うちの魔法科高校の劣等生にはオリ主転生が多すぎる (madamu)
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第一高校を受験せよ

第一高校は緩い坂の上に立っている。
白い校舎はすでに改装から数年経過しているが、風雨で汚れた様子はない。
そりゃそうだ、2095年の建築技術は2000年代初頭に比較すると月とスッポン。

入試試験に向かう俺の脚は重い。すごく重い。
事務仕事をこなしつつ、2週間ちょっとの試験勉強でぶっつけ本番だ。不安である。
受付で手続きを済ますと「親御さんは?」と聞かれて「今日は一人です」と答え試験会場へ。

試験会場に入ると先に筆記を行い、昼食を済ませての実技。

まずは筆記。問題はこっちだ。これが出来ないことには一科生どころか二科生にもなれん。

試験会場に生徒の同伴としてやってきた親御さんは別室で待機。
受験生だけが試験会場に残る。
会場には多数の机。指定の席に着くと机上のコンソールを使い、試験準備をする。
周りでは多くの少年少女たちが、目をつぶり瞑想したり、友人とお喋りをして緊張をほぐしたりしている。

あ、巨乳女子中学生の柴田美月を発見。
掛けている細いフレームの眼鏡が霊子過敏性対応の眼鏡か。

スピーカーから試験開始五分前のアナウンスがあると受験生は真剣な顔つきになり
コンソールから【試験問題】のアプリを起動させ、カウントダウンを待つ。

あ~いやだ。頭使いたくない~。ホント、頭脳労働いやだ~!

再度アナウンスが流れ試験開始である。


========試験中=========


今の学生はこんな難しい試験をやるんだから、ひどいもんだよな!
ホント酷い。なんで数学がこんなに多用されるんだ!

それ程悪くない手ごたえで筆記試験は終わった。
この後は実技だ。その前に昼飯食わねば。それにしても潜入作戦が高校受験とは。



「はぁ、潜入ですか」と答えて顎を触る。
「お前は面倒な任務を言い渡されると顎を触る癖がある」と指摘されたことがあったが
これはわざとである。内心を整理するためのルーチンなのだ。

国防陸軍の本部にある情報部支援課第二班のオフィス。
国内外問わず、各事案に対応するために設立された「諜報の遊撃組織」が支援課である。

執務机を挟み俺の前に座っているのが直接の上司、村井大佐。
大佐から口頭で命令されたのは「第一高校への潜入計画」だった。
問題なのは「生徒として潜入」のくだりだ。

「これ、自分が潜入でいいんですよね?」
多少不機嫌な色が声に乗ったが、かまいやしない。作戦の大前提が気に食わん。
「そりゃ、お前以外にだれがやるんだ」

身長は18歳の平均より数センチ低く、今も若めの服装で盛り場を歩けば警官に一声かけられる。
声も若く、「おうちにお父さんかお母さんはいませんか?」とセールス電話に言われる始末。
同期からは「お前、ほんとに年取らないよな」「いや~うちの息子と同い年に見えるよ」と言ってくる。その息子に無料エロサイトを教えたろか。
そう、童顔なのだ。

関 重蔵(せき じゅうぞう) 36歳 国防陸軍少佐 情報部支援課第二班所属
そして「魔法科高校の劣等生」世界に転生した転生者でもある。

どうしてこうなった・・・

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誰だ?お前?

国防陸軍を含めて、2090年代の主だった諜報機関は国防軍の情報部、内閣府情報管理局、公安、そして外務省外事課。

2095年の日本の諜報はバラバラだ。国防軍情報部内で複数の諜報、防諜組織が存在しており
情報の一元化も難しい。予算もバラバラ。予算額もバラバラ。

俺の所属する支援課は「諜報の便利屋」の立ち位置で活動している小さな小さな組織である。
情報組織のセーフハウスの掃除、尾行道具のメンテ、事務処理の代行etc
ひどい時は潜入する犯罪組織のボスへのプレゼントの購入なんてのもある。

総勢10名程度の少数精鋭、偏った特技を持つ凄腕はみ出し者の諜報機関、になれるといいな~。

ここまで来るにはいろいろあった。人生いろいろだ。

前世の死亡理由はあまり覚えていない。
白い部屋でぼんやりとした人影と話したことは覚えている。

「君、今回××(よく聞こえない)で○○〇(よく聞こえない)する予定じゃなかった。すまん」

「え?!それで僕はどうなるんですか?」

「転生」

「転生?」

「そう、転生」

「トラック転生?」

「違う、違う」

「チート?チート?」

「チート、チート」

「ハーレム、なでぽ、にこぽ?」

「う~ん、そこはちょっと・・・」

「どの程度で」

「ちょっとこれ振ってくれる?」

と渡されたのが6面体サイコロが3つ。

コロコロコロ。

「あー、そう来たか、そう来たか~」

「え、不味かったですか?」

「いや大丈夫なんだけど、もう一度振って」

コロコロコロ。

「どうです?大丈夫そうですか?」

「いや~、君スゴイね。ここまで出す人そうそういないよ」

「あの、すみません」

「別にそういう意味じゃないんだ。ちょっとチートの調整と諸々がね」

「それなら普通に転生でも」

「逆にそうすると調整が難しくなるから、このままの方がいいのよ」

「はぁ」

「もう一回振ってくれる」

コロコロコロ

「(絶句)」

「(絶句)」

「こうまで出すか~。すごいわ~(天を仰ぐ)」

「(無言)」

「はは、じゃあ最後に今の状況を確定するから、もう一回ふってね。それでおしまい」

「(無言)」

コロコロコロ

「(声を出さずに笑う)」

「すみません。どうなるかわからないですけど、すみません」

「いや、最後の最後でね…。来たねー。来た」

以上である。

5歳ごろに転生前と転生時の記憶がフラッシュバック。
成長するにつれて「魔法師」とか「大亜細亜」のような単語をニュースで確認する。

10歳のころには【魔法科高校の劣等生】の世界だと納得した。
ただし年代が2090年代ではなく、俺が生まれたのは2059年だ。

前世の記憶を探っても、アニメ版観てからwiki読んでげらげら笑った程度の記憶しかない。

2095年時点で、四葉の熟女(四葉真夜)が44歳?47歳?で鬱系エロ漫画みたいな人生経験をして、インナーとかいう執事制度があって、2097年?になると「ヨル」「ヤミ」で呼び合う痛い中学生が出てきたり・・・

確か沖縄で防衛線戦やって、佐渡でも防衛戦やって、その前後のあたりはアニメではやっていなかったので記憶がない。
なんだっけか?桜井さんとか言う人も死ぬんだっけか?大越後戦争?wikiで読んだような読まないような

う~ん、よくわからん。
wiki情報は断片的だし、アニメの描写もどの程度今の世界を反映しているか不透明だ。
オリ主転生モノの小説をそれなりに読んだオタク前世としては、原作ルートに絡むことがどれだけ危険か認識している。
下手に絡んで敵認定されると、シスコンの前髪クロスに問答無用で分解されてしまう。。。

少なくとも両親の名字は数字にかかわる感じはしないし、普通に育って普通に暮らせるだろう。
原作に関わらない、民間の会社に勤めて、2096年には横浜にいなければいいだけで。

と思っていたが人生甘くない。最初の波乱である。

14歳の時に父親が病死、1,000万円の借金を残す。
脱サラ後の自営業の運転資金だった。
母親は残った借金を返すべく当初の予定どおり「洋菓子と青果」の店を始めた。
父母とも製菓学校出身のカップルで、残された母一人でも十分店を開けた。

ただ最初に1,000万円のマイナスを抱えた状態で
長男である俺を筆頭に4人の子供を食わすのは大変である。

俺は懸命に働く母親を支えるべく、学費のかかる高校ではなく国防高等学校に進学する。
国防軍の若年向け高等学校教育機関である。
生徒として学びながら国防軍という就職の道も確保され、何より学生ながら給与が出る。
学費もタダだし言うことはない。

既に石が転がり始めたが、この時点では俺は普通の兵士になって、借金返済のめどがついたら適当なタイミングで除隊しようと思っていた。

で、国防高校で魔法師としての才能を見出された。
それほど突出した才能ではないが、専門コースで魔法技術を習得しつつ、普通の兵隊としての教育も受けた。

まだこの時点は国防軍内での魔法師が所属する101旅団の設立以前と言うこともあり、魔法師の扱いはフレキシブルだった。
悪く言えば使える魔法師は各セクションが取り合いをし、現場に投入するという形でだった。
そんなんだから防諜がグダグダなんだよ!

大変だった。

普通科歩兵連隊や空挺隊に始まり、海外の大使館・領事館の警備、他国の治安調査や情報収集。
そして諜報から開戦前の戦地調査等々。

101旅団結成時点では中南米からの在外邦人救出でてんやわんやだった。
くっそ~、ホワイト職場と名高い101旅団に行きたい~。

帰国後最初の命令が高校受験である。
この時「ついに原作ルートに接触するのか」と覚悟を決めた。

そして、試験後受験者のデータを見て村井大佐と絶句した。
試験直前に「四葉 光夜」という人物が受験にねじ込まれていたのだ。

誰だ?お前?



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お前も誰だよ!

「追加の資料です」と秘書官である大泉軍曹の野太い声が聞こえてくる。
俺と村井大佐の手元のタブレット型PCにデータが送られてきた。

村井大佐は広い額にしわを寄せながらタブレットを睨んでいる。
勿論俺も鏡を見れば渋い顔をしているはずだ。
試験翌日、大佐の執務室は空気が重い。

う~ん、想定外どころの話ではない。

今回の一校潜入は「七草」と「十文字」の次代への接触と必要があれば両家の弱みを握り、俺は2年進級時には家庭の事情の名目で転校する予定だ。

十師族は軍内にも根を張り、国防軍内の諜報・防諜は敵も味方もわんさかで、味方を味方、敵を敵と扱えない複雑さだ。

十師族の弱みを握ることで軍は十師族と対等になれる・・・とか思っているんだろう。
そういう存在なのだ。十師族は。敵対しないだけで、国内の脅威でもある。
大隊に満たない人数で世界の軍事バランスを大きく変える。
場合によっては個人の思惑で、である。

村井大佐は「四葉光夜」以外に
「九島」の分家筋である「藤林」の名前が見つかり情報を整理している。

俺は俺で、それ以上に頭を抱えている。
この作戦により司波兄妹に関わる危険もあるが、前世の記憶との齟齬が既に3つ起きている。

謎の「四葉光夜」、「藤林」そして
「司波 雪光」という名前の男子生徒である。
お前も誰だよ!「司波雪光」ってよ!

おい!おい!運命よ!なんじゃこりゃ!普通に九校戦して夏休みやって横浜騒乱して来訪者編に突入させろ!

今判明しているのは

「四葉光夜」という男子生徒
「藤林奏(かなで)」という女子生徒
「司波 雪光」という男子生徒

大佐は特に四葉の情報収集に懸命だが、俺は「司波雪光」で頭がいっぱいだ。
一校の受験者情報は受験者リストしか入手できていない。
高校と言っても魔法師育成機関であり、情報の重要度は軍機密に匹敵する。
諜報機関といってもそうそう軍事機密にアクセスはできない。
コネと建前が必要なのだ。
特に今回は「四葉」の名前があるので、個人情報の確保は難しい。

時折大佐の机に備え付けられた電話が鳴っては
「私も存じ上げておりません!現在調査中です!」と大佐が怒鳴り返す光景がすでに数回。

「大佐。どうします?作戦バックレません?」
作戦の早々の中止を進言する。
「これは、大島少将の肝いりで・・・」
大佐の小声は、この作戦が単なる国内諜報ではなく
面倒な個人の遺恨も混じった作戦であることを告げた。

いきなり登場人物が増えたので少し整理せねばなるまい。
顎に触れて、少し息を整える。

村井大佐は諜報参謀としていくつかの功績を立てている。一応諜報のプロだ。
多少、上司におもねるところはあるが、諜報畑において信用できる人だ。
問題は情報部幹部将校の一人である大島少将だ。

魔法師の有用性を認めているが「軍の主力は非魔法師」と言ってはばからない人物である。
勿論差別として言っているのではなく、純然たる数の問題だ。
非魔法師は多い。普通科連隊で魔法師資格を持つ奴は、すぐに専科に移動になる。
普通科連隊、つまり普通の兵隊は非魔法師なのだ。

101旅団の佐伯少将に「101旅団が優遇を受けすぎている」と将校会議で噛みついたこともある。
魔法師を積極登用する佐伯少将と、魔法師の優遇を抑えようとする大島少将。

両名とも伊達で少将まで昇進したわけではない。
会議の場で顔を合わせれば、一度は「軍内の魔法師」の扱いについて応酬が起きる。
大島少将は「会議での舌戦も仕事のうち」とか言いそうだが
村井大佐(大島派閥)の配下の魔法師としては「面倒」以外の感想しかない。

「そこは…断ってくださいよ…」
ジト目で村井大佐を見るが、村井大佐は目を合わそうとしない。
おい、おっさん。こっち見ろよ。ハゲ。デコハゲ。

「すでに予算も確保している、君の小隊も到着次第作戦に参加させる・・・」
小声で言うな、おっさん。

このまま行くと「妹の安全は確保させてもらう」とか言いながら
魔法ぶっ放すシスコンに殺される未来しかない。

そうでなくとも「四葉」が怖い。
諜報に身を置いている四葉の怖さはよくわかる。
二度ほど四葉のエージェントと接触したが、村井大佐配下ということを初対面で指摘された。
俺、名乗ってないのに。覆面していたので、俺個人は特定されなかったようだが
その作戦の成果は四葉に持っていかれた。

「大佐、言いたくはないですがこりゃ不味いですよ。他の諜報屋も今頃大混乱でしょ。
あの引きこもりの四葉がいきなり一校に受験ですよ?情報持っているのは風間のおっさんあたりですよ」

ハゲ大佐は「う~ん」と言うだけで黙ってしまった。
佐伯少将のところの風間少佐とは面識がある。
というか、軍内で「大天狗」風間少佐をおっさん呼びするのは俺ぐらいだ。

「あのおっさんに話して情報回してもらいましょうよ~」
「だがな、こちらの動きを101には悟られたくはない」
四葉というか十師族と太いパイプを持つ佐伯少将派閥との距離感は難しい。
俺自身は魔法師で佐伯派閥と誼もあるが、仕事上の所属は情報部で大島少将の配下筋だ。

「現状できる限りのことをしよう。常に最善の道を探ることが諜報の本道だ」
なんかカッコつけたことを言っているが、大佐は目を合わそうとしない。
相当行き当たりばったりで潜入作戦始めやがったな。

俺は改めて、自分のカバー(偽造設定)を読み返した。

相馬 新(そうまあらた)15歳。東京の公立中学卒業。運動部に所属。祖父、叔父が国防陸軍所属。
将来は陸軍に入るため防衛大学校進学を目標に一校を受験。

俺は受験合格すれば相馬アラタ君になる。アラタ君。君の学生生活は前途多難だ。


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風間少佐、残業中に大爆笑す

やったー、合格だー(棒)

合格通知を確認しても嬉しくない。
そう、俺こと「相馬 新(あらた)」は魔法科高校第一校に入学が許されたのだ。

それも一科生で。嬉しくない!学生に混じって中年が勉強するのはいい、生涯学習だ。
だが、あの制服を着るのがな~、微妙に抵抗感を感じる。おっさんにはややハードルが高い。
本物の10代と30代の足の長さの違いが丸わかりだ。

問題はそこじゃない。
原作では登場しない、謎の四葉、司波兄妹と同学年の「藤林」、そして「司波雪光」という人物。
そこに十師族の行動を調べる諜報員として一校に潜入するなんて嬉しくない!
まだ大亜細亜の湾岸基地への潜入してた時の方が楽だ!

というわけで風間少佐に連絡を取ってみた。
割り当てられた官舎の一室。俺の自室から風間少佐に連絡を取る。

101旅団魔装大隊を率いる風間少佐。「大天狗」とも称されるバリバリの軍人魔法師である。
その名声は「大天狗と呼ばれる魔法師」という形でUSNAの特殊部隊向けの軍事教本に登場している噂もある。40歳越え精悍な顔つきで「渋い上司」として人気がある。

10秒ほどしてモニターに風間少佐が映る。
風間少佐に割り当てられた軍用アドレスで通じたということは、少佐は自分の執務室に居る。

「おう、関少佐。どうした」
原作の立派な軍人としての口調と違い、思いのほか砕けた口調なのは理由がある。
風間少佐の部下より多少年上ということもあり、年齢が近い。
そして以前の任務で「叔父と甥っ子」として二週間ほど行動を共にしたことがある。

おっさん面の風間少佐と、童顔の俺のコンビは思いのほか上手く作戦を完遂させたこと記しておく。

「突然悪いね。今、時間大丈夫ですか」
「私の方は大丈夫だ。お前の方こそ、忙しいんじゃないのか?」
意地悪にニヤッと笑ってきた。
このおっさん、ある程度把握してるな。

「まあ想像通り。一校のアレ、どこまで知ってる?どうもそっち方面の人脈が乏しくてね」
風間さんは俺の所属を把握している。
どうやらあの笑い方は今回の任務も掴んでいる気がする。

「多くは知らされていないがね。四葉の人間で、非常に優秀な人材なのはわかっている。
お前は一校の件どうするんだ?」
「どうすると言われても。四葉がいるなら前提が変わってくる」
「そうか。あまり派手にしてくれるなよ。特に四葉関係は面倒だから勘弁願いたいな」
「勘弁願いたいのはこっちだ。この歳で入学しろって、バカバカしいだろ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・はッ!はっはっはっはっはっは!」
どんな手段で一校に潜りこむかまでは知らなかったようだ。
モニターに映る風間さんはたっぷり3分間は大笑いした。
失敬な。
「じゃあ、入学は、ふっは、出来たのか、はっは・・」
「今の学生の勉強熱心さには参った。あんな面倒くさい数学やるのな」
「ふふ、そうだな、はっは、そうだ叔父さんとしては入学、ふっふ、祝いをやらないとな」
モニター先では風間さんが机を叩き、笑いを漏らしつつ入学祝いをくれるらしい。
「期待しとく。その様子だと面白過ぎて話は聞けそうにないな。また連絡するよ。じゃあ、入学祝いよろしく」
「期待、ふっはっは、しておいてくれ。いいものを贈るよ」
「よろしく。お疲れさん」
「ああ」

通話が切れる。風間のおっさん大爆笑しやがったな~。仕事疲れてんだろうな~。
夜10時過ぎて執務室にいたんだから残業だろうな。
今も昔も変わらんな~。


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目出し帽の男とお茶

入学まであと1か月ほどの昼下がり、支援課のオフィスに客が来た。
諜報機関のオフィスというと薄暗く、PCのモニターの光とデスクライトと、怪しい計器、そして皆無口で、怪しむような視線が飛び交う。
だが実際はそんなことはない。普通の企業のオフィスのようなものである。
PCはあるし、ウォーターサーバーもあるし、職員が持ち込んだ小さな観葉植物もある。

「魔装大隊の藤林少尉です。関少佐はいらっしゃいますでしょうか」
鈴が鳴るようなきれいな声がオフィスに響く。
藤林少尉は妖艶と言うより健康的な色気に満ちた女性だった。
職務中なので化粧はほとんどしていないが、それでも男性の視線を集めるだろう。

「自分が関だが」と彼女の前に立つ。
問題なのは俺は覆面をしている。諜報機関の人間なので、目出し帽をしている。決して変態趣味があるわけではない。念を押して言うが変態ではない。
面割れは生死にかかわる。藤林少尉は驚くこともなく敬礼してくる。

こちらも返礼する。身長は俺と同じくらいかな~。
「風間少佐より、関少佐宛てに届け物がございます。今お渡ししてよろしいでしょうか」
彼女は紙袋を差し出してきた。

「ああ、大丈夫だ。これからお茶飲むがいっしょにどうだ?」
風間のおっさんの入学祝いはこれだ。
件の九島の分家筋である藤林少尉との接触である。なかなか気の利いた祝いだ。
「はい、構いませんが施設内の喫茶室でしょうか」
国防本部にも一応喫茶コーナー的なものがあるが、目出し帽の男とお茶するのはいやだろう。
「いや、ここに貰い物だけどいいお茶がある。米田さん~、お湯ある?」
藤林少尉を部屋の隅にある応接兼打合せスペースである茶飲み机に案内する。

パーテーションで区切られておらず、本当に部屋の隅に机と椅子がある。
うちの課のベテラン事務お姉さん(俺より年上)である米田さんがお茶を持ってきてくれた。
課員が貰ってきたインド産の茶葉である。

藤林少尉と二言三言世間話をするが、彼女は余裕の表情だ。
こちらの質問を想定しているようだ。アニメでもこんな余裕顔してたな~。
「そういえば一校に君のご家族も入学するようで。おめでとう」
「ありがとうございます。妹の奏と言うんですがこの度入学することになりました」
ここで「なぜご存じなんですか」と聞き返さないあたり、諜報の仕事向きである。
含みのある会話ができる。なぜ101旅団に所属したんだ!

「少尉と同じ優秀なお嬢さんなんだろうね。
それにしても一校には他にも十師族がいて、四葉まで入って諜報屋としては仕事が増えて助かるよ」
あ、藤林少尉の鼻先が少し動いて「そら来た!」といった感じの目をしている。
「そうですね。妹と同学年に四葉がいると思うと、どんなことが起きるか心配ですわ」
こんな感じで、世間話で話を聞いていく。
15分ほど話してわかったことは

・藤林少尉の妹は、少尉同様に優秀で電子・ネットワーク回りだと少尉に匹敵するらしい
・件の四葉は後継者候補と思われる。少尉は面識はない
・魔装大隊の噂の特尉殿はイケメンらしい
・九島の御大は四葉の入学には笑っていたらしい
・柳大尉が合コンしたらしい

こんなもんである。彼女はお茶のお礼を言って帰って行った。
風間少佐からの入学祝はブレスレット型のCAD。
「甥っ子へ 勉学に励め 叔父より」のメッセージカード付だった。

もうすぐ入学式である。早めに行くと兄妹のイチャコラが見れるんだろうか。



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森崎君、モーリーと呼んでもいいかね?

入学式の朝は快晴であった。
地球における短期的な寒冷期は終わり、地球は温暖な状態らしい。
なので女子の服装は薄い。制服はデザインがスッキリしており女性のボディラインがよくわかる。
白を基調としたタイトなワンピース風のスカートに、グリーンのブレザー。ウエストラインが強調されるデザインだ。

つまり36歳のおじさんには目の毒である。

不思議なことに魔法科高校の劣等生の世界の女性はスタイルがいい。
今まで「私可愛くないから」とか「スタイルが悪い」と自嘲する女性に何度か会ったが、だいたいが美人でスタイルが良い。
やっぱり時代は2次元だよな!と20歳ごろに思ったがいつの間にか前世の年齢も何歳か過ぎて、今はこの世界が現実となった。

関重蔵少佐 36歳、今年、高校一年です!と自虐的に胸を張り校門を通った。
第一高校には「相馬 新」(そうま あらた)として入学する。
直前に入手できた入試の成績では筆記では真ん中、実技では真ん中より上の順位のだった。
一科生としては「まあまあ」あたりの成績だ。

入学式開始まで10分を切り、すでに講堂は人がいっぱいだ。
正面の壇上には、役員用の椅子が並べられており、忙しそうに生徒会役員が動いている。
お、あの娘が梓弓の異名を持つ中条あずさね。
あっちはハンゾー君こと服部刑部ね。意外と身体の線が細い。

二科生は後ろの方、一科生は前側に着席する。
あ、あそこのデカいのが西城レオンハルトか。アニメより精悍な顔してるな。
うわ、十文字会頭だ。どう見ても28歳の新人市議会議員みたいな貫禄してる。
あれで俺より18も年下か。中学時代のあだ名は理事長だろうな。間違いない。

座席に座ると隣りの新入生が声をかけてきた。
「君も一科生か。僕は森崎。よろしく」
あ、序盤の噛ませ犬、森崎君じゃないか!
体格はやや小柄。俺と同じくらいだろうか。まだまだ幼い顔つきをしている。
童顔は大変だぞー。潜入作戦で高校受験することになる。
ボディーガード業の家で、クイックドロウ等のCAD操作技術は軍でも有名だ。

「よろしく。相馬だ。結構、人いるな」
周囲は一科生100人二科生100人の合計200人である。
「ああ、後ろはウィードの連中だよ」
説明のつもりなのだろうが、見下すようなニュアンスが声に混じっていた。
「お前、それ差別発言だぞ」
何気ない差別発言を指摘する俺の冷たい声に森崎が面食らっている。

当たり前の話だが、一科生とか二科生等に起因するウィードだのブルームだのの差別は実社会では何の意味もない。

国防軍の幹部の大半は非魔法師だ。支援課の事務担当の米田さんも非魔法師だ。村井大佐もそうだし、俺の両親もそうだった。

魔法師の卵同士で差別して優越感に浸っても何も意味はない。そんなものに意味はない。

「森崎、モーリーと呼ばせてもらうが、うちの両親は非魔法師だ。魔法の使える使えないでいうと二科生より下だ」
「鳩が豆鉄砲喰らった」というのは今の森崎がそうだ。
回りの一科生も顔は向けていないが、こっちに意識が向いているのがわかる。
「そんなうちの両親に会ったらお前差別発言交じりで笑うのか」
「あ、いや、ええっと」
モーリーがしどろもどろになってきた。
そりゃそうだ。軽く差別発言したら、マジ切れの返答が帰ってきた。

「なんだ、ノリが悪いな」と捨て台詞言えるほど擦れてはいないようだ。
先日まで中学生だった少年に、即座に対応なんて難しい。
「あの、悪かった」
「いや、すぐに謝れるのはいい奴の証拠だよ。改めてよろしく」
小声ながら謝罪するモーリーに手を出し握手を促す。
おずおずと握手を返すモーリーは意外といい奴なのかもしれない。

モーリーと出身中学の話やどんな部活に入るのか、少しお喋りをしたところで入学式が始まった。
たしか司波深雪が「一科生とか二科生とか関係ないぜ!お兄様こそ至高!ふぁっく!」みたいな
超ロックな挨拶をするはずである。
正直アニメとか原作の知識がおぼろげなので、細部はまったくわからん。

入学式に緊張するモーリーを横目に式は淡々と進んでいく。
校長や教員たちの挨拶は無く、ほとんど生徒会主導で式は行われていく。
生徒会長の七草真由美が登壇して入学の祝辞を述べる。確かに美少女で、20歳を越えれば美女になるだろう。モーリー、顔が赤くなっているぞ!

と、ついに新入生代表の挨拶である。
登壇したのは司波深雪ではなく「四葉光夜」である。
どうやら「光夜」で「ミツヤ」と読むらしい。

はっきり言おう。長身イケメンである。
身長は服部副会長よりやや高いくらいで、美しい髪をポニーテールにしている
何とも妖しい目をした美少年だ。
「四葉光夜だ。この名前の通り十師族四葉家だ」

予想通りというか予想以上の美声で代表挨拶をしていく。
周囲の男女関係なく壇上に視線が向かっている。
あ、あっちに司波達也がいる。


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俺は知ってるんだ!オリ主転生小説で読んだことがある!

「我々は魔法師を目指すため、この学び舎の門をくぐった。
その結果として一科生と二科生に区別された。人はその能力によって区別される。
たがそれは学び舎内のことであり、そこに優劣はない。人は常に努力によって成長が出来る。
一科生と呼ばれる諸君ならわかるだろう。
研鑽の日々が君たちに一科生としての自負を与えてくれた。だが一科生だからといって二科生より優秀というわけではない。

二科生には二科生になるべくしてなった特性がある。常に二科生は努力を続けるだろう。
一科生というすぐそばにいる壁を超えるために。努力とはいともたやすく壁を乗り越えるものだ。
二科生が一科生に、そして一科生は真に優秀な魔法師になるために。
我々の終着点は一科生として卒業することではない。
切磋琢磨し、技術を伸ばし、真に優秀なる者になることだ。

もう一度言おう一科生、二科生は区分でしかない。
優劣はそこにはない。真に優劣とは努力をした者と怠った者にこそ現れる。

常に努力を。あらためて新入生としてそれを誓うものである」

壇上の美少年は挨拶を済ませるとさっと自席に戻っていく。

うわ~、あいつも転生者じゃね?

挨拶というより演説にあっけに取られている新入生たちは只々呆然としている。
四葉の名前を出し、一科二科の差別意識を区分とぶった切り、「努力しろ」と念を押す。
新入生総代であり、たぐいまれなる美貌を持ち、カリスマを感じる声で言われたら説得力が高い。

横目でモーリーを見ると一文字に口を閉じ、神妙な顔をしている。
本人にも思うところがあるのだろう。
あの新入生挨拶で感じ入るところがあるなら感受性は高いんだろうな~。

俺は顎に手をやり、改めて転生者について思いをめぐらした。

やっぱりあいつ転生者だよな?そうすると3人の異分子も説明がつく。
つまりは3人とも、俺を含めれば4人だが、転生者である。


「村井大佐!彼らは転生者です!仲間にしましょう!」
「よし、わかった!」

とはならない。転生者なんて魔法がある世界でも夢のような話だ。。
転生者のパターンは…大きく分けると2つ、じゃなくて3つか。

1、前世の記憶がない
2、前世の記憶がある
3、前世の記憶があり、かつ魔法科高校の劣等生世界と認識している

1番は無害だ。別にこの世界に新キャラが出たくらいだ。
2番は微妙なところ。前世の記憶と現実のギャップに折り合いがついていれば無害。場合によってはカウンセリングが必要そうだ。
問題は3番。つまり設定、この世界の未来や自分の関知していない部分での起きていることを知っていること。

四葉光夜の演説を聞く限りだと、あいつ3番目なんだよな~
本来は新入生首席が行う新入生挨拶をするところを見るに頭が良い。
四葉を大々的に名乗るのは「生まれ」が四葉本家に近い転生者。

四葉の本家に近くて頭脳明晰で大人びた妖しい美少年?
チートじゃねぇか!

頭脳明晰といっても魔法科高校なので、魔法力や魔法の行使についても相当高いはず。
あの司波深雪を抑えての新入生首席だ。今すぐ国防軍でも実戦投入できるレベルだろう。

チートじゃねぇか!

で、四葉本家絡みなら司波兄妹とも連絡の取れる立場だろう。
四葉を名乗るのは司波兄妹から注目をそらすためだろう。

俺は知ってるんだ!オリ主転生小説で読んだことがある!
でも実際そんなチートと一緒の学年になるとは思わんかった。

今すぐ足をばたつかせ奇声を上げて鬱憤を晴らしたい衝動を抑えつつ入学式は終わった。

これから3年間使うIDカードをもらうため各教室へ向かう。
「なかなか耳に厳しい新入生挨拶だったな。モーリー」
「うるさい、猛省中だ」
茶化すとモーリーは複雑な顔をした。
いいぞ、少年。その成長っぷりはおじさんの癒しだ。

教室、モーリーは原作通り1-A、俺は1-Bであった。
別れ際、モーリーとカードの配布が終わったら喫茶室で飯を食う約束をした。
数日内(明日だったか?)に司波達也と悶着を起こす流れだったはずだ。
そこで司波達也は深雪以外の一年一科生と知り合う。
つまりハーレムルートへのフラグ立てである。

原作ブレイクを狙うわけではないが、思ったよりモーリーが好印象なので
少しちょっかいをかけて主人公組からの印象を上げてやりたいところである。

そう思いながら教室に入ると見知った顔がある。そうさっき壇上で大演説をぶちまけていた奴だ。
四葉光夜。
回りには誰も寄り付かず、遠巻きに見ている。皆「四葉」の名と演説の内容から忌避しているのだ。
その中で平然としている姿はまさに孤高。

なのだろうけど、36歳の中年から見るに孤高と言うかボッチというか。

そして入学式の後は、頭を抱えるIDカード配布となった。
それは次の会話が目の前で繰り広げられていたからだ。

「君、四葉なんだって?あたしは藤林奏!分家筋だけどこれでも九島なの。よろしく」
「藤林?そうか、君が実技の次席の?四葉光夜だ。光夜でいいよ」
「じゃあ、あたしもカナデって呼んで」

うん?うん?無性にモーリーとバカ話がしたくなった。


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転生者容疑


我が妹の明子さんや、姪っ子の柚希ちゃんはもうすぐ小学校ですが
伯父さんとしてはランドセルを贈りたいのですが、いかがでしょうか。

とリアル36歳として一瞬逃避したが、すぐさま現実に引き戻された。

目の前で転生者容疑を持つ二人が挨拶を交わし、更には下の名前を呼び合う仲になったのだ。
いやまだこの段階で原作に何かしら影響が発生するわけじゃない。息を整えろ。素数だ。

「スゲー演説だったな」
二人に近づき、四葉に向けて言葉を投げる。
「いや、正直なことを言ったまでだ。お前は?」
胡乱な目を向けながら返答してくる。警戒しているようにも見える。
「相馬新。あんなデカいこと言う奴とクラスメートになるとは」
「へー、デカいことに聞こえたんだ。私、ふじばや」
「藤林奏だろ。さっきの自己紹介聞こえてた。九島だって」
「まあ分家も分家だけどね」
他の生徒と違い物怖じしない態度が気に入られたのか四葉も藤林もこちらに視線を向けてくれる。

「で、四葉は新入生挨拶したってことは相当入試はいい成績だったんだろ?」
「あまり四葉四葉と連呼されるのは好きじゃない。光夜でいい」
お、年相応な反応な気がする。
「じゃあ、光夜。俺のこともアラタでいいよ。そっちはカナデでOK?」
「もちろん。堅苦しいのは好きじゃないの」
光夜も軽くうなずく。君ら!年相応じゃないか!
長身で黒髪美形の光夜。
姉の響子とは違い、活発な印象と姉を思わせる美貌を持つカナデ。

僕、君の姉さんとお茶しばいたったで~、言ったら驚くだろうか。
二人に正対すると自分が平凡容姿であることを痛感する。
童顔=かわいらしい、みたいなイメージがあるがそんなことはない。
そんなことはないんだ!

美形二人の間に平凡面が入ってたことで、何となく周りの空気も和らぐ。
「お前入試どうだったのよ?」と聞く「いや普段通りだ」とそっけなく返す光夜。
そんなやり取りのすき間で女子生徒数人が
カナデに声をかけたりと新入生らしい交流がそこかしこで始まった。

残念ながら光夜に話しかけたのは俺だけだった。
そりゃざっくばらんな感じがする美少女とは交流しやすいが
「僕、四葉なんだよね」みたいな陰気な奴には話しかけずらいわな。

「なあ光夜。お前割とボッチだったりする?」
「そのつもりはない。が、周りが勝手に距離を置いてくる」
「それがボッチだ」
突っ込まずにはいられない。

教室内で会話が弾み始めたタイミングで教師が教室に入ってきた。
教師からの「3年間学業に励むように」的な挨拶が終わるとIDカードの配布が始まる。
「え~では明智」と生徒を呼び始めたとき教室のドアがもう一度開いた。
「遅くなってすみません。司波雪光です」

oh・・・


我が妹の明子さんや、姪っ子の柚希ちゃんはもうすぐ小学校ですが
伯父さんとしてはランドセルを贈りたいのですが、いかがでしょうか。

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これでお互いを下の名で呼んでも怪しまれないぞ

2090年を過ぎても麻雀はそれなりの遊戯として一定年齢層以上に遊ばれていた。
いきなりそんなことを思うのは「役満」という意味が今も昔も変わらないということだ。

俺は今日二度目の顎に触れながら内心を整理した。
同じ教室に転生者容疑が3人と、転生者捜査官と化した十師族の弱み握り潜入工作員が1人。
これを役満と言わず何を役満と言うのだろうか。
転生容疑者達と俺が1-Aだったら役満どころか雀卓投げ捨て案件だわな。
まだ1-Bにおれが知っている魔法科高校の劣等生序盤の面々がいないだけ救いか。

司波雪光はそそくさと空いている席、俺の真横の席に来た。ちなみに俺の前には光夜が座っている。
あいつの前も横も誰も座っていない。皆そこまでして距離取りたいの?
光夜・・・おじさん友達になってやるからな!

「カードの配布始まったばっかり?」と司波雪光は席に座りながら小声で聞いてきた。
「今始まったばかり。相馬新。アラタだ」と手を出すと
「雪光。よろしく」と握り返してくれた。

「ちなみに前に座ってクールぶっているのが四葉の光夜」
光夜に聞こえるように、雪光を誘導する。
わかっている。おじさん、わかっているんだ。
お前ら「これでお互いを下の名で呼んでも怪しまれないぞ」と思いながら自己紹介するんだろ。

「光夜だ。名前で呼んでくれ。あとボッチじゃない」
「そう?説得力ないよ。司波雪光。名前呼びでよろしく」
光夜の言葉を軽くいなす雪光。会話のイニシアチブは雪光の方が上かな?

教師から一つ咳ばらいをもらうと、その後は淡々とカード配布が終了した。
呼ばれる名前で気を引いたのは「十三束」と「明智」とか原作アニメで見たことのある面々だった。
十三束、マジ童顔。気をつけろよ。童顔は苦労するぞ。潜入捜査とか。

この後のスケージュールは特にない。各自帰宅だ。
気の早いものは、部活動の自主見学に行くものもいるだろう。
「なあ、飯行かない?」
「ん?」
目の前のボッチに話しかける。

「あ、僕も行きたい」と声を挟んできたのは雪光。
雪光の回りにはすでに「雪光ガールズ」と言えるような女子生徒が数人いた。
まあ筆舌に尽くしがたい美少年だしな。
雪光ガールズに視線を向けると「どうしよう?雪光君行くなら行きたいし…でも四葉君怖いし」みたいな表情をしていた。
陰気なイケメンより、明るい美少年だよな!

「これからカフェスペースに行って懇親会みたいなことするけど来たい人いる?」
教室を見渡しながら周辺に声をかけてみた。
カナデが「あたし行く!」と声を上げるとバラバラと「自分も」「参加します」という声が返ってきた。

総勢で15,6人くらいだろうか。ぞろぞろで教室を出てcafeスペースに向かう。
「モーリーいる?」
1-Aの教室前を通る時に教室内をのぞきながら、適当な生徒に声をかける。
丁度そこにいたのは、北山雫だ。眠そうな顔してるな。
「モーリーって誰かな?」
「森崎。モーリーって呼びやすいでしょ?」
一秒程度の間の後
「モーリー君」と教室内に呼びかけてくれた。
その声で、さっそく友達になった面々との会話をやめてモーリーが赤い顔で近づいてきた。
「お前!」
「何だよ、モーリー。飯行こうぜ。ちょっと人増えたけどいいだろ~」
ニヤニヤが止まらん。お前、小柄なんだから小動物系男子目指そうよ。そっちの方がモテるよ。
どうもモーリーは「ボディガード経験&一科生」はイケてる設定なのか「カッコいい男子」になりたいように見受けられる。

A組にも声をかけて、結局はAB組合同で総勢30人ちょっとでのお茶会になった。
これぞ組織に生きる中年の懇親会お呼び術!


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司波深雪はいない


カフェでは即席の立食お茶会になった。
残念なことに司波深雪はいない。北山雫と光井ほのかはいる。
う~んおじさんとしては家庭的な感じのする光井さんの方が好みやわ~。
ただ、依存的になる設定だっけか?そんなのあったよね?

「え、双子なの?」
「そう、二卵性の。A組の司波深雪が姉?妹?になるよ」
相変わらず雪光ガールズに囲まれた美少年はさらっと教えてくれる。
回りからは「やっぱり・・・」「似てるよね~」と声が上がる。
「そんなにそっくり?」と横にいるモーリーに聞いてみる。
「司波さんは物凄く綺麗な人で、そっくりだ」
ちょっと顔が赤くなっているな、モーリーよ。

「うん、子供の頃に洋服交換したら見分けがつかないくらいだったよ。今は僕の方が少し背高いから見分けがつくし」
俺、モーリー、雪光は大体同じくらい。同年代の平均身長から少し低い。
よし小動物男子トリオで行こう!と言ったらモーリーに「え!」と言われるし
雪光ガールズからは嫌な顔された。

「アラタは家族は?」
「一人っ子」
いや、ほんとは妹、妹、弟の3人と、姪甥が4人おります。

そんな感じで各自の家族構成とか、モーリーは実家がボディガード業と説明したり、当たり障りのない話を行った。
雪光から司波達也の話になったが
「実技は微妙だけど、筆記は抜群だった。魔工師志望でCADにも詳しい」と言う話を振ってきた。

女子から「やっぱり、雪光君に似てるの~?」という質問に
「いや僕と言うか…光夜みたいな感じ。ぶっきら棒な感じは無いけど」
と光夜の名前が出ると、光夜が近づいてきた。お前、お茶会でもボッチだったのか。

「呼んだか」
恐ろしく響く美声にうっとりしそうになるが、イケメン美声のボッチと思うと
おじさん、こいつの将来が心配になる。
「いや、二科生の雪光の兄貴がお前に似てるんだと」
「もう少し社交的だけど」
光夜に説明してやると、雪光がぶっこんできた。
そこに光夜は「覚えていろ~」と視線を雪光に送っている。
どうせあとで秘匿回線で連絡取り合うんだろ。

「でもでも、司波君のお兄さん、二科生で筆記抜群だったんですよね?入試だとどのくらいの点数だったんですかね?」
間を取り持つように光井さんがフォローをしてくれた。
やっぱり君はいい子だ!

「満点だ」
光夜が一言で返す。お前!もう少し、話題が広がるような言い方しろよ!効率重視か!
周りが黙り込む。お前ホントに!ボッチボッチ!四葉のボッチ!

「え、あの試験を」
驚きを隠さないのがモーリーのいいところだ。
「ああ、二科生と言ってもある側面では一科生以上だ。あまり一科生だからと言って偉ぶれる理由にもならん」
光夜はモーリーの目を見ながら、釘を刺す様に言ってきた。

やっぱりお前転生者だろ。

魔法科高校の劣等生で序盤も序盤で有名なのが「森崎くんクイックドロー事件」である。
これにより司波達也は北山雫と光井ほのかの知己を得、
さらには生徒会長&風紀委員長とも面識を得る。

原作ではクイックドロー事件時点で二科生差別意識のあったモーリーだった。
このタイミングでその事件を見越したようにモーリーに釘を刺す言い回しは
やはりこいつは転生者。

「で、モーリー。お前はどうだったのよ。入試は」と話題を各自の入試の話に切り替えた。
不承不承、モーリーが入試結果の話をすると意外と好成績なことに周りが驚く。
モーリーお前頑張ったんだな。
あまり成績が振るわなかった俺としてはちょっと尊敬しちゃう。

話をまとめると入試成績に関しては

総合首席:ボッチ
総合次席:司波深雪
だったらしい。

筆記(理論)だと
首席:ボッチ
  同:司波達也
次席:司波深雪

実技になると
首席:ボッチ
同:司波深雪
次席:藤林奏
同:司波雪光

らしい。

あー、お前らやっぱり転生者だろ。

雪光は筆記だと深雪のすぐ下で、筆記も総合も三位につけているらしい。
「へー凄いね」とひょいと現れたのが実技次席のカナデだ。
「カナデは筆記どうだった?」
「あたし、まあまあ。アラタは…もしかしてギリ?」
とカナデは意地悪な笑いを向けてくる。

美貌、愛嬌、ちょっと意地悪な性格。こりゃ男子にモテますよ!響子さん!
「聴いて驚け。普通だ」
「何だ。モーリーに絡むから結構できる方だと思ったのに」
カナデまでモーリーと呼び出したか。
まんざらでもない顔しているモーリーを見ると、モーリー面食いだな。

「いいの。俺の伸びしろはデカいから。卒業までには総合TOP10には入るよ」
「言うわね~」
まあ、来年の今頃は作戦終了として転校するんですけどね。





修正前
「そう、一卵性の。A組の司波深雪が姉?妹?になるよ」

修正後
「そう、二卵性の。A組の司波深雪が姉?妹?になるよ」


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「モブ」「その他」「生徒A」

入試の話のあとは俺、カナデ、光夜、雪光、そしてモーリーで部活や校内の実力者の話になった。

()()()校内の実力者に詳しい雪光が話し、光夜やカナデ、俺が茶化したりして
モーリーが「そんなに凄いのか…」とか「なん・・・だと・・・」とかリアクションをしてくれた。

「十文字会頭や七草会長は、出自以上に実力だろうな」と言った光夜にうなずく転生者疑惑の2人。
「モーリーも頑張んなよ。九校戦で新人戦じゃなくて代表戦のレギュラー狙うとか」
カナデはモーリーの背中を軽く叩きながらハッパをかけている。
モーリーへの会話傾向を見るに、光夜は釘を刺し、雪光は観察、カナデは干渉と言った感じである。

「でも、三校に一条の御曹司がいるんだろ。九校戦もどうなるかね」と何気なく話題を振ったら
光夜、雪光、カナデの三人とも同じリアクションをした。
小さく「ふっ」とほほ笑んだのだ。
「なんだ?光夜、余裕だな。新人戦でも出る気満々なのか?」
「いや、そうではないんだ」
感情を抑え込んで返答するが、お前ら司波達也無双が行われる事実を知ってるだろう。

そんなところで、昼を過ぎとなりで各自三々五々解散となった。
このお茶会で仲良くなった者同士で、この後下校途中でお茶したりといった感じだ。

とりあえず「四葉」とは友達になったが、次は七草と十文字だ。
手っ取り早いのが、生徒会に入ることだが成績上位者が前提なので難しい。
次に部活で成績を上げて十文字会頭に目をかけられること。
狙うならこのラインだろうか。

帰って村井大佐に最初の報告だ。四葉はボッチだと。

駅まで歩く俺を誰かが後をつけている。
だれだ?といぶかしむが、今のところ因縁をつけてくる相手はいないはず。
モーリーはあの後、家族と食事があると言って帰っていった。
他のクラスメイトも同じようなもんだ。そりゃ国内最高の魔法師育成機関に入れたんだ。
家族で改めて食事会ぐらいはするか。

原作の流れでは俺はまだ「モブ」「その他」「生徒A」でしかない。
原作キャラの絡みはモーリー、北山雫、光井ほのか、あと自己紹介した十三束や明智くらいだ。
学外だと風間少佐や藤林少尉、その他諸々は軍関係者である。

まてよ。転生でも原作キャラクター転生者が予定外の行動を起こす俺を尾行しているとか。
う~ん、転生って怖い。

駅前の短い道をだらだらと歩きながら道すがらの色々な店を見ていく。
適当なところで、駅までの道を外れてタイミングを計るつもりでいる。
正面戦闘になったら学生如きに負ける潜入工作員ではない!
まあ四葉とか十文字とかだったらヤバい。

ぶらつきながら裏道通ったり、一駅離れたゲームセンター(この時代でも、まだある!)に寄ったりで
結局、一人暮らしの自宅という名の待機場所に戻ったのは17時を少し超えていた。

それにしても疲れた。心労が重なる一日だった。
このあとモーリーがやんちゃするかどうか?そして教師推薦枠の風紀委員がどうなるか?
原作への介入具合がある程度見えてくる。
そして壬生”袴姿の可愛い”紗耶香が起こす騒動と決着。

半年分の潜入捜査をした気分で一日を終えることとなった。



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俺はアカシックレコードを見たのかもしれない

三人称視点となります


「どうだった」
「いや、どうにも。擬態としては板についていたし、こっちを見透かしているなら相当なものだね」

光夜はあてがわれた四葉の東京別宅で、秘匿回線の先の雪光と達也、深雪と協議していた。
四葉では次期当主として深雪が最有力視されていた。
秘匿・秘密を常とする四葉では、次期当主候補である深雪の存在を世間の目から欺くため、光夜に四葉を名乗らせ第一高校へ入学させた。

「今のところは敵対的でもないし、情報の引き出し方も強引とは言えない。普通の同級生の域を越えないと思うね」
尾行を行った雪光は相馬新は敵対的な立場ではないと判断した。

深雪の守護者は3人いる。

一人は実兄であり、戦略級魔法師であり、再生と分解を操り、最強と目される司波達也。

双子の半身であり、機械工学に聡く、社交性を持ち、「最速」の司波雪光

四葉 元造の冷凍保存された精子にて生まれた「最高傑作」四葉光夜。

光夜は他三名のような四葉の血族に見られるユニークな魔法演算能力こそ持たないが
魔法行使の技術、体術などで現時点でもっとも完成された魔法師の一人である。

第一高校への進学が決まり、四葉と司波に別れることを四人で話しあった際に光夜は自分が転生者であることを告げたのだ。
正しくは「未来の出来事を知っている」ことを告げた。

「俺はアカシックレコードを見たのかもしれない」
今のところ人生で一番成功した嘘だったと光夜は自画自賛している。

瞑想中に自己の限界を引き出すため自分に精神干渉魔法を使ったところ「断片的に未来を見た」ということにしている。
勿論光夜は前の人生を全て覚えているわけでもなく、「魔法科高校の劣等生」作品のすべてを覚えているわけではない。
この世界で成長もし、いろいろと勉強していくうちに忘れていったこともあった。

その光夜に同調するように「僕も…」とおずおずと言ったのが雪光である。
奇妙な血のつながりの中で生まれた弟分が自分と同じ転生者で、ガチオタ具合は自分より少し上だった。
お互い原作に登場しない人物として接し合い、奇妙さを感じていたがこの瞬間納得したのを思えている。

達也と深雪は最初驚いたが、それでも子供の頃から一緒に育った兄弟を疑うことはなかった。
達也は原作通り深雪にしか強い情動は動かない。
ただそれでも深雪の次くらいには雪光を大事にしていたし、四葉の身勝手さによって生まれた光夜には、同情のようなものを感じていたのも事実だ。

そして四人は秘密を共有することとなった。
光夜と雪光の記憶と、達也と深雪の目的。
「現時点では、素性についても問題なく行動も怪しむ点はないんだな」
達也の確認に首を縦にするが、それでも違和感はある。
「俺の見た中にはあんな人物はいなかった」
「でも僕らが共通で知っているのは深雪と達也兄さんのことが中心で、「それ以外」の場面は詳しくない。そうでしょ」
光夜の不安に雪光が諭すように答える。
雪光は聡明だった。落ち着き、臨機応変に対応できる。

光夜も知識だけではなく慎重さと忍耐力と知性があり、達也の知性の高さには疑う点はない。
四葉の中でも上位の実力を持つ三人である。
深雪の三人の守護者は戦闘魔法師としては世界屈指であった。

そこに現れたのが「相馬新」という男子高校生である。

「少し茶化されてナイーブになっただけじゃないかな?光夜兄さんボッチだから」
「俺が達也よりぶっきら棒とはよく言ってくれたな」
モニター先でニヤニヤする雪光。すでに話は聞いていたのか深雪も笑っている。
「藤林奏の方は今のところ問題はない」
達也が話を元に戻す。そして咳ばらいを一つ。
「俺は光夜より、もう少し口数が多いからな。印象が違う」

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スゲー、アニメと同じ声だ

意外と1週間というのは短いもので、すでに4月も半ば。元気してますか?
俺は毎日大変です。

モーリーのクイックドロー事件は起きませんでした。
その代わり「モーリー、司波達也に口頭で難問を聞くが即座に回答されてみんなに同情される事件」になった。
モーリーはその人生において司波達也に関わらずにはいられんのかね。
その後、司波達也の風紀委員会入りはつつが無く行われ、服部先輩の敗北は知れ渡った。

で、問題がいくつか。

1、課題が難しい。
うちの小隊の魔法大学卒の新任少尉がいるので丸投げでOK。

2、モーリーが風紀委員から外れる
カナデが就任です。「九島の威光」を使うので校内は平和になるそうだ。
他の風紀委員は「二代目姐さんの誕生だ!」と笑っているらしい。

3、雪光が生徒会入り
生徒会における書記補佐として入ったらしいです。なんか七草会長が「弟みたい~」と可愛がっているらしい。おねショタか。
本人的には雪光ガールズから距離がとれて羽が伸ばせるとか言ってる。


4、光夜、部活連執行部入り
モーリーと同じコンバット・シューティング部に入りやがった!
即執行部入りでみんな唖然。
みんなが距離を置く中、モーリーが話しかけたことで練習のバディ役はモーリーの仕事になったよ!ボッチが減ったよ!

そして大問題なのが次だ。

5、司波達也と接触

ついに接触してしまった。あまりいい形での接触ではない。
原作序盤のターニングポイントの壬生紗耶香対桐原(下の名前なんだっけ?)の試合。カップル同士の馴れ初め喧嘩を見ようと武道館に足を運んだ。
流石、一校。基本的に建物がデカくて立派。

二階の観戦席ではなく、一階で見ていたら
「純粋な剣技では~」「実戦~」のカップル予定の二人の痴話喧嘩が開始。
少ししたら司波達也登場!

深雪とは雪光の紹介で少し話したが、生で見ると凄い美少女だった。
そして達也である。おお、スゲー動いてる!腕クロスした!

などと感動していたら剣術部の生徒が勢い余ってこちら側に倒れ込んできた。
剣術部員が倒れる拍子に後頭部をぶつけそうだったので重心とタイミングを計り、倒れる直前に起こしてやった。合気で。

その瞬間、肩越しに司波達也がこっちを見たのだ。
剣術部員は倒れたはずの自分が立ち上がっていたことに驚き
「え?!」とか言っているが、司波達也は視線を外した後も俺に対して意識を向けていた。

ありゃ、まずい。最悪である。
司波達也が原作通り、あの九重一門の麒麟児であり
武術・武道・格闘において非凡な才があるなら俺のやったことを理解したはずだ。

俺のチートの一端を見られた。俺はそそくさと足早にその場を・・・と言いたいが、変な行動をとるとさらに怪しまれるので「先輩大丈夫ですか?」と先ほどの剣術部員を心配するふりをして、足止めをした。

その後、他の風紀委員が応援に来たところで、司波達也は足止めされていた剣術部員を連れて行こうとする。
「先輩、こちらへの手出しを録画しています。ご同行ください」
促されて、剣術部員は連れていかれる。そして司波達也は俺の方を向いて言い放った。
「見事な腕だな」

あ、バレテーラ。「偶然です、でへへへ」と言うのも胡散臭い。そこで
「少しかじってね。上手くいったよ」
「相当な修練に見えるな。部活は?」
「検討中。司波達也だろ?相馬新。雪光と同じクラス」
全然警戒解かないでやんの。自然な風にしてるけど、身体は半身で視界も広くとっているし。
「ああ、司波達也だ。部活をやらないなら風紀委員に推薦するが」
「ペーペーにそんな権限ないだろ。茶化すなよ」
軽く笑ってやり過ごそうとしたが、達也の警戒心はまだ高いままだ。
武道館の出口で他の風紀委員が「司波!」と声をかけてくる。
司波達也はその声に従うように合流しに歩き出す。

去り際に言った司波達也の「またな」というセリフが面倒である。
目的は十文字&七草の弱味探しなのに、司波達也が邪魔です。

というのが数日前。
現在は放送室に壬生紗耶香たちが立てこもりした日の放課後。
つまり国際的反魔法師団体によるテロ行為まであまり時間がない。

何やら忙しそうに雪光、カナデが動いている。
特にカナデは放課後そそくさとどこかに行く。
モーリーと光夜は部活に忙しい。

さてオジサンとしては、どう動くか?と行動方針を決めたいところだが
出来ることは村井大佐に学校内の不穏な様子を説明し、背後関係を調べてもらうぐらいだ。
「ブランシュです!大変です!」と騒いでもこちら側には根拠がない。
村井大佐が上手く情報を引っ張ってくれれば介入する口実ができる。
テロ組織が学内にいて活動しているのは普通に国防上良くない。魔法師の育成機関内での反魔法師テロリズムって、あーた。

「関少佐。あまり芳しい事態ではないようだ」
モニター越しに村井大佐の神妙な声がする。
待機場所としてあてがわれたマンションは一人暮らしするにはやや広い。
連絡要員が来ては「へ~少佐、いい所もらいましたね~」と
顔出しに来るので実際は一人で羽を伸ばすことなどない。
諜報は24時間仕事なのだ!

「と言いますと」
「ブランシュは知っているな。反魔法組織がどうやら東京八王子近辺での活動が確認された」
「公安情報ですか?」
「公安情報だ」
支援課の情報のパイプは多岐にわたる。外事課、内情、公安、国防内の各種諜報機関。
冗談で「支援課に聞くと内情の食堂の献立が手に入る」というものがある。
有用な情報、無用な情報といろいろ入手できるのが支援課の利点である。

この手の犯罪組織については公安の情報網が確実だ。
物件購入や、レンタカーの借主、そういった草の根の情報を広く深く収集しているのはやはり公安である。

「どんな計画かまでは・・」
「判明しておらん。ただ君からの報告と合わせると一校での工作が行われる可能性も低くはない」
「では必要があれば暴れても…」
「で、七草か十文字とは」
「十文字会頭の所属する部活には所属しましたが、練習に顔出すくらいで今はまだ」
「そっちが先だな」
と釘を刺され、襲撃の日まで楽しく部活です。教官の蹴りもなければ怒声もない。
これが実戦だ!と言いながら拳銃をぶっ放すヤバい訓練もない。
筋トレ楽しいです!


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役割分担は決まっている

三人称視点です


それ見たことか、というような表情をする光夜に、表情の曇る達也。
心配そうに見つめる深雪に、考え込む雪光。
「それほどの腕前なのか」
「ああ、九重門下でも対応できる者は少ない」
その言葉はその場にいる四人にはなかなかショッキングなものだ。
発言した達也自身でさえ。

今日起こった剣道部と剣術部の乱闘騒ぎの中、相馬新が一瞬見せた合気の技は秘匿回線で報告し、意見を検討する意味のあるものだった。

単純に身体能力で言えば、達也と光夜はほぼ同じだ。
筋力や運動神経など、戦闘に必要な身体能力ではほぼ五分だ。

ただ体術の訓練時間が多い達也の方が素手戦闘では光夜より上だ。
雪光は身体能力は年齢相応だが体術の心得はある。深雪とともに九重門下で汗を流した。

4人の中で格闘に秀でる達也をして、この意見である。
何か特殊な状況下、例えば魔法を制限された中で相馬新と敵対するのはまずい。
勝機が低いのである。
勝てる見込みというのは重要でその算段が無い状態ではガーディアンは時間稼ぎの壁にならざるをえない。
それでは確実に深雪を守れるとは言い難い。

「でも達也兄さんが本気になれば」
「それは楽観だよ。雪光」
達也の口調は優しいが出た言葉は厳しい。

「相馬新の見せた技術が、魔法によらないもの、そしてさらに高度な技術を用いることが可能とすれば厄介な相手だ」
光夜の言葉に一同うなずく。
「少しあいつに揺さぶりをかける必要がありそうだな」
「ああ、だがブランシュの動きも気になる」
達也の目的は深雪の安全。それを優先するのは当然である。

「僕の方も動くよ」
雪光も自分の手駒の使用を提案する。
彼だけがこの四人の中で自分の手駒を持つ。
「いや、お前のところはブランシュ対策のままでいい。直近に起きるのはそちらだ」
光夜の頭の中にあるのは一校襲撃事件の対応の段取りだ。

原作に登場する面々だけでも対応可能だが、四葉として名を高め、深雪や達也、雪光をカモフラージュするにはうってつけの舞台である。
ブランシェへの反撃は達也、深雪、雪光に任せるとして、自分は学内の混乱を抑えて「学内のリーダー」として全生徒に印象付けたい。
既に役割分担は決まっている。

「そうだね、光夜兄さんには目立ってもらわないと。目立って僕とアラタ以外の友達増やさないとね」
意地悪にいう雪光に光夜は返答した。
「モーリーも友達だ」
深雪が吹き出し「ふふ、ごめんなさい」と肩を震わせている。

「揺さぶりに関しては僕の方で手配する。達也兄さん、カナデに協力を要請するけどいいかな」
「何をさせるんだ」
「カメラマン。光夜兄さんにも出番があるからよろしく。僕の想像通りなら何かするよ。アラタは」

雪光はアラタの件に関しては内心焦っている。早期決着をしたい。
原作の物語からこのまま乖離し、自分たちの「未来知識」のアドバンテージが消えるのは怖い。
この世界で生き残るためのリスクヘッジである。

「相馬新」が不安材料として徐々に大きくなっていくのを雪光は感じた。

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俺、諜報員というかニンジャじゃね?

当日を迎えました。ブランシュ襲撃です。
すでに壇上には、二科生による抗議団体が七草会長とあーだこーだしています。

不思議なことに講堂には風紀委員ではなく、一部部活連の有志が
「警備」の腕章とともに数か所立っていること。

あ~、すでに準備万端ね。この辺りは転生者組の差配だろう。
今日登校時にも学校外で日頃見ない配達の車を2台ほど見かけたので
四葉の工作班が待機しているのかも。

壇上の討論は「二科生にも講師くれ!」
「履修と成績いかんによっては講師による講義の履修も可能です!」とか
喧々囂々だ。たださすが七草のお嬢さん。舌戦でも優位である。
こりゃぼちぼち決着が…

と講堂天窓の割れる音!ばりーん!ボン!煙だ!服部先輩の見せ場だ!
はっきり言って、原作を知り、現役の諜報部員兼凄腕兵士の俺から見れば
ブランシュの襲撃は杜撰な戦闘計画なので慌てることはない。

警備の面々が講堂周辺を警戒し、一部の警備役が生徒の退避のため敷地外への避難経路を確保に講堂を出た。
あ、モーリーいるわ。頑張れよ!見せ場だぞ!

講堂内の生徒は突然のことに不安になるが、さっと壇上に上がった光夜が
「我々は部活連執行部の有志警備です。周囲の安全を現在調査中です。皆さん取り乱さず、規律をもって行動してほしい」
と、恐ろしく通る美声で生徒に語り掛けると、動揺も少し静まった気がする。
逆に「大丈夫ですよ!大丈夫ですよ!」を連呼して安心させるんだか不安にさせるんだか、面白いのが中条あずさである。
梓弓打ってやれば一発なのにね!

すでにレオンハルトはいない。千葉エリカもいない。風紀委員もほとんどいない。
司一の確保に、図書室からの国防軍のデータベースへの不正アクセスを止めに動いているようだ。

遠くの方から「パンツァー!」の声が聞こえる。よしちょっと手助けに行くか。
不安な生徒たちから抜け出すように
というか凄腕潜入工作員はこんな状況から抜け出すなど朝飯前である。

と、偉そうに言ったが行動に移すと意外と難しかった。
警備の面々の一瞬の油断。油断というより目の動きをを盗んで講堂の外に出る。
レオンハルトのデカい声の方に行くと襲撃者と大立ち回りのレオンハルトや警備の部活連の面々がいる。

刃物や拳銃などで装備を固めた襲撃者に、時にはパンチ、時にはキックと善戦するレオンハルト。
警備の面々も格闘系部活なのか物怖じすることなく、戦っている。

よしよし日本の国防の未来も大丈夫そうだ。
舗装された学内の道も一部割れていたので、そこから適当な大きさの破片をいくつか拾い上げ
乱戦を続ける集団へと踊りこむ。

乱戦になると意外と人間の視野は狭くなる。
高速道路における高速走行時の視野の狭さと同じだ。

俺は身を低くしながら人の隙間を縫うように乱戦内を走り抜ける。
走り抜ける際に襲撃者の側頭部や、顔面、膝、時には急所へ破片を投げつける。
古代中国には指弾と呼ばれる技術があり小石を投げ、敵の急所を攻めたという。
それである。

突然の衝撃に一瞬間の空く襲撃者。あとはそこに渾身の一撃を入れる警備の面々。
5分もしないうちに講堂近くの襲撃者たちは地面に伏した。

少し離れたところで
「大丈夫か?」
「ああ、なんてことないぜ」
「お前、二科生の・・・」
「西城レオンハルトだ」
「僕は」
「森崎だろ」
とモーリーがレオと友好を深めていた「なかなかやるな」「そっちこそ」みたいな会話を始めたので
そそくさ退場。
モーリーへの主人公組のヘイトが減りますように!

講堂に戻ると「退避路は確保してあります。この後講堂をクラスごとに移動します!」と服部副会長が指示をしていた。
警備の面々に促されて、1年生から順に学校の外にある避難施設へと移動する。
あとで聞いた話だが途中1度襲撃者の残党とかち合ったが光夜の対応で捕縛したらしい。

今日の授業はこれで潰れた。

避難施設で点呼を取り、警察と有志生徒の警備が続き夕方ごろまで続いた。
日も暮れ始めたあたりで七草会長が全生徒に向かって「暴徒による構内襲撃は鎮静化されました」と報告があり
そのあと、生徒は解散、帰宅となった。

今頃はブランシュのアジトへの反撃をしているころだ。
俺も帰宅もとい待機場所へ向かうべく生徒の人波に紛れようとしたとき

「へいへい!アラタ君!ちょっとお茶しない」
振り向くといたずらっ子の笑みを浮かべたカナデと。神妙な顔をした光夜がいた。
う~ん、作戦失敗かもしれません。大佐。次の任務は西EUへの諜報活動か大使館警護がいいな


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妹の安全の確保のためだ。死ね

「お茶にしては豪華すぎませんこと、カナデさん」
「何をおっしゃるのかしら、アラタさん。四葉なら当然ですことよ」
冗談に乗っかってくれる分カナデはいい奴だと思う。

目の前には魔界の王子のようにクソ高い椅子に深く座る光夜。
カナデは俺と光夜の間。そして光夜に正対する形で俺の席。

避難施設から黒塗りの高級車に押し込められ、到着したのが
どう見ても「お高級ざんす」という感じの洋館のレストラン。
確か、八王子で2040年ごろに大正時代に建築された九段下の洋風喫茶を移設したもののはずだ。都内のこういった目立つ建築物は大体覚えている。目印になる建物を覚えていて損はない。

個室に通され、俺は言葉を発せずに威圧する光夜の前にいる。
隣ではカナデがニヤニヤしている。

「あ、遅れた?」
ドアを開けて登場したのが雪光。おう、期せずして転生者がそろったよ。
「いや~あの後、予定通りに進んでね。後始末も終わったし、これで九校戦を迎えるばかりだよ」
雪光は光夜とカナデに話しかけつつも、俺の様子をうかがっている。
どうやらブランシュ反撃に参加していたようだ。だから四葉らしき工作班がいたのか。

さては、お前ら転生者だな?

「あーなんだ!煮るなり焼くなり好きにしろ!なんだ!そんなに深雪ちゃんに一目ぼれしたのが悪いのか!」
そう言ってテーブルに突っ伏してみた。
カナデが「ふ~ん」と言って笑っている。見えはしないが笑っているのだろう。

「そんな見え透いた態度はいいよ。ねぇ」
雪光が光夜に同意を求めると
「別段この場で危害を加えることはしない。アラタ、お前の持つ技術について聞きたいだけだ」
光夜の声が柔らかい。う~ん、一番ちょろい奴が態度軟化しただけか~。
問題は会話の上手い雪光と、立場が不透明なカナデなんだけどな。

「何だよ、聞きたい技術ってよ」
基本会話は突っ伏したままだ。できる限り不機嫌な声で対応する。
「アラタ。格闘技術に精通しているな」
「うん、昔じいさんの紹介で合気道の道場に何年か通った。それが問題でも?」
「驚異的な技術を司波達也から聞いた。もしお前の技術・能力が卓越したものなら四葉として契約を結びたい」
それ嘘でしょ。光夜さん。
「じゃあ、なんでカナデがここにいるんだよ~。魔法師の専属契約なら雪光もカナデも関係無いじゃんかよ~」
不貞腐れる芝居は得意だ。
「あたしは技術提供しただけ。今日は面白い動画が取れたからね」
そういってカナデは小型モニターを俺に向け、何やら再生する。

画像は、映っている対象は遠い。だがわかるのは今日の講堂近くの広場での乱闘だ。
「ちょっとね。ドローンジャマ―ギリギリの所からだから画像は荒いけど、これアラタだよね~」
ちょっとニヤニヤしながら追求するの止めてもらえます。性格悪いざますよ。カナデさん。

あ~、はいはい、指弾での戦闘支援ね。

「違います~。講堂内にいました~」
しらを切る。光夜や雪光、カナデの実力が不明なので実力行使で逃げるのは得策じゃない。
今、彼らからしたら俺のバックボーンが不明だ。

これは一種の牽制合戦だ。お互い相手のバックボーンや正体に確証が持てない。
だから揺さぶりをかける。揺さぶられた方は、構築してきたロールプレイ(役割演技)を維持しようとする。
だがロールプレイで綻びを出すと追求される。追及されるとバックボーンを出して別の牽制を行って逃げるか
逃げた後にバックボーンを使って牽制する。そしてバックボーンの存在をしられ尻尾掴まれて敗ける。
そういうゲームなのだ。

俺の格闘技術については古式の流れをくむとか言えば彼らは納得するだろうか。
「もしこれがお前なら驚異としか言いようがない。乱戦状態を駆け抜けながらの支援攻撃」
光夜は感嘆の表情で、あの美声で褒めてくる。
「アラタ。お前がどこかの所属なら言ってくれ。交渉が必要なら交渉しよう。お前の実力は手元に置いておきたい」
出たー!四葉の超上から目線発言!俺が引き抜かれたいのはお前らのところじゃなくて、101旅団か地方自治体の職員だよ!
俺の安定志向舐めるな。

突っ伏した状態から身を起こし怒りの表情を作る。
「あのな、光夜!入学から短い間だが友達だと思っていたが、なんじゃそりゃ!人を売り買いの対象みたいに言いやがって!」
一瞬で作った怒りの表情に光夜は観察を決め込んだようで、特にリアクションはしない。よしあいつは受け身に回ったぞ。
今度は椅子から立ち上がり、駄々っ子のようにヒステリックに何度も足を踏み鳴らす。
少し涙を浮かべてみるのが、怒りと混乱を象徴して効果的だ。ちなみに涙を流す最短レコードは45秒だ。

俺は怒りの表情のまま、カナデ、雪光と睨みつけ
「ふざけんなよ!お前らも!なんだ!お前らはそんなに偉いのかよ!」
それだけ言って俺は部屋を出る。カッコがついたのは部屋の鍵が閉まっていないこと。上手く部屋から出れた。
「クラスのお調子者が感情的になって切れた」というロールプレイはうまくいっただろうか。
雪光やカナデが呼び止めないとみると、ロールプレイの成否は成功と考えていいかな?

さて、これで彼らは俺をどうとらえるか?

・単なる格闘技経験者で今後は放置
・さらに探りを入れてくる
・問答無用「妹の安全の確保のためだ。死ね」

あの中で決定権を持っていそうなのは光夜。次に雪光だ。カナデはどうだろう?四葉と縁故がないから本当に技術提供だけか?
若い子相手に立ち回るのも存外楽しいものである。


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全部技術なの

三人称視点です


「過大評価だったか?」
光夜は表情は変えていないが、声にやや沈むものがある。
「う~ん、どうだろう。芝居がかっている感じはあるけど、普通に怒っているようにも見えるね」
雪光はそう言いながらカナデを見た。この場の三人の中でアラタへの隔意はもっとも無い。
「さあ、ただこの動画はアラタだよ。間違いない」

自信満々に言うには根拠がある。あの姉から「支援課の覆面の人」の話を聞いたからだ。
「支援課でお茶をした。覆面の人が対応してくれた」程度で、会話内容に触れない。
それだけの情報だが入学の一か月前、一校に入学する自分に向けて話したのだ。
それはつまり何かがあるということだ。

カナデは転生者の自覚もあるし、目の前の二人が転生者であると認識している。
言葉で確認はしていないが二人も、カナデのことを転生者と認識しているようだ。
原作に登場しない重要人物の血縁。それが転生者だ。

ただアラタは違う。重要人物の血縁ではない。また重要人物が周りにいない。
物語の中心人物、つまりは司波達也、深雪、七草真由美、十文字克人、西城レオンハルト、
千葉エリカ、吉田幹比古、柴田美月、北山雫、光井ほのか
そういった人物に積極的に接触しない。

森崎の関係者か?確かに森崎は原作登場人物だが、物語の根幹には関係しない。
森崎の成績が上がっても司波達也と深雪の物語には干渉しない。

カナデも思考の海に潜ってしまい誰も話をしなくなった。
誰も話さなくなり10分とたったころに聞きなれた声がした。

「雪光!光夜お兄様!」
深雪が物凄い剣幕で部屋に入ってきた。
後ろには溜息交じりの達也がついている。
「先ほどアラタさんに会いました!無礼な申し出をされたのは本当ですか!」

すでに足元の絨毯は霜が降りている。深雪特有の魔法の余剰効果だ。
「急ぎすぎだ。何か事を起こすなら情報収集後にすればいいものを」
達也がぼやきながら、深雪の肩に手を置き、気持ちを落ち着かせるようなだめる。

洋館近くでアラタと出会った深雪たちはアラタの口から
「実力が気に入ったから手元に置きたいってよ。俺は置物の人形か」と聞かされた。
人を物のように扱うのは嫌悪する四葉真夜と同じに思えた深雪は一瞬で激怒した。

「悪かった。急ぎ過ぎたよ。次の登校時に頭を下げる」
深雪に叱られてはお手上げと言わんばかりに光夜は両手を上げる。
友達を侮辱したのか、騙しあいで負けたのかよくわからない。あまりいい気分ではない。

「雪光!あなたもですよ!」
「ああ、うん・・・」
思考の海にまだ半分いる生返事の雪光に対して
深雪は大股で近寄ると力いっぱい頬を抓った。
「わかりましたか!」
「ふぁい!ふぁい!わかりまひた!」

「ねえ達也くん、姉さんの上司さんに連絡つく?」
再度溜息をつく達也にカナデは言葉を投げる。
「可能だが何を危惧しているんだ」
カナデもまだ思考の海から完全には戻っていない。
そんなカナデに対して達也は一定の信頼をしている。

電子の魔女と異名を持つ藤林響子の妹。九島烈の孫娘。
姉に匹敵する魔法力と電子技術。
そして「精神波動による電子機器操作」という世界で一人の異能。
魔法のような魔法でないような、この不思議な能力が彼女を情報の世界へと駆り立てた。

電子の魔女と双璧をなすハッカーにして情報収集者。

達也も過去に2度ほど任務で彼女のハッキングを見ている。
指揮棒を振るうように、空中で手を動かすと難攻不落と言われた電子錠が開いたこともある。
ついた異名が「偉大なる指揮者」(アークコンダクター)である。
その異能や魔装大隊への外部協力者として、達也は彼女に信頼と妙な親近感がある。

「上司さんに、魔法みたいな格闘技が出来て、警備を抜ける技術を持っていて、
ウソ泣きの名人で、尾行されてても気にしないメンタルを持っている人、知らないか聞いてみて」
「なんだそれは?」と注文の奇妙さに達也は声を出す。

「おかしいんだよ、アラタって。普通じゃない。ウソ泣きとか、人を騙す会話とか雪光ならできると思う。でも格闘技はできない。達也くんは警備抜けや格闘はできてもウソ泣きは出来ないでしょ。あたしは尾行に対して動揺はしない。けど格闘技はダメ。光夜が感情の爆発に押されて後手に回ったなんて、考えられる?」

「ねえ、カナデなにが言いたいの?」
深雪がカナデの言葉の真意を測りかねていた。

「全部技術なの。魔法じゃない。魔法は才能があれば10歳でも凄いことが出来る。でも技術は習得期間が必要。ウソ泣き、格闘、尾行慣れ、それに警備を抜けるの。魔法も使わず魔法科高校の全校生徒のいる講堂から抜け出す。魔法使えば一人くらいは見てるし、ばれないはずがない。全学年の一科生と二科生がいたんだよ」

「軍人と疑っているんだな」光夜が確認する。

「うん、軍人かそれに類する所属。そうでないと説明できない。相馬新のおかしさは魔法じゃないところにある」

カナデの結論に全員がうなずく。
「わかった、早急に連絡をとってみよう。ただそれと謝罪は別だからな」
「ふぁい、わかりまひた」
達也の念押しに声を出して答えたのは雪光だけだった。
「あら」と言って深雪は抓っていた手を放した。


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うちよりブラックでしょ、四葉ですよ

さて、困った。状況がこんがらがってきた。
まず村井大佐に今日のアレコレを報告。
「正直にゲロって転職したほうが給料上がったんじゃない」という嫌味に
「でも、うちよりブラックでしょ、四葉ですよ」と返すの精一杯だ。

当初の目標は七草と十文字への接触および情報の獲得だ。
親しくなってパーティとかに呼ばれて盗聴器を仕掛けるもよし、
身近な人物を内部協力者として見張るもよし。

これって一年くらいで達成できる任務じゃないよな~

問題は四葉であり転生者の面々だ。

俺は職業が「情報狙いのハイエナ」だ。情報・弱味を握り、相手をコントロールする。
だが、四葉はハイエナを嫌っている。
今のタイミングで司波深雪が当主候補とリークされたら四葉は嫌がるだろう。
情報をリークしない代わりに何かしら取引に応じる可能性もある。

現実問題として転生者と睨んでる光夜、雪光は「探られたくない」側で俺は「探る側」だ。
目標が違ってもハイエナが身近にいることに安心はできない。排除するだろう。

だが転生者のよしみで見逃される可能性もある。
反面転生者だからこそ、未来を知っているし余計な事実も知っているから排除する可能性もある。

結局のところ、転生者云々を置いても職業上敵対関係にあることには変わりはない。
溜息ばかりだぜ。

もう少し自重して行動するかな。
モーリー!九校戦は自力で頑張ってくれ!



なんだよ、謝るの早いな。
襲撃事件後の登校日に光夜と雪光から謝罪があった。
「アラタ、お前を傷つけてすまん」
「ごめん、アラタ」

いや雪光、お前はいいんだ。
美少年がする申し訳ない!という真剣な謝罪の表情は説得力がある。
周辺の女子も「何かあったんだ・・・・」と謝るお前の姿に謎の納得している。
男同士のトラブルをみんなの前で簡潔に謝罪するには、一言「ごめん」で通じる。

おい、ボッチ。お前だよ「お前を傷つけてすまん」って、美形に言われたら勘違いするだろ。
女子が。
雪光に向ける視線とは別のベクトルの視線がお前と俺に注がれてるぞ。女子から。

「お前らを当分昼飯には誘わないからな!」
そういって憤慨し、席に座る。これで一件落着だ。
雪光も許されたと判断したのか、俺の肩をもみだし「いや~社長、肩凝ってますね~、へへへ」とふざけだす。

光夜については「ああ、当分は俺から誘うよ」と言って微笑みやがった。
だから!ロールプレイ上、「男同士の喧嘩を昼飯誘わない発言で落としどころを見つけた」で終わらすのをお前がそんな言い方するから面倒な感じになるだろ!主に女子からの視線が!

カナデは少し離れたところで口パクで「ごめんね」と言ってきた。
表情は笑ったままだ。おい、おれは別に光夜と付き合ってるわけじゃないぞ。笑うな!笑うなよ。

状況は落ち着いた。
とりあえず光夜も雪光も適度な距離感を保つようになった。
友達としての距離になったのだ。

これで俺の長い長い入学編が終わった。

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諜報は面倒なのだ


九校戦までの間は楽しい学園ライフだ。
部活!勉強!恋!友情!目指すぞ、九校戦優勝!おー!

関重蔵少佐の学園ライフは続くのだ・・・そんな、わけがない。

いくつかトラブルが。

光夜の部活連執行部就任に対して遅まきながら不満の声が上がった。
「実績のない一年生」という点だ。

桐原”壬生のこと好きだぜ”先輩等の実力主義の面々が直接十文字会頭に陳情したのだ。
結局は模擬戦5番勝負をすることとなり、すべて光夜が圧勝した。

やっぱりチートだった。
2年生、3年生の実力派の先輩たちとシチュエーションを変えて模擬戦をしたが全試合開始30秒で決着。

実力で先輩たちを黙らせ、5試合終わった瞬間に一言「異論は」と言い放ったのだから光夜の図太さは相当なものだ。
光夜には早くも次期会頭の誘いがあるとか、ないとか。
総ての試合に全く違う魔法技術を披露し、その技術の多様性と高さから「完璧」と異名されていて笑った。

漫画か!

一方、雪光も雪光で学校の王子様として君臨し始めた。
「魔法科高校の美少女特集」という記事でアポなしで一校の女子に取材していた雑誌社を懲らしめた。
何でも出版関係者を論破し、なぜか雑誌社のデータベースがクラッシュするおまけつきでトラブルを収めたらしい。
その際に他校の生徒会とも連携したので、その美貌と社交性から「一校の王子様」と呼ばれたらしい。
逆上した出版関係者を取り押さえる武勇伝つきで言うことはない。

漫画か!

それにしてもオリ主転生小説のような流れで光夜と雪光が目立っていく。
う~ん、この転生者どもめ。

7月になり、俺は俺で十文字会頭と先輩後輩として仲良くなっていった。
部活における「体力バカな一年生」として認識されたようだ。
現役の軍人が学生の部活でばてるような鍛え方はしていない!
「フィジカルは目を見張るが、魔法がな。精進しろよ」
はい!先輩、頑張ります!
名前と顔は覚えられ、部活時以外に校内で会っても一言二言会話を交わすようになった。

表向きのトラブルはこんなところだ。
潜入任務では面倒なことになった。

村井大佐との定期連絡の際に
「風間少佐にこちらの任務を探るような動きがあった」と聞かされた。
どうやら光夜、雪光、カナデは達也を通して軍方面の人脈で情報収集を開始したようだ。
いや、光夜や雪光も魔装大隊に所属していてもおかしくはない。

どうやら正規ルートでの任務確認だったので村井大佐は情報を与えなかった。
何にでも「正しい確認方法」というものがある。
特に諜報機関というのは、交渉方法が難しい。
比喩、暗喩、遠巻き、曲解を利用した会話によって、相手の持っている情報を理解する。
諜報は面倒なのだ。

俺と風間さんの関係ならざっくばらんに話せるが魔装大隊から支援課へ、正規・正式な接触では記録に残るし回答できることも狭まる。

風間さんが司波達也への「現在確認中だ」というポーズをとってくれるだろうか。
大佐に風間さんからの探りの時期を聞くと5月上旬で、今は7月。
特に光夜や雪光、司波達也からアクションはない。

となると、風間さんは俺の情報を止めているな。
どんな意図があるかわからないが、ありがたい。

ただ九校戦時には荒事が発生するし、吉田幹比古やレオンハルトの活躍が原作通りに起こるとはわからん。
だいたいオリ主転生小説だと、レオンハルトか吉田幹比古のどちらかと役割が交代して
オリ主が九校戦のモノリスコード新人戦に出る流れだ。
俺は詳しいんだ。

荒事要員は多い方がいい。
正体をばらすのは九校戦あたりで、そこらへんで諜報に関する転生者同士の協定を結ぶのがよさそうだ。
横浜騒乱は戦闘区域が広域なので連携を取りたいところだし。



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一人で戦うためじゃない

三人称視点です



「どうした服部、たそがれて」
フィジカルトレーニングルーム。
筋トレ用の器具が並ぶ部屋で桐原は一人溜息を吐く服部に話しかけた。
二年生のトップ。ジェネラルの異名を持つハイレベルな魔法師。
生徒会の一員で部活連との調整を行い、学内でも実力ともに有名人。
それが服部刑部という生徒だ。

一方桐原は軍人家族に生まれ、
剣技を磨き一校でも「実戦ならば」と言われる武勇の一人。
先日のブランシュ襲撃でも、反撃作戦に参加したと学内で噂され
「実戦経験者」と目されるのが桐原である。

2人ともトレーニングが一段落したところだ。
「たそがれているわけではない」
口ではそう答えるが表情は冴えない。
「悩み事なら聞くぞ」
「ふん、彼女が出来て余裕ができたか」
予期せぬ反撃に桐原は驚くやら恥ずかしがるやら表情が二転三転する。
顔を赤らめながら桐原は話を進める
「当ててやろうか、四葉のことだろう」
「そうだな。今そのことで、いろいろ悩んでいるよ」
四葉のこと。5分間に模擬戦を5戦。
上級生を相手に圧倒的に勝利した。並みの魔法師が出来ることではない。
模擬戦とはいえ、魔法を戦いながら発動するのは体力以上に精神が疲弊する。
それを事も無げにおこない「異論は」の一言で周りの雑音を押さえこんでしまう。
その1年生の実力に2年生、3年生は己の実力の低さに打ちのめされている。

ただ服部の悩みはもう少し深い。
魔法師としてのスタイルが近いのだ。
多種多様な魔法使い、複合魔法を駆使し戦場をコントロールする。
四葉光夜が見せたのは、その極地とも言えた。

ある試合ではデモンストレーションのごとく現代魔法を複数使い、対戦者の戦意を喪失させた。
古式魔法も見せた。手元で複数の印を結び、相手の視覚を利用した精神干渉系の魔法を見せた。
「印を使い、相手の精神的空白を一瞬作る。古式の初歩です」
それだけ説明された。七草会長に後で聞いたが、古式は独特なので初歩と言っても習得は難しい。

一瞬で訓練室が霧に包まれもした。そして試合が決着すると一瞬で霧が晴れた。
空間内の事象の改編もお手の物と言わんばかりである。

桐原も対戦した。近接戦に持ち込みはしたが、手のひらに小規模な障壁を展開し得意の高周波ブレードを抑えられてしまった。
足さばきや体術も素人のそれではない。
「そんなに悩むな。あれは四葉だぞ。それに俺の見立てだと…実戦経験者だ」
「つまり人を殺めたことがあると」
服部の問いに曖昧な笑顔で答える「たんなる勘だ」と言わんばかりである。

「俺は、九校戦で一校の総合優勝を手にしたい。だが、今の実力ではモノリスコードの代表は俺ではなく四葉がふさわしいとも思っている」

桐原もその言葉には黙らざるえない。
学内の実力者が選抜される九校戦。そのなかで最も実戦的とされるモノリスコード。
モノリスコードの代表者こそ学内最強と目される。
自分の上位互換、それも最上位互換とも思える四葉こそ、自分より最強にふさわしいのではと服部は悩んでしまう。

「モノリスコードは服部先輩の方がいいですよ」
言葉少なくなった服部と桐原の間に入り込む声の主は、服部が何度か見かけた一年生だった。
トレーニングが終わったのかタオルで汗を拭きつつ話しかけてくる。
たしか十文字会頭の部活の後輩だったはずだ、と服部は記憶している。
「光夜・・・、四葉ですが、魔法師としての能力高すぎて、協調行動をとれる相手がいないんですよ。チーム戦で同じレベルで連携取れる仲間がいないから、浮くこと浮くこと」

「お前、四葉の友達か?」
「同じクラスメイトの相馬です」
「そんなに浮いているか」
服部が問うとその生徒はにやっと笑った。
「浮くなんてもんじゃないですよ。
講義だって一人でどんどん進むし、30分の予定の訓練工程を1分で終わらせるし
体育なんてあいつに任せるとサッカーにならないんで常に審判役ですよ」

一息で説明され、桐原はげらげら笑っている。
「確かにな、あれはワンマンアーミーだ。協調性を求めるもんじゃないな。はっはっは!」
「ふふ、チームワークの欠如か。確かにな。常に一人で戦うわけじゃない」
服部も妙に納得した。
自分の多種多様な魔法を使う戦術は一人で戦うためじゃない。
戦場をコントロールして、仲間とともに有利に戦闘を進めるためだ。
魔法師としての完成度が絶対ではないのかもしれない。
「いや、面白い話を聞かせてもらった」
悩みも誰かに話してみるものだ。会話は解決の糸口になる。それを知った服部であった。


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モーリーが新人戦ね~

イェーイ!服部先輩が立ち直った。
でも、この後九校戦会場への移動時の自動車テロを解決した深雪を見て、服部先輩が凹むのは責任とれないでーす!

「へ~、モーリー、モノリスコード代表になったんだ」
昼休みに俺、モーリーと光夜、カナデ、レオ、エリカ、幹比古、美月で昼食をとっているとモーリーがモノリスコード新人戦内定を自慢してきた。

不思議なことにモーリーとレオは馬が合った。同じ戦いをした戦友として友情が芽生えた。
その流れで、あれよあれよと原作主人公組と昼食を食べるようになっていた。
超有名人の光夜に対して、レオもエリカも物怖じしない。
幹比古と美月に関して多少距離はあるが、怖がる様子はない。
あの司波達也に慣れたクラスメイトなら問題ないのだろう。

問題の達也、深雪、雪光は生徒会室だそうだ。
「モーリーが新人戦ね~」と実力を訝しむように笑っているのは千葉エリカだ。
「ふん、努力の賜物だ」
「今からサインの練習しそうよね」
「うっ」
エリカの茶化しに喉が詰まるのは、事実なのだろう。モーリー、サインの練習しているの?

今のところ九校戦に選手で内定しているのは知っている限り原作通りの面々のようだ。
ただモーリー曰く「光夜が選手になると思うんだけど、どの競技か決まってない」らしい。

顎に触れて少し気持ちを整理する。

九校戦には「電子金蚕」を利用した不正と「無頭竜」の九校戦を的にした賭博の暗躍。
そして一条とのモノリスコード新人戦の3つのイベントがある。

俺としては、十文字会頭と七草生徒会長に接近するために有志支援スタッフに応募して
九校戦会場に行くつもりだ。

原作では描写のなかったモーリーのモノリスコードの応援もしてやりたい。
あー、でも怪我するのか。う~ん、どうしよう。

それに横浜騒乱へ続くミラージュバットの因縁話もあるからどうにかしないと。
えっと女子選手が電子金蚕で魔法コントロールが出来なくて、担当スタッフが凹んで
担当スタッフの妹が司波達也を逆恨みだっけか。あれ?選手の妹だっけ?どっちだ?

他になんかあったけ?
村井大佐にも四葉と適度な距離を持つために、風間さんを間に置くの説得せねば。
司波達也と魔装大隊はホテルの一室で会うから
その時にでも面会のセッティングをおねがいしよう。そうしよう。

真田、柳には面識はある。いや正しくは一方的に知っている。
ほら俺、訓練時は目出し帽してるからあいつら俺の顔と名前知らないんだよね。

あの洋館会見から光夜も、雪光も、カナデも、達也もおとなしい。
というか普通の友達だ。

大亜細亜連合の動きもあるし
ここはいっちょ、友達兼諜報員としてモーリーを手助けしてやりますか。
さあ本業だ!


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四葉対一条の夢のカードが実現するわね

三人称視点です



「レギュレーションの変更ですか?」
「そうなのよ。ただ競技というよりCADチェックや周辺警備についてだから選手には影響ないわ」
雪光の質問に真由美が説明する。

生徒会室では会長の七草真由美と部活連会頭の十文字
そして真由美の秘書のように働く雪光がいた。
「十文字の家でもその件は話題になっている」

この一週間で7件の家宅侵入。被害者は九校戦の運営スタッフだった。
書斎が荒らされている。CADに見覚えのない操作履歴がある。
そういったものばかりだが、九校戦という魔法師育成の重要イベントの運営スタッフである。
そこで大会の主催である魔法師協会から「警備と、使用CADチェック確認の強化」が提案された。
その裏には四葉と九島からの圧力があったと言われている。

雪光としても正直渡りに船だった。電子金蚕を防ぐのは中々難しい。
カナデの協力を要請済みだし、原作通り達也に電子金蚕混入を防いでもらう予定だった。
だが数日間に立て続けに起こった家宅侵入を利用して、光夜がカナデを通じて九島を動かし
大会運営レベルでの不正防止を強化した。

雪光も雪光で、彼個人が株主を務める警備会社を動員することも検討していた。

雪光は四葉一族でも変わった少年だった。
機械工学を好み、社交を好み、そして財テクを好み、中学時点で四葉の持つ警備会社の株主へとなった。
四葉の警備会社とは、すなわち四葉の村を警備する者たちの表の所属先であり
将来、雪光が四葉の村の防衛を担う確約でもある。

魔法師としての実力は深雪に伍するものではない。だが彼の特性は大規模戦闘には向かなかった。
「最速」と称される複合魔法は対個人、対小集団では無類の強さを誇る。

自己加速、感覚範囲、反応速度、摩擦係数、思考速度、認識速度、自己暗示による加速世界への対応。

雪光の魔法はまさに魔法であった。自己加速の究極。
彼からしてみれば、「最速」を使用中は世界はゆっくりとしか動かない。
銃弾を見ながら回避し、魔法行使のゆっくりとした発光、音も長く低く響く不思議な世界。

一度の使用は5秒が限界だ。だが5秒の時間の中では雪光は最強になれる。
ただ消耗も激しいので、5秒の発動なら1日4回が限界だ。

「再成持ちの達也兄さんはすぐに傷が治るし、こっちが疲弊したところで負けるから相性が悪い」と雪光の弁。

「では会長、この変更については発足式後のミーティングで説明という流れでよろしいですね」
「ええ構わないわ。それにしても泥棒はなにをしたかったのかしらね」
「九校戦、ひいては魔法師協会つまりは国防に関してのスパイ行為とは考えられないか」
「十文字君それは、十師族としての発言?」
「ああ、俺にはその責務が常につき纏う」
「それなら四葉君も呼んだ方がいいんじゃないかしら」
と真由美は雪光を見る。「呼んできて」ということらしい。

「じゃあ、光夜を呼んできます」
まるで厄介払いをするようなのを謝るように真由美はウィンクをする。

「それで、四葉君の参加競技は決まった?」
「モノリスコードだ」
「え、でもチームワークの問題はどうするの?はんぞー君も指摘したはずよ」
「鍵は森崎だ。同じ部活でバディを組んでいる。森崎ならば多少はコンビネーションができる」
「四葉対一条の夢のカードが実現するわね」
「トーナメントの組み合わせ次第だがな」


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俺なら泣いてるね


はい、九校戦チーム発足式です。
ここまでは原作の大幅な改変はありません、と言いたい。
ほらモノリスコード新人戦はモーリーいるし、司波達也は二科生ながらスタッフ入り。
()()()()が引き起こした家宅侵入により警備の強化。
そしてなぜかモーリーの進言で「モノリスコード新人戦のサポートスタッフ」入りしてしまった俺。
原作の大幅な改変はありませんです。

「お前、ボッチの面倒を俺にやらせる気だろう」
「本人の前でボッチとか言うなよ!可哀想だろ!」
「・・・ボッチじゃない」
会議室で小声でモーリーにスタッフ入りの真意を聞いたら
その原因から突っ込みが来た。

発足式も終わり、最初の全体ミーティングとなった。

「まあまあ、そう怒らなくてもいいじゃないか」と声を掛けるのモノリスコードのチームメイト。須田ちゃん。
原作におけるモノリスコード新人戦のメンバーって不明だったけど、君だったのね。
中学時代フィールドコンバットで全国中学生大会常連チームに参加した経験のある一科生。
遠距離魔法の精度はなかなかで、モノリスコードへの参加も納得の人選だ。
ちなみに、光夜は「四葉君」と呼んで、モーリーを介して会話をしている。

「僕としては四葉君と二人っきりになったら話す話題が無くて困るところだったよ」
本音をさらっと言ってきて、天然なのか図太いのかよくわからんな。
「ということですが光夜選手。チームワークは大丈夫そうですか?」
「代われ」
茶化したら本気の目しやがった。

「よし、これから大会期間中の注意事項とスケジュールを説明する」
十文字会頭がミーティングを開始した。
まあ有志スタッフよりかは距離が近くなるから、十文字周りの情報も回収しやすくなるだろ。

改めて選手とスタッフの紹介が行われた。
司波達也の「二科生が九校戦代表にいてもいいのか!」イベントは
桐原先輩の実験台も含め原作通りに進んだ。

光夜が「俺のCADを任せたい」の一言が、桐原先輩の言葉よりも効果があったらしい。
「四葉が言うなら」と司波達也のスタッフ加入は丸く収まった。
桐原先輩は泣かなかったらしい。俺なら泣いてるね。

あと、ちゃっかりカナデがいる。
九校戦より論文コンクール(横浜騒乱)向けかと思ったがスタッフとしていた。

スタッフ紹介の最後に俺の自己紹介となった。
「1-Bの相馬新です。モノリスコード新人戦のチームサポートとして参加します。光夜くんは友達が少ないので友達になってあげてください」
それだけ言うと、会議室に笑いが起きる。

座席に戻ると光夜からデコピン喰らった。モーリーと須田ちゃんは笑っていた。
青春といった感じだ。

楽しい楽しい九校戦が幕を開けるぞ。
レオンハルトと幹比古の活躍の場はあるのか!


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モーリーも魔法使っちゃう組だっけか?


選手が大事なのはわかるけど、スタッフもバスに乗っけてくれてもいいじゃない。
御存じ「加速、跳躍、横転」の九校戦会場移動時の自動車テロのお時間です。

前方には選手を載せたバス。俺がいるのは機材を積んだトラック内。
同じスタッフが数人トラック内におり
あの選手が強い、真由美会長のパンチラ見れるかな~、と雑談している。
()()()男子生徒など「俺、パンチラより太もも派なんだよな」とつぶやく始末。

まったくもって度し難い。将来を担う若者が女子高生のパンチラを期待してどうする!
太もも派の俺にはパンチラじゃなくても楽しいけどね。

「それトーラスの新モデル?いいの持ってんね~、ちょっとジャンプしろよ~」
暇なのか絡んできたのはカナデだ。

美醜の好みで言えばカナデは可愛い。いや可愛いわけですよ。
バスト、ウェスト、ヒップとスタイルの良さは深雪に匹敵する。
表情も明るく会話のリズムもいいし、内容も楽しい。
他の男子と俺に向ける視線も違う。
猫がゴムボールで遊ぶように興味津々に話を聞いてくれる。
俺に惚れてるな!と、若い諜報員は思うわけですよ。

こんな小娘にコロッといくなら、あの人を南フランスに置いて帰国していない。
彼女と見た沈みゆく太陽の暖かいオレンジ色は、今でも最も美しい光景だと思っている。
俺の贈った指輪を彼女はまだ持っているだろうか。傷つけられた背中の傷跡はもうわからない。

「入学前に叔父さんからもらった最新モデル。いいだろ~」
自慢がてらに手首のCADを見せびらかす。
「ちょと貸して」と俺の腕から取っていく。
今はセーフモードにしてあるし、起動には3桁のパスコード入れねばならないので
何かデータを抜くとか仕掛けるとか簡単にできない。というか俺が目の前で見ているし。

「コード教えて」
「いや」
「あっそ」
カナデは適当にポチポチコードを入力し始めた。
一分ほどしたら「けち~」と笑って返してくる。

そのタイミングでトラックが止まった。外からブレーキ音や何やらデカい音がする。
はいはい、来ましたね。「くっそ!」「とまれ!」とかいってみんな魔法使って
服部先輩は状況を見て魔法を使わず、十文字会頭が障壁で止めて、深雪が炎上を防ぐんだったけか?

あれ?モーリーも魔法使っちゃう組だっけか?

トラックから俺を含めてぞろぞろと降りる。
少し先ではバスが止まり、バスの向こうから煙が出ている。

さあ来ましたよ。最初のトラブル。
この後30分ほど足止めをされたが、高速の管理事務所と警察が到着し
七草会長が何やら話したら、あっという間に実況見分から開放。
これだから権力者は…いいな~。

モーリーや須田ちゃん、光夜も無事だった。
どうやら、モーリーは光夜に「魔法が混線する。止めろ」と制されて魔法発動はしなかったらしい。
よしよし、光夜はモーリーに関しては積極的かつ友好的だな。

千代田先輩やら原作で大慌てした組はそのまま魔法発動したらしく、
実況見分中も「渡辺摩利a.k.a修次の彼女」に怒られていた。


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カナデは「魔法科高校の劣等生」という作品を知っている転生者である

三人称視点です



宿舎として供されるホテルにつくと
カナデはスタッフとして持ち込み機材のチェックをしていた。
「どう?機材には問題ない?」
話しかけてきたのは雪光だった。
雪光は選手としての参加ではなくスタッフ側としての参加だ。

他のスタッフ、特に女子から「大丈夫です」「問題ないよ」と声が返るが
カナデは雪光が話をしたいのは自分だとわかっていた。
雪光の依頼によってアラタのCADにハッキングを仕掛けたのだ。

カナデの能力「精神波動による電子機器操作」を使用すれば
何気なく弄っているだけでCADのハッキングが可能だ。

複雑なことはできないが密かにGPS機能を使い
別に用意したCADへ位置を知らせるよう仕込んだ。

カナデは雪光が苦手だ。というか距離や関係性が難しい相手だと思っている。

達也、深雪、光夜、雪光。

この中で唯一仕掛けをすることを楽しんでいる。
特技・特性という面で言えば他の3人に匹敵するが
どうも転生者であることを楽しんでいる部分が強い。
前世は「俺TUEEEE!」系のアニメとかラノベが好きだったに違いない。
半面、アラタが苦手のようだ。
というか相手を測りかねていて、勝手に自分で「難敵」扱いにしている。

そうカナデは雪光を見ている。

逆に今を現実と捉えて、生き延びようとしているのは光夜だ。
容貌、能力に合わせて口数が少ないことがカリスマ性を醸し出している。
将来的に四葉真夜との決着に大きな影響を持つだろう。
根が真面目なのが普段を見ていてもわかる。

他の二人の転生者を批評できるのは自分が「藤林」のポジションだからだと
カナデは認識している。これはコンプレックスでもある。

藤林響子の妹。実力も互角か異能の分、一面では上。
(でも物語には巻き込まれない)

光夜も雪光も「出自から巻き込まれたチート転生者」であった。
自分は巻き込まれない。依頼があって動く。四葉のアレコレも関係ない。
深雪とも仲は良いが、命を賭けられるかはその瞬間にならないと確信できない。

カナデは自分を「最前席で見ている観客。たまに舞台上の役者からいじられる」
そんな立ち位置だと思っている。

この世界が「魔法科高校の劣等生」なら、全て達也と深雪を中心になっている。

達也と深雪に絡めないものはこの世界では単なる脇役。
「人達」と描写されなければ存在しないも同然。
アニメになれば名前も声優もつかない。
自分はちゃんと声優がついて、誰かに認識されているキャラクターなのだろうか。

そして、ちゃんとこの物語が進むのについていけるのだろうか。
誰かのように協力者として登場して、いつの間にか登場しなくなる。
世界から消えてしまわないだろうか。

「雪光く~ん、CADの調整は終わったよ~」
カナデは体をくねらせて、ふざけた態度でGPS受信用のCADを渡した。
周りの女子もカナデのふざけた姿で笑っている。
前世とは違う別人「藤林奏」を演じているようだ。
自分は転生者であることを受け入れきれてない脇役なのか。

カナデは「魔法科高校の劣等生」という作品を知っている転生者である。


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あー、はいはい、そうですよね、運命ですよね

一部オリジナル設定あり。



オラオラ!走れ!この四葉の後継者候補!
貴様など後継者指名の時に、深雪に後継者とられて「ぐぬぬぬ」とか言っていればいいのだ!
そんな目でこっちを見ても走る距離は短くしないぞ!

到着して早速体を動かすこととなった。
昼にはホテルにしたが、光夜の「固まった身体をほぐしたい」と言ったので
希望者でランニング。
俺はサポートスタッフとして、自転車で並走。
2095年でもあるんですよ、自転車。

今夜は楽しみの九校戦の懇親会。
あのじいさんが出てきて「主人公と十師族以外の奴もちゃんとせぇや」(意訳)と
ぶちかます、あの楽しい楽しいイベントです。

原作だと5人だっけか?九島烈の手品見破ったの?
それプラス、光夜、雪光、カナデも見破ると思うけど
原作知識で知っている俺は「見破る」に含まれるか楽しみだ。

「知っている」のと「見破れる」の違いが今夜、白日の下に!

・・・・・・・・・・・・・・知っているのと見破るのは全然違いました。

壇上に女性がいるな~、後ろにじいさんいるんだろうな~。
え?ほんとにいるの~。原作ブレイクで実は後ろにいないんじゃないの~

「お前らの目は節穴か」(意訳)

はい。すいません。
壇上のライティングで出来る影、光で照らされる埃の流れ、絹ずれの音、注意深く観察したけど
全くわからんかった。

ただね、壇上にスポットライトが出る前に
緞帳脇のスタッフで、慌てている奴と慌ててない奴がいたから
そこまで見ると「何かがあった」は判断できる。

ダメですかね?見破ったに入らない?入らない?そう、入らないですか。

十文字会頭に涙ぐみながら「選手じゃないですけど九校戦に来れたの嬉しいです!来年こそは選手枠狙います!」
と言ったら「泣くのは優勝してからにしろ、相馬。サポート頼むぞ。何かあれば相談してくれ」と言われた。

諜報員としては、また一つ十文字会頭に近づいた気がする。
1年限定の任務で4か月弱でここまで距離詰められるなんて、学校の先輩後輩関係楽でいいわ~。
体育会系なんて「先輩!」言って筋トレしてれば何とかなるんじゃない?え、暴論?

で、この懇親会で大問題が。

達也がエリカと「レオも来ているよ。美月はコスプレみたいだって~」をやっている裏で挑戦者がいたわけですよ。
四葉光夜に懇親会で挑戦状を叩きつける気概のある新入生がいた。

「初対面だな。一条将輝だ」まっすぐと光夜の目を見て。
「吉祥寺真紅郎」手を後ろに組み、相手を測るように。
「黒城兵介(こくじょうへいすけ)。俺たちが三校のモノリスコード新人戦の選手だ」
ひときわ体格の良い奴が自分たちの校名を明かす。

「あれが三校のクリムゾン・プリンスか」「カーディナル・ジョージだ」
周りにいる他校の生徒も注視する四葉と一条の邂逅。
そして現在最も賢いとされる魔法科高校生の異名をささやき合ってる。

その中で服装からすると四校男子が
「あいつが三校のブラック・キャリバー(黒騎兵)か」
「だれだ?それ」横の二校生が聞く。
ちょっとおじさんも気になるよ。少し近づいて聞き耳を立てよう。

「六校とのクロス・フィールドのエキジビションで無双した奴だよ」
「無双?」
「高速移動しながらフィールド上の8人をなぎ倒したらしい」
「クロス・フィールドで?」
「名前と突撃する姿から黒騎兵」
「納得」と声を出したのは俺。

でもモノリスコード新人戦決勝で、そんな奴いたかな?
顎に手をあて気持ちを静めようとしたとき

「モノリスコードの決勝で四葉と当たれれば嬉しい限りだ。途中アクシデントで選手交代とかは止めてくれよ」
黒城兵介がそう言った。口角を上げて、光夜にウィンクまでしやがった。

あー、はいはい、そうですよね、運命ですよね。
甘かった、本当に甘かった。

なんで俺はオリ主転生者が一校にしかいないと思ったんだ。

今この瞬間、光夜や雪光、カナデの気持ちがわかった気がする。

想定外の異分子は排除したい。


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十文字会頭が18歳


あ、雪光が青い顔し、膝をついてる。
近くにいた千代田花音や明智英美に心配されてる。

一方、俺は歴戦の兵士であり、凄腕諜報員なのでこの程度のことでは動揺しない.
どどどどど、動揺しない!

正直、最初に頭をよぎったのは「いつ」「どこで」「どうやって」「殺す」だが
一度顎に手をやり気を落ち着かせた。

そうだ!俺はモノリスコード新人戦のサポートスタッフ。
挑戦状に叩きつけたのが「実力者の有名人」が三人。
動揺しない方がおかしい。

相馬新は格闘技経験者でクラスの人気者で女子にモテモテだが、決して動揺しない諜報員ではない。
嘘つきました。

舌戦は自己紹介で終わった。
「四葉光夜だ」
「一校一年生の森崎駿だ!」
「須田です。よろしく」

ここまで来ると泰然自若とした須田ちゃんも転生者に思えてきた。
いかん。それはいかん。疑いすぎるのはよくない。
疑心暗鬼は動きを狭める。判断を鈍らせる。


「兵介の言う通り、実力を決するなら決勝で決したいな」
一条が握手を求めるよう右手を光夜に差し出す。
「ああ」
握手を返す光夜の目をもう一度見返して、一条たちは人波に戻っていった。

気の利いたこと言ってやればいいじゃないか。効率重視か…。
ダメだ。心の中での突っ込みもキレがない。

俺は小走りに三人に近づいた。
「大丈夫かよ。クリムゾン・プリンスとカーディナル・ジョージだぞ」
「ここにきて大丈夫もないだろ!決勝と言わず、試合は俺たちが勝つ!」
強気やね、モーリーは。
「同じ一年生とは思えないね。あの黒城くんとか。上級生かと思った。やっぱりデカいと十文字先輩みたいに年齢が上に見えるね」
須田ちゃん、十文字会頭が18歳に見えないとか言うなよ。絶対気にしてるよ。

懇親会も、最後に大会委員長のお偉いさんの挨拶で終了となり、各学校は宿舎へと戻っていく。
雪光は最後は会場の壁際の椅子に座っていた。
懇親会が終わる頃には顔色も治り「ちょっと準備疲れかな~」と言っていた。
あいつ、顔と人当たりいいけど動揺出すぎだろ。

「雪光、大丈夫か?」
「へーき、ミーティング終わったら温泉行って寝るよ。アラタも行く?」
「え、温泉?使えるの?」
「そんなに遅くなければ使えるみたい。女子も温泉行くらしいよ」
「行く!行く!」

そういえば、温泉イベントで深雪のスタイルの良さが再度強調されるシーンがアニメであったな。
あの頃のアニメで女子の温泉シーンって多かったよな~。

各自に割り当てられた部屋に戻ると、俺はすぐに持ち込んだノートPCを立ち上げた。
生徒会と部活連のミーティング終わるのが1時間後の予定だから、その間にやりたいことがある。

同室になった須田ちゃんが制服を緩め、柔軟体操を始めた。
「何か調べるの?」
まずは立った状態での前屈らしい。ゆっくりと息を吐きながら。
「三校の黒城が出たクロスフィールドのエキジビションの動画」
「え、そんなのわかるの?」
「わかんない。ただ部活紹介とかでエキジビションの動画載せたりで部活の公式サイト賑やかにするじゃん。念のため」
前屈で膝に顔をつけながら「そっか」と答える須田ちゃん。身体柔らかいな。
おじさんも柔軟性は負けないぞ!

三校、部活、クロスフィールドetc

幾つかの単語でネット検索する。学校のサイト、部活の公式ページ、クロスフィールド高校連盟のサイト
無料の動画アップロードサイトも幾つか回り検索する。

出てこない。外れか。

試合のライバル校としても、異分子としても何かしら情報が欲しい。
ちょっと裏技使うか。

・ここは軍所有のホテル
・支援課の小隊が日本に戻っている
・俺は諜報員
・支援課は諜報組織

諜報組織の出来ることは?


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三校、黒城兵介、情報


「ちょっとクロフィーの先輩に聞いて来る」
同部の先輩に話を聞くことを深呼吸中の須田ちゃんに告げて部屋を出る。

俺自身もクロフィー部だが
正直、これまで他校のクロフィー情報を意識して集めていない。
いや、筋トレ楽しくて!というかクロフィーに青春捧げるのが任務じゃないしね。
それだったら先輩に聞くのが早い。年下の先輩ちゃん教えて~。

というのは部屋を出るためのアリバイ作り。

速足で他の部屋を割り当てられているクロフィーの先輩のところに行く。
15分ばかり相談して、一緒にネット検索したがヒットせず。

「改めて作戦立て直ししてみます。お邪魔しました!」と退室。
先輩から「あとで会頭にも相談しろよ」と声がかかる。

退出後、前後左右に人のいないのを確認し俺はポケットから携帯電話を出し、電話する。

「三校、黒城兵介、情報」
「トラブル?」
「チームメイトのための職権乱用」
これで終了。

数日内に情報が来るだろう。
モノリスコードは最終日前日なので情報収集には多少だが余裕がある。
九校戦で起こり得るだろうトラブルは多分、きっと、高い可能性で光夜と雪光が対応策を準備しているはずだ。

特にミラージュバットで起こる事件を起因とした
「横浜騒乱」へ続く達也への逆恨みは、周公瑾にイニシアチブを与える可能性がある。
横浜騒乱は俺の知る最大で一番複雑な事件だ。
周公瑾の目的、飛行魔法の実戦投入、そして灼熱のハロウィン。
呂剛虎の確保は、あっち側、原作だと渡辺摩利ちゃんが頑張るので
確保後周公瑾に奪還されぬよう警備増強でも具申しておくか。

が、今は俺は俺でやらねばならん。転生者の情報収集を。

モーリー、須田ちゃん、すまん!今の状況を利用するよ。
チームメイトのための職権乱用と称して情報確認だ。

本来、潜入任務に黒城兵介の情報など無用だ。
単なる三校の生徒で十文字も七草も関係ない。あれば報告が来ている。

モノリスコードの試合に必要なのは使う魔法のタイプの情報だけ。
本来は、黒城兵介の選手として情報以外の個人情報は必要ない。

だが確認だけしておく必要がある。

十師族とのつながり、USNAとのつながり、大漢・大亜細亜とのつながり
原作とのつながり。

何かつながりがあれば転生者としての「スタンス」予想に使える。
USNAとつながりがあれば、スターズ・九島との関連を覚悟できる。
大漢ならこの後の横浜騒乱まで対処が必要かもしれない。
十師族ならまた別の予想ができる。

何もなければ、行き当たりばったりで対応する覚悟ができる。
「原作に絡まない出自の転生者」つまりは俺と同じ。

はてさて、どうなるか。最初は動揺したが動き出せばいつも通りだ。
確認、計画、行動。これである。


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高校生同士、交換日記から始めてろ


雪光は光夜を通して四葉経由で「黒城兵介」の情報を集めるだろうか?

あの二人のスタンスは予想しやすい。生存だ。生存。
出自は達也と深雪に近い。そして物語のラスボスと目される四葉の熟女にも近い。
あの二人は達也と深雪の味方に付いたのだろう。

生存確率を上げるために達也と深雪の物語に味方として介入し、持てる未来知識で有利な方に未来を改変する。
原作を知るからこそ、原作で達也と深雪に絡まない存在を「不確定要素」として嫌う。警戒する。
未来知識をより精度高くすると、より有利に動ける。

有利?何をすると、あの二人は生存に有利になるんだ?

俺の中途半端な知識だと、何が有利かわからんぞ。

中条あずさからトーラス・シルバー疑惑をそらす?
一条将輝の片思いを断つ?
中華街の周公瑾を早めに殺す?
大漢の残党を早めにせん滅する?

周公瑾を横浜騒乱前に殺せば何がどう状況が動く?
パラサイト事件?スターズのリーナが来る。
それは阻止すれば有利なのか?

四葉の後継指名を深雪ではなく光夜に移せば有利なのか?
原作だと司波兄妹が偽造の婚約するんだっけ?
どっかの掲示板でその展開について、スレ合戦があったような記憶が。

犠牲を出さずに起きるであろう事件を乗り切る?
犠牲ってなんだ?
確か千葉の長男坊が死ぬが、それは犠牲としてどんな影響が起きる?
千葉エリカはどんな心境になり、どんな行動を起こした?
藤林響子は何かリアクションがあるのか?
「死にフラグ」的なことをネットで見た気がする?ホントに見たのか?

ダメだ。知識が横浜騒乱あたりで終わっている。
基本がアニメとwiki情報だ。来訪者編以降の知識が断片的で
誰が犠牲となり、誰が何に不信感を持ち。誰がどう動くのかわからん。

カナデは?カナデから未来を推察できるのか?
あいつの目的は?生存でいいんだよな?
でも藤林響子の妹はどう動けば生存するんだ?
司波兄妹から離れればいいのか?それとも協力すればいいのか?

顎に手を当て、眉間のしわを寄せる自分の顔が廊下の窓に映る。

ふと、我に返った。そうだ。俺、関係ないじゃん。

中条あずさからトーラスシルバー疑惑をそらす?
いや、どうでもいいわ。そんなこと。
一条将輝の片思いについても、知らんわ。高校生同士、交換日記から始めてろ。

周公瑾?大漢の残党?横浜騒乱は防ぎたい。または損害を減らしたい。
戦闘で味方の人命を失いたくない。
それは別に「司波兄妹と運命共同体となり、自己の生存確率を高めるため」ではない。

俺、国防軍だし、諜報員だし、他国からの侵略とは戦うのが仕事だ。
横浜騒乱の関係者が司波兄妹を中心とした高校生たちなだけだ。
四葉の跡目?勝手にやってくれ。跡目が代わることで国防軍内への影響で国防体制が崩れる?
そうならないための俺たち兵士だし、政府だ。

光夜と雪光の生存?ガンバレ。負けんなよ。力の限り戦うんだ。
友達だし、弱音を吐くならおじさん聞くよ。
手伝うこともやぶさかではないぞ、若者よ。

俺はどうやら「転生者」と「司波兄妹」に影響されていたらしい。
思考が複雑になっていた。転生者の目的。転生者の行動指針。転生者、転生者、転生者・・・

違う。基本は俺の行動だ。未来知識は俺がどう動くかに使えばいい。
そこに司波兄妹の幸せを前提に動く必要はない。

この世界は「魔法科高校の劣等生」の世界だ。
しかし、それはそれである。

ここは俺の生きる世界だ。原作主人公と呼ばれる達也と深雪が生まれる20年以上前に生まれ
苦労したり、喜んだり、笑ったり、泣いたりした世界だ。

父の死に泣き、国防高校入学時には母の負担を減らせると喜んだ。
愛する人と離れた、戦場で勇気を振り絞り戦った、自分の手が血に汚れ悩み苦しんだ。
弱い立場の人を守ったとき感謝され嬉しかった。

かつて読んだ物語が正解ではない。
介入?なんだそれ?俺は仕事して、俺の判断で行動し、俺がなすべきことを為せばいい。
そうなのだ。俺がすべきは十文字、七草の情報収集と、未来に起きる横浜騒乱の回避又は被害縮小だけだ。

もし誰かの目的が「魔法科高校の劣等生」という物語を壊すため、誰かを殺すなら止める。
物語を守るため?
違う違う。一市民として目の前で起こる殺人事件を防ぐためだ。

はっきりと分かった。「魔法科高校の劣等生」は原作者によって作られた世界ではない。
俺の生きる世界の一部をそう呼んでいるだけだ。
別に俺は魔法科高校の劣等生の世界に生きているわけではない。
なぜなら司波達也が生まれる前から生きている。
転生者が持つのは「魔法科高校の劣等生の未来知識」ではない。
「自分の生きる世界の未来知識の一端」なのだ。

そう、俺は魔法科高校の劣等生に登場するキャラクターではない。
違うのだ。生きている人間なのだ。

この時、不思議と体が軽くなった。
物語「魔法科高校の劣等生」を守る必要はないのだ。
俺は、俺の住む国を街を人を友達を守るのだ。
俺はこの時やっと魔法科高校の劣等生から離れた。

この一連の思考は理屈に合わない部分もある気がする。
どこだ?どこが理屈が通っていない?
どこが理屈に合わないか分からない、理屈ではない。
俺は納得したのだ。

黒城兵介の情報も確認する。
俺の持つ俺の世界の未来知識を総動員して、あいつのスタンスを想像する。

やることは、何も変わらない。でも違う。
俺はこの九校戦初日の夜に、ホテルの廊下で生まれ変わったのだ。

「既存の物語に介入する転生者のオリジナル主人公」ではない。
「関重蔵」という一個人なのだ。
中途半端な未来知識を持った諜報員で関重蔵なのだ。

無性に飛び跳ねたい。叫びたい!いや、小声だけど叫ぼう。

「よし!」

「どうしたんですか?」と中条あずさ先輩に言われた。
どうやら生徒会と部活連のミーティングは終わり、自室に戻る途中のようだ。
先輩、いつも可愛いですね。
「あの、いい作戦が思いついたんです」
「そうですか…」
そんな怪訝な目で見ないでください。


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どうだい?怖さを感じないか。達也。


開会式が終わるとルンルンである。時間が空き、ついに会見だ。
国防軍勤めのおじさんが近くまで来ているので会いに行ってくる。
そう言ってホテルを出たのだ。関係者以外宿舎ホテルに来れないしね。
やっばい、なぜかスキップしちゃう。

宿舎近くの別の関係者ホテルへとお邪魔する。
専用のエレベーターにいるガードマンに一度止められるが
「風間さんにアポがある」
と答える不思議そうな顔で通してくれた。
きっと今日二人目だろう。一校生が訪れ、呼び止めるのは。
両者とも風間さんにアポがある。

あのガードマンの顔を見るに、風間さんが貸切るフロアの応接室に全員いるのだろう。
風間さんというか魔装大隊の扱いはこれだ。フロアの貸し切りなぞ日常茶飯事。
予算が多いな~。

ノック、ノック、ノック。
「入ってくれ」
風間さんの返事でドアを開けると全員揃っているようだ。

独立魔装大隊 風間玄信少佐
同 柳大尉
同 真田大尉
同 山中少佐
同 藤林少尉
同 大黒特尉

「遅れたかな。申し訳ない」
謝りつつ、空いている席に座る。大黒特尉の隣の席だ。
身勝手な振る舞いに思えるが、このくらいの強引さで場のイニシアチブを取る。
この空間で大事なのはマナーではなく余裕である。

「すでに話は済んでるんですか?」
「いや、本人が到着してからと思ってな。ちょうどいいタイミングだ。扉の前でタイミング見計らっていなかったか?」
「そこまで演出好きじゃないよ」
「お前ならやりかねんと思ったがね。はっはっは」

風間さんとの慣れたやり取りを見て、周りはあっけに取られている。
偏屈とかと縁遠い風間さんでも、他の面々にしてみれば上官、隊長だ。
ここまで部隊外の人間とリラックスして話している姿も、そうそうお目にかかれないだろう。
それとも一校生が対等に話しているのに驚いているのか。

「では自己紹介を頼むよ」
俺は席を立ちあがり
「国防陸軍情報部支援課 関重蔵少佐。敬礼は無しの方向で」
自己紹介を済ますと、もう一度座った。

おっほ~楽しい~。これですよ。諜報員としての醍醐味は。
敵かな?味方かな?ご同業でした~。ばば~ん!

言った通りに誰も敬礼は返さない。素直でよろしい。
風間さん以外全員口を開けて言葉が出ない。
30秒ほど沈黙が過ぎると大黒特尉が口を開いた。
「相馬、いや関少佐は情報部の方だったんですね」
「その通り。一校生でこの場にいるということが、お前が大黒特尉殿で正解なのかな。司波達也」

面白いものを見た。
あの鉄面皮とも思えた司波達也が大きく唾を飲み込んだ。
緊張しているのだ。

どうだい?怖さを感じないか。達也。


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また別な秘匿任務

三人称視点です


関少佐はお茶会の席でいくつか笑い話をして、場を和ませて帰っていった。

「十文字克人は実は三十路だ。きっと芋焼酎あたりを愛飲してる」
「七草会長は年下趣味のようだから童顔の俺でも大丈夫なはず」
そんな益もない話をし「正直、息抜きが欲しくて風間さんに会いに来たがお前がいたとはな」と
想定外だが許容範囲だ、と言いたそうな笑顔を達也に向けて
「お前のことも黙るから、俺の方もよろしく」最後にそう言った。

「達也。どうだ感想は」
「正直、驚いています。なぜ先にお教えいただけなかったのですか」

カナデに頼まれた「格闘技に精通し、尾行に動じず、尋問への対処が出来、監視状況からの脱出のエキスパート」の存在について尋ねていた。
数日後に「国防軍にはそういったプロフェッショナルがいる」とだけ返答があった。

「お前の任務が秘匿なように、また別な秘匿任務もある」
風間は関の任務を交誼から把握しているが
それを部下に明示するのは、また別な話だ。

司波達也は部下であり四葉なのだ。この距離感は近すぎても遠すぎても成立しない。
関の正体と任務を、関から接触を求めるまで伏せたのはそのためだ。

「諸君は関少佐との会話で何を読み取ったかな」

風間が関から「息抜きに会いたい。部下同伴でもかまわない」と連絡をもらったとき思いついたのがこれだ。
諜報部署の人間と部下を会話させる。
関は会話の中で何を提示したのか。それをどう解釈すべきか?
この茶会を行ったのはこのためだ。部下に諜報員と接触する機会を与える。
戦闘以外の経験を積ませる。魔装大隊は今後、敵対国家から諜報の対象となる。

大黒特尉の正体を知られるのは少々痛いが
部下の成長のきっかけと思えばギブアンドテイクとしては丁度だろうか。
関には関の意図があっての申し入れだ。だが有害な意図はないだろう。
有害な意図がある時は会話せず行動するのが関だ、と風間は思う。


「彼の任務対象は十文字と七草が対象で、四葉は目的ではないのでは?」
早速回答したのは真田大尉だ。
「理由は?」
「会話の中でこの両家の話が中心でした。四葉とは私的には友人だが、任務には無関係を匂わせることも言っていたので」

『四葉光夜と入学式以来の友達でね。意外というか想像通りと言うか友達が少ないやつで、友達になりましたよ。魔法師としては友達以外の立場で接触したくない凄腕でした。』

「それで判断できるのか?」
「そう判断もできる、ということですよ。『接触したくない』は文脈から『接触していない』とも読める」
「読めるだけだろう。すでに接触しての感想かもしれない」
いつもどおり真田と柳の意見がぶつかる。

「自分は真田大尉を支持します」
達也が言うと全員がそちらを向く。
「なぜそう思うかね」
風間が促すと、達也は少し間を空け話しだす。

「彼の学校での動きですよ。少なくとも四葉光夜との接触で盗聴等の機械的手段は行っていません。魔法的な盗聴、盗撮に関しては俺が見逃すことはありません。格闘技の腕を目撃できたのも偶然でしょう」
「確証としては弱いな」
風間の評価は的確だった。
「ええ、勘です」
達也は根拠を簡潔に述べて、自虐的な笑顔になった。完敗と感じたのだ。

相手の正体を突き止めきれなかった。目の前で余裕ありげに正体を知らされた。
そして自分の軍内での立場を把握された。

魔法ではなく軍内の諜報ゲームで負けと思った。
怒りよりも、こういった戦いもあるのかと痛感した。

達也と、深雪と、雪光と、光夜。
四人でいれば隙は無いと思ったが世の中は広い。

達也が敗北感を感じる間も「諜報畑は長いように思う」と柳が言えば「大越戦争の話題ですね」と藤林が入り
「魔法師としての実力は?」「一校の教師の指導力を批評してた」「古式使いだろうか」「現代魔法の話題が多い」
と話題はいくつも出てきた。

「風間少佐。関少佐への推察が終わりませんので、話せる範囲でお教え願いませんか」
山中が話題の収拾がつかない兆しを感じ、風間に助け舟を求めた。
「今日の会話は現在の任務の大枠の話だ。十師族及び準ずる家への接触と見ていい。
四葉に対しては突然の入学により、情報収集対象として外したと考えていいだろう」
既に正解を知っている風間はそう答えた。

「風間少佐は、関少佐をどのように評価されていますか」
真田が興味深そうに質問する。
「あいつの評価は難しい」
一度言葉を切り、全員の顔を見る。
「ただ、あいつと事を構えるな。特に魔法の使用が制限されている状況では絶対にだ」
風間の表情は真剣で、声には警戒を促す厳しさがあった。

「それ程なのですか?」
古式魔法を駆使し対人戦において卓越した能力を持つ柳が改めて問うた。

風間も、司波達也も、柳も、兵士として武術家としての実力では軍内でも抜きん出ている。
魔法がなくともよもや遅れをとることはない、と柳は関の気の抜けた顔を思い出した。

「魔法が使えぬ状況なら、私は1分も持たんよ」
風間はそう言いながら、昔のことを一つ思い出した。
大越戦争後の中東派遣。

現地邦人の疑似家族として半年ほど先行して潜入生活していた関少佐と、当時は少尉と、出会ったのだ。
風間はそこで、1kmの狙撃を楽々と成功させ、他国の大使館の警備を容易に抜け
素手で5人の男を絶命させる関の姿を見た。

中東派遣中は「親の言いつけでしぶしぶ案内する甥っ子」を演じつつ風間の身を守り続け
若き風間の肩に力の入ったロールプレイ下手を何度もフォローしていた。

その後も風間は任務で関に会うたびに評価が高まった。

風間が掻い摘んで、過去のことを話すと全員が背筋を伸ばし緊張していた。
「だが敵対しない限りは大丈夫だ。同じ国防軍の同志に変わりはないからな」
「魔法師としてはどうなんでしょうか?」
緊張する空気の中、藤林が魔法師としての実力に興味を持った。

「国防軍仕込みの実践的な現代魔法を使用するはずだ。残念ながら私の前ではあまり使用しなかったが」
「と言うことは学生としても優秀で?」
少し面白そうに藤林は聞き直す。妹と同級生だし一科生なのだ。実戦で磨いた理論があるのかも、と。
「ん~、もし何かまかり間違って、国立魔法大の推薦が取れたら、新車でも贈って祝ってしまう程度には」
風間は婉曲な表現を使って答えた。皆その意味を理解し、うっすら笑っている。
次に会うときは、学内の試験結果を聞いてみようと藤林は思った。
そうすれば多少は会話のペースを取れるだろうか。


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ジャケットは彼氏とおそろい

駐車場に見える高級車を見ると、ぼちぼち車が欲しくなる。
任務で国外に行くことが多いので、費用対効果を考えて車は持っていない。
あ~誰か車買ってくんないかな~。今度の賞与でちょっとディーラーに相談するか。
電動車の丸っこいフォルムより、少し角ばっている方がいいんだよな~。

さて風間のおっさんはどの程度話すだろうか。
昔に話した「母親が安産祈願した神社の御神体が軍神だったので、兵隊として才能を授かった」という話もしただろうか。

銃火器に始まり、武器格闘、爆弾設置・解除、罠工作、諜報、隠蔽、格闘、潜入、警備、建造物侵入etc
軍事に関わることならなんでも出来る。ヘリと戦闘機と戦車の操縦なんて目隠ししてでもできる、はずだ。やったことはない。
ついでに歌を唄うのも上手い。軍歌で鍛えたし。
戦闘服のほころびを治すのなんて神業レベルで裁縫も得意だ。

まさに加護を授かったのだ。加護を。
ただ、出来ることはそれだけじゃないけどね。

魔法については努力した。
国防軍高等学校で座学、訓練を軽くこなし、余った時間を魔法の専科授業の予習復習にぶっこんで得た努力の証だ。
今回の任務が魔法科高校の入試合格でよかった。
大学入試だったらもう半年は欲しいところだ。

そんなことを思いながらホテルにつく。

明後日は女子バトルボード決勝、「渡辺摩利a.k.aジャケットは彼氏とおそろい」先輩のあれだ。
ここで事故が無ければ、光夜と雪光の仕掛けはばっちり。OK、素晴らしい、ハラショー。
さて電子金蚕防衛はどうなるか。
渡辺さんのジャケットは彼氏とおそろいでいいんだよね?あれ?



・・・・・・・・・・・・・・はい、優勝です。
おめでとう!ジャケットは彼氏とおそろい先輩!
で、そうなると無頭竜の賭博が既知未来と変わってくる。
場合によっては早く仕掛けてくるかもな。

そう言えば達也は未来知識をあの二人から聞いているのか?
そのあたりもそのうち聞いてみよう。

大会三日目の夜のミーティングも終わった。
こっちは明日からモノリスコードの下準備。競技エリアの下見がある。

あの広い競技エリアにポツンとモノリス置いて、探して戦え!だと一回の競技終了まで半日はかかる。

なので、試合までの数日間で各校交代で競技エリアに入り、モノリス設置予定地(と言っても直径200mの範囲でランダム)の下見と競技エリアの高低差、危険個所、戦術を有効に使える建造物の確認などを行う。

いや~モノリスコード選手って試合日までこんなことしてたのね。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え、もう明日モノリスの試合?

モーリー、スピードシューティング準優勝おめでとう。
無頭竜は君の優勝オッズをどの程度にしていたか気になるが一校の総合優勝に貢献したぞ!

電子金蚕の混入については今のところ見受けられない。
泥棒騒ぎで警備が強化されているのが効いているのか?
雑な泥棒というのも大変だった。盗んだ痕跡を隠すようで隠さず、情報端末の微妙な操作痕を残すとか、手間がかかった。あとプロ意識を抑えるのって意外とストレス。

それと雪光スゲー。まじスゲー。完全に王子様しやがった。
バトルボード女子新人戦の練習で、コースアウトした女子生徒を地面に激突する直前で助けた。
お姫様抱っこしてセーフエリアに避難させるとき「ごめんね、重いよね」と言われて「いや、恋人が出来るとしたら君と同じくらいのスタイルだろうから、大したことじゃないよ」とサラッと言いやがった。
声が聞こえてた女子生徒顔真っ赤。周りで見ていた女子生徒も顔真っ赤。男子生徒も顔真っ赤。
その話を聞いたおじさんも顔真っ赤。

なんでも光井ほのかに試合開始までのスケジュールを伝えにコース脇に行ったところ出くわしたそうな。
美少年め~。モテない男子からの怨嗟を食らえ!これは一条の分!これは将輝の分!これは一条将輝の分!
一条はモテるかもしれんが、片思いの相手には振り向かれないから、実質こっち側だ!

カナデの動きも地味だが凄い。
あいつ、どうやったのか既知未来では電子金蚕を混入させる運営スタッフのCADから
電子金蚕を探し出して、じい様に告げ口したようだ。

運営スタッフがざわついていたので、ちょっと(非合法な方法で)確認したら
「テロ防止法で~」「あの人が~」「不倫してたらしいよ」等々判明した。

直接、九島の爺様が一校の待機用テントまで来てカナデを褒めたのは驚いた。
その時、司波達也と九島烈が接触した。
お互い目を合わせて「懇親会の時は見事だったね」「偶然気付いただけです」のやり取り。
俺も知ってましたからね!見破ってないけど!

で、黒城兵介の情報だ。
白、あいつ名字が黒だけど白!

生まれから入学までをまとめた報告書を確認した。

余談だが、100年前からスパイというのはすれ違いざまに物を渡す訓練をしている。
実は直接会って渡すのが一番確実で安全な場合もあるからだ。
身近にすれ違いざまに物を渡すのが上手い奴がいたら気をつけろ。
そいつがルパンだ!

あと今回は紙の報告書だ。うちの課が使用しているのは「食べれる紙」で水に溶けやすい。
水で洗えば報告書は溶けるし、口に入れて胃まで持って行ければ証拠隠滅は完璧。
ただ3枚以上重ねて食べるのはお勧めしない。美味くないから。

黒城の両親は、金沢の呉服メーカーの営業マンと未就学児童向けの魔法練習クラブの先生だ。
小学校、中学校でサッカーとラグビーをやり、佐渡侵攻の時も避難所にいたし
海外渡航歴なし、どこかの組織ともつながりはない。

以上、経歴から見るに白なので、今のところは大丈夫そうだ。
決勝でレギュレーション違反の裏技を持っていないことを祈るばかりだが。

さて、明日はモノリス初戦だ。頑張るぞ!特にモーリーが!

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がむしゃらに走った


「フィールドに行きます!」
やばい、やばい、やばい。
椅子が倒れるのを後ろにし、俺は急いでモノリスコードのフィールドに向かう。
手に持つのは連絡用の無線機のみ。

がむしゃらに走った。怪しまれてもこの際構わん。全速力で走った。
途中、スタッフを乗せたトラックを見つけたので一校生であることを説明して飛び乗る。
各校に割り当てられた待機テントから競技フィールドまでは距離がある。
トラックの方が走っていくより幾分か早く着くだろう。

現場に着くと既に画面で見たような土煙は収まっていた。
「状況は?!」
先に到着していた運営スタッフに声をかけるがは回答は芳しくない。
「この先200mの廃墟ブロックだが、一校の選手が救出に向かって二次被害にあったらしいんだ」
聞き終わる直前には走り出した。
無線に「すぐ運営本部に救急室の確保と、現場への救急車の派遣状況を確認して!やってないなら要請を!」
七草会長の声が戻ってくる。
「わかったわ。あなたはどこにいるの?」
「倒壊した建造物へ移動中!人手がないなら救助に参加します!」
「あなたは専門家じゃないのよ。現場の判断は運営の人たちに任せて!」
「仲間が心配です!確認したら報告します!」

そう言って切った。この日の無線交信はこれが最後だった。

一校のモノリスコード新人戦チームの戦術は「1・2」フォーメーションだ。
光夜がハイレベルすぎて単独行動が最善手となる。だから「光夜単騎&モーリー・須田組」で運用する。
フィールドの特性に合わせて、モーリーと須田ちゃんをオフェンス・光夜はディフェンス。
時には逆に、といった具合だ。
オフェンス・ディフェンスの配置分けは事前に決めるが、試合中はモーリーの判断でフレキシブルに入れ替える。
戦術眼ではなくコミュニケーションの問題でそうなった。

モーリーは試合中、光夜に常に状況報告をさせる。
暇なら陽動をさせるし、敵が来ているならその場に釘付けにするよう伝える。
「お前!暇なら爆発でも起こして陽動しろ!」「そのまま守り切れよ!いいな!守れよ!」といった具合に。
天下の四葉に命令すると思うと背筋も冷えるが、チームメイトで部活のバディだ。
憶することなどないのだろう。モーリーにとって光夜は友達ということだ。

須田ちゃんもそんなモーリーを信用している。
光夜の取っつきにくさの緩衝材にしているのもあるし
「取っつきにくい四葉君」として茶化しているようにも見える。
やっぱり図太いぜ、須田ちゃん。
それでもチーム結成の時より、はるかに須田ちゃんと光夜のコミュニケーションは増えた。
「カレー好き?」「チキンカレー派だ」の会話が自然発生で起きたときは赤飯を炊きたくなった。

俺の知っていた未来では、相手校による屋内への破城槌使用による建築物倒壊。
それでモーリーたちは負傷した。

二次創作オリ主だと事態が原作から乖離すると「運命の修正力」で既定路線に収まることがある。
あんなのは嘘だ。俺が嘘の証明だ。今回は偶然の重なりだ。修正力なんてない。

オフェンスであるモーリー・須田組が廃墟エリアで相手校と交戦になった。
廃墟ゾーンの戦闘は遮蔽確保、移動、索敵、攻撃のじゃんけんだ。

相手校は廃墟エリアで索敵困難になるのを嫌がったのか
破城槌で周辺の廃墟ビルの壁を抜き視界を確保した。
少なくと破城槌のこの使用についてはレギュレーションでは問題ない。
が、使用回数がまずかった。

一つの廃ビルに対して破城槌で壊す壁の枚数が多く、破城槌は柱までダメージを与えていた。
ビルは耐久力が落ち下階が上階を支えきれなかった。
最初は一棟、それがドミノ的に隣りの一棟に倒れ込んだ。
二人が巻き込まれたのはドミノの三つ目。三棟目の倒壊。

ビルの倒壊は三つ目で終わった。
廃墟エリアでの交戦で、破城槌が使われ、倒壊に二人が巻き込まれた。
偶然なのだ。

偶然は重なる。俺が死んだ後、生まれる前に知った最初の教訓だ。


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ホントだったら俺たちが勝ってたんだよ!

大きく息をつき顎に手をやる。
宿舎ホテルに戻り、まずはロビーのソファに腰掛ける。
体力的には全然問題ないが、精神的な疲弊はくる。

どうやら俺は「青春」と「友達」に感情移入し過ぎたのだろう。
感情移入の結果が不測の事態後の精神的疲労だ。

「お疲れ様です。大丈夫ですか」
と声を掛けてくれたのは中条あずさパイセンだ。
ども、可愛いっすね。
ソファから立ち上がり病院の方も落ち着いたことを説明する。



一校生の二次被害と思われたのは光夜だった。
想定外の土煙を見たので大急ぎで現場に来たらしい。
反響測位(エコーロケーション)の魔法を使って瓦礫の下の二人を見つけ出した。
そのころには救助のための運営スタッフ達が現場に到着した。

そこからは更なる瓦礫の倒壊を防ぐため、周辺の建造物への措置。
二人の上に積もった瓦礫の撤去。派手にやっては下の二人を更なる危険に巻き込む。
だがゆっくりやっては二人の生存に関わる。
現場にいた人間総出の人力作業だ。

半ば反射的に場を仕切ってしまったことは少し反省している。
少しね。晩御飯のから揚げをつまみ食いして怒られた程度に。

適当なスタッフを捕まえて、相手校の選手が責任を感じて自暴自棄になるかも知れないから身柄確保して現場から離して監視するよう言ったり、
瓦礫の下から見つかった二人を、クラッシュ・シンドロームを知らない若手スタッフが無理やり瓦礫から引きずり出すのを止めたり。

1時間ちょっとの作業で現場は落ち着いたが
俺は病院への救急搬送に随伴した。
病院では市原先輩が先着しており、受け入れ準備やモーリーと須田ちゃんのご家族に連絡をしてくれていた。

あれだ、横浜騒乱編でお馴染みの背の高い美人系女子生徒だ。
美人が多いから判断がつかない場合は画像検索できれば楽だろう「 市原鈴音  劣等生 」

競技会場脇の軍施設併設の病院では対応が難しいレベルの重傷だった。
会場から救急車で20分ほど行った市の救急病院の手術室に放り込まれたのはモーリーだった。

須田ちゃんは集中治療室のベット行き。
3時間の手術のあと、モーリーも集中治療室へと運ばれてきた。
先に目を覚ましたのは須田ちゃんだった。
ご家族が到着するまでは、と思い俺は近くにいた。

「あれ、どうしたの?」
「アクシデントで病院に運ばれたんだ」
「そっか、負けたのか。ごめんね」
ちょっと涙が出そうになった。
「次勝てばいいよ。先に体治さないとね」
「もしかしてカテーテルとかしてる?恥ずかしいな、ちんちん見られちゃったんでしょ」
「大丈夫だよ、俺よりデカい」
「ふふ、モーリーは?」
「手術終わって寝てる」
「そっかモーリーもカテーテル仲間?勝ってる?」
「安心しろよ、チャンピオンは須田ちゃんだ」

ナースコールで呼ばれた看護師が入ってくると同時に親御さんも来た。
ほどなくしてモーリーの家族も来て、医師から説明を受けた。

検査の結果ではモーリーの頭部には酷いダメージは無いようだ。
ただ胴体部へのダメージが思いのほかあるので、最低でも1か月は入院らしい。

須田ちゃんの方は骨折箇所が多く、自宅療養とリハビリが長くなりそうだった。

帰り際に集中治療室の硝子越しに麻酔が効いたまま眠るモーリーを見たら
薄っすら目を開けたような気がした。
「ホントだったら俺たちが勝ってたんだよ!」と眼で言っているように思えた。



俺は中条パイセンに促され、七草会長のところへ向かった。
まずは無線報告を怠ったことを謝罪。
会長は俺を「困った子供」として叱った。すまんね、お嬢さん。

そして状況は俺の知っている未来に近くなった。
相手校の棄権という形で試合は勝利となった。
来年度からは破城槌の使用そのものが見直されるかもな。

十文字会頭が運営側に交渉して、登録選手の入れ替えでの競技参加をもぎ取った。
どうやら十文字会頭だけでなく、光夜も交渉の席に行き「温情を」と発言したらしい。あの声で。
十文字会頭からは「お前のアレは脅迫に近い」と言われたらしい。
まあ四葉の名前で美形の美声がプレッシャーかけながら「温情」と言ったら脅迫だわな。
下手に断ると何が起きるかわからん。

チームの再編は選手で唯一残った光夜に任されたらしい。
誰を選手にするか問われこう言ったらしい。

「司波達也と司波雪光を。モーリーと須田に総合優勝持って見舞いに行きます」

以上の経緯を七草のお嬢さんから聞いて、俺はワクワクが止まらなくなった。


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つまりはチートを持っている

数話は三人称視点が続きます。

お忘れですか?チートがあります。



「なによ、ミキ眠そうね」
「ぼくの、なまえは、幹比古だ」
観戦席では欠伸をかみ殺した吉田幹比古が、千葉エリカのいつもの呼び方を訂正した。
幹比古の横ではレオが船を漕いでいる。
(船を漕ぐ、って柴田さんに言って通じるかな?)
古い家の生まれなので古めかした言い方には慣れているが、柴田美月のような普通の家庭ではもう死語だろうと
幹比古は眠い頭で考えた。

草原フィールドを映すモニターにはモノリスコード新人戦の一校の三人が映っている。
支給されたプロテクターをつけており、専用CADを持つのは達也だけで、他二人はブレスレット型汎用CADのようだ。
決勝までの試合は危なげない、というレベルではなかった。

自軍モノリスの前で仁王立ちする光夜。
相手をかく乱し、時折カメラにウィンクする雪光。
そして確実に相手のモノリスをクリアする達也。

試合中会話や、コミュニケーションをしている様子もなく圧倒的実力差で勝ち上がっていた。

昨晩、チーム結成から「連携の確認」として
練習台に駆り出されたのは幹比古とレオだった。
途中アラタも合流し、陽が昇るまで相手をし、睡眠時間は3時間も無い。

三人が使うのは初歩的な魔法ばかりだが、サイオン量や、干渉力、発動速度は高校生のそれを凌駕する。
無茶な練習に付き合わされたせいか、幹比古が悩まされていた魔法使用時の違和感はあっさりと剥がれていた。
達也が調整したCADを使用し幹比古の実力を一段上げたが、それでは足りなかった。
レオもレオで、少なくとも爆発で宙を舞ったのも一度や二度ではない。
一人上手く立ち回ったアラタでさえ、地面と平行に5mほど飛んだ。

(僕に足りていないのは命懸けの荒行なのでは…)
感謝と努力不足を恥じる気持ちで幹比古は改めてモニターに目を向けた。

「眠くないの?お肌に悪いわよ」
「徹夜は慣れてるし、お肌を気にする性格じゃない」
一校の待機テントで、他のスタッフ、生徒会メンバーとモニターを眺めていたアラタに声をかけたのはカナデだった。
「そっちどうなんだ?寝れたの?」
「あたし、普段のビタミン摂取量が多いので少ない睡眠で十分よ」
深夜練習のCAD調整等をカナデは手伝っていたが
さすがに午前3時には練習場のベンチで眠っていた。
彼女も彼女で睡眠時間を削っては、技術スタッフとして動き、電子金蚕の発見と活躍したのだ。

一番タフなのはアラタだろう。森崎と須田の救助、病院への随伴
そして明け方までの連携確認の練習に練習台として参加したのだ。

選手である達也、光夜、雪光は2時間程度の仮眠をとったが
アラタは別のこともあり一睡もしていない。

「達也兄さん、あのレオのCADどうするの?」
「あれか?手遊びで作ったからな、特にどうこうする気はないぞ」
トーラス・シルバーのシリーズとしてリファインするつもりはないことを雪光に告げた。
「欲しいのか?」
「いや、似たもの作ろうかと思って」
雪光の技術力は相当なものであることは達也も承知している。
もし、その気ならトーラスとシルバーの間にミドルネームのYを入れてもいいレベルだ。
雪光はハードもソフトも自分でやりたいので、その気はない。

「達也、雪光。二人とも気を引き締めろ。相手は一条だ」
「ああ、今度は今まで通りと言うわけにも行くまい」
すでに戦略はある。戦略と言うには大雑把ではあるが。
このチームに誰一人平凡な魔法師はいない。

うち二人は転生者でこの世界にない特性、つまりはチートを持っている。

光夜は四文字熟語でチートを決めた。決めさせられたのかも知れない。
分厚い四文字熟語集を長い時間見ていたことを覚えている。
【多芸多才】【万夫不当】【竜章鳳姿】の三つを合わせた姿を、この世界で表現すると四葉光夜となる。
合致していると本人も思っている。
ただ竜章鳳姿と本人の性格が合わさるとなかなか友達が出来ない。

雪光のチートは簡単だ。「キリト!+深雪!」と叫んだ。
それを聞いた光夜はノーコメントを貫いた。


「ほら、起きなさいよ!」
「ん?あ、始まるのか」
エリカがレオの脇腹を肘で突いて起こした時には
開始10秒前のカウントが始まっていた。

草原フィールドは遮蔽物はほぼない。なだらか高低差もあるが、足元の草は低い。
電子ホイッスルが鳴ると、両チームが同じ行動をとったので観客を驚かせた。

三人が横に等間隔の距離を取る。
まるで一対一の構図が三つ出来たようだった。

最初に口火を切ったのは黒城兵介の雄たけびであった。
彼方の正面に立つ司波雪光はその声を身に受け走り出す。

九校戦史上に類のない高速戦闘が行われた。


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まるで竜のごとし、としておくかね

三人称視点です。
劣等生の魔法設定難しい。そして俺の文面拙い。



「突撃(チャージ)!」
この雄たけびと共に兵介は走り出す。
左腕には盾のように障壁を作る、
加速し、ブーツ裏の摩擦係数を調整し転倒防止、激突の際に負けぬよう加重。

競技用に制限されたCADではあるが、必要なことは十二分に出来る。
加速!加速!加速!

肉体も恵まれていた。頑健無比を地で行く。体格はすでに三校で一番だ。
魔法も恵まれていた。サイオン量はちょっとやそっとでは尽きない。
知性も恵まれていた。マルチキャストも出来るし、変数調整もお手の物だ。

一番恵まれていたのは、金沢に生まれたことだと思っている。
面倒な十師族も関係ない。ただ、この世界に転生して恵まれた中でやりたいことをやった。

善良な両親でよかった。佐渡侵攻は怖かった。
だから、みんなを守れるよう身体を鍛え、魔法を鍛え、三校に入学した。

九校戦の選手に選ばれた。司波達也に会えるかも!それだけで興奮した。
そこには四葉がいた。司波の兄弟が増えている。同じ転生者だと思った。
なんか、やる気が出た。自分を見せつけよう。見てもらおう!
あんたたちがそっちで生まれたように、俺はこっちで生まれてここまで来たぜ!

黒城兵介はそういう男の子だ。

十文字克人に匹敵する肉体が加速し、障壁を構え、一直線に向かってくる。

司波雪光は笑っていた。あいつは馬鹿だ。あれだけでわかる。
全てをこのスタイルにしているんだ。わかるんだ。僕もだ!

CADを自己最速で操作する。もうあいつは目の前だ。一息飲むとぶつかるだろう。
加速、加速、あいつよりも速く!速く!あの馬鹿より速く!

ヒーローが好きだった。カッコいい男の子が颯爽と戦うのが好きだ。
知性も魔法も欲しかった。誰にも負けないヒーローになりたかった。
それを希望した。チートリクエストの表現が雑なことに8歳の時思い返し、枕に顔をうずめた。

転生して、世界を知ってもヒーローになろうと思った。
物語の登場人物が兄となり、双子の半身になった。身近に感じた。
ヒーローじゃない、家族として助けようと思った。
一緒にいてくれる人もいる。同じ運命で同じように家族を守ってくれる。

でも、やっぱりヒーローに憧れる。颯爽で知性的で女の子にもてる。
なれるよう努力してみた。だからここにいる。

司波雪光はそういう男の子だ。



すでに草原フィールドには3つの一対一が繰り広げられていた。
その中を縦横無尽に走り回る。
魔法を使用しての移動速度としてはすでに絶人の域だ。

自己加速は一方向のみに加速させるが、二人は停止の魔法を駆使し
鋭い切り返しをすることで、草原フィールド内を走り回った。

雪光はサイオン弾を使用した。この高速の中で物理現象は遅い。
例えば圧縮空気弾。あの加速であの巨体にあの障壁。効く攻撃、当たる攻撃ではないと感じていた。
それよりもコントロールが容易なサイオン弾を選択した。
勝負は、この高速の世界についてこれるかどうか。

兵介も感じていた。勝負は速い方が勝つ。兵介の武器は障壁による突撃。
攻撃に使えるのは自分の前面だけ。あいつは、自分の後ろを狙ってくる。
だから速く動く。速く姿勢を直し、速く突撃する。
少しでもこの盾が触れれば勝てる。脚が破裂するまで走る覚悟が出来た。

「なにあれ?無茶するわね」
「人が走ってるように見えない…」
自己加速を維持しつづける二人を見て呆れるエリカに、すでに二人の高速戦闘についていけない美月。
他の対戦が同時に行われているので、レオも幹比古もどれを注視していいかわからず
言葉も発さずにスタンドの大型モニターを見ている。

自己加速中の難点は自重コントロールと摩擦、そして周辺を知覚すること。
自重と摩擦は魔法でコントロールできる。勿論、同時に行うので修練が必要だ。
ただ周辺の知覚は難しい。高速の世界は風景が速い。同様に高速移動する第三者へ精密接触するのは容易ではない。
一方向へ自己加速して攻撃を加える「型」として修練すれば精密攻撃も可能だ。実際、エリカは出来る。
そこまでの修練がなければ、針を刺すような一撃を狙うのは難しい。大雑把な面での攻撃が有利だ。

そう、有利なのは兵介となる。

(なかなか決めさせてくれない!)
だが先に焦ったのは兵介だ。魔法行使で疲弊は無い。サイオン量も問題ない。
雪光の方が速い。

周囲で雷が逆立つ。誰かの魔法だ。だがそれがなんだ。相手はあいつだ。
兵介は雷の中を突っ切って雪光に肉薄する。
その瞬間、そう高速戦闘での一瞬。周囲にはどう見えただろう。

雪光が横にいたのだ。雷の向こうにいた雪光が。


すでに雪光の視界は歪んでいた。頭痛もする。無理をしたのだ。
フラッシュキャストで発動したのは更なる自己加速と反応強化。
競技用ではなく専用のCADで行う「最速」の一端だ。

雪光は、目の前のデカい奴にサイオン弾を見舞わした。
正面じゃない。横から一発キツいのを。
勝負はそこで決した。
兵介が両ひざをついたのを確認した。
雪光は勝ったと思った。
すでに頭がガンガン痛む。脚も動かしたくない。女子の膝枕が欲しい。

ただフィールドは二人だけのものじゃない。流れ弾がある。
二人の高速戦闘に決着をもたらしたのは、一条将輝の圧縮空気弾の流れ弾だった。



試合開始の静寂は1秒と持たず、フィールドは騒がしかった。
雪光と兵介の高速戦闘は草原全体で行われていた。

一条将輝は「佐渡より、騒がしいな」と内心笑っていた。
二人が人間では出せない速度で、縦横無尽に動き回る。

将輝は駆け足で戦位を変えながら、司波達也と距離の取り合いをしていた。

お互い常に動きながら魔法行使をする。
圧縮空気弾を多数展開し相手を制そうとする将輝と
その魔法展開をキャンセルしつづけ、懐に飛び込むのを狙う達也。

今のところ勝ち筋が見えているのが将輝だ。
将輝は精密攻撃をする必要がない。達也がいるところを面として捉え、空気弾を撃ち込めばいい。
達也は、術式解体は魔法展開される空間上の座標を変数としてコントロールしなければならない。

その差は精神的余裕に現れる。

こういった見晴らしのいい場所で、
近づく相手との交戦は黒城兵介との模擬戦で将輝は嫌と言うほどやった。
達也の術式解体や体術には舌を巻くが、兵介に比べ移動速度の差がある。
ただ攻撃するのではなく、移動と攻撃を同時に行う。
それも慌てず、しかし速くである。移動による変数の割り出しは、みっちり練習した。

正直、兵介には助けられた。竹を割った性格が通じ合った。
明るくて元気でタフで、練習のための模擬戦で的になることを承知で付き合ってくれた。
将輝は参謀がジョージなら、剣友は兵介だろうと思う。


一方達也は苦しんでいた。
試合のレギュレーションと自分に課せられた機密。
いくつもの制約があるが、それでもこれ程苦戦するとは思っていなかった。

多少捨て身にはなるが、肉を切らせて骨を断つ覚悟もあった。
だが前提になる接近が難しい。

距離を詰めようとリスクを持って踏み込む。
一定距離まで来ると狙ったように牽制で空気弾が来る。
(一条は目測内で危険ラインを引いており、そこまで到達すると牽制を最優先にする)
達也はそれが相手の戦術と判断し、実際正解であった。

(俺と深雪の前に現れ、自己紹介した時の余裕の正体はこれか)
他の試合と違う「戦闘競技における一対一」を徹底的に鍛えてきた動きだ。
実戦経験者としての余裕だけではなく、競技者としての余裕でもあった。

「上手いな」
「そんなに?」
カナデはアラタの独り言に反応した。
「一条の距離の維持が上手い。反復練習したんだろう」
「で、打開策は現役さん?」
珍しくアラタが舌打ちし、不機嫌な声で返した。
「あらご存じで」
「レストランの面々はね」
(君ら予想通り過ぎません。司波達也からすると、カナデも身内に近いのか?レストランにいたからという義務感からの通達?)
アラタは自分の正体が達也経由で光夜、雪光、深雪、カナデに知れ渡るのは予測していた。
この情報が、彼らの中で転生容疑者ではなく諜報員としてアラタの今までの行動を補完する。
これなら「不審人物」として警戒されなくなる。
今後、怪しまれないし、横浜騒乱については協力関係になれる、とアラタは睨んでいる。
(ブランシュ襲撃ははしゃぎ過ぎたけどな)
「で、達也は勝てるの?」
「連携をうまく使うか、骨も肉も切らさずに戦えば」
「そういう表現はんたーい。具体的な説明さんせーい」
二人の小声の会話が途切れた瞬間、戦況は動いた。突然の終局である。

実戦であれば、一対一の構図でなければ、そして精神的余裕が油断でなければ
一条将輝はもう幾分かの時間、司波達也を釘付けにしただろう。

先に異変を感じたのは達也であった。そして即座にそれを好機と捉えた。
草がまるで作り物のように起立していた。
(光夜。加減しろよ!)

将輝は連続して空気弾を発射しては解体されるのを我慢強く耐えていた。
勝機は一つ。相手の変数調整のミス。それを誘うための弾幕。
一瞬でいい。それで決着だ!と思っていた。
草の起立には気づいていない。だが一瞬の雷光は視界に入った。

将輝の足先を掠めるように雷が上に登り、達也は危険ラインを突破し将輝に肉薄していた。
しまった!と認識した瞬間に圧縮空気弾を連射した。突然の近接戦に思考が固まった。

近接距離に調整されなかった圧縮空気弾が達也の横を掠める。
そして将輝の耳元で指を鳴らす。
空気を震わす衝撃は試合の終了を告げていた。
三校のモノリス付近では吉祥寺真紅郎がすでに倒れていた。



憤怒とは違う。それは四葉真夜のために取ってある。
悲哀とは違う。それは俺を生んだ亡き母のために使った。
後悔とは違う。生まれ落ち、出自を知ったときに味わい尽くした。
憐憫とは違う。四葉にかしずく無能共にしか向けない。

これが友情なのだと光夜は思う。
モーリー、須田、アラタ、彼らと優勝の栄光を分かち合いたい。
光夜は手に入れたい。前世で得ることのなかった友情と栄光を。

真紅郎の視線の遥か先で、四葉光夜は身じろぎもしない。
距離的には交戦距離としてはいささか遠い。
将輝も兵介もフィールドを移動しながら交戦している。
自分の仕事はモノリスを守ること。それもあの四葉をけん制しながら。
(やってやる。四葉だろうと!僕は戦場に立つ参謀だ!)
将輝の横に立つべきは戦える者だと真紅郎は思っている。
兵介はいい奴だ。だが僕には僕の役目がある、とも。

試合開始しても数分経つが光夜はモノリスの前で仁王立ちをしていた。
敵モノリスとの距離など関係は無かった。彼方にいる真紅郎を睨み、機を待っている。

(あいつ動かない!)
真紅郎は焦った。内心で焦るどころではない。
すでに落ち着きなく数歩前に行けば、数歩下がるを繰り返している。
将輝は達也と、兵介は雪光とそれぞれの領域で交戦している。
真紅郎がモノリスを守りつつ、四葉を牽制。一対一で勝った将輝か兵介が敵モノリスを落とす。
戦略ではない。「勝負したい」と言った将輝の願いを聞いた。
四葉を捨て、司波達也との勝負を選択したのだ。「俺の直感だが、あいつが一番出来る」と。
真紅郎も賛成した。将輝と兵介の実力は知っている。

四葉を抑える覚悟もある。自信も少なからず真紅郎の中にはあった。
(動くつもりはないのか!数の利が出来た瞬間に猛攻を賭けるのか?どうなんだ!)
真紅郎は、自分の動揺に驚いた。相手が動いていない、というだけで戦術的選択が出来なくなっている自分に驚いた。
(情動干渉!ちがう!レギュレーションでは禁止だ!)
大きく深呼吸して一歩踏み出した。
(恐れているのは四葉の名前だ。踏み出せ!戦え!将輝の横にいるために!)
真紅郎の足元の草は起立していた。

「ふむ」
九島烈は貴賓席からフィールドを映すモニターを見ていた。
貴賓席の傍らにも複数の室内用モニターにより三つの交戦を同時に見ることが可能だ。
(まるで竜のごとし、としておくかね)
かつて最高の魔法師と呼ばれた老人は、モニターに映る仁王立ちの少年の評価を決めかねていた。
精神や情動干渉の魔法とは違う、持って生まれたカリスマ性が相手を抑える様は興味深いとも思う。

今までの試合では光夜自身は他の選手たちを圧倒する実力を示した。だが肝心の魔法はどうだ。
使われた魔法は?サイオン弾、知覚魔法、加速、浮遊落下、一般的な魔法を使うだけだ。
懇親会で手本を見せた工夫らしい工夫は無い。

若い故の実力不足?それとも秘匿すべきことがあるのか?一般的な魔法以外は使えない?
実戦経験がない?身体的問題で行動が出来ない?それとも戦闘にトラウマ?

九島烈の天秤で評価が揺れていた。

相手は天才児と言っても十師族ではない。戦力としてはチーム内でも一番下だろう。
そんな相手をにらみ続け、動きを止めてどうする?と九島列は訝しんでいた。

(十分だ)
フィールドで起きていることも、誰彼の動きも、把握した。
光夜は達也のような精霊の眼などない。
純然たる観察力である。
この観察力は【多芸多才】なのか【万夫不当】のどちらかの効果では、と光夜は考えたことがある。結論は出ていない。

雪光は互角に戦っている。あの高速戦闘は真似できない。そしてあの世界に入れない。
そう光夜は感じ、一人で最速の世界にいる孤独を考えたことがある。

達也はやや苦戦している。決め手に欠ける。実力が出し切れない。
ガーディアンとして同じ立場を共有しながら、軍、戦略級魔法師、人体実験、
いつも苦しむのは達也だ。だから達也のためにも深雪を守ろうと光夜は思う。

真紅郎が一歩踏み出す。
組んでいた腕を解いた光夜は撫でるように左手のブレスレット型CADを操作する。
一呼吸後、真紅郎の足元から雷が上昇する。
将輝の目の前で雷が上昇する。

前者は直撃、後者は動作が一瞬止まる。

雷の轟音、増幅された衝撃音、圧縮空気弾の着弾音が連続で響き、モノリスコード新人戦決勝は終わった。



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お前らアレか、特撮オタクのオフ会か

未成年による飲酒シーンがありますが、作品内の登場人物は実在しない架空のキャラクターです。
この作品は未成年による飲酒を推奨するものではありません。



宿舎ホテルの会議室では他のスタッフに「というわけなんですよ」と市原先輩が三度目の説明をしている。
いや~自慢したいよね。光夜の魔法がどういったものか。

達也の指パッチンの増幅衝撃波も力技じゃねぇか、と思ったけど
光夜の魔法もそこそこトンデモだった。チートめ!

はっきり言ってその理論構造は説明するに難しい。
瞬間的に地雷を設置し、その場で発動させるというイメージで捉えると正解らしい。
移動速度の速い黒城は対象から外し、一条と吉祥寺に的を絞った。
司波達也特有の問題も理解しての手助けらしい。
本人は「昇雷(しょうらい)だ」しか言わないし。効率重視か!

それを理解して説明する市原先輩は賢い。
どう?魔法大じゃなくて防衛大で研究しない?予算多いよ。
ただし今のご時世、軍事転用するからヨロシク!

結局モノリスコードの試合時間は5分とちょい。
フィールドの中をバイクよりも速く走り回った二人は、医務室で今も寝てる。
「筋肉痛が…」と雪光が言っていたが周りには雪光ガールが来ていてそれなりに満足そう。
七草会長に「デレデレしないの!」と叱られていたけど、やっぱり年下趣味ですか。そうですか。

ちなみに一条将輝の空気弾の流れ弾は雪光に命中しなかった。
すぐ脇で膝をついていた黒城兵介は意識を失っておらず
逆転のため立ち上がった瞬間に空気弾が黒城の方に着弾した。
本人は気絶もせず、「痛って~」と再度膝を突いたらしい。

おい、レオンハルト並みの頑強さだな。生身だとレオより硬いか?

一条将輝と司波達也は俺の知る未来より和やかに握手をした。
「競技に勝つ訓練では追いつけないのか?」
「実戦を想定しての競技だ。目指す先を間違えなければ意味はある」
なんだその会話。ちょっとカッコいいじゃん。

逆に吉祥寺真紅郎はうなだれている。いいとこなしだ。
お前、アニメだと台詞の無かった三校モノリスコード新人戦選手の三人目の気持ちわかったか!
たしか俺の記憶だと台詞が無かったはず。あいつサポートスタッフとかで参加してるのかな。
いいじゃん、お前。頭いいんだから、防衛大来いよ!そこで研究しろよ!
ただし今のご時世、軍事転用するからヨロシク!

これで総合優勝だ!と喜ぶ面々もいるが、俺はこの後仕事がある。


高級車にGPSを仕掛ける仕事だ。ちなみに情報部のアンチ十師族の課からの支援作業だ。
速攻GPSが発見されても俺のせいじゃない。こんな時にVIPの車にGPSつけるとか予算の無駄をするそいつらが悪い。
っていうか九島烈の車に付けろとか、明日の朝一で情報部の他の課が発見するだけじゃねか!

そんなムダ金使うなら、俺が買ったトーラス・シルバーの最新CADを経費で落とさせてくれ!

俺は貰い物と同じ物を買うことがある。無駄遣いではない。
装飾品や電子機器で身につけると送り主が喜ぶものなら特に同じ物を買う。

え?貰い物を信じてそのまま身につける諜報員っている?

風間さんに入学祝に貰ったCADだって、普段の行動範囲である学校の時くらいしか身につけない。
九校戦のような「学校行事で外出する時」もだ。

それ以外は付けない。GPS追跡や使用魔法の履歴とか抜かれるの嫌じゃん。
カナデが行きのトラックで触ったのも風間さんに貰ったデコイのCAD。
入れてある魔法も当たり障りのない物ばかりだ。
風間さんとのお茶会でつけていったのは本命。

課の新人には口酸っぱくして説明しているが、あんまり理解されていない。
母親からプレゼントされたCADなど実家に置いてこい。
あと彼女からもらった携帯電話は気をつけろ。マジでスパイ並みにメールすっぱ抜かれて、裏でGPS追跡が稼働しているぞ。
嫉妬深い女性はスパイ向きだ。我が支援課でも優秀な嫉妬深い女性を募集している。
日本の諜報で輝けるのは嫉妬深い君だ!

俺はそんなことを思いながら、これから支援課としてドブに予算を捨てる仕事をするのだ。





流石でしたね。十文字会頭は流石おっさん面なだけはある。
モノリスコード代表戦は圧倒的勝利だった。

すでに九校戦の全日程は終了し、最後のパーティも終わった。
俺は柄にもなく七草会長をダンスに誘った。
お情けで少し踊ってもらった。え、おじさんは、君好みの年下男子(矛盾)だけど興味ないですか?

パーティ前には光夜と抜け出し(断じてデートではない)、モーリーと須田ちゃんのお見舞いをした。
モーリーは頭に包帯巻いていたが、優勝報告すると少し涙ぐんだ。
「来年こそは俺たちで勝つんだ!」と息巻いたが涙声だった。
須田ちゃんは「ありがと」といって一人一人と握手した。

雪光と黒城は仲良くなったようだ。
パーティ会場の隅で女子を入れず、何やら身振り手振り交えて長話をしていた。
あれ?腰に手をやってベルトのジェスチャーして、バックルのありそうな辺りを操作してポーズをとってる。
お前らアレか、特撮オタクのオフ会か。

本来はトラウマ事件になるミラージュバットの本戦の選手&スタッフコンビは問題なく優勝した。
小早川先輩、妖精衣装には多少抵抗があったようで「もうこの服着なくてもいいと思うと嬉しい」と優勝の喜びと今までの恥ずかしさを語った。はにかんでて可愛い。今はフロアの中央で男子生徒と踊っている。

ただ深雪の飛行魔法に話題の全てを持っていかれたのは、ご存知の通りだ。

パーティの裏では十文字会頭が司波達也に「お前、どっかと結婚して十師族にならへん?」と勧誘しているところだ。
18歳にして見合い話の斡旋とか30年早いよ!中年独身はいっぱいいるんだぞ!剣術道場の長男とか。
最後のパーティが終わると各宿舎で戻って、明日早い時間に出立となる。
女子は最後に温泉に行き、男子は誰かの部屋に集まってジュースと菓子で二次会だ。

俺は特殊なルートを使用して缶ビールを手に入れていた。
来年真似する奴が出たら心配である。もし実行しようものなら軍事機密漏洩になりシャレにならない刑となる。

宿舎ホテルの誰もいない上階に忍び込み、夜空を眺めながら缶ビールを開けた。
ホテル全体が九校戦用に貸切られているので、使われていない階がある。
ホテルの警備?俺にかかれば穴だらけよ!小生嘘つきました。部下のおかげです。上階侵入の手配してくれました。

いや~久しぶりのビール美味い!
「へへ~、あたしにも一本お恵みいただけますでしょうか~」
え~、どうしようっかな~。まあ頑張ったから飲ませてあげましょう。カナデ君!
俺のいる部屋にそっと現れたカナデは両手をこすり合わせ、寄ってくる。飲む気満々やね。

彼女の尾行は気付いていたが、まあ放置。騒がれてもビールの持ち込みは有耶無耶にできるし
取っ組み合いでも負けない。いやまて、16歳の女子高生と取っ組み合いとか社会的死ではないか。
うん?ご褒美でもあるのか?

本来は未成年者の飲酒は許されないし、黙認もダメだけどお互い九校戦は苦労したから社会のルールから目をそらす。

カナデに一本渡すと手慣れた様子でビールを開け、口をつけ長い時間飲んだ。
「もう一本いい?」
横の椅子に腰かけ手を出してくる。
「お前、若いうちから肝臓壊すぞ」
「大丈夫、飲み慣れているから」
おい?!藤林の家はどうなってるんだ。

違う。仕掛けてきた。この飲み会は難しそうだ。

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アプローチ

未成年による飲酒シーンがありますが、作品内の登場人物は実在しない架空のキャラクターです。
この作品は未成年による飲酒を推奨するものではありません。


「大丈夫、飲み慣れているから」
いつか?いつから飲みなれている?
5年前?10年前?それとも生まれる前に大人だった時?

言葉の意味を理解するには、その言葉を発する人物のバックボーンを知っていると深い理解が出来る。

不審人物から諜報員へと俺のバックボーンが判明し、三人は納得したと仮定している。
なぜなら、九校戦で起きる「その他のトラブル」について相談も、確認もしてこなかったからだ。
彼らの認識なら無頭竜の件は、達也が小野遥(巨乳カウンセラー、ちなみに俺の好みではない)と藤林響子
そして魔装大隊の面々だけが関わっている。
俺は軍人だが魔装大隊とは無関係だし、学内の諜報員に相談しなくてもこの件は解決する。
実際、無頭竜の強化人間?は柳・真田が確保していた。

既知未来の中で起こっていたことは起こったのだろう。
俺は介入することもできるが、介入すればいいというものではない。

転生者であることを伝えるのは難しい理由ともつながる。
俺の目的と、光夜と雪光の目的と一致するかわからない。

もし彼らが「原作知識を最大限に使う為、大幅な原作ブレイクを狙う人物を敵とみなす」なら俺の目的はそれに適応される。
俺が目標とするのは「原作ブレイク」に当たる行為かもしれん。
つまり未来知識を使った事件の阻止、および縮小だ。

そのためなら適切なタイミングで司波と四葉の関係を十師族にリークするとか
トーラス・シルバーの個人情報を公開し、資産の凍結とか策略をめぐらす。
司波達也に不利な例を挙げたが、光夜や雪光はこの行為を嫌うだろう。

彼らが四葉真夜との生存競争を目的とするなら
何かしらの「切り札」を確保する時間や、四葉から離れた資産というのは必須だ。

「この世界で生きる」のは同じだ。だが「どう生きる」かは別だ。

カナデはどうだ?彼女の出自、そして今までの行動。
達也と志は同じか、外部協力者か、光夜と雪光への協力意図は?
彼女にとって原作ブレイクをする転生者は敵か?

んで、実際カナデさんのこのアプローチだよな。

2本目も空けたのか許可も取らずに3本目に手を出すカナデ。
「飲みなれてるって、藤林はそんなにキッチンドランカーが多いのか」
「そんなわけないじゃない?あたしが特別なの~」
既に酔い始めたのか少しカナデの姿勢が崩れる。
「は~特別ね。お前のお姉さんに言いつけるよ?」
「ふふ~ん、それは困りますな、軍人殿。言いつけたらビール片手に迫られたとお姉ちゃんに泣きながら言ってみよう」
顔は赤くなっていないが、襟のボタンを一つ外す。なかなかカナデも色っぽい。
「既成事実を作らんでもよろしい!」
「ところで、呼び方アラタでいいの?ほらこういう時には「俺は達也より上の階級だからお酌しろ、げへへ」とかしないの?」
「お前俺をどんな風に思っているんだ?」
「若作りのお調子者」
「お調子者は同意だが、若作りじゃない。もともとこういう顔なの。あと呼び名はアラタでいい」
俺は手にしているビールの残り20%を一気に飲み、2本目に手を出す。
「ふ~ん、慣れたもんって感じ。なにアラタは長いの軍隊?」
「言えるかよ。答え聞いたら、速攻黒服のおじさんたちが来て連れて行かれるぞ」
カナデが足を組む。膝より上が少し見えた。嬉しい。いや、そうじゃない。
「そうしたら、九島が動くわよ~。おじい様、お姉ちゃんとあたしに甘いから」
少し前かがみになり、ワザと見下すような声を出して挑発してくる。
俺は俺で鼻で笑う。
「こちとら凄腕敏腕諜報員だぜ。九島の弱みならもう握ってる」
すぐに優位性が消えたのでカナデは子供のような不満声を出す。
「それ何よ」
「孫娘に甘い」
「そういうことじゃないでしょ」
最後は普通にツッコんだ。
この会話の連携は楽しい。



「もうね、小早川先輩とかフォローしたし、電子金蚕も潰したし九校戦は勘弁だわ」
「勘弁だわって、お前年寄りか」
今度は俺がつっこみをする。
カナデは空けた4本目の缶を床に置き、5本目を開ける。
「精神年齢はおばさんよ」
俺に向けていた視線を下に落とす。
「なに?50歳?」
「そこまでじゃないわよ」
まだ視線を戻さない。
1秒程度の間がありカナデはビールを煽る。
「今年で15だから41かな?」

お前は試しているのか?それとも共有して欲しいのか?

「41って俺より年上じゃねぇか。ねえカナデおばちゃん、おこづかい欲しいの僕」
「いやよ」
声が無機質だ。空気が変わる。いや変えてきた。カナデの本性か。
「何だよ。精神的年上でもさすがに小娘さんにせびるのは無しか」
「そうね。気持ちの上では十二分に大人でも、身体は小娘ね」
足を組み替える。誘っているのか?
「なあカナデ、年長者として聞くが、悩みことか?」
さあ話せ。お前の望みはセックスか別のことか?
「アラタ口固い?」
視線は下がったまま。カナデの頬には緊張の色がある。
「そりゃもう、国家のお墨付き」

「ねえ、生まれ変わった先が漫画の世界だったらどうする?」

カナデの手元の缶が少し凹み、傾く、口からビールがこぼれる、カナデは俯いて俺を見ない。

この人は悩んでいるんだ。


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ジュークボックス

20分程度の時間でビールを4本も空けたのは
酒に強いからと思ったが、それだけではないのだろう。
酒の力で無理やり心の壁を低くしたのだ。

そして話し相手に俺を選んだのは俺が原作の登場人物ではなく、転生者であっても「主人公」の位置にいないと判断したからだろう。
この人は「主人公」に言えない悩みがある。
今、欲しいのは答えじゃない。壁だ。

「漫画の世界」
俺は出来る限り、感情を出さずにオウム返しした。
「そう漫画の世界。達也と深雪が主人公の世界。魔法があって、敵がいて、バトルがあって、九校戦もあって。そんな世界」
俺は彼女の方を見つつ、一口ビールを飲む。
こちらに顔を向けることもなく、一瞥もせずに話を続ける。
「私はそこの脇役の妹に生まれるの。凄いのよ、機械とか触らなくても使えちゃうんだから」
少し声に涙を感じる。まだ彼女はうなだれたままだ。
「でもね、全部達也と深雪が持ってくの。主人公だから。注目も、喝采も」
「お前も注目や喝采されたいのか?」
正しい質問をしろ。この人のヒントはシンプルだ。
「いえ、違う」
声色は無機質に戻った。理性の人なのだ。きっと。
俯いたまま彼女はその無機質な声で続ける。
「主人公の近くにいないとね、物語から消えてくの。最初の頃に登場したあのキャラクターが最後にはいない。よくあるでしょ」
彼女はビールを一口飲む。それは息を整える代わりなのだろう。
「あいつはどこ行った?あの爆発で死んだの?作者が番外編でフォローするはず?そうじゃないわ、いないのよ。必要な時に出てくるだけでどっかで待たされているの。条件が満たされないと出てこない」
身振りなど一切交えず、声音だけ変え、悩み、驚き、心配、そして無機質の声に戻る。
「条件?」

「主人公の役に立つこと。そして読者の興味を引くこと」

なにが理性の人だ。この人はこの世界を『魔法科高校の劣等生の物語内』と認識し、主人公、脇役を認識し、そして読者がいると思っている。
会えもしない、交流もできない、声も聞こえない、干渉することのない読者がいると思っている。
彼女はその読者を意識している。気にしている。どこかにいるであろう、存在しない読者をだ。
俺は心が震えた。これほどまでに表情を留めるのに苦労したことはない。

この人は狂う寸前だ。いや正しい見方をしているのか。彼女は物語世界のキャラクターになったと思っている。物語世界だから読者が存在すると思っている。

「俺はその世界に登場したのか?」
「登場するわけないじゃない。アラタはいてもいなくても、あの二人には影響しないわ。読んだ小説じゃ、描写もないわ。だから話すの」
顔を上げこちらを向いた。彼女の顔は緊張しているのか弛緩しているのか、ただ虚脱しているか読み取れない。
手のビール缶が嫌に冷たく思う。俺は動揺しているのか。

「じゃあ、光夜や雪光は?」
少し声を震わし質問した。
「あの二人は特別。私の読んだ中にはいなかった。きっと二人はこの世界に来た別の人間で、あの位置に生まれたの。主人公の家族。絶対に物語からは離れないの。強くってかっこいいのよ。読者の興味も引くし、何より生まれ設定から主人公に絡むもの」
彼女は本当に漫画の登場人物の設定を言うように他人事で説明する。声には感情を感じない。
この人への質問は?正しいヒントは?お前は人間だ、とでも言えばいいのか。
「あ、・・」
ミスだ。次の言葉が出ない。読者の興味?俺が生きるのにそんなものが必要か。必要ない。読者など俺には見えないし、感じない。
彼女は意地悪に微笑んだ。いや自虐的な笑顔か。どっちだ。

「変でしょ。でもね、気持ちの中じゃ一番苦しいのは私、残業帰り、ふと気が付くと赤ん坊で、姉と慕うのは心の中だと年下の女の子」
俺は目を少し見開いたのかもしれない。顔のどこかの筋肉が動く。無表情を取り繕えない。
主導権はどっちだ。彼女か、俺か。
「どんどん暮らすうちに、ここが魔法科高校の劣等生の世界だと知ったわ。起こった事件と記憶を合わせると達也と深雪は同級生。そしてあたしは藤林の娘」
司波兄妹の名前を出した瞬間表情が変わった。眉尻が下がり、眉間にしわが寄る。彼女は今までに見せない怒りとも哀しみともつかぬ顔をしている。
声が荒げないのは理性なのか、それとも怒鳴り散らすことを諦めているのか。
「世界の中心で始まりはあの二人。私は外野で途中参加。でもついていかないと、この世界だと不用品。お姉さんみたいな引き立て役にもなりゃしない。カウンセラーみたいに読者に媚びればいいのかな。深雪を庇って死ぬくらいは必要かも」
「死ぬのか」
「死ぬわけないじゃない。死ねるの?深雪を庇って代わりに死ぬって、あたしそこまであの子のこと好きじゃないわ。でもね、そうでもしないと置いて行かれる!」
彼女の瞳からほんの少しの涙が流れる。これが本音だ。

もし、俺の心を覗く読者がいるなら言っておく。
俺は女の涙に弱いんだ。

俺の愛した女は泣き顔を見せた。そのことを思い出して、途端に冷静になった。
やっぱりこの世界は魔法科高校の劣等生の物語内の世界じゃない。
今、心のさざ波が収まったのも司波達也も司波深雪も関係ない、俺の女達のおかげだ。
一番最初に女性の涙が俺の人生に影響を与えたのは、通夜での母の涙だ。
俺の人生は女性の涙に支配されていると言っても過言ではない。

この人は脇役でいることが嫌なのだ。いや、正しくは『魔法科高校の劣等生の物語』から脱したいのだ。
光夜や雪光に協力するのは、あの二人が「達也と深雪の共同体」だからだ。
原作にいない二人の存在は、原作から外れるが、読者とやらの興味は継続されるし主人公と同一視しても構わない、とこの人は考えた。
そして二人に協力することで物語に関与し続ける。つまりこの世界で生きている意味を確保できる。

でも、そんな意味は無いのだ。物語?原作?そんなものはすでに俺はホテルの廊下に捨ててきた。
だがこの人は捨てられない。確証がないのだ。この世界が司波達也生誕の前に存在したのか?
司波達也と司波深雪がアダムとイブで、それ以外は二人が生まれたことで発生したのでは、と。

俺はいつの間にか、顎に手をやっていた。ルーチンのつもりが癖になったかな。

椅子から立ち上がり、彼女の前で片膝を着く。
「お嬢さん、飲んでばかりじゃ楽しくない。一曲いかが」
手首のCADを起動させ、プレイリストからムーンライト・セレナーデを選択する。
トーラス・シルバーの最新CADも、時と場所によってはジュークボックスだ。
こんな複合機能有りのCADを贈ってくれた風間さんには改めてお礼を言わないと。

彼女は怪訝な、相当怪訝な顔をして俺の差し出した手を握り、一緒に立ち上がる。
「気持ち悪いと思わないの?頭のおかしい女だよ」
「ダンスは踊れるかい。俺が女性に求めるのは正気や狂気じゃない。夜のホテルでダンスを踊ること」
冗談めかして言ってみた。なおも怪訝な顔の彼女は黙ったまま、俺と体を合わせ、体を揺らしダンスの真似事を始めた。

彼女の腰に右手を回し、体を揺らす。
俺の左手と彼女の右手が握りあう。
「ステップは?」
「知らない」憮然としている。零れていない涙が目元に見える。
「じゃあ、俺についてきて、まず右足を・・・」
一曲使って簡単なステップを教える。
そこで俺はプレイリストから古めのダンスナンバーを選択した。
男性ボーカルグループがカバーしたバージョン。
「何?これ?聞いたことがある」
「君の瞳に恋してる」
「ほんと?」
「曲名」
彼女は少し笑った。
女性ボーカルよりもゆったりとムードのある曲調、ディスコナンバーらしくテンポが上がる。俺もそれに合わせてステップを変えた。
彼女もそれについて来ようと、ステップを踏むが少しもつれる。
そして笑う。

次の曲になる。歌い出しに戸惑っているようだが
知っているメロディになると、彼女はゆったりと身体を揺らす。
「FLY ME TO THE MOONでしょ。知っているのと違う」
懐かしさがこもる声だ。
俺と繋がる手も少し柔らかい握りになる。
「達也の話に俺は出ないけど、俺の話にあいつは出ない」
彼女の眼が少しだけ、少しだけ見開かれる。
「いいとこ、雪光の兄貴ぐらいの立ち位置だ。全部で100文字も話さない」
「でもここは『魔法科高校の劣等生』の」
彼女は少し焦ったような声色。俺はそれを遮る。
「達也の話だ。俺にすりゃ『凄腕諜報員の冒険譚』だ」
「センスないわね」
「ほっとけ」
もう一度笑う。

「この曲も今から120年か130年前。でも達也は知らない。70年代はディスコフィーバーだ」
彼女は俺の腕の中で真剣な顔をしている。
「読者がいても、正直関係ないさ。俺だって興味ない漫画や映画はある。でもそれが消えたりしない」
彼女の手が俺の手を強く握る。
「『魔法科科高校の劣等生』の世界でも別にその通りに生きなくていい。深雪が嫌いなら横っ面を叩けばいい」
そう言われて彼女が反論する。どちらかというと言い訳か。
「あれは言葉のあやよ。彼女はいい子だわ。嫉妬深いけど」
じゃあ諜報員向きだ。
「でも読者」もう一度言葉を遮る。
「会ったことも無い奴の興味のアリナシなんて知らないね。そいつは夜のホテルで君と踊ると俺を消す?」
彼女は体を俺に寄せ、小さく言った
「消えてない」
「そういうこと」

曲を変えた。明るいアップテンポのディスコナンバーだ。
「これは」
「Love Train。120年くらい前の洋楽」
「これいいわね」
彼女は無機質な声でもなく、カナデの声でもない。
「昔から好きなんだ」
「昔って、いつよ」
「ずっと昔、ずっと」
ほんの少し思い出す。今では古く古くなった映画。上映初日にスタッフロールにこの曲が流れてきた日を。
もう二人とも踊っていない。抱き合っているだけだ。
「なあ、これから名前を呼ぶときはどうすればいい?」
質問の意図がわかるまで10秒ほどかかったようだ。
「カナデでいい」
口数少なに言うと、もう一度俺に身を寄せた。
「ねぇ」
「なに」
彼女が少し上を向く。俺の方がやや身長がある。
唇が触れ合った。

もし、俺の心を覗く読者がいるなら言っておく。






















子供は寝るんだ。大人の時間だ。


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スクーター姉は不登校

彼女が欲しかったのは安心感と、自分が人間である確信だ。

自分の考えが言葉で否定され、生の人間同士の触れ合いで世界の現実を実感したのだろう。
男女の恋愛は大体の問題を解決する。
ただ破綻したときは何よりも問題を残すがね。

「カナデは堕ちたな、ふはははは!」と言えるようなことはなかった。
実際、キスから先は()()()進めなかった。時間切れだ。

警備巡回の時間が近かったので大急ぎで床の缶を拾い上げ、ホテルの内の非常階段へ行った。
そこには警備員の服装をした支援課小隊の一人がいるので、ゴミを渡しておさらばである。

冗談でカナデをずっとお姫様抱っこしていた。
彼女は着やせするタイプで、見かけ以上にスタイルにメリハリがある。実地確認済みだ。

一校のフロアに戻るまで10分も満たないが、たわいもない話をした。
声優目当てで「さすおに」を見始めたとか、ちょっと根が暗いこと、そして昔も今も恋人はいないことも。
俺は俺で少しだけ話をした。甘いものが好き。贈り物は同じものを二つ買う。眠れぬ夜があったこと。
そして凄腕の諜報員ということ。
そのくだりで彼女は「それだけは今でも信じられない」と笑って言った。

フロアへ通ずるドアの前で、長いキスをして一校フロアに戻った。
カナデは嬉しそうに部屋に向かっていったが
俺は一人部屋となったスペースで「最後まですればよかった」と呟き、長い長い九校戦が終わりを告げた。



「ということになりました、村井大佐」
「惚気か?それともハニートラップの相談か?」
転生周りの話はしても理解されないのでカット。キスの関係だけ説明した。
モニター前の村井さんは呆れているのがよくわかる。おでこ光ってますよ。
「さあ、ですが九島との繋がりを部下に隠されるよりかマシでしょう」
「なんで任務と関係ないところばかり、関係が深くなる」
「片方は人徳、片方はセックスアピールによるものかと」
待機場所兼仮の自宅での定時連絡はこれで終わった。

夏休みはやることが多い。
クロスフィールド部も夏季大会があり、それもすぐだ。
本命の一つ、十文字会頭と距離を縮めるには持ってこい。
もう一方の七草からは眼中に無いようなのでどうでもいいです。
あんな小娘どうでもいい。ダンスがお座なりだったことの恨みは一ミリも無い。
もう一度言う、一ミリも無いもんね!

考えなければいけないことは山積している。
たしかモーリーは夏休み中に、非魔法師の人といろいろあって精神的に成長するイベントがあったような。
あれ女優守るんだっけか?
そのあたりの人命救助的対応を考えねば。光夜あたり自主的に対応してくれれば助かる。

問題は横浜騒乱だ。
これを一度整理する必要がある。

1、時系列の確認
2、各人物の行動指針の確認
3、大亜連合潜入班の所在確認
4、日本の防衛組織への接触と警戒誘導

難点なのが俺が横浜騒乱、灼熱のハロウィンの詳細を忘れているということだ。

念のため、紙に書き出してみよう。こういった情報を整列するときには紙に書き出すようにしている。
支援課の新人に「タブレットに書いて削除すればいいじゃないですか」と言われたので
そいつのタブレットから削除した自作ポエムをサルベージしてやったことがある。
「君の瞳に輝く星座は、何物にも代えられないピュアハート」だっけか?

最後は燃やして炭にするのが一番なんだよ!
あと、書く時は登場人物を自分にだけわかるよう茶化して書いている。
このくらいの遊びがないと諜報なんぞやっとれん。

時系列を無視して覚えていることを羅列すると



一人刀剣乱舞(ロリコン)が病院でスクーター妹に花束を持って会う。

社会人ラグビー部の先輩後輩コンビが上陸。料亭で一人刀剣乱舞と会う。

中年フリーターが剣術小町&パンツァー!と交戦。(将来的には剣術小町とパンツァー!は付き合うんじゃないかと思っている)

スクーター妹がスクーターで逃げる。

中年。ラグビー部後輩に殺される。

お兄様の義理の母(若作り。俺とは違う)が【インディージョーンズに出てくるアレ】をお兄様のところに持ち込む。

お兄様、1kmと交戦。

独身長男、愚痴を言いながら不審船を沈める。

病院で、彼氏とおそろいのジャケット先輩が、彼女とおそろいジャケットの恋人と共にラグビー部後輩と交戦。

ラグビー部後輩、鑑別所を襲撃。彼氏とおそろいのジャケット先輩と、おねショタ好き(偏見)との交戦で捕まる(お兄様もいたはず?)

あいつ、校内で行われるなんかの実験で細身女子にイチャモンをつける。

お兄様、フェチズム溢れるメイドロボットを利用して、あいつのデータコピーの現場を目撃。逮捕。

ラグビー部先輩、一人刀剣乱舞に頭を下げて後輩の身柄奪還。

ラグビー部先輩が一人刀剣乱舞に頭を下げた翌日?に後輩の身柄奪還成功。

スクーター女子がスタンガン?持って威嚇するところをパンツァー!がタックルかまして確保。不純異性交遊?セクハラ?を剣術小町にツッコまれる?

生徒会役員交代、風紀委員長に五十里啓の外部暴力装置が就任?

スクーター姉は不登校。

独身長男、運命の人(独身者ありがちの勝手なトキメキ)と出会う。

彼氏とおそろいのジャケット先輩、調香(きっと彼氏が「いい香りだ」と言ったのでハマった口だ)を利用してあいつから情報を引き出す。

パンツァー!、剣術小町と練習して着替えを覗く。

泣きぼくろ、眼鏡巨乳の乳を揉む。あとパンツをガン見する。

パンツァー!、剣術小町の道場で布使って特訓。

「あんたに足りないもの教えてあげる」と剣術小町どや顔。

パンツァー!が「修行が無駄になった」と愚痴る。

お兄様、おねショタ好きと図書室?の個室でイチャコラする。


書き出してみると意外と覚えているが、細部がわからんので情報や場所の特定、日付の特定は難しいな。
あとなんだ?一応思いつく限りはこんなもんだ。思い出したら追加だな。

流石です!女子は、特に大きく行動を起こさないんだな。
おねショタいや七草真由美とのイチャコラを報告したら騒動が起きるだろうか。

一度カナデに相談する必要がありそうだ。
「転生者」として相談できる相手がいるのは助かる。情報量が増える。

さて、一足早く横浜騒乱編を始めるか。

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貸し一つな




クロスフィールドの夏季大会は優勝した。俺も頑張った。
現役軍人で、凄腕諜報員で、軍神の加護を持つ男が頑張った。
俺は並みいる敵をちぎっては投げ、ちぎっては投げ、5秒間で40人の敵を倒し・・・
それをやると拙いので、準決勝のラスト30秒で4人を倒すまぐれを演じたのだ。

その頑張りは俺に幸運をもたらした。任務の半分を達成したも同じ!
十文字克人の私邸での優勝祝勝会に参加したのだ。
祝勝会と言っても部活の面々が「一番家がでかいから」という理由で十文字家で祝勝会を行ったのだ。
3年の先輩に「一番家のデカい奴のところでやりましょうよ」と言ったら、十文字克人の家と相成った。

いや~豪邸。祝勝会の準備に手を貸してくれたお手伝いさんは5人だし、リビングダイニングを全開放すると
部活の面々が全員収まるし、デカいわ。金持ってるわ~。奥さんと子供5人ぐらいは余裕だわ~。ビッグダディだわ~(偏見)
本当なら、ここで盗聴器を仕掛けたいが、そんなそぶりを見せるとやばい。人の目が多い。
なので俺はこの家の見取り図を手に入れようと思った。

俺は祝勝会の下準備としてお手伝いさんからテーブルクロスを借りたり、全員のスポーツバックを空き部屋に移動させたりと働いた。

諜報員になるときに習得する技術が幾つかあるが、俺は「建築」を選択した。
今回の祝勝会で、ダイニング、リビング、トイレ、台所、空き部屋、勝手口、廊下、玄関、庭先、十文字会頭のトレーニングルームを見れた。
それで十分である。それだけあれば十文字邸の間取りは外観からの推察と合わせて、8~9割は書ける。
想定される接触型、非接触型の電源供給フォームの数も誤差1割と言ったところだし、水回りもおおよそわかる。
台所で見た家庭用セキュリティの操作パネルのメーカーから、十文字邸の基本セキュリティ契約も想像がつく。
庭先にはいくつかの赤外線による接触型の警備アラームも見受けられた。
魔法的なセキュリティもいくつか判断できる。

俺はこの仕事を辞めても、警備会社に勤めるか、プロの大泥棒になる自信がある。

この十文字私邸での祝勝会により「十文字東京私邸」というプライベート空間の間取りという重要情報を手に入れた。
早速、村井大佐に報告しクロスフィールド競技で疲れた体に鞭を打ち、早々に見取り図を完成させた。慣れた徹夜もこう続くと嫌になる。

真面目な話、俺一人でそれなりの準備期間があれば十文字邸への侵入するだけなら可能だ。
ただそこで何をするかで話は変わる。それは、十文字邸へ何かを仕掛ける諜報組織の任務次第である。
村井大佐もこれで、各情報組織へクソ高い情報料を取ってこれる。

それ以外だと横浜でちょっとしたトラブルに巻き込まれた。

モーリーが遭遇した謎の女性の護衛だ。
横浜の病院にモーリーが転院したので見舞い帰りに遭遇した。
その日以外も俺は今後のため横浜周辺の地理確認のため横浜を歩き回っていたので、遭遇する確率はあった。
昼間で夏休み後半という点だけでも時間と範囲は絞れる。
あとは忍耐強く歩き回り、広域的に人払いの魔法が使われれば、そちらへ向かうの繰り返しだ。
遭遇しないなら内情なり外事なりに直接聞けばいい。

「雪光?!」
そう雪光がなぜか、女性の手を引いて逃げ回っていたのだ。一緒に黒城兵介もいる。
仕方ないから尾行だよ。尾行。おい、どうなってんだ、この状況。お前は主人公か。

女性を救った二人は、レストランに逃げ込む。人目が多い方がいいわな。
俺は少し離れた路上から店の様子をうかがった。横浜の路上売りのハンバーガーも美味い。

三人が店から出たとき声を掛けた。
「あれ、雪光?」
「アラタ?どしたの?」
「モーリーの見舞いの帰り」
「よう」と黒城兵介が手を挙げる。
「三校の黒城兵介」俺、お前のこと知ってる。
「一校の相馬新。アラタ」
「兵介と呼んでくれ」

「ねえ、行くんじゃないの?」
雪光と同じくらいの身長の女性だ。美人と言うより可愛らしいかな。
言葉のイントネーションにやや違和感を感じる。標準語になれていない感じだ。
「そっちのお姉さんは?」
「ねぇ、この子、大丈夫なの?」
少しイライラしてるか?そりゃそうだ何処かへ向かう途中だ。
俺は三人を促しながら歩きながら説明する。
「俺、相馬新。そこのイケメンの友達」
「リン・リチャードソンよ」
リンは少し早口に、周辺を見てソワソワする感じがする。お前アレだろ。そこの角の黒服だろ。
「褒めても何もおごらないからね。リン、大丈夫問題ないよ。そうだ、アラタちょっとお願いできる?」
雪光お前、何か押し付ける気満々だな。
「何を?」
雪光は手に持っていたプラスチックのボール、ガチャガチャの丸いケースだ。
俺は2095年でもあるんだよな~、と再確認すると共に嫌な予感がした。
止めろ、そいつを向こうの角に隠れてるつもりになってる奴に投げるな。止めろ。
俺の願いもむなしく、プラスチックのボールは男の頭に投げ込まれた。
「ヨロシク!足止めしといて!」
バカ―!俺は潜入中で、家族連れとかいる場所なのにスーツ姿で隠れる不自然極まりないバカと関わり合いたくないんだよ!

雪光と兵介は女性を連れて走って行った。ため息一つ、俺は三人を追いかける黒服の前に立ち、「や、やめろ!」と声を上げたが、男に押しのけられて倒れる。
後からやってきた黒服数名に両腕をつかまれ、人のいない方向へ連れて行かれる。

「糞餓鬼が!」一人が持っていた警棒の柄で俺の頭を突く。
「お前、あいつらは誰なんだ!」と腹を殴られた。どんどん人のいない道に連れていかれる。
どこの組織か判断つかないと暴れらんないし、もそっと状況に流されるかね。
少し離れた駐車場には黒い車がある。車の車種と特徴から内情、内閣情報局、政府の情報機関の一つだ。
俺の回りには4人。道を進む中、1発警棒で小突かれた。
小声で「ふ~、ごめんなさい…」と言ったが聞く耳は無いようだ。

駐車場の車の影、フェンスに持たれ足がすくんでいる(名演)俺を取り囲む。
「どこに逃げようとしている!」
「お前も組織の一人か!」
「あの餓鬼どもは何なんだ」
ここで一人俺をグーで殴る。他の面々も特殊警棒を伸ばし威圧してくる。
左端の一人は魔法師。タブレット型のCADを握っている。
「おい!」一人が俺の前髪をつかむ。体格差があるので俺は少しつま先立ちになる。
「やめてください~」
情けない声を出してみたが、こいつら頭に血がのぼっているのか、話を聞いてくれない。

もうね、だめ、素人ども。服装からダメダメ。全員黒服なんて都市伝説コスプレか。Kとかコードネーム付けてないだろうな。
それに、ここまで来たら一人くらいは「ま、話してくれれば殴らないよ」とか言って懐柔する役をやれ。
優しい警官と厳しい警官くらい習っただろ。応用しろ。
そんな程度の尋問で厳しい諜報の世界を勝ち抜けると思っているか!諜報は一に演技、二に演技、三、四が無くて、五に演技だ!紅天女だ!

俺をみろ!足がすくんで、暴力を恐怖している演技でお前ら騙されとるやないけ!
仕方ない。今も怒鳴り上げ、頬を叩き威圧してくる素人丸出しの奴らを全員ぶん殴って、内情の監察してた内藤女史に話ししよう。
あんな素人丸出し使うなら支援課使えと。うちに予算を落とせと。俺の給料上げろと。俺に新車をくれと。3週間くらい有休をよこせと。CADの経費認めろと。

「貴様ら何している!そんなところで油売っているなら追跡してこい!」と厳しく叱責する男が現れた。
40代の強面で胸板も厚い。丸刈りの髪でヤクザの若組長と言っても納得されるだろう。スーツも黒一色ではなく、濃紺にストライプが薄っすら見える洒落たスーツを着ている。靴も濃茶の革。
これなら洒落者の横浜デートスタイルと言ってもギリギリ通じる。強面以外。
叱責された4人は警棒をしまい、急いで来た道を戻る。

「瀬川~」俺は怒って名前を呼んだ。プンスコ!。
あの素人4人をぶん殴って教育する機会を目の前の男に潰されたからだ。
強面の男は一つ咳払いをして「勘弁してください。先輩。あいつら今日が現場初で頭に血がのぼってるんです」
先ほど叱責した強面はなりをひそめ、俺に頭を下げてくる。

瀬川薫。元国防陸軍第一空挺大隊少尉。
1年ほど空挺で俺の後輩だったが、配置転換とちょっとした取引で内情に移った男。
年齢的には俺の一つ下。その老け顔をうらやましく思った事もある。
入隊すぐに「おい、坊や!」とニヤニヤ笑いながら俺の童顔をネタに絡んで来たので〆てやって以来の仲だ。

瀬川から経緯を聞いて「内情も使い走りか」と嫌味を言ったら「面目ない」と返して来やがった。
まあ政治力学、この場合は偉いさんの財布と力関係に左右されるから諜報もつらい。
「まあ、あの子たちには悪いですが二、三発殴って終わりにしますよ」
「逆だよ。追ってた奴らのために救急車用意しとけ」
瀬川は驚いてこっちを見てくる。
「二人とも魔法師で、一校と三校でトップクラスだよ。でかい方は見たまんま。腕っぷしならあの四人より上だぜ、きっと」
あ、唇の端が切れてる。当面しょっぱい系の食えないぞ。
瀬川がハンカチを差し出す。俺はそれを受け取り続ける。
「今の俺のこと聞いてるか?」
「いえ、何も」
お、いっちょ前に緊張してやがる。
「あの小さいほうヤバいぞ。魔法アリなら俺も命懸けだ」
瀬川が息をのんだ。
「我々はどうすれば?」
「急いで撤退しろ。失敗しても困るのはお前じゃなくて上だろ」
「はい」
瀬川はすぐにタブレットを取り出し、撤退のコールを入れる。
「貸し一つな」
「そうしておいてください」
俺たちは別れた。

合流すると、すでにリン・リチャードソンはいない。
雪光、兵介と二人して「すまんかった!」と平謝りされた。
鼻血が出たのか、兵介はティッシュを鼻に詰めている。
雪光もおでこのあたりが少し盛り上がっている。たんコブだ。

俺には頬には叩かれたあとがはっきり残っている。まあ、少しは責任を感じろ。
特に雪光は俺が軍人で格闘技経験者なのを知ってのフリだったのだろうが、簡単に人前で暴れられるか!
「雪光、お前一週間は学食おごれよ」
「ごめん!」

モーリー、お前下手したらこんなことに巻き込まれてたんだな。

モーリーは、入院中に魔法について看護師さんと話をしたら
「魔法師だって人間!」とたっぷり説教されて、将来のことを色々考え始めたようだ。
新学期に会ったときに「医療現場におけるクイックドロウの使い方」について考えてた。
何人かの女性看護師と連絡先を交換したらしい。そのことを須田ちゃんに教えたら、須田ちゃん悔しがってた。

ちなみにカナデは北山雫の誘いで海に行ったらしい。
光夜はコンバットシューティングの夏季大会で優勝した。

俺は残った数日の夏休みを、村井大佐への報告と、中華街やその周辺歩きに努めた。
短い夏休みであった。

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何?こんなことで気にしてんの?

三人称視点です


司波深雪は非常に優しい少女である。
その深雪も怒る時は怒る。騒動を起こした双子の雪光の夕飯を抜きにしたのだ。

「お腹空いた~」
雪光は自業自得であることを感じつつ、自室でCADの組み立て、調整を行っていた。
司波邸には兄、司波達也専用のCAD調整のルームもあるが、雪光は昔から自室でダラダラと組み立てをするのが好きだった。

アラタに悪いことをした。帰り道、でっかいパフェをおごった時に聞いたら、2、3発殴られたそうだ。
その時に「あんまり目立てないからね、俺」と釘も刺された。
九校戦の帰りのバスの中でも「今まで通りでよろしく」と言われた。
最初は少し考えたが付き合いとか呼び方は変えるな、ということだと雪光は理解した。

諜報のプロは自分の身を隠すために殴られることに抵抗がない、ということに雪光は自分の甘さを感じ反省した。
アラタは身を守るために戦うと思った。自分がそうするからだ。
今回は相手も逃げて行ったし、アラタも軽傷だったので結果としては丸く収まったが
それが幸運だったということを達也に指摘されたのも、雪光が沈んでいる理由でもある。

将来的には四葉のエージェントを管理することになる。
本当のプロというものをしっかり考えようと思った雪光であった。

今日は兵介が上京し、九校戦後夜祭のパーティで話したCADについて細部を詰めていた。
某特撮の聖地巡りも併せてではあったが、雪光と兵介は満足した。
そして女性が何者かに絡まれていた。雪光も兵介も顔を合わせて思った。

「森崎のアレだ」

リン・リチャードソンこと孫美鈴を助けると、顧 傑の日本入国を遅れさせられるということは
二人とも把握していたので、取り敢えず助けることにした。

逃げる中「魔法師は魔法を暴力として使う!同じ人間なのに」と孫美鈴の心情を聞いた二人は
最後の大乱闘は魔法を使わず生身で戦った。

乱闘後に「なぜ魔法を使わなかったの?殺されるところだったのよ」とリンが泣きながら雪光に抱き着いてきた。
「うん、あなたが使うのを嫌っていたし、僕らも人間だから。でも、よくわからないや」
兵介と目が合うと頷かれた。
「魔法師も人間だよね。そう魔法が使えるだけで人間だよね」と泣き笑いされた時は、はにかむ以外の返し方が出来なかった。

結果的に兵介は鼻血を出し、雪光はおでこに小さなたん瘤を作った。
家に帰り今日あったことを全部話した。雪光の晩御飯は無くなった。

「もう一度ちゃんと謝りなさい!」と深雪が正座する雪光に電話を掛けさせると
アラタが「大丈夫、日常茶飯事だし。何?こんなことで気にしてんの?」とさらっと言った。
ただ雪光はアラタの声の奥の方で「ん・・・はっ・・・」と声を出すことを我慢するような女性と思われる息遣いを聞いた。

雪光から、電話取った深雪も「この度は申し訳ありません。いえ、そんな。アラタさん、その、あのお怪我が軽いようで・・・はい!では、ごめんください!」
と最後のあたりは早口で切ってしまった。
達也が自分も兄として謝罪したいとボヤいたが、深雪が「気づかずに申し訳ありません!」と顔を赤くした。
深雪も雪光もアラタが何をしていたのか勝手に想像して、本当に「大人なんだ」と納得した。

雪光は九校戦で転生友達が出来たし、懸念のアラタの正体もわかったので
本格的に横浜騒乱編の対応を考えていた。

ネックなのは今後、長期的に対応することとなる「周公瑾」と捉えていた。
早めに消すと来訪者編以降に影響があるが、良い影響では?と雪光は考える。
理由は簡単だ。いつか殺すなら早めに殺せば暗躍を止められる。

ただ殺すと来訪者編や顧 傑の行動に変化が起きる可能性が高い。
光夜と雪光の原作知識を十二分に使いつつ、将来的、そう雪光の知る最も遠い未来まで優位に進めなければならない。
そのためには、原作からの乖離は大きくはしたくない。ただ不穏分子も放置はできない。

(一度光夜兄さんに相談しよう)
そう思いながら「想子剣」のCADの組み立てを進めた。



(鬱陶しい)
視線が痛い。みな恐れよりも好奇が勝っているのか

始業式も終わり教室に向かう中、皆、光夜を見てくる。
(あれが理由か)
廊下に張り出されていたのは生徒会選挙の告知だ。
七草真由美が9月で生徒会を引退する。後任は誰だ?それが楽しみなのだ。

十師族であり、九校戦で見せた一瞬の魔法、圧倒的なコンバットシューティングでの成績。
知性、実力とも三年の三巨頭に匹敵する。そんな光夜こそ生徒会長にふさわしい。
そんな好奇な視線が光夜には飛んでくる。

(たしか・・・)
原作では生徒会会長選挙に担ぎ出されるのは達也で自分ではない、と思い出す。

(余計なところで、少し複雑になったな)
教室に戻ると他の生徒も生徒会選挙の話で盛り上がっていた。
カナデも何人かと話し、光夜の名前が出ると、当人の方に視線を投げる。

本命:完璧。一校の絶対支配者。魔王。四葉光夜
対抗:一校の王子様。女子人気は圧倒的。高速の美少年。司波雪光
対抗:現生徒会執行部。あわわと言わせれば学内一。梓弓。中条あずさ
対抗:生徒会の氷雪姫。九校戦新人戦2冠。才色兼備。司波深雪
大穴:天才少年魔工師。影の実力者。二科生の星。司波達也

服部刑部は部活動会頭に内定しているが、それも「四葉光夜に」という人間もいる。

そんな生徒会選挙狂騒曲を知ってか知らずか、カナデは光夜をニヤニヤ見ている。
「お前出るの?選挙」
「そのつもりはない」
アラタに聞かれて即答した。

生徒会会長になるということは、横浜騒乱で自由に動けないということだ。
光夜の認識ではそうだ。

(ここはあーちゃん先輩に当選してもらうに限るな)
光夜は根が真面目だが、同時にオタク気質も残っている。中条あずさは心中、「あーちゃん」呼びだ。
部活の後、生徒会室へ書類を持って行った時に「あーちゃん先輩」しかいなかった。
光夜の左爪のあたりが少し血がにじんでるのを見て、あずさは救急箱を取り出し、大げさに消毒をし絆創膏を貼った。
「これで大丈夫です。あ、もしかして余計なことを・・・」
「いえ、助かります。あーちゃん先輩」
自然と心中の呼び方が出た。親近感から、つい出てしまったと光夜は反省した。
「あーちゃんと呼ばないでください!」
あずさは即座に頬を膨らませ怒る。
「すいません」
自然と微笑んだ。
光夜は気付かないが、あずさは顔を赤くした。
あの怜悧な美形が、優しく微笑んだのだ。

光夜の母親も気の弱く、小柄な人だった。
ちょっとの怪我もすぐに消毒して絆創膏を貼って、笑顔で頭を撫でてくれた。
そんな面影を中条あずさに見ている自分に気付くと
(俺もマザコンだな)と悪い気はしなかった。

中条あずさを尊敬している。そう光夜は自分の気持ちを見つめた。


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正面にいた女子が「ひっ」て悲鳴上げたぞ


9月に入って、生徒会選挙となった。光夜の機嫌が悪い。
どうやら生徒会選挙に名前が挙がっていることにいら立っているようだ。

いま、正面にいた女子が「ひっ」て悲鳴上げたぞ。

それを横目に俺は忙しかった。
中華街の動き、密入国者の入国事件の発生の確認、横浜騒乱の兆しを待っていた。
元はと言えば、千葉の長男坊が悪い。
お前、密入国者の特殊部隊をぶっ飛ばしてれば、横浜騒乱なんて起きないんだぞ!
てめぇ!藤林響子に鼻の下伸ばしてんじゃねぇぞ!こら!俺の方が先にお茶したんだからな!

などと息巻いても仕方がない。というか、あの千葉刑事?警部?の一件があるからこそ
事件が動き出したことを知ることが出来る。

この横浜騒乱事件は8月の九校戦から10月30日の論文コンペまで因果関係が短いスパンで発生し、解消する。

人食い虎呂剛虎の病院襲撃の遠因は、平河千秋の入院であり、それは司波達也への逆恨みであり、その逆恨みは姉の不登校によるもので、不登校になったのはミラージュバットでの小早川先輩の墜落が関係している。

ミラージュバットでの小早川先輩の墜落が無いので現状病院襲撃が行われる公算は低い。
注意すべきは平河千春の精神状態と千秋の姉妹関係の親密度である。
そこが問題ないなら周公瑾は「逆恨み」を利用した洗脳をし、学校内への混乱を起こせない。

鑑別所襲撃も関本の奪還or殺害が目的である。それならば簡単だ。
関本を鑑別所ではなく、より高度な少年刑務所なり軍の施設なりに放り込めばいい。
関本の行動も洗脳なので、注意深く見ていればどうとでも対応できる。
大事なのはいつ周公瑾一派が関本に接触するかどうかである。

この横浜騒乱のスタートの合図は「密入国船を沈める」なのだ。
あれが発生すれば、それは大亜連合の面々が上陸したことになる。
その前後で関本、平河妹の動きを抑えればこっちも有利だし
俺の本業を使えばジロー・マーシャルの行動の全容もわかる。

つまり千葉の長男の出すスタート合図を見逃さないよう網を張っている状態だ。

先に周公瑾を暗殺する手もあるが、何をするにも人が足りない。ホント足りない。
俺、任務あるから成果を出さねばならぬ。十文字会頭の個人的な連絡先とか、弱味を本人から直接言われれば楽なのに。
「本当は39歳で2児の父だ」とか言われれば助かる。納得する(いろんな意味で)

てな、話をカナデにすると意地悪そうに「ふーん」と興味ありそうな顔をしている。
夏休みも終わる直前に何度か会った。

彼女に会うと意地悪に「淫行未遂め」と言われるとこちらも立つ瀬がない。
先日の雪光からの電話の時に指遊びをしてしまったので、前科二犯だ。
「いつになったらできるのよ」
ごもっとも。指遊びを楽しんだこともあり、言葉は厳しいがその時を楽しみしているニュアンスだった。
俺もしたい。

任務とは関係の薄い相手との接触なので、正直任務を外される可能性もある。
そうカナデに言うと俺の手を握って来やがった。可愛い。

結局会うたびに、彼女の話を聞き、俺が話をし、夜通しおしゃべりといった感じだ。
キスに興味津々なのも可愛い。さすが41年間の彼氏なし。大人だけど初心い。可愛い。

遥か昔の俺に
「お前、いろいろあって、15歳のスゲー可愛いスタイル抜群の美少女と二人っきりで会うたびにキスされまくる中年になるからな。ボディタッチしても怒らないし、向こうの方が積極的にボディタッチしてくるし、その子は精神は大人で、すっごい仕草色っぽいけど15歳な。ベタ惚れやで」
と言って信じてくれるだろうか。いや信じないな。絶対信じない。2,000円賭けてもいい。信じるなら、欲しいプラモ5万円分買ってやってもいいくらいだ。

「ねえ、始まる前に光夜と雪光に話した方がいいんじゃない?」
人がいない放課後のcafeテラスとはいえ、指を絡めながら言うの止めません。おじさんドキドキしちゃう。夕日を浴びるカナデは綺麗やら色っぽいやらで困る。
真面目な話、不審船と警察の件が起きた瞬間のスタートに合わせて彼らと意見をすり合わさねば。
ここに来て正念場が近くなってきた。



「アラタ!お前、藤林さんと付き合ってるのか!」
デカいを声を張り上げて教室入ってきたのはモーリーだった。
昨日やっと登校出来たと思ったら、これだ。

今、一年生の間では光夜の生徒会選挙出馬の話と
俺がカナデと付き合い始めた件で持ち切りだ。

美少女の定義は多々あれど、1年生でのトップは司波深雪。2位と目されるのが藤林奏だ。
他にも美少女は多いので確実に単独2位とは断言しないが、明るく活発で冗談をいい、どこか大人っぽい。
人気者であることは確かだ。

「まあ、そうだな」
「お前!お前・・・脅迫でもしたのか?!」
軽くいなすつもりで返事したがモーリーは思いのほか厳しい表情で追及してくる。
俺、お前が思ってるよりモテるからな。

周りも興味津々のご様子。今、風紀委員の仕事で教室にはカナデがいない。
「モーリー、カナデのこと好きなの?」
「そうじゃない!不思議すぎるだろう!なにかあったに違いない!」唾を飛ばすな。
「羨ましいんだろ。看護師さんにモテてた奴に言われたくないがね」
潮目が変わった。
「お前、女性の看護師さん何人かとメール交換したって言ったじゃないか。え、合コンか?高校生が、社会人のおねえさんと合コンするのか?」
「ぐぬぬぬ」
モーリーが返す言葉を失った。初めて「ぐぬぬぬ」を言う奴見たぞ。

「アラタ!藤林さんとお付き合いしてるってホント!」
次が来た、健全な男子高校生がもう一人。何嬉しそうな顔しているの?!
「モーリーも聞きに来たの?どうなのアラタ?!」
須田ちゃん顔近い。マジ近い。何で鼻息が荒い!
「須田、こいつ誤魔化そうとしてるぞ!」
味方が来て息を吹き返しやがったな。唾を飛ばすな。
「え、部活の先輩が昨日二人っきりでカフェテラスに行くの見たんだよ!どうなの?どうなの?」
止めろ!周りに人が集まってきた。みんなニヤニヤするな!この二人を止めろ!
「僕も気になるな~。ねぇキスしたの?キス?」雪光もはやし立てるな!
女子が「え、キスって」「ちょっと、ふふふ」とか興味津々というレベルじゃないぞ。

おい、光夜、お前も後ろの方で腕組んで見てんじゃねぇ。童貞男子どもが!悔しいのか!童貞男子ども!
教室の扉が開きカナデが戻ってきた。
「どうしたの?なに?」
この囲みが自分たちのの事と知らず、面白いことが進行していると思い好奇の表情をしている。
クラス内の全員がカナデを見る。
「カナデ、相馬君と付き合ってるの?」
クラスの女子がストレートに聞いた。みんながカナデの返事を待っている。
「うん、まあそうね」
ケロっと答える。この問答はこれで終わりではなかった。
「カナデは、キスは、そのしたの?」
光井ほのか~!なぜ、おまえがいる!そして、なぜ聞く!
どうやら隣りのクラスに騒ぎが伝播したのか、チラホラA組の面々もいる。
おい、扉のあたりに深雪もおるぞ。

カナデは状況を察したようで、俺に意地悪な笑顔を向けた。
「思ったより上手よ。そいつ」
クラス全員が黙り一斉に俺の方を向く。
なんだ、雪光、その顔は!ポカーンとするんじゃない!
頷くな、光夜!なに、納得してんだ!
光井さん、顔真っ赤ですよ。君、司波達也を追っかけていなさいな。
深雪さん、深雪さん、君もなにもじもじしてるの?兄と自分に置き換えてるんだな!お前の脳内はそんなんばっかだ!

こんなアホらしい一日もありかと、俺はあきらめた。

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七草先輩とキスできないのよ



昨日は散々だったが、一転今日は緊張している。
そう緊張している。諜報員というより転生者としての正念場だ。

人のいない喫茶室。話の内容を理解できる奴はいないので、別に人がいなければどこでもよかった。

「悪いな」
「いや、達也同席で無くてもいいのか」
光夜を連れて、先に来ていたカナデ、雪光のいる席に座る。
俺は光夜と向かい合い、隣にはカナデ、光夜の隣には雪光。
四葉の二人と、その他の二人。別に対決構図のつもりはない。

光夜と俺が注文したコーヒーが来てから話を始めた。
コーヒーが来るまで昨日のことで雪光にまた茶化されたが。


手元にコーヒーが来ると俺はさらりと言った。
「二人とも、『佐島勤』と『魔法科高校の劣等生』は知っているな」
これは諜報戦ではない。直球だ。カナデは俺の横で穏やかに紅茶を飲む。

雪光は驚きの表情で固まっている。まるで次の俺の言葉で動く彫像のようだ。
一方、光夜は忙しい。俺を見て、カナデを見て、俺を見て、またカナデを見る。
「俺の言った意味理解したか?」
腰が抜けたように雪光が姿勢を崩し、椅子から落ちそうになる。
「・・・・・・・うん」まだ、驚きが抜けていない。反応が鈍い。
光夜も天井を見上げている。
「今まで俺たちを騙していたのか?」
「それを踏まえて説明したい」
光夜の声は冷静だが、天井を見ている姿は混乱を押しとどめようとしている様にも見れる。

俺は一口コーヒーを飲み
「仕事とこのことは関係ない。仕事で一校に来た時にお前たちの存在には驚かされた。お前らがいるとは思わなかったからだ」
天井を見飽きた光夜が視線を戻しコーヒーをすする。
「説明が難しいな。仕事をしながら、皆に接触するうちに思ったわけだ。横浜は止めたいと」
そう言って横目でカナデを見た。
動揺している様子はない。しれっと紅茶を楽しんでいる。
「どう思ったのか聞きたい」
椅子からずり落ちるのを直し、雪光が疑念の声を出す。その声音は詰問の声音だ。

「最初は物語に引っ張られた。ブランシュの件がそうだ。達也や深雪、そしてお前らに関わらずに自分の仕事をしようとした。立場がバレるとうるさくなるし、俺が何を知っているかバレるのもトラブルになる。そう判断した。九校戦も仕事を優先したが黒城兵介の登場で混乱した。物語の異分子と思って情報を集めていた。物語が崩れる。物語が崩れると知識が役に立たなくなる」
一度コーヒーを飲み息をつく。
雪光は疑惑のまなざしを向け、光夜は眉をひそめている。
「その時だ、物語に固執しかける自分がいたよ。でもこの世界は物語の世界じゃない。魔法があって、戦争があって、魔法科高校があるだけの世界。そういう世界だ」
二人の視線は変わらない。
「その時、達也と深雪の話を守ることより、横浜の件をどうにかしようと思った。俺は確かにあの二人の未来の物語を知っている。ただそれだけだ。俺は人を守る立場にあるし、その意思がある」
カナデの右手が俺の左手をテーブルの下で握ってくる。少し震えている。彼女もこの会話の行く末が怖いのだ。破談になるのか、漠然と不安なのだ。
「お前たちの4人の目的は知っている未来知識を利用して、より良い未来の構築だ。だろ?」
光夜が頷く。
雪光は驚きもせず更なる疑念の眼をしている。自分たちの思案が読まれていて警戒しているのだ。
「ただ、今のままだと横浜での犠牲がデカい。その犠牲を減らすなり、回避するなりしたいと思っている」
「でもそれだと原作ブレイクになる!」
雪光は声を荒げた。焦っている。
自分たちの優位性がなくなるからか、それとも俺が物語の破壊者だからか。
「承知している。お前たちの目論見を潰しかねないのも承知している。だから話し合いの席を作った」
「なぜ横浜を止める?それが原作への影響をどの程度考えている?」
「人を守るのは俺の仕事さ。単純に人死にを減らしたい。死ぬのは無辜の人だ。影響についてはわからん。俺は横浜より先はさほど知らない。wikiで少し見た程度だ」
光夜と視線が絡む。何を考えているか読めない。だが、それほど俺は心配はしていない。
こいつはいい奴だし。雪光もいい奴だ。
「未来を大幅に変えるのは、困るだろ」
「困る」効率重視か。
「場合によっては排除するだろう?」
「場合によっては」光夜の瞳には冷静さ。
「する」雪光の瞳は意思。
「それだと俺も困る」
肩もすくめず、まっすぐに光夜を見る。

「ではどうしろと」
「論文コンペまでに解決したい。仲間と作戦がいる」
同じ目的を共有してくれる仲間が必要だ。
「我々の利益は?」
光夜と雪光としては横浜騒乱が起きても、知っている未来より軽微な被害ならいいのだ。
桐原先輩や五十里先輩に負傷させず、達也に再成を使わせない。
いや、被害を減らす努力はするだろう。ただ横浜騒乱が起きることが前提かも知れない。
それを覆すのだ。利益を求めるのは当然だ。
「ババアとの喧嘩の際の手助け。ただし、俺個人だが」
「でも、正体隠したのは二度目だよ。どう信頼すればいいの」
一番の難問だ。軍人としての正体を隠し、そして間を置かずに転生者としての告白だ。
雪光の言うことももっともだ。
「同意だな。本音が見えん。お前を信頼しても?何か意図があるのか?」
光夜の瞳に少し感情の色が出たような気がする。心配か?それとも疑念か?
俺は、光夜と共有している感情をぶつけた。
「モーリーの二の舞は避けたい。偶然の介在する余地もなく事件を収束させたい」
「それが本音か」
「ああ、正真正銘の本音だ」
光夜は横のカナデを見た。
「確かか」
「あたしは信じる」
カナデの手が強く握る。
光夜は俺をじっと見る。こいつこう見るとやっぱり美形だ。彼女出来そうにないけど。
「今、失礼なこと考えなかったか?」
「いや、まったく」
お互い微笑む。
「即答は出来ない」
「時間がないから2日ほどで返答してくれ。不審船のニュースがスタートの合図だ」
光夜と俺はほぼ同時にコーヒーを飲んだ。

「カナデはどうするのさ」
不機嫌な、警戒する声で、雪光はカナデに聞いた。
「手伝うつもりだけど」
「なんで」
雪光の声はぶっきら棒だ。
「ダンスのお礼」
「何それ」
雪光は理解できない。そりゃそうだ。彼女の協力する理由は今初めて聞いた。
俺好みの答えだ。
「冗談よ。あたしもちょっと物語を蹴っ飛ばそうと思って」
「もっと何それ」
仲間外れにされたと思ったのか雪光が少しむくれる。ショタっぽいな、おい。
「そこで上手い返しが出来ないから七草先輩とキスできないのよ」
「そ、それと、こ、これとは・・・」
突然の名前に雪光の腰が浮く。ほほ~お前、そうか。おねえさん系か。ほほ~。
「色男としてはどう思う」
「ノーコメント」
カナデのパスは強烈だが、俺はさっとスルー。
逆に声を出したのは光夜だった。
「雪光、七草嬢のことが」
「ノーコメント!」
雪光はそれだけ言って黙った。恋せよ、少年。おねショタだ。

緊張感のある穏やかな会見だった。
そして翌日には申し入れがあった。
「全面的に協力する」と。



雪光は笑って言ってくれた。
「一晩、ずっと光夜兄さんと話した。隠したのはモヤモヤしたけど、アラタの立場になったら僕もそうする。達也兄さん怒らすと怖いから」
そしてこうも言った。
「今度、諜報員のノウハウ教えてよ」
女性を口説くセリフも教えてやるよ。

カナデは一言「よかった」とキスと一緒に言ってくれた。
一番素っ気ないのは光夜だ。
「どうする」
「時系列の確認だ」
まず三人に提案したのはこれだ。
俺のあやふやな知識を修正し、細部を詰め、楔を打つ瞬間を見極める。

四人が集まったのはあのレストランだ。
各自紙とペンを持ち、知っていること。重要人物。
そういったことを書き出し、時系列順に並べていく。

共通しているのは「不審船の事件」の具体的な日時がわからないこと。
そこでの介入は無くなった。中華街近くの湾岸を24時間監視はあまり現実的ではない。
介入するとしたら大亜の奴らが上陸してからと、見解はまとまった。

次に「司波達也と聖遺物」「司波小百合襲撃」が「ジロー・マーシャル接触及び殺害」より前ということが確認された。

「聖遺物がうちに来るのを知るのはなんでだっけ?」
「たしか軍よ。軍からFLTへの依頼がバレて司波小百合がマークされる。その流れで司波家に監視がつく」
「う~ん、耳が痛い」
「達也兄さんと僕がいれば聖遺物に関して問題無いけど、小百合さんの襲撃に関して少々難易度があるね。偶発戦闘だから原作通りに行くかどうか」
「ジロー・マーシャルは?」
「俺のところに情報が入れば入国後の足跡はわかる。8時間に一度、入国エージェントの情報ログを確認している」
「介入は可能か?」
「可能だが、ジローマーシャルの行動は二科生グループに察知されるから、そこのグループに入れば接触は可能だ」
「なら誰かが達也を尾行して、ジローとエリカ、レオとの接触に介入する?」
「いや、それだとジローマーシャルを尾行している呂剛虎とバッティングするな。狙うはジロー・マーシャルに呂剛虎が接触した時だ。その時は装備も貧弱。地の利はこちらにあるからな」
「でも確実にするなら鑑別所襲撃のほうが良くない?」
「それも考えたが、う~ん、誰が対応する?」
「あたしはパス。戦闘はそっち三人で」
「雪光、七草嬢がいるぞ?」
「茶化すの禁止!」
「止めとけ、止めとけ、渡辺さんにいいとこ取られるだけだ。司波達也無双になるかもしれん」
「でも、すぐに身柄が奪還されるから、それよりも早い段階で確保して、もっと厳重な施設に入れといた方が得策じゃない?」
「病院襲撃時点では難しい。平河妹の暴走は不確定だ」
「関本さんから中華街に介入できないかな?」
「確証がないと、うちの組織は難しいぞ」
「じゃあ僕のところ使う?」
「ん?私設部隊があるのか?」
「多少は」
「四葉が対立構造に入る。周公瑾の背景を考えると全面戦争だ」
「じゃあ、どこまでOKなの?」
「軍なり警察なりに呂剛虎の身柄を渡すまでの間だ」
「ルートとしては関本さんからさかのぼる、平河妹からさかのぼる、他は?」
「司波小百合襲撃犯からさかのぼるのは?可能なの?」
「達也兄さんが全員分解するから難しい。でも小百合さん襲撃事件への介入する?」
「偶発戦闘だ。介入して不確定要素を増やす必要もあるまい。介入してもせん滅だ」
「あと九重八雲と達也、深雪の接触は?たしか会うのよね?」
「一度会ってみたいな、九重八雲、俺より胡散臭そう」
「うん、馬が合いそうだよね」
「そうだな」
「たしか方位に対してアドバイスを達也と深雪にするよね」

「「する」」

「そうなの?」
「一度会ってみろ」
「あれ?カナデ、達也兄さんは君付けじゃなかったけ?」
「気持ち的には年下よ。もう面倒だわ」
「そりゃよんじゅ」
「黙って」
「はい・・・」
「先に周公瑾に仕掛けるのはどうなの?暗殺とかじゃなくても、経済的にちょっかい出すとか」
「お勧めしない。あいつの網の広さがわからんし、未来知識外になるから実行するにしても準備期間が欲しい」
「やっぱり、早い段階で原作知識使って敵の戦力削るのがベストになるのかな?」
「ベターだ」
「そうね、他の不安要素は?」
「やっぱり平河妹かな~。僕的には」
「関本の対応は」
「あたしがCADにGPS追跡仕掛けたから、行動は追える」
「もしかして俺のCADにも入ってる?」
「うん。入れた」
「追跡用の返そうか?」
「そうね、お守り代わりに欲しい」
「ストーカー女だったとは」
「失礼ね。見守ってるのよ」
「惚気るな」

「「はーい」」

「で、問題の平河妹には誰か付くんだ?」

「「雪光」」

「僕?」
「どっちかというと、姉妹両方とも接触しろよ」
「なんで、カナデ九校戦で仲良かったじゃん、姉の方と」
「そうは言っても雪光、王子様だから。平河先輩も少し気にしてたのよ」
「雪光だ」
「ちょっと!光夜兄さん!」
「新旧生徒会に直接的な被害は無い。コンペ当日までは不介入だ」
「司波達也と七草のお嬢さんが、個室に入っていちゃつかなかったけか?」
「資料室で達也が「据え膳食わぬは申し訳ない」みたいなこと言うだけよ」
「あいつが?」
「確認次第、深雪には報告する予定だよ」
「雪光」
「ほら、兄弟で一人の女性を取り合うのもロマンなんだろ」
「ん~」
「怒るな」
「ねえ、あたしには据え膳云々は言わないの」
「摘んだ花には水をやっているが。足りない?」
「惚気るな」

「「はーい」」

「聖遺物奪還失敗からの目標変更はいつなんだ?」
「僕の記憶だと、司波小百合襲撃失敗後だったと思う」
「でもどうなの?一度路上襲撃で作戦目標変えるのって?現役としてコメントは」
「既定路線として横浜騒乱のシナリオがあったんだろ」
「奴らの意思決定には介入できん」
「でもさ、呂剛虎倒されるなり捕まって、奪還不可となると偽装揚陸船による襲撃も延期されるかな」
「俺が指揮官なら中止するね」
「中止させるための我々だ」
「呂剛虎がいなくなり、横浜事変に突入しても七草、渡辺、レオ、エリカがフリーの戦力として動くしゲリラ狩りの陣容も厚くなるでしょ」
「そうだけどさ~、中止させるためには?」
「陳祥山の逮捕か殺害が有力だな。現地指揮官との連携が取れないなら中止する可能性は高くなる」
「陳祥山は逮捕だ」
「なにか理由があるのか?」
「先の方でな」

「達也の動きは?市原先輩の手伝いになるの?」
「司波達也の論文コンペ参加理由ってなんだ?俺、覚えてない」
「平河姉の代打だ」
「でも、平河姉が不登校で無くなれば達也兄さんも呼ばれない」
「達也もフリーだ」
「でもな、このメンバーには入れづらいな」
「アカシックレコード見てないもんね、達也兄さんは」
「アカシックレコード?お前らそれで押し通したの?」
「成功した」
「うわ~、よく信じたわね。肉親じゃなきゃ縁切ってるわ、あたし」
「カナデの方はどうなんだよ。上手く説明したの」
「九島の爺様よ。言うだけ利用されるから、利発な子で通してる」
「賢い。これは婿入りだね。十師族入りだ」
「俺、長男なんだけど。嫁入りじゃだめ?」
「兄弟いるんでしょ?」
「いる」
「決まりね」
「のろけ」

「「はーい」」


「関本と周との接触があれば、即日関本確保でいいな」
「問題ないだろ」
「周公瑾側は連絡が取れなくなることを不審に思わないかな?」
「不審には思うが、対応できないだろう。家に言って関本君いませんか~、というわけにもいくまい」
「そうね、捨て駒だから最優先では調査はしないと思うけど」
「関本さん不憫だね」
「そう思うなら、四葉で援助してやればいいだろ。基礎研究だから寝かせれば役に立つぞ」
「軍ではどうだ」
「速攻、軍事転用可能な技術開発に切り替えさせられるだけです~」
「うわ、軍、物騒」
「現状は平河姉妹は雪光。ジロー・マーシャルはアラタ。関本はカナデでいいな」
「その分担でいいだろう」
「光夜兄さんは?」
「達也と協議だ」
「フリーで遊撃できる余力は必要だしな」
「再度の状況確認と会合は?」
「不審船事件発生後」
「不審船時点の各担当の状況と、ジロー・マーシャル殺害事件への介入作戦の立案だ」


「「「異議なし」」」


9月も下旬に突入する。


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自分の決定を否する者を処断する目

三人称視点です


生徒会選挙当日 学園内講堂

約600人が見守る壇上に光夜が登壇していた。
別段上がりたくて上がったわけではない。
中条あずさの演説は反応が良くなかった。多数のヤジが飛ぶ。
司波達也はヤジに怒る妹を全力で止める。

壇上では達也や深雪に説得されて、会長選に出馬した中条あずさが声を震わせ話している。
「四葉の方が会長に向いてると思いまーす」「中条さんだと心配!」
心無いヤジが飛んだ。

それを聞いた光夜は選挙管理委員の静止を無視し壇上に登った。
目の前を二人ほど遮ったが、睨むとすぐ道を開けた。

あずさはいきなりの闖入者に驚き身がすくむ。
壇の中央まで進むと光夜は低く優しくささやく「中条先輩少しお借りします」
あずさの隣に立ち、光夜はマイクを調整し、自分の声が入るようにする。

「俺は中条あずさ先輩の生徒会会長就任を全力で支持する」
生徒全員が黙る。深雪の魔法の暴走も止まる。講堂内でしゃべるものはいなくなる。
壇上の光夜には、生徒たちの中に雪光と、アラタと、モーリーと須田の姿が目に入る。
全員頭を抱えているように映った。

月夜に照らされた湖のごとく清らかな声、と深雪は光夜の声を評している。
だが聞き慣れぬものには、絶対に抗えぬ上位者の声である。
これは宣言ではなく命令だ。
「私は支持する。諸君も支持せよ」

「四葉が会長じゃだめなのか」
どこかで誰かが言った。静寂の講堂ではその呟きも響く。
光夜は声の方を一瞥する。一科の上級生だった。

「構わんのか」
その光夜の言葉は同意を求めるものでは無かった。
壇上から生徒たちを睥睨する目は、自分の決定を否する者を処断する目だ。
講堂の全生徒はその一言を誰一人間違えることなく理解した。

「生徒会長になれば支配だ。自治は無しだ。君臨する俺と支配されるお前ら。いいのか」

誰かが冗談でつけた「絶対支配者」は嘘ではなかった。
「中条先輩、ご無礼をお許しください」
光夜は片膝を突き、背を低くし、傍らにいるあずさに許しを請うた。
「あの、ちゃんと、規則は守ってくださいね」
怯えながらもあずさが叱る。
「はい。かしこまりました。Your Majesty the Queen(女王陛下)」
憧れの人を見る瞳に、尊敬を込めた声。
ちょっとした冗談のつもりだった。敬称を使った冗談。
マイクの収音範囲は広がっていた。

生徒会役員選挙は粛々と進んだ。
中条あずさが生徒会長となった。

翌日から卒業するまで中条あずさは一部で「女王陛下」のあだ名がついた。
光夜は「支配者」のあだ名が無くなり「女王陛下の『完璧』」と一部女子の間でキャーキャー言われた。

そして誰も知らないが、中条あずさはあの壇上で四葉光夜のことを好きになったのだ。

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「魔法使用の制限下では戦うな、と」


生徒会選挙翌々日。早朝の九重寺。前日に「九重八雲に会わせる」という光夜の連絡を受け
俺は朝も早くから九重寺に来た。境内では司波兄妹弟と光夜がいた。

「この寺の住職、九重八雲だ」と手を出されたので握手。
グルんと回された。受け身を取って立ち上がる。
作務衣の細身の坊主に投げられた。綺麗な合気の投げだ。
体重移動を隠し、上下の動きも最小限に相手をその場で投げる。
ここまで動作を消して行えるのは流石、九重八雲。

「無理をしなくていいよ。ここでは実力を隠す必要はない」
その細い目で余裕の表情を作り言ってくる。そりゃね、実力隠すのは仕事ですから。
俺は服についた土を落としながら改めて握手を求め右手を出す。
「改めまして、関重蔵です。情報部の零細部署に所属していますが、今は彼らの同級生の相馬新です」
四人を視線で指し、自分の所属を紹介する。さあ握るか?坊さん。
「もし、さっきのが擬態なら流石だね」
坊さんが褒めつつ俺の手を握る。改めての自己紹介だ。
次の瞬間、九重八雲が片膝を着く。
突然の状況に理解できないのか雪光と深雪が目をぱちくりしている(表現古いか?)
膝を着く九重八雲の姿に驚き、声が出ないのは司波達也と光夜。どうやらこの二人は何が起こったか理解しているようだ。

坊さんの額に一筋の汗を確認して手を離した。
「いやいや参ったね。ここまでとは」
手首をさすりながら立ち上がる九重八雲。
額の汗は痛みではなく、驚きなんだろうな。
「魔法の方は普通ですが、この手の技は人に自慢できる程度には」
謙遜してみた。

「隠者を気取ったら「野の達人を知らず」とは情けないね」
「こっちも有名人にならぬよう気を使ってましたから」
お互い笑い合う。向こうも本気ではないし、俺も本気ではない。
ちょっとした確認だ。
「あの、先生。何が起きたのかわからなかったのですが」
深雪がおずおずと質問する。
「お茶しながら話そうか」
九重和尚はお堂内に案内しお茶を出し説明をする。
お茶が出るまで、司波達也に「俺の素性を九重八雲に確認したのか?」と聞くと「15,6歳で合気の達人には心当たりがない、と言われたよ」だって。
名前を隠すのに成功!
お堂の中で全員車座で座りお茶をいただく。手品のタネを言うのはお任せしますよ。九重先生。

「彼は合気の技法で、僕の足腰の関節から力を抜き、上から体重をかけたんだ」
あ、お前らあんまり理解してないだろ。
と言っても合気の理合は説明し辛い。気とか呼吸力、重心、タイミング等々説明する概念や要素が多い。
「それは魔法とは違うんですか」
深雪のさらなる質問に、横で頷く雪光。
深雪くん、俺今いるメンバーで一番魔法下手なんですが。魔法使ったら君ら驚かないでしょ。

「純然たる技術だよ。深雪くん。それもこれほど滑らかに僕に掛けられる程の使い手は、ん~」
俺はどの程度の使い手か?俺の技に触れて生きている人間は少ないし、本人の目の前で評価してくれる人間はいない。
少しくらいは褒められたい!
「彼だけだろうね」
やったー!天下の忍術使いに褒められた!
「僕が見るに、出来ることはこれだけではない。そうだろ?」
更なるネタバラしを求めますか、九重八雲。喰えないおっさんだ。確かに気が合いそうだ。
「もう一度広いところへ行きましょうか」
俺は腰を上げ、庭に向かった。
この四人の実力を九校戦で見れたんだ。多少手の内をは見せないと戦力計算ができないだろう。
サービスですわよ。

「うわー自信がない(棒)」
組み手の相手は九重寺の弟子二人だった。
一人は、杖まで持ち出し本気のようだ。
「ちょっと、やりすぎではございませんかね。先生さん」
「魔法無しなら、そのくらいじゃないと、手の内は見せてくれないだろ」
ウインクしてくるな坊さん!
「二人とも。彼を殺すつもりでやりなさい。そうでもしないと遊ばれるだけになるよ」
あ、帰りたい。
「それはちょっとひど」
俺は九重八雲の方を見ながら抗議の声を上げつつ、左にステップ。
「いん」
更にかがむ。態勢を戻し、素早く一方踏み込む。
「じゃない」
右前方へ肩から踏み込む。肩の発剄。
「です」
身体を少しひねる。もう一度ひねる。踏み込む。
「かね」
杖を引くタイミングも与えず、首を正面から触る。

「こちらに顔向けて、その動き。まだ相手の数が足りないかな」
九重和尚が余裕綽々な物言いをするが、額には何粒かの汗がついている。

一人が正面から近づき、顔面を突いてくるのを左ステップで躱す。
そのまま杖を横に薙ぐのでしゃがみ、間合いを詰めるため一歩踏み込む。
最初の一人の陰から姿を現した二人目の突きをくぐり抜け、肩から当たり発剄で後退させ
横から杖で二回突かれたので二回目のタイミングで踏み込み間合いを潰して、態勢が整う前にお弟子さんの首にタッチ。

俺は首から手を放す。両手を挙げて勝利宣言。
「うーい、俺の勝ち!光夜、学食おごれよ!」
一つ高いお堂の入り口から見ていた面々は俺の動きを理解しただろうか。
「そんな賭けはしていない」
そう言いながらも、光夜の表情は硬い。
「想像以上だ」
そう言った司波達也も口が重い。
「風間さんから俺について何か言われたか?」
あいつが話しやすいようあっけらかんと言ってみた。
「魔法使用の制限下では戦うな、と」
端的だが正しい教えだ。これは俺の攻略法でもある。
「魔法が使えれば勝てるかい?」
「距離を取れば」
今まで一番真剣な司波達也の声だ。
そういうこと。

千葉の次男坊は「3m内なら世界十指に入る」らしいが「魔法なしで3m内なら世界一」は俺だろう。
使える技は山のようにある。
無拍子、縮地に始まり、先読み、聴剄、暗剄、寸剄なんてお手の物。
鎧通しや、殺気を飛ばして圧するのもできる。 
相手の気配を感じたり、一寸の見切り、脱力からの最速のパンチ、合気で人を投げ飛ばすなんて簡単だ。
寝技、組技でも負けたことはない。
武に関してできない技は無い。二指真空把は出来る。一度戦場でやったことがある。二度はごめんだが。

変わったところでは、軽功なんてのもできるし、水の上だって数メートル走れる。
武器だってなんでもござれ。刀、槍、銃剣、ナイフ、弓矢、弩・・・指弾の技もだ。
文字通り俺は「武神」なのだ。

だが、それは3m内の話であって。やっぱり魔法は怖い。
100m離れたところから範囲魔法を使われたら勝てないだろうし
魔法師の戦闘距離は3m以下になることはほとんどない。十三束くらいか。いやレオンハルトもだ。結構あるな。
障壁なんて張られたら、俺の格闘技の技では厳しい。
勿論、魔法師と相対した時の切り札はいくつかある。

この武神としての力を容易に超えていくのが魔法なのだ。
ミサイル並の破壊を個人の意思で行えるのだ。おっそろしい。
まあ、俺を形作る要素はまだあるけどね。

「九重先生、こんなもんでどうでしょうか」
「いや十分。今度うちの門下生に稽古をつけてくれないかな」
あ、茶化してない。本気で稽古つけてもらいたいのか。
「僕も、僕も稽古つけて!」
おう、雪光が俺を見る目が最高に尊敬の眼差しだ。

この日の晩に、不審船を見つけた千葉警部が愚痴を言いながら出動した。
さて本番だ。

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ダメ!ダメったら!ダメ!

三人称視点です



「なんで五十里がいるんだ」
服部刑部はそう言って、五十里啓に視線を向ける。
生徒会室では以下のメンバーがテーブルを囲んでいた。

生徒会長 中条あずさ
部活連会頭 服部刑部少丞範蔵
風紀委員長 千代田花音
生徒会会計 五十里啓

「啓には私がお願いしたの。この手の話には立ち合いが必要でしょ」
(立ち合いって、試合じゃないんだから)
自信満々に答える千代田花音に頭を抱える服部だった。
(風紀委員長をなぜ千代田にしたんですか渡辺さん。沢木を指名してくださいよ)
「えー、では生徒会役員、部活連執行部、風紀委員会の人事相談会を行いたいと思います」
頭を抱える服部を無視して中条あずさが会議開始を宣言する。
学生自治を司る主要組織での人事で問題が起きていた。

元絶対支配者、元魔王、「女王陛下の『完璧』」こと四葉光夜だ。

あの選挙戦の日、壇上での「構わんのか」発言以降、四葉の「部活連執行部退任」を求める話が数件出ている。
本人は素知らぬ顔、というか服部が本人に「お前はどう思う」と直球をぶつけるも「ご随意に」と返ってきた。
強者としての恐ろしさを披露したためか、光夜に対して腰の引ける者が続出中だ。

光夜の学内での孤立を防ぐため、服部は風紀委員会と生徒会に「身柄引き受け」を打診した。
そこでこの相談会である。小さい問題もまとめて解決するためである。
「まず、大物から行きたいと思う。中条、四葉を引き受けてくれ」
「さんせー」
「ちょっと二人、ストレートすぎるよ」
この二日間の苦労で目の下の隈が深くなった服部刑部と、ノー天気に賛成する千代田花音。
その二人の発言を大慌てで止める五十里啓。
「でも、生徒会としては人事はある程度固まっていて」
「司波雪光のように、補佐役として迎えればいいじゃないか」
半分懇願のように発言する服部。流石に部活連の今後の士気を考えれば、新会頭としては早めにどうにかしたい。
「あれは女生徒からの執拗な追跡から逃げる意味があったので、特例というか、避難というか」
「わかる!わかるが中条、これは部活連執行部の危機なんだ」
桐原から「あれが会頭になったら九校戦で全勝すると思うが、狂信者の集団になるだろうな」と言われて服部は慄然とした。
服部の脳内には光夜が「進め」と言うと進み、「勝て」と言うと勝ち、「使い物にならんな」と言われて右往左往する部活連の将来がイメージされた。
(だめだ!部活連は学生自治の要、九校戦での優勝を個人のカリスマによって統率されるなんて!それは自治ではない!支配だ!)
そんなことをこの二日、悩みに悩んだ。

「それなら風紀委員でも、四葉の名前は強いですから~」
中条あずさは水を千代田花音に向ける。
「うちはパス。恐れられる以上に、委員会内でも他のメンバーが怖がって仕事になんない。やっぱり中条さんが身柄取った方がいいわよ。女王陛下なんだから」
「そんな、あわわ」
あの日の壇上での光夜の微笑みを思い出し、慌てる中条あずさをよそに千代田花音は話を進める。
「それよりも、司波達也欲しいってあげられないわよ。風紀の主力なんだから」
「えっと、生徒会としては一科生、二科生の融和の象徴と言いますか、事務処理や九校戦のスタッフとしての動きと言いますか」
「あれでしょ、優秀だからくれ!って言うことでしょ」
「ちょっと花音、そんな直接的に言っちゃだめだよ」
中条あずさのオブラートに包んだ言い方を一刀両断する千代田花音。五十里啓の困りものである。
「いっそ、司波達也を生徒会で、空いたところに四葉を!」
「だから!いらない!」
まるで、一大発見のように声をあげる服部を、バッサリと切る千代田。
「いや、生徒会としてはの布陣は一科、二科のうち実力主義でいこうと思っているんだよ。特に副会長には一科からは司波深雪さん、二科からは司波達也さんを検討している」
「司波深雪の副会長就任は理解するが、優秀さで言ったら四葉を入れるべきだろう!」
服部の強い願望は次の一言で切られる。
「コミニュケーション面で」
中条あずさの申し訳ない顔が全てを物語っている。

ノックの音がする。
「どうぞ」
中条あずさが入室を認めると、森崎駿がいた。
「服部会頭こちらに・・・」
「ああ、ここにいるがどうした?」
「すいません!会議中でしたか?!」
服部に用があった森崎駿だ。
服部は手で「少し待ってくれ」とジェスチャーし、森崎に近づく。
要件は新年度に向けての予算申請についての手続きの質問だった。
2,3分ほど服部がレクチャーすると解決したのか退出しようとする。
「森崎、四葉を生徒会への移籍話が出ているがどう思う?」
(すまん!中条!俺の胃がダメになると部活連が空中分解してしまう!四葉と添い遂げてくれ!)
服部は心の中で中条あずさに土下座しつつ、森崎の口から既成事実を引き出そうと考えた。
「はあ、いいんじゃないでしょうか。あれ以来、部活でも俺以外と話している姿見かけませんから」
森崎の何気ない発言に即座に生徒会長と風紀委員長が反応する。
「でも、それだと生徒会内でのコミニュケーションが取れなくなって困るんです!」
「うちもダメよ!ダメ!ダメったら!ダメ!」
その二人のリアクションで森崎は気付いてしまった。
(これ、俺の発言で決まるのか?!)
「え、え、あれですよ、光夜とコミニュケーション取れる奴を一緒にすればいいんですよ!俺、部活で一緒なので他の奴がいいですよ!」
それだけ言うと森崎は脱兎のごとく生徒会室から逃げ去った。

その後も喧々囂々だった。結局守衛が来るまで話した結果、生徒会、風紀委員、部活連では新人事の中に下記の役職と名前が増えた。


副会長       司波達也(風紀委員を兼任。生徒会執行部入りは年度を改めてから)
書記(副会長待遇) 四葉光夜
書記補佐      相馬新

風紀委員(増員)  司波雪光

部活連執行部新役員 森崎駿
同上        須田渉


「これだ!これが四葉シフト!」
服部は自分の悪魔的人事差配に酔った。

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すまん!俺は悪魔に魂を売った!

2095年10月30日までは長いです。


モーリーが「すまん!俺は悪魔に魂を売った!」といきなり謝ったかと思ったら走って逃げていった。
その理由は生徒会執行部役員の人事発表で納得した。
あいつ、俺を売った!

ただあいつも部活連執行部入りだ。それも須田ちゃんと一緒に。絶対、光夜対応窓口だな。
半面、この人事が発表されてから光夜の機嫌がいい。
「身動きが取れなくなる」と言ったが、いざ生徒会室に行くと
困った表情の中条会長を見て何秒か思案し「お受けいたします」と言いやがった。
何かあるのか?光夜よ。

正直、超優秀な深雪副会長がいるおかげで仕事は少ない。
トラブルや打合せもあるが、週に一件、二件程度でそれほど激務と言うわけではない。
生徒会への悪感情を持つ相手への交渉には中条パイセンと光夜のコンビを行かせると一発で解決する。
光夜が無言で睨む、相手怯む、中条パイセンがフォローする、相手は中条パイセンにすがる、解決。
完全なる優しい警官と怖い警官だ。

問題の横浜騒乱については状況が進んでいた。
まずジロー・マーシャルが入国した。不審船事件から二日後だ。
関本さんは学校、研究棟と予備校あたりを動くだけで、横浜方面にはいかない。
平河姉妹については平和だった。ただ平河姉が風邪で二日休み、当面の実験準備の手伝いで司波達也が市原先輩に指名された。
ちなみに平河姉とは雪光は仲良くなり、その関係で平河妹とも話す機会があったらしい。
雪光の考えているCADの調整を話題に近づいたらしい。いいぞ!ジゴロの才能がある

村井大佐は「もう少し仕事に役立つ位置になってくれ」と言ってた。
あと「少し部内の動きが慌ただしいから、当面は上層部つつくような行動はとれんぞ」
と念押しされた。

で、会合だ。

前回と同じレストラン。光夜、雪光、カナデとの情報共有をし作戦の立案だ。

「ジロー・マーシャルの潜伏先は?」
「内情働かせて洗っている。この後のことを考えると東京都内。八王子あたりじゃないか?横浜へのアクセスも楽だし」
光夜の質問に、想定されるジロー・マーシャルの宿泊先をあげる。
「内情を動かして大丈夫なの?」
「ああ、個人的に貸があるから回収できるうちに使わないとな」
瀬川に言って、2班ほどジロー・マーシャルの監視に使っている。
向こうもフリーのエージェントを徘徊させるより監視した方が安心なので渡りに船だ。
このあたりは心配している雪光のおかげでもある。

懸念の平河姉妹も問題なさそうなので、監視対象から外すことを提案。
怖かったのは「九校戦以前からの接触」だった。

今現在、平河妹には九校戦の逆恨みが無いので、平河姉妹が事件にかかわる可能性は低いがそれでも疑念はあった。

奴らが利用目的を持たずに接触しやすい生徒を、はるか以前から抽出していたら。
この奴らとは周公瑾だ。あの一派が、以前から接触していたのが平河姉妹で大亜連の作戦に有効と考え、今回利用された。
その可能性を懸念していた。
既知未来知識では九校戦から約2か月未満で洗脳し、行動方針を与え、装備を渡し、という工程を一気に行えたことになる。だが短期間での洗脳が難しいことを前提に考えれば「事前接触」の可能性は怖かった。

雪光が「平河妹」を気にしていたので、雪光に任せたが状況を見るに既知未来では周一派は相当な力技で洗脳なり誘導したのだろう。

そう思った瞬間、一つ思い当たった。既知未来知識に過信していたのは俺だ。

「なあ、なんで司波小百合襲撃には呂剛虎がいなかったんだ?」
一番詳しそうな雪光に聞いてみたが、思い当たらないのか首をかしげるだけだった。
「なんでだろう?単に作戦に対して能力が合ってないとか?」
「そうね、あたしも覚えていない」
「俺もだ」
全員の返答は、疑問を氷解させることはなかった。
いつか「あいつらの意思決定には介入できない」と光夜が言ったが、そうだ。
俺たちは陳祥山の思考は知らない。

「最初から聖遺物奪回はおまけで、メインが一校への揺さぶり及び論文コンペでの日本魔法協会関東支部襲撃だった場合は?」
「え、そうなの?」
「聖遺物奪還失敗して、一校と関東支部襲撃に切り替えたんじゃなかったっけ?」
カナデが驚く。雪光の記憶だと優先度が高いのが聖遺物奪還だ。
「どうもそこが引っかかる。横浜騒乱に大亜軍の投入決定とか一日、二日で決定できないだろう。少なくとも大佐とかの佐官レベルで意思を持っての国外侵攻なんて決めきれない」
「一理ある」
俺の考えに同意した光夜も考えを巡らすのか少し顎を引いて黙る。
「平河妹も、関本さんも『一校へのちょっかい』の後始末として呂剛虎が動いてる。聖遺物奪還が主目的なら司波家周辺やFLTへ、二の矢三の矢を出すだろ。というかこの作戦は呂剛虎みたいな人間戦車じゃなくて送り込むのは工作員だ。だろ」
「それも、そうね」
「でも、それが現在の状況になにか関係するの?」
カナデの納得に対して、雪光君!鋭い!

「関本路線や平河妹路線での一校攻略が難しく、かつ聖遺物は副目標で最優先ではない。ならどうする?」
「魔法師支部襲撃に全戦力突入?」
俺の問いに雪光の言うことも可能性としては高い。だが俺が思いついたのは
「魔法科高校襲撃だ」
光夜が代弁してくれた。
「へ、なんで?原作だと呂剛虎は普通に横浜にいたよ?」
「決して軽傷とは呼べない状態で、一校襲撃を断念し、戦力を分散せずに一箇所に投入したと見れば話は通じる、んだがな~」
腕を組んで考えてしまう。既知未来知識ではあの横浜騒乱にいた呂剛虎は、鑑別所における戦闘で重傷に近い攻撃を受けている。
そんな任務遂行に不確定要素のある人物に、重要な一校襲撃を任せられない。というのは俺の想像だ。陳の思考かどうかわからない。
「二か所襲撃作戦?」
カナデの表情には驚きと疑惑がある。
俺もこの発想には自分でも確証がもてない。
「正面から防衛して呂剛虎を一校警備が抑えられる?」
雪光の疑問にすぐカナデが返す。
「でも仮定の話でしょ?」
その通り、カナデ君。これは想像で仮定だ。
「仮定だ。仮定。だが、知っている通りに進まないこの状況だとそこまで有り得る」
「じゃあどうするの?やっぱり中華街に襲撃して先手をうつ?」
前回も話に出た中華街の周公瑾への先制を口にする雪光。
光夜は冷静に一言。
「一度各自の手札の確認だ」

改めて、話し合いの夜となった。
そして驚くべきことが翌日起きた。

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まじで!ガルパンの劇場版20回観たの?

「いや~ごめんね。本当はさ、ちゃっちゃと決められるんだけど、こっちの都合で担当が代わっちゃって」
「あれですよね、神様の手違いで死んじゃってチート貰って異世界行きですよね」
「もちろん、もちろん」
「あの神様はお名前なんて言うですか?」
「あ、興味ある?僕ちん、○○○!有名でしょ?ハンマーは今日持ってないけど」
「え、本当ですか!映画見ました!」
「あれはオーストラリア人だから、ちょっと微妙な気になるけど、まあ映画だから」

中略


「まじで!ガルパンの劇場版20回観たの?好きだね」
「でも○○○様が知波単推しとは」
「いや~、いいじゃん。突撃バカ。わかりやすくて」

中略

「え、中年が全盛期的なのがいいの?若い時大変だよ?」
「そうなんですよ。ほら単身赴任のサラリーマン忍者とか憧れません?」
「若い時どうする。結構厳しい人生になるけど」
「そこらへんは上手くできないですかね」
「途中で、前世を思い出す的な設定を調整すれば」
「できるんですか?」
「任せてよ。変則になるからちょっと不自由かも知れないけど」
「いや大丈夫です!で、どの程度強い系になれますかね?」
「う~ん、そうだね、ちょっと主人公以上は難しいけど見せ場ありの一人くらいには行けるね!」
「ガルパンで言うと?」
「クラーラ」
「イケているじゃないですか!」
「任せて、マジ任せて。○○〇の名にかけて、面白い人生を贈るよ!」

=========================================

これ誰だ!僕か!イケメンじゃん!



で僕、誰だ?前世の記憶はあるけど、現世の記憶が出てこないな



はい。風邪ひきまして。すいません。はい、はい。お任せします。いつものところ?ええ?いつものところで。



え、未来?!生活様式が昔と違うな~



魔法?魔法あるのか!



だめだ、今ひとつ記憶が思い出せないな。



魔法使えた。すげー。コップが宙を移動したよ。



僕、偉いんだ・・・。部下がいる



うん?



どっかで見た記憶が?なんだっけか?



CAD?古式?なんだっけ?アニメか、ラノベ?



作戦?



あれ?どうするんだ?あれか、いつものところでいいのか?で、いつものところってどこだ(笑)



九校戦?あー!あー!あー!あー!あー!あー!あー!あー!あー!あー!



あれ?たしか、お兄様とレオと、あとほくろの奴が優勝したよね



四葉?四葉?なんの設定だ。アニメしか見てないぞ。



ああ!現世の記憶が少し思い出してきた!



え、え?



あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ、くそ!!!!!!!!!!!!くそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそ、くそ神!死ね死ね!死ね!



でも、待てよ。死ぬんだっけか?え、アニメだと死んで無いよね?原作だと死ぬの?



無理だよ、もう時間ないじゃん



逃げる?どうする?逃げれるの?



・・・・・・・・・・・・



連絡しよう・・・・お兄様に連絡しよう



でも殺される?わかんない?



うわわわわわ、kghsどいふgyiofa;ofugr;おtg4bgヴぃぅrいfすfsfhgいghふぇjふぃgほghrすfgrsぅrfghelighrsiuglsfhpoqdjでおdhw



メール文面は作った。送っても通じるだろうか。



4日経った。ダメだ。決心できない。



いきなり殺されることはないよね。別に大丈夫なはず。



お兄様と接触してない。アニメだと接触してない。大丈夫、大丈夫、大丈夫、大丈夫、大丈夫、大丈夫、大丈夫、大丈夫、大丈夫、大丈夫、大丈夫、大丈夫、大丈夫、大丈夫、大丈夫、大丈夫、大丈夫、大丈夫、大丈夫、大丈夫、大丈夫、大丈夫、大丈夫、大丈夫、大丈夫、大丈夫、大丈夫、大丈夫・・・・



送った。結局明日だ。鬱だ



助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて
助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて
助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて
助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて
助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて
助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて
助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて
助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて

お母さん、助けて






========================

「さあ、これでOK。君はもうすぐ次の世界だ!」
「はい!」
「ところで、北欧神話で○○○以外に誰か知ってる?」
「えっと、××ですかね。トリックスターの」
「トリックスターか!かっこいいね。嘘つきとしか言われたことないよ」
「え」

========================



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女子高生柔らかい~

「もう一度頼む」
「周公瑾から連絡があった」

耳がおかしくなったか?いやどうなんだ?周公瑾。周公瑾。
待て待て待て。
「ちょっといきなり何?」
横にいたカナデを肩を抱き寄せ、ぎゅっと抱く。あ~、女子高生柔らかい~。
顎に手をやるのが癖になったので、人がいない時に限りカナデを抱きしめることで精神の安定を計っている。
「ねぇ、そんな学校よ・・・」
ちょっと顔赤くして、可愛いな。シャンプーの香りがする。今晩こそは。

「もういいか」
「ああ、混乱は収まった」
カナデを腕の中から離し、真面目な顔をしているつもりで光夜に向き直った。
鼻の下は伸びていない。はずである。
光夜の横では雪光が呆けている。雪光、メンタル大丈夫か?

放課後すぐに、光夜から人のいない喫茶室集まるよう話があった。そしてこれである。
その時点で雪光は、光夜に手を引かれ、幼児退行したようによちよち歩いてきた。

「で、連絡とは」
「メールだ。すでに日数が経っている」
光夜はコーヒーを一気に飲み干しタブレットをこちらに見せる。
おう~、スゲーな。まじで周公瑾名義で、微妙に「何か」を匂わせている。
「本人なのか?」
「確認してくれ」
「あ、そうね。ちょっと時間かかるけど出来るわ」
そう言って、カナデは光夜からタブレットを受け取る。
「でもこれって、外向けの学校資料請求の申し込みから来てるじゃない」
「一校が外に出しているアドレスはそれだけらしい」
「それが何日かけてお前のところに?」
「複数部署を経由して、先ほど職員から達也に来て見せられた」
頭を抱えた。カナデにタブレットをテーブルに置くよう促し
もう一度抱きしめた。カナデの温もりで混乱を静めようとしたが時間がかかりそうだ。
「おい」
俺の挙動に不機嫌な光夜が声をかけてくるが、もう30秒待ってくれ。
「ありがとう、落ち着いた」
カナデの眼を見ながら、そう言った。「うん・・・」と頬を赤くし頷くカナデ。
まいった。こりゃ、俺本気になったな。絶対離さんぞ。
「おい」
もう一度、光夜。
「すまんな。混乱の極致だ」
「少なく見積もっても三日、最悪九校戦終了後すぐに、と言う可能性もある」
「またカナデを抱きしめて混乱を収めたいんだが」
「家でやれ」
光夜はそう俺に言って、タブレットをもう一度カナデに渡した。

「雪光、お前この状況どうみる?何か覚えていないか」
このメンバーで既知未来知識が一番豊富な雪光に聞いたがかえってくるのは
「もうわかんないよ…そんなせっていしらない・・・来訪者編も、京都編とかさ・・・」
ここまで、ぼそぼそとしゃべる雪光は初めて見た。深雪に匹敵する美貌も今はなりをひそめている様だ。
俺の告白の10倍はおかしくなってるぞ。混乱を収めるには恋人抱きしめるのが一番だぞ。
七草嬢との仲は進展していないらしい。

まあ、俺も人がいなければ足をバタつかせて奇行に走るだろう。
雪光の気持ちもわかる。カナデは俺に抱きしめられたの幸福感が勝っているのでそれほど衝撃的ではないようだ。
光夜のこの胆力スゲーな。普通はデカい声を出すぞ。
「達也にメール見せられた時は柄にもなく、マジか、と言ったよ」
俺の視線に気付いた光夜の告白に安心した。

単なるいたずら→無視
意図を持ったいたずら→調査
意図を持った仕掛け→調査
罠→調査

選択肢はこんなところか?問題は司波小百合襲撃事件の備えをしているので、あまり時間的余裕がない。
「いっそのこと、達也に動いてもらうか?」
司波達也宛のメールなら達也に動いてもらうのが道理だ。
だがあまりにも不確定要素が多い。既知未来の知識のある我々で推論は立てておきたい。

司波達也と俺の関係は、この横浜騒乱編対策チーム(仮)では難しい。
アカシックレコード(笑)で横浜騒乱を知った光夜が司波達也に相談しつつ、「四葉の力で手に入れた情報」と言う態で
オブザーバーとして諜報員の俺をチームに招聘、という形だ。

「肝心の周公瑾のメールは何なんだ?」
「食事の誘い」
光夜の口からさらに予想外の答えが出てくる。
「カナデさん」
「ちょっと抱き着くのは待って」
忙しそうにタブレットを操るカナデに片手で静止された。



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お歳暮お中元は忘れたことがない


「どういうことだ!」
「わからん!」
効率重視の返事どうも!昨日の今日だ。勘弁してくれ!

校内を光夜と走りながら、来客がいる応接室へと急ぐ。
結局、カナデの調べでメールの送信元が横浜中華街の飲食店からで、その店の登記を確認すると周公瑾の名前があった。
送信元を偽装や複数かませないことから素人丸出しで、罠かと思った。
まずは明日、つまり今日の放課後に俺が下見に行く予定だった。

そして今日である。
朝、一限目終了時に問題が来た。

顔色の悪い男が校門に来て、警備員とひと悶着起こしたのだ。
「司波達也に会わせてくれ」という話らしい。
最初は警察を呼ぶ流れだったが「メールを送った」と言い出したので確認された。
そこから1時間以上たって、警備員→教職員→入学資料配布を担当している事務局→教職員→司波達也の流れで、司波達也本人に連絡が行った。
光夜に「周公瑾を名乗る男が来た」という司波達也からの連絡を受け、俺と光夜は急いで応接室に急いでいる。
雪光とカナデは遊撃として待機。深雪にも緊急の状況だとだけ伝えた。

応接室の前に行くと司波達也が待っていた。
「来たか。中にいる」
「よく、応接室まで案内したな」
「俺がメールを返信せずに遅らせた、と伝えて無理にお願いした」
俺の質問に答えとしては及第点だ。下手に帰すとなんであれ確認が取りづらい。
多少怪しくても、監視下に置いた方がいい。
「ボディチェックは?」
「警備員が済ませたらしい。携行品は名刺と財布、身分証明書も持っていた。周公瑾名義だ」
「CAD?」
「なし」
光夜と司波達也の簡潔な会話が終わると、三人で応接室に入る。
監視という意味なのか、部屋には中央のソファに座る男以外に警備員が二人いる。
「知り合いです。大丈夫です」と司波達也が警備員に言い、退室を促す。
「しかし」と返答が来るが光夜が「我々生徒会の二名が同席します」と言うと心配そうな目をして部屋から出た。
申し訳ない。だが、これは俺たちでないと理解できない範疇だ。

男、周公瑾と名乗る男は疲れ切った顔、色男や優男ともいえない、疲労で口角はさがり、目の隈も病的なほど暗い。
悩みつき病んでいる顔だ。
服装も、洒落たまるで舞踏会の案内役のような優雅さもない、新人社会人のスーツのような身体から浮いたスーツ姿だ。
男は、入室した三人を順にみるといきなり泣き出した。
「司波達也~お兄様~」
すがるような、すがり崩れるような声をあげ、ソファから立ち上がり司波達也へと歩み寄る。
俺は二人の間に立ち、すぐにでも男を取り合押さえようと構えた。
が、それは無駄だった。
「助けてよ、頼む。僕を殺さないで・・・・」
膝から落ち、まるで司波達也を神に見立てて、懇願するように頭を垂れる。
そう、お兄様は神になったのだ。違う。違う!冗談!
男はそこで、数分泣き続けた。
「話を聞かせてくれ、俺があなたを殺すのか」
司波達也は男の肩に手を置き、そう聞いた。



男を応接室のソファに座らし、話を聞いた。男の話は支離滅裂だった。そう、普通に聞けば。
なんでも死んだら、この体で目が覚めて、九校戦を見て魔法科高校の世界と気づき、その後自分が横浜で事件を起こすので
司波達也に殺されると思い、助けてほしくて連絡を取ったが、軍人たちが怖くて、今日いきなり来てしまった。ということらしい。

「お兄様に殺されるかわからないんだけど、敵になっちゃって、殺されると思うんだ~。でも今会えば助けてくれると思って」と涙ながらに話してくる。
光夜が小声で司波達也に「アカシックレコードを見たようだな」とつぶやくのが聞こえた。
お前、アカシックレコードで貫き通すのか。偉いな。
おい、司波達也お前も完全に信じているだろう。瞼が一ミリも動いていないし、完全に信用しているのが表情から読み取れる。
俺もアカシックレコードの流れでカミングアウト・・・風間さんとかに病院紹介されそうだな。

男の支離滅裂な話は10分ほど続いた。
埒が空かない。自分はワタナベケンゴといったり、文京区の文具店に勤めていたとか、高校大学と中華料理屋のバイト暦が長かったので今のお店のオーナーの真似事ができたとか
今の身体の記憶がよみがえると中国語と英語も理解したとか、お兄様の活躍は放映時全話観たけど、しっかり覚えていないとか。深雪ちゃんよりもエリカ派なので安心してくれと。

光夜と達也がアイコンタクトすると
「すまないが、授業を欠席する旨伝えてくるので少し待っててくれないか」と達也が言った。
俺と光夜だけが残った。
どうやら司波達也がいることで質問することもなく、男が支離滅裂(俺と光夜は理解しているが)に話すので
気を落ち着かせる意味で、一度中座するようにしたようだ。

男は心配そうに俺と光夜の顔を見比べる。
そりゃそうだ、頼みのお兄様がいなくて目の前にはよくわからん学生二人だ。
「混乱しているところ悪いが、お前も一度死んで転生した人間か?」
光夜の効率重視だ。
その質問に男は動きを止める。
「安心しろ。ここにいる二人は転生と言うものを把握している」
「ほんとですか!あなたたちも!?」
「そんなところだ」
「うぁぁぁ」
また男は5分ほど泣いた。

「よかった。同じ境遇の人がいて」
「ただ、周りの人間、達也にもぼかしてしか伝えていない。しゃべらないでくれ。俺たちも狂人と思われて社会生活ができなくなる」
そう光夜が言うと男も大きく頷いた。
「わかります。僕もお店の人にここは魔法科高校の劣等生の世界か聞いたら、変な目で見られました。わかります」
そうか、そうか。こいつも大変だったんだな。
男は光夜の態度に安心したのか、光夜の矢継ぎ早の質問に答えてくれる。
「本当に周公瑾なんだな」
「はい。九校戦後にはっきりとこの体の記憶がわかったんですが、周公瑾と言う名前で大漢というか崑崙の生き残りです」
「それでいつこの世界のことを知った?」
「だいたい九校戦の2週間前くらいです。死んで転生要望を神様、あのくそに話したらこうなって」
「そうか」
この人、転生じゃない。俗にいう憑依だ。原作の特定に人物に意識が憑依して、その人物として生きる、というヤツだ。
「こうしよう。達也には魔法の訓練中に事故で意識が飛んで未来の映像を見て、怖くなって映像で見た司波達也に助けを求めた。それでどうだ?」
凄い光夜がこんなに話すとは驚いた。
周公瑾は首がもげるほど頷いた。司波達也向けの「アカシックレコードを見た」という言い訳はとりあえずこれでいいだろう。
相当胡散臭いが光夜の後押しがあれば、「転生」とか「憑依」という頭のおかしい現象は追及されずに済む。

俺は質問すべく優しく、かつはっきりと話しかける。話掛ける側が弱弱しいと不安をあおる。
「俺は相馬新。司波達也の仲間だ。いくつか教えてくれ、軍人というのは大亜連合の陳と呂だな」
「ええ、アニメで見た二人でした。あと部下が20人くらい」
よしよし、潜入軍人は確定したぞ。
「彼らの行動はどの程度把握しているんだ?」
「衣食住の提供と、現金あと作戦室みたいなものを提供してるだけです」
だけ?
「じゃあ作戦の詳細は知らない?」
「はい。アニメだと横浜襲うんでしたっけ?あいつらに衣食住の提供するのと協力しろとだけ命令されています。具体的なことはなにも」
「もう一つ。今までの周公瑾が起こした犯罪行為の記録とかある?」
「ええ、いくつかは覚えてますし、日記みたいに本に書いてまとめてるみたいです」
少し身構えて答えるが、安心して欲しい。悪いことにはしないよ。
よし、本人の証言と証拠。そしてここまで話が進むなら、転生者組で背負いこむのは限界だ。
「そうか、じゃあいっちょ司法取引しようか」



諜報は超細かい作戦を立てるか、行き当たりばったりの二つだ。
俺が主にやらされるのは行き当たりばったりの方である。
悪いのは大島少将とその周りの参謀連中で、胃を痛める村井大佐と現場で何とかしちゃう俺である。
その分、現場で好き勝手できるので有難い部分がある。村井大佐へのお歳暮お中元は忘れたことがない。

「村井大佐。大亜連から密入国手引きをしていた亡命ブローカーの証人保護をお願いします。本人は司法取引に応じるそうです。はい。はい。一校にいます。はい。
うちの?ええ、でどうやら密入国を手引きした中に大亜連の工作員もいるらしく、潜伏の協力をさせられているようで。はい現在も潜伏中で。ええ、はい。え、俺ですか?」
無茶を言いなさる村井さん。
「別に動けますが。ええ、はいわかりました。その代わりですが、尋問には同席しますからね。ええ、でいつ頃までに手配済みますか?わかりました。それでお願いします」
今応接室に居るのは司波達也と俺、周公瑾の三人だ。光夜は「軍関係の話なら俺は席を外す。あとで必要な事だけ言ってくれ」と部屋を出た。
証人と証拠、それが揃えば俺たちだけで未来に立ち向かう必要はない。国防軍が動く材料があるなら手助けしてもらおう。

「大黒特尉、情報部支援課少佐として協力を要請したい。2時間後に支援課小隊が証人保護のため本校に到着する。それまでの証人の身柄保護について貴官の力を借りたい」
俺は軍人として目の前の大黒特尉に協力を要請した。
司波達也は背を正し敬礼をする。
「はっ。かしこまりました」
「うっし、じゃあ小野先生のところ行こうぜ」
堅苦しいのは面倒とばかりに口調を戻し、周公瑾を伴いカウンセラー室に向かう。
早退の理由を貰いに。さて大黒特尉殿、二人分の言い訳頼むよ。
そしたら、喫茶室で2時間サボりだ。



下記の一文を追加
2018/01/29 20:54

証人と証拠、それが揃えば俺たちだけで未来に立ち向かう必要はない。国防軍が動く材料があるなら手助けしてもらおう。


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若い奴に出会いを与えたと思えば、これもアリか


俺はヘルメスという神に愛されているんだと思う。
ヘルメスは幸運、詐術、計略、牧畜、盗人、賭博、商人、交易、交通、道路、市場、競技、体育etc、多くの面を持つ神だ。
きっとその中で詐術、盗人、体育あたりで愛されているんだと思う。

てなことを思いながら中華街の人のいない暗がりを進む。
全身黒づくめ。目出し帽だし、なにより足音が一切しない。俺、変態みたいだ。
幾つかの装備、赤外線を見れる眼鏡やらなんやらのスパイセット、が入ったバッグを肩にかけている。
監視カメラの死角、もう3秒で左上のカメラが首を振り、10秒の空白があるので、そこで壁を越える。
壁の下には圧力感知式セキュリティも軽々と回避。
店の電源を細工、セキュリティシステムを騙すソフトの実行、そして警備員の真後ろを息を殺して気付かれずに歩く。

到着したるは周公瑾の店での私室。
本人からの話で知った書類の隠し場所…を漁り・・・ってホントに紙の本だ。で、これには大陸式の古式魔術があるので
術をかけた当人から貰った護符を使用してと。うへ、こりゃ面倒だ。手で印を切るのだがちょっと楽しい。
にしても主人格と記憶が前世で、知識と技術が現世ってどんな組み合わせだ。悪意あるチョイスだぜ。神よ。

総時間1時間で俺は中華街の周公瑾の店から離れた路上に止めた車に戻った。
小泉中尉と島村曹長、田中二等兵曹に迎えられ、早々にセーフハウスへ向かった。

村井大佐の無茶は「24時間以内に証拠を証人の自宅から取ってこい」だった。

この手の仕事は情報部の実働部隊か俺たち支援課に限る。特に便利屋、三次受け、下請屋、残務仕事担当と有難くない異名を持つ支援課第二班はどんな仕事でもする。
使い走りから、中東における石油取引に絡む企業令嬢誘拐や、大量虐殺の目撃者を三つ隣りの国の日本大使館まで追跡部隊を振り切って俺一人で届けるとか。
届けた時に「ほんとにやるんだな」と鼻で笑った外務省の役人を、旅の途中で知り合った人たちの鎮魂の意味を込めて足腰が経たなくなるまでぶん殴ったこともある。
いや、その後しこたま怒られた。4か月の減俸で済んでラッキーだった。

「これですよ」
本をテーブルに置く。
村井大佐と周公瑾、そして小隊の面々、あと村井大佐が巻き込んだ情報部監察の竹田監察官。
セーフハウスにはそれだけの人数がいる。マンションの一室。
設定上は島村曹長のカバー(偽装設定)である玩具会社社員の趣味部屋として借りている。
「あっちの言葉か」
本を開きながら竹田さんは通訳がいないことを少し困ったようだが、わかるところだけ訳してみる。
「こりゃ、亡命の記録ですね。何人をいつ、どこの引き取り先に渡したか。暗号交じりなので、本人の解説が必須でしょう」
ということで、この軍人たちの重苦しい空気の中、周公瑾こと中身はワタナベケンゴさんが、たどたどしく説明する。
俺以外ガタイがいい奴か、眼光で人殺せそうな奴しかいないからね~。怖いよね。
一応、証人保護で小隊が到着するまで周さんには「日本での正業の利益確保及び、違法行為へのリスク意識から組織の情報を売る司法取引を希望した」という形で進めることを教えておいた。
数年前からの亡命ブローカーとしての行動や、先日の大亜連合の軍人の手引き。そしてをそれを記載した個所と、彼らの知っている範囲でのプロフィール。
「人食い虎」の名前が出たときに部屋の空気が更に緊張した。

「あとは問題のそいつらだが…」
そうなのだ。それが問題だ。周公瑾が手配した住宅にはすでに大亜連合の軍人たちはいなかった。
というのも日本潜入初日から周公瑾の病んだ姿を見て、まともなコミニュケーションも取れず、単に衣食住だけ与えられれば
「この状況はまずい」と考えるのが工作員の常である。
この病んだ協力者は自分たちを秘匿してくれるのか?ちゃんと協力してくれるのか?
そのあたりの疑問が浮かぶと、あとは保険の意味で行動を起こすのだ。

つまり、潜入軍人は都会の中に逃げ込んだ。
それを追い立て狩るか、目的の日に、目的の場所で、一網打尽にするか。

情報部は手隙の部署、内情の瀬川、外務省外事部を巻き込んでローラー作戦も視野に入れて足取りを追っている。
大亜連合が頼れる人物。華僑の人間や反政府思想のある者、魔法協会への反感の強い人間。
ブラックリストを片っ端から追っている状況だ。

周さんもGPSを体内に埋め込まれ、当面は支援課の監視下で暮らすことになる。
明日にも司法系の部署から弁護士役が来て、お店の管理について確認するらしい。

俺の中で意外な形で横浜騒乱への不安が構成されていった。



「大事になりましたね、少将」
「もう少し早ければ逆転の一手だったがな」
「まあ十文字邸の見取り図は有りますし、まったく無駄ではありませんでしたが」
「四葉と関係が結べたなら四葉の村の内部情報も欲しいところだがね」
「それは出来なくはありませんが、分が悪いですね」
「そうか。九島の方は?」
「若い娘に入れ込んでますよ。まあ、この先トラブルになっても自己責任ですからね」
「いや、若い奴に出会いを与えたと思えば、これもアリか。はっはっは」
「あちらに行くのはいつごろに?」
「早ければ月を跨がずにだな」
「では、任務もそのタイミングで」
「いやそれは相手に任せよう。面白いじゃないか」
「私は最近胃薬変えましたよ」
「苦労を掛ける」
「仕事ですから、ご安心ください」



ここまで来ると俺たち、つまりは、俺、カナデ、光夜、雪光、深雪、司波達也の6名の手には余る状況となった。
確証の無い未来には6人で対応しなけれならなかったが、敵の作戦の証拠があれば軍が動く。

潜入軍人の追跡は、指揮は軍情報部、外務省外事部をアドバイザーに行うこととなった。

司波小百合襲撃事件は起きなかった。やはり聖遺物奪還は重要ではなかったのでは?と思える。
あと軍内で聖遺物複製に関して、消えかかった火が再燃した。燃えた理由は今回の潜入工作員の目的が
聖遺物奪還にあったこと、それを民間に丸投げしたこと。
なんでも火種にするのが軍内政治だ。海軍の意見に陸軍は反対である!というヤツだ。

そして平和な学生生活を取り戻した。カナデの処女もいただいた、完!
というわけにはいかない。

司波達也は七草真由美嬢と資料室の個室でいちゃいちゃしたらしい。
雪光が「身長なのか・・・」と凹んで呟いたのでモーリーが来て「男は身長じゃない!生き方だ!」と励ましていた。
お前、この間看護師のお姉さんに呼び出されて買い物に付き合わされたって言ったけどそれデートやぞ。
まんざらでもない顔しやがって。こちとら放課後から深夜まで周公瑾の聴取に付き合ってくたくたなんだぞ。


国防軍は以下を決めて各関係部署に通達及び協力を要請した。

・全国高校生魔法学論文コンペティションの中止
・魔法科高校の臨時休校
・魔法協会関東支部の一時閉鎖
・横浜港での軍主導の臨検の実施

が、数日で根回しや調整がつくこともなく、グデグデの調整劇になった。
特に論文コンペは魔法協会の育成事業でもあるので、簡単には中止が出来なかった。
そこが大事なのに!

・全国高校生魔法学論文コンペティションは外部の見学者を制限。また応援の学生数も上限を儲ける。
・会場の警備は魔法科高校から選抜された学生有志と、国防軍派遣の1個大隊にて行われる。また大隊は会場周辺の広域警備も兼任する。
・各魔法科高校には各校近隣の国防軍基地から警備班を組織し、警備として派遣する。
・魔法協会関東支部には特殊部隊2小隊を派遣する。また事前に協会として義勇兵の内々での募集を行う。
・偽装船対策として海上保安庁から巡視艇2隻、港湾近くに海軍の駆逐艦を1隻。また港湾地域に2個中隊を警備として配置。
・魔装大隊への出動待機命令
・鶴見基地に予備要員として2個大隊を待機


各魔法科高校にはブランシュの事件を教訓に地方基地から警備は派遣され、偽装船対策は結局お役所の縄張り争いから
海上保安庁が実務を行うことになった。

論文コンペやるんだよな~。止めりゃいいのに。

この条件がまとまる頃にはプラスとマイナスがあった。

マイナスは簡単だ。俺の出席日数が減り、カナデには会えず、情報部の支援課オフィスで寝泊まり生活を数日した。
ほぼ毎日の周公瑾への尋問には俺が同席するのが条件なので、常に情報部本部にいる必要があった。
陽が沈み、昇るまで尋問とかやめろよ。俺、普通の学生なのにここで大量欠席とか不味いんだぞ。

プラスは凄い。問題の襲撃日まで時間がなかったため、政府発表まで情報が上がらず内々に事が進んだことだ。
横浜港の臨検も今は多少厳しくなった程度だが、今後はどんどん厳しくなる。
文民統制が大前提とはいえ、半ば戦争が目の前にある時代では軍の動きは速い。誰も沖縄と佐渡のことは忘れていない。
そして各基地の警備班派遣も世の中のニュースとしてはほとんど公表されずに組織され、各校に軍人が民間の警備会社の制服で校内を警備している。




大亜連合の工作員は東京、神奈川のどこかで、国防軍の警備状況が出来上がるのを知っているのだろうか。
それを本国に連絡できるのかどうかもわからない状況で、あいつらは10月30日を迎えようとしているのだ。


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それもフレアスカートのミニ

R-15ぎりぎりと思われる表現があります。


三日ぶりに情報部の建物の外に出ると時間は早朝だった。
溜まった着替えと家の雑事を片づけるため俺は自分の官舎に向かう。

家につくとまず洗濯物を洗濯機にかけながら風呂の支度。
冷蔵庫を見て、適当な冷凍食品が無いか物色。あ、冷凍スパゲティがあった。賞味期限も大丈夫。
それから風呂に入って、垢と汗を落としたところでインターホンが鳴った。
うん?軍からの呼び出しならタブレットに来るが、それではない。
近所の同僚が激励代わりにビールでも持ってきてくれたか。早朝から酒とは嬉しい限りだ。

そう思ってののぞき見から外を見る。
すぐドアを開けた。
「朝ごはん食べる?」
「・・・はい」
カナデがそこには立っていた。
コンビニの袋には弁当や幾つかの総菜パン、パックのコーヒーなどすぐに食べれる食品が数食分は入っている。
「どうやって?」
「お姉さんにお願いしたわ」
やられた。敵は身内にあり。藤林少尉が手を回してカナデをここまで誘導したな。あいつ絶対、支援課に入れてやる。
「このまま帰った方がいい?」
「狼さんは赤ずきんを家に入れました」
俺はそう言って、カナデを家に入れた。
「男の一人暮らしを想像してたけど思ったより綺麗ね」
あ、いかん。カナデよ、なぜだ。なぜ、なぜなんだ。

俺のドストライクなミニスカでくるんだ。それもフレアスカートのミニ。
部屋にどんどん入っていくカナデの後から俺も部屋に戻る。
「カナデさん」
「なに?」
彼女が振り向くとおもむろに彼女の持っていた荷物を受け取り床に卸す。
彼女も色々察したのか、抱き着いてくる。
俺たちはゆっくりと久々のキスをした。
「軍隊だからっていうのはわかるけど、いきなり無断欠席を続けるのは留年するよ」
「わかってる」
いい女だな。
「今日は一日休みになったの?」
「14時間後に再度出頭」
「14時間あるんだ」
「うん」
「あたし、替えの下着持ってきてる」

======================

「そんな下から見上げるなんて、変態なのね」
「カナデがミニスカで太ももを見せつけるのが悪い」
「屁理屈」
「屁理屈で結構」



「下着姿見せあうの恥ずかしい・・・」
「俺は別に。綺麗なもの見れて嬉しい」



「どう気持ち良くないか」
「裸で抱き合うだけでこんなに気持ちいいとは。なんで早く抱き合わなかったのか悔しい」



「さすがに、そこまでじろじろ見なくても」
「ほんと、凄い…ねぇ大きい方なの?」
「この状態で他の奴と比べっこしたことはないよ」



「だめ、だめ!恥ずかしい」
「じゃあ、キスするから、指先で確認させて!」
「指先って・・・またしてくれるの?」
「キスしながら、する!」



「~~~~~~~!!」
「どう?」
「・・意地悪な顔しないで!馬鹿!」
「気持ち良かったんだ~」
「意地悪な顔しないで!」



「ほら、気持ちいいでしょ!」
「ちょっと、乱暴!あ、乱暴ですよ。カナデさん。気持ちいいけどさ!」
「強がってもだめ!ほらほら!」
「もっとゆっくり、ゆっくりで!」
「同級生の男子いじめるの楽しい」



「なんだって?男子いじめるの楽しいって」
「!!~~~」




「ごめんね、あんまり色っぽい声出せなくて」
「これから仕込むから大丈夫」
「仕込まれちゃうの?」
「俺好みに仕込むね」



「君、下着持ってきてゴム忘れるとは」
「うう~」
「まあ、ちょっと待って、あるから」
「あるの?」
「紳士のたしなみ」



「き、緊張する」
「男としても緊張するね」
「処女だから?」
「一生の思い出になるから」



「大丈夫か?」
「痛い・・というより・・苦しい、感じ」
「少しこのままでいるよ」
「うん」



「ゆっくりなら、大丈夫」
「じゃあ、ゆっくりな」
「うん」
「少し姿勢を変えよう」



「血が出たな」
「ほんとだ。少ししかでないのね」



「お風呂でするのも悪くないわね」
「俺もお風呂でいちゃいちゃするの好きだよ」
「今まで何人と」
「最高はカナデです」



「風呂上りは体をしっかり拭かないとな」
「そういって、はぁ、あたしのぉ、弱いところを触って、る」
「まだ時間はあるしな」
「好きよ」
「俺も好きだよ」



「だめ!そんな、あ!指、離して!ああ」
「だめだめ。ちゃんと気持ちよくしないとな」



「お尻とかは?」
「ん、したいのか?」
「バカ!」



「5時間ほど寝るからキスして」
「そういうところ、子供っぽいわね」
「先に帰る?」
「起きるまでいる」

==============


10月30日まで7日を切った。



私は小説という種を蒔き、読者は想像力という水を与える。芽吹くのが作品だ。


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必ずどこかで戦闘が起きる


ひっさしぶりに登校出来た。
親類の不幸で親から欠席の連絡が行くはずだが忘れてしまったらしい。
そんな苦しい言い訳だが、1時間の説教で終わった。

この間も潜入工作員は見つかっていない。
生徒会に顔を出したら中条会長にも「大丈夫でしたか?」と心配された。
大変でしたが、良い思いもしました。
光夜も機嫌がいい。なぜだ?

この数日は司波深雪副会長と五十里会計で学内を回し
中条会長と光夜で論文コンペの調整を行っていたらしい。
光夜、激務で脳内麻薬が出ているのか?

司波深雪嬢からは「仕事ありますからね」とさっきまで暖かかった冷たいお茶を渡された。
頑張ります。

学内は普通だった。
軍から派遣された警備兵は民間の警備服で校内にいる。
「ブランシュ襲撃後に組まれた警備増強の予算がやっと理事会を通った」という触れ込みで生徒たちは気にする様子はない。

「これで一安心?」
風紀委員室では俺と雪光の二人だけだ。
生徒会書記補佐などという奇怪な役職だが、実質は「光夜に話通したいけど、怖いので窓口ヨロシク」役なので
時間を作るのは容易だ。光夜が中条パイセンにべったりなので、話がまとまりやすい。
「それはないな~。もう一波乱あるぞ。雪光、10月30日にどっちにいたい?」
雪光も雪光ガールズからの避難先として風紀委員を満喫している。
千代田花音は五十里啓にぞっこんなので、雪光など眼中に無いし、カナデには俺がいる。
司波達也や男子の先輩と駄弁るなど男子高校生の生活を満喫している。

「論文コンペか関東支部?」
「いや横浜か一校」
そこなのだ俺のこだわっているのは。
論文コンペ会場か魔法協会関東支部の二択ではない。横浜か八王子か。
「まだ一校襲撃とか気にしてるの?」
「う~ん、どうもな。あの予想がな~」
俺は自分で言った呂剛虎の魔法科高校の襲撃を、横浜と八王子という距離から考えると一校を想定して考えている。
正直戦闘区域が広いのは横浜だ。
だが、呂剛虎が来るとしたらここ一校だ。どうもこの発想が抜けない。

「雪光は横浜行きたいのか?」
俺の言葉に雪光は腕を組み考え込む。
「う~ん、魔法の特性的には走り回る系だから校内でも、横浜でもどっちでも有用性があるんだよね」
そうだな。雪光の魔法から見るに広い戦場を駆けまわるもよし、狭い校舎内を駆け巡るもよし。
司波達也の大黒特尉としての、10月30日の鶴見基地での待機は決まっている。
正しくは、司波達也は一校生として論文コンペ会場におり、すぐに合流出来るよう風間さんが何かしらの方策はするだろう。
俺は光夜には論文コンペというか横浜にいて欲しい。あいつの魔法の発動範囲の広さを考えるに横浜の方が有効だろう。
カナデも同様に横浜だ。彼女の電子技術は確実に横浜での戦況確認には必要だ。あとあっちの方が安全だと思う。

「アラタ、僕はどっちに行く方がいい?」
真面目な顔で聞いてくる。司波達也も光夜も雪光も、実戦経験があるのだろう。
ただその数や内容では、雪光が最も劣っているはずだ。断言していい。
それは戦闘スタイルである。高速戦闘とはうたっても、単独行動が主で連携が取れない。
そんな奴は戦場では孤立する。歩調を合わせるというのは、仲間との連携がとれ、生存確率があがる。

言わせてもらうが高速戦闘はヒーローにはいいが、戦場の兵士としては扱いづらい。
それを自覚していないのが、実戦経験の少なさを感じ取れる。

「正直に言うぞ。雪光、横浜に行け。俺は一校に残るが、そうなるとお前が足手まといだ」
足手まといと言われて、雪光が衝撃を受けている。
そりゃそうだ。自分の実戦経験者としての自負が砕かれたのだ。
一度つばを飲み込み雪光は口を開く。
「そんなに足手まとい?」
その声には、確認と劣等感と少しの怒りがあった。
「同じ時間軸で戦えないのは孤立し合うだけだ。それなら横浜で走り回って攪乱した方が幾分戦術的には意味がある」
俺の戦場は泥臭いし、生臭い。カッコいいもんでもない。一校の王子様には合わない。
「そうか・・・」
まるでテストに不合格になったようにうなだれる雪光。
「いいか、戦場じゃ人を守ると同じくらい、自分が生き延びるのが重要だ。そのためには同じ歩調で動ける奴が必須だ。お前は速すぎる。一騎当千だ。だがそれじゃ他の奴が追い付けない」
励ましとも事実ともいえる曖昧な事しか言えない。雪光の戦闘スタイルは戦場では皆無なのだ。
「ちょっと考えてみる・・・」
真剣な顔をして俯いた姿勢を直した。妙案が浮かんだのか。

横浜騒乱はこのまま行くと起きる。
既に軍の配備は済んでいるので、後手に回って被害がデカくなることはないだろう。
10月30日には交通規制を敷き、横浜周辺の港周辺への車両の進入を制限する。
また前日には2次大戦時の不発弾発見による広域での立ち入り規制も行う。

不測の事態への対応は十分だが、予防ができない。必ずどこかで戦闘が起きる。そして犠牲が生まれる。

周公瑾の身柄確保は僥倖なのだろう。俺の知らない先の未来にしてみれば。
だが、逆に今の相手の行動を推察するには厳しくなった。
虎が街に潜んでいるのだ。今はただ軍と諜報組織の組織力に任せるしかない。

呂剛虎の病院襲撃が無いので渡辺摩利a.k.a“片付けの出来ない奥さん“は将来の旦那予定の彼氏と普通にデートできたらしい。
エリカが切れてたので、あのブラコンも拗らせてんな~。お前の上の兄ちゃんもこないだ藤林響子とレストランに行ったらしいぞ。
カナデが「お姉さんにも春が戻ってきた」とほほ笑んでいた。「年下の姉」というのも不思議なもんだ。
そうそうカナデに痛みは引いたか聞いたら2日くらいしたら、問題なく動けるようになった。
正直、10月30日は家に居てもらいたいが本人は「転生者の使命よ」と笑って横浜に行く気だ。

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ブラック企業かよ

今日は学校に泊まり込みだ。明日は30日。すでに部室のロッカーにはいくつかの『玩具』を隠しておいた。

中条パイセンには「留守の間、宜しくお願いします。何かあったら兵隊さんに任せて逃げてくださいね?!いいですね!」と念を押された。
お任せあれ、兵隊さんとしては生徒を守るよ。

ここに来て確信めいたものが俺にはあった。
一校に呂剛虎は来る。
奴らは決死隊だ。郷里に戻ることを前提に動いていない。
敵地に潜入し、現地協力も不安定で、わかることは自軍が何月何日に横浜に来る、と言うことだけだ。

陳なり呂なりが情報を無理やりにでも確保して横浜の自軍か、多少洩れてもネットのオープンなスペースに情報を送れれば勝ちなのだ。

乾坤一擲で一箇所集中もあるだろう。だが既知未来と今は違う。
呂剛虎は五体満足。潜入軍人に腹を探り合う協力者はいない。魔法科高校の筆頭校には当日四葉はいない。

と考えているが、どうも思考が固い。カッチカチだ。冗談が足りない。

陳や呂をラグビー部と茶化すこともない。面白くない。これでは瞬間的な自由な発想が生まれない。
茶化すのも冗談も、常に思考の速度を上げるための練習だ。
勿論冗談は好きだが、それだけでこれだけの茶化しや冗談を考え付かない。

もう少し、ゆるくやろう。

「なんだ、ここにいたのか」
教室のドアを開けて入ってきたのはモーリーだった。
君、何してんのよ?警備は前日現地に行くんじゃないの?
「あれ?警備で横浜じゃないの?」
「体は治ったけど体力面がガタガタだから外された。お前は?」
今やっと課題を送信終えたところです。すいません。学校サボってイイことしてました。
「今日は泊まり込みだよ。明日の早朝から論文コンペ関係でトラブったときに学校に生徒会の一人ぐらいはいないとな」
「ブラック企業かよ」
まあ軍ほどじゃないよ。
「一気に軍や警察が動いて想像以上に学校も騒がしくなったな」
「確かに」

俺の返答にモーリーは微妙な表情だ。「俺がいれば大丈夫なのにな!」と言うかと思った。
「なんだよ、あんまり元気ないな。看護師の彼女にフラれたか?」
「彼女じゃない!」
顔真っ赤だよ、モーリー。
「なんか、魔法の戦争利用が多くて気持ちも沈むよ」
深くため息をつく。なんだ、モーリー大人になったか?
「魔法なんて道具だろ。使われ方は人それぞれじゃない?」
「そうだけどさ、医療転用が進み切っていないのはなんかな~、と思う」
何とも歯切れの悪い。今までの使ってた玩具の不具合を発見した子供のようだ。
「彼女の影響か」
「・・・そうだよ」
認めおったぞ!!

茶化されて仏頂面ながら、認めた。
「たしかにな~。大けがしても病院の治療はそんな進んでないからな」
2010年代から医術面はあまり進歩していない。外科と精神科は進んでいたが、インフルエンザ、HIVetc、解決していない問題もいくつもある。
「だろ。だから救急搬送にはクイックドロウとか、より生理学分野での魔法技術の転用が必要だと思う」
おっ、モーリーが難しい単語を出してきたぞ。
「受け売り?」
「少しは自分で考えた」
「えらい!成長した!」
拍手をしてモーリーへの喜びを表すと、途端にモーリーの機嫌が悪くなる。
「お前は、俺の父親か!何時も偉そうに!」
「キスはしたのか~」
「うるさい!うるさい!」
教室内を10分ばかり追いかけっこ。
モーリーはいい奴だ。心のビタミン剤です。
ぐぇぇ、首を絞めるな~。


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雪光はカチューシャにウィンク

三人称視点です


「横、よろしいかしら」
光夜は軽くうなずく。

10月30日の全国高校生魔法学論文コンペティションも始まって一校目の発表が終わった。
大ホールの二階席最前列には光夜が一人座っていた。
別に一人で座りたいわけではなかったが、俯瞰して見れる場所の方が不測の対応もできる。
それに誰も「四葉」を怖がって光夜の後左右には座らない。
光夜の回りは右も左も後ろも数席空いている。

そんな中、声を掛けて生きたのは二校の女子生徒だった。肌の白い、髪の色もやや金色に近い。
美貌の少女だった。彫りの深い、細目も性格の鋭さではなく白雪の寒々しさを表現するような
まさに氷の美貌だった。
女生徒は周りを気にした様子もなく、光夜の横の席に座る。
「何か?」
光夜はこの女性が意図をもって近づいて来た認識している。
意図がなければ、威圧的な自分によっては来ないだろう、と。

「突然で申し訳ないけど『さすおに』ってご存知?」
額に手をあて首を振る光夜。
女生徒はまるで世界の真実を語ったかの如く万遍の笑みだ。
動揺している、と光夜の行動は女生徒に受け止められたようだ。
「名前は」
「川村エカテリーナ。二校の一年生よ。呼びにくかったらカチューシャでいいわ。オタクっぽいけど、リーナよりいいでしょ。来訪者編で混乱しないわ」
カチューシャは余裕を持って言った。そう自分こそこの世界に混乱を巻き起こす者なのだ。
そんな余裕だった。

「ああ、そうだな」
光夜は顔をあげ、壇上の次の発表への準備を見ている。
「ロシア語出来て」
『この程度でよければ』
『完璧じゃない。安心ね。人に聞かれると正気を疑われるわ』
『同意だ』
二人とも横を向いて視線を合わせるようなことはしない。視線は舞台上だ。
『あなたと司波雪光は転生者でしょ』
『お前もか』
(直接的だな)と光夜は思った。カチューシャは得意げに続ける。
「主導権は自分にあるのだ」と言わんばかりに。
『ええ、ロシア人亡命者の魔法師と日本人との間に生まれたの』
『それで』
『別に挨拶よ。きっと長い付き合いになるわ』
(宣戦布告のようだな)と光夜は思った。
『そうか』
『あんまり驚かないのね』
『数名転生者を知っている』
『え?どういうこと』
カチューシャの声のトーンが少し上がった。
『言葉の通りだ』
『私とあなた、司波雪光以外にいるの?転生者?』
カチューシャの声がさらに上がる。
(この女、情報収集能力はないのか?黒城やカナデを把握していない?)
『共闘している』
『じゃあ、今日の事件はどうなるの?』
困惑し始めたのか、声の調子が攻撃的になる。まるで不測の事態を攻めるかのように。
『知っている通りにはならない』
『わけがわからない。もう少しちゃんと説明して!』
カチューシャは声を荒げ、腰を浮かせ、光夜に向き直す。
『説明する義理はない』
突き放す声。
(この女は何も知らない。自分が有利だと思っている)
『ないわけないじゃない!私も転生者なのよ!原作の話を崩すの?!』
『原作通りに行くと横浜市民に犠牲が出る。それを減らすだけだ』
『もっとちゃんと説明しなさいよ!』
子供の癇癪か、と光夜は思った。周りの視線も今まで以上に痛い。
『警備の指示を聞いてちゃんと避難をしろ』
『馬鹿にしてるの!私は説明しろと言ったのよ!』
『説明だろう』
『そうじゃないの!あなたは転生者で四葉、そして司波の仲間でしょ!原作の知識を使えばいくらでも自由に動けるじゃない!今日だって来なくてもいいし、今から港に行って無双して名声を高めてもいいのよ!それを警備を増やしてここで寛いで。なんなの?!』
『わめくな』
(勝手な理屈だ)光夜は少し怒りを感じ、声がきつくなる。
カチューシャは光夜の声に押され言葉が詰まる。
『うっ』
『細部は省く。事件の証拠を手に入れた、国防軍に警備を要請した。そして俺たちは個々人で出来ることをすべく横浜にいる』
『も、目的は』
『市民を守る』
『本当なの?』
『ああ』
『司波達也は知っているの?』
『知っている。未来予知として説明した』
『私ね、転生してから魔法力を高めるのと一緒に経済周りで成功してるのよ。金持ちなのよ。今日も事件後の建築需要見込んで建築株と資材株買ったのよ』
自分を落ち着かせようとカチューシャは動揺の理由を説明した。
『損切をしろ』
『言われなくても!何も起こらなかったらあんたのせいよ!』
光夜の一言で無理やり落ち着かせた気持ちが一気に沸点まで上がった。
そのカチューシャを切り捨てるように光夜は言う。
『黙れ』
人命を軽視することより、傲慢な女の姿が鼻につく。

「光夜、何してるの?ナンパ?」
カチューシャの横に二人組が来る。
小柄な雪光と大柄な兵介だとデコボココンビに見える。
二人とも警備として今日のコンペに参加している。腕には警備の腕章。
「紹介しておく。二校の川村エカテリーナ。カチューシャだそうだ」
「そう。僕、司波雪光」
光夜の紹介に雪光はカチューシャにウィンク。
「黒城兵介」
兵介は片手をあげて挨拶。
「彼女も「さすおに」がわかる」
光夜の説明に二人は声を合わせる。

「「へぇ~」」

「なんか、石でも投げれば同じ境遇の人に当たりそうだな」
「僕もそう思った」
珍しいジュースの話でもするように、兵介と雪光はカチューシャの正体に無感動だ。
そのリアクションにカチューシャはさらに声が大きくなる。
「なによ!驚かないの?!」
いきなりの怒鳴り声にも二人は慌てない。一瞬の間をおいて二人は顔を合わせて言う。

「慣れた」
「え、居てもおかしくないだろ」

動じない二人と言葉失くしたカチューシャに光夜は声をかける。
「あきらめろ」

カチューシャは今までと一転声は低くなり脱力とも諦めともとれる声を出す。
「今日、このあとどうなるのよ」
それに答えたのは雪光だった。
「う~ん、なるようになるしかならないよ。警備はしっかりしてるから大丈夫だと思うけど」
「カチューシャは手伝ってくれないのか?」
兵介はナイスアイデア!と言わんばかりに明るくカチューシャに問うが答えは怒鳴り声で返ってきた。

「私に戦えっていうの?!」

「「うん」」

「転生者の使命よ」
光夜達のいる席の列より一つ後ろ。カナデが近づき、小声ながらはっきり言った。
カチューシャは胡散臭げな視線をカナデに向けた。
(こいつも転生者?四葉?それとも七草系?ふん!どうせ一校の十師族系か原作キャラの兄妹でしょ)

「あなたは?」
余裕と警戒の混じった声でカチューシャは聞いた。
カナデは軽く微笑み「聞いたら驚くわ」
余裕のある微笑みにカチューシャは憤慨する。
「慣れたわよ!」
「藤林奏。一校生。九島烈の孫娘で藤林響子の妹」
「っ!」
予想外の血縁に予想外の立ち位置。
カチューシャは大物の血縁がここにいることに言葉が出ない。
「ほら、ね。止めときなさい。大物ぶるの」

雪光がカチューシャの驚き顔を見て思い出したのか
「一番のびっくりどっきりは横浜にいないしね」

「アラタのこと?」
兵介が雪光に正体を聞いた、ここにいない一人の名前を出す。

「そんなのがいるの?なに司波達也の双子の兄弟?四葉真夜の子供?」
カチューシャは諦めなのか、怒りなのか、それとも次の衝撃に備えるためか具体的な予想を口にする。

「「「若作りのお調子者」」」

カナデ、光夜、雪光の声が重なる。

壇上の準備も終わり、「3分後に発表を行います」とアナウンスが流れた。

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いきなり頭撫でないでよ!

三人称視点です


「取り乱したわね」
「うるさい・・・」
あの後、さらに声を上げそうになったカチューシャを引っ張りカナデはロビーに出た。
さすがに発表の邪魔をさせるわけにはいかないと判断したのだ。
それだけ、カチューシャはエキサイトしていた。
ロビーのソファにカチューシャを座らせると、カナデも横に腰掛ける。

「納得できない」
「しなさい。人生疲れるわよ」
(先生が生徒をたしなめる口調だ・・・)
そう感じて、カチューシャは負けたような気分になった。
不貞腐れながらもカチューシャはカナデに聞く。
「今日、ほんとに起きるの騒乱は?」
「さあ、起きると思うけど想定する規模になるかしら。どこまで資産突っ込んでるの?」
「1億。焦げても影響はないけど、外れれば悔しい」
全体の資産からすれば、それほど痛い金額ではない。
大陸から着の身着のままで亡命しなければいけなかった父と、そんな父を受け止めた母には十分生活できる資産は渡してある。
カチューシャは前世も現世もあまり金銭的には恵まれていない家庭だったことが
自分の不幸のひとつだと思っている。金が無いのはいい。苦労する両親の姿が嫌だった。
「そう。人命相手だとはした金よ。諦めなさい」
「諦めろって・・・」
「あなたが人命よりお金なのは勝手だけど、同じ転生者と思うと嫌になるわ。なにか起きて死ぬのは普通の人よ」
「・・・さっきのは失言よ。混乱して」

「あなた、ここまで上手くやってきたみたいね」
「ええ、そりゃ四葉に会うまでは。美貌と才能をねだって正解だったわ」
カチューシャは胸に手をやり、ここまでの栄光の自分史を思い出す。
亡命ロシア人ということで、仕事が安定しない父を支えるように朝から晩まで働く母。
研究所勤めから一転、異国での肉体労働や宅配業もやり、愛娘の教育を惜しまない父。
二校の女子ではトップクラス。男女とも羨望の眼差しを向ける存在。
九校戦、論文コンペでは裏方として校内の意見調整で走り回った。
いつか原作の物語に絡んだ時に負けないように。

「あんたも藤林とは結構なところね」
九島の分家、日本魔法師の名門中の名門。その資産や権限は、天井知らずとも噂される。
「別に、こればかりは相手任せよ。好きで藤林じゃないわ」
少し前かがみになり、頬杖をつくカナデ。
「変わって欲しいくらいね」
カチューシャにして見ればカナデの返事は金持ちの謙遜だ。
鼻につく。
「そうね、姉が婚約者の死で涙するのを身内として見られるわ」
「・・・・・・そんなに怒ってるの」
カナデの無機質な声に、恐る恐るカナデの顔色を見るカチューシャ。

30秒ばかり無言が続いたが、カチューシャは立ち上がりホールへ戻っていく。
3分もすると、カチューシャは胸を張り、大股でカナデのもとへ戻ってきた。
「四葉に言ってきたわ、さっきのは混乱した失言で本意ではないってね」
ソファに座りカナデへ胸を張る。
「そう」
カナデはそれに答えるように、カチューシャの頭を撫でてやる。
「ちょっと!いきなり頭撫でないでよ!」
いきなりの行動で驚くカチューシャだが、言葉の割にカナデの手を跳ね除けようとはしない。
「前の時の弟に似てるのよ。偉ぶって怒られた後に謝ったことを自慢してくるの」
カナデが微笑みながら撫で終わるとカチューシャが文句を言う。
「あんた、なんでそんなに年上ぶるの?同じ一年生じゃない!」
「噛みつかないで。貴方が子供なだけよ。あなた、前は経済とか金融系の仕事してたの?」
「経済学部の大学生」
先ほどからのカナデからの扱いにカチューシャは不機嫌だ。
「そう、なら年下ね」
「あんたは」
言葉を最後まで言えない。カナデがかぶせるように
「社会人4年目」


「魔法は使える?」
「ふん、これでも二校のトップクラスよ」
カチューシャ、何回目かの胸を張る。
「学生レベルじゃなくて」
カナデは自分の発言を補足する。
「母方が軍人家系で基地に行ったときに、スカウトされたわ」
放出系については自信があるし、来年にはアイスピラーズブレイクの代表戦を狙っている。そして代表になる自信もある。
「自分の身は守れるのね。じゃあ、あたしの護衛やってよ」
「なんで!」
突然の申し出にカチューシャは立ち上がってしまう。
「強いんでしょ」
「でもあんたを守る義理は無いわよ」
腕を組み、落ち着いた声を出して座る。敵対するつもりはないが、それでも四葉達の行動には今一つ同調できない。
カチューシャは介入者としての自覚はあるが、それは今ではないと考えている。
本当に今日は転生者として、四葉を確認し挨拶するつもりだったのだ。
「人に説明を求めるのに、自分は何もしないのね」
「ロシア語できるの?」
まるでカナデが、光夜との会話を知っているようで、疑問が口をでる。
「翻訳機で同時通訳して聞いたわ。あたし戦闘は苦手なの。男子は忙しいから、あなた暇でしょ」
「さっき転生者の使命って言ったわね」
「わかりやすく表現しただけ」
「何よ、それ」
「彼氏が命張ってんの。助けたいわ」
「さっきのアラタって奴?そいつが原作ブレイクしようとしてるの?疫病神ね」
「・・・」
「なによ、こっち見て笑って」
「別に。昔っから恋人いないでしょ」
「そうよ。彼氏がいないの変!?」
顔を真っ赤にして答えるカチューシャは、恋愛感が純愛寄りなこの時代は自分に向いていると思っている。
(恋愛がなによ!私の美貌ならいつか王子様が来るのよ!)
「いいえ。あたしもそうだったから」
(可愛い・・・)とカナデはついつい微笑んでしまう。昔も今も妹はいないが、いればこんな感じで話してくるのだろうかと思った。

「その命張ってる彼氏はいないんでしょ?どこで何してるやら?臆病なの?」
「呂剛虎と一騎打ち」
カチューシャの言いぐさにはカナデは腹を立てない。表情や感情がコロコロ変わる同年代の年下の美少女が面白くてたまらないのだ。
「は?」
いきなり出てきた敵の名前にカチューシャは一瞬間が空く。
「あの人の読みだと一校に呂剛虎が来るらしいわ」
「なに、そんなの信じてるの?」
攻めるより、呆れたような声を出すカチューシャに、カナデのニヤニヤが止まらない。
「信じるわよ。惚れてるから」
「ぐぬぬぬ」
「そう言って悔しがる人初めて見たわ。いい加減諦めなさい。もう、物語じゃないの。起きることは全部即興で対応しなさい」
「即興って。音楽でもやれっての!」
また立ち上がり、地団駄を踏まんばかりのカチューシャの対してカナデは

「ダンスは得意?」


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十師族の責務を果たします

三人称視点です


「防弾ベストを着用せよ」
十文字警備隊長からの指示で雪光も兵介も防弾ベストを受け取りに
警備本部へ向かった。ついでに本番用に自分の秘密兵器を準備する。

「雪光、それ?」
唯一必殺武器を知る兵介は羨ましそうに雪光に聞く。
「兵介だって、それでしょ?」
雪光も羨ましそうに足元を指さす。
お互い微笑みあう。最高の玩具を見せびらかす子供だ。



12:54 

横浜港に入港すべく東京湾内を航行するオーストラリア船籍の船に臨検が行われた。
海上保安庁主導で海軍合同である。
「偽装船です!」
海上保安庁の巡視艇から、海軍の駆逐艦と陸上にいる2個中隊本部へ連絡が来た。

13:01
巡視艇が偽装船から離れ、駆逐艦が偽装船へ攻撃。湾内ということもありミサイルではなく機関砲による攻撃にとどまった。
偽装船は攻撃を受けながら、横浜港への入港を強行し、接岸。

13:11
接岸と同時に、陸上の2個中隊の攻撃により偽装船炎上。
偽装船はいくつかの車両(直立戦車)を上陸させ沈没。
海保巡視艇が、船から海へ飛び込んだ乗組員を救助し逮捕。

13:20
鶴見基地へ支援要請。横浜港、横浜市内へ各1個大隊派遣。

13:21
偽装船からの車両上陸により横浜港内で戦闘開始。
横浜市内でも、偽装車両から戦闘員が現れ、市内を巡回していた国防陸軍大隊と戦闘が開始される。

また横浜市周辺の検問で、銃器を積んだ車両が複数発見され地元警察に摘発される。
車両搭乗者は外国人で、後の調査で大亜連合の工作員と判明。

13:35
上空を飛ぶ無人偵察機を発見。国防軍は撃墜を検討するも市内への墜落被害を考え、ジャミングによる妨害を実施。

13:36
論文コンペティション運営本部へ事態の通達。
駐車場に展開していた陸軍1個中隊と共同警備隊との間にて協議。



「コンペティションは中止。各校の参加者の点呼を取り、国防軍の誘導で避難」
協議の席で宣言したのは十文字警備隊長である。
その場にいた軍人の誰よりも堂々としている。

その指示でコンペティション会場は忙しくなった。
警備の学生は応援や見学に来ている学生を大会議室に集め、各校で点呼。
コンペ参加の学生はデータの削除や、必要であればデモ機の破壊も行っている。

「発表前に廃棄というのもさみしいもんですね」と言いつつ、一校のデモ機の分解を手伝うのは三校の吉祥寺真紅郎だ。
重量のあるデモ機を解体するのには人数がいる。
既に舞台袖で準備が整っていた一校のデモ機の解体を、準備前だった三校が手伝っていた。
「そうは言っても緊急事態ですから」
冷静な声で、プログラムの削除を進める市原鈴音は手際よく削除すべきデータをチェックしていく。
「市原さん、こっちは大丈夫よ」
平河千春がバックアップ機の削除を終了させ、必要なデータバックアップの入ったカバンを持ってくる。

「では我々も、行きましょうか。発表は別の機会に。三校の皆さんも早く」
「ですが、解体はまだ」
言いかける真紅郎の言葉をふさぐように市原鈴音は
「不可視の弾丸は使えるのでしょう?」と言って先に舞台袖の非常口に進む。
他の生徒も市原に続いて舞台袖から姿を消すと
「一校は過激派が多いのか?」と笑い、吉祥寺真紅郎はCADを起動させ不可視の弾丸を立て続けにデモ機に打ち込んだ。

ちなみに吉祥寺真紅郎はその後「一校の市原先輩はクールでいい」と同級生に話したそうだ



「大黒特尉」
「はっ」

(中略)

「自分を関東支部へ。十師族の責務を果たします」

(中略)

13:55



14:00

「警備第一班は国防軍の指示の下、駐車場の周囲確認!第二班は建物内の逃げ遅れた生徒がいないか確認!第三班は国防軍に随伴し、地下通路の警備!」
共同警備の本部では一校の服部が隊長の十文字に代わり、この後の配置を端的に説明していた。

「「「はい」」」

服部刑部の声で、数十人の警備は各々の配置へと移動する。
「服部先輩」
声をかけて来たのは四葉光夜だった。
生徒会の一員である光夜は共同警備よりフレキシブルに行動が出来た。
「ど、どうした四葉」
緊急事態とは言え、服部は光夜の圧力に押されてしまう。
(わかる、怒っている)

光夜が端から見てもわかるように怒っている。
情動干渉や精神干渉に匹敵するのでは?と勘ぐってしまうほど光夜の圧力は強い。
「四葉、なにか提案であるのか」
「会場外での国防軍への協力許可を」
言外に「反撃する」と言っている。服部はそう思えたし、事実そうだ。
服部は一度深呼吸。
「それは認められん。会場外の警備は国防軍が行っているし、まだ共同警備が必要なほど戦場は荒れてはいない」
現在の服部が把握している戦況は国防軍有利だ。
横浜港での戦闘も、市内での戦闘も敵が大きく展開する前に対応できているので戦火は広がっていない。

その時、爆音がこだました。
「なんだ!」

状況が変わった。
中華街より8台の大亜連合制式の直立戦車が発進。数十名の歩兵が随伴し、魔法協会関東支部と論文コンペティション会場へと殺到したのだ。
戦力の半数がコンペティション会場を取り囲み、魔法戦、銃撃戦が開始された。

「服部先輩、状況が変わりました。会場外への斥候の許可を」
「わかった!だが交戦は避けろ。まずは情報を持ち帰れ!」

14:05


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恋の自覚

三人称視点です。


会場外で戦う下士官から「中華街に敵兵力が潜んでいたようだ」と聞かされた光夜は、即座に服部に報告。この会場が戦場になったことを告げる。

会場にいる戦力は1個中隊であり、戦車ではなく数台の装甲車と兵員輸送車があり、複数の直立戦車を撃破するほどの火力は厳しい。
歩兵の数も上回っているが多数の高校生を守ることを考えれば籠城し、部隊の増援到着を待つ。
それが国防軍から提案された策だった。

生徒たちが集められた大会議室では動揺がひどい。
中条あずさが声を出して、動揺を収めようとしているが一向に鎮まる様子はない。
七草真由美は、梓弓を使い生徒たちを静めることを進言しようとあずさに近づいたが
それより先に光夜が何やらあずさにささやく。

中条あずさが意を決したように梓弓を発動する。
範囲系情動干渉魔法「梓弓」
彼女の魔法をもってすれば動揺する群衆を静め、人の話を聞ける状態にできる。
「落ち着いて下さい。外には国防軍の皆さんと共同警備隊が安全確保に動いています。私たちが冷静さを失うと被害が拡大します。今は彼らを信じて待ちましょう」

あずさの声は生徒たちに響いたのが先ほどの動揺による猥雑さが嘘のように静かになった。
七草真由美は自分の役目を取られたようで光夜を見た。

一方、光夜はこの状況について思考していた。

「中華街には手を出さない」は裏返しすれば「中華街は当日は協力しない」
これは周と陳の契約だ。

だが今は違う。周とは違う組織が「中華街が戦場になるのもやむを得ない」を前提に「戦力面での協力」をしたのだ。

そう光夜は認識した。思ったよりもあの街は根深いとも感じた。

そして先ほどから光夜の中には激烈な怒りがあった。

「中条あずさに危害を加えようとする大亜連合への怒り」と認識するのはもう少し先の話であり、中条あずさへの恋の自覚と同時でもあったことを記載しておく。



どこかから銃による散発的な射撃を防ぐためとはいえ、敵に身を晒すような位置に立つとはカチューシャは思わなかった。
会場4階の廊下脇にある野外テラスでカナデが作業をするというので、一緒にテラスに出ると、どこからか銃弾が飛んできたのだ。
カチューシャは急いで障壁を展開した。
「もう、いや~!」
今も会場外のどこかから撃たれており、障壁が着弾音を教えてくれる。
「そう言ってないで障壁維持して」
カナデはカナデで、タブレットを取り出し、小さなアンテナのようなものを取り付け、その周りで指を動かすだけだ。
冷静なカナデに怒るやら、早くこの場を脱したいやらでカチューシャはロシア語でわめきたてる。

『dhふあyvふぉいfんこiuyvいおびょlvなbcy』

そんなカチューシャを無視して、カナデはタブレットをアンテナごと地面に置き、別のタブレットで通話を始める。
「お姉さん?こっちは大丈夫。タイミングはそっちでどうぞ。うん、撤退する」
それだけ話すとカナデは通話を切り、警備本部の内線へ通話する。
「一校警備の藤林です。上階で逃げ遅れの二校生徒を発見しました。どちらに?わかりました」
「ちょっと逃げ遅れって!」
自分を逃げ遅れにしたことを非難するがカナデは意に介さない。
「行くわよ、地下の避難路からシェルターに行けって」
カチューシャの手を引っ張りテラスから建物内に戻る。



「ええ、こちらであとは行うわ。早く避難してね」
藤林響子少尉は国防軍魔装大隊が待機する立体駐車場で妹からの通信を終えた。
すでに、魔装大隊の面々はムーバルスーツの着用を済ませ、いつでも行ける状態だ。
最後の準備として、無人偵察機のコントロールを奪う必要がある。
その役目は藤林響子と奏の姉妹によるハッキングであった。

(あの子が大隊に入ってくれれば私も婚活する時間できるかしら)
響子がそんなことを考えたときに浮かんだのが、千葉の長男なのは最近よく会っているからだろうか。

響子の手が滑らかに操作パネルをいじると、前面の12分割された大型モニターには
横浜を上空眺めるライブ映像が映る。

この時から大亜連合軍は横浜上空からの支援を失ったのだ。

「藤林です。こちら無人偵察機の奪取に成功しました。いつでもどうぞ」
その言葉を合図に柳を先頭に部隊は空へと向かっていく。
「大黒特尉も気を付けて」
「了解した」
一言、達也が返すと響子はモニターを眺めナビゲーションを始めた。




雪光は手にした棒型CADを起動させた。本当はもう少し短くしたかったが耐久性やら内部のストレージを調整した結果25cmとなった。

棒の先端5cm程度が棒からまっすぐ離れ、70cmほどのところで浮く。

そして浮いた先端と手にした棒を結ぶ直線に想子が満たされ、光の剣のようになる。
これが雪光秘策「想子剣(サイオンソード)」である。

雪光は想子は「水」と同じだと捉えている。水を手ですくい投げつけると球体のように飛んでいく、放出すれば飛沫となる。だが空中で水を固定するのはできない。

想子を光と同様にとらえる人もいるが、雪光は水の例えがしっくりきた。

想子を剣の形にとどめておくは以外と面倒だ。千葉家の秘術や一部の秘伝には存在はするが、それでも長時間固定化させるということはされない。
もっと言えば、純粋な想子を剣としているのではなく、魔法式に則って想子を加工し剣として成型している。

だが、雪光は純想子を棒状にする方法として、先端部分にCADのパーツをつけ、A点とB点での間で展開させる方法を取った。A点となる先端部分を中空に固定する方法は九校戦で見たレオのCADからの発想だった。

この想子剣だけが奥の手ではない。加重や硬化魔法を使えば「硬くて重い棒」として使えるし、そこに高周波を付与してやれば切れ味に上限の無い剣になり得る。また変数を調整してやれば、刀身の形状や付加される属性も変えられる。

それを高速戦闘で行うのだ。
最初は二刀流も検討したが片手は空けた方が別のCAD使用できるので、泣く泣く一本にした。

「じゃあ、先行くよ」

雪光の声にうなずく兵介。
兵介の脚には軽量素材で作られたブーツと一体化されたレッグガードがあった。
ブーツのつま先や、かかと部分は氷上用のアイゼンのようでもある。
吉祥寺真紅郎を巻き込んで三校の工学サークルと一緒に造った一体型CADである。
まず右足のつま先で二回地面を叩く。次は左脚のかかと。これで起動だ。
「よし!」
一気に走り出す兵介。左腕のCADから盾形に障壁を展開。ただの障壁ではない。
円形ではなく、正面に対して円錐状だ。
脚のCADは「加速!」の一言で加速と加重、摩擦調整を引き受ける。
兵介が行うのは魔法力の供給と自分の身体をコントロールすることに集中できる。
競技用ではない本気の本気である。



既に正面玄関と駐車場は戦場だった。装甲車で外部からの侵入路を塞ぎ、敷地外から直立戦車や歩兵が銃撃を浴びせてくる。
国防軍内にも魔法師はいるが、建物への断続的な障壁展開など防衛に手いっぱいだ。

本来、魔法師は貴重なのだ。

「くっそ!」
「落ち着け、桐原」
建物内、エントランスの柱の陰から、外を悔しそうに見るのは沢木碧と桐原 武明だ。
制限された空間ならまだしも、開けた野外での戦闘では、二人のような白兵メインの魔法師は分が悪い。
二人の移動魔法や剣術、格闘術は十分戦場で通用するだろう。
だが、これほどまでに多数の砲火にさらされる場所では的になりかねない。


「あ、先輩ちょといいですか」
「オッス、すいません。通ります」

二人の横から外に出ようとするのは雪光と兵介だった。

「おい!何考えているんだ。建物内から出るなと言われているだろう!」
沢木が厳しくしかるが、二人は振り返り
「先ほど服部先輩から、共同警備の国防軍への前面協力がOKでました。まず第一陣で行ってきます」
「自分も一校には負けてられないので」

「ちょっと待て!こちらエントランスの桐原!国防軍への協力は?!今からOK?!第一陣ははっと・・」
雪光と兵介を呼び止め確認の連絡をした桐原を横目に、雪光と兵介はCADを起動させる。

「じゃあ先行くよ」
「よし!」

沢木と桐原の前で、二人の制服で出来た白と赤のラインが一瞬でエントランスの割れたガラス扉を越え、装甲車のバリケードをも越え、敵陣へと入っていった。

そして30秒後に帰還した雪光と兵介により、敷地外で猛威を振るった直立戦車4台が大破した。

「おい沢木」
「何も言うな桐原」
二人は自分たちが見たのが、魔法師の戦いではなくヒーローの活躍のように思えた。

「桐原!おい!何があった!第一陣が行くまで手を出すなよ!」
桐原の連絡用タブレットから流れる服部の声がエントランスに響く。



「同じ時間軸にいないと連携が取れない」
そう言われた雪光は一瞬悩んだが、すぐにひらめいた
「兵介がいるじゃん」

横浜騒乱の事態収拾に関して、雪光は兵介との情報共有を提案し、みんなから許可が出ると、すぐに兵介に伝えた。
自分の戦闘スタイルの弱点も一緒に。

兵介からの返事は一言。
「やってやろうぜ!」だった。

国防軍がこれだけいると、横浜騒乱は起きないのでは?と雪光は思った。
それでもいいかも、とも思った。そりゃ人命一番だ。
多少警備の多さで会場がざわついたけれど、特に何も起こらない。
真由美先輩ともお喋りできた。

だが昼を回ったときから変わった。動揺する生徒に、表情が険しくなる軍人。
そして冷静に努めるが指先が震えている真由美先輩。

「兵介、行こう」
「男子奮い立つは女子の指先ってか?」
兵介は雪光の視線から、なにを持って出陣を決めたのか悟った。
「じゃあ、俺は友達のために戦うかな」
その時、服部隊長代理から国防軍との共同戦線の話が出た。
第一陣の話が聞こえてきたが、今は自分がやらねばと雪光は思った。
(恋の力、とか言うと笑っちゃうか)
自分の気持ちは自覚していたがこんなところで行動の動機になるとは、と雪光は少し笑った。


二人の戦闘スタイルは速度だ。絶対的な速度。銃弾も、音も置いていくスピード。

正面玄関から出た二人は、三歩目には九校戦以上の速度を出していた。

常人の二呼吸で二人は装甲車で作られたバリケードを越えて敵陣の正面に居た。
雪光は右、兵介は左に進路を変える。

兵介の前にいた敵兵は、何がいるのか把握する前に、知覚できた者も少ないだろう。
赤い塊が人をはね飛ばしていく。そして直立戦車の脚部へ激突する。

高校生とは思えない剛体が、信じられない速さで激突した。ただの激突ならいい。
兵介はすでに自己に加重をしており、その重量は200kgを越えていた。

超加速された200kgの物体が障壁魔法を展開して激突する。
それは人型の砲弾と言っても違いはなかった。

脚部の衝撃で横倒しになった直立戦車は起き上がろうと脚部が動き出すが
「うおおおおおおおおお」
兵介はそのまま直立戦車を押し込む。
近くに駐車してあった乗用車に激突する。

横倒しになった直立戦車を駆けあがり、コックピットの真上に立つ兵介

「ランス!」

そう叫ぶと右手から円錐状の障壁が発生する。
そのまま右手で殴りつける。更なる加重も行う。

兵介の切り札である。本来は走りながら円錐状の障壁を叩きつけるが
今は加重を重ねた一撃を足元に見舞う。

そして離脱。これを数回繰り返す。
戦場を走り回る砲弾だ。数度往復した時には直立戦車は横倒しのまま沈黙した。


兵介が剛の速度なら、雪光は鋭の速度だった。

展開した想子剣は、重量を与え、高周波で振動させている。
近くにいる兵士たちは腕や脚を切られた。
目の前にいる直立戦車は足元から頭頂部まで駆け上がりながら切りつけた。

雪光の世界にあるのはほんの少しの重力と、遅れてくる音と、向こうで走り回る兵介だけだった。

今は孤独ではない。彼方で雄たけびを上げて走り回る兵介は、今の雪光から見てもちゃんと「走っている」

高速世界の高周波剣。触れる者は鉄であれ、人であれ、アスファルトであれ、まるで豆腐だ。
兵介が走る砲弾なら、雪光は動き回るレーザーだ。

3台目の直立戦車を切りつけ終わると、一度距離を取った。その瞬間、物理現象が追い付いたかのように
直立戦車は文字通りバラバラになり、敵兵士たちは己の痛みと、傍らに立つ小柄な高校生を認識したのだ。

「兵介!」
「おう!戻るぞ!」

二人は二呼吸の後にエントランスへ帰還した。

この件で、服部先輩には怒られ、雪光へのマーシャル・マジック・アーツ部と剣術部からの勧誘が多くなった。
達也と深雪には呆れられた。

光夜は自分の行いもあって、何も言わなかった。



論文コンペ会場周辺の戦闘は沈静化した。直立戦車が無くなり、歩兵も重傷多数となり敵の戦意は堕ちた。
警備の国防軍が攻勢に出て、周辺の安全は一応確保された。

「服部隊長代理」
「今度は一条か」
警備本部を出てエントランスまで移動した服部は一条家の跡取りに声を駆けられた。
服部は雪光と兵介に拳骨したが、兵介の頭蓋骨の固さに右手が痛い。
そして一条である。
「当ててやろう。『十師族として魔法協会関東支部の防衛に参加したい。現場の離脱を認めてほしい』だろ」
「よくお分かりになりましたね。服部隊長代理の慧眼には驚かされます」
自分の意思を一言も間違えずに当てられ、一条将輝は驚いた。

服部はいきなり「十師族として魔法協会関東支部の防衛に参加する」と言った十文字の後を任されたので、十師族のやりたいことは何となくわかった。

(もう少し、説明と指示を出してから離脱してくださいよ。十文字先輩・・・)

雪光と兵介の独断専行以外に、いつの間にか司波達也はいなくなる、七草真由美と行動を共にすることで自由に動き回る司波深雪&千葉エリカ&西城レオンハルト&吉田幹比古etc。
(ゲリラ狩りでも行っているのだろうか)
胃が痛む。四葉シフトではなく、二科生問題児シフトも必要なのだろうかと、服部は考える。

(勘弁してください~、七草先輩)
惚れた弱みと納得するしかないのか、服部はそう思っている。

国防軍の先導で生徒たちはシェルターに、向かうべく地下道を進んでいる。
殿は共同警備隊であり、服部自身は最後に建物を出るつもりだった。

「言っておくが吉祥寺は置いていけ。警備隊の戦力をこれ以上低下させるわけにはいかん」
「そうですか!では自分は?!」
服部は大きく何度もうなずく。
一条将輝は一度服部に敬礼し、駆け足で建物から出ていく。

「行け。行ってしまえ・・・」
呟く服部は、明日、いや状況が落ち着いたら桐原や沢木を誘ってカラオケに行こうと思った。
きっとあの二人も叫びたいに決まっている。

「お前ら何なんだ!」と。



後の世に「灼熱のハロウィン」と呼ばれる大亜連合の横浜襲撃の事件は、幾つかの逸話を残すこととなる。

十文字克人と一条将輝による義勇軍指揮とゲリラ狩りの武勲

シェルターへの道中で藤林奏が見せた正確無比な索敵&川村エカテリーナの「司波深雪に出来ることなら大体できるわ」と言い放ち、敵兵士を氷漬けにした魔法。

シェルター周辺の安全確保のため、獅子奮迅の活躍をした桐原、沢木、十三束、壬生の活躍。

コンペティション会場を最後まで国防軍と守り続け、共同警備隊の指揮を執った服部のリーダーシップ。

吉祥寺真紅郎による狙撃兵への逆襲の一撃。

司波雪光と黒城兵介による30秒の大乱戦、そしてその後の横浜中を走り回っての大活劇。

横浜港への逆撃に参加した千葉エリカ、西城レオンハルト、吉田幹比古、柴田美月、千代田花音、五十里啓、光井ほのか、北山雫、お目付の千葉寿和警部の遊撃部隊。

陳祥山を捕縛した、司波深雪、七草真由美、渡辺摩利の大活躍。

飛行部隊として敵制圧に尽力した魔装大隊。

そして、魔装大隊による戦略級魔法師の魔法行使の噂。

何より、四葉光夜の「招雷」の魔法行使である。



「会長。このまま進んでください」
地下道を進む学生の一団。見学、応援の学生は絞られており、コンペ参加の学生や関係者を含めても300人もいない。

集団の先頭には国防軍の小隊と共同警備隊の選抜メンバー、索敵能力が高い藤林奏と遠距離攻撃や障壁を得意とする者たちだ。
その集団を引っ張る先頭あたりを歩く中条あずさに光夜は声をかけた。

「四葉君、もしかして地上に出るのですか」
あずさは周辺に動揺を及ぼさぬよう、小声で光夜に返事をした。
光夜も同じように小声で返す。
「ええ、地上に出て状況を確認します。必要があれば戦闘も行います」
それだけ言って集団を離れようとする光夜の制服の袖をあずさは掴んだ。
「本当は、本当は危ないので行ってほしくないです。でも十師族の責任もあると思います」
最後の方は消え入りそうな声だ。
光夜は立ち止まり、あずさの次の言葉待つ。
「ですから、ちゃんと戻ってきてください。会長命令です」
少しくらい地下通路の中であずざの目元に涙が見えた気がした。
「わかりました」
光夜は微笑む。
(この人はこんな時でも俺の身を案じてくれる)
「その、み、光夜君。ご、ご武運を」
あずさが今できる最高の笑顔で、光夜を送り出した。

一人、地下道から支道を使い地上に出たとき、光夜は嬉しかった。
これほどまでに頬の筋肉は緩んだことはない。
「ふふ、ふふっふ、はっはっはっはっはっは!」

まるで世界を手に入れたかのような高笑いをすると、CADを起動させ飛行魔法を使った。
高層ビルと肩を並べるほど上昇し、止まる。
下からは大亜連合と思われる兵士から銃弾が飛んでくるが障壁が阻む。

(最高の気分だ!なぜだ!これほどまでに心が高揚する!)

空中から視界内を睥睨する。
知覚魔法を使用し、知覚範囲を把握する。一分ほどすると視覚範囲内はだいたい理解した。

もう一度、CADに触れる。
使う魔法はこれだ。

光夜の足元から、六条の雷光が立ち昇る。雷光は一瞬起立したかと思うと、今度は放たれた猟犬のように横浜市内を縦横無尽に轟音を立てながら這いまわる。

精霊魔法や式神に使われるスピリチュアルビーイング魔法を「昇雷」と組み合わせた、光夜オリジナルの魔法だ。
雷は光夜の視野と同期し、手足いや、指先のごとく市内を高速で這いまわる。

雷が敵兵を捉えると、そちらへ電撃を飛ばす。敵の車両や、直立戦車だけではない。
国防軍や市民、義勇兵達に敵対するモノへの容赦ない雷撃。

空中で止まり敵を探すような仕草もする。雷の形をした生き物のようだ。

遥か高いところで高笑いを時折しながら光夜は、目につく敵を容赦なく攻め立てる。

これが「四葉光夜の招雷」の魔法行使だった。

これにより敵の残存兵力の50%は潰された。昼間の戦闘でもっとも戦果をあげた瞬間だった。




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教えてやるぞ、魔法師の殺し方を!

ほんの少しの瞑想も、深く入れば30秒が2時間とも思える。
俺は生徒会室の床に胡坐をし数十秒の瞑想を終えた。
このあと、確実にあの呂剛虎と戦わなければいけない。

千葉修次に匹敵する魔法白兵戦の達人。
五体満足、決死の意思、そして武装。そんな相手を迎えての命懸けの勝負だ。
卑怯などと言わず、遠距離からの射撃や警備と連携しての制圧も視野に考える。
死なないためにも、不安要素を無くし迎えねば。

生徒会室の扉が開いた。
「おーい、お菓子持ってきたぞ」
何しに来たのよ!モーリーよ!
コンビニの袋を抱えたモーリーが生徒会室にやってきた。
須田ちゃんも一緒だ。

俺ね!これから!人間戦車みたいな奴と命懸けの戦闘をする可能性があるのよ!
気楽に来て、俺の護衛対象増やさないでくれません!モーリーよ!
須田ちゃんも「エクレアとシュークリームどっち食べる?」とか軽く言ってんじゃあないよ!
シュークリーム一択だよ!

「二人ともどうしたの?」
俺は極力動揺を抑え立ち上がり、二人に聞く。テーブルに置いたタブレットには警備から登校した生徒のデータが送られている。

論文コンペの当日は休校となった。
基本的に生徒は自宅待機だ。数名の教師と一部の生徒が登校し、用事を終わらせるとすぐ下校することになっていた。
今は生徒会の俺や、受験用に資料を貰いに来た3年生が数名、部活の来年度の申請について打合せしている部活連が数名。そして、遊びに来た目の前の二人だ。

「どうせ、家に居ても暇だったから須田誘って顔見に来た。暇そうだな~」
忘れていた。男子高校生ってこんなもんだった。
「ここが生徒会室ね~。自動配膳のシステムどれ?」
須田ちゃんが物珍しそうに生徒会室を眺めて歩き回る。
「部活連の執務室と変わらないだろ?」
「もっと、こう汗のにおいがするんだよね。ほら部活連の執行部って男所帯だから」
須田ちゃんの説明にモーリーもうなずく。
まあ確かに部活連の執行部は妙に男子が多い。
服部さん、女子の扱いとか苦手そう。
「でもさ、生徒会女子多いじゃない?ねえ多いでしょ?」
須田ちゃん、近い近い。顔近い。

「それはあれか?紹介しろと」
「うん!中条会長とか、司波副会長とかフリーじゃない!前の生徒会でも市原先輩とかも彼氏いなさそうだし!」

恋に恋する男子か。須田ちゃんがその後も「光井さんかわいいよね~」や「明智さんもいい!」「里見さんもボーイッシュでいい!」「桜小路さんも里見さんと仲良くてそれはそれでいい!」「北山さんのアイスピラーズの振袖?も良かった」
他にも六校の生徒やら四校の女子生徒やらいろいろ出てくる。
「でも須田ちゃんさ。そこに看護師のお姉さん方の連絡先を持ってる奴いるよ」
俺は他人事みたいな顔して、ジャンクフードの袋を開けているモーリーを指さす。
須田ちゃんは妙に余裕を持った笑みを浮かべ、モーリーを見る。
「いや~、ほら春が来た人から春奪っちゃうのもね」
お前!モーリーよりも自分の方がモテるとか思っているのか!スゲーな!その自信分けてくれ!

その後は須田ちゃん主観の可愛い女子生徒の話と、モーリーが女性看護師さんの買い物に付き合わされた話を聞いた。
え、須田ちゃんマジ?中学時代にバレンタインチョコを女子から10個貰ったて。マジ?スゲーな。ホントに?お母さんチョコじゃなくて?動画残ってる?見る見る。うわ~、スゲー。女子から義理と本命の間位の気軽さでチョコをもらえてる。
須田ちゃんガチでモテ男子だったんだ。どう?ハニトラ専門の諜報員とかやらない?

ちょっと、モーリーも真面目に「プレゼントのお返しはなにがいい?」と須田ちゃんに相談しない!
「いや~、そういう場合はさ、モーリー自身とかがいいんじゃない?」お前はおっさんか!中年セクハラ親父か!

久しぶりに腹の底から笑った。
昼飯代わりにジャンクフードとお菓子を食べ、本当にくだらない男子高校生を満喫した。
13時も少し回った時に、生徒会室の扉が開き、軍人が入室してくる。

「横浜で戦闘が発生したそうだ。念のため、校内にいる生徒の所在確認をしたい」
来た!これで俺は笑ってはいられなくなった。
「こちらへどうぞ」
軍人、階級を見るに少尉、を伴い俺は生徒会のコンピュータを操作し、登校した生徒の入室履歴を確認する。
俺と須田ちゃんとモーリーを除いた、10人は資料室に3人、部活棟のミーティングルームに7人だ。

少尉は居場所を確認すると携帯していた通信機で他の警備に連絡する。
「資料室のある棟に3人、部活棟に7人。生徒会室に3人です。各所に一班ずつ?はい。はい」

今日一校に警備しているのは60名程度だ。
装備はそれほど重装備ではない・・・わけはない。警備室には突撃銃やら軽機関銃などの実弾兵器が置いてあるし、駐車場に止められた数台のバンの中には、正規軍の装備が詰め込まれている。

警備員こと国防軍兵士の装備はちゃんとしている。防弾ベストに警棒、ゴム弾の拳銃。
そして準備された銃火器。10人20人が来ても対応できるだろう。
問題は呂剛虎がどう来るか。

「我々は、どう行動しましょう?」
少尉さんに行動指針を確認すると
「何かあれば、他の者が誘導にくるから、それまではここにいてくれ」
少尉の説明が終わると同時に、何か大きなものが、具体的には民間向けにカスタマイズされ販売されている軍用車両の数台が校門をぶち破り、警備が準備した簡易の車止めの壁を打ち破り、校内に侵入したような音だ。

さっきまで馬鹿話をしたモーリーと須田ちゃんも緊張した顔になる。



さて緊急事態だが、俺は俺でやることがあった。

「生徒会室からのデータベースアクセスをロックしますので後から行きます。集合場所を教えてください。終わり次第向かいます」
早口にならず、出来るだけはっきりと語気をやや強めに言う。決意の声、という発声方法も修得している。演劇学校でも開校するか?
「君一人で」
少尉もいきなりの申し出に言葉が詰まる。実際生徒会室のアクセスをロックしとかないとヤバいし、その方法を知っているのは俺だけで、30秒で終わるほど簡単じゃない。
「これでも生徒会役員です。やるべきことがあります。モーリー、須田ちゃん。その人と一緒に避難して」
二人は不安をかき消すような笑顔で答える。
ブランシュ襲撃の経験もあるモーリーは俺のすべきことを理解してくれたようだ。
須田ちゃんは釣られ笑いか?須田ちゃんらしくて和む。
「お前が合流する頃には俺たちで鎮圧してるかもな!」
「うんうん」

少尉は「急いで来なさい。もし銃声がしたら、動かず隠れなさい。迎えの部隊をやる」
そう言いながら集合場所を伝え、モーリー、須田ちゃんの二人を連れて生徒会室を出た。
俺は大急ぎにマニュアルに沿って、コンピュータのシャットダウンと、データベースアクセスロックの手順を行った。
この部屋を完全退避するなら銃弾3発くらいで済むが、明日にはまた使用する。
諸々の作業を5分ほどで済ますと、俺は部活のロッカーから今朝生徒会室に持ち込んだ玩具を取り出した。

一つは本気用のCAD。ブレスレッド型のアレだ。やっぱりFLTの新モデルは動作が軽快だ。経費でおちないかな~。

もう一つの方、黒い樹脂製のケースを部屋の隅に置いておいた。
ケースを開け、情報部の装備保管庫から引っ張り出した玩具の準備を始める。

・個人防衛火器(パーソナルディフェンスウェポン)。俗に「PDW」と略される小火器
 45ACPを30発装填が可能なモデル。サプレッサー(消音装置)を装着するので割合静かだ。

・45ACP用のハンドガン。マガジン(弾倉)はPDWと互換性がある。こちらもサプレッサーは装備している。

・特殊グレネード。フラッシュバン(閃光手りゅう弾)と煙幕弾をいくつか。

・軍用のグローブと陸軍制式採用のボディバッグ、そして細々とした装備

制服のブレザーを脱ぎ、腰にはホルスターをつけハンドガンを装備。
軍用グローブをつけ、何度が拳を握る。
たすき掛けしたボディバッグにマガジンとグレネードを入れ、PDWを手に部屋を出る。

目指すのは集合場所じゃない。図書館だ。特別閲覧室。
ブランシュも襲撃目的とした場所。唯一国立魔法大の非公開文献へのアクセスが可能な場所。

表の騒動は陽動だ。勿論警備の国防軍は承知しているはずだ。だが陽動は二人の人間を除いた最大戦力を投入できる。
暴れて暴れて暴れまくればいい。陽動など承知の上で暴れまくる。被害を出せばいいだけのバカ騒ぎほど手を焼くものはない。

大亜連合は呂剛虎と、ハッキング技術を持った工作員。この二人を図書館に送り込み、特別閲覧室に行ければいいのだ。

表の騒動は始まって10分といったところ。

混乱が徐々に学校内に広がり始めるだろう。
俺は入学して最大の速度で校内を走り抜ける。
正門の方で爆発音がした。頼むぞ。上手く立ち回って、大亜連を抑えてくれよ。

校舎を出ると建物の影から影へ。人に姿を見られないよう移動する。
今の俺は正規の任務として動いていない。
情報部が一校にいることは、警備の国防軍では指揮を執っている大尉殿しか知らされていない。
それも「情報部が一人紛れ込んでいる」程度のはずだ。

本来であれば警備に加わることなく、爪でも噛んで任務のため暴れるのを耐えなければいけないが
今の俺は我慢どころではなく、武器を手に走っている。

独断専行。勝手な判断。敵と間違えられて撃たれたって文句は言えない。

呂剛虎を仕留めるのは国防軍としての責務以上の理由がある。カナデの言葉を借りるなら「転生者の使命」だ。

妙な責任感を感じるが、これもこの世界に生まれ、未来を知る者だけが味わえる責任感と思えばちょっと特別感があっていい。

そして、今この学校内にいる人間で呂剛虎を打ち取れるのは俺だけだ。

既に図書館前では警備の国防軍が数人倒れていた。
俺は口元をハンカチで巻きつけ、顔を隠し近づく。

「大丈夫か」
呂剛虎は急いでいたのか、倒れている国防軍には止めを刺していない。
といっても、見るからに四肢欠損しているものもいれば、まったく身動きもせず血黙りで倒れ込んでいる者もいる
まだ息のある一人に声を掛けた。肩からの出血は見受けられるが一番マシな兵士だ。
「君は」
「情報部。詳細は言えないが味方だ。ここに来たのはどんな奴だ」
まだ若い顔つきの兵士は突然の情報部の登場に驚くが襲撃者の様子を語ってくれた。
「二人です。一人は鎧の大男。もう一人は実弾銃を装備していました」
「わかった。救援は呼べるな。相手の工作員に魔法師がいると伝えるんだ」
俺がそれだけ言うと、近くに落ちている通信機を兵士に渡した。
今応急処置を施せば助かる者もいる、瀕死の者もいる。
だが呂剛虎を止めないと、日本の魔法技術の流出、ひいては魔法を基幹とした国防体勢にヒビが入る。
つまりは戦争へ近づく。

「ご武運を」
俺が歩き出すと兵士はそう言ってくれた。

頭と気持ちは落ち着いている。冷静だ。素数だって数えられる。
呂剛虎に伝えたいことが出来た。



教えてやるぞ、魔法師の殺し方を!



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魔法師の一撃は痛い

音も出さず、だがそれでも速度を落とさない。
速く、静かに図書館内を移動する。敵は二人。それでも伏兵に注意し、曲がり角は少し慎重に移動する。

俺は特別閲覧室へ続く廊下まで来た。ホントこの高校の装飾センスは微妙だ。
敷地内の建物は統一の建築様式を採用せず、この図書館はどっちかというと近代建築、もっと言えばお役所や研究所チックだ。廊下の明かりは足元の非常灯のみ。だが昼間の太陽が入り廊下はそこそこ明るい。

まずは廊下の角で身を隠し、装備の中からマイクロファイバースコープを出し、タブレットに接続。スコープの先をそっと角から出し、呂剛虎と工作員の姿を視認する。
呂剛虎だ。ありゃ十文字前会頭よりでかいぞ。それにコスプレ。スゲーな古代中華風の鎧かよ。三国で無双しそうなカッコだな。

作業着の工作員はタブレットを使用し、特別室のドアのロックを外そうとしている。
前回のブランシュ襲撃からロックのレベルは上がっている。ほんの数分で破られることはないだろう。

廊下は直線距離で25m。行き止まりには特別室の扉。二人は扉の前。
呂剛虎は追手を遮るように工作員の盾となり、扉の前で仁王立ちだ。

鞄の中にスコープとタブレットを入れ、代わりに二つ特殊グレネード取り出す。一つは腰に吊り下げる。もう一つはピンを外す。
あまり時間がない。ドアロックが破られればヤバい。ごり押しだ、肉を切らせて骨を断つだ。俺は歯医者で我慢できる子!

手元のグレネードから少し煙が出る。廊下の角から廊下中央あたりにグレネードを投げ込む。
1秒で煙が廊下の視界を奪う。俺は先ほどスコープで見た光景を頭に浮かべ、廊下に飛び出し、PDWの引き金を引く。
数発発射したが、はじかれた音。気にしない。廊下の窓側に身を寄せ、身をかがめ、走りながら連射。標的は呂剛虎のあたり。

煙を抜けると呂剛虎が拳法の型で構えていた。
装備を身につけていようと25mなど一瞬だ。俺の最速は100m7.75秒だ。
一気に距離を詰める。虎さんは完全に待ちの構えだ。俺は移動速度を緩め、数歩離れたところから呂剛虎の頭部に射撃を加える。

呂剛虎は頭部の射撃に対して、顔の前で腕を組み耐えている。
あれがご自慢の硬気功か。45ACPなど顔の前でうろつくハエだな。
だが、弾丸が寸分たがわず自分の顔面を襲うためか反射的に顔を守る。
この射撃に慣れて反撃の体勢が整うだろう。次の手だ。右手は射撃を維持する。左手は腰のグレネードを掴みピンを外し、ヤツの少し先に投げつける。射撃の手は緩めない。

ボン

「ガァ!」

呂剛虎の動きが止まる。突然の閃光に視界が遮られ、反射的に体が丸まる。
この一瞬だ。それで充分。障壁も硬気功も維持できまい。
俺は引き金を三回引く。念のためだ。弾は肉体を貫通しなかった。

扉の前の工作員は膝から崩れ落た。頭部に弾着し絶命した。

これで負けは無くなった。呂剛虎は俺の奇襲で判断が遅れただけだ。俺の俊敏さが勝ったのだ。



最初の銃弾を弾いた音の後に、呂剛虎の移動音があればヤバかったし、もっと言えば奴が煙幕を吹き飛ばすなり、排除する魔法を使用していれば負けていたかもしれん。

既知未来知識において、奴は十文字の坊ちゃん(違和感)のような障壁を移動させる術も、エリカ(上の兄貴にはため口で、下の兄には慇懃な言葉使うとかブラコン拗らせすぎかよ)のような自己加速による高速移動もしなかった。

半径3m内の近接格闘に特化していると判断し、そこに賭けた。そして奴は最初の煙幕内からの射撃を受けて、射手である俺に接近してこなかった。
つまりは壁役になったのだ。

豆鉄砲は通じないし、大抵の魔法は受けきる自信があったのだろう。玄関先で倒れた兵士を見て、国防軍の保有する装備では自分は負けないと過信したのか。

魔法は強力だ。だが戦場で判断するのは人であって魔法ではない。

俺が七草のお嬢さんみたいにツララを飛ばしていれば負けていた。
奴は弾速の遅いツララを目視し自分の魔法が負けないと判断し、硬気功を纏い突っ込んできたかもしれない。

45ACPの弾速は大体、時速900km。ツララはどのくらいだ?時速200km?

煙の中から来たのは何かしらの銃火器で、恐れるほどではない。
壁に徹して煙が晴れたら俺を仕留める腹積もりだったのかも知れない。
事実、最初の射撃後にこちらへは移動していない。

奴からすれば案の定、煙から出てきたのは銃火器で装備した人間。
的確に顔面を撃ってくるので、顔をガードした。

そしてボン!である。

煙幕を焚いてから10秒ほど。

俺は魔法で勝ったのではなく、顔面への攻撃を嫌う人間の本能を利用したのだ。
俺は自分の兵士としての技量と、神から与えられた「超人的肉体」による俊敏さを心の中で誇りつつ、次に来る衝撃と痛みを待ち構えた。

「ガァ!」

呂剛虎の振り回した腕が俺の体をガラス窓に飛ばす。
神に貰った超人的肉体でも痛いもんは痛いし、俺の肉体は人間の上限ギリギリであって、人間以上の耐久力はない。
つまりは魔法師の一撃は痛いのである。
こっちの「ボス、ボス、ボス」という小さな発射音から当たりをつけて殴ってくるわな。

痛い。



窓を突き破り、俺は二階から飛び出る。

窓は強化窓だ。それを割るほどの衝撃が俺の身を襲い、着地を雑にさせる。
頭部や肩から地面に衝突することなく着地は出来たが、やはり衝撃は強く二呼吸ほど動きが止まる。

実のところ、閃光手りゅう弾、スタングレネードとも呼ばれる鎮圧用の手りゅう弾は俺にも影響を与えた。
閃光は投げたタイミングで目をそらしたので、視覚は大丈夫だが、耳が本調子じゃない。
平行感覚に影響がなければもう少し上手く着地できたはずだ。

呂剛虎は俺を追うように、二階から降りて来る。
俺はPDWの引き金を引こうとするが、う~ん銃身が曲がってる!
奴の視聴覚はどうだ?まだ完全回復はしていないはずだ。だが、兜があるので聴覚はそれほど影響ないのか?

PDWを投げ捨てハンドガンを抜くが、すでに奴は俺への目の前まで来ていた。
中国拳法の心得があるよね、そりゃ。なかなかの歩法です。80点をあげよう。

奴は俺の手からハンドガンを弾き飛ばすと、南拳に見られる細かい突きを連続で打ってくる。
中国拳法は大きく分けると北、南に別れるが~中略だ!
視力は完全ではないのだろう。接近距離で俺を仕留めるための連打だ。

ヤツの細かい突きを俺は捌き、捌き、捌く。
完全にカンフー映画だ。

突きの応酬の中で呂剛虎を俺のペースに引き込んだ。
武神は伊達じゃない。

ヤツの左腕が引かれた一瞬に俺は突きを見舞う。超人的肉体から放たれるショートパンチだ。
普通の威力じゃない。大人の胸を悠々陥没させる威力な上に鋼気功を見越し、鎧徹しの技法も含まれている一撃だ。
文字通り鎧を着ていても、鎧の防御を徹し、突きの威力を相手に与える。格闘マニア垂涎の必殺技。

「!」

ダメ。触れた瞬間、奴は体を震わせた。纏絲勁だ。身体のひねりを利用した勁。その勁で俺の一撃は弾かれた。

お互い大きく下がり距離を取る。

は~、よく勝てたもんだよ、渡辺摩利。褒めてやる。

お互いの距離は8mほど。俺はCADを起動。移動魔法で一気に距離を取りつつ空気弾を発動し牽制。

虎さんも魔法を発動し、距離を詰めようとする。硬気功を纏ったか?空気弾の発射方向へのダッシュだ。
逃げながら空気砲で牽制する俺と、追いかける呂剛虎。

空気砲程度の魔法では奴の突進の勢いを止めることが出来ない。
「ちっ!」
大きく舌打ちしながら、移動魔法を展開。大きく距離を取ろうとするが、奴の方が早い。距離が更に縮まる。

『逃がさん!』
呂剛虎が俺の舌打ちを聞き、嬉々として攻め込んでくる。言葉を発する余裕もある。
どうやら視力はある程度回復したようだ。タフやね。奴はさらに移動速度を上げ、俺との距離が短くなる。
空気弾を複数展開し、マシンガンのように浴びせるが奴は空気弾の威力をすでに見切っているのか
気にする様子もなく走り込んでくる。

俺は慌てた!わけではない。

今まで呂剛虎は遠距離攻撃を自分の装甲で防ぎ、接近し必殺の一撃を打ち込む戦闘ばかりだったんだろう。

ある意味では雪光や黒城兵介のようにスタイルが固まっているのだ。
そしてこいつの評価は接近後の体術&魔法で評価されている。

この男は「魔法の使える格闘家」なのだ。だから魔法は接近戦への布石か接近戦専用のものだ。
少しでも遠距離攻撃で俺を攻め立てれば状況は奴に有利だったはずだ。

「魔法を使う一流の格闘家」と「超人的肉体の武神」どっちが強いと思う?

呂剛虎が俺に体当たりをする刹那。合気で呂剛虎を地面にめり込ませた。



俺は突っ込んできた呂剛虎の伸ばした腕に触れて、一瞬で力の流れを変え、地面に激突させたのだ。
「ぐう!」

地面にめり込むほどの勢いだった。呂剛虎は地面に沈んだ体を起こし立とうとした。
はい、ご苦労さん。

俺は奴の右手首を左手で掴む。奴の国の言葉で問いかける。

『ダンスは好きか?』

俺は合気の技法を嫌というほど、呂剛虎にご馳走した。
自分の身体とは思えないだろう。足腰に力が入らない。座り込もうとすると立ってしまう。
起立したかと思うと、前のめりになる。だが転ぶことが出来ない。

スケートリンクに初めて立つ子供のようだ。

そして突然投げられる。地面とキスするがすぐに立ってしまう。

奴の纏う魔法「硬気功」や「纏絲勁」の技法は基本打撃に対応している。
勿論、投げられた衝撃を硬気功で相殺することお出来るだろう。

だが、手首をつかまれ自分の身体を自由自在に扱われる中で魔法を起動できるのか?

魔法の発動に必要なのは1秒?.0.5秒?もっと短い?
俺は奴の手首から感じる動きで、少しでも魔法を発動するそぶりを感じたら集中できないよう振り回す。
中国拳法でいう「聴勁」だ。

この男が純粋な武術家で功夫をより積んでいれば、即座にこの状況に対応できたのかもしれない。
だがこの男は魔法を使う。防御面は魔法なのだ。
今、呂剛虎はどう考えている?魔法が使えれば勝てるのに?武術の実力差にショックを受けている?

呂剛虎は俺の魔法を見て、勝てると考えたのだろう。大した威力の無い空気弾、平凡な移動魔法。そして舌打ち。

弱い者を仕留めようと勢いよく飛び込んできた。はい、お終い。

一対一でこの人食い虎を倒せるのは、十文字、司波達也、光夜、雪光だけだろう。七草のお嬢ちゃんは戦術次第だが、体格面でアウトだ。触れられただけであの細い体はバラバラだ。

呂剛虎は弱くない。

俺はダンスの上級者が初心者を導くように、呂剛虎をコントロールした。
奴の息が上がり始めた。
両膝を突かせ、虎は肩で大きく息をする。

『お前は何者だ?』
魔法を使うことよりも敵対した者のを名を知りたいのか。

『疫病』

俺はかつてつけられた二つ名を言った。
呂剛虎は知っているだろうか。

右の拳を握る。人差し指の第二関節が尖るように握る。一本拳だ。
俺は一本拳で呂剛虎の急所「人中」を突いた。

奴はその衝撃で気を失う。

激しい衝撃波の応酬もない。高速の戦闘もない。建造物を吹き飛ばす光線もない。
俺の戦場は弾丸と拳と血で出来ている。

「動くな!」

正門方向で聞こえた銃撃音も小さくなっている。
国防軍の小隊が俺に銃口を向ける。
俺は両手を上げて声を出した。

「情報部だ。指揮官の野田大尉を呼んでくれ!」

良かったな。呂剛虎。死ぬのは次までのお預けだ。


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海上型資源採掘用プラント

三人称視点です


「ふ~」

大亜連合の軍事を司る建造物の一室で、作戦の承認する立場の男が息を吐く。
制服の上着を脱ぎ、シャツの襟もとを緩める。この部屋に入って22時間だ。
部屋から出るのは手洗の時だけ。

常に誰かが、入室し報告をする。
今もっと多い報告が国の艦隊が消滅したことと、その被害算定だ。
大事な戦略級魔法師も失った。すぐに次の魔法師の選定に入った。
血縁者がいるらしいので、その人物を新しく戦略級魔法師に据えるよう調整が進んでいる。
(いつまで死亡を露見せずにしておけるかな)
頭が痛い。大漢吸収の時でも、ここまで報告が連続はしなかった。
肉体的疲労以上に脳のエネルギーを消費している。

そして30分前に来た報告書で頭痛はさらに痛くなった。

「では君はこの襲撃を『疫病』だと言うのかね」
自分と机を挟んで立つ二人の人物に問う。
「はい。閣下」
軍服に身を包んだ初老の男だ。胸には功績を示す無数の記章がついている。
一兵卒で到達できる最高位の一つにある人物だ。

「理由は、兵士たちの死亡状況か」
「はい。それが理由です閣下」
「では、なぜ『疫病』がこのタイミングで登場した?」
閣下と呼ばれた男は軍服と横にいるスーツ姿の女と軍人を交互に見る。
「報復と警告では」
スーツの女。情報分析の担当者だ。壮年で威勢のよい顔をしている。
彼女が断言するように言う。
「具体的に」
彼女の説明を促す。
「はい。先の侵攻作戦に対する報復と、『いつでも逆撃を行える、大人しくしておけ』という意味かと。我々が同じような強行作戦を行えば、敵軍は逆に侵攻してくるでしょう」
(確かこの女は陳祥山と対立派閥だったな)



後に「灼熱のハロウィン」と呼ばれる魔装大隊 大黒竜也特尉による戦略級魔法「マテリアルバースト」使用における、大亜連合の艦隊消滅とほぼ同時刻に、大亜連合の南部海洋上にある「海上型資源採掘用プラント」に偽造した前線基地が一つ壊滅したのだ。

作業員に扮した海兵隊選抜の2小隊(18人)が待機していたが一晩で全員死亡した。
実際に採掘作業をしていた民間作業員と、作業員と一緒に採掘作業をしていた変わり者の海兵隊員だけが生き残った。

割り当てられた待機用の部屋や、装備保管室など、普段の生活の中で頭を撃ち抜かれ死んでいたのだ。

鎮海軍港からの艦隊出撃とタイミングを合わせ、南からも艦艇を出撃させ南北で圧力をかける案があった。
その艦艇に乗り込み、九州南部の都市で破壊活動に従事する予定の部隊が消されたのだ。

民間作業員がいる限定された空間であるプラントで海兵隊員だけ殺された。
軍服なり迷彩服で判断したのか、民間の作業着を着て採掘作業を行っていた変わり者隊員だけは生き延びた。

15年前の大越戦争末期、11年前の東欧国境、3年前の中南米カルテル

そして48時間前の大亜連合南部洋上。

全て同じだ。特定の存在が、軍人か傭兵だけ、数時間内に頭を撃ち抜かれ死んでいる。
襲撃者の姿を誰も見ていないし、監視カメラにも映っていなかった。まるで特定の人間を襲う疫病のようであった。

大越戦争時は凄腕の暗殺者と目された。東欧国境警備隊の駐屯地で発生した時に『疫病』の噂が流れた。

襲撃者は誰なのか?どこかの国軍なのか?フリーの暗殺者か?凄腕の魔法師なのか?

だが今回の件で判明したと軍人もスーツの女も思った。
日本の国防軍のエージェントだ。だが証拠はない。状況証拠しかない。

「ふ~」
もう一度、閣下は大きく息を吐く。
「この件は鎮海と合わせて処理する」
そう言って手を動かし「退室しろ」のジェスチャーをする。

軍人とスーツは部屋を去る。
「あと五年。待ってくれよ」
閣下と呼ばれた男はあと5年で退役を考えていた。
欧州に預けた隠し財産でUNSAの観光地に家を買いゆっくり暮らすことを夢見ていた。


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彼女を抱きしめ少し泣いた

あとがきに簡単なキャラクター設定があります


「はあ、解散ですか」
村井大佐は表情を変えずに「情報部支援課第二班」の解散を俺に告げた。
俺もいきなりの話で珍しく呆けた声が出た。

11月4日。
村井大佐の執務室に出頭した。

大島少将が軍内政治に敗北した噂を確認しに。
そこで解散の話である。

大島少将は将官教育を担う国防指揮幕僚大学に教官として任官するそうだ。
だから、あんな無茶な作戦を承諾したのだ。置き土産か、やけっぱちか。

モーリー、須田ちゃんとも無事だった。一校防衛に尽力したらしい。
戦闘後二人と会い、経緯を国防軍に報告する態をとりつつ別れた。

呂剛虎との戦いを野田大尉に「偶発戦闘」だったと言い訳をしたが、陸軍本部から情報部の横やりとして文句が出た。
村井大佐は「では、この作戦を即時行います。結果は差し上げますのでそれでご勘弁を」と30日の夜には大島少将承認の作戦を提出した。

日本の南、海上型資源採掘用プラントに偽装した大亜連の特殊作戦部隊の待機所の襲撃だ。
「よろしく」の一言で送り出された俺は目的地点へ進む沖縄海上の船の上で、鎮海軍港の艦隊終結を聞いた。

軍神の加護を持ち、武神の化身で、ヘルメスの子、そして超人的肉体を持つ俺は村井大佐の計画通りに、一人でプラント内の特殊部隊を排除した。

日本に戻る航空機内でマテリアルバースト使用を聞き、横浜騒乱が終わったと思った。
あのおっさんはこの局面を読み切って、陸軍本部へのフォローまで考えていたのだろうか。

改めて村井大佐の読みの鋭さにはうならされる。
村井大佐は魔法師嫌いだ。大島少将より、もう少し根が深い。
俺は魔法師だが、あの人は魔法師としての俺など一切評価しない。兵士としか見ていない。

村井大佐との付き合いは15年になる。大越戦争の終わりごろだ。俺の『疫病』としての悪名を作り上げたのはこの人だ。
任務面で色々と好き勝手出来たのも、この人が俺の能力を評価し、利用したからでもある。

「村井大佐は今後どうされるので」
「私は北海道だ。防諜に従事するだろうな。それよりもお前だ」
声が少し弾んでいる。希望に近い立ち位置になったのだろう。
村井大佐は執務椅子から立ち上がり背筋を伸ばす。

「関重蔵少佐。貴官は101旅団魔装大隊への異動が決まった。明日11月5日10:00に魔装大隊へ出頭せよ」
「はっ」
俺は辞令を聞き、敬礼をする。村井さんもゆっくりと返礼。

「お前を取られるのは癪だが、まあ胃痛が減ると思うとありがたいね」
「この15年でうだつの上がらない少尉から情報部敏腕大佐まで駆け足で来ましたからね。胃の一つも犠牲にしないと」
お互い笑いを浮かべる。

44歳で大佐。将官に上がるにはちょうどいい歳だ。日本の防諜も少しは良くなるだろう。

村井さんは執務机から二つのグラスと、酒瓶を取り出す。
あ、ウィスキーだ。
「別れの祝いだ。飲んでくだろう?」
「勿論」



11月6日まで休校だった。校舎の一部が壊れ、正門もガタガタ。数日間の工事で生徒が登校できるまでは修復された。
そして明日7日は登校日だ。

俺は新たな住処への異動を済ませた。
風間少佐からは「当面は一校にいてくれ」と指示を受けた。
「ただし情報を探る必要はないぞ」という言葉と一緒に。

昨日の夜にカナデが官舎に顔を出した。
その日は彼女を抱きしめ少し泣いた。

軍神の加護は俺の精神まで及ぶ。軍務での行為に対して心が病むことがない。命令とはいえ、作戦とはいえ、戦争とはいえ、将来ある若者を殺すことに感情は揺さぶられない。軍神は軍務遂行に難となるものから俺を庇護してくれるのだろう。俺自身の心からも。

だがそれが俺の人間性を押さえつけ、非人間的にしていると考えると少し悲しくなる。
そんな時に抱きしめ涙をぬぐってくれる女がいることで救われる。
「つらいなら一緒にいるわ」
ありがとう。

軍神、武神、ヘルメス、超人的肉体、それは人を傷つけ、欺くことに恩恵を与えてくれる。
俺を心身共に最強の兵士にしてくれる。完全無欠の殺人機械だ。

だが俺が殺人機械であることで守れる人たちもいる。
「誰かが牙にならんと誰かが泣く事になるんや」というセリフがあった。
今の俺は牙なのだ。ニコ兄・・・。

夕食の後、音楽を流した。曲名をカナデに聞かれ「Love and Happiness」と答えると
「少しだけど与えてあげる」
キスしてくれた。

やっぱり、いい女だ。



学校は変わらずだ。モーリーと須田ちゃんはいつも通りだ。女子に「僕も奮戦したんだ」と言ってキャーキャー騒がれる須田ちゃんはいつも通り。前世でも現世でもこれほどまで女子にモテることに主眼を置いた奴見たことないぞ。スゲーな須田ちゃん。
生徒会室で中条会長に改めて当日の状況を説明。ある程度は警備から聞いていたようなので、口頭で簡単だ。

皆がお互いの無事を祝う中、暗い顔をしているのは光夜だ。
なんでも戦略級魔法師への認定について風間さんが四葉に話をしたらしい。
ご苦労さん!頑張れ!ついに特尉様になっちゃうのね!

傍で業務をしていた深雪に「四葉君は優秀ですから」と励まされていた。

風紀に顔出したときに司波達也と会った。
「大変だったようだな」
「ああ、まあね」

こいつはどこまで知っているだろうか。まあ、そんな腹の探り合いからは解き放たれた。

ここから先は俺は知らない。アニメ放映の先だ。
つまりここからが本当の未来になるのだ。
魔法と戦争の世界で俺は自分の出来ることをしよう。



一つだけトラブルが。
下校時に、リムジンに乗った九島烈に「駅まで送ろう」と声を掛けられた。

リムジンで九島烈と向かい合わせ座る。
齢80を超え、細身の体。だが俺に与える印象は恐ろしいまでの威圧感だ。
人の感情に呼びかけるような恐ろしい瞳をしている。
「藤林奏と交際しているかね?」
「ええ、はい」
ひっそりとだがはっきりと、事実を口にする。
優しい声にも聞こえるが、抜き身の刀のような剣呑さも感じる。
俺の返事も、今ひとつ弱げだ。

「硬くならんでもいい。君は魔装大隊に移っても引き続き、学校に通うのかね?」
硬くなるな、というが口調は緊張感を崩すことを許可していない。
既に俺が何者かは把握しているようだ。退役少将。情報部に根を張る怪人。
「任務ですので黙秘いたします。閣下」
一度つばを飲み込み、黙秘の意思を伝えるのがやっとだ。
「そうか。私はね、奏の利発さが好きだ。孫娘としても大事にしている」
回り道など一切しない。本題を投げ込んできた。
「はい」
「それを国防軍の一軍人が私の手からかすめ取ろうとしている。許されることではない。そう思わんかね」
「別れろと」
「理解が早いね」
九島烈が口角をあげる。微笑んでいるか、それとも怒りを隠しているのか。
「・・・・」
俺は返事が出来ない。口を一文字に結び、俯く。
この意味をどう受け取っただろうか。「無言とは肯定」と言ったのは誰だ。
「駅だ。降りなさい」
九島烈がそう言うと、ドアが開いた。
「はい」
俺は促され車外に出る。


















俺は夢遊病者のごとく意思も持たずに歩き、電車に乗りセーフハウスに戻った。

ダメだ。本当の権力者が来た。彼女とも終わりだ。軍にも居場所はない。

身の破滅だ。彼女との甘い生活は一時の夢だと言い聞かせた。

これほどまでに彼女に心を支配されていたとは。
































みたいな事を期待したのか、この爺様は。
爺様に促され車を降りる時に、俺はこう言った。







































「閣下。カナデが高校卒業するまでは避妊しますのでご安心を。5年後にはひいおじいちゃんですよ」
ドアを閉めた。




本編終了!

あとは余暇話を幾つかで完結。

キャラ設定

関重蔵(相馬 新)
36歳 情報部少佐
チート:軍神の加護、武神の加護、ヘルメスの加護、超人的肉体。
担当の神様がサイコロ決定のためとんでもないチート野郎になってしまった。
前世は中堅社会人だった。前世と現世を足すと結構な精神年齢である。
ちなみに超人的肉体は身体の筋力や柔軟性、俊敏さ、五感、反射神経などにおいて人間の限界の上限まで上がる。それが維持される期間も長ければ、寿命は長命に傾く。
童顔はチートには含まれていない。

四葉光夜
15歳 四葉家(本家扱い)
チート:竜章鳳姿、万夫不当、多芸多才
実は「竜章鳳姿」が最高に凶悪。
強大なカリスマ性を与えるだけではなく、「カリスマ性を裏付ける圧倒的な実力」を与えていたので、万夫不当、多芸多才がなくとも十二分にチート主人公できる。

司波雪光
15歳 司波家
チート:反射神経強化、工学知識、カリスマ(女子)、魔法力強化、魔法技術の才能
「キリト!+深雪!」は意外と最適解になったのかも。
本人の性格で高速戦闘を主体としているが、普通の魔法師としても深雪に匹敵する。

藤林奏
15歳 藤林家
チート:電子の妖精、魔法才能、運動神経
チート選択時間が短く、ザックリと選択していた。魔法戦闘については北山雫や光井ほのかと同等。前世社会人は彼女と関重蔵のみ。実のところチートではなく、魔法という学問の理解が進んでいたので、入学の成績はチートが無くても出た成績だったりする。

黒城兵介
15歳 黒城家(一般家庭)三校
チート:健康、良縁
前世が健康面で多大な問題があり、本人は健康であればいいや~。と思ってチートリクエストしたが、担当神様が「不憫や・・・」と思って、健康=恵体と理解し頭脳、身体、魔法の基本的なスペックが高い。そして何より良縁が強い。友達いっぱい。
「三校の快男児」 として学校史に名を残す。

川村エカテリーナ
15歳 川村家(一般家庭)二校
チート:黄金律(富&体)、ステータスは魔力C++。クラス別能力(キャスター)。
最初のチート選択でFateで言う「ステータスはオールA」を宣言したが、黄金律が強力だったので神様調整が入る。ちなみに魔力C++は「第四次聖杯戦争キャスター」より上のステータスである(ただし魔法科高校の劣等生の世界でどのように表現されるかは不明)。黄金律(富&体)を持っているので彼女のカリスマ性は実は高い。

周公瑾
24歳(として新規戸籍を獲得)
チート:原作の周公瑾のスペックをそのまま引き継ぐ
国防軍保護された後は証人保護プログラムの適用で新たに戸籍を獲得し、日常生活に戻る。
日本人:ワタナベケンゴとして小さな喫茶店の店員になる。「美形すぎる喫茶店店員さん」として
女性向け雑誌に取り上げられたりもする。危機感がない!と軍と司法関係に怒られる。
女子大生と付き合い始める。しかし二股をしてしまい破局。


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余話:我が不破流は秘伝の武術

みんな大好き、「誰が強いのか?」の話。


俺が司波達也に視線を向けると困ったような申し訳ないような顔をした。
なぜ、俺が試合を三回も、それもシチュエーションを変えてせねばならんのだ。
十文字、七草の諜報から解き放たれて少しは骨休めできるかと思ったら、これだ。
せめてもの救いは、ギャラリーが少ないこと。
事の始まりはこれだ。

「ハロウィンね~」
部活も終わり、光夜と合流して講堂へ向かった。なんでも、横浜でのごたごたで暗くなった校内を盛り上げるべく
司波深雪副会長様が企画した。七草のお嬢さんも噛んでるらしい。
是非とも十文字さんには「怪物くんのフランケン」の格好をしてもらいたい。きっと似合うぞ。フガフガ。

講堂を開放してダンスホールにするとかしないとか。そんなわけで確認として、生徒会役員は講堂集合となった。
風紀も警備目的で下見するらしい。

講堂に着くと既に座席は取り払われ、広々としていた。600人から入る講堂だ。そりゃ広い。実際には体育館でもある。
最初は講堂=体育館とは考えておらず、一校はなんでも設備のあるところだと思っていた。
絶対地下には創立当初から連綿と続く「魔法少女愛好会」の部室があるに違いない。

「あ、来ました!」
俺と光夜の姿を見て声を上げたのは深雪副会長だ。
ホント美少女ではあるが、俺の知っている限り千葉エリカと同格のブラコンで、魔法力と学内政治力がある分余計に怖い。
光井さんはそんな人からお兄様を奪おうというのだ。スゲーな青春。

深雪副会長を囲むように人の輪が。深雪副会長の人気ならいつもの事だがメンバーが珍しい。
千代田花音、沢木碧、なぜかいる千葉エリカ、西城レオンハルト、そして司波達也。

「相馬!格闘技出来るんだって!?」
沢木さんがデカいを声を出す。はい、出来まっせ。
「はい、なんか面白い話題でも出たんですか?」
俺と光夜はその輪に加わった。嫌な予感がするが、それでも放置するわけにはいかない。
「深雪さんからね、君だが格闘技経験者というのを聞いたのよ」
千代田花音が興味ありげに言う。なんだ風紀委員長は脳筋寄りなのか。
「ねぇねぇ!呂剛虎やっつけたってアラタなの?!」
千葉エリカがストレートに聞いてくる。やっつけたけど、表向きは国防軍による捕獲として発表している。
なんでこうなってるんだ?

「俺が?」
「そう!違うの?九重八雲にも勝ったんでしょ?」
「違うのよ、エリカ。九重先生には武術の腕を認められただけなの」
深雪副会長がそう説明すると、エリカは少しつまらなそうな顔をする。
「え~違うの~。なんだ、驚いて損した」
「だが九重先生に認められたのは本当だ」
司波達也が余計なフォローを入れやがった。
「そうか、九重八雲のお墨付きか!じゃあうちの部に入らないか!」
沢木さんが俺に詰め寄ってくる。嬉しそうだ。
デデ~ン、達也、深雪、アウト。タイキック。
お前ら俺の格闘技の話、漏らしやがったな。

「いや、そのクロフィーもありますし、格闘技も齧っただけで」
「兼任でもいいじゃないか!それに齧っただけと言ってもあの忍術使いに認められる腕なのだろう!」
マーシャル・マジック・アーツ部のエースは勧誘に余念がないな。
俺は一つ咳ばらいをし、間を空ける。
真剣な声と、眼差し。沢木さんにはっきりと、しかし声を張らずに伝える。
「我が不破流は秘伝の武術です。公の場で見せるものではありません。古来よりの組打術。血を見せるような技ばかりです」
最後は残念そうなニュアンスを残す。「競技には使えない武術だよ」という感じで。はい、終了!この話、終了!

「面白そうな話だな」
俺の後ろ、死角にはまるで巌のような肉体を持つ18歳の高校生、十文字が立っている。見なくたってわかるよ。気配がデカい。
あんた!受験勉強しろよ!魔法大落ちたら、中洲産業大学とかに入学することになるぞ!
「十文字さん」
千代田風紀委員長こと地雷女(比喩ではない)が声を出す。
俺はゆっくり振りむくと、あ~十文字&七草の二人だ。絶対面倒なことになるぞ。
「相馬、お前は魔法以外にも武術に造詣があるのだな」
まるで後輩の成長や実力を認めるような先輩の優しい眼差しだ。1km狙撃とか朝飯前に出来ることを知ったらどんな眼差しになるのやら。

「ええ、齧った程度ですが」
「謙遜しなくてもいい」
もう一度十文字さんが優しい眼差しを向けてくる。
そして七草のお嬢さんが面白そうに首を突っ込んでくる。格ゲーのコンボか!
「でも本当に、沢木君のお眼鏡にかなうのかしら?深雪さんどうなの?」
七草のお嬢さんは軽く挑発気味に言う。深雪副会長に「凄いんです!」と言わせて試合でも仕組もうという魂胆なんだろう。
やめろ!答えるな!と俺が会話を遮るように話しだそうとした瞬間。
「試合をしてみればわかる」

デデ~ン、光夜、アウト。タイキック。

そして俺は試合をすることになった。
このボッチ、ボッチよ。お前、ボッチ。おい、ボッチ・・・。

この時に千葉エリカがいなければ、せいぜい1試合で済んだのだろう。あのお騒がせ娘が。
「古流ならいくつかのシチュエーションで試合しないと実力なんてわからないわよ。ほんとよ」

勝手に話が進んでいく。
沢木さんも「後学のためにも古流の技を見せてくれ」とか「あたしも興味ある~」とエリカが騒ぎ
「九校戦の練習もすごかったしな」とレオが思い出す。

地雷委員長は少し離れたところで、五十里さんと話している中条会長のところに行き、何やら身振り手振りで話している。
ありゃ、模擬戦について承諾得ようとしているし、中条会長はOK出しそう。なぜなら七草のお嬢さんが説得応援のため近づいていく。



第一試合、第二試合は第二武道場で行われる。
入学直後に剣術部と司波達也が大暴れした武道館にある畳敷きの部屋だ。

試合相手は・・・十三束だ。
純粋な格闘戦を試すらしい。あ、沢木さんカメラで録画してるし、どうしよう。
「十三束、よろしく」胴着に着替えた十三束と握手をする。
俺は体育の授業で使うスポーツウエアだ。
十三束。金持ちのボンボンだが、良い奴だ。そしてマーシャル・マジック・アーツにおいては学内屈指の一人。
沢木さんの次のエースだろうな。
体格は俺とどっこいか、気持ち小柄なくらい。顔だちも可愛らしい。童顔は苦労するぞ(略)
「うん、よろしく。ルールはさっきの通りで大丈夫?」
「ああ、あれで」
ルールはマーシャル・マジック・アールの競技ルール寄りだった。
フルコンタクトで寝技ありなので、ちょっと競技より過激か?
お互い、頭部保護の防具をつける。

試合時間は3分、二ラウンド。

周りのギャラリーは、十文字、七草、千代田、沢木、司波深雪、司波達也、桐原、壬生、レオ、エリカそして渡辺摩利だ。
中条会長は仕事があるので、承認だけして代理で深雪副会長を置いていった。

千葉エリカが「あんた、なんでいるのよ」
「単なる興味だ」と渡辺さん。

空気が悪い。ブラコン拗らせると怖いな。

審判をする十文字さんが「はじめ!」と試合開始を告げる。

さて、不破流の秘伝を使えばすぐ終わる。不破流なんてないけどね。法螺で煙に巻こうと思ったが上手くいかなかったな~。全部、学生たちのノリのせいだ。

俺は体を横に揺らし、中腰になり、大きなステップを踏む。手も足もリズムを刻む。
カポエラの動きだ。

カポエラは中南米に連れてこられたアフリカ黒人奴隷達の中から生まれたといわれる格闘技だ。
手は枷によって塞がれているので、蹴り技が発達した武術である。
というのは本当なのか、誇張なのか知らないが十三束戦はこれを選択した。
理由は簡単。普通カポエラと異種格闘をした奴なんていないから。
初めて謎の格闘技と試合をすると、だいたいグデグデの泥仕合になる。
俺の狙いは引き分けだ。

十三束は右半身を前に打撃格闘技の構えでリズムを取っている。
そして十三束は移動魔法で俺の回りを素早く移動する。
「レンジゼロ」のあだ名通りの接近戦は強い。部活しているところを見たことがあるが、光夜や司波達也などを除けば相当なものだ。が、甘い。

俺はその場で後ろ回し蹴りや回し蹴りを繰り返す。当てる気はない。
体全体を回転させる蹴りをすることで、前後左右どこから攻めようとしても躊躇する。
竜巻旋風脚中に突っ込んでいくとダメージを食らう、という理屈に近い。
アクロバティックな俺の連続蹴りに十三束は移動を止めて距離を取る。
息が少し上がっている。異種格闘技戦で緊張しているな。
ギャラリーも俺の動きに驚いているようだ。
「カポエラか?」と沢木さんは驚いている。

「相馬、攻めろ!」
十文字さんからの一喝だ。あ、俺の意図、気づきやがったな。
攻めたふりをするか。

俺は連続の後ろ回し蹴りを前方に移動しながら行う。
十三束は横に大きく避ける。
俺は攻める、十三束が避けるの繰り返し。
ほらほら、俺は攻めてるよ~。

一ラウンド終了!
十三束は息を切らしている。半面俺のスタミナはばっちり。

あ、十文字のおじさん目つきが怖い。アレか、全力を出さないとは相手に無礼!とか思っているのか?
でも止めない。俺は秘伝武術の使い手で、それを簡単に見せることをしないため
カポエラを使って目くらまししている設定なのだから。
それに本気でやったら十三束死んじゃう。

二ラウンド目は状況が変わった。十三束の動きが立体的かつ、激しいものになった。
加速とか慣性の法則とかじゃなく、はっきり言ってカンフー映画のワイヤーアクション並だ。
上に下にと蹴りが飛んでくるし、こちらの動きは気にせず強引に攻めてきた。
俺の蹴りも一、二発当たっているが動きを止めない。
試合なら無理にでも来るよね~。わかる~。
十三束の表情も必至だ。先輩からの指示とか関係ない。一ラウンド目であしらわれて奮起したのだろう。

よっしゃ、おじさん少し本気を出そう。怪我するなよ。

十三束の猛攻は止まらない。俺は構えをカポエラから変える。やや後ろに重心をかけ、左足が前に来るどこにでもある左前の構えだ。
上下右左、十三束の超人的な動きを3cmのところで見切り躱していく。

「一寸の見切り」

かの剣豪宮本武蔵が体得したといわれる間合い、距離、相手の制動を見極める回避技術だ。

どんどん俺の動作範囲が狭くなる。半径30cmの円の中でしか動いていない。ギャラリーで格闘技経験者は静まり返る。
千代田花音はわからず「え、なに?説明して!」と司波達也に聞いている。も~、カッコいいところなのに!
そして二ラウンド目が終わった。

お互い開始位置に、戻り一礼する。

「凄いんだね、相馬君は」
汗だくの十三束と握手。尊敬するような声だ。弟子はとってない。
「嫌って程、仕込まれたからな」

十三束が武道場の壁際に戻り汗を拭くのと入れ違いに
十文字さんが近づいてきた。なんすっか?!やるんすか!?
「相馬、どこまで本気だった」怒っているのか、それとも驚愕した自分を抑えているのか声は荒げない。
「最初は目くらましですよ。秘伝武術は見せられないですし。見切りは、十三束の本気へのお礼ですよ」
そう答えると、十文字さんは黙る。
「次は剣術でしたよね」
俺が次の試合を促すと、ギャラリーの中から「あたしの出番ね!」と声が上がった。
泣いても知らんぞ。千葉エリカ。



二つ説明がある。
カナデとエリカは表面上は仲がいいが、あんまり仲が良くない。
一科、二科で違いはあるけど、女子生徒で男女問わず人気者。活発な感じで、余裕あるタイプが似ている。

エリカは美少女だ。赤や火とをイメージさせる活発で明るく、トラブルメーカーや引っ掻きまわす面があるが、深雪と同じ人の輪の中心だ。
何より、高校生男子にとってはちょっとエロい。須田ちゃんも「千葉さんいいよね!」と言っていた。須田ちゃんお墨付き。
体育会系というより、武道系にある「稽古>羞恥心」みたいな延長線上に気持ちがあるのか、制服が着崩れてもへっちゃらという感じだ。
健康的お色気美少女。そして笑顔が絶えないし、常に余裕がある。

カナデも、美少女だ。黒髪で大人しくしていれば楚々とした美少女だが、男女気にせずおしゃべりもする。クラスの女子と遊びに行ったりもする。
学校内で彼氏べったりでもない。サバサバしているところがあって、みんなの輪に入って盛り上げる。
お色気という面では「普段は意識させないけど、たまにアラタ見てる視線がヤバい。あれはヤバい。あんな視線で見られたらもうダメだ」と須田ちゃんも認めるところだ。
精神年齢が高校生の遥か上なので、余裕がにじみ出ている。偉ぶっているというより、見守っている感じだ。

同族嫌悪に近いのかも。
カナデも「もう少し可愛げがあればいいんだけど、押しつけがましいというか、仕切りたがりなところがちょっと」と笑っていた。
エリカも一度「カナデいいよね~。余裕があって。あたしとキャラかぶってるけど、あははは」だってさ
まあ、女子は難しい。

無住心剣流剣術という古い流派がある。今は色々あって現存はしていないが
「相抜け」という概念を生んだ剣術流派である。俺はこの「相抜け」好き。

相打ちというより、技量と精神が同調し決着がつかない、そして剣を鞘に戻す。
そんな感じだ。武神の俺でさえこの解釈が正しいか自信はないが、気持ちも体も傷つけない「相抜け」思想は割と好きだ。

で、目の前のブルマ姿の千葉エリカは、息を乱すこともないが手ごたえの無い相手に首をひねっている。
自己加速や幾つかの魔法を利用しているが、俺も同等の魔法や技術を用いて彼女と渡り合っている。
いや自己加速に関してはエリカの方が上か。

桐原&壬生のカップルだけか?俺のやってることを理解しているのは。
千代田花音は「ねえ、どうなの?」と司波達也に聞いている。お前・・・。

エリカの突きに合わせて、俺も突きを出す。それを嫌うエリカは体を崩す。
俺も少し崩れ、隙が出来るがエリカもできるので距離を取る。

試合が終わると「ねぇ何なの!?手を抜いて引き分けたの!」
エリカがお怒りだ。十文字さんも顔つきが険しい。
その十文字さんを先立って俺は答える。
「エリカ、お前『相抜け』ってわかるか」
そう言われて、エリカは真面目な顔になる。俺が何をしたのか、『相抜け』とは何なのか思い出したか?
他の面々は理解していないのか。もう少し日本の剣術流派とか調べてみろ。
楽しいぞ。田宮流とか無外流とか、タイ捨流とか、オタク知識が増えるぞ。

十文字さんは『相抜け』を知らないのか不機嫌な顔になる。
「で、三試合目はどうします?」
「フィールドを使う。準備しろ」
あ、もしかして十文字さんが相手?




関重蔵の出来ることの一端ですよ~という話。
白兵戦闘なら十三束やエリカでは勝てないです。
エリカが山津波を使えば可能性が!とも思いますが、当てることが前提です。

今回は実現しませんでしたが他の相手の場合(重蔵は素手、相手はCADあり)は

対レオンハルト
呂剛虎と同じです。合気で転がしてお終い。硬化魔法が切れた瞬間に打撃を入れるか、チョークスリーパーで落とすかで決着です。

対桐原、対壬生
エリカと同じ扱いです。場合によっては一太刀目で決着です。

対沢木戦
十三束と同じか、空気甲冑の場合は別の手段を使います。合気は便利。

対お兄様
無理。

対雪光
速度で負けるので発動前に捕まえればワンチャン。または想子剣ではなく素手なら殴られた瞬間に捕まえて合気。

対光夜
発動速度と戦闘開始の距離による。でも厳しいかな~。

対カナデ
今のところ引き分け。


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余話:戦わないのも戦術ですよ

まあ主人公だからね。


「エリカ、相抜けとは」
達也がモニターから目を離さず、先ほどの試合後でアラタが言った言葉の意味をエリカに聞いた。
言われた時にエリカが表情を硬くしたので意味を知っているのだろう。
周りの面々エリカの解説を待つ。

「なんていうか、相打ちのもっと上のレベルでの話のことよ。お互いの決め手を外させて相手も殺さず、自分も死なず、負けの無い状態っていうの、そんな感じ」
エリカは説明しながら少し不機嫌になる。狐につままれた感じを思い出した。
先ほどの試合で「相抜け」と言われてエリカはハッとした。相打ちとは違う。
負けて悔しがることはない。どちらかというと不思議な感じで、それを誤魔化す様に怒った。
心も体も一ミリも傷ついていない。本当に不思議な感じだ。

エリカの説明に納得したのか納得しないのか達也がうなずいた。
「それって引き分けじゃないの?」
千代田花音は納得できずに声を出すが壬生紗耶香が「まあまあ」となだめる。

「スタート地点についたぞ~」
モニター隣りのスピーカーからアラタの声が聞こえる。
ギャラリーは視聴覚設備のある部屋で訓練フィールドの画像を見ていた。
流石にフィールド全面を映し出すことはないが、8分割されたモニターには離れたところで準備を完了させた十文字とアラタが移っていた。
二人ともモノリスコードで使うプロテクターをつけている。

三試合目の相手に立候補した十文字の提案で、殺傷レベルが高くなければ「魔法」も「武術」ありとなった。
十文字としては理由はどうであれ、全力で戦う者への礼を失した行為と思い制裁のつもりでもある。

試合時間は30分。フィールドは野外フィールドの遭遇戦。

「では試合スタート!」
フィールドのスピーカーから千代田花音のスタートを告げる声がする。



「残り時間3分!」
千代田花音の声がフィールドに響く。

十文字は焦っていた。
試合開始後すぐにアラタからの攻撃があった。
サイオン弾を細かく発射、濃い煙幕、突然の爆音、いろいろと手を出してきたが
森の中に逃げ込み、十文字がそれを追い駆けた。
追いかけると森の中でもアラタはサイオン弾や煙幕を使い、
十文字はいつの間にかアラタを見失っていたのだ。

そして残り3分となった。
(どこにいる!)

時折、牽制で周辺に攻撃をするが、回避、逃走のリアクションはない。

「終了!」
スピーカーからは時間切れの宣言がされ、引き分けが決まった。

「戦わないのも戦術ですよ」

十文字の背中に声をかけたのはアラタだった。
「お前、どこにいた!」
怒るつもりはなかったが、声が荒くなった。十文字はすぐに興奮した自分を感じ呼吸を整える。
「話しても信じられないと思うので、みんなと合流して聞いてみてください」
そう言ってアラタは先にギャラリーのいる視聴覚ルームへと向かった。
何ともつかみどころのない相手だった、と十文字は悔しさ混じりに思う。
十師族にして十文字家の次期総領。そして九校戦におけるモノリスコードの覇者。
並の軍人魔法師よりも強大な魔法師。
それなりの自負があったが、それが軽く躱された気分だった。

視聴覚ルームに戻ると、アラタは光夜にハイタッチしようと手をあげるが光夜は無視。
「お前、ボッチか」
「趣味じゃない」
そう言って、アラタは着替えるため更衣室へ向かった。

入れ替わりで十文字が入ってくる。
「俺はどうやって負けた」
室内にいたギャラリー全員に問いかけるよう言った。
負け方を説明したのは司波達也だった。

「開始直後の戦闘で十文字先輩を森に引き込んだアラタは、森での攪乱後、十文字先輩の真後ろにピッタリいたんです」
「後ろに?それは森での戦闘後ずっとか?!」
十文字の体感で森の中で行われた戦闘は試合開始から10分も経っていない。
その後20分以上もフィールド内を動き回る十文字の後ろに付き、存在を悟られないよう行動した。
信じられないと十文字は首を横に振る。

「十文字君、まぎれもない事実だし、ここにいたみんながモニター越しだけど確認しているわ」
真由美の慰めるような声が試合の引き分け、そして十文字克人の事実上の敗北を改めて伝える。
「相馬君は、私たちが思っている以上の武術家なのね。あの九重八雲が認めるのも納得だわ」
真由美は自分の仕掛けたいたずらが、予想外の驚きと友人の自信を傷つけたことを反省した。

「まあ、これで来年の九校戦も大丈夫そうだな!あれだけ出来る奴がいるんだから!」
桐原が沈んだ空気を盛り上げようと努めて明るく言う。
だがそれを千代田花音が踏み抜く。地雷は伊達ではない。
「でも魔法とは関係ないでしょ」



関重蔵は経験上、魔法師が戦闘、戦場におけるやりがちな失敗をいくつか知っている。

・魔法師は非魔法師との戦闘において、なぜか魔法師にアドバンテージがあると思っている。

・魔法師は戦闘において注意を払うのは「相手の魔法の種類」と「魔法を知覚すること」が主で、戦場における周辺環境を積極的に注意はしない。

・魔法師が戦場において分析、知覚するもののTOPが「自分の魔法使用に必須な構成要素」であり、その他の戦場を構成する要素を御座なりにする傾向がある。

・魔法師は障壁などの防御方法に頼りがちで敵の正面に立つことが多い。

・魔法師同士の戦いは隠れない

・自分は敵を見失わないと思っている

・魔法の方が銃器や格闘より早いと思っている

他にもあるが重蔵が思う魔法師の失敗は凄腕の魔法師であればある程、陥ったときのしっぺ返しが大きい。

(十文字の坊ちゃんも、少しは自省したかね)
更衣室のシャワーでさっと汗を流し着替える重蔵は将来の十師族の顔が成長してくれることを願っていた。

普通に正面からの戦闘ならば十文字克人のファランクスは圧倒的だ。
関重蔵の超人的肉体でも一瞬で潰される可能性が高い。
だが今回は相手が悪かった。
魔法師を良く知る超人的兵士が相手であり、
「十文字を打ち負かすこと」を勝利条件にしていない場合は、十文字の魔法師として実力が十二分に発揮できない。
逃げに徹されると、十文字では追いきれないのだ。

魔法師としての才覚・能力では関重蔵と十文字克人の間には雲泥の差があるが
実戦経験者としての実力差はその立場が逆転する。

(2年ばかり軍隊でしごけばモノになるけど、さて将来はどうするのやら)
重蔵が更衣室から出る時にばったり会った。
「いい勉強をさせてもらった」
機嫌はあまりよくなさそうだ。口調が固い。
「いえ、自分も少し調子に乗り過ぎました。すいません!」
謝ったが十文字の表情は変わらない。
重蔵はそそくさと退室した。

(俺はまだ強くなれるのか?)
十文字克人18歳はまだ成長の余地を残していた。





はい、十文字が事実上敗北です!
正面戦闘だったら重蔵が勝てるか不安ですが、鬼ごっこでは実力差が出ましたね~。

関重蔵の持つ4つのチートを組み合わせ、勝たないことに徹すればこのくらいできます。
というか、十文字ではなくもう少し危機感や危険意識の高い相手ではこうはいきません。
吉田幹比古とか、司波深雪、服部刑部などが相手だともう少しやり方が変わるでしょう。

そういえば吉田幹比古、九校戦から出てないな・・・。


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俺はモーリーに泣きついた

第一部完!


十文字戦から数日。

風間さんと定期連絡し十文字戦の話をしたら「村井大佐はこの苦労をずっとされていたのか」と言われた。
そうなのよ。

「真剣な話、お前をうちに置いたのは敵対しないためだ」と異動の真意を言われた。
「高い評価どうも」
「お前が下手な部署で内部調査始めたら、うちの手の内がバレるからな」
モニターの向こうで肩をすくめる風間さん。部下が見たら珍しい光景だろう。
「それだったら、今のうちに藤林少尉を防諜向けに仕込んだ方が早いよ。あれは筋がいい」
「そうしたいところだが、使い勝手が良すぎて重要な仕事を任せていてな」
困り顔だ。他に当てはないのか?
「柳大尉は、あれは前線だな。真田大尉は?」
「いや技術畑だ。誰かいないか?」
何人か、第二班だったころの部下の名前を出した。
ただ非魔法師なので、旅団の性質上魔法師の方が望ましい。人員を引っ張ってこれるか微妙だ。
いくつか防諜体制拡充に向けて話をし、俺の紹介という形で情報部の佐官を講師として防諜研修を行う方向になった。
あとカナデとの関係を伝えると
「藤林から聞いていたが、責任はとれよ。大隊の解散理由が痴情のもつれによる九島老師の激怒じゃシャレにもならん」
「披露宴には呼ぶよ」
今日一番の風間さんの困り顔で定期連絡は終わった。



十文字戦は意外と校内で話されていない。
というのもギャラリーの面々が意気消沈する十文字さんを気遣って、あまり外部に話をしていないらしい。
一応模擬戦の動画は閲覧可能なアーカイブに入れられるが、殆ど閲覧されていない。
それよりも問題はこっちだ。

「モーリー、試験のヤマ教えてよ~」
「うるさいな!こっちだって、試験勉強くらい自分のペースでさせろ!」
食堂での昼食。
俺はモーリーに泣きついた。試験時期なのだ。
既に部下には魔法大卒の新任少尉はいないので、勉強は自分でやるしかない。
カナデに「勉強教えて!」と言ったが「う~ん、どうしようかなぁ」とはぐらかされた。
意地悪顔も可愛いのである。

意外と勉強のできるモーリーに試験のヤマを聞いたが怒られている。
光夜は「教えるのは苦手だ」でばっさり、雪光は「弱点ぐらいないとね~」とこっちも意地悪な顔しやがった。
昼食のトレーを持ちながら男二人で座る場所を探すと、ちょうど司波達也一行と鉢合わせした。
司波達也、司波深雪、千葉エリカ、西城レオンハルト、吉田幹比古、柴田美月、光井ほのか、北山雫だ。
「あ、司波兄!お前、筆記得意だろ、こいつ引き取ってくれ!」
テーブルの脇を通る時に、モーリーは司波達也に俺を顎で指しながら言った。
モーリーは深雪を「司波さん」、司波達也を「司波兄」と言っている。本人曰く「わかりやすい」らしい。
司波達也も「俺が司波深雪の兄なのは事実だしな」と気にはしていないようだ。

「森崎、なぜ俺なんだ。深雪もいるし、ほのかも雫もいるぞ」
司波達也の冷静な返しに、モーリーは近くの空いたスペースに着席しながらさらに返す。
「レオに教えてるんだから、人に教えるのは得意だろ」
「あ、なんだその言い方。俺は別に勉強できないわけじゃないぞ!」
引き合いに出されたレオンハルトが、モーリーの言い草にモノ申した。
モーリーもモーリーで
「じゃあ聞くが、レオ、お前は前回の筆記どうだった?」

「「う」」

そう言われて、俺とレオは言葉が詰まった。
あまり思い出したくない。
「一科、二科関係なく日頃からちゃんと勉強しろ!」
ド正論を言われ、俺とレオはほぼ同時に

「「勉強教えてください」」

と司波達也に頭を下げた。



「ふふ、達也と勉強会ね~」
カナデは紅茶を飲みながら昼にあったことを笑った。
「あ~、もっと勉強しときゃよかった」
テーブルに突っ伏して呟いた。
いや、授業にはついていけるが現在最先端の魔法の講義はおっさんには厳しい。
20年近く前に習った理論が、時代遅れの理論扱いで下手に知識がある分理解に時間がかかる。

「で、光夜はなんのようなんだ?」
いつもの人のいない喫茶室。周辺の景観はあまりよろしくない。ロボ研の建物が窓から見える。
「さあ?いきなりなんだろね?」
雪光も目の前のケーキセットをパクつく。
そう言えば風間さんが「雪光君も魔装大隊に入れたい」とか言ってたな。
三校にもイキのいい奴いるから全部まとめてリクルートしてしまえ。

「待たせた」
光夜が重い空気を纏って来た。
おい、なんだ?中条会長に副会長解任とか言われたか?
あれだけ生き生きやってた生徒会業務外されて凹んでいるのか。

光夜は椅子に座ると
「留学生の情報が入ってきた」
留学生?あれ、たしかスターズのリーナが来るんだっけか。目的はパラサイトの退治。違ったか?
雪光がケーキを食べ終わる。
「あれだよね。北山さんと交換留学名目でUSNAからリーナが派遣されてくる来訪者編」
「そうそう、でも周公瑾はこっちにいるから、相当未来は変わるわ。ちょっと先が読めないわ」
カナデの未来知識で周公瑾がキーマンらしい。あの人、どう扱おう。
光夜は二人の発言にうなずく。
「だが、それは大きく変わる」
手にしていたタブレットを見せる。何となく声が震えている気がする。
「先ほど中条会長から教えて頂いた」


タツヤ・クドウ・シールズ??????????

タツヤ・クドウ・シールズ??????????

タツヤ・クドウ・シールズ??????????

タツヤ・クドウ・シールズ??????????

タツヤ・クドウ・シールズ??????????

タツヤ・クドウ・シールズ??????????


タブレットに映し出されたのは、フォーマルなジャケット姿の少年。
落ち着いた表情に黒髪で黒い瞳。アジア系、いや日系か?
どうやら留学生用の提出資料のようだ。

ん?
司波達也に顔つきが似ている。

雪光もカナデも無言だ。俺と同じ困惑と驚きがない交ぜの表情だ。
5分近く誰もしゃべらず、タブレットの写真を睨んでいるとカナデのタブレットが振動した。
メールなのか、突然の衝撃が抜けないまま虚ろな目でタブレットを操作する。

「なによ!」

突然の大声に、俺も雪光も光夜も体を驚きで震わした。
カナデは手にしたタブレットを俺たちに向けて見せる。

『アンジェリーナ・クドウ・シールズが二校に留学してくる』

送信元にはカチューシャと記載があった。
カナデが横浜で知り合った転生者の名前のはずだ。
光夜にきつい対応された話は先日聞いた。

カナデの大声も理解できた。
俺たちの来訪者編は今までの比ではない波乱が起きるかも知れない。



第二部は著者が斜め読みしていた来訪者編の読み直しが終わったら。

第一部のアレコレの話。

・九校戦でのモーリーの怪我
最初は須田即入院で、モーリーは意識のある状態での重傷。
モーリー相手校に重傷のまま怒りの殴り込み。周りも止めようとするがモーリーアドレナリン出まくりで止まらず。渡辺摩利が調香した鎮静作用のある香りで無理やり落ち着かせる。
アドレナリンが止まり、アドレナリンでごまかされていた傷の痛みが一気にモーリーを襲いモーリー失神。
須田の入院手配をして現場にいなかったアラタがその話を聞いて渡辺に「くそ素人が!」と一喝するというシーン。

あまりにも渡辺先輩が馬鹿扱いなので止めた。

・vs呂剛虎
学校云々よりも、重蔵の趣味ということで洋楽をガンガン鳴り響く中での戦闘!を考えたけど、工作員にしては派手過ぎるので断念。
著者は戦闘シーンはsaturday night alright for fightingをエンドレスで流して書いてる。

・黒城兵介
転生者組だと、一番扱い難くて扱いやすい。
本来はもう少し腹黒いイメージで、横浜騒乱時のカチューシャとのコンビも想定していたけど雪光のモノリスコード時の相手と意識したら一気にこういうヤツになった。

魔法不使用時の身体の頑丈さだとレオよりも上。
兵介>レオ≒関重蔵>頑丈なメインキャラ>>一般人くらいのイメージ。あくまでイメージ。

・周公瑾
普通の周公瑾のはずが、感想でアレコレ書かれていたので度肝抜かせてやろう!と奮起して憑依系転生。
もうね、周公瑾の横浜騒乱編後の行動を確認するの大変。

・カチューシャ
もっと冷酷で悪人然とした「女版光夜」のつもりが、状況が大きく変わり過ぎて膝カックンを食らって驚く感じになってしまった。
本来はもっと凄いのよ。

・雪光
もう少し悪戯小僧的な立ち居振る舞いする予定が、末弟として可愛がってしまった。
兵介との絡みは書いてて楽しい。

・光夜
どうしてこうなった!

・カナデ
ジュークボックスで一気に化けた。もう少し脇役のつもりだったが一気にヒロインに。幸せになってもらいたい。
ちなみにウエストからヒップラインが凄いいい(妄想)

・「貸一つな」
重蔵が殴られるシーンはもっと長くて、描写も少し細かく書いていたが書いてて「ちゃんと書くとテンションが下がる」という理由で簡素化。

・「それもフレアスカートのミニ」
う~ん、重蔵もカナデも大人だからいつかはSEXするよね。会話で誤魔化した。偉いぞ、俺。

・森崎駿&須田渉
癒し。

・関重蔵
主人公だけど、「活躍」は地味。呂剛虎との戦闘までは派手な行動はほとんど無し。地味。
コブラと、冴羽遼のセリフ回しの偉大さがよくわかった。

・感想&感想返し
真面目に受け取り過ぎるとモチベーションへの影響があるし、感想くれたお礼に感想返ししたいし。
そうだ!好きに書こう!



なんで毎回ネタ書いてるんだよ!俺!ばかばかちんこ!



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余話:あれで性悪扱いなら、まだまだ視野が狭いねエリカ嬢

まいった。
本当は年末にかけて対策会議をしなければならないがお邪魔虫に張り付かれてしまった。
千葉エリカ。千葉家の総領娘で、剣術の天才、としておこう。
美少女で二科の人気者。

「ちょっと、これだけお願いしてるんだから少しは融通しなさいよ」
「なんで頼む方が偉そうなんだよ。嫌だよ」
この数日の食堂ではだいたいこれだ。
千葉エリカから俺へのお願いは「道場に来て稽古つけてくれ」だ。
どうやら俺の剣術を盗んで成長したいようだ。
嫌だよ~。面倒だよ。というか、他人の道場に乗り込んでいきたくない。ぼこぼこにされてお終いだよ。道場破りは戸板に乗せてお帰り頂くのが習わしって松尾象山も言ってるじゃないか。
「俺の流派は」
「秘伝武術で見せたくない、でしょ。うちの道場で少人数でやるからいいじゃない」
周りにいるいつもの面々、司波達也と愉快な仲間&モーリー&須田コンビもこの話題に飽きているのか全然気にしていない。

須田ちゃんは最近見た恋愛映画の話をしてほのか&雫のコンビが興味津々になったり(司波達也と自分に置き換えている確率75%)、今度の試験について深雪副会長と美月とモーリーが試験範囲について真面目に話、それをレオが聞いて頷く(お前、俺と同レベルなら勉強しろ)。
幹比古と司波達也が今度販売されるCADについて古式魔法への応用について話している。
誰も助けてくれない。カナデはカナデで女子の友達と別のカフェテリアで昼食している、はずだ。

「お前な~、流派の秘伝を見せろと言われて見せる奴いないだろ」
「あたしは別に。真似できる奴なんていないし」
頭が痛い。今は雪光、光夜にこれから起きる未来年表の作成をお願いしている。
来訪者編から先、特にパラサイトを使って色んな事件が絡み合っていくことを予想するに
誰がどんな思惑で動くのか把握しておきたい。
一番遠い未来まで知る雪光にその辺りをまとめてもらっている。

多少時間があるとはいえ、お嬢様のわがままには付き合う気はない。
というのも、風間さん経由で支援課時代と同じようなリクエストが色んな部署から俺宛に来ている。
どこかのビルに今晩忍び込んで盗聴器仕掛けろとか、某国大使館職員を追跡して家族関係把握しろ、今すぐUSNAのセーフティハウスとフロント企業に忍び込んでハッキングツールを仕込め、だの。
無茶なもの以外は受け入れている。というのも魔装大隊と諜報系の間に関係を作る必要があったからだ。
支援課時代は仕事だが、大隊所属になった場合は貸し借りの話になる。

そしてその貸し借りは絶対にこの先の大隊に必要となる。
今は戦場でドンパチするよりも、お互いの腹の探り合いの時期だ。
いつか来る主力軍隊同士の衝突までに有利に立つための下準備だ。
だからといって学生を夜中に新宿の高層ビルに忍び込ませるのはどうかと思うね。

それはそれとして、目の前の小娘だ。
「だから」
「だからって、あんたにあたしのブルマ姿見せたじゃない。それのお返しよ」
「屁理屈だ!」
そんなことでワーワーギャーギャーしているわけだ。
これなら、剣術の試合は負けりゃよかった。自業自得となった。
だが、拒否だ。条件つけてOKしてしまうと、今度はまた別の条件で話をしてくる。
こっちの言い分は「嫌だ」で全部通す。

「少しくらいは譲歩したら」
そうは言ってもカナデさん、ってカナデがエリカに助け舟を出した。
というかこっちに顔出しに来たのか。
「ほら、彼女もOK出してるんだからいいでしょ!」
エリカは勝ち誇った笑顔だ。ちくしょー。
「ただし、条件。その1、ちゃんと保護者同伴で稽古する」
そこにカナデの声が下りてきた。条件付けか。
今度は俺が勝ち誇った顔をした。
「その2、稽古には当主は同席しない」
もちろん、そうだ。俺の武術は秘伝なので他流派には見せたくない。
ただ、不破流など存在しないのが肝だが。
「その3、あたし千葉家に遊びに行ってもいい?」

あ、そうか。上手いな、カナデ。今晩キスしよう。

彼女は「千葉の長男」に会いたいのだ。つまりは姉である藤林響子の恋人候補だ。
千葉家におけるエリカの保護者であり、当主で無い人物。そして道場に出るだけの立場。
該当するのは長男か次男になる。たしか長女もいたはずだが、詳しくは知らない。
千葉寿和、将来死ぬ可能性のある人物。詳細な状況は知らないがwikiには死亡の記載があった。

「え、何よ!その条件?!」
条件付けに不満なのか、最後の条件に不満なのか。エリカの声は最後の一つな気がする。
「最初のは、無理な稽古を強要しないようにお目付け役。二つ目は、秘伝を他流派の当主に見せるなんてナンセンスでしょ?」
「最後は?」
ほら不満な声だ。
「単に好奇心」

「エリカ、条件を飲めば稽古に来てくれんるんだ。どうする?」
横から声が出る。司波達也がいい加減にしろ、と言いたげだ。
「う~」
条件付けが嫌なのか、カナデに主導権を取られたのが嫌なのか頬を膨らませている。
小動物か。モーリーだって「ぐぬぬぬ」とか言って人間らしい反応するぞ。
「じゃ、お兄さんの非番の日でスケジュール調整しといてね」
そう言ってカナデは俺から離れて、他の友達の方へ歩いて行った。

うわ、うまい。これで当日の保護者は警察官の長男に誘導された。
エリカの兄が警察官なのは横浜騒乱にいた面々には周知の事実だ。
違和感なくその長男をイメージさせる言い回しで誘導するとは。
藤林姉妹は本当に諜報向きだ。

「アラタ、あんたの彼女ちょっと性悪過ぎない?」
「あれで性悪扱いなら、まだまだ視野が狭いねエリカ嬢」



「足運びが遅い、振りと体幹がちぐはぐ、視野が狭い、意識が手内に集中している」
ボロクソである。俺の横では千葉寿和氏が苦笑いである。

千葉家の道場には俺、カナデ、エリカ、千葉寿和そしてレオの五名がいる。
「ほら、どうした。レオの細部を見るな。輪郭を見ろ、輪郭を。全体を見つつ、細部を観察するんだよ」
俺の声に反論せずに、エリカはレオと型を繰り返していく。
真剣な顔半分、最後の矛盾した言葉に怒っているのか表情が硬い。
それでも俺はエリカの悪いところ指摘する。
「動くな、止めるな、矛盾を矛盾せず動け。意識していることを無意識に、無意識なことを意識してやれ」

結局あれから2日後、千葉寿和警部殿が非番というので、放課後に千葉家へカナデとお邪魔した。
エリカの相手役としてレオも来ていた。今日のやられ人形君その1である。
で、カナデを除く四人は稽古着に着替えて稽古開始だ。
前回のでエリカの腕前はわかっているので、今回は成長のためのステップワンだ。

「お兄さん、厳しくなりますが口出し無用で」
「わかっているよ。まあ、我慢不足なところもあるがよろしく」
「ちょっと兄貴!余計な事言わないで!」とエリカが酷くご立腹だ。次兄以外は人間の屑扱いか。
で、最初に戻る。

幾つかの型を延々と繰り返し、エリカの悪いところを口頭で説明する。
「身体を動かす時に、筋肉を意識するな。身体全体は水だ。水。流れるように淀みなく動く。速さは瞬発力ではなく滑らかさ」
ぼちぼち初めて1時間。
「おし、休憩~」



道場の真ん中で大の字で倒れ込むエリカ。相当ばててるみたいだな。
「にしても見事な指導だね」
千葉寿和が感心する。お前、意中の人の妹がいるからって大人ぶるなよ、若造が!お前も九島烈に圧力掛けられてしまえ!
「いえ、うちの師匠に言われていたことを言ってるだけです」

「おーい、大丈夫か」
「・・・だめ」
上から覗き込み心配するレオにエリカは一言返すだけだ。
カナデがタオルやら水やらもって介抱しに行く。

「魔法なしの剣術だとエリカは千葉家じゃどんなもんなんですか?」
「大抵の門人よりは上だよ。ただね、エリカは魔法前提の稽古が多いから、純粋な剣術だとね」
「さーやには勝ったわよ!」
大の字のままエリカは反論する。まだ息が上がってやんの。同じ稽古を防衛大上りに指導した時は1時間で同じ状態になったから、エリカは防衛大卒とどっこいのスタミナかな。
「さーやって?」
「確か数年前の女子中学剣道の有力者で、一校でも剣だけなら渡辺摩利さんより上っていう剣士ですよ」
「へ~、あいつの彼女より強いのか」
「あの女の話はしないで!」
俺と千葉の長男坊との会話に寝ころんだまま割り込むとは器用な。ブラコンな。長男も寂しがるから、優しくしてやれよ。社会人は家の外で傷ついているんだからな。
「よし、そんだけ元気あるなら次の稽古するか」

俺対エリカ&レオによるハンデ戦。
「ほれほれ、どうした」
先ほどエリカに話した「動くな、止まるな」の実演である。
俺は武器なし、二人は木刀だが一太刀も掠りはしない。
前後左右と緩急をつけつつ、重心のコントロール、視線誘導を駆使して二人を翻弄するのだ。
「幻」とか「陽炎」と言われる技術の初歩だ。
二人の目には、振り下ろした木刀が俺の居たところを虚しく通過するだけだろう。

おふふふ、もう少し上の技術もあるが君ら相手にはこんなもんだよ。
「レオはもっと視野を広く。エリカ、水だ水。もっと滑らかに。動きにタメを作るな」
そんなことをしていると道場に新たな人物が来た。

千葉の麒麟児、3m以内なら世界十指、彼女とおそろいのジャケットを着る男だ。



カナデは千葉長男としっかり挨拶できた。
「姉にも伝えておきますね」とカナデに言われてデレデレだ。
お前、九島の爺の相手大変だぞ。ちゃんと貯金しているか。九島相手だと公務員は安パイじゃないからな。

千葉長男は「最近はまだ忙しくないのでいつでも空いてます!」と
カナデに伝言していたので、吸血鬼事件で警察省が動くことはレベルでは起きていない。
USNAの何とか実験はもう行われたのだろうか?
周公瑾の手引きがないからずれ込むのだろうか?

横浜騒乱といい、吸血鬼事件といい、事件のスタート合図は千葉長男だな。

さて、俺は俺で千葉次男と勝負をした。
次男が出てきた瞬間の「次兄上!」という学校では聞けないエリカの声音には笑いそうになった。
その優しさを長男にも向けてやりなさいな。社会人の苦労は労わってやって。
俺の稽古を見ていた次男を長男がけしかけたのが、一本勝負の始まりだった。

ルールは俺は魔法なし、次男坊は魔法アリ、ただし移動や自己加速等だけで、殺傷能力を上げるのは無し。
スゲーのな、次男坊。世界十指は伊達じゃない。
俺の「幻」「陽炎」「幻馬」の妙技に全部対応してきた。
それだけじゃない。本気になったのか移動魔法を駆使して、「幻」のような足法を見せたのだ。
呂剛虎の歩法は80点だが、千葉修次には90点あげる。

結局勝負は引き分け。相抜け狙いではなく、このまま行くとお互い本気の本気になるので適当なところで止めた。
「もし、良かったら防衛大で稽古つけてくれないか!」
次男坊にすごっく熱い握手をされた。
「え、秘伝なので無理」と答えたらしょぼくれてた。
千刃流鍛えてろ!長男は九島入りするから道場継ぐのお前やぞ。

「今日はありがとね」
帰路でカナデにお礼を言われた。そこはかとなく嬉しそうだ。
「まあ、千葉長男次男と顔つなぎするにはいいタイミングだよ」
「ごめんね、条件つけて。諜報員は目立っちゃダメなんでしょ」
今回の稽古をおぜん立てし、千葉家に顔をさらしたことを気にしているようだ。
「それは光夜に言ってやりなさいな。あいつら俺が潜入諜報員だとすっかり忘れてるぞ」
あいつらとは司波兄妹とボッチだ。
模擬戦にしろ、今日のことにしろ発端はあいつらのお喋りからだ。も~。
釘を刺しといたほうがいいかな。横浜騒乱が終わってお互い気が緩んだ。

横浜は民間人の被害はゼロ。建築物も被害は小さく、国防軍も重軽傷者はいるものの
死者はなく、大亜連合の侵攻作戦に対してほぼ完ぺきに抑え込んだことになる。
一校で呂剛虎と戦った兵士では死者が一名出た。
彼は日本の国防を守った人間だ。
呂剛虎が素通りで図書館に行ったのなら、俺は間に合ったかどうかわからない。
日本の魔法技術の海外流出を抑えた勇士は俺ではなく、あの場で呂剛虎と交戦した面々だ。

「お姉さんをもう一度泣かせたくない」とカナデは言った。
千葉寿和の死亡で藤林響子は泣くのだろう。
俺が横浜騒乱を止めたかったように、カナデは千葉寿和を助けることで姉を悲しませたくないのだ。



考えたら関重蔵の実力を戦闘で見たことある登場人物皆無なんだよな~。
全部デモンストレーションでしか、重蔵の実力を知らない。


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余話:いいのよ、発言をして。許します

感想200件記念投稿。
三人称視点です。


「おじい様、新年おめでとうございます」
「奏」
「はい、おじい様」
「お前は利発で、聡明で意志が強い。それは美徳だ。響子にも劣らぬ魔法の才。それを過度に誇ることもなく自然体で生きる姿は美しい」
「お褒めいただき、ありがとうございます」
「だが交際相手は選びなさい」
「何か?」
「あの関という男と会ったよ」
「おじい様は別れろと」
「あれは独立した一人の男だ。どこに行っても仕事を得、生きていくことが可能だろう」
「それはいいことだと思いますが」
「だがお前はまだ16歳だ。あれはもう30を超えている。お前が20歳になる頃には倍の年齢だ」
「そうですね」
「年の離れた男はいかん」
「いかんと言われましても」
「いかんのだよ。克己心もあるが反抗心もある。決して鎖に繋がれる男ではない」
「おじい様、年齢の話からずれました」
「反抗心のある男が九島で生きるのは厳しい。藤林は分家だ、肩身の狭い思いからその反抗心は」
「婿入りではなく嫁入りでいいかと思います」
「いかんのだ・・・いかん」
「高校在学中の避妊はお願いしてあります。結婚の際はおじい様のお力で後方勤務に調整いただければ、奏は嬉しく思います」
「お前まで、あの男と同じことを言う!」
「子供は3人ほど欲しいと思います。一人にはおじい様の烈の文字をいただければ嬉しいのですが・・・ダメですか」
「ぐぬぬぬぬ」


四葉の新年の挨拶は例年以上にピリピリしていた。
四葉真夜と深雪を筆頭とした四人が東京からモニター越しに会見したことが引き金だ。

四人が東京に住むことになり、もう数日で入学式となったある晩だ。
真夜が全員に入学の祝いの言葉を与えていた。

正しくは「深雪と雪光を褒め、達也と光夜を蔑んだ」のだ。
4人が見るモニターには真夜だけではなく、分家や執事たちの姿もあり、四葉家の「謁見」と同レベルであった。
「光夜さんは何か言いたいことはおあり?」
「いえ」
「いいのよ、発言をして。許します」

光夜は四葉では非常に特殊な立場だった。達也がその能力と経緯で異端視されるなら、光夜は出自で疎まれていた。
四葉元造の冷凍精子によって生まれた、いうなれば真夜の「弟」でもある。
調整体といった遺伝子調整が行われるようになったこの時代でも、光夜の出自は当主の後継問題の火種となりかけた。
光夜が成人後に分家を作りそこに押し込むことを真夜が宣言し、力業だが収束した。
当主の宣言を一族が履行する証明なのか、光夜の扱いは達也と大して変わらない。
母親と離されて、厳しい訓練へと落とされた。
使用人たちからは忌み子扱いだ。執事たちからは名前で呼ばれたことなど数えるほどしかない。

「あなたは、あの人と同じね。不満があると黙る。そっくりね」
まるで懐かしむように言う真夜に、光夜は内心で激怒の嵐を起こしていた。
(貴様が!母のことを言うな!)
「いいのよ、なにか望みがあれば言いなさい」
「いえ、今の状態で十二分です」
「欲がないわね。ほんと、そういうところも優衣さんそっくりね」
そう言って、口角をあげ真夜は微笑む。
周りの執事たちも、併せて笑う者もいる。

その姿を横目で見ていた達也、深雪、雪光は真夜の発言を恨んだ。
光夜の目が、一気に変わった。爆発する前の爆弾だ。

達也はモニターに映る執事たち、分家達の視線を鬱陶しいと思うとともに
母のことを侮辱されたと思う光夜の「感情」を羨んだ、ような気がした。
(俺には羨む感情がない。あるのは深雪を思う心だけだ。それで十分だ)
自分の心に深雪が占めていることの喜びをかみしめつつも
今の自分達の立場にはやはり脱出したい気持ちもある。つまりは自由だ。

「光夜さんも、こちらに戻ったら優衣さんのお墓参りに行きなさいね」
真夜としては、離れた肉親へ里帰りの際に墓参りを勧めただけであり、何気ない世間話の延長線上だった。
「発言を許していただけますか」
(やばい!)
(ダメです!光夜お兄様)
(何を言うんだ、光夜)
「どうぞ」
モニターの真夜は微笑む。

「若作りはみっともないので年相応の服装と化粧を」

そして新年の一族が集まる場に、光夜も来たのだ。



まあ余話なので。


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リーナとタッちゃんにその気があれば日本亡命でも誘ってみようか

北山雫はUSNAに短期留学しに行った。USNAの男に気をつけなさいね。
俺も以前、USNAでティーン少年のふりしてたら尻触られた。
当時潜入中だったから殴れなかったのが残念である。

試験の手ごたえはあった。試験後にカナデと回答を確認したら、良い得点いっていた。
ありがとう司波達也!お前、軍人辞めて教師になれ!

年末年始は忙しかった。会議と仕事に忙殺された。

カナデは冬休みすぐに、九島の本家に長期滞在するため東京を離れた。
クリスマスも年末年始も一人羽を伸ばす、わけもなく仕事だ。

「こんなに仕事をしていたんだな」
久しぶりに執務室で会った風間さんが驚いた顔をしている。
別部署からの仕事を可能な限り受けるようお願いしていた。
「少しは他部署に貸しは作れました?」
「内情が機嫌良くしているのを初めて見たよ」

内情や公安に年末の挨拶ついでに最近の密入国情報を確認するが、大規模なものはほぼ皆無。
周公瑾が手元にあり、密入国者への住居提供や身分証提供のルートを潰せたのがデカいらしい。
そして悲劇の憑依転生者周公瑾とも面会した。

「どうです、最近は」
「ええ、資産も返還されて、お店は他の人に譲れたのでまずは一安心です」
以前あった暗さは微塵もない。漫画みたいなイケメンぶりだ。
一人刀剣乱舞も納得のイケメンだ。
「お聞きしたいんだが、あなたがここにいることで貴方の師匠はどんなトラブルを被る?」
そう言われて周公瑾は悩んだ顔をする。腕を組み2分間ほど「ん~」と悩む。
三日月宗近のコスプレしたら似合いそうだ。でも今の若い子は知らんか。

「情報部の方にも話しましたが、基本的に日本国内での活動拠点を失った、と考えていいです。人、物、金、伝手は私と無頭竜に集約していましたので。四葉というか、日本というか、復讐心の強い人物なのでまた何かしらアクションを起こすと思います」
この人は相当重要な人物だったんだな。黙っていればイケメンだし。
「では、あなたや無頭竜がいない場合、あの人物は日本へ工作員を送り込むなどを短期間に行うことは可能ですか」
「可能だと思いますが、工作員の現地生活までは面倒見切れないと思います。あれですか?パラ」
「そうです」
単語を最後まで言わせない。盗聴の心配のない情報部内のカフェとは言え、未来知識に関わる点はオフレコだ。
「自分、アニメ組なのでよくわからないんですが、大変なんでしょう?」
「まあ面倒具合だと横浜レベルですよ」



年始は初詣、と言いたいところだが仕事だ。
実のところ内閣情報局からの仕事が一番多い。業界の最大手としては年末年始も休みなしだ。
今日は尾行である。

ふざけんなよ。元旦の駅伝見れないじゃないか。三が日は駅伝三昧したいんだよ~。この5年出来てないけど。

ブリーフィングルームでは覆面姿の俺を不安視する情報分析官が資料を見せてくる。
「タツヤ・クドウ・シールズという魔法科高校一校の留学生です。背景情報として九島烈氏の弟の家系であるシールズ家の養子です。以前は民間研究所に勤める日系人家族の子供でしたが、研究所における失火で両親がなくなりシールズ家に養子縁組。失火から養子縁組のスケジュールを精査したところ、不自然な日付のズレがありました。工作員、諜報員の可能性があります。彼の日本での在留先とその周辺を探っていただきたい」

分析官は表情を変えずサラっと言いやがった。標的のそいつが大問題なんだよ!マテリアルバーストかますぞ。使えないけど。

いくつかの道具を持たされて、俺は新春のめでたき空港のロビーにいた。
空港の乗降口からタッちゃんが出てくるの待つ。
彼名義の予約チケットではあと20分ほどで空港に到着するはずだ。

すでに「来訪者編」については二学期終業式の夜に、転生者面々と協議した。
方向性は決まっているし、行動方針も決まっている。

空港は元旦の正午も人がごった返している。空港が新春のイベントをしているということもあるが
やはり日本の空の玄関口は新年関係な混みようだ。
にしても、元旦から日本に行かされるとは、スターズもブラックだ。
リーナとタッちゃんにその気があれば日本亡命でも誘ってみようか。魔装大隊の戦力強化だ。
国防軍は熱海に保養所あるから温泉に格安で行けるぞ!どうだ?!

少し待つと、タッちゃんが乗降口からやってきた。
うわ~、司波達也だ。
紺色のダッフルコートを着ていて、年相応な服装で少年らしさを感じさせるが、首元の筋肉見るに鍛えていることがよくわかる。
写真で見た髪型は前髪を上げていたが、今のように髪を下ろしているとお兄様特有の眉間当たりで前髪がクロスする癖ッ毛も似ている。あの髪型は印象深い。
体格面でもそっくりだ。身長や想像しうる胸の厚み、筋力量、歩き方から推察される筋力バランスや運動能力。
元祖司波達也より、本家司波達也の方が歩くスライドは大きく早い。元祖より本家の方が堂々としている印象だ。
写真より似ている。二卵性双生児と言っても通じるな。



スゲー緊張した。
奴の後ろを通り過ぎる瞬間に、ちょっとしたギミックを使い、靴に粘着性の高い液体追跡装置を付着した。
ピンポイントで、靴の踵に接着できたのは俺の能力の高さによる。やったね。

液体の中には超微細な追跡装置が含まれている。微弱な電波を出し、市街地の警察・公安が使用する受信機を使えば足跡を追える。

場所を追跡するだけならこれで十分だ。
少し距離を取りつつ、たまに視界から完全に外れ奴の日本滞在の拠点を探る。
追跡装置の稼働時間はいいとこ24時間だ。

セーフハウスと思われるマンションはセキュリティもしっかりしている。ちょっと準備すれば入り込むことは可能だが、入国直後は潜入した人間は緊張感が高く警戒心が強いので、あんまり踏み込みたくはない。
結局近くの住宅街で内情の指揮車で監視を継続。

18:00頃に外出し、USNA大使館に移動。そこで新年のパーティに出席。22:00に帰宅。
翌日9:00に外出。国際留学生支援協会に顔を出す。
正午過ぎに協会建物から出て、移動。スーパー等で日用品を買い帰宅。
17時と20時に外出。俺もこのタイミングで内情の要員に引き継ぎ離脱した。

とりあえず、タツヤ・クドウ・シールズの面は拝んだが、写真以上の司波達也だった。
なんだ、写真以上の司波達也って。

もう数日で始業式だがどう事件は進むのか。パラサイトはもう入国しているのか?


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どうも義理の妹は甘えん坊のようだ。

国立魔法大学付属第一高校の制服に袖を通して思うのだが、肥満体に似合わない柔軟性の無いデザインにGOを出したのか不思議だ。
緑と白を基本にした制服で男子の制服はブレザーと呼んでいるが、なんというか燕尾服のジャケットというか、中途半端な丈のコートのようにも思う。襟も高く、全体的に角張ったイメージのブレザーだ。
巨大ロボットを操縦するパイロット候補生と言っても通じそうだ。実際本国のギーグ達はSNSで笑っていた。

ありがたいことに俺は顔の造形はいい。
この制服でもさほど違和感がでない。司波達也が着るのだから俺も着れる。
「タツヤの顔は夜空のような美しさがある。吸い込まれそうな瞳よ」とリーナは評した。
個人的には少し地味な顔つきをしていると思っているが。
黒髪に黒い瞳、そして特徴的な前髪の眉間クロスのくせ毛。
本国でも日系より「日本人」に間違えられることが多かった。
どうやら遺伝子的には両親とも日本人だ。

「タツヤ・クドウ・シールズです。日本語はしっかり勉強して来ました。よろしくお願いします」
少しはにかんで、頭を下げた。
クラスメイトの視線は好奇心がはっきり出ている。
黒髪に黒い瞳、貴様らと変わらない日本人顔だろう。珍しいのか。
いや視界に入る司波深雪の表情から、即座に理解できた。
やはり俺の顔は司波達也に酷似しているのだ。

鏡で見ても、本物について挿絵を見た記憶頼りなので違いがあるかどうかわからない。

今回の任務は日本魔法科高校一校が潜入だ。
目的は横浜での大亜連侵攻後に起きた「グレートボム」を使用した魔法師を探すこと。
この学校に容疑者がいる。

俺こと「タツヤ・クドウ・シールズ」はUSNAスターズの少佐である。

USNAの魔法師特殊部隊スターズ。実際は陸海空、海兵隊、沿岸警備と並ぶ独立組織でもある。
そのスターズの総隊長、USNAにおける最高戦力の一人「シリウス」それが俺の義理の妹リーナだ。
俺は俺で「もう一人のシリウス」という特殊な立場にある。
シールズ家には二人の天才児がいたのだ。
いや、軍内政治によって俺がシリウスになるところを、本当の天才が正しい評価で正しい場所に収まったのだ。

実力の評価は拮抗していた。そこで独立した行動を認められるワンマンアーミーとして「もう一人のシリウス」として恒星シリウスの異名「シヴァ」で呼ばれることとなった。
リーナは今二校に潜入している。あれで少しおっちょこちょいなところがあるので心配だ。

紆余曲折の結果、俺はシールズ家で世話になっている。養子という形だが、なんというか家族というより家族みたいな下宿な感じがする。以前にそんなことを言ったらリーナに「家族でしょ!」と怒られた。
それ以来、何につけて一緒に行動することとなった。どうも義理の妹は甘えん坊のようだ。

俺は転生者だ。
この世界の未来を知り、会ったことのない人間の内面を知る。
前世は30代のサラリーマン。人付き合いは苦手な方ではなかったが、やっぱりオタク気質が強い

生まれ落ちた世界が「魔法科高校の劣等生」なのは幸運でもあり不運でもあった。
魔法科高校の劣等生の二次創作SSを投稿していたこともあり、世界設定と年表には人より詳しかった。
軍属を選ぶ時に覚悟は出来ていた。将来、司波達也と敵対する立場になることを。

転生者であるとともに、チート持ちでもある。幾つかのリクエストと幾つかのランダム。
チート名だけでは判断がつかないが、「シヴァ」となれたのは、チートだけではなく自分なりの努力もあった。
俺自身、この世界や自分の立場に対しての気持ちは複雑だ。
魔法を使えるのは楽しいし、待遇もいいし、今は家族に囲まれている。
だがここに来るまでの地獄めいた人生を思うと時折神を呪い、この世界に転生した自分を呪った。

そして、自分が受けている地獄の同じ時間軸で原作キャラクターが平和に、俺と比べ平和に生きていることに八つ当たりめいた恨みを持っていた。いや、今もそれは燻っている。
その恨みは「司波達也」に向いている。俺と同じ顔をし、類まれなる能力を持ち、地獄めいた人生を送る者。
鏡で見るこの顔が司波達也と向き合うようで気に食わなかった。

「お前だけが世界に祝福され、人間に呪われているわけではない」

お互いに相手を罵るような気分になる。
あれ程熱狂して読んでいた世界も、そこに入り込めば戦争と差別が続く世界なのは変わりなかった。

さて、俺と同じ異分子は

一校
四葉光夜
司波雪光
藤林奏

二校
川村エカテリーナ

三校
黒城兵介

の5人。

「大亜連合の横浜侵攻」いや「横浜騒乱」で名前が挙がった5人は転生者の可能性が高い。
九校戦と横浜騒乱での活躍。高い魔法力に独特の立場。何よりも俺の知識外の存在であること。
以上の理由でチートを保有している転生者として接した方が賢明だ。

昨年起きた鎮海軍港の「グレートボム」を起こした魔法師を探し出すのが俺の、そして日本に派遣されたスターズの面々の仕事だ。
グレートボムを使用した可能性がある魔法師が各魔法科高校の学生の可能性を鑑み、戦闘能力のある若年の魔法師が留学生として、日本全国の魔法科高校へ送られた。

第一高校のグレートボムの容疑者を「四葉光夜」と戦略室の将校と分析官は判断している様だが俺は違う。

司波達也だ。日本の魔装大隊特尉大黒竜也。
俺の知り得る原作知識では司波達也がグレートボム、つまりマテリアルバーストの術者だ。
これから俺はその調査をせねばならん。
証拠が無かった今までとは違い、確実に尻尾を掴める。この来訪者編、いやパラサイト事件を使えば奴の実力をUSNA軍に認識させることが可能だ。

俺はこの世界で今の立ち位置で幸せに生きるために必要なことを考える。
自国の戦力強化と、トラブルメイカーである司波達也を抑え込む材料を持つ。

つまりはいつか来る魔法師たちを主体として行われる世界大戦の勝利。

そして場合によっては現段階で司波達也とその他の転生者たちと敵対する覚悟がある。
主人公がなんだ。敵となるなら容赦するつもりはない。
なんだかんだで、俺は司波達也が嫌いなのだ。
義妹はやらんし、俺の幸せのためだ、地獄を見ろ。


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「お前たちの兄ではない」

生徒会室での生徒会役員への挨拶はつつが無く終わった。
中条あずさは弱弱しい羊のイメージだ。癖の強い髪型が本人よりイメージに残る。
五十里啓は少し女性っぽい。体の厚みが感じられないからだろうか。
光井ほのかは予想以上に幼さを感じる。USNAのミドルティーンと比べてしまうと、小学生と言っても通じる。

そして、司波深雪は美しかった。
義妹のリーナは陽性ではあるが時折、陰鬱な寂しさを見せる西洋絵画のような絶世の美しさに対し
司波深雪は彫刻だ。移り変わることをイメージさせない完成された美だ。永久氷壁に眠る美貌の少女。

問題はこの男。四葉光夜。
長く伸びた髪を後ろで結び、覇気のある瞳。四葉光夜の美しさは 筆舌に尽くし難い。強く、幻想の動物を思わせる神話的猛々しい美しさと、古代叙事詩の英雄の気高さを持つ、恐ろしく攻撃的で高圧的で支配的で、言葉が通じなくても膝を折りたくなるような美だ。

「相馬君は部活の方に顔出しているので、後ほど紹介しますね」
「ありがとうございます。中条会長」

俺は、USNA本国に学生自治のモデルを持ち帰るのを目的として、一校生徒会に臨時役員として席を置くこととなった。
役員との顔合せも終わり、俺は司波深雪と光井ほのかに連れられて、食堂で「司波達也と仲間たち」に会うこととなった。

食堂に行く途中に司波深雪から「驚きますよ」と笑顔で言われた。まるで悪戯娘の笑顔だ。

「おわ、ほんとだ!」
俺を見て最初に声をあげたのは、体格の良い二科生(エンブレム無し)だ。やや彫りの深い顔立ち。光夜が獅子なら、狼か猟犬のような活発で精悍な顔立ち。髪の色も黒ではなく薄っすらと茶色が混じっているような。こいつが西城レオンハルトか。もう少し馬鹿面かと思ったら海兵隊の精鋭みたいな引き締まった顔だ。

「ほんと、達也君そっくり~」
それに続いて驚いていたのは赤毛いや栗毛の髪をポニーテールにした、少女だ。美少女と言っていいだろう。活発そうな目に、よく笑いそうな口。指先は鍛えられているのか、少女らしさは無い。格闘家のようだ。これが千葉エリカのようだ。陽性の美少女にも見えるが、珍しいものを見るような無礼な視線を隠さないあたりは自分に自信があるのか、自滅願望の作用にも思える。

「司波さん、彼が?」
日本人の高校生平均と言った体格の少年。周りに比べれば地味な印象を受けるが、決して愚鈍ではない目つきや、運動系に素養のある体格など、努力のあとが伺えるのが森崎駿だ。1-Aの教室でも見かけたが、このメンバーにいることには驚かされる。何かが違う表れだ。

「いや、すごいね」
泣きぼくろの優男。吉田幹比古。黒髪の優し気な目を持つ。男性としては抜群にスタイルがいい。身長から導き出される、腰の位置や頭の大きさなどは、この数日で見た日本人男性として群を抜くプロポーションだ。優しさを醸し出す姿と合わせて、知性を感じさせる口元は単なる知識偏重とは違う実務にたけた印象を残す。

「・・似ている」
驚いて言葉が後から出た眼鏡の少女。この制服から見れる体のラインではこの学校で見た女子生徒では最もボリュームがある。USNAのアイドル歌手など霞むと思うほどの、ボディーラインとやや幼さと愛らしさを残したボブカット風の髪型。ややセクシャルな魅力を感じさせるのは柴田美月か。

「たしかにな」
鏡で見る顔がいる。いや目元が少し違う。俺の方がやや目が大きいか?
ありふれた顔だ。面白みのない、自虐的だが自信や自負に満ち、決して媚びを売らない偏屈な顔。
司波達也だ。

『・・・oh、これはビックリだな』
英語で驚いてみる。こんな芝居が通じるのだろうか。
司波達也の顔を見て驚くふりをする。

席に着くと全員から自己紹介をされる。
エリカが森崎を「モーリー」と呼んだことには驚いた。

USNAの事や、生活のこと家族のこと、興味津々に聞かれた。
逆にこちらも九校戦の活躍を司波達也に聞くと
「人数合わせだ」と謙遜した。その顔で謙遜するな。自分のことだ、誇れ。

司波達也からの視線はあまり強くない。多少猜疑心はあるだろうが、俺がUSNAのスターズと確信はどうだ?

質問も一段落すると闖入者だ。
三人の男子学生だ。

「僕は須田渉。よろしく!」
「俺、相馬新。B組」
今ひとつパッとしない二人だ。
須田は中肉中背で大人しそうな顔。草食動物な印象だ。
もう一人の相馬はやや小柄だ。顔つきはレオが猟犬なら、いいとこ雑種の座敷犬だ。
二人とも運動系の部活なのか、身体はしっかりと鍛えているようだ。ただレオンハルトが近くにいると見劣るような印象だ。

「司波雪光!ホント、兄さんそっくりだ」
司波深雪が氷なら、この男子は冬の木漏れ日だ。寒々しい空気の中の暖かい光。空気と光の寒暖差が心の温度を上げる。不思議な空気とも言える。顔つきは中性的。少年期の美しさが満開となった目を離すことが難しい美しさだ。

三人はこちらのテーブルに連結させるように椅子に座る。

「いやほんとに達也そっくりな。見分けつかないな~」
と相馬新が言った。口調は落ち着いているが、俺と司波達也の顔を二度三度見比べる。
こいつには分析力がないのか。

「でも同じ名前だとどう呼んだ方がいいんだ?両方とも【たつや】だろ。名字で呼ぶか」
森崎が面白いことを言い出した。
「でもそれだと深雪さんも雪光君も司波だし、ちょっと混乱しそうですね」
柴田美月も呼び名の難しさに頭を悩ませ始めた。
「シールズ君はどう呼ばれたい?」と千葉エリカが聞いてくる。真面目な質問というより悪戯な質問といった感じだ。

「タツヤでいいよ」
俺は少し困ったように答える。

「問題はもう一人の方か」とレオ。
「お兄様?」とエリカ。
「深雪以外に言われたくない」と達也。
「達也兄さん」と吉田。
「お前たちの兄ではない」と達也。
「二科生の方」と森崎。
「差別的じゃないか?」と吉田。
「微妙に女子に人気のある方」と須田。
「シールズ君も容姿がいいから女子人気は出るだろう」と相馬。
「生徒会の方」と雪光。
「彼も生徒会の臨時役員で学内自治について研修予定だ」と達也。
「桐原先輩と壬生先輩のキューピッド」と相馬。
「長い」と達也。
「天才CAD調整者にて二科生の星」とレオ。
「長い」と達也。
「司波兄」と須田。
「間違いじゃないが、呼び名としては簡潔すぎないか」と達也。
「モ-リーくんが呼んでいるけど」と柴田。
「一人に言われると気にはならないが、全員から言われるとアイデンティティの消失を感じる」と達也。
「実技がダメな方」と相馬。
「短所で呼ばれたくはない」と達也。深雪が相馬を睨む。
「筆記がいい方」と須田。
「シールズ君もいいです」と深雪。
「深雪が好きな方」とエリカ。
「シールズ君を嫌ってはいません」と深雪。少し頬が赤い。
「服部さんに勝った方」と須田。
「服部会頭に申し訳ない」と達也。やはり負けたのか。
「九校戦で総合優勝に導いた方」と相馬。
「だから長い」と達也。
「深雪も何かない?」とエリカ。
「私はお兄様とタツヤさんで呼び分けます」と深雪。
「達也兄貴」とレオ。
「お前の兄貴ではない」と達也。
「特命赤点対策先生」と森崎。
「レオとアラタ専用じゃん」と雪光。今二人は成績的には上位にはいないのか。
「ここはシールズ君の方の呼び名を」と須田。
「なんでもいいよ」笑って答える。俺の知っている情報とい現実の正誤には役立った。
「タツヤ↑」と相馬。
「イントネーション変えただけでしょ」とエリカ。
「笑顔の明るい方」と吉田。
「達也さんも笑顔は明るいです」と不満そうに光井。うなずく深雪。
「妹のいない方」と須田。
「いるよ。妹」いるのだ。明るく健気な義妹が。
「今度紹介して!」と須田。殺すぞ。
「イケメンな方」とレオ。
「正直誤差範囲じゃない?」とエリカ。
「元祖と本家」と雪光。
「どっちも元祖だ」達也。

相馬が司波達也と俺を順に指差し
「達也とタッちゃん」
そう言った。

「「「「「「それだ!」」」」」」と全員が声を合わせた。

「というわけで、タツヤ・シールズ君は我々的にはタッちゃんで」
須田が決定事項を発表する。この国に来て、初めて年齢相応のあだ名をつけられた。
嬉しいか?そんな感情はないが、笑っておこう。
「ははは、ありがとう」




俺の目的は3つだ。

一つ。「グレートボム」を使った魔法師の調査。
こんなもの司波達也か四葉光夜で適当にでっち上げればいい。
司波達也が何かしら動きを見せたら速攻クロとして報告だ。

二つ。パラサイト事件の収束。
意外と悩みどころだ。レオンハルトの遭遇も、ミカエラ・ホンゴウの一校訪問も偶然によるもので
バレンタインデーの光井ほのかの感情をロボット内のパラサイトが読み込むのも全て「偶然」の産物だ。
だがこのピクシーの存在が事態を収束させる。状況に応じて踊るしかない。

三つ。転生者の調査。

転生者の見つけ方は簡単なようで難しい。

「原作との差異」となる人物が転生者の可能性が高い。
その意味では司波達也の縁者である司波雪光や、四葉である四葉光夜、藤林響子の妹である藤林奏は転生者としてクロと言ってもいい。
存在しない血族ほどわかりやすいものはない。

黒城兵介は「モノリスコード新人戦」決勝における活躍が原作と全く違うこと、そしてその実力の異常な高さだ。
若年者であり、原作ストーリーに近くにおり、スターズの二等星にも匹敵する戦闘力。
特に実力面は「チート」の可能性がある。以上の理由で彼を転生者候補として認識している。

川村エカテリーナは横浜騒乱での活躍が転生者容疑を濃くしている。
国防軍の警備強化からすでに原作と違っており、原作では活躍しなかった眠れる実力者の可能性もあるが、単独で名前が上がるほどの活躍と思うと警戒しておいて損はない。

転生者が司波達也の周辺にいた場合、司波達也と基本敵対しない。
奴が原作と同じ能力ならば、格闘戦、魔法戦とも日本国内屈指であり、世界でも屈指。そして魔装大隊というバックボーンに四葉の絡み。年次が進むごとに増える仲間。
原作を知るからこそ敵対することを避ける。俺のように自信があれば話は別だが。

原作に登場しない人物で司波達也の仲間という立ち位置にいる人物。
それが転生者の可能性がある人物。

今のところ、相馬新と須田渉の両名だ。
特に相馬新は原作では存在しない生徒会の一員だ。警戒の対象だ。

もし転生者ではないのであれば、「運命」に引っ張られた哀れなモブ生徒だ。

俺の知らないところで、転生者もいるだろうが、そのあぶり出しは追々だ。


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相馬新も須田渉も中の中

少し展開がゆっくり


重要なのは差異の程度だ。森崎が司波達也たちと同席できているのは「何かがあった」からだ。
その「何か」が分かれば転生者たちの考えやスタンスを知るカギとなる。
今必要なのは会話だ。



「並んで歩くと双子のようだ」
俺は笑顔を浮かべつつ司波達也と須田に校内を案内されていた。
「よく見れば容姿に違いがあるから、そう間違えることもないだろう」
「光井さんが達也君とタッちゃんを交互に見てニコニコしていたのはなんでだろうね」
須田は司波達也の顔を見てやや意地悪げに言った。
その言葉に司波達也は顔色を変えない。
「あまり囃し立てると須田の方を見なくなるぞ」
暗に「嫌われたくなければ下心で相手を見るなよ」と釘を刺したように思う。

「司波さん、深雪さんはたしか九校戦でも活躍したらしいね」
話を変える風を見せつつ、話題の中心を司波深雪にする。
「そうなんだよ!可愛かったよ~。お勧めはアイスピラーズの時の巫女コスプレだね」
そんなの聞いてねぇよ。

須田がその時の司波深雪の可愛さを「黒髪と合ってた」や「清楚な感じがいい」と実兄の前で
我がことのように褒めちぎる。司波達也も苦笑いをせざる得ない。
「須田君や達也君は九校戦には?」
おしゃべりだった須田が黙る。司波達也も少し話辛そうだ。
「いや~新人戦の選手だったんだけど、途中怪我で交代しちゃって」
「まあ不幸な事故だったな」
頭を書きながら先ほどの勢いもなく須田が言うと、慰めるように司波達也が捕捉する。
つまりあの交代は原作に近い「事故」があったようだ。修正力でも働いているのか。

「達也君はCAD調整で不敗神話作ったよね。いいな~女子にモテモテで」
「不敗神話?」
「達也君が一年生女子選手のCADを調整して、そのCADを使った選手は優勝!負けなし!キャー達也君、お付き合いして!」
「話を盛りすぎだ。CADの調整はしたが優勝は選手の力で、交際の申し込みは無い」
須田の話に呆れつつ訂正を加える。この須田の話しぶりに苦笑で済ますのは、この二人の付き合いがそれなりにあり、須田の性格や日々の言動をある程度把握している証拠か。
「それは凄い!達也君はCADエンジニア志望なのかい?」
肩を動かしオーバーアクションで驚いて見せる。
「ああ、そのつもりだ」
「それなら卒業後の就職先にUSNAなんてどう?」
「なんだ藪から棒に」
「本国にCADベンチャーやっている友達がいて、優秀なエンジニア欲しがっているから紹介しようかと」
「高い評価をありがとう。だが日本から離れるつもりはないよ」
そうだな。深雪が心配で異郷の地には行けないだろうからな。
「自分でもCADは組んでるのかい?それなら僕のCADも見てくれないか」
「留学生ならCADは日本製ではなくUSNAのメーカーか?」
ここには食いついてくる。興味を抑えて冷静だが、本音は早口でまくしたて聞きたいのだろう。
「一応USNAメーカーだけど、知り合いのベンチャーのだからあんまり有名ブランドじゃないけど」
臨時の生徒会役員ということで、所持が許されているタブレット型のCADを上着のポケットから出す。

「気になる?」
「気になる」
今までで一番語気強く司波達也は言った。



「光井さん、四葉君といて緊張しない?」
生徒会室で光井ほのかと二人だけとなった。他の生徒会面々は部活連との打ち合わせ、年始最初の業者との打ち合わせと、留守番兼指導役として光井ほのかが俺と残ることとなった。
彼女はなかなか俺と目を合わせようとしない。質問に対して何か思うところがある訳ではない。俺が司波達也に見えて仕方がないのだろう。

人一人分の距離があったのを詰めるように横に座った。
彼女は顔を赤らめてこちらを見る。
少し笑いながら「四葉君はまるで生徒会長か王様みたいだね」と彼女に向かって冗談めかして言った。
「うん、四葉君は堂々としていて迫力があるから」
光井ほのかの言葉は意識して言っているわけではなさそうだ。
微笑みを向ける司波達也の顔に喜んでいる。
「彼はやっぱり成績良いの?」
「はい、学年首席なんです。実技でも理論でも一位なんですよ。深雪さんも接戦で二位なんです。そんな中で私みたいなのが生徒会にいて・・・」
話ながら光井ほのかは自分の実力が生徒会で劣っている、役に立つかわからない点で悩んでいる様だ。
「光井さん」
俺は肩を少し寄せ、励ますような声で話す。
「誰でも、能力を見込まれてこの場にいるんだよ。それは光井さん自身が思うより、君の実力をみんなは評価している証拠じゃないかな。試験で判断できない部分や人柄とかさ。僕も光井さんが親切で安心してるし」
光井ほのかの目を見て微笑む。俺を通して司波達也に変換しているのだろう。先ほど見せた落ち込みかけた表情は無くなり、笑顔の花が咲く。
光井ほのかから、他の面々の成績の話を聞く。一年の総合上位は四葉、司波、司波、藤林だ。
無論、司波達也は筆記のみなら首席だが実技がダメらしい。

あの食堂の面々の成績の話になったが、皆想像通りといった程度だ。
相馬新も須田渉も中の中。



「雪光は王子様って何?」
帰路は喫茶店に誘われた。
メンバーは司波達也、司波深雪、千葉エリカ、西城レオンハルト、吉田幹比古、柴田美月、光井ほのかだ。
喫茶店に入り、ここにいない面々の話になったので、昼間に女子生徒が話をしていた「雪光君は王子様」のことを聞いてみた。
どうせろくでもない話だろうが、情報収集はしなければならない。

千葉エリカが面白がって幾つか教えてくれた。横にいる司波深雪は身内を褒めらているのか、けなされているのか判断つかない様子だ。
他の面々も時折茶々を入れてくる。
「で、結局横浜の事件だと一番目立ったのは雪光くんと光夜くんなのよ」
「お兄さんとしては、弟に差をつけられてるんじゃない?」
意地悪に司波達也に聞いていみる。
「弟の成長は嬉しいものだよ」
「そうだね、妹がいるからよくわかるよ」
「お兄様も昨年の模擬戦で服部会頭に勝ちましたし、九校戦も急遽モノリスコードの選手抜擢で優勝に貢献しています」
雪光だけ褒められたのに嫉妬を感じたのか、司波深雪が司波達也の戦績を言ってくる。
こういうところは国関係なく妹は同じ行動をとる。


「アラタの彼女って誰?」
食堂で森崎、須田、相馬と食事をすることとなった。
森崎との雑談で出た相馬新の彼女の話を本人に聞いてみる。原作キャラならこいつの転生容疑が濃くなる。
「藤林奏だけど。タッちゃんとまだ会ってなかったっけ?」
「うん、名前は光井さんと話したときに出たけどんな人?」
相馬新は嬉しいそうに、そして自慢げな笑顔を見せた。藤林とはそれほど自慢する美女なのか。
タブレット型の情報端末に表示された写真を見せてくる。
たしかに美人だ。16歳にしては大人びた風貌で、街ですれ違えば10人中9人は振り返るほどだろう。

「ほんとこいつがどうやって、藤林さんと付き合ったのか?!」
「犯罪的な香りがするんだけど、ほんとに脅迫とかしてない?してないよね?」
横から森崎と須田がブツブツと文句を言ってくる。
相馬新は胸を張り、タブレットを積極的に見せびらかしてくる。
「どうだ!よかろう!俺のレモンちゃん!」
「何がレモンちゃんだ、馬~鹿!」
「なんで、ちんちくりん度なら僕より上なのに」
「は~」
森崎、須田、俺の順で呆れる。
レモンちゃんってゼロ使か?一つ反応を見るか。
「アラタは古いアニメとか好きなの?」
俺は
「へっ?」
「いやレモンちゃんって、大昔のアニメにあったキャラクターの愛称らしくて」

相馬、須田、森崎が俺を見つめる。
「タッちゃんってオタク?」
「イケメンでオタクはチャームポイントだよ」
「オタクでも友達だからな」
勝手なことを言いやがって。ポンコツ三人組が!
俺はにこやかな顔で答える。
「妹と子供の頃にネットテレビで見たんだよ。少し萌え?MOE?らしくて親に叱られたけど」
今の時代「萌え」はややセクシャルな意味合いがあった。
少なくとも数年前のUSNAではローティーンが萌えアニメの見る時代ではない。
「なんか、冗談で彼女のことをレモンちゃん言ったことを別方向から補足されると恥ずかしい…」
男子高校生が顔赤くして恥ずかしがるな。
「Booo!」
ブーイングを飛ばす須田を横目に相馬にさらに質問をする。
「で、どうしてそんな美人と付き合いうことになったの?」
そして30分近く馴れ初めと、九校戦のスタッフ間の恋愛話を惚気混じりに聞くとは思わなかった。
このおしゃべりな男は本当に転生者なのだろうか。
飲んでるブラックコーヒーが甘くなりそうだ。



九校戦や論文コンペなどのオープンな情報以外に

・司波達也はCADエンジニア志望であり技術面が高い
・学内の成績においては転生者容疑の強いものほど成績上位者
・服部は司波達也に負けた。
・須田は「レモンちゃん」に反応しなかった。
・相馬は冗談で「レモンちゃん」を自発的に言ったがゼロの使い魔の存在は知らないようだ。
・藤林奏はCAD調整の適正が高い。
・横浜騒乱における各キャラクターの行動が原作と違うが功績については原作通り。
・光井ほのかは司波達也に恋をしている。

この第一高校では「原作通り」のことと「原作には無いこと」が起きている。
司波達也が魔工師希望であり、服部と模擬戦をしている。
原作にはいない人物は首席の座にいる。

転生SS執筆は、原作を変えることはままある。
オリジナル主人公の活躍によって、例えば司波達也が四葉達也で入学することもあるだろう。
場合によっては四葉光夜は四葉真夜の冷凍卵子にて生まれた実子かもしれない。
司波深雪が十文字克人と婚約している可能性もあった。
ただ今の状況を鑑みれば司波達也は「原作通り」のキャラクターであると判断していい。

つまり俺の原作知識はある程度通じるのだ。
司波雪光の存在には驚かされたが、司波深雪の嫉妬具合を見ても、彼女の感情は「アレ」だ。
キャラクターの内面もそれほど違いは無いようだ。

問題は転生容疑を持つ面々の動向だ。


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ゼロの使い魔は完結したのか?

「来訪者編」のカギとなる人物を挙げるとしたら?

光井ほのか?ピクシー?リーナ?

物事を進める起点はミカエラ・ホンゴウにある。
パラサイトの宿主になった彼女が第一高校に訪れることで一気に状況が進む。
ピクシーにパラサイトが宿り、ピクシーが光井ほのかの感情に反応する。
その後、司波達也は容易にパラサイトと接触が可能となり、七賢人を名乗るガキによって事態は収束へ方向づけられる。

そして今宵のミカエラ・ホンゴウは同胞たるパラサイト、脱走兵チャールズ・サリバン を救うべく夜の渋谷を動き回っている…はずだった。
すでに1月20日。USNA軍より脱走兵が日本に逃げ込み、その処断を命令されるはずだが一切命令がない。
つまりは脱走兵は日本に来ていない。
学校でも西城レオンハルトは登校している。なぜだ。

パラサイトは顧傑と周公瑾により日本に入国しているはずだ。なぜだ。



「これはどういうことかな?」
俺は緊張のあまり額に汗をかく、という態をしている。
いや本当に緊張している。すでに現場はホットスタートだ。
「USNA軍スターズのシリウス、タツヤ・クドウ・シールズで間違いないな」

四葉光夜に食事に誘われた。
「USNAの魔法師事情を詳しく聞きたい」という話だが、任務的にも転生者調査にしても渡りに船だ。
向こうもすでにそのつもりだろう。
お互いのカードを見せ合う場になるのかどうか。

学校から少し離れた洋館風レストランの個室。
その場には四葉光夜だけではなく司波雪光、藤林奏の両名もいる。
二人は余裕のある様子でコーヒーや紅茶を飲んでいる。
そして四葉光夜の突然の言葉だ。

「うん?」
俺は首を傾げる。出来る限りの猜疑の視線を四葉光夜に向ける、がダメなようだ。
奴は朗々と俺の経歴をいう。「研究所で死んだ日系の両親」で止まる。
「研究所は火事になったが、日系の二人は元夫婦で離婚しているし、子供はいない」
情報局の詰めの甘さを恨む。ここまで情報収集能力が四葉にあったのか。
俺は一つ嘆息する。正体を隠すのもここまでか。

「何を聞きたいんだ」
声を落とし、動揺を抑え込む。
四葉光夜はその響く声を細め聞いてくる。
「ゼロの使い魔は完結したのか?」
司波雪光がズッコケる。藤林奏も声を殺して笑っている。
俺もその発言には驚いた。
「光夜兄さん~」
司波雪光が緊張感を崩した四葉光夜を攻める。
「お前もカナデも読んでいなかっただろう。俺は続きが気になる」
特に抑揚もなく四葉光夜は答える。この男の緊張感は途切れていないのか?
俺は手近な椅子に座る。
「最終巻の発売前にこっちに来た」
そうなのだ。最終巻の発売直前。
熱心な読者ではなかったが、アニメシリーズも見ていたのでこの機会に一気読みするつもりだった。
四葉光夜は少し悲しそうに俯いた。

「その答えが出るなら転生者でOKだね」と司波雪光は俺に向かって笑う。
「ゼロ使の話を振ったということは確証は【レモンちゃん】なのか」
いつ状況が変わるかもしれないこの場で会話の鍵が【レモンちゃん】というのも間抜けだな。
「部活の時にモーリーから聞いた」
四葉光夜は視線を俺に戻して言った。
この男、生徒会兼任で部活とは忙しい男だな。さらに原作への介入、きっと吸血鬼事件の開始遅延も関わっているに違いない。
この三人は転生者だ。今の流れで会話に更なる緊張もない。
全員転生者を前提に場が流れていく。
「何を聞きたいんだ」
先ほどと同じ質問を今度は司波雪光に言う。
「聞きたいことはいっぱいあるけど、今回は顔合せのつもり」
「そうか。それなら安心だ」
俺は優しく微笑む。
横から口を挟んできたのは藤林奏だ。

「ちょっと待って。最初の質問、スターズのシリウスなの?」
「こちらも質問だ。相馬新と須田渉は転生者か?」
二人とも声に感情の色はない。お互い冷静だ。
ジャブなのかストレートなのか、決して軽くない質問だ。
視線がぶつかる。動揺は無い。
「両方とも違うわ」
声は滑らかだ。
「だが恋愛関係にある」
どうだ、恋愛関係は何か意味があるのか?
「そうよ。何か変?転生者とモブの恋愛」
余裕のある笑み。16歳とは思えぬ笑みだ。
俺は肩を軽くすくめる。
「物好きだな」
「我ながらそう思うわ。それであなたは?」
先ほどの質問の答えを出す時間だ。
「残念ながらスターズとは関係ない。魔法には自信があるが軍人ではない」
馬鹿正直に答える必要はないし、この言葉の裏をとることは出来ないだろう。
シリウスの正体は国家機密であり、シヴァの正体も国家機密だ。
どうだろうか、転生者たちはシリウスの陰星の存在を想像するだろうか。
「たしか、戦闘力前提でリーナは潜入任務に抜擢されたのよね」
藤林奏は食いついてくる。原作知識ではそうだし、事実そうだ。
「それは原作準拠の場合だろう。軍人ではない俺がここにいるという事は別の思惑がある。森崎が司波達也の友人なように、すでに原作から乖離しつつあるだろ?」
意味ありげな微笑みを俺はする。どうだ、嘘を見抜けそうか。
自分たちが起こした原作との乖離が事実確認の困難さを上げている。
今度は藤林奏が肩をすくめる。
「今はいいわ。吸血鬼事件が進んだら改めて」
進んだら、ということは介入し事件の進行を遅らせているということか?

短い会談は終わった。お互い敵とも味方とも言えないが、転生者であることは認識した。
あとは嘘があるかの検証だ。いかにも潜入工作員となってきた。


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温泉に行くのだ!

昼間は相馬新、夜は関重蔵、この二重生活も、もうすぐ1年だ。

「そうか」
カナデからの今日の会談の結果を聞く。
渋谷の高層ビル群のとあるビルの屋上。

連日の監視業務も少しは刺激が欲しいところで、カナデ嬢の登場だ。
冬ということもありデニール高めのおみ足に、ひざ丈のスカート。ダッフルコートの可愛らしさが年相応だ。
中途半端なデニールのタイツを履くくらいなら、デニール数低めの「ギリ生足じゃない」感じか、デニール数高い「足の曲線を強調する」感じで攻めるのがいい!好きだ!だからカナデの高めデニールタイツにくるまれた足は良い!
一校の女子制服にはレギンスまたはタイツだが、楽しくないのである。
大抵の女子はグレーのタイツか、黒のレギンスだ。曲線美が!曲線美を感じられない!
俺、校長だったら女子のタイツはデニール数を決めた上で、黒に統一するね。

というか、横スリットがある制服なんだから、それを活用すれば世の男子の6割は直ぐにコロッといくわけですよ。
おわかりか?柴田美月女史&光井ほのか女史よ。
特に柴田女史!吉田幹比古なんておっぱい触らせて「責任取って」の一言で一発やぞ!
あのイケメン童貞神道男子!泣きぼくろって、ふしぎ遊戯の柳宿か!

屋上の階段に腰掛ける俺の横に座り、カナデは俺の肩に頭を預けてくる。
「裏取りが出来るかどうかわからんから、真に受けるなよ」
カナデは小さく「うん」と答える。
ノートPCで各監視カメラを見る。
既に公安及び所轄の警察と内閣情報局は動いている。今回は軍情報部は地の利が無いのでお休みだ。
屋上から見る渋谷のネオンは俺たちのようなカップルにはナイスな夜景だ。


昨年の年末時点でパラサイト事件に対して行動指針を決めた。

一つ目は、タツヤ・クドウ・シールズは基本無視。変に転生者の腹の探り合いをしても行動リソースが無駄になる。敵対的行動を示唆してからで十分。というか年末ぎりぎりのタイミングで軍情報部が「敵工作員」と睨んだので監視対象となった。経歴は大きく嘘をつくか、事実に基づいて綿密に作る方がいい。この時期に魔法科高校に短期留学生を複数ねじ込むのだから慎重にするべきだった。
それにタツヤ・クドウ・シールズが「記憶持ち転生者」とは限らなかったので転生者というより「潜入工作員」として対応したかった。

二つ目は、接触は光夜、雪光、カナデの三人だけにし、俺は転生者と軍人であることを秘密とした。職業がばれるのはまずい。転生者情報も一人ぐらい伏せておけば、何かの役に立つだろう。
決して「実は転生者でした!」と驚かせたいわけでは・・・ない!
既知未来にはない血縁者の登場は、転生者判別としては基本だと思うので目立つ三人に任せた。

三つ目は優先すべきは「パラサイト」
雪光の話では七草の関係者含めて50人近い人間が犠牲になるらしい。そんな無差別テロは妨害したい。
転生者の腹の探り合いなど無益というか面倒なのだ。実体験者は語る。

ブラックホール実験の結果、パラサイトを呼び込んだことを前提にすると「渋谷近辺における吸血鬼事件」が来訪者編の開幕のベルだ。だがパラサイトを日本に誘致した現地コーディネーターの周公瑾は、大漢ジジイの指示を聞ける状態ではない。
今は無職になり、次の仕事先を探している。まだ引き出す情報は多いので当面は軍情報部の紐付きの仕事だろう。

日本現地での受け入れ態勢は出来ていない。そんなところにパラサイトなど送り込めるのか?
大漢ジジイはUSNAでパラサイトを日本に送り込んだが、現地での生活が確保できないなら別の手を考えるだろう。
ただ既知未来知識による想像なので確証はない。すでに既知未来と大きく乖離しているのだ。
正確な相手の行動を読み切れないまま、俺たち四人は終業式の夜を過ごした。

俺たち四人の打つ手が見えない中、状況のイニシアチブを手に入れられたのは周公瑾の確保によるボーナスだった。
12月後半に周公瑾宛てのメールに潜伏場所の情報が流れてきた。
どうやら違法な住居斡旋業者が「いつもと違うルートで密入国者の住居手配の発注」が来たので確認のため周公瑾に連絡してきたのだ。
爆笑だ、というか諜報屋やっているとこういったことはたまに起きる。
報告・連絡・相談がしっかりできている裏社会の業者の方が仕事が出来るんじゃないか?

情報部はその連絡に対して「身を潜めるから連絡不要。他言無用」で返した。
あとは連絡して来た斡旋業者を追跡し、手配された10人前後の人間が暮らせるシェアハウスを特定した。
周公瑾絡みと分かったので「潜入工作員の第二陣」と判断された。
ただ地の利の問題とちょっとした取引の結果、内情が公安と連動して動くことになった。
国防軍情報部は横浜騒乱で一人勝ちに近いのが仇になったな。俺のせいだけど。

そんなこんなで年始を迎えて、タッちゃんへの尾行をし、タッちゃんと学校で対面。
正直転生者云々なんてどうでもいい。
こいつはUSNAの紐付きで、日本の軍事機密を探りに来ている犬で、司波達也がマテリアルバーストの使い手と「なぜか」知っている。もうそれだけで可能なら事故死していただくことも必要だろう。

そう思いながらも、俺は公安からの協力要請で渋谷付近にあるシェアハウスを見張っていた。
今日の昼間、20日の昼に引っ越し業者が家具を持ってきていたので数日内にはパラサイトが到着するのだろう。

今のところ吸血鬼事件は起きていない。
USNA国内で3人が処分されたとして、本郷なんとかで含めて4人。雪光の話だとパラサイト総数12人なので、8人が密入国し、このシェアハウスを日本での活動拠点とする。

12人というのは、きっとそうなのだろう。今までの経験上「転生者が介入しない出来事は既知未来通りに進む」と思われる。
タッちゃんや他の転生者が介入していなければ、パラサイトの数は12人分だろう。
そりゃね、転生者(俺&光夜)の介入があったからモーリーはモーリーになったし
介入しなかった服部先輩は、司波達也との模擬戦で既知未来通り負けている。

いや、あえて服部先輩の黒星を強調しなくてもいいな。
ほら、転生者未介入だと九校戦前の自動車テロ事件も起こったし。
大丈夫、服部先輩!国防軍は君のようなオールラウンダーな魔法師を必要としている!来たれ若人!
七草真由美は魔法大で楽しいキャンパスライフを送るが、君は高卒で国防軍入りして汗臭い青春を送るのだ!

それにしても、パラサイトはもう少し渋谷内で分散して潜伏しようよ。
全員が一箇所というのは、業者にちゃんと目的が説明しきれていない。つまりは相手側に信頼関係がないのだ。
もう付け入る隙はありまくりだ。奴らの入居予定のシェアハウスには盗聴、盗撮がばっちりだ。

「でも、アラタも転生者と疑われているよ」
「勝手にさせておけばいいよ。余計な思考に落ち込むだけ」
と言いつつ、俺はカナデの肩に手を回し、より密着するよう抱き寄せる。
最近は二人の時間が減っているので、この事件が終わり年次が代われば任務から開放される公算が高いので
春休みは二人で3泊4日くらいで温泉に、温泉に行くのだ!ぐへへへ。家族風呂のある部屋を予約してやる。
カナデも俺の頬に頬を当てスリスリとしてくる。うん、可愛い。

なんでも、雪光曰く既知未来だと七草の関係者が被害に入ったことで「首都防衛」を大義名分に十文字家と七草連合軍が内情を盾に現場介入してくるらしいので、それを防げたのも嬉しい。

あんな夜道歩いて5秒で発見されるようなデカい男が地域監視任務が出来ると思えないし、指示するにも現場経験不足だろうし、実際は内情から報告貰うだけで、まともに指揮できないんだから指揮車の中で大人しくサンドイッチでも食ってろ。
おっと別に横浜騒乱編でサンドイッチを食べていた十文字先輩のことじゃない。


そして翌日1月21日に状況は動いた。
19時にパラサイトの一団がシェアハウスに到着したのだ。

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膝が痛い。

どうも!皆さん元気ですか?!
現在命懸けの鬼ごっこ演技をしております!私、関重蔵です!

などと、テレビのナレーションごっこを内心しながら夜の渋谷で「恐怖して懸命に逃げる」フリをしている。
既に二回ほど転んでいるので、膝が痛い。
「うわわわわ」
手元の情報端末は先ほどの激突で故障している、という態だ。
どうにかして、後方にいるパラサイトをこの先に連れ込まねばならぬ。
周囲も住宅街と呼ぶには住宅の明かりはまばらだ。
22時を間もなく迎える渋谷の郊外は人気が少ない。
2000年代以降の都市区画再編により渋谷は若者の街から、ビジネス街であり遊興の街となった。
つまり住人が少ない。
渋谷の中心から少し外れると倉庫や、コミューター(小型の路面電車)の整備基地などになっており人の目も少ない。

郊外まで出ればパラサイト相手に暴れても問題ないのだぞ、パラサイトを追跡してるUSNAの諸君&タッちゃん。
俺を追うパラサイトを監視する公安と、パラサイトを追うUSNAの脱走兵討伐隊を監視する国防軍情報部、という複雑な構造だ。
右耳の後ろの骨伝導スピーカーからは「なんで情報部が出しゃばってくる!」と聞こえ
左耳の後ろの骨伝導スピーカーからは「公安は何を追っているんだ!」と聞こえる。
街頭の監視カメラに「協力しろ」とハンドサインを向け、ビルの角を曲がると目の前に空いた空間、コミューターの整備基地が現れる。



1時間ほど前にパラサイトの二人が渋谷の街をぶらつき始めた。
欧米系と思われる一人は直ぐ近くのコンビニに入る。

この時代、人種混血は進み「白人っぽい」「黒人っぽい」「アジア系」といった曖昧模糊になりつつある。
2000年初頭の人種差別は人口減少と共に鳴りを潜め、変わりに魔法師と非魔法師の潜在的な対立構造を生み出していた。
ハゲの教授が恵まれし子供たちを集めて学園は作っていないし、政府のエージェントはタイツ姿で警ら活動はしていない。
行け!X-MEN!いるなら仕事変わってくれ!

もう一人のアジア系は人通りの多い道を往復したり、喫茶店に入って外を眺めたりと完全に「餌」探しだ。
公安は「誘拐対象の選別」と判断した。
俺と公安に認識の違いはあるにしろ、「あいつが国民に被害を及ぼす」という点では一緒だ。

雪光に聞いた話だと、吸血行為ではなくパラサイトの増殖作用として被害者の血液量が減少するらしい。
なので吸血鬼というのは間違いで正しくは「情報寄生体増殖作用体内血液量減少鬼」と表記したいところだが、長いので吸血鬼だな。

で、俺は大急ぎで監視場所からパラサイトの視界範囲まで行き、奴が獲物を探すべく街をぶらつき始めた時に獲物候補として視界に入った。情報端末を見ながら少しだけ裏通りに入るそぶりを見せたら、食いついた。
民間人襲うなら、俺のような特殊公務員を襲った方がいい。
対象を監視しておきながら被害を出すのは公安や俺含め誰も望んでいない。

パラサイトを誘導しながら裏道へ誘っていくと、左耳の情報部通信、タッちゃんの尾行をしていた面々の通信が流れ込んでくる。渋谷で戦闘行為をし、現在も交戦しながら移動中・・・つまりすぐ近くにいるのだ。
通信から流れてくる移動経路からすると、ほら!合流した!

で、二人のパラサイトは合流し、USNAに追われつつ俺を追いかけてくる。
「!」
俺はフェンスに囲まれたコミューター基地へと逃げ込む。普通ならフェンスなどすぐ飛び越えられるが今は「普通の男子」としてフェンスを下手くそに上り、越えて行く。
パラサイトもフェンスを越えてくる。あいつらフェンスを飛び越えてきたな。身体能力も上がっているのか?

10分ばかりコミューター基地で鬼ごっこして、基地の警備が警報鳴らせば鬼ごっこも終わりになるだろう。
だが、長い夜になるのはここからだった。



3つ目のコミューターが「分解」される。なんじゃこりゃ。司波達也か。
一列20台として10列以上並ぶコミューターの影をコソコソ移動しながらパラサイトとUSNAの戦闘を見る。
情報端末のカメラを起動させ動画で撮影。いいぞ、ヘンテコな仮面付けたタッちゃんらしき奴!いけ、負けんな!
仮面の他のUSNAエージェントは消音機付きの拳銃でパラサイト達を攻撃し、パラサイトは手からサイオン弾や電撃を放つなど反撃をしている。

既に基地周辺の街灯は破壊され、ここから遠くにある整備基地の建物から漏れる明かりだけが光源だ。
人はいるだろうか?意外とコミューター基地には人がいない。全自動万歳。

「情報部、あれはUSNAか?」
情報端末に向かって呟くと、左耳からは「そうだ」
右耳には「なんでUSNAが大亜の工作員と戦闘しているんだ!」と驚く公安の声。
そうだよな、横浜騒乱から半年足らずで周公瑾がコーディネートした10人前後の集団と見ると
人種混合でも大亜の工作員と判断するわな。
「あれパラサイトなんですよ」と言いたいが証明するものはない。

「ここに所轄はどのくらいで到着する?」
「この広域ジャミングは情報部か?」
「USNAの通信遮断のためだ」
俺の質問に公安はジャミングの存在を告げ、情報部はジャミングの実行を告げた。
あるある!こういう任務がバッティングして状況が悪い方向に転がること。よくわかるよ~。
大抵は現場の工作員が拉致されて拷問されるんだよね!!ふざけんなよ!
「所轄警察はこないのか」
出来る限り動揺を誘わないよう、ゆっくり言う。
「・・・」
「・・・」
左右の耳裏の骨伝導スピーカーは無言だ。
知ってた。
これだから十師族みたいな陰謀好きマニア集団に諜報、防諜でウロチョロされるんだよね。
「徒歩で所轄警察署行って人数出してもらって渋谷周辺に警戒網張れ。こっちは頃合いを見て離脱する」

明日、学校でタッちゃんに接触されるので何かしら対応方法考えねば。
そして四葉の黒羽や九島あたりがパラサイト事件に首を突っ込んでくるだろう。
四葉はブレブレキャスト?ブリブリ座衛門?で通信情報見まくりだから、すでにパラサイトの情報は掴んでるんじゃないだろうか。
九島は情報部が絡んだので、今撮っている動画も数日内には九島の爺様が見るだろう。

そうなってくると、諜報組織の縄張りに今度は魔法師の私兵が紛れ込んでくる。面倒くさい。
そんなことを考えつつコミューターの影を移動していると・・・最悪だ。
5名がフェンスを越えてきた。パラサイトの援軍だ。一人は白い仮面、本郷美亜だ。
パラサイト7名とUSNAエージェント3名。
夜の整備基地は、想像以上の鉄火場となった。



目の前の白仮面の突きや蹴りを大きく距離を取りながらバックステップで避ける。
動きは直線的だ。白鶴拳か?体当たりの素振りが無いし、そのあたりがベースなのだろう。
周りでは4対1で苦戦するタッちゃん(口元が開いたヒーローっぽいマスクをしている。カッコいい)と2対2に持ち込まれ防戦一方のUSNAエージェントがいる。

パラサイトの吸血は別に噛みつくわけではないのだろう。
吸血は接触やそれに近い距離で行われると思われる、というのは光夜の話だ。
なので、白仮面の突きや蹴りを余裕をもって避ける。

それにしても不思議なのはタッちゃんだ。
何もない空間へ二度三度、拳銃型のCADを向け魔法を発動している。
だが魔法による改変結果は視覚では認識できない。情報体次元での攻防を行っているのだろう。
パラサイトの本体?は情報体存在で吸血行為も情報体次元での行為と思われる。
それはつまり、タッちゃんは情報体次元を知覚する能力を保有している可能性がある。
司波達也の「精霊の眼」と同様に。

たしか司波達也の「精霊の眼」は「分解」と「再成」の副産物だったと記憶しているが
そうなるとタッちゃんも「分解」と「再成」が使えるということなのだろうか。
ならば先ほどのコミューターの分解現象も辻褄があう。

コミューターも10台近く分解され、基地での戦闘は5分を越えた。
USNAエージェントの下っ端?二人は肩で息をしている。
追跡から一気に戦闘になり、緊張状態が続いているのだ息もあがるわな。

タッちゃんがちらちらと俺の方を見てくる。
「あいつ転生者か?」と怪しんでいるんだろうけどお前の方が怪しいよ、と言ってやりたい。
パラサイト来訪と同時に司波達也そっくりさんだよ。
怪しいよな~、絶対マテリアルバーストの使用魔法師の確認だよ。3か月未満の短期留学ねじ込んでくるとか、無理あるだろ。



「な!」
地面からの強力なサイオンの波は、俺やパラサイト達を中空に放り投げた。
タッちゃんがCADを地面に向け何かを発動させたのだ。
衝撃で飛ばされたというより、エスカレーターで中空まで運ばれて床が無くなった感じだ。
10mほどの高さから地面へと落とされる。
周辺では飛行や浮遊の魔法でパラサイトとUSNA達は行動を確保した。
俺は落下スピードと魔法発動スピードを鑑みて、武術秘奥の猫受け身の妙技をしようと…
「ぐっ!!」
横から白仮面に殴られた。
中空なので相手の踏ん張りもなく、大した痛みは無い。
「はっ・・・」
何とか受け身を取り着地、10点。
これは「吸われた」ということなのだろう。
腰のあたりに力が入らない。そして左腕が異常に重い。その重みも少し広がっている様に感じる。

俺は直ぐに立ち上がり右半身を前に出す構えをする。
中空の白仮面は地面に降り立つ。
他のパラサイトもタッちゃん達から離れ着地。

白仮面は一気に踏み込んでくる。
ここで引くと連撃で押し込まれそうだ。一つ見せ技で黙らせないと。
腰が妙な感じなので成功率はいかほどか?

俺も大きく踏み出す。踏み出すというか一足飛びに数m距離を縮める。
速度とタイミングを完全にずらす、白仮面も突然の動きに動きが止まっている。
前転気味に相手の間合いに飛び込む。
足が白仮面の前に蹴りだされ・・・
白仮面に蹴り込むのではなく、奴の眼前で高速に交差させる。
俺は側転の要領で白仮面の横をすり抜け、数歩の距離をとる。

白仮面の首のあたりから赤い液体が薄っすら見える。致命傷ではない。首の皮を少し切った程度か。
自分の首に手を当てて出血を抑える白仮面。

不破流奥義「龍破」
相手の前で逆立ちし、敵の首近くで足を高速で交差させカマイタチ現象を起こし首を切る、という技。
決して「修羅の門」の「陸奥園明流」のパクリではない。無空波も虎砲も出来るし、四門を開けられるのはここだけの秘密だ。
パクリではない、オマージュ(強弁)

相手はこの不可解な技に警戒したのか後ろに跳躍する。
周りのパラサイトとも合流し、整備基地をはなれる素振りをする。
俺はその隙にコミューター列へと身を隠す。

いい加減、警察なり情報部なりの増援が欲しい。腕と腰の違和感は消えない。
呼吸を整える。某チベットの行者を第三国へ逃がした際に教えてもらったヨーガの呼吸だ。
意識が途切れることは無い。それだけはありがたい。
俺の鋭敏な聴覚は彼方から近づいてくるサイレンの音を感じ取っていた。



戦闘は終了した。5台を超える警察の車両が現場に到着する頃には、パラサイトもUSNAもいなくなった。
勿論、動画はばっちりだ。

身分を警官に話すと所轄の警察署に案内された。
俺が会議室の前に来た時には
「だから、今回の作戦はこちらも混ぜろと!」
「広域ジャミングなんて馬鹿な方法を都市部で行う部署と共同で作戦出来ると思うのか?!」
と公安の主任格と防諜二課の課長が喧々諤々だ。

ドアを開け中に入ると、一瞬で黙った。おい、一番の被害者のお戻りだ。
「101旅団か魔犯対(魔法犯罪対策課)に連絡しろ」
会議室にいた公安、防諜二課が俺に注視する。
全員に顔を見せる必要はない。ハンカチで口元を隠す。
「関さん、俺たちじゃ対応できないって?」
公安の主任が嫌な顔をする。「事件に対応する実力が足りない」という意味で俺の発言を受け取ったらしい。
「違う。片方は正規の軍人だ。実力的にはスターズ格だろうよ。部下の家族に遺族年金出したいなら公安だけでやれ。俺は降りる」
皮肉交じりの言葉で公安主任は黙った。
今度は防諜二課が噛みつく。
「公安の件に噛んでるなら情報流してくれ。関さん、うちがあんたに出した予算・・・」
支援課時代の発注主として振る舞う前に視線で釘を刺した。
公安の肩を持つ気はないが広域ジャミングなんて「防諜活動してますよ」と言っているようなもんだ。
どうも防諜の二課、三課は派手好きなのか、二課は何かにつけて広域のジャミングやネットワークハッキングをしたがるし、三課はビックリドッキリメカが好きだ。夜間用消音飛行船とか止めろよ。ルパンか。
「今は魔装大隊だ。改めて言うが、専門部署の荒事屋を連れてこい。あの密入国者は魔法師だ。それも古式か、もっと変わり種だ」
魔法師、古式という単語でさらに沈黙が重くなる。

その後は動画を共有した。
動画を再生しながら「こいつらはCAD使用の様子がない」と言うと会議室内の数少ない魔法師たちはざわつく。
「発生した物理現象を見るにCAD無しで、ここまでの現象を起こせるのは人間技じゃない。下手したら戦術級だ」
魔法師を知らない奴にも知っている奴にもわかりやすく説明する。

1時間ほど現場の状況を報告し、俺は病院へ向かった。そう入院なのだ。
あの現場に巻き込まれた人間として、入院するポーズは必要だし、今は眠りたい。
病院のベッドで横になった時、事件が本格的に動いたと確信した。

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お前ら四葉は引っ込んでいろ

「信じられん」
ヴァージニア・バランス大佐。人事畑を中心に功績を重ねた女傑。
在日USNA大使館近くの、ある出版社のオフィス。
出版社は複数の仲介を経由してUSNAの退役軍人会が出資し、運営している。いうなればUSNA軍のダミーカンパニーである。

バランスは会議室で目の前に座る少年から報告を受けると頭を振る。
昨夜(約8時間前)の脱走者追撃で、脱走者の協力者が全員魔法師でそれも特異な能力を保有している可能性が高いというのだ。
「ですがCAD使用も認められません。クラッシックな魔法師とも考えられません。単一能力でもないことから【パラサイト】の可能性があります」

【パラサイト】ロンドン会議にて定義づけされた国際的な用語である。
吸血鬼、デーモンetc。神話、おとぎ話の怪物は情報体次元からやってきた情報体存在が生命体に憑依した存在。人間に憑依し「増殖行動」を行うのがパラサイトである。
「戦闘時に巻き込まれた民間人というのは、貴官の同級生だな」
「はい、大佐。クラスは違いますが同じ一校の学生です。アラタ・ソウマという名です」
(そして転生者の可能性を残す。パラサイト相手に戦闘を行えるのだ)
タツヤは報告に心の中で補足を付け足す。
あまりいい気持ではない。実力を見抜けなかったこともあるが、自分の姿を見られている。
もっと言えば、同じ転生者ならあの場にいたUSNAエージェントの行動目的やあの仮面姿が自分であることも把握していたのだろう。
タツヤとしては軍人としても同じ転生者としても手の内、胸の内を見透かされたようで悔しいといったところだ。

「民間人は病院に入院中だったな。いいか見舞いなど考えるなよ。今はヨツバに張り付いてくれ」
「はっ」
「脱走者については、戦力を整えて再度だ。所在の調査はこちらで行うのでそれまではグレートボム調査に専念してくれ」
(潜入捜査と脱走者処理を同一工作員で並行処理する神経を疑うね)
そんなことを思いながらタツヤは了解の意味で敬礼をする。



病院から離れる司波達也一行を遠くから見送る黒羽貢。
ソフト帽にトレンチコート。ふた昔前の映画俳優のようでもある。
警察関係の病院といえども、黒羽の技ならば入り込むことなど容易い。
19時も過ぎ、太陽は傾き空は暗い。

幾つかの工作。侵入の痕跡を消し、関重蔵の病室に人が来ないよう人を眠らせ、遮音の術を使う。

「お邪魔だったかな?」
音を立てず部屋に入る。ベッドでは少年が横になっていた。
黒羽貢はベッドのわきではなく少し離れたところ、入口とベッドの中間に立った。
関重蔵との間合いを取り、逃走経路を確保したのだ。

「何ですか!いきなり!」
個室のベッドで寝ていた少年は驚き、ナースコールを手に取る。
息子の文弥より背も高いし、身体を鍛えている。
(何とも高校生らしい印象だ。これで国防軍の佐官と言うのだから驚きだ。実年齢は30代だったかな)
貢は珍しそうに関重蔵の顔を見る。
「芝居が上手いね。関少佐」
黒羽貢は対面した人物の少年演技に違和感がないのは、彼が童顔だからかと思った。
「いきなりなんですか!あなたは!?」
困惑と恐怖。表情の作り方が上手い。
ナースコールを押しても誰も来ないことを貢はわかっている。
「四葉の使いですよ」
「光夜の!それが」
「いい加減芝居を止めなさい。あまり時間を無駄にしたくない」
静かだが高圧的。情報部の一佐官と四葉の分家当主では重みが違う。
関少佐は手からナースコールを離すと、不貞腐れた顔をする。
「もう少し付き合ってくれてもいいだろ。こっちは見舞客がいないと暇なんだよ」
起しかけていた上半身をもう一度ベッドに横たえる関重蔵。
本当に暇だったようだ。

「で、四葉さんちの人が何か御用時?光夜の戦略級の話は佐伯さんに聞いてくれ」
「昨晩の件だ」
黒羽貢は出張の帰路、四葉真夜からパラサイトの入国と昨晩の事件の連絡を受け
情報収集で一日動き回り、関重蔵なる少佐が現場にいたことを突き止めた。
貢一人の力ではなく、四葉本家の執事である葉山からの情報があってこそだが。

「あーはいはい。その件は国防に関わるので民間の方には情報開示できません。必要であれば十師族内での意見調整のうえ、然るべきルートで然るべき部門に問い合わせてください」
あしらう気を前面に出して貢の問いに答える。
諜報の世界で知られ、脅威の一つとしてみなされる四葉を「民間」と断じている。
四葉の名前と今の状況の中で、この男は貢に対して挑戦状を叩きつけたのだ。
お前ら四葉は引っ込んでいろ、と。

「我々を愚弄するのかね」
「四葉が防諜任務の非開示情報を求める理由は?法的正当性は?」
貢は怒りを表情に出さないようポーカーフェイスに努めた。
人の居ない病室で、諜報の、命の軽くなる場で、法的正当性を問うてくる。
憎らしい童顔の男を今すぐ地獄の苦しみを与えたい衝動を抑えた。
(四葉の、黒羽の実力をその身に知らしめてやろうか)
冷静に感情を出さぬよう貢は返答する。
「君にこた」
「開示請求の仕方を知らないなら弁護士を紹介しようか」
遮られた。さらに馬鹿にされた。男はいやらしく笑っている。
最も苦しい方法で尋問することを考えたが、次の言葉でそんな考えなど吹き飛んだ。
「お前のおじさんはおっかないな。光夜」
関重蔵は貢の肩越しに部屋の入り口を見た。
人の気配はない。だが、あの四葉光夜だ。あの男だ。あれに隠形の技術がないわけがない。
貢の心中は乱れた。四葉の闇たる黒羽の当主が後ろを取られたのだ。
振り向くわけにはいかない。振り向けば目の前の男を視界から外してしまう。

だが振り向かずにはいられなかった。あれは関重蔵以上に目を離してはいけない。
目の前の男は病室着でCADは保有していないのだ。何かあれば毒蜂で対応できる。
極力、関重蔵から目を離さないよう、右を向き、横目でドアを見る。
誰もいない。

「馬鹿が見る、豚のケツってか」

関重蔵の声が近い。貢は視線を戻すと男はすでにベッドから立ち貢の眼前に立っている。
一呼吸もない。一瞬の視線の動きを盗み、小男は立ち上がり数歩間合いを詰めていた。
そして貢の腹部に拳を当てている。その拳から強い殺気を感じる。
「よく聞け民間人。お前ら情報を抜くだけ抜いて、てめぇらの陰謀にばっか使いやがっていい加減にしろよ」
魔法を使うか貢は悩む。毒蜂なら一瞬だ。
だが、この拳の殺気を掻い潜り発動できるのだろうか。
「情報は追々出してやる。俺はこの数日睡眠不足で気が立ってるんだ。見逃してやるからとっと帰れ」
先ほどまでと声のトーンが違う。本当の声は顔つきからは想像できないほど物騒なものだ。
(人を殺すのに躊躇などない、と言いたいのか)
自分の背中に大量の冷や汗があるのに気づくと、黒羽貢はゆっくりと拳から距離を取り部屋を出る。

「顔は覚えた。必ず殺す」
黒羽貢は自分が陳腐な台詞を言うことに驚いた。
だが腹のうちにある感情は先の言葉以外にない。
そう思いつつ、黒羽貢は病院から去った。



「ふむ、パラサイトか」
「ご存知でしたか、九島先生」
九島烈は顎に手をやる。
パラサイトという単語である程度のことは察した。「世界最巧」の名は伊達ではない。
「今後のことを考えると、確保したいところだ」

-------------------------

「ふむ、パラサイトか」
「ご存じでしたか、師匠」
九重八雲は頭に手をやる。
パラサイトという単語で、ある程度のことは察した。「忍使い」の名は伊達ではない。
「対応方法を教えた方が良さそうだね。達也君」



「バレンタインのチョコどうするの?」
「あらカナデは相馬君にあげるんでしょう」
「お姉さんは、千葉さん?」
「もう、茶化さないの」



コミューター整備基地の事件から数日、1月30日を迎えようとしていた。


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「師匠の仇!」「死んでいないだろ」

黒羽貢氏の訪問した24日から、この1月30日まで意外と大変だった。
結局のところ、ゆっくり休めたのは、あの黒羽訪問の晩で翌日からは学校だ。
周公瑾尋問一週間コースのせいで、単位がね・・・。
留年すると恥ずかしいし。

結局、整備基地事件は各所に情報を流すことになった。
十文字家が首都防衛の名のもとに介入してきた。
そして九島か四葉のどっちかが妙な動きをしたのか、七草家が十文字家の補佐として入ることで牽制。
こんなんだから十師族の暗闘って面倒なんだよな。
で、今日までのことをまとめると

・千葉エリカが「師匠の仇!」で「死んでいないだろ」と西城レオンハルト。二科生一番の常識人はレオの可能性があるな。エリカは結局大人しくしているらしい。

・公安が整備基地事件を調査する中で【パラサイト】という単語にたどり着く。それと同時にパラサイトの密入国時に殺されていた【血のない死体】が発見される。公安が【パラサイト対策】を検討する。あの動画からちゃんと正解を探り当てるのはさすが公安。

・警察省から千葉警部が省内の政治取引で監察補佐付き(監察官の補佐官の付き人)という即席の役職で公安本部にやってきた。どうやら民間の吉田家をパラサイト対策で招聘する際の窓口担当らしい。公安としては101旅団の伝手で古式魔法師を呼ばれるより、同じ警察の身内の伝手の方が100倍マシなのだろう。

・病院の見舞い時に吉田幹比古に俺の霊子の量を見てもらった。「少し減っている」程度だった。そこから事件の相手を推察して幹比古君は緊張した面持ち。俺は司波達也に「よろしく」と言っておいたので対応策を練っているはずだ。九重さんとこには行ったらしい。

・俺の入院話は学校でも噂話レベルだが流れていた。タッちゃんが「何か襲われたらしいね。大変だったね。アラタ戦ったんでしょ?」とジャブを打ってきた。「変な仮面付けた奴がいたので、新手の変態かと思ったよ」と返しておいた。ほら、ミスターブシドーみたいじゃん。俺は好きだけどね。

・公安と防諜二課が共同作戦を取ることになった。USNAエージェントの「脱走兵処分による入国」の可能性が捜査本部に示唆された。公安の主任は「子供の入学準備が…」と喫煙室で愚痴っていた。主任の泊まり込み決定です。

・魔法犯罪対策課の特殊部隊が渋谷の二か所で常時待機となった。魔装大隊ではないが101旅団の2小隊が原宿の国防軍リクルートセンター(軍服姿の美人な少尉殿が受付らしい)の会議室で待機することに。両部隊とも腕っこきなので、パラサイトの暴走もある程度抑えられると信じたい。

・パラサイトはあれから静かだ。というか、街中には大量の警官や十師族の魔法師がウロチョロしており中々派手に動けないようだ。一度シェアハウスからの移動について業者と話し合われたが、物件探しに手間取っている様だ。というか手間取るように公安が色んなところに圧力をかけている。

・雪光が「出番がない~」と言っていたが、本番はきっともっと後なのでその時に頑張ってもらおう

・黒羽貢のその後を光夜から聞いたが「あれ程不機嫌な黒羽を見たのは初めてだ」と言った。「お前と黒羽は仲悪いの?」と聞くと「良くはない」と返された。

・須田ちゃんが「恋愛相談師」として一年生の間で評判になっていた。なんでも九校戦後に2つのカップル誕生に尽力したらしい。スゲーな。



「!?」
1月30日。本郷未亜の参加する企業が一校に訪れる。
いきなり走り出した俺を追いかけてモーリーがついてくる。
「どうしたんだ、いきなり!」
俺の速度にぎりぎり追いつけるモーリー。九校戦後からのリハビリ&トレーニングの成果が出てるな。
だがこれから連れて行く場所でモーリーの安全は確保できない。
手元の情報端末を見せると「異常事態」の一文が表示されている。司波深雪からだ。
「副会長からだ。モーリー、風紀委員室で待機してくれ」
「馬鹿言うな!」
モーリーは必死に俺の走りについてくる。俺の心配をして一緒に現場に行こうというのだ。
良い奴だな~、モーリー。
「こっちか!?」
「右に曲がれ!」
モーリーを誘導しながら、戦闘音がする方向へと走り進む。

既知未来に詳しい雪光曰く「パラサイト本体が宿主を捨てると柴田さんか達也兄さんくらいしか認識できないからね」と言われた。
これが一番の問題だ。
相手の存在がわからないと取り逃がす。事件の収束がいつまでも出来ない。

この日、このタイミングから先は賭けだ。

本郷未亜のパラサイトを瀕死?にさせる
 ↓
ピクシーにパラサイトが憑依
 ↓
光井ほのかが司波達也にバレンタインデーにチョコを渡す
 ↓
ピクシーが「光井ほのか」モードで起動
 ↓
ピクシーによるパラサイト探知が可能になる
 ↓
ピクシーを餌にし、レイモンド・S・クラークによる誘導で全パラサイトを集める
 ↓
吉田一門の協力を得て、パラサイトを封印し処理する。
 ↓
封印が無理なら、司波達也&深雪による情報体次元での攻撃で消滅させる。

封印後の処理に諜報組織を絡ませると十師族へのパラサイト配布となりかねない。
そこからは諜報組織を抑えつつ、公安による「証拠物件」として厳重に保管し、民間組織が手を出せぬよう雁字搦めにするしかない。出来れば「公安と情報部と101旅団の三角関係」で牽制し合えると理想的だ。

問題はこの本郷未亜の事件にタッちゃんは絡んでくるのか?タッちゃんの行動によっては修正が必要になってくる。
USNAの「グレートボム」の魔法師探しがどの程度パラサイト事件へ影響するかは不明だ。

即興ダンスは得意だが、オカルトが混じるとどうなるやら。

「おい!司波兄、どうしたんだ!」
モーリーが校舎を出ると既に司波達也や司波深雪、四葉光夜、十文字先輩、千葉エリカが円陣を組み周囲にいるであろう敵を睨んでいた。



「その、もう一人誰かいたんです」
え?
俺以外のその場に集まった転生者は嫌な予感を同時に感じたはずだ。
すでにパラサイトは去り、俺と司波兄妹、光夜、吉田幹比古は疲れ切った柴田美月を囲むように生徒会室にいる。
モーリーは顛末を服部会頭に報告。学内の治安維持の一翼を担う部活連執行部へ情報を流さないとね。
十文字と千葉エリカは、各種組織への対応をしている。
千葉警部が一校に急行したことで警察対応は自然と千葉エリカが同席することになった。
意外と自分の兄に自分の活躍を説明したいのかもしれんな。ブラコン。

柴田美月の眼でパラサイトは確認し、吉田幹比古の愛の攻撃で撃退した。
司波達也もその発言を補足する。愛の攻撃についてではない。もう一人誰かいた発言にである。
「確かに誰かの存在は確認できた。だが痕跡から追うことができない」
「つまり情報体次元内の想子の痕跡を消せるということか」
「そのようだ」
光夜の説明に頷く達也。
雪光と目を合わせ俺は頷く。
(タッちゃんだ)と雪光の眼は言っている。
その時俺の情報端末にカナデからメールだ。
【タッちゃん、喫茶室で居眠り】の文字とキャプチャーされた画像だ。
学校内の監視ネットワークから画像を拝借したようだ。

状況判断ではタッちゃんが何かしたのだ。
「なんというか、あの光の塊から伸びてきた手を振り払ったんだと思います」
柴田美月は目をつぶりながらそう言った。やはりパラサイトの存在は目に悪いのだろう。

「幹比古、今日はお前が美月を送っていけ」
「え!?」
俺のそばで赤面する吉田幹比古が童貞ムーブ(「ぼ、ぼくが!」とか「そ、そんな」とか一人で慌てている)をするが、俺の意識はタッちゃんの能力について支配されていた。
もし謎の存在がタッちゃんとするなら、奴は情報体次元へのアクセスの仕方が普通と違うのだろう。
下手をすると「見る」司波達也より厄介な能力なのかもしれない。
「分解」と「再成」の副産物としての「精霊の眼」らしいが
タッちゃんの「謎の能力X」にもなにかしらの能力の副産物なのだろうか。
可能性を考えれば「分解」だ。先日の整備基地でも「分解」と思われる現象が行われた。
下手すると「再成」も持っているのかも。だが、タッちゃんの魔法師としての能力は高い。
司波達也が劣等生なのは魔法演算領域を「分解」「再成」に占有されているからだ。

タツヤ・クドウ・シールズは実技実習でも司波深雪に劣らぬ実力を示した。
そりゃ留学生として送られてきているんだ。実力の劣る者を魔法科高校に入れるわけにもいくまい。
可能性としてはタッちゃんの魔法演算領域は馬鹿みたいにデカくて「分解」「再成」も使用できて、司波深雪に匹敵する魔法師である。

または「謎の能力X」や「分解?」は何かしらの別能力を使用した「側面」の可能性だ。
行われた結果が「分解」と同じなだけで原理と過程は違うのかも。
そうなるとタッちゃんの能力は非常に融通の利く能力な気がしないでもない。

そんなことを考えていると光夜は席を立つ。
「シールズの様子を見てくる。事件には巻き込まれていないだろうか、所在を確認してくる」
そう言って生徒会室を出ていく。タッちゃんのことは光夜に任せよう。
俺はそれ以上に七草弘一が仕掛ける防諜三課の横やりを防がねばならない。


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不機嫌指数の最高値

「お前の能力は?」
「それを今聞くか?」
俺の目の前に座る四葉光夜は端的に聞いてくる。
息は切らしてはいない。落ち着いているのか性急なのかよくわからん男だ。
誰もいないカフェテラス。近くにロボ研が見える。そして先ほどパラサイトの残滓がピクシーへ避難したのも確認した。
「介入したな」
「柴田美月を助けただろう。なにか問題でも」
四葉の断定的な言葉を肩をすくめて肯定する。別段邪魔はしていないだろ。
こちらにもこちらの見通しがある。それに合致するから手を出したまでだ。
パラサイトを認識できるのは俺、司波達也、柴田美月であり、司波深雪、魔法を利用することを前提に吉田幹比古も可能なのかもしれない。
「いや」
四葉は頭を横に振る。
俺の行動を責めているのではなく、確認したのだろう。
気苦労の多そうな奴だ。



【情報体次元投射】と呼んでいる。俺の能力だ。
端的に言えば幽体離脱のように、意識を情報体次元に潜り込ませる。
俺は情報体次元の海を泳ぐことが可能なのだ。

これは「模写」と「転写」と「単一創造」の三つの能力の前提だ。

俺の能力は説明が難しい。情報体次元の概念を理論的にも体感的にも把握している魔法師でないと理解できない。
さらに言えば他人による再現性というものがない。全て俺の認識と感覚において処理される。
もしかすると司波達也なら理解できるかもしれないと淡い希望を持っている。だが、あの顔に理解されたくはない。

この能力は「分解」「再成」ほど融通が利かない。俺は傷を負っても肉体を再生することが出来ない。
さらに「分解」と同じ結果をもたらす使い方をする場合は、相手の情報強化を抜く必要がある。
ただし干渉力の勝負に勝ってもあまり意味がない。俺の「分解もどき」は人体には、無害だからだ。

「模写」「転写」を砕いて言うならコピー&ペーストだ。
情報体の一部をコピーし、ペーストする。

無機物、例えばコミューターにコピー&ペーストを行う場合、情報全体ではなく情報の一部である車両外壁の分子構造をコピーする。それをコミューターの情報体内にペーストすると「分解」が行われる。
コミューターの情報体規模に対して情報量が過剰になったことで、情報体の構成バランスが崩れ「分解」されると思われる。「情報体レベル」での情報過剰は物理世界では「存在の瓦解」へと繋がるのだろう。

ただこれが有機物、具体的には人間だが、人間にはコピー&ペーストは何にも意味がない。人間に「分解現象」は起きない。情報体レベルで情報過剰状態にあっても、有機物は情報体内でその情報過剰状態に辻褄をつけるのか、物理面では何も起きない。肉体の損傷に対して、他の部位のたんぱく質情報などをコピー&ペーストすることで傷をふさぐことは可能だ。ただ肉体は無機物と違って情報が多い。情報読み取りに数分程度かかる。
原作では司波達也が相手の遺伝情報や存在過程を容易に全て読み取るが、そんなことを俺がやろうとすれば数時間はかかる。

以上の理由から俺の「分解もどき」は無機物専用の障害物破壊魔法だ。
ただ「分解もどき」は相手の情報強化抜く必要があるので
情報強化素材で建築された建造物には俺の干渉力が要になる。

無機物は硬くて脆いが、有機物は脆くて柔らかい。
これが俺の人間に対しての認識だ。

そして俺が唯一創造できる物。
俺の能力を軍事ではなくエネルギー供給問題に利用すればUSNAはもっと豊かになるはずだ。もしかすると世界のエネルギー問題もどうにかなるかもしれない。そんな能力を爆弾代わりにしか利用しない人間の業は悲しさもある。
リーナに「神様の贈り物だ!」と喜んでくれたのが救いだ。
彼女の笑顔は数少ない人間の善なる面だと思っている。

俺が創造するのは「反物質」。「対消滅」を引き起こす。
シリウス、いやシヴァたる俺が人々にもたらす創造、破壊である。



「次はどう動く」
表情を動かさず、四葉は聞いてくる。
俺は少しだけ笑う。
「それを俺に聞くのか。それよりもグレートボムの使用者はお前で報告すればいい?それとも司波達也か?」
軽く揺さぶる。どう返答する?
「勘違いをしているが、あれは俺だ。原作通りの司波達也ではない」
落ち着いて答える。いいや、嘘だね。他の人間なら信じてしまいそうだがな。
精霊の眼が存在する以上、司波達也がマテリアルバーストの使用者の可能性は高い。
「それはそのうち確認する。次はピクシーだ。光井ほのかの誘導は上手くやれよ」
「そうだな」
それだけ答えると四葉光夜は喫茶室を出る。
あいつらもピクシーの起動が必要と考えているのだろう。

そしてピクシーを餌にパラサイトを集める。さてレイモンド・S・クラークと連絡は取れているのか。



バランス大佐の不機嫌はこの数日で不機嫌指数の最高値を更新を続けている。
整備基地事件について上層部とやりあったらしい。

パラサイトの追跡は続けられていて、奴らの拠点の把握した。
昨日の2月1日に3名が追加されて11名のパラサイトが渋谷の外国人向けシェアハウスにいるが手を出せない。
USNAエージェントが尻込みするほどの諜報組織が渋谷の街をうろついているのだ。
それも多数の魔法師もおり、下手に動けば我々の動きが露見し国際問題になりかねない。
この状況に対し【パラサイト】が一つ解決の糸口になるかもしれない。そう伝えると彼女の機嫌が少し良くなった。

日本の警察組織がパラサイト確保をする際は戦闘になる。そこに乗じて脱走者の処分を行えばいい。
俺が陽動に動き、遠距離による狙撃を行う作戦を現在参謀部が計画している。
少なくと原作の2月15日(ピクシー起動)までは間があるので、それまでには作戦案もまとまるだろう。
警察の動きと四葉光夜の動きを見張っておけば、だいたいの動きは把握できる。

「そう上手くいくのか?」
「そのためのスターズです」
バランス大佐の心配を慰める。
司波達也の動きを見ればスターズの力を借りずとも状況は追える。
少しの間、俺の口車に乗っかってもらおう。



2月6日の放課後。
光井ほのかに頼まれて、ロボ研の建物が見える喫茶室に呼ばれた。
ここは日当たりがあまり良くないし、校舎の本棟から一棟挟んだところにあるので学生の姿はない。

「シールズ君には申し訳ないけど練習相手になって欲しいの!」
テーブルを挟んで光井ほのかは頭を下げてくる。
「え?」
突然も突然だ。素で声が出てしまった。
彼女は真剣だ。今までで一番真剣な顔をしている。
「もうすぐバレンタインなんです。達也さんにチョコ渡す練習の相手になってください!」

え?

「どうしても緊張しちゃうんです。シールズ君は達也さんに似ているから告白の練習させて」
もう一度頭を下げてくる。

え?

「ああ、はい」

一気に光井ほのかの表情が明るくなる。笑顔をこちらに向けてくる。
「じゃあ、これからチョコを渡すふりをするので「ありがとう」と言って受け取ったふりをしてください」
あ、はい。おれはうなずいた。


「達也さん!受け取ってください!」
「食べてください!」
「達也さん、お願いします!」
「もっと微笑んで」
「優しく」
「歯は見せないで笑うんです」
「少し困ったように」
「目で笑うんです」
「もうちょっと固く笑ってください」
「あまり口角は上げないで」
「そうです!そんな感じです!」
「達也さん、好きです」
「好きなです、付き合ってください!」
「そばに居てもいいですか?」
「「困った子だな」って言ってください」
「名前は呟くように言ってください」
「親密な距離なんですけど、ちょっと離れている感じです」
「首をかしげない。まっすぐこっちを見る」
「髪をかき上げない!」
「好きです!」
「好きなんです、達也さん」
「ちゃんと目をみる。首から下は見ないんです!」
「テンションを上げない感じで」
「テンションはフラットです。上りもしないし下がりもしません!」
「「愛しているよ、ほのか」って言ってください!」
「恥ずかしがらない!」
「もう一回!」
「もう一回!」
「ほら、口元が笑ってます。もう少しクールに」
「棒立ちじゃなくて、やや屈みこむように」
「顔は近づけるけど、近づけ過ぎない」
「「ありがとう、ほのか」って言ってください」
「「達也さん好きよ」というので「俺もだよ」で返してください」
「「ほのかは出来る子だよ」って」
「はぁはぁ、一度、一度バレンタインに戻ります。取り乱しました」
「チョコレートです!受け取ってください」
「達也さん、どうぞ!」
「バレンタインですので、チョコレートです」
「一緒にチョコレート食べませんか?」


長い。2時間近く司波達也になった気がする。疲れた・・・。
新兵訓練でもこれほど疲労を感じたことは無いぞ・・・。
女子の恋にかける熱意は恐ろしい。

「光井さんは、達也君のどこに惹かれたの?」
少し休ませてくれ、そんな気持ちで質問を切り出した。
いきなりの、それも想定外の頼みに思考が空白になったので彼女の真意を知るためでもあるが。
「私もともと、人に頼りすぎるというか、依存しやすいというか」
彼女は少しもじもじしている。馴れ初めというわけじゃないが、自分の気持ちを思い返すのは少し恥ずかしい。

「去年の4月に初めて会ったんですけどしっかり自分の芯を持っていて、憧れるというか・・・」
少しだけ頬に赤みを帯びる。憧憬とも恋が混じりあっているんだろう。
「その、私もこの人の隣にいたいというか」
光井ほのかは下を向く。ネガティブな気持ちになると下を向くようだ。
「・・・でも私あんまり優秀じゃないし、そんなに役に立たないし・・・」
こんなに健気な娘にこう言わせる司波達也は最低だな。
この娘は近所に住んでいた子犬にそっくりだ。

エレメンツの家系にいる光井ほのかは相手に依存しやすい。
忠誠心や従属性が高いというような言い方をされるが、単に依存心が表に出やすいだけだ。
そんな奴は世の中にごまんといる。どうせ北山雫あたりが、「しっかりしろ」と吹き込んだのだろう。

光井ほのかはそんな依存性の高い自分に多少なりのコンプレックスがあるのだろう。
司波深雪と自分を比較した際に際立つ自立性の弱さ。
だがこの娘は知らない。司波深雪が近親相姦というタブーでさえ乗り越えかねない愛を持つことを。

俺は司波達也が嫌いだが、あいつにアドバイスするなら光井ほのかの方が「魔法師=兵器」の思考から抜け出す手を差し伸べてくれるだろう。
司波深雪は「魔法師兵器論」の深みに一緒にはまるだけだ。「悲劇の兄妹」という運命共同体でいられる喜びに囚われ沈んでいくだろう。

光井ほのかはきっと司波達也の回りの面々で一番「普通の精神」の持ち主なのだろう。
精神的な弱点と、精神的な強み。普通の少女だ。

「優秀なことが恋人の条件じゃないよ」
彼女は俺の言葉で顔を上げこちらを見てくる。
俺は柄にもない恋愛アドバイスで困ったような、そのなんだ、年齢相応の笑みを浮かべているはずだ。
「恋愛で大事なのは好きかどうかだけで、能力なんて別だよ」
「でも」
「大丈夫。達也君は能力の有無で恋人を選ぶタイプなの?」
「・・・・」
顔を赤らめてもう一度下を向く光井ほのか。
俺の言葉で司波達也と恋人になった自分を想像したのだろう。

「変な言い方だけど、達也君を信じてアタックしてみなよ、ね」
光井ほのかに向かって微笑む。
人生初の恋愛相談が原作キャラへとは。

俺は光井ほのかの恋愛を応援したいのと、司波達也へ勝手な憎しみを持つアンビバレンツな気持ちになった。



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駄話:関重蔵の仕事ぶり

ちょっと気分転換の話です。本編とは絡みません。
たまには書きたい「オリ主TUEEEE」話。


「関大尉!どうしますか?」
「構わん。このまま進む!」

戦闘ヘリのミニガンの発射音をBGMに俺は曹長に進行を指示する。
敵の魔法師は7km先の基地に待機しているらしい。らしいというのは22時間前の情報で今はどうだかわからない。

南米地域からの邦人脱出作戦「ネノクニ」のフェーズも3まで進んでいた。
敵基地への先制攻撃し、2時間後に脱出する飛行機を見送って終わりだ。

俺は手に持ったアサルトライフルの装弾状況を確認する。
南米の山間部で最新銃器を手にするのは難しい。
山間部に潜って2週間は現地で手に入れた年代遅れのライフルと体力で勝負してきた。
短い間だが手にしている相棒だ。

ヘリの機内では、すでに南米のいざこざ慣れした部下たちが笑っている。
現地での生活は都市部で1か月。山間部で2週間。
突発的な脱出作戦にしては長い方だ。
全員、肌も焼け服も汚れ、如何にも現地の肉体労働者といった風体になった。
俺だけ現地の少年ギャングの態だったのはいつものことだ。

一世代前の戦闘ヘリのせいもあり、皆ローターの回転音に負けぬように大声だ。
「だれかお決まりのセリフ言う奴いないのか?」
「やだよ。結婚の予定もなければ、相手もいねーよ」
「俺もだよ。8か月前に離婚したから待ってる相手いない」
「何だ、種無しか?」
「俺のミニカーコレクション捨てやがった!」
「ご愁傷様!」

ボチボチ降下地点だ。
「お前ら、博打の清算は終わってるな?!」
「「イエッサー!」」
全員から返事が返る。
博打の清算をしとかないと縁起が悪い。
口酸っぱく言っているおかげで皆金払いは良い。俺は先週プラス勘定だった。

ヘッドセットマイクは無い。連絡手段は手元に1つある情報端末だ。
ヘリは地面から5mのところでホバリング。ロープを垂らし中空のヘリから続々と部下たちが下りていく。

最後に俺も降りる。降りる時に「45分後だ。南に2km!」とパイロットに怒鳴る。
パイロットは親指を立てた左手を見せる。
全員が地面に降り立つ。俺を含め5名。元空挺や元海兵、変わり種だと空軍の救助レンジャーもいる。

「いいか、時間との勝負だ!死んだ奴はあの世で全員にビールをおごる!生きて戻れば俺がビールをおごる!」
「「イエッサー!!」」

俺の言葉を合図に目的の基地へ向かう。ここから350m。すでに敵は臨戦態勢だろう。
楽しいドンパチの時間だ。



!!
二発の発射音。先に見える倉庫の二階窓からの銃撃。
小隊全員、そんなことでは止まらない。
身をかがめ、遮蔽物の陰に隠れつつ前進する。
魔法の展開など考えない。この先にこそ切り札が必要なのだ。

先行した一人のハンドサイン。
「敵、右、建造物、二人、銃器」
それを受けて一人敷地内に放棄された車両の影を走り、大きく右に迂回する。
俺は先ほどの倉庫窓に一発牽制。硝子の割れる音と人が倒れる音がする。

「行け行け!」
前方に見えた反射光に対して1発牽制で発射。
部下たちは体を屈めつつも恐ろしい速さで、前方へ距離を稼ぐ。

!!!!!!!!
前方へ移動した一人が牽制でフルオートを建物群へ叩き込む。

フェンスで囲まれた二棟の倉庫。
その周辺にはバリケードのように置かれた大量の廃車群。
倉庫の横には簡易の滑走路も見える。

「大尉!展開します!」
「おう!派手にやれ!」
俺以外の唯一の魔法師が手元のCADを操作する。
軍用のCADは確実性及び堅牢性重視だ。
民間の最新モデルは車で引いても大丈夫だとか宣伝しているが、12.7mmで撃ったら壊れたので信じていない。
すくとも7.62mmを連続で撃ってもぶち壊れない軍用CADは安心して使える。
耐塵性も高いので、砂漠や荒地でも使用が可能だ。

「タイミング!3、2、1、起動!」
魔法師、田村少尉が周辺の仲間に聞こえるようにデカいを出す。
田村を始点に扇形に風が起こる。
強力な風、具体的には風速40mの風が2棟の倉庫へ連続で吹く。

地面から土埃が経ち、数台の廃車は風に負けて動き出している。
他の部隊員たちは風の発生範囲を把握しており、風の影響のない範囲でどんどんと前進する。
田村のそばには護衛役の曹長がついている。

「曹長、5分持たせろ!」
恐ろしい暴風の中、俺や残りの面々は車両の影を走り建物に取りつく。
建設の容易さを優先した軽い建材で作られた倉庫は、風に吹かれ外壁が波打つ。
大きく腕を回し、風を弱めるよう指示を出す。
弱まった風の中、建物に侵入する。すでに硝子の割れた窓から中に入る。
中ではスペイン語で「逃げろ!」「銃持ってこい!」「マリア様!」と
逃亡、反撃、神への懺悔と忙しい。

!!!
3射し、3人の人影を黙らせた。発射地点へ視線を感じ、俺は直ぐに移動する。
建物内は、所狭しと物も入れられたズタ袋がうず高く積もっていた。
麻薬の原料だ。ここまで積み上げられたのは初めて見る。

袋の間を抜けて、出会う敵を確実に仕留めていく。
視界は悪いが、気配や音で十二分に行動は出来る。
外からも暴風の音の中で射撃音も聞こえており、各所で戦闘が繰り広げられている。
目的は白人系の魔法師。某国から派遣された戦術級だ。
過去に2度、航空機の撃墜を行っており、この国からの脱出する邦人を狙っている。

移動しながらためらいなく引き金を引く。すでに弾倉一つ使い果たした。
倉庫の2階までクリアリングをし、安全を確認した。逆に言えば目的の魔法師は仕留めていない。

倉庫から出て廃車の影から周辺を見渡す。隣の倉庫は部隊の2人、篠田と御園が制圧した。
二人とも倉庫の出入口から周辺を警戒している。
「いたか?!」
「いません!」
御園が返事をする。
「篠田、田村に魔法を止めて合流するよう言ってこい!御園、俺について滑走路周辺の索敵!」



「ということがあって、俺は戦術級魔法師をその場で射殺した。御園は強い衝撃を受けて気絶していた。俺の所見だと命には異常がなかった。ただ先ほどの戦闘で篠田も田村も、曹長の青野も疲労困憊だ。骨董品のAKも使いモノにならない。倉庫に火を放ち麻薬を焼きつつ、俺は御園をかつぎ、小隊の面々とランディングゾーンへと向かったわけだ」
懐かしい話だ。その後各自一階級昇進だ。情報部の精鋭との仕事は危険と興奮が混ざったエキサイティングな体験だった。

「・・・」
柳はじめ、魔装大隊の志願者15名は疲労のあまり返事が出来ない。40kgの背嚢を背負い、重さ5kgの銃型の重りを何とか握っている。銃を杖にしたら全員で腕立て50回を宣言してあるので、みんなしっかり持っている。既に18時間以上、豪雨の中で富士山麓の樹海を行軍中だ。
祝日含め3連休が出来たので、以前から風間さんに提案していた「100km行軍訓練」をしている。
みんな黙ってしまったので、俺の楽しい情報部時代の話をしても誰もウンともスンとも言わない。
いや、「逃亡、反撃、神への懺悔」のくだりは笑うところなんだけどな。

情報課から怪しい少佐が来た、という話は大隊内で広まっていたので俺の実力を知ってもらうために催してもらった。
柳や体力自慢が参加してくれた。
空挺時代は仲間と山に行ってナイフ一本で4日間過ごしたり、3日で150km行軍したりと、若い体力にモノを言わせていた。
だが久々の行軍で俺も疲れてきた。
「うし、じゃあ少し休むか。歩哨は3交代だ。この先に設営地点があるからそこまで走るぞ~」
小走りで走り出す俺の後ろを何とか全員走ってついてくる。
う~ん、基礎体力はある方だけど、空挺ほどじゃないか。
そう思いながら、俺は少し速度を上げた。

結局全員が100kmを行軍で来た。よかった!
何人か辛くなって泣いたりもした。柳が「泣くな!歩け!」と声を掛けていた。
ゴール間際に「100km樹海歩くと楽しいね!」と笑顔で言ったら「殺すぞ」みたいな視線をいくつも感じだ。



「行軍訓練当分禁止で」
「え、山中さんダメ?」
定期連絡のモニターには軍医の山中少佐が映っている。
困り顔だ。
「一人疲労骨折です。うちは歩兵部隊じゃないんですから長時間の行軍訓練は必要ないと思いますが」
思いますが、と言っているが声音は厳しい。俺に釘を刺す気満々だ。
たしかに魔装大隊は都市部での戦闘や、後方支援が成り立った状態での運用が基本だ。
だが兵隊なんだから体力なくっちゃ駄目でしょう。
「だけど山中さん、体力はないと駄目ですよ」
「柳くん、あれから山籠もりする!とか騒いで風間隊長に叱られたんですから。あんまり刺激するのは勘弁してあげてください」
柳くん、対抗心強いからな~。古式魔法師は山籠もり上等な人多いし、彼の山籠もり精神に火が付いたのだろう。
風間さんを怒らすのも申し訳ない。少し自重するか。
「わかった」
そう答えると山中少佐もうなずく。
「今度は射撃訓練やろう!誰が最初に1.5kmの射撃に成功するか!」
「うちは魔法師の集団です!」
ごもっとも。



体力馬鹿というか超人的肉体を持ってすれば、玄人も泣くような訓練もハイキングです。
チート、スゲーな。


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司波達也×ピクシー(原作:光井ほのか)

なんと、光井さんの恋心が白日の下になったのである。
バレンタインまで1週間あるがピクシーが起動したらしい。
ミカエラ・ホンゴウ自爆から数日。
少年少女の恋愛話が事件進展のカギになるとか、わかってたけどスゲーな日本。

朝からロボ研で試験運用テストをしているヘルパーロボット「3H」が笑っただの、微笑んだだの、メイド服以外も着せようなど喧々諤々の話題となっていた。その異常な状態を調べるため、CADの専門家として司波達也とカナデがピクシー尋問現場にいった。そして面白半分でついていく二科生一行と、立ち合いとして生徒会の面々も同席した。

今回、俺と光夜は生徒会室で留守番だったので現場を見ていない。
風紀委員の雪光は、関われないので暇だったらしい。

ピクシーは司波達也に「今度の薄い本は【司波達也×ピクシー(原作:光井ほのか)】でおなしゃっす!」(意訳)という意思を示し、自分がパラサイトの変異であることも告げた。
概ね、既知未来通りに事が進んだ。

その後、光井ほのかに女性陣が話を聞いたところ「シールズ君を相手にバレンタインの練習をした」ことが判明し、その時の影響で1週間早いピクシー覚醒となったと思われる。

光井さんは柴田さんに肩を抱かれてカウンセリングルームに行った。
まあ衆人監視の中で「光井ほのかは司波達也に従属願望がある」とバラされたらカウンセリングルームに逃げ込みたくもなるだろう。
司波達也は責任を持って一夫多妻制を復活させるべきだな。
光井さんや北山さん、一科生の九校戦女子チームにも隠れファンがいるし、これからも雪崩的にお兄様女子が出てくる可能性があるから、一夫多妻制は必須だな。光夜はだめだ~。モテるけど近くにいると窒息する系男子だし。



「状況が想定以上に早く進んだわ」
カナデとの帰路。少し遠出して横浜の中華街に来ている。
彼女連れの横浜デートである。もう一度言おう、横浜デートである。

昨日のピクシー覚醒からすでに司波達也は動き、ピクシーの所有権を買った。
そして明日にはパラサイトと交渉を持つことを検討している。
カナデ曰く「夜の青山霊園でひと暴れ」をするらしい。

「でも防諜三課は動くのかしら」
蒸籠から海老小籠包を小皿に移す。それを俺はカナデに渡す。
「どうだろうな?すでに公安と二課がデカく動いているから、三課が動くとなると相当面倒なことになるな」
自分用の小籠包を取り、箸で表面を少し割り、ちょっとだけお酢と醤油をかける。
箸で表面を割って水分を少し逃がさないと、小籠包を口に入れたときに水分がマグマのように襲い掛かるので注意が必要だ。そこさえ、気をつければ美味しいのだ。

「光井さんも一週間早く恋心がバレて・・・」
俺はちょっと涙ぐんだふりをする。
「まあ、本人がしゃべらなくても、いつもの態度見てればみんなわかってたけどね」
カナデはあっさりと何も気にすることがないといった態度だ。「カラスは黒いね」と同じレベルの言い方だ。
「達也も知ってたんだよな」
「ええ、夏休みで告白したみたいだし」

今日は嬉しい日だ。カナデと久々にデートしたからではない。
顧傑が「国際指名手配」として日本との同盟国に通達されたからだ。
意外と積極的だったのは両EUとUSNAだった。
奴が総帥を務めるブランシェの「反魔法師主義」や「人間主義扇動」以上に、周公瑾から提出された「殺人教唆」「脅迫」「密入国」の証拠がシャレになってない。少なくともUSNA政府の役人が2人死んでいる。

これであの大漢ジジイの行動は国際的な監視・調査対象になった。そう簡単に日本へは入国できないだろう。というか国家間の移動は不可能に近くなった。
パラサイト事件を足掛かりに日本への橋頭保づくりも難しくなったはずだ。
周公瑾氏の動向がどれだけ未来へ影響していたかよくわかる。

千葉警部の生命については楽観視できないが、少なくとも「道士」や「大漢」などの絡んだ事件は俺にも情報が流れて来るよう手配した。「千葉警部生存&藤林婿入り作戦」をいつでも発動できる。
事件が始まったら、千葉警部を闇討ちして骨の5,6本折れば現場から外れられる。作戦はばっちりだ。将来の義兄のため、いっちょ骨折りまっせ(比喩無し)。そして藤林響子にお見舞いをさせて、お付き合い→結納→結婚の流れを完成させるのだ。姉の方が結婚すれば、カナデが18歳で結婚して20歳で出産しても、九島の爺様にブツブツ言われないはずだ。俺の結婚生活のためにも千葉長男の骨を折らねば!



パラサイト集団との司波達也の接触は円満?に終わった。
俺は公安&二課の合同チームと行動を共にし状況を確認していた。

ピクシーの夜間の行動チェックに司波達也が妹と光井ほのか、四葉光夜を連れて夜の青山霊園を散歩中に偶然パラサイトと出会った、というのが端から見た場合の状況だ。

パラサイトの動向を監視していた公安&二課は霊園でパラサイトが「何か」をすると考え、追跡班を編成し状況を注視していた。

その時点で俺は情報部装備保管課の知り合いに「夜間用飛行船は借りれる?」と打診した。
別に借りたかったわけではない。使われているかどうかの確認だ。支援課時代の倉庫の整理業務のヘルプ等々で保管課の連中とは話が通りやすい。
「今は全部出てるよ」と返事が来たので三課が裏で動いていることがわかった。ホント、ビックリドッキリメカの稼働状況で動向探れるのって楽。
二課の課長、課長とは呼んでいるが軍内部的には中佐にあたる。
三課の動きを伝えると、どこかと連絡を取り始めた。というか情報部の上役だよな~。少将か、監察官か、まあそのあたりだ。

結局、三課の介入は起こらなかった。司波達也とパラサイトが接触し、戦闘が行われた時に三課課員が扮する偽警官とエリカ・レオ・幹比古・雪光の四名が接触し小競り合いとなっていたからだ。
その小競り合いの結果、三課は現場を離れたのだ。
まあ二課からの抗議や、なぜか現場にいた武闘派高校生、そしてパラサイトと司波達也一行の偶発戦闘。
不測の事態が複数起きれば作戦は中止せざる得ないだろう。三課からしたら急な依頼に準備不足の現場だ。

パラサイトと司波達也の即席の会談はわからない。ピクシーの能力なのか、電波的な通信阻害が数分間起きたせいで公安も二課も盗聴に失敗している。
会話内容については光夜から少し聞いたが、司波達也の眼や能力について言及する部分もあったので盗聴しなくて正解だったようだ。

所轄の警察では千葉エリカの弁舌がさえわたりつつも、彼らの行動については俺が監視として着くことになった。
二課の課長には「一校周りでの任務もある」と伝えていたので、余計な人員を割かずに済むので、捜査本部も渡りに船だ。
口頭で厳重注意され一校生たちは帰らされた。

三課はこれ以上介入してこないはずだ。
もし七草弘一の指示を聞くようなら情報部内での立ち位置を無くすことになる。
情報部内でも他の課が相手なら妨害もするが、同じ防諜課同士で任務の潰し合いなど不毛だ、不毛。経費の無駄だ。

七草弘一のことを雪光に聞くと「う~ん、真夜おばさんが好きなんだと思う」と言っていた。
あれか。子供のころ好きだったが色々あって疎遠になったけど、どこかまだ意識してる間柄か。
十師族会議で二人の結婚を後押しすれば日本は平和になるんじゃない?



青山霊園の事件から2日。どうやら自称七賢人のレイモンド・S・クラークから一方的な協力で明日にはパラサイトが一校野外訓練場に集合するらしい。

それを受け、司波達也は明日の作戦を仲間に伝えるべく、ロボ研近くの喫茶室を貸切った。

「作戦は以上だ」
司波達也の明快な作戦を聞き、頷く一同。
司波三兄妹弟、光夜、カナデ、西城レオンハルト、千葉エリカ、吉田幹比古&美月夫人(予定)、光井ほのか。
なぜかいるのがモーリーと須田ちゃん、そして俺。
実のところ今回の作戦にはモリスダコンビが重要になる。

光夜が「戦力の増加」を提案し、声を掛けたのがこの二人だ。
「お前ら、そんなこと!警察なり軍なりに任すべきだろう!・・・・いいか!興味本位じゃないぞ!アラタの敵討ちだからな!」
正論を言いつつも、作戦に参加するモーリーはツンデレと言うかなんというか。あと、俺は死んでいない。

エリカがモーリーと須田ちゃんの実力を訝しんだ。
須田ちゃんのような400mの距離を狙撃できる高校生なんてそうはいない。
モーリーだって、民間警護の経験はあるし、拳銃型CADによる抜き打ちに関しては十分に実戦で使える。何よりこの二人は「連携」というものがわかっている。

どっかの剣術娘のごとく、戦場で「うおおおおお!」と言いながら直立戦車にでっかい剣持って突撃はしない。
相棒との距離や敵の位置を把握し、安全に対処するだけの冷静さと判断力を有しているのがモーリー&須田コンビである。
モノリス・コードの経験は伊達ではないし、実際に横浜騒乱時の一校襲撃でこの二人は一校の警備隊と共に数名の敵を捕縛している。

このコンビに託される任務は吉田夫妻(予定)の警護だ。
野外訓練場を上から見れる校舎の屋上でパラサイト封印儀式魔法を行う吉田幹比古と、その特殊な眼によってパラサイトとを把握し、仲間に伝える柴田美月を守る役目だ。このカップルが仕事をしないと、作戦の大前提である「パラサイト封印」が出来ない。
そのためには、遠距離からの牽制が出来る須田ちゃんと、周辺警戒のコツを知っているモーリーは重要なのだ。
カナデは通信管制だ。公安への情報リークと到着時間の管理。そして魔法による通信確保。

当日の配置は
・前衛でパラサイトと交戦
みなさんご存じ職業:お兄様、司波達也。
一校の裏番で一番やべー奴、司波深雪。
喋っても黙っても怖い、四葉光夜。
美少女だけど脳筋、千葉エリカ。
脳筋だけど社会常識はある、西城レオンハルト。
恋心をばらしたパラサイトは絶許…、光井ほのか。
司波達也の薄い本欲しい、ピクシー。

・後衛で戦場を俯瞰で観察&パラサイト封印組
泣きぼくろの優男、吉田幹比古。
でか~い、説明不要!柴田美月。
努力、友情、勝利、森崎駿。
君のハートも誤射、須田渉。
今、私幸せです、藤林奏。

・状況に応じて動く遊撃組
真由美さん好きです!司波雪光。
新車が欲しい、相馬新(関重蔵)

以上の配置で動くことになるが俺は作戦以上に忙しい。
第一師団の遊撃歩兵小隊を抑える役目がある。

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一校の野外訓練場

一校の野外訓練場を望むことが出来る国道には車が6台止まっている。八王子の郊外と呼べるこの場所では車が連なって止まっても人目に付くことは無い。人いないしね。
だからこそ、魔法師卵の訓練場があるのだ。普通に見たら魔法師の野外訓練なんて爆発事件が起きているようなもんだからね。

夜の明かりは道路わきの街灯くらいで、曇り空で星も月も見えない。
車から数人の人影が下りる。それが6台分で20人以上の人影だ。
全員が黒い目出し帽に軍用の軽装プロテクタ―を装備している。

小声とハンドサインの指示で車から武装を取り出すと各自装備していく。
腰には消音器付きの拳銃。そして長めのナイフ。ナイフの方が本命だ。
ナイフというより肉厚の小太刀と言った方がいい。
打刀より一回り小さいが、集団戦の時は小振りの方が誤って友軍を傷つけないのでおススメだ。

目元に装備したスポーツグラスは、いくつか視覚補助機能が付与されており暗い森の中でも十分に視界を確保できる。実は民間でも同じものが買えたりするのだが、これが結構いい値段だ。サラリーマンの月のお小遣いなど吹っ飛ぶ。ミリタリーマニア垂涎のスポーツグラスだ。

問題はどうやってこの怪しい集団を止めるかだ。
国防軍陸軍第一師団遊撃歩兵小隊。れっきとした陸軍のお仲間だ。
第一師団の中で剣の取り扱いに熟達した魔法師たち。「剣術」の腕だけ比較しても桐原・壬生よりも上だろう。
九島の爺様からの圧力で、今晩の一校野外訓練場に乱入しパラサイト奪取を狙っている。
旧第九研究所は古式の近代化を研究していたから、パラサイトを使役する方法も承知済みなんだろう。
こういう時既知未来知識持ちが仲間にいると他勢力の動向推察が楽で助かる。

今夜の情報の漏れどころは・・・俺の予想だと四葉真夜と黒羽たちだ。
レイモンド・S・クラークの情報を横からつまみ食いできるのは、同じ情報検索システムを使う四葉真夜の可能性が高い。
四葉の熟女が黒羽に指示を出す、黒羽の動きを察した九島が歩兵小隊を動かす。
黒羽の足跡を八王子辺りで見失えば、そりゃ一校を怪しむだろう。八王子における魔法師の最大拠点。
「パラサイト」「黒羽」「魔法師」の三つの単語が揃えば、場所の推察は容易だ。

どんな状況であっても国防の仲間だ。流石に殺すとか重傷を負わすのは申し訳ない。
閃光手りゅう弾投げ込んでもいいけど、あのスポーツグラスの機能だと閃光手りゅう弾によって、視力低下の後遺症が残る可能性がある。投げ込むのもためらわれる。

正面から出てって説得かな~。「ジジイの言うことより、孫娘のお願いきこうぜ!」とか。
説得できそうにないな~。

俺は、隠れていた訓練場敷地の木の影から国道への斜面を登り、集団の近くに出る。
「すいません~、第一高校前駅ってどっちですか?」
一校の制服に、口元だけはハンカチで隠す。両手には木の棒が一本ずつ。変態だな、俺。
そんな奴が駅はどこかと、戦闘服の集団に声を掛けるのだ。変態だ。

歩兵小隊は俺の姿を認識し、小太刀を抜き戦闘態勢になる。陣形も組み本気だ。
殺すわけにもいかないし、相抜けするほど手加減もできない。相手は魔法に熟達した剣士集団だ。
「我こそは!九島の分家藤林の次女の彼氏であるぞ!」とか言っても威圧効果ないだろうな。

さて、歩兵小隊には悪いが実戦で振るわれる達人のカリスティックの餌食になってもらおう。
「悪いんだけどさ、気絶してくんない?」
全員に聞こえるように言った。集団の殺気が一段高まった。



「ここは引いてよ」
雪光の声が暗い森の中で聞こえる。
言われているのはゴスロリ?風の少女が一人。その護衛なのか黒ずくめが7人。
「そう言われましても、御当主様の命でもありますので」
言葉は濁しがちだが、声ははっきりと拒否している。

何とか歩兵小隊を黙らせて、訓練場の敷地内に戻ると雪光が四葉の工作員の足止めをしていた。
こっちは体ぼろぼろだ。防刃性のある薄いアンダースーツを制服の下に来ていなければ何か所か切られていた。
躊躇なく戦えれば無傷だったけど、「歩兵小隊を必要以上に傷つけずかつ、トラウマを与えないようにする」というのは大変だ。

「命令って言っても光夜兄さんが介入しているから、そっちの思い通りにならないし怒らせると面倒だよ」
「それは光夜さんが当主であればの話です。未来の分家が当主様のご意向に逆らうことなど許されません」
「そうはいっても、四葉でパラサイトなんてどうにかできるの?僕、手を貸さないからね」
「当主様のご命令でも?」
「僕はそんな命令知らない」
「こちらも分家の方が敵方にいるからと言って帰る訳にはいきません」
「実力行使するの?勝てると」
「・・・」
実力的には雪光の方が上か。たしか黒羽亜夜子だっけか。潜入能力は高いとか光夜は言ってたけど。

「こっちは終わったぞ」
そう言って俺は二人の会話に横から口を挟む。
黒羽全員の眼が俺に向く。集団のすぐ後ろ。手を伸ばせば集団最後尾に手が届く距離だ。
「で、やり合うなら加勢するけど。そっちの子は俺が誰だかわかってる?」
「関・・・重蔵」
父親から相当吹き込まれたのだろう。俺を見る目が酷い。業界的にはご褒美です!とか言えないレベルで侮蔑の視線だ。
銭形のとっつぁんのコスプレしている奴に何を吹き込まれたのか。
「民間組織は下がってなさい」
諭すように言ったが余計に視線が厳しくなった。

パラサイトと接触したらすぐにカナデが公安に連絡。20分もせずに魔犯対班の凄腕が来るだろう。司波達也一党(10人超えてれば一党でいいだろ。秘密結社だ。「秘密結社お兄様」だ)の行動は民間人の暴走だが、現役の軍人(俺)の介入があるし、場合によってはいくらでも言い訳は効く。

前回の青山霊園での一件から学校での夜間試験を友達合わせてやっていたらパラサイトが来て、吉田一門の天才児がいるので撃退できた、お終い!という理屈付けも出来るし、内々に風間さんと佐伯さんのOKも取っている。
「なんというか、各諜報関係に恩を売っておいてよかったよ」と風間さんが頭を抱えていた。
パラサイトという処理の見通しがつかない問題を解決できる可能性が今晩なのだ。
ちょっとの無茶もしまっせ。上手くいけばパラサイドールの絡む九校戦での軍内政治闘争も発生しない。
もっと言えば九島をはじめとした十師族内の暗闘も派手にせずに済むかもしれない。
雪光が心配している京都での起きるであろう事件も回避し、国内外でのトラブルも数年は落ち着いてもらいたい。

「一旦引きます」
口惜しそうに黒羽のゴスロリちゃんが姿を消すと、間を置かず戦闘音がしてくる。
「行こう」
雪光と戦闘音のする方向へ走ると、そこでは司波達也を中心に戦闘が繰り広げられていた。



深雪副会長と光井さん&ピクシーを円陣の中心に置き、その周りを司波達也、光夜、エリカ、レオが固める。レオも今回は長物「小通連」を持ち込み、直接パラサイトに触れないよう距離を取りながら戦っている。雪光も想子剣を展開し、パラサイトとの戦闘に踊り込んでいく。

「くっそ!」
その瞬間だ。先ほど離れたはずの黒羽の気配が近づいてくる。
司波達也と光夜も気配の方を一瞬向く。
「俺が抑える!」
俺は二人にわかるよう声を挙げ、気配の来る方向へ走る。
一度引くふりをして、俺と雪光がパラサイトと接敵するのを待っていたか。

その時だ。屋上で公安や周辺の電子監視をコントロールしているカナデからイヤホンスピーカーに連絡が入る。
「八王子の道路管制が混乱中。公安部隊の到着は未定。あと防諜二課がUSNAのエージェントを見失ったわ」
タツヤ・クドウ・シールズの介入が決定した。

この状況を終息させるのはこの場にいる一校生に委ねられた。

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森の中での戦闘は一校勢が有利だ。

森の中での戦闘は一校勢が有利だ。

司波達也、司波深雪、司波雪光、千葉エリカ、西城レオンハルト、四葉光夜、光井ほのか&ピクシー、屋上には吉田幹比古、柴田美月、藤林奏、森崎駿、須田渉がいる。
訓練場では7人と一体がパラサイトとの攻防をし、屋上から吉田幹比古の封印術と柴田美月の誘導、他三人はその護衛か。

アラタの姿がない。別動隊として動いているのだろうか。

森の中には国防軍の姿はない。パラサイト争奪から脱落したと見ていいだろう。
パラサイトが11名、そして四葉と思われる部隊が少数。

パラサイトは強力な存在だが、司波達也、司波深雪、四葉光夜、光井ほのか&ピクシーが魔法面で圧倒し、司波雪光、千葉エリカ、西城レオンハルトが物理面でフォローする。

時折、校舎屋上から須田と森崎による援護射撃が入り、状況は一校生側に有利だ。
原作における状況の混迷ぶりは一校側の戦力不足と配置に難があったのかもしれないな。
だがこのままだと膠着だ。いくら有利に事を進めても、パラサイト側は戦域を拡大させず、分散せずに行動している。
そのため吉田幹比古の封印の魔法も発動が出来ないでいる。
戦域を拡げ、各個封印という流れには持ち込めそうにない。
状況を打破するには混沌を呼び起こす必要がある。

USNAスターズがこれからあの訓練場へ突入する。
「少佐」
「行くぞ」
衛星級の声に答える。
スターズの衛星級が4人、星屑が5人。そしてシヴァ(シリウス)少佐たるタツヤ・クドウ・シールズの俺、計10名だ。
皆戦闘服にマスク、拳銃型CADと9mm弾の拳銃、装備は十二分だ。先ほど日本の防諜組織と八王子の道路管制にクラッキングを仕掛けたので混乱が続くだろう。少なくとも5分、10分で到着することはあるまい。

「民間人はいるが日本側の魔法師だ。敵勢力として対処せよ」
「「「「イエッサー!」」」」

我々が混沌だ。



一校野外訓練場は想像以上に広い。広大と言ってもいい。
人口減少は決して特定の国の問題では無く、2095年の日本も人口は少ない。八王子はかつては栄えた地方都市ではあったが、今は都市部とそうでないところでは人口密集度が違う。そしてその人口密集度のすき間は、重要施設の広大な敷地へと変わった。

訓練場の森の中に入ると戦場の形が見えた。
円陣を組み一校組がパラサイトと対峙。既に先端は開かれている。
千葉エリカと西城レオンハルト、司波雪光が円陣の外周を自由に動きまわり近づこうとするパラサイトをけん制。
集団の回りを動き回るパラサイト達を司波達也や深雪、四葉光夜が魔法で攻撃をする。
その繰り返しだ。

黒羽にはアラタ一人で対応している。
驚くべきはアラタだ。工作員として訓練されたプロフェッショナルを一人であしらっている。
森の中を駆けまわり、黒羽工作員が魔法を発動する瞬間に何か礫のようなものを投げ、発動を阻害するかと思えば
逆に魔法発動のふりで、相手に威嚇をし距離とるなど対魔法師戦闘に慣れた様子だ。
非魔法師による魔法師戦は相手の発動をどう阻害するか?に尽きる。
動作や意識を阻むものから、単純に姿を隠し目標にならないようにするなど、現代の特殊部隊では必須の戦術だ。

それを事もなげに実行しているアラタは何者だ?
転生者としては四葉光夜よりも上か?

「2名はアンノウンの対応!残りはパラサイト、特にターゲットを潰せ!」
USNAの目的は脱走兵の処分だ。パラサイトの処理は二の次だ。
衛星と星屑が一名ずつ黒羽抑えに向かった。

一体のパラサイトがこちらに気付き、近寄ってくる。
誰も躊躇しない。手にした拳銃型CADで「レイ・スパーク」を発動する。
俺を含めた4人から撃たれ、一瞬動きが止まるが直ぐに木々の間に逃げていく。

拳銃型CADから放たれるのは「スパーク」を応用して放たれる疑似レーザーとういうべき攻撃だ。
フォトンメーザーよりもコントロールしやすい。それほど複雑な魔法式でもない。
複雑高度な魔法よりも皆一律に使える魔法の方が時に軍の制式採用には必要なことだ。

拳銃弾よりはるかに早く、連射の反動もないのはSFに出てくるレーザー銃だ。
スターズの技術士官が拳銃型CADの外観をストームトルーパーのブラスターライフルに改造した時は軍内のマニア共が狂喜乱舞した。

物理的な貫通性能と隠密性か兼ね備えたこの魔法はスターズでも常用される一つだ。

『そこの白兵屋を抑えろ!』
『イエッサー!』
衛星2名を雪光、レオ、エリカへと対決させる。

「なによ!こいつら!」
「達也、新手だ!」
「二人はパラサイトを!こいつらは僕がやる!」

千葉エリカが衛星級を視認すると悪態をつく。レオが司波達也に状況の変化を告げると、雪光が指示を出した。
衛星2名とやり合おうというのだから雪光はそれほどの腕なのか。
手元にはビームサーベル状のCADが展開されている。あれが武器か。

円陣を組む面々を狙うパラサイトに我々は踊りかかった。
白兵戦を挑むつもりはないがパラサイトのスピードを考えると、ある程度距離を詰めないと当たるものも当たらない。
別に一校生達を助けるつもりはない。まずは目的を果たすのだ。

「光夜!」
「わかった」
司波達也の声に応えて、四葉光夜がCADを操作する。
地面が揺れる。地面に振動を与え局所的な地震だ。

多少バランスは崩すが、スターズは誰も転倒はしない。
パラサイトもそうだ。
だが光夜の魔法はそれだけではなかった。
樹木の根が一気に地中から跳ね上がる。どういう理屈だ。地表に出た木の根が意志を持ったかのように上下左右と跳ね回る。
白兵組の周辺だけがエアポケットとなり、まったく木の根は動いていない。
一校円陣の外では木の根が激しく動き回り、行動を阻害してくる。
「っ!」
俺はレイ・スパークを撃ち、いくつか木の根を破壊する。

その中で、司波達也は情報体サイオン弾を発射しパラサイトにダメージを与えていく。
1体、2体とパラサイトが弱っていく。
司波達也は校舎の方に目をやり、何かつぶやく。そうすると数秒の間を空けて落雷が
弱ったパラサイトに直撃し、まるでパラサイトは蝋人形のように固まって倒れる。

あれが吉田家の封印か。

一連の動きを見た他のパラサイトは司波達也に殺到する者と、校舎に向かって移動しようとする者に別れた。
校舎に移動する者にはスターズが、司波達也に殺到する者にはエリカとレオが、立ちはだかる。

俺は脱走兵の一人が校舎へ向かうのを阻止する。
「脱走は処分だ」
「どけ!」
最低限の通告。あの晩のようにはいかない。ここで決着だ。
脱走兵、チャールズ・サリバン。
お互い走り回り、相手の動き牽制する。奴の攻撃はCADを利用しないサイオンを使った雷撃や炎。
俺は情報体次元と物理世界を二重に見ながら、パラサイトの攻撃を避け、反撃をする。
レイ・スパークの光線が夜の森を一閃する。
その一撃がサリバンの左足を薙ぐ。一呼吸分奴の動きが止まる。
CADに入力し、魔法を起動する。塵になれ。

サリバンの肉体の持つ情報強化を貫通し、俺の魔法が発動する。
俺の干渉力を奴は抑えきれなかったようだ
奴の肉体が高速で振動し、数秒の後に発火。奴の体が燃え上がる。
肉体の炭化し始める嫌な臭いが鼻につく。立ったまま動かなくなったサリバンの額にレイ・スパークを撃ち込み処分を終わらせる。
情報体次元では輝く情報体であるパラサイトが中空へ浮かぶ。



「目標は現地魔法師にやられました」
横から星屑の報告を聞く。
視線をそちらへ向けると、上下分断されたアルフレッド・フォーマルハウトの死体がある。
俺は即座に、マルハウトの死体に魔法を施し消し炭にする。
奴には世話になった。転生なんかするなよ。

脱走兵二名は塵に消えた。これで「脱走兵処分」の任務は終わった。

周辺では、パラサイトの数が減っていた。
二体のパラサイトが倒れ、固まっている。レオとエリカが相手するパラサイトも攻めあぐねているし、情報体次元では司波達也の情報体サイオン弾で徐々に疲弊していく。

雪光は衛星二人を相手に善戦している。動きに無駄があるがそれでもスピードで圧倒している。
あの手にしている光る剣も殺傷能力が高いのか、周辺の木々は大きな切れ目を作っている。

時折の校舎からの狙撃で、パラサイト達は戦域を拡げられない。
校舎に行くにはスターズが邪魔。円陣に近づくには一校の面々が邪魔。俺としては円陣が苦労してくれるとよかったが。そのために衛星を二人白兵組にけしかけたが、釣れたのは雪光だけだ。

俺に視線を送るのは司波雪光と四葉光夜、そして西城レオンハルトだ。
他の面々は自分のすべきことをしている。パラサイトをけん制するもの。障壁を張り攻撃を防ぐもの。そして唯一視覚で情報体次元を見れる司波達也はパラサイトにかかりきりだ。



情報体次元に漂うパラサイトは一つにまとまり、集合体となっていく。
先ほど封印された2体のパラサイトも、他のパラサイトが頭を完全に踏み抜き宿主としての価値を失くすと封印されていたパラサイトが目に見えぬ空間で鳴動し始める。

情報体次元には巨大なパラサイト集合体、物理空間には6体のパラサイト。
正念場だ。
そう思ったのは俺だけではない。
俺の視線にいる司波達也は情報体次元にいるパラサイト集合体に意識を向けている。
仲間に手を伸ばす触手をサイオン弾で砕き、防御に徹している。
吉田の魔法がこの規模のパラサイト集合体を焼けるのか。
表情には出ていないが、きっと司波達也は焦っている。

それは俺の存在を仲間に任せ、意識を向けていないことが証明している。
絶好の機会だ。
俺は手首のCADを操作し、「閃光」の情報体次元用魔法式を構築する。
これを視覚として認識する者は少ない。この場にいる魔法師では俺と司波達也だけだ。

狙いは「精霊の眼」を潰すこと。
すなわち、精霊の眼に「情報体次元での強力な発光」をぶち込み「失明」させるのだ。

情報体次元の影響で肉体的な失明になろうと俺の知ったことか。
あの男の「精霊の眼」を潰せば、マテリアルバースト始め、いくつかの魔法の使用は難しくなる。
司波達也は「分解」も「再成」も強力だが汎用性や実戦での利便性を支えるのは「精霊の眼」だ。
あの男の強さは「分解」でも「再成」でもない。相手を知覚し、因果をさかのぼり、敵を把握し、世の理を見抜く目だ。
マテリアルバースト?あんなのはデカい爆弾だ。
再成?術者に痛覚負荷を与える出来損ないの魔法だ。
だが「精霊の眼」は違う。あれこそが恐るべき魔法。観察者としての司波達也の象徴だ。

あの眼を潰すだけで、司波達也の戦力を、ひいては日本の軍事力の低下となる。

俺の日本入国時からの狙いは、この瞬間だった。

「達也さん!」
ピクシーに守られた光井ほのかの声がする。
一瞬だけそちらに視線が飛ぶ。
この「閃光」の魔法式を感じ取ったか。流石光のエレメンツの末裔。
心配するような、泣きそうな表情をしている。

彼女はこの戦場で唯一の弱者だ。それが普通なのだ。彼女はあちら側で、残りはこちら側。
本来はこちら側に居てはいけない。司波達也への恋心だけでこの場にいる。

彼女が心配そうに司波達也を見つめる。
「達也さん!」
もう一度叫ぶ。やめろ、その名を呼ぶな。呼ぶんじゃない。そんな男を好きになるんじゃない。なっちゃだめだ。



前世の記憶を取り戻し、この世界を「魔法科高校の劣等生」と認識した瞬間は、盗んだドックフードを食べていた時だ。
現世での最初の記憶は複数の人物にUSNA中を連れまわされ、いつしか孤児院にたどり着いたことだ。俺一人で。
そこは孤児院というよりも、孤児を集めて自治体から助成金を掠めとるクズの集まりだった。

寒空の中、身体を洗うと言ってホースで水をぶっかけられた。
目つきが気に食わないと殴られる。食事も与えられない。1か月同じ服などザラだ。
栄養失調で少なくとも二人は死んだ。数か月に一度、役人が視察に来る時だけはまともに飯が食えた。
役人が帰るとうっぷん晴らしに殴られた。口に犬の糞も押し込められた。

だが小さな子供だ。栄養失調で体力もなく意識も薄弱な状態だ。
逆らうことも出来ない。俺の心が成人だった前世に戻っても、身体に力が入らなければ大人を倒すことなど不可能だった。
骨を折られたことも一度や二度ではない。

10歳になるかならないかの時、孤児院の男が俺をレイプしようとした。
助成金の振込みが遅れたらしい。女を買う金が無くなりその代用のつもりだったらしい。
怒鳴りながら俺を殴りつけた時に説明してくれた。糞が。
食事や服装、暴力は生命の危機だが、この時は尊厳の危機だった。

自分のうちに沸き起こる魔法の力「創造」、つまりは対消滅を初めて起こした。
ベッドに縛り付けられ、隣の部屋にいた男に向かってごくごく小規模な対消滅。空間に存在する目視も出来ない微細な塵の反物質。
男を中心に半径数mはごっそりと消えた。あと1mでも大きければ俺自身も危なかった。
魔法のコントロールが不十分でその程度の対消滅しか起こせなかったのが幸運だった。

その後、半狂乱になった孤児院の女(男の母親だったと思う)に死ぬ寸前まで殴られたが、ぎりぎりで州の保安官が駆け付けた。五体満足であの施設から出て、健康に心の傷もなく成長できたことだけは感謝している。俺自身に。

あとはお決まりのコースだ。魔法の才能を認められ軍に飼われることとなった。
飯と服を与えられ、暴力も振るわれない。身体を鍛えた、知識を蓄えた。
12歳になる頃にシールズ家に引き取られた。
日系の顔と軍の識別コードが「T」から始まることから「タツヤ」と呼ばれた。
悪い気はしない。だが反面、俺の知るこの名前の人物はこれほど苦難の人生を送っているか疑問に思った。
感情を抑え込まれた、家族に召使扱いされた。

いいじゃないか。自分の両親を知っているんだろう?
いいじゃないか。感情が薄ければ隣りのベットで死んだ子供のことも何とも思わないんだろう?
いいじゃないか。子供の頃から名前があったんだろう?

日本に来たら義妹と同じように笑い、哀しみ、恥ずかしがり、そして誰かを想う少女と話をした。
髪の色も、目の色も、声も、形も違うが、彼女の純粋で思い込みがちで、おっちょこちょいなところが義妹と重なった。
友達の兄を殺す、友達を騙す、妹を妻に迎える、そんなことを受け入れる、受け入れようとする男を好きになっちゃだめだ。

クズ共の宴に巻き込まれながら抗おうともしない男はダメだ。君が幸せになれない。
だが、彼女はそんな男を心配し、恋をしている。

くそったれ。なんで俺の心は痛む。



情報体次元用閃光は司波達也の眼前ではなく、上空にさく裂した。
離れた屋上にいる柴田美月から見たら単なる花火だ。

パラサイト集合体には、吉田幹比古の魔法が落ちる。
情報体次元での「燃焼」だ。
その攻撃に苦しむパラサイト。奇妙な言い方だが燃焼に身をよじり苦しんでいる。
地上に残ったパラサイト達が、パラサイト集合体の苦しみに呼応するように自爆を始める。

円陣、スターズ、白兵組と各所で爆発に対応している。
障壁を張り爆発を殺し、被害を軽減する。
情報体次元では自爆し、器を失くしたパラサイトが集合体へ合流する。
ピクシーを除く全パラサイトが一つになった強大な集合体は、身を焼く魔法を力技で引きはがす。

このパラサイトの姿を視認している俺と司波達也は同じ驚きの顔をしただろう。
炎を吹き飛ばしたそこには悪魔の姿があった。



俺が見たのは、巨大なパラサイトの集合体が相馬新の肉体に入り込む瞬間だった。
アラタは黒羽のエージェントの相手を終わらせたのか、樹木の陰から現れた。
分散していたスターズが集合し、それを睨みながら円陣へ合流しようと向かう瞬間だ。
あいつは、情報体次元を認識できない。
司波達也も集合体の動きを遮るようにサイオン弾をぶつけるが、なしの礫だった。

集合体が肉体に入り込むとアラタが両膝を付き、頭を垂れたまま動かなくなった。眼も虚ろだ。宿主になったのか。どうなんだ。首の後ろがひりひりする。俺は一気に後ろへ跳躍する。跳躍先に木があり、背中をぶつけ痛い思いをするが見たものと比べればマシだった。

一瞬の光。俺が立っていた地面が爆発する。高出力のレーザーが着弾したのだ。
発射位置を見ると、青白い顔をした藤林奏が校舎からこちらを見ている。
自分の男の危機に攻撃してきたか。

スターズが散会する。
「撤退だ!」
俺の声を聴き、スターズは森の闇に消えるよう走っていく。彼らの速度なら3分もあれば戦場から離脱だ。

アラタを心配げに見る地上の一校生たち。俺への敵意は少なくない。
エリカなど「どうする?!」と怒りながら誰かに、例えば司波達也に指示を求めている。

俺はCADの銃口を光夜や達也に向けつつ、少しづつ後退する。
緊迫する。速さでは司波雪光が抜群だ。だが恐ろしいのは司波達也と四葉光夜だ。
撤退するにも、何かしらワンアクションが欲しい。

緊張が上昇する数秒間。
突然に相馬新の肉体が覚醒する。
肉体からは先ほどのパラサイト集合体、悪魔が飛び出す。だが先ほどより、吉田の燃焼を振り払った時より遥かに疲弊している。

起き上がったアラタは俺の方を向く。
アラタは一瞬で間合いを詰める。距離が取れない。
熊手のよう指を立てた両手で、俺の左腕を挟み込む。
「ぐっ!」
何とか叫び声は上げずに済んだ。だが俺の左腕には大きな傷跡。
まるで四足の肉食獣にでも引っかかられたようだ。
血が垂れる。さらに肉薄すべくアラタは俺から距離を取らない。奴の体に向けて俺の血が舞う。

虚ろな目をしたアラタに蹴りを一撃見舞い、何とか距離を取る。
アラタはそのまま倒れ込み動かない。

負傷はしたが、目的である脱走兵は処分した。あとは俺も逃げるだけだ。
だがこの状況下で逃げれるのか。
体力的に疲労したとはいえ、一校の面々はまだ動ける。

戦況分析をする俺の意識に割り込み、五感に情報体次元での冷やかさを感じる。
その発生源を見ると、司波達也が司波深雪を抱きかかえ目をつぶっている。

深雪の精神干渉魔法でパラサイトを消し去ろうというのだ。

原作通りのクライマックスだ。



ちょっと自信がない。頑張る。妄想する。


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管理課と上司さんにハンコ貰って来て

「いや~すごいね」
オフィスの奥にあるテクニカルチームのブロックで、チーム長は相談しにきた面接担当官に微妙な笑顔を見せた。
とんでもないことになるぞ、という類の笑顔である。
「申し訳ありません。ですが、想定から逸脱しているのでまずはご相談と思いまして」
緊張した顔で謝罪をする担当官。チーム長は久々のトラブルに笑うしかなかった。難しいというより珍しいから笑うのだ。
「何ループに一度くらいは、この手のことが起きるので対応方法はあるから大丈夫だけど、もう少し詳しく教えてくれない」
「はい、対象のチートはこちらです」
面接担当官はかしこまった手つきで用紙を見せる。
「彼に対して情報強度2から3の情報体が合体して侵入しました。現地では吸血鬼、寄生体と呼ばれております」
チーム長は用紙を手に取り読み込む。

「あれ?」
チーム長は読み途中で声をあげる。どうやら何か発見したようだ。
「何かありましたか?」
面接官が緊張の度合いを増す。更なるトラブル。対応ミスを恐れた。
だが出てきた答えは緊張を解かすものだった。
「いやいや、こりゃ心配ないよ。本人持っているのが神の加護の最上級が複数だろ」
「はい」
「じゃあ、問題ないや。情報体が神加護持ちをどうにかするには最低でも強度8は必要だから」
「8ですか?!」
上ずった声の返事。想定外の数値に面接官は驚く。
「8。最上級は情報強度で直すと9以上の数値化不能ラインだよ、複数入ったといっても強度は合算されないから」
「ほんとですか!」
「でも、そうなると」
武神、軍神等の「分類」管理はこの手のことには大らかだ。だが神格の個人名がついている場合はそのユニオンや連盟、連合からの突き上げが来る。特に今回は最上級だ。ヘルメス本人が事情確認に来るだろう。
チーム長はヘルメスを知らない相手ではない。先手を打てば怒りも収まる。

「あ~、これ持って管理課と上司さんにハンコ貰って来て」
「え?」
手渡されたのは一枚の用紙。紫の枠線がある申請書だ。
「今回ね、チート強化イベントで処理するから。あとシャチハタは無しね。三文判でいいから、ちゃんと朱肉使ってよ」



従来の白い部屋ではなく何処かの企業のオフィスで関重蔵が苛立たし気に待っていた。
(死んだわけじゃない)
戦闘の佳境となったあの瞬間に重蔵の中にパラサイトが入ってきた。そこで意識が途切れた。
周辺ではスーツ姿のサラリーマンが忙しそうに電話をしたり、21世紀初頭のPCで何か資料を作成したりと忙しげだ。
大昔の前世で嫌というほど見た日常のオフィスだ。

「いや~申し訳ない」
重蔵の転生時にあった神が現れる。
スーツにネクタイ。顔はよく見えない。
「今回実はちょっとこっち側で手違いがありまして。関さんには直接オフィスにご足労いただきました」
「その言い方だと、俺はあの世界に戻れるのですか」
関の表情は硬い。戦闘中の離脱は仲間の生死関わる。
「ええ、もちろんです。こちらとしては気を失われて1分後に目が覚めるよう調整済みです。そのためにも一つお願いがありまして」
神はデスクの引き出しから見慣れたモノを取り出す。
「サイコロを振って頂きたいのです。実は情報体が関さんの中に入ったときにチート強化イベントのフラグが実行されまして、それを完了させませんと」
「わかりました。この場でいいんですか」
6面体のサイコロが4つだ。
「こちらを振ってください」
関としては直ぐに終わらせて戻りたかった。何気なく振った。
神もサイコロを4つにしたので、以前と同じような事にはならないと思った。


・・・絶句・・・


神が立ち上がった衝撃で机の上に置かれたファイルは崩れ床に散らばる。
関重蔵はため息をし、床に落ちたファイルと、ファイルからこぼれたメモ紙片を集める。
神は青い顔をしながらどこかに電話をする。周りのサラリーマンたちも「あいつ、スゲーな」と感情の無い目で神を見ている。
それを横目に関は整えたファイルを机の上に置き直す。
「すいません。最大です・・・はい、はい。後ほど」
電話口でそれだけ言うと神は電話を切った。
「どうなったんですか?」
「気絶から1分後に覚醒は変わりません」
それだけ言うと神は一枚の申請書を関に見せる。
「ここに、サインを」


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お前は司波達也が嫌いか

「お兄様は、なぜ今回のパラサイト事件に協力されたのですか?」
司波深雪は、珍しくリビングのソファで何をするわけでもなく電子書籍を読んでいた司波達也に聞いた。
あの戦闘から数日。深雪の視線からは達也は流されるように事件に巻き込まれていた。
たしかに光夜のアカシックレコードの知識で、パラサイトの存在と達也が撃退する未来の話はあったが
それを踏まえても、達也が状況に流されている様に深雪は思えた。

「気になるかい。深雪。それはパラサイトの存在が人間の生存に厄介だからだよ」
深雪は兄と自分のコーヒーカップを持ってキッチンから戻ってくる。
「厄介ですか?」
兄の口から厄介という言葉を聞くのは初めてかもしれない。
「そう。厄介だ。青山霊園の時までは、エリカたちの暴走を止めるためや、関少佐への協力といった側面が強かったがあいつらと会話してわかったのは、知性面以外に無計画な繁殖欲求があることだ」
「無計画ですか?あまりそのようには感じませんでしたが」
コーヒーカップを渡しながら、深雪もソファに座る。
「USNA内で繁殖に失敗したと言っただろう。理性があれば、社会から外れたものや所在の確認が難しいものを優先して繁殖の対象としただろう。例えば病院の隔離病棟や、へき地にあるホスピタルといった【社会から見放された場所】といったものもある。つまり奴らは宿主の知性や知識というものを持ちながら、繁殖の対象を選定しなかった。スターズの士官の知性を持ちながら、行動と結果を想像、予測をしなかったんだ」
「つまり彼らは宿主の表面的な言語能力のみ利用して会話をしていたと」
「そうだ。あいつらの繁殖欲求は知性や理性でコントロールされるものではなく、本能的な繁殖欲求しか持たない可能性が高い。そのまま放置すれば、近いうちに人類への大きな敵となり得る。数の少ない今の段階で、対応できたのは僥倖だったな」



バレンタインデイは企業の提案というスタートから100年以上経過しても、やはりこの日は男女にとっては何かしらの意味を持つ日である。
学校の各所では告白、成功、お断りと波乱万丈なシーンが行われている。
光井ほのかも、司波達也にチョコを渡し直ぐにお返しのプレゼントを貰えた。

放課後の1-B教室では落ち込む一人の男子生徒を二人の男子生徒が励ましていた。
「・・・」
「落ち込むなよ、雪光!」
「大丈夫!」
普段は女生徒が周りにいる雪光の脇には、須田と森崎がいる。
先ほど雪光は七草真由美に告白して玉砕したのだ。

朝から雪光に告白する女子は多かった。深雪に匹敵する美形で、一校の王子様。
その度に「ありがとう。ごめん。今日僕も告白すると決めたんだ」と一人一人丁寧に断っていた。
そして、その実行を先ほど行った。
「ごめんね。雪光君はやっぱり弟なのよね~」
小悪魔的な表情での「お断り」である。雪光は年上の女性の、いやこの場合は、真由美の小悪魔加減に身をもって知らされた。服部と同類である。
真由美が雪光を可愛がっていたのは恋愛や興味というより「弟扱い」の延長線上で、それを勘違いしてしまったのは雪光だ。

玉砕である。
その後すぐに兄である達也が真由美から「地獄のように苦い」チョコレートを贈られたと聞いて完全に気が抜けてしまった。
「弟・・・」
口から魂でも抜けるように、口をあけ脱力する。
雪光は夕食を家で食べない旨、深雪に伝えてある。
達也との甘い夜を邪魔したくはないからだ。

その日、雪光、森崎、須田は三人でパフェを食べに行った。
しょっぱいパフェを食べたのは雪光だけだった。



「もう少し学生をやってくれ」
風間少佐は定例の連絡時に告げた。
「なにかありました?」
「情報部から第一師団の出動へクレームが出たらしい。情報部と十師族に少し不協和音がな」
「七草と九島がやり過ぎたか」
風間が頷く。

防諜三課、第一師団の歩兵小隊の両者とも、公安と防諜二課に向けて横やりを入れ、それが失敗している。
完全なるマイナス点だ。
十師族の「お願い」「圧力」の悪い側面がもろに出てしまった。日本国内による情報部同士の内ゲバ。
一歩間違えれば、魔法科高校の生徒の死傷の可能性もあった。

情報部と陸軍の反十師族がその点を多いに取り上げた。軍の各部署にいる十師族と強いパイプを持つ人間は大忙しだ。
風間も連日、十師族からの今後の軍の対応や見通しについてひっきりなしに連絡が来る。
「そのようだ。それとはあまり関係ないが、十師族関係が来年時に一校に入学するようだ。裏から警備強化しておきたい」
「校長はなんて」
「一度顔を見せろ、と。まあ文句というより正体を知りたいんだろうな」
昨年の入学時点で「入学試験に合格するなら潜入軍人を引き受ける」とかつての情報部、大島少将と百山校長の密約があった。
合格したのが関重蔵だが、「誰が潜入軍人か」は明かされていない。
今後の警備体制を考えれば校長としては正体を知りたいところなのだろう。

一校の野外訓練場で長い長いパラサイト事件は終息した。
スターズは混乱の中、撤退。リーダー格も深雪の魔法展開の余波で一校勢が動けないタイミングで離脱。
その後防諜二課と公安が到着し、事の顛末を報告。
司波深雪の行ったことについては光夜の「全てこちらで処理をした。あとはそちらに任せたい」と言って押し通した。
報告書には「四葉光夜氏の魔法にて【パラサイト】消滅。※魔法については四葉の秘匿魔法」と一文が載ることになった。

関重蔵はすぐに入院。吉田一門から霊子調査をされたが、多少の減少を見ただけで即座に退院、報告書地獄へ突入した。

どこも得をしない非常に消化不良な終わり方だった。
防諜二課もその後のUSNAエージェントの動きを注視したが何も起きなかった。
公安は被疑者死亡で処理をした。パラサイトに死亡があるのか、関係者皆が苦笑いをした。
だが関はそれでいいと思っている。
(一人勝ちは妬みが生まれる)
痛み分けで十分と関は考える。
何が益があるのか、何が無益なのか。
それを知る代償が人の命は割に合わない。

(痛みが俺一人で済むなら大した問題じゃない)



「見送りか」
「一応な」
空港のエントランスで、タツヤ・クドウ・シールズは驚きもしない。
「お洒落な殺し屋」といっても通用しそうな四葉光夜の姿を見てもタツヤは微笑むだけだ。

グレートボム使用者調査の任務半ばで帰国となった。学生として潜入するタイムリミットだ。
一応「四葉光夜」を暫定的なグレートボム使用者と見定めて報告した。
司波達也に関しては情報体次元の観測能力を有し、準軍事的立場の可能性を論じるにとどまった。
ネームバリューと証拠の面からタツヤは妥協してその様に報告した。

脱走兵の処理だけでも完遂したのが気休めだ。

光夜は紺のダブルのスリーピーススーツ。黒のコート、そしてシャツは白。光沢のある細身のネクタイ。紫のポケットチーフが胸もとで輝き、フォーマルに見える配色が一気にカジュアルでお洒落に見える。お決まりな組み合わせだが四葉光夜が着ると一気にモードのセンスが溢れる逸品のスーツになる。

タツヤもチャコールグレーのシングルの細身のスーツ。よく見る格子柄が入っている。襟幅も薄く、カジュアルではなくフォーマルな雰囲気のスーツだ。ブルーストライプのシャツ。薄茶のネクタイは見方によってはゴールドにも見える。その組み合わせはフォーマル系スーツの堅苦しさを感じさせない。お洒落の遊びは手元のカフスボタン。ネクタイの色に合わせた天然素材の高級品だ。

光夜が「お洒落な殺し屋」なら「ラグジュアリーなヒットマン」がタツヤだった。

「時間がまだある。コーヒーでも」
「ああ」
タツヤの誘いで光夜はVIPラウンジにある喫茶室に向かった。

二人が遮音スペースに座ると周辺の席から人が移動した。
堅気同士には見えない迫力で敬遠しているのだ。

「見事なギターだったな」
「人を褒めるタイプとは思わなかった」
タツヤが肩をすくめておどけて見せる。
「口数の問題だ」
卒業式の後、三年生の祝宴に在校生からバンドのプレゼントがあった。
そこでタツヤは見事なギターを披露した。
アラタが「ジョニー・B.グッドとか、あいつバックトゥザフューチャー観てたな」と漏らしたのを光夜は聞いた。
アラタもタツヤも前世は年上だと光夜は思った。光夜はバックトゥザフューチャーの名前は知っていたが昔の映画で見ていなかった。

沈黙があった。それは気まずいというより、沈黙を置くことでお互いのテンポを合わせるような間だった。

「お前は司波達也が嫌いか」

「その質問を待っていた気がするよ」
「そうか」
屈託のない笑顔を光夜に見せるタツヤ。
この質問にタツヤの心の硬直はほぐれた。
(俺は日本に来てこの質問を転生者から聞かれたかったんだな)
誰にも言えない鬱屈。転生者としての悩み。敵、味方、誰に言っていいのか見当もつかない。
光夜は、タツヤに正しい質問をした。心のどこかにあった塊が氷解した。

「両親を知らず孤児院暮らしで食事もとれず虐待されて育った人間と、両親を知り感情を奪われ食事を与えられ厳しい訓練に明け暮れた人間。どっちが幸せだと思う?」
「・・・」
光夜の無言は話を促すためとタツヤは理解した。
「当事者から見れば自分の方が地獄だと思うだろうな。八つ当たりだ。似たような顔で同じ名前。俺から見ればあいつはまともな世界にいると思っている」
自分の怒りと哀しみを、全く関係ない他人にぶつけていることを自覚している口調だ。
光夜はその言葉に返すには自分のことを話そうと思った。

「俺は8歳で母と離されて、10歳の時に人を殺した。訓練漬けの日々だ。母の死に目には会えなかった。母の墓は四葉の墓ではなく使用人たちの墓の脇にひっそりある」
「そうか」
タツヤはそう答え、コーヒーを口にする。
(この男も楽な人生ではない。俺には俺の怒りが、光夜には光夜の怒りか)
「四葉真夜は俺が殺す」
その言葉にタツヤは動揺しなかった。
自分が司波達也を敵と見定めるなら、この男は四葉の当主が敵なのだろう。
「好きにしろ。司波達也を俺に近づけるなよ。あいつがどう思っているか知らないが、俺はあいつが嫌いだ」
「八つ当たりか」
「ああ」
タツヤは軽く微笑みコーヒーに口をつける。
光夜はタツヤ・クドウ・シールズが理性的な人物だと改めて思った。自分の感情をしっかり把握している。八つ当たりだとわかった上で、達也を嫌っている。決して意志薄弱な感情任せの人物ではない。

光夜も一口コーヒーを飲む。
お互いの胸の内の一端を見せた今の会話が過去のようだ。
互いが互いに、相手と心通じた気がしたからであろう。
過去からの怒りを話すより、別の話をしたい。そんな気分にタツヤも光夜もなった。

「この時代はどうも漫画やアニメのような娯楽が少ないな」
タツヤが何気なく口にする。
「USNAでもそうなのか」
「スターウォーズは馬鹿みたいに再放送する癖に、ゴジラの再放送がない。シン・ゴジラさえない」
「あれか庵野監督の」
「観たのか」
「予告だけだ。公開前にこっちだ」
「面白かったぞ。本当に良かった」
「そんなにか」
「USNAのコンテンツアーカイブにあった。日本でも探せば見つかるぞ」
「わかった」

そこから二人の会話は昔の話になった。光夜が「まどマギ」の話をすれば、タツヤは「艦これ」の話をする。
それはオタク知識の披露ではなく、過去のオタクだった自分たちを懐かしむような穏やかな話だった。

「時間だ。そうだ。光井さんに伝言を頼みたい」
タツヤがそう言いながら椅子から立ち上がる。
「なんだ」
光夜は光井ほのかが告白の練習にタツヤ・クドウ・シールズと一緒にいたという話題を思い出した。
「失恋を恐れないように。アレがダメなら俺の所へおいで、と」
(光井ほのかは、達也にフラれたらこっちのタツヤに恋をするだろうか)
そんなことを光夜は考えて微笑む。

「その顔で言うか」
この伝言を達也の居ないところで伝えようと光夜は思った。
「この顔で言うよ」
この伝言がきっと伝わるとタツヤは思った。

「じゃあな」
タツヤはそう言って背中を向けた。
「ああ」
光夜が「またな」と言わないのは二度と会うつもりがないのか、それともどこかで会うことを確信しているのか。



光夜のスーツのイメージは「トム・ハーディ スーツ」
タツヤのスーツのイメージは「トム・ヒドルストン スーツ」

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市場には絶対に出回らない般若湯

バレンタインでは雪光が恋に玉砕し、3月の下旬にはタツヤ・クドウ・シールズはUSNAに帰って行った。
パラサイトとの戦闘後からカナデがべったりだ。登下校以外にも、かつてはセーフハウスで今は宿舎替わりになったマンションに入り浸っている。
何度か身体を交わしたがその度に少し泣きそうになっている。
「心配性だな・・・」
「・・・うるさい」
彼女は俺が死ぬのが怖いのだろう。抱きしめながら頭を撫でてやる。
「そろそろベットから出ないと遅刻するぞ」
入学式の前日から彼氏の家に泊まり込み。爺様知ったら血管切れるんじゃない?
俺は先にベットから出て、床に落ちていたブラジャーをカナデに渡した。



俺は、更なるチートを手に入れた。
はっきり言って人の区分から外れた気分だ。
少し前の休日に夜遅く、九重寺で少しその能力を使ってみた。

「九重さん、これで庭先貸してくれませんか」
「これは?」
「某所で作られた杜氏が自分で飲む用に選別した、市場には絶対に出回らない般若湯です」
「好きなだけ使ってくれていいよ」
この調子だから九重さんは好きだね。

一時間もすると俺は自分の能力をちゃんと理解した。

九重さんは弟子たちに「適当に」修行するよう言うと俺を堂内に呼んだ。
「悪いが般若湯が無くなるまで付き合ってもらうよ。自棄般若湯とは初めてだ」
あの九重八雲をしてこんなことは初めてなようだ。そりゃそうだ。
あんなものを目の当りにしたら、泰然自若とした九重八雲も般若湯を飲むだろう。

魔法が神話とおとぎ話を現実にしたように、俺は「武術が見る夢」を現実にした。



「カナデは今日もアラタさんと一緒に登校なのね」
深雪副会長が「恋人同士お熱いわね」という茶化すようなニュアンスで言ったのだろう。
「アラタの方が近いから泊ったの」
ああああ、そうサラっとばらすな!
ほら、深雪副会長が「え、泊った」と言ってフリーズしたぞ。
生徒会役員は早めの登校なので、周りには五十里先輩と千代田先輩と光夜と中条会長と雪光と司波達也がいる。
千代田先輩は「恋人同士なら当然よね」という視線を俺やカナデではなく五十里先輩に向けた。
お前らもか。

中条会長も驚いている。光夜と司波達也に表情の変化はない。雪光は少し顔を赤くしている。
違うんです!いやらしいことはしてるんですが、同意です!同意!コスプレ衣装を持ち込んだのはカナデです!
俺の無言の言い訳を理解したのは誰かいるんだろうか。
深雪副会長でさえ、カナデと俺の顔を交互に見ては赤い顔をさらに赤くしている。
「ほら、深雪固まらないの。これから入学式なんだから」
一人この固まった空気の中、深雪副会長の背中に回り、校舎の方へ押すカナデ。
「まあ恋人同士だとね!」
免罪符でも手に入れたかのように千代田先輩は五十里先輩の手を握り大股で歩き出す。
すげ~デレデレな顔してるよ。

う~ん、カナデに「アラタはあたしのモノ」宣言をされた気がするぞ。
まあ、いいか。



俺は、あの野外訓練場の晩に手に入れた「タツヤ・クドウ・シールズ」の血液の付いた服の切れ端を持っている。

魔法師のDNA情報は高度な機密だ。おいそれと分析していいモノじゃない。
「タツヤ・クドウ・シールズ」の服の大部分は風間さんには提出済みだが、俺が別個に保有していることは伝えていない。

疑念があった。

あの時、机の上から落ちたファイルを片付けるふりをして見た個人情報。
どうやらこの世界に転生した人間の情報のようだった。
一瞬で判断できたのは、俺の保有チートと、「タツヤ・クドウ・シールズ」の身上書?だった。
あいつの身上書で読めたのは「特殊設定」の欄だけ。

『悲喜劇の子:プラス8修正、担当官ではなく監督者の任意設定』

それが何を意味するのか、よくわからない。
だが「司波達也とよく似た顔」「魔法の実力」そして「悲喜劇」
俺の中のオタク知識とマインドをフル回転させ、「悲喜劇」に似合ったシチュエーションを考えた。
この世界で生きるタツヤ・クドウ・シールズのどこが悲喜劇なのか?

あいつは「司波達也」に容姿がそっくりで、USNAの軍人でスターズで、それも指揮官格で凄腕魔法師で、シールズ家の一員。う~ん、別に悲喜劇じゃない。

ポイントはきっと司波達也なんだろう。そう直感させるのは容姿の酷似があるからだ。容姿が似ていることが悲喜劇?

俺が知っている司波達也とその周辺の情報は

司波達也は情動が司波深雪にしか向いていない。
司波深雪は達也を愛している。
軍人として大黒竜也特尉として魔装大隊に所属している。
九重八雲の弟子。
分解と再生が使える。精霊の眼を持つ。あとは?
数年前の沖縄で風間さんに見いだされた。
司波深夜と死別している。
使用人扱いだった。
護衛の女性を亡くして・・・はいない。当時沖縄に同行していた雪光の活躍もあり死亡はしていないらしい。
あとは?あとは?

じゃあ四葉は。司波達也の人生を狂わし、日本いや世界の魔法師集団でも、秘密に彩られた一族。

四葉は人体実験で達也の情動の一部を消した。
四葉は大漢を消し、世界から恐れられている。
現当主の四葉真夜は少女時代に崑崙方院に捕まりレイプされて、その影響で子供が産めない
四葉家は軍主導の研究所時代の前から青波とかいう人物から援助を受けていた。

それとタツヤ・クドウ・シールズは何か関係あるのか?
「悲喜劇」悲喜劇ってなんだ?時には悲劇、時には喜劇か。
この場合の悲劇とは?司波達也の情動か?兄妹の恋愛か?
四葉真夜の少女時代のことか?不可思議な人物による四葉への影響か?

じゃあ、何が喜劇だ?

いや見ようによっては喜劇だが、悲劇でもある、ということなのか。

この世界を考えた時、「達也と深雪の物語」として世界を捉えると悲劇の始点は?
どう考えても大漢の崩壊とその原因だ。

これが無ければ、世界はもう少し平和だったかもしれない。
少なくとも四葉家は平和だったはずだ。


この時の四葉の最大の悲劇は「四葉真夜は12歳の時に崑崙方院に捕まり強姦され子供が産めなくなった」である。
なぜ、大漢は四葉真夜を攫ったのか。優秀な魔法師の遺伝子を欲していたのか。
12歳の少女をレイプする意味は?単なる性的指向?
子供が産めない・・・、彼女を妊娠させるつもりだったのか?
だが、それならレイプしなくとも卵子を抽出して対外受精で成人女性を母体にして出産・・・。
未成熟な肉体をレイプした場合、生殖機能を失うことがあるだろう。
有能な遺伝子を奪取するなら、血液からクローンを作るなり、先ほどの卵子の抽出なりを・・・

いや、違う。逆だ。卵子の抽出後にレイプしたんだ。
当時12歳の少女から排卵された卵子を抽出。これで有能な魔法師の生成に必要な情報は手に入れた。
じゃあ、その卵子は?直ぐに四葉の反撃により大漢は消滅した。
崑崙方院は卵子をどうした?

この時、俺は過程を想像せずに結論に達した。オタクとしてのマインドが悲劇なようで喜劇、喜劇なようで悲劇を想像したのだ。

知らぬ間に敵対関係になる家族。妙な連帯と反発。神と読者だけが知る事実。
当事者は悲劇だが、物語を読む読者にしてみればエキサイティングな喜劇なのかもしれない。ハッピーエンドが約束されているなら。

始業式も終わり、七草の双子が生徒会室に出入りするようになるらしい。
周りには光夜、雪光、深雪、司波達也と四葉の家系が何人もいる。
2095年の技術なら、血の付いた布でDNA鑑定など容易だ。
調べる準備は出来た。あとは調査のタイミングだ。


俺はタツヤ・クドウ・シールズが四葉真夜と七草弘一の息子であると漠然と想像していた。



一応、来訪者編本編は終わり。余話をいくつかやって、2年生編のスタート。


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余話:魔法科高校第二校

取り留めもなく書きました。


川村エカテリーナ。通称、カチューシャ。
ロシア系の血を継ぐ少女。魔法科高校第二高校に所属。
氷の美貌と呼ばれ、人に冷たい印象を与える。しかし性格は現代の若者であり、やや我の強い少女だ。
白磁の肌に金髪、彫りの深い顔立ちは16歳とは思えない。

魔法師としての実力は一年生としては群を抜く。
戦闘だけではなく、技術転用など多角的に魔法を理解しており10年、20年に一人の逸材と言われている。
ただ彼女の活躍は学内に限定されており、全国的には「魔法科高校女子生徒の全国No.1は一校の司波深雪」と言われている。
彼女の真価は魔法科高校における評価基準と少しずれたところにある。



生活音も鎮まった夜半。
3発目、4発目とリーナ、今は仮面をつけており「アンジー・シリウス少佐」が連続してカチューシャが保有するマンションへ攻撃を仕掛けている。建築物に張られた情報強化を無効にすべく、情報体次元での魔法攻撃だ。物理的に音もしない、魔法の発動光だけが見える魔法師同士の静かな戦いである。

カチューシャの魔法師としての特性は「陣地」の形成である。
彼女は自分の研究用のマンションを「陣地」として強化しており、「対物理」「対魔法」においては国家の重要施設に匹敵するほど堅牢である。情報強化に関しては、政府が高度戦略施設に認定している市ヶ谷の国防関係の施設以上だ。
対物理においても、指定外の人物の侵入関知や、番犬代わりの精霊(情報体)、爆発物や外部からの攻撃にも対応している。決して「魔術工房をビル爆破」ということにはならない。
カチューシャの前世オタク知識では対物防御をおろそかにした魔術師が無残に敗北している。

「いい加減にしなさいよ。リーナ~」
既に氷の美貌は沸騰している。
カチューシャは防犯カメラ越しにリーナの姿を見ている。
仮面姿だが、カチューシャの原作知識では、彼女がアンジェリーナ・クドウ・シールズなのは確実だ。

攻撃が始まった時には調整台にあったCADを手首に付け起動させ、彼方の空間のリーナに照準を合わせた。
リーナは突然上空に現れた魔法式から殺気を感じ、大きく跳躍した。
強力なダウンバースト。空から突風が降りて来る。
「こんなことも出来るの?!」
リーナはカチューシャの実力を評価しつつ避けた。
たった一人に対してごく狭い範囲のダウンバースト。広範囲に放つ魔法を、非常に小さい範囲に収めるのは簡単ではない。これだけでカチューシャの魔法師としての能力をリーナは理解した。

即時にリーナは撤退。
カチューシャは陣地の形成し直しで午前二時まで苦労した。



「ちょっとリーナ!」
廊下で背中越しにキツめに声を掛けられ、一瞬肩を震わせリーナは歩き出す。
「ちょっとリーナ!聞いてるの!リーナ!コスプレ女!」
カチューシャは廊下を速足で歩くリーナの後ろをぴったりついていた。
昨日のことを根に持っているカチューシャは文句の一つも言おうと思い、朝の廊下でリーナを見つけ突撃した。

人の居ない廊下の角まで来るとリーナは振り返った。
「大きな声を出さないで。聞こえているわ」
落ち着かせるよな声を出すがカチューシャはお構いなしにリーナの鼻をつまんだ。
「あなたね~、昨日のマンション襲撃しておいて何偉そうにしてるのよ」
カチューシャの口元は笑っているが、目と声が笑っていない。
彼女の美貌と相まって恐ろしい迫力だ。
普段であれば鼻をつまんだ手を振り払うが、あまりの迫力でリーナも動くに動けない。
(あれ、まずかった・・・よね)
流石に街中での実力行使は問題だったと今更ながらに反省する。
街灯のサイオンセンサーは無効化されているので公的な証拠は残っていないはずだ。

「あなたでしょ。わかっているのよ。うちのマンションは特製だから録画もあるし、サイオンセンサーのデータもサルベージ済みよ」
(怒った表情でも綺麗ね)と現実逃避をするリーナ。
実際、カチューシャは美しかった。

リーナも美少女だ。金髪が良く似合う、天真爛漫さとちょっとした憂いを持つ美貌。引き締まった身体は同世代の少女から確実に羨望の眼差しで見られている。
リーナが太陽のような金髪なら、月のような繊細で神秘的な金髪美少女がカチューシャだ。
二人が並ぶと太陽と月の女神が並んでいるようにも見える。

が、月の女神は怒っている。
「別にあなたを脅そうってわけじゃないのよ。ただね、私あの後色々後片付けで眠れたの午前3時なのよね」
7時に起床とするなら4時間眠れている.。育ち盛りの肉体に当てはめると少々寝不足だ。
脅すつもりはない、と言っているが声音は怒りの色だ。
「そ、そうね。寝不足はお肌によくないわね」
「次やったら、コスプレ姿を学校でばらすからね」
釘を刺されたリーナは直接行動ではなく、別の方法でカチューシャの「グレートボム使用者疑惑」の調査をしようと思った。
リーナは月の女神は怒らすと怖い、と肝に銘じたのである。



「いいから、この着物を着なさい!」

京都、清水寺へ続く坂。そこは130年以上続く一大観光地である。
現在のように海外旅行が難しくない頃は国内外から多くの観光客が訪れるが、現在では大勢の国内旅行者と時折見かける海外からの旅行客だ。
日曜日。リーナはカチューシャを尾行した。
カチューシャは朝に西ノ宮から外出し、9時になる頃にはこの清水寺の茶屋に到着し、いつの間にか着物姿になってお客の呼び込みをしている。
赤をメインにした着物に彼女の金髪は良く映える。正午まで、カチューシャを監視していたリーナだが、ふと目を離したときにカチューシャが後ろに回っており、大きな声で先ほどのセリフを言われた。
「あなたね!人のバイト先まで来て、暇なら手伝いなさい」
そう言ってカチューシャは青メインの着物をリーナに着せ、茶屋の呼び込みを手伝わせた。

「いらっしゃいませ~」
「そんな蚊の鳴くような声を出さない。恥ずかしがらない!」
カチューシャの指導は厳しい。観光客の呼び込みから、お茶出し、お礼と事細かに指示してくる。
「はい」
人波が途切れた時に茶屋の奥で一息ついていたリーナにカチューシャが出したのはよく冷えたお茶だ。
器に触るだけで、その冷え加減がわかる。声を出し、接客で疲れた体に対しては甘美な欲望を煮えたぎらせる。
「ありがとう」
リーナはそう言って、一気に飲んだ。

美味しい。喉に冷えた日本茶の味が染みわたる。
やや渋みがあるが煮だし過ぎた紅茶の渋みとは全く違う。
「あなたね、尾行するなら先に言いなさいよ」
怒るというより呆れるといった口調。
カチューシャは冷茶のお変わりを出しながらそう言った。



川村エカテリーナは中学一年生の頃から資産運用を始めた。
実力と幸運と博打の才能が十二分に発揮された。
中学三年生になる頃には標準的な市の年間予算に匹敵する金額を稼いでいた。

彼女はその莫大な資産を使い、第九研究所からの見返りの無さに怒りを持つ伝統派から離れた「伝統派崩れ」やフリーの術者、特殊な法術により「外法師」「外道使い」など、古式主流派から嫌われ力の使う場を持たない古式魔法師、能力者を取りまとめ、「社団法人 西日本民間魔法師連絡会」の立ち上げに関与した。

中学二年生の時に京都で野良魔法師の決闘に巻き込まれたことから、清水寺近くの茶屋を営む古式の重鎮であり、かつては伝統派の中核の一人であり、現在京都の結界運用を行う老人と懇意になった。
その時に老人から聞かされた古式魔法師の現状が彼女の発想の元だ。

カチューシャの基本思考として「人間、経済的に安定していれば文句を言わない」がある。
彼女は伝統派や一部古式の魔法師たちが、旧第九研究所や現代魔法に文句を言っているのは技術面に関する憤りというより、「技術向上によってもたらされる事業の拡大と経済的安定」が反故にされた、または「現代魔法だけが経済的恩恵を受けている」ことに不満があるからと思っている。

一面的な捉え方ではあるが、正解でもあった。
そして彼女は「経済的不満」の解消方法を実行したのだ。

日本には多くの寺社仏閣名刹古刹がある。そのすべてが魔法に詳しいわけではない。
もっと言えば霊験あらたかな土地を管理している檀家や住職は一般人が多い。そこに「パワースポット」や「サイオンの活性地」として不埒な輩が違法に立ち入ろうとする。
魔法的に防御する専門家を行政に求めてもなかなか腰が重い。
そこに民間の、特に「古式」の専門家を紹介してくれる機関があれば問い合わせが来る。
その紹介する機関こそが連絡会なのだ。

需要と供給を結ぶ場を作ったのだ。
魔法の民間利用として寺社仏閣だけではない、建設会社や漁業、林業とその利用範囲は想像以上であった。
大成功だった。

西日本の民間魔法師で「西日本民間魔法師連絡会」を知らぬ者はいないし、隔意を持つものなど存在しない。
「茶屋の金髪のお嬢さん」の頼みならば即日100人からの古式魔法師が動くだろう。
表向きは茶屋の老人やそれなりの年齢の人間が代表理事として動くが、資金面ではまだまだカチューシャが必要とされている。最年少理事としてカチューシャは名前を残している。
彼女は2年も満たない間に西日本の顔役になったのだ。

カチューシャは「お金があれば文句も出ない」と言うが大国で魔法師研究の最前線にいた知識と経験を使えず魔法と関係ない仕事についていた父と、古式魔法の活躍の場を見出せぬ人たちを重ね合わせたのは本人も自覚している。



「う~、好きな人くらいいますよ~だ」
すでにリーナはベロベロだ。
再来週には日本を立つリーナを、カチューシャがマンションに呼んで食事会をした結果がこれだ。
日本酒を御猪口で一杯だけ飲んでこれほど酔うとはカチューシャも想像できなかった。
カチューシャはお酒に強い。
アルコール度75%のウォッカを1瓶空けても特に問題のない酒豪だ。
「誰よ。その好きな人」
特に興味はなかったが酔っ払いの相手の時は適当に相槌を打っておくと楽なのをカチューシャは知っている。
「おにいちゃん (/ω\)キャハ」
カチューシャは一瞬、恥ずかしさに顔を隠す顔文字が見えた気がした。
「あなた近親相姦願望でもあるの?」
「タツヤは養子だから結婚できます~」
「タツヤ?」
「うん、タツヤ・クドウ・シールズ。カッコいいのよ。クールで実力があって、笑うとね・・・可愛いの」
リーナの顔が赤いのは酔いだけではないのだろう。
情報端末を操作すると、リーナはタツヤの写真をカチューシャに見せた。
(ちょっと!こいつ爆弾じゃない!?カナデ大丈夫かしら)
カチューシャの知る司波達也と同じ顔だ。
きっと何かが起きるのだろう。そして、このタツヤには何かがあるのだろう。
カチューシャは直感的にそう思った。



「は~」
春休み最終日。明日からは2年生だ。
カチューシャは春休みに起きた南の島での事件・・・星を呼ぶ少女たちと司波達也たちの事件に巻き込まれて苦労した。
リーナと面識がない一校面々の間に入り、いろいろ交渉に奔走した。
深雪に「あなたはUSNA側なのですか」と冷たい表情で聞かれた時は「あんたね、話聞きなさいよ!」と怒鳴りつけたりと綱渡りな数日間だった。

千葉エリカには「美人の割りには子供っぽい」と言われたので「美人の割には性格悪そうね」と返しておいた。
「まあまあ」と宥める吉田幹比古は苦労性だとカチューシャは思った。

北山雫の別荘のお風呂で柴田美月の胸にタッチできたのは楽しかった。
標準的なサイズのカチューシャにしてみればあの爆乳は未知の体験だった。
男がおっぱいで癒されるのもよくわかる、とカチューシャも思ったし顔をうずめたら癒された。

美少年の九島光宣をもうすぐ見れるのが楽しみだが、それ以上に今年の九校戦や論文コンペでは自分こそが全国一の魔法少女であることを知らしめるつもりだ。

文句は多いが、川村エカテリーナはこの世界を満喫している。

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新入生キャラクター紹介

2018年4月1日に投稿。エイプリルフールの日である。


七海 奈波(ななうみ ななみ)
身長:160cm
体重:ひみつ
黒髪で黒の瞳。
100人中100人が可愛いという容姿。
ショートボブが良く似合い笑うと可愛い。
明朗快活な性格で人に対して隔意が少ない。半面、思ったことを口に出しがちでもある。

七宝家の親戚筋で家伝の魔法も群体制御ではあるが、その数は七つに絞られている。
奈波は七海家の歴代魔法師の中でも群を抜く実力者であり、将来は当主に目されている。
名前通り海洋系の仕事をする家系で、潮の満ち引きや海流調査などの事業を行っており
奈波の両親は調査旅行が多く、子供のころから七宝家で暮らし家族同然である。

「想弾」と呼ばれる独自調整された「想子」の塊を自由に動かすことが可能である。

それぞれに別個の魔法効果を持たせたり、同一の魔法効果を持たせたりと
七海奈波の「意のまま」に動かせ、さらにはノータイムで効果を切り替え出来る。

自分の能力を伸ばすため一校に入学。

好きなタイプは背が高く、余裕があって、ちょっとワイルドな感じがいいらしい。
バイクの免許を持っており、電動スクーターが欲しいお年頃。
駅前にある喫茶店の二段パフェが気になっている。

七宝琢磨は完全に弟としか見ていない。
小和村真紀と琢磨の関係にも「あの子にも春が来たのね」としか思っていない。
芸能人とお近づきになれたので、好きなダンスグループのサインが欲しい。

「私、別に七草には敵対心ないですー!そんなことよりケーキ食べに行きたい!」
「七海は七宝の親戚筋ですが、家来じゃないですから。あとコイツと結婚とか100000000%ありません」



鬼一 法楽(きいち ほうがく)
身長:183cm
体重:75kg
髪と目の色は黒。

陰陽師とも言われた「鬼一法眼」の末裔と言われる。
千刃流の現代的剣術とは一線を画す、古流の剣術を使用する。
専用CAD「鏖」という名の三尺の革包太刀を持つ。

剣術は「天狗流」を自称しており、一撃必殺を旨としており戦国期には「馬ごと騎馬武者を両断した」と言った逸話に事欠かない。源義経の鞍馬流との関係もあるらしい。

その体躯は恐ろしく鍛えこまれており、国防軍の精鋭やトップアスリートに匹敵する。
また五感も鋭く、暗闇でも苦にしない。
伸びた黒髪を無造作に束ね、あまり外見を気にする方ではないが知人から「玲瓏」と渾名される美しさ。

剣術のみならず、修験道に関係する古伝の魔法も修得している。
特殊な呼吸法を用いて魔法を行使することにより、瞬間的な火力であれば魔装大隊の術者に引けをとらない。
また「魔法を斬る」という技術を持つ。

数年前に千葉家の当主、長男と立ち会っており「真の天稟」と評価されている。
尚武の気風を気に入り三校に入学。

性格ははっきりした性格で、好戦的なところがある。
反面、古流の家系でもあるので礼儀作法は叩き込まれており、公の場でも完璧な作法を見せる。
己の研鑽を人生の目標としており、常に強者や戦う機会を無駄にしない。

「斬れるものなら魂さえも斬るぜ」
「うるせえ!上下に分けるぞ!てめぇ!」



緋村武心 (ひむら むしん)
身長:170cm 
体重:61kg

平安の世から続く「火」のエレメントの家系で、その独自な能力を剣術として昇華させた「飛天流」を極めた。
本人は「剣と魔の境界線を崩す」を目指しており、そのため一校の門をくぐった。
基本的な魔法能力は高く、自己加速に関していえば千葉修次に匹敵し、奥義「天翔龍閃」は「圧斬り」以上の威力を持つ。

また「飛天流」と火に関する古式の魔法を組み合わせることで、強力な「炎の刀」を作り上げることが出来る。
刀状の高熱の炎なので物理的な武器・防具での防御は難しく、障壁のような魔法的防御も武心の体術に対抗できない場合は、無効化されてしまう。

専用CADに刀型「龍閃」を持つが、切り札の「炎の刀」は無刀で行う魔法である。

赤い髪をポニーテールにしており、優男と言った感じ。
鬼一法楽とは10年来の友人だが命のやり取りも数度行う。
かつて九重八雲に「そのとびっきりの鬼が騒ぐなら、仏門に来なさい」と言われたことがある。

優しい顔に似合わず女性好き。特にしっかりとした姐さん系。

「勝負してもいいけど、先にご飯食べない?」
「どっちが悪党か知らんけど、女性の味方になるよ」



五輪 鳴門(いつわ なると)

身長:164cm
体重:55kg

旧姓は「信楽 鳴門」(しがらき なると)で甲賀地域の生まれである。
忍者としての訓練を受けており、系譜的には九重八雲とは別である。
かつては古式派でも「麒麟児」として有名だったが、両親の死亡により修行生活から日常生活に身の置き所を変える。

鳴門は「仙人」と言われる状態になれる。
この状態は自然界にある想子を利用することが出来、ほぼ無尽蔵なサイオン量を誇り、超人的な運動能力を獲得する。
反面、上記の状態で無い時はいたって一般的な魔法師のレベルである。
また魔法に「風」「雷」の属性を与えることを得意としている。

「仙人」状態では、戦略級に匹敵する「殺生石」という魔法を使うことが可能である。
鳴門を中心した任意範囲(最大500m)の自然界想子密度を高濃度にすることで、体内想子濃度と自然界想子濃度に極端な差を作ることで体内想子の内圧が急激に変化することによる肉体互換作用が暴走し、対象が窒息する現象が起こる。

自分の属性付与の能力を分析し現代技術に転用するため、四校を受験。

トラブルを見過ごせぬ性格で、五輪家に養子入りしたのも五輪澪が旅行先でのトラブルを解決したことが理由。
両親とは死別しており、中学時代は独り暮らし。
趣味も少ないことから家事にはまり、炊事洗濯はプロ級。
特に料理に関しては、地元の老舗料亭からすぐに板前に来ないか誘われるレベル。

「わかったから、これ食べて落ち着きな」
「相手になってもいいけど、本気にはならないよ」





2018年4月1日に投稿。エイプリルフールの日である。

2108年4月2日に連載(未完)に変更、詳しくは活動報告にて。


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【女王陛下の完璧】【中条あずさの騎士】【大魔王】【雷帝】【戦略魔法師候補】【横浜の悪夢】

校舎から出て、黒城兵介はひと伸びして体をほぐす。
彼は明日からの部活勧誘期間に向けての打合せに出席していた。
クロスフィールド部のエースとして、また副部長として兵介には学校から期待がある。
ただ、こういった打ち合わせに出て一時間と座っているより体を動かす方が性に合っている。

既に夕刻となり今日はトレーニングは無しだ。いや家に帰ってからウェイトトレーニングをしてから食事だ。
そう思いながら校舎を出る。
校門までの道には勧誘用のテントが並んでいる。生徒たちの飾りつけも追い込みだ。
クロスフィールド部は人数にモノを言わせ午前中には終わらせたので、明日7時に登校すればいい状態だ。
「兵介、またな」「黒城くん、ばいばい」と多くの生徒が声を掛けてくる。

兵介は人気者だ。恵まれた体躯に、一流の魔法師としての才能、魔法だけではない教養。
天は二物、三物を与えていた。
人柄も明るく、簡単に怒るタイプではない。笑顔にも嫌味は無い。ちょっと脳筋気味ではあるが三校生にしては標準だ。
「じゃあね~」
周りに声を掛けながら校門へ目指す兵介。だが校門まで5mと言ったところで、一つの人影が校門の脇から現れ、道を遮るように立ちはだかる。

上背は、190cmに迫る兵介よりやや小さい。それでも高校生の平均に比べ高い方だ。肩幅、胴回りも同じ三校の制服の上からでもわかる鍛えようだ。
兵介も90kg近い筋肉の塊だが、それと比較しても見劣りはしない。
一番異質なのは肩にかついだ、やや湾曲した棒。刀状のCADだ。
長い。
兵介の知る刀型CADは大体70cm前後だ。だが目の前の生徒がかついでいるのは1mはある。
刀の反りもややきつい。俗に言う「太刀」だ。
「黒城先輩だよな」
先輩とつけながら無礼な口ぶりだが、あまり嫌な感じはしない。
整った容貌。三校の制服でなければモデルと言っても通じるだろう。
だが目つきは違った。まるで虎である。それも負け知らずで好戦的な虎だ。
「なんだ?」
兵介は要件を端的に聞き返しつつ、今の装備を確認する。
ブレスレットタイプのCADが左腕に一つ。
ブレザーの右ポケットにはナックルダスター、通称「メリケンサック」が一つ入っている。
「尚武の気風は、勝負の気風」と周辺の一般高校に言われるように、腕に自信のある学生が時折三校生に喧嘩を仕掛けてくることがある。
入学してからの一年間で兵介が買った喧嘩は5件。
昨年のNo.1だ。

兵介は腕には自信があったし、他の生徒が標的にならないなら別にそれでよかった。
素手の一対一もあれば、複数に囲まれたこともあった。
一番ひどいのは10人からの人数で鉄パイプを装備し、三校に入れなかった魔法を使う高校生が含まれた集団だ。
そのすべてを兵介は叩きのめしてきた。
魔法は使わなかったが、一応護身用にメリケンサックは持っていた。

既に周辺の高校で三校に喧嘩を仕掛ける奴はいないし、兵介の前で悪ぶる学生は皆無だ。
だが目の前の男子学生は別だ。同じ三校生。
佇まいから兵介は勝負希望だと感じた。
「先輩、一勝負したいんだが」
「いいとも」
そう言って兵介は視線で移動することを促した。
いくら三校が「尚武の気風」だからと言っても喧嘩を認める教育機関ではない。
校門から移動したのは、校舎裏だ。

「自己紹介くらいしろよ」
校舎裏の人目のつかないところまで来て、お互い6mで正対する。
兵介に笑顔で促され、三校の生徒が答える。
「おっと、言ってなかったな。鬼一法楽。一年だ。よろしく」
これからバスケの1on1で汗を流そうか、という気軽さだ。
兵介はこの気軽さが嫌いになれない。
この一年生は無傷で勝つつもりがないのだろう、と兵介は感じていた。
つまりは傷つく覚悟があるからこその、気軽い口調なのだろうと。
戦う覚悟と意志のある口調だ。

「じゃあ、やるか。魔法なしでいいか?」
兵介は右手にメリケンサックをはめる。
法楽はCADをかついだまま、大きく右足を前に開き低く構える。
「おうよ!黒城先輩、あんたを誘って正解だぜ!話が通じやすい」
「褒めるなよ」
その返事が勝負開始の合図だった。



「失礼します・・・」
声を抑えて生徒会室に入室したのは七海奈波であった。
入試の実技で七宝琢磨に次いで2位の成績を叩きだした女生徒だ。
ただ筆記が振るわず、総合順位では何とか20位内といったところだったが。

中条あずさはそんな情報を思い出しながらも、この状況の打破になるのではと期待していた。
生徒会室は今にも戦闘が始まりそうな空気だ。

生徒会の通例として入試一位の新入生総代を生徒会に勧誘したのだ。
七宝琢磨。
十八師補家の七宝家長男。
総合一位で入学。
総合二位、三位は七草の双子だ。
ただ昨年のような、四葉司波司波司波藤林による上位独占ほどインパクトはなかった。特に二科生でありながら筆記同点一位の司波達也のインパクトには負ける。

癖ッ毛なのかパーマなのかややウェービーな髪に、すっと伸びた背筋。美男子にぎりぎり分類される容貌。
中条あずさとしては、彼の生徒会入りで全国の規範となる一校の学生自治が維持されると期待していた。
だが、七宝は「自己研鑽」を理由に生徒会入りではなく部活を中心とした学生生活を希望し、生徒会勧誘を断った。

会計の五十里啓も残念そうに「ダメかな」と聞き返した。
「学校自治に生徒会が必要不可欠なのは承知していますが、自分は自己研鑽のため一校に入学しました。生徒会活動のために大事な時間を割くつもりはありません」
七宝はそう答えた。目つきの険しさから睨むようにも見える。
やや居丈高な物言いだが、中条も五十里も困り顔をするだけだった。
両名ともはっきりと意志表示されると強くは引き止められない性格だ。
だが、生徒会室にいるこの男は違った。
「断るのか」
【女王陛下の完璧】【中条あずさの騎士】【大魔王】【雷帝】【戦略魔法師候補】【横浜の悪夢】【服部会頭の胃痛】
四葉光夜は、その恐ろしい美声で七宝の言葉をたった一言で非難した。
非難というより断罪だ。
『生徒会の職責を軽視した罪、つまりは生徒会長中条あずさを軽視した罪』

だが、七宝はこの光夜の声に屈指なかった。背中では嫌な汗をかきながら反撃したのだ。
「先ほど申し上げたように、自分を磨くために一校来ました。四葉先輩も昨年は生徒会入りを断ったと」
七宝はやや敵対的な眼で光夜を見ている。明確に睨んでいる。
「お前の話をしている」
光夜は自分を棚上げにした。声に怒気が混ざる。
空気が重い。二人の睨み合いが続く。
「失礼します・・・」

七海奈波がノックをして返事を待たずに扉を開けると、そこでは見慣れた親戚の少年と美貌の少年がにらみ合っていた。
片方はいつも見ている七宝琢磨だ。もう片方は、長身の黒髪、イケメンとかカッコいいといったレベルを超えているように奈波は思った。
「どうかしましたか」
中条あずさは場の空気を出来るだけ和ますように、優しく奈波に声を掛ける
奈波はそそくさと生徒会室に入ると七宝琢磨に近づく。
「七宝琢磨の従妹の七海奈波です。今日七宝の家族と会食があるので、この馬鹿を呼びに来ました」
気の強い性格の奈波も、さすがに学内自治の柱である生徒会執行部の前では少し大人しい。
七宝琢磨を馬鹿呼ばわりは中学一年生の時から。
琢磨が「新秩序!」と言い出し、当主であり父親の七宝拓巳に反発し始めたのも中学一年の頃からだ。
「あんたね!反抗期?!」と怒鳴りつけて「うるさい貧乳!」と返されたとき、即座にラリアットをしたことを奈波は覚えている。
今となっては、ラリアットではなく躊躇なくグーパンチしておけばよかったと思っている。

奈波は琢磨の袖を引っ張る。
「なにやってんのよ」
「生徒会入りを断った。どうやら四葉先輩は気に食わないらしい」
光夜から視線を外さず、琢磨が答える。すでに背中の冷汗は止まっている。光夜の視線に慣れたからではなく、危険関知の神経がマヒしつつあるからだ。
奈波は琢磨の横顔と、目の前にいる美貌の少年を見比べる。
彼女の趣味としてはもう少しワイルド系が好きだが、琢磨の言い分と怒り顔でさえ色っぽい長身の少年を比べると、後者に勝利の旗を挙げた。こんなイケメンに琢磨のお守りをさせるのは申し訳ない。そんな心境になった。
「こんな奴、生徒会入れなくていいですよ~。七草真由美さんを勝手に敵視してるから生徒会も同一に考えてるんですよ」
突然の奈波の言葉に琢磨は光夜から視線を外し、顔を奈波に向ける。
「奈波!何を!」
「だってあんた、新秩序?とか七草は裏切り者とか言ってるじゃない!」
「あー!あー!ここでそれを言うな!」
「なによ、腕引っ張んないでよ!変態!エッチ!スケベ!馬鹿!」
「ぐぬぬぬぬ」
「ぐぬぬぬぬじゃないわよ!馬鹿!ほら行くわよ」
琢磨のふくらはぎに、思いのほか鋭いローキックを見舞い、奈波は琢磨の襟首をつかんで退室する。
「失礼しました~」

「中条さん。新入生次席の七草泉美さんに声かけてみようか」
「ええ、そうしましょう」
ちょっとした姉弟喧嘩にあっけにとられる中条と五十里に、七宝琢磨の不遜な態度に不満顔の光夜だけが生徒会室に残った。



魔法科高校第一校の最強はだれか?
三巨頭は卒業し、新たな学内最強議論が持ち上がる。

まずは四葉光夜だ。九校戦、コンバットシューティング、横浜事件。その実力を示す例は枚挙がない。
次に司波深雪。九校戦における氷炎地獄のインパクトは同年代の魔法師たちの度肝を抜いた。横浜事件での活躍など出色だ。
最速=最強とし、学内最速である司波雪光を推す話もある。最速だからこそ最強。そして学内でも上位の魔法力も最強候補に挙がる理由だ。

現三年生にも最強候補がいる。服部刑部はその筆頭だ。多種多様な魔法を高度に展開する。ジェネラルの渾名は伊達ではない。
格闘戦に限れば、沢木碧と桐原武明の両名も最強候補だ。白兵戦ならその体術の練度がモノを言う。殺傷能力の高さと横浜での奮闘も理由だ。
一科生に移った吉田幹比古の実力も侮れない、人によっては最強と推す。古式という特殊な魔法を使い、直接戦闘以外にも戦場コントロールが可能な魔法も多く、古式ならではの「裏技」を持っているのではと噂される。

単純な火力で言えば、三年生で風紀委員長の職にある千代田花音こそ学内最強であるという説もある。千代田家が魔法師界で勇名をはせる「地雷」は、学生の身であっても千代田花音最強説の要因だ。

普段では最強議論に名前が上がらないが、現在の二科生は特別だ。
硬化魔法と肉弾戦を得意とする西城レオンハルト。硬化魔法が他の最強候補の攻撃を防げるかどうかによって、最強候補の一角に昇る可能性がある。
白兵戦では壬生紗耶香も外せない。壬生は桐原の恋人ということもあり、コンビネーションでの戦闘が可能なら相当なものだろうと噂される。
剣の魔法師と言えば千葉だ。千葉エリカの剣閃の凄さは横浜事件で証明されている。千葉エリカも秘伝の剣を解禁すれば最強になるのでは?と唱える者もいる。

そして二科生最強と目されるのが司波達也だ。模擬戦で服部から勝利をもぎ取り、九校戦であの一条将輝を正面から倒した実力。横浜騒乱でも七草前会長の遊撃隊に混じって行動したといわれる。実技下手の偏った能力だが、偏っているからこそ実戦では最強なのでは?と考えられる。

三年生の三七上ケリーや中条あずさ、二年生の北山雫、明智英美、十三束鋼も最強議論で名前があがる。

そして、その最強議論に挑むものがいる。
数日前に入学した緋村武心である。



「君、学内へのCADの持ち込みは許可されてる?」
新入生勧誘週間初日。武心は武道系の部活を見ようと体育館に向かう途中、女生徒に声を掛けられた。
左腕には腕章。制服のレースの色から判断すると二年生の風紀委員だ。
黒髪の涼し気な目元。綺麗でもあり色っぽくもある。歳もそう変わらないのに「大人の美女」と武心は感じた。
「その手にしているのは武装型CAD?」
咎めるような叱るような口調ではない。一年生の武心を下に見る感じではない。
少し興味があるような、なんとも答えたくなるような声音だ。
手にした細長い袋、竹刀袋を持ち上げ、袋の口を緩めて木刀の柄部分を見せる。
「これは単なる木刀ですよ。先輩」
美女の眼を見ながら微笑んで見せる。武心は女性が好きだ。そして目の前にはとびっきりの美女。
容姿で優劣付けるつもりはないが、美人を口説くチャンスを見逃す気は武心にはない。
「一年の緋村武心です。先輩は風紀の方ですか」
「二年生風紀の藤林奏よ。これから体育館に行くの?」
「はい」
「校内への木刀持ち込みについては注意させてもらうわね」
「やっぱりだめですか」
「剣道部か剣術部に入部したら、部活棟にロッカー貰えるからそこに置いて」
美女の口角が少し上がり、歯が少し見える。白く綺麗な歯だ。
微笑みもたおやかだ。見ようによっては色っぽい。
(う~ん、キスしたい!)
少し不埒なことを考え、武心は世間話を振ってみた。
「藤林先輩は風紀委員の巡回ですか?」
「ええ。そうだ、藤林じゃなくて名前のカナデで呼んでもらえる」
「はい!カナデ先輩」
「ありがとう。私も体育館に行くから、一緒に行きましょうか。そうすれば木刀について詰問されることも無いでしょうし」

中学や地元でもモテた武心だが、これほど相手の指示に従うのが楽しい相手もいない。
何よりも女性の下の名前を呼ぶ権利を手に入れたのは嬉しい。
武心は今にもスキップしたい衝動を抑えながらカナデと並んで歩く。

「風紀委員って大変ですか?」
「そうでもないわよ。藤林の名前で大体は片付くし」
「藤林って、あれですよね。九島の分家ですよね」
「そうよ。実力より別のところで有名だけど」
古式と現代魔法の橋渡しとして、現代魔法側の九島から嫁を取った家。
魔法師社交界の花、藤林響子の実家。
古式魔法の緋村家に生まれた武心でも、九島の名前の重みと魔法師界への影響は十分承知している。
十師族のまとめ役。そして古式魔法師からは羨望と敵対心。
(確かに鬱陶しい名前かも)
武心はカナデが下の名前で呼ぶことを求めた理由を何となく察した。
「そういうことで、あたしに限ってはそれ程苦労は無いわ」
自虐的というより、その名前の因果を少し楽しんでいるように余裕の微笑みをカナデは浮かべる。
カナデの内心を想像しつつも、武心は隣りにいる美少女の何とも言えない良い香りを鼻孔に感じていた。
(カナデ先輩は彼氏いるんだろうか?居ないなら、いっちょ頑張るか!)
(まあ、そのうち「関」になるから藤林とか気にならないんだけどね。「関奏」か~。ちょっと字面が簡単すぎるかな?「藤林重蔵」か。カッコいいかも)
武心の内面を砕くようなことをカナデが考えていると、体育館に到着する。

もうすぐ、剣道部と剣術部のデモンストレーションが始まる。



「ぼくら目立ってない!」
「そう大きな声を出さないで。挽回する方法を考えないと」
文弥と亜夜子は、家のリビングで四校で名を上げる方法を改めて考えていた。
同学年に五輪家の養子がいたのだ。
四葉真夜の指令の「四葉の関係者を匂わせつつ実力を見せつける」を実行しようとした矢先に五輪家の登場である。
実力的には黒羽の双子より、やや下の成績だがエレメンツとは違う、属性付与の技術は学内でも噂で持ち切りだ。

「「これじゃ、達也さんに胸を張って会えない!」」
二人の思いは指令以上に達也に自分たちの優秀さを見てもらい褒めてもらうことだった。

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そして明日からは部活勧誘期間のスタートだ

ついに関重蔵の相馬新生活二年目だ。
入学式からこの部活勧誘期間まで結構色々あった。

2096年度は魔法工学科が設立され、生徒の学科移動が行われた。
CADの製作をはじめとした「魔法の工学部門」の設立だ。
司波達也の才能と一年間、というか九校戦の功績からたった半年で設立された学科だ。
実のところ、これには国防軍が関わっている。

俺だ。俺の潜入に関わる密約で軍から数名が一校の魔法工学の講師として招かれた。
生徒がいても講師がいないと成り立たないのが学校だ。
潜入軍人一人に対して複数名の技術者。百山校長は中々交渉上手だ。

司波達也は魔法工学科、通称「魔工科」へと移った。
「顔つきは優しいが腹筋は6つに割れてる」で有名な十三束鋼も魔工科へと移動。
十三束の腹筋凄いの。なんか、ビックリするわ!みたいな感じ。

結構な数の生徒が魔法工学科移ったので、二科から一科への移動した生徒もいた。
僕らの優男系童貞男子、吉田幹比古が2年B組に来た。
クラスに転科時にクラスがB組と分かった時に渋い顔してた。
「もう少し平和なクラスが良かったな・・・」と言った。
トラブル吸引機一号の司波達也と、トラブル吸引機二号の四葉光夜からは離れられんのだ。
二科の一号、一科の二号でWトラブルライダーだ!

入学式は無事終わった。
新入生総代で挨拶したウェービーな髪型(慎二風)が七宝琢磨だ。思っていたより背が高い。
目つきも鋭い・・・というか目つきが悪い。
今年の入学成績No.1らしいが、昨年の四葉司波司波司波藤林による筆記、実技、総合の上位独占ほどインパクトのある成績ではなかった。

逆に目を引いたのは七宝琢磨の親戚の「七海奈波(ナナウミナナミ)」である。
筆記は奮わなかったが、実技は七草姉妹を抑えて2位だ。
総合では10位台で好成績。昨年の俺よりも良い。若い子の方が前頭葉の育ちがいいのだろうか。

入学式後に国会議員さんがセクハラぎりぎりラインで深雪副会長と会話していたが
七草真由美先輩と光夜が近づいたらサッと離れていった。
政権与党の親魔法師の政治家なんだから、下手にセクハラまがいなことしなくても良かろうに。
四葉、藤林(九島)、七宝、七草と面倒な師族勢ぞろいなんだから。
十文字が減ったからいいかな~とも思ったが、七草×2の「十四草」で面倒も倍だ。
その面倒を早速起こした。

俺は入学式直前に七草香澄&泉美を説教していた。
司波達也への膝蹴り騒動があった。魔法を違法に使ったらしいが、司波達也が人型メイドロボット(近未来感)に命令して学内のセンサー類を改竄して魔法の違法利用はなかったことにした。
別にこの辺りはどうでもいい。
その後に入学式の新入生誘導をやっていた雪光を捕まえて「雪光君でしょ?お姉ちゃんにフラれた」と香澄が心をえぐったのだ。グサッと。躊躇なく。仁義なき戦いである。
考えれば失恋から2か月も経っていないのだ。きついぞ~、立ち直り切ってない所に「フラれた」記憶のフラッシュバック。きついぞ~。

「お前ら、いきなり先輩捕まえて「フラれた人だ~」はいかんだろう」
「「すいません・・・」」
ハモらんでもよろしい。
七草の双子は魔法師でも有名人だ。二人協力すれば「乗算魔法」を使えるということが有名だ。
ショートカットのほう、というか二人ともショートカットだ。
一人称が僕の方が香澄、髪をリボンでまとめている方が泉美。
二人とも可愛らしい美少女だ。っていうかやっぱり美少女率高いな。

「いくら姉を通じて人となりを知っているからって、初対面の人間に無礼を働くのは許されることじゃない」
お前らのせいで、雪光の心のカサブタ剥がれたじゃないか。須田ちゃんが付き添って教室行ったが、上手くケアしないと「女性なんて!」とか言って稀代のプレイボーイになるぞ、あれ。
バレンタイン後に平河姉を筆頭とした「年上お姉さん軍団」が甘やかしまくってたしな。
「それともお姉さんに報告した方がいいか?」
意地悪気味にいったら、二人が更に小さくなった気がする。
まあ、姉に頭が上がらないのはどこもいっしょか。

一方、七宝琢磨は生徒会入りを断ったらしい。生徒会室で不機嫌な顔した光夜を見た。

七宝琢磨が「部活連〆て、ヘッドになります!夜露死苦!」(意訳)と言ったらしい。
その際に光夜曰く「中条会長を下に見るような視線を向けた」ということで激キレだ。
従妹の七海が来て、七宝は命拾いしたとを五十里先輩が教えてくれた。
光夜よ、お前中条会長が好きなの?

風紀委員には七草香澄が入ったらしい。
雪光受難の日々である。好きなあの人の妹がすぐそばにいる。
「雪光くん、たしかに弟っぽいよね」
また恋のトラウマを直撃することを言われたらしい。まさに殺し文句だ。雪光が「風紀委員室に行きたくない・・・」と言っていた。

生徒会には七草泉美が入ることとなった。今年は昨年以上に例外が多い生徒会だ。
会長と副会長二名、書記三名、書記補佐、会計と大所帯となった。

そして明日からは部活勧誘期間のスタートだ。



「ここは部活連執行部の管轄だ!」
「縄張りとか関係ないでしょ!風紀委員には学内の治安活動が認められているの!」

連絡を受けて中庭の通称「勧誘ロード」に行くと人の山とその中心から七宝と女子の声がする。
なぜか部活連執行部と風紀委員の喧嘩になっている。
「先に光夜呼ぼう。そっちの方が簡単だ」
「我々だけで十分だ」
俺の提案を司波達也は一蹴すると人の波をかき分けて前に出る。
隅守賢人という帰化二世の生徒が話題の中心のようだ。
どうも対立状況を鑑みると可愛い系男子の勧誘で技術系女子同士がやりあったようだ。
ロボ研とバイク部。あまり仲の良い部活ではない。ロボ研から独立したバイク部らしいが、最先端とこだわり系技術でロマンを感じるところが違うらしい。

人山の中心には睨み合う七宝と七草香澄の姿があった。七宝の後ろには「ちょっと七宝君」と注意している十三束もいる。
「生徒会です。状況の説明をしてください」
司波達也に聞かれてその場にいたロボ研と自動車部の生徒がお互いの主張を言い合い、次に七宝と七草泉美がお互いの主張を言う。

隅守賢人を部活同士が取り合って騒いでいたところ、部活連の十三束と七宝が注意したところ、風紀の七草香澄が首を突っ込んで、七宝が七草香澄と縄張り争いで喧嘩し始めた、ということらしい。
国防軍情報部と公安か!

嘆息する司波達也。俺は注意勧告をする。
「まず両部活の方には強引な勧誘行動について注意勧告します」
両部活の女子生徒からは「え~」「向うの方が悪い~」「カナデに言いつけるよ」と文句が聞こえるので、追加で一言付ける。
「不服がある場合は、生徒会の部活動勧誘期間の調整担当である四葉光夜に異議申し立てしてね」
軽く言うと、場の全員が黙った。
楽。超楽。悪いな光夜。ボッチなのを利用させてもらった。

「生徒会の注意勧告については、部活連として異議を言わせて貰う!」
唯一横から口を挟んできたのは七宝だった。
「両部活の勧誘行為がやや過剰だったとは思いますが、現場には部活連執行部が先に来ていました。あとから来た生徒会に場の裁定されるのは如何かと思います!先に到着した我々が両部活の諍いの裁定を行います!」
もっともらしいことを言う。
どうやら生徒会が登場し、いきなり場を静め裁定を行ったことに手柄を取られて不満のようだ。

横目で見ると、司波達也はさらに嘆息一つ。
「まあ、待て」
俺は右手で「動くな」と七宝の後ろにジェスチャー。
「では、先ほどの裁定を撤回して、我々部活連執行部に場の裁定を委ねますか?」
どうやら、俺の言動が先ほどの裁定関して誤解したようだ。
七宝の語調が強気だ。だが、それが彼らの怒りに燃料を注ぐこととなる。
「七宝君よ。後ろを見なさい」
俺に促され、興奮した表情の七宝が後ろを振り向く。
穏やかな顔なので、怒ってもあまり怖さを感じない十三束と、見るからに青筋立てて怒っているモーリーが立っている。
十三束のパンチが七宝にさく裂する。いきなりのパンチで尻もちをつく七宝。

「お前は、馬鹿か!」
怒鳴るのはモーリーだ。
パンチを食らいボー然とする七宝。
「はいはい。バイク部もロボ研も新入生を放してね~。モーリー、説教するなら別のところでやってくれ」
周りにいたロボ研&自動車部はそそくさとこの場から撤収する。
七草香澄も場から離れようとする。
「風紀委員長に即時報告するように。後ほど風紀委員室にお邪魔する」
司波達也がそれだけ言って七草泉美を開放する。
「風紀委員長に報告しない場合は問題として扱う」という釘を刺した。

モーリーは呆然とした七宝の耳をつまみ、無理やり立たせる。
「痛い!やめろ!やめてください!」
丁寧な物言いをしたいのだろうが、我の強さが口調にもろに出ている。
七宝はわかりやすいな~。こいつ、割と周りを見下してるな。俺の方が術力は上だ!と思っているんじゃないだろうか。

そしてモーリー怒りの説教だ。
「お前は勘違いをしてるぞ!七宝!裁定するだ?いいか!部活連には各部活を裁定するなんて権限はないからな!」
「じゃあ、何のための執行部なんですか?!」
七宝は耳をつまむモーリーの手を無理やり外した。
「円滑な部活動運営するための何でも屋が部活連執行部だ!あの場合、お前がすべきなのは生徒会の裁定に不服のある両部活の代理人として光夜に異議申し立てるのがお前の仕事だ!」
モーリーの説明に七宝が黙る。十三束も腕を組んでいる。

生徒会、部活連、風紀委員会の関係は中々難しい。
わかりやすく言うなら、生徒会は検察兼裁判官、部活連は弁護士、風紀委員は警察だ。
部活同士の喧嘩に部活連執行部が介入するのは、検察兼裁判官である生徒会や警察代わりの風紀委員に介入させず内々で済ますためだ。
だが今回のトラブルは部活未加入の一般生徒が対象だ。
その場合は警察や裁判官が直接介入し、違反部活動へのペナルティの決定は生徒会が担当する。

部活連執行部はその権力基盤が部活動参加者に対し、生徒会会長は全生徒による投票にて選出される。権力基盤の規模としては、部活連よりデカい。風紀委員は生徒会、教師職員、部活連と複数の支持基盤から選出されるので、ある意味政治力が関係するのは風紀委員だったりする。

部活連執行部に入ったからと言って権力を握るわけではない。
「偉そうな雑用」というのが部活連執行部だ。
実際に部活が問題を起こして部活連執行部がペナルティを出す場合もあるが、それは執行部提案のペナルティを生徒会が認可し、発行するという手順が踏まれる。

「悪い。司波兄、アラタ、手間かけさせた」
それだけ言うとモーリーと十三束は七宝を連れて行く。きっと部活連執行部の部室に連れていかれ、服部会頭から熱い説教を食らうのだろう。

三人を見送っていると七宝がブツクサ言ったのか、モーリーが七宝にアイアンクロ―をした。ああ見えてモーリー握力60kgあるから、痛いぞ~。

「あいつ、クロスフィールド部なんだよな」
「それならしっかり鍛えないとな」
俺の苦労を想像したのか司波達也が微笑む。


4月23日。
「では、第一回部活連新入生対応会議をしたいと思います」
中条会長の開会の言葉に誰も拍手をしない。
部活勧誘期間が終わり、問題が勃発した。
生徒会としては魔法実験準備の忙しい中で、部活連から問題が噴出した。

光夜は恐ろしく機嫌が悪い。それもそうだ。この件は七宝琢磨が関わっている。
「じゃあ、五十里君説明をお願いします」
「ええ、じゃあ問題なのは七宝君と緋村君の二名だ」
出席者は大まかなことを知っているが、あらためて説明だ。見落としもあるかもね。

「七宝君と七草さんたちの険悪ムードが学年内に広がっているらしいんだ。特に勧誘週間でのトラブルで七宝君は風紀の香澄さんだけじゃなく、生徒会の泉美さんも敵視しているみたいだね。どうやら生徒会も執行部の業務妨害をしたと思っているみたいなんだ」
会議に出席している服部会頭がバツの悪い顔をする。指導力不足として責任を取ることでも考えているんだろう。
「七宝君の親戚の七海さんにヒアリングしてみたんだけど、やっぱり七草家へのライバル意識が強いみたいだね。彼からすると生徒会も、風紀委員も七草派閥に見えるんだろう」
「派閥って・・・」
千代田先輩がバカバカしそうに呟く。皆そう思っている。

昨年までの「七草真由美」派閥は、派閥というより七草真由美という小悪魔気質の美少女に振り回されていただけだ。服部会頭が。
服部さんが髪型を変えないのは、額が広がっているのを隠すためだろう。
良い育毛剤はいっぱいあるから教えてあげよう。

一つ咳ばらいをして五十里さんが説明を続ける。
「次に緋村武心君。知らない人もいるかと思うけど、一年B組で剣術部所属」
「その子が何をしたんですか?」
光井さんがきょとんとしている。光井さんは格闘技系部活ではないので、この問題は初めて聞いたようだ。
内容的には七宝より局地的だ。格闘技系部活の問題だ。

「その、剣術部、剣道部、拳法部、マーシャル・マジック・アーツ部への道場破りかな・・・」
歯切れ悪く答える五十里さん。そりゃ前代未聞だ。部活破りだ。漫画か。
「この話は僕よりも桐原君に説明してもらった方がいいかも」
そう言って五十里さんは視線を桐原さんに向ける。
室内の視線が桐原さんに向く。物凄く申し訳なさそうな顔だ。
「うちの緋村が各部のトップに勝負を挑んでる。全員が断ったが、No.2の実力者、No.3の実力者と勝負を受諾するまで部内の実力者に順に話を振ってくるんだ。大体が部のNo.4くらいが勝負を受けるんだが、緋村が勝つと前に断った上位の実力者に勝負を迫る。事実今のところ緋村は3戦して全勝だ。それも余裕を持って。」

うわ~、面倒。
断れば「逃げた」とか「No.2よりNo.3の方が正々堂々してた」とかあることないこと噂になる。
格闘技実践者としてはそんなこと言われるのは嬉しくない。特に血気盛んな高校生ではなおさらだ。
「本人は武道の妙を教えてもらいたいからとか言ってやがったが、完全に実力を試したくてうずうずしてやがる。剣術部だとしっかり稽古しているから余計にたちが悪い。部活間の対立じゃなくて、武道家個人の試合だからあまり強くも言えん」

言えよ!お前!「俺の高周波ブレード」でブイブイ言わせてた桐原はどこ行ったんだ!あ~彼女出来て丸くなりやがって!
失望した!ホント、桐原には失望した!だから須田ちゃんにデートコースについてアドバイス貰うんだよ!

緋村の行いは火種になる。火種が爆発したら目も当てられない。それも緋村が卒業しても剣術部の評判は学内でも酷いものになるだろう。
「剣術部は示威行動のため、他の部の実力者を貶める」とか。うわ~。怖い。

「服部会頭、今のところ部活連執行部として対応策は何かありますか」
「俺が七宝と立ち会います」
中条会長に指名された服部会頭がしゃべる前に光夜が答えた。
光夜は敬愛する中条会長の勧誘を断り、更には不躾な視線を投げた七宝を合法的にボコボコにしようと言うのだ。
「ダメだ」
司波達也が止める。
「十師族と模擬戦をして七宝が勝っても負けても遺恨が残るだけだ。あいつは学内に十師族の力学を持ち込んでいるんだ。そこに四葉のお前が相手をしたら、七宝対四葉の対立構造が新しく構築される」
そうそう。良いこと言う!
「構わん」
「お前は良くても、一校内における十師族による派閥形成の流れが加速する」
珍しく聞き分けのないことを言う光夜を司波達也が一刀両断。

実際十師族の子弟たちが派閥形成を望まなくても他の学生たちはそうもいかない。
将来のこと、学内での立場、一度十師族同士の対立が本格化すれば、望まぬ派閥形成が必ず起きる。そして「派閥のつもりはないが身近な友達を守るため」と他の派閥へ牽制を始める。あとは想像どおりだ。
派閥対立と学内政治、生徒会や委員会の役職を奪い合う危険なゲームが始まる。

「じゃあ、どうするの?一個人が雰囲気悪くするからと言って停学、退学なんて出来ないのよ」
千代田さんの言うとおりだ。さすが千代田さん、【戦う】【五十里さんに聞く】【イチャイチャする】以外の行動も出来るのだ。

「七宝君の目的は、自分の派閥形成ですよね。緋村君は実力者との勝負」
深雪副会長が問題児二人の目的を簡易にまとめる。
「じゃあ、アラタさんに二人と模擬戦をしてもらいましょう」
突然の深雪副会長のアイデアに部屋にいる全員が驚く。
七草泉美を除く全生徒会役員、風紀の千代田委員長、服部会頭に桐原さん。全員が深雪副会長の顔を見つめる。

「七宝君には派閥形成とは関係ない実力者と模擬戦をして、派閥よりも個人を磨くことを意識してもらいます。緋村君は実力者と戦いたいなら、武道系部活ではない実力者と立ち会ってもらって満足してもらいましょう」
深雪副会長があの鈴が鳴るような美声で先ほどの言葉の意図を説明する。
理にかなっている・・・ように聞こえるのか、みな納得した顔をして俺を見てくる。

「それにですね、お兄様も生徒会の面々も実験準備に追われていますので、今回の実験に参加予定の無いアラタさんが適任だと思います」
優しい声で深雪副会長は言っているが、暗に役立たずの烙印押してません?押してません?
「あの深雪副会長~、俺勝てるかどうかわかりませんよ?」
周りの面々は「またまた~謙遜を」という表情だ。十文字戦はまぐれ扱いにしとけ。

結局、「武道系の実力者」と「非十師族の人間」を選抜し問題児二人と模擬戦する方向で会議は一応の終了となった。
俺はゴネた。潜入軍人が簡単に実力を披露できない。もし適当な人物が見つからなければ俺が相手することになりそうだ。


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藤林奏の口元に見とれていたとは言えない

「ちょっといいかしら」
昼休みに七宝琢磨は食堂で一人食事をしていた。
ややクラスで浮いていた。この数日の七草姉妹との衝突や、生徒会との距離感から七宝派閥形成の足がかりが掴めずにいた。
そう悩んでいた矢先、向かいの席に美少女が座ってくる。
「どうぞ」
七宝琢磨は一瞬、驚いた。
一校女子は可愛い女子ばかりだが、目の前の女子生徒はその中でも相当目を引く美しさだ。
黒髪に黒い瞳。髪は肩にかかる位。綺麗な唇に目が行く。
座り姿も色っぽい。真っすぐ座らず少しだけ斜めに座る。七宝の視界の端に女子の足が見える。
スラっと長い綺麗な足が組まれている。
「七宝琢磨君でしょ。藤林奏。2年よ」
目の前の女子生徒が自己紹介する。
(九島の。この人が)
目の前の女子生徒の優しい笑みに、七宝は内心でドギマギしている。自分の表情にこの驚きが出ていないか心配になる。
「最近、君いろいろとやってるらしいわね」
彼女の口元に視線。白い歯が見えた。

七宝琢磨は以前から女優の小和村 真紀と交流があり、大人の色気というものに接してきたので女性への免疫に自信があったが、どうも目の前の女生徒にはドキドキする。
(この距離で薄っすらと感じられる甘い香りはなんだ!)
「意外と無口なのね」
「いや、そうでもない」
小和村 真紀と会話をするとお互いの主導権の取り合いで七宝も緊張する場面も多いが、藤林奏と向かい合うのは居心地がいい。
無口と言われたのは、藤林奏の口元に見とれていたとは言えない。
「その、藤林先輩が俺に、その、何の用だ」
「ん、少し興味があって。意外と背が高いのね。七宝君。あたしは『カナデ先輩』か『カナデさん』で呼んで。あたしも琢磨君で呼ぶから」
何とも甘い口調だ。女性に下の名前で呼ぶことを求められた。命令のようでお願いのようで、なんともくすぐったい気持ちになる。
小和村 真紀も名前で呼んでいるがこんなに好意を感じるような口調ではなかったことを七宝は覚えている。
(俺は、別に恋に落ちたわけじゃない!)
そう自分に言い聞かせるが、この鼓動の速さは恋を指し示している。

「わかった。カナデ先輩は俺に何か聞きたいのか?食事中なんだ、手短に頼む」
自分の動揺を隠すため、殊更冷静に突き放すように七宝は返答する。
カナデはテーブルに肘をつき、少し顔を七宝に近づける。
「琢磨君は、一校でどんなお勉強をするつもりなの?」
気持ち、ほんの少し「お勉強」が強調されている。
七宝はカナデの視線が自分を覗き込んでいるように感じた。
彼女の唇に視線が行く。

(なんなんだ!この人は、俺に惚れているのか?!どどどどどどどどど童貞を狙っているのか!?)

カナデの「お勉強」の言い方で、七宝琢磨はあらぬ妄想に駆り立てられた。
放課後の教室で藤林奏が隣りに座り「琢磨君も上級生とお勉強する?」と胸を押し付けてくるシチュエーションだ。
「いや」
声が裏返った。七宝は顔を赤くする。
「大丈夫よ。落ち着いて」
優しく微笑んでくる。まるで生徒の失敗を見守る美人教師だ。
七宝は傍らのコップの水を飲む。
「俺はこの一校で自他ともに認める魔法師になるつもりだ。カナデ」
「カナデさん」
「・・・つもりです。カナデさん」
「よくできました」

もう一度微笑んでくれた。それも七宝が調子に乗ったのをいさめた上で。
(なんで俺は生姜焼き定食なんて食べてるんだ!)
七宝はなぜか”カナデとキスが出来る”前提で自分の昼食の選択を悔やんだ。
「そのカナデさんは、なぜ俺に」
「そうね、ちょっと確認しておきたかったの。本当に派閥を作りたいのか」
優しい笑みではない。妖しい笑みだ。
まるで誘っている様に見えたのは七宝琢磨が自意識過剰だからだろうか。
「カナデさんは派閥のトップになりたいのか?」
疑問を口にしたが、どちらかというと胸の鼓動を収めるため何か喋りたかっただけだ。
「派閥なんてこの学校じゃ意味無いわよ。十師族とか関係ない凄い人たちがゴロゴロいるもの」
カナデの言葉に七宝もうなずく。
確かに十師族は目立つが、二年生の上位陣には司波三兄弟や光井ほのか、北山雫など非十師族系が名前を連ねる。
(十師族以外の実力者か。取り込めるのか?)
ふと意識が派閥づくりに向く。
「ねえ、模擬戦してみる気ない?」
突然のカナデの申し出に七宝琢磨は頷くべきか悩んだ。



「前の席いいか?」
昼休みに緋村武心は食堂で一人食事していた。
まだ学校自体に馴染み切れていないし、その派手な外見から周りに人が近寄ってこない。
伸びた赤毛をポニーテールにして、うどんをすする優男。
食事時でもそれなりにイケメンに見えるのは顔の作りが良いからだ。

武心の前に座ったのは自分より少し小柄な男子だ。
威圧感のない平々凡々とした顔つき。制服の上からでもわかる体つきは運動系の部活に所属しているのだろうと武心は判断した。
「どうぞ」
「二年、生徒会の相馬だ」
自己紹介をした。
武心は心当たりがあった。最近学内の実力者、手短に武道系部活の人間に粉をかけている。
将来は国防軍の一線に立つ可能性もある「魔法と武道の名人候補」は武心としても一度は手合わせしておきたかった。
剣術部では桐原、剣道部では壬生、拳法部もなかなか活きがいい。マーシャル・マジック・アーツ部は言うことがない。沢木と十三束など是非とも対戦したい。
(立ち合いを希望する方法が少し乱暴すぎたかな?)
「緋村君は入学前から武道をやっていたのかい?」
「ん」
相馬の質問にまずはうどんをすすり込む。
「うちが古い家でね。家伝の武術を仕込まれたよ」
稽古の記憶はあまり楽しくなかった。単純な筋トレや地味な歩法の稽古。木刀を振り回しての型稽古だけは楽しかった記憶が武心にはある。

「それで武道系部活の実力者と立ち会いたいと」
「そうそう」
武心は目の前の上級生にフランクに接した。
別に舐めているわけではない。何とも言えぬ相馬新の存在の軽さがそうさせている。しゃべりやすいのだ。
「その武術が魔法絡みでね。一校に折角入ったんだ。魔法と武術で腕のある人とやってみたいじゃん」
「そっか~」
相馬は苦笑いしつつ同意のようだ。
「緋村君は誰とやってみたい?」
「う~ん、沢木先輩、桐原先輩、壬生先輩、あと司波雪光先輩もいいな。司波達也先輩も捨てがたい。服部会頭も相当やりそうだし。四葉光夜!四葉先輩とだったら死ぬほど楽しめそう!あと、千葉家の先輩もいるでしょ。ちょっと興味あるな~」
うどんをすするのを忘れ、校内の最強議論常連の名前がポンポン出てくる。
武心としても早く実力者とやり合ってみたい。自分の短い半生を注ぎ込んで修得した武術の実力がどんなものか知りたいのだ。

「それとも先輩、相手してくれるの?」
武心は殺気を相馬新にぶつけた。大して強くはない。遊び半分だ。
一瞬、殺気を受けて身を固める相馬。
(殺気を感知はしたけど、反応が悪いな)
武心の予想より反応が悪い。相馬はあまり実力者ではないのか。
「ま、まあ元気があってよろしい」
緊張した声を出し、相馬は椅子を引き距離を取る。殺気におびえた様子だ。
「だがな、生徒会としてはあまり道場破り的な行動は控えてもらいたい」
「控えてくれって、個人間の試合ですよ。それを禁止する権限が生徒会にはあるんすか?」
(なんか大事になっているのか?)
武心の考えだと、武道経験者のじゃれ合いだ。それに生徒会が首を突っ込んでくるのお門違いだ。
「君の行動は下手をすると部活間の遺恨になる」
「いえ、ちゃんと個人としての立ち合いであることを言ってますよ」
そう、武心は口頭で言っているのだ。だが、それは宣誓ではなく「一つ、個人ということで」といった会話の中に混ぜ込まれている。周囲に居た人間は聞き漏らす者の方が多いし、何より個人の立ち合いと認識しているのは武心一人だ。
天然なのだ。それも悪い方に。身勝手、自己中と言われても仕方がないし、事実そうなっている。

「じゃあ、なんだ。実力者と立ち会い出来れば満足してくれる?」
相馬が切り出した提案に緋村武心は心躍った。

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その女子は俺の彼女なんだ

制裁試合の下準備だ。
七宝琢磨には「野良の実力者」で、緋村武心には「武道系の実力者」だ。

「いや。緋村とは勝負しないわよ」
不機嫌な声で返答してくるのは千葉エリカだ。こういうヤツだった。
自分から首突っ込むのは好きだけど、生徒会とかの組織からの依頼は嫌がる反発気質だった。
「頼むよ。腕の立つ奴となるとやっぱりエリカなんだよ」
「褒めたって駄目。緋村の飛天流とは勝負しないように道場で言われてるの」
「そりゃ初めて聞いた。何か理由があるのか?」
「詳しくは知らない。どうも千刃流創設の時の絡みだと思うわ」
不機嫌なまま答えてくれた。
う~む、エリカはダメ。
緋村のあの殺気だとレオあたりだとまずい。幹比古にも断られた。「古式の家とは争いたくない」だそうだ。
つまり、緋村には俺が相手するしかないのだろうか。

七宝の件は十三束が受けてくれた。「先輩として教えないと」と固い決意の表情だ。体育会系である。
交換条件で司波達也との模擬戦をリクエストされた。
こっちについてはすでに、根回し済みだ。司波達也も受けてくれた。
カナデが七宝に模擬戦受諾させた手管は見事だった。
ハニトラが効いた、と思う。すまんな、七宝。その女子は俺の彼女なんだ。

難航しているのは緋村の方だ。
雪光はこのところシャキッとしていない。失恋から立ち直る寸前に七草香澄の追撃でぼろぼろだ。
最近は、上級生の女子とばかり昼食を取っている。ダメだ。ダメダメ男子に傾いてるぞ。
須田ちゃんが「雪光くんを助ける方法は新しい恋を見つけるしか・・・ない」と映画に出てくる地球を救う科学者みたいな顔して言っていたのが感慨深い。ちなみにZ級映画で「アルマゲドン2066」と「ディープインパクト2035」は確認した。
そんな状態の雪光と緋村だと、雪光が負ける可能性がある。
やっぱり俺が相手するしかないのだろうか。

模擬戦したくない!

模擬戦をすると今度は確実に俺の実力は学内に知れ渡る。
何度も言うが俺は潜入軍人で目立ちたくない。俺の実力を知っているのは最低限にしておきたい。
悩みどころだ。



「というわけで、どうしたもんですかね」
「面白いことになっているね」
意地悪な笑い顔だ。夜更けの九重寺。
情報交換という名の飲み会をするため九重八雲を訪ねた。
俺はウィスキー、九重さんは麦焼酎という名の般若湯。

春先の夜はやや寒いがアルコールが入れば大丈夫。
お堂の扉を開け、外の木々の若若しさを肴に飲む。ジジイ呑みである。

「武心くんが一校に行くとはね。てっきり三校あたりかと思ったけど」
「面識あるんですか?」
驚くことはない。九重八雲だ。裏の、特に非正規の魔法師についての情報網はびっくりどっきり坊主。
細目の奴は大体三木眞一郎。いやこの人の声は置鮎さんか。つまりは出来る男、九重八雲である。
いやほんと置鮎さんそっくりだわ、この人の声。

「少しね。武道の腕は達也君と同程度かな。ただ気性がね。幼いというか純粋というか」
「なんかけしかけてません?」
俺は困ったような、少し責めるような顔をした。これは本心でもある。
「はっはっは、発破をかけはするけどけしかけるなんて、とてもとても」

模擬戦するにも問題は緋村の剣の腕だ。司波達也に匹敵する白兵戦能力ならレオや幹比古、モーリー辺りは無理だ。
部活所属の面々に頼むのは本末転倒だ。やっぱり俺か。



4月26日。

今日の模擬戦のため3時間近く訓練室は生徒会に貸切られていた。
隣室の観戦スペースからは硝子越しに二人の戦いを観客たちが見つめている。
「くっ」
七宝は自分の敗北を噛みしめ、目の前の激戦を見逃すまいと歯を食いしばり見入っている。
十三束のアクロバティックな動き。そして司波達也の魔法がぶつかり合う。

司波達也対十三束鋼の勝負は司波達也勝利となった。
七宝には良いお灸になっただろうか。実力というのは派閥ではなく自己の力で手に入れるべきで、軽視していた十三束が想像以上の魔法師で、勝てないという事実。苦い薬になればいい。カナデに手を出したら、タマ潰すからな。

今度は俺が観戦スペースから訓練室に入る。
問題はこの試合だ。

相手である緋村は木刀をブンブン振り回し体をほぐしている。
俺も緋村も服装は剣道着だ。防具はお互い邪魔なのでつけない。

緋村はカナデを見つけて手を振っている。
あ、うちの彼女、魔性の女かも。男子高校生に効果のあるフェロモンでも出ているのか。
少なくとも昨日の晩はどこからも出ていなかった。確認済みだ。
「いや~、相馬先輩が相手か。勝ったらさ、四葉先輩とやらせてよ!」
まるで俺に勝つことが当然のように緋村は明るく言ってくる。

観客は限られている。
生徒会全員と、風紀からは千代田さん、七草香澄、幹比古、雪光。部活関係者では壬生&桐原のカップルに沢木さん、服部会頭だ。レオとエリカ、柴田さんも紛れ込んでいる。殆ど十文字戦の面々と同じだ。
十三束と七宝は医務室行き。

「じゃあ、ルールは魔法アリ。後遺症の残すような攻撃や、重症にした場合は負けでいいね」
「あ~、OKOK」
こっちも見ずに緋村は返事する視線は観客の美少女たちだ。
緋村はニコニコと手を振っている。
全員冷たい視線だ。カナデと光井さんだけ愛想笑いをしている。

俺も木刀を握る。握りに力が入る。
別に緋村がカナデにモーションかけているから嫉妬しているわけじゃない。
それよりも、緋村少年の実力がどの程度で、どのようにあしらおうか今も悩んでいる。

言いたくはないが、緋村少年が司波達也レベルの白兵戦能力なら簡単だ。
簡単なのだ。
数か月前までは、司波達也が九重さんのところの麒麟児だと俺も認めていた。
今も司波達也は強いだろう。
だが今の、パラサイト事件後の俺は一年前の俺と実力が隔絶している。
魔法なしの戦闘ならば、少なくとも一校生徒の誰にも負けないし、九重八雲にも勝てると断言する。

武神の加護。軍神の加護。超人的肉体。ヘルメスの加護。
俺の能力はさらに進化した。それをこの試合で見せることがあるのだろうか。


あの時、神は苦笑いしながら新しいチートを説明した。
「【戦神降臨】か【闘神降臨】好きな方で呼んで。君は・・・人の区分から少し外れた」


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へいへい、緋村ビビってる~

千代田さんの「開始!」の声がスピーカーから響く。

緋村は左足を前にし、下段の構えだ。すぐにでも飛び込んできそうだ。
俺は右手に木刀を持ち、力を抜き棒立ちだ。
剣の達人がよくやる「無形の位」とか「自然体」とかいう力を抜いて、隙無く立っているだけだ。

緋村は低く構えたまま動かない。
「どうした、緋村君。その構えはこけおどしかい?」
数m先の緋村は汗をかき始めている。今までどんな相手と戦ってきたか知らんが、勝負事で自然体で正対する奴もいなかっただろうに。俺の隙の無さに実力差を感じているのかな。

「へいへい、緋村ビビってる~」
挑発してみた。緋村は眼の中に強い感情をため込むが、攻めてくる様子はない。
一歩踏み出す。緋村が二歩下がる。もう一歩。今度は少しだけ殺気。緋村が三歩下がる。

左袈裟と右袈裟を同時に。右の切上げと左胴を間を置かず。
今度は突きを眉間、ノド、鳩尾、臍下と一瞬で。
連続の攻撃を緋村は時に剣で受け、身を躱し、そして直撃する。

俺は自然体で歩くだけだ。木刀など一回も振っていない。手首のCADも触れていない。魔法発動時の魔法光もない。
訓練室の隅まで避難し、ノドと鳩尾への突きをまともに喰らった緋村は大きくせき込んでいる。
両袈裟を上手くいなしたが、左胴はまともに喰らい、眉間と臍下は何とか避けた。だがノドと鳩尾はいかん。呼吸が一気にダメになる。

視線や体の動きで意識を誘導させて「やられた気になる」というものがある。
感受性が強かったり、型稽古中心の武道だと「やられた!」という瞬間に体が実際のダメージを受けるというものだ。
思い込みによるダメージだ。

だが俺の行ったのは少し違う。本当のダメージだ。
つまりあれだ、なんだ、「気」を叩きつけたのだ。「気」だよ、「気」。魔法全盛時代に「気」だよ!
うわ~恥ずかしい。「気」、亀仙流だ、舞空術だ、ぐわ~、なんかわからんが恥ずかしい。

かめはめ波、波動拳、虎煌拳、まあ何でもいいや。
俺は気を使うことが出来る。なんというか魔法と武術の中間の感じだ。
今回、緋村にやったのは気を「棒」のイメージにして叩きつけた。
緋村は見えない棒状の気を「察知」し何とか全撃被弾は免れた。

この「気」が魔法とどう関係しているのかはまだ不明だ。
軍関係者にも説明しづらい。
「おっす、オラ重蔵、てぇ~へんだ!オラかめはめ波が出来るようになっちまった!」とか真田君に言っても理解してくれるだろうか。

なので能力の把握実験は九重寺で、現物寄進をすることで時折やらせてもらっている。


隣室の観客たちにはどう見えているのか。
俺は歩いているだけで、緋村がいきなり痛みを感じ、木刀を振り回し部屋の隅へ逃げ込む。
「どうする?続けるか。一度目の敗北で生き残るのは武士の情けだ」
俺は負けを認めるよう言う。別に武士とかどうでもいいが負けることを促した。
緋村は無理に呼吸を整えた。腹筋を使い肺の空気を一気に出して、無理やり呼吸を正常状態にする。
空手の息吹にも見られる呼吸法だ。
「冗談。先輩あんたホントは強いんだ」
痛みによる脂汗を顔中に出し、強がってくる。
「二度目の敗北で生き残るのは武士の恥だ。一度目は負けてもいいんだぞ」
優しく諭すが聞くつもりは無いようだ。緋村は手首のCADを操作する。

!!!

床を激しく蹴る音。緋村はまるで加速したゴム毬のように室内の壁、天井、床を蹴り加速していく。
どうやら加速術式と接触面の衝撃反射を利用した室内の高速戦闘のようだ。
通常の移動魔法、自己加速、そして接地面への衝撃を反射させる魔法。
少なくとも三つをこの速さの中で平行して使っている。流石だ。最高速度では雪光に劣るが、空間を縦横無尽に動くので攻撃される範囲が特定できない。まさに「飛天」だ。

「それでいいな」
俺はその場に胡坐で座る。
座禅のように足先を膝の上に乗せるような座り方ではない。普通に胡坐だ。座りやすくて立ちづらい。そして背が少し丸まる。
武道的にはダメな座り方だ。
わざと隙を作った。



速度というのは武道における大事なファクターだ。速度に関する武道の構成要素は多岐にわたる。歩法や攻撃手段、「速くない速い攻撃」、心理的な攻防による速度etc.。

最強議論で雪光が上がるのも納得だ。速いは先制が取れる。速いと攻撃が当たらない。速いと攻撃が当てやすい。
だから速度は重要なのだ。

だが、雪光が素手であれば実は速度は怖くない。
それがこれからやる緋村対策でもある。
俺は目をつぶる。周辺では殺気の塊となった緋村がぶんぶん飛んでいる。

床、壁、天井、壁、床、壁、天井

ちょっとずつ塊から感じる殺気の距離が縮まる。
世界は殺気と闘気などの「意気」が存在する。俺はそれを感じるのだ。
武道の達人もやるアレだ。俺はもう少し細かく感じ取れるがね。

俺の正面から加速した先の塊、先端に一番殺気が高い。切っ先が俺に触れた瞬間、俺も一気に動く。
上半身をひねり、剣を持つ緋村の手首をつかむ。そしてそのまま一本背負い。
手首を離さず、俺も前転をし、緋村の腹の上に座った姿勢で着地する。
マウントポジションだ。
「どうだい?」
緋村の戦意を確認したが俺の下で気絶をしている。あの一本背負いが効いたようだ。

意のある速さは感じられる。そして一瞬だ。一瞬だけ同じ速さで動けば相手を制する。
常に100の速さを出す必要はない。100の速さを感じ、その時が来たら101の速さを出せば勝てるのだ。

「終わったよ」
隣室に顔を向けたが、皆ボー然としている。
俺歩く、緋村が退く、緋村跳ね回る、俺座る、緋村俺に向かって飛び込む、決着。
動作をしたのはほとんど緋村だ。逃げ回る、飛び込む。
俺は歩いて、一瞬だけ早く動いて、緋村の上で胡坐だ。

だがこれは全力じゃない。
緋村に見せたのは一端でしかない。きっと全力を出すのはもっと先だ。
考えたら、このくらいならパラサイト事件前でも出来たかも。
修行しろよ、緋村!

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何とも目の離せない少年だ

これにて「ダブルセブン編」は一段落


「お疲れ様です!カンパーイ!」
中条会長の音頭で、みな手に持ったグラスを掲げる。

司波達也常連の喫茶店「アイネブリーゼ」で打ち上げだ。
模擬戦の打ち上げではない。「常駐型重力制御魔法式熱核融合炉の公開実験」の成功を祝ってだ。
一昨日の実験の打ち上げを今日やるのも間が空いたが、昨日の模擬戦の結果いかんでは「相馬新、後輩に負ける残念会」も兼ねる予定だったらしい。俺は勝ったよ!

生徒会の面々と、実験の警備に尽力してくれた風紀委員会一同が貸し切りの店内にいる。
20人ちょっとくらいだ。

この一か月の魔法師への強い世間の風当たりは、昨日今日で一気に収まった。
この「魔法師ヘイト」では、一校に関しては卒業生の進路が国防軍へ進む卒業生が多いことがやり玉に挙がった。
若人が国防の道に進むのは戦争への第一歩!魔法師は軍属の人殺しだ!とでも言いたいのだろうか。
これだから○○○の×××は■■の▲▲▲▲なんだよ!
おっと、シビリアンコントロールだ。軍人が政治的発言はしない。
国防軍の統括は選挙によって選ばれた国会議員が行う。民主主義国家における軍隊保有の大原則だ。

一校としては、やり玉に挙げられたことへのカウンターパンチとして、エネルギー問題解決への足掛かりとして「常駐型重力制御魔法式熱核融合炉の公開実験」を行い、決して魔法が軍事利用のためではないとアピールしたのだ。
大成功だ。これで「魔法による民間利用のモデルケース」への道筋が少し見えた。

ただこれは「魔法師とそれを取り巻く業界」へのアピールにとどまった。
反魔法師の風潮に一番効果を出したのは黒城兵介だった。

何処かの報道局の街頭インタビューで兵介がインタビューに答えたのだ。
怪我でもしたのか、目の上に絆創膏を貼っていた。
「なぜ魔法科高校に通うのか?卒業生の進路が軍に直結している。癒着や学生の進路を狭めないか」
そんなインタビューだった。

兵介はあっけらかんと、佐渡侵攻で感じた恐怖とその時に家族や街を守ろうと思ったこと、そして自分の出来ることで魔法があること、魔法を生かして誰かを守ろうと思ったこと、魔法を生かすために魔法科高校を選んだこと。
時にはにかみつつ、兵介は話していく。

何とも目の離せない少年だ。大らかで芯が強く、そして義侠心を感じる。
インタビュアーは「魔法師の存在の危険性」の欠片でも引き出したかったのだろうか、兵介の魅力に口が出せなかった。
「だから、俺は魔法科高校に入れて嬉しい。戦争は怖いけど誰かを守れる力を鍛えられるし。それに周りだと国防軍以外にも大学進学目指す奴やエネルギー研究してる同級生もいるし、思ってるほど軍隊っぽくないですよ」
そして飛び切りの笑顔である。

ネットでは「イケメン魔法師」「兄貴ー!」や「魔法師へのヘイトは無理解が引き起こしている」「実は魔法産業は数兆円産業だ」etc、etc
一人のインタビューで世論は変わった。
雪光曰く「ホントは小和村を脅したりとか色々あったはずだけど、やっぱり兵介の人徳は凄いね」との話だ。



雪光とテーブルを囲み、少しだけ既知未来との乖離について話になった。
「これで、夏までは平和か?」
「そうなるんじゃないかな?七宝も反省したみたいだし」
俺はコーラ、雪光はジンジャエールだ。
「どうやらさ、兵介のところにも変わり種がいるみたいなんだよ」
向こうの方でレオとエリカ、七草香澄がギャアギャアやってうるさいから、ギリギリな話をしても目立たないだろう。
「変わり種?」
なんだ、転生者か?それとも一条将輝の婚約者でもいたか?
「うん、一年生の変わり者が魔法なしで喧嘩というか野良模擬戦を挑んできたらしいんだよ」
「へ~、でも兵介なら勝てただろう?」
あの体格に、九校戦での動きを見るに、生半可なそれこそ国防軍の一般兵士くらいなら素手で制圧できそうだ。
その兵介が引き分け。相当な相手だな。
「引き分けらしいよ。相手の肋骨にヒビを入れたらしいけど、逆に鎖骨を骨折したって」
どんな馬鹿力だよ。あの兵介の身体にダメージ負わせるなんて。
「三校のクロフィー部がエースにケガさせられたってキレて、相手をボコボコにしたらしいよ」
体育会系おっかねぇ~。
今の時代、骨折は比較的簡単に治る。
だがそれでも部活のエースを傷モノにされたら頭に来るだろう。
「はあ、どこの学校も大変だな」
跳ね返りの一年生はどこもトラブルを起こす。
魔法師というのは閉鎖的で、割と自信過剰なところがある。特に家伝のある家など特にだ。
モーリーのクイックドロウなども技術公開はされているが、それでも本家本元としての自負は強い。
ちなみにモーリーのCAD操作技術は凄い。拳銃型CADの抜き打ち速度だけなら、司波達也より早かった。
勉強できて、実技が出来て、実家も安定していて、熱血漢でぶっきら棒で面倒見がそこそこ良い。
魔法師としての実力もある。なぜこれでモテないんだモーリーよ。って看護師の彼女がいるからモテなくてもいいのか。

まあ、そんな家の中の実力で自信満々な自信過剰な奴がトラブルを起こすものだ。
胃の中のオカズ、大腸を知らず。いや井の中の蛙大海を知らずだ。

「僕ね、同類だと思っているんだ」
「同類?どのあたりが?」
同類、つまりは転生者だ。転生者なのか?その三校の一年生。
向こうの方で、カナデが七草泉美と光井さん&北山さんと女子トークをしている。
唇の動きを読むに「デート」「バッグの種類」と言っているので、デートにどんな鞄を使うのか?の話だろう。
ブランドバックは次の賞与くるまではお預けだ。公務員の給与は抑えられている。
「原作に居ない」
雪光が短く真剣に呟く。
「だがもうレールからずれているだろ」
俺は軽く返す。そう、もうレールから外れているのだ。既知未来知識は「参考」にしかならない。
「うん、レールからずれてるけど、元々七宝の親戚は描写がなかった。そこはレールとは関係ないところだと思わない」
「たしかに」

レール、つまりは「既知未来」だ。
司波達也入学から描写されるライトノベル「魔法科高校の劣等生」として切り取られる部分ではなく、過去であったり、描写されていない部分では何が起きてもおかしくない。
その証拠が俺だな。

カナデも、雪光も、光夜も、「魔法科高校の劣等生」の部分に近い位置に生まれてきた。
なので自然とレールに影響される。
雪光がレールでは死ぬはずだった母親の守護者を助けたのはレールから外れた行為だ。
カナデが達也と知己を得るため魔装大隊の作戦参加したのもレールから外れた行為だ。
光夜は・・・存在自体があれだからな~。ホントに四葉の継承者になりそうだ。
レールから外れる行為だが、レールを定義する「魔法科高校の劣等生」に馴染むための行為でもある。

だが俺は違う。生まれが違う。生まれ?生まれって血統か?地理的距離か?
いや「時間」が違うのだ。
俺が思うに転生者は血統、立場より「時間軸」で区別されるような気がする。

司波達也を基準値ゼロとすると、一校の二年の三人の転生者は基準値とほぼ同じ位置だ。カチューシャと兵介も同じだ。
俺はマイナス値に突入している。このマイナス値は司波達也影響力が低いということ、年下連中は影響を受けやすいのでプラス値だろう。
プラス値は影響は受けるが、それは司波達也接触後の影響であり、接触前は全くの無影響下になるのでは。
基準値に近ければ近いほど、司波達也との接触を重視するし、関係性を探ろうとする。
そんな仮説をぼんやりと考える。

俺は顎に手が伸びそうなのを抑えつつ、周りの雑音を聞きながら思考した。
「だからさ、緋村も七宝の親戚も、兵介のところの奴も可能性があると思うんだ」
うん。その可能性がある。
「だが達也との接触は?」
ここだ。転生者は司波達也と惹かれ合う!わけではない。
転生者のうち身近、身内ではない者は「司波達也と関わるとろくでもないことになるから、一度接触して距離感を確かめて離れよう」という思考になる。俺がそうだったし、二校の川村エカテリーナもそうに違いない。

だが二校の変わり者は兵介のところに行った。
一年下に入学したら、九校戦まで待たないか?
というか、昨年の九校戦をチェックして接触すべき相手とか、既知未来との差異をあぶり出そうとするか、知識と現実の知識修正を行いそうなものだ。

「記憶なしだったら?」
俺の表情から疑問を察したのか雪光が答えを出す。
真剣な表情は深雪副会長より、どちらかというと司波達也に似てきた。
「記憶なしか。それもありだな」
「記憶なしのチートアリ。よく見かけたよ。定番じゃない」
そうだ。定番の一つだ。前世の記憶をなくし、チートだけを得て、転生する。
無い話じゃないし、前世でいくつかそんな小説を読んだこともある。

「つまりは転生タグなしのオリ主か」
前世の記憶を保有しない転生者は転生者なのか?。オリジナル主人公扱いでいいよな。
「ま、原作なんてどっか行っちゃたし、もうどうでもいいよ」
雪光は足を伸ばす。タッちゃん登場辺りまでは、現実と既知未来の違いにたびたび衝撃を受けていた雪光も持論の仮説に驚く様子はない。
「達観してる~」
コーラをストローでぶくぶくする雪光。
「真由美さん可愛かったけど、もうね。もっと広い視線を持つよ」
「やさぐれてる・・・」
雪光の態度の悪さに俺もつい呟く。
暗に「原作女子とかこりごり」と言っているようなものだ。

ちなみに光夜は中条会長とおしゃべり!をしている。
あの光夜が、女子と、おしゃべりだ!



「あんた!カナデさんの彼氏なのか!?」
生徒会室で仕事をしていると七宝が怒鳴り込んできた。
同じ部活なので15分前までいっしょにトレーニングしていた。
今日はサーキットトレーニングをへばるまでやる、というものだ。
元気だな~。

「?」
いきなりの質問に首をかしげる、という返しをしてみた。理由は楽しいからだ。
「相馬さん!あんたはカナデさんの彼氏なのか!?」
生徒会室にズカズカ踏み込んでくる。両手で俺の襟をつかんで迫ってくる。
唾を飛ばすな。
顔は真っ赤だ。怒りだと思うが恋愛感情が混じると何とも読みにくい。ただ興奮して事実関係を何も考えずに確認しに来たのだ。若いっていいな。

「ちょっと落ち着け。七宝」
何とか、七宝の手を襟から放す、ふりだ。やろうと思えば天井まで投げられる。
「なんだいきなり」
叱るというより諭すような口調で七宝を落ち着かせようとすると、廊下の方から走り込む音が
「あんた!カナデ先輩の彼氏なのか!?」

ぶははっははははっはははは!!!!!!

今度は緋村少年が生徒会室に七宝と同じことを言いながら飛び込んできた。
顔も真っ赤。先ほどの七宝と同じだ。
内心の大爆笑を何とか抑えつつ、緋村少年の方を向く。
七宝も驚いて固まっている。同類が同じ行動をとったのだ。
気付いたか。勝手にカナデに恋していたのはお前ひとりじゃないみたいだぞ。

一気に室内が騒がしくなる。七宝も再起動し、緋村少年と一緒に「あんたの彼女なのか!?」「どうなんだ?!」
「正直に言え!?」「脅迫したのか?!」「許さんぞ?!」
と捲し立ててくる。
こんな風に詰め寄られて怒涛の如く騒ぎ立てられるのは慣れている。
ギャングとして潜入捜査して居る時なんて日常茶飯事だ。

生徒会室にいた光井さんと深雪副会長は仕事の邪魔をされて少しご立腹だ。
うるさくて仕事どころではない。

「七宝君、緋村君、ご用はそれだけ?」
深雪副会長はあの優しい笑顔から、優しい成分を抜き、冷酷という成分を追加している。
室内の気温が下がった。光井さんが立ち上がった温かい紅茶を入れ始める。
光井さんも深雪副会長の反応には慣れてきたようだ。
もう少し騒ぐなら、俺もまとめて三人の氷像が出来上がりになりそう。

「まあまあ、両名とも。カナデは見ての通り隙の多い人でね、他の男子はどうもカナデが自分に惚れていると考えがちなんだ」
二人を目の前から引き離し一歩下がる。
「俺以外には惚れていないから諦めてね」
上からモノを言う。完全な勝利宣言だ。深雪副会長と光井さんの視線がきつい。「なに色男気取ってるんだ?」と言いたげな視線だ。君ら司波達也以外には恐ろしいほど厳しいね。

「今のところそのとおりね」
生徒会の扉が開き、風紀委員として打ち合わせに来たカナデがそこにいた。
カナデは俺のところに近づきつつ、まずは緋村少年、次に七宝とカナデの登場に固まった二人にデコピンをする。
大昔のフランス映画にでも出てきそうな悪女ぶりだ。
深雪副会長と光井さんは、そのやり過ぎなカナデの動きに少し顔が赤い。
申し訳ないが色気の度合いで言うと、深雪副会長も光井さんもカナデには敵わない。
七草真由美が小悪魔なら、カナデは悪女だな。

デコピンを食らった二人は声も上げず、目に涙を溜め生徒会室から出て行った。
姿が見えなくなった瞬間に走り出す音と「うわわわ~」という青少年二人の叫びが聞こえた。

「やりすぎかな?」
カナデはちょっと舌先を出しおどけて見せる。
情報部の本職ハニトラ要員程ではないから安心しなさい。
俺も東EUでショタ趣味の政府職員にハニトラしたけど、相手が俺にのめり込み過ぎて「妻も国も捨てる」と言われた時は大変だった。懐かしい思い出だ。

当面は勉強や運動に励め青少年。
おじさんが味わえなかった学生生活を謳歌しろよ!

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余話:でも強そうには見えないよ

その日は珍しいメンバーで放課後喫茶店に来ていた。
千葉エリカ、西城レオンハルト、吉田幹比古、柴田美月、森崎駿、光井ほのか、北山雫、須田渉。
部活や委員会も終わり、各自お茶しに行きつけの喫茶店に寄ったらちょうどいたのだ。
普段から昼食を共にすることもある面々なので、同じテーブルについてお喋りを始めた。

二科のカリキュラムが少し変わって、監督役として実技授業に講師が時折つくこと。
山岳部に司波家の親戚の女の子がマネージャーで入ったこと。
七宝があの件以来、がむしゃらに勉学も部活も邁進していること。まるで何かを忘れようとするように。
緋村が剣術部の稽古にえらく熱心なこと。まるで何かを忘れようとするように。
三年の女子が恋人の居ない雪光を虎視眈々と狙っていること。須田が今度雪光を中心にグループデートを企画している。
もうすぐ試験だが、司波達也に特命赤点先生を頼むかどうか。今回は須田も助成を願いたいこと。

そんな中で、アラタの実力の話になった。勉学ではない。実戦での話だ。
「でも強そうには見えないよ」
少し眠たげな声で言うのは北山雫だ。
彼女は伝聞では実力者であることを聞いているが実際は見ていないので少し懐疑的だ。
昨年の九校戦でのスピードシューティング新人女子優勝者としても、2年生の実技成績上位者としての自負もあり
あののほほんとした顔の実力を怪しんでいた。日頃の実技や部活を見ても、特筆するところが無いのだ。
「あたしじゃ勝てない」
「俺も無理だな」
エリカとレオが雫の疑問に答える。
「でもそれは格闘戦での話だよね」
雫は二人の証言が限定的だと指摘した。
エリカもレオも一流の魔法師と言ってもいいだろう。格闘戦に限っては。
だが二人の証言は格闘戦ではない実力を計る指標にはならない。

「授業の実技や基本的な的撃ち競技なら、きっと一科生なら平均ぐらいだと思うよ」
同じクラスの幹比古が、アラタの実技を評価した。
「じゃあ、なんであそこまで評価されているの?」
雫は首を傾げた。評価しているのは格闘系部活のエース格や、ジェネラルと言われる服部会頭などだ。
一科でも実力者ばかりが「相馬新は強い」と太鼓判を押す。格闘戦は強いのはわかるが、あの服部会頭が評価するのだから他の面も評価すべき点があるのだと、雫は考えていた。

「北山さんは十文字先輩との模擬戦は見てないよね」
「うん。その時は見てないね」
幹比古の言葉にうなずく雫。あの模擬戦を見ていた人間で、この場にいるのはエリカ、レオだけだ。
「ん~、アラタは凄いよ。速度以上に早く感じるね」
「わかる。あいつ、魔法を使用する際の位置取りや身体の使い方が抜群に上手い」
須田の発言に同意するモーリー。
「身体の使い方?」
雫はもう一度首をかしげる。CAD操作にかけては学内でも上位につけ、何よりもCAD操作で名を上げた一族のモーリーが説明を始める。

「基本的な話だけどブレスレット型CADって実際は目標に対して、ブレスレットをつけた腕を向ける必要はないんだ」
魔法を使用する際の照準というのは、基本目視である。
拳銃型CADはその照準を補助する機能がある。武装一体型CAD、特に白兵戦仕様のモノは照準を必要としない。武器が当たれば魔法発動だからだ。
だがブレスレット型は照準の補助機能が拳銃型より一段下がる。構造上の問題だ。
ブレスレット型CADで魔法を発動する際、掌を相手に向けるのはCADの照準機能を身体動作で補助していると言ってもいい。
「アラタが上手いのはブレスレット型CADやタブレット型CADを使用するときに、視線だけ向けて、腕とか身体は次の行動のために動いている点なんだよ」

「つまりアラタさんは、CADの操作を他の動作を並行して行っているということ?」
ほのかがモーリーの説明の捕捉を求める。
「そう。その通り。あいつは、例えば走りながらとか、障害物を越えたりしながら自然にCADをいじれるんだ。だから魔法発動後に次の行動のための隙というかタメが無い。森崎家の表現で【身体の使い方】って呼んでるけど」
そう言われて雫は相馬新の実力をちょっと理解した。
確かに九校戦でも動きながら魔法を操作する競技は身体動作と魔法の連動を注意される。バトルボードの新人戦選手だったほのかの苦労を見ていればわかる。
動きながら手首のCADを操作するのは慣れが必要だし、運動しながら的確に操作するのは決して簡単なことではない。

CAD操作と身体操作に目をつけるのは流石森崎と雫は見直した。
森崎家はCAD操作の大家であり、雫もCADの新作発表会に行った時に森崎家の人間がメーカーにCADの仕様と操作感について長時間話あっていたのを見たことがある。

「あとあれ。単純な魔法式の構築が上手いよ。術式は複雑にならないよう考えてるし、アラタの作る魔法式はそれこそ単一目的意識が高いっていう感じかな~。誰でも使えるとか、使うときの注意点がはっきりしてる感じ」
須田の発言には全員が驚く。
「っていうことは、俺たち二科生でも使えるってことか?」
「使えると思うよ。というか、複雑な術式にならないようあえて注意している感じかな。あと複雑な術式を解体して、単純な術式に分けて、複数の別個の魔法として運用することもあるし。なんか一つの複雑な術式使うくらいなら魔法式を分割して、複数の簡単な魔法式を段階を踏んで使う感じかな。確実性を持たせる運用が多いと思うよ」

レオの質問に須田が答える。
須田も以前複雑な魔法式を使用する課題で、モノリスコードの仲間に相談した際にアラタから術式の分解運用の考え方と実際の手順を教えてもらったことがあった。
光夜は「そうか」としか言わなかったので須田はそれ以来勉強の相談相手から光夜を外している。

「意外と面倒な魔法運用をしているんですね」
美月の感想に全員がうなずく。
魔法は複雑になったとしても個人の技量でフォローが効く。
魔法をより簡単な術式で確実に運用するのはまるで自分の実力を過小評価しているように見えると雫は感じた。

「あれ、みんなだけ?」
喫茶店に入ってきたカナデはテーブルに固まる面々を見つけた。
椅子を持ってきてテーブルに入り込むカナデに、エリカが声を投げた。
「カナデの彼氏の話。魔法の実力がよくわからないって話してたの」
そのまま、今していた「CAD操作」と「確実性優先の魔法運用」の話を説明した。

「ん~、そうね。なんというか、不測の事態を常に想定している感じかな」
「それは戦闘ということ?」
雫がカナデの意見に補足を求める。
「うん、戦闘もなんだけど戦闘に行き着くまでの状況っていうの?例えば、そうね山岳活動時にロープにぶら下がって心拍数が上昇して緊張状態にある時とかかな。そんな「複雑なことに集中できない」という状況下をたまに想定し実技演習してるみたいよ」
「あんだそりゃ?アラタは山岳救助隊希望なのかよ?」
レオが素っ頓狂な声をあげる。そんな特殊な状況を想定しての実技演習など聞いたことはない。
「たんなる想定例よ。実際はどんな状況を想定してるかは本人しかわからないし」
カナデも確実とは言い難いといった表情をしている。カナデの言葉も推測なのだ。

「なんか軍人さんみたいだよね」
モーリーの説明、須田の感想、カナデの推察を聞いた雫は自分の感想を言葉にした。
「確かにね、軍人の発想に近いかもね」
エリカも雫の言葉に賛同。
ほのかと美月は頭の上に?マークを掲げている。
男子チームはうんうんと頷いている。
「軍人さんって、戦闘に入ると固まらず動き回ったりするの。特に軍人の魔法師さんは足を止めると的になるから常に動き回るんだって。それに戦闘行動時に複雑すぎる魔法式だと発動ミスが怖いから、単純な魔法式で複数段階を踏んで、複雑な魔法式と同じ効果を出す運用もするらしい。それに常に不利な状況を考えての訓練とか、軍人さんの思考だよ」
雫は誰とも目を合わせず、独り言をつぶやくように説明した。まるで名探偵だ。

「おじさんが現役の軍人らしいからそのあたりじゃないかしら」
カナデが雫の思考に応えるが内心は緊張している。
(ちょっとまずい状況かな~)
アラタの魔法師としての実力から、正体にたどり着こうとしている。さすが魔法を専攻する魔法師の卵たちだ。

その日は結局アラタの実力が「目立たないところ」で評価されている、で落ち着いた。
その晩、カナデはアラタに正体を推理する最後のピースを自分が与えたことを謝罪した。
お尻を二度叩かれた。

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別に結納の日取りの相談ではない

状況は想像以上にぶっ飛んでいる。

「先生!」
目の前の男の子、いや「男の子」という表現は正しくない。
優雅、それを体現する麗しい容貌。優しくそして気品を讃える顔。美少年だ。
深雪と雪光が冬の美しさなら、秋の美しさと言っていいだろう。
九島光宣だ。



事の発端は5月の連休だ。
カナデの誘いで九島の本家に遊びに行った。
別に結納の日取りの相談ではない。なぜなら司波三兄弟妹と光夜も同行しているからだ。

カナデが親戚である光宣の入学祝に欲しいモノを聞いたところ「一校のモノリスコード新人戦の決勝選手に会いたい」というものだった。
藤林響子もそのリクエストを叶えるべく司波達也に根回しした結果、5月の連休で奈良の九島本家に一泊でお邪魔することになった。

藤林姉妹と司波三兄弟妹、光夜、そして俺・・・と桜井水波の総勢8人だ。
既知未来知識の権威雪光氏いわく「桜井穂波さんの姪っ子だよ。勿論障壁展開を魔法を得意とする魔法師でもある」らしい。
四葉の命令で今は司波家に同居している。
4月の実験にも参加しており一応面識がある。中々可愛らしいお嬢さんだ。娘にするならこんな娘がいい。
カナデも「可愛い」と言っては抱きしめている。

昼前に到着した九島本家は立派な豪邸だった。
でけー。立派。奈良の中心地から少しだけ離れた土地に建てられた豪邸だ。
だが、俺以外に驚いている人間は皆無だ。四葉の豪邸(予想)も遜色ないのだろう。
光夜はわかるが司波三兄弟妹は一般家庭設定なんだから驚けよ。桜井ちゃんも驚きなさい。
「凄いな~。ここって使用人さんとかも住んでるんですか?」
藤林少尉、ここでは響子さんと呼んでいるが、に質問する。
「ええ、それなりの人数が住み込んでいるわ」
司波一行を案内しながら玄関扉を開けると、玄関ホールに入る。
玄関ホールですよ。玄関ホール。一校の教室よりも広い空間が玄関ホールとして存在している。
室内灯も、こじゃれた近代ヨーロピアン風だ。ランプの形を模した明かりが屋敷内に点々とある。

目視範囲内の装飾品の試算で・・・あ~高級車4台分くらいの予算が突っ込まれている。
いいか千葉警部、お前の彼女候補の実家に結納打合せの前には一度来て生活レベルを把握しておけよ。
あ、でもあいつも千葉家だからそれなりに金持っているか。

「ようこそ」
玄関ホールの階段から現れたのは九島烈だ。
日本魔法師界の長老、黒幕、大立者。世界最高かつ最巧の魔法師であり、十師族のまとめ役だ。
細身の老人だが背筋は伸びており、肉体的には壮健に見える。

「本日は藤林奏嬢のお誘いで参りました。一晩邸内を騒がしくするかと思いますが、若輩ばかりですのでご寛容いただければ幸いでございます」
代表して光夜が滑らかに挨拶をする。こういう時に美声イケメンがいると楽だ。
「固くならずに。今日明日は十師族というより、孫娘の同級生として振る舞ってくれるかね」
「ありがとうございます」
九島じいさんの言葉に深雪は礼を返した。

それぞれが自己紹介を一言。
「カナデさんと同級生の司波達也です」
「弟の雪光です」
「妹の深雪です」
「司波の従妹の桜井水波です」
「同じクラスにおります四葉光夜です」
「カナデさんとお付」
「よく来たね。外出するので、あらためて夕食の時にでも」
俺が名前を言おうとした瞬間、言葉をかぶせてきやがった。ジジイめ。

「おじい様、光宣は自室におりますか?」
「ああ、荷物を置いたら顔を見せてあげなさい」
藤林少尉が件の光宣君の所在を確認する。
九島の爺様の言葉を合図に使用人さんたちが、俺たちの荷物を預かり客室へと運んでいく。

「光宣、いる?」
屋敷を進むと廊下の装飾品も少し変わった。減ったのだ。玄関ホールを中心にゲストの眼に触れるところには
画や花瓶のような装飾品があったが、居住区域と思われる奥まで来ると装飾品も減ってくる。
ドアをノックすると、光宣の声がする。
「どうぞ」
少尉がドアを開けるとそこには絶句するほどの美少年がいた。
が、ちょっと待ってくれ。俺の周りには美男美女ばかりだ。絶句するほどではない。
穏やかな顔つきの美少年だ。はいはい美少年。

「光宣、お客様を連れて来たわよ」
カナデに引き入れられて全員部屋に入る。
「司波達也さん!雪光さんに、四葉光夜さん!」
三人の顔を見て即座に名前が出る。相当九校戦の動画見たことが伺える。
「ほら、そんなに大きな声を出さないの」
少尉にたしなめられる。ライティングデスクに向かっていた光宣は立ち上がる。
「初めまして皆さん。九島光宣です。昨年の九校戦の活躍は動画で拝見しました」
う~ん、爽やかだ。この落ち着きを須田ちゃんあたりに20%くらい移植したい。
「この部屋だと手狭ですから談話室に行きませんか?」
この家、談話室あるの?スゲーな。
一行は光宣に連れられて談話室というか遊戯室に行った。
遊戯室と言ったのは、二間続きの部屋で、ビリヤード台とブリッジテーブルが二つある。
暖房は、うまく隠されているエアコン以外に、暖炉がある。
ぶるじょわじ~。

そこで、俺たちは光宣から九校戦の活躍にどれだけ感動したのか、CADの調整スタッフとして裏方で活躍した司波達也の凄さや、モノリスコード新人戦決勝での三人の活躍、深雪のセンセーショナルな登場など聞いているこっちが困るほど褒めてくる。俺については触れてこない。
「ああ、カナデ姉さんの彼氏さんですね」だってさ。

2時間ほど話すと、遅めの昼食。明日は光宣の案内で奈良観光の予定となった。
夕食のことを考え軽く昼食を済ませ、先ほどの遊戯室でみんなでビリヤードとなった。
初ビリヤードの司波三兄弟妹&光夜&桜井ちゃんに9ボールのルールを教えながら遊んだ。
思ったより光宣はビリヤードが上手かった。
一応、入学祝で喜ぶ光宣に水をささぬよう、俺はマイアミの地下ビリヤード(負けると死ぬとか臓器を抜かれる系)で鍛えたビリヤードの腕は見せなかった。
23歳から35歳までの無茶な任務の数々をちょっと思い出した。



夕食は美味かった。10人以上が一緒に座れる長いテーブルで奈良のジビエを堪能した。
ちなみに、俺はテーブルの一番端だった。家長である九島烈とは最も遠い。
カナデの伯父である現九島家当主は不在だった。

夕食後、光宣とまた遊戯室行ってでブリッジをした。まあこの辺りは学生の楽しい遊び。
食後のゲームが終わると光宣の体調が急変した。
光宣は自室に戻り体を休めた。

藤林少尉が司波達也を連れて光宣の部屋に向かった。精霊の眼を使って光宣の体調不良の原因を探るのだ。
その晩は司波達也から九島光宣の体調不良の原因、想子強度とサイオン圧の問題を説明された。
体内の高圧な想子圧が体を蝕むが、想子によるダメージも想子強度による治癒でリカバリーしてしまう。
免疫力が強い人が、免疫過剰反応で体調不良を起こすが、免疫力の強さで決定的な症状まで行かない、という感じだ。
その原因は光宣の出生の秘密だ。

光夜や雪光の話では魔法師としては七草真由美や深雪に匹敵する魔法師で、もしかすると光夜に迫る魔法師かも知れない、というのが光宣だという。体調面の問題が大きく、九校戦などのフィジカルが必要とされる場には今後出れないのでは?という話だ。

結論を言おう。俺は光宣を治せる。

治せてしまうのだ。
ゲストルームに集まった、司波三兄弟妹、光夜、桜井ちゃん、藤林姉妹、そして俺。
皆、暗い顔をして達也の説明を聞いていた。
ある種の不治の病だ。治癒方法は想子を強化し、サイオン圧に負けないようにするしかない。
想子の強化。最先端科学でも研究される未踏の分野だ。常識的に治癒は絶望的な話だ。

俺は大きく息を吐く。既知未来を変えることに緊張しているのではない。十師族に深くかかわることが怖いのだ。
「悪い。カナデと達也と少尉だけ残して席を外してくれ」
ここからは相当面倒な話だ。下手に非軍属の人間には聞かせられない。
一種の政治だ。
不思議な顔をする桜井ちゃんを筆頭に光夜、雪光も深雪も緊張した顔で部屋を出る。
雪光が「ビリヤードのところに行ってる」とだけ言った。

「カナデ、少尉、時間はかかるが光宣の治療は可能かもしれない」
その言葉に、三人は俺の顔を睨むように見つめる。
驚きの顔だ。
「だが、科学的な根拠のない治療法だし、何よりも立場の問題もある。実施するなら佐伯さんと九島老師との間で会談が必要だ」
言ってしまった。もうあとには引けない。だが、軍への十師族の影響を減らせる可能性がある。
「藤林少尉、事後承諾はまずい。まずは佐伯さんに提案だ」
「ですが、どうやって治療するんですか?」
真剣な顔で聞き返してくる。そりゃそうだ。
「ややオカルトめいた話だが・・・・」

人体の想子を強化する方法。
それは光宣と俺の想子を連結し、光宣の想子を一度俺に経由して、俺が想子を強化して、光宣に戻す。
光宣(弱い想子)→俺(想子を強化)→光宣(強化した想子)という流れだ。

俺は、かつてチベットでの極秘任務でヨガの行者から「他人と感覚を共有する」秘術を教わっている、という法螺話をした。この感覚共有を使えば、時間がかかるが光宣の治療は可能だ。

パラサイトっぽい。というかパラサイトの能力のアレンジだ。

藤林少尉は俺を正面から見る。判断できないのだ。
「まずは佐伯さんに相談して、マッド山中さん辺りに頼んで裏付けのため実験しよう」
俺がそう言うと藤林少尉は恐々口を開いた。
「可能性が低くても、それしかないんですね・・・」

この日から俺は格段に忙しくなった。



マッド山中少佐はルンルン気分で色々と実験をした。
あいつ、ガタイ良いのに医療技官なのも納得だ。こっちが引くくらいマッドだ。

動物実験に始まり、人体実験まで短期間に行われた。
まあ、俺も別に命を削ることをしているわけではない。せいぜいカナデとデートする時間が無いだけだが。
別にカナデはマンションに入り浸っているから無問題。

俺の提案方法で対象の想子の変化を確認できた。
数値的にも「想子強化」と言えるものだった。

「それで、君らはここに来たのかね」
九島烈と現九島家の当主である九島真言が応接室で、佐伯さんと俺を睨む。
口調厳しく言葉を発したのは九島真言だ。
不安、懐疑、敵対、羞恥、隠そうとしているが表情の陰にはいくつもの感情が見え隠れしている。

「御当主、老師、我々の提案を疑うのもごもっともです。はっきり言えば、九島家の内部への干渉です。この情報を軍が手に入れた経緯も不快でしょう」
九島烈は無言だ。ただ、一縷の望みに手を伸ばそうとしている様に見える。
逆に当主は不快を隠さない。まるで汚点を見つけられた子供だ。
「君らの望みは?」
そう言って九島真言は手元のグラスを一口で煽る。
「今後の十師族と魔法師協会、軍属魔法師の緩やかな連帯」
「あと、カナデとの結婚も・・・」
睨まないでよ、佐伯さん。ちょっと場を和まそうとしただけじゃない。
俺は一つ咳払いをした。
「今回は光宣君が全快したら軍に欲しいという話ではありません。私が出しゃばる以上どうしても101旅団の存在が絡んできます。後々101旅団が出てくるより、先に旅団の存在をお知らせしたかっただけです」
俺の言葉にその場の三人が厳しい視線を投げてくる。

「正直申し上げますが、今回の治療の申し出は101旅団の少佐として十師族に恩を売るためではありません」
佐伯さんの視線が殊更厳しい。
「藤林奏さんと将来円満な結婚をするため、恋人の親戚に好印象を持たれるポイント稼ぎに今回の治療を申し出ました」
この言葉に多少毒気が抜かれたのか、それともこの発言に驚いたのか九島真言の頬の筋肉が緩む。
九島の爺さんの視線の方が厳しいな。
佐伯さんがおでこに手をやり「馬鹿が・・・」という表情だ。村井大佐は日常茶飯事だったのよ。このくらいのことは。
「光宣君の治療を成功させる自信がなければ、治療の申し出などしません」
失敗したらカナデに嫌われるからね、という俺の視線を感じてくれただろうか。



7月に入ると試験も終わり、何とか赤点なしで済んだ。
中条会長は、九校戦の競技変更に凹んでいたが何とか持ち直した。

俺は、土曜の夜には東京を出て奈良に来ては、日曜丸一日かけて九島光宣の治療をする日々が2か月続いた。
治療の効果はすでに出ていた。光宣のスペックの高さがそうさせている。

イケメンで金持ちで一流魔法師ってズルいな。いや、光夜も性格面を除けば同じ条件か。
呼吸法を中心に身体コントロールの方法を教えていた。ヨガの行者に教えてもらった、という法螺を信じ込ませるためだ。
「本当に出来るんですか?」と疑心暗鬼だった光宣も、3回目の治療から「起床時の痛みが減った」や「実技で魔法使うのが軽くなった」など効果がでていることを実感しているようだ。

身体コントロール法を教えることから「先生!」と慕ってくれる。
これでカナデと結婚できるだろうか。

そして来たるべき、顧傑との闘いで九島のバックアップが得られる。
俺の耳に届いた顧傑のUSNA出国の噂。波乱がもうすぐそこまで来ている。

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「エルフ」「ドワーフ」「ホビット」「魔法師」「人間」

「いぇぇぇい!」
雪光の楽しい声の後には「もっとスピードをおとせぇぇぇ」というモーリーの声がドップラー効果で聞こえる。

九校戦の新競技「ロウ・アンド・ガンナー」の練習だ。
小型のボートを魔法で動かしつつ、コースに配置された的を撃つというものだ。
スピードと、射撃の正確さが求められる。
ソロと、ペアがあり、試しにソロで雪光が、ペアで光夜とモーリーがコースを走っている。

雪光はボートを漕ぐ(ロア)のではなく、ほとんどサーフィンのノリだ。
「一校の王子様」のはしゃぎっぷりに見学の女子たち(10人以上)から黄色声が飛ぶ。
「かっこいい~」「雪光くん!」「王子~」

雪光の後を追う様に光夜(漕ぎ手)とモーリー(射手)が通ると、皆一瞬で黙る。
なんだ光夜は霊柩車かなにかか?あれ?霊柩車が道を通る時は黙る、というのは俺の以前の年代だけの話だろうか。
「雪光君すごいんですね~」
俺の横で感心するように光井さんが雪光を見ている。
彼女は今回ミラージュバットの本戦選手候補なので、ロウ・アンド・ガンナーは、昨年のバトルボード新人戦優勝選手ということでアドバイスできないかとここに来たのだ。
彼女的には羨望と嫉妬というより、ただただ感心をしている。
雪光は日頃の運動能力や学力については目立つものの「四葉光夜」のせいで、あまり話題には乗らない。
女子受けする容姿になかなか楽しい会話に、可愛らしい反応。
確かに雪光は王子様だった。

ひとしきり、水路での遊びを楽しんだ雪光はプールへと向かっていった。
今回あいつは選手登録の予定だが他にも仕事があった。アイスピラーズブレイクの氷柱作りだ。
深雪副会長匹敵する魔法師ということもあり氷柱作りに、選手にと大忙しだ。



さて、九校戦の選手選抜は、今週いっぱいで終わらせなければならない。
困っているのが「モノリスコード本戦」と「シールドダウン・ソロ」そして「ロウ・アンド・ガンナー」だ。
問題点は光夜だ。あれ?去年もあいつで選手決めなんかなかったけか?
・・・ぼっちのせいで俺がスタッフ入りしたんだ。

モノリスコード本戦では現三年生の実力者と光夜をどう組ませるか?が問題になっている。
千代田風紀委員長は「達也君と雪光君と光夜君でいいんじゃない?」とあっけらかんと言っていた。
ただ他競技の優勝候補になりうる雪光と光夜をモノリス専属選手扱いでいいのか?ということも議題に出ている。

シールドダウン・ソロの問題は簡単だ。
「黒城兵介に勝てるか」である。その勝てる選手を選ばねばいけない。
盾を使ってお互いリングから落とす競技だ。盾にどんな魔法を使えばいいのか?
そういった技術的な問題より、昨年のモノリスコード新人戦で見せた「ブラック・キャリバー」の姿は、シールドダウンの競技内容が判明した瞬間、全国の魔法科高校の学生は新競技の優勝者を黒城兵介と想像させた。
絶対的優勝候補に誰が挑むのか?

ロウ・アンド・ガンナーでは組み合わせだ。
「完璧」四葉光夜をソロに配置するか、ペアに回すか。ペアの場合は誰がコンビを組むのか、漕ぎ手か射手かetc。
新競技ということもあり、組み合わせに皆苦慮している。

一校はタレントが多い。特に一科生では光夜、雪光、カナデと転生者たちが優秀なおかげで選手選びに嬉しい悲鳴だ。
三年でも優秀な生徒が多い。二科でも「一芸だけなら」の条件付きでエリカやレオンハルトなど隠し玉がいる。
光夜の問題も、モーリー、須田ちゃん、俺と「そこそこの実力」であり、光夜とコミニュケーションが取れる男子生徒がいるのでクリアできそうだ。あとはどの競技にどの選手を置くのか。



「重蔵君、君は軍属魔法師についてどう思っているかね」
土曜日の夜のお決まり。九島邸九島党首と九島老師との書斎での夕食後の会談だ。
全員好みの酒を持ち、取り留めのない話、スポーツ、社会、政治、そして魔法の話をする。
光宣の治療を始めて効果があらわになった時期からのお決まりだ。既に数回目だ。

酒の好みとしては俺は洋酒、九島の爺さんは少量の日本酒、当主は焼酎だ。
今日の話の切り出しは当主、九島真言だった。
「と言われますと?」俺は話題の大きさに返答が困り、もう少し狭めるように促す。
「今後、魔法師が軍属することの是非だよ」
当主は最初に会ったときより表情がいい。息子の健康問題の回復とともに・・・雪光から聞いたこの人物の父親へのコンプレックスとその結果生まれた光宣のことを思うと複雑だ。
「そうですね、魔法師を、というよりも魔法という技術をどのように使っていくか?というのが主題になっていくでしょうね。10年後には魔法の運用がある程度見えてくると思いますが」
その言葉で九島烈は酒杯から口を離す。
「私はね、若い魔法師が軍属となり命を散らすことに危機感を感じているのだよ」
「そうですね。魔法師に限らずですが」
九島烈の視線が飛ぶ。俺とこの二人には隔たりがあるのだ。

この二人やインテリぶってる魔法師は「人間」と「魔法師」という種族がある、というような認識なのだ。
「エルフ」「ドワーフ」「ホビット」「魔法師」「人間」なのだ。
俺は一般家庭生まれの変わり種魔法師だ。母方の父、亡くなった祖父が魔法師だったらしい。会う前に亡くなったが。
一般家庭で、生活に苦慮して軍隊に入り、そこで魔法師としての才能を発見し
「軍隊内での魔法」を習得した変わり種だ。俺は自分を魔法師という種族とは思っていない。
魔法を使える軍人としか思っていない。その自分のアイデンティティへの認識の違いが彼らとある。

「魔法師を戦争や軍務に投入することで、魔法師という種が人間に搾取されると考える者も少なからずいる。群発戦争の記憶があるのはわかる。だが戦争を生き抜いたものからすれば、若い世代に同じような苦難を味合わせたくはない」
今日は九島烈が良くしゃべる。
「そうならないためにも、魔法師として連帯し意志の表明が必要だと思わないかね?」
「軍人ですのでそのあたりはノーコメントですよ、閣下」
俺が苦笑いすると、九島烈も軍人に政治的発言を求める愚を思い出したようだ。老人はバツが悪そうに酒杯に口をつける。
「退役したら手記でも出版して意見表明しますが、強いて言うなら魔法師として活躍経験のある人物を国会に送り込んだら如何です?」
正論である。親魔法師の国会議員ではなく「魔法師の国会議員」が必要だろう。意見を十師族、魔法師協会で表明する以上に代表として公的な場に人物を送り込む。それが必要な時期なのだ。
「君は意外と正論家なのだね」
九島真言が珍しくばつ悪そうにする父親の姿を苦笑いする。
「文民統制や民主主義の話は嫌って程国防学校の授業でやりましたから」
俺も微笑みながらグラスに口をつける。国防学校では軍人の基礎として座学が多い。その中でも倫理やなぜ軍の運用では文民統制が必要なのか、その背景を嫌っというほど叩き込まれる。
防衛大に進学した渡辺摩利もこの辺りを嫌というほど授業を受けているだろう。
「私はね、魔法そのものへの理解の低さというものを危惧しているよ。もう少し世間は魔法というものの実態を知るべきだと思うね」
当主は話題を変えるべく、魔法の認知について話を始めた。
その後は、社会進出する魔法について話が移った。
九島烈は新世代のCADにボチボチ追いつけないとぼやいていた。九島真言も「谷間の世代なので上と下の面倒を見るのに大変だ」とシニカルに笑った。この人も決して腹案の無い盆暗ではなさそうだ。親父の名前がデカ過ぎるのは大変だ。



九校戦の選手・スタッフが発表された。
俺の周りではいろんな面々が参加することとなった。

ロウ・アンド・ガンナーの本戦選手は四葉光夜(漕ぎ手)&森崎駿(射手)のコンビで決まった。
学内では妥当の意見が占めた。そりゃそうだ。光夜に「曲がれ!」とか「とまれ!」とか普通に言えるのは俺か、モーリーか、須田ちゃんくらいだ。

アイス・ピラーズ・ブレイク本戦は深雪副会長がソロで出馬だ。
十三束がシールドダウン・ペアで参戦だ。
雪光は、スティープルチェイス競技に単独登録らしい。
他は「原作通りになったね」と雪光が言うような面々となった。

新人戦では七宝琢磨、七草香澄&泉美、七海奈波、緋村武心、桜井水波が参戦することに。
スタッフではカナデが入ったし司波達也も入った。今年は俺は戦術スタッフ入りすることはなかった。逆にエリカとレオが練習パートナーとしてスタッフ入りした。シールドダウンは白兵競技なので頑丈で動ける練習相手が必要だったためだ。

さて、九校戦では俺はフリーだ。生徒会の一員として動けばいいだけだ。去年より楽ちん。やった~。

とも言えない。大漢のあれがUSNAを出国して、欧州圏の非EU加盟国に渡ったともアフリカを経由して東南アジアに潜伏しているとも聞こえてきた。周公瑾からの聴取が再開されたので俺の同席も増えた。ただ時間指定が可能になったので放課後は
連日情報部に足を運んでいる。もうへとへとだ。少し休みが欲しい。

だから発足式の壇上から緋村少年、七宝、俺を睨むのを止めなさい。

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