポポポポ……!!」

 

 オーヴァーゼットンがどれだけ逃げようとも今のジードは逃さない。振るわれる鉤爪も腕のスラッガーで受け止め、互角の勝負を行ってみせる。

 

『「おのれッ! これでどうだッ!」』

 

 オーヴァーゼットンが停止してバリアを展開。これでジードを近寄せない構えだ。

 

「セェアァッ!」

 

 するとジードは両腕を頭の先に伸ばしてスラッガーを突き出し、きりもみ回転してドリルのようにバリアに突撃。猛烈な回転がバリアを削っていき、

 

『「ぐあぁぁッ!?」』

 

 遂には破砕してオーヴァーゼットンをはね飛ばした!

 

『「ちくしょうがぁッ!」』

 

 先ほどと一転して自分に追いついてきたジードにいら立ったレイデュエスは、オーヴァーゼットンに羽を生やして本気を出し始めた。ジェット噴射で一気に飛び上がりながら暗黒火炎弾を連射する。

 

「ショアッ!」

 

 だがジードは火炎弾と同数の光輪を飛ばして全て相殺。そして光速の突進で、全身を使ってオーヴァーゼットンに激突。

 

「ピポポポポポポ……!!」

「ハァァァァッ!!」

 

 ジードとオーヴァーゼットンは空を縦横無尽に駆け巡りながら何度も衝突し合う。その戦いの様は、最早人間の目では全く捉えられない次元。星雲荘の者たちは残像しか映らないモニターに唖然とするばかり。

 やがてジードとダークオーヴァーゼットンは地上で真正面からの衝突と同時に四つを組み停止。その内部では、超空間同士がつながって八幡とレイデュエスも取っ組み合ってにらみ合った。

 

『「このガキがぁ……! 貴様のようなゴミ溜めの片隅に打ち捨てられてるようなクズが、本気でこの俺に勝てると思ってるのかぁッ!」』

『「テメェが誰かなんか関係ねぇ! 俺はテメェをぶっ倒す! ただそれだけだッ!」』

『「ハァッ! 何の理想も目的もなく、ただ目の前のことに流されるだけ! 薄っぺらさがにじみ出てるぞ!! それでヒーローのつもりかぁ!? 所詮貴様は他人がいなければ何一つ出来ることがない、エセヒーローなんだよッ!!」』

 

 真っ向から罵倒してくるレイデュエスに、八幡は吼える。

 

『「俺がエセヒーローなら、お前は王様ごっこだろうがッ!」』

『「何だと!?」』

『「暴力で恫喝して、ねじ伏せて、それで他人を本当に従えられると思ってんのか!? お前は結局、相手を踏んづけて悦に入ってるだけ! 幼稚にも程があるぜ! そんなのは子供のごっこ遊びに過ぎねぇよッ!!」』

 

 そう突きつけると、レイデュエスのこめかみにビキビキッ! と血管が浮き上がった。

 

『「テメェェェ……俺への侮辱は許さねぇぞぉぉぉッ!!」』

 

 オーヴァーゼットンがジードを力ずくで無理矢理突き飛ばし、宙に飛び上がって極大の暗黒火球を作り出す。標的は、地球そのもの。

 

『「この星ごと消えてなくなれぇぇぇぇぇぇッ!!」』

 

 地球を爆破できる威力の暗黒火球を叩き落とす――!

 ――そうしようとする姿勢のまま、ダークオーヴァーゼットンが空中に縫いつけられたかのようにピクリとも動かなくなった。

 

『「がッ……!? し、しまった……!」』

 

 シャイニングミスティックの時間停止だ。八幡の挑発で精神を乱したところに掛けられたのだ。

 

「ハァッ!」

 

 完全に無防備になったオーヴァーゼットンに飛びかかるジード。レイデュエスは身動きが取れなくなっても八幡に呪いの言葉をぶつける。

 

『「正義の道は、修羅の道ッ! テメェなんかに進めるはずがねぇぞぉッ!!」』

『「お前が何と言おうとも!」』

 

 八幡はレイデュエスの憎悪の眼を受け止めながら、言い切った。

 

『「俺は! 本物になるッ!!」』

 

 その言葉とともに、ジードがダークオーヴァーゼットンの顔面にスラッガーを走らせる。

 斬撃は、レイデュエスの左半面にまで達する。

 

『「うぎゃああああッ!!」』

 

 絶叫するレイデュエス。だがジードはそれで済まさず、オーヴァーゼットンから距離を取ってから両腕を十字に組んだ。

 

「『スペシウムスタードライブ!!」』

 

 腕から放たれる全力の光線が、時間を止められているダークオーヴァーゼットンに叩き込まれる。

 

『「う、ウルトラマンジード……!!」』

 

 ダークオーヴァーゼットンの暗黒空間に光が満ちていき、レイデュエスが呑まれていく。

 

『「――比企谷……はちまぁぁぁ――――――――んッッ!!!」』

 

 レイデュエスの体内からも光が溢れ出て――ダークオーヴァーゼットンが塵も残らないほどの大爆発を起こした。

 その爆風が、暗黒に覆われていた空を一辺に晴れ渡らせる。暖かい陽光の下、ジードが地上に降り立った。

 

「――やったああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ―――――――――――!!」

「勝った! 勝ったよぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

 

 星雲荘ではペガや結衣が、ジードと八幡の大逆転勝利に大声を発していた。結衣は感極まった挙句にわんわん泣き、ライハや陽乃もほっと胸を撫で下ろす。

 しかし皆が喜び安堵する中で、雪乃はポツリとひと言漏らした。

 

「だけど……町はすっかり焼き尽くされてしまったわね……」

 

 その言葉が、結衣たちの心に影を差した。敵は倒せても――破壊された総武高校や町は、元には戻らない。

 ――そう、思われたのだが。

 

「オオオオオオ……!」

 

 ジードが雄々しく右腕を天に掲げると――何と空に輝く太陽が、『東に向かって』傾き出した!

 

「えっ!?」

 

 太陽と月が猛スピードで逆回転する、その超常現象に仰天する雪乃たち。しかもそれだけではない。破壊された町が、映像の巻き戻しのように再生していくのだ!

 

「えええええええええええ!? どうなってるのこれぇぇ!?」

 

 心の底から驚き目が飛び出る結衣。この事態をレムが説明した。

 

[シャイニングミスティックの力により、限定的に時間が逆行しています]

「時間が逆行!!?」

[その結果――]

 

 ダークオーヴァーゼットンによって破壊された物の全てが――総武高校も、それまでの学園祭の準備も――何事もなかったように、元通りとなった。

 

「直った……! 何もかもが……!」

「ヒッキー……!」

 

 完全に再生した町の光景に、皆は逆に言葉もない。復活した町の中に立つジードに、結衣は――雪乃もほのかに――熱い視線を送る。

 しかしジードの姿がその場で消失し、その跡に八幡が力なく倒れ伏すと、彼女たちは大きく色めき立った。

 

「大変! 助けに行かないと!」

[すぐエレベーターを用意します]

 

 即座に動いたライハを先頭に、雪乃たちは急いで八幡の元に向かう。――雪乃の後ろ姿には、陽乃が面白そうな目を向けていた。

 

 

 × × ×

 

 

『――どうやら、我々の出る幕はなかったようだな』

 

 宇宙空間から地球を見下ろしながら、ウルトラマンがそうつぶやいた。彼の目には、はるか先の地表で雪乃たちが失神している八幡を星雲荘へ運んでいくところが見えている。

 ウルトラマンの側で同じ光景を見ているのは、ウルトラセブン、ウルトラマンレオ、ヒカリ、そしてコスモス。彼らは以前にウルトラマンジードの力の波動を感じ取り、今回も彼の窮地を感知して宇宙を超えてここに駆けつけていたのである。

 ダークオーヴァーゼットンがジードを抹殺しようとしていた時は、五人でジードを助けに地上へ降りようとしていたのだが……彼らは、自分たちの力で切り抜けた。

 

『すごい子……いえ、すごい子たちですね』

 

 コスモスが圧倒されたようにつぶやくと、セブンがおもむろに首肯した。

 

『うむ。あの若きウルトラ戦士も、良き仲間を持ったようだ』

『特に彼と一体化している少年は、強い心の光を持っている』

『彼らの心の絆があれば、どんな困難があろうとも乗り越えられることだろう』

 

 レオ、ヒカリがそう判じ、ウルトラマンが最後に言う。

 

『この星はジードたちに任せよう。彼らならば、立派に守り抜いてくれる』

 

 それを信じて、五人はそれぞれの宇宙へと帰還していった。

 

 

 × × ×

 

 

 ジードの時間逆行によって元に戻った町の中を、ルドレイとオガレスが全速力で駆けていた。人の目も構わないほどに焦っている。

 

『おい急げ! AIBに先を越されたら取り返しがつかないぞ!』

『そんなこと言われんでも分かってる! 確か、こっちの方だったはず……!』

 

 二人が道路の角を曲がり――目に飛び込んできた光景に、あっと息を呑む。

 

『で、殿下!』

 

 道の真ん中に――レイデュエスが全身から煙を噴き出しながら、大の字で倒れていた。その側には、砕け散って粉々になったEXゼットンカプセルとハイパーゼットンカプセル、半壊してバチバチとショートしているブラッドライザーが転がっている。

 

『な、何ということ……!』

『殿下、お気を確かに!』

 

 オガレスとルドレイは大慌てで、倒れたまま微塵も動かないレイデュエスを回収していった。

 

 

 × × ×

 

 

 ジードの活躍によって絶望的状況から一転、世界中の都市が元に戻り、ジードの評価は懐疑的なものから賛辞と感謝に塗り替わった。人類には町だけでなく希望も戻ったのだ。

 総武高校もまた、誰もがあきらめていた文化祭を、予定通りに開催をすることが出来た――。

 

「はぁ~……今回はマジしんどかった……」

 

 文化祭の光景を写真に収める撮影の合間に、人通りの少ない廊下で八幡はどっと息を吐いた。見回りの最中だった雪乃がそれでクスリと微笑む。

 

「文化祭ギリギリで目を覚ますなんて……本当、悪運は強いのね」

「こうやってパシらされるんだから、強いかどうかはいまいち判別つきがたいがな……」

 

 シャイニングミスティックとなってダークオーヴァーゼットンを撃破し、破壊された世界中を再生させた後に倒れた八幡は、何と三日間も昏睡状態が続いた。レムの分析によると、シャイニングミスティックは他の形態と違って変身するだけでも莫大なエネルギーを消費する上に、時間を巻き戻す荒業まで行使したので、負担が尋常ではないものになってしまったという。強力なフュージョンライズだが、みだりに使用は出来ないだろう。

 三日間……。オーヴァーゼットンとの初戦が四日前で、再戦が当然二十時間後なので、八幡が目を覚ましたのは文化祭当日の朝であった。小町らは大いに心配したのだが、身体には異常はないため、八幡は登校を選んだ。一番大事な時期を欠席し続け、本番には遅刻して参加する八幡に対する文実の生徒たちの反応は冷ややかなものだったが、事情を知る結衣たちや平塚などは温かく迎えてくれた。

 

「あまりにも突拍子のないことが連続したから、色々と話したいことがあるのだけれど……またの機会にしましょう。今は実行委員の仕事が最優先よ、記録雑務」

「はいはい。相変わらずだよなぁお前って奴は」

 

 クールに命令してくる雪乃に肩をすくめた八幡だが、ここでふと雪乃に問いかける。

 

「ところで、相模の奴はどうした? あいつの顔がどこにもないんだけど」

「えっ、相模さん? ……そういえば、生徒会室にもいなかったわね」

 

 聞かれて、相模のことを思い出す雪乃。八幡は一日目のオープニングセレモニーに間に合わなかったので、この文化祭で相模を目にしていないのだ。

 

「友人と一緒に文化祭を回っているのではないかしら」

「いやまぁ、それならそれでいいんだけどさ」

「……でも、そろそろエンディングセレモニーの打ち合わせをしておきたいから、連絡は入れておきましょう」

 

 八幡のひと言で嫌な予感を覚えた雪乃は、連絡用のケータイで相模に電話を掛ける。

 ……が、電波の届かないところにいるか電源が入っていないという不通の報せのみが返ってきた。

 

「変ね……。電波が届かないはずがないし、文化祭中に電源を切っているとも思えない。単なる電池切れならいいのだけど……」

「流石にそんなうっかりな奴じゃねぇだろ」

 

 嫌な予感が膨らんできた雪乃は、めぐりたち生徒会役員らと連絡を取って相模を捜してもらったが……相模は一向に見つからなかった。昼過ぎ以降の足取りが、ぷっつりと途絶えているのだという。

 相模がいないという事実に、雪乃はにわかに焦り出す。

 

「まずいわね……。優秀賞と地域賞の投票結果を知っているのは、纏めた相模さんしか知らないのよ。このままじゃ、エンディングに支障が出るわ……」

 

 その独白を聞いた八幡は、やおら雪乃に背を向けた。

 

「比企谷くん?」

 

 怪訝な顔をした雪乃に、八幡は振り向きざまに告げる。

 

「流石に校舎から出てったってことはないだろうし、ちょっくら捜してくる。お前はもしもの時のために、時間稼ぎの算段を立てといてくれ。これはお前にしか出来ないことだからな」

 

 ――八幡からそんな言葉が出てくるとは思っていなかった雪乃は、やや戸惑いながらもうなずいた。

 

「え、ええ。分かったわ」

「頼んだぞ」

 

 ひと言言い残して行動を始める八幡。――そんな彼にジードが呼びかける。

 

『八幡、珍しいじゃないか』

「あ? 何がだよ」

『君がこんなにも積極的に行動するなんて。そもそも、相模さんのことを気に掛ける時点でいつもの……いや、『今までの』君らしくないよ』

 

 ジードの指摘にペガも同意する。

 

『だよね。ペガも驚いちゃったよ。基本的に他人のことには我関せず、奉仕部の依頼でようやく行動するのに』

「何でもいいだろ別に。ただちょっと、気が向いただけだ」

 

 八幡は二人に短く言い返しながら、相模の行方を追跡しに足を速めていった。

 

 

 × × ×

 

 

 特別棟の屋上に続く階段は文化祭の荷物置き場になっているが、人が通れる程度の隙間が荷物の間に開いている。八幡はその隙間を抜け、踊り場の扉を開いて屋上に出た。

 フェンスに寄りかかっていた相模は、八幡の顔を見て心底驚いた顔をした。

 

「あんた、何でここに……。もしかしてうちを捜しに来たの? 早くない……?」

「お生憎だったな。どうせエンディングセレモニーにいない自分を捜しに来てほしかったんだろうが、そんな自己満足はご破算だ」

 

 自己満足、というトゲのある言い方に、相模はあからさまに顔をしかめたが、反論はしなかった。

 相模は己の自尊心を満たすために実行委員長となったが、周りから頼られたのは雪乃であり、自分のやることはことごとく裏目に出た。自意識の拠り所を失った相模は、失ったそれを他人に求め出した。それが姿を消した理由。

 八幡はそれを推理し、材木座や沙希の協力も得て、相模が行きそうな場所に目星をつけてここにたどり着いたのであった。

 

「エンディングセレモニーが始まるから戻れ。今ならまだ間に合う」

 

 八幡が単刀直入に告げると、相模は眉をしかめて八幡に背を向けた。

 

「別にうちがやらなくてもいいんじゃないの」

「残念ながら集計結果の発表があるから、お前がいないと始められないんだよ」

「じゃあ、集計結果だけ持っていけばいいでしょ!」

 

 バサッ、と集計結果の記された紙を叩きつける相模。自分の思った通りにならない現実を前にして、すっかりすねてしまっている。

 

「もう、最悪……。せっかく実行委員長になったのに、みんなうちと雪ノ下さんを比較して、誰が委員長か分からないって言うし、うちの出した方針は思いっきり否定されるし……。こんなんで委員長やったって、何も楽しくない……。こんな思いするんだったら……文化祭なんて灰になったままでよかったのに……」

 

 その言葉には流石に目くじらを立てた八幡であったが、ぐっとこらえ、今の自分が何をするべきかを思考する。

 奉仕部に持ち込まれた依頼は、相模の実行委員長の仕事の補佐。つまり相模に委員長の責務を果たさせなければいけない。これが最低条件。これが達成できなければ、奉仕部としては失敗だ。

 そしてそれは、他人による強制ではなく、あくまで相模自身の意志を以てさせなければならない。それが雪乃の志に応じる道。

 相模をこの場から動かすには、彼女が望むような人間に、彼女が望むような言葉を言わせるのが一番だが、もうセレモニーの開始時刻まで間もない。時間稼ぎ用の人員も必要なので、今から呼んでいる余裕はない。こんなことなら初めから誰か連れてくるんだったと悔やむが、そんな後悔が何の役に立つのか。

 だから、八幡は相模に言い放った。

 

「最悪? 何勘違いしてんだよお前」

「え……」

 

 想定外であっただろうひと言に、相模の顔がこちらに向いた。八幡はここぞとばかりに畳みかける。

 

「本当の最悪ってのは、このまんまお前がセレモニーに現れなくて、文化祭を最後の最後で台無しにすることだろうが。お前恨まれるだろうぜ? 明日からはクラスカーストの最底辺に落ちるかもしれねぇな。そう、俺と同じどん底に。そんなことも分かんない頭なのか、お前? だからないがしろにされるんじゃねぇの」

 

 八幡と同じ、という具体例に、相模の表情は驚愕と絶望が入り混じる。そして罵倒してくる八幡には、怒りと憎悪の目が向けられた。

 八幡は言葉を緩めず、むしろ加速させる。

 

「今なら間に合うって言ってんだろうが。それを無視してバックレようってのならこりゃ救いようがねぇな。そうしたいんなら好きなだけここにいろよ。その代わり、俺がお前が自分勝手な理由で逃げ出した最低自己中女って言いふらしてやるぜ。それでもいいのか?」

「……!」

「これだけは言っておいてやる」

 

 八幡は一旦言葉を区切り、スゥッと息を整えてから、はっきりと宣った。

 

「ジーッとしてても、ドーにもならねぇぞ」

 

 八幡から言葉の数々をぶつけられた相模は、しばらく顔色が目まぐるしく変わっていたが――やがてフェンスから離れて集計結果を拾い上げた。

 

「分かったわよ……戻ればいいんでしょ、戻れば! これ以上ここであんたなんかからグチグチ暴言聞かされるなんてまっぴらよ!」

 

 肩を大きく揺らしながら階段に向かっていく相模は、八幡にすれ違いざまに、ボソリと恨み言をぶつけた。

 

「あんた、覚えときなさいよ……!」

 

 そのひと言を残して立ち去っていく相模。――その姿がなくなってから、ジードが八幡に呼びかける。

 

『八幡』

 

 八幡は相模に代わるようにフェンスに寄りかかって、自嘲気味にジードに返した。

 

「相変わらず最低な奴だよな、俺って。こんなやり方しか出来ねぇんだから」

『――確かに最低かもね。いちいち人を怒らせなきゃ気が済まないみたいなんだから』

「っておい。そこはフォローしてくれねぇのかよ」

 

 突っ込みを入れた八幡に苦笑しながら、ジードは告げる。

 

『でも、手厳しいことをズバズバと言うのが君だし、本当は優しいのが君だよ、八幡』

「いや、優しいとかそんなこともないんだけど……」

 

 素直にもなれない八幡に、ジードはクスリと笑いながらひと言、

 

『それに……君は変わったよ』

「は? ……いやどこも変わってないだろ。人がそう簡単に変わる訳ねーっての。そういうのは大体錯覚、単なる気のせいがオチなんだからな」

「えー? そんなことないよ」

 

 ペガもニヤニヤしながら話に混ざってきた。

 

「ペガの目から見ても、八幡は変わったって思うよ。ねぇーリク」

『だよねぇ~。知らぬは本人ばかりって奴?』

「おい、だから俺はどこも変わってないっての! 今も昔も同じ比企谷八幡だ」

『いやいや変わったって~』

「だーかーらー! 変わってねぇって……!」

 

 からかうように変わったと言い続けるジードとペガ、ひたすら否定する八幡。エンディングセレモニーに呼び戻されるまで、彼らはそんなやり取りを続けたのであった。

 

 

 

『ウルトラストーリーナビ!』

 

八幡「今回は『ウルトラマン』最終話「さらばウルトラマン」だ」

八幡「科特隊がある日円盤の大群の姿をキャッチする。地球侵略のために押し寄せてきた宇宙人の大軍団相手に奮戦する科特隊だが、敵はその間に基地に侵入して内側から科特隊基地を破壊してしまう。侵入者はどうにか討ち取られたが、宇宙人は最後に怪獣ゼットンを繰り出してきた。ゼットンには科特隊のあらゆる兵器が効かず、ウルトラマンが登場することとなるんだが、今回の戦いは雲行きが怪しい。果たして結果はどうなるか……という内容だ」

八幡「言わずと知れた『ウルトラマン』の歴史に残るほどの名最終回だ。その内容はまさに伝説。何たって、無敵のヒーローウルトラマンが負け、しかもそのまま番組が終わるんだからな。こんな最終回は後にも先にも『ウルトラマン』だけだ」

八幡「『ウルトラマン』の視聴率は化け物級だったんだが、実は特撮にこだわるあまりに制作がすっかり追いつかなくなってしまってた。だから一年に満たない三クールで最終回になっちまったんだよな」

ジード『だけど、そのこだわりのお陰でウルトラマンは今も続く特撮の金字塔シリーズになったんだ!』

八幡「それじゃあ、また次回でな」

 




「うわああああやぁぁぁぁぁめぇぇぇぇぇぇろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!」
[八幡は以前からリトルスターをその身に抱えていたのではないでしょうか]
「何はどうあれ……本物はそう安いもんじゃないはずだ」
「えいほ、えいほ、えいほ、えいほ、えいほ!」
『八幡……あの子、普通の人間じゃないよ!』
[マラソン小僧と称される人物は、確かに人間ではないようです]
「まさか……あたしたちの体育祭を見物しに来たとか!?」
「城廻先輩の願い、どうにかして守り抜かないと」
「ここからは、ネクストステージだ!」



次回、『体育祭に死神山のスピードランナーがやってきた。』



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体育祭に死神山のスピードランナーがやってきた。(A)

 

 比企谷八幡。千葉の進学校総武高校に通う高校生二年生。目つきは悪く、卑屈で人づきあいが下手な性格が災いして友達はいない。座右の銘は、『押してだめなら諦めろ』。

 そんなろくでなしであったが、何の因果かウルトラマンジードに変身して地球を狙う悪に立ち向かう身となり、そして今は――。

 

「うッ……うわあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ―――――――――!!」

 

 真っ赤になった顔を両手で覆って、星雲荘の床をゴロゴロと転がっていた。尋常ではない恥ずかしさで身もだえしているのであった。

 その理由は、

 

「目指すぜ! 天辺!!」

「わぁ~! ペガっち似てる~!」

「うわああああやぁぁぁぁぁめぇぇぇぇぇぇろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ! 真似すんじゃねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ―――――――――――――!」

 

 ペガが八幡の、シャイニングミスティックになった際の決め台詞を物真似して結衣たちが誉めそやしているからである。

 八幡がジードに変身している間は、話している内容がジードライザーを通して星雲荘に逐一伝わる。もちろん先日のダークオーヴァーゼットン戦の時も、八幡の発言の全てが星雲荘に避難していた全員に聞かれていたのだ。

 そして後から冷静になった八幡は、その時に自分が言い放ったことに対して羞恥心に駆られている真っ最中なのであった。

 

「何であんなこと連発して口走っちまったんだ俺ぇぇぇぇぇぇぇぇッ! これじゃ材木座を笑えねぇよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!」

「そんな恥ずかしがることないよ八幡。かっこよかったよ!」

「うんうん! すっごい見入っちゃったし!」

 

 のたうち回る八幡にペガと結衣が熱弁するが、雪乃は苦笑交じりにこう言った。

 

「なれるといいわね比企谷くん、本物に」

「ぎゃああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――――――――――――ッ!!」

「ちょっと落ち着きなよヒッキー」

 

 一番恥ずかしく感じている台詞を蒸し返されて過剰反応する八幡のありさまに、ライハはすっかり呆れ返っていた。

 

「……ともかく、あなたもリクも無事でよかったわ。あの場面で八幡にリトルスターが発症するなんて……まさしく奇跡的な偶然よね」

 

 とのたまうライハだが、そこにレムが補足を挟む。

 

[偶然の発症ではないと思われます]

「え?」

[推測ですが、八幡は以前からリトルスターをその身に抱えていたのではないでしょうか]

 

 レムの発言に、皆が目をぱちくりさせた。

 

「どういうこと?」

[ハチマンが単独ではウルトラカプセルを使いこなせないということは、リトルスターのエネルギーと同調できていないということです。それと同じように、ハチマンは以前からリトルスターを発症していたものの、同調率が極端に低いために症状が表層化していなかった。それが、極限状態に置かれて光の意志に目覚めたために発症、カプセルへ移動したのではないでしょうか]

「確かに、あの場面でタイミングよく発症したってよりは自然だね」

 

 レムの推測を支持するペガ。結衣は嬉しそうに八幡に視線を戻す。

 

「ってことは、ヒッキーちゃんと本物のヒーローになれたってことだね! やったじゃん!」

 

 本物、と言われて依然として恥ずかしがって顔をそらした八幡は、結衣の言葉を素直に受け止めない。

 

「いや、気持ち一つでヒーローになれるんなら世の中英雄ばっかだろ。そう簡単なことじゃねーって多分。そもそも、光の意志ってふわっとしすぎでよく分かんねぇし」

『いや、僕はヒーローっていうのは、そう難しいものじゃないと思うけどな』

 

 八幡の意見にジードはやわらかく反論。

 

「何はどうあれ……本物はそう安いもんじゃないはずだ」

 

 八幡はそれでも、自分が「本物になれた」とは考えていなかった――。

 

 

 

『体育祭に死神山のスピードランナーがやってきた。』

 

 

 

 それから約一か月後――十月九日。

 八幡は帰宅後、近所をグルッと回るように走り込みをしていた。ジョギングである。

 

『八幡、あれ以来毎日トレーニングに励むようになったね。いいことだけどさ』

 

 ジャージ姿で息を切らしながら走る八幡にジードが呼びかけた。

 八幡はウルトラマンジードと融合して以来、ライハから戦いで生き残るためと、トレーニングを課せられていた。が、そういうことに熱心ではない八幡のこと、今までは何かと理由をこじつけてサボりがちでライハの手を焼かせていた。

 それが、ダークオーヴァーゼットン戦後は一転して、人が変わったようにトレーニングに打ち込むようになった。自主的にジョギングを始めた際には、小町に心底驚かれたりもした。

 

「まぁ、流石にあんな死の淵に追いやられるようなことは二度とごめんだからな。そりゃあ俺だって必死にもなるさ」

 

 と語る八幡に、ペガが指摘する。

 

『とか言って、八幡が自分で自覚してない間に成長したからじゃないの?』

「だぁかぁらぁ、すぐそうやってこそばゆい方向に結びつけようとすんじゃねーって。あちこちかゆくなってくるだろうが」

 

 何かにつけて「成長」に持っていこうとするペガたちにうんざり顔の八幡。それに苦笑するジード。

 

『何はともあれ、この調子なら明日の体育祭もいい結果出せそうだね!』

「体育祭か……」

 

 奉仕部はまた新たに、めぐりから依頼を受けていた。それは、今一つ活気に欠ける総武高校の体育祭を盛り上げてほしいというものである。その解決に向けて新しい目玉競技を用意するなど動いてきたのだが、もう一つ、今年で卒業である依頼者のめぐりを優勝させるという方向でも行動している。これには競技で勝って、得点を稼ぐ以外に方法はない。

 幸い奉仕部は皆めぐりと同じ赤組なので、八幡が身体能力を上げることはそのまま依頼達成につながる訳である。

 

「……しかし、『参加することに意義がある』ってクーベルタン男爵は言ったが、現代では強制参加の脅し文句に扱われてる節があるよな。世の中、行くだけ無駄だったものなんて腐るほどあるだろうに。むしろ参加することに意義があるなら、参加しない勢力に参加することにだって意義があるんじゃないのか」

『またそんな屁理屈こねて……。そういうところは変わらないね』

 

 ひねくれた持論を唱える八幡にペガたちは呆れ果てる。

 そんな時……八幡の背後から、何かがすごい勢いで接近してくる気配がした。

 

「えいほ、えいほ、えいほ、えいほ、えいほ!」

「ん?」

 

 八幡がふと後ろに振り返ると……マタギのように獣の毛皮で出来た服を身に着けた珍妙な中学生くらいの子供が、風のような途轍もないスピードで近づいてくる光景が目に飛び込んできた。

 

「な、何だ……!?」

「えいほ、えいほ、えいほ、えいほ、えいほ!」

 

 子供が唖然とする八幡の横を通り過ぎると、同時に突風が吹いて八幡の身体が煽られる。子供が風を吹かせながら駆けているようであった。

 

「うわぁ!?」

 

 バランスを崩してしりもちをつく八幡。子供はそんな八幡の元に戻ってくると、ニカッと笑いながら呼び掛けてきた。

 

「お前なかなか速いなー! 俺は速い奴が好きだ! どうだ、俺と一発勝負してみないか?」

「は……? いや、お前誰だよ」

 

 いきなりなれなれしく話しかけてきた子供に、八幡が呆気にとられながら聞き返すと、子供は次のように名乗った。

 

「俺はマラソン小僧って呼ばれてるんだ」

「ま、マラソン小僧……?」

 

 何だその安直すぎるあだ名。っていうか本名名乗れよ、と八幡が思う間もなく、自称マラソン小僧は再びせがんでくる。

 

「なぁ~、俺とマラソン勝負しようぜ?」

「いやいや……会ったばっかの奴といきなり勝負とか、俺そんな少年漫画的なノリで生きてねぇから」

 

 八幡が当然のように断ると、マラソン小僧は途端に冷めた顔となる。

 

「なーんだ、つまんねぇの」

 

 あっという間に八幡への興味を失ったマラソン小僧はクルリと踵を返し、そのまま走り去っていく。

 

「えいほ、えいほ、えいほ、えいほ、えいほ!」

 

 マラソン小僧の走る速さはおよそ人間離れしており、彼に追い抜かれた人は皆一様に突風で転げる。

 

「きゃあ!?」

「うわぁッ!」

「おい小僧! 何しやがんだぁッ!」

 

 道行く奥さんやサラリーマン、近所で評判の意地悪じいさん(唐突)などが腰を抜かす様子を、呆然と見やる八幡。

 

「何なんだあれ……変な奴……」

 

 口が半開きのままの八幡に、ペガが重たい口調で呼び掛けた。

 

『八幡……あの子、普通の人間じゃないよ!』

「まぁ、どう見たって普通じゃねぇだろ」

『いやそういうことじゃなくて……』

 

 意図が伝わっていないのでペガは言い直した。

 

『あの子は多分、怪獣の一種か何かだ! 未知のエネルギーを感じたんだよ!』

「怪獣? あれが……?」

 

 ぐんぐんと小さくなっていたマラソン小僧の背中だが……たまたまサブレの散歩中の結衣と出くわす。

 

「きゃんきゃん!」

「うわぁぁぁ―――――!?」

 

 サブレはじゃれつくようにかわいく吠えただけなのに、マラソン小僧が大仰な悲鳴を上げたので結衣は驚愕。

 

「だ、大丈夫!?」

「お、俺は犬だけは駄目なんだ! 助けてくれぇ―――!」

 

 マラソン小僧はまさしく脱兎の如く、ピューッと逃げていった。それを見届ける八幡。

 

「……あんな小さい犬にビビッてんのに?」

『そう言われると、自信なくなるけど……』

 

 ペガが口ごもる一方で、近所で評判の意地悪じいさんは密かにほくそ笑んでいた。

 

「ほほぉ~、犬が苦手なのか……ヒッヒッヒッ……」

 

 

 × × ×

 

 

 八幡たちの前に突然現れた、おかしなマラソン小僧。ペガの言うように怪獣にはとても見えなかったが、八幡たちは星雲荘でレムから衝撃の話を聞くこととなった。

 

[マラソン小僧と称される人物は、確かに人間ではないようです]

「そうなの!?」

 

 目を丸くする結衣たち。レムはその理由を説明し出す。

 

[中部山岳地帯に、死神山という別名で呼ばれる鉱山があるのですが、その山で死亡した足の速い少年がマラソン小僧という足の神となったという伝承があります。このマラソン小僧は年に一度、山から下りてふもとの村を風とともに走り抜けると言われています。ハチマンたちが目撃した少年が起こした現象から鑑みて、これと全くの無関係とは思えません]

「いつ頃からの伝承か知らないが、どうして名前に横文字入るんだよ。日本の伝説なのに」

 

 細かいところを気にする八幡は置いて、レムの解説に異を挟む雪乃。

 

「でも、ここは千葉よ。中部で信じられている神様が、どうしてこんな場所に?」

[マラソン小僧は足の速い者との勝負を好み、その名の通りにマラソンなどの競走を見物することが趣味とも言い伝えられています]

 

 レムの言葉にハッとする結衣。

 

「まさか……あたしたちの体育祭を見物しに来たとか!?」

「偶然通りがかった……と考えるのは楽観的よね」

 

 また新たな問題が飛び込んできたと感じて、雪乃は頭が痛そうに額を押さえた。

 しかもレムの解説はこれで終わりではなかった。

 

[ここからが最も重要な点ですが、マラソン小僧は温厚な気質ですが、一度怒るとイダテンランという巨大な怪物となって、手のつけられないほどに暴れ回るそうです]

「えぇー!? それホント!?」

「……千葉村の想い石も本物だったし、単なる言い伝えと切って捨てない方が賢明でしょうね」

 

 途端に深まる警戒心。ライハは雪乃のひと言にうなずきながら、八幡たちへと振り返った。

 

「八幡たちが出会った子供が本物のマラソン小僧かどうか、イダテンランという怪獣になるかどうか。まだ確定ではないけれど、気をつけた方がいい。きっとマラソン小僧は、もう一度あなたたちの前に現れるでしょうから」

「ですよね! 体育祭だって頑張って準備してきたんだもん、ぶち壊されたくなんかありませんよ!」

「ええ。城廻先輩の願い、どうにかして守り抜かないと」

 

 意気込む結衣と雪乃。そして八幡は、

 

「また怪獣騒動か……。よくまぁ飽きもせずに、次から次へと俺たちのところに飛び込んでくるもんだ。誰かに祟られてるんじゃねぇだろうな?」

 

 うんざりしたような口調でありながら、その目は真剣な輝きを宿していた。

 

 

 × × ×

 

 

 そして一日が経過し、肝心の体育祭が始まる。救護班を任された八幡はその仕事を行いながら、マラソン小僧が現れないかとグラウンド全体に目を光らせている。

 しかしその件とは別のことで顔をしかめていた。

 

「状況は良くねぇなぁ……」

 

 ため息交じりにひと言漏らす。その視線の先にある得点ボードは、終盤にも関わらず赤組が白組に五十点もリードされていることを示していた。

 白組には総武高校一のスポーツマン、葉山がいるのである。彼が競技で次々勝ちまくるお陰で赤組はすっかりと劣勢ムード。それが影響してこのような点差になってしまった。八幡たちがいくら頑張ったとしても、体育祭は団体競技が主。個人ではどうにもならない部分もある。

 ふと見れば結衣も難しい顔をしているが、雪乃はその目に静かな闘志をたぎらせながら得点ボードをにらみつけていた。

 

「……残りの競技は何だったかしら」

「え、ああ。あとは目玉競技の『チバセン』と『棒倒し』だな」

「そう……」

 

 八幡が気圧されながら答えると、雪乃はそれきり押し黙る。そういやこいつ、大の負けず嫌いだったな、と思う八幡。

 ともかく勝利への算段を立てる雪乃であったが……その時に、遂に懸念の事態が舞い込んできた。

 

「えいほ、えいほ、えいほ、えいほ、えいほ!」

「あ、あれっ!」

 

 結衣が指差した先……校門から、件のマラソン小僧が飛び入ってきたのだ!

 



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体育祭に死神山のスピードランナーがやってきた。(B)

 

 体育祭の最中に突然校庭に入り込んできた、珍妙な格好の少年に生徒たちはにわかに騒然となった。そんな中で、少年の正体――マラソン小僧を知る結衣に、雪乃がこっそりと尋ねかける。

 

「由比ヶ浜さん、あれが例のマラソン小僧なのね?」

「う、うん、間違いないよ」

「悪い予測ばかり的中するわね……。きっと、見物するだけでは飽き足らなくなってしまったのね」

 

 と推測する雪乃。その視線の先では、トラックの真ん中で足踏みするマラソン小僧に平塚ら教師が近寄っていく。

 

「こら君、どこの子だ? この体育祭は校内のみの行事で、部外者は招いていないんだ。悪いけれど、出ていってくれないかな」

 

 平塚がたしなめるものの、マラソン小僧はその言葉を全く聞いておらず、自分の目の前にいる者たち全員に向けて呼び掛けた。

 

「なぁ、俺とマラソン勝負しようぜ!」

「は?」

 

 目が点になる平塚たちだが、マラソン小僧は委細構わずにまくし立てる。

 

「みんなで誰が一番速いか勝負してるんだろ? 俺も混ぜてくれよ! 俺、足には自信あるんだ。俺に勝てる奴はいないか?」

「……君、馬鹿なこと言ってないでこっちに……」

 

 教師の一人が呆れながらマラソン小僧の腕を掴もうと手を伸ばしたが、マラソン小僧はひらりとかわして手は空を切る。

 

「ハハハハハ! 遅い遅い!」

「なっ……こら、悪戯はよしなさい!」

 

 平塚たちは総出でマラソン小僧を捕まえようとするも、マラソン小僧は相変わらずの風のようなスピードで駆け回り、難なく教師たちの包囲をすり抜けた。

 

「遅いって! もっと速く走ろうよ! もっと速くさぁ~!」

「こ、このぉ……!」

 

 からかわれた男性教師陣はカチンと来て、腕まくりをして全速力でマラソン小僧を追い回すものの、マラソン小僧は人外。その速度には到底追いつけず、もてあそばれるように振り回される。

 

「は、はひぃ~……!?」

「もう終わり? みんなだらしないな~。先生とか言って威張ってばっかで、運動不足だからだなぁ! ハハハハハハ!」

 

 すぐにヘトヘトになって崩れ落ちていく教師たちを、余裕しゃくしゃくのマラソン小僧が笑い飛ばす。そんなありさまに生徒たちの間から野次が飛ぶ。

 

「おーい、情けねぇぞ先生ー!」

「そんな子供にからかわれてよぉー!」

「これじゃ次の競技できないじゃーん!」

「あのガキむかつくなぁおい!」

「よーし、俺が代わりにあいつを捕まえてやるわー! サッカー部に任せとけってー!」

 

 お調子者の戸部を始めとして、生徒たちからチラホラと俺も、よし俺もとトラック内に駆け込む者たちが現れ、マラソン小僧を追いかけ出す。

 しかしマラソン小僧は自分を追う人数が増える毎にスピードを増していき、彼らからヒョイヒョイと逃れる。

 

「えいほ、えいほ、えいほ、えいほ、えいほ!」

「うっわマジで速えぇ……!?」

「何だあいつ……!?」

 

 戸部たちは複数人がかりでもまるで追いつけず、目を丸くしている。そんな彼らに挑発するように呼び掛けるマラソン小僧。

 

「おーいどうしたどうした。これだけいて、俺を抜ける奴はいないのかよ~」

 

 そう言われても、戸部たちはマラソン小僧の異常なスピードにすっかりと怖気づいて及び腰になっている。

 

「何だ何だ、どいつもこいつもだらしないな~」

「いい加減にするんだッ!」

 

 嘲笑するマラソン小僧に葉山が飛びかかった。しかし惜しいところで逃げられる。

 

「おっと危ない危ない!」

「みんなの迷惑だ。すぐに出ていくんだ」

 

 葉山が説き伏せようとしても、やはりマラソン小僧は聞く耳を持たない。

 

「お前は速いなー。じゃあ俺と勝負だ! 俺に追いつけるかなー!」

「こらッ、待て!」

 

 クルリと背を向けて逃走するマラソン小僧を追いかける葉山。他の生徒、特に女子の間から次々と葉山を応援する声が上がる。

 

「きゃー! 葉山くん、がんばってー!」

「かっこいいー!」

「隼人ー! 負けんなー!」

「あんなに必死になって人の背中を追いかける隼人くん……。その相手がヒキタニくんだったらすごく美味しかったのに、惜しい……」

 

 しかしいくら葉山とて人間の限界がある。足の神様であるマラソン小僧に敵うべくもない。

 

「くッ……!」

「ほらほらー! ピッチを上げろー! えいほ、えいほ、えいほ!」

 

 校庭はマラソン小僧によってすっかりと混沌とした状態。これにめぐりがオロオロと右往左往する。

 

「あわわ、どうしよう。警察呼んだ方がいいのかな。でも体育祭が……」

 

 めぐりが弱り果てる後ろで、雪乃たちはヒソヒソと声を潜めながら相談し合う。

 

「このままではまずいわね。これで万が一、あの子が本当に巨大な怪獣になったとしたら……」

「大惨事だよ……!」

 

 身震いする結衣。マラソン小僧は温厚な性格と聞いているが、それもどこまで本当のことか分からない。今は機嫌が良さそうだが、何かのきっかけで変身するようなことがあったら……校庭のど真ん中など最悪である。

 

「ライハさんやAIBを呼ぶべきかな……」

「でも、今からだと時間が掛かりすぎるわ。それまでマラソン小僧をどうにかしないと……」

「けど、どうにかって言ったって……」

 

 いつ怪獣になるものかと気が気でなく、すっかり弱り果てる結衣。すると、

 

「……ジーッとしてても、ドーにもならねぇ……!」

「あっ、ヒッキー!?」

「比企谷くんっ!」

 

 八幡がそう唱えながら飛び出していき、校門前まで走っていくと声を張ってマラソン小僧に挑発を向けた。

 

「おーいマラソン小僧! 勝負してやろうじゃんか! ついてこいッ!」

 

 そう言い残して、ダッと校門から外へと駆け出していく八幡。マラソン小僧はすぐに食いついた。

 

「そう来なくっちゃ! よーし見てろぉ~!」

 

 マラソン小僧の興味が葉山から八幡に向き、彼の背中を追いかけて総武高校の敷地から飛び出していく。

 

「えいほ、えいほ、えいほ、えいほ、えいほ!」

「ああっこら比企谷! 勝手なことは……!」

 

 平塚が慌てて止めようとしたが、八幡はすぐにマラソン小僧を引き連れて見えなくなってしまった。

 

「……あいつ、あんなに足速かったっけ?」

 

 唖然とする平塚の後方では、葉山がぜいぜい息を切らしながら八幡の消えた跡を見つめていた。

 

「……比企谷……」

 

 

 × × ×

 

 

「えいほ、えいほ、えいほ、えいほ、えいほ!」

 

 八幡の背中を追いかけて駆けるマラソン小僧。八幡はそれに追いつかれないように、ジードの能力を発揮して人間を超えたスピードを出して走る。このような目立つ真似は望ましくないが、時間を稼ぐにはこうする他はない。

 更に八幡は走りながらレムと連絡を取った。

 

「レム、すぐに俺の進行先に、ライハさんとAIBを回してくれ。マラソン小僧を捕まえてもらう!」

[了解しました]

 

 八幡は総武高校から離れて、人気のない町外れにマラソン小僧を引きつけて捕獲してもらう作戦を考えついていた。その成功のためには、自分がマラソン小僧の囮にならなければならない。ゴールまでどうにかマラソン小僧を誘導しなければ。

 

「お前ホント速いな~! こんなに面白い勝負は初めてだ! よーし、俺も本気だぁ~!」

 

 しかしマラソン小僧は更にスピードを上げ、八幡と並んだ。まだまだ本気ではなかったようだ。

 

「えいほ、えいほ、えいほ、えいほ、えいほ!」

「くッ……! おおおおッ!」

 

 八幡は必死にマラソン小僧に食いつき、彼がどこかへ行かないようにする。この頑張りに、町の人たちの安全が懸かっているのだ。

 しかし不運なことに、川沿いの土手を走っているところで、二人の進行先に近所で評判の意地悪じいさん(唐突)の姿が!

 

「むッ! あの小僧は昨日わしを転ばせた……。クククッ、復讐の機会が飛び込んできたわい!」

 

 マラソン小僧の姿を認めた意地悪じいさんはあだ名の通りに意地悪にほくそ笑みながら、土手の陰に身を潜めてマラソン小僧の接近を待ち構えた。

 そして彼が近づいてくると、マラソン小僧に復讐するために連れて歩いていた『秘密兵器』をけしかける!

 

「行け、わしの忠実なペット! 猛犬タイガーよッ! 奴に食らいついてやれぃ!」

「バウバウバウッ!」

 

 柴犬なのにタイガーが意地悪じいさんの手元から解き放たれ、マラソン小僧に襲い掛かる!

 

「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!?」

 

 マラソン小僧は猛犬に驚き、恐怖のあまりに土手から転げ落ちた!

 

「マラソン小僧!?」

 

 八幡も仰天して足を止める。

 

「ワッハッハッ! 作戦大成功! ざまぁみろ!!」

 

 一方で思い通りに事を運べた意地悪じいさんは堂々と高笑いするが……。

 

「ギャアオオオオオオウ!」

 

 マラソン小僧が落ちていった場所から、狛犬のような顔つきの巨大な怪物が立ち上がったのですぐさま腰を抜かすこととなった。

 

「あひゃあああぁぁぁぁぁぁ―――――――――!?」

 

 犬に襲われたマラソン小僧は遂に怒ってしまい、暴風の化身の怪獣イダテンランに変身してしまったのだ!

 

「何てこった! あと少しだったってのに……!」

 

 最も避けたかった事態が現実になってしまったことに歯噛みする八幡。イダテンランは自分に犬をけしかけた意地悪じいさんに目をつける。

 

「ギャアオオオオオオウ!」

「た、助けてくれぇぇぇぇ―――――!」

 

 慌ててほうほうの体で逃げ出す意地悪じいさんであったが、イダテンランが頬を膨らませると、口から猛烈な突風を吹き出して意地悪じいさんを吹き飛ばしてしまう。

 

「ひやあああぁぁぁぁぁぁ――――――――――!!」

 

 突風によって浮き上がった意地悪じいさんは街路樹に引っ掛かってしまった。

 

「ギャアオオオオオオウ!」

 

 それでもイダテンランの怒りは収まらず、総武高校の方角に向かって走り出してしまう! 猛烈なスピードを生み出す脚力はすさまじく、走るだけで大地震のような震動を引き起こす。

 

「き、きゃあぁぁ―――――! 怪獣っ!」

「すっげぇ勢いでこっち来るぞぉ!?」

 

 当然総武高校の生徒たちは大パニック。このままでは学校が危ない!

 

『八幡、行こう!』

 

 この事態はもう人間の力では止められない。ジードは八幡に呼びかけ、いつものようにフュージョンライズの合図を唱えようとしたが、

 

「待ってくれジード」

 

 八幡は毅然とした目つきでイダテンランを見据えながらジードを制止し――彼に促されたからではなく、自身の意志の下にジードライザーを手に取った。

 

「ここからは、ネクストステージだ!」

 

 そう宣言しながら、ウルトラマンカプセルをホルダーから取り出す。

 

「ユーゴーッ!」

『シェアッ!』

 

 そして変身の台詞を、自らの口で唱えながらカプセルを起動。現れたウルトラマンのビジョンが腕を振り上げ、カプセルを装填ナックルに収める。

 

「アイゴーッ!」

『フエアッ!』

 

 続けざまにベリアルカプセルを起動。ウルトラマンベリアルのビジョンが腕を振り上げる。

 

「ヒアウィーゴーッ!!」

 

 二つのカプセルをナックルに装填し、ジードライザーでスキャンする。

 

[フュージョンライズ!]

「おおおおお……!」

 

 液晶画面に二重螺旋が輝いたライザーを、八幡は気勢とともに掲げながら胸の前に持っていく。

 

「はッ!」

 

 己の胸の高さに合わせたライザーのトリガーを握り込み、カプセルの情報を肉体に取り込む!

 

「ジィィィ―――――――ドッ!」

 

 二人のウルトラマンのビジョンが重なると、八幡の肉体がジードのそれに変容していく。

 

[ウルトラマン! ウルトラマンベリアル!]

[ウルトラマンジード! プリミティブ!!]

「シュアッ!」

 

 初期変身を遂げてウルトラマンジード・プリミティブに変身し、一瞬輝く獰猛な双眸をバックに光と闇の螺旋を超えて飛び出していく!

 

「ギャアオオオオオオウ!」

 

 今にも総武高校に突っ込みそうだったイダテンランの頭上を跳び越えて、その面前に着地してイダテンランの進行を制止する。生徒たちはジードの背中を見上げると、途端に安堵の色に染まった。

 

「ウルトラマンジードだ!」

「ジードぉー! 助けてくれぇー!」

 

 ジードは助けを求める声に応じて、イダテンランへと大きく飛びかかっていった!

 

『「決めるぜ! 覚悟!!」』

 

(♪ウルトラマンジードプリミティブ)

 

「ハァッ!」

「ギャアオオオオオオウ!」

 

 ジードの飛び膝蹴りがイダテンランの胴体と一体化している横面を捉えた。先制攻撃を食らったイダテンランは腕を振って反撃するも、ジードはそれをかいくぐって相手の背面に飛びつく。

 

『「傍迷惑野郎め! 大人しく、しろッ!」』

「ギャアオオオオオオウ!」

 

 ジードは相手の重心の高さを利用して、自ら倒れ込みながらイダテンランを投げ飛ばした。バランスを崩されたイダテンランはそのままゴロゴロと転がっていく。

 

「セアッ!」

 

 ジードは更に平手打ちの連発でイダテンランをじりじりと追いつめていく。イダテンランは戦闘に向いた傾向の能力ではないようで、肉弾戦ではジードに敵わず押される。

 

「ギャアオオオオオオウ!」

 

 しかし足の神様イダテンランの武器は圧倒的な走力である。一度駆け出すと、ジードをはるかに超えるスピードを出して彼の攻撃を易々とかわす。

 

『「ちッ、やっぱり怪獣になっても速いのか!」』

「ギャアオオオオオオウ!」

 

 更にイダテンランはジードの周りを高速でグルグル回ることで竜巻を作り出し、彼をその中に閉じ込めた!

 

「ウッ!?」

「ギャアオオオオオオウ!」

 

 ジードは竜巻の風圧によって苦しめられる!

 

「あぁッ、ジードが危ない!」

 

 ジードの窮地に色めく生徒たち。だがしかし、今のジードはこの程度で倒れたりはしないのだ。

 八幡は迷いなくカプセルホルダーに手を伸ばして、一本のカプセルを取り出す。

 

『「ユーゴーッ!」』

『テヤッ!』

 

 ヒカリカプセルのスイッチをスライドすると――ウルトラマンヒカリのビジョンが現れて腕を振り上げた。

 

『「アイゴーッ!」』

『タァッ!』

 

 ヒカリカプセルをナックルに収め、続いてコスモスカプセルを起動。

 

『「ヒアウィーゴーッ!!」』

 

 交換した二つのカプセルを、ジードライザーでスキャンする。

 

[フュージョンライズ!]

『「おおおおお……! はッ!」』

 

 新しいカプセルから引き出した情報をその身に宿して、八幡は再びフュージョンライズ!

 

『「ジィィィ―――――――ドッ!」』

 

 ヒカリとコスモスのビジョンが重なり合い、ジードは青い姿へと変化を遂げていく。

 

[ウルトラマンヒカリ! ウルトラマンコスモス!]

[ウルトラマンジード! アクロスマッシャー!!]

「ハァッ!」

 

(♪ウルトラマンジードアクロスマッシャー)

 

『「見せるぜ! 衝撃!!」』

 

 アクロスマッシャーとなったジードは高々と跳躍して竜巻の中から脱出。ふわりと着地する様に、イダテンランが衝撃を受けて足を止めた。

 

「ギャアオオオオオオウ!?」

「おおおッ!」

「かっこいい~!」

 

 ジードの華麗なる身のこなしにほれぼれとする生徒たち。そんな中で、結衣と雪乃は別のことに意識を引き込まれていた。

 

「ヒッキー……一人でウルトラカプセルを使いこなせるようになったんだ……!」

「そうね……」

 

 それまでは満足にウルトラカプセルを扱えず、プリミティブとトライスラッガー以外の形態には雪乃たちの手を借りなければ変身できなかった八幡。しかし、光の意志に目覚めてカプセルとのシンクロ率が段違いに高まったことにより、単独での全形態への変身が出来るようになったのであった。

 それはもちろん喜ばしいことであるのだが、結衣は少しだけ物憂げな表情となった。

 

「でも、ちょっと寂しいかな……。もうあたしたちの手助けは必要じゃないってことだもんね……」

「……」

 

 結衣の言葉に、雪乃は無言であった。

 

「フッ……」

 

 竜巻から抜け出したジードはクイクイッとイダテンランに手招きして挑発してみせる。

 

「ギャアオオオオオオウ!」

 

 それにまんまと乗っかったイダテンランは猛然とジードに突進していくが、ジードはその勢いを華麗に受け流してイダテンランをすくい投げた。

 

「ハッ!」

「ギャアオオオオオオウ!」

 

 綺麗にひっくり返ったイダテンランは、起き上がるとともに自慢のスピードでジードを翻弄しようとするが――その前方に、ジードが疾風の如き速さで回り込む。

 

「ハァッ!」

「ギャアオオオオオオウ!?」

 

 アクロスマッシャーの速度はイダテンランにも負けないほどであった。一番の武器で負けたイダテンランは自棄になってジードにぶつかっていくが、そんな攻撃ではアクロスマッシャーを捉えることは出来ない。

 

「ハッ!」

「ギャアオオオオオオウ!」

 

 流水のような動きでイダテンランの攻撃を受け流すジード。イダテンランはいたずらに体力を消耗してふらふらになる。

 そこを狙って、ジードは戦いの幕を下ろす。

 

「『スマッシュムーンヒーリング!!」』

 

 手の平から浄化光線を放ち、イダテンランの荒立った感情を癒して落ち着かせた。

 

「ギャアオオオオオオウ……」

 

 大人しくなったイダテンランは縮んでいき、マラソン小僧の姿に戻っていく。それを確認したジードは顔を空に向け、天の彼方へと飛び去っていったのだった。

 

「ハァッ!」

 

 

 八幡は土手の上に寝転んだままでいるマラソン小僧の元まで駆け寄っていくと、立ち上がった彼に呼びかけた。

 

「マラソン小僧。もう死神山に帰れ」

 

 マラソン小僧はスマッシュムーンヒーリングの効果で気分が落ち着いたためか、その言葉に素直に従った。

 

「うん。俺、もう帰るよ」

 

 クルリと背を向けて走り出すマラソン小僧だが、去り際に八幡の方に振り返ってひと言告げた。

 

「楽しかったぜ! 来年また来るからなー! えいほ、えいほ、えいほ……!」

 

 小さくなっていくマラソン小僧の背中に、八幡は――ボソリと、小さくつぶやいた。

 

「いや、もう来んなよ……」

 

 

 × × ×

 

 

 ウルトラマンジードの活躍によって被害は最小限に抑えられ、マラソン小僧は大人しく帰っていった。そのお陰で体育祭もどうにか最後まで進行することが出来たのであった。

 しかし、八幡はマラソン小僧を学校から引き離す際に名前を呼んだことを誤解され、八幡の手引きで学校に侵入してきたという噂になってしまった。そのせいで、八幡は余計に周りから白眼視されるようになってしまったのであった。

 

「……納得いかないなぁ。学校直したのだって、今回だって全部ヒッキーがやったのに、こんな扱いなんて」

 

 奉仕部の部室で結衣が憮然そうに頬を膨らませていた。それに対して当の八幡は手をヒラヒラさせながら述べる。

 

「別に構わねぇよ。他人から悪く思われるなんてのは慣れっこだしな」

「でも……」

 

 不満げな結衣に対し、雪乃は冷静に口を開く。

 

「確かに理不尽な部分はあるけれど、比企谷くんも比企谷くんで、時間がなかったとはいえ独断で学校から飛び出していったり、反則で勝とうとしたりと問題があると言わざるを得ないわ。特に後者がひどいわね」

「うぐ……悪かったよ。誰も見てないと思ってたんだよ……」

 

 雪乃の指摘に言葉を詰まらせる八幡。マラソン小僧を追い返した後の肝心の体育祭は、最後の棒倒しで得点では赤組が上回ったのだが、競技中に八幡が包帯で組を偽装し奇襲するという反則行為が露見して反則負けになるという何とも締まらない結末となったのであった。

 

「でも、めぐり先輩が喜んでくれたのは何よりだったね。一時はどうなるかと思ったもんね~」

「ええ。盛り上がったという意味では、恐らく過去最高だったでしょうから」

 

 めぐりの依頼である、体育祭を盛り上げることには成功したことに結衣たちは安堵した。一方で、ペガは八幡に呼びかける。

 

「でもちょっと意外だったな。八幡が、あの場面で飛び出していったの! お陰でみんな助かったし、あれはファインプレイと言えるんじゃないかな」

「確かに。今までを考えると、意外なほどの行動の早さだったわね」

 

 雪乃もうなずくと、結衣が目をキラキラ輝かせながら八幡に顔を向けた。

 

「やっぱヒッキー、変わったっていうか成長したんじゃないかな! 本物のヒーローになったんだよ!」

 

 八幡は一瞬苦虫を噛みしめたような顔になると、そっぽを向きつつこう吐き捨てた。

 

「だから、簡単に人が変わるようなら誰も苦労なんかしねぇよ。俺は今まで通り……ただ、痛い目に遭うのが前より嫌になったってだけだよ」

 

 そう語る比企谷八幡。千葉の進学校総武高校に通う高校生二年生。

 座右の銘は、『ジーッとしてても、ドーにもならねぇ』。

 

 

 

『ウルトラストーリーナビ!』

 

結衣「今回は『ウルトラマン80』第四十八話「死神山のスピードランナー」だよ!」

結衣「矢的隊員は病気で入院してるお母さんを励ますために中学対抗マラソンに出場するマサオくんのコーチをしてるんだけど、そこに現れたのがマラソン小僧っていうすごいスピードで走る不思議な少年。その子の正体は何と死神山の足の神様だったの! それが悪い中学校の校長に利用されてマラソンに出場する上に、マラソン小僧は怒ると怪獣イダテンランに変身するっていうから二重に大変! マサオくんはマラソンで優勝できるのか、そして矢的隊員はマラソン小僧ことイダテンランを止められるのかな? っていうお話しだよ」

結衣「イダテンランはスポーツをモチーフに取り入れたかなり珍しい怪獣だよ。普段は人間の姿で、しかも昔死んだ人の霊が変化したものだっていうんだから、怪獣っていうよりは妖怪みたいな設定だよね」

結衣「この人間の霊が変化したスポーツ関係の怪獣が悪い人に利用されて、その存在についてオオヤマキャップとイトウチーフが妙に詳しいっていう筋書きは、第四十話にもあるの。どうして同じプロットを二回やったのかな?」

ジード『ちなみに四十八話が、80が単独で怪獣と戦った最後のエピソードなんだ。次の回はユリアンとのタッグ、最終回は戦闘してないからね』

結衣「それじゃ、次回もよろしくね!」

 




「ぱ、パンさんが消えちゃった~!!」
『今起きている人類史上類を見ない大犯罪を知らないなんて言わないでしょうね』
「……雪ノ下……」
「AIBの立場でこうして会うのは初めてだったっけ」
『宇宙広しといえども、こんな珍事を起こすのはこのスチール星人くらいのものだろう』
「要はこのスチール星人というのを捕まえればいいんですね?」
「陽乃さんってどうしてAIBに入ったんですか?」
「パンさんは私が守るわ!」
『「燃やすわ! 勇気!!」』



次回、『パンさんを返して!と雪ノ下雪乃は叫んだ。』




『「それ俺の台詞……」』


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パンさんを返して!と雪ノ下雪乃は叫んだ。(A)

 

「それではパンさんのバンブーファイトの世界に、いってらっしゃーいっ!」

 

 ここは千葉県にあるのに東京の名を冠するテーマパーク、東京ディスティニィーランドのアトラクション、『パンさんのバンブーファイト』。今日も従業員の女性が笑顔で客を乗せたライドを見送る。

 『パンさんのバンブーファイト』は人気アトラクションなだけに、今日も多くの客で賑わっている。……のだが、今日に限っては施設内の一部分に、不自然に開けた箇所が出来ていた。

 

「……」

 

 その原因は、黒い帽子と黒いマントで身を固めた、如何にも不審な黒ずくめの老人がいるからだ。他の客は彼を不気味がり、遠巻きにながめてヒソヒソと囁き合っているのである。

 こんな怪しい人物を、従業員たちが目をつけないはずがない。

 

「何かしら、あの人……。いつの間にここに入ってきたの?」

「あんなどう見ても不審人物が、よく入園できたものね……。エントランスの人たちは何をやってたの?」

「あのままじゃ他のお客様の迷惑だわ。とりあえず、事務所まで連れていきましょう」

 

 従業員たちは黒ずくめの老人をどうするか密かに相談し合い、その結果老人を誘導することが決まる。

 そのために、バンブーファイトの従業員のチーフが老人に近づいていった。

 

「すみません、お客様。お連れの方はいらっしゃいませんか? よろしければアナウンスしますので、お連れ様が来られるまで案内センターの方へ……」

 

 やんわりとした口調ながらも素早く老人を客たちの目につかない場所へ移動させようと考えながら、チーフは老人の対処をする。

 だが、老人の行動は従業員たちの想像を超えた。

 

「ほ……」

「ひょ?」

「ほよよよよよよよ!」

 

 突然不気味な笑い声を上げる老人。その場の客たちはますます不気味がり、従業員たちも冷や汗を垂らす。

 

「な、何なのあの人?」

「誰か、警備員呼んできて!」

 

 力ずくでも引っ張っていこうとするチーフだが、それより早く老人が両腕を振り上げてマントを広げる。

 

「ほよよよ~!」

 

 そしてその場で一回転すると!

 

「あぁっ!?」

 

 一瞬の内に、アトラクション内のパンさんが全て、忽然と消滅してしまったのだ! 施設の壁はペイントが消え、彩りを失ってしまう。

 

「ぱ、パンさんが消えちゃった~!!」

「どうなってるの!?」

 

 途端に沸き上がる混乱の悲鳴。その大騒動の中を、老人がすさまじい勢いで飛び出して逃げていく。

 

「ほよよ~!」

「あっ! 待ちなさいっ!」

 

 何をしたかは分からないが、あの老人が何かをしたに違いない。従業員たちはすぐさま捕まえようと駆け出したが……。

 

「は、速い……!?」

「何てスピード!?」

 

 老人は異常に足が速く、全く追いつけなかった。仰天している人の波の間をすり抜け逃亡していく老人の背中に向けて、チーフは精一杯の叫び声を上げることしか出来なかった。

 

「待ちなさーい! パンさん泥棒―――――っ!!」

 

 

 

『パンさんを返して!と雪ノ下雪乃は叫んだ。』

 

 

 

 早朝の比企谷家のリビングで、ニュースの内容がテレビから流れる。

 

『昨日昼頃、東京ディスティニィーランドで人気キャラクター、パンさんがグッズからオブジェに至るまで全て消失したことが分かりました。この怪奇現象にディスティニィーランドは操業を中断、警察当局は詳しい事情を伺うために……』

 

 ニュースを流し見していた八幡は唖然として、トーストを口に運ぶ手が止まった。

 

「パンさんが消えたって? ……うわぁほんとだ。何があればあんなことになるんだろ」

 

 小町も口をあんぐり開けてテレビの画面に食い入っていた。画面には現在の、パンさんが根こそぎ消えてしまったディスティニィーランド園内の様子が映し出されている。特にバンブーファイトとパンさんグッズの売店が、風が吹き抜けそうなほど寂しいありさまとなっていた。

 

「……なぁ、これって」

 

 八幡はこっそりと、ジードとペガに尋ねかけた。ペガが密かに首を出し、テレビの映像を確認してから返答する。

 

「ほぼ間違いなく、宇宙人の仕業だろうね。地球人にはあんな大胆な泥棒は不可能だよ」

「まぁそうなんだろうが……」

 

 パンさん泥棒? 意味分からん、と思っていると、八幡はふとあることを思い出した。

 

「そういやパンさんって、あいつの好きなキャラじゃ……」

 

 そうつぶやいた矢先に、彼のケータイに着信が入る。

 

「お兄ちゃん電話」

「ああ」

 

 ケータイに手を伸ばして画面に目を落とすと……表示されている名前は「星雲荘」となっていた。

 

「……もしもし?」

 

 まさか、と思って電話に出たら、速攻で冷ややかな声音が耳に飛び込んできた。

 

『比企谷くん? 一応聞いておくけれど、今起きている人類史上類を見ない大犯罪を知らないなんて言わないでしょうね』

「……雪ノ下……」

 

 雪乃の声であった。既に星雲荘にいるようで、しかも今しがたのニュースを知っていなければならないと決めつけている。

 八幡は席を立って廊下に出てから雪乃に答える八幡。

 

「ああ、今ニュース見たとこだ」

『だったら話が早いわ。すぐに星雲荘へ来なさい。パンさんを盗んだなんて世界、いえ宇宙一愚かで罪深い犯人を捕まえるのよ。もたもたして逃げられたらどう責任を取ってくれるというの』

「……お前今日テンションおかしくね?」

 

 思わず大きな冷や汗を垂らす八幡であった。

 

「っていうか今からか!? 学校どうすんだよ。今日月曜だぞ!」

『そんなもの、レムに身代わりを出してもらえばいいだけじゃない』

「いやいや、そんな単純な話じゃ……。一日授業サボる気かよ」

 

 流石に気が引けていると、雪乃はきっぱりと言い放った。

 

『勉学なんて後から取り戻せるけど、パンさんは今でないと取り戻せないのよ』

「……んな名言っぽい迷言言ってくれちゃって……」

 

 呆れる八幡だが、今の雪乃に逆らったら後が限りなく怖そうだ。仕方なしに、彼女に従うことにしたのであった。

 

 

 × × ×

 

 

 エレベーターを降りて星雲荘に入ると、雪乃の他に結衣がもう来ていた。彼女も雪乃に呼び出されたに違いない。

 

「や、やっはろー、ヒッキー……」

「おう……」

 

 軽く困惑している様子の結衣。まぁ無理もない、と八幡は感じた。

 

「遅いわよ比企谷くん。それでもウルトラマンジードの自覚があるのかしら。あなたが宇宙人の引き起こした事件に一分一秒でも遅れるだけで、私……もとい世界中の人が苦しむことになるよ。パンさんを奪われたという心の傷によって」

 

 こんな調子の雪乃が横にいたのなら。

 二人の他にいるのはライハとレム。そしてもう二名、いつもはいない人物たちが星雲荘に来ていた。

 

「ひゃっはろー、比企谷くん。AIBの立場でこうして会うのは初めてだったっけ」

『朝倉リク、比企谷八幡。迷惑を掛けるな』

 

 陽乃とゼナ。AIBの二人である。この両者について雪乃が言う。

 

「ゼナさんは私が協力を仰ぐためにお呼びしたの。……姉さんは呼んでないのだけれど」

「ふふーん、呼ばれなくたって事件があれば出動するよぉ? それがAIBの職員だもの! ねぇゼナ先輩」

『臨時だがな』

 

 聞かれたゼナがため息を吐いた。相変わらずの無表情だが、呆れ返っているのが雰囲気で伝わる。

 

「そういや、陽乃さんAIBなんでしたっけ」

 

 尋ねる八幡。彼はAIBとしての陽乃に会っていなかったので、後から雪乃たちにそのことを聞いてかなり驚いたのであった。

 

「そだよー。ま、今はわたしのことなんかよりパンさんだけど。そうでしょ雪乃ちゃん?」

「当然よ。早速、今回の事件についての話し合いを始めましょう」

 

 雪乃の音頭により、八幡たちはテーブルを囲んでパンさん窃盗事件の対策会議を開始した。

 まず質問をしたのは結衣だ。

 

「ディスティニィーランド中のパンさんを盗むなんて、正直意味分かんないです。一体どこの誰がそんなことするんですか?」

 

 それについて答えたのはゼナ。

 

『一応、目星はついている』

「ついてるんですか!?」

『この宇宙人だ』

 

 ゼナがテーブルの上に出した資料の写真には、黄色と黒の体色の、鉄仮面を被ったような肉体の怪人が写っていた。何故か両手の人差し指が肥大している。

 

『こいつはスチール星人。種族的特徴として、欲しいと思ったものを我慢できない自己中心的な性格だ。故にこれまで宇宙各地で大規模な窃盗事件を引き起こしている、AIBでも要注意リストに入っている厄介な宇宙人だ。宇宙広しといえども、こんな珍事を起こすのはこのスチール星人くらいのものだろう』

「昔もパンダを盗むっていう似た事件があったそうだし、まず間違いないみたいだねー」

 

 陽乃がうんざりしたように息を吐いた。

 

「全く、こういうのほんと迷惑なんだよねー。表向きには宇宙人いないってことになってるのに、こーんな目立つことされたらどうごまかしたらいいのやら。人の苦労も考えてほしいよねー」

 

 愚痴をこぼす陽乃。八幡たちはAIBとしての彼女を知らないが、色々と大変なようであることが窺える。

 怪獣は巨躯で目立つ故、現れたらすぐに分かるが、宇宙人は人間社会に潜伏する分、人間に与える不安と恐怖は非常に大きい。地球人自身で宇宙人に対処する構造が出来ていない現在の社会では、宇宙人の存在を公認するには早いという判断の下に、AIBが不法な宇宙人の起こす事件に裏で対応してその存在を隠匿しているのであった。

 

「それはともかく、要はこのスチール星人というのを捕まえればいいんですね?」

 

 ライハが話を先に進める。ゼナはうなずきながらも苦言を呈した。

 

『しかし手強い相手だ。走行速度は60キロ以上、変身も得意。逃げるという分野はスチール星人の専門と言える。追いつめるのは至難の業だぞ』

 

 そのゼナの言葉に対して、八幡が口を開く。

 

「……けど、結局は行動を起こす以外にないでしょう? なぁジード」

『もちろん』

 

 ジードが勇んで決め台詞を口にする。

 

『ジーッと』

「ジーッとしててもドーにもならないわ。まずはスチール星人の次の出現地点の予測から始めましょう」

 

 ……途中で雪乃に取られた。

 

『……今の僕の台詞……』

「リク、元気出して」

 

 ズーン……と落胆するジードを、ペガが優しく励ました。

 

 

 × × ×

 

 

 その後八幡たちは、AIB専用車両に乗せてもらって東京BAYららぽーとへとやってきた。ここには東京ディスティニィーランドから近い地域で一番大きいディスティニィーショップがある。スチール星人が現れる確率が最も高いとレムに計算してもらったのだ。

 

『こちらライハ。今のところは、まだ異常は見られないわ』

 

 ディスティニィーショップ前ではライハが見張りをしており、駐車場の車内ではゼナ、陽乃、八幡、雪乃、結衣が待機してスチール星人の出現を待ち構えている。

 

『了解。まだしばらくはそのまま見張っていてくれ』

 

 ライハの報告にゼナが応答すると、結衣がふと陽乃に質問を投げかけた。

 

「そういえば、陽乃さんってどうしてAIBに入ったんですか?」

「というより、どういう経緯で秘密組織のAIBの存在を知ったのかしら。そこが気になっているんだけど」

 

 雪乃のもっともな疑問。ペガもダークゾーンから顔を出して同意した。

 

「確かに、AIBの情報を一体どこで掴んだんですか? モアみたいに、宇宙人とばったり出会ったとか?」

「まぁ、ばったり出会ってはいるかな。出会ったのは宇宙人じゃなくて怪獣の方だったけど」

 

 何気なく答えた陽乃は、八幡へチラと視線を送った。

 

「比企谷くんはそれ知ってるんじゃないかな?」

「え? 八幡が?」

 

 眉間に皺を寄せていた八幡が、おもむろに口を開く。

 

「……やっぱり、あの時のハイヤーそうだったんですね。あの融合獣に掴まれてたの」

「そうそう! あの時のお礼がまだだったよね。ほんとありがと、比企谷くん♪ 君は命の恩人だよ!」

「え? え? どういうこと?」

 

 事情が呑み込めていない結衣に、八幡が以前から薄々思っていて、今確信を得たことを説明した。

 まだ八幡がジードと融合したばかりの頃……クラッシャーゴンに潰されそうだったハイヤーを間一髪助けたことがあった。そのハイヤーは雪ノ下家のものであり……あの時雪乃に見間違えた人影は、陽乃だったのだ。以前自分を轢いた車をそうとは知らずに救出するとは、数奇な巡り合わせである。

 

「姉さん、そんなことがあったのね。全然知らなかった……」

 

 雪乃も知らないところで姉が命の危機に瀕していたと知り、流石に心配そうに目を伏した。対する陽乃はあっけらかんと手を振る。

 

「まぁ気にしなくていいよ。比企谷くんのお陰で、無事で済んだんだし」

 

 一つの疑問が氷解したところで、陽乃が話を戻す。

 

「その後この世界に突然現れた怪獣やウルトラマンジードのことにすっごい興味を持って、独自に調べ始めたんだー。そしてAIBという組織に行き着いたの」

「えっ、自力で見つけ出したんですか!?」

 

 驚愕する結衣やペガ。陽乃は何でもないことのようにうなずいた。

 

「まぁね♪」

「……雪乃のお姉さん、すごい人だね……」

 

 唖然とつぶやくペガ。雪乃もまた呆気にとられている。

 

「何でもやってのける人だということは分かっていたけど……まさかそこまでの行動力だとは思ってなかったわ……」

「ふふーん、お姉ちゃんを見直したかい雪乃ちゃん? もっと褒めてくれてもいいんだよー?」

 

 鼻を鳴らして得意げな陽乃。

 

「それで入局を希望して、晴れて臨時職員として雇ってもらえたという訳なの!」

「へ~、そんなことがあったんですかぁ。すごいなぁ……」

 

 結衣は素直に感心しているが……八幡は、ゼナが何やら苦々しい雰囲気を醸し出していることに気がついた。

 

「でも、そこでどうして入ろうと思ったの? 危険な仕事だと分かってのことでしょう?」

「それは……どっかよそから来た宇宙人がわたしたちの周りでコソコソよからぬことしてるなんて考えたら、すっごい不安になるでしょ? そうなるんだったら、自分で自分のことを守らなきゃって考えてね」

 

 雪乃の問いかけに、陽乃は一拍置いてから答えた。その直後にゼナの通信機からライハの声が飛ぶ。

 

『こちらライハ! スチール星人と思しき怪人物が現れたわ!』

『遂に来たか!』

 

 車内の意識は一辺にライハの報告に向く。続けるライハ。

 

『黒いマントの老人が現れて、ショップのグッズを全て消していった! 今そっちに逃げていってる!』

「現れたわね、パンさん泥棒……!」

 

 雪乃は瞬く間に怒りに燃え上がって、静かに濃密な怒気を放った。彼女の両脇の結衣と八幡はそれに当てられてヒヤヒヤする。

 

「ち、ちょっと落ち着けって雪ノ下……」

「ゆきのん、ここで怒ってもしょうがないからさ? ね?」

 

 どうにかなだめようとする結衣の一方で、陽乃は愉快そうに肩をプルプル震わせていた。

 それはともかく、フロントガラスの向こうにららぽーとから飛び出しどこかへと逃走していく黒ずくめの老人の姿が見えた。

 

『あれだ!』

「すぐに追いかけて!」

『もちろん』

 

 身を乗り出して促す雪乃。ゼナは直ちに車を発進させて、逃亡する老人の追跡を開始した。

 



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パンさんを返して!と雪ノ下雪乃は叫んだ。(B)

 

「ほよよよよー!」

 

 ショップのパンさんグッズを盗んで逃げる老人を、八幡たちを乗せた車が追いかける。しかしその距離が縮まることはない。

 

「もっとスピード出せないんですか?」

『既に60キロは出している。これ以上は危ない』

 

 イライラしている雪乃に、ゼナは冷静に返した。

 

「ってことは、あの人時速60キロ以上で走ってるってことだよね。やっぱり人間じゃないってことか……」

「まぁ初めから分かってたことだ」

 

 警戒を深めてつぶやく結衣に、八幡がそう発した。

 

『どこかに盗品を保管する場所があるはず。そこに逃げ込むはずだ。下手に追いつめず、そこへ追い込もう』

 

 ゼナの判断により、車は老人とつかず離れずの距離を保ちながら追跡を続けた。

 その末に、老人は人気のない倉庫群の中へと逃げ込んでいった。

 

「どうやらあそこが隠れ家みたいですね」

『ここからは歩きだ。君たちも降りろ』

 

 倉庫群の側道で停車し、五人は車を降りて倉庫群の敷地に踏み込んでいった。ここのどこかに、黒マントの老人が潜んでいるはずだ。

 

「どこ行ったんだろ。隠れたのかな……」

 

 辺りを頻りに見回す結衣。姿が見えなくなったのはほんの十数秒程度の間なのに、老人の姿は影も形もなくなっていた。

 その代わりのように、作業着を着た清掃員と思しき老人が、敷地の掃き掃除をしていた。

 

「あの人に聞いてみよう! すみませーん!」

 

 結衣が大きな声を出しながら老人に駆け寄っていくが、老人は黙々と箒を掃いたまま振り返ろうともしない。

 

「おじいさん。おじいさーん!?」

『もし、そこの方』

 

 何度呼び掛けても反応せず、見かねたゼナが肩を叩くことでようやく振り向いた。

 

『私たちは今、黒いマントの男を捜してます。ここに逃げ込んだのですが、見ていないでしょうか』

 

 と尋ねるゼナだが、老人は大きく顔をしかめて耳に手をやった。

 

「あぁ~?」

 

 ゼナの言葉が耳に届いていないようだ。結衣の声も聞こえなかったから無反応だったのだろう。

 

『……どうやら耳が遠いみたいだ。この分では、さっきの男にも気がついていないだろう』

「しょうがない。ここは手分けして捜しましょうか……」

 

 八幡たちは早々に老人に見切りをつけて、自分たちで捜索を続けようとしたが……雪乃と陽乃は、ジーッと老人に目を向けたままであった。

 

「? どしたのゆきのん」

 

 結衣が問いかけると、雪乃は老人から目を離さずに返した。

 

「この人……本当に聞こえていないのかしら」

「え? 何で? 今何回呼び掛けても反応しなかったじゃん」

 

 結衣がきょとんとすると、雪乃は言う。

 

「ゼナさんは口が動かないのに、この人はゼナさんが『しゃべっている』ことを察したのよ。おかしいと思わない?」

「あ……」

 

 はた、と結衣たちの動きが止まった。陽乃はニヤニヤしながら、しかし笑っていない眼差しで老人をなめるように見回す。

 

「おじいさん、どうして口の動かないゼナ先輩の声を聞き取ろうとしたのかな~? 雪乃ちゃんの言う通り、おかしいね~?」

「……!」

 

 老人の顔色が一瞬変わったのを雪乃は見逃さなかった。

 

「今動揺したわね。やっぱり、聞こえているじゃない!」

 

 雪乃が突きつけても、老人はとぼけるように目をそらすだけ。すると陽乃が目を細めて、懐から銃を抜いた。

 

「お話しが聞けないんだったら、これで聞いてもらおうかな~?」

『おい、陽乃! まだ確定ではないのだぞ!』

 

 陽乃が独断で銃を出したことを咎めるゼナだったが、老人はそれでいよいよ青ざめ、倉庫の一つに駆け込んでいった。

 

「ほら、黒でしたよゼナ先輩。これで確定ですよね」

『……全く、お前という奴は……』

「行くわよっ! 追いつめなきゃ!」

「お、おい待て雪ノ下!」

 

 額に手をやるゼナを尻目に、先行する雪乃を追いかけるように八幡たちは老人の逃げ込んだ倉庫に踏み込んでいった。

 そして倉庫の中で、逃げ場を失った老人は一瞬物陰に隠れると、黒いマントと帽子の姿で八幡たちと対峙した。

 

「あっ! さっきの奴! 間違いないよ!」

『清掃員になりすまして、我々をやり過ごそうとしていた訳だ』

「へへへへへ……!」

 

 黒マントの老人が不気味な笑い声を上げると、その姿がもう一段階変化し……写真の宇宙人のものとなった。

 

『やはり、スチール星人だったか』

「はいはーい。本格的にこれの出番ですねー」

 

 スチール星人が正体を晒すと、ゼナと陽乃が前に出て銃を向ける。両者にらみ合う中で、八幡が問いかける。

 

「スチール星人……どうしてパンさんなんかを盗んだ。どんな理由があってのことだ?」

 

 八幡は正直なところ、ゼナたちの説明を聞いても、宇宙人がわざわざ窃盗行為のために遠い銀河を越えて地球にまでやってきたとは思えなかった。……いや、思いたくなかった。だって、あまりに低俗ではないか。たかだか絵本のキャラを独占しようとするとか……。

 果たして、スチール星人は答えた。

 

『地球人があんなにも夢中になっているパンさんを、我々の星へ持って帰るのだ!』

 

 ……本当に、それ以外の理由はなかった。

 

「……」

「……普通に買いなよ……」

 

 八幡はもう言葉もなく、結衣もここまで人に対して呆れたことは一度もなかった。

 

『我々が手に入れることの出来なかったパンダ。それをモチーフにし、地球人たちを魅了するパンさん。たまらなく欲しい! 全て奪い取ってくれるぞ!』

『噂通りの貪欲さだな』

 

 あまりにもしょうもないことを豪語するスチール星人に、ゼナも呆れた様子。一方で、雪乃は怒りを露わにしてスチール星人をにらみつけた。

 

「パンさんの魅力が分かるとは、その点だけは認めてあげるわ。だけど、パンさんは原作者のランド・マッキントッシュが息子への愛情とメッセージを込めて作り出したキャラ。それを奪っていこうなんて、原作者の息子への愛を踏みにじる行為よ」

「ゆきのん詳しい……」

「こんな時までユキペディアさんめ……」

 

 呆気にとられている結衣と八幡を尻目に、雪乃はバッと腕をスチール星人へ向けた。

 

「そんなことは許さない。パンさんは私が守るわ!」

「わぁ! 雪乃ちゃんかっこい~!」

「姉さん、茶化さないでちょうだい」

 

 毅然と宣言した雪乃だが、スチール星人は挑発するように笑い飛ばす。

 

『出来るかな? ヘッヘッヘッヘッヘッ……!』

 

 そして一瞬の内に巨大化し、倉庫の天井と突き破った!

 

『危ない! 外へ逃げろ!』

 

 ゼナが誘導し、五人は急いで倉庫から脱出。スチール星人は倉庫の残骸を踏み潰しながら、彼らを狙って攻撃を開始する。

 

『陽乃、反撃だ!』

「はいはーい!」

 

 ゼナと陽乃が発砲するが、スチール星人は鉄仮面のような頭部だけでなく首から下も頑強なのか、銃撃はさしたる効果をあげられなかった。

 

「結衣、こっちだよ!」

「ありがとペガっち!」

 

 ゼナたちが戦う一方で、ペガがダークゾーンから出てきて結衣をスチール星人から逃がしていく。八幡は雪乃へと振り返った。

 

「雪ノ下、お前も早く……」

「いいえ。言ったでしょう?」

 

 しかし雪乃は避難しようとせずに――八幡の腰のホルダーから、セブンカプセルを引き抜いた。

 

「パンさんは、私が守ると!」

「あッ!? お前勝手に……」

 

 熟練のひったくりかのような鮮やかな手並みに八幡は反応できなかった。

 

「つべこべ言ってないでフュージョンライズよ!」

「いや、でも……」

 

 尻込みする八幡であったが、雪乃は彼の承諾を待たずにカプセルを起動する。

 

「ユーゴーっ!」

『ダーッ!』

 

 カプセルからウルトラセブンのビジョンが現れ、腕を振り上げる。雪乃はカプセルを装填ナックルに装入した。

 八幡も有無を言わせない雪乃の押しに負け、仕方なくレオカプセルを起動。

 

「アイゴーッ!」

『イヤァッ!』

 

 ウルトラマンレオのビジョンが腕を振り上げ、ナックルに二つのカプセルが装填された。

 

「ヒアウィーゴーッ!!」

[フュージョンライズ!]

 

 そのカプセルを八幡がジードライザーでスキャンし、準備は完了。ライザーを持ち上げていく八幡。

 

「おおおおお……! はッ!」

 

 そして胸の前でトリガーを押し込み、スキャンしたカプセルのデータをその身に宿す。

 

「ジィィィ―――――――ドッ!」

 

 八幡と雪乃が、セブンとレオのビジョンとともに一体化。ジードへの初期変身をする。

 

[ウルトラセブン! ウルトラマンレオ!]

[ウルトラマンジード! ソリッドバーニング!!]

「ドォッ!」

 

 初期変身からソリッドバーニングへの変身を果たし、ジードがスチール星人の面前に立ち上がった!

 

「ジード! ……えっ、ゆきのんも一緒に!?」

「どうしても、自分の手でケリをつけたいみたいだね……」

 

 結衣とペガが呆然と見上げる中、ジードは全身のスラスターから蒸気を噴き出しながら、スチール星人に対して堂々と胸を張った。

 その内部の超空間で、八幡――ではなく雪乃が叫ぶ。

 

『「燃やすわ! 勇気!!」』

『「それ俺の台詞……」』

 

(♪ウルトラマンジードソリッドバーニング)

 

 ジードは脇を締めて構えを取ると、まっすぐスチール星人へ向かっていく。スチール星人もそれを真っ向から迎え撃つ。

 間合いを詰めたスチール星人がジードにボコボコとパンチを振るう。が、鋼のボディを持つソリッドバーニングに生半可な打撃は通用しない。

 

「ドァッ!」

 

 ジードの蒸気を噴き出しながらのアッパーをもらって高々と宙を舞うスチール星人。しかし流石に正面切って戦いを挑んできただけはあり、一撃でダウンしたりはしない。

 スチール星人はなかなかアクロバティックな身のこなしで高々と跳躍し、勢いをつけた飛び蹴りを仕掛ける。これにはジードも一瞬よろめく。

 

「ハァァッ!」

 

 だが踏みとどまって回し蹴りで反撃。再び吹っ飛ばされるスチール星人。

 ジードの超空間では、雪乃が身を乗り出しながら八幡に指示を飛ばす。

 

『「このまま押し切るのよ!」』

『「お、おう……」』

 

 雪乃に寄りかかられているようになっている八幡であるが、今は女の子に密着されている気恥ずかしさよりも、彼女の放つ異様な熱気に押されて内心たじろいでいた。

 それはともかく、スチール星人は近接戦は不利と判断したか、頭部の丸鋸状の三つの突起から赤い光線を発射してジードを狙ってきた。

 

「ウッ!」

 

 爆撃を食らって一瞬動きが止まるが、ジードはその程度では参らない。

 

「ダァッ!」

 

 エメリウムブーストビームによるお返しをスチール星人の胸部に撃ち込む。スチール星人はのけぞって大きくひるんだ。

 

『「今よ!」』

 

 このチャンスを狙って、ジードの右腕のパーツがスライドして攻撃の準備に移る。

 

『「パンさんを返して!」』

 

 雪乃の叫びとともに、突き出された右腕から火炎状の光線が繰り出される。

 

「「『ストライクブースト!!!」」』

 

 ソリッドバーニング最大の必殺技が命中。スチール星人は爆炎に呑まれて、その巨体を消し去った。

 

『「やったわね……」』

『「ま、まぁな……」』

 

 雪乃は実にやり切ったような晴れ晴れとした表情でつぶやいた。八幡は、終始彼女に押されっぱなしで大変疲れた顔であった。

 

「シュワッチ!」

 

 とにもかくにも勝負に勝ったジードは、大きく飛び上がって倉庫群を後にしたのであった。

 

 

 × × ×

 

 

 その後の顛末について、八幡たちは星雲荘でゼナから話を聞く。

 

『盗まれたグッズに関しては、全て元の場所に戻した。表向きは窃盗団による大規模なトリックによる犯行ということになった。これで騒ぎは収束に向かうだろう』

「よかったぁ」

 

 ほっと安堵するペガ。そして肝心のスチール星人の処置については、

 

『捕獲したスチール星人は、我々の手によって母星への強制送還となった』

「あれだけの大騒ぎを起こして、送り返すだけなんですか?」

 

 結衣が意外そうに聞き返すと、ゼナは肩をすくめながら答える。

 

『AIBはあくまで相互扶助組織。実のところは、そこまで強い権限がある訳ではない。だからこれが限界なのだ』

「そうなんですか……」

 

 落胆する雪乃に、結衣が朗らかな笑顔を浮かべつつ呼び掛けた。

 

「でもよかったね、ゆきのん。パンさんが全部戻ってきて!」

 

 すると雪乃は、うなずきながらも平静な態度を取る。

 

「ええ。よかったわ」

「あれ……? あんまり嬉しそうじゃないね。あんなに熱心だったのに」

「熱心だったのは、宇宙人の人の心を傷つけるような犯罪行為に憤りを感じていたからよ。私個人がパンさんに強くこだわっていたからだとか、そういう理由ではないから」

 

 どうやら雪乃は、パンさんを取り戻したことで冷静になり、自分の行動を振り返って恥ずかしくなってごまかしに掛かっているみたいだった。

 

「今更だろ……」

 

 八幡が呆れ返っていると、その肩を陽乃がポンと叩いた。

 

「比企谷くんもお疲れさま~! 今回も助かっちゃったよぉ。いつかお礼した方がいいかな? たっぷりとね♪」

「いや別にいいですって。あと近いです」

 

 ぐっと顔を寄せてくる陽乃から距離を取る八幡。その頬はほんのり赤くなっている。

 

「あっれぇ~? もしかして変な想像しちゃったかなぁ? 健全な男子高生だもんね、それは仕方ないかな~?」

「だから、そうやってからかうのやめて下さいって」

 

 おちょくってくる陽乃に辟易とする八幡は、話をそらすように尋ねかけた。

 

「にしても雪ノ下さん、今日はやたらと上機嫌でしたね。何でですか?」

「ありゃ、そんな風に見えた? 一応抑えてるつもりだったんだけどな」

 

 肩をすくめた陽乃は、一瞬雪乃を一瞥して微笑を浮かべた。

 それは普段の彼女が見せる作り笑いではなく、本心からの笑顔であった。

 

「どんな理由であれ、雪乃ちゃんがあれだけ自主的に動いたのが嬉しくてさ」

「自主的に? あいつはいつでも自分から動き回る奴でしょ」

 

 普段の雪乃を見ていてそう判じている八幡であるが、陽乃はそれにやれやれという感じの苦笑を返した。

 

「比企谷くんって何でも分かってるようなこと言うけど、まだまだ人のことが分からないみたいですなぁ」

「はい? いや、別にそんなこと言ってないですけど……」

「まぁともかく」

 

 陽乃は八幡の言葉をさえぎって――真剣みを帯びて、彼と目を合わせた。

 

「雪乃ちゃんのこと、これからもよろしくね」

「え? は、はぁ……」

 

 陽乃の頼みを、八幡はやや気圧されながら気の抜けた返事で請け負った。

 彼女の言葉の意味を、この時の八幡は、本当に理解したとは言えなかった。

 

 

 

『ウルトラストーリーナビ!』

 

雪乃「今回は『ウルトラマンA』第四十話「パンダを返して!」よ」

雪乃「ダン少年の友達のモトコちゃんは、パンダ好きのおじさんが経営する薬屋「パンダ堂」でパンダのぬいぐるみをもらう。だけどその直後に店に怪しい男が入り、パンダ堂のパンダグッズを全て盗んでいってしまったの。車並みの速度で走る男を北斗が追跡するけれど、倉庫街で見失ってしまう。そしてパンダ泥棒が宇宙人と言っても、TACの仲間は信じてくれない。仕方なく独自にパンダ泥棒を追いかける北斗は、その正体を突き止め、地球からパンダを奪っていこうとするスチール星人と対決することになる……という話よ」

雪乃「何と言っても、パンダを盗もうとする宇宙人と戦うという、他ではまず見られないような珍奇なシナリオが見どころね。こんな話だけど、登場人物たちは皆至って真面目なのがシュールだわ」

雪乃「『A』の放送された1972年は上野動物園にジャイアントパンダのカンカンとランランがやってきて、世間にパンダブームが起こった年。その熱狂的な騒ぎから、このエピソードが制作されたのでしょうね」

ジード『スチール星人の着ぐるみは、実はセパレートタイプのエースのスーツを改造したもの。だからエース対エースの対決だったとも言えるかもね』

雪乃「それでは、次回でお会いしましょう」

 




「レイデュエスって、ほんとに死んじゃったのかな……?」
『こんなに長く音沙汰がないのは初めてだよね』
『レイデュエスは死んだ!』
『ここからはこの私の時代だッ!』
[あれはダダという種族が使用するロボット兵器です]
「由比ヶ浜、お前は避難しとけ。俺はあれを迎え撃つから」
『ウルトラマンジード、死ねッ!』
『「知るかッ! 迷惑なんだよどっか行けッ!」』
「もうヒッキーたち、あんなギリギリの戦いをしなくていいんだよね!」



次回、『修学旅行を襲う侵略者を撃て。』



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修学旅行を襲う侵略者を撃て。(A)

 

 ある日の星雲荘。ゼナと陽乃がコンソールを借りてキーを叩いているところに、結衣が尋ねかけた。

 

「お二人とも、さっきから何やってるんですか?」

 

 ゼナは手を動かしながら淡々と答えた。

 

『先日、こちら側の超量子通信設備の設置が完了したので、サイドスペースの地球のAIB本部とここから連絡を取るのだ』

「超量子通信?」

 

 それはどういうものなのか、と首を傾げる結衣に、レムが説明を入れる。

 

[それを用いることにより、異なる宇宙同士でのリアルタイムによる通信が可能となります]

「それってすごいじゃん! で、サイドスペースってのは?」

「ペガたちのいた宇宙だね。つまり、リクやライハの故郷の地球がある世界」

 

 ペガの回答に結衣はますます興奮した。

 

「ジードんたちの地球かぁ! どんなとこなんだろ!」

「別にこっちと特別違ったもんはないんだろ? 細かい違いがあるってだけでよ」

 

 とぶっきらぼうにつぶやく八幡に、結衣はジトッと視線を送った。

 

「も~、ヒッキーは相変わらず冷めてるな~」

「でも、どうしてわざわざ星雲荘から通信を入れるんですか?」

 

 雪乃が問いかけると、ゼナはこう答える。

 

『向こうにいるあいつが、朝倉リク、君たちの現況を気にしているだろうからな。ついでに見せようと思ってな』

「あいつ?」

 

 結衣たちは首を傾げるが、ライハは察しがついた。

 

「ああ、モアね。思えばモアの顔を見るのも久しぶりになるかしら」

『モアかぁ! 元気にしてるかな?』

 

 ジードが弾んだ声を出す一方で、結衣が質問する。

 

「モアってどなたですか?」

 

 それに答えたのはペガだ。

 

「愛崎モア。リクのお姉さん代わりだった人だよ。AIB初の地球人の職員なんだ。モアはお留守番でね」

「それってつまり、陽乃さんの先輩ってことになるんだ!」

 

 結衣たちは相当優秀で落ち着いた人なんだろうなぁと想像する。

 その間に陽乃がゼナへ告げた。

 

「ゼナ先ぱーい、準備完了しましたぁ」

『よし。早速つなぐぞ』

 

 ゼナがコンソールのエンターキーを押すと、空中にモニターが浮かび上がり、その画面内に近未来的な背景の室内の様子が表示された。

 そしてその中に、黒髪の妙齢の女性の顔が映し出される。

 

『ゼナ先輩、お久しぶりですっ! こちら愛崎モアです!』

『久しぶりだな。そちらは変わりないようだ』

 

 黒髪のスーツ姿の女性は、ピョンと軽く飛び跳ねながら可愛く敬礼した。この人が愛崎モアだという。

 

「モア先輩、初めまして~。こっちの地球でAIBに入りました、雪ノ下陽乃でーす♪」

『あなたが雪ノ下さんね。ゼナ先輩からの報告メールで聞いてるわ。初めまして! 通信越しだけど、よろしくお願いね♪』

 

 陽乃の敬礼にも、モアはビシッと敬礼で返答した。彼女の画面越しでも伝わってくる活発さ……というよりも子供っぽい所作に、結衣が雪乃と八幡に囁きかけた。

 

「何か……想像してたのとちょっと違うし……」

「確かに……」

「まぁ、陽乃さんだって振る舞いは似たようなもんだしな……」

 

 モアはゼナと陽乃への挨拶を済ますと、ライハたちの方を見やって呼び掛けた。

 

『ライハもペガも、レムも久しぶり~! 全然こっちに戻ってこないから心配してたんだよ。ハルヲさんもね』

「ごめんなさい。思ったよりも戦いが長引いて。ハルヲさんにも、こっちは元気でやってるって伝えて」

「モアも元気そうでよかったよ! しっかりやってるみたいだね」

[そちらに異常がないことは何よりです]

 

 ライハたちと親しげに会話するモアだが、途中でライハに人差し指を向けた。

 

『でもライハ、私がいないからって抜け駆けしようとしたらダメなんだからね~? そっちの子たちは新しい仲間? ……でもりっくんはどうしたの? 一緒じゃないの?』

 

 キョロキョロとこちら側を見回すモア。するとゼナが言う。

 

『そのことなのだが、伝えなければならないことがある。直接見てもらった方が早いと思って報告していなかったが……』

『え? 何ですか、ゼナ先輩?』

 

 ライハがポンと八幡の肩に手を置いて、告げた。

 

「今は、この子がリク……ウルトラマンジードなの」

 

 ――しばしの間、モアは口を半開きにしたまま固まっていた。

 そして叫んだ。

 

『り……りっくんの目が腐っちゃったぁぁぁぁぁ―――――――――――!?』

「……目が腐ってて悪かったですね……」

 

 八幡がそっぽを向いて憮然と吐き捨てた。

 

 

 

『修学旅行を襲う侵略者を撃て。』

 

 

 

『――ほんっっっとぉ~にごめんなさいっ!!』

 

 詳細な事情を聞いたモアは、パンッと勢いよく手を合わせて八幡に平謝りした。

 

『私、初対面の子に何て失礼なことを……。ごめんね、気にしないでね! 私がどうかしてたの!』

「いや、いいですよ……よく言われますし……」

 

 と言いつつも、あまりにストレートな物言いに八幡も少なからず傷ついたようであった。それをどうにか慰めようとする結衣。

 

「し、しょうがないよヒッキー。身体の特徴はどうしようもないことだしさ……」

 

 一方で雪乃はモアの思い切りの良さにプルプルと笑いを噛み殺していた。

 

「でも、目のことを言われたのは久々じゃないかしら」

「まぁ、最近はご無沙汰ではあったな……」

 

 軽く傷心の八幡はひとまず置いて、ジードがモアに告げる。

 

『そういう訳で、僕はこの八幡の命の再生が完了するまで離れられない状態なんだ』

『そうだったんだ……。りっくん、大変だったんだね……』

 

 ジードのことに胸を痛めるモアだが、ジードはそれを慰めるように述べる。

 

『だけど、八幡はとても僕の力になってくれてるよ。この間の決戦だって、八幡がいなかったら乗り越えられてたかどうか分からなかったよ』

『そうなんだ! 八幡君、これからもりっくんのことを助けてあげてね! りっくんのお姉ちゃんとして、どうかお願いします!』

「は、はい……。まぁ文字通り他人事じゃないんで、当然ですけど……」

 

 八幡は少したじろぎながらモアに応じた。人間関係に恵まれなかった彼は、モアのような裏表のないあけっぴろげな性格の人物の相手がどうも苦手なようだ。

 それからモアは少しだけ眉をひそめる。

 

『でも、そうなったらもうしばらくはりっくんたち、こっちに帰ってこられないってことだよね。せっかく悪い奴をやっつけたのに……』

[こればかりは仕方のないことです。残念ですがお待ち下さい、モア]

 

 寂しげなモアにレムがそう呼び掛けた。続いてゼナもモアに告げる。

 

『レイデュエスも、死亡を確認した訳ではない。我々も当分は監視態勢を続けるつもりだ』

『分かりました。ゼナ先輩、頑張って下さい。陽乃ちゃんもね』

「はーい、ありがとうございますモア先輩!」

 

 先輩、と呼ばれてモアはジーンと感動した。

 

『先輩……いい響きだなぁ。私にも後輩が出来たんだと思うと……』

『浮かれていないで、そちらのことは引き続き頼んだぞ。くれぐれもミスのないように』

『は、はい! 分かりました!』

 

 ゼナの指示に敬礼で応じたモアは、振り返ってジードたちに呼びかける。

 

『それじゃあライハ、ペガ、レム、元気でね。りっくん、帰ってきたらまた一緒にドンシャインごっこしようね!』

『うん! 元気でね、モア!』

 

 最後にモアは顔の両脇に手の平を横向きに並べるポーズ――ドンシャインの決めポーズを取って、通信を終えた。

 その後に八幡がジードに対して口を開いた。

 

「あれがジードのお姉さんか……。何て言うか、明るい人だな」

 

 ジードが良く言えば快活、悪く言えば子供じみた性格なのもうなずけるな、と八幡は感じた。

 

『うん。モアは僕にドンシャインを教えてくれてね。ヒーローとしての僕が出来上がったのはモアのお陰と言ってもいいくらいだよ』

「そうなのか……」

 

 ああいう人が側にいて大きくなったジードのことが、少し羨ましくなった八幡であった。

 一方で、通信を済ませたゼナは陽乃に振り向く。

 

『我々もモアに負けんように励まねばならんぞ。モアにも言ったように、レイデュエスの消息は不明。まだ潜伏しているだけかもしれん。警戒は怠るな』

「承知しました、ゼナ先輩!」

 

 ピッと敬礼する陽乃をよそに、雪乃がふとつぶやいた。

 

「……あの男も、本当に死んだのかしらね。何度倒してもしぶとく戦いを挑んできた奴だし、実感が湧かないけれど」

「ほんとに死んだとしたら、それはそれでちょっとかわいそうだけどね……」

 

 そっと目を伏せる結衣。八幡は、何やら考え込みながら腕組みをした。

 

「……」

 

 

 × × ×

 

 

 そして日にちは巡り、十一月十二日。

 

「お、何か水、流れてんべ。三本もあるし」

「音羽の滝だな」

 

 八幡たち総武高校の二年F組は、千葉から遠く離れた京都の清水寺に来ていた。

 今日は総武高校の修学旅行。八幡たちは三泊四日の日程で、京都を回ることになっているのである。

 

「ふぅ……それにしても、あんまり上手く行かないものだね」

 

 清水寺の音羽の滝を巡った後に、結衣が八幡相手にため息交じりにそうつぶやいた。その視線の先には、音羽の滝の感想で盛り上がっている葉山たちのグループ。その中の、戸部と海老名の姿がある。

 修学旅行に来るに当たって奉仕部は、戸部からの依頼を受けていた。それは、彼の海老名に対する告白のサポート。戸部は以前から海老名のことを気にしていて、修学旅行という舞台で告白を敢行するつもりなのだという。

 しかし現在のところは、成果を上げられているとは言えないありさまであった。戸部たちと一番距離の近い結衣がそれとなく二人が接近するように手を回しているのだが、戸部は戸部だし、海老名の方は戸部個人に対する興味が限りなく薄い。そのため二人の仲はちっとも近づいていないのであった。

 

「今日はもうホテルに向かうだけだから、もうチャンスはないのに……」

 

 落胆する結衣を励ますように八幡が呼び掛ける。

 

「まぁ、今回の依頼が簡単にはいかないってのは分かり切ってたことだろ。それにまだ初日だ。明日から頑張ればいいだろ」

「そっか……そうだよね」

 

 少しは気を持ち直した結衣は、ふと思い出したように声を潜めながら話題を変えた。

 

「ところで……レイデュエスって、ほんとに死んじゃったのかな……? もう二か月も、一度も現れてないよ」

「……」

 

 無言の八幡の代わりに、ジードとペガが結衣に返答した。

 

『もうそんなに経つのか……。あの戦いから』

『ゼナさんもこの二か月で、噂一つないって言ってたよ』

 

 レイデュエスとの現状最後の戦いは、九月のこと。それからの約二か月間、レイデュエス融合獣が出現したことは一度もなかった。当然八幡がジードに変身する回数もぐっと減ったので、八幡たちはウルトラマンジードと出会って以来最も長い休息を味わっていた。

 

『こんなに長く音沙汰がないのは初めてだよね。まぁ、いいことではあるけれど……』

『宇宙人たちの間では、死亡説が濃厚になってきてるって。本当かな……?』

『分からない。けれど、奴は気の長いタイプには見えなかったし、理由もなしに二か月も姿を隠してるとは思えないよ』

 

 相談し合うジードとペガ。このまま二度と現れないのが一番ではあるのだが……あれだけしつこく何度も暴れた男だ。そう易々と見切りをつけて安堵する気にもなれなかった。

 結衣もそこはかとない不安を覚えているのだが、それを振り払うように八幡が言った。

 

「いない奴のことをあれこれ言ったってしょうがねぇだろ。それより今は、こっちの事情の方に目を向けようぜ。ほれ、そうこうしてる間に置いていかれそうだぞ」

「あっ、ほ、ほんとだ」

 

 葉山たちは音羽の滝の感想を言い終わり、先に進もうとしている。海老名が結衣に手を振っているので、結衣はそちらに向かっていこうとした。

 

 

 × × ×

 

 

 そんな風に平穏な修学旅行の時間を過ごしている八幡たちであったが……その様子を、遠くから監視している怪しい白黒の人影があった。

 

『うむ、間違いない。奴がウルトラマンジードだな。正確には、ジードと融合している地球人』

 

 三面怪人ダダ! サイドスペースの地球では、自分たちの種族がのし上がるためにリトルスターの奪取を狙って暗躍していた宇宙人だ。

 それが今度は、八幡ことウルトラマンジードに狙いを定めていた。

 

『レイデュエスは死んだ! 奴がいなくなったこの星では、裏の世界の頂点の座が空白。それをこの私が頂く! ウルトラマンジードを葬って、力を見せつけることでな!』

 

 ダダはレイデュエスが死んだものとして、ジード暗殺を目論んで行動を開始したのである。

 

『ジードを殺せば奴の持っているカプセルが全て私のものとなる。その力を背景に、権力をこの手中に収めるのだ! そうして力を蓄え、やがては我々が全宇宙の覇権を手にする!!』

 

 欲にまみれた野望を描きつつ、八幡の動向を監視するダダ。

 

『現在の奴は戦闘力のある仲間から離れた状態にある。カプセルを奪うにはまたとない機会だ! このチャンス、必ず物にしてくれるぞ! 出でよ、レギオノイドッ!』

 

 ダダが叫びながら空中にパネル型のビジョンを出してそれを操作すると、その背後に彼と同じような縞模様の巨大ロボットが召喚される。

 アナザースペースを荒らしに荒らしたベリアル帝国軍から鹵獲した量産型戦闘ロボット、レギオノイド。それに同族が有人機に改造を施して性能を何倍にも引き上げたダダ・カスタマイズ! トラブルがあった際の予備として保管されていた機体を、ジード抹殺のために運び込んだのである。

 ダダはテレポートでレギオノイドの操縦席に乗り込んで、操縦桿となる水晶型の制御装置に手を添えた。

 

『ウルトラマンジードよ、お前の命もここまでだ。ここからはこの私の時代だッ!』

 

 豪語したダダのコントロールにより、レギオノイドがギギギギ、と駆動音を鳴り響かせながら清水寺の八幡の方向へ進み出した。

 



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修学旅行を襲う侵略者を撃て。(B)

 

「!!?」

 

 突然清水寺を襲う激しい揺れ。八幡と結衣が反射的に顔を上げると、その視界にそびえ立つレギオノイドの白黒の機体が飛び込んだ。

 

「ロボット……!?」

 

 レギオノイドの出現によって周囲から一斉に悲鳴が上がり、大混乱となる。そんな中で結衣がレムに問うた。

 

「れむれむ、あれは融合獣!?」

 

 それを危惧する結衣だが、レムの回答は否定であった。

 

[いいえ。あれはダダという種族が使用するロボット兵器です]

『見覚えがある……! あの時の奴の同型機か!』

 

 そう発するジード。融合獣ではなかったが、敵であることには違いない。

 

「ヒッキー……!」

 

 反射的に八幡の方へ振り向く結衣だったが――八幡は迫るレギオノイドから目を離さずに結衣に言いつけた。

 

「由比ヶ浜、お前は避難しとけ。俺はあれを迎え撃つから」

「え……」

「ん、どうした? ぼやぼやしてたら危ねぇぞ」

 

 さも当たり前といった様子の八幡に、結衣は口が半開きになって何かを言いかけたが――取りやめた。

 

「……そうだよね。お願いね、ヒッキー……!」

「……? ああ……」

 

 どこか寂しげな表情で、結衣は他の人たちに混ざって避難していった。それを怪訝に思った八幡であったが、すぐに我に返って人の波に逆らい、避難する人たちから離れていく。

 八幡が人の目のない場所を探す間に、レギオノイドの右腕が換装されてガンポッドが装備された。同時にレムが告げる。

 

[警告。ロックオンされました]

『僕たちが狙いか!』

 

 焦るジードたち。レギオノイドのコックピット内のダダは彼らに向かって叫ぶ。

 

『ウルトラマンジード、死ねッ!』

 

 ガンポッドから強力な光線が発射され、八幡に襲い掛かる!

 

「!」

 

 着弾した光線が大爆発を引き起こし、八幡の姿がその中に呑み込まれた!

 

「!!」

 

 それを目撃した結衣や、同じく避難中の雪乃が声にならない叫びを発した。

 しかし、

 

「ユーゴーッ!」『シェアッ!』

「アイゴーッ!」『フエアッ!』

「ヒアウィーゴーッ!!」

[フュージョンライズ! ウルトラマン! ウルトラマンベリアル!]

[ウルトラマンジード! プリミティブ!!]

 

 八幡は爆炎の中でジードライザーを起動し、ウルトラマンジードに変身して炎から飛び出した。

 

『「決めるぜ! 覚悟!!」』

 

 レギオノイドの面前に颯爽と着地するジード。それに対して、レギオノイドを駆るダダが声を発した。

 

『流石に今のでは死なんか。だが勝つのはこの私だッ!』

『「知るかッ! 迷惑なんだよどっか行けッ!」』

 

 右腕を戻して突進してくるレギオノイドに、ジードがこちらから迎え撃っていった。

 

「ショアッ!」

 

 先制の膝を入れ、レギオノイドのボディを激しく叩く。だが鋼鉄の機体には効果がなく、逆にジードの方が手を痛める。

 

『「くっそ、やっぱロボットはかってぇな……!」』

『こんな時はソリッドバーニングだ!』

『「ああ!」』

 

 ジードの素早い判断によって八幡はセブンカプセルを取り出そうと腰に手を伸ばした。が、

 

『そうはさせるか!』

 

 ジードの能力を分析済みのダダはそれを察し、フュージョンライズを妨害せんがためにジードに鉄拳をぶち込んだ。

 

「ウワッ!?」

『「ぐッ!」』

 

 殴られた衝撃によってジードがよろめき、八幡もまたバランスを崩して動きを止められた。

 更にレギオノイドは右腕を再び換装。今度はドリルを装着して、ジードに突き出してくる。

 

「ウッ!」

『「危ねッ!」』

 

 すんでのところでかわすジードだが、レギオノイドは執拗にドリルで狙ってくる。このままフュージョンライズを行う隙を与えない作戦のようである。

 

「ハッ!」

 

 これでは追いつめられるばかりと判断したジードは大きく飛びすさってレギオノイドから距離を取ったが、

 

『甘いぞ! 食らえぇッ!』

 

 ドリルから螺旋状の光線が飛び、ジードを襲った!

 

「ウワァァァッ!」

 

 光線の直撃を食らい、ジードが爆炎の中に姿を消してしまう。

 

「ああッ! ジードが!」

 

 戦いを見上げていた戸部たちが、一斉に悲鳴を発した。一方でダダは嬉々として勝ち誇る。

 

『どうだぁ! これでこの星は私のもの! 今度は私がこの星を絶望で染め上げてやる!』

 

 もうもうと立ち込める黒煙を見やりながら宣言するダダ。

 が、

 

『「ユーゴーッ!」』『セェアッ!』

『「アイゴーッ!」』『ドゥアッ!』

『「ヒアウィーゴーッ!!」』

[フュージョンライズ!]

 

 煙から、八幡の叫び声とジードライザーの音声が高らかに鳴り響く。

 

『何ッ!』

『「ジィィィ―――――――ドッ!」』

 

 そして黒煙に、雄大な人影の輪郭が浮かび上がり――。

 

[ウルトラマンゼロ! ウルトラの父!]

[ウルトラマンジード! マグニフィセント!!]

「ハァァッ!」

 

 ウルトラマンジード・マグニフィセントが肩を張りながら悠々と黒煙より現れ出でる。

 

(♪ウルトラマンジードマグニフィセント)

 

『「守るぜ! 希望!!」』

「おおおおおー!」

 

 爆撃をものともせずに立ち上がったジードの姿に人々は興奮。ダダの方はひるんで後ずさりした。

 

『「今ので勝負を決めたつもりとか、せっかちな野郎だ」』

『ぐッ……だが、どんな姿になろうともこのレギオノイドの敵ではないッ!』

 

 ダダが自らの戦意を駆り立てて、再度ジードに突っ込んでくる。それを正面から待ち構えるジード。

 

「ドォッ!」

 

 レギオノイドの鉄拳とジードの豪拳が交差し、殴り合いとなる。その中で八幡がダダに問いを投げかけた。

 

『「テメェはレイデュエスの配下か!? 俺たちに敵討ちでもしようってのか!」』

『愚弄するな! 私は誰の下にも着かん! 私が宇宙の頂点となるのだ! そのために、貴様らには消えてもらわねばならんのだ!』

 

 ダダの答えに八幡は激昂。

 

『「だから、そういうの迷惑なんだよッ!」』

「ダァッ!」

 

 マグニフィセントのメガボンバーパンチが、レギオノイドを大きく殴り飛ばした。

 

『ぐわぁッ!』

『「王様ごっこやりてぇんだったら、どっか別の場所で人様の迷惑にならないようにやっとけ!」』

 

 吐き捨てる八幡に今度はダダが発憤する。

 

『この私をコケにしおってぇぇ……! これでも食らえッ!』

 

 レギオノイドの両肩が開き、複数のミサイルが射出されてジードに襲い掛かってくる。

 

「ハッ!」

 

 しかしアレイジングジードバリアによってミサイルは全て叩き落とされて、ジードにダメージは入らなかった。

 

『ぐぅッ……! ならばこれだッ!』

 

 ミサイルを防がれたレギオノイドは武器を変え、ドリルで接近戦を挑んでくる。が、

 

「ドアァッ!」

 

 マグニストラトスの一撃がドリルに叩き込まれ、ドリルは根元から粉砕!

 

『何ぃッ!?』

 

 大きくひるんだレギオノイドの肩を掴み、ジードが高々と投げ捨てる。

 

「ダァッ!」

『ぬわぁッ!』

 

 地面に叩きつけられて一瞬身動きが取れなくなるレギオノイド。その絶好のチャンスに、ジードはとどめの用意を行う。

 

「オォォォォ……!」

 

 両腕にエネルギーを充填して、L字に組んだ腕から渾身の光線を照射!

 

「『ビッグバスタウェイ!!」』

 

 絶大な破壊光線がレギオノイドに叩き込まれ、レギオノイド全身からスパークを起こす。

 

『馬鹿な! この私が……やられるとはぁぁぁぁぁぁッ!!』

 

 ダダのいるコックピットもただでは済まず、レギオノイドはほどなくして粉々に吹き飛んだ。

 

「おおー! やったぁッ!」

「流石はジードだべ! かっけぇ!」

 

 ジードの見事な勝利に民衆は喝采を浴びせた。そのジードの中で、八幡は大きく息を吐いた。

 

『「やれやれ……とんだ災難だったぜ」』

『お疲れさま、八幡』

 

 ジードが彼にねぎらいの言葉を掛けた。

 

『「全く。さ、とっとと修学旅行に戻ろうぜ。そろそろ姿見せなきゃ、平塚先生にまた何を言われるもんか」』

『ああ』

 

 戦闘を終え、ジードは空に向かって飛び立ってこの場を後にしていった。

 

「シュウワッチ!」

 

 

 × × ×

 

 

 戦闘の事後処理はAIBにやってもらい、八幡、結衣、雪乃は一時宿泊先のホテルから脱け出てゼナと陽乃から顛末の報告を受けた。

 

『比企谷八幡、君たちが倒したダダは強制送還となった。二度とこの地球の土を踏むことはないだろう』

「それなら結構です」

 

 八幡のケータイの画面に映るゼナが、ダダの強制送還処分を告げた。すると雪乃がふと疑問を口にする。

 

「それにしても……この前のスチール星人といい、どうして今頃に宇宙人たちが派手な事件を起こすようになったのでしょう」

 

 それに対して、ゼナがこう答える。

 

『それは、レイデュエスが姿を現さなくなったからだな』

「え?」

 

 きょとんとする三人に、語るゼナ。

 

『奴は君たちや地球人のみならず、他の宇宙人に対しても横暴を振るっていた。宇宙人たちは奴に目をつけられるのを恐れて表立った活動を控えていたのだが、もう二か月も動向がないことから、安全と見て身勝手な振る舞いを始めている。今回のダダも、レイデュエスが死んだものとして自分が後釜に収まろうと君たちを攻撃したという』

 

 ゼナの言葉にショックを受ける結衣。

 

「そんな……ヒッキーたちがレイデュエスをやっつけたのが、悪い人たちを活発にさせちゃったんですか?」

『残念だが、そういうことになるな。今回みたいな輩は、次第に増えていくことだろう』

「……せっかく平和になると思ったのに……」

 

 落胆する結衣に、雪乃が励ますように呼び掛ける。

 

「そんな顔をすることはないわ、由比ヶ浜さん。結果はどうであれ、私たちは正しいことをしたのよ。犯罪者の横行の責任を感じる必要なんてないわ」

『雪乃ちゃんの言う通りだよー』

 

 陽乃もまた次のように述べた。

 

『増えると言っても、どうせレイデュエスに怯えてコソコソしてた小粒な悪党どもなんだから、レイデュエスなんかよりもずっとましだって。そんな奴らの相手、AIBに任せといて! ねぇゼナ先輩』

『ああ。今回は止められなかったが、君たちの周囲の警戒を強める。少なくとも、君たちの修学旅行の邪魔は二度と入らないようにしよう』

 

 と約束するゼナに礼を言う雪乃。

 

「ありがとうございます、ゼナさん」

『ちょっとちょっと雪乃ちゃーん、わたしはぁ?』

「姉さんは臨時職員でしょう」

『ちぇ~』

 

 唇を尖らせる陽乃。

 

『では、また何かあったら報告してくれ』

 

 ゼナのひと言を最後に通話を終えると、八幡たちの間で話し合いを行う。

 

「まさかこんなことになるなんて……。世の中って、思ったようにならないね」

「だけど、姉さんの言った通りにレイデュエスほど厄介な敵もそうそう現れないことでしょう。そこは安心してもいいのではないかしら」

「それもそうだよね! もうヒッキーたち、あんなギリギリの戦いをしなくていいんだよね!」

 

 雪乃の言葉に思い直して声を弾ませる結衣。ジードもまた発する。

 

『レイデュエスに代わってどんな宇宙人が敵として現れても、僕たちがやることは変わらないさ。ヒーローは負けない!』

「その意気だよリク! 八幡も頑張ってね! 君ならやれる!」

 

 ペガが顔を出して八幡を激励したが……八幡は変に黙っている。

 

「八幡……?」

 

 怪訝に思って尋ね返すと、八幡はようやく口を開いて、ひと言、

 

「……レイデュエスの奴は、本当に死んだんだろうかな。それが気になってんだけど……」

 

 ここまでのレイデュエスが死んだことを前提としている話に、八幡は異を唱えた。

 一瞬静かになるが、雪乃が反論する。

 

「少し心配しすぎじゃないかしら。再び現れないどころか、全く動向がないと言うのよ。あの男の性格を考慮すれば、生きていたのならそんなことにはならないはず。少なくとも、再起不能にはなっているはずよ」

「あんまり気にしすぎても疲れるだけだよヒッキー。それよりこれからのことを考えた方がいいって! とべっちのこともあるじゃん!」

「……まぁ、そうだよな」

 

 八幡は未だに少し引っ掛かるものを感じていたものの、結衣たちの言うように意識を切り替え、レイデュエスのことは頭から追いやったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 × × ×

 

 

 ――衛星軌道上にステルス状態となって潜伏している円盤内で、ゴドラ星人ルドレイとバド星人オガレスが声を発した。

 

『地上でダダがウルトラマンジードに返り討ちにされた。奴は殿下が死んだとして行動を開始したらしい』

『全く、我々を差し置いて勝手なことをする奴がもう現れようとは!』

 

 オガレスは憤慨しながら、暗がりの方へ振り返る。

 

『裏の世界では、すっかり亡き者扱いです。そんな屈辱的な流布を許してよろしいのですか――殿下!』

 

 ――二人に背を向けながら、半壊しているブラッドライザーにはんだごてを当てて作業しているレイデュエスが返答する。

 

「ほっとけ。どうせそんな風見鶏じゃあ、ジードどもには勝てん。勝手に自滅していく奴らなんかは構うだけ無駄だ」

 

 レイデュエスは振り返らないままに続けて話す。

 

「それにブラッドライザーの修理も直に終わる。俺が再び表舞台に立てば、連中も俺の恐怖を思い出して引っ込むことだろう」

 

 その言葉にオガレスとルドレイは身を乗り出す。

 

『おお……いよいよジードの奴らに復讐する時が来るのですね!』

「ああそうだ……。当然、このままじゃ済まさん。奴らには、俺が受けた以上の苦しみを味わわせながら地獄に叩き込んでやる……!」

 

 声におどろおどろしい憎悪をにじませるレイデュエスが顔を上げる。暗闇の中に、その双眸だけが浮かび上がる。

 

「今に見ていろ、ウルトラマンジード……比企谷八幡ッ……!!」

 

 濁り切った紫色の瞳が、地球をにらみ続けた――。

 

 

 

『ウルトラストーリーナビ!』

 

八幡「今回は『ウルトラマン』第二話「侵略者を撃て」だ」

八幡「ある晩、東京上空に怪電波が発生してそれが消滅した地点の科学センターが音信不通となった。調査に乗り出した科特隊の前に現れたのは、奇怪な姿の宇宙人。宇宙人によってアラシ隊員を始めとして大勢の人をやられた防衛軍は対策会議を行い、科特隊が対話と交渉を試みることとなる。そして科特隊に科学センターを乗っ取った宇宙人、バルタン星人が衝撃の話を口にし、科特隊とウルトラマンは驚異的な力を持つバルタン星人と戦うことになる……という内容だ」

八幡「シリーズ一有名な宇宙人、バルタン星人の記念すべき初登場回だ。その内容は怪奇SFの見本とも言えるぐらいに完成度が高く、バルタン星人のキャラ同様に根強い人気がある。バルタンの人智をはるかに超える超能力の表現方法も今になっても色あせないレベルだ」

八幡「バルタン星人は未知の宇宙人であると同時に、核兵器によって故郷を失い流浪の身となった人間でもある。当時は冷戦で米ソによる軍事競争が過熱してた時期。その風刺としての側面もあった訳だな」

ジード『「侵略者を撃て」は制作順では最初の回だ。それで設定も固まってなかったのか、ムラマツキャップがキャプテンと呼ばれてたりイデ隊員がハヤタ隊員をさんづけだったりと、この回だけの描写も見られるよ』

八幡「それじゃ、また次回でな」

 




ライハ「八幡たちは今頃京都ね……。だけど宇宙人に襲われただなんて」
レム[ですが無事に撃退できたとのことです]
ライハ「ならいいんだけど……。それにしても、この星雲荘もリクが八幡と一体化してから、寂しくなっちゃったわね」
レム[ペガも八幡について、比企谷家で生活してますからね]
ライハ「当然といえば当然だけど、星雲荘、という割には暮らしてるの私たちだけだものね。住居者募集する訳にもいかないけど」
ライハ「家事をするのも今は私だけだし……。リクのスペースも私がやってあげてるんだから、感謝の言葉が欲しいくらいだわ」
レム[お疲れさまです、ライハ]
ライハ「ところで、リクのベッドの下はどうしても掃除しちゃいけないっていうの?」
レム[そこに触れては、今後のリクとの関係に支障を来たす恐れがあります]
ライハ「全く、何を隠してるんだか……」



次回、『新たなる戦いは刻々と近づいている。』



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新たなる戦いは刻々と近づいている。(A)

 

 それは、修学旅行二日目の夜のことであった。

 

「ウオォッ!」

 

 京都の町中に突然、ウルトラマンジードが地響きを鳴らして降り立ったのだ。怪獣も出ていないのに現れたジードに、京都の人々は皆目を丸くする。

 しかもそれだけではなかった。

 

「ウオオォォォーッ!」

 

 ジードがいきなり、周囲の家屋を手当たり次第に踏み潰し叩き壊すという破壊行為に出始めたのだ。当然京都の住民たちは大パニックになり、町はたちまちの内に阿鼻叫喚の地獄絵図となってしまう。

 

「こ、これは! ウルトラマンジードが町を破壊しています! これは何の間違いなのでしょうか!?」

 

 駆けつけたテレビのリポーターが驚愕しながら報道する。その間にも、ジードは次々家屋を蹂躙していく。

 

「フハッハッハッハッ!」

 

 しかしその時、

 

[ウルトラマンジード! プリミティブ!!]

「シュアッ!」

 

 町を荒らすジードの前にもう一人、全く同じ姿のジードが飛び出してきて着地したのだ。

 

「あッ!? ジードが二人! 一体どういうことなのでしょう!?」

 

 ウルトラマンジードが二人いる光景に、人々はますます混乱。

 そして後から現れたジードの超空間から、八幡が怒号を発した。

 

『「テメェ誰だッ! 肖像権の侵害だぞ!」』

『正体を現せ!』

 

 そう、こちらこそ本物のジード。八幡は突如ジードの姿をした何者かが暴れ始めたので、急いで変身して飛び出してきたのだ。

 

「ハァッ!」

 

 ジードがにせジードに飛びかかって、膝蹴りを繰り出す。しかしにせジードは身をかわすと、

 

「フッ!」

 

 本物と戦おうとせず、すぐに地を蹴って空に消えていった。あっという間の逃亡であった。

 

「……!?」

 

 ジードは追いかける暇もなく、呆然と偽者が消えた空を見上げた。

 

 

 

『新たなる戦いは刻々と近づいている。』

 

 

 

 修学旅行三日目の朝。八幡、雪乃、結衣の三人はホテルの朝食をキャンセルしてもらい、嵐山のコーヒーショップでモーニングを頂いていた。

 本来は一日自由行動ということで、奉仕部で京都巡りをする順路を決める席なのだが、昨晩の一件により、急遽それについての話し合いもすることとなる。

 

[ウルトラマンジードの偽者が現れたという件は、こちらでも確認しています]

 

 レムがそう告げると、結衣がぷりぷり怒りながら口を開く。

 

「ジードんの姿で乱暴するなんて許せないよ! どこの誰がそんな汚い真似するの?」

 

 公の場でジードの話を口に出しているが、周りの人たちもまさかこの三人がジードの仲間だとは思わないだろう。昨夜の事件について、好奇心旺盛な高校生たちが話に花を咲かせている程度の認識で終わり、聞き耳など立てない。

 偽者について、レムが語る。

 

[ウルトラ戦士の姿に化けて破壊活動を行い、信頼を貶めようとするのは侵略者に度々見られる手段です]

「じゃあ、昨日のもそれと同じ?」

[違うと思われます。その場合ですと、本物に出てこられては意味がありません。やり口が杜撰すぎます]

「そっか。まぁそりゃそうだよね」

 

 納得する結衣。雪乃は顎に指を掛けて、自分なりの推理を口にした。

 

「挑発行為……ではないかしら。あえて姿を真似て暴れることで、ジードに挑戦状を叩きつけているつもりなのかも」

[その線が濃厚と思われます]

「悪趣味だなぁ。悪いことする奴だから趣味も悪いのかもしれないけど」

 

 結衣が顔をしかめた。彼女は雪乃の推理をすんなり受け止めるが、八幡はやや考え込みながら異を挟む。

 

「けど……ただ挑戦するつもりだけなら、ちょっと手が込みすぎてんじゃねぇか? 何か他に別の意味があるんじゃねぇかな」

[そうかもしれませんが、現状ではこれ以上の推測は出来ません]

「すぐ逃げちゃったからねぇ」

 

 ため息を吐く結衣。話が纏まったところで、ジード当人が宣言する。

 

『正体が誰で、何の目的があったとしても、町を壊そうとするのなら僕たちはそれを止めるだけだ。頑張ろう、八幡!』

 

 と八幡に呼びかけるが……八幡は何やら意味深に黙り込んでいた。

 

『八幡?』

 

 もう一度名前を呼ぶと、八幡は眉間に皺を寄せながら小さくつぶやいた。

 

「悪い。些細なことなんだが……昨日の偽者がこっちに目を向けた時、変に悪寒を感じたんだよな……」

 

 八幡は、それがどうにも気になっていた。

 

 

 × × ×

 

 

 朝食を済ませると、三人は京都巡り出発の準備のために一旦ホテルに戻った。しかしロビーで、八幡は平塚に捕まる。

 

「待ちたまえ比企谷。昨晩のことで少し話がある」

「げッ、先生……」

「何だそのげッは。まぁ少しばかり説教にはなるがな」

 

 八幡は平塚と二人きりで、対面しながら彼女からの話を聞かされる。

 

「比企谷、昨晩の騒動の際にまた一人で勝手にどこかへ脱け出してたな。全く、いつもいつも非常時にいなくなって……」

「す、すいません。俺、怖がりなんで足が勝手に……」

 

 ごまかしに掛かる八幡であったが……平塚はその言葉をさえぎった。

 

「本当に逃げているのか?」

「え……?」

「体育祭の時、君は闖入者を学外に引きつけた。あれと同じようなことをしてるんじゃないかとね」

 

 平塚のひと言に、八幡は一瞬ギクリと肩を震わせた。

 

「か、買い被りっすよ。あれはちょっとした気の迷いで……」

「そうかね? まぁそれは置いておいて……あまり一人でどこかに行ってしまうのはよしてもらいたい。教師としても生徒の独断行動は褒められないし、何より私個人としても心配となる」

 

 心配、という言葉に八幡は平塚の顔に振り向いた。

 

「君の奉仕部での業績を見る限り、君には自身を犠牲に問題を解決しようとする傾向がある。それが一概に悪いこととは言わないが、何でもかんでもそうするのも、それはそれで安易ではあるぞ」

「……けど、問題がこじれてきっぱり解決するには、ヘイトを集める役が必要って時もあるんじゃないですか」

「解決方法が一つだけしかない、なんて事態は意外とそうそうないものだよ。大抵は、そうとしか見えないだけさ。その時はグズグズになったとしても、時間が経っていい方に向かっていくこともある」

「それを期待してやれることやらないのは、無責任と取れるんじゃないですか?」

 

 八幡の反論に平塚は苦笑。

 

「全く、君は口が減らないな。しかし人生万事塞翁が馬。どうしたところで結局未来がどうなるかは分からない。だから、君もあまり他人にばかり気を遣うんじゃなく、ちょっとは自分を大事にするのも悪いことではない。むしろ、君のことを思う「他人」のためにそうするべきだろう」

 

 平塚の弁論に、八幡は一瞬押し黙った。

 

「君のやり方はまるで武士みたいだ。武士道とは死ぬことと見つけたり、という奴だな。しかし私はあまり好きじゃないな。死んだ後に、涙を流す人のことを考えているのか? だから私には、どちらかと言うと君には騎士になってほしい」

「え? 騎士ですか?」

「知っているか? 騎士と主君の関係は、忠誠ではなく契約だ。だから自分が不利益を被るような理不尽な命令などは、拒否してもいい訳だ」

 

 平塚の説明に八幡は思わず冷笑を浮かべた。

 

「騎士って案外自己中なんすね」

「まぁ自分のことばかりというのももちろん問題だが……要するに、自分をかわいがるのではなく、自分を犠牲にするのでもない。他人も自分も「護る」ことが、一番正解に近いと私は思うぞ」

 

 その言葉に、八幡は返事が出来なかった。それを見た平塚がやれやれと肩をすくめる。

 

「まぁ、それが簡単に出来れば誰も苦労なんてしないのだろうがな。……少し時間を取らせてしまったな。もう行きなさい。一度きりの修学旅行、楽しまないと損だぞ」

「何だか実感がこもってますね。先生は楽しめなかったから今結婚ができなあだだだ!」

「いらないことを言うのも君の悪いところだなぁ」

 

 最後に平塚のアイアンクローを食らってから、八幡は準備のためホテルの部屋へ向かっていった。――それを見送ってから、平塚は不意に自分の手をこする。

 

「……どうも手の平が熱いような気がするな。こんな日に風邪を引いてしまったか? 生徒たちのために、今日は休んではいられないんだがな……」

 

 

 × × ×

 

 

 修学旅行最後の京都巡り。奉仕部の三人はなかなかに楽しめたが、戸部と海老名の方は結局何の進展もないようであった。それでも、今日がラストチャンス。結衣たちは戸部の告白の場所をセッティングし、戸部は一世一代の大勝負に挑むこととなった。

 しかし……その告白の場となる嵐山の竹林の道に向かう直前、八幡は密かに雪乃と結衣の二人を呼び出していた。

 

「ヒッキー、急に話ってどうしたの? まさか、とべっちに当てられて……! いやゆきのんもいるしそれはないか……」

「もうじき竹林のライトアップの時間よ。それなのに、どんな話かしら」

 

 一人で盛り上がったり冷めたりしている結衣を置いて、雪乃が尋ねる。それに答えたのは、顔だけ出したペガであった。

 

「雪乃と結衣を呼ばせたのは、ペガなんだ」

「え?」

「これから八幡がすること……二人に先に話を通しておいた方がいいって説得してね。八幡……話してあげて」

 

 ペガが促すと、八幡はためらいながらも、雪乃と結衣に向けて口を開く。

 

「今からの戸部の告白なんだがな……俺はそいつを、ぶち壊すつもりだ」

「!?」

「正確には、俺があいつの代わりに玉砕して、海老名さんの気持ちを戸部に聞かせてあきらめさせる」

「……もっと詳しく話してちょうだい」

 

 雪乃は真剣な面持ちとなって、話を引き出す。結衣も動揺しながらも、たたずまいを正して八幡と向き合った。

 そうして八幡が語ったこと……それは、海老名から言外に頼まれたもう一つの依頼。「戸部の告白を阻止する」ということであった。

 海老名は既に戸部が自分に告白をしようとしていることを察知していた。だが彼女は、それによって自分たち葉山グループの関係が変化してしまうことを恐れていた。それで奉仕部を頼ってきた。しかし、流石に自分のために戸部の告白を止めさせてほしいとは言えなかったため、婉曲的な物言いをした……。それが、修学旅行前に彼女が奉仕部を訪れた真相であった。

 そしてこれに気がついた八幡は、この矛盾した二つの依頼の内、海老名の方を選択したのであった。

 

「……変化を拒絶することに力を貸すのは、奉仕部の精神から外れるわ。それなのにどうしてあなたはそっちを選ぶというの」

 

 厳しい顔になりながら問い返してくる雪乃。八幡の選択と、これからの行動に反対しているのは表情だけで窺える。

 それに対して、八幡は答えた。

 

「これが海老名さんだけならともかく、葉山からも頼まれちまったからな……」

 

 海老名は最初から奉仕部を頼りにした訳ではない。先に葉山に相談をしていた。しかし葉山は立場上、戸部と海老名、どちらか一方に肩入れすることは出来なかった。だから修学旅行中は、それとなく戸部の邪魔をしたりして彼にあきらめさせようとしていた。

 だが戸部は本気であり、それは出来なかった。葉山もどうしようもなくなってしまい、同時に彼の思惑を悟った八幡に託したのであった。

 それを聞いても、雪乃は引き下がらなかった。

 

「人数は関係ないわ。要点は、奉仕部の存在する理念。それに沿っているのは戸部くんの方よ。何より、告白程度で壊れてしまう関係なら、それはただの上っ面。守る必要があるというの?」

 

 結衣は、八幡に対してためらいながらも、コクコクうなずいて雪乃に同調した。

 が、八幡も引かない。

 

「それは俺も思ったさ。けどな……海老名さんがクラスカースト一位にいるのは、彼女自身の力じゃない。「葉山グループに属しているから」ってだけの理由だ」

「……!?」

 

 海老名は本来、他人の尊敬や慕情、畏怖を集められる人間ではない。むしろ忌避される、カースト下層に位置する性分である。彼女がそうならないのは、三浦や葉山たちの存在があってこそ。

 

「もしグループから外れちまったら、海老名さんは一気に転落だ。……そのことについて、責任は持てるのかよ」

「そ、それは……」

 

 雪乃が初めて言いよどむ。クラスも違う彼女では、海老名たちの「その後」の面倒が見られるはずもない。そもそも葉山グループである結衣も、クラスカースト下位の八幡も同じであった。

 そこにつけ込むように八幡が畳みかけた。

 

「人に踏み出させる、人を変えさせるって言えば聞こえはいいさ。だが、それで壊れたものがあっても、それについては知りませんあなたたちのことでしょう、で済ますのは無責任だと思わねぇか」

「……」

 

 雪乃は反論の言葉を出せず、黙ってしまった。しかし代わりに結衣が口を開く。

 

「でも! 人の告白に割って入ったら、ヒッキーまた悪者になっちゃうよ……! とべっちたちの対応次第じゃ、余計にヒッキーの立場が悪くなっちゃうよ……」

 

 八幡は元々クラスで孤立した存在であったが、文化祭以降は更に周囲から敬遠されるようになってしまった。それというのも、実行委員長をボイコットしかけた相模に向けた言葉から、八幡へ怒りを向けた相模が腹いせに受けた仕打ちを吹聴して回ったからである。カースト上位からの悪口は、そのまま暴力となる。

 雪乃も結衣の言葉を八幡への反撃材料とした。

 

「そうよ。戸部くんを止めるだけなら、そこまでしなくてもいいのではないかしら。海老名さんが今は誰ともつき合う気がないことを伝えるだけでも……」

 

 しかし八幡は首を横に振った。

 

「それじゃ説得力が薄い。戸部の奴は珍しく本気だ。伝聞だけじゃ止められねぇだろう。何より、それでいいんだったら葉山がとっくにそうしてるさ」

「……それもそうよね……」

「あいつに分からせるには、一番衝撃的なタイミングで、海老名さんの意思を聞かせる他はねぇ。もう時間もねぇんだ。この役割を別の誰かにやらせる訳にもいかねぇし……他に取れそうな方法は……思いつかねぇ」

 

 雪乃も結衣も、これ以上の八幡への反論は出来なかった。

 しかし、二人とも苦い顔であった。八幡の言っていることが頭で理解は出来ても、感情では納得できていないのだ。

 

「……ジードんとペガっちはいいの? ヒッキーがまた悪者になっても……」

 

 結衣がせめてとのように二人に尋ねかけたが、ジードたちは次のように答えるだけであった。

 

『僕も八幡が泥を被ることはもちろん認めたくないけど……「縛る」つもりはない。八幡がこうと決めたのなら、許容する他はないよ……』

「ペガも……。ペガたちは結局のところ、「第三者」だからね……」

「そっか……」

 

 もう結衣たちには、言える言葉がなくなった。

 

「……時間だ。行こうぜ……」

 

 そのまま立ち尽くしていた三人だが、八幡が促すことで嵐山に向かって移動を開始した。

 その間、誰もがひたすらに無言であった。

 

 

 × × ×

 

 

 日が沈み、夜の闇に覆われた竹林を灯籠の白い明かりがほんのり照らし出す。その中央で海老名を待つ戸部を、八幡たちと三浦を除いた葉山グループが隠れながら見守っている。――純粋に告白に臨もうとしている、または応援しているのは、戸部当人と大岡、大和の三人だけである。

 八幡とともに控えている雪乃と結衣は依然沈んだ表情であるが、八幡を止めようとする素振りは見せなかった。

 そしてこれから戸部に応援をすることを約束しながら、彼の告白に横やりを入れる八幡は、そのタイミングを見計らっている――べきなのだが、いやにそわそわしていた。チラチラと、周囲に目を配らせている。

 

「……どうしたの、ヒッキー? やっぱり、やめるつもりになったとか?」

 

 それに気がついた結衣が、一縷の望みを掛けて問いかけたが、残念ながらそうではなかった。

 

「いや、そういうことじゃねぇ」

「そ、そっか……」

「だけど……何か、変に落ち着かねぇんだ。何か、誰かに見られてるような……」

「え?」

 

 八幡のひと言にジードが同意する。

 

『やっぱり八幡もそう思うんだ。僕も、竹林に来てからそんな気がして……』

「それだけじゃねぇ」

『え?』

 

 ジードが変な声を出した。

 

「その視線が……何か痛てぇんだよ。身体中に突き刺さるような感じが……」

 

 戸惑うジードであるが、そこで海老名がやってきた。これ以上雑談をしている時間はない。

 

「来たか……」

 

 八幡も無理にでも集中し、意識を戸部と海老名の方へ向けた。

 

「あの……」

「うん……」

 

 いよいよ、あらゆる人たちの嘘に塗り固められた告白劇が始まる。

 

 

 × × ×

 

 

 ――闇の中から竹林の様子を見張っていた者たちが、同時に動き出した。

 

「いいか、俺の下に連れ込むのは一人だけだ。複数だと予期しないことをしでかすかもしれないからな」

『はッ!』

 

 バド星人オガレスが返答し、ゴドラ星人ルドレイが装置のスイッチにハサミ状の手を掛けた。

 そして指示が飛ばされる。

 

「空間幻惑装置、作動ッ!」

 

 

 × × ×

 

 

「あ、あのさ……」

 

 意を決した戸部が口を開き、八幡がいよいよ飛び出しかけた、その時。

 一瞬視界がぐにゃりと曲がり――気がつけば、すぐ後ろの雪乃と結衣以外に、竹林から人の影がなくなった。

 

「え……?」

 

 呆気にとられる八幡たち。今そこで告白をしようとしていた戸部も、告白されそうだった海老名も、葉山たちまでも消えてしまったのだ。

 

「ど……どうなっているの……?」

「一体、何が起こって……」

 

 訳が分からずに周囲をきょろきょろと見回す結衣と雪乃。すると、ジードライザーからレムの声が飛んだ。

 

[警告。ハチマン、あなた方の現在地の空間の歪曲を感知しました]

「空間の歪曲!?」

[地球の技術では不可能。地球外生命体の仕業である確率が99%です]

 

 八幡たちは顔を見合わせると――途端に慌て出した。

 

「まぁた侵略者かよッ! こんな時にちくしょうッ!」

「大変! 姫菜たちが危ないよ!」

「すぐ捜しましょう!」

『もちろんだ! レム、ナビゲートを頼む!』

[了解しました]

 

 八幡たちはレムの誘導の下に、どこかへ飛ばされてしまった海老名たちを捜して空間の迷宮と化した竹林の中を駆け出した。

 



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新たなる戦いは刻々と近づいている。(B)

 

「え……?」

 

 海老名は気がつけば、竹林の真ん中で自分一人だけが突っ立っていることを悟って唖然とした。つい今しがたまで、目の前には戸部がいたはずなのに。

 

「ど、どうなってるの……? とべっち、どこ行ったのぉ?」

 

 混乱しながらも戸部の名を呼ぶが……返事はどこからもなかった。

 

「一体どうなってるの……!? みんな、隠れて見てるんでしょ!? 出てきてよっ!」

 

 誰でもいいから出てきてほしいと願って声を張るものの、やはり周囲は静まり返っていた。

 明らかに異常な状況に、海老名も言い知れぬ恐怖に駆られて立ちすくむ。その時、

 

「どうかしましたか、お嬢さん」

 

 不意に背後から声を掛けられる。海老名が振り向くと、いつの間にか見知らぬ同世代らしき男が、こちらに対して左向きにたたずんでいた。

 一瞬安堵しかけた海老名だったが、この異様なありさまに突然現れた見知らぬ人物である。内心警戒を覚える。

 

「あの、それが……さっきまで友達といたんですけど、いつの間にかはぐれちゃって……」

「ほう、それはいけない。こんな夜中に女の子が一人きりだと危ないですよ」

 

 男は何故か、左側を向いたままで海老名に向き直ろうとしない。海老名からは、彼の左半面が見えなかった。

 訝しむ海老名だが、彼女に対して男が告げる。

 

「ところで……その友達というのは、もしかして比企谷八幡という名前ではないですか?」

「えっ、違いますけど……ヒキタニくんのこと知ってるんですか?」

 

 意外そうに目を大きく開ける海老名。

 

「ええ、よく知ってますよ。彼とはただならぬ関係でしてね」

「ただならぬ関係!?」

 

 男のひと言に海老名はグイッと食いつき、つい警戒を緩めて近寄っていく。

 

「そ、それどういうことですか? ヒキタニくんとは一体どんなご関係で!?」

「ははは、ひと言では言い表せないほどに深い関係ですよ。何故なら……」

 

 男は海老名が近づいてきたところで、踵を返して海老名に顔を向けた――。

 

「俺の顔をこんなにしやがった奴だからなぁぁぁッッ!!」

「きゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」

 

 男の顔を正面から目にした海老名が絶叫する。

 男――魔導師暴君レイデュエスの左半面には、額から頬にまで走る裂傷の跡が深々と刻み込まれているのだ。

 腰が抜けてしりもちを突く海老名。レイデュエスは彼女に覆いかぶさるように顔を近づけ、彼女を恫喝する。

 

「この醜い傷跡を見ろッ!! これは奴につけられたものだ……何をしても消えないッッ!!」

「あ……あ……!?」

「この傷の恨みは絶対に晴らしてやる……! お前はそのための餌だッ! 奴をおびき寄せる餌になってもらうぞッ!!」

 

 獰猛に口の端を吊り上げて怒号を発するレイデュエス。海老名は訳が分からないものの、おぞましい威圧感を間近からぶつけられて、震え上がり青ざめる。

 その時に、レイデュエスが不意に顔の傷跡を撫でながら目を上に向けた。

 

「うずく……この傷がうずくぞッ! 奴が近づいている……!」

 

 レイデュエスの意識が海老名からそれ、顔を上げて正面を向く。

 

「比企谷八幡ンンッ!」

 

 レイデュエスの下に、レムの誘導によって歪められた空間を突破してきた八幡たち三人がたどり着いていた。

 

「あいつ……!」

「やっぱ、生きてやがったのかテメェ……!」

 

 八幡たちはレイデュエスをひと目見るなり、身体を強張らせて警戒心を最大に強めた。

 

「ハッ! 俺がひと言でも死にましたと言ったかぁ!?」

 

 冗談めかすレイデュエスだが、その目は全く笑っていなかった。紫の瞳によどんだ憎しみをたぎらせて、八幡を射抜かんばかりににらむ。

 

「姫菜……!」

 

 結衣はレイデュエスの足元でへたり込んでいる海老名を見やると咄嗟に身を乗り出すが、その瞬間にオガレスとルドレイが現れて海老名の両腕を捕らえ、無理矢理立たせて人質にする。

 

「全員動くんじゃねぇぞ。下手なことしたらこの小娘は一瞬で首がもげて死ぬぞ比企谷ぁ! ここじゃウルトラマンジードと呼んだ方がいいか!?」

「……人の秘密をあっさりばらして……!」

 

 捕まって顔面蒼白になっている海老名に目を向けながら、雪乃が吐き捨てた。

 

「俺がテメェらに配慮する訳ねぇだろうがぁッ!」

 

 雪乃の非難に荒々しく言い捨てるレイデュエスには、以前までのもったいぶったような澄ました態度は見られない。尊大な振る舞いはかなぐり捨てて生の本性を剥き出しにし、八幡と対面している。

 

「……俺たちにリベンジする気なら、普通に俺たちのとこに来いよ。海老名さん関係ないだろうが……!」

 

 八幡が激しい怒りを灯した眼差しでレイデュエスをにらみ返したが、レイデュエスは嘲笑を返しつつ言い放った。

 

「そんな道理が通ると思うのか?」

「何……?」

「テメェの周りにいるってだけで、関係のねぇ奴なんかいねぇんだよッ! この娘はその中からたまたま選ばれたってだけだ。テメェを追いつめ苦しませるためだったら誰だってよかった! たとえテメェが全く見ず知らずの人間でもなぁッ!!」

「……外道っ……!」

 

 レイデュエスの下種っぷりに雪乃も結衣も怒りで打ち震えるが、レイデュエスは意にも介さない。

 

「それが正義の道に生きるってことだよ! 戦いの勝者は負けた奴らの恨みを背負う。戦い抜けば抜くほどに、恨みは大きくなるッ! 怨念に道理なんか通用しねぇ! 正義に生き続ける限り、比企谷、テメェの周りの奴らはテメェが背負う怨念に巻き込まれるッ! 避けるには、誰一人近寄らせない孤独になる他はないッ! それでも本物になるってのかぁテメェはッ!!」

「ぐッ……!」

 

 レイデュエスのなじるような怒号に、八幡は声を詰まらせた。怯え切っている海老名の顔を見ると、迂闊な回答が出来ない。

 

『……!』

 

 その八幡の様子で、ジードも声にならない苦悶を発した。

 窮している八幡たちに代わって、声を発したのは――。

 

「――あんたなんかの勝手な言い分なんて、知らないんだからっ!」

 

 結衣であった。彼女は脂汗を垂らして、小刻みに震えながらも、まっすぐにレイデュエスを見据えている。

 

「ああ……?」

「ゆ、由比ヶ浜……!?」

「由比ヶ浜さん……!」

 

 全員の視線が結衣に集まる。その中で、結衣は精一杯に声を張り上げた。

 

「あたしは、どんなことがあったってヒッキーを孤独にはしないもん! だって、あたしは……仲間だから! あたしだって何度かウルトラマンジードになったし! あんたみたいな悪い奴の言う通りになんて、絶対なんないんだからっ!」

 

 結衣の言葉に背中を押されるように――雪乃も一歩前に出て口を開いた。

 

「私も同じ気持ち……! ここは私たちの星、私たちの世界よ! 比企谷くんに任せきりにするのではなく、自ら働きかけていくのは、当然のことよ!」

 

 そう主張する二人に、八幡が振り返って聞き返した。

 

「お前ら……本気なのか……!?」

 

 雪乃と結衣は冷や汗を流しながらも、確かな口調で肯定する。

 

「もちろん……! たとえ何があろうとも、あんな輩に屈しはしない。そう決めたの」

「あたしたち自体には何の力もなくたって……心は負けないよ!」

 

 言い切った雪乃と結衣に対して、レイデュエスの目が座る。

 

「ほーう、そうかいそうかい……」

 

 その様子が変わったことで、八幡たちはどんな行動に打って出るかと身を引き締めた。

 が――レイデュエスは真顔でこう言った。

 

「いい仲間を持ってるじゃねぇか」

「――え」

「これは何の忌憚のない、正直な気持ちだ」

 

 悪逆非道な悪党から出たとは思えない、あまりに意外なひと言――。八幡たちだけでなく、オガレスとルドレイまでもが驚いてレイデュエスを見つめ返した。

 しかしレイデュエスはすぐに残忍な表情に戻ってブラッドサイズを振りかざす。

 

「じゃあ実際にテメェらのための犠牲を出してやろうじゃねぇかッ!」

「――!!」

 

 大鎌の刃が海老名に向けられる。海老名の恐怖心がいよいよ頂点に達し、八幡は何が何でも止めようと身を乗り出しかける。

 しかしそこに、レイデュエスの足元に手投げ弾がコツンと投げ込まれた。

 

「ッ!」

 

 レイデュエスが目を下に向けたと同時に手投げ弾が炸裂し、瞬時に煙幕が立ち込めてレイデュエス一味の視界を一瞬ふさいだ。

 

『八幡ッ!』

 

 瞬間、ジードが叫ぶ。それに八幡は前に飛び出すことで応じ、ひと跳びでオガレスとルドレイの顔面に蹴りを入れた。

 

『ぐわぁッ!?』

 

 のけぞったオガレスたちの腕が海老名から離れ、八幡はその隙に彼女の肩を抱えて下がらせようとする。

 

「比企谷――!」

 

 レイデュエスが八幡の首を狙ってブラッドサイズを振りかぶったが、そこに弾丸の雨が撃ち込まれて斬撃が阻止された。この間に八幡は海老名を連れて雪乃たちの下へと戻る。

 

「比企谷くん……!」

「姫菜! 怪我はない!?」

 

 八幡から海老名を預かる雪乃と結衣。結衣は海老名に呼びかけるが、海老名のわななく唇からは返事が出ない。

 代わりのように、竹林の中から八幡たちの前に飛び出してきたのはゼナと陽乃の二人であった。

 

「ゼナさんッ!」

「姉さん……!」

『大丈夫だったか?』

「ごめんね、遅くなっちゃって」

 

 八幡たちをかばってレイデュエス一味と対峙するゼナたち。二人は八幡たちの周辺の警護のために京都に来てくれていたようだ。

 ゼナはレイデュエス一味に銃を向けて威嚇する。

 

『レイデュエス……生きていたとはな』

「ふん……死んだと思ってたか?」

 

 AIBにたじろぐオガレスとルドレイとは対照的に、レイデュエスは全身に銃弾を浴びながらも平然と立っており、弾痕は瞬く間にふさがって完全に消え去る――が、顔面の裂傷跡は依然として残り続ける。

 

『半信半疑だったがな。しかし、復活早々に派手なことをしてくれたものだ。空間など歪めて、我々が感知しないとでも思ったか?』

「そうだったら随分となめてくれるね~?」

 

 レイデュエスへと完全に冷え切った視線を向ける陽乃。だがレイデュエスは意に介さず嘲笑を返した。

 

「当然だろう? お前らにこの俺に対抗できるだけの『力』があるのか?」

『……』

 

 ゼナは黙して答えず、陽乃はかすかに目を苛立たしげに吊り上げた。

 

『で、殿下、申し訳ございません。人質を奪い返されてしまい……』

 

 オガレスとルドレイは海老名を取り返されたことを謝罪するが、レイデュエスは興味なさそうに鼻を鳴らした。

 

「ふん、結局人質などまどろっこしいだけだ。やはり、こうするのが一番手っ取り早い……!」

 

 レイデュエスが取り出したのはブラッドライザー。それを見て即座に銃撃するゼナたちだが、今度は闇の障壁に阻まれて銃弾が届かない。

 その間に、レイデュエスは怪獣カプセルを起動していく。

 

「イッツ!」『ギィィィィ!』

「マイ!」『ヌエェイッ!』

「ショウタイム!!」

 

 金属質の人型の怪物と金色の鬼のような宇宙人のカプセルをナックルに装填し、ブラッドライザーを起動。

 

フュージョンライズ!

「ぬうあああぁぁぁぁッ!」

 

 暗黒の異空間の中、レイデュエスが星人態から魔人態へと姿を変え――魔人態の顔面にも傷跡が刻み込まれている――カプセルから現れた二体のビジョンを吸い込んでいく。

 

ミーモス! ババルウ星人!

レイデュエス! メタリックババルウ!!

 

 フランス人形とレコードプレーヤーを踏み潰し、レイデュエス融合獣が完成する!

 ――しかし八幡たちの前に立ち上がった巨体は、ウルトラマンジード・プリミティブのものだった!

 

「ウオオオオッ!」

「!?」

 

 それを見上げた八幡たちは、すぐに昨夜の偽者のジードを思い出した。

 

「やっぱあの野郎が正体だったのか……!」

 

 舌打ちする八幡。ゼナはにせジードに銃を向けながら陽乃に指示を出す。

 

『後退するぞ!』

「了解です!」

 

 八幡は雪乃と結衣に向けて手を扇ぐように振って、下がるよう身振りした。

 

「お前らも海老名さん連れて逃げろ!」

「え、ええ……!」

 

 雪乃はためらいつつもうなずいたが――結衣の脳裏には、ダークオーヴァーゼットンに殺される寸前だったジードや、レギオノイドの攻撃で一時爆炎の中に姿を消したジードの姿がよぎった。

 

「……ジーッとしてても、ドーにもならない……!」

 

 冷や汗を垂らした彼女は――覚悟を固めた顔で、八幡の下に踏み込んだ。

 

「ヒッキー、あたしも一緒に戦う!」

「は!?」

 

 八幡も、雪乃も、驚愕して一瞬固まった。

 

「いや、何言ってんだお前!? もうその必要は……」

 

 断りかけた八幡だが、結衣はそれをさえぎってまくし立てた。

 

「だって……あいつは姫菜を危険な目に遭わせたんだよ! 絶対許せないもん! あたしの手で、あいつをやっつけてやりたいの!!」

「けどな……!」

「お願い! やらせてっ!」

 

 真剣な眼差しで、自分の瞳を覗き込む結衣。八幡はためらうものの、問答している時間はなかった。

 

「ええいッ……! ドーなっても知らねぇぞ!?」

「うんっ! 決めてるよ、覚悟!!」

 

 八幡からウルトラカプセルを受け取る結衣。雪乃はそんな二人に手を伸ばしかけたものの――その手は、そこで止まった。

 その様子を、陽乃がじっと見つめていた。

 

「ユーゴーッ!」『シェアッ!』

 

 八幡が一つ目のカプセルを起動し、ウルトラマンのビジョンが腕を振り上げる。

 

「アイゴーっ!」『フエアッ!』

 

 結衣が二つ目のカプセルを起動し、ベリアルのビジョンが腕を振り上げた。

 

「ヒアウィーゴーッ!!」

 

 装填された二つのカプセルを、八幡がジードライザーでスキャン。

 

[フュージョンライズ!]

「おおおおお……! はッ!」

 

 ジードライザーの機能により、結衣とともにフュージョンライズしていく。

 

「ジィィィ―――――――ドッ!」

[ウルトラマン! ウルトラマンベリアル!]

[ウルトラマンジード! プリミティブ!]

 

 変身して飛び出した本物のウルトラマンジードが、空中からにせジードに対して攻撃を放つ。

 

「「『レッキングリッパー!!!」」』

 

 結衣も声をそろえて技名を叫んで繰り出された光刃は、爆発を巻き起こしてにせジードを煙の中に覆い隠した。

 竹林の中に着地するジードだが、にせジードはそのまま出てくる気配がない。

 

『「もうやっつけちゃったの?」』

『そんなはずはない……。気を緩めないで!』

 

 警戒を怠らないジード。その時、煙の中からゆらりと人影が動いた。

 しかし飛び出てきたのは、にせジードではなかった!

 

「ヌエアァッ!」

「!?」

 

 真っ黒い肉体のウルトラマンが振るってきた爪を反射的にかわしたジードは驚愕。

 

『なッ……ウルトラマンベリアル!?』

 

 八幡と結衣は、黒いウルトラマンが今装填ナックルに収まっているカプセルの片方と同じものであるとすぐに分かった。

 にせジードは、ウルトラマンベリアルの姿に変わっていた。

 

『ベリアルの姿になって、何のつもりだッ!』

 

 激昂したジードがにせベリアルに飛びかかるものの、その平手打ちは易々と弾き返され、とがった爪のカウンターで吹っ飛ばされる。

 

「ウワァッ!」

 

 竹林から飛ばされて町の中に倒れ込むジード。にせベリアルも町中に踏み込んできてしまう。

 

『「やばい……! 町に移動してきちまった……!」』

 

 冷や汗を流す八幡。京都の人たちは突然の巨人の戦いに大混乱。こんな場所で戦えば被害が格段に拡大してしまう。

 

『どうにか押し返そう! 肉弾に優れた形態に!』

『「おう……!」』

『「うんっ!」』

 

 ジードが立ち上がると、八幡と結衣は新しいカプセルを取り出してスイッチを入れた。

 

『「ユーゴーッ!」』『イヤァッ!』

『「アイゴーっ!」』『タァーッ!』

『「ヒアウィーゴーッ!!」』

 

 レオカプセルとアストラカプセルを装填し、再びフュージョンライズ!

 

[ウルトラマンレオ! アストラ!]

[ウルトラマンジード! リーオーバーフィスト!!]

『「滾るぜ! 闘魂!!」』

 

 八幡が叫び、宇宙拳法の構えを取ってにせベリアルと向かい合うジード。しかし、

 

「――フアァッ!」

 

 にせベリアルはジードの変身を見ると、たちまち姿を変え、今度は真紅のウルトラ戦士の姿となった!

 

『「えッ!?」』

 

 唖然とする八幡たち。その姿は……リーオーバーフィストの力の片割れ、アストラのものなのだ!

 

「イヤァッ!」

「ウワッ!?」

 

 にせアストラが猛然とジードに殴りかかってきた!

 

 

 × × ×

 

 

 星雲荘から京都で行われているジードの戦いを見守っているライハは、次々とにせのウルトラ戦士に姿を変えるレイデュエス融合獣に目を見張っていた。

 

「さっきからフュージョンライズに使ってるカプセルのウルトラ戦士に化けてる……。力を借りて変身するリクたちへの当てつけのつもり……?」

[それだけではないでしょう]

 

 ライハの推理に、レムが己の見解を伝えた。

 

[戦況に合わせて形態を変えるジードに対抗するために、向こうも様々なウルトラ戦士に変身できる融合獣になったものと思われます]

「ジードに対抗して……つまり、リクたちを確実に倒すために……!」

 

 ジードに怒涛の攻めを繰り出しているにせアストラの姿を、ライハは戦慄しながら見つめた。

 

 

 × × ×

 

 

(♪来襲!破滅招来体)

 

「ダァッ!」

「ウワァァッ!」

 

 にせアストラの正拳を食らい、大きく殴り飛ばされるジード。肉弾戦に長けるリーオーバーフィストなのに、圧倒的に押されてしまっている。

 

『何てパワーだ……オリジナルの力は、やっぱりカプセルとは段違いなのか……!?』

『「……それだけじゃねぇ……」』

 

 にせアストラの一撃の重さにひるむジードに、八幡は脂汗をかきながらつぶやいた。

 

『「上手く言えねぇけど……奴の攻撃は、今までは何かが違う……。執念みてぇなもんを感じる……!」』

『「ヒッキー……」』

 

 レイデュエスの猛攻にたじろいでいる八幡たちだが、それを振り払うように三度目のフュージョンライズを敢行する。

 

『「拳で駄目なら、剣でどうだッ!」』

 

 ヒカリカプセルとコスモスカプセルをナックルに入れ替えてスキャン。

 

[ウルトラマンヒカリ! ウルトラマンコスモス!]

[ウルトラマンジード! アクロスマッシャー!!]

 

 アクロスマッシャーになるとともに前に飛び出し、右腕から光剣を伸ばす。

 

「「『スマッシュビームブレード!!!」」』

 

 だがにせアストラは、鎧を纏ったウルトラマンヒカリ――にせハンターナイトツルギとなってこちらも光剣を出し、ジードの斬撃を軽く受け止めた。

 

「ヌアァァッ!」

「ウゥッ……!?」

 

 そして繰り出されるにせツルギの猛烈な斬撃の嵐。ジードはそれを防ぐだけで手いっぱいであり、アクロスマッシャーのスピードを活かすことが出来ない。

 

『「ちッ……これでも駄目か……!」』

 

 追いつめられたジードは突き飛ばされ、そこにナイトシュートを撃ち込まれる。

 

「メッ!!」

「ウワアアアァァァァァァ―――――――!!」

『「ぐああああッ!!」』

『「きゃああああっ!!」』

 

 その威力はすさまじく、ジードを吹き飛ばしたばかりか京都の町も衝撃が襲い、あちこちで建物の倒壊が起こる。

 その中である家屋の塀が倒れ、そこを避難中に通りかかった沙希が巻き込まれた!

 

「あぁぁぁぁっ!?」

「川崎!?」

 

 生徒たちを誘導していた平塚が川崎の悲鳴に振り返り、すぐにその場に駆けつける。

 

「川崎、大丈夫かっ!」

「せ、先生……足が……!」

 

 沙希の足が塀の下敷きとなり、逃げられなくなってしまった。すぐ近くではにせツルギが暴れている。このままでは命が危ない。

 

「待っていろ、すぐに助けて……うぐぐ……!」

 

 塀を持ち上げようとする平塚だが、彼女も女。その細腕では塀はかすかにも持ち上がらない。

 

「先生、あたしのことはいいですから……ここにいたら、先生まで……」

 

 青ざめた顔でにせツルギを見上げ、平塚を逃がそうとする沙希だが、平塚は塀から手を放さなかった。

 

「馬鹿を言うな……! 生徒を見捨てて先に逃げるなど教師失格だ……! 私はそんなことはしないっ!」

 

 毅然と言い放った平塚の胸の中に、ほのかな光が灯る。

 

「うおおおおぉぉぉぉぉっ! とあぁっ!!」

 

 そして気合いの雄たけびとともに塀が軽々と持ち上がり、遠くへと投げ飛ばされた!

 

「えっ……!? すごっ……!」

 

 突然平塚が見せた怪力に沙希は仰天。しかし驚いているのは平塚自身もであった。

 

「い、今のは……まさか、私に秘められた内なる力が土壇場で目覚めてしまったのか!?」

 

 少年漫画的な解釈をする平塚だが、もちろんそうではない。よろよろと起き上がるジードの目が、平塚から上る光の柱を捉える。

 

『リトルスターだ!』

『「あそこにいるのって……平塚先生っ!?」』

 

 平塚のリトルスターの反応はにせツルギにも気づかれてしまい、にせツルギは平塚の方へ剣を振り上げにじり寄っていく。

 

「ヌウゥンッ!」

『「ッ! やめろぉぉッ!」』

 

 ジードがすぐに回り込んでいき、平塚たちを背にかばってにせツルギの剣を受け止める。

 その剣圧に押されて膝を突きながらも、ジードは――八幡は、力を振り絞って押し返す。

 

『「ぐぅぅ……! 先生に、手ぇ出すんじゃねぇ……!!」』

 

 必死に自分たちを守るジードの背に、沙希をかばいながら平塚は祈りを込めた。

 

「ウルトラマンジード……がんばってくれ! 川崎を助けてくれ!」

 

 その想いに反応して、リトルスターが彼女から離れてジードに飛び込み、八幡の持つカプセルに宿る。

 即座にカプセルを取り出す八幡。新しいカプセルに、赤と銀のボディに黒い胸部のプロテクターを持ったウルトラ戦士の絵柄が浮き上がった。

 

『デュワッ!』

[ガイアカプセル、起動しました]

 

 報告するレム。八幡と結衣は顔を見合わせると、すぐにうなずき合った。

 

『「ユーゴーッ!」』

『デュワッ!』

 

 八幡はカプセルを交換し、今しがた手に入れたガイアカプセルを起動。カプセルからウルトラマンガイアのビジョンが現れて腕を振り上げた。

 

『「アイゴーっ!」』

『テヤッ!』

 

 結衣はヒカリカプセルを再び起動して、装填ナックルに収める。

 

『「ヒアウィーゴーッ!!」』

[フュージョンライズ!]

 

 この二つのカプセルを八幡がスキャンして、準備完了!

 

『「ジィィィ―――――――ドッ!」』

[ウルトラマンガイア! ウルトラマンヒカリ!]

[ウルトラマンジード! フォトンナイト!!]

 

 赤い輝きの中から結晶の渦を伴って、ジードが飛び出していく!

 

「オォォッ!」

 

 ジードから発せられたすさまじい閃光にひるんで後退するにせツルギ。その前にジードが雄々しく立ち上がる。

 

「ヌオッ!?」

 

 ジードの肉体は大きく変化。赤と青のマッシブなボディの胸元には黒いプロテクターと勲章のスターマークが並び、その身体を銀のマントが包み込んでいる。

 ウルトラマンガイアの鍛え抜かれた肉体美にヒカリの高潔な精神を宿した宇宙の偉大なる剣士、フォトンナイトだ!

 

『「テメェには誰にも手を出させやしねぇ。護り抜いてやるぜ……!」』

 

 八幡は背にしている平塚たちと、自らとともに来た結衣を一瞥しながら、にせツルギへと宣言した。

 

『「咲かすぜ! 騎士道!!」』

 

(♪フォトンストリーム)

 

 ジード・フォトンナイトがマントを大きく翻して、右腕のブレスより光のロングソードを伸ばす。

 

「「『フォトンビームブレード!!!」」』

「ヌオオオオッ!」

 

 フォトンビームブレードとにせツルギのナイトビームブレードがぶつかり合う。激しく火花の散る鍔迫り合いが一瞬起こったが、

 

「ハァァッ!」

 

 今度はジードの方が押し返し、にせツルギの胴体に深々と剣の一撃を叩き込んだ!

 

「ヌガアァァァァッ!」

 

 強烈な剣戟によってにせツルギの姿が破られ、その下から融合獣が真の姿を晒す。

 鬼のような角を生やした、鈍色の金属の肌の巨大怪人。これが次々とウルトラ戦士に変身してジードを苦しめた、メタリックババルウの正体だ!

 

「ヌグウゥゥッ!」

 

 メタリックババルウは片腕をさすまたの形に変えてジードに突き出すが、屈強な肉体のフォトンナイトには通じなかった。

 

「テヤァッ!」

 

 フォトンビームブレードのひと振りがさすまたをあっさりへし折る。メタリックババルウは武器を切り替えて肩から金属ブーメランを射出するも、ジードはそれをも切り裂いた。

 

『よし! とどめだ!』

『「おうよ!」』『「うんっ!」』

 

 形勢逆転したジードは左手首に右手首を重ね、光の尾を引きながら右腕を持ち上げていく。そして右腕に折り重なった光の線が走り、溜めたエネルギーを光線として発射!

 

「「『ナイトストリーム!!!」」』

 

 ほとばしる赤と青の光の奔流が、メタリックババルウの身体の中央を突き破って風穴を開けた!

 

「ヌッ……ガァァァァ―――――――ッ!!」

 

 身体を貫かれたメタリックババルウは、耐えられるはずもなく爆発四散した。ジードの勝利である。

 

「ハァッ!」

 

 復活したレイデュエスの挑戦を退けたジードは、高々と夜空に飛び上がって京都の町から去っていったのだった。

 

 

 × × ×

 

 

 修学旅行最終日。八幡たち奉仕部の三人は、帰りの新幹線を待つまでの間、京都駅の屋上にたたずんで別れを告げる京都の町並みをながめていた。――昨日の戦いの影響により、町の一部は倒壊してしまっている。

 その時間の中で、結衣がぼんやりとひと言つぶやいた。

 

「……一応、姫菜の依頼は叶えたことにはなるのかな」

「まぁ……告白が流れたことは事実よね」

 

 肯定する雪乃。しかし三人の表情は浮かない。

 戸部の告白は、レイデュエスの横やりによってそれどころではなくなったことで、結果的に阻止された形にはなった。今後しばらくは、戸部は海老名に告白しようとはしないだろう。

 何故なら――肝心の海老名が、死に瀕した恐怖が今になっても収まり切らず、心を乱してしまったからである。身体の震えが止まらない彼女は三浦たちに気遣われながら、修学旅行の残りの時間を他の生徒たちから隔離されて過ごした。

 また、海老名は八幡ら奉仕部、いやジード部の秘密を知ってしまったが、昨晩己の身に降りかかった事態も含めて、そのことを黙して誰にも話さなかった。――それはAIBから口止めされたからだけではない。

 海老名は、八幡たちの事情に関わることを拒絶したからである。

 

『ヒキタニくん、ごめんね……。あなたが悪いんじゃないってのは分かってるし、むしろ助けてくれたんだってことも承知してる……。だけど――しばらくは私に近づかないでくれるかな……? お願い……』

 

 海老名はゼナたちに連れられて八幡たちと別れる直前、八幡にそう言った。――恐怖を心に刻み込まれた彼女からしたら、たとえジードであったとしても――その気になれば自分を簡単にひねり潰せる存在が近くにいることが怖くて仕方がないのであろう。

 このことについて、結衣がポツリとつぶやく。

 

「あたしさ……出来ないってのは分かってたけど、もしもヒッキーがウルトラマンジードだってみんなが知ってくれたら、ヒッキーのこと見直してくれるんじゃないかって思ってた。けど……そうじゃなかったんだね……。姫菜が、あんな反応するなんて……」

 

 落胆を隠し切れない結衣。それを一瞥しつつ、口を開く雪乃。

 

「人間は……どんな相手であろうとも、「自分たちとは違う」存在を受け入れられないのよ。その度合いが大きければ大きいほど……」

『……』

 

 雪乃のひと言に、ジードも、ペガも無言を貫いていた。この二人は、それを痛いほど理解している。

 八幡は、最後にこう口にする。

 

「……これから俺たちの周りがどんなことになったって、結局やることは変わらねぇよ。ジーッとしてても、ドーにもならねぇ。それだけのことだ……」

 

 ジードから授かった信条を唱えるが――今日ばかりは、その声音に力がなかった。

 

 

 

『ウルトラストーリーナビ!』

 

結衣「今回は『ウルトラマンガイア』第二十七話「新たなる戦い~ヴァージョンアップ・ファイト!~」だよ!」

結衣「我夢は前回の戦いで藤宮からアグルの光を託されて、ガイアV2に変身したんだけど、これからは一人で戦わなくちゃいけないことに戸惑いを感じてた。そんな時にクリシスから放たれたコンピュータウィルスがエリアルベースのシステムに感染して、エリアルベースが墜落の危機に! それはどうにか回避されたけど、根源的破滅招来体の本当の狙いは過去に倒された金属生命体の破片の方で、新たな金属生命体として復活しちゃう! 我夢はアグルがいなくなった今、破滅招来体の刺客に勝つことが出来るのか! っていう内容だよ」

結衣「ガイアは物語の折り返しでV2に進化するんだけど、それが本格的に活躍するようになった回だね。特に前回はフォトンストリームを撃つだけだったスプリームバージョンが大活躍したの!」

結衣「スプリームバージョンはほんとに強くて、負けどころか苦戦すらほとんどなかったんだよね。そのパワフルな戦いぶりは未だに語り草だよ!」

ジード『パワフルすぎて、敵役のミーモスのスーツアクターさんは投げられすぎたあまりに全身打撲になったなんて逸話もあるけどね……』

結衣「それじゃ、次回もよろしくね!」

 




小町「お兄ちゃんいないと静かだねー。ねぇカー君?」
カマクラ「にゃー」
小町「ところで、最近のお兄ちゃん何か変だよね。妙によそよそしい時があるし。何やってるのかな?」
カマクラ「(……俺は知ってる。小町の兄があの巨人だ。猫の俺の前だと、あいつも遠慮なく自分の同居人たちと話をするからな)」
カマクラ「(だけどそのことを小町に伝える術はない。まぁ、大人しく見守ってるか……)」
小町「お兄ちゃんいないと暇だなー……って言いたいけど、実は新しい猫ちゃん拾ってきたんだー!」
カマクラ「(新しい猫? この辺に捨てられそうな猫がいたかな?)」
小町「まだお母さんたちの許可は取ってないけど、きっと大丈夫だよね。ほらカー君、あなたの後輩ですよ~」
ルナー「モコ!」
カマクラ「!?」
小町「珍しい猫だよねー、何て種類かな? まぁいいや。お兄ちゃんも驚くだろうな~!」
カマクラ「(小町ちゃん、違うよ! そいつ猫じゃない!)」
カマクラ「(ちょッ! 誰かAIB呼んで~!!)」



次回、『比企谷八幡は青春の光と影を見る。』



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比企谷八幡は青春の光と影を見る。(A)

 

 修学旅行から帰ってきた八幡たちジード部は、その足で一度星雲荘に集合していた。もちろん、再び姿を見せたレイデュエスのことをライハ、レムに報告するためだ。

 

「あの男が、本当に生きてたなんてね……」

 

 腕組みしながら険しい表情でひと言つぶやくライハ。全員が同じように重々しい顔をしていると、結衣が疑問を口にする。

 

「でも、あんな融合獣になれるんだったら、どうしてもっと早く使わなかったのかな?」

 

 結衣が言っているのは、京都でレイデュエスが変身したメタリックババルウのこと。ババルウ星人と金属生命体ミーモスの変身能力を反映した融合獣は、その力でウルトラ戦士の偽者に次々変身し、ジードのフュージョンライズに対抗してきた。明らかにジード対策の融合獣である。――しかしそんなものがあるならば、もっと早い段階で使用していてもよいものだが。

 その回答をレムがする。

 

[新しく怪獣カプセルを作ったのではなければ、温存していたのではないでしょうか]

「温存?」

[形態を使い分けるタイプチェンジ能力を持つウルトラ戦士は他にもいます。その者たちと戦う時を想定し、秘匿していたと考えられます]

「手の内を明かさず、自分の武器はなるべく隠しておくのが戦いの基本だものね」

 

 レムの推測にうなずくライハは、続けてこう言う。

 

「それを出してきたということは、本気でジードを倒しに来た……ということでしょうね」

 

 ライハの言葉に結衣は眉間に皺を寄せる。

 

「それって……今まではヒッキーたちのことは舐めてたってことですか?」

「まぁ、そういうことになるわね」

 

 ライハは臆せずにはっきり肯定した。

 

「実際、今回の戦いでのレイデュエスの動きはキレが全然違ってた。リク、八幡、きっとあなたたちもそれを感じたでしょう」

『確かに……。何と言うか、勢いが今までよりずっとあった』

「だな……」

 

 ジードと八幡が重々しく認めた。そしてライハは語る。

 

「レイデュエスはこれまで、リクたちを甘く見て全力を出していなかった。それは間違いない。ダークオーヴァーゼットンが再び使えるようになったら、いつでも倒せると思って手を抜いてたんでしょうね」

 

 レイデュエスは、文化祭以前の戦いを「遊び」と言っていた。その言葉は正しく、奴にとってはEXゼットンカプセルとハイパーゼットンカプセルが復活するまでの暇潰し感覚でしかなかったのだろう。

 

「だけど……結果は違った。あの男は八幡、あなたたちに負けた。だから奴は、余裕をなくした」

「余裕を……」

「これからは本気で挑んでくるでしょうね。本気で……八幡、あなたを殺しに来る」

 

 京都で見せたレイデュエスの行動。無関係の海老名を巻き込むなりふりの構わなさ。剥き出しにした憎悪と殺気。そして……一撃一撃に恨みをぶつけてくるかのような激しい攻撃。

 それらを思い返して、八幡たちは思わず総毛立った。

 

「八幡、あなたは強くなった。最初の頃と比べて格段に」

 

 不意にライハがそう発する。

 

「だけど、敵も戦う相手のことを見てる。力をつけるほどに、敵もより強力な武器を持ち出し、手段を選ばなくなってくる。……強くなるって、そういうことよ」

 

 ライハのひと言に、八幡や結衣は思わず言葉をなくした。しかし雪乃は、ふとあることを考えて口を開いた。

 

「少し疑問に思ってたんですけど……」

「何?」

「ダークオーヴァーゼットンが宇宙で戦ったものと言ってましたけど……その時は相打ちだったとしても、どうやって退けたんですか?」

 

 雪乃の言葉に結衣がハッと顔を上げた。

 

「そ、それ! あんなに強かったのにどんな方法を使ったんですか? それがあれば、レイデュエスを完全にやっつけられるかも!」

 

 シャイニングミスティックは、八幡から生じたリトルスターを用いた新しいフュージョンライズ。当然、それ以前の時は別の手段で倒したはずだ。結衣はそれに望みを懸けるが……。

 

「残念だけど……それはもう使えないんだ」

 

 ペガの答えに驚愕する結衣たち。

 

「えっ!? ど、どういうこと?」

 

 結衣が聞き返すと、レムがモニターに金色のジードの写真を映し出した。八幡たちが目にしたことのない形態だ。

 

[ロイヤルメガマスター。伝説の超人ウルトラマンキングのカプセルを使用した、かつてのウルトラマンジードの最強形態です。大気圏外での戦いでも、リクはこの姿になって戦いました]

 

 つまり、このロイヤルメガマスターでダークオーヴァーゼットンを倒したということだろう。しかし、

 

[ですが、ロイヤルメガマスターに必要なキングカプセルは失われてしまいました]

「失われた!? どういうこと!?」

『……八幡、そのカプセルを出して』

 

 ジードが指示して、八幡に腰のケースから一本のカプセルを出させてテーブルに置かせる。

 

『宇宙での戦いの最後、ダークオーヴァーゼットンから溢れ出たすさまじい量のエネルギーが地球を襲いそうになった。このままだと地上が焼かれてしまう。僕はそれを防ぐために咄嗟にエネルギーを受け止めたんだけど……流石に無茶すぎたみたいだった』

 

 テーブルに置かれたカプセルは、表面がまっさら。何も描かれていなかった。

 

『エネルギーを受け止め切った時には、キングカプセルのリトルスターは飛散してしまって、カプセルは空っぽになってたんだ。地球を守れたことには後悔はないけれど……』

「そうだったんだ……」

 

 期待が外れて落胆する結衣。だがジードは自分のことも励ますように言う。

 

『でも、リトルスターはこの地球にもある! レイデュエスのカプセルも復活したのなら、キングカプセルだって復活させられるはずさ!』

「だ、だよねー! 今までだってどんな時も希望はあったもん、今回だってきっと大丈夫だよね!」

 

 声を弾ませた結衣が腕を広げると、その指先が八幡の肩に当たった。

 

「あっ……ご、ごめん」

「ああ、いや……大丈夫だ」

 

 結衣と八幡は、どこか歯切れ悪く受け答えした。雪乃も二人に一瞬目を向けたが、その目線がすぐに泳ぐ。

 この様子を見止めたライハは、そっとペガに問いかけた。

 

「何だがあの三人……ぎくしゃくしてない? 京都で何かあった?」

「それが……」

 

 ペガは困ったように目を寄せた。

 

 

 

『比企谷八幡は青春の光と影を見る。』

 

 

 

 修学旅行から帰って最初の月曜日の放課後、八幡は奉仕部からの帰りの途中で、校舎の廊下で一人缶コーヒーを啜っていた。しかしそれは愛飲のMAXコーヒーではなく、無糖のブラックだ。

 

「……にが。やっぱブラックは苦げぇな」

「苦いなら、やめとけばよかったのに」

 

 ペガがダークゾーンから顔を出して突っ込むと、八幡はそれに言い返す。

 

「たまにはそういう気分になる時もあるだろ」

「『たまに』ね……。ほんとに『偶に』なの?」

「……」

 

 ペガに聞き返され、八幡は思わず口を閉ざした。何も言わないでいると、ペガが問いを重ねる。

 

「ねぇ……さっきの奉仕部だけど、ほんとに雪乃たちと別行動するつもりなの? やっぱり、みんな団結して事に当たった方が――」

 

 八幡はペガに最後まで言わせなかった。

 

「あそこまで意見が分かれちゃ、そりゃ無理だろ。意見統一しようとしてたら、投票日が先に来ちまう」

「……」

 

 ペガは寂しげに目を伏した。

 修学旅行から帰って早々ではあるが、奉仕部には新しい依頼が舞い込んできていた。それは次の生徒会を決める役員選挙に関することなのだが、これが曲者であり、生徒会長のただ一人の候補者である一色いろはという一年の女生徒を『当選させない』ことを依頼されたのである。当の本人から。

 それというのも、いろはは本人の立候補ではなく、クラスメイトたちの悪戯による勝手な推薦と手違いが重なって会長候補となってしまったのだという。いろは自身による辞退も、彼女の担任の勘違いで出来そうにない状況であり、元々立候補者が集まらず延期されていた選挙だけに時間の猶予も少ないという八方ふさがり。困り果てた末に奉仕部に問題が回ってきたのであった。この複雑な依頼の対処に当たり始めた奉仕部であったが――ここで、その手段について八幡と雪乃で意見が分かれた。

 選挙での当選を避けるなら落選するのが一番手っ取り早いのだが、候補者はいろは一人だけの信任投票。これで落選したらいろはのイメージを損なうとして、その落選の責任は応援演説を行う者が被ることにする――というのが八幡の出した案。

 しかしこれに雪乃が、確実性がない、ひどい応援演説は結局いろはにも迷惑が掛かる、と理由をつけて真っ向から反対。対抗案として別の候補者を立てて、そちらを当選させることを提案したが、今度は八幡がいろはより票を集められる人物を見つけられるのか、候補になってくれるのかと反対。二人の意見は完全に分かれ――その末に、別々に問題解決に当たることとなったのである。

 結衣はどうするかの意思を表明していないが、反応を見る限り、雪乃の側につくだろうと八幡は考えている。そうなると、八幡は事実上単独行動となる。――ペガとジードも、心情的には雪乃と同じ、八幡に反対の立場であった。

 

『八幡……前も言った通り、僕たちは君に泥を被ってほしくはないんだ。この前は本当に時間がなかったけど、今回は別の方法があるんじゃないかな? 雪乃が言ってたのとも違う、何か別のが――』

「その別のって何だよ」

 

 言いかけたジードに、八幡がぴしゃりと聞き返した。

 

『その、たとえば――そう! 前提を変えてみるのはどうかな。一色さんを当選させないじゃなくて、一色さんに会長をやる気になってもらうんだ。そうした方が奉仕部の理念にも沿うでしょ?』

 

 思いつきでそう口にしたジードだが、すぐに八幡から駄目出しされる。

 

「やる気になってもらうったって、どうやってだよ。あの様子を見る限りじゃ、そもそも真面目なタイプじゃねぇぞ。生徒会長なんて地味な仕事、どう説得したってやりたがるようには見えねぇ」

『そ、それは、そのぉ……う~ん……』

 

 所詮は思いつき。すぐに言葉に詰まってしまうジードだった。

 しかし八幡が汚れ役にならないように必死に考えてくれていることを感じ取った八幡は、大きくため息を吐いてからこう言った。

 

「……まぁ、お前らの気持ちはありがたいよ。けど、それに応えられそうにない」

『え……?』

「お前らだからこそ言うんだけどな……本当は分かってるんだよ。俺のやり方が、まちがっているってことぐらいはな。本当はジードの言う通り、別の道があるのかもしれない。だけど……俺は『今』を変えたくない」

 

 八幡の吐露した本心を耳にして、ジードとペガは思わず言葉を呑み込んだ。

 

「海老名さんからの依頼を叶えようとしたのだって、雪ノ下たちに言ったのが本当の理由じゃない。本当は……葉山たちに、自分を重ねちまったからだよ」

 

 『今』の環境を失いたくない……その葉山たちの願いを、八幡も心の奥底で持っていたことを彼は気づかされた。奉仕部という場所があって、ジードたちと出会って、いくつも戦いを経験して強くなって……。そんな『今』の『時間』を、変えたくない。

 

「俺が『変わってしまった』ら、何かが『変わる』かもしれない。何かが――『失われる』かもしれない。それを思うと……二の足を踏んじまうんだよ。『失ってしまった』ら、それを取り返せるかなんて分かんねぇんだからな……」

『八幡……』

「はッ……何が『本物になる』だ」

 

 八幡は、己の発言を自嘲する。

 

「『本物』ってのは、こんな臆病者なんかじゃねぇだろう。だけど……俺は、進めない。結局俺は……何も『変わっちゃいない』んだな」

『……』

「前に作文で『青春とは嘘』と書いたが、実際そうだな。――俺は嘘吐きだ」

 

 ぼそりと吐き捨てた八幡のひと言に、ジードたちは、何の言葉も告げることをしなかった。

 

 

 しかし、八幡の想いとは裏腹に、『今』を『壊そう』とする者は、一片の情けもなくやってくる。

 

 

 × × ×

 

 

「いいか……。奴に関することは、どんな小さいことでも見落とすな。余さず報告しろ」

 

 総武高校を一望できるビルの屋上で、レイデュエスがオガレスとルドレイにそう命じていた。彼は手下の二人に、八幡の監視と偵察をさせているのだ。

 

「奴の人間関係、嗜好、行動の癖。何でもいい。ありとあらゆることを調べ上げて、情報をかき集めるんだ。その後の作戦は俺が練る」

 

 念を押して指示するレイデュエスに、オガレスとルドレイはやや困惑気味に尋ね返した。

 

『殿下……どうしてそんな細かいことまで……』

『ウルトラマンジードの能力分析ならまだ分かりますが……変身者の些細な情報まで作戦立案に必要なのですか?』

 

 それにレイデュエスは、極めて真剣に答えた。

 

「前回の戦闘で俺は確信した。ジードの戦闘能力に対抗してる『だけ』じゃあ、奴は倒せないとな」

『は、はぁ……?』

「今のウルトラマンジードの強さは、比企谷八幡によって支えられてる。どれだけ小手先の武器や策を持ち出しても巻き返されてしまうのは、その支えがあるからだ。だから先にそれを取っ払わなくちゃならん」

 

 レイデュエスは八幡の顔を脳裏に浮かび、憎々しげに顔の傷跡をひとなでした。

 

「まずは比企谷八幡の奴を徹底的に追いつめて弱らせる。奴という人間が成り立ってる環境を跡形もなく破壊してやるのさ。奴の仲間、親族、隣人……思いつく限りの奴を、どんな手段を使ってでも葬って、奴を孤立させてやる……! そして弱り切ったところに、とどめをこの俺の手で――!」

『そこまでだッ!』

 

 レイデュエスが卑劣極まる計画を立てているところに――屋上の扉が勢いよく開け放たれて、ドカドカと大勢の黒服が大挙して踏み込んできた。レイデュエス一味はあっという間に屋上の端に取り囲まれて銃口を向けられた。

 黒服のほとんどは、地球人ならざる人間の首であった。ペダン星人、サーペント星人、ネリル星人、ドーブル星人、グローザ星系人……その中心にいるのはシャドー星人と地球人のタッグ。ゼナと陽乃である。

 

『エ、AIB!!』

 

 この状況に仰天して震え上がるオガレスとルドレイ。しかしレイデュエスは少しも動揺せず、落ち着き払った態度でAIBに向き返った。

 

「敗北者どもの寄り集まりめ……よく俺がここにいると分かったな」

『我々がいつまでも後手に回ると思ったら大間違いだ』

 

 ゼナはレイデュエスの挙動に細心の注意を払いながら言い放った。

 

『こちらが本当に貴様を死んだと思って、二か月間寝て過ごしていたとでも思ったか? 貴様が姿を隠していた間も戦力増強に努め、警戒網を張り巡らし、貴様の再出に備えていたのだ。先日はまだ手の回っていない地域だったため不測を取ったが、この地なら別だ。既に貴様が現れたならばすぐにキャッチできる態勢を整えてある』

「あんた、確実にここにやってくると思ってたからね~。……比企谷くんの命を狙って」

 

 陽乃が銃を使わずに射殺しそうな目つきでレイデュエスをにらんだ。

 レイデュエスは腰に手を伸ばしかけたが、その瞬間にゼナと陽乃の銃が火を噴いた。銃弾はレイデュエスの魔力による障壁で防がれたかに見えたが――弾は障壁を貫いて、ゼナの方はレイデュエスの腰に提げてあったブラッドライザーを弾き飛ばし、陽乃の方はレイデュエスの左胸を穿った。

 

『あぁぁッ!? ライザーがッ!』

『で、殿下! 障壁が破られるとは……!』

 

 ブラッドライザーは屋上の柵を越えて地上に転落していき、オガレスが思わず手を伸ばしていた。ルドレイは撃たれたレイデュエスに狼狽する。

 レイデュエス自身はかすかに眉をしかめるだけであった。胸の銃創は手で払うだけで消える。

 

「俺のバリアを破るとはな……」

『銃は強化した。いつまでも効かない武器を振り回すはずがないだろう』

「ハッ、お前ら寄せ集め連中によくそんな予算があったもんだ」

『人を侮ってばかりいない方がいい。もっとも、貴様に次はない。そのつもりで我々は来たのだ』

 

 ゼナたちは腕を伸ばし、レイデュエスたちに更に銃を突きつけた。

 

『さぁ、いい加減投降しろ。頼みのライザーははるか眼下だぞ』

 

 と勧告するゼナであったが……レイデュエスはそれでも、余裕ぶった態度を崩さなかった。

 

「ライザー? 何勘違いしてる。――元より、お前ら程度に使うつもりなんかないさ。もったいないからな」

 

 そう言って、レイデュエスは右手を腰の『後ろ』に回した。

 

『妙な真似はするなッ!』

 

 ゼナが鋭く警告したが、レイデュエスは既に『それ』を引き抜いていた。

 

「使うのはこっちだ」

 

 取り出されたのは――表面に三つの窓が並んだ、青と白の箱型の装置。それを目にしたゼナたちが一瞬動揺した。

 

『バトルナイザー!?』

 

 レイデュエスが装置を掲げたことで慌てて発砲しようとしたが、一瞬の動揺が勝負を分けてしまった。

 

「ジャンボキング! お前のショウタイムだッ!」

[バトルナイザー、モンスロード!]

 

 箱型の装置、バトルナイザーからカード型の光が放たれ、その光は瞬く間に拡大。その中からケンタウロス体型の異形の怪物が現れ、レイデュエスの背後に召喚された!

 

「ギギャアァァァ――――――!」

 

 ただの怪獣ではない。四体の怪獣兵器、超獣のパーツをつなぎ合わせて作り出された最強超獣、ジャンボキングである!

 



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比企谷八幡は青春の光と影を見る。(B)

 

「ギギャアァァァ――――――!」

『うッ、うわぁぁぁぁッ!?』

 

 レイデュエスによって召喚されたジャンボキングに間近から見下ろされ、AIBの宇宙人たちは思わず恐怖に駆られて悲鳴を発した。何人かは発砲するが、ジャンボキングの体表に銃弾は呆気なく弾き返される。

 

『落ち着け! 取り乱すなッ!』

 

 狼狽する宇宙人たちを一喝して統制を取り戻そうとするゼナ。その間にレイデュエスは踵を返す。

 

「お前らはこいつに遊んでもらえ」

『! 待てッ!』

 

 止めようとしたゼナだが既に遅く、レイデュエスたちは柵を跳び越えて屋上から地上へと飛び降りていってしまった。

 

「ギギャアァァァ――――――!」

 

 そして追跡はジャンボキングに阻まれて出来ない。

 

「ゼナ先輩! あの怪獣が出てきたバトルナイザーっていうの何ですか!?」

 

 後ずさりながら尋ねる陽乃。流石の彼女も、突然現れた大超獣には驚きを禁じ得なかった。

 

『怪獣使いレイオニクスが本来所有する、怪獣を持ち運ぶための収容機具だ! 一度も出す気配もなかったから失念していた……私としたことが……!』

 

 悔やむゼナ。ジャンボキングは大木のような腕を振り上げ、ゼナたちのいるビルを叩き壊しだす。

 

「ギギャアァァァ――――――!」

『わあああぁぁぁぁぁぁッ!』

『くッ……! 陽乃を守れッ! そして撤退だ!』

 

 呆気なく崩されていくビルから仲間を逃がしながら、ゼナが指示を飛ばした。

 しかしAIBの抹殺を命じられたジャンボキングは、逃げる彼らを執拗に追いかけるのだ。

 

 

 × × ×

 

 

 しかし町中に巨大な超獣が出現したことは、すぐに八幡の知るところとなっていた。

 

「あれは……!」

 

 八幡はすぐに校庭に飛び出して、ビルを崩しているジャンボキングの背面を見やった。そこにレムが報告する。

 

[最強超獣ジャンボキング。融合獣ではありませんが、レイデュエスの召喚したものであるようです]

「また野郎の仕業か……。前回からほとんど間を置いてねぇってのに……!」

 

 いら立ったように舌打ちする八幡。レムは続けて告げる。

 

[ジャンボキングにAIBが襲われています]

「何だって!?」

『八幡、すぐに助けよう!』

 

 ジードの呼びかけに八幡は即座にうなずく。

 

「よぉし……!」

 

 人の目を避けるため校舎の陰に飛び込んでから、ジードライザーを取り出して変身しようとする。

 

「行くぜ……!」

「ヒッキーっ!」

「おわッ!?」

 

 しかしケースからカプセルを取り出しかけたところで、結衣が彼の下に駆け込んできたので驚いて手を止めた。

 

「由比ヶ浜! 何でここに……!?」

「ジードんに変身するなら、この辺じゃないかなって当たりをつけて……」

 

 結衣は汗だくでぜぇぜぇ息を切らしながらそう答えた。当たりをつけたと言っても、八幡を捜すために相当走り回ったようである。

 どうにか息を整えた結衣は、背筋を伸ばして八幡と目を合わせ、まっすぐに申し出た。

 

「あたしも一緒に戦わせて!」

「はぁ!?」

 

 再び面食らう八幡。その申し出は二度目である。

 

「だからお前、その必要はないだろうが……! 今回は誰か捕まった訳でもないんだし、お前は待ってろって……」

 

 と拒む八幡であるが、結衣はその言葉をさえぎってまくし立てた。

 

「必要とか、そんなんじゃないよっ! 色々考えたけど……ヒッキーに言いたいことがあるし! だからヒッキーが帰ってくるのを、隣で確かめたいの! もう……ハラハラしながら待ってるだけなのは嫌!!」

「嫌って言ったって、お前……!」

『八幡ッ!』

 

 結衣と口論しかけるところであったが、ジードに急かされる。状況は切羽詰まっているようだ。

 

「くッ……ジーッとしてても、ドーにもならねぇか……!」

 

 やむなく八幡は引き下がって、結衣とともにウルトラカプセルを起動していく。

 

「ユーゴーッ!」『テヤッ!』

「アイゴーっ!」『タァッ!』

「ヒアウィーゴーッ!!」

 

 ヒカリカプセルとコスモスカプセルをナックルに装填し、ライザーでスキャンする。

 

[フュージョンライズ!]

「ジィィィ―――――――ドッ!」

 

 八幡と結衣がジードの身体へと一体となり、ジードは初期状態から青い姿へと変身を遂げる。

 

[ウルトラマンヒカリ! ウルトラマンコスモス!]

[ウルトラマンジード! アクロスマッシャー!!]

「ハァッ!」

 

 アクロスマッシャーへの変身に成功したジードが高々と宙を舞いながら飛び出していく。

 

「ギギャアァァァ――――――!」

 

 一方でジャンボキングはビルを完全に破壊し、地上を走って逃げるAIBをつけ狙って踏み潰そうと追いかけていた。

 

『皆、最後まであきらめるなッ! 振り切るんだ!』

 

 ゼナが懸命に隊員たちを激励しているが、大超獣との移動速度は絶望的。たちまち追いつかれて、ジャンボキングは全員を抹殺しようと足を振り上げる。

 

『うわあぁぁぁぁぁ―――――――!!』

 

 AIB隊員たちが最早これまでと絶叫した、その時、

 

「ハッ!」

 

 ジャンボキングの目の前を横切って、ジードが華麗に着地。ジャンボキングは視界の中を動いた巨躯に気を引きつけられて、狙いをAIBからそらした。

 

『ほッ……』

『朝倉リクたちか……。助けられてしまったな』

 

 ゼナたち宇宙人らは危ないところを救われたことにどっと息を吐くが、陽乃はジードを見上げてよく観察した後に、顔をしかめた。

 

「また雪乃ちゃんじゃない……」

 

 AIBを助けたジードは、ジャンボキングに手招きして挑発。ジャンボキングはそれに乗っかって、彼に向かってドスドスと突進していく。

 

「ギギャアァァァ――――――!」

「ハッ!」

 

 ジードはアクロバティックな跳躍でジャンボキングの突進を回避。しかし、まさしく小山のような体格のジャンボキングにはアクロスマッシャーの軽い攻撃が通りそうには見えない。

 

「「『ジードクロー!!!」」』

 

 そこでジードはジードクローを召喚して、それを武器にジャンボキングに勢いよく飛び込んでいった。

 

「ハァァッ!」

「ギギャアァァァ――――――!」

 

 ジードクローの斬撃がジャンボキングの体表を切り裂く。ジャンボキングは図体の大きさが災いして機敏な身のこなしが出来ず、ジードのスピードを捉えられない。ミサイルや怪光線を発射するも、ジードはバク転の連続で全てかわす。

 アクロスマッシャーの敏捷性とジードクローの切れ味は相性抜群である。

 

 

 だがこの状況にレイデュエスが黙っているはずもなかった。

 

『殿下、ジードです!』

「比企谷ぁ……!」

 

 ルドレイがジードへハサミを指すと、レイデュエスは憎々しげにジードを見上げた。そして顔面の傷跡を指でなぞりながら呪詛の言葉を吐く。

 

「まだ作戦もあったもんじゃないが、奴を葬るチャンスは一つも逃さん! とっておきの奴を出してやる……!」

 

 ルドレイとオガレスの前に出ると、回収したブラッドライザーを手に怪獣カプセルを起動していく。

 

「イッツ!」『ギィ――――イ! ギィ――――イ!』

「マイ!」『ギャアアオウ!』

「ショウタイム!!」

 

 二本のカプセルをナックルに装填すると、ライザーでスキャンしていく。

 

フュージョンライズ!

「ぬうあああぁぁぁぁッ!」

 

 暗黒の異空間の中、レイデュエス魔人態が二体の怪獣のビジョンを吸い込んで肉体を変容させていく。

 

ベムラー! アーストロン!

レイデュエス! バーニング・ベムストラ!!

 

 フランス人形とレコードプレーヤーを踏み潰して、レイデュエスが融合獣に変身する!

 

 

「ギィ――――イ! ギャアアオウ!」

「!?」

 

 ジャンボキングと戦っていたジードの背後に、レイデュエス融合獣が出現する。咄嗟に振り向くジード。

 

[新手です。レイデュエス融合獣です]

『「まさか、挟み撃ち!?」』

 

 二体の敵に前後挟まれて、結衣が目を見張った。

 赤い一本角と全身に無数の青いトゲを生やした融合獣が獰猛に牙を剥く。ベムラーとアーストロンという、宇宙怪獣と地球怪獣の遺伝子を組み合わせて作り出されたバーニング・ベムストラである!

 

『くッ、二対一か……!』

 

 前門のジャンボキング、後門のバーニング・ベムストラの両方に警戒を払いながら、ジードが短くうめいた。これまでのレイデュエスはどんな姿になろうとも、基本的に単独であり一対一の勝負であった。それなのに八幡たちはいきなりハンディキャップ戦が出来るのだろうか。

 しかし八幡はひるまずに吠えた。

 

『「何人、いや何匹で来たって同じだ! ジーッとしてても、ドーにもならねぇ!」』

 

 ジードクローを握り直し、軽々とした身のこなしでベムストラに向かっていくジード。だが、

 

「ギィ――――イ! ギャアアオウ!」

 

 ベムストラもまた素早く尻尾を振り回し、ジードを大きく殴り飛ばした。その衝撃でクローが吹っ飛んでいってしまう。

 

「ウワァッ!?」

 

 派手に叩きつけられたジード。ベムストラは細身な分、ジャンボキングよりも小回りが利いて素早いようである。

 

「ギギャアァァァ――――――!」

「ウワアァァァァッ!」

 

 更に倒れたところにジャンボキングがミサイルを撃ち込んでくる。爆撃に見舞われるジード。

 

『「くッ……! こりゃちょっと不利だな……!」』

 

 それでもジードが起き上がると、八幡と結衣はカプセルを交換して形態を切り替える。

 

『「ユーゴーッ!」』『タァーッ!』

『「アイゴーっ!」』『セェアッ!』

『「ヒアウィーゴーッ!!」』

 

 新たにティガカプセルとルナミラクルゼロカプセルを装填してフュージョンライズ!

 

[ウルトラマンティガ! ルナミラクルゼロ!]

[ウルトラマンジード! ムゲンクロッサー!!]

『「挑むぜ! 神秘!!」』

 

 ゼロツインソード・ネオを握り締めたジード・ムゲンクロッサーが超能力によって三体に分身する。

 

『「これで数を上回ったぜ!」』

 

 数には数。豪語する八幡であったが……。

 

(♪大都市危機一髪!)

 

「ギィ――――イ! ギャアアオウ!」

 

 ベムストラが大きく息を吸い込むと、口から螺旋状の青い熱線ペイルサイクロンを放射。ジードの足元に着弾すると、数十メートル規模の大爆炎を引き起こす!

 

『「うおあぁぁッ!?」』

『「きゃあああっ!!」』

 

 すさまじい爆発はジードの分身全てを巻き込み、ジードは衝撃によって元の一体に戻ってしまう。ツインソードも爆風で吹っ飛ばされてしまう。

 

『「馬鹿がッ! テメェらが過去に見せた技に、何の対策もしないでのこのこやってくるとでも思ったかッ!」』

 

 あっさりと分身を攻略したレイデュエスが吐き捨てた。

 

『「な、何いまの……! すごい威力……!」』

 

 襲い掛かってきた衝撃に悶えながら、結衣がつぶやいた。今のベムストラの一撃は、威力だけならダークオーヴァーゼットンの暗黒火球にも迫る恐ろしいものであった。

 そのことに対してレイデュエスが自慢するように語る。

 

『「カプセル同士には相性がある。怪獣同士の波長がガッチリと噛み合った時、生まれる融合獣はオリジナルを超越した能力を得るッ! 俺は日夜その組み合わせを研究している! 比企谷八幡、テメェを地獄に叩き落とすためになぁッ!!」』

「ギギャアァァァ――――――!」

 

 ふらついているジードにジャンボキングが迫り、その巨体で押し飛ばす。

 

「グワッ!」

「ギィ――――イ! ギャアアオウ!」

 

 その先で待ち構えていたベムストラに捕まり、激しく殴り飛ばされた。

 

「ウワァッ!」

「ギギャアァァァ――――――!」

「ギィ――――イ! ギャアアオウ!」

 

 更にジャンボキングの火炎放射とベムストラのペイルサイクロンが同時に放たれ、ジードは灼熱地獄に見舞われる。カラータイマーが鳴り出す窮地!

 

「ウワアァァ―――――――ッ!!」

『「ぐッ、ぐぅぅぅぅ……!」』

 

 八幡と結衣も、ジードに護られていなければ心肺まで焼かれそうな業火に苛まれて苦痛にあえぐ。それに傲然と言い放つレイデュエス。

 

『「思い知ったかッ! 新たな力を得続けてるのはテメェらだけじゃねぇ。テメェらをこの世から消し去り、宇宙の覇者にのし上がるために俺も強くなり続けているッ! この俺の力の前に消し飛べッ! テメェらは地獄以外の、どこにも行き着くことは出来ねぇぞッ!!」』

 

 怨念を込めて宣言するレイデュエス。――だが、それに結衣が熱に苦しみながらも言い返した。

 

『「そんなことは……ないっ!」』

『「由比ヶ浜……!」』

 

 結衣の顔に目を向ける八幡。結衣は苦痛に耐えながら言葉を紡ぐ。

 

『「あたしは……あたしたちは、こんなとこで終わらないっ! 本物が何なのか、それすら見つけてないんだからっ! あんたなんか乗り越えて、その先に進むんだっ! 絶対……絶対っ!!」』

 

 汗だくになり、息も絶え絶えになりながらも、瞳に宿した力強さは消えない結衣の姿に――八幡も、目つきが変わった。

 

「ハァァッ!」

 

 そしてジードから念動力が発せられ、彼を覆っていた業火が消し飛ばされる。

 

「!!」

 

 身構えるベムストラとジャンボキング。その二体を見据えて、八幡は堂々たる立ち姿で口を開く。

 

『「へッ……何て言うか、吹っ切れたぜ」』

『「ヒッキー……」』

 

 纏う雰囲気が変わり、どこか輝いている八幡の様子に、結衣がほれぼれと振り向く。

 

『「由比ヶ浜がここまで言ったんだ。俺だって、ここでやってみせねぇとなッ! つぅ訳で……」』

 

 新しくカプセルを二つ選んで取り出し、結衣とともに構える。

 

『「覚悟しろよ怪獣マニア! ユーゴーッ!」』

『デヤッ!』

 

 八幡がスイッチを入れると、カプセルからウルトラマンダイナのビジョンが現れ、腕を振り上げた。

 

『「アイゴーっ!」』

『タァッ!』

 

 結衣のカプセルからはコスモスのビジョンが現れる。

 

『「ヒアウィーゴーッ!!」』

 

 二つのカプセルを装填して、ライザーでスキャン!

 

[フュージョンライズ!]

『「ジィィィ―――――――ドッ!」』

 

 ダイナとコスモスのビジョンが八幡たちと重なり、ジードの姿が変わる!

 

[ウルトラマンダイナ! ウルトラマンコスモス!]

[ウルトラマンジード! マイティトレッカー!!]

「シュアッ!」

 

 淡い緑色の光と花のような柔らかな輝きの中から、新たなジードが飛び出していく!

 そして立ち上がったのは、青と赤と金色のボディアーマーのような装甲に覆われた、スタイリッシュな出で立ちの戦士。ダイナとコスモス、まだ誰も見ぬ未来に向かって進み続ける戦士たちのスピリットを宿したマイティトレッカーである!

 

『「どこまでも進んでやる……! 進むぜ! 彼方!!」』

 

(♪Touch the Fire)

 

 八幡が力強く言い切ると、ジードが地を蹴って走り出した!

 

「トアッ!」

 

 瞬時にジャンボキングとベムストラの間に飛び込む。二体はジードの動きを目で追えずに反応が遅れた。

 

『「速いッ!」』

「ハァッ!」

 

 慌てて振り返るベムストラだが、ジードの肘撃ちが体幹に入って後ずさる。

 

「ギィ――――イ! ギャアアオウ!」

「ギギャアァァァ――――――!」

 

 ジャンボキングが目から怪光線を撃つも、ジードは易々かわしながら肉薄。その身体を鷲掴みにする。

 

「オオオオオ……トアァッ!」

「ギギャアァァァ――――――!」

 

 両腕に力がこもると、ジャンボキングの巨体が地面から離れて投げ飛ばされた!

 

『「パワーもあるだと!? いや……!」』

 

 驚愕したレイデュエスが、マイティトレッカーの能力を分析。

 

『「状況に合わせて、能力バランスをコントロールしてやがるのかッ!」』

 

 それがマイティトレッカーの特殊能力。タイプチェンジ能力を持つウルトラ戦士同士の力を反映し、自らの能力バランスを自在に操作できるマルチアクションが扱えるのだ。その代わりに制御が困難であるため今まで使ってこなかったのだが……。

 

『「どんなことにだって、ぶつかっていってやるぜッ!」』

 

 八幡は見事に制御に成功し、的確に二体に打撃を入れていく。

 

「ギィ――――イ! ギャアアオウ!」

「ギギャアァァァ――――――!」

 

 どうにか反撃を試みるベムストラとジャンボキングだが、既に連携は崩れ去ってジードに翻弄されっぱなしであった。

 

「トアァッ!」

「ギィ――――イ!」

 

 ジードの中段蹴りが入って、ベムストラが大きく蹴り飛ばされる。この隙にジャンボキングに向き直るジード。

 

「オオオオオ……!」

 

 両腕を丹田から外回りに回していくと、胸の前に炎のエネルギーが集まっていく。そしてその炎を、波状にしてジャンボキングに繰り出す!

 

「「『フレイムコンプレッションウェーブ!!!」」』

「ギギャアァァァ――――――!」

 

 炎の光線がジャンボキングに命中すると、その背後にマイクロブラックホールが発生。ジャンボキングは超圧縮されながら吸い込まれ、粉砕されていった。

 

『「じ、ジャンボキング!!」』

 

 焦りながら立ち上がるベムストラ。しかしジードはそちらにもとどめの一撃を放つ。

 

「「『フレイムエクスプロージョンバスター!!!」」』

 

 立てた右腕に左手を添えて発射された灼熱の光線が、ベムストラに突き刺さる!

 

「ギィ――――イ!! ギャアアオウ!!」

 

 たちまち赤熱化したバーニング・ベムストラが大爆散! 跡形もなく消滅する。

 

「シュアッ!」

 

 逆境を乗り越えて勝利を収めたジードは、高々と飛び上がって戦場から去っていったのだった。

 

 

「……ぐぅッ!」

 

 爆散したベムストラから弾き飛ばされたレイデュエスは、したたかに地面に叩きつけられて転がる。

 

「ぐぅぅ……こんなもんじゃ済まねぇからな……!!」

 

 オガレスとルドレイが慌てて走ってくる中、辛酸をなめさせられたレイデュエスがより深く憎悪をかき立てた。

 

 

 × × ×

 

 

 変身を解いて元の場所に戻ってきた八幡は、結衣やジードたちに向かってこう告げた。

 

「何かひと暴れしたらすっきりしたな。うじうじ悩んでたのが嘘みたいな気分だ」

『八幡、じゃあ……!』

 

 言いかけたジードに聞き返す八幡。

 

「ジード、ペガ、お前ら言ったよな? 俺の泥被ってほしくないって」

『うん、言ったけど……』

「……お前らの頼みとあったら聞かない訳にはいかないよな。分かった、俺のでも雪ノ下のでもない、第三の解決方法を探そうじゃないか。きっと何かいいやり方があるはずだ」

 

 自分自身に苦笑しながらそう宣言した八幡に、ジードとペガは一気に声を弾ませる。

 

『本当!? よかったぁ!』

『もう、素直にやる気になったって言えばいいのに。このひねくれものさんめぇ』

「ははッ……足踏みしてたって、あの野郎がお構いなしに襲ってくるんだ。臆さずに進んでかなきゃ、後悔するよな。俺だって死にたくはないんだ」

 

 冗談めかしながらジードたちと話し合っている八幡の背中に、結衣が呼び掛ける。

 

「ヒッキー! さっきあたし、言いたいことがあるって言ったよね……!」

「ん、どうした? そういえば言ってたが……」

 

 振り返った八幡は、結衣のいつになく真剣な様子に、無意識に息を呑んだ。

 結衣は覚悟を決めながら、言葉を発していく。

 

「今言うべきなのか、色々考えて悩んだし……ヒッキーも、こんな時に迷惑かもしれないけど……それでも、言わずにいるのはもうやめにしたの! 後悔するかもしれないから――ジーッとしてても、ドーにもならないからっ……!」

 

 そう唱えて、すぅっと息を吸い込む結衣。

 その時に、雪乃が二人を捜してこの場に顔を覗かせた。

 

「二人とも、こんなところにいたのね。大分苦戦していたみたいだから、ライハさんも心配を……」

 

 しかし結衣は背後の雪乃に気づかないままに、はっきりと言った。

 

「あたしね――ヒッキーが好きなの」

「――っ」

 

 八幡と、雪乃は、言葉をなくした。

 この一瞬だけ、この場の時間は止まったかのように思われた。

 

 

 

『ウルトラストーリーナビ!』

 

八幡「……今回は『ウルトラマンダイナ』第三十九話「青春の光と影」だ」

八幡「街にいきなり怪獣ダイゲルンが現れる。応戦するスーパーGUTSだがガンマ号が捕まってしまう。そのピンチを救ったのは黒いガッツウィング。それを駆っていたのは、アスカが訓練生時代にスーパーGUTS隊員の座を争ってたフドウ・タケルの弟のケンジだった。特殊部隊ブラックバスターとなったケンジは、ガンマ号にためらって撃てなかったアスカをスーパーGUTS隊員に相応しくないと糾弾する。アスカもタケルの死を聞かされて、自分が光に選ばれる人間だったかと迷いを抱く。そんな状況で発生した事件に、アスカとケンジが出撃することになって……という話だ」

八幡「ウルトラマンに変身することになった主人公が、自分の存在に迷いを抱いて答えを探すエピソードの一つだな。更にそこに、他に自分の存在意義に迷う男たちが関わることで、ドラマはより複雑で奥が深いものになってる」

八幡「果たして自分が本当にダイナになるべき人間だったのか、そう悩むアスカがどんな答えを出したのかは、是非実際に観て確認してほしい」

ジード『この話はエボリュウ細胞関連のエピソードと「激闘!怪獣島」が関わってるから、先にそっちを観た方が話が理解しやすいよ』

八幡「それじゃ、また次回でな」

 




八幡「……」
いろは「先輩? せんぱーい」
八幡「え? あぁ……」
いろは「あぁ……じゃないですよ。先輩がわざわざ用があるって言うから、お昼休みなのにつき合ってるんですよ。ぼんやりしないで下さいよ」
八幡「あぁ、悪い……。まぁちょっと色々あってな」
いろは「しっかりして下さいよ~。そんな調子じゃこっちが心配になるじゃないですか。依頼の方、大丈夫なのかなって」
八幡「だから悪いっての。それより本題なんだがな……お前、本当に選挙で負けて終わりでいいのか?」
いろは「へ? それってどういう……」
八幡「つまりだな……お前を勝手に推薦した奴らに、やり返してやりたくならないかってことだ」



次回、『鋼鉄の宇宙融合獣がジードに襲い来る。』



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鋼鉄の宇宙融合獣がジードに襲い来る。(A)

 

 十二月、生徒会役員選挙後の星雲荘。ライハが八幡たちから、一色いろはの依頼についての顛末の話を聞いている。

 

「え? その一色さんが、生徒会長に当選したの?」

 

 話の結末を先に知らされたライハが意外そうに聞き返した。

 

「確か、その子を当選させないようにするのが依頼なんじゃなかった?」

「それがですね……そもそも、その前提が間違ってたというか」

 

 依頼内容とは真逆の結末になった理由について、八幡が説明する。

 要約すると、いろはは生徒会長自体になりたくなかった訳ではない。他人に勝手に推薦され、そのままなし崩しで当選するという無様な道筋をたどりたくなかったから嫌がっていた。そのことに気づいて、彼女が生徒会長になりたくなるようお膳立てをしたという訳であった。

 八幡はいろは本人に対し、今のままでは彼女を嵌めた者たちの思い通りに情けない姿を晒すことになると吹き込んで闘争心を焚きつけ、更にツイッターを利用したトリックで自分が大多数から支持され、期待されていると思い込ませた――トリックの部分は表沙汰になると色々まずいので限られた者にしか教えていないことだが――。他にも言葉を尽くして説得した結果、いろはのやる気を引き出すことに成功し、彼女は信任投票に臨んで生徒会長に当選したのであった。

 これが八幡の出した、今までのやり方とは違う新しい手段であった。悪役を作らずに、問題を解消してみせる――。

 

「実はこれ、ジードの出した案なんですよね。結局ジードが正しかったってことか。全く敵わねぇや」

『いや、僕じゃそこに至るまでの道筋は考えつかなかったよ。実現できたのは、八幡、君の頑張りがあってこそだよ』

 

 苦笑を浮かべてジードと謙遜し合う八幡に、ライハは優しげな眼差しを向けた。

 

「そう……頑張ったのね。偉いわよ、八幡」

「ちょ、やめて下さいよ。そんな子供に対するような言葉……」

 

 恥ずかしがる八幡だが、ライハの称賛は、問題解決のため働きかけたことにのみ向けられたものではなかった。

 彼女も八幡が、現在の状況から一歩を踏み出すことに恐れを覚えていたことを薄々察していた。それでも彼が新たな一歩を踏み出した、その行動と勇気を褒めたのである。

 ともかく、問題自体がなくなったことで、八幡と雪乃の対立も自然消滅。バラバラになりかけた奉仕部は再び纏まれるようになった――と、なるはずであったが――。

 

「……あ」

 

 無意識に振り向いた八幡の視線が、結衣とかち合う。すると、

 

「……わ、悪い」

「な、何で謝るし。別に目が合うくらい、変なことじゃないでしょ」

 

 と言いながらも、二人はぎこちない動きでバッと目をそらし合った。それを見ていた雪乃は、気まずいようないたたまれないような顔で同じく顔をそらす。

 この三人の様子に、ライハは一瞬呆気にとられた。

 

「……何だか、余計にぎくしゃくしてない? どうしたの?」

「それが実は……」

 

 目を丸くしているライハに、ペガがその理由をそっと耳打ちした。

 

 

 

『鋼鉄の宇宙融合獣がジードに襲い来る。』

 

 

 

 その後、ライハはレムの見守る中、結衣との三人だけの会話の席を設けた。

 

「結衣、聞いた。――八幡に、告白したんだって?」

「は……はい……」

 

 結衣はぼっと火を噴きそうな顔をうつむかせながら肯定した。

 前回の戦闘後、結衣は唐突に、八幡に対して己の想いを打ち明けた。それは当然ながらジードもペガも、その場に居合わせてしまった雪乃も耳にしたのである。

 

「……」

 

 ライハはしばらく神妙な顔をしてから、こう尋ねかけた。

 

「で、八幡からの返事は? もしかして断られちゃった?」

 

 と言うと、結衣は慌てふためきながら諸手を振った。

 

「そ、そうじゃないんですっ! 返事はいらないって、そう言ったから……」

「返事はいらない?」

 

 ますます呆気にとられるライハ。

 

「じゃあ、何で告白なんてしたの」

 

 その問いかけに、結衣は囁くような声音で回答した。

 

「……最近のヒッキーを見てると、大きな不安に駆られてたからです。ヒッキーは強くなったけれど……だから、あたしの手の届かないような、どっか遠いところに行っちゃうような気がして……戦いも激しくなってるし……」

「……」

 

 結衣は、レイデュエスの八幡に向ける異様な憎悪と殺気、そしてそれに真っ向から立ち向かわなければならない八幡の背中を目にして、言い知れない焦燥感を覚えているようであった。ともにフュージョンライズすることを進み出ているのもそれが理由であろう。

 

「だから、せめてあたしの気持ちを知ってほしいって思ったから……。でも、やっぱり迷惑ですよね……。ヒッキー大変な目に遭い続けてるのに、余計動揺させるようなことしちゃうなんて、ほんと自分勝手……」

 

 思い詰めた結衣がガタッと席を立った。

 

「やっぱり、取り消してきます! 聞かなかったことにしてほしいって……!」

「待った待った。落ち着いて」

 

 それをなだめるライハ。結衣をもう一度座らせると、優しい声で諭し始める。

 

「今更取り消したって、なかったことにするなんて無理よ。むしろ、変に意識させて余計に戸惑わせてしまうでしょうね」

「うっ……ですよね……」

「それに……八幡が好きなのは、まぎれもない本当の気持ちなんでしょう?」

 

 結衣はほんのり赤くなりながらも、コクリと首肯した。ライハはやはりという顔をしている。彼女は、結衣が八幡に向ける感情に以前から察しがついていた。

 

「でも……あんな時、あんな場面で言っちゃうなんて……」

「別にいいじゃない。自分の内から湧いて出た気持ちに、恥ずかしいことなんて何もない。ちゃんと言葉にしたんだから、あなたは立派なことをしたのよ」

「そ、そうでしょうか……」

「もちろん。自分の生の感情を外に出すのは案外難しいこと。あなたはそれをやってのけたんだから。リクも、あんな時とかあんな時に正直になってれば、話がこんがらがらないでのに……」

 

 ふぅとため息を吐いたライハのひと言に、結衣は意外そうな顔になった。

 

「ジードんって案外ひねくれてるんですか? ヒッキーみたいに」

「あそこまでこじらせてはないけど……あなたたちに接する時はお兄さんぶってるから知らないでしょうけど、リクはあれで大分子供っぽくてすぐへそを曲げるの。ねぇレム」

[はい。時計を巡ってペガと大喧嘩したこともあります]

「えー!? あんな仲良しなのに?」

 

 ジードの意外な一面を知って驚く結衣。それからしばらく、ジードや八幡を話の肴にして盛り上がる。

 

「ジードんがそんなねぇ……。ライハさんも結構苦労したんですね」

「でも、結衣も八幡に苦労させられてるんじゃない? 八幡は正直じゃないからねー。すぐ自分に言い訳して」

「そうなんですよー! もぉ、どれだけあたしがガッカリさせられたことか……」

 

 そうして談笑していると、結衣の顔色が徐々に明るくなっていった。

 

「……何だか気分が晴れました。誰かとこんな風に、ヒッキーのことで思いっきり話したことってなかったから……。ありがとうございますライハさん、れむれむ」

「どういたしまして。またいつでもつき合ってあげる。私も、こんな風に他の女の子と長話したことはほとんどなかったから楽しかったわ」

[ユイ、感情は人間を人間たらしめるものです。人間は心によって、計算では導き出せないような力を出すことが出来ます。ユイも自分の感情を否定せずに、ありのままの自分を認めてあげて下さい]

「励ましてくれてるんだ。ありがと、れむれむ」

 

 レムの言葉に苦笑しつつも感謝する結衣。そして最後に、ライハが助言した。

 

「告白の返事だけど……どんな形でもいいから、ちゃんと聞いておきなさい。しっかり区切りをつけることで、本当に関係を前に進められるのよ。もし駄目だったとしても……今のあなた、いいえ今のあなたたちなら、悪い結果にはならないはず。私はそう信じてるから」

「ライハさん……分かりました!」

 

 ライハの言葉により、結衣もいよいよ腹をくくったのであった。

 

 

 × × ×

 

 

 翌日。八幡は放課後に無人の廊下でゼナと通話をしていた。

 

「……あれからレイデュエスの野郎が現れてませんけど、そちらは何か動きとか掴んでないですか?」

『いや。奴も流石に行動が慎重になっているようだな』

 

 バーニング・ベムストラとジャンボキングのハンディキャップ戦後、八幡らの周囲はレイデュエスの動きを警戒したAIBが陰ながら厳重な警備を敷くようになり、それが功を奏したのか不安視されていたレイデュエスの無差別な凶行は起こっていなかった。かの男も、AIBと正面から事を構えたくはないようである。

 

『しかしだからと言って油断してはいけないぞ。奴は絶対に、我々の警戒網を突破して君の抹殺を図る計画を立て準備しているはず。すまないが、いつ何時敵の襲撃があってもいいように心の用意はしていてくれ』

「それはもちろん分かってますけど……」

 

 レイデュエスがとにかく執念深い男であることは、八幡も重々承知している。

 

『もちろん、こちらも手をこまねいている訳ではない。抜本的な対策のために、応援を要請中だ』

「抜本的な? 応援?」

『まだ詳しくは話せないが、レイデュエスは更なる戦力増強を図るはず。それの事前対策だ』

 

 レイデュエスが次に打ってくるだろう手を予測するゼナ。

 

『前回で奴が融合獣に変身するだけでなく、別の怪獣を使役することも明らかとなった。次に同じように、二体目の怪獣なりを出されることを想定して応援を頼んでいる』

『二体目の怪獣……。でも、それも僕たちの力があれば!』

 

 ジードが変なところで張り合うが、ゼナはこう指摘した。

 

『だが、その二体目を別の場所に出されたらどうする。いくら何でも、同時に二か所で破壊活動をされたら対処できないだろう』

『うッ……』

 

 言葉に詰まるジードであった。

 

『それを見越しての応援要請だ』

「でもそうなると、その応援ってのは怪獣と正面切って戦える戦力ってことですよね。そんなのがいたんですか?」

 

 意外そうに聞く八幡。それに対してゼナは、

 

『AIBの戦力ではなく外部組織の協力だ。しかし、実力は申し分なし。到着してくれれば、必ず我々の大きな助けとなってくれる』

「そうなんすか……」

 

 ゼナがここまで太鼓判を押すとは、応援とは一体誰なのだろう、と思っていると、ペガがダークゾーンから警告してきた。

 

『八幡、人が来るよ!』

「あッ。すいませんゼナさん、情報ありがとうございました」

 

 流石にゼナとの話を誰かに聞かれるのは良くない。八幡が急いで電話を切ると、彼の下にペガが警告した人物が早足でやってきた。

 

「フゥーハハハハ! こんなところにいたか、比企谷八幡よ!」

「……」

 

 八幡はその人物に、胡乱な目つきで振り返った。屋内だというのに、長袖のコートと指ぬきグローブを身に着けた小太りの男子生徒。別のクラスながら八幡に積極的に絡んでくる稀有な男、材木座義輝である。しかし相当な変人で結構面倒くさい性格なので、八幡の方は日頃彼をぞんざいに扱っているのだ。

 八幡は材木座の顔を無言で一瞥すると、無言のまま顔をそらして歩み去り出した。

 

「おーい!? せめて何か言わんか! それが無二の親友、魂の相棒に対する態度か!?」

「俺がいつお前の親友とか相棒とかになるって宣誓したよ。今日のお前はいつにもまして厚かましいなおい」

「よいではないか、少しくらい大袈裟に言っても。何気に我、これが初登場なのだぞ!」

「何に初登場したんだよ」

 

 メタいことを言いながら後についてくる、というかすがりついてくる材木座を連れる形になって歩く八幡。

 

「そもそも何の用だよお前。用がないんだったら、別に急いでる訳じゃないがとっとと奉仕部に行かせてもらうぞ。何かある訳でもないがこれでも忙しいんでな」

「まるで我を遠ざけたいのが本音のような矛盾に満ちた台詞だが……まぁよかろう。こちらとしても、特に何か用事という訳ではないのだが、ここのところ貴様に覇気がないのが気に掛かって声を掛けてみたのだ。いや覇気がないというより、心ここにあらずというか、意識が浮ついているというか……。何かあったのか?」

 

 そう聞かれ、八幡は一瞬ギクリと肩を震わせた。極力動揺は表には出さないつもりだったのだが、材木座に見抜かれるようでは自分で思ったよりも衝撃が大きかったようだ――結衣に告白されたことは。

 

「……別に何もねぇよ。何もねぇからな?」

「ほむん……? ならよいのだが。いや、これでも心配しておったのだぞ。例のことが上手く行くのかどうかとな。まぁ無事に結果が出てよかったのだが。かの娘を生徒会長にさせられて……」

「ばっかお前それ口にするなって言っただろうが。生徒会室近けぇし」

 

 慌てて材木座を黙らせる八幡。いろはに生徒会長をやらせる説得材料の細工には彼にも協力してもらったので、材木座は八幡が違法スレスレの手を使ったことを知る数少ない人物の一人なのだ。

 そして材木座を黙らせたところで、その一色いろはと出くわすことになった。

 

「せんぱーい!」

 

 八幡に気がついたいろはは、甘ったるい声を出しながらぱたぱたと近づいてきた。

 

「今ちょうど生徒会室の模様替え中なんです。先輩も見ていきませんか? って、お取り込み中でしたか?」

 

 いろはがかわいらしく小首を傾げると、八幡ではなく材木座の方が反応した。ビクゥッ! と肩を過剰に振るわせて。

 

「あッ、いや……お、お構いなく……」

 

 八幡に対する時とは大違いに、消えそうなほどか細い声でつぶやくと、材木座はそそくさと立ち去っていった。材木座はこう見えて、極度のコミュニケーション能力不足で女子とはまともに会話も出来ないのだ。

 いろははぼけっと、逃げていく材木座を見送ってからつぶやいた。

 

「先輩のお知り合いって、先輩含めて変な人多いんですね」

「お前ひと言どころかふた言多いぞ」

 

 ツッコミを入れてから、いろはに尋ねかける八幡。

 

「それより、今日からもう生徒会の仕事か」

「そうなんですよー。……まぁ、最初はどうにもならないと思いますけど」

 

 八幡に乗せられて生徒会長になったものの、やはり不安げないろはに、八幡は言った。

 

「それでいいんだよ、別に。最初なんて上手く行かなくて当然だ」

「へ?」

「けど取り返しのつかない失敗なんて、実はそうそうないもんだ。やり直して出来るようになってきゃいい。だから、めげるんじゃねぇぞ。頑張ってりゃ、いいことも起こるもんさ」

 

 八幡としては何気なく励ましたつもりであったが、いろははそんな彼の顔をしばらくぽかんと見つめると、早口に返した。

 

「なんですかそれ口説いてるんですかごめんなさい狙いすぎだし気持ち悪くて無理です」

「……いや、そんなつもりじゃねぇっての」

 

 謝られた八幡は苦笑いを噛み締めながらも、いろはに引っ張られるようにされながら生徒会室の模様替えの手伝いに加わったのであった。

 

 

 × × ×

 

 

 八幡との通話後、ゼナは通信士のセミ女に指示を出していた。

 

『次にいつレイデュエスが暴れ出すか分からん。なるべく早く、『彼』にこちらに来てもらうよう催促のメッセージを送ってくれ。応じてくれればいいのだが』

『分かりました』

 

 セミ女はゼナの言いつけに沿う文章を打ち込むと、それを暗号化して別宇宙に向けて送信を開始した――。

 

 

 × × ×

 

 

「――ふん。暗号なんか使ったって無駄だ」

 

 透明化して隠れている円盤内で、レイデュエスがイヤホン型のスピーカーを耳に当てて吐き捨てた。たった今送信されたAIBのメッセージを、傍受しているのだ。

 

『殿下、AIBはどんな内容を送っているのですか?』

「少し待て」

 

 尋ねかけたオガレスを黙らせると、内容を空で解読したレイデュエスが眉間をしかめた。

 

「……これが実現すると、大分厄介なことになるな。仕方ない……まだ準備は万全じゃないが、余計な邪魔が入らん内にとっとと実行に移すとするか」

『では、あの「作戦」を開始するのですね?』

 

 確認を取るルドレイに、レイデュエスは顔の傷跡を手でなぞりながらうなずいた。

 

「ああそうだ。今度こそ完膚なきまでに叩き潰してやる、比企谷八幡……!」

 



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鋼鉄の宇宙融合獣がジードに襲い来る。(B)

 その翌日の放課後。奉仕部の部室に向かう途中の八幡は、後ろから追いかけてきた結衣に呼び止められた。

 

「ヒッキー! ちょっと待って」

「ゆ、由比ヶ浜……」

 

 振り返った八幡は変に緊張してしまう。彼女に告白されて以来、距離感を測りかねているのだ。

 結衣も少々ためらいながらも、意を決して八幡に呼びかけた。

 

「あ、あのね……この前は、返事いらないって言ったけど……」

「お、おう……その話か……」

 

 二人とももじもじしながらも話を進める。結衣は周りに他の人がいないか気にしつつ、先を話した。

 

「その……やっぱり、返事聞かせてほしいなって……。め、迷惑だってのは分かってるけど……」

「い、いや……俺も、言わなきゃなって思ってたよ……」

 

 大分目が泳いでいた八幡だったが、観念したかのように、正面を向いて結衣と視線を合わせた。

 

「えっとな……」

 

 そして返事を口に出そうとした、その時、

 

[お取り込み中申し訳ありません。緊急の連絡です]

「おわぁッ!?」

 

 急にジードライザーからレムからの通信が来たので、虚を突かれた八幡は大声を出してしまった。

 

「れ、レム、いきなりどうしたんだ?」

 

 心臓をバクバクさせながらも聞き返す八幡。するとレムは、

 

[市内にレイデュエスが出現。ハチマン、あなたの元に向かって侵攻中です]

「!」

 

 そのひと言で、八幡たちの顔つきが急激に変わった。

 

[現在AIBが交戦中ですが、防衛ラインが次々突破されています]

「分かった。知らせてくれてありがとうな」

 

 レムに礼を言うと、八幡は踵を返して階段の方へと身体を向けた。

 

「由比ヶ浜、悪い。続きは後にしてくれ!」

「う、うん! もちろん!」

『八幡、どうする?』

 

 ジードが問いかけると、八幡はすぐに返した。

 

「逃げてもどうせ追ってくるだろあの野郎。こっちから迎えに行ってやるに決まってるぜ」

 

 

 × × ×

 

 

 レムの案内の下に、八幡と結衣が現場に到着すると、そこでは二人に先んじて駆けつけていたライハがレイデュエスと戦って足止めをしていた。

 

「はぁぁっ!」

「ふぅあぁッ!」

 

 腰にひねりをつけて剣を振るうライハだが、ブラッドサイズで受け止められた末に念動力をぶつけられて押し返された。

 

「くっ……! 強くなってる……!」

「当然のことだ」

 

 レイデュエスに手を焼かされるライハ。彼女の側に八幡たちが駆け寄る。

 

「ライハさん、大丈夫ですか!」

「八幡、結衣。来たのね……」

 

 まずライハの無事を確認してから、八幡は大鎌を下げたレイデュエスをにらんだ。

 

「お前……今日はまた堂々とやってきたな。いい加減ヤケになってきたか?」

 

 嫌味をぶつける八幡だが、レイデュエスは意に介さず言い返した。

 

「何でも邪魔者が来るみたいじゃねぇか。その前にケリつけさせてもらおうと思ってな」

「! どうしてそのことを……」

 

 八幡たちが一瞬動揺したその瞬間に、レイデュエスは隠し持っていた小型マイクを口元に持っていってつぶやいた。

 

「今だ、やれッ!」

 

 それと同時に、ハッと何かを察知したライハが結衣に振り向いた。

 結衣の左胸に赤い光点が現れている。本人は気がついていない。

 

「危ないっ!」

「きゃあっ!?」

 

 咄嗟に結衣を引っ張るライハ。――直後に、飛んできた弾丸が結衣をかすめて地面を穿った。

 狙撃だ!

 

「由比ヶ浜!?」

「あうっ……!」

 

 仰天する八幡。結衣はライハが助けたお陰で致命傷は免れたものの、腕を弾丸がかすめたことで血が流れ出ていた。

 

 

 × × ×

 

 

 八幡たちの様子を一望できるビルの屋上では、オガレスがスナイパーライフルの銃口を彼らに向けていた。たった今、結衣を狙って狙撃したのである。

 

『ちッ、外したか……』

 

 結衣の心臓を撃ち損ねて舌打ちするオガレスに、見張りのルドレイが呼び掛ける。

 

『もうAIBがここへと駆け上がってきてる! 撤収するぞ!』

『分かった。どうせあの怪我ならフュージョンライズは出来まい。目的は一応達成だ』

 

 オガレスが応じ、ライフルを片づけて二人で屋上から飛び降りていく。

 

『動くなッ! 武器を捨てろ!』

 

 ゼナたちが扉を蹴破って屋上に踏み込んだが、その時にはオガレスたちは柵を越えていた。

 

『間に合わなかったか……。お前たちは引き返して追いかけろ!』

 

 悔しそうに銃を下ろしながらも部下たちに指示を飛ばすゼナ。一方で陽乃は、遠方に見えるレイデュエスの姿を見下ろした。

 

「……」

 

 

 × × ×

 

 

 腕から流血して崩れかかった結衣を八幡とライハが慌てて支える中、レイデュエスはわざとらしく肩をすくめた。

 

「仕留め損なったか。だがまぁこれで十分」

「テメェ……!」

 

 八幡は更に憤慨してレイデュエスをにらみつけたが、レイデュエスはそれにむしろ意地悪く歓喜してみせた。

 

「ふッ、悔しかったら腕っぷしでやり返してみろ! 行くぞッ!」

 

 挑発しながら怪獣カプセルを取り出してスイッチを入れていく。

 

「イッツ!」『グギャアアァァァァ――――――! ガハハハハハ……!』

「マイ!」『グルウウウゥゥゥゥゥゥゥゥ!』

「ショウタイム!!」

 

 片腕が棍棒のようになった鬼のような怪獣と全身鋼鉄で覆われた怪獣のカプセルを装填ナックルに押し込んでブラッドライザーを起動する。

 

フュージョンライズ!

「ぬうあああぁぁぁぁッ!」

 

 スキャンしたカプセルから現れたビジョンを吸い込んで、魔人態から融合獣へと姿を変えていく。

 

ザイゴーグ! グランドキング!

レイデュエス! グランドザイゴーグ!!

 

 フランス人形とレコードプレーヤーを踏み潰して、レイデュエスが変身を遂げた鋼鉄の宇宙融合獣が八幡たちの目の前にそびえ立った!

 

「グギャアアァァァァ――――――! グルウウウゥゥゥゥゥゥゥゥ!」

「ッ!」

 

 右腕が金棒、左腕がシャベル状のクローとなった、全身が無機質な鋼鉄の鎧で覆われた大型のレイデュエス融合獣グランドザイゴーグ! その無数の黄色く光る眼球が八幡たちを見下ろす。

 身構える八幡の後ろでは、ライハとペガが止血しながら結衣に肩を貸していた。

 

「八幡、ペガたちは結衣を星雲荘に避難させるよ!」

「この怪我じゃ、戦わせるのは危険だわ」

「頼みます……!」

「ヒッキーも、ここはお願いね……!」

 

 痛みにあえぎながらも後を託す結衣に、八幡は大きくうなずいて応じる。

 結衣たちがエレベーターに駆け込んでいく中で、八幡はグランドザイゴーグを負けじとにらみ返しながらジードライザーを握り締めた。

 

「ユーゴーッ!」『シェアッ!』

「アイゴーッ!」『フエアッ!』

「ヒアウィーゴーッ!!」

 

 ウルトラマンカプセルとベリアルカプセルを装填ナックルに収めてスキャンしていく。

 

[フュージョンライズ!]

「ジィィィ―――――――ドッ!」

 

 八幡は初期変身を経過して、ウルトラマンジード・プリミティブに変身していく!

 

[ウルトラマン! ウルトラマンベリアル!]

[ウルトラマンジー]

 ゴ ッ !!

 

 飛び出していく途中で、ジードに金棒がめり込んだ。

 

「ウワアアアァァァァァァァァ―――――――――――――!!?」

 

 ジードは不意打ちによって派手に殴り飛ばされた!

 

 

 × × ×

 

 

 星雲荘に避難してきた結衣たちは、変身途中でグランドザイゴーグに殴り飛ばされたジードの姿に一斉に驚愕した。

 

「ヒッキー!!」

「あぁ―――――!? それやっちゃいけないんだぞ!!」

 

 激しく狼狽するペガの傍らで、ライハが奥歯をギリッと噛み締めた。

 

「あれが狙いだったのね……!」

 

 

 × × ×

 

 

「ウワァッ!」

 

 激しく地面に叩きつけられるジード。いきなり痛恨の一撃を食らってしまい、八幡も頭を抑えて必死に苦痛を耐えていた。

 

『「うッ、ぐぅぅ……やりやがったな、くそッ……!」』

『八幡、しっかり……!』

 

 八幡を励ましながらも立ち上がるとするジードだが、そこにグランドザイゴーグの口から放たれたレーザーで狙い撃ちにされる。

 

「ウワァァァァァッ!」

 

 連続する爆発に煽られてよろめくジード。そこにグランドザイゴーグが詰め寄ってきて、更に金棒を振り下ろしてきた。

 

「グギャアアァァァァ――――――! グルウウウゥゥゥゥゥゥゥゥ!」

「ワアアァァッ!?」

 

 ジードは金棒に叩き潰されて地面にめり込みながら倒れ込んだ。グランドザイゴーグはそこに容赦なく繰り返し金棒を叩きつけていく。

 

「グギャアアァァァァ――――――! グルウウウゥゥゥゥゥゥゥゥ!」

「グッ! ウッ! ウワァァァッ!」

 

 なす術なく一方的にやられるジード。今の彼は変身の途中を攻撃されたことで、通常の半分もない背丈で巨大化が止まってしまった。そんな半端な状態では、十分な力を発揮することが出来ないのだ。また結衣たちもともにフュージョンライズしていないので、その分のエネルギーを借りてパワーを底上げすることも出来ない。

 ジードは絶体絶命の状況であった!

 

 

 × × ×

 

 

「わぁぁ――――! 怪獣だぁぁぁ!」

「逃げろぉ――――!」

 

 総武高校では、残っていた生徒たちが一斉に校舎から逃げ出していた。――その中には、材木座も混じっていた。

 

「うぬぅ、図書室でついうたた寝してたら怪獣が出てくるとは……! 最近多くない?」

 

 独り言をつぶやきながら、ジードを一方的になぶるグランドザイゴーグをふと見上げてぞっと恐怖に駆られた。

 

「うひぃ……!? 早いとこ逃げよう……!」

 

 

 × × ×

 

(♪ピンチのX)

 

 グランドザイゴーグは依然ジードを容赦なく痛めつけている。

 

『「このままグシャグシャの挽き肉にしてやるッ!」』

 

 レイデュエスは猛りながら攻めの手を更に激しくした。

 八幡の方は、その猛攻によってまともに身動きも出来ない状態にある。

 

『「ぐッ、くそぉッ……! これじゃフュージョンライズも出来ねぇ……!」』

『このままじゃまずい……うわぁッ!』

 

 追いつめられるジードであるが、逆転の糸口を掴む隙すらない。ひたすら殴られるばかりで、カラータイマーが鳴り出す始末。

 グランドザイゴーグはそのタイマーを狙って、より高く金棒を振り上げた!

 

『「こいつでとどめだぁぁぁぁッ!!」』

 

 カラータイマーを粉砕しようと、金棒が猛然と振り下ろされる!

 ――まさにその時、空にいきなり穴が開き、その中からふた振りの宇宙ブーメランが飛んできて金棒に命中。弾き返してジードを救った。

 

『「何……!?」』

 

 目を見張って空を見上げるグランドザイゴーグ。その視線の先で――空の穴から、銀色の鎧を纏った巨人が勢いよく飛び出してきた!

 

「シェアッ!」

 

 巨人は腕の剣でグランドザイゴーグに斬りかかる。ガードしたグランドザイゴーグだが、剣圧に押されてジードから引き離された。

 代わりにジードの側に立った巨人は鎧を解除。鎧は縮小してブレスレットに変形し、巨人の左腕に収まった。

 

『あ、あなたは……!』

 

 よろよろと身体を起こしたジードと八幡は、自分たちを救った巨人の姿をはっきりと目の当たりにした。青と赤と銀のボディの中央に、燦然と輝くカラータイマー。頭部には先ほど飛ばされたふた振りのブーメランが装着されてトサカとなる。目つきは鋭いが、八幡とは違って凛々しい輝きに満ち溢れている。

 

『へッ、待たせたな……。ギリギリ間に合ったみたいだ』

 

 親指で下唇をぬぐう巨人のその容姿に、八幡は見覚えがあった。手持ちのカプセルの一つに、同じものが描かれている。

 

『「あなたは、ジードの言ってた……一緒に地球を守った仲間の……!」』

 

 そして巨人は――ジードの窮地に駆けつけたウルトラ戦士は、高らかに名乗った。

 

『俺はゼロ! ウルトラマンゼロだ!!』

 

 レイデュエスはジードをかばって立つウルトラマンゼロを見据えて怒号を発する。

 

『「ウルトラマンゼロ! 宇宙を超えた出しゃばりがぁッ!!」』

 

 爆発するように殺気を飛ばすレイデュエスだが、ゼロは少しもひるまずに倒れたままのジードに呼びかける。

 

『ジード、立てるか?』

『もちろん! おぉぉぉ……!』

 

 気勢とともに起き上がるジードに合わせて、八幡がカプセルを交換していく。

 

『「ユーゴーッ!」』『オリャアッ!』

『「アイゴーッ!」』『フエアッ!』

『ヒアウィーゴーッ!!』

 

 オーブ・エメリウムスラッガーカプセルとベリアルカプセルをスキャンして、改めてフュージョンライズする。

 

[フュージョンライズ!]

『「ジィィィ―――――――ドッ!」』

 

 ジードは姿を変えながら巨大化していき、本来の身長、ゼロと並ぶサイズとなっていく。

 

[ウルトラマンオーブ! ウルトラマンベリアル!]

[ウルトラマンジード! トライスラッガー!!]

 

 変身を遂げて毅然と立ち上がったジードの姿に、ゼロは満足そうに鼻を鳴らした。

 

『へへッ、そう来なくっちゃな。色々と話はあるが、まずはあいつをやっつけてからだな。久しぶりに一緒に行こうぜぇッ!』

『はい!』

 

 ゼロが駆け出すのを合図とするように、ジードが頭部のスラッガーに手を掛けた。

 

(♪ウルトラマンゼロ‐アクション)

 

『「飛ばすぜ! 光刃!!」』

「セェアッ!」

 

 ジードの飛ばした三本のスラッガーがグランドザイゴーグに斬りかかると同時に、距離を詰めたゼロがミドルキックを仕掛けた。戦いの再開だ!

 

「グギャアアァァァァ――――――! グルウウウゥゥゥゥゥゥゥゥ!」

 

 グランドザイゴーグは二人の攻撃に対し、スラッガーをクローで弾き、ゼロのキックを鋼鉄の肉体で受け止めてはね返した。

 

「グギャアアァァァァ――――――! グルウウウゥゥゥゥゥゥゥゥ!」

「シャッ!」

 

 ゼロに金棒を振るうグランドザイゴーグだが、ゼロはバク転で回避。直後にゼロスラッガーを投げ飛ばして、計五本のスラッガーが縦横無尽に斬りかかる。

 

「グギャアアァァァァ――――――! グルウウウゥゥゥゥゥゥゥゥ!」

 

 だがグランドザイゴーグはスラッガーのことごとくを弾いた。そのボディには傷一つつかない。

 

『ちッ、かってぇな。だったらこうだ!』

 

 舌打ちしたゼロが左腕を胸の前に置くと、嵌まっているウルティメイトブレスレットが真っ赤に輝く。

 

『ついてこれるか、ジード!?』

『任せてよ!』

 

 ゼロの動きに合わせるように、八幡もナックルに新たにレオカプセルとアストラカプセルを装填した。

 

『ストロングコロナゼロッ!』

[リーオーバーフィスト!!]

 

 そして真紅に変身したゼロと、リーオーバーフィストにフュージョンライズしたジードが並び、ともにグランドザイゴーグへと肉薄していく。

 

『おぉらッ!』

「ハァァッ!」

「グギャアアァァァァ――――――! グルウウウゥゥゥゥゥゥゥゥ!」

 

 二人してグランドザイゴーグに正面から鉄拳を繰り出していく。パワー重視形態となった両者の猛攻により、流石のグランドザイゴーグも押されて後ずさった。

 金棒とクローを振り回して反撃するが、ゼロとジードは叩き返してどんどん追撃する。

 

『うりゃッ!』

「ダァッ!」

 

 強烈な回し蹴り、エルボーなど打撃のラッシュが見舞われ、グランドザイゴーグがノックバックした。この一瞬の隙にゼロとジードが大技を仕掛ける。

 

『ガルネイトバスタぁぁぁ―――――!』

「『バーニングオーバーキック!!」』

 

 ゼロの拳から放たれた灼熱の光線と、ジードの燃え上がる飛び蹴りが同時に決まってグランドザイゴーグの装甲が炸裂!

 

「グギャアアァァァァ――――――! グルウウウゥゥゥゥゥゥゥゥ!」

 

 持ちこたえるものの、装甲の各部にひび割れが走った。

 

『突破口が出来たぜ! 次はこいつだッ!』

 

 有効打を与えて、ゼロが今度は青く輝く。八幡もカプセルを三度交換した。

 

『ルナミラクルゼロ!』

[ムゲンクロッサー!!]

 

 青く染まったゼロとジード・ムゲンクロッサーはそれぞれゼロスラッガーとゼロツインソード・ネオを握り締めて駆け出す。

 

「セアッ!」

「トアッ!」

 

 二人の戦士は空中を駆け回って、グランドザイゴーグの装甲の破損部分を狙って斬撃を浴びせていく。グランドザイゴーグの鈍重な身のこなしでは、二人の高速移動についていくことなど出来ない。

 

「グギャアアァァァァ――――――! グルウウウゥゥゥゥゥゥゥゥ!」

 

 装甲のひび割れを縫って叩き込まれる斬撃により、グランドザイゴーグにダメージが蓄積していく。

 

『「なめるなぁッ!」』

 

 だが流石に黙ってはいない。ゼロとジードが一瞬地面に足をつけた瞬間に、レーザーを撃ち込んで二人を大爆発の中に呑み込ませる。

 

「ウワァァッ!」

 

 爆炎の中に姿を消すゼロとジード。――そう思われたが、

 

[ウルトラマンジード! マグニフィセント!!]

 

 炎を吹き飛ばしてジード・マグニフィセントが仁王立ちした! その傍らには通常形態に戻ったゼロが無傷で直立している。二人の風格漂うたたずまいは戦いを見守る人を圧倒させた!

 

『「しぶといッ!」』

 

 それでもグランドザイゴーグはもう一度レーザー光線で攻撃しようとする。だが、

 

『エメリウムスラッシュ!』

「『メガエレクトリックホーン!!」』

 

 先にゼロとジードのダブル攻撃が命中し、しびれて動きが止まった。

 

『「ぬぐッ!」』

『とどめだッ!』

 

 そのわずかな間にゼロが二本のスラッガーを自身のカラータイマーにジョイント。ジードは両腕にエネルギーをたぎらせてL字に組んだ。

 

『ゼロツインシュートぉ!』

「『ビッグバスタウェイ!!」』

 

 そして繰り出された、二条の極大光線! それがグランドザイゴーグに直撃!

 

「グギャアアァァァァ――――――!! グルウウウゥゥゥゥゥゥゥゥ!!」

 

 グランドザイゴーグは内側から光のエネルギーがあふれ出し、抑え切れずに爆散! 大量の鉄片を飛び散らせながら、跡形もなく消え去ったのであった。

 

『へへッ、やったなジード!』

『うん、ありがとうゼロ!』

 

 見事に敵を粉砕したゼロとジードは、がっちりと手を握り合わせて再会と勝利を喜び合った。

 

 

 × × ×

 

 

 ゼロとジードの二大ウルトラ戦士がグランドザイゴーグを撃破した瞬間を見届けた材木座が大喜びした。

 

「おおッ! 謎のウルトラマンの加勢により悪は滅び去った! いやぁ安心安心。さて、荷物を取りに一旦戻るか……」

 

 すっかり安堵し切って、総武高校に引き返そうと振り向いた彼の目に、ある光景が飛び込んできた。

 

「あの巨人はジードの仲間? だよね。助かってよかったぁ~」

 

 坂道の真ん中で、材木座と同じく避難中だったいろはがジードたちの方を見上げて胸を撫で下ろしていた。が、そこに戦闘の衝撃でサイドブレーキが壊れたのであろう、無人のトラックが彼女めがけ突っ込んできているのだ! よそ見をしているいろははそのことに気づいていない!

 そうと分かった瞬間、材木座は咄嗟に身体が動いていた。

 

「あッ! 危なぁぁ――――いッ!」

 

 前に飛び出して彼女をかばおうとする!

 ――そうしようと踏み出した足が、散乱したゴミの中のバナナの皮を踏んづけて思いっきり滑った。

 

「おふぅッ!? とととッ!」

 

 すっ転びかけた材木座だがけんけんしながら踏みとどまり、どうにか停止。いろはの方は、すんでのところで飛び出してきたゼナによって救われた。

 

「きゃっ!?」

『大丈夫か? 危なかったな』

「あ、ありがとうございます……。何で腹話術?」

 

 いろはに怪我はなかったのだが……材木座の方は、滑った拍子に激闘の余波で壁がもろくなっている建物の側に来てしまい、更に運の悪いことに、ちょうどその瞬間に建物が崩壊を起こした。

 

「へ?」

 

 そのひと言を最後に、材木座の頭上に瓦礫の雪崩が降りかかった。

 

 

 × × ×

 

 

 握手を交わしていたゼロとジードだが、どこからか起こった悲鳴によって振り返る。

 

「きゃああああっ!?」

「誰か瓦礫の下敷きになったぞ!」

 

 八幡がジードの視界を介して、瓦礫の山からはみ出た腕を見つける。その袖は、見覚えのあるコートのものだとすぐに分かった。

 

『「材木座ッ!」』

『えッ!? 材木座君が下敷きに!?』

 

 驚愕して動揺するジードたち。その様子に、ゼロがおおまかな事情を察した。

 

『友達が瓦礫の下敷きになったのか!』

『「友達……まぁ一応はそんなところかな。知らない仲じゃないし……」』

『やばいな、あれじゃ助からねぇぜ……』

 

 数々の戦場を潜り抜けた戦士のゼロは、材木座が致命傷を負ったとすぐに理解した。そのひと言に、八幡も流石に青ざめる。

 

『「そんな、嘘だろ……。よりによって一番死ななそうな奴が……」』

『材木座君……』

 

 あまりにあっけなく突きつけられた材木座の最期に呆然とする八幡とジード。――だが、そこでゼロがドンと胸を叩いた。

 

『だが任せとけ! お前らの友達を、この俺が死なせやしねぇからよ!』

『「えッ!? ……それってまさか!?」』

 

 八幡は似たようなシチュエーションに覚えがあり、まさかと振り返った。

 

「シェアッ!」

 

 彼が何か言うより早く、ゼロが飛び出していた。

 

 

 × × ×

 

 

 ――目を覚ました材木座は、星雲荘に運び込まれてベッドの上に寝かされていた。

 

「知らない天井だ……。いやほんとにどこ!?」

 

 意識がはっきりとしてガバッと飛び起きる材木座。その周囲を、八幡たち奉仕部の三人やライハたちが囲んでいた。

 

「おお八幡。それに奉仕部の二人も……そっちの女の人はどなた? そこの白黒なのは人間!?」

「ひゃあッ!」

 

 いきなり大声を出した材木座にびっくりするペガ。しかし彼以上に材木座は驚くこととなる。

 

『ようやく目ぇ覚ましたか、材木座義輝。もう大体のとこは、そこの八幡たちから伺ったぜ』

「へ? 今、誰がしゃべったの?」

 

 急にどこからか聞こえてきた声に材木座はきょとんとした。八幡に振り返るが、彼はブンブンと首を振る。

 何故か周りは皆、微妙な苦笑を浮かべて自分を見つめていた。

 

「あ、あの……どうして皆さん僕に注目してるのでせう……」

『そいつはな、俺がお前と融合したからだぜ。お前の命を救うために』

「ぬはッ!? また声がした! まさかどこかおかしくなった!?」

 

 再び聞こえた声に狼狽する材木座を落ち着かせるように、八幡がそっと呼びかけた。

 

「材木座、その声はな……お前の内側から聞こえてきてるんだよ。お前がおかしくなったんじゃないから安心しろ」

「は、はい? 内側……?」

 

 と言われても何のことだか分からない材木座だが、自分の手が突然勝手に動き、自分の眼鏡を外した。

 そして口から、自分のものではない『声』が言葉を紡いだ。

 

「俺はゼロ! さっきのウルトラマンだ。今は義輝、お前の身体と一心同体となってる。こっちにいる間はよろしくな」

 

 材木座は眼鏡を戻すと――腹の底から絶叫を発した。

 

「えええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇ―――――――――――――!!?」

 

 

 

『ウルトラストーリーナビ!』

 

結衣「今回は『ウルトラマンゼロ外伝 キラーザビートスター』STAGEⅠ「鋼鉄の宇宙」だよ!」

結衣「映画『ウルトラマンゼロ』から一年後のアナザースペースで、新しい宇宙警備隊を結成したゼロは仲間たちと一緒にエメラナ姫と再会することになってたの。だけどエメラナ姫はジャンボットと一緒に謎の人工天球に捕まっちゃって、天球は違う宇宙にワープ! その先はM78ワールドで、今度はZAPのレイとヒュウガ船長が捕まっちゃう! 天球の内部は無人の世界で、色んなロボット怪獣がレイたちに襲い掛かってくる。この天球の正体と目的は……!? っていうお話しだよ」

結衣「『キラーザビートスター』は映画の『ウルトラマンゼロ』と『ウルトラマンサーガ』の間をつなぐエピソードとして作られたOVだよ。ここで前作の最後に結成されたウルティメイトフォースゼロの活躍と、『サーガ』につながる事件の一端が描かれたの」

結衣「この作品でウルティメイトフォースの五番目の仲間、ジャンナインがデビューしたんだよ。でも最初はジャンキラーって名前で、天球の黒幕ビートスターが差し向けた敵だったの……」

ジード『『キラーザビートスター』は二本立ての前後編。天球の正体やジャンキラーとゼロたちの関わりの顛末は、後編に引き継がれることとなるよ』

結衣「それじゃ、次回をよろしくね!」

 




材木座「いやいやいや! えぇッ!? 我が身体にさっきのウルトラマン……そして八幡がウルトラマンジード……。わ、訳が分かんないよぉ!」
ゼロ(in材木座)「だぁからぁ、何度も言ってるだろ? お前は今日から、ウルトラマンゼロとなったんだ! もっとシャキッとしな!」
材木座「そ、そんなこと勝手に決めないでよ!? いつこっちがそんなの了承したのさぁ!?」
ゼロ(in材木座)「仕方ねぇだろ、お前意識なかったんだから。俺が命を預けなきゃ、そのままお陀仏だったんだぜ」
材木座「そんなこと言われたって……! それって我も戦うってこと!? 嫌だぁそんなぁぁぁぁ!」
ゼロ(in材木座)「お前は身を挺して女の子を助けようとしたんだろ! そういうことする奴には出来ないことじゃねぇんだ!」
結衣「……何て言うか、一つの身体で言い争ってるのって……」
雪乃「ええ。すごくシュールね……」



次回、『彼らは今ここに流星の誓いを結ぶ。』



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彼らは今ここに流星の誓いを結ぶ。(A)

 

 星雲荘に材木座が運び込まれてからしばらく経過。ようやく落ち着いた材木座は部屋の中央で椅子に座らされ、金属製の円筒の装置を頭にすっぽりと被らされていた。

 すると星雲荘のモニターに、瓦礫に押し潰されて圧死するはずだった材木座を、八幡に対するジードのように彼と融合することで蘇生させたゼロの姿が大きく表示された。こうすることで、材木座の口を介さずにゼロと直接話が出来るのだ。

 

『ってな訳で、俺がウルトラマンゼロだ! 改めてよろしくな!』

 

 初対面となる八幡たちに対して快活に挨拶したゼロ。それから、新たに星雲荘に招かれたゼナと陽乃のAIBコンビの内、ゼナがゼロに向かって告げる。

 

『ウルトラマンゼロ、我々の要請に応じてくれて感謝する』

『僕からも、改めてありがとう。お陰で助かったよ』

『なぁーに、いいってことよ! 危ない時はお互いさまだぜ』

 

 ジードからのお礼にも、ゼロは気さくな調子で返した。

 

『そんでリク……いや、今はジードって呼んだ方がいいのか?』

『どっちでも構いませんよ。どっちも僕の名前です』

『んじゃあジード、また厄介な奴に絡まれてるみたいだな。けど安心しな! こっからはこの俺が力を貸す。一緒にレイデュエスとかいう奴をぶっ飛ばして、この地球に平和を取り戻そうぜ!』

『はいッ!』

 

 ウルトラマン同士で激励し合うゼロとジード。その様子をながめた結衣が、ペガにそっと尋ねかけた。

 

「ペガっち、あのゼロって人ってそんなに強いの? ゼナさんがすごい期待してたみたいだけど」

 

 聞かれたペガは大きくうなずく。

 

「うん! ペガはよく知らないけど、今までいくつもの強敵を倒したんだって。ベリアルだって、リクとゼロが協力してやっつけたんだ。前は怪我を引きずってて本調子じゃなかったみたいだけど、今は万全の状態だし、これならレイデュエスだって敵じゃないよ!」

「そうなんだ……!」

 

 納得した結衣がゼロに、熱い期待の眼差しを送る。

 

「戦いはどんどん激しくなるんだもの……。強い味方が来てくれたなら、ヒッキーもこれ以上傷つかなくていいよね」

 

 そう喜んでいる結衣だが……視線がモニターから下に向くと、途端に表情が渋くなった。

 

「……だけど、よりによって中二なんかと融合しちゃって大丈夫なの?」

 

 その独白を耳にしたゼナが、ゼロに言う。

 

『確かに、また不測の事態に見舞われたようだな。こう言っては悪いが、何の戦闘経験もない一般人に命を分け与えて、戦いに支障は出ないのか?』

 

 危惧するゼナに対して、ゼロは得意げに返答した。

 

『なぁーに、その辺はこっちに任せとけって! この俺がバシッと指導してやるからよ。頼んだぜ、義輝!』

 

 威勢よく材木座に呼びかけたゼロだが……当の材木座は椅子の上で肩身狭そうに縮こまって、周りに忙しなく目を走らせるばかりだった。

 

『っておい! 何キョロキョロしてんだ! 聞いてんだから、ひと言でも返事しろっての!』

「あ、あ、その……」

 

 ゼロが肩を落としながらもう一度声を掛けても、材木座は声を詰まらせるだけ。そんな彼に代わって八幡が口を開いた。

 

「すいません、こいつこんなナリして極度のコミュ障で……」

『こみゅしょう?』

「人見知りってことです。だから知らない人間とはまともに会話できないんで……知ってても出来る訳でもないんですけど」

 

 八幡の言葉にゼロは絶句していた。

 

『おいおい……こりゃ、予想以上にてこずりそうじゃねぇか……』

「前途多難ね……」

[戦闘に大いに支障を来たすことが、計算するまでもなく予測できます]

 

 実に頼りない様子の材木座に、ライハやレムたちは呆れ返ってしまっていた。

 八幡も脂汗ダラダラの材木座を一瞥して、はぁと深いため息を吐いたのであった。

 

 

 

『彼らは今ここに流星の誓いを結ぶ。』

 

 

 

 緊張のあまり、今にもひきつけを起こしそうであった材木座のことは八幡に任せ、他の面々は席を外すこととなった。今の材木座に対しては、いるだけでプレッシャーになりかねない。

 結衣はライハとペガとテーブルを囲んで、ある話をしていた。

 

「それで、八幡から返事はもらえたの?」

 

 結衣が八幡に行った告白。その結果をライハが尋ねた。

 

「それがですね……」

 

 結衣が答えかけるが、それに先んじてペガが若干憤慨しながら告げた。

 

「それが八幡ったらひどいんだよ! 『今はそういうこと考えてられないし、気持ちの整理もつかないから、悪いけどもうしばらく待ってくれ』なんて言って先延ばししたんだ! 結衣が覚悟を決めて告白したってのに、男らしくないよね!」

 

 と憤るペガだが、当の結衣本人が八幡を擁護する。

 

「しょうがないよ。ヒッキーが色々大変だってことを知ってて、それであたしの方がわがまま言ったんだもん。あたしは全然気にしてないよ。怒ってくれてありがと、ペガっち」

 

 その言葉通り、結衣の表情は晴れ晴れとしていた。

 

「あたし、ヒッキーが答え出してくれるのを待ってるよ。それでふられたとしても……ヒッキーから離れたりはしない。今が駄目だったとしても、それから先がどうなるかは分からないんだし! 少なくともヒッキーとはいい関係のままでいたい……だってあたしたち、『恋人』になれなくても、『友達』だもんね!」

「結衣……」

 

 朗らかな調子で語る結衣に、ペガとライハは自然と口元が綻んだ。

 

「……結衣、あなたも強くなったわね」

「え? そ、そうですか?」

「初め会った時は、もっと軽率で、それでいて臆病な感じだったもの。だけどすっかりと芯が強くなった。八幡だけじゃなくて、あなたも成長したのね」

「い、いや~、それほどでもないですよぉ」

 

 称賛されて照れ隠しにはにかむ結衣。しかしその一方で、ライハはふと虚空に視線をやって眉間に皺を寄せた。

 

「それで……雪乃の方はどうなのかしらね……」

 

 

 × × ×

 

 

 別室の雪乃のところには、陽乃が手をヒラヒラさせながら訪れていた。

 

「雪乃ちゃーん、ちょぉっとお話ししたいことがあるんだけど」

「姉さん……一体何の用?」

「あれぇ、何だか元気ないねぇ。いつもならもっととげとげしい目つきでわたしを見るのに。まぁそれはいいや」

 

 どこか弱々しい態度で振り向いたことを指摘してくる陽乃に、雪乃は一瞬肩を震わせたが、陽乃は構わずに続けた。

 

「聞いたんだけど、新しい生徒会長決まったんだってね。当選しないようにすることを依頼してきた子を説得して。それやったのは比企谷くんで、雪乃ちゃんは別の候補を立てるつもりだったんだって? ふ~ん」

「……何が言いたいの」

 

 含みのある口調と視線の陽乃に雪乃が問い返すと、陽乃は嘲るような笑みを見せた。

 

「いやぁ、雪乃ちゃん自身が立候補するんじゃないんだって思ってね。そうすると思ったのに。それとも、出来なかったの? 『誰もそう言ってくれなかった』から」

「……!」

「雪乃ちゃんはいいよね~。いつも他の誰かがやってくれて、自分からは行動を起こさない。今だって、比企谷くんが一人でフュージョンライズできるようになってからは助けてあげてないんでしょ。『求められない』から。あの由比ヶ浜ちゃんとは違って」

 

 陽乃のなじるような言葉の連続に、雪乃は思わずうつむいた。だが陽乃の勢いは緩まない。

 

「一人暮らしするようになってから何か変わったと思ったのに、結局雪乃ちゃんは昔のままなんだ。あーあ……つまんないの」

 

 捨て台詞を残して、陽乃はクルリと背を向けて部屋から出ていった。雪乃は、その背中を見つめることも出来ないでたたずんでいた。

 退室した陽乃の行き先では、ゼナが彼女を待っていた。

 

『随分と妹に辛辣な言葉を浴びせるんだな』

「立ち聞きしてたんですか、ゼナ先輩。趣味悪いですよ?」

『そんなつもりではなかったんだがな。……あんなことを言ってよかったのか? 妹の心が折れるかもしれないぞ』

 

 そう言われると、陽乃は苦笑をこぼした。雪乃に向けたのとは違う、攻撃的ではなく力のない寂しげな笑みであった。

 

「いいんですよ。雪乃ちゃんってあれですぐ人に甘えちゃうんだから、突き放すくらいがちょうどいいんです。それに……折れたなら折れたで、戦いからきっぱり手を引いてくれた方が安心ですし」

『まぁ……そうだな。本来、一般人がこの世界に関わるべきではない。お前もそうなのだが』

「わたしはいいじゃないですか~。姉が妹を守ろうとするのがおかしいことなんですか?」

 

 ゼナの付与したひと言に、陽乃は余裕を持って返した。それから、瞳の中に暗い情熱を灯す。

 

「雪乃ちゃんの世界を壊そうとする奴には……消えてもらわなきゃ」

 

 

 × × ×

 

 

 材木座は未だに肩を落として重い空気を漂わせていた。それを見ていられず、八幡があれこれ言葉を尽くして励まそうとしている。

 

「いつまでもそんな顔するなよな、材木座。俺だって初めは、ウルトラマンになって戦えなんて冗談じゃねぇ、何でこんなことにとか思ってばっかだったよ。だけどこんな俺でも、何だかんだで戦えてたんだしさ。要は勢いと慣れだ! お前には経験豊富な戦士がついてるんだし、自分で思ってるよりも何とかなるさ」

 

 と説得しながら、何で俺がこいつのためにこんなことを……これが戸塚だったらよかったのに……なんて内心で毒づく八幡。すると材木座は、彼の顔を見上げて言った。

 

「わ、我はお前とは違うぞ、八幡……」

「ん……?」

「怖い……怖いのだよ、あんな戦いをするなんて……!」

 

 材木座は震えが止まらない自分の肩を抱き寄せて縮こまる。

 

「ウルトラマンジードの戦いは、ずっと見ていた……。八幡、お前は何度も死にそうになってたではないか! あ、あんなのを我がするなんて……考えただけで震えが止まらない……!」

「おいおい……何弱気なこと言ってんだ。剣豪将軍なんだろ? 日頃から自称してるじゃねぇか。それにこないだなんか、もし学校にテロリストが来たら我が八面六臂の活躍で撃退してくれるだの何だのと寝言を……もとい決意を口にしてたろ。あの時の威勢はどこ行ったんだよ」

「八幡、お前だって分かってるだろう……。そんなのはただの妄想だ……。もし現実になったとしたら、我は足がすくむだけで何も出来ない……自分で分かってる。今と同じだ……。剣豪将軍なんて、口だけだ……」

 

 戦いが起こる前から既に怯え切っている材木座に、八幡はどうしたもんかと頭を悩ませた。

 すると彼に代わって、ジードが材木座に呼びかけた。

 

『材木座君、怖いのは僕だって同じだ』

「え……?」

『ウルトラマンだって生きた人間だ。攻撃されたら痛いし、死ぬのは怖い。だけど僕がやらなかったら、もっとたくさんの人が同じ思いをするから、僕は戦いに飛び込むんだ。恐れるのは恥ずかしいことじゃない、当たり前のことだよ。そこから一歩踏み出すだけでいいんだ。ジーッとしてても、ドーにもならねぇ!』

「そ、そうか……。ジードも同じ……」

 

 己の信条を口にして説得するジード。材木座も理解はしたようだが、やはり言葉だけでは、完全に心を晴らすことは出来ないようだ。

 そこでゼロも材木座に説く。

 

『まぁいきなりの話なんだし、心の整理がつかないってのは当然だ。レイトだってそうだったしな。だが、何事もまずは一歩を踏み出してから始まるんだ! なぁに、お前にゃ俺がついてる。どんなことがあろうとも、俺はお前を裏切らねぇぜ。何たって、文字通り一心同体になったんだからな!』

「……」

 

 最後に、八幡が次の通り言い聞かせた。

 

「まぁ、何だ。とりあえずは言われた通りにやってみろよ。うだうだ悩むのはそれからでも遅くねぇぞ。むしろ早いくらいだ」

「八幡……!」

「一応はウルトラマンに憑依された先輩になるからな。全くもって不本意だが、アドバイスくらいならしてやってもいい。先達が身近にいるお前は、俺よりも恵まれた立場にあるんだぜ?」

 

 三者による説得によって、材木座も少しは前向きになったようであった。すっくと立ち上がって眼鏡を指で押さえる。

 

「ふ……ふふ。そこまで言うのだったら仕方あるまい。この真打ち、剣豪将軍材木座義輝の華々しい活躍の始まりをその目にしかと焼きつけてやろうではないか! 悪しき者どもなど全て、この我の正義と義侠の前にひれ伏せさせてくれようぞ! ハァ―――――ハハハハハァーッ!!」

『よっし! その意気だぜ義輝!』

「……前向きになったらなったでうっぜ……。変わり身早すぎだろ」

 

 誉めそやすゼロとは対照的に辟易する八幡。しかし材木座のオーバーな言動と振る舞いは、己自身を鼓舞するためでもあるのだろうなとそう感じていた。

 

 

 × × ×

 

 

 衛星軌道上に潜伏している円盤の中では、レイデュエス一味がジードの助太刀に駆けつけた、新たなる戦士ゼロについて相談し合っていた。

 

「くそ……あのウルトラヤンキー野郎が! あと少しのところだったというのにッ……!!」

 

 レイデュエスはもう少しでジードにとどめが刺せた、最大の好機を妨害されたことでひどくいら立っていた。それをなだめるようにルドレイが告げる。

 

『しかし、ウルトラマンゼロはその後、死にかかった人間を救うために融合したようです』

 

 円盤のモニターには隠し撮りした、ゼロが材木座と融合して彼を助けた場面が表示されていた。

 

『しかもこいつも、あの地球人比企谷八幡と近しい人物です』

『ですがこいつ、口ばっかりが達者なだけの小太りなガキです。調査結果にそのようにあります』

 

 八幡の身辺調査内容から材木座の項目に目を通したオガレスがせせら笑う。

 

『こんな見た目も中身もどうかしてる奴に憑依など、ウルトラマンゼロもヤキが回ったみたいですな!』

 

 と嘲笑するオガレスだったが――それをレイデュエスに一喝された。

 

「アホがッ!」

『えッ……!?』

「比企谷八幡の時もそんなこと言って、こんなことになってんだろうがッ! 学習しろッ!」

『す、すみませんでした!』

 

 オガレスは慌てて平謝り。それに目もくれず、レイデュエスはモニター上の材木座とゼロの顔写真をにらみつける。

 

「もう油断はしない。こいつらは融合したばかりでまだ足並みがそろっていないはず。排除するなら、今の内がチャンスだ……」

 

 そうつぶやいて、レイデュエスはニヤ……と邪な笑みを浮かべた。

 

 

 × × ×

 

 

 翌日の放課後、材木座はジード部によって星雲荘に連れられて、そこでトレーニングを受ける羽目となっていた。

 

「八十二……八十三……もっとペース上げなさい。こんな調子じゃ日付変わっちゃうわよ」

「ひ、ひぃ、ひぃ……」

 

 ライハに背中に乗られた状態で腕立て伏せをしている材木座。大分疲弊している様子だが、ライハは手加減など一切なかった。

 

「頑張ってね中二~。これも自分のためなんだから」

「己を鍛えておかないと、いざという時に後悔するわよ」

 

 それを見守る結衣と雪乃だが、気のせいだろうか、対応がそっけないというか淡泊というか。

 

「こ、こんなつらい目に遭うなんてぇ……やっぱりウルトラマンになんてならない方がよかったんじゃ……」

 

 昨日の今日で早くもくじけそうな材木座を励ます八幡。

 

「弱音吐いてないで、もっと頑張れよ。お前見た目の割には運動神経いいし、もっとやれるだろ? それにこういう状況好きだろ」

「い、いや、実際やってみると苦しいばっかりで、楽しむ余裕なんて……」

「無駄口叩いてないで集中しなさい。まずはそのたるんだ身体を引き締めないと、後々厳しいわよ」

「ひぃ~!」

 

 厳しい言葉を投げかけるライハに材木座が悲鳴を上げた時、それは起こった。

 ドゴォンッ!

 

「な、何!?」

 

 突然の轟音とともに、星雲荘全体が激しく揺れたのだ。結衣たちは一斉に驚く。

 

「今の地震!?」

[星雲荘は宇宙船。地震では揺れません]

 

 レムが否定し、モニターに地上の状況を映し出した。

 

[外部からの攻撃を受けています]

「攻撃!?」

 

 地上では、星雲荘が潜っている展望台前の地面に、レイデュエス一味の円盤がレーザーの砲撃を撃ち込んでいた!

 



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彼らは今ここに流星の誓いを結ぶ。(B)

 

 円盤から放たれたレーザーが地面を穿ち、その度に星雲荘が激しい震動に襲われる。

 

「うわあああぁぁぁぁぁぁ―――――――――ッ!?」

 

 皆が倒れないように踏みとどまったり近くのものに掴まったりする中、一番取り乱した材木座はバッとテーブルの下に隠れ、ガタガタ震えながら八幡を見上げた。

 

「は、八まぁぁんッ! 何とかしてくれぇぇぇぇぇッ! ウルトラマンジードなんだろう!?」

『おい落ち着け! 今はお前もウルトラマンだ! まだ変身もしてねぇけど!』

「そ、そう言われてもぉぉぉ!」

 

 怯え切っている材木座とは対照的に、レムは冷静に事実のみを八幡に伝える。

 

[このままでは、約2分後に攻撃が星雲荘に直撃します。AIBの到着は間に合いません]

「直接ここを狙ってくるとはな……俺たち全員集まるのを待ってたのか……」

 

 モニターに映し出される円盤をにらんで舌打ちした八幡に、ジードが問いかける。

 

『八幡、フュージョンライズするかい?』

 

 しかし八幡は少し考えてから首を振った。

 

「いや、町はなるべく巻き込みたくない。最近被害に遭いっぱなしだしな」

『それもそうだ』

「だから出来るだけ奴らを人のいないとこに引きつけよう。出来るか、レム?」

[もちろんです]

 

 八幡の提案に絶叫を上げたのは材木座。

 

「えええぇぇぇぇぇ―――――――――!? それって、わざわざ敵の前に出てくつもりぃぃぃ!? そんな危ないことしないでよぉぉぉぉ!」

 

 ぎゃあぎゃあ喚く材木座をゼロが一喝した。

 

『うるせぇぞ義輝! これも人命を守るためだ! 腹ぁくくりなッ!』

「そんなぁぁぁぁ!?」

「みっともないよ中二! 今からそんなんじゃ、この先やってけないし!」

 

 ゼロだけでなく結衣にも叱られてしまった。

 一方でレムは円盤からの攻撃の合間を狙って、星雲荘そのものを地中から脱出させ始めた。

 

[星雲荘、宇宙船モードに移行します]

 

 ワープ機能を使って直接地上へと浮上する星雲荘。モニター表示越しにその外観が、八幡たちの目に初めて明らかとなる。

 

「うわぁ~! ほんとに宇宙船なんだね、星雲荘って!」

 

 正面から見ると三つの角を持った星型多角形状で、後部には巨大な球体が埋め込まれている細長い船体が空中に浮かんでいる。この星雲荘の真の姿についてレムが語る。

 

[宇宙船としての名称は、ネオ・ブリタニア号です]

 

 ネオ・ブリタニア号は円盤からの攻撃を逃れ、かつ町から遠ざけるために、山岳地帯へ向かって発進し出した。

 

 

 × × ×

 

 

 逃げるネオ・ブリタニア号を追いかけながらレーザーを連射する円盤。しかしブリタニア号は巧みに左右に移動し攻撃をかわし続ける。

 

『くそぅ、意外にすばしっこい!』

 

 円盤の内部では、操縦しているオガレスがいら立って毒づいていた。ルドレイはブリタニア号の進行コースを計算してレイデュエスに報告する。

 

『殿下、奴らは無人の地域に逃げ込もうとしているようです』

「そこなら思いっきり戦えるっていう算段か? だが思い通りにはさせんッ!」

 

 悪しき笑いを浮かべたレイデュエスはバトルナイザーを掲げ、ジャンボキングに続く第二の怪獣を解き放つ。

 

「タイラント! お前のショウタイムだぁッ!」

[バトルナイザー、モンスロード!]

 

 

 × × ×

 

 

 円盤から飛び出した長方形の光が実体化し、巨大怪獣となって地上に現れた!

 

「キイイイイィィィィッ!」

 

 首から尻尾に至るまで、全身のパーツが不揃いであるつぎはぎ染みた怪獣。様々な怪獣の最も強い部分をつなぎ合わせて誕生した大怪獣タイラントだ!

 

「キイイイイィィィィッ!」

 

 タイラントは左腕の鉄球からフックつきロープを飛ばし、そのフックがブリタニア号の船体後部に引っ掛かった。

 

「うわあぁぁッ!」

 

 タイラントによって逃避行を力ずくで止められ、その際の衝撃で八幡たちは再び叫び声を発した。

 タイラントは右腕の鎌でロープを引き寄せ、ブリタニア号を引っ張る。

 

[タイラントに引き寄せられています。大変危険な状況です]

 

 ブリタニア号の出力よりもタイラントのパワーの方が上回っている。更に円盤も追いかけてきていて、このままでは袋叩きにされる。

 八幡もいよいよ覚悟を決めた。

 

「やるしかねぇか……! ジーッとしてても、ドーにもならねぇ!」

「ヒッキー、あたしも! 自分の身は自分で守るし!」

 

 八幡がジードライザーを構えると、結衣が名乗り出る。八幡も、もうそれを止めたりはしなかった。

 

「あっ……」

 

 その時に雪乃が手を伸ばしかけたのだが、声も小さかったこともあり、モニターの中のタイラントに食い入っている八幡たちは彼女の動きには気づかなかった。

 ただ、ライハは雪乃の行動に目を向けていた。

 

「ユーゴーッ!」『シェアッ!』

「アイゴーっ!」『フエアッ!』

「ヒアウィーゴーッ!!」

 

 雪乃に振り返ることなく、八幡と結衣はフュージョンライズしていく。

 

[ウルトラマン! ウルトラマンベリアル!]

[ウルトラマンジード! プリミティブ!!]

 

 光となってブリタニア号から飛び出していったジードは、実体化するとともにブリタニア号を捕らえるタイラントの首筋に膝を入れた。

 

「ハァッ!」

「キイイイイィィィィッ!」

 

 首に鋭い一撃をもらったタイラントが蹴り倒され、フックが外れてブリタニア号は解放された。

 

「キイイイイィィィィッ!」

 

 タイラントはすぐに起き上がってフックをジードの方に向かって発射したが、ジードはかわしながらタイラントに飛びかかっていく。

 

「ショアッ!」

「キイイイイィィィィッ!」

 

 鉄球と鎌の両手を振り回すタイラントの攻撃をかいくぐりながら、ジードが格闘戦を開始した。

 

 

 × × ×

 

 

 円盤からは、もちろんレイデュエスがその様子を見やっている。

 

「出てきたな比企谷。ウルトラマンゼロはまだか」

 

 レイデュエスはブリタニア号の様子も見比べながらつぶやく。

 

「だったらあぶり出してやる。イッツ!」『ギアァッ! ギギギィッ!』

 

 そして怪獣カプセルを取り出してスイッチを入れ始めた!

 

「マイ!」『ピポポポポポ……』

「ショウタイム!!」

フュージョンライズ!

 

 魔人態に変化したレイデュエスが、二つのカプセルから現れた怪獣たちのビジョンを吸い込んで融合獣へと変身していく!

 

ベムスター! ゼットン!

レイデュエス! ベムゼード!!

 

 胴体と発光体は宇宙恐竜ゼットン、首は宇宙大怪獣ベムスター状、そして両腕の先がベムスターの腹部の吸引機構が備わっている異形の融合獣ベムゼードとなって戦いの場に現れる!

 

 

 × × ×

 

 

「いっけぇー! そこだぁッ!」

 

 ブリタニア号ではペガがタイラントと戦うジードを熱心に応援していたが、そこにベムゼードが現れてジードは二体に挟まれる形となった。

 

「あッ、レイデュエスだ!」

『キイイイイィィィィッ!』

『ピポポポポポ……ギギギィッ!』

 

 それを目にしたゼロは、材木座に呼びかける。

 

『義輝、ちょっと身体借りるぜ』

「へ?」

 

 一瞬気の抜けた声を出した材木座の右腕が本人の意思を無視して動き、ゼロの変身アイテムであるウルトラゼロアイNEOを懐から引っ張り出した。

 

「へ? へ?」

 

 そして材木座本人が戸惑っている間に、左手が眼鏡を取り外して、その顔の上にゼロアイが装着され、右目のレンズの上のスイッチが指で押された。

 

「のほあぁぁぁぁぁぁッ!?」

 

 間抜けな声を上げる材木座の全身が青と赤の光に囲まれ、頭部から下るようにその肉体がウルトラマンゼロのものに変化していく!

 

「シャッ!」

 

 変身を遂げたゼロがブリタニア号から飛び出しながら巨大化していき、二大怪獣に挟まれるジードの元へと颯爽と着地した!

 

『俺はゼロ! ウルトラマンゼロだ!』

 

 名乗り口上を上げたゼロに、ベムゼードが振り向いた。

 

『「現れたな……!」』

 

 その内部でレイデュエスがニヤリと嗤い、タイラントに命令を飛ばす。

 

『「お前はジードをやれ」』

「キイイイイィィィィッ!」

 

 迷いなくゼロの方へと向かっていくベムゼードの姿に目を留めるジード。

 

『「材木座たちが狙いか!」』

『そうはさせないぞ!』

 

 ベムゼードの背に飛びかかろうとするジードであったが、その背後からタイラントが鉄球で殴打してくる。

 

「キイイイイィィィィッ!」

「ウッ!」

 

 ジードがタイラントに足止めされている間にベムゼードがゼロに近づいていく。それを迎え撃とうと構えるゼロ。

 

『よぉし、行くぜぇッ!』

 

 勢いよく前に踏み出し、ベムゼードの首筋を狙ってチョップを繰り出すが……ベムゼードに軽くいなされた。

 

(♪ウルトラマンゼロ‐ピンチ)

 

「ギアァッ! ピポポポポポ……」

『うおッ!?』

 

 ベムゼードの突き出した三本爪の腕がゼロに襲い掛かり、ゼロはあっさりと押し返された。パンチ、キックを見舞って懸命に反撃するも、ベムゼードの身体はびくともしない。

 瞬く間に劣勢に置かれるゼロの状況に、ブリタニア号でペガが動揺していた。

 

「ゼロの様子が変だよ! あんなにパワーがないなんて!」

 

 今のゼロの戦いぶりは、先日の戦いと比較すればありえないほどに弱々しいものであった。それはゼロの戦闘を幾度も目にしているペガやライハからすれば一目瞭然である。

 ライハはその理由にすぐに思い至って、顔を大きくしかめた。

 

「やっぱり、こんなことに……!」

 

 ゼロ当人も、己と立ち位置を変えた材木座に対して厳しめに呼びかける。

 

『義輝! もっとしっかりしろ! お前がそんなビビッてちゃ、俺は力が出せねぇんだ!』

 

 ゼロに変身してもなお、材木座は敵に怯えて震えてばかりなのだ。彼と命を共有した以上、ゼロは否が応でも材木座の影響を受けてしまう。かつてジードが八幡のために満足なフュージョンライズが出来なくなったように……いや、それ以上に深刻な状態に陥っていた。

 

『「そ、そう言われても……うひぃ!?」』

 

 どうにか勇気を振り絞ろうとする材木座であるが、ベムゼードの顔を視界に収めると、その威容に恐怖を覚えてすぐに目を離し、頭を抱えてしまう。

 

『「い、嫌だぁ! 死にたくないよぉ!」』

『くッ……!』

 

 材木座の勇気を呼び起こすことが出来ず、流石のゼロも苦しむ。

 一方でレイデュエスは今のゼロの状態にほくそ笑んでいた。

 

『「思った通り……奴らはまるで息が合ってない。今の内に、確実に息の根を止めてやるッ!」』

 

 ベムゼードの攻撃の手が更に激しくなる。ゼロの身体は少しずつ爪に切り裂かれて傷にまみれていく。

 

『くっそ、このまんまじゃ……イチかバチかだッ!』

 

 このままでは追いつめられるばかりと判断したゼロは、少ないエネルギーを一点に集中させて左腕を横にまっすぐ伸ばした。

 

『ワイドゼロショット!』

 

 両腕をL字に組んで、起死回生の一手、ワイドゼロショットを繰り出した!

 

「ピポポポポポポ……ギギギィッ!」

 

 だが光線は、ベムゼードの伸ばした左手の中央の吸引機構に全て吸い込まれていく!

 

『何ッ! 腕で!?』

 

 ベムゼードが伸ばす腕を変えると、右手の口から呑み込んだエネルギーを灼熱の火炎に変換して放出した!

 

「ギアァッ! ピポポポポポ……」

『ぐああぁぁぁぁッ!』

 

 自らの力をはね返されて食らったゼロの身体が焼かれる。

 更にベムゼードは巨大な火球、トリリオンインフェルノを作り出して、ゼロへと発射した!

 

『うおあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!』

 

 痛恨の一撃を食らったゼロが吹っ飛ばされ、背中から倒れる。その胸のカラータイマーが赤く点滅して危険を報せた。

 ゼロが倒れたことに結衣たちは大きく焦る。

 

『「ヒッキー、中二たちが危ないよ! あたしたちで助けなきゃ!」』

『「それは分かってんだが……こいつがなかなか手強い……!」』

「キイイイイィィィィッ!」

 

 ジードはタイラントに抑えられていてゼロの救援に回ることが出来なかった。ジードクローで応戦しているものの、鎌に弾かれて本体に刃を通せない。

 その間にレイデュエスはゼロにとどめを刺そうとする!

 

『「こいつで消し飛べぇッ!」』

 

 再びトリリオンインフェルノを放つベムゼードだが、ゼロはすんでのところで飛び起きて火球をギリギリ回避した。

 

『おおおぉぉッ!』

 

 そして鬨の声を上げながらゼロスラッガーを両手に、ベムゼードに斬りかかる。だがスラッガーは爪に止められる。

 

「ギイッ! ギアァッ! ピポポポポポ……」

 

 ベムゼードの拳がゼロを激しく殴り倒す。が、ゼロは地に伏せられる度に立ち上がってベムゼードに挑んでいく。

 

『「ちッ、しぶとい……!」』

 

 カラータイマーが点滅しているのに何度も起き上がるゼロに、レイデュエスもいら立ちを覚え出した。

 材木座は、どれだけ傷つけられようともあきらめようとしないゼロに、呆然としながらも問いかけた。

 

『「ど、どうしてそこまでして……死んでしまうぞ……!?」』

『俺は死なねぇよ……!』

 

 満身創痍になりながら、ゼロははっきりと否定した。

 

『今の俺が死んじまったら、お前も死んじまうからな、義輝……!』

『「えッ……我のために……!?」』

 

 ゼロの言葉に、驚きで一瞬言葉をなくす材木座。

 そこにゼロは続けて告げる。

 

『それに逃げたりもしねぇ。後ろを見てみな……!』

 

 言われたとおりに振り返ると、背後には自分たちの暮らす町が広がっている。

 

『あそこにゃ大勢の人たちが生きてる。俺たちが倒れたら、あの人たちが死んでしまうんだ……! それを思えば、戦いをあきらめることなんか出来ねぇのさ……!』

 

 ゼロの語ることと、町の光景に、材木座は己に数え切れない命の運命が懸かっていることを、初めて実感した。

 そして正面に向き直ると――その目に、ゼロの大きな背中が、強いイメージとなって飛び込んできた。

 

『義輝……怖いのは当たり前のことだ』

 

 ゼロの優しくも力強い言葉が、材木座に浸透する。

 

『だから、お前が背にしてるものが何かを感じ取って、ひたすら前に進め。それだけでいい。後は俺がフォローしてやるからよ……お前はただ、突き進めッ!』

 

 ゼロの言葉を受けて、材木座は――震えが止まった。

 

『「……そうだ、我は剣豪将軍! 将軍に後退の二文字はないのだぁぁぁ―――ッ!」』

 

 己が自身に課した称号を頼りに、材木座は自分を奮い立たせた!

 そこにベムゼードが火炎攻撃を飛ばしてくる!

 

『「うおおおおおおッ! お前なんか怖かねぇぇぇぇぇッ!!」』

 

 だがゼロは、材木座の雄叫びとともにスラッガーで火炎を切り払った!

 

『「何ッ!?」』

 

 突然ゼロの動きが鋭くなったことに動じるベムゼード。その一方でゼロは材木座を褒めたたえる。

 

『上出来だ義輝! そんじゃあこいつを使いなッ!』

 

 材木座の前に出てきたのは、八幡の持っているものと同じライザーと装填ナックルにウルトラカプセルが二本。しかし通常のカプセルとは違い、二人のウルトラ戦士が向い合わせに描かれている。

 

『「これは、八幡の使ってるのと同じ……!」』

『ああ! そいつがお前の勇気を、力に変えてくれるんだ! やってみなッ!』

『「任されよう!」』

 

 勢いに乗った材木座は、ライザーを手に掴み取ってゼロアイを正面に重ねた!

 そしてカプセルを一つずつ起動していく。

 

『ギンガ! オーブ!』

『ショオラッ!』『デュアッ!』

 

 ニュージェネレーションカプセル・αを起動すると、絵柄の二人の戦士、ウルトラマンギンガとウルトラマンオーブオリジンのビジョンが現れた。

 

『ビクトリー! エックス!』

『テアッ!』『イィィィーッ! サ―――ッ!』

 

 ニュージェネレーションカプセル・βからはウルトラマンビクトリーとウルトラマンエックスのビジョンが現れて、二つのカプセルがナックルに装填される。

 その二つを、ゼロアイがコネクトされたライザーでスキャンする。

 

[ネオ・フュージョンライズ!]

『俺に限界はねぇッ!』

 

 材木座の叫びがゼロのものとなり、顔の前でライザーのスイッチを握り込んでゼロアイによる変身をパワーアップさせた!

 

『はぁッ!』

 

 材木座から変じたゼロの身体に、四人のニュージェネレーションウルトラマンが重なっていく!

 

[ニュージェネレーションカプセル・α! β!]

[ウルトラマンゼロビヨンド!!]

「ハァァッ!」

 

 光の飛沫と軌道とともに、バージョンアップした姿となったゼロが飛び出していく!

 

「あ、あれは……!」

 

 雪乃は全く新しい姿となったウルトラマンゼロに目を見張る。ペガの方は、興奮した口調でまくし立てた。

 

「来たぁーッ! ウルトラマンゼロビヨンドだぁ!」

 

 全身銀色で、頭部のスラッガーが倍の四本となった姿……通常のフュージョンライズの倍となる四人のウルトラ戦士のパワーを取り込み、ゼロのポテンシャルを純粋に強化したネオ・フュージョンライズを遂げた形態、『ゼロを超えたゼロ』を意味するゼロビヨンドである!

 

(♪ウルトラマンゼロ ビヨンド)

 

『俺はゼロ……ウルトラマンゼロビヨンドだ!』

 

 ゼロビヨンドはルナミラクルゼロ時のような落ち着いた声音で、堂々とベムゼード相手に構え直した。

 

「ギアァッ! ピポポポポポ……」

 

 ゼロビヨンドにベムゼードが猛然と突進し爪を振るうが、ゼロはそれを難なく受け止める。

 

「ハァァァァァァァッ!」

 

 そして腕が何百本も増えたかに見える高速パンチでベムゼードを滅多打ちにする。それまでの苦戦が嘘のようにベムゼードを押し込む!

 

『「うがぁッ!? おのれ……!」』

 

 殴り返されたレイデュエスが、猛打の前に流石に顔を歪ませた。

 

「キイイイイィィィィッ!」

 

 己の主が叩きのめされたことにタイラントが動揺。その隙にジードが形成を立て直す。

 

『今だッ!』

『「おうよ!」』

 

 八幡と結衣はカプセルを交換し、フュージョンライズする。

 

[ウルトラマンダイナ! ウルトラマンコスモス!]

[ウルトラマンジード! マイティトレッカー!!]

『「進むぜ! 彼方!!」』

 

 変身を遂げたジードが高速でタイラントの懐に潜り込み、顎に強烈なアッパーを見舞った。

 

「キイイイイィィィィッ!」

 

 のけ反って後ずさるタイラントだが、口から爆炎を吐き出して反撃。だがジードはジードクローを回転させて火炎を迎え撃つ。

 

「「『コークスクリュージャミング!!!」」』

 

 回転するクローが爆炎を吹き飛ばした! そしてジードが勝負を決める反撃を仕掛ける。

 

「「『フレイムコンプレッションウェーブ!!!」」』

 

 炎の光線がタイラントに命中し、タイラントはマイクロブラックホールに吸い込まれて粉砕された。

 ジードが遂にタイラントを仕留めた一方で、ゼロはベムゼードへと頭部から四枚のスラッガーを同時に放つ。

 

『クワトロスラッガー!』

 

 宙を切り裂きながら向かってくるスラッガーをどうにか弾くベムゼード。そこにゼロは強化されたワイドゼロショットを繰り出した。

 

『ワイドビヨンドショット!』

 

 しかしベムゼードは左手で再び光線を呑み込んでいく。

 

『「馬鹿め! ベムゼードに光線は効かんわぁッ!」』

 

 と豪語するレイデュエスだが、先ほど投擲されたスラッガーがベムゼードの背後から回り込んでベムゼードの腕に迫る。

 そうしてベムゼードの両手首が、ばっさりと切り落とされた!

 

『「がぁぁッ!? しまったぁぁ!?」』

 

 エネルギーの放出先がなくなったことで、吸い込まれた光線がベムゼード体内で暴発。ベムゼードは体内から焼かれて全身から煙を噴き出す。これがゼロの狙いだったのだ。

 ゼロもいよいよベムゼードにとどめとなる一撃を撃ち込む準備をする。

 

『これで決める……!』

 

 ゼロが両腕を下から持ち上げていくと、己の身体の横に八つの光球が円を成して並んだ。そこから、凄まじい破壊光線が一気に発射される!

 

『バルキーコーラス!』

 

 ベムゼードは咄嗟にトリリオンインフェルノを放ったが、バルキーコーラスは火球を貫いてベムゼードに直撃。ベムゼードは全身真っ赤に熱せられて派手に砕け散ったのであった。

 

「やったぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

 ジードとゼロが見事レイデュエスの目論見を粉砕したことにペガたちが喜ぶ。円盤は敗戦によって瞬く間に空の彼方へと逃亡していった。

 

『「やった……!」』

 

 材木座は、自分の力によって怪獣を倒したという事実を、感極まった様子で噛み締めていた。そんな彼に、ゼロが最後に呼びかけた。

 

『いい気合いの入りっぷりだったぜ。これからもよろしくな、義輝』

 

 それに材木座は、純粋に嬉しさに溢れた笑顔でうなずき返した。

 これが、一人の冴えない少年が流星の戦士と交わした硬い誓いとなったのである。

 

 

 ――爆破されたベムゼードから抜け出して元の姿に戻ったレイデュエスは、空のカプセルを掲げてタイラントの残留エネルギーをその中にかき集めた。

 

「タイラント……お前の犠牲は無駄じゃない。お前の力は、この俺が最大限に引き出して使ってやるぞ……!」

 

 カプセルの表面に浮かび上がったタイラントの絵柄に、レイデュエスはそう告げて邪悪な笑みを顔に張りつけた。

 

 

 × × ×

 

 

 こうして材木座はウルトラマンゼロとしてのデビュー戦を華々しく飾った。そして今は、

 

『だぁかぁらぁ言ってんだろ義輝! お前の書く小説には筋ってもんが通ってねぇんだ! それに意味なく女を出そうとすんのはやめろ! 話がとっちらかって焦点がぼやけちまうだろうが!』

「ぬふぅ……だが、今時は萌え要素がないと売れぬというし……」

『そういう周りの目に流されるから筋がねぇんだよ! 要するに、お前の作品にゃ読む奴の心に訴えかける熱さがねぇんだ! そうだ、俺が一つ心を揺さぶる出来事の例を教えてやる。あれは俺が仲間たちと一緒に生き物の抹殺を図る人工天球に挑んだ時のこと、その天球が冷酷な殺し屋ロボットを作り出したんだが……』

 

 元の場所に戻った星雲荘で、材木座が執筆した小説に、ゼロが駄目出しをしまくっていた。その様子を遠巻きにながめながら、結衣が八幡に呼びかけた。

 

「何だか中二とゼロろん、すっかり仲良くなった感じだね」

「ゼロろんって何だよ間抜けた感じだな。材木座の奴、ゼロに思いっきり褒められたのが嬉しかったんだってよ。他人に褒められたのなんか初めてだったみてぇだし。で、ひと晩経って打ち解けたみたいだ」

 

 結衣の呼び方にひと言ツッコミを入れてから八幡が解説した。

 

「全く、材木座の奴も単純だよな」

「まぁ、ひねくれてるよりかはマシじゃない? そういうのとってもめんどくさいって実例がもうあるし」

「おい、それもしかしなくたって俺のことだよな」

「もしかしなくたってそうだよ? 他にいたら教えてほしいんだけど!」

「くそッ……こいつ相手に反論が出来ないのがこんなにも悔しいとは……」

「あーっ!? 今馬鹿にしたでしょぉ! ねぇねぇ! あたし馬鹿だって思ってるの!?」

「自覚がない方が俺よりもめんどくさいんじゃねぇかなぁ」

「何だってー!?」

 

 八幡相手にからかい、からかわれながらもどこか楽しそうに会話している結衣の様子を、雪乃がどことなく暗い様子で見つめていた。

 

「……」

 

 その彼女のことを、ライハがじっと観察していた。

 

 

 

『ウルトラストーリーナビ!』

 

材木座「フゥーハハハ! 今回は『ウルトラマンゼロ外伝 キラーザビートスター』STAGEⅡ「流星の誓い」であるッ!」

材木座「ウルティメイトフォースゼロは前回ビートスターが送り込んできた刺客、ジャンキラーのすさまじい性能の前に追いつめられていた! しかも天球ビートスターは、人間が大勢いるリゾート惑星に衝突するコースを進んでいる! 時間がない中、必死でジャンキラー相手に奮闘するゼロであるが、そこに洗脳から解かれたジャンボットがゼロにあることを告げる! タイムリミットが迫る状況で、ゼロたちはビートスターの人類抹殺の目論見を阻止できるのか! そしてビートスターに隠された真実とは!?」

材木座「これは前回の「鋼鉄の宇宙」から続く『キラーザビートスター』の下巻だな! 遂に大量の天球ロボット軍団を率いて全有機生命体の抹殺を狙うビートスターとの決着、そしてウルティメイトフォース五番目の戦士、ジャンナイン誕生の経緯が描かれるぞ!」

材木座「ビートスターの着ぐるみは、『ウルトラマンダイナ』の映画に登場したデスフェイサーを改造して作られている。全体的な輪郭に特徴的な胸元などがそのままなので、よく見ればそのことはすぐに分かるはずであろう」

ゼロ『新しく仲間になるジャンナインは『ジャンボーグA』に登場したロボット、ジャンボーグ9のリメイクキャラだぜ。だからAのリメイクであるジャンボットとは兄弟の関係って訳だ!』

材木座「では諸君! 次回の我々の活躍を楽しみにしてくれたまえッ!」

ジード『……あれ? 僕の台詞は……?』

 




八幡「材木座の奴は、一応は心配いらなくなったとしていいのかね……。あいつでも戦力になってくれるんなら、それでいいんだが」
小町「お兄ちゃん、何言ってんの?」
八幡「小町! あー……ちょっと材木座の奴に困らされてたんでな。分かるだろ?」
小町「中二さんかぁ。確かにお兄ちゃん、あの人に度々頭悩まされてたみたいだね。でも数少ない友達なんだし、ほんのちょっとは優しくしてあげてもいいんじゃない?」
小町「ねぇカー君、フッ君?」
カマクラ「ニャー」
ダイフク「モコ!」
八幡「……なぁ小町よ。本当にそいつ飼うつもりなのか? 本当に猫なのかそいつ?」
小町「それ以外に何があるのさー。お母さんだって許可してくれたし問題ないでしょ?」
八幡「ほんと、うちの親は小町には激甘だな……」
ジード&ペガ(あれってモコと同じ生き物だよね……)



次回、『雪ノ下雪乃は逃げない心を求める。』



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雪ノ下雪乃は逃げない心を求める。(A)

 

 十二月中頃の千葉市――。

 

「ギャオオオオオオオオ! キイイイイィィィィッ!」

「ハァァッ!」

 

 乾いた風が吹きすさぶ冬の空を切り裂くようなすさまじい咆哮が轟き、ウルトラマンジード・アクロスマッシャーがジードクローを手にその雄叫びの主へと飛びかかっていく。

 ジードの前に立ちはだかるは、全身が黒みのかかったおどろおどろしい紫の体色を持つ、頭部に大小異なる二本角を二対生やした大怪獣。背には巨大な翼が広げられていて、途轍もない威圧感を放つ風貌と合わさってまるで悪魔と獣の合いの子のようである。

 合体怪獣タイラントの遺伝子に、更にゴモラの生体情報を組み込まれて作り出された、融合の極みとでも言うべき融合獣、ストロング・ゴモラントである。

 

「ハッ!」

「ギャオオオオオオオオ! キイイイイィィィィッ!」

 

 ジードがストロング・ゴモラントの首筋を狙ってクローの鋭い突きを繰り出すのだが、ゴモラントの鉤爪がガードした上にジードクローをはるか遠くまで弾き飛ばしてしまった。ジードは相手の反撃を警戒して一旦距離を開ける。

 

『「くそッ、防御かってぇな……要塞みてぇだぜ……!」』

『「それにすっごいパワー……! ちょっとやばいし……」』

 

 ジードにフュージョンライズしている八幡と結衣の二人は、ゴモラントの実力を前にして苦悶の表情を浮かべていた。ゴモラントはここまでジードの攻撃のことごとくをはねのけているのだ。

 

『「こいつは特別製だ! 比企谷八幡、今日こそお前らをひねり潰してやるッ!」』

 

 一方のストロング・ゴモラントにフュージョンライズしているレイデュエスは豪語しながら、ゴモラントの威容を見せつけるかのようにゆっくりと、だが確実にジードに迫ってくる。ジードは時間経過とエネルギーの消耗によってカラータイマーが点滅し出した。

 

『「タイムアップが近い……こうなりゃ一気に勝負に出るぞ!」』

『「うんっ!」』

 

 これ以上は戦いを長引かせられないとして、八幡と結衣はカプセルの交換を行う。

 

『「ユーゴーッ!」』『デヤッ!』

『「アイゴーっ!」』『タァッ!』

『「ヒアウィーゴーッ!!」』

 

 ダイナカプセルとコスモスカプセルが装填され、フュージョンライズ!

 

[ウルトラマンダイナ! ウルトラマンコスモス!]

[ウルトラマンジード! マイティトレッカー!!]

「シュアッ!」

 

 マイティトレッカーに変身したジードは、火炎のエネルギーをまっすぐにゴモラントにぶつける。

 

「「『フレイムコンプレッションウェーブ!!!」」』

 

 速射の火炎光線はゴモラントの中央に直撃し、その背後にマイクロブラックホールが開いてゴモラントの半身を吸い込んでいく。

 

『「決まったっ!」』

 

 必殺技が炸裂してぐっと手を握る結衣。

 だが!

 

「ギャオオオオオオオオ! キイイイイィィィィッ!」

 

 ゴモラントは頭部の角をビカビカ発光させると、恐ろしい剛力によってマイクロブラックホールをねじ切り、脱出したのであった!

 

『「嘘ぉっ!?」』

『「ち、力ずくで!?」』

 

 攻撃が決まりかけていたのに破られたことに結衣たちは驚きを禁じ得なかった。それだけではない。

 

「ギャオオオオオオオオ! キイイイイィィィィッ!」

 

 ゴモラントが再び角を光らせると、ジードの全身にいきなり上からものすごい圧力がのしかかり、勢いよく地面に押しつけられた!

 

『「きゃああっ!?」』

『「く、苦し……何だこれ……!?」』

『じ、重力攻撃だ……!』

 

 攻撃の正体を突き止めるジードだが、既に術中にはまってしまった。身体がどんどんと地面にめり込んでいき、ジードのパワーを以てしても立ち上がることが出来ない。

 しかも強力な重力波は超空間内の八幡と結衣にも降りかかり、身体を押さえつけられるためにカプセルの交換も出来ない! 万事休す!

 

『「く、くそ……このまんまじゃ……!」』

『「ハッハハハハハハッ! そのままミンチになりやがれぇッ!」』

 

 顔の傷に手をやりながら哄笑するレイデュエス。ジードの残り変身時間も少なく、まさに命の危機。

 だがその時、青と赤の輝きが立ち上ってジードにのしかかる重力波を断ち切った!

 

『「何ッ!」』

 

 ジードを救出しながら立ち上がったのは、ウルトラマンゼロだ!

 

『俺はゼロ! ウルトラマンゼロだ!!』

 

 見得を切りながら決め台詞を発するゼロ。今のジードには、とても心強い味方があったのである。

 ゼロはそのままジードに代わってゴモラントに挑もうと構えたが……ゴモラントはゼロを見据えると、不意に姿を透けさせて瞬く間に消え去ってしまった。

 

『! 逃げやがった……』

『「フゥーハハハァー! この剣豪将軍に恐れをなして、尻尾を巻いて逃げ出しおったなぁ! 何とも張り合いのない奴よッ!」』

 

 敵が戦うこともなく退散したことに、ゼロと一体化している材木座は呵々と高笑いを上げた。それに軽く肩をすくめるゼロ。

 

『こないだはあんなビビッてたのに、調子のいい奴だぜ……。ジード、立てるか?』

『あ、ありがとう……』

 

 それから這いつくばっていたジードに手を貸して立ち上がらせ、二人そろって退却していったのであった。

 

 

 

『雪ノ下雪乃は逃げない心を求める。』

 

 

 

 変身を解除した八幡たちは一旦星雲荘に帰投し、八幡と結衣はライハたちから手当てを受けた。

 

「はい、これでよし……と」

「悪いな、ペガ」

 

 ペガにすり傷を消毒して絆創膏を貼ってもらった八幡が礼を言う。一方で結衣の手当てをしたライハは、先ほどの戦いについての疑問を口にした。

 

「でも、どうしてレイデュエスはゼロが現れた途端に退却したのかしら」

「フッフッフッ……そんなことは決まっている! この剣豪将軍、材木座義輝に敗れたことがトラウマとなって、我と相対することが出来なかったのだ! そうだろう!?」

「いや、俺に言うなよ」

 

 材木座が八幡に向かって調子づいたことを唱えたが、

 

[あり得ません。長期戦にもつれ込んでカプセルがオーバーヒートするのを避けたのでしょう。次からは対策してくるはずです]

「がくぅッ!!」

「そうだぜ義輝。敵をなめるな。油断してたら足元すくわれるぞ」

 

 レムからあっさりと否定され、ゼロからもいさめられた。

 ゼロは次に八幡の方へ振り向き、ジードに呼びかける。

 

「しっかしジード、今回は危ないとこだったな。俺が応援に来ててよかっただろ」

『むッ!? そんなことはないよ。僕たちが底力を発揮してたら、あそこからでも逆転を……』

 

 軽くからかわれるように言われたジードが多少ムキになって言い返したが、ゼロにこう諭された。

 

「強がるんじゃねぇって。今は身体借りてる状態なんだろ? 八幡たちのためにも無理はすんなっての」

『そうだけど……』

 

 そのやり取りをながめた結衣が苦笑いした。

 

「ジードんが子供っぽいとこあるっていうの、ほんとなんだ……」

 

 小さく独白してから立ち上がろうとしたが……その瞬間によろめいて倒れそうになる。

 

「あっ……!」

「結衣!」

 

 ライハが咄嗟に彼女を受け止め、周りが一瞬どよめいた。

 

「だ、大丈夫? 由比ヶ浜さん……」

「う、うん……」

 

 おずおずと尋ねかけた雪乃にうなずく結衣だが、そこにレムが告げる。

 

[無理をしてはいけません。今回受けた攻撃は重力波。その負荷は、ユイ、あなたの身体にも強い影響を与えています。星雲荘の治療カプセルを用いても、無視は出来ません]

「れむれむ……」

[リクと融合しているハチマンはともかく、あなたは完全に回復するのには時間が掛かります。しばらくは激しい運動は厳禁です]

「分かった、ありがとう」

 

 忠告するレムに謝礼を述べる結衣。そんな彼女の様子に雪乃はほっと息を吐いてから踵を返して別室に向かおうとする。

 

「ゆきのん? どこ行くの?」

「……少し、一人にさせてちょうだい」

 

 結衣が呼び止めたが、雪乃はそうとだけ言って退室していった。その後ろ姿には、活気が見受けられない。

 

「雪ノ下……」

 

 八幡も雪乃の様子を案じて一瞬追いかけようとしたが、ペガに止められた。

 

「待った八幡。そろそろ一色さんと海浜高校に行く時間じゃない?」

「ああそうだった。あいつ待たせるとうるさいだろうからなぁ……」

「八幡よ、一色とは確か新しい生徒会長だったな。その子と海浜に何しに行くのだ」

 

 事情を知らない材木座が問いかけると、八幡は少し疲れたような顔になりながら答えた。

 

「まぁ、ちょっと依頼でな……」

 

 八幡の働きかけで新生徒会長になったいろはだが、彼女は就任早々奉仕部に依頼を持ち掛けてきた。何でも海浜総合高校というところと、合同のクリスマスイベントを行うことになったのだそうだが、企画会議が纏まらずに進行しないのだという。それでヘルプを求めてきたのだ。

 新生徒会がいきなり他者を頼るのはよろしくないが、そもそもいろはが会長になるように焚きつけたのは自分。その手前で断りづらい八幡はその話を受け、結衣も手助けしてくれているのだが……普段は奉仕部の活動に一番積極的な雪乃が、何故か消極的な態度を取っていた。「……二人に任せるわ」とだけ言って、関わろうとしない。この態度の変化に八幡たちは気を揉んではいるものの、彼女を励ます上手い方法が思いつかないので、手をこまねいている状態なのであった。

 ともかく、八幡はこれからいろはとともに海浜高校の生徒会との合同会議に出席しなければならない。

 

「由比ヶ浜、今日はお前は休んどけ。レムも言った通り、なるべく安静にしといた方がいいだろ」

「うん。じゃあお願いね、ヒッキー」

 

 八幡は結衣を星雲荘に残してエレベーターに乗っていった。

 それから、ライハは雪乃の去っていった扉に目を向けた。

 

 

 × × ×

 

 

「……」

 

 雪乃は別室で一人、椅子に腰を落としてうつむいていた。と、そこにライハが入ってくる。

 

「失礼するね」

「ライハさん……」

「雪乃、少し私とお話ししない? ちょっと聞きたいことがあるの」

 

 ライハは雪乃の向かい側に腰かけて、話を切り出した。

 

「雪乃、最近元気ないわね。正確には、一色さんが新しい生徒会長になってから。いや……」

 

 言葉を区切ったライハが、こう言い直す。

 

「八幡が一色さんを生徒会長にしてから、かしら」

 

 それにドキリと肩を震わせた雪乃は、少し考えてから、彼女に打ち明けた。

 

「ライハさん……私は、今の奉仕部……いえ、今の『比企谷くんを中心としたグループ』に必要なのでしょうか」

「……その心は?」

 

 ライハは目を細めてより真剣な面持ちとなり、雪乃の話に集中する。

 

「比企谷くんは、自分を犠牲とすることなく、新生徒会の問題を綺麗に解決しました。今の彼は、もう以前とは違う……成長したと、私も思います。すると……私がすべきことなんて、もう何一つなくなってしまったのではないでしょうか。必要ではないのなら、私がここにいる意味なんて、もう……」

 

 そう語った雪乃に、ライハは指摘した。

 

「それは結衣にも言えること。だけど彼女は、自分の意志で八幡を支えることを選んだわ」

「そうですね……。だけど、私は由比ヶ浜さんと同じようには出来ません……」

「どうして?」

「……私は、根本的に他人に頼り切ってしまう性質です。奉仕部の活動でも、最後には比企谷くんを頼るばかりで……」

 

 これまでの奉仕部の活動経緯を見直した雪乃は、己の振る舞いをそう判じていた。

 

「生徒会長選挙の件だって、本当なら対立候補には私自ら立候補して、奉仕部を生徒会にシフトさせることで円満解決する手段もあったはずです。でも私は、それが出来なかった。肝心なところをまた他人にやらせようとして……。こんな私では、役割がないのならむしろ比企谷くんたちの重荷になってしまうんじゃ……」

「そんな悲しいこと言わないでよっ!」

 

 話の途中で、扉の陰に隠れていた結衣が大声とともに飛び込んできた。

 

「由比ヶ浜さん……!」

「ごめん、立ち聞きして。だけど、ゆきのんのこと心配だったから……」

 

 ひと言謝ってから、結衣は雪乃の元に近づき、正面から目と目を合わせて告げる。

 

「ゆきのん、あたしね、ヒッキーとゆきのんがいる奉仕部が大好き。本当なら、ずっと三人一緒の関係でいたい……。でも、あたしはヒッキーに告白した。それが今の関係を壊すことになりかねないって分かってて。――ゆきのんにも、ずるいって思いながら」

「……」

「だって、いつまでもあの関係のままじゃあたしたちダメだって思ったから。ヒッキーが『先』に進むことを決めたように、あたしも『今の先』に進もうって思ったの。ゆきのんとも、いつまでも『自分に都合のいい関係』でいないでって」

 

 でも、とつけ加える結衣。

 

「そんな理由で、あたしたちの前からいなくならないでよ! あたしの告白で、ゆきのんが離れちゃうことも覚悟したけれど……それはゆきのんを犠牲にするってことじゃないし! ゆきのんは……あたしにいくらでも迷惑かけてもいいからさ……」

 

 涙ながらに語りかける結衣に、雪乃は返答に詰まって瞳を揺らした。そこにライハが呼び掛ける。

 

「雪乃、誰かに必要とされなければいる意味がないなんていうのも、居場所の選択を『他人に頼ってる』ということにならないかしら」

「……!」

「大事なのは、自分の居場所を、自分がどうすべきかを、自分で決めること。それが本当の意味で他人に頼らない、『自立する』ということだと私は思う」

 

 そのライハの言葉に、雪乃は少しうつむいた。しかし先ほどとは違い、空虚だった瞳の中には様々な思いが根づいて渦巻いていた。

 

 

 × × ×

 

 

 総武高校生徒会と海浜総合高校生徒会の合同会議の終了後、八幡といろははその内容について話し合っていた。

 

「はぁ~……今日もまるで話が進みませんでしたねぇ。こんな調子でクリスマスに間に合うんでしょうか……?」

 

 いろはは深いため息を吐いてそう危惧した。会議はイベントを持ちかけた海浜生徒会の主導で行われているのだが、そのメンバーが事あるごとに小難しい横文字を使いたがって迂遠な話し方をし、会議自体も迂遠で非効率的に進行するので、遅々として進まないのだ。それは生徒会長にあまり熱心ではないいろはでも心配になるレベルであった。

 そのことについて八幡は意見する。

 

「今のまんまじゃあまず間に合わないだろうな。イベントは失敗する」

「ですよねぇ! でもそれやばいですよ、合同とはいえ初仕事が失敗なんて! わたしのイメージだだ下がりじゃないですか!」

「心配はあくまで自分かよ……。まぁ何とかするさ。ジーッとしてても、ドーにもならねぇからな」

「頼みますよぉ先輩~。それ口癖ですか?」

 

 すがりつくように頼ってくるいろはに、八幡は冷静に告げる。

 

「いや、お前にももちろんやってもらうことはちゃんとやってもらうぞ」

「えー!? そうなんですかぁ?」

「当たり前だろ、お前が生徒会長なんだから。何もかもこっちがやっちまうのは体裁的にもよくない。それにな、俺はお前の一年先輩だ。つまりどうあがいても助けてやれない時がやってくる」

 

 そう諭す八幡の顔を、いろはは少し呆けながら見上げる。

 

「その時には、お前は自分自身の力でどうにかしなきゃいけないかもしれない。そんな時に備えて、今の内から練習しとかないとな。なぁに一色、お前なら大丈夫だよ。お前は何だかんだで要領いいし、人望もある。俺なんかよりもずっと上手く立ち回れるさ」

 

 そう言っていろはに振り向くと――彼女はしばし固まっていたが、八幡から一歩距離を取ってから腰を折った。

 

「もしかして、今のって口説こうとしてましたかごめんなさいちょっと一瞬ときめきかけましたが冷静になるとやっぱり無理です」

「ああ、そう……」

 

 知らない内に口説いたことになって振られた八幡は、半目になりながら冷や汗を垂らした。

 それからいろはと別れて一人になったところで、ペガが顔を出して八幡に尋ねかけた。

 

「八幡、一色さんには何とかするって言ってたけど、具体的にどうするつもりなの?」

「それは……」

 

 困ったことに、八幡には具体案がなかった。海浜生徒会の会長玉縄はかなり手強い相手で、八幡がどう言葉を尽くそうとも会議の主導権を放さず、彼を翻弄しまくる。ここまで相性の悪い人間とは、八幡は会ったことがないくらいであった。結衣はそもそも玉縄の連発する小難しい言い回しについていけていない。

 回答に詰まる八幡に、ペガは提案した。

 

「雪乃に力を貸してもらうのはどう? 雪乃の取り仕切りはあの中身のない会議にこそ必要だと思うよ」

「けどな……今のあいつに助けてなんて言うのは……」

 

 逡巡する八幡に、ペガは言う。

 

「八幡って、誰かのためには動くのに、自分が誰かに助けてもらうのには消極的だよね。基本的に、一人でどうにかしようとしてる」

「!」

 

 ペガの指摘は図星だった。八幡は、どうしても必要としない限りは他人の手を借りようとしない。単独でフュージョンライズできるようになってから、結衣の協力をなかなか受け入れようとはしなかったことに顕著に表れている。

 

「でも、『仲間』って自分が助けるばかりのものじゃないよ。時には助けてもらうことも大事だと思う。……ペガだって、ほんとは君たちのこと、もっと助けてあげたいんだ」

 

 ペガの言葉で黙った八幡に、ジードがこう述べた。

 

『八幡、前も言ったけれど、僕は一人きりじゃとても勝ち残れなかった。みんなの存在が僕の助けになって、僕の力がみんなの助けになって、この瞬間があるんだ。『仲間』って、そういうものだと思うよ』

「……」

 

 二人の言葉を受けて――八幡は、星雲荘のある方角をそっと見やった。

 

 

 × × ×

 

 

 レイデュエス一味の円盤では、レイデュエスらが先ほどの戦闘を分析していた。

 

「やはり、目下の最大の障害はこいつだ……!」

 

 レイデュエスは忌々しそうに、モニターに映し出したウルトラマンゼロをにらみつけた。

 

「先日仕留め損なったのは痛い……。今回のようなことが今後も続くようじゃ、いつまで経っても比企谷八幡たちを倒せないぞ」

 

 オガレスとルドレイは、レイデュエスがウルトラマンジードではなく比企谷八幡と呼称することに若干戸惑いながらも意見する。

 

『ですが、ウルトラマンゼロは相当手強いです。生半可な手法は通用しないでしょう』

『今の我々に、奴をどうにかする手段はかなり限られているのでは……』

「ああそうだ。バトルナイザーも残り一体だし、どうしたものか……」

 

 腕を組んで思案するレイデュエス。

 その末に、オガレスとルドレイの方へチラリと視線をやると、何かを決心した表情となって身体ごと向き直った。

 

「……よし、こうしよう。お前らそこに並べ」

『は? はい……』

 

 急にそんなことを命じられたオガレスら二人は訝しみながらも、言われた通りにレイデュエスの前に並び立った。

 

「よぉし……では行くぞ」

 

 そしてレイデュエスは、深く息を吸い込んでから、腕だけ魔人態に変え――両腕を己の胸に突き立てた!

 

『えええッ!?』

『で、殿下!?』

「ぬぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅッ!!」

 

 突然のことに狼狽するオガレスたちだが、レイデュエスはそのまま腕をゆっくり胸から引き抜く。その手の中には――怪しく輝く紫色の光球が握られていた。

 

「ぬあぁッ!!」

 

 そして光球を、一つずつオガレスとルドレイの身体に押し込む!

 

『おあぁッ!?』

『殿下!? 私たちに、一体何を……!?』

 

 光球を入れられて肉体がドクンと不気味に脈動する。それに戸惑う二人に、レイデュエスは脂汗まみれになってぜいぜい肩で息をしながら、次のように告げた。

 

「お前らに俺の命の一部を分け与えた……!」

『な、何と……!?』

 

 あまりの内容に衝撃を受けるオガレスとルドレイ。レイデュエスの言葉の意味するところとは、

 

「これでお前たちも、フュージョンライズすることが出来る……!」

『……!!』

「俺の貴重な命を削って授けた力だ。俺のために最大限に役立ててもらうぞ……!」

 

 額の玉のような汗を腕でぬぐいながら、レイデュエスはニタリと歯を剥き出しにした。

 



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雪ノ下雪乃は逃げない心を求める。(B)

 

 ジードがストロング・ゴモラントと戦った、その翌日――。

 

「イッツ!」『ギャオオオオオオオオ!』

「マイ!」『キイイイイィィィィッ!』

「ショウタイム!!」

フュージョンライズ!

 

 レイデュエスがゴモラカプセルとタイラントカプセルを装填ナックルに押し込み、フュージョンライズする。

 

ゴモラ! タイラント!

レイデュエス! ストロング・ゴモラント!!

 

 再びストロング・ゴモラントの姿に変身して千葉市に出現し、手近なビルから薙ぎ倒し始めた。

 

「ギャオオオオオオオオ! キイイイイィィィィッ!」

 

 その報を受けて、八幡が星雲荘に飛び込んできた。

 

「レイデュエスがまた現れたって!?」

 

 モニターでゴモラントの暴れる姿を確認した八幡は、反射的にジードライザーに手を伸ばすが、それをライハが制止した。

 

「待って。下手に突っ込んでいっても、昨日の二の舞になるわ」

「けど……!」

 

 反論しかけた八幡をさえぎるライハ。

 

「先にゼロたちが現場に行ってる。まずは様子を見ましょう」

「……」

 

 ライハの説得を聞き入れ、八幡は暴れるゴモラントを映すモニターに視線を戻した。

 

 

 × × ×

 

 

 ライハの言う通り、八幡に先んじて材木座がゴモラントの暴れる現場に到着していた。

 

『今日は俺たちが先だ! 行くぜ義輝!』

「うむッ!」

 

 材木座は意気揚々と眼鏡を外し、ウルトラゼロアイNEOを取り出して顔面に装着してスイッチを押した。

 

「シャッ!」

 

 それによって材木座の身体が瞬く間にウルトラマンゼロのものに変身していき、巨大化してゴモラントの前にそびえ立った。

 

『さぁ行くぞ! ブラックホールが吹き荒れるぜぇぇぇッ!』

「ギャオオオオオオオオ! キイイイイィィィィッ!」

 

 気合いの雄叫びとともに地を蹴るゼロ。ゴモラントは、今度は逃げずに正面からそれを迎え撃つ姿勢を取った。

 

 

 この戦いの様子を、ビルの屋上からゼナたちAIBが見守っていた。

 

『各人、近辺の警戒は怠るな。今度はどんな策を用意しているか、分かったものではない』

 

 ゼナは部下たちに命じて、戦うゼロを裏から支援しようとする。だがそこに、

 

『フッフッフッ……貴様らなんぞに殿下の策を破れるはずがないわ!』

 

 ゼナたちがいるのと同じ屋上に、オガレスとルドレイのレイデュエスの手下が出現。ゼナたちは咄嗟にそちらへ振り返って身構えた。

 

「……!」

 

 陽乃が一番に銃を抜いて引き金に指を掛けたが、発砲はゼナが押しとどめた。

 

『待て! 今の状況で、奴らが我々の前に出てくる理由などないはず。何か裏があるぞ』

 

 オガレスとルドレイの異様に余裕たっぷりな態度も警戒するゼナであったが、オガレスたちはそれをあざ笑うかのように言い放った。

 

『貴様らがどんなことをしようとも、今の我らを止めることなど出来ん!』

『見せてくれよう。殿下より賜った、私たちの力をッ!』

 

 そう言って二人が取り出したのは――それぞれグビラカプセルとボガールカプセルの怪獣カプセルであった。

 

『何!? まさかッ!!』

 

 それの意味するところを察して驚愕するゼナだが、止める間もなくオガレスたちは腰に巻いた装填ナックルを握った。

 

『グビラ!』『グビャ――――――――!』

『ボガール!』『キィィィィイイィィィィ!』

『テレスドン!』『ギャアオオオオオオウ! オオオオウ!』

『ワロガ!』『ゴオオオオオオオオ!』

 

 それぞれのナックルに二つずつ怪獣カプセルが収められ、オガレスとルドレイはブラッドライザーを握り締めた。

 

『根絶やしにしてくれる!!』『これが我が使命!!』

[[フュージョンライズ!]]

 

 二人がブラッドライザーで怪獣カプセルをスキャンすると、その姿がレイデュエス魔人態に変化していって怪獣たちのビジョンを吸い込んでいく。

 

グビラ! テレスドン!][ボガール! ワロガ!

レイデュエス! テレスグビラ!!][レイデュエス! エヴィルボガール!!

 

 そして二体のレイデュエス融合獣に変身、巨大化してゴモラントと格闘しているゼロの背後に出現した!

 

『何!?』

「ギャアオオオオオオウ! グビャ――――――――!」

「キィィィィイイィィィィ! ゴオオオオオオオオ!」

 

 オガレスがテレスグビラ。ルドレイがエヴィルボガール。そしてレイデュエスのストロング・ゴモラントと、ゼロは三体の融合獣に取り囲まれる形となってしまった。

 

『「な、何なのだこれわぁぁぁぁッ!?」』

『ちっくしょぉ、そう来やがったか……!』

 

 あまりの事態に材木座は絶叫、ゼロも悪態を吐いた。単体でもジードを苦しめた融合獣が、一度に三体も! こんな事態を誰が想定しようか!

 

(♪大怪獣東京を襲撃)

 

『「待て待て待って! 三人がかりなんて卑怯だぞ!?」』

『「お前らが言うかッ!」』

 

 材木座の非難が通るはずもなく、三体もの融合獣が一斉にゼロに襲い掛かってきた。

 

「ギャアオオオオオオウ! グビャ――――――――!」

『ぐッ!』

 

 まずはテレスグビラがドリルを回転させながら突進してくる。身をひるがえしてかわしたゼロだが、そこにエヴィルボガールが光弾を連射する。

 

「キィィィィイイィィィィ! ゴオオオオオオオオ!」

『うおッ!』

 

 ゼロは腕をクロスして防御するも、別方向からゴモラントが爆炎を放ってきて身体を焼かれる。

 

『ぐぅッ……!』

「ギャオオオオオオオオ! キイイイイィィィィッ!」

 

 ゴモラントは更に角を光らせ、重力波をぶつけてきた!

 

『うおおぉぉッ!』

 

 ゼロは踏ん張り切れずに吹っ飛ばされた。そこに待ち受けていたテレスグビラとエヴィルボガールがドリルと刃を振るってくる。

 

『はッ!? くッ!』

 

 両手ではっしと凶器を止めたゼロだが、がら空きのボディにゴモラントの尻尾が叩きつけられた。

 

『ぐはッ!』

 

 いくらゼロといえども、三体の融合獣の絶え間ない攻撃の前には圧倒的に劣勢であった。

 

 

 × × ×

 

 

「ああッ! ゼロがッ!」

 

 全員が融合獣と化したレイデュエス一味によって追いつめられるゼロの姿に、ペガが悲鳴を発した。結衣は焦りを浮かべながら前に踏み出す。

 

「助けなくちゃ! うっ……!?」

 

 しかしその途端に胸を抑えて喘ぎ声を出したので、慌てたライハに押しとどめられた。

 

「駄目よ、まだ戦いに出られる状態じゃない……!」

「けど……!」

 

 八幡に不安な眼差しを向ける結衣。ストロング・ゴモラント一体だけでも相当な強敵だ。ろくな打開策もないのに、八幡だけで大丈夫なのか。そんな考えがはっきりと窺える。

 

「……ジーッとしてても……!」

 

 それでも八幡はジードライザーを握り締め、踵を返した――その時。

 

「待って」

 

 雪乃がこの場に姿を現し、八幡の前に回り込んだ。

 

「雪ノ下!」

 

 雪乃は恐怖の感情に瞳を揺らしながらも、それでもまっすぐに前を向きながら八幡へ告げた。

 

「私も、一緒に行かせて」

「!!」

 

 そのひと言に、全員に衝撃が走った。

 雪乃は全員の注目を集めながら、毅然とした面持ちで語る。

 

「私は、必要とされなければ何も行動できない人間だった……いいえ、自分で動いているようで、実際はいつも誰かに守ってもらっていた。だけど……このままの自分ではいられない! だから今度は、私が守るわ! みんなを……いつも私を守らせていた、比企谷くんを」

「雪乃……!」

 

 雪乃の決意の表情にライハが喜色を見せた。結衣も顔が輝く。

 

「雪ノ下……!」

『八幡!』

 

 雪乃の覚悟を受け取った八幡も、ジードに背中を押されて、固くうなずいた。

 

「雪ノ下、ありがとうな。レム、エレベーター出してくれ!」

[分かりました。お気をつけて]

 

 セットされたエレベーターに八幡と雪乃が駆け込み、苦戦するゼロの元へと一直線に向かっていった。

 

 

「行くぜ! ジーッとしてても!」

「ドーにもならない!」

 

 地上に出た八幡と雪乃の二人は、依然として敵に苦しめられるゼロを見上げながら、ウルトラカプセルを起動していく。

 

「ユーゴーっ!」『ダーッ!』

 

 雪乃が自ら叫びながら起動したセブンカプセルから、ウルトラセブンのビジョンが現れて腕を振り上げた。

 

「アイゴーッ!」『イヤァッ!』

 

 八幡のカプセルからはウルトラマンレオのビジョンが出現する。

 

「ヒアウィーゴーッ!!」

 

 その二つを装填ナックルに収め、ジードライザーでスキャン。

 

[フュージョンライズ!]

「ジィィィ―――――――ドッ!」

 

 セブンとレオのビジョンとともに、八幡と雪乃が重なり合ってジードと融合した!

 

[ウルトラセブン! ウルトラマンレオ!]

[ウルトラマンジード! ソリッドバーニング!!]

「ドォッ!」

 

 紅蓮の炎とともに飛び出していったジードが、今まさにゼロに背後から斬りかかろうとしていたテレスグビラとエヴィルボガールに激突してはね飛ばした。

 

「ギャアオオオオオオウ! グビャ――――――――!」

「キィィィィイイィィィィ! ゴオオオオオオオオ!」

『!』

 

 振り返ったゼロの傍らで、ウルトラマンジード・ソリッドバーニングが堂々と胸を張って全身から蒸気を噴き出した。

 

『「燃やすぜ! 勇気!!」』

 

 ――その姿を見上げた陽乃が、ハッとあることを感じ取り、そして滅多に見せることのない自然な微笑みを口元に浮かべた。

 

『「来やがったなぁ、比企谷ッ!」』

 

 ジードの登場によりレイデュエスはますます猛り、手下二人に向けて命令を飛ばした。

 

『「お前らはウルトラマンゼロをやれッ!」』

『『『り、了解!』』』

 

 ふらふらと起き上がる手下たちにゼロの相手を任せると、ゴモラントは自らその場から離れてジードを引きつける。ジードもそれを追い、戦は分断された。

 

「ダァッ!」

 

 ジードはスラッガーを腕にジョイントして、猛烈な勢いでゴモラントに飛び込んでパンチを繰り出す。

 

「「『ブーストスラッガーパンチ!!!」」』

 

 今までは八幡だけがジードの身体を動かし、雪乃は後ろで見ているだけだったが、今は二人で拳を突き出してジードに力を与える! 二人の力を受けたブーストスラッガーパンチは、これまでにない破壊力だ!

 だがそれでもゴモラントは大山の如く揺るがなかった!

 

「ギャオオオオオオオオ! キイイイイィィィィッ!」

「ウオォッ!」

 

 ゴモラントはジードを弾き返した上に、角を光らせて強烈な重力でジードを押し潰す。ストロング・ゴモラントの必殺攻撃、グラビトロプレッシャーだ!

 

『「ぐッ……またこれか……!」』

 

 上から身体を押さえつけられてうめく八幡。昨日はこれになす術もなかった。今度もまた潰されてしまうのか!?

 だがこの時に、雪乃が叫ぶ。

 

『「負けないわ……! 私は、もう逃げない……! どれほどの圧力もっ! はねのけてみせるっ!!」』

 

 その気炎とともに、押しつけられて動かないはずのジードの身体が持ち上がり、二本の足で重力波に抗い立ち上がった!

 

『「何だと!?」』

 

 一瞬動揺するレイデュエス。この一瞬の間に、雪乃と八幡はカプセルを交換する。

 

『「ユーゴーっ!」』

『オリャアッ!』

 

 雪乃が一つ目のカプセルを起動し、ウルトラマンオーブ・スペシウムゼペリオンのビジョンが腕を振り上げた。

 

『「アイゴーッ!」』

『セアッ!』

 

 八幡が起動した二つ目のカプセルからは、ウルトラマンメビウスのビジョンが現れる。この二つをナックルに装填。

 

『「ヒアウィーゴーッ!!」』

 

 そしてジードライザーでスキャンし、フュージョンライズだ!

 

[フュージョンライズ!]

『「ジィィィ―――――――ドッ!」』

 

 オーブとメビウスのビジョンが八幡たちと重なり、ジードの姿が変化する!

 

[ウルトラマンオーブ! ウルトラマンメビウス!]

[ウルトラマンジード! ブレイブチャレンジャー!!]

 

 二つの逆巻く渦巻きが破られ、赤い光と青い輝き、そしてメビウスの輪をくぐり抜けたジードが飛び出していく!

 

「シュアッ!」

 

 その勢いのままに重力波を突き抜け、ジードは大空に飛び上がった!

 

「ギャオオオオオオオオ!?」

 

 反射的に顔を上げたゴモラントの眼に、逆光に照らし出されるジードの新たな姿が映り込んだ。

 赤と紫、銀のボディに金色の角張ったショルダーパッドで固めた雄姿。左腕には赤いブレスが装着されている。ウルトラマンとウルトラマンティガの魂を宿したウルトラマンオーブ・スペシウムゼペリオンの力に、更にウルトラマンメビウスの燃える闘志を重ね合わせた、勇者の中の勇者、ブレイブチャレンジャーである!

 

(♪スペシウムゼペリオンのテーマ)

 

『「掴むぜ! 絆!!」』

 

 ジードはまっすぐにゴモラントへ降下。その勢いを乗せた拳を顔面に食らわせる。

 

「ギャオオオオオオオオ! キイイイイィィィィッ!」

「セェェェアッ!」

 

 更にジードは着地と同時に後ろ蹴りを繰り出し、ゴモラントの背面を打った。それからもゴモラントの周囲を跳び回りながら鋭い打撃を入れていく。

 が、ゴモラントの巨体は何度打たれようともやはり少しも揺るがない。

 

『「そんな貧弱な攻撃、何発打ったって無駄だッ!」』

 

 ゴモラントが尻尾を振り回してジードを叩き潰そうとする。

 しかしその瞬間にジードの身のこなしが速まり、狙いを外した尻尾は空を切った。

 

『「何ッ速い!? いや……それだけじゃねぇ!」』

「トァッ!」

 

 脇腹に入ったジードの膝が芯に響く。――レイデュエスは、ジードが攻撃を仕掛ける毎に疲労するどころか、スピードもパワーも上がっていくことを悟った。ダメージもどんどん大きくなり、少しずつ無視できないレベルになってきている。

 ジードの内部で八幡と雪乃が叫んだ。

 

『「まだまだ行くぜぇ、雪ノ下ッ!」』

『「ええっ!」』

 

 二人の情熱が、ジードの肉体を駆り立てる。

 これがブレイブチャレンジャーの最大の能力。その名の通りに、如何なる敵にも挑んでいく勇気の心が光のエネルギーに変換され、ジードの無限の力となるのだ!

 ジードがゴモラントを少しずつ追い込んでいく一方で、ゼロもテレスグビラとエヴィルボガールを押し返していた。二体だったら、ゼロ単騎でも互角に戦えるレベルだ。

 

『へへッ、あいつらやるな! 俺たちも負けてらんねぇぜ、義輝ッ!』

『「うむッ!」』

 

 ゼロに呼びかけられた材木座が、こちらもウルトラカプセルを手に取った。

 

『ギンガ! オーブ!』

『ショオラッ!』『デュアッ!』

『ビクトリー! エックス!』

『テアッ!』『イィィィーッ! サ―――ッ!』

 

 ニュージェネレーションカプセル・αとβを起動し、二つを装填ナックルに収める。そしてゼロアイをコネクトしたライザーでスキャン。

 

[ネオ・フュージョンライズ!]

『俺に限界はねぇッ!』

 

 顔面の前にライザーを持っていき、ライザーとゼロアイの力で二段変身!

 

[ニュージェネレーションカプセル・α! β!]

[ウルトラマンゼロビヨンド!!]

「ハァァッ!」

 

 銀色に光り輝く姿、ウルトラマンゼロビヨンドにテレスグビラとエヴィルボガールが大きくたじろいだ。

 

『『ぬあッ!? パワーアップしおった!』』

『『何の! まだまだここからが勝負……』』

 

 高速移動で先制しようとしたエヴィルボガールだが、それを超える超高速でゼロが飛び込んできて、回し蹴りで吹っ飛ばされた。

 

『『ぬあああぁぁぁぁ――――――ッ!?』』

『『ルドレイーッ!?』』

 

 テレスグビラがゼロに突っ込んでいくも、水平チョップの一撃でドリルをへし折られる。

 

「ギャアオオオオオオウ!? グビャ――――――――!!」

『ワイドビヨンドショット!』

 

 ドリルを失ってわたわたするテレスグビラに、すかさずワイドビヨンドショットが撃ち込まれる。

 

『『うぎゃあああぁぁぁぁぁぁぁ――――――――ッ!!』』

 

 テレスグビラは瞬時に爆散。それに慌てたエヴィルボガールが皮膜を広げ、ゼロに食らいつこうとしたが、

 

『クアトロスラッガー!』

 

 四枚のスラッガーのカウンターを叩き込まれ、肉体を貫かれたエヴィルボガールも木っ端微塵となった。

 

『『いぎゃあああぁぁぁぁぁぁぁ――――――――ッ!!』』

『二万年早いぜ』

 

 弾け飛んだエヴィルボガールに背を向け、ゼロは淡々と決めた。

 

(♪メビウスの勝利)

 

 ゴモラントの方は、戦いが長引くほどに不利と判断して、一気に畳みかけてしまおうとする。

 

「ギャオオオオオオオオ! キイイイイィィィィッ!」

 

 広範囲に向けてグラビトロプレッシャーを放ち、一撃でジードを叩き潰してしまおうと、頭部の角を激しく光らせる。

 

『「今っ!」』

 

 しかし雪乃はその瞬間を待ち構えていたのだった!

 ジードが左腕のブレスを擦るような動作で光輪を引き出し、素早く投擲。

 

「「『スラッシュ光輪!!!」」』

 

 光輪は円を描く動きで、ゴモラントの角を全て根元から切断した!

 

「キイイイイィィィィッ!?」

 

 角を失ったゴモラントのグラビトロプレッシャーは不発となる。

 雪乃は、ゴモラントが重力波を放つ際に必ず角が光ることに気づき、そこが重力波の発射箇所だと見抜いていたのであった。

 

「シェアッ!」

 

 ジードは空中に飛び上がると、ブレスから今度は自分の身長ほどもある巨大光輪を作り出し、自ら飛び込んでゴモラントに叩きつけた!

 

「「『メビュームギガ光輪!!!」」』

「ギャオオオオオオオオ!! キイイイイィィィィッ!!」

 

 胴体を袈裟に斬られるゴモラントだが、それでもまだ耐え、最後のあがきで爆炎を吐き出そうとする。

 だがもう終わりだ! ジードはブレスを擦って両腕にエネルギーを溜め、右手を天へ、左手を横に伸ばして光のメビウスの輪を作りながら十字を組んだ。

 

「「『スペリオンシュート!!!」」』

 

 放たれた光の奔流が、ゴモラントの傷口に直撃する。

 

『「ぬッ! があああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」』

 

 とうとうゴモラントも耐え切れなくなり、大爆発。それを見届けたジードとゼロは、うなずき合ってから天高くに飛び上がっていったのだった。

 

「シュウワッチ!」

 

 

 × × ×

 

 

 見事にレイデュエス一味を撃退して帰還した八幡たちを、結衣たちがはしゃぎながら迎えた。

 

「おっ帰りー! 大勝利だったねー!」

「当然よ。私がついて、あんな卑劣漢どもに後れを取るはずがないわ」

 

 ふふんと得意げに胸を張る雪乃。昨日までの様子が嘘のような態度にペガが苦笑した。

 

「雪乃はほんと負けず嫌いだなぁ」

「でも、そこが雪乃のいいところよ」

 

 ライハが雪乃の正面に立って、優しく微笑みかけた。

 

「よく頑張ったわね、雪乃。安心した」

「ライハさん……ありがとうございます」

 

 深々と頭を下げて礼を言った雪乃に、八幡がおずおずと呼びかける。

 

「なぁ雪ノ下……戦いの直後で何だが、ちょっと頼みが……」

「待った」

 

 だが続く言葉を、雪乃に止められた。そして雪乃から告げる。

 

「海浜高校との合同イベントが進んでないみたいね。よければ、私も手を貸すわ」

「!」

「どうかしら?」

 

 雪乃が自分から話を持ちかけてきたことに驚きながらも、八幡は喜んでその申し出を受けた。

 

「助かる! ほんとありがとうな、雪ノ下!」

「いいえ、このくらいどうでもないわ。ちゃんとクリスマスまでに間に合わせましょうね、八幡くん」

「おう! ……ん?」

 

 一瞬、雪乃から八幡への呼称が妙なことに、皆が固まった。

 

「え? 今何て……」

「あら、八幡くんはいよいよ耳も腐ってしまったのかしら。自分の身体なんだから、きちんと防腐処理しないと駄目じゃない」

「ミイラかよ俺は! ってそれより、その呼び方!」

 

 くすくすと八幡をからかう雪乃は、とてもご機嫌そうに語った。

 

「何かおかしいことかしら。ペガやライハさんたちは前々から下の名前で呼び合っているんですもの。私たちがそうしても何らおかしいことじゃなくて?」

「えぇッ!? い、いやそんないきなり……何のつもりだ雪ノ下……」

 

 と言った八幡の口に、人差し指を当てる雪乃。

 

「雪乃。次からはそう呼ばないと返事してあげないわよ」

「……!!?」

「ち、ちょっと待ったぁぁぁぁ――――――――っ!!」

 

 結衣がたまらずに、二人の間に割り込んだ。

 

「何青春ラブコメっぽいことやってるの!? そ、それだったらあたしだって、ヒッキーのことこれからハッチーで呼んじゃうもん!」

「ハッチー!? やめろよミツバチみてぇじゃんそれ! いやヒッキーも冷静に考えりゃひどいあだ名だけど!」

「ううん決定! ハッチーも、これからあたしのこと結衣って呼んでよ! そっちの方が呼びやすいでしょ!?」

「確かに由比ヶ浜の短縮形にもなるが……そ、そういう話じゃなくてだな……」

「ねぇ呼んでよぉ早く~! 結衣って言うだけじゃんっ!」

「ちょっと待ちなさい。まだ私の方の返事をもらってないわ、結衣さん」

「ゆ、結衣さん……! それすごく嬉しいけど……ゆきのんでもこの場は譲れないよっ!」

「お、おいちょっと落ち着けって!?」

 

 雪乃と結衣の二人に迫られる八幡はすっかりたじたじだ。

 

『いやぁ大変だね八幡』

「何他人事みたいに言ってんだよ! 俺の身体にいるくせしやがって!」

 

 やいのやいの騒ぎ立てる八幡たちの様子に、ペガは半ば呆けていた。

 

「何だか、一気に仲良くなったねぇ、みんな……」

「八幡、これからの方が大変そうね」

 

 ライハは肩をすくめて苦笑。一方で材木座は、八幡に絶望し切ったような顔になっていた。

 

「は、八幡がリア充になってしまった……。う、裏切り者めぇッ!」

『他人を羨んでねぇで、自分で努力したらどうなんだ? 義輝』

 

 ゼロが冷静に突っ込んだ。

 八幡と雪乃、結衣の織り成す騒ぎは、もうしばらくは収まりそうになかった。

 

 

 

『ウルトラストーリーナビ!』

 

雪乃「今回は『ウルトラマンオーブ』第五話「逃げない心」よ」

雪乃「ある日、SSPに宇宙人を目撃したという通報が入って、ナオミは通報者の少女と一緒にある工場の地下に入り込んでいった。だけどその少女自身が宇宙人で、ナオミはクレナイ・ガイをおびき寄せるための人質にされてしまったの。少女の正体、ゼットン星人マドックの目的はウルトラマンオーブであるガイを討ち取ること。マドックの繰り出したハイパーゼットンデスサイスに、オーブは新たなるフュージョンアップを披露する……という話よ」

雪乃「スピードに特化したハリケーンスラッシュの初登場回ね。その特色を活かした高速戦闘は瞬きを許さないほどの出来栄えよ。ハイパーゼットンも、ハリケーンスラッシュの長所を最大に引き出すためのチョイスでしょうね」

雪乃「ハリケーンスラッシュ専用のオーブスラッガーランスはいわゆる販促アイテムだけど、これのために他形態の出番が減るという弊害もあったわ。『ジード』ではその反省で、ジードクローが全形態共通の武器と設定されていたわね」

ジード『ゼットン星人マドックとハイパーゼットンデスサイスは、その後の「青いリボンの少女」で意外な形で再登場することとなったんだ。そちらも必見だよ』

雪乃「では、また次回でお会いしましょう」

 




八幡「えー……これから一色と一緒に海浜高校に行く訳だが……その前に注意しておくことがある」
雪乃「何かしら? 八幡くん」
結衣「改まってなにハッチー?」
八幡「それだよッ! 奉仕部と星雲荘で下の名前で呼び合うのはまぁよしとしたが、外でそれはやめろって言っただろうがぁッ!」
結衣「えー? 別にいいじゃん、呼び方なんて何でも」
雪乃「誰も気にすることではないと思うわ」
八幡「いいやッ! ある日突然呼び方が変わったとなったら何かあったと思われるはずだ。そしたら噂になっちまうだろう」
雪乃「別に、言わせたい人には言わせておけばいいことじゃない」
結衣「うんうん。あたしも……もうそういうの気にしないし!」
八幡「俺がするんだ……! だってそういうの……恥ずかしいだろ……!」
雪乃&結衣(小学生か……)



次回、『ジードの命よ!キングの奇跡!!』



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ジードの命よ!キングの奇跡!!(A)

 

 総武高校と海浜総合高校の合同によるクリスマスイベントが近づく中、八幡たちは星雲荘を訪れたゼナとある相談をしていた。

 

「更なる戦力増強……ですか?」

 

 八幡がゼナから言われた言葉をそのままに繰り返すと、ゼナはコクリとうなずいた。

 

『我々AIBは強力な助っ人としてウルトラマンゼロを招聘したが、やはりレイデュエス一味も黙ってはいなかった。対抗して、今度はフュージョンライズできる人員を増やしてきた』

「あれはとんでもなかったですね……」

 

 雪乃が、一度に三体もそろったレイデュエス融合獣の光景を思い返して険しい顔となった。結衣は恐ろしい想像をして身体を震わせる。

 

「数を増やせるんだったら、これからもっとたくさんの融合獣が出てくるようになるんじゃないかな……」

[その可能性は低いでしょう]

 

 しかしそれはレムが否定した。

 

[それが簡単に出来ることならば、もっと早くに行っているはずです。恐らくは、レイデュエスにとっても易々とは出来ない奥の手だと推測されます]

「そっかぁ」

『しかし、逆を言えば奥の手を用いるほど手段を選ばなくなっているということでもある。別の方向から戦力を増やしてくることも考えられる』

 

 ゼナはあくまで油断はしていなかった。

 

『故に、こちらもウルトラマンゼロを加えただけで終わっていてはいけない。それに、この千葉市に蓄積されているダメージのこともある。君たちも気づいていることだろう』

「!」

 

 今のひと言により、八幡たちの表情が変わった。

 レイデュエスの狙いがジード=八幡の抹殺に切り替わったことにより、彼の暮らすこの町が戦場になることが多くなってしまった。それにより、千葉市は再建が間に合わないほどの被害を受けるようになってしまっている。ジードたちの存在が人々の心の支えになっているとはいえ、それでも怪獣被害を恐れて千葉市を捨てる人は少しずつ増えてきているのだ。八幡たちも、この状況が続くのは極めて良くないことは感じていた。

 

『いつまでもレイデュエスをのさばらせていては、状況は悪くなる一方だ。以上のことから、我々はレイデュエスに完全にとどめを刺す作戦を準備中だ。それにはジード、君の力も必要となる』

「完全にとどめを刺す……って、あんなにしつこい奴にどうやるんですか?」

 

 質問するペガ。レイデュエスは致命傷を与えても平然としているほどの強力な再生能力がある。そのために何度戦っても倒し切れずに今日まで争いが続いているのだ。

 

『その答えは、これだ』

 

 ゼナがそうつぶやくと、星雲荘のモニターに明かりが灯り、別の宇宙との超量子通信がつなげられた。通信の相手は、白衣を着た女性。

 

『紹介しよう。彼女はピット星人トリィ=ティブ。リトルスター研究の第一人者だ』

『そちらの地球の皆さん、はじめまして。ゼナさん、頼まれたゼガンカプセルは出来上がってるわ。後はそっちに転送するだけです』

 

 トリィ=ティブという女性はゼナにそう告げた。

 

「ゼガン?」

 

 八幡たちが何のことかと尋ねると、レムがモニターの半分に青い怪獣の写真を表示させながら説明した。

 

[時空破壊神ゼガン。シャドー星人が作り出した生体最終兵器です。その光線には、空間をねじ曲げて異次元の扉を開く強力な効果があります]

 

 ライハとジードがゼガンのことを思い返す。

 

「ウルトラマンベリアルとの決戦時に、その能力を使ってベリアルを異次元空間に追放したんだったわね」

『そうか! それと同じことをしようという訳ですね』

 

 ゼナはおもむろにうなずいて肯定した。

 

『ゼガンのオリジナルはベリアルの攻撃によってもう修復できないほどに粉砕されてしまったが、怪獣カプセル化してライザーを用いることにより復活させられることが判明した。ゼガンカプセルはもちろん、君に使ってもらう。比企谷八幡』

「俺が……怪獣を召喚するんですか?」

 

 意外そうな顔をする八幡。これまでの怪獣カプセルは、敵が用いてこちらを脅かす悪魔の兵器であった。

 

『確かに怪獣カプセルには散々苦しめられたが、今度はこちらの味方につけるのだ。ゼガンの能力ならば、レイデュエスもひとたまりもあるまい』

「なるほど! どんなに生き返っても、別の空間に閉じ込めちゃえば意味ありませんものね!」

 

 結衣や雪乃は、邪悪なるレイデュエスを完全に倒せると聞いて喜んでいる。

 

『そういうことだ。ゼガンカプセルはこちらで保管し、作戦決行時に君に渡す。この作戦は、レイデュエスには気取られないように注意してほしい』

『分かりました!』

 

 ジードもはりきって返事したが――当の八幡はどこか、浮かない顔つきであった。

 

 

 八幡たちに作戦内容を伝達した後、ゼナはAIBの本部へと帰投した。

 

『ゼガンカプセルの転送はどうなっている?』

 

 ゼナは一番に、カプセルの受け取りを担当しているプロテ星人に尋ねかけた。傍らにペダン星人を控えさせているプロテ星人は端的に答える。

 

『受け取り成功です。今は厳重に保管しています』

『よし。万が一のことがないよう、しっかりと見張っていてくれ』

『了解しました』

 

 ゼナと受け答えしているプロテ星人からペダン星人が離れる。

 

「……ふふ……」

 

 ――そのペダン星のヘルメットに隠された顔……レイデュエスがニヤリとほくそ笑んだ。

 

 

 

『ジードの命よ!キングの奇跡!!』

 

 

 

 ゼナが帰っていった後、結衣がふとこんなことをつぶやいた。

 

「カプセルかぁ……。そういえば、最近はリトルスターが見つかってないね。もう他にはないのかな?」

 

 するとレムが、こう告げた。

 

[リトルスターのことですが、一つ判明したことがあります]

「え? 何?」

 

 何やら重要そうな話に、皆の注目がレムに集まった。その中でレムが語り出す。

 

[以前にキングカプセルのリトルスターが飛散したことは話しましたが、調査の結果、消滅した訳ではないことが確定しました]

『そうだったの!?』

 

 ジードを始めとして、皆が驚く。レムはモニターに、千葉市の地図を表示する。

 

[カプセルから弾き飛ばされたリトルスターは確かに散り散りになりましたが、消えることなくそのまま地上、千葉市を中心とした一帯に落下。その破片一つ一つが再生し、別の性質と変化したのが、この地球で発見されたリトルスターの正体です]

「えっ、そうだったんだ!!」

「だから千葉の人たちばかりが発症してたのね……」

 

 結衣やライハが驚愕。まさか消失したと思われていたキングカプセルのリトルスターが、こんな形で手元にあったとは。

 しかしここでペガが疑問を口にする。

 

「でも、リトルスターって自然に再生するものなのかな? 確か、幼年期放射ってエネルギーが必要なんでしょ?」

 

 それに回答したのは、それまで黙って話を聞いていたゼロ。

 

「キングのじいさんが何かしたんじゃねぇか?」

「え?」

「スターゲートはじいさんにつないでもらったんだろ? そん時にあのじいさんが何か細工しててもおかしくねぇぜ。陰ながら若い奴の手助けするのが趣味みたいなお人だしな」

『でも、いくらウルトラマンキングでもそんなこと出来るのかな……』

 

 流石にジードが半信半疑でいると、ゼロはきっぱりと言い切った。

 

「多分お前らが思ってる以上に、あのじいさん何でも出来るぞ」

『そうなのかな……。確かに、宇宙全部と融合して宇宙再生させるような人だけど……』

「それに、今重要なのはリトルスターの出処じゃねぇだろ。キングカプセル自体が元に戻るかどうかだ」

 

 とゼロが言い切ると、話はレムに戻る。

 

[あくまで推測ですが、四散したリトルスターの最も大きな破片はまだ見つかっていません。それが元のキングカプセルとなる可能性が高いです]

「なるほど……。そのリトルスターも、あたしたちの近くにいる誰かに宿ってるかもしれないってことだよね」

 

 リトルスターがカプセル以外では生命体の体内でしか安定しないという話を思い出しながら、結衣が思考する。

 

「誰の身体に宿ってるんだろう? すぐ見つける方法ってないのかな」

 

 それについて八幡が意見する。

 

「リトルスターを発症した奴は超能力が使えるようになるんだし、何か超常現象が起きたらそれが目印になるんだがな」

「そういえば、ウルトラマンキングのリトルスターは元々誰に宿っていたんですか?」

 

 雪乃が質問すると、ライハが小さく手を挙げた。

 

「私よ」

「そうだったんですか! じゃあライハさん、キングさんのリトルスターでどんなことが出来たのか教えて下さい! それと同じことが出来る人が宿主ですよ!」

 

 キングのリトルスターが与える超能力について、結衣たちは大なり小なり関心を寄せた。何せ、超人ウルトラマンの中でも伝説の超人と呼ばれているというウルトラマンキングの力の欠片なのだ。これまでのリトルスターとは比較にならないような、想像を絶する超能力なのだろう……と三人は予想した。

 果たして、ライハの回答は。

 

「私にリトルスターが宿ってた時は……全宇宙と一体化していたウルトラマンキングの声を聞くことが出来たわ」

「……」

「……そんな期待の目で見られても、これで終わりよ」

「……え? それだけ……?」

「ええ」

 

 違う意味で想像を超えた内容に、結衣たちは失望を隠せなかった。

 

「な、何なんですかそれ……。声が聞こえるだけなんて……」

「それだと、この宇宙だと発症しても何も起こらない……ということになるんじゃないかしら。ただ手が熱くなるだけで……」

「それはそれは、捜すの大変そうだな……」

 

 落胆し切っている八幡たちをジードが励ます。

 

『まぁ、ジーッとしててもドーにもならないよ。いつ、どこで、誰が発症するかも分からないけど、きっと必ずキングカプセルを再起動させられる時は来るはずだ。それまで行動あるのみだよ』

「まぁ、そうだな……」

 

 応じながらも、やはりやや疲れたようになったままの八幡であった。

 

 

 × × ×

 

 

 ゼガンカプセルがゼナたちの元に転送されてきた、その翌日。カプセルは保管庫に入れられ、八幡に渡される時が来るのを待つだけのはずであった。

 しかし事件は起こった!

 ドォォォォォンッ!

 

『何事だッ!』

 

 AIB本部のどこかからすさまじい爆音が響き渡り、職員たちは反射的にその場に伏した。その中でゼナはいち早く混乱をまとめ上げ、情報を集めながら現場へと急行する。

 爆発が起こったのは本部のエントランスであった。それによって壁に穴が開けられ、武装した大量の宇宙人が侵入してくる。

 

『さぁ、行け行けぃッ! 抵抗する者は構わず撃ってしまえ!』

『目的のブツを見つけ出すのだ!』

 

 指揮しているのはオガレスとルドレイ。他は集団宇宙人フック星人だ。レイデュエスが集めた兵隊のようである。

 AIB職員たちは慌てて銃を抜き、フック星人たちと銃撃戦にもつれ込む。そんな中でゼナは全体の指揮を執り、バリケードに隠れながら敵の様子を窺う。

 

『奴らは……!』

『レイデュエス一味の強襲です!』

 

 ネリル星人が焦った調子で告げた。ゼナは一味の目的を推察する。

 

『このタイミングでここを襲ってくるとは……狙いはゼガンカプセルか! しかし、何故そのことを知っているのだ……? 今度は、超量子通信が傍聴されていた痕跡はなかったのに……』

 

 一瞬訝しんだゼナは、ハッとあることに思い至った。

 

『まさか……! すまん、ここは任せた!』

 

 襲撃者たちへの応戦を現場の者たちに任せ、ゼナは急いでカプセルの保管庫へと走っていった。

 ……が、その途中、曲がり角から突き出てきた銃口が頭にピタリと向けられる。

 

『動くな』

『……!』

 

 銃を握っているのは……プロテ星人であった。

 

『考えたくなかったが……そういうことか。ウルトラマンゼロ招の情報を漏らしたのもお前なのだな』

『ふふふ……AIBにいたところでうだつは上がらない。しかしレイデュエスはウルトラマンジードを消して、不要となるウルトラカプセルは全て譲ってくれると約束してくれましたのでねぇ』

『愚か者め……!』

『何とでも言うがいい。さぁ、一番の邪魔者のあんたにも消えてもらおうか!』

 

 プロテ星人の引き金に掛けられている指に力がこもる。ゼナは銃撃をかわして反撃しようとタイミングを見計らうが、

 銃声は、全く別のところから起こった!

 

『ぐあッ!?』

 

 背後から膝の裏を撃たれ、姿勢が崩れるプロテ星人。その肩を、銃撃した陽乃が鷲掴みにして思い切り壁に叩きつけた。

 そのまま手早い動きで、銃口をプロテ星人の『眉間』に合わせる。

 

『なぁッ!?』

 

 真っ青になるプロテ星人。だが陽乃の瞳の方がはるかに冷え切っており、有無を言わさずに引き金を引いた。

 ダァンッ!

 

『ごぶッ……!』

 

 ――プロテ星人は、横から飛び込んできたゼナに殴り倒された。銃弾はすれすれで外れ、壁に弾痕を穿った。

 ギリギリのところでプロテ星人を助けたゼナは、陽乃に険しい眼差しを向ける。

 

『……そこまですることはないはずだ』

 

 非難したが、陽乃は平然と言い返した。

 

「前から思ってましたけど、ゼナ先輩って何だかんだ甘いですよね」

『……』

 

 ゼナと陽乃の視線が、真っ向からぶつかり合った。――だが、ゼナの方が先に顔をそらした。

 

『いや、今はこんなことをしている場合ではない。こいつや表の奴らは陽動だ。保管庫に急ぐぞ』

「了解です」

 

 それには従い、陽乃はゼナとともに保管庫へと走っていった。

 しかし、

 

『遅かったか……!』

 

 到着した時には既に保管庫はこじ開けられていて、カプセルは影も形もなくなっていた。

 

 

 × × ×

 

 

 その頃、八幡は総武高校でいろはと二人で話をしていた。

 

「いやー、まさかただでディスティニィーランドに行けることになるなんて思ってませんでした。いわゆる役得って奴ですねー」

 

 いろはの手に握られているのはディスティニィーランドの入場チケット。先ほど、平塚から譲ってもらったものである。

 合同クリスマスイベントを成功させるために一丸となって動き始めた奉仕部だが、現状の段階で彼らがまとめ上げた企画案と予算書を持参して平塚に相談したところ、「クリスマスの何たるかが分かっていない」という予想外の駄目出しを食らった。そして彼女から、ディスティニィーランドのクリスマスイベントを取材して勉強してくるようにと言いつけられたのである。

 いろはは結衣などは、遊園地に遊びに行けることを純粋に喜んでいたものだが……不意にいろはが、その目に不安の色を浮かべた。

 

「でも、こんな悠長なことをしてていいんでしょうかね? もうクリスマスまで一週間を切ってるのに、今の段階で取材だなんて……こんなペースで間に合うんでしょうか……?」

「やっぱ、失敗はしたくないか」

「そりゃそうですよ! 当然じゃないですか。わたし、笑われ者にはなりたくありません。それに、元々乗り気じゃなかったとはいえ、これでもやるからには責任ってものを少しは感じてますし……」

 

 遅々として進まないクリスマス企画進行について、いろはなりに真剣に心配しているようである。それを見て取った八幡は、彼女を励ますように告げた。

 

「確かに悠長な感じはある。けど今の俺たちの知識、情報じゃイベントをいまいち盛り上げられそうにないってのも確かなことだ。だからたとえ遅くとも、しっかりとしたリサーチをすべきなのは俺も同感だ。何、後悔だったら事が終わってからすりゃいいんだよ。まずは行動を起こすところから……世の中はジーッとしてても、ドーにもならないんだからな」

 

 そう語った八幡の横顔を、いろはがほけーと見上げている。

 

「……何だよ」

「ああいえ……前から思ってたんですけど、先輩のその口癖って、先輩のイメージにあんまり合ってないですよね」

 

 といろはは遠慮なく言ってきた。

 

「先輩ってむしろ、自分からは動かない感じです。だから、ちょっと意外かなって思って」

「確かに、元々はお前が言う通りだったよ。けど……この言葉をある人から教えてもらってな。色々あって、その通りに動くようにしてるんだ」

 

 苦笑を浮かべながら語る八幡。

 

「幼稚な言葉と思うかもしれないが、実際かなり大事なことだ。自ら働きかけてかなきゃ、自分の世界なんていい方向に進んでいかない。今なら、それがよく分かるぜ」

 

 八幡の語り口には、多分に実感が含まれていた。それを感じ取って、思わず八幡の顔に食い入るいろは。

 

「……先輩。先輩って……」

 

 そして何かを聞きかけるが――言い終える前に、八幡が怪訝な様子で顔を上げた。

 

「……?」

 

 この瞬間、八幡は何かの異変を感じ取っていた。

 

 

 × × ×

 

 

 AIB本部から抜け出したレイデュエスは、奪い取ったゼガンカプセルを起動していた。

 

「イッツ!」『キュウオッ! ピュアァァ――――!』

 

 装填ナックルに押し込み、二つ目のカプセルのスイッチを入れる。

 

「マイ!」『ウオォンッ、ウオォンッ……!』

 

 装填した二つのカプセルを、ブラッドライザーでスキャンしていく。

 

「ショウタイム!!」

フュージョンライズ!

 

 レイデュエスの肉体が魔人態に変貌し、ゼガンとロボット怪獣のビジョンを吸い込んでいく。

 

「ぬうあああぁぁぁぁッ!」

ゼガン! ギャラクトロン!

レイデュエス! ギャラクゼガン!!

 



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ジードの命よ!キングの奇跡!!(B)

 

「先輩?」

 

 急に空を見上げた八幡に釣られていろはが同じ方向を向くと――空に、謎の魔法陣らしきものが広がっている異様な光景が目に飛び込んできた。

 

「な、何ですか? あれ……」

 

 呆気にとられるいろは。更に魔法陣からは霧が発生して地上に降り注ぎ、辺り一帯が真っ白い霧で覆われる。

 

「わぷっ!? ど、どうなってるんですか……?」

 

 自分たちの周囲も霧に包まれ、いろはは軽くうろたえる。それと対照的に八幡は、何かを感じ取っているかのように身体を強張らせたまま直立不動でいる。

 その視線の先で、霧の中から巨大なサメらしきヒレが浮かび上がり、同時に先端にクローが取りつけられた蛇腹アームが霧を割ってもたげた。

 

「えっ!? 陸に……サメ!? おっきいし!」

 

 ギョッと目を剥くいろは。しかしその正体は、そんな生易しいものではなかった!

 

 ウオォンッ、ウオォンッ……!

「キュウオッ! ピュアァァ――――! キュウッキュッキュッキュッキュウ!」

 

 濃霧の海から飛び上がり出現したのは、青い魚型の怪物が白い竜のような鎧を装着したような、巨大怪獣! その胸には、レイデュエス融合獣であることを示す七つの発光体が並んでいる。

 レイデュエスがギャラクトロンカプセルと、奪い取ったゼガンカプセルによってフュージョンライズした恐るべきギャラクゼガンである!

 

「きゃあぁっ!? 怪獣ですっ!!」

「……カプセルを盗みやがったか……!」

 

 悲鳴を上げるいろは。一方で事情を知る八幡は、ギャラクゼガンの特徴からおおまかな経緯を察して小さく舌打ちした。

 

「キュウオッ! ピュアァァ――――!」

 

 ギャラクゼガンは両眼から赤い稲妻状の光線を周囲に無差別に放つ。光線が着弾すると無数の魔法陣が発生した後に、爆発を引き起こしてビルを片っ端から薙ぎ倒した。

 

「きゃあああぁぁっ!」

 

 爆発が起こす震動に悲鳴を発するいろは。その彼女に向けて八幡が指示する。

 

「一色! 早く逃げろッ!」

「は、はいっ!」

 

 一瞬ギャラクゼガンから遠ざかるように駆け出したいろはであったが、八幡がそれとは別方向にダッシュしていったので思わず振り返った。

 

「えっ、先輩!?」

 

 急ぐ八幡はいろはに振り向くことなく、ギャラクゼガンの方向へと走っていく。そして適当なところでジードライザーを取り出した。

 

『八幡、行こう!』

「おう! ジーッとしてても、ドーにもならねぇ!」

 

 呼び掛けたジードに応じ、八幡は手早くウルトラカプセルを装填していく。

 

[フュージョンライズ!]

 

 しかしフュージョンライズするまさにその瞬間、いろはが追いすがってきて街角から飛び出した。

 

「先輩、危ないですよ……!?」

 

 彼女は八幡の身体が光り輝いて、巨大化していく場面を目撃する。

 

[ウルトラマン! ウルトラマンベリアル!]

[ウルトラマンジード! プリミティブ!!]

「シュアッ!」

 

 一足飛びでギャラクゼガンの正面に着地し、町への攻撃を止めたジードを、愕然と見上げるいろは。

 

「えっ……!? 先輩が、ウルトラマンジード……!?」

 

 それには気づくことのなかったジードたちに対して、ギャラクゼガン内部のレイデュエスが獰猛な笑みを向けた。

 

『「出てきたな! テメェらの面を見るのも、今日こそ最後だぁッ!」』

『「毎度同じようなこと言って飽きねぇのかよ!」』

 

 皮肉で返した八幡と息をそろえ、ジードがギャラクゼガンに立ち向かっていく。

 

『ジードクロー!』

「キュウオッ! ピュアァァ――――! キュウッキュッキュッキュッキュウ!」

 

 ジードクローで武装してギャラクゼガンの両手のハサミを弾き、相手の体表を切りつける。が、白い装甲で覆われたギャラクゼガンにはダメージが通らない。

 

『「固てぇ!」』

『ロボット怪獣の融合獣か! だったら!』

『「ああ!」』

 

 ギャラクゼガンから一旦距離を取ったジードは、こちらも装甲に覆われたソリッドバーニングへとフュージョンライズし直そうとする。

 

「キュウオッ! ピュアァァ――――!」

 

 だがその瞬間、ギャラクトロンの右腕が変形して銃身が現れ、レーザーで砲撃してきた!

 

「ウワッ!?」

 

 咄嗟に回避するジード。レーザーは先ほどまで立っていた場所を爆破して穿つ。

 ギャラクゼガンはこのレーザーを連射してきてジードを追い立て回す!

 

「キュウッキュッキュッキュッキュウ!」

「ウゥッ!」

 

 レーザーの集中攻撃をよけ続けるジードは、フュージョンライズする暇がない。

 

『「くッ……こっちのフュージョンライズを許さない狙いか……!?」』

 

 毒づく八幡であるが、ギャラクゼガンの攻撃はそんなにぬるいものではなかった。

 

「キュウオッ! ピュアァァ――――! キュウッキュッキュッキュッキュウ!」

 

 胸部の中央の発光体にエネルギーが集まり、極太の光線ゼガントスパークを発射してきた!

 

「トァッ!」

 

 ジードは飛んで光線から逃れるが、着弾したゼガントスパークは巨大魔法陣を作り出し、それが空間を歪めて時空のブラックホールを開く! ジードがその吸引に掴まった!

 

『「うおぉぉ!? 引っ張られる……!」』

『まずい! 引きずり込まれたら異次元に閉じ込められるッ!』

『「くそぉぉぉッ! そうはいくかぁ……!」』

 

 力の限り吸引に抗うジードだが、動けない状況を狙ってギャラクゼガンが狙撃しようと構えている。

 

『「や、やべぇッ!」』

 

 撃ち落とされる――そう思われたところに、

 

「シェアッ!」

 

 ウルトラマンゼロが飛び込んできてジードをキャッチ。レーザーの狙撃とブラックホールから彼を逃がして着地した。

 

『ふぅ。危ないとこだったな』

『ゼロ……! 助かったよ、ありがとう!』

 

 ジードはゼロに礼を言い、二人でギャラクゼガンに向き直った。

 

 

 × × ×

 

 

「ゆきのん! こっち!」

「戦いはもう始まっているのね……!」

 

 結衣と雪乃の二人は、他の生徒たちの波に逆らって総武高校校舎の廊下を走り、窓からジードたちの戦いの様子を一望した。

 今からでは、自分たちでは八幡らに加勢することは出来ない。二人はジードたちの勝つことを祈って見守る他はなかった。

 

 

 そんな二人と同じように、いろはも戦いを見守っている。

 

「先輩……! 先輩がわたしたちのこと、守ってくれてたんだ……!」

 

 ギャラクゼガンと相対するジードの背中に、熱い視線を送るいろは。胸の前でぎゅっと握る両手は、心なしか感情の高ぶりが反映されたように熱く感じていた。

 

 

 × × ×

 

 

(♪ジード戦い‐劣勢2)

 

 ジードとゼロは一瞬だけ、ゼガントスパークの被害跡を見やった。時空の穴によって、町の一画はぽっかりと削り落とされてしまった。

 恐ろしい威力。この攻撃の前では数に優位があっても油断はならない。

 

『行くぜッ!』

 

 それでも怯えることなくゼロが突っ込んでいこうとしたが、

 

『根絶やしにしてくれる!!』『これが我が使命!!』

[[フュージョンライズ!]]

 

 そこにヴォルカニック・ザンバードンが横から滑空してきて、クチバシではね飛ばされる。

 

「ケエエオオオオオオウ! ギャアアアアアアアア――――――!」

『うおッ!?』

「アアオオウ! アアオオウ! ギャアアオウ!」

 

 更にマグマゴメスが熱線を吐いてきて、ゼロは爆撃をどうにかガードした。

 

『ゼロッ!』

『「材木座!」』

 

 思わず叫ぶジードと八幡。連続攻撃を食らっても何とか無事だったゼロに、ルドレイの変身したザンバードンとオガレスのマグマゴメスが接近していく。

 

『『殿下の邪魔はさせん!』』

『『フハハハハハ!』』

『ちッ……こいつらがいるんだった……!』

『「うぬぅ……厄介な奴らよ……!」』

 

 ゼロはザンバードンとマグマゴメスによってジードから分断された。そしてジードには再びギャラクゼガンが攻撃してくる。

 

「ピュアァァ――――! キュウッキュッキュッキュッキュウ!」

「ウッ!」

 

 稲妻状の光線で狙い撃ってくるギャラクゼガン。ジードはジードクローで必死に光線を弾き返すものの、攻撃の激しさに防戦一方である。

 追いつめられていくジードに対して、レイデュエスが傲然と言い放つ。

 

『「俺を異次元に追放しようとこんなカプセルを用意したか! だがお前らがどんな手を打ってこようと無駄だッ! どうしたところで、テメェらが戦いの末に死ぬという運命は変えられねぇんだよ!!」』

『「また馬鹿なことを抜かしやがって……運命とかそんなもんを、お前に決められる筋合いなんかねぇよッ!」』

『「そいつはどうだろうなぁ!?」』

 

 言い返した八幡だが、ギャラクゼガンからの攻撃の手は更に激しくなる。稲妻光線に加えてレーザーまで飛んでくる。

 

『このままじゃ駄目だ! 無理矢理にでも反撃しよう、八幡!』

『「おうよ!」』

 

 八幡がジードの呼びかけに応え、相手の攻撃を耐えながらジードクローを構えて必殺技の発動を狙う。が、

 

「キュウオッ! ピュアァァ――――! キュウッキュッキュッキュッキュウ!」

 

 それより早くギャラクゼガンが再びゼガントスパークを放ってきた!

 

「ハッ!?」

 

 ジードは反射的に身体を傾け、ゼガントスパークをぎりぎりでかわした。ゼガントスパークは、今度は空に次元の穴を開く。

 

「クッ……!」

 

 背後のブラックホールの吸引に耐えるジードだが……その首に、ギャラクゼガンの尻尾のアームが伸びてきてアームで鷲掴みにされた!

 

「ウゥッ!?」

『「がッ……!? しまった……!」』

 

 動きを封じられて宙吊りにされるジード。そしてギャラクゼガンは、右腕を半回転させて刃を前に向けた。

 それをジードのカラータイマーに、突き刺した!!

 

「アッ――!」

 

 ――この瞬間、結衣や雪乃、いろはら戦いを見守る者たちが顔面蒼白となった。

 

「キュウオッ! ピュアァァ――――!」

 

 ギャラクゼガンは更に、カラータイマーを貫いたジードをブラックホールへ投げ捨てる!

 

『ジード!!?』

『「は、はちまぁぁぁんッ!!」』

 

 絶叫するゼロと材木座。ジードを受け止めようと飛び出そうとしたが、その背にザンバードンとマグマゴメスの火炎を食らって撃ち落とされた。

 

『ぐわぁッ! ジードぉぉぉぉ――――――――!!』

 

 力とともに、瞳の光を失ったジードはなす術なくブラックホールに吸い込まれていく。

 

 

 心臓を貫かれたジードに向かって、いろはは必死に手を伸ばしていた。

 

「嫌あああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!! 先輩、死なないでぇぇぇぇぇぇぇ―――――――――――――――っっ!!」

 

 その叫び声とともに、いろはの胸から光の欠片が飛び出し、ジードを追ってブラックホールの中に飛び込んでいった。

 その直後に、ブラックホールは閉ざされる。

 

 

 × × ×

 

 

 次元の狭間に投げ捨てられたジードは、全くの力を失ったまま空間の果てに流されようとしていた。

 ジードの体内の超空間も熱を失い、八幡もまたジードとともに命を失おうとしていた。

 

(……何度も奇跡的な復活をしたってのに……いざ死ぬ時はこんなにも一瞬なんてな……)

 

 八幡はわずかに残っている命のともし火が続く中で、自嘲気味につぶやいていた。助かろうと思っても、もう身体に全くの力が入らない。カラータイマーを完全に砕かれてしまっては、たとえウルトラマンでも立ち上がることは絶対に出来ない。

 

(色んなことが変わり始めて……クリスマスのイベントもこれからだったってのに……みんな、ごめんな……)

 

 八幡は最期にせめてもと、残していく人たちの顔を思い出しながら謝った。ライハやペガ、レム、材木座、戸塚、小町……雪乃、結衣……最後に語り合った、いろは……。

 その時に、いろはから飛び出した光の欠片がジードに追いつき、その身体に宿った。

 

「――フッ!?」

 

 瞬間、ジードの瞳に光が戻り、異次元空間の中で姿勢を正す。それに伴い、八幡の意識もはっきりとよみがえった。

 

『「あ、あれ!? 生きてる……!?」』

『カラータイマーが……治ってる……!!』

 

 己の胸に触るジード。確かに貫通されたはずのカラータイマーが何事もなかったかのように元に戻っており、風穴は完全にふさがっていた。

 

『でも、どうして……?』

 

 自らが蘇生したことにむしろ戸惑いを隠せないジード。その時、八幡は腰のカプセルホルダーが輝いていることに気づいて、カプセルを一本引き抜いた。

 それまで真っ白だったカプセルに絵柄が浮かび上がり――豊かなひげを蓄えた、威厳のあるウルトラ戦士の姿が八幡の目に映り込んだ。

 

『「これって……!」』

『――八幡!』

 

 それが何かを理解した八幡は、ジードにうなずくと、即座にカプセルの交換に移った。

 

『「ユーゴーッ!」』

『フエアッ!』

 

 一本目のカプセルには、ウルトラマンベリアル。それをナックルに装填すると、二つ目のカプセルを起動。

 

『「アイゴーッ!」』

『ダァッ!』

 

 よみがえったカプセルから現れたビジョンは――ウルトラマンキング。

 

『「ヒアウィーゴーッ!!」』

 

 装填したベリアルとキングのカプセルを、ジードライザーでスキャン。

 

『「はッ!」』

[ウルトラマンベリアル! ウルトラマンキング!]

 

 ジードライザーはいつもと異なり、スキャンしたエネルギーを放出して具現化。杖と剣が一体化したような武具を作り出す。

 

[我、王の名の下に!!]

 

 八幡はナックルからキングカプセルを抜いて武具の柄に差し込み、V字に輝く柄におもむろに手をかざす。

 

[ウルトラマンキング!]

『トワッ!』

『「ジィィィ―――――――ドッ!」』

 

 光り輝く剣、キングソードを握り締めたジードは、ベリアルとキングのビジョンと重なり合いながら、ふさがれた異次元の出口に向かって、吊り上がったベリアルの双眸を突き抜けて金色の粒子を纏いながら飛び出していく!

 

 

 × × ×

 

 

『ジードぉぉ! くそぉぉぉッ!!』

 

 ゼロはあらん限りの声で叫び、ブラックホールの跡に向かって飛び立とうとするが、それをレイデュエスが嘲笑った。

 

『「無駄だぁッ! カラータイマーを貫通した上で異次元に放り込んだんだぞ! もう何をしても絶対に助からんッ! それこそ、伝説の超人ウルトラマンキングでも不可能――!!」』

 

 と豪語した頭上で、空に大きな亀裂が走った。

 

『「――あ?」』

 

 首を上げたギャラクゼガンの視線の先で、空間の穴が再び開かれ、黄金色の超人が杖を握った右腕を振り上げながら飛び出してきた!

 

[ウルトラマンジード! ロイヤルメガマスター!!]

『「変えるぜ! 運命!!」』

 

 その顔は、紛れもなくウルトラマンジード!

 

『「はあ!?!?」』

 

 目玉が飛び出そうなほどに驚愕したレイデュエスの面前に、悠然と降り立つジード。その肉体は紫と銀色に変わり、更に金色の防具とはためくマントを身に纏っている。

 

「あれは……!」

 

 雪乃と結衣は今のジードの姿に目を見張った。それはレムに見せてもらった、失われたジードの最強形態――!

 ロイヤルメガマスター!

 

『『あややややや!!?』』

『『これは一体どぉいうことだぁぁ!!?』』

 

 どうやっても生き返るはずのないウルトラマンジードが生還したことにオガレスとルドレイも唖然。そこにゼロが思い切り殴りかかった。

 

『『ごはぁッ!?』』

『残念だったなぁ! こっからが本当の勝負だぜ!』

 

 ゼロが二体を抑え込んでいる間に、ジード・ロイヤルメガマスターはギャラクゼガンへのリベンジを開始する。

 

(♪ウルトラマンジードロイヤルメガマスター)

 

『「比企谷テメェぇぇぇぇえええええええッ!! 何回殺せば死ぬんだあああッ!!」』

 

 怒号を発したレイデュエスは感情のままにゼガントスパークを発射。対する八幡はキングソードに六人のウルトラ戦士が描かれたカプセルを装填。

 

[ウルトラ六兄弟!]

『「はッ!」』

 

 柄に振り抜くように手をかざすと、突き出したキングソードからウルトラ六兄弟のビジョンが具現化して現れジードの前にバリアを張り巡らした。

 

「『ブラザーズシールド!!」』

『タァーッ!』『シェアッ!』『ダーッ!』『テアァッ!』『テェーイッ!』『トワァッ!』

 

 ウルトラ六兄弟に作り出すバリアが、ゼガントスパークを完全に防ぎ切る。

 

『何!?』

 

 驚愕して硬直したギャラクゼガンに、八幡はキングソードの柄に一回手をかざす。

 

[アン!]

「『バルカンスパークル!!」』

 

 突き出したキングソードを軸として王冠型の光のガトリングが出現。光弾の乱射を放ってギャラクゼガンを狙い撃つ!

 

「キュウオッ! ピュアァァ――――!」

 

 バルカンスパークルによって右腕の銃身を破壊されるギャラクゼガン。ならばと左腕の剣を武器に突進していくが、八幡はキングソードに二回手をかざした。

 

[アン! ドゥ!!]

「『スウィングスパークル!!」』

 

 キングソードの刀身が光に包まれ、振り抜かれるとギャラクゼガンの左腕が綺麗に切断された。

 

「ピュアァァ――――!!」

 

 少しずつ武装を失っていくギャラクゼガンの様子に、ルドレイたちが動揺。

 

『『殿下が危ない! オガレス、お前はウルトラマンゼロをッ!』』

 

 ザンバードンが飛び上がり、ジードに向かって飛びかかりクチバシで攻撃しようとする。が、

 

[ウルトラマン!]

『シェアッ!』

 

 八幡が柄にウルトラマンカプセルを装填して、キングソードを突き出した。

 

「『スペシウムフラッシャー!!」』

 

 柄から放たれたスペシウム光線が、ザンバードンを返り討ちにする!

 

「ケエエオオオオオオウ!! ギャアアアアアアアア――――――!!」

 

 ザンバードンは一撃で爆砕! それにたじろいだマグマゴメスにジードが振り向いた。

 

[ウルトラマンジャック!]

『テアァッ!』

 

 今度はジャックカプセルが装填され、キングソードの切っ先が突き出される。

 

「『ランススパーク!!」』

 

 繰り出されたウルトラランス型の光線がマグマゴメスを貫通する!

 

「アアオオウ!! ギャアアオウ!!」

 

 マグマゴメスもまた瞬殺される。融合獣を全く寄せつけない圧倒的な威力に人々は驚嘆。

 

『「おのれがあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」』

 

 それでもレイデュエスは戦いを捨てず、またもゼガントスパークを狙う。だが放たれる前にジードは空中に飛び上がり、八幡はジードライザーでキングソードをスキャン。

 

[解放せよ! 宇宙最強の力!!]

 

 そして柄に三回手をかざして、キングソードの力を最大に高める。

 

[アン! ドゥ!! トロワ!!!]

「『ロイヤルエンド!!」』

 

 左腕とキングソードで組まれた十字から、金色の粒子が光線となってギャラクゼガンに降り注いだ!

 

「キュウオッ! ピュアァァ――――!! キュウッキュッキュッキュッキュウ!!!」

 

 黄金の光に覆い尽くされたギャラクゼガンは、跡形もなく玉砕! 破片は金色の粒子となって消えていった。

 流れるように敵を撃退し、町を救ったジードは、マントをはためかせながら優雅に着地した。

 

 

 × × ×

 

 

 ギャラクゼガンの爆破跡からは盗まれたゼガンカプセルが回収されたが、激戦に耐え切れなかったか発見された時にはバラバラに砕け散っていた。復元することも検討されたが、ジードたちはこれ以上人間たちの都合に振り回されるゼガンの魂を憐れみ、それに反対した。どの道、作戦は既にばれている。レイデュエス対策には別の手段が講じられることとなった。

 この戦いの翌日には、八幡たちは予定通りにディスティニィーランドに行くことが出来た。取材は問題なく完了し、結果は上々。八幡たちはクリスマスイベントの確かな構想を着想することに成功したのだが……。

 

「はー……。駄目でしたねー……」

「……いや、お前、今言っても駄目なことくらい分かってたろ」

 

 帰りのモノレールの中、他の面々と別れた八幡はいろはと二人で話をしていた。その内容は、いろはがディスティニィーランドで葉山に告白し、振られたこと。

 いろははどうせディスティニィーランドに行くのだからと、好意を寄せていた葉山を招待していた。そこまでは八幡も察していたのだが、いろはが告白まで踏み切ったことまでは予想外であった。

 

「お前はもっとクレバーな奴だと思ってたんだが」

 

 と八幡がつぶやくと、いろはは口元に苦笑を浮かべた。

 

「だって、ジーッとしてられなくなっちゃったんですもの。ジーッとしててもドーにもならないなんて、誰かさんが言うから」

「え?」

 

 思わず虚を突かれる八幡。それはジードからの受け売りであり、自分が口にするようになった言葉だ。

 見れば、いろはが何やら真面目な面持ちでこちらを覗き込んでいた。

 

「こんなわたしになっちゃったの、先輩のせいなんですからね。先輩があんな背中を、わたしに見せるから。だから」

 

 ぐすっと失恋の嗚咽をこらえながら、いろはは八幡の耳元に顔を寄せて囁いた。

 

「責任、とってくださいね」

 

 そして、小悪魔めいた笑顔で八幡に微笑みかけた。

 

 

 

『ウルトラストーリーナビ!』

 

いろは「どうもー! 今回は『ウルトラマンレオ』第五十話「レオの命よ!キングの奇跡!」です!」

いろは「ウルトラマンレオに差し向けた円盤生物が全部やられてるブラック指令は、最強の円盤生物をブラックスターに要請しました。けどやってきたのは、力が全然ないブニョ。ブラック指令は怒って追い返そうとしますが、ブニョは知恵でレオを倒すと宣言します。その言葉の通りにゲンに騙し討ちを仕掛けるブニョですが、ゲンは見破って返り討ちに。ですがブニョは、今度は下宿してる美山家の人を人質に取る卑怯な手段に訴えてきました! ブラック指令たちの罠に掛かってしまったレオはどうなるのか……という話です」

いろは「このエピソードは『レオ』の最終回の一つ前。『レオ』最終クールの円盤生物シリーズもいよいよ大詰めで、レオに史上最大のピンチが降りかかります。それを救うウルトラマンキングの奇跡が見どころですよ!」

いろは「ウルトラマンキングは『レオ』で初登場したウルトラ戦士です。その力はウルトラ一族の中でも別格と設定されてて、数々の超人技を披露してます。『ジード』では遂に宇宙全体と一体化するということまで。すごいですよね」

ジード『ブニョは星人を自称してて、明らかに人格があったりと他の円盤生物とは一線を画した存在だ。だから本当に円盤生物なのかと議論されることもあるんだよね』

いろは「それでは、次回をお楽しみにっ!」

 




結衣「それにしても、ハッチー生き返ってよかったよー! あたし、少し泣いちゃったんだよ」
雪乃「心臓を貫かれて明らかに即死だったのに、傷一つ残さないなんて流石は伝説の超人というだけあるわね……」
八幡「俺自身、生きてるのが不思議な気持ちだ。あの状況から助かるなんて、自分のことだが全く驚きだぜ……」
レム[ですが、ウルトラマンキング自身の超能力を考えればそこまで不思議なことでもありません]
結衣「えっ、本人はもっとすごいことが出来るの!?」
ジード『まぁ、宇宙全体を再生するような人だしね』
レム[記録によれば、全身冷凍された上に五体バラバラにされて投棄されたウルトラ戦士も蘇生したことがあります]
雪乃「えっ」
八幡「それ自体より、そこまでして殺す奴がいたという事実がドン引きだぞ……」



次回、『あの闇に約束の炎を灯せ。』



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あの闇に約束の炎を灯せ。(A)

 

 地球の衛星軌道上に潜伏するレイデュエス一味の円盤。その中央ルームの玉座にレイデュエスが腰掛け、壁際には兵士のフック星人たちが整列する。その中で、オガレスとルドレイがレイデュエスにある人物を紹介していた。

 

『殿下、内通者のプロテ星人はAIBから追放されてしまいました』

『ですが新たな協力者が見つかりました! ご紹介します』

 

 左右に分かれた二人の後ろから前に出てきたのは、顔の半分ほども皮膚のヒダが占めている宇宙人。

 

「ほぉ、ゼラン星人か。本当にAIBを裏切るつもりなのか?」

『もちろんです。元より、機を見て他の星を出し抜くつもりで所属してましたので』

 

 ゼラン星人は薄ら笑いを浮かべながらそう答えた。

 

『ウルトラカプセルを全ていただけるというのなら、いくらでもお力添えしますとも。AIBのお人好しどもも、裏切り者が見つかってすぐに寝返りが起こるなどと思いもしまい』

「ハハハハッ! 何ともひどい奴だ。全くゼラン星人は嘘吐きだな」

 

 カカッと笑い飛ばしたレイデュエスは、不意に立ち上がってゼラン星人にゆっくり近づいていく。

 

『?』

「全く、本当に……」

 

 呆気にとられたゼラン星人の正面に立ったレイデュエスは――いきなりその耳に手を伸ばし、耳孔に仕込まれていた盗聴機カメラを奪い取った!

 

『あッ!?』

「ゼラン星人は嘘吐きだなぁッ!!」

 

 全員が驚愕する中、ただ一人レイデュエスは凶悪な笑みを取り上げたカメラのレンズに向けた。

 

 

『いかんッ!』

 

 AIB本部で、ゼラン星人のカメラから送信される映像を監視していたゼナたちは、モニターにいっぱいとなったレイデュエスの顔に激しく動揺した。

 陽乃は思わずマイクに飛びつき、ゼラン星人に向けて叫ぶ。

 

「逃げてっ!!」

『陽乃、離れろッ!』

 

 咄嗟に彼女をマイクから引き離すゼナ。直後に、電波に乗せられてきたレイデュエスの魔力によって機材が火を噴き始める。

 ゼナたちは全速力で脱出。直後にモニタールームは大爆発を起こした。

 

 

 ――円盤の中央ルームの床に、首と切り離されたゼラン星人の身体が横たわった。一部始終を目の当たりにしたオガレスとルドレイはしばし唖然としていたが、我に返ると冷や汗をかきながらレイデュエスにおべっかを使い出す。

 

『さ、流石は殿下! 正体を一瞬で見破られるとは!』

『そのご慧眼、まことに天晴れ……』

 

 レイデュエスは途端に目を怒らせ、二人をどつき倒した。

 

『あだッ!』

「のこのことスパイ連れてきやがってッ! このウスノロどもがッ! 俺の手を焼かせてばかりいるんじゃねぇよッ!!」

『も、申し訳ありませんッ!!』

 

 床に額をこすりつけて必死に謝罪するオガレスたち。それを冷え切った目で見下ろしたレイデュエスは、フンッと吐き捨てて踵を返した。

 

「ここは見つかった。すぐに座標を移すぞ。それからそいつを片づけておけッ!」

『ははぁッ!』

 

 深々と頭を下げるオガレスとルドレイを一顧だにせず、奥の部屋に下がっていこうとするレイデュエス。だが周りのフック星人たちが冷や汗混じりにこちらを見ているのに気がついて、不機嫌そうに歯ぎしりした。

 

「何を見てる……。お前らも役に立たないようなら、そいつみたいにして宇宙に放り捨てるからなッ! 肝に銘じとけッ!!」

 

 恐喝されたフック星人たちは慌てて敬礼。そしてレイデュエスが奥の部屋に移って姿が見えなくなってから、オガレスとルドレイは恐る恐る立ち上がった。

 

『ヒヤヒヤした……。最近の殿下はいら立たれてばかりだ』

『無理もあるまい……。ずっと負けが込んでるのだからな』

『一体いつまでこんな状態が続くのだろうか……』

『分かるもんか……』

 

 二人はどっと疲れた様子で、閉め切られた扉を見つめた。

 

 

 AIB本部で、ダンッ! と激しい音が鳴り響いた。

 力いっぱいにテーブルを握り拳で叩いた陽乃に、ゼナがいさめるように呼び掛ける。

 

『あまり荒れるな、陽乃。気持ちは分かるが……あいつも危険な任務であることは承知していた。感情を乱せば、いざという時に自分の命を危うくするぞ』

「大丈夫ですよ、ゼナ先輩……」

 

 うつむいていた陽乃が、ゆっくりと顔を上げる。

 

「感情を乱してなんかいません。冷静でいますよ……」

 

 その言葉の通り、陽乃の瞳は熱くなってはいなかった。――反対に、極寒の氷原のように静かに冷え切っていた。

 

 

 

『あの闇に約束の炎を灯せ。』

 

 

 

 総武高校の二学期の終業式。その二日後が、いよいよ海浜高校生徒会との合同クリスマスイベントである。八幡らは終業式後から明日に掛けて、イベントの大詰めを行う手筈となっている。

 イベントを開催するコミュニティセンターに向かう直前、八幡は平塚に呼び止められた。

 

「おお、比企谷」

「先生。何か用ですか?」

「いや、別に用というほどではないが、例のクリスマスイベントの進捗はどうなってるか少し気になったんでね。その後、順調か?」

「ええ、はい。どうにか当日には間に合いそうです」

 

 延々と進まない会議を繰り返すばかりであった総武・海浜の生徒会であったが、ディスティニィーランドの取材後、会議に臨む姿勢を入れ替えたいろはを中心として奉仕部が強い働きかけをしたことにより、ようやく会議は回り出した。そして今までの遅れを取り戻す勢いで準備が進められ、イベントは急ピッチで形になってきているのであった。

 それを聞いた平塚はほっと安心したような表情となる。

 

「そうか、成功しそうならそれで何よりだ。……しかし」

 

 平塚が不意に自分の顔をジロジロ観察してきたので、八幡はややたじろいだ。

 

「な、何ですか? 今更、俺の顔が変とか言うつもりじゃないでしょうね」

「いいや。変と言うよりは……大分マシな面構えになったなぁ、と感じたんだ」

「マシな?」

 

 きょとんとする八幡に、平塚は苦笑交じりに告げる。

 

「何しろ奉仕部に入れる前の君と来たら、それはもう腐った目をしていたからな。このままではこいつの将来はかなりまずいと、本気で心配したからこそ奉仕部に入れた訳だ。作文などきっかけに過ぎん」

「そ、そうだったんですか」

「しかし今は、目つきの悪さは相変わらずとはいえ、よどんだ雰囲気がなくなった。奉仕部での日々を通して、私が予想した以上に内面に大きな変化を起こしたみたいだな。もう私が世話を焼く必要がないというほどに……それはそれで少し寂しい気もするがな」

「はぁ……そうでしょうか」

 

 気の抜けたような返事をした八幡を、平塚はじっと見つめた。

 

「ただ……それは、『奉仕部』という場所だけが要因ではないみたいだが」

「へ!?」

 

 八幡は一瞬ドキリとして平塚に振り向き直る。

 

「君のひねくれ度合いは筋金入りだった。雪ノ下や由比ヶ浜だけに、ここまで君を変えることが出来たとは少し考えにくい。他に、私が知らないような人との関わりがあったのではないか?」

「えッ、い、いや~、何のことですか? ちょっと何言ってるかさっぱり……」

 

 核心を突いた質問をしてくる平塚に内心動揺しまくりの八幡であったが、平塚の方が笑い飛ばしてクルリと背を向けた。

 

「何てな。別に私は君の保護者ではない。どこの誰との関係があったとしても、いちいち関与しようなんて思わないさ。そんなことより、イベントの準備を頑張ってくれ」

「あッ、はい……」

 

 呆気にとられる八幡をその場に置いて、平塚は立ち去っていった。その後にペガがにゅっと顔を出す。

 

「ふぅ~、ちょっとヒヤヒヤしたよ。平塚先生、ペガたちのことに気づいたのかと思った」

『僕もドキッとしたよ。でも、他の人から見ても八幡って明るくなったように見えるのかな』

「毎日顔を見てるペガたちにはよく分からないけど、あんなことを言うからにはそうなんじゃないかな」

『そうなら、先生の言ったように、それは僕たちのお陰でもあるよね!』

 

 と得意げになるジードであるが――当の八幡は、何やら神妙な面持ちで何か考えに耽っていた。

 

 

 × × ×

 

 

 その日の準備の終了後、八幡たちは帰宅前に一度星雲荘に集合していた。

 

「ふぅ~……今日も一日疲れましたねぇ。イベントで何やるか決まったのはいいですけど、体力的にしんどいのはむしろそこからでしたね」

 

 どっと息を吐いてテーブルにもたれかかったのは……いろはであった。八幡は彼女に冷めた視線を向ける。

 

「……どうしてお前が当たり前かのようにいついてんだよ」

「えー? いいじゃないですかぁわたしにも秘密基地使わせて下さいよ~。仲間外れなんてしたら、先輩たちのことネットに晒しちゃいますよぉ?」

 

 さらっと脅してくるいろはに、八幡たち一同ははぁとため息を吐いた。

 ギャラクゼガンとの戦闘時、いろはは八幡がジードに変身するところを目撃していた。いろははそのことを秘密にしてくれることを約束したが、代わりに自分もジード部の仲間に入れることを要求してきたのだった。曰く、『バラしてもわたしに得はありませんし、それより地球を守る仲間になった方がずっとやり甲斐あるじゃないですか~!』とのこと。

 雪乃と結衣はじとっと八幡に目を向ける。

 

「駄目じゃないの、八幡くん。ちゃんと周りには気をつけないと」

「こんなこと繰り返してたら、いつかホントに秘密ばれちゃうよ、ハッチー!」

「いや、あん時は一刻を争う事態だったし……!」

「何だか八幡、良くないところもリクに似てきたわね。リクも不注意だったし……」

『そ、そのお陰でライハはここにいるんじゃないか!』

 

 八幡とジードが言い訳をしていると、ズイッといろはが話に割り込んできた。

 

「そんなことよりっ! 先輩たち、何さらっと下の名前で呼び合ってるんですかぁ!? 準備中は全然そんな素振りなかったのにぃ!」

「いえ、それは八幡くんが表だと嫌がるからで……」

「嫌がるって……はっ! 先輩、まさか隠れて二人と同時につき合ってると……!」

「そういうことじゃねぇよッ! そんな勘繰りされるから嫌なんだよ!」

「そういうの意識しすぎるのが良くないんじゃないかなぁハッチー」

 

 やいのやいの騒ぐ八幡に、雪乃が真顔になって忠告を向ける。

 

「でも真面目な話、八幡くんは本当に人の目には注意した方がいいわ。誰しもが口を閉ざしてくれるとは限らないのだから。秘密を守るには、知っている人数が少ないに越したことは……」

「お兄ちゃぁ―――んっ!!」

 

 言いかけている途中でいきなり虚空に穴が開き、中から八幡が毎日目にしている顔が飛び出してきた!

 

「おわぁ小町ッ!!?」

「勉強苦しいよぉ~! これ以上英単語詰め込んだら小町パンクしちゃうよ~! ふえぇん……!」

 

 皆が仰天する中、小町は八幡に抱き着いてすすり泣いた。

 

「いや、お前今どっから……っていうかこれって……!」

「……あれ? ここどこ? 何か白いのいるしっ!」

 

 冷静になった小町は星雲荘の内装や、ペガの姿に吃驚していた。

 

 

 × × ×

 

 

[――以上が、今日までの私たちの経緯となります]

 

 どこからともなく星雲荘に入り込んできた小町は、レムからおおまかな事情を聞いていた。

 

「はー、ふ~ん、そうだったんだぁ。お兄ちゃん何か小町に隠れてやってるな~って思ってたけど、そういうことだったんだ。あっ、皆さんどうも兄がお世話になってます!」

「いえいえ」

 

 納得した小町はライハたちにガバッとお辞儀した。その一方で、雪乃は八幡に厳しい視線を向ける。

 

「言った傍から……」

「今のは不可抗力だろッ! どう防げってんだよ! っていうか小町!」

 

 言い返した八幡が小町に振り向く。

 

「今の何だったんだ!? お前、どこから出てきたんだよ!」

「えー? うーん……小町にも分かんないけど、さっきまで家にいたはずだよ。でも勉強に詰まって、それでいっぱいいっぱいになっちゃって……気がついたらここに」

 

 小町は中学三年の受験生なので、この時期は追い込み中である。そのストレスで感情が昂ったのだろうが……そのせいで何が起こったのかは本人で理解していなかった。

 代わりに、レムが記録した映像から、急遽呼ばれた材木座の目を通してゼロが分析した。

 

「この空間の穴、マユの時と同じものだな。つまり、俺の力と同じってことだ」

[間違いなく、リトルスターの超能力によるものですね]

「お兄ちゃん、何か中二さん雰囲気違くない? 眼鏡なんか外しちゃって」

「今のあいつは二重人格みたいなことになってるからな」

 

 八幡が小町に答えている傍ら、雪乃は結衣と顔を合わせる。

 

「まさか、小町さんもリトルスターを発症するなんて……」

「リトルスターってまだ残ってたんだね。しかも小町ちゃんがなんて……」

 

 ペガはレムに質問を投げかける。

 

「でも、宇宙が違うとはいえ同じタイプのリトルスターの発症なんて初めてのことだよ。この場合、カプセルに移すことは出来るの?」

[リトルスターとカプセルの関連については私にも不明な部分はありますが、対応するカプセルならば存在します。譲渡の成功確率は99%です]

「それならいいんだが……」

 

 とつぶやく八幡。雪乃と結衣も密かに小町の心配をしていた。

 

「ええ。譲渡が出来なければ、小町さんの身が危ないままだものね、八幡くん」

「っていうかこうしちゃいられないよハッチー! 今まさに小町ちゃんが危ないよ!」

「ああ。俺もそれを考えてたとこ……」

 

 うなずきかけた八幡だが、そこに小町が首を突っ込んでくる。

 

「んん!? 雪乃さんに結衣さん、お兄ちゃんへの呼び方が……。お、お兄ちゃんっ! いつの間にお二人との仲をこんなに縮めて……もぉ~小町に言ってよぉ水臭いな~!」

「だぁからぁ! すぐそっち方向に話持ってこうとすんなって!」

 

 いろはに引き続きで、思わず声を荒げる八幡であった。が、小町の興奮は止まらない。

 

「でもでも! 聞いた限りじゃ、お二人と何度も協力して危機を乗り越えたんでしょ!? それってもうチェックメイト同然じゃ~ん! ねぇねぇ、結局どっちを選ぶの?」

「ちょっとは落ち着けってコラ!」

「い、今はわたしも仲間ですよっ!」

「今お前は何に張り合うつもりなんだ!?」

 

 いろはまで混ざってきてツッコミが忙しい八幡。雪乃と結衣の方は小町の言葉に照れてもじもじしている。

 これらをあきれ顔でながめていたゼロは、場を取り仕切るように八幡たちに呼びかけた。

 

「はしゃぐのはその辺にしな。そろそろ真面目になんなきゃ、騒いでなんかいられねぇ事態になるぜ」

『ああそうだ。きっとあの男は、これ以上のリトルスターを許そうとしないはずだ! 気を引き締めないと……!』

「それって、先輩たちの言った敵……!」

 

 ジードの言葉に、いろはがハッと息を呑んだ。

 

 

 × × ×

 

 

 ゼロたちの言う通り、レイデュエス一味は星雲荘から地表を貫いて昇るリトルスターの光を目ざとく見つけてもう行動に移っていた。

 

「既にリトルスター発症者は比企谷どもに接触してるか。だがこれ以上のウルトラカプセルなど許さんッ!」

 

 レイデュエスは八幡たちへの憎悪を駆り立てながらブラッドライザーを握り締めた。

 

「イッツ!」『ウオオォォ――――――――ン……!』

「マイ!」『グイイイイイィィィィィ……!』

「ショウタイム!!」

フュージョンライズ!

 

 レイデュエス魔人態が漆黒の鎧と武骨なロボットのビジョンを吸い込んで、レイデュエス融合獣に変身していく。

 

アーマードダークネス! インペライザー!

レイデュエス! インペリオダークネス!!

 

 鈍色と黒の入り混じった鋼鉄に、肩部に三連ガトリング砲、腕部に大剣とドリルで武装した鎧の怪物となる。闇黒の支配者の手によって生み出された悪夢の兵器同士を合成させた戦慄と絶望の融合獣、インペリオダークネスである!

 



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あの闇に約束の炎を灯せ。(B)

 

 突然に、星雲荘に警報が激しく鳴り響く。慣れていないいろはや小町は大きく身体を震わせた。

 

[レイデュエス融合獣が出現しました]

「もう出てきやがったか!」

 

 反射的に腰を浮かす八幡。しかし、衝撃はすぐに星雲荘全体を襲った。

 ドガァァンッ!

 

「きゃああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 いろは、小町の絶叫が響き渡った。レムが何事か報告する。

 

[融合獣からの遠距離攻撃を受けています]

「待ったなしってか? くそッ」

「レム、すぐエレベーターを!」

 

 ゼロが吐き捨て、八幡はエレベーターの用意を促す。そしてすぐにエレベーターへ駆け込んでいこうとするが、

 

「お、お兄ちゃんっ!」

 

 後ろから服の裾を、小町に掴まれた。振り向くと、小町が青ざめた顔で自分を見上げている。

 

「お兄ちゃん……小町が知らない間に、何度も同じことをしてたんだろうけど……戦いに行くの? 危険なのに……?」

 

 小町の瞳には、焦燥と不安の色が入り混じっていた。

 八幡がウルトラマンジードと知っても比較的落ち着いているように見えた小町。しかし実際の敵が近づいて、八幡に命の危機が迫っているということを実感したのであろう。彼女もまた、ジードが数え切れないほど死にかかった姿を目にしているのだ。

 不安で押し潰されてしまいそうな小町に対して、八幡はその頭をそっとなでた。

 

「そんな顔するな。俺なら何があろうと必ず帰ってくる。いつだってそうだったろ?」

「うん……でも……」

「何、こっちはもう慣れっこだ。だから大丈夫だよ。小町には指一本だって触らせねぇ。兄を信じて待ってろって」

「お兄ちゃんを信じるってのがちょっと難易度高い気がするけど……」

「おい、この場面はうん、分かったって言うとこだろうが」

 

 ビシッと突っ込む八幡。それで緊張がほぐれたようで、小町は苦笑を浮かべた。

 

「……うん、分かった。じゃあ約束してね、必ず帰ってくるって。ジードさんも」

「もちろんだ」

『ああ。八幡のことは必ず僕が守るよ!』

「八幡! そろそろ行かないとやべぇぞ!」

 

 小町に力強く応じたところで、雪乃、結衣とともに既にエレベーターに乗り込んでいるゼロが呼ぶ。

 

「おう!」

「いってらっしゃーい!」

「せ、先輩たち、頑張って下さーい……」

 

 小町と、腰を抜かしてしまってペガに支えてもらっているいろはらに見送られ、八幡たちを乗せたエレベーターが地上に転送していった。

 

 

 × × ×

 

 

 星雲荘が隠れている展望台前は、どこからか飛んでくる光弾の砲撃を受け続けている。その光景を目の当たりにした千葉市の人々は、何事かと騒然となっていた。

 

「……!」

 

 黒いスポーツカーを運転して帰宅する途中であった平塚もその内の一人であった。

 彼女はこの異様な光景を目撃すると、険しい顔で何かを考え込んでから、ハンドルを切った。

 平塚を乗せたスポーツカーは道を変え――展望台の方向に向かい始めた。

 

 

 × × ×

 

 

 エレベーターは展望台前の地上に転送してきて、その中から八幡たち四人が飛び出す。地面は砲撃の連発によってクレーターが出来上がっていた。

 

「さて、どこから攻撃してきてやがる……」

 

 八幡たちはこれ以上の砲撃を阻止するために、光弾の飛んでくる方向を見定めてフュージョンライズしようとする。

 がその瞬間に、彼らのすぐ近くにインペリオダークネスがワープしてきた!

 

「なッ……!?」

「グイイイイイィィィィィ……! ウオオォォ――――――――ン……!」

 

 途端に凍りつく八幡たち。その彼らを見下ろすインペリオダークネスが、両肩のガトリング砲を回転させて螺旋状の破壊光線を撃ってきた!

 

「危ねぇッ!」

 

 咄嗟にウルトラ念力を発動するゼロ。直後に光線が着弾してすさまじい爆発を引き起こす。

 

「うわああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ―――――――――!!」

「きゃあああああああああ―――――――!!」

 

 ゼロが念力で防御してもその破壊力は途轍もなく、四人は散り散りに吹き飛ばされてしまった。

 

「ぬああぁぁぁぁッ! 不意打ちとは卑怯なりぃぃッ!」

『くそッ! 俺たちが出てくるのを待ってたって訳かよ……!』

 

 喚く材木座に毒づくゼロ。彼らはどうにか受け身に成功するが、八幡たちはそうは行かず、強かに地面に叩きつけられる。

 

「ぐあッ!」

「あうっ!!」

 

 八幡は左腕を故障し、雪乃と結衣は足をくじいてしまう。三人の負傷に焦るゼロ。

 

『やべぇぜこりゃ……! 義輝、俺たちが頑張らねぇといけないみたいだぜ!』

「う、うむ!」

 

 材木座が動揺しながらもゼロアイを装着して、即座にウルトラマンゼロに変身する!

 

「セアッ!」

「グイイイイイィィィィィ……! ウオオォォ――――――――ン……!」

 

 変身直後に飛び蹴りを仕掛けるゼロ。インペリオダークネスは腕の大剣を盾にしてゼロをはね返した。

 

『汚ねぇ真似しやがって! 許しはしねぇぞッ!』

 

 義憤をたぎらせてインペリオダークネスを止めようとするゼロであったが、

 

「ギャアオオオオオオウ!! オオオオウ!!」

「ギアァッ! ギギギィッ! ギュルウウ!」

『ッ!』

 

 その背後からオガレスのフュージョンライズしたツインデスギラスと、ルドレイのベムスパークが出現した。

 

『貴様の相手は我らだッ!』

『ちッ! こいつらもいるんだった!』

 

 ゼロはツインデスギラスとベムスパークに挟み撃ちにされてインペリオダークネスから引き離される。その間に、インペリオダークネスは八幡たちに狙いを戻す。

 

「まずい……! 雪乃、結衣、お前らは星雲荘に引き返せ! その足じゃ戦えねぇだろ!」

「で、でも……!」

 

 八幡が叫ぶが、それはこの状況下で彼一人を残していくということだ。ためらう二人の背中を、八幡は無理にでも押す。

 

「こんくらいハンデみたいなもんだ。それより急げッ!」

「う、うん……!」

「ごめんなさい……!」

 

 攻撃が来る前にもう一度出てきたエレベーターに二人を避難させた八幡。そしてエレベーターが消えるとすぐに飛びのき、どうにか砲撃から逃れた。

 

「くそッ……!」

 

 雪乃たちにはああ言ったものの、傷は思ったよりも深く、ジードライザーを握るだけで鋭い痛みが走る。更にはインペリオダークネスが絶え間なく自分を狙って砲撃してくるので、逃げるだけで手いっぱいだ。

 

「こっちが変身するのくらい待ちやがれよ……!」

『八幡、頑張ってくれ!』

 

 ジードが内側から身体を支えても、フュージョンライズする隙もない。爆風が八幡の身体を煽る。

 

「うわぁッ! くそ……!」

 

 一体どうしたらいいのか……焦るその時に、融合獣がそこにいるにも関わらず、八幡の側に一台の車が走ってきて急停止した。AIBの車両ではない。

 

「えッ、車……?」

「比企谷っ!」

 

 運転席から降りてきたのは、何と平塚であった。

 

「平塚先生!? どうしてここに……!?」

「こっちだっ!」

 

 平塚は有無を言わさずに八幡の手を引っ張る。直後に飛んできた砲撃が、平塚の車に命中して木端微塵に吹き飛ばした。

 しかしその爆発が目くらましとなり、平塚は八幡を連れて林の中に逃げ込む。

 

「私の愛車が……。まだローンが残っているのに……」

「せ、先生、これはその……!」

 

 八幡がしどろもどろになりながらも言い繕うとするのを、平塚がさえぎる。

 

「いいんだ、比企谷。実はもう知っている。君がウルトラマンジードだとな」

「えッマジ!?」

「ジードが出てくるといつもいなくなるので前々からもしやとは思っていたが……先日、遂に現場を押さえてしまってな。見ていたのは一色だけではなかったという訳だ」

 

 そうだったのか……。緊急だったとはいえ、自分の迂闊さを八幡は少し恨めしく思った。

 

「まぁ色々と言いたいことはあるが、今はそれどころではないな。君もジードになる前から怪我をしている。……何か、私に出来ることはないか? これでも教師だ。教え子の力になることはやぶさかではない」

「……でしたら」

 

 八幡は手早く必要なことを教え、平塚がそれを実行する。

 

「なるほど。それでは……」

 

 コホンと咳払いしてから、平塚は預かったゼロカプセルのスイッチを入れる。

 

「ユーゴーっ!」

『セェアッ!』

「アイゴーッ!」

『ドゥアッ!』

 

 次いで八幡がウルトラの父カプセルを起動して、二つを装填ナックルに押し込んだ。

 

「ヒアウィーゴーッ!!」

[フュージョンライズ!]

 

 そして平塚に支えられながら、カプセルをライザーでスキャンしてフュージョンライズ!

 

[ウルトラマンゼロ! ウルトラの父!]

[ウルトラマンジード! マグニフィセント!!]

「ハァァッ!」

 

 八幡は平塚とともに遂にウルトラマンジード・マグニフィセントに変身し、インペリオダークネスの前に堂々と着地した!

 悠然と胸を張るジード。その超空間内で、平塚が目をキラキラと輝かせる。

 

『「おお……! この私が本物のスーパーヒーローに!! 夢みたいだぁ……!」

『「先生、こういうの好きそうですもんね……」』

 

 興奮し切っている平塚に、八幡は少しあきれ顔であった。

 

「ハッ!」

 

 それはともかくジードが拳を握り締め、インペリオダークネスに攻撃を試みようとするが――。

 

「グイイイイイィィィィィ……! ウオオォォ――――――――ン……!」

 

 それより早く、インペリオダークネスから唐突に暗闇としか言いようのないものが広がり出し、ジードを覆い込んでいく。

 

『な、何だ!?』

『「目くらましのつもりか!?」』

 

 一瞬うろたえるジード。一方でベムスパークの頭を抑え、ツインデスギラスの首筋に蹴りを入れていたゼロは暗闇を目の当たりにして目を見開いた。

 

『あれは……! ちょっとまずい事態になりそうだぜ……!』

 

(♪Attack on the City 都の戦火)

 

 闇が周囲を呑み込み、ジードは暗黒の異空間に閉じ込められる。そしてインペリオダークネスが大剣とドリルを武器に飛びかかってきた!

 

「グイイイイイィィィィィ……! ウオオォォ――――――――ン……!」

「ウオッ!?」

 

 相手の凶器をさばきつつ拳で反撃するジードだが、インペリオダークネスの装甲にあっけなく弾き返される。

 

『「硬てぇ! いや……!」』

『おかしい……身体に力が入らない……!』

 

 激しく動揺するジード。マグニフィセントは攻撃力の優れた形態なのに、その威力を十分に発揮できていないことにすぐに気づいたのだ。それは八幡が負傷しているからだけではない。

 

「「『ビッグバスタウェイ!!!」」』

 

 距離を取って必殺光線を発射するも、光線は空間を蝕む闇に侵食されて先細り、インペリオダークネスに弾かれてしまう。

 

『! やっぱり……この暗闇の中じゃ光は力を失ってしまうんだ!』

 

 それがインペリオダークネスの真の能力であった。暗黒の波動が光を司るウルトラ戦士のエネルギーを弱め、力を奪ってしまうのである。今のジードは普段の半分のパワーも出すことが出来ない状態に陥ってしまったのだ。

 

『「これが本当の狙いだった訳かよ……!」』

『こっちの能力を封じてしまう作戦だった訳か……!』

 

 圧倒的に不利な戦況に置かれて大いに焦るジード。今の状態では、切り札のロイヤルメガマスターも十二分な力を揮うことが出来ないだろう。それではインペリオダークネスに勝つことは出来ない。

 

「グイイイイイィィィィィ……! ウオオォォ――――――――ン……!」

 

 インペリオダークネスは左腕のドリルを切り離して射出してくる。それをジードは召喚したジードクローで弾き飛ばした。

 

「オォッ!」

 

 が、ドリルのなくなったインペリオダークネスの腕が変形してトライデントとなり、それが伸びてジードを攻撃してくる。

 

「ウオォォッ!」

 

 トライデントは防げずに突き飛ばされるジード。そのカラータイマーが赤く点滅を始めた。体力そのものの消耗も速まっているのだ。

 

『「ぐッ……大分やばいぜ……!」』

 

 追いつめられてうめく八幡。その彼を横で支えながら、平塚が激励した。

 

『「しっかりしろ、比企谷!」』

『「先生……!」』

『「君はウルトラマンジードとしても、比企谷八幡としても、様々な困難を乗り越えてきただろう! 私はずっと見てきたぞ。今更こんな程度の逆境に屈する君ではない! 今は、私も支えている!」』

 

 励ます平塚が自分の手を握り締め、その手の平から熱が伝わる。八幡も、この苦境の中で不敵な微笑みを浮かべた。

 

『「任せて下さい。小町とも約束したんだ。こんな真っ暗なとこで終わりなんて死んでもごめんですよ!」』

『そうだ! 僕たちは、光を呑み込む暗闇だって突破してみせる! 行こう!!』

 

 力を奪われながらも毅然と胸を張るジードの中で、平塚と八幡がウルトラカプセルを取り出す。

 

『「ユーゴーっ!」』

『ドゥアッ!』

『「アイゴーッ!」』

『フエアッ!』

 

 平塚がウルトラの父カプセル、八幡がベリアルカプセルを起動し、対極の人生と運命をたどった二人の戦士のビジョンが腕を振り上げた。

 

『「ヒアウィーゴーッ!!」』

 

 そしてジードライザーで二つのカプセルをスキャンし、光と闇の力をライザーに宿す。

 

[フュージョンライズ!]

『「ジィィィ―――――――ドッ!」』

 

 二人の戦士が八幡と平塚とともにジードの身体に重なり、新たなるフュージョンライズを行う!

 

[ウルトラの父! ウルトラマンベリアル!]

[ウルトラマンジード! ダンディットトゥルース!!]

「ハァァッ!」

 

 ベリアルの双眸が瞬く中、緑色の光の球から生誕した新たなジードが飛び出していく!

 

「グイイイイイィィィィィ……! ウオオォォ――――――――ン……!」

 

 そうしてインペリオダークネスの暗黒の中に立ち上がったのは、漆黒のたくましい肉体に先端が前に向けて曲がったウルトラホーンを生やした姿。手には独鈷型の武器を強く握り締めている。

 片や光を極めて偉大なる戦士の父として尊敬を集める男。片や光を妬んで闇に堕ちてしまった男。ウルトラの父とベリアルの相反する力を運命ごと受け継いだダンディットトゥルースだ!

 

(♪大怪獣バトル ウルトラ銀河伝説メインテーマ)

 

『「揮うぜ! 豪力!!」』

 

 真正面からインペリオダークネスに突っ込んでいくジード。インペリオダークネスはトライデントと螺旋光線で迎撃を図るが――ジードの拳が打ち払った!

 

「ドォアッ!」

「グイイイイイィィィィィ……! ウオオォォ――――――――ン……!」

 

 そして一撃が炸裂すると、装甲が砕けてインペリオダークネスがよろめいた。先ほどまでとは打って変わった、すさまじいパワーだ。

 ダンディットトゥルースは光の力と同時に、ベリアルの闇のパワーも宿している。そのジードの闇がインペリオダークネスの発する暗黒の波動を押し返し、侵蝕を防いでいるのだ。

 しかしベリアルの闇は、他ならぬジード自身に辛く苦しい運命を強いた元凶。その力を用いることは、ジードの精神に並々ならぬ負荷を与えてもおかしくないものだが――。

 

『僕は、自分の如何なる運命からも逃げない! 受け止め、その上で前に進んでいくッ! 闇の先へと踏み越えてみせるッ!』

 

 ジードは暗黒の運命をも完全に己の力とし、インペリオダークネスを押し返していく。丸太のような豪腕から繰り出される拳打が、トライデントをへし折った。

 

「グイイイイイィィィィィ……! ウオオォォ――――――――ン……!」

「オォォッ!」

 

 インペリオダークネスは右腕の大剣で斬撃を仕掛けてくるが、ジードは独鈷で受け止めてインペリオダークネスを突き飛ばした。更に独鈷を掲げてエネルギーを溜め、猛然とインペリオダークネスへ突き出す。

 

「「『ブレイザーバニシング!!!」」』

 

 独鈷から発せられた赤い稲妻状の光線が直撃! 暗黒の鎧に、盛大な炎を灯した!

 その衝撃によって、暗黒の空間が弾け飛んで元の地球の空の下にジードは出てこられた。

 

『おッ! やりやがったなジード! 俺たちも負けてらんねぇぜ!』

 

 ツインデスギラスとベムスパークを抑えていたゼロはジードの無事を確認すると、俄然張り切って闘志を増した。そして材木座がニュージェネレーションカプセルをスキャンする。

 

[ネオ・フュージョンライズ!]

『俺に限界はねぇッ!』

[ウルトラマンゼロビヨンド!!]

 

 ゼロビヨンドに変身するとクワトロスラッガーを手元に飛ばし、二本ずつ連結して変形させて二刀流の大剣、ビヨンドツインエッジで武装した。

 

「ハァッ!」

 

 ふた振りの剣を構えて融合獣たちへ駆けていくゼロ。ベムスパークの光弾を全て斬り払い、本体もすれ違いざまに叩き斬る。

 

「シェアッ!」

「ギュルウウ!! ギギギィッ!!」

 

 ベムスパークが撃破されると、ツインデスギラスが高速回転して突っ込んできた。だがゼロはビヨンドツインエッジでそれを正面から迎え撃つ。

 

「セェアッ!」

「ギャアオオオオオオウ!! オオオオウ!!」

 

 ツインエッジの乱れ切りが回転するツインデスギラスを貫き、細切れにして爆散させた。

 ゼロが二体の融合獣を撃退した一方で、暗闇から解放されたジードもいよいよ戦いを終わらせに掛かる。

 

『「ユーゴーっ!」』『フエアッ!』

『「アイゴーッ!」』『ダァッ!』

『「ヒアウィーゴーッ!!」』[ウルトラマンベリアル! ウルトラマンキング!]

 

 カプセルをベリアルとキングのものに交換して、召喚したキングソードにキングカプセルを差し込んだ。

 

[我、王の名の下に!!]

[ウルトラマンジード! ロイヤルメガマスター!!]

 

 満を持してロイヤルメガマスターに変身すると、キングソードにタロウカプセルを装填する。

 

[ウルトラマンタロウ!]

『トワァッ!』

 

 タロウの力を充填させたキングソードと腕でT字を作り、莫大な光のエネルギーを発射する!

 

「「『ストリウムフラッシャー!!!」」』

 

 ストリウム光線がインペリオダークネスに直撃。既にボロボロであったインペリオダークネスは耐久の限界を迎え、派手に爆散して光の粒として消えていった。

 ジードはその後を見つめ、やり切ったようにつぶやいた。

 

『僕の妹に手を出そうなんて、二万年早いんだ』

『「おい」』

 

 その途端に、八幡がじとっという目つきで口出しする。

 

『「小町は俺の妹だ」』

『似たようなものじゃないか』

『「いーや、こればっかりはお前でも譲らねぇぞ。かわいい俺だけの妹なんだからな!」』

『「格好良く決めたところで、シスコン発言はよしてくれ。締まらないだろう」』

 

 頑なな態度の八幡に、気の抜けた平塚が呆れたため息を吐き出したのであった。

 

 

「やったぁ! リクたちの勝利だ!」

「ええ。いつもハラハラさせるんだから」

 

 星雲荘では戦闘の結果にペガたちがわっと喜んでいた。雪乃と結衣の手当てをしたライハもほっと安堵する。

 そして小町はモニター上のジードに、涙ぐんだ熱い視線を送り、吐息交じりにつぶやいた。

 

「お兄ちゃん……ありがとう!」

 

 それとともに、彼女の胸元から光が離れて飛んでいく。

 

「あッ、リトルスター……!」

 

 リトルスターは地上に向けて昇っていき、ジードのカラータイマーに入り込んでいく。

 

『「おッ、小町のリトルスターが……」』

 

 リトルスターは新しいカプセルに宿り、表面に銀色の鎧を身に着けたゼロの姿を描き出した。

 

『セェアッ!』

[ウルティメイトゼロカプセル、起動しました]

『なるほど、そのカプセルだったか』

 

 新しいカプセルを確認したゼロが納得する。一方で、カプセルをまじまじと観察した八幡がポツリとつぶやいた。

 

『「何かゼロのカプセルだけ種類多いな」』

『まぁ、俺って色んな姿になってるからな』

 

 

 × × ×

 

 

 こうしてジードたちの活躍によって小町は護られ、クリスマスイベントも問題なく開催。各人の尽力によって無事に準備の整えられたイベントは好評を得て終了。奉仕部はまた一つ課題をクリアし、また一つ強くなったことに大きな満足感を覚えた。

 しかし、そう長いこと安心していることも出来ない。一番の悪の根源であるレイデュエスは未だ健在であり、再び八幡たちの首を掻こうとやって来るに違いないのだ……。

 

 

「くそッ……また失敗か……! あれだけの闇の力を使っても勝てないとは……!」

 

 円盤の中心部の、己の居室でレイデュエスはもう何度目になるかも分からない敗北に大いにいら立ちを募らせていた。

 

「オガレスとルドレイも時間稼ぎぐらいにしか役立たん。まぁ、あいつらがゼロを倒すことなんかは“初めから”期待しちゃいないがな……」

 

 独白しながら、視線を冷静にアーマードダークネスカプセルとインペライザーカプセルをセットしたカプセル製造装置に向ける。

 

「それにこっちの目的は狙い通りに果たした。ジードから浴びせられた光エネルギーの波長を反転させることで、必要な暗黒エネルギーの数値に達することが出来た」

 

 二つのカプセルをあえて砕くことで、内包されていた暗黒エネルギーを一つに集めて別のカプセルに移し替える。それによって起動したのは、暗黒の皇帝のカプセル――エンペラ星人カプセル。

 それを手に取ったレイデュエスは、カプセルを上座の棚に並べ立てた。この棚には大量の怪獣カプセルが並べられている。ゼットン、パンドン、バット星人、ジャンボキング、サメクジラ、ブラックエンド……エンペラ星人カプセルは、ギガバーサークとダークルギエルの間に配置される。

 

「これでまた一つ……着実に集まっている。だが……“コレ”を使ってしまえばどうなるか俺自身にも予測がつかない。出来れば、コレを使うことなくケリをつけたいところだが……」

 

 レイデュエスは何らかの目的に近づいているにも関わらず、その表情はどこか苦々しいものであった。

 その視線は怪獣カプセルの並ぶ棚の中央に向けられている。中央に置かれたカプセルの表面には――死神の如き容貌のウルトラマンベリアルが描かれていた――。

 

 

 

『ウルトラストーリーナビ!』

 

平塚「今回は『ウルトラマンメビウス』第三十話「約束の炎」だ!」

平塚「前回にメビウスは光の国からの帰還命令に背いてインペライザーに挑み、返り討ちに遭ってしまった。そしてミライとしても重篤の状態となるが、彼はGUYS JAPANベースを脱け出す。ミライがメビウスであることを知ってしまったリュウはミライを追いかけ、その口から何故ウルトラマンが地球を守るのかの理由を聞く。そんな中で再出するインペライザー。一度は退けたタロウも上回るほどとなった恐るべき敵に、メビウスは勝てるのか……という話だ」

平塚「それまでウルトラマンの正体が知られるのは最終盤なのが当然であったが、『メビウス』はその暗黙の掟を破って中盤で正体を明かしてみせた。これは当時衝撃的な出来事で、知らない人からしたらこれが最終回と勘違いしてしまうかもしれないな」

平塚「そこからは防衛チーム全員がウルトラマンの正体を知っていることを前提に話が展開されるので、シリーズに慣れ親しんだ人ほど新鮮な気持ちになることだろう」

ジード『メビウスはこの回で新しい形態、バーニングブレイブとなる! メビウス自身を象徴するような姿で、オーブのメビウスの力を使ったバーンマイトはこっちが基調になってるよ』

平塚「それでは、次回をお楽しみに!」

 




雪乃「まさか平塚先生まで気づいていたなんて……この数日で、どんどん秘密がばれていくわね……」
結衣「こんな調子で最後まで隠し通せるのかな……。流石に心配になってきたし」
いろは「あれ? 先輩はどうしたんですか?」
ペガ「八幡とリクなら……」
小町「つまり、ジードさん自身はお兄ちゃんとは別々の人間なんですね。でも今はお兄ちゃんと一心同体なんだし……ジードお兄ちゃんって呼ぶべきなのかな?」
八幡「小町ッ! 俺以外の男をお兄ちゃんだなんて、お兄ちゃん絶対許しませんからねッ!」
ジード『ぼ、僕がお兄ちゃん……! 何かこう、胸の辺りが妙にドキドキする……! このもどかしい感じは一体……!?』
ライハ「何だか、リクがおかしな方向に行きそうになってるわ……」
雪乃「……あの二人、本当に真剣に考えているのかしら……」



次回、『必殺!フォーメーション・GEED!』



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必殺!フォーメーション・GEED!(A)

 

 12月28日、午後2時。千葉県千葉市――。

 

「――ぬッ、ぬふぅッ!」

 

 崩壊したビルの瓦礫で出来た山の間からよろよろと出てきたのは、材木座。彼は自分の身体をペタペタ触って、今ここにあることを確認してどっと息を吐いた。

 

「い、生きてる……我生きてる……。もう死んだかと思った……」

『馬鹿なこと言うんじゃねぇよ。俺がついてて滅多なことにはならねぇ。……もっとも、こんなことになっちまった訳だがな……』

 

 残念そうにつぶやくゼロ。彼らの周囲にあるはずだった町並みは、崩壊して元の姿をすっかり失ってしまっていた。

 

「ああ、町が……」

『だが落ち込んでもいられねぇぜ。ジードたちはどこ行ったんだ……探さねぇと』

「う、うむ……!」

 

 ゼロの指示で立ち上がり、歩き出そうとする材木座。そこに、彼の近くに星雲荘のエレベーターが出現して中から結衣といろはが飛び出してきた。

 

「ハッチー! ゆきのん! 大丈夫!?」

「先輩たち! ご無事ですか!?」

 

 息せき切りながら出てきた二人だが、材木座の顔を確かめると、一拍の後に大きくため息を吐いた。

 

「何だ、中二か……」

「あぁッ!? 何その反応! 我も命がけの戦いしたんですけどー!? 身体のダメージ以上に傷ついた今のッ!」

 

 あからさまにがっかりされて、流石の材木座も声を荒げた。

 その直後に、近くの瓦礫の陰から八幡と雪乃がふらつきながら姿を見せた。

 

「俺たちならここだ……」

「ハッチー! よかった、無事だったんだね!」

「生きててよかったです!」

 

 クルリと踵を返してわっと喜ぶ結衣といろは。後ろで材木座がいじけるがもう眼中になかった。

 

「まぁ命は拾ったが、無事かと言われると……」

[早くエレベーターへ退避を。そこにいては危険です]

 

 身体を支えるので精いっぱいな八幡の返しの直後に、ユートム越しにレムが警告してきた。すると背景から、怪獣の咆哮が轟いてくる。

 

「バオオオオオオオオ! キャッキ――――イ!」

「やばい……! 確かに退いた方がいいな……!」

 

 危険を感じた八幡がつぶやき、彼らは急いでエレベーターの中へ避難していく。しかし雪乃だけはその場にたたずみ、怪獣を仰いでいる。

 

「ゆきのん、早くっ!」

「ええ……」

 

 結衣に急かされて足を動かす雪乃だが、ギリギリまでひどく悔しそうに怪獣をにらみ続けていた。

 

「バオオオオオオオオ! キャッキ――――イ!」

 

 エレベーターが地下へ消えていく中、直角の刀状の両翼を生やした恐竜型の怪獣――レイデュエス融合獣が炎を吐いて大暴れを続けていた。

 

 

 

『必殺!フォーメーション・GEED!』

 

 

 

 12月27日、午後2時。衛星軌道上の円盤。

 

「ちぃッ……! どうすれば比企谷の奴らを倒せるか、ちっとも思いつかん……!」

 

 レイデュエスが非常にいら立った様子でいるので、手下の宇宙人たちは内心ビクビクしながら見張りをしていた。レイデュエスの面前のボードには、「変身アイテムを奪う」「時間停止光線」「幻覚タバコ」などの作戦案がいくつも書き出されているが全てに×がつけられていた。

 レイデュエスはウルトラマンジードたちを打倒するための次の作戦が思いつかずにフラストレーションを溜めているのだった。

 

「ルドレイッ! たまには何か案を出せッ! いい考えはないのか!?」

『え、えぇッ!?』

 

 そしてそのいら立ちをルドレイにぶつけ出した。突然聞かれたルドレイは慌てふためく。

 

『い、いやぁ、そのぉ~……そう言われましても、私程度の頭では殿下のお考えには到底及びませんし……』

 

 目を泳がせながら必死に言葉を選ぶルドレイだが、その煮え切らない態度が余計にレイデュエスをいらつかせる。

 

「この役立たずがッ!」

『のわッ!?』

 

 その末にルドレイを力の限りに突き飛ばした。ルドレイはドアまで飛ばされる。

 

『遅めの昼飯~……』

 

 ちょうどそのドアから、出来立てのカップ麺を持ったオガレスが現れ、二人は衝突!

 

『ぎゃッ!?』

 

 いきなりのことにオガレスの手からカップ麺が吹っ飛び、カップ麺は空中で逆さとなって……。

 バシャッ!

 ――熱々の中身がレイデュエスに頭から降りかかった。

 

『――!?』

 

 途端、宇宙人たちは全員絶句。特にオガレスは真っ青になった。

 

「……オガレス」

 

 微動だにしないままレイデュエスに名を呼ばれたオガレスは、バッとその場に土下座した。

 

『ひぃぃぃぃッ! すみませんすみません! わざとではないんですぅッ!』

 

 超必死にペコペコ謝るオガレス。レイデュエスも、それを凍りついた目で見下ろしていたものの、自分が原因なのもあってかこれ以上咎めなかった。

 

「ちッ……気をつけろッ!」

 

 そう吐き捨てるとフック星人の持ってきたタオルで麺をぬぐい取り、負った軽い火傷は再生能力で治す。

 

「……!」

 

 だがその瞬間、レイデュエスはハッと息を呑んで治したばかりの己の腕に目を落とした。

 

『殿下……?』

 

 ルドレイたちが何事かと呆気にとられているのも構わず、次いで床に転がったカップ麺の容器に視線を移した。

 その後、急に天を仰いで高笑いし出す。

 

「ハッハハハハハハハッ! そうかこの手があったッ! 何でこんな簡単なことに気づかなかったんだろうなぁ! アハハハハハハ! ハハハハハハハハハハッ!!」

 

 レイデュエスが突然大笑いし出したので、周りの宇宙人たちはそろって呆然としていた。

 

『い、一体どうなさったのだ、殿下は……』

『とうとうストレスが限界になったのだろうか……』

 

 オガレスとルドレイは、こっそりとそんなことを話していた。

 

 

 × × ×

 

 

 12月28日、午後1時57分。千葉市。

 町に単身潜入したレイデュエスは、おもむろに怪獣カプセルを取り出して起動し始める。

 

「イッツ!」『バオオオオオオオオ!』

「マイ!」『キャッキ――――イ!』

「ショウタイム!!」

 

 恐竜型と鳥型の怪獣のカプセルを装填ナックルに収め、ブラッドライザーでスキャンしていく。

 

フュージョンライズ!

「ぬうあああぁぁぁぁッ!」

 

 カプセルから現れた怪獣たちのビジョンを魔人態が吸い込み、融合獣へと変化する。

 

サラマンドラ! ギエロン星獣!

レイデュエス! サラマギエロン!!

 

 そうして完成したのが、サラマンドラのボディにギエロン星獣の刃状の翼や耳を生やしたレイデュエス融合獣サラマギエロン。町の中に着地すると、早速鼻から高熱火炎を吹いて攻撃を始める。

 

「うわあああぁぁぁぁぁぁッ!」

「きゃあああああ――――――――っ!」

 

 いきなり焼き払われていく町の各所から悲鳴が沸き上がり、辺りは大パニック。だがこんな蛮行を許さない戦士たちがいる。

 

[ウルトラマンジード! ソリッドバーニング!!]

「ドォッ!」

『俺はゼロ! ウルトラマンゼロだ!』

 

 そう、ウルトラマンジードとウルトラマンゼロの二大ウルトラ戦士だ。颯爽と駆けつけた両巨人の大きな背中を見上げ、町の人々は一斉に安堵に包まれた。

 

「あッ、ジードとゼロだぁ!」

「がんばれぇー! ウルトラマーン!」

 

 人々からの声援を背に受けつつ、ジードとゼロはサラマギエロンと対峙。ジード内の八幡が指を突きつけた。

 

『「また性懲りもなくぶっ飛ばされに来たのか。つくづく暇な奴だな、人生もっと有意義に使えねぇのか?」』

 

 あからさまに挑発する八幡だが、レイデュエスはほくそ笑みながら言い返した。

 

『「ククク……三分しかない変身時間で、そんな悠々としてていいのか?」』

『「何?」』

『「気をつけて……何だか様子がいつもと違うわ」』

『今日は一人だけのようだしな。こいつは何かあるぜ』

 

 レイデュエスの態度に警戒する雪乃とゼロ。彼女らの警告を受け、ジードたちは戦闘態勢を取って戦いを開始した。

 

『早くやっつけよう! はぁッ!』

 

 ジードが先手を取り、スラッガーを手に握るとスラスターから発する蒸気で飛び出しながらサラマギエロンに飛びかかる。

 

「ダァッ!」

 

 更にゼロも両手にスラッガーを握り締め、ジードと同じようにサラマギエロンへ突撃した。

 

「シャッ!」

 

 二人のスラッガーが閃き、サラマギエロンに三筋の裂傷が深々と刻まれる!

 

『「はんッ、てんで遅いじゃねぇか」』

 

 鼻を鳴らす八幡だが、そこに雪乃が声を荒げた。

 

『「違うわ! 今のは、よけようともしなかった……!」』

 

 直後に、驚くべきことが起こる。

 サラマギエロンに与えた傷が、時間を巻き戻すかの如く消えていったのだ!

 

『「なッ!?」』

「バオオオオオオオオ! キャッキ――――イ!」

 

 完全に無傷となった肉体を見せつけるかのように咆哮するサラマギエロン。ゼロは大きく舌打ちする。

 

『そういう融合獣か……。半端な攻撃は意味なさそうだぜ、ジード!』

『ああ! 力を合わせよう、ゼロ!』

 

 示し合ったジードとゼロがもう一度サラマギエロンに飛びかかり、ジードが相手の打撃を防御している隙にゼロがサラマギエロンの頭上を跳び越えて反対側に回り込んだ。

 そして同時に必殺光線を繰り出す!

 

『ワイドゼロショット!』

「「『ストライクブースト!!!」」』

 

 二方向からの光線を食らい、サラマギエロンはたちまちに粉々になって吹き飛んだ。

 

『どうだッ!』

 

 勝ち誇るジードであったが……。

 

「バオオオオオオオオ! キャッキ――――イ!」

 

 巻き上がった黒煙の中から、サラマギエロンが何事もなかったかのように脱け出てくる。

 

『何ッ!?』

『「マジか……!?」』

 

 ジードたち全員が愕然と固まった。

 再生怪獣サラマンドラとギエロン星獣の融合獣であるサラマギエロン。二体の特性を組み合わせることにより、攻撃を受けた瞬間に肉体が完治するほどの驚異的な再生スピードを実現させているのだ!

 

(♪地球最大の危機(M13))

 

「バオオオオオオオオ! キャッキ――――イ!」

 

 サラマギエロンは両翼を重ね合わせてリング状の光線を撃ち、ジードたちに反撃してくる。それをかわしながら次の手に打って出るジード。

 

[ブレイブチャレンジャー!!]

「シュアッ!」

 

 ソリッドバーニングからブレイブチャレンジャーにチェンジして、巨大光輪を作り出して武装。

 

「「『メビュームギガ光輪!!!」」』

 

 光輪を装備した腕を縦横無尽に振るうことで、サラマギエロンを再生が追いつかないほどの速さで粉微塵にしていく。

 

『ジードクロー!』

 

 更にジードクローを召喚して、トリガーを二回引いてスイッチを押す。

 

「「『コークスクリュージャミング!!!」」』

 

 きりもみ回転しながら突貫し、サラマギエロンの胴体を貫通して跡形もなく消し飛ばす!

 ……が、飛散したサラマギエロンの肉片はすぐに全て集合して完全に復元してしまう。

 

「バオオオオオオオオ! キャッキ――――イ!」

『うッ……!』

『今度は俺たちの番だぜ、義輝!』

 

 猛攻撃が全く通用せずにひるむジードだが、代わってゼロがサラマギエロンに挑む。

 

[ウルトラマンゼロビヨンド!!]

 

 ゼロビヨンドにタイプチェンジすると、四本のスラッガーを頭上に浮遊させる。

 

『ああいうのは、再生が出来なくなるまで攻撃し続ければいいもんだ』

 

 そう言い切って四本のスラッガーを一気にサラマギエロンへと繰り出す。

 

『クアトロスラッガー!』

 

 スラッガーが四方八方からサラマギエロンを切断、貫通して再生する端から切り刻んでいく。

 

「バオオオオオオオオ! キャッキ――――イ!」

『ワイドビヨンドショット!』

 

 とどめにワイドビヨンドショットでサラマギエロンを塵も残さずに消し飛ばす。

 だが、やはりサラマギエロンは瞬時に再生して元通りになってしまう。

 

『まだ駄目か……だがここからだ!』

 

 ゼロとジードは決してあきらめずに攻撃を続けようとしたが……。

 その時にカラータイマーが赤く点滅し出した!

 

『!?』

 

 動揺した二人の姿にレイデュエスが大きく嘲笑する。

 

『「お前ら、自分たちのルールを忘れたのか? もう二分経過してるぞ! 時計はまめに確認しておくんだなぁ!」』

 

 現在時刻は1時59分。フュージョンライズのタイムリミットまで、残り一分を切っていた!

 

『しまった……! これが狙いかッ!』

 

 激しく焦るジード。ウルトラ戦士は人智を超越した超能力を無数に持っているが、その代わりにエネルギー消費が激しい。特にフュージョンライズは三分間の時間制限を伸ばすことが出来ない。これまでは優れた攻撃性能と豊富な形態の使い分けで、時間が過ぎる前に決着をつけられていたが……。

 レイデュエスは単純であるからこそ見逃されがちなこの欠点を突き、やられる端から復活する超再生力を武器にひたすら持久戦にもつれ込ませることを目的としていたのだ!

 

『「比企谷ぁ、今日こそお前らの最期にしてくれるッ!」』

 

 サラマギエロンはここで攻勢に転じてきて、口から猛烈な火炎を吐き出してジードとゼロを同時に攻撃してくる。

 

『うわぁッ!』

『ぐッ……!』

 

 前半の猛攻によってエネルギーを大幅に消耗しているジードたちは火炎に苦しめられる。しかしもう残された時間も少ないのだ。立ち止まってなどはいられない。

 

『ジード、こうなったら残った力を全て使って奴を倒し切るぞ!』

『分かった!』

 

 ゼロの呼びかけに応じ、八幡と雪乃がカプセルを交換する。

 

[マグニフィセント!!]

 

 ジード・マグニフィセントとなって強固なボディで火炎を弾き返すと、ゼロとともに全力の光線攻撃の構えを取る。

 

『バルキーコーラス!』

「「『ビッグバスタウェイ!!!」」』

 

 ゼロとジードから放たれた怒涛の光線が、サラマギエロンに突き刺さる!

 

「バオオオオオオオオ! キャッキ――――イ!」

 

 赤熱化して爆散しても二人は光線を止めず、怪獣細胞を一つ残らず焼き尽くすまで撃ち続けた。

 そうしてサラマギエロンが本当に、言葉通りに塵一つ残さずに消滅したところで攻撃の手を止める。その時には、二人のエネルギーはほぼ空っぽになっていた。

 

『はぁ……はぁ……これなら……』

 

 流石に疲労がすさまじく、肩で息をするジードたちだが、その甲斐はあって残されたのは立ち昇る黒い煙だけ。

 ――そう、思われたのだが。

 

「――キャッキ――――イ!」

 

 何と煙の粒子が凝り固まって実体化していき、サラマギエロンは完全な姿でよみがえってきた!

 

『なぁッ……!?』

『……駄目だ! 細胞を焼いても、煙から復活する!』

 

 さしものジードとゼロも息を詰まらせた。もう残り時間もなく、エネルギーすら残されていない。完全に手詰まりの状態である。

 

『「ハハハハハハハァ――――――! これで終わりだぁぁぁぁぁッ!」』

 

 サラマギエロンが火球を連発して爆撃してくる。ジードたちはそれに抗う力も残っていない!

 

『うわああぁぁぁぁぁ――――――!』

『ジードッ! くッ……!』

 

 相当なダメージを食らうジード。それを見たゼロは、彼の前に回り込むと本当に最後の力を振り絞ってバリアを張った。

 

「シェアッ!」

「バオオオオオオオオ! キャッキ――――イ!」

 

 そのバリアも、サラマギエロンの連続攻撃によってすぐに破られてしまったが……。

 バリアを破壊した爆発が収まると、ジードとゼロの姿は忽然と消えていた。

 

「ああ……!?」

「そ、そんな……!」

 

 二人のウルトラマンが消えてしまったことに、町の人たちは絶望に襲われる。

 しかしレイデュエスは、ジードたちが倒れたのではなく、ギリギリのところで爆発に紛れて撤退したのだということを見抜いた。

 

『「……どこへ逃げた」』

 

 立ち尽くすサラマギエロンの中で、あと一歩のところで逃げられたレイデュエスがポツリと吐き捨てる。

 

『「……どこだぁぁぁぁッ! 比企谷ぁぁぁぁああああああッ!!」』

 

 激昂したサラマギエロンが、当たり散らすように見境なく火炎を吐き出す!

 

「バオオオオオオオオ! キャッキ――――イ!」

「わあああああぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――――――――!!」

 

 午後2時。救世主を失った人間たちに出来ることは、暴虐を振るう怪獣から必死に逃げることのみであった……。

 

 

 ジードたちは粒子レベルにまで破壊しても倒すことの出来ないサラマギエロンに、痛恨の敗走をする結果となった。果たして、どれだけ攻撃しても無限に復活する融合獣を倒すことは出来るのであろうか。

 



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必殺!フォーメーション・GEED!(B)

 

 12月28日、午後三時。星雲荘にジードの仲間たちが緊急に集い、ある話し合いを行うこととなった。内容はもちろん、難敵サラマギエロンの攻略方法についてだ。

 

「うぅ……かなり大きい被害になっちゃったね……」

 

 ペガがモニターに映し出された、被害を受けた千葉市の光景を目にして顔を曇らせた。サラマギエロンはジードとゼロが敗走した後もフュージョンライズの自然解除まで手当たり次第に暴れ回り、その結果一帯は完全に焼け野原と化した。被害者数はのべ数万人単位と、この数か月で最も深刻な被害結果となってしまったのであった。

 

「我がいながらこんなことになるとは……悔しい悔しいぃ~!」

 

 材木座が地団駄を踏むと、眼鏡を取り外してゼロが表に出てくる。

 

「最悪、町はシャイニングの能力で元には戻せるが、問題はそういうことじゃねぇ。次でサラマギエロンを倒さないことには、ウルトラマンの名折れだ」

 

 ゼロの言葉に、雪乃が険しい面持ちでうなずいた。

 

「この次もまた負けるなんてことは絶対にあってはならないわ。何としてでも、あの融合獣を倒し切る手段を見つけ出さないと」

 

 そのために今星雲荘には、ジード部のメンバーやAIB、更にはいろはや小町、平塚までも集まって知恵を出し合おうとしているところだった。この状況をザッと見渡した八幡がボソッとつぶやく。

 

「最初の日と比べたら、大分人口密度が高くなったな……」

「今は感慨に耽っている場合ではないわ、八幡くん。次のフュージョンライズまで十九時間、それまでに万全の態勢でいなければいけないのよ」

 

 人一倍負けず嫌いな雪乃は誰よりも再戦に向けて燃えていた。彼女の音頭により、話し合いが開始される。

 

「まず必要なのは、怪獣に対する情報よ。一見完璧に見えるものだって、どこかに欠点があるはず。あの不死身に思える再生力も封じる方法があるはずよ」

「レム、お願い」

 

 ライハに乞われ、レムがサラマギエロンの分析結果を告げる。

 

[あの融合獣はサラマンドラ、ギエロン星獣の生体情報を組み合わせられています。両者とも全身を粉々にされても時間経過で完全に再生する能力を有しており、この融合によって規格外の再生速度を実現させたものと思われます]

「ギエロン星獣なら俺たちも戦ったな」

 

 ゼロのつぶやきに同意するジード。

 

『うん。ギエロン星獣は何度倒しても、二十四時間で復活してしまう厄介な相手だった……。あの時は気がおかしくなりそうだったよ』

「それは最終的にどうやって倒したのかしら?」

 

 雪乃がすかさず質問すると、ジードはこう答えた。

 

『ギエロン星獣の細胞は冷凍すれば再生しなくなる。それに気づいて、一度粉々に爆破してから全ての破片を冷やした状態で二度と復活しないようにしたんだ』

 

 更にレムが追加で解説する。

 

[サラマンドラにも低温に対する抵抗力は確認されていません。サラマギエロンも、低温下で再生能力を失う可能性は十分にあります]

「なーんだ、それなら簡単じゃないですか!」

 

 いろはがパッと明るい声を発した。

 

「それと同じように、一度粉々にしてから破片を全部冷凍しちゃえばいいんじゃないですか!」

「それだ! 思ったよりずっと早く解決だね!」

 

 結衣も乗っかるが、八幡はあきれ顔で突っ込んだ。

 

「いや、そりゃ無理だろ……」

「え、何で?」

 

 思い切り分かっていない二人に、ため息交じりに説明する八幡。

 

「あれの再生速度見ただろ? 攻撃した端から元に戻るんだぞ。とても冷凍してる暇なんかねぇよ」

「あ、そっか……」

 

 言われてようやく気づいた結衣といろはに、雪乃も吐息を漏らした。

 

「活発なのがあなたたちのいいところだとは思うけれど、もう少し考えてから行動した方がよりいいと思うわ」

「あうぅ……」

「すいません……」

 

 駄目出しされてしょんぼり肩を落とす結衣たち。それは置いて、陽乃が話を戻す。

 

「でも、凍らせるってのは間違いじゃないと思うよ。てかそれ以外に方法ないだろうしね」

「ですけど、あんなでっかい怪獣を丸ごと凍らせちゃうなんて出来っこないですよ」

 

 そうつぶやく小町だが、それに平塚が首を横に振った。

 

「そうでもないだろう」

「え?」

「ジードに大量の冷却ガスを噴射する形態があっただろう。それなら可能だと思うぞ」

 

 平塚のひと言に雪乃が得心した顔となった。

 

「ファイヤーリーダーですね。確かにあれの能力だったら……」

「すごい先生! そこにすぐ気づくなんて! あたしたちより詳しいんじゃないですか?」

 

 結衣が驚いていると、平塚は得意げに腕を組んだ。

 

「ふふふ……君たちウルトラマンの活躍シーンは、ニュースとかで流れてるのを一つ一つ録画保存しているからな」

「そんなことしてたのか……」

 

 まぁ、平塚先生明らかに好きそうだからな……こないだの変身もかなりノリノリだったし……と内心でつぶやく八幡であった。

 平塚の出した案で決まりかと思われたが、しかし陽乃が異を挟む。

 

「悪くないかもだけど、だけど流石に一瞬で氷漬けって訳にはいかないでしょ。それまでに抵抗されちゃうんじゃないかな」

「む……それもそうだな……」

『何より厄介なのは、融合獣には知能があるということだ。レイデュエスがその点の用意をしていないとは思えない。完全凍結までに時間が掛かるようでは、成功率は恐らく著しく低くなるだろうな』

 

 ゼナもそう発した。しかしどんなダメージを与えようとも瞬時に再生する怪獣を一瞬で全身凍らせる方法をなかなか思いつけず、皆頭をひねらせる。

 そんな時に、八幡が口を開いた。

 

「だったら、こういうのはどうだ?」

 

 そうして八幡が語った作戦の内容に、全員が思わず目を見開いた。

 

「……それだぁっ! それならきっと成功間違いなしだよ!」

 

 一番に褒めたたえたのは結衣。それからいろはと雪乃もにっこり微笑んだ。

 

「さっすが先輩! 相手が嫌がりそうなことを目敏く見抜きますね!」

「人の弱みを的確に発見する眼力、ますます磨きが掛かっているわね」

「……お前らには発言に毒を挟まないといけないノルマでもあるのか?」

 

 小町はほけー……と呆気にとられたような顔で八幡を見つめる。

 

「ちょっと意外かも……。お兄ちゃんが自分からそういうこと提案するなんて」

「ふふ……本当に人とは案外変わるものだな」

 

 平塚はどこか感慨深げであった。

 ゼナは結論が纏まったと見て、おもむろにうなずいた。

 

『決定だな。しかしこの作戦は事前の準備が鍵を握る。根回しに関しては我々が引き受けよう』

「裏方は任せといてー! 比企谷くんたちは、絶対成功するように準備しておいてね!」

「分かりました」

 

 八幡が返答すると、ゼナと陽乃は早速エレベーターへ駆け込んで地上へと上がっていった。

 

 

 × × ×

 

 

 地上に出ると、陽乃はゼナに振り返って呼び掛ける。

 

「ゼナ先輩、早いところ全ての用意を整えましょう! あと19時間で間に合わせないといけませんよ!」

 

 ゼナは自分の前を行く陽乃を見つめながら、問いで返した。

 

『随分と張り切っているな、陽乃。確かに我々の役目は重要だが、そんなに張り切ることか?』

「そんなの当然じゃないですかぁ。わたしたちのこの手に世界の命運が懸かってるなんてシチュエーションで、燃えなきゃ人としてダメですってぇ」

 

 冗談めかして答えた陽乃の、直後の顔に、かすかに影が差した。

 

「それに……雪乃ちゃんたちの暮らす町を蹂躙するなんてこと、絶対に許しておけないですし」

『……』

 

 ぼそりとつぶやく陽乃の顔をじっと見つめながら、ゼナは思う。

 

(陽乃、お前には才能がありふれている。今までに色んな星の、様々な人間を見てきたが、その中でもトップクラスだ。……だが、お前はやはりAIBの組織にいるべき人間ではないのだ。私の考えは、今も変わることはない)

 

 心の中で独白しながら、ゼナは回想した。――陽乃のAIB入隊が決定した日の出来事、いや事件を。

 

 

 ――陽乃はレイデュエス融合獣に襲われ、ウルトラマンジードに救われた時より、突然地球を襲うようになった融合獣の正体を独自に調査するようになった。そしてその中で、融合獣を追うAIBの存在を知り、密かにコンタクトを取ってきた。――自分の入隊を迫るように。その内容には、拒否するならば入手したAIBの情報を世界に発信して存在を暴露するという脅迫まで含まれていた。が、ゼナは彼女の入隊を認めなかった。一個の秘密組織を任された身として、民間人の脅しに屈するようなことする気はなかった。

 すると陽乃は、AIBの誰もが度肝を抜かれた行動に打って出た。――AIB地球支部拠点に侵入し、隊員一人の銃を奪って人質にし、更に動力室に立てこもったのだ。そして自分の要求が通らない場合は、基地の動力を破壊するとまで言ってきたのだ。

 こんな常識外の行いに走った陽乃に、ゼナは問うた。何故ここまでするのかと、その動機は何なのかと。それに、陽乃は答えた。

 

『簡単です。怪獣が壊して回ってる町には、わたしの大事な妹が生活してるんですよ。姉として、妹の生きる世界を守ってあげたい。――それじゃ駄目ですか?』

 

 ――ゼナはこの事態について上層部に判断を仰ぎ、そして上層部は、陽乃の一民間人とは思えない情報収集力、行動力、度胸、そして異常な能力の高さを評価し、彼女のAIB入隊を認可した。

 それでも、ゼナは最後まで反対の立場を貫いたのであったが――。

 

 

(お前のような人間が、血の流れる戦いの世界にいることは、自らの命を失うようなことになってしまう事態を起こりやすくする)

 

 かつての教え子の顔を思い返すゼナ。自分がまだ母星の軍人であった頃、『戦いの子』として鍛え上げ、そのために戦いと星の名誉に執着してしまい、最終的に天の星となった男の顔を。

 たった一人の人間、たった一つのことに命を張れる、命を張れてしまう陽乃の姿は、その男の最期を思い返させる。

 

(陽乃、お前は本来地球の民間人であるべきだ。私のように、引き返すことの出来ない人間ではない。お前はこんな世界にいるべきではないのだ)

 

 先を歩く陽乃の背中を見やりながら、ゼナは己の想いを反芻していた。

 

 

 × × ×

 

 

 12月29日、午前十時。

 

「バオオオオオオオオ! キャッキ――――イ!」

 

 ジードたちのフュージョンライズが可能となる時刻を待ち構えて、サラマギエロンが再び千葉市に出現した。

 

『「出てこぉい比企谷! 今度こそテメェの最期だぁッ!」』

 

 サラマギエロンの中からレイデュエスが八幡を呼ぶ。それに応じるように、八幡と雪乃、結衣、材木座の四人が現場に到着する。

 

「出やがったな……」

「この勝負は、絶対に負けられないわよ……」

「もっちろん! 絶対成功させるんだから……!」

 

 四人は決意を固め、変身を敢行する!

 

「ユーゴーっ!」『タァーッ!』

「アイゴーっ!」『セェアッ!』

「ヒアウィーゴーッ!!」[ウルトラマンジード! ムゲンクロッサー!!]

「デュワッ!」

 

 今にも町に火を放ちそうなサラマギエロンの正面に、ウルトラマンジード・ムゲンクロッサーとウルトラマンゼロが登場! 恐るべき再生融合獣に立ちはだかった!

 

『「出てきたな! 今度という今度こそ息の根を止めてやる!」』

「ハァッ!」

「デヤッ!」

 

 サラマギエロンが攻撃してくるより早く、ジードとゼロはゼロツインソード・ネオとゼロツインソードの二刀による縦横無尽の斬撃を浴びせる。

 

『こいつに何もさせるなッ!』

 

 瞬く間に全身を細切れにされていくサラマギエロン。だがレイデュエスは余裕綽々だ。

 

『「ふん、再生する間もなく粉微塵にすれば復活できないとでも考えたか? 甘すぎるなぁッ!」』

 

 ジードとゼロが斬る箇所の残らないほどにサラマギエロンを切り裂いたが、それでもサラマギエロンはどうとでもないことのように細胞同士がつながって修復していく。やはり、超再生力を持つサラマギエロンを倒し切る手段はないのだろうか?

 

『今だッ!』

 

 しかしその時、ゼロが地を蹴った!

 

[ネオ・フュージョンライズ!]『俺に限界はねぇッ!』

 

 宙に飛び上がりながらウルトラマンゼロビヨンドに二段変身すると、スラッガーを頭部から切り離してふた振りのゼロツインソードを作り出す。

 

「シェアッ!」

 

(♪勝利に導く4人のヒーロー達)

 

 そしてそれを、再生中のサラマギエロンに投げつけた!

 

『「な、何ッ!?」』

 

 二つのゼロツインソードはサラマギエロンごと地面に突き刺さり、その結果――。

 

「バオオオオオオオオ! キャッキ――――イ!」

 

 サラマギエロンは二本のソードを巻き込む形で肉体を再生してしまい、その場から身動きが取れなくなってしまった。

 

『「よぉしッ! 第一段階成功だぞ! さっすが我!」』

『俺たちの成果だろ』

 

 敵の動きを封じ込むことに成功し、自画自賛した材木座に水を差したゼロが、バリアを張りながらジードに呼びかける。

 

『次はお前たちだ!』

『ああ!』

 

 ジードの中で八幡たちがカプセルを交換していく。

 

『「ユーゴーっ!」』[セアッ!]

『「アイゴーっ!」』[タァーッ!]

『「ヒアウィーゴーッ!!」』

[ウルトラマンメビウス! ゾフィー!]

[ウルトラマンジード! ファイヤーリーダー!]

 

 サラマギエロンが強引に拘束を脱け出す前に、ジードはファイヤーリーダーへとフュージョンライズ。

 

『「示すぜ! 未来!!」』

 

 左腕を前に伸ばすと、手の平から膨大な冷却ガスを噴射してサラマギエロンに食らわせる!

 

「バオオオオオオオオ! キャッキ――――イ!」

 

 行動の一切を封じられているサラマギエロンは冷却ガスをまともに浴び、全身がみるみる凍りついていく。

 

『「がッ、しまった! 初めからこいつが狙いか……!」』

 

 焦ったレイデュエスが、身体を引き裂いてでも脱出しようとしたが、最早遅い。サラマギエロンはほどなく全身が凍りついて、氷像のようになった。と同時に、ゼロのバリアが地区一帯を覆い込む。

 

『「よしッ! 作戦通りだ!」』

『「――それじゃ最後はわたしたちの番ですね、先輩!」』

 

 ここに来て八幡の背後からひょこっといろはが顔を出したので、八幡たち三人はギョッと目を見張った。

 

『「い、いろはちゃん!? 何でこんなところにいるの!?」』

『「えっへへ。わたしも先輩のお力になりたくって、ついてきてたんです。大成功っ!」』

 

 八幡の背中に張りつくようにしながらVサインするいろは。実は変身の瞬間、こっそりと八幡の背中に手をつけて一緒にジードのインナースペースに来ていたのであった。

 

『「一色さん! これは遊びではないのよ!?」』

『「そうは言いましても、もうここにいますしぃ。一人より二人、二人より三人、三人より四人の方がいいじゃないですか?」』

『「そういうものじゃ……!」』

『「生憎くっちゃべってる暇ねぇぞ! あの野郎氷を溶かし出してる!」』

 

 勝手についてきたいろはを叱ろうとする雪乃、結衣だったが、サラマギエロンは己の高熱で自身を解凍しようとしていた。ここを逃したら、もう勝ちの目はない。

 

『「ほら先輩、早く早く!」』

『「……終わったら小一時間ほど説教だからな」』

 

 勝手にキングカプセルを用意するいろはにげんなりしつつも、八幡がベリアルカプセルを手にした。

 

『「ユーゴーッ!」』『フエアッ!』

『「アイゴーっ!」』『ダァッ!』

 

 八幡がベリアルカプセル、いろはがキングカプセルをナックルに装填し、ジードライザーでリード。

 

『「ヒアウィーゴーッ!!」』

[ウルトラマンベリアル! ウルトラマンキング! 我、王の名の下に!!]

 

 闇と光の力をリードしたジードライザーからキングソードが召喚され、八幡が剣を手にするといろはがキングカプセルを柄に差し込んだ。

 

[トワッ!]

『「ジィィィ―――――――ドッ!」』

 

 キングの力によって、ジードが金色の最強形態へと変身!

 

[ウルトラマンジード! ロイヤルメガマスター!!]

『「変えるぜ! 運命!!」』

 

 ばさっとマントを翻すジード。八幡はすかさずキングソードにセブンカプセルを装填した。

 

[ウルトラセブン!]

『ダーッ!』

 

 セブンの力を充填させた剣をジードが正眼に構え、横一文字に振るう!

 

「「「「『スラッガースパーク!!!!!」」」」』

 

 放たれた巨大アイスラッガーがサラマギエロンに突き刺さり、何百何千もの破片にまで砕いて吹っ飛ばした!

 

「――ぬわあぁぁぁぁぁッ!!」

 

 粉砕されたサラマギエロンの肉体からレイデュエスが弾き出され、地面をゴロゴロと転がった。

 

「……くそぉッ! 今度こそはと思ったのにッ!」

 

 頭を振りながら起き上がったレイデュエスは、悔しさのあまりひどく歯ぎしりしながら、闇の中に消えてすごすごと退却していった。

 一方の砕かれたサラマギエロンの肉体は、ゼロの展開したバリアによって千葉市の一区画より遠くへは飛び散らなかった。ここでAIBの出番となる。

 

『――千葉市民の皆さん、飛散した怪獣の欠片の収集にご協力お願いします。凍った欠片は解けてしまいますと、元の怪獣に戻ってしまいます。その前に350ミリリットル以下の容器に入れて、冷凍保存して下さい。皆さんのご協力が必要です。なお、ご協力いただいた皆さんの冷蔵庫は、無償で交換致します……』

 

 事前の根回しによって市の自治体に働きかけ、千葉市民による人海戦術で全ての破片を収集、永久に封印するのだ。

 

「隼人くーん、誰が一番集められるか競走だべー! はは、怪獣も欠片になっちまえばかわいいもんだなぁ」

「戸部、遊びじゃないぞ。もう怪獣なんてこりごりだ」

 

 こうして無事に全ての破片が収集、永久凍結され、ジードたちを散々追い詰めたサラマギエロンは二度と復活しないようにされたのであった。

 

 

 × × ×

 

 

「……はぁ~。今回は後始末含めてめちゃくちゃハードだったな……」

「お疲れさま、八幡」

 

 全てが終わって、星雲荘の椅子にどっかと腰を落として長い息を吐き出した八幡の労をペガがねぎらった。雪乃たちは平塚とともに、危ないことをしたいろはに説教をしている。

 

「見事に決まったね、フォーメーション・GEED! いや、フォーメーション・ハチマンだったっけ?」

「やめろよそのこっぱずかしい名前。一色たちめ、作戦名なんか別につけなくたっていいだろうに……」

 

 人の名前を使って作戦名にこだわったいろはや小町らの顔を思い返してげんなりし、差し出されたMAXコーヒーをゴクッと飲み干した八幡だが、ふとこんなことをつぶやく。

 

「……だけど、レイデュエスはまた別の手を練って攻撃してくるだろうな。まだまだあきらめるような奴じゃねぇだろう」

『……だろうね。今度は、一体どんな手を使って僕たちを苦しめようとするのか。考えたくもないけどね……』

 

 八幡のひと言で、ジードもペガも気分を重くした。

 

「こんな戦いが、いつまで続くんだろうね。融合獣だけじゃなくて、レイデュエス自体倒しても倒しても復活するし、この戦いを終わらせるにはどうしたらいいんだろう……」

 

 目を伏せるペガの言葉に、八幡がふと手を止めた。

 

「……戦い、か……」

『八幡、どうしたんだい?』

「……いや、何でもない」

 

 何かについて考えた風の八幡にジードが問いかけたが、八幡は何も答えずに首を振るだけだった。

 

 

 

『ウルトラストーリーナビ!』

 

いろは「今回は『ウルトラマン80』第十三話「必殺!フォーメーション・ヤマト」です!」

いろは「ある日、街に怪獣サラマンドラが出現! 応戦するUGMですがサラマンドラの弱点はのどだけで苦戦、すると矢的隊員がサラマンドラに上を向かせる即興の戦法で撃破しました。けどこれは事件の始まりにしか過ぎなくて、黒幕のゴルゴン星人がオオヤマキャップを罠に嵌めて殺人犯に仕立て上げてしまいました。どうにかキャップの無実を証明しようとする矢的隊員たち。そして再び現れるサラマンドラに、オオヤマキャップがフォーメーション・ヤマトと名づけた作戦で挑みます!」

いろは「80といえばウルトラマン先生というのが有名ですけど、学園編は前回の十二話で急遽おしまい。この話から何の前触れもなく、矢的隊員の先生設定は消滅してしまいました。これは特撮ドラマと学園ドラマの両立に無理が生じたからだそうです」

いろは「その後の矢的隊員は最終回まで今まで通りの設定の防衛隊隊員でしたが、終盤は先生時代を彷彿とさせるような子供を相手にした教育的ドラマが数多く見られたんですよ」

ジード『学園編の設定は結局『80』内で顧みられなかったけど、二十六年後の『メビウス』で遂に学園編の決着がつけられたんだ。ファン感涙の出来として有名だよ』

いろは「それじゃ、次回お楽しみにお願いします!」

 




戸部「うはー! どーにか怪獣が復活する前に欠片を集め切れたみたいだなー! 俺たち世界を救っちゃったよ~! 何か興奮するべ!」
葉山「大袈裟な奴だな。ほとんどのことは、ウルトラマンジードたちがやったじゃないか」
三浦「何でもいいけど、結衣どこ行ったか知らない? ずっといないんだけど」
戸部「奉仕部の方で欠片集めてたんじゃね? 結衣の奴、ヒキタニくんたちと結構楽しくやってるみたいだしさー。なぁ姫菜?」
海老名「えっ……う、うん。そうみたいだね……」
三浦「……まぁいいけど。でも結衣があんなよく分かんない部活にのめり込むなんて、最初は思ってもみなかったし」
戸部「だよなー。それもあのヒキタニくんのいるようなとこなのにな。マジ世の中何があるか分かんなくね?」
葉山「……比企谷」
戸部「ん? 隼人くん、何か言った?」
葉山「何でもない。……何でもな」



次回、『敵を倒すことがウルトラマンなのか。』



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敵を倒すことがウルトラマンなのか。(A)

 

 一月三日、冬休み明けの三学期最初の日。と同時に、この日は雪乃の誕生日であった。そのため奉仕部では初めにささやかな雪乃のお祝いがあったのだが、呼んでもいないのに何故かその席に参加していたいろはが、雪乃にこんな話を振った。

 

「そういえば雪ノ下先輩、最近クラスで変な噂流れてるんですけど」

「変な噂? 私に関してかしら?」

「はい。何でも、雪ノ下先輩が葉山先輩とつき合ってるって」

 

 そういろはが言った途端――雪乃から絶対零度の空気が発せられたので、八幡たちは思わず喉を引きつらせた。

 

「一色さん……そんなことあるわけないでしょう?」

「で、ですよねー! もちろんわたしは分かってましたよ!? 当然じゃないですか! ただ、そんなことを話してる人たちが今いるんですよ!」

 

 雪乃から鋭い眼光を向けられ、いろはは慌てて言い繕った。雪乃が八幡と結衣に目を向けると、二人もうなずく。

 

「まぁ、何かそんなこと話してる奴はちらほらいたな……」

「こないだ出かけた時あるじゃん? それを誰かが見て、誤解してるみたい」

 

 八幡たちは年始に買い物に行ったのだが、その際に紆余曲折あって雪乃と葉山が席をともにする場面があった。そこに総武高校の生徒が偶然通りかかって、二人の関係をあらぬ方向に勘繰ったようである。雪乃と葉山は総武高校の有名人同士なので、ゴシップ好きの高校生の間にあっという間に噂が広がったようだ。

 これだけならよくある高校生たちの他愛ない噂話で済むものだが、いろはには心配していることがあった。

 

「この噂、結構女子みんな気にしてるっぽいんですよねー。葉山先輩ってこういう具体的な噂ってなかったですし。だからこれを機に、葉山先輩にちょっかい掛けようとするのが増えるんじゃないかって」

 

 いろはの言葉で八幡は、葉山グループの人間関係でひと悶着が起こったことが、二度もあったことを思い返した。チェーンメール騒動の時と、修学旅行の時と。あのグループは仲良しに見えて、その実かなり繊細な関係性で成り立っているのだ。

 折しも今は二年生の三学期であり、進路を本格的に意識し始めなければならない時期。もしいろはの言う通りのことになったら、確かに三度問題が発生しそうではある。

 

「でも、気にしなければその内消えると思うよ! 人の噂も四十九日って言うじゃん!」

「七十五日な」

 

 結衣の間違いを八幡が訂正した。

 

「とにかく、下手に否定したら逆効果だと思うし。気にしないようにしようよ」

「……そうね」

 

 結衣の提案を、当事者たる雪乃は受け入れて行動を起こさないこととなった。

 が、しかし、そうも言っていられない事態に話は進んでいった。

 

「……今いい? ちょっと話あるんだけど」

 

 後日、葉山との関係を最も気にする人物、三浦優美子が、奉仕部を訪ねてきたのである。

 

 

 

『敵を倒すことがウルトラマンなのか。』

 

 

 

 三浦からの依頼内容は、やはりと言うか葉山に関わることであった。いろはの懸念は的中し、上述の噂で女子たちが葉山にアタックするという状況が続いているのだ。三浦はそのことをきっかけに、これから三年に進級する内に葉山と疎遠になってしまうことを恐れ、せめて葉山の進路を知りたいと依頼してきたのであった。それを受けて行動を開始した八幡であったが、やはり葉山は手強い。あれこれ手を尽くして調べても、葉山が文系理系どちらの進路を選択するのかということもさっぱりヒントを得られないありさまであった。

 それでもどうにか情報を得ようと、色々な人から話を聞いているが、その一人が……。

 

「や……ヒキタニくん」

 

 部室の外で、八幡は海老名と二人きりの状態になっていた。葉山と三浦、この両者に最も近しい人物として結衣が連れてきたのだが、残念ながら彼女からも有力な情報は得られなかった。

 しかし八幡は、彼女の口にした「はやはちが丸っきり冗談ではない」という小さなつぶやきが気に掛かって、帰宅しようとする海老名を追いかけたのであったが……。

 

「……もう少し距離取った方がいいか?」

 

 八幡は海老名を気遣って、二、三歩ほど後ろに下がろうとした。海老名は修学旅行の際に戦いに巻き込まれ、ジード=人智を超えた超人に変身する八幡に恐怖心を抱いてしまったのである。

 そのことを気に病む八幡だったが、海老名はゆっくりと首を横に振った。

 

「大丈夫。あの時よりも気分は落ち着いてるし、ヒキタニくんがそんな人じゃないってのは頭では分かってるからね。……ごめんね」

「いや……」

 

 二人の間に微妙な空気が流れるが、それを破るように海老名の方が口を開いた。

 

「あのさ、あんまり意味ないと思うよ」

「何が」

「こうやって探るの。隼人くん、簡単にボロ出したりしないから」

「……だろうな。でも、三浦にでかい口きいちゃった以上やらん訳にもいかんのよ」

「ふーん……」

 

 そこで会話が途切れるが、今度は八幡の方が海老名へと言った。

 

「それは別としても、さっき小さく言ったこと……」

「何? はやはちの可能性についてわたしと熱く語りたいの!」

「いやそうじゃねぇから……」

 

 急に食いついてくる海老名に辟易する八幡だが、海老名は苦笑すると、真面目なトーンとなってつぶやいた。

 

「それはまぁ冗談だよ。隼人くんがヒキタニくんに感じてるのは、そんな単純なものじゃないだろうしね」

「? それって……」

 

 聞き返そうとした八幡を海老名が制する。

 

「これ以上はわたしから言うことはないよ。わたしが何か言ったって、正しいことは結局隼人くんしか知らないことなんだからね」

 

 じゃ、と言い残して、海老名は本当に帰っていった。残された八幡は、ジードとペガに向けて問いかけた。

 

「……あの葉山が俺に何を感じてるってんだろうな? そりゃあ奉仕部に入ってから何度か葉山と絡むことがあったが、あいつみたいなリア充には俺なんか些細なんてもんじゃない存在だろうに」

 

 すると二人は、半ば呆れたような感じで返答した。

 

『八幡は何よりも、自己評価が低すぎるのが一番の問題だと思うんだよね』

『だよねぇ。もう少し、人からどう見られてるのかを正しく理解できるようになった方がいいと思うよ』

「え……何その答え。どういう意味かはっきり言ってくれ」

『自分でよく考えてみたら?』

 

 ペガとジードはそれきり、八幡に何も言ってくれなかったのであった。

 

 

 × × ×

 

 

 ――レイデュエス一味の円盤では、レイディエスがモニター上に散乱させた八幡に対する資料映像に眼を飛ばしながらイライラと宇宙食のストローを噛み潰していた。

 

「くそッ……! こいつ一人ぶっ殺すのに何度も何度も失敗し続けてる……! 何かいい手立てはねぇのか!?」

 

 レイデュエスは目元に隈が出来、髪もボサボサに乱れていた。そんな彼のことを案ずるオガレスとルドレイ。

 

『で、殿下……少し休息を取られてはいかがですか? 最近あまりお休みになられていないでしょう……』

『あまり根を詰めると、身体に毒ですよ……。いくら再生能力があるとはいえ……』

 

 しかしレイデュエスは射抜きそうな目つきで振り向くと、二人に怒鳴り散らす。

 

「うるさい黙れッ! この野郎をどうにかしなきゃ俺の心は休まらねぇんだよッ! そんなこと言ってる暇あるんだったら、お前らも作戦の一つぐらい出してみろッ!!」

『す、すみません……!』

 

 ダンッ! とテーブルを激しく叩くレイデュエスに怯えて縮こまるオガレスたち。レイデュエスが背を向けてモニターに目を戻すと、コソッと疲れ切ったため息を吐き出した。

 レイデュエスは日に日に、ジード=八幡に敗れる毎に精神を乱していた。それは彼の体調や口調の荒れ具合を見れば分かる。このまま行けば、従っている自分たちも一体どうなってしまうことやら……。

 

「……んん?」

 

 オガレスたちが内心不安がっていたら、盗撮した八幡の周囲の人間の写真をねめ回していたレイデュエスが、その内の一枚に目をつけた。

 

『殿下、いかがなされましたか?』

「見ろ、こいつを」

 

 ルドレイが尋ねかけると、レイデュエスは写真の中の人物を指差した。

 葉山が八幡に目を向けている構図の写真だ。が、ただそれだけの写真である。

 

『はぁ……この地球人がどうかしたのでしょうか……』

『別段、変わったところは見られませんが……』

 

 レイデュエスが何を言いたいのかさっぱり分からないオガレスたちは首を傾げるも、レイデュエスは葉山に着目しながらほくそ笑んだ。

 

「こいつは比企谷八幡に黒い感情を抱いてる」

『え……? こんな写真から、そんなことがお分かりに?』

『特にそんな風には見えませんが……』

 

 呆気にとられるオガレスとルドレイ。確かに八幡を見る葉山の目はどこか険しいように見えるが、そこまで読み取れるほどのものではない。

 しかし、レイデュエスは確信を交えてつぶやいた。

 

「いいや絶対にそうだ。こいつの目には、共感できるものがあるからな……。こいつは使えるな……」

 

 レイデュエスは口元の笑みに、悪辣さをふんだんに含ませた。

 

 

 × × ×

 

 

 進路希望調査票提出期限が目前に迫ったが、葉山の進路はやはり特定できなかった。期限を過ぎてしまえば、三浦からの依頼はどうやっても解決できなくなる。そのため八幡は、強引な手を使ってでも行動を起こすことを決意した。

 提出期限の前日には、総武高校のマラソン大会がある。そこで八幡は材木座や戸塚に協力してもらい、他の生徒を遠ざけてマラソン中に葉山と二人きりになる状況を作り上げたのだった。そこで八幡は、葉山に告げた。

 

「……三浦は女避けには都合が良かったか?」

 

 挑発的な物言いをすることで葉山を感情的にさせ、今まで隠されてきた本音を吐き出しさせるように仕立てながら、進路を理系の選択、葉山を煩わせるような人間関係をリセットする選択を取るように指図する。そこまで言えば、葉山とて進路をどうするのかの引っ掛かりでも零すはず。

 そう計算しての行動であったが、葉山からの返事は八幡の予想を超えたものであった。

 

「俺は君が嫌いだ」

「お、おう……」

 

 誰にでも良い顔をする普段の葉山しか知らない者だったら到底信じられないような、ストレートな言動に流石の八幡も一瞬面食らった。だが葉山は八幡のことなど気にせずに淡々と続けた。

 

「君に劣っていると感じる、そのことがたまらなく嫌だ。だから……」

 

 しかし言葉の途中で――八幡の視界がぐにゃりと曲がり、たった今まで目の前にいたはずの葉山の姿が忽然となくなってしまった。

 

「んなッ!?」

 

 目を見張る八幡。だがすぐに、今の奇妙な感覚に覚えがあることに気づいた。

 それは京都の竹林で、罠に掛けられ空間を歪められた時のことだ。

 

「ちっくしょおッ! あいつまたかッ!」

『八幡! すぐに葉山君を捜すんだッ!』

「言われるまでも!」

 

 即座に状況を理解して焦り出した八幡が、ジードに促されるままに駆け出した。

 

 

 × × ×

 

 

 マラソン大会中に空間が歪曲させられたことは、陰ながら警護していたAIBはもちろんすぐに気がついた。

 

『ゼナさん、レイデュエスが仕掛けてきました! 前と同じ現象です!』

 

 ゼナと陽乃とともに控えていたペダン星人が報告した。ゼナたちは表情を険しくさせる。

 

『きっとまた人質を捕まえる姑息な手段に出るつもりですよ! すぐ民間人を保護しましょう!』

「ちょっと待って」

 

 今すぐにでも飛び出していきそうなペダン星人を、陽乃が制止した。

 

「これは注意した方がいいと思いますよ。あの男はもっと厄介なことを狙ってると思います」

『え?』

『陽乃の言う通りだろう』

 

 陽乃の忠告に同意するゼナ。

 

『執念深いレイデュエスが、以前と全く同じ手で来るとは思えない。読まれてしまうからな。だから一切の油断はならないぞ』

『わ、分かりました』

 

 十二分の警戒を促しながら、AIBは総武高校の生徒たちの保護に動き始めた。

 

 

 × × ×

 

 

「何……?」

 

 葉山の居場所は、八幡と話をしていた橋の上のままであったが、八幡とは逆に彼の前から八幡が消え去ってしまったかのような状態に置かれていた。空間歪曲によって、彼だけ位相のずれた空間に連れ込まれてしまったのだ。

 

「どうなってるんだ? 白昼夢か……?」

「ふふッ……」

 

 流石に現状が受け入れきれずに困惑する葉山の背後から、怪しい笑い声が起こった。

 すぐに振り向く葉山。自分の背後には、左半面を包帯で覆った謎の男――レイデュエスが直立してこちらを観察していた。

 

「あいつが嫌い。劣っているのがたまらなく嫌、か。やはり俺のにらんだ通りだな」

「……誰だ、あなたは……? 比企谷のことを知ってるのか?」

 

 傷は隠しているとはいえ、顔の半分を包帯で隠している如何にも不審な男に、葉山も警戒心を抱いた。しかしレイデュエスは葉山の問いかけが聞こえなかったかのように、次のように言い放った。

 

「だが現実として、お前は比企谷八幡に確実に劣っている」

「……!?」

 

 突然指摘されて、葉山の顔色が変わった。それを見て取って、レイデュエスがますます目を細める。

 

「奴はお前など、文字通り足元にも及ばない存在になってるのさ。奴はそれを隠して、お前と同格の存在であるかのように振る舞っている。――尊厳が傷つかないか? お前は奴から、情けを掛けられてる。『下に見られている』」

「何を訳の分からないこと……!」

 

 煽るような発言を繰り返すレイデュエスに葉山もいら立ち出す。が、レイデュエスは葉山の心に楔を打ち込むかのようにはっきりと告げた。

 

「勝ちたいだろう。比企谷八幡に、決定的に」

「――ッ!」

 

 勝ちたい、というひと言に、葉山の顔に一瞬動揺が走った。

 レイデュエスはその瞬間を見逃さず、流れるような動作でカプセルを装填ナックルに押し込んでライザーでスキャンした。

 

ダークメフィスト!

「ショウタイムだッ!」

 

 ライザーからカプセルの力が放たれ、葉山に浴びせられた。

 

「うわああああッ!?」

「ハハッ……!」

 

 悲鳴を発する葉山。レイデュエスはビリッと顔の包帯を引き千切りながら、邪悪さに満ちた嗤いを湛えた。

 



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敵を倒すことがウルトラマンなのか。(B)

 

 八幡は歪められた空間の中を、レムのナビゲートの下に駆け回る。

 

[10メートル先を右に曲がって下さい]

「右だな!」

 

 虚空に飛び込むと、肉眼では感知できない空間の歪みを通って別の位相に移動する。これを繰り返すことで姿を消した葉山に近づきつつあった八幡だが、その足をレムが止めた。

 

[止まって下さい。捜索対象が、向こうから接近しつつあります]

「え?」

 

 その言葉の通りに、八幡の視線の先から、空間の歪みを抜けて葉山がおもむろに歩いて出てきた。

 

「葉山! お前、無事だったか。えぇっと、これはだな……」

 

 ほっと息を吐いた葉山が、この事態をどう説明したものかと頭をひねったが……それを無視するように葉山は表情に影を差しながら口を開いた。

 

「比企谷、さっきの話の続きだ」

「え?」

 

 こんな状況にまるで取り乱していない葉山に一瞬虚を突かれた八幡に構わず、葉山は淡々と続ける。

 

「俺は君が嫌いだ。君に劣っていると感じる、そのことがたまらなく嫌だ。だから――君を打ち負かさなければいけないんだ」

「……ん……?」

 

 後半の言葉に、八幡は妙な違和感を覚えた。何か、葉山がおかしなことを口走っているような……。

 そんな八幡の態度に構わず、葉山は堰を切ったようにまくし立てていく。

 

「そうだ、俺は君に勝たなくてはいけないんだ。絶対的に、徹底的に――君という存在を認めない。俺の上を行くことを許さない。俺の方が、比企谷、お前なんかよりもずっと上なんだ」

「お、おい? 何言って……」

『気をつけて! 何だか様子がおかしいよ!』

 

 思わず手を伸ばしかけた八幡を、葉山の様子を警戒したペガが制した。

 そして葉山はひとしきり語ると――あるものを取り出した。

 

「証明してやる。俺は優れた人間だ、強いんだ――強くなければいけないんだ」

「ッ!!?」

 

 それは見間違えするはずもない、青黒いライザー――レイデュエスのブラッドライザーだ!

 これをひと目見た八幡は、葉山の身に起こったこと、そして葉山がこれから何を『させられる』のかを理解した。

 

「やめろ葉山ッ……!」

 

 だが止めるには遅かった。

 

「比企谷……」

[ギャオオオオオオオオ!]

「この手で……」

『ピッギャ――ゴオオオオウ!』

「消してやるッ!!」

 

 葉山は怪獣型ロボットと黄色い蛇腹状の皮膚の怪獣のカプセルを装填ナックルにねじ込み、ライザーでスキャンしてしまう。

 

フュージョンライズ!

「おおおおおおッ!」

 

 闇に覆われた葉山の肉体がレイデュエス魔人態のものに変化し、怪獣たちのビジョンを吸い込んで更にレイデュエス融合獣のものに変わっていった!

 

メカゴモラ! レッドキング!

レイデュエス! メカスカルゴモラ!!

 

 半身を鈍色の鋼鉄で機械化された、巨大な二本角の怪獣が八幡の目の前にそそり立ち、金属がこすり合わされるような咆哮を発した。

 

[ピッギャ――ゴオオオオウ! ギャオオオオオオオオ!]

 

 それと同時に空間の歪曲が解除され、露わとなった半ロボット怪獣の威容に、総武高校の生徒たちは各所で一斉に悲鳴を発した。

 葉山のフュージョンライズによってペガがダークゾーンから顔を飛び出して絶叫した。

 

「た、大変だ! 葉山君が!!」

「くッ……やりやがったな、あの野郎ッ……!」

『八幡ッ!』

 

 奥歯をギリッときしませた八幡に、焦りながら呼びかけるジード。八幡は重くうなずいてジードライザーを握り締めた。

 

「ジーッとしてても、ドーにもならねぇ……!」

 

 八幡はすぐにウルトラカプセルを起動していき、フュージョンライズの構えを取った。

 

「ユーゴーッ!」『シェアッ!』

「アイゴーッ!」『フエアッ!』

「ヒアウィーゴーッ!!」

[フュージョンライズ!]

 

 ウルトラマンとベリアルのカプセルを用いて、ウルトラマンジード・プリミティブにフュージョンライズする。

 

[ウルトラマンジード! プリミティブ!!]

「シュアッ!」

 

 変身を遂げ、土砂を巻き上げながら荒々しく着地したジードが、葉山の変身したメカスカルゴモラと対峙した。

 

 

 × × ×

 

 

 マラソン大会の最中に出現したメカスカルゴモラとジードの姿は、材木座も当然だが目の当たりにしていた。

 

「ぬ、ぬふぅ! また敵か!」

『義輝、すぐ加勢に行くぜ!』

「しかし、我は今結構バテバテ……」

『んなふぬけたこと言ってる場合かっての! ほれ早くしな!』

 

 汗だくの材木座の尻を叩いてウルトラゼロアイNEOを取り出させるゼロ。

 だがそれを、ライザー越しにレムが制止した。

 

[待って下さい。あの融合獣はレイデュエスが変身したものではありません]

「ぬ?」

『おい、それってどういうことだ!?』

 

 嫌な予感を抱いたゼロが聞き返し、レムからの返答に材木座が目を飛び出させることとなった。

 

「な、何とぉぉぉッ!?」

 

 

 男子から三十分遅れてスタートしていた女子たちはほとんどがルートを逆走してメカスカルゴモラから逃げ出していたが、雪乃、結衣、いろはは合流してジードの背を見上げていた。

 だが彼女たちの元にもレムからの連絡が入り、その内容に愕然となっていた。

 

「嘘でしょ!? 隼人くんが……!?」

「まさか……あれが、葉山先輩……!?」

「……!」

 

 結衣も、いろはも、雪乃でさえも、レイデュエス融合獣の正体が葉山と知らされ、絶句してメカスカルゴモラに視線を移していた。

 

 

 レムからの報告はゼナの元にも届いていた。

 

『それが目的か……! だが、まさか一般人を融合獣に変えるなどという手に出るとは……』

 

 レイデュエスのなりふり構わなさにうなるゼナの一方で、陽乃はメカスカルゴモラに『された』葉山を見つめると――奥歯が砕けそうになるほどに食いしばった。

 

 

 × × ×

 

 

 メカスカルゴモラとにらみ合うジードに、レムが葉山の分析結果を伝える。

 

[ハヤマハヤトから強力なマイナスエネルギーを検出。レイデュエスに精神操作をされたものと思われます。――解析が遅くなって申し訳ありません]

『いいんだ。これはレムのせいなんかじゃないよ』

 

 謝罪するレムを慰めるジード。だが同時にメカスカルゴモラにどう立ち向かえばいいものかとひどい焦燥を抱いていた。

 

『これはまずい……葉山君を人質にされたようなものだ。今までのように倒そうとすれば、葉山君がどうなってしまうか分かったもんじゃない……!』

『「だが戦わない訳にもいかねぇぞ……何とかしてあいつを止める手段を見つけ出さねぇと……!」』

 

 そう告げる八幡だが、だからと言って迂闊に攻撃する訳にもいかない。攻めあぐねていると、メカスカルゴモラの方からこちらに襲い掛かってきた。

 

[ピッギャ――ゴオオオオウ! ギャオオオオオオオオ!]

「ウッ……!」

 

 猛然とこちらに突進してくるメカスカルゴモラを、ためらいつつもその身で食い止めようとするジード。だがメカスカルゴモラのすさまじいパワーの前に、易々と弾き飛ばされてしまう。

 

[ピッギャ――ゴオオオオウ! ギャオオオオオオオオ!]

「ウワァッ!」

 

 下手な攻撃は出来ないので、とにかく抑えつけようと試み続けるジードであるが、圧倒的なパワーの差によって叩き伏せられるばかり。

 近くにはまだ逃げ切れていない総武高校の生徒たちがいるので、メカスカルゴモラを暴れさせる訳にはいかない。だが相手は普通の人間である葉山。もしダメージを与えようものなら、彼にどんな悪影響があるか分かったものではない。

 背にしている人たちを守らなければならないが、葉山を傷つけることも出来ない。この二律背反によってジードは崖っぷちに立たされていた。

 

 

 × × ×

 

 

 メカスカルゴモラを相手に思うように戦えないジードの様子に、円盤から監視しているレイデュエスが意地悪く嗤っていた。

 

「ハハハハッ! 思った通りの展開だ。比企谷の奴は既に追いつめられている。さぁ、この状況をどうする……!?」

 

 行儀悪くデスクに両足を乗っけて高みの見物をしているレイデュエスに、オガレスとルドレイが問いかける。

 

『しかし殿下……わざわざ地球人をジードにぶつけさせるのに、殿下の命を分け与えるまでする必要はあったのでしょうか?』

『もっと別の、安全な手段があったのでは……』

 

 するとレイデュエスは、歪んだ笑みを更に深めた。

 

「確かにぶつけさせるだけなら、他の方法があったさ。だが……今回の仕掛けは勝負がついてからが本番なのさ」

『え?』

 

 オガレスとルドレイには、レイデュエスの語ることの意味がよく分からなかった。

 

 

 × × ×

 

 

 雪乃たちはジードの苦闘を目の当たりにして、どんどん焦燥の色を深めていた。

 

「このままではまずいわ……!」

「でも、ハッチーたちが隼人くんを倒してしまえるはずないよ!」

「何とか倒すことなく、葉山先輩を止める手はないんでしょうか……!?」

「それには、どうにかして正気に戻させないと……」

 

 と相談する三人の元に、後ろから三浦が血相を抱えながら走ってきた。

 

「結衣! こんなとこで何立ち止まってんの!?」

「優美子!? え、えっと……優美子こそどうしたの!? こんなとこ来て!」

 

 返答に窮した結衣が聞き返すと、三浦は真っ青な顔で告げた。

 

「隼人がどこにもいないの! 結衣たち見なかった!?」

「えっ……! そ、それは……」

 

 三浦は葉山を捜しに来たのだ。だが見つかるはずがない。今の葉山はあのレイデュエス融合獣なのだから。

 しかしそれを説明できる訳もない。結衣たちが言葉に詰まっていると、ジードを押し込むメカスカルゴモラが彼女たちに接近してきた。

 

[ピッギャ――ゴオオオオウ! ギャオオオオオオオオ!]

「わぁーっ!! こっち来ましたよ!」

「と、とにかく今は逃げよう! 危ないし!」

「無理! 隼人がどっかにいるはずなの! 隼人を置いてくなんて……!」

「いいからっ!」

 

 下がろうとしない三浦を、雪乃たちは三人がかりで引っ張っていった。

 

 

 × × ×

 

 

[ピッギャ――ゴオオオオウ! ギャオオオオオオオオ!]

 

 メカスカルゴモラが腹部から歯車状の光輪を発射して攻撃してくる。

 

「『レッキングリッパー!!」』

 

 ジードはそれをレッキングリッパーで相殺したが、直後にメガスカル超振動波が飛んできてもろに食らってしまう。

 

「ウワアアアアアァァァァァッ!」

 

 大きく吹っ飛ばされるジード。ダメージが積み重なったことでカラータイマーが点滅し出した。もうあまり長く戦っていることは出来ない。

 

『「ぐッ……レム、葉山の奴に正気を取り戻させる方法はねぇのか……?」』

 

 苦痛にあえぐ八幡が尋ねると、レムは次のように答えた。

 

[ハヤマハヤトは闇のエネルギーで意識を操られています。これと相反する強力な光のエネルギーを照射すれば、彼の意識を解放できるでしょう。が、力ずくで行おうとすればハヤマハヤトに重大な後遺症が残る危険があります]

『「力ずくでってことは、そうじゃないやり方があるってことだよな?」』

[ハヤマハヤト自身が、己に掛けられた精神操作に抗えば危険性はなくなります]

 

 逆転の糸口は掴めたが、それを実現するにはどうすればいいか。少なくとも、今の葉山自身の意識はまるで見られず、完全に意識を乗っ取られている。

 

『何か、葉山君の心に強く訴えかけられるものがあれば……!』

『「あいつの心に訴えかけるものか……!」』

 

 メカスカルゴモラの猛攻をどうにか防御しつつ、思考を巡らせる八幡。その時、ジードの背後で三浦を引きずっていく結衣たちが、戦いの衝撃で反射的に悲鳴を発した。

 

「きゃあっ!」

『いけない! 雪乃たちが後ろに!』

 

 振り返った八幡は、三人に引っ張られる三浦の存在に気づいた。

 

『「三浦じゃねぇか……! 葉山を捜しに来たのか……そこまで真剣に……」』

 

 三浦の想像以上の想いの強さに思わず感服する八幡だったが、これにより彼の脳裏に電流が走った。

 

『「おい葉山ッ! 俺の後ろにいるのが見えるか!?」』

 

 聞こえているかどうかも分からないが、とにかく八幡は葉山に向かって大声で呼びかける。

 

『「三浦だ! お前、さっき俺が三浦は女避けに都合よかったかって言ったら怒ったよな? ってことは、お前は三浦のことはどうでもいいなんて思っちゃいないってことだろ!」』

 

 そう叫ぶと、メカスカルゴモラの攻撃の手がピタリと止まった。

 手応えを感じて、八幡が語調を強める。

 

『「そうだよな。修学旅行の時だって、お前は今の関係が続くような立ち回りをしてた。それだけお前にとっては、三浦や周りの人間のことが大事なんだろ。それを、今のお前は壊そうとしてるんだぞ! それでいいのか!? 何もかも壊しちまってまで、俺を殺したいってのかよお前は!?」』

 

 そこまで呼びかけると――フュージョンライズしてから一切の声を発していなかった葉山が、初めて言葉を紡いだ。

 

[「ゆ、優美子……お、俺は……!?」]

『! 今だッ!!』

『「おうよ!」』

 

 八幡は素早くキングカプセルを取り出す。

 

『「ユーゴーッ!」』『フエアッ!』

『「アイゴーッ!」』『ダァッ!』

『「ヒアウィーゴーッ!!」』

[ウルトラマンベリアル! ウルトラマンキング! 我、王の名の下に!!]

 

 ジードライザーからキングソードを召喚し、キングカプセルを装填してフュージョンライズ!

 

[ウルトラマンジード! ロイヤルメガマスター!!]

 

 変身を遂げたジードは、すぐさまキングソードにゾフィーカプセルを装填した。

 

[ゾフィー!]

『タァーッ!』

 

 ゾフィーの力を充填させたキングソードをメカスカルゴモラに向ける。

 

「『87フラッシャー!!」』

 

 そして放たれた膨大な光エネルギーが、メカスカルゴモラに直撃した!

 

[ピッギャ――ゴオオオオウ!! ギャオオオオオオオオ!!]

 

 ガクガクと首が揺れたメカスカルゴモラは、光線の照射が終わるとだらりと腕を垂らした。

 

『「……どうだ?」』

『威力は抑えたけれど……』

 

 レムの言う通りにはしたが、実際どうなるかは不明だ。固唾を呑んで葉山の反応を待つ八幡とジード。

 やがて、

 

[「……うッ……ひ、比企谷……」]

 

 葉山が声を上げた。それから操られていた時の鬼気迫る気配がなくなっているので、八幡たちはどっと安堵した。

 

『「よっし……!」』

[「……おおよそのことは分かってる。俺は……何てことを……」]

 

 自省の念の駆られる葉山に、八幡は皮肉げに微笑んだ。

 

『「お互いこんな姿じゃ、落ち着いて話も出来やしねぇだろ。元に戻ろうぜ? 出来るか?」』

 

 既に安心し切っている八幡であったが、葉山は――。

 

[「いや――まだ終わりじゃないんだ」]

『「え?」』

[「落ち着いてよく聞いてくれ。今の俺には――」]

 

 葉山から告げられた内容に――八幡たちは、絶句した。

 

 

 × × ×

 

 

 レイデュエスから打ち明けられたことに、オガレスとルドレイは思わず息を呑んだ。

 

『何と……あの地球人自身を、爆弾に……!?』

 

 レイデュエスはクックッと含み笑いしながらうなずいた。

 

「そうだ。俺の命の一部に時限装置を仕込んで植えつけたのさ。だから今の奴の命そのものが爆弾って訳さ。洗脳が解けたら、一分後には爆発するようになってる。切り離すことはもう俺にも出来ない」

『ですが、それだけではジードを始末できるとは限らないのでは……』

 

 異を唱えるルドレイに、レイデュエスは鼻を鳴らす。

 

「誰が始末するためと言った?」

『は?』

「その爆弾は、あの地球人を木端微塵にするためのものさ」

 

 レイデュエスの言葉に、オガレスたちは二の句をなくした。

 

「比企谷は目の前で隣人を失うって訳さ。どうしようもなく、救うことが出来なかった。ああいうタイプには相当な心の傷になるはずだぜぇ。この傷以上の苦しみと屈辱を、奴に刻みつけてやる! ハッハハハハハハッ!!」

 

 狂ったように高笑いするレイデュエスの一方で、八幡を精神的に苦しめるためだけにここまでのことをする彼にオガレスとルドレイはドン引きしていた。

 

 

 × × ×

 

 

[「……そういうことだ。もう時間がない。俺はもう助からない」]

 

 これから爆死するというのに達観している葉山から爆弾のことを知らされ、八幡は立ち尽くしていた。

 

『「……」』

[「だから比企谷、せめて俺の自爆が他の人たちを巻き込まないようにしてくれ。……俺のことは気に病むことはない。他人につけ込まれるような弱さがあったから、こんなことになったんだからな。全て、俺のせいさ」]

 

 自嘲気味につぶやいた葉山が急かす。

 

[「比企谷、早くするんだ! もう爆発まで時間がない!」]

 

 それに対して、無言であった八幡が――不意に告げた。

 

『「葉山、俺のことが嫌いだって言ったな?」』

[「え? こんな時に何を……」]

『「俺だってな、お前のこと好きじゃないぜ。だから」』

 

 八幡は有無を言わさずに言い切った。

 

『「お前の言う通りになんかしてやらないのさ」』

 

 そして二つのカプセルを取り出しながら、ジードが駆け出す。

 

『「ユーゴーッ!」』『シェアッ!』

『「アイゴーッ!」』『セェアッ!』

『「ヒアウィーゴーッ!!」』

 

 ウルトラマンカプセルとシャイニングウルトラマンゼロカプセルを装填し、フュージョンライズ!

 

[ウルトラマン! シャイニングウルトラマンゼロ!]

[ウルトラマンジード! シャイニングミスティック!!]

『「目指すぜ! 天辺!!」』

 

 シャイニングミスティックとなったジードは光速でメカスカルゴモラの背後に回り込んで羽交い絞めにした。

 

[「比企谷!? 何を……!」]

『「おおおおおおおおおッ!!」』

 

 そのままジードが全エネルギーを解放! ジードとメカスカルゴモラが、神々しい光に覆われて見えなくなる!

 そしてそのままジードたちは縮小していった。

 

「あっ! ジードんが……!」

「どうなったんですか!?」

「行きましょう!」

「あっ、ちょっと……!」

 

 それまで三浦を連れて避難していた雪乃たちだったが、ジードのただならぬ様子に思わず彼らの消えた地点へと駆け出した。置いていかれる三浦だが、つい三人を追いかけていく。

 そしてその先で――八幡と葉山が互いに支え合って歩いてくるところに出くわした。

 

「隼人くんっ!」

「葉山先輩! 無事だったんですね……!」

「……」

 

 感極まる結衣たち。ジードたちはシャイニングミスティックの時間逆行能力を駆使して、葉山の肉体の時間を巻き戻し、彼の命に植えつけられていた爆弾を分離して処理することで葉山を救い出したのであった。

 

「全く……何て無茶を……こんなフラフラになってまで……」

「はは……正義の味方なんてなるもんじゃないってこったよ……」

 

 呆れ返る葉山に、八幡は軽口で返した。葉山はふぅとため息を吐く。

 

「君には負けるよ……。誰よりも負けたくない相手なのにな」

「俺だって、お前が特別な存在なんだってずっと自分に言い聞かせてた。まぁそんなもんだろ人生って」

 

 冗談めかす八幡から力が抜けて、崩れ落ちかけたのを雪乃たちが慌てて支えた。

 

「八幡くん! しっかり!」

 

 その一方で、三浦が一連の光景を唖然とした顔で遠巻きにながめていた。

 

「隼人とヒキオが、ジードのいたところから……ってことは、まさかヒキオが……?」

 

 

 × × ×

 

 

 ――戦いが終わり、結局葉山の命が救われる結果となったことにルドレイとオガレスは憤りを見せていた。

 

『ウルトラマンジードめ……とことん殿下の思惑をくじいてくる……!』

『どこまでも腹立たしい奴らだ! ねぇ殿下』

 

 しかしレイデュエス当人は、何故か真顔で、雪乃たちに助けられる八幡を頭上から隠し撮りした映像をじっと見つめていた。

 

 

 × × ×

 

 

 シャイニングミスティックの能力を使用して力を使い果たした八幡は、星雲荘でライハとレムによる手当てを受けた。

 

「これでよし。もう大丈夫よ」

「よかったぁ~」

「全く、無茶するわよね、本当に」

 

 ずっと心配していた結衣と雪乃は、ライハのひと言に胸を撫で下ろした。

 葉山の方は手当てを受けず、その足で三浦といろはとともに他の生徒たちのところへ行き、二人を命からがら救助したという風を装って「二人が無事でよかった」と宣言した。これにより皆は葉山が誰にでも優しいと改めて認識し、雪乃と一緒にいたのはたまたまで、交際している訳ではないと思いなおす結果となった。あらぬ噂もこれで収束することだろう。これは八幡たちに迷惑を掛けたことへの、葉山なりの最大限の罪滅ぼしであった。

 それはいいとして、雪乃が眉間に皺を刻んでつぶやく。

 

「それにしても、レイデュエスの悪行は酷くなる一方だわ」

「それだよね! 今度は隼人くんまで犠牲にしようとして、ほんと許せないし!」

「何度も言うけど、このままにはしておけない……。何とか奴にとどめを刺すことは出来ないかしら」

 

 レイデュエスを完全に倒すことを考えるライハたちであったが、ベッドの上に横たえられている八幡は、ポツリとつぶやいた。

 

「……倒して終わりで、それでいいんだろうか」

「え?」

「八幡、それってどういう意味?」

 

 ペガが聞き返すと、八幡は確固たる意志をにじませながら答えた。

 

「今回みたいに葉山を倒さずに戦いを終えたみたいに、あいつのこともとどめを刺す以外の方法で終わらせられないかって、前から思ってるんだ」

「ち、ちょっとハッチー!? それ本気で言ってるの!?」

「一体何を言ってるの……? あんな極悪人を、改心なんてさせられるとでも?」

 

 結衣と雪乃は八幡の告白に困惑するが、ライハは八幡に尋ね返した。

 

「そんなことを言える根拠が、あるのかしら」

「はい。初めにこう思うようになったのは、京都の時です」

 

 思い返す八幡。京都で復活したレイデュエスと対面した時――レイデュエスは「いい仲間を持ってる」なんてことを口にした。それが皮肉や嫌味の類ではないことも感じられた。

 つまり、完全なる邪悪のように思えるレイデュエスの心にも、人間の美徳を賛美するような良心がどこかにあるということだ。

 

「そもそも、思えば俺たちはあいつがどこの誰なのか、過去に何があって地球侵略なんかしてるのかとか、そんなことを全然知らないんだ。きっと、あいつ自身のことを『知る』ことが、この戦いを終わらせる道になる……。何の確証もないけど、俺はそんな風に感じてる」

「……確かに、私たちはあの男のことを、何も知らないと言えるけど……」

 

 それでも納得はし切れない雪乃と結衣とは別に、八幡は確信を覚えていた。

 

「とにかく……俺は、奴の行いの『理由』を知りたい。あの異常な執念には、きっと何か根っこがあるはずなんだ。薄っぺらい欲望じゃない、何かが……」

 

 

 

『ウルトラストーリーナビ!』

 

葉山「今回は『ウルトラギャラクシー大怪獣バトル』第十一話「ウルトラマン」だ」

葉山「キングジョーブラックからの襲撃からどうにか逃れたZAPクルーは、惑星ボリスの生き残りが身を寄せるヴィンセント島で、その島が怪獣に襲われなかった理由を発見する。それは何と石化したウルトラマン! 怪獣惑星となってしまったボリスに飛来したウルトラマンはレイブラッド星人に封印されるも、バリアを張って生存者を守っていた。惑星からの脱出を促すウルトラマンだがそこにケイトが現れ、最強の怪獣ゼットンを出してレイに勝負を挑んでくる……という話だ」

葉山「『大怪獣バトル』は当時展開していたカードゲームのメディアミックス作品で、ウルトラマンじゃなく正真正銘怪獣がドラマの主役だ。主人公も、怪獣使いレイオニクスのレイと設定されてる」

葉山「ドラマも各話のつながりが強い連作仕立てで、怪獣の跋扈する惑星からの生きての脱出を懸けたサバイバル色が強い。次回作の『NEO』はそこにレイオニクス同士の勝負というバトルロイヤル要素も追加されてるな」

ジード『あのウルトラマンゼロもベリアルも大怪獣バトルの映画作品が初登場だから、現在のシリーズの重要なターニングポイントでもあるね』

葉山「それでは、次回もよろしく」

 




三浦「にしても、まさかあのヒキオがウルトラマンジードだったなんてねぇ……。っていうか結衣まで味方してたなんて」
葉山「まぁ、二人が俺たちに秘密で何かやってるみたいだというのは薄々気づいてはいたけどさ」
三浦「それだけじゃなく、姫菜まで知ってただけじゃなく色々あったみたいだし。何で相談してくれなかったの?」
海老名「ごめんね。だけどあんまり言いふらしたら結衣たちに迷惑掛かっちゃうし、何より……知られちゃいけない人が身近にいるし」
葉山「……戸部か」
三浦「ああ……戸部の奴は絶対口滑らすね」
戸部「何なにー? 俺がどうかしたべー?」
葉山三浦海老名「「「……何でもない」」」



次回、『いずれ、宿命の時がやってくる。』



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いずれ、宿命の時がやってくる。(A)

映画R/B観ました。
あからさまにトリプルファイターなのだ!


 

 マラソン大会最中の戦闘での消耗から回復した翌日、八幡はAIBのゼナの元を訪れていた。

 

『レイデュエスの素性だと?』

「はい。何かAIBで掴めてないかって思いまして」

 

 聞き返してきたゼナに、八幡はコクリとうなずく。

 八幡は雪乃たちに対して遂に、今の戦いを終わらせるためにレイデュエスの出自と過去を知りたいという思いを吐露し、行動に出た。まずは、宇宙人たちの組織であり地球外の情報を多量に得ているだろうAIBを当たってみたという訳である。

 

「あいつの執念はちょっとおかしいです。どれだけ倒しても這い上がってくる。戦いはどんどん激しくなって、被害や犠牲の数もどんどん増えてくかもしれない」

『それは言えている話だ』

「だから、向こうに戦い続けることをやめさせられたのなら、それに越したことはないと思うんです。今までのことを許すっていうとかじゃないんですけど……。ともかく、そのためには、今の奴が出来上がった経緯を知らなくちゃいけないと思うんです」

『確かに、相手の思考を理解するにはその対象の情報が必要だ』

 

 理解を示すゼナ。しかし彼からの答えは、八幡の期待とは裏腹のものだった。

 

『もちろん、我々もレイデュエスが何者かを前々より調査し続けている。奴の弱点につながるかもしれないからな。だが、一向にめぼしい成果は挙げられていないのが現状だ』

「そうですか……」

 

 多少なりとも落胆する八幡。それを受けつつ続けるゼナ。

 

『宇宙は実に広大。宇宙人とひと言で言っても、それこそ星の数ほどの種族がいるから、ろくな手掛かりもなければ絞り込むだけでもひと苦労だ。……と言っても、レイデュエスの正体の手掛かりはそれを踏まえても不思議なくらいに掴めないのだが。奴の性質を鑑みて、キル星やサロメ星などの好戦的な種族の星を中心に捜査を続けているのだが……』

 

 ゼナの言葉を聞いた八幡に、ふと考えが浮かんであごに手をやり、思考をまとめてからゼナに向かって言った。

 

「それって、逆なんじゃないでしょうか」

『逆?』

 

 八幡が、己の考えを話す――。

 

 

 

『いずれ、宿命の時がやってくる。』

 

 

 

「えぇっ!? 先輩、そんなこと言ったんですか!?」

 

 星雲荘では、いろはが雪乃、結衣から八幡の語ったことを伝えられていた。それを受けたいろはは、呆れたようなため息を漏らす。

 

「はあ~……先輩、本気で言ったんですかねそれ。あんな奴に何があったかなんて知ったところで、一体何が変わるって言うんですか。先輩たち奉仕部が相手してきた人たちとは全然違うんですよ?」

「それね! ほんと、ハッチーには困っちゃう」

 

 結衣も釣られるように両手で頬杖を突きながら大きなため息を吐いた。

 

「ハッチー、あいつがこれまでどんなことをしてきたのか忘れちゃったんじゃないかな。自分が散々ひどいなんて言葉じゃ片づかないようなことされたってのに……。それを、戦わずに済ませたいなんて、ちょっと甘いんじゃないって思うの」

「ですよねぇ。わたしも、今更話し合いで解決できるなんて到底思えませんよ」

 

 いろはも眉をひそめながらうなずいたが、雪乃は腕を組みながら、ポツリとつぶやいた。

 

「……だけど、そういう人だからこそ、八幡くんは奉仕部で色んな問題を解決できたのだと思うわ」

「……!」

 

 結衣といろはが驚いた顔で雪乃に振り返った。

 

「振り返ってみれば、奉仕部に持ち込まれた依頼には、普通の人なら呆れて見放してしまうようなものもあった。だけど八幡くんはそれらの本質を見極め、答えを導き出した。それはきっと、八幡くんが他人のことを最後まで見捨てない、見捨てられない性分だからよ。本人が何と言おうとも、ね」

「……確かに、ゆきのんの言う通りかも」

「ですね……」

 

 結衣といろははこれまでの八幡の活躍ぶりを思い返し、ほんのり頬を赤くしながらうつむいた。

 その中でライハが口を開く。

 

「確かに……八幡の言った通り、どんな悪党に見える人も、何らかの事情を抱えているものかもしれないわね」

「ライハさん?」

「私は昔、ある男の陰謀に巻き込まれて両親を失った」

 

 不意に打ち明けられたライハの過去に、雪乃たちは思わず息を呑んだ。

 

「もちろん、私はその男を憎んで復讐を誓った。だけど……その人も、故郷を失ったことをきっかけにベリアルに心を奪われ、挙句に利用されて打ち捨てられてなおベリアルにすがりつくことしか出来なくなっていたかわいそうな人だった。私は彼の最期を――憎しみの心ではなく憐憫で見届けた。戦いに終止符を打つということは、相手を力で打ち倒すだけが意味の全てではないというのは私も同意する」

 

 ライハは強い信念を表情ににじませながら語った。

 

「何より……力で相手を倒すことだけしか知らなかったのなら、リクのベリアルとの因縁は、きっと今になっても終わらなかったはずだわ」

「……」

 

 ライハの言葉に、雪乃たちは黙考する。

 

「……まぁ、今の状況であれこれ言ったところでしょうがないけどね。まずは八幡の言ったように、レイデュエスの情報を得てからでないと話は始まらないわ」

「ですね」

 

 ライハの締めくくりでこの話題は一旦終了し、いろはがふとつぶやいた。

 

「ところで、前から気になってたんですけど、リトルスターって後いくつ残ってるんでしょうか?」

「そういえばそうだね。もう結構な数集めたけど」

「もしかしたら、既に全部そろったんじゃないかしら?」

 

 千葉市に散らばったリトルスターは元々、キングカプセルのものが分散した欠片が成長したものなので、そう数は多くないはずだ。その残りを気にかけ、ライハがレムに尋ねかける。

 

「レム、そこのところどうなの?」

[はい。リクが地表に落下した時の状況から分析しますと、リトルスターの残存は一つのみの確率が80%以上です]

「あと一個あるんだ!」

 

 結衣が最後の一つだというリトルスターの行方を考える。

 

「最後のは誰の身体に宿ってるんだろ。今まではみんな千葉市の人だったから、きっと最後もそうだろうなぁ。あたしたちの知ってる人かな?」

 

 

 × × ×

 

 

 レイデュエス一味の円盤ではその頃、レイデュエスが運び屋からあるものを受け取っていた。

 

「……確かに。急な依頼にも関わらず、ご苦労だったな」

 

 金属製の箱の中身を確認して蓋を閉じたレイデュエスに、運び屋のレキューム人が問いかける。

 

『おいデュエス! そんなもの用意させてどうするつもりだ? 大変なことになるぜぇ?』

 

 冗談混じりに聞いてくるレキューム人に、レイデュエスは冷酷な目つきで返した。

 

「この星がどうなったところで、俺の知ったことじゃない」

 

 するとレキューム人は大仰に肩をすくませた。

 

『やれやれ……俺はお前が駆け出しの頃から知ってるが、ホントにあの星の出身とは思えねぇ――』

「――ッ!」

 

 そこまで口にしたところで――レキューム人の首筋に、ブラッドサイズが突き立てられた。

 

「それ以上余計なことを口走らないよう、声が出せないようにしてやろうか?」

 

 凶器を向けられたレキューム人だが、呆れたように深いため息を吐いた。

 

『怖い怖い……まぁ好きにしな』

 

 そう言い残して鎌を押しのけ、司令室から出ていくレキューム人。扉の外で待機していたオガレスとルドレイは、レキューム人の背中を見送りながらこそっとつぶやいた。

 

『そういえば、殿下はどこの生まれなのだろう』

『うむ。我々にも教えて下さらない』

 

 それをよそに、司令室内のレイデュエスは受け取った箱ともう二つ、ダークメフィストカプセルともう一本のカプセルを手の中で転がしながら、邪な笑みを浮かべていた。

 

「見ていろ、比企谷め……今度という今度こそは今までのようにはいかねぇぞ……」

 

 

 × × ×

 

 

 翌朝、結衣はサブレの散歩の道中でふと一人ごちた。

 

「ハッチー、昨日はゼナさんとレイデュエスの捜査のことで話をしてたんだよね。何か手掛かりとか掴めたのかな?」

 

 そんなことを気にしていると――急にリードの先のサブレの足がピタリと止まった。

 

「? サブレ、どうかしたの?」

 

 首をキョロキョロ動かし出したサブレの様子を訝しんだ結衣が思わず尋ねかけたが、サブレは彼女の声に反応を示さなかった。

 

「! ワンワンワンッ!」

 

 その代わりにいきなりけたたましく吠え出したので、結衣は目を丸くした。

 

「ほ、ほんとにどうしたのサブレ!? 何かあった!?」

 

 普段はこんなに吠える犬ではないので流石に焦る結衣だが、当たり前といえば当たり前だがサブレからの返答はない。

 そんな時に彼女の携帯にレムからのメッセージが届く。

 

「あっ、れむれむからだ……。えぇっ!?」

 

 その内容は、千葉市郊外に巨大生物が出現し、市街地に向けて侵攻中というものであった。

 

「こんな時に……って、まさかサブレ……」

「ワンワンワンワンッ!」

 

 何もおかしいことはないのに、リードを強く引っ張って吠え続けるサブレが、タイミング的にこの事態を感知したのではと一瞬結衣は思ったが、すぐに打ち消した。

 

「いやいや、まさかねぇ……」

 

 レムからの情報によると、怪獣の出現地はここから離れている。そんな場所の異常を、サブレが感じ取ったなんてことは考えられない。超能力でも芽生えた訳でもあるまいに。

 

「ワンワンッ! ワンッ!」

「こ、こらサブレ! ちょっと落ち着いてって……!」

 

 それでも謎の興奮を続けるサブレを、結衣はどうにかなだめようと手を焼く羽目となったのだった。

 

 

 × × ×

 

 

 星雲荘には、連絡を受けた八幡がエレベーターで急行してきた。

 

「レム、怪獣はどんなのだ!?」

[モニターに出します]

 

 八幡がすぐに尋ねかけると、レムはユートムからの映像をメインモニターに表示した。

 山中で木々を踏み荒らしながら市街地に向かってまっすぐに進撃する巨大怪獣の容姿が、八幡たちの目に露わとなる。

 

『キイイイイイイイイ!』

 

 まるで直立したサソリのような……というより、サソリ型の怪人が巨大化したかのような姿形であった。長大な尾は反り返り、頭の上に乗せられている。

 八幡はこの怪獣に、映像越しでも言い知れない生理的な嫌悪感を覚えた。今までの怪獣には感じたことのない……自分とは根本的に異なる存在に対する、本能的な警鐘のような。

 

「こいつ、何だ……? 普通の怪獣じゃないっぽいが」

 

 嫌な汗を垂らす八幡に、レムが報告する。

 

[スペースビースト。知的生命体の恐怖の感情を肉体ごと捕食する宇宙怪獣の一種で、異常なレベルの食欲と繁殖力により第一種危険生命体に認定されています]

「危険生命体……!?」

[一体でも放置していれば、一つの惑星の生態系が完全に破壊されてしまうほどの危険性を持っています]

 

 レムの告げる内容に、八幡も流石に息を呑んだ。一体だけでも星を滅ぼせるような怪獣が存在していようとは!

 地球に出現したスペースビースト――クラスティシアンビースト・グランテラはまさにレムの言った通りに、人間を食らい尽くそうと人里を狙っているところであった。

 

「そうとなると、一刻の猶予もないってことね」

 

 そう意見するライハ。雪乃たちはまだ到着していないが、悠長に待っている暇はなさそうだ。

 

「はい。すぐ現場に向かいます!」

「頼んだよ、八幡!」

 

 エレベーターに駆け込んでいく八幡をペガとライハが見送る。

 エレベーターの扉が閉められ、八幡が現場の山岳地帯へ転送されていった。

 

 

 × × ×

 

 

 八幡がエレベーターから下りると、そこはグランテラの進行方向の真正面であった。つまり八幡の背中に、大勢の人間が暮らす街があるという訳だ。

 

「キイイイイイイイイ!」

 

 グランテラはそこを目指してこちらに接近してきている。その姿を見やりながら、ジードが八幡に呼びかけた。

 

『これ以上先には進ませない! 八幡、行こう!』

「おう! ジーッとしてても、ドーにもならねぇ!」

 

 八幡はジードライザーを握り締めながら、ウルトラカプセルを起動していく。

 

「ユーゴーッ!」

『シェアッ!』

「アイゴーッ!」

『フエアッ!』

「ヒアウィーゴーッ!!」

 

 ウルトラマンカプセルとベリアルカプセルのスイッチを入れて、装填ナックルに収めるとライザーでスキャンする。

 

[フュージョンライズ!]

 

 そしていつものように、ウルトラマンジードにフュージョンライズして変身していく。

 

[ウルトラマン! ウルトラマンベリアル!]

[ウルトラマンジード! プリミティブ!!]

「シュアッ!」

 

 フュージョンライズを完了したジードが巨大化して飛び出していき、グランテラの目前で派手に着地した。

 

「キイイイイイイイイ!」

 

 ジードの出現によってグランテラも警戒して足を止め、両腕のハサミを振り上げ臨戦態勢を取った。

 

「ハァッ!」

 

 ジードは果敢にグランテラへと飛びかかっていき、大勢の人々を守る戦いを開始した!

 

 

 その戦いの始まりを、森林の中に身を潜めるレイデュエスが見張っている。

 

「出てきたな、比企谷。だが俺自身が出るのはまだだ」

 

 レキューム人に用意させたビースト細胞からスペースビーストを作り出し、地球に放ったレイデュエスは、カプセルを握りながら時が来るのを待ち構えていた。

 



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いずれ、宿命の時がやってくる。(B)

 

 八幡がジードに変身して戦闘を開始した少し後に、結衣がエレベーターを用いて星雲荘に到着した。

 

「ごめん、遅れちゃった!」

「ワンワンワンッ!」

 

 星雲荘に駆け込む結衣の腕の中でサブレがけたたましく吠えた。結局落ち着きを見せず、放っておけばどこかへ走り去ってしまいそうだったので、やむなく抱えたまま星雲荘へと移動してきたのだ。

 

「結衣さん。私もだけれど……ひと足遅かったわよ。八幡くんは、既に戦いを始めているわ」

 

 先に到着していた雪乃が振り向くなりそう説明した。モニターの映し出す映像の中では、グランテラにジードが果敢に飛びかかっているところだ。

 しかしどうも手を焼いているようで、ペガとライハが表情を険しくする。

 

「リクたち、ちょっと苦戦してるね……」

「どうも簡単にはいかない相手のようね」

 

 更にレムが皆に向かって告げる。

 

[スペースビーストは細胞片からでも再生、増殖が可能なほどの生命力を有しています。倒したとしても、細胞の一片も残さずに焼却しない限りは、危険は取り払えません]

 

 それを受けてゼロが材木座を促す。

 

『義輝、すぐにジードたちの加勢に向かうぜ!』

「うむ!」

 

 材木座も即座に了承し、レムの用意したエレベーターに飛び乗って戦闘現場へと出撃していった。

 その様子を見届けた結衣は感心したようにつぶやく。

 

「中二もすっかり勇敢な感じになったね。初めはこれ大丈夫なのかなって不安で仕方なかったけど」

 

 そんな彼女に、雪乃が尋ねかける。

 

「それはいいのだけど、結衣さん、あなたペットを抱えてここに来なかったかしら? どこへ行ったの?」

「へ? ……あぁっ!? いない!?」

 

 気がつけば、さっきまで腕に抱えていたはずのサブレが影も形もなくなっていた。いつの間に脱け出したのか。

 仰天している結衣にレムが告げる。

 

[ユイ、あなたの飼い犬でしたら、扉が閉まる寸前にゼロたちのエレベーターに潜り込んでいきました]

「えぇー!?」

 

 何と、サブレは材木座に便乗して戦場に移っていってしまったというのだ!

 

 

 × × ×

 

 

「ハァッ!」

「キイイイイイイイイ!」

 

 ジードはグランテラが両腕の間から繰り出す光弾や長い尾の先端からの砲撃をかわしつつ、相手に打撃を浴びせる。だがグランテラの全身を覆う甲殻は非常に強固であり、ジードの攻撃にびくともしない。

 

『「痛っつぅ……これじこっちの手足を痛めるだけだぜ……」』

『かなり防御力が高い奴だね……!』

 

 グランテラが振り回す尾から逃れながら、ジードが痛む手の平をさすって体勢を立て直した。と、そこに、現場に到着した材木座がゼロに変身して助太刀に入る。

 

「シェアッ!」

「キイイイイイイイイ!」

 

 ゼロスラッガーがグランテラの尾を弾くと、ジードはゼロの方に振り向いた。

 

『ゼロ!』

『待たせたな! 一気に畳みかけてやるぜ!』

 

 ゼロはグランテラがひるんでいる隙に、先手必勝とばかりにワイドゼロショットの構えを取った。

 

『ワイドゼロショット!』

 

 しかし、両腕を完璧にL字に組んだのに、どういう訳か光線は即座に霧散して消滅してしまった!

 

『何!? 光線が、かき消えた……!?』

 

 動揺したゼロだが、すぐに背後に新たな気配を感じ取った。バッと振り向けば、逆立ちしたような巻き貝型の異形の怪獣が宙に浮かびながら虹色の光波を放っていた。

 

「ウイ―――――ン!」

 

 ノーチラスタイプビースト・メガフラシ! その肉体から発せられる特殊光波は光エネルギーを拡散し無力化してしまう。レイデュエスが対ウルトラマン用に用意した二体目のスペースビーストだ!

 

『チッ、あいつの仕業か!』

 

 即座に理解したゼロは先にメガフラシを叩くべく、ゼロスラッガーに手を添えた。光線が無効化されるならば、実体であるスラッガーを食らわせるだけだ。

 だがその肩に後方から、紫色の熱線が浴びせられる。

 

『ぐわッ!?』

「グガアアアア!」

 

 ゼロを後ろから攻撃したのは、六つ目のトカゲ型の怪物。レプタイルタイプビースト・リザリアスグローラーだ! 顔面の口と胸部に備えつけられた第二の口の両方から熱線を吐き出してゼロを集中的に狙ってくる。

 

「ウイ―――――ン!」

 

 メガフラシの方も殻の左右の角から電撃を放ち、ゼロは前後から襲われる形となる。

 

『くっそ……!』

 

 改めてゼロスラッガーを握り、両者からの攻撃を懸命に切り払うゼロ。が、そこにメガフラシがドリルのように回転しながらゼロに突撃してきた。

 

『ぐわぁぁぁッ!』

『ゼロッ!』

 

 グランテラと交戦しながら思わず振り向くジードだが、ゼロはメガフラシを取り押さえつつリザリアスグローラーに後ろ蹴りを浴びせ、ジードに告げた。

 

『こっちは任せろ! お前たちは、そのサソリに集中しな!』

『……分かった!』

 

 一瞬迷ったジードだが、グランテラも強敵だ。ここはゼロを信じ、言う通りにすると決断した。

 

『早くこいつを倒してしまおう!』

『「おう! 防御の堅い奴なら、こいつだ!」』

 

 八幡はセブンカプセルとレオカプセルを素早くナックルに装填し、フュージョンライズする。

 

[ウルトラセブン! ウルトラマンレオ!]

[ウルトラマンジード! ソリッドバーニング!!]

「ドォッ!」

 

 紅蓮の鎧で身を固めたジード・ソリッドバーニングのブーストパンチがグランテラを殴り返した。

 

「キイイイイイイイイ!」

 

 たとえ光線技が使えない状況であろうとも、破壊力と防御力を兼ね備えたソリッドバーニングならばグランテラの装甲も物ともせずに押し切れることだろう。姿を切り替えることで如何なる戦況にも対応できるのがフュージョンライズの最大の強みだ。

 が、しかし、ここでレイデュエスが動いた!

 

「やっぱりそう来たな……! 待ってたぜぇ!」

 

 ニヤリと嗤った彼は単眼の機械戦士のカプセルと死神のような暗黒戦士のカプセルを取り出して、装填ナックルに押し込んでいく。

 

「イッツ!」『ハッ!』

「マイ!」『ウアァッ!』

「ショウタイム!!」[フュージョンライズ!

 

 二つの暗黒のカプセルのパワーを吸収したレイデュエスの肉体が、闇の戦士のものに変化して巨大化していく。

 

ダークロプスゼロ! ダークメフィスト!

レイデュエス! ダークソリッドサタン!!

「ドゥアァッ!」

 

 木々を吹き飛ばして出現した黒の巨人。驚いて振り向いたジードは、その容姿に更に驚愕することとなった。

 

『何ッ!? あの姿は……!!』

 

 左眼のない吊り上がった単眼の首の頭頂部に、ふた振りのスラッガーを持ち、胸部の中央にはおぞましい赤色のカラータイマー。そして全身は、黒と赤と銅色の装甲に覆われている。

 今のジードの形態、ソリッドバーニングと似て非なる、悪のウルトラ戦士の力を有したレイデュエス融合獣だ! その名も、ダークソリッドサタン!

 

『「……! そうか、ここまでの全部が、この状況を作るための布石だったって訳か!」』

 

 ダークソリッドサタンをひと目見た八幡が全て理解した。

 その推測通り、三体のスペースビーストはゼロを抑えながらジードにソリッドバーニングへのフュージョンライズを誘導し、レイデュエスにとって有利な状況を作り出すための罠であったのだ!

 

(♪スペースビースト -Invasion-)

 

「オオオアァッ!」

 

 ダークソリッドサタンは腕のスラスターから紫煙を噴射して、加速した拳をジードに食らわせた。

 

「ウアァッ!」

 

 すさまじい威力にソリッドバーニングといえども耐え切れず、大きく殴り飛ばされるジード。しかしすぐに体勢を立て直す。

 

「ウッ……ダァッ!」

「ヌアァッ!」

 

 ジードスラッガーを投擲して反撃するも、ダークソリッドサタンは同時に二つのサタンスラッガーを繰り出す。ジードスラッガーは弾かれた上、もう一方のサタンスラッガーがジードに襲い掛かり身体を切り裂く。

 

「ウワアァァァッ!」

「オオオオオッ!」

 

 更にダークソリッドサタンは胸部のプロテクターからシャドーブーストを放ち、ジードを追撃。ジードは派手に吹っ飛ばされた。

 

『「ぐあああぁぁぁぁぁッ!」』

 

 その破壊力は途轍もなく、八幡にも激しいダメージが降りかかる。ジードはどうにか起き上がるが、自らと同等以上の能力の敵に光線が封じられた状態では、戦いは苦しくなるばかりである。

 

『まずい……! 八幡、カプセルの交換を……!』

『「ああ……!」』

 

 八幡はすぐに戦況打破のためにカプセル交換しようとしたが、

 

「キイイイイイイイイ!」

「ウワッ!?」

 

 背後からグランテラがハサミを振り上げて攻撃してきて、阻止されてしまった。ジードは数的不利も背負っていたのである。

 

「キイイイイイイイイ!」

「フゥンッ!」

「グワァァッ!」

 

 グランテラの尾の光弾で弾き飛ばされたところをダークソリッドサタンに踏みつけられ、更に腕からの暗黒光線、ダークストライクブーストを撃たれる。

 

「ウワアアアアァァァァァァァァッ!!」

 

 暗黒光線の直撃を受けたジードが地面を滑りながら山肌に激突した。カラータイマーが激しく警告音を鳴らす。

 

『ジード!!』

 

 一方的にやられるジードにゼロが焦りを見せたが、こちらも二体のビーストに苦戦している最中。どうにかメガフラシの殻を砕いて光波を止めることは出来たが、とてもジードの方にまでは手が回らない。

 この極限の状況で、ジードを救う者はいないのか!?

 

「ワンワンワンワンッ!」

 

 そんな時に、戦場に突然犬の吠える声が起こった。

 

『「こ、この鳴き声は……!」』

 

 それは八幡にとって聞き覚えのあるものだった。目をやれば、その先に材木座にくっついてこの場に来ていたサブレがダークソリッドサタンに向けて精一杯威嚇していた。

 

『あれは、結衣のペットじゃ……!?』

『「何でこんなとこに……!?」』

 

 当然、ジードたちにはその理由が分からない。一方でサブレの元には、慌てて追いかけてきた結衣と雪乃が駆けつける。

 

「サブレ! 無事だったんだね!」

「なんて言っていられる場合でもないわ! すぐ逃げましょう……!」

 

 結衣がすぐにサブレを抱きかかえて、雪乃とともに避難しようとするが、もう遅い。ダークソリッドサタンは彼女たちに狙いをつけ、単眼から光線を発射しようとしている!

 

「『やめろぉぉぉぉッ!!」』

「フゥアァァッ!」

 

 ジードたちの制止も虚しく、メイザーブーストが結衣たちに襲い掛かる!

 

「きゃあああああああああああっ!!」

 

 結衣と雪乃の悲鳴を、壮絶な爆炎が呑み込む。

 八幡たちは、一斉に顔面蒼白となった――。

 

「……ヌゥ?」

 

 が、爆炎が晴れると、見えたのは――。

 

「――あれ……?」

 

 何事もなかったかのように無事でいる結衣たちの姿であった!

 もちろん、何もなしに無事だった訳ではない。彼女たちは、何かバリアのようなもの――いや、位相のずれた亜空間に覆われて守られていた。

 

「こ、これって……どうなってるの?」

「!! まさか……!」

 

 結衣はきょとんと首を傾げたが、雪乃は即座に思考が至り、結衣の腕の中のサブレの前足に触れた。

 そしてひと言、

 

「結衣さん! あなたのサブレ……リトルスターを発症してるわ!」

「えええぇぇ―――――!? 最後のリトルスターって……サブレだったのぉ!?」

 

 超仰天する結衣。しかし、リトルスターの発症者は何も人間に限るのではないから、ありえないことではなかった。

 

「ワンワンッ!」

 

 亜空間を張って結衣たちを守ったサブレはジードに向かって吠えると、その身体からリトルスターが飛び、ジードに譲渡される。八幡がカプセルを取り出すと、新しいカプセルに矢じり型のコアのウルトラ戦士の絵柄が宿った。

 

『ヘアッ!』

[ネクサスカプセル、起動しました]

 

 レムが報告すると、八幡が苦痛を食いしばっていた表情を一変させた。

 

『「ジード!」』

『ああ!』

 

 ダークソリッドサタンとグランテラが一斉に光線を撃ち込んでくるが、ジードは咄嗟に天高く飛び跳ねてかわしながら、同時に八幡がカプセルを交換していく。

 

『「ユーゴーッ!」』『セェェェアッ!』

『「アイゴーッ!」』『ヘアッ!』

『「ヒアウィーゴーッ!!」』

 

 ウルティメイトゼロカプセルと、新しく手に入れたネクサスカプセルをナックルに装填して、ジードライザーでスキャンしていく。

 

[フュージョンライズ!]

『「ジィィィ―――――――ドッ!」』

 

 光刃の軌跡と波打つ水面のように揺らぐ光の中から、ジードが新しい姿となって飛び出していく!

 

[ウルティメイトゼロ! ウルトラマンネクサス!]

[ウルトラマンジード! ノアクティブサクシード!!]

「シュアッ!」

 

 華麗に着地した今のジードは、ゼロのような配色のボディとネクサスのような独特の頭部となり、更にプロテクターの肩部が伸びて大きく突き出していた。そして全身からは、膨大な光エネルギーがにじみ出ている。

 これぞ数多の時空で語り継がれる伝説の巨人、ウルトラマンノアの力を受け継ぐジードの形態、ノアクティブサクシードだ!

 

(♪ネクサス -Full Throttle-)

 

『「超えるぜ! 極限!!」』

 

 溢れ出る光の力によって活力までも取り戻したジードは、ダークソリッドサタンが放ってきたサタンスラッガーを、右腕のプロテクターから伸ばしたウルティメイトゼロソードを振るって弾き返した。

 

「ハァァッ!」

 

 更にジードは一回転する勢いでソードから衝撃波を放ち、グランテラ、メガフラシ、リザリアスの三体を同時に攻撃する。

 

「キイイイイイイイイ!!」

「ウイ―――――ン!!」

「グガアアアア!!」

 

 ノアクティブサクシードの空間も切り裂くような衝撃波は悪しき力では止められない。スペースビーストたちは深々と切り裂かれて動きを止めた。

 

『流石だぜジード! 義輝、俺たちも負けてらんねぇぜ!』

『「うむ!」』

 

 この隙に材木座はネオ・フュージョンライズを行う。

 

『俺に限界はねぇッ!』

[ウルトラマンゼロビヨンド!!]

 

 ゼロビヨンドとなるとともにビヨンドツインエッジを構え、メガフラシに突撃。交差する斬撃でメガフラシにとどめを刺す。

 

「シェアッ!」

「キュッキュッキュッ!?」

 

 メガフラシは一瞬で斬り捨てられて爆散し消滅。ゼロは着地するとリザリアスに振り向きざまにバルキーコーラスの構えを取る。

 

「グガアアアア!」

『バルキーコーラス!』

 

 リザリアスグローラーは二つの口の熱線を重ね合わせた強烈な熱線を発射したが、バルキーコーラスは瞬く間に熱線を押し返し、リザリアスを貫いた。リザリアスは全身を焼き尽くされて消滅する。

 

「キイイイイイイイイ!」

 

 グランテラは胸部装甲を開いて、六つ並んだ気門からジードへと光弾を連射したが、ジードは剣を振るって光弾を全部切り払いながらグランテラに肉薄。

 

「ハァッ!」

 

 そのまますれ違いざまにグランテラを一刀両断。それとともに莫大な光エネルギーを叩き込まれたグランテラは爆散し、粒子となって風化していった。

 

「ヌゥゥゥゥッ!」

 

 あっという間に逆転されてしまったダークソリッドサタンは両手にスラッガーを握ると、きりもみ回転しながらジードに突貫していく。対するジードは動じず、剣を構えて防御の姿勢を取った。

 

「ショアッ!」

 

 そしてダークソリッドサタンの突進を受け止め、かつはね返した!

 

「オアァァッ!」

 

 今度は自分が地表に叩きつけられたダークソリッドサタン。しかしジードの反撃は終わりではない。

 

「ハッ!」

 

 前に突き出したウルティメイトゼロソードの先端から光線が飛び、ダークソリッドサタンに命中すると矢じり型の紋章が生じてダークソリッドサタンを拘束する。

 

「ウッ!?」

 

 この間にジードは飛び上がり、空中から回転しながら突撃!

 

「『ソードレイ・オーバードライヴ!!」』

 

 猛烈な速度でZ字の斬撃が刻み込まれた!

 

「オワアアアアァァァァァァァァァァァァッ!!」

 

 全身からスパークが漏れ出たダークソリッドサタンは耐えられるはずもなく、大爆発!

 

「やったぁぁぁ―――!!」

「キャンキャンキャンッ!」

 

 結衣はぴょんぴょん飛び跳ねて大はしゃぎ。主人に合わせてサブレも喜びの鳴き声を上げた。

 敵を見事退けると、ネオ・フュージョンライズを解除したゼロはジードの隣に並んで軽口を叩いた。

 

『へへッ、俺の鎧のパワーも自分のものにするとはな。お前って奴はつくづくいいとこ取りだよなジード』

『からかわないでよ。それが僕の特徴なんだから……』

 

 言い返すジードだが、不意に胸を押さえてよろめく。

 

『うッ……!』

『お、おい! 大丈夫か!?』

『あ、ああ。だけど、流石にダメージをもらい過ぎたかな……』

『もう変身を解除して、治療を受けた方がいいぜ。八幡の身体なんだし、労わってやりな』

『分かった……』

 

 忠告通りに変身を解いていく二人。すると八幡の下に結衣と雪乃が駆け寄り、よろよろと足元のおぼつかない彼を支えた。

 

「ハッチー、大丈夫!? 早く星雲荘に戻って手当てしてもらおう!」

「仕方ない部分もあるけど、あまり無理しては駄目よ……。あなたたちの代わりが出来る人は、この地球上にはいないのだから」

「ああ、悪いな……」

 

 八幡の身体を気遣いながら、彼をエレベーターのところまで連れていく結衣と雪乃。――その二人から目も向けられない材木座は、ポツリと独白していた。

 

「あれぇー……我も結構苦しみながら頑張ったんだけどなぁー……こっちには労いの一つもないのかなぁー……」

『義輝。男には、孤独に耐えなきゃならねぇ時もあるんだぜ』

 

 ゼロは材木座を慰めながら、ていうかお前女とまともに会話できねぇじゃん、と内心で突っ込んでいた。

 

 

 × × ×

 

 

 ジードたちに敗れ、拠点の円盤に逃げ帰ってきたレイデュエスは、胸を抑えながら壁に寄りかかっていた。

 

「おのれぇ……ここまでやって駄目なのか……うぐッ!?」

『で、殿下、しっかり!』

 

 荒い息で一瞬痙攣するレイデュエスの身を、オガレスとルドレイが焦りながら案じる。

 

『連戦のダメージが祟っているのですよ! 先日も、命を削ったばかりなのに……』

『しばらくは休まれた方が……』

「ぐッ……ええいうるさいッ!」

 

 しかし当人は無理矢理呼吸を整えると、二人を乱暴に遠ざけた。

 

「自分の身体のことは俺が一番分かってる! 余計な気を回してないで、自分らの役割に専念しろッ! いいな!?」

 

 吐き捨てるように言いつけると、困惑したままのオガレスたちを置いて、自室に引っ込んでいった。そこで激しくせき込む。

 

「ゴホッゴホッ! ……くそッ、言われなくたって分かってるわ! これ以上はやばいということぐらい……! だからこそ、早いところケリをつけてやる……!」

 

 レイデュエスの視線の先にあるのは、ゼットンなどのいくつもの怪獣カプセル。

 

「この『最後の手段』の用意も着々と進んでいる……。これが俺の宿命だ……邪魔する奴を葬り、全宇宙の王の座に就くことが……! そのために、比企谷……必ず決着をつけてやる……その時が来るぞ……! 必ず、なぁ……!」

 

 自らに言い聞かせるようにブツブツとつぶやくと、レイデュエスはカプセルをながめながら笑みを顔に張りつけた。

 レイデュエスの笑みは、日を追う毎に正気の色が欠けていっていた……。

 

 

 

『ウルトラストーリーナビ!』

 

結衣「今回は『ウルトラマンネクサス』第二十三話「宿命 -サティスファクション-」だよ!」

結衣「異空間から人を襲うスペースビースト・クトゥーラの触手を返り討ちにしたウルトラマンだけど、変身する姫矢さんの身体は限界に来てて、もうボロボロだった……。だけど姫矢さんは弧門の共闘の申し出を頑なに断って、一人で戦おうとするの。一方で宿敵、溝呂木も予言のメッセージを使って、姫矢さんを最後の戦いに引きずり出そうとしてた。姫矢さんは自分に課せられた戦いを自分の宿命として、逃げずに戦おうとするんだけど……」

結衣「『ネクサス』は一つ一つの話がつながって、一個のストーリーを作ってるんだけど、そのストーリーがすっごい重いんだよね。特に前半はずぅっと重苦しい雰囲気が続くし、ウルトラマンに変身する姫矢さんはだんだんと傷ついていくしで、見てて胸が締めつけられるような展開が続くの……」

結衣「だけどその分、物語はとてもよく出来てて、最後にはこれまでの鬱っぽさを全部吹っ飛ばすくらいの熱いクライマックスが待ってるから、『ネクサス』というお話を支持してる人は少なくないんだよ!」

ジード『ただ放送当時は肝心の視聴率を稼げなくって、後々の円谷プロの経営にも大きな影響を残すことにもなったけれど、今となってはそれもウルトラシリーズの歴史だね』

結衣「それじゃ、また次回でね!」

 




雪乃「八幡くんは大丈夫かしら……。今回は一段とダメージが深そうだったわ」
結衣「心配だよね……。このまんま戦いが続いて、ハッチーは無事でいられるのかな……。最近はそんなことまで考えちゃうよ」
雪乃「そうね……。だけど、それにしても、私たちがこんな風にジードの仲間になってから、結構な時間が経ったものよね」
結衣「え? あぁ、うん。そうだよね」
雪乃「初めは流されるようにつき合っていたから、こんなにも戦いが長く続くなんて思っていなかったわ。その間に色んなことが起きて……」
結衣「そう言われたら、何だか懐かしい感じにもなるね」
雪乃「ええ。……私たちって、今後はどうなっていくのかしら」
結衣「……これから先、かぁ……」



次回、『奉仕部が見た雪の扉の先は。』



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奉仕部が見た雪の扉の先は。(A)

 

 一月も終わりが見えてきた頃、八幡たち奉仕部のメンバーは放課後、部室でいつ来るかも分からない依頼者を待つという名目の下で、雑談に興じていた。

 

「いやー……こうしてゆったりするのも何か久しぶりな気がするね」

 

 マグカップの紅茶をひと飲みしてから、結衣がほうと息を吐いてつぶやいた。それに雪乃が首肯する。

 

「そうね。ここのところは奉仕部としてもジード部としても、慌ただしいことの連続だったもの」

「出来ればこんな時間が長続きしてほしいけどね」

「まぁきっとそうはいかねぇんだろうな。全く嫌になるけどな」

「ですねー」

 

 ペガと八幡も雪乃の後に続いて駄弁すると、いろはがうんうんとうなずいた。彼女が奉仕部に当たり前のようにいることは、もう誰もわざわざ突っ込んだりはしない。

 そのいろはが、ふとペガとジードに尋ねかけた。

 

「でも、ペガくんとジード先輩はいつまでこっちにいるつもりなんですか?」

「『え?」』

 

 突然のひと言で、皆の注目がいろはに集まる。

 

「ちょっと気の早い話かもしれませんけど、お二人には自分たちの帰る場所があるんでしょ? で、いつかは帰らないといけない訳でしょう」

『まぁ……そうだね』

「確かに、もう結構長いことこっちにいるよね。モアとか心配してないかな」

 

 そのことを意識したジードとペガが相談する。

 

『うん。いつになるかはまだ分からないけど、全部の戦いに決着がついたら帰らなくちゃね。少し寂しくなるけど……』

「……そっか。ジードんたち、いつかはここからいなくなっちゃうんだよね」

 

 二人の話を耳に入れた結衣が、少し伏し目がちになった。それを励ますように雪乃が説く。

 

「結衣さん、それは当然最初から分かってたことよ。出会いがあれば、別れがあるのは必然。その時が来たら、心残りがないように見送りましょう」

「うん……」

 

 と言われても、結衣はそう容易くは気持ちの整理がつかないようであった。

 更に八幡も、思いついたように言葉をつむぐ。

 

「俺たちだって三年になったら受験勉強で奉仕部やってられなくなるだろうし、卒業すりゃ嫌が応にもこの部室にはいられねぇ。俺たちが卒業した後で、奉仕部がどうなるのかも分からないしな」

「平塚先生、新しい子を入部させるつもりはあるのかしら」

 

 八幡と結衣が部活の行く末を気にしている一方で、結衣はますます浮かない顔をする。

 

「だよね……もうあと一年もしたら、あたしたち卒業だもんね……」

「わたしはもう一年いますけどね」

 

 誰も聞いていないが、いろはがそんなことを発した。

 場の話題は流れで、将来に関してのこととなる。

 

「大学かぁ……。そっから先は俺、どうなるんだろうな。ちゃんと専業主夫になれるだろうかな」

「ちゃんとの前提がおかしい気がするのだけれど……」

 

 雪乃が突っ込んだが、八幡としては相変わらずの発言である。

 将来の話題で、ペガがふと思い出したように言った。

 

「そういえば材木座くん、最近はちゃんと自分の小説を執筆してるそうだよ。もう間もなく完成するとか」

「へ? あの典型的なワナビの材木座が、完成までこぎつけそう?」

「うん。ゼロが色々とアドバイスしたりとかで熱心につき合ってあげてるみたい。これなら、作家デビューもあり得る話なんじゃないかな」

「そうか、ゼロが……。なら納得だな」

 

 うなずく八幡。口とノリは軽くとも、割と熱血系のゼロならば、あのどうしようもない材木座も上手く引っ張ることが出来るのだろう。

 

「にしても、まさか材木座が一番に明確な目標に向かって動き出してたとは……。ちょっと前までだったら思いもしなかったんだがな」

 

 ぼやく八幡も一方で、結衣はじっと黙って何かを考え込んでいたままだった。

 

 

 

『奉仕部が見た雪の扉の先は。』

 

 

 

 その日の下校時、結衣は一人で考えに耽ったまま帰路を歩いていた。

 

「……将来か……。もうそろそろ、ちゃんと考えなくちゃいけない時が来るんだよね」

 

 と独白する結衣。高校入学時にはまだずっと先のことだと思っていたことが、時の流れは速いもので、もう間近に迫りつつある。

 学生生活としてはそこまで真剣に考えて暮らしていないように見える結衣だが、いやむしろだからこそと言うべきか、将来への不安というものは、人並み以上には抱えている。中学の時代にも高校生になったら自分はどうなるのか、と思い悩んだこともあるが、今の不安はその時以上である。何故なら、今は奉仕部という大事に思っている場所と仲間たちがいるからだ。

 大切なものというものは、自分を強く支えてくれる一方で、無くなってしまう時の喪失感やその時が来ることの恐れが同等に大きいもの。今の結衣はまさに、その恐れを内心に抱えている状態であった。

 

「ハッチーやゆきのんとは、別々の大学になるのかな。そうなっても、今みたいなつき合いが出来るのかな。ジードんたちはしょうがないとしても、二人とも気がつけば離ればなれなんてことになってるんじゃ……」

 

 それが結衣の一番の不安であった。以前に葉山や姫菜が、グループが離散することをかなり恐れていたが、今ならばその気持ちがよく分かりそうだと結衣は感じた。

 そんなことを思いながら、公園の前を通りかかった、その時、

 

「……あれ?」

 

 公園の片隅で、見慣れない老人が古めかしいレコードプレーヤーを奏でている様子が目に飛び込んできた。

 いつもならば珍しい光景とはいえ、そのまま気にせずに通り過ぎることなのだが、今は何故か心が引きつけられるものがあり、何となしにその老人の側に歩み寄っていった。

 

「……」

 

 老人のレコードプレーヤーから流れている曲は、現代の女子高生である結衣には馴染みの薄いヴァイオリンのソロのクラシック音楽だ。それでも、結衣の気持ちはこの曲によって何だかほんのりと温かくなっていた。

 少し聞き惚れていると、老人が結衣の存在に気づいたかのように振り向いた。

 

「こんにちは、お嬢さん。この曲に興味がおありですか」

 

 老人はゆっくりとした、とても優しげな響きの声音で話しかけてきた。

 

「はい。とってもいい曲ですね」

 

 結衣が思ったままの感想を口にすると、老人は殊の外喜んだ。

 

「ありがとうございます。これは昔、私が弾いたのを録音したものなんですよ」

「えっ、おじいさんの?」

「ええ。こう見えても、若い頃はプロのヴァイオリニストでした。と言っても、刷られたレコードはこの一枚だけの全くの無名でしたけどね」

 

 レコードはもう、結衣はこの瞬間まで実物に目にかかったことがないほどの代物だ。この老人が現役だったのは一体何年前なのだろうか。

 やがてレコードからの曲が終了すると、老人は結衣に身体ごと向き直って、懐から一枚のカードを取り出した。

 

「お近づきになった印です。よろしければ、これをどうぞ。つまらないものですが」

「これは……?」

 

 表面に雪の結晶の模様が描かれた、特におかしなところはないように見えるカード。いや、よく見れば中央に縦の線が走っていて、まるで観音開きの扉のようにも見える。

 

「これは『雪の扉』というものです。この扉の奥には、『思い出の世界』があるのです。昔、とある少年に同じものをあげたこともありました」

 

 老人は唐突に、不思議な話を始めた。

 

「思い出の世界?」

「聖獣グラルファンが住む、人にとって最も大切な思い出の時間をよみがえらせてくれる世界です。その世界はとても気温が低く、この扉が開き切った時には現世の時間は完全に停止してしまうほどです」

「……面白いお伽話ですね」

 

 愛想笑いを浮かべる結衣。彼女は、老人が自分の興味を引くための作り話と思って本気には取らなかった。

 

「まぁ、ほとんどの人には何の価値もないものですよ。持っていても、ただの飾り程度にしかなりません」

 

 と言いながら、老人はしかし、とつけ加えた。

 

「もしもあなたが、自分にとって一番大事な思い出を見たいのならば、私がその扉を開いて、あなたの思い出の世界をお見せしましょう」

「はぁ……ありがとうございます」

「それでは、私はこれで」

 

 老人はペコリと会釈して、レコードプレーヤーを運んでどこかへ立ち去っていった。『雪の扉』なるカードを受け取った結衣は、少し唖然としながらその後ろ姿を見送った。

 

 

 × × ×

 

 

 晩になると、結衣は自室でベッドに腰掛けながら、老人からもらったカードを手に見つめていた。

 

「雪の扉……思い出の世界かぁ……。そんなのが本当にあるのかな? ……なんてね」

 

 自分で言いながら、結衣は苦笑を浮かべる。

 

「いくら何でも、そんなお伽話みたいのがある訳ないし。あのおじいさんの冗談に決まってるよね」

 

 そう決めつけてカードを机の上に置き、、明かりを消してベッドの上に寝転がる。

 しかしふと、一番大事な思い出、というフレーズを思い返して、遠い目でボソリとつぶやいた。

 

「あたしの一番大事な思い出、かぁ……。それって何になるんだろ……。もしその世界に、行くことが出来たら……」

 

 とぼやきながら、自然とまぶたが落ちてほどなく寝入る結衣。

 ――その傍らの机に置かれたカードの扉が、ゆっくりと開きつつあった。

 

 

 × × ×

 

 

 翌朝。

 

「おはよー……って、うわぁ!?」

 

 寝ぼけ眼をこすりながらリビングに下りた結衣は、窓の外に見えた風景に度肝を抜かれ、眠気が完全に吹き飛んだ。

 

「すっごい雪積もってる! それに寒っ……!?」

 

 関東地方にある千葉は、冬でもそうそう雪が降らないものだが、今の外は完全な雪景色であり、雪国と見紛うばかりに積雪が出来上がっていた。それを目の当たりにしたことで、一層の肌寒さを自覚して身震いする。生まれてからずっと千葉育ちの結衣が体感したことがないような気温である。

 朝食の用意をしていた母親も、ほうと白い息を吐きながら首をひねった。

 

「不思議よねぇ。天気予報では、しばらく晴れって言ってたのに。しかも、たったひと晩でこんなに雪が積もるなんてねぇ。これも異常気象なのかしら」

「……!」

 

 結衣は電流が走ったかのように、この肌寒さと雪景色から、昨日の出来事を思い出した。

 公園で出会った不思議な老人から、もらった一枚のカード。その扉の向こうの世界は、気温が低いとか……。

 

「まさか……!」

 

 そう思いながらも、結衣は慌てて自室に引き返していって、机に放置したままのカードを手に取った。

 そしてぎょっと目を見開く。

 

「嘘……!?」

 

 ただのカードのはずであったそれの扉は、昨日見た時には確かに閉ざされた状態だったのに、今はほんのわずかにではあるが、開かれているのだ。

 



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奉仕部が見た雪の扉の先は。(B)

 

 千葉市は全域が突然の豪雪に覆われ、交通網が麻痺。総武高校を含む市内の学校は臨時休校となった。

 

「なのに俺は、こんな積もり積もった雪をかき分けてるとか……」

「ぐちぐち言わないの。悪天候で臨時休業するヒーローなんてどこの世界にもいないわ」

 

 雪に埋もれる道路を、一歩毎に積雪に潜り込む足をずっぽずっぽと引き抜きながら進む八幡を、雪乃が冷静に咎めた。

 彼らはジード部として、突如発生した千葉市の不自然な気象の原因を調べるべく、行動を起こしているところであった。三人とも防寒具で身を固めていても鳥肌が収まらないほどの低気温で、足元も悪いなんてものではないが、それでも歩みは止めていない。

 

「休業ねぇ……交通網が止まってるのに働きに家から出るなんてとんだ社畜じゃねぇか。まぁ、俺の両親なんだけどな。ほとほと社畜にはなりたくねぇなぁ……」

「自分の職務に責任を負っているということよ。八幡くんも見習ったらどうかしら? もっとも、二歩で転倒してはちまんころりんしてしまうかもしれないけど」

「はちまんころりんって何だよ穴に落っこちてネズミからつづらもらうのかよ。久々に毒舌が冴えたなぁおい」

 

 八幡をからかって遊ぶ雪乃は、彼の返しにふふっとおかしそうに微笑んだ。しかしすぐ真面目な面持ちとなって結衣に振り返る。

 

「無駄話はこの辺りにして、結衣さん。さっきの話は確かなのね? この雪景色の原因が……あなたが受け取ったカードなんてのは」

「うん……多分そうだと思う。カードの扉がひとりでに動くなんて不思議なことと、この大雪が偶然重なったなんて思えないよ」

 

 結衣は持ってきた扉のカードをじっと見つめながら答えた。

 彼女は昨日、奇妙な老人と出会い扉のカードを授かったことの一部始終を、二人に説明していた。

 

「……その扉が開いたことで、奥の『思い出の世界』とやらの冷気がこちらに流れ込んで、この異常気象が引き起こされた、ということかしら」

「いくら何でも荒唐無稽だな……。完全にファンタジーかメルヘンの世界だ」

 

 しかし流石に雪乃も八幡も、そう易々とは信じる気にはなれなかった。するとペガが顔を出して告げる。

 

「だけど、レムもAIBの方でも原因は何も掴めてないみたいだよ。融合獣の反応もないそうだし……。僕は結衣の言うこと、信じるよ」

「ペガっち、ありがと。とにかく、あのおじいさんにもう一度会って詳しい話を聞きたいの!」

 

 結衣がそう訴えかけると、八幡と雪乃もやや複雑そうな顔ながら承諾した。

 

「……ま、今のところ手掛かりはそれしかないもんな」

「でもその人も、この雪で外出しているかしら。どこに住んでいるかは分からないのでしょう?」

「一応、昨日の公園に行ってみよう。もしかしたら、そこに何かあるかも……」

 

 そういうことで、一同は結衣が立ち寄った公園へと歩を進めていった。

 すると、そこで待っていたのは、

 

「やはりここに来ましたね、お嬢さん」

「! おじいさん……!」

 

 紛れもなく、結衣が出会った老人。彼女がここに来るのが分かっていたようにたたずんでいた。

 八幡と雪乃はこの謎の老人を警戒する。その中で、結衣はカードを掲げながら老人に尋ねかけた。

 

「おじいさん、この寒さって、おじいさんからもらったこのカードの扉が開いたことが原因なの?」

 

 それに老人は、当然とばかりにおもむろにうなずき返した。

 

「そうです。私がグラルファンにお願いして、扉を開けてもらいました」

「グラルファン……」

 

 老人が言っていた、思い出の世界に住まう聖獣。初めは話半分だったが、今は現実味を帯びてきた。

 

「雪の扉が完全に開いた時、世界の時間は完全に停止し、その中で動けるのは思い出の世界の光を浴びた者だけです」

「……あんた、何だってこんなことするんだ。理由は?」

 

 八幡は結衣たちをかばうようにしながら老人に詰問した。これまで散々争いに巻き込まれているので、老人もその類ではないかと警戒心を抱いている。

 対する老人は、穏やかな物腰のままで語り始めた。

 

「私はかつて、雪の扉を開いたことがあります」

「え?」

「愛した妻に先立たれ、老い先も短く……誰に誇れるでもない平凡な人生でしたが、それでも私にとってはとても幸せだった過去の世界をもう一度生きたいと願い、そして……その代わりに、私は一つの世界に定住することの出来ない、迷い人となりました。今では、私のような人に思い出の世界を見せる案内人を務めています」

「……だから、何でそんなことするのかって聞いてるんだよ!」

 

 要領を得ない老人の話に思わずいら立った八幡だが、それをペガがなだめる。

 

「八幡、あの人は何か悪さをするつもりとかじゃないよ」

「え? 何でそんなこと分かるんだ?」

「いや……何か、そんな感じがするんだ」

「感じがするって……」

 

 抽象的すぎる物言いのペガを、ジードが支援した。

 

『僕もそう思う。あの人の纏う空気は、僕が見てきた悪い奴らとは全然違う……。僕に名前をくれた人に近いものだ。何か悪意があるようには、僕には見えない』

「……」

「八幡くん、ここは一旦様子を見ましょう」

 

 雪乃にも諭されては、八幡も無碍には出来ない。しぶしぶ引き下がった。

 八幡が口を閉ざすと、代わりのように結衣が老人に尋ねかけた。

 

「あの……どうしてあたしを選んだんですか? あたしなんかまだ全然人生を生きてなんかいないのに……」

 

 すると、老人は次のように答える。

 

「人生の長さではありません。本気で、もう一度、戻りたいと思えるような輝かしい時間があるかどうかです」

「え?」

 

 一瞬虚を突かれた結衣の手の中から、突然カードがひとりでに飛び上がった。

 

「あっ!?」

「いよいよ、雪の扉が完全に開かれる時が来ました」

 

 老人の静かな語りとともに、カードは空中で固定。少しずつ、カードの扉が開いて中から幻想的な光が溢れ出していく。

 

「……!」

 

 八幡たちが固唾を呑む中で、扉が全て開け放たれ、同時に光が周囲全体を覆った。

 

「わっ!?」

 

 思わず顔をそらす三人。

 そして、周囲全ての『動き』がピタリと止まり、一切の音が消え去った。

 

「……!?」

 

 驚愕して辺りを見回す八幡たち。だが文字通り、動きものが全くない。風に揺れていた木々の葉も不自然に停止し、しんしんと降り注いでいた雪は、空中に固定されたかのように宙に留まったまま落ちていかない。

 

「本当に、時間が止まった……!」

 

 思わずつぶやく雪乃。今この瞬間、動くものは、八幡と雪乃、結衣、そして老人だけ……。

 いや、もう一つ、扉が開く前には「なかったもの」が動いていた。停止した雪景色の中に、いつの間にかそびえ立っている……。

 

「おお、グラルファン……」

 

 老人がその名を口にした。

 全身が白く、額にユニコーンのような一本角と、腕に白鳥を思わせる翼を生やした巨大怪獣。しかしその体格は華奢で優美であり、身体には金色の装飾で彩られており、生物というよりは古代の彫刻のようにさえ見える。

 そして纏う雰囲気。通常の怪獣のような荒々しさは一切なく、物静かで心を落ち着かせる穏やかさで包まれているのが、遠目からでもはっきり分かる。八幡たちの目の前にいる老人のように。

 

「あれが、グラルファン……」

「綺麗……」

 

 雪乃たち三人も、グラルファンのあまりの優雅な立ち姿に一瞬見とれていた。

 そして老人は、扉が開かれるとともにこの世界に現れたグラルファンに向かって呼びかけた。

 

「グラルファン、彼らに思い出の世界を見せてあげて下さい」

 

 グラルファンはじっと立ったまま結衣たち三人を見つめ、そして何かをしたのか、扉から生じる光がスポットライトのようになって、三人の手前に注がれた。

 老人が告げる。

 

「これから、お嬢さん、あなたの……いや、あなた方の最も美しい思い出の時間が、よみがえります」

「あたしたちの……!?」

 

 これからどんなことが起こるのか。何が見えるというのか。三人はゴクリと息を呑んだ。

 そうして、彼らの目に飛び込んできた光景は、

 

「え……これって……!」

 

 結衣たちは、思わず目を疑った。

 それは、彼らにとっては見慣れた部室の光景。その中で駄弁を交わす見慣れた部員たちの顔。

 

「奉仕部じゃんか……」

 

 八幡が唖然とつぶやいた。

 そう。『最も美しい思い出の時間』として現れたのは、今現在で続いている奉仕部の光景だったのだ。

 ――いや、今と全く同じではないことに雪乃が気づく。

 

「待って。どうも、『現在』の光景ではないみたいよ」

 

 そうつぶやいて、光の中の八幡が手にしているものを指差す。

 

「見て。八幡くんが、紙コップを使っているわ」

「あっ、ほんとだ……」

 

 風景の八幡が持っているのは、少し前に用意された湯飲みではなく、それ以前に使用していた紙コップであった。

 

「他にも、一色さんのいる痕跡がないし、私たちも互いの距離感がどこかよそよそしいように見える。恐らく……これは、奉仕部が三人になり立ての頃の時間だわ」

「なるほど……ジードたちがやってくるよりも前っぽいな」

「あたしたちの、始まりの頃の時間……」

 

 三人が呆けたように、かつての自分たちの姿に見入っていると、老人が呼びかけてくる。

 

「最も美しい思い出とは、必ずしも遠い過去のものとは限りません。比較的最近でも、それが過ぎ去ってしまった一瞬ならば、思い出は思い出です」

「過ぎ去ってしまった一瞬……」

 

 老人の言葉を結衣が復唱した。確かに、関係をリセットして自分たちの出会いをやり直すなどということは出来ない。

 

「これが、一番美しい思い出……。そうだね……。色々と苦しいことや辛いこともあったけど、あたしたちはここからスタートしたんだ。この奉仕部で、人の顔色を窺うばかりだったあたしが変わっていった……」

「……今の俺たちは、この時間がなかったら絶対あり得なかったな」

「それを思えば……確かにこれが、私たちにとっての一番大切な思い出ね。私たちの、原点……」

 

 在りし日の自分たちを見つめた三人に、老人が問いかけた。

 

「さて……もし望むのであれば、あなた方は思い出の時間の中に行くことが出来ます。もう戻らない時間を、もう一度生きることが……。どうしますか?」

 

 すると結衣が老人へ振り返り、穏やかな微笑を浮かべながら答えた。

 

「せっかくですけど……あたしは、あそこには行きません」

 

 結衣の台詞に、八幡と雪乃がうなずく。二人も同じ気持ちであった。

 そしてこの返事に、老人は満足そうな顔になっていた。

 

「それは何故でしょうか?」

 

 この質問に、結衣がはっきりと答える。

 

「確かに、今目の前のあるのは大事な思い出です。これから先、こんな時間はなくなってしまうかもしれない。……だけど、あの時間が大事と思えるのは、『今』があるからなんです。『今』があって、これからの『未来』が待ってるからこそ、あの時が大切な思い出なんだと思えるんだって、こうして目にすることで分かりました。だからです」

 

 八幡も雪乃も、わざわざ言葉にしなくとも、結衣と同じ結論であることは表情が物語っていた。

 そして老人は、彼らの回答に――にこやかな顔であった。

 

「それでいいんです」

「おじいさん……」

「人は、同じ感動、同じ感情を再び得ることは出来ません。過去をもう一度生きたとしても、その時の輝きは戻ってはこないのです。どんな時間も……どんな一瞬も、一度きりです」

 

 老人の言葉に、結衣は大きくうなずく。

 

「……うん。だから、これからの時間を生きてくんだね。これから先、どんなことが待ってるか分からないから、意味がある……」

「ええ……。そろそろ、グラルファンを帰してあげましょう」

『八幡』

 

 そう老人が告げるとジードが八幡を呼び、それを合図に八幡がジードライザーを取り出した。

 そしてフュージョンライズし、グラルファンの正面に立つ。

 

[ウルトラマンジード! シャイニングミスティック!!]

 

 ジードが雪の扉を閉ざすまでの間に、老人が結衣に呼びかけた。

 

「扉のカードは、あなたにあげます」

「ありがと、おじいさん……」

「もう開くことはありませんが、思い出の品として形に残ります。今後の未来、きっとつらいことや悲しいことがたくさんあるでしょう。昔に戻りたいと思う時もきっとあります。そんな時は、カードを見て今日のことを思い出して下さい。この日の思い出を振り返り、また明日を生きる……それが、本当の思い出の世界ではないかと、私は思うようになりました」

 

 老人の語ることを受けて、結衣は胸の前でぎゅっと手を握った。

 

「分かった……おじいさんの思い出、大事にするね」

「……あなたは、これからどこへ行くのですか?」

 

 ふと、雪乃が尋ねた。老人は次の通りに答える。

 

「私はもう、一つの世界にいつまでも留まれる身ではありません。刹那の時しか、他の人とは関われない。――ですが、私という存在がいたことは、誰かの思い出の中にあり続ける。それもまた、生きるということだと思います」

 

 ジードが時空を操作する能力によって雪の扉を閉ざしていく。それとともにグラルファンと――老人の姿が薄れていく。

 

「お別れです。もう会うことはありませんが……またお会いしましょう」

 

 別れの言葉を残す老人を、結衣たちは手を振って見送る。

 

「さようなら! またね!」

 

 完全に扉が閉じると、カードが落下してきて、結衣の手の中に収まった。同時に停止していた世界に動きが戻る。

 時間が動き始めると、グラルファンと、老人の姿はどこにもなくなっていた。

 

 

 × × ×

 

 

 数日後、気象は普段通りに戻り、雲は晴れて晴天の日が続いた。積雪も時とともに溶けていき、あの一日が嘘だったかのように綺麗に消えてしまう時も遠くない。

 

「……まるで夢を見てたみたいだよな」

 

 下校時、校庭の片隅に固められた雪の残りを見やって、八幡がぼそりとつぶやいた。雪乃と結衣は首肯しつつも言う。

 

「たとえ夢だったとしても、あの出来事は思い出として、はっきり残っているわ」

「うん。きっと忘れない……あのおじいさんがいたこと」

 

 結衣の手には、扉が描かれているただのカード、しかし一度だけの思い出の証拠が、確かな形として存在していた。

 

 

 

『ウルトラストーリーナビ!』

 

雪乃「今回は『ウルトラマンコスモス』第五十七話「雪の扉」よ」

雪乃「短距離走の選手だった中学三年生の暁は、大会でライバルに僅差で敗れてから、目的を失いながら漠然と練習を続ける日を送っている中で、トマノという老人と出会う。雪の扉を開いて一番幸せだった時間に帰ろうとしているトマノとつき合う内に暁もトマノの願いを叶えてあげようと思うようになり、そして本当に雪の扉が開き始める……という内容よ」

雪乃「この話では完全にコスモスがいなくてもいいくらいの脇役なんだけど、脚本の完成度と卓越した幻想的な映像美から、コスモスの最高傑作との呼び声もあるわ。その感動は、とても言葉では伝えられないわ」

ジード『ウルトラシリーズでは時々ウルトラマンがほぼ活躍しない話があるけど、そういうものこそシナリオに力が込められてるんだよね』

雪乃「それでは、また次回にお会いしましょう」

 




ライハ「そうなの……そんなことが」
結衣「はい! あたし、これからの日々を精一杯生きてこうって思います!」
ペガ「ふふ、結衣は単純だなぁ」
結衣「あー、何それペガっちぃ。いいじゃん素直に感動したんだから~」
雪乃「そのためにも、早く戦いに決着をつけないとね」
八幡「ああ。ゼナさんの方は今どうなって……うッ……!?」
雪乃&結衣「八幡くん!?」「ハッチー!?」
ライハ「大丈夫……? 今ふらついたけれど」
八幡「は、はい。ちょっと立ちくらみしただけです。少し休めばどうってことないですよ」
ライハ「そう……。だけど、あまり無理しては駄目よ」
ジード『……八幡……まさか……』



次回、『かくして、史上最大の侵略の幕が上がる。』



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かくして、史上最大の侵略の幕が上がる。(A)

 

 二月一日。千葉市の町外れ。

 

「ショアッ!」

 

 耳をつんざく轟音と激しい地響きを伴いながら、ジード・プリミティブがレイデュエス融合獣と凄絶な交戦を行っていた。

 

 グワアッシ……グワアッシ……ウオォンッ、ウオォンッ……!

「ギイイィィィィ―――――!」

 

 二種類の駆動音と、金属同士が軋むような咆哮を発するのは、龍型の頭部に白い左半身と黄金色の右半身を持った、左右非対称のロボット融合獣。

 かつてウルトラセブンを極限まで追いつめたペダン星脅威のスーパーロボット・キングジョーと、異次元から現れ全有機生命体の抹殺を図った恐怖の暴走兵器ギャラクトロンを融合させた、極悪無比のキングギャラクトロンだ!

 

「ハァァッ!」

「ギイイィィィィ―――――!」

 

 ジードはキングギャラクトロンに果敢に飛びかかっていくが、キングギャラクトロンのパワーは尋常ではなく、腕のひと振りによって簡単に打ち返されてしまった。

 

「ウゥッ!」

 

 ジードの内部では、フュージョンライズした雪乃、結衣、そして八幡が相手の攻撃の威力に顔を歪めた。

 

『「とんでもない重量だわ……!」』

『「見た目通りのヘビーロボットってとこかな……!」』

『「ここはもう一度フュージョンライズだ!」』

 

 八幡がそう判断してカプセルの交換を行おうとしたが、

 

『「させるかぁッ!」』

 

 ジードの行動を読んでいたキングギャラクトロンは左腕に魔法陣を展開、空間歪曲を応用した猛ラッシュ攻撃を見舞ってくる。

 

「ウワアァァァッ!」

『「あうぅっ!!」』

 

 キングギャラクトロンの猛烈な連撃に吹っ飛ばされるジード。カプセルの交換が阻害される。

 

『「比企谷ぁッ! グチャグチャに叩き潰してやるぞぉぉッ!!」』

 

 レイデュエスは血走った眼でジードをにらみ、追撃を掛けていく。

 

『「ぬふぅッ! 八幡が危ないぞ!」』

『野郎ッ!』

 

 ジードを執拗に狙うキングギャラクトロンにウルトラマンゼロが横から飛び掛かろうとするも、

 

 ウオォンウオォンウオォン……!

「ギィィィィ……!」

 

 ルドレイの変身したクラッシャーゴンが右腕のハサミを伸ばしてきて妨害してくる。

 

『このッ! 邪魔すんじゃねぇ!』

 

 ハサミをいなし、クラッシャーゴンをすり抜けていこうとするゼロだったが、その背にいきなり電撃が走る。

 

『ぐわッ!?』

「キイイイイイイイイ! ゲエゴオオオオオオウ!」

 

 ゼロの背後からスゥッと姿を現したのは、透明化能力を持つオガレスが変身したサンダーキングである。

 

『「くぅッ、背後から不意打ちとは卑怯な!」』

『なめた真似しやがって!』

 

 忌々しげに下唇をぬぐうゼロ。二体の融合獣に行く手を阻まれ、ジードの加勢に向かうことは出来なかった。

 

「ギイイィィィィ―――――!」

 

 その間に、キングギャラクトロンは一切容赦のない猛攻撃によってジードをどんどん追いつめていっていた。

 

 

 

『かくして、史上最大の侵略の幕が上がる。』

 

 

 

「ギイイィィィィ―――――!」

「ウゥッ……!」

 

 キングギャラクトロンの、重量級のイメージを覆すような機動力の高さに、ジードは攻撃をよけるのが精一杯のありさまであった。八幡たちはひどく焦る。

 

『「速い上に、重い……! 手強いわ……!」』

『「おまけにこっちの動きも読まれてるよぉ!」』

『「どうにか隙を……!」』

 

 何とか逆転の一手を掴み取ろうとするジードだが、キングギャラクトロンは右腕のレールガンを突き出してエネルギーを充填させる。

 その矛先は、何と千葉市だ!

 

『「なッ!? やめろッ!!」』

 

 ジードは咄嗟にキングギャラクトロンの正面に回り込んで、その身を盾にした。直後にレールガンから、破壊光線ペダニウムハードランチャーが発射される!

 

「ウワアアアアァァァァァァァァァッ!!」

 

 おぞましいほどの威力に、ジードの絶叫が轟く!

 

『ジード!!』

 

 クラッシャーゴンのハサミを押し返しているゼロの視線の先で、吹き飛ばされたジードがばったりと倒れた。

 

『「あうぅぅぅっ!!」』

『「ぐッ、ぐはッ……!!」』

 

 ダメージはすさまじく八幡たちも胸をかきむしってもがき苦しむ。ジードのカラータイマーが赤く点滅する。

 

『「とどめだぁぁッ!」』

 

 キングギャラクトロンは微塵も情けを見せず、二撃目を繰り出そうと砲身をジードに向けた。

 しかしジードは瞬時に飛び起き、口から衝撃波を発した。

 

『レッキングロアー!』

 

 衝撃波はキングギャラクトロンの足元を穿ち、地面を崩されたことでキングギャラクトロンの姿勢が崩れる。

 

『「何ッ!? くそッ!」』

 

 どんな破壊力を誇る砲撃も、射線が合っていなければ無意味。この一瞬の隙にジードはどうにか体勢の立て直しに成功した。

 

『今だッ!』

『「くッ……ああ!」』

 

 八幡たちは苦痛に喘ぎながらも、必死に耐えて素早くカプセルを交換していく。

 

『「ユーゴーっ!」』『フエアッ!』

『「アイゴーっ!」』『ダァッ!』

『ヒアウィーゴーッ!!』

 

 雪乃がベリアルカプセル、結衣がキングカプセルを起動し、八幡がジードライザーでスキャンする。

 

[ウルトラマンベリアル! ウルトラマンキング! 我、王の名の下に!!]

 

 ライザーから現れたキングソードを八幡が握り締め、柄にキングカプセルを差し込んだ。

 

[ウルトラマンキング!]

『「ジィィィ―――――――ドッ!」』

 

 金色の粒子を浴びながら、ジードの肉体がまばゆく変化する!

 

[ウルトラマンジード! ロイヤルメガマスター!!]

『「変えるぜ! 運命!!」』

 

 最強形態となったジード・ロイヤルメガマスターがキングソードを携え、キングギャラクトロンに改めて立ち向かっていく。

 

「ハァッ!」

「ギイイィィィィ―――――!」

 

 キングギャラクトロンの突き出してきた左腕のクローを剣で受け止めるジード。だが、ロイヤルメガマスターになってもキングギャラクトロンのパワーは高く、ジードの腕がじんじん痺れた。

 

『「くぅっ……! これでもパワーは向こうが上みたい……!」』

『「けれど、真っ向からぶつかることはないわ!」』

 

 雪乃の判断により、ジードはキングギャラクトロンのパンチを剣で華麗にさばいてそらしていく。動きの柔軟性ならば、ロボットより生身のジードの方が上回る。

 

「タァッ!」

「ギイイィィィィ―――――!」

 

 相手の攻撃を受け流して出来た隙を突き、ジードの斬り上げがキングギャラクトロンの肩口を裂いた。

 

『いいぜジード! よしッ、こっちも決めてやるッ!』

 

 クラッシャーゴンを抑えていたゼロのウルティメイトブレスレットが輝き、身体が赤く染まる。

 

『ストロングコロナゼロッ!』

 

 二段変身したゼロが超怪力を発揮して、クラッシャーゴンの巨体を空高くに竜巻のように投げ飛ばした。

 

『ウルトラハリケーン! からの、ガルネイトバスタぁぁぁ―――――!』

 

 灼熱光線を頭上に飛ばしたクラッシャーゴンに食らわせ、一撃で爆砕!

 

「キイイイイイイイイ! ゲエエゴオオオオオオウ!」

 

 相棒を倒されたサンダーキングは透明となってゼロに闇討ちを掛けようとしたが、ゼロは再び変身。

 

『ルナミラクルゼロ!』

 

 青い姿のルナミラクルゼロとなると、双眸を輝かせて透視能力を発動。

 

『ミラクルゼロスラッガー!』

 

 繰り出した分身スラッガーが見事サンダーキングを捉え、ズタズタに切り裂いて爆破させた。

 

「ギイイィィィィ―――――!」

 

 一方で巻き返されつつあるキングギャラクトロンは、ペダニウムハードランチャーを再びジードに浴びせようと構える。対するジードは、八幡がキングソードにエースカプセルを挿入した。

 

[ウルトラマンエース!]

『テェーイッ!』

 

 キングソードを縦に構えて、刀身から垂直の大振りの光刃を発射!

 

「「「『バーチカルスパーク!!!!」」」』

 

 光刃はペダニウムハードランチャーを両断しながら飛んでいき、キングギャラクトロン自身も貫通する!

 

「ギイイィィィィ―――――……!」

 

 キングギャラクトロンもまた爆散。これで敵は全て退けられ、ジードとゼロはその場で消えて変身を解除していった。

 

 

 結衣、雪乃、八幡と材木座の四人はエレベーターまでの道すがら、先ほどの戦闘について話をする。

 

「はぁー……今回も大分きつかったねぇ……」

「日を追う毎に戦いが激化しているように思えるわ。間隔も短くなってきているし……この傾向は極めて良くないわ」

「だけど、AIBでもいよいよレイデュエスの対策が大詰めになってきてるって! きっとあとひと踏ん張りだよ!」

 

 結衣と雪乃の会話に、材木座は少し離れたところで一人うんうんうなずいているだけ。

 

「そうね、私たちも最後まで頑張らないと。ねぇ八幡くん……」

 

 雪乃が八幡に振り向くと――彼はひどく青ざめた顔をしていた。

 

「……あ、悪い。聞いてなかった……」

「ど、どうしたの? 顔色が悪いわよ、すごく……!」

 

 あまりにも尋常ならざる様子なので、雪乃たちは度肝を抜かれてしまった。

 

「い、いや、何でもねぇって。これくらい……うッ……」

 

 元気なように振る舞おうとした八幡だったが、急に息を漏らすと、

 そのまま前のめりにぱたりと倒れ込んでしまった。

 

「!!? 八幡くんっ!!」

「は、ハッチー! しっかりしてっ!!」

「はわわ、大変だ! 材木座くん、手を貸して!」

「う、うむ! 八幡、気を確かに!」

 

 雪乃たちは一気にパニックとなり、ペガと材木座が二人がかりで八幡を星雲荘へと急いで運んでいった。

 

 

 × × ×

 

 

「ぐぅ……ゲホッゲホッ!!」

 

 円盤に逃れてきたレイデュエスは、膝を突いて壁に手をつけながら激しくせき込んだ。

 

「く、くそ……人を思いっきりぶった切りやがって……」

『で、殿下! 流石にもう限界です!』

『一度、治療に専念しましょう! 完全に倒れてしまっては元も子も……!』

 

 口を押さえた手の平に血がにじむほどになってきたレイデュエスの容態にオガレスとルドレイが慌てふためくが、レイデュエスは腕を振って二人を振り払った。

 

「うるさいッ! それより、遂に最後のカプセルが完成したぞ……!」

 

 脂汗を垂らしながらも、レイデュエスはカプセルを見せつけながら歪んだ笑みを浮かべた。

 そのカプセルとは、白い首のベリアルのもの。

 

「例のものも出来上がってるんだろうな?」

『は、はッ! 十五発全て、いつでも使用可能にしております』

 

 ルドレイが背筋を正して応答した。

 

「よぅし……それでは、いよいよウルトラマンジードを……比企谷八幡を葬り去る最終決戦の幕開けと行くぞ……!」

 

 レイデュエスはよろめきながらも立ち上がり、その宣言を発した――。

 

 

 × × ×

 

 

 星雲荘ではペガやライハ、雪乃たちに知らせを受けて駆けつけたゼナと陽乃にいろはや小町、平塚らが、ベッドに寝かされた八幡を心配した顔つきで囲んでいた。

 ベッドの上の八幡は、死んだように眠ったまま目覚める気配がない。

 

「先輩……ここまで弱り切ってたなんて……」

「お兄ちゃんは大丈夫なんですか!?」

 

 普段はかしましいいろはと小町も、今ばかりは暗い表情であった。小町の問いかけにレムが答える。

 

[一時は危険な状態でしたが、容態は安定しました。ひとまずは、命に別状はありません]

「快方に向かうということね? ならいいんだけど……」

「けどまさか、八幡が倒れるなんて……」

 

 ライハとペガもまた八幡の身を案じて、憔悴していた。

 何故こんな事態になったか、レムが説明する。

 

[ハチマンの身体はウルトラマンジードであるリクとの融合によって、治癒力が常人よりもはるかに優れています。――が、今日までの連戦で蓄積されていたダメージの影響は、リクの力を以てしても回復し切れないものとなりました。私もこうなることが不安でしたが……とうとう起こってしまいました]

 

 レムの言葉で雪乃と結衣が顔を伏せた。

 

「私たちも大分苦しんだくらいですもの……直接融合している八幡くんの受けていたダメージは、それ以上だったのね……」

「どうして気づいてあげられなかったんだろ……。この前から苦しそうだったのに……」

 

 平塚は一旦落ち着こうとタバコの箱を取り出したが、結局握り潰した。

 

「馬鹿者め……苦しい時こそそれを表に出すべきだと、理解したと思っていたのだがな……」

「うう、八幡……」

 

 皆が心痛の面持ちの中、陽乃はゼナにこそっと耳打ちする。

 

「ゼナ先輩、やっぱりこれ以上は……」

『うむ、彼に負担を掛けさせる訳にはいかない。次にレイデュエスが現れた時は、多少強引にでも例の作戦を……』

 

 ゼナと陽乃が何かを打ち合わせていたその時、レムが声を上げる。

 

[通信が入りました――レイデュエスからです]

「!!」

 

 この場の全員に緊張が走る。

 

「――つなげて」

 

 雪乃が静かな怒りを湛えながら、レムに頼んだ。

 八幡の状態が映らないように隠しながら、星雲荘のモニターにレイデュエスの顔が映し出される。

 

『よお、AIBもおそろいで、連絡を入れる手間が省けそうだ。だが肝心の比企谷の奴がいないな?』

「わざわざあんたなんかの都合に合わせたりなんかしないし!」

 

 結衣が怒気を含みながらレイデュエスに言い返した。間違っても、この男に今の八幡のありさまを勘づかれることはさせられない。

 

『だったらお前らからあいつに伝えろ。明日の14時、いよいよ俺たちの因縁を正真正銘最後にするぞとな!』

「!」

 

 レイデュエスの宣告に再び場に緊張が走った。レイデュエスはとうとう最終決戦を申し込んできたのだ。

 

「――いい加減にしてよ! 自分の勝手にこれ以上お兄ちゃんをつき合わせないで!」

「そんなのにこっちが応じる義理なんてないです!」

「ジードの奴はちょっと野暮用でな。また負けに来るってんなら、俺が相手になってやるぜ」

 

 小町といろはが宣戦布告をはねのけ、ゼロが材木座の口を借りて挑発する。

 が、するとレイデュエスはとんでもないことを言い始めた。

 

『ふん、何を隠してるのかは知らんが、奴が決戦に来なかった場合はこの星のあらゆる土地が吹き飛ぶことになるぞ。地面の下からな!』

「!?」

 

 いきなりの発言に、一同は一瞬混乱する。

 

「な、何を馬鹿なことを。訳の分からんことを言うな」

「地面の下から、吹き飛ぶ? そんなこと出来るはずが……」

 

 平塚やライハが否定しようとしたが、ペガは青ざめた顔で首を振った。

 

「いいや、聞いたことがあるよ。そんなことが出来る恐ろしい兵器が、確か存在するはず……」

『察しのいい奴がいるな。そう、これを見ろッ!』

 

 画面が切り替わり、雪乃たちの目にミサイルらしき物体が洞窟のような場所に並べられているところが見せつけられた。しかもそのミサイルは、どういう訳か地面に向けられて設置されているのだ。

 

『これはただのミサイルじゃない。地底間弾道弾だ! それも一発一発が、都市を一つ丸ごと爆破できる威力のな!』

「な……!!」

 

 ゼロやゼナなどの宇宙人が特に驚愕に染まった。小町が尋ねる。

 

「ち、地底間弾道弾って何ですか? 何かすごく嫌な響きですけど……」

 

 それにゼロが、声をわななかせながら答えた。

 

「その名の通り、地中を掘り進むミサイルだよ。大抵の星の軍備が、陸海空の防御は固くとも地底は無防備。だからこれを使われればひとたまりもねぇもんだ……」

『馬鹿を言うな! 地底間弾道弾は宇宙条約で定められた使用禁止兵器の一つ! どんな裏ルートを有していようとも、一個人が用意できるような代物ではない!』

 

 ゼナが声を荒げたが、レイデュエスはそれをせせら笑う。

 

『そんなもんは簡単なことだ。他から入手できないんなら、造ればいいだけの話だよ!』

『何!? 造っただと!?』

『しばしば俺たちが行動しない期間があっただろ。そんな時何してるのかって考えなかったか? これを造ってたってことさ!』

 

 歴戦のベテランのゼナも、この無茶苦茶ぶりには色を失っている。

 

『それこそ、到底信じられない話……』

『だったら今すぐにでも試し撃ちしてやってもいい。標的はお前らの隠れ家がある街にでもしてやろうか?』

『……!』

 

 脅しを掛けられて、ゼナも黙してしまう。もし地底間弾道弾が本物で、言う通りの威力を発揮するのなら――取り返しのつかない大惨事だ。

 

『まぁそういうことだ。明日の14時に、こっちが指定する場所に比企谷八幡が来なかった時にはこいつをぶっ放してやる。よぉく奴に知らせるんだぞ? 分かったな。クッハッハッハッハッ……!』

 

 レイデュエスは耳障りな哄笑を残して、一方的に通信を切断した――。

 



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かくして、史上最大の侵略の幕が上がる。(B)

 

 レイデュエスの脅迫を交えた宣戦布告の後、ゼナと陽乃の二人はAIB本部へと帰投していった。何やらレイデュエス対策の切り札を用意してあるようで、指定された明日14時までに確実に作戦が成功するように準備を済ませるということである。

 材木座とゼロも、レイデュエスがどんなことをしてこようとも絶対に勝てるように、今からコンディションを万全に整えるために別室に移動していった。

 しかし、最も肝要なのは、

 

「八幡に、このことを告げるべきか……」

 

 ライハが腕を組んで、ひどく悩みながらつぶやいた。彼女たちの目の前には、未だ気を失ったままの八幡の姿。

 彼にレイデュエスからの挑戦を伝えることに、いろはと小町は猛反対。

 

「駄目ですっ! これ以上無理させたら、先輩どうなっちゃうか……!」

「お兄ちゃんはもう十分頑張ったんでしょう!? お願いですから、もう苦しめてあげないで下さい……!」

 

 涙目ながらに訴えるいろはと小町。普段は八幡をからかったり軽口を叩いたりすることも多いが、流石に命が懸かった状態とあっては、表に出さない本心も出てくる。

 雪乃も、真剣に悩みながら意見した。

 

「出来るならそうしたいのだけれど……八幡くんが来なかったらきっと、いいえ、絶対あの男は爆撃を開始するわよ。そういう奴だわ……」

 

 雪乃は散々、レイデュエスがどういう男か見ている。奴なら、やると言ったらやる。

 

「自分のせいで世界中の人間が犠牲にとなったら、それこそ比企谷は思い悩むことだろう……」

「で、でもっ!」

 

 雪乃の言葉に同調する平塚にいろはが反論しようとするが、それをさえぎるように結衣が言った。

 

「待って。そもそも、ハッチー明日までに目を覚ますの? 起きる気配が全然ないんだけど……」

「そこも心配だわ……」

 

 目を伏せる雪乃。

 

「叩き起こすなんて以ての外だし、だけど言ったところで通じないでしょうね……」

 

 一体どうしたらいいのか……。場が重い空気に支配されていたところ、

 それを破るように、声が発せられた。

 

『大体のところは分かった』

 

 それまでうつむいていたペガがハッと顔を上げた。

 

「リク!」

 

 今の声は、眠ったままの八幡から生じた。ジードの声である。

 

『八幡の調子がおかしいということは、僕も感じてた。もっと早くにこのことを気づくべきだったんだけど……』

 

 ジードは悔やむように言葉をつむいでいく。

 

『最初は、僕が八幡の命を救うために融合した。だけど今は……僕の存在が、八幡の命を危機に晒している。だから……』

 

 そう言い放つと、八幡の身体が一瞬強く発光した。雪乃たちは思わず目を背ける。

 光が収まって顔を上げると……八幡の傍らに、見慣れない一人の人物が新たに現れていた。

 

「この先は、僕一人で戦う」

「え……? あなたは、まさか……!」

 

 オレンジのシャツの上にデニムジャケットを羽織った、子供っぽい顔立ちの青年。しかしその瞳には、芯の強い輝きがある。そしてその雰囲気は、初対面であるはずなのに、雪乃たちには覚えがあった……。

 ライハとペガ、レムも、彼の名前を口にする。

 

「リク……!」

「……この人が……!」

 

 思わず驚きを見せる雪乃たち。

 この青年こそが、雪乃たちがずっとともに戦い、しかし同じ目線で面と向かったことがなかった仲間、ウルトラマンジード本人である、朝倉リクである。

 

 

 × × ×

 

 

 翌日の14時直前。町外れの人気がない廃工場をレイデュエス一味が占拠し、ジードたちを待ち構えていた。

 兵士のフック星人たちに見張らせる中、ルドレイがレイデュエスにおずおずと尋ねかける。

 

『殿下……何もわざわざ真正面から奴らをおびき寄せなくとも良いのではなかったでしょうか? もっとこちらが有利になるような策を練っても……』

 

 ルドレイの進言をレイデュエスは、神妙な顔で却下した。

 

「いいや。これまでの経験上、下手に小細工を弄したらむしろ逆効果だ。あえて正面から来させることで、逆に向こうの行動を制限する」

『は、はぁ……』

 

 ルドレイには、レイデュエスの言うことがよく分からなかったが、適当に合わせておいた。

 

『では、真っ向から勝負するのではなく、この星を丸ごと人質にして、ジードたちに抵抗させないようにして一気に始末するのは……』

 

 と言うと、レイデュエスに射殺されそうな目を向けられたので思わずすくみ上がった。

 

「だから、そういうのがいかんと言ってるんだ。何より、ここまで来たからには、紛れもないこの手でねじ伏せてやるッ!」

『も、申し訳ありません……!』

「ククク……準備は整ってるんだ。今度こそは、命を奪い取るまで戦い続けてやるぞ、比企谷ぁ……!」

 

 怪しく嗤うレイデュエスを尻目に、ルドレイはこそっとオガレスの元へ戻り、小声で囁き合った。

 

『ほとほと参る……。殿下はジードを倒すことにこだわり過ぎだ……』

『全く……。奴らを始末するのが最終目的などではないと言うのに……』

『我々は、本当にこれでいいのか……? 気がつけばここまで来てしまったが……』

 

 オガレスとルドレイが身の振り方を考え直しているその時に、見張りのフック星人たちから合図があった。

 

「キーッ!」

『! 殿下、ジードたちが来たようです!』

「待ってたぞ」

 

 レイデュエスは獰猛な笑みを浮かべて立ち上がり、オガレスとルドレイを従えながら表に出ていく。

 そうして彼の前に歩いてきたのは、ライハと、材木座=ゼロ、そして一人の青年。

 

「……あ?」

 

 レイデュエスの表情が一転して、訝しげなものとなった。

 

 

 × × ×

 

 

 雪乃と結衣は星雲荘から、モニター越しに廃工場に到着したリクたちの様子を見守っていた。他は授業があるので後ろ髪を引かれながらも学校へ行ったが、二人は八幡の側についていることを選んだのだ。

 

「でも、ジードん……いや、リクさん? って呼んだ方がいいのかな? リクさんが出てきた時には驚いたし。リクさんがハッチーと別れるなんて……」

 

 結衣がふとつぶやいた。

 

「まぁ当たり前って言えば当たり前のことなんだけど……今までそう言われても、実感が薄かったというか……」

「その気持ちは分かるわ。私たちにとっては……八幡くんがジード、という認識だったから。初めに会った時からそうだったものね」

 

 結衣の言葉にコクリとうなずく雪乃。リクが自分たちの前に出てきた時は、しばらく何が起こったか呑み込めずに呆然としたほどだ。それだけ、彼女らにはジード=八幡の構図が当然のものとなっていた。

 

「……リクさんたち、大丈夫かな。後は全部僕たちに任せてくれ、って言ってたけど……」

「確かに、一筋縄ではいかない相手。不安なのは私もよ。だけど……」

 

 何もかもをリクたちに託したことに若干の後ろめたさを覚えつつも、雪乃は振り返る。

 

「こうなった以上は、リクさんたちを信じる他ないでしょうね……」

 

 彼女の視線の先の八幡は、未だ目を覚ましていない。

 

 

 × × ×

 

 

 ゼナと陽乃、他のAIB職員たちは、身を潜めながら廃工場を囲み、レイデュエスを討伐するチャンスを窺っていた。

 

『いいな、弾は一発しかない。レイデュエスに隙が生じたら、何が何でもそのチャンスを掴み取るのだ』

「はい……!」

 

 リクたちと対峙するレイデュエスの様子を監視しながら、ゼナが陽乃に呼びかけた。陽乃は流石にやや緊張した面持ちで返答した。

 

 

『義輝、覚悟はいいな?』

「うッ……こ、ここまで来たからには最後までやってやろうとも!」

 

 材木座が覚悟を固めている傍らで、リクが声を張ってレイデュエスに向かって宣告する。

 

「レイデュエス、この僕が相手だ! 最後の決着をつけよう!」

 

 オガレスとルドレイは、正面の青年が誰だか最初分からなかったが、やがて把握した。

 

『あれは、ウルトラマンジード本来の人間態!』

『あの小僧から分離したのか……』

 

 驚きながらもそれだけの二人とは異なり、レイデュエスの反応は――何故か顔を伏せたまま妙に黙り、リクに応答しない。

 

「……?」

「様子が変ね……」

 

 ライハたち一同が、レイデュエスの反応が鈍いことを訝しんだ。

 その次の瞬間、

 

「――ふざけるなぁぁぁぁああああああああッッ!!」

 

 レイデュエスが怒号を発して、ブラッドスタッフから光弾を滅茶苦茶に乱射した!

 

『ひゃああッ!?』

「リク危ないっ!」

 

 光弾が周囲を無差別に破壊する。その猛烈な勢いにリクの影の中のペガまで悲鳴を上げて、ライハは咄嗟にリクをかばって後ろに引かせた。

 

『何事だ!?』

 

 突然のことにゼナたちも、オガレスとルドレイも驚愕。

 

『で、殿下!? おやめ下さい!』

『味方に当たりますッ!』

 

 しかしレイデュエスはまるで聞いておらず、血走り切った眼でリクをにらみつける。

 

「だぁれがお前だけで来いと言ったッ! 比企谷八幡はどうしたぁッ!!」

 

 レイデュエスの発狂に一瞬気押されながらも、リクは毅然と言い返した。

 

「八幡はもう関係ない! お前の相手なら僕がする! だからもう八幡を巻き込むのは――」

「黙れええッ!!」

 

 だが言葉がレイデュエスの叫喚にかき消された。

 

「ここまで来て、俺をコケにしやがって……!! 今更関係ないだと? そんなことが認められるかぁぁぁぁッ!!」

 

 フーッ、フーッ、と息を荒げるレイデュエスの肉体からどす黒い暗黒のような魔力がにじみ出て、一気に膨れ上がっていく。

 

「ど、どうなってるんだ……?」

「お前ら離れろッ! こいつはやべぇぞ!」

 

 危険を感じ取ったゼロがリクとライハを遠ざける。

 

「ゼナ先輩、何かまずい雰囲気ですよ!」

『だが、あれでは近づくことも出来ん……!』

 

 ただならぬ様子に陽乃らも焦るが、レイデュエスの魔力は大気を揺るがし、オガレスたちも側にいられないほど風を渦巻かせる。

 

「ぬうううぅぅぅぅぁぁぁああああああああああああッッ!!』

 

 その中心のレイデュエスが魔人態に変わり、更には一挙に巨大化して地面を揺るがした!

 

「直接巨大化した!?」

 

 目を見張るライハ。巨大レイデュエスは千葉市の市街へ向けて足を踏み出した。

 

『奴が来ないと言うのなら、こっちから殺しに行ってやるッ!!』

 

 レイデュエスの行動にオガレスとルドレイは大慌て。

 

『殿下ッ! 落ち着いてッ! そんな無理をしたら!!』

『駄目だ! 怒りで我を忘れてる!!』

 

 千葉市に進行し出したレイデュエスに、リクは顔を険しくした。

 

「そんなことは、させないッ!」

 

 そう宣言して、腰のケースからウルトラカプセルを引き抜いた。

 

「融合!」『シェアッ!』

 

 カプセルのスイッチを入れるとウルトラマンのビジョンが腕を振り上げる。

 

「アイゴー!」『フエアッ!』

 

 続いてベリアルカプセルを起動し、装填ナックルに差し込む。

 

「ヒアウィーゴー!!」

 

 ナックルに装填した二つのカプセルを、ジードライザーでスキャン。

 

[フュージョンライズ!]

「決めるぜ! 覚悟!!」

 

 決め台詞とともにライザーを胸の前に持っていき、トリガーを握り込む!

 

「ジィィィ―――――――ドッ!」

 

 リクの身体にウルトラマンとベリアルのビジョンが重なり、初期変身を通してウルトラマンジードに変身!

 

[ウルトラマン! ウルトラマンベリアル!]

[ウルトラマンジード! プリミティブ!!]

「シュアッ!」

 

 ゼロは材木座に呼びかける。

 

『義輝! 俺たちもだ!』

「う、うむ!」

 

 材木座が眼鏡を外してウルトラゼロアイNEOに掛け直し、スイッチを押す。

 

「デュワッ!」

 

 変身、巨大化を遂げたジードとゼロの二大ウルトラマンが、巨大レイデュエスの正面に着地して行く手をさえぎった。

 

『ここから先には!』

『行かせねぇぜ!』

『邪魔をするなぁぁぁッ!!』

 

 レイデュエスはブラッドスタッフを振るいながら、ためらいなくジードとゼロに殴りかかる。

 

「タァッ!」

「シェアッ!」

 

 だがゼロがスタッフを打ち払い、ジードが飛び膝蹴りで反撃。レイデュエスの姿勢を崩すと、二人の交互の打撃がレイデュエスを押していく。

 

『ぬぅッ……!』

 

 激昂して冷静さを欠いた状態では、素の実力では二人のウルトラマンに到底敵わない。瞬く間に追いつめられていくレイデュエス。

 

『殿下が危ないぞ!』

『仕方ない……加勢だ! この復元したとっておきのカプセルで!』

 

 オガレスとルドレイはそう判断して、それぞれEXゼットンカプセルとハイパーゼットンカプセルを取り出した。

 

『根絶やしにしてくれる!!』『これが我が使命!!』

 

 オガレスとルドレイは二人で融合してフュージョンライズし、巨大化してジードとゼロの前に立ち上がる。

 

「ゼットォーン……! ピポポポポポポ……!!」

『あれは!?』

 

 一瞬動揺が走るジード。以前彼と八幡を死の淵にまで追いやった因縁のレイデュエス融合獣、ダークオーヴァーゼットンだ!

 

「ピポポポポポポ……!!」

「ウワァッ!」

「グワッ!?」

 

 ダークオーヴァーゼットンは超高速移動でジードたちに突っ込んできて、ダブルラリアットで二人を吹っ飛ばした。

 

『『いいぞぉ! 力が溢れ返ってくる!』』

『『我々で奴らを始末するのだッ!』』

 

 今までにないほどにみなぎる暗黒エネルギーにいい気になったオガレスとルドレイは、ゼロに狙いを定めて再び超高速で突撃していく。

 

『うおッ!』

 

 ゼロは咄嗟に横に跳んで回避。するとオーヴァーゼットンは停止できず、奥の山肌に轟音を立てて激突した。

 

『『あいっでぇッ! 何をやっとるんだ! パワーが制御できてないぞ!』』

『『う、うるさい! 集中しろ! 二人でやらんとバランスを保てん!』』

 

 ふらつきながらも体勢を立て直すオーヴァーゼットン。その正面にゼロが回り込む。

 

『ゼロ!』

『こっちは俺が引き受ける! お前はレイデュエスを!』

『……分かった!』

 

 一瞬背中合わせになったジードとゼロは、地を蹴ってそれぞれの相手に猛然と飛びかかっていった。

 

「セェアッ!」

「ピポポポポポポ……!!」

 

 ゼロがオーヴァーゼットンの胸元を狙って横拳を打ち込むが、腕で防御されて弾かれる。

 

「ショアッ!」

 

 ジードの平手打ちをレイデュエスは回りながら避け、スタッフから暗黒の刃を生やした。

 

『ぬううぅぅぅぅおおおおおおッ!』

 

 ブラッドサイズを振り回してジードを切り裂こうとするレイデュエス。ジードは後ろに下がって乱撃から逃れた。

 

『ジードクロー!』

 

 武器には武器を。ジードクローを召喚して大鎌を受け止め、弾き返す。

 

「ハァァッ!」

『ぬうあぁぁぁぁッ!』

 

 クローと大鎌で何度も切り結ぶ二人。しかし徐々にジードのクローを握る手が痺れていく。

 

『くッ……!』

 

 不利を感じたジードは一旦距離を開け、クローのトリガーを二回引いて必殺技を発動。

 

『コークスクリュージャミング!』

 

 きりもみ回転しながら突っ込んでくるジードに対して、レイデュエスは、

 

『でぇぇぇぇぇぇいッ!!』

 

 大鎌を大きく振り上げて、ジードを打ち返した!

 

『うわぁッ!』

 

 地面に叩きつけられたジードは、冷や汗を垂らして起き上がった。

 

『何だ、この力は……ただならぬものを感じる……!』

 

 レイデュエスの一撃一撃には、異常な執念というべきようなものがこもっていた。それがすさまじい迫力に変わり、斬撃の重圧を増しているのだ。

 

『けど、僕は負けない! 負けられないんだ!』

 

 ジードはレイデュエスの迫力に呑まれぬように気勢を発し、カプセル交換しようとする。が、

 

『させるかぁぁぁぁああああああああッ!!』

 

 レイデュエスが斬撃を飛ばしてきて、それをもろに食らってしまった。

 

「ウワアァァァッ!」

 

 胸を裂かれてフュージョンライズを阻止されるジード。ダメージの蓄積でカラータイマーが点滅する。

 

「ピポポポポポポ……!! ゼットォーン……!」

『うおぉぉッ!』

 

 ゼロの方もまた、周囲を飛び回って暗黒火球で集中攻撃してくるオーヴァーゼットンに苦しめられていた。

 

『くぅッ、やるじゃねぇか……だがッ!』

 

 ゼロは猛攻撃に晒されながらも、むしろ闘志をたぎらせる!

 

『俺に限界はねぇッ!』

[ネオ・フュージョンライズ!]

 

 爆撃の中で材木座がゼロアイとライザーを使用し、ネオ・フュージョンライズ!

 

[ウルトラマンゼロビヨンド!!]

「ハァッ!」

 

 ゼロビヨンドの気合いを込めた拳が、暗黒火球を弾き返した!

 

『『何だと!?』』

 

 動揺して一瞬止まったオーヴァーゼットンに、ゼロが超スピードで肉薄。オガレスたちは反応できない。

 

「ハァァァァァァァッ! タァッ!!」

『『『ぐわああぁぁぁぁ―――――――ッ!!』』』

 

 オーヴァーゼットンに脚が増えたかのような連続キックを浴びせ、最後の一発で地上に叩き落とした。

 

「シャッ! トアッ!」

 

 着地したゼロは瞬時にクワトロスラッガーを投げ飛ばす。

 

『『まずい! 来るぞッ!』』

『『回避だッ!』』

 

 オーヴァーゼットンはよけようとしたが、左右の半身が一瞬制反対の方向にワープしようとして割かれ、互いに引っ張られてバチンとくっついた。

 

『『『ぐえぇぇッ!?』』

 

 よろめいただけだったオーヴァーゼットンにクワトロスラッガーが直撃し、火花が飛び散る。

 

『『何やってるのだぁ! 別々の方向によけようとしたから、止まってしまったではないかぁッ!』』

『『黙れッ! 貴様が合わせろッ!』』

 

 責任を押しつけ合って口喧嘩するオガレスとルドレイ。だがそんなことしている暇などない。

 

『バルキーコーラス!』

 

 ゼロがバルキーコーラスを放ってくる。それに気づいて慌ててブラックホールを展開して盾とした。

 

「ピポポポポポポ……!!」

 

 ゼロの超必殺光線を受け止め続けるオーヴァーゼットン。だが宙に舞ったままのクワトロスラッガーが軌道を変え、ブラックホールに四方から斬りかかった。

 空間を断ち切る刃がブラックホールを霧散させ、バルキーコーラスがオーヴァーゼットンに命中!

 

『『『うぎゃああああああ―――――――ッ!!』』』

 

 派手に吹っ飛ばされるオーヴァーゼットン。更にゼロはスラッガーを手元に戻し、ひと振りのビヨンドツインエッジに変化させる。

 

『俺の名を刻み込め……!』

 

 そう唱えながらオーヴァーゼットンに突貫。すれ違いざまに、エッジの一閃を叩き入れた。

 

『ツインギガブレイク!』

 

 ダークオーヴァーゼットンの肉体に、一本線が袈裟に走る。

 

「ピポポ……ポポポ……!!」

 

 オーヴァーゼットンの上半身がずるりと滑り落ち、大爆発を起こした。

 

『よし、あとは……!』

 

 ひと息吐く間もなく、ゼロは振り向いてレイデュエスに押されるジードの加勢に入ろうとする。

 

『おぉぉぉぉぉぉあぁぁぁッ!』

 

 だがレイデュエスは暗黒光刃を滅茶苦茶に連射し、ジードとゼロに動く隙も与えない。

 

『うッ!? 何て攻勢だ……!』

 

 光刃の雨に晒されてうめくゼロ。一方で、ジードは攻撃を受けながらレイデュエスを強くにらみつけた。

 

『――おおおおぉぉぉぉぉッ!』

 

 そして何を思ったか両腕にエネルギーを溜めながら、光刃を突っ切ってレイデュエスへと直進していく!

 

『ジード!? 無茶なッ!』

 

 ゼロの制止も聞かず、ジードは捨て身の姿勢でレイデュエスに飛び掛かり、腕を鉤十字に組んだ!

 

『!?』

『レッキングぅぅバーストぉぉぉぉおおおおおッ!!』

 

 渾身のレッキングバーストが至近距離からレイデュエスに叩き込まれる!

 

『ぐッ! がああああぁぁぁぁぁぁあああああああああッ!!』

『おおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ――――――――――――!!』

 

 レイデュエスは光線を食らいながらそのままの体勢で暗黒エネルギーを発しジードを吹き飛ばそうとするが、ジードは食い下がって光線を浴びせ続ける!

 やがてレイデュエスの耐久に限界が来て、大爆発を起こした! 間近にいたジードはそれに巻き込まれる!

 

「――ぐはッ!」

 

 衝撃で変身が解けて放り出されたリクは、背中から地面にしたたかに叩きつけられた。起き上がれない彼の元へ、ライハやペガ、材木座が慌てて駆け寄っていく。

 

「リク! しっかりして! 無茶しすぎだよ!」

 

 ペガたちがリクを抱き起こすが、リクの様子がおかしい。脂汗を額に噴き出し、うめき声を上げ続ける。

 

「うッ、うぅッ……くぅッ……!」

「リク、大丈夫!?」

「すごく苦しそうだ……!」

 

 ライハや材木座が焦る中、ゼロがつぶやく。

 

『やっぱり、お前も身体がボロボロだったんじゃねぇか!? そんな状態であんな無茶しやがって……!』

「えっ!?」

 

 ダメージが蓄積していたのは八幡だけではない。ジード当人たるリクこそが最も消耗が激しかったのだ。その上で、無理を押して八幡から分離したのであった。

 

「と、とにかくすぐにリクに治療を!」

「ええ!」

 

 ライハたちがリクを星雲荘へ運んでいく中、ゼナたちAIBは行方をくらましたレイデュエス一味を必死で捜索していた。

 

『決して逃がすなッ! 地底間弾道弾は健在なのだぞ!』

 

 

 × × ×

 

 

 AIBの奮闘も虚しく、レイデュエス一味は既に円盤へと逃れていた。

 そして、今にも死にそうな顔になりながらもコンソールに食らいついているレイデュエスにオガレスとルドレイが狼狽する。

 

『殿下、本気で撃つのですか!?』

『あくまで脅迫材料で、実際に撃てばどんなことになるか……!』

「どけぇッ!! こうなったからには、最後まで毒を食らってやるッ!!」

 

 二人を突き飛ばしたレイデュエスが、ひと際大きい赤いボタンへと拳を振り上げ、

 

「地底間弾道弾! 発射ぁぁッ!!」

 

 思い切りぶっ叩いた。

 地底ミサイルの三基が火を噴き、地盤を穿って潜行を開始した。

 

 

 直後、地球上の三か所で土地の全てを燃やし尽くすほどの大爆撃が発生。未曾有の事態は即座に地球全土に知れ渡り、世界中を震撼させた。

 かくして、史上最大の侵略の幕が上がる。

 

 

 

『ウルトラストーリーナビ!』

 

八幡「今回は『ウルトラセブン』第四十八・四十九話「史上最大の侵略」だ」

八幡「ウルトラ警備隊の夜間パトロールに出るダン隊員だが、明らかに様子がおかしい。彼はそれまでの激闘の疲労が重なり、体調が最悪の状態に陥ってたんだ。そんな時に、宇宙人の大規模な侵略が行われる。ダン自身が無理を押したせいでウルトラ警備隊は窮地になり、セブンもまともに戦えないありさま。そして始まる、前例のない史上最大の侵略。命の危機にまで瀕するセブンと、地球の運命は……」

八幡「宇宙人の侵略劇を中心に物語を描いた『セブン』の幕引きとなる最終回前後編だ。あまりにも絶望的な展開の連続、セブンのかつてないピンチが、これが最後だということを強く物語ってる」

八幡「ダンの正体をアンヌに明かしてからのクライマックスの美しさと、悲壮感溢れる幕切れは、伝説の最終回として語り継がれてるぞ」

リク「この最終回みたいに『セブン』には重いストーリーの回が多く、ファンからの支持がシリーズでも特に大きいんだ」

八幡「最終回……俺たちもいよいよだな」

 




結衣「そっか……とうとう、この時が来たんだね……」
雪乃「始まりがあれば、終わりがある。出会いがあれば、別れがある……」
結衣「でも、本気でそのことを考えたことはなかったかも。いつの間にか、今が当たり前みたいに思ってた」
雪乃「だけど、着実に近づいていたのよ。そして今まさに、目の前にあるわ」
結衣「ねぇ……あたしたち、どんな最後を迎えるのかな」
雪乃「どんな結末だろうとも、見届けましょう。八幡くんたちと――彼の選択を」

八幡「これが最後だ。決めるぜ――覚悟」



次回、『やはり俺がウルトラマンジードなのはまちがっている。』



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やはり俺がウルトラマンジードなのはまちがっている。(A) 

 

「うぅ……!」

「リク! 大丈夫!?」

「リクさん! しっかり!」

 

 レイデュエス戦のダメージにより一時は危篤の状態であったリクだが、星雲荘での治療によりどうにか峠を越えた。リクの意識が回復したことで、ペガや結衣たちが大きく安堵の息を吐く。

 

「みんな、ごめん……心配かけて……」

「いいの。リクが無事なら、それで……」

 

 目覚めていきなり気落ちするリクを、ライハがその手を握って励ました。しかしゆっくりしている間もなく、ゼロがリクに呼びかける。

 

「目覚めてばっかで悪いんだが、状況は未だ逼迫してるんだ。今から言うことを、心して聞いてくれ」

「そ、そうだ! あれからどうなったの!?」

 

 ダウンする前までのことを思い返して、リクがそれからの事態についてを焦りながら尋ねた。レムがまず、次のことから告げる。

 

[リクが気を失ってからのことですが、地底間弾道弾が三発、実際に地球各所に発射されました]

「ッ!! ……!」

 

 それを聞いた途端、リクの顔色がサッと青ざめ、悔やみ切った表情で聞き返す。

 

「……被害者は?」

 

 レムははっきりと答えた。

 

[ゼロ人です]

「え?」

 

 モニターに世界地図が表示され、地底ミサイルの爆撃があった箇所が赤で示し出された。

 

[アリゾナ、シベリア、中央アフリカのサバンナ。その無人地帯に各弾道弾が着弾。大規模な爆発はありましたが、巻き込まれた人間は確認されていません]

「ギリギリのところで理性は残ってたみたいだな」

 

 不幸中の幸いにゼロが肩を撫で下ろしたが、すぐに気を張り直す。

 

「だが、これでミサイルが本物だって証明されちまった訳だ。その上でレイデュエスの野郎は二度目の声明を出しやがった」

 

 その内容とは。モニターの世界地図の赤く染められた部分が切り替わり、代わりに十二箇所の土地が赤くなった。今度は、人が密集している地点。

 

[明日の10時までにハチマンを差し出さなければ、ニューヨーク、ロンドン、パリ、モスクワ、北京……各国主要都市十一箇所に爆撃を行うとのことです]

「一度にこんな数の都市が爆破されたら、世界中が大変なことになるわ……」

 

 ライハが非常に険しい顔でつぶやく一方で、リクが尋ね返す。

 

「待って。最後の一箇所って……」

 

 日本の赤く染まっている場所は、東京ではなく、その隣の県だ。すなわち……。

 

[ここ、千葉市です]

「!!」

 

 息を呑むリク。レイデュエスはわざわざ、八幡の町を吹き飛ばそうというつもりなのだ。

 

[更に、悪いことがもう一つあります]

 

 モニターの表示が切り替わり、ユートムからの監視映像となる。場所は見慣れた総武高校。

 ここを、レイデュエス一味の宇宙人たちが占拠している。

 

「学校がッ!」

[最初の爆撃の混乱で警戒が薄れたところを突かれました。彼らはハチマンの差し出し場所を、ここに指定しています]

「とことん八幡を引きずり出そうとしてるって訳か……」

 

 八幡の生活する土地を徹底的に狙う姿勢に、ペガも重い表情。その傍らの結衣が、困惑しながら口を開いた。

 

「ねぇ……何でここまでしてハッチーにこだわるの? おかしいよ……」

「確かに、少し変だとは思っていたわ……。顔の傷の恨みだったなら、直接入れたジード本人のリクさんの方をむしろ恨みそうなものなのに……」

 

 同意する雪乃であるが、それに対する回答は誰も持ち合わせていなかった。

 

「……とにかく、もうこれ以上の凶行を許す訳にはいかない。今度こそ、この戦いを終わりにしなくちゃ……!」

 

 決心して立ち上がろうとするジードを、ゼロが呼び止めた。

 

「待て。お前だって身体がもう限界なんだろ。ここは俺とAIBに任せときな」

「ゼロ……」

「AIBも総力を結集して、最終決戦の用意をしてる。最後の切り札っていうもんもあるみたいだ。そういう訳だから、今回ばかりはお前もここで回復に専念してな」

 

 ゼロの気遣いを、リクはただじっと黙って受け止めていた……。

 

 

 

『やはり俺がウルトラマンジードなのはまちがっている。』

 

 

 

 二月三日、10時までの10分前。

 

「うぅ……」

「い、一体どうなってんだよこれぇ……」

「姫菜、大丈夫か……?」

「う、うん……何とか……」

 

 総武高校の体育館には、昨日レイデュエス一味が襲撃した際に学校に残っていた生徒や教師らが人質として拘束され、集められていた。その中には葉山グループや戸塚、川崎、平塚などの姿もある。

 

「ひぃ……何で俺らがこんなことに……」

 

 いつもは無駄なくらいに明るい戸部も今ばかりは憔悴し切っていると、彼らを見張るグループの一人のクカラッチ星人がわざわざ人質を脅しに回る。

 

『ハハハッ! 泣こうが助けを呼ぼうが、お前たちの命はあと10分で終わりだぁ! 比企谷八幡とかいうクソガキのせいでなぁッ!』

「ひぃぃッ!」

「っ! あ、あいつがどう関係あるの!?」

 

 クカラッチ星人のひと言を聞き咎めた川崎が、気を張りながら問い返した。

 

『フフフ……あの小僧は我らのボスに散々無礼を働いておいて、いざとなったら尻をまくって逃げ出したのだ! お前たちはその代わりの犠牲となる。あんな奴のために、哀れなことだなぁ』

「い、言ってることがよく分からないけど……八幡はそんな奴じゃないよッ!」

 

 勝手なことをのたまうクカラッチ星人に戸塚が反論するが、クカラッチ星人はますます調子づくだけ。

 

『事実そうなっているのだ! 奴はとんだ臆病者のクズだッ!』

「私の教え子を、何も知らない奴が馬鹿にするな!」

『いいや知ってるとも! ことある毎に人の邪魔ばかりする、生きてる方が迷惑なド底辺のゴミカスだよッ!』

 

 散々に罵るクカラッチ星人。――すると、体育館の入り口で腕を組んで仁王立ちしていたレイデュエスが、その声に振り向いた。

 

「――クカラッチ星人、こっちに来い」

『へぇ? 何用でしょうか?』

 

 不意に呼ばれたクカラッチ星人は、言われた通りにレイデュエスの元へ歩み寄っていく。

 

「手を出せ」

『えッ、もしかして何かいただけるんで? へへへ』

 

 そう言われて、薄ら笑いしながら両手を差し出すクカラッチ星人。

 その手が肘から、ゴトリと落ちた。

 

『へ――へぇぇぇええええええああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!?!?』

 

 一瞬何が起きたか分からなかったクカラッチ星人だが、レイデュエスが大鎌を握り、己の腕が断たれて血が噴き出していることで大絶叫した。

 突然の事態に周りの者たちはそろってギョッと振り向く。

 

『ななななななななな何をぉぉぉぉぉぉぉ!?』

 

 パニックになるクカラッチ星人をレイデュエスが乱雑に蹴飛ばし、倒れた彼を踏みつけて冷酷な眼で見下す。

 

「お前、何のつもりだ?」

『へッ!? 何のつもりって……』

「比企谷がド底辺のゴミクズならぁッ! それに負け続ける俺はゴミクズに劣る搾りカスと言いたいのかぁぁぁ!? あぁ!!?」

『ええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!? そ、そんなつもりじゃあ……!!』

「黙れ……! その口が不快だ……今すぐに利けなくする……!」

 

 大鎌がユラリと首をもたげたので、面前に死が迫るクカラッチ星人はまさしく必死に命乞いした。

 

『待って待って待って!! 訂正します取り下げます謝りますぅぅッ! だからお願い殺さないでッ!! やめてぇぇぇぇぇぇぇぇ!!』

 

 だが言葉の途中でブツリと途切れ、首がゴロゴロ転がった。

 

「きゃああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ―――――――――――――――!!?」

 

 宇宙人とはいえ、目の前で人が殺されたのを目の当たりにした三浦たちが悲鳴を発した。が、レイデュエスに血走った眼を向けられると引きつけを起こしたように閉口する。

 

「何を見てる……。何か言いたいことでもあるのかぁッ!?」

 

 あまりのことに手下の宇宙人たちもドン引きしていたが、一喝されて慌てて視線をレイデュエスから外した。

 

『……はぁ……。殿下は何だって、たかが地球人なんかにああも執着するのだ……』

『何も殺さなくとも……』

 

 オガレスとルドレイもほとほと参っていると、その時に外から、拡声器越しの叫声が轟いた。

 

『レイデュエスに告ぐッ!』

「……!」

 

 息を荒げていたレイデュエスが顔つきを一変し、目を外へと向けた。

 

 

 × × ×

 

 

 レイデュエスたちが立てこもる体育館は、AIBが取り囲んでいた。ゼナが内部のレイデュエスに宣告する。

 

『外の者たちは既に排除した! お前たちは完全に包囲されている! これ以上は無駄な抵抗だ、人質を解放して出てくるがいい!』

 

 体育館を包囲するAIB隊員の輪の中に、材木座の姿もある。

 

「ぬふぅ……学校にテロリスト……このシチュが現実になる日が来るとは」

「冗談言ってる場合じゃねぇぜ。かなり切羽詰まった状況だ」

 

 材木座とゼロで話していると、背後から声を掛けられる。

 

「ゼロ」

 

 ゼロが振り向き、そしてあんぐりと口を開いた。

 

「リク! お前、来ちまったのかよ!」

 

 後ろから来たのは、リクとライハの二人であった。

 

「ああ。どうしてもジーッとしてられなかったから」

「あれだけ言ったってのに……。ライハも、何で止めなかったんだよ!」

「こうなったリクは止められない。分かるでしょ?」

 

 ライハは肩をすくめてため息を吐いた。彼女も苦労したようである。

 

「……しょうがねぇな。だが、無闇やたらと突出するなよ。ギリギリまで俺たちに任せるんだ」

「分かったよ。……レイデュエスは、大人しく外に出てくるかな?」

「な訳ねぇだろうよ。AIBも、奴が降参することなんか期待しちゃいないはずだ。――地底間弾道弾はまだ発見できてない。最悪でも、あれを押さえる時間は稼がなくちゃならねぇ」

 

 リクたちは緊張の面持ちで、AIBとレイデュエスの対決を見守る。

 やはり、ゼナの勧告に対してレイデュエスからの反応はない。八幡を連れてこなければ何の応答もしない腹積もりのようだ。

 

『……ならば、外に出てきたくなるような話をしてやろう』

 

 不意に、ゼナがそんなことを言い出した。

 

『レイデュエス、お前の出自を特定した』

 

 ――その途端、レイデュエスの顔色がサッと変わった。

 

『お前は一定の時期からの己の過去の痕跡を念入りに消していたな。だが完全に過去を消すなど不可能なこと。時間は掛かったが、遂に我々は突き止めたのだ』

『殿下の出自……?』

『あいつら、調べたというのか……』

 

 誰も知らないレイデュエスの出自という内容に、オガレスたちも思わずどよめく。

 一拍の間の後、ゼナがそれを口にした。

 

『ルパーツ星人デュエス――それがお前の本名だ』

 

 この言葉に、宇宙人たちにザワッと動揺が走った。

 

『ル、ルパーツ星人!? 本当か……!?』

『よりによって、あの弱小の……』

 

 ルドレイが思わずつぶやくと、レイデュエスに殺気のこもった目を向けられたので慌てて押し黙った。

 その間にもゼナは続ける。

 

『温厚で平和を愛する民族の中で、類を見ないほど凶暴で攻撃性のある性格の異端。それがお前のようだな。度を越した暴力事件を起こし、惑星外追放処分になったという――』

「――追放だと? 違うな」

 

 ゼナの言葉に刺激されたレイデュエスが、体育館の入り口から一歩外に出てきた。

 

『で、殿下!』

『危ないですよッ!』

 

 オガレスとルドレイの忠告も耳に入らないほど、レイデュエスの目は憤怒で煮えくり返っていた。

 

「こっちから出ていったんだよ、あんな星ッ! 人様の過去をほじくり返すとは陰湿な奴らめ……! 不愉快極まりないッ! よって死ねッ!!」

 

 激情のままに吐き捨てるレイデュエスが手下全員に命令する。

 

「貴様らも行けッ! あの掃き溜めどもをブチ殺せッ!!」

『人質はどうするんです!?』

「そんなものほっとけ!! 今は奴らに思い知らせる方が重要だッ!!」

 

 レイデュエスの私情丸出しの命令にさしものオガレスたちも戸惑っている間に、ゼナに陽乃がそっと耳打ちした。

 

「思った以上に上手く行きましたね」

『ああ、危険な賭けだったが……レイデュエスは冷静さを欠いた。それほどまでのコンプレックスだったようだな』

「でもここからが正念場ですね……。何としてでも、作戦を成功させないと」

『うむ……。最早失敗は絶対に許されないのだ』

 

 ゼナたちが話している内にレイデュエスの手下は統制が纏まり、人質を置いて全員が武装して外に出てくる。AIBもまた迎撃の態勢を取り、両陣営の激突が開始される!

 リクとライハ、ゼロは、最初の衝突はAIBに任せ、その間に人質の解放のために密かに体育館に回り込んでいった。

 

 

 × × ×

 

 

「始まったね……」

 

 ペガと雪乃、結衣の三名は八幡の側につきながら、戦いの様子をモニターで見守っていた。

 

「これでほんとに決着がつくかな……」

「折しも今日は節分……。鬼は外に出ていったもらいたいものだけど」

 

 雪乃がそんなことをぼやいている背後で、

 

「……うぅ……」

「八幡!?」「八幡くん!」「ハッチー!」

 

 それまでずっと昏睡状態が続いていた八幡が、遂に目を覚まして身体を起こした。

 

「ここは……あれから、どうなったんだ……?」

「八幡くん、その……」

 

 頭を振る八幡に雪乃が何を話し、何を話さずにいるべきか迷いながらも説明しようとするが、八幡はある違和感に気づいて己の懐をまさぐった。

 

「……ないッ! ライザーが! カプセルも、全部!」

 

 既に八幡の手元には、ジードライザーやウルトラカプセルの一式はなくなっている。それで八幡は何かを察し、レムを見上げた。

 

「レム! 俺が気絶してから、今の間に起きたことを全部、一つ残らず教えてくれ!」

[ですが……]

「早くッ!」

 

 ためらうレムだが、八幡の剣幕に押されて、やむなく話し出した。

 

[……分かりました]

 

 レムは全てを説明した。八幡が倒れてから、レイデュエスが最終決戦を挑んできたこと、それに八幡から分離したリクが受けたこと、しかしレイデュエスが逆上し、大量破壊兵器や総武高校を盾にして八幡の身柄を要求してきたこと、そして今まさにリクたちが全ての決着のために戦っていること……。

 

「……くそッ! そんな大事が起きてる間、ずっとぐーすか寝こけてたってのか俺は……!」

 

 自分に毒づいた八幡は、即座にベッドから飛び降りた。

 

「俺も現場に行く! すぐエレベーターを出してくれ!」

「えぇッ!? だ、駄目だよそれは!」

 

 ペガたちは大慌てで八幡を押しとどめようとする。

 

「ハッチーの身体はもう限界なんだよ! だからリクさんも、ハッチーのために離れたんだから!」

「八幡くん。もうあなたは、ウルトラマンジードではないの。戦う理由は、もうどこにもないのよ」

 

 雪乃があえて厳しめの言葉で八幡を諫めようとしたが、八幡は首を振って否定した。

 

「いいや。俺は俺自身のため……そしてあいつ――レイデュエスのために闘う! 闘わななくちゃいけねぇ!」

「えぇぇ!? ど、どういうこと!?」

「レイデュエスのため……? まだそんなことを言っているの!? あんなわがまま男、構うこともないじゃない!」

 

 言い聞かせる雪乃であるが、八幡は極めて真剣な面持ちで語り出した。

 

「……俺はウルトラマンジードになる前となってからで、随分と変わった。それは自分で自覚してる。だけどその一番の転機は、ジードになったからじゃない。レイデュエスという敵がいたからだ!」

「……!?」

「あいつにだけは負けたくない、という思いが俺を一番成長させた。俺に光を抱かせた……! あいつがいなかったら、俺はどうしようもないクズのままだったかもしれない」

「だから、それはあくまで結果で、それであの男に恩を感じるとかはおかしい……」

 

 雪乃の反論を封殺する八幡。

 

「そうじゃない! 詳しく説明してる暇はないが、あいつも俺と同じようなもんだ! 感じるんだッ!」

「え……!?」

「俺はあいつの存在で変わった。だから今度は、俺があのどうしようもないクズをぶん殴って変えてやるんだッ!」

 

 八幡が何故そこまで言うのか、ペガたちにはまるで分からなかったが、あまりの気迫に口出しすることは出来なかった。

 

「……レム、エレベーターを出してくれ」

 

 改めて頼む八幡に、レムはすぐには返答しなかった――。

 



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やはり俺がウルトラマンジードなのはまちがっている。(B) 

 

『行けッ! ひるむなぁッ!』

『ぬぅぅぅぅぅ!?』

 

 総武高校の体育館前の校庭で、AIBとレイデュエス一味の激しい銃撃戦が繰り広げられる。両者の攻勢が拮抗している間に、リク、ライハ、ゼロの三人は体育館に忍び込んで人質を次々解放し、裏口から逃がしていった。

 

「さぁ、早くあっちへ!」

「あ、ありがとうございます……」

「ライハさん、どうしてここに!?」

「説明は後! 川崎さんも急いで!」

「材木座くん、何か雰囲気違くない? 眼鏡は?」

「あーいいから逃げろって!」

 

 困惑する川崎や戸塚を押し出すように脱出させていくライハとゼロ。

 

「隼人くん隼人くん! あそこにいるのって、雪ノ下さんのお姉さんじゃね? あんなバトって、あの人何者なの?」

「戸部、いいから早く!」

 

 ただし戸部はこんな時に変な野次馬根性を発揮して、葉山らに急かされていた。

 AIBとレイデュエス一味の対決は、所詮一味は寄せ集めの軍団ということもあり、全体ではAIBが徐々に優勢になっていく。フック星人が一人、また一人と倒れ、もしくは捕らえられていく。

 しかし流石にオガレスとルドレイは手強く、特にレイデュエスは圧倒的な力で片っ端からAIB職員を薙ぎ倒す。

 

「ふぅんッ!」

『うわあああぁぁぁぁぁぁぁッ!』

 

 レイデュエスの放った光刃がドーブル星人たちを纏めて吹き飛ばした。これではレイデュエス一人に全滅させられてしまう。

 

『そこまでだッ!』

 

 その時にゼナが単身レイデュエスに飛び掛かり、拳を突き出す。レイデュエスはブラッドサイズの柄でガード。

 

「おぉらッ!」

 

 容赦なく大鎌を振り回すレイデュエスだが、ゼナは素手にも関わらず鎌を受け流し、回転する勢いで回し蹴りを仕掛けた。レイデュエスは咄嗟に柄で防ぐが、

 

『むんッ!』

 

 ゼナは柄を支えにして跳び、レイデュエスの頬につま先蹴りを入れた!

 

「ぐッ!」

 

 レイデュエスがひるんだところに、着地した瞬間に銃を抜いて至近距離から光弾を三発撃ち込む!

 

「がふッ!」

 

 胴体に三か所風穴が開いたレイデュエスであったが、

 

「……流石はシャドー星人の虎の子。やるもんだが……武器が貧弱すぎるな」

 

 風穴はレイデュエスが力むとすぐにふさがって消え去る。

 消耗が積み重なるレイデュエスだが一番厄介な再生能力は未だ健在。銃撃程度では全く有効打にならないようだ。

 

「本来非戦闘組織の弱みといったところか。高威力の兵器を用意できないというのは」

『黙れ。お前などには、この銃で十分』

「それはこいつを食らってからも言えることかぁ!?」

 

 レイデュエスが鎌の刃に闇の魔力を乗せ、高重量の一撃を見舞う!

 

『ぐわッ!?』

 

 さしものゼナも威力を殺し切れず、大きく吹っ飛ばされる。

 

「はッ! シャドー星人風情では、白兵戦にはやはり限界があったよう……」

 

 レイデュエスが勝ち誇るが、重い攻撃の直後は硬直が長い。その隙に、

 パァンッ!

 

「んッ!?」

 

 陽乃の放った一発の弾丸が、レイデュエスの腕に着弾した。

 

「ふん……何度同じことをする気だ。こんな銃創如き、すぐに……」

 

 呆れて再生しようとするレイデュエス。が――今回は様子がおかしい。

 

「何……!?」

 

 傷口はふさがらず、それどころか銃創を中心に肉がドロドロに溶けていって腕が形を崩していく。肉体の崩壊はどんどん広がり、レイデュエスの身体が時間とともに溶けていく。

 

『殿下!?』

「こ、こいつはまさか……!」

 

 流石に焦りを見せるレイデュエス。今撃ち込んだものが何か、ゼナが告げた。

 

『細胞組織溶解液。生物を構成する組織そのものを溶かす毒薬が血流に乗って全身に広がり、死に至らしめる。どんな再生能力を持っていようとも、この破壊からは逃れられない。あまりに効果が強すぎて使用禁止兵器に指定されているので、我々も手を尽くしても弾丸一発分の使用許可を得るのが精一杯だったが……その甲斐はあったということだ』

 

 懸命にあがいて肉体の溶解に抵抗するレイデュエスだが、ゼナの言う通りに無駄。どうしても止めることが出来ない。

 

「くッ、馬鹿な……! こ、この俺が、こんな呆気なく……!」

「命っていうのは、案外呆気なく終わっちゃうものだよ。あんたが今まで踏みにじってきた命と同じで。今度はあんたの番ってだけの話」

 

 溶解液を撃ち込んだ陽乃が、レイデュエスに残酷な眼差しを向けている。

 

「あんたがしてきたことの報いだよ。――さっさと消え失せろ」

「なッ、あ、あぁぁ……!!」

 

 レイデュエスはやがて輪郭すらも崩れていき、そして――。

 ドオオオオォォォォォォォォォォォ―――――――ンッ!!

 

『殿下ぁぁぁぁぁ!?』

『や、やったぁぁぁぁぁッ!』

 

 盛大な爆発とともに消え去るレイデュエス。この結果を見届け、ペダン星人たちが一斉に歓声を発した。

 

「本当に、とどめを刺したの……!?」

「ああ……流石に細胞の一片まで溶かされて生きてる訳ねぇ」

 

 ゼロも太鼓判を押す。

 

「……これで、ようやく、終わった……」

 

 レイデュエスは、今度こそ、確実に、死んだ。陽乃も銃を下ろし、長いため息を吐いて、ずっとのしかかっていた重い肩の荷を下ろした。

 が、ゼナは、

 

『……爆発した……!?』

 

 生き残ったオガレスとルドレイに対しては、気を取り直したペダン星人が銃を突きつける。

 

『さぁ、大人しく投降しろ! それともまだやるか!?』

『ひッ!?』

 

 オガレスたちは途端に戦意を失い、諸手を挙げて降参の意を示した。

 

『や、やめてくれ! もう抵抗しないッ! 許してくれぇッ!』

『許してくれだと? 今更都合のいいことを……』

『お、俺たちは殿下……いや、レイデュエスに言われて仕方なくやってただけなんだ! 本当は嫌だったんだよぉ!』

 

 レイデュエスが死んだのをいいことに、恥も外聞も投げ捨てて命乞いに走る二人。

 

『そうだ! だけどレイデュエスは暴力を振るって無理矢理に言うことを聞かせてきて……』

『あいつの正体がたかがルパーツ星人だと分かってたなら、あんな奴に従ったりしなかったって!』

 

 必死に言い訳を並べるオガレスとルドレイに、ライハやゼロは呆れた目を向ける。

 するといきなり、オガレスたちの肩をガッ! と黒ずんだ手が掴んだ。

 

「!!?」

 

 仰天するAIB職員たち。肩を掴まれた当の二人は、錆びついた歯車のように首を後ろに向けた。目に飛び込んできたのは……。

 

「ほぉう……? 散々俺の足を引っ張っておいて、そんな風に考えていたというのか、お前たちはぁ……」

 

 全身が炭化して、ギリギリで原型を保っているというありさまであるが……それでもくっきりと浮かび上がっている顔面の傷跡。間違いなく、レイデュエスだ!

 

『ええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえええええええええ!!? レ、レイデュエスぅぅぅぅぅぅ!!? ……殿下ッ!!』

『な、何で生きて……!??』

 

 オガレスとルドレイはもちろんのこと、全員が大混乱。

 

『どうなってるんだぁ!? 細胞溶解液が、効かなかったのか!?』

 

 取り乱しまくるペダン星人の口から突いて出た疑問に、ゼナが答える。

 

『そうじゃない……! 溶解液が全身に回り切る前に、自分で自分の全身の細胞組織を焼き、毒薬を焼却したのだ! そうして肉体を再構築した……さっきの爆発はそれだったのだ!』

『そ、そんな無茶苦茶な!!』

『無茶苦茶だ……! そのまま死んでも何らおかしくない荒業、まともな神経で出来ることではないッ! 恐るべき執念の賜物……!』

 

 裏切られたレイデュエスは殺気を纏ってオガレスとルドレイを捕らえていたが、その殺気が急に失せる。

 

「だが許そう。何故ならッ!」

 

 だがその直後に、レイデュエスの両腕がオガレスたちの胸部にめり込んだ!

 

『『あぐはぁッ!?』』

 

 いきなりの凶行に騒然となる中、レイデュエスは二人の肉体から紫色の光球を引き抜き、己の身体に押し込んだ。

 

「ハッハハハハハッ! お前たちに預けてた俺の命! 返してもらったぞ! お前らの命ごとなッ!!」

 

 光球を取り込んだことで瞬く間に元の肉体に再生……それどころか、身体からあふれる威圧感がますます高まるレイデュエス。それと対照的に、オガレスとルドレイは白目を剥いて崩れ落ち、ピクリとも動かなくなった。

 ゼナが唖然とつぶやく。

 

『死んだ……!』

「何てこと……!」

 

 リクとライハも絶句していると、ゼロがハッと息を呑んだ。

 

「まさか、あいつらをフュージョンライズ出来るようにしたのは、俺にぶつけるためじゃなく、自分の力をあいつらに馴染ませることで生命エネルギーを丸ごと引っこ抜けるようにするためだったのか……!? 自分自身のエネルギーを強化するために……!」

「当然だぁッ! そうでもなきゃ、こんな不甲斐ない連中に俺の命を与えたりするかぁッ!!」

 

 最早レイデュエスは死に体ではない。二人分の生命エネルギーを吸収したことで、万全以上の状態となっている!

 

「くぅぅぅぅぅぅっ!!」

 

 流石の陽乃も焦り、弾が尽きるまで銃を連射するも、レイデュエスの身体から生じる魔力だけで弾かれて届きもしなかった。

 

「女ぁッ! さっきはよくもやってくれたなぁぁッ!」

 

 反対に、地面に撃ち込まれた光弾の爆発で陽乃が弾き飛ばされる。

 

「あああぁっ!!」

『陽乃!』

 

 ゼナたちが慌てて受け止めたが、陽乃は衝撃によって失神していた。

 

「俺の宿命にとどめを刺すのはぁッ! お前らなんかじゃないんだよぉぉぉぉぉッ!!」

『うわあああぁぁぁぁぁぁぁッ!!』

 

 ゼナたちAIBも纏めて、レイデュエスの引き起こす爆撃で薙ぎ払われた。

 

「やめろぉッ!」

 

 ゼロがとうとうたまらなくなってレイデュエスに飛び掛かったが、レイデュエスはひらりと身をかわす。

 

「何でここまでする!? お前は異端だろうと、ルパーツ星人なんだろ!?」

 

 冷や汗まみれになりながらゼロが詰問すると、レイデュエスは傲然と返した。

 

「違うなぁ! 俺は魔導師暴君レイデュエス! レイブラッド星人の血を受け継ぎ、全宇宙を恐怖と暴力で支配する宿命を抱えたレイオニクスだッ!!」

「……自分がレイブラッドの後継者として、宇宙の皇帝になれるとでも思ってるのか!? そいつは違うぞ!」

 

 ゼロが言い切り、レイデュエスを説き伏せようとする。

 

「レイブラッドはそんな奴じゃねぇ! お前は利用されてるだけだッ! 最後には捨てられるだけだぞ!?」

「俺が利用されてるだけ!? ハハハハハハハッ!」

 

 レイデュエスはひとしきり哄笑し、顔面を狂気で彩った。

 

「分かってんだよぉそんなことはッ!! 言われなくたってなぁぁぁぁぁッ!!」

 

 そうしてバトルナイザーを引き抜き、高々と掲げる。

 

「俺の最強のしもべよ! 今こそお前のショウタイムだぁッ!!」

[バトルナイザー、モンスロード!]

 

 レイデュエスのバトルナイザーから、すさまじい巨体の青い怪獣が召喚された!

 

「ヴォオオオオオオオオオオ!」

 

 最強の名を冠する大怪獣キングオブモンス! レイデュエスがすかさず命令を下す。

 

「キングオブモンス! この町を焼き払え! 比企谷八幡をいぶり出せぇッ!」

「ヴォオオオオオオオオオオ!」

 

 キングオブモンスが千葉市への侵攻を開始。千葉市の市民には既に避難命令が出されているが、解放した人質がまだ近くにいる。彼らが危ない!

 

「くッ……!」

 

 ゼロはレイデュエスとリクたちを見比べて一瞬逡巡したが、放っておく訳にはいかずにゼロアイNEOを取り出した。

 

「デュワッ!」

 

 ウルトラマンゼロに変身してキングオブモンスに正面から組みつき、進撃を食い止めた。

 

「セェアッ!」

「ヴォオオオオオオオオオオ!」

 

 材木座がゼロに変身したところは、怒涛の展開の変化で逃げるタイミングを失った戸部がバッチリと目撃していた。

 

「えぇーッ!? ウッソでしょ!? 変身したよ、ウルトラマンゼロに! ……マジで!? そうだったの!?」

「おい戸部ぇ! 身を乗り出すなっての! 危ないでしょ!?」

 

 戸部につき合って逃げ遅れた三浦たちが、戸部を引っ張って体育館に隠れさせた。

 

「はぁぁぁっ!」

 

 ゼロに代わってライハが一気呵成にレイデュエスに斬りかかっていき、レイデュエスの大鎌と鍔迫り合いする。

 

「あんたさえ止めれば……!」

「分からない奴らだなッ!」

 

 隙を見て押し切ろうとしたライハだったが、レイデュエスの放つ魔力の暴風は避けられずに吹き飛ばされる。彼女の手から離れた剣が宙を舞い、地面に突き刺さった。

 

「あぁぁぁぁっ!!」

「ライハッ!」

「お前らじゃあないと言ってるだろうがぁぁぁッ!」

 

 リクが跳躍してライハを受け止め、ジードライザーを取り出すも、それも光弾に弾き飛ばされた。

 

「しまったッ!」

「そして性懲りもなくまた一人でやってきやがって、貴様は……! 昨日言ったことを聞いてなかったのか!?」

 

 いら立ったレイデュエスは、手の平に収まるサイズのスイッチを取り出す。地底ミサイルの発射ボタンに違いない!

 

「いいだろう! 今度こそ地球の都市をぶっ飛ばしてやるッ! 行くぞぉッ!!」

「や、やめろぉぉぉぉぉッ!!」

『ぐッ……弾道弾はまだ見つからないのか!?』

 

 リクとゼナが遮二無二レイデュエスに飛びつこうとするが、到底間に合う距離ではない! スイッチが押される!

 ――が、レイデュエスの傷跡がズキッとうずき、スイッチに掛かった指が止まった。

 

「来た……ようやく来た……! 遅すぎるぞ……!!」

 

 突然の様子の変化にリクたちも思わず停止すると、レイデュエスはスイッチをあっさり横に投げ捨てた。

 

「もうこんなものは必要ない」

「!? まさか……!」

 

 リクがハッと後ろに振り向くと、彼の背後に刺さっていたライハの剣とジードライザーを拾う手があった。

 

「……ようやく、面と向かって会えたな。朝倉リク」

「八幡……!」

 

 リクが、八幡と、初めて対面したのだ。

 

「――どうして……どうして来たんだ……! 僕はもう、君のことを……!」

 

 悔やむように唱えられるリクの言葉を、八幡がさえぎった。

 

「いいんだ。俺は、俺が来たいからここに来たんだ。気に病むことなんかないし、何より……俺のために、もう一度戦う力を貸してくれ」

「八幡……!」

「ジーッとしてても、ドーにもならねぇ……だろ?」

 

 リクへと歩み寄りながら、彼と熱く視線を交わし合う八幡。一方で、レイデュエスはチッと大きく舌打ちする。

 

「散々人のことを焦らしときながら、こっち無視してんじゃねぇよ比企谷ぁぁぁぁッ!」

 

 怒号とともに放たれた光刃が、大爆発を引き起こす!

 だがその中から八幡一人が――いや、再び『二人で一人』となった八幡が飛び出し、ライハの剣を握ってレイデュエスに振り下ろす!

 

「はああぁぁぁぁぁぁぁ――――――――――!!」

「ぬぅあッ!?」

 

 剣と大鎌が交差し――両者の得物とも宙に舞って、地面に突き刺さった。

 

「――俺たちの決着には、これは相応しい形じゃねぇ。やっぱり、これじゃないとな」

 

 一瞥しただけで鎌を放置したレイデュエスが、ブラッドライザーを出して八幡に向けた。

 対する八幡も、合わせるようにジードライザーをレイデュエスへ向ける。

 

「これが最後だ!」

「行くぞ!!」

 

 どちらともなく叫び、互いの最初のカプセルが起動される。

 

「ユーゴーッ!」『シェアッ!』

「イッツ!」『ギャオオオオオオオオ!』

 

 ウルトラマンカプセルとゴモラカプセルが起動。続いて二つ目のカプセル。

 

「アイゴーッ!」『フエアッ!』

「マイ!」『ピッギャ――ゴオオオオウ!』

 

 ベリアルカプセルとレッドキングカプセルがそれぞれの装填ナックルに押し込まれ、二つのライザーが持ち上げられる。

 

「ヒアウィーゴーッ!!」

「ショウタイム!!」

 

 同時にウルトラカプセルと怪獣カプセルが、ライザーにスキャンされる。

 

[フュージョンライズ!][フュージョンライズ!

 

 八幡とレイデュエスはライザーを己の胸の前に置き、フュージョンライズ!

 

「ジィィィ―――――――ドッ!」

「ぬうあああぁぁぁぁッ!」

 

 八幡がウルトラマンとベリアルのビジョンと重なり、ウルトラマンジードに変身していく。

 レイデュエスが魔人態となって二体の怪獣のビジョンを吸い込み、レイデュエス融合獣に変貌していく。

 

[ウルトラマン! ウルトラマンベリアル!]

[ウルトラマンジード! プリミティブ!!]

ゴモラ! レッドキング!

レイデュエス! スカルゴモラ!!

 

 ――総武高校にいる者たちの見ている前で、巨人と大怪獣が地盤を揺るがしながら正面衝突し四つを組んだ。

 

「シュアッ!」

「ギャオオオオオオオオ! ピッギャ――ゴオオオオウ!」

 

 ウルトラマンジード・プリミティブとスカルゴモラ。その激突から、長く続いた戦いの終止符を打つ、本当の最終決戦の火蓋が切って落とされた。

 



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やはり俺がウルトラマンジードなのはまちがっている。(C) 

 

「……遂に始まったわね」

 

 星雲荘のモニターで結衣、ペガと並んでジードの戦闘を見守る雪乃が、静かにつぶやいた。それにうなずく結衣。

 

「うん。……ハッチー、ほんとに一人で行っちゃったね。何か寂しいけど……」

「だけど、あそこまで真剣に頼まれたなら……やっぱり、断れないわ」

 

 二人は、八幡が総武高校に向かうことを認めはしたが、自分たちもともについていくつもりであった。だがそれも八幡に断られたのだ。何故、と問う二人に、八幡は告げた。

 『厳密には違うが、俺はサシであいつと戦いたい。多分、そうじゃないと意味がない』、と――。

 

「……大丈夫なのかな、ほんとに。ハッチーがどんな答えを考えついたのか知らないけど、それが正解なんて保証はないんだよね。もしものことがあったら……」

 

 不安に駆られる結衣の手を、そっと雪乃が握り締めた。

 

「信じましょう、八幡くんを。今の私たちは、それが出来る」

「ゆきのん……」

 

 ペガもモニターの中のジードを見つめながら、祈りを捧げた。

 

「リク、八幡……絶対帰ってきてね」

 

 

 × × ×

 

 

「ショアッ!」

「ピッギャ――ゴオオオオウ! ギャオオオオオオオオ!」

 

 ジードがスカルゴモラに飛び掛かって、首筋に膝蹴りを入れる。スカルゴモラは踏みとどまってジードを押し返し、両者再び取っ組み合う。

 そんな戦いが繰り広げられる傍で、レイデュエスの攻撃で気を失っているライハに呼びかけられる声が。

 

「ライハさん、しっかり! 大丈夫ですか!?」

「身体は揺するなよ。脳震盪を起こしてるかもしれん」

 

 呼び声で意識を取り戻し、うっすら目を開けたライハが見た顔は、いろはと平塚のものであった。

 

「いろは、平塚さん……戻ってきたんですか……」

「ああ。出来ることもないが……あなたたちが心配でな」

 

 うなずき返す平塚。二人は解放されてから他の生徒たちとともに避難していたのだが、途中で引き返してきたのであった。

 いろはがスカルゴモラと格闘するジードを見上げてつぶやく。

 

「……あれ、先輩ですか?」

「……そうみたい」

 

 いろはたちは今のジードの横顔から、懸命に戦う八幡の面影を見出していた。

 

「八幡も、ジーッとしてられなかったってことね」

「……先輩、無事に戻ってきて下さいよ……」

「比企谷……必ず勝て!」

 

 いろはと平塚はひたすらに、八幡の無事を願う。

 一方で戸部は、自身が目の当たりにした現実にあんぐりと口を開いてジードを見上げていた。

 

「マジぃ!? ゼロに引き続いて……ヒキタニくんがジードだったの!? パねぇ! マジパねぇよ!!」

 

 驚きっぱなしの戸部だったが、周りの葉山たちが割と平然としているのに気づいて振り返った。

 

「あれ? 何かみんな反応薄くね?」

 

 葉山が申し訳なさそうに返す。

 

「悪い、戸部……この場でそれ知らなかったの、お前だけなんだ」

「えぇぇぇ―――――――――――――!!?」

 

 それが戸部にとって一番ショックだった。

 

「……そういえば、さっきの助けてくれた男の人は?」

 

 しばらく呆然としていた戸部だが、八幡とともにリクの姿がなくなっていることに気づいて尋ねる。

 

「ああ……厳密にはあの人がジードだそうだから、要するに……」

 

 葉山が答えかけたその時、急に海老名がバターン! と派手にぶっ倒れた。

 

「姫菜!?」

「ちょッ!? どうしたんだいきなり!?」

 

 慌てて海老名を介抱しようとする葉山たちであったが……海老名は鼻血を噴き出しながらも実に幸せそうな表情で倒れていた。

 

「……合体……二人の男の人が……リアル合体……ふへへ……」

「……何か、興奮し過ぎただけみたいだな……」

「ある意味元気ってこと?」

 

 葉山と三浦が何とも言えない顔となった。

 そんな事態をよそに、ジードとスカルゴモラの戦闘は激しさを増していく。

 

「ピッギャ――ゴオオオオウ! ギャオオオオオオオオ!」

「ハッ!」

 

 スカルゴモラの太い角を振りかざしてのヘッドバットをバク宙でかわすジード。その後の腕を振り回しての追撃も、はたき落とすことで防御する。

 

「ピッギャ――ゴオオオオウ! ギャオオオオオオオオ!」

 

 打撃を防がれるスカルゴモラだが、大角に爆炎のような振動波を発生させて抑え込んだジードに食らわせようと構える。

 

「フッ! オオオオオ……!」

 

 だがジードは決してひるまず、両腕に赤黒い稲妻をスパークさせてこちらも光線の構えを取った。

 

「ピッギャ――ゴオオオオウ!!」

「『レッキングバースト!!」』

 

 至近距離から衝突するスカル超振動波とレッキングバースト! 二つの強烈なエネルギーのぶつかりは途轍もない爆発を起こす!

 

「きゃっ!?」

 

 発生した猛烈な突風に煽られるいろはたち。最も浴びたスカルゴモラはよたよたと後ずさった。

 

「ギャオオオオオオオオ!」

 

 しかしジードの方は爆炎の中に隠れて様子が見えない。と、思いきや、

 

[ソリッドバーニング!!]

「ドォッ!」

 

 爆炎を一気に吹き飛ばして、タイプチェンジしたジード・ソリッドバーニングがブシューッと蒸気を噴出させた。

 

「八幡くん!」

 

 ジードの雄々しき立ち姿に、雪乃が星雲荘で歓声を発した。

 

「ドゥアッ!」

「ピッギャ――ゴオオオオウ! ギャオオオオオオオオ!」

 

 スラスターからのジェット噴射でスカルゴモラに肉薄したジードは、その勢いのまま燃え上がる鉄拳を食らわせた。筋肉の塊のスカルゴモラも、ソリッドバーニングの拳圧には敵わない。

 

「ダァッ!」

 

 スカルゴモラを殴り飛ばすと、右腕のスラスターを開いて緑色の熱線を全力で繰り出す。

 

「『ストライクブースト!!」』

 

 必殺光線がまっすぐスカルゴモラへと飛んでいく! が、

 

サンダーキラー!!

「キイイイイイイイイ! グオオオオ……!」

 

 スカルゴモラはエレキングとエースキラーのカプセルを用いたサンダーキラーに変身。胸部でストライクブーストを吸収していく。

 

「フッ!」

「キイイイイイイイイ! グオオオオ……!」

 

 更に吸収した光線を単眼からジードへと撃ち返す! 対するジードは、

 

[アクロスマッシャー!!]

「ハッ!」

 

 バク転しながらアクロスマッシャーにチェンジし、サンダーキラーの反撃を跳び越えた。

 

「やった!」

 

 ジードの巧みな回避に、結衣がぐっと手を握って喜んだ。

 

「『ジードクロー!!」』

 

 ジードは右手にジードクローを握り締め、反撃に転ずる。アクロスマッシャーのスピードを活かして急接近してクローで斬りかかる。

 

「ハァッ!」

「キイイイイイイイイ! グオオオオ……!」

 

 サンダーキラーは電撃を纏う左手の鉤爪で受け止めるも、ジードは流れるような身のこなしで周囲を飛び回り、縦横無尽の斬撃を叩き込んでいく。

 

「ハァァッ!」

「キイイイイイイイイ! グオオオオ……!」

 

 全身を斬られていくサンダーキラーは鉤爪や電流を纏う尻尾を振り回すが、ジードをの動きを捉えることは出来ない。

 幾度の斬撃を食らわせ、サンダーキラーの動きが鈍ったところでジードはクローの威力を全開にした。

 

[シフトイントゥマキシマム!]

「『ディフュージョンシャワー!!」』

 

 サンダーキラーの頭上にエネルギーの力場が広がり、光の針が雨となって降り注ぐ!

 

ペダニウムゼットン!!

 

 ――その寸前にサンダーキラーはキングジョーとゼットンによるペダニウムゼットンとなり、強固な合金のボディでディフュージョンシャワーを粉砕した。

 グワアッシ……グワアッシ……。

 

「ピポポポポポ……」

 

 ディフュージョンシャワーを切り抜けたペダニウムゼットンは、胸部からペダニウム・メテオを放ってジードを狙い撃つ。

 

「『コークスクリュージャミング!!」』

 

 ジードはクローの回転でペダニウム・メテオを防御するが、破壊力までは殺し切れず、すさまじい爆発に呑み込まれる。

 ――その爆炎の中より、ジードが雄大な姿となりながら脱してきた。

 

[マグニフィセント!!]

「ドォッ!」

 

 ジード・マグニフィセントの屈強な肉体には傷一つない!

 

「よし、行けっ!」

 

 平塚がガッツポーズを取って応援する。

 

「オォッ!」

「ピポポポポポ……」

 

 ジードとペダニウムゼットンは互いに肉薄し、拳と拳をぶつけ合う。

 

「ドゥアァッ!」

「ピポポポポポ……」

 

 両者とも頑強な肉体を用いた超重量の肉弾の応酬を展開。だが少しずつジードの方が押していく。

 

「ダァァッ!」

 

 そして隙を見てペダニウムゼットンを掴み、渾身の力で抱え上げてから地面に叩き落とした!

 

「ピポポポポポ……」

 

 ペダニウムゼットンが起き上がるまでの間に、ジードは両腕をスパークさせて必殺技を発射!

 

「『ビッグバスタウェイ!!」』

 

 緑色の光の奔流がペダニウムゼットンに突き刺さった! ペダニウムゼットンもこれには耐えられない――。

 

キメラベロス!!

『ぬおあぁぁぁぁッ!』

 

 だが金属パーツが弾けてビッグバスタウェイをはね返したかと思うと、レイデュエスは更に新たなる融合獣に姿を変えていた。

 魔人態の上半身に悪魔の如き赤い翼と鱗に覆われた怪物の下半身と尾を持つ、キメラベロス!

 

「フッ!」

 

 これを見たジードは、ライザーから召喚されたキングソードを固く握り締める。

 

[我、王の名の下に!!]

[ウルトラマンジード! ロイヤルメガマスター!!]

「ハァッ!」

 

 最強形態ロイヤルメガマスターにフュージョンライズし、金色のマントを翻してキングソードを構えた。臨戦態勢を取って、キメラベロスとにらみ合う。

 

「先輩! やっちゃえーっ!」

 

 いろはの激励の叫び声を合図とするように、ジードとキメラベロスがもう一度ぶつかり合っていった。

 

『おおおおぉぉぉぉぉぉッ!』

「ハァァァッ!」

 

 キメラベロスの爪とキングソードが交差し、鍔迫り合いする。その中で八幡が口を開いた。

 

『「レイデュエス! お前の来歴のことは聞いたぜ!」』

『何ぃぃぃぃぃ!?』

 

 AIBが突き止めたレイデュエスの正体と過去は、レムを介して八幡にも伝えられていた。その内容を踏まえて、剣と爪で切り結びながら八幡が語り出す。

 

『「俺は修学旅行で、お前が仲間のことを「羨ましい」と言ってから、どうしてそんなことを言ったのかの理由を考えてた! それまでのお前の行動を見る限りじゃ、仲間を羨ましがるようなタイプには見えなかったからな!」』

 

 ジードの刺突を腕でガードするキメラベロス。

 

『「そして、お前の過去を聞いて合点が行ったよ! お前、生まれてからこの方ずっとぼっちだったみたいだな! 俺みたいにッ!」』

 

 キメラベロスの闇を込めた爪をジードは剣ではね上げた。

 

『「周りはみんな平和的なのに、自分だけ乱暴! だから周りに馴染めなかったんだろ! 孤独のどん底にいるから、幸せそうな奴が羨ましい、妬ましい! お前はずっと他人に嫉妬してた、だから牙を剥いて他人の幸せをぶち壊そうとする! 違うか!?」』

 

 キメラベロスは爪の猛ラッシュを繰り出すが、ジードは全て剣でさばく。

 

『「ずっとこう思ってたんだろ! 俺は独りなのに、何であいつらばっかりが楽しそうなんだ! リア充爆発しろ! けど一番妬んだのは俺だ! 自分と似た境遇なのに、俺はお前が持たない仲間を持った! 許せない! だからこそ、お前は俺に固執するんだろうッ!」

 

 キングソードの切っ先がキメラベロスの胸部を裂き、後ずさったキメラベロスは獰猛なうなり声を立てた。

 

『やっぱり、テメェは心底ムカつく奴だ……!』

 

 怒号とともに、口から暗黒火炎ベロスインフェルノを吐き出す!

 

『俺の本心を全部言い当ててんじゃねぇよぉぉぉぉッ!!』

 

 迫り来る火炎に対して、八幡はキングソードの柄に手をかざした。

 

[アン! ドゥ!!]

「『スウィングスパークル!!」』

 

 キングソードから放たれた光刃がベロスインフェルノを両断しながら飛び、キメラベロスの肉体をかすめた。

 

『ぐぅッ!!』

『「いつまでも拗ねてるんじゃねぇッ!」』

 

 剣を振り抜き終えると、八幡が一喝した。

 

『「他人を妬むなってのは無理な話だ! 自分より楽しそうな、幸せそうな奴を見て羨ましがる気持ちはどうしたって湧いてくる。無理して目を背ける方がよっぽど毒だろうな。けど、それを攻撃材料に持っていくなよ! そんなことしたって、お前自身が苦しいばっかりじゃないのか!?」』

『くッ……!』

 

 レイデュエスは言い返すことが出来ない。

 

『「自分にドス黒い感情があったっていいじゃねぇか……人間なんだから。それを受け止めて、自分なりの一歩を進み出せばいいだろうが……!」』

 

 八幡がまっすぐに説いている他方で、ゼロがキングオブモンスとの格闘を続ける。

 

「ヴォオオオオオオオオオオ!」

『うおぉッ!』

 

 キングオブモンスはレイデュエスが最強と呼んだだけあって、パワーは途轍もないものがあった。ゼロも真っ向から歯向かえず、尻尾の振り回しではね飛ばされる。

 

「ヴォオオオオオオオオオオ!」

 

 姿勢を崩したゼロに、キングオブモンスはすかさずクレメイトビームを発射!

 

『ぐあああぁぁぁぁぁぁッ!』

 

 ビームの巻き起こす爆発に呑み込まれるゼロ!

 

「ヴォオオオオオオオオオオ!」

 

 キングオブモンスは勝ち誇るように咆哮を発した。が、

 

[ネオ・フュージョンライズ!]

『俺に限界はねぇッ!』

 

 ゼロビヨンドがスラッガーを頭上に飛ばしながら爆炎の中から颯爽と飛び出し、キングオブモンスの懐に潜り込む。

 

「セアッ!」

「ヴォオオオオオオオオオオ!」

 

 ゼロのストレートパンチがキングオブモンスの眉間の第三の眼を捉えた。鋭い一撃でキングオブモンスがひるむと、ゼロはジャンプするとともにスラッガーを変化させたひと振りのビヨンドツインエッジを空中でキャッチする。

 

『俺の名を、刻み込め!』

 

 垂直降下しながらのエッジの斬撃が、キングオブモンスを貫く。

 

『ツインギガブレイク!』

 

 その一撃でキングオブモンスは爆散。撃破したゼロはジードの隣へと回り込んでいった。

 

『レイデュエス、もう終わりにしろ! これ以上暴れたって、ドーにもならないぞ!』

 

 ジードとゼロの二人と対峙する形となったレイデュエス。ゼロの言う通り、自分以外の全てを失った彼には最早勝ちの目があると思えない。

 しかし……。

 

『「そうは行くか……!」』

 

 暗黒空間の中で、レイデュエスは懐に手を突っ込む。

 

『「俺にはレイブラッドの子としての宿命があるんだッ! それから逃れて生きることは出来ねぇんだよぉッ!!」』

 

 取り出したのは、おびただしい数の怪獣カプセル。

 

『何をッ!?』

 

 ジードたちが止める間もなく、レイデュエスは全てのカプセルを空中に放り投げた。

 

『「これで何もかもおしまいだぁッ!!」』

 

 そしてブラッドライザーの機能を全開放して、発した波動によってカプセルを同時に起動させる。

 

『「ラストフュージョンライズ!!!」』

 

 起動したカプセルが一挙に、レイデュエス自身の身体に刺さっていった!

 

ゼットン!][パンドン!][バット星人!][ジャンボキング!][サメクジラ!][ブラックエンド!][マクダター!][マーゴドン!][ガタノゾーア!][グランスフィア!][ゾグ第二形態!][カオスダークネス!][ダークザギ!][ギガバーサーク!][エンペラ星人!][ダークルギエル!][ビクトルギエル!][グリーザ!][マガタノオロチ!

ウルトラマンベリアル・アトロシアス!!

 

 二十本ものカプセルの力をその身に取り込むレイデュエスの双眸が、鮮血のような赤に一瞬染め上がった。

 

『「うううぅぅぅぅぅゥゥゥゥゥォォォォォオオオオオアアアアアアアアッ!!」』

 

 キメラベロスの肉体に亀裂が走り、バラバラになって砕け散る!

 

『うわッ!?』

『どうなってるんだ……!?』

 

 一瞬顔を背けたジードとゼロの前に現れたのは、新たな融合獣の姿と化したレイデュエス。

 

『なッ……あの姿は……!?』

 

 その容貌に、ジードが最も驚愕した。

 鋭利な指の爪、反り返った足のつま先、大きく吊り上がった濁った紫色の両眼。配色は白と黒のおぞましいまだら模様であるが……その姿は、ウルトラマンジード・プリミティブのものと酷似しているのだ。

 

『「最終融合獣!! ジェンドロン!!!!」』

 

 レイデュエスがその名を豪語した。

 

「ウオオオオオアアアアアァァァァァァァァッ!」

 

 ジェンドロンは奇声を発したかと思うと、猛然と右の足を一歩前に強く踏み出す。

 

『! 危ないジードッ!』

 

 第六感で危険を察知したゼロが咄嗟にジードをかばう。

 

「オオオオォォォォォアアアッ!」

 

 そうして異常な速度で突っ込んできたジェンドロンの鉤爪の振り上げによって、ゼロの身体がゴム鞠のように吹っ飛ばされた!

 

『うおぉぉッ!?』

『ゼロッ!』

 

 助けられたジードがキングソードを構え、ジェンドロンに勇ましく斬りかかっていく。

 

『よくもゼロを!』

 

 だがジードも、ジェンドロンの振り返りざまの平手打ちで呆気なく殴り飛ばされた。

 

『うわあぁぁッ!? な、何てパワーなんだ……!』

 

 通常フュージョンライズに使用するカプセルは二本。それを一度に二十本も! 単純計算で十倍のエネルギーをその身に凝縮したジェンドロンの破壊力は、ゼロビヨンドやジード・ロイヤルメガマスターすら圧倒するほどであった。

 危機を感じた八幡はキングソードをスキャンした。

 

[解放せよ! 宇宙最強の力!!]

 

 キングソードの柄に素早く三回手をかざして、エネルギーをチャージする。

 

[アン! ドゥ!! トロワ!!!]

 

 対するジェンドロンは、レッキングバーストと全く同じ構えで腕に暗黒の稲妻を纏い、両腕で鉤十字を作る。

 

「『ロイヤルエンド!!」』

『「カタストロフバーストォォォォオオオオオオッ!!」』

 

 金色の光線と絶大の暗黒光線が衝突! 耳をつんざく轟音を立てるほどの爆発が生じるが、両者ともダメージを負っていない。相殺されたのだ。

 

『ロイヤルエンドと同等の威力なんて……!』

 

 戦慄するジード。ロイヤルエンドは自身の最大威力の攻撃だ。それが破られるとは!

 しかし、ジェンドロンは様子がおかしくなる。

 

「グッ……ウオッ……グゥゥゥッ!」

 

 突然胸をかきむしって苦しみ出す。攻撃のダメージは入っていないはずなのだが。

 

『「ど、どうしたんだ?」』

 

 八幡も困惑すると、状況を分析したレムが報告した。

 

[明らかに限界を超過したカプセルの使用によって、レイデュエスが反動のダメージを受けています。一歩前に進むだけでも相当の苦痛を伴うはずです]

『何だって!?』

 

 目を見張ったジードは、懸命にレイデュエスを説得し出す。

 

『もうやめるんだ! そんなことしてまで僕たちを倒して、一体何が残るんだ!?』

 

 だが異常な興奮状態にあるレイデュエスは、汗まみれになりながらジードの言葉をはねつけた。

 

『「モウ……モウ何ガどうなろウト構ウもンカ! 比企谷ッ! てメェを殺シテ……死んでやるッ!!」』

 

 言語能力にまで支障を出しているレイデュエスの言動に、絶句するジード。

 

『あいつ……自分を見失ってるぞ!』

 

 それを八幡が首を振って否定した。

 

『「いいや……あいつは最初から自分がないんだ! 俺たちで見つけてやらないと……!」』

 

 体勢を立て直すジード。全てへの破滅へと暴走するレイデュエスを止めるべく、真の最後の戦いに臨む!

 



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やはり俺がウルトラマンジードなのはまちがっている。(D) 

 

「うぅ……」

 

 ジードとゼロが二人がかりでジェンドロンを抑え込もうとしている間、失神していた陽乃が頭を振りながら目を覚ました。

 

『気がついたか、陽乃』

「ゼナ先輩……わたし……」

 

 陽乃が、自分がどうなったかを思い返すと、ゼナが彼女を咎める。

 

『あそこは無理をせずに退くべきだった。感情が極端なのがお前の短所だ』

「……すみません」

 

 今回ばかりは陽乃も反省する。

 そこにペダン星人が近づいてきてゼナに報告した。

 

『別働班が地底間弾道弾を発見したとの連絡がありました!』

『遅すぎる……別働班は鍛え直しだな』

 

 嘆息したゼナは、クイと上を見上げる。

 

『もっとも……明日も地球が残っていればの話だが』

 

 ジェンドロンの異常なほどの破壊力に逆に押されるジードとゼロの姿に、ペダン星人が冷や汗を垂らした。

 

『……ウルトラマンは勝てるでしょうか……』

『もう祈るしかないな。我々に出来ることは』

 

 ゼナはそう答えるのが精一杯であった。

 

「ヒキタニくん! 頼むぜぇ~! 勝ってくれ~!」

「比企谷……」

 

 手をこすり合わせる戸部や、葉山、三浦、海老名も祈る。

 

「まさか、ジードそっくりの姿になるなんて……」

「あれが奴の願望だったのかもしれんな……」

「先輩……明日を、頼みます……!」

 

 ライハも、平塚も、いろはも、

 

「リクぅ……」

「ハッチー……!」

「八幡くん……」

[リク、みんな……]

 

 ペガも、結衣も、雪乃も、レムも、

 この世界のあらゆる人が、ジードたちの勝利を祈っていた。

 

「ガアアアアァァァァァァァァァッ!」

「ウワアァァッ!」

「グアァァッ!」

 

 だがジェンドロンは恐ろしく強く、ジードとゼロは腕のひと振りで呆気なく吹き飛ばされた。カラータイマーも両者とも赤く点滅して、エネルギーが残りわずかしかないことを示している。

 肩で息をする八幡は、戦う毎に傷つきもがき苦しむジェンドロンをにらみつけ、吐き捨てた。

 

『「とことんまで大馬鹿野郎が……宿命が何だっていうんだよ! 何で自分の未来を大事に出来ねぇんだ!?」』

 

 歯噛みする八幡に、不意にジードが告げた。

 

『……僕にそっくりなのは、姿だけじゃないかもしれない』

『「え?」』

『僕も生まれた時から、親に利用されるだけの運命を課せられてた。僕はそれを覆してここにいるけれど……もしも自分の運命に負けていたら、あんな感じになってたかもしれない。あれはきっと、僕のありえたかもしれない姿だ』

『「……そうか。俺のもう一つの姿だけじゃないってことか」』

 

 沈んだ声でつぶやいたジードは、口調に一気に力を入れる。

 

『だから、負ける訳にはいかない! 闇に堕ちた僕には、僕たちには! 絶対に!!』

 

 ジードの宣言に力強くうなずく八幡。

 

『「当然だ! 奴の破滅なんかじゃ、俺たちの明日は壊せない!」』

『僕たちは……明日に向かって進み続ける!!!』

 

 ジードが力の限り叫んだ、その時、

 八幡の眼前に淡い光が発生し、それが一本のカプセルの形に変わった。

 

『「!? これは……?」』

 

 思わずカプセルを手に取る八幡。これはもしや、新しいウルトラカプセルだろうか? しかし、リトルスターはもう残っていないはず。そもそも、これはどこから出てきた?

 絵柄のウルトラ戦士も、見たことのない姿……。

 

『「……いや。これってまさか……!」』

 

 首を振る八幡。見覚えのあるポイントが、一つだけ。カラータイマーの形状が、とても馴染みのある縦に細長い、カプセル型のものであった。

 そう、これはジードのカラータイマー! となると、この姿はまさか、フュージョンライズする際の一瞬だけ変身する……。

 

『「本来の、ジードの姿のカプセル……!?」』

 

 そしてカプセルの出現と同時に、ゼロがハッと空の彼方、いや時空の彼方の一点を見上げた。時空に干渉する能力を秘める彼だけが感じ取れるものを感知したのだ。

 

『何かがジードの波長と呼応してる……未来の時間の先で光る何かが!』

 

 と言い放ったゼロはビヨンドを解除し、ウルティメイトブレスレットを輝かせた。

 

『あの光に賭けるぜ! 起こってくれよぉ! とびっきりの奇跡ッ!』

 

 ブレスレットとともに、ゼロの全身がまばゆく光り輝く!

 

「ハァァッ!」

 

 そうしてゼロは変化する。全身が銀と金に煌めくその姿……ウルティメイトブレスレットの光と完全に融合することで変身できる、時空を操作するゼロの奇跡の形態。その名もシャイニングウルトラマンゼロ!

 

「セェェェアッ!」

 

 シャイニングウルトラマンゼロの能力で現在と未来の時間の一部をつなぎ、ジードと反応している「何か」を今の時間に呼び寄せることに成功した!

 八幡の手の中にパシッと収まったのは、両端に赤と黒の楕円形の穂がある棍棒のようなもの。謎のアイテムの出現に一瞬驚いた八幡だが、アイテムを握る手からその使い方が、直感で伝わってきた。

 

『「……ジーッとしてても、ドーにもならねぇ!」』

 

 ジェンドロンはジード側の動きを警戒する。

 

『「何をシテヤがる……!? だガ、何をしヨウとモッ! 俺ノ宿命を破レハ……!」』

「『宿命を塗り替えることが使命!!」』

 

 レイデュエスの言葉をさえぎってジードとともに宣言し、八幡がカプセルのスイッチを入れた。

 

『シェアッ!』

 

 カプセルから現れたジード初期変身体のビジョンが八幡と重なり、八幡はカプセルを棍の下部のスロットに装填。それをジードライザーでスキャンした。

 

[アルティメットエボリューション!!]

 

 ライザーがフュージョンライズとは違う音声を発し、八幡は棍のスイッチを押して上部の穂の中央のレバーをスライドさせた。穂からジードの両眼のような形の羽がせり出す。

 

「『ジィードッ!」』

 

 八幡とジードが重なり合い、更にジードの身体が全く新しいものに変身! 幾何学模様の光の中から棍を握り締めて飛び出していく!

 

[ウルトラマンジード!! ウルティメイトファイナル!!!]

「シャアアアアッ!」

 

 全身に赤と金の曲線が走る、ジードの新たなる姿に、それを目にした皆が驚愕した。

 

「レム、あれは何のフュージョンライズなの?」

 

 雪乃が問いかけたが、レムすらも答えを持ち合わせていなかった。

 

[データにありません。フュージョンライズとは異なる、前例のない未知の形態です]

 

 ――シャイニングウルトラマンゼロの能力によってエネルギーを使い果たし、材木座の状態に戻ったゼロは、彼と対照的にカラータイマーが再び青く輝いたジードを見上げて苦笑した。

 

「どうやら成功みたいだな。後は頼んだぜ、ウルトラマンジード!」

 

 ゼロは今のジードの形態に、現在の状況を打破し得る可能性を感じ取っていた。あれこそは、他ならぬジード自身から発生したエボリューションカプセルと、未来の時間から飛んできた必勝激聖棍ギガファイナライザーの力によって誕生した、真の意味での新しいジード、その名もウルティメイトファイナルだ!

 

(♪ウルティメイトファイナル)

 

「ヌッ……ヌオオオォォォォォ――――――!」

 

 ジェンドロンは野性的本能でウルティメイトファイナルがただものではないことを見抜いたが、それでも遮二無二飛びかかっていった。対するジードは、

 

「ハァッ!」

 

 ジェンドロンを上回る速度でこちらから接近し、ギガファイナライザーの一撃を相手の腹部に叩き込んだ!

 

「ヌグオオォォォォォォッ!?」

 

 その一発によって、ジェンドロンがくの字に折れ曲がって弾き飛ばされた!

 

「つ……強いッ!」

 

 星雲荘でペガたちが目を見張った。ウルティメイトファイナルの能力は、ジードの既存形態を全てにおいて超越している!

 

「ウッガアアアァァァァァァァッ!!」

 

 だがジェンドロンもそうそう容易くはやられない。ブラッドサイズを取り出すと、それを武器にしてギガファイナライザーに対抗し、鎌と棍をぶつけ合う。

 

「ヌゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!」

「フゥッ!」

 

 間近でジェンドロンとにらみ合うジードは、八幡の意識をジェンドロンの暗黒空間、レイデュエスの元へと飛ばした!

 

 

 ……物心がついた時から既に、俺は『周りと違う』ということには気がついてた。

 みんなは穏やかで、争いを好まない。対して俺は、俺だけが、気性が荒く喧嘩っ早い。俺と同じような性格の奴は、ルパーツ星のどこを探しても他に一人もいなかった。俺だけが、違う……。

 当然、周囲には全く馴染めなかった。友達なんか一人も出来ず、何をしても孤独感がつき纏う。気持ちはますます荒れて、問題ばかり起こすようになり、遂には星から追い出される羽目になっちまった。

 それでも構わない。元より、ここは俺のいるべき世界じゃなかったんだ! そう考えて、宇宙に新天地を求めたが……。

 

『仲間になりたいだと? 生意気を抜かすなッ! 弱小種族如きが!』

『ルパーツ星人なんかを近くに置いてたら、それだけで格が下がるというもんだ』

『こんな程度の力しか持たん種族が我らと肩を並べたいなど、片腹痛いわ!』

 

 ガッツ星人、ヒッポリト星人、テンペラー星人……俺に近い気質の星人からも、その全てから除け者にされるだけだった。そうじゃない星では、結局ルパーツ星と同じ末路……。俺は延々と宇宙をさまよい続けるだけだった……。

 ……何故だッ!? 何故どこも俺一人を受け入れようとしない!? 普通とは違う、ただそれだけのことがそんなにも悪いことなのか!? ふざけるな! ふざけるなよ……!

 ……この広い宇宙に――俺の居場所がないッ……!

 

 ――憎いか?

 

 ……宇宙の暗闇の中に独りだった俺に囁きかけたのは、『父親』だった。

 

 ――この世界が憎いのだろう。お前の存在を認めない世界が。ならば壊すしかない。全てを破壊し、お前の世界を作るのだ! そのために導いてやろう……!

 

 ……そもそも俺という存在を作り出した元凶。だが、俺にはもう他にすがるものがなかった……。

 

『――なるほど。貴様も、レイブラッドの遺伝子を受け継ぐ者か』

 

 惑星ヨミで、俺は自分以外のレイオニクスと会わされた。

 

『いいだろう。貴様にこの亡霊魔導師レイバトスの闇の魔術の力と姿を授けよう! ルパーツ星人などという過去は捨ててしまえ! 今からお前の名は、レイデュエスだ!!』

 

 こうして俺は、暗黒魔術と怪獣使いレイオニクスの暴力を元手に宇宙人たちを平伏させ、宇宙制覇に乗り出すための組織を築いた。

 魔導師暴君レイデュエスの誕生だった――。

 

 

『「――だぁぁッ!」』

『「ぬがぁぁぁッ!」』

 

 雨が降りしきる暗闇の異空間の中、八幡はレイデュエスとひたすらに殴り合っていた。

 

『「確かに見たぜ、お前の過去……! お前に何があったのかを……!」』

 

 レイデュエスの頬を殴りつけながら呼びかける八幡。ここはレイデュエスの心象世界。そこに突入する際に、レイデュエスの記憶を垣間見たのだ。

 

『「何が魔導師暴君だよ! 悲しかっただけだろ! その悲しさを、他人にぶつけてるだけだろ! そんなことはやめろッ! お前自身が、何一つ救われねぇぞ!」』

 

 レイデュエスは憎々しげに八幡をにらみ返して、殴り返す。

 

『「黙れぇぇッ! 分かったようなことを抜かすなぁッ! 今更、分かってもらいたくなんかねぇんだよぉッ!!」』

 

 血走った眼で息を荒げるレイデュエス。

 

『「ぶっ壊してやる……! 俺をつまはじきにする世界を全部ぶっ壊してやるッ! それが俺の運命……!」』

『「馬鹿野郎ォォッ!」』

 

 八幡がギガファイナライザーのレバーを一回スライドし、それに合わせて羽が開閉した。

 

『「お前が壊すべきなのは、お前を縛る運命だろうがッ!!」』

 

 叫びながら、柄の部分のスイッチを押す。

 

 

「『ギガスラスト!!」』

 

 ジェンドロンに向かって突き出したギガファイナライザーの穂先から、螺旋状の光線が放たれた!

 

「ウオオォォォォォォォッ!」

 

 ジェンドロンはブラッドサイズで防御したが受け止め切れずにノックバックし、更に鎌の柄が真っ二つにへし折れる。

 

「グッ!? オオオォォッ!」

 

 破砕された武器を投げ捨てたジェンドロンは、大きく両腕を振るって暗黒光刃を飛ばした。

 

『「カタストロフリッパーッ!」』

 

 それに対して、八幡はレバーを今度は二回スライドさせてスイッチを押した。

 

「『ライザーレイビーム!!」』

 

 ギガファイナライザーの羽から、その形状の光線が発射される。光線はカタストロフリッパーを打ち破り、ジェンドロンにも命中した。

 

「グアアアァァァァァァァァ―――――――――――――――!!」

 

 ライザーレイビームの直撃を受けたジェンドロンが、天高くに弾き飛ばされた。

 

 

 ジードの力に押されていくレイデュエスだが、全身が砕け散りそうにダメージを負ってもなお戦いをやめようとしない。

 

『「黙れ……黙れ、黙れぇぇぇ……! 俺は、魔導師暴君だ……! レイブラッドの遺伝子と遺志を受け継ぐレイオニクスだ……!!」』

 ――そうだ! それこそがお前の運命なのだ! それ以外にお前という存在の価値などありはしない! 貴様は、このレイブラッドの生贄――

『「うるせぇよ」』

 

 レイデュエスに覆いかぶさる幽声を、八幡がさえぎった。

 

『「今はコイツと話してるんだッ!」』

 

 そして彼の拳がレイデュエスの腹に食い込む!

 

『「がッ……!?」』

 ――ぬああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!?

 

 その衝撃によって、レイデュエスの身体からレイブラッド星人の幻影が剥がれ、レイブラッド星人は暗黒の中に消えていった。

 崩れかけるレイデュエスを、八幡が固く抱きしめた。

 

『「もういいんだ……!」』

 

 レイデュエスを胸の内に受け入れた八幡が、告げる。

 

『「もう、ひとりぼっちじゃないんだ!」』

 

 涙雨が止み、レイデュエスがゆっくりと、静かに、顔を上げる。

 その顔からは醜い傷跡がなくなり、瞳は澄んだ紅玉色に潤んでいた。

 

『「ひ、比企谷……俺を……!」』

 

 レイデュエス――いや、ルパーツ星人デュエスが八幡に、託す――。

 

 

『「黙レェェェェェエェエエエエエエエエエエエ―――――――――――!!」』

 

 ジェンドロンが空中から、地球全てを爆破する威力のカタストロフバーストを放った。

 破滅の光線が迫るが、八幡は微塵も慌てず、ジェンドロンを見上げた。

 

『「……受けるぜ、デュエス。お前からの依頼!」』

 

 ジードが迫り来る光線に向けて地を蹴って飛んでいく。その中で八幡はギガファイナライザーをジードライザーでスキャンした。

 

[目覚めよ!! 最強の遺伝子!!!]

 

 レバーを三回スライドすると、ギガファイナライザーの穂に全エネルギーが集中。巨大な刃と化す。

 

「オオオオオォォォォォォッ!」

 

 ギガファイナライザーがカタストロフバーストを切り裂きながら、ジードがジェンドロンにぐんぐん近づいていく!

 

「ナァッ!?」

 

 間合いを詰め、ギガファイナライザーを一閃!

 

「『クレセントファイナルジード!!」』

 

 ジードの運命をも断ち切る刃が、ジェンドロンを両断した!

 

「ガッ……アッ……アアアアァァァァァァ―――――――――――――――!!!」

 

 苦悶の断末魔を残して、ジェンドロンは爆発四散。

 

「やったぁぁぁぁぁぁ――――――――――!!」

 

 ペガたち地上の人々が一斉に歓声を上げる一方で、ジードと八幡はジェンドロンの消滅跡を見つめていた。

 

『「……じゃあな、デュエス」』

 

 

 × × ×

 

 

 レイデュエスは、今度こそ、完全に死亡した。地球を襲った長きに亘る戦いは、本当に終焉を迎えたのである。

 

「みんな、今まで本当にありがとう!」

「お世話になったわ」

「今までとっても楽しかったよ!」

 

 夕焼けに染まる天文台で、ネオ・ブリタニア号とウルトラマンゼロを背にするリクとライハ、ペガ、ユートム越しのレムが、見送りのため集まった八幡たちに別れの挨拶を告げていた。彼らはこれから、自分たちの宇宙に帰還するのだ。

 

「もう帰っちゃうなんて……ずっとお兄ちゃんの身体だったってもあるし、もうちょっとゆっくりしてけばいいですのに」

 

 小町が唇を尖らすと、リクが苦笑いした。

 

「もう随分と長いことこっちにいるからね。モアやみんなが心配してるだろうから」

「また遊びに来て下さいね!」

「助けられたのはこっちの方だ。礼なら私たちが言わなくてはいかんだろうさ」

「ふふ。みんな、元気でね」

「きっとまた来るからね!」

 

 いろは、平塚、ライハ、ペガらが笑顔と握手を交わし合う。ゼロは材木座に向かって指を差した。

 

『義輝、俺がいなくてもちゃんと自分の小説を完成させるんだぜ? 途中で投げ出したりしやがったら承知しねぇからな!』

「ぬ、ぬふぅ……男と男の約束だ!」

 

 釘を刺された材木座が冷や汗を垂らしながらもそう誓った。

 ゼナは八幡たちの方に立って、リクに告げる。

 

『レイデュエスの脅威は去ったが、奴の残した爪痕は大きい。事後処理がひと段落するまでは、私はこちら側に残るつもりだ』

「ゼナさん、いつもお疲れさまです」

『いや。何のかんのとこっちが助けられてばかりだ。その上で悪いが、モアの奴をよろしく頼む。またドジをやってないか心配なのだ』

「あはは……どうぞ任せて下さい」

 

 愛想笑いを浮かべながらも、リクは快活に応じた。

 一方でゼナの傍らで、陽乃が小首を傾げた。

 

「それにしても、ジードさんの使ってた赤い棍棒みたいなのは何だったんでしょうね。あれだけが不明のままですよ」

 

 ジードにウルティメイトファイナルの力を与えたギガファイナライザーは、戦闘後にすぐにジードの手を離れ、消え去ってしまっていた。エボリューションカプセルも絵柄が消え、まっさらのカプセルになってしまっている。

 

[全くもって分かりません。解析不能でした]

 

 レムが報告する一方で、ゼロが顎に手をやった。

 

『あれは未来から来たってのが唯一確かなことだ。その内、ちゃんとした形で俺たちの前に現れるだろう。今は本来時期尚早だったってことだろうな』

「赤い武器か……。本当はどこにあるものなんだろうね」

 

 ペガが気に掛けたが、その答えは現在誰も持ち合わせていなかった。

 

[そろそろ出発の時刻です]

 

 レムの報告で、リクは最後に八幡、雪乃、結衣の三人に言葉を掛ける。

 

「八幡、雪乃、結衣。今まで何度も力を貸してくれてありがとう。戦いを終わらせられたのは、君たちがいなかったらきっと無理だったよ」

「こちらこそ……だけど、八幡くんがここにいてジードとお別れなのは、やっぱり変な感じです」

「だよね。ずぅっとハッチーと一心同体だったもんね」

 

 つぶやく雪乃に同意する結衣の二人に、八幡が言った。

 

「いや、これがあるべき形だよ。一つの身体に二人の心ってのがそもそも不自然なんだ。どんな絆で結ばれてても、別人は別人。全く同じ人生は生きられねぇって。――やはり、俺がウルトラマンジードなのはまちがっているんだよ」

 

 自嘲気味に述べた八幡に、リクは微笑を見せた。

 

「いいや。まちがいなんかじゃないよ、この数か月間は」

「……へへッ」

 

 見つめ合ったリクと八幡は、何だかおかしくなって笑い合った。

 

「それじゃあみんな――さようなら!」

『へへッ、そんじゃあな!』

 

 リクたちがネオ・ブリタニア号に乗り込み、宇宙船がゼロとともに離陸。高度を上げて地表を離れていく。

 

「さよーならー!!」

 

 八幡たちが大きく手を振って見送る中、宇宙船がどんどん小さくなって、やがて夕焼け空の星となって消えていった。

 

「……行っちゃったね」

「はい……」

 

 結衣といろはのつぶやきを合図とするように、八幡たちは彼らの町へと踵を返す。

 その時に八幡が平塚に呼びかけた。

 

「ところで先生、俺の進路なんですけど……」

「ん? どうした、こんな場所で」

「あら、八幡くんの進路希望は専業主夫という建前の引きこもりのヒモでしょう? 何の脈絡もなく恥を晒すこともないでしょうに」

「引きこもりは流石に余計だっつぅに」

 

 からかう雪乃をあしらいつつ、八幡は少し照れながらも述べた。

 

「実は、リクたちからまたこっちに来てもらうんじゃなくて、今度は俺の方からあいつらの町に行きたいかなって……。それが出来るような仕事じゃ駄目でしょうか?」

「別にちゃんとした仕事なら、どんな希望を持ってもらっても構わないが……彼らの住むところへ行けるようなものと言うと……」

 

 思わず空を見上げる平塚。小町といろはは思わず噴き出した。

 

「お兄ちゃん、それって宇宙飛行士ってこと~?」

「ぷぷっ、先輩小学生みた~い」

「ばッ、笑うなそこッ! っていうか宇宙飛行士でも別の宇宙行くってのは無理だろ!」

 

 赤面する八幡にゼナが呼び掛ける。

 

『ならば、AIBに入職してみないか? 君ならば歓迎しよう』

「え~!? ゼナ先輩、わたしの時はあんなに反対したのに! えこひいきじゃないですか~!?」

『それはお前だったからだ』

「あっ! いくら何でもそれひどいですよ! パワハラで訴えてやる~!」

 

 冗談めかして騒ぐ陽乃にやれやれと肩をすくめるゼナだった。

 

『それで、どうかな? これでも本気で言っている』

「えッ! いや、流石にいきなりそう言われても……」

「あら、願ってもないことじゃない、八幡くん。まさか先方からお誘いしていただけるなんて、世の職に困窮する人が聞いたら羨ましがられるわよ」

 

 八幡が戸惑うのに、雪乃はクスクスと愉快そうに微笑んだ。

 

「それなら私もAIBに入ろうかしら? 時代はグローバルを超えてユニバーサルになるかもしれないし、将来性は抜群ね。八幡くんの隣のデスクになれるかもしれないし」

「えっ、いいなぁ! そ、それならあたしだってAIB入るし!」

「先輩たちが行くならわたしも~!」

「だったら小町も~」

「こらこらお前たち、進路はノリで決めるものじゃないぞ」

『AIBとて、そこまで大人数の募集はしないぞ』

「あっ、比企谷くんがほんとに入職する気なら、お姉さんが色々教えてあげちゃうぞ♪ 手取り、足取りぃ……♪」

「ちょっ!? 姉さんっ!」

「あはは♪ 雪乃ちゃんは何を想像しちゃったのかな~? うりうり、言ってみ?」

「……もうっ!」

 

 八幡のひと言を発端として、別れの余韻もどこへやらとはしゃぐ一同。その光景に苦笑しながら、八幡は振り返ってリクたちが去った空を見上げた。

 

「リク……ウルトラマンジード。また会おうぜ!」

 

 

 

 

 

やはり俺がウルトラマンジードなのはまちがっている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――時空と時空の狭間に存在する、肉体を失った魂が行き着く空間。俗に言う、『あの世』と言うべき世界。

 

『――ぬぅッ!』

 

 ここに叩き落とされた『魔人レイデュエス』が、首を振って悪態を吐いていた。

 

『おのれ、まさかこんなことになろうとは、この我が……。だがこのままで済ませてなるものか!』

 

 わなわなと手を震わせながら、野望を口に出す。

 

『今度は生まれつき力を持つ奴に取り憑いて新たな傀儡としてやる! そして奴らに復讐し、今度こそ宇宙の全てを支配するのだ……! そうだ、まだ我は終わりでは……』

『いいや。終わりだよ、お前は』

 

 いきなり第三者の声が台詞をさえぎったので、魔人は驚愕して顔を上げた。

 

『なッ! 貴様は……!?』

 

 目の前に現れたのは、胸にカラータイマーを持つ紛うことなきウルトラマン。だがその全身は漆黒であり、目はひどく吊り上がっている。その特徴は、恨み重なるウルトラマンジードと同じ……。

 

『ベリアル……ウルトラマンベリアル!!』

 

 ジードのオリジナルである、彼をこの世に生み出した張本人たるベリアルが、魔人に向けて吐き捨てる。

 

『他人の力を借りることしか出来ん貴様が、進化し続ける我が息子に勝とうというのが無理な話だったのだ。奴の言葉で言うのなら、二万年早いといったところだな』

『うッ、ぐッ……ぬおおおおおぉぉぉぉぉッ!』

 

 ベリアルのプレッシャーに気圧された魔人は、自棄を起こしてベリアルに飛びかかっていく。

 

『フンッ!』

 

 しかし即座に放たれたデスシウム光線の直撃を食らう結果となった。

 

『ぎゃあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ―――――――――――――――!!!』

 

 魔人はデスシウム光線によって魂を引き裂かれ、木端微塵となってこの次元の狭間の塵となった。

 ベリアルは何事もなかったかのように、八幡たちの宇宙と、リクたちが帰ったサイドスペースに向かって空間の彼方を見やった。

 

『息子よ、お前たちは一つの戦いの終結を迎えたが、この宇宙に争いの火種は尽きん。新たな戦いはまたすぐに襲い掛かってくるぞ』

 

 ベリアルはクックッとほくそ笑む。

 

『父親の俺を超えた男だ。如何なる敵にも勝ってみせろ! ウルトラマンジード!!』

 

 黄色く輝く双眸の見つめる空間の先では、光の届かぬ宇宙を鋼鉄の惑星がどこかへと突き進んでいた――。

 




 




[私はギルバリス]

[不要な知的生命体は、全て抹殺します]






全宇宙が消滅する

最悪の兵器によって


全ての命を守るため――

皆の願いを

つなげ



「ジーッとしてても」『ドーにもならねぇ!』





次回、特別編



『英雄たちは、願いをつなぐ。』







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特別編『英雄たちは、願いをつなぐ。』
帰ってきたウルトラマンジード、しかし……。


 

 

 

 

 

 ――数万年も時間をさかのぼる、太古の地球。

 後の時代に『沖縄』と呼称されることとなる諸島の一つの、海に臨む岸壁に、宇宙船が墜落していた。まだ地球人類が文明と呼べるようなものも築いていない時代だというのに。

 そしてその宇宙船からよろよろとおぼつかない足取りで降りてきた女性が、辺りの様子を見渡す。

 

「緑……空……」

 

 女性の瞳に映る景色は、どこまでも広がる南洋と、緑が生い茂る山々。見渡す限りの青い空。

 

「美しい……」

 

 まだ人の手が全く加わっていないながらも、地球という惑星では珍しくもない景色だが、女性はいたく感動している様子であった。

 ――そんな時に、岸壁の陰から巨大生物が地響きを立てつつ女性の前に現れた。

 

「!」

 

 獅子によく似ているが、図体は何十倍もあり、かつオレンジ色の鬣と青い肌の巨大生物。初め女性は警戒したが、この巨大生物に敵意がないのを見て取って息を抜いた。

 

「あなたが、この大地を守ってるの……?」

 

 女性の問いかけに、生物は優しげでありながら芯の強い輝きを宿した瞳で彼女を見返した。

 生物の様子から何かを見て取った女性が、次にこう呼びかけた。

 

「お願いがあるの」

 

 

 

やはり俺がウルトラマンジードなのはまちがっている。 特別編

 

『英雄たちは、願いをつなぐ。』

 

 

 

 ――現在の千葉市、総武高校。

 

「やっはろー!」

 

 結衣が快活な挨拶とともに奉仕部の部室の扉を開くと、いろはがぷくーとむくれながら文句で返した。

 

「も~、遅いですよ由比ヶ浜先輩。もうみんな集まってますよぉ」

「あはは、ごめんごめん」

「……一色、すっかりここにいるのが当たり前って顔だな。部員でもないのに……」

 

 いろはに突っ込んだ八幡が、次いでハァとため息を吐き出した。

 

「っていうか、何でわざわざ春休みに学校に来なきゃならんのか」

「仕方ないじゃない、他にみんなが集まるのに相応しい場所はないのだから。星雲荘はもうないんだし」

 

 八幡の不満に雪乃が肩をすくめていると、結衣が遠い目で窓の外の空を見やった。

 

「……もうすぐ、あれから二か月も経つんだよね。だけど、何か嘘みたい。ジードんたちが帰っちゃって、もういないなんてこと」

 

 結衣のひと言に、八幡たちは皆複雑そうな表情を浮かべた。

 ――レイデュエスとの最終決戦を終え、早一か月以上。今は三月の末であり、四月になれば八幡たちは進級していよいよ高校の最終学年になる。そんな時期にまでなっていた。

 

「あれからも、色んなことがあったよねぇ……」

 

 ふぅと吐息を漏らす結衣が、テーブルの片隅に置かれている一冊のライトノベルの文庫を見やった。

 

「まさか中二が、ほんとにラノベ作家になっちゃうなんてこととか」

「それが一番の大ニュースだったよな……」

 

 そのライトノベルは、れっきとした出版社から発行された書物で、しかも飛ぶように売れている話題作。その作者があの材木座であった。

 本当なら友人として喜ぶべきことなのだろうが、しかし八幡たちには一つの懸念があった。

 

「だけどこれ……内容がまるっきしゼロの体験談だよな……」

「ええ……以前にゼロから聞いた、アナザースペースというところでの冒険譚そのままだわ」

「要は、ゼロさんのお話ししたことを文字に起こしただけってことですよね……」

「材木座の才能の成果じゃねぇじゃん……」

 

 八幡たちは知らないことだが、同じようなことをした人物がサイドスペースに存在していた。

 

「こんなんであいつ、次回作大丈夫なのか? 他のネタはあるんだろうか……」

 

 八幡が心配していると、再び扉が開かれて、今度は平塚が入ってきた。

 

「ふむ、みんなもう集まっているな。ん? 一色はどうしている?」

「わたしはたまたま先輩たちが集まるって聞いてそれで。先輩たちを呼んだのは平塚先生ですか?」

「いや。この二人だ」

 

 平塚の後に続いて入室してきたのは、陽乃とゼナ。

 

「ひゃっはろー♪ みんな、お久しぶりぃ」

『諸君、決戦以来だな』

「姉さん! ゼナさんも」

 

 二人の登場に雪乃たちは少々驚いた。

 

「ゼナさんたちが私たちを呼んだということは、まさか何か問題が?」

『いや、そこまで大した話ではない。だからAIB本部では腰を落ち着かせられないだろうと思い、ここを指定したのだ』

「そのお話しってのは?」

 

 八幡が聞き返すと、陽乃から口を開いて説明を始めた。

 

「あのね、わたしたちはここのところ、レイデュエス一味が使ってた円盤を見つけて、その中の物品を色々と処分してたの」

『レイデュエスは様々な危険物も所有していたので、処理も慎重にならざるを得ないから時間が掛かっていたのだが、その内の一つに気がかりなものを発見した』

「そ、それって何ですか?」

 

 結衣がゴクリと息を呑んだ。

 

『レイデュエスが残していた、活動日誌だ』

「日誌? あいつ、そんなもんつけてたのか……」

『それを読み解く内に、レイデュエスが何の理由もなしに偶然この星にやって来た訳ではないことが判明した』

 

 いろはが目をパチクリさせた。

 

「それってどういうことですか?」

『レイデュエスはフュージョンライズの実験とともに、この星で『赤き鋼』なるものを探し求めていたようだ』

「これが日誌の一部を日本語訳したものだよ」

 

 陽乃が差し出した文書を受け取った八幡が、声に出して読み上げる。

 

「『沖縄諸島中を回って探索したが、赤き鋼と思しきものはどこにもなかった。これ以上は成果を見込めないので、今日で探索を打ち切る。ジャキ星人め、ガセネタを掴ませやがって……』。赤き鋼って何ですか? 何の目的でそんなものを?」

『そこまでは記載されていなかった。それで君たちに、奴が何か話してなかったかと聞こうと思ったのだが……その反応を見る限り、何も知らないみたいだな』

 

 八幡たちがそろってポカンとした顔をしているので、ゼナがそう判じた。陽乃は肩をすくめる。

 

「ゼナ先輩、この件の調査はもう打ち切りましょうよ。存在しない物を追跡したってゴールにはたどり着けませんよ?」

『そうだな……。すまないな君たち、貴重な時間をつき合わせて』

「いえ、お構いなく……」

 

 雪乃が手を振りかけた、その時に、陽乃の持つ端末がピーッ、と警報を発した。

 陽乃がすかさず端末を引っ張り出し、緊急情報をゼナに伝える。

 

「ゼナ先輩、ここから5キロ圏内に向けて未確認飛行物体が落下中です!」

『何! すぐ出動だ!』

「はい!」

『すまないがこれで失礼!』

 

 突然のことに驚いた八幡たちを置いて、ゼナと陽乃は慌ただしく部室から飛び出していった。

 しばし呆然としていた八幡だが、事態を理解すると、平塚に向き直って頼み込んだ。

 

「先生、すいませんが車出してもらえませんか!?」

「!? まさか、自分も現場に向かいたいと言うのではないだろうな?」

 

 平塚や雪乃たち全員が、目を丸くして八幡に振り向いた。

 

「未確認飛行物体とか……また何かの事件かもしれません。何が起きてるのかだけでも知っときたいんです!」

 

 真摯な顔つきの八幡に、平塚は嬉しさ反面の険しい表情を取った。

 

「たくましくなったものだ……。しかし、悪いが教師として生徒を危険があると思しき場所へは行かせられん」

「だけど……!」

「比企谷……お前はもう、ウルトラマンジードではないのだぞ」

 

 と指摘され、八幡はハッと固まった。

 

「ハッチー、気持ちは分かるけど……ここは先生の言う通りにしよ?」

「先輩はもう無茶できる身体でもないんですし、それが一番ですよ」

「今回は姉さんたちに任せましょう」

「……」

 

 結衣たち三人にも説得され、八幡は意見を引っ込めたが、同時に密かに悔しそうに歯噛みしていた。

 

 

 警報を受けて車に乗り込み発進したゼナと陽乃は、肉眼で空から降ってくる物体を発見した。

 

「燃えてますね。隕石か何かでしょうか?」

『それにしては落下速度が遅い。恐らく宇宙船の不時着だ』

 

 飛行物体は町の外れへと落下していった。それを追いかけて、ゼナと陽乃は落下地点にたどり着く。

 

『あそこだ!』

 

 落下物はゼナの言う通り、宇宙船の類であった。が、落下の衝撃で既に大破し、搭乗していたと思しき男が残骸の中央でおもむろに立ち上がった。

 車を降りたゼナと陽乃は、銃を片手に背を向けている男へと走っていく。

 

『AIBだ。抵抗すれば撃つ!』

「動かないで!」

 

 正体の分からない男に警告する二人。その存在に気がついた男が、ゆっくりと振り返る。

 スーツで身を固めながらそれに似つかわしくない刀を提げた、皮肉げに嗤う、一見すると地球人と変わりがない宇宙人……。だが纏う雰囲気は明らかにただ者ではないことがゼナたちにはすぐ見分けられた。

 

「ふッ……悪いがデートはまた今度だ、お嬢さん」

 

 いきなり食えない言動の怪しい男に、陽乃たちはより警戒を深めた。

 が、その頭上の空に突然巨大な魔法陣が描き出され、中央から白い龍人型のロボットが現れた!

 

『あれは……!』

「ロボット!? どこかで見た覚えがあるような……」

 

 突然の出来事に目を見張るゼナと陽乃。そのロボットは右手をゼナたちに向けると、五本指から光線を乱射して攻撃してきた!

 

「きゃあっ!?」

『ふあッ!』

 

 何の前兆もない攻撃に悲鳴を発した陽乃の一方で、最初の男は刀を抜きながら魔人に変身し、ロボットの光線を切り払った。

 

 

 突然空から現れた白いロボットが、地上に攻撃をしたのは総武高校にいる八幡たちの目にも見えた。

 

「何事!? 姉さん……!」

「急にどうなったんですか!? あのロボットは……!?」

「何か、どこかで見た覚えがあるような……」

 

 それぞれに動揺が走る雪乃たち。八幡は、攻撃を行った怪ロボットをにらんで冷や汗を垂らした。

 

「こんな時……あいつがいれば……」

「ん? また何か来たぞ!」

 

 不意に平塚が天を指した。その指の先を見上げると――空の彼方から、赤い球体のようなものがぐんぐんと飛んできて、暴れるロボットへと接近していく。

 

「ハァッ!」

 

 赤い球体が破れると――その中から赤黒い姿の、八幡たちには最も馴染みがあるウルトラ戦士が飛び出してきた!

 

「あれはっ! ジードだわ……!」

「ジードん! どうしてこっちに来てるの!?」

 

 雪乃たちが驚きと疑問を声に出す中、八幡はジードの横顔を見つめて、震える声でひと言つぶやいた。

 

「ウルトラマンジードが……帰ってきた……!」

 

 

『行くぞッ!』

 

 着地したジードはすかさず、龍人が甲冑を纏っているようなロボットに飛び膝蹴りを仕掛けていった。それを見上げて魔人がひと言つぶやく。

 

『久しぶりだな、ウルトラマンジード』

 

 相手の懐に飛び込んで格闘戦に挑むジードだが、パンチは呆気なく止められ、ロボットの腕に備えつけられている刃で胸を切り裂かれる。

 

「ウワッ!」

 

 ひるんで後ずさったジードに、ロボットは十本の指から照射される光線で追撃。

 

「ウワァァァァァッ!」

 

 威力はすさまじく、ジードが簡単に倒れた。これを見ている八幡たちが息を呑む。

 

『せいぜい頑張りな』

 

 魔人の方は、途中で見切りをつけてどこかへと退散していく。

 

『待てッ!』

「待ちなさいっ!」

 

 ゼナと陽乃がすぐに追いかけていくが、ロボットの方もそちらに振り向くと、頭上に魔法陣を出してその中に消えていく。

 ジードが起き上がった時には、ロボットは完全にこの場から去っていた。

 

「何だったんだ、一体……?」

 

 一部始終を見届けた八幡が、ポツリと発した。

 

 

 × × ×

 

 

 ――八幡たちの宇宙とは別の宇宙に存在する、ある生命溢れる惑星の衛星上で、五人の戦士が龍人型のロボットの軍団と激しく戦っていた。その戦士を纏めるのは、誰であろう、あのウルトラマンゼロ!

 彼らはゼロが率いる宇宙警備隊、ウルティメイトフォースゼロだ!

 

『はッ!』

『ふッ!』

『おぉッ!』

『ファイヤぁぁ―――!』

『ワイドゼロショットぉ!』

 

 ジャンバスター、ミラーナイフ、ジャンミサイル、火炎放射といった各戦士の得意技でロボットを各個撃破していき、ゼロの光線によって最後の一体が爆破された。

 

『いっちょあがり!』

『掃討終了』

 

 敵が全ていなくなったことを確認すると、ミラーナイトが息を吐いた。

 

『何とか、ハルケギニアをギルバリスから守れましたね』

 

 自分たちが守り抜いた星を見下ろして安堵するウルティメイトフォースゼロだが、一方でグレンファイヤーが頬杖を突きながら、今しがた撃破したロボット兵器――ギャラクトロンについて言及した。

 

『あーあ。しっかしよぉ、ギャラクトロンってのはどんだけいるんだ!? キリがねぇなぁ!』

『ゼロ、お前がいた宇宙は大丈夫なのか?』

 

 ジャンボットが案じて尋ねかけると、ゼロは思案しながら返答した。

 

『ああ、心配ねぇとは思うが……。あいつが、ジードがいるからな』

 

 

 × × ×

 

 

「うわー! 久しぶりの星雲荘だぁ~! 全然変わってな~い」

「この変なヒーローのポスターとかも相変わらずですね~」

「変なヒーローなんてやめてよ! ドンシャインは僕のお手本なんだ!」

 

 ジードの戦闘があった後、八幡たちはジードとともにこの地球に舞い戻ってきた星雲荘へと移動していた。結衣が感激する一方でいろはがドンシャインのポスターを指して笑うので、リクがムキになった。

 それを尻目に、雪乃がレムに尋ねかける。

 

「でも、どうしてまたこっちに?」

[こちらに危機が迫っているとの匿名の情報があったのです。一応確認をしてみたら、確かに高エネルギー体がこの地球に空間移動している反応があったため、救援に駆けつけました]

「リクたちがここに戻ってきたのはいいとして……何でお前らまでいるんだよ」

 

 八幡の視線はリク、ライハ、レム、ペガから――葉山たちの顔へと移った。

 

「すっげー! マジモンの秘密基地じゃんかー! 小っさい時こーゆーのに憧れたわー!」

「あはは、タコのぬいぐるみなんかある! ウケる~」

「爆裂戦記ドンシャインかぁ……どんなカップリングがあるんだろ」

 

 初めて訪れた星雲荘にはしゃぎ気味の戸部、三浦、海老名は置いて、葉山が苦笑しながら八幡に答えた。

 

「あれだけの騒ぎになれば、嫌でも気になるさ」

 

 葉山のひと言で、戸部と三浦がリクの方に振り向いた。

 

「そーそー! あんたがジードなんだっけ? さっきの戦闘大丈夫だったんすか!? どっか怪我とかしてない? 何かやられてたけど」

「あのロボット、急に退散してラッキーだったじゃん」

 

 二人にそう言われたリクはムッとしてがなり立てた。

 

「あそこから逆転する作戦だったんだよ!」

「わッ!?」

「リク。大人げない」

「二人も今のは失礼だよ」

 

 大声を出すリクに、それに驚いた戸部たちの両者とも、ライハと海老名にたしなめられた。

 それをよそに、三浦のひと言でペガが首をひねる。

 

「でも、あのロボット、本当に何で消えたんだろう?」

「急にお腹でも痛くなったんじゃないですか?」

「ロボットよ」

 

 適当なことを言ういろはに、雪乃が簡潔にツッコんだ。

 葉山はロボットのことを気に掛けて腕組みする。

 

「でも、またあれが出てきたらまずいよな。相当な強さみたいだから」

「今はゼロもいないし、リク、一人で大丈夫?」

「一人だからこそ頑張るんだよ!」

 

 案じたライハに、リクは気難しい顔で言い返した。

 

「そうだ、やっとのことで守り抜いた星なんだ。どんな敵が相手だって、何が何でも負けたりしないぞ……!」

 

 ぐっと拳を握って己に言い聞かすリクの様子に、平塚が不安げに八幡に囁きかけた。

 

「何やら朝倉くんは随分肩肘張っているな……」

「まぁ、今はウルトラマンが自分だけってこともありますし……責任を感じてるんでしょう」

 

 八幡も今のリクの様子に、一抹の不安を覚える。謎のロボットのことと言い、再会を喜んでいる暇もないようだ。

 そうしていると星雲荘のモニターが現れて、AIB本部のゼナと陽乃との通信がつながった。

 

『やっほー、雪乃ちゃん』

「姉さん、何か分かった?」

 

 手を振る陽乃に雪乃が尋ねたが、陽乃は次に首を振った。

 

『遭遇した宇宙人は捜索を続けてるけど、まだ何も』

『ロボットの方は、以前伏井出ケイが操っていたものと、エネルギーの反応が酷似しているとの分析結果が出た』

 

 ゼナの言葉に、雪乃がハッと思い返した。

 

「そういえば、レイデュエスも二回ほどあれに似た融合獣にフュージョンライズしていたわね」

「今度はカプセルじゃない、本物のお出ましか。どこから来たロボットなんだ……」

 

 八幡が疑問を呈すると、意外なところから回答が来た――。

 

 

「そいつの名はギャラクトロンだ」

 

 星雲荘と通信するゼナと陽乃の背後から、例のスーツの男が前触れなく現れてロボットの名を教えた。ゼナたちは反射的に銃を抜いて振り返る。

 男はおどけた態度で手を上げながら続けて言った。

 

「さっきお前らが戦ったのはその新型、ギャラクトロンMK2だ。……セキュリティが甘いなぁ。そんなだからレイデュエスなんて坊主にも潜り込まれるんだよ。記録見たぞ」

 

 何でもないことのように言ってのける男に、さしもの陽乃も戦慄。

 

「誰にも気づかれることなく堂々と、この司令室にまで入ってくるなんて……」

『何者だ』

 

 ゼナが名を問うと、星雲荘の方から声が上がった。

 

『あー! どっかで見覚えあるなって思ったらあの人、あの時のじゃない!? ほら、765プロっていうとこの人たちが来た時の……』

『そうだな、言われてみりゃ。あの時に一番に俺たちに警告してきた……』

 

 男と直接の面識がある結衣や八幡たちがうなずき合っていた。

 

『名前は確か……じゃぐじゃぐ? みたいな』

『ジャグラスジャグラーね』

『そうそれ!』

 

 雪乃の訂正に乗っかる結衣。

 

「その通り、俺はジャグラスジャグラー。怪しい者じゃ……いや、怪しいか」

 

 自嘲した男、ジャグラスジャグラーは向けられる銃口を手でどかし、ゼナたちに呼びかける。

 

「今のところは敵ではない。手を貸せ、AIB。……ジード、お前も。そのために呼んだんだ」

 

 指名されたリクが虚を突かれた顔をした。

 

『えッ?』

『ペガも?』

 

 

 × × ×

 

 

 ジャグラスジャグラーという男は、ゼナたちとともに星雲荘へと移ってきた。そして皆の前で語り出す。

 

「巨大人工頭脳ギルバリス。そいつがギャラクトロンを造った親玉だ。正体は謎。こいつは、全宇宙の知的生命体を抹殺しようと既に数え切れないほどの星々を破壊している」

「そんな奴、僕が行ってやっつけてやる!」

 

 リクが勇んで宣言したが、ジャグラーに鼻で笑われた。

 

「ベリアルとレイデュエスを倒したお前でも、そいつは無理だ」

「何でですか!」

 

 リクの苛立ち気味の問い返しに、ジャグラーが根拠を述べる。

 

「ギルバリスにはウルトラマンの光線が効かない。先日も765プロの奴らが追いつめてたが、あいつらが全力を尽くしても本体には傷一つ入れられなかった。おまけに、本拠地である惑星ごとデジタル化し、どっかへ消えちまう」

「どうやってもとどめを刺せないってことだな……」

「そういうこと。お前の方が理解がいいな」

 

 八幡のつぶやきで、ジャグラーが当てこすり気味にそう言ったので、リクは悔しそうにうなった。

 

「それに、ギルバリスは破壊するだけじゃなくあるものを探している」

「あるもの?」

「『赤き鋼』だ」

 

 八幡たちが思わず顔を見合わせた。先ほど、ゼナたちの話の中に出てきたものだ。

 

「俺は運良く奴らが実体化するのに遭遇した。そこでこのことを知り、口封じに狙われてたって訳だ」

「何で本拠地に?」

「ちょいと野暮用があってな」

 

 ライハの質問をはぐらかしたジャグラーが、皆に向かって尋ねかける。

 

「こっちの地球に太平風土記はあるか?」

「ありますけど……」

「たいへー、ふどき?」

 

 結衣や戸部らが首をひねると、レムが詳細を教える。

 

[地球各地の様々な伝説、伝承が記載された古文書です]

「と世間では思われてるが、その正体は未来予知の能力者が見た、世界に起こる重大事件を書き記した予言書だ」

 

 ジャグラーの補足に、雪乃が胡乱な表情となった。

 

「予言書? そんな眉唾な……」

「雪乃ちゃん、それは本当みたい。太平風土記には、ジードと思しき仁王が鎌を持った鬼と戦う絵が載ってるの。偶然だと思ってたけど……あっ、このページ!」

 

 陽乃が太平風土記の画像を検索し、モニターに大きく表示させた。仁王が赤い棍棒を手に、鉄の亀を抑えつけている絵である。

 

「鉄の悪魔を打ち負かす、赤き鋼……。その力は人の手には負えず、大地の守護神が封印した……」

 

 もう一枚、狛犬のような獅子が赤い棍棒をくわえている絵が映し出される。

 

「なるほど。ギルバリスめ、とうとう当たりを引いたって訳だ」

 

 ジャグラーが肩をすくめる一方で、ゼナが納得していた。

 

『全知的生命体の抹殺を図るギルバリスは、レイデュエスにとっても敵。それに備えるために、赤き鋼を探していたのだな。では何故奴がこのことを知っていたのか、という疑問があるが……』

「赤き鋼は、どこにあるの?」

 

 リクの問いかけに、太平風土記を読み進めた陽乃がこう答える。

 

「沖縄って書いてます」

 

 八幡が雪乃、結衣らと目を合わせる。

 

「沖縄って、もう探し尽くされたんじゃ……」

「見落としでもあったんじゃないかな?」

「そんなヘマするか?」

「でも、他に手掛かりはないわよ」

 

 情報が出尽くしたところで、リクが全体の音頭を取った。

 

「ジーッとしてても、ドーにもなんない。行こう、沖縄に!」

 



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沖縄にて、少年は彼女と出逢う。

 

 目的地を沖縄と定めたジード部一行は、早速移動を開始した。

 

[沖縄はここからだと遠すぎて、エレベーターで向かうことは出来ません。星雲荘で移動します]

 

 宇宙船ネオ・ブリタニア号が地下から浮上し、千葉を離れて海上を渡り、沖縄を目指していく。

 

「うへぇー! すっげぇー! マジの宇宙船だってば! マジSFの世界だべ!」

「タダで沖縄旅行なんて、あーしらラッキーだし」

「もうちょっとゆっくり出来れば言うことなしなんだけどねー」

 

 浮かれている戸部、三浦、海老名に呆れた視線を送った八幡が、葉山にジト目で振り向いた。

 

「何でお前らまでついてくるんだよ」

「そう言うなよ、探し物なら人手は多い方がいいだろ? 優美子たちもあんなだけど、やるべきことはちゃんと分かってるよ」

「そうだといいんだけどな……。それともう一人」

 

 八幡が葉山の反対側に目を向ける。そちらには、腕を組んで無駄に仁王立ちしている材木座の姿。

 

「お前、どっから出てきたんだよ」

 

 気がつけばしれっと混ざっていた材木座に、八幡はげんなりした顔。

 

「ふふッ、水臭いぞ八幡。この剣豪将軍、地球の危機とあらばどこからでも駆けつけよう!」

「本当のところは?」

 

 聞き直すと、材木座はガバッとしがみついてきた。

 

「はちまぁーんッ! 次回作のネタがッ! ネタがぜーんぜん思いつかんのだぁッ! 今回ので何かいいネタが思いつくかもしれん! 頼む、協力してくれぇー!」

「えぇーい知るか放せ暑苦しい! 自業自得だろうが俺を頼るんじゃねぇよ!」

「うーん……やっぱあの組み合わせはないなぁ」

 

 材木座を力の限りに引きはがそうとする八幡をながめ、海老名が不埒ななことをつぶやいていた。

 その一方で、陽乃が葉山に声を掛けた。

 

「ところで隼人……身体の方はそれから異常ない?」

「はい、今のところは相変わらず」

 

 珍しく葉山に心配そうな様子を見せる陽乃に、材木座を突き放した八幡が何事かと振り返った。

 

「今のはどういうことですか? 葉山が何か?」

 

 その質問にはゼナが答えた。

 

『彼は以前、レイデュエスに奴の生命エネルギーを埋め込まれて傀儡にされただろう。実は、そのエネルギーの残滓が生体情報として彼の身体に残っているのだ』

「なッ……!」

 

 予想外の話に、流石に息を呑む八幡。

 

『幸い身命に別状はなく、生体情報もあと半月もすれば自然消滅する予測が立てられている。しかし、万が一のことがあってはならんからな。AIBで定期検査を行っているのだ』

「そうだったんですか……」

「隼人くん……ほんとに大丈夫? そんな状態で、あたしたちにつき合ってくれて」

「何か気分が悪いとかあったら、すぐに言ってよ」

「ありがとう。でも本当に大丈夫だから。そんなに心配してくれなくていいよ」

 

 葉山の身を案じる結衣や三浦に、葉山がやんわりとした笑顔で断った。

 そんなことをしている内にも、宇宙船は一路沖縄を目指していく。

 

 

 × × ×

 

 

 星雲荘が沖縄へと移動していく頃――宇宙空間では、全てが鋼鉄で出来上がった惑星が地球に近づきつつあった。それが巨大人工頭脳ギルバリスの操るサイバー惑星クシアである。

 

[どのような手段を用いても、赤き鋼を見つけるのです]

 

 惑星の中枢で、支配者であるギルバリスが手駒のアンドロイド兵士バリスレイダーの軍団に淡々と命令を発した。

 

[この惑星の知的生命体は、滅びる運命にあるのですから]

 

 

 × × ×

 

 

 八幡たちを乗せた星雲荘は沖縄に到着。現地の人を驚かせぬよう、海岸で透明化して停泊した。

 

「ああ、今沖縄に到着した。赤き鋼ってのを見つけるまでは帰らねぇから、親父たちには上手いこと言っといてくれ」

 

 八幡が携帯で沖縄滞在の間のことを、小町に頼み込んだ。

 

『オッケー。その代わり、ちゃんとお土産買ってきてよー? 小町サーターアンダギー食べたい』

「言っとくが、遊びに来たんじゃないんだからな……」

『分かってるって。それに、一番のお土産はお兄ちゃんが無事に帰ってくることだよ。今の小町的にポイント高い』

「へぇへぇ。そんじゃあな」

 

 八幡が電話を済ますと、一行はグループを三つに分けて行動することとなる。

 

『私と陽乃、ペガ、鳥羽ライハの四名は消えたギャラクトロンMK2の探索を行う』

「うん!」

 

 ゼナに手を頭の上に置かれたペガがうなずいた。

 

「俺と戸部、優美子、姫菜は資料館とかで沖縄の伝承を当たってみるよ。フィールドワークは任せた」

「何かあったらすぐ連絡入れるんだぞ」

 

 葉山たちもエレベーターで地上へ上がっていくと、残ったメンバーで現地調査を行うべく出発していった。

 が、しかし、

 

「フィールドワークって言ったって、どこから手をつければいいんだろうね……」

 

 那覇市の大通りにて、結衣が途方に暮れた様子でぼやいた。赤き鋼の手掛かりは今のところ、沖縄という大雑把なものしかないのだ。

 いろはが汗ばむ額を拭いながらつぶやく。

 

「いや~、流石沖縄は三月でも暑いですねー。あっ、あっちの方でエイサーやってますよ。沖縄名物の。先輩、ちょっと見に行きませんか?」

「こら一色。一応、地球の命運が懸かってるんだぞ」

 

 沖縄の空気に浮かれ気味ないろはを平塚がたしなめたが、いろははむくれながら反論。

 

「そうは言っても、手掛かりゼロでアテもなく沖縄中を探し回るなんて嫌になりますよぉ。せっかくなんだし、楽しみもしないとモチベ上がりませんって」

「しかしなぁ……」

 

 平塚が渋い顔をしていると、エイサーを行う一団が八幡たちのいるところに近づいてきた。

 

「イーヤーサーサー! ハーイヤ!」

 

 太鼓を鳴らして足を大きく上げながら練り歩く青年たちの様子に、八幡たちはつい目線が行く。

 

「あれがエイサーか。実際見るのは初めてだな」

「エイサーはお盆の時期に、祖先の霊を歌と囃子で送迎するために行われる沖縄の伝統芸能ね。要するに本州の盆踊りと同じ。あれは観光客向けのパフォーマンスみたいだけれど」

「さっすがゆきのん、詳しいねー」

 

 博識ぶりを披露する雪乃に結衣が感心していると、エイサーの集団の中から一人、ポニーテールの少女が脱け出てきて八幡たちの方へ近寄ってきた。

 

「……!」

 

 ジャグラーはその少女をひと目見て、すぐに怪訝な顔となった。

 

「はいさい! そこの人たち、何だが暗い顔してるけど、何かお悩みでもあるのかー?」

「えッ、それは……」

 

 唐突に話しかけられて戸惑うリク。しかし少女は構わずに話を続ける。

 

「どうせだったらみんなもエイサー踊ってみないか? おっきな声で歌って踊れば、悩みごとも吹っ飛ぶさー!」

「ぢゅいッ!」

 

 少女の髪の中からひょっこりとハムスターが顔を出したので、八幡たちは目が点になった。

 

「え……ハムスター?」

 

 犬猫ならまだしも、ハムスターを放し飼いにして頭の上に連れている人物など、誰もお目に掛かったことはない。この少女は何者なのか……とリクたちが疑問に思う前に、ジャグラーが少女に呆れたように呼び掛けた。

 

「おい、こいつは何の冗談だ? 我那覇響」

「あっ、ジャグラスジャグラー!? 何でこの人たちと一緒にいるんだ!」

 

 我那覇響と呼ばれた少女が、こちらが名乗る前にジャグラーの名前を言い当てたことに雪乃たちは驚く。

 

「この人のことを知っているなんて……まさか……」

 

 雪乃が言い終わるより先に、響の背後から新たに六名の女性が現れた。

 

「我那覇さん、今のどの辺りが自然な接触だったの?」

「ひびきん、もちょっと上手くやってよ~。明らか不自然じゃーん」

「うっ……ごめんだぞ……」

 

 六人の女性の内三名の顔に見覚えがある八幡たちは、あっと口を開けて驚いた。

 

「あなたたちは、765プロの……ってことは……」

「ふふ……久しぶりね、ジード部のみんな。その後お変わりなかったかしら?」

「やっほー、兄ちゃん姉ちゃん。何だか大所帯だねー」

 

 眼鏡の女性は確か、秋月律子。瓜二つの少女は、双子の双海亜美と双海真美だ。ということは……。

 

「彼女たちが、比企谷たちが共闘した765プロというところの子たちか。私は平塚静だ」

「どうも初めまして~♪ 一色いろはって言いまーす」

「あー……この眼鏡は材木座義輝っす」

「これはご丁寧に。わたくしは四条貴音と申します」

「如月千早です」

「萩原雪歩ですぅ」

「改めて、自分は我那覇響だぞ。こっちはハム蔵」

「ぢゅいッ」

 

 自己紹介を交わし合ったところで、ジャグラーが765プロ一同に尋ねる。

 

「お前ら、どうしてこんなところにいるんだ」

 

 それに亜美と真美が頬を膨らませながら、咎めるように返した。

 

「そんなの、あんたがギルバリスにちょっかい掛けたって聞いたからに決まってるっしょー!? またそんな危ないことして~!」

「ギルバリスが追いかけてるみたいじゃん。よそ様に迷惑掛けちゃダメって言われてるでしょー!?」

「また何かたくらんでるんじゃないでしょうね」

「ふッ……さて、どうだろうなぁ」

 

 千早にジトッとにらまれたジャグラーは、わざとらしく顔をそらした。

 話に置いていかれる八幡たちは、彼らのやり取りを見て、仲はあまりよろしくないようだと感じた。

 

「僕たちは今、赤き鋼というものを探してるんだ。みんなは何か知らない?」

 

 リクが自分たちの目的のことを問いかけると……千早たちは急にひと固まりとなって、ヒソヒソと声を潜めて相談し合った。

 

「?」

 

 何事かとリクたちが顔を見合わせていると、響が代表して回答する。

 

「探し物なら、沖縄の伝説に詳しい人を知ってるさー。紹介してあげるね!」

 

 

 × × ×

 

 

 響たちの案内の下、一行は街を離れ、林の中へと移った。

 

「こんなところで待ち合わせですか?」

「まぁまぁ、もうすぐ来るって」

 

 わざわざ人気が全然ないような場所へ移動してきたことを訝しむ雪乃を、響がなだめた。すると、斜面の下の方から人の足元が聞こえてくる。

 

「ほら、噂をすれば。おーい、ここだぞー!」

 

 響が大きく手を振った相手は、首から青い宝石のペンダントを提げた女性であった。彼女はこちらの姿を見止めると、足を速めて近寄ってきた。

 

「お待たせしましたぁ」

「すいません、急にご連絡しちゃって」

 

 律子がペコリと頭を下げて謝罪する。

 

「いえ。こちらが千葉市神話研究会の?」

 

 本当のことを初対面の人に明かす訳にはいかないので、表向きはそういうことにしたのだ。リクたちがうなずくと、響が女性のことを紹介する。

 

「みんな、こちらはえっと……アウトドア教室をやってる比嘉愛瑠さん」

「はじめまして、比嘉愛瑠です。みんなから愛瑠って呼ばれてます」

 

 女性がたたずまいを直して名乗ると、リクが代表して挨拶を返した。

 

「朝倉リクです」

「よろしくね、リクくん」

 

 愛瑠が差し出した手を、リクがはにかみながら握った。――愛瑠と面向かってから、何やら浮ついた調子で握手するリクの様子をながめて、結衣が八幡たちに囁きかける。

 

「何かリクさんの様子が変だけど……もしかして……」

「あっ、由比ヶ浜先輩も気づきましたー? リク先輩、ああいう人がど真ん中なんですかね」

 

 ニヤニヤするいろはの一方で、雪乃と平塚は解せない表情。

 

「何の話だ?」

「も~、平塚先生ったら鈍いですね~。だからいいお相手捕まえられないんじゃないですか?」

「なっ! 私のことは関係ないだろう!?」

 

 からかわれる平塚。――その傍らで、ジャグラーは愛瑠のペンダントに着目して怪訝な顔をしていた。

 

「あの、赤き鋼の伝説について調べたいんですけど」

 

 もじもじしてなかなか話を切り出さないリクに代わって、八幡が愛瑠に尋ねた。愛瑠は少し考え込みながら、次のように返答する。

 

「赤き鋼……私も詳しいことは。でもそういう伝説のある場所を回ってみる? 何か手掛かりがあるかも」

「是非!」

 

 リクが勢い余りながら了承した。

 

 

 × × ×

 

 

 こうして一行は愛瑠の先導の下に、沖縄各地の古い伝承が残るスポットを探索して回ることとなった。

 その内の一つ、巨大な岩壁に挟まれた斎場御嶽で愛瑠が解説する。

 

「琉球王朝時代、このような場所で祭事が行われ、人々が祈りを捧げてきたの」

「何をお祈りしてたのかな?」

 

 結衣が誰となく聞くと、リクが人差し指を立てて言った。

 

「多分、みんなが元気で、幸せでいられますように! ってお祈りしてたんじゃないかな」

 

 リクの答えに、一同が思わず破顔する。

 

「本当にそうならいいんだがな」

「実に子供みたいな考えね」

「な、何だよー。いけないの?」

 

 平塚や雪乃にクスクスと笑われたリクが少々気分を害したが、雪歩と貴音は擁護する。

 

「でも、私はそういうの嫌いじゃないですぅ」

「まこと。そのような単純ながら素朴な願いが、平和を築く礎なのです」

「うん。私も、リクくんの考えはとってもいいって思う!」

 

 愛瑠に称賛されると、リクは照れ臭くなって頭をかいた。

 愛瑠に振り向いたいろはがふと尋ねかける。

 

「ところで、愛瑠さんってどうしてアウトドア教室やってるんですか?」

「私はね、自然が大好きなの。たくさんの人にも好きになってもらいたくて」

「何で自然好きなんですか?」

 

 いろはが聞き返すと、愛瑠はそっと御嶽の岩肌をなでながら、どこか遠い目で語った。

 

「命を、感じるからかな……」

 

 愛瑠の様子の変化に、八幡たちは思わず彼女に視線を集めた。

 

「大地から、生きる力を感じる。たくさんの命といるって、思えるから」

 

 妙に実感のこもった言葉に、八幡たちは何かただならぬものを感じて押し黙った。

 

 

 × × ×

 

 

「ねーねー、材木座の兄ちゃんは何でひと言もしゃべんないのー?」

「……こいつのことはほっといてやってくれ」

 

 その後、首里城のふもとまで足を運んだところで、急に貴音が立ち止まった。

 

「四条さん、どうしたんですか?」

「あれを」

 

 雪歩が振り向くと、貴音が指差した先に、見慣れない形のシーサー像、その前に両端がコブのように膨れた棒状の石器がポツンと鎮座していた。

 

「これは?」

「こんなシーサー像、ガイドブックにはないですよ」

 

 シーサー像に近づいていってよく観察するリク。いろははガイドブックをペラペラめくって確認した。

 律子はタブレットをかざして石器を分析する。

 

「……見た目は石だけれど、未知の金属反応があるわ」

「まさか、赤き鋼?」

「とにかく、確かめてみましょう」

 

 訝しむ八幡に次いで、千早が石器を手に取って反応を窺う。……が、目立った変化は一切起こらない。

 

「何も起きないわね……」

 

 ここで材木座が眼鏡に指を当てて格好つけながら前に出てきた。

 

「ふッ……ここはこの剣豪将軍の出ば」

「どいてろ」

「おうふッ!」

 

 が、ジャグラーに押しのけられて変な声を出しただけだった。

 ジャグラーは千早から石器を受け取り、低い声を発しながら意識を集中する。

 

「おおぉぉ……!」

 

 ――しかし、やはり何も変化は見られなかった。

 やがて愛瑠がジャグラーから石器を受け取り、次の通りに告げた。

 

「赤き鋼は、正しい心を持った、選ばれた戦士にしか使えない」

「……フッ! 先に言えよ。だったら俺は駄目に決まってるじゃねぇか」

 

 ジャグラーはぶっきらぼうに皆の輪から外れる。

 

「またこのパターンか」

 

 吐き捨てたひと言と、響たちが複雑そうな顔でジャグラーを見つめていることが、八幡たちにはよく分からなかった。

 

「愛瑠さん。どうして、赤き鋼のことを?」

 

 リクが愛瑠に振り返って尋ね、愛瑠が何かを告げようとする。

 しかしその寸前に、沖縄の空に巨大な魔法陣が開き、白い龍人型のロボット――ギャラクトロンMK2が地上に降下してきた!

 

「ギャラクトロン!!」

「新型だわ!」

 

 街を蹂躙しながら接近してきたギャラクトロンに、一同がバッと振り返った。

 

「遂にここまで……!」

 

 ギャラクトロンの方も一行を発見し、そして愛瑠の手の中の石器に注目した。

 

[見つけました。赤き鋼]

 

 ギャラクトロンのアイカメラ越しに石器を確認したギルバリスがつぶやき、ギャラクトロンが八幡たちに狙いを定めて進撃してきた。

 

「みんな、こっちだ!」

「一旦退避です!」

 

 リクと貴音が真っ先に動いて、皆を先導して逃走を図る。

 

「ひ、ひぃ……! ゼロぉ……!」

「早くしろッ!」

 

 怖気づいて足がすくむ材木座は、ジャグラーに引っ張られていった。

 海の方へと全速力で逃げていく一行だが、ギャラクトロンはどんどんと接近してくる。このままでは逃げ切れないと判断したリクがジードライザーに手を掛ける。

 

「ジーッとしてても……!」

 

 だが変身しようとしたのを、ギャラクトロンが指先から照射した光線の爆撃によって阻止された。悲鳴を発するいろはたち。

 

「きゃああっ!」

「くっ……! こっちがウルトラマンだってバレてるわ……!」

 

 うめく律子。そのまま接近してくるギャラクトロンに対して、愛瑠が胸のペンダントを掲げ、叫んだ。

 

「グクルシーサー!」

 

 ペンダントの宝石が光り輝き、それに反応して石器が置かれていたシーサー像の目が光った。そして一瞬にして石像から巨大な本物のシーサーに変化し、ギャラクトロンの正面へと飛び出していく。

 

「グルルル……ウオオオォォォン!」

 

 グクルシーサーと呼ばれた怪獣はギャラクトロンに突進して、侵攻を食い止めた。即座に狙いを怪獣に移したギャラクトロンだが、胸部に後ろ蹴りをもらって突き飛ばされる。

 

「あいつ……!」

「愛瑠さん今、怪獣を召喚した!?」

 

 目を見張る結衣たち。

 

「愛瑠さん……!」

 

 起き上がったリクも驚愕の目で愛瑠を見る。すると彼らの背後に、星雲荘が飛んできた。

 

『早く乗れ!』

「早く早く!」

 

 ゼナや葉山たち、別行動を取っていた者は全員既に星雲荘に回収されていた。彼らはリクたちに退避を促す。

 

「みんな、急ぐぞ!」

「はい!」

 

 平塚が皆を手で仰いで、続々と星雲荘に乗り込んでいく。グクルシーサーは勇ましくギャラクトロンに立ち向かっているものの、すさまじいパワーに押し返され始めていた。

 

「ここは自分たちに任せるんだ!」

「さぁ、お早く!」

 

 響と貴音が殿を務めている間に、リクが愛瑠にも避難を促す。

 

「愛瑠さんも早く……!」

 

 が、振り返ったらそこにいたはずの愛瑠の姿が消えてなくなっていた。

 

「愛瑠さん……!?」

「リク! 急げッ!」

 

 最後まで残っていた八幡がリクを呼び、リクはやむなく八幡に続いて星雲荘に乗り込んだ。そうして星雲荘が海上へと発進し、ギャラクトロンから逃れることに成功した。

 

 

「愛瑠さん……愛瑠さんは、一体……」

 

 星雲荘の機内で、リクが呆然とつぶやいた。それにジャグラーが振り向いて、ひと言告げる。

 

「あの女は宇宙人だ」

「……!!」

「何? 何かあったの?」

 

 ジャグラーの言葉に驚愕するリクたち。戸部らは何事か分からず首を傾げていた。

 一方で、結衣は石器の形状を思い出して一人うなっていた。

 

「それにしても……あの形、どっかで……」

 



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少年たちは宇宙の渡り鳥たちと邂逅する。

 

 翌日の早朝、星雲荘を隠している海岸の、人気がない砂浜。ここに今はリクと八幡、雪乃、結衣の四人がいて、リクが三機のユートムに囲まれていた。

 

[本当によろしいのですか?]

 

 確認してきたレムに、リクがはっきりとうなずいた。

 

「ああ。やってくれ」

[分かりました]

 

 リクの言葉を合図とするように、ユートムからリクへ向けて不規則にビームが撃たれ始める。

 

「はッ!」

 

 連発されるビームの間をかいくぐってかわしていくリク。しかし一発をよけ損ない、足にもらった。

 

「熱ッ……!」

「リク、大丈夫か!?」

 

 顔を歪めたリクに、遠巻きに見守っていた八幡が思わず声を上げた。

 

「平気さ、このくらい……」

 

 と帰しながらも歯を食いしばるリクの様子に、彼を案じた雪乃と結衣が進言する。

 

「やっぱりやめた方がいいんじゃないかしら、こんなこと……。今から特訓なんてしても、間に合うなんて思えないわ」

「いつまたギャラクトロンが現れるかも分からないんだし……無理して怪我なんかするより、体力を温存しといた方がいいんじゃ」

 

 だがリクは二人の言葉に首を横に振った。

 

「また妨害されて変身も出来ないなんてことがあっちゃいけないんだ。無理してでも、どんな状況でもジードライザーを扱えるようにしておかなきゃ……」

「頑張るんだね」

「そりゃあみんなを守るためには、鍛えなくちゃ……」

 

 反射的に返答したリクだが、今のひと言が八幡たちのものではないことに気づいてバッと振り返った。

 

「って、愛瑠さん!?」

 

 その先に、姿が見えなくなっていた愛瑠がいつの間にか現れていた。八幡たちは面食らうが、リクはほっと胸を撫で下ろした。

 

「よかった、無事だったんだ……」

「……愛瑠さん、あの……」

 

 八幡が愛瑠に呼び掛けかけたが、それより先に愛瑠がリクに問いかけた。

 

「リクくん、ウルトラマンジードでしょ?」

「何で知ってるの?」

 

 再び驚くリクたちに、愛瑠がゆっくりと答える。

 

「あなたのこと、見てきたから。この星に来てから、戦いを終えて帰っていくまで、ずっと」

 

 八幡たちの見守る中で、愛瑠はリクの正面まで近寄って呼び掛けた。

 

「大変だったでしょう。その身を挺して八幡くんの命を救ったり、何度も傷ついて苦しんだり。普通だったら、到底耐え切れないようなことばかり」

「まぁ……確かに、楽な道のりは一つもなかった。だけど、みんなを守るんだって決めたから」

「……やっぱり、リクくんは私が見込んだ通りの人だね」

 

 リクの返事に納得した様子の愛瑠に、八幡が改めて質問した。

 

「愛瑠さん。あなたが宇宙人だってのは本当のことですか?」

「リクさんがジードだと知っていたのなら、何で初めからそう言わなかったんですか?」

「……リクくんが本当にギルバリスを倒せる可能性を持った人だって、この目で直接確かめたかったから」

 

 雪乃も問いかけると、愛瑠はそのように答え、次いで述べた。

 

「ギルバリスにより、たくさんの命が失われた。それでも希望を捨てず、アイテムを開発した人たちがいた」

「アイテム?」

「それがリクくん、あなたの父親が持っていたギガバトルナイザー」

「ギガバトルナイザー!」

 

 リクがギガバトルナイザーの名前に目を見張った。八幡たちも、ウルトラマンベリアルの武器だったものと聞いているが、こんなところでその名を聞くことになるとは。

 愛瑠は更にペンダントから、あの石器――赤き鋼を召喚して手に持った。

 

「それと対になるのがこの、赤き鋼、ギガファイナライザー」

 

 リクたちの注目が赤き鋼に集まる。

 

「やっぱり、それが赤き鋼だったんだ……」

「以前に、そいつを探しに宇宙人が何度も沖縄に来てたはずですが」

 

 八幡がレイデュエスの件を持ち出すと、愛瑠が首肯しつつ返した。

 

「私がこれを彼らから隠してたの。もっとも、悪しき心根だったあの人たちでは、結局ギガファイナライザーを扱うことは出来なかったけれど」

「どういうことですか?」

「これは、正しい精神エネルギーを増幅させ、その人の持つ本来の力を最大限に引き出す、無敵のアイテムなの。しかし、使用できるのは、選ばれた者のみ。リクくんなら、きっと……!」

 

 愛瑠がリクに赤き鋼を差し出しかけるが、ここで首をひねっていた結衣が、ポンと手を叩いて大声を発した。

 

「あー! 分かった!」

「どうしたの、結衣さん?」

 

 皆の視線が結衣に集まると、結衣が赤き鋼を指差しながら言う。

 

「それ、どっかで見たことあるなーってずっと思ってたんだけど、もしかしてあれじゃない? レイデュエスを倒した時にジードんが変身した姿、あれが使ってた武器!」

 

 そう指摘されて、八幡たちはジードの謎の最終形態が使用していた――ゼロに曰く、未来の時間から飛んできた赤い棍のような武器を思い出しながら、赤き鋼と比べた。

 

「確かに形は似てるが……」

「由比ヶ浜さんの言う通り。私もあの時は驚いた。未来からギガファイナライザーがやってきて、リクくんに力を与えたなんて」

「ほらやっぱり!」

 

 唯一赤き鋼の真の形を知る愛瑠が太鼓判を押したので、結衣の推測が正しいことが証明される。

 

「それはつまり、未来ではギガファイナライザーが覚醒してるということ。それを成し遂げるのは……」

「ここまで来たら、ジードん以外にいないよね。なーんだ、それならギルバリスなんてもう倒したも同然だし。やっつけられるアイテムが手に入るって決まってるんだから!」

 

 楽観視する結衣を雪乃がたしなめた。

 

「落ち着いて、結衣さん。まだそうと確定した訳ではないわ。赤き鋼がリクさんに反応することを確認しないことには」

「リク、やってみてくれ」

 

 促した八幡に首肯し、リクがおもむろに赤き鋼に手の平をかざした。

 

「僕は、地球を守りたいんだ……! 僕に、力を貸してくれ!」

 

 真剣な思いを込めて、赤き鋼に意識を集中させるリク。

 ――だが、待てど暮らせど、赤き鋼には何の変化も起こらなかった。

 

「そんな……!?」

 

 これには愛瑠までも驚愕する。

 

「何で……どうして……!」

「どういうことだ……? あの時は間違いなく扱えたのに!」

「お、おかしいよね!? 何かの間違いだよっ!」

「分からないわ……こればかりは……」

 

 流石の雪乃も何故なのかと戸惑う。リクはふと違和感に気づき、ハッと顔を上げた。

 

「愛瑠さん……」

 

 つい先ほどまで目の前にいた愛瑠が、またもや忽然と姿を消していた。

 

 

 × × ×

 

 

 愛瑠と会った後、八幡たちは砂浜に食事の席を用意して、皆で朝食を取っていた。

 

「何だって? 朝倉さんでも赤き鋼は反応しなかったのか?」

 

 その席で八幡が皆に説明した、先ほどの出来事を葉山が簡潔に復唱した。それから戸部が八幡を箸で指しながら指摘する。

 

「そりゃおかしーべ! そのギガなんちゃらって、ジードが前に使ってた奴っしょ? それが今は使えないって、理屈に合わねーって」

「箸を人に向けんな。そう言われたって、実際そうだったんだからしょうがないだろ」

「ふぅむ……あの時と今とで、何か違うものでもあるのだろうか」

 

 腕を組む平塚だが、皆が頭を悩ませても、それが何か明確な答えは出てこなかった。

 代わりにいろはが、響たち765プロ一同にやや目尻を吊り上げながら振り向いた。

 

「っていうか、そこの皆さんは愛瑠さんが宇宙人だって最初から知ってたってことですよね。何で初めから言ってくれなかったんですか。そしたら話は早かったのに」

「ごめんね。アイルさんから口止めされてたから……」

「それに、アイル姉ちゃんが赤き鋼を持ってたなんてことは知らなかったんだよぉ」

 

 響と亜美が謝りながらも弁解する。一方でゼナが陽乃相手に語る。

 

『赤き鋼はギガバトルナイザーと同じ種族が開発したものだったか。バトルナイザーは、レイブラッドからベリアルの手に渡ったもの。レイブラッドの子であるレイデュエスが、赤き鋼のことを知っていたのもうなずける話だ』

 

 ゼナが謎を解いていると、ジャグラーが大きく肩をすくめた。

 

「色々あるが、赤き鋼を誰も使えないんじゃ、結局のところはないのと同じだ。頼みの綱のジードも駄目とは、俺の見込み違いだったってことか?」

「何だって!?」

 

 リクがいきり立って声を荒げたのに、三浦や海老名が驚いて思わず距離を取った。

 

「ちょっと、リク……!」

「リク、落ち着いて……」

 

 ペガとライハがリクをなだめようとするも、ジャグラーはますますリクを煽る。

 

「宇宙警備隊からも認められたと聞いたんで、ちょっとは期待してたんだがな。こんなことになるとは、もっと違うウルトラマンに声を掛けとくべきだったか?」

「この、言わせておけば……! 地球は絶対に僕が守ってみせるッ!」

「リク! 私たちがここで仲違いしても仕方ないでしょ!」

「ジャグラーもよしなさい! どうしてあなたはいつも、挑発的な物言いばかり……」

 

 ライハが語調を強め、千早もジャグラーを咎めようとした、その時、

 どこかから、綺麗で落ち着いたハーモニカの音色が流れてきた。

 

「何? このメロディ。ハーモニカ?」

「これって、確か前に……」

 

 その旋律を聞いたことがない三浦たちは怪訝な顔をしたが、一度耳にしている八幡らはピクリと顔を上げた。更に強く、真っ先に反応したのは千早たち765プロ組だ。

 

「肩に力が入り過ぎてるぜ。もっと冷静になりな、ジード」

 

 ハーモニカを吹きながら、六人の乙女とともにこの場にやってきたのは――八幡たちが見覚えのある、風来坊。雪歩たちはわっとその男の元に駆け寄っていった。

 

「プロデューサー、到着してたんですね!」

「兄ちゃーん! 待ってたよー!」

「そちらの首尾は如何でしたか、あなた様」

「みんな、待たせたな。情報屋はちゃんと見つけたぞ」

 

 陰鬱な雰囲気から一転、きゃっきゃっと楽しげにはしゃぐアイドルたちに囲まれる男のことを、結衣が葉山たちに紹介する。

 

「みんな、あの人は紅ガイさん。765プロのプロデューサーさんだよ!」

「相変わらず仲よさそうだなー。羨ましい限り……」

「先輩、ああいうのがお好みなんですかぁ? 不埒ですね……」

「い、いや、そういう訳じゃねぇぞ? 普通の男が持つだろう意見を……って、何でこんな弁解してんだ」

 

 いろはにジロッとにらまれた八幡が、慌てふためいた自分にため息を吐いた。一方のガイの方にはゼナと陽乃が挨拶する。

 

『紅ガイ、ウルトラマンオーブ。来てくれたのか』

「ありがとうございます。私もAIBです。どうぞお見知りおきを」

「どうもご丁寧に……」

 

 陽乃相手に帽子を脱いだガイの肩が、後ろから掴まれる。

 咄嗟にその手を払ったガイが、手の主のジャグラーと一瞬にらみ合った。

 

「遅かったな、ガイ。遅刻がちなのはプロデューサーとして感心できないなぁ」

「そう言うお前こそ、どういう風の吹き回しだ」

「俺も宇宙の平和を守ってるんだ。なんてね」

「よく言うぜ……」

 

 浅からぬ因縁を垣間見させるガイとジャグラーの様子に、海老名が関心深そうな目となった。

 この二人の間に真と伊織が割り込んで、ジャグラーを強くにらみつける。

 

「ジャグラー! あんまりプロデューサーにちょっかい掛けるな!」

「相っ変わらずよねあんた! 平和を守るとか、あんたが軽々しく口にするんじゃないわよ!」

「お前らの方こそ相変わらずだろう。まぁそんなことより、情報屋とか言ったな。ギルバリスについて何か掴んだのか」

「まぁな。今から話すところだった」

 

 ガイが適当なところで腰を落ち着かせ、リクたちに向かって情報屋から得たという内容を語り始めた。

 曰く、何万年も時間をさかのぼるはるか大昔に、宇宙に他のどの種族よりも高い知能と科学技術を持った人間が住むクシアという惑星があった。クシア人は同時に非暴力的な性格で、宇宙に争いが絶えぬことを憂い、自分たちの技術力を結集して、宇宙中に永遠の平和を築き上げるための人工頭脳テラハーキスを完成させた。

 しかしテラハーキスは永久平和実現のための演算の末に、知的生命体は存在自体が平和の障害という結論に至ってしまい、ギルバリスと自らの名を改めてクシア人に反乱を起こした。途轍もない武力を際限なく生み出すギルバリスによって危機に瀕したクシアの科学者は、ギルバリスを倒せる武器である赤き鋼を作り出し、一人娘にそれを託して滅亡するクシアから脱出させた。惑星を乗っ取ったギルバリスは、その行方をずっと追っていたのだ。

 赤き鋼を持って地球に逃げ込んだ娘が、クシア人最後の生き残りなのだという。

 

「それが愛瑠さん……」

 

 ガイから説明を聞いたリクが、ぽつりとつぶやいた。

 一方で、三浦と海老名が不安げに顔を見合わせる。

 

「そんな昔から暴れ続けてて、誰も倒せてないなんてとんでもない奴だったなんてね……」

「やっぱり、赤き鋼がないとどうしようもないのかな……?」

 

 不安に駆られる海老名のひと言に、リクが刺激されたかのように声を荒げた。

 

「大丈夫だ! 僕が絶対、地球を守ってみせる!!」

 

 自らに言い聞かせるように宣言したリクが、速足でこの場から離れていく。

 

「ちょっと、リク!」

「どこ行くの……!」

 

 その背中をペガとライハが追いかけようとしたが――ガイが腕を伸ばしてさえぎった。

 

「ちょいと、俺にあいつと話をさせてくれ」

 

 

 × × ×

 

 

 皆の元から離れたリクは一人で憮然と腰を落としていた。その心には、愛瑠の期待を背負いながら、赤き鋼に選ばれなかったことの焦りといら立ちが渦巻いていた。先ほどの態度はその裏返しだ。

 

「よッ」

 

 その場にガイがひょっこりと顔を出してきて、リクの向かい側に腰掛ける。

 

「765プロに入るまでは、随分長い間、一人で旅をしていた」

「ガイさん……」

 

 そう切り出して、ガイは話を始める。

 

「誰かと深く関わること。その誰かを失うこと。俺は恐れていた時もある。まッ、そんなの俺の思い込みだったんだけどな」

 

 自らに対して苦笑を浮かべ、リクに真摯に説いた。

 

「ウルトラマンだって完璧じゃない。一人じゃ出来ないこともある。そんな時に道を示してくれるのは……お前なら分かってるだろう?」

 

 ガイの言葉には、経験に裏打ちされた重みがあった。思わず聞き入ったリクに、ガイは破顔してこう誘った。

 

「この近くにいい風呂屋があるそうだ。どうだ、ひとっ風呂浴びてサッパリしてくるか」

「いえ。今は、そんなことをしてる場合じゃないので……」

「風呂上がりのラムネは格別だぞ?」

「ありがとうございます。でも、僕なら心配いりません。絶対に、みんなのことを守ってみせます」

 

 そう言い切るリクの顔をじっと観察したガイは、何も思ったかはリクからは分からないが、やがて視線を外した。

 

「そうか……。んじゃ、風呂はまた今度な」

「はい……!」

 

 二人のやり取りをながめ、そっと様子を見に来た八幡たちが微笑を浮かべた。

 と、その時に、ペガが不意に空を見上げて指差した。

 

「あれ、何だろ!?」

 

 突然の事態の急変が起こり、全員が空に顔を上げて驚愕した。リクとガイも異常に気づき、声を失う。

 まだ正午にもなっていないのに空が不気味に赤く染まり、更に格子状に奇怪な数列がビッシリと並んでいる。自然ではありえない光景。

 

「何事だ!?」

「あの惑星は……!」

 

 混乱する八幡たちの一方で、ガイたち765プロ一同は事態を理解してサッと青ざめた。

 

「サイバー惑星クシア……!」

 

 そう発したのは、いつの間にかこの場に現れた愛瑠であった。

 

「愛瑠さん……!」

 

 愛瑠がペンダントを握ると、現代日本の服装から、沖縄の民族衣装――その基となったクシア人の装束に変化した。

 

「ギルバリスが、とうとう地球に……!」

 

 律子が絞り出すようにつぶやく。

 サイバー惑星クシアが地球の目前にまで迫り、更にデジタル化して地球を覆い始めたのだ。

 

 

 世界中の人々が、サイバー惑星クシアに覆い尽くされていく空を見上げ、一体何が起こっているのかと不安に駆られる。そんな地球の人間全てに対して、クシアを操る人工頭脳ギルバリスが言葉を放った。

 

[私はギルバリス。宇宙に永遠の平和を築くことを使命とする者]

 

 名乗りに続けて、地球の全生命へと一方的に宣言する。

 

[この星の知的生命体とその文明、生態系を、害悪と判断しました。よってリセットを行います]

 

 地球上の全人類が衝撃を受け、どういうことなのかと狼狽する。

 そして沖縄には、ギャラクトロンMK2が再度出現。街を踏み潰しながら、こちらのいる方向に向かって進み出す。

 

「ギャラクトロンMK2!」

「今度は本気ね……!」

 

 雪乃が叫び、千早がくっとうめいた。

 この事態にウルトラ戦士は黙ってなどいない。ガイがリクに呼びかける。

 

「リク、行くぞ」

「はい!」

 

 ガイの後に続いて、ジードライザーで変身をしようとするリクの側に、八幡が並んだ。

 

「リク、俺も行かせてくれ」

「八幡!」

「どう見ても今までになくやばい事態だからな。ジーッとしてなんか、いられねぇんだよ」

 

 リクは一瞬逡巡したが、決心がついたか八幡の申し出を受け入れる。

 

「分かった。僕に力を貸してくれ」

「おう!」

 

 後ろの方で海老名が鼻息を荒くしているのを、三浦にたしなめられていた。

 

「ハッチー、あたしたちも……」

 

 結衣と雪乃も協力しようとしたが、八幡にさえぎられた。

 

「あれはただの使いっ走りだろ。敵はまだまだ大勢控えてるはずだ。それに……」

 

 そこから先は声を潜めて、リクに視線を向けながら二人にのみ告げる。

 

「何か嫌な予感がする。もしもの時のために、お前たちは備えといてくれ」

「……分かったわ」

 

 八幡の真剣な様子に、雪乃たちは後ろに引いた。

 ギャラクトロンはどんどんと接近しつつある。その前に、リクとガイはともにウルトラ戦士への変身を行う!

 

「行くぞ!」

 

 リクの身体からまばゆい光が発せられ、八幡を覆う。

 その光の中で、八幡がウルトラマンカプセルを起動した。

 

「ユーゴーッ!」『シェアッ!』

 

 スイッチを入れるとウルトラマンのビジョンが八幡の横に現れて腕を振り上げ、八幡はカプセルを装填ナックルに収める。

 続いてホルダーからベリアルカプセルを取り出す。

 

「アイゴーッ!」『フエアッ!』

 

 ベリアルカプセルからも同様にウルトラマンベリアルのビジョンが現れ、二つのカプセルをナックルに装填した。

 

「ヒアウィーゴーッ!!」

 

 カプセルを装填したところでジードライザーをスキャンし、二つを順々にスキャン。

 

[フュージョンライズ!]

「おおおおお……!」

 

 二重螺旋が点灯したライザーを、八幡が胸の前に掲げ、

 

「はッ!」

 

 ライザーのトリガーを握り、フュージョンライズ!

 

「ジィィィ―――――――ドッ!」

 

 八幡の身体が初期変身を介して、ウルトラマンジードのものへとなっていく!

 

[ウルトラマン! ウルトラマンベリアル!]

[ウルトラマンジード! プリミティブ!!]

「シュアッ!」

[ウルトラマンオーブ! スペシウムゼペリオン!!]

 

 八幡とリクの力が合わさって変身したウルトラマンジードと、ウルトラマンオーブが同時に飛び出していき、ギャラクトロンの前に堂々と着地した。

 

『「決めるぜ! 覚悟!!」』

『俺たちはオーブ! 闇を照らして、悪を撃つ!!』

 

 ジードとオーブ、二大戦士が地球の全生命を消し去ろうとする恐怖の人工頭脳の遣いへと立ち向かっていく!

 



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冷酷なるジャッジメンターとの戦いの果ては。

 

 オオオォォォ――――――……!

 変身を遂げて沖縄の街の中に立ち上がったジードとオーブに、ギャラクトロンMK2が早速標的にしてまっすぐ向かってくる。ジードたちはそれを完全と迎え撃つ。

 

「ハッ!」

「シュアァッ!」

 

 間合いを詰めたジードとオーブは、先制攻撃としてそれぞれ前蹴りとパンチを食らわせた。しかしギャラクトロンは二人の同時攻撃にびくともせず、腕に備わった刃を振り回してくる。咄嗟に回避するジードたち。

 

「トゥアッ!」

 

 オーブはバク転でギャラクトロンから距離を取ったが、ジードは掴まって投げ飛ばされた。背中から叩きつけられるジード。

 

「ウワァァッ!」

「ジードん!」

「やべーし!」

 

 戦いを見守る結衣と戸部が思わず声を上げた。ギャラクトロンは倒れたジードに追撃を掛けようとするが、それを制してオーブが左腕と右腕をそれぞれ横と上にピンと伸ばした。

 

「『スペリオン光線!!」』

 

 ギャラクトロンは即座に攻撃を中断し、肩の装置からシャッターを閉じるようにバリアを張って飛んできた光線を遮断。バリアは割られるが、ギャラクトロン自体にダメージはない。

 この間にジードは立ち上がって体勢を立て直した。

 

「危なかったな……」

「先輩たち! しっかり!」

 

 窮地を救われたジードに平塚がほっと安堵し、いろはが声援を飛ばした。

 ジードが隣に並ぶと、オーブが再びフュージョンアップして形態を切り替える。

 

[サンダーストリーム!!]

「フゥンッ!」

 

 目つきが鋭くなり赤黒の上半身となったオーブの姿に、ジードが思わず吃驚。

 

『似てる!』

『「気にしないの!」』

 

 ジードの肩をバンと叩いたオーブがギガトライデントを握る。

 

「『ジードクロー!!」』

 

 ジードの方はクローを召喚し、ともにギャラクトロンへ再度突貫していく。

 

『行くぞぉッ!』

 

 武装した二人に対抗するように、ギャラクトロンが後頭部のトサカを切り離して武装。大斧ギャラクトロンベイルでギガトライデントの刺突を受け止める。

 

「フゥゥンッ!」

「ダァァッ!」

 

 ジードクローの振り下ろしは反対の腕で受け止めつつ、胸をぶつけて二人をはね飛ばした。

 

「ヌアッ!」

 

 地面を転がったジードたちだがすぐ起き上がり、ジードは両腕にエネルギーをスパーク、オーブはギガトライデントを地面に突き立てて二人同時に必殺技を繰り出す。

 

「『サンダーストリームネプチューン!!」』

「『レッキングバースト!!」』

 

 地面を蛇行していく光の奔流と必殺光線に対し、ギャラクトロンは再びバリアを展開。二人の攻撃が大爆発を巻き起こすが、黒煙の中からギャラクトロンが悠々と脱け出てきた。

 

「全然効いてないし!」

「頑丈だな……」

 

 ジードたちの猛攻をものともしないギャラクトロンに、三浦と葉山が冷や汗を垂らした。

 

 

 × × ×

 

 

 ジードとオーブがギャラクトロンと激戦を繰り広げている頃、宇宙空間に次元の穴が開き、そこからウルティメイトフォースゼロの五人が現れた。宇宙警備隊からの緊急連絡を受け、地球の救援のために駆けつけたのだ。

 だが、

 

『見ろ、バリアが張られていく!』

『マジか!』

 

 ミラーナイトたちの眼下の地球はデジタル化したクシアに覆われ、更に地球全体をバリアがどんどんと囲っていた。赤き鋼の奪取まで、他の邪魔者を立ち入らせないようにするギルバリスの計略だ。

 

『このままでは、地球に降りられなくなる!』

『よぉーし……!』

 

 焦るジャンボットの傍らのゼロは、意を決してまっすぐに地球へと飛び込んでいった!

 

『ゼロちゃんッ!』『ゼロッ!』

 

 バリアが地球を覆い切る、その寸前ギリギリのところを、ゼロはバリアの間隙を通り抜けて大気圏突入に成功した。

 

『相変わらず無茶な真似を……』

『僕たちはここから見守るしかないのか……』

 

 バリアが閉じ切る前に地球に入ることが出来たのはゼロだけ。残る四人は、バリアを破る手段を持っていなかった。

 グレンファイヤーは地球上の三人のウルトラ戦士に望みを託す。

 

『頼んだぜゼロ! オーブ! そしてウルトラマン……ジー……ジーフ……ジータ?』

 

 首をひねったグレンファイヤーがポンと手を叩いた。

 

『あッそうだ、ジード!!』

 

 

 × × ×

 

 

 サンダーストリームネプチューンとレッキングバーストの合わせ技を凌いだギャラクトロンに対し、ジードとオーブは同時にタイプチェンジ。

 

[リーオーバーフィスト!!]

[レオゼロナックル!!]

 

 遠距離攻撃はバリアに阻まれるとして、近接戦闘に長けた形態にチェンジし、ギャラクトロンに飛び掛かっていく。

 ギャラクトロンが繰り出す戦斧の斬撃を、ジードが斧の側面を殴って軌道をそらし、その隙にオーブが斧を掴んで動きを止めた。

 

「デヤァッ!」

 

 オーブが隙を作っている間にジードが燃える脚の蹴り上げをギャラクトロンにお見舞い。相手の体勢が崩れたところでオーブも鉄拳を食らわせた。

 

「フッ! ハァッ!」

「デアァッ!」

 

 二人の強烈なパンチとキックが炸裂するも、ギャラクトロンは一回転しながらの水平斬りでジードたちに反撃。二人が押されて後ずさる。

 

『「つぅぅッ……!」』

 

 八幡の腕がジンジンと痺れる。八幡にも相当なダメージが行くほど、ギャラクトロンの攻撃は強力であった。

 更にギャラクトロンは、戦斧を投擲してくる!

 

『「なッ!?」』

 

 一瞬身構えた八幡だが、ジードたちの目の前に空からウルティメイトゼロが高速で降り立ち、剣の切り上げで斧を弾き返した。

 

『おりゃあッ!』

 

 斧を弾いてジードたちを助けたゼロはウルティメイトイージスを解除し、ブレスレットに戻した。

 

『あれは!』

「おおッ、ゼロぉ!!」

 

 ゼナの傍らで、ずっと黙していた材木座が歓喜の声を上げた。

 

『ゼロ!』

『待たせたな』

『お久しぶりです、ゼロさん』

 

 三人目のウルトラ戦士の登場に斧をキャッチしたギャラクトロンが警戒している間に、オーブがゼロに挨拶した。

 

『おう! 今は仲間と一緒に旅してるんだな、オーブ』

『ええ』

『主役は遅れて来るって奴ですか?』

 

 ジードがトントンと手首を叩いて腕時計のジェスチャーを取った。

 

『まぁな。さぁ行くぜ! 俺たちのスーパーノヴァ、見せてやろうぜッ!』

『はい!』

『「おっしゃ!」』

 

 八幡たちの力強い返事を背に受けながら、ゼロがギャラクトロンに肉薄する!

 

「シェアッ! オラッ!」

 

 回し蹴りで戦斧を弾くと、肩を捕らえてバリア発生装置のトゲに狙いをつける。

 

『エメリウムスラッシュ!』

 

 額のビームランプから照射されるレーザーが、両肩のバリア装置を破砕! これでもうバリアは使用できない。

 

「『ナックルクロスビーム!!」』

「『バーニングオーバーキック!!」』

 

 そこにオーブの額からの光線と、ジードの炎の飛び蹴りがギャラクトロンを襲った!

 

「シャッ!」

 

 転がって攻撃の直撃をもらったギャラクトロンから離れたゼロは、同時にルナミラクルゼロに変身。ジードたちの方も三度のタイプチェンジ。

 

[ムゲンクロッサー!!]

[スラッガーエース!!]

 

 ゼロツインソード・ネオとバーチカルスラッガー、ミラクルゼロスラッガーを駆使した三人の縦横無尽の斬撃が、ギャラクトロンを八方より攻め立てる!

 

「すごい!」

「やれやれー!」

 

 三人の目にも止まらぬ斬撃の嵐にライハが感嘆し、陽乃が腕を伸ばして歓声を送る。

 ゼロたちは空中で集い、ジードとオーブがギャラクトロンの左右を抜けるコースで急降下していく。

 

「「ハァッ!」」

 

 二人の一閃が入ると、ゼロがストロングコロナゼロとなってギャラクトロンの正面から拳を叩き込んだ。

 

『ガルネイトバスタァァーッ!』

 

 決まった――と思われたが、ギャラクトロンは金色に発光してゼロを押し返した!

 

『おわッ!?』

「ゼロ!?」

 

 衝撃をそのまま返されて倒れ込むゼロ。材木座も目を見張る。

 

[ダンディットトゥルース!!]

[ストリウムギャラクシー!!]

 

 ともにウルトラホーンのある形態となったジードとオーブがギャラクトロンの正面に回り込み、立ち上がったゼロと今度は三位一体の拳撃をギャラクトロンに浴びせた!

 

『うらぁぁぁッ!』

 

 これには流石によろめいたギャラクトロンだが、よく見ればこれだけの攻撃を食らい続けて、大した損傷が見られない。

 

「あれだけやられて、ほとんど無傷なんて……!」

「ウルトラマーン! 頑張ってー!」

 

 動じる雪乃の一方で、海老名が声を張ってジードたちを応援した。

 が、街では大変な事態が起こっていく!

 

「うわああぁぁぁぁぁ―――――!!」

「!? 街の人たちが……消えていく!?」

 

 地球がデジタル化した惑星クシアに覆い尽くされたことにより、ギルバリスの侵蝕が地球上の生命を襲い、人々がデータ化されてデジタルの空に吸い上げられていくのだ。

 雪乃たちも衝撃を受けたが、それ以上に動揺したのがジードであった。

 

『街の人たちがッ!』

 

 焦ったジードは、八幡を待たずに念力でライザーとカプセルを操作し、勝手にカプセルを入れ替えてフュージョンライズした。

 

[ノアクティブサクシード!!]

『「!? 待つんだジード……!」』

 

 手中からライザーが離れた八幡が驚いて制止したがジードは聞かず、ウルティメイトゼロソードを振り上げてギャラクトロンに突っ込んでいく。

 

『みんなを守らなくちゃ! 僕がッ! 僕がぁぁぁぁぁッ!!』

「リク! 冷静になって!!」

 

 ライハも叫んだが遅かった。

 ギャラクトロンは向かってくるジードに、腹部から怪光線を浴びせる。

 

「ウワァァッ!?」

 

 するとジードの身体がたちまちの内にプリミティブの状態に戻された上に、データ化されて消されていった!

 

「は、八幡くんっ!!」

 

 絶叫した雪乃を始めとして、全員がジードの消滅に唖然となった。

 

 

『う、うわああぁぁぁぁぁぁッ……!!』

 

 ギャラクトロンが放った電脳ウィルスによってギルバリスの電脳空間に引きずり込まれてしまったジードは、データ化した肉体が急速に分解される猛烈な苦痛に襲われていた。逃れようとしても、身動き一つ取ることが出来ない。

 

『こ、このままじゃ……!』

 

 絶体絶命のピンチ。しかしそこに、電脳空間に突入したオーブトリニティが救出に駆けつける。

 

『しっかりしろ、ジード!』

『オーブさん……!』

 

 ジードを抱え、現実空間へと引き返そうとするオーブ。――だがそこにギルバリスの魔の手が襲い掛かり、電脳ウィルスが四方からオーブたちに牙を剥いた!

 

『ぐわああぁぁぁぁぁッ!』

 

 二人纏めてウィルスに侵されるジードたち。このままではもろともデータの海の藻屑となってしまう!

 すると、八幡がジードに呼びかけた。

 

『「ジード……お前には、まだ命を守る使命があるだろ……」』

『八幡、何を……!?』

『「まだ雪乃たちもいるしな……後は、頼んだぜッ!」』

 

 データ化されている八幡がジードから抜け出て、ジードを電脳空間と三次元世界をつなぐ穴に向けて押し出したのだ!

 

『はちまぁぁぁぁぁぁぁんッ!!?』

 

 これによってジードの肉体データは間一髪で現実の空間に戻されたが――八幡が電脳空間に残されたまま、オーブの力が途絶えて穴が閉じてしまった。

 

『そんな……!!』

 

 八幡を犠牲にしてしまったジードは、絶望のあまりにギャラクトロンに無策で突進していく。

 

『よくもッ、よくもぉぉぉぉぉおおおおおおおッ!!』

 

 しかしその行動は読まれており、ギャラクトロンが腕からの光線の一斉放火を放ってくる!

 

『はッ!?』

『危ねぇッ!』

 

 ゼロとオーブオリジンが咄嗟にジードをかばったが、そのために彼らが光線の直撃を食らってしまった! 巻き起こる大爆発!

 

「ゼロぉ!?」

「プロデューサーぁぁ!!」

「ガイッ!!」

 

 叫ぶジャグラーたち。爆発に吹っ飛ばされたジードの眼前からは……ゼロとオーブの姿が、どこにもなくなっていた。

 

『ゼロ!! オーブさん!!』

 

 二人までもやられたジードは、遂に激情に染まり切った。

 

『うわあああああぁぁぁぁぁぁァァァァァァァァアアアアアアアアアアッ!!!』

 

 双眸が真っ赤に変色したジードが腕を鉤十字に組み、光が混じらない暗黒光線を発射する。

 

『レッキングバーストォォォォォオオオオオオオオオッ!!』

 

 突貫しながらのレッキングバーストがギャラクトロンに直撃。更にそのまま押し倒して光線を浴びせ続け、ギャラクトロンの装甲をバキバキに砕いていく。

 耐久の限界に達したギャラクトロンが爆裂して四散。そこでようやく正気に戻ったジードは、同時にエネルギーが底を突いて、倒れながら変身が解除された。

 

「うぅ……」

「リクぅ!!」

 

 倒れたまま失神したリクの元へと、ペガたちが慌てて走っていった。

 

 

 × × ×

 

 

 雪乃たちは倒れたリクを抱えながら、星雲荘が停泊している砂浜にまで引き返してきた。愛瑠がリクの手当てをしている間に、現在の状況を纏める。

 

「そ、そんな……ハッチーが……」

「天海さんまで、ギルバリスの餌食に……」

 

 八幡がジードを救う代わりに、電脳空間に取り残された。状況を分析した律子からの報せに、結衣たちは言葉を失って力なく立ち尽くした。

 律子たちも悔しそうにうなだれている。八幡と同じように、春香もオーブを救うために彼の身代わりとなって、電脳空間に取り残されたのだ。更にはオーブも消息不明なので、ショックは彼女たちの方が上かもしれない。

 まだある。平塚はレムから報告を聞いていた。

 

「そうか……私の生徒たち、みんな……連絡がつかないか……」

[申し訳ありません]

「いいんだ。君のせいじゃない……」

 

 ギルバリスのサイバー浸食によって、地球上の全ての通信網が切断。沖縄以外の全地域、もちろん千葉市とも、一切の連絡がつかなくなっているのだ。

 

「……地球は、一体どうなっちまうんだろうな……」

 

 様々な悪報が舞い込んで、いつも根拠なく明るい戸部すらもふさぎ込むほどであった。

 皆が沈んでいると、愛瑠から生命エネルギーを分け与えられたリクがうっすらと目を開けた。

 

「愛瑠さん……」

「よかった……」

 

 目を覚ましたリクに、皆の目が集まる。

 

「大丈夫? リク……」

 

 案ずるペガにうなずきながら、ゆっくりと身体を起こしたリクは、皆に問いかける。

 

「ゼロと、ガイさん、春香さんは……?」

 

 だが、誰もが沈黙したまま。それでどうなったかを察するリク。

 

「僕のせいで……」

 

 わなわなと手を震わせながら、リクは自責の念に駆られた。

 

「ガイさんが、忠告してくれたのに……それを無視して……ウルトラマン失格の僕は、ヒーローなんかじゃないッ!!」

「やめてっ!」

 

 自棄を起こすリクを、いろはが喚くように制止する。

 

「ウルトラマンはもうリク先輩しか残ってないんですよ!? リク先輩がそんなこと言ってたら……誰が先輩を……」

「だってそうじゃないかッ!!」

 

 だがリクは聞き入れない。

 

「すぐ隣にいた人すら守れなかった……。MK2より強いんでしょ、ギルバリスは……。僕一人じゃ、地球は守れないッ!!」

 

 誰よりも己を責めるリクに、雪乃たちは掛ける言葉が見当たらない。

 ――いや、愛瑠が前に出て、リクの腕を掴んだ。

 

「リクくん、来て」

 

 短く呼び掛け、愛瑠はリクを連れていった。

 

 

 赤き鋼が置かれていた場所までリクを引っ張ってきた愛瑠は、そこでリクに説き始めた。

 

「この星の人々は、平和を、幸せを、祈り続けてきた。時に過ちを犯したとしても、常に希望を抱き、決してあきらめなかった……。この星で、ギガファイナライザーを使える正しい人に出会える。そう信じて、待ち続けてきたの。――そして、あなたがやってきた」

「……だけど、僕は選ばれなかった……。前の時は何かのまちがいだったんだ……」

 

 落ち込み続けるリクの両腕を、しっかと掴む愛瑠。

 

「あなたしかいないの! 宇宙を、この地球を、そして命をっ! ギルバリスから護れるのは、あなたしか!」

 

 愛瑠が必死に呼び掛けても、リクは口を閉ざしたまま答えない。

 そうして、愛瑠が告げた。

 

「――まちがっているのは、今のあなた。あなたは大事なことを忘れてる」

 

 その愛瑠の言葉で、リクはようやく顔を上げた。

 

 

 × × ×

 

 

 愛瑠がリクと話をしている頃、星雲荘には緊急警報が鳴り渡っていた。

 

「どうしたの、レム!」

 

 聞きつけて駆け込んできたライハが問うと、レムが皆に事態を報告した。

 

[周辺に、無数のギャラクトロンが転送されています]

 

 

 サイバー浸食された空に次々と魔法陣が現れ、その一つ一つからギャラクトロンが投下。沖縄の街を蹂躙していく。

 ウオォンッ、ウオォンッ……!

 

「きゃあああああぁぁぁぁぁぁぁぁ―――――――――――――――!!」

 

 悲鳴を上げてギャラクトロンの軍団から逃げ惑う沖縄の人々。しかし、今の地球のどこに逃げられる場所があるというのか。

 

 

『総力を挙げて、ギガファイナライザーを奪うつもりか……!』

 

 モニターに表示された外の惨状にゼナがそう発した直後に、結衣がハッと気がついて脂汗を垂らした。

 

「ちょっと待って! さっきの戦いから、まだ一時間も経ってないよ!?」

「えっ? どういうこと?」

 

 海老名が聞き返すと、レムが今の言葉の意味するところを告げた。

 

[リクは二十時間のインターバルを挟まないと、ジードにフュージョンライズすることが出来ないのです]

「えぇーッ!? そ、それって超やべーじゃんッ!!」

 

 戸部が仰天して声を荒げた。

 

 

 ゼロとオーブが消え、ジードも変身することが出来ず。ウルトラ戦士がいない沖縄を、ギャラクトロン軍団が我が物顔で侵攻していく!

 



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今が少年から大人になる時だ。

 

 ギャラクトロン軍団の沖縄襲撃はリクと愛瑠もすぐに察知し、森林を抜けてきたが、その二人の近くにまで既に三機ものギャラクトロンが迫っていた!

 

「うっ!」

 

 ギャラクトロンの一機から放たれた光線からどうにか逃れると、愛瑠がペンダントを掲げる。

 

「グクルシーサー!」

「ウオオオォォォン!」

 

 ペンダントから大地を守護する聖獣グクルシーサーが召喚され、ギャラクトロン一機に飛び掛かって動きを封じ込む。

 グクルシーサーが時間を稼いでいる間に、ジャグラーが愛瑠の傍らに現れて呼び掛けた。

 

「おい、そのペンダント貸せ。そいつには生命のエネルギーを増幅する力があるんだろ?」

 

 突然の要求にためらう愛瑠だが、グクルシーサーだけでは多数のギャラクトロンを抑えていられるはずがない。

 

「早くッ!」

 

 ジャグラーが声を荒げて、愛瑠はペンダントを彼に渡した。ジャグラーはリクにも目を向ける。

 

「テメェは戦わねぇのか」

「……僕は……」

 

 まだ先ほどのショックが抜け切れていないリクは後ずさりし、座り込んだ。どの道、二十時間経過しなければ再度フュージョンライズすることは出来ない。

 

「臆病モンが。引っ込んでろ」

 

 リクに見切りをつけたジャグラーは、ペンダントの力で自らの生命力を増大させ、巨大な魔人態となってギャラクトロンと互角に戦えるだけの状態となった。

 

『はぁッ!』

 

 蛇心剣を抜いてギャラクトロンの一体に猛然と肉薄していき、振るわれたギャラクトロンブレードを弾いて袈裟斬りを叩き込んだ。

 グクルシーサーやジャグラーが戦っている間に、ペガを星雲荘に残した雪乃たちはリクの元を目指して全速力で走っていた。

 

[皆さんは、リクとギガファイナライザーの保護をお願いします]

『うむ。急ぐぞッ!』

 

 ゼナが皆を急かすが、三浦たち一般人組はついていけず、置いていかれがちになっている。

 

「そ、そんなこと言ったって……何であーしらまで……」

「地球を守るってすげーしんどいべ……」

「そんなこと言っていられる状況じゃないぞ……!」

 

 こめかみに冷や汗を流す葉山。ジャグラーが戦闘に加わっても、まだ数で圧倒的に負けている。彼らの周囲には、続々とギャラクトロンが集まってきていた。

 

「まずい……囲まれてるぞ!」

「せ、先輩……!」

「ハッチー……!」

 

 憔悴する平塚。結衣やいろはが思わず八幡に祈ったが、八幡は今はどこにもいないのだ。

 その代わりのように、千早が皆に振り返って告げた。

 

「ここは私たちに任せて!」

 

 そう言って765プロアイドルたちは、二人ずつオーブライトリングの力を用いて、六人のウルトラマンオーブとなってギャラクトロンの軍勢に立ち向かっていった。

 

『「はぁっ!」』

 

 スカイダッシュマックス、フォトンビクトリウム、ゼペリオンソルジェント、ナイトリキデイター、パワーストロング、ブレスターナイトの六人がギャラクトロンの包囲を撹乱し、注意を引きつける。

 

「今の内っ!」

 

 陽乃の一声を合図として、再び走り出す一同。だが、敵はギャラクトロンだけではなかった。

 無数の魔法陣が森林の間に出現し、そこから単眼のアンドロイドの大群が、片刃の剣を振り上げながら雪乃たちに襲い掛かってきたのだ!

 

「ひぃぃぃ―――――!? 何だぁこいつら!?」

『ギルバリスの送り込んだ兵士かッ!』

 

 アンドロイド兵士バリスレイダーに情けない悲鳴を上げる材木座。ゼナや陽乃は即座に銃を抜いてバリスレイダーに発砲していき、ライハも剣を抜いて斬りかかっていった。

 

「やぁぁーっ!」

 

 だが他の者たちはあくまで一般人。バリスレイダーに対抗できるだけの力を持ってなどいない。数も多く、ライハたちだけではとても守りながら戦うことは出来ないのだ。

 

「いやあああぁぁぁぁぁぁぁ―――――――! 来るんじゃなかったぁぁぁぁぁっ!」

「くっ……! こっちに来るな!」

「ち、ちくしょおッ……! 姫菜だけでも守るぜッ!」

「ぬふぅ……!」

 

 敵に囲まれて絶叫する海老名。平塚や、葉山、戸部や材木座も男を見せて、枯れ枝をせめてもの武器としてバリスレイダーを遠ざけようとする。

 

「朝倉さんは大丈夫なのか……!?」

 

 姿を確認することが出来ないリクの身を案ずる葉山。一方で、雪乃はバリアに覆われている空を一瞬見上げた。

 

「八幡くん……!」

 

 

 × × ×

 

 

 電脳ウィルス攻撃によってデータ化されてしまった八幡は、目を開けたら、光のない暗黒の世界の中にいた。

 

『ここは……そうか、俺はジードをかばって……』

 

 己が最後にしたことを思い出した八幡は、辺りに目を走らせるが、目の前はどこも真っ暗闇であり、自分の身体が今どうなっているのかも分からなかった。

 

『電脳空間、でもなさそうだな……。もしかして、ここが死後の世界って奴か……?』

 

 想像力を働かせた八幡は、口をへの字に曲げて自嘲した。

 

『全く、嫌になるな……。ホント俺、何回死ぬんだか……』

 

 他に出来ることは一つもなく、ぼんやりと自嘲の言葉を吐くのみ。

 

『けど、死後の世界にまで来ちまったのはこれが初めてになるのか……? ハハ、こいつはもう助からねぇのかもなぁ……。せめて、あいつらや小町が無事に生き残れればいいんだが……』

『――なっさけねぇこと言ってんじゃねぇよ、比企谷』

 

 突然、暗黒の世界の中に、自分以外の声が確かに聞こえた。

 

『誰だ!?』

 

 反射的に振り返った八幡の目に映ったのは、闇の中に一つだけほのかに浮かび上がる、人間の背中。

 

『あんだけしぶとく生き返りまくってたってのに、こんな程度のことで参ってんじゃねぇっての。ほら、帰りはこっちだぜ』

『あッ……おい!?』

 

 その背中が遠ざかっていく。八幡は必死に足を動かし、闇を手でかき、小さくなる背中をどうにか追いかけていく。

 あの背中は誰だ。どこかで見たような……声も、何度も聞いたような……だけど、こんな世界にいるからか、考えが纏まらない……。

 そうして背中を追い続けていく内に、その先に光が見えた。

 

『ほらよ、みんな待ってるぜ。お前の仲間たちがよ』

 

 光がどんどん大きくなり、八幡の視界を塗り潰していく。そうして目の前が真っ白になる直前、自分を導いた背中が振り向いた。その顔は――。

 

『――お前は……!』

 

 最後に見えたのは、一点の曇りのない紅玉色の瞳――。

 

 

 × × ×

 

 

 懸命にギャラクトロン軍団を押し返していたグクルシーサー、ジャグラー、765プロアイドルたちだったが、それでも圧倒的な物量の差と、二体目のMK2の前に崖っぷちにまで追いつめられていた。

 

『ぐッ! ぐわぁッ!』

「ウオオオォォォン!」

 

 ジャグラーとグクルシーサーが叩き伏せられる。そこに星雲荘が飛来してきた。

 

[援護射撃を開始します]

 

 星雲荘の船体から偏光ビームが放たれ、ジャグラーたちを斬りつけるギャラクトロンの背面を撃ち抜いた。ペガが星雲荘から叫ぶ。

 

「みんな、大丈夫!?」

『お前ら遅せぇよ』

 

 森林の中では、ライハが剣を振るってバリスレイダーの関節を切り裂き、次々に行動不能に追い込んでいっている。だがバリスレイダーは数の増加が留まるところを知らない。

 

「これじゃキリがないわ……!」

 

 更に、彼女やゼナたちはバリスレイダーの群れに押され、雪乃たちからどんどん遠ざけられていた。

 

『まずいぞ! 先にあっちをやるつもりだ!』

「雪乃ちゃんっ!」

 

 材木座らが必死の抵抗をするが、所詮枯れ枝など簡単に切り払われてしまう。真っ二つにされた枝を見て、絶望に嘆く材木座。

 

「も、もう駄目だぁぁ……。こんな時に、ゼロがいてくれたらぁ……」

『ったく、弱音吐いてんじゃねぇぞ義輝。俺と一緒に戦い抜いた日々を思い出せ』

 

 いきなり、材木座の脳内に、待ち望んだ声音が響いた。

 

「ふおぉッ!? こ、この声はッ!」

 

 材木座がおもむろに眼鏡を外すと――目つきが一変して、襲い掛かってきたバリスレイダーを肘撃ちと足払いで軽く返り討ちにした!

 

「うっそ!? 強っ!」

「待って! あなたまさか……!」

 

 急に強くなった材木座に三浦たちが度肝を抜かれたが、雪乃は今の材木座の雰囲気から、今は何者かを理解した。すなわち、

 

「ぜ、ゼロぉぉ! 無事だったんだな!」

「ヘヘヘ。俺の心配なんざ、二万年早いぜ」

 

 材木座が懐から取り出したのは、ウルトラゼロアイNEO。ゼロが再び彼の身体に憑依した証拠だ!

 

「間一髪、シャイニングの力で時間を超えて、攻撃から逃れたって訳だ」

 

 ゼロとオーブは集中砲火でとどめを刺されそうになった瞬間、シャイニングウルトラマンゼロの時間跳躍で未来に脱出していた。だから跡形もなく消えたのだ。

 

「だが、一度シャイニングになると消耗が半端なくってな。久しぶりに頼んだぜ、義輝!」

「もちろんだ! ゼロ!!」

 

 材木座は嬉々として、ゼロアイを自身の顔に装着した!

 

「デュワッ!」

 

 材木座から変身した勢いで、群がるバリスレイダーを纏めて吹き飛ばして飛び出していったゼロが、ギャラクトロンの一体に飛び蹴りを決めた。更にその体勢からネオ・フュージョンライズ!

 

『ブラックホールが吹き荒れるぜ!』

 

 ゼロビヨンドの百裂キックが抵抗も許さずにギャラクトロンを粉砕した!

 

「やったぁっ!」

「今の内だ!」

 

 バリスレイダーの包囲が破られたことで、平塚を先頭に雪乃たちがリクの元へと走っていく。その護衛にライハがつき、追おうとするバリスレイダーはゼナと陽乃の銃撃が足止めした。

 

「いた! あそこ!」

 

 海老名が指差した先に、まだへたり込んだままのリクの姿があった。そこにバリスレイダーの別動隊が襲い来るが、ライハの剣が止める。

 その間に、雪乃がリクに向けて叫んだ。

 

「リクさん! 私たちは、リクさんを信じます! 勇気を燃やして立ち上がって下さい!!」

 

 雪乃に続き、結衣が叫ぶ。

 

「負けないで! あのロボットたちに、衝撃を見せてやって!!」

 

 平塚も叫ぶ。

 

「私たちみんなの希望を守ってくれ!!」

 

 いろはもまた、リクに訴えかけた。

 

「どうか、地球の運命を変えて下さい!!」

 

 皆の願いの言葉を耳にして、リクがゆっくりと立ち上がっていく。

 

「みんな……!」

 

 しかしその時に、愛瑠を守っていたグクルシーサーがギャラクトロンのクローに吹っ飛ばされる。

 

「ウオオオォォォン!」

「グクルシーサーっ!」

 

 無防備になった愛瑠に、ギャラクトロンのレーザーが襲い掛かる!

 

「くぅっ!!」

 

 愛瑠はペンダントからバリアを張り、レーザーをどうにか受け止める。

 

「愛瑠さん!!」

 

 目を見張ったリクに、愛瑠はレーザーを防ぎながら呼び掛けた。

 

「リクくん……君は一人じゃない! たくさんの素敵な仲間がいること、忘れないでっ!!」

 

 そこまで語ったところで限界が来て、バリアが破られる。

 

「あああぁぁっ!!」

 

 業火の中に呑み込まれる愛瑠。

 

「愛瑠さぁんッ!!」

 

 絶叫するリク。戦っていた者たちも、愛瑠の惨状に目を見張った。

 

「ウオオオォォォン!」

 

 愛瑠をやられたグクルシーサーは憤怒し、エネルギーの塊となってギャラクトロンに突進し、破壊した。リクは慌てて愛瑠の側に駆け寄る。

 

「愛瑠さんッ!」

 

 愛瑠を抱きかかえるリクだが、既に彼女の息は絶え絶えだ。

 

「リクくん……」

「愛瑠さん……僕がまちがってた……! みんなを守らなきゃって、僕が頑張らなきゃって意地張って……! 周りが見えなくなって……!」

 

 後悔に襲われるリクに、愛瑠は虫の息でありながらリクに説き続ける。

 

「リクくんは……運命に抗い……未来を、変えてきた……。でも、それは……支え合う、仲間の、笑顔が、力になってくれたから出来たこと……。君は、ひとりじゃない……。あなたたちなら……できる……。だって――あなたたちは――」

 

 最後の言葉を残して――愛瑠が光となって消えていき、後には赤き鋼だけが残された。

 

「――愛瑠さぁぁぁぁぁんッッ!!」

 

 天を仰いで絶叫したリクに、ライハが願う。

 

「立ってリク! 愛瑠さんが愛した地球を護るために!!」

 

 ――皆の願いをその身に受けたリクは、赤き鋼を握り、立ち上がった!

 

「僕は……僕は強くなるッ!!」

 

 心を込めて宣言したリクが手を突き出し、その手の中の赤き鋼に覆われていた石のコーティングが剥がれた。

 ジェンドロンとの戦いの際に一時的に手にしていた、選ばれた戦士の証、必勝激聖棍ギガファイナライザーが真にリクを選んだのだ。

 

「――!」

 

 それとともに、リクの胸元からカプセルが浮かび上がった。それはギガファイナライザーと同じく、一度だけ起動してからずっと空になったままだったリク自身のカプセル。

 ウルトラマンジードの本来の力を呼び覚ます、エボリューションカプセルの、本当の覚醒だ!

 

「……!」

 

 左右の手にギガファイナライザーとエボリューションカプセルを握ったリクの手に――光に覆われた手が重ねられた。

 その手の主は――データ化されたままだが、確かにリクの隣に戻ってきた、八幡であった。

 

『覚悟だったら、とっくに決めてる。だろ?』

「――ああ!」

 

 八幡にあらん限りの力でうなずいたリクは、彼を自身の身体に重ねてギガファイナライザーを構えた。

 

「ジーッとしてても!」『ドーにもならねぇ!』

 

 八幡のデータを纏うリクが、エボリューションカプセルのスイッチを入れる。

 

「ウルティメイトファイナル!」

『シェアッ!』

 

 カプセルからのビジョンを更に纏い、カプセルをギガファイナライザーのスロットに収め、ジードライザーでスキャン。

 

[アルティメットエボリューション!!]

「『つなぐぜ! 願い!!」』

 

 宣言したリクがギガファイナライザーのスイッチを押してレバーをスライド。穂から羽がせり出すと、両腕を腰に構えて溢れ出るエネルギーを全身に巡らせる。

 

「『ジィードッ!」』

 

 リクたちの身体が、あの時と同じ、フュージョンライズではない全く新しいジードの姿に変わっていった!

 

[ウルトラマンジード!! ウルティメイトファイナル!!!]

「シャアアアアッ!」

 

 ギガファイナライザーを握り締めて立ち上がったウルトラマンジード!

 ――その身体から生じる閃光を、願いを送った雪乃たち四人が浴び、彼女たちも肉体が変身していく。

 

「これは……!」

「この光……あたしたちも……!」

 

 そうしてジードの両隣に四つの光が現れ、それぞれが戦士の形となる。

 雪乃を宿したソリッドバーニング! 結衣を宿したアクロスマッシャー! 平塚のマグニフィセント! いろはのロイヤルメガマスター!

 ジード本来の能力が増幅されたことにより発現した奇跡、ジードマルチレイヤ―!

 

『「うわぁぁ~! わたしたちもジードになっちゃってますよぉー! びっくりぃ!」』

『「おぉぉぉっ!! すごすぎるぞジード! 感激だぁ~!!」』

 

 いろはが自分の手の中のキングソードを思わずなで回し、平塚は感動のあまり泣いていた。

 雪乃と結衣は、ジード・ウルティメイトファイナルに顔を向ける。

 

『「ふふっ、遅かったじゃない。こんな時に寝坊なんてどうしようもないわね」』

『「だけどお帰り――ハッチー!」』

 

 ジードのインナースペースには、八幡が完全な状態で復活していた!

 

『八幡、無事でよかった。だけど、どうやって?』

 

 尋ねたジードに、八幡が苦笑しながら答えた。

 

『「助けてくれたんだよ。友達がな」』

 

 復活を遂げたジードの勇姿に、星雲荘の内部のペガが興奮の声を上げた。

 

「あの時の姿だぁ! でも、まだ二十時間経ってないのに変身できたなんて」

[撃ち込まれたサイバーウィルスをギガファイナライザーで制御、増幅したことにより、あの姿に変化。同時にインターバルも克服したようです]

 

 レムがジードの変貌の理由を分析した。

 そしてジードたち五人の元には、先に戦っていたゼロたちが集ってくる。

 

『ようやく主役の登場か』

 

 オーブは空を、惑星クシアを見上げてジードに告げた。

 

『春香が待ってる。俺たちは先にギルバリスを叩いてくるぜ。ここは任せた!』

『はいッ!』

 

 オーブはアイドルたちとともに空に飛び上がり、ギルバリスが根城にするクシアに向かっていった。地上を引き受けたジードたちに、MK2率いるギャラクトロン軍団が迫ってくる!

 

「ハァァァァッ!」

 

 戦斧を振り上げるMK2に対して、ジードが高速回転しながら突撃。斧で防ごうとするMK2だがジードの超スピードの動きを見切れず、全身にギガファイナライザーの打撲を食らって火花を散らした。

 

「つ、強いっ!」

「あの化けモン相手に、一方的だべッ!」

 

 ウルティメイトファイナルの圧倒的な戦闘力に驚愕する三浦たち。オーブたちを散々苦しめたMK2が、まるで赤子同然だ!

 

『よしッ! 行こうみんな! ヒアウィーゴー!!』

『「意味被ってるわ!」』

 

 ジードの掛け声にツッコミを入れつつ、雪乃たちも一斉にギャラクトロン軍団に飛び掛かっていった。アクロスマッシャーとロイヤルメガマスターの剣がギャラクトロンブレードを防ぎ、ソリッドバーニングとマグニフィセントの鉄拳が本体を殴り飛ばし、そしてジードとゼロの棍と刃がとどめを刺す。

 

「やったぁーっ! 一気に逆転だぁっ!」

 

 ジード側の大攻勢に海老名が子供のように喜ぶ。一方で、戸部が苦笑いを交えつつ頭をかいた。

 

「にしても、結衣たちだけずりーよなー。ヒーローになっちゃってさー」

「全く……」

 

 葉山が、戸部のひと言に同意。

 

「やっぱり、ちょっとだけ悔しいかな。比企谷があんなに頑張ってるのに、俺には何の力もない……」

「そんなことはないぜ」

 

 いきなりどこからか、葉山たちの誰のものでもない声がした。

 

『誰だッ!』

 

 ゼナたちが咄嗟に警戒して周囲に目を走らせたが、姿はどこにもない。しかし声だけがし続ける。

 

「まだ残ってるだろ? お前には力が」

「えッ……?」

「ついでだしな。一度だけ、奇跡をくれてやるよ。後はお前次第だぜ」

 

 正体の見えない声に三浦たちが震え上がる。

 

「な、何なの? 一体誰が、何を言ってんの……」

「この声……どこかで……」

 

 呆気にとられる葉山の目の前に、上から何かがボトッと落ちてきた。

 

「うわッ!? 隼人くん危なッ!?」

「いま上から……でも何もないよ……?」

 

 海老名たちの頭上は、電脳空間に覆われた空だけ。落ちてきた物体の方に目を落とすと、それは赤い握力計のような装置と、二つの穴が並んだケース、そして怪獣が描かれた二つのカプセルであった。

 

「って、これってジードが使ってた……!」

「……まさか……!」

 

 葉山が握力計型のアイテム――ライザーを拾い上げて、何かを察した。

 

「……ジーッとしてても、ドーにもならない、か……!」

 

 そして葉山が、一本目のカプセルを起動!

 

「ユーゴーッ!」

 

 カプセルのスイッチを入れると、葉山の右隣にゴモラのビジョンが現れて腕を振り上げた!

 

『ギャオオオオオオオオ!』

 

 ゴモラカプセルを装填ナックルに収め、二つ目のカプセルを起動。

 

「アイゴーッ!」

 

 そちらからはレッドキングのビジョンが現れ、こちらも片腕を振り上げた。

 

『ピッギャ――ゴオオオオウ!』

 

 レッドキングカプセルも装填すると、ライザーを持ち上げて起動する。

 

「ヒアウィーゴーッ!!」

 

 ライザーで二本のカプセルをスキャンして、エネルギーチャージ。

 

フュージョンライズ!

 

 二重螺旋が灯ったライザーを胸の前に置いて、トリガーを握り込んだ!

 

「はああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」

 

 叫ぶ葉山の身体に、ゴモラとレッドキングのビジョンが重なる。

 

ゴモラ! レッドキング!

ルパーツ星人デュエス! スカルゴモラ!!

 

 葉山がスカルゴモラに変身して、グンッグンッグンッと飛び出していく!

 

「ピッギャ――ゴオオオオウ! ギャオオオオオオオオ!」

 

 そしてジードに横からレーザーを撃とうとしていたギャラクトロンを、大角で弾き飛ばした!

 

「うっひゃあぁぁ――――――――!? 隼人くんが、変身ッ!!」

『「葉山お前……!」』

 

 戸部たちが吃驚仰天。八幡も目を見開いてスカルゴモラに向くと、葉山は不敵に笑みながら呼び掛けた。

 

『「地球の運命が懸かってるからな。俺も参戦させてもらうぜ」』

『「……へッ、勝手にしろよ」』

 

 八幡も、皮肉げな苦笑で葉山に返した。

 スカルゴモラも交えたジードたちの猛反撃が、ギャラクトロン軍団をどんどん減らしていく。残存数をカウントするレム。

 

[地球上に転送されているギャラクトロン、残り7体]

『これで決める! クワトロスラッガー!』

 

 ギャラクトロンの真正面に立ったゼロがスラッガーを飛ばすとともに、八つの光球からの光線をギャラクトロンに集中させる。

 

『バルキーコーラス!』

 

 光線の照射と四本のスラッガーの斬撃が叩き込まれ、ギャラクトロンは粉微塵に爆砕。

 

[6]

『「はっ!」』

 

 雪乃がジードスラッガーを握ってギャラクトロンの四肢を切り裂き、行動を封じたところで右腕より緑色の熱線を発射。

 

『「ストライクブーストっ!」』

 

 熱線を腹部に食らったギャラクトロンが赤熱化して爆裂。

 

[5]

『「ジードクロー!」』

 

 結衣はクローを握り、ライザーでスキャン。

 

[シフトイントゥマキシマム!]

 

 三回トリガーを引いて爪を回転させ、赤いスイッチを押してクローを天に掲げた。

 

『「ディフュージョンシャワーっ!」』

 

 頭上から無数の光の針に貫かれたギャラクトロンは、バラバラに玉砕。

 

[4]

『「食らえっ!」』

 

 平塚はメガスライサークロスでギャラクトロンシャフトを切断し、バランスを崩したギャラクトロンにL字に組んだ腕からの光線を撃ち込む。

 

『「ビッグバスタウェイっ!」』

 

 光線の直撃をもらったギャラクトロンが瞬時に粉砕。

 

[3]

[解放せよ! 宇宙最強の力!!]

 

 いろははキングソードをライザーでスキャンし、柄に三回手をかざした。

 

[アン! ドゥ!! トロワ!!!]

『「ロイヤルエンドっ!」』

 

 放たれた金色の光の粒子に呑み込まれたギャラクトロンは、跡形もなく消滅。

 

[2]

「ピッギャ――ゴオオオオウ! ギャオオオオオオオオ!」

 

 葉山が宿るスカルゴモラはギャラクトロンのレーザーを突っ切って懐に飛び込み、角を突き刺して振動波を相手に流し込む。

 

『「スカル超振動波ッ!」』

 

 内部から破壊されていったギャラクトロンが木端微塵に爆破。

 

[1]

 

 そして最後に残ったMK2相手に、八幡がギガファイナライザーをライザーでスキャン。

 

[目覚めよ!! 最強の遺伝子!!!]

 

 レバーを三回スライドして、ファイナライザーを巨大な刃とする。

 全力を棍に乗せて、最大の斬撃をお見舞い!

 

「『クレセントファイナルジード!!」』

 

 斧を盾にしたMK2だがその斧ごと両断され、大爆発に散っていった。

 

[0]

 

 レムのカウントが終わり、地上のギャラクトロンは一掃された。スカルゴモラがジードたちに向き直る。

 

『「俺はここまでみたいだ。親玉は頼んだ」』

 

 その言葉を残してスカルゴモラが消え去り、葉山が元の姿で街の中にたたずんだ。

 

「シュアッ!」

 

 ジードたち六人は惑星クシアを見上げ、そろって飛び立って敵の本拠地に向かっていった。

 こちらもバリスレイダーを全て撃破したライハたちがその後ろ姿を見送る。

 

「お願い、リク。みんな……」

 



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英雄たちは、願いをつなぐ。

 ジードたち六人は奇怪な数列が覆う空を越え、惑星クシアの地に突入した。

 クシアはギルバリスによって生命を生み出す自然環境が全て奪われ、鋼と炎、排気ガスが充満する不毛の世界となっている。

 

『ここが、元は愛瑠さんの故郷だったなんて……』

『「おぞましい……」』

 

 これを『永遠の平和』と宣うギルバリスの所業に、雪乃の血の気が引いた。

 

『「あっ、あそこだよ!」』

 

 結衣が指差した先に、オーブの背中が見えた。ジードたちは彼の側に降り立って合流する。

 

『すみません、遅くなりました』

『主役だもんな』

 

 軽口で返すオーブの姿は、十三色もの色彩に包まれた非常に派手でありながら、整いがある美しいもの。アイドルたち全員と融合することで変身することが出来る、ウルトラマンオーブ・オールスターだ。

 それに対していたのは、全員武骨な鋼鉄の怪物……。

 

[宇宙に永遠の平和を築くため、不要な知的生命体は全て抹殺します]

 

 ウォォォォオオオオオ――――――ン……!!

 全身から蒸気を噴き出し、鉄と鉄がこすり合う金切り音を咆哮のように轟かせるのは、ジードたちよりもひと回りも大きい、ケンタウロス体型の機械龍。背面にはバーニア、左腕はガトリングガン、右腕はシザーアーム、そして数え切れないほどの砲身を生やした、兵器という概念そのもの。ロボット怪獣というより最早機動要塞だ。

 これが最後の敵……ギルバリス・ジャッジメントデイ!

 

『やれるものならやってみろ』

『俺たちが、お前を止める!』

『愛瑠さんが望んだ、本当の宇宙の平和のためにッ!!』

 

 巨大なる殺意の塊を前にしても、ジードたちは決してひるまず、力を合わせて一挙にギルバリスに向かっていく。ギルバリスもバーニアからジェットを噴かせて、鉄の大地を砕きながら猛然と突進してきた!

 

 

 × × ×

 

 

 地球の外で様子を窺っていたウルティメイトフォースゼロの四人は、クシアに全ウルトラ戦士の気配が集まったのを感じ、こちらも行動を起こす。

 

『ゼロたちが始めたようだな』

『よっしゃあッ! 俺たちも派手にぶちかまそうぜ!』

『私は華麗に行かせてもらうよ』

 

 それぞれエネルギーを集中したグレンファイヤーたちは、一斉に地球を覆うバリアに向かって、シルバークロス、グレンスパーク、ビームエメラルド、ジャンバスターの各必殺技を繰り出した!

 

『最強光線、発射ぁ!』

 

 力を合わせ、バリアを破ろうとする。

 

 

 × × ×

 

 

[知的生命体は平和を望みながら、争いをやめることも、星を汚すこともやめられない、矛盾と欠陥を抱えた弱い存在です]

 

 ギルバリスを囲んで四方から飛び掛かっていくジードたちだが、敵のあまりに堅牢な防御力に、攻撃をことごとくはねのけられる。拳を振るうソリッドバーニングとマグニフィセントはビームで撃ち返され、ジードクローとキングソードで斬りつけるアクロスマッシャーとロイヤルメガマスターはミサイルで撃ち落とされ、ゼロがガトリングガンを食らい、オーブが電磁光線を浴びせられ、ジードのギガファイナライザーの一撃がシザーアームで受け止められた上に角の振り下ろしを食らう。ギルバリスには死角が一切なかった。

 

[宇宙と平和のために、全てをリセットするのです]

「ウワアアアアアッ!」

 

 ジルサデスビームがジードたちを纏めて薙ぎ払うが、七人は毅然と起き上がっていく。

 

『「そういうのを本末転倒というのだっ!」』

『「生き物が何もいない世界を、平和となんて呼ばないし!」』

『「こうして面と向かうとよく分かりますね……。あいつ頭おかしいですよ!」』

『「リセットボタンが必要なのは、あなたの方よ!」』

 

 雪乃たちが激しく言い返し、全員そろってギルバリスに再び飛び掛かっていこうとする。

 しかしギルバリスは全砲門をジードたちに向け、ありとあらゆる砲撃を一斉に発射して面制圧爆撃を仕掛けてきた!

 

『うわあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ―――――――――――――!!!』

 

 土地ごと爆砕してくる圧倒的破壊の前には、ウルトラ戦士でも風に吹かれる木の葉のよう。何とかしのぎ切るものの、全員ばったりと倒れ、カラータイマーが点滅してピンチを示した。

 命はこのままギルバリスに消し飛ばされてしまうのか!

 

『「……確かに、俺たち人間は矛盾や欠陥だらけの、駄目な生き物さ……!」』

 

 そんな時に、ジードのインナースペースから、八幡が苦痛に耐えながら語り出した。

 

『「雪乃は誰に対しても毒舌が止まらねぇ……!」』

『「八幡くん……」』

『「結衣は優柔不断で、人の顔色ばっか窺うような奴だった……!」』

『「ハッチー……」』

『「一色は何かと面倒事持ってきといて悪びれもしねぇし……!」』

『「先輩……」』

『「平塚先生はいつまで経っても結婚できねぇ!」』

『「おい」』

『「材木座はもう色々とアレだ! とても言い切れねぇッ!」』

『「ひどいぞ八幡!」』

 

 後半になるほどひどくなりながら、それでも続ける八幡。

 

『「どんなに完璧そうな人間も、何かしらも問題を抱えてるのを奉仕部で見てきた! そして一番駄目だったのが俺だ! 自分じゃ何も頑張らねぇのに、不平不満ばっか! 他人を妬んでばっか! 何でも分かってるような顔して、人の気持ちをちっとも分かっちゃいねぇ! 自分が傷つくのが怖くて、自分の気持ちに嘘を吐いて! そんなクズだったよッ!」』

 

 八幡が言葉を並べるのとともに、ジードが立ち上がって再びギルバリスに挑んでいく。

 

『僕だって、駄目なところだらけだ! 子供っぽいのが抜けないし、すぐカッとなったりすねたりするし! さっきだって、意地ばっか張ってみんなにすごい迷惑を掛けた!』

 

 ホーミングレーザーやミサイル、ガトリングガンに晒されるジードだが、倒れない。気力をエネルギーに変え、ギルバリスに抗い続ける。

 

『「だけど俺は、俺たちは、変われたッ!」』

『運命を変えることが出来た!』」

『「ひとりぼっちで泣いてる心を救うことが出来た!」』

『みんなが僕を信じてくれた!』

『「最初が欠点だらけでも、人間はいい方向に進めるんだ! だから生きてるんだッ!」』

『完璧じゃないから、明日を目指して歩くんだッ!』

『「その進歩は!」』『止めさせはしないッ!』

『僕はッ!』『「俺はッ!」』

 

「『みんなと生きていく!!」』

 

 気合いを爆発させたジードが、ギルバリスの巨体を押し返した!

 

『今こそ、君たちの絆を一つにするんだ!!』

 

 オーブが叫ぶと、ジードを中心にした雪乃たち四人が光となり、ジード本体に吸収されていく。

 

『「八幡くん! ジード! 私たちも一緒よ!」』

『「みんないれば、あんなの怖くないし!」』

『「君たち、いや私たちの未来はまだまだ続いていくのだ!」』

『「わたしたちの願いで、あいつをぶち抜きましょう!」』

 

 そうしてジードのインナースペース内、八幡の左右に雪乃たちが並び、五人のジードが一つとなることで、ジードが更なる姿に進化していく!

 

[エボリューション・アンリミテッド!!]

「「「「「『願いをつないで!! 限界の先へ!!!」」」」」』

 

 ジードの全身から光が弾け、新しい姿となって立ち上がった!

 ウルティメイトファイナルの肉体を基調としながらも、ソリッドバーニングの右腕、アクロスマッシャーの左腕、マグニフィセントの下半身、ロイヤルメガマスターの胸とマントを持った、秘められたジード自身の能力を解放した更にその先のジード!

 

「「「「「『ウルトラマンジード!! ウルティメイトアドヴァンス!!!」」」」」』

 

 カラータイマーも完全回復した、ジードの更なる形態にゼロが目を奪われた。

 

『ジードたちの絆が、そのまま形となってる!』

 

 限界を突破したジードに、ギルバリスがガトリングガンを連射してくる。対するジードは右手首が開き、エネルギー充填。あまりもの熱量に、腕は雪のように白く輝く。

 

「「『バーニングスノウブースト!!!」」』

 

 純白の超熱線がガトリングガンの弾丸を焼き尽くして飛んでいき、砲身も爆破して焼き尽くした。

 左腕を失ったギルバリスが、ならばと右腕のシザーアームからレーザーを放とうとするも、ジードは左腕を右腕の腹に当て、十字を組んだ。

 

「「『バインドインパクト!!!」」』

 

 放たれた光線がシザーアームに巻きつき、レーザーを封じ込んだ上で破壊した。

 両腕を失ったギルバリスは胸部からネオマキシマ砲を発射! これをジードは正面から迎え撃つ構えを取り、両腕をL字に組む。

 

「「『サイレントバスターノバ!!!」」』

 

 あまりの弾速の速さに音が遅れて一瞬無音になるほどの速度の破壊光線が、ネオマキシマ砲を切り裂いてギルバリス本体に命中! ギルバリスの超重量のボディが後ろに押される!

 

『いいぞジード! みんな!』

 

 どんどんとギルバリスを追い込んでいくジードたちに、オーブが声援を送った。

 武装を一つずつ失っていくギルバリスは、最早出し惜しみしないとばかりに全ての砲門を開いて全火力をジードに集中する。

 

『みんなと明日に向かって進み続けるんだ!』

 

 ジードは砲撃の嵐を飛び越えてギルバリスの頭上を取り、ギガファイナライザーに左手を当てて十字を作った。

 

「「『カラフルエンド!!!」」』

 

 極彩色の光の粒子がギガファイナライザーから発射され、ギルバリスの頭上に降り注ぐ。バーニアが爆破され、ギルバリス本体にもダメージが入る。

 

[ウルトラマンジードのエネルギーが計算される限界値を超えています。なおも増幅中。理解不能]

 

 ギルバリスは高次元増殖物質置換により、クシアの大地をデータ化して取り込んで機体の修復を図る。しかしそうはさせまいと、ゼロとオーブが動いた。

 

『あの装甲を破壊するぞ!』

『はい!』

 

 ゼロがスラッガーをつないでひと振りのビヨンドツインエッジを作り、猛ダッシュでギルバリスに突撃。

 

『ツインギガブレイク!』

 

 光速の一閃が、ギルバリスの胸部に裂傷を刻んだ。

 ゼロが作った突破口に、オーブが全身全霊の光線を叩き込む!

 

「「「「「「『レインボーミラクル光線!!!!!!!」」」」」」』

 

 オーブの全身より放たれる莫大な光線がギルバリス全体を呑み込み、巨大な機体をバラバラにして吹き飛ばしていく。

 後に残るのは、赤い球状のコアのみ。

 

[人間、可能性、未来、希望、奇跡、明日……命……理解、不能]

 

 全ての武器を失ったギルバリス・コアは浮上し、電脳空間に逃げ込んでいく。

 

『「分からないものから逃げるんじゃねぇッ!」』

 

 怒声を放った八幡が、ギガファイナライザーをジードライザーでスキャン。

 

[見せつけろ!! つないだ絆!!!]

 

 ――ギガファイナライザーを構えるリクの肩に、愛瑠の幻影が手を置いた。リクが彼女にうなずき返す。

 

「シェアッ!」

 

 そしてジードがギルバリスを追って飛び立ち、電脳空間に突入していく!

 

『僕らはみんな、みんなで、ウルトラマンなんだッ!!』

 

 ジードの手にするギガファイナライザーの穂に赤いエネルギーが結集し、全てを貫き通す槍の刃となる。

 

「「「「「『アドヴァンスドジードロンギヌス!!!!!!」」」」」』

 

 ジードたちの願いを一つにした明日に進むための槍が、ギルバリスを貫通した!

 ギルバリスはとうとうコアを粉砕され、同時に惑星クシアのデータも破断。地球を覆っていたバリアは、跡形もなく消滅していった。

 

 

 × × ×

 

 

 地球を覆うバリアの消滅は、ウルティメイトフォースゼロの目撃するところとなる。

 

『おおッ!? やったぁーッ!』

 

 バリアがなくなったことに歓喜する四人。

 

『よしッ!』

『やったな、兄弟!』

『うん!』

『効くとは思わなかったよオイ!』

 

 

 × × ×

 

 

 バリアの消滅に伴い、デジタル浸食されていた世界中の街や人々が復元され、元の場所へ戻っていく。

 

「身体が、元に戻ってる!」

「生きてる……!」

「よかったぁ~!」

 

 沙希や留美、めぐりなど、八幡たち奉仕部が関わってきた人たちももちろん、千葉市に帰ってきた。

 情報網も回復し、世界中にウルトラマンジードたちがロボット怪獣たちを倒して地球を救ったことが一斉に報じられた。

 

「ジードがみんなを助けてくれたんだ! ジード……ありがとう!」

 

 戸塚が空の彼方に向けて感謝の言葉を送る。

 八幡の自宅では、小町も窓から青く戻った空を見上げてニコニコ笑っていた。

 

「やったね、お兄ちゃん! 帰ってきたら雪乃さんたちも一緒にパーティしよっと。それにしてもお兄ちゃん、最終的に誰を選ぶんだろうな~?」

 

 

 歓喜に沸いている那覇市を一望できる丘の上で、澄んだ紅玉色の瞳の男がフッと微笑を浮かべた。

 街の平穏が戻ったことを視認した彼は、独特なデザインの金色のサンダルの踵を返して、どこかへと歩み去っていった。

 

 

 × × ×

 

 

 戦いが終わり、夕陽が水平線に沈もうとする頃、リクたちは砂浜に集って地球に降りてきたウルティメイトフォースゼロの五人と向かい合っていた。

 

『これにて一件落着!』

『よくやった!』

「ありがとうゼロ! ウルティメイトフォースゼロ!」

『いいってことよぉ!』

『騎士として、当然のことをしたまでだ』

『おい前立つなよ!』

 

 ミラーナイトに文句をつけるグレンファイヤーの様子に苦笑する八幡たち。……一方で、ジャンボットが妙にそわそわしているのにジャンナインが振り向く。

 

『どうしたの? 兄さん』

『いや……誰かに似ているような……』

 

 ジャンボットはリクに注目してそう言った。

 

「え?」

 

 八幡たちがリクの顔に振り返ったが、ジャンボットが何を言っているのかさっぱり分からない。しかしゼロたちは何か得心したようである。

 

『確かに……』

『言われてみれば……』

『ちょっとすまないが、ジャンファイト! と言ってみてくれないか?』

 

 とジャンボットに頼まれ、リクは少し戸惑いながらも、ポーズを取って叫んだ。

 

「ジャーンファイッ!」

 

 果たして、反応は――。

 

『何か違う……』

 

 首をひねられたのでリクたちはガクッと肩を落とした。

 

『何だそりゃ! おめぇどっか壊れてんじゃねぇか焼き鳥!』

『焼き鳥ではないジャンボットだ!』

 

 言い争うグレンファイヤーとジャンボットに肩をすくめるゼロ。

 

『あーあーうるせぇなったく! とにかく、地球は任せたぜリク! いや、ウルトラマンジード! 男なら、宇宙の一つや二つは背負ってみせるんだぜ!』

「はい!」

『八幡たちも、遠く離れた場所にいてもリクのことを支えてやりな! お前たちも、みんなでウルトラマンジードなんだからな!』

「ああ!」

「いいなー。俺もヒーローの輪に入りてぇ」

 

 ゼロに呼びかけられてうなずき返している八幡たちを、戸部が羨んでいた。

 そしてウルティメイトゼロを先頭にして、ゼロたちは次元を超えて彼らの宇宙へと帰っていく。

 

「シェアッ!」

『ウルトラ兄弟になりてーなー!』

『うるさいぞグレン!』

 

 ゼロたちが帰っていった直後に、遅刻してきた材木座が慌てて叫ぶ。

 

「ま、待ってくれゼロぉーッ! ネタをッ! 小説のネタを我にプリィーズッ! プリーズヘルプミー!!」

 

 天に手を伸ばして、虚しく空を切る材木座の情けないありさまに、結衣や平塚たちが思わず苦笑いした。

 

「もう。みっともないよ中二~」

「自分の歩む未来なのだろう。他人をアテにしてないで、自分の力でどうにかしたまえ」

「しょ、しょんな~……。僕たちはみんなでウルトラマンなのでは……」

「それは他人に甘えるための言葉ではないわよ」

「うぅ~……」

 

 雪乃に咎められて、がっくりする材木座。ショックのあまり、普通に話せていることにも気づいていなかった。

 

「765プロの人たちもいないけど、もう帰っちゃったんですかね?」

「風のように現れて風のように去っていく……まさに風来坊だな」

 

 いろはと葉山が話している傍らで、リクが八幡に向き直った。

 

「僕たちはもう一日くらい滞在していくよ。モアやレイトさんたちに、お土産用意しないとね」

「そっか。じゃあ買い物つき合うぜ」

「ありがとう。……何だか不思議な感じだね。君と面と向かって、こんな他愛ない話をするのって」

「まぁ、分離してからはゆっくりしてられる状況なんてほぼなかったしなぁ」

 

 苦笑した八幡が、リクに呼び掛ける。

 

「今度はさ、こっちからお前んとこの地球に行くよ。どんなに時間が掛かってもな。約束するぜ」

「ああ! 楽しみに待ってるよ!」

 

 八幡が握り拳を差し出すと、リクもそれに応じて、コツンと拳と拳をぶつけ合わせて約束を交わした。

 皆と一緒に、戻ってきた平和を談笑しながら堪能するリク。――そうして砂浜から立ち去る寸前、リクはふと後ろを振り返った。

 岩場の傍らに、夕陽を背にした愛瑠が笑顔でうなずいたのを垣間見たリクは、消え去った彼女に笑顔を返した。

 

 

 ――僕には仲間がいるんだ。みんなとの絆があれば、どんなことでも乗り越えていける。そうだよね、愛瑠さん!

 僕たちはみんな、みんなでウルトラマンなんだ!――

 

 

 

 

 

やはり俺がウルトラマンジードなのはまちがっている。 特別編

『英雄たちは、願いをつなぐ。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 首里城のふもと、最初に赤き鋼が置かれていた場所に、戦いを終えて石像の状態に戻ったグクルシーサーが、元と同じように戻ってきていた。ゼナがグクルシーサーに礼を告げる。

 

『ありがとう……ゆっくり休んでくれ』

 

 その傍らで、タブレットで太平風土記の記述を改めて確かめていた陽乃が、不意に手を止めた。

 

「あれ? ゼナ先輩、これ……」

『何だ?』

 

 振り向いたゼナにタブレットの画面を見せる陽乃。

 

「このページ、シーサーしか描かれてなかったのに……」

 

 画面に表示されている太平風土記の挿絵の一つ、赤い棍棒をくわえる獅子――ギガファイナライザーを持ったグクルシーサーとともに、愛瑠が「大地の守護神」として描かれていた。

 




 




次回予告!



――八幡がある日目覚めると、世界が全て変わっていた。

小町「ウルトラマンジード? 何それ?」
小町「お兄ちゃん、夢でも見てたんじゃない?」

――ジードは、リクたちは存在しなかった!? 全て自分の夢だったのか!?
――それだけではない。

葉山「雪ノ下……? 由比ヶ浜……? 誰だそれ」
戸部「平塚なんて名前の先生、聞いたことねーべ」

――雪乃や結衣、奉仕部すら存在しない!?
――そして自分は、カースト最下位どころか虐めを受ける身……!

「比企谷ぁ! 黙って殴られろってんだよぉ!」
「何必死な顔してんの? だっせぇ」

――今までのことは全て、自分の妄想だったのか……?

八幡「……そんなはずないッ! あの日々は、確かに現実だった!!」

――己の真実を探し求め、奔走する八幡!
――しかし、彼の行く手をさえぎる謎の女……!

女「あなたは自分がウルトラマンジードだという夢を見ていただけよ」

――自分の現実を否定され、追いつめられていく八幡……!
――しかし、存在を消された仲間たちの声が八幡を助ける!

雪乃『……くん……八幡くん……聞こえる……!?』
結衣『ハッチー! 必ず助けるから……あきらめないで!』

――そして駆けつけてくれた、頼れる仲間!

リク「八幡! 一緒に行こう!」
八幡「ああ! ジーッとしてても、ドーにもならねぇ!」

――虚構と現実が入り乱れる果てに、八幡は何を見るのか!

八幡「そうか……そうだったのか!」
八幡「デザストロの正体はッ!!」

乞うご期待!



※この次回予告は全くの嘘偽りです。


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おまけ
雷雲よりの悪魔の手が、始まりをいざなう。


 

 ――サイドスペース。ここはかつて全宇宙を震撼させた最凶最悪のウルトラマン、ベリアルによって爆破され、ウルトラマンキングの力によって再生したという異色の経緯がある次元宇宙。そして、ベリアルの息子であるウルトラマンジードが生まれ、守護している世界である。ベリアルの模造品として作り出されたジードこと朝倉リクは、己に降りかかる暗黒の運命に打ち克ち、オリジナルを超えて本当のウルトラ戦士の一人となったのだ。

 そして彼が生活している秘密基地、星雲荘がその地下にある天文台の前で、満点の星空の下――リクはとある人物と面と向かっていた。

 

「やぁ。久しぶりだね――八幡」

「ああ。また会ったな――リク」

 

 AIBの制服を着用している、変身したリクにも劣らぬほど目が吊り上がっている青年は、比企谷八幡。

 別の宇宙で起こったある大事件にリクが立ち向かった際、命を落とした彼を救うために同化して命を共有。そして力を合わせ、彼の宇宙を二度も一緒に救った、今となっては忘れ得ぬ大事な仲間の一人だ。

 

「久しぶり、八幡! 今日はどうしてこっちに?」

「いや、大した用事じゃないんだ。ゼナさんが遂にこっちの地球に戻ることになったんで、研修がてらの鞄持ちとして同行してな。ついでだし、ここに寄っただけだ」

 

 リクの相棒、ペガッサ星人のペガも影から顔を出して、八幡に快活に挨拶した。

 そしてリクは、この場にいる四人目の男にも顔を向ける。

 

「そっちも久しぶりだね――デュエス」

「ああ……」

 

 少し離れたところで、遠慮がちに石段に腰を落としている紅玉色の瞳の、サンダルを履いた男は、ルパーツ星人デュエス。

 ――何を隠そう、ある意味ではリクと八幡の運命の出逢いを作ったと言える大事件の首謀者がこの男だ。当時はレイデュエスと名乗り、リクと八幡と何度も命をやり取りをした仇敵であった――それが今では、彼らと断金の仲となったのは、運命の悪戯が成せる業と言う他はない。

 

「……おい、何をそんなに離れてるんだよ。お前、まだ引け目感じてるのか?」

 

 自分らと微妙に距離があるデュエスに、八幡は肩をすくめる。仕方ないなという表情の八幡に対して、デュエスはため息。

 

「……あんだけ滅茶苦茶やった俺を救った上に、友達にまで受け入れてくれたんだ。比企谷たちには感謝しかねぇ。……だが、俺のせいで今も苦しんでる人は多いんだ。それなのに、今更楽しい思いしようなんざ虫が良すぎるって、思わずにゃいられねぇさ」

 

 デュエスの言を、八幡はフフッと笑い飛ばす。

 

「辛気臭せぇな。そんな風に思うことこそ、心は変わった証明だろ?」

「まぁ、以前だったら欠片も思わなかったが……」

「いくら反省しようが、やったことだけは変わらない。世の連中は声をそろえて人は平等であるべきって言うし、お前も過去は過去、未来は未来で割り切って考えろって。少なくとも、その気持ちがあるだけで、罪悪感もないその辺の奴よりお前はずっとマシさ」

「……そう言ってくれると助かる」

 

 デュエスを慰める八幡に、リクとペガは微笑を浮かべた。

 

「ほんとに優しいよね、八幡は。君がいなかったら、デュエスとこうしてる今は絶対になかった」

「ははッ……そんな俺を作ったのはお前たちだよ。リクたちがいなきゃ、俺はどこまで行ってもひねくれ切ってる男だった。実際、進路志望に一番に主夫なんて書く大ボケが、AIBの見習いになってるんだからな」

 

 八幡の自虐に、当時を思い出して噴き出すリクたち。今となっては、あの頃の激闘もいい思い出である。

 

「……本当、何か一つ違うだけでも人生って様変わりするもんだな。運命なんて安い言葉、大嫌いだったが……お前たちとの出逢いにだけは、運命を感じざるを得ねぇや」

 

 八幡がしみじみと語ると、リクがふとデュエスに顔を向けた。

 

「そういえば、デュエスが言ってた、ウルトラマンの兄弟はどうしてるんだ? 彼らは大丈夫なの?」

「ああ、それなら問題ねぇ。全ての決着は綺麗さっぱり着いたみてぇだ」

「ん、何の話だ?」

 

 聞き返した八幡に、デュエスが説明。

 

「ある次元宇宙の地球にな、昔戦死したウルトラマンたちの力を受け継いだ兄妹がいるのさ。そいつらは先代がやり残した因縁も受け継いじまって……周りが敵だらけなんで心配してた」

「もしもの時には、僕に助けに行ってほしいって頼まれててね」

「そうだったのか……けど、もう解決したんだな」

 

 先ほどの台詞から、そう判断する。

 

「ああ。かなり不安な奴らだったが、一端のウルトラマンになれたみてぇだ」

「へぇ……。にしても、こうしてる今でも時々信じられなくなるぜ。並行世界が実在して、ウルトラマンが守る地球もいくつもあるってこと」

「うん。世界の広さには、僕も参る時があるよ。どんなすごい力を持ったヒーローも、宇宙に比べたらちっぽけな存在なんだって」

「ペガだって、マルチバースのことを調べたら、想像を優に超えてて圧倒されるよ」

 

 八幡たちは、三者三葉に世界の広さの感想を語った。デュエスも次のように述べる。

 

「俺らが知ってる宇宙なんて、マルチバース全体のほんのひと欠片でしかねぇのさ。マルチバースがどこまで広がってるのか、知る奴は一人もいない。宇宙は数え切れない数あって、ウルトラマンも同じだ」

「僕たちが知らないウルトラマンも、世界にはまだまだいるのかな」

 

 リクはまだ見ぬ同族に、些かの期待を抱いていた。

 

「そりゃあな。ウルトラマンはよく無敵の超人って言われるが、中にはさっき話した兄妹の先代のように、道半ばに散った奴もいる。これからもそういうのは出るだろう。もちろんお前らは違げぇだろうがな」

「ウルトラマンにも、無念の末路を迎える人がいるんだ……」

 

 ペガには今一つ実感がなかった。彼が見てきたウルトラマンは誰もが、最後まであきらめず、不可能を可能にする勇者たちだからだ。

 八幡が腕を組んで嘆息した。

 

「まぁ、何でもかんでも上手く行くなんて出来た話もねぇだろ」

「ああ。宇宙はバランスで成り立ってると言うが、それはつまりウルトラマンに匹敵する闇の存在も宇宙のどこかにいるってことだ。俺はよく知ってる」

 

 若干うんざりしたように息を吐くデュエス。

 

「俺らが知らねぇウルトラマンがいるように、宇宙にはまだまだいるんだろうな。闇に隠れて、地球みてぇな星を狙う悪党(クズ)が――」

 

 そう、四人で話している時に――。

 近い場所から、カンッカンッ! と、いきなり拍子木が打ち鳴らされる甲高い音がした。

 

「ん?」

 

 八幡たちが反射的に音の方向に首を向けた。

 

「さぁ~良い子のみんな! 楽しいウルトラマンの紙芝居が始まるよ~!」

 

 視線の先では、見慣れない老人が紙芝居のセットとともにたたずんでいた。

 

「……紙芝居屋さん? 初めて見るな……」

「時代錯誤な……」

「って言うか、こんな時間に?」

「どこから現れた……?」

 

 リク、八幡、ペガ、デュエスと、不自然な紙芝居屋の登場に怪訝な顔をする。

 紙芝居屋の老人は四人の反応など関係ないように、朗々とした声とともに表紙をめくった。

 

「今日はウルトラマンジードのお話しだぁ~!」

「……!」

 

 八幡たち三人が、思わずリクの顔を一瞥した。リクも自分の話が始まったことに、わずかに動揺している。

 

「悪~いウルトラマン、ベリアルと恐ろし~い怪獣たちの待の手が伸びた地球を、力の限り守ったのが我らがジード! みんなもよく知ってるねぇ! だけどジードの活躍はそれだけじゃない! もう一つの地球で、レイデュエスって悪者もやっつけたんだぞぉ!」

「……おい、あの紙芝居屋、おかしいぞ……」

「何で俺のことまで把握してやがる……」

 

 不可解な進行をする紙芝居に、警戒心が強まっていく八幡たち。だが老人は一切気にする様子もなくページをめくる。

 

「そしてある晩、戦いの中で出会った仲間と再会をした!」

「!!」

 

 話が今の状況にまで至ったので、四人は思わず老人から距離を取った。あの男は、明らかに怪しい。

 

「その時ッ! 大変なことが起こるぞ~! 空に渦巻く雷雲から、巨大な手が伸びてくるではないかぁ~!」

「何だって!?」

 

 バッと顔を天に向けると――その通り、空に渦巻く怪しい雷雲から、巨大な青い腕がリクたちに向かって降ってきた!

 リクは咄嗟にジードライザーを取り出したが、間に合わなかった。

 

「わぁッ!?」

 

 巨大な青い腕は、リク、ペガ、そして八幡の三人をむんずと掴み、捕らえてしまう!

 

「お前らッ! うおぉッ!?」

 

 デュエスは蒼い腕が起こした突風に飛ばされる。その間に、腕はそのまま雷雲の中へ戻っていく。

 

「捕まってしまったジードたちは、一体どこへ行き、どうなってしまうのか! 次回はウルトラマンロッソとブルのお話しだよぉ! 乞うご期待~!!」

 

 紙芝居屋の老人は最後にそう言い残して、闇の中に消えていく。

 

「待て……!」

 

 一人取り残されたデュエスは一瞬追いかけようとしたが、青い腕が雷雲の中へ――次元の歪みを通って、別の宇宙へ移動していくので、そちらを優先した。

 

「何てこった……! 緊急事態だ……!」

 

 全速力で雑木林の中へ駆け込んでいき、数分後に、ルパーツ星の円盤が離陸して次元ワープを行った。追跡目標は当然、突如リクたちをさらっていった謎の青い腕だ。

 まさしく風雲急を告げる、奇々怪々な出来事。そして物語の舞台は、異なる宇宙の地球へと移っていく――。

 




 
Next――

ウルトラブライルーブ!サンシャイン!! 特別編
『Select!! Rainbow Crystal!!!』


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