うちの魔法科高校の劣等生にはオリ主転生が多すぎる (madamu)
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第一高校を受験せよ



第一高校は緩い坂の上に立っている。
白い校舎はすでに改装から数年経過しているが、風雨で汚れた様子はない。
そりゃそうだ、2095年の建築技術は2000年代初頭に比較すると月とスッポン。

入試試験に向かう俺の脚は重い。すごく重い。
事務仕事をこなしつつ、2週間ちょっとの試験勉強でのぶっつけ本番だ。不安である。
受付で手続きを済ますと「親御さんは?」と聞かれて「今日は一人です」と答え試験会場へ。

試験会場に入ると先に筆記を行い、昼食を済ませての実技。

まずは筆記。問題はこっちだ。これが出来ないことには一科生どころか二科生にもなれん。

筆記試験会場は同伴してきた親御さんは別室で待機し、受験生だけが試験会場に残る。
会場に並べられた机の指定の席に着くと机上のコンソールを使い、試験準備をする。
回りでは多くの少年少女だちが、目をつぶり瞑想したり、友人とお喋りをして緊張をほぐしたりしている。

あ、巨乳女子中学生の柴田美月を発見。
掛けている細いフレームの眼鏡が過敏性対応の眼鏡か。

スピーカーから試験開始五分前のアナウンスがあると受験生は真剣な顔つきになり
コンソールから【試験問題】のアプリを起動させ、カウントダウンを待つ。

あ~いやだ。頭使いたくない~。ホント、頭脳労働いやだ~!

再度アナウンスが流れ試験開始である。


========試験中=========


今の学生はこんな難しい試験をやるんだから、ひどいもんだよな!
ホント酷い。なんで数学がこんなに多用されるんだ!

それ程悪くない手ごたえで筆記試験は終わった。
この後は実技だ。その前に昼飯食わねば。それにしても潜入作戦が高校受験とは。



「はぁ、潜入ですか」と答えて顎を触る。
「お前は面倒な任務を言い渡されると顎を触る癖がある」と指摘されたことがあったが
これはわざとである。内心を整理するためのルーチンなのだ。

国防陸軍の本部にある情報部支援課第二班のオフィス。
国内外問わず、各事案に対応するために設立された「諜報の遊撃組織」が支援課である。

執務机を挟み俺の前に座っているのが直接の上司、村井大佐。
大佐から口頭で命令されたのは「第一高校への潜入計画」だった。
問題なのは「生徒として潜入」のくだりだ。

「これ、自分が潜入でいいんですよね?」
多少不機嫌な色が声に乗ったが、かまいやしない。作戦の大前提が気に食わん。
「そりゃ、お前以外にだれがやるんだ」

身長は18歳の平均より数センチ低く、今も若めの服装で盛り場を歩けば警官に一声かけられる。
声も若く、「おうちにお父さんかお母さんはいませんか?」とセールス電話に言われる始末。
同期からは「お前、ほんとに年取らないよな」「いや~うちの息子と同い年に見えるよ」
そう童顔なのだ。

関 重蔵(せき じゅうぞう) 36歳 国防陸軍少佐 情報部支援課第二班所属
そして魔法科高校の劣等生世界に転生した転生者でもある。
どうしてこうなった・・・

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誰だ?お前?



国防陸軍を含めて、2090年代の主だった諜報機関は
陸軍の情報部、内閣府情報管理局、公安、そして外務省外事課。

2095年時点の日本の諜報はバラバラだ。国防軍情報部内で複数の諜報、防諜組織が存在しており
情報の一元化も難しい。予算もバラバラ。

俺の所属する支援課も「諜報の便利屋」の立ち位置で活動している小さな小さな組織である。
セーフハウスの掃除、尾行道具のメンテ、事務処理の代行
ひどい時は潜入する犯罪組織のボスへのプレゼントの購入なんてのもある。

総勢10名程度の少数精鋭、偏った特技を持つ凄腕はみ出し者の諜報機関、になれるといいな~。

ここまで来るにはいろいろあった。人生いろいろだ。

前世の死亡理由はあまり覚えていない。
白い部屋でぼんやりとした人影と話したことは覚えている。

「君、今回××(よく聞こえない)で○○〇(よく聞こえない)する予定じゃなかった。すまん」

「え?!それで僕はどうなるんですか?」

「転生」

「転生?」

「そう、転生」

「トラック転生?」

「違う、違う」

「チート?チート?」

「チート、チート」

「ハーレム、なでぽ、にこぽ?」

「う~ん、そこはちょっと・・・」

「どの程度で」

「ちょっとこれ振ってくれる?」

と渡されたのが6面体サイコロが3つ。

コロコロコロ。

「あー、そう来たか、そう来たか~」

「え、不味かったですか?」

「いや大丈夫なんだけど、もう一度振って」

コロコロコロ。

「どうです?大丈夫そうですか?」

「いや~、君スゴイね。ここまで出す人そうそういないよ」

「あの、すいません」

「別にそういう意味じゃないんだ。ちょっとチートの調整と諸々がね」

「それなら普通に転生でも」

「逆にそうすると調整が難しくなるから、このままの方がいいのよ」

「はぁ」

「もう一回振ってくれる」

コロコロコロ

「(絶句)」

「(絶句)」

「こうまで出すか~。すごいわ~(天を仰ぐ)」

「(無言)」

「はは、じゃあ最後に今の状況を確定するから、もう一回ふってね。それでおしまい」

「(無言)」

コロコロコロ

「(声を出さずに笑う)」

「すいません。どうなるかわからないですけど、すいません」

「いや、最後の最後でね…。来たねー。来た」

以上である。

5歳ごろに転生前と転生時の記憶がフラッシュバック。
成長するにつれて「魔法師」とか「大亜細亜」のような単語をニュースで確認する。

10歳のころには【魔法科高校の劣等生】の世界だと納得した。
ただし年代が2090年代ではなく、俺が生まれたのは2059年だ。

前世の記憶を探っても、アニメ版観てからwiki読んでげらげら笑った程度の記憶しかない。

2095年時点で、四葉の熟女(四葉真夜)が44歳?47歳?で鬱系エロ漫画みたいな人生経験をして
インナーとかいう執事制度があって、2097年?になると「ヨル」「ヤミ」で呼び合う痛い中学生が出てきたり・・・

確か沖縄で防衛線やって、佐渡でも防衛線やって、その前後のあたりはアニメではやっていなかったので記憶がない。
なんだっけか?桜井さんとか言う人も死ぬんだっけか?大越後戦争?wikiで読んだような読まないような

う~ん、よくわからん。
wiki情報は断片的だし、アニメもどの程度の今の世界を反映しているか不透明だ。
オリ主転生ものの小説をそれなりに読んだオタク前世としては
原作ルートに絡む方向性がどれだけ危険か認識している。
下手に絡んで敵認定されると、シスコンに問答無用で分解されてしまう。。

少なくとも両親は名字に数字のかかわる感じはないし、普通に育って普通に暮らせるだろう。
原作に関わらない、民間の会社に勤めて、2096年には横浜にいなければいいだけで。

と思っていたが人生甘くない。最初の波乱である。

14歳の時に父親が病死、1,000万円の借金を残す。
脱サラ後の自営業の運転資金だった。
母親は残った借金を返すべく当初の予定どおり「洋菓子と青果」の店を始めた。
父母とも製菓学校出身のカップルで、残された母一人でも十分店を開けた。

ただ最初に1,000万円のマイナスを抱えた状態で
長男である俺を筆頭に4人の子供を食わすのは大変である。

俺は懸命に働く母親を支えるべく、学費のかかる高校ではなく国防高等学校に進学する。
国防軍の若年向け高等学校教育機関である。
生徒として学びながら国防軍という就職の道も確保され、何より学生ながら給与が出る。
学費もタダだし言うことはない。

既に石が転がり始めたが、この時点では俺は普通の兵士になって
借金返済のめどがついたら、適当なタイミングで除隊しようと思っていた。

で、国防高校で魔法師としての才能を見出された。
それほど突出した才能ではないので専門コースで魔法技術を習得し
普通の兵隊としての教育も受けた。

まだこの時点は国防軍内での魔法師が所属する101旅団の設立以前と言うこともあり
魔法師の扱いはフレキシブルだった。
悪く言えば、使える魔法師は各セクションが取り合い現場に投入するという形でだった。
そんなんだから防諜がグダグダなんだよ!

大変だった。

普通科連隊や空挺に始まり、海外の大使館・領事館の警備、他国の治安調査や情報収集。
そして諜報から開戦前の戦地調査等々。

101旅団結成時点では中南米からの在外邦人救出でてんやわんやだった。
くっそ~、ホワイト職場と名高い101旅団に行きたい~。

帰国後最初の命令が高校受験である。
この時「ついに原作ルートに接触するのか」と覚悟を決めた。

そして、試験後受験者のデータを見て村井大佐と絶句した。
試験直前に「四葉 光夜」という人物が受験にねじ込まれていたのだ。

誰だ?お前?



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お前も誰だよ!



「追加の資料です」と秘書官である大泉軍曹の野太い声が聞こえてくる。
俺と村井大佐の手元のタブレット型PCにデータを送ってきた。

村井大佐は広い額にしわを寄せながらタブレットを睨んでいた。
勿論俺も鏡を見れば渋い顔をしているはずだ。
試験翌日の大佐の執務室は空気が重い。

う~ん、想定外どころの話ではない。

今回の一校潜入は「七草」と「十文字」の次代への接触と
必要があれば弱みを握って2年進級時には家庭の事情の名目で転校する予定だった。

十師族は軍内にも根を張り、国防軍内の諜報・防諜は
敵も味方もわんさかで味方を味方、敵を敵と扱えない複雑さだ。

十師族の弱みを握ることで軍は十師族と対等になれる・・・とか思っているんだろう。
そういう存在なのだ。十師族は。敵対しないだけで、国内の脅威でもある。
大隊に満たない人数で世界の軍事バランスを大きく変える。
場合によっては個人の思惑で、である。

村井大佐は「四葉光夜」以外に
「九島」の分家筋である「藤林」の名前が見つかり情報を整理している。

俺は俺で、それ以上に頭を抱えている。
この作戦により司波兄妹に関わる危険もあるが、前世の記憶との齟齬が既に3つ起きている。

謎の「四葉光夜」、「藤林」そして
「司波 雪光」という名前の男子生徒である。
お前も誰だよ!「司波雪光」ってよ!

おい!おい!運命よ!なんじゃこりゃ!普通に九校戦して横浜騒乱して
夏休みやって来訪者編に突入させろ!

今判明しているのは

「四葉光夜」という男子生徒
「藤林奏(かなで)」という女子生徒
「司波 雪光」という男子生徒

大佐は特に四葉の情報収集に懸命だが、俺は「司波雪光」で頭がいっぱいだ。
一校の受験者情報は受験者リストしか入手できていない。
高校と言っても魔法師育成機関であり、情報の重要度は軍機密に匹敵する。
諜報機関といってもそうそう軍事機密にアクセスはできない。
コネと建前が必要なのだ。
特に今回は「四葉」の名前があるので、個人情報の確保は難しい。

時折大佐の机に備え付けられた電話が鳴っては
「私も存じ上げておりません!現在調査中です!」と大佐が怒鳴り返す光景がすでに数回。

「大佐。どうします?作戦バックレません?」
作戦の早々の中止を進言する。
「これは、大島少将の肝いりで・・・」
大佐の小声は、この作戦が単なる国内諜報ではなく
面倒な個人の遺恨も混じった作戦であることを告げた。

いきなり登場人物が増えたので少し整理せねばなるまい。
顎に触れて、少し息を整える。

村井大佐は諜報参謀としていくつかの功績を立てている。一応諜報のプロだ。
多少、上司におもねるところはあるが、諜報畑において信用できる人だ。
問題は情報部幹部将校の一人である大島少将だ。

魔法師の有用性を認めているが「軍の主力は非魔法師」と言ってはばからない人物である。
勿論差別として言っているのではなく、純然たる数の問題だ。
非魔法師は多い。普通科連隊で魔法師資格を持つ奴は、すぐに専科に移動になる。
普通科連隊、つまり普通の兵隊は非魔法師なのだ。

101旅団の佐伯少将に「101旅団が優遇を受けすぎている」と将校会議で噛みついたこともある。
魔法師を積極登用する佐伯少将と、魔法師の優遇を抑えようとする大島少将。

両名とも伊達で少将まで昇進したわけではない。
会議の場で顔を合わせれば、一度は「軍内の魔法師」の扱いについて応酬が起きる。
大島少将は「会議での舌戦も仕事のうち」とか言いそうだが
村井大佐(大島派閥)の配下の魔法師としては「面倒」以外の感想しかない。

「そこは…断ってくださいよ…」
ジト目で村井大佐を見るが、村井大佐は目を合わそうとしない。
おい、おっさん。こっち見ろよ。ハゲ。デコハゲ。

「すでに予算も確保している、君の小隊も到着次第作戦に参加させる・・・」
小声で言うな、おっさん。

このまま行くと「妹の安全は確保させてもらう」とか言いながら
魔法ぶっ放すシスコンに殺される未来しかない。

そうでなくとも「四葉」が怖い。
諜報に身を置いている四葉の怖さはよくわかる。
二度ほど四葉のエージェントと接触したが、村井大佐配下ということを初対面で指摘された。
俺、名乗ってないのに。覆面していたので、俺個人は特定されなかったようだが
その作戦の成果は四葉に持っていかれた。

「大佐、言いたくはないですがこりゃ不味いですよ。他の諜報屋も今頃大混乱でしょ。
あの引きこもりの四葉がいきなり一校に受験ですよ?情報持っているのは風間のおっさんあたりですよ」

ハゲ大佐は「う~ん」と言うだけで黙ってしまった。
佐伯少将のところの風間少佐とは面識がある。
というか、軍内で「大天狗」風間少佐をおっさん呼びするのは俺ぐらいだ。

「あのおっさんに話して情報回してもらいましょうよ~」
「だがな、こちらの動きを101には悟られたくはない」
四葉というか十師族と太いパイプを持つ佐伯少将派閥との距離感は難しい。
俺自身は魔法師で佐伯派閥と誼もあるが、仕事上の所属は情報部で大島少将の配下筋だ。

「現状できる限りのことをしよう。常に最善の道を探ることが諜報の本道だ」
なんかカッコつけたことを言っているが、大佐は目を合わそうとしない。
相当行き当たりばったりで潜入作戦始めやがったな。

俺は改めて、自分のカバー(偽造設定)を読み返した。

相馬 新(そうまあらた)15歳。東京の公立中学卒業。運動部に所属。祖父、叔父が国防陸軍所属。
将来は陸軍に入るため防衛大学校進学を目標に一校を受験。

俺は受験合格すれば相馬アラタ君になる。アラタ君。君の学生生活は前途多難だ。


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風間少佐、残業中に大爆笑す


やったー、合格だー(棒)

合格通知を確認しても嬉しくない。
そう、俺はこと「相馬 新(あらた)」は一校に入学が許されたのだ。

それも一科生で。嬉しくない!
原作では登場しない、謎の四葉、司波兄妹と同学年の「藤林」、そして「司波雪光」という人物。
そこに十師族の行動を調べる諜報員として一校に潜入するなんて嬉しくない!
まだ大亜細亜の湾岸基地への潜入してた時の方が楽だ!

というわけで風間少佐に連絡を取ってみた。
割り当てられた官舎の一室。俺の自室から風間少佐に連絡を取る。

101旅団魔装大隊を率いる風間少佐。「大天狗」とも称されるバリバリの軍人魔法師である。
その名声は「大天狗と呼ばれる魔法師」という形で
USNAの特殊部隊向けの軍事教本に登場している噂もある。
40歳越え精悍な顔つきで「渋い上司」として人気がある。

10秒ほどしてモニターに風間少佐が映る。
風間少佐に割り当てられた軍用アドレスで通じたということは、少佐は自分の執務室に居る。

「おう、関少佐。どうした」
原作の立派な軍人としての口調と違い、思いのほか砕けた口調なのは理由がある。
風間少佐の部下より多少年上ということもあり、年齢が近い。
そして以前の任務で「叔父と甥っ子」として二週間ほど行動を共にしたことがある。

おっさん面の風間少佐と、童顔の俺のコンビは思いのほか上手く作戦を完遂させたこと記しておく。

「突然悪いね。今、時間大丈夫ですか」
「私の方は大丈夫だ。お前の方こそ、忙しいんじゃないのか?」
意地悪にニヤッと笑ってきた。
このおっさん、ある程度把握してるな。

「まあ想像通り。一校のアレ、どこまで知ってる?どうもそっち方面の人脈が乏しくてね」
風間さんは俺の所属を把握している。
どうやらあの笑い方は今回の任務も掴んでいる気がする。

「多くは知らされていないがね。四葉の人間で、非常に優秀な人材なのはわかっている。
お前は一校の件どうするんだ?」
「どうすると言われても。四葉がいるなら前提が変わってくる」
「そうか。あまり派手にしてくれるなよ。特に四葉関係は面倒だから勘弁願いたいな」
「勘弁願いたいのはこっちだ。この歳で入学しろって、バカバカしいだろ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・はッ!はっはっはっはっはっは!」
どんな手段で一校に潜りこむかまでは知らなかったようだ。
モニターに映る風間さんはたっぷり3分間は大笑いした。
失敬な。
「じゃあ、入学は、ふっは、出来たのか、はっは・・」
「今の学生の勉強熱心さには参った。あんな面倒くさい数学やるのな」
「ふふ、そうだな、はっは、そうだ叔父さんとしては入学、ふっふ、祝いをやらないとな」
モニター先では風間さんが机を叩き、笑いを漏らしつつ入学祝いをくれるらしい。
「期待しとく。その様子だと面白過ぎて話は聞けそうにないな。また連絡するよ。じゃあ、入学祝いよろしく」
「期待、ふっはっは、しておいてくれ。いいものを贈るよ」
「よろしく。お疲れさん」
「ああ」

通話が切れる。風間のおっさん大爆笑しやがったな~。仕事疲れてんだろうな~。
夜10時過ぎて執務室にいたんだから残業だろうな。
今も昔も変わらんな~。


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目出し帽の男とお茶


入学まであと1か月ほどの昼下がり、支援課のオフィスに客が来た。
諜報機関にイメージされるカチッとした薄暗い部屋ではなく
普通の企業のオフィスのようなものである。

「魔装大隊の藤林少尉です。関少佐はいらっしゃいますでしょうか」
鈴が鳴るようなきれいな声がオフィスに響く。
藤林少尉は妖艶と言うより健康的な色気に満ちた女性だった。
職務中なので化粧はほとんどしていないが、それでも男性の視線を集めるだろう。

「自分が関だが」と彼女の前に立つ。
問題なのは俺は今、覆面をしている。諜報機関の人間なので、目出し帽をしている。
面割れは生死にかかわる。藤林少尉は驚くこともなく敬礼してくる。

こちらも返礼する。身長は俺と同じくらいかな~。
「風間少佐より、関少佐あてにお届け物がございます。今お渡ししてよろしいでしょうか」
彼女は紙袋を差し出してきた。

「ああ、大丈夫だ。これからお茶飲むがいっしょにどうだ?」
風間のおっさんの入学祝いはこれだ。
件の九島の分家筋である藤林少尉との接触である。なかなか気の利いた祝いである。
「はい、構いませんが施設内の喫茶室でしょうか」

国防本部にも一応喫茶コーナー的なものがあるが、目出し帽の男とお茶するのはいやだろう。
「いや、ここに貰い物だけどいいお茶がある。米田さん~、お湯ある?」
藤林少尉を部屋の隅にある応接兼打合せスペースである茶飲み机に案内する。

パーテーションで区切られておらず、本当に部屋の隅に机と椅子がある。
うちの課のベテラン事務お姉さんである米田さんがお茶を持ってきてくれた。
課員が貰ってきたインド産の茶葉である。

藤林少尉と二言三言世間話をするが、彼女は余裕の表情だ。
こちらの質問を想定しているようだ。アニメでもこんな余裕顔してたな~。
「そういえば一校に君のご家族も入学するようで。おめでとう」
「ありがとうございます。妹の奏と言うんですがこの度入学することになりました」
ここで「なぜご存じなんですか」と聞き返さないあたり、諜報の仕事向きである。
含みのある会話ができる。なぜ101旅団に所属したんだ!

「少尉と同じ優秀なお嬢さんなんだろうね。
それにしても一校には他にも十師族がいて、四葉まで入って諜報屋としては仕事が増えて助かるよ」
あ、藤林少尉の鼻先が少し動いて「そら来た!」といった感じの目をしている。
「そうですね。妹と同学年に四葉がいると思うと、どんなことが起きるか心配ですわ」
こんな感じで、世間話で話を聞いていく。
15分ほど話してわかったことは

・藤林少尉の妹は、少尉同様に優秀で電子・ネットワーク回りだと少尉に匹敵するらしい
・件の四葉は後継者候補と思われる。少尉は面識はない
・魔装大隊の噂の特尉殿はイケメンらしい
・九島の御大は四葉の入学には笑っていたらしい
・柳大尉が合コンしたらしい

こんなもんである。彼女はお茶のお礼を言って帰って行った。
風間少佐からの入学祝はブレスレット型のCAD。
「甥っ子へ 勉学に励め 叔父より」のメッセージカード付だった。

もうすぐ入学式である。早めに行くと兄妹のイチャコラが見れるんだろうか。



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森崎君、モーリーと呼んでもいいかね?

入学式の朝は快晴であった。
地球における短期的な寒冷期は終わり、地球は温暖な状態らしい。
なので女子の服装は薄い。制服はデザインがスッキリしており
女性のボディラインがよくわかる。
36歳のおじさんには目の毒である。

不思議なことに魔法科高校の劣等生の世界の女性はスタイルがいい。
今まで「私可愛くないから」とか「スタイルが悪い」と
自嘲する女性に何度か会ったが、だいたいが美人でスタイルが良い。
やっぱり時代は2次元だよな!と20歳ごろに思ったが
いつの間にか前世の年齢も何歳か過ぎて、今はこの世界が現実となった。

関重蔵少佐 36歳、今年、高校一年です!と自虐的に胸を張り校門を通った。
第一高校には「相馬 新」(そうま あらた)として入学する。
直前に入手できた入試の成績では筆記では真ん中、実技では真ん中より上の順位のだった。
一科生としては「まあまあ」あたりの成績だ。

入学式開始まで10分を切り、すでに講堂は人がいっぱいだ。
正面の壇上には、役員用の椅子が並べられており、忙しそうに生徒会役員が動いている。
お、あの娘が梓弓の異名を持つ中条あずさね。
あっちはハンゾー君こと服部刑部ね。意外と身体の線が細い。

二科生は後ろの方、一科生は前側に着席する。
あ、あそこのデカいのが西城レオンハルトか。アニメより精悍な顔してるな。
うわ、十文字会頭だ。どう見ても28歳の新人市議会議員みたいな貫禄してる。
あれで俺より18も年下か。中学時代のあだ名は理事長だろうな。間違いない。

座席に座ると隣りの新入生が声をかけてきた。
「君も一科生か。僕は森崎。よろしく」
あ、序盤の噛ませ犬、森崎君じゃないか!
体格はやや小柄。俺と同じくらいだろうか。まだまだ幼い顔つきをしている。
童顔は大変だぞー。潜入作戦で高校受験することになる。

「よろしく。相馬だ。結構、人いるな」
周囲は一科生100人二科生100人の合計200人である。
「ああ、後ろはウィードの連中だよ」
見下すようなニュアンスが声に混じっていた。
「お前、それ差別発言だぞ」
何気ない差別発言を指摘する俺の冷たい声に森崎が面食らっている。

当たり前の話だが、一科生とか二科生等に起因する
ウィードだのブルームだのの差別は実社会では何の意味もない。

国防軍の幹部の大半は非魔法師だ。支援課の事務担当の米田さんも非魔法師だ。村井大佐もそうだし、俺の両親もそうだった

魔法師の卵同士で差別して優越感に浸っても何も意味はない。そんなものは意味はない。

「森崎、モーリーと呼ばせてもらうが、うちの両親は非魔法師だ。魔法の使える使えないでいうと二科生より下だ」
「鳩が豆鉄砲喰らった」というのは今の森崎がそうだ。
回りの一科生も顔は向けていないが、こっちに意識が向いているのがわかる。
「そんなうちの両親に会ったらお前差別発言交じりで笑うのか」
「あ、いや、ええっと」
モーリーがしどろもどろになってきた。
そりゃそうだ。軽く差別発言したら、マジ切れの返答が帰ってきた。

「なんだ、ノリが悪いな」と捨て台詞言えるほど擦れてはいないようだ。
先日まで中学生だった少年に、即座に対応なんて難しい。
「あの、悪かった」
「いや、すぐに謝れるのはいい奴の証拠だよ。改めてよろしく」
小声ながら謝罪するモーリーに手を出し握手を促す。
おずおずと握手を返すモーリーは意外といい奴なのかもしれない。

モーリーと出身中学の話やどんな部活に入るのか、少しお喋りをしたところで入学式が始まった。
たしか司波深雪が「一科生とか二科生とか関係ないぜ!お兄様こそ至高!ふぁっく!」みたいな
超ロックな挨拶をするはずである。
正直アニメとか原作の知識がおぼろげなので、細部はまったくわからん。

入学式に緊張するモーリーを横目に式は淡々と進んでいく。
校長や教員たちの挨拶は無く、ほとんど生徒会主導で式は行われていく。
生徒会長の七草真由美が登壇して入学の祝辞を述べる。
確かに美少女で、20歳を越えれば美女になるだろう。
モーリー、顔が赤くなっているぞ!

とついに新入生代表の挨拶である。
登壇したのは司波深雪ではなく「四葉光夜」である。
どうやら「光夜」で「ミツヤ」と読むらしい。

はっきり言おう。長身イケメンである。
身長は服部副会長よりやや高いくらいで、美しい髪をポニーテールにしている
何とも妖しい目をした美少年だ。
「四葉光夜だ。この名前の通り十師族四葉家だ」

予想通りというか予想以上の美声で代表挨拶をしていく。
周囲の男女関係なく壇上に視線が向かっている。
あ、あっちに司波達也がいる。



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俺は知ってるんだ!オリ主転生小説で読んだことがある!


「我々は魔法師を目指すため、この学び舎の門をくぐった。
その結果として一科生と二科生に区別された。人はその能力によって区別される。
たがそれは学び舎内のことであり、そこに優劣はない。人は常に努力によって成長が出来る。
一科生と呼ばれる諸君ならわかるだろう。
研鑽の日々が君たちに一科生としての自負を与えてくれた。

だが一科生だからといって二科生より優秀というわけではない。
二科生には二科生になるべくしてなった特性がある。常に二科生は努力を続けるだろう。
一科生というすぐそばにいる壁を超えるために。努力とはいともたやすく壁を乗り越えるものだ。
二科生が一科生に、そして一科生は真に優秀な魔法師になるために。
我々の終着点は一科生として卒業することではない。
切磋琢磨し、技術を伸ばし、真に優秀なる者になることだ。

もう一度言おう一科生、二科生は区分でしかない。
優劣はそこにはない。真に優劣とは努力をした者と怠った者にこそ現れる。

常に努力を。あらためて新入生としてそれを誓うものである」

壇上の美少年は挨拶を済ませるとさっと自席に戻っていく。

うわ~、あいつも転生者じゃね?

挨拶というより演説にあっけに取られている新入生たちは只々呆然としている。
四葉の名前を出し、一科二科の差別意識をただの区分とぶった切り、「努力しろ」と念を押す。
新入生総代であり、たぐいまれなる美貌を持ち、カリスマを感じる声で言われたら説得力が高い。

横目でモーリーを見ると一文字に口を閉じ、神妙な顔をしている。
本人にも思うところがあるのだろう。

俺は顎に手をやり、改めて転生者について思いをめぐらした。

やっぱりあいつ転生者だよな?
そうすると3人の異分子も説明がつく。
つまりは3人とも、俺を含めれば4人だが転生者である。

「村井大佐!彼らは転生者です!仲間にしましょう!」
「よし、わかった!」

とはならない。転生者なんて魔法がある世界でも夢のような話だ。。
転生者のパターンは…大きく分けると2つ、じゃなくて3つか。

1、前世の記憶がない
2、前世の記憶がある
3、前世の記憶があり、かつ魔法科高校の劣等生世界と認識している

1番は無害だ。別にこの世界に新キャラが出たくらいだ。
2番は微妙なところ。前世の記憶と現実のギャップに折り合いがついていれば無害。場合によってはカウンセリングが必要そうだ。
問題は3番。つまり設定、この世界の未来や自分の関知していない部分での起きていることを知っていること。

四葉光夜の演説を聞く限りだと、あいつ3番目なんだよな~
本来は新入生首席が行う新入生挨拶をするところを見るに頭が良い。
四葉を大々的に名乗るのは「生まれ」が四葉本家に近い転生者。

四葉の本家に近くて頭脳明晰で大人びた妖しい美少年?
チートじゃねぇか!

頭脳明晰といっても魔法科高校なので、魔法力や魔法の行使についても相当高いはず。
あの司波深雪を抑えての新入生首席だ。今すぐ国防軍でも実戦投入できるレベルだろう。

チートじゃねぇか!

で、四葉本家絡みなら司波兄妹とも連絡の取れる立場だろう。
四葉を名乗るのは司波兄妹から注目をそらすためだろう。

俺は知ってるんだ!オリ主転生小説で読んだことがある!
でも実際そんなチートと一緒の学年になるとは思わんかった。

今すぐ足をばたつかせ奇声を上げて鬱憤を晴らしたい衝動を抑えつつ入学式は終わった。

これから3年間使うIDカードをもらうため各教室へ向かう。
「なかなか耳に厳しい新入生挨拶だったな。モーリー」
「うるさい、猛省中だ」
茶化すとモーリーは複雑な顔をした。
いいぞ、少年。その成長っぷりはおじさんの癒しだ。

教室、モーリーは原作通り1-A、俺は1-Bであった。
別れ際、モーリーとカードの配布が終わったら喫茶室で飯を食う約束をした。
数日内(明日だったか?)に司波達也と悶着を起こす流れだったはずだ。
そこで司波達也は深雪以外の一年一科生と知り合う。
つまりハーレムルートへのフラグ立てである。

原作ブレイクを狙うわけではないが、思ったよりモーリーが好印象なので
少しちょっかいをかけて主人公組からの印象を上げてやりたいところである。

そう思いながら教室に入ると見知った顔がある。そうさっき壇上で大演説をぶちまけていた奴だ。
四葉光夜。
回りには誰も寄り付かず、遠巻きに見ている。皆「四葉」の名と演説の内容から忌避しているのだ。
その中で平然としている姿はまさに孤高。

なのだろうけど、36歳の中年から見るに孤高と言うかボッチというか。

そして入学式の後は、頭を抱えるIDカード配布となった。
それは次の会話が目の前で繰り広げられていたからだ。

「君、四葉なんだって?あたしは藤林奏!分家筋だけどこれでも九島なの。よろしく」
「藤林?そうか、君が実技の次席の?四葉光夜だ。光夜でいいよ」
「じゃあ、あたしもカナデって呼んで」

うん?うん?無性にモーリーとバカ話がしたくなった。


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転生者容疑


我が妹の明子さんや、姪っ子の柚希ちゃんはもうすぐ小学校ですが
伯父さんとしてはランドセルを贈りたいのですが、いかがでしょうか。

とリアル36歳として一瞬逃避したが、すぐさま現実に引き戻された。

目の前で転生者容疑を持つ二人が挨拶を交わし、更には下の名前を呼び合う仲になったのだ。
いやまだこの段階で原作に何かしら影響が発生するわけじゃない。息を整えろ。素数だ。

「スゲー演説だったな」
二人に近づき、四葉に向けて言葉を投げる。
「いや、正直なことを言ったまでだ。お前は?」
胡乱な目を向けながら返答してくる。警戒しているようにも見える。
「相馬新。あんなデカいこと言う奴とクラスメートになるとは」
「へー、デカいことに聞こえたんだ。私、ふじばや」
「藤林奏だろ。さっきの自己紹介聞こえてた。九島だって」
「まあ分家も分家だけどね」
他の生徒と違い物怖じしない態度が気に入られたのか四葉も藤林もこちらに視線を向けてくれる。

「で、四葉は新入生挨拶したってことは相当入試はいい成績だったんだろ?」
「あまり四葉四葉と連呼されるのは好きじゃない。光夜でいい」
お、年相応な反応な気がする。
「じゃあ、光夜。俺のこともアラタでいいよ。そっちはカナデでOK?」
「もちろん。堅苦しいのは好きじゃないの」
光夜も軽くうなずく。君ら!年相応じゃないか!
長身で黒髪美形の光夜。
姉の響子とは違い、活発な印象と姉を思わせる美貌を持つカナデ。

僕、君の姉さんとお茶しばいたったで~、言ったら驚くだろうか。
二人に正対すると自分が平凡容姿であることを痛感する。
童顔=かわいらしい、みたいなイメージがあるがそんなことはない。
そんなことはないんだ!

美形二人の間に平凡面が入ってたことで、何となく周りの空気も和らぐ。
「お前入試どうだったのよ?」と聞く「いや普段通りだ」とそっけなく返す光夜。
そんなやり取りのすき間で女子生徒数人が
カナデに声をかけたりと新入生らしい交流がそこかしこで始まった。

残念ながら光夜に話しかけたのは俺だけだった。
そりゃざっくばらんな感じがする美少女とは交流しやすいが
「僕、四葉なんだよね」みたいな陰気な奴には話しかけずらいわな。

「なあ光夜。お前割とボッチだったりする?」
「そのつもりはない。が、周りが勝手に距離を置いてくる」
「それがボッチだ」
突っ込まずにはいられない。

教室内で会話が弾み始めたタイミングで教師が教室に入ってきた。
教師からの「3年間学業に励むように」的な挨拶が終わるとIDカードの配布が始まる。
「え~では明智」と生徒を呼び始めたとき教室のドアがもう一度開いた。
「遅くなってすいません。司波雪光です」

oh・・・


我が妹の明子さんや、姪っ子の柚希ちゃんはもうすぐ小学校ですが
伯父さんとしてはランドセルを贈りたいのですが、いかがでしょうか。

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これでお互いを下の名で呼んでも怪しまれないぞ


2090年を過ぎても麻雀はそれなりの遊戯として一定年齢層以上に遊ばれていた。
いきなりそんなことを思うのは「役満」という意味が今も昔も変わらないということだ。

俺は今日二度目の顎に触れながら内心を整理した。
同じ教室に転生者容疑が3人と、転生者捜査官と化した十師族の弱み握り潜入工作員が1人。
これを役満と言わず何を役満と言うのだろうか。
転生容疑者達と俺が1-Aだったら役満どころか雀卓投げ捨て案件だわな。
まだ1-Bにおれが知っている魔法科高校の劣等生序盤の面々がいないだけ救いか。

司波雪光はそそくさと空いている席、俺の真横の席に来た。ちなみに俺の前には光夜が座っている。
あいつの前も横も誰も座っていない。皆そこまでして距離取りたいの?
光夜・・・おじさん友達になってやるからな!

「カードの配布始まったばっかり?」と司波雪光は席に座りながら小声で聞いてきた。
「今始まったばかり。相馬新。アラタだ」と手を出すと
「雪光。よろしく」と握り返してくれた。

「ちなみに前に座ってクールぶっているのが四葉の光夜」
光夜に聞こえるように、雪光を誘導する。
わかっている。おじさん、わかっているんだ。
お前ら「これでお互いを下の名で呼んでも怪しまれないぞ」と思いながら自己紹介するんだろ。

「光夜だ。名前で呼んでくれ。あとボッチじゃない」
「そう?説得力ないよ。司波雪光。名前呼びでよろしく」
光夜の言葉を軽くいなす雪光。会話のイニシアチブは雪光の方が上かな?

教師から一つ咳ばらいをもらうと、その後は淡々とカード配布が終了した。
呼ばれる名前で気を引いたのは「十三束」と「明智」とか原作アニメで見たことのある面々だった。
十三束、マジ童顔。気をつけろよ。童顔は苦労するぞ。潜入捜査とか。

この後のスケージュールは特にない。各自帰宅だ。
気の早いものは、部活動の自主見学に行くものもいるだろう。
「なあ、飯行かない?」
「ん?」
目の前のボッチに話しかける。

「あ、僕も行きたい」と声を挟んできたのは雪光。
雪光の回りにはすでに「雪光ガールズ」と言えるような女子生徒が数人いた。
まあ筆舌に尽くしがたい美少年だしな。
雪光ガールズに視線を向けると「どうしよう?雪光君行くなら行きたいし…でも四葉君怖いし」みたいな表情をしていた。
陰気なイケメンより、明るい美少年だよな!

「これからカフェスペースに行って懇親会みたいなことするけど来たい人いる?」
教室を見渡しながら周辺に声をかけてみた。
カナデが「あたし行く!」と声を上げるとバラバラと「自分も」「参加します」という声が返ってきた。

総勢で15,6人くらいだろうか。ぞろぞろで教室を出てcafeスペースに向かう。
「モーリーいる?」
1-Aの教室前を通る時に教室内をのぞきながら、適当な生徒に声をかける。
丁度そこにいたのは、北山雫だ。眠そうな顔してるな。
「モーリーって誰かな?」
「森崎。モーリーって呼びやすいでしょ?」
一秒程度の間の後
「モーリー君」と教室内に呼びかけてくれた。
その声で、さっそく友達になった面々との会話をやめてモーリーが赤い顔で近づいてきた。
「お前!」
「何だよ、モーリー。飯行こうぜ。ちょっと人増えたけどいいだろ~」
ニヤニヤが止まらん。お前、小柄なんだから小動物系男子目指そうよ。そっちの方がモテるよ。
どうもモーリーは「ボディガード経験&一科生」はイケてる設定なのか「カッコいい男子」になりたいように見受けられる。

A組にも声をかけて、結局はAB組合同で総勢30人ちょっとでのお茶会になった。
これぞ組織に生きる中年の懇親会お呼び術!


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司波深雪はいない


カフェでは即席の立食お茶会になった。
残念なことに司波深雪はいない。北山雫と光井ほのかはいる。
う~んおじさんとしては家庭的な感じのする光井さんの方が好みやわ~。
ただ、依存的になる設定だっけか?そんなのあったよね?

「え、双子なの?」
「そう、二卵性の。A組の司波深雪が姉?妹?になるよ」
相変わらず雪光ガールズに囲まれた美少年はさらっと教えてくれる。
回りからは「やっぱり・・・」「似てるよね~」と声が上がる。
「そんなにそっくり?」と横にいるモーリーに聞いてみる。
「司波さんは物凄く綺麗な人で、そっくりだ」
ちょっと顔が赤くなっているな、モーリーよ。

「うん、子供の頃に洋服交換したら見分けがつかないくらいだったよ。今は僕の方が少し背高いから見分けがつくし」
俺、モーリー、雪光は大体同じくらい。同年代の平均身長から少し低い。
よし小動物男子トリオで行こう!と言ったらモーリーに「え!」と言われるし
雪光ガールズからは嫌な顔された。

「アラタは家族は?」
「一人っ子」
いや、ほんとは妹、妹、弟の3人と、姪甥が4人おります。

そんな感じで各自の家族構成とか、モーリーは実家がボディガード業と説明したり、当たり障りのない話を行った。
雪光から司波達也の話になったが
「実技は微妙だけど、筆記は抜群だった。魔工師志望でCADにも詳しい」と言う話を振ってきた。

女子から「やっぱり、雪光君に似てるの~?」という質問に
「いや僕と言うか…光夜みたいな感じ。ぶっきら棒な感じは無いけど」
と光夜の名前が出ると、光夜が近づいてきた。お前、お茶会でもボッチだったのか。

「呼んだか」
恐ろしく響く美声にうっとりしそうになるが、イケメン美声のボッチと思うと
おじさん、こいつの将来が心配になる。
「いや、二科生の雪光の兄貴がお前に似てるんだと」
「もう少し社交的だけど」
光夜に説明してやると、雪光がぶっこんできた。
そこに光夜は「覚えていろ~」と視線を雪光に送っている。
どうせあとで秘匿回線で連絡取り合うんだろ。

「でもでも、司波君のお兄さん、二科生で筆記抜群だったんですよね?入試だとどのくらいの点数だったんですかね?」
間を取り持つように光井さんがフォローをしてくれた。
やっぱり君はいい子だ!

「満点だ」
光夜が一言で返す。お前!もう少し、話題が広がるような言い方しろよ!効率重視か!
周りが黙り込む。お前ホントに!ボッチボッチ!四葉のボッチ!

「え、あの試験を」
驚きを隠さないのがモーリーのいいところだ。
「ああ、二科生と言ってもある側面では一科生以上だ。あまり一科生だからと言って偉ぶれる理由にもならん」
光夜はモーリーの目を見ながら、釘を刺す様に言ってきた。

やっぱりお前転生者だろ。

魔法科高校の劣等生で序盤も序盤で有名なのが「森崎くんクイックドロー事件」である。
これにより司波達也は北山雫と光井ほのかの知己を得、
さらには生徒会長&風紀委員長とも面識を得る。

原作ではクイックドロー事件時点で二科生差別意識のあったモーリーだった。
このタイミングでその事件を見越したようにモーリーに釘を刺す言い回しは
やはりこいつは転生者。

「で、モーリー。お前はどうだったのよ。入試は」と話題を各自の入試の話に切り替えた。
不承不承、モーリーが入試結果の話をすると意外と好成績なことに周りが驚く。
モーリーお前頑張ったんだな。
あまり成績が振るわなかった俺としてはちょっと尊敬しちゃう。

話をまとめると入試成績に関しては

総合首席:ボッチ
総合次席:司波深雪
だったらしい。

筆記(理論)だと
首席:ボッチ
  同:司波達也
次席:司波深雪

実技になると
首席:ボッチ
同:司波深雪
次席:藤林奏
同:司波雪光

らしい。

あー、お前らやっぱり転生者だろ。

雪光は筆記だと深雪のすぐ下で、筆記も総合も三位につけているらしい。
「へー凄いね」とひょいと現れたのが実技次席のカナデだ。
「カナデは筆記どうだった?」
「あたし、まあまあ。アラタは…もしかしてギリ?」
とカナデは意地悪な笑いを向けてくる。

美貌、愛嬌、ちょっと意地悪な性格。こりゃ男子にモテますよ!響子さん!
「聴いて驚け。普通だ」
「何だ。モーリーに絡むから結構できる方だと思ったのに」
カナデまでモーリーと呼び出したか。
まんざらでもない顔しているモーリーを見ると、モーリー面食いだな。

「いいの。俺の伸びしろはデカいから。卒業までには総合TOP10には入るよ」
「言うわね~」
まあ、来年の今頃は作戦終了として転校するんですけどね。





修正前
「そう、一卵性の。A組の司波深雪が姉?妹?になるよ」

修正後
「そう、二卵性の。A組の司波深雪が姉?妹?になるよ」


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「モブ」「その他」「生徒A」


入試の話のあとは俺、カナデ、光夜、雪光、そしてモーリーで部活や校内の実力者の話になった。

()()()校内の実力者に詳しい雪光が話し、光夜やカナデ、俺が茶化したりして
モーリーが「そんなに凄いのか…」とか「なん・・・だと・・・」とかリアクションをしてくれた。

「十文字会頭や七草会長は、出自以上に実力だろうな」と言った光夜に
うなずく転生者疑惑の2人。
「モーリーも頑張んなよ。九校戦で新人戦じゃなくて代表戦のレギュラー狙うとか!」
カナデはモーリーの背中を軽く叩きながらハッパをかけている。
モーリーへの会話傾向を見るに、光夜は釘を刺し、雪光は観察、カナデは干渉と言った感じである。

「でも、三校に一条の御曹司がいるんだろ。九校戦もどうなるかね」と何気なく話題を振ったら
光夜、雪光、カナデの三人とも同じリアクションをした。
小さく「ふっ」とほほ笑んだのだ。
「なんだ?光夜、余裕だな。新人戦でも出る気満々なのか?」
「いや、そうではないんだ」
感情を抑え込んで返答するが、お前ら司波達也無双が行われる事実を知ってるだろう。

そんなところで、昼を過ぎとなりで各自三々五々解散となった。
このお茶会で仲良くなった者同士で、この後下校途中でお茶したりといった感じだ。

とりあえず「四葉」とは友達になったが、次は七草と十文字だ。
手っ取り早いのが、生徒会に入ることだが成績上位者が前提なので難しい。
次に部活で成績を上げて十文字会頭に目をかけられること。
狙うならこのラインだろうか。

帰って村井大佐に最初の報告だ。四葉はボッチだと。

駅まで歩く俺を誰かが後をつけている。
だれだ?といぶかしむが、今のところ因縁をつけてくる相手はいないはず。
モーリーはあの後、家族と食事があると言って帰っていった。
他のクラスメイトも同じようなもんだ。そりゃ国内最高の魔法師育成機関に入れたんだ。
家族で改めて食事会ぐらいはするか。

原作の流れでは俺はまだ「モブ」「その他」「生徒A」でしかない。
原作キャラの絡みはモーリー、北山雫、光井ほのか、あと自己紹介した十三束や明智くらいだ。
学外だと風間少佐や藤林少尉、その他諸々は軍関係者である。

まてよ。転生でも原作キャラクター転生者が予定外の行動を起こす俺を尾行しているとか。
う~ん、転生って怖い。

駅前の短い道をだらだらと歩きながら道すがらの色々な店を見ていく。
適当なところで、駅までの道を外れてタイミングを計るつもりでいる。
正面戦闘になったら学生如きに負ける潜入工作員ではない!
まあ四葉とか十文字とかだったらヤバい。

ぶらつきながら裏道通ったり、一駅離れたゲームセンター(この時代でも、まだある!)に寄ったりで
結局、一人暮らしの自宅という名の待機場所に戻ったのは17時を少し超えていた。

それにしても疲れた。心労が重なる一日だった。
このあとモーリーがやんちゃするかどうか?そして教師推薦枠の風紀委員がどうなるか?
原作への介入具合がある程度見えてくる。
そして壬生”袴姿の可愛い”紗耶香が起こす騒動と決着。

半年分の潜入捜査をした気分で一日を終えることとなった。



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俺はアカシックレコードを見たのかもしれない

三人称視点となります



「どうだった」
「いや、どうにも。擬態としては板についていたし、こっちを見透かしているなら相当なものだね」

光夜はあてがわれた四葉の東京別宅で秘匿回線の先の雪光と達也、深雪と協議していた。
秘匿・秘密を重視する四葉では、次期当主として深雪が最有力視されていた。
世間からの注目を避けるために、光夜は四葉を名乗り第一高校へ入学した。

「今のところは敵対的でもないし、情報の引き出し方も強引とは言えない。普通の同級生の域を越えないね」
今日尾行を行った雪光は敵対的でないと判断したようだ。

深雪を守る守護者は3人いる。

一人は実兄であり、戦略級魔法師であり、再生と分解を操り、最も強いと目される司波達也。

双子の半身であり、機械工学に聡く、社交性を持ち、「最速」の司波雪光

四葉 元造の冷凍保存された精子にて生まれた「現時点の最高傑作」四葉光夜。

光夜は他三名のような特異能力こそ持たないが
魔法行使の技術、体術などで現時点でもっとも完成された魔法師の一人である。

高校への進学や四葉と司波に別れることを四人で話しあった際に光夜が転生者であることを告げたのだ。
正しくは「未来の出来事を知っている」ことをである。

「俺はアカシックレコードを見たのかもしれない」
今のところ人生で一番成功した嘘だったと自画自賛している。

瞑想中に自己の限界を引き出すため自分に精神干渉魔法を使ったところ「断片的に未来を見た」ということにしている。
勿論光夜は前の人生を全て覚えているわけでもなく、「魔法科高校の劣等生」作品のすべてを覚えているわけではない。
この世界で成長もし、いろいろと勉強していくうちに忘れていったこともあった。

その光夜に同調するように「僕も…」とおずおずと言ったのが雪光である。
奇妙な血のつながりの中で生まれた弟分が自分と同じ転生者で、ガチオタ具合は自分より少し上だった。
お互い原作に登場しない人物として接し合い、奇妙さを感じていたがこの瞬間納得したのを思えている。

達也と深雪は最初驚いたが、それでも子供の頃から一緒に育った兄弟を疑うことはなかった。
達也は原作通り深雪にしか強い情動は動かない。
ただそれでも深雪の次くらいには雪光を大事にしていたし、四葉の身勝手さによって生まれた光夜には、同情のようなものを感じていたのも事実だ。

そして四人は秘密を共有することとなった。
光夜と雪光の記憶と、達也と深雪の目的。
「現時点では、素性についても問題なく行動も怪しむ点はないんだな」
達也の確認に首を縦にするが、それでも違和感はある。
「俺の見た中にはあんな人物はいなかった」
「でも僕らが共通で知っているのは深雪と達也兄さんのことが中心で、「それ以外」の場面は詳しくない。そうだろ」
光夜の不安に雪光が諭すように答える。
雪光は聡明だった。落ち着き、臨機応変に対応できる。

光夜も知識だけではなく慎重さと忍耐力と知性があり
達也もその知性の高さには疑う点はない。
四葉の中でも上位の実力を持つ三人である。
そこに現れたのが「相馬新」という男子高校生である。

「少し茶化されてナイーブになっただけじゃないかな?光夜兄さんボッチだから」
「俺が達也よりぶっきら棒とはよく言ってくれたな」
モニター先でニヤニヤする雪光。すでに話は聞いていたのか深雪も笑っている。
「藤林奏の方は今のところ問題はない」
達也が話を元に戻す。そして咳ばらいを一つ。
「俺は光夜より、もう少し口数が多いからな。印象が違う」



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スゲー、アニメと同じ声だ


意外と1週間というのは短いもので、すでに4月も半ば。元気してますか?
俺は毎日大変です。

モーリーのクイックドロー事件は起きませんでした。
その代わり「モーリー、司波達也に口頭で難問を聞くが即座に回答されてみんなに同情される事件」になった。
モーリーはその人生において司波達也に関わらずにはいられんのかね。
その後、司波達也の風紀委員会入りはつつが無く行われ、服部先輩の敗北は知れ渡った。

で、問題がいくつか。

1、課題が難しい。
うちの小隊の魔法大学卒の新任少尉がいるので丸投げでOK。

2、モーリーが風紀委員から外れる
カナデが就任です。「九島の威光」を使うので校内は平和になるそうだ。
他の風紀委員は「二代目姐さんの誕生だ!」と笑っているらしい。

3、雪光が生徒会入り
生徒会における書記補佐として入ったらしいです。なんか七草会長が「弟みたい~」と可愛がっているらしい。
本人的には雪光ガールズから距離がとれて羽が伸ばせるとか言ってる。

4、光夜、部活連執行部入り
モーリーと同じコンバット・シューティング部に入りやがった!
即執行部入りでみんな唖然。
みんなが距離を置く中、モーリーが話しかけたことで練習のバディ役は
モーリーの仕事になったよ!ボッチが減ったよ!

そして大問題なのが次だ。

5、司波達也と接触

ついに接触してしまった。あまりいい形ではない。
問題の壬生対桐原の試合。カップル同士の馴れ初め喧嘩を見ようと武道館に足を運んだ。
流石、一校。基本的に建物がデカくて立派。

二階の観戦席ではなく、一階で見ていたら
「純粋な剣技では~」「実戦~」のカップル予定の二人の痴話喧嘩が開始。
少ししたら司波達也登場!

深雪とは雪光の紹介で少し話したが、生で見ると凄い美少女だった。
そして達也である。おお、スゲー動いてる!腕クロスした!

などと感動していたら剣術部の生徒が勢い余ってこちら側に倒れ込んできた。
剣術部員が倒れる拍子に後頭部をぶつけそうだったので重心とタイミングを計り
倒れる直前に起こしてやった。合気で。

その瞬間、肩越しに司波達也がこっちを見たのだ。
剣術部員は倒れたはずの自分が立ち上がっていたことに驚き
「え?!」とか言っているが、司波達也は視線を外した後も俺に対して意識を向けていた。

ありゃ、まずい。最悪である。
司波達也が原作通り、あの九重一門の麒麟児であり
武術・武道・格闘において非凡な才があるなら俺のやったことを理解したはずだ。

俺のチートの一端を見られた。俺はそそくさと足早にその場を・・・
と言いたいが変な行動をとるとさらに怪しまれるので
「先輩大丈夫ですか?」と先ほどの剣術部員を心配するふりをして、足止めした。

その後、他の風紀委員が応援に来たところで、司波達也は足止めされた剣術部員を連れて行こうとする。
「先輩、こちらへの手出しを録画しています。ご同行ください」
促されて、剣術部員は連れていかれる。そして司波達也は俺の方を向いて言い放った。
「見事な腕だな」

あ、バレテーラ。「偶然です、でへへへ」と言うのも胡散臭い。そこで
「少しかじってね。上手くいったよ」
「相当な修練に見えるな。部活は?」
「検討中。司波達也だろ?相馬新。雪光と同じクラス」
全然警戒解かないでやんの。自然な風にしてるけど、身体は半身で視界も広くとっているし。
「ああ、司波達也だ。部活をやらないなら風紀委員に推薦するが」
「ペーペーにそんな権限ないだろ。茶化すなよ」
軽く笑ってやり過ごそうとしたが、達也の警戒心はまだ高いままだ。
武道館の出口で他の風紀委員が「司波!」と声をかけてくる。
司波達也はその声に従うように合流しに歩き出す。

去り際に言った司波達也の「またな」というセリフが面倒である。
目的は十文字&七草の弱味探しなのに、司波達也が邪魔です。

というのが数日前。
現在は放送室に壬生紗耶香たちが立てこもりした日の放課後。
つまり国際的反魔法師団体によるテロ行為まであまり日がない。

何やら忙しそうに雪光、カナデが動いている。
特にカナデは放課後そそくさとどこかに行く。
モーリーと光夜は部活に忙しい。

さてオジサンとしては、どう動くか?と行動方針を決めたいところだが
出来ることは村井大佐に学校内の不穏な様子を説明し背後関係を調べてもらうぐらいだ。
「ブランシュです!大変です!」と騒いでもこちら側には根拠がない。
村井大佐が上手く情報を引っ張ってくれれば介入する口実ができる。

「関少佐。あまり芳しい事態ではないようだ」
モニター越しに村井大佐の神妙な声がする。
待機場所としてあてがわれたマンションは一人暮らしするにはやや広い。
連絡要員が来ては「へ~少佐、いい所もらいましたね~」と
顔出しに来るので実際は一人で羽を伸ばすことなどない。
諜報は24時間仕事なのだ!

「と言いますと」
「ブランシュは知っているな。反魔法組織がどうやら東京八王子近辺での活動が確認された」
「公安情報ですか?」
「公安情報だ」
支援課の情報のパイプは多岐にわたる。外事課、内情、公安、国防内の各種諜報機関。
冗談で「支援課に聞くと内情の食堂の献立が手に入る」というものがある。
有用な情報、無用な情報といろいろ入手できるのが支援課の利点である。

この手の犯罪組織については公安の情報網が確実だ。
物件購入や、レンタカーの借主、そういった草の根の情報を広く深く収集しているのはやはり公安である。

「どんな計画かまでは・・」
「判明しておらん。ただ君からの報告と合わせると一校での工作が行われる可能性も低くはない」
「では必要があれば暴れても…」
「で、七草か十文字とは」
「十文字会頭の所属する部活には所属しましたが、練習に顔出すくらいで今はまだ」
「そっちが先だな」
と釘を刺され、襲撃の日まで楽しく部活です。教官の蹴りもなければ怒声もない。
これが実戦だ!と言いながら拳銃をぶっ放すヤバい訓練もない。
筋トレ楽しいです!


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役割分担は決まっている

三人称視点です



それ見たことか、というような表情をする光夜に、表情の曇る達也。
心配そうに見つめる深雪に、考え込む雪光。
「それほどの腕前なのか」
「ああ、九重門下でも対応できる者は少ない」
その言葉はその場にいる四人にはなかなかショッキングなものだ。
発言した達也でさえ。

今日あった剣道部と剣術部の乱闘騒ぎの一瞬でみた相馬新の合気の技は
秘匿回線で報告し、意見を検討する意味のあるものだった。

単純に身体能力で言えば、達也と光夜はほぼ同じだ。

ただ体術の訓練時間が多い達也の方が素手戦闘では光夜より上だ。
雪光は身体能力は年齢相応だが体術の心得はある。深雪とともに九重門下で汗を流した。

4人の中で格闘に秀でる達也をして、この意見である。
何か特殊な状況下、例えば魔法を制限された中で相馬新と敵対するのはまずい。
勝機が低いのである。
勝てる見込みというのは重要でその算段が無い状態ではガーディアンは時間稼ぎの壁にならざるをえない。
それでは確実に深雪を守れるとは言い難い。

「でも達也兄さんが本気になれば」
「それは楽観だよ。雪光」
達也の口調は優しいが出た言葉は厳しい。

「相馬新の見せた技術が、魔法によらないもの、そしてさらに高度な技術を用いることが可能とすれば厄介な相手だ」
光夜の言葉に一同うなずく。
「少しあいつに揺さぶりをかける必要がありそうだな」
「ああ、だがブランシュの動きも気になる」
達也の目的は深雪の安全。それを優先するのは当然である。

「僕の方も動くよ」
雪光も自分の手駒の使用を提案する。
彼だけがこの四人の中で自分の手駒を持つ。
「いや、お前のところはブランシュ対策のままでいい。直近に起きるのはそちらだ」
光夜の頭の中にあるのは一校襲撃事件の対応の段取りだ。

原作に登場する面々だけでも対応可能だが
四葉として名を高め、深雪や達也、雪光をカモフラージュするにはうってつけの舞台である。
ブランシェへの反撃は達也、深雪、雪光に任せるとして
自分は学内の混乱を抑えて「学内のリーダー」として全生徒に印象付けたい。
既に役割分担は決まっている。

「そうだね、光夜兄さんには目立ってもらわないと。目立って僕とアラタ以外の友達増やさないとね」
意地悪にいう雪光に光夜は返答した。
「モーリーも友達だ」
深雪が吹き出し「ふふ、ごめんなさい」と肩を震わせている。

「揺さぶりに関しては僕の方で手配する。達也兄さん、カナデに協力を要請するけどいいかな」
「何をさせるんだ」
「カメラマン。光夜兄さんにも出番があるからよろしく。僕の想像通りなら何かするよ。アラタは」

雪光はアラタの件に関しては内心焦っている。早期決着をしたい。
原作の物語からこのまま乖離し、自分たちの「未来知識」のアドバンテージが消えるのは怖い。
この世界で生き残るためのリスクヘッジである。

「相馬新」が不安材料として徐々に大きくなっていくのを雪光は感じた。



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俺、諜報員というかニンジャじゃね?

当日を迎えました。ブランシュ襲撃です。
すでに壇上には、二科生による抗議団体が七草会長とあーだこーだしています。

不思議なことに講堂には風紀委員ではなく、一部部活連の有志が
「警備」の腕章とともに数か所立っていること。

あ~、すでに準備万端ね。この辺りは転生者組の差配だろう。
今日登校時にも学校外で日頃見ない配達の車を2台ほど見かけたので
四葉の工作班が待機しているのかも。

壇上の討論は「二科生にも講師くれ!」
「履修と成績いかんによっては講師による講義の履修も可能です!」とか
喧々囂々だ。たださすが七草のお嬢さん。舌戦でも優位である。
こりゃぼちぼち決着が…

と講堂天窓の割れる音!ばりーん!ボン!煙だ!服部先輩の見せ場だ!
はっきり言って、原作を知り、現役の諜報部員兼凄腕兵士の俺から見れば
ブランシュの襲撃は杜撰な戦闘計画なので慌てることはない。

警備の面々が講堂周辺を警戒し、一部の警備役が生徒の退避のため敷地外への避難経路を確保に講堂を出た。
あ、モーリーいるわ。頑張れよ!見せ場だぞ!

講堂内の生徒は突然のことに不安になるが、さっと壇上に上がった光夜が
「我々は部活連執行部の有志警備です。周囲の安全を現在調査中です。皆さん取り乱さず、規律をもって行動してほしい」
と、恐ろしく通る美声で生徒に語り掛けると、動揺も少し静まった気がする。
逆に「大丈夫ですよ!大丈夫ですよ!」を連呼して安心させるんだか不安にさせるんだか、面白いのが中条あずさである。
梓弓打ってやれば一発なのにね!

すでにレオンハルトはいない。千葉エリカもいない。風紀委員もほとんどいない。
司一の確保に、図書室からの国防軍のデータベースへの不正アクセスを止めに動いているようだ。

遠くの方から「パンツァー!」の声が聞こえる。よしちょっと手助けに行くか。
不安な生徒たちから抜け出すように
というか凄腕潜入工作員はこんな状況から抜け出すなど朝飯前である。

と、偉そうに言ったが行動に移すと意外と難しかった。
警備の面々の一瞬の油断。油断というより目の動きをを盗んで講堂の外に出る。
レオンハルトのデカい声の方に行くと襲撃者と大立ち回りのレオンハルトや警備の部活連の面々がいる。

刃物や拳銃などで装備を固めた襲撃者に、時にはパンチ、時にはキックと善戦するレオンハルト。
警備の面々も格闘系部活なのか物怖じすることなく、戦っている。

よしよし日本の国防の未来も大丈夫そうだ。
舗装された学内の道も一部割れていたので、そこから適当な大きさの破片をいくつか拾い上げ
乱戦を続ける集団へと踊りこむ。

乱戦になると意外と人間の視野は狭くなる。
高速道路における高速走行時の視野の狭さと同じだ。

俺は身を低くしながら人の隙間を縫うように乱戦内を走り抜ける。
走り抜ける際に襲撃者の側頭部や、顔面、膝、時には急所へ破片を投げつける。
古代中国には指弾と呼ばれる技術があり小石を投げ、敵の急所を攻めたという。
それである。

突然の衝撃に一瞬間の空く襲撃者。あとはそこに渾身の一撃を入れる警備の面々。
5分もしないうちに講堂近くの襲撃者たちは地面に伏した。

少し離れたところで
「大丈夫か?」
「ああ、なんてことないぜ」
「お前、二科生の・・・」
「西城レオンハルトだ」
「僕は」
「森崎だろ」
とモーリーがレオと友好を深めていた「なかなかやるな」「そっちこそ」みたいな会話を始めたので
そそくさ退場。
モーリーへの主人公組のヘイトが減りますように!

講堂に戻ると「退避路は確保してあります。この後講堂をクラスごとに移動します!」と服部副会長が指示をしていた。
警備の面々に促されて、1年生から順に学校の外にある避難施設へと移動する。
あとで聞いた話だが途中1度襲撃者の残党とかち合ったが光夜の対応で捕縛したらしい。

今日の授業はこれで潰れた。

避難施設で点呼を取り、警察と有志生徒の警備が続き夕方ごろまで続いた。
日も暮れ始めたあたりで七草会長が全生徒に向かって「暴徒による構内襲撃は鎮静化されました」と報告があり
そのあと、生徒は解散、帰宅となった。

今頃はブランシュのアジトへの反撃をしているころだ。
俺も帰宅もとい待機場所へ向かうべく生徒の人波に紛れようとしたとき

「へいへい!アラタ君!ちょっとお茶しない」
振り向くといたずらっ子の笑みを浮かべたカナデと。神妙な顔をした光夜がいた。
う~ん、作戦失敗かもしれません。大佐。次の任務は西EUへの諜報活動か大使館警護がいいな


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妹の安全の確保のためだ。死ね


「お茶にしては豪華すぎませんこと、カナデさん」
「何をおっしゃるのかしら、アラタさん。四葉なら当然ですことよ」
冗談に乗っかってくれる分カナデはいい奴だと思う。

目の前には魔界の王子のようにクソ高い椅子に深く座る光夜。
カナデは俺と光夜の間。そして光夜に正対する形で俺の席。

避難施設から黒塗りの高級車に押し込められ、到着したのが
どう見ても「お高級ざんす」という感じの洋館のレストラン。

個室に通され、俺は言葉を発せずに威圧する光夜の前にいる。
隣ではカナデがニヤニヤしている。

「あ、遅れた?」
とドアを開けて登場したのが雪光。おう、期せずして転生者がそろったよ。
「いや~あの後、予定通りに進んでね。後始末も終わったし、これで九校戦を迎えるばかりだよ」
雪光は光夜とカナデに話しかけつつも、俺の様子をうかがっている。

さては、お前ら転生者だな?

「あーなんだ!煮るなり焼くなり好きにしろ!なんだ!そんなに深雪ちゃんに一目ぼれしたのが悪いのか!」
そう言ってテーブルに突っ伏してみた。
カナデが「ふ~ん」と言って笑っている。見えはしないが笑っているのだろう。

「そんな見え透いた態度はいいよ。ねぇ」
雪光が光夜に同意を求めると
「別段この場で危害を加えることはしない。アラタ、お前の持つ技術について聞きたいだけだ」
う~ん、一番ちょろい奴が態度軟化しただけか~。
問題は会話の上手い雪光と、立場が不透明なカナデなんだけどな。

「何だよ、聞きたい技術ってよ」
基本会話は突っ伏したままだ。できる限り不機嫌な声で対応する。
「アラタ。格闘技術に精通しているな」
「うん、昔じいさんの紹介で合気道の道場に何年か通った。それが問題でも?」
「驚異的な技術を司波達也から聞いた。もしお前の技術・能力が卓越したものなら四葉として契約を結びたい」
それ嘘でしょ。光夜さん。
「じゃあ、なんでカナデがここにいるんだよ~。魔法師の専属契約なら雪光もカナデも関係無いじゃんかよ~」
不貞腐れる芝居は得意だ。
「あたしは技術提供しただけ。今日は面白い動画が取れたからね」
そういってカナデは小型モニターを俺に向け、何やら再生する。

画像は、映っている対象は遠い。だがわかるのは今日の講堂近くの広場での乱闘だ。
「ちょっとね。ドローンジャマ―ギリギリの所からだから画像は荒いけど、これアラタだよね~」
ちょっとニヤニヤしながら追求するの止めてもらえます。性格悪いざますよ。カナデさん。

あ~、はいはい、指弾での戦闘支援ね。

「違います~。講堂内にいました~」
しらを切る。光夜や雪光、カナデの実力が不明なので実力行使で逃げるのは得策じゃない。
今、彼らからしたら俺のバックボーンが不明だ。

これは一種の牽制合戦だ。お互い相手のバックボーンや正体に確証が持てない。
だから揺さぶりをかける。揺さぶられた方は、構築してきたロールプレイ(役割演技)を維持しようとする。
だがロールプレイで綻びを出すと追求される。追及されるとバックボーンを出して別の牽制を行って逃げるか
逃げた後にバックボーンを使って牽制する。そしてバックボーンの存在をしられ尻尾掴まれて敗ける。
そういうゲームなのだ。

俺の格闘技術については古式の流れをくむとか言えば彼らは納得するだろうか。
「もしこれがお前なら驚異としか言いようがない。乱戦状態を駆け抜けながらの支援攻撃」
光夜は感嘆の表情で、あの美声で褒めてくる。
「アラタ。お前がどこかの所属なら言ってくれ。交渉が必要なら交渉しよう。お前の実力は手元に置いておきたい」
出たー!四葉の超上から目線発言!俺が引き抜かれたいのはお前らのところじゃなくて、101旅団か地方自治体の職員だよ!
俺の安定志向舐めるな。

突っ伏した状態から身を起こし怒りの表情を作る。
「あのな、光夜!入学から短い間だが友達だと思っていたが、なんじゃそりゃ!人を売り買いの対象みたいに言いやがって!」
一瞬で作った怒りの表情に光夜は観察を決め込んだようで、特にリアクションはしない。よしあいつは受け身に回ったぞ。
今度は椅子から立ち上がり、駄々っ子のようにヒステリックに何度も足を踏み鳴らす。
少し涙を浮かべてみるのが、怒りと混乱を象徴して効果的だ。ちなみに涙を流す最短レコードは45秒だ。

俺は怒りの表情のまま、カナデ、雪光と睨みつけ
「ふざけんなよ!お前らも!なんだ!お前らはそんなに偉いのかよ!」
それだけ言って俺は部屋を出る。カッコがついたのは部屋の鍵が閉まっていないこと。上手く部屋から出れた。
「クラスのお調子者が感情的になって切れた」というロールプレイはうまくいっただろうか。
雪光やカナデが呼び止めないとみると、ロールプレイの成否は成功と考えていいかな?

さて、これで彼らは俺をどうとらえるか?

・単なる格闘技経験者で今後は放置
・さらに探りを入れてくる
・問答無用「妹の安全の確保のためだ。死ね」

あの中で決定権を持っていそうなのは光夜。次に雪光だ。カナデはどうだろう?四葉と縁故がないから本当に技術提供だけか?
若い子相手に立ち回るのも存外楽しいものである。


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全部技術なの

三人称視点です


「過大評価だったか?」
光夜は表情は変えていないが、声にやや沈むものがある。
「う~ん、どうだろう。芝居がかっている感じはあるけど、普通に怒っているようにも見えるね」
雪光はそう言いながらカナデを見た。この場の三人の中でアラタへの隔意はもっとも無い。
「さあ、ただこの動画はアラタだよ。間違いない」

自信満々に言うには根拠がある。あの姉から「支援課の覆面の人」の話を聞いたからだ。
「支援課でお茶をした。覆面の人が対応してくれた」程度で、会話内容に触れない。
それだけの情報だが入学の一か月前、一校に入学する自分に向けて話したのだ。
それはつまり何かがあるということだ。

カナデは転生者の自覚もあるし、目の前の二人が転生者であると認識している。
言葉で確認はしていないが二人も、カナデのことを転生者と認識しているようだ。
原作に登場しない重要人物の血縁。それが転生者だ。

ただアラタは違う。重要人物の血縁ではない。また重要人物が周りにいない。
物語の中心人物、つまりは司波達也、深雪、七草真由美、十文字克人、西城レオンハルト、
千葉エリカ、吉田幹比古、柴田美月、北山雫、光井ほのか
そういった人物に積極的に接触しない。

森崎の関係者か?確かに森崎は原作登場人物だが、物語の根幹には関係しない。
森崎の成績が上がっても司波達也と深雪の物語には干渉しない。

カナデも思考の海に潜ってしまい誰も話をしなくなった。
誰も話さなくなり10分とたったころに聞きなれた声がした。

「雪光!光夜お兄様!」
深雪が物凄い剣幕で部屋に入ってきたのだ。
後ろには溜息交じりの達也がついている。
「先ほどアラタさんに会いました!無礼な申し出をされたのは本当ですか!」

すでに足元の絨毯は霜が降りている。深雪特有の魔法の余剰効果だ。
「急ぎすぎだ。何か事を起こすなら情報収集後にすればいいものを」
達也がぼやきながら、深雪の肩に手を置き、気持ちを落ち着かせるようなだめる。

洋館近くでアラタと出会った深雪たちはアラタの口から
「実力が気に入ったから手元に置きたいってよ。俺は置物の人形か」と聞かされた。
人を物のように扱うのは嫌悪する四葉真夜と同じに思えた深雪は一瞬で激怒した。

「悪かった。急ぎ過ぎたよ。次の登校時に頭を下げる」
深雪に叱られてはお手上げと言わんばかりに光夜は両手を上げる。
友達を侮辱したのか、騙しあいで負けたのかよくわからない。あまりいい気分ではない。

「雪光!あなたもですよ!」
「ああ、うん・・・」
思考の海にまだ半分いる生返事の雪光に対して
深雪は大股で近寄ると力いっぱい頬を抓った。
「わかりましたか!」
「ふあい!ふあい!わかりまひた!」

「ねえ達也くん、姉さんの上司さんに連絡つく?」
再度溜息をつく達也にカナデは言葉を投げる。
「可能だが何を危惧しているんだ」
カナデもまだ思考の海から完全には戻っていない。
そんなカナデに対して達也は一定の信頼をしている。

電子の魔女と異名を持つ藤林響子の妹。九島烈の孫娘。
姉に匹敵する魔法力と電子技術。
そして「精神波動による電子機器操作」という世界で一人の異能。
魔法のような魔法でないような、この不思議な能力が彼女を情報の世界へと駆り立てた。

電子の魔女と双璧をなすハッカーにして情報収集者。

達也も過去に2度ほど任務で彼女のハッキングを見ている。
指揮棒を振るうように、空中で手を動かすと難攻不落と言われた電子錠が開いたこともある。
ついた異名が「偉大なる指揮者」(アークコンダクター)である。
その異能や魔装大隊への外部協力者として、達也は彼女に信頼と妙な親近感がある。

「上司さんに、魔法みたいな格闘技が出来て、警備を抜ける技術を持っていて、
ウソ泣きの名人で、尾行されてても気にしないメンタルを持っている人、知らないか聞いてみて」
「なんだそれは?」と注文の奇妙さに達也は声を出す。

「おかしいんだよ、アラタって。普通じゃない。ウソ泣きとか、人を騙す会話とか雪光ならできると思う。でも格闘技はできない。達也くんは警備抜けや格闘はできてもウソ泣きは出来ないでしょ。あたしは尾行に対して動揺はしない。けど格闘技はダメ。光夜が感情の爆発に押されて後手に回ったなんて、考えられる?」

「ねえ、カナデなにが言いたいの?」
深雪がカナデの言葉の真意を測りかねていた。

「全部技術なの。魔法じゃない。魔法は才能があれば10歳でも凄いことが出来る。でも技術は習得期間が必要。ウソ泣き、格闘、尾行慣れ、それに警備を抜けるの。魔法も使わず魔法科高校の全校生徒のいる講堂から抜け出す。魔法使えば一人くらいは見てるし、ばれないはずがない。全学年の一科生と二科生がいたんだよ」

「軍人と疑っているんだな」光夜が確認する。

「うん、軍人かそれに類する所属。そうでないと説明できない。相馬新のおかしさは魔法じゃないところにある」

カナデの結論に全員がうなずく。
「わかった早急に連絡をとってみよう。ただそれと謝罪は別だからな」
「ふぁい、わかりまひた」
達也の念押しに声を出した答えたのは雪光だけだった。
「あら」と言って深雪は抓っていた手を放した。


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うちよりブラックでしょ、四葉ですよ


さて、困った。状況がこんがらがってきた。
まず村井大佐に今日のアレコレを報告。
「正直にゲロって転職したほうが給料上がったんじゃない」という嫌味に
「でも、うちよりブラックでしょ、四葉ですよ」と返すの精一杯だ。

当初の目標は七草と十文字への接触および情報の獲得だ。
親しくなってパーティとかに呼ばれて盗聴器を仕掛けるもよし、
身近な人物を内部協力者として見張るもよし。

これって一年くらいで達成できる任務じゃないよな~

問題は四葉であり転生者の面々だ。

俺は職業が「情報狙いのハイエナ」だ。情報・弱味を握り、相手をコントロールする。
だが、四葉はハイエナを嫌っている。
今のタイミングで司波深雪が当主候補とリークされたら四葉は嫌がるだろう。
情報をリークしない代わりに何かしら取引に応じる可能性もある。

現実問題として転生者と睨んでる光夜、雪光は「探られたくない」側で俺は「探る側」だ。
目標が違ってもハイエナが身近にいることに安心はできない。排除するだろう。

だが転生者のよしみで見逃される可能性もある。
反面転生者だからこそ、未来を知っているし余計な事実も知っているから排除する可能性もある。

結局のところ、転生者云々を置いても職業上敵対関係にあることには変わりはない。
溜息ばかりだぜ。

もう少し自重して行動するかな。
モーリー!九校戦は自力で頑張ってくれ!



なんだよ、謝るの早いな。
襲撃事件後の登校日に光夜と雪光から謝罪があった。
「アラタ、お前を傷つけてすまん」
「ごめん、アラタ」

いや雪光、お前はいいんだ。
美少年がする申し訳ない!という真剣な謝罪の表情は説得力がある。
周辺の女子も「何かあったんだ・・・・」と謝るお前の姿に謎の納得している。
男同士のトラブルをみんなの前で簡潔に謝罪するには、一言「ごめん」で通じる。

おい、ボッチ。お前だよ「お前を傷つけてすまん」って、美形に言われたら勘違いするだろ。
女子が。
雪光に向ける視線とは別のベクトルの視線がお前と俺に注がれてるぞ。女子から。

「お前らを当分昼飯には誘わないから!」
そういって憤慨し、席に座る。これで一件落着だ。
雪光も許されたと判断したのか、俺の肩をもみだし「いや~社長、肩凝ってますね~、へへへ」とふざけだす。

光夜については「ああ、当分は俺から誘うよ」と言って微笑みやがった。
だから!ロールプレイ上、「男同士の喧嘩を昼飯誘わない発言で落としどころを見つけた」で終わらすのをお前がそんな言い方するから面倒な感じになるだろ!主に女子からの視線が!

カナデは少し離れたところで口パクで「ごめんね」と言ってきた。
表情は笑ったままだ。おい、おれは別に光夜と付き合ってるわけじゃないぞ。笑うな!笑うなよ。

状況は落ち着いた。
とりあえず光夜も雪光も適度な距離感を保つようになった。
友達としての距離になったのだ。

これで俺の長い長い入学編が終わった。

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諜報は面倒なのだ


九校戦までの間は楽しい学園ライフだ。
部活!勉強!恋!友情!目指すぞ、九校戦優勝!おー!

関重蔵少佐の学園ライフは続くのだ・・・そんな、わけがない。

いくつかトラブルが。

光夜の部活連執行部就任に対して遅まきながら不満の声が上がった。
「実績のない一年生」という点だ。

桐原”壬生のこと好きだぜ”先輩等の実力主義の面々が直接十文字会頭に陳情したのだ。
結局は模擬戦5番勝負をすることとなり、すべて光夜が圧勝した。

やっぱりチートだった。
2年生、3年生の実力派の先輩たちとシチュエーションを変えて模擬戦をしたが全試合開始30秒で決着。

実力で先輩たちを黙らせ、5試合終わった瞬間に一言「異論は」と言い放ったのだから光夜の図太さは相当なものだ。
光夜には早くも次期会頭の誘いがあるとか、ないとか。
総ての試合に全く違う魔法技術を披露し、その技術の多様性と高さから「完璧」と異名されていて笑った。

漫画か!

一方、雪光も雪光で学校の王子様として君臨し始めた。
「魔法科高校の美少女特集」という記事でアポなしで一校の女子に取材していた雑誌社を懲らしめた。
何でも出版関係者を論破し、なぜか雑誌社のデータベースがクラッシュするおまけつきでトラブルを収めたらしい。
その際に他校の生徒会とも連携したので、その美貌と社交性から「一校の王子様」と呼ばれたらしい。
逆上した出版関係者を取り押さえる武勇伝つきで言うことはない。

漫画か!

それにしてもオリ主転生小説のような流れで光夜と雪光が目立っていく。
う~ん、この転生者どもめ。

7月になり、俺は俺で十文字会頭と先輩後輩として仲良くなっていった。
部活における「体力バカな一年生」として認識されたようだ。
現役の軍人が学生の部活でばてるような鍛え方はしていない!
「フィジカルは目を見張るが、魔法がな。精進しろよ」
はい!先輩、頑張ります!
名前と顔は覚えられ、部活時以外に校内で会っても一言二言会話を交わすようになった。

表向きのトラブルはこんなところだ。
潜入任務では面倒なことになった。

村井大佐との定期連絡の際に
「風間少佐にこちらの任務を探るような動きがあった」と聞かされた。
どうやら光夜、雪光、カナデは達也を通して軍方面の人脈で情報収集を開始したようだ。
いや、光夜や雪光も魔装大隊に所属していてもおかしくはない。

どうやら正規ルートでの任務確認だったので村井大佐は情報を与えなかった。
何にでも「正しい確認方法」というものがある。
特に諜報機関というのは、交渉方法が難しい。
比喩、暗喩、遠巻き、曲解を利用した会話によって、相手の持っている情報を理解する。
諜報は面倒なのだ。

俺と風間さんの関係ならざっくばらんに話せるが魔装大隊から支援課へ、正規・正式な接触では記録に残るし回答できることも狭まる。

風間さんが司波達也への「現在確認中だ」というポーズをとってくれるだろうか。
大佐に風間さんからの探りの時期を聞くと5月上旬で、今は7月。
特に光夜や雪光、司波達也からアクションはない。

となると、風間さんは俺の情報を止めているな。
どんな意図があるかわからないが、ありがたい。

ただ九校戦時には荒事が発生するし、吉田幹比古やレオンハルトの活躍が原作通りに起こるとはわからん。
だいたいオリ主転生小説だと、レオンハルトか吉田幹比古のどちらかと役割が交代して
オリ主が九校戦のモノリスコード新人戦に出る流れだ。
俺は詳しいんだ。

荒事要員は多い方がいい。
正体をばらすのは九校戦あたりで、そこらへんで諜報に関する転生者同士の協定を結ぶのがよさそうだ。
横浜騒乱は戦闘区域が広域なので連携を取りたいところだし。



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一人で戦うためじゃない

三人称視点です



「どうした服部、たそがれて」
フィジカルトレーニングルーム。
筋トレ用の器具が並ぶ部屋で桐原は一人溜息を吐く服部に話しかけた。
二年生のトップ。ジェネラルの異名を持つハイレベルな魔法師。
生徒会の一員で部活連との調整を行い、学内でも実力ともに有名人。
それが服部刑部という生徒だ。

一方桐原は軍人家族に生まれ、
剣技を磨き一校でも「実戦ならば」と言われる武勇の一人。
先日のブランシュ襲撃でも、反撃作戦に参加したと学内で噂され
「実戦経験者」と目されるのが桐原である。

2人ともトレーニングが一段落したところだ。
「たそがれているわけではない」
口ではそう答えるが表情は冴えない。
「悩み事なら聞くぞ」
「ふん、彼女が出来て余裕ができたか」
予期せぬ反撃に桐原は驚くやら恥ずかしがるやら表情が二転三転する。
顔を赤らめながら桐原は話を進める
「当ててやろうか、四葉のことだろう」
「そうだな。今そのことで、いろいろ悩んでいるよ」
四葉のこと。5分間に模擬戦を5戦。
上級生を相手に圧倒的に勝利した。並みの魔法師が出来ることではない。
模擬戦とはいえ、魔法を戦いながら発動するのは体力以上に精神が疲弊する。
それを事も無げにおこない「異論は」の一言で周りの雑音を押さえこんでしまう。
その1年生の実力に2年生、3年生は己の実力の低さに打ちのめされている。

ただ服部の悩みはもう少し深い。
魔法師としてのスタイルが近いのだ。
多種多様な魔法使い、複合魔法を駆使し戦場をコントロールする。
四葉光夜が見せたのは、その極地とも言えた。

ある試合ではデモンストレーションのごとく現代魔法を複数使い、対戦者の戦意を喪失させた。
古式魔法も見せた。手元で複数の印を結び、相手の視覚を利用した精神干渉系の魔法を見せた。
「印を使い、相手の精神的空白を一瞬作る。古式の初歩です」
それだけ説明された。七草会長に後で聞いたが、古式は独特なので初歩と言っても習得は難しい。

一瞬で訓練室が霧に包まれもした。そして試合が決着すると一瞬で霧が晴れた。
空間内の事象の改編もお手の物と言わんばかりである。

桐原も対戦した。近接戦に持ち込みはしたが、手のひらに小規模な障壁を展開し得意の高周波ブレードを抑えられてしまった。
足さばきや体術も素人のそれではない。
「そんなに悩むな。あれは四葉だぞ。それに俺の見立てだと…実戦経験者だ」
「つまり人を殺めたことがあると」
服部の問いに曖昧な笑顔で答える「たんなる勘だ」と言わんばかりである。

「俺は、九校戦で一校の総合優勝を手にしたい。だが、今の実力ではモノリスコードの代表は俺ではなく四葉がふさわしいとも思っている」

桐原もその言葉には黙らざるえない。
学内の実力者が選抜される九校戦。そのなかで最も実戦的とされるモノリスコード。
モノリスコードの代表者こそ学内最強と目される。
自分の上位互換、それも最上位互換とも思える四葉こそ、自分より最強にふさわしいのではと服部は悩んでしまう。

「モノリスコードは服部先輩の方がいいですよ」
言葉少なくなった服部と桐原の間に入り込む声の主は、服部が何度か見かけた一年生だった。
トレーニングが終わったのかタオルで汗を拭きつつ話しかけてくる。
たしか十文字会頭の部活の後輩だったはずだ、と服部は記憶している。
「光夜・・・、四葉ですが、魔法師としての能力高すぎて、協調行動をとれる相手がいないんですよ。チーム戦で同じレベルで連携取れる仲間がいないから、浮くこと浮くこと」

「お前、四葉の友達か?」
「同じクラスメイトの相馬です」
「そんなに浮いているか」
服部が問うとその生徒はにやっと笑った。
「浮くなんてもんじゃないですよ。
講義だって一人でどんどん進むし、30分の予定の訓練工程を1分で終わらせるし
体育なんてあいつに任せるとサッカーにならないんで常に審判役ですよ」

一息で説明され、桐原はげらげら笑っている。
「確かにな、あれはワンマンアーミーだ。協調性を求めるもんじゃないな。はっはっは!」
「ふふ、チームワークの欠如か。確かにな。常に一人で戦うわけじゃない」
服部も妙に納得した。
自分の多種多様な魔法を使う戦術は一人で戦うためじゃない。
戦場をコントロールして、仲間とともに有利に戦闘を進めるためだ。
魔法師としての完成度が絶対ではないのかもしれない。
「いや、面白い話を聞かせてもらった」
悩みも誰かに話してみるものだ。会話は解決の糸口になる。それを知った服部であった。


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モーリーが新人戦ね~


イェーイ!服部先輩が立ち直った。
でも、この後九校戦会場への移動時の自動車テロを解決した深雪を見て
服部先生が凹むのは責任とれないでーす!

「へ~、モーリー、モノリスコード代表になったんだ」
昼休みに俺、モーリーと光夜、カナデ、レオ、エリカ、幹比古、美月で昼食をとっていると
モーリーがモノリスコード新人戦内定を自慢してきた。

不思議なことにモーリーとレオは馬が合った。同じ戦いをした戦友として友情が芽生えた。
その流れで、あれよあれよと原作主人公組と昼食を食べるようになっていた。
超有名人の光夜に対してレオも、エリカも物怖じしない。
幹比古と美月に関して多少距離はあるが、怖がる様子はない。
あの司波達也に慣れたクラスメイトなら問題ないのだろう。

問題の達也、深雪、雪光は生徒会室だそうだ。
「モーリーが新人戦ね~」と実力を訝しむように笑っているのは千葉エリカだ。
「ふん、努力の賜物だ」
「今からサインの練習しそうよね」
「うっ」
エリカの茶化しに喉が詰まるのは、事実なのだろう。モーリー、サインの練習しているの?

今のところ九校戦に選手で内定しているのは知っている限り原作通りのようだ。
ただモーリー曰く「光夜が選手になると思うんだけど、どの競技か決まってない」らしい。

顎に触れて少し気持ちを整理する。

九校戦には「電子金蚕」を利用した不正と「無頭竜」の九校戦を的にした賭博の暗躍。
そして一条とのモノリスコード新人戦の3つのイベントがある。

俺としては、十文字会頭と七草生徒会長に接近するために有志支援スタッフに応募して
九校戦会場に行くつもりだ。

原作では描写のなかったモーリーのモノリスコードの応援もしてやりたい。
あー、でも怪我するのか。う~ん、どうしよう。

それに横浜騒乱へ続くミラージュバットの因縁話もあるからどうにかしないと。
えっと女子選手が電子金蚕で魔法コントロールが出来なくて、担当スタッフが凹んで
担当スタッフの妹が司波達也を逆恨みだっけか。あれ?選手の妹だっけ?どっちだ?

他になんかあったけ?
村井大佐にも四葉と適度な距離を持つために、風間さんを間に置くの説得せねば。
司波達也と魔装大隊はホテルの一室で会うから
その時にでも面会のセッティングをおねがいしよう。そうしよう。

真田、柳には面識はある。いや正しくは一方的に知っている。
ほら俺、訓練時は目出し帽してるからあいつら俺の顔と名前知らないんだよね。

あの洋館会見から光夜も、雪光も、カナデも、達也もおとなしい。
というか普通の友達だ。

大亜細亜連合の動きもあるし
ここはいっちょ、友達兼諜報員としてモーリーを手助けしてやりますか。
さあ本業だ!


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四葉対一条の夢のカードが実現するわね

三人称視点です



「レギュレーションの変更ですか?」
「そうなのよ。ただ競技というよりCADチェックや周辺警備についてだから選手には影響ないわ」
雪光の質問に真由美が説明する。

生徒会室では会長の七草真由美と部活連会頭の十文字
そして真由美の秘書のように働く雪光がいた。
「十文字の家でもその件は話題になっている」

この一週間で7件の家宅侵入。被害者は九校戦の運営スタッフだった。
書斎が荒らされている。CADに見覚えのない操作履歴がある。
そういったものばかりだが、九校戦という魔法師育成の重要イベントの運営スタッフである。
そこで大会の主催である魔法師協会から「警備と、使用CADチェック確認の強化」が提案された。
その裏には四葉と九島からの圧力があったと言われている。

雪光としても正直渡りに船だった。電子金蚕を防ぐのは中々難しい。
カナデの協力を要請済みだし、原作通り達也に電子金蚕混入を防いでもらう予定だった。
だが数日間に立て続けに起こった家宅侵入を利用して、光夜がカナデを通じて九島を動かし
大会運営レベルでの不正防止を強化した。

雪光も雪光で、彼個人が株主を務める警備会社を動員することも検討していた。

雪光は四葉一族でも変わった少年だった。
機械工学を好み、社交を好み、そして財テクを好み、中学時点で四葉の持つ警備会社の株主へとなった。
四葉の警備会社とは、すなわち四葉の村を警備する者たちの表の所属先であり
将来、雪光が四葉の村の防衛を担う確約でもある。

魔法師としての実力は深雪に伍するものではない。だが彼の特性は大規模戦闘には向かなかった。
「最速」と称される複合魔法は対個人、対小集団では無類の強さを誇る。

自己加速、感覚範囲、反応速度、摩擦係数、思考速度、認識速度、自己暗示による加速世界への対応。

雪光の魔法はまさに魔法であった。自己加速の究極。
彼からしてみれば、「最速」を使用中は世界はゆっくりとしか動かない。
銃弾を見ながら回避し、魔法行使のゆっくりとした発光、音も長く低く響く不思議な世界。

一度の使用は5秒が限界だ。だが5秒の時間の中では雪光は最強になれる。
ただ消耗も激しいので、5秒の発動なら1日4回が限界だ。

「再成持ちの達也兄さんはすぐに傷が治るし、こっちが疲弊したところで負けるから相性が悪い」と雪光の弁。

「では会長、この変更については発足式後のミーティングで説明という流れでよろしいですね」
「ええ構わないわ。それにしても泥棒はなにをしたかったのかしらね」
「九校戦、ひいては魔法師協会つまりは国防に関してのスパイ行為とは考えられないか」
「十文字君それは、十師族としての発言?」
「ああ、俺にはその責務が常につき纏う」
「それなら四葉君も呼んだ方がいいんじゃないかしら」
と真由美は雪光を見る。「呼んできて」ということらしい。

「じゃあ、光夜を呼んできます」
まるで厄介払いをするようなのを謝るように真由美はウィンクをする。

「それで、四葉君の参加競技は決まった?」
「モノリスコードだ」
「え、でもチームワークの問題はどうするの?はんぞー君も指摘したはずよ」
「鍵は森崎だ。同じ部活でバディを組んでいる。森崎ならば多少はコンビネーションができる」
「四葉対一条の夢のカードが実現するわね」
「トーナメントの組み合わせ次第だがな」


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俺なら泣いてるね


はい、九校戦チーム発足式です。
ここまでは原作の大幅な改変はありません、と言いたい。
ほらモノリスコード新人戦はモーリーいるし、司波達也は二科生ながらスタッフ入り。
()()()()が引き起こした家宅侵入により警備の強化。
そしてなぜかモーリーの進言で「モノリスコード新人戦のサポートスタッフ」入りしてしまった俺。
原作の大幅な改変はありませんです。

「お前、ボッチの面倒を俺にやらせる気だろう」
「本人の前でボッチとか言うなよ!可哀想だろ!」
「・・・ボッチじゃない」
会議室で小声でモーリーにスタッフ入りの真意を聞いたら
その原因から突っ込みが来た。

発足式も終わり、最初の全体ミーティングとなった。

「まあまあ、そう怒らなくてもいいじゃないか」と声を掛けるのモノリスコードのチームメイト。須田ちゃん。
原作におけるモノリスコード新人戦のメンバーって不明だったけど、君だったのね。
中学時代フィールドコンバットで全国中学生大会常連チームに参加した経験のある一科生。
遠距離魔法の精度はなかなかで、モノリスコードへの参加も納得の人選だ。
ちなみに、光夜は「四葉君」と呼んで、モーリーを介して会話をしている。

「僕としては四葉君と二人っきりになったら話す話題が無くて困るところだったよ」
本音をさらっと言ってきて、天然なのか図太いのかよくわからんな。
「ということですが光夜選手。チームワークは大丈夫そうですか?」
「代われ」
茶化したら本気の目しやがった。

「よし、これから大会期間中の注意事項とスケジュールを説明する」
十文字会頭がミーティングを開始した。
まあ有志スタッフよりかは距離が近くなるから、十文字周りの情報も回収しやすくなるだろ。

改めて選手とスタッフの紹介が行われた。
司波達也の「二科生が九校戦代表にいてもいいのか!」イベントは
桐原先輩の実験台も含め原作通りに進んだ。

光夜が「俺のCADを任せたい」の一言が、桐原先輩の言葉よりも効果があったらしい。
「四葉が言うなら」と司波達也のスタッフ加入は丸く収まった。
桐原先輩は泣かなかったらしい。俺なら泣いてるね。

あと、ちゃっかりカナデがいる。
九校戦より論文コンクール(横浜騒乱)向けかと思ったがスタッフとしていた。

スタッフ紹介の最後に俺の自己紹介となった。
「1-Bの相馬新です。モノリスコード新人戦のチームサポートとして参加します。光夜くんは友達が少ないので友達になってあげてください」
それだけ言うと、会議室に笑いが起きる。

座席に戻ると光夜からデコピン喰らった。モーリーと須田ちゃんは笑っていた。
青春といった感じだ。

楽しい楽しい九校戦が幕を開けるぞ。
レオンハルトと幹比古の活躍の場はあるのか!


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モーリーも魔法使っちゃう組だっけか?


選手が大事なのはわかるけど、スタッフもバスに乗っけてくれてもいいじゃない。
御存じ「加速、跳躍、横転」の九校戦会場移動時の自動車テロのお時間です。

前方には選手を載せたバス。俺がいるのは機材を積んだトラック内。
同じスタッフが数人トラック内におり
あの選手が強い、真由美会長のパンチラ見れるかな~、と雑談している。
()()()男子生徒など「俺、パンチラより太もも派なんだよな」とつぶやく始末。

まったくもって度し難い。将来を担う若者が女子高生のパンチラを期待してどうする!
太もも派の俺にはパンチラじゃなくても楽しいけどね。

「それトーラスの新モデル?いいの持ってんね~、ちょっとジャンプしろよ~」
暇なのか絡んできたのはカナデだ。

美醜の好みで言えばカナデは可愛い。いや可愛いわけですよ。
バスト、ウェスト、ヒップとスタイルの良さは深雪に匹敵する。
表情も明るく会話のリズムもいいし、内容も楽しい。
他の男子と俺に向ける視線も違う。
猫がゴムボールで遊ぶように興味津々に話を聞いてくれる。
俺に惚れてるな!と、若い諜報員は思うわけですよ。

こんな小娘にコロッといくなら、あの人を南フランスに置いて帰国していない。
彼女と見た沈みゆく太陽の暖かいオレンジ色は、今でも最も美しい光景だと思っている。
俺の贈った指輪を彼女はまだ持っているだろうか。傷つけられた背中の傷跡はもうわからない。

「入学前に叔父さんからもらった最新モデル。いいだろ~」
自慢がてらに手首のCADを見せびらかす。
「ちょと貸して」と俺の腕から取っていく。
今はセーフモードにしてあるし、起動には3桁のパスコード入れねばならないので
何かデータを抜くとか仕掛けるとか簡単にできない。というか俺が目の前で見ているし。

「コード教えて」
「いや」
「あっそ」
カナデは適当にポチポチコードを入力し始めた。
一分ほどしたら「けち~」と笑って返してくる。

そのタイミングでトラックが止まった。外からブレーキ音や何やらデカい音がする。
はいはい、来ましたね。「くっそ!」「とまれ!」とかいってみんな魔法使って
服部先輩は状況を見て魔法を使わず、十文字会頭が障壁で止めて、深雪が炎上を防ぐんだったけか?

あれ?モーリーも魔法使っちゃう組だっけか?

トラックから俺を含めてぞろぞろと降りる。
少し先ではバスが止まり、バスの向こうから煙が出ている。

さあ来ましたよ。最初のトラブル。
この後30分ほど足止めをされたが、高速の管理事務所と警察が到着し
七草会長が何やら話したら、あっという間に実況見分から開放。
これだから権力者は…いいな~。

モーリーや須田ちゃん、光夜も無事だった。
どうやら、モーリーは光夜に「魔法が混線する。止めろ」と制されて魔法発動はしなかったらしい。
よしよし、光夜はモーリーに関しては積極的かつ友好的だな。

千代田先輩やら原作で大慌てした組はそのまま魔法発動したらしく、
実況見分中も「渡辺摩利a.k.a修次の彼女」に怒られていた。


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カナデは「魔法科高校の劣等生」という作品を知っている転生者である

三人称視点です



宿舎として供されるホテルにつくと
カナデはスタッフとして持ち込み機材のチェックをしていた。
「どう?機材には問題ない?」
話しかけてきたのは雪光だった。
雪光は選手としての参加ではなくスタッフ側としての参加だ。

他のスタッフ、特に女子から「大丈夫です」「問題ないよ」と声が返るが
カナデは雪光が話をしたいのは自分だとわかっていた。
雪光の依頼によってアラタのCADにハッキングを仕掛けたのだ。

カナデの能力「精神波動による電子機器操作」を使用すれば
何気なく弄っているだけでCADのハッキングが可能だ。

複雑なことはできないが密かにGPS機能を使い
別に用意したCADへ位置を知らせるよう仕込んだ。

カナデは雪光が苦手だ。というか距離や関係性が難しい相手だと思っている。

達也、深雪、光夜、雪光。

この中で唯一仕掛けをすることを楽しんでいる。
特技・特性という面で言えば他の3人に匹敵するが
どうも転生者であることを楽しんでいる部分が強い。
前世は「俺TUEEEE!」系のアニメとかラノベが好きだったに違いない。
半面、アラタが苦手のようだ。
というか相手を測りかねていて、勝手に自分で「難敵」扱いにしている。

そうカナデは雪光を見ている。

逆に今を現実と捉えて、生き延びようとしているのは光夜だ。
容貌、能力に合わせて口数が少ないことがカリスマ性を醸し出している。
将来的に四葉真夜との決着に大きな影響を持つだろう。
根が真面目なのが普段を見ていてもわかる。

他の二人の転生者を批評できるのは自分が「藤林」のポジションだからだと
カナデは認識している。これはコンプレックスでもある。

藤林響子の妹。実力も互角か異能の分、一面では上。
(でも物語には巻き込まれない)

光夜も雪光も「出自から巻き込まれたチート転生者」であった。
自分は巻き込まれない。依頼があって動く。四葉のアレコレも関係ない。
深雪とも仲は良いが、命を賭けられるかはその瞬間にならないと確信できない。

カナデは自分を「最前席で見ている観客。たまに舞台上の役者からいじられる」
そんな立ち位置だと思っている。

この世界が「魔法科高校の劣等生」なら、全て達也と深雪を中心になっている。

達也と深雪に絡めないものはこの世界では単なる脇役。
「人達」と描写されなければ存在しないも同然。
アニメになれば名前も声優もつかない。
自分はちゃんと声優がついて、誰かに認識されているキャラクターなのだろうか。

そして、ちゃんとこの物語が進むのについていけるのだろうか。
誰かのように協力者として登場して、いつの間にか登場しなくなる。
世界から消えてしまわないだろうか。

「雪光く~ん、CADの調整は終わったよ~」
カナデは体をくねらせて、ふざけた態度でGPS受信用のCADを渡した。
周りの女子もカナデのふざけた姿で笑っている。
前世とは違う別人「藤林奏」を演じているようだ。
自分は転生者であることを受け入れきれてない脇役なのか。

カナデは「魔法科高校の劣等生」という作品を知っている転生者である。


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あー、はいはい、そうですよね、運命ですよね

一部オリジナル設定あり。



オラオラ!走れ!この四葉の後継者候補!
貴様など後継者指名の時に、深雪に後継者とられて「ぐぬぬぬ」とか言っていればいいのだ!
そんな目でこっちを見ても走る距離は短くしないぞ!

到着して早速体を動かすこととなった。
昼にはホテルにしたが、光夜の「固まった身体をほぐしたい」と言ったので
希望者でランニング。
俺はサポートスタッフとして、自転車で並走。
2095年でもあるんですよ、自転車。

今夜は楽しみの九校戦の懇親会。
あのじいさんが出てきて「主人公と十師族以外の奴もちゃんとせぇや」(意訳)と
ぶちかます、あの楽しい楽しいイベントです。

原作だと5人だっけか?九島烈の手品見破ったの?
それプラス、光夜、雪光、カナデも見破ると思うけど
原作知識で知っている俺は「見破る」に含まれるか楽しみだ。

「知っている」のと「見破れる」の違いが今夜、白日の下に!

・・・・・・・・・・・・・・知っているのと見破るのは全然違いました。

壇上に女性がいるな~、後ろにじいさんいるんだろうな~。
え?ほんとにいるの~。原作ブレイクで実は後ろにいないんじゃないの~

「お前らの目は節穴か」(意訳)

はい。すいません。
壇上のライティングで出来る影、光で照らされる埃の流れ、絹ずれの音、注意深く観察したけど
全くわからんかった。

ただね、壇上にスポットライトが出る前に
緞帳脇のスタッフで、慌てている奴と慌ててない奴がいたから
そこまで見ると「何かがあった」は判断できる。

ダメですかね?見破ったに入らない?入らない?そう、入らないですか。

十文字会頭に涙ぐみながら「選手じゃないですけど九校戦に来れたの嬉しいです!来年こそは選手枠狙います!」
と言ったら「泣くのは優勝してからにしろ、相馬。サポート頼むぞ。何かあれば相談してくれ」と言われた。

諜報員としては、また一つ十文字会頭に近づいた気がする。
1年限定の任務で4か月弱でここまで距離詰められるなんて、学校の先輩後輩関係楽でいいわ~。
体育会系なんて「先輩!」言って筋トレしてれば何とかなるんじゃない?え、暴論?

で、この懇親会で大問題が。

達也がエリカと「レオも来ているよ。美月はコスプレみたいだって~」をやっている裏で挑戦者がいたわけですよ。
四葉光夜に懇親会で挑戦状を叩きつける気概のある新入生がいた。

「初対面だな。一条将輝だ」まっすぐと光夜の目を見て。
「吉祥寺真紅郎」手を後ろに組み、相手を測るように。
「黒城兵介(こくじょうへいすけ)。俺たちが三校のモノリスコード新人戦の選手だ」
ひときわ体格の良い奴が自分たちの校名を明かす。

「あれが三校のクリムゾン・プリンスか」「カーディナル・ジョージだ」
周りにいる他校の生徒も注視する四葉と一条の邂逅。
そして現在最も賢いとされる魔法科高校生の異名をささやき合ってる。

その中で服装からすると四校男子が
「あいつが三校のブラック・キャリバー(黒騎兵)か」
「だれだ?それ」横の二校生が聞く。
ちょっとおじさんも気になるよ。少し近づいて聞き耳を立てよう。

「六校とのクロス・フィールドのエキジビションで無双した奴だよ」
「無双?」
「高速移動しながらフィールド上の8人をなぎ倒したらしい」
「クロス・フィールドで?」
「名前と突撃する姿から黒騎兵」
「納得」と声を出したのは俺。

でもモノリスコード新人戦決勝で、そんな奴いたかな?
顎に手をあて気持ちを静めようとしたとき

「モノリスコードの決勝で四葉と当たれれば嬉しい限りだ。途中アクシデントで選手交代とかは止めてくれよ」
黒城兵介がそう言った。口角を上げて、光夜にウィンクまでしやがった。

あー、はいはい、そうですよね、運命ですよね。
甘かった、本当に甘かった。

なんで俺はオリ主転生者が一校にしかいないと思ったんだ。

今この瞬間、光夜や雪光、カナデの気持ちがわかった気がする。

想定外の異分子は排除したい。


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十文字会頭が18歳


あ、雪光が青い顔し、膝をついてる。
近くにいた千代田花音や明智英美に心配されてる。

一方、俺は歴戦の兵士であり、凄腕諜報員なのでこの程度のことでは動揺しない.
どどどどど、動揺しない!

正直、最初に頭をよぎったのは「いつ」「どこで」「どうやって」「殺す」だが
一度顎に手をやり気を落ち着かせた。

そうだ!俺はモノリスコード新人戦のサポートスタッフ。
挑戦状に叩きつけたのが「実力者の有名人」が三人。
動揺しない方がおかしい。

相馬新は格闘技経験者でクラスの人気者で女子にモテモテだが、決して動揺しない諜報員ではない。
嘘つきました。

舌戦は自己紹介で終わった。
「四葉光夜だ」
「一校一年生の森崎駿だ!」
「須田です。よろしく」

ここまで来ると泰然自若とした須田ちゃんも転生者に思えてきた。
いかん。それはいかん。疑いすぎるのはよくない。
疑心暗鬼は動きを狭める。判断を鈍らせる。


「兵介の言う通り、実力を決するなら決勝で決したいな」
一条が握手を求めるよう右手を光夜に差し出す。
「ああ」
握手を返す光夜の目をもう一度見返して、一条たちは人波に戻っていった。

気の利いたこと言ってやればいいじゃないか。効率重視か…。
ダメだ。心の中での突っ込みもキレがない。

俺は小走りに三人に近づいた。
「大丈夫かよ。クリムゾン・プリンスとカーディナル・ジョージだぞ」
「ここにきて大丈夫もないだろ!決勝と言わず、試合は俺たちが勝つ!」
強気やね、モーリーは。
「同じ一年生とは思えないね。あの黒城くんとか。上級生かと思った。やっぱりデカいと十文字先輩みたいに年齢が上に見えるね」
須田ちゃん、十文字会頭が18歳に見えないとか言うなよ。絶対気にしてるよ。

懇親会も、最後に大会委員長のお偉いさんの挨拶で終了となり、各学校は宿舎へと戻っていく。
雪光は最後は会場の壁際の椅子に座っていた。
懇親会が終わる頃には顔色も治り「ちょっと準備疲れかな~」と言っていた。
あいつ、顔と人当たりいいけど動揺出すぎだろ。

「雪光、大丈夫か?」
「へーき、ミーティング終わったら温泉行って寝るよ。アラタも行く?」
「え、温泉?使えるの?」
「そんなに遅くなければ使えるみたい。女子も温泉行くらしいよ」
「行く!行く!」

そういえば、温泉イベントで深雪のスタイルの良さが再度強調されるシーンがアニメであったな。
あの頃のアニメで女子の温泉シーンって多かったよな~。

各自に割り当てられた部屋に戻ると、俺はすぐに持ち込んだノートPCを立ち上げた。
生徒会と部活連のミーティング終わるのが1時間後の予定だから、その間にやりたいことがある。

同室になった須田ちゃんが制服を緩め、柔軟体操を始めた。
「何か調べるの?」
まずは立った状態での前屈らしい。ゆっくりと息を吐きながら。
「三校の黒城が出たクロスフィールドのエキジビションの動画」
「え、そんなのわかるの?」
「わかんない。ただ部活紹介とかでエキジビションの動画載せたりで部活の公式サイト賑やかにするじゃん。念のため」
前屈で膝に顔をつけながら「そっか」と答える須田ちゃん。身体柔らかいな。
おじさんも柔軟性は負けないぞ!

三校、部活、クロスフィールドetc

幾つかの単語でネット検索する。学校のサイト、部活の公式ページ、クロスフィールド高校連盟のサイト
無料の動画アップロードサイトも幾つか回り検索する。

出てこない。外れか。

試合のライバル校としても、異分子としても何かしら情報が欲しい。
ちょっと裏技使うか。

・ここは軍所有のホテル
・支援課の小隊が日本に戻っている
・俺は諜報員
・支援課は諜報組織

諜報組織の出来ることは?


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三校、黒城兵介、情報


「ちょっとクロフィーの先輩に聞いて来る」
同部の先輩に話を聞くことを深呼吸中の須田ちゃんに告げて部屋を出る。

俺自身もクロフィー部だが
正直、これまで他校のクロフィー情報を意識して集めていない。
いや、筋トレ楽しくて!というかクロフィーに青春捧げるのが任務じゃないしね。
それだったら先輩に聞くのが早い。年下の先輩ちゃん教えて~。

というのは部屋を出るためのアリバイ作り。

速足で他の部屋を割り当てられているクロフィーの先輩のところに行く。
15分ばかり相談して、一緒にネット検索したがヒットせず。

「改めて作戦立て直ししてみます。お邪魔しました!」と退室。
先輩から「あとで会頭にも相談しろよ」と声がかかる。

退出後、前後左右に人のいないのを確認し俺はポケットから携帯電話を出し、電話する。

「三校、黒城兵介、情報」
「トラブル?」
「チームメイトのための職権乱用」
これで終了。

数日内に情報が来るだろう。
モノリスコードは最終日前日なので情報収集には多少だが余裕がある。
九校戦で起こり得るだろうトラブルは多分、きっと、高い可能性で光夜と雪光が対応策を準備しているはずだ。

特にミラージュバットで起こる事件を起因とした
「横浜騒乱」へ続く達也への逆恨みは、周公瑾にイニシアチブを与える可能性がある。
横浜騒乱は俺の知る最大で一番複雑な事件だ。
周公瑾の目的、飛行魔法の実戦投入、そして灼熱のハロウィン。
呂剛虎の確保は、あっち側、原作だと渡辺摩利ちゃんが頑張るので
確保後周公瑾に奪還されぬよう警備増強でも具申しておくか。

が、今は俺は俺でやらねばならん。転生者の情報収集を。

モーリー、須田ちゃん、すまん!今の状況を利用するよ。
チームメイトのための職権乱用と称して情報確認だ。

本来、潜入任務に黒城兵介の情報など無用だ。
単なる三校の生徒で十文字も七草も関係ない。あれば報告が来ている。

モノリスコードの試合に必要なのは使う魔法のタイプの情報だけ。
本来は、黒城兵介の選手として情報以外の個人情報は必要ない。

だが確認だけしておく必要がある。

十師族とのつながり、USNAとのつながり、大漢・大亜細亜とのつながり
原作とのつながり。

何かつながりがあれば転生者としての「スタンス」予想に使える。
USNAとつながりがあれば、スターズ・九島との関連を覚悟できる。
大漢ならこの後の横浜騒乱まで対処が必要かもしれない。
十師族ならまた別の予想ができる。

何もなければ、行き当たりばったりで対応する覚悟ができる。
「原作に絡まない出自の転生者」つまりは俺と同じ。

はてさて、どうなるか。最初は動揺したが動き出せばいつも通りだ。
確認、計画、行動。これである。


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高校生同士、交換日記から始めてろ


雪光は光夜を通して四葉経由で「黒城兵介」の情報を集めるだろうか?

あの二人のスタンスは予想しやすい。生存だ。生存。
出自は達也と深雪に近い。そして物語のラスボスと目される四葉の熟女にも近い。
あの二人は達也と深雪の味方に付いたのだろう。

生存確率を上げるために達也と深雪の物語に味方として介入し、持てる未来知識で有利な方に未来を改変する。
原作を知るからこそ、原作で達也と深雪に絡まない存在を「不確定要素」として嫌う。警戒する。
未来知識をより精度高くすると、より有利に動ける。

有利?何をすると、あの二人は生存に有利になるんだ?

俺の中途半端な知識だと、何が有利かわからんぞ。

中条あずさからトーラス・シルバー疑惑をそらす?
一条将輝の片思いを断つ?
中華街の周公瑾を早めに殺す?
大漢の残党を早めにせん滅する?

周公瑾を横浜騒乱前に殺せば何がどう状況が動く?
パラサイト事件?スターズのリーナが来る。
それは阻止すれば有利なのか?

四葉の後継指名を深雪ではなく光夜に移せば有利なのか?
原作だと司波兄妹が偽造の婚約するんだっけ?
どっかの掲示板でその展開について、スレ合戦があったような記憶が。

犠牲を出さずに起きるであろう事件を乗り切る?
犠牲ってなんだ?
確か千葉の長男坊が死ぬが、それは犠牲としてどんな影響が起きる?
千葉エリカはどんな心境になり、どんな行動を起こした?
藤林響子は何かリアクションがあるのか?
「死にフラグ」的なことをネットで見た気がする?ホントに見たのか?

ダメだ。知識が横浜騒乱あたりで終わっている。
基本がアニメとwiki情報だ。来訪者編以降の知識が断片的で
誰が犠牲となり、誰が何に不信感を持ち。誰がどう動くのかわからん。

カナデは?カナデから未来を推察できるのか?
あいつの目的は?生存でいいんだよな?
でも藤林響子の妹はどう動けば生存するんだ?
司波兄妹から離れればいいのか?それとも協力すればいいのか?

顎に手を当て、眉間のしわを寄せる自分の顔が廊下の窓に映る。

ふと、我に返った。そうだ。俺、関係ないじゃん。

中条あずさからトーラスシルバー疑惑をそらす?
いや、どうでもいいわ。そんなこと。
一条将輝の片思いについても、知らんわ。高校生同士、交換日記から始めてろ。

周公瑾?大漢の残党?横浜騒乱は防ぎたい。または損害を減らしたい。
戦闘で味方の人命を失いたくない。
それは別に「司波兄妹と運命共同体となり、自己の生存確率を高めるため」ではない。

俺、国防軍だし、諜報員だし、他国からの侵略とは戦うのが仕事だ。
横浜騒乱の関係者が司波兄妹を中心とした高校生たちなだけだ。
四葉の跡目?勝手にやってくれ。跡目が代わることで国防軍内への影響で国防体制が崩れる?
そうならないための俺たち兵士だし、政府だ。

光夜と雪光の生存?ガンバレ。負けんなよ。力の限り戦うんだ。
友達だし、弱音を吐くならおじさん聞くよ。
手伝うこともやぶさかではないぞ、若者よ。

俺はどうやら「転生者」と「司波兄妹」に影響されていたらしい。
思考が複雑になっていた。転生者の目的。転生者の行動指針。転生者、転生者、転生者・・・

違う。基本は俺の行動だ。未来知識は俺がどう動くかに使えばいい。
そこに司波兄妹の幸せを前提に動く必要はない。

この世界は「魔法科高校の劣等生」の世界だ。
しかし、それはそれである。

ここは俺の生きる世界だ。原作主人公と呼ばれる達也と深雪が生まれる20年以上前に生まれ
苦労したり、喜んだり、笑ったり、泣いたりした世界だ。

父の死に泣き、国防高校入学時には母の負担を減らせると喜んだ。
愛する人と離れた、戦場で勇気を振り絞り戦った、自分の手が血に汚れ悩み苦しんだ。
弱い立場の人を守ったとき感謝され嬉しかった。

かつて読んだ物語が正解ではない。
介入?なんだそれ?俺は仕事して、俺の判断で行動し、俺がなすべきことを為せばいい。
そうなのだ。俺がすべきは十文字、七草の情報収集と、未来に起きる横浜騒乱の回避又は被害縮小だけだ。

もし誰かの目的が「魔法科高校の劣等生」という物語を壊すため、誰かを殺すなら止める。
物語を守るため?
違う違う。一市民として目の前で起こる殺人事件を防ぐためだ。

はっきりと分かった。「魔法科高校の劣等生」は原作者によって作られた世界ではない。
俺の生きる世界の一部をそう呼んでいるだけだ。
別に俺は魔法科高校の劣等生の世界に生きているわけではない。
なぜなら司波達也が生まれる前から生きている。
転生者が持つのは「魔法科高校の劣等生の未来知識」ではない。
「自分の生きる世界の未来知識の一端」なのだ。

そう、俺は魔法科高校の劣等生に登場するキャラクターではない。
違うのだ。生きている人間なのだ。

この時、不思議と体が軽くなった。
物語「魔法科高校の劣等生」を守る必要はないのだ。
俺は、俺の住む国を街を人を友達を守るのだ。
俺はこの時やっと魔法科高校の劣等生から離れた。

この一連の思考は理屈に合わない部分もある気がする。
どこだ?どこが理屈が通っていない?
どこが理屈に合わないか分からない、理屈ではない。
俺は納得したのだ。

黒城兵介の情報も確認する。
俺の持つ俺の世界の未来知識を総動員して、あいつのスタンスを想像する。

やることは、何も変わらない。でも違う。
俺はこの九校戦初日の夜に、ホテルの廊下で生まれ変わったのだ。

「既存の物語に介入する転生者のオリジナル主人公」ではない。
「関重蔵」という一個人なのだ。
中途半端な未来知識を持った諜報員で関重蔵なのだ。

無性に飛び跳ねたい。叫びたい!いや、小声だけど叫ぼう。

「よし!」

「どうしたんですか?」と中条あずさ先輩に言われた。
どうやら生徒会と部活連のミーティングは終わり、自室に戻る途中のようだ。
先輩、いつも可愛いですね。
「あの、いい作戦が思いついたんです」
「そうですか…」
そんな怪訝な目で見ないでください。


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どうだい?怖さを感じないか。達也。


開会式が終わるとルンルンである。時間が空き、ついに会見だ。
国防軍勤めのおじさんが近くまで来ているので会いに行ってくる。
そう言ってホテルを出たのだ。関係者以外宿舎ホテルに来れないしね。
やっばい、なぜかスキップしちゃう。

宿舎近くの別の関係者ホテルへとお邪魔する。
専用のエレベーターにいるガードマンに一度止められるが
「風間さんにアポがある」
と答える不思議そうな顔で通してくれた。
きっと今日二人目だろう。一校生が訪れ、呼び止めるのは。
両者とも風間さんにアポがある。

あのガードマンの顔を見るに、風間さんが貸切るフロアの応接室に全員いるのだろう。
風間さんというか魔装大隊の扱いはこれだ。フロアの貸し切りなぞ日常茶飯事。
予算が多いな~。

ノック、ノック、ノック。
「入ってくれ」
風間さんの返事でドアを開けると全員揃っているようだ。

独立魔装大隊 風間玄信少佐
同 柳大尉
同 真田大尉
同 山中少佐
同 藤林少尉
同 大黒特尉

「遅れたかな。申し訳ない」
謝りつつ、空いている席に座る。大黒特尉の隣の席だ。
身勝手な振る舞いに思えるが、このくらいの強引さで場のイニシアチブを取る。
この空間で大事なのはマナーではなく余裕である。

「すでに話は済んでるんですか?」
「いや、本人が到着してからと思ってな。ちょうどいいタイミングだ。扉の前でタイミング見計らっていなかったか?」
「そこまで演出好きじゃないよ」
「お前ならやりかねんと思ったがね。はっはっは」

風間さんとの慣れたやり取りを見て、周りはあっけに取られている。
偏屈とかと縁遠い風間さんでも、他の面々にしてみれば上官、隊長だ。
ここまで部隊外の人間とリラックスして話している姿も、そうそうお目にかかれないだろう。
それとも一校生が対等に話しているのに驚いているのか。

「では自己紹介を頼むよ」
俺は席を立ちあがり
「国防陸軍情報部支援課 関重蔵少佐。敬礼は無しの方向で」
自己紹介を済ますと、もう一度座った。

おっほ~楽しい~。これですよ。諜報員としての醍醐味は。
敵かな?味方かな?ご同業でした~。ばば~ん!

言った通りに誰も敬礼は返さない。素直でよろしい。
風間さん以外全員口を開けて言葉が出ない。
30秒ほど沈黙が過ぎると大黒特尉が口を開いた。
「相馬、いや関少佐は情報部の方だったんですね」
「その通り。一校生でこの場にいるということが、お前が大黒特尉殿で正解なのかな。司波達也」

面白いものを見た。
あの鉄面皮とも思えた司波達也が大きく唾を飲み込んだ。
緊張しているのだ。

どうだい?怖さを感じないか。達也。


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また別な秘匿任務

三人称視点です



関少佐はお茶会の席でいくつか笑い話をして、場を和ませて帰っていった。

「十文字克人は実は三十路だ。きっと芋焼酎あたりを愛飲してる」
「七草会長は年下趣味のようだから童顔の俺でも大丈夫なはず」
そんな益もない話をし「正直、息抜きが欲しくて風間さんに会いに来たがお前がいたとはな」と
想定外だが許容範囲だ、と言いたそうな笑顔を達也に向けて
「お前のことも黙るから、俺の方もよろしく」最後にそう言った。

「達也。どうだ感想は」
「正直、驚いています。なぜ先にお教えいただけなかったのですが」

カナデに頼まれた「格闘技に精通し、尾行に動じず、尋問への対処が出来、監視状況からの脱出のエキスパート」の存在について尋ねていた。
数日後に「国防軍にはそういったプロフェッショナルがいる」とだけ返答があった。

「お前の任務が秘匿なように、また別な秘匿任務もある」
風間は関の任務を交誼から把握しているが
それを部下に明示するのは、また別な話だ。

司波達也は部下であり四葉なのだ。この距離感は近すぎても遠すぎても成立しない。
関の正体と任務は、向こうが直接の接触を求めるまで伏せたのはそのためだ。

「諸君は関少佐との会話で何を読み取ったかな」

風間が関から「息抜きに会いたい。部下同伴でもかまわない」と連絡をもらったとき思いついたのがこれだ。
諜報部署の人間と部下を会話させる。
関は会話の中で何を提示したのか。それをどう解釈すべきか?
この茶会を行ったのはこのためだ。部下に諜報員と接触する機会を与える。
戦闘以外の経験を積ませる。魔装大隊は今後、敵対国家から諜報の対象となる。

大黒特尉の正体を知られるのは少々痛いが
部下の成長のきっかけと思えばギブアンドテイクとしては丁度だろうか。
関には関の意図があっての申し入れだ。だが有害な意図はないだろう。
有害な意図がある時は会話せず行動するのが関だ、と風間は思う。


「彼の任務対象は十文字と七草が対象で、四葉は目的ではないのでは?」
早速回答したのは真田大尉だ。
「理由は?」
「会話の中でこの両家の話が中心でした。四葉とは私的には友人だが、任務には無関係を匂わせることも言っていたので」

『四葉光夜と入学式以来の友達でね。意外というか想像通りと言うか友達が少ないやつで、友達になりましたよ。魔法師としては友達以外の立場で接触したくない凄腕でした。』

「それで判断できるのか?」
「そう判断もできる、ということですよ。『接触したくない』は文脈から『接触していない』とも読める」
「読めるだけだろう。すでに接触しての感想かもしれない」
いつもどおり真田と柳の意見がぶつかる。

「自分は真田大尉を支持します」
達也が言うと全員がそちらを向く。
「なぜそう思うかね」
風間が促すと、達也は少し間を空け話しだす。

「彼の学校での動きですよ。少なくとも四葉光夜との接触で盗聴等の機械的手段は行っていません。魔法的な盗聴、盗撮に関しては俺が見逃すことはありません。格闘技の腕を目撃できたのも偶然でしょう」
「確証としては弱いな」
風間の評価は的確だった。
「ええ、勘です」
達也は根拠を簡潔に述べて、自虐的な笑顔になった。完敗と感じたのだ。

相手の正体を突き止めきれなかった。目の前で余裕ありげに正体を知らされた。
そして自分の軍内での立場を把握された。

魔法ではなく軍内の諜報ゲームで負けと思った。
怒りよりも、こういった戦いもあるのかと痛感した。

達也と、深雪と、雪光と、光夜。
四人でいれば隙は無いと思ったが世の中は広い。

達也が敗北感を感じる間も「諜報畑は長いように思う」と柳が言えば「大越戦争の話題ですね」と藤林が入り
「魔法師としての実力は?」「一校の教師の指導力を批評してた」「古式使いだろうか」「現代魔法の話題が多い」
と話題はいくつも出てきた。

「風間少佐。関少佐への推察が終わりませんので、話せる範囲でお教え願いませんか」
山中が話題の収拾がつかない兆しを感じ、風間に助け舟を求めた。
「今日の会話は現在の任務の大枠の話だ。十師族及び準ずる家への接触と見ていい。
四葉に対しては突然の入学により、情報収集対象として外したと考えていいだろう」
既に正解を知っている風間はそう答えた。

「風間少佐は、関少佐をどのように評価されていますか」
真田が興味深そうに質問する。
「あいつの評価は難しい」
一度言葉を切り、全員の顔を見る。
「ただ、あいつと事を構えるな。特に魔法の使用が制限されている状況では絶対にだ」
風間の表情は真剣で、声には警戒を促す厳しさがあった。

「それ程なのですか?」
古式魔法を駆使し対人戦において卓越した能力を持つ柳が改めて問うた。

風間も、司波達也も、柳も、兵士として武術家としての実力では軍内でも抜きん出ている。
魔法がなくともよもや遅れをとることはない、と柳は関の気の抜けた顔を思い出した。

「魔法が使えぬ状況なら、私は1分も持たんよ」
風間はそう言いながら、昔のことを一つ思い出した。
大越戦争後の中東派遣。

現地邦人の疑似家族として半年ほど先行して潜入生活していた関少佐と、当時は少尉と、出会ったのだ。
風間はそこで、1kmの狙撃を楽々と成功させ、他国の大使館の警備を容易に抜け
素手で5人の男を絶命させる関の姿を見た。

中東派遣中は「親の言いつけでしぶしぶ案内する甥っ子」を演じつつ風間の身を守り続け
若き風間の肩に力の入ったロールプレイ下手を何度もフォローしていた。

その後も風間は任務で関に会うたびに評価が高まった。

風間が掻い摘んで、過去のことを話すと全員が背筋を伸ばし緊張していた。
「だが敵対しない限りは大丈夫だ。同じ国防軍の同志に変わりはないからな」
「魔法師としてはどうなんでしょうか?」
緊張する空気の中、藤林が魔法師としての実力に興味を持った。

「国防軍仕込みの実践的な現代魔法を使用するはずだ。残念ながら私の前ではあまり使用しなかったが」
「と言うことは学生としても優秀で?」
少し面白そうに藤林は聞き直す。妹と同級生だし一科生なのだ。実戦で磨いた理論があるのかも、と。
「ん~、もし何かまかり間違って、国立魔法大の推薦が取れたら、新車でも贈って祝ってしまう程度には」
風間は婉曲な表現を使って答えた。皆その意味を理解し、うっすら笑っている。
次に会うときは、学内の試験結果を聞いてみようと藤林は思った。
そうすれば多少は会話のペースを取れるだろうか。


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ジャケットは彼氏とおそろい


駐車場に見える高級車を見ると、ぼちぼち車が欲しくなる。
任務で国外の場合に行くのが多いので、費用対効果を考えて車は持っていない。
あ~誰か車買ってくんないかな~。今度の賞与でちょっとディーラーに相談するか。

さて風間のおっさんはどの程度話すだろうか。
昔に話した「母親が安産祈願した神社の御神体が軍神だったので、兵隊として才能を授かった」という話もしただろうか。

銃火器に始まり、武器格闘、爆弾設置・解除、罠工作、諜報、隠蔽、格闘、潜入、警備、建造物侵入etc
軍事に関わることならなんでも出来る。ヘリと戦闘機と戦車の操縦なんて目隠ししてでもできる、はずだ。やったことはない。
ついでに歌を唄うのも上手い。軍歌で鍛えたし。
戦闘服のほころびを治すのなんて神業レベルで裁縫も得意だ。

まさに加護を授かったのだ。加護を。
ただ、出来ることはそれだけじゃないけどね。

魔法については努力した。
国防軍高等学校で、座学、訓練を軽くこなし、余った時間を魔法の専科授業の予習復習にぶっこんで得た努力の証だ。
今回の任務が魔法科高校の入試合格でよかった。
大学入試だったらもう半年は欲しいところだ。

そんなことを思いながらホテルにつく。

明後日は女子バトルボード決勝、「渡辺摩利a.k.aジャケットは彼氏とおそろい」先輩のあれだ。
ここで事故が無ければ、光夜と雪光の仕掛けはばっちり。OK、素晴らしい、ハラショー。
さて電子金蚕防衛はどうなるか。
渡辺さんのジャケットは彼氏とおそろいでいいんだよね?あれ?



・・・・・・・・・・・・・・はい、優勝です。
おめでとう!ジャケットは彼氏とおそろい先輩!
で、そうなると無頭竜の賭博が既知未来と変わってくる。
場合によっては早く仕掛けてくるかもな。

そう言えば達也は未来知識をあの二人から聞いているのか?
そのあたりもそのうち聞いてみよう。

大会三日目の夜のミーティングも終わった。
こっちは明日からモノリスコードの下準備。
競技エリアの下見がある。

あの広い競技エリアにポツンとモノリス置いて
探して戦え!だと一回の競技終了まで半日はかかる。

なので、試合までの数日間で各校交代で競技エリアに入り
モノリス設置予定地(と言っても直径200mの範囲でランダム)の下見と
競技エリアの高低差、危険個所、戦術を有効に使える建造物の確認などを行う。

いや~モノリスコード選手って試合日までこんなことしてたのね。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え、もう明日モノリスの試合?

モーリー、スピードシューティング準優勝おめでとう。
無頭竜は君の優勝のオッズをどの程度にしていたか気になるが
一校の総合優勝に貢献したぞ!

電子金蚕の混入については今のところ見受けられない。
泥棒騒ぎで警備が強化されているのが効いているのか?
雑な泥棒というのも大変だった。プロ意識を抑えるのって意外とストレス。

あと雪光スゲー。まじスゲー。完全に王子様しやがった。
バトルボード女子新人戦の練習で、コースアウトした女子生徒を地面に激突する直前で助けた。
お姫様抱っこしてセーフエリアに避難させるとき「ごめんね、重いよね」と言われて
「いや、恋人が出来るとしたら君と同じくらいのスタイルだろうから、大したことじゃないよ」とサラッと言いやがった。
声が聞こえてた女子生徒顔真っ赤。周りで見ていた女子生徒も顔真っ赤。男子生徒も顔真っ赤。
その話を聞いたおじさんも顔真っ赤。

なんでも光井ほのかに試合開始までのスケジュールを伝えにコース脇に行ったところ出くわしたそうな。
美少年め~。モテない男子からの怨嗟を食らえ!これは一条の分!これは将輝の分!これは一条将輝の分!
一条はモテるかもしれんが、片思いの相手には振り向かれないから、実質こっち側だ!

カナデの動きも地味だが凄い。
あいつ、どうやったのか既知未来では電子金蚕を混入させる運営スタッフのCADから
電子金蚕を探し出して、じい様に告げ口したようだ。

運営スタッフがざわついていたので、ちょっと(非合法な方法で)確認したら
「テロ防止法で~」「あの人が~」「不倫してたらしいよ」等々判明した。

直接、九島の爺様が一校の待機用テントまで来てカナデを褒めたのは驚いた。
その時、司波達也と九島烈が接触した。
お互い目を合わせて「懇親会の時は見事だったね」「偶然気付いただけです」のやり取り。
俺も知ってましたからね!見破ってないけど!

で、黒城兵介の情報だ。
白、あいつ名字が黒だけど白!

生まれから入学までをまとめた報告書を確認した。

余談だが、100年前からスパイというのはすれ違いざまに物を渡す訓練をしている。
実は直接会って渡すのが一番確実で安全な場合もあるからだ。
身近にすれ違いざまに物を渡すのが上手い奴がいたら気をつけろ。
そいつがルパンだ!

あと今回は紙の報告書だ。うちの課が使用しているのは「食べれる紙」で水に溶けやすい。
水で洗えば報告書は溶けるし、口に入れて胃まで持って行ければ証拠隠滅は完璧。
ただ3枚以上重ねて食べるのはお勧めしない。美味くないから。

黒城の両親は、金沢の呉服メーカーの営業マンと未就学児童向けの魔法練習クラブの先生だ。
小学校、中学校でサッカーとラグビーをやり、佐渡侵攻の時も避難所にいたし
海外渡航歴なし、どこかの組織ともつながりはない。

以上、経歴から見るに白なので、今のところは大丈夫そうだ。
決勝でレギュレーション違反の裏技を持っていないことを祈るばかりだが。

さて、明日はモノリス初戦だ。頑張るぞ!特にモーリーが!

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がむしゃらに走った


「フィールドに行きます!」
やばい、やばい、やばい。
椅子が倒れるのを後ろにし、俺は急いでモノリスコードのフィールドに向かう。
手に持つのは連絡用の無線機のみ。

がむしゃらに走った。怪しまれてもこの際構わん。全速力で走った。
途中、スタッフを乗せたトラックを見つけたので一校生であることを説明して飛び乗る。
各校に割り当てられた待機テントから競技フィールドまでは距離がある。
トラックの方が走っていくより幾分か早く着くだろう。

現場に着くと既に画面で見たような土煙は収まっていた。
「状況は?!」
先に到着していた運営スタッフに声をかけるがは回答は芳しくない。
「この先200mの廃墟ブロックだが、一校の選手が救出に向かって二次被害にあったらしいんだ」
聞き終わる直前には走り出した。
無線に「すぐ運営本部に救急室の確保と、現場への救急車の派遣状況を確認して!やってないなら要請を!」
七草会長の声が戻ってくる。
「わかったわ。あなたはどこにいるの?」
「倒壊した建造物へ移動中!人手がないなら救助に参加します!」
「あなたは専門家じゃないのよ。現場の判断は運営の人たちに任せて!」
「仲間が心配です!確認したら報告します!」

そう言って切った。この日の無線交信はこれが最後だった。

一校のモノリスコード新人戦チームの戦術は「1・2」フォーメーションだ。
光夜がハイレベルすぎて単独行動が最善手となる。だから「光夜単騎&モーリー・須田組」で運用する。
フィールドの特性に合わせて、モーリーと須田ちゃんをオフェンス・光夜はディフェンス。
時には逆に、といった具合だ。
オフェンス・ディフェンスの配置分けは事前に決めるが、試合中はモーリーの判断でフレキシブルに入れ替える。
戦術眼ではなくコミュニケーションの問題でそうなった。

モーリーは試合中、光夜に常に状況報告をさせる。
暇なら陽動をさせるし、敵が来ているならその場に釘付けにするよう伝える。
「お前!暇なら爆発でも起こして陽動しろ!」「そのまま守り切れよ!いいな!守れよ!」といった具合に。
天下の四葉に命令すると思うと背筋も冷えるが、チームメイトで部活のバディだ。
憶することなどないのだろう。モーリーにとって光夜は友達ということだ。

須田ちゃんもそんなモーリーを信用している。
光夜の取っつきにくさの緩衝材にしているのもあるし
「取っつきにくい四葉君」として茶化しているようにも見える。
やっぱり図太いぜ、須田ちゃん。
それでもチーム結成の時より、はるかに須田ちゃんと光夜のコミュニケーションは増えた。
「カレー好き?」「チキンカレー派だ」の会話が自然発生で起きたときは赤飯を炊きたくなった。

俺の知っていた未来では、相手校による屋内への破城槌使用による建築物倒壊。
それでモーリーたちは負傷した。

二次創作オリ主だと事態が原作から乖離すると「運命の修正力」で既定路線に収まることがある。
あんなのは嘘だ。俺が嘘の証明だ。今回は偶然の重なりだ。修正力なんてない。

オフェンスであるモーリー・須田組が廃墟エリアで相手校と交戦になった。
廃墟ゾーンの戦闘は遮蔽確保、移動、索敵、攻撃のじゃんけんだ。

相手校は廃墟エリアで索敵困難になるのを嫌がったのか
破城槌で周辺の廃墟ビルの壁を抜き視界を確保した。
少なくと破城槌のこの使用についてはレギュレーションでは問題ない。
が、使用回数がまずかった。

一つの廃ビルに対して破城槌で壊す壁の枚数が多く、破城槌は柱までダメージを与えていた。
ビルは耐久力が落ち下階が上階を支えきれなかった。
最初は一棟、それがドミノ的に隣りの一棟に倒れ込んだ。
二人が巻き込まれたのはドミノの三つ目。三棟目の倒壊。

ビルの倒壊は三つ目で終わった。
廃墟エリアでの交戦で、破城槌が使われ、倒壊に二人が巻き込まれた。
偶然なのだ。

偶然は重なる。俺が死んだ後、生まれる前に知った最初の教訓だ。


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ホントだったら俺たちが勝ってたんだよ!

大きく息をつき顎に手をやる。
宿舎ホテルに戻り、まずはロビーのソファに腰掛ける。
体力的には全然問題ないが、精神的な疲弊はくる。

どうやら俺は「青春」と「友達」に感情移入し過ぎたのだろう。
感情移入の結果が不測の事態後の精神的疲労だ。

「お疲れ様です。大丈夫ですか」
と声を掛けてくれたのは中条あずさパイセンだ。
ども、可愛いっすね。
ソファから立ち上がり病院の方も落ち着いたことを説明する。



一校生の二次被害と思われたのは光夜だった。
想定外の土煙を見たので大急ぎで現場に来たらしい。
反響測位(エコーロケーション)の魔法を使って瓦礫の下の二人を見つけ出した。
そのころには救助のための運営スタッフ達が現場に到着した。

そこからは更なる瓦礫の倒壊を防ぐため、周辺の建造物への措置。
二人の上に積もった瓦礫の撤去。派手にやっては下の二人を更なる危険に巻き込む。
だがゆっくりやっては二人の生存に関わる。
現場にいた人間総出の人力作業だ。

半ば反射的に場を仕切ってしまったことは少し反省している。
少しね。晩御飯のから揚げをつまみ食いして怒られた程度に。

適当なスタッフを捕まえて、相手校の選手が責任を感じて自暴自棄になるかも知れないから身柄確保して現場から離して監視するよう言ったり、
瓦礫の下から見つかった二人を、クラッシュ・シンドロームを知らない若手スタッフが無理やり瓦礫から引きずり出すのを止めたり。

1時間ちょっとの作業で現場は落ち着いたが
俺は病院への救急搬送に随伴した。
病院では市原先輩が先着しており、受け入れ準備やモーリーと須田ちゃんのご家族に連絡をしてくれていた。

あれだ、横浜騒乱編でお馴染みの背の高い美人系女子生徒だ。
美人が多いから判断がつかない場合は画像検索できれば楽だろう「 市原鈴音  劣等生 」

競技会場脇の軍施設併設の病院では対応が難しいレベルの重傷だった。
会場から救急車で20分ほど行った市の救急病院の手術室に放り込まれたのはモーリーだった。

須田ちゃんは集中治療室のベット行き。
3時間の手術のあと、モーリーも集中治療室へと運ばれてきた。
先に目を覚ましたのは須田ちゃんだった。
ご家族が到着するまでは、と思い俺は近くにいた。

「あれ、どうしたの?」
「アクシデントで病院に運ばれたんだ」
「そっか、負けたのか。ごめんね」
ちょっと涙が出そうになった。
「次勝てばいいよ。先に体治さないとね」
「もしかしてカテーテルとかしてる?恥ずかしいな、ちんちん見られちゃったんでしょ」
「大丈夫だよ、俺よりデカい」
「ふふ、モーリーは?」
「手術終わって寝てる」
「そっかモーリーもカテーテル仲間?勝ってる?」
「安心しろよ、チャンピオンは須田ちゃんだ」

ナースコールで呼ばれた看護師が入ってくると同時に親御さんも来た。
ほどなくしてモーリーの家族も来て、医師から説明を受けた。

検査の結果ではモーリーの頭部には酷いダメージは無いようだ。
ただ胴体部へのダメージが思いのほかあるので、最低でも1か月は入院らしい。

須田ちゃんの方は骨折箇所が多く、自宅療養とリハビリが長くなりそうだった。

帰り際に集中治療室の硝子越しに麻酔が効いたまま眠るモーリーを見たら
薄っすら目を開けたような気がした。
「ホントだったら俺たちが勝ってたんだよ!」と眼で言っているように思えた。



俺は中条パイセンに促され、七草会長のところへ向かった。
まずは無線報告を怠ったことを謝罪。
会長は俺を「困った子供」として叱った。すまんね、お嬢さん。

そして状況は俺の知っている未来に近くなった。
相手校の棄権という形で試合は勝利となった。
来年度からは破城槌の使用そのものが見直されるかもな。

十文字会頭が運営側に交渉して、登録選手の入れ替えでの競技参加をもぎ取った。
どうやら十文字会頭だけでなく、光夜も交渉の席に行き「温情を」と発言したらしい。あの声で。
十文字会頭からは「お前のアレは脅迫に近い」と言われたらしい。
まあ四葉の名前で美形の美声がプレッシャーかけながら「温情」と言ったら脅迫だわな。
下手に断ると何が起きるかわからん。

チームの再編は選手で唯一残った光夜に任されたらしい。
誰を選手にするか問われこう言ったらしい。

「司波達也と司波雪光を。モーリーと須田に総合優勝持って見舞いに行きます」

以上の経緯を七草のお嬢さんから聞いて、俺はワクワクが止まらなくなった。


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つまりはチートを持っている

数話は三人称視点が続きます。

お忘れですか?チートがあります。



「なによ、ミキ眠そうね」
「ぼくの、なまえは、幹比古だ」
観戦席では欠伸をかみ殺した吉田幹比古が、千葉エリカのいつもの呼び方を訂正した。
幹比古の横ではレオが船を漕いでいる。
(船を漕ぐ、って柴田さんに言って通じるかな?)
古い家の生まれなので古めかした言い方には慣れているが、柴田美月のような普通の家庭ではもう死語だろうと
幹比古は眠い頭で考えた。

草原フィールドを映すモニターにはモノリスコード新人戦の一校の三人が映っている。
支給されたプロテクターをつけており、専用CADを持つのは達也だけで、他二人はブレスレット型汎用CADのようだ。
決勝までの試合は危なげない、というレベルではなかった。

自軍モノリスの前で仁王立ちする光夜。
相手をかく乱し、時折カメラにウィンクする雪光。
そして確実に相手のモノリスをクリアする達也。

試合中会話や、コミュニケーションをしている様子もなく圧倒的実力差で勝ち上がっていた。

昨晩、チーム結成から「連携の確認」として
練習台に駆り出されたのは幹比古とレオだった。
途中アラタも合流し、陽が昇るまで相手をし、睡眠時間は3時間も無い。

三人が使うのは初歩的な魔法ばかりだが、サイオン量や、干渉力、発動速度は高校生のそれを凌駕する。
無茶な練習に付き合わされたせいか、幹比古が悩まされていた魔法使用時の違和感はあっさりと剥がれていた。
達也が調整したCADを使用し幹比古の実力を一段上げたが、それでは足りなかった。
レオもレオで、少なくとも爆発で宙を舞ったのも一度や二度ではない。
一人上手く立ち回ったアラタでさえ、地面と平行に5mほど飛んだ。

(僕に足りていないのは命懸けの荒行なのでは…)
感謝と努力不足を恥じる気持ちで幹比古は改めてモニターに目を向けた。

「眠くないの?お肌に悪いわよ」
「徹夜は慣れてるし、お肌を気にする性格じゃない」
一校の待機テントで、他のスタッフ、生徒会メンバーとモニターを眺めていたアラタに声をかけたのはカナデだった。
「そっちどうなんだ?寝れたの?」
「あたし、普段のビタミン摂取量が多いので少ない睡眠で十分よ」
深夜練習のCAD調整等をカナデは手伝っていたが
さすがに午前3時には練習場のベンチで眠っていた。
彼女も彼女で睡眠時間を削っては、技術スタッフとして動き、電子金蚕の発見と活躍したのだ。

一番タフなのはアラタだろう。森崎と須田の救助、病院への随伴
そして明け方までの連携確認の練習に練習台として参加したのだ。

選手である達也、光夜、雪光は2時間程度の仮眠をとったが
アラタは別のこともあり一睡もしていない。

「達也兄さん、あのレオのCADどうするの?」
「あれか?手遊びで作ったからな、特にどうこうする気はないぞ」
トーラス・シルバーのシリーズとしてリファインするつもりはないことを雪光に告げた。
「欲しいのか?」
「いや、似たもの作ろうかと思って」
雪光の技術力は相当なものであることは達也も承知している。
もし、その気ならトーラスとシルバーの間にミドルネームのYを入れてもいいレベルだ。
雪光はハードもソフトも自分でやりたいので、その気はない。

「達也、雪光。二人とも気を引き締めろ。相手は一条だ」
「ああ、今度は今まで通りと言うわけにも行くまい」
すでに戦略はある。戦略と言うには大雑把ではあるが。
このチームに誰一人平凡な魔法師はいない。

うち二人は転生者でこの世界にない特性、つまりはチートを持っている。

光夜は四文字熟語でチートを決めた。決めさせられたのかも知れない。
分厚い四文字熟語集を長い時間見ていたことを覚えている。
【多芸多才】【万夫不当】【竜章鳳姿】の三つを合わせた姿を、この世界で表現すると四葉光夜となる。
合致していると本人も思っている。
ただ竜章鳳姿と本人の性格が合わさるとなかなか友達が出来ない。

雪光のチートは簡単だ。「キリト!+深雪!」と叫んだ。
それを聞いた光夜はノーコメントを貫いた。


「ほら、起きなさいよ!」
「ん?あ、始まるのか」
エリカがレオの脇腹を肘で突いて起こした時には
開始10秒前のカウントが始まっていた。

草原フィールドは遮蔽物はほぼない。なだらか高低差もあるが、足元の草は低い。
電子ホイッスルが鳴ると、両チームが同じ行動をとったので観客を驚かせた。

三人が横に等間隔の距離を取る。
まるで一対一の構図が三つ出来たようだった。

最初に口火を切ったのは黒城兵介の雄たけびであった。
彼方の正面に立つ司波雪光はその声を身に受け走り出す。

九校戦史上に類のない高速戦闘が行われた。


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まるで竜のごとし、としておくかね

三人称視点です。
劣等生の魔法設定難しい。そして俺の文面拙い。



「突撃(チャージ)!」
この雄たけびと共に兵介は走り出す。
左腕には盾のように障壁を作る、
加速し、ブーツ裏の摩擦係数を調整し転倒防止、激突の際に負けぬよう加重。

競技用に制限されたCADではあるが、必要なことは十二分に出来る。
加速!加速!加速!

肉体も恵まれていた。頑健無比を地で行く。体格はすでに三校で一番だ。
魔法も恵まれていた。サイオン量はちょっとやそっとでは尽きない。
知性も恵まれていた。マルチキャストも出来るし、変数調整もお手の物だ。

一番恵まれていたのは、金沢に生まれたことだと思っている。
面倒な十師族も関係ない。ただ、この世界に転生して恵まれた中でやりたいことをやった。

善良な両親でよかった。佐渡侵攻は怖かった。
だから、みんなを守れるよう身体を鍛え、魔法を鍛え、三校に入学した。

九校戦の選手に選ばれた。司波達也に会えるかも!それだけで興奮した。
そこには四葉がいた。司波の兄弟が増えている。同じ転生者だと思った。
なんか、やる気が出た。自分を見せつけよう。見てもらおう!
あんたたちがそっちで生まれたように、俺はこっちで生まれてここまで来たぜ!

黒城兵介はそういう男の子だ。

十文字克人に匹敵する肉体が加速し、障壁を構え、一直線に向かってくる。

司波雪光は笑っていた。あいつは馬鹿だ。あれだけでわかる。
全てをこのスタイルにしているんだ。わかるんだ。僕もだ!

CADを自己最速で操作する。もうあいつは目の前だ。一息飲むとぶつかるだろう。
加速、加速、あいつよりも速く!速く!あの馬鹿より速く!

ヒーローが好きだった。カッコいい男の子が颯爽と戦うのが好きだ。
知性も魔法も欲しかった。誰にも負けないヒーローになりたかった。
それを希望した。チートリクエストの表現が雑なことに8歳の時思い返し、枕に顔をうずめた。

転生して、世界を知ってもヒーローになろうと思った。
物語の登場人物が兄となり、双子の半身になった。身近に感じた。
ヒーローじゃない、家族として助けようと思った。
一緒にいてくれる人もいる。同じ運命で同じように家族を守ってくれる。

でも、やっぱりヒーローに憧れる。颯爽で知性的で女の子にもてる。
なれるよう努力してみた。だからここにいる。

司波雪光はそういう男の子だ。



すでに草原フィールドには3つの一対一が繰り広げられていた。
その中を縦横無尽に走り回る。
魔法を使用しての移動速度としてはすでに絶人の域だ。

自己加速は一方向のみに加速させるが、二人は停止の魔法を駆使し
鋭い切り返しをすることで、草原フィールド内を走り回った。

雪光はサイオン弾を使用した。この高速の中で物理現象は遅い。
例えば圧縮空気弾。あの加速であの巨体にあの障壁。効く攻撃、当たる攻撃ではないと感じていた。
それよりもコントロールが容易なサイオン弾を選択した。
勝負は、この高速の世界についてこれるかどうか。

兵介も感じていた。勝負は速い方が勝つ。兵介の武器は障壁による突撃。
攻撃に使えるのは自分の前面だけ。あいつは、自分の後ろを狙ってくる。
だから速く動く。速く姿勢を直し、速く突撃する。
少しでもこの盾が触れれば勝てる。脚が破裂するまで走る覚悟が出来た。

「なにあれ?無茶するわね」
「人が走ってるように見えない…」
自己加速を維持しつづける二人を見て呆れるエリカに、すでに二人の高速戦闘についていけない美月。
他の対戦が同時に行われているので、レオも幹比古もどれを注視していいかわからず
言葉も発さずにスタンドの大型モニターを見ている。

自己加速中の難点は自重コントロールと摩擦、そして周辺を知覚すること。
自重と摩擦は魔法でコントロールできる。勿論、同時に行うので修練が必要だ。
ただ周辺の知覚は難しい。高速の世界は風景が速い。同様に高速移動する第三者へ精密接触するのは容易ではない。
一方向へ自己加速して攻撃を加える「型」として修練すれば精密攻撃も可能だ。実際、エリカは出来る。
そこまでの修練がなければ、針を刺すような一撃を狙うのは難しい。大雑把な面での攻撃が有利だ。

そう、有利なのは兵介となる。

(なかなか決めさせてくれない!)
だが先に焦ったのは兵介だ。魔法行使で疲弊は無い。サイオン量も問題ない。
雪光の方が速い。

周囲で雷が逆立つ。誰かの魔法だ。だがそれがなんだ。相手はあいつだ。
兵介は雷の中を突っ切って雪光に肉薄する。
その瞬間、そう高速戦闘での一瞬。周囲にはどう見えただろう。

雪光が横にいたのだ。雷の向こうにいた雪光が。


すでに雪光の視界は歪んでいた。頭痛もする。無理をしたのだ。
フラッシュキャストで発動したのは更なる自己加速と反応強化。
競技用ではなく専用のCADで行う「最速」の一端だ。

雪光は、目の前のデカい奴にサイオン弾を見舞わした。
正面じゃない。横から一発キツいのを。
勝負はそこで決した。
兵介が両ひざをついたのを確認した。
雪光は勝ったと思った。
すでに頭がガンガン痛む。脚も動かしたくない。女子の膝枕が欲しい。

ただフィールドは二人だけのものじゃない。流れ弾がある。
二人の高速戦闘に決着をもたらしたのは、一条将輝の圧縮空気弾の流れ弾だった。



試合開始の静寂は1秒と持たず、フィールドは騒がしかった。
雪光と兵介の高速戦闘は草原全体で行われていた。

一条将輝は「佐渡より、騒がしいな」と内心笑っていた。
二人が人間では出せない速度で、縦横無尽に動き回る。

将輝は駆け足で戦位を変えながら、司波達也と距離の取り合いをしていた。

お互い常に動きながら魔法行使をする。
圧縮空気弾を多数展開し相手を制そうとする将輝と
その魔法展開をキャンセルしつづけ、懐に飛び込むのを狙う達也。

今のところ勝ち筋が見えているのが将輝だ。
将輝は精密攻撃をする必要がない。達也がいるところを面として捉え、空気弾を撃ち込めばいい。
達也は、術式解体は魔法展開される空間上の座標を変数としてコントロールしなければならない。

その差は精神的余裕に現れる。

こういった見晴らしのいい場所で、
近づく相手との交戦は黒城兵介との模擬戦で将輝は嫌と言うほどやった。
達也の術式解体や体術には舌を巻くが、兵介に比べ移動速度の差がある。
ただ攻撃するのではなく、移動と攻撃を同時に行う。
それも慌てず、しかし速くである。移動による変数の割り出しは、みっちり練習した。

正直、兵介には助けられた。竹を割った性格が通じ合った。
明るくて元気でタフで、練習のための模擬戦で的になることを承知で付き合ってくれた。
将輝は参謀がジョージなら、剣友は兵介だろうと思う。


一方達也は苦しんでいた。
試合のレギュレーションと自分に課せられた機密。
いくつもの制約があるが、それでもこれ程苦戦するとは思っていなかった。

多少捨て身にはなるが、肉を切らせて骨を断つ覚悟もあった。
だが前提になる接近が難しい。

距離を詰めようとリスクを持って踏み込む。
一定距離まで来ると狙ったように牽制で空気弾が来る。
(一条は目測内で危険ラインを引いており、そこまで到達すると牽制を最優先にする)
達也はそれが相手の戦術と判断し、実際正解であった。

(俺と深雪の前に現れ、自己紹介した時の余裕の正体はこれか)
他の試合と違う「戦闘競技における一対一」を徹底的に鍛えてきた動きだ。
実戦経験者としての余裕だけではなく、競技者としての余裕でもあった。

「上手いな」
「そんなに?」
カナデはアラタの独り言に反応した。
「一条の距離の維持が上手い。反復練習したんだろう」
「で、打開策は現役さん?」
珍しくアラタが舌打ちし、不機嫌な声で返した。
「あらご存じで」
「レストランの面々はね」
(君ら予想通り過ぎません。司波達也からすると、カナデも身内に近いのか?レストランにいたからという義務感からの通達?)
アラタは自分の正体が達也経由で光夜、雪光、深雪、カナデに知れ渡るのは予測していた。
この情報が、彼らの中で転生容疑者ではなく諜報員としてアラタの今までの行動を補完する。
これなら「不審人物」として警戒されなくなる。
今後、怪しまれないし、横浜騒乱については協力関係になれる、とアラタは睨んでいる。
(ブランシュ襲撃ははしゃぎ過ぎたけどな)
「で、達也は勝てるの?」
「連携をうまく使うか、骨も肉も切らさずに戦えば」
「そういう表現はんたーい。具体的な説明さんせーい」
二人の小声の会話が途切れた瞬間、戦況は動いた。突然の終局である。

実戦であれば、一対一の構図でなければ、そして精神的余裕が油断でなければ
一条将輝はもう幾分かの時間、司波達也を釘付けにしただろう。

先に異変を感じたのは達也であった。そして即座にそれを好機と捉えた。
草がまるで作り物のように起立していた。
(光夜。加減しろよ!)

将輝は連続して空気弾を発射しては解体されるのを我慢強く耐えていた。
勝機は一つ。相手の変数調整のミス。それを誘うための弾幕。
一瞬でいい。それで決着だ!と思っていた。
草の起立には気づいていない。だが一瞬の雷光は視界に入った。

将輝の足先を掠めるように雷が上に登り、達也は危険ラインを突破し将輝に肉薄していた。
しまった!と認識した瞬間に圧縮空気弾を連射した。突然の近接戦に思考が固まった。

近接距離に調整されなかった圧縮空気弾が達也の横を掠める。
そして将輝の耳元で指を鳴らす。
空気を震わす衝撃は試合の終了を告げていた。
三校のモノリス付近では吉祥寺真紅郎がすでに倒れていた。



憤怒とは違う。それは四葉真夜のために取ってある。
悲哀とは違う。それは俺を生んだ亡き母のために使った。
後悔とは違う。生まれ落ち、出自を知ったときに味わい尽くした。
憐憫とは違う。四葉にかしずく無能共にしか向けない。

これが友情なのだと光夜は思う。
モーリー、須田、アラタ、彼らと優勝の栄光を分かち合いたい。
光夜は手に入れたい。前世で得ることのなかった友情と栄光を。

真紅郎の視線の遥か先で、四葉光夜は身じろぎもしない。
距離的には交戦距離としてはいささか遠い。
将輝も兵介もフィールドを移動しながら交戦している。
自分の仕事はモノリスを守ること。それもあの四葉をけん制しながら。
(やってやる。四葉だろうと!僕は戦場に立つ参謀だ!)
将輝の横に立つべきは戦える者だと真紅郎は思っている。
兵介はいい奴だ。だが僕には僕の役目がある、とも。

試合開始しても数分経つが光夜はモノリスの前で仁王立ちをしていた。
敵モノリスとの距離など関係は無かった。彼方にいる真紅郎を睨み、機を待っている。

(あいつ動かない!)
真紅郎は焦った。内心で焦るどころではない。
すでに落ち着きなく数歩前に行けば、数歩下がるを繰り返している。
将輝は達也と、兵介は雪光とそれぞれの領域で交戦している。
真紅郎がモノリスを守りつつ、四葉を牽制。一対一で勝った将輝か兵介が敵モノリスを落とす。
戦略ではない。「勝負したい」と言った将輝の願いを聞いた。
四葉を捨て、司波達也との勝負を選択したのだ。「俺の直感だが、あいつが一番出来る」と。
真紅郎も賛成した。将輝と兵介の実力は知っている。

四葉を抑える覚悟もある。自信も少なからず真紅郎の中にはあった。
(動くつもりはないのか!数の利が出来た瞬間に猛攻を賭けるのか?どうなんだ!)
真紅郎は、自分の動揺に驚いた。相手が動いていない、というだけで戦術的選択が出来なくなっている自分に驚いた。
(情動干渉!ちがう!レギュレーションでは禁止だ!)
大きく深呼吸して一歩踏み出した。
(恐れているのは四葉の名前だ。踏み出せ!戦え!将輝の横にいるために!)
真紅郎の足元の草は起立していた。

「ふむ」
九島烈は貴賓席からフィールドを映すモニターを見ていた。
貴賓席の傍らにも複数の室内用モニターにより三つの交戦を同時に見ることが可能だ。
(まるで竜のごとし、としておくかね)
かつて最高の魔法師と呼ばれた老人は、モニターに映る仁王立ちの少年の評価を決めかねていた。
精神や情動干渉の魔法とは違う、持って生まれたカリスマ性が相手を抑える様は興味深いとも思う。

今までの試合では光夜自身は他の選手たちを圧倒する実力を示した。だが肝心の魔法はどうだ。
使われた魔法は?サイオン弾、知覚魔法、加速、浮遊落下、一般的な魔法を使うだけだ。
懇親会で手本を見せた工夫らしい工夫は無い。

若い故の実力不足?それとも秘匿すべきことがあるのか?一般的な魔法以外は使えない?
実戦経験がない?身体的問題で行動が出来ない?それとも戦闘にトラウマ?

九島烈の天秤で評価が揺れていた。

相手は天才児と言っても十師族ではない。戦力としてはチーム内でも一番下だろう。
そんな相手をにらみ続け、動きを止めてどうする?と九島列は訝しんでいた。

(十分だ)
フィールドで起きていることも、誰彼の動きも、把握した。
光夜は達也のような精霊の眼などない。
純然たる観察力である。
この観察力は【多芸多才】なのか【万夫不当】のどちらかの効果では、と光夜は考えたことがある。結論は出ていない。

雪光は互角に戦っている。あの高速戦闘は真似できない。そしてあの世界に入れない。
そう光夜は感じ、一人で最速の世界にいる孤独を考えたことがある。

達也はやや苦戦している。決め手に欠ける。実力が出し切れない。
ガーディアンとして同じ立場を共有しながら、軍、戦略級魔法師、人体実験、
いつも苦しむのは達也だ。だから達也のためにも深雪を守ろうと光夜は思う。

真紅郎が一歩踏み出す。
組んでいた腕を解いた光夜は撫でるように左手のブレスレット型CADを操作する。
一呼吸後、真紅郎の足元から雷が上昇する。
将輝の目の前で雷が上昇する。

前者は直撃、後者は動作が一瞬止まる。

雷の轟音、増幅された衝撃音、圧縮空気弾の着弾音が連続で響き、モノリスコード新人戦決勝は終わった。



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お前らアレか、特撮オタクのオフ会か

未成年による飲酒シーンがありますが、作品内の登場人物は実在しない架空のキャラクターです。
この作品は未成年による飲酒を推奨するものではありません。



宿舎ホテルの会議室では他のスタッフに「というわけなんですよ」と市原先輩が三度目の説明をしている。
いや~自慢したいよね。光夜の魔法がどういったものか。

達也の指パッチンの増幅衝撃波も力技じゃねぇか、と思ったけど
光夜の魔法もそこそこトンデモだった。チートめ!

はっきり言ってその理論構造は説明するに難しい。
瞬間的に地雷を設置し、その場で発動させるというイメージで捉えると正解らしい。
移動速度の速い黒城は対象から外し、一条と吉祥寺に的を絞った。
司波達也特有の問題も理解しての手助けらしい。
本人は「昇雷(しょうらい)だ」しか言わないし。効率重視か!

それを理解して説明する市原先輩は賢い。
どう?魔法大じゃなくて防衛大で研究しない?予算多いよ。
ただし今のご時世、軍事転用するからヨロシク!

結局モノリスコードの試合時間は5分とちょい。
フィールドの中をバイクよりも速く走り回った二人は、医務室で今も寝てる。
「筋肉痛が…」と雪光が言っていたが周りには雪光ガールが来ていてそれなりに満足そう。
七草会長に「デレデレしないの!」と叱られていたけど、やっぱり年下趣味ですか。そうですか。

ちなみに一条将輝の空気弾の流れ弾は雪光に命中しなかった。
すぐ脇で膝をついていた黒城兵介は意識を失っておらず
逆転のため立ち上がった瞬間に空気弾が黒城の方に着弾した。
本人は気絶もせず、「痛って~」と再度膝を突いたらしい。

おい、レオンハルト並みの頑強さだな。生身だとレオより硬いか?

一条将輝と司波達也は俺の知る未来より和やかに握手をした。
「競技に勝つ訓練では追いつけないのか?」
「実戦を想定しての競技だ。目指す先を間違えなければ意味はある」
なんだその会話。ちょっとカッコいいじゃん。

逆に吉祥寺真紅郎はうなだれている。いいとこなしだ。
お前、アニメだと台詞の無かった三校モノリスコード新人戦選手の三人目の気持ちわかったか!
たしか俺の記憶だと台詞が無かったはず。あいつサポートスタッフとかで参加してるのかな。
いいじゃん、お前。頭いいんだから、防衛大来いよ!そこで研究しろよ!
ただし今のご時世、軍事転用するからヨロシク!

これで総合優勝だ!と喜ぶ面々もいるが、俺はこの後仕事がある。


高級車にGPSを仕掛ける仕事だ。ちなみに情報部のアンチ十師族の課からの支援作業だ。
速攻GPSが発見されても俺のせいじゃない。こんな時にVIPの車にGPSつけるとか予算の無駄をするそいつらが悪い。
っていうか九島烈の車に付けろとか、明日の朝一で情報部の他の課が発見するだけじゃねか!

そんなムダ金使うなら、俺が買ったトーラス・シルバーの最新CADを経費で落とさせてくれ!

俺は貰い物と同じ物を買うことがある。無駄遣いではない。
装飾品や電子機器で身につけると送り主が喜ぶものなら特に同じ物を買う。

え?貰い物を信じてそのまま身につける諜報員っている?

風間さんに入学祝に貰ったCADだって、普段の行動範囲である学校の時くらいしか身につけない。
九校戦のような「学校行事で外出する時」もだ。

それ以外は付けない。GPS追跡や使用魔法の履歴とか抜かれるの嫌じゃん。
カナデが行きのトラックで触ったのも風間さんに貰ったデコイのCAD。
入れてある魔法も当たり障りのない物ばかりだ。
風間さんとのお茶会でつけていったのは本命。

課の新人には口酸っぱくして説明しているが、あんまり理解されていない。
母親からプレゼントされたCADなど実家に置いてこい。
あと彼女からもらった携帯電話は気をつけろ。マジでスパイ並みにメールすっぱ抜かれて、裏でGPS追跡が稼働しているぞ。
嫉妬深い女性はスパイ向きだ。我が支援課でも優秀な嫉妬深い女性を募集している。
日本の諜報で輝けるのは嫉妬深い君だ!

俺はそんなことを思いながら、これから支援課としてドブに予算を捨てる仕事をするのだ。





流石でしたね。十文字会頭は流石おっさん面なだけはある。
モノリスコード代表戦は圧倒的勝利だった。

すでに九校戦の全日程は終了し、最後のパーティも終わった。
俺は柄にもなく七草会長をダンスに誘った。
お情けで少し踊ってもらった。え、おじさんは、君好みの年下男子(矛盾)だけど興味ないですか?

パーティ前には光夜と抜け出し(断じてデートではない)、モーリーと須田ちゃんのお見舞いをした。
モーリーは頭に包帯巻いていたが、優勝報告すると少し涙ぐんだ。
「来年こそは俺たちで勝つんだ!」と息巻いたが涙声だった。
須田ちゃんは「ありがと」といって一人一人と握手した。

雪光と黒城は仲良くなったようだ。
パーティ会場の隅で女子を入れず、何やら身振り手振り交えて長話をしていた。
あれ?腰に手をやってベルトのジェスチャーして、バックルのありそうな辺りを操作してポーズをとってる。
お前らアレか、特撮オタクのオフ会か。

本来はトラウマ事件になるミラージュバットの本戦の選手&スタッフコンビは問題なく優勝した。
小早川先輩、妖精衣装には多少抵抗があったようで「もうこの服着なくてもいいと思うと嬉しい」と優勝の喜びと今までの恥ずかしさを語った。はにかんでて可愛い。今はフロアの中央で男子生徒と踊っている。

ただ深雪の飛行魔法に話題の全てを持っていかれたのは、ご存知の通りだ。

パーティの裏では十文字会頭が司波達也に「お前、どっかと結婚して十師族にならへん?」と勧誘しているところだ。
18歳にして見合い話の斡旋とか30年早いよ!中年独身はいっぱいいるんだぞ!剣術道場の長男とか。
最後のパーティが終わると各宿舎で戻って、明日早い時間に出立となる。
女子は最後に温泉に行き、男子は誰かの部屋に集まってジュースと菓子で二次会だ。

俺は特殊なルートを使用して缶ビールを手に入れていた。
来年真似する奴が出たら心配である。もし実行しようものなら軍事機密漏洩になりシャレにならない刑となる。

宿舎ホテルの誰もいない上階に忍び込み、夜空を眺めながら缶ビールを開けた。
ホテル全体が九校戦用に貸切られているので、使われていない階がある。
ホテルの警備?俺にかかれば穴だらけよ!小生嘘つきました。部下のおかげです。上階侵入の手配してくれました。

いや~久しぶりのビール美味い!
「へへ~、あたしにも一本お恵みいただけますでしょうか~」
え~、どうしようっかな~。まあ頑張ったから飲ませてあげましょう。カナデ君!
俺のいる部屋にそっと現れたカナデは両手をこすり合わせ、寄ってくる。飲む気満々やね。

彼女の尾行は気付いていたが、まあ放置。騒がれてもビールの持ち込みは有耶無耶にできるし
取っ組み合いでも負けない。いやまて、16歳の女子高生と取っ組み合いとか社会的死ではないか。
うん?ご褒美でもあるのか?

本来は未成年者の飲酒は許されないし、黙認もダメだけどお互い九校戦は苦労したから社会のルールから目をそらす。

カナデに一本渡すと手慣れた様子でビールを開け、口をつけ長い時間飲んだ。
「もう一本いい?」
横の椅子に腰かけ手を出してくる。
「お前、若いうちから肝臓壊すぞ」
「大丈夫、飲み慣れているから」
おい?!藤林の家はどうなってるんだ。

違う。仕掛けてきた。この飲み会は難しそうだ。

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アプローチ

未成年による飲酒シーンがありますが、作品内の登場人物は実在しない架空のキャラクターです。
この作品は未成年による飲酒を推奨するものではありません。


「大丈夫、飲み慣れているから」
いつか?いつから飲みなれている?
5年前?10年前?それとも生まれる前に大人だった時?

言葉の意味を理解するには、その言葉を発する人物のバックボーンを知っていると深い理解が出来る。

不審人物から諜報員へと俺のバックボーンが判明し、三人は納得したと仮定している。
なぜなら、九校戦で起きる「その他のトラブル」について相談も、確認もしてこなかったからだ。
彼らの認識なら無頭竜の件は、達也が小野遥(巨乳カウンセラー、ちなみに俺の好みではない)と藤林響子
そして魔装大隊の面々だけが関わっている。
俺は軍人だが魔装大隊とは無関係だし、学内の諜報員に相談しなくてもこの件は解決する。
実際、無頭竜の強化人間?は柳・真田が確保していた。

既知未来の中で起こっていたことは起こったのだろう。
俺は介入することもできるが、介入すればいいというものではない。

転生者であることを伝えるのは難しい理由ともつながる。
俺の目的と、光夜と雪光の目的と一致するかわからない。

もし彼らが「原作知識を最大限に使う為、大幅な原作ブレイクを狙う人物を敵とみなす」なら俺の目的はそれに適応される。
俺が目標とするのは「原作ブレイク」に当たる行為かもしれん。
つまり未来知識を使った事件の阻止、および縮小だ。

そのためなら適切なタイミングで司波と四葉の関係を十師族にリークするとか
トーラス・シルバーの個人情報を公開し、資産の凍結とか策略をめぐらす。
司波達也に不利な例を挙げたが、光夜や雪光はこの行為を嫌うだろう。

彼らが四葉真夜との生存競争を目的とするなら
何かしらの「切り札」を確保する時間や、四葉から離れた資産というのは必須だ。

「この世界で生きる」のは同じだ。だが「どう生きる」かは別だ。

カナデはどうだ?彼女の出自、そして今までの行動。
達也と志は同じか、外部協力者か、光夜と雪光への協力意図は?
彼女にとって原作ブレイクをする転生者は敵か?

んで、実際カナデさんのこのアプローチだよな。

2本目も空けたのか許可も取らずに3本目に手を出すカナデ。
「飲みなれてるって、藤林はそんなにキッチンドランカーが多いのか」
「そんなわけないじゃない?あたしが特別なの~」
既に酔い始めたのか少しカナデの姿勢が崩れる。
「は~特別ね。お前のお姉さんに言いつけるよ?」
「ふふ~ん、それは困りますな、軍人殿。言いつけたらビール片手に迫られたとお姉ちゃんに泣きながら言ってみよう」
顔は赤くなっていないが、襟のボタンを一つ外す。なかなかカナデも色っぽい。
「既成事実を作らんでもよろしい!」
「ところで、呼び方アラタでいいの?ほらこういう時には「俺は達也より上の階級だからお酌しろ、げへへ」とかしないの?」
「お前俺をどんな風に思っているんだ?」
「若作りのお調子者」
「お調子者は同意だが、若作りじゃない。もともとこういう顔なの。あと呼び名はアラタでいい」
俺は手にしているビールの残り20%を一気に飲み、2本目に手を出す。
「ふ~ん、慣れたもんって感じ。なにアラタは長いの軍隊?」
「言えるかよ。答え聞いたら、速攻黒服のおじさんたちが来て連れて行かれるぞ」
カナデが足を組む。膝より上が少し見えた。嬉しい。いや、そうじゃない。
「そうしたら、九島が動くわよ~。おじい様、お姉ちゃんとあたしに甘いから」
少し前かがみになり、ワザと見下すような声を出して挑発してくる。
俺は俺で鼻で笑う。
「こちとら凄腕敏腕諜報員だぜ。九島の弱みならもう握ってる」
すぐに優位性が消えたのでカナデは子供のような不満声を出す。
「それ何よ」
「孫娘に甘い」
「そういうことじゃないでしょ」
最後は普通にツッコんだ。
この会話の連携は楽しい。



「もうね、小早川先輩とかフォローしたし、電子金蚕も潰したし九校戦は勘弁だわ」
「勘弁だわって、お前年寄りか」
今度は俺がつっこみをする。
カナデは空けた4本目の缶を床に置き、5本目を開ける。
「精神年齢はおばさんよ」
俺に向けていた視線を下に落とす。
「なに?50歳?」
「そこまでじゃないわよ」
まだ視線を戻さない。
1秒程度の間がありカナデはビールを煽る。
「今年で15だから41かな?」

お前は試しているのか?それとも共有して欲しいのか?

「41って俺より年上じゃねぇか。ねえカナデおばちゃん、おこづかい欲しいの僕」
「いやよ」
声が無機質だ。空気が変わる。いや変えてきた。カナデの本性か。
「何だよ。精神的年上でもさすがに小娘さんにせびるのは無しか」
「そうね。気持ちの上では十二分に大人でも、身体は小娘ね」
足を組み替える。誘っているのか?
「なあカナデ、年長者として聞くが、悩みことか?」
さあ話せ。お前の望みはセックスか別のことか?
「アラタ口固い?」
視線は下がったまま。カナデの頬には緊張の色がある。
「そりゃもう、国家のお墨付き」

「ねえ、生まれ変わった先が漫画の世界だったらどうする?」

カナデの手元の缶が少し凹み、傾く、口からビールがこぼれる、カナデは俯いて俺を見ない。

この人は悩んでいるんだ。


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ジュークボックス

20分程度の時間でビールを4本も空けたのは
酒に強いからと思ったが、それだけではないのだろう。
酒の力で無理やり心の壁を低くしたのだ。

そして話し相手に俺を選んだのは俺が原作の登場人物ではなく、転生者であっても「主人公」の位置にいないと判断したからだろう。
この人は「主人公」に言えない悩みがある。
今、欲しいのは答えじゃない。壁だ。

「漫画の世界」
俺は出来る限り、感情を出さずにオウム返しした。
「そう漫画の世界。達也と深雪が主人公の世界。魔法があって、敵がいて、バトルがあって、九校戦もあって。そんな世界」
俺は彼女の方を見つつ、一口ビールを飲む。
こちらに顔を向けることもなく、一瞥もせずに話を続ける。
「私はそこの脇役の妹に生まれるの。凄いのよ、機械とか触らなくても使えちゃうんだから」
少し声に涙を感じる。まだ彼女はうなだれたままだ。
「でもね、全部達也と深雪が持ってくの。主人公だから。注目も、喝采も」
「お前も注目や喝采されたいのか?」
正しい質問をしろ。この人のヒントはシンプルだ。
「いえ、違う」
声色は無機質に戻った。理性の人なのだ。きっと。
俯いたまま彼女はその無機質な声で続ける。
「主人公の近くにいないとね、物語から消えてくの。最初の頃に登場したあのキャラクターが最後にはいない。よくあるでしょ」
彼女はビールを一口飲む。それは息を整える代わりなのだろう。
「あいつはどこ行った?あの爆発で死んだの?作者が番外編でフォローするはず?そうじゃないわ、いないのよ。必要な時に出てくるだけでどっかで待たされているの。条件が満たされないと出てこない」
身振りなど一切交えず、声音だけ変え、悩み、驚き、心配、そして無機質の声に戻る。
「条件?」

「主人公の役に立つこと。そして読者の興味を引くこと」

なにが理性の人だ。この人はこの世界を『魔法科高校の劣等生の物語内』と認識し、主人公、脇役を認識し、そして読者がいると思っている。
会えもしない、交流もできない、声も聞こえない、干渉することのない読者がいると思っている。
彼女はその読者を意識している。気にしている。どこかにいるであろう、存在しない読者をだ。
俺は心が震えた。これほどまでに表情を留めるのに苦労したことはない。

この人は狂う寸前だ。いや正しい見方をしているのか。彼女は物語世界のキャラクターになったと思っている。物語世界だから読者が存在すると思っている。

「俺はその世界に登場したのか?」
「登場するわけないじゃない。アラタはいてもいなくても、あの二人には影響しないわ。読んだ小説じゃ、描写もないわ。だから話すの」
顔を上げこちらを向いた。彼女の顔は緊張しているのか弛緩しているのか、ただ虚脱しているか読み取れない。
手のビール缶が嫌に冷たく思う。俺は動揺しているのか。

「じゃあ、光夜や雪光は?」
少し声を震わし質問した。
「あの二人は特別。私の読んだ中にはいなかった。きっと二人はこの世界に来た別の人間で、あの位置に生まれたの。主人公の家族。絶対に物語からは離れないの。強くってかっこいいのよ。読者の興味も引くし、何より生まれ設定から主人公に絡むもの」
彼女は本当に漫画の登場人物の設定を言うように他人事で説明する。声には感情を感じない。
この人への質問は?正しいヒントは?お前は人間だ、とでも言えばいいのか。
「あ、・・」
ミスだ。次の言葉が出ない。読者の興味?俺が生きるのにそんなものが必要か。必要ない。読者など俺には見えないし、感じない。
彼女は意地悪に微笑んだ。いや自虐的な笑顔か。どっちだ。

「変でしょ。でもね、気持ちの中じゃ一番苦しいのは私、残業帰り、ふと気が付くと赤ん坊で、姉と慕うのは心の中だと年下の女の子」
俺は目を少し見開いたのかもしれない。顔のどこかの筋肉が動く。無表情を取り繕えない。
主導権はどっちだ。彼女か、俺か。
「どんどん暮らすうちに、ここが魔法科高校の劣等生の世界だと知ったわ。起こった事件と記憶を合わせると達也と深雪は同級生。そしてあたしは藤林の娘」
司波兄妹の名前を出した瞬間表情が変わった。眉尻が下がり、眉間にしわが寄る。彼女は今までに見せない怒りとも哀しみともつかぬ顔をしている。
声が荒げないのは理性なのか、それとも怒鳴り散らすことを諦めているのか。
「世界の中心で始まりはあの二人。私は外野で途中参加。でもついていかないと、この世界だと不用品。お姉さんみたいな引き立て役にもなりゃしない。カウンセラーみたいに読者に媚びればいいのかな。深雪を庇って死ぬくらいは必要かも」
「死ぬのか」
「死ぬわけないじゃない。死ねるの?深雪を庇って代わりに死ぬって、あたしそこまであの子のこと好きじゃないわ。でもね、そうでもしないと置いて行かれる!」
彼女の瞳からほんの少しの涙が流れる。これが本音だ。

もし、俺の心を覗く読者がいるなら言っておく。
俺は女の涙に弱いんだ。

俺の愛した女は泣き顔を見せた。そのことを思い出して、途端に冷静になった。
やっぱりこの世界は魔法科高校の劣等生の物語内の世界じゃない。
今、心のさざ波が収まったのも司波達也も司波深雪も関係ない、俺の女達のおかげだ。
一番最初に女性の涙が俺の人生に影響を与えたのは、通夜での母の涙だ。
俺の人生は女性の涙に支配されていると言っても過言ではない。

この人は脇役でいることが嫌なのだ。いや、正しくは『魔法科高校の劣等生の物語』から脱したいのだ。
光夜や雪光に協力するのは、あの二人が「達也と深雪の共同体」だからだ。
原作にいない二人の存在は、原作から外れるが、読者とやらの興味は継続されるし主人公と同一視しても構わない、とこの人は考えた。
そして二人に協力することで物語に関与し続ける。つまりこの世界で生きている意味を確保できる。

でも、そんな意味は無いのだ。物語?原作?そんなものはすでに俺はホテルの廊下に捨ててきた。
だがこの人は捨てられない。確証がないのだ。この世界が司波達也生誕の前に存在したのか?
司波達也と司波深雪がアダムとイブで、それ以外は二人が生まれたことで発生したのでは、と。

俺はいつの間にか、顎に手をやっていた。ルーチンのつもりが癖になったかな。

椅子から立ち上がり、彼女の前で片膝を着く。
「お嬢さん、飲んでばかりじゃ楽しくない。一曲いかが」
手首のCADを起動させ、プレイリストからムーンライト・セレナーデを選択する。
トーラス・シルバーの最新CADも、時と場所によってはジュークボックスだ。
こんな複合機能有りのCADを贈ってくれた風間さんには改めてお礼を言わないと。

彼女は怪訝な、相当怪訝な顔をして俺の差し出した手を握り、一緒に立ち上がる。
「気持ち悪いと思わないの?頭のおかしい女だよ」
「ダンスは踊れるかい。俺が女性に求めるのは正気や狂気じゃない。夜のホテルでダンスを踊ること」
冗談めかして言ってみた。なおも怪訝な顔の彼女は黙ったまま、俺と体を合わせ、体を揺らしダンスの真似事を始めた。

彼女の腰に右手を回し、体を揺らす。
俺の左手と彼女の右手が握りあう。
「ステップは?」
「知らない」憮然としている。零れていない涙が目元に見える。
「じゃあ、俺についてきて、まず右足を・・・」
一曲使って簡単なステップを教える。
そこで俺はプレイリストから古めのダンスナンバーを選択した。
男性ボーカルグループがカバーしたバージョン。
「何?これ?聞いたことがある」
「君の瞳に恋してる」
「ほんと?」
「曲名」
彼女は少し笑った。
女性ボーカルよりもゆったりとムードのある曲調、ディスコナンバーらしくテンポが上がる。俺もそれに合わせてステップを変えた。
彼女もそれについて来ようと、ステップを踏むが少しもつれる。
そして笑う。

次の曲になる。歌い出しに戸惑っているようだが
知っているメロディになると、彼女はゆったりと身体を揺らす。
「FLY ME TO THE MOONでしょ。知っているのと違う」
懐かしさがこもる声だ。
俺と繋がる手も少し柔らかい握りになる。
「達也の話に俺は出ないけど、俺の話にあいつは出ない」
彼女の眼が少しだけ、少しだけ見開かれる。
「いいとこ、雪光の兄貴ぐらいの立ち位置だ。全部で100文字も話さない」
「でもここは『魔法科高校の劣等生』の」
彼女は少し焦ったような声色。俺はそれを遮る。
「達也の話だ。俺にすりゃ『凄腕諜報員の冒険譚』だ」
「センスないわね」
「ほっとけ」
もう一度笑う。

「この曲も今から120年か130年前。でも達也は知らない。70年代はディスコフィーバーだ」
彼女は俺の腕の中で真剣な顔をしている。
「読者がいても、正直関係ないさ。俺だって興味ない漫画や映画はある。でもそれが消えたりしない」
彼女の手が俺の手を強く握る。
「『魔法科科高校の劣等生』の世界でも別にその通りに生きなくていい。深雪が嫌いなら横っ面を叩けばいい」
そう言われて彼女が反論する。どちらかというと言い訳か。
「あれは言葉のあやよ。彼女はいい子だわ。嫉妬深いけど」
じゃあ諜報員向きだ。
「でも読者」もう一度言葉を遮る。
「会ったことも無い奴の興味のアリナシなんて知らないね。そいつは夜のホテルで君と踊ると俺を消す?」
彼女は体を俺に寄せ、小さく言った
「消えてない」
「そういうこと」

曲を変えた。明るいアップテンポのディスコナンバーだ。
「これは」
「Love Train。120年くらい前の洋楽」
「これいいわね」
彼女は無機質な声でもなく、カナデの声でもない。
「昔から好きなんだ」
「昔って、いつよ」
「ずっと昔、ずっと」
ほんの少し思い出す。今では古く古くなった映画。上映初日にスタッフロールにこの曲が流れてきた日を。
もう二人とも踊っていない。抱き合っているだけだ。
「なあ、これから名前を呼ぶときはどうすればいい?」
質問の意図がわかるまで10秒ほどかかったようだ。
「カナデでいい」
口数少なに言うと、もう一度俺に身を寄せた。
「ねぇ」
「なに」
彼女が少し上を向く。俺の方がやや身長がある。
唇が触れ合った。

もし、俺の心を覗く読者がいるなら言っておく。






















子供は寝るんだ。大人の時間だ。


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スクーター姉は不登校

彼女が欲しかったのは安心感と、自分が人間である確信だ。

自分の考えが言葉で否定され、生の人間同士の触れ合いで世界の現実を実感したのだろう。
男女の恋愛は大体の問題を解決する。
ただ破綻したときは何よりも問題を残すがね。

「カナデは堕ちたな、ふはははは!」と言えるようなことはなかった。
実際、キスから先は()()()進めなかった。時間切れだ。

警備巡回の時間が近かったので大急ぎで床の缶を拾い上げ、ホテルの内の非常階段へ行った。
そこには警備員の服装をした支援課小隊の一人がいるので、ゴミを渡しておさらばである。

冗談でカナデをずっとお姫様抱っこしていた。
彼女は着やせするタイプで、見かけ以上にスタイルにメリハリがある。実地確認済みだ。

一校のフロアに戻るまで10分も満たないが、たわいもない話をした。
声優目当てで「さすおに」を見始めたとか、ちょっと根が暗いこと、そして昔も今も恋人はいないことも。
俺は俺で少しだけ話をした。甘いものが好き。贈り物は同じものを二つ買う。眠れぬ夜があったこと。
そして凄腕の諜報員ということ。
そのくだりで彼女は「それだけは今でも信じられない」と笑って言った。

フロアへ通ずるドアの前で、長いキスをして一校フロアに戻った。
カナデは嬉しそうに部屋に向かっていったが
俺は一人部屋となったスペースで「最後まですればよかった」と呟き、長い長い九校戦が終わりを告げた。



「ということになりました、村井大佐」
「惚気か?それともハニートラップの相談か?」
転生周りの話はしても理解されないのでカット。キスの関係だけ説明した。
モニター前の村井さんは呆れているのがよくわかる。おでこ光ってますよ。
「さあ、ですが九島との繋がりを部下に隠されるよりかマシでしょう」
「なんで任務と関係ないところばかり、関係が深くなる」
「片方は人徳、片方はセックスアピールによるものかと」
待機場所兼仮の自宅での定時連絡はこれで終わった。

夏休みはやることが多い。
クロスフィールド部も夏季大会があり、それもすぐだ。
本命の一つ、十文字会頭と距離を縮めるには持ってこい。
もう一方の七草からは眼中に無いようなのでどうでもいいです。
あんな小娘どうでもいい。ダンスがお座なりだったことの恨みは一ミリも無い。
もう一度言う、一ミリも無いもんね!

考えなければいけないことは山積している。
たしかモーリーは夏休み中に、非魔法師の人といろいろあって精神的に成長するイベントがあったような。
あれ女優守るんだっけか?
そのあたりの人命救助的対応を考えねば。光夜あたり自主的に対応してくれれば助かる。

問題は横浜騒乱だ。
これを一度整理する必要がある。

1、時系列の確認
2、各人物の行動指針の確認
3、大亜連合潜入班の所在確認
4、日本の防衛組織への接触と警戒誘導

難点なのが俺が横浜騒乱、灼熱のハロウィンの詳細を忘れているということだ。

念のため、紙に書き出してみよう。こういった情報を整列するときには紙に書き出すようにしている。
支援課の新人に「タブレットに書いて削除すればいいじゃないですか」と言われたので
そいつのタブレットから削除した自作ポエムをサルベージしてやったことがある。
「君の瞳に輝く星座は、何物にも代えられないピュアハート」だっけか?

最後は燃やして炭にするのが一番なんだよ!
あと、書く時は登場人物を自分にだけわかるよう茶化して書いている。
このくらいの遊びがないと諜報なんぞやっとれん。

時系列を無視して覚えていることを羅列すると



一人刀剣乱舞(ロリコン)が病院でスクーター妹に花束を持って会う。

社会人ラグビー部の先輩後輩コンビが上陸。料亭で一人刀剣乱舞と会う。

中年フリーターが剣術小町&パンツァー!と交戦。(将来的には剣術小町とパンツァー!は付き合うんじゃないかと思っている)

スクーター妹がスクーターで逃げる。

中年。ラグビー部後輩に殺される。

お兄様の義理の母(若作り。俺とは違う)が【インディージョーンズに出てくるアレ】をお兄様のところに持ち込む。

お兄様、1kmと交戦。

独身長男、愚痴を言いながら不審船を沈める。

病院で、彼氏とおそろいのジャケット先輩が、彼女とおそろいジャケットの恋人と共にラグビー部後輩と交戦。

ラグビー部後輩、鑑別所を襲撃。彼氏とおそろいのジャケット先輩と、おねショタ好き(偏見)との交戦で捕まる(お兄様もいたはず?)

あいつ、校内で行われるなんかの実験で細身女子にイチャモンをつける。

お兄様、フェチズム溢れるメイドロボットを利用して、あいつのデータコピーの現場を目撃。逮捕。

ラグビー部先輩、一人刀剣乱舞に頭を下げて後輩の身柄奪還。

ラグビー部先輩が一人刀剣乱舞に頭を下げた翌日?に後輩の身柄奪還成功。

スクーター女子がスタンガン?持って威嚇するところをパンツァー!がタックルかまして確保。不純異性交遊?セクハラ?を剣術小町にツッコまれる?

生徒会役員交代、風紀委員長に五十里啓の外部暴力装置が就任?

スクーター姉は不登校。

独身長男、運命の人(独身者ありがちの勝手なトキメキ)と出会う。

彼氏とおそろいのジャケット先輩、調香(きっと彼氏が「いい香りだ」と言ったのでハマった口だ)を利用してあいつから情報を引き出す。

パンツァー!、剣術小町と練習して着替えを覗く。

泣きぼくろ、眼鏡巨乳の乳を揉む。あとパンツをガン見する。

パンツァー!、剣術小町の道場で布使って特訓。

「あんたに足りないもの教えてあげる」と剣術小町どや顔。

パンツァー!が「修行が無駄になった」と愚痴る。

お兄様、おねショタ好きと図書室?の個室でイチャコラする。


書き出してみると意外と覚えているが、細部がわからんので情報や場所の特定、日付の特定は難しいな。
あとなんだ?一応思いつく限りはこんなもんだ。思い出したら追加だな。

流石です!女子は、特に大きく行動を起こさないんだな。
おねショタいや七草真由美とのイチャコラを報告したら騒動が起きるだろうか。

一度カナデに相談する必要がありそうだ。
「転生者」として相談できる相手がいるのは助かる。情報量が増える。

さて、一足早く横浜騒乱編を始めるか。

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貸し一つな





クロスフィールドの夏季大会は優勝した。俺も頑張った。
現役軍人で、凄腕諜報員で、軍神の加護を持つ男が頑張った。
俺は並みいる敵をちぎっては投げ、ちぎっては投げ、5秒間で40人の敵を倒し・・・
それをやると拙いので、準決勝のラスト30秒で4人を倒すまぐれを演じたのだ。

その頑張りは俺に幸運をもたらした。任務の半分を達成したも同じ!
十文字克人の私邸での優勝祝勝会に参加したのだ。
祝勝会と言っても部活の面々が「一番家がでかいから」という理由で十文字家で祝勝会を行ったのだ。
3年の先輩に「一番家のデカい奴のところでやりましょうよ」と言ったら、十文字克人の家と相成った。

いや~豪邸。祝勝会の準備に手を貸してくれたお手伝いさんは5人だし、リビングダイニングを全開放すると
部活の面々が全員収まるし、デカいわ。金持ってるわ~。奥さんと子供5人ぐらいは余裕だわ~。ビッグダディだわ~(偏見)
本当なら、ここで盗聴器を仕掛けたいが、そんなそぶりを見せるとやばい。人の目が多い。
なので俺はこの家の見取り図を手に入れようと思った。

俺は祝勝会の下準備としてお手伝いさんからテーブルクロスを借りたり、全員のスポーツバックを空き部屋に移動させたり働いた。

諜報員になるときに習得する技術が幾つかあるが、俺は「建築」を選択した。
今回の祝勝会で、ダイニング、リビング、トイレ、台所、空き部屋、勝手口、廊下、玄関、庭先、十文字会頭のトレーニングルームを見れた。
それで十分である。それだけあれば十文字邸の間取りは外観からの推察と合わせて、8~9割は書ける。
想定される接触型、非接触型の電源供給フォームの数も誤差1割と言ったところだし、水回りもおおよそわかる。
台所で見た家庭用セキュリティの操作パネルのメーカーから、十文字邸の基本セキュリティ契約も想像がつく。
庭先にはいくつかの赤外線による接触型の警備アラームも見受けられた。
魔法的なセキュリティもいくつか判断できる。

俺はこの仕事を辞めても、警備会社に勤めるか、プロの大泥棒になる自信がある。

この十文字私邸での祝勝会により「十文字東京私邸」というプライベート空間の間取りという重要情報を手に入れた。
早速、村井大佐に報告しクロスフィールド競技で疲れた体に鞭を打ち、早々に見取り図を完成させた。慣れた徹夜もこう続くと嫌になる。

真面目な話、俺一人でそれなりの準備期間があれば十文字邸への侵入するだけなら可能だ。
ただそこで何をするかで話は変わる。それは、十文字邸へ何かを仕掛ける諜報組織の任務次第である。
村井大佐もこれで、各情報組織へクソ高い情報料を取ってこれる。

それ以外だと横浜でちょっとしたトラブルに巻き込まれた。

モーリーが遭遇した謎の女性の護衛だ。
横浜の病院にモーリーが転院したので見舞い帰りに遭遇した。
その日以外も俺は今後のため横浜周辺の地理確認のため横浜を歩き回っていたので、遭遇する確率はあった。
昼間で夏休み後半という点だけでも時間と範囲は絞れる。
あとは忍耐強く歩き回り、広域的に人払いの魔法が使われれば、そちらへ向かうの繰り返しだ。
遭遇しないなら内情なり外事なりに直接聞けばいい。

「雪光?!」
そう雪光がなぜか、女性の手を引いて逃げ回っていたのだ。一緒に黒城兵介もいる。
仕方ないから尾行だよ。尾行。おい、どうなってんだ、この状況。お前は主人公か。

女性を救った二人は、レストランに逃げ込む。人目が多い方がいいわな。
俺は少し離れた路上から店の様子をうかがった。横浜の路上売りのハンバーガーも美味い。

三人が店から出たとき声を掛けた。
「あれ、雪光?」
「アラタ?どしたの?」
「モーリーの見舞いの帰り」
「よう」と黒城兵介が手を挙げる。
「三校の黒城兵介」俺、お前のこと知ってる。
「一校の相馬新。アラタ」
「兵介と呼んでくれ」

「ねえ、行くんじゃないの?」
雪光と同じくらいの身長の女性だ。美人と言うより可愛らしいかな。
言葉のイントネーションにやや違和感を感じる。標準語になれていない感じだ。
「そっちのお姉さんは?」
「ねぇ、この子、大丈夫なの?」
少しイライラしてるか?そりゃそうだ何処かへ向かう途中だ。
俺は三人を促しながら歩きながら説明する。
「俺、相馬新。そこのイケメンの友達」
「リン・リチャードソンよ」
リンは少し早口に、周辺を見てソワソワする感じがする。お前アレだろ。そこの角の黒服だろ。
「褒めても何もおごらないからね。リン、大丈夫問題ないよ。そうだ、アラタちょっとお願いできる?」
雪光お前、何か押し付ける気満々だな。
「何を?」
雪光は手に持っていたプラスチックのボール、ガチャガチャの丸いケースだ。
俺は2095年でもあるんだよな~、と再確認すると共に嫌な予感がした。
止めろ、そいつを向こうの角に隠れてるつもりになってる奴に投げるな。止めろ。
俺の願いもむなしく、プラスチックのボールは男の頭に投げ込まれた。
「ヨロシク!足止めしといて!」
バカ―!俺は潜入中で、家族連れとかいる場所なのにスーツ姿で隠れる不自然極まりないバカと関わり合いたくないんだよ!

雪光と兵介は女性を連れて走って行った。ため息一つ、俺は三人を追いかける黒服の前に立ち、「や、やめろ!」と声を上げたが、男に押しのけられて倒れる。
後からやってきた黒服数名に両腕をつかまれ、人のいない方向へ連れて行かれる。

「糞餓鬼が!」一人が持っていた警棒の柄で俺の頭を突く。
「お前、あいつらは誰なんだ!」と腹を殴られた。どんどん人のいない道に連れていかれる。
どこの組織か判断つかないと暴れらんないし、もそっと状況に流されるかね。
少し離れた駐車場には黒い車がある。車の車種と特徴から内情、内閣情報局、政府の情報機関の一つだ。
俺の回りには4人。道を進む中、1発警棒で小突かれた。
小声で「ふ~、ごめんなさい…」と言ったが聞く耳は無いようだ。

駐車場の車の影、フェンスに持たれ足がすくんでいる(名演)俺を取り囲む。
「どこに逃げようとしている!」
「お前も組織の一人か!」
「あの餓鬼どもは何なんだ」
ここで一人俺をグーで殴る。他の面々も特殊警棒を伸ばし威圧してくる。
左端の一人は魔法師。タブレット型のCADを握っている。
「おい!」一人が俺の前髪をつかむ。体格差があるので俺は少しつま先立ちになる。
「やめてください~」
情けない声を出してみたが、こいつら頭に血がのぼっているのか、話を聞いてくれない。

もうね、だめ、素人ども。服装からダメダメ。全員黒服なんて都市伝説コスプレか。Kとかコードネーム付けてないだろうな。
それに、ここまで来たら一人くらいは「ま、話してくれれば殴らないよ」とか言って懐柔する役をやれ。
優しい警官と厳しい警官くらい習っただろ。応用しろ。
そんな程度の尋問で厳しい諜報の世界を勝ち抜けると思っているか!諜報は一に演技、二に演技、三、四が無くて、五に演技だ!紅天女だ!

俺をみろ!足がすくんで、暴力を恐怖している演技でお前ら騙されとるやないけ!
仕方ない。今も怒鳴り上げ、頬を叩き威圧してくる素人丸出しの奴らを全員ぶん殴って、内情の監察してた内藤女史に話ししよう。
あんな素人丸出し使うなら支援課使えと。うちに予算を落とせと。俺の給料上げろと。俺に新車をくれと。3週間くらい有休をよこせと。CADの経費認めろと。

「貴様ら何している!そんなところで油売っているなら追跡してこい!」と厳しく叱責する男が現れた。
40代の強面で胸板も厚い。丸刈りの髪でヤクザの若組長と言っても納得されるだろう。スーツも黒一色ではなく、濃紺にストライプが薄っすら見える洒落たスーツを着ている。靴も濃茶の革。
これなら洒落者の横浜デートスタイルと言ってもギリギリ通じる。強面以外。
叱責された4人は警棒をしまい、急いで来た道を戻る。

「瀬川~」俺は怒って名前を呼んだ。プンスコ!。
あの素人4人をぶん殴って教育する機会を目の前の男に潰されたからだ。
強面の男は一つ咳払いをして「勘弁してください。先輩。あいつら今日が現場初で頭に血がのぼってるんです」
先ほど叱責した強面はなりをひそめ、俺に頭を下げてくる。

瀬川薫。元国防陸軍第一空挺大隊少尉。
1年ほど空挺で俺の後輩だったが、配置転換とちょっとした取引で内情に移った男。
年齢的には俺の一つ下。その老け顔をうらやましく思った事もある。
入隊すぐに「おい、坊や!」とニヤニヤ笑いながら俺の童顔をネタに絡んで来たので〆てやって以来の仲だ。

瀬川から経緯を聞いて「内情も使い走りか」と嫌味を言ったら「面目ない」と返して来やがった。
まあ政治力学、この場合は偉いさんの財布と力関係に左右されるから諜報もつらい。
「まあ、あの子たちには悪いですが二、三発殴って終わりにしますよ」
「逆だよ。追ってた奴らのために救急車用意しとけ」
瀬川は驚いてこっちを見てくる。
「二人とも魔法師で、一校と三校でトップクラスだよ。でかい方は見たまんま。腕っぷしならあの四人より上だぜ、きっと」
あ、唇の端が切れてる。当面しょっぱい系の食えないぞ。
瀬川がハンカチを差し出す。俺はそれを受け取り続ける。
「今の俺のこと聞いてるか?」
「いえ、何も」
お、いっちょ前に緊張してやがる。
「あの小さいほうヤバいぞ。魔法アリなら俺も命懸けだ」
瀬川が息をのんだ。
「我々はどうすれば?」
「急いで撤退しろ。失敗しても困るのはお前じゃなくて上だろ」
「はい」
瀬川はすぐにタブレットを取り出し、撤退のコールを入れる。
「貸し一つな」
「そうしておいてください」
俺たちは別れた。

合流すると、すでにリン・リチャードソンはいない。
雪光、兵介と二人して「すまんかった!」と平謝りされた。
鼻血が出たのか、兵介はティッシュを鼻に詰めている。
雪光もおでこのあたりが少し盛り上がっている。たんコブだ。

俺には頬には叩かれたあとがはっきり残っている。まあ、少しは責任を感じろ。
特に雪光は俺が軍人で格闘技経験者なのを知ってのフリだったのだろうが、簡単に人前で暴れられるか!
「雪光、お前一週間は学食おごれよ」
「ごめん!」

モーリー、お前下手したらこんなことに巻き込まれてたんだな。

モーリーは、入院中に魔法について看護師さんと話をしたら
「魔法師だって人間!」とたっぷり説教されて、将来のことを色々考え始めたようだ。
新学期に会ったときに「医療現場におけるクイックドロウの使い方」について考えてた。
何人かの女性看護師と連絡先を交換したらしい。そのことを須田ちゃんに教えたら、須田ちゃん悔しがってた。

ちなみにカナデは北山雫の誘いで海に行ったらしい。
光夜はコンバットシューティングの夏季大会で優勝した。

俺は残った数日の夏休みを、村井大佐への報告と、中華街やその周辺歩きに努めた。
短い夏休みであった。

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何?こんなことで気にしてんの?

三人称視点です


司波深雪は非常に優しい少女である。
その深雪も怒る時は怒る。騒動を起こした双子の雪光の夕飯を抜きにしたのだ。

「お腹空いた~」
雪光は自業自得であることを感じつつ、自室でCADの組み立て、調整を行っていた。
司波邸には兄、司波達也専用のCAD調整のルームもあるが、雪光は昔から自室でダラダラと組み立てをするのが好きだった。

アラタに悪いことをした。帰り道、でっかいパフェをおごった時に聞いたら、2、3発殴られたそうだ。
その時に「あんまり目立てないからね、俺」と釘も刺された。
九校戦の帰りのバスの中でも「今まで通りでよろしく」と言われた。
最初は少し考えたが付き合いとか呼び方は変えるな、ということだと雪光は理解した。

諜報のプロは自分の身を隠すために殴られることに抵抗がない、ということに雪光は自分の甘さを感じ反省した。
アラタは身を守るために戦うと思った。自分がそうするからだ。
今回は相手も逃げて行ったし、アラタも軽傷だったので結果としては丸く収まったが
それが幸運だったということを達也に指摘されたのも、雪光が沈んでいる理由でもある。

将来的には四葉のエージェントを管理することになる。
本当のプロというものをしっかり考えようと思った雪光であった。

今日は兵介が上京し、九校戦後夜祭のパーティで話したCADについて細部を詰めていた。
某特撮の聖地巡りも併せてではあったが、雪光と兵介は満足した。
そして女性が何者かに絡まれていた。雪光も兵介も顔を合わせて思った。

「森崎のアレだ」

リン・リチャードソンこと孫美鈴を助けると、顧 傑の日本入国を遅れさせられるということは
二人とも把握していたので、取り敢えず助けることにした。

逃げる中「魔法師は魔法を暴力として使う!同じ人間なのに」と孫美鈴の心情を聞いた二人は
最後の大乱闘は魔法を使わず生身で戦った。

乱闘後に「なぜ魔法を使わなかったの?殺されるところだったのよ」とリンが泣きながら雪光に抱き着いてきた。
「うん、あなたが使うのを嫌っていたし、僕らも人間だから。でも、よくわからないや」
兵介と目が合うと頷かれた。
「魔法師も人間だよね。そう魔法が使えるだけで人間だよね」と泣き笑いされた時は、はにかむ以外の返し方が出来なかった。

結果的に兵介は鼻血を出し、雪光はおでこに小さなたん瘤を作った。
家に帰り今日あったことを全部話した。雪光の晩御飯は無くなった。

「もう一度ちゃんと謝りなさい!」と深雪が正座する雪光に電話を掛けさせると
アラタが「大丈夫、日常茶飯事だし。何?こんなことで気にしてんの?」とさらっと言った。
ただ雪光はアラタの声の奥の方で「ん・・・はっ・・・」と声を出すことを我慢するような女性と思われる息遣いを聞いた。

雪光から、電話取った深雪も「この度は申し訳ありません。いえ、そんな。アラタさん、その、あのお怪我が軽いようで・・・はい!では、ごめんください!」
と最後のあたりは早口で切ってしまった。
達也が自分も兄として謝罪したいとボヤいたが、深雪が「気づかずに申し訳ありません!」と顔を赤くした。
深雪も雪光もアラタが何をしていたのか勝手に想像して、本当に「大人なんだ」と納得した。

雪光は九校戦で転生友達が出来たし、懸念のアラタの正体もわかったので
本格的に横浜騒乱編の対応を考えていた。

ネックなのは今後、長期的に対応することとなる「周公瑾」と捉えていた。
早めに消すと来訪者編以降に影響があるが、良い影響では?と雪光は考える。
理由は簡単だ。いつか殺すなら早めに殺せば暗躍を止められる。

ただ殺すと来訪者編や顧 傑の行動に変化が起きる可能性が高い。
光夜と雪光の原作知識を十二分に使いつつ、将来的、そう雪光の知る最も遠い未来まで優位に進めなければならない。
そのためには、原作からの乖離は大きくはしたくない。ただ不穏分子も放置はできない。

(一度光夜兄さんに相談しよう)
そう思いながら「想子剣」のCADの組み立てを進めた。



(鬱陶しい)
視線が痛い。みな恐れよりも好奇が勝っているのか

始業式も終わり教室に向かう中、皆、光夜を見てくる。
(あれが理由か)
廊下に張り出されていたのは生徒会選挙の告知だ。
七草真由美が9月で生徒会を引退する。後任は誰だ?それが楽しみなのだ。

十師族であり、九校戦で見せた一瞬の魔法、圧倒的なコンバットシューティングでの成績。
知性、実力とも三年の三巨頭に匹敵する。そんな光夜こそ生徒会長にふさわしい。
そんな好奇な視線が光夜には飛んでくる。

(たしか・・・)
原作では生徒会会長選挙に担ぎ出されるのは達也で自分ではない、と思い出す。

(余計なところで、少し複雑になったな)
教室に戻ると他の生徒も生徒会選挙の話で盛り上がっていた。
カナデも何人かと話し、光夜の名前が出ると、当人の方に視線を投げる。

本命:完璧。一校の絶対支配者。魔王。四葉光夜
対抗:一校の王子様。女子人気は圧倒的。高速の美少年。司波雪光
対抗:現生徒会執行部。あわわと言わせれば学内一。梓弓。中条あずさ
対抗:生徒会の氷雪姫。九校戦新人戦2冠。才色兼備。司波深雪
大穴:天才少年魔工師。影の実力者。二科生の星。司波達也

服部刑部は部活動会頭に内定しているが、それも「四葉光夜に」という人間もいる。

そんな生徒会選挙狂騒曲を知ってか知らずか、カナデは光夜をニヤニヤ見ている。
「お前出るの?選挙」
「そのつもりはない」
アラタに聞かれて即答した。

生徒会会長になるということは、横浜騒乱で自由に動けないということだ。
光夜の認識ではそうだ。

(ここはあーちゃん先輩に当選してもらうに限るな)
光夜は根が真面目だが、同時にオタク気質も残っている。中条あずさは心中、「あーちゃん」呼びだ。
部活の後、生徒会室へ書類を持って行った時に「あーちゃん先輩」しかいなかった。
光夜の左爪のあたりが少し血がにじんでるのを見て、あずさは救急箱を取り出し、大げさに消毒をし絆創膏を貼った。
「これで大丈夫です。あ、もしかして余計なことを・・・」
「いえ、助かります。あーちゃん先輩」
自然と心中の呼び方が出た。親近感から、つい出てしまったと光夜は反省した。
「あーちゃんと呼ばないでください!」
あずさは即座に頬を膨らませ怒る。
「すいません」
自然と微笑んだ。
光夜は気付かないが、あずさは顔を赤くした。
あの怜悧な美形が、優しく微笑んだのだ。

光夜の母親も気の弱く、小柄な人だった。
ちょっとの怪我もすぐに消毒して絆創膏を貼って、笑顔で頭を撫でてくれた。
そんな面影を中条あずさに見ている自分に気付くと
(俺もマザコンだな)と悪い気はしなかった。

中条あずさを尊敬している。そう光夜は自分の気持ちを見つめた。


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正面にいた女子が「ひっ」て悲鳴上げたぞ


9月に入って、生徒会選挙となった。光夜の機嫌が悪い。
どうやら生徒会選挙に名前が挙がっていることにいら立っているようだ。

いま、正面にいた女子が「ひっ」て悲鳴上げたぞ。

それを横目に俺は忙しかった。
中華街の動き、密入国者の入国事件の発生の確認、横浜騒乱の兆しを待っていた。
元はと言えば、千葉の長男坊が悪い。
お前、密入国者の特殊部隊をぶっ飛ばしてれば、横浜騒乱なんて起きないんだぞ!
てめぇ!藤林響子に鼻の下伸ばしてんじゃねぇぞ!こら!俺の方が先にお茶したんだからな!

などと息巻いても仕方がない。というか、あの千葉刑事?警部?の一件があるからこそ
事件が動き出したことを知ることが出来る。

この横浜騒乱事件は8月の九校戦から10月30日の論文コンペまで因果関係が短いスパンで発生し、解消する。

人食い虎呂剛虎の病院襲撃の遠因は、平河千秋の入院であり、それは司波達也への逆恨みであり、その逆恨みは姉の不登校によるもので、不登校になったのはミラージュバットでの小早川先輩の墜落が関係している。

ミラージュバットでの小早川先輩の墜落が無いので現状病院襲撃が行われる公算は低い。
注意すべきは平河千春の精神状態と千秋の姉妹関係の親密度である。
そこが問題ないなら周公瑾は「逆恨み」を利用した洗脳をし、学校内への混乱を起こせない。

鑑別所襲撃も関本の奪還or殺害が目的である。それならば簡単だ。
関本を鑑別所ではなく、より高度な少年刑務所なり軍の施設なりに放り込めばいい。
関本の行動も洗脳なので、注意深く見ていればどうとでも対応できる。
大事なのはいつ周公瑾一派が関本に接触するかどうかである。

この横浜騒乱のスタートの合図は「密入国船を沈める」なのだ。
あれが発生すれば、それは大亜連合の面々が上陸したことになる。
その前後で関本、平河妹の動きを抑えればこっちも有利だし
俺の本業を使えばジロー・マーシャルの行動の全容もわかる。

つまり千葉の長男の出すスタート合図を見逃さないよう網を張っている状態だ。

先に周公瑾を暗殺する手もあるが、何をするにも人が足りない。ホント足りない。
俺、任務あるから成果を出さねばならぬ。十文字会頭の個人的な連絡先とか、弱味を本人から直接言われれば楽なのに。
「本当は39歳で2児の父だ」とか言われれば助かる。納得する(いろんな意味で)

てな、話をカナデにすると意地悪そうに「ふーん」と興味ありそうな顔をしている。
夏休みも終わる直前に何度か会った。

彼女に会うと意地悪に「淫行未遂め」と言われるとこちらも立つ瀬がない。
先日の雪光からの電話の時に指遊びをしてしまったので、前科二犯だ。
「いつになったらできるのよ」
ごもっとも。指遊びを楽しんだこともあり、言葉は厳しいがその時を楽しみしているニュアンスだった。
俺もしたい。

任務とは関係の薄い相手との接触なので、正直任務を外される可能性もある。
そうカナデに言うと俺の手を握って来やがった。可愛い。

結局会うたびに、彼女の話を聞き、俺が話をし、夜通しおしゃべりといった感じだ。
キスに興味津々なのも可愛い。さすが41年間の彼氏なし。大人だけど初心い。可愛い。

遥か昔の俺に
「お前、いろいろあって、15歳のスゲー可愛いスタイル抜群の美少女と二人っきりで会うたびにキスされまくる中年になるからな。ボディタッチしても怒らないし、向こうの方が積極的にボディタッチしてくるし、その子は精神は大人で、すっごい仕草色っぽいけど15歳な。ベタ惚れやで」
と言って信じてくれるだろうか。いや信じないな。絶対信じない。2,000円賭けてもいい。信じるなら、欲しいプラモ5万円分買ってやってもいいくらいだ。

「ねえ、始まる前に光夜と雪光に話した方がいいんじゃない?」
人がいない放課後のcafeテラスとはいえ、指を絡めながら言うの止めません。おじさんドキドキしちゃう。夕日を浴びるカナデは綺麗やら色っぽいやらで困る。
真面目な話、不審船と警察の件が起きた瞬間のスタートに合わせて彼らと意見をすり合わさねば。
ここに来て正念場が近くなってきた。



「アラタ!お前、藤林さんと付き合ってるのか!」
デカいを声を張り上げて教室入ってきたのはモーリーだった。
昨日やっと登校出来たと思ったら、これだ。

今、一年生の間では光夜の生徒会選挙出馬の話と
俺がカナデと付き合い始めた件で持ち切りだ。

美少女の定義は多々あれど、1年生でのトップは司波深雪。2位と目されるのが藤林奏だ。
他にも美少女は多いので確実に単独2位とは断言しないが、明るく活発で冗談をいい、どこか大人っぽい。
人気者であることは確かだ。

「まあ、そうだな」
「お前!お前・・・脅迫でもしたのか?!」
軽くいなすつもりで返事したがモーリーは思いのほか厳しい表情で追及してくる。
俺、お前が思ってるよりモテるからな。

周りも興味津々のご様子。今、風紀委員の仕事で教室にはカナデがいない。
「モーリー、カナデのこと好きなの?」
「そうじゃない!不思議すぎるだろう!なにかあったに違いない!」唾を飛ばすな。
「羨ましいんだろ。看護師さんにモテてた奴に言われたくないがね」
潮目が変わった。
「お前、女性の看護師さん何人かとメール交換したって言ったじゃないか。え、合コンか?高校生が、社会人のおねえさんと合コンするのか?」
「ぐぬぬぬ」
モーリーが返す言葉を失った。初めて「ぐぬぬぬ」を言う奴見たぞ。

「アラタ!藤林さんとお付き合いしてるってホント!」
次が来た、健全な男子高校生がもう一人。何嬉しそうな顔しているの?!
「モーリーも聞きに来たの?どうなのアラタ?!」
須田ちゃん顔近い。マジ近い。何で鼻息が荒い!
「須田、こいつ誤魔化そうとしてるぞ!」
味方が来て息を吹き返しやがったな。唾を飛ばすな。
「え、部活の先輩が昨日二人っきりでカフェテラスに行くの見たんだよ!どうなの?どうなの?」
止めろ!周りに人が集まってきた。みんなニヤニヤするな!この二人を止めろ!
「僕も気になるな~。ねぇキスしたの?キス?」雪光もはやし立てるな!
女子が「え、キスって」「ちょっと、ふふふ」とか興味津々というレベルじゃないぞ。

おい、光夜、お前も後ろの方で腕組んで見てんじゃねぇ。童貞男子どもが!悔しいのか!童貞男子ども!
教室の扉が開きカナデが戻ってきた。
「どうしたの?なに?」
この囲みが自分たちのの事と知らず、面白いことが進行していると思い好奇の表情をしている。
クラス内の全員がカナデを見る。
「カナデ、相馬君と付き合ってるの?」
クラスの女子がストレートに聞いた。みんながカナデの返事を待っている。
「うん、まあそうね」
ケロっと答える。この問答はこれで終わりではなかった。
「カナデは、キスは、そのしたの?」
光井ほのか~!なぜ、おまえがいる!そして、なぜ聞く!
どうやら隣りのクラスに騒ぎが伝播したのか、チラホラA組の面々もいる。
おい、扉のあたりに深雪もおるぞ。

カナデは状況を察したようで、俺に意地悪な笑顔を向けた。
「思ったより上手よ。そいつ」
クラス全員が黙り一斉に俺の方を向く。
なんだ、雪光、その顔は!ポカーンとするんじゃない!
頷くな、光夜!なに、納得してんだ!
光井さん、顔真っ赤ですよ。君、司波達也を追っかけていなさいな。
深雪さん、深雪さん、君もなにもじもじしてるの?兄と自分に置き換えてるんだな!お前の脳内はそんなんばっかだ!

こんなアホらしい一日もありかと、俺はあきらめた。

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七草先輩とキスできないのよ



昨日は散々だったが、一転今日は緊張している。
そう緊張している。諜報員というより転生者としての正念場だ。

人のいない喫茶室。話の内容を理解できる奴はいないので、別に人がいなければどこでもよかった。

「悪いな」
「いや、達也同席で無くてもいいのか」
光夜を連れて、先に来ていたカナデ、雪光のいる席に座る。
俺は光夜と向かい合い、隣にはカナデ、光夜の隣には雪光。
四葉の二人と、その他の二人。別に対決構図のつもりはない。

光夜と俺が注文したコーヒーが来てから話を始めた。
コーヒーが来るまで昨日のことで雪光にまた茶化されたが。


手元にコーヒーが来ると俺はさらりと言った。
「二人とも、『佐島勤』と『魔法科高校の劣等生』は知っているな」
これは諜報戦ではない。直球だ。カナデは俺の横で穏やかに紅茶を飲む。

雪光は驚きの表情で固まっている。まるで次の俺の言葉で動く彫像のようだ。
一方、光夜は忙しい。俺を見て、カナデを見て、俺を見て、またカナデを見る。
「俺の言った意味理解したか?」
腰が抜けたように雪光が姿勢を崩し、椅子から落ちそうになる。
「・・・・・・・うん」まだ、驚きが抜けていない。反応が鈍い。
光夜も天井を見上げている。
「今まで俺たちを騙していたのか?」
「それを踏まえて説明したい」
光夜の声は冷静だが、天井を見ている姿は混乱を押しとどめようとしている様にも見れる。

俺は一口コーヒーを飲み
「仕事とこのことは関係ない。仕事で一校に来た時にお前たちの存在には驚かされた。お前らがいるとは思わなったからだ」
天井を見飽きた光夜が視線を戻しコーヒーをすする。
「説明が難しいな。仕事をしながら、皆に接触するうちに思ったわけだ。横浜は止めたいと」
そう言って横目でカナデを見た。
動揺している様子はない。しれっと紅茶を楽しんでいる。
「どう思ったのか聞きたい」
椅子からずり落ちるのを直し、雪光が疑念の声を出す。その声音は詰問の声音だ。

「最初は物語に引っ張られた。ブランシュの件がそうだ。達也や深雪、そしてお前らに関わらずに自分の仕事をしようとした。立場がバレるとうるさくなるし、俺が何を知っているかバレるのもトラブルになる。そう判断した。九校戦も仕事を優先したが黒城兵介の登場で混乱した。物語の異分子と思って情報を集めていた。物語が崩れる。物語が崩れると知識が役に立たなくなる」
一度コーヒーを飲み息をつく。
雪光は疑惑のまなざしを向け、光夜は眉をひそめている。
「その時だ、物語に固執しかける自分がいたよ。でもこの世界は物語の世界じゃない。魔法があって、戦争があって、魔法科高校があるだけの世界。そういう世界だ」
二人の視線は変わらない。
「その時、達也と深雪の話を守ることより、横浜の件をどうにかしようと思った。俺は確かにあの二人の未来の物語を知っている。ただそれだけだ。俺は人を守る立場にあるし、その意思がある」
カナデの右手が俺の左手をテーブルの下で握ってくる。少し震えている。彼女もこの会話の行く末が怖いのだ。破談になるのか、漠然と不安なのだ。
「お前たちの4人の目的は知っている未来知識を利用して、より良い未来の構築だ。だろ?」
光夜が頷く。
雪光は驚きもせず更なる疑念の眼をしている。自分たちの思案が読まれていて警戒しているのだ。
「ただ、今のままだと横浜での犠牲がデカい。その犠牲を減らすなり、回避するなりしたいと思っている」
「でもそれだと原作ブレイクになる!」
雪光は声を荒げた。焦っている。
自分たちの優位性がなくなるからか、それとも俺が物語の破壊者だからか。
「承知している。お前たちの目論見を潰しかねないのも承知している。だから話し合いの席を作った」
「なぜ横浜を止める?それが原作への影響をどの程度考えている?」
「人を守るのは俺の仕事さ。単純に人死にを減らしたい。死ぬのは無辜の人だ。影響についてはわからん。俺は横浜より先はさほど知らない。wikiで少し見た程度だ」
光夜と視線が絡む。何を考えているか読めない。だが、それほど俺は心配はしていない。
こいつはいい奴だし。雪光もいい奴だ。
「未来を大幅に変えるのは、困るだろ」
「困る」効率重視か。
「場合によっては排除するだろう?」
「場合によっては」光夜の瞳には冷静さ。
「する」雪光の瞳は意思。
「それだと俺も困る」
肩もすくめず、まっすぐに光夜を見る。

「ではどうしろと」
「論文コンペまでに解決したい。仲間と作戦がいる」
同じ目的を共有してくれる仲間が必要だ。
「我々の利益は?」
光夜と雪光としては横浜騒乱が起きても、知っている未来より軽微な被害ならいいのだ。
桐原先輩や五十里先輩に負傷させず、達也に再成を使わせない。
いや、被害を減らす努力はするだろう。ただ横浜騒乱が起きることが前提かも知れない。
それを覆すのだ。利益を求めるのは当然だ。
「ババアとの喧嘩の際の手助け。ただし、俺個人だが」
「でも、正体隠したのは二度目だよ。どう信頼すればいいの」
一番の難問だ。軍人としての正体を隠し、そして間を置かずに転生者としての告白だ。
雪光の言うことももっともだ。
「同意だな。本音が見えん。お前を信頼しても?何か意図があるのか?」
光夜の瞳に少し感情の色が出たような気がする。心配か?それとも疑念か?
俺は、光夜と共有している感情をぶつけた。
「モーリーの二の舞は避けたい。偶然の介在する余地もなく事件を収束させたい」
「それが本音か」
「ああ、正真正銘の本音だ」
光夜は横のカナデを見た。
「確かか」
「あたしは信じる」
カナデの手が強く握る。
光夜は俺をじっと見る。こいつこう見るとやっぱり美形だ。彼女出来そうにないけど。
「今、失礼なこと考えなかったか?」
「いや、まったく」
お互い微笑む。
「即答は出来ない」
「時間がないから2日ほどで返答してくれ。不審船のニュースがスタートの合図だ」
光夜と俺はほぼ同時にコーヒーを飲んだ。

「カナデはどうするのさ」
不機嫌な、警戒する声で、雪光はカナデに聞いた。
「手伝うつもりだけど」
「なんで」
雪光の声はぶっきら棒だ。
「ダンスのお礼」
「何それ」
雪光は理解できない。そりゃそうだ。彼女の協力する理由は今初めて聞いた。
俺好みの答えだ。
「冗談よ。あたしもちょっと物語を蹴っ飛ばそうと思って」
「もっと何それ」
仲間外れにされたと思ったのか雪光が少しむくれる。ショタっぽいな、おい。
「そこで上手い返しが出来ないから七草先輩とキスできないのよ」
「そ、それと、こ、これとは・・・」
突然の名前に雪光の腰が浮く。ほほ~お前、そうか。おねえさん系か。ほほ~。
「色男としてはどう思う」
「ノーコメント」
カナデのパスは強烈だが、俺はさっとスルー。
逆に声を出したのは光夜だった。
「雪光、七草嬢のことが」
「ノーコメント!」
雪光はそれだけ言って黙った。恋せよ、少年。おねショタだ。

緊張感のある穏やかな会見だった。
そして翌日には申し入れがあった。
「全面的に協力する」と。



雪光は笑って言ってくれた。
「一晩、ずっと光夜兄さんと話した。隠したのはモヤモヤしたけど、アラタの立場になったら僕もそうする。達也兄さん怒らすと怖いから」
そしてこうも言った。
「今度、諜報員のノウハウ教えてよ」
女性を口説くセリフも教えてやるよ。

カナデは一言「よかった」とキスと一緒に言ってくれた。
一番素っ気ないのは光夜だ。
「どうする」
「時系列の確認だ」
まず三人に提案したのはこれだ。
俺のあやふやな知識を修正し、細部を詰め、楔を打つ瞬間を見極める。

四人が集まったのはあのレストランだ。
各自紙とペンを持ち、知っていること。重要人物。
そういったことを書き出し、時系列順に並べていく。

共通しているのは「不審船の事件」の具体的な日時がわからないこと。
そこでの介入は無くなった。中華街近くの湾岸を24時間監視はあまり現実的ではない。
介入するとしたら大亜の奴らが上陸してからと、見解はまとまった。

次に「司波達也と聖遺物」「司波小百合襲撃」が「ジロー・マーシャル接触及び殺害」より前ということが確認された。

「聖遺物がうちに来るのを知るのはなんでだっけ?」
「たしか軍よ。軍からFLTへの依頼がバレて司波小百合がマークされる。その流れで司波家に監視がつく」
「う~ん、耳が痛い」
「達也兄さんと僕がいれば聖遺物に関して問題無いけど、小百合さんの襲撃に関して少々難易度があるね。偶発戦闘だから原作通りに行くかどうか」
「ジロー・マーシャルは?」
「俺のところに情報が入れば入国後の足跡はわかる。8時間に一度、入国エージェントの情報ログを確認している」
「介入は可能か?」
「可能だが、ジローマーシャルの行動は二科生グループに察知されるから、そこのグループに入れば接触は可能だ」
「なら誰かが達也を尾行して、ジローとエリカ、レオとの接触に介入する?」
「いや、それだとジローマーシャルを尾行している呂剛虎とバッティングするな。狙うはジロー・マーシャルに呂剛虎が接触した時だ。その時は装備も貧弱。地の利はこちらにあるからな」
「でも確実にするなら鑑別所襲撃のほうが良くない?」
「それも考えたが、う~ん、誰が対応する?」
「あたしはパス。戦闘はそっち三人で」
「雪光、七草嬢がいるぞ?」
「茶化すの禁止!」
「止めとけ、止めとけ、渡辺さんにいいとこ取られるだけだ。司波達也無双になるかもしれん」
「でも、すぐに身柄が奪還されるから、それよりも早い段階で確保して、もっと厳重な施設に入れといた方が得策じゃない?」
「病院襲撃時点では難しい。平河妹の暴走は不確定だ」
「関本さんから中華街に介入できないかな?」
「確証がないと、うちの組織は難しいぞ」
「じゃあ僕のところ使う?」
「ん?私設部隊があるのか?」
「多少は」
「四葉が対立構造に入る。周公瑾の背景を考えると全面戦争だ」
「じゃあ、どこまでOKなの?」
「軍なり警察なりに呂剛虎の身柄を渡すまでの間だ」
「ルートとしては関本さんからさかのぼる、平河妹からさかのぼる、他は?」
「司波小百合襲撃犯からさかのぼるのは?可能なの?」
「達也兄さんが全員分解するから難しい。でも小百合さん襲撃事件への介入する?」
「偶発戦闘だ。介入して不確定要素を増やす必要もあるまい。介入してもせん滅だ」
「あと九重八雲と達也、深雪の接触は?たしか会うのよね?」
「一度会ってみたいな、九重八雲、俺より胡散臭そう」
「うん、馬が合いそうだよね」
「そうだな」
「たしか方位に対してアドバイスを達也と深雪にするよね」

「「する」」

「そうなの?」
「一度会ってみろ」
「あれ?カナデ、達也兄さんは君付けじゃなかったけ?」
「気持ち的には年下よ。もう面倒だわ」
「そりゃよんじゅ」
「黙って」
「はい・・・」
「先に周公瑾に仕掛けるのはどうなの?暗殺とかじゃなくても、経済的にちょっかい出すとか」
「お勧めしない。あいつの網の広さがわからんし、未来知識外になるから実行ずるにしても準備期間が欲しい」
「やっぱり、早い段階で原作知識使って敵の戦力削るのがベストになるのかな?」
「ベターだ」
「そうね、他の不安要素は?」
「やっぱり平河妹かな~。僕的には」
「関本の対応は」
「あたしがCADにGPS追跡仕掛けたから、行動は追える」
「もしかして俺のCADにも入ってる?」
「うん。入れた」
「追跡用の返そうか?」
「そうね、お守り代わりに欲しい」
「ストーカー女だったとは」
「失礼ね。見守ってるのよ」
「惚気るな」

「「はーい」」

「で、問題の平河妹には誰か付くんだ?」

「「雪光」」

「僕?」
「どっちかというと、姉妹両方とも接触しろよ」
「なんで、カナデ九校戦で仲良かったじゃん、姉の方と」
「そうは言っても雪光、王子様だから。平河先輩も少し気にしてたのよ」
「雪光だ」
「ちょっと!光夜兄さん!」
「新旧生徒会に直接的な被害は無い。コンペ当日までは不介入だ」
「司波達也と七草のお嬢さんが、個室に入っていちゃつかなかったけか?」
「資料室で達也が「据え膳食わぬは申し訳ない」みたいなこと言うだけよ」
「あいつが?」
「確認次第、深雪には報告する予定だよ」
「雪光」
「ほら、兄弟で一人の女性を取り合うのもロマンなんだろ」
「ん~」
「怒るな」
「ねえ、あたしには据え膳云々は言わないの」
「摘んだ花には水をやっているが。足りない?」
「惚気るな」

「「はーい」」

「聖遺物奪還失敗からの目標変更はいつなんだ?」
「僕の記憶だと、司波小百合襲撃失敗後だったと思う」
「でもどうなの?一度路上襲撃で作戦目標変えるのって?現役としてコメントは」
「既定路線として横浜騒乱のシナリオがあったんだろ」
「奴らの意思決定には介入できん」
「でもさ、呂剛虎倒されるなり捕まって、奪還不可となると偽装揚陸船による襲撃も延期されるかな」
「俺が指揮官なら中止するね」
「中止させるための我々だ」
「呂剛虎がいなくなり、横浜事変に突入しても七草、渡辺、レオ、エリカがフリーの戦力として動くしゲリラ狩りの陣容も厚くなるでしょ」
「そうだけどさ~、中止させるためには?」
「陳祥山の逮捕か殺害が有力だな。現地指揮官との連携が取れないなら中止する可能性は高くなる」
「陳祥山は逮捕だ」
「なにか理由があるのか?」
「先の方でな」

「達也の動きは?市原先輩の手伝いになるの?」
「司波達也の論文コンペ参加理由ってなんだ?俺、覚えてない」
「平河姉の代打だ」
「でも、平河姉が不登校で無くなれば達也兄さんも呼ばれない」
「達也もフリーだ」
「でもな、このメンバーには入れづらいな」
「アカシックレコード見てないもんね、達也兄さんは」
「アカシックレコード?お前らそれで押し通したの?」
「成功した」
「うわ~、よく信じたわね。肉親じゃなきゃ縁切ってるわ、あたし」
「カナデの方はどうなんだよ。上手く説明したの」
「九島の爺様よ。言うだけ利用されるから、利発な子で通してる」
「賢い。これは婿入りだね。十師族入りだ」
「俺、長男なんだけど。嫁入りじゃだめ?」
「兄弟いるんでしょ?」
「いる」
「決まりね」
「のろけ」

「「はーい」」


「関本と周との接触があれば、即日関本確保でいいな」
「問題ないだろ」
「周公瑾側は連絡が取れなくなることを不審に思わないかな?」
「不審には思うが、対応できないだろう。家に言って関本君いませんか~、というわけにもいくまい」
「そうね、捨て駒だから最優先では調査はしないと思うけど」
「関本さん不憫だね」
「そう思うなら、四葉で援助してやればいいだろ。基礎研究だから寝かせれば役に立つぞ」
「軍ではどうだ」
「速攻、軍事転用可能な技術開発に切り替えさせられるだけです~」
「うわ、軍、物騒」
「現状は平河姉妹は雪光。ジロー・マーシャルはアラタ。関本はカナデでいいな」
「その分担でいいだろう」
「光夜兄さんは?」
「達也と協議だ」
「フリーで遊撃できる余力は必要だしな」
「再度の状況確認と会合は?」
「不審船事件発生後」
「不審船時点の各担当の状況と、ジロー・マーシャル殺害事件への介入作戦の立案だ」


「「「異議なし」」」


9月も下旬に突入する。


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自分の決定を否する者を処断する目

三人称視点です


生徒会選挙当日 学園内講堂

約600人が見守る壇上に光夜が登壇していた。
別段上がりたくて上がったわけではない。
中条あずさの演説は反応が良くなかった。多数のヤジが飛ぶ。
司波達也はヤジに怒る妹を全力で止める。

壇上では達也や深雪に説得されて、会長選に出馬した中条あずさが声を震わせ話している。
「四葉の方が会長に向いてると思いまーす」「中条さんだと心配!」
心無いヤジが飛んだ。

それを聞いた光夜は選挙管理委員の静止を無視し壇上に登った。
目の前に二人ほど遮ったが、睨むとすぐ道を開けた。

あずさはいきなりの闖入者に驚き身がすくむ。
壇の中央まで進むと光夜は低く優しくささやく「中条先輩少しお借りします」
あずさの隣に立ち、光夜はマイクを調整し、自分の声が入るようにする。

「俺は中条あずさ先輩の生徒会会長就任を全力で支持する」
生徒全員が黙る。深雪の魔法の暴走も止まる。講堂内でしゃべるものはいなくなる。
壇上の光夜には、生徒たちの中に雪光と、アラタと、モーリーと須田の姿が目に入る。
全員頭を抱えているように映った。

月夜に照らされた湖のごとく清らかな声、と深雪は光夜の声を評している。
だが聞き慣れぬものには、絶対に抗えぬ上位者の声である。
これは宣言ではなく命令だ。
「私は支持する。諸君も支持せよ」

「四葉が会長じゃだめなのか」
どこかで誰かが言った。静寂の講堂ではその呟きも響く。
光夜は声の方を一瞥する。一科の上級生だった。

「構わんのか」
その光夜の言葉は同意を求めるものでは無かった。
壇上から生徒たちを睥睨する目は、自分の決定を否する者を処断する目だ。
講堂の全生徒はその一言を誰一人間違えることなく理解した。

「生徒会長になれば支配だ。自治は無しだ。君臨する俺と支配されるお前ら。いいのか」

誰かが冗談でつけた「絶対支配者」は嘘ではなかった。
「中条先輩、ご無礼をお許しください」
光夜は片膝を突き、背を低くし、傍らにいるあずさに許しを請うた。
「あの、ちゃんと、規則は守ってくださいね」
怯えながらもあずさが叱る。
「はい。かしこまりました。Your Majesty the Queen(女王陛下)」
憧れの人を見る瞳に、尊敬を込めた声。
ちょっとした冗談のつもりだった。敬称を使った冗談。
マイクの収音範囲は広がっていた。

生徒会役員選挙は粛々と進んだ。
中条あずさが生徒会長となった。

翌日から卒業するまで中条あずさは一部で「女王陛下」のあだ名がついた。
光夜は「支配者」のあだ名が無くなり「女王陛下の『完璧』」と一部女子の間でキャーキャー言われた。

そして誰も知らないが、中条あずさはあの壇上で四葉光夜のことを好きになったのだ。

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「魔法使用の制限下では戦うな、と」


生徒会選挙翌々日。早朝の九重寺。前日に「九重八雲に会わせる」という光夜の連絡を受け
俺は朝も早くから九重寺に来た。境内では司波兄妹弟と光夜がいた。

「この寺の住職、九重八雲だ」と手を出されたので握手。
グルんと回された。受け身を取って立ち上がる。
作務衣の細身の坊主に投げられた。綺麗な合気の投げだ。
体重移動を隠し、上下の動きも最小限に相手をその場で投げる。
ここまで動作を消して行えるのは流石、九重八雲。

「無理をしなくていいよ。ここでは実力を隠す必要はない」
その細い目で余裕の表情を作り言ってくる。そりゃね、実力隠すのは仕事ですから。
俺は服についた土を落としながら改めて握手を求め右手を出す。
「改めまして、関重蔵です。情報部の零細部署に所属していますが、今は彼らの同級生の相馬新です」
四人を視線で指し、自分の所属を紹介する。さあ握るか?坊さん。
「もし、さっきのが擬態なら流石だね」
坊さんが褒めつつ俺の手を握る。改めての自己紹介だ。
次の瞬間、九重八雲が片膝を着く。
突然の状況に理解できないのか雪光と深雪が目をぱちくりしている(表現古いか?)
膝を着く九重八雲の姿に驚き、声が出ないのは司波達也と光夜。どうやらこの二人は何が起こったか理解しているようだ。

坊さんの額に一筋の汗を確認して手を離した。
「いやいや参ったね。ここまでとは」
手首をさすりながら立ち上がる九重八雲。
額の汗は痛みではなく、驚きなんだろうな。
「魔法の方は普通ですが、この手の技は人に自慢できる程度には」
謙遜してみた。

「隠者を気取ったら「野の達人を知らず」とは情けないね」
「こっちも有名人にならぬよう気を使ってましたから」
お互い笑い合う。向こうも本気ではないし、俺も本気ではない。
ちょっとした確認だ。
「あの、先生。何が起きたのかわからなかったのですが」
深雪がおずおずと質問する。
「お茶しながら話そうか」
九重和尚はお堂内に案内しお茶を出し説明をする。
お茶が出るまで、司波達也に「俺の素性を九重八雲に確認したのか?」と聞くと「15,6歳で合気の達人には心当たりがない、と言われたよ」だって。
名前を隠すのに成功!
お堂の中で全員車座で座りお茶をいただく。手品のタネを言うのはお任せしますよ。九重先生。

「彼は合気の技法で、僕の足腰の関節から力を抜き、上から体重をかけたんだ」
あ、お前らあんまり理解してないだろ。
と言っても合気の理合は説明し辛い。気とか呼吸力、重心、タイミング等々説明する概念や要素が多い。
「それは魔法とは違うんですか」
深雪のさらなる質問に、横で頷く雪光。
深雪くん、俺今いるメンバーで一番魔法下手なんですが。魔法使ったら君ら驚かないでしょ。

「純然たる技術だよ。深雪くん。それもこれほど滑らかに僕に掛けられる程の使い手は、ん~」
俺はどの程度の使い手か?俺の技に触れて生きている人間は少ないし、本人の目の前で評価してくれる人間はいない。
少しくらいは褒められたい!
「彼だけだろうね」
やったー!天下の忍術使いに褒められた!
「僕が見るに、出来ることはこれだけではない。そうだろ?」
更なるネタバラしを求めますか、九重八雲。喰えないおっさんだ。確かに気が合いそうだ。
「もう一度広いところへ行きましょうか」
俺は腰を上げ、庭に向かった。
この四人の実力を九校戦で見れたんだ。多少手の内をは見せないと戦力計算ができないだろう。
サービスですわよ。

「うわー自信がない(棒)」
組み手の相手は九重寺の弟子二人だった。
一人は、杖まで持ち出し本気のようだ。
「ちょっと、やりすぎではございませんかね。先生さん」
「魔法無しなら、そのくらいじゃないと、手の内は見せてくれないだろ」
ウインクしてくるな坊さん!
「二人とも。彼を殺すつもりでやりなさい。そうでもしないと遊ばれるだけになるよ」
あ、帰りたい。
「それはちょっとひど」
俺は九重八雲の方を見ながら抗議の声を上げつつ、左にステップ。
「いん」
更にかがむ。態勢を戻し、素早く一方踏み込む。
「じゃない」
右前方へ肩から踏み込む。肩の発剄。
「です」
身体を少しひねる。もう一度ひねる。踏み込む。
「かね」
杖を引くタイミングも与えず、首を正面から触る。

「こちらに顔向けて、その動き。まだ相手の数が足りないかな」
九重和尚が余裕綽々な物言いをするが、額には何粒かの汗がついている。

一人が正面から近づき、顔面を突いてくるのを左ステップで躱す。
そのまま杖を横に薙ぐのでしゃがみ、間合いを詰めるため一歩踏み込む。
最初の一人の陰から姿を現した二人目の突きをくぐり抜け、肩から当たり発剄で後退させ
横から杖で二回突かれたので二回目のタイミングで踏み込み間合いを潰して、態勢が整う前にお弟子さんの首にタッチ。

俺は首から手を放す。両手を挙げて勝利宣言。
「うーい、俺の勝ち!光夜、学食おごれよ!」
一つ高いお堂の入り口から見ていた面々は俺の動きを理解しただろうか。
「そんな賭けはしていない」
そう言いながらも、光夜の表情は硬い。
「想像以上だ」
そう言った司波達也も口が重い。
「風間さんから俺について何か言われたか?」
あいつが話しやすいようあっけらかんと言ってみた。
「魔法使用の制限下では戦うな、と」
端的だが正しい教えだ。これは俺の攻略法でもある。
「魔法が使えれば勝てるかい?」
「距離を取れば」
今まで一番真剣な司波達也の声だ。
そういうこと。

千葉の次男坊は「3m内なら世界十指に入る」らしいが「魔法なしで3m内なら世界一」は俺だろう。
使える技は山のようにある。
無拍子、縮地に始まり、先読み、聴剄、暗剄、寸剄なんてお手の物。
鎧通しや、殺気を飛ばして圧するのもできる。 
相手の気配を感じたり、一寸の見切り、脱力からの最速のパンチ、合気で人を投げ飛ばすなんて簡単だ。
寝技、組技でも負けたことはない。
武に関してできない技は無い。二指真空把は出来る。一度戦場でやったことがある。二度はごめんだが。

変わったところでは、軽功なんてのもできるし、水の上だって数メートル走れる。
武器だってなんでもござれ。刀、槍、銃剣、ナイフ、弓矢、弩・・・指弾の技もだ。
文字通り俺は「武神」なのだ。

だが、それは3m内の話であって。やっぱり魔法は怖い。
100m離れたところから範囲魔法を使われたら勝てないだろうし
魔法師の戦闘距離は3m以下になることはほとんどない。十三束くらいか。いやレオンハルトもだ。結構あるな。
障壁なんて張られたら、俺の格闘技の技では厳しい。
勿論、魔法師と相対した時の切り札はいくつかある。

この武神としての力を容易に超えていくのが魔法なのだ。
ミサイル並の破壊を個人の意思で行えるのだ。おっそろしい。
まあ、俺を形作る要素はまだあるけどね。

「九重先生、こんなもんでどうでしょうか」
「いや十分。今度うちの門下生に稽古をつけてくれないかな」
あ、茶化してない。本気で稽古つけてもらいたいのか。
「僕も、僕も稽古つけて!」
おう、雪光が俺を見る目が最高に尊敬の眼差しだ。

この日の晩に、不審船を見つけた千葉警部が愚痴を言いながら出動した。
さて本番だ。

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ダメ!ダメったら!ダメ!

三人称視点です



「なんで五十里がいるんだ」
服部刑部はそう言って、五十里啓に視線を向ける。
生徒会室では以下のメンバーがテーブルを囲んでいた。

生徒会長 中条あずさ
部活連会頭 服部刑部少丞範蔵
風紀委員長 千代田花音
生徒会会計 五十里啓

「啓には私がお願いしたの。この手の話には立ち合いが必要でしょ」
(立ち合いって、試合じゃないんだから)
自信満々に答える千代田花音に頭を抱える服部だった。
(風紀委員長をなぜ千代田にしたんですか渡辺さん。沢木を指名してくださいよ)
「えー、では生徒会役員、部活連執行部、風紀委員会の人事相談会を行いたいと思います」
頭を抱える服部を無視して中条あずさが会議開始を宣言する。
学生自治を司る主要組織での人事で問題が起きていた。

元絶対支配者、元魔王、「女王陛下の『完璧』」こと四葉光夜だ。

あの選挙戦の日、壇上での「構わんのか」発言以降、四葉の「部活連執行部退任」を求める話が数件出ている。
本人は素知らぬ顔、というか服部が本人に「お前はどう思う」と直球をぶつけるも「ご随意に」と返ってきた。
強者としての恐ろしさを披露したためか、光夜に対して腰の引ける者が続出中だ。

光夜の学内での孤立を防ぐため、服部は風紀委員会と生徒会に「身柄引き受け」を打診した。
そこでこの相談会である。小さい問題もまとめて解決するためである。
「まず、大物から行きたいと思う。中条、四葉を引き受けてくれ」
「さんせー」
「ちょっと二人、ストレートすぎるよ」
この二日間の苦労で目の下の隈が深くなった服部刑部と、ノー天気に賛成する千代田花音。
その二人の発言を大慌てで止める五十里啓。
「でも、生徒会としては人事はある程度固まっていて」
「司波雪光のように、補佐役として迎えればいいじゃないか」
半分懇願のように発言する服部。流石に部活連の今後の士気を考えれば、新会頭としては早めにどうにかしたい。
「あれは女生徒からの執拗な追跡から逃げる意味があったので、特例というか、避難というか」
「わかる!わかるが中条、これは部活連執行部の危機なんだ」
桐原から「あれが会頭になったら九校戦で全勝すると思うが、狂信者の集団になるだろうな」と言われて服部は慄然とした。
服部の脳内には光夜が「進め」と言うと進み、「勝て」と言うと勝ち、「使い物にならんな」と言われて右往左往する部活連の将来がイメージされた。
(だめだ!部活連は学生自治の要、九校戦での優勝を個人のカリスマによって統率されるなんて!それは自治ではない!支配だ!)
そんなことをこの二日、悩みに悩んだ。

「それなら風紀委員でも、四葉の名前は強いですから~」
中条あずさは水を千代田花音に向ける。
「うちはパス。恐れられる以上に、委員会内でも他のメンバーが怖がって仕事になんない。やっぱり中条さんが身柄取った方がいいわよ。女王陛下なんだから」
「そんな、あわわ」
あの日の壇上での光夜の微笑みを思い出し、慌てる中条あずさをよそに千代田花音は話を進める。
「それよりも、司波達也欲しいってあげられないわよ。風紀の主力なんだから」
「えっと、生徒会としては一科生、二科生の融和の象徴と言いますか、事務処理や九校戦のスタッフとしての動きと言いますか」
「あれでしょ、優秀だからくれ!って言うことでしょ」
「ちょっと花音、そんな直接的に言っちゃだめだよ」
中条あずさのオブラートに包んだ言い方を一刀両断する千代田花音。五十里啓の困りものである。
「いっそ、司波達也を生徒会で、空いたところに四葉を!」
「だから!いらない!」
まるで、一大発見のように声をあげる服部を、バッサリと切る千代田。
「いや、生徒会としてはの布陣は一科、二科のうち実力主義でいこうと思っているんだよ。特に副会長には一科からは司波深雪さん、二科からは司波達也さんを検討している」
「司波深雪の副会長就任は理解するが、優秀さで言ったら四葉を入れるべきだろう!」
服部の強い願望は次の一言で切られる。
「コミニュケーション面で」
中条あずさの申し訳ない顔が全てを物語っている。

ノックの音がする。
「どうぞ」
中条あずさが入室を認めると、森崎駿がいた。
「服部会頭こちらに・・・」
「ああ、ここにいるがどうした?」
「すいません!会議中でしたか?!」
服部に用があった森崎駿だ。
服部は手で「少し待ってくれ」とジェスチャーし、森崎に近づく。
要件は新年度に向けての予算申請についての手続きの質問だった。
2,3分ほど服部がレクチャーすると解決したのか退出しようとする。
「森崎、四葉を生徒会への移籍話が出ているがどう思う?」
(すまん!中条!俺の胃がダメになると部活連が空中分解してしまう!四葉と添い遂げてくれ!)
服部は心の中で中条あずさに土下座しつつ、森崎の口から既成事実を引き出そうと考えた。
「はあ、いいんじゃないでしょうか。あれ以来、部活でも俺以外と話している姿見かけませんから」
森崎の何気ない発言に即座に生徒会長と風紀委員長が反応する。
「でも、それだと生徒会内でのコミニュケーションが取れなくなって困るんです!」
「うちもダメよ!ダメ!ダメったら!ダメ!」
その二人のリアクションで森崎は気付いてしまった。
(これ、俺の発言で決まるのか?!)
「え、え、あれですよ、光夜とコミニュケーション取れる奴を一緒にすればいいんですよ!俺、部活で一緒なので他の奴がいいですよ!」
それだけ言うと森崎は脱兎のごとく生徒会室から逃げ去った。

その後も喧々囂々だった。結局守衛が来るまで話した結果、生徒会、風紀委員、部活連では新人事の中に下記の役職と名前が増えた。


副会長       司波達也(風紀委員を兼任。生徒会執行部入りは年度を改めてから)
書記(副会長待遇) 四葉光夜
書記補佐      相馬新

風紀委員(増員)  司波雪光

部活連執行部新役員 森崎駿
同上        須田渉


「これだ!これが四葉シフト!」
服部は自分の悪魔的人事差配に酔った。

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すまん!俺は悪魔に魂を売った!

2095年10月30日までは長いです。


モーリーが「すまん!俺は悪魔に魂を売った!」といきなり謝ったかと思ったら走って逃げていった。
その理由は生徒会執行部役員の人事発表で納得した。
あいつ、俺を売った!

ただあいつも部活連執行部入りだ。それも須田ちゃんと一緒に。絶対、光夜対応窓口だな。
半面、この人事が発表されてから光夜の機嫌がいい。
「身動きが取れなくなる」と言ったが、いざ生徒会室に行くと
困った表情の中条会長を見て何秒か思案し「お受けいたします」と言いやがった。
何かあるのか?光夜よ。

正直、超優秀な深雪副会長がいるおかげで仕事は少ない。
トラブルや打合せもあるが、週に一件、二件程度でそれほど激務と言うわけではない。
生徒会への悪感情を持つ相手への交渉には中条パイセンと光夜のコンビを行かせると一発で解決する。
光夜が無言で睨む、相手怯む、中条パイセンがフォローする、相手は中条パイセンにすがる、解決。
完全なる優しい警官と怖い警官だ。

問題の横浜騒乱については状況が進んでいた。
まずジロー・マーシャルが入国した。不審船事件から二日後だ。
関本さんは学校、研究棟と予備校あたりを動くだけで、横浜方面にはいかない。
平河姉妹については平和だった。ただ平河姉が風邪で二日休み、当面の実験準備の手伝いで司波達也が市原先輩に指名された。
ちなみに平河姉とは雪光は仲良くなり、その関係で平河妹とも話す機会があったらしい。
雪光の考えているCADの調整を話題に近づいたらしい。いいぞ!ジゴロの才能がある

村井大佐は「もう少し仕事に役立つ位置になってくれ」と言ってた。
あと「少し部内の動きが慌ただしいから、当面は上層部つつくような行動はとれんぞ」
と念押しされた。

で、会合だ。

前回と同じレストラン。光夜、雪光、カナデとの情報共有をし作戦の立案だ。

「ジロー・マーシャルの潜伏先は?」
「内情働かせて洗っている。この後のことを考えると東京都内。八王子あたりじゃないか?横浜へのアクセスも楽だし」
光夜の質問に、想定されるジロー・マーシャルの宿泊先をあげる。
「内情を動かして大丈夫なの?」
「ああ、個人的に貸があるから回収できるうちに使わないとな」
瀬川に言って、2班ほどジロー・マーシャルの監視に使っている。
向こうもフリーのエージェントを徘徊させるより監視した方が安心なので渡りに船だ。
このあたりは心配している雪光のおかげでもある。

懸念の平河姉妹も問題なさそうなので、監視対象から外すことを提案。
怖かったのは「九校戦以前からの接触」だった。

九校戦の逆恨みが無いので、平河姉妹が事件にかかわる可能性は低いがそれでも疑念はあった。

奴らが利用目的を持たずに接触しやすい生徒を抽出していたら。
この奴らは周公瑾だ。あの一派が、単純に以前に接触していたのが平河姉妹で、大亜連の作戦に有効としてで利用された。
その場合も懸念していた。既知未来知識では九校戦から約2か月未満で洗脳して行動方針を与え、装備を渡し、という工程を一気に行えたことを考えれば「事前接触」の可能性は怖かった。

雪光が「平河妹」を気にしていたので、雪光に任せたが
状況を見るに既知未来では周一派は相当力技で洗脳なり誘導したのだろう。

そう思った瞬間、一つ思い当たった。既知未来知識に過信していたのは俺だ。

「なあ、なんで司波小百合襲撃には呂剛虎がいなかったんだ?」
一番詳しそうな雪光に聞いてみたが、思い当たらないのか首をかしげるだけだった。
「なんでだろう?単に作戦に対して能力が合ってないとか?」
「そうね、あたしも覚えていない」
「俺もだ」
全員の返答は、疑問を氷解させることはなかった。
いつか「あいつらの意思決定には介入できない」と光夜が言ったが、そうだ。
俺たちは陳祥山の思考は知らない。

「最初から聖遺物奪回はおまけで、メインが一校への揺さぶり及び論文コンペでの日本魔法協会関東支部襲撃だった場合は?」
「え、そうなの?」
「聖遺物奪還失敗して、一校と関東支部襲撃に切り替えたんじゃなかったっけ?」
カナデが驚く。雪光の記憶だと優先度が高いのが聖遺物奪還だ。
「どうもそこが引っかかる。横浜騒乱に大亜軍の投入決定とか一日、二日で決定できないだろう。少なくとも大佐とかの佐官レベルで意思を持っての国外侵攻なんて決めきれない」
「一理ある」
俺の考えに同意した光夜も考えを巡らすのか少し顎を引いて黙る。
「平河妹も、関本さんも『一校へのちょっかい』の後始末として呂剛虎が動いてる。聖遺物奪還が主目的なら司波家周辺やFLTへ、二の矢三の矢を出すだろ。というかこの作戦は呂剛虎みたいな人間戦車じゃなくて送り込むのは工作員だ。だろ」
「それも、そうね」
「でも、それが現在の状況になにか関係するの?」
カナデの納得に対して、雪光君!鋭い!

「関本路線や平河妹路線での一校攻略が難しく、かつ聖遺物は副目標で最優先ではない。ならどうする?」
「魔法師支部襲撃に全戦力突入?」
俺の問いに雪光の言うことも可能性としては高い。だが俺が思いついたのは
「魔法科高校襲撃だ」
光夜が代弁してくれた。
「へ、なんで?原作だと呂剛虎は普通に横浜にいたよ?」
「決して軽傷とは呼べない状態で、一校襲撃を断念し、戦力を分散せずに一箇所に投入したと見れば話は通じる、んだがな~」
腕を組んで考えてしまう。既知未来知識ではあの横浜騒乱にいた呂剛虎は、鑑別所における戦闘で重傷に近い攻撃を受けている。
そんな任務遂行に不確定要素のある人物に、重要な一校襲撃を任せられない。というのは俺の想像だ。陳の思考かどうかわからない。
「二か所襲撃作戦?」
カナデの表情には驚きと疑惑がある。
俺もこの発想には自分でも確証がもてない。
「正面から防衛して呂剛虎を一校警備が抑えられる?」
雪光の疑問にすぐカナデが返す。
「でも仮定の話でしょ?」
その通り、カナデ君。これは想像で仮定だ。
「仮定だ。仮定。だが、知っている通りに進まないこの状況だとそこまで有り得る」
「じゃあどうするの?やっぱり中華街に襲撃して先手をうつ?」
前回も話に出た中華街の周公瑾への先制を口にする雪光。
光夜は冷静に一言。
「一度各自の手札の確認だ」

改めて、話し合いの夜となった。
そして驚くべきことが翌日起きた。

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まじで!ガルパンの劇場版20回観たの?

「いや~ごめんね。本当はさ、ちゃっちゃと決められるんだけど、こっちの都合で担当が代わっちゃって」
「あれですよね、神様の手違いで死んじゃってチート貰って異世界行きですよね」
「もちろん、もちろん」
「あの神様はお名前なんて言うですか?」
「あ、興味ある?僕ちん、○○○!有名でしょ?ハンマーは今日持ってないけど」
「え、本当ですか!映画見ました!」
「あれはオーストラリア人だから、ちょっと微妙な気になるけど、まあ映画だから」

中略


「まじで!ガルパンの劇場版20回観たの?好きだね」
「でも○○○様が知波単推しとは」
「いや~、いいじゃん。突撃バカ。わかりやすくて」

中略

「え、中年が全盛期的なのがいいの?若い時大変だよ?」
「そうなんですよ。ほら単身赴任のサラリーマン忍者とか憧れません?」
「若い時どうする。結構厳しい人生になるけど」
「そこらへんは上手くできないですかね」
「途中で、前世を思い出す的な設定を調整すれば」
「できるんですか?」
「任せてよ。変則になるからちょっと不自由かも知れないけど」
「いや大丈夫です!で、どの程度強い系になれますかね?」
「う~ん、そうだね、ちょっと主人公以上は難しいけど見せ場ありの一人くらいには行けるね!」
「ガルパンで言うと?」
「クラーラ」
「イケているじゃないですか!」
「任せて、マジ任せて。○○〇の名にかけて、面白い人生を贈るよ!」

=========================================

これ誰だ!僕か!イケメンじゃん!



で僕、誰だ?前世の記憶はあるけど、現世の記憶が出てこないな



はい。風邪ひきまして。すいません。はい、はい。お任せします。いつものところ?ええ?いつものところで。



え、未来?!生活様式が昔と違うな~



魔法?魔法あるのか!



だめだ、今ひとつ記憶が思い出せないな。



魔法使えた。すげー。コップが宙を移動したよ。



僕、偉いんだ・・・。部下がいる



うん?



どっかで見た記憶が?なんだっけか?



CAD?古式?なんだっけ?アニメか、ラノベ?



作戦?



あれ?どうするんだ?あれか、いつものところでいいのか?で、いつものところってどこだ(笑)



九校戦?あー!あー!あー!あー!あー!あー!あー!あー!あー!あー!



あれ?たしか、お兄様とレオと、あとほくろの奴が優勝したよね



四葉?四葉?なんの設定だ。アニメしか見てないぞ。



ああ!現世の記憶が少し思い出してきた!



え、え?



あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ、くそ!!!!!!!!!!!!くそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそ、くそ神!死ね死ね!死ね!



でも、待てよ。死ぬんだっけか?え、アニメだと死んで無いよね?原作だと死ぬの?



無理だよ、もう時間ないじゃん



逃げる?どうする?逃げれるの?



・・・・・・・・・・・・



連絡しよう・・・・お兄様に連絡しよう



でも殺される?わかんない?



うわわわわわ、kghsどいふgyiofa;ofugr;おtg4bgヴぃぅrいfすfsfhgいghふぇjふぃgほghrすfgrsぅrfghelighrsiuglsfhpoqdjでおdhw



メール文面は作った。送っても通じるだろうか。



4日経った。ダメだ。決心できない。



いきなり殺されることはないよね。別に大丈夫なはず。



お兄様と接触してない。アニメだと接触してない。大丈夫、大丈夫、大丈夫、大丈夫、大丈夫、大丈夫、大丈夫、大丈夫、大丈夫、大丈夫、大丈夫、大丈夫、大丈夫、大丈夫、大丈夫、大丈夫、大丈夫、大丈夫、大丈夫、大丈夫、大丈夫、大丈夫、大丈夫、大丈夫、大丈夫、大丈夫、大丈夫、大丈夫・・・・



送った。結局明日だ。鬱だ



助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて
助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて
助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて
助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて
助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて
助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて
助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて
助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて

お母さん、助けて






========================

「さあ、これでOK。君はもうすぐ次の世界だ!」
「はい!」
「ところで、北欧神話で○○○以外に誰か知ってる?」
「えっと、××ですかね。トリックスターの」
「トリックスターか!かっこいいね。嘘つきとしか言われたことないよ」
「え」

========================



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女子高生柔らかい~

「もう一度頼む」
「周公瑾から連絡があった」

耳がおかしくなったか?いやどうなんだ?周公瑾。周公瑾。
待て待て待て。
「ちょっといきなり何?」
横にいたカナデを肩を抱き寄せ、ぎゅっと抱く。あ~、女子高生柔らかい~。
顎に手をやるのが癖になったので、人がいない時に限りカナデを抱きしめることで精神の安定を計っている。
「ねぇ、そんな学校よ・・・」
ちょっと顔赤くして、可愛いな。シャンプーの香りがする。今晩こそは。

「もういいか」
「ああ、混乱は収まった」
カナデを腕の中から離し、真面目な顔をしているつもりで光夜に向き直った。
鼻の下は伸びていない。はずである。
光夜の横では雪光が呆けている。雪光、メンタル大丈夫か?

放課後すぐに、光夜から人のいない喫茶室集まるよう話があった。そしてこれである。
その時点で雪光は、光夜に手を引かれ、幼児退行したようによちよち歩いてきた。

「で、連絡とは」
「メールだ。すでに日数が経っている」
光夜はコーヒーを一気に飲み干しタブレットをこちらに見せる。
おう~、スゲーな。まじで周公瑾名義で、微妙に「何か」を匂わせている。
「本人なのか?」
「確認してくれ」
「あ、そうね。ちょっと時間かかるけど出来るわ」
そう言って、カナデは光夜からタブレットを受け取る。
「でもこれって、外向けの学校資料請求の申し込みから来てるじゃない」
「一校が外に出しているアドレスはそれだけらしい」
「それが何日かけてお前のところに?」
「複数部署を経由して、先ほど職員から達也に来て見せられた」
頭を抱えた。カナデにタブレットをテーブルに置くよう促し
もう一度抱きしめた。カナデの温もりで混乱を静めようとしたが時間がかかりそうだ。
「おい」
俺の挙動に不機嫌な光夜が声をかけてくるが、もう30秒待ってくれ。
「ありがとう、落ち着いた」
カナデの眼を見ながら、そう言った。「うん・・・」と頬を赤くし頷くカナデ。
まいった。こりゃ、俺本気になったな。絶対離さんぞ。
「おい」
もう一度、光夜。
「すまんな。混乱の極致だ」
「少なく見積もっても三日、最悪九校戦終了後すぐに、と言う可能性もある」
「またカナデを抱きしめて混乱を収めたいんだが」
「家でやれ」
光夜はそう俺に言って、タブレットをもう一度カナデに渡した。

「雪光、お前この状況どうみる?何か覚えていないか」
このメンバーで既知未来知識が一番豊富な雪光に聞いたがかえってくるのは
「もうわかんないよ…そんなせっていしらない・・・来訪者編も、京都編とかさ・・・」
ここまで、ぼそぼそとしゃべる雪光は初めて見た。深雪に匹敵する美貌も今はなりをひそめている様だ。
俺の告白の10倍はおかしくなってるぞ。混乱を収めるには恋人抱きしめるのが一番だぞ。
七草嬢との仲は進展していないらしい。

まあ、俺も人がいなければ足をバタつかせて奇行に走るだろう。
雪光の気持ちもわかる。カナデは俺に抱きしめられたの幸福感が勝っているのでそれほど衝撃的ではないようだ。
光夜のこの胆力スゲーな。普通はデカい声を出すぞ。
「達也にメール見せられた時は柄にもなく、マジか、と言ったよ」
俺の視線に気付いた光夜の告白に安心した。

単なるいたずら→無視
意図を持ったいたずら→調査
意図を持った仕掛け→調査
罠→調査

選択肢はこんなところか?問題は司波小百合襲撃事件の備えをしているので、あまり時間的余裕がない。
「いっそのこと、達也に動いてもらうか?」
司波達也宛のメールなら達也に動いてもらうのが道理だ。
だがあまりにも不確定要素が多い。既知未来の知識のある我々で推論は立てておきたい。

司波達也と俺の関係は、この横浜騒乱編対策チーム(仮)では難しい。
アカシックレコード(笑)で横浜騒乱を知った光夜が司波達也に相談しつつ、「四葉の力で手に入れた情報」と言う態で
オブザーバーとして諜報員の俺をチームに招聘、という形だ。

「肝心の周公瑾のメールは何なんだ?」
「食事の誘い」
光夜の口からさらに予想外の答えが出てくる。
「カナデさん」
「ちょっと抱き着くのは待って」
忙しそうにタブレットを操るカナデに片手で静止された。



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お歳暮お中元は忘れたことがない


「どういうことだ!」
「わからん!」
効率重視の返事どうも!昨日の今日だ。勘弁してくれ!

校内を光夜と走りながら、来客がいる応接室へと急ぐ。
結局、カナデの調べでメールの送信元が横浜中華街の飲食店からで、その店の登記を確認すると周公瑾の名前があった。
送信元を偽装や複数かませないことから素人丸出しで、罠かと思った。
まずは明日、つまり今日の放課後に俺が下見に行く予定だった。

そして今日である。
朝、一限目終了時に問題が来た。

顔色の悪い男が校門に来て、警備員とひと悶着起こしたのだ。
「司波達也に会わせてくれ」という話らしい。
最初は警察を呼ぶ流れだったが「メールを送った」と言い出したので確認された。
そこから1時間以上たって、警備員→教職員→入学資料配布を担当している事務局→教職員→司波達也の流れで、司波達也本人に連絡が行った。
光夜に「周公瑾を名乗る男が来た」という司波達也からの連絡を受け、俺と光夜は急いで応接室に急いでいる。
雪光とカナデは遊撃として待機。深雪にも緊急の状況だとだけ伝えた。

応接室の前に行くと司波達也が待っていた。
「来たか。中にいる」
「よく、応接室まで案内したな」
「俺がメールを返信せずに遅らせた、と伝えて無理にお願いした」
俺の質問に答えとしては及第点だ。下手に帰すとなんであれ確認が取りづらい。
多少怪しくても、監視下に置いた方がいい。
「ボディチェックは?」
「警備員が済ませたらしい。携行品は名刺と財布、身分証明書も持っていた。周公瑾名義だ」
「CAD?」
「なし」
光夜と司波達也の簡潔な会話が終わると、三人で応接室に入る。
監視という意味なのか、部屋には中央のソファに座る男以外に警備員が二人いる。
「知り合いです。大丈夫です」と司波達也が警備員に言い、退室を促す。
「しかし」と返答が来るが光夜が「我々生徒会の二名が同席します」と言うと心配そうな目をして部屋から出た。
申し訳ない。だが、これは俺たちでないと理解できない範疇だ。

男、周公瑾と名乗る男は疲れ切った顔、色男や優男ともいえない、疲労で口角はさがり、目の隈も病的なほど暗い。
悩みつき病んでいる顔だ。
服装も、洒落たまるで舞踏会の案内役のような優雅さもない、新人社会人のスーツのような身体から浮いたスーツ姿だ。
男は、入室した三人を順にみるといきなり泣き出した。
「司波達也~お兄様~」
すがるような、すがり崩れるような声をあげ、ソファから立ち上がり司波達也へと歩み寄る。
俺は二人の間に立ち、すぐにでも男を取り合押さえようと構えた。
が、それは無駄だった。
「助けてよ、頼む。僕を殺さないで・・・・」
膝から落ち、まるで司波達也を神に見立てて、懇願するように頭を垂れる。
そう、お兄様は神になったのだ。違う。違う!冗談!
男はそこで、数分泣き続けた。
「話を聞かせてくれ、俺があなたを殺すのか」
司波達也は男の肩に手を置き、そう聞いた。



男を応接室のソファに座らし、話を聞いた。男の話は支離滅裂だった。そう、普通に聞けば。
なんでも死んだら、この体で目が覚めて、九校戦を見て魔法科高校の世界と気づき、その後自分が横浜で事件を起こすので
司波達也に殺されると思い、助けてほしくて連絡を取ったが、軍人たちが怖くて、今日いきなり来てしまった。ということらしい。

「お兄様に殺されるかわからないんだけど、敵になっちゃって、殺されると思うんだ~。でも今会えば助けてくれると思って」と涙ながらに話してくる。
光夜が小声で司波達也に「アカシックレコードを見たようだな」とつぶやくのが聞こえた。
お前、アカシックレコードで貫き通すのか。偉いな。
おい、司波達也お前も完全に信じているだろう。瞼が一ミリも動いていないし、完全に信用しているのが表情から読み取れる。
俺もアカシックレコードの流れでカミングアウト・・・風間さんとかに病院紹介されそうだな。

男の支離滅裂な話は10分ほど続いた。
埒が空かない。自分はワタナベケンゴといったり、文京区の文具店に勤めていたとか、高校大学と中華料理屋のバイト暦が長かったので今のお店のオーナーの真似事ができたとか
今の身体の記憶がよみがえると中国語と英語も理解したとか、お兄様の活躍は放映時全話観たけど、しっかり覚えていないとか。深雪ちゃんよりもエリカ派なので安心してくれと。

光夜と達也がアイコンタクトすると
「すまないが、授業を欠席する旨伝えてくるので少し待っててくれないか」と達也が言った。
俺と光夜だけが残った。
どうやら司波達也がいることで質問することもなく、男が支離滅裂(俺と光夜は理解しているが)に話すので
気を落ち着かせる意味で、一度中座するようにしたようだ。

男は心配そうに俺と光夜の顔を見比べる。
そりゃそうだ、頼みのお兄様がいなくて目の前にはよくわからん学生二人だ。
「混乱しているところ悪いが、お前も一度死んで転生した人間か?」
光夜の効率重視だ。
その質問に男は動きを止める。
「安心しろ。ここにいる二人は転生と言うものを把握している」
「ほんとですか!あなたたちも!?」
「そんなところだ」
「うぁぁぁ」
また男は5分ほど泣いた。

「よかった。同じ境遇の人がいて」
「ただ、周りの人間、達也にもぼかしてしか伝えていない。しゃべらないでくれ。俺たちも狂人と思われて社会生活ができなくなる」
そう光夜が言うと男も大きく頷いた。
「わかります。僕もお店の人にここは魔法科高校の劣等生の世界か聞いたら、変な目で見られました。わかります」
そうか、そうか。こいつも大変だったんだな。
男は光夜の態度に安心したのか、光夜の矢継ぎ早の質問に答えてくれる。
「本当に周公瑾なんだな」
「はい。九校戦後にはっきりとこの体の記憶がわかったんですが、周公瑾と言う名前で大漢というか崑崙の生き残りです」
「それでいつこの世界のことを知った?」
「だいたい九校戦の2週間前くらいです。死んで転生要望を神様、あのくそに話したらこうなって」
「そうか」
この人、転生じゃない。俗にいう憑依だ。原作の特定に人物に意識が憑依して、その人物として生きる、というヤツだ。
「こうしよう。達也には魔法の訓練中に事故で意識が飛んで未来の映像を見て、怖くなって映像で見た司波達也に助けを求めた。それでどうだ?」
凄い光夜がこんなに話すとは驚いた。
周公瑾は首がもげるほど頷いた。司波達也向けの「アカシックレコードを見た」という言い訳はとりあえずこれでいいだろう。
相当胡散臭いが光夜の後押しがあれば、「転生」とか「憑依」という頭のおかしい現象は追及されずに済む。

俺は質問すべく優しく、かつはっきりと話しかける。話掛ける側が弱弱しいと不安をあおる。
「俺は相馬新。司波達也の仲間だ。いくつか教えてくれ、軍人というのは大亜連合の陳と呂だな」
「ええ、アニメで見た二人でした。あと部下が20人くらい」
よしよし、潜入軍人は確定したぞ。
「彼らの行動はどの程度把握しているんだ?」
「衣食住の提供と、現金あと作戦室みたいなものを提供してるだけです」
だけ?
「じゃあ作戦の詳細は知らない?」
「はい。アニメだと横浜襲うんでしたっけ?あいつらに衣食住の提供するのと協力しろとだけ命令されています。具体的なことはなにも」
「もう一つ。今までの周公瑾が起こした犯罪行為の記録とかある?」
「ええ、いくつかは覚えてますし、日記みたいに本に書いてまとめてるみたいです」
少し身構えて答えるが、安心して欲しい。悪いことにはしないよ。
よし、本人の証言と証拠。そしてここまで話が進むなら、転生者組で背負いこむのは限界だ。
「そうか、じゃあいっちょ司法取引しようか」



諜報は超細かい作戦を立てるか、行き当たりばったりの二つだ。
俺が主にやらされるのは行き当たりばったりの方である。
悪いのは大島少将とその周りの参謀連中で、胃を痛める村井大佐と現場で何とかしちゃう俺である。
その分、現場で好き勝手できるので有難い部分がある。村井大佐へのお歳暮お中元は忘れたことがない。

「村井大佐。大亜連から密入国手引きをしていた亡命ブローカーの証人保護をお願いします。本人は司法取引に応じるそうです。はい。はい。一校にいます。はい。
うちの?ええ、でどうやら密入国を手引きした中に大亜連の工作員もいるらしく、潜伏の協力をさせられているようで。はい現在も潜伏中で。ええ、はい。え、俺ですか?」
無茶を言いなさる村井さん。
「別に動けますが。ええ、はいわかりました。その代わりですが、尋問には同席しますからね。ええ、でいつ頃までに手配済みますか?わかりました。それでお願いします」
今応接室に居るのは司波達也と俺、周公瑾の三人だ。光夜は「軍関係の話なら俺は席を外す。あとで必要な事だけ言ってくれ」と部屋を出た。
証人と証拠、それが揃えば俺たちだけで未来に立ち向かう必要はない。国防軍が動く材料があるなら手助けしてもらおう。

「大黒特尉、情報部支援課少佐として協力を要請したい。2時間後に支援課小隊が証人保護のため本校に到着する。それまでの証人の身柄保護について貴官の力を借りたい」
俺は軍人として目の前の大黒特尉に協力を要請した。
司波達也は背を正し敬礼をする。
「はっ。かしこまりました」
「うっし、じゃあ小野先生のところ行こうぜ」
堅苦しいのは面倒とばかりに口調を戻し、周公瑾を伴いカウンセラー室に向かう。
早退の理由を貰いに。さて大黒特尉殿、二人分の言い訳頼むよ。
そしたら、喫茶室で2時間サボりだ。



下記の一文を追加
2018/01/29 20:54

証人と証拠、それが揃えば俺たちだけで未来に立ち向かう必要はない。国防軍が動く材料があるなら手助けしてもらおう。


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若い奴に出会いを与えたと思えば、これもアリか


俺はヘルメスという神に愛されているんだと思う。
ヘルメスは幸運、詐術、計略、牧畜、盗人、賭博、商人、交易、交通、道路、市場、競技、体育etc、多くの面を持つ神だ。
きっとその中で詐術、盗人、体育あたりで愛されているんだと思う。

てなことを思いながら中華街の人のいない暗がりを進む。
全身黒づくめ。目出し帽だし、なにより足音が一切しない。俺、変態みたいだ。
幾つかの装備、赤外線を見れる眼鏡やらなんやらのスパイセット、が入ったバッグを肩にかけている。
監視カメラの死角、もう3秒で左上のカメラが首を振り、10秒の空白があるので、そこで壁を越える。
壁の下には圧力感知式セキュリティも軽々と回避。
店の電源を細工、セキュリティシステムを騙すソフトの実行、そして警備員の真後ろを息を殺して気付かれずに歩く。

到着したるは周公瑾の店での私室。
本人からの話で知った書類の隠し場所…を漁り・・・ってホントに紙の本だ。で、これには大陸式の古式魔術があるので
術をかけた当人から貰った護符を使用してと。うへ、こりゃ面倒だ。手で印を切るのだがちょっと楽しい。
にしても主人格と記憶が前世で、知識と技術が現世ってどんな組み合わせだ。悪意あるチョイスだぜ。神よ。

総時間1時間で俺は中華街の周公瑾の店から離れた路上に止めた車に戻った。
小泉中尉と島村曹長、田中二等兵曹に迎えられ、早々にセーフハウスへ向かった。

村井大佐の無茶は「24時間以内に証拠を証人の自宅から取ってこい」だった。

この手の仕事は情報部の実働部隊か俺たち支援課に限る。特に便利屋、三次受け、下請屋、残務仕事担当と有難くない異名を持つ支援課第二班はどんな仕事でもする。
使い走りから、中東における石油取引に絡む企業令嬢誘拐や、大量虐殺の目撃者を三つ隣りの国の日本大使館まで追跡部隊を振り切って俺一人で届けるとか。
届けた時に「ほんとにやるんだな」と鼻で笑った外務省の役人を、旅の途中で知り合った人たちの鎮魂の意味を込めて足腰が経たなくなるまでぶん殴ったこともある。
いや、その後しこたま怒られた。4か月の減俸で済んでラッキーだった。

「これですよ」
本をテーブルに置く。
村井大佐と周公瑾、そして小隊の面々、あと村井大佐が巻き込んだ情報部監察の竹田監察官。
セーフハウスにはそれだけの人数がいる。マンションの一室。
設定上は島村曹長のカバー(偽装設定)である玩具会社社員の趣味部屋として借りている。
「あっちの言葉か」
本を開きながら竹田さんは通訳がいないことを少し困ったようだが、わかるところだけ訳してみる。
「こりゃ、亡命の記録ですね。何人をいつ、どこの引き取り先に渡したか。暗号交じりなので、本人の解説が必須でしょう」
ということで、この軍人たちの重苦しい空気の中、周公瑾こと中身はワタナベケンゴさんが、たどたどしく説明する。
俺以外ガタイがいい奴か、眼光で人殺せそうな奴しかいないからね~。怖いよね。
一応、証人保護で小隊が到着するまで周さんには「日本での正業の利益確保及び、違法行為へのリスク意識から組織の情報を売る司法取引を希望した」という形で進めることを教えておいた。
数年前からの亡命ブローカーとしての行動や、先日の大亜連合の軍人の手引き。そしてをそれを記載した個所と、彼らの知っている範囲でのプロフィール。
「人食い虎」の名前が出たときに部屋の空気が更に緊張した。

「あとは問題のそいつらだが…」
そうなのだ。それが問題だ。周公瑾が手配した住宅にはすでに大亜連合の軍人たちはいなかった。
というのも日本潜入初日から周公瑾の病んだ姿を見て、まともなコミニュケーションも取れず、単に衣食住だけ与えられれば
「この状況はまずい」と考えるのが工作員の常である。
この病んだ協力者は自分たちを秘匿してくれるのか?ちゃんと協力してくれるのか?
そのあたりの疑問が浮かぶと、あとは保険の意味で行動を起こすのだ。

つまり、潜入軍人は都会の中に逃げ込んだ。
それを追い立て狩るか、目的の日に、目的の場所で、一網打尽にするか。

情報部は手隙の部署、内情の瀬川、外務省外事部を巻き込んでローラー作戦も視野に入れて足取りを追っている。
大亜連合が頼れる人物。華僑の人間や反政府思想のある者、魔法協会への反感の強い人間。
ブラックリストを片っ端から追っている状況だ。

周さんもGPSを体内に埋め込まれ、当面は支援課の監視下で暮らすことになる。
明日にも司法系の部署から弁護士役が来て、お店の管理について確認するらしい。

俺の中で意外な形で横浜騒乱への不安が構成されていった。



「大事になりましたね、少将」
「もう少し早ければ逆転の一手だったがな」
「まあ十文字邸の見取り図は有りますし、まったく無駄ではありませんでしたが」
「四葉と関係が結べたなら四葉の村の内部情報も欲しいところだがね」
「それは出来なくはありませんが、分が悪いですね」
「そうか。九島の方は?」
「若い娘に入れ込んでますよ。まあ、この先トラブルになっても自己責任ですからね」
「いや、若い奴に出会いを与えたと思えば、これもアリか。はっはっは」
「あちらに行くのはいつごろに?」
「早ければ月を跨がずにだな」
「では、任務もそのタイミングで」
「いやそれは相手に任せよう。面白いじゃないか」
「私は最近胃薬変えましたよ」
「苦労を掛ける」
「仕事ですから、ご安心ください」



ここまで来ると俺たち、つまりは、俺、カナデ、光夜、雪光、深雪、司波達也の6名の手には余る状況となった。
確証の無い未来には6人で対応しなけれならなかったが、敵の作戦の証拠があれば軍が動く。

潜入軍人の追跡は、指揮は軍情報部、外務省外事部をアドバイザーに行うこととなった。

司波小百合襲撃事件は起きなかった。やはり聖遺物奪還は重要ではなかったのでは?と思える。
あと軍内で聖遺物複製に関して、消えかかった火が再燃した。燃えた理由は今回の潜入工作員の目的が
聖遺物奪還にあったこと、それを民間に丸投げしたこと。
なんでも火種にするのが軍内政治だ。海軍の意見に陸軍は反対である!というヤツだ。

そして平和な学生生活を取り戻した。カナデの処女もいただいた、完!
というわけにはいかない。

司波達也は七草真由美嬢と資料室の個室でいちゃいちゃしたらしい。
雪光が「身長なのか・・・」と凹んで呟いたのでモーリーが来て「男は身長じゃない!生き方だ!」と励ましていた。
お前、この間看護師のお姉さんに呼び出されて買い物に付き合わされたって言ったけどそれデートやぞ。
まんざらでもない顔しやがって。こちとら放課後から深夜まで周公瑾の聴取に付き合ってくたくたなんだぞ。


国防軍は以下を決めて各関係部署に通達及び協力を要請した。

・全国高校生魔法学論文コンペティションの中止
・魔法科高校の臨時休校
・魔法協会関東支部の一時閉鎖
・横浜港での軍主導の臨検の実施

が、数日で根回しや調整がつくこともなく、グデグデの調整劇になった。
特に論文コンペは魔法協会の育成事業でもあるので、簡単には中止が出来なかった。
そこが大事なのに!

・全国高校生魔法学論文コンペティションは外部の見学者を制限。また応援の学生数も上限儲ける。
・会場の警備は魔法科高校から選抜された学生有志と、国防軍派遣の1個大隊にて行われる。また大隊は会場周辺の広域警備も兼任する。
・各魔法科高校には各校近隣の国防軍基地から警備班組織し、警備として派遣する。
・魔法協会関東支部には特殊部隊2小隊を派遣する。また事前に協会として義勇兵の内々での募集を行う。
・偽装船対策として海上保安庁から巡視艇2隻、港湾近くに海軍の駆逐艦を1隻。また港湾地域に2個中隊を警備として配置。
・魔装大隊への出動待機命令
・鶴見基地に予備要員として2個大隊を待機


各魔法科高校にはブランシュの事件を教訓に地方基地から警備は派遣され、偽装船対策は結局お役所の縄張り争いから
海上保安庁が実務を行うことになった。

論文コンペやるんだよな~。止めりゃ、いいのに。

この条件がまとまる頃にはプラスとマイナスがあった。

マイナスは簡単だ。俺の出席日数が減り、カナデには会えず、情報部の支援課オフィスで寝泊まり生活を数日した。
ほぼ毎日の周公瑾への尋問には俺が同席するのが条件なので、常に情報部本部にいる必要があった。
陽が沈み、昇るまで尋問とかやめろよ。俺、普通の学生なのにここで大量欠席とか不味いんだぞ。

プラスは凄い。問題の襲撃日まで時間がなかったため、政府発表まで情報が上がらず内々に事が進んだことだ。
横浜港の臨検も今は多少厳しくなった程度だが、今後はどんどん厳しくなる。
文民統制が大前提とはいえ、半ば戦争が目の前にある時代では軍の動きは速い。誰も沖縄と佐渡のことは忘れていない。
そして各基地の警備班派遣も世の中のニュースとしてはほとんど公表されずに組織され、各校に軍人が民間の警備会社の制服で校内を警備している。




大亜連合の工作員は東京、神奈川のどこかで、国防軍の警備状況が出来上がるのを知っているのだろうか。
それを本国に連絡できるのか、どうかもわからない状況であいつらは10月30日を迎えようとしているのだ。


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それもフレアスカートのミニ

R-15ぎりぎりと思われる表現があります。


三日ぶりに情報部の建物の外に出ると時間は早朝だった。
溜まった着替えと家の雑事を片づけるため俺は自分の官舎に向かう。

家につくとまず洗濯物を洗濯機にかけながら風呂の支度。
冷蔵庫を見て、適当な冷凍食品が無いか物色。あ、冷凍スパゲティがあった。賞味期限も大丈夫。
それから風呂に入って、垢と汗を落としたところでインターホンが鳴った。
うん?軍からの呼び出しならタブレットに来るが、それではない。
近所の同僚が激励代わりにビールでも持ってきてくれたか。早朝から酒とは嬉しい限りだ。

そう思ってののぞき見から外を見る。
すぐドアを開けた。
「朝ごはん食べる?」
「・・・はい」
カナデがそこには立っていた。
コンビニの袋には弁当や幾つかの総菜パン、パックのコーヒーなどすぐに食べれる食品が数食分は入っている。
「どうやって?」
「お姉さんにお願いしたわ」
やられた。敵は身内にあり。藤林少尉が手を回してカナデをここまで誘導したな。あいつ絶対、支援課に入れてやる。
「このまま帰った方がいい?」
「狼さんは赤ずきんを家に入れました」
俺はそう言って、カナデを家に入れた。
「男の一人暮らしを想像してたけど思ったより綺麗ね」
あ、いかん。カナデよ、なぜだ。なぜ、なぜなんだ。

俺のドストライクなミニスカでくるんだ。それもフレアスカートのミニ。
部屋にどんどん入っていくカナデの後から俺も部屋に戻る。
「カナデさん」
「なに?」
彼女が振り向くとおもむろに彼女の持っていた荷物を受け取り床に卸す。
彼女も色々察したのか、抱き着いてくる。
俺たちはゆっくりと久々のキスをした。
「軍隊だからっていうのはわかるけど、いきなり無断欠席を続けるのは留年するよ」
「わかってる」
いい女だな。
「今日は一日休みになったの?」
「14時間後に再度出頭」
「14時間あるんだ」
「うん」
「あたし、替えの下着持ってきてる」

======================

「そんな下から見上げるなんて、変態なのね」
「カナデがミニスカで太ももを見せつけるのが悪い」
「屁理屈」
「屁理屈で結構」



「下着姿見せあうの恥ずかしい・・・」
「俺は別に。綺麗なもの見れて嬉しい」



「どう気持ち良くないか」
「裸で抱き合うだけでこんなに気持ちいいとは。なんで早く抱き合わなかったのか悔しい」



「さすがに、そこまでじろじろ見なくても」
「ほんと、凄い…ねぇ大きい方なの?」
「この状態で他の奴と比べっこしたことはないよ」



「だめ、だめ!恥ずかしい」
「じゃあ、キスするから、指先で確認させて!」
「指先って・・・またしてくれるの?」
「キスしながら、する!」



「~~~~~~~!!」
「どう?」
「・・意地悪な顔しないで!馬鹿!」
「気持ち良かったんだ~」
「意地悪な顔しないで!」



「ほら、気持ちいいでしょ!」
「ちょっと、乱暴!あ、乱暴ですよ。カナデさん。気持ちいいけどさ!」
「強がってもだめ!ほらほら!」
「もっとゆっくり、ゆっくりで!」
「同級生の男子いじめるの楽しい」



「なんだって?男子いじめるの楽しいって」
「!!~~~」




「ごめんね、あんまり色っぽい声出せなくて」
「これから仕込むから大丈夫」
「仕込まれちゃうの?」
「俺好みに仕込むね」



「君、下着持ってきてゴム忘れるとは」
「うう~」
「まあ、ちょっと待って、あるから」
「あるの?」
「紳士のたしなみ」



「き、緊張する」
「男としても緊張するね」
「処女だから?」
「一生の思い出になるから」



「大丈夫か?」
「痛い・・というより・・苦しい、感じ」
「少しこのままでいるよ」
「うん」



「ゆっくりなら、大丈夫」
「じゃあ、ゆっくりな」
「うん」
「少し姿勢を変えよう」



「血が出たな」
「ほんとだ。少ししかでないのね」



「お風呂でするのも悪くないわね」
「俺もお風呂でいちゃいちゃするの好きだよ」
「今まで何人と」
「最高はカナデです」



「風呂上りは体をしっかり拭かないとな」
「そういって、はぁ、あたしのぉ、弱いところを触って、る」
「まだ時間はあるしな」
「好きよ」
「俺も好きだよ」



「だめ!そんな、あ!指、離して!ああ」
「だめだめ。ちゃんと気持ちよくしないとな」



「お尻とかは?」
「ん、したいのか?」
「バカ!」



「5時間ほど寝るからキスして」
「そういうところ、子供っぽいわね」
「先に帰る?」
「起きるまでいる」

==============


10月30日まで7日を切った。



私は小説という種を蒔き、読者は想像力という水を与える。芽吹くのが作品だ。


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必ずどこかで戦闘が起きる


ひっさしぶりに登校出来た。
親類の不幸で親から欠席の連絡が行くはずだが忘れてしまったらしい。
そんな苦しい言い訳だが、1時間の説教で終わった。

この間も潜入工作員は見つかっていない。
生徒会に顔を出したら中条会長にも「大丈夫でしたか?」と心配された。
大変でしたが、良い思いもしました。
光夜も機嫌がいい。なぜだ?

この数日は司波深雪副会長と五十里会計で学内を回し
中条会長と光夜で論文コンペの調整を行っていたらしい。
光夜、激務で脳内麻薬が出ているのか?

司波深雪嬢からは「仕事ありますからね」とさっきまで暖かかった冷たいお茶を渡された。
頑張ります。

学内は普通だった。
軍から派遣された警備兵は民間の警備服で校内にいる。
「ブランシュ襲撃後に組まれた警備増強の予算がやっと理事会を通った」という触れ込みで生徒たちは気にする様子はない。

「これで一安心?」
風紀委員室では俺と雪光の二人だけだ。
生徒会書記補佐などという奇怪な役職だが、実質は「光夜に話通したいけど、怖いので窓口ヨロシク」役なので
時間を作るのは容易だ。光夜が中条パイセンにべったりなので、話がまとまりやすい。
「それはないな~。もう一波乱あるぞ。雪光、10月30日にどっちにいたい?」
雪光も雪光ガールズからの避難先として風紀委員を満喫している。
千代田花音は五十里啓にぞっこんなので、雪光など眼中に無いし、カナデには俺がいる。
司波達也や男子の先輩と駄弁るなど男子高校生の生活を満喫している。

「論文コンペか関東支部?」
「いや横浜か一校」
そこなのだ俺のこだわっているのは。
論文コンペ会場か魔法協会関東支部の二択ではない。横浜か八王子か。
「まだ一校襲撃とか気にしてるの?」
「う~ん、どうもな。あの予想がな~」
俺は自分で言った呂剛虎の魔法科高校の襲撃を、横浜と八王子という距離から考えると一校を想定して考えている。
正直戦闘区域が広いのは横浜だ。
だが、呂剛虎が来るとしたらここ一校だ。どうもこの発想が抜けない。

「雪光は横浜行きたいのか?」
俺の言葉に雪光は腕を組み考え込む。
「う~ん、魔法の特性的には走り回る系だから校内でも、横浜でもどっちでも有用性があるんだよね」
そうだな。雪光の魔法から見るに広い戦場を駆けまわるもよし、狭い校舎内を駆け巡るもよし。
司波達也の大黒特尉としての、10月30日の鶴見基地での待機は決まっている。
正しくは、司波達也は一校生として論文コンペ会場におり、すぐに合流出来るよう風間さんが何かしらの方策はするだろう。
俺は光夜には論文コンペというか横浜にいて欲しい。あいつの魔法の発動範囲の広さを考えるに横浜の方が有効だろう。
カナデも同様に横浜だ。彼女の電子技術は確実に横浜での戦況確認には必要だ。あとあっちの方が安全だと思う。

「アラタ、僕はどっちに行く方がいい?」
真面目な顔で聞いてくる。司波達也も光夜も雪光も、実戦経験があるのだろう。
ただその数や内容では、雪光が最も劣っているはずだ。断言していい。
それは戦闘スタイルである。高速戦闘とはうたっても、単独行動が主で連携が取れない。
そんな奴は戦場では孤立する。歩調を合わせるというのは、仲間との連携がとれ、生存確率があがる。

言わせてもらうが高速戦闘はヒーローにはいいが、戦場の兵士としては扱いづらい。
それを自覚していないのが、実戦経験の少なさを感じ取れる。

「正直言う。雪光、横浜に行け。俺は一校に残るが、そうなるとお前が足手まといだ」
足手まといと言われて、雪光が衝撃を受けている。
そりゃそうだ。自分の実戦経験者としての自負が砕かれたのだ。
一度つばを飲み込み雪光は口を開く。
「そんなに足手まとい?」
その声には、確認と劣等感と少しの怒りがあった。
「同じ時間軸で戦えないのは孤立し合うだけだ。それなら横浜で走り回って攪乱した方が幾分戦術的には意味がある」
俺の戦場は泥臭いし、生臭い。カッコいいもんでもない。一校の王子様には合わない。
「そうか・・・」
まるでテストに不合格になったようにうなだれる雪光。
「いいか、戦場じゃ人を守ると同じくらい、自分が生き延びるのが重要だ。そのためには同じ歩調で動ける奴が必須だ。お前は速すぎる。一騎当千だ。だがそれじゃ他の奴が追い付けない」
励ましとも事実ともいえる曖昧な事しか言えない。雪光の戦闘スタイルは戦場では皆無なのだ。
「ちょっと考えてみる・・・」
真剣な顔をして俯いた姿勢を直した。妙案が浮かんだのか。

横浜騒乱はこのまま行くと起きる。
既に軍の配備は済んでいるので、後手に回って被害がデカくなることはないだろう。
10月30日には交通規制を敷き、横浜周辺の港周辺への車両の進入を制限する。
また前日には2次大戦時の不発弾発見による広域での立ち入り規制も行う。

不測の事態への対応は十分だが、予防ができない。必ずどこかで戦闘が起きる。そして犠牲が生まれる。

周公瑾の身柄確保は僥倖なのだろう。俺の知らない先の未来にしてみれば。
だが、逆に今の相手の行動を推察するには厳しくなった。
虎が街に潜んでいるのだ。今はただ軍と諜報組織の組織力に任せるしかない。

呂剛虎の病院襲撃が無いので渡辺摩利a.k.a“片付けの出来ない奥さん“は将来の旦那予定の彼氏と普通にデートできたらしい。
エリカが切れてたので、あのブラコンも拗らせてんな~。お前の上の兄ちゃんもこないだ藤林響子とレストランに行ったらしいぞ。
カナデが「お姉さんにも春が戻ってきた」とほほ笑んでいた。「年下の姉」というのも不思議なもんだ。
そうそうカナデに痛みは引いたか聞いたら2日くらいしたら、問題なく動けるようになった。
正直、10月30日は家に居てもらいたいが本人は「転生者の使命よ」と笑って横浜に行く気だ。

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ブラック企業かよ

今日は学校に泊まり込みだ。明日は30日。すでに部室のロッカーにはいくつかの『玩具』を隠しておいた。

中条パイセンには「留守の間、宜しくお願いします。何かあったら兵隊さんに任せて逃げてくださいね?!いいですね!」と念を押された。
お任せあれ、兵隊さんとしては生徒を守るよ。

ここに来て確信めいたものが俺にはあった。
一校に呂剛虎は来る。
奴らは決死隊だ。郷里に戻ることを前提に動いていない。
敵地に潜入し、現地協力も不安定で、わかることは自軍が何月何日に横浜に来る、と言うことだけだ。

陳なり呂なりが情報を無理やりにでも確保して横浜の自軍か、多少洩れてもネットのオープンなスペースに情報を送れれば勝ちなのだ。

乾坤一擲で一箇所集中もあるだろう。だが既知未来と今は違う。
呂剛虎は五体満足。潜入軍人に腹を探り合う協力者はいない。魔法科高校の筆頭校には当日四葉はいない。

と考えているが、どうも思考が固い。カッチカチだ。冗談が足りない。

陳や呂をラグビー部と茶化すこともない。面白くない。これでは瞬間的な自由な発想が生まれない。
茶化すのも冗談も、常に思考の速度を上げるための練習だ。
勿論冗談は好きだが、それだけでこれだけの茶化しや冗談を考え付かない。

もう少し、ゆるくやろう。

「なんだ、ここにいたのか」
教室のドアを開けて入ってきたのはモーリーだった。
君、何してんのよ?警備は前日現地に行くんじゃないの?
「あれ?警備で横浜じゃないの?」
「体は治ったけど体力面がガタガタだから外された。お前は?」
今やっと課題を送信終えたところです。すいません。学校サボってイイことしてました。
「今日は泊まり込みだよ。明日の早朝から論文コンペ関係でトラブったときに学校に生徒会の一人ぐらいはいないとな」
「ブラック企業かよ」
まあ軍ほどじゃないよ。
「一気に軍や警察が動いて想像以上に学校も騒がしくなったな」
「確かに」

俺の返答にモーリーは微妙な表情だ。「俺がいれば大丈夫なのにな!」と言うかと思った。
「なんだよ、あんまり元気ないな。看護師の彼女にフラれたか?」
「彼女じゃない!」
顔真っ赤だよ、モーリー。
「なんか、魔法の戦争利用が多くて気持ちも沈むよ」
深くため息をつく。なんだ、モーリー大人になったか?
「魔法なんて道具だろ。使われ方は人それぞれじゃない?」
「そうだけどさ、医療転用が進み切っていないのはなんかな~、と思う」
何とも歯切れの悪い。今までの使ってた玩具の不具合を発見した子供のようだ。
「彼女の影響か」
「・・・そうだよ」
認めおったぞ!!

茶化されて仏頂面ながら、認めた。
「たしかにな~。大けがしても病院の治療はそんな進んでないからな」
2010年代から医術面はあまり進歩していない。外科と精神科は進んでいたが、インフルエンザ、HIVetc、解決していない問題もいくつもある。
「だろ。だから救急搬送にはクイックドロウとか、より生理学分野での魔法技術の転用が必要だと思う」
おっ、モーリーが難しい単語を出してきたぞ。
「受け売り?」
「少しは自分で考えた」
「えらい!成長した!」
拍手をしてモーリーへの喜びを表すと、途端にモーリーの機嫌が悪くなる。
「お前は、俺の父親か!何時も偉そうに!」
「キスはしたのか~」
「うるさい!うるさい!」
教室内を10分ばかり追いかけっこ。
モーリーはいい奴だ。心のビタミン剤です。
ぐぇぇ、首を絞めるな~。


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雪光はカチューシャにウィンク

三人称視点です


「横、よろしいかしら」
光夜は軽くうなずく。

10月30日の全国高校生魔法学論文コンペティションも始まって一校目の発表が終わった。
大ホールの二階席最前列には光夜が一人座っていた。
別に一人で座りたいわけではなかったが、俯瞰して見れる場所の方が不測の対応もできる。
それに誰も「四葉」怖がって光夜の後左右には座らない。
光夜の回りは右も左も後ろも数席空いている。

そんな中、声を掛けて生きたのは二校の女子生徒だった。肌の白い、髪の色もやや金色に近い。
美貌の少女だった。彫りの深い、細目も性格の鋭さではなく白雪の寒々しさを表現するような
まさに氷の美貌だった。
女生徒は周りを気にした様子もなく、光夜の横の席に座る。
「何か?」
光夜はこの女性が意図をもって近づいて来た認識している。
意図がなければ、威圧的な自分によっては来ないだろう、と。

「突然で申し訳ないけど『さすおに』ってご存知?」
額に手をあて首を振る光夜。
女生徒はまるで世界の真実を語ったかの如く万遍の笑みだ。
動揺している、と光夜の行動は女生徒に受け止められたようだ。
「名前は」
「川村エカテリーナ。二校の一年生よ。呼びにくかったらカチューシャでいいわ。オタクっぽいけど、リーナよりいいでしょ。来訪者編で混乱しないわ」
カチューシャは余裕を持って言った。そう自分こそこの世界に混乱を巻き起こす者なのだ。
そんな余裕だった。

「ああ、そうだな」
光夜は顔をあげ、壇上の次の発表への準備を見ている。
「ロシア語出来て」
『この程度でよければ』
『完璧じゃない。安心ね。人に聞かれると正気を疑われるわ』
『同意だ』
二人とも横を向いて視線を合わせるようなことはしない。視線は舞台上だ。
『あなたと司波雪光は転生者でしょ』
『お前もか』
(直接的だな)と光夜は思った。カチューシャは得意げに続ける。
「主導権は自分にあるのだ」と言わんばかりに。
『ええ、ロシア人亡命者の魔法師と日本人との間に生まれたの』
『それで』
『別に挨拶よ。きっと長い付き合いになるわ』
(宣戦布告のようだな)と光夜は思った。
『そうか』
『あんまり驚かないのね』
『数名転生者を知っている』
『え?どういうこと』
カチューシャの声のトーンが少し上がった。
『言葉の通りだ』
『私とあなた、司波雪光以外にいるの?転生者?』
カチューシャの声がさらに上がる。
(この女、情報収集能力はないのか?黒城やカナデを把握していない?)
『共闘している』
『じゃあ、今日の事件はどうなるの?』
困惑し始めたのか、声の調子が攻撃的になる。まるで不測の事態を攻めるかのように。
『知っている通りにはならない』
『わけがわからない。もう少しちゃんと説明して!』
カチューシャは声を荒げ、腰を浮かせ、光夜に向き直す。
『説明する義理はない』
突き放す声。
(この女は何も知らない。自分が有利だと思っている)
『ないわけないじゃない!私も転生者なのよ!原作の話を崩すの?!』
『原作通りに行くと横浜市民に犠牲が出る。それを減らすだけだ』
『もっとちゃんと説明しなさいよ!』
子供の癇癪か、と光夜は思った。周りの視線も今まで以上に痛い。
『警備の指示を聞いてちゃんと避難をしろ』
『馬鹿にしてるの!私は説明しろと言ったのよ!』
『説明だろう』
『そうじゃないの!あなたは転生者で四葉、そして司波の仲間でしょ!原作の知識を使えばいくらでも自由に動けるじゃない!今日だって来なくてもいいし、今から港に行って無双して名声を高めてもいいのよ!それを警備を増やしてここで寛いで。なんなの?!』
『わめくな』
(勝手な理屈だ)光夜は少し怒りを感じ、声がきつくなる。
カチューシャは光夜の声に押され言葉が詰まる。
『うっ』
『細部は省く。事件の証拠を手に入れた、国防軍に警備を要請した。そして俺たちは個々人で出来ることをすべく横浜にいる』
『も、目的は』
『市民を守る』
『本当なの?』
『ああ』
『司波達也は知っているの?』
『知っている。未来予知として説明した』
『私ね、転生してから魔法力を高めるのと一緒に経済周りで成功してるのよ。金持ちなのよ。今日も事件後の建築需要見込んで建築株と資材株買ったのよ』
自分を落ち着かせようとカチューシャは動揺の理由を説明した。
『損切をしろ』
『言われなくても!何も起こらなかったらあんたのせいよ!』
光夜の一言で無理やり落ち着かせた気持ちが一気に沸点まで上がった。
そのカチューシャを切り捨てるように光夜は言う。
『黙れ』
人命を軽視することより、傲慢な女の姿が鼻につく。

「光夜、何してるの?ナンパ?」
カチューシャの横に二人組が来る。
小柄な雪光と大柄な兵介だとデコボココンビニ見える。
二人とも警備として今日のコンペに参加している。腕には警備の腕章。
「紹介しておく。二校の川村エカテリーナ。カチューシャだそうだ」
「そう。僕、司波雪光」
光夜の紹介に雪光はカチューシャにウィンク。
「黒城兵介」
兵介は片手をあげて挨拶。
「彼女も「さすおに」がわかる」
光夜の説明に二人は声を合わせる。

「「へぇ~」」

「なんか、石でも投げれば同じ境遇の人に当たりそうだな」
「僕もそう思った」
珍しいジュースの話でもするように、兵介と雪光はカチューシャの正体に無感動だ。
そのリアクションにカチューシャはさらに声が大きくなる。
「なによ!驚かないの?!」
いきなりの怒鳴り声にも二人は慌てない。一瞬の間をおいて二人は顔を合わせて言う。

「慣れた」
「え、居てもおかしくないだろ」

動じない二人と言葉失くしたカチューシャに光夜は声をかける。
「あきらめろ」

カチューシャは今までと一転声は低くなり脱力とも諦めともとれる声を出す。
「今日、このあとどうなるのよ」
それに答えたのは雪光だった。
「う~ん、なるようになるしかならないよ。警備はしっかりしてるから大丈夫だと思うけど」
「カチューシャは手伝ってくれないのか?」
兵介はナイスアイデア!と言わんばかりに明るくカチューシャに問うが答えは怒鳴り声で返ってきた。

「私に戦えっていうの?!」

「「うん」」

「転生者の使命よ」
光夜達のいる席の列より一つ後ろ。カナデが近づき、小声ながらはっきり言った。
カチューシャは胡散臭げな視線をカナデに向けた。
(こいつも転生者?四葉?それとも七草系?ふん!どうせ一校の十師族系か原作キャラの兄妹でしょ)

「あなたは?」
余裕と警戒の混じった声でカチューシャは聞いた。
カナデは軽く微笑み「聞いたら驚くわ」
余裕のある微笑みにカチューシャは憤慨する。
「慣れたわよ!」
「藤林奏。一校生。九島烈の孫娘で藤林響子の妹」
「っ!」
予想外の血縁に予想外の立ち位置。
カチューシャは大物の血縁がここにいることに言葉が出ない。
「ほら、ね。止めときなさい。大物ぶるの」

雪光がカチューシャの驚き顔を見て思い出したのか
「一番のびっくりどっきりは横浜にいないしね」

「アラタのこと?」
兵介が雪光に正体を聞いた、ここにいない一人の名前を出す。

「そんなのがいるの?なに司波達也の双子の兄弟?四葉真夜の子供?」
カチューシャは諦めなのか、怒りなのか、それとも次の衝撃に備えるためか具体的な予想を口にする。

「「「若作りのお調子者」」」

カナデ、光夜、雪光の声が重なる。

壇上の準備も終わり、「3分後に発表を行います」とアナウンスが流れた。

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いきなり頭撫でないでよ!

三人称視点です


「取り乱したわね」
「うるさい・・・」
あの後、さらに声を上げそうになったカチューシャを引っ張りカナデはロビーに出た。
さすがに発表の邪魔をさせるわけにはいかないと判断したのだ。
それだけ、カチューシャはエキサイトしていた。
ロビーのソファにカチューシャを座らせると、カナデも横に腰掛ける。

「納得できない」
「しなさい。人生疲れるわよ」
(先生が生徒をたしなめる口調だ・・・)
そう感じて、カチューシャは負けたような気分になった。
不貞腐れながらもカチューシャはカナデに聞く。
「今日はほんとに起きるの騒乱は?」
「さあ、起きると思うけど想定する規模になるかしら。どこまで資産突っ込んでるの?」
「1億。焦げても影響はないけど、外れれば悔しい」
全体の資産からすれば、それほど痛い金額ではない。
大陸から着の身着のままで亡命しなければいけなかった父と、そんな父を受け止めた母には十分生活できる資産は渡してある。
カチューシャは前世も現世もあまり金銭的には恵まれていない家庭だったことが
自分の不幸のひとつだと思っている。金が無いのはいい。苦労する両親の姿が嫌だった。
「そう。人命相手だとはした金よ。諦めなさい」
「諦めろって・・・」
「あなたが人命よりお金なのは勝手だけど、同じ転生者と思うと嫌になるわ。なにか起きて死ぬのは普通の人よ」
「・・・さっきのは失言よ。混乱して」

「あなた、ここまで上手くやってきたみたいね」
「ええ、そりゃ四葉に会うまでは。美貌と才能をねだって正解だったわ」
カチューシャは胸に手をやり、ここまでの栄光の自分史を思い出す。
亡命ロシア人ということで、仕事が安定しない父を支えるように朝から晩まで働く母。
研究所勤めから一転、異国での肉体労働や宅配業もやり、愛娘の教育を惜しまない父。
二校の女子ではトップクラス。男女とも羨望の眼差しを向ける存在。
九校戦、論文コンペでは裏方として校内の意見調整で走り回った。
いつか原作の物語に絡んだ時に負けないように。

「あんたも藤林とは結構なところね」
九島の分家、日本魔法師の名門中の名門。その資産や権限は、天井知らずとも噂される。
「別に、こればかりは相手任せよ。好きで藤林じゃないわ」
少し前かがみになり、頬杖をつくカナデ。
「変わって欲しいくらいね」
カチューシャにして見ればカナデの返事は金持ちの謙遜だ。
鼻につく。
「そうね、姉が婚約者の死で涙するのを身内として見られるわ」
「・・・・・・そんなに怒ってるの」
カナデの無機質な声に、恐る恐るカナデの顔色を見るカチューシャ。

30秒ばかり無言が続いたが、カチューシャは立ち上がりホールへ戻っていく。
3分もすると、カチューシャは胸を張り、大股でカナデのもとへ戻ってきた。
「四葉に言ってきたわ、さっきのは混乱した失言で本意ではないってね」
ソファに座りカナデへ胸を張る。
「そう」
カナデはそれに答えるように、カチューシャの頭を撫でてやる。
「ちょっと!いきなり頭撫でないでよ!」
いきなりの行動で驚くカチューシャだが、言葉の割にカナデの手を跳ね除けようとはしない。
「前の時の弟に似てるのよ。偉ぶって怒られた後に謝ったことを自慢してくるの」
カナデが微笑みながら撫で終わるとカチューシャが文句を言う。
「あんた、なんでそんなに年上ぶるの?同じ一年生じゃない!」
「噛みつかないで。貴方が子供なだけよ。あなた、前は経済とか金融系の仕事してたの?」
「経済学部の大学生」
先ほどからのカナデからの扱いにカチューシャは不機嫌だ。
「そう、なら年下ね」
「あんたは」
言葉を最後まで言えない。カナデがかぶせるように
「社会人4年目」


「魔法は使える?」
「ふん、これでも二校のトップクラスよ」
カチューシャ、何回目かの胸を張る。
「学生レベルじゃなくて」
カナデは自分の発言を補足する。
「母方が軍人家系で基地に行ったときに、スカウトされたわ」
放出系については自信があるし、来年にはアイスピラーズブレイクの代表戦を狙っている。そして代表になる自信もある。
「自分の身は守れるのね。じゃあ、あたしの護衛やってよ」
「なんで!」
突然の申し出にカチューシャは立ち上がってしまう。
「強いんでしょ」
「でもあんたを守る義理は無いわよ」
腕を組み、落ち着いた声を出して座る。敵対するつもりはないが、それでも四葉達の行動には今一つ同調できない。
カチューシャは介入者としての自覚はあるが、それは今ではないと考えている。
本当に今日は転生者として、四葉を確認し挨拶するつもりだったのだ。
「人に説明を求めるのに、自分は何もしないのね」
「ロシア語できるの?」
まるでカナデが、光夜との会話を知っているようで、疑問が口をでる。
「翻訳機で同時通訳して聞いたわ。あたし戦闘は苦手なの。男子は忙しいから、あなた暇でしょ」
「さっき転生者の使命って言ったわね」
「わかりやすく表現しただけ」
「何よ、それ」
「彼氏が命張ってんの。助けたいわ」
「さっきのアラタって奴?そいつが原作ブレイクしようとしてるの?疫病神ね」
「・・・」
「なによ、こっち見て笑って」
「別に。昔っから恋人いないでしょ」
「そうよ。彼氏がいないの変!?」
顔を真っ赤にして答えるカチューシャは、恋愛感が純愛寄りなこの時代は自分に向いていると思っている。
(恋愛がなによ!私の美貌ならいつか王子様が来るのよ!)
「いいえ。あたしもそうだったから」
(可愛い・・・)とカナデはついつい微笑んでしまう。昔も今も妹はいないが、いればこんな感じで話してくるのだろうかと思った。

「その命張ってる彼氏はいないんでしょ?どこで何してるやら?臆病なの?」
「呂剛虎と一騎打ち」
カチューシャの言いぐさにはカナデは腹を立てない。表情や感情がコロコロ変わる同年代の年下の美少女が面白くてたまらないのだ。
「は?」
いきなり出てきた敵の名前にカチューシャは一瞬間が空く。
「あの人の読みだと一校に呂剛虎が来るらしいわ」
「なに、そんなの信じてるの?」
攻めるより、呆れたような声を出すカチューシャに、カナデのニヤニヤが止まらない。
「信じるわよ。惚れてるから」
「ぐぬぬぬ」
「そう言って悔しがる人初めて見たわ。いい加減諦めなさい。もう、物語じゃないの。起きることは全部即興で対応しなさい」
「即興って。音楽でもやれっての!」
また立ち上がり、地団駄を踏まんばかりのカチューシャの対してカナデは

「ダンスは得意?」


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十師族の責務を果たします

三人称視点です


「防弾ベストを着用せよ」
十文字警備隊長からの指示で雪光も兵介も防弾ベストを受け取りに
警備本部へ向かった。ついでに本番用に自分の秘密兵器を準備する。

「雪光、それ?」
唯一必殺武器を知る兵介は羨ましそうに雪光に聞く。
「兵介だって、それでしょ?」
雪光も羨ましそうに足元を指さす。
お互い微笑みあう。最高の玩具を見せびらかす子供だ。



12:54 

横浜港に入港すべく東京湾内を航行するオーストラリア船籍の船に臨検が行われた。
海上保安庁主導で海軍合同である。
「偽装船です!」
海上保安庁の巡視艇から、海軍の駆逐艦と陸上にいる2個中隊本部へ連絡が来た。

13:01
巡視艇が偽装船から離れ、駆逐艦が偽装船へ攻撃。湾内ということもありミサイルではなく機関砲による攻撃にとどまった。
偽装船は攻撃を受けながら、横浜港への入港を強行し、接岸。

13:11
接岸と同時に、陸上の2個中隊の攻撃により偽装船炎上。
偽装船はいくつかの車両(直立戦車)を上陸させ沈没。
海保巡視艇が、船から海へ飛び込んだ乗組員を救助し逮捕。

13:20
鶴見基地へ支援要請。横浜港、横浜市内へ各1個大隊派遣。

13:21
偽装船からの車両上陸により横浜港内で戦闘開始。
横浜市内でも、偽装車両から戦闘員が現れ、市内を巡回していた国防陸軍大隊と戦闘が開始される。

また横浜市周辺の検問で、銃器を積んだ車両が複数発見され地元警察に摘発される。
車両搭乗者は外国人で、後の調査で大亜連合の工作員と判明。

13:35
上空を飛ぶ無人偵察機を発見。国防軍は撃墜を検討するも市内への墜落被害を考え、ジャミングによる妨害を実施。

13:36
論文コンペティション運営本部へ事態の通達。
駐車場に展開していた陸軍1個中隊と共同警備隊との間にて協議。



「コンペティションは中止。各校の参加者の点呼を取り、国防軍の誘導で避難」
協議の席で宣言したのは十文字警備隊長である。
その場にいた軍人の誰よりも堂々としている。

その指示でコンペティション会場は忙しくなった。
警備の学生は応援や見学に来ている学生を大会議室に集め、各校で点呼。
コンペ参加の学生はデータの削除や、必要であればデモ機の破壊も行っている。

「発表前に廃棄というのもさみしいもんですね」と言いつつ、一校のデモ機の分解を手伝うのは三校の吉祥寺真紅郎だ。
重量のあるデモ機を解体するのには人数がいる。
既に舞台袖で準備が整っていた一校のデモ機の解体を、準備前だった三校が手伝っていた。
「そうは言っても緊急事態ですから」
冷静な声で、プログラムの削除を進める市原鈴音は手際よく削除すべきデータをチェックしていく。
「市原さん、こっちは大丈夫よ」
平河千春がバックアップ機の削除を終了させ、必要なデータバックアップの入ったカバンを持ってくる。

「では我々も、行きましょうか。発表は別の機会に。三校の皆さんも早く」
「ですが、解体はまだ」
言いかける真紅郎の言葉をふさぐように市原鈴音は
「不可視の弾丸は使えるのでしょう?」と言って先に舞台袖の非常口に進む。
他の生徒も市原に続いて舞台袖から姿を消すと
「一校は過激派が多いのか?」と笑い、吉祥寺真紅郎はCADを起動させ不可視の弾丸を立て続けにデモ機に打ち込んだ。

ちなみに吉祥寺真紅郎はその後「一校の市原先輩はクールでいい」と同級生に話したそうだ



「大黒特尉」
「はっ」

(中略)

「自分を関東支部へ。十師族の責務を果たします」

(中略)

13:55



14:00

「警備第一班は国防軍の指示の下、駐車場の周囲確認!第二班は建物内の逃げ遅れた生徒がいないか確認!第三班は国防軍に随伴し、地下通路の警備!」
共同警備の本部では一校服部が隊長の十文字に代わり、この後の配置を端的に説明していた。

「「「はい」」」

服部刑部の声で、数十人の警備は各々の配置へと移動する。
「服部先輩」
声をかけて来たのは四葉光夜だった。
生徒会の一員である光夜は共同警備よりフレキシブルに行動が出来た。
「ど、どうした四葉」
緊急事態とは言え、服部は光夜の圧力に押されてしまう。
(わかる、怒っている)

光夜が端から見てもわかるように怒っている。
情動干渉や精神干渉に匹敵するのでは?と勘ぐってしまうほど光夜の圧力は強い。
「四葉、なにか提案であるのか」
「会場外での国防軍への協力許可を」
言外に「反撃する」と言っている。服部はそう思えたし、事実そうだ。
服部は一度深呼吸をし
「それは認められん。会場外の警備は国防軍が行っているし、まだ共同警備が必要なほど戦場は荒れてはいない」
現在の服部が把握している戦況は国防軍有利だ。
横浜港での戦闘も、市内での戦闘も敵が大きく展開する前に対応できているので戦火は広がっていない。

その時、爆音がこだました。
「なんだ!」

状況が変わった。
中華街より8台の大亜連合制式の直立戦車が発進。数十名の歩兵が随伴し、魔法協会関東支部と論文コンペティション会場へと殺到したのだ。
戦力の半数がコンペティション会場を取り囲み、魔法戦、銃撃戦が開始された。

「服部先輩、状況が変わりました。会場外への斥候の許可を」
「わかった!だが交戦は避けろ。まずは情報を持ち帰れ!」

14:05


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恋の自覚

三人称視点です。


会場外で戦う下士官から「中華街に敵兵力が潜んでいたようだ」と聞かされた光夜は、即座に服部に報告。この会場が戦場になったことを告げる。

会場にいる戦力は1個中隊であり、戦車ではなく数台の装甲車と兵員輸送車があり、複数の直立戦車を撃破するほどの火力は厳しい。
歩兵の数も上回っているが多数の高校生を守ることを考えれば籠城し、部隊の増援到着を待つ。
それが国防軍から提案された策だった。

生徒たちが集められた大会議室では動揺がひどい。
中条あずさが声を出して、動揺を収めようとしているが一向に鎮まる様子はない。
七草真由美は、梓弓を使い生徒たちを静めることを進言しようとあずさに近づいたが
それより先に光夜が何やらあずさにささやく。

中条あずさが意を決したように梓弓を発動する。
範囲系情動干渉魔法「梓弓」
彼女の魔法をもってすれば動揺する群衆を静め、人の話を聞ける状態にできる。
「落ち着いて下さい。外には国防軍の皆さんと共同警備隊が安全確保に動いています。私たちが冷静さを失うと被害が拡大します。今は彼らを信じて待ちましょう」

あずさの声は生徒たちに響いたのが先ほどの動揺による猥雑さが嘘のように静かになった。
七草真由美は自分の役目を取られたようで光夜を見た。

一方、光夜はこの状況について思考していた。

「中華街には手を出さない」は裏返しすれば「中華街は当日は協力しない」
これは周と陳の契約だ。

だが今は違う。周とは違う組織が「中華街が戦場になるのもやむを得ない」を前提に「戦力面での協力」をしたのだ。

そう光夜は認識した。思ったよりもあの街は根深いとも感じた。

そして先ほどから光夜の中には激烈な怒りがあった。

「中条あずさに危害を加えようとする大亜連合への怒り」と認識するのはもう少し先の話であり、中条あずさへの恋の自覚と同時でもあったことを記載しておく。



どこかから銃による散発的な射撃を防ぐためとはいえ、敵に身を晒すような位置に立つとはカチューシャは思わなかった。
会場4階の廊下脇にある野外テラスでカナデが作業をするというので、一緒にテラスに出ると、どこからか銃弾が飛んできたのだ。
カチューシャは急いで障壁を展開した。
「もう、いや~!」
今も会場外のどこかから撃たれており、障壁が着弾音を教えてくれる。
「そう言ってないで障壁維持して」
カナデはカナデで、タブレットを取り出し、小さなアンテナのようなものを取り付け、その周りで指を動かすだけだ。
冷静なカナデに怒るやら、早くこの場を脱したいやらでカチューシャはロシア語でわめきたてる。

『dhふあyvふぉいfんこiuyvいおびょlvなbcy』

そんなカチューシャを無視して、カナデはタブレットをアンテナごと地面に置き、別のタブレットで通話を始める。
「お姉さん?こっちは大丈夫。タイミングはそっちでどうぞ。うん、撤退する」
それだけ話すとカナデは通話を切り、警備本部の内線へ通話する。
「一校警備の藤林です。上階で逃げ遅れの二校生徒を発見しました。どちらに?わかりました」
「ちょっと逃げ遅れって!」
自分を逃げ遅れにしたことを非難するがカナデは意に介さない。
「行くわよ、地下の避難路からシェルターに行けって」
カチューシャの手を引っ張りテラスから建物内に戻る。



「ええ、こちらであとは行うわ。早く非難してね」
藤林響子少尉は国防軍魔装大隊が待機する立体駐車場で妹からの通信を終えた。
すでに、魔装大隊の面々はムーバルスーツの着用を済ませ、いつでも行ける状態だ。
最後の準備として、無人偵察機のコントロールを奪う必要がある。
その役目は藤林響子と奏の姉妹によるハッキングであった。

(あの子が大隊に入ってくれれば私も婚活する時間できるかしら)
響子がそんなことを考えたときに浮かんだのが、千葉の長男なのは最近よく会っているからだろうか。

響子の手が滑らかに操作パネルをいじると、前面の12分割された大型モニターには
横浜を上空眺めるライブ映像が映る。

この時から大亜連合軍は横浜上空からの支援を失ったのだ。

「藤林です。こちら無人偵察機の奪取に成功しました。いつでもどうぞ」
その言葉を合図に柳を先頭に部隊は空へと向かっていく。
「大黒特尉も気を付けて」
「了解した」
一言、達也が返すと響子はモニターを眺めナビゲーションを始めた。




雪光は手にした棒型CADを起動させた。本当はもう少し短くしたかったが耐久性やら内部のストレージを調整した結果25cmとなった。

棒の先端5cm程度が棒からまっすぐ離れ、70cmほどのところで浮く。

そして浮いた先端と手にした棒を結ぶ直線に想子が満たされ、光の剣のようになる。
これが雪光秘策「想子剣(サイオンソード)」である。

雪光は想子は「水」と同じだと捉えている。水を手ですくい投げつけると球体のように飛んでいく、放出すれば飛沫となる。だが空中で水を固定するのはできない。

想子を光と同様にとらえる人もいるが、雪光は水の例えがしっくりきた。

想子を剣の形にとどめておくは以外と面倒だ。千葉家の秘術や一部の秘伝には存在はするが、それでも長時間固定化させるということはされない。
もっと言えば、純粋な想子を剣としているのではなく、魔法式に則って想子を加工し剣として成型している。

だが、雪光は純想子を棒状にする方法として、先端部分にCADのパーツをつけ、A点とB点での間で展開させる方法を取った。A点となる先端部分を中空に固定する方法は九校戦で見たレオのCADからの発想だった。

この想子剣だけが奥の手ではない。加重や硬化魔法を使えば「硬くて重い棒」として使えるし、そこに高周波の付与してやれば切れ味に上限の無い剣になり得る。また変数を調整してやれば、刀身の形状や付加される属性も変えられる。

それを高速戦闘で行うのだ。
最初は二刀流も検討したが片手は空けた方が別のCAD使用できるので、泣く泣く一本にした。

「じゃあ、先行くよ」

雪光の声にうなずく兵介。
兵介の脚には軽量素材で作られたブーツと一体化されたレッグガードがあった。
ブーツのつま先や、かかと部分は氷上用のアイゼンのようでもある。
吉祥寺真紅郎を巻き込んで三校の工学サークルと一緒に造った一体型CADである。
まず右足のつま先で二回地面を叩く。次は左脚のかかと。これで起動だ。
「よし!」
一気に走り出す兵介。左腕のCADから盾形に障壁を展開。ただの障壁ではない。
円形ではなく、正面に対して円錐状だ。
脚のCADは「加速!」の一言で加速と加重、摩擦調整を引き受ける。
兵介が行うのは魔法力の供給と自分の身体をコントロールすることに集中できる。
競技用ではない本気の本気である。



既に正面玄関と駐車場は戦場だった。装甲車で外部からの侵入路を塞ぎ、敷地外から直立戦車や歩兵が銃撃を浴びせてくる。
国防軍内にも魔法師はいるが、建物への断続的な障壁展開など防衛に手いっぱいだ。

本来、魔法師は貴重なのだ。

「くっそ!」
「落ち着け、桐原」
建物内、エントランスの柱の陰から、外を悔しそうに見るのは沢木碧と桐原 武明だ。
制限された空間ならまだしも、開けた野外での戦闘では、二人のような白兵メインの魔法師は分が悪い。
二人の移動魔法や剣術、格闘術は十分戦場で通用するだろう。
だが、これほどまでに多数の砲火にさらされる場所では的になりかねない。


「あ、先輩ちょといいですか」
「オッス、すいません。通ります」

二人の横から外に出ようとするのは雪光と兵介だった。

「おい!何考えているんだ。建物内から出るなと言われているだろう!」
沢木が厳しくしかるが、二人は振り返り
「先ほど服部先輩から、共同警備の国防軍への前面協力がOKでました。まず第一陣で行ってきます」
「自分も一校には負けてられないので」

「ちょっと待て!こちらエントランスの桐原!国防軍への協力は?!今からOK?!第一陣ははっと・・」
雪光と兵介を呼び止め確認の連絡をした桐原を横目に、雪光と兵介はCADを起動させる。

「じゃあ先行くよ」
「よし!」

沢木と桐原の前で、二人の制服で出来た白と赤のラインが一瞬でエントランスの割れたガラス扉を越え、装甲車のバリケードをも越え、敵陣へと入っていった。

そして30秒後に帰還した雪光と兵介により、敷地外で猛威を振るった直立戦車4台が大破した。

「おい沢木」
「何も言うな桐原」
二人は自分たちが見たのが、魔法師の戦いではなくヒーローの活躍のように思えた。

「桐原!おい!何があった!第一陣が行くまで手を出すなよ!」
桐原の連絡用タブレットから流れる服部の声がエントランスに響く。



「同じ時間軸にいないと連携が取れない」
そう言われた雪光は一瞬悩んだが、すぐにひらめいた
「兵介がいるじゃん」

横浜騒乱の事態収拾に関して、雪光は兵介との情報共有を提案し、みんなから許可が出ると、すぐに兵介に伝えた。
自分の戦闘スタイルの弱点も一緒に。

兵介からの返事は一言。
「やってやろうぜ!」だった。

国防軍がこれだけいると、横浜騒乱は起きないのでは?と雪光は思った。
それでもいいかも、とも思った。そりゃ人命一番だ。
多少警備の多さで会場がざわついたけれど、特に何も起こらない。
真由美先輩ともお喋りできた。

だが昼を回ったときから変わった。動揺する生徒に、表情が険しくなる軍人。
そして冷静に努めるが指先が震えている真由美先輩。

「兵介、行こう」
「男子奮い立つは女子の指先ってか?」
兵介は雪光の視線から、なにを持って出陣を決めたのか悟った。
「じゃあ、俺は友達のために戦うかな」
その時、服部隊長代理から国防軍との共同戦線の話が出た。
第一陣の話が聞こえてきたが、今は自分がやらねばと雪光は思った。
(恋の力、とか言うと笑っちゃうか)
自分の気持ちは自覚していたがこんなところで行動の動機になるとは、と雪光は少し笑った。


二人の戦闘スタイルは速度だ。絶対的な速度。銃弾も、音も置いていくスピード。

正面玄関から出た二人は、三歩目には九校戦以上の速度を出していた。

常人の二呼吸で二人は装甲車で作られたバリケードを越えて敵陣の正面に居た。
雪光は右、兵介は左に進路を変える。

兵介の前にいた敵兵は、何がいるのか把握する前に、知覚できた者も少ないだろう。
赤い塊が人をはね飛ばしていく。そして直立戦車の脚部へ激突する。

高校生とは思えない剛体が、信じられない速さで激突した。ただの激突ならいい。
兵介はすでに自己に加重をしており、その重量は200kgを越えていた。

超加速された200kgの物体が障壁魔法を展開して激突する。
それは人型の砲弾と言っても違いはなかった。

脚部の衝撃で横倒しになった直立戦車は起き上がろうと脚部が動き出すが
「うおおおおおおおおお」
兵介はそのまま直立戦車を押し込む。
近くに駐車してあった乗用車に激突する。

横倒しになった直立戦車を駆けあがり、コックピットの真上に立つ兵介

「ランス!」

そう叫ぶと右手から円錐状の障壁が発生する。
そのまま右手で殴りつける。更なる加重も行う。

兵介の切り札である。本来は走りながら円錐状の障壁を叩きつけるが
今は加重を重ねた一撃を足元に見舞う。

そして離脱。これを数回繰り返す。
戦場を走り回る砲弾だ。数度往復した時には直立戦車は横倒しのまま沈黙した。


兵介が剛の速度なら、雪光は鋭の速度だった。

展開した想子剣は、重量を与え、高周波で振動させている。
近くにいる兵士たちは腕や脚を切られた。
目の前にいる直立戦車は足元から頭頂部まで駆け上がりながら切りつけた。

雪光の世界にあるのはほんの少しの重力と、遅れてくる音と、向こうで走り回る兵介だけだった。

今は孤独ではない。彼方で雄たけびを上げて走り回る兵介は、今の雪光から見てもちゃんと「走っている」

高速世界の高周波剣。触れる者は鉄であれ、人であれ、アスファルトであれ、まるで豆腐だ。
兵介が走る砲弾なら、雪光は動き回るレーザーだ。

3台目の直立戦車を切りつけ終わると、一度距離を取った。その瞬間、物理現象が追い付いたかのように
直立戦車は文字通りバラバラになり、敵兵士たちは己の痛みと、傍らに立つ小柄な高校生を認識したのだ。

「兵介!」
「おう!戻るぞ!」

二人は二呼吸の後にエントランスへ帰還した。

この件で、服部先輩には怒られ、雪光へのマーシャル・マジック・アーツ部と剣術部からの勧誘が多くなった。
達也と深雪には呆れられた。

光夜は自分の行いもあって、何も言わなかった。



論文コンペ会場周辺の戦闘は沈静化した。直立戦車が無くなり、歩兵も重傷多数となり敵の戦意は堕ちた。
警備の国防軍が攻勢に出て、周辺の安全は一応確保された。

「服部隊長代理」
「今度は一条か」
警備本部を出てエントランスまで移動した服部は一条家の跡取りに声を駆けられた。
服部は雪光と兵介に拳骨したが、兵介の頭蓋骨の固さに右手が痛い。
そして一条である。
「当ててやろう。『十師族として魔法協会関東支部の防衛に参加したい。現場の離脱を認めてほしい』だろ」
「よくお分かりましたね。服部隊長代理の慧眼には驚かされます」
自分の意思を一言も間違えずに当てられ、一条将輝は驚いた。

服部はいきなり「十師族として魔法協会関東支部の防衛に参加する」と言った十文字の後を任されたので、十師族のやりたいことは何となくわかった。

(もう少し、説明と指示を出してから離脱してくださいよ。十文字先輩・・・)

雪光と兵介の独断専行以外に、いつの間にか司波達也はいなくなる、七草真由美と行動を共にすることで自由に動き回る司波深雪&千葉エリカ&西城レオンハルト&吉田幹比古etc。
(ゲリラ狩りでも行っているのだろうか)
胃が痛む。四葉シフトではなく、二科生問題児シフトも必要なのだろうかと、服部は考える。

(勘弁してください~、七草先輩)
惚れた弱みと納得するしかないのか、服部はそう思っている。

国防軍の先導で生徒たちはシェルターに、向かうべく地下道を進んでいる。
殿は共同警備隊であり、服部自身は最後に建物を出るつもりだった。

「言っておくが吉祥寺は置いていけ。警備隊の戦力をこれ以上低下させるわけにはいかん」
「そうですか!では自分は?!」
服部は大きく何度もうなずく。
一条将輝は一度服部に敬礼し、駆け足で建物から出ていく。

「行け。行ってしまえ・・・」
呟く服部は、明日、いや状況が落ち着いたら桐原や沢木を誘ってカラオケに行こうと思った。
きっとあの二人も叫びたいに決まっている。

「お前ら何なんだ!」と。



後の世に「灼熱のハロウィン」と呼ばれる大亜連合の横浜襲撃の事件は、幾つかの逸話を残すこととなる。

十文字克人と一条将輝による義勇軍指揮とゲリラ狩りの武勲

シェルターへの道中で藤林奏が見せた正確無比な索敵&川村エカテリーナの「司波深雪に出来ることなら大体できるわ」と言い放ち、敵兵士を氷漬けにした魔法。

シェルター周辺の安全確保のため、獅子奮迅の活躍をした桐原、沢木、十三束、壬生の活躍。

コンペティション会場を最後まで国防軍と守り続け、共同警備隊の指揮を執った服部のリーダーシップ。

吉祥寺真紅郎による狙撃兵への逆襲の一撃。

司波雪光と黒城兵介による30秒の大乱戦、そしてその後の横浜中を走り回っての大活劇。

横浜港への逆撃に参加した千葉エリカ、西城レオンハルト、吉田幹比古、柴田美月、千代田花音、五十里啓、光井ほのか、北山雫、お目付の千葉寿和警部の遊撃部隊。

陳祥山を捕縛した、司波深雪、七草真由美、渡辺摩利の大活躍。

飛行部隊として敵制圧に尽力した魔装大隊。

そして、魔装大隊による戦略級魔法師の魔法行使の噂。

何より、四葉光夜の「招雷」の魔法行使である。



「会長。このまま進んでください」
地下道を進む学生の一団。見学、応援の学生は絞られており、コンペ参加の学生や関係者を含めても300人もいない。

集団の先頭には国防軍の小隊と共同警備隊の選抜メンバー、索敵能力が高い藤林奏と遠距離攻撃や障壁を得意とする者たちだ。
その集団を引っ張る先頭あたりを歩く中条あずさに光夜は声をかけた。

「四葉君、もしかして地上に出るのですか」
あずさは周辺に動揺を及ぼさぬよう、小声で光夜に返事をした。
光夜も同じように小声で返す。
「ええ、地上に出て状況を確認します。必要があれば戦闘も行います」
それだけ言って集団を離れようとする光夜の制服の袖をあずさは掴んだ。
「本当は、本当は危ないので行ってほしくないです。でも十師族の責任もあると思います」
最後の方は消え入りそうな声だ。
光夜は立ち止まり、あずさの次の言葉待つ。
「ですから、ちゃんと戻ってきてください。会長命令です」
少しくらい地下通路の中であずざの目元に涙が見えた気がした。
「わかりました」
光夜は微笑む。
(この人はこんな時でも俺の身を案じてくれる)
「その、み、光夜君。ご、ご武運を」
あずさが今できる最高の笑顔で、光夜を送り出した。

一人、地下道から支道を使い地上に出たとき、光夜は嬉しかった。
これほどまでに頬の筋肉は緩んだことはない。
「ふふ、ふふっふ、はっはっはっはっはっは!」

まるで世界を手に入れたかのような高笑いをすると、CADを起動させ飛行魔法を使った。
高層ビルと肩を並べるほど上昇し、止まる。
下からは大亜連合と思われる兵士から銃弾が飛んでくるが障壁が阻む。

(最高の気分だ!なぜだ!これほどまでに心が高揚する!)

空中から視界内を睥睨する。
知覚魔法を使用し、知覚範囲を把握する。一分ほどすると視覚範囲内はだいたい理解した。

もう一度、CADに触れる。
使う魔法はこれだ。

光夜の足元から、六条の雷光が立ち昇る。雷光は一瞬起立したかと思うと、今度は放たれた猟犬のように横浜市内を縦横無尽に轟音を立てながら這いまわる。

精霊魔法や式神に使われるスピリチュアルビーイング魔法を「昇雷」と組み合わせた、光夜オリジナルの魔法だ。
雷は光夜の視野と同期し、手足いや、指先のごとく市内を高速で這いまわる。

雷が敵兵を捉えると、そちらへ電撃を飛ばす。敵の車両や、直立戦車だけではない。
国防軍や市民、義勇兵達に敵対するモノへの容赦ない雷撃。

空中で止まり敵を探すような仕草もする。雷の形をした生き物のようだ。

遥か高いところで高笑いを時折しながら光夜は、目につく敵を容赦なく攻め立てる。

これが「四葉光夜の招雷」の魔法行使だった。

これにより敵の残存兵力の50%は潰された。昼間の戦闘でもっとも戦果をあげた瞬間だった。




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教えてやるぞ、魔法師の殺し方を!

ほんの少しの瞑想も、深く入れば30秒が2時間とも思える。
俺は生徒会室の床に胡坐をし数十秒の瞑想を終えた。
このあと、確実にあの呂剛虎と戦わなければいけない。

千葉修次に匹敵する魔法白兵戦の達人。
五体満足、決死の意思、そして武装。そんな相手を迎えての命懸けの勝負だ。
卑怯などと言わず、遠距離からの射撃や警備と連携しての制圧も視野に考える。
死なないためにも、不安要素を無くし迎えねば。

生徒会室の扉が開いた。
「おーい、お菓子持ってきたぞ」
何しに来たのよ!モーリーよ!
コンビニの袋を抱えたモーリーが生徒会室にやってきた。
須田ちゃんも一緒だ。

俺ね!これから!人間戦車みたいな奴と命懸けの戦闘をする可能性があるのよ!
気楽に来て、俺の護衛対象増やさないでくれません!モーリーよ!
須田ちゃんも「エクレアとシュークリームどっち食べる?」とか軽く言ってんじゃあないよ!
シュークリーム一択だよ!

「二人ともどうしたの?」
俺は極力動揺を抑え立ち上がり、二人に聞く。テーブルに置いたタブレットには警備から登校した生徒のデータが送られている。

論文コンペの当日は休校となった。
基本的に生徒は自宅待機だ。数名の教師と一部の生徒が登校し、用事を終わらせるとすぐ下校することになっていた。
今は生徒会の俺や、受験用に資料を貰いに来た3年生が数名、部活の来年度の申請について打合せしている部活連が数名。そして、遊びに来た目の前の二人だ。

「どうせ、家に居ても暇だったから須田誘って顔見に来た。暇そうだな~」
忘れていた。男子高校生ってこんなもんだった。
「ここが生徒会室ね~。自動配膳のシステムどれ?」
須田ちゃんが物珍しそうに生徒会室を眺めて歩き回る。
「部活連の執務室と変わらないだろ?」
「もっと、こう汗のにおいがするんだよね。ほら部活連の執行部って男所帯だから」
須田ちゃんの説明にモーリーもうなずく。
まあ確かに部活連の執行部は妙に男子が多い。
服部さん、女子の扱いとか苦手そう。
「でもさ、生徒会女子多いじゃない?ねえ多いでしょ?」
須田ちゃん、近い近い。顔近い。

「それはあれか?紹介しろと」
「うん!中条会長とか、司波副会長とかフリーじゃない!前の生徒会でも市原先輩とかも彼氏いなさそうだし!」

恋に恋する男子か。須田ちゃんがその後も「光井さんかわいいよね~」や「明智さんもいい!」「里見さんもボーイッシュでいい!」「桜小路さんも里見さんと仲良くてそれはそれでいい!」「北山さんのアイスピラーズの振袖?も良かった」
他にも六校の生徒やら四校の女子生徒やらいろいろ出てくる。
「でも須田ちゃんさ。そこに看護師のお姉さん方の連絡先を持ってる奴いるよ」
俺は他人事みたいな顔して、ジャンクフードの袋を開けているモーリーを指さす。
須田ちゃんは妙に余裕を持った笑みを浮かべ、モーリーを見る。
「いや~、ほら春が来た人から春奪っちゃうのもね」
お前!モーリーよりも自分の方がモテるとか思っているのか!スゲーな!その自信分けてくれ!

その後は須田ちゃん主観の可愛い女子生徒の話と、モーリーが女性看護師さんの買い物に付き合わされた話を聞いた。
え、須田ちゃんマジ?中学時代にバレンタインチョコを女子から10個貰ったて。マジ?スゲーな。ホントに?お母さんチョコじゃなくて?動画残ってる?見る見る。うわ~、スゲー。女子から義理と本命の間位の気軽さでチョコをもらえてる。
須田ちゃんガチでモテ男子だったんだ。どう?ハニトラ専門の諜報員とかやらない?

ちょっと、モーリーも真面目に「プレゼントのお返しはなにがいい?」と須田ちゃんに相談しない!
「いや~、そういう場合はさ、モーリー自身とかがいいんじゃない?」お前はおっさんか!中年セクハラ親父か!

久しぶりに腹の底から笑った。
昼飯代わりにジャンクフードとお菓子を食べ、本当にくだらない男子高校生を満喫した。
13時も少し回った時に、生徒会室の扉が開き、軍人が入室してくる。

「横浜で戦闘が発生したそうだ。念のため、校内にいる生徒の所在確認をしたい」
来た!これで俺は笑ってはいられなくなった。
「こちらへどうぞ」
軍人、階級を見るに少尉、を伴い俺は生徒会のコンピュータを操作し、登校した生徒の入室履歴を確認する。
俺と須田ちゃんとモーリーを除いた、10人は資料室に3人、部活棟のミーティングルームに7人だ。

少尉は居場所を確認すると携帯していた通信機で他の警備に連絡する。
「資料室のある棟に3人、部活棟に7人。生徒会室に3人です。各所に一班ずつ?はい。はい」

今日一校に警備しているのは60名程度だ。
装備はそれほど重装備ではない・・・わけはない。警備室には突撃銃やら軽機関銃などの実弾兵器が置いてあるし、駐車場に止められた数台のバンの中には、正規軍の装備が詰め込まれている。

警備員こと国防軍兵士の装備はちゃんとしている。防弾ベストに警棒、ゴム弾の拳銃。
そして準備された銃火器。10人20人が来ても対応できるだろう。
問題は呂剛虎がどう来るか。

「我々は、どう行動しましょう?」
少尉さんに行動指針を確認すると
「何かあれば、他の者が誘導にくるから、それまではここにいてくれ」
少尉の説明が終わると同時に、何か大きなものが、具体的には民間向けにカスタマイズされ販売されている軍用車両の数台が校門をぶち破り、警備が準備した簡易の車止めの壁を打ち破り、校内に侵入したような音だ。

さっきまで馬鹿話をしたモーリーと須田ちゃんも緊張した顔になる。



さて緊急事態だが、俺は俺でやることがあった。

「生徒会室からのデータベースアクセスをロックしますので後から行きます。集合場所を教えてください。終わり次第向かいます」
早口にならず、出来るだけはっきりと語気をやや強めに言う。決意の声、という発声方法も修得している。演劇学校でも開校するか?
「君一人で」
少尉もいきなりの申し出に言葉が詰まる。実際生徒会室のアクセスをロックしとかないとヤバいし、その方法を知っているのは俺だけで、30秒で終わるほど簡単じゃない。
「これでも生徒会役員です。やるべきことがあります。モーリー、須田ちゃん。その人と一緒に避難して」
二人は不安をかき消すような笑顔で答える。
ブランシュ襲撃の経験もあるモーリーは俺のすべきことを理解してくれたようだ。
須田ちゃんは釣られ笑いか?須田ちゃんらしくて和む。
「お前が合流する頃には俺たちで鎮圧してるかもな!」
「うんうん」

少尉は「急いで来なさい。もし銃声がしたら、動かず隠れなさい。迎えの部隊をやる」
そう言いながら集合場所を伝え、モーリー、須田ちゃんの二人を連れて生徒会室を出た。
俺は大急ぎにマニュアルに沿って、コンピュータのシャットダウンと、データベースアクセスロックの手順を行った。
この部屋を完全退避するなら銃弾3発くらいで済むが、明日にはまた使用する。
諸々の作業を5分ほどで済ますと、俺は部活のロッカーから今朝生徒会室に持ち込んだ玩具を取り出した。

一つは本気用のCAD。ブレスレッド型のアレだ。やっぱりFLTの新モデルは動作が軽快だ。経費でおちないかな~。

もう一つの方、黒い樹脂製のケースを部屋の隅に置いておいた。
ケースを開け、情報部の装備保管庫から引っ張り出した玩具の準備を始める。

・個人防衛火器(パーソナルディフェンスウェポン)。俗に「PDW」と略される小火器
 45ACPを30発装填が可能なモデル。サプレッサー(消音装置)を装着するので割合静かだ。

・45ACP用のハンドガン。マガジン(弾倉)はPDWと互換性がある。こちらもサプレッサーは装備している。

・特殊グレネード。フラッシュバン(閃光手りゅう弾)と煙幕弾をいくつか。

・軍用のグローブと陸軍制式採用のボディバッグ、そして細々とした装備

制服のブレザーを脱ぎ、腰にはホルスターをつけハンドガンを装備。
軍用グローブをつけ、何度が拳を握る。
たすき掛けしたボディバッグにマガジンとグレネードを入れ、PDWを手に部屋を出る。

目指すのは集合場所じゃない。図書館だ。特別閲覧室。
ブランシュも襲撃目的とした場所。唯一国立魔法大の非公開文献へのアクセスが可能な場所。

表の騒動は陽動だ。勿論警備の国防軍は承知しているはずだ。だが陽動は二人の人間を除いた最大戦力を投入できる。
暴れて暴れて暴れまくればいい。陽動など承知の上で暴れまくる。被害を出せばいいだけのバカ騒ぎほど手を焼くものはない。

大亜連合は呂剛虎と、ハッキング技術を持った工作員。この二人を図書館に送り込み、特別閲覧室に行ければいいのだ。

表の騒動は始まって10分といったところ。

混乱が徐々に学校内に広がり始めるだろう。
俺は入学して最大の速度で校内を走り抜ける。
正門の方で爆発音がした。頼むぞ。上手く立ち回って、大亜連を抑えてくれよ。

校舎を出ると建物の影から影へ。人に姿を見られないよう移動する。
今の俺は正規の任務として動いていない。
情報部が一校にいることは、警備の国防軍では指揮を執っている大尉殿しか知らされていない。
それも「情報部が一人紛れ込んでいる」程度のはずだ。

本来であれば警備に加わることなく、爪でも噛んで任務のため暴れるのを耐えなければいけないが
今の俺は我慢どころではなく、武器を手に走っている。

独断専行。勝手な判断。敵と間違えられて撃たれたって文句は言えない。

呂剛虎を仕留めるのは国防軍としての責務以上の理由がある。カナデの言葉を借りるなら「転生者の使命」だ。

妙な責任感を感じるが、これもこの世界に生まれ、未来を知る者だけが味わえる責任感と思えばちょっと特別感があっていい。

そして、今この学校内にいる人間で呂剛虎を打ち取れるのは俺だけだ。

既に図書館前では警備の国防軍が数人倒れていた。
俺は口元をハンカチで巻きつけ、顔を隠し近づく。

「大丈夫か」
呂剛虎は急いでいたのか、倒れている国防軍には止めを刺していない。
といっても、見るからに四肢欠損しているものもいれば、まったく身動きもせず血黙りで倒れ込んでいる者もいる
まだ息のある一人に声を掛けた。肩からの出血は見受けられるが一番マシな兵士だ。
「君は」
「情報部。詳細は言えないが味方だ。ここに来たのはどんな奴だ」
まだ若い顔つきの兵士は突然の情報部の登場に驚くが襲撃者の様子を語ってくれた。
「二人です。一人は鎧の大男。もう一人は実弾銃を装備していました」
「わかった。救援は呼べるな。相手の工作員に魔法師がいると伝えるんだ」
俺がそれだけ言うと、近くに落ちている通信機を兵士に渡した。
今応急処置を施せば助かる者もいる、瀕死の者もいる。
だが呂剛虎を止めないと、日本の魔法技術の流出、ひいては魔法を基幹とした国防体勢にヒビが入る。
つまりは戦争へ近づく。

「ご武運」
俺が歩き出すと兵士はそう言ってくれた。

頭と気持ちは落ち着いている。冷静だ。素数だって数えられる。
呂剛虎に伝えたいことが出来た。



教えてやるぞ、魔法師の殺し方を!



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魔法師の一撃は痛い

音も出さず、だがそれでも速度を落とさない。
速く、静かに図書館内を移動する。敵は二人。それでも伏兵に注意し、曲がり角は少し慎重に移動する。

俺は特別閲覧室へ続く廊下まで来た。ホントこの高校の装飾センスは微妙だ。
敷地内の建物は統一の建築様式を採用せず、この図書館はどっちかというと近代建築、もっと言えばお役所や研究所チックだ。廊下の明かりは足元の非常灯のみ。だが昼間の太陽が入り廊下はそこそこ明るい。

まずは廊下の角で身を隠し、装備の中からマイクロファイバースコープを出し、タブレットに接続。スコープの先をそっと角から出し、呂剛虎と工作員の姿を視認する。
呂剛虎だ。ありゃ十文字前会頭よりでかいぞ。それにコスプレ。スゲーな古代中華風の鎧かよ。三国で無双しそうなカッコだな。

作業着の工作員はタブレットを使用し、特別室のドアのロックを外そうとしている。
前回のブランシュ襲撃からロックのレベルは上がっている。ほんの数分で破られることはないだろう。

廊下は直線距離で25m。行き止まりには特別室の扉。二人は扉の前。
呂剛虎は追手を遮るように工作員の盾となり、扉の前で仁王立ちだ。

鞄の中にスコープとタブレットを入れ、代わりに二つ特殊グレネード取り出す。一つは腰に吊り下げる。もう一つはピンを外す。
あまり時間がない。ドアロックが破られればヤバい。ごり押しだ、肉を切らせて骨を断つだ。俺は歯医者で我慢できる子!

手元のグレネードから少し煙が出る。廊下の角から廊下中央あたりにグレネードを投げ込む。
1秒で煙が廊下の視界を奪う。俺は先ほどスコープで見た光景を頭に浮かべ、廊下に飛び出し、PDWの引き金を引く。
数発発射したが、はじかれた音。気にしない。廊下の窓側に身を寄せ、身をかがめ、走りながら連射。標的は呂剛虎のあたり。

煙を抜けると呂剛虎が拳法の型で構えていた。
装備を身につけていようと25mなど一瞬だ。俺の最速は100m7.75秒だ。
一気に距離を詰める。虎さんは完全に待ちの構えだ。俺は移動速度を緩め、数歩離れたところから呂剛虎の頭部に射撃を加える。

呂剛虎は頭部の射撃に対して、顔の前で腕を組み耐えている。
あれがご自慢の硬気功か。45ACPなど顔の前でうろつくハエだな。
だが、弾丸が寸分たがわず自分の顔面を襲うためか反射的に顔を守る。
この射撃に慣れて反撃の体勢が整うだろう。次の手だ。右手は射撃を維持する。左手は腰のグレネードを掴みピンを外し、ヤツの少し先に投げつける。射撃の手は緩めない。

ボン

「ガァ!」

呂剛虎の動きが止まる。突然の閃光に視界が遮られ、反射的に体が丸まる。
この一瞬だ。それで充分。障壁も硬気功も維持できまい。
俺は引き金を三回引く。念のためだ。弾は肉体を貫通しなかった。

扉の前の工作員は膝から崩れ落た。頭部に弾着し絶命した。

これで負けは無くなった。呂剛虎は俺の奇襲で判断が遅れただけだ。俺の俊敏さが勝ったのだ。



最初の銃弾を弾いた音の後に、呂剛虎の移動音があればヤバかったし、もっと言えば奴が煙幕を吹き飛ばすなり、排除する魔法を使用していれば負けていたかもしれん。

既知未来知識において、奴は十文字の坊ちゃん(違和感)のような障壁を移動させる術も、エリカ(上の兄貴にはため口で、下の兄には慇懃な言葉使うとかブラコン拗らせすぎかよ)のような自己加速による高速移動もしなかった。

半径3m内の近接格闘に特化していると判断し、そこに賭けた。そして奴は最初の煙幕内からの射撃を受けて、射手である俺に接近してこなかった。
つまりは壁役になったのだ。

豆鉄砲は通じないし、大抵の魔法は受けきる自信があったのだろう。玄関先で倒れた兵士を見て、国防軍の保有する装備では自分は負けないと過信したのか。

魔法は強力だ。だが戦場で判断するのは人であって魔法ではない。

俺が七草のお嬢さんみたいにツララを飛ばしていれば負けていた。
奴は弾速の遅いツララを目視し自分の魔法が負けないと判断し、硬気功を纏い突っ込んできたかもしれない。

45ACPの弾速は大体、時速900km。ツララはどのくらいだ?時速200km?

煙の中から来たのは何かしらの銃火器で、恐れるほどではない。
壁に徹して煙が晴れたら俺を仕留める腹積もりだったのかも知れない。
事実、最初の射撃後にこちらへは移動していない。

奴からすれば案の定、煙から出てきたのは銃火器で装備した人間。
的確に顔面を撃ってくるので、顔をガードした。

そしてボン!である。

煙幕を焚いてから10秒ほど。

俺は魔法で勝ったのではなく、顔面への攻撃を嫌う人間の本能を利用したのだ。
俺は自分の兵士としての技量と、神から与えられた「超人的肉体」による俊敏さを心の中で誇りつつ、次に来る衝撃と痛みを待ち構えた。

「ガァ!」

呂剛虎の振り回した腕が俺の体をガラス窓に飛ばす。
神に貰った超人的肉体でも痛いもんは痛いし、俺の肉体は人間の上限ギリギリであって、人間以上の耐久力はない。
つまりは魔法師の一撃は痛いのである。
こっちの「ボス、ボス、ボス」という小さな発射音から当たりをつけて殴ってくるわな。

痛い。



窓を突き破り、俺は二階から飛び出る。

窓は強化窓だ。それを割るほどの衝撃が俺の身を襲い、着地を雑にさせる。
頭部や肩から地面に衝突することなく着地は出来たが、やはり衝撃は強く二呼吸ほど動きが止まる。

実のところ、閃光手りゅう弾、スタングレネードとも呼ばれる鎮圧用の手りゅう弾は俺にも影響を与えた。
閃光は投げたタイミングで目をそらしたので、視覚は大丈夫だが、耳が本調子じゃない。
平行感覚に影響がなければもう少し上手く着地できたはずだ。

呂剛虎は俺を追うように、二階から降りて来る。
俺はPDWの引き金を引こうとするが、う~ん銃身が曲がってる!
奴の視聴覚はどうだ?まだ完全回復はしていないはずだ。だが、兜があるので聴覚はそれほど影響ないのか?

PDWを投げ捨てハンドガンを抜くが、すでに奴は俺への目の前まで来ていた。
中国拳法の心得があるよね、そりゃ。なかなかの歩法です。80点をあげよう。

奴は俺の手からハンドガンを弾き飛ばすと、南拳に見られる細かい突きを連続で打ってくる。
中国拳法は大きく分けると北、南に別れるが~中略だ!
視力は完全ではないのだろう。接近距離で俺を仕留めるための連打だ。

ヤツの細かい突きを俺は捌き、捌き、捌く。
完全にカンフー映画だ。

突きの応酬の中で呂剛虎を俺のペースに引き込んだ。
武神は伊達じゃない。

ヤツの左腕が引かれた一瞬に俺は突きを見舞う。超人的肉体から放たれるショートパンチだ。
普通の威力じゃない。大人の胸を悠々陥没させる威力な上に鋼気功を見越し、鎧徹しの技法も含まれている一撃だ。
文字通り鎧を着ていても、鎧の防御を徹し、突きの威力を相手に与える。格闘マニア垂涎の必殺技。

「!」

ダメ。触れた瞬間、奴は体を震わせた。纏絲勁だ。身体のひねりを利用した勁。その勁で俺の一撃は弾かれた。

お互い大きく下がり距離を取る。

は~、よく勝てたもんだよ、渡辺摩利。褒めてやる。

お互いの距離は8mほど。俺はCADを起動。移動魔法で一気に距離を取りつつ空気弾を発動し牽制。

虎さんも魔法を発動し、距離を詰めようとする。硬気功を纏ったか?空気弾の発射方向へのダッシュだ。
逃げながら空気砲で牽制する俺と、追いかける呂剛虎。

空気砲程度の魔法では奴の突進の勢いを止めることが出来ない。
「ちっ!」
大きく舌打ちしながら、移動魔法を展開。大きく距離を取ろうとするが、奴の方が早い。距離が更に縮まる。

『逃がさん!』
呂剛虎が俺の舌打ちを聞き、嬉々として攻め込んでくる。言葉を発する余裕もある。
どうやら視力はある程度回復したようだ。タフやね。奴はさらに移動速度を上げ、俺との距離が短くなる。
空気弾を複数展開し、マシンガンのように浴びせるが奴は空気弾の威力をすでに見切っているのか
気にする様子もなく走り込んでくる。

俺は慌てた!わけではない。

今まで呂剛虎は遠距離攻撃を自分の装甲で防ぎ、接近し必殺の一撃を打ち込む戦闘ばかりだったんだろう。

ある意味では雪光や黒城兵介のようにスタイルが固まっているのだ。
そしてこいつの評価は接近後の体術&魔法で評価されている。

この男は「魔法の使える格闘家」なのだ。だから魔法は接近戦への布石か接近戦専用のものだ。
少しでも遠距離攻撃で俺を攻め立てれば状況は奴に有利だったはずだ。

「魔法を使う一流の格闘家」と「超人的肉体の武神」どっちが強いと思う?

呂剛虎が俺に体当たりをする刹那。合気で呂剛虎を地面にめり込ませた。



俺は突っ込んできた呂剛虎の伸ばした腕に触れて、一瞬で力の流れを変え、地面に激突させたのだ。
「ぐう!」

地面にめり込むほどの勢いだった。呂剛虎は地面に沈んだ体を起こし立とうとした。
はい、ご苦労さん。

俺は奴の右手首を左手で掴む。奴の国の言葉で問いかける。

『ダンスは好きか?』

俺は合気の技法を嫌というほど、呂剛虎にご馳走した。
自分の身体とは思えないだろう。足腰に力が入らない。座り込もうとすると立ってしまう。
起立したかと思うと、前のめりになる。だが転ぶことが出来ない。

スケートリンクに初めて立つ子供のようだ。

そして突然投げられる。地面とキスするがすぐに立ってしまう。

奴の纏う魔法「硬気功」や「纏絲勁」の技法は基本打撃に対応している。
勿論、投げられた衝撃を硬気功で相殺することお出来るだろう。

だが、手首をつかまれ自分の身体を自由自在に扱われる中で魔法を起動できるのか?

魔法の発動に必要なのは1秒?.0.5秒?もっと短い?
俺は奴の手首から感じる動きで、少しでも魔法を発動するそぶりを感じたら集中できないよう振り回す。
中国拳法でいう「聴勁」だ。

この男が純粋な武術家で功夫をより積んでいれば、即座にこの状況に対応できたのかもしれない。
だがこの男は魔法を使う。防御面は魔法なのだ。
今、呂剛虎はどう考えている?魔法が使えれば勝てるのに?武術の実力差にショックを受けている?

呂剛虎は俺の魔法を見て、勝てると考えたのだろう。大した威力の無い空気弾、平凡な移動魔法。そして舌打ち。

弱い者を仕留めようと勢いよく飛び込んできた。はい、お終い。

一対一でこの人食い虎を倒せるのは、十文字、司波達也、光夜、雪光だけだろう。七草のお嬢ちゃんは戦術次第だが、体格面でアウトだ。触れられただけであの細い体はバラバラだ。

呂剛虎は弱くない。

俺はダンスの上級者が初心者を導くように、呂剛虎をコントロールした。
奴の息が上がり始めた。
両膝を突かせ、虎は肩で大きく息をする。

『お前は何者だ?』
魔法を使うことよりも敵対した者のを名を知りたいのか。

『疫病』

俺はかつてつけられた二つ名を言った。
呂剛虎は知っているだろうか。

右の拳を握る。人差し指の第二関節が尖るように握る。一本拳だ。
俺は一本拳で呂剛虎の急所「人中」を突いた。

奴はその衝撃で気を失う。

激しい衝撃波の応酬もない。高速の戦闘もない。建造物を吹き飛ばす光線もない。
俺の戦場は弾丸と拳と血で出来ている。

「動くな!」

正門方向で聞こえた銃撃音も小さくなっている。
国防軍の小隊が俺に銃口を向ける。
俺は両手を上げて声を出した。

「情報部だ。指揮官の野田大尉を呼んでくれ!」

良かったな。呂剛虎。死ぬのは次までのお預けだ。


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海上型資源採掘用プラント

三人称視点です


「ふ~」

大亜連合の軍事を司る建造物の一室で、作戦の承認する立場の男が息を吐く。
制服の上着を脱ぎ、シャツの襟もとを緩める。この部屋に入って22時間だ。
部屋から出るのは手洗の時だけ。

常に誰かが、入室し報告をする。
今もっと多い報告が国の艦隊が消滅したことと、その被害算定だ。
大事な戦略級魔法師も失った。すぐに次の魔法師の選定に入った。
血縁者がいるらしいので、その人物を新しく戦略級魔法師に据えるよう調整が進んでいる。
(いつまで死亡を露見せずにしておけるかな)
頭が痛い。大漢吸収の時でも、ここまで報告が連続はしなかった。
肉体的疲労以上に脳のエネルギーを消費している。

そして30分前に来た報告書で頭痛はさらに痛くなった。

「では君はこの襲撃を『疫病』だと言うのかね」
自分と机を挟んで立つ二人の人物に問う。
「はい。閣下」
軍服に身を包んだ初老の男だ。胸には功績を示す無数の記章がついている。
一兵卒で到達できる最高位の一つにある人物だ。

「理由は、兵士たちの死亡状況か」
「はい。それが理由です閣下」
「では、なぜ『疫病』がこのタイミングで登場した?」
閣下と呼ばれた男は軍服と横にいるスーツ姿の女と軍人を交互に見る。
「報復と警告では」
スーツの女。情報分析の担当者だ。壮年で威勢のよい顔をしている。
彼女が断言するように言う。
「具体的に」
彼女の説明を促す。
「はい。先の侵攻作戦に対する報復と、『いつでも逆撃を行える、大人しくしておけ』という意味かと。我々が同じような強行作戦を行えば、敵軍は逆に侵攻してくるでしょう」
(確かこの女は陳祥山と対立派閥だったな)



後に「灼熱のハロウィン」と呼ばれる魔装大隊 大黒竜也特尉による戦略級魔法「マテリアルバースト」使用における、大亜連合の艦隊消滅とほぼ同時刻に、大亜連合の南部海洋上にある「海上型資源採掘用プラント」に偽造した前線基地が一つ壊滅したのだ。

作業員に扮した海兵隊選抜の2小隊(18人)が待機していたが一晩で全員死亡した。
実際に採掘作業をしていた民間作業員と、作業員と一緒に採掘作業をしていた変わり者の海兵隊員だけが生き残った。

割り当てられた待機用の部屋や、装備保管室など、普段の生活の中で頭を撃ち抜かれ死んでいたのだ。

鎮海軍港からの艦隊出撃とタイミングを合わせ、南からも艦艇を出撃させ南北で圧力をかける案があった。
その艦艇に乗り込み、九州南部の都市で破壊活動に従事する予定の部隊が消されたのだ。

民間作業員がいる限定された空間であるプラントで海兵隊員だけ殺された。
軍服なり迷彩服で判断したのか、民間の作業着を着て採掘作業を行っていた変わり者隊員だけは生き延びた。

15年前の大越戦争末期、11年前の東欧国境、3年前の中南米カルテル

そして48時間前の大亜連合南部洋上。

全て同じだ。特定の存在が、軍人か傭兵だけ、数時間内に頭を撃ち抜かれ死んでいる。
襲撃者の姿を誰も見ていないし、監視カメラにも映っていなかった。まるで特定の人間を襲う疫病のようであった。

大越戦争時は凄腕の暗殺者と目された。東欧国境警備隊の駐屯地で発生した時に『疫病』の噂が流れた。

襲撃者は誰なのか?どこかの国軍なのか?フリーの暗殺者か?凄腕の魔法師なのか?

だが今回の件で判明したと軍人もスーツの女も思った。
日本の国防軍のエージェントだ。だが証拠はない。状況証拠しかない。

「ふ~」
もう一度、閣下は大きく息を吐く。
「この件は鎮海と合わせて処理する」
そう言って手を動かし「退室しろ」のジェスチャーをする。

軍人とスーツは部屋を去る。
「あと五年。待ってくれよ」
閣下と呼ばれた男はあと5年で退役を考えていた。
欧州に預けた隠し財産でUNSAの観光地に家を買いゆっくり暮らすことを夢見ていた。


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彼女を抱きしめ少し泣いた

あとがきに簡単なキャラクター設定があります


「はあ、解散ですか」
村井大佐は表情を変えずに「情報部支援課第二班」の解散を俺に告げた。
俺もいきなりの話で珍しく呆けた声が出た。

11月4日。
村井大佐の執務室に出頭した。

大島少将が軍内政治に敗北した噂を確認しに。
そこで解散の話である。

大島少将は将官教育を担う国防指揮幕僚大学に教官として任官するそうだ。
だから、あんな無茶な作戦を承諾したのだ。置き土産か、やけっぱちか。

モーリー、須田ちゃんとも無事だった。一校防衛に尽力したらしい。
戦闘後二人と会い、経緯を国防軍に報告する態をとりつつ別れた。

呂剛虎との戦いを野田大尉に「偶発戦闘」だったと言い訳をしたが、陸軍本部から情報部の横やりとして文句が出た。
村井大佐は「では、この作戦を即時行います。結果は差し上げますのでそれでご勘弁を」と30日の夜には大島少将承認の作戦を提出した。

日本の南、海上型資源採掘用プラントに偽装した大亜連の特殊作戦部隊の待機所の襲撃だ。
「よろしく」の一言で送り出された俺は目的地点へ進む沖縄海上の船の上で、鎮海軍港の艦隊終結を聞いた。

軍神の加護を持ち、武神の化身で、ヘルメスの子、そして超人的肉体を持つ俺は村井大佐の計画通りに、一人でプラント内の特殊部隊を排除した。

日本に戻る航空機内でマテリアルバースト使用を聞き、横浜騒乱が終わったと思った。
あのおっさんはこの局面を読み切って、陸軍本部へのフォローまで考えていたのだろうか。

改めて村井大佐の読みの鋭さにはうならされる。
村井大佐は魔法師嫌いだ。大島少将より、もう少し根が深い。
俺は魔法師だが、あの人は魔法師としての俺など一切評価しない。兵士としか見ていない。

村井大佐との付き合いは15年になる。大越戦争の終わりごろだ。俺の『疫病』としての悪名を作り上げたのはこの人だ。
任務面で色々と好き勝手出来たのも、この人が俺の能力を評価し、利用したからでもある。

「村井大佐は今後どうされるので」
「私は北海道だ。防諜に従事するだろうな。それよりもお前だ」
声が少し弾んでいる。希望に近い立ち位置になったのだろう。
村井大佐は執務椅子から立ち上がり背筋を伸ばす。

「関重蔵少佐。貴官は101旅団魔装大隊への異動が決まった。明日11月5日10:00に魔装大隊へ出頭せよ」
「はっ」
俺は辞令を聞き、敬礼をする。村井さんもゆっくりと返礼。

「お前を取られるのは癪だが、まあ胃痛が減ると思うとありがたいね」
「この15年でうだつの上がらない少尉から情報部敏腕大佐まで駆け足で来ましたからね。胃の一つも犠牲にしないと」
お互い笑いを浮かべる。

44歳で大佐。将官に上がるにはちょうどいい歳だ。日本の防諜も少しは良くなるだろう。

村井さんは執務机から二つのグラスと、酒瓶を取り出す。
あ、ウィスキーだ。
「別れの祝いだ。飲んでくだろう?」
「勿論」



11月6日まで休校だった。校舎の一部が壊れ、正門もガタガタ。数日間の工事で生徒が登校できるまでは修復された。
そして明日7日は登校日だ。

俺は新たな住処への異動を済ませた。
風間少佐からは「当面は一校にいてくれ」と指示を受けた。
「ただし情報を探る必要はないぞ」という言葉と一緒に。

昨日の夜にカナデが官舎に顔を出した。
その日は彼女を抱きしめ少し泣いた。

軍神の加護は俺の精神まで及ぶ。軍務での行為に対して心が病むことがない。命令とはいえ、作戦とはいえ、戦争とはいえ、将来ある若者を殺すことに感情は揺さぶられない。軍神は軍務遂行に難となるものから俺を庇護してくれるのだろう。俺自身の心からも。

だがそれが俺の人間性を押さえつけ、非人間的にしていると考えると少し悲しくなる。
そんな時に抱きしめ涙をぬぐってくれる女がいることで救われる。
「つらいなら一緒にいるわ」
ありがとう。

軍神、武神、ヘルメス、超人的肉体、それは人を傷つけ、欺くことに恩恵を与えてくれる。
俺を心身共に最強の兵士にしてくれる。完全無欠の殺人機械だ。

だが俺が殺人機械であることで守れる人たちもいる。
「誰かが牙にならんと誰かが泣く事になるんや」というセリフがあった。
今の俺は牙なのだ。ニコ兄・・・。

夕食の後、音楽を流した。曲名をカナデに聞かれ「Love and Happiness」と答えると
「少しだけど与えてあげる」
キスしてくれた。

やっぱり、いい女だ。



学校は変わらずだ。モーリーと須田ちゃんはいつも通りだ。女子に「僕も奮戦したんだ」と言ってキャーキャー騒がれる須田ちゃんはいつも通り。前世でも現世でもこれほどまで女子にモテることに主眼を置いた奴見たことないぞ。スゲーな須田ちゃん。
生徒会室で中条会長に改めて当日の状況を説明。ある程度は警備から聞いていたようなので、口頭で簡単だ。

皆がお互いの無事を祝う中、暗い顔をしているのは光夜だ。
なんでも戦略級魔法師への認定について風間さんが四葉に話をしたらしい。
ご苦労さん!頑張れ!ついに特尉様になっちゃうのね!

傍で業務をしていた深雪に「四葉君は優秀ですから」と励まされていた。

風紀に顔出したときに司波達也と会った。
「大変だったようだな」
「ああ、まあね」

こいつはどこまで知っているだろうか。まあ、そんな腹の探り合いからは解き放たれた。

ここから先は俺は知らない。アニメ放映の先だ。
つまりここからが本当の未来になるのだ。
魔法と戦争の世界で俺は自分の出来ることをしよう。



一つだけトラブルが。
下校時に、リムジンに乗った九島烈に「駅まで送ろう」と声を掛けられた。

リムジンで九島烈と向かい合わせ座る。
齢80を超え、細身の体。だが俺に与える印象は恐ろしいまでの威圧感だ。
人の感情に呼びかけるような恐ろしい瞳をしている。
「藤林奏と交際しているかね?」
「ええ、はい」
ひっそりとだがはっきりと、事実を口にする。
優しい声にも聞こえるが、抜き身の刀のような剣呑さも感じる。
俺の返事も、今ひとつ弱げだ。

「硬くならんでもいい。君は魔装大隊に移っても引き続き、学校に通うのかね?」
硬くなるな、というが口調は緊張感を崩すことを許可していない。
既に俺が何者かは把握しているようだ。退役少将。情報部に根を張る怪人。
「任務ですので黙秘いたします。閣下」
一度つばを飲み込み、黙秘の意思を伝えるのがやっとだ。
「そうか。私はね、奏の利発さが好きだ。孫娘としても大事にしている」
回り道など一切しない。本題を投げ込んできた。
「はい」
「それを国防軍の一軍人が私の手からかすめ取ろうとしている。許されることではない。そう思わんかね」
「別れろと」
「理解が早いね」
九島烈が口角をあげる。微笑んでいるか、それとも怒りを隠しているのか。
「・・・・」
俺は返事が出来ない。口を一文字に結び、俯く。
この意味をどう受け取っただろうか。「無言とは肯定」と言ったのは誰だ。
「駅だ。降りなさい」
九島烈がそう言うと、ドアが開いた。
「はい」
俺は促され車外に出る。


















俺は夢遊病者のごとく意思も持たずに歩き、電車に乗りセーフハウスに戻った。

ダメだ。本当の権力者が来た。彼女とも終わりだ。軍にも居場所はない。

身の破滅だ。彼女との甘い生活は一時の夢だと言い聞かせた。

これほどまでに彼女に心を支配されていたとは。
































みたいな事を期待したのか、この爺様は。
爺様に促され車を降りる時に、俺はこう言った。







































「閣下。カナデが高校卒業するまでは避妊しますのでご安心を。5年後にはひいおじいちゃんですよ」
ドアを閉めた。




本編終了!

あとは余暇話を幾つかで完結。

キャラ設定

関重蔵(相馬 新)
36歳 情報部少佐
チート:軍神の加護、武神の加護、ヘルメスの加護、超人的肉体。
担当の神様がサイコロ決定のためとんでもないチート野郎になってしまった。
前世は中堅社会人だった。前世と現世を足すと結構な精神年齢である。
ちなみに超人的肉体は身体の筋力や柔軟性、俊敏さ、五感、反射神経などにおいて人間の限界の上限まで上がる。それが維持される期間も長ければ、寿命は長命に傾く。
童顔はチートには含まれていない。

四葉光夜
15歳 四葉家(本家扱い)
チート:竜章鳳姿、万夫不当、多芸多才
実は「竜章鳳姿」が最高に凶悪。
強大なカリスマ性を与えるだけではなく、「カリスマ性を裏付ける圧倒的な実力」を与えていたので、万夫不当、多芸多才がなくとも十二分にチート主人公できる。

司波雪光
15歳 司波家
チート:反射神経強化、工学知識、カリスマ(女子)、魔法力強化、魔法技術の才能
「キリト!+深雪!」は意外と最適解になったのかも。
本人の性格で高速戦闘を主体としているが、普通の魔法師としても深雪に匹敵する。

藤林奏
15歳 藤林家
チート:電子の妖精、魔法才能、運動神経
チート選択時間が短く、ザックリと選択していた。魔法戦闘については北山雫や光井ほのかと同等。前世社会人は彼女と関重蔵のみ。実のところチートではなく、魔法という学問の理解が進んでいたので、入学の成績はチートが無くても出た成績だったりする。

黒城兵介
15歳 黒城家(一般家庭)三校
チート:健康、良縁
前世が健康面で多大な問題があり、本人は健康であればいいや~。と思ってチートリクエストしたが、担当神様が「不憫や・・・」と思って、健康=恵体と理解し頭脳、身体、魔法の基本的なスペックが高い。そして何より良縁が強い。友達いっぱい。
「三校の快男児」 として学校史に名を残す。

川村エカテリーナ
15歳 川村家(一般家庭)二校
チート:黄金律(富&体)、ステータスは魔力C++。クラス別能力(キャスター)。
最初のチート選択でFateで言う「ステータスはオールA」を宣言したが、黄金律が強力だったので神様調整が入る。ちなみに魔力C++は「第四次聖杯戦争キャスター」より上のステータスである(ただし魔法科高校の劣等生の世界でどのように表現されるかは不明)。黄金律(富&体)を持っているので彼女のカリスマ性は実は高い。

周公瑾
24歳(として新規戸籍を獲得)
チート:原作の周公瑾のスペックをそのまま引き継ぐ
国防軍保護された後は証人保護プログラムの適用で新たに戸籍を獲得し、日常生活に戻る。
日本人:ワタナベケンゴとして小さな喫茶店の店員になる。「美形すぎる喫茶店店員さん」として
女性向け雑誌に取り上げられたりもする。危機感がない!と軍と司法関係に怒られる。
女子大生と付き合い始める。しかし二股をしてしまい破局。


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余話:我が不破流は秘伝の武術

みんな大好き、「誰が強いのか?」の話。


俺が司波達也に視線を向けると困ったような申し訳ないような顔をした。
なぜ、俺が試合を三回も、それもシチュエーションを変えてせねばならんのだ。
十文字、七草の諜報から解き放たれて少しは骨休めできるかと思ったら、これだ。
せめてもの救いは、ギャラリーが少ないこと。
事の始まりはこれだ。

「ハロウィンね~」
部活も終わり、光夜と合流して講堂へ向かった。なんでも、横浜でのごたごたで暗くなった校内を盛り上げるべく
司波深雪副会長様が企画した。七草のお嬢さんも噛んでるらしい。
是非とも十文字さんには「怪物くんのフランケン」の格好をしてもらいたい。きっと似合うぞ。フガフガ。

講堂を開放してダンスホールにするとかしないとか。そんなわけで確認として、生徒会役員は講堂集合となった。
風紀も警備目的で下見するらしい。

講堂に着くと既に座席は取り払われ、広々としていた。600人から入る講堂だ。そりゃ広い。実際には体育館でもある。
最初は講堂=体育館とは考えておらず、一校はなんでも設備のあるところだと思っていた。
絶対地下には創立当初から連綿と続く「魔法少女愛好会」の部室があるに違いない。

「あ、来ました!」
俺と光夜の姿を見て声を上げたのは深雪副会長だ。
ホント美少女ではあるが、俺の知っている限り千葉エリカと同格のブラコンで、魔法力と学内政治力がある分余計に怖い。
光井さんはそんな人からお兄様を奪おうというのだ。スゲーな青春。

深雪副会長を囲むように人の輪が。深雪副会長の人気ならいつもの事だがメンバーが珍しい。
千代田花音、沢木碧、なぜかいる千葉エリカ、西城レオンハルト、そして司波達也。

「相馬!格闘技出来るんだって!?」
沢木さんがデカいを声を出す。はい、出来まっせ。
「はい、なんか面白い話題でも出たんですか?」
俺と光夜はその輪に加わった。嫌な予感がするが、それでも放置するわけにはいかない。
「深雪さんからね、君だが格闘技経験者というのを聞いたのよ」
千代田花音が興味ありげに言う。なんだ風紀委員長は脳筋寄りなのか。
「ねぇねぇ!呂剛虎やっつけたってアラタなの?!」
千葉エリカがストレートに聞いてくる。やっつけたけど、表向きは国防軍による捕獲として発表している。
なんでこうなってるんだ?

「俺が?」
「そう!違うの?九重八雲にも勝ったんでしょ?」
「違うのよ、エリカ。九重先生には武術の腕を認められただけなの」
深雪副会長がそう説明すると、エリカは少しつまらなそうな顔をする。
「え~違うの~。なんだ、驚いて損した」
「だが九重先生に認められたのは本当だ」
司波達也が余計なフォローを入れやがった。
「そうか、九重八雲のお墨付きか!じゃあうちの部に入らないか!」
沢木さんが俺に詰め寄ってくる。嬉しそうだ。
デデ~ン、達也、深雪、アウト。タイキック。
お前ら俺の格闘技の話、漏らしやがったな。

「いや、そのクロフィーもありますし、格闘技も齧っただけで」
「兼任でもいいじゃないか!それに齧っただけと言ってもあの忍術使いに認められる腕なのだろう!」
マーシャル・マジック・アーツ部のエースは勧誘に余念がないな。
俺は一つ咳ばらいをし、間を空ける。
真剣な声と、眼差し。沢木さんにはっきりと、しかし声を張らずに伝える。
「我が不破流は秘伝の武術です。公の場で見せるものではありません。古来よりの組打術。血を見せるような技ばかりです」
最後は残念そうなニュアンスを残す。「競技には使えない武術だよ」という感じで。はい、終了!この話、終了!

「面白そうな話だな」
俺の後ろ、死角にはまるで巌のような肉体を持つ18歳の高校生、十文字が立っている。見なくたってわかるよ。気配がデカい。
あんた!受験勉強しろよ!魔法大落ちたら、中洲産業大学とかに入学することになるぞ!
「十文字さん」
千代田風紀委員長こと地雷女(比喩ではない)が声を出す。
俺はゆっくり振りむくと、あ~十文字&七草の二人だ。絶対面倒なことになるぞ。
「相馬、お前は魔法以外にも武術に造詣があるのだな」
まるで後輩の成長や実力を認めるような先輩の優しい眼差しだ。1km狙撃とか朝飯前に出来ることを知ったらどんな眼差しになるのやら。

「ええ、齧った程度ですが」
「謙遜しなくてもいい」
もう一度十文字さんが優しい眼差しを向けてくる。
そして七草のお嬢さんが面白そうに首を突っ込んでくる。格ゲーのコンボか!
「でも本当に、沢木君のお眼鏡にかなうのかしら?深雪さんどうなの?」
七草のお嬢さんは軽く挑発気味に言う。深雪副会長に「凄いんです!」と言わせて試合でも仕組もうという魂胆なんだろう。
やめろ!答えるな!と俺が会話を遮るように話しだそうとした瞬間。
「試合をしてみればわかる」

デデ~ン、光夜、アウト。タイキック。

そして俺は試合をすることになった。
このボッチ、ボッチよ。お前、ボッチ。おい、ボッチ・・・。

この時に千葉エリカがいなければ、せいぜい1試合で済んだのだろう。あのお騒がせ娘が。
「古流ならいくつかのシチュエーションで試合しないと実力なんてわからないわよ。ほんとよ」

勝手に話が進んでいく。
沢木さんも「後学のためにも古流の技を見せてくれ」とか「あたしも興味ある~」とエリカが騒ぎ
「九校戦の練習もすごかったしな」とレオが思い出す。

地雷委員長は少し離れたところで、五十里さんと話している中条会長のところに行き、何やら身振り手振りで話している。
ありゃ、模擬戦について承諾得ようとしているし、中条会長はOK出しそう。なぜなら七草のお嬢さんが説得応援のため近づいていく。



第一試合、第二試合は第二武道場で行われる。
入学直後に剣術部と司波達也が大暴れした武道館にある畳敷きの部屋だ。

試合相手は・・・十三束だ。
純粋な格闘戦を試すらしい。あ、沢木さんカメラで録画してるし、どうしよう。
「十三束、よろしく」胴着に着替えた十三束と握手をする。
俺は体育の授業で使うスポーツウエアだ。
十三束。金持ちのボンボンだが、良い奴だ。そしてマーシャル・マジック・アーツにおいては学内屈指の一人。
沢木さんの次のエースだろうな。
体格は俺とどっこいか、気持ち小柄なくらい。顔だちも可愛らしい。童顔は苦労するぞ(略)
「うん、よろしく。ルールはさっきの通りで大丈夫?」
「ああ、あれで」
ルールはマーシャル・マジック・アールの競技ルール寄りだった。
フルコンタクトで寝技ありなので、ちょっと競技より過激か?
お互い、頭部保護の防具をつける。

試合時間は3分、二ラウンド。

周りのギャラリーは、十文字、七草、千代田、沢木、司波深雪、司波達也、桐原、壬生、レオ、エリカそして渡辺摩利だ。
中条会長は仕事があるので、承認だけして代理で深雪副会長を置いていった。

千葉エリカが「あんた、なんでいるのよ」
「単なる興味だ」と渡辺さん。

空気が悪い。ブラコン拗らせると怖いな。

審判をする十文字さんが「はじめ!」と試合開始を告げる。

さて、不破流の秘伝を使えばすぐ終わる。不破流なんてないけどね。法螺で煙に巻こうと思ったが上手くいかなかったな~。全部、学生たちのノリのせいだ。

俺は体を横に揺らし、中腰になり、大きなステップを踏む。手も足もリズムを刻む。
カポエラの動きだ。

カポエラは中南米に連れてこられたアフリカ黒人奴隷達の中から生まれたといわれる格闘技だ。
手は枷によって塞がれているので、蹴り技が発達した武術である。
というのは本当なのか、誇張なのか知らないが十三束戦はこれを選択した。
理由は簡単。普通カポエラと異種格闘をした奴なんていないから。
初めて謎の格闘技と試合をすると、だいたいグデグデの泥仕合になる。
俺の狙いは引き分けだ。

十三束は右半身を前に打撃格闘技の構えでリズムを取っている。
そして十三束は移動魔法で俺の回りを素早く移動する。
「レンジゼロ」のあだ名通りの接近戦は強い。部活しているところを見たことがあるが、光夜や司波達也などを除けば相当なものだ。が、甘い。

俺はその場で後ろ回し蹴りや回し蹴りを繰り返す。当てる気はない。
体全体を回転させる蹴りをすることで、前後左右どこから攻めようとしても躊躇する。
竜巻旋風脚中に突っ込んでいくとダメージを食らう、という理屈に近い。
アクロバティックな俺の連続蹴りに十三束は移動を止めて距離を取る。
息が少し上がっている。異種格闘技戦で緊張しているな。
ギャラリーも俺の動きに驚いているようだ。
「カポエラか?」と沢木さんは驚いている。

「相馬、攻めろ!」
十文字さんからの一喝だ。あ、俺の意図、気づきやがったな。
攻めたふりをするか。

俺は連続の後ろ回し蹴りを前方に移動しながら行う。
十三束は横に大きく避ける。
俺は攻める、十三束が避けるの繰り返し。
ほらほら、俺は攻めてるよ~。

一ラウンド終了!
十三束は息を切らしている。半面俺のスタミナはばっちり。

あ、十文字のおじさん目つきが怖い。アレか、全力を出さないとは相手に無礼!とか思っているのか?
でも止めない。俺は秘伝武術の使い手で、それを簡単に見せることをしないため
カポエラを使って目くらまししている設定なのだから。
それに本気でやったら十三束死んじゃう。

二ラウンド目は状況が変わった。十三束の動きが立体的かつ、激しいものになった。
加速とか慣性の法則とかじゃなく、はっきり言ってカンフー映画のワイヤーアクション並だ。
上に下にと蹴りが飛んでくるし、こちらの動きは気にせず強引に攻めてきた。
俺の蹴りも一、二発当たっているが動きを止めない。
試合なら無理にでも来るよね~。わかる~。
十三束の表情も必至だ。先輩からの指示とか関係ない。一ラウンド目であしらわれて奮起したのだろう。

よっしゃ、おじさん少し本気を出そう。怪我するなよ。

十三束の猛攻は止まらない。俺は構えをカポエラから変える。やや後ろに重心をかけ、左足が前に来るどこにでもある左前の構えだ。
上下右左、十三束の超人的な動きを3cmのところで見切り躱していく。

「一寸の見切り」

かの剣豪宮本武蔵が体得したといわれる間合い、距離、相手の制動を見極める回避技術だ。

どんどん俺の動作範囲が狭くなる。半径30cmの円の中でしか動いていない。ギャラリーで格闘技経験者は静まり返る。
千代田花音はわからず「え、なに?説明して!」と司波達也に聞いている。も~、カッコいいところなのに!
そして二ラウンド目が終わった。

お互い開始位置に、戻り一礼する。

「凄いだね、相馬君は」
汗だくの十三束と握手。尊敬するような声だ。弟子はとってない。
「嫌って程、仕込まれたからな」

十三束が武道場の壁際に戻り汗を拭くのと入れ違いに
十文字さんが近づいてきた。なんすっか?!やるんすか!?
「相馬、どこまで本気だった」怒っているのか、それとも驚愕した自分を抑えているのか声は荒げない。
「最初は目くらましですよ。秘伝武術は見せられないですし。見切りは、十三束の本気へのお礼ですよ」
そう答えると、十文字さんは黙る。
「次は剣術でしたよね」
俺が次の試合を促すと、ギャラリーの中から「あたしの出番ね!」と声が上がった。
泣いても知らんぞ。千葉エリカ。



二つ説明がある。
カナデとエリカは表面上は仲がいいが、あんまり仲が良くない。
一科、二科で違いはあるけど、女子生徒で男女問わず人気者。活発な感じで、余裕あるタイプが似ている。

エリカは美少女だ。赤や火とをイメージさせる活発で明るく、トラブルメーカーや引っ掻きまわす面があるが、深雪と同じ人の輪の中心だ。
何より、高校生男子にとってはちょっとエロい。須田ちゃんも「千葉さんいいよね!」と言っていた。須田ちゃんお墨付き。
体育会系というより、武道系にある「稽古>羞恥心」みたいな延長線上に気持ちがあるのか、制服が着崩れてもへっちゃらという感じだ。
健康的お色気美少女。そして笑顔が絶えないし、常に余裕がある。

カナデも、美少女だ。黒髪で大人しくしていれば楚々とした美少女だが、男女気にせずおしゃべりもする。クラスの女子と遊びに行ったりもする。
学校内で彼氏べったりでもない。サバサバしているところがあって、みんなの輪に入って盛り上げる。
お色気という面では「普段は意識させないけど、たまにアラタ見てる視線がヤバい。あれはヤバい。あんな視線で見られたらもうダメだ」と須田ちゃんも認めるところだ。
精神年齢が高校生の遥か上なので、余裕がにじみ出ている。偉ぶっているというより、見守っている感じだ。

同族嫌悪に近いのかも。
カナデも「もう少し可愛げがあればいいんだけど、押しつけがましいというか、仕切りたがりなところがちょっと」と笑っていた。
エリカも一度「カナデいいよね~。余裕があって。あたしとキャラかぶってるけど、あははは」だってさ
まあ、女子は難しい。

無住心剣流剣術という古い流派がある。今は色々あって現存はしていないが
「相抜け」という概念を生んだ剣術流派である。俺はこの「相抜け」好き。

相打ちというより、技量と精神が同調し決着がつかない、そして剣を鞘に戻す。
そんな感じだ。武神の俺でさえこの解釈が正しいか自信はないが、気持ちも体も傷つけない「相抜け」思想は割と好きだ。

で、目の前のブルマ姿の千葉エリカは、息を乱すこともないが手ごたえの無い相手に首をひねっている。
自己加速や幾つかの魔法を利用しているが、俺も同等の魔法や技術を用いて彼女と渡り合っている。
いや自己加速に関してはエリカの方が上か。

桐原&壬生のカップルだけか?俺のやってることを理解しているのは。
千代田花音は「ねえ、どうなの?」と司波達也に聞いている。お前・・・。

エリカの突きに合わせて、俺も突きを出す。それを嫌うエリカは体を崩す。
俺も少し崩れ、隙が出来るがエリカもできるので距離を取る。

試合が終わると「ねぇ何なの!?手を抜いて引き分けたの!」
エリカがお怒りだ。十文字さんも顔つきが険しい。
その十文字さんを先立って俺は答える。
「エリカ、お前『相抜け』ってわかるか」
そう言われて、エリカは真面目な顔になる。俺が何をしたのか、『相抜け』とは何なのか思い出したか?
他の面々は理解していないのか。もう少し日本の剣術流派とか調べてみろ。
楽しいぞ。田宮流とか無外流とか、タイ捨流とか、オタク知識が増えるぞ。

十文字さんは『相抜け』を知らないのか不機嫌な顔になる。
「で、三試合目はどうします?」
「フィールドを使う。準備しろ」
あ、もしかして十文字さんが相手?




関重蔵の出来ることの一端ですよ~という話。
白兵戦闘なら十三束やエリカでは勝てないです。
エリカが山津波を使えば可能性が!とも思いますが、当てることが前提です。

今回は実現しませんでしたが他の相手の場合(重蔵は素手、相手はCADあり)は

対レオンハルト
呂剛虎と同じです。合気で転がしてお終い。硬化魔法が切れた瞬間に打撃を入れるか、チョークスリーパーで落とすかで決着です。

対桐原、対壬生
エリカと同じ扱いです。場合によっては一太刀目で決着です。

対沢木戦
十三束と同じか、空気甲冑の場合は別の手段を使います。合気は便利。

対お兄様
無理。

対雪光
速度で負けるので発動前に捕まえればワンチャン。または想子剣ではなく素手なら殴られた瞬間に捕まえて合気。

対光夜
発動速度と戦闘開始の距離による。でも厳しいかな~。

対カナデ
今のところ引き分け。


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余話:戦わないのも戦術ですよ

まあ主人公だからね。


「エリカ、相抜けとは」
達也がモニターから目を離さず、先ほどの試合後でアラタが言った言葉の意味をエリカに聞いた。
言われた時にエリカが表情を硬くしたので意味を知っているのだろう。
周りの面々エリカの解説を待つ。

「なんていうか、相打ちのもっと上のレベルでの話のことよ。お互いの決め手を外させて相手も殺さず、自分も死なず、負けの無い状態っていうの、そんな感じ」
エリカは説明しながら少し不機嫌になる。狐につままれた感じを思い出した。
先ほどの試合で「相抜け」と言われてエリカはハッとした。相打ちとは違う。
負けて悔しがることはない。どちらかというと不思議な感じで、それを誤魔化す様に怒った。
心も体も一ミリも傷ついていない。本当に不思議な感じだ。

エリカの説明に納得したのか納得しないのか達也がうなずいた。
「それって引き分けじゃないの?」
千代田花音は納得できずに声を出すが壬生紗耶香が「まあまあ」となだめる。

「スタート地点についたぞ~」
モニター隣りのスピーカーからアラタの声が聞こえる。
ギャラリーは視聴覚設備のある部屋で訓練フィールドの画像を見ていた。
流石にフィールド全面を映し出すことはないが、8分割されたモニターには離れたところで準備を完了させた十文字とアラタが移っていた。
二人ともモノリスコードで使うプロテクターをつけている。

三試合目の相手に立候補した十文字の提案で、殺傷レベルが高くなければ「魔法」も「武術」ありとなった。
十文字としては理由はどうであれ、全力で戦う者への礼を失した行為と思い制裁のつもりでもある。

試合時間は30分。フィールドは野外フィールドの遭遇戦。

「では試合スタート!」
フィールドのスピーカーから千代田花音のスタートを告げる声がする。



「残り時間3分!」
千代田花音の声がフィールドに響く。

十文字は焦っていた。
試合開始後すぐにアラタからの攻撃があった。
サイオン弾を細かく発射、濃い煙幕、突然の爆音、いろいろと手を出してきたが
森の中に逃げ込み、十文字がそれを追い駆けた。
追いかけると森の中でもアラタはサイオン弾や煙幕を使い、
十文字はいつの間にかアラタを見失っていたのだ。

そして残り3分となった。
(どこにいる!)

時折、牽制で周辺に攻撃をするが、回避、逃走のリアクションはない。

「終了!」
スピーカーからは時間切れの宣言がされ、引き分けが決まった。

「戦わないのも戦術ですよ」

十文字の背中に声をかけたのはアラタだった。
「お前、どこにいた!」
怒るつもりはなかったが、声が荒くなった。十文字はすぐに興奮した自分を感じ呼吸を整える。
「話しても信じられないと思うので、みんなと合流して聞いてみてください」
そう言ってアラタは先にギャラリーのいる視聴覚ルームへと向かった。
何ともつかみどころのない相手だった、と十文字は悔しさ混じりに思う。
十師族にして十文字家の次期総領。そして九校戦におけるモノリスコードの覇者。
並の軍人魔法師よりも強大な魔法師。
それなりの自負があったが、それが軽く躱された気分だった。

視聴覚ルームに戻ると、アラタは光夜にハイタッチしようと手をあげるが光夜は無視。
「お前、ボッチか」
「趣味じゃない」
そう言って、アラタは着替えるため更衣室へ向かった。

入れ替わりで十文字が入ってくる。
「俺はどうやって負けた」
室内にいたギャラリー全員に問いかけるよう言った。
負け方を説明したのは司波達也だった。

「開始直後の戦闘で十文字先輩を森に引き込んだアラタは、森での攪乱後、十文字先輩の真後ろにピッタリいたんです」
「後ろに?それは森での戦闘後ずっとか?!」
十文字の体感で森の中で行われた戦闘は試合開始から10分も経っていない。
その後20分以上もフィールド内を動き回る十文字の後ろに付き、存在を悟られないよう行動した。
信じられないと十文字は首を横に振る。

「十文字君、まぎれもない事実だし、ここにいたみんながモニター越しだけど確認しているわ」
真由美の慰めるような声が試合の引き分け、そして十文字克人の事実上の敗北を改めて伝える。
「相馬君は、私たちが思っている以上の武術家なのね。あの九重八雲が認めるのも納得だわ」
真由美は自分の仕掛けたいたずらが、予想外の驚きと友人の自信を傷つけたことを反省した。

「まあ、これで来年の九校戦も大丈夫そうだな!あれだけ出来る奴がいるんだから!」
桐原が沈んだ空気を盛り上げようと努めて明るく言う。
だがそれを千代田花音が踏み抜く。地雷は伊達ではない。
「でも魔法とは関係ないでしょ」



関重蔵は経験上、魔法師が戦闘、戦場におけるやりがちな失敗をいくつか知っている。

・魔法師は非魔法師との戦闘において、なぜか魔法師にアドバンテージがあると思っている。

・魔法師は戦闘において注意を払うのは「相手の魔法の種類」と「魔法を知覚すること」が主で、戦場における周辺環境を積極的に注意はしない。

・魔法師が戦場において分析、知覚するもののTOPが「自分の魔法使用に必須な構成要素」であり、その他の戦場を構成する要素を御座なりにする傾向がある。

・魔法師は障壁などの防御方法に頼りがちで敵の正面に立つことが多い。

・魔法師同士の戦いは隠れない

・自分は敵を見失わないと思っている

・魔法の方が銃器や格闘より早いと思っている

他にもあるが重蔵が思う魔法師の失敗は凄腕の魔法師であればある程、陥ったときのしっぺ返しが大きい。

(十文字の坊ちゃんも、少しは自省したかね)
更衣室のシャワーでさっと汗を流し着替える重蔵は将来の十師族の顔が成長してくれることを願っていた。

普通に正面からの戦闘ならば十文字克人のファランクスは圧倒的だ。
関重蔵の超人的肉体でも一瞬で潰される可能性が高い。
だが今回は相手が悪かった。
魔法師を良く知る超人的兵士が相手であり、
「十文字を打ち負かすこと」を勝利条件にしていない場合は、十文字の魔法師として実力が十二分に発揮できない。
逃げに徹されると、十文字では追いきれないのだ。

魔法師としての才覚・能力では関重蔵と十文字克人の間には雲泥の差があるが
実戦経験者としての実力差はその立場が逆転する。

(2年ばかり軍隊でしごけばモノになるけど、さて将来はどうするのやら)
重蔵が更衣室から出る時にばったり会った。
「いい勉強をさせてもらった」
機嫌はあまりよくなさそうだ。口調が固い。
「いえ、自分も少し調子に乗り過ぎました。すいません!」
謝ったが十文字の表情は変わらない。
重蔵はそそくさと退室した。

(俺はまだ強くなれるのか?)
十文字克人18歳はまだ成長の余地を残していた。





はい、十文字が事実上敗北です!
正面戦闘だったら重蔵が勝てるか不安ですが、鬼ごっこでは実力差が出ましたね~。

関重蔵の持つ4つのチートを組み合わせ、勝たないことに徹すればこのくらいできます。
というか、十文字ではなくもう少し危機感や危険意識の高い相手ではこうはいきません。
吉田幹比古とか、司波深雪、服部刑部などが相手だともう少しやり方が変わるでしょう。

そういえば吉田幹比古、九校戦から出てないな・・・。


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俺はモーリーに泣きついた

第一部完!


十文字戦から数日。

風間さんと定期連絡し十文字戦の話をしたら「村井大佐はこの苦労をずっとされていたのか」と言われた。
そうなのよ。

「真剣な話、お前をうちに置いたのは敵対しないためだ」と異動の真意を言われた。
「高い評価どうも」
「お前が下手な部署で内部調査始めたら、うちの手の内がバレるからな」
モニターの向こうで肩をすくめる風間さん。部下が見たら珍しい光景だろう。
「それだったら、今のうちに藤林少尉を防諜向けに仕込んだ方が早いよ。あれは筋がいい」
「そうしたいところだが、使い勝手が良すぎて重要な仕事を任せていてな」
困り顔だ。他に当てはないのか?
「柳大尉は、あれは前線だな。真田大尉は?」
「いや技術畑だ。誰かいないか?」
何人か、第二班だったころの部下の名前を出した。
ただ非魔法師なので、旅団の性質上魔法師の方が望ましい。人員を引っ張ってこれるか微妙だ。
いくつか防諜体制拡充に向けて話をし、俺の紹介という形で情報部の佐官を講師として防諜研修を行う方向になった。
あとカナデとの関係を伝えると
「藤林から聞いていたが、責任はとれよ。大隊の解散理由が痴情のもつれによる九島老師の激怒じゃシャレにもならん」
「披露宴には呼ぶよ」
今日一番の風間さんの困り顔で定期連絡は終わった。



十文字戦は意外と校内で話されていない。
というのもギャラリーの面々が意気消沈する十文字さんを気遣って、あまり外部に話をしていないらしい。
一応模擬戦の動画は閲覧可能なアーカイブに入れられるが、殆ど閲覧されていない。
それよりも問題はこっちだ。

「モーリー、試験のヤマ教えてよ~」
「うるさいな!こっちだって、試験勉強くらい自分のペースでさせろ!」
食堂での昼食。
俺はモーリーに泣きついた。試験時期なのだ。
既に部下には魔法大卒の新任少尉はいないので、勉強は自分でやるしかない。
カナデに「勉強教えて!」と言ったが「う~ん、どうしようかなぁ」とはぐらかされた。
意地悪顔も可愛いのである。

意外と勉強のできるモーリーに試験のヤマを聞いたが怒られている。
光夜は「教えるのは苦手だ」でばっさり、雪光は「弱点ぐらいないとね~」とこっちも意地悪な顔しやがった。
昼食のトレーを持ちながら男二人で座る場所を探すと、ちょうど司波達也一行と鉢合わせした。
司波達也、司波深雪、千葉エリカ、西城レオンハルト、吉田幹比古、柴田美月、光井ほのか、北山雫だ。
「あ、司波兄!お前、筆記得意だろ、こいつ引き取ってくれ!」
テーブルの脇を通る時に、モーリーは司波達也に俺を顎で指しながら言った。
モーリーは深雪を「司波さん」、司波達也を「司波兄」と言っている。本人曰く「わかりやすい」らしい。
司波達也も「俺が司波深雪の兄なのは事実だしな」と気にはしていないようだ。

「森崎、なぜ俺なんだ。深雪もいるし、ほのかも雫もいるぞ」
司波達也の冷静な返しに、モーリーは近くの空いたスペースに着席しながらさらに返す。
「レオに教えてるんだから、人に教えるのは得意だろ」
「あ、なんだその言い方。俺は別に勉強できないわけじゃないぞ!」
引き合いに出されたレオンハルトが、モーリーの言い草にモノ申した。
モーリーもモーリーで
「じゃあ聞くが、レオ、お前は前回の筆記どうだった?」

「「う」」

そう言われて、俺とレオは言葉が詰まった。
あまり思い出したくない。
「一科、二科関係なく日頃からちゃんと勉強しろ!」
ド正論を言われ、俺とレオはほぼ同時に

「「勉強教えてください」」

と司波達也に頭を下げた。



「ふふ、達也と勉強会ね~」
カナデは紅茶を飲みながら昼にあったことを笑った。
「あ~、もっと勉強しときゃよかった」
テーブルに突っ伏して呟いた。
いや、授業にはついていけるが現在最先端の魔法の講義はおっさんには厳しい。
20年近く前に習った理論が、時代遅れの理論扱いで下手に知識がある分理解に時間がかかる。

「で、光夜はなんのようなんだ?」
いつもの人のいない喫茶室。周辺の景観はあまりよろしくない。ロボ研の建物が窓から見える。
「さあ?いきなりなんだろね?」
雪光も目の前のケーキセットをパクつく。
そう言えば風間さんが「雪光君も魔装大隊に入れたい」とか言ってたな。
三校にもイキのいい奴いるから全部まとめてリクルートしてしまえ。

「待たせた」
光夜が重い空気を纏って来た。
おい、なんだ?中条会長に副会長解任とか言われたか?
あれだけ生き生きやってた生徒会業務外されて凹んでいるのか。

光夜は椅子に座ると
「留学生の情報が入ってきた」
留学生?あれ、たしかスターズのリーナが来るんだっけか。目的はパラサイトの退治。違ったか?
雪光がケーキを食べ終わる。
「あれだよね。北山さんと交換留学名目でUSNAからリーナが派遣されてくる来訪者編」
「そうそう、でも周公瑾はこっちにいるから、相当未来は変わるわ。ちょっと先が読めないわ」
カナデの未来知識で周公瑾がキーマンらしい。あの人、どう扱おう。
光夜は二人の発言にうなずく。
「だが、それは大きく変わる」
手にしていたタブレットを見せる。何となく声が震えている気がする。
「先ほど中条会長から教えて頂いた」


タツヤ・クドウ・シールズ??????????

タツヤ・クドウ・シールズ??????????

タツヤ・クドウ・シールズ??????????

タツヤ・クドウ・シールズ??????????

タツヤ・クドウ・シールズ??????????

タツヤ・クドウ・シールズ??????????


タブレットに映し出されたのは、フォーマルなジャケット姿の少年。
落ち着いた表情に黒髪で黒い瞳。アジア系、いや日系か?
どうやら留学生用の提出資料のようだ。

ん?
司波達也に顔つきが似ている。

雪光もカナデも無言だ。俺と同じ困惑と驚きがない交ぜの表情だ。
5分近く誰もしゃべらず、タブレットの写真を睨んでいるとカナデのタブレットが振動した。
メールなのか、突然の衝撃が抜けないまま虚ろな目でタブレットを操作する。

「なによ!」

突然の大声に、俺も雪光も光夜も体を驚きで震わした。
カナデは手にしたタブレットを俺たちに向けて見せる。

『アンジェリーナ・クドウ・シールズが二校に留学してくる』

送信元にはカチューシャと記載があった。
カナデが横浜で知り合った転生者の名前のはずだ。
光夜にきつい対応された話は先日聞いた。

カナデの大声も理解できた。
俺たちの来訪者編は今までの比ではない波乱が起きるかも知れない。



第二部は著者が斜め読みしていた来訪者編の読み直しが終わったら。

第一部のアレコレの話。

・九校戦でのモーリーの怪我
最初は須田即入院で、モーリーは意識のある状態での重傷。
モーリー相手校に重傷のまま怒りの殴り込み。周りも止めようとするがモーリーアドレナリン出まくりで止まらず。渡辺摩利が調香した鎮静作用のある香りで無理やり落ち着かせる。
アドレナリンが止まり、アドレナリンでごまかされていた傷の痛みが一気にモーリーを襲いモーリー失神。
須田の入院手配をして現場にいなかったアラタがその話を聞いて渡辺に「くそ素人が!」と一喝するというシーン。

あまりにも渡辺先輩が馬鹿扱いなので止めた。

・vs呂剛虎
学校云々よりも、重蔵の趣味ということで洋楽をガンガン鳴り響く中での戦闘!を考えたけど、工作員にしては派手過ぎるので断念。
著者は戦闘シーンはsaturday night alright for fightingをエンドレスで流して書いてる。

・黒城兵介
転生者組だと、一番扱い難くて扱いやすい。
本来はもう少し腹黒いイメージで、横浜騒乱時のカチューシャとのコンビも想定していたけど雪光のモノリスコード時の相手と意識したら一気にこういうヤツになった。

魔法不使用時の身体の頑丈さだとレオよりも上。
兵介>レオ≒関重蔵>頑丈なメインキャラ>>一般人くらいのイメージ。あくまでイメージ。

・周公瑾
普通の周公瑾のはずが、感想でアレコレ書かれていたので度肝抜かせてやろう!と奮起して憑依系転生。
もうね、周公瑾の横浜騒乱編後の行動を確認するの大変。

・カチューシャ
もっと冷酷で悪人然とした「女版光夜」のつもりが、状況が大きく変わり過ぎて膝カックンを食らって驚く感じになってしまった。
本来はもっと凄いのよ。

・雪光
もう少し悪戯小僧的な立ち居振る舞いする予定が、末弟として可愛がってしまった。
兵介との絡みは書いてて楽しい。

・光夜
どうしてこうなった!

・カナデ
ジュークボックスで一気に化けた。もう少し脇役のつもりだったが一気にヒロインに。幸せになってもらいたい。
ちなみにウエストからヒップラインが凄いいい(妄想)

・「貸一つな」
重蔵が殴られるシーンはもっと長くて、描写も少し細かく書いていたが書いてて「ちゃんと書くとテンションが下がる」という理由で簡素化。

・「それもフレアスカートのミニ」
う~ん、重蔵もカナデも大人だからいつかはSEXするよね。会話で誤魔化した。偉いぞ、俺。

・森崎駿&須田渉
癒し。

・関重蔵
主人公だけど、「活躍」は地味。呂剛虎との戦闘までは派手な行動はほとんど無し。地味。
コブラと、冴羽遼のセリフ回しの偉大さがよくわかった。

・感想&感想返し
真面目に受け取り過ぎるとモチベーションへの影響があるし、感想くれたお礼に感想返ししたいし。
そうだ!好きに書こう!



なんで毎回ネタ書いてるんだよ!俺!ばかばかちんこ!



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余話:あれで性悪扱いなら、まだまだ視野が狭いねエリカ嬢

まいった。
本当は年末にかけて対策会議をしなければならないがお邪魔虫に張り付かれてしまった。
千葉エリカ。千葉家の総領娘で、剣術の天才、としておこう。
美少女で二科の人気者。

「ちょっと、これだけお願いしてるんだから少しは融通しなさいよ」
「なんで頼む方が偉そうなんだよ。嫌だよ」
この数日の食堂ではだいたいこれだ。
千葉エリカから俺へのお願いは「道場に来て稽古つけてくれ」だ。
どうやら俺の剣術を盗んで成長したいようだ。
嫌だよ~。面倒だよ。というか、他人の道場に乗り込んでいきたくない。ぼこぼこにされてお終いだよ。道場破りは戸板に乗せてお帰り頂くのが習わしって松尾象山も言ってるじゃないか。
「俺の流派は」
「秘伝武術で見せたくない、でしょ。うちの道場で少人数でやるからいいじゃない」
周りにいるいつもの面々、司波達也と愉快な仲間&モーリー&須田コンビもこの話題に飽きているのか全然気にしていない。

須田ちゃんは最近見た恋愛映画の話をしてほのか&雫のコンビが興味津々になったり(司波達也と自分に置き換えている確率75%)、今度の試験について深雪副会長と美月とモーリーが試験範囲について真面目に話、それをレオが聞いて頷く(お前、俺と同レベルなら勉強しろ)。
幹比古と司波達也が今度販売されるCADについて古式魔法への応用について話している。
誰も助けてくれない。カナデはカナデで女子の友達と別のカフェテリアで昼食している、はずだ。

「お前な~、流派の秘伝を見せろと言われて見せる奴いないだろ」
「あたしは別に。真似できる奴なんていないし」
頭が痛い。今は雪光、光夜にこれから起きる未来年表の作成をお願いしている。
来訪者編から先、特にパラサイトを使って色んな事件が絡み合っていくことを予想するに
誰がどんな思惑で動くのか把握しておきたい。
一番遠い未来まで知る雪光にその辺りをまとめてもらっている。

多少時間があるとはいえ、お嬢様のわがままには付き合う気はない。
というのも、風間さん経由で支援課時代と同じようなリクエストが色んな部署から俺宛に来ている。
どこかのビルに今晩忍び込んで盗聴器仕掛けろとか、某国大使館職員を追跡して家族関係把握しろ、今すぐUSNAのセーフティハウスとフロント企業に忍び込んでハッキングツールを仕込め、だの。
無茶なもの以外は受け入れている。というのも魔装大隊と諜報系の間に関係を作る必要があったからだ。
支援課時代は仕事だが、大隊所属になった場合は貸し借りの話になる。

そしてその貸し借りは絶対にこの先の大隊に必要となる。
今は戦場でドンパチするよりも、お互いの腹の探り合いの時期だ。
いつか来る主力軍隊同士の衝突までに有利に立つための下準備だ。
だからといって学生を夜中に新宿の高層ビルに忍び込ませるのはどうかと思うね。

それはそれとして、目の前の小娘だ。
「だから」
「だからって、あんたにあたしのブルマ姿見せたじゃない。それのお返しよ」
「屁理屈だ!」
そんなことでワーワーギャーギャーしているわけだ。
これなら、剣術の試合は負けりゃよかった。自業自得となった。
だが、拒否だ。条件つけてOKしてしまうと、今度はまた別の条件で話をしてくる。
こっちの言い分は「嫌だ」で全部通す。

「少しくらいは譲歩したら」
そうは言ってもカナデさん、ってカナデがエリカに助け舟を出した。
というかこっちに顔出しに来たのか。
「ほら、彼女もOK出してるんだからいいでしょ!」
エリカは勝ち誇った笑顔だ。ちくしょー。
「ただし、条件。その1、ちゃんと保護者同伴で稽古する」
そこにカナデの声が下りてきた。条件付けか。
今度は俺が勝ち誇った顔をした。
「その2、稽古には当主は同席しない」
もちろん、そうだ。俺の武術は秘伝なので他流派には見せたくない。
ただ、不破流など存在しないのが肝だが。
「その3、あたし千葉家に遊びに行ってもいい?」

あ、そうか。上手いな、カナデ。今晩キスしよう。

彼女は「千葉の長男」に会いたいのだ。つまりは姉である藤林響子の恋人候補だ。
千葉家におけるエリカの保護者であり、当主で無い人物。そして道場に出るだけの立場。
該当するのは長男か次男になる。たしか長女もいたはずだが、詳しくは知らない。
千葉寿和、将来死ぬ可能性のある人物。詳細な状況は知らないがwikiには死亡の記載があった。

「え、何よ!その条件?!」
条件付けに不満なのか、最後の条件に不満なのか。エリカの声は最後の一つな気がする。
「最初のは、無理な稽古を強要しないようにお目付け役。二つ目は、秘伝を他流派の当主に見せるなんてナンセンスでしょ?」
「最後は?」
ほら不満な声だ。
「単に好奇心」

「エリカ、条件を飲めば稽古に来てくれんるんだ。どうする?」
横から声が出る。司波達也がいい加減にしろ、と言いたげだ。
「う~」
条件付けが嫌なのか、カナデに主導権を取られたのが嫌なのか頬を膨らませている。
小動物か。モーリーだって「ぐぬぬぬ」とか言って人間らしい反応するぞ。
「じゃ、お兄さんの非番の日でスケジュール調整しといてね」
そう言ってカナデは俺から離れて、他の友達の方へ歩いて行った。

うわ、うまい。これで当日の保護者は警察官の長男に誘導された。
エリカの兄が警察官なのは横浜騒乱にいた面々には周知の事実だ。
違和感なくその長男をイメージさせる言い回しで誘導するとは。
藤林姉妹は本当に諜報向きだ。

「アラタ、あんたの彼女ちょっと性悪過ぎない?」
「あれで性悪扱いなら、まだまだ視野が狭いねエリカ嬢」



「足運びが遅い、振りと体幹がちぐはぐ、視野が狭い、意識が手内に集中している」
ボロクソである。俺の横では千葉寿和氏が苦笑いである。

千葉家の道場には俺、カナデ、エリカ、千葉寿和そしてレオの五名がいる。
「ほら、どうした。レオの細部を見るな。輪郭を見ろ、輪郭を。全体を見つつ、細部を観察するんだよ」
俺の声に反論せずに、エリカはレオと型を繰り返していく。
真剣な顔半分、最後の矛盾した言葉に怒っているのか表情が硬い。
それでも俺はエリカの悪いところ指摘する。
「動くな、止めるな、矛盾を矛盾せず動け。意識していることを無意識に、無意識なことを意識してやれ」

結局あれから2日後、千葉寿和警部殿が非番というので、放課後に千葉家へカナデとお邪魔した。
エリカの相手役としてレオも来ていた。今日のやられ人形君その1である。
で、カナデを除く四人は稽古着に着替えて稽古開始だ。
前回のでエリカの腕前はわかっているので、今回は成長のためのステップワンだ。

「お兄さん、厳しくなりますが口出し無用で」
「わかっているよ。まあ、我慢不足なところもあるがよろしく」
「ちょっと兄貴!余計な事言わないで!」とエリカが酷くご立腹だ。次兄以外は人間の屑扱いか。
で、最初に戻る。

幾つかの型を延々と繰り返し、エリカの悪いところを口頭で説明する。
「身体を動かす時に、筋肉を意識するな。身体全体は水だ。水。流れるように淀みなく動く。速さは瞬発力ではなく滑らかさ」
ぼちぼち初めて1時間。
「おし、休憩~」



道場の真ん中で大の字で倒れ込むエリカ。相当ばててるみたいだな。
「にしても見事な指導だね」
千葉寿和が感心する。お前、意中の人の妹がいるからって大人ぶるなよ、若造が!お前も九島烈に圧力掛けられてしまえ!
「いえ、うちの師匠に言われていたことを言ってるだけです」

「おーい、大丈夫か」
「・・・だめ」
上から覗き込み心配するレオにエリカは一言返すだけだ。
カナデがタオルやら水やらもって介抱しに行く。

「魔法なしの剣術だとエリカは千葉家じゃどんなもんなんですか?」
「大抵の門人よりは上だよ。ただね、エリカは魔法前提の稽古が多いから、純粋な剣術だとね」
「さーやには勝ったわよ!」
大の字のままエリカは反論する。まだ息が上がってやんの。同じ稽古を防衛大上りに指導した時は1時間で同じ状態になったから、エリカは防衛大卒とどっこいのスタミナかな。
「さーやって?」
「確か数年前の女子中学剣道の有力者で、一校でも剣だけなら渡辺摩利さんより上っていう剣士ですよ」
「へ~、あいつの彼女より強いのか」
「あの女の話はしないで!」
俺と千葉の長男坊との会話に寝ころんだまま割り込むとは器用な。ブラコンな。長男も寂しがるから、優しくしてやれよ。社会人は家の外で傷ついているんだからな。
「よし、そんだけ元気あるなら次の稽古するか」

俺対エリカ&レオによるハンデ戦。
「ほれほれ、どうした」
先ほどエリカに話した「動くな、止まるな」の実演である。
俺は武器なし、二人は木刀だが一太刀も掠りはしない。
前後左右と緩急をつけつつ、重心のコントロール、視線誘導を駆使して二人を翻弄するのだ。
「幻」とか「陽炎」と言われる技術の初歩だ。
二人の目には、振り下ろした木刀が俺の居たところを虚しく通過するだけだろう。

おふふふ、もう少し上の技術もあるが君ら相手にはこんなもんだよ。
「レオはもっと視野を広く。エリカ、水だ水。もっと滑らかに。動きにタメを作るな」
そんなことをしていると道場に新たな人物が来た。

千葉の麒麟児、3m以内なら世界十指、彼女とおそろいのジャケットを着る男だ。



カナデは千葉長男としっかり挨拶できた。
「姉にも伝えておきますね」とカナデに言われてデレデレだ。
お前、九島の爺の相手大変だぞ。ちゃんと貯金しているか。九島相手だと公務員は安パイじゃないからな。

千葉長男は「最近はまだ忙しくないのでいつでも空いてます!」と
カナデに伝言していたので、吸血鬼事件で警察省が動くことはレベルでは起きていない。
USNAの何とか実験はもう行われたのだろうか?
周公瑾の手引きがないからずれ込むのだろうか?

横浜騒乱といい、吸血鬼事件といい、事件のスタート合図は千葉長男だな。

さて、俺は俺で千葉次男と勝負をした。
次男が出てきた瞬間の「次兄上!」という学校では聞けないエリカの声音には笑いそうになった。
その優しさを長男にも向けてやりなさいな。社会人の苦労は労わってやって。
俺の稽古を見ていた次男を長男がけしかけたのが、一本勝負の始まりだった。

ルールは俺は魔法なし、次男坊は魔法アリ、ただし移動や自己加速等だけで、殺傷能力を上げるのは無し。
スゲーのな、次男坊。世界十指は伊達じゃない。
俺の「幻」「陽炎」「幻馬」の妙技に全部対応してきた。
それだけじゃない。本気になったのか移動魔法を駆使して、「幻」のような足法を見せたのだ。
呂剛虎の歩法は80点だが、千葉修次には90点あげる。

結局勝負は引き分け。相抜け狙いではなく、このまま行くとお互い本気の本気になるので適当なところで止めた。
「もし、良かったら防衛大で稽古つけてくれないか!」
次男坊にすごっく熱い握手をされた。
「え、秘伝なので無理」と答えたらしょぼくれてた。
千刃流鍛えてろ!長男は九島入りするから道場継ぐのお前やぞ。

「今日はありがとね」
帰路でカナデにお礼を言われた。そこはかとなく嬉しそうだ。
「まあ、千葉長男次男と顔つなぎするにはいいタイミングだよ」
「ごめんね、条件つけて。諜報員は目立っちゃダメなんでしょ」
今回の稽古をおぜん立てし、千葉家に顔をさらしたことを気にしているようだ。
「それは光夜に言ってやりなさいな。あいつら俺が潜入諜報員だとすっかり忘れてるぞ」
あいつらとは司波兄妹とボッチだ。
模擬戦にしろ、今日のことにしろ発端はあいつらのお喋りからだ。も~。
釘を刺しといたほうがいいかな。横浜騒乱が終わってお互い気が緩んだ。

横浜は民間人の被害はゼロ。建築物も被害は小さく、国防軍も重軽傷者はいるものの
死者はなく、大亜連合の侵攻作戦に対してほぼ完ぺきに抑え込んだことになる。
一校で呂剛虎と戦った兵士では死者が一名出た。
彼は日本の国防を守った人間だ。
呂剛虎が素通りで図書館に行ったのなら、俺は間に合ったかどうかわからない。
日本の魔法技術の海外流出を抑えた勇士は俺ではなく、あの場で呂剛虎と交戦した面々だ。

「お姉さんをもう一度泣かせたくない」とカナデは言った。
千葉寿和の死亡で藤林響子は泣くのだろう。
俺が横浜騒乱を止めたかったように、カナデは千葉寿和を助けることで姉を悲しませたくないのだ。



考えたら関重蔵の実力を戦闘で見たことある登場人物皆無なんだよな~。
全部デモンストレーションでしか、重蔵の実力を知らない。


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余話:いいのよ、発言をして。許します

感想200件記念投稿。


「おじい様、新年おめでとうございます」
「奏」
「はい、おじい様」
「お前は利発で、聡明で意志が強い。それは美徳だ。響子にも劣らぬ魔法の才。それを過度に誇ることもなく自然体で生きる姿は美しい」
「お褒めいただき、ありがとうございます」
「だが交際相手は選びなさい」
「何か?」
「あの関という男と会ったよ」
「おじい様は別れろと」
「あれは独立した一人の男だ。どこに行っても仕事を得、生きていくことが可能だろう」
「それはいいことだと思いますが」
「だがお前はまだ16歳だ。あれはもう30を超えている。お前が20歳になる頃には倍の年齢だ」
「そうですね」
「年の離れた男はいかん」
「いかんと言われましても」
「いかんのだよ。克己心もあるが反抗心もある。決して鎖に繋がれる男ではない」
「おじい様、年齢の話からずれました」
「反抗心のある男が九島で生きるのは厳しい。藤林は分家だ、肩身の狭い思いからその反抗心は」
「婿入りではなく嫁入りでいいかと思います」
「いかんのだ・・・いかん」
「高校在学中の避妊はお願いしてあります。結婚の際はおじい様のお力で後方勤務に調整いただければ、奏は嬉しく思います」
「お前まで、あの男と同じことを言う!」
「子供は3人ほど欲しいと思います。一人にはおじい様の烈の文字をいただければ嬉しいのですが・・・ダメですか」
「ぐぬぬぬぬ」


四葉の新年の挨拶は例年以上にピリピリしていた。
四葉真夜と深雪を筆頭とした四人が東京からモニター越しに会見したことが引き金だ。

四人が東京に住むことになり、もう数日で入学式となったある晩だ。
真夜が全員に入学の祝いの言葉を与えていた。

正しくは「深雪と雪光を褒め、達也と光夜を蔑んだ」のだ。
4人が見るモニターには真夜だけではなく、分家や執事たちの姿もあり、四葉家の「謁見」と同レベルであった。
「光夜さんは何か言いたいことはおあり?」
「いえ」
「いいのよ、発言をして。許します」

光夜は四葉では非常に特殊な立場だった。達也がその能力と経緯で異端視されるなら、光夜は出自で疎まれていた。
四葉元造の冷凍精子によって生まれた、いうなれば真夜の「弟」でもある。
調整体といった遺伝子調整が行われるようになったこの時代でも、光夜の出自は当主の後継問題の火種となりかけた。
光夜が成人後に分家を作りそこに押し込むことを真夜が宣言し、力業だが収束した。
当主の宣言を一族が履行する証明なのか、光夜の扱いは達也と大して変わらない。
母親と離されて、厳しい訓練へと落とされた。
使用人たちからは忌み子扱いだ。執事たちからは名前で呼ばれたことなど数えるほどしかない。

「あなたは、あの人と同じね。不満があると黙る。そっくりね」
まるで懐かしむように言う真夜に、光夜は内心で激怒の嵐を起こしていた。
(貴様が!母のことを言うな!)
「いいのよ、なにか望みがあれば言いなさい」
「いえ、今の状態で十二分です」
「欲がないわね。ほんと、そういうところも優衣さんそっくりね」
そう言って、口角をあげ真夜は微笑む。
周りの執事たちも、併せて笑う者もいる。

その姿を横目で見ていた達也、深雪、雪光は真夜の発言を恨んだ。
光夜の目が、一気に変わった。爆発する前の爆弾だ。

達也はモニターに映る執事たち、分家達の視線を鬱陶しいと思うとともに
母のことを侮辱されたと思う光夜の「感情」を羨んだ、ような気がした。
(俺には羨む感情がない。あるのは深雪を思う心だけだ。それで十分だ)
自分の心に深雪が占めていることの喜びをかみしめつつも
今の自分達の立場にはやはり脱出したい気持ちもある。つまりは自由だ。

「光夜さんも、こちらに戻ったら優衣さんのお墓参りに行きなさいね」
真夜としては、離れた肉親へ里帰りの際に墓参りを勧めただけであり、何気ない世間話の延長線上だった。
「発言を許していただけますか」
(やばい!)
(ダメです!光夜お兄様)
(何を言うんだ、光夜)
「どうぞ」
モニターの真夜は微笑む。

「若作りはみっともないので年相応の服装と化粧を」

そして新年の一族が集まる場に、光夜も来たのだ。



まあ余話なので。


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