月読調の華麗なる日常 (黄金馬鹿)
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月読調の華麗なる日常

基本的に調ちゃんが主人公な短編集になります。時系列は滅茶苦茶でキャラ崩壊も多数起こるかと思いますが基本的に毒にも薬にもならないお話です。パロディも多いです

あと、ガールズラブのタグは念のためです。まぁ、調ちゃんですから……

今回はGX一話アバン~一話A、Bパートの間の話です


 響さん達がマムを運ぶシャトルを助けてから数週間か数か月。わたし自身、最近は色々と目まぐるしく日常が変化していたしあまりそこら辺は覚えてない。

 けど、わたし達がリディアンに通うようになって、響さんやクリス先輩の後輩になって、それから幾日かはもう経っている。

 わたしはマリアが部屋に居ない間は基本的に切ちゃんの分の家事もやっているから、人よりも少し忙しい生活を送っているっていう自覚はある。

 だから、この日の休み時間はわたしの席が窓際で陽が当たるからって理由で少し船を漕いでいたのは決して悪いことじゃない。

 こうしてお日様に当たってウトウトしていると、何だか幸せな気分になれてとっても人生を得している気分になる。

 学校で寝るのは少し行儀も悪いし、素行も悪いんじゃないかって思われるかもしれないけど、お昼休みだしそれくらいはいいよね?

 

「でぇぇぇす……」

 

 って自分に言い聞かせて、隣で宿題用のノートに顔を押し付けている切ちゃんに助けを出さないようにしていたけど、やっぱり出さないと駄目だよね……

 今回の古文の宿題、凄く難しかったし。

 切ちゃんだとちょっと提出期限の明日までにできる気がしない。だから未来さんに教えてもらったとき、一緒にやる? って聞いたのに。

 まぁ、わたしも未来さんに教えてもらった身だしあまり人のこと言えないけどね。やっぱり持つべきものは先輩とお友達。

 

「……大丈夫?」

 

 取り敢えず切ちゃんに助け舟を出してみる。確か、今回の古文の宿題はやらないと次の休みの日に補習があるから、次の休みに用事がある切ちゃんは宿題を忘れちゃうと大変なことになる。

 具体的にはクリス先輩が寂しがる。

 わたしもマリアと出かける用事があったしちょっと焦ってたけど。

 だから、切ちゃんの休日のため、そしてクリス先輩がドタキャンされたって後々愚痴らないため、わたしは切ちゃんに助け舟を出した。助け舟を出された切ちゃんは涙目でこっちを見て「しらべぇ~……」って泣きそうな声でわたしの名前を呼んだ。可愛い。

 

「助けてほしいデスぅ~」

 

 こっちに寄って来た切ちゃんから少し視線を外してノートを見てきたけど……これはひどい。

 えっと……何この、何? あの文は確かによく分からないけど、ここまで難解な物だったっけ……? でも、切ちゃんの日本語力はお手紙でお察しレベルだから、平静を装って切ちゃんの助けに応える事にする。

 わたしはクールな女。そして出来る女。

 

「あまり直接は教えられないけど、わたしのノートを参考にしていいよ」

 

 そう言ってわたしは切ちゃんにノートを手渡す。ノートには未来さんと一緒に勉強した時のアドバイスとか、古文の読み方とか色々と書いてあるから、きっとこの文も解けるはず。

 ただ、このノートに宿題もやってあるから切ちゃんが明日、自分の部屋にノートを忘れてきたりすると詰む。わたしも補習へ連れていかれちゃう。

 目をキラキラさせてお礼を言ってくる切ちゃんは可愛いけど、これだけは釘を打っておかないと。

 

「ちゃんと明日返してね? じゃないとわたしも補習だから」

「分かってるデスよ~。恩を仇で返すような真似はしないのデス!」

 

 胸を張る切ちゃん可愛い。

 ひとまず、こうやって釘を刺しておけば大丈夫かな。切ちゃんがノートを開く音を聞きながら、わたしはもう一回机の上で頬杖を突いた。

 外から入ってくる日差しが心地よくて、やっぱりすぐにウトウトしちゃって……このままお昼寝したら気持ちいいんだろうなぁ……あ、段々ねむくなってきて……あたたかくていいきもち……

 このままねむっちゃってもいいかなぁ……きっとだれかおこしてくれるよね……おやすみ……

 

「調? ちょっと聞きたいことがあるんデスけど」

「ふぁっ? え、あ、うん。なにかな?」

 

 ちょっと寝てたら切ちゃんに起こされた。うん、予想以上に熟睡出来ちゃいそうだから寝るのは止めて他の事やってよう。

 

 

****

 

 

 次の日。

 この日は朝から切ちゃんがドタバタしてた。何でも宿題に予想以上に時間がかかったらしくて、気が付いたら寝落ちしていたとかで今日の準備をしていなかったとか。

 それと、実は朝からちょっとSONGから招集がかかって、適合係数を測ったり色々とやってたっていうのもあった。

 学校の方は午前中は公欠したけど、午後からは何時も通りに学校へ来た。

 

「いやー、疲れたデスなぁ……」

「仕方ないよ」

 

 こっちは色々と助けてもらった上に、こうやって普通の生活を送れるようにまでしてもらったんだから。大人の人達は「学校の方を優先してくれてもいいんだぞ」って言ってくれたけど、学業も装者としての生活もどっちも大事。

 わたしもその内、LiNKER無しでちゃんとギアを纏えるようになりたいし。この歳でお薬にズブズブとか嫌だからね。

 で、今日の午後は古文があって課題提出の時間。だから切ちゃんからノート返してもらわないと。昨日は切ちゃん、結構遅くまで課題やってたからノートまだ返してもらってない。

 

「切ちゃん、ノート」

「およ? あ、そうデス。ちょっと待つデス」

 

 切ちゃんがいつもの様な笑顔でカバンを膝の上に乗せて中に手を突っ込んだ。

 

「いやー、ホントに調のノートには助けられたデス。これが無かったら今でも終わって……!?」

「切ちゃん?」

 

 なんかいきなり切ちゃんの表情が変わった。

 なんだろう、この表情。言葉にするなら……「やべぇ」かな?

 しかも何度もカバンに手を突っ込んで弄って顔まで突っ込んで……どうしたのかな? ノートがかなり奥のほうに入っちゃったとか、少し折れちゃったとかかな? それくらいなら気にすることないのに……

 

「調、少しいいデスか?」

 

 切ちゃんの顔はまだやべぇって顔のまま。何でそんな顔をしているんだろう。

 

「この問題は、冷静に対処する必要があるデス」

「うん?」

「決して、パニックになってはいけないデス」

「パニックって、たかがノートをかえ」

「ノートを、忘れたデス」

 

 ……

 …………

 ………………

 ……………………え?

 

「………………ちょっとクリス先輩とか響さんにヘルプを」

「ちょっとおおぉぉぉぉおぉおぉぉおぉお!!?」

 

 思わず声を荒げて切ちゃんに掴みかかった。

 え、どういうこと? 昨日ちゃんとやってたよね? なんで忘れ……まさか、単純にカバンの中に入れ忘れていた? え、ちょ、それマズいってあの先生課題を忘れたら容赦ないんだよ!?

 

「おおおおおお落ち着くですしらべべべべべべ」

「どうするの!? わたし補習の日はマリアと出かける予定があるんだよ!? 久々にマリアと出かけられるからマリアも笑顔だったのに捕習でドタキャンってマリアが悲しんじゃうじゃん!?」

「あばばばばばばばばば」

「わたし嫌だよ!?」

 

 切ちゃんのせいで何だかテンションが可笑しい方向へと向かったわたしは、切ちゃんの両肩に置いた手を動かして切ちゃんの体を回転させると、そのまま切ちゃんの両手を掴んで交差させて切ちゃんの体をガッチリホールド。

 

「受けなくてもいい補習受けるなんて真似ぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

 後はそのまま切ちゃんの股の間に顔を突っ込んで肩車の要領で体を持ち上げ、情けも容赦もなくジャパニーズオーシャンサイクロンスープレックスホールドを決める。周りからは歓声が上がる。

 

「うごぉ!!?」

 

 切ちゃんが変な声を出しているけどこれはお仕置き。

 

「ちょ、ちょっと調、流石にこれはキャラ崩壊のし過ぎ……」

「そりゃ崩壊もするよ!?」

 

 ど、どうにかしないと。また一からやる? いや、まずノートを持ってきていない時点でそれも無理!

 この補習をどうやって切り抜けるかを……わたしなら出来る。大丈夫。装者の中で一番の常識人であっておさんどんであって潜入美人捜査官メガネのわたしなら!

 

「な、ならあたしが先生に交渉してくるデス!」

「ゴー! 早く、全速力で!」

「ラジャーデス!」

 

 わたしのジャパニーズオーシャンサイクロンスープレックスホールドから抜け出した切ちゃんが教室の外へ向かって走っていった。

 足音が聞こえなくなって数秒。また戻ってくるまでに大体十秒か二十秒。わたしはドキドキしながら切ちゃんが結果を口にするのを待った。

 そして切ちゃんが戻ってきた。

 

「聞いてきたデス!」

「結果は!?」

「駄目デス!」

 

 思わず切ちゃんのカバンから教科書を一つ取り出して思いっきり頭を叩いたことは悪くないと思う。

 ど、どうしたら……なんか切ちゃんが言ってるけどそれは一旦無視。今はどうしたらこの状況を脱出できるかだけを考える。今からまたやるんじゃ駄目。先輩たちに頼るのは……未来さんくらいにしか頼りになる人がいない!! いや、でも未来さんなら……未来さんなら何とかしてくれるハズ!!

 ケータイ取り出しポパピプペ。未来さんお願いだから出て!

 

『もしもし、調ちゃん?』

「未来さん、色々あってこの間の宿題のノート忘れちゃったんですけど、何か案はあります?」

『えっと……うん、諦めたほうが。響が一回それでダメだったし』

「オワタ」

 

 こ、これじゃあマリアに顔向け出来ない……折角今度の休みに海外から帰ってきてくれるのに……

 

『え、響? えっと……今から走って取りに行けば問題ない? いや、でもあと二十分しか……』

「それ! ありがとう響さん!」

『え? でも調ちゃんの住んでるアパートって往復三十分位じゃ』

 

 未来さんが何か言ってたけどこれで光明が見えた。確か今日はカバンのなかにローラースケートが……あった。

 

「切ちゃん、ランニングの時間」

「へ? もしかしてここから走るつもりじゃ……」

「オフコース」

 

 最近切ちゃんはお腹回り気にしてたしランニングしたらいいと思うの。

 と、いう訳で切ちゃんの首根っこを掴んで窓を開けて、そのままローラースケートと切ちゃん片手に地面へダイブ。

 

「デェェェェェェェス!!?」

 

 途中で切ちゃんから手を放して二人一緒に五点着地。切ちゃんにはそのまま走ってもらって、わたしは十秒程度で上履きからローラースケートに履き替えて上履き片手に全力でダッシュ。

 シュルシャガナで走るよりも滑るほうに慣れてるからこっちの方が断然速い。すごく疲れるけど。

 学校のほうから視線を浴びながらも部屋に向かってダッシュ。途中で走っている切ちゃんに追いついて、そのまま二人で一緒に部屋へ向かって走る。

 

「これ間に合うデスか!?」

「間に合わなかったらどっちにしろ終わりだよ、切ちゃん」

「デスよね!」

 

 それに、わたし達の部屋には歩いて十五分。なら、走って十分以内に縮める程度なら出来るはず! わたし達は毎朝これ以上の距離を走っているんだからこの程度、余裕なはず!!

 そのまま八分くらい走って歩くよりも半分くらい時間を短縮してそのままゴール! わたしは靴がローラーだから階段は上がれないから切ちゃんに階段を走ってもらって待つこと一分くらい。切ちゃんは手に二冊のノートを持って階段を下りてきた。やった、これで確実に補習は免れる!!

 

「行こう切ちゃん!」

「デス!」

 

 これでわたし達は補習を免れ……?

 

「あれ、電話……?」

「あ、あたしもデス」

 

 いきなり電話がかかってきた。誰がかけてきたのかを見ると……え、SONGの本部? 切ちゃんの方も……っていうことは、もしかして何かあった?

 切ちゃんと顔を合わせてから、わたしが代表して電話に出ることにした。電話に出ると聞こえてきたのは、風鳴指令の声だった。

 

『あぁ、調君か!』

「はい、そうですけど……何かあったんですか?」

『実はだな。君達の現在地点から走って十分程の所で謎のガス爆発と火災が発生した。しかも、人が取り残されている』

「そ、それって」

『救急隊も消防隊も火の勢いが近すぎて近寄れずにいる。だが、シンフォギアなら別だ』

 

 どんな災害でも、わたし達のシンフォギアならすぐに駆け付けて人命救助ができる。それに、今のわたし達は訓練のために自分に打った訓練用の、薄めたLiNKERの効果がまだ残ってる。全力で戦うのは無理だけど、救助活動をする程度なら造作もない。

 でも、救助活動をしていたら古文の時間に間に合わない。提出は授業始まってから最初の数分だし、シンフォギアの事は秘密だからどうやっても騙せる気がしない。つまり、行けば補習は確定……っ!

 補習は確定だけど……わたし達の時間が削れる程度で罪もない人が死ぬのを防げるのなら!

 

「切ちゃん」

「二人一緒に補習デス」

 

 笑いながら切ちゃんが言った。

 もうこれで、怖いものなんてない。

 

「分かりました。すぐに急行します」

『そうか、助かる! 今、座標を転送する。すぐに向かってくれ!』

 

 通知を切って画面を見れば、そこには今のわたし達の場所と火災が起こった場所が表示されていた。これなら、シンフォギアを纏ったら十分も経たずに着けそう。

 

「行こう、切ちゃん」

「ぱぱっと助けてぱぱっと怒られるデス!」

 

 ギアのペンダントを取り出して握りこむ。胸の内に浮かんでくるのはギアを纏うための歌。

 

「Various shul shagana tron」

「Zeios igalima raizen tron」

 

 

****

 

 

 結局、救出には移動時間を含めずに三十分くらいの時間がかかった。フロンティア事変の後、わたし達のギアは適合係数がちょっと上がったから、黒が主体じゃなくてパーソナルカラーが主体の色合いに変わったけど、今日はもうLiNKERの効果が切れかけていた事。

 使ったLiNKERが普段のLiNKERを薄めた物だったって事があってか、フロンティア事変の最中の出力が低いギアになっちゃった事もあってあまりスムーズに救助活動を進められなかった。

 でも、わたし達が救助に向かってから死人は一人も出なかったし、途中で響さんやクリス先輩もミサイルに乗って来てくれたから、三十分程度で終わらせる事ができた。ミサイルは乗り物だって事も今日学んだ。

 そんな訳で学校から飛び出してから戻ってくるまでに約五十分。もう授業はとっくに始まってた。

 

「うぅ……確実に怒られるデス……」

「でも、ノートはちゃんと持ってきたから少しは許してくれるハズ……」

 

 救助活動ですごく疲れたから二人でゾンビみたいに後者の中を歩く。響さんとクリス先輩とはもう別れたけど……あぁ、憂鬱。

 教室の前で少し尻込みをしちゃったけど、二人で勇気を出して教室の中に入る。

 

「ん? あぁ、月読さんに暁さん」

「す、すみません……」

「色々と訳あって遅れたデス……」

 

 あぁ、視線が痛い……

 

「大丈夫ですよ。他の先生から校舎の外まで行く用事を受けたんですよね?」

「へ?」

「およ?」

 

 それって、どういう……あっ。

 もしかして、SONGの方でそういう情報操作が?

 な、なら! 今ノートを出せば補習は抜きにしてもらえるかも!!

 

「あ、あの!」

「はい」

「宿題のノート、今出しても大丈夫ですか?」

 

 そう言いながらそっと古文のノートを出す。ど、どうだろう。許してくれるかな?

 

「……ふふっ。月読さん?」

「は、はい……」

「ノートの提出は今日じゃありませんよ?」

 

 …………

 ………………

 ……………………へ?

 

「ほら、そこの時間割が書いてある黒板の所、ノートの提出は明日に変更するってちゃんと書いてありますよ?」

 

 え、ちょ、そんなハズ……あった。

 もしかして、クラスの人達は皆知ってた? 油が切れたロボットみたいに首を動かして、視線をクラスの人達のほうへ向けると、みんな視線を逸らした。

 

「そ、その、気づいてるかなって思って……」

「口を挟む前に飛び出して行っちゃったし……」

「切ちゃん……? 何で飛び出していったとき駄目って言ったのかな……?」

「えっと……先生居なかっただけデス!」

 

 えぇ……それって、つまり……

 

「む、無駄足……がくっ」

 

 わたしはそのまま訓練の疲れや救助の疲れやらでそのままぶっ倒れた。

 切ちゃん……せめてそういう肝心な所は喋ってよ……

 ばたんきゅー……




この時期には既に二課じゃなくてSONGだっけ? なんて思いながらお送りしました

パロディ元はフルメタル・パニック? ふもっふのアニメ二話Bパート、空回りのランチタイム。ただ調ちゃんにジャパニーズオーシャンサイクロンスープレックスホールドさせたかっただけな話。というかジャパニーズオーシャンサイクロンスープレックスホールドする調ちゃんが書きたかったから書いたとも

あと、きりしら宅がリディアンから何分とか分からなかった(忘れた)ので適当に徒歩十五分程度にしました。色々とツッコミどころはあるかと思いますが十割ギャグで構成されているのでご容赦を

それでは次回、「月読調の華麗なる声優デビュー」にご期待ください。なお、次回の内容は告知したものと別になる可能性がありますのでご容赦を


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月読調の華麗なる声優デビュー

基本的にこの短編集の話は他の話と繋がっておりません。ということで今回はもしも調ちゃんが声優デビューしたらという並行世界の話

時系列はGX開始前からスタート


 リディアンに入学してから早一か月。

 なんやかんやでご飯とか出てきて快適だった牢屋の中の生活とはオサラバして、わたしと切ちゃんはリディアンに。マリアは偶像としてアイドルを続けることになった。

 わたし達はマリアがそうやって生贄にされる事には不満を覚えたけど、マリアは特に嫌そうな顔をしていなかったから、わたし達は何も言えなかった。

 そんなマリアも新しい生活には慣れたようで、マリアが外国にいる時は切ちゃんと一緒に電話したりしてる。

 そうやって早一か月。わたしはSONGのシュミレータでの訓練を切ちゃんと終わらせて帰る途中、顔を見せた指令室にカバンを置いてきちゃったのに気が付いて、切ちゃんには先に帰ってもらってわたしは指令室に向かっていた。

 ついでに体内のLiNKERの体内洗浄もしてもらおうかな、って思ってる。何時もは家で簡単にやってるだけだから偶には、ね?

 そういう訳で指令室に到着。多分、まだ風鳴司令とか友里さんとか藤尭さんが居るから誰かに頼めばしてくれると思う。

 

「失礼します」

 

 声を出して指令室に入ると、さっき名前を挙げた三人が集まって何か話してた。わたしに気付いていないのかな?

 ちょっと話を聞いてみようかな。マズそうならすぐに声を出せばいいし。

 

「……と、いう訳なんだ」

「うーん……なんというか、何でお上はそんな事を……」

「すまん、本気でわからん」

「まぁ、司令も分かりませんよね。まさか装者の子をうたずきんの声優にしたいなんて」

 

 え? うたずきん? 声優?

 えっと……うたずきんってあれだよね? わたし達装者が存在するっていう事実をうやむやにして、都市伝説に変えるために作られたプロパガンダ作品で、実は結構人気が出てる少女漫画っていう。

 そういえばアニメ化するってこの前インターネットのニュースで見たことがあるけど……え、その声優を、わたし達の誰かが?

 

「うーむ……ん?」

 

 あ、気づかれた。

 

「あ、調ちゃんじゃない。どうしたの?」

「えっと……カバン、忘れちゃったので取りに来ました」

「カバン? あぁ、これね?」

 

 友里さんがわたしの用事を聞いてすぐにわたしが置いていったカバンを手渡してくれた。

 これでわたしの用事は終わったし後は家に帰って体内洗浄すれば全部終わるんだけど……わたしの中の好奇心がさっきの話に食いついて離さない。

 やりたい、とかは思わないけどやっぱり気になっちゃう。

 

「あの……」

「ん? 何かしら?」

 

 でもこれって聞いていいことだったのかな……もしかして聞いちゃいけない事だから後で口封じ代わりに何かされるんじゃ……いや、されるって事はないだろうけどやっぱり誰にも言わないでって釘刺されるのかな……

 なんて迷っていると友里さんは。「あ、もしかして」って口を開いた。その声を聞いた風鳴司令と藤尭さんがあぁ、と同時に口を開いた。多分、気づかれたのだろう。

 

「もしかしてさっきの話、聞いちゃった?」

 

 その言葉にわたしは頷いた。こうやって聞いてくるって事はあまり隠し通そうとは思っていない事なのだろう。

 というか、次に集まったあたりで言おうとしていたとかそこら辺だと思う。友里さんの言葉に頷くと「聞かれちゃってたみたいですよ」と苦笑しながら二人に知らせた。

 風鳴司令と藤尭さんはそうみたいだと頷くと苦笑しながらわたしに事情を説明し始めた。

 

「実はだな。上の方から怪傑うたずきん! のアニメ化に際して主人公、うたずきんの声優を装者の誰かにしたいと打診されてな。恐らく、戦場で君たちの誰かの声が聞こえても誤魔化しが聞くように、との事だろうが……」

「SONGは飽くまでも災害対処の組織。流石に声優までは……」

「翼君やマリア君を歌手にしておきながら、と言われるかもしれんが、やはり君達への負担は最低限にしたくてな。断ったんだが、上からどうしてもと言われてしまって困っていたんだ」

 

 つまりは、権力での命令?

 

「そんな所だ」

 

 ちょっとくだらないと思ってしまったわたしは悪くないと思う。

 それに、さっき司令は理由はわからないって言っていたから、今言った理由もわたしが納得できるように即席で考えたんだと思う。にしては凄く納得できたけど。

 うーん……でも声優かぁ。切ちゃんとか響さんはやってみたいって言うかもしれないけど……クリス先輩とかは一蹴するんだろうなぁ。

 わたしもやりたいかって聞かれたらどっちでもないかなぁ。やっぱり興味はあるけど、それをお仕事にしたいかって言われるとまだ分からないし。

 

「風鳴司令達は誰がいいか、とか決めてるんですか?」

「いや、特には。強いて言うならクリス君が合っているとは思ってるんだが、彼女の性格上こういうのは苦手だろう」

 

 確かに。うたずきんは赤ずきんがモチーフのキャラって聞いたから、赤色がパーソナルカラーなクリス先輩なら確かにイメージ的には合っていると思う。

 それに、クリス先輩って可愛い声もかっこいい声も全部出せちゃうし。何やかんやで声優やってもバッチリな気がする。

 でも、そうやって言っても、クリス先輩は顔を真っ赤にして「ば、馬鹿言ってんじゃねぇ!」って一蹴してくるのが容易に想像できる。

 風鳴司令はわたし達が嫌なことは絶対に強要しないからそう言われたら「そうか、悪かったな」と言ってもうその話は切り上げてくると思う。

 

「藤尭さんは?」

 

 取り敢えず風鳴司令の意見は聞けたから今度は藤尭さん。

 話を振られた藤尭さんはあー、と呟いて頬を掻いた。一体どうしたんだろう? 少し恥ずかしいのかな?

 

「えっと、俺は……」

「藤尭さんは?」

「そ、その……調ちゃんが一番合ってるんじゃないかって思ったんだよね」

 

 …………え、わたし?

 

「調ちゃんの声って凄く綺麗だからさ。案外似合うんじゃないかって」

「あ、分かるわそれ。クリスちゃんもいいけど調ちゃんもいいわよね。響ちゃんや切歌ちゃんはちょっと元気すぎて合わない感じよね」

 

 え、いや、ちょっ。

 

「わ、わたしにそんな……」

「そうか? 案外合っていると思うがな」

 

 風鳴司令まで……なんかこうやって褒められると少し恥ずかしいというか……でも満更でもないというか……思わず顔をカバンで隠してしまう。

 

「でも、一番は本人がやりたいかどうかですし」

「そうね。どうかしら、調ちゃん」

 

 そ、そうだよね。そこで話を振ってくるよね……

 でも、今のわたしって学校は……まぁ落ち着いたけどやっぱりおさんどんだし切ちゃんを一人にすると何だか不安というか何というか……それに、声優ってお仕事になるよね。

 今のわたしって実はSONGからの手当てで普通の人よりも結構多めにお金貰えてるからお金もあまり要らないし……

 

「そういえば、声優といえば一度翼ちゃんもやってたわよね」

「そうなんですか?」

「昔やってた子供向けのアニメ映画でね。丁度フロンティア事変の最中に特別ゲストとしてやったのよ」

 

 あ、そういえばそんなニュースを当時見たような見てないような。

 確かあの時は響さん達のデータを何でもいいから集めておこうってなって、翼さんが声優をやったっていうデータもその時偶々見たような見てないような。

 あとマリアも、歌姫時代にアニメの声優をゲストとしてやってみないかっていう依頼が来たって言ってたような。

 当時は忙しかったし断ったって聞いたけど。だったら、これから翼さんやマリアも声優のお仕事をやってみる時があるのかな? そういう時にわたしが頼られたりしたら……満更でもないかも? 

 あ、でも切ちゃんとかに知られるのは少し恥ずかしいかも……

 

「あら、案外満更でもない感じ?」

 

 うっ、バレた……

 

「で、でも切ちゃんやクリス先輩に知られるのは恥ずかしいですし……」

「別に隠してもいいわよ? キャストに載る名前もこっちで用意するし顔出しNGにしておけばライブとかも行かなくていいし」

「本業は学生だからな。学業に不利になるような事がないように、こちらも精一杯協力する」

 

 そ、それならいいのかな……? 一応他に条件を言ってみて良さそうなら……考えてみてもいいかも。

 

「その、じゃあもう何個かいいですか?」

「あぁ、構わんぞ」

「えっと、声優のお仕事はうたずきんだけって事で」

「それは元からね。もし調ちゃんが気に入ったらこっちで本格的な声優デビューも手伝うわよ?」

 

 つまり暫くはうたずきんだけ考えればいいと……それに、もしかしたらこのお仕事のお陰で将来の就職先が広まったりとかもしちゃうのかな? それだと受けてみて損はないかも。

 

「あとは本名と顔出しNGで」

「うむ、問題ない」

 

 だって知られたら恥ずかしいし。

 

「それと、切ちゃん達には言わないでください。マリアと翼さんは……こっちから話せるときに話します」

「じゃあ調ちゃんが仕事の時はこっちで全部調整しておく。学校も公欠って事にしておくから」

 

 け、結構な我儘言ったと思うけど全部いいんだ……特に声優のお仕事はうたずきんだけっていうのは少し無茶かなって思ってたのに……やっぱりこの人達凄い。

 それから色々と聞いたけど、主役になる声優はオープニングの主題歌を歌わせてもらえるとか。で、声優として申し分ない演技を身に着けるために決まってから一か月は空いた時間にレッスンを設けるとか。

 だから、決まってから本当に声を当てるのは一か月と少し後。その間に歌は収録しちゃうらしい。

 歌のレッスンはいいのかって聞いてみたら、装者故に文句なしの技量は既に持っているとの事。自分じゃわからないけどそうなのかな? 前にリディアンの文化祭でORBITAL BEATを歌った時も好評だったみたいだし。

 取り敢えず一通り聞いたけど、あまり悪い条件じゃなさそう。

 ただ、当たり前だけど一度決めたらもう引き返せない。プロのお仕事の中に入り込むんだから、これくらいの覚悟は必要だよね。

 それに、わたし自身そういう芸能のお仕事に興味がないわけじゃないし……よし!

 

「……じゃあ、わたし、声優やってみます」

「おぉ、受けてくれるか!」

「これはうたずきんの視聴は確定ね」

「俺、リアルタイムで見た後に録画したのを何度も見ますよ」

「そ、それは恥ずかしいです……」

 

 ふ、藤尭さんにこう言われるだけで恥ずかしいなら切ちゃんには言えないよぉ……

 あ、そういえば。

 

「翼さんみたいにマネージャーって付くんですか?」

「あぁ、それなら俺達三人が都合を付ける」

 

 マネージャーの一人は世界最強の大人になるみたいです。凄く逞しい。

 

 

****

 

 

 声優になると決めて、それからレッスンとかを受け始めて早二か月。

 どうやらアニメは秋からの放送らしく、わたしがうたずきんの声優になると決まった後からオーディションで他の役を決めていったらしい。

 その間、わたしは緒川さんのレッスンを受けたり、誰もいないシミュレータ室で一人練習してみたり、錬金術師の襲撃とかもあってシュルシャガナが一時的に使えなくなったり、エルフナインが新しく仲間になったり色々とあった。

 エルフナインはどうやらわたしのマネージャーの一人になってくれるらしく、主にスケジュール調整を担当するみたい。

 ただでさえ忙しいのに大丈夫? って聞いてみたら実はエルフナイン、ここに来てからわたし達の隠ぺいのために使われているプロパガンダ作品である怪傑うたずきん! を読んでハマってしまったらしく、結構ノリノリで笑顔だった。

 わたしも役作りするために読んでみたけどなんだか斬新で面白かった。

 そうやって色々とあり、シュルシャガナの修復が終わった頃、初めてのアフレコの仕事の時間がやってきた。

 

「えっと、風鳴プロダクションの月詠了子です。よろしくお願いします」

 

 わたしの芸名はわたしの名字を少し弄った物と、フロンティア事変の最中にわたしの中に居るのが明らかになったフィーネが、わたしの中に来る前に宿っていた人の名前、櫻井了子さんの名前を使わせてもらった。

 それと、プロダクションの名前は完全にダミー。政府が作った架空のプロダクション。

 名前が業界に知られていないのは、単純に出来たばかりだからであり、わたしはそこに唯一所属する声優という事になっている。

 既にわたしの名前は怪傑うたずきん! の公式ページには載っていて、オープニングのとどけHappy! うたずきんもとっくに収録済み。結構上手く歌えたって自画自賛してる。

 

「あ、これ差し入れです。よかったらどうぞ」

 

 そして挨拶ついでにスタッフさんやわたしの後に来た先輩の声優さん達に差し入れもしておく。

 友里さんに選んでもらった差し入れとしては十分な物を送った結果、皆喜んでくれたようだった。

 それにしても……緊張する。スタッフさん達はわたしが新人だっていう事を知ってるし、特に立場が上の人はわたしが政府から連れてこられた人間だって分かってるから、結構良く接してくれてるけど、それ以前に声優っていう仕事が初めてだから緊張する。ガッチガチ。

 

「大丈夫よ、調ちゃん。今日まで努力してきたんだし何とかなるわよ」

「友里さん……はい、頑張ります」

 

 今日、わたしの送迎を担当してくれた友里さんがわたしを励ましてくれる。あと、この場では了子です。

 スタジオに入ってスタッフさんに案内されたマイクの前に立って少し声を出してみたりマイクの高さを調整してみたり。

 あぁ、ものすごい緊張する。

 

「えっと、了子ちゃんだっけ? 大丈夫?」

「え、あ、はい、その、何とか……」

 

 そうやって何度も読んでよれよれになった台本を読んだり、またマイクを調整したりしていると横から先輩の声優さんに声をかけられた。

 確かこの人は結構ベテランで売れている人なんだっけ。

 

「確か声優のお仕事は初めてだっけ」

「は、はい。その、色々と縁あって……」

「大丈夫だよ、そんなに緊張しなくても。案外勢いでやれば何とかなっちゃう部分って結構あるから」

「い、勢い、ですか?」

「そうそう。やっぱり演技とは言っても白熱するとアドリブとか入っちゃうときあるし。わたしがこの間入った現場だと台本投げ捨てて演技してた人とかいたし」

「な、投げ捨てて……」

 

 なんというか、声優って結構アグレッシブな人が多いのかな……?

 

「ほら、もうちょっとで始まるから。深呼吸して肩の力抜いて」

「は、はい……」

 

 そ、そうだよね。いったん落ち着かないと。

 大丈夫。今日のために何度も練習してきたんだし。緒川さんにもこれなら大丈夫だって背中を押されたから。

 よし、頑張ろう。

 

 

****

 

 

 わたしの初めての声優活動は何とか成功に終わった。

 何度かリテイクを貰ったけどそれでも監督も頷いてオーケーを出してくれた。特に歌魔法で変身する場面は良かったとか。

 シンフォギアで慣れてますから、とは言えないから、偶々ですって言っておいたけど。

 そんな声優活動をしながらも結局今回の事件、魔法少女事変も何とか無事に解決した。

 何度か死ぬかもしれないって思ったけど案外何とかなった。

 そうやって魔法少女事変も終わって暫くして。

 わたしはあれから何度か現場入りしてうたずきんとして声を当てた。やっぱり少し慣れないところがあるけど、何とか及第点を貰っている。

 

「しらべぇ、おなかすいたデス……」

「もうちょっとで朝ご飯出来るから待っててね」

 

 そんなとある日の朝。わたしが朝ご飯作っていると丁度切ちゃんが起きてきた。今日は学校は休みだしわたしも声優のお仕事は無い。

 最近は魔法少女事変のせいであまり休めなかったから今日は久々の休暇。切ちゃんと家でゴロゴロする予定。

 

「あ、うたずきんデス」

 

 わたしが偶々、という体で付けていたテレビからは「怪傑うたずきん! このあとすぐ!」と言うわたしの声が流れてきている。何だか体中がむず痒くなる感覚がするけどもう慣れた感覚。

 

「うーん……何だかこの声、どこかで聞いたことがある気がするのデス」

「そうなの?」

「聞いたことがあるというか、何時も聞いてるというか……不思議な感覚デス」

 

 ふふふ。

 

「ほら、切ちゃん。朝ご飯できたよ」

「おぉ! もうあたしはお腹が減りんこファイヤーデスよ!」

「ほら、並べるの手伝って?」

「了解デス!」

 

 そのあとわたし達はテレビから聞こえてくるとどけHappy! うたずきんを聞きながらご飯を食べた。

 うん、今日も美味しい。

 

「うーん……調、一回うたずきんの声真似してくれないデスか?」

「えっ……そ、それは……は、恥ずかしいからまた今度ね?」

「嫌なら別にいいんデスよ? それにしてもこの思い出せそうで思い出せない感覚……何だか変な感じです」

 

 ……バレるのも時間の問題なのかなぁ。




大人三人組の声優になったらの感想は作者の思ったことです。旋律ソロリティ(Ignited arrangement)の調ちゃんは声が綺麗すぎて逆に浮いているまである。逆にマリアさんは合いすぎ。

パロディ元は無し。強いて言うならきねくり先輩のとどけHappy! うたずきんから

とどけHappy! うたずきんの調ちゃんverを聞いてみたいなぁ、なんて思ったので書きました。それだけです。一応この世界線の話はあと一、二話程度は書くつもりです

次回、「月読調の華麗なる幼児退行」。なお次回の内容は告知したものと別になる可能性があります。


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月読調の華麗なる幼児退行

モンハン楽しいですね


 パヴァリア光明結社っていう組織が何だか怪しい動きをしているみたいだけど今のところわたし達の生活に変化なし。最近あった事と言えば船上博物館で一悶着あったけど、それだけ。

 なので今日もわたしは体力作りのためにランニング。本当はギアを纏って訓練したいんだけどLiNKERがもう数える程度しかないし訓練用のLiNKERはあまり適合係数を上げてくれないからちょっとした大技も結構辛い。だから、わたし達用のLiNKERが出来上がるまではこうやって今までやってきた事で少しでもシンフォギアでの戦いに応用できるようにしないといけない。

 そういう理由があってのランニングだけど今日は切ちゃんが朝から用事があるらしくてランニングはわたし一人。なんでも久々に帰ってきたマリアと朝から映画を見に行くらしい。わたしも誘われたけど今日は昼から響さんと遊びに行く予定だから断った。

 わたしのランニングは他人から見られると楽しているって思われがち。ローラースケートでやってるからそう思われるのも仕方ないけど、案外これって疲れる。スピードの調節や曲がるためのブレーキとか結構足に負担がかかるからいい訓練になる。特にわたしの移動方法って電鋸を足に取り付けて滑るか双月カルマで少しシュールに飛ぶ程度だからこういうランニングは案外役に立っている。数キロも走れば息は上がり始めて足は結構痛い。でもギアを纏って大技を使った時なんてこれ以上が普通だからまだまだ問題ない。常にXDモードみたいになれたらもう少し負担も減るんだろうけど……

 

「適合係数もっと上がらないかなぁ……」

 

 ぼんやりしながらただひたすらにランニング。

 今日の夜ご飯は何にしようかな……マリアも今日は一緒だし何時もよりも一人分多めに作らないといけないよね。でも、今日はわたしも響さんと用事があるし少し手抜きになっちゃうかもだけどご飯にザバーっとかけるものとかを用意して……あっ!?

 

「わわっ!?」

 

 い、いけない。バランスを崩した。早くどうにかしないと……あ、進行方向にそれなりに大きな石が。

 これは、うん。詰んだ。

 わたしはどうする事も出来ずにそのままローラースケートで石を踏んで更にバランスを崩して転倒。しかも、運が悪いことに後頭部から硬いアスファルトに激突。

 

「いったぁ!!?」

 

 わたしらしくない大声を出した所でわたしの意識はプッツリと途絶えた。

 でも、途絶える前に思ってた事がある。

 今度からヘルメットをちゃんと用意しよう。

 

 

****

 

 

「失礼します!!」

 

 お昼過ぎ。お昼ご飯も食べて満腹で元気いっぱいだったわたし、立花響はエルフナインちゃんから嫌な知らせを携帯で聞いて未来と一緒にSONGの本部の指令室へとやってきた。指令室に入ってすぐに見えたのは師匠や藤尭さん、それから何故か一人前面の巨大モニターを見ている友里さん達、わたし達が何時もお世話になっている大人の人達とエルフナインちゃん。それから凄く複雑な表情をしているクリスちゃん。

 電話を受けたとき、エルフナインちゃんは他の皆にも連絡するって言ってたけど、まだクリスちゃんしか来ていないみたい。クリスちゃんがどうしてこんな表情をしているのか分からないけど取り敢えずエルフナインちゃんに今の状況を聞いてみることにした。

 

「エルフナインちゃん! 調ちゃんが運が悪いことにローラースケートでランニング中に石を踏んで頭を打って流血沙汰になったけどすぐに意識を取り戻して色々と厄介な事になったって本当!?」

「あ、響さん。何でそんな説明口調なのか分かりませんけど大体合ってますよ」

 

 よかった。わたしが聞いて記憶したことはあまり間違っていなかったようだ。それに、意識を取り戻しているって事は案外怪我の方も大したこと無いだろうし。

 でも、驚いた~。お昼ご飯食べて調ちゃんとの買い物のために出かけようと思った所に調ちゃんが頭打って流血なんて聞いたから思わず大声出しちゃったし。未来も驚いてた。主にわたしの声で。

 

「それで、調ちゃんは?」

「え、えっと、それが……」

「まぁ、見りゃ早いんじゃないか? このバカも見れば嫌にでもこんな表情になる」

 

 へ? それってどういう事?

 クリスちゃんの何とも言えない表情には何か理由があるのかな? 大体四六時中しかめっ面だから何時も通りちょっとイラついているだけなのかと。

 

「誰が四六時中しかめっ面だオイ」

 

 あれ? 口に出てた?

 

「お前の考えてる事なんざ顔見りゃ分かる。けど、あまり否定は出来ねぇな」

 

 いや、そこは否定しようよ? わたしも結構酷いこと考えたな、なんて思っちゃったし。

 

「そりゃお前の前でだけだし」

 

 え? 酷くない?

 さり気無くディスられたけどそれは何時ものことだからもう気にしない。だってそれがクリスちゃんの照れ隠しだしね!!

 

「はぁ!? テメっ、誰が照れ隠しなんて!!」

「はーい、落ち着こうかクリス~?」

 

 なんかクリスちゃんが騒ぎ始めたけど取り敢えず今は調ちゃんの方が先決。頭を打っての異常だしちょっとはこっちも気を引き締めて向かわないと……わたしの予想だと記憶喪失とかそこら辺のありきたりな感じの異常だけど、どうかな、エルフナインちゃん。

 え、何でそんな微妙な表情してるの? もしかして違う? もっと深刻? 見てくれれば分かる? ならいったん見てみるけど……あ、友里さんの膝の上に座ってるんだ。じゃあちょっと見に……えっ?

 

「膝の上?」

「はい」

「あの調ちゃんが?」

「そうです」

「マリアさんが膝の上に座るか聞いても絶対に恥ずかしがって行かないであろう調ちゃんが?」

「はい。普段クールで時々可愛らしい所がある調さんがです」

 

 え、本当に何があったの……?

 でも、取り敢えずは調ちゃんの様子を見に行かないと何も始まらない。友里さんもそんなわたしの様子に気が付いたのか口に立てた指をあてて静かに、と軽く警告してからわたしを手で招いた。

 それに甘んじて未来と一緒にそーっと友里さんの膝の上を覗き込んでみる。するとそこには。

 

「あ、ホントに調ちゃんだ……」

「寝てるのかな?」

 

 目を閉じた状態で友里さんの伸ばした手にもたれかかっている調ちゃんが居た。入院着に着替えているって事は病院じゃなくてこっちに運ばれてきたのかな? でも、調ちゃんがこうやって膝の上で寝てる姿なんて初めて見たよ……それに、心なしか何時もよりも目尻が下がっているというか……雰囲気が柔らかくなってる? 寝ている状態を見ただけじゃやっぱり全部わからないけどそれでも調ちゃんが何かしら変化しているっていうのはわたしにも分かる。

 未来もその意見には同意のようで頷いた。でも、やっぱり何がどうなっているのか詳しいことは分からないようでわたし達は顔を見合わせて首を傾げた。

 

「んぅ……」

「あ、起こしちゃったかな?」

「そうかも」

 

 そうこうしている内に調ちゃんが小さく声を漏らした。起こしちゃったかもしれない、と口にした頃には調ちゃんは目を擦っていた。

 数秒ほどそうして調ちゃんは目を擦って、開いた目をこっちに向けてきた。

 うん、やっぱり何時もと違う。何時もみたいに切歌ちゃんとは正反対なちょっと吊り上がってるけど可愛らしさがある目じゃなくて切歌ちゃんみたいに垂れている。そのせいか何時もよりもとっつきやすい、というか柔らかい雰囲気を感じる。

 

「あ、響さんと未来さんだぁ」

 

 調ちゃんはこっちに視線を向けた後にそう口にした。

 満面の笑みで。

 

「ふぉっ!?」

 

 思わず変な声が出た。

 調ちゃんがここまで笑顔になる時なんて見たことないんだけど……切歌ちゃんと一緒にいるのを見た時もここまでの笑顔は浮かべてなかったよ!? そんな激レアな笑顔をこんな簡単に浮かべるとは!

 明らかに何処か可笑しい調ちゃんは友里さんの膝の上から降りるとそのままわたしに抱き着いてきた。ふぁっつ!?

 

「えへへ~。響さんだぁ」

「ふぁっ!? へぁ!? ふぁっつ!? ほわい!!?」

 

 ちょっ!? あの調ちゃんが!? わたしに!? 抱き着いてきて!? 頬をスリスリって!!?

 何時ものクールな様子は何処に置いて来ちゃったの調ちゃん!? 何だか子供っぽくなっちゃいました!? もう思考回路全部がショート寸前というか混乱という混乱でもう滅茶苦茶だよ!! んでもって未来が目からハイライト消しちゃってるぅ!?

 あかん、これ未来から後で何かされるやつぅ……もう最近貞操を守り抜くだけでも結構ギリギリなのにそこにプラスで嫉妬心とか混ざったらわたしはどうやって未来を対処すればいいんだろう……助けて師匠。

 

「未来さ~ん」

「わっ!?」

 

 とか思ってたらいつの間にか調ちゃんはわたしから離れてそのまま未来の方へ。な、何だったんだろう……性格が百八十度変わったっていうのが正しいのかな……ヘイ、エルフナインちゃん! 説明よろ!!

 

「え、えっと……簡単に言ってしまえば調さんは頭を思いっきり打って一時的な幼児退行をしてしまった物だと思われます」

「幼児退行?」

「はい。記憶はそのままなんですけど、性格と言うか精神年齢と言うか、そこら辺が無邪気な子供になっているというか」

 

 なるほど、さっぱり分からん! 略してさぱらん!!

 

「中身だけ子供になったと思ってください」

 

 よし大体わかった!!

 取り敢えず今の調ちゃんは未来に満面の笑みで抱き着いている。なんやかんやで調ちゃんって切歌ちゃんとかマリアさんへの好感度は振り切れてるってのは分かってたけどわたし達にもあんなに心を許してくれてたのかなって思うと結構嬉しいかも。最初は偽善者とか言われたりしてたしなぁ。あの頃が最早懐かしい。

 取り敢えず友里さんが持ってきてくれたパイプ椅子に腰を下ろして落ち着く事にする。この調ちゃん、どうやったら元に戻るかな。もしも調ちゃんが元に戻ったら調ちゃんが羞恥心で倒れかねないし。

 

「よいしょっと」

 

 とか思ってたらナチュラルに膝の上に乗ってきたんだけど。何この可愛い生き物。

 調ちゃんって小柄だから膝の上にすっぽりと収まるというか膝の上で抱きしめるには丁度いいサイズと言うか。とか思ってたら未来の視線がヤバい。

 

「えへへ、響さん暖かい」

「やばいお持ち帰りしたい」

「冗談でもやめとけ。マリアかこいつの片割れにぶっ殺されるぞ。あとお前の嫁」

「うん、大丈夫だよクリスちゃん。多分この後に貞操を懸けたレースが待ってるから」

 

 クリスちゃんがちょっと引いた顔でそうか。と呟いた。もう未来の目からはとっくにハイライトが消え去っている。なんでこうなっちゃったんだろうなぁ……ちょっと前までは未来ってこんな感じじゃ……あれ? よくよく思い返したらツヴァイウイングのライブでわたしが怪我した辺りからあんなんかも……シンフォギア無いのによく貞操無事だったなわたし。

 取り敢えずこれ以上は未来が暴走しそうだから調ちゃんを持ち上げてクリスちゃんにくっ付ける。いきなりの事にクリスちゃんはびっくりして固まってたからくっ付けるのは容易だった。なんか「あたしにそんな趣味はねぇ!」とか叫んでるけどこれ以上は本当にわたしの貞操がここで散らされそうだから勘弁してほしい。

 やっぱり師匠みたいに人間を超越した力を手に入れるべきかなぁ。なんて思ってると指令室のドアが独りでに開いて外から見慣れた二人がやってきた。

 

「調! 調は何処デス!?」

「早く病院へ移送する手続きを! 万が一にも後遺症が残らないように最善を尽くすのよ!!」

 

 まぁ切歌ちゃんとマリアさんだよね。切歌ちゃんは普通に心配しているから狼狽えてるっていうのは分かるけどマリアさん……あんた一番狼狽えてません?

 

「あ、あの、マリアさん? 調ちゃんなら」

「狼狽えるな!! 狼狽えるなァッ!!」

 

 あ、これわたしにも分かる。めんどくさいやつ。

 

「おいマリア。お前が一番狼狽えて」

「狼狽えるんじゃぁない!! 早く調を病院に運ぶのよ!! 運ぶのよォ!!」

「よぉし挨拶無用のガトリングかドンパチ感謝祭かミサイルサーファーでかっ飛ぶか選べ。すぐに現実に思考回路を戻してやる」

「邪魔するってなら容赦はしないわ!!」

「よっしゃスーパー懺悔タイムだな」

 

 話を聞かないマリアさんにキレたのかクリスちゃんが片手で調ちゃんを抱きしめながらもう片方の手でイチイバルのペンダントを握りしめている。対してマリアさんは……うん、目がグルグル状態でアガートラーム握りしめている。いや師匠、笑ってないで止めないとマズいですよ!? この指令室でミサイルと鉛玉と短剣が飛び交うカオスが生まれますよぉ!?

 

「切ちゃん? マリア?」

「あ、調デス!!」

「何ですって!? どこに!?」

「いやあたしが抱えてるっての」

 

 もう面倒になったのかクリスちゃんがそっと調ちゃんを前に押し出す。調ちゃんはあまり状況が呑み込めていないのか首を傾げていたけどすぐに目の前に切歌ちゃんとマリアさんが居るって気が付いたのか満面の笑みでまずは切歌ちゃんの前に歩いていき、そのまま切歌ちゃんに抱き着いた。

 突然の抱擁に切歌ちゃんはまず首を傾げて状況を理解して自分に抱き着いているのが誰かを把握して顔を茹蛸みたいに真っ赤にした。

 

「デデデデデデデェェェェェェェス!!?」

「狼狽えるな!!」

「切ちゃんあったかーい」

「し、しらべぇ!? こ、こんな真昼間から何事デス!?」

「狼狽えるな!!」

「ちょ、ちょっと誰か説明して欲しいデス!」

「狼狽えるなァ!!」

「うっせぇんだよマリアァ!! killter ichaival tron!!」

 

 あ、クリスちゃんがキレてギアを纏った。それですぐにハンドガンを取り出してマリアさんの頭をぶん殴った。うっわ痛そう。

 

「いっだぁ!!?」

 

 マリアさんはそんな歌姫らしくない声をあげながら頭を抑えて蹲った。クリスちゃんは「ちょっと頭冷やせ」って呟くとそのままギアを解除。わたしの隣に椅子を置くとその椅子に腕を組んで座った。強調される胸、グッドです。あ、何でもないんで笑顔でこっち見ないで本気で怖い。

 

「ぐっ……でも助かったわ。おかげで私も冷静になれた」

「ったく……」

 

 だけど素直にお礼を言われたからか分からないけどクリスちゃんは顔を赤くしながらそっぽをむいた。かわいいでやんの……ごめんなさいそっとギアを握らないで。

 取り敢えずクリスちゃんには両手を合わせて謝って、視線をマリアさんに戻す。頭を殴られてようやく元に戻ったマリアさんだけどやっぱりギアを纏った状態で殴られたからか相当痛いようで蹲った状態で立てていない。わたしもあれ貰ったら暫くは痛みが引かないだろうし仕方がないよね。だってマリアさんが素で痛いって言うレベルだし。

 とか思ってたら切歌ちゃんから離れた調ちゃんがとことことマリアさんの方へ。えっと、放置された切歌ちゃんは……おおう、顔真っ赤でフリーズ。取り敢えずわたしが目を覚まさせよう。

 もしもーし、起きてるー?

 

「マリアマリア」

「な、何かしら調?」

 

 あーこりゃ再起動には暫くかかるね。って思ってたら何時の間にか調ちゃんがマリアさんと接触していた。あの状態の調ちゃん、中々に破壊力高いからまたマリアさん壊れちゃったりとか……考えられるなぁ。

 切歌ちゃんを担いで他の場所で安置しておこうと思い取り敢えず切歌ちゃんの腰に手を回した所で再びあちらに進展が。

 

「よしよし」

 

 調ちゃんがマリアさんの頭を、正確には殴られた部分を撫でていた。

 撫でられているマリアさんは硬直。何が起こっているのか分からない様子。

 

「痛いの痛いのとんでけー」

「調……」

 

 あー、定番ですよねそれ。特に小さい子に関しては。

 

「どう? 治った?」

 

 そして満面の笑み。って、これ本当に大丈夫? さっきまで錯乱しまくってたマリアさんだよ? また錯乱して何かやらかさない? いや、やらかす。

 

「……えぇ、治ったわ」

 

 およ? 案外大丈夫?

 そりゃそうだよね。マリアさんってこの中で一番年上だし何やかんやでわたし達を引っ張ってくれる人だしこういう時こそ一番冷静になって……

 

「だから」

 

 なって……なって?

 なってるんだよね? なのになんでそっと調ちゃんを小脇に抱えているのかな? なんか目が怪しいですよマリアさん!? クリスちゃん、荒事用意!! わたしも荒事用意!!

 

「調は私がお持ち帰りしてこのまま立派に育て上げて見せる!!」

「いや落ち着いてくださいマリアさん!? 調ちゃんはもう立派に育ってますよ!?」

「この子を一人前のレディとして私が育て上げて見せる!!」

「あーもう聞いちゃいないんですけど!?」

「あー、その気持ちわかります」

「なんでわかっちゃうの未来!?」

「光源氏計画ですね!」

「あたしにすら分かるから言わせてもらう! ぜってぇ間違ってる!!」

 

 と、取り敢えず今言える事はマリアさんの中の母性的な何かが爆発してお姉さんからお母さんにジョブチェンジを果たしたって事! いや、よくわからないけどそう言う事! なんだかわたしの私生活は未来の光源氏計画の遂行によって成り立っているとか嫌な想像が容易に出来たけど気にしない! 既にそれも完遂してあとはわたしを篭絡するだけにしか思えないけど気にしない!

 

「邪魔するというのなら容赦しないわ!! Seilien coffin airget-lamh tron!!」

「げぇ!? アガートラーム出しちゃったよこの人!?」

「ってか何でLiNKERも無いのにギアを纏えてやがんだ!?」

 

 そういえば!!

 してその答えは!?

 

「そう、これこそが愛ッ!!」

「何故そこで愛ッ!!?」

 

 言ってる事、全然わかりません!!

 

「おい馬鹿! マリアを眠らせてあいつを元に戻すぞ!」

「合点承知!!」

 

 取り敢えずクリスちゃんの言葉に頷く。

 そうしないとマリアさんの暴走が延々と続くし!

 

「師匠! 手伝ってくださ……あれ、いない?」

 

 取り敢えず師匠にも救援を、と思ったけど師匠がいない。一体どこへ……?

 

「司令なら調さんを元に戻す切欠を探すために映画を借りに行きましたよ?」

「映画は教科書じゃないって言いたいけどわたしも映画見てどうにかしてるから何とも言えない!! ってかむしろ正論にしか聞こえない!!」

「よし、ここにはあたししか常識人がいねぇな!!」

 

 少なくともクリスちゃんはこっち側!

 っと、そんな事は置いておいてマリアさんの対処しなきゃ。未来、退避して……って、もうしてるんですねはい。エルフナインちゃんも。

 二人とも行動が早いなぁ。気が付いたら藤尭さんと友里さんまでいないし。

 よし、ここはいっちょやりますか!

 

「Balwisyall Nescell gungnir tron」

「killter ichaival tron」

 

 ペンダントを握って歌を歌って拳握ってバーン! はい変身完了!!

 

「先手必勝!」

 

 とか思ってたらマリアさんが短剣を大量に召喚して投擲してきた! まぁ、避けれるんだけどね。わたしですもの。

 取り敢えず当たるか当たらないかくらいの所で避けて一気に近づいて調ちゃんを奪わないと……あっ、切歌ちゃん担いでいるの忘れてた。しかも切歌ちゃんのお尻がマリアさんの方向いていてわたしがギリギリで避けたから……

 

「アッーーー!!?」

「切歌ちゃああああああああん!!?」

「何やってんだアホォ!!?」

 

 切歌ちゃんのお尻に立派な短剣がブスッと刺さってる! 結構シャレにならないくらいの大けがになってる!! 痔になるとかそんなレベルじゃなくてウォシュレットする度に激痛が走る体になっちゃってるっていうかもう病院に即搬送しないと一人でトイレに座って用を足す事すら出来なくなるレベルの大けがになっちゃってる!!

 

「あ、あたしのお尻は、鞘じゃない、デス……」

「しっかりして切歌ちゃん! 今抜剣してあげるから!」

「いやよせ! 出血が増すぞ!!」

「でも何とかしないと! 切歌ちゃんのお尻が絶唱顔してるんだよ!?」

「少なくとも今抜いたらその短剣で汚いしグロい幻朧ノ鳴剣・真打することになるぞ!!」

 

 ちょっと言葉で遊んだら結構クリスちゃんがノリノリだった件。

 でも、そうだよね……ここでこの短剣を抜いたら切歌ちゃんのお尻が絶唱顔から絶唱した後の奏さんレベルになっちゃう……ど、どうしたら。

 そうだ! こういう時映画だと焼いて傷口を……それ治療じゃなかった! えっと……えっと……そうだ!

 

「エルフナインちゃん、パス!!」

「えぇ!?」

 

 取り敢えずこういう時はエルフナインちゃんにパスするに限る! お尻が絶唱顔してる切歌ちゃんをエルフナインちゃんに投げつけてわたしはマリアさんの方を!

 

「み、未来さん! 運ぶの手伝ってください!」

「うん……ちなみに切歌ちゃん、刺さってるのって前の穴? 後ろの穴?」

「う、後ろ……」

「じゃあまだ処○だね!」

「未来さん、その口閉じて早く運びますよ」

「あっはい」

 

 視界の端で切歌ちゃんを担いだエルフナインちゃんと未来が駆け抜けていくのを見てわたしは今にも攻撃して来そうなマリアさんに意識を集中させる。

 相手は一人。しかも人を一人抱えているから十分には動けない。そしてこっちはわたしとクリスちゃん。前衛後衛揃ってる。負ける気がしない!

 戦いにおいて一番重要な物が数の暴力だって事、マリアさんの体に刻み込む!!

 

「わたしの目的のために地に伏しなさい、立花響ィ!!」

 

 マリアさんが左手を掲げる。そして現れるのはビーム砲。

 あれは、マリア・カデン粒子砲!! 流石にビームはクリスちゃんの銃弾じゃ相殺は無理……っていうか室内はビーム厳禁ですよ!

 でも、こういう時のために練習してきたアレがある!!

 

「師匠が結構前にクリスちゃんの前でやった畳替えし的なアレ室内バージョンッ!!」

「いやなげぇよ!?」

 

 地面を蹴って床を盾代わりに畳替えし! なんか副産物として色々吹っ飛んでるけど気にしない!!

 

「私の前にその程度の板ァ!!」

 

 あれ? なんか一瞬で目の前に造った壁にヒビが……あぁ、光が逆流して……

 

「あばーっ!!?」

「馬鹿が吹っ飛んだ!?」

 

 放物線を描いて吹っ飛んでいくわたしが最後に見たのは、マリアさんが破壊した床の破片が思いっきり調ちゃんの頭にぶつかっているところだった。

 

「ぎゃふん!?」

 

 そんな調ちゃんの珍しい悲鳴を聞きながらわたしはそっともう一度銀色の光の中へ飲み込まれた。

 あぁ、ビームって暖かい……

 

 

****

 

 

 結論から言おう。あのマリアさんの暴走は結構甚大な被害をもたらした。

 本部の床と壁が完全に破壊された。あと前面の巨大モニターがわたし型に穴が空いたから買い替えになったみたい。これは師匠が子供にはそういうやんちゃも必要だって事で笑顔で建て替えてくれた。いやぁ、流石師匠。マジで感服ッス。

 で、あとは人的被害。これがある意味で一番ひどい。

 まずわたし。全身火傷で入院してまっす。そりゃ全身でビームを受け止めたらこうなるよね、うん。けど軽い火傷だからまだマシ。切歌ちゃんに比べれば。

 で、一番修羅場った切歌ちゃん。お尻は全治二か月レベル。暫くはトイレに行く度に痛いだろうけど我慢してねとの事。何もしてないのに一番被害が大きいって……うん。不幸だったって事で。マリアさんは切歌ちゃんに土下座してた。

 次に調ちゃん。頭にもう一度タンコブ作った結果元に戻りました。多分調ちゃんが一番被害が少ないんじゃないかな……

 最後にクリスちゃんとマリアさん。

 あの二人、わたしが気絶した後もバトってたらしくてクリスちゃんは全身に切り傷&火傷。マリアさんは焦げてる。うん、焦げてる。発見当時はアフロだったみたいだから多分ミサイルを貰ったんだと思う。クリスちゃんは……多分切り刻まれた後にビームだろうね。で、二人とも仲良くミイラになりました。

 

「何だか大変だったみたいですね……」

「全くだ……最終的にマリアはXDモードになるわそこに抜剣までするわ……」

「え、マジ?」

「あたしの絶唱を受け止めて再配置して無理矢理吸収してXDモードとか聞いてねぇっての……」

「わ、わたしが頭を打って幼児退行しなければ……」

「いや、それは切欠で原因はマリアなんだが……まぁ、お前はこれから気を付けろ。そんだけでいいから」

 

 そう、これは不幸な事故。調ちゃんは全く悪くない、十割くらいマリアさんが悪い不幸な事故だ。

 ってことで退院後は焼き肉を奢ってもらえることになったので今は回復のために寝るとする。一応ナースコールは握っておいて未来が弱っているわたしを襲いに来たらすぐにボタンを押せるようにしよう……

 

 

****

 

 

 暫く経って。

 

「切歌ちゃん、絶唱で受け止めるなんて無茶を!!」

 

 なんやかんやあって切歌ちゃんがものっそいビームを絶唱で受け止めた。その結果切歌ちゃんは絶唱顔になって……あれ、目からしか血が流れてない。

 そ、それで倒れてる。どうしてこんな無茶を……

 

「響さん……お誕生日は、重ねていく事が大切なのデス……わたしは、本当の誕生日を知らないから……」

 

 切歌ちゃん……っ!?

 倒れてる切歌ちゃんの下から血が流れて……うそ、まさか背中か後頭部に酷い怪我を!?

 

「あと……」

 

 しゃ、しゃべったら駄目だよ切歌ちゃん!

 

「絶唱したら、お尻が悪化した、デス……がくっ」

 

 き、切歌ちゃあああああああああああん!! まさかこの血、全部お尻から流れてる物だって言うの切歌ちゃああああああああああああああん!!

 

「え? お尻……え?」

 

 このままじゃ切歌ちゃんのお尻が……でも、今のわたしにボラ○ノールは……そうだ!

 

「サンジェルマンさん、ボラ○ノールを!」

「え、ボラ○……え?」

「早くしないと切歌ちゃんのお尻が! 短剣が刺さったから発症した切れ痔がようやく治りかけてきた切歌ちゃんのお尻がぁ!!」

「お前ら裏で何があったんだ!?」

「だから早くボラ○ノールを!!」

「常備している訳がないだろうが!!?」

「ここにあるワケだ」

「ありがとうプレラーティさん!」

「え? プレラーティ? いや、流石に幻覚……」

「待ってて切歌ちゃん。今すぐにボラ○ノールを注入してあげるから!!」

「いやいや待て待て!! そういうのは家でやれ!! その子の色んな物のためにもォ!!」

 

 切歌ちゃんのお尻の完治は伸びました。 




調ちゃんがメイン……ではなくビッキー……でもなくマリアさん……の築いた物を全部切歌ちゃんが持っていく話でした。正直すまんかった。最初は切歌ちゃんと調ちゃんが頭ごっつんこで治る筈やったんや……切歌ちゃんファンの方は許してクレメンス。

え? 普通尻に短剣が刺さったらもっとひどい事になる? まぁ、ギャグなので多少はね?

次回、「月読調の華麗なるお助け計画」。グレ響出します。なお次回の内容(ry


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月読調の華麗なる逃走劇with響

次回予告の内容と変更して今回は月読調と華麗なる逃走劇with響をお送りします


 今日も平和おぶ平和。最近はギャラルホルンも静かだし特に何か大きい事件が起こっている訳でもないしこういう平和が一番だよね。思わず鼻歌を歌いながら歩いちゃうくらいに。

 今日の予定は特になし。切ちゃんと一緒に家でゴロゴロが予定と言えば予定。そのためのお菓子とか買いに来ている所です。案外装者ってお金に余裕があるからお菓子くらい余裕で買えちゃうもん。そういう訳でわたしはお気に入りのお財布片手にスーパーへ目指しているのであった。

 さて、今日は何食べようかな。あ、最近切ちゃんのお腹がプニプニしてるからあまりカロリーが高い物は……え? わたし? わたしってあまり太らない体質だから。これマリアと切ちゃんに言ったらすっごい睨まれたけど。同じことを響さんも言ったら翼さんとクリスさんにボコボコにされたって言うし。やっぱりこういうのは人前で言っちゃ駄目だね。

 取り敢えず、ノンフライのポテチとダイエットコーラ……あ、でもあれあまり美味しくないし……いや、でも切ちゃんのため。ここは心を鬼にしないと……

 

「調ちゃああああん!!」

 

 あとは……チョコレート? でもチョコって結構カロリー高いし……っていうかお菓子そのものがカロリー高いし……うーん、どうすれば……

 

「助けて調ちゃん!!」

「わっ!? ひ、響さん!?」

 

 とか思ってたら後ろから響さんが抱き着いてきたぁ!?

 え、ちょ、こんな真昼間……っていうか人が居る前で!? さ、流石に恥ずかしい……け、けど何か困ってるみたい? 結構必死に何かから逃げてるみたいだし。その証拠に汗とか乱れた呼吸とか……あれ? よく見たらガングニールを持ってない? 何でだろう……

 

「シュルシャガナ! シュルシャガナでわたしを遠くまで運んで!!」

「え? シュルシャガナで?」

 

 そ、そこまで必死に逃げる相手なの? 確かにシュルシャガナはミサイルを除けば誰よりも速く移動できる自信はあるけど……響さんがそこまで必死に逃げる理由が分からない。

 一応LiNKERはギャラルホルンのせいで急にノイズが出てきてもいいように一本持ってるからシュルシャガナは使える事には使えるけど。あ、なんか後ろから誰かが見え……あっ。

 

「響ぃ!! さぁ、私と一緒に愛の巣へ!!」

 

 首にぶすっと注射器を刺しまして中の緑色の液体を注入。

 

「Various shul shagana tron」

 

 後は歌って変身完了。きりっ。

 

「響さん、今度迷惑料としてお昼奢ってもらいます」

「全然いいよ! 貞操に比べれば安い物だから!!」

 

 響さんを背負って後ろから物凄い速さで迫ってくる未来さんから逃げる。

 今の未来さんだけど……うん、物凄く怖い。目は血走ってるし息は荒いし走り方がガチだし。んでもって手に持ってるのは明らかに布面積が少ない上に透けている服……うん。大体察した。

 大方未来さんが何処からか仕入れてきた如何わしい服を響さんに着せようとした結果、響さんが全力で逃走。逃走している間にわたしを見つけた響さんはわたしのシュルシャガナを頼って抱き着いてきた、と。多分クリス先輩と出会ってたらミサイルで空を飛ぶ事になってたんだろうなぁ……翼さんならバイクだっただろうけど。

 わたしの通常時の移動方法は足の裏に車輪を生やしてスケート。これでも普通に走るよりもずっと速いから未来さんもすぐに振り切れて……

 

「調ちゃあん……? どうして邪魔するのかなぁ……?」

「きゃああああああああ!!?」

 

 ま、真横ぉ!!? 真横にヤバい表情した未来さんがいるぅ!!?

 ど、どうして!? なんで!? わたしこれでも全力だよ!? まさか未来さん何か乗り物を……走ってるゥ!? この人自分の足でシンフォギアに追いついてる!?

 じ、人外……明らかに人外の領域にシフトしてるよこの人……って、冷静に考えている場合じゃない。ここは逃げるために。

 

「レッツゴー禁月輪」

 

 最近というかずっと前から移動技としてしか使われてない禁月輪を使って一気に未来さんから距離を離す。ここからは快適な陸の旅を――――

 

 

 

 

 

 

 

「――――ねぇ、何で逃げるのかな?」

 

 

 

 

 

 

 

「はい双月カルマァ!」

 

 びっくりしたぁ!? なんで禁月輪にも普通に追い付いてるのあの人!? 法定速度を簡単に違反するレベルの速度だしてたよ!? 響さんなんて顔真っ青だし!

 ま、まぁいいや。双月カルマは空を飛ぶ技。ふわーっと浮いて快適な空の旅へ移行。ぶーん。気分はタケコプター。

 流石の未来さんもこれには着いて来られないようで真下をウロウロしてる。このまま走るには地形的な無理なルートを通って響さんの輸送を完遂しよう。あ、でも。

 

「響さん、ガングニールは? あれで飛べば逃げられたんじゃ」

「歌おうと思ったらね? 何時の間にかね? 首からガングニールが消えててね?」

「あの人忍術習ってましたっけ……」

 

 もう響さんガクブルだよ……ホントに未来さんから離れた方がいいんじゃ。あ、でも離れたら離れたで実力行使で夜這いとかされたりする可能性もあるから、そう思えば未来さんの近くに居た方が何かされかけたらすぐに逃げれるし都合はいい……うわぁ。

 わたしもそっちの気が少しはあるから未来さんの気持ちも分からないでもないけど……流石に切ちゃんに対してここまではしないよ。それとも我慢の限界とか? もう何年も片思い状態ならああなっちゃうのは……うん分からない。取り敢えず今の状況は少し役得。

 さて、幾つかビルを超えたし後はもう気を抜いてもいいかな? 覚えておいてよかった飛行技。

 

「もう大丈夫そうですよ響さん」

「よかったぁ……」

「じゃあ、そうですね……適当にリディアンにでも――」

「――悪いが空の旅はここで終わってもらう」

 

 殺気!!?

 

「唸る、蒼ノ一閃!!」

「巨円斬!!」

 

 殺気を感じて両手のヨーヨーを合体させて巨大化。そのまま殺気を感じた方へとぶん投げる。

 ヨーヨーはそのまま青色の斬撃にヒットしてそれを消し飛ばしてわたしの方へと戻ってきた。その最中にヨーヨーは元に戻ってわたしの元へと帰ってくる。

 この斬撃……っていうか蒼ノ一閃は!

 

『翼さん!』

「悪いな、立花、月読。私はお前達を止めて立花を小日向に献上しなければならない」

 

 な、なんで……なんで翼さんが未来さんの味方を……

 いや、今は理由何てどうでもいい。相手に翼さんが加わってしまったのが一番の懸念! 翼さんの技には遠距離攻撃が大量に存在する……つまり空を飛んでいるせいでギアの本体とも言えるツインテールが使えないわたしじゃ手数が足りないせいで落とされる可能性が高い! 翼さんは今ビルの屋上に立っててわたし達はそこから十メートルくらい上を飛んでる。もう少し上になら逃げれるけどこれ以上は無理。落とされるのを待つしかない。

 そうすると地面に降りるしかないけど、翼さんのギアって何気に速力もあれば近中遠距離に対応できる万能型。しかも火力もある。弱点が剣しか使えないってくらいしかないくらいには結構チートなシンフォギア! それから逃げるには禁月輪しかないけど禁月輪じゃ未来さんが追い付いてくる!

 あれ? 詰んでる?

 

「狼狽えるな!!」

 

 はっ、この声は! この銀色に光るギアを纏った人は!

 

「調、あなたは行きなさい。ここは私が何とかする!!」

「ま、マリア!」

「マリアさん!」

 

 マリアだ! マリアが来てくれた!!

 マリアが他のビルから翼さんの立つビルまで飛んできてくれた!

 

「翼。あなたが未来に弱みを握られている事は知っているわ。だから響を犠牲にするしかないと」

「くっ……悪い、立花……」

「いや、そんな……悪いのは未来ですから……」

 

 割とマジでそうとしか言えない。

 

「だけど大丈夫。貴女は私が止める。それを響を攫えなかった免罪符にしなさい」

「マリア……すまない!」

 

 翼さんが謝りながらもマリアに斬りかかる。それをマリアは短剣で受け流して距離を取り短剣を蛇腹剣にして翼さんを圧倒する。

 でも、翼さんですら従うしか出来なかった弱みを未来さんは握ってるのにマリアは何も握られなかったのかな?

 

「ふっ……ライブで痛い事言った挙句国際全裸放送までやった私にもう恥じる物なぞ何一つとして、無いッ!!」

「やめてマリアさんその言葉はわたしにも効きます!!」

 

 あぁ……そういえば光で局部は隠れていたとは言えばっちりとテレビに映ってたもんね。二人の全裸。

 あとマリアのライブで宣言したアレは今ネット上でMAD素材として出回ってるよ……あれを音源にして歌を歌わせたりまでした動画まであったよ……不覚にも笑ったよ……

 マリアは凛々しい顔つきでそのまま翼さんを抑えにかかる。わたし達はそれを見てから顔を合わせて頷いてそのままその場を去る。

 

「マリアが何時まで翼さんを抑えれるか分からない。だから、速く行かないと……」

「そうだ、SONGの本部! あの潜水艦に連れて行って!」

「あそこに?」

「師匠に守ってもらう!」

「あぁ……」

 

 あの人なら例え隕石が落ちてこようと響さんを守ってくれそうな気がする。未来さんだってあの人には手も足も出ない。

 だったら、行先は決定した。いざ本部へ。

 

「わりぃがその馬鹿はこっちで回収するぜ」

「響さん、ちょっと自由落下の旅に行ってきて!!」

「へぇあ!!?」

 

 下から嫌な声が聞こえると同時にわたしは響さんを空に向かって放り投げた。その直後に双月カルマの二つの電鋸を真下に展開して盾にする。

 その瞬間聞こえてくるのは電鋸を叩く細かい金属の雨霰。

 二枚の電鋸を切り離す直前に足場にして空へ向かって飛んで空中の響さんをキャッチ。そのままもう一度双月カルマを使って空に浮く。この挨拶無用のガトリング……間違いない。

 

「クリス先輩まで……ッ!」

「そういう事だ。その馬鹿を置いていってくれ」

 

 クリス先輩は苦虫を噛み潰したような顔でガトリングを向けてくる。あの人も未来さんに弱みを……そんな、クリス先輩が恥ずかしがるような秘密なんて……うん、あるんだろうなぁ。ああいう人ほど沢山あるんだろうなぁ。

 でも、これは困った。

 クリス先輩は完全に遠距離特化のギア。さっきは何とか防げたけど何度もあれをやられたら近いうちに落とされちゃう。クリス先輩の事だから当てる事は無いだろうけど、確実にわたしを無力化しにくる。え? また詰み?

 

「なんとッ!!」

 

 とか思ってたらこの声は!

 

「イガリマァァァァァァァァァァァァッ!!」

「ちぃっ!?」

 

 やっぱり切ちゃんだ!!

 切ちゃんが鎌でクリス先輩に斬りかかり、それは防がれたけど力で思いっきり吹っ飛ばした。流石切ちゃん、愛してる!

 

「切歌ちゃん!?」

「助けに来たデスよ、調、響さん!!」

 

 鎌をブンブンしながら切ちゃんがクリス先輩と対峙する。よかった、切ちゃんは弱みを握られてないみたい。

 

「いや、握られたデス」

 

 え? でも、それなら。

 

「手紙」

 

 あっ……

 

「今さら遅いんデスゥ!!」

 

 とか言いながら切ちゃんがクリス先輩に斬りかかる。

 手紙って、うん。確実にアレだよね。本部で解析までされた結果暫くの間大人組から生暖かい目で見られる原因になったあの……しかもあの後置手紙まで発掘されて……

 そりゃ遅いよね……今さらあれを弱みにされても。

 

「愛と、怒りと、悲しみのォ! イガリマフィンガーソードデェェェェェェェス!!」

「いや意味分かんねぇ!!」

 

 この間Gガン○ム一緒に見たもんね、切ちゃん。

 

「さぁ、調、行くデス! 帰ったら一緒にゴロゴロデス!!」

「うん、一緒にゴロゴロしよう!」

「ちっ……まぁいい。時間稼ぎ、してみろよ?」

 

 クリス先輩がガトリングを構えて切ちゃんと対峙する。切ちゃんも鎌を構えて何時でも斬りかかれるように構えている。その間にわたしは響さんと一緒に潜水艦へ。

 後ろから爆発音とかビームが飛び交う音とか聞こえてくるけどわたし達はマリアと切ちゃんのおかげで今こうしてあのクレイジーサイコレズから逃げられている。だから、この時間を無駄にしちゃいけない。絶対に、絶対に逃げ切るんだ。あの大人達の守りを受けるんだ!

 潜水艦が見えた辺りから禁月輪に切り替えて一気に潜水艦まで走り抜ける。

 

「やった、これで未来から……!」

「ゴール……!」

 

 これで、わたしも未来さんのターゲットから解除されて……

 

「Rei shen shou jing rei zizzl」

 

 は?

 

「響は私の物ビーム!!」

「あっぶあっぶあっぶ!!?」

 

 後ろから紫色のビームが!!?

 っていうかさっきの聖詠ってまさか!

 

「ふふふ……万が一のために借りてきたの」

「しぇ、神獣鏡……」

 

 か、借りてきたって……あのグレた響さんが居たっていうあの世界から? わざわざ?

 この人の行動力可笑しいよ……

 

「さ、調ちゃん。響を渡して?」

「っ……」

 

 神獣鏡……簡単に言えばシンフォギア特攻。

 本来はわたしでも多分勝てる様な相手なんだろうけど……今の未来さんのスペックは明らかにわたし達装者の中でもダントツ。わたしじゃ太刀打ちできないかもしれない。

 ここは響さんだけでも逃げてもらって……

 

「その必要はない」

 

 え? 今度は誰? っていうか今の響さんの声!?

 

「我流・無明連殺」

 

 また響さんの声が聞こえたと思ったら未来さんの体が真横に吹き飛んだ。

 代わりに未来さんの立っていた場所に立っていたのは……響さん!?

 で、でも響さんは後ろに居るし……でもあっちの響さんは何だか様子が変? なんていうか……いつもの活発さが形を潜めているというか……

 

「へ、平行世界のグレたわたし!?」

「あ、あれが?」

「そう言う事」

 

 ギアを纏った響さん。つまり平行世界の響さんはマフラーで口元を隠しながら呟いた。なんだか、違和感しかない筈なのに凄くカッコいい……

 

「くっ……あっちの響。なんで邪魔するの!?」

「いや、わたしが原因でこっちのわたしが迷惑するのも何だか夢見悪いし」

 

 そう言うと平行世界の響さんが拳を構える。

 凄い、こっちの響さんじゃ未来さんに向かって拳を構えるなんてまず出来ないのに……それに平行世界の響さんは何だかクールでかっこいい。本当にアレが響さん? 別人ですって言ってもらった方が信じられるんだけど……響さん、同感しないで。

 

「代わりに、えっと……調、だっけ」

「え? あ、はい」

「今度相談に付き合ってもらう。だから、ここはわたしに」

 

 相談? でも、それくらいなら!

 

「お願いします。平行世界の響さん!」

「任せて……これなら神獣鏡をパクッてきて渡さなきゃよかった」

 

 あ、あのギアって平行世界から盗んできたんだ。

 まぁ、平行世界事情はどうでもいいから取り敢えず今は逃げなきゃ。平行世界の響さんに頭を下げてからわたしは響さんを背負って禁月輪で潜水艦の中へ。

 よし、あとはあの人を探して……

 

「ぐっはぁ!!?」

「ひぃっ!?」

 

 とか思ってたら後ろから何か飛んできた!?

 

「ふ、不覚……」

「って、平行世界の響さん!?」

 

 今さっき別れたばかりですよ!? しかも凄くボロボロ!!

 

「……何あれ強すぎ」

「クレイジーサイコレズです」

「納得いかねぇ……」

 

 とか言いながらも響さんはもう一度立ち上がった。もうボロボロなのに……

 確か平行世界の響さんはこっちの響さんと大差ない実力を持ってるって聞いたけど……その平行世界の響さんの力を持ってしても未来さんって止まらないんだ……え? これわたしが時間稼ぎしてたら死んでたんじゃない?

 

「しーらーべーちゃーん?」

「ひゅっ!?」

 

 う、後ろから未来さんが迫ってきてる……や、やばい。死ねる。これ死ねる。平行世界の響さんが盾となるために立ってくれるけど流石にこれは無理かもしれない。

 拝啓、大好きな切ちゃん。先にマムに会いに行ってます。

 

「おいおい、何か面白い事になってんな」

 

 こ、この声は!? って、これ今日何度目だろう……

 

「奏さん!? どうしてここに!?」

 

 わたし達の後ろから歩いてきたのは私服姿の奏さんだった。

 

「いや、遊びに来てたんだけど……何だあれ。え? 小日向? なんか雰囲気がヤバいんだけど」

「クレイジーサイコレズとして覚醒しました!」

「あぁ……」

 

 それで納得できちゃうという。

 

「んで、響。お前なんで生身なんだ?」

「ガングニール奪われました!!」

「ならアタシの使うか? イグナイトとやらは使えないけど」

「マジっすか!?」

「おう。アタシ、あれと戦って生き残れる自信ねぇし……」

 

 ですよね。

 そんな訳で響さんが奏さんのガングニールを借り受けて聖詠を歌いそのまま変身する。ギアは……あ、一段階出力低い奴だ。やっぱり同じとは言っても他人のギアだし少し違うのかな?

 

「よし、これなら! あっちのわたし。援護するよ!」

「……いいの?」

「未来を止めないと、多分あっちのわたしまで毒牙に……」

「ちょっと何それ聞いてない」

「調ちゃん! 三体一なら未来が相手でも勝てる筈!!」

「はい!」

「待って待って。わたし別にレズじゃないしこっちの未来には恩こそあるけど貞操は別物なんだけど」

「行くよ、二人とも!!」

「援護します!!」

「いや聞いて?」

 

 響さんが二人にわたし。これなら誰が相手だろうと絶対に勝てる!!

 あれ? なんでわたし達ここに来たんだっけ?

 

 

****

 

 

 結論。

 

「ぐふっ……」

「……」

「ちーん……」

 

 駄目でした。

 響さんが即ボコられてガングニールの強制返却が未来さんの手で成されて退場。平行世界の響さんが吹っ飛んで犬神家してわたしは真正面から近づかれて頭をぶん殴られました。

 ちょっと強すぎて笑えません。

 

「じゃ、二人の響は貰ってくね?」

「お、おじひを……」

「みくぅ……たすけてみくぅ……」

 

 あぁ、二人がドナドナされていく……でもわたしには見送るしか出来ない……がくっ。




調「あの後どうでした?」
W響『命からがら逃げだせたよ』

と、いう訳で今回の話でした。グレ響が書きたかっただけ。ちなみに393にお持ち帰りされる際に助けを求めていたのがグレ響です。

そしてここのマリアさんが狼狽えるなばっかり言っている件。これは狼狽えるなbotマリアさんですわ。

いやぁ、今回は華麗に逃走劇してましたねぇ()

それでは次回こそ「月読調の華麗なるお助け計画」。グレ響の相談内容はこの話にて。ちなみにこの世界線の調は軽くレズが入ってますが他の世界線ではそうとも限らないのであしからず。


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月読調の華麗なるお助け計画

前回の予告通り。今回はグレ響と一緒。


 先日は酷い目にあった。結局装者全員を巻き込んだ未来さんの暴走は、響さん達が隙を突いて神獣鏡を盗んでからガングニールで飛んだ後、奏さんの世界に二人が逃げ込んだ事で事なきを得た。

 わたしはほとぼりが収まるまで、平行世界で過ごしてきた二人の響さんにその事を聞いて胸をなで下ろした。こっちの響さんはまだしも、あっちの響さんは明らかに巻き込まれただけだからね。無事でよかった。

 わたしはあの後、結局時間稼ぎしか出来ずにボコボコにされたマリアと切ちゃんと一緒に本部の医療室にお世話になった。

 結構大きなタンコブが一つ出来ただけで済んだけど、修羅場はあのあと平謝りしてきた翼さんとクリス先輩を宥めた事だったりする。けど、それはあまり関係無い事だから置いておこう。特にマリアは狼狽えるな!! って五月蠅かったし。

 で。わたしはそれらの事後報告会を電話で響さん達と済ませた後、あっちの世界の響さん……もうグレた響さんでいいや。略してグレ響さんに呼び出された。多分、未来さんから逃がしてくれる時に言ってた事だと思う。けど内容はさっぱり。

 取り敢えずグレ響さんに呼び出された公園に向かってみたけどグレ響さんは何処にもいない。あれ? 来る公園間違えた?

 

「ここ」

 

 とか思ってたらフードを被った人がそう言って手を上げてきた。

 あ、灰色のパーカーだったからよく分からなかったけどあれグレ響さんだ。響さんはあんな服着ないからよく分からなかった。取り敢えずグレ響の元まで小走りで移動して横に座る。

 

「ん」

 

 グレ響は小さくそれだけ言うとわたしに飲み物を一つ渡してきた。

 もしかして、奢ってくれるのかな? ならありがたく。グレ響さんも自分の分のコーヒーを買ってたみたいでそれを飲んでる。

 あ、ブラックだ。同じ響さんなのにこうも違うんだ……最早別人だなぁ。

 グレ響さんはそのままコーヒーの缶を握りつぶそうとして……スチール缶だったから握りつぶせずに手を震わせてる。結構恥ずかしかったのか覗き込むと見える顔はちょっと赤い。

 こういう所は結構響さんだ。結局、グレ響さんは缶をゴミ箱に投げ捨てて……おぉ、入った。

 

「……で、相談したいんだけど」

「いいですけど……何でわたしに? 未来さんとかこっちの響さんとか。あと翼さんとかでもよかったと思うんですけど」

「別に、特に理由は。ただ、こっちの未来に聞いたら調ならいいんじゃないかって」

「未来さんに?」

 

 一応未来さんにはわたしもちょっとそっちの気がある事はバレてる……っていうか初対面の時に即バレしたけどそれが何か関係あるのかな? 

 ぶっちゃけそれくらいしか未来さんの知ってる事って無いだろうし。

 

「未来に、色々とお礼がしたい」

「未来さんって……あ、響さんの世界の?」

「そう。未来が戻ってきてからは未来に色々と引っ張ってもらって……それで、まだお礼とか出来てないから」

 

 それだとこっちの未来さんに色々と聞けば……

 

「聞いた結果抱きしめてキスしてベッドインって言われた。わたしも未来もレズじゃないんだけど……」

 

 あぁ……それは、はい。仕方ないですね。

 でも、あっちの世界の未来さんってそっちの気ないんだ……未来さんのクレイジーサイコレズっぷりだけは何が起ころうと全世界共通だと思ってたのに。

 平行世界だしそういう可能性もあった、っていう事だよね。グレ響さんも言ってしまえばこっちの響さんの可能性の一つって事だし。

 

「それで、調には色々とアドバイスしてほしい。わたしはその、そう言う事あまり慣れてないから」

「アドバイス……わかりました。そう言う事なら」

 

 未来さんにお礼をするためのアドバイス。あまり良い事は思いつかないけど、デートみたいな事したらいいよね?

 グレ響さんのお願いには快諾してわたしはグレ響さんとあっちの未来さんの仲を進展させる方法を考える。これはちょっと責任重大。

 

 

****

 

 

 それで数日後。わたしは平行世界にお邪魔してる。

 ギャラルホルンを私用で使っていいのか疑問だったけど、その程度ならこっちで何とかしておくって風鳴指令は言ってくれた。やっぱりあの人は凄い。

 平行世界にお邪魔した後はSONG……じゃなくて二課の本部にお邪魔してグレ響さんがパクッてきた神獣鏡を返却したあと、何かノイズ関連の事があったらこっちにいる間は手伝うって言っておいた。

 平行世界のフィーネ……じゃなくて櫻井了子さんはわたしのシュルシャガナを見て興味津々だったけど、流石にシュルシャガナは渡せない。これを渡すとあっちに帰れなくなっちゃうし。

 それで、二課に寄ったついでに、わたしは二課でちょっとした物を借りた。

 

「響さん、聞こえますか?」

『聞こえてる』

「ならいいです」

 

 借りてきたのは通信機。耳に装着するタイプの小さなもので、グレ響さんはそれを髪の毛で隠してる。耳は隠れる程度だったグレ響さんの髪の量が役に立った。

 わたしはグレ響さんを監視できるように、余り目立たない恰好をしながら余り目立たないように眼鏡をかけて携帯を弄る振りをしている。

 潜入捜査官美少女メガネ復活。きりっ。

 こっちの未来さんはわたしの事を知らない。だから途中途中で髪形を変えたり、上着を脱いだり着たりを繰り返して変装をしながら、二人を尾行するつもり。

 そして何かあれば、グレ響さんに指示を出す。そのためにわたしもグレ響さんと同型の通信機を耳に着けている。

 そして暫く待っていると、こっちの世界の未来さんがやってきた。結構気合の入った服だ。

 

「あ、響!」

「未来。来てくれたんだ」

「当たり前だよ。でも、珍しいね。響が私を呼び出すって」

「う、うん」

 

 あれ? もしかして要件とか伝えてない?

 グレ響さんに今日何するのかを聞いた結果、グレ響さんは小声でここに来てとしかメールしてないって言った。あの人、不器用過ぎ……いや、恥ずかしがってるのかな?

 どっちにしろ、ここはわたしの出番かな? グレ響さんに次に口に出す言葉を通信機で伝える。

 

「え、えっと……み、未来に、その……日頃のお礼、したくて……だから、その、一緒に……」

 

 不器用! 物凄く不器用! でも新鮮で可愛い。これがギャップ萌え?

 未来さんも、その様子のグレ響さんが可笑しかったのかくすくす笑ってる。

 

「わ、笑わないでよ……」

「ふふっ。ごめんね。恥ずかしがってる響が可愛くて」

 

 うん、わかる。

 こっちの未来さんは、どうやらわたし達の世界の未来さんみたいにクレイジーサイコレズじゃないみたいで、響さんを見る目は歪んでるようで真っすぐな愛情じゃなくて、友情だけ。

 友情の中に愛情が混ざってないか、と言われると微妙だけど、グレ響さんの事を親友と思ってるみたい。

 グレ響さんは暫く未来さんと話すと、わたしにどうしたらいいのかを聞いてきた。どうしたらって……あぁ、何処に行くかって事かな? 

 だったら……ショッピングとかどうだろう? それを口に出してグレ響さんに伝える。

 

「えっと、未来。これからショッピングとかどう? わたし、あまり服を持ってないから」

 

 そう言えば、グレ響さんはわたし達の世界の未来さんに助けられてから、余っていたガングニールを借りて装者をやっているらしい。それで住む場所とお給金を二課から貰ってるらしいけど、暫くパーカーと数着の服だけで全部済ませてた上に、家事もあまりできないみたい。

 私服も最近の流行などが分からないから、買いに行こうと踏み込めないらしくて色々と買っていないらしい。

 それを咄嗟に思い出したからグレ響さんにそう告げたけど、どうやらグレ響さんはわたしの思考が大体分かったようで結構自然に話を合わせてきた。

 未来さんは少しビックリしてたけど、すぐに笑って頷いた。

 

「いいよ。最近の響、いっつも同じパーカーだし」

「それは……汚れとか目立たないから」

 

 灰色のパーカーと深い青のショートパンツは確かに汚れが目立たない。

 まだグレ響さんが二課とは相容れなかった頃って、実は結構汚れていたのかな?

 

「じゃあ、どんな服が良い?」

「動きやすい服」

 

 未来さんとグレ響さんはそんな他愛もない会話をしながら一緒に歩いていく。

 わたしは携帯をポケットに仕舞って二人を見失わないように後ろから付いて歩く。ここからは基本的にグレ響さんに一任するけど、本当に困ったらわたしがアドバイスする。それが約束。

 二人の後を追いながらわたしは完全に他人の一般人の振り。にしても、クレイジーサイコレズじゃない未来さんって結構新鮮だし、見てて飽きない。というか見ていたい。

 

 

****

 

 

 二人のお出かけは順調。というかわたしが必要ない位には二人は楽しんでいた。

 グレ響さんはわたし達の世界の響さんみたいに満面の笑みは浮かべないけど、確かに嬉しい時は小さく笑うし、未来さんはそんなグレ響さんを見て笑顔。

 なんだか、グレ響さんってタダでさえ戦う時とかはイケメンな響さんに更にクールっぽさを足した感じだから、見てて時々ドキッとしちゃう位のイケメンっぷりを見せてくれる時がある。

 わたしはそんな二人の後ろで、髪形を変えたり、メガネを取ったり、ヨーヨーで遊ぶ子供のふりをしたり。大丈夫、ちゃんと何時でもサポートできるようにしてますよ。

 でも、そろそろわたしのお役も無くなると思う。だってグレ響さん、わたしに殆ど相談なんてしてこないし。これならわたしは一言だけ告げて帰っちゃっても――

 

「ノ、ノイズだぁあぁぁぁぁぁッ!!」

 

 ――そう思った瞬間だった。

 少し遠くで誰かが叫んだ。その瞬間起こる爆発音と人々の悲鳴。そしてノイズが出現する時の独特の音。

 そうだ。この世界はまだノイズが出現する。ルナアタックすら起こってないこの世界じゃ、まだバビロニアの宝物庫はノイズを放出してしまう。これじゃあ翼さんが来るまで待つしかないのが、この世界の何時も。

 でも、今はわたしが居る。自衛用に持たされたLiNKERを何の躊躇もなく首に打ち込み適合計数を上げ、臨戦態勢。後はグレ響さんと協力すれば!

 

「ひ、響! 逃げないと!!」

「未来……だ、だけど……」

「逃げないと死んじゃうんだよ!? 今度こそ!!」

 

 ら、乱痴気騒ぎ!? いや、違う。もしかしてグレ響さんは!!

 

「実はまだ装者だって事は話してない」

 

 小声でグレ響さんはそう告げてきた。

 なんで、と思ったけどよく考えればそうだ。わたし達の世界の未来さんは、響さんにノイズから助けられた時にシンフォギアの装者が響さんだって事を知ったけど、この世界の未来さんはそうじゃない。

 未来さんにとってグレ響さんは、ノイズに一度殺されかけてしまった被害者でしかない。グレ響さんがそれに対抗するための武器を持っているなんて思いもしないハズ。

 グレ響さんを引っ張って逃げようとする未来さん。だけど、どうしたらいいのか分からず棒立ちをしているグレ響さん。このままじゃいずれ、グレ響さんがシンフォギアを纏わざるを得ない状況になる。

 だけど、今、わたしはここに居る。なら、少なくともこの場は凌げるようにアシストするのがわたしの役目。

 

「Various shul shagana tron」

 

 聖詠を唱える。

 一瞬でわたしの服が分解され収納される。そしてインナーが展開されてギアが展開される。勿論誰の目にも付かない場所での展開だし、仮に見られていても見た人にはわたしの恰好が光に包まれたと思ったらギアを纏っていた程度にしか見えない。

 わたしの裸はそうそう簡単には見えないし、安くない。

 

「響さん。ここはわたしに任せて」

 

 通信機でそうグレ響さんに告げてからわたしは一気にノイズの前に躍り出る。

 

「~~~~♪」

 

 歌を歌いながら一般人の前に立つノイズを巨大化させて展開した電鋸で切り刻む。

 もしもこっちの世界にもわたしが居たら、迷惑がかかるかもしれないから、顔は極力見えないように立ち回りつつ、シュルシャガナの機動力と中遠距離攻撃の豊富さを活かして多少の無理を利かせてでもノイズを切り刻む。

 その様子はグレ響さんと未来さんにも見えているようで、ヘッドフォンからはシュルシャガナの流す伴奏と共にグレ響さんと未来さんの言葉が聞こえてくる。

 

「あ、あれって……」

「……ごめん未来。わたし、行ってくる」

「行ってくるって……何する気なの!? ノイズに立ち向かうなんて……」

「未来には内緒にしてたけど……わたしにはそのための力がある」

 

 もしかしてグレ響さん、バラしちゃうつもりなんじゃ……

 グレ響さんに目線を合わせると、グレ響さんは小さく頷いた。

 

「どうせ何時かバレるんだ。なら今バラすだけ。二課にはちょっと面倒を懸けるけど」

「バラすって何を……?」

「ごめん未来。秒で済ませてくる」

 

 グレ響さんは未来さんにそう告げるとわたしの方へ向かって駆け出してきた。

 服の内側からガングニールを取り出して握り込み、逆の手で拳を握りわたし達の世界の響さんにも負けない身体能力を活かして一気にノイズの前に躍り出る。

 

「駄目ぇ!!」

「Balwisyall Nescell gungnir! tron!!」

 

 叫びながらの聖詠。それと同時にノイズを殴った手は炭素分解される事なく光を纏って、一瞬にしてギアの展開を完了させる。それと同時にグレ響さんの手のギミックが作動してノイズを消し飛ばす。

 マフラーで口まで隠した、響さんやマリア、奏さんとは違う、もう一つのガングニール。それがノイズを一瞬にして蹴散らしながらわたしの横に降り立った。

 

「待たせた」

「いいんですか?」

「さっきも言った。いずれバレること」

 

 グレ響さんはそっとマフラーで口元を隠すと、わたし達の世界の響さんとは違うファイティングポーズをとった。

 なんだか新鮮だけど、横に立つのは響さん。ならきっと、戦い方にあまり差異はない。使う技や技術には差異はあっても、戦うための思考にそこまでの差がないのだと考えれば、わたしが合わせることで少しは未来さんを安心させて説得させる材料にはなるはず。

 

「響さん、サポートします」

「わかった」

 

 グレ響さんが小さく呟くとそっと口を開いた。

 そして流れてくるのはガングニールの伴奏。そしてわたしが聞いたことがない、響さんの歌。

 それを聞くと同時にグレ響さんは走り出し、ノイズの真中へ突っ込む。勢いをそのままに、グレ響さんがノイズを片っ端から蹂躙する。わたしはその後を追従して、電鋸を飛ばしたりヨーヨーを投げたりしてグレ響さんの撃ち漏らしや一般人を狙うノイズを片っ端から撃ち倒していく。

 

「ハァァッ!!」

 

 グレ響さんが一瞬にしてノイズの中でも、特段大きなノイズの真下に滑り込むと、そのままノイズを打ち上げた。そして打ち上げたノイズを追従してグレ響さんも飛ぶ。

 空中で追いつくたびに足のジャッキを使った蹴りを繰り出し、更に蹴りを放った足とは反対の足のジャッキを使うことで回転しながら更に空中を飛ぶ。

 それを何度も。何度も何度も繰り返して一気にノイズを地上から数十メートル離れた場所まで連れていく。

 わたしもそれを見てから飛び上がり、時々双月カルマ使って滞空時間を稼ぎながら、グレ響さんと空中で並ぶ。

 歌を歌うグレ響さんと空中で視線を合わせ、グレ響さんの作戦を何となく悟って、それに応えるべく両手のヨーヨーを合体させる。

 

「超巨円投断……ッ!!」

 

 わたしが一人で使える技の中では、最高の威力を持つであろう超巨円投断。それを扱うための超巨大ヨーヨーを作り出してからグレ響さんの前で切り離す。

 グレ響さんはそれの上へとバーニアとジャッキを使って飛び、空中で方向転換。そのまま超巨円投断へ向かって右手のバンカーを展開して一気に空中で加速し超巨円投断へと向かっていく。

 

「オオオオォォォォォォォォッ!!」

 

 歌を中断しながらの叫びと共に、グレ響さんは超巨円投断を殴り飛ばす。

 わたしが投げるよりも遥かに加速し、破壊力が増した超巨円投断はノイズを削りながら地面と共にノイズを板挟みにし、そのまま爆散する。

 その爆発は周りのノイズを一瞬で灰塵へと帰しながら、一般人を巻き込まない絶妙な威力で地を焼いた。

 そしてそれでも残るノイズは……

 

「これで終わり。終β式、縛戒斬鋼」

 

 わたしがヨーヨーを切り離して役目を終えたワイヤーをそのまま使って一気に切り裂いて、終わり。きりっ。

 

「ふぅ……これで終わり」

「お疲れ様です。響さん」

「ん……結構疲れた」

 

 それは……あれだけジャッキ使ってたし。

 あれ、わたし達の世界の響さんが結構体力使うって言ってた位だし。あまり連続使用もできないっぽいのにそれをあれだけ使えば疲れもする。

 

「響ぃ!!」

「あ、未来……」

 

 とか思ってたら未来さんがこっちに走ってきた。

 えっと、こういう時わたしはどうしたら……

 

「大丈夫。このまま帰っちゃってもいいよ」

「え? でも……大丈夫ですか?」

「多分。それに、ここからはわたしと未来の問題だから」

「……分かりました。じゃあ今度、どうなったかだけ聞かせてくださいね?」

「わかった」

 

 わたしは未来さんからきっと質問攻めされるだろうしとっとと退散。

 通信機をグレ響さんに渡して、返却をお願いしてから双月カルマでふわーっと空を浮いて適当な場所で降りてギアを解除。そのまま何食わぬ顔で元の世界に帰還した。

 

 

****

 

 

 翌日。グレ響さんが会いに来た。

 どうやらあの後、未来さんからは質問攻めにあったらしく、仕方ないので一から十まで全部答えたらしい。その結果口論になったみたいだけど、最終的には無理しないように、という事で落ち着いたとか。

 その後は二人でご飯食べに行ったり、ゲームセンターに行ってみたりして時間を潰したとか。

 

「調、ありがとう。お陰で未来にお礼も出来た」

 

 どうやらグレ響さんはあの後、こっそり買っていた服を未来さんにプレゼントしたらしく、ちゃんとお礼も果たせたようだ。

 グレ響さんはわたしにお礼を言ってくれるけど……わたし、殆ど何もしてないような……

 

「わたしだけなら誘うことすら無理だったから」

 

 そう、なのかなぁ? 普通に誘えそうな気はするけど……

 けど、二人の仲が深まったなら良かった。わたしも態々平行世界まで出向いた甲斐があった。

 

「じゃあ、わたしは帰る。未来が待ってるし……」

「うん、待ってたよ?」

「ゑ?」

 

 振り返ったグレ響さんの目の前に居たのは未来さん。その手では目を回したガングニールを纏った響さんが捕まっている。

 シンフォギア装者を素手でノックアウトって……未来さん、もしかして風鳴司令並みに強くなってしまったんじゃ……

 っていうかこれダメなやつ。色んな意味でもう手遅れなやつ。

 

「さぁこの間の続きをしよう!? 響と響!!」

「助けて調!!」

「しらべちゃ……たすけ……」

「……ごめんなさい無理です」

「嫌だ、わたしはこんな所で貞操を散らせたく」

「じゃあ、あっちの響は暫く寝ててね?」

「う゛っ……がくっ」

 

 あぁ、グレ響さんが腹パンされてそのままドナドナされていった……

 すみません、わたしも命が惜しいんです……だから安心して成仏してください二人の響さん。わたしは切ちゃんとイチャイチャするのに忙しいので……




調「あの後、どうでした?」
響's『………………』
調「……ごめんなさい」

そういう訳で調×グレ響のまず見たことがない組み合わせの話でした。XDでグレ響が奏さんみたいにサラッとレギュラー入りしないかなぁとか思ってたり。

それと、超巨円投断の調ちゃんはお尻と太ももが大変イイと思いました。猫耳XDモードも可愛い。
超巨円投断の調ちゃん出ませんでしたけど……グレ響も……

次回「月読調の華麗なる駆け引き?」。また別世界の話です。正直タイトルが思いつかない内容。


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月読調の華麗なる駆け引き?

今回もまたもやどの世界線とも繋がっていません。

さて、セレナもXDで出てきた事だしどうにかして絡ませようかな……絡ませられるかな……

ちなみに僕の頭の中のセレナさんはグラサンかけて釘バット担いでます。なんか変なキャラ付けされてますが気にしない。


 今日は切ちゃんから一緒に寝ようって誘われた。だから切ちゃんの部屋のベッドで寝ることにした。え? いつも一緒に寝てないのかって?

 わたしと切ちゃんは親友同士。そんな恋人みたいな事しないよ。確かによく間違われて二人で笑ってるけどわたし達の間にあるのは愛じゃなくて友情。クリス先輩辺りはちょっと怪訝な目で見てくる……というかわたしに対して何か哀れみを含んだ目で見てくるし響さんは同類を見る目で見てくるけど切ちゃんにそんな感情はないハズ。

 だってもう何年も一緒だし。その気ならとっくに手を出されて何かしらこっちも手を打ってるから。それが無いって事はわたし達の間にあるのは友情なんだよ。

 そういう訳でベッドメイキング中。今日干したばかりのお布団を敷いて掛け布団を敷いて。うん、完璧。あとは……ん? 何だろう。ベッドの下に本が。

 あっ、もしかして……切ちゃんの黒歴史が詰まったノート? 手紙とかやらかした切ちゃんなら考えられる。

 見ちゃいけない……けど見たい。そんな感情に揺さぶられている内にわたしの手はそっとノートに。どうやら理性よりも好奇心が圧倒的に強かったようです…………あれ? これ、ノートじゃなくて漫画? にしては薄いような。

 何の本だろ……っ!?

 

「わっ、わっ……え、えっちな本……?」

 

 お、女の子の裸が写ってる……! ん? 女の子……?

 男の子のベッドの下から女の子のえっちな本が出てくるのは分かるけど何で切ちゃんのベッドの下から……?

 取り敢えず中を覗いてみると……えっ、これって……

 

「お、女の子同士の……えっちな本?」

 

 これって俗に言うガールズラブ?

 えっ、何だろう悪寒が。それに、こんな本が一冊あるって事はもしかしてベッドの下にはまだ……

 そんな事を思いながらも切ちゃんはそんな事考えてないって思いながらベッドの下を覗いて手を突っ込むとこういう感じの本がザックザク出てくる。なんかちっちゃい箱にギッシリ入ってる。

 うわ、これ全部ガールズラブの本……? しかも殆どが黒髪の子、それもツインテールの子が写ってる。

 ま、まさか、だよね? 切ちゃん、もしかしてわたしに対してそういう感情を持ってるんじゃ……

 

「調? さっきから急に静かになったデスけど、何か……あっ」

 

 部屋の入り口から切ちゃんの声が聞こえた。しかも最後の「あっ」って、確実にやっちゃった的な感じの声だった。

 わたしの両手には黒髪ツインテールの子が表紙に写ってるえっちな本。それを見た切ちゃんの顔が赤から青になって震え始めた。

 

「……か、借り物デス」

「まだ何も聞い――」

「借り物デス」

「いや、その――」

「クリス先輩からの借り物デス!!」

「それこそ有り得ないよ!?」

 

 もしそれが本当だったらわたしはクリス先輩に近寄りたくないんだけど!? せめてそこは未来さんにしようよ!?

 でも、これで色んな事に合点がいった。特にクリス先輩と響さんの視線。あれ、わたしが切ちゃんにそういう対象にされてるから向けられてた視線だ。えっ、もしかして気付いてなかったのわたしだけ?

 

「切ちゃん……まさか」

「そ、そんな訳ないじゃないデスか。お、女の子同士デスよ?」

 

 声が明らかに震えてる。

 なんだか切ちゃんが少し怖い。何でって……この本、基本的に殆どがレ○プ物だから……

 

「も、もしかして……こういう本みたいな事、したかったんじゃ……」

「そ、そんな事無いデスよ!」

「天国のマムに誓える?」

「それは……それ、は……」

 

 や、やっぱり……切ちゃんって女の子が好きになっちゃう子で……しかもその対象がわたしで。

 ゾクッとした。も、もしかして寝ている間に襲われてたりとか……は、無いよね。いっつも朝は特に変わったこと無いし。切ちゃんが先に寝てわたしが後に寝て、それからわたしが早く起きるし。

 

「し、調。そ、その本は……ご、誤解デスよ。実は未来さん……じゃなくて響さん……でもなくてマリア……」

「切ちゃん、ちょっと見苦しいよ……?」

「はいごめんなさい。あたしが隠れて買ってたおかずデス」

 

 や、やっぱり……

 そ、それじゃあ今日一緒に寝ようって言ったのって……

 

「ご、誤解デス!」

「じゃあしょっちゅう一緒にお風呂入ろうって誘ったのは」

「そ、それ、も……ご、誤解デス……」

「たまに歯ブラシを間違うのは」

「ご、かい……」

「F.I.S時代のシャワーの時の視線って……あの時は気のせいって事にしたけど……」

「…………」

 

 こ、これって本当に……

 

「だ、だって好きになっちゃったのは仕方ないじゃないデスか! 言ったら嫌われるからこうやって隠れて……」

「でも歯ブラシはやり過ぎだと思う」

「あ、あれは本当に偶々……」

「…………」

「ごめんなさい普通に全部故意デス。背徳感が心地良くて止められなかったデス」

 

 うぅ……切ちゃんと未来さんが重なって見える……

 しかも、ちょくちょくえっちな本に視線を落とすけど、奥の方に行けば行くほど過激でハードな物が……最初は結構ソフト――わたしにとっては十分ハードだけど――だけど、奥に行くとホントにキツい物ばかりで……

 わたしは切ちゃんの事は親友って思ってるけど……ただそれだけで、普通に好みは男の人だし。結婚願望もあるし。

 それはともかく、今こうして見つけたのが大体レ○プ物ってことは……

 

「今日一緒に寝ようって言ったのって……」

「……あ、あわよくばとかなんて」

「嘘言ったら二度と口聞かない」

「ガッツリ思ってたデスごめんなさい」

 

 やっぱりぃ……

 切ちゃんの気持ちを考えれば色々と辛かったんだろうけど、それをずっと隠されてこうして自分の手で見つけちゃったわたしも辛い……

 切ちゃんを傷付ける言葉は言わないようにはしてるけど、それでもわたし自身心が痛いよ……

 

「だ、大丈夫デスよ! そんな如何わしい事したいとは思ってもしようとは思わないデス!」

「……ホント?」

「ホントのホントデス!」

 

 っていうかしたいとは思ってたんだ。

 でも、実害が無いのなら別にいい、のかな? なんだかフッた相手と友達やり続けるみたいな感じですっごい気まずいだろうけど。でも、わたしはノーマルだし仕方ない。

 で、でも如何わしい事って一体何処から何処までなんだろう……この感覚の違いからわたしがナニかされる可能性は否定出来ないし……

 

「じゃ、じゃあ取り敢えずやっていい事と悪い事の線引きをしよう?」

「そ、そうデスね! あたしも何かやらかして嫌われたくないデスし!」

「そうだよね! じゃあまずはキスはだめ!」

「えっ!?」

「えっ!?」

 

 いや……えっ!?

 

「き、キスくらい仲のいい友達ならするデスよ!?」

「それ別の意味で仲がいい友達じゃないかな!?」

 

 た、確かにわたしが歌う歌の歌詞にはキスをしましょうってあるけど……けどそれは言葉の綾と言うかシュルシャガナが勝手に作った歌詞だし切ちゃんに合わせてる側面もあるし……

 えっ、切ちゃんってキスはセーフだって思ってたの? もしかして虎視眈々とファーストキス狙われてた?

 

「べ、別に下の口でって意味じゃないデスよ!? 唇同士でデスよ!?」

「前者の意味だったらわたし、クリス先輩の所に転がり込んでたよ!?」

 

 ど、どちらにしろわたしって結構今危ない状況なんじゃ……

 

「ち、ちなみに切ちゃん?」

「なんデス?」

「どのラインまでなら切ちゃんは食い下がれるの?」

 

 手を繋ぐ、とかなら別にいいけど……よくやってるし。ただやっぱり愛情辺りが関わってくるのは……

 

「……か、考えさせて欲しいデス」

 

 か、考えるほどなんだ……

 でも、これは大切。切ちゃんとわたしの友情を壊さないために必要な事だから。だから今は待つ。

 

 

****

 

 

 五分経ったけど、切ちゃんはまだ考えてる……えっ、そこまで悩むの……?

 

「し、調?」

「な、なにかな……」

 

 ちょっと怖い……っていうか何か切ちゃんの雰囲気が変わったような……

 

「色々考えたんデスけど」

「うん」

「やっぱキス以上の事したいデス!!」

「えっそれって」

「調とキスしたりお風呂入ったり髪の毛ハスハスしたり色んな事したいデス!! 縛って押し倒して色んな液体で滅茶苦茶にしたりSMプレイとか色々としたいデス!!」

「やっぱりこういう本みたいな事したかったんじゃん!」

「ごめんなさいデス! でも自分の心に嘘は吐けないデス!!」

 

 こんな事ならすぐに逃げて明日辺りに見なかったフリしておけばよかったぁ!

 こ、こういう時はどうすれば……そ、そうだ。わたしよりも酷い目に合ったであろう響さんに相談を……

 

「だ、誰にも連絡させんデスよ!?」

 

 あぁっ! 携帯が奪われて切ちゃんのポケットの中に! っていうか近い! 押し倒されてる!

 

「折角の二人きりを邪魔させないデス!」

「け、結構本性出してきてる!?」

「調が悪いんデスよ……? そんなに可愛いのに無防備に近寄ってきて笑顔見せてあたしを気遣ってくれて……だからついムラムラ来たりしちゃうんデスよ!!」

 

 な、なんでそれでムラムラするの!?

 

「む、ムラムラって……もしかして今も?」

「正直このまま犯したいデス」

「助けて響さん!!」

「他の女の名前呼ばないでほしいデス! 下着を口にねじ込むデスよ!?」

「何それ!?」

「よくある事デス!」

「よくあるんだ!?」

 

 こ、怖いよぉ……切ちゃんがまるで別世界に行っちゃったみたいだよぉ……

 

「こ、このまま距離を取られる位ならいっそ一通り終わらせて……」

「ひぃっ!?」

 

 切ちゃんの目が危ない感じに……ど、どうしよう。LiNKERは無いからシンフォギアで逃げれないし体付きは全体的に切ちゃんが上だから力づくでも体格差でも逃げられないし……

 あれ? 詰んだ?

 助けて響さん! クリス先輩でもいいから!! わたしの貞操が親友に散らされる!!

 

「で、でもこのまま犯しちゃったら調に嫌われるデス……」

「現時点でも結構好感度下がってるけど……」

 

 でも、ちょっと切ちゃんの目がいつも通りに……

 

「……き、嫌われてまで自分の欲を突き通す物じゃないデス!」

 

 切ちゃんはそう言うとわたしから離れてくれた。よ、よかった。貞操の危機は何とか脱せれた?

 

「ただ、明日から調を本気で攻略するデス!」

「えっ、攻略……?」

「目指せ両想いデス!」

「両おも……えっ」

 

 脱せれたけど……切ちゃんに虎視眈々と狙われる日々がこれからも続くってこと?

 ……助けて響さん。

 

 

****

 

 

「いやぁ、まさか先輩の家に泊まるなんて思ってもいなかったな。けど、案外片付いてんな……あの忍者が何とか片付けたのか? まぁ、取り敢えず適当に座って……なんだこのベッドの下の本。えっと、なになに? 『生意気な銀髪後輩を監禁陵辱調教する本』……えっ」

「すまんな雪音。茶を探すのに手間ど……あっ」

「……せ、先輩? こ、これは一体……」

「……見られたからには無事では帰さん!! Imyuteus amenohabakiri tron!!」

「いやウッソだろ!? いきなり貞操の危機とか冗談じゃねぇからな!? Killter Ichaival tron!!」

「大人しく私に監禁陵辱調教されろ雪音ェ!!」

「嫌に決まってんだろォッ!!?」




この後きねクリ先輩とズバババンは滅茶苦茶(ry

最後の方が適当になってすまなんだ。正直ネタ切れだった。
今回の話のパロディ元は娘が母子相姦ものの同人誌を持ってた、なあのコピペ。なので今回の調ちゃんはノンケ。きりしらは勿論王道でとても良いけどひびしらも良いなぁとか思いながら書いてました。

次回「月読調の華麗なるリベンジ」。月読調の華麗なる声優デビューの続き。多分AXZより後の時間軸になるけど気にしない。なお(ry


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月読調の華麗なるリベンジ

声優デビューの続き。多分声優時空はこれにて終わり。

シンフォギアライブ、当たるといいなぁ……


 わたしは楽屋の中で何度も深呼吸を繰り返す。

 服装は何時もの私服ではなく、わたしが声を当てているうたずきんの変身後の衣装をアレンジしたステージ衣装。そして勿論顔は見られないように仮面をしている。多分わたしの事を知っている人が見れば普通に分かるかちょっと迷った挙句分かるか、程度の物だけど赤の他人が見たらわたしの素顔をその後に見てもわたしの正体が分かる事はない。ついでに髪型も何時ものツインテールじゃなくうたずきんの髪型。だから、きっと知り合いに見つかっても誤魔化しきれる、とは思う。一部のスタッフさんとかメイクしてくれた人には素顔バレちゃってるけど。

 え? どうしてわたしがこんな事しているのかって? それはまぁ、実際に見たほうが早いとは思うけど。わたしはもう何度目か分からない深呼吸を終えてから楽屋内の時計を確認する。もうすぐ、もうすぐだ。

 

「大丈夫ですよ、調さん。今日まで頑張ってきたじゃないですか」

「緒川さん……でも」

「案外上手く出来る物ですよ、こういうのは」

 

 同じ楽屋でわたしを何だか暖かい視線で見ていた緒川さん。今日は翼さんの仕事が無いのでわたしの送迎をしてくれた。折角の休みだったのに申し訳なかったけど、緒川さんは気にしないでください。って言いながらニコニコしていた。何だか娘を送迎する親みたいな顔していたけど、緒川さんの内心は余りわからない。

 緒川さんの励ましを受け取ってまた一度深呼吸をして胸の高鳴りを抑える。既に部屋の外からは溢れる程の歓声が響き渡っている。それがわたしの緊張を加速させるが同時に楽しみを増やしてくれる。

 今日のわたしは完全なサプライズゲスト。普段顔出しNGなので色んなイベントにも録音した声だけの出演だったりするわたしが初めて舞台に……ライブに立つ日。そのために今日まで何度も練習を繰り返してきた。振り付けも、ステップも、全部完璧だと緒川さんに言われるまで頑張った。時々翼さんも見てくれたけど、翼さんも問題ないって太鼓判を押してくれた。何でわたしが振り付けの練習しているのかは最後まで分かっていなかったみたいだけど。

 最後に目元とその少し下を隠してくれる仮面がズレていないかを確認して水を一口。うん。大丈夫。コンディションは完璧。少しだけ声も出して調子を収録時に近いものにする。歌って動くのは、慣れている。なんならヨーヨーしながらだって出来る。だから、大丈夫。装者としての経験も活きている。

 

「月詠さん、スタンバイお願いします」

「あ、はい!」

 

 スタッフさんの声に答えてわたしは立ち上がる。

 衣装が最後に崩れていないか、メイクも大丈夫か。仮面も激しく動いてもズレることはないかを確認して、楽屋から出る。

 

「頑張って、楽しんできてください」

「はい。全力で、楽しんできます」

 

 緒川さんの言葉に笑顔で返して楽屋を出る。そしてスタッフさんの誘導に従っていると途中でカメラがこっちを見ていた。あれは確か……そうだ。このライブのDVDとBDが出たときに付ける特典に裏での出来事とかを収録するんだっけ。で、これは確かわたしの意気込み的なものを言うやつ。

 カメラの裏でカンペも出てる。意気込みをどうぞって。

 

「ファンの皆さんを驚かせてきます」

 

 そう告げてから手を振ってスタッフさんの後を小走りで付いていく。

 連れていかれたのはステージの真下。多分ファンの人たちはわたしが来ないのは想定済みなのでこれは相当ビックリすると思う。

 どうして顔出しNGのわたしがこうしてステージに立つのを決めたのか。それは、マリアと翼さんへの憧れが少しあったから。あの二人はステージの上でとても楽しく歌っている。だから、わたしもそういう機会はあるのだしやってみたい。そう思い、何度目かのライブにこうしてお邪魔させてもらうことになった。最初は裏で実際に歌い姿は見せない予定だったけど、それをわたしは拒んで仮面で顔を隠した状態で実際にステージの上に立つ事にした。

 そして、それが今、現実になろうとしている。

 大丈夫。リハーサルも完ぺきだった。わたしはイントロが流れたらステージの下で歌いながら実際にステージの上に打ち上げられるのを待ち、イントロが終わった後の間奏が入った所で打ち上げられ、着地。そのまま客席のテンションを上げてから歌い始める。

 

「それでは次の曲になります!!」

 

 来た。これが合図。わたしは既に手渡されていたマイクを手にし、電源が入っているのを確認してからしゃがみ、打ち上げられる衝撃に備える。

 

「次の曲は、なんとこちら!!」

 

 その瞬間。イントロが流れ始める。

 それと同時に既に立っていた声優さんが横へと走り去り、わたしは歌い始める。

 流れるわたしの声に観客席の戸惑いの声が響いてくる。そして最初の部分を歌い終わり間奏が入った瞬間。スタッフさんの合図と共にわたしの視界が一気に動き、気が付けばわたしの体は空中にあった。

 けど、それも慣れた物。すぐに着地して間奏が流れている間に頭の中で決めていた言葉を口にする。

 

「どうも初めまして! うたずきん役の月詠了子です! まだまだライブは続きます、盛り上がっていきましょう!!」

 

 わたしの声と挨拶。それに気が付いた観客の人たちは一気にテンションがマックスに。音取り用のイヤホンからしっかりと音を聞き、イヤホンを付けていない方の耳で観客の人達のコールを聞く。

 すごく楽しい。わたしは自分の顔が自然と笑顔になっていくのを自覚しながら歌を歌っていく。

 出てみて良かった……!!

 

 

****

 

 

 わたしはあの後、二曲程ソロ曲を歌わせてもらい、最後に全体曲にも混ぜてもらった。

 そしてライブの後は打ち上げとかにも誘ってもらったので行き、ライブの感想を、楽しかったという感想を暴露させてもらった。わたしがやっている声優としてのツイッターにも同じような事を書くと、ファンの人達の感想や驚きが返ってきた。どうも一時期トレンドにも上がっていたようでファンの人達からすると相当ビックリする事だったらしい。

 ドッキリを成功させたような気分でちょっと楽しい。やっぱり顔出しNGだから殆どの人がわたしの参加を諦めていたみたい。わたしの声って今までライブ会場だと最初の諸注意とか位だったしね。実はあの時わたしが直で諸注意とか言ってみたんだけど、その時にもしかしたらって思った人は結構居たみたい。仮面着用は予想外だったらしいけど。

 

「調、何だか最近楽しそうデスね」

「ん? そうかな?」

 

 で、それでわたしは最近結構ご機嫌だったんだけど切ちゃんを初めとしたわたしと関わりが深い人達には大体バレた。理由までは分からない、というか分かられたら色々と困るけど、わたしはこういう時の言い訳としてとある事を口にしている。

 

「もうすぐ学園祭だからじゃないかな?」

 

 そう、リディアンはもうすぐ学園祭。既にわたし達の制服は冬服。パヴァリア光明結社の一件も既に終わっている。あの時は学業と声優と装者の三枚挟みになって結構辛かった。バルベルデに行った時も実はわたし、一回だけ声優のお仕事があったから帰国していたし……

 でも、今は装者として動くときなんて災害が起こったとき位だし学業も順調……順調…………じゅ、順調だから特に問題ない。声優の方は勿論大成功。最近お小遣い増えてるから嬉しい。

 

「そ、そうデス……今年こそはクリス先輩にリベンジデス!」

「そうだね。去年は判定が出る前に出て行っちゃったから」

 

 そういえばクリス先輩、この間響さんの友達に連れていかれてカラオケでうたずきんの主題歌を歌ったとか。しかも結構ノリノリで。

 も、もしかして見てるのかな? 案外あの時のライブに居たりして……バレてない、よね?

 

「なぁに言ってんだこいつら。あたしがそう簡単に負けると思うか?」

「うっほぉ!? く、クリス先輩いつの間に!!」

「今さっきだ」

 

 とか思っていたらクリス先輩がいつの間にか後ろに立っていた。それと切ちゃんのその声は女の子としてどうなんだろう。

 でも、クリス先輩の言葉に満ちている自信は本物だ。わたし達には負けないって気持ちが籠っている。確かにクリス先輩はそんじょそこらのプロなんかよりも格段にレベルが上の歌唱力を持っている……けど、わたしだって声をお仕事にしているプロ。今どきの声優だから歌は何曲も歌っている。

 そんなプライドもあるから、負けない。絶対に。

 

「絶対に負けません」

「お? 言ったな」

 

 クリス先輩は笑顔でわたしの宣言を受け止める。そして暫くしてからじーっとわたしの顔を見てきた。

 な、何だろう……

 

「……いや、気のせいか。何でもねぇ」

 

 あ、これ明らかにクリス先輩がわたし=月詠了子じゃないかって疑ってる。疑ってるけど、確証が掴めないって感じだ。という事はやっぱりクリス先輩、うたずきんのライブに来ていたんじゃ……

 

「なぁ、今度カラオケ行かねぇか? ちょっと歌ってもらいてぇ曲があるんだけど」

「え、えっと……じゃ、じゃあ今度行きましょうか」

 

 あぁ、どうにかしてやり過ごす方法を考えないと……歌っちゃったら確実にバレるぅ……

 

「っていうか、クリス先輩は去年かなり嫌々登壇したって聞いたデス」

「ははは、もうとっくに裏固められちまってもう逃げれねぇ」

 

 そう言ったクリス先輩は少し遠い目をしていた。けど。

 

「まぁ、嫌いじゃねぇけどな。あんなノリも」

 

 凄く楽しそうに笑った。

 

 

****

 

 

 そして時間は過ぎて学園祭になった。

 わたし達はいくつかの出し物を見て回ってご飯を食べたりしながら時間を潰し、勝ち抜きトーナメントへの登壇時間となった。既にクリス先輩は歌を歌い終わって去年の王者。そして現段階で最も高得点を叩き出した参加者となっている。わたし達は一番最後だけど、その前に歌っていた響さんのお友達三人がフルで全て歌い終わる前に歌を打ち切られた。

 アニソンは別にいいんだけど……何でうたずきんをチョイスした上にコスプレまでしたのか。これが分からない。打ち切られた理由はなんか間奏の間に劇というか劇中再現というか……そんな感じのをしたから。ここに本人いるのに。

 まぁ、それは置いておく。ドナドナされてきた三人を切ちゃんと一緒に微妙な顔で見送ってわたし達は登壇する。

 

「次なる挑戦者は去年乱入した物の途中退場してしまったお二人、暁切歌&月読調ペアです!」

 

 クリス先輩の挑発的な笑み。わたし達の視線。それが交わってすぐにわたし達の選択した曲が流れ始める。

 曲名は、不死鳥のフランメ。

 

『3、2、1、Ready Go! Fly!!』

 

 やっぱり、切ちゃんとの息は完璧。

 どうしてこの曲をチョイスしたかは、クリス先輩がこの間翼さんの出した新曲、ルミナスゲイトを歌ったからわたし達も翼さんの絡んでいる曲にしよう、っていう事になってわたし達は翼さんとマリアのデュエット曲、不死鳥のフランメを歌うことにした。

 全力で、ちょっと練習した振り付けもして、切ちゃんと完璧なデュエットを披露する。見てくれている人も乗ってくれて合いの手も入れてくれる。

 そうして五分近くの曲が終わり、切ちゃんは息をちょっと切らして。わたしは案外余裕だからいつも通りの平然を装って結果を待つ。

 

「素晴らしい歌声でした! これは得点が気になる所です!!」

 

 わたしと切ちゃんのデュエットだもの。クリス先輩にだって、負けはしない。

 そうして待っていると、結果が出た。

 

「これは……今回選ばれたチャンピオンは!」

 

 司会の人の声に合わせて会場のライトが消え、代わりにセンターライトが動き回る。

 そして幾つかのライトが動きを合わせ、捉えたのは。

 

「去年王者、雪音クリス選手だぁ!!」

 

 クリス先輩だった。

 ま、負けた……がくっ。

 

「得点を見ましたが、物凄い僅差ですね。本当に、本当に僅かに雪音選手の得点が上回っていました」

「へっ。まだまだ後輩には負けてらんねぇからな」

 

 くぅ。悔しい……

 

「そういえば王者には何か望みを叶えられる権利があるんだったよね?」

「えぇ、そうですけど。もしかして、早速使いますか?」

「おう。って訳で」

 

 何かこの場でやりたい事でもあるのかな? わたしはクリス先輩を見る。

 クリス先輩は何か企んでいそうな笑顔でわたしに近寄ると、わたしの手にマイクを握らせた。

 え?

 

「ちょっと届けHappy! うたずきんを歌ってもらおうか。勿論、全力で」

「え゛っ」

 

 ちょ、それは……

 

「拒否権があると思うな? これは正当な権利だからな」

「え、あ、ちょ、それは……」

 

 ま、まずい……ここで歌えば確実にバレる。折角ここまで隠しぬいてきた事がバレる。なんかステージの脇で響さんのお友達の一人……弓美さんがよくやったとか言ってるし! あの人もわたしに当たりつけてたの!? 確実にあの時のライブに居たよねこの人達! じゃないとこうしてマイク握らされる理由がわからないし!

 ど、どうしよう……どうすれば……あばばばば。

 

「どうした? 歌えない理由なんて無いだろ?」

「か、歌詞わからない……」

「その画面に音程も歌詞も出るだろ? それだけあればあたし達みたいなのなら余裕で歌えるよなぁ?」

 

 シンフォギア装者って胸のうちの歌詞だけで歌ってるからね。元の歌なんてないから新曲もその場で歌詞とメロディがあれば歌えちゃうくらいだからね。

 もしかして、本当に詰み? 歌うしかないのこれ。もう正体バレちゃうのこれ?

 も、もう諦めるしか……

 

「狼狽えるな!!」

 

 と、思っていたら客席の方から声が響いてきた。

 こ、この声は……

 

「確かこの大会には乱入があったわよね?」

「え、えぇ……そうですけど」

 

 その募集、さっき終わったよ……?

 

「ならば今、この場で乱入させてもらうわ! この私、マリア・カデンツァヴナ・イヴとッ!!」

「風鳴翼! そして!」

「え、えっと……立花響です。って、何でわたしまで引っ張られてるんですかぁ!?」

 

 名前を叫んで乱入者である三人、マリア、翼さん、響さんがやけにスタイリッシュに登壇してきた。響さんは困惑しているけど。それにマリアと翼さん、来ているとは言っていたけどまさか見ていたなんて……

 でも、マリアと翼。トップアーティストである二人の登壇に会場は大盛り上がり。割れんほどの歓声が響いている。

 

「狼狽えるな、調。今さっき緒川さんから全部聞いたわ」

「まさか声優をやっていたとはな。ここは私達に任せるといい」

「えっ……?」

 

 って、緒川さん来てたんだ……それと言っちゃったんだ……

 でも、知ってからこうして登壇してくれるっていう事は……もしかして助けてくれるの?

 

「言いたいことは色々とあるけど、妹分が困ってるんだもの。助けるに決まってるわ」

 

 マリアはそう言うとわたしが握らされていたマイクを手に取った。

 

「さぁ準備しなさい。歌うのはこの私、マリア・カデンツヴァナ・イヴと」

「風鳴翼。そして」

「えっと……? わたしもなんですか? あ、はい。立花響で!」

『逆光のフリューゲルのアレンジ。虹色のフリューゲルッ!!』

 

 その瞬間。逆光のフリューゲルの伴奏が流れ始める。

 虹色のフリューゲル。それはわたし達六人が装者として歌う、逆光のフリューゲル。六人で行うユニゾンの中で歌う曲の一つ。逆光のフリューゲルの歌詞の一部を変えて六人で歌えるようにシンフォギアが調整した物。

 元が逆光のフリューゲルだからかわたし達は全員、もう歌詞を見なくても歌えるようになっている。それを、三人で歌う……?

 

「調、切歌。あなた達も歌いなさい」

「クリスちゃんも! ほらほら!」

「え、うわ、ちょ!?」

 

 マイクは三つしかないからマリアと翼さんが同じマイクを。響さんとクリス先輩が同じマイクを。そして、わたしと切ちゃんが同じマイクを手に持つ。

 あれ? これってクリス先輩まで乱入したら結果ってどうなっちゃうんだろう……なんて思いながらもわたし達は歌い始める。なんやかんやで最初は不服気味だったクリス先輩もサビに入ったあたりからノリノリで響さんと並んで歌っている。

 そうしてわたし達は六人でのユニゾンの時と同じように全力で歌って。そして歌い終わって普段は聞こえない客席からの歓声を聞きながらハイタッチをした。

 

「では、審査とまいりましょう!!」

「……って、これあたしまで参加するとどうなんだ!?」

「はい結果が出ました! まぁ王者である雪音選手が居る時点でこの六人の優勝です!!」

 

 あ、そうなるんだ。

 

「ろ、六人のって……まぁいい! ほら歌え! チャンピオン命令だ!」

「ならチャンピオン命令で拒否権を発動します」

「んなの有りかよォ!?」

「狼狽えるな!!」

「うるせぇ!!」

 

 クリス先輩がわーわー言ってるけど気にせずに視線をマリアと翼さんの方へ向けると、二人とも笑顔で親指を立てていた。どうやら、二人は響さんを連れ出してクリス先輩を巻き込ませて歌わせる事で確実にトップを確実に食い込むのが作戦だったらしい。別に二人なら確実にチャンピオンになれたと思うんだけど……

 そう思った直後に翼さんが視線を客席の一部へと向けた。そこには緒川さんが居て、もうクリス先輩に言っちゃって的な事が書かれたカンペを持っていた。

 まぁ、こういう大きい場所でバレるのを避けるためにも、仕方ないよね。マリアと翼さんにもバレちゃってるんだし、あと一人くらいどうという事もないか。

 

「クリス先輩、後でホントの事言いますから、今は落ち着いてください」

「うっ……ぐぅ、ならいい、か……」

 

 それで結局クリス先輩は諦めてくれて、やっぱりチャンピオンとしての権利は温存。後日何かで使う事になった。

 ちょっとした修羅場も起きたしリベンジも失敗したけど……まぁ、楽しかったからいいかな。

 

 

****

 

 

 トーナメントが終わって、わたしはクリス先輩と人気の少ない場所に移動していた。

 

「多分、気付いてると思いますけどわたしが月詠了子です」

「やっぱりか……なんかうたずきんの声を聞いたとき、お前に似てるなとは思ってたしライブの時もお前と背格好がそっくりだったからまさかとは思ってたが……」

「それで確認のために歌わせるつもりだったんですか……」

「そういう事だ」

 

 わたしが嫌がる素振りを見せた当たりで分かりそうな物だけど……まぁ、そういう事でわたしはクリス先輩にわたしが月詠了子だということをバラした。

 っていうか、クリス先輩、うたずきん好きだったんですね。

 

「うっ……まぁ、あの馬鹿の友人に誘われてな。偶々見たら、その、ハマった」

「ライブにまで来るなんて相当だと思いますけど」

「う、うるせぇ!!」

 

 赤くなっているクリス先輩可愛い。

 それはともかく。こうやってバラしたからにはちゃんと釘は刺しておかないと。

 

「クリス先輩。くれぐれも、この事は誰にも言わないでくださいね? 身内とかなら……まぁいいですけど」

「誰にも言いやしねぇよ。ってか、お前は何でいきなり声優なんてやってんだ?」

「まぁ大人の事情とか色々とありまして」

 

 真相はわからないけど。

 

「じゃあ、わたし、切ちゃんの所に戻りますね」

「あ、いや、ちょっと……一つだけいいか?」

 

 なんだろう?

 

「そ、その……なんかこう、うたずきんの声でメッセージ的な物を、その……」

 

 クリス先輩は顔を赤くしながらそう言った。

 なるほど、つまり生うたずきんをやってほしいと。なんかヤケに可愛いクリス先輩にちょっと笑いながらもわたしはすぐに喉を調整して声を出す。

 

「いつも応援ありがとう、クリスちゃん」

 

 いつも収録の時に出している声で、一言。

 クリス先輩はその声を聞くと、そっと頷いた。

 

「これであたしは後十年は戦える……!」

「いやなにとですか」

 

 そして学園祭の後、わたしはクリス先輩にカラオケに連れ込まれてうたずきんメドレーを歌わされた。万が一誰かに聞かれたらちょっと問題があったけど……まぁ、楽しそうなクリス先輩が見られたから別にいいかな。

 けど、それでテンション上がったクリス先輩がつい弓美さんにわたし=月詠了子って漏らした結果第二次うたずきんメドレーがカラオケで行われた。ライブじゃないんですからサイリウムを持ち込んで振るのはご遠慮ください恥ずかしいです……ッ!!




(狼狽えるなの)ノルマ達成。出る度に狼狽えるなと叫ぶ女マリア。妹の出演予定は現在無し

きねくり先輩って何だか崩壊させやすいし書きやすい。その内調ちゃん以外のキャラが主役の話でも書いてみようかな? あ、幼児退行の時はほぼビッキーが主役だったっけ……

では、次回予告。
NINJA「和風ユニットもいいですね……調さん、アイドルデビューしてみませんか?」
調「え?」
翼「ふむ……それはいいな。是非ともやろう」
調「えぇ……」

次回、月読調の華麗なるアイドルデビュー。声優の次はアイドル……っ! わりと可愛いと旅客機のパイロットから言われた調ちゃんのアイドルデビューは果たして。なお次回の内容は予告と違う場合があります。そしてネタ切れが近い。


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月読調の華麗なるギア交換

今回は予定を変更して(ry

シンフォギアXDでいつかイガリマ装備の調ちゃんが出てくるのを信じて待っています。お色気担当の調ちゃん×イガリマとかそんなの最高す(ry

不定期更新なのはモンハンが面白いのが悪い


 発端は切ちゃんの言ったとある言葉だった。それはまぁ、わたし達装者なら誰もが思うような事で、クリス先輩も少し興味を示した事だった。

 

「一回皆でギアの交換をしてみたいデス!」

 

 多分、マリアみたいに二つ、もしくはそれ以上のシンフォギアとの適正があればかっこいいかも、と思ったからだと思う。断言出来ないのはそれとは別の目論見があったのかただ単純に興味があったからなのか。

 訓練の途中、今日は装者全員が集まっていたからか口に出したそれは案外皆……わたしを含めた皆には好評だった。

 

「あ、いいねそれ! やってみようよ!」

「ふむ……確かに興味が無いと言えば嘘にはなるな」

「ま、まぁ? どうしてもって言うんなら……」

「ツンデレ乙です」

「だ、誰がツンデレか!!」

「狼狽えるな!!」

「るっせぇ!!」

 

 まぁ、そんなやり取りもあったついでに。

 

「そうですね……万が一、他人のギアしか使えないという状況になった時、マリアさんしか動けないのはマズいので今この場で試してみるのもいいですね」

 

 そんなエルフナインの後押しもあったからか、訓練の後半は皆でギアの交換をする事になった。

 神獣鏡はこの場に無いのでパス。だからそれ以外の六つ。わたし達の持つギアを交換し合う事にした。一応未来さんも訓練用のLiNKER片手に参加。聖詠が浮かんだらLiNKERを打って実際に纏うっていう手順らしい。わたしにはガングニールが纏いたいだけにしか見えないけど。

 

「じゃあ最初はわたしから!」

 

 とか思ってると響さんがいきなり動いた。まずは……天羽々斬かな。

 響さんは天羽々斬を手に唸ってるけど最終的に無理だったのか溜め息と一緒に「駄目でした」って言って天羽々斬を手放した。

 まぁ、響さんはガングニールが刺さったからガングニールとの適合係数が上がっただけだし……なんて思ってるとイチイバル、イガリマ、シュルシャガナもやり終わってとうとうアガートラームだけになった。けど。

 

「ぐむむむ……駄目だぁ」

「本来、マリアさんのようなダブルコンダクターはかなり希少ですからね。纏えなくても仕方ない事ですよ」

 

 シンフォギアを纏える人間はただでさえ貴重なのにそれに加えてダブルコンダクターは本当に貴重。だからLiNKERなんて物を使わざるを得ないほど装者は人手不足な訳で。

 響さんはそれを聞いて諦めた。で、次は。

 

「……あ、駄目だ」

 

 とか思ってたら未来さんがアガートラーム片手になんかやってた。うん、この人も大概人の話聞かない。

 未来さんは神獣鏡への適合率をLiNKERと愛だけで上げたある意味での化け物だからこれ以上は……

 そう思ってたらいつの間にかガングニール以外全部試してた。で、未来さんは何か恍惚とした表情でガングニールを手にする……ってその前にLiNKERを首に刺してる。

 いやいや、そう簡単にできる訳が。そう思いながらちょっとボーッとしてると。

 

「――――Gugnir tron」

 

 嘘ぉ!?

 未来さんはいとも簡単にガングニールを纏ってみせた。

 

「何でぇ!?」

「そんなもの、愛で!」

「何故そこで愛!?」

 

 ガングニールを纏った未来さんは、なんというか……うん。完全に響さんとほぼ同一のギアだった。ただ、色は殆どが黒で一部にオレンジが混ざってるだけ。ちょっと前のわたし達よりも適合率はかなり低いと思う。それでも響さんのような姿になったのはガングニールはこうであるべき、とかそういう心象風景とかが影響されたのかな?

 重すぎる愛も使いどころ……なのかな? エルフナインが目を見開いてるけど。

 取り敢えずガングニールを纏った未来さんは後々適合係数とか詳しい所を測るらしい。平行世界で余ったガングニールを譲ってもらえたらもしかしたら未来さんもガングニール装者になるかも、とのこと。

 

「次は私が行こう」

 

 次は翼さん。

 未来さんが解いたガングニールを受け取って纏おうとするけど駄目。イチイバルも、わたし達のギアも駄目。やっぱり翼さんは天羽々斬じゃなきゃ駄目なのかな?

 

「まぁ分かっていた事だ。それに、私には天羽々斬が一番合っている」

 

 その通りです。

 で、次はクリス先輩なんだけど……うん、端的に言えば駄目だった。

 

「まぁ、しゃーねぇか」

 

 クリス先輩はいつも通りを装ってたけどちょっと悔しそうだった。

 で、マリア……は勿論ガングニールは纏えたけどそれ以外は駄目。トリプルコンダクターなんて物は流石にあり得なかったらしい。

 ダブルコンダクターはまた生まれたけどトリプルコンダクターは生まれませんでした。まぁ未来さんのは何か愛を理由にしたらこの場のシンフォギア全部纏える気がするけどね……なにそれ怖い。

 で、何やかんやで最後はわたし達。まぁ出来る気しないけど……

 

「Various Shul shagana tron」

「Zeios igalima raizen tron」

 

 ……あれ?

 

「あ、纏えたデス!」

「で、出来ちゃった……」

 

 わたしがイガリマ、切ちゃんがシュルシャガナを纏った。周りの皆も結構驚いている。な、何でだろ……ザババ繋がりだから?

 取り敢えず、わたしの方は切ちゃんとほぼ同じ。鎌を片手に……あ、これ両端に鎌が付いてる。なんて言うんだろう、この鎌……

 でも結構かっこいい? 魂を刈り取る形をしてる……なのに切ちゃんは。

 

「おぉ! チェーンソーデス!!」

「いやなんで!?」

 

 チェーンソーだった。何か持ち手の部分に目立つ文字でZABABAって書いてあるし。うん、取り敢えずZABABAって書いてあるのはいいとして……問題はチェーンソー。

 

「今宵はチェーンソーは血に飢えてるデス!」

 

 シュルシャガナは電鋸と丸鋸だよ……チェーンソーなんてわたし使ってないよ……

 

「これは……お二人ならもしかしたら、とは思ってましたけど切歌さんの方は想定外です。まさかここまで様変わりするとは……」

「え? シュルシャガナってこんな感じじゃないデスか?」

「電鋸だよ、切ちゃん……」

 

 でもピンクのギアを纏ってる切ちゃんも可愛い。手に持ってるのはとても物騒な物だけど。

 

「じゃあちゃちゃっと適合係数も調べちゃいますね〜」

 

 エルフナインがそう言ってパソコンで何かし始めた。でも、わたし達のギアの色、やっぱり適合率は低いのか黒が沢山なんだよね。そのせいか体が重い。

 暫く鎌をブンブンしたりギアのブースターを吹かせてみたり、何故かツインテールがポニテに変わってるのを確認したりしているとエルフナインの解析が終わった。早い。

 でも、なんで未来さんの時は調べなかったんだろ?

 

「愛って結構万能でして……」

 

 調べる必要がないと。

 

「そんな感じです。で、お二人に関しては適合率はかなり低く稼働ギリギリですね。体が重いとかはありませんか?」

「シュルシャガナの時よりもかなり」

「あたしもデス」

 

 切ちゃんも同じだったみたい。

 

「恐らく、最近の訓練で適合係数が上がったため、ザババ繋がりでほんの少しだけですけど切歌さんはシュルシャガナ、調さんはイガリマへの適合係数が上がったんだと思われます」

「そんな事有り得るの?」

「理論とデータ上は、ですけど」

 

 でも、他人のギアって何だか新鮮。何時もとは違うというか、今まで出来なかった事が出来ちゃいそう。

 でも、大技は結構厳しいかも。纏ってるだけで結構体力使っちゃうし。

 

「試しにお互いにギアを交換した状態で訓練をしてみませんか? こちらとしてもデータは欲しいですし」

「あたしは大丈夫デス。調は、大丈夫デスか?」

「んー……多分。あんまり長い事は出来ないけど」

 

 多分、シュルシャガナの方が数倍体力は持つと思うけど……でも、イガリマでも動けない事はない。本当に緊急時にだけしか使わないかな。

 今は訓練用の体に優しいLiNKERを使ってるからそうかもしれないけど、ちゃんとしたLiNKERを使えばもう少しマシにはなる。

 

「じゃあ、試しにこちらのノイズと戦ってみてください」

 

 その声と一緒に室内の殺風景な光景が街中の光景に変わり、ノイズが出現する。このノイズはデータの塊なので生身で触っても安全なマスコットにもなるノイズだけど、強さは変わらない。

 響さん達はエルフナインに連れられて遠くで見学させられている。本格的にわたし達だけでやるのだろう。

 わたし、腕は基本的に使わないからどうだろう……ちょっと心配。イガリマとシュルシャガナのユニゾン曲がヘッドセットから流れ始め、切ちゃんと息を合わせて鎌とチェーンソーを構える。

 

「えっと、イガリマはわたしだからわたしからだね……!」

 

 鎌を振り回しながら斬りかかる。確か、鎌の斬り方は真横に振るんじゃなくて、斬り戻す!

 鎌の刃は内側に付いてるから横に振ってから鎌本体を手前へ引き戻す動作が必要になる。一工程多く必要だけどこれをやると一気に相手を切り裂ける。

 

「デッデデース!!」

 

 その後ろから切ちゃんが飛び出してノイズの一体にチェーンソーを叩き込む。そのままチェーンソーを手に突撃して相手を真っ二つにしていく。

 何ていうか……手慣れてる? まぁ、切ちゃんって何時も突撃隊長してるからそれもそうだよね。

 

「ハァァ!!」

 

 切ちゃんが歌っている間にわたしも肩と背中のブースターを使って飛んで回転しながら敵陣のど真ん中に突撃。辺りのノイズを切り裂いてから切ちゃんに近寄っているノイズへ向かってジュリエットを放つ。勿論、外さない。

 

「こっちも今週のビックリドッキリとんでも兵器デス!」

 

 切ちゃんがそう叫ぶと切ちゃんはチェーンソーを地面に突き刺して足から電鋸を生やし、チェーンソーと電鋸を使って後ろへ急速離脱。

 そしてチェーンソーを地面から抜くとそれを横向きに構える。その瞬間チェーンソーがパカッと左右に開いてそこから大量の電鋸が発射された。

 えっと、あれは……卍火車? やっとわたしの知ってるシュルシャガナが見えた。

 

「よっ、ほっと」

 

 わたしも鎌を振り回しながらノイズを蹴散らしていく。案外使い勝手が良くてぶん回すのも楽しい。体を中心に回したり手の中で回してるだけで相手が切れていく。中々楽しいかも。

 

「調さんは器用ですね」

「そう?」

 

 エルフナインの関心したような声にわたしは特に自覚がないので疑問形の言葉で返す。鎌をブンブンするの楽しいからやってたけど、ヨーヨーみたいな感覚だし。

 でも、わたしは遠距離攻撃が得意だから……あっ、いい技があった。

 

「こんなのは、どう!?」

 

 肩のアーマー。切ちゃんは相手に刺して突進したり切っ先を付けたりしてたけど、わたしは直接小さな四つの鎌に変化させて投げる。申し訳程度の遠距離攻撃だけど結構威力はあった。

 

「デース!」

 

 そこに切ちゃんが突撃してチェーンソーぶんぶん。本来チェーンソーって押し当てて削り取る武器だけど、そこはまぁシンフォギア。そこら辺の色んな常識は全部壊してる。

 というかああやって動くシンフォギアを見ているとわたしの方が間違ってるんじゃないかとすら思ってしまう。シュルシャガナの装者になった事があるはわたしと今の切ちゃんだけだから間違ってる間違ってないは無いんだろうけど……

 

「やっぱり小型ノイズではお二人に適いませんね……なら、大型を一体出すのでそちらを倒してみてください」

「ガッテン!」

「承知」

 

 わたし達の言葉と同時にノイズ達の先に大型のノイズが一体出現する。あれなら、わたしと切ちゃんなら余裕。

 

「切ちゃん。一気に行くよ」

「今回はあたしが前デス!」

 

 切ちゃんが叫ぶと同時にチェーンソーが中心から左右に割れ、少し大きくなる。えっ。

 その上に切ちゃんが乗ると地面に置かれたチェーンソーはその場で浮き、前後にチェーンソーが付いたボードみたいになった。なにそれ。

 

「乗るデス!」

「う、うん」

 

 なんかもう滅茶苦茶だけどシンフォギアだし仕方ないとしか言えない。わたしも切ちゃんの後ろに乗って鎌を足元にセット。両端の鎌が勝手に動いて切っ先が前方を向く。何だろうこの殺意の塊みたいなボード。

 

「レッツゴー!」

 

 切ちゃんの言葉と同時にボードは動き始めた。そして顕現するのはもう悲惨としか言えない光景。

 ノイズがね、切り刻まれて吹っ飛んでくの。わたし何もしてないのに。なんかエルフナインもちょっと引き気味だし。取り敢えずミサイルを乗り物にする先輩達にエルフナインと同じ目はしてほしくないけど。

 そんなこんなで数秒でわたし達は大型ノイズの目の前に。その後はもう分かってる。

 わたし達はボードを足場に飛び、わたしが前。切ちゃんが後ろへ。そしてわたしが空中で鎌を音型ノイズへ構え、切ちゃんが何処からか取り出したヨーヨーを投げる。それが巨円斬になり、わたしの鎌の先端にくっつく。そして鎌を巨大化し、巨円斬の一部をイガリマで取り込む。

 

「これでぇ!!」

「終わりデスッ!!」

 

 ザババサンムーン。この技ならどんな敵だろうと!

 大型ノイズを、そして更に周りの敵すらも灰燼へと帰し、爆発の中わたし達は着地。決まった!

 

「ザババの刃に!」

「敵は居ない」

 

 エルフナインからの労いの言葉と共に室内の光景が元に戻りわたし達はギアを解除……したんだけど。

 

「うごぅ!?」

「いたっ!?」

 

 な、なんか体が悲鳴を……う、動ける事には動けるんだけどなんか何時もは筋肉痛にならない部分が筋肉痛になった感じで凄い辛い……

 

「あー……多分普段やらない事をやったから体の方が限界になっちゃった感じですね。今日と明日は安静にしていてください」

『はーい……』

 

 結局、ギア交換は本当の本当に最後の手として使われる事になったけど、この最後の手、使われる事無いよね……わたし達はマリアに看病というかお世話されながらもそう思った。

 結論。出力の低いギアでノリだけで大技しちゃだめ。筋肉痛が酷くなる。




五期はアゾースギアが基本フォームになるんでしょうか。今から楽しみすぎて辛い。

さて、本気でネタ切れというかギャグに走れるネタが無くなってきたのでピンチですが次回は恐らく「月読調の華麗なるアイドルデビュー」。可愛さも申し分無しな調ちゃんのアイドルデビュー話(になる筈)デス。


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月読調の華麗なるおでかけ

プロットも何もない状態で急遽書いたのでオチなんて知らないと言わんばかりの話になりました。もっと話を纏める力があれば……


「並行世界の装者ねぇ……もしも作戦遂行中に出てきたら厄介な事になるわね。ちょっと攫って他の国に売り払ってきてくれないかしら?」

「あたしは別にいいけど……いいのかそれ? 並行世界に喧嘩売ることに……」

「なに? 私の命令が聞けないの?」

「うっ……何でもねぇよ」

「頼んだわよ。他の国の適当な組織に情報はリークして向かわせるから、確保したら適当な黒服に装者を渡しなさい」

「適当だな……わかったよ。行ってくる」

 

 

****

 

 

 ふんふんふふーん、おさんど~ん。

 そんな元の曲なんて知らない替え歌とも言えない替え歌を口ずさみながらわたしはSONGの本部を歩いている。用事と言える用事は特に無いけど、平行世界にお買い物に行きたくてちょっと許可を取りに来ただけ。奏さんの世界で新しく奏さんのCDが発売するらしいからそれを買いに行きたかった。普段、奏さんは新しいCDが出たらわたし達に無償で配ってくれたりするんだけど、やっぱりお店の特典とかも欲しいから大抵翼さん以外の誰かが代表してCDを人数分買いに行く。今日はわたしの番。

 今回の奏さんのCDも凄く良かった。こっちの世界の人に見つかれば確実に大問題になるけど、CDと特典はちゃんと鍵付きのクローゼットとかに保管しているし、わたし達の身内は大抵シンフォギアの事を知っているから見つかってもなぁなぁで済ますことは可能。普段、ノイズから皆を守るために頑張っているからこの程度のご褒美は許されてもいいと思うの。

 そんな訳でわたしはいつも通り指令室ギャラルホルンの使用許可を……ん? あれは。

 

「セレナ?」

「あ、月読さんだ」

 

 指令室への道を目指しているとセレナを見つけた。多分、並行世界から遊びに来たんだと思う。あっちはまだバビロニアの宝物庫は開きっぱなしだからノイズも出現するだろうし、本当に合間合間の時間を縫ってこっちに遊びに来たんだと思う。あっちのわたしを含めた六人の装者達、多分故人になってるからなぁ……南無。もしも錬金術師とドンパチやることになったら手伝いに行こう。

 わたしと余り身長の変わらないセレナは未だに見ていて新鮮だけど、七年前はわたし達から見てもお姉ちゃんだったから違和感は結構ある。

 

「月読さんはどうしたの? わたしはマムに許可を貰って遊びに来ただけだけど」

「ちょっと平行世界に行こうかなって」

「平行世界……あ、そういえばわたしの世界以外にも幾つか行ける世界があるんだっけ?」

「うん。奏さんが生きている世界とか、響さんがグレた世界とか、装者が居ない世界とか」

「色々とあるんだね……」

 

 それは、まぁ可能性の数だけあるからね。けどエルフナインが言うにはわたし達の世界は比較的オリジナルとも言える、平行世界の派生元となった世界にかなり近いらしいけど……そんなのどうやって観測したんだろう?

 まぁ、平行世界事情はあまり重要じゃない。ギャラルホルンは無断では使えないからちゃんと誰かに使用用途と並行世界に行く人数とかをちゃんと知らせないと後で大問題になるから許可を取りにいかないと。

 

「月読さんはどの並行世界に行くつもりなの?」

「奏さんが生きている世界。皆のCDを買いに行くの」

「えっと……確か風鳴さんのパートナーだった人、だっけ?」

 

 どうやらセレナはあっちの世界でのいざこざが終わった後に自分の世界の過去七年間をざっと調べたらしくて、その中に響さん、翼さん、奏さんの名前は見つけたらしい。響さんはツヴァイウイングのライブから生還を果たしてしまった人間として。翼さんと奏さんはツヴァイウイングとして。

 

「うん。そっちの世界にも居たんだっけ?」

「ツヴァイウイングのCDはプレミア付いていたけど見つけたよ。けど、やっぱり……」

 

 公的には行方不明。だけど、きっと響さん、翼さん、クリス先輩はルナアタックを終わらせた後にそのまま……

 いや、そんな想像は止めよう。それに、あの三人がそんな事で死ぬような人には思えない。きっと今頃どこか変な国で最短で最速で一直線に帰ろうと必死になっているハズ。

 わたし達? もうお星さまだよ。

 

「じゃあ、こっちで翼さんのCDとあっちで奏さんのCDを買って行ったら?」

「え? いいの? なんかこう、並行世界の人間が並行世界の並行世界に行くって……」

「奏さんとかしょっちゅうやってるから大丈夫だよ」

「だ、大丈夫なのかな……」

 

 大丈夫大丈夫。案外皆好き勝手に平行世界に遊びに行ってるし。悪用しないならって前提条件はあるけどこういう並行世界への渡航もちゃんと事前に許可を貰えば行うことはできるから。

 そういう訳でわたしは風鳴司令に並行世界へ渡る許可を貰った。セレナはかなり心配していたけど風鳴司令は「子供が大人に遠慮なんてするモンじゃない。存分に楽しんで来い」って言って背中を押してくれた。やっぱりあの人は凄い。手続きだって凄く面倒だと思うのに笑顔で送り出してくれるなんて。大人になったらあの人みたいな大人になりたいと思う。

 そうして背中を押してもらってわたし達はギャラルホルンの前に。遊びに行くのは自由自在とは言ったけど、わたしはどの道並行世界に渡るにはLiNKERを使う必要がある。訓練用のLiNKERとは言ってもちゃんと体内洗浄しないと大変なことになる。だから、帰りは体内洗浄が間に合うような時間には設定しないといけないからどの道、あっちには長いこと居られない。

 奏さんみたいにこっちの世界で浄化装置を借りれればいいんだけど、あっちの浄化装置の規格は奏さん用のLiNKERに合わせているから使えない。だから、帰るしかない。

 首に訓練用の薄めたLiNKERを打ってセレナと一緒に聖詠を唱える。

 

「Various Shul shagana tron」

「Seilien coffin airget-lamh tron」

 

 ピンクのギアを纏ったわたしと白銀のギアを纏ったセレナ。二人でレッツゴー並行世界。

 よくわからない空間を潜って辿り着いた先は、何時もの公園。誰もいないのを確認してからわたし達はすぐさまギアを解除する。ただ、この世界はまだノイズが出現するから一応、訓練用のLiNKERを打った状態でも上塗り出来る形で使えるLiNKERを忘れていないのを確認してから歩き始める。

 セレナはわたし達の世界のこの公園は見たことあるハズだけど何度も周りを見渡している。

 

「どうかした?」

「あまり変わらないんだなって……」

「並行世界と言っても、本当に誰か生きているか死んでいるか位しか変わらないから」

 

 その変わり方で結構並行世界は様変わりするんだけどね。

 それはともかく。わたし達はCDショップに向かって歩く。上を向けば太陽と、東の方にはうっすらと見える欠けていない月がある。土星化していない月はもうあっちでは見られないから何だか新鮮ではある。セレナもそう思っているらしくて月を見て「あ、欠けてない」と小さく呟いていた。

 もう来るのも慣れた平行世界の街並みを歩いていれば時々わたしに挨拶してくれる人がいる。この世界は特に遊びに来る頻度が多いからこうして顔なじみも出来てしまう。セレナも少し困惑しながら挨拶を返している。基本施設に居るから誰かに挨拶されるのは慣れていないみたい。

 

「あ、あそこだよ」

「奏さんのポスターが沢山貼ってあるね。やっぱり凄い人気な歌手なんだ……わ、こっちにはマリア姉さんもある」

「あっ……」

 

 っていう事は近々F.I.Sが動く……? いや、その前にルナアタックが起こる? 奏さん一人で大丈夫だよね? もしもの場合はわたし達が救援に入るけど、F.I.Sが動けば動けるのはクリス先輩か未来さん、それから響さん位しかまともに動けなくなるし……そこら辺は奏さんと相談なのかな?

 取り敢えず今はCDショップに入ってCDをあっちで待っている皆とわたし、それとセレナの分の計七枚購入する。勿論特典も人数分。そのまま満足気な顔で二人して退店。サラッとセレナはマリアのCDも買ってた。どうもこっちの世界のマリアの曲は作曲者が違うみたいでわたしの知っている曲を歌っていない。後で聞かせてもらおう。

 

「マリア姉さん、凄いなぁ。こんなに人気なんて」

「わたし達の世界のマリアも、世界の歌姫として人気だよ」

「へぇ~。ライブとかあったら行ってみたいなぁ……」

「頼んでみたら? 多分二つ返事で了承してくれるよ」

「えへへ、今から楽しみ」

 

 そのまま時間があったから二人で適当なカフェに。セレナにブラックコーヒーはまだ早いだろうからミルクと砂糖も入れて一緒にコーヒータイム。

 

「あまり外に出れないからこういうの新鮮で楽しい」

「楽しいならよかった。今度マリアと一緒に来てみたら?」

「そうしてみる。あ、このコーヒーおいしい」

 

 はふぅ……こういう時間こそ至福……

 

「じゃあこれ飲んだら戻ろうか」

「そうだね」

 

 じゃあ飲み終わるまでゆっくりと。

 なんて思っていたらわたしの懐に入っていた携帯が音を鳴らした。

 

「え? それって……携帯?」

「スマートフォン。七年前とは違うんだよ」

「へぇ……今度マムに話してみよう」

 

 七年前ってスマートフォンは存在していたようなしていなかったような……まぁいいや。

 取り敢えずこの電話はこっちの世界で使える、言うなら二課の備品みたいな物。ギャラルホルンを通じてこっちの世界に来た装者は二課でプライバシーに抵触しない範囲で監視されているから、何かあれば救援を要請するために電話がかかってくる。つまり、この電話が鳴ったということは比較的近い場所でノイズが出現したということ。

 

「はい、もしもし」

『あぁ、調か! ちょっと厄介な事になった!』

「え? その声、奏さん?」

 

 電話から聞こえてきたのは、奏さんの声だった。何時もはこっちの風鳴司令なのに……なんでだろう?

 

『お前らを狙って変な奴等が動いた! お前らが並行世界から来るのを狙ってたんだ!』

「えっ。それって……」

『オラ止まれ!! いいか、今すぐ元の世界に帰れ……って、多い多い!! 何人居るんだよ!? だぁメンドクセェ!! 全員まとめてかかって来いやァ!!』

 

 直後に何かビームみたいな音が発射される音と男性の悲鳴が聞こえて電話が途切れた。

 え、どういう事? 一応わたし達、窓際に居るから外の様子は見えるけど……あっ、爆発。

 

「え、何事?」

「なんかわたし達装者を狙った人達が来てるみたい?」

 

 装者って凄い貴重だから外国からしたら喉から手が出るほど欲しいだろうね。シンフォギアっていう常識を逸した兵器を纏える才能がある人間っていう事もあるし、分解でもして解析したらもしかしたら誰でもシンフォギアを纏えるようになるかもだし。まぁ無理だろうけど。

 特に今のわたし達って二課にも所属していないフリーの装者みたいな感じだから攫ったら洗脳して自国の装者にだって出来ちゃうし。しかも並行世界の人間だから別に攫って何しようが外交問題にならない。強いて言うなら並行世界の装者を敵に回す事だけど、多分そこまで先のこと、お上の人って考えてないよね。大抵そういう人って目先の事しか考えずに後の事一切考えないし。

 

「へぇ……でさ、月読さん。なんか周りに黒服の人達が集まってきてるんだけど」

「うん。なんか外に黒塗りの車とかあるしね」

『あはははは』

 

 二人で笑う。

 うん、こういう時は。逃げるに限る。と、いう事で。

 

『最後のガラスをぶち破れ!』

 

 二人で何処かで聞いたセリフを叫びながら窓ガラスをぶち破って外へと飛び出す。今度弁償します!!

 パリーンと音を立ててガラスが割れてわたし達は外へと転がり出た。店の中では黒服の人たちが何処かへ電話して、黒塗りの車から出てきた人達がわたし達を囲もうと動いてくる。

 

「セレナ!」

「Seilien coffin airget-lamh tron!!」

 

 セレナが聖詠をしてシンフォギアを纏い、拳銃を向ける黒服の人達に牽制の短剣を飛ばす。その間にわたしはLiNKERを打ち込んで聖詠をする。

 

「Various shul shagana tron!!」

 

 叫びながら聖詠をしてシンフォギアを纏う。相手が何語か分からない言葉を話してるけど、英語なら分かる。えっと……シンフォギアを纏った。何してもいいから捕まえろ?

 

「セレナ、最短で真っ直ぐに一直線に」

「帰ろう!! 普通に怖いよこの状況!!」

 

 涙目のセレナが叫んでくる。大丈夫。わたしも怖い。

 まずは、道を作る。

 

「セレナ、あっちに!」

「うん! FAIRIAL TRICK!!」

 

 セレナが短剣を宙に浮かばせて手を指揮者のように動かす。それに従って短剣は動き始め黒服さん達を襲う。勿論、小さな切り傷を作るだけで大けがはさせない。殺すのは簡単だけど、殺しちゃいけないからね。気を付けないと。

 わたしは足に小さな電鋸を作ってそのまま走り出し、セレナも隣で一緒に走る。その際に短剣を回収するのを忘れないけど……一般人が普通にいる!? こういうときって人払いとか済ませているんじゃないの!?

 駄目だ、普通の道じゃ一般人に迷惑がかかる……

 

「月読さん、上を行こう!!」

「ナイスアイデア! 双月カルマ!」

 

 双月カルマを使って空を飛んで建物の屋上に着地する。

 これなら安心して逃げれ……?

 なんか変な音が……これは、ヘリのプロペラの音? なんでそんな音が……

 

「ちょ、月読さん! 上にミサイル積んだヘリが!!」

「まさかの殺意!?」

 

 上を向けば機首をこっちに向けて突っ込んでくる戦闘ヘリが。確かにシンフォギアを倒す現代兵器はそういうのしか無いけど街中で使うのは限度がない!? って撃ってきた!!

 

「えいっ!!」

 

 撃たれたミサイルを空中でセレナが迎撃。ミサイルは空中で爆発する。そしてすぐに逃走!!

 

「なんでこうなるの~!?」

 

 セレナが叫びながらも結構マジ走り。わたしは電鋸で楽ちん。けどヘリは追ってきている。

 どうしよう……このまま奏さんに任せてもいいけどそれじゃ余りにも責任転嫁過ぎるし、何よりこっちの二課の人達の胃が破壊されちゃう……! せめてあのヘリくらいはどうにかしないと……

 

「はいそのヘリ止まりやがれェ!!」

 

 とか思っていたらわたし達の前から誰かが飛び出してそのままヘリにしがみついた。あれは……

 

「奏さん!?」

「アグレッシブすぎ!?」

 

 シンフォギアを纏った奏さんはそのままヘリのコクピットの中に空中で入ると強制脱出ボタンを押させてパイロットの人を強制的に打ち上げた。そしてヘリは奏さんがそのまま槍で撃墜。

 

「だぁクソ! 数が多すぎて何も言えねぇ!!」

「か、奏さん。あ、ありがとうございます……」

「あ? いや、これはアタシの世界が起こした事だし気にすんな。むしろ巻き込んじまってわりぃ。で、そっちのは……えっと、セレナだっけか? この間話し程度だが聞いたよ」

「あ、はい。マリア姉さんがお世話になってます」

「いや、お前の姉さんにゃこっちも迷惑かけてっからな、っと!!」

 

 呑気に自己紹介やっていると奏さんが下から撃たれたロケット弾を槍で弾き返していた。やっぱりこの人普通に強い……

 

「って事でお前ら今すぐ帰れ! マジで帰ってくれ!!」

「え、でも……」

「じゃないと援軍がワラワラ来るんだよ! ホントマジで今日は帰ってくれ!」

 

 そ、そこまで言われると帰るしか……

 

「あ、その前にこれやるよ。今度のアタシのライブのチケット。見にきてくれよな!」

「え、この状況で……チケットは有り難く貰いますけど……」

 

 なんかさっきからテンションが上がったり戻ったりで忙しいなぁ……

 奏さんはまた撃たれたロケット弾を槍で何処かに弾き飛ばすとじゃ。と手を上げて下の方で屯している黒服の人達の蹂躙にかかった。

 わたしはセレナの首根っこを掴んで無理矢理公園に急ぐ。こういう時の為の禁月輪。

 

「あ、月読さん! 前に誰かいる!!」

「おいテメェ等! 今すぐ止まり……」

「轢き逃げアタック」

「ぐはぁ!?」

「えぇ!?」

 

 なんか途中で白いシンフォギア的な何かを纏ったクリス先輩的な人を轢いた気がするけど気にしない。

 

「いやいや、気にしよう!?」

 

 気にしたら負け。これ以上何か問題起こしたら奏さんがストレスで憤死しちゃう。

 そんなこんなでわたしとセレナは公園に辿り着くとそのまま元の世界に戻った。CDはちゃんと渡したしセレナもその後こっちの世界のマリアと翼さんのCDを買って大満足していたけど……奏さん、大丈夫かなぁ? 色々と擦り付けて来ちゃったけど……

 と言うことを翌日遊びに来た奏さんに伝えた。すると。

 

「いや、どうもあれで色んな国の膿が見つかったらしいから結果的にはプラスなんだわ。二課の大人組は数人病院に行ったけど……」

 

 あ、はい、そうですか……ご愁傷さまです。

 そんなこんなでわたしとセレナの並行世界へのおでかけはぐだぐだに終わった。

 なんだろう、この不完全燃焼感……

 

「ちなみに首謀者のフィーネとかいう女の配下らしい少女もこっちで捕まえた。なんか轢かれた後があったが、あれお前がやったのか?」

 

 えっ。もしかして事件解決を最短で真っ直ぐに一直線にやっちゃいました?

 えぇ……もっと不完全燃焼感が……




調ちゃんとセレナで最後のガラスをぶち破れがしたかったのとダイ・ハード的な事がやりたかったけど挫折してしまった話。どの世界線の話かはご想像にお任せします。

何が起こったのかを解説しますと
フィーネ、クリスに並行世界の装者確保を命じる→調ちゃん&セレナさんが来る。奏さん解決に向かう→調ちゃん、確保に向かったクリスを轢く→帰宅。クリス確保。各国の膿がドバドバ。

一話だけじゃ書ききれなかったんや……!! 取り敢えずこれからはセレナも時々話に混ざってきます。


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月読調の華麗なるヤンデレ生活

日刊ランキング十一位にビックリしました。久々にここまで上の順位に来た。

今回は調ちゃんの番。同人誌持っていた切ちゃんとは正反対でヤンデレ化してしまった調ちゃんの話。

あと、この作品では本来カットインで出てくる技名を口に出していますが、単純に分かりやすいように書いております。かなり今更ですけど……w


 わたしは、切ちゃんが好きだ。

 友愛的な意味合いでは勿論。恋愛的な意味で。言い換えてしまえば下品だけど性的な意味で。わたしは、今は親友止まりである切ちゃんを愛している。切ちゃんのためならLiNKER無しでもエクスドライブ直前まで適合率を上げてギアを纏うことだって出来ちゃう気がする。

 世間的に、わたしのこの気持ちは重いって言われるのかもしれない。変だって言われるのかもしれない。だから、わたしは今の今まで切ちゃんにそういったわたしの内面の深い部分は一切話していない。切ちゃんが初めて声をかけてくれたあの日から変わらないこの気持ちを。未来さんを馬鹿にできない、ではなく未来さんを同類だと思えてしまうこの膨れ上がった愛情を。

 そんな、世間的には重い女であるわたしの朝は早い。

 切ちゃんが起きる前にわたしは朝ごはんの準備をする。切ちゃんが朝起きてお腹を空かせたまま待つなんて可哀想なことがないために、だ。それが終われば切ちゃんを起こすまでわたしは切ちゃんの寝顔観察と撮影に向かう。

 かわいい……かわいいよきりちゃん……

 もうわたしのカメラのメモリには毎日数十枚は撮った切ちゃんの寝顔写真で一杯。これは誰にも渡さない、わたしだけの大切な物。マリアにだって渡さない。

 そうして寝顔を撮って観察している内に切ちゃんを起こす時間になってしまう。これ以上は切ちゃんとわたしは学校に遅刻しちゃう。別にわたしは切ちゃんと爛れた日常を過ごせるならそれでもいいんだけど、今はそんな関係じゃないから切ちゃんを起こす事にする。

 

「切ちゃん、起きて?」

 

 その時にドサクサに紛れて髪の毛を触ったり唇を触ったり。普段じゃ触れない所を触るのを忘れない。

 あぁ、サラサラな切ちゃんの髪の毛を触っていると気持ちいい……唇もプニプニでちょっと湿ってて……おっといけない。これ以上は切ちゃんが気がついちゃう。

 体を揺する振りをしてドサクサに紛れて胸を触る。身長の割には大きい胸に嫉妬しないと言えば嘘になるけど切ちゃんは別に巨乳好きって訳じゃないからわたしは別にいい。

 

「んぅ……しらべ? もうあさですか?」

「そうだよ? もう起きてご飯食べないと遅刻しちゃうよ?」

 

 わたしは手に絡んだ、切ちゃんの抜けた髪の毛をそっとポケットに入れて切ちゃんの傍から離れる。あまりボディタッチが多いと切ちゃんに不審がられるかもしれないからね。

 わたしは早くしてね? とだけ切ちゃんに言ってすぐに自分の部屋に行く。そして机の引き出しを開けて小さな新品のジップロックを一つ取り出してそこに先ほど取れた切ちゃんの綺麗な金色の髪の毛を入れる。本当は食べちゃったりとかしたいけど……そこまでしたら流石に色々とマズい気がするから一応は我慢している。けど来年とかまで我慢できる気がしない。

 取り敢えず今はこうしてゲットできた髪の毛は袋に日時を書いて机の引き出しの、更に隠し引き出しの中に保管する。もうこの引き出しの中もジップロックに入った切ちゃんの抜け毛でいっぱいだ。そろそろ新しい隠し引き出しを作らないと溢れてきちゃうかな?

 それを終わらせてからわたしは切ちゃんのために朝ご飯を盛り付ける。その時、味噌汁には手首をちょっとだけ切ってわたしの血液を入れるのを忘れない。バレないのかって? いつもシュシュを着けて誤魔化してるしバレたとしてもシンフォギアの特訓中にとか言えば何とかなるのがわたし。

 

「はい、朝ごはん」

 

 まだ少し寝ぼけている切ちゃんの座る席に朝ご飯を置く。わたしの血液入りの。

 わたしのご飯にも切ちゃんの血液が入っててほしいなぁとか思っちゃうけど流石に今は叶えられない現実だからあきらめる。

 こうして朝ご飯を置けば切ちゃんは自然と目を覚ます。

 

「おぉ、今日のご飯も美味しそうデスな!」

「自信作」

 

 これも、切ちゃんのために覚えたんだよ? いつもインスタントとかじゃ不健康だからね。切ちゃんには何時も健康でいてほしいから、頑張って覚えたんだよ?

 いただきますと言って切ちゃんは早速おかずに口をつける。美味しいと言ってくれると嬉しくなる。

 

「今日のお味噌汁も美味しいデス」

 

 そして味噌汁に口をつけてくれる。

 あぁ、わたしが切ちゃんの中に……わたしの一部が切ちゃんと一緒に……

 この瞬間が朝の中では一番ゾクゾクする。わたしの物が切ちゃんの中に入っていく。これが嬉しくない女なんていない。最初は躊躇していたけど一度やったらもう病みつき。今から止めるなんて考えられない。端的に言って濡れる。

 けど、そんな興奮を外面には決して出さない。出したら、嫌われるかもしれないから。

 

「ふぅ、ご馳走様デス!」

 

 とか思っている間に切ちゃんは朝ご飯を食べ終わっちゃった。わたしも食べ終えているけど。

 ご飯を食べているときの切ちゃんはとても可愛いからついつい眺めちゃう。勿論、気付かれない範囲で。

 

「じゃあ、着替えてくるデス」

「わたしも着替えるね」

 

 そして、ここからもお楽しみタイム。

 切ちゃんの部屋にはわたしが仕掛けた隠しカメラがいくつもある。普段は切ちゃんのプライバシーを守るために稼働させていないけどこうして着替えるときにわたしも部屋に戻って着替える、とだけ言って部屋に入り、カメラを起動。自分も急いで着替えながらカメラの映像を直接私物のパソコンに移す。

 急いで身支度を済ませたわたしは切ちゃんが着替え終わった所でカメラを停止させて映像を確認。うん。今日もしっかりと撮れている。

 え? バレたら問題にならないかって? その時のプランも考えている。

 まず切ちゃんが泣きついてくる。そして罪を第三者に擦り付けてわたしが切ちゃんを守る宣言。そしてカメラの映像はもう用意してある記録媒体に保存してガッチガチのカギをかけた箱に保管。勿論、二重底にしてその上には黒歴史っぽいことが書かれたノートを置いておく事で切ちゃんにわたしが何か如何わしいものを隠しているという疑惑をかけられても切り抜けられるようにする。

 完璧な作戦。わたしは出来る女だからもう一手二手先の事は既に読んでいる。

 

「調~? そろそろ行くデスよ~?」

 

 おっと、映像を確認していたら既に切ちゃんは準備を終わらせていたみたいだ。

 パソコンの電源を落として何事も無かったかのように部屋から出る。

 

「お待たせ。行こっか」

「デス!」

 

 かわいい。

 制服姿の切ちゃんを脳内フォルダに保管しながら切ちゃんと一緒に登校する。この時間はクリス先輩や響さん達と偶然会わない時間帯。だから二人だけの時間を邪魔される事はない。

 ちなみに、他の装者の人と大人の人たち、それから未来さんにはわたしが切ちゃんの事が好きだという事をバラしている。未来さんっていう強烈な前例がいるからわたしが控えめに乙女ちっくに暴露することでわたしの恋愛感情はすんなりと受け入れられた。暴走だけはしないように、と釘を刺されたけど。

 だから、装者の皆はわたしの仲間。切ちゃんが見つけない限りはそっとしておいてくれるハズ。ふふふ……

 登校の後は退屈な授業を一応聞く。こんな授業を聞くよりも切ちゃんとお話ししていた方がもっと有意義なのに……でも、切ちゃんからの評価を下げる訳にはいかないから一応優等生っぽくは振る舞う。

 そして放課後。切ちゃんとの下校タイムが楽しみで、多分誰から見ても分かるくらいの満面の笑みで切ちゃんに近寄った。

 

「切ちゃん、一緒に帰ろ?」

「えーっと……ちょっと今日は無理デス」

 

 その瞬間、わたしの表情が一気に失われたのが自分でもわかった。

 なんで? なんでなの切ちゃん? わたしの事が嫌いになったの? それとも他の男か女がいるの?

 それなら始末しないと……確か今日はナイフとかは持ってきてないけど撲殺なら鞄と靴で何とかなるから早急に聞き出してソイツを葬らないと……

 

「実はマリアのCDの発売日だって事を忘れてて……調はネットで注文してたじゃないデスか? あたし、面倒で店頭で買おうって思っちゃって……」

 

 その瞬間、マリアのCDをネットで買った過去のわたしを撲殺したくなった。切ちゃんと合わせればこんな事起こらなかったのに……ッ!!

 でも、切ちゃんをここで無理に引き留めても仕方ない。精一杯の笑顔を作って一応は送り出す。

 

「じゃあ、わたしも他の所に寄ってから帰るね」

「分かったデス。じゃあ、あたしは行ってくるデス」

 

 教室から出ていく切ちゃんを見送ってからわたしは気配を消して切ちゃんの後ろを着いていく。へ? どうして気配を消すことがそんなに自然に出来るのかって?

 緒川さんから習った。愛さえあれば忍術だってちょちょいのちょいだよ。

 音もたてず気配も出さずに切ちゃんをストーキングしていく。勿論、切ちゃんにも、誰にも見えないから盗撮し放題。何時もはこうして日常の切ちゃんを写真に収める機会が無かったから丁度いい機会だったのかも。

 カメラとスマホの写真が次々と切ちゃんで埋まっていくことに喜びを覚えながらただひたすらに写真を撮っていると切ちゃんはすぐにマリアのCDを購入して笑顔でCDショップから出た。あぁ、その表情、凄くいい……!!

 ニヤニヤしながらわたしはカメラとスマホのデータを確認する。こんなにも自然体の切ちゃんを沢山撮れた……昔のわたし、案外いい事してくれたかも……

 人様に見られたら確実に終わりな表情を浮かべていても誰も気が付かない。だって忍術で気配消してるから。

 ふふふ……ふひひ……はっ! 切ちゃんは何処!?

 

「ねぇ君、俺たちと一緒にお茶しない?」

「奢ってあげるからさぁ」

「で、デェス……」

 

 い、いつの間にか古典的というか逆に珍しいナンパに引っかかってる!?

 今時あんなの珍しすぎて何とも言えないよ……じゃなくて! 切ちゃんはわたしのもの……手を出そうって言うのなら容赦はなし。忍術と装者としての力でねじ伏せてやる……!

 

「ちょ、ちょっとあたしはそういうの……それに、もう好きな人がいるデスからそんなに誘われても困るデス……」

 

 え? 好きな人?

 切ちゃんの好きな人ってもしかして……きゃっ、両想い……?

 ど、どうしよう……と、取り敢えず今は切ちゃんを助けてその好きな人を聞かないと! 切ちゃんの処女はわたしの物……!!

 わたしは阿修羅閃空的な動きをして一気にわたしと切ちゃんの仲を裂こうとする不届き者の抹殺のために切ちゃんの肩に軽々しく置いている手を掴む。

 

「な、なんだ?」

「切ちゃんが困ってる。すぐに退くなら乱暴なことはしない」

「し、調!? え、でもさっきまで……えっ?」

 

 手を掴んだまま警告する。ごー、よん、さん……

 

「な、何言ってんだこいつ?」

「邪魔すんなよ、どこから出てきたのか知らねぇけど……」

「時間切れ」

 

 ぜろ。

 わたしは掴んだ手の力をそのまま利用して男の人を投げ飛ばす。これも忍術の応用。

 吹っ飛ぶ男の人。それを確認せずにわたしはもう一人の男に阿修羅閃空みたいな動きをして一瞬で接近して腹パンして気絶させる。そして最初に吹っ飛ばした人が起き上がる前に鳩尾を踏んで気絶させる。

 大体五秒くらいかな? もっと本気出せば早く終わったけど、一応人間のできる範囲に留めておいた。

 

「大丈夫? 切ちゃん。あの人達に変なことされてない?」

「さ、されてないデスけど……ちょっと怖いデスよ?」

「切ちゃんはわたしの大切な人だもん。乱暴されかけていたら怒る」

「あ、あたしのためにデスか?」

「うん」

 

 迷いなく目を見てそう言うと切ちゃんは照れて目を逸らして頬を掻いた。かわいい。

 

「じゃあ、帰ろうか。あまり長居してると面倒ごとになりそうだし」

「そうデスね」

 

 そして二人一緒に愛の巣へと帰る。勿論、手を繋いで。

 あぁ、可愛い……それに手もすべすべ……もう最高。でも、これからきっともっと最高なことが起こる。帰ったらすぐに聞き出さないと……それで、それで……うへへへ。

 なんて妄想しているといつの間にかわたし達は帰ってきていた。わたしはちゃんと鍵を内側からかけて防犯をしてから疲れた表情の切ちゃんに何気なしに話題を振る。

 

「そういえば切ちゃん。さっき、好きな人がいるって言ってたけど」

「ぶふっ!?」

 

 飲み物を飲んでいた切ちゃんは噴出した。それすらも可愛い。

 

「き、聞いていたデスか……?」

「うん。それで、差し支えなければ教えてほしいなって」

 

 きっとそれはわたしだから。告白されたらわたしも告白して……それで、晴れて両想い。

 あぁ、楽しみ……今日の夜はお赤飯かな? それとも外で奮発して外食とか。それに、これからの事を考えれば幸せで幸せで……きっと今日は人生で最高の日になる。

 

「え、えっと……ちょっと恥ずかしいデス」

「ほらほら」

「うぅ、調が満面の笑みデス……」

 

 それはもう満面の笑みにもなるよ。やっと両想いで結ばれるかもしれないんだから。

 ほら、言って? わたしが好きだって。言っちゃって? それともわたしから言う? わたしから言っちゃう?

 

「え、えっとぉ……」

 

 えっと?

 

「その、実は……」

 

 実は?

 

「あ、あたしは……」

 

 切ちゃんは?

 

「あー、えーっと……その……」

 

 無駄に溜める。けど、その後に出てくるのはきっとわたしの名前だから安心してその表情の変化を見ることができ――

 

 

 

 

 

 

「ふ、藤尭さんの事が、デスね? その……気になってて……」

 

 

 

 

 

 ――――――え?

 

「み、皆には内緒にしてて欲しいデス! そ、その……あたしみたいなお子様が大人の藤尭さんに気があるなんて少し変かもしれなくて……調? どうしたデスか? 顔色が真っ青デスよ?」

 

 嘘。

 

「し、調?」

 

 嘘。嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘。

 そんなのありえない。なんで、なんでほかの人の名前がそこで出てくるの。わたしは精一杯切ちゃんの気を引いていたなのになんでそんな風に言えるのなんでわたしの名前を出せないのなんでなんでなんでなんでなんで……

 

「調? ほ、本当に大丈夫デスか……って、何処に行くんデス!? 調!?」

 

 わたしの事が好きじゃないなんて嘘切ちゃんはわたしの事が好きなはずわたしじゃなきゃ可笑しいはずわたしはそのために色々と裏で動いてきた切ちゃんに自然に好きになってもらえるように動いてきたなのになんでこんな事になんであの男の事が好きになってるのなんでこうなるの。

 でもこれは現実でどうしようもないからどうしたらいいのか分からなくて誰も助けてくれなくてわたしの愛情は全てが無駄になって――

 ――あぁ、そうだ。

 

「えっ……? し、らべ? その木刀はなんデスか? なんで部屋にそんなの置いているんデスか……?」

「ぼうはんだよ、きりちゃん?」

「ぼ、防犯ならなんでそれを振りかぶっているんデスか? じょ、冗談でも止めてほしいデス!!」

「じょうだんじゃないよ? これはおしおきだから」

「ひっ!? め、目が普通じゃないデス……!?」

「ふつう? わたしはふつうだよ?」

 

 わたしの物にならないなら、しちゃえばいいんだ。

 縛りつけて、逃げられないようにして、愛をささやいて、ずっとずっと、わたししか見れないようにして、わたしを好きになってもらえばいいんだ。

 だから、最初のこれはお仕置き。わたしじゃない人を好きになった悪い切ちゃんへの、お仕置き。

 あぁ、怖がっている切ちゃんもかわいいなぁ……でも、これからは切ちゃんの全部はわたしの物。誰にも邪魔なんてさせない。誰かが邪魔して来たらわたしが全部排除してあげるからね?

 それが、わたしの愛だから。

 

「だ、誰か助けて――」

「えいっ」

 

 ばきっ。

 

「ぎゃっ!!?」

 

 逃げようとした切ちゃんの後頭部に木刀が当たって切ちゃんが倒れる。床には切ちゃんの血が流れている。

 少し手に取って舐めてみる……あぁ、美味しい。美味しいよ切ちゃん。

 ふふふ……これからはずっと一緒だよ? ずっとずっと……二人で、一つだよ? 切ちゃん。




ハッピーエンド……?

切ちゃんはこのまま調ちゃんに色々とされたようです。勿論、これは並行世界の話なのでまた次回からは普通の調ちゃんに戻っております。この調ちゃんなら愛情だけでエクスドライブになれる(確信)

次回こそはアイドルデビューな話を書ければいいなぁ……


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月読調の華麗なる心霊体験

――セレナ・カデンツァヴナ・イヴの華麗なる日常――

「マリア姉さん。わたし、もっと出番が欲しい」
「落ち着いてセレナ。いきなりどうしたの。出番ならイノセント・シスターで主役を張ったでしょ」
「何言ってるの!? あれでやっと小日向さんとか天羽さんとかと同等かそれ以下なんだよ!? 最早アニメで一言二言しか話さないのが普通なわたしと、愛の重さを示し続ける小日向さん、回想で毎回毎回出てくる天羽さんとじゃどれだけ差があると思ってるの!?」
「狼狽えないでセレナ。奏はAXZだと出てこなかったわ」
「確かにこっちのわたしはもう故人だよ!? でもわたしはもっとイベントでも出番が欲しい! 欲しいのにィ!!」
「大丈夫よ。調なんてまだ単独での主役エピソード無いのよ? 切歌はクリスマスに来たのに」
「だとしても!!」
「それは響の台詞よ。もしくはサンジェルマン」
「月読さんはイベントにちょくちょく出てる! そして何より本編でのお色気枠!!」
「貧乳枠がお色気枠ってちょっと不思議よね。それに喜んでいる人は一定数居るけど。でもそうなるとセレナも生きていればお色気枠だったのかしら。何それ許せないビーム撃ちに行こうかしら」
「だから! もっと! 出番を! MORE DEBAN!!」
「まぁここで言っても変わらないのだけど」
「何でマリア姉さんはそこまで呑気なの!?」
「だって私ヴァルキリー・サマーで主役張ったし基本的にどの並行世界にも出張してるし」
「ぐうぅ……! わたしに、わたしにもっと出番をォ!!」
「まぁ今の奏や未来の様子を見ればメモリアのストーリーで出てくるのが精一杯だろうけど」
「ああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
「私の妹、こんなにアグレッシブだったかしら……」

――完――

セレナで何か書きたかったけどこれだけしか思いつかなかった。あ、シンフォギアライブ落選しました畜生。狼狽えまくりましたよリアルで崩れ落ちましたよ。

まぁそんな事は置いておいて今回はパヴァリア三人組が書きたかったのでアイドルデビューはまた今度


『それじゃあ調ちゃん、お願いね』

「分かりました……Various shul shagana tron」

 

 聖詠を歌うわたしは、今、とある建物の前に立っている。周りにはSONGで働いているボディーガード兼雑用係……らしい黒服の人達が立っている。

 どうして装者がこうしてとある建物の前でシンフォギアを纏っているか、と言うとこの建物はパヴァリア光明結社の三人、サンジェルマン、プレラーティ、カリオストロの使っていた建物だからだ。事件が収束したから他の錬金術師がまた襲ってきたときのための資料集めとして彼女達が使っていた建物を調べる事にしたらしい。

 で、何か罠があった際に装者ならほぼ犠牲なくどうにかすることが出来る。風鳴司令が今丁度手が離せない、他の装者も同じような任務に付いていて分散するしかなかったとか色んな理由があってわたしは今こうして一人で建物の前に立っている。何かあればクリス先輩がミサイルですっ飛んでくる。 

 聖詠を唱え終わり、最終抜剣をした後から変化したギア、アゾースギアを纏ってわたしはそっと建物の中に入る。

 中は……罠とかは無いのかな? わたしの仕事は中に入って安全を確保する事だから……取り敢えず奥の方に行こう。黒服さん達にはここまでならオーケーだから手を振って合図する。

 ヨーヨーを先行させて床と壁の安全を確保しながらゆっくりゆっくりと中に入っていく。黄金錬金並の攻撃じゃなきゃこのギアなら即死するって事はないと思うけど……念には念を入れて、ね。ゆっくりと呼吸をしながらそっと、そっと中へ入っていく。これなら……大丈夫、かな?

 この建物は幾つか部屋がある。その部屋の全ての安全を確保しないと仕事は終わったとは言えない。お小遣いのためにも頑張らないと……

 それから。

 幾つかの部屋を捜索した。結果は罠は特になし。これから痕跡探しは黒服さん達に任せる事になる。これなら大丈夫かな? なんて思いながらわたしは最後のドアのドアノブに手をかけた。そして、そっと扉を開けて……

 

「はいもう何度目か分からないけど局長抹殺記念にかんぱーい!」

「本当にもう何度目か分からないワケだ」

「全く……これじゃあ本当に死んだのかよく分からん……」

 

 ふぁっ!?

 

「あら? あ、ザババの子じゃない。って言ってもアーシ達は見えてないんでしょうね」

「ここには何も無いワケだ。強いて言うなら私達の生活の跡だけなワケだ。聞こえていないワケだが」

「いやちょっと待ちなさい。なんかこっちを見てるわよ。っていうか目が合ってるわよ」

『え?』

 

 え? えっと……え?

 あの三人……サンジェルマンとプレラーティとカリオストロ? え? 消えたんじゃ……え?

 

「ちょっと~? 見えてるの? 見えてないの?」

 

 あ、あああああ、ああ足すすすすすすすけけけけけけ……

 

「うらめしや~なワケだ」

「あわわあああばばばっばばっばあっば!!?」

 

 おおおおおおおおば………………きゅぅ。

 

「……気絶したわね」

 

 

****

 

 

「はっ!?」

 

 こ、ここは……SONGのメディカルルーム!? さ、さっきのパヴァリア三人組が居たのはただの夢!?

 ……ゆ、夢だよね?

 

「やっと目が覚めたわよ?」

「人の顔見て気絶とか失礼な奴なワケだ」

「いや、普通に死んだ人間が化けて出たら驚くわよ」

 

 ……きゅう。

 

「あ、また気絶したワケだ」

 

 

****

 

 

 うん。また気絶してから一日が経ちました。あれから数回気絶して目を覚ましてを繰り返したけどなんとか現実を受け止めたよ。

 取り合えず、あの三人は他の人には見えていないみたいで完全にわたしが挙動不審な不審者みたいな動きしていただけだったけど……あの部屋には人の精神を何か不安定にする術式があった的な処理をされて終わったらしい。切ちゃん達から凄く心配されたけど本当に何もないから大丈夫だって言った。

 それで。

 

「……えっと、つまりわたしはフィーネの魂を宿していた事があったからちょっと霊的な物が見やすくなっていると?」

「多分、が付くがな。私達もよく分かっていない」

 

 という事らしい。

 わたしは霊能力者的な物になっていたらしい。でも、見れるのはわたしとそこそこ関係があった人間だけ。だとするとキャロルとかセレナとか見えてもいいんだけど、キャロルとはわたし、多分会話してないしセレナに関しては成仏したかマリアに憑いているかだろうかだから見えなくても仕方ないとの事。

 わたし、サンジェルマンと顔を合わせたのって……あ、でも共闘したしカリオストロともそこそこ戦ったしプレラーティはわたしが倒したし。そう思うとそこそこ関係があるのかな?

 

「なんにせよ。アーシ的には話し相手が出来て嬉しいわよ?」

「私はとっとと成仏したかったのだがな……」

「カリオストロに引っ張られて現世をあっちこっちしてるワケだ」

「そ、そう……」

 

 成仏ってそう簡単に出来るものなのかな……

 取り敢えず塩撒いてみよう。ぱっぱ。

 

「あ、ちょ、やめ、消えちゃうでしょ!?」

 

 あ、効くんだ……

 

「全く……」

 

 カリオストロは溜め息を付いてわたしの周りをふよふよする。

 わたしも塩を片付けてさてどうしようかと自室に戻って考える。

 

「……っていうか何でわたしに付いてくるの?」

「なんか離れられないワケだ」

「憑いているって事かしらね」

 

 えっとお塩は……

 

「強制成仏は止めなさい!!」

 

 あ、カリオストロに止められた。っていうか掴まれた。

 流石にこれからずっとこの三人の乱痴気騒ぎを聞いているのは精神的にも色んな物的にも嫌だからとっとと離れてほしかったんだけど……

 取り敢えずカリオストロを塩を触った手でアイアンクローしながら溜め息を一つ。カリオストロの割とマジな悲鳴は聞かないことにする。

 

「……まぁ、そちらにもプライベートはある。幸い、部屋からは出れるから部屋からは出ていよう」

 

 あ、助かりますサンジェルマンさん。

 

「で、だ。こちらとしては迷惑をかけるわけだからな。何か困ったことがあれば助けとなろう」

「等価交換なワケだ。あ、そこのカリオストロはストレス解消の道具にしても構わないワケだ」

「ならお構いなく」

「構いなさいよあだだだだだだ!!?」

 

 そんなこんなでわたしと切ちゃんの住んでいるアパートにはサンジェルマンさん、プレラーティ、カリオストロのパヴァリア三人組が憑く事になった。切ちゃん、悪寒を感じても原因はこの三人だからあまり怖がらないでね。わたしは何も言わないけど。

 

 

****

 

 

 そんなこんなで。

 

「あ、アーシあれが食べたいわ」

「我儘を言わないワケだ。私はあれで」

「いや言ってるだろうが」

 

 このパヴァリア三人組、根っからの悪人ではないっていうのは分かってるけどちょっと自分の欲求に素直過ぎない? まぁ、この間のお小遣いがお給料って言える額になってたから別にいいんだけどね……

 この人達、どうにも人目に付かない(わたしを除く)場所でなら物に触れるらしくてインスタントの物でいいから食べ物が食べたいとか言い出した。だからわたしは夜食と言い切ってこっそり色々とインスタントの物を買って保管している。唯一サンジェルマンさんはそういうの言わないけど目線が食べたいものの方向を向いているから何が食べたいのかわかっちゃうっていうね。

 

「このお返しは明日の小テストの答えを教えるで良かったかしら?」

「うん。大丈夫」

 

 え? カンニング? ズル?

 あはは、バレなかったらいいんだよバレなかったらね。

 

「ちょっと狡賢いワケだ」

「後で泣きを見るわよ?」

 

 それは……うん、クリス先輩に泣きつきます。

 取り敢えず買うものは買ったからそれを手にレジに並んでお会計を済ませる。レジの人がわたしが通った後に寒そうに両手を擦ってたけど、多分この三人のせいですごめんなさい。

 お店を出ると大体カリオストロとプレラーティがそこら辺をふらふらする。わたしから半径数メートルが離れられる限界らしいから何処かの店に張り付いていたりするとズルズルと引っ張る形になるけどね。そして今もカリオストロが近くの服屋に引っ付いていてわたしに引っ張られている。そういうのはまた今度。

 そんな感じでカリオストロを引きずっているとカリオストロは涙目でわたしの前に立ってわたしの肩を掴んでくる。なんか霊体なのにこの三人ってわたしに触れるからこういう事が起こるんだよね……あぁ、視界が……周りの視線が痛い……

 

「たまにはいいじゃない!!」

 

 いや、だってあそこゴスロリとかそういうのが一杯だし……わたし、そういうのはあまり好きじゃないから……ね?

 それに、今はわたしに憑いている状態なんだしわたしの行動が第一。カリオストロとかは二の次。という訳で帰るよ。ずるずるずる。

 

「うぅ……こうなったら憑依して入ってやるわ!」

 

 とかやっていたらカリオストロが掴みかかってきた。しまった、今は塩がない!

 あ、ちょ、掴みかから……

 うっ!?

 ……

 …………

 ………………あ、あれ?

 

「あ、あら? なんか入れちゃった?」

 

 わ、わたしの体が目の前に!?

 

「ちょ、カリオストロ!?」

「何を!?」

「ふふふ……これでこの体は暫くはアーシの物! ちゃんと後で返してあげるわよ?」

 

 ちょ、そんな勝手!? 切ちゃん、絶唱をわたしの肉体に当てて! カリオストロを強制成仏の刑に処して!!

 そんなわたしの言葉も空しくわたしの体に入ったカリオストロはフリフリいっぱいな服屋に……プレラーティ、サンジェルマンさん、止めて!?

 

「分かっているワケだ」

 

 霊体のプレラーティがわたしの肉体に飛び蹴りをかます。そうするとわたしの肉体にプレラーティは吸い込まれていって代わりにカリオストロが排出される。

 

「ふむ。あまり体型が変わらないから違和感がないワケだ」

「プレラーティ!? 邪魔しないでよ!!」

 

 ナイス、プレラーティ!

 ほら、その肉体をわたしに返して。さっきから周りに足のない人が見えまくってて怖いの! 割と本気で怖いの!!

 

「じゃあカリオストロの代わりに私がこの店に入るワケだ」

 

 えっ。

 

「お前はちょっと飾りっ気がないワケだ。こういうのを着たほうが絶対にいいワケだ」

 

 ちょ、プレラーティ!? 謀ったの!?

 

「ふっ……精々そこで自分が着せ替え人形になっているのを黙って見ているワケだ」

 

 あぁ、わたしの肉体が店の中に……あぁ……

 

「……ごめんなさい。後で塩を撒いておくといいわ」

 

 そう言うサンジェルマンさんはカリオストロに羽交い絞めされていた。

 こ、この人ほんとこういう時に限って使えない……!!

 

 

****

 

 

 その後。

 

「ユルシテ……ユルシテ……」

「悪気は特になかったワケだ……」

 

 結局わたしの体はゴスロリ服を大量に着せられて、しかも着たまま購入した所で返却されたからフッリフリの服で帰る羽目になった。

 わたしは帰ってすぐに着替えてから縄を片手に神社へ向かいお札を買って縄を手を洗うための清めの水で濡らしてからカリオストロとプレラーティを簀巻きにして顔面にお札を張り付けてお風呂場に放置した。これが結構効いているようでカリオストロとプレラーティは結構弱っている。成仏しない程度にしたのはわたしの慈悲。

 り、理由? それは……

 

「こ、こういうの着たら切ちゃんも振り向いてくれるかな……」

「……あまりあの二人を責めないでくれよ?」

「わ、わかってます……」

 

 ちょ、ちょっとだけ気に入っちゃった、から? 案外可愛くて、その、悪くない、かな?




実はそっちの気があるこの世界の調ちゃん。調ちゃんにはゴスロリがとても似合うと思うんだ……! 公式さん、猫耳とか天使のコスプレとかいけたんだし、どうにかして調ちゃんにゴスロリ服着せてくださいお願いします……!! あと投げゴマを回せとお出かけの準備の調ちゃんは可愛い。っていうかメモリアの調ちゃん全部可(ry

あの三人組、なんか実は生きていますオチがありそうだけど今回は死んでいましたって事で出演。あと、アゾースギアは設定集を買ってないので分からないため名前のみの登場。

その内キャロルとかも出してみたいけど、出すとしたらこの世界線でキャロル(故)、セレナ(故)、奏(故)として出すかな……?

たまにはひびしらとかも書いてみたいなぁとか思いながらまた次回。

短編から連載に変えたほうがいいかな……? でもこれ短編集だからなぁ……


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月読調の華麗なる記憶喪失

調メインのイベント来てしかもメイドでテンションが上がっていますが石がもう無いので絶望しております。新曲楽しみ。

今回は幼児退行からの続きで切ちゃんメインです。


 今日は切ちゃんと一緒にお出かけ。何時もは切ちゃんと一緒に部屋を出るんだけど生憎、切ちゃんはちょっとSONGの方に用事があるみたいでわたしよりも先に部屋を出た。なんでもわたしが幼児退行した後の後始末がちょっとだけ残ってたとか。後始末って何するんだろう……一応、切ちゃんの用事が終わったら待ち合わせ場所で合流して一緒にお出かけの予定。

 それで、部屋で待っているうちに切ちゃんは用事が済んだみたいで今から待ち合わせ場所に向かうってメールをくれた。切ちゃんよりも少しだけ遅れて着くことになるけど、とっくに外出準備を終わらせていたわたしは鞄を片手に部屋を出た。

 どうもエルフナインが言うにはまた頭を打つと何かしらの症状が出てしまうかもしれないから極力頭だけは打たないようにって言われているけどあまりそれに対して気を張ったりとかはしない。あまり気を張りすぎていたらこんないい天気な日での外出を楽しめない。

 そんなこんなで部屋を出てから数分。十数分かな? それくらいで切ちゃんとの待ち合わせ場所に着いた。ここは公園で休日だからか野球をして遊んでいる子供達が目についた。わたしはそれを視界の端に収めながら切ちゃんの姿を探す。

 切ちゃんは……いた。

 

「切ちゃん」

 

 切ちゃんに近づきながら名前を呼ぶ。切ちゃんはわたしに気が付いてきょとんとした顔から一瞬で花の咲いたような笑顔になった。

 

「あ、調!」

 

 切ちゃんはちょっと小走りでわたしに駆け寄ってきた。わたしもちょっと小走りで切ちゃんに近寄る。

 よし、これで合流できたしあとはお買い物に……

 

「あ、危ない!」

 

 えっ。

 なんか横のほうから子供の声が聞こえた。

 一体誰の声だろう。何に対しての危ないという声だろう。というかなんで切ちゃんは真横を向いて目を見開いているのだろう。もしかして気づいていないのわたしだけ?

 そんな事を思いながらわたしは顔を横に向ける時間も与えてもらえず、取り敢えずその危ない物体がわたしに当たらないように祈るしかなかった。祈るしかなかったんだけど……

 

「あだぁ!!?」

 

 ばきっ。とかめきっ。とか。

 そんな感じのいやーな音がすると同時にわたしはわたしらしくない声を上げた。その声をあげてすぐにわたしの視界はそのまま物凄い勢いで横にブレ、気が付いたら地面に倒れていた。

 なんだかこの前感じたばかりの意識が急速に薄れていく感覚を覚えながらわたしの視界に入ったのはわたしに駆け寄る切ちゃんと、視界の端に転がる野球ボールだった。

 軟式じゃなかったら死んでいた……がくっ。

 

 

****

 

 

 調の頭に野球ボールがホームランして調が白目を剥いて倒れたデス。

 そんな事態に直面したあたしは急いで調の瞼を指で落として白目を剥いている色々とアウトな状態から普通に気を失った状態にして、SONG本部に調を担いで向かったデス。

 それで、丁度すれ違ったエルフナインに事情を説明してメディカルルームに調を運び込んで後をエルフナインに託したデス。この間頭を打って幼児退行したばかりなのにまた頭を打って気絶するなんて色々とついていないデス。頭に悪いものでも憑いているんじゃないかと思ってしまうくらいにはついていないと思うのデス。

 

「切歌さん。多分、調さんが目を覚ますのはもう少し後なので今日は帰っちゃってください」

「で、でも!」

 

 せめて、目を覚ましたらすぐに調に会って安否を確かめたいデス! また頭にタンコブ作ってたら大変デス。っていうかまた幼児退行したら内密にしないとまたマリアが暴走するから色々なキーパー役にならないといけないデス!!

 

「大丈夫です。暫くは安静にしないといけないとは思うのでどの道メディカルルームには明日までは居てもらうつもりです。それに、目が覚めたら一番に切歌さんに報告しますよ」

「ほ、本当デスか?」

「はい。錬金術師嘘つかないです」

 

 そ、そこまでエルフナインが言うなら大丈夫……なんデスかね?

 でもこれ以上ここにいたら強制退去させられそうな気がするのであたしは一旦家に帰って明日、またお見舞いに来ることにしたデス。夜ご飯は調が居ないからレトルトデス。

 それでお風呂にも入って一人の部屋で暫くケータイを弄ったりL○NEの装者+未来さん+エルフナインのグループで調がまた頭を打ってメディカルルーム行きになったのを知らせてからもうやる事もなかったのでそのまま寝たデス。やっぱり調が居ないと寂しいデス……

 寝て起きたらもう朝デス。歯を磨いて朝ご飯としてパンにジャムだけつけて食べて、それからケータイを確認するとあたしが寝てすぐにマリアとかクリス先輩とかマリアとか響さんとかマリアとかマリアとかマリアとかマリアとかマリアがなんか物凄い動揺していてエルフナインが色々と説明していたデス。狼狽えるなだけでトーク画面が埋め尽くされていたりしていてちょっと怖かったデス。なんか申し訳ないデス。

 それを笑いながら見ていると、丁度エルフナインからの連絡が来たデス。調が目を覚ましたらしいデス。

 その通知を見たあたしは一言だけ、「すぐ行きます」と返事をしてから着替えて寝癖だらけの髪の毛をどうにかして直してからメディカルルームに向かったデス。

 本部は顔パス。そのままメディカルルームまで最速で最短でまっすぐに一直線に走ってメディカルルームの扉の前で立ったまま船を漕いでいるエルフナインを見つけたデス。

 

「エルフナイン!」

「ふぁっ? あ、きりかさん……」

 

 エルフナインは寝不足なのかそれとも徹夜で調の事を見てくれていたのか欠伸を噛み殺しながら目を擦ってあたしの声に反応してくれたデス。

 それで、調はどうなったデスか?

 

「そ、それは……見てもらった方がはやいですね」

 

 ま、また幼児退行デスか……?

 あの時の惨状を思い出しながらあたしはエルフナインの許可を貰ってメディカルルームに入ったデス。入ってすぐにベッドの上で何か本みたいな物を見ている調を見つけることが出来たデス。

 

「調ぇ!」

 

 よ、よかった。頭に包帯を巻いているけどそれ以外に目立つケガとかはしていないみたいデス。

 これならすぐに二人で部屋に帰れ……

 

「……えっと、誰ですか?」

 

 デス?

 

「もしかして、わたしを知っている人ですか?」

 

 デスデス?

 

「し、調……?」

「その、えっと……わたし、記憶がないみたいで……すみません」

 

 デェェェェェェェェェェェェス!!?

 

 

****

 

 

「つまり、調ちゃんは自分の名前も誰かの名前も覚えてないし過去に何をしたのかすら全く覚えていないと」

「はい……」

「ったく、お前の頭、何か悪い物でも憑いてんじゃないのか?」

「今度神社にでも連れていくとしよう」

「いや、先輩。これ冗談だからな?」

 

 あたしが着いてから一時間もしない内にマリアを除いた全員がやってきたデス。マリアは……うん、来たらまた発狂しそうデスから仕方のない事デス。L○NEでは近くの病院で入院中と嘘を言って、ついでに緒川さんをけしかけておいたので多分来ることはないデス。

 

「取り敢えず、今の状態で様子見。数日経って駄目なら本格的に脳外科の方に行くのが良いと思います」

「エルフナインでも駄目デスか?」

「ボクは脳外科じゃなくて錬金術師なので……一応、こちらでも最大限の処置はしたので本来は深刻な症状ですが、かなり軽い症状にする事は出来たので今日中には記憶は戻ると思いますよ?」

「錬金術ってスゲーデス」

 

 っていうか、異端技術を使わないといけない位には深刻な症状だったんデスね……ここに運んで来てよかったデス。

 調は今、全員分の名前を憶え直した所デスから一応全員の名前と顔は一致している状態ではあるのデス。でも、どうやったら調の記憶が完全に戻るのか……そこだけはどうしても分からないデス。ここにいる全員、記憶喪失なんて体験した事は無いデスから。

 響さんが映画だともう一度頭を打ったら治っていたとか言っていたけど、それだと悪化するかまた幼児退行する結果しか見えないデスから全員で却下したデス。

 で、またまた響さんの発言。ならシンフォギアを纏って体を動かしたら案外思い出せるかもしれないとかなんとか。最初はまさか、と思ったデスけど案外良い案かもしれないと暫く案を出してから思ったので早速シュミレーターを借りて実践する事にしたデス。調へのLiNLERはあたしが注入したデス。

 

「それじゃあ、やろうか! Balwisyall Nescell gungnir tron」

「なるべく頭には当てねぇようにしてやるよ! Killter Ichaival tron」

「手加減は無しデス! Zeios igalima raizen tron!」

「え、えっと、確か胸の内の歌を……Various shul shagana tron?」

 

 今回は二対二のチーム戦。翼さんはお休みなのデス。

 調はシンフォギアを纏う方法は覚えていたみたいなので普通にシンフォギアを纏う事には成功していたデス。確かエルフナインはえぴそーど記憶? が抜け落ちている状態だからこういう何気ない動作とか技の出し方は分かっても連携の方法とかは覚えていないとかそんな感じの事を言っていたデス。

 調はヨーヨーを手にちょっと固まっていたデスけど、ギアの扱いは記憶が無くても何とかなる物。すぐに構えたデス。

 そしてすぐにあたし達のユニゾンで……と思ったデスけど、調が合わせられないせいかイガリマとシュルシャガナのザババユニゾンも出来ず流れてきたのはあたしの歌だけだったデス。でも、調の動きにあたしが合わせれば!

 

「悪魔だって真っ青顔な刃を受けるデス!」

「最速で最短に真っすぐに一直線に! ぶち抜く!!」

 

 あたしのブースターの加速と回転を合わせた技、ラプンツェルと響さんのスクラップフィスト……じゃなくて拳がぶつかり、火花と衝撃波が散ってあたしの方が力負けしたデス。そりゃ響さんに力押しとかそんな無茶流石に厳しいデスよぉ!!

 

「レッツミサイルサーファー!!」

 

 へ?

 なんか響さんに吹っ飛ばされたと思ったらクリス先輩がわっるい笑顔でミサイルに乗って飛んできたデス!? あわわわ、こういう時どうしたら……

 

「切歌さん!」

 

 とか思っていたら調の方が反応してくれたデス。卍火車らしき電鋸二つが突っ込んでくるクリス先輩のミサイルを切り裂いて爆発させたデス。あ、クリス先輩がギャグ漫画みたいな吹っ飛び方で吹っ飛んでいくデス……あれはアフロ確定デスな。

 でも、これで暫くクリス先輩の復帰には時間がかかるから、後は響さんだけデス! いざ、勝負と思わせて連携技で仕留めるデスよ、調!

 

「れ、連携技?」

 

 ほら、禁月輪でひき逃げアタックの準備デス!

 そしてあたしは響さんを肩のアーマーから伸びた紐で拘束。もう二つの紐で調と連結! 完成、ザババエクリプスデス! え? 対人で使っちゃいけない技だろうって? 気にしないデス!!

 これで響さんを強制退場させるデス! エンジン点火、ゴーゴーデス!

 

「ふっ、甘いよ二人とも!」

「何デスと!?」

「この程度……フンハァッ!!」

 

 とか思ってたら紐がなんか気合的な物で千切れたデス!? あわわわ、これじゃあ調と正面衝突の事故が……およ? 響さん、なんか動かないデス?

 

「ふふふ……師匠直伝の発勁で!!」

 

 とか思ってたらなんか響さんが真ん中で構えて、あたしと調の刃が響さんに届くその瞬間、響さんがあたし達に向かって手のひらを……あばー!!?

 な、なんか響さんの手に触れた瞬間あたしのジャバウォックと調の禁月輪が砕けてぶっ飛ばされたデス!?

 

「ぶへっ」

 

 あ、あたしは顔面から地面に落ちたデス……なんか結構前、オートスコアラーに負けた時にも顔面スライディングしたようなしてないような……取り敢えず立って調の方に行かな――

 ぶすっ。

 ――へ? ぶすっ?

 え? これ何の音デス? 

 っていうかなんかいきなりお尻が痛い……あっ。なんかジャバウォックの刃の一部がぶっ刺さってるデス。お尻に。

 

「アッーーーーーー!!?」

 

 お、お尻がぁ!? ま、またお尻がぁ!!?

 せ、折角完治したのにまたお尻がぁ!!

 

「オイ馬鹿!! あいつら大変な事になってんぞオイ!!?」

「え? あ、あわわわわ!!? き、切歌ちゃんのお尻になんか刺さってて……調ちゃんが建物に刺さってるゥ!!?」

「いいからあっちを引っこ抜いてこい! エルフナイン、こっちの方をどうにかしてくれ! また切れ痔だ!!」

 

 おーう……おーう……痛くて死にそうデス……誰か助けて……助けて……ついでに建物に頭から刺さってる調も助けてあげてほしいのデス……がくっ。

 

「うわ、前よりも大きいのが……これは病院に行った方がいいですね……」

 

 

****

 

 

 結局。

 あたしのお尻は切れ痔が再発したデス。もう切れ痔で済むような物じゃないデスけど切れ痔デス。またボラ○ノールのお世話になる事になったデス。女の子なのに。

 で、調デスけど……

 

「その、大丈夫? 切ちゃん」

 

 なんとか記憶は戻ったんデスけど……デスけど……

 

「し、調も大丈夫デスか? 顔が包帯で見えないレベルなんデスけど……」

「大丈夫だよ。案外痛みもないし」

 

 あたしのお尻並みに顔が大変な事になっていたデス。一応傷は残らないレベルらしいデスけど、なんかあたしよりも重症にしか見えないデス……もうミイラって言われた方が信じられる位には包帯でグルグル巻きデス。

 でも調が大丈夫って言うんなら大丈夫なんだろうって一応は納得しているデス。

 

「あだだだ……」

 

 とか思ってたらお尻が……前よりもふっといのがぶっ刺さったから前よりも痛いデス……

 

「ほ、本当に大丈夫?」

「ぼ、ボラ○ノール取ってほしいデス……」

 

 と、取り敢えずあれを縫っておけば大体なんとか……

 

「……座薬タイプ?」

「いや軟膏デス」

「座薬しかないけど?」

「間違って買ってきたデス!?」

 

 ほ、本当に座薬タイプしか……あ、本当にそれしかないデス。ま、また薬局に行ってボラ○ノールを買ってこないといけないんデスか? もう店員の人に生暖かい目で見られるのは嫌デスよぉ……お年寄りの店員にお盛んねぇとかもう言われたくないんデスよぉ!

 およよ~……

 

「もうそれでいいデス……」

「うん。じゃあ、わたしがやってあげるね?」

「え゛」

 

 ちょ、ちょっと待って! それくらいは自分で出来るデスよ!? いや、慣れてないだろうからじゃなくてちょっ!!

 

「いや、ちょ、それだけは勘弁を!? あ、ちょ、予想以上に力つよっ……」

「えいっ」

「あふんっ」

 

 ……もうお嫁に行けないデス。




この作品の切ちゃん、お尻に短剣が刺さったりレズレ○プ物の同人誌持ってたりヤンデレに頭を殴られたりお尻に鎌の破片が刺さったりして不憫過ぎるなぁと今さらながら思いました。そして切ちゃんの一人称視点難しい。その内優遇してあげよう。

ちなみにこの話、途中でセレナが出てきて調がセレナの地雷を踏んでセレナが絶唱して爆発オチ、その際に切ちゃんのお尻に何かぶっ刺さる予定でしたがパソコンがフリーズしたのとこの時空、ギャラルホルンって単語出してないのを思い出したので止めました。多分神がセレナの出番を無くすように言ってきたのでしょう。

バレンタイン特別編とか書こうかなとか思いましたが何もネタが思いつかないので多分書きません。そしてアイドルデビューはまだ書き終わりません


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月読調の華麗なるバレンタイン

今回はバレンタイン特別編。だけどあまりこういうの書いた事ないのでちょっと微妙かも?

世界線的には今までのどの世界線とも平行世界です。

そういえば調ちゃんの誕生日って明後日でしたよね……誕生日特別編間に合うかなぁ……







メイド調ちゃん出ませんでした(絶唱顔)


 明日は年に一度のバレンタイン。大好きな人、もしくは友達にチョコレートを贈る日。

 今年も未来さんが何か怪しいチョコを作っているから響さんが色んな薬の中和剤を用意しているけどそれはわたし達には直接関係が無い事。むしろ干渉したら確実に未来さんに何かされるから響さんが今年も貞操を散らさないようにバレンタインデーを終えるのを願うしかできない。去年、クリス先輩が響さんを助けるために未来さんの邪魔して十割コンボで病院送りにされたし。当時の映像を見たけど人間って生身で空を飛べるんだって思っちゃった。

 まぁそんな事はいいとして。去年は収容所に居たからチョコレートは作れなかったけど今年は作っちゃいます、バレンタインチョコ。勿論、作るのはSONGの人達……全員分は流石に無理だから手作りは風鳴司令と藤尭さん、友里さん、緒川さんの四人。他の人はお店の小粒な物。後は装者の皆とエルフナインの分は手作り。

 その中で、一人分だけはちょっと力を入れる。俗に言う、本命チョコ。

 そう、切ちゃんに。何時ものお礼と、わたしの気持ちを込めて。

 女の子同士だと可笑しいって言うだろうけど……まぁ、未来さんっていうもっと凄くてヤバい人がいるからわたしの気持ちなんて些細な物で可愛い物、だと思う。あの人の気持ちはなんていうか……重すぎる? 誰かが言ったグラビティレズっていう言葉が本当にピッタリ過ぎて笑えない。

 まぁ未来さんの事はどうでもいい。どうでもよくないけどどうでもいい。わたしはわたしの気持ちを全部込めてチョコを作る。いつもは可愛いけど、戦っていたり真剣な時はかっこいい切ちゃんに。

 

「切ちゃん、喜んでくれるかな?」

「まぁ、喜ぶんじゃねぇの?」

 

 そんな本命チョコは何時もの台所じゃなくてクリス先輩の台所を借りている。切ちゃんには当日まで秘密にしておきたいからクリス先輩のチョコ作りを手伝うっていう条件付きで台所を借りた。

 今、台所どころかクリス先輩の部屋全体にチョコの甘い匂いが充満している。けど甘い物が好きなわたし達は特にそれが苦痛じゃない。苦痛じゃないけどチョコを食べたいっていう欲求に駆られてしまう。別に食べてもいいくらいには余分には買ってきたんだけど、あまり食べると太っちゃうから……

 

「お、このチョコ美味いな」

 

 太っちゃうから……

 

「余分に買っといて正解だったな」

 

 太っちゃ……

 

「お前も休憩がてら食わねえか?」

「……食べます」

 

 別に今度の訓練で張り切ればいいから食べちゃおう! あぁ、甘いチョコがブラックコーヒーと合って美味しい……訓練頑張らないとなぁ……

 

 

****

 

 

 あの後はなんやかんやでチョコは完成した。所々でつまみ食いしたりクリス先輩がカカオ90%のチョコを食べて涙目になってたりとか本当になんやかんやあって朝から始めたチョコ作りは結局夕方近くまでかかったけど何とかなった。

 クリス先輩は特に本命とかはないそうだけど、翼さんと風鳴司令の分はちょっと気合が入っていた。なんでか聞いてみたらあの二人には結構お世話になったから、らしい。確かにわたしもあの二人には結構お世話になったから他のチョコより少しだけ気合を入れた。あと響さんの分はなるべく未来さんに勘違いされないように二人で細心の注意を払った。本命に少しでも見えると後で勘違いした未来さんがスライド移動で迫ってくるから……クリスマスの時に響さんに日頃のお礼を込めて少し気合の入れたプレゼントしたら未来さんが後日スライド移動で迫ってきたのは怖かった。ちょっと泣いた。

 まぁそんな事もあったけどやっぱりわたしの本命は切ちゃんへのチョコ。かなり気合を入れて作った。クリス先輩が三人分くらいチョコを作り終えてもまだ足りない位には気合を入れた。横でクリス先輩がちょっと引いてた。

 で、帰り際に一日早いけどクリス先輩にチョコを渡した。クリス先輩からもチョコを貰った。その時のクリス先輩の笑顔はちょっとドキッとしました。

 それでチョコの匂いを漂わせながら部屋に帰ると切ちゃんもチョコを作ってたのか部屋中チョコの匂いがすごかった。けどわたしは気づかない振りしてその日は晩御飯を作って一緒に食べてお風呂に入って寝た。ゴミ箱はチョコの箱とかで一杯だったよ。

 次の日の学校。

 

「響さん、チョコです」

「あ、ありがとね調ちゃ……」

「チョコ……? 響に……? もしかして……」

『ヒッ』

 

 響さんには何とか無事にチョコを渡せた。未来さんにも同じように作ったチョコを渡して何とかなった。本当にこの人危ないよ……

 それで響さんと未来さんからもチョコを貰った。二人のチョコも美味しく頂きました。その後、わたしよりも遅れて部屋を出た切ちゃんが二人にチョコを渡してたけどリプレイみたいな光景が見えた。わたしは逃げた。

 後は仲のいい同級生の子とかお世話になってる先生とか、学校が終わってからすぐにマリア、翼さん、エルフナイン、SONGの皆さんにもチョコを渡し終えた。喜んでもらえてよかった。

 これで作った分は一個を除いて全部配り終えた。けどそれと同じに近い分だけチョコを貰った。本当に訓練頑張らないとなぁ! じゃないと太っちゃうからなぁ! 太っちゃうからなぁ……最近、ちょっと二の腕がプニプニになってきました……お腹はプニらないようにしないと……

 そ、それで残りの一個。それは本命だから最後まで残しておいた切ちゃんの分。

 切ちゃん、受け取ってくれるかな……本命だけど気づいてくれるかな……どきどき。

 

「ただいま~デス」

 

 切ちゃんが帰ってきた。どうやらわたしよりも少し遅れてSONGの本部に行ってチョコを渡してきたらしい。手の紙袋には他の装者や親しい人から貰ったチョコが入っている。

 

「おかえり、切ちゃん」

 

 わたしはドキドキをどうにかこうにか掻き消すためにお料理をしながら切ちゃんを出迎えた。今日のご飯はパスタ。

 今日のパスタは外国のパスタをトマトソースで。

 

「おぉ、今日はスパゲティデスか?」

「うん。切ちゃんはトマトソースが好きだったよね?」

「そうデス!」

 

 勿論知っているから初めからトマトソース一択だよ。

 で、外国のパスタだけど、調理方法は鍋の水にオリーブオイルも入れて麺がくっ付かないようにして、それで後は塩を沢山。

 結構多めに塩を入れて海水くらいしょっぱくしてしまう。で、後はパスタを茹でる。その間に作っておいたトマトソースを取り出したりお皿を取ってきたリ色々としている内にパスタはちゃんと茹で上がりました。

 後はちゃんと二人分に分けてソースをかけて完成。わたし流トマトソースパスタ。

 

「はい切ちゃん」

「おぉ~、美味しそうデス!」

 

 守りたい、この笑顔。

 それじゃあ二人で手を合わせていただきます。そして時々喋りながらそのままごちそうさま。我ながらいい出来だった。切ちゃんも食べ終わったからお皿を回収して水に浸けておく。後で洗っておこう。

 さて……いつチョコを渡そうかな……!! 結構タイミング逃しちゃったな!!

 

「――それで響さんがご飯にザバーっとかける物をそのまま食べちゃったんデスよ!」

「えぇ……あれ単品で食べれる物だっけ……」

 

 ご飯にザバーっとかける物……一部では正体不明のナニかとか言われてるけどわたしはちゃんと正体は分かってる。その正体はなんと……

 

「ちなみにその後響さんはぶっ倒れたデス」

「それ大丈夫なの!?」

「あまりにも後味が悪かったみたいデス」

 

 ご飯と食べると美味しいのに単品だとそんなに後味悪いんだ……

 

「まぁご飯代わりにガツガツ食べてたし仕方ないデス」

 

 そ、そうなのかな……気にはなるけどやってみたいとは思わない。で、さっきまで何を考えてたんだっけ?

 まぁいいや。取り敢えず今は切ちゃんにチョコを渡す時を考えないと……

 今丁度わたし達の会話は一旦終わって何となく変な空気になったからそれぞれ携帯を弄ってる。何時もはこんな事しないでテレビを見たりするんだけど、なんだか今日の空気は何時も通りとは言えなかった。何でだろう……わたしも切ちゃんも、何かタイミングを見図ろうとして困り果てた結果になっている……そんな感じが?

 でもそれを感じているのはわたしだけかもしれない。タイミングを見計らっているのは事実だし……あ、このレシピいいかも。今度作って……じゃなくて。

 ……よし! もう言っちゃおう! 女は度胸、だよ!

 

「切ちゃん!」

「調!」

 

 ……被った。なんてタイミング……!!

 二人同時に名前を呼んだからかもっと変な空気に……どうしようこれ。

 切ちゃんの目が泳ぐ。わたしの目も泳ぐ。既にわたしの膝の上にはバレないようにそっと机の下から取り出した切ちゃんのための本命チョコが。手の熱で溶けないようにはしておいたけど……あ、改めて渡そうと思うと緊張する。

 あ、あわわ。どうしよう……助けてマリア……

 

「て、テレビでも付けるデス!」

 

 切ちゃんがこの空気に耐えられずにテレビに逃げた。

 テレビの電源を入れるとそこには丁度マリアの新曲のCMが。

 

『この私、マリア・カデンツァヴナ・イヴのニューシングル『狼狽えるな!』は絶賛発売中よ! 振り返らない、全力疾走でCDショップに駆け込みなさい!!』

『同時発売、風鳴翼ニューシングル『カッコいいチョキ』。マリアのCMの後とは、何のつもりの当て擦り!!』

「いやシュール過ぎない?」

「なんか二人とも最近バラエティ方面に走っているような気がするデス……」

 

 しかも二人の曲、普通にいい曲だったんだよね。曲名だけ見たら明らかにギャグだけど。

 でも、二人のおかげで空気も柔らかくなった。今度はこっちから。

 

「切ちゃん」

「なんデス?」

 

 うん。掴みはバッチリ。後は、渡すだけ。

 

「はい、これ」

 

 可愛くラッピングしたチョコの入った箱を手渡す。切ちゃんは結構驚いていた。

 

「バレンタインのチョコだよ」

「あたしにデスか?」

「うん。受け取ってくれる?」

「勿論デスよ!」

 

 切ちゃんは笑顔でチョコを受け取ってくれた。

 よかった……これでミッションコンプリート……

 

「じゃあ、お返しにあたしからもチョコデス!」

「へ?」

 

 チョコを渡したと思ったらチョコを渡された。

 え、わたしに?

 

「う、受け取ってくれるデスか?」

 

 そ、そんな顔を赤くして言われたらそんなの……!

 

「勿論だよ!」

 

 可愛すぎて鼻血でそう……!!

 

「そ、その……」

 

 ん? まだ何か……

 

「ほ、本命、デスから! その、あの! それだけデス!!」

 

 そう言うと切ちゃんは自分の部屋に向かって走っていった……え?

 今本命って……え? ほ、本命!?

 あ、あわわ!? あわわわわわわわ!!?

 

「わ、わたしも本命だよぉ~!!」

 

 か、顔があっついよぉ! でも幸せだよぉ!!

 こ、今度告白しよう……! りょ、両想いだから……思いっきり大胆に! ふふふふふふ……!

 きゃー! きゃー!!

 

 

****

 

 

「し、調ぇ……こっちまで聞こえてるデスよぉ……」

 

 でもあたしも幸せデス……!!




何気にこの二人が両想いな世界線は初。今まで切ちゃんが同人誌持ってたり調ちゃんがヤンデレになってたり調ちゃんの心情しか分からなかったりだったので。

今度はひびしらも書きたいなぁなんて思いながら次は間に合えば調ちゃんの誕生日特別編。

ちなみにこの話を投稿したのは13日の昼……残り期限はあと三日! 果たして間に合うのか! そしてご飯にザバーっとかけるものの詳細は公式で語られるのか! そしてアイドルデビューはいつ書き終わるのか!! 俺の執筆速度と脳は三日で展開の構成と執筆を終わらせる事は出来るのか!!


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月読調の華麗なるアイドルデビュー

なんだかやる事が無いので取り敢えず執筆するという。あと調ちゃんガチャ爆死の鬱憤をぶつけたかったとも。

誕生日特別編は思いつかないので諦めました。

今回は調ちゃんのアイドルデビュー。勿論全ての話と平行世界です。

やっと書きあがった……難産だった。理由としては自分のアイドルに対する知識がアイマス程度しか無いからとも言えるんですけどね!


 今日は緒川さんと翼さんと一緒に近くの山に忍術の修行に来ています。わたしの服は黒色の女物の忍者装束にピンクのラインが入ったやつで、翼さんのはわたしの物に青色のラインが入ったもの。緒川さんや風鳴司令以外の男性の前じゃ少し着たくない服だけど……あの二人はわたし達に対しては邪な感情を抱かないから特に恥ずかしくない。強いて言うなら……お兄ちゃんとかお父さんに演技の服を見せるとか、そんな感じかな?

 だから特に恥ずかしくは無いしある程度なら恥ずかしいところを見られてもって感じ。

 そういう訳でわたしは現在水面走りの練習中。この前はドボンし続けたけど今日こそは……きゃうっ。

 

「どうして……ぶくぶく」

「私も小さい頃はそうなった物だ」

 

 どうやらこれは翼さんにも出来ないようで。悔しいけど諦めるしか無いのかな……いや、大丈夫。きっと何とかなる……へぶっ。

 こ、今度こそ……はうぁ。こ、こうなったらジャーンプ! ばしゃん。

 むーっ!

 

「そうムキになるな、月読」

 

 翼さんは凧で空を飛びながらそう言ってくれるけど顔が笑ってる。そんなにわたしが池ポチャし続けるのを見ていて面白いですか?

 

「いや、面白いというか……微笑ましいな。なんだか努力し続けている子供を見ている気分になってな」

「……わたしはどうせお子様体系ですよーだ」

「そう拗ねるな。月読なら和服に着替えれば誰でも見間違える位の女になれる」

「……胸が小さいからですか?」

「ははは。その言葉は私にも効く。止めてくれ」

 

 バストが80以上ある人は皆敵……あれ、装者だと未来さんとセレナ以外全員80以上ある?

 削ぎ取らなきゃ……その無駄な脂肪を削ぎ取らなきゃ……

 

「小さくて黒髪。肌も白い。和服が似合わぬ道理が無い」

「……確かにこの間着たときはマリアに似合ってると言われたけど」

 

 確か、あれは茶道の時。抹茶は苦かったから最終的にお砂糖入れちゃったけど……これは翼さんには言えないやつだったっけ。絶対に何か言われそうだし……

 だ、だって苦かったんだもん! お砂糖くらい……お砂糖くらい……

 今度リベンジ出来る時があったらリベンジしてみようそうしよう。

 

「どうだ? 私と一緒にステージにでも出てみるか? 月読ならきっとファンも増えるだろう」

「もう、お世辞でもそんな冗談止めてくださいよ」

「……いえ、いいかもしれませんね」

「え?」

 

 翼さんの冗談に笑っていたら結構本気な声……というかお仕事モードの声の緒川さんの声が聞こえてきた。

 え、いいかもしれないって……もしかして、わたしの歌手デビューの事?

 

「しかし調さんを歌一本に絞らせるのは少し……アイドル? 歌って踊れるアイドルなんてどうでしょうか!?」

「え、えっと……緒川、さん?」

 

 も、もしかしてこれって……

 

「どうでしょう、調さん。アイドルになってみませんか? 勿論、マネージャー兼プロデューサーは僕がやらせて頂きます」

「え、えっとぉ……」

 

 緒川さん、眼鏡掛けてる……これ、結構本気なやつだ……

 でも、アイドル。アイドルかぁ……興味がないって言っちゃうと嘘だし。なんか芸能界は闇が深いって聞いたことはあるけど緒川さんがついてくれるならそういうのとは無縁で居られるかもしれないし。

 こういう時、ほかの人なら……響さんと未来さんは遠慮しそう。クリス先輩は……どうだろう? 照れて受け入れなさそうではある。切ちゃんは……あれ、結構ノリノリかもしれない? 切ちゃんは結構そういうのに関してはノリが良さそうだし。

 

「即決は出来ないと思いますのでマリアさんや切歌さんに相談してみてください」

「案外ステージの上で歌を歌うのも楽しい物だぞ?」

「あ、翼さんの次のお仕事はバラエティですよ?」

「何のつもりの当て擦り……!!」

 

 え、えっと……考えて、みます?

 

 

****

 

 

 それから帰って風邪をひきそうではあったけど何とかなって。次の日にマリアと切ちゃんに相談してみた。

 芸能界でアイドルを既にやっているマリアとしてはわたしがこういう仕事に興味を持ったのが何だか嬉しいらしく、やってみたらどうかって笑顔で言われた。マネージャーも緒川さんなら安心してアイドルを出来るとも言ってたし、暫く経ったらマリアと翼さんとのコラボも良いかもしれないって。

 それで切ちゃんに話してみたら……うん、決めてないのにね。CDは使用用、布教用、観賞用の三枚は買うとかわたしが出る番組は全部録画するとか言ってるし。いや、まだ決めてないんだよ? 話聞いて切ちゃん……あ、ダメだこりゃ。

 でも、わたし自身そういうのには興味あるし。今までは装者やってたりそんな事考えている余裕なかったりだったし……いい機会、なのかも? 最近は装者としての仕事も少ないし……やってみようかな? 人生何事も経験って言うし。

 と思って緒川さんに連絡してみた。したら物凄く嬉しそうな顔で受け入れられた。あんなに嬉しそうな緒川さんの声、初めて聞いたかもしれない。

 

「では、調さんはマリアさんと翼さんの後輩という肩書でデビューしましょう」

「えっ……それ、大丈夫なんですか?」

「歌唱力は問題なし。多分バラエティ受けもしますし……それに、こういう肩書があれば変な輩も近付きませんからね」

 

 あの、緒川さん……褒めてくれるのは嬉しいんですけど、途中から結構目が怖いです。あとバラエティ受けってなんですか。

 でも、わたしがマリアと翼さんの知り合いなのは事実。マリアと翼さんには既に名前を借りるという事を許可してもらっているらしい。お仕事早すぎです……!

 そのままトントン拍子でわたしのデビューは決まっていって……というか元から緒川さんが決めていたらしい道筋を辿ってわたしはデビューすることに。SONGの皆も頑張ってって言ってくれたし並行世界の奏さんからも色々と教えてもらえたし……で、その時聞いたんだけど、なんでも緒川さん。奏さん、もしくは翼さんの後輩的なアイドル、もしくは歌手を育てるのが奏さんと翼さんが有名になった後の夢だったらしくて……それを風鳴司令に聞いてみたら困ったような笑顔で何時も言っていたと教えてくれた。もうデビューまでの道のりも用意しているって言っていたらしい。

 忍者で仕事もできる……やっぱり緒川さんって凄い。

 それで、緒川さんの色んなコネを使ってわたしはまず最初にCDを出す事になった。いきなりCDなんですか? って聞いたらCDを出して暫くしたら小さな会場でライブをして、そこから色々と……って感じらしい。ツヴァイウイングもこうやって徐々に有名になっていったみたい。

 わたしの場合は翼さんとマリアの紹介とかもあるからもう少し楽かも、との事。

 

「と、いう訳で調さんにはこれから歌の収録とライブの練習をしてもらいます。後は翼さんやマリアさんの出る番組にゲスト出演させてもらう形になりますね。主に料理番組等の」

「結構大変……」

「はい。一応、暫くしたら翼さんとのユニットも組んでもらいます」

「翼さんと?」

 

 でもユニットって事はマリアと同じようなコラボじゃなくて二人で一つのアイドルとしてって事でもあるんだよね?

 だ、大丈夫なの? 翼さんって世界的な歌手だよ……?

 

「同じ事務所の先輩後輩がユニットを組むのは珍しい事ではありません。それに、翼さんと調さんなら外見的にも内面的にも相性は良さそうですし」

 

 うーん……確かにパヴァリアの時は翼さんとは切ちゃん以外で唯一ユニゾン出来た訳だし、相性は悪くないとは思うけど……翼さんとわたしって、外見的にも相性いいとかあるんですか?

 

「背が高めの翼さんと低めの調さん。それと、声も低くなった翼さんと高い調さんで相性がよかったりもしますし。あとは何より二人とも和が似合いますから」

 

 わ、わたしって和が似合うの……?

 わたし、つい一年ちょっと前までは外国に居たんだよ? 確かに名前も外見も日本人だし自然と日本に馴染めたけど……それと和が似合うっていうのは少し違うんじゃ……

 でも、緒川さんの目が間違っているとは思えない。この人はツヴァイウイングをトップアーティストまで導いた手腕を持っている訳だからこの人の言う事は合っている……のだろうけど、自分に対する賛美は素直に受け取れないというか恥ずかしいからちょっと受け入れられないというか。

 それを言ってみるとそれも調さんのいい所ですよって言われた。恥ずかしくて顔から火が出そうだった。

 

「では、曲が出来るまでは基礎レッスンですね。基礎レッスンは歌の方が僕が。体力や呼吸の方は……」

「俺が受け持とう。大丈夫だ、映画で知識は身に付けた」

 

 ……これ、アイドルとしてデビューした頃には人外になってるとかないよね? 容易に想像できるんだけど。

 

「なに、翼も同じことをやったんだ。大丈夫に決まっている」

 

 翼さんって生身でも剣があればシンフォギアとやり合える位には人外に片足突っ込んでたと思うんですけど!? マリアがシンフォギアを纏っていたのに瞬殺できないレベルで翼さんって人外だったと思うんですけど!?

 

 

****

 

 

 あっという間に時間は過ぎてCDの発売日兼ライブの日になった。近くのデパートの屋上にあるミニステージでミニライブをしたら今日のお仕事は終わり。その時にCDの宣伝をする。

 アイドルとして歌って踊るというのは、シンフォギアを纏って歌って戦うのとはちょっと勝手が違って苦労した。でも、やっぱりシンフォギアで基礎は出来ているから普通の人よりも遥かに早いペースでわたしは歌って踊れるようになった。なっただけでその後すぐに振付を完璧にマスターしたかと言われれば否定する事になるけど。

 ちなみにその間に翼さんのステージのバックダンサーをやったりとかもしていた。翼さんがもうすぐ私の後輩がデビューするとか言ってたけど……期待が重いです。

 

「……緊張してきた」

「大丈夫ですよ、あれだけ練習してきたんですから」

「案外ステージの上に立ってしまえばどうにでもなるものだ。だろ? マリア」

「ちょっとこの衣装露出多すぎるんじゃない!? 今からでも変更を!!」

「おいマリア。ちょっとは落ち着いたら……」

「狼狽えるなッ!! 今すぐ衣装を!!」

「落ち着けお前の衣装の方がまだ露出多いだろうがマリアァ!!」

 

 ……うん。今、控室が無いからステージの裏に居るんだけど、翼さんとマリアがなんか漫才的な事を始めてる。

 わたしの衣装、そんなに露出多いかな……? シンフォギア纏うと結構体のラインが出ちゃうし露出もそこそこ多いから感覚麻痺しちゃってるのかな。布がこれだけあると普通に露出何て少ないと思えるし何よりも可愛い。

 わたしのパーソナルカラーのピンクを基本にして和風に作られた衣装は案外動きやすい。ちょっとこれで人前に出るのは恥ずかしいかな? とは思わなくもないけど……まぁギアを纏った状態で出るよりはまだ何倍も恥ずかしくないし。

 

「調さん、そろそろです」

「あ、はい……えっと、外に人っていますか?」

「はい。やっぱり翼さんとマリアさんの後輩っていうのが大きかったんでしょうね。かなり大勢いますよ」

 

 見てみますか? という緒川さんの声に従ってチラッとステージ脇から見えないように外を覗くと、確かにライブ会場とか人気アイドルのステージに比べれば少ないけど確かに人はいた。ちょっと少ないかもと思っちゃったけど、よく考えれば今のわたしは無名の新人アイドル。それを考慮したらこの人数は凄いんじゃ?

 ちょっと緊張が増してきたけどそれを消すように深呼吸しながらステージで何をするのかを、カンペを見てもう一度思い出す。

 まず、表に出る。それで挨拶をして歌が流れたら歌う。それで歌が終わったらCDの宣伝をして退場。それが一連の流れ。

 時間にして十分ちょっと。初めてのステージにしては、多分長い方。

 心臓がさっきから五月蠅い。深呼吸を何度も繰り返しながら時間が迫っているのをステージ裏の時計で確認する。あと少し……

 

「……あっ。調さん。ちょっとあそこを見てみてください」

「へ?」

 

 とか思ってたら緒川さんから声をかけられた。

 一体何があるんだろうと思ってまたステージ脇からチラッと外を見てみる。そして緒川さんの指をさす方を見てみると……

 

「あ、間に合ったデス!」

「よかった~」

「テメェが時間気にせずガツガツ飯食ってたからギリギリになっちまっただろうが!」

「まぁまぁクリス。間に合ったんだから、ね?」

「も、もうすぐ調さんのステージも始まりますし、そういうのは止しましょうよ、ね?」

「……エルフナインに言われちゃ仕方ないな。まぁ、間に合ったし許してやる」

 

 えっ。

 な、なんで皆いるの!? アイドルデビューするとは言ったけどどこで何するとか一言も言ってないんだけど!!? も、もしかして……

 

「僕達が」

「こっそり」

「招待しておいたわ」

「い、いつの間に……!!」

 

 さ、流石に最初のステージは色々とやらかすかもしれないしなんやかんやで恥ずかしいから言わなかったのに……!

 よ、余計緊張してきたかも……あ、あわわ。

 

「まぁ、気持ちはわかる。私も最初はそうだったからな」

「そうね。何事も最初の一回は緊張する物よ」

「で、でもぉ……」

「大丈夫だ。身に沁みついた事はそう簡単には忘れることは無い」

「世界を救う戦いに比べればこの程度朝飯前でしょ?」

 

 そ、それは……そうだけど。ネフィリムを前にした時も、キャロルを相手にした時も、アダムを倒すために並んだ時も。どれも少しでもミスをしたら取り返しがつかなくなる。そんな戦いだった。

 それに比べてしまったら、一回のミスならまだ笑顔でなんとかなるかもしれない、楽しいかもしれない。そんな物を前にした程度の緊張なんてまだ軽い物。

 

「……よし!」

 

 マイクを片手に気合を入れ直す。大丈夫。わたしは出来る。

 なんと言ったって、わたしは風鳴翼とマリア・カデンツァヴナ・イヴの後輩なんだから。

 自然体でスタッフの人の指示に従って裏から出ていく。

 

「あ、出てきたデス!」

「おぉ、あの衣装可愛い!」

「はい! 凄く似合ってます!」

「ま、まぁいいんじゃねぇか?」

「クリス、もう少し素直になったら?」

「う、うっせぇ!」

 

 ふふ。皆何時も通り。でも、何時も通りな会話が聞こえてきたからわたしも何時も通りにできそう。

 

「初めまして、月読調です。今日は、楽しんでいってください!」

 

 そこから先は、あまり覚えていない。

 けど、唯一覚えているのは、凄く楽しくて、凄く面白くて。あとチラッと見た皆はテンションが上がり過ぎたのかなんだかおかしいテンションで合いの手……コール? を入れてくれた。でもこういう所でサイリウムはやり過ぎだと思うなぁ……!!

 でも、ちゃんとミニライブは成功に終わった。

 もうCDの宣伝も終わって後はステージ裏に戻るだけ……え? 緒川さん、そのもう少し待って的な手は何ですか? なんで翼さんは笑顔でこっち来るんですか?

 

「え? え、ちょ、なに、え!?」

「そう慌てるな月読」

 

 そう言って翼さんがわたしの頭に手を置いて落ち着かせてくれるけど……落ち着けないよ!? 何がどうなってるの!? 観客の人たちもなんだか困惑してるし!

 

「月読のデビューに合わせて発表させてもらう。私はソロの歌姫をやりながら月読とユニットを組む事となった」

「え、それ今言うんですか!?」

「物事は速い方がいいだろう?」

 

 そ、そういう物なんですか……?

 

「月読もソロでやりながら私とのユニットを組んで共に歩んでいく。是非とも応援してやってくれ」

「え、あ、応援よろしくお願いします!」

 

 そんなサプライズがあった物のなんとかミニライブは成功に終わった。ミニライブの後にSNSを見てみると、丁度翼さんのサプライズ発表の直後に翼さんがわたしとユニットを組むという情報が流れていたり、わたしのデビュー前から開示されていたプロフィールとかがもう纏められていたりとかして驚いた。

 まだユニット名は決まっていないけど、ユニットを組むことが決まったからかわたしに興味を持ってくれた人は少なからず居てくれたみたいだし新人アイドルを紹介したりする番組に呼ばれたりとかなんだかミニライブの直後に色々と事態は好転した。でも……

 

「月読、ユニット名はこれでどうだ!?」

「いや修羅の双刃って……もうちょっとアイドルっぽい可愛いやつにしましょうよ!!?」

 

 取り敢えずはしゃいでいる翼さんを誰かどうにかしてください! この人、後輩が出来たのが予想以上に嬉しかったみたいです!!

 あ、ユニット名は最終的にわたし達のユニゾン曲の風月ノ疾双になりました。もうちょっと可愛いやつが良かったけど……まぁ、わたし達らしいしいいかなって。




ちなみに二人のユニットは一部の人間は絶壁コンビとか言っているそうな。

もしかしたらこの時空は続きを書くかもしれません。

次回は未定。もうネタが無いんぢゃ……!! でもそろそろここだと空気になってしまっているエルフナインと絡んだ話を書いてみたい感がある。セレナ? またパソコンフリーズするのは嫌なんで暫く放置です……!


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月読調の華麗なる誕生日

王様ゲームにしたらいいじゃないかという謎のメッセージを頭に受信したので何とか書けました(執筆時間三時間半)。

最後らへんが投げやりなのはすまない。


『お誕生日おめでとう!!』

 

 そんな声と共に幾つものクラッカーが同時に鳴らされてわたしの頭に紙テープや紙吹雪が降り積もる。視界に入る紙テープを手で退けると、目の前にはクラッカーを持った装者の皆と未来さん、エルフナイン、風鳴司令、緒川さん、藤尭さん、友里さん。そして平行世界で知り合った人たちが居る。平行世界からは奏さん、グレ響さん、セレナが来てくれた。

 皆がこうして来てくれた事が嬉しくて、同時にちょっと恥ずかしくて。ついそっぽを向いてしまったけどそれが照れ隠しだって皆にはバレちゃってるのか皆笑顔を浮かべている。

 自分の顔が真っ赤になっているのを自覚しながらも同時にちょっとだけ笑ってしまう。

 嬉しさと恥ずかしさ。それが一緒に来ると言う感覚は筆舌しがたいけど、今は恥ずかしさよりも嬉しさの方が上回ってる。

 本当の誕生日は、覚えていない。切ちゃんも、わたしも。だけど、必要だからと作った仮初の誕生日をこうして祝ってもらえるのは、予想以上に嬉しかった。

 わたし達の部屋じゃ、合計十五人もの人を入れる事が出来なかったから急遽SONGの本部にある食堂を貸し切り状態にまでしてもらった。これも全部風鳴司令のお陰で、子供の誕生日は盛大に祝う物だって言って一か月近く前から貸し切りに出来るようにしてくれていたらしい。こんな子供のために、なんて職員の人は思うだろうだろうなぁって思ってたけど、意外にも反対は無かったみたい。なんでも世界を何度も救っているのだからこれくらいは贅沢の範疇にも入らないとか。ここの人たちってホントいい人ばっかり。

 

「ほら、調! ケーキの蝋燭の日を消すデス!」

「う、うん」

 

 切ちゃんに手を引かれてケーキの前に立つ。

 今まで見たことがないくらい大きなケーキ。十五人も食べるからかケーキ屋さんで見るホールケーキよりも大きい。どうやら料理が出来る人全員で作ったらしく。他にも蝋燭一本一本が文字になっていてHAPPY BIRTHDAY! ってなってたり。これはエルフナインが蝋燭の大本を作って翼さんと緒川さんが削ったらしい。凄い。

 ちょっと照れながらも一息で蝋燭の火を消す。そして聞こえてくる拍手がまたまた照れくさい。

 響さんの可愛い! っていう声を聞いて嬉しく思いながらも顔を伏せると響さんがまた可愛い! って言う。それに恥ずかしくて、なんて続けているとクリス先輩が永遠に終わらねぇだろ! って響さんの頭をハリセンで叩く。それ、何処に隠し持ってたんですか……?

 そんなあれこれがあったけどここからはお食事しながらプレゼントを貰った。

 

「わたしからは食器!」

「わたしはエプロン」

 

 響さんと未来さんからは食器とエプロンを貰った。お洒落で可愛い、どこか響さんらしい食器と未来さんの淡いピンク色のエプロン。どっちも凄く嬉しい。

 

「私とマリア、それと奏からは共同でこの包丁だ」

「オーダーメイドで作らせたわ」

「まぁ料理するならこういうのがいいだろうなって思ってな」

 

 そして翼さんとマリアさん、そして奏さんからは包丁を貰った。今の包丁、自分で研いで誤魔化してきたけど段々と切れなくなってきてたから凄く嬉しい。なんでも今でも日本刀を作っている職人さんに直接オーダーメイドで作ってもらったとか。ちょっと箱を開けて見てみたけど……え? これ包丁? 波紋があるし何だかわたしの知ってる包丁よりも長い。刺身包丁とかよりは短いけど普通の包丁に比べればかなり長い。

 試しにお野菜を斬らせてもらったけど……うん。切る、じゃなくて斬るの方が正しいレベルでよく斬れた。まな板まで軽く斬れそうだったよ……

 でも、これだけ切れ味がよかったらお料理も楽になりそう。大切に使わせてもらいます。

 

「あたしのはこれだ」

 

 そしてクリス先輩。クリス先輩がくれたのは、よくテレビで見る大人気スイーツ店のスイーツ詰め合わせだった。

 これ、確か朝一で行っても買えないのが普通ってレベルの物凄い人気な物だった気が……

 

「後輩の誕生日だ。折角なら一番な物をくれてやりたいだろ?」

 

 クリス先輩……大切に食べます!

 

「……わたしはこれ」

 

 あ、グレ響さんがあまり目立たないようにそっと近づいて来て小さな箱を渡してくれた。

 中は……あ、ハートのネックレス。凄く可愛い。

 

「よく分からなかったから、気に入らないかも……」

「全然気に入りました。早速着けてもいいですか?」

「い、いいけど……」

 

 気に入ったのは事実。実際に着けてみるともっと気に入った。

 グレ響さんは顔を真っ赤にしながらそっと離れていった。こっちの響さんとは違ってなんというか、照れ屋さん? それともこういう事に慣れていないか。それか両方。

 ああやって人付き合いに慣れていない響さんってなんだか新鮮で可愛く見えちゃう。

 

「月読さん、はいプレゼント」

「ありがとう、セレナ」

 

 そしてセレナからも。

 セレナのは花束だった。花束にはHAPPY BIRTHDAYって書かれたプレートと……あれ? セレナのじゃない手紙?

 読んでもいいか確認してから中を見てみると、なんとその手紙はセレナの世界のマムからだった。内容は『誕生日おめでとうございます。仲間を大切にして頑張るのですよ。もしも疲れたらこっちに来て休みなさい』と書かれていた。なんだかマムらしくてちょっと笑ってしまったけど、嬉しい。今度遊びに行こう。

 セレナと、恐らくマムも選んだであろうこのお花はわたしの部屋の花瓶に飾らせてもらおう。枯らさないようにちゃんとしなきゃね。

 

「し、調さん! プレゼントです!」

「うん。ありがと、エルフナイン」

 

 それからエルフナインからもプレゼントを貰った。

 エルフナインから貰ったのはイヤリングだった。ピアスの穴を空けなくても着けれる物で、ピンク色の水晶が埋め込まれている可愛らしい物だった。

 

「こ、こんなもので大丈夫でしたか?」

「とっても嬉しいよ」

「えへへ……それなら良かったです」

 

 可愛い。

 エルフナインの許可も貰ってイヤリングを付けると、今度は風鳴司令達からもプレゼントを貰った。

 風鳴司令からはオススメ映画のDVD詰め合わせ。これがあの人の強さの秘密なら見てみよう。普通に面白そうなタイトルもあるし。

 緒川さんからは今度の翼さんとマリアのライブのチケット、それから刃を潰した苦無を貰った。ちゃんと金属で出来たズッシリ重い苦無はちゃんと保管して、このライブはしっかりと行って全力で楽しんでこよう。

 藤尭さんからはフルーツの詰め合わせ。それから友里さんからは色々な食材を貰った。美味しく頂きます。

 そして最後は……

 

「調! 最後はあたしデス!」

 

 切ちゃんの番。

 切ちゃんはそっとわたしに袋に入った何かをくれた。

 

「そ、その、心を込めて作ったデス」

 

 作った? もしかして切ちゃんの手作り……?

 そう確信したわたしは早くこの中が見たいという欲求に狩られてちょっと食い気味に中を見てもいい!? って聞いた。切ちゃんはビックリしながらも笑顔ではいデス! と答えてくれた。

 その声を聞いてから中をゴソゴソ。そして手に当たった物を取り出すと……

 

「わっ、テディベアだ!」

 

 出てきたのはテディベアだった。それも凄く可愛い、わたし好みの。

 それに、頑張って作ったって……

 

「あ、あたし的には自信作デス」

 

 ちょっと恥ずかし気に頬を掻く切ちゃん。よく見るとその手には沢山の絆創膏が……

 

「うん、凄くいい。気に入っちゃった。枕元に飾っちゃおっと」

「き、気に入ってもらえたなら嬉しいデス!」

 

 切ちゃんからの贈り物が気に入らない訳が無い。毎日抱きしめると思う位には気に入っちゃった。

 ふふっ、今日は本当にいい一日。

 

 

****

 

 

 今日は本当にいい一日……そう思っているのは事実。

 けど、同時に。今日は結構地獄を見た、というか作られた。主に、成年しているマリアが持ってきてしまったお酒によって。

 切欠は、本当に些細な事だった。些細過ぎる事だった。

 大人組がまだ仕事があるからと食堂を出ていった後も料理を食べながら楽しく話していたわたし達だけれども、マリアが少し目を離した隙に、なんと響さんがマリアが自分用に用意していたそのお酒を誤って飲んでしまったのだ。

 その結果。

 

「うひひひ……うぇひひひひ……みんなー! ちゅーもーく!」

 

 響さんが酔っ払った。酔っ払ってしまった。お酒一杯で。

 どれだけお酒が弱いの、と今は言いたいがその時のわたし達は場酔いしていたと言う事もあって響さんの異変に気が付けなかった。そしてマリアも自分の酒が響さんに飲まれているというのに気が付かず新たな一杯を注いでしまいまたまた目を離してしまった。なんとクリス先輩のコップの真横にそれを置いて。

 

「おーさまげーむしよう! おーさまげーむ!」

「王様ゲームだぁ? なんでンな事……」

 

 クリス先輩がいつものように溜め息を吐きながら自分の飲み物と勘違いしてマリアのコップを手に取って、飲んだ。

 何時もはこうしてちょっと素直じゃないクリス先輩。それが物凄くお酒が弱く、更にお酒のせいで理性がゆるーくなってしまったらどうなるか。

 答えは。

 

「……いいんじゃねぇの? おもしれーじゃねぇか」

 

 酔っ払い同士の謎の共鳴が起こる。

 クリス先輩のまさかの賛成に驚くわたし達。そしてグレ響さんがマリアがお酒を入れたコップを前に首を傾げながらもまた新たに注いでいるのを見る。マリアがまた目を離し、翼さんと談笑している中でセレナもコップを片手に近づいた後、コップを机の上に置いてマリアと何か話してからまたコップを手に持って誤ってお酒を飲む。グレ響さんはそれに気が付くもまぁいいかと無視。

 その結果。

 

「おーさまげーむってはじめてなのでたのしみれす~」

 

 三人目の酔っ払いが誕生した。そして。

 

「さぁ、王様ゲームの準備よ! 狼狽えるな!!」

 

 マリアがセレナのせいで暴走した。

 そして始まったのは、十一人中三人が酔っ払い、そして残った八人の内一人が暴走、一人が愛ゆえに目の前曇ってる人。そして乗りのいいツヴァイウイングのお二人。つまりたった四人以外の全員が酒による酔い、場酔い、愛によって滅茶苦茶な王様ゲームを始めてしまったのである。

 そしてここでしまったのである。ちゃんちゃんといかないのがわたし達。なんやかんや常識人不足の装者が大半を占める故に、王様ゲームの内容は結構滅茶苦茶になった。え? わたしはどうしたのかって? 強制参加だよ。

 

「えっとぉ……じゃあにばんとさんばんがきす!!」

「……二番」

「三番だよ!!」

「え? わたしが三番……あれ、六番になってる……」

 

 響さんが王様の時、わたしが三番だった筈なのに、何時の間にか六番の棒と入れ替わっていた。その時は見間違いかなとか思ってたけどあれは間違いない。未来さんがやった。何故なら二番はグレ響さんだったからだ。

 それで、グレ響さんは貞操の危機を感じたようで逃走を始めたけどクリス先輩、マリア、セレナ、響さん、未来さんにより数秒で確保された。そして……

 

「はぁはぁ……響、いくよ……」

「え、ちょ、やめ……んぅ!!?」

 

 ここはカット。

 余りにも濃厚で明らかに友達同士でするような物じゃないディープキスが目の前で繰り広げてられました。

 何時もならすぐにクリス先輩がハリセン片手にカットするんだけど……

 

「あっはっはっは!! あっはっはっはっはっ!!」

 

 良心であるクリス先輩は笑い転げてました。

 奏さんがお熱いねぇと茶々を投げ、マリアがそろそろ止めた方が……なんて呟きながらセレナの目を塞ぎ、翼さんが知ってたと言わんばかりの顔をして、残されたわたし達が赤面して。

 たっぷりねっとりキスを終えた未来さんの顔はとてもいい笑顔でした。対してグレ響さんは……

 

「ファーストキスが…………」

 

 ご愁傷さまでしたとしか言えませんでした。

 そしてセレナの時は。

 

「じゃあごばんのひとがみずぎでおかしかってきてください!!」

 

 結構黒いよね。セレナって。こんなエグい命令してくるんだもん。

 そして五番の人は……

 

「くっ……私か! 恥ずかしいが行ってくるしか……」

「翼さん。五番はあっちの響ですよ?」

「は?」

「え? わたしは一番だから……なんで五番!!?」

 

 翼さん……だったけど何でかグレ響さんが五番になっていた。多分、それも未来さんだったと思う。こんな事しようと思うのも出来るのも未来さんしかいないから。

 

「ほら、響……この水着を着て買い物に、ね?」

「いやいやいや!!? それマイクロビキニだから!? 流石にもう少し布面積を……」

「問答無用!!」

「ひぃぃ!!」

 

 グレ響さんがキャラ崩壊を起こしながらも逃げたけど……グラビティレズからは逃げられない。

 

「こんなのあんまりだぁぁ!!」

 

 マイクロビキニを着せられたグレ響さんはそう叫んで泣きながら走って出ていきました。これ、こっちの世界の響さんに深刻なダメージが行くだけであっちの響さんは買い物を終えればノーダメージなんじゃ……

 そんな事を今さら思ったけどあの時のわたしは静かに犠牲者に対して切ちゃんと黙祷していました。

 グレ響さんが買い物に行っている間にもう一回くじが行われたけど……

 

「あ、やった。わたしが王様!」

「えっ」

 

 未来さんが王様を引き当てた。引き当ててしまった。

 この瞬間、響さんの酔いが恐怖により覚める。

 

「じゃあ、一番は王様とキス」

「よかった、わたしは七番だから……えっなんで一番に」

「という訳でキス!」

「ちょ、こんなのはんそ……むぅ!?」

 

 はい、ご愁傷さまでした。後の惨状はカットです。

 そしてグレ響さんが丁度戻ってきて響さんがキスされている所を見て合掌していました。

 まぁ、未来さんの暴走はこんな所なんだけど、ここから先ももっと酷かった。

 

「そうだな……二番が八番にジャパニーズオーシャンサイクロンスープレックスホールドだ!!」

「ごめんマリアッ!!」

「ごっはぁ!!?」

「さんばんのひとがしれいにびんた!」

「私なのだが……行ってこよう!!」

「……大丈夫デスか? あ、戻ってきたデス」

「……物凄い怒られた」

「えっと……じゃあ四番の人は後でボクの手伝いをお願いします」

「いいよ。で、何したらいいのかな?」

「あ、未来さんですか。じゃあこのリストの事を後でお願いします」

「…………ねぇ、一か月分の食料買った時のレシートみたいな長さなんだけどこのリスト」

「え? それ、ボクのお仕事の半日分ですよ?」

「藤尭さんに半分くらい押し付けよう……」

「えっとぉ……よんばんとはちばんがおおげんか!」

「やんのかゴルァ!!」

「上等デス! 叩き斬ってあげるデスよクリス先輩!!」

「ひっさつ! くろす!!」

「カウンター!! ぐへっ!?」

「ぐはぁ!!?」

「……なんでクロスカウンター」

「マイターン! 七番が三番にジャパニーズオーシャンサイクロンスープレックスホールドよ!!」

「ごめん切ちゃん!!」

「追い打ちッ!!?」

「一番と二番がキス!!」

「響さんはどうしてそこまでしてキスに拘るデス!?」

「同じ傷跡を埋め込んであげるよぉ!!」

「うわ闇落ちしてるデス!」

「か、奏とか……」

「まぁ、いいんじゃね? ほら、顔こっちに寄せろ」

「か、奏……」

「なんでいい雰囲気ィ!! でもありがとうございます!!」

「今度はあたしデス! 九番が三番にジャパニーズオーシャンサイクロンスープレックスホールドデス!!」

「またごめんマリア!!」

「ぐはっ!? や、やったわね……やったわ、マイターン! 二番が八番にジャパニーズオーシャンサイクロンスープレックスホールドよ!!」

「またごめん切ちゃんっ!!」

「デェスッ!!? い、痛いデス……またあたしの番! 四番が八番にジャパニーズオーシャンサイクロンスープレックスホールドデス!!」

「日頃のお返しだよ未来ゥ!!」

「ありがとうございまいっだぁ!!」

「もう一発!」

「まさかの二発目!!?」

「グレ響さん、それはルール違反デスよ!!?」

「おっ、こんどはあたしだ。じゃあななばんがにばんにさっきの!」

「よいしょっと」

「セレナあああああああああああいっだぁぁあぁあああああああ!!?」

「……セレナさんがマリアさんにジャパニーズオーシャンサイクロンスープレックスホールドって結構シュールですね……」

「わたしの番。九番が一番にジャパニーズオーシャンサイクロンスープレックスホールド」

「あ、九番はボクです」

「一番はわたし」

「み、未来さんですか……? と、取り敢えずやってみますね。うぅ……うーん! ……無理です、ごめんなさい」

「なら王様のわたしが。えいっ」

「響ィ!!」

「なんか未来さん嬉しそうじゃない?」

「グレ響さんにやられたからじゃないデスかね」

「ふっ。マイターン! 八番が三番にジャパニーズオーシャンサイクロンスープレックスホールドよ!!」

「またまたごめん切ちゃんっ!!」

「うごぉ!!? そ、そろそろ意識がヤバいデス……あ、あたしですね。二番が五番にジャパニーズオーシャンサイクロンスープレックスホールドデス!!」

「またまたごめんマリアっ!!」

「頭があああああああああああああああああっ!!」

 

 まぁこんな感じで色々と酷かった。というか何でこんなにジャパニーズオーシャンサイクロンスープレックスホールドが選ばれているの? 流行ってるの?

 酔っ払い三人……途中から二人だったけど、その酔っ払いの滅茶苦茶な命令で色々とタガが外れた皆は次々とジャパニーズオーシャンサイクロンスープレックスホールドをしたり変な事をして……まぁ最終的には……

 

「……なぁ、どうしてこうなった?」

「……ジャパニーズオーシャンサイクロンスープレックスホールドが全て悪いんです」

「こっちで何とかしておくから弦十郎の旦那は戻ってくれ……」

「片付けもしておきます……」

 

 残ったのはわたし、奏さん、頭にタンコブを何個も作っている響さんの三人。エルフナインとセレナは仲良く抱き着いて寝てるけど、他の皆は頭にタンコブ作って気絶してる。グレ響さんはわたしのジャパニーズオーシャンサイクロンスープレックスホールドによって気絶した。本当にごめんなさい。

 まぁそんな感じで地獄の王様ゲームは過半数の気絶によって終局した。なんだか滅茶苦茶になったけど、楽しい誕生日だった。わたしは切ちゃんの頭に出来た何重ものタンコブを突きながら取り敢えずそう自分の中で区切りをつけた。

 さて……どうやって片付けようかな、この状況。




次の出動からジャパニーズオーシャンサイクロンスープレックスホールドをノイズにぶつける装者の姿があったそうな無かったそうな。

何はともあれ誕生日おめでとうございます、調ちゃん。五期での活躍も楽しみにしています。

次回はネタが思いつき次第書きます。もしくはメイド調ちゃんが出たら書きます。六十連で出ませんでしたが今回のイベントは剛敵みたいな石が沢山貰えるイベントなのでそこで貰える石に全てを託します


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月読調の華麗なる葬式

調ちゃんの葬式です(ネタバレ)

あ、余りにもガチャでメイド調ちゃんが出ないから報復って訳じゃないですよ?


 突然だけどわたしは響さんの事が好きだ。勿論、恋愛対象として。

 最初は敵として、偽善者だなんて言ってしまったけどそれはもう一年近く前の話。それから暫く響さんと交流を深めたり、一緒に戦ったり特訓していったりしていく中で、ふと気が付いてしまった。

 響さん、イケメン過ぎだって。そりゃ未来さんもああなるよって。可愛いところは勿論沢山あるんだけど、それ以外にもカッコいい所が多すぎる。拳を握った時とか、真剣に考えている時とか、一緒に戦っている時とか……それはもうカッコよすぎて。もう胸が大きいイケメンとして思えなくなってしまった。

 そこから響さんの事を気に掛けるようになっちゃって……気が付いたら惚れてた。ギャップ萌えとかそういうのも感じてしまったし。

 だけど、わたしの恋の障害は性別の壁というものを差し引いたとしてもとんでもない物がある。

 未来さんだ。

 あの人、何時わたしが響さんに惚れているのか分かったのか知らないけど最近になって目障げふんげふん。響さんへのガードが露骨になってきた。明らかにわたしを響さんから遠ざけようとしているのが丸分かり。しかも響さんとか他の皆が気が付かないように。

 なんでわたしは分かるのかって? 時々あの人してやったり的なわっるい笑顔でこっち見てくるんだもん。こっちは額に青筋浮かんでいないかとか血管ブチ切れてないか心配になるレベルでイラついているけど未来さんが何かしてくるなんてこの恋心を自覚した時から分かり切っていた事。だから今の課題はあの人のガードを如何にすり抜けて響さんのハートをキャッチするかだ。

 胃袋はもう掴まれている圧倒的に不利な状況。だけど、この状況でもきっとやれる事はある筈だと思ってる……思ってるんだけど正直心が折れそう。いやホントにガード硬すぎて……もう日常生活で響さんと二人きりって状況が無いんだもん。辛い。

 でも、そんなわたしが響さんと二人きりになれる時がある。それは……

 

「響さん、お疲れ様です」

「お疲れ調ちゃん。いやぁ、まさか今日は三チームに分割されるとはね……」

「でも、わたしと響さんならノイズ程度楽勝です」

 

 そう、ノイズが出現した時。

 この状況なら神獣鏡の非正式装者である未来さんはシンフォギアを纏って出てこれやしない。だから、ノイズを倒し切って安心している所を攻めるしか今のわたしには無い。そう、これこそがわたしに残された勝機!

 シンフォギアを解除して一息つく響さんに予め持ってきていたスポーツドリンクを手渡して好感度アップ。未来さんなら確実に一度口を付けておくなんて事をするだろうけどわたしはそんな事しない。そんな事して喜ぶのは真性の変態だけ。

 そして、未来さんがこの場に居ない今こそがチャンス!

 

「ひ、響さん、ちょっといいですか?」

「ん? 何かあった?」

「じ、実は最近色々とお料理のレパートリーを増やそうとしていて……その、出来たら試作品の味見を響さんにしてほしくて……」

 

 この言葉はまるっきり嘘、という訳ではない。今わたしは響さんが好きそうな料理を沢山練習している。それの試食をしてほしい、というのも嘘ではない。

 こうやって響さん好みの、未来さんには出来ない料理をわたしが作り響さんの胃袋を未来さんが動く前に掴む! そして好感度を上げて何れは……うふふふ。

 でも、まずは響さんがこの試食を了承してくれる事から始めないといけない。だ、大丈夫かな……?

 

「へ? わたしに?」

「はい。響さんにしてほしいんです」

「いいの!? 喜んで行くよ!!」

「ほ、ほんとですか!?」

 

 やった! これで二人きりになれる口実が作れた!

 これで未来さんを出し抜いていつか未来さんを追い越して……あれ? なんかあそこのビルの屋上に誰か……? き、気のせいだよね?

 

「じゃ、じゃあ明日のお昼から大丈夫ですか?」

「うん、全然大丈夫だよ。いやぁ、楽しみだなぁ。調ちゃんの作るご飯って美味しいんだもん」

「じゃあ明日は腕によりをかけて作りますね」

 

 いや、間違いない。あそこに立ってるのは未来さんだ!

 でも、あそこからわたしまでの距離は離れすぎている。それに、もう約束はこじつけた。未来さんがもうこれ以上どうにかこうにか出来る訳が無い。

 よかった……風鳴司令に頼んで次こういう時があれば響さんと組めるようにしてほしいって事前に頼んでおいて正解だった。未来さんは暫くそこで大人しく……あれ? 何か持って構えてる?

 いや、いやいや。まさかあそこからここまで何かを飛ばす力なんてそれこそ風鳴司令レベルじゃないと無理に決まっている。だからあそこから何か投げられても当たる訳が……あっ。未来さんが投げた。と思ったら目の前に何か大きなものが……

 

「ぎゃんっ!!?」

「えっ、調ちゃん!!?」

 

 な、何故……

 そう思いながら未来さんの方を向くと、未来さんは今までにない程の悪い笑顔を浮かべていた。

 し、しまった……あの人、ソロモンの杖を一切の減速させず上空まで投げ飛ばす化け物だった……がくっ。

 

 

****

 

 

「――――――」

 

 なにか、聞こえる。

 何か聞こえるけど、一切体が動かない。唯一動くのは、目だけ。

 瞼を開けて視界を確保する。

 

「しらべぇ……なんで、なんであたしより先に逝っちゃったんデスかぁ……」

「調……まさか何処からか飛んできたレンガに当たって死ぬなんて……この子が一体何をしたっていうのよ!!」

 

 ……え?

 え? いやいや、わたし死んでないよ!? ばっちり生きてるよ! 今お目めバッチリ開眼してるよ!? こっち見てねぇこっち見てってば! 目に手を当てて泣かないで切ちゃん! そんな目まで閉じて悔しそうな顔しないでマリア!?

 ちょ、ホントにどういう事これ……誰か説明プリーズ!?

 あぁ、切ちゃんもマリアも何処か行っちゃった!?

 と思ったら未来さんがわたしを覗き込んだ……え? 何そのわっるい笑顔。

 

「調ちゃん……まさか何処からか飛んできたレンガが当たって死んじゃうなんて災難だったね」

 

 いやアナタが飛ばしてきたんでしょ!!? わたし見てたからね!? アナタがレンガぶん投げる所!!

 

「でも安心して……響はわたしがちゃんと面倒みるから、ね?」

 

 その手に持ったバラをわたしの横に……うわっ、気が付いてなかったけどわたし花に埋もれて……っていうかこれまさか棺桶!? わたし棺桶に入れられてるの!?

 いや、わたしが死んだって皆言ってるけど……まさか、まさか。この人、まさか!?

 

「大変だったんだよぉ? 気絶した調ちゃんに仮死薬を使い続けて殺したように見せかけてここまで持ってくるの」

 

 わ、わたしを抹殺しようとしている!? わたしが響さんを諦めないのを見てとうとう排除しにかかった!!?

 くっ、誰か気づいて! 誰かわたしが生きているのに気が付いてぇ!!

 

「ふふっ、あの世に響への想いだけを持って旅立つといいわ」

 

 こ、この女っ!! 本当に排除しようとする事ある!!?

 いや、でもわたしは知っている。葬式はこの後火葬場でも一回身内は顔を見る事になる! だから、マリアか切ちゃんが気が付いてくれるはず! それにシュルシャガナがあれば……って持ってる訳ないよねぇ! わたし死んでるんだからシュルシャガナは回収するよね!! 声出ないからあっても無駄だし!

 いや、もしかしたら他にも誰かわたしの顔を見てくれるはず……見て! わたしの顔こんなに血行いいよ! 生きている人の顔だよ!

 

「くっ、調君……まさか君がこんな事故で旅立ってしまうとは……涙で前が、前が見えん……!!」

 

 風鳴司令! あ、貴方なら……貴方ならわたしが生きているのに気が付いてあの女の野望を阻止して……

 

「こんなバラしか君の手向けに差し出してやる事が出来ない……本当に済まない!!」

 

 と言いながら風鳴司令は思いっきり両手に持ったバラをわたしの横に……ふぁっ!!?

 

「し、司令! そこは調さんの目ですよ!!?」

 

 いっだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁ!!? 

 目が……目がぁ!!? これ万が一生きていても失明レベルじゃないのこれ!? がっつり刺さったよ!!? っていうか何であの人二本もバラ持ってたの!? しかも何でよりによってバラ!?

 って足音が遠く!?

 いや、でもさっき聞こえたのは緒川さんの声……なら緒川さんが近くにいる!

 気が付いて緒川さん! わたしの顔色見て気が付い――

 

「調さん……こんなに顔が白く……まるで白粉を塗ったみたいに……」

 

 わたしの顔に白粉塗った奴は誰だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 

 いや、間違いなくあの女!! くそ、あの人こんな所まで!! 生きていたら絶対に情け容赦なくぶっ潰す!!

 

「それにこんなに冷たく……」

 

 え? 冷たく……え?

 そ、そういえば何だかこの棺桶の中寒いような……

 

「当然ですよね……この棺桶は死体が腐らないようにって未来さんの言葉で用意した物を冷やす機能が付いた棺桶なんですから……」

 

 ぶっ殺すあの女!! 生き残ったら代わりに棺桶に突っ込んでやる!! この棺桶に代わりにぶち込んでやる!!

 あぁ、緒川さん行かないで! お願いわたしが生きているのに気が付いてぇ!!

 くっ……後は誰が……

 

「……月読。まさか奏の次はお前が逝くとはな……」

 

 つ、翼さん!? もしかして別れの挨拶ってまだ始まったばかり!?

 これならまだ勝機はある! 気が付いて翼さん!

 

「短い付き合いだったが、私はお前の事、気に入ってたんだぞ」

 

 翼さん……

 

「すまない、お前が死んでしまった時に側に居てやれなくて……私がお前の側に居れば、レンガをどうにか出来たかもしれないのに……!!」

 

 その犯人この部屋に居るんですよぉ!

 っていうかわたしが生きているのに気が付いて! あと目に刺さってるバラ抜いて! これ結構痛いんですよ!?

 

「すまない、月読……本当に、すまない!!」

 

 あぁ、翼さんが離れていく……誰かこのバラ抜いて……抜いてくれたらわたしが生きているの分かるから……あと寒い。ものっそい寒い。

 次は誰だろう……なんだかこのまま死ぬしかないんじゃって思ってきたんだけど……

 

「……よう。最後の挨拶に来たぜ」

 

 く、クリス先輩!

 

「……人が死ぬのは慣れていた筈なんだがな。涙で視界が確保できねえじゃねぇか……」

 

 クリス先輩、そんなに泣く程わたしの事を……

 

「なぁ、調。アタシさ、お前が先輩って呼んでくれること、地味に嬉しかったんだぜ? もっと、呼んでほしかったんだ……もっと、もっと!!」

 

 何度だって呼びますよ!! それこそ天寿を全うするまで言ってあげますよ! だからこのバラ抜いてください!!

 

「……ったく、あのオッサン、こんな美少女の目にバラをぶっ刺すなんてどうかしてるぜ。抜いてやるよ」

 

 あぁ、クリス先輩……あなたが救世主ですか……

 いだっ! でもこれで視界が……

 

「涙で顔が見えねぇが……あの世でも元気でな」

 

 いやこの世で元気したいです! まだ生きていたいんで一旦涙拭きましょう!? ね!?

 

「……じゃあな」

 

 じゃあなしなくていいですからいだっ!!?

 

「クリスちゃん、ちょっとよく見えなかったけど位置的にそこ調ちゃんの鼻じゃないの!!?」

 

 正解です響さん愛してますぅ!!

 いたいいたい!! 花が鼻に思いっきりぶっ刺さってますなんて上手い事考えている場合じゃなくて!!

 生きて帰ったらあの人の鼻にバラ突っ込む! 善意なんだろうけどせめて仕返しはする!!

 つ、次の人! 次の人来てぇ!! 多分次響さんだよね!!

 

「じゃあ次は……わたしが……」

 

 さぁ来て響さん! そして未来さんの陰謀を暴いてくださ……

 

「えー、急遽ですがこれ以上は月読調さんの死体が腐ってしまう可能性があるためこれで別れの挨拶は終了とさせていただきます」

 

 し、司会者あああああああああああああッ!!?

 何故ここで司会者!!? 何故司会者までわたしの生存を邪魔するの!? っていうかこんな短時間で死体が腐るわけないでしょぉ!!?

 

「そして火葬場まで霊駆車では間に合わないとの事ですので、こちらの……」

 

 ガコッと重い音が鳴って棺桶のわずかな窓から確保できる視界が回転する。

 え? 何? 何が起こってるの?

 

「ベルトコンベヤーでそのまま遺体を火葬場まで送り骨にして天に出荷します」

 

 いや何の工場!? 何の工場なのこれぇ!!?

 あぁ、視界が動き始めた……誰か助けて! お願い助けてぇ!! 

 あぁ、視界がとうとう外に……っていうかこのベルコン、本当に火葬場まで続いているの? え、嘘。このままわたしノータイムで火葬されるの?

 マジ?

 し、死にたくないよおおお!! わたしまだ生きていたいよぉ!! まだマムに会うのは早過ぎるからぁ!!

 だ、誰か助けて! 切ちゃん! マリア! 翼さん! クリス先輩!!

 あぁ、なんか心なしかベルコンの速度が速く……

 お願い助けて響さぁん!!

 

 

 

 

 

 

 

 

「――やっぱりこんなの可笑しいよ」

 

 

 

 

 

 

 

 ふと響さんの声が聞こえた。聞こえたと思ったら何時の間にか視界は移動を止めている。

 

「皆少しは疑問に思わないの? 冷凍保存までしてるのにそんな急がないといけないほど死体が腐りやすいなら、ナスターシャ教授なんて宇宙空間で骨になるまで腐ってるよ!!」

 

 ひ、響さああああああああん!! ほ、ホントに助けに来てくれた!! やっぱり響さんはイケメン!!

 

「い、いや、それは……」

「小日向がそう言って……」

「わたし何度も言ったよね!? でも誰もわたしの声を聞いてくれなかった……」

 

 え?

 

「わたし、見たんだよ。未来がここに居る全員、一人一人に五円玉を吊るした紐で何かしてる所!!」

 

 あ、あの女、まさかわたしが確実に死ねるようにそんな古典的な催眠術で確実にわたしを殺そうと!?

 

「み、見間違いじゃないかな、響」

「だとしても!」

 

 響さんの声が響く。何時の間にかわたしの棺桶はベルコンから持ち上げられて地面に降ろされていた。

 

「そんな急がなくても、ちゃんと葬儀をして、ちゃんと霊駆車で、ちゃんと送り出してあげないと調ちゃんが安心してあの世にいけない!! わたしはこんな流れ作業みたいな葬儀、神が許してもわたしが許さない!!」

 

 あの、生きてます響さん。思いっきり生きてますから助けて。

 そ、そうだ! 声を出せば……さっきまでは声を出そうとしても出来なかったけど流れが向いている今ならもしかしたら!!

 

「それにわたし、別れの挨拶していないんだよ!? だから、さっきの告別式の途中からちゃんと……」

「――け、て」

「…………ん?」

「い、今調の声が聞こえた様な……」

「いいいいいいいやそんなわけないだろ!!? だってアイツは……」

 

 こ、声が出た! これなら……

 

「ひ、びきさん……」

「いや、気のせいじゃない? まさか調ちゃん……!!」

 

 やった! これで助かる!!

 

「そんな訳ないよ響ぃ!!」

 

 とか思ってたらあの女がわたしの棺桶を担いだ!?

 

「消え去れ亡霊!!」

 

 とか思ったら投げられたぁ!?

 うそぉ!? なんかすっごい速いんですけど!!?

 

「こ、このまま火葬場に突っ込んじゃえ!!」

 

 いやこの先火葬場なの!?

 え、流石に炎に突っ込んだら即お陀仏しちゃう!?

 し、死にたくないぃ! 死にたくないぃぃ!!

 

「させない!! Balwisyall Nescell gungnir tron!!」

 

 視界がとうとう空じゃなくて建物の中を見た時、ガングニールで飛んできたのであろう響さんがわたしの棺桶を捕まえた。やった生きた!!

 

「ふぅ、危なかったぁ……」

 

 助かりました響さん愛してる!

 そういえばさっき喋れた……なら、今なら手も動かせるかも……?

 ちょっと手を動かしてみる……よし、凄く動かしにくいけど手は動かせる!

 棺桶が地面に降ろされた所でわたしは鼻に刺さっているバラを引っこ抜く。あー痛かった。

 

「あれ? 今バラが抜けて……」

「い、きてます……」

「あ、あわわわわわ……」

 

 あの女の声が聞こえる。ざまぁみろ。これからはわたしのターン!

 

「調ちゃん、まさか生き返って!?」

 

 響さんがガングニールを纏ったまま棺桶の蓋をこじ開けてわたしの体を起こしてくれる。

 

「心臓が、動いてる……!」

「もとから、いきてます……」

「え?」

 

 死亡確認から葬儀まで確実に数日以上ある中寝ていたからかかなり喋りにくいけど……大丈夫、これであの女を告発できる。

 

「みく、さんが……わたしをころそうと……」

「そ、そんな訳ないじゃない!!」

「れんがを、なげたのは……みくさん」

「そういえば……さっきから明らかに様子が可笑しいよね、未来」

「し、死人が生き返って困惑しているだけだよ!!」

「それに、あの古典的な催眠術……もしかして未来、本当に」

「響はその子の言う事を全部信じるの!?」

「だって今の未来、明らかに可笑しいじゃん!! 催眠術も、このベルコンも! 明らかに未来の方が可笑しい!!」

「ぐ、うぅ……」

 

 あの女、催眠術をかけている所さえ見られなかったらわたしが生き返っただけでゴリ押しも出来たかもしれないのに……あなたのような人は上から見下す事しか出来ないから、こういう所で全てが裏目に出る!!

 

「だとしても、わたしが調ちゃんを殺そうとしたなんて証拠、何処にも!!」

 

 た、確かに……わたしの証言だけじゃあの女が殺そうとしたなんて誰も信じてくれない。わたしの見間違いだったで終わってしまう事……!

 くっ、どうしたら……どうしたらこの女に制裁を!!

 

「ここにあります!!」

 

 こ、この声は!

 

「エルフナインちゃん! もしかして、解析結果が!?」

 

 解析結果……?

 急に出てきたエルフナインは何か書類を持っている。あの書類は一体……?

 

「すみません、全部が終わったと思ったらいきなり気絶させられてここまで来る事ができませんでした」

「気絶って、誰に?」

「未来さんです。室内に仕掛けておいたカメラがとらえていました」

 

 そういえばあの葬儀、エルフナインの声は聞こえなかった……もしかして、今の今まであの女に気絶させられていたの?

 だとしたらナイスタイミング! 何を解析していたのかは分からないけど、これならあの女が黒だという事が証明できるかもしれない!

 

「調さんを殺したレンガ。あそこから真犯人を割り出そうと様々な解析をしましたが……まさか指紋検査なんて古典的な物で出てくるとは思いませんでしたよ。未来さんの指紋が」

「え、エルフナイン……そ、それはわたしがあのレンガを後から……」

「あのレンガを拾ったのはボクです。それまで誰もあのレンガには触っていませんでした。未来さんが調さんが倒れてから一回もあの場に訪れていないのはもう分かっているんですよ」

 

 そ、それじゃあ……!

 

「……なぁ、小日向?」

「ちょーっとだけさぁ」

「聞きたい事が」

「あるんデスけど……」

「ひっ!?」

 

 翼さん、クリス先輩、マリア、切ちゃんが良い笑顔でシンフォギアを纏った状態であの女の肩に手を置いた。その笑顔は正直わたしと響さんも小さく悲鳴を上げるレベルで怖かった。

 マリアの手には縄が、翼さんの手には麻袋が握られている。

 

「このベルコンさぁ、このまま撤去するんじゃ勿体ないよなぁ?」

「そういう訳で流そうと思うのよ」

「な、なにを……」

「未来さん……マストダイデス」

「神妙にお縄に付け、小日向ァ!!」

 

 その瞬間、四人があの女との乱闘を始めた。

 逃げようとするあの女、それを捕まえようとする四人、それを見ないふりしてくれている大人の方々。

 わたしはと言うと、響さんに寒かったよね、ごめんねって言われながら抱かれています。まだ体が自由に動かないから、仕方のないこと。あぁ、響さんの体温が冷え切った体をじんわりと温めてくれる。

 そうして装者VS生身の人間の戦闘を見守る事数分。

 

「ンー!! ンーッ!!」

「殺そうとしても死なねぇ奴だ。火に焼かれた程度じゃ焦げるだけだろ」

「自業自得だ」

 

 あの女は簀巻きにされた上から更に麻袋で顔以外を入れられ完全に身動きが取れない状態になり、更に猿轡を噛まされた状態でベルコンの上に置かれている。

 火で焼いた程度じゃ死なないっていうのは完全に同意だからわたしも響さんも助けない。

 

「ンンンッ!! ンンンーッ!!」

「……動機は分かんないけど、流石に今回のは無いよ、未来」

 

 途中、明らかに響さんに助けを求める声を上げていたけど、響さんの冷ややかな声を受けて白目を剥いて気絶した。ざまぁ。

 かくしてわたしの葬儀は何とか中止になり、わたしは無事生き残れたのでした。

 今回ばかりは本当に死ぬかと思った……




未来「響、なんとか生きて帰ってきたよ!!」
響「……」
未来「ひ、ひびき……?」
響「ごめん、暫く話しかけないで」
未来「」サラサラサラ…


この話を書いた理由は最近銀魂の神楽の葬式の話を見ちゃったからですね。なので今回の話のパロディ元は銀魂のアニメ297話、別れの挨拶は簡潔に、でした。
あれを見た瞬間頭の中でこの話の流れが頭を過って書いちゃいました。未来さんには申し訳ない事をした。今度なんかいい出番与えますので許して。シンフォギアキャラの中では普通に上位に入るくらいに好きなキャラだから。
っていうか今回調ちゃんのキャラ崩壊激しすぎたなぁ……まぁ、元ネタが銀魂だし仕方ない

次回はまた未定です。ビッキーがヤンデレ二人に囲まれる話とか……うん、今回の二の舞になるとしか思えないので思いついたら書きます。


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月読調の華麗なる共謀?

もうタイトル思いつかない


 ぶくぶくぶく。わたしの前に置かれたコップに注がれたジュースがわたしの口から伸びるストローから流れてきた空気で泡立つ。要するに結構お行儀の悪い事をしています。

 普段ならこういう事は一切しないんだけど、それをさせる原因がわたしの目の前に居る。

 

「でねでね、響がその後……」

 

 そう、わたし達装者が絶対に他人に見せられない装者の中でもトップクラスの変態にしてクレイジーサイコレズ、またの名をグラビティレズ、未来さんだ。

 わたしと未来さんは、とある協定を結んでいる。

 わたしは切ちゃんが好き。そして未来さんは響さんが好き。わたし達二人とも恋愛がアブノーマルだから互いに互いを助け合ってなんとか意中の相手を落とそうっていう協定を結んでいる。というか結んでしまった。

 うん、結んだ時期が丁度わたしがリディアンに入学する前、なんやかんやで自由の身になってからすぐの事なんだよね。だから当時は未来さんは響さんが大好きなわたしの同類、って程度にしか思ってなくて……それから一週間くらいでもう未来さんへの評価は変わったよね。響さんが大好きな一途な人から響さんが好き過ぎるやべー人って評価に。

 やっぱり当時のわたしって周りにいた親しい人がマム、マリア、切ちゃんだけで女の子が好きなのは異常だって思ってたから仲間が出来るって思ったら嬉しくて二つ返事で了承しちゃって……実はマムにも相談はしていたんだけど、マムってあまり適切なアドバイスはしてくれなかったと言うか、貴女のしたいようにするのですとしか言ってくれなくて……具体的に何をしたらいいのかって聞いたら目を逸らされた。その日のマムの夕食は手を抜いた。反省も後悔もしていない。

 ウェル博士? 論外って言うのが当時の思いだったけど、よく考えればあの人って愛に関しては人一倍詳しい人でもあったから猫かぶってた当時のウェル博士なら協力してくれたりしたのかな……? あ、でもやっぱ駄目だあの人生理的に受け付けないや。

 まぁそんな事もあって未来さんと協定を結んだんだけど……何気に未来さんからのアドバイスって的確で有り難いって思う時があるから今更協定破棄なんて出来ないんだよね。これ、バレたらわたしも確実にグラビティレズの仲間入りって形になるだろうから諸刃の剣もいい所だけど。

 

「ふぅ……あ、そうそう調ちゃん」

「え? あ、はい何ですか?」

 

 とか思ってたら未来さんの響さんへの愛を語る時間は終わったらしい。

 え? 聞き流していいのかって? 逆に未来さんの惚気的な何かを聞いていたい人は聞いていたらいいんじゃないかな? わたしはもう嫌。だって……うん。愛が重すぎてドン引きするから。

 で、えっと、何だろう。今日は未来さんから呼び出されたからほいほいと喫茶店まで来たんだけど……うわ、最初はわたし達の周りに何人か客が居たのに皆どっか行ってる。あ、店員さんホントごめんなさい。同情する視線はいらないです。

 

「今度響と遊園地に行こうかなって思ってるんだけどいいデートプランないかな?」

「遊園地ですか? それならまぁ無難に……」

 

 取り敢えずこの協定を組んでからわかったことっていうのは幾つかある。その中の一つは……

 ここまでこじらせないようにしようっていう事。

 はぁ……もう切ちゃんに告白して玉砕して未来さんには頑張ってくださいって言って協定破棄した方がいいのかなぁ……いいのかもしれない。今度実行してみよう……

 あー……なんというか、こんな事で告白を決めるわたしもわたしだなぁって。

 

 

****

 

 

「……切歌ちゃん、最近の未来がよりアグレッシブになってきたんだけどどうしたらいいかな」

「いや知らんデスよ……」

 

 わたしと切歌ちゃんの第三十二回レズの被害対策会議はあまり進展していなかった。

 この会議を開くようになった切欠は切歌ちゃんがわたしに調ちゃんの事で困っているっていう相談を受けたから。それからわたしと切歌ちゃんは何度か集まって貞操を狙う獣をどうやって退けるかっていう会議をしている。なんだか最近切歌ちゃんが投げやりな気がするけど。

 

「もうくっ付いたらいいんじゃないデスか?」

「わたしはノーマル! ノーマルなの!! 普通に男の人が好きなんだよ!!」

「うっさいデス」

 

 確かにわたし自身スキンシップは人よりも激しいっていうのは自覚しているよ!? でもわたしはノーマルなの! 普通に女の子よりも男の人の方が好きなの! 学校の友達はもう未来に色々と有る事無い事吹き込まれているのかそう言ってもはいはいって言うだけで真に受けてくれないし! 

 ……取り乱した。まぁそんな訳でわたしの恋愛感性は普通。そう、普通なんだよ……!!

 切歌ちゃんは……まぁ聞いていないけどああやって相談しに来るっていう事は切歌ちゃんも普通にノーマルなんだと思う。つまり仲間。ナカーマ。

 

「いや、もう無理だと思うんデスよ。未来さん、神獣鏡のせいであたしらでも止められないデスから……」

「憎むべきはシンフォギア特攻……!」

「いや響さんの過去の行いじゃないデスかね?」

「後ろを見ない! 前へ向かって全力疾走!!」

「カッコいい事言ってるつもりかもデスけど、言ってる事最低デスよ?」

「狼狽えるな!」

「それマリアデス」

 

 確かにわたしにも悪いところはあったと思う。

 未来に内緒でシンフォギアで戦ったりそのせいで未来との団欒がちょっとおざなりになったり未来に相談せずに無理し続けたりそのまま殴り合い空になったり……

 でもそれでわたしへの愛情が深まってああなるなんて思わないじゃん!? どっちかと言ったら嫌われるじゃんわたしの行動! あれ、言ってて悲しくなってきた。

 ま、まぁともかく。未来がああなったのは未来の抱えていた性癖のせいであってわたしの行動はあまり関係ないと思う。だから切歌ちゃん、そんなおざなりな対応しないでもっとわたしを助けて……!

 

「いや、あたし、調が告白して来たら受け入れるつもりデスし……」

 

 …………

 ………………ゑ?

 

「何というか……響さんと未来さんを見てるともうあたしと調がくっ付く程度なら異常には見られないなぁと思いまして……」

「じゃ、じゃあ何で相談なんて……」

「その、やっぱり女の子同士なんて異常だと思って……女の子同士で付き合ってるっぽい響さんに相談したデスけど……まさか付き合ってないとは思ってなくて今までズルズルと……」

 

 そ、そんな……だから五回目を過ぎたあたりから何だか同情するような眼差しになって二十回を過ぎたあたりからめんどくさそうに……?

 

「本当はこういう恋愛ってどうしたらいいんデス? って聞こうと思ってたデス」

 

 そんな……

 切歌ちゃんはわたしの仲間だと思ってたのに、それはタダのわたしの妄想でわたしは常に一人だったと……?

 ウゾダドンドコドーン!!

 

「いや、相談になら乗るデスよ? ただ、正直こう何度も同じようなことを相談されると面倒とでも言うデスか……」

 

 あっはい。

 でも、なぁ……でもなぁ。

 

「まさか切歌ちゃんと調ちゃんが両想いとは」

「まぁあたし等って結構閉鎖的な空間で閉鎖的な仲を築いていたデスから。なんというか……そういう仲なら調しかいないなぁと思ってたらいつの間にか、デスかね」

 

 へぇ~……二人がイガリマとシュルシャガナを纏えているのもそういうのが関係しているのかな?

 まぁそこら辺考えるとわたしは頭痛くなるか眠くなるかの二択だから考えないけど、そうかー……後輩二人は両想いだったかぁ……

 まぁ別にショックではないかな? 最近クリスちゃんと翼さんはいい雰囲気だしマリアさんもエルフナインちゃんとなんだかいい感じだし。っていうかわたしの周りレズ多すぎじゃない……? もしかしてわたし以外みんなレズ? え? わたしが可笑しいのこれ?

 いやそんな事は無いハズ。だってわたしはノーマルな性癖してるから。普通に男の人の方が好きだから。好きな人はまだ居ないけど。今度からは緒川さんとか師匠に相談しようかなぁ……了子さんが存命なら了子さんに相談したんだろうけど。まぁこういう時は大人の人に頼るのが一番だよね。それか平行世界にお邪魔して奏さんとかセレナちゃんとか。その二人もダメそうなら平行世界のわたし? っていうかもう自分で何とかしないといけない感じ?

 

「あー……取り敢えずさ、わたし、週末に未来と遊園地行くことになったんだよね」

「遊園地デスか? あたしも調と行ってみたいデス」

「……大丈夫だよね? わたし、いつの間にか眠らされて茂みの奥で……とか無いよね?」

「いやそれは未来さんの匙加減じゃないデスか?」

「匙加減一つで決まるわたしの貞操ェ……」

 

 わたしの貞操ってそんなに薄く儚いものなんだね……とほほ。

 早いうちに彼氏とか見つけないとホントに未来に襲われて……あれ? 彼氏作ったら彼氏が抹殺されてわたしが監禁される未来しか見えないぞぉ? 可笑しいなぁ、わたしの将来バッドエンドが確約されているみたいだ。なんでこうなっちゃったんだろうなぁ……ほんとどうして……どうして……

 ……どれもこれも未来の愛に発破をかけたウェル博士が悪いっていう事にしよう。今度の平行世界で見つけたら一発ぶん殴る。完全に八つ当たりだけど。

 まぁ今はとにかく……未来に貞操を散らされないように頑張ろう。頑張ってどうにかなるとは思わないけど……

 

「ま、まぁ。あたしも陰で見守ってるデスよ。特別についていくデス」

 

 切歌ちゃんマジ天使。

 

 

****

 

 

 そんなこんなでやってきました遊園地。未来さんに無理矢理陰からサポートしてって言われてチケット渡されたから来ちゃったよ……はぁ、こんな事ならお家で切ちゃんとゆっくりまったりした休日が過ごしたかった……

 あ、でも今日は切ちゃん、用事があるって言ってたからどっちにしろ暇になるか未来さんに付き合うかの二択だった。まぁ響さんに南無って両手を合わせておこう。

 前の方で未来さんと響さんが二列で並んでいるのを一応視界内に収める。未来さん嬉しそうだなぁ……響さんも普通に楽しそう。多分、貞操を狙われてはいるけど親友と遊園地で遊ぶっていうのは普通に楽しみなんだと思う。いいなぁ……わたしも切ちゃんとここに来たかったなぁ。今のわたし、完全に一人で遊園地に来た可哀想な女の子だもん……

 あ、列が動いた。一応未来さんを見失わないように歩かないと。

 今日のわたしは眼鏡をかけて髪型はいつものツインテじゃなくてポニテにして帽子着用。服装もボーイッシュな感じで仕立て上げてきたから響さんに見つかっても人違いでゴリ押し出来るはず。

 

「チケットを拝見します」

「あ、はい」

 

 ちょっと髪とか手櫛で適当に整えているといつの間にかわたしの入場の番になってた。まぁ今日は今度切ちゃんと遊園地に来た時のための下見って事にして楽しもう。

 えっと、未来さんは……いた。うーん、ああやって見ると普通に仲のいい友達なんだよね、あの二人。でも恋人繋ぎしてる。響さん、あれを何の違和感も感じずにやっているからなぁ。わたしも響さんに手をつながれた時、恋人繋ぎだったし。

 なんというか……勘違いされる事ばっかりしているよねあの人。しかもイケメンな所があるし男前な所もあるから未来さんの愛情が深まる深まる。わたしも切ちゃんがいなかったら響さんにポッとなっちゃってたかもしれないし。あ、最初はフリーフォールに乗るみたい。わたしも一応乗る。

 うーん、別にわたし達ってヘリから紐なしバンジーしたりミサイルに乗って垂直落下したり崖から誰かを担いでアイキャンフライしたり、結構紐なしバンジーしてるからフリーフォール程度じゃあまり怖くないというかなんというか……内臓がこう、ふわっとなる感覚は未だに慣れないけど、別にそれが嫌いって訳じゃないからね。だから特に怖くなんて――

 

「きゃあああああああああああああああああ!!?」

 

 …………訂正。ギア無しは結構ヤバい。

 なんというか……怖かった。内臓がふわっとする感覚もそうだけど自由落下じゃなくて人為的に生み出された速さで落ちるのは結構くる物がある。え? もういっか……

 

「ひいいいいいいいいい!!?」

 

 ……うえっ。ちょっと酔った。でもこれ切ちゃんと一緒なら楽しいかも……

 取り敢えずフリーフォールも終わったからアトラクションから降りて……うえっ。ちょっと休憩したい。普通に朝ごはん食べてきちゃったから結構気持ち悪い……

 えっと、響さんと未来さんは……え、ウソ。フリーフォール行った直後にクレープ食べてる……わたし、流石に気持ち悪いから暫く何も胃に入れたくないんだけど。

 ま、まぁ響さんと未来さんだし。

 えっと、次は……海賊船? え? 本気ですか? いや、未来さん、来いじゃなくって……はい、行きます。

 これ絶対降りたら吐くって……美少女にあるまじき行為に及ぶことに――

 

「あああああああああああああああ!!?」

 

 こ、これ結構スリルが……ってこれ何回揺れるのぉ!!?

 

「ギア……ギアをまとわせて……うっぷ……」

 

 あ、これ駄目ほんと駄目なんかこう吐いちゃいけないものが喉の付近まで込みあがってきてうっぷ。

 助けてマリア……助けて切ちゃん……

 あぁ……時が見える………………

 え? あ、終わった? よかった……乗っている間にやらかすっていう最悪の事態はなんとか防げた……それに揺れも収まったから出かかっていた物も引っ込んだし……ほっ。ちょっとわたしは適当なベンチに座って休憩しよう。また絶叫系に乗ったら絶対に吐くから。

 あ、誰か先に座ってる。ちょっと座りづらい空気だけどまぁ気にせず……どっこいしょ。ふぅ。

 えっと……響さんと未来さんは……

 

「うわ、なんで絶叫系乗った後に唐揚げ食べてるのあの二人……」

「響さん……流石に鉄の胃袋すぎるデス……」

 

 …………ん?

 なんか横の人から聞き慣れた人の声が……

 空耳かな? ちょっと横の人のお顔を拝見……

 

「……」

「……」

 

 あ、ガッツリ目が合った。どうも……じゃなくて、え?

 

『…………えっ?』

 

 あ、あれ?

 いつも見ないボーイッシュな感じの服で帽子を被ってるから一目じゃ分からなかったけど、もしかして……

 

「き、切ちゃん!?」

「調!?」

 

 や、やっぱり!

 え、なんで!? どうして!?

 

「ど、どうしてここに!?」

「それはこっちの台詞デスよ!」

 

 いやもうお互いさまだよ!

 え? ほんとになんでここにいるの!? え、わたし大丈夫だよね? 変な格好してないよね……うん、してない。大丈夫。ちょっと慣れてないファッションだけどちゃんとしてる。切ちゃんからのポイントを下げるような変な格好はしていないハズ。あとボーイッシュな切ちゃん可愛い。

 

「えっと……わたしはその、えっと……」

 

 チラッと未来さんの方を見る。あ、あの人響さんに夢中でこっちに気づいていない。

 え、でもどうやって説明したら……まさか一人でここに来たなんて言えないし、まさか未来さんと響さんの観察に来たとも言えないし……え、どうしようこれ。誰か助けて。未来さん、こういう時に助け……畜生あの人こっちの事一切見てない。今度響さんにある事ない事告げ口してやる。

 と、取り敢えずはどうにかして切ちゃんに納得してもらわないと……

 

「……もしかしてあの二人関連デス?」

 

 わたしが言葉に詰まってると切ちゃんは響さんと未来さんの方を指さした。

 え? っていう事は切ちゃんも? と聞くと切ちゃんは頷いた。

 

「響さんがどうしてもついてきてほしいってうるさかったデスから……」

「わ、わたしも未来さんが……」

 

 えーっと、これで取り敢えず切ちゃんにわたしが一人で遊園地に来る悲しい女じゃないっていう事は伝わったかな? もし誤解されていたらあの二人なんてアウトオブ眼中にして切ちゃんを説得するけど……

 まぁその説得がないからよかった。よかったけど……この状況どうしよう。わたし達確実にバッタリ会っちゃいけない立場だよねこれ。あ、響さんがこっち向いたけどわたしに気づかず切ちゃんについて来てって言わんばかりに手を振って歩き始めた。

 うーん……え? どうするのこれ。一個だけあるっちゃあるけど……

 

「……切ちゃん、どうしよう」

「一個考えがあるデス」

「わたしも一個だけあるの」

 

 多分、考えてる事は二人とも一緒。

 だから手をつないで一緒に……

 

わたし(あたし)、知~らない!』

 

 遊ぼっか切ちゃん!!

 

 

****

 

 

 切ちゃんとのデートは凄く楽しかった。

 一緒にゴーカートとかコーヒーカップとか乗ったり。あとジェットコースターも一回乗ったけど凄かった。ここのジェットコースター、この付近だと一番人気みたいですっごく怖かった。何度も叫んじゃったけど切ちゃんも楽しそうだったし乗って良かった。

 なんかわたしと切ちゃんの電話が恐ろしいくらい震えてたけど最終的に電源切って鞄に突っ込んである。帰ってから画面見るのが怖いなぁ……怖いなぁ!!

 そんなこんなで最後は観覧車に乗ってから帰ることにした。やっぱり遊園地の最後と言ったら観覧車だよね。

 

「おぉ、すごく高いデスよ、調!」

「うん。予想以上」

 

 観覧車から見る景色は予想していた光景よりも遥かに絶景だった。

 うん、ほんとに凄い絶景。なんだかいい感じだし……これなら、告白も出来そう。

 多分玉砕しちゃうんだろうけど……せめて告白した思い出はいい思い出みたいな感じにしておきたいし。思い切ってしちゃった方がいいよね。

 あーうーあー……緊張するぅ……するけど、告白しなきゃずっとこの気持ちを引きずったままになる。自分の気持ちをリセットするためにも、未来さんの呪縛から解放されるためにも、わたしはちゃんと告白しなきゃ。

 

「……ねぇ、切ちゃん」

「なんデス? 調」

 

 もう夕日となった太陽の光が切ちゃんの横顔を照らす。

 いつも通りに、だけどちょっと微笑みながらこっちを向く切ちゃんは、観覧車の中、二人きりという事もあってか凄く綺麗に見えた。

 だからかわたしの顔は熱を帯びた感じがするけど、多分気付かれないと思う。わたしの顔は多分、夕日の赤で赤くなってるから。

 

「……わ、わたしね」

 

 今なら引き返せる。今ならまだこの気持ちを抱えたままいつも通りの日常に戻れるって心が言っている。

 多分、告白して玉砕したら暫くは変な空気になると思う。なると思うけど……前に進まないと。いつか口にしなきゃいけない気持ちなんだ。だから、今。ここで、口にする。

 

「切ちゃんの事が、好き」

「……」

「友達として、じゃなくて、恋愛的な意味で。切ちゃんの事が、ずっと大好きだった」

 

 口にした瞬間、全部が終わったと思った。

 終わったと思ったけど、なんだかスッキリしていた。自分の中の秘密にしてたことを口にして、なんだかスッキリ。

 初恋だったけど……まぁ、仕方ないよね。女の子同士だし。

 

「……ご、ごめんね。女の子同士なのに。あまり気にしなくてもいいから」

 

 うん。これでいい。これでいいんだ。きっと、これで……

 

「……気にするデスよ」

「え?」

 

 切ちゃん……?

 

「あ、あたしも、その……調の事、大好きデスから……」

 

 え?

 そ、それって……?

 

「……そ、その、ずっと、りょうおもいで、えっと、その……デス……」

 

 じゃ、じゃあ……

 

「わ、わたし達……恋人って事で……」

「だ、だいじょぶデス……」

 

 帽子で目を隠しながら消え入るような声で呟いた切ちゃんの顔は夕日のせいなのかそれとも熱のせいなのか、凄く真っ赤に見えた。

 わたしも、顔が熱い。凄く熱い。思わず帽子で顔を隠したけど……多分、切ちゃんと同じ状態なんだと思う。

 それから暫くしてわたしと切ちゃんは観覧車から降りた。スタッフの人に顔が真っ赤だけど大丈夫? って聞かれたけど、何とか大丈夫だって知らせて。二人で手を繋ぎながら海賊船の前にあるベンチに二人で座った。

 なんでそこに座ったかって聞かれると、なんとも言えないんだけど……ただ、適当に座れて人目にもつかない場所がいいって思ったら、ここだった。

 ベンチに腰かけたわたしは同じように腰かけた切ちゃんの肩にそっと体重をかけた。切ちゃんも同じように体重をかけてきた。

 

「……大好き」

「……あたしも、大好きデス」

 

 確認するように囁く。わたし達の声はわたし達以外には聞こえず遊園地の喧騒に消えていく。

 そしてそっと交えたキスは、きっと誰の記憶にも残ることなく、ただわたしと切ちゃんだけの思い出となって、消えていく。

 

 

****

 

 

 ……はい、ガッツリ見てました。切歌ちゃんと調ちゃんのデートと告白とキス。

 うん、その、なんというか……観覧車、実はその二つか三つあとのゴンドラにわたし達、乗ってたんだよね。未来にゴンドラの中で押し倒されかけた時に偶然二人が見えたからいつの間にか消えていた上になんだかデート始めちゃってる二人を見て、まぁ急にいなくなった軽い仕返しとして揶揄うためにちょっと観察に入ったの。未来も何でか乗り気だったし。

 で、何かあったときのために映画を見て身に着けた読唇術で告白をガッツリと見まして、それでそのまま二人で気配を消して尾行してたらキスしまして……なんかホントごめんね二人とも。なんか乱入しようとしている未来はわたしが責任もって回収するから。

 あー……わたしも男の人とあんな感じで甘酸っぱい恋愛したいなぁ……

 響ワゴンはクールに去るぜ……




後日談
調「という訳で切ちゃんと恋人になれたので協定破棄で」
未来「なんでわたしは響と恋人になれないの……」
調「単純にがっつき過ぎなんですって……」
未来「え?」
調「まさかの無自覚……あ、わたしこれから切ちゃんとデートなので」
未来「うぅぅぅ……もうこうなったら響を押し倒すしか!!」
調「それがいけないんだと思うんですけど……でも響さん、性癖はノーマルなので期待薄だと思いますよ?」
未来「響いいぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」
調「諦めることも、大事ですよ」


単純にきりしらが書きたかったんや……書きたかったんや……!

っていうかこの作品の未来さんロクな扱いされてねぇなぁ……そろそろひびみくでくっ付いてる世界を書くか……まぁそれでも主役は調ちゃんなんですけどね。

またオリジナル書き始めたので更新速度は落ちますが、取り敢えずうすーくながーくやっていきたいなぁ……


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月読調の華麗なる息抜き

メ イ ド 調 ち ゃ ん 出 ま し た

まさかライブ記念のミッションでゲットしたガチャチケで出るとは……ちなみに一回目メイド調ちゃん、二回目ギガゼペクリス先輩、三回目風輪火斬ズバババンと大当たりでした。これがライブ落選の代わりに得た物……!!

そういう訳(?)で今回はエルフナインちゃんと調ちゃんのお話し。エルフナインちゃんのストーリー付きメモリアって調ちゃんとキャロルちゃんとのやつしかない気がする


 パヴァリア光明結社との戦いも終わってわたし達は束の間の平穏に身を置くことになった。災害とか大きな事故が起こればわたし達も出動はするけど、それがないならわたし達は装者としてじゃなくて普通の女の子として日々を生きることになる。

 そんなわたしは取り敢えず暇だったし適合係数を伸ばしたいからという理由で今日はSONGの本部で特訓をした。

 特訓前になんだか藤尭さんが死にそうな顔してたからどうかしたのか聞いてみたら、何でも今回の事件で起こった色んなことの後始末やわたし達のシンフォギアがアゾースギアへと変化した事の報告書、その他諸々色んな事に対する対処に追われているらしくてもう三日以上徹夜しているとか。

 風鳴司令も何だか顔が青かったし友里さんも何時もの笑顔が何処か曇ってたし。なんというか……過労死だけはしないでほしい。風鳴司令だけには無縁かもしれない言葉だけど。

 で、そんな大人の人達からわたしはちょっと頼まれごとをされた。エルフナインに伝言を伝えてほしいっていう頼まれごとを。

 何でもエルフナイン、自分の研究室にもうずっと籠ってるらしくて必要最低限の時間しかそこから出てきてないとか。藤尭さんも最後に見たのは二日前って言っていたし、見るたびに痩せこけているって言ってたし。でも皆忙しいからエルフナインに対して何もしてやれないから、わたしが数日間休めっていう伝言を伝えるようにって。

 それくらいの時間はあるんじゃ? って思ったけど風鳴司令が凄く弱弱しい笑顔で頼まれてくれるか? なんて言ってくるものだから断れる訳がなかった。あの人、そろそろ体を動かしたいからって暴れだすんじゃ、とか思っちゃったけどどうなんだろう。そうしたら誰も手を付けられないよね。

 そんな珍しい光景を見ちゃったからには断れる訳もなく。わたしもエルフナインがそこまで切羽詰まっているというか忙しいというか過労死しかけているとは思わなかったから様子を見たいって言うのもあってわたしはエルフナインの研究室の前まで来た。

 

「エルフナイン、いる?」

 

 ドアをノックして声をかける。けど声は返ってこない。

 いないのかな? いないのなら休んでいるはずだしそれでいいとは思うけど……でも、ロックがかかってない? 一応ここ、エルフナインの許可がないと入れないようにロックがかかっているからロックがかかっていないって事はエルフナインが中にいるって事だろうけど……

 もしかして寝落ちてる? ならベッドまで運んであげないと。

 許可もなしに入るのはちょっと忍びないけど大事になっていたら大変だしわたしはコンソールを操作して扉を開ける。そして扉から中の様子を見て、絶句した。

 

「ふひひ……天羽々斬がいっぽーん、イチイバルがにほーん、ガングニールがさんぼーん…………いっぽんたりなぁいッ!!」

 

 ……あの、うん。すっごい関わりたくない。

 上半身裸で下半身は下着だけのエルフナインがものすっごい危ない表情をして謎の言葉を発しながら謎の踊りを踊っているとか誰が想像できると思う? いや、できない。

 エルフナイン……酸素欠乏症に……じゃなくて!

 

「え、エルフナイン!? ちょ、一体何が!?」

 

 いやホントに。取り敢えず他の職員の人が中を見ないようにすぐに中に入ってドアを閉める。流石に上半身裸のエルフナインとか誰にも見せられないし見せてしまったら正気に戻ったエルフナインが何をしでかすか分かったものじゃない。これじゃああの世でキャロルが泣いてるよ……

 と、取り敢えずこれどうしよう……

 

「ふーひひ……ふーひひ……」

 

 うわっ、机の上にエナジードリンクの空になった缶が大量に!? これ五ダースくらいあるよ……? エルフナインが几帳面だからか縦に積まれててエナジードリンクの壁が出来てるし。

 しかも床にも大量のエナジードリンクの空き缶が……うわ、よく見たらカフェインの錠剤の空箱まである……え、これ普通の人間なら死んでるんじゃない? そりゃ発狂もするよ。

 

「はっだっかーになっちゃえー!!」

 

 とか思ってたらとうとうエルフナインがすっぽんぽんに!? もしかしてわたしが来たのに気が付いていないのかパンツを指に引っ掛けて振り回してる。こんなエルフナイン見たくなかったよぉ……

 これ、風鳴司令が見たらドン引きするか正気に戻れってぶん殴るかの二択だよね……っていうかわたしもちょっと引いたし治す方法が殴るしか思いつかないんだけど……

 取り敢えず一時的狂気に飲まれているエルフナインは一旦置いておこう。ちょっとここからエルフナインをどうしたらいいのか本気で分からないから。えっと、取り敢えず引き続き机の上を……あ、この書類提出期限今日だ。うわ、こっちには何かわからない部品が大量に……あー半田ごてが転がっちゃってるよ。なんか変な臭いすると思ったら机がちょっと溶けてるし。

 えっと、ゴミ箱は……うわ、レトルト食品のゴミが大量に。って何かダインスレイフの余った欠片みたいなのがあったんだけど。え、これ捨てていいの? 取り敢えず拾って机の上に置いておこう……

 机の下は……なんか狂気を感じるレベルでエナジードリンクの段ボールが積まれてるんだけど。中身あるし。で、冷蔵庫の中はレトルト食品とエナジードリンクがたっぷり。こんな食生活してたら体壊れちゃうよ……いや、もう精神面が壊れちゃってる。

 これ、わたし達のせいなのかなぁ……後始末考えずにバックアップがあるからって結構好き勝手やっちゃってるし……あ、机の角に血痕。そしてエルフナインの額に大きな傷跡……これ、眠気覚ましに机の角に思いっきり頭をぶつけたのかな。すっごい痛そう。

 ……取り敢えず今やることは。

 

「エルフナイン、取り合えず寝てッ!!」

 

 全裸のエルフナインを肩車して両手を掴んでクロスさせて、そのままバックドロップ。そう、わたしの切り札、ジャパニーズオーシャンサイクロンスープレックスホールド。プレラーティだって気絶させたわたしの切り札。

 

「げふっ!?」

 

 何もできずにそれをくらったエルフナインはそのまま白目を剥いて気絶した。

 さて……まずはエルフナインに服を着せて申し訳程度に設置されてるソファにエルフナインを寝かせてからわたしはお部屋のお掃除を始めた。あーもうこんなにエナジードリンクばっかり飲んで……

 

 

****

 

 

 結局お掃除は三時間以上かかった。時折部屋の前を通っていく職員の人は部屋の前に積まれていくエナジードリンクの空き缶の入ったごみ袋を見てドン引きしてたけど、なんやかんやでその処理に手伝ってくれた。その時に聞いたんだけど、なんでもエルフナイン、色んな職員の人の仕事を率先して引き受けていたらしい。何時も笑顔でほぼ無理矢理仕事を奪っていくから何とも言えず、風鳴司令は疲れ切っていてその事も言えず、取り敢えずこの忙しい時期を乗り越えたらエルフナインを強制的に休ませて自分達の有休を使わせても休ませようとしていたらしい。

 でもその結果エルフナインは発狂。エルフナインの自業自得と言っちゃえばそれまでなんだけど、エルフナインってワーカーホリックの気があったから誰かが強制的に休ませるために動くべきだったのかもと反省。特にわたし達装者が仕事を作ってるようなものだしわたし達がもうちょっとエルフナインを気にかけておけばよかったかも。

 一応ゴミというゴミを捨てて書類を風鳴司令に渡したり職員の人に渡して部屋は何とか片付いた。

 

「そうか……エルフナイン君がそこまで発狂を……」

「変な歌歌いながら下着を振り回すエルフナインとか見たくありませんでした……」

「そ、そうだな……これも全部エルフナイン君の異常に気が付けなかった俺のせいだ」

「いや、その責任は俺達にも」

「そうね……無理してる事に気づけなかったのだから……」

 

 過労死はしていなかったのが本当に幸い。っていうかあれだけエナジードリンク飲んだら急性カフェイン中毒で死んじゃいそうな気がするんだけど……

 

「エルフナイン君には一週間ほど休みを与えるべきだな。彼女が引き受けてくれた仕事のお陰で俺達もあと数日あれば仕事が片付きそうだしな」

「そうですね。もうこれ以上エルフナインに無理はさせられません」

「あと、あの子が発狂していたのは内緒にしておきましょう。多分あの子がそれを知ったら首を吊るわ」

 

 容易に想像できるからみんなで頷いた。

 取り敢えずエルフナインはわたしが自室まで運んで明日、また様子を見に行くことにした。それで改めてエルフナインの顔色とか見てみたんだけど、まず隈が凄かった。濃いってレベルじゃなくてもう真っ黒。数日間寝てないんじゃ、とすら思えるくらいには真っ黒。

 それと顔もかなり痩せこけていた。体重もものすごい軽い。こんなに頑張ってくれてたんだ、エルフナイン……

 ちゃんと三つ編みも解いてエルフナインをベッドに寝かせてから書置きにまずはシャワーを浴びるようにって書いてからわたしはSONGを後にした。

 それで翌日。一応皆にもエルフナインの惨状はかなーりマイルドにして伝えた後、わたしはエルフナインの様子を見に行った。どうやらまだエルフナインは顔を見せていないようで更に顔が青くなった風鳴司令に一週間の休暇を伝えてくれって頼まれてからエルフナインの自室へと向かった。多分まだ寝てるだろうから部屋にはノックなしで入った。

 

「ふぅ、サッパリしました……あっ」

「あっ」

 

 とか思ってたら丁度起きてすぐにシャワーを浴びに行って戻ってきたらしいエルフナインとバッタリ。体を拭いただけの全裸のエルフナインとばったり。だけど昨日見たばっかりだから特に気にしない。

 

「ごめんね。外に出てようか?」

「あ、えっと……おねがいします……」

 

 顔を真っ赤にしてタオルで体を隠しながらそう呟いたエルフナインの言葉に従って部屋を出る。それから暫くしてどうぞ、と中から声が聞こえたから改めて部屋の中に入る。

 エルフナインは若草色のワンピースを羽織った状態でインスタントのコーヒーを淹れてくれていた。何もないですけどどうぞ、と小さく笑いながら言うエルフナインの言葉に従って適当な椅子に腰を下ろしてコーヒーを啜る。

 

「エルフナイン、昨日の事は覚えてる?」

「昨日の事、ですか? えっと、お仕事をしてて……気が付いたらここで寝てました」

 

 なるほど、あの発狂は覚えていないと。覚えていなくてよかった……

 取り敢えずエルフナインにあの事は絶対に知らせないでおこう。ホントに首吊りそうだし。

 

「えっと、じゃあボクはお仕事が残ってるので……」

「あ、風鳴司令から伝言。一週間休めって」

「えっ!? で、でもお仕事が……」

「皆がやってくれるって。エルフナインは一人で抱え込みすぎ」

 

 そう言われてエルフナインは返す言葉がなかったのか言葉を詰まらせた。抱え込みすぎたという自覚はどうやらあるらしい。いや、抱え込みすぎるっていう自覚かな? それでもわたしの言葉にでもでもだってと言ってくるエルフナインだったけど結局風鳴司令からの直接の伝言だから頷いた。

 

「……でも、お仕事がないと何したらいいのか」

 

 で、今日から一週間が暇になったエルフナインがそんな事を言った。

 何をしたらいいのか……? うーん、そう言われても……

 

「お休みなんだし、何かしたいことを」

「お仕事したいです」

 

 あ、駄目だこのワーカーホリック。放っておいたら過労死するまで働く。

 わたしは溜め息を吐きながらどうした物かと考える。真面目なのはエルフナインの良い点っていうのは間違いないんだけど、なんというかエルフナインは真面目すぎる。クリス先輩風に言うなら真面目が爆発しすぎている。

 うーん……これは無理矢理にでも外に引っ張り出した方がいいのかな? でもわたし自身、暇な時って切ちゃんとお話しているか読書しているか……後は携帯で皆と会話したり? だからあまり……こういうアドバイスって出来ない。ゲームとかでも暇は潰せるんだろうけど……ゲームっていうゲームもわたし持ってないからなぁ。

 あ、そうだ。ゲームなら確かクリス先輩がパーティゲームを持ってたっけ。じゃあクリス先輩の家に突撃かな。

 携帯取り出しポパピプペ。

 

『もしもし? 一体全体電話かけてくるなんてどうした?』

 

 クリス先輩は無事電話に出てくれた。

 わたしは電話でクリス先輩にエルフナインの事を伝えてから遊びたいから三人でゲームやりましょうって要件を告げた。

 

『まぁ、アタシは別にいいがよ。元々エルフナインの様子は見に行くつもりだったしな』

 

 良かった。これでこのワーカーホリックをどうにかして職場から引きはがすことが出来る。

 

「じゃあ今から行ってもいいですか?」

『おう、今から……今から…………あっ』

 

 なんか変な声聞こえた。

 

『……ゆっくりと来い。ゆっくりと』

「もしかしてお部屋、片付けの途中だったりしました?」

『ま、まぁそんなモンだ……やっべ、クッソ散らかってら……』

 

 クリス先輩、聞こえてますよ。思いっきり聞こえてますよ。

 まぁ、でもクリス先輩って片付けが出来ないわけじゃないから偶々物を置きっぱなしにしていたとかそれくらいなのかな。食べるのが下手なだけでそれ以外は大体そつなくこなすのがクリス先輩だし。

 そんなわけでわたしとエルフナインはちょっと寄り道をしながらもゆっくりとクリス先輩の家へ向かうことに決めた。エルフナインの意志? この期に及んであると思う?

 

「じゃあ、クリス先輩の家に行こうか」

「え、あ、でも……」

「休みなんだし思いっきり遊ぼう?」

 

 でもでもだってを全部聞いてもどうせエルフナインの休みは変わらないんだし、ここにエルフナインを放置していたら確実にまた仕事仕事で結局休みを潰すだろうし。だからわたしはエルフナインの手を引っ張ってそのままSONG本部を後にした。外に出た時エルフナインが一か月ぶりの太陽が……とか言っていた気がするけど冗談だよね?

 なんだか太陽を目にして目を細めているエルフナインの腕を引っ張ってクリス先輩の部屋に向かう。SONG本部を出る前にすれ違った職員の人にエルフナインを連れ出したって風鳴司令に伝えてほしいって言っておいたから後ろめたい気持ちもない。

 エルフナインを引っ張って道中クレープを一緒に食べたりクリス先輩と一緒に食べるお菓子を買いに行ったり服屋に立ち寄ってエルフナインの私服を買ったり。ついでにその時エルフナインすら知らないエルフナインのお財布事情を知ったんだけど、エルフナインの口座、お給料が物凄い入っていて装者やってるからお金もそこそこ入ってるわたし達よりも遥かに大量にお金を持ってた。

 確かにエルフナインの仕事量、残業量、その他諸々を計算したらそれくらい行くんだろうけど……本人すらATMで自分の口座残高見て目を見開いてたからね。そしてそれをどうしようって言いながらわたしに知らせてきてわたしも目を見開いた。まだエルフナインが働き始めてから二か月も経ってないよね……?

 けどそれだけお金があるからあれだけエナジードリンクを買えたのかな、なんて思いながらエルフナインと一緒に服を見てエルフナインを着せ替え人形にしているといつの間にか時間もいい感じに消費できていた。

 

「エルフナインは素材はいいんだからもっと可愛い服着ないと」

「そ、そうですか?」

「うん。特に、初対面の時みたいな破廉恥ルックは絶対ダメ」

「あ、あの時はまだ性別も無かったのであまり恥ずかしくなかったんです!」

 

 そんな他愛もない話をしながらエルフナインと一緒に歩き、やっとクリス先輩の部屋の前にたどり着いた。

 

「クリス先輩、大丈夫ですか?」

『おう。入ってきな』

 

 インターホンを鳴らして声をかけるとクリス先輩のいつも通りの声が返ってきた。

 その声に従ってクリス先輩の部屋に入ると、玄関からキッチリと片付いていた。そのまま靴を脱いで揃えて部屋に入るとクリス先輩はテレビとゲーム機の配線をチェックしているところだった。

 

「うし、こっちはもう準備出来てるぜ」

「ありがとうございます、クリス先輩」

「いいってことよ。アタシも暇してたしな」

 

 いつも通りの明るい笑顔でそう言うクリス先輩はエルフナインに近づくとその顔を覗き込んだ。

 いきなり顔を覗き込まれて困り顔のエルフナインだったけどクリス先輩はその顔を見て笑顔でエルフナインの頭に手を置いて乱雑に撫でた。

 

「顔色は大丈夫そうだな。ったく、心配させんじゃねぇぞ?」

「す、すみません……」

 

 一応皆には昨日のエルフナインの発狂を知らせずに机の上で顔を真っ青にして気絶していたとしか伝えていないから軽く無理をした程度にしか思ってはいないだろう。本当はエナジードリンクの空き缶の山の中で最も全裸に近い恰好で謎の踊りを踊っていたんだけど。

 けどそんな事は伝えれらないからわたしとエルフナイン、そしてクリス先輩は床に置いたクッションや座布団の上に座って某桃太郎な電鉄を始めた。

 

「あ、テメッ、そこの物件アタシが目ェ付けてたんだぞ!?」

「早いもの勝ちです!」

「レッツ特急カード」

「ものすげぇ速い新幹線が貧乏神擦り付けてどっか消えていきやがった!!」

 

 ……クリス先輩いぢめ楽しい。

 最終的にクリス先輩がドベ、わたしが二位、エルフナインが一位だった。クリス先輩は物凄く悔しそうだったけど、エルフナインが物凄く楽しそうだし……まぁ、いいかな。ですよね、クリス先輩。

 

「もう一回だもう一回! アタシが勝つまでお前ら帰らせねぇ!!」

 

 アッハイ。

 

 

****

 

 

 結局補導されるかもしれない時間ギリギリまでゲームをしていたわたし達は一日だけクリス先輩の部屋に泊めてもらってから次の日にSONG本部へと向かった。今度はクリス先輩も一緒にだ。

 一度エルフナインの荷物を部屋に置いてからまた遊びに行く算段になっているのでSONG本部に来たのはエルフナインの荷物を置くためだけ。それだけだ。

 でも一応来たんだから風鳴司令達にも顔を見せておかないと、と思って差し入れを買ってから司令室へと入って……

 

「ぬおおぉぉぉぉぉぉぉ!! 体を動かさせろ特訓をさせろ映画を見させろおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!」

「あぁ、司令がとうとう我慢の限界に!!」

「緒川さんに連絡しろ! あとどうにかして司令を外へ誘導するんだ!!」

 

 そっと扉を閉じた。

 

「……遊びに行こう!!」

「そうだな!!」

「それが得策ですね!!」

 

 わたし達、知~らない。




エルフナインちゃんは犠牲になったのだよ……ギャグの犠牲にな……

さて、あと絡ませてない装者って……奏さん? あの人はちょくちょく出てくるけど大きく絡んで来てないから絡ませてみる? っていうかひびみくと切ちゃんが扱いやすいせいであの三人の出番が多すぎるのが問題……?

取り敢えずエルフナインちゃんは膝の上にのっけて愛でたい。



セレナ「出番……」

最近メモリアで出てるんだから我慢しなさい


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月読調の華麗なる故人発見

どうも、FREEクエストの3.5-18の五回目がクリアできない私です。あれどうやったらクリアできるんですかホントマジで

そんな事は置いておいて、今回は心霊体験の続き。調ちゃんが故人(内二人はもう出たことがある)と遭遇します。

あと前回の話は予約投稿普通にミスりました。反省はしているが後悔はしていない


 サンジェルマンさん達がわたしに憑りついてから暫くが経過した。時折無理矢理カリオストロとプレラーティに体を奪われてはその後お風呂場に放置したりと割と一人の時よりも楽しい事になっているのは素直に認めるけど心休まる時間がかなり奪われました、はい。

 今もカリオストロとプレラーティはわたしが買ってきたインスタントの食事を食べている。なんやかんやでサンジェルマンさんも。最近切ちゃんが部屋の中に居て温かくしてても寒そうにしているのは本当に申し訳ないと思う。今度わたしが抱き着いて温めて……

 

「少女がしてはいけない顔になっているわよ」

 

 はっ、いけないいけない。こんなみっともない所は切ちゃんには見せられない。

 取り敢えずこの間買ってきた(買わされた)ゴスロリ服はクローゼットの中に入ってまだお披露目されていない。いつか切ちゃんに見せて感想を聞きたいところだけど……やっぱり恥ずかしい。

 

「調、調」

 

 とか思ってたらプレラーティがいつの間にかパソコンの電源を入れて何かのページを表示しながらわたしをつついてきた。敵対している頃は名前で呼ばれる事なんてなかったけどこうして憑かれて色々と話しているうちに名前で呼ばれるようになった。カリオストロもそうだし、サンジェルマンさんも。

 わたし自身この人達はこの人達なりの正義を貫いてきた人で、根っからの悪人ってわけじゃないからそれに対して嫌な思いも何もしていない。むしろこうして距離が近づいてちょっと嬉しい感じもする。

 だけどカリオストロとプレラーティって元男なんだよね……とてもじゃないけど今の外見からは考えられない……

 

「今度これを食べに行きたいワケだ」

 

 そう言ってプレラーティが指をさした画面にはグルメ紹介サイトが写っていて、そこには一つのラーメン屋の名前と写真が載っていた。別にそういうの食べに行くのはいいんだけど……これ、ちょっと移動だけでもかなりの時間かかるんだけど。っていうか連れて行ったとしてもどうしたらいいの? プレラーティは人目がある場所だと物には触れないし。

 

「体を貸してほしいワケだ」

 

 嫌だよ。

 

「何故」

 

 何回それで悪戯されてきたと思ってるの?

 ゴスロリ服事件から始まってある時は訓練中に体を奪われて変な技を使われて後日筋肉痛になったり切ちゃんがお風呂に入っている最中にお風呂に突撃かましたり……まぁその時はナイスって思ったけど……まぁ、そうやって色々とわたしの体でやらかしているからどうしても体を貸したくない。最近は寝ている間に幽体離脱まで自在に出来るようになっちゃったし明らかに人じゃない物が見えるようになってきてちょっと怖くなってきたし。

 襲ってくるような悪霊はサンジェルマンさんが全部何故か持ってるラピス……ラピ……ラピなんとかの銃で追っ払ってくれているけど……あとは変な背後霊とかに憑かれそうになってたわたしと切ちゃんを初めとしたわたしの知り合いを助けてくれたし。けどプレラーティとカリオストロは何もしてくれないし。

 

「……サンジェルマンさんならいいけど」

「何故サンジェルマンだけなワケだ」

「日頃の行い」

「クソっ!! 何も言い返せないワケだ!!」

 

 自覚あるんならもう止めてよ、ホント。あなた達はわたしの温情でこうやって幽霊生活出来てるんだって自覚させてあげてもいいんだよ?

 

「結構怖い上に何も言い返せない脅迫なワケだ」

「まぁ調ちゃんには感謝してるけど? それと悪戯心は話が別なのよ」

「必殺、ソルトフィンガー」

「ああああああああああああああああああああああ!!?」

 

 取り敢えずカリオストロにはソルトフィンガー(塩を握った手でアイアンクロー)でお仕置きをしておく。カリオストロの体がビックンビックンしてて面白い。

 さて……でもどうしようかな。体貸すのはちょっと嫌なんだよね。貸している間とっても暇だし。体を貸した状態で何か食べるとわたしにもそれは感じられるんだけどなぁ……ただあっちから体の自由を奪い取ることは可能だけどこっちからは結構難しいんだよね。単純に霊体でのアレコレのやり方が分からないだけとも言えるんだけど。やっぱり四六時中霊体の二人にはちょっと敵わない。

 でもちゃんと体を返してくれる辺りこの人達が本当に悪人じゃないって事は分かる。それに、悪戯が全部わたしにとって悪い結果を生み出したって事もないし。

 

「……なら、お店に入ってからラーメンを食べてお店を出るまでは体を貸してあげる。ラーメンを食べる以外の事をしたらソルトフィンガーの後に簀巻きにして顔にお札貼ってお風呂場に放置する」

「それでいいワケだ」

「タスケテ……タスケテ……」

「何やかんやで甘いわね、貴女も」

 

 取り敢えずプレラーティだけじゃカリオストロから文句言われるかもしれないからカリオストロにもちょっとだけ貸してあげよう。カリオストロって服や小物選びのセンスが凄いいいから。

 ……ほんとにこの人達、元男? 生まれた時から女じゃないの?

 

 

****

 

 

 そんな訳で翌日。休みの日だから早速プレラーティの言ったラーメン屋に行くことにした。カリオストロには今度服を買いに行くときにわたしの代わりに服を選んでもらう事で手を打った。なんだかんだでわたしも体を貸す事に何も感じなくなってきたなぁ。

 取り敢えず朝ご飯を食べて暫くしてから出かける準備をしてから部屋を出る。既にプレラーティがウッキウッキなんだけど……まぁ気にしない。サンジェルマンさんも溜め息吐いてるし。

 

「あら、調。何処か出かけるの?」

「うん。ちょっとね」

 

 部屋を出てすぐに偶々来ていたマリアとすれ違った。何気に三人に憑かれてから初めて会うんだけど……うん、ずっと気にしていない、というかちょっと見たくなかったから三人にも出来る限り無視するように言っていたんだけどそろそろ現実を直視しよう。マリアに憑いている人をしっかりと見よう。

 

「月読さん、やっぱりパヴァリアの人達に憑かれてる……気づいてないのかな? っていうかパヴァリアの人達もわたしに気づいていない?」

 

 マリアの後ろをふよふよと浮いている存在。最後に見た時から全く変わっていない幽霊。

 まぁぶっちゃけるとセレナなんだけど。

 憑かれた影響か幽体離脱出来るようになった影響か知らないけどマリアに憑いているセレナが見えるようになった。朝マリアが来てからセレナが「あ、月読さんやっほー。まぁ気づいてないだろうけど」とか言ってくるからその時飲んでいたお茶を吹き出しそうになったよ。何とか耐えたけど。

 で、その後すぐに小声で三人に無視しておいてって言っておいたから三人とも意図的にセレナを無視してくれているけど。

 なんでそんな事をしたかって言ったら、取り敢えずセレナとは会話したかったけどマリアにわたしが虚空と話している可哀想な子に見られないため。あとセレナを驚かせたいから。

 

「じゃあ行ってくるね」

 

 そしてマリアの横をすれ違う前に三人と目配せしてなんだか偶然できてしまった秘儀を発動する。

 

「えぇ、行ってらっしゃい。気を付けるのよ?」

「わたしの仲間入りはしないでね……あれ? なんでわたし掴まれて……っていうか月読さんの手から透明な手が生えてる!?」

 

 これぞ秘儀、腕だけ幽体離脱。なんかちょっと前に無理矢理体を奪ってきそうだったカリオストロに対して抵抗していたら出来ちゃった腕だけの幽体離脱。これをやっている間、生身の腕に対する感覚がないし動かせないから腕がプランプランしてるけどマリアは特に気にしていない様子。

 そのままセレナを引っ張って玄関の外まで引っ張り出してから腕を気合で元に戻す。これやってる間腕が冷たいような生暖かいような変な感じになるからちょっと苦手なんだよね。

 

「ふぅ……」

「えっ、えっ、な、なにが……」

「セレナ、わたしに憑けない? 出来れば色々と話したいんだけど」

「つ、憑けない? って……っていうか月読さん、わたしが見えてるの!?」

「うん。多分そこの三人に憑かれた影響」

「どうも」

「そこの三人」

「なワケだ」

 

 あ、三人ともノリがいい。

 取り敢えず憑く対象の変更だけど、どうやら幽霊側は結構自由にできるらしくてカリオストロとかは切ちゃんに憑いたりして遊んでいた。けど憑かれたから見えるようになる、とかは無いらしくてやっぱりわたしみたいにちょっと特別な感じの子か霊感がかなり高い子じゃないと見たり体の貸し借りは無理みたい。

 それで三人が憑く対象の変更方法を教えてセレナは何とかわたしに憑く対象を変えることが出来た。

 で、ここからはサンジェルマンさんに体の自由権を奪ってもらって強制幽体離脱してから移動中にセレナと会話することにした。

 

「えっと、つまりこの三人に憑かれたから幽霊が見えたり体の貸し借りが出来るようになったって事?」

「うん。だから今日初めてセレナが見えた」

「へぇ。でもわたし嬉しいな。月読さんと久々に話ができて」

「わたしも、セレナとまた会えて嬉しい」

 

 二人でふわふわわたしの肉体の後ろを浮かびながら話す。別に生身で話してもいいんだけどそうすると完全にわたしが痛い子になっちゃうから。

 で、カリオストロとプレラーティに体を貸すと確実に何か余分なことをするから信用できるサンジェルマンさんに体を奪ってもらった。カリオストロとプレラーティがぶーぶー言ってたけど今度貸してあげるから黙ってて。

 

「ふぅん、あの子の妹さんねぇ。何年憑いているのかしら?」

「え、あ、七年前から、です」

「そんなに硬くならなくてもいいのよ? もうわたし達死んでいる者同士なんだし」

「死人仲間なワケだ」

 

 ふよふよとカリオストロとプレラーティがセレナに絡む。なんというか、この二人がセレナと絡むって意外性しかないというかなんというか……というか違和感だらけ?

 でも暫くするとカリオストロとプレラーティとセレナは結構仲が良くなっていた。

 

「それでマリア姉さんってば自分のあの宣言が動画サイトでMAD素材になってるの気にしてるみたいで」

「もっとこっそりやっておけば良かったワケだ」

「いやー、それはもう黒歴史確定ね」

「ネットでそれを見るたびわたしは腹筋が壊れそうになる」

「わたしも!」

「お前ら身内に容赦ないワケだ」

 

 いやー、だって面白く笑えるように編集してあるんだもん。マリアのアレとココ〇オドルを合わせたマリアオドルとかもあったけどゴリ押しもゴリ押しでついつい笑っちゃったし。それを見た切ちゃんもお腹抑えながら蹲って震えてたし。多分あれを翼さんでやってゴリ押ししてもわたし達は笑うと思う。

 止まらないマリアBBとかもう本当にゴリ押し過ぎて……

 

「おい、ちょっと気になるのが見えるんだが」

 

 とか色々と話してたらわたしの体で歩いているサンジェルマンさんが小さくわたしに声をかけてきた。

 え? 気になるものってなんですか?

 そう聞くとサンジェルマンさんは小さくわたしの前を指さした。あれは……エルフナイン? エルフナインが二人……?

 疲れてるのかな……なんかエルフナインの後ろに赤い服を着たエルフナインが浮いているように……ってあれエルフないんじゃなくてもしかしてキャロル!? キャロル、本当にエルフナインに憑いていたの!?

 

「あ、キャロルさんだ」

「え、セレナ知ってるの?」

「エルフナインさんに憑いてからね。なんやかんやあって仲良くなったの」

 

 まさかの知り合い。

 確かパヴァリア三人組はキャロルとは一度会ったことがあるんだっけ? だからサンジェルマンさんが気になるって言ったのかな? 取りあえずサンジェルマンさん、わたしの演技してエルフナインと話してくれますか?

 

「大丈夫だ。ちょっと違和感があるかもしれんがそこは勘弁してくれ」

 

 大丈夫です。その間にキャロルと話もしておくので。

 数回咳払いして声の調子をわたしの物と謙遜ない物にしてからサンジェルマンさんはエルフナインに近づいた。

 

「エルフナイン。こんな所にいるなんて珍しいね」

 

 おぉ、完璧にわたしの口調だ。そのままお願いします。

 

「あ、調さん。実は今日はお休みを頂いたんですよ」

「……なぁ、オレの目には見覚えのある居ちゃいけない三人と生身があるのに幽体になってるのが見えるんだが」

 

 並んでいるエルフナインとキャロルはエルフナインの今の体がキャロルの物だからか瓜二つにしか見えない。けど、キャロルは表情が強気というか眉が吊り上がっているというべきか。そんな感じだからまだ見分けはついている。

 で、目尻を抑えながら困惑しているキャロルににやにやと変な笑顔を浮かべながらプレラーティとカリオストロが絡む。

 

「気のせいじゃないわよ~、キャロル~?」

「ちょーっと顔を貸してほしいワケなんだが?」

「ひっ!? お、お前ら近づくな離れろそしてコイツはどうして幽体離脱していやがる!? というかこの肉体は誰が動かしてんだ答えろセレナァ!!」

 

 あ、ここはちょっとエルフナインっぽい。あとプレラーティとカリオストロはやってる事完全に悪役だから。

 取り敢えず二人に拳骨を落としてセレナに説明だけしてもらう。あと、サンジェルマンさんはエルフナインに違和感を抱かせないようにまだ話せている。やっぱりこの人すごい。

 

「……なるほど? つまりお前らはコイツに憑いていると。で、今コイツの体はサンジェルマンが憑依している状態で、セレナは一旦コイツに憑く対象を変えたと」

 

 キャロルはセレナに説明された事をしっかりと理解したらしくて何度か頷きながら今のわたし達の状況を把握した。お前ら滅茶苦茶な事やってるなおい。という声には心底同意しておく。

 ちなみにキャロルがエルフナインに憑いたのはエルフナインに自分の体を明け渡してからで、思い出は憑依した時に戻ってきたらしい。けど長らくわたし達と戦っていた間の口調だったからか口調は昔に戻さず今のままにしているらしい。

 

「……言っておくがこの間の事は謝らんぞ。オレはパパの復讐のために力を振るっただけだ」

「うん、分かってる」

 

 この間の事……つまりは魔法少女事変の事。

 あれは最後はキャロルの世界に対する、キャロルのパパさんにした仕打ちへの復讐と、それを止めようとするわたし達の戦いだった。要するに意地の張り合い。だから、それが過ぎた今、わたしから言うことは何もない。

 

「っていうか、お前も災難だな。寄りにもよってこいつ等に憑かれるとはな」

「まぁ、色々とあってね」

「そうか。まぁ、せめてこいつ等に体を横取りはされるなよ。そうなったらエルフナインが泣く」

「随分とエルフナイン思いなんだね」

「……ま、まぁ、今のアイツの体はオレのだしな。ちょっとは気を遣う」

 

 なんだか妹の事が大事だけど指摘されると顔を赤くして黙っちゃうお姉さんみたいで可愛い。

 

「じゃあ、ボクはちょっと行くところがあるので」

「うん、わかった」

 

 ここら辺でもうサンジェルマンも時間稼ぎが限界らしくこっちを見てきた。なら、そろそろキャロルとお別れしないと。

 まぁ、またエルフナインと会えばまた会えるし、お別れも気楽。

 

「じゃ、また会おうね」

「まぁ、どうせエルフナインと会えば会うことになる」

 

 やっぱりキャロルは素直じゃない。

 エルフナインとキャロルに手を振って別れる。

 でも、セレナがマリアに。キャロルがエルフナインに憑いていたって事は……もしかして、あの人も実は憑いていたり……

 

「ん? そこにいるのは月読か?」

 

 あ、翼さんだ。サンジェルマンさん、演技続行で。

 サンジェルマンさんが頷いたところでわたしは翼さんの方を振り向く。そして、やはりと言うかなんと言うか……

 

「あれ? なんで調は幽体離脱してんのに体が動いてんだ? ってか憑かれすぎじゃね?」

 

 幽霊の奏さん登場。うん、知ってた。

 今日三度目の説明を奏さんにしている間サンジェルマンさんには翼さんと話をしていてもらう。説明をしたところでなるほどなぁ、と奏さんが頷いた。というか、何気にわたしと奏さんって初対面だよね? なんだか初対面な感じしないけど。

 ちなみに説明の方は大体セレナがやってくれた。連れてきてよかった。

 

「ほーん。そんな事出来るのか」

「多分出来るのはわたしだけですけど」

「ならさ、今度アタシにも体貸してくれよ。翼のやつ、行くところが偏っててなぁ……」

「いいですけど……わたしの体で翼さんと会って変なことしないでくださいね? 絶対に後で面倒なことになりますから」

「分かってる分かってる。んじゃ、そろそろ翼も行くっぽいしまたな」

「はい、また」

「セレナも。またあいつ等のステージの後ろでダンスでもしようぜ」

「あー、いいですね。あれ結構楽しかったですから」

 

 えっなにそれ。

 

「今度風鳴さんとマリア姉さんのステージの動画見てみてください。多分わたし達映ってますから」

「二人で逆光のフリューゲル踊ってたりな」

 

 えっ、この人達幽霊生活楽しみすぎじゃない?

 そんな感じで翼さんwith奏さんは歩いて行った。

 

「こんな感じでよかったか?」

「はい、ありがとうございますサンジェルマンさん」

「憑かせてもらっているんだ。この程度なら構わない」

 

 そんな訳であとの道もサンジェルマンさんに歩いてもらってプレラーティの目的であるラーメン屋に着き、プレラーティは感想を一々口にしながらラーメンを美味しそうに完食した。その味はわたしにも分かったけど、プレラーティが凄い美味しそうに食レポするものだからカリオストロとセレナがわたしの体の取り合いになってわたしとサンジェルマンがそれを全力で止めたりっていう珍事件は起こったものの、まぁなんとかなった。

 ちなみに帰ってから。

 

「……ホントに奏さんとセレナが後ろで踊ってる」

「偶に気付く人がいるのも面白いんだよねぇ」

 

 ネットを見たら二人の後ろを踊っている幽霊が見えたとか言っている人がちょっとだけだけど本当にいた。なんというか……お茶目? なのかな? まぁセレナの知らない部分が知れたから良かったかも。

 あ、セレナはちゃんとマリアに返したよ? 今度体を貸してって言われたんだけど……わたし、一体何人の幽霊に体を貸せばいいの? まぁいいけど。




体を貸してしまうことに慣れてしまった調ちゃんでした

そしてキャロルが初登場&セレナ再び。今回はパソコンはフリーズしませんでした。あと私服なのか冬服なのか分からないけど新しいセレナの立ち絵可愛い。やっぱりギャグでキャラ崩壊しなきゃセレナは可愛いんやなって……

さて……次はどんな話を書こうかな……メイド調ちゃんも出たことだしメイドな調ちゃんでも書く? でも公式がやってるからなぁ……またひびしらでも書く? それともグラビティレズじゃない未来さん……?


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月読調の華麗なる性格七変化

――セレナ・カデンツァヴナ・イヴの日常2――

「Foooooo!!」
「どうしたのよセレナ」
「マリア姉さん、出番だよ出番ッ!!」
「えぇ、そうね。まさかメイドの直後に来るとはね」
「イノセント・シスター、メイドのメモリアに続いて怪盗ギア! これはもうわたしこそがシンフォギアXDの主役なのでは……?」
「シンフォギアの主人公は立花響ただ一人よ」
「でも響さんって未だに追加楽曲が……」
「やめてあげなさい。主人公だからトリを飾るつもりなのよ」
「だとしてもォ! わたしがまたまた主役なのには変わりない! わたしはこれからシンフォギアXDで優遇され続けて――」
「まぁ現時点(2/28 19:40)で来てる情報ってガチャだけだからセレナが主役のイベントなのかはまだ不明だけどね」
「えっ」
「っていうかもしかしたら初のイベント無しでただのガチャ実装って可能性も」
「い、いやいやそんな! XDモードの実装ならまだしも新ギアだよ!? 怪盗ギアだよ!?」
「まぁ三日位経ってからどうなるかが決まるわね」
「絶対に! 絶対に怪盗ギアはわたし主役のストーリーが展開される筈! 展開されないなんて真似、許される訳が――」

――完――



ヤンデレ生活と葬式だけ結構見られてる事に草を禁じ得ない私です。皆ヤンデレと銀魂好きだなおい。ヤンデレ生活は続き書こう物ならドロッドロするし葬式はネタ思いつかないから中々続き思いつかないけど

いやぁ、にしてもまさかの怪盗ギア……こんな急に新しいギアが来るとは思いませんでした。でもイベント告知が無いのがちょっと不気味ですね……果たしてイベントストーリーは来るのでしょうか。出来たら剛敵イベントがいいです。あと怪盗ギアのセレナくっそ可愛いんですけど

さてさて、今回は幼児退行と記憶喪失世界の話です。

つまり……はい、オチはいつものデス。

では逝ってみよう!!


 どうも、最近頭を打ちまくって記憶が飛んだり幼児退行したりと散々な目に合っている月読調です。切ちゃんの方がもっと悲惨な目にあってるとか言わないの。切ちゃん、やっとお尻が治ったんだから。

 それでエルフナインから色々と説明を受けたんだけど、なんでも幼児退行の時に頭のネジみたいなのが弱まったらしくてまた頭に強い衝撃を受けると何かしらの異変が発生するかもしれないから極力頭への衝撃は受けないように気を付けて、との事。だからランニングの時もちゃんとヘルメット被ったりしてるけど……前回のボールみたいな物は流石にどうしようもないと思うの。

 それに皆、わたしと模擬戦する時は特にわたしの頭に気を付けるようになったし。響さんとか構えた拳引っ込めたからね? まぁその後隙は狩らせてもらったけど。あと、切ちゃんはわたしに異変が起こると切れ痔になるっていうジンクスが本人の中で根付いたらしくて一番ビクビクしてる。わたしももう顔だけミイラになりたくないから極力避けるようにはしてるんだよ……?

 まぁそういう事もあったけどわたしはいつも通りです、はい。

 

「えっと、確かボウルは……」

 

 で、わたしはいつも通り晩ご飯の準備中。わたしはおさんどんだからこれも仕事の内。

 えっと、確かボウルはここら辺に……なんで背が低いのにこんな所に入れちゃったかなぁ。台がないと取れないかも……あ、手が届いた。よかった。

 よいしょ、よいしょ……あれ? なんかこのボウルちょっと重い? 内側に何か入れてたっけ……まぁいいや。取り敢えず力任せにボウルを抜き取……えっ。

 

「ちょ、ここにフライパン入れたの誰――いっだぁ!!」

「へ?」

 

 あぁ、何でか上の棚に入っていたフライパンが落ちてきてわたしの頭に……

 ……あ、そういえば何時も仕舞う場所が一杯一杯だったからここに適当に入れておいたのわたしだった……がくっ。

 

「ひぃっ!? 調の頭にフライパンが刺さってるデェェェス!!?」

 

 

****

 

 

 まただよ。

 もうさ、ホントにこいつの頭はお祓いしてもらった方がいいってアタシは思うんだ。じゃないとその内死ぬぞこいつ。

 あいつから連絡を貰った瞬間に思ったのは、あぁまたか。っていう言葉だけだった。一度目は冷や汗掻いた。二回目は心配した。だけど三回目はもうあぁまたか。いや、確かに心配ではあるが……まぁ三度目だしなぁ。こいつが頭打って倒れんの。しかも一回目に割食ったのアタシだし。何が悲しくてイグナイトでXDに挑まなきゃならねぇんだよ。マジであの時は死ぬかと思ったぞ。

 あぁ、話がそれた。で、だ。今回で三回目の頭打って気絶な訳だが。二度あることは三度あるとも言うし三度目の正直とも言うし。さて今回は一体全体どんな異変が起こったんだってちょっと興味本位で来てみたんだが……

 

「く、クリス先輩……?」

「あぁ?」

「ひぃっ!?」

「あぁもうこんぐらいでビビんな鬱陶しい!!」

「ご、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいぃ!!」

 

 ……まぁ、こんな感じだ。

 簡単に言っちまえば、性格が変わった。今までは何というか……物静かで若干天然の入った感じだったが、今は弱気でビビりで……簡単に言っちまえば臆病な感じになった。まぁ幼児退行と記憶喪失に比べりゃまだマシではあるが。

 けど、いっつもどちらかと言えばツリ目なこいつがタレ目で涙目なのはちょっと新鮮だな。リラックスしている時は目尻が下がってるがそれ以外の時は大体吊り上がってる……吊り上がってる? まぁなんというかクールな感じの目になってるからな。なんだか可愛いっていうイメージが先行する感じになったように見える。

 ほれ、うりうり。おー、頬が伸びる伸びる。

 で、だ。エルフナインが言うには頭の中身のほうは今まで通り時間経過かまた頭を打てば戻るかもしれないって話だが、問題は外傷の方だった。前回前々回は確かに重症レベルだったがちゃんとした処置をしたら軽傷にまでなった。が、今回は頭にフライパンがぶっ刺さってたらしい。

 そう、刺さってた。なんか全力で引き抜こうとしても引き抜けないくらいだったらしく、ここに運ばれてようやく引き抜けたらしい。だから、もしまた頭に何か当たったら今度こそマズいかも、だとか。まぁ、頭を打つこと自体あまり体にはよくないからな。自然治癒するのを待つっきゃねぇって事だ。

 

「クリスちゃん、そろそろ調ちゃんのほっぺたが赤くなってるから」

「あ、わりぃ。予想以上にもちもちだったからな」

「うぅ……」

 

 変に勝気な性格だったりこの馬鹿みたいな性格になられるよりはいいな。後は……フィーネみたいな露出狂か。いや、あれは性格じゃなくて性癖か? ドSの露出狂。

 どっちかと言ったらエルフナインみたいな性格になってるしまだ扱いやすいというか気楽というか。これなら元に戻った後でもあまり大差はないだろうしこいつ自身へのダメージも少ないだろうとは思う。さて、今まではこの馬鹿の畳返しの破片で頭打って元に戻ったりこの馬鹿がぶっ飛ばしてビルに頭から生やしたりしたから戻ったが……ん? もしかして頭を叩いたらポンッと治ったりしないか?

 ……やべ、ちょっとやってみてぇ。

 

「……えいっ」

「あうっ」

「ちょ!? 何してんのクリスちゃん!?」

 

 いや、ちょっと頭を叩いたらどうなるのか気になってな。わりぃわりぃ。ちょっとしたお茶目だからガンつけんな普通に怖い。

 で、こいつはどうなっ……

 

「もう、何するんですかクリス先輩! 痛いじゃないですかぁ!!」

「お、おう?」

 

 おっと、さっきと様子が……

 あ、もしかしてこれ……

 

「いきなり叩くなんて酷いですよクリス先輩!」

「そうだよクリスちゃん!」

「あっこれ馬鹿が増えたわ」

 

 間違いない。今のこいつ、この馬鹿と同じ感じがする。多分根っこは変わらないんだろうけど性格が馬鹿と同じ感じで陽気……? というかアホっぽい? 感じだな。

 やべっ、どうしよ。いつもツッコミに回ってるからちょっとボケてみようとか思ったらなんか取り返しのつかない事になってね? エルフナインが来たら説教コースじゃねえのこれ? 今エルフナインはあいつと研究室でなんか色々やってるから居ないけど、戻ってきたら二人に説教されるよなこれ。

 

「いたたた……クリス先輩のチョップが丁度フライパンが当たったところに……」

「そりゃ悪かった……」

「別にいいですよ。わたしとクリス先輩の仲じゃないですか」

「お、おう……」

 

 けど、根っこがこいつのままで性格がこの馬鹿になっただけだから……あれ? ただちょっと陽気になっただけじゃねこれ。むしろなんか人当たりよくなってねこれ。

 ……でも調子狂うなぁ。もう一回やったら戻ったりしねぇかこれ。

 

「えいっ」

「いたっ」

 

 さて、どうだ。

 

「んだよクリス先輩。いきなり人の頭叩きまくってよぉ……」

「あ、これアタシだ」

 

 間違いねぇわ。叩いたらあの馬鹿からアタシに変わりやがった。え? なんなんだこれ。ガチャなのか? 性格ガチャなのか? あの馬鹿はころっころ性格が変わるこいつに目を白黒させて思考停止してるし。

 けど、分かることが一個だけある。これ、状況悪化してるわ。っていうか前みたいに頭に衝撃を与えただけじゃ治んねぇやつだろこれ。あとこいつがなんかアタシの口調で話してるの違和感ありすぎてヤバいわ。いっつもクール系なのに今はアタシみたいな性格ってこれ違和感が絨毯爆撃してるみてぇだわ。

 

「ん? どうしたんだよ響さん。鳩が豆鉄砲を食ったような顔してんぞ」

「え? あ、いや、別に……」

「なんで響さんが困惑してんだ? っていうかクリス先輩はわたしの頭に敵意でも持ってんのか?」

「いや、そういう訳じゃねぇけどよ……っていうかお前自分で違和感とか感じねぇの?」

「違和感? 別に何もねぇけど……」

 

 え? マジで?

 よく分かんねぇがこれ、本人に自覚ねぇのか……なんかさっきからアタシの携帯がめっちゃ震えてんだが……これ、エルフナインからのじゃないよな? だったら説教不可避だぞおい。

 取り敢えず戻れって念を込めてもう一回。

 

「ぐっ……どうしたのだクリス先輩。さっきから様子が……」

 

 あ、やべこれ先輩だ。

 取り敢えずこのまま叩いておけばワンチャン元に戻るんじゃ……?

 よし、性格ガチャの開幕だ!

 

「次っ」

「あぐっ……クリス先輩、一体どうしたのよ。そろそろ頭が痛くてたまらないのだけど……」

「次っ!」

「あだっ!? およよ……クリス先輩が暴走してるデス……」

「それお前の相方だろ次ィ!」

「いっだ!? …………響、響……はぁはぁ……」

「グラビティレズが乗り移ってんじゃねぇか次ィ!!」

「いだっ!? ひぃっ!?」

 

 あ、駄目だ一周した。っていうかこれ全部身内の性格になってるだけじゃねぇか。

 最初はエルフナイン、次に馬鹿、次にアタシ、次に先輩、次にマリア、そしてあいつとグラビティレズ。それで一周。これでこいつの元の性格が出てこないってどういう事だよ。なんだ、もう元の性格はどこかへ消え去ったのか?

 ……どうすんだこれ。性格ガチャに当たり含まれてねぇんだど。これ訴訟からの返金案件だろ。いや、金払ってねぇけど。

 でもこれで元に戻ったからどうにかこうにかアタシへの説教は回避できたな。エルフナインの説教ってすっごくなげぇから嫌なんだよな。でも、これで回避完了。

 完了したが……はてさてどうするべきか。オイ馬鹿、なんか案ねぇか? それともこのままエルフナインに任せるか?

 

「え?」

 

 いや、えっじゃなくて。何スマホ弄ってんだよ。

 そういえばさっきからアタシのスマホも震えてたな。そろそろ確認だけでもしておくか。

 えっと、どれどれ……え゛っ。

 

「……なぁ、馬鹿。お前、装者全員のグループでこいつの頭を叩くと性格七変化の事話したのか?」

「うん、そだけど?」

「……マリア、忘れてんだろ?」

「あっ……あぁ!!?」

 

 馬鹿がやっちまった的な表情を浮かべる。

 そう、この馬鹿、アタシが頭叩いてこいつの性格七変化させているのを装者全員+グラビティレズ+エルフナインのグループで発言しやがった。そのせいでさっきからエルフナインからの文面から怒りが伝わってくる分が送られてきてんのと、マリアからさ……マリアからさぁ!!

 あのマリアからアタシ個人に対して『殺』って文字が何度も何度も送られてきてんだよ!! こえぇよ! こえぇよ!!

 この馬鹿ッ! いやーごめんごめんじゃねぇよ! テメェまたマリア・カデン粒子砲に呑み込まれてみるかアァン!!? またあの銀色の光に呑み込まれてみるかァ!?

 クッソ、アタシはそんなんごめんだ! またXDに対してイグナイトで挑むなんて真似したくねぇしもうイグナイトねぇし!! アゾースだからまだ楽だろうかそもそもXDを相手にしたくねぇんだよ!!

 こんな所に居られるか! アタシは部屋に帰るぞ!!

 

「雪音クリスゥッ!!」

 

 あ、やべっ! もう来やがった!!

 いや、でも声が聞こえるだけでマリアの姿が何処にも……はっ、まさか!

 

「上かッ!!」

「DESPAIR†BREAKッ!!」

「killter ichaival tron!!」

 

 上から天井を破壊して降ってきたマリアを避けながらアタシは聖詠を口にしてイチイバルを纏う。っていうかその技……初っ端からXDモードかよッ!! しかも今回馬鹿が避けられずにぶっ飛んでいるからまたアタシ一人かよ!!

 

「いだぁっ!?」

「いっだぁ!!?」

 

 とか思ってたらあの馬鹿がベッドの上でおろおろしていたアイツと頭で玉突き事故して二人とも気絶しやがった!! あぁもう滅茶苦茶過ぎて訳わかんねぇ!!

 取り敢えずアタシは常にイグナイトと変わらない状態ではあるアゾースギアでXDモードのマリアを相手にしなきゃならねぇ……いや、これはオッサンを呼んできたほうがいいか? オッサンならXDモードだろうが拳一つで鎮圧出来るし……っていうかあの馬鹿がやらかさなきゃこんな苦労しなくてもよかったじゃねぇか! くそ、あの馬鹿には今度飯奢らせる!!

 

「よくも調に手を出したわね? 雪音クリス……!」

「歌姫様がちょっせぇ事言ってんじゃねぇぞ!!」

 

 くらえ、挨拶無用のガトリング!!

 

「甘いッ!」

 

 駄目だ、全部切り払われ……はぁ!?

 いやいや待て待て可笑しいだろ!? こっちはガトリングだぞ!? それを長剣一つで全部切り払いやがった!

 くそっ、やっぱ厳しいぞオイッ!!

 

「ちょ、何事ですか!?」

「調、無事デスか!?」

 

 とか思ってたらエルフナイン達が来やがった! 馬鹿、今ここは危ないからとっととオッサンを……

 

「雪音クリスゥ!」

「チィッ!」

 

 叫ぶ前にマリアがブン投げてきた長剣を弾く。そして弾かれた剣はそのまま色んな場所に当たって跳ね返って……

 

「ちょ、何であたしの方に…………アッーーーーーーーーーーーーーー!!?」

「切歌さん!!?」

 

 あいつの尻にィ!?

 またあいつ切れ痔かよ!

 

「およよ……なんであたしのお尻はいっつもこう……」

「き、切歌さんのお尻がまた……うわぁ、今度は結構奥のほうまで刺さって……えいっ」

「はうっ!? って抜いちゃ駄目デスよぉ! お尻から血が噴水みたいに……」

 

 漫才やってる場合か!!

 

「取り敢えずオッサン呼んできてくれ! アタシがマリアを食い止める!!」

「逃がさないわよ、二本目ェ!!」

「ちょっせぇ!!」

「あ、また跳ね返って……アッーーーーーーーーーーーーーーーー!!?」

「またまた切歌さんのお尻に長剣が!!」

「タスケテ……タスケテ……」

 

 行くぞマリアァ! ツッコミ不足過ぎてもう色々とカオスだがマリアは取り敢えずここで足止めするッ!!

 

「三本目ェ!!」

「甘いッ!!」

「あれ、なんか跳ね返ってボクの方にアッーーーーーーーー!?」

「え、エルフナイィィィィィン!!?」

 

 

****

 

 

 ……死ぬかと思った。

 結局マリアはオッサンの拳骨で沈んだ。アタシは今回は負けて見事にビームで焼かれた。あいつは今までで最高に傷が深い切れ痔になった。そしてエルフナインまで切れ痔になった。泣いてた。

 んでもって今回の騒動の原因&馬鹿は頭を打ったもののなんともなかった。というか治った。馬鹿も特に何の異常も無かった。

 いや、原因って言い方もアレだけどさ……あいつも別に悪気があってこんな事しているわけじゃないんだし。馬鹿があのグループでメッセージ送信しちまったせいだし。

 

「……切歌さん」

「……なんデス?」

「これからは調さんはもう病院に連れて行ってください。ボク、また切れ痔になりたくないので」

「あたしも病院に連れて行ってから遠くに逃げる事にするデス」

 

 そうしてくれ。割とマジで。割食ってんのアタシ等三人なんだから……




【悲報】エルフナインのケツにも刺さる【切れ痔同盟】

もう最後らへん結構ノリに任せて色々とヤりました。ちなみにビームに焼かれた後のクリスちゃんはアフロ。そしてマリアは今頃どっかに吊るされてます。調ちゃんは空気。いつものこと。

もう頭を打った時のお約束は思いつかないので多分この話は続きません。お約束を思いついたらまた続きます。

……あ、狼狽えるなのノルマ達成出来てない。


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月読調の華麗なる雪祭り

最初に言っておく

後悔も反省もしていない


 つい昨日のこと。

 わたし達の住む場所では雪が降った。それは豪雪も豪雪で交通機関もマヒしちゃうほどで、冬休み真っ只中のわたしをお部屋の炬燵に封印するには持って来いな天気だった。切ちゃんは呑気に積もるといいデス、なんて言ってるけどわたしの心は憂鬱だった。だって明日お買い物に行こうとしたのにこんな雪が降ったら絶対にお買い物に行くの疲れるし面倒だから。

 溜め息を吐きながら風鳴司令から送られてきたおミカンを食べる。炬燵と言ったらミカンだろう! って言いながら送ってくれたミカンだけど、これすっごい美味しい。コタツムリ化がはかどるはかどる……

 まぁそんな訳で昨日は結構な雪が降った。そして翌日。つまりは今日、わたしの予想通りに雪がものすごい積もった。一メートル、とかじゃないけど三十センチ? 十分な量降った雪に大人の人たちは溜め息、子供ははしゃぐ。その中間はどっちかな感じ。で、わたしは溜め息を吐く方だったんだけど……

 

「それじゃあ、第一回! 『ドキッ! 装者だらけのチキチキ雪祭り! ポロリは無いよ』を開始しますッ!!」

 

 えーっと、はい。切ちゃんに朝っぱらから叩き起こされて無理矢理着替えさせられて外に連れ出された結果、既に集まっていた響さんを初めとした装者組とグレ響さん含めた平行世界装者組、それからエルフナインがわたし達が来たのを確認して、そんな事を宣言した。ちなみに宣言は響さん。

 いや、その、わたし家で引きこもっていたいんですけど。寒いし。

 

「諦めろ」

 

 あ、クリス先輩どうも。クリス先輩も響さんに叩き起こされてここに連れてこられたんですか? それはまぁ……ご愁傷さまです。

 ちなみにこの中はいつも通りの人が大多数だけどわたし、クリス先輩、グレ響さんがかなり不機嫌。というか乗り気じゃない。わたしとクリス先輩は言わずもがな、寝ている所を叩き起こされてこんな所に連れてこられたから。で、グレ響さんはクリス先輩を呼びに行くついでに平行世界に行って未来さんが攫ってきたらしい。あっちでは雪が降っていなかったらしくて雪が積もっている外に出るには軽装とも言える服装にマフラーと手袋を着けただけの状態だ。

 

「……キレそう」

 

 あ、はい。心中お察しします。

 でも逃げようとしても未来さんからは逃げられないので諦めているご様子。

 はぁ……寒い。おこたに入ってこたつむりしていたい。あとグレ響さんはひっきりなしに帰りたいって呟いている。あ、わたし結構厚着してきたのでコート使います? え、胸の部分がキツイから無理?

 もげろ。もげてしまえその胸部装甲。

 

「ではルール説明! 今回の大会はより完成度の高い雪像を作ったチームの勝利となります! チームは一チームだけ三人でそれ以外は二人の計五チームで争います! 作ったものを師匠達に見せて一番評価が高かったチームの勝利! ちなみに妨害もギアの使用もあり!!」

 

 それ絶対にエルフナインが割を食う……あっ、なんかエルフナインが凶悪な兵器持ってる。よく分からないけど絶対に火炎放射器とかそこら辺の街中で使っちゃいけないであろう兵器を持ってる。

 ちなみにここはSONGの敷地内だから装者が全力で暴れても問題ありません。なんて権力の無駄使い……

 まぁそんな無駄使いによって開催される雪祭りはどうやらスポンサー的なのが居るらしくて優勝者には風鳴司令オススメのDVD十本セットを進呈だとか。

 ……ごめんなさい、あまり魅力を感じません。それはクリス先輩とグレ響さんも同じみたいです。

 

「では制限時間は三時間!!」

「長いです響さん」

「ではチーム決め開始! 制限時間は五分!」

「いや聞いてくださいってば」

 

 駄目だ聞いちゃくれない。

 はぁ……どうします、クリス先輩、グレ響さん。

 

「どうするも何も……適当にやるしかなくねぇか?」

「同感……早く帰りたい」

「じゃあわたし達で組んで適当にやりましょう。わたしも寒くて……」

 

 そういう訳でわたし達三人が組むことになった。ここには計十一人居るから唯一の三人チーム。

 で、決まったチームはまず響さん&未来さんの黄金ペア。次に翼さんと奏さんのツヴァイウイングペア。もう雪像作らないで歌っててください。サイリウム振らせてください。で、次はマリア&セレナの姉妹ペア。セレナが何かやらかす気がしてならない。で、最後に切ちゃん&エルフナインペア。まぁ言っちゃなんだけど余り物? 本当はグレ響さんが響さんと未来さんの所に行ってわたしと切ちゃん、クリス先輩とエルフナインが一番しっくり来るんだろうけど……まぁ、わたし、クリス先輩、グレ響さんで組んじゃったし仕方ない。

 そういう訳でひびみく、ツヴァイウイング、カデンツァヴナ姉妹、特攻野郎A(余り物)チーム、やる気ない勢って感じで組むことになりました。いや、切ちゃんとエルフナイン、チーム名どうにかならなかったの? っていうか余り物の自覚あり?

 

「では開始ィ!」

 

 そんな響さんの声で皆が一斉に雪像を作り始める。

 で、わたし達はだけど。

 

「どーします?」

「雪だるま作って後は暇してようぜ」

「賛成」

 

 と、いう訳でわたし達は大きめの雪だるまを作ってお茶を濁すことにした。

 まぁサクサクっと雪だるまを作るところを一応お届け。

 まず動くのはグレ響さん。ガングニールを纏って適当な雪をこねくり回してから球体を作る。

 で、次はわたし。雪の上だと通常のギアじゃちょっと動きにくいからクリスマス型のギアを纏って電鋸片手にきゅいいいいん。荒かった形を完全な球体にする。こういう細かい作業は得意。っていうかクリスマス型のギアあったかいからこのままギア纏っておこう。え? グレ響さんもクリスマス型になりたい? えっと、これは心象が関係してまして……あ、出来ました? 流石です。

 で、最後にクリス先輩。

 

「なんかアタシだけやってる事簡単だな……」

 

 出来上がった二つの球体をミサイルで上手い具合に持ち上げてから落としてドッキング。そして両手にガトリング持たせて顔をわたしのルンバ……じゃなくてヨーヨーで適当に掘ったりして作ればはい完成。巨大雪だるまクリス先輩風味。

 三人ともクリスマス型のギアを纏って温かくなりながら一番普通のコスプレっぽいわたしが適当に出歩いて自販機であったかい物買ってきてから座っている二人にも渡す。

 あー美味しい。

 ……なんか予想以上に簡単に出来ちゃったな。もうちょっと時間かかるかなぁって思ってたんだけど……やっぱギアを使うとこうなっちゃうかぁ。あとこんな簡単にこういう事出来るのは……風鳴司令とかかな?

 まぁ早めに終わってよかった。クリスマスギアもあったかいし後は雑談して待つだけ……でもいいんだけど、やっぱり他のペアが何してるのかは気になる。野次馬根性とも言うけど妨害ありって言ってたし妨害と称して見学しに行く程度いいよね?

 

「ちょっと他のペア見てきますね」

「あ、アタシも行くわ。暇だし」

「わたしも。存外暇」

 

 えっと、じゃあまずはツヴァイウイングのお二人から。

 翼さんってそういうの不得意そうなイメージあるけど……出来ているのかな? 奏さんはなんでもそつなくこなす感じがするから特に何も感じないけど。

 で、やってきまいたツヴァイウイングブース。

 

「ん? 月読達じゃないか。どうしたんだ?」

「煽りに来たっすよ、先輩」

「そうか。まぁゆっくりと見ていくといい」

 

 そう言ってクリスマスギアの翼さんは自慢げに今作っている雪像を見せてきた。

 おぉ、二人が作っているのは鳥の雪像。それも、まだ作り始めて一時間も経っていないのに中々完成度が高い。ツヴァイウイングだから羽の生えた物を作ろうとしたのかな?

 翼さんが大雑把に雪を固めた物を剣で削ってから奏さんが器用に槍を使って細かい部分を整えている。時々槍をドリルみたいに回転させてから削ったりもしているからかなり表面も綺麗で素直に凄いとしか言いようがない。グレ響さんも小さく凄いって呟いているし。

 なんというか、やっぱりツヴァイウイングは凄いなぁって。

 

「じゃ、アタシ等他のペア見てくるんで」

「そうか。ちなみに雪音のはどれだ?」

「あの雪だるまッス」

「おぉ、あれか。なんだ、可愛いじゃないか」

「っつかデケェなおい」

 

 うん。それは同感。だってあの雪だるま、全長十メートル近くはあるから。

 パワーは装者一の響さんに負けないグレ響さん、カットと削りはお任せありのわたし、装飾品は任せろなクリス先輩だからついついあれだけ大きいの作っちゃった。

 まぁそういう訳でわたし達は次のペア……マリアとセレナの元へ。

 なんかセレナから嫌な予感したんだよね……なんかこう、明らかにやっちゃいけないものをやってしまいそうな……

 いつもはマリアがストッパーになるけどセレナが絡んだ瞬間にマリアってポンコツを超えたシスコンにジョブチェンジするからなぁ……とっても心配。それはクリス先輩も同じようで顔色が渋い。対してグレ響さんはセレナとはあまり話したことがないから首を傾げている。

 はてさて、一体マリアとセレナはどうなって……

 

「マリア姉さん、そっちの玉もうちょっと離して」

「こうかしら?」

「うん、そうそう。後はこの棒を真ん中に置いて……」

 

 えっ。

 えっ……と。

 その、えっと、あの……あれって……あの、アレ? アレだよね?

 お、男の人の……その……

 

「五期飛ぶゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!」

 

 な、ナイスシュートですクリス先輩! クリス先輩が玉を一つ蹴っ飛ばしてくれないとR-18というか放送禁止というか色々とマズい事態になっていました!!

 っていうか五期ってなに。

 

「く、クリス!? 一体何を……」

「それはこっちのセリフだ! お前等ナニ作ってんの!? 何でナニ作ってんだよ頭湧いてんの!!?」

「雪音さん、これはナニじゃなくてネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲だよ」

「んな兵器あるかボケェッ!! なに公共の場でチ(ピー)コ作ってんの!? 馬鹿なの!? 何なの!? 死ぬのお前ら!!?」

「狼狽えるなッ! クリス、これはネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲よ。チ(ピー)コじゃないわ」

「だからんな兵器見たことも聞いたこともねえんだよ!! っつか名前にアームストロングが二回入っている卑猥で猥褻物の権化みたいな大砲なんて知らんわボケ共ッ!!」

 

 なんというか……予想が当たったよ……

 っていうか何なの、ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲って……もう訳わかんないよ。あとグレ響さんが予想以上にピュアだったのか顔真っ赤にして固まってる。わたしも多分顔真っ赤だろうけど……

 セレナってばどこでこんな知識を……っていうかなんでこんなの作ろうとしたの。あとマリアはせめてこういう時くらいは働いてよ。ドヤ顔して放送禁止用語言わずに妹止めてよ二十一歳。あとクリス先輩もあまり放送禁止用語連呼しないでください……聞いてるこっちが恥ずかしいです。ってセレナがさっき蹴っ飛ばした玉をまた作ってきた。もう勘弁してよ。

 

「おいおい、なにしてんだお前ら」

 

 あ、奏さん!?

 よ、よかった。奏さんならこの姉妹に何かしらの……

 

「おっ、ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲じゃねぇか。完成度たけーなオイ」

「奏さんんんんんんんんん!!?」

 

 なんで奏さんまでふざけるの!? なんなの、この姉妹と打ち合わせでもしてたの? なんで普段ストッパーになりそうな人が笑顔でボケに回ってんの!? ほらグレ響さんがあり得ないものを見た感じの目で固まってるから!!

 

「ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲……かつて江戸城の天守閣を吹き飛ばした黒船が積んできたと言われる悪夢の兵器。まさかそれの雪像を作るとはな」

「え、何? わたし達の国、あんなくだらない猥褻物で開国させられたんですか?」

 

 あんなので開国する国なんて滅んでしまえばいいのに……

 っていうか本当に何なの、ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲って。もしかしてわたし達の世界には存在しないだけで奏さん達の世界には存在してるの? あの卑猥大砲。

 そんな世界滅んでしまえばいいのに……っていうかもっとツッコミを……まともな人をくださいお願いします。この姉妹もこの人ももう手遅れなんです……

 

「奏、どうしたんだ。何か気になるものでもあったか?」

 

 つ、翼さん!

 翼さんならあの姉妹に制裁の鉄槌を……

 

「ん? これはネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲ではないか。完成度たけーなオイ」

 

 ちょっとこの人平行世界にぶちこんできていいですか!!?

 

「別名「走る雷」。バルカン半島の悪夢である火の七日間を引き起こした後それを拡大させた悪魔の兵器だ」

 

 もうバルカン半島滅んじゃえよ。っていうかさっきと話違うし。

 え? わたし達が知らないだけでネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲って実在するの? 歴史の教科書にもそんな事一切書かれてないんだけど?

 駄目だこのツヴァイウイング……もう手遅れだ……

 

「なんだかこっちは楽しそうですね」

「なにかあったデス?」

 

 あ、エルフナインと切ちゃんまで……

 いや、でもわたし達の中では常識人枠に入るエルフナインと自称だけど常識人の切ちゃんならこれを見てわたし達と同じような事に……

 

「あ、ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲ですね。完成度たけーなオイ」

「本当にネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲デス。完成度たけーなオイ」

「完成度高くねぇよ!! お前ら雪に埋もれて死んじゃえばーか!! ばーか!!」

 

 はっ、つい口が悪く……

 っていうか何で二人とも知ってるの。なんでそんな覚えていられるの。ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲なんて。

 それに切ちゃんは何処でそんな知識身に着けたの。わたし今まで生きてきて一回も聞いたことないんだけど、ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲なんて。

 

「ムー大陸が沈む際に共に封印された禁忌の兵器ですね」

「そして、惑星アハトと惑星ベイトの戦争中、惑星ベイトの勝利に貢献したメリッサ砲とは裏腹に倉庫に埋もれて時代の陰に消えていった悲しい大砲デス」

 

 知らないよそんな話! っていうか何で禁忌の兵器が宇宙戦争で倉庫に埋もれてるの!? っていうか宇宙とか出てきた時点でもう創作じゃん! もう訳分かんないよ!!

 なにこれ、もしかしてわたし達が異常なの? この卑猥物を卑猥物として認識しちゃったわたし達の方が異常なの?

 いや、そんな事はない。装者きっての常識人であるわたしとグレてるけど響さんよりは常識人よりなグレ響さんがこっち側なんだ。だからわたしが異常なんじゃない! クリス先輩もさっきからあのアホ姉妹と口喧嘩してるしそうに違いない!!

 でも、あとこの場でこの異常に気が付いてくれそうな人は未来さんと響さんだけ……どうしよう、割と絶望しか感じない。

 

「皆集まって何してるの?」

 

 とか思ってたら未来さんが来た。

 み、未来さんは普段グラビティレズだけどこっち側ですよね? ですよね?

 

「あ、ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲じゃない。完成度たけーなオイ」

 

 ガッデム。

 

「旧日本軍の抵抗に嫌気がさしたアメリカ軍が日本軍を蹴散らすために秘密裏に開発していた最強最悪の兵器ね。それをこんな完成度高く作るなんて」

 

 知らねーよそんな話。

 もう頭痛くなってきた……クリス先輩、もう変にツッコムの止めましょう。この人達後で風鳴司令に怒られればいいんですよ。

 

「それもそうか……」

 

 なんというか……もう今日だけで一年分疲れた気がする……

 ほら、グレ響さん。いつまでも驚きで硬直しないでください。

 

「ちなみに切歌ちゃん達は何作ってるの?」

「あたし達ですか? あたし達はあの……」

 

 そう言って切ちゃんが指さした方にはなんか立ってた。

 そう、立ってた。

 片足で、両手を左右に広げて空を仰いだ状態で、なんか見たことのある……というか今現在わたしの隣にいる人が雪像になってあそこで……

 

「クリス先輩の裸婦雪像デス」

「挨拶無用のガトリングううぅぅぅぅぅぅッ!!」

 

 立っていたのはクリス先輩の裸婦像だった。それもポーズは何故か片足立ちして空を仰いだ状態で両手を広げているポーズ。しかも顔は何かを悟ったような感じで神々しいというか何というか。

 しかも胸も下半身も完全再現しているのかあれに色を塗ったらそっくりそのままクリス先輩になるレベルで凄い出来だった。だったけど……まぁそんなものをクリス先輩が許すわけもなくギアを纏ったままだからガトリングを召喚してそのまま乱射。明らかに五メートル以上はあったであろう雪像をガトリングで粉砕した。

 

「あぁ、クリス先輩がの裸婦像が!!?」

「ぶっ殺すぞテメェ!!?」

 

 うん、これはキレても仕方ないよ。わたしも同じことされたら流石に問答無用で雪像粉砕するから。

 顔を赤くしてエルフナインと切ちゃんにガトリングを突きつけるクリス先輩。対して二人はにやにやしたまま両手を上げるだけ。あの二人、絶対に反省していない。

 

「あ、二人も裸婦像なんだ」

「え? 未来さん、もって……」

「わたしも同じような感じなの」

 

 そう言って未来さんは自分の陣営の方を指さした。そこには……

 

「響とあっちの響の裸婦雪像」

 

 あのクリス先輩の裸婦像と同じような格好をした響さんとグレ響さんの裸婦像が……

 

「最速で最短に真っすぐに一直線にぶっ壊すぅぅぅぅぅぅぅ!!」

「させない! 閃光ッ!」

「ぎゃああああああああああ!!?」

「グレ響さぁぁぁぁぁぁぁん!!」

 

 いつものスクラップフィストでぶっ飛んでいった響さんが迎撃された!!

 あとよく見れば響さんが縛られて猿轡噛まされた状態で転がされている……多分あれ、未来さんが一人で制作したんだろうなぁ。呆れるというべきかなんというべきか……

 

「マリア姉さん、今こそが妨害の時だよ!」

「えぇ、分かっているわ。くらいなさい、ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲をッ!!」

 

 とか思ってたらアホ姉妹が動いた!?

 セレナが玉を二つ持って響さんの裸婦像へ突撃。マリアが棒を持ってグレ響さんの裸婦像へ突撃。未来さんが反応する暇なく動いた二人はそのまままんまと響さん達の裸婦像の前に出る。

 

「ハァっ!!」

「卑猥な物で壊される裸婦像をそのまま見守るといいわ!!」

 

 マリア、今自分達の作ったものを卑猥だって認めたよね!? さっきまで認めていなかったのに認めたよね!?

 アホ姉妹はそのまま裸婦像へ玉二つと棒をぶつけて裸婦像を破壊。そのまま裸婦像二つは地面に落ちて砕けて散った。それを見ていた響さんとグレ響さんはよしっ、と頷き、未来さんは……ひえっ。

 滅茶苦茶怖い。殺意に満ち溢れている。

 

「ブッ血KILL」

 

 そのまま始まるアホ姉妹とグラビティレズの戦闘。そして……

 

「どさくさに紛れて汚物は消毒です!!」

「あっ、アタシ等の最高傑作が!?」

「流石に許さぬぞエルフナインッ!!」

「もうあたし等に失う物など何もないのデス!!」

 

 どさくさに紛れて始まる特攻野郎AチームVS怒れるツヴァイウイングのバトル。

 あーもう滅茶苦茶だよ。

 

「……帰るか」

「そですね」

「帰っておこた入りたい……」

「あ、わたしの部屋に来ます? ありますよ」

「行く」

「ならアタシも」

 

 そして結局わたし達はこれ以上付き合っていられないので三人でわたしの部屋に来ておこたに入ってのんびりと一日を過ごしました。

 ちなみに、その後全員共倒れしたらしくて唯一残っていたわたし達の雪像が優勝。そのまま風鳴司令のおすすめ映画DVD十本はわたし達の元に届けられた。いくつか三人でそのまま見ました。

 ……結局ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲って何だったんだろう。




元ネタはまたまた銀魂。みんな大好きネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲。

取り敢えずチーム常識人にセクハラしたかっただけ。ではまた次回。


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月読調の華麗なるマムの葬式

ライブ行けなくて家で絶唱顔してました。メイドモード聞きたかった……!!

あと、三十連したけど怪盗ギアのセレナが出なかったので暫くセレナの出番を剥奪します。

という事で今回も銀魂ネタ。また葬式ネタじゃよ


 マムがシャトルに乗って帰ってきた。だけどマムは既に息絶えていて、まだ留置所から出られないわたし達も特別に仮釈放してもらって二課……今はSONGか。その人達の力もあってなんとか小さいながらもマムのお葬式を開くことになった。本当に皆には感謝してもしきれない。

 喪服を着たわたし達が遺族の席に座って、他にもSONGのオペレーターの人……えっと、藤尭さん? と友里さん? や、あの人類最強としか思えない司令の人が座ってくれて、他にも装者の人達もわたし達の隣に座ってくれている。マムとは多分、会ったことすらないだろうに、泣いてくれる辺り、本当にこの人達はいい人なんだと思う。

 

「本当に惜しい人を亡くしたな、月読」

「翼さん……はい。凄く、悲しいし寂しいです」

 

 厳しくなかったと言えば嘘になる。マムはとてもスパルタな人だった。

 でも、同時にわたし達の事をとても思ってくれていた。親すら忘れてしまったわたし達の親代わりにもなってくれた。だから、F.I.Sでマムに育てられたわたし達にとっては肉親を亡くしたと言うのと同意。だから、今この場で声をあげて泣いてしまいたい位だけど。それだけど。

 

「でも、最後は泣かずに笑顔で送ってあげたいです」

「……そうか。強いんだな、月読は」

 

 わたしの隣に座っている翼さんは凄く優しい笑顔でわたしを見た。ちょっと恥ずかしい。

 それから視線を逸らすためにわたしは前のマムの遺影の方を見る。どうやらマムは自分の遺影用の写真をとっくに用意していたようでわたし達の撮った覚えのない写真がそこには飾られている。そして坊主さんが木魚を叩きながらお経を読んで、そして棺桶から上半身だけ起こしてこっちをガン見している半透明なマム。

 わたし達が頼んで普通のお葬式にしてもらったから何も可笑しいことは……うん?

 ちょっと待って。今何か可笑しかった。すっごい可笑しいのがあった。っていうか見えちゃいけないのがあった。見たいけど見ちゃいけない物があった。ものっそいこっちガン見してくる見ちゃいけない物がある。

 

「な、なぁ月読。なんか見ちゃいけない物が見えてる気がするんだが……」

 

 翼さんが冷や汗ダラダラ流しながらこっちをガン見してくる半透明なマムを指さしてこっちを見てくる。

 や、やっぱりあれってそうですよね? 見えちゃいけない物ですよね? こっちガン見してくるけどこっちからガン見しちゃいけない物ですよね!?

 ほ、他の人は……み、見えていない? 響さんは泣きながら前見てるしクリスさんと未来さんはそんな響さんの隣でなんとか泣いているのを止めようとしてるしマリアと切ちゃんも泣きながらなんやかんやでちゃんと前見てるし。

 これ、わたし達にしか見えてないの? っていうかなんでわたし達は見えてるの?

 

「なぁ、月読。ナスターシャ教授は半透明な人だったか?」

「いや、普通の人でしたけど……いざって時にちょっと右往左往しちゃう所とか半透明でしたよね」

「でも体が半透明な理由にはならないだろ」

「そりゃ翼さん。あのマムはオバケだからですよ」

「そうかオバケか……オバケ……」

「そう、オバケ……」

 

 やべぇ逃げなきゃ。

 わたし達は全く同時に後ろの出口へ向かって走り出した。こんなオバケがガン見してくる場所にいられない! わたし檻の中に帰る!! 檻の中で幽霊とは無縁な生活するの!

 あと数メートル! あと数メートルで出口ぐへぇっ!!?

 

「お、置いていくな月読ィ!!」

「だからって人の足掴んで転ばす人がありますか!!?」

 

 今までに見たこともないレベルで必死な顔の翼さんがわたしの足を掴んで転ばせていた。どうやら翼さんは気が動転し過ぎて転んだらしくてわたしをそのまま逃がすまいと足を掴んできたらしい。

 こっちは思いっきり顔面ぶつけたんですけど!? 足を掴んで離さない翼さんの顔を蹴ってでも逃げようとしたけどその前に装者メンバーがわたし達の回収に来る。いきなりこんな奇行に走ったわたし達をどうやら不審に思いながらも心配しているらしい。心配してくれるのはありがたいけど前見て! マム見て! 半透明なマム見て!!

 ……ん? なんかマム動いてる? こっち来てる? こっち歩いてきてない?

 ちょ、逃げないと殺される! 半透明仲間にされる!

 

『~♪~♪』

「あ、やべっ」

「ちょっと貴方、携帯の電源切っておけって言ったでしょ!?」

「す、すまん忘れてた!」

 

 とか思ってたら……えっと、藤尭さん? の携帯電話がいきなり音を鳴らした。

 その音につられてマムの視線がそっちを向く。そしてマムがそっちに向かって歩いて行って……

 

「ぐはぁっ!!?」

 

 そのままビンタ!?

 ビンタされた藤尭さんはそのまま壁にめり込んで……えっ。

 ま、マムってそんなに力ないよね? あの人普通に非力な方だよね? ビンタで人間を壁にめり込ませる事なんて出来ないよね? っていうか幽霊なのになんでこっちに触れるの? なんなの、一方通行なの?

 藤尭さんをビンタでぶっ飛ばしたマムはそのまま再びこっちを向いた。

 そしてそこからマムに変化があった。

 いきなりマムの両腕の袖が千切れてその内側からは筋骨隆々なマムの腕が。更に体も筋骨隆々になって顔もいかつくなって何処からか取り出したサングラスとタバコ、鉢巻きを顔に装備した。

 え、何あの超スーパー地球人。超スーパーって何ですか。

 

「あれ? 調、なんでそんな俊敏に自分の席に戻ったんデス?」

「先輩、なんか冷や汗酷いぞ?」

「いいから座って切ちゃん!」

「お前もだ雪音!」

『じゃないと殺される!!』

『いや、何で!!?』

 

 ま、間違いない! マムは自分の葬式がちゃんと終わるように見張りに来たんだ! それを邪魔する人間は全員排除しようとしている! 今だって藤尭さんが吹っ飛ばされて血達磨状態で席に無理矢理座らされている……いや医務室に運んであげて!!

 と、取り敢えずわたし達はなんとかこの葬儀がちゃんと終わるようにするしかない。わたし達が後ろの方からなんとかサポートするしかない!

 でも、周りの人達はちゃんとした大人。全部ちゃんとやってくれる筈。だから、わたし達はこの非常識人間軍団である装者達をどうにかコントロールしてこの葬儀を無事に終わらせなきゃいけない!

 

「次は皆さんの番ですよ」

 

 とか思っていると緒川さんが声をかけてきた。え? 番? 何の? 次の葬式の?

 

「お焼香ですよ」

 

 お、お焼香……!

 これは絶対に失敗できない。失敗したらマムに殺される! 祟り殺される!

 で、でもわたしあまり覚えていない……翼さんも今までの衝撃で順序が飛んだらしくて冷や汗かきながら首を左右に振っている。ど、どうしたら……どうしたら……!!

 

「狼狽えるなッ。まずは私が行くからちゃんと覚えておきなさい」

 

 ま、マリア! 流石マリア!!

 マリアはこの一歩間違えば即デッドエンドなこのお焼香の一番手を切った。さ、流石マリア……こういう時こそ頼りになる! 

 マリアはそのまま何の問題もなく焼香を終わらせた。えっと、まず遺族と坊主に一礼、焼香台前に座り遺影に合掌、左手に数珠、右手に抹香をつまみ額におしいだき香炉へ落とす。これを三回。もう一度合掌して遺族に一礼。

 よ、よし覚えた! これなら皆も間違えず全員で生きて帰れる!!

 わたしと翼さんは戻ってきたマリアの肩に手を置いてサムズアップした。

 

「ミッションコンプリート」

「何の?」

「お前は英雄だマリア」

「いや何で?」

 

 マリアは困惑しているけどこれなら全員無事に焼香を終わらせれる。これは英雄の所業にも等しいことなんだよマリア。心なしか世紀末覇者マムの表情も緩んでいるように見えるし。

 これなら何とかマムに成仏してもらえる……あとは流れに身を任せてやるだけ。

 

「じゃあ次わたしが行くね」

 

 と響さん。

 響さんもさっきのマリアの焼香見てたし大丈夫だよね。

 じゃあまず最初。遺族と坊主に一礼。

 

「意外と坊主に一撃」

 

 と響さんは坊主さんの頭に拳を……いや何してんだアンタァァァァァァァァ!!? っていうか坊主さん大丈夫!? 死んでない!!?

 ま、まぁ一回くらいならマムも多めに見てくれる! 次、焼香台前に座り遺影に合掌……

 

「イエーイ!! ほら皆さんも! イエーイ!!」

「い、いぇーい……」

 

 焼香台前に立ってイエーイと合唱するなァァァァァァァァ!! 死にたいのかアンタ!!?

 あと坊主さんは寝てて! 休んでていいから! 無理に乗らなくていいから!!

 

「えっと、次は……こうかな?」

 

 と響さんは左手に数珠を持ちながら右手に掴んだ坊主さんの頭をそのまま抹香に叩き付ける……

 そうそう。左手に数珠、右手に坊主を掴み額を叩き付ける……って馬鹿!! っていうか坊主さんもう死にかけてる! あの馬鹿のせいで最短で最速で真っ直ぐに一直線に仏さんになりかけてる!! 誰か助けてあげて! 坊主さん助けてあげて!!

 

「イエーイ!!」

「い、いぇーぃ……」

 

 最後にもう一度合唱するなァァァァァァァァ!! あんたホントにマリアの何を見てたの!!? 目になにか特別なフィルターでもあるの!?

 もうこれ滅茶苦茶だよ! 普通の葬儀でもこのまま摘み出されるレベルだよ! そして坊主さんもう虫の息だよ!!

 

「こんな感じでよかったかな?」

「お前はマリアの何を見ていたんだ!!」

 

 翼さんが戻ってきた響さんにブチ切れる。

 いや、確かに響さんへの説教も大事だけど……マムが咥えていた煙草を坊主さんの頭に押し付けている!! なんか知らないけど坊主さんに八つ当たりしてる!! 本当に誰か助けてあげて!!

 くそっ、どうしたら……このままじゃ葬儀が滅茶苦茶になる上にここにいる全員が祟り殺される……! そして坊主さんが死ぬ!! 物理的に死ぬ!!

 

「くっ、こうなったら坊主と遺族に一礼の後に坊主の蘇生をしてから焼香へ行く!!」

 

 翼さんが装者の皆に指示をする。そうだ、これで蘇生して葬儀の空気を元に戻して無事に葬儀を終わらせる。響さんは後でマムに夢枕にでも立たれて悪夢でも見たらいい。

 で、次は誰が……? わたしと翼さんはあのマムの前に出る勇気なんてないけど……

 

「じゃああたしが行くデス」

 

 切ちゃん!!

 

「さっきから口に出して覚えていたデスから余裕デス!」

 

 そ、それならいいけど……切ちゃんって自称常識人だし……

 大丈夫かなぁ……そこはかとなく不安が……

 

「えっと、遺族を一礼で坊主」

 

 いや初っ端から間違えてるけどォォォォォォォォォ!!?

 しかもその遺族藤尭さん! 藤尭さんの髪の毛を一礼で毟り取ってるから! 年若い藤尭さんの頭が可哀想なことになっちゃったから!

 い、いや、でもこれだけならまだダメージは少ない。後で藤尭さんにはカツラでもプレゼントする事にして……いや、ちょっと待とう。このまま切ちゃんの好きにさせたらもしかしたら坊主さんの蘇生の後にまたイエーイって合唱するんじゃ……そうなったら今度こそマムがヤバい!!

 

「切ちゃん、もういいから坊主さんの蘇生だけして戻ってきて!!」

 

 じゃないとマムがもっと大変なことに……

 そして切ちゃんはその手に持った藤尭さんの髪の毛を坊主さんの頭にそっと被せた。

 うんうん、これで坊主さんの蘇生は……って何を蘇生させてるの!!? 誰が毛根を蘇生させて来いって言った!!?

 くっ、こうなったらわたしか翼さんが出て何とか流れを普通に引き戻さないと……この馬鹿コンビは後で折檻するとして今はどうにかして葬儀を元に戻さないと……

 

「いや、月読。もう一行程追加だ!!」

 

 え? 何を……

 

「藤尭さんの蘇生だ」

 

 そう言われて藤尭さんを見てみると藤尭さんはまるで全てに絶望したかのようなとても人には見せられない顔で地面に倒れていた。いや、何で貴方死んでるの!? 髪の毛毟られただけだよね!?

 くっ、切ちゃんのせいで更に葬儀が滅茶苦茶に……これは本格的にわたしか翼さんが行かないともう流れの修正とか不可能なんじゃ……

 

「わかった。アタシが行く」

 

 く、クリスさん!!

 

「これじゃ葬儀が滅茶苦茶だ。死人はちゃんと弔わないと報われねぇからな」

 

 クリスさん……これならきっとどうにかして葬儀の流れを……

 

「まずは坊主の蘇生だ。ほら、ここに座っておけ」

「えっ俺?」

 

 いやそれハゲた藤尭さんんんんんんんん!!

 それ頭坊主だけど坊主じゃないから! お経渡さなくていいから読まなくていいからァ!!

 

「次に遺族の蘇生。これを置いときゃいいだろ」

 

 と言って藤尭さんの髪の毛を藤尭さんが座っていた場所に……いやそれ遺族の遺族ゥ!!

 

「最後に木魚だ」

 

 と言ってクリスさんは木魚……じゃなくて坊主さんの頭をそこに……いや坊主さんをもう許してあげて!! なんでそこまでして皆坊主さんを虐めたがるの!!?

 

「パーフェクトだ」

「全部駄目だよッ!!」

 

 あぁもう取り返しが付かないレベルで滅茶苦茶に……

 こ、こうなったらもう逃げるしかない!! ここに居たらこの阿呆共のせいでわたし達が死にかねない!!

 

「こんな所になんて居られない! わたしは帰るッ!!」

「私もだ!! もうほとぼりが冷めるまで海外に逃げるッ!!」

 

 命を大事にだから!

 

「ちょ、二人とも何処に行くのよ!! まだ葬儀はとちゅ――」

 

 いきなり。いきなり、マリアの声が途切れた。

 そしてすぐに聞こえてきたのは誰かが倒れる音。それが、五人分。

 なんで。そう思いながらわたし達は冷や汗を流しながらそっと後ろを向いた。棺桶の上。そこでは世紀末覇者マムが座っていて、その手には五つの丸い球体が……

 そしてマリア達は白目を剥いて倒れている……これは、ま、間違いない……

 

『た、魂質取られたッ!!?』

 

 あ、アカン……これ逃げたら五人が巻き込まれて死ぬッ!!

 

「い、いや、待て月読……あれは立花達じゃないかもしれないぞ……!!」

「いえ、間違いなくここで倒れた五人です。だって魂の一つにバッテンマークありますから!!」

「魂にバッテンマークって何だ!!?」

「切ちゃんはバッテン着け機だったんですよ!!」

「お前頭大丈夫か!!? ……いや、私も魂の一つが巨乳に見えるからもう何も言えん……!!」

 

 魂レベルまで巨乳なクリスさん。もげればいいと思う。

 けど、このままじゃもぐ前に全員死ぬ……! ここは大人しく席に戻る。

 もうここからは残りの人に任せてわたし達は見ていたほうがいいんじゃ……とか思ってるとマムがこっち来いって手招きしている。え、嫌だよ行きたくないよ。ねぇ翼さん?

 翼さんも残像が見えるレベルで首を縦に振っている。

 ほら、わたし達はこのまま葬儀がちゃんと終わるのを見ているからマムはそこで見ていて……

 

「お、おい月読。これ逆らっちゃマズいんじゃ……」

 

 ビターン! ビターン! ねりねりねり……

 そんな音を立てて五人の魂がまな板の上に叩き付けられて練られた。しかもそのまま小麦粉みたいに広がってもう五人の魂が分別不可能なレベルに……

 

「つ、月読、こうなったら私達も焼香をやってどうにかして世紀末覇者ナスターシャ教授の怒りを鎮めるしかない!!」

「わ、わかりました! わたしが行きます!!」

 

 あれもう助かるのか分からないレベルだけどわたし達がどうにかするしかない!

 どうにか……どうにか……あれ?

 え、えっと……何をどうするんだっけ? 頭がこんがらがって……や、やばい、分からない。でも前に出てきてしまった以上やるしか……マムがものっそいこっち見てるけどやるしかない。

 た、確か……えっと、えっと……そうだ!

 

「意外と坊主に一撃!!」

「お前もかいいいぃぃぃぃぃぃぃ!!?」

 

 あっやべっ――

 

 

****

 

 

 はっ!!?

 あ、あれ、生きてる……? 焼香の最中にやらかして何かされたのは覚えてるけど……い、生きてる?

 

「つ、月読、生きているか……?」

 

 この呼び方、翼さん?

 

「私も今目が覚めたところ……あれ、なんか目線が低い?」

 

 そういえばわたしもなんだか目線が高い……あれ?

 声が聞こえてきた方を見るとそこには黒髪ツインテールの小さな子が……そしてわたしは髪の毛を見てみると青色の髪が……

 ……あっ。

 

「も、もしかして……」

「た、魂を……」

『入れ替えられた!!?』

 

 うっそぉ!!? どうするのこれ!? どうやったら直るのこれ!!?

 だ、誰か助けて……! 助けてフィーネッ!! 今だけ戻ってきてわたし達を元に戻してェ!!

 

『暫しそれで反省している事です』

 

 何だかマムの言葉が聞こえた気がしたけどわたしと翼さんはどうやったら互いの体に戻れるのか。それを混乱しながらも相談するのであった。




と、いう訳で今回のパロディ元は銀魂の原作三十六巻から「葬式って初めていくと意外とみんな明るくてビックリする」と「ウコン茶は二度見してしまう」でした。
調ちゃんキャラ崩壊させまくっちゃってごめんね。

後半の親父のチ(ピー)コネタはマムの葬式なので出来ませんでした。そのため最後は結構投げやりなオチです。ちなみにこの後一週間後に元に戻りました。


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月読調の華麗なる壁の崩壊

ネタ切れでどうしようと悩んでたらふとお題ったーを見つけた。やった。壁が爆撃されるって出た。

同時にネタも思いついたのでやるしかねぇと思った。やった。反省も後悔はしていない。

ちなみにセレナの出番削減措置はまだ暫く続きますぞ。あと調ちゃんの絶唱を単品で聞きたい。調ちゃんだけ絶唱が単品で全部聞けないの悲しい。


 唐突だけど、壁に穴が空いた。

 何を言ってるのか分からないと思うけど、空いた。切欠と言える切欠は、ホンの些細な事だった。本当に、本当に些細な事だった。

 いや、ちょっと嘘ついた。全然些細じゃなかった。

 それは今日の朝の出来事。

 

『調君、切歌君。街にノイズが現れた。急行してほしい』

「ノイズ、ですか?」

『並行世界でちょっとした問題があったらしくてな。響君、未来君、マリア君が今並行世界に向かっている』

 

 ちょっと寝坊して遅目の朝ご飯を食べている最中に携帯にかかってきた電話。それは風鳴司令からの緊急出動要請だった。

 ノイズの出現。未来さんが槍投げでソロモンの杖をバビロニアの宝物庫にシュートヒムしたからもうノイズが出ないけど、並行世界に問題が起きれば別。多分響さんと未来さん、マリアはこの時間帯に起きてて尚且つすぐに来れそうだから呼ばれたのかな?

 ほんの些細な異変は一日で収束する事もあるしわたし達はノイズを倒すしかない。

 パンをスープで流し込んでからパンを喉に詰まらせて涙目になってる切ちゃん可愛いなんて言いながら切ちゃんを助けてノイズの駆除に。ノイズの駆除はお任せあれ。きこきこきゅいん。

 そんなこんなでわたし達は朝ご飯食べたばかりなのに振り返るな、全力疾走。ノイズ発生現場に到着した。

 

「また多いデス……」

「面倒だけど、やるしかない。Various shul shagana tron」

「その通りデス……およよぉ……Zerious igarima raizen tron」

 

 もう何度歌ったのか分からない聖詠を口にしてギアを纏う。LiNKERはここに来る最中に首に打った。

 首から注射を打つのってなんかこう……何とも言えない異物感が首から脳に流れ込んでくる感じだから案外慣れないよ。皆もやってみたら分かるよ。でもその時は無針注射器を使わないと大変な事になるからね。

 脱線したけどそのままギアを纏ったわたしと切ちゃんはノイズと戦う。

 

「ストリングプレイスパイダーベイベー」

「いや何遊んでるデス!? あとストリングプレイスパイダーベイビーデス! ベイビーデスよ!!」

 

 訂正ありがとう切ちゃん。でもこれ習得するのに結構苦労したんだよ?

 

「今はノイズ駆除に専念して欲しいデスってあっぶなぁ!!?」

 

 あ、切ちゃんが上から降ってきたノイズの下敷きになりかけた。必死に避ける切ちゃんも可愛い。あと腰のフリル? スカート? の下もバッチリ見えてるから目の保養にもなる。

 可愛いなぁ。今度藤尭さんに切ちゃんの戦闘映像をコピーさせてもらおう。観賞用。

 取り敢えず切ちゃんを傷つけようとする悪いノイズはヨーヨーをぶん投げて除去。あぁ、切ちゃんだけのメイドさんになれたらなぁ……

 

「なんで焦点合ってない目で的確に援護出来るデスか……」

「ひとえに、愛だよ」

「何故そこで愛!?」

 

 だって愛だし。

 取り敢えず数も多いことだし禁月輪で相手を轢いていく。やっぱり殲滅は禁月輪に限る。

 轢き逃げあたーっく。なんて言いながらノイズを駆除しているとふと影がさした。もしかして大型の飛行ノイズでも来たのかな? って思って上を見るとそこには。

 

「待たせたな後輩共!」

「先輩と風を吹かす者の登場だ!」

 

 ミサイルを乗り物にしたクリス先輩と翼さんが飛んできていた。うん、やっぱミサイルを乗り物にするのは可笑しい。っていうかどうしてそれで飛ぼうとしたのか。その発想が頭可笑しい。

 飛ぶんならアームドギアで飛べばいいのに。わたしもそうやって飛んでるし。

 

「とう!」

「スーパーヒーロー着地だ!」

 

 そして降ってくる先輩方。翼さんはそのまま着地してクリス先輩はスーパーヒーロー着地。通称膝が凄く痛くなりそうな着地をした。アメコミでも見たのかな?

 そしてミサイルはわたし達が走ってきた方へ……って、あっちってわたし達の部屋じゃ?

 

「クリス先輩、あのミサイル……」

「ん? あぁ、あれは完全に飛行用だから建物に当たっても壁に穴が空くだけだぞ?」

「いやそうじゃなくて……あれ、どこまで飛ぶんですか?」

「どこまでも」

 

 あっ。なんか悪い予感が。

 あれを撃ち落としておけばよかったかも、なんて思ってると風鳴司令から連絡が来た。

 

『その、なんだ……凄く悪い情報なのだが』

「どうかしましたか、叔父さま」

『……調君と切歌君の部屋の壁にミサイルが突き刺さって壁に穴が空いたと情報が入った』

「ファッ!?」

 

 知ってた。

 切ちゃんが今までで上げたことないような声を上げて驚いた。そしてクリス先輩を見た。

 クリス先輩、全力疾走の逃亡。切ちゃん、両手で鎌をブンブンしながらクリス先輩を追う。わたしはそっと切ちゃんに禁月輪を貸した。結果、殺人ルンバがノイズを轢き殺しながらクリス先輩を追うことになった。テラワロス。

 

「つ、月読。目に光が無いが大丈夫か……?」

 

 取り敢えずクリス先輩は殺人ルンバに轢かれればいいなと思いました。

 

「そ、そうか……」

「マストダーイ!!」

「ちょやめっ、アッーーーーーーーーーーーーーーー!!」

 

 その後は切ちゃんがクリス先輩のお尻に鎌をぶっ刺してわたしと翼さんで風月ノ疾双してそのままノイズを全滅させた。戦闘なんて所詮装者の蹂躙だから特筆すべき事なんて無し。

 そういう訳でわたしと切ちゃんはクリス先輩を翼さんに預けてから部屋に帰った。そして。

 

「何ということをしてくれたのでしょう」

「匠の手によって壁に大きな穴が装飾品として生まれたデス」

 

 これぞ悲劇的ビフォーアフター。ついでに言えばミサイルが刺さって爆発したせいか家具も一部が吹っ飛んでる。これは匠のリフォームの賜物ですねぇ……

 なんてふざけてる場合じゃなくて、これどうしよう。なんでノイズ倒しに行ったら部屋を爆撃されてるんだろう、わたし達。

 幸いにも私室の方は無事だからプライベートはギリギリ守れるけど……守れるけど……

 別にわたし達もさ、不幸自慢じゃないけど過酷な環境で育ったから屋根と床があれば眠れるけど。壁に穴空いてたら気になって夜も眠れないよ。SONGの職員の人がわたし達より先に被害状況見てるけど、どうしようこれって皆言ってるし。

 取り敢えず職員の人と協力してブルーシートとダンボールで穴を塞いだ。

 うーん、ホントどうしようこれ。って所でようやく冒頭に至るのであった、まる。

 もうお昼になったけど翼さん曰くクリス先輩は切れ痔になったらしい。で、風鳴司令と緒川さんが今後の相談のためにわたし達の部屋にお邪魔してきた。

 

「取り敢えず、壁の方は業者に頼むことにした。というかそれしか出来ない。金の方はSONGの方から出しておくから心配は無用だ」

「壁が直るまでは仮の住居もご用意できますが、どうしますか?」

 

 SONGの方が出せる案としてはそれだけらしい。

 壁の修理が進む中この部屋で暮らし続けるか、それとも仮の住居に一旦引っ越して壁が直るのを待つか。

 家具も一部吹っ飛んだし後者の方がいい、とは思ってるんだけど……わたしの部屋には切ちゃんを盗さげふんげふん!! 秘密裏に撮影したデータやらアルバムやらが大量に隠してある。バレたら死ねる。だからこの部屋を離れたくない。

 こんな事ならお風呂に入ってる切ちゃんの写真は現像せずにデータ保存だけにしておけばよかった……!!

 

「あの、二人共大丈夫ですか? 冷汗凄いですよ?」

「だだだだダイジョブですよ」

「な、なにも如何わしい物なんて隠しとらんデスデスデス……」

 

 えっ、切ちゃん如何わしい物持ってたりするの? 夜のお供でもあるの? なにそれ見てみたい使ってみたい。

 テンション上がってきた。けど落ち着けわたし。ここでテンション上げたらタダの変態だ。

 

「えっと……ではどうしますか?」

「に、荷物の整理だけさせてもらえば……」

「し、私物は見られたくないデスからなぁ……」

 

 そう。盗撮写真とか映像とか。切ちゃんの下の毛を入れたジップロックとかそこら辺の見られたら窓からフライハイしなきゃならない物は全部回収していかなきゃ。

 あとは……コソッと買った胸を大きくする本とか。全く効果ないけどあれも隠さないと……取り敢えずあれを買って思ったのはバストサイズが八十以上ある人は切ちゃん除いて敵だということ。あなたの事ですよ、翼さん。わたしと未来さんの悲しみを叩きつけてやりたい。ギアを纏ってもつるーんぺたーんな人の気持ちを思い知らせてやりたい。

 実は切ちゃんに豊胸のために胸揉んでって言ってそのままあわよくば……ってやったけど揉めるほど胸が無かったよ。切ちゃんも顔を真っ赤にして触ってくれたのに。あの時の沈黙はもう泣けたよ。泣いたよ。巨乳は滅べばいいと思ったよ。割とマジで。

 さて、思考回路が脱線に脱線を重ねたけどこれで動揺も消えたはず。

 

「私物の方もこちらで運んでおきますけど」

「だ、大丈夫ですって!?」

「自分で運べるデス!?」

「なぜ疑問形なんだ……」

 

 また動揺しちゃったじゃん。

 と、取り敢えず私物は自分で纏めて自分で運ぶ事を伝えないと……盗撮写真と映像を見られたら社会的に死ぬ。切ちゃんの下の毛とか集めてるの知られたらわたしが物理的に死を迎える。主にわたし自身の手で。平たく言えば自殺。窓からフライハイ。

 わたしは未来さん程オープンじゃないから知られたら自殺物。っていうか多分未来さんよりもヤバい方に行ってる自覚あるから。

 ならなんでやめないかって? 背徳感が心地良いからだよ。

 まぁそんな訳で必死に説得した結果。

 

「そこまで言うなら俺達は先に本部へ戻ってよう」

「そうですね。こちらも仮住居の受け入れ体制を整えなければなりませんし」

 

 と、言うことでなんとか危機は逃れる事ができて、わたし達が荷物を纏め終えた頃にはもう仮住居の受け入れ体制は整ったらしくてお迎えが来た。いや、早すぎでしょ。SONGの職員さんはやっぱり有能揃いだ。

 そしてわたし達はそのまま暫く住むことになるであろう仮住居であるアパートの一室へ。あんまりわたし達の部屋とは大差無い。

 

「じゃあ適当に荷物広げちゃおっか」

「デスなぁ。壁の穴が塞がるまで暫くかかりそうデスし、ここにはそこそこ厄介になりそうデス」

 

 取り敢えずお風呂とトイレに盗撮用カメラを仕込んで切ちゃんの部屋にもカメラ仕込んでおかないと。

 あの部屋みたいに壁の中にカメラを埋め込む訳にもいかないからちょっと工夫が必要だけど、わたしには未来さんという頼れる仲間がいる。未来さんに盗撮用カメラをどうやったらバレずに設置できるか聞いておかないと。じゃないとオカズも確保できないし。

 取り敢えず部屋割りを決めて部屋に鍵をかけてから荷物を広げる。切ちゃんの盗撮写真と切ちゃんがもう使えないからって捨てた下着とかもだし、お風呂場で集めた切ちゃんの下の毛だったり。見られちゃいけないものが大量にあるからどこに隠そうか……

 ベッドの下にはカモフラ用の日記を入れて……まぁ後はわたしの部屋と同じような場所に。で、後は盗撮カメラを……

 ……あれ? これって切ちゃんが最近買ったカメラ? なんか写真を撮りたいからってカメラ買ってたのは覚えてるけど……なんでわたしの荷物の中に? というか何で盗撮カメラの中に混ざってるの? もしかして間違って入れちゃった?

 取り敢えずわたしのカメラは全部しまって切ちゃんのカメラを片手に切ちゃんの部屋に入る。ノックはまぁいいよね。まだ来たばかりだし隠すようなものも無いだろうし。

 

「切ちゃん。切ちゃんのカメラがわたしの荷物の中に――――」

「うへへ……やっぱり盗撮した調の写真は最高デスなぁ………………あ゛っ」

 

 uh-oh。

 なにこれ気まずいってレベルじゃない。っていうか今盗撮って言った? えっ、切ちゃんってわたしを盗撮してたの?

 そういえばわたし、仕込んだ覚えのないカメラをお風呂場から一個回収したけど……それってもしかしてこれ? もう仕込みすぎて忘れるレベルだったから気にしなかったし、急いでたから気付いてなかったけど……もしかしてこれ? なんか切ちゃんもガサゴソしてたけど……その理由ってこれ?

 

「……違うんデス」

「何が?」

「色々と違うんデス」

 

 顔真っ青にしてプルプル震えてる。

 ヤバイ可愛い。けどもちょっと虐めたいからこのままで。

 取り敢えずカメラの中の写真を見てみる。写真は見事にわたしの裸が映ってた。この角度は……あそこにあったのかな? 全然気が付かなかったよ。

 恥ずかしい事は恥ずかしいけど……切ちゃんならいいや。

 

「この写真も?」

「えっ、あ、その、いや、デスね。その、それも誤解というかなんというか……」

 

 可愛い。ヤバイくらい可愛い。鼻血出そうなほど可愛い。ゾクッとする。

 押し倒しちゃいたい。でもそんな事したら……ん? いやちょっと待とう。

 切ちゃんはわたしのお風呂を盗撮してた。わたしもしてた。そして今の切ちゃんはわたしが盗撮に対してドン引いて友情が壊れるんじゃと危惧している。

 つまり切ちゃんはわたしの事が好きなのでは? 押し倒しちゃってもいいのでは? そのままヤッちゃっていいのでは? もうこれは合法なのでは?

 ……カメラはポイッ。

 

「し、調?」

「切ちゃん……」

 

 わたしはそのまま切ちゃんの手を掴んでそのまま床に切ちゃんを押し倒す。あぁヤバい。可愛い。語彙力全部無くなるほど可愛い。

 

「わたしは切ちゃんの事が好きだよ?」

「で、デスが……」

「という事でヤッちゃうね」

「ファッ!?」

「勿論性的な意味だよ?」

「いやそのそれは嬉しいデスが盗撮の件は……」

「わたしもやってるから特に何も言わないよ?」

「ファッ!?」

 

 押し倒した切ちゃんの唇に指を当てる。

 ぷにぷにしてる。可愛い。

 

「切ちゃんはどうなの? わたしの事、好き?」

「……だ、大好きデス」

 

 わたし大勝利。

 この何年も前から抱いてた恋心が成熟する時。どこぞのフィーネみたいにウン百年片思いなんてする訳がなかった。マリアみたいに二十年誰とも付き合わず婚期を逃すなんて真似もする筈がなかった。

 

「じゃあ……するね?」

 

 切ちゃんの服をそっと脱がしながら告げる。切ちゃんはつい数十秒前まで青かった顔を真っ赤にしながら抵抗せずに受け入れている。

 あぁ、この時を何度も夢見てきた……何度も妄想した。それが現実に……

 

「い、いきなりデスか?」

「切ちゃんは、嫌?」

 

 切ちゃんの身長の割には大きな下着に包まれた胸がようやく見える。こうやって見るといつも以上にドキドキする。

 

「嫌じゃ、ない、デス……」

 

 むふふふ。じゃあここからはR-18でわたし達だけの時間なのでもう誰にも邪魔は……

 

『〜♪ 〜♪』

「あ、電話デス」

「ムードぶち壊し……」

 

 とか思ってたのに切ちゃんとわたしの携帯が同時に鳴った。誰がこんな大事な時に電話なんて……

 ……えっ、風鳴司令?

 ま、まさか見られてないよね!? 見てしまったから注意しようとか思って電話してきたんじゃないよね!? 特に監視カメラがあるとか聞いてなかったけど!?

 と、取り敢えず電話に出てみよう……

 

「も、もしもし……」

『調君か! カルマノイズがこちらの世界に出現した! 今現在、戻ってきた響君、未来君、マリア君と急行した翼が戦っている!』

 

 か、カルマノイズ……!?

 どうしてこんな時に……!! 許すまじカルマノイズ!!

 っていうかその中にクリス先輩はいないんです?

 

『クリス君は先程の傷が開いて今医務室だ』

 

 切れ痔の悪化ですね分かります。わたし達の愛の巣を破壊したんだから仕方ない。

 でも、カルマノイズは放っておけない。カルマノイズを放っておいて切ちゃんが悲しむ事態になんかなったら悔やんでも悔みきれない。

 それに今のわたしは切ちゃんへの愛で一杯だ。必要なら絶唱なんてポンポン歌うしエクスドライブにだってなってみせる。

 

『すまないが急行して……ん? どうした』

 

 あれ、なんか今すっごい嫌な予感が……

 

『マズイ……そこに切歌君はいるか!?』

「いますけど……」

 

 わたしの下に。押し倒されてます。

 

『今すぐ二人で伏せろ!!』

 

 えっ?

 

「調!!」

 

 いきなり言われても反応できない、なんて思ってたら会話を聞いてた切ちゃんがわたしの体に抱きついてそのまま引き寄せた。

 わたしは切ちゃんの上にそのまま倒れ込んで切ちゃんの胸に顔を埋めた。あ、良い匂い……

 

「一撃必愛ィィィィィィィィッ!!」

 

 その瞬間、わたしの上を何かがぶっ飛んでいった。同時に崩れた壁の破片らしき物がわたしの体の上に降り注いだ。普通に痛い。けど切ちゃんの肌に傷がつかなかったならプライスレス。

 ……じゃなくって!! また壁が!? なんで仮住居の壁まで!?

 

「あっ、調子に乗ってアパートの壁ぶち抜いちゃった!? ……あれ? 調ちゃんと切歌ちゃん?」

 

 ……えっと、響、さん?

 あなた何してはるんですか。

 

「なんでここに二人が……っていうかなんで切歌ちゃんは半裸……はっ、殺気!!」

 

 わたし達が声を出す前に響さんはわたしの部屋の方へとぶっ飛んでいったカルマノイズの攻撃を防ぎながら居間の方へ……いやここわたし達の仮住居ォ!!

 

「響! 流石にこのままじゃ住んでる人が……あれ? 調ちゃんに切歌ちゃん?」

「何してるの! はやくカルマノイズを外へ……あら?」

「立花! 早く外へ戻れ……ん?」

 

 ……やっべ。

 今、ちょうど体を起こそうとしたところなんだけど……そうするとね、さっきみたいに切ちゃんの胸に顔を埋めてる図じゃなくてわたしが切ちゃんを押し倒してる図になるの。しかも切ちゃんは半裸。

 別に否定はしない。これから事を起こそうとしてたしね? でもそれを見られるのとは話が別なの。

 

「……響、邪魔にならないように外に行くよ!!」

「ふ、二人にはそういう事は早いんじゃないかしら!?」

「落ち着けマリア。顔が真っ赤だ。月読、暁。せめてそういうのは夜にしておけ」

 

 見なかったフリしてくれた未来さんと顔を真っ赤にするマリア、何かこう……生暖かい視線と表情を向けてくる翼さん。

 やめてください、わたし達のライフはもうないデス。

 でもそれ以上に邪魔されたからブチ切れそうです。っていうかカルマノイズ絶対殺す。

 

「Various shul shagana tron」

 

 切ちゃんの上から退いてからシュルシャガナを纏う。うん、やっぱ愛のおかげで適合率上がってる。

 

「Zeios igalima raizen tron」

 

 切ちゃんも立ち上がってイガリマを纏った。取り敢えずわたし達が言えることは……

 

『カルマノイズ殺すべし。慈悲はない』

 

 折角結ばれたのに要らない邪魔をしてきたカルマノイズの抹殺宣言だった。

 

 

****

 

 

 わたし達が戦闘に参加してから大体十分くらいでカルマノイズは消し飛んだ。というか消し飛ばした。わたしの終α式・天翔輪廻と切ちゃんの終曲・バN堕ァァSuナッ血ィで消し飛んだ。

 え? これってエクスドライブ時の技じゃないかって? 響さんと絶唱したらなれたよ。S2CAで結構簡単に。自分でもびっくり。やっぱ愛は偉大。

 そんな訳でカルマノイズはわたし達最強コンビのエクスドライブによる連携で消し飛んだ。ざまぁ。

 そんな訳で仮住居まで破壊されたわたし達は近くのホテルに来ていた。もう仮住居無いんだってさ。悲しいね。

 

「暫くはホテル暮らしだね」

「早く壁が直ってほしいデス……」

 

 ほんとその通りだよ。やっぱ我が家が一番だもん。

 一番だけど……その前に。

 折角のホテルなんだし、と言いながら切ちゃんをベッドの上に押し倒す。

 

「さっきの続き、しよ?」

 

 取り敢えずわたしが言えるのは、このホテルにいる間、二つあったベッドの内片方はずっと使われる事は無かったってことかな。




変態調ちゃんと変態切歌ちゃんがベストマッチしてしまった話でした。そしてお尻に何かがぶっ刺さる被害者の三人目はきねクリ先輩。頭を打つと切ちゃんかエルフナインが、壁が崩壊するときねクリ先輩が被害に合う。

早くXDのCDが出てほしい。メイドモードのFullを聞きたい。あと最近XDで調ちゃんの出番多すぎて嬉しいけどガチャが辛い。竜の調ちゃん出ない。

ちなみにアレを見た瞬間、ドラゴナイトハンターZをプレイする調ちゃんと切ちゃんの話が頭を過ぎったけどボツになりました。次回は装者達でサバゲーやる話かFINAL DEAD KIRIKA(ヤンデレ時空の切ちゃんの話。ループするよ)か、それとも逆にヤンデレ切ちゃんに襲われる調ちゃんか。予定は未定。

取り敢えずXVが終わるまでグダグダやっていきたい感ある。ネタ切れとの勝負だけど


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月読調の華麗なるヤンデレ対処

書いてて終盤に心折れかけました


 最近、切ちゃんが変だ。

 いや、最近じゃない。もっと前から……リディアンに編入して入学する暫く前から、かな? なんだか切ちゃんの私を見る目が怪しくなった。殺意を抱いている、とかの負の感情ではないのだけど、なんだかこう……ねっとりしている? というかなんというか……もう口にできない感じの視線を感じるようになった。

 でもそういうのは決まって切ちゃんから目を逸らしている時だったりマリアや響さん達と話している時だけだったから気のせいかな、ってずっと思ってた。ユニゾンもいつもバッチリ決まってるし切ちゃんと戦っているときにもそんな視線を感じることはなかったから。本当に何でなのかは分からないけど……それでも、実害は一切なかったし気のせいだと思ってたから特に探りを入れるという事はなかった。

 それを気にし始めたのが、つい最近。明らかに切ちゃんが変だ。それが露わになったのは、響さんと出かけた時だ。

 凄い唐突なんだけどわたしは響さんの事が好き。勿論、恋愛的な意味でね? そういう訳でわたしは響さんとのデートの約束を何とか作ることができて、それを切ちゃんに告げてからデートに行った。それで帰ってきてからかな。なんだか切ちゃんの視線が可笑しくなった。皆は特に変わっていないって言ってるけど、わたしは切ちゃんの視線が怖くて怖くて仕方がない。

 それからずっと、切ちゃんに響さんの話題を出すと何だか不機嫌になる、というか明らかに目の光が消える。まるで大っ嫌いな人の話を聞いているみたいな。そんな感じに。だから、わたしは切ちゃんの前で響さんの話をするのを止めた。あの時の切ちゃんは、今までの見てきたどの切ちゃんよりも、怖い。

 それに、未来さんが段々とわたしじゃなくて切ちゃんをブロックするようになってきたのも気になる。なんだかあの二人、会うたびに殺気の籠った視線を飛ばしあってるから……それから暫くしてかな。響さんとわたしでなるべく未来さん、切ちゃんの前でわたし達四人の名前を出すのは控ようって話になった。だから、最近は訓練の時でもないと切ちゃんと未来さんは会わないようになってしまった。

 どうしてこうなっちゃったのかは分からないけど、未来さんはそれはわたしのせいだって言ってるし、切ちゃんは響さんのせいだって言っている。もう意味が分からない。

 

「調? 何を考えているデスか?」

 

 そうこうして長考しながらテレビを見ていると、後ろから切ちゃんが抱き着いてきた。

 これはずっと前からだから気にしない。わたし達の距離感が近いすぎるとか前々から言われていることだから今更。なんだけど。

 

「ん? 何も考えて……」

「響さんの事、考えてるんじゃないデスヨネ……?」

 

 最近の切ちゃんはいつもこう。

 そっとわたしに抱き着いてきて、そして痛いまでに抱きしめてくる。まるでわたしに痛みを与えようとしている。そんな抱きしめかた。痛いよ、と何度言っても切ちゃんは聞いてくれないから、違う。とだけ返す。それが嘘でも、そう返さないと切ちゃんは抱きしめる力を緩めてくれないから。

 

「そんな事ないよ、切ちゃん」

「……ならいいデス」

 

 切ちゃんはそっとわたしを抱きしめる力を緩めて……また力を込めた。

 

「週末。何処かにいく予定とかあるんデスか?」

「ない、よ」

「なら、あたしと一緒に家にいるデス」

「……うん」

 

 有無を言わせない。

 言葉の刃物を突き付けてゆっくりとわたしを脅してくる。そんな感じ。多分、切ちゃんにここで予定がある。誰かと出かけると言っても聞いてくれない。もっと抱きしめる力を強くしてきて、わたしに痛いと思わせるだけ。

 離してくれない。わたしの事を。

 抱きしめる力を緩めてそっと手を解いてくれても、離してくれない。わたしの事を、ずっと。ずっと閉じ込めようとしてくる。わたしの自由を奪おうとしてくる。

 ……だから、切ちゃんが怖い。

 怖くて、仕方がない。

 

 

****

 

 

 切ちゃんから逃げたかった。

 最近の切ちゃんは可笑しい。可笑しすぎる。

 何時しか切ちゃんの笑顔の裏はもしかしたら、と思うようになって。徐々にわたしへの心の距離感を詰めながら響さんの事を忘れさせようとしてくる切ちゃんの笑顔が怖くて。怖くて、仕方がなかった。あのまま切ちゃんとずっと一緒だとわたしは何時か切ちゃんに身も心も束縛されてしまう。そんな気がしてしまった。

 切ちゃんの行動全てに裏を感じてしまうようになった。それが疑心暗鬼だって事は分かっている。分かっているんだけど考えられずにいられない。

 だから、相談がしたかった。わたしは切ちゃんの目を盗んで外へ飛び出した。いつもわたしが外へ出ようとするとそっと家の中に連れ戻すか、ついて来る切ちゃんの目を、盗んで。

 でも、この事を話しても誰も信じてくれない気がした。誰も、わたしの言う事を聞いてくれない。そんなの冗談だろうと一蹴してくる。そんな気がした。誰でもいいという訳じゃなくて、誰か。誰かわたしの事を信じてくれる人にこの事を相談したい。告げたい。助けてもらいたい。徐々にわたしの自由を奪おうとしてくる切ちゃんからわたしを助けてもらいたい。そんな想いで。わたしは、電話をかけた。

 外の、誰もいない公園のトイレから。わたしの言う事を理解してくれる。わたしを助けてくれる。そんなわたしの、想い人に。

 

「……来たよ、調ちゃん」

 

 トイレの個室でもしかしたら切ちゃんが来るんじゃないか。わたしを連れ戻すんじゃないかと思い、恐怖しながら待っていると、来てくれた。

 でももしかしたらこれは切ちゃんなんじゃないか。切ちゃんがわたしを騙そうとしてきているんじゃないかとすら思って。そっとドアを開けて外を見る。そこには、何時ものような笑顔……じゃなく、何時になく真剣な顔をした響さんがいた。それにホッとした。響さんが来てくれたんだと。

 わたしは無意識の内に握りしめていたシュルシャガナから手を放して個室から出てそのまま響さんに抱き着いた。響さんは、いつものようにふざけずにわたしを抱きとめてくれた。響さんの体温をこうして感じられる。それが、とても安心できた。抱きしめられる事がこんなに暖かくて安心できる物なのだと、ようやく思い出した。

 

「近くのカラオケの個室を借りてあるんだ。そこなら、きっと誰にもバレないから。そこで話そう?」

「ありがとう、ございます」

 

 響さんにしては手際がいい。そんなふざけた言葉は脳裏に浮かぶことすらなかった。

 わたし自身、自分が相当追い詰められているのは分かっている。だけど、響さんを前にして一言も話せない。何も口にすることができない。それが緊張からではなく、安心感から。自分を脅かしてきた物から逃げてきたんだという達成感と安心感から出ている物だと、響さんと歩いている最中にようやく気が付いた。

 それに気が付くと泣いてしまいそうになったけど。わたしはぐっとそれを堪えた。せめて、響さんと安心して話せる場所まで行けるまでは。だから涙を堪えながら後の事を全部響さんに任せてわたしはその後をついていくだけ。

 響さんが取ってくれたカラオケの部屋は、小さかった。小さかったけど、この小ささが響さんと二人だけの空間を作ってくれているんだと思うと安心できた。

 

「……大丈夫だよ、調ちゃん。もう大丈夫だから」

 

 その言葉を聞いたわたしは泣いてしまった。

 もう大丈夫だと言われて。響さんならわたしを守ってくれると。そう信じたから。響さんなら、守ってくれるって。そう思っているから。

 

「切歌ちゃんの事、だよね。何か、されたの?」

「……ちがうんです」

 

 優しい言葉が心に染み込んでくる。

 助けを求めて泣きそうだった心を癒してくれる。

 切ちゃんに何かされたんじゃ、ない。ただ怖かった。怖くて怖くて仕方がなかった。

 だから相談しに来た。そう響さんに告げた。

 

「そ、っか。でも、大丈夫。わたしがついてるから。わたしだけが調ちゃんの味方だから」

 

 響さんだけ、が。

 そうだ。響さんは何時もわたしを守ってくれた。わたしと一緒にいてくれた。わたしがどれだけ突き放しても、どれだけ嫌っても響さんは手を繋ぐことを諦めなかった。

 そんな人にわたしは惚れた。そうやって、こんなわたしとも距離を詰めようとしてくれている響さんだから、わたしはこの人を好きになった。きっと、この人ならどんな状況でも。例え世界が敵に回ってもわたしを助けてくれる。わたしだけの味方でいてくれる。そんな確信があった。

 

「調ちゃんは安心してわたしを頼っていいんだよ。未来も、暫くは大人しくしてるから」

 

 それなら、安心。

 未来さんが来ないなら、わたしは安心して響さんを頼ることができる。安心して、響さんに全部言うことができる。この胸の気持ちも、何もかも。

 

「怖かったよね。寂しかったよね。でも大丈夫。わたしがついてるから。わたしが全部、何とかしてあげるから」

 

 そう。

 全部、響さんに頼っちゃえば。

 全部、全部、全部。響さんに預けちゃえば。わたしは楽になれる。ずっと響さんの事だけを想っていられる。わたしを抱きしめて頭を撫でてくれる響さんの事を、ずっと。響さんに、全部。

 

「……だいすきです」

「ん?」

「……だいすきです、ひびきさん」

 

 だから、この気持ちも全部響さんの物。

 全部、響さんに捧げてもいいもの。

 わたしの言葉の。気持ちの答えは、響さんがそっとわたしの耳元で囁いてくれた。

 

「わたしもだよ、調ちゃん」

 

 そして次に、態度。

 響さんは、わたしの告白に。気持ちに、行動で答えてくれた。

 あぁ。やっぱりこの人は、わたしの事を、わたしを守ってくれる。わたしの、全部を満たしてくれる。

 この人を好きになって、本当によかった。

 

 

****

 

 

 全部任せて。

 響さんはそう言うと、わたしに口づけをしてカラオケから出て行った。

 大体五分くらい後に、帰ってみれば全部終わっている。そう言ってくれた。だからわたしはそれに従って、五分とちょっと、カラオケの個室で一人で待った。きっと、帰ったら響さんが全部終わらせてくれて、切ちゃんも前みたいに怖くなくなって、それで響さんはわたしと恋人になってくれて。そんな夢みたいな生活を全部響さんが叶えてくれる。そんな確信があった。

 だって、響さんがそう言ってくれたから。

 

「でも、何をするんだろう……」

 

 響さんは全部任せてって言ってくれた。でも、方法が気になる。

 まぁ、気になったところでどうせ変わらない。響さんが全部何とかしてくれるから。

 わたしはそのまま自分の部屋へと向かった。きっと家の前では響さんが待っていてくれて。それで、出迎えてくれて。抱きしめてくれる。そう信じて。

 

「ぐぅぁ!!?」

「へぇ、案外しぶといんだね、切歌ちゃん」

 

 ――そう、信じて……

 

「どうして……どうして裏切るんデスか、響さん!!」

「裏切る? 何を?」

「ああやっていれば調はあたしの気持ちに気が付いてくれるって……」

 

 ――信じて、いるのに。

 

「あぁ、あれ? 嘘。真っ赤な嘘だよ」

「……な、なんでそんな」

「調ちゃんの全部を手に入れるには切歌ちゃんが一番の障害だった。だから、仕組んだんだよ。未来も利用して、切歌ちゃんの気持ちも利用してね。調ちゃんが切歌ちゃんを信じられなくなるように」

「じゃあ……あの言葉も、計画も、全部……」

「そう。嘘。それで、切歌ちゃんはもう用済み。だから、わたしと調ちゃんの邪魔にならないように始末しようと思ってね」

「こ、この外道!!」

「あぁそうそう。他の装者や師匠に助けを求めても無駄だよ? だって皆もう骨になってるし、未来はさっき海の底に沈めてきたし、師匠や緒川さんはアルカノイズに触ってもらったし。後はもう、切歌ちゃんだけ」

「……Gatrandis babel zig――」

「歌わせない」

「あがっ!?」

 

 信じて、いたのに。

 なんで、切ちゃんの首を掴んでるの? なんで、切ちゃんの首を折ろうとしてるの?

 

「じぃぐ、れっと……えで、なる!」

「これでも歌おうとするんだ。他の皆はもう声も出なかったのに。じゃあもっと」

「あっ……!! っ!!」

 

 やめて。

 切ちゃんを傷つけないで。

 

「し、らべ…………」

「じゃあ、さよなら。切歌ちゃんはいい駒だったよ」

 

 切ちゃんの首が曲がっちゃいけない方向に曲がる。

 それが何を意味するのか。分からないわけがなかった。

 力をなくしてギアすら解除された事が何を意味するのか。そして、それをやったのが、誰なのか。

 

「ふぅ……まさか五分以上かかるなんて。翼さんもマリアさんも、瞬殺だったんだけどなぁ。これも愛故に、なのかな?」

 

 なんで、どうして。

 

「ごめんね調ちゃん。なんか変なの見せちゃって」

 

 やめて。すてないで。それはきりちゃんなんだよ。

 なげすてちゃ、だめなのに……

 

「さ、もう邪魔者は誰もいないよ。調ちゃんはずっと、わたしだけを見てればいいんだよ。わたしだけが、調ちゃんの味方であり続けるから」

 

 このぬくもりはほんもの。

 でも、にせもの。

 どうして、こうなっちゃったのかな……どこで、まちがえちゃったの、かな……




ヤンデレが切ちゃんだけかと思った? 残念ビッキーでした!!

いや、うん。書いてて凄く苦しかったよ。というかこんなのビッキーじゃねえとか思いながら書いてましたよ。

ちなみにビッキーの作戦は、元からヤンデレ気質な切ちゃんをそそのかして自分と393との不仲を演じさせると同時にヤンデレが悪化した演技をさせる。そしてよく分からないことを393と言ってもらいながら切ちゃんに調ちゃんを束縛するような演技をさせる。そして切ちゃんを信じられなくなった調ちゃんの精神が不安定に。
その作戦の進行中にエルフナインとOTONAをまず葬ってから他の装者を葬ってから弱った心に付け込んで調ちゃんを略奪、最後に協力者である393をコンクリ詰めして海の底に沈めてから切ちゃん抹殺、でした。なお調ちゃんが元から惚れていたためかなりスムーズに作戦は完了した模様。

装者もOTONAも全滅しましたが次回からは別の世界線なので問題ありません。この世界線は封印安定。

……ガチャで竜ギアの調ちゃんが出なかったから報復という訳じゃないよ? ホントダヨ?


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月読調の華麗なるカブト狩り

エイプリルフールはネタが何も思いつかなかったんや。すまんな。

今回は、まぁサブタイで察する人は察する。

さぁ誰があの人のアレをするのか……


 暑い。

 時期は七月。既に猛暑。もう暑くて暑くて仕方がない。はしたないけど夜中にお腹を出した状態で寝ちゃうくらいには暑い。切ちゃんは下着オンリーか全裸だから切ちゃんよりはマシだとは思うけど……思いたい。

 そんな猛暑日が続く中。わたしはボーッとしながらテレビを見ていた。

 アイスを咥えながら団扇片手にテレビを見る夏休み。華の女子高生の青春とは思えなくて笑えるんだけど。もう頭の中可笑しくなる位には暑い。

 クーラー? 猛暑日初日にご臨終して以来天に召されたままだよ。買い替えるお金なんてないし、本部で涼む事も考えたけど……皆お仕事中の中、わたしが涼みに行くのは、ね? そういう訳でわたしはアイスを食べながら暑さを忘れるようにテレビを見る。

 はぁ……なんかこう、楽にクーラーを買い替えれる位のお金が降ってくるような案件が無いかなぁ……

 なんて考えていると携帯が鳴った。

 クリス先輩だ。はいもしもし。

 

『……なぁ、お前ん家、クーラー付いているか?』

「理由をどうぞ」

『家のクーラーがお天道様へ向かって全力でダッシュしていった』

 

 え? 何? 装者の家のクーラーは壊れる宿命なの?

 取り敢えずわたしの家のクーラーも壊れている事を伝えるとクリス先輩はマジかぁ……と溜め息と一緒に絶望が混じった溜め息を吐いた。どうやらクリス先輩もクーラーを直すお金がないみたいでもう泣きそうだった。

 相当参っているんだろうなぁ。わたしも最初の方は暑さでイライラし過ぎて切ちゃんを水風呂に放り込む八つ当たりしてたし。まぁ、切ちゃんはそれを楽しんでたしこんな八つ当たりなら可愛いほうだよね。わたしは入らなかったけど。

 

『何日か泊めてもらう代わりに宿題でも見てやろうかと思ったんだがな……』

 

 クリス先輩が珍しい。普段ならそんな事こっちから頼まないと引き受けてくれないのに。

 でもそれを考える位には参っちゃってるって事なのかな。その条件は魅力的だけど、クーラーが壊れている以上その条件は呑めない。悲しい。

 クリス先輩と電話越しで溜め息がシンクロする。変なところでユニゾンなんかしなくてもいいのに……っていうかテレビの音声邪魔。イラつく。消してやる。

 

『最近は空前のカブトムシブームです。なんと、こちらのカブトムシ、一匹二万円もするんですよ』

 

 ……ん?

 

『そしてこちらの日本で捕れたカブトムシも諸外国に人気があるらしく、一匹数千円で取引されているとか』

 

 ん? ん? ん?

 これは? これはこれは?

 

『どこのお店でもカブトムシは品切れの状態。もしも持ち込みがあれば高値で買い取るとの事です』

 

 これは、つまり、そういう、事、だよね?

 

「……聞きました?」

『あぁ、バッチリとな』

 

 クリス先輩と思考回路が一致する。

 この空前絶後のチャンス。逃すわけがない。クーラーを買い替えて楽園を取り戻すためにわたしとクリス先輩がやる事は一つ!

 恥? 年齢? 性別? 安っぽいプライド? そんなの全部溝に捨てる。わたし達がやる事はただ一つ!!

 

『カブト狩りじゃああああああああああああああああああああっ!!』

 

 

****

 

 

 と、いう訳で!!

 

「虫除けよし! 日焼け止めよし! 帽子よし!」

「網よし! 虫かごよし! トラップよし!」

 

 急遽わたしとクリス先輩は近くの山へと遠征に来た。半袖の服と動きやすいズボン。そして虫除けスプレーだったり日焼け止めだったり、女の子として大事な物も全部持った。あと塗った。ここに来るまでになんか微笑ましい感じで見られたけどそんな事知らない。わたし達が狙うのはただ一つ。

 カブトムシ、から派生するお金。そしてそこから派生するクーラー! 絶対にここでクーラーを直してこの夏の楽園を取り戻す!

 

「アタシ達の捕ったカブトを纏めて売り払って金を作る」

「そしてクリス先輩の部屋のクーラーを直してわたしがそこへ避難。切ちゃんは放置」

「これはアタシとお前の共同戦線だ。誰にも邪魔なんかさせねぇ!」

「カブト狩りを無事に終わらせて、わたし達は楽園を手にする!!」

 

 網を両手に真昼間の山の中で意気込みを口にするわたし達、なのだけど。

 困ったことが一つある。

 それは、わたし達はカブト狩りに関してはズブの素人だという事。クリス先輩の幼いころは……まぁ、その、あんまり軽々しく言えない感じだし。わたしに関しては記憶ないし。気が付いたらアメリカだったし。USAだったし。だからカブト狩りとは意気込んでみたものの、カブトムシを見つけれる気がしない、というのが本音。

 だけど、そこら辺は根性でカバー。絶対にカブト狩りを成功させてクーラーを修理する。あんな地獄からとっととオサラバする。その為ならわたし達は全力になれる。奇跡だって起こしてみせる。今まで何度も奇跡なんて起こしてきたんだし、この程度の奇跡、安い物!!

 

「さて、じゃあ適当に探しながらトラップを仕掛けるか」

「そうですね」

 

 なんてテンションを上げたけど、この広い山を駆け回ってたら体力が幾らあっても足りない。

 という訳で。常識人であるわたしの発言でお昼の内に即席で作ったトラップを仕掛けまくって夜中と明日に全てを懸ける事にした。ちなみにこのトラップは藤尭さんに作り方を電話で教わった。

 わたしとクリス先輩は装者の中ではトップクラスの常識人枠。クリス先輩は、ほら。言動がちょっとアレでお食事が汚食事なだけだから。それ以外は本当に常識人だから。

 そんな常識人が立てた作戦。成功しないわけがない。

 

「確か、樹液が出ている木がいいんだよな?」

「確かそう言ってました」

「……樹液って、なんだ?」

「……実物見たことありません」

 

 なんか皆樹液が樹液がって言ってるけど、探そうと思って探せる物じゃないよね。

 取り敢えず樹液を探していこう。

 ……なんかこう、樹液って黄色っぽいイメージがあるからそんな物が光ってたらそれって断定する方針で。決して調べるのが面倒だったわけじゃない。

 

「……ん? おいこれ」

 

 とか思ってると早速クリス先輩が何か発見した。

 木に塗られているテラテラとした黄色の液体……こ、これはまさか!

 

「だよな! っておい、あっちにもあるぞ!」

「け、結構群生してるんですね!」

 

 凄い大量に樹液が滴っている木が! これなら案外作りまくったトラップも全部設置できるかも!

 でもこの樹液……なんか何処かで見たことがある気が……っていうか何かすっごい甘ったるい匂いが……え? これ樹液だよね? わたしにはちょっと違う液体に見えるんだけど……樹液、なんだよね?

 

「おいこっちの方に行くともっと………………――――」

 

 あ、クリス先輩がフリーズした。

 

「何かあったんです…………――――」

 

 …………え?

 ………………え?

 その……え? なにあの……なに? わたしの幻覚? 暑すぎてなんか変なの見えちゃってるの? ちょっとあれを現実として認識したくないんだけど。

 

「……クリス先輩」

「……なんだ」

「……わたしの目には、その、あの」

 

 ……うん、言おう。多分クリス先輩は幻覚だって言ってくれるハズ。

 

「響さんが片足を上げて両手を広げた状態で下着姿でハチミツを全身に塗りたくっているように見えるんですけど」

「奇遇だな、アタシもだ」

 

 なんかこう、ぬとぬとしているというか……ハチミツが全身から滴っているというか……ついでに片足立ちなのに全くバランスが崩れる気配無いし……っていうか何であんなにドヤ顔? なんで痴女してるのにドヤ顔? 馬鹿なのあの人。馬鹿だったわ。

 あ、目が合った。

 

「ハニー大作戦だよ」

 

 わたしとクリス先輩はそっとその場を離れることにした。

 

「クリス先輩、この森怖いです」

「ちげーよ。あれはハチミツの化身だよ。ああやってハチミツが蛮族に奪われないように見張ってるんだよ」

「どっちにしろそんな化身がいる時点で怖いです」

 

 もうあの人を今まで通りの目で見れない。

 とにかくわたしはあの場から離れたかった。クリス先輩も、いつも馬鹿馬鹿言ってるけど響さんの事は認めているから、あんな響さん見たくなかったと思う。なんか目から汗が流れているように見えるし。

 何だかなぁ……暑さって人をあそこまで壊すんだなぁって。

 もうこの森から離れたい……っていうかあの人を風鳴司令に突き出して説教してもらいたい。っていうか足元にあった巨大なハチミツの瓶は一体どこから仕入れてきたの。

 もうツッコミ所多すぎて何も言えないよ……ん?

 

「クリス先輩」

「言うな」

「ここにもハチミツが」

「言うんじゃない」

「もしかしてあの馬鹿な事をやっているのがもう一人」

「それが身内だったらもう耐えられねぇんだけど」

 

 いや、でも……なんかバッチリとハチミツの跡が……

 わたしは何とかクリス先輩を説得してハチミツの跡を追うことにした。もしかしたら。もしかしたらこの先でカブト狩り名人がハチミツを使った物凄い画期的なトラップを仕掛けているかもしれないし。もしかしたらそこに本人がいるかもしれないし。

 身内だったら……わたしも耐えられない。多分蹴っ飛ばすと思う。

 あ、ごめん嘘。ハチミツに濡れた身内を蹴りたくない。

 

「アタシの勘だとお前にゃ見てほしくないって感じがしてな……」

 

 え? どういう事です?

 それを聞く前にわたしとクリス先輩はあの……なんだっけ? ハニー大作戦? をやっているかもしれない馬鹿二号が居るであろう空間を見つけた。

 草木を掻き分けながらようやくその馬鹿を目にして――――

 

「…………え?」

 

 思わず声が出た。

 だって、その馬鹿二号は……響さんと対をなす馬鹿は……

 

「きり、ちゃん?」

 

 切ちゃんだった。

 切ちゃんが、響さんと同じ格好をして全身にハチミツを塗りたくって、しかもそのついでと言わんばかりに下着姿で直立不動の状態でそこに立っていた。足元にはデカいハチミツの瓶が。

 

「……ハニー大作戦デス」

 

 わたしは泣いた。

 

「落ち着けって。あれは馬鹿の化身だ。ああやって馬鹿を表すことでこれ以上馬鹿が増えないように頑張ってんだよ」

「ひ、ぐっ。えぐっ……」

「あーもう泣き止めって。な? あれはただの馬鹿の化身だからさ。ほら、泣くなって」

 

 いや、もうさ……泣かずにはいられないよ。

 だって、だってだよ? 十年近く一緒にいる自分の片割れがだよ? 森の中で痴女姿で全身にハチミツ塗りたくってテラテラした状態で直立不動してるんだよ? もう怒りも何もかもを通り越して悲しすぎて泣いちゃうって。響さんならまだ何とか耐えられたけど……切ちゃんだよ? 自分の片割れだよ? 相方だよ? もう恥ずかしいし悲しいし……

 もう涙が止まらない……きっとマムも天国で大号泣しているよ……割とマジの大号泣だよ。

 

「ぐすっ、うぅ……」

「大丈夫だって。ほら、あそこにも馬鹿三号がいるだろ? あれ見て落ち着……ん? 馬鹿三号?」

 

 馬鹿、三号?

 ……なんか察した。

 顔を上げればそこには特徴的なサイドポニーを結った青色の髪の、国民的歌姫でありながらクリス先輩の先輩兼、わたしの身内であるあの人の姿が。

 

「え、あ、せ、センパ……」

 

 風鳴翼。彼女が下着姿で全身にハチミツを塗りたくって響さん達と同じ格好をしながら、こう言った。

 

「ハニー大作戦だ」

 

 クリス先輩は泣いた。

 

「そん、なのねぇだろ……ひぐっ、ぐすっ……」

「大丈夫ですよ……あれは刀の化身です。ああやって光って自分はキレるぞって事を知らしめてるんですよ……ぐすっ」

 

 わたし達、マジ泣き。

 二人して涙を流しながら森の中を歩く。

 可笑しいなぁ。わたし達って身内だったり片割れだったり先輩だったりの痴態を見るためのここまで来たんだっけ……カブトムシの影も見えないのに何で大号泣してるんだろう……なんで暑いのに二人で並びながら泣いてるんだろう……これも猛暑のせいなのかなぁ……

 いや、だからと言ってここで発狂してハニー大作戦とかはしないよ? そんな事したら同じ穴の狢だし……っていうか何であの人達もカブト狩り……カブト狩り? に来てるんだろう……

 

「もうやだ……かえる……」

「かえってもあついです……」

 

 もうわたしもクリス先輩もメンタルボロボロだよ。なんで身内にこんなに精神をタコ殴りにされなきゃならないの。

 でも、これならもう帰っちゃったほうが……あんなのが居る森でマトモにカブトムシ探せる気しないし精神的なショックで倒れそうだよ……倒れたら死ぬけど。

 

「んー!! んんんー!!」

「……ぐすっ。なんか聞こえるな」

「行きたくないです……」

 

 とか思ってたらなんか聞こえてきたよぉ……

 っていうかこの声って……

 

「……響さん?」

「……まさか、痴女紛いな事してたから襲われてんのか?」

 

 だ、だとしたら!

 わたしとクリス先輩はすぐに涙を拭ってギアペンダントを握りしめた。

 わたし達は近づきたくすら無かったけど、男の人ならもしかしたら興奮してそのまま響さんに乱暴を……とか考えられる。だって下着姿なんだもん。だったら、助けないと。もう暫く話したくすら無かったけど、ピンチなら助けないと!

 わたしとクリス先輩は最短ルートで響さんの声がする方へと走った。

 そしてその先に広がっていたのは……

 

「ハァハァ……やっぱ平行世界の響もいい……ハチミツを塗りたくってそのまま美味しく……」

「んん!! んんんー!!」

 

 ……えっと。

 その、解説しますと……未来さんが響さんを木に縛り付けて拘束した状態で猿轡を噛ました状態で全身にハチミツを塗りたくっていました。しかも、近くに灰色のパーカーが無造作に投げ捨てられているから多分この響さんはグレ響さん。

 もう下着すら無いよね。全裸だよね。全裸で縛られてなんか物凄いマニアックなプレイを強要されているよね。

 ……なんなの? この山って装者が集まるように仕掛けられているの? っていうか今装者間ではハチミツがブレイクしてるの? 大流行なの?

 取り敢えずわたしとクリス先輩が出来る事は……

 

『……ご、ごゆっくり』

「んんんんー!!」

 

 あ、多分これ助けてって言ってる。

 けど、わたしとクリス先輩じゃ未来さんには勝てないので……それでは。

 ……さて。

 

「帰りますか」

「もう扇風機と水風呂で我慢しましょう」

 

 もう、ここに居たくない!!

 そういう訳でわたしとクリス先輩は最短で真っ直ぐに一直線に下山を……あっ、なんかいる……

 

「……ハニー大作戦よ」

 

 わたしとクリス先輩は下山途中に見つけてしまったマリアの頭を全力で蹴り飛ばしてから全力で下山した。

 もうやだこの装者達!!




裏話

響「実は最近お菓子の食べ過ぎでお金がなくて……」
切「クーラーが壊れたデス……」
翼「私も、バイクで金がな……」
マ「セレナと買い物してたらついつい……」
切「こういう時の作戦はただ一つ、カブト狩りデス!!」
響「という訳でここにハチミツを用意しました! これを全身に塗りたくってわたし達が木となるのです!!(真面目)」
翼「なるほど……まぁ、やってみる価値はあるな(思考放棄)」
マ「セレナのためなら恥もプライドも全部捨ててやるわ!!(思考放棄)」

この結果が調とクリスの号泣である。


という訳で今回のパロディ元はまたしても銀魂。アニメ65話と原作83訓、『少年はカブト虫を通し生命の尊さを知る』、銀魂乱舞の近藤さんの特殊技、実写版銀魂のカブト狩りからでした。

取り敢えず響と切ちゃんはお気楽コンビとしてハニー大作戦行きは決めてました。が、ズバババンとマリアさんを沖田さん枠か土方さん枠にしようとして……結局ハニー大作戦してもらいました。本来はこの後の乱痴気騒ぎも入れようかと思いましたが二万文字くらいになりそうだったので省きました。

そして未来さんは平常運転。この後グレ響は美味しくいただかれました。セレナはまだ謹慎中。奏さんは思いつかなかった。

次回はサバゲーか、調ちゃんと切ちゃんが君の名はするか。頭を打ったら起こるギャグ補正特有の症状とかもう思いつかない。


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月読調の華麗なる入れ替わり・前

ちょっと長くなりそうだったので前後編になります。

今回は幼児退行、記憶喪失、人格七変化時空の調ちゃんです。という事は……?


 あの日……頭を打ってから幼児退行したり記憶喪失になったり人格がコロコロ変わるようになったりして以来、皆のわたしに対しての扱いが慎重そのものになった。というか特にクリス先輩、切ちゃん、エルフナインの三人が慎重になった。

 うん、いっつもあの三人が苦労するか入院するかだからね……そりゃ慎重になるよね。変にまた頭を打って幼児退行、記憶喪失、人格迷子のどれかがまた起こったら絶対にあの三人が苦労するわけだし。

 そういう訳で皆がわたしに対して慎重になった。響さんとか翼さんはそこまでしなくても、と言っていたけど切ちゃんとエルフナインの切れ痔になりたいかって言葉とクリス先輩のXDモードを相手にしたいかって言葉を受けてそっと心を入れ替えた。入れ替えてほしくなかった。そこまで慎重にならなくてもわたしは大丈夫なのに……

 

「おい、階段ですっ転ぶなよ」

「分かってますって……」

 

 そして今日はクリス先輩と買い物……の筈だったんだけど。わたし、何だか介護されている老人みたいな扱い受けています。階段を上ったり下りたりする度にクリス先輩が下で待機してわたしは前を歩かされる。そして誰かが来たらクリス先輩がガッチリ手を掴んでわたしに万が一が無いようにする。

 確かにクリス先輩はわたしが頭を打った三回の事件の中、内二回でXDモードのマリアを相手にして入院してるし慎重になるのも仕方ないことには仕方ないんだけど……どうにも違和感が凄い。

 そりゃわたし自身迷惑かけたって自覚もあるから何とも言えないけど……ここまで慎重でそわそわしているクリス先輩を見るのは何というか……もう三回も同じようなことが起こってるから、わたしの頭はそこまでポンコツじゃない。って言ったところで信じられないだろうし、わたし自身信じられない。もしまた魔法少女事変とかが起こったらわたしは元の人格を保ったままハッピーエンドを迎えられるのか不安になってきた。

 まぁそんなこんなありまして。わたしとクリス先輩は結構慎重にだけど、買い物を終わらせた。買いに来たのは服。クリス先輩ってここら辺のセンスはかなり良いから時々頼んでるんだよね。クリス先輩も笑顔だから、こういうのは満更じゃ無いみたいだし。装者の中で一番女の子してるのってクリス先輩なのでは? と思う事も結構ある。

 

「クリス先輩、今日はありがとうございました」

「ん? アタシだって楽しかったし別に礼を言われる程じゃねぇよ」

 

 そして帰りに適当なカフェでお昼を食べる事に。

 午後からはちょっと家で家事をしなきゃだったから朝早めにクリス先輩に付き合ってもらったんだ。そういう訳で今はお昼ご飯を食べるにはちょっと遅いかな? 程度の時間帯。まだカフェにも人はそれなりに入っている。

 パスタを何時もの如く食べるクリス先輩の口を時々拭きながらわたしも自分で頼んだパスタを食べる。うん、美味しい。

 クリス先輩もこれが無かったら……いや、これも魅力の一つなのかな? なんやかんやで美味しく食べているように見えるし……どうなんだろう? 男の人の目線にはなれないからよく分からないかな。

 

「また時間がある時にお出かけしましょうね」

「そうだな。何やかんやでアタシも金がそこそこあるからな……なんやかんやで」

 

 そのなんやかんやって言うのは……まぁ、アレだよ。大怪我したからSONGの方から出された手当と言うか。何だか申し訳ないお金です、はい。

 それに、装者やってると特別手当とか沢山出るからお金、結構持ってるんだよね。アルバイトしなくても趣味に十分過ぎる程使えて、尚且つ一人暮らしが容易に出来る位には。多分、わたし達装者は将来SONGの職員だし、そうするとSONG職員としてのお給料も入るから……

 うん、老後も安心だね。

 

「ふぅ、食った食った」

「口汚れてますよ~」

「おわっぷ」

 

 なんやかんやでこうやって口元を拭かれているクリス先輩可愛い。こういうのが男の人は好きなのかな?

 身長なんてわたしと殆ど変わらないのに、胸はわたしよりも遥かに大きくて、しかも童顔だし……羨ましい。

 

「おい、何でアタシの胸をガン見してんだよ」

「もげないかなと」

「いきなり何つー事言い出すんだお前」

「それかわたしに移植してくれないかなと」

「エルフナインに頼め。エルフナインの胸と交換してもらえ」

「それじゃあ何も変わらないじゃないですか!」

「お前サラッと失礼だよな」

 

 だってエルフナインもわたしと余り変わらないし……本人は元々性別が無かったからまったく気にしていないみたいだし、もしも成長したらあの時のキャロルみたいになる事は確定しているだろうし……どっちにしろエルフナインは敵。っていうか、胸の移植は錬金術師でも出来ないと思うの。

 わたしは去年のクリス先輩達と敵対してから一切大きくならない……っていうか微塵も変わらない自分の体を見下ろして溜め息を吐く。切ちゃんなんて翼さんとサイズは同じなのに身長とか体格とか諸々で十分に大きいのに何でわたしは……

 栄養失調を理由にしたいけどマリアと切ちゃんが育っている以上なんとも……はぁ……

 

「んじゃ、会計済ませちまうか」

 

 わたしが自分の体を見下ろして溜め息を吐いているとクリス先輩が伝票片手に立ち上がった。

 それを見てからわたしも立ち上がろうとしたけど。

 

「お、おぉ!?」

 

 クリス先輩がいきなりバランスを崩した。どうやら立ち上がった時に足が何処かに引っかかったみたい。けど、わたしは顔を上げたばかりで、こちらに倒れこんでくるクリス先輩に反応ができなかった。

 迫ってくるクリス先輩の顔。あ、ちょっと拭き残しがある。なんて妙にスローになった視界の中でわたしは今まで見たことのないクリス先輩の焦り顔を見ながら額への衝撃を感じた。

 

『あだぁ!!?』

 

 …………

 ………………

 ……………………はっ!?

 き、気絶してた……!? まさかクリス先輩から事故とはいえ頭突きをくらうとは……思いっきり頭突きされたからか額が物凄く痛い。っていうか体が重い。

 わたしは前のめりに倒れている自分の体を起こした。

 ……うん?

 前のめりに?

 可笑しいな。わたしってまだ立ち上がってなかったよね? 普通に座ってたところにクリス先輩がヘッドバッドしてきたんだよね? なのにどうして前のめりに倒れていたのかな。というか何だか体……というか胸が重い。

 

「いっつつ……」

「いってぇ……事故ったぁ……」

 

 ……ん? 何かわたしの声可笑しくない? っていうかクリス先輩の声も可笑しくない?

 何だかクリス先輩の方は……低い、のかな? 対してわたしの方は高いというか……何だろう。何処かで聞いたことがあるような無いような。そんな感じの声に聞こえる。っていうか胸が重い。何で。ストーンな体なのになんで重いの。

 

「おい、大丈夫……は?」

 

 わたしが額に手を当てて痛みが引くのを待っているとクリス先輩の声色が変わった。

 疑問を孕んだかのような、見てはいけない物を見たかのような……そんな感じの声。わたしはその声を聞いてようやく引いてきた額の痛みを我慢しながらそっとクリス先輩の方を見た。

 

「大丈夫です……えっ?」

 

 わたしも同じような声を漏らした。

 そっと椅子に座りなおしてから、わたしは持っていた伝票を置きながら改めて対面のクリス先輩を確認する。

 黒い髪の毛をツインテールにした、赤い目の女の子。体型は可哀想ともスレンダーとも言える感じでよく知っている……というか毎日見ている顔と体。対してわたしの方は銀色の髪を二つに纏めて、目の色は分からないけど胸は……わーお、ダイナミック。

 これ何センチあるんだっけ? 凄い、自分の足元すら見えないんじゃないかなこれ。あ、しかも柔らかい。

 けど、これで大体分かった。

 つまり、つまりだ。今までの事がなければ笑い飛ばしていたかもだけど、今のわたしなら……様々なギャグ漫画でしか見たことがないような症状を己で起こしてきたわたしなら分かる。

 

「……なぁ、もしかして」

「わたし達」

『入れ替わってる……?』

 

 つまるところ、君○名は状態。

 勘弁してよ……また切ちゃんが切れ痔になるよ……

 

 

****

 

 

「それでどうしようも無くなったからボクの所に来たと」

 

 それから一時間位後。

 わたしとクリス先輩はもうどうしようも無くなったから病院じゃなくてエルフナインの元を訪れた。だって普通に病院に行ったらそのまま精神病院へ入院案件だし……こういうファンタジーな事はエルフナインでもないと相談できないし……

 という訳で錬金術で何とかしてよ、エルフナインえもん。

 

「何ですかエルフナインえもんって。語呂悪すぎですよ」

 

 あぁ、なんかエルフナインが冷たい……

 まぁ当然だよね。だって前回は切ちゃんに続いてエルフナインも切れ痔になったんだから。

 暫く研究ができなくて溜まりに溜まった書類仕事と研究に顔真っ青にしてたもんね。そりゃあ、また厄介ごと持ち込まれたら冷たくもなるよね。

 なんだかエルフナインがより身近に感じられるようになったけど冷たいのは普通に悲しい。

 

「……はぁ。まぁ、普通の病院じゃこれはどうしようも無いですからね。ボクも精一杯協力します」

 

 けど何やかんや言いながらも優しいエルフナイン大好き。

 エルフナインは適当なノートに何か書きながら、にしても。と会話を続けた。

 

「男勝りな口調の調さんに、クールな口調のクリスさん。何だか違和感が凄いですね」

「自分でもそう思うわ。割とマジで」

「何だか表情も人格寄りになってますからね」

 

 わたし、元々表情には出にくいタイプだけど……思いっきり表情を変えるわたしの顔を見ると違和感が凄い。対して表情筋死んでいるクリス先輩っていうのも違和感が凄い。これ、響さん辺りにドッキリとして仕掛けたら何だか面白いことになりそうな気がする。

 

「漫画じゃテンプレ中のテンプレだが、いざ自分の身に起きてみると何ともなぁ……利点なんて体が軽い程度だ」

「暗にわたしの体がひんそーでちんちくりんって言ってます? 喧嘩売ってます?」

「いや売ってねぇよ。けど、胸なんて大きくてもいい事はねぇんだぞ? 道行く男共の視線は鬱陶しいし」

 

 確かに、ここに来る途中も何だか視線は感じた。主に胸への。

 ちっちゃくて童顔で、でも胸だけは不相応。そのせいか歩くのすら大変だった。だって足元は見えないし胸は歩くだけで揺れるし。大きな重りが体の前面に付いているような物だから歩く時にバランス崩しかけるし。何度前のめりに転びかけたことか。

 

「だろ?」

「でもそれ以上の圧倒的な優越感……!! 時々感じる女性からの恨めしい視線……!! それを感じれる圧倒的な優越感が……!!」

「キャラ崩壊してんぞ」

 

 いつもは恨めしい視線を向ける側だった……でも、それを感じる側に立ってみると、こう……優越感が胸の内からふつふつと。どうだ羨ましいだろってドヤ顔したくなる程度には優越感を感じられた。これが持つ者と持たざる者の違いなのか、なんて思うとより優越感が感じられた。

 いいなぁ……巨乳っていいなぁ……わたしも自分の体で巨乳になりたいなぁ……

 クリス先輩は紛争地で生き残ってきたんだし、わたしよりも食生活は悲惨だったはず……なのにどうしてこんなに大きく。あ、そうだ。それを聞いてみよう。胸を大きくする秘訣を。

 

「ちなみに、胸を大きくする秘訣は」

「紛争地で男共にレ○プされりゃいいんじゃね? アタシはそうだったし」

 

 えっ……

 …………えっ?

 

「いや、冗談だよ。された事ないから。だからアタシの顔でそんな顔すんなって」

 

 で、ですよね。

 普通にその惨状が考えられるのでブラックジョークは止めてください、割とマジで。

 

「悪かったよ、ちょっと調子に乗った。でも、本当に何もしてねぇんだよなぁ……強いて言うなら遺伝じゃねぇの?」

 

 遺伝……遺伝かぁ。

 となるとクリス先輩のお母さんってかなりご立派な物を持ってたんだろうなぁ。わたしは両親不明だから遺伝なのかどうかは分からない。でも日本人だってのは分かる。

 いや、それだけでどうしろって話なんだけどね。

 

「錬金術で体を作り替えられたら楽なんですけどねぇ」

 

 と、エルフナイン。だったら錬金術教えて。

 

「駄目です」

 

 ですよねぇ。

 まぁ、異端技術だし致し方なし。手術で偽物を作るのは嫌だからなぁ……何とかしてこのコンプレックスを解消出来ないかなぁ……

 時々貧乳はステータスだとか言ってる人が居るけど、本人はそう思ってないから。例えるなら、ゲームのガチャで欲しい物は一切出ないけど自分はいらない当たりを数個引いたって感じだから。それで満足しろって言われても無理でしょ? だって目的の物が出てないんだから。

 

「うーん……頭を打ったら人格が入れ変わるなんて事象、ここ最近でも昔でも起こった試しが無いですね……」

「だろうな」

「どうして頭を打っただけでその人の記憶も人格も何もかもが交換されるのか……科学的にも錬金術的にも解明したい所ですけど、今は治す事の方が先決ですし……」

 

 もしもそれを解明して立証して論文書いたらエルフナインは一躍有名人だよ。間違いない。

 でも、エルフナインに相談したのはちょっと間違いだったかな? エルフナインって良くも悪くも頭が固い方だから、こういうのを科学的にだったり錬金術的にだったりで解明しようとするって少し考えば分かったことだし。

 

「……頭を打った時に脳みそが交換されたとかありませんでした?」

「されてたらとっくに死んでるわ」

「それに、あのカフェもスプラッタになってる」

 

 時々とんでもない事いいだすよね、エルフナインって。

 違いますかぁ、なんて呑気な事を言いながらボールペンのノックする部分を額に当てて考えるエルフナイン。何だか様になっていて可愛い。

 でも、エルフナインは分からないらしく、時々変な声を出したり唸ったり。わたし達もこれは駄目かもしれないと溜め息を吐いた。

 

「これは暫く様子を見ましょう。時間経過で治るかもしれませんし」

 

 あー、やっぱりそうなる?

 ここで悶々としてても何ともならないし、これを今すぐどうにかしないと死んじゃうって事もないから、時間経過を試してみるのも一個の手だよね。漫画でも時間経過で治ったりする場合もあった気がするし。

 わたしとクリス先輩はまた顔を見合わせて溜め息を吐いた。少なくとも今日はこのままみたいです。

 

「ボクの方でも色々な方面からアプローチしてみま……あ、通信です。ちょっと待ってください」

 

 時間経過で治るのが一番かなぁ……それだったら治るまでは家で引き籠ってれば大事にはならないだろうし……

 

「え? 切歌さんが通り魔にお尻を刺されたんですか? 分かりました、すぐに医務室に向かいます」

 

 切ちゃんェ……

 

「これは調さんが頭を打った時に切歌さんが切れ痔になる因果関係も調べなければならないかもしれません……」

 

 そんな因果関係調べなくてもいいよ、エルフナイン。




後編はなるべく近い内に。っていうか調ちゃんの自虐だったり渇望だったりを省いたら文の量が半分以下になりそうだなって、あとがきを書いている最中に思った。けど反省も公開もしていない。

そしてサラッと画面外で尻を刺される切ちゃん。ノルマ達成。

ちなみに今回入れ替わりの対象をクリス先輩にした理由ですが……スマホのアプリで装者+エルフナインをぶち込んだルーレットをして抽選しました。セレナだけ確率を十分の一にしました。その結果クリス先輩が出ました。Twitterで貼ったあのルーレットの画像です。

次回は後編。オチが投げっぱなしジャーマンにならないように頑張ります。


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月読調の華麗なる入れ替わり・後

昨日の続き。結構話は縮めたつもりだけど七千文字いきました。


「そういう訳でアタシ等は暫く入れ替わったままになる」

「なんか面倒で申し訳ないです」

 

 エルフナインに大人の人達への説明を頼んだわたし達はマリアを除いた装者の皆への説明のために皆に一度集まってもらった。こればかりは一度見てもらわないと信じてもらうことは出来ないと思った故の処置だけど、効果はあったらしく、実際に表情豊かなわたしのボディーと表情筋死んだクリス先輩ボディーを見てすぐに信じた。

 それに、わたししか知らない切ちゃんの秘密だったりクリス先輩しか知らない秘密をわたしの体から話したりと色々と実験もしたから、それもすぐに信じてもらえる要因になったんだと思う。

 皆は座ってるけど、切ちゃんだけは切れ痔が痛いからって理由で立っている中、わたし達は皆揃って頭を抱えた。

 

「ギャグ漫画じゃないんだから……」

「この馬鹿にそれを言われるのは納得いかねぇ」

「だが、最もだ。まさか頭を打って入れ替わるとはな……」

「……響と体が入れ替わって……はっ、閃いた!」

「通報したデス」

「何でよ!! まだ何もしてないじゃない!!」

「未遂で逮捕余裕デス」

 

 いや、残当ですよ未来さん。

 でも、響さん達でもこんなギャグ漫画みたいな事初めてだからどうしたらいいのかよく分かっていない。聖遺物の仕業ならまた何処からか神獣鏡を発掘してきてギアに加工して、未来さんに使ってもらえば元通りなんだけど……生憎、今回は聖遺物の仕業じゃないからなぁ。

 なるほど、つまり聖遺物関連だ! とか断言できる位に聖遺物のトンでも事件が起きてたら気が楽だったんだけどなぁ。もしも戻れなかったらなんて考えるともう怖くて怖くて……いや、別にそうでもない?

 だってわたしは胸が大きいままだし? 身長あまり変わらないし、髪の毛なんて染めてしまえばいい訳で……あれ? 案外このままというのも満更じゃ……

 

「おい何考えてやがる」

 

 あっ、何でもないですハイ。決してこのままでもいいなぁ、なんて考えていませんです。

 クリス先輩の特大溜め息……というかわたしの特大溜め息を聞きながらどうしたものかと考える。ちなみにシンフォギアに関しては肉体が占める要因が大きいらしくて、わたしは今の状態だとイチイバルしか。クリス先輩もシュルシャガナしか纏えない。でも、魂というか人格が違うからかギアの出力は元の肉体の時よりもかなり落ちている。

 具体的には、わたしはルナアタック前までのイチイバル。クリス先輩はフロンティア事変の時のシュルシャガナしか纏えない。適合率もそんな感じ。

 だから入れ替わったままだと本当に色々とマズい。早急に戻りたい……けど、もう少しこの胸を自分のものとして振る舞いたいというのが……

 

「その気持ち、痛いほど分かるよ」

「私達は仲間だ、月読」

 

 未来さん、翼さん……

 

『今は敵だけど』

 

 ふーははは羨ましいか羨ましいか。

 ……ヤバい、これで威張っても虚無感しか得られない。泣ける。

 

「悔し泣きするクリスちゃんとか中々レアだね……」

「おい馬鹿、写真撮るな」

「調ちゃんに馬鹿って言われると、何だろう。ちょっと興奮する」

「えっ……?」

「じょ、冗談だよ?」

 

 若干響さんの目が怪しかったような怪しくなかったような……

 と、取り敢えずマイボディーが無傷で綺麗なまま帰ってくることを望みます。割と本気で。

 さて、おふざけもここら辺にして話を元に戻そう。えっと、確か話したのは……あぁ、そうだ。わたし達のボディーチェンジの経緯と、エルフナインの対応だ。だから、これからの事を取り敢えずみんなに話さなきゃならない。これはもうエルフナインには電話で伝えてあるからエルフナインと風鳴司令を初めとした人達には伝わっている。

 マリア? 知らない。

 

「まぁ、そういう訳で。わたし達、クリス先輩の部屋で暫く同居兼引きこもりします」

「その方が変な事故も起きないしな」

 

 そうしないと何かやらかした時に互いに不都合が発生してしまう。

 これが親と一緒に住んでいる人ならそうも行かないんだろうけど、生憎わたし達は一人暮らし……いや、わたしはルームシェアって形で切ちゃんと暮らしているけど、親が居ないからこういうのも自分たちで決められる。もしもどっちかが親と同居していたらこんなあっさりと案を決められなかった。

 取り敢えずSONGの方では体を入れ替える効果を持った聖遺物を探してもらいながらエルフナインの異端技術の方面でこの事態にアプローチをしてもらうって事になってる。その間、わたし達は互いに不都合が起きないように極力二人一組で行動するという事になったというワケだ。なお学校には行きません。クリス先輩が後々、確実に悲惨な状況になるからね。

 

「え? じゃああたしのご飯は……」

 

 そしてその案に危惧したのが切ちゃん。

 確かに、切ちゃんって料理できないもんね。ダークマターの錬成、とまではいかないけど大雑把過ぎて味がとんでもないことになるもんね。

 でも大丈夫。レトルトがあるよ。

 

「頑張ってね、切ちゃん。激辛の物を食べて次の日地獄を見ないようにしたら大丈夫だよ」

「それ即死案件デス」

 

 お尻が痛くなるほどの辛い物を切れ痔の状態……しかも真新しい切れ痔の状態で食べたら、確実に大惨事だよね……

 もうお尻に刃物が突き刺さっても即日退院出来ちゃうくらい慣れちゃった切ちゃんでも流石に一発でお陀仏だよね。まぁ、それは切ちゃんが一番分かってるから特に気を付けなくても大丈夫でしょ。

 取り敢えず、一度切ちゃんはお尻に包丁が刺さってるからこれ以上お尻にダメージが行くことはないから安心として……取り敢えず、これ。治るのかなぁ……

 

「あ、そういえば」

「どうしたの? 調ちゃん」

「クリス先輩ボディーになってから一つ気になってることがありまして」

「何だ? アタシの体に何かあったか?」

「頭から鳴るこう……何かが転がるような音が聞こえなくなりまして」

『えっ……』

 

 こう、頭を振ると頭の中で何かが転がるような、カラカラ、って音が……

 

「何でだろう……?」

「そ、それ頭の螺子が外れてるんじゃ……」

 

 クリス先輩が顔を青くしながらわたしのボディーで頭をブンブン振っている。

 皆も顔真っ青にしてる。あー面白い。

 

「いや、冗談ですけどね」

「タチ悪すぎんだろうが!!?」

「クリス先輩のブラックジョークよりはマシです」

 

 あんなエグイのよりはウン倍マシですよーだ。

 

 

****

 

 

「クリス先輩、そこですそこ!」

「クッソ当たんねぇ!! ぐおおおおおお……っしゃワンキルゥ!!」

「ちょ、まだ敵居ますって……あ、死んだ」

「だぁクソが!! リアルなら百発百中だってのに!!」

「一週間経っても全く進歩しませんね、クリス先輩は」

「うっせぇ!!」

 

 わたしの声で叫ばないでほしい。キャラ崩壊しているようにしか見えないから。

 で、だけど。

 一週間経ちました。未だにボディーチェンジは続行中です。

 誰か助けて。

 

「しかし、一週間経っても進退が無いですね……」

「あ? まだ煽るかお前」

「いや、ゲームじゃなくて体のほうですって」

「……あ、あぁ。なんか一週間も経つと馴染み過ぎて忘れてたわ」

「ちょ……」

 

 一週間の時間が経ってもSONGの方から有益な情報は得られなかった。

 様々な国に体を入れ替える力を持つ聖遺物の情報を譲ってもらったらしいんだけど、そのどれもが外れか紛い物。実際に風鳴司令と緒川さんが人柱になってくれたらしいんだけど、そんな事は起きなかったとか。っていうか簡単に人柱になる辺り、あの人達優しすぎる。

 それで、エルフナインの異端技術方面も進展なし。キャロルのように一度死んでスペアボディに、っていうのも考えたらしいんだけど、エルフナインの技量じゃ出来ない上に危険性が高すぎるから却下された。死んだあと蘇生できなきゃお陀仏だし、もしかしたら体も入れ替わったまま蘇生されるかもしれないしって。

 他にも響さん達も独自に調べてくれているらしいけど一切の進展なし。切ちゃんの切れ痔は快復へと向かっている。

 で、その一週間、わたし達は暇だったからネットで適当にFPSゲームを注文して遊んでいる。わたしはそこそこ上手くなったけどクリス先輩は上手くなる気配なし。多分ゲームセンターのシューティングゲームなら上手いんだろうなぁとは思う。

 そんなクリス先輩だけど、段々とわたしのボディに馴染んできてしまっているみたい。わたしもだけど。

 

「肩凝りも無くなったし体は軽いし動きやすいしで良いことだらけでなぁ」

「わたしは肩凝り酷くなって足元見えなくて動きにくいです……」

 

 巨乳の人が言う胸なんて無いほうがいいっていう言葉、ちょっとわかってしまった。

 確かに、邪魔。蒸れるし足元見えないし肩凝るし俯せになれないし。

 

「でも巨乳なのは気分がいいです」

「そ、そうか……」

 

 ブラのサイズが合わないとか言えちゃいましたし。

 え? 元の体でも言えただろうって?

 キャミソールやスポブラで事足りちゃいましたが何か? サイズ故に下着の買い替え資金に悩まされた事なんて一度もありませんが? あの時の負の感情、一度たりとも忘れてはいない……!!

 でもこの体だとそれは別。胸が大きいって素晴らしい。自分で思いっきり揉めるくらい大きいって素晴らしい。手から溢れるなんて実に素晴らしい。あれ? この思考、変態っぽい……?

 

「あーくそっ。外に出て体動かしてぇ……」

「一週間部屋の中ですからね……」

 

 クリス先輩の言葉には全くの同意だった。

 何せもう一週間も同じゲームを朝から晩までやっているんだもん。飽きたし、そろそろ体を動かさないといざって時に動けなくなる。でもそうやって外に出て知り合いに捕まったら目も当てられないし……

 はぁ、誰か解決方法を見つけてくれないかな……

 

「……どうせなら新しいゲームでも買うか? RPGとかアクションとか、アタシでも……」

『~♪』

 

 クリス先輩がパソコンの元へ向かおうとしたとき、わたし……じゃなくてクリス先輩の携帯から音楽が鳴った。

 えっと、この携帯はクリス先輩ので、今のクリス先輩はわたしだから、今クリス先輩であるわたしが出なきゃならないんだよね? 出てもいいですか? あ、演技しろと。わかりました。

 出来るかなぁ……よし。

 

「もしもし?」

 

 取り敢えず電話に出て声を出す。

 

『ハロー、クリス。そっちに調が行ってないかしら?』

「現在この電話番号は使われておりません。もう一度電話番号を確認して再度お電話をおかけください」

 

 わたしはその言葉を聞いてからすぐにそう言って電話を切った。

 え? 何でかって?

 

「……マリアでした」

「よし逃げるかぁ」

 

 つまり、そういう事。

 このままここに居たんじゃ、確実に面倒なことになる。だから、とっとと退散してマリアから距離を取らないと。じゃないとどっちがどんな目に合うのか分かったものじゃない。

 わたしとクリス先輩は同時にギアを手にして同時に窓から飛び出そうとして……

 

「あら酷いじゃない。折角人が訪ねてきたのに」

「きゃあああああああ!!?」

「おわあああああああ!!?」

「狼狽えるなッ!!」

 

 窓からアガートラームを纏って侵入してきたマリアを見て変な叫び声を上げた。

 マ、マリア、どうやってここに!? というか電話に出てからまだ十秒も経ってないよね!!? まさか緒川さんから忍術を……!?

 

「一応話には聞いているわよ? だからそんなに怖がらないでちょうだい。泣くわよ」

「いや、前科ってモンがあってだな……」

 

 マイボディの言葉に頷く。

 だってマリアって三回中二回悲劇を起こした訳だし、そう簡単に信用できないというかなんというか……

 

「取り合えず、調。あなた、体が入れ替わるのはこれで何度目よ」

「……へ?」

 

 な、何度目?

 いや、一度目ですけど……だってF.I.S時代に一度も入れ替わった経験なんてないし、頭を打ったら可笑しなことが起こり始めたのってつい最近からだし……なのに何でマリアは呆れたような溜め息を吐いてるの?

 クリス先輩、なんか凄い目でこっち見ないでください。わたしの顔で出来る最大限の怪訝さを孕んだ目でこっち見ないでください。割とマジで知らないんですってば。

 

「まぁ、無理もないわね。体が入れ替わる度に貴女は覚えてないのだから」

 

 え?

 そ、そうなの?

 っていうかいきなり怒涛の展開過ぎてついていけないんだけど……

 

「私が覚えている中では既に五回かしら。切歌と頭をぶつけては入れ替わって戻ってるわ」

 

 ……え? き、切ちゃんと?

 どういう事なの……

 

「懐かしいわね……最初は私もマムも動揺しまくってマナーモード状態だったわ」

「い、いやいや! 衝撃の真実が土砂降りしてきて頭がついてこねぇよ!!」

 

 く、クリス先輩の言う通り! 取り敢えず落ち着くための時間を貰いたいです!!

 なんて叫んでから十分後。ようやくそこそこ冷静を取り戻したわたしとクリス先輩はマリアの対面に座ってマリアの話を聞くことにした。マリアは呑気にお茶飲んでるけどこっちはそれどころじゃないんだけど……

 

「あー、あれは何時だったかしら……シンフォギアでの特訓を初めてすぐだったかしらね」

 

 いや、最初から話すとかいいからとっとと解決策を教えてほしいんだけど。

 

「まぁまぁ聞きなさい。調と切歌って最初はコンビネーションが合わずに何度も物理的に衝突してたじゃない?」

 

 ……まぁ、最初のほうはね。

 やっぱり初めてのシンフォギアだったし勝手も分からなければ今みたいにアイコンタクトだけで切ちゃんが何をしたいかとかも察せられなかったから、喧嘩こそしなかったけど何度もぶつかったのは覚えてる。

 完璧にコンビネーションが組めるようになったのだってルナアタックの直前辺りだったし。しかも当時は適合率の低さから連携しても、って感じの技も多かったし……それが形になったのはクリス先輩と敵対する直前だったし。

 

「で、あなた達って頭と頭でぶつかった時は確実に体が入れ替わってたのよ」

 

 え? 本当に?

 そんな事一切記憶にないんだけど……切ちゃんも覚えているならすぐに教えてくれたはずだし……だからクリス先輩はその目を止めてください。自分の顔なのに物凄く怖いんですってそれ。

 マリアはお茶を飲んで息を吐いてからそれで、と言葉を繋げた。わたしとクリス先輩はそっと視線をマリアの方へ戻した。なんか今のマリア、隠れて日向ぼっこをしていたマムみたいな顔してるけど……

 

「最初はどうしていいか分からなかったけど、ウェル博士の、だったらもう一度ぶつけてみればいいじゃないですかって言葉を実行したのよ」

 

 ウェ、ウェル博士の?

 

「えぇ。それで、私とマムで無理矢理あなた達をもう一度ヘッドバッドさせたらあっさりと戻ったわ。それ以来、何度もそれがあったけど、その度に私とマムで戻してきたわ。覚えてないのは、単純にぶつかった時に入れ替わっていた時の記憶が飛んだからじゃないかしら」

 

 そ、そういえば言われてみると、記憶が数時間飛んでる時があったし、妙に頭が痛んだ時とかもあったけど……それが?

 

「えぇ。私がガングニールを纏って調を小脇に抱えて、マムが超変形DX車椅子で立ち上がって切歌を抱えて、後は全力であなた達の頭を打ち付けたわ」

 

 え、えぇ……

 じゃあ、何? もしかしてわたしと切ちゃんが何かしらの原因で頭をぶつけ合う事になったらその場合は切ちゃんと入れ替わっていたって事?

 

「そうなるわ」

 

 なにそれ……

 っていうかそんな大事なこと、教えてくれておいてもよかったのに……

 でも、解決方法が分かったなら後は簡単。クリス先輩ともう一度思いっきり頭をぶつければいいだけなんだけど……いざ自分達でぶつけようって思っても出来ないよね……クリス先輩も難しい表情をしているし。

 でも取り敢えず思いっきり頭をぶつけるしかないのかなぁ……

 

「まぁ、自分達じゃ匙加減分からないわよね。と、いう訳で響!!」

「呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン! ビッキーでぇす!!」

「うわっ、何処から湧いて出たこの馬鹿!!?」

 

 マリアが指パッチンをしながら叫ぶと何処からかガングニールを纏った響さんが湧いてきた。え、ホントに何処から出てきたのこの人……? 玄関には鍵がかかってた筈だけど……

 

「手筈通り、思いっきりいくわよ!」

「了解です! という訳でちょっと我慢しててね、調ちゃん」

 

 響さんがサッとわたしの横に来るとクリス先輩ボディのわたしを持ち上げた、というか小脇に抱えた。そしてマリアもいつの間にかわたしボディのクリス先輩を抱えていた。 

 え? 冗談だよね? いくらなんでもシンフォギアでの全力は死ねるんだけど? また記憶喪失か幼児退行か性格七変化するんだけど!?

 

「行くわよ!!」

「最短で、真っ直ぐに、一直線に、治してみせる!!」

 

 た、助けて切ちゃ

 

『ハァッ!!』

『ぎゃんっ!!?』

 

 がくっ……

 

 

****

 

 

 結論から言います。

 治りました。記憶も飛ぶことなくわたしは自分のボディに戻りました。クリス先輩も戻れました。ただ、思いっきり頭をぶつけられたからか流血して即病院だったけどね。凄く痛かった。

 マリアと響さんは風鳴司令のお説教を受けてわたし達は頭に包帯を巻いた状態で病院から出てきた。まぁ、何はともあれ治ってよかったよかった。

 

「これでもうレトルトだけの生活から解放されるデス……」

 

 と、わたし達を迎えに来た切ちゃんは帰り道を一緒に歩きながら言った。

 なんやかんやで巨乳生活は一週間で終わったけど……やっぱり自分の体が一番。動きやすいし、感覚もズレているなんて事はないし。ただ胸がなくなったのは……下を見たら足元が見えてしまうのはやっぱり寂しい……対してクリス先輩は肩がー、胸がーとぶつぶつ言っている。もうもげてしまえ。

 

「けど、何か忘れているような……調がまた頭を打ってるんデスから……」

 

 ……それ、口にしたら駄目だったんじゃないかな。

 世間一般的にはそれってフラグって言うんじゃ……

 

『~♪』

「あ、電話デス」

『切歌君か! 付近にアルカ・ノイズが現れた! パヴァリアの残党だ! 今翼が交戦中だ。至急向かってくれ!!』

 

 切れ痔。刃物。天羽々斬……あっ。

 これ、最悪の場合切ちゃん死ぬんじゃ……

 

「竜の怒号の如き!」

 

 あ、やばっ! クリス先輩、退避退避ィ!!

 

「落つる、天の逆鱗ッ!!」

「およ?」

 

 さよなら切ちゃん、切ちゃんとの思い出は忘れないよ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アッーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全治一か月デス」

「切ちゃんは化け物なのかな?」

 

 あと、これはどうでもいい事なんだけど。

 最近頭を振ると頭の中からカラカラ、って何かが転がる音がするのは気のせいにしていいのかな。




はい。前回のアッーーーー!! をサラッと流したのはここで天の逆鱗をぶっ刺すためでした。なお、天の逆鱗が刺さっても全治一か月だった模様。絶唱で悪化していた頃が嘘みたい。

そしてまさかのマリアさんが解決の糸口になるという。今まで不憫だったから多少はね?

多分、今回で調ちゃんが頭を打って切ちゃんのお尻に何か刺さる世界線は完結です。痔・エンドです。だってもう頭を打ったら起こるギャグ漫画的現象が思いつかないんですもん。友人に聞いても出てきませんでしたし

次回はまたまたパロディ回、「月読調の華麗なる数珠繋ぎ」かオリジナルの「月読調の華麗なる課金」のどちらかとなります。なお没になる可能性もあるので投稿されるかは気分次第。
数珠繋ぎのパロディ元は、日曜の朝にやっていた、とある昔のアニメです。ヒントとしては……ゲーム版とアニメ版の差がヤバかったと。あとスパロボ参戦はよ。


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月読調の華麗なる数珠つなぎ

インフルにかかりました。病院代とコンビニでの飯代とかで一瞬で諭吉がお亡くなりになりました。インフル辛い(金銭面的な意味で)

熱も引いてやる事なかったんでスマホで書きました。多分文章が可笑しい部分が何箇所もあると思いますがご容赦を

さぁ元ネタ分かるかな?


 翼さん、わたし、マリア、切ちゃん、クリス先輩、響さん。

 この並び、何だと思う?

 正解は……

 

「もうこの崖にぶら下がり始めて何時間経った……」

「シンフォギアさえあればこんなぶら下がり、どうとでもなるのに……」

 

 崖からぶら下がっている順番でした。翼さんの腰にわたしがしがみついて、マリアがわたしの腰を掴んで切ちゃんがわたしの足、クリス先輩が切ちゃんの足を掴んで響さんがクリス先輩の腰にしがみついている。

 まるで数珠繋ぎのようにわたし達は翼さんにぶら下がっている。ちなみに翼さんの手には緒川さんから念のためにと預かっていたらしいカギ爪付きロープが巻き付いている。そしてカギ爪は崖にガッチリと食い込んでいる… …けど、重さのせいでいつロープが切れても可笑しくない状況。

 ならシンフォギアでどうかしたらいいと思うかもしれないけど、生憎今のわたしたちはギアを持っていない。と、言うのもエルフナインが突発的に始めたギアのメンテナンスのせいなんだけどね。だから今ギアは本部にある。だから今の状況は好転こそしないけど悪化はしていくという最悪の状態。しかも崖の下は底すら見えない奈落。手を放したら最後そのまま即死。

 だからと言ってもう何時間もこの状況のせいでわたしも腕がそろそろ限界だし、マリアがしがみついている腰とお腹も、切ちゃんの握っている足首もそろそろ痛い。というか四人分の体重を翼さんで支えているから重いし痛いしで。でもこの中で一番痛いのは翼さん。だっ て何度か吐きかけているしロープを巻き付けた手なんて青くなってるし。顔も青くなってるし。

 

「……どうしてこんな事になったんだっけ」

 

 と響さん。

 それの答えを多分三番目に楽であろうクリス先輩が答える。

 

「お前が皆で山で特訓しようとか言わなきゃこんな事にはなんなかっただろうが!!」

 

 そう。始まりはシンフォギアの緊急メンテを行うがためにギアをエルフナインに渡してから数分後の事だった。

 響さんは訓練のつもりでここに来たからか、体を動かしたいという欲求に駆られたらしくて皆で近くの山へ籠って特訓しようという事になった。わたし達は今日、暇人だったからそんなのも偶にはいいだろうって事で。

 それで皆でこの山に来たんだけど、走り込み の最中、響さんが足を滑らせてそのまま谷底へ落下しかけた。それをクリス先輩が助けたけどバランスを崩して一緒に谷底へ。そのクリス先輩が切ちゃんの手を掴んでそのまま落下。そして切ちゃんはマリア、マリアはわたし、わたしは翼さんを道ずれに谷底へと落下。その最中に翼さんがフックを投げてぶら下がり、全員で翼さんにぶら下がる事になった。

 もしも翼さんがフックを預かっていなかったらと思うと、ゾッとする。多分ここにいる全員、谷底で潰れたトマトになっていたと思う。

 

「クリス、落ち着きなさい。これは誰のせいでも無いわ。危険だと分かっていながらこの崖の付近で走り込みを始めた全員のせいよ」

「……わーってるよ。ちょっとイラついてた」

 

 そろそろイライラも 限界だったのであろうクリス先輩を何とかマリアが宥める。

 けどマリア。マリアってわたしにぶら下がってるだけだよね。マリアの下には誰もぶら下がってないもんね。しかもこれみよがしにその胸を押し付けてるもんね。だからそんな余裕な表情しているんだよね。

 ……イラついてきた。

 

「お、落ち着け月読ィ……! は、早まるなァ……!!」

 

 そろそろリバース寸前で死にそうな顔をしている翼さんがわたしの顔色を見て声をかけてきた。

 あ、危ない危ない。ここで仲間割れなんてしたら全員潰れたトマトになるのが目に見えている……というかこの中で一番危ないのって翼さんだから、その翼さんが我慢している以上、わたしも我慢するしかない。

 でも、これじゃあ翼さんの 腕が千切れるかロープが切れるかを待つことになっちゃう……それか翼さんの体が真っ二つに泣き別れするか、わたしの体が真っ二つに泣き別れするか。あれ? 詰んでない?

 

「だ、誰か携帯電話とか使えないのか……?」

 

 掠れた声で翼さんが皆に呼びかける。

 その言葉に反応したのは、この中で一番と二番目に楽な響さんとマリアだった。

 二人は片手で自分の体を保持しながら片手で携帯をいっだぁ!!?

 いたいいたい!! マリア思いっきり脇腹掴んでる!! それ皮と筋肉! 余分な脂肪じゃないからいたいいたいいたい!!

 

「ちょ、落ち着きなさい調!!」

「じゃあその手離してぇ!?」

「そうしたら死ぬじゃない!!」

 

 だからって思いっきり脇腹ぁ!!

 

「よし、携帯が取れたわ! これで……あっ」

 

 えっ、そのあって声はまさか……

 下を見てみると、マリアが絶望しきった顔で谷底に向かって片手を伸ばしていた。という事は……

 

「携帯落としちゃったぁ!!?」

「ちょっ、マリア動かないでほしいデいだぁ!?」

「お前ら暴れんじゃねぇ!!」

「そ、そうだよ落ち着い……あ、わたしの携帯までぇ!!」

「マリア脇腹脇腹ァ!!」

「つ、月読……そろそろ私が限界なんだが……」

 

 一瞬にして阿鼻叫喚だよ!! っていうか脇腹痛すぎて何も考えられないよ!!

 

「あっ、クリスちゃんのハーフパンツの間から……ふむ、赤ですか。いいですのう」

「一回死ねッ!!」

「ちょっ危なっ!?」

「暴れないで欲しいデスゥ!!」

「携帯ィ!!」

「あばばっばばばばば……」

「ぐへぇ」

 

 上から響さん、クリス先輩、響さん、切ちゃん、マリア、わたし、翼さんです。

 主にわたしと翼さんのダメージがヤバイのでそろそろ内輪揉めは止めてもらっていいですか……!!

 これ、明日になったら脇腹が内出血でもしてるんだろうなぁ、なんて思ってると、とうとう翼さんの顔色が青を通り越して白へと変わっていた。これはもう駄目かもしれませんね。来世に期待しましょう。

 

「す、すまん皆……私もだが、もうロープの方が限界だ……」

 

 と翼さん。

 その瞬間、皆の視線がロープへと集中する。そしてロープはその視線を受けてか徐々にその長さを千切れかけるという現象で伸ばしていき……

 

「あっ、駄目みたいですね」

 

 そんな響さんの声と一緒に、ブチッ! と音を立ててロープは千切れた。

 つまり、わたし達は奈落へ真っ逆さま。

 

「落ちるぅぅぅぅぅ!!?」

「こんな所で死にたくないデスゥゥゥゥゥ!!」

「ヘルプミィィィィィィィ!!」

「奏……やっと貴女の元へ……」

「生きるのを諦めてんじゃねぇぞ先輩ィ!!?」

 

 ど、どうにかして延命しないと……あ、ちょっとした出っ張りが!

 ここに指を……ふんっ!! よし、掴ん……

 

「ナイス!!」

 

 ぐへぇ!?

 

「よくやったわ!!」

「流石調デス!」

「ありがとう調ちゃん!!」

「ぎゃーすっ!!?」

 

 おっふ。

 わたしが出っ張りに指をかけて掴まった瞬間、皆がわたしにしがみついた。わたしにクリス先輩が、その下にはマリア、切ちゃん、響さん。翼さんはクリス先輩が抱えている。そして腹を思いっきり抱きしめられたクリス先輩が物凄い声を出した。

 けど、その結果わたしの指に皆の体重がかかるわけで。

 

「ゆ、指が折れるぅ……!!」

 

 わたしの細い指じゃどうしても保持しきれません。誰か助けて。

 しかもクリス先輩がわたしの足を片手で掴んでるからかわたしの足が悲鳴を……脇腹に続いて今度は足が……

 これが響さんならまだ何とかなったんだろうけど、わたしはゴリラじゃないので……

 で、でも!

 

「こんな所で、死ねないぃ……!!」

「ナイスガッツよ、調!」

「そのまま耐えてほしいデス!!」

「ん? 切歌ちゃんの……緑ですか。いいですのう……」

「あんぎゃー!!?」

 

 なんか響さんが順調に変態化しているような気が……あの人、人のパンツ見て喜ぶような人だっけ……

 でも、このままじゃジリ貧。せめてもう少し軽くなればここに掴まっていられる時間も……ん? 軽くなれば?

 軽く、したら?

 あっ。

 

「お、おい? なんか物凄い悪い笑顔してるぞ?」

「大丈夫ですよー?」

 

 うん、もうね。

 自分の命が懸かってるんだから形振り構ってる場合じゃないと思うの。

 

「ちょーっと、足の体操がしたくなっちゃいまして」

「……は?」

「最近お腹がプニって大変でして」

「おいおい待ちやがれ!! それは流石に……」

 

 マム、セレナ、フィーネ、キャロル、パヴァリアの人達。

 今から数人そっちに送ります。

 

「それ、ワンツー、ワンツー」

「ゆ、揺らすんじゃねぇ!! お前正気か!!?」

「えぇ正気ですよ? ただ、足の体操がしたくなっただけで」

 

 そんな訳で足をブラブラ。

 皆のお墓はわたしが作るから。ちゃんと英雄として代々その話が受け継がれるようにしていくから。

 

「あっやべっ……」

 

 とか思ってたらクリス先輩がなんか顔を青くした。何かありましたー?

 

「いや、そのさぁ……」

 

 何だかクリス先輩はかなり喋りにくい様子。わたしも一旦足を動かすのを止めてクリス先輩の方を見る。

 腕が限界? それともお腹を抱きしめられて限界? もう落ちちゃってもいいんですよぉ……!!

 

「アタシ等さ、ここで何時間も掴まってる訳じゃん?」

 

 そうですね。

 

「でさ、生理現象ってのは抑えられない訳だ」

 

 まぁ、生理現象ですからね。そう簡単には抑えられませんよ。

 ん? というか何で今そんな話を?

 

「まぁ、アタシってさ。ウス=異本界隈では結構色々されてんじゃん? 普段なら言わないような事も言わされてんじゃん?」

 

 いや、何でそんな身も蓋もない事をいきなり……っていうかウス=異本界隈ならわたしと切ちゃんもセットで色々されてますってば。認めたくないけど。

 

「そういう訳でさ。もう汚れ役と思ってぶっちゃけるわ」

 

 いや、だから何を……

 

「ここで、ウ○コしてもいいかな?」

 

 …………

 ………………

 

「……いやそれここでぶっちゃける必要ありますぅ!!?」

「とうとうクリスちゃんまで壊れたぁ!!?」

「いやもうさぁ。限界なんだってさマジで。しかも腹をガッツリ掴まれてるからこう、圧迫されるわけよ。もう常識人じゃなくていいから今はスッキリしたい」

「あ、アナタねぇ!! ここでそんな事したら私達でアナタをぶっ殺すわよ!!?」

「というかクリス先輩からそんな事聞きたくなかったデェス!!」

 

 ど、どうすんのこれ。どうすんのこれぇ!!

 い、いや、よく考えよう。この問題はこのままここでぶら下がってたらいつか直面する問題。わたし達が美少女だからトイレなんて行きません! なんて理論は通じない……!! 現にクリス先輩の顔色がもう面白い事になっている!!

 

「……いや、待てよ? ここで下の奴等を蹴落とせばアタシの痴態は見られなく……?」

 

 あれ? なんか空気が不穏に……

 

「ちょっと何考えて……」

「よし、アタシも足の体操するかぁ!!」

 

 そう叫ぶとクリス先輩も足を振り始めた。あっ、ちょっ。

 

「何すんのよぉぉぉぉぉ!!」

「落ちるデスゥゥゥゥ!!」

「あっ、マリアさんのも見えた。ふむ……黒かぁ……流石大人だなぁ」

「お前だけ死ね、立花響!!」

 

 響さんはどうしてこうなっちゃったの……?

 いや、それ以前に……クリス先輩が揺れるものだから、必然的にわたしも軽く揺れるわけで……そうするとね? わたしの方にも負担が来るわけですよ。

 つまるところ……

 

「……も、もう指が限界」

『え?』

 

 貧弱なわたしじゃもう耐えきれません。

 ずるっと指が滑ってわたし達は再び自由落下の旅へ。

 

「もうちょっと頑張れよぉぉぉぉぉ!!?」

「ご、ごめんなさいいいいいい!!」

 

 だ、誰か崖を……!!

 

「キャッチ!!」

 

 あ、マリアが崖を!

 翼さんを回収した響さん、切ちゃんが順に掴まって、その後にわたしとクリス先輩が掴まった。

 あ、危ない……危うく死ぬところだった……あれ、マリア。どうしてそんな悪い顔をしているの? 切ちゃんも……

 

「いえ? 別に?」

「ちょーっと、あたし達も足の体操をしたくなっただけデスよ?」

 

 えっ。

 それって……

 

「ワンツー、ワンツー」

「ひぃぃぃぃぃぃ!!?」

「狼狽えるなッ!!」

「狼狽えるよッ!!」

 

 ゆ、揺れるぅ!! 思ってた以上に揺れるぅ!! 怖い! これ予想以上に怖い!! 助けてマリア……あっ、マリアが揺らしてるんだった。

 も、もしかして救いなし……!?

 

「こ、こんな所で……」

 

 とか思ってたらわたしの下に居るクリス先輩が震え始めた。えっ、もしかしてとうとう我慢の限界ですか……?

 ……えっと、あ、あそこに掴まれそうな場所がある。最悪の場合はあそこに飛び移ろう。

 

「死ねるかァァァァァァァァ!!」

 

 とか思ってたらクリス先輩がわたしの足から手を離して四つの束に纏めた髪をタケコプターみたいに振り回しながら飛んで……ファッ!?

 えっ、飛んで……えっ!?

 

「ちょっ、クリス先輩が飛んでるデス!?」

「そんなバナナ!?」

「ちょっせぇ冗談言ってんじゃねぇぞオラァ!!」

 

 呆然とするわたし達に向かってクリス先輩は自分の服の背中側に手を回して、何かを取り出すとそれをこっちに向けた。

 えっと、あれは……小型ミサイル!? どうしてそんな物を服の内側に!? っていうかどういう原理で飛んでる上に物を収納してるのあの人!!? とうとう物理現象に対しても非常識になっちゃった!?

 

「死ねよやァ!!」

 

 あっ、クリス先輩がミサイルをわたし達に!? 退避!!

 

『ギャアアアアアアアアアアアアアア!!?』

 

 あぁ、わたし以外の全員が谷底に!?

 わたしは何とか近くの出っ張りにしがみついたけど……っていうかあの人達まで殺す必要ありました!?

 

「今度はテメェだ!!」

 

 えっわたしまで!!? 皆殺しの予定だったの!?

 

「あの世でフィーネと飲み会でも……」

「そんな事させる訳ないでしょうがああああああああああ!!」

 

 クリス先輩が小型ミサイルを構えてわたしに向けた瞬間、何かが下から飛んできてクリス先輩に体当たりを決めた。

 あ、アレは……あの声は……!!

 

「マリア! ……と、マムの超変形DX車椅子!!?」

「万が一の時のためにエルフナインにポイポイカプセルに収納してもらってて正解だったわ……!!」

 

 いやポイポイカプセルて。もうツッコミが追いつかないよ。

 で、でも助かった……あの超変形DX車椅子、足の部分にバーニア付いてたんだね……

 

「こうなったらその車椅子破壊してもう一度谷底に……」

 

 あぁ、でもまたクリス先輩が小型ミサイルを構えて……! 流石のマリアと超変形DX車椅子でもアレの直撃を受けたら……!!

 

「落ち着け雪音ェ!!」

 

 こ、今度は翼さん!?

 でも翼さんに飛行手段なんて……

 

「魂の逆羅刹コプターだッ!!」

 

 ええええええええええええええええ!!?

 ぎゃ、逆羅刹……えぇぇ!!?

 何であの人逆羅刹で空飛んでるの!? というか何で生身の逆羅刹で飛べてるの!?

 

「うわセンパイキモっ!?」

「キモくない!!」

「そうだよクリスちゃん!!」

「髪の毛で飛んでるクリス先輩程キモくないデス!!」

 

 とか思ってたら両手をパタパタ動かして飛んでる響さんとバッテンからバーニアを吹かせて飛んでる切ちゃんが……あーもう滅茶苦茶だよ。何で皆ナチュラルに飛んでるの……

 

「落ち着こうクリスちゃん! ここは皆で助かる方法を探そう!?」

 

 もう誰かわたしを抱えて崖の上まで飛んでよ。それでどうにかなるから。

 

「あ、調ちゃんは飛べないんだ。ちょっと待ってね。下から……あ、ピンク。かーいーのう、ぐへへへ」

「きゃああああああああああああああ!!?」

 

 なんなのこの人!? なんなのこの人ぉ!!

 

「そこうるせぇ! 黙って死んどけやァ!!」

「交渉決裂ね……なら力づくで黙らせてあげるわ!!」

「雪音を落ち着かせるぞ、マリアに続け!!」

 

 そして始まるクリス先輩対他の装者達……あー、これなんて地獄なんだろう……

 

 

****

 

 

「……はっ!?」

 

 目を覚ますと、そこはわたしの私室だった。特に何かあった様子もない。けど、先程のアレは未だに記憶に残っている。残っているけど……

 

「ゆ、夢オチ……?」

 

 だ、だよね……まさか人が自力で飛ぶはずないもんね……

 あ、もう朝かぁ……確か今日は皆でお出かけする予定だったから……って、もう集合時間!? や、ヤバい! 早く支度をして集合場所に行かないと!!

 取り敢えずカーテンを開けて……

 

「おっ、起きたか月読。中々集合場所に来ないからな。皆心配していたぞ」

 

 ……あの、翼さん?

 

「何だ?」

 

 ここ、マンションですよ? 二階とかじゃないですよ?

 

「そうだな」

 

 ……なんで逆羅刹してる状態で浮いてるんですか?

 

「魂の逆羅刹コプターだ」

 

 わたしは意識を失うという行為によって二度寝に入った。これが夢じゃないわけ無いから。




今回のパロディ元はギャラクシーエンジェルA(三期)の第18話(9話Bパート)、数珠つなぎ手打ちそばつなぎなしでした。分かった人いるかな?

今回は崖からぶら下がってるだけという話の性質上、地の文かなり少な目になりましたがご容赦を。あとこのままじゃ収集付かないので夢オチにさせてもらいました。やっぱギャラクシーエンジェルは常人じゃパロする事すら難し過ぎてキツい……

あとクリス先輩の下発言は何となくです。深い意味はありません。ビッキー変態化も深い意味はありません。コイツ等のキャラ崩壊容易過ぎてつい崩壊させてしまうんです。

今回はギャラクシーエンジェルらしさを出すために唐突に唐突を重ねてギャグを投げっぱなしのままにしながら次のネタをぶち込みに行く闇鍋スタイルを何とかやってみましたがどうでしたか? 多分ここまで滅茶苦茶なのは今回限りになると思います。なって。

次回は……どうしようか。前回も言った「月読調の華麗なる課金」か、没にした唯一残ってる初期プロット、「月読調の華麗なるゲーム実況」にドラゴナイトハンターZ要素を混ぜるか……それかまたギャラクシーエンジェルからパロディしてくるか……


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月読調の華麗なるサバゲー

大学がまた始まって、バイトも入れまくって、ソシャゲーも回って、新作も書いてってやってたら全然時間取れずに書けていませんでした。

取り敢えずシンフォギアライダー調ちゃん欲しい。今回も可愛すぎるだろぉ……!! あとマリアさんは何かこう……ライダースーツエロいっすね。それとズバババンに関しては……うん。あんたがバイクを大事にしているとか言ってもGXのOPで毎週爆破してるのを見ていた適合者からしたら……ね?

あ、今回はクリスちゃんメインな感じです


「行くよ切ちゃん!」

「了解デス!」

「ちょまっ……おあぁぁぁぁ!!?」

 

 SONGのシミュレータールームでの模擬戦。三対三の戦いでマリアと翼さん、響さんは既にリタイア。残るはわたし、きりちゃん、クリス先輩の三人だけだったけど、最終的にわたしと切ちゃんの合体技がクリス先輩を轢く。

 シュルシャガナの電鋸を巨大化させて車輪みたいにして、切ちゃんにブースターを取り付けてもらってそのまま轢き逃げアタック。クリス先輩はそのままぷちっと潰されて地面と一体化した。

 わたし達の勝利。ブイ。

 

「やったデス!」

「大勝利」

 

 切ちゃんと勝利のハイタッチ。やっぱりわたし達のコンビは最強。

 取り敢えず轢き逃げアタックしたクリス先輩を掘り起こす。死なない程度に加減しているからクリス先輩は勿論無事。なんかギャグ漫画みたいにぷちって潰れたけど生きているなら問題ない。

 既にギアも解けているクリス先輩は救出されてから暫く唸っていた。けど気絶しているからそこまで怖くはない。というか気絶しながら唸るって……相当イラッと来たのかな? 流石にぷちっと轢き逃げアタックはちょっと絵面的にもアレだったかな?

 でも今のところは勝利の余韻に浸る。いえーい。

 

「テメェ等覚えとけよ……がくっ」

 

 あっ。なんか一瞬意識を取り戻したけどまた気を失った。

 ……本格的にやり過ぎたかも。今度からはもうちょっとマイルドな技を使おう。

 

 

****

 

 

 ぐぅ……不覚だった。あいつらも段々と非常識になってきてんな……これじゃあ常識人のアタシじゃそろそろあの奇抜な発想に耐えられなくなっちまう。近いうちにアタシの威厳を回復させないと……え? もうそんなの無いだって? うるせぇ口の中にイチイバル突っ込んで顔面吹っ飛ばすぞ。

 けど、アタシのイチイバルはタイマンに向いていないからな……広域殲滅能力は誰よりもあるが、代わりに一対一の戦いじゃ少しパンチにかけちまう。二対一でもだ。どうにかこうにかアタシの得意な間合いに持ち込まねぇと……ん? 得意な間合い……?

 ……閃いた。ちょーっとアタシの人生の先輩としての威厳を見せつけてやるか。ってな訳でオッサンにこの意見を告げるか。

 

 

****

 

 

 クリス先輩をプチッとしてから数日経ってまた訓練の日になった。わたし達はいつも通りに訓練のためにシミュレーションルームに入ったわけなんだけど……そこでまぁ色々とありまして。

 まずギアを回収されて、次になんかエアガンとか何かが入った袋を渡されてゴーグルかけさせられて。気が付いたら部屋の中の様子が一変していた。今の部屋の中の様子を言うなら。

 

「あー……一面クソ緑」

 

 うん。本当にクソ緑。

 隣にいた筈の切ちゃんとマリアも部屋の中が変わったら消えてたしなんか迷彩服着せられたしすごく重い袋持たせられているし暑いしクソ緑だし。なんかもうとっくにやる気削がれてるんだけど。わたしを帰して。っていうかこんなの企画したの誰。これタダの軍事訓練じゃん。

 

『よし、無事に作動したな』

 

 あ、風鳴司令の声。

 もしかして今回の事は風鳴司令が企画したのかな? だったら何か変な映画でも見たのかなぁ……コマンドーとかランボーとか。あそこら辺のミリタリーな映画。

 

『今回は皆の息抜きもかねてサバゲーをしてもらう』

 

 え? サバゲー?

 確かサバゲーってサバイバルゲーム……つまりエアガンとかを持って相手を撃っていって何かしらの条件を満たせば勝ちってやつだよね? 一応わたしもネットでそういう動画は数回見たことあるけど……やりたいとは思わなかったんだよね。だって銃って実は持ったことあるし。

 え? どこで? ほら、F.I.Sの施設。あそこって射撃場とかもあってそこで射撃の練習とかさせられてたから。一応銃は一通り使える。たまに気晴らしで外の射撃場で銃撃って切ちゃんと競った事もあったし。ちなみに一位は大人げなく乱入してきたマリアだった。と思ったら凄い楽しそうに乱入してきたマムだった。どっちにしろ大人げない。

 まぁそういう訳で銃は一通り使える。これでも遠距離戦闘型のギアの適合者だし命中率もいいんだよ?

 

『ちなみに今回は並行世界の奏君とセレナ君も参加している』

 

 奏さんとセレナも? 部屋が変わってから入ってきたのかな? となると参加者は未来さんと並行世界の響さんを除いた全員かな。ちなみに未来さんは並行世界の響さんを襲いに行きました。アーメン。

 今回の企画は響さん、奏さん、セレナ辺りがすっごく楽しみそうだなぁ。じゃあ今回はわたしもちょっと楽しんで……

 

『それと、今回の企画立案はクリス君だ』

 

 みようと思ったけど、これクリス先輩がこの間の模擬戦の仕返ししたいだけじゃないの? 銃の扱いであの人に勝てるわけないんだけど。どうしよこれ。あと支給品凄く重い。しかもクソ緑。

 

『武器の類は袋の中に入っている。一発でも当たったら退場だから気を付けてくれたまえ』

 

 うーん……まぁ、今回は適当にやろうかな。

 もしも何かご褒美とかあれば本気でやるけど……うわ、武器ってこれハンドガンとチェーンソーじゃん。しかもなんか大きくZABABAって書いてあるピンクの。玩具だからかスポンジで出来たスポンジソーって感じのやつだけど。ますます動きたくなくなったんだけど。こんなの持って動きたくないんだけど。

 まぁお遊び程度で……

 

『ちなみに、一位の者には何かしらの褒美を考えている。こちらの権力を乱用しない辺りでなんでもしよう』

 

 ……ほう。

 つまり響さんとのデートもセッティングしてくれると。勝者の権利で合法的に未来さんの邪魔なく響さんとデートができると。

 前言撤回。全力で狩る。今宵はチェーンソー……じゃなくてスポンジソーが血に飢えている。ジェノサイドソウだよ。きこきこ、きゅいん。

 

 

****

 

 

 くくく。今回ばかりはアタシの天下だ。なんてったってアタシの武器はスナイパーライフルとハンドガンにグレネード。グレネード以外はアタシがイチイバルを纏った時に使っている武器だからもう手に馴染んでいると言ってもいい。

 あと最大の懸念だったグラビティレズも今回は並行世界に放り込んでおいた。あっちの馬鹿には迷惑かもしれんが、まぁいいだろう。

 これでアタシの天下は確実。いやーつれーわ。優秀すぎてつれーわー。

 

「んじゃ、早速芋砂ポイントに陣取って一人一人確実に潰していくか」

 

 あの馬鹿と先輩は放っておいていい。あの二人は近接戦しか出来ないからな。今回危険視しなきゃならねぇのはマリアただ一人。マリアは多分銃も使えるからな。他の奴らは見つけ次第潰すって事にしよう。マリアは見つけたら視界に入らないように誰かに潰してもらうか……

 

『マリア君ヒットだ』

 

 ……は?

 いや、え? なんか一番懸念だった奴が一番にいなくなったんだが?

 ま、まぁいいか。これならアタシの天下はかくじ……

 

『セレナ君ヒットだ』

 

 ちょ。

 え? 早くね? あいつ等皆好戦的過ぎないか? それとも馬鹿みたいに真正面から撃ち合ってんのか?

 いや、もしかしたらマリアがセレナを庇って撃たれた後にセレナがやられた、ってのか正しいのか? この速さだとそれぐらいしか考えられない。だとするとマリアはセレナと合流させてからセレナの盾になってもらうのが正解だったって事か? なんだ、攻略方法は結構単純だったんだな。

 だけど、これなら後はアタシの勝ちが確定したようなモンだ。いや、先輩は放っておいて近づかれるのも嫌だし先にやっておくか。近づかれたら生身じゃ勝ち目なんて見えないからな。

 取り敢えず先輩を狙うとするか。さて、スコープ覗いてどこにいるかな……っと。おっ、見つけた。ここで隠れて持ってきた指向性超高性能マイクを使って先輩の周囲等の音を聞いて狙撃出来るときに狙撃しないとな。

 

「私の武器は剣か……ふっ、私にはピッタリだな」

 

 剣とも言うがそれは刀だ、ってのは今更だから言わない。けど、これならアタシの狙撃でもなんとかなりそうだ。

 適当な場所を射撃して弾の落ち方とかを確認してゼロインも合わせて……うし。これで調整完了。後は先輩を狙い撃つぜ!!

 

「むっ、何者ッ!!」

 

 げっ、バレた!?

 ……いや、こっちを向いていない? だったら誰が……あの馬鹿か?

 あの馬鹿と先輩の殴り合いは見てみたい感はあるが勝負は非情だ。二人纏めて射抜かせて……

 

「覚悟ォ!!」

「何っ、月読だと!!?」

 

 は!?

 

「響さんとのデートのために散ってください翼さん!!」

「私とて妖刀村正をコレクションに加えるチャンスなのだ! こんな所で散れるモノか!!」

 

 いや何考えてんだあの二人!?

 片っぽはまだ……まぁ分かる! アイツにそっちの気があるってのは何となく察してたからな。っていうかアイツ、あの馬鹿に惚れてんのかよ。てっきり何時も一緒にいる方だと思ってたんだが……あの馬鹿もなんやかんやで罪作りな奴だな……

 で、先輩は……銃刀法違反って知ってるか?

 まぁ、あそこは放っておいていいだろ。アイツはなんか……なんだあれ。チェーンソー? だし。先輩は模造刀だし。これは先輩の勝ちだな。じゃ、後は先輩を狙い撃って……

 

「だっしゃぁ!!」

「ぐはぁ!?」

『翼、ヒットだ』

 

 うそん。力技でゴリ押しやがった。

 え? 何なの? レズって何かしらの条件があると強くなる生き物なの? グラビティレズしかりアイツしかり。いや、あの馬鹿にあてられた人間は強化されるのか……?

 まぁいいけど。アタシはとっととアイツを狙い撃ってとっとと片づけて――

 あれ? こっち見てない? なんかこっちガン見してない? いや、気のせいだろ。気のせいであってくれ。気のせいだろ? だってこれ、スコープを覗いてようやく見えるような距離だぜ? 肉眼で見えるわけが……

 

「ミツケタ」

「やべぇ逃げなきゃ」

 

 速くあいつの視界の外に出ないとやられる。

 二度もアイツにやられてたまるかってんだ!!

 ここまで来るのに多分五分以上はかかる。五分もあれば他のポイントへの移動だって出来るはずだ。こちとら紛争地生き抜いてきた人間だっての。

 そんじゃスタコラ……はっ、殺気!!?

 

「クリス先輩覚悟ォ!!」

「ほあああああ!!?」

 

 あっぶね変な声出た!!

 何事……ってアイツ、もう来やがったのか!? 流石に速すぎだろ!?

 

「乗り物でも使ったのか!? 幾らなんでも速すぎだろ!?」

「愛です」

「何故そこで愛!!?」

 

 愛で物理法則を超越されてたまるかってんだ!!

 ……いや、愛で物理法則も何もかもを超越しているグラビティレズっていう生命体も存在しているから、案外その言葉もふざけるなの一言でバッサリ斬れないのか?

 まぁいい。それは些細な事だ。レズに常識が通用しないなんて今更過ぎて感覚麻痺しているからな。問題なのはアイツまでもレズだったってだけで。それ以外に問題なんざ特にない。当面の問題はアイツをどうやって対処するかだ。走って五分はありそうな距離を十数秒で埋めるような人間を相手にどうやってヒットをもぎ取るか……

 普段なら相手はチェーンソー。こっちは拳銃。一方的に文明の利器の暴力で押しつぶす、なんて事も出来るんだが……今回ばかりはそうもいかない。

 

「ちょっせぇ」

「甘いです」

 

 だって撃ってもチェーンソーに弾かれるからな。チェーンソーが残像残して振るわれるんだぜ? 笑えよ。アイツを玩具の銃だけでどうにかしなきゃならないアタシの状況を。アイツにそんな筋力は無いとかそんなの物理的にも無理とか色々とあると思うが、レズには常識が通用しないんだ。今さら気にする事でもない。

 さて、本気でどうするか……こればっかりは冗談抜きでキツい。元々アタシはタイマン得意って訳じゃねぇんだけど、やらなきゃやられちまう。自分のフィールドに恥もプライドも捨てて引きずり込んでおいて負けましたなんて恥ずかしさのクラスターが降って来ちまう。イチイバルを纏っていたら武器を変えて戦うんだがな。

 取り敢えずアタシはハンドガン片手にライフルを構える。ライフルがボルトアクションじゃなくてセミオートって点だけは救いだな。

 

「クリスせんぱぁい。ちょーっと、斬られてみませんかぁ?」

 

 いい笑顔でギュインギュイン音を鳴らすチェーンソーを構えるのは止めろ。背筋が凍りそうだ。

 クソッ、グラビティレズを平行世界に送り込んだのは間違いだったか? あの馬鹿の貞操を生贄に二位をもぎ取っときゃ良かったかも……ん? アイツの後ろ……なんか居る?

 アレは……

 

「マストダイ……っ!!」

「甘いッ!!」

 

 ガキン。なんて音を立ててチェーンソーと何かがぶつかり合う。おい、あのチェーンソー、スポンジ製の筈だよな? 金属製じゃないよな?

 

「き、切ちゃん……っ!!」

「死ぬデスぜぇ! あたしの姿を見た者はみんな死んじまうデスぜぇ!!」

 

 デスぜぇって何だよ。何のアニメに毒されやがった。

 っていうかあっちの武器は相も変わらず大鎌かよ。なんだ、オッサンはそれぞれの得意武器を袋の中に入れておいたのか? いや、袋の中にあんなデカいの入っている物は無かったと思うが。

 だけど助かった。あの二人で潰しあいしてくれるなら……いや、片方はレズじゃないぞ? 大丈夫なのか……?

 

「調と○○○(ピー)□□□(チョメチョメ)だったり×××(バキューン)をするためにも負けられんデスよ!!」

「えっ、わたしの貞操の危機!!?」

 

 レズだったわ。しかもかなりヤバい方。グラビティレズと同類レベルの危険な奴だわアレ。

 だが助かった。アレならレズ同士で潰し合いを……いや、待てよ。これどっちかが負けたらアタシに矛先向くよな? どうする……逃げちまうか? 逃げた方がいいよな……でも逃げれるか? 背中向けたらそのまま斬られそうな気が……やべぇ、この戦場に居たくないんだけど。

 

「わたしの貞操は、そう安くない!!」

「安くないからこそ掴み取る価値があるデスよ!!」

「そういう事ォ!!」

 

 ……ん? なんか第三者の声が。

 

「雷を握り潰すようにィィィィィィ!!」

「危ないデス!!?」

 

 あ、馬鹿がレズの中に突っ込んだ。ありゃ死んだな。

 

「わたしだって、切歌ちゃんとあんな事やこんな事なABCをするために負けられない!!」

「…………いやあたしデスか!!?」

「なんで三角関係出来てんだよ!!?」

 

 いきなり出てきたと思ったらコイツもレズかよ!? っていうかあの三人で歪な三角関係出来上がってんじゃねぇか!! どうすんだよこれ、どうすんだよこの真実! マリアとか先輩が知ったら卒倒すんじゃねぇのこれ!?

 やべぇ頭痛くなってきた。っていうかマトモなのはマジでアタシだけか……? やっぱ装者の中で一番マトモなのはアタシだけだったな。え? ミサイルに乗ってる奴をマトモとは言わない? ばっか、ミサイルは乗り物だろ。これくらい常識だぞ?

 さて、ある程度の現実逃避は終わったが……これどうするか。

 

「響さんとデート……」

「調の貞操……」

「未来に邪魔されず切歌ちゃんと……」

 

 なんか、三竦みが出来てんだけど。それをアタシは外から動けずに見ているだけなんだけど。

 これ、誰かが動いたら負けるやつだよなぁ。っていうか、あいつ等、アタシの事眼中に無くね? なんかアタシの存在忘れてね?

 ……いや、チャンスか。こうなったらやるしかない。

 覚悟を決める! 行くぜ!!

 

「覚悟しやがれぇ!!」

「えっ!?」

「あっ忘れてた!!」

 

 やっぱ忘れてやがったか。アタシってそんなに影薄かったかなぁ……

 でも今更気づいたところで遅ぇ!! これなら貰った!! アタシを無視したことを後悔して沈みやがれ!!

 

「生身でRED HOT BLAZEゥ!!」

 

 ライフルで殴るんだよォ!!

 

「オラァ!!」

『ぎゃんっ!!?』

 

 ッシャオラァ!! 馬鹿レズ三人の頭をバスターホームランッ!!

 

『響君、調君、切歌君ヒットだ』

 

 ざまぁ見やがれ!! これでアタシの天下だ! やっぱアタシがナンバーワンだ!

 ……ふぅ。ちょっと柄にもなくはしゃいじまったな。さて、レズ三人の討伐も終わったことだしとっとと帰るとするか。優勝の権利は……どうしようか。アレは……ちょいとアタシのキャラじゃないし恥ずかしいしな。

 っていうか、何でまだシミュレーターが起動したままなんだ? マリアも、先輩も沈んだしレズ共も討伐したし。アタシの優勝で決まり――

 

「フリーズ! ってな」

「え?」

 

 なんか後ろからハンドガンを突き付けられた。

 え? 何でもう一人……あっ!?

 

「にひひ、どうもあたしの事は忘れてたみたいだな」

 

 か、奏先輩……わ、忘れていた……

 

「ちなみにマリアとセレナをやったのもアタシだぜ? そっから漁夫の利を狙ってたんだよ」

 

 そういう事か……アタシはてっきりあの三人の内誰かがあの姉妹をやったんだと思ってたが……まさか奏先輩とは……

 しっかし、物の見事に忘れてたわ。やっぱ平行世界組の一人だったセレナがとっとと退場したから忘れてたのか? まぁ、今更グダグダ考えても仕方ないか。この人の方が一枚も二枚も上手だったって事だ。

 

「……あー、完敗っす」

『クリス君、ヒットだ』

 

 まぁ、平行世界組を抜けばアタシの一番だし結果は上々だな。

 

 

****

 

 

 そんな感じでアタシ発案のサバゲーは何ともまぁ、サバゲーとも言い切れない感じで終わった。優勝は奏先輩だったからか先輩はちょっと嬉しそうだったし、レズ三人組は恨めしそうな顔で奏先輩を見てたし、グラビティレズは帰ってきた途端に馬鹿に向かって突撃していったし。

 なんだか締まらねぇなぁとは思ったけど、アタシ達だし仕方ないかと諦めた。奏先輩を除けば常識人が一人しかいないんだから仕方ない。で、そんな奏先輩がオッサンに言ったお願いとやらなんだが。

 

「……金をSONG持ちで飯に行くってのはいいけど……そのお供がアタシでいいんすか? 先輩とかあの馬鹿とか、暇そうなのは他にも居たってのに……」

「まぁいいじゃねぇか。ほら、SONGの奢りなんだし食おうぜ?」

 

 奏先輩が言ったのは、金はSONG持ちでアタシと飯を食いに行かせる事だった。なんかアタシも巻き込まれちまったけど、断る理由なんて無い……っていうか、多分理由を思いついても何やかんやで連れていかれるんだから諦めて、奏先輩と一緒に飯を食いに来た。ちなみにここはロイホだ。メニューたっけぇ……

 

「ってか、本当になんでアタシを選んだんすか? 言っちゃなんだけど……アタシ、あんまり人相良くないっすよ」

「ん? まぁ、クリスと一緒に飯食いに行ったこと無かったなって思ってな。響とか調とかとは時々行ってんだよ」

 

 そういやアタシ、なんやかんやで奏先輩とはあまり喋ったことも無かったような。まぁ、基本的に見かけたときは先輩かあの馬鹿と喋ってるしな。あんまり邪魔しちゃ悪いとこっちから離れて行ってる節あったし。

 っていうか、アタシ以外の装者とはサシで飯行った事あんのか。あの馬鹿はまだ分かるけど、他の奴らと行ってるってのはちょっと想像できなかった。

 

「いつの間に……っていうか、奏先輩って結構な頻度でこっち来てるような……」

 

 なんか本部で週一以上は見かけている気が……

 

「まぁいいじゃねぇか」

「それもそうっすね」

 

 まぁ、なんかあったら戻ればいいだけだしな。それに、そうやって伝えてくれた方がアタシ等も助けに行けるってもんだし。

 

「うし、とっととメニュー頼んで食うか! 今日は金も気にせずに食えるしな!!」

「んじゃアタシはいっちばん高い物食うかなっと!」

 

 取り敢えず言えるのは、なんか外で三竦みから四竦みになって睨み合っているレズ共は放っておいて上手い物食って喋って満足しようって事かな。




切歌→調→響←未来
↑    ↓
 ←←←←

こんな感じの関係でしたとさ。なんやかんやでモテモテなビッキー。

取り敢えず今回の話は調ちゃんに一面クソ緑って言わせたかったのとクリスちゃんにライフルで殴ってほしかった。あとセレナは名前だけは解禁したけど出番は剥奪中。だってパソコンフリーズしちゃうかもだし……

そしてサラッと再登場のZABABAチェーンソー。多分これからも小道具として時々出てくる。

次回は……どうしようかなぁ。調ちゃんアイドルデビュー世界の続きでも書くかなぁ。


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月読調の華麗なるアイドル生活

調ちゃんがアイドルデビューした世界線の続きです。どうやら順調にアイドルしているようですよ……?

明日、ようやく石が200個貯まるんです……シンフォギアライダー調ちゃんを引く最初にして最後のラストチャンスかもなんです……

……ホント最近になってから調ちゃんの新ギアの星五、増えましたよねぇ。出来れば配布の星四で調ちゃん来てほしいところ。マリアさんが一人で配布二週目突っ走ってるし可能性が無いことはないと信じたい。

信じたいけどビッキーの新曲もそろそろ用意してあげて……


「はいどうも、風月ノ疾双の常識人の方、月読調です」

 

 もう何度か立ったことのあるカメラの前でわたしはマイク片手に小声でいつも通りの挨拶をする。ちなみにこの常識人の方っていうのはファンの人達から言われた事なのでほぼ周知の事実。やっぱりわたしの装者一常識人という肩書は誰にも否定できない。

 なんだか勇ましいと好評? のユニット名を名乗るのにももう慣れたわたしはカメラの向こうでそんな感じで大丈夫と合図を送ってくれているスタッフさん達を目で確認してからそっと今回の趣旨を説明する。

 

「今わたしはユニットメンバーであり先輩のあの世界的歌手、風鳴翼さんの部屋の前に来ています。ちなみに今は朝の六時です」

 

 腕時計を見せて時間を確認させてからさて、と言葉を切り出す。今撮っているVTRは今度の番組で使うための物で、一言で言っちゃうと寝起きドッキリ。何気に翼さんって歌手というよりもバラドルになりかけている節があるし緒川さんがオーケー出したから今日しかないチャンスにこの計画を実行に移した。

 念入りにスタッフさんとは打ち合わせをしたし緒川さんにも色々と根回ししてもらっているから何も問題はなし。

 で、何で朝の六時からやるのかと言うと緒川さん、二時間前から翼さんを起こさないように細心の注意を払いながら部屋の掃除をしていたから。他の仕事が終わった朝の四時から部屋の掃除を初めてついさっき掃除が終わった。スタッフさんには防犯装置とかの電源を切ってくるという事で十分前から現場入りしてたってなってるけどわたしには本当のことを知らせてきた。流石にあの汚部屋はお茶の間には流せない。

 で、そんな訳で根回し完璧。他人様にも見せられる状態にしてからの決行となった今回の撮影。実は翼さんは昨日外国でのライブから帰ってきたばかりで疲れ切っている。で、今日はオフの予定だから完全に気を緩めきって寝ているハズ。だからこんな時間でもきっと寝ている。というか寝ていたらしい。起きる気配もないらしい。翼さんには可哀想だけどわたしの愉悦のために安眠を妨害されてほしい。

 

「今回の作戦は翼さんのお部屋に侵入し、恒例のバズーカを発射して翼さんの安眠を妨害しようというシンプルかつ迷惑極まりない作戦です。ちなみに、お部屋に入るための合鍵はマネージャーから横流ししてもらっています」

 

 と言って翼さんの部屋の合鍵を見せる。これは緒川さんが翼さんから私的に借りている合鍵。これがないと翼さん部屋を掃除できないからね。

 いやー、とても楽しみ。なんやかんやいつも翼さんには振り回されているから、今日はそのちょっとした憂さ晴らしのために安眠を妨害させてもらう。勿論、それをサポートするための人員を既に用意してある。皆これを話したら快く了承してくれたよ。

 

「そして今回はゲストも数人います。まずはこの人」

「マリア・カデンツァヴナ・イヴよ。つい一時間前まで飛行機に乗っていたわ」

 

 翼さんと言えばこの人。今回の事を話したら嬉々として参加したよ。外国で飛行機に乗ってからノンストップでここまで来てくれたよ。多分テロップで送り迎えに行ったスタッフさんがこっそり隠し撮りした飛行機内での映像も小さく流れていると思う。

 それをマリアは知らないので、オンエアの時に右下で小さく映っている自分の寝顔を見て相当キレると思う。愉悦愉悦。

 で、まだ今回のゲスト……というかもうテレビ関係なく集めた皆がいる。こういうのって人が多ければ多いほどやれる事多いし、何より話を聞いたスタッフさんが悪乗りしたから実現した特別ゲスト。

 

「それと一緒に今回はわたしとマリア、それと翼さんの個人的な知り合いで尚且つ翼さんの後輩の皆に来てもらいました」

「……あれ? もう入っていいの?」

「うん、ほら早く早く」

 

 そう言うと、スタッフさんの後ろでスタンバイしていた皆……まぁつまりは装者の皆とエルフナイン、それから並行世界からわざわざこの為だけにやってきた奏さんがなだれ込んできた。

 ここで奏さんが出たらマズいんじゃと思うかもしれないが。

 

「アタシは天羽奏のソックリさんとして出演するから」

 

 そう言って聞かなかったので、もうガッツリ変装させて最早別人にしか見えないようにしてから出演してもらいました。この人翼さん弄りに関しては目がないから。

 そうして皆を読んだ結果、狭い玄関前に八人もいるものだからかなり画面が窮屈。多分テロップには、このためだけに集まった暇人な後輩と友人の皆さんって出てると思う。ちなみにみんなは知らない人が見ても素顔が分からない程度の変装はしているから知り合いにしか正体はバレないハズ。特に響さんは国際全裸放送しちゃってるけど多分バレないハズ。

 

「ほら皆ちょっと下がって狭いから!」

「今回は調が主役なんだから下がりなさい! 特にひび……じゃなくてH!!」

「ちょ、マリアさんそんなに叫んだらバレますってば」

 

 ちなみに、皆本名バレはしたくなかったのでイニシャルで呼び合う事になっている。奏さんだけは苗字を使ってA呼びだけど。

 なんか皆可笑しなテンションになっているのか我先にとカメラの前に集合しているけどそれを掻き分けてわたしはとっとと作戦の概要を説明する。

 

「えっと、今回は皆で例のバズーカを持って翼さんの部屋に突入して合図で一斉に発射。それから各々が持ち込んだ物で好き勝手暴れてもらいます」

 

 と言ってわたしはスタッフさんからバズーカを受け取って構えて見せる。

 目覚ましドッキリの定番、バズーカ型巨大クラッカー。それ以外にも響さんと未来さんがフライパンとお玉。クリス先輩が大量のクラッカー。エルフナインがこう……なんていうの? あの野球場とかで上に飛んでいく風船で、切ちゃんがラッパ、奏さんがメガホン。

 これ完全に近所迷惑だけどきちんと前日のうちに周りの人には翼さんへの目覚ましドッキリで相当煩くなるって言ってあるから気にする必要なし。というか野次馬来てるし。

 それじゃあと皆に静かにするように合図する。装者だから無駄に統制取れてるから皆が一瞬で黙る。だけど皆ニヤニヤとしたまま。わたしは皆がそのままわたしの後ろをついてくるように指示したあと、そっと合鍵を鍵穴にさす。そしてそっと回して鍵が開いたのを確認するとカメラの方に目線をやって一回頷く。

 

「じゃあここからは静かに行きますね」

 

 マイクを握ったままわたしはバズーカ片手にそっと翼さんの部屋に侵入する。そして他の皆もスタッフさんからバズーカを受け取ってからそっと部屋の中に。

 既に寝室は分かっているから皆がそっと移動する。

 

「こちらスネーク。翼さんの部屋に侵入した」

「C先輩は何やってるんですか」

「いや、なんかこうスネークごっこがしたくなった」

 

 あ、この人何気に一番テンション上がってるな?

 まぁそれは置いておいて。侵入から一分以内にはわたし達は翼さんの寝室に侵入した。

 

「よく寝てますね。これから叩き起こされる事を知らない安らかな寝顔です」

 

 感想を言いながら皆が所定の位置に着くのを待つ。普通こんなに人が入ってきたら気づきそうな物だけど翼さんは今日、すっごく疲れていてもうそれこそ轟音でも聞かない限り起きない。

 という訳で轟音を起こします。

 既に皆にはわたしが合図したら一斉に発射するという指示は伝えてあるし実はマリアを除いた全員で藤尭さんで練習もした。あの時の藤尭さんは面白かった。あと風鳴司令にもやったら全力で迎撃されかけたので響さんを犠牲にして逃げた。そのあと趣旨を伝えたら笑って許された。

 というわけで。いざ鎌倉……じゃなくて発射シークエンス。

 

「五、四、三、二、一……」

 

 バズーカの引き金に指をかける。そして。

 

「おはようございまぁす!!」

 

 わたしの、キャラ崩壊するレベルの声と共に、バズーカ八つが一斉に発射された。

 どかんと一発。轟音というか騒音というか。それを聞いた翼さんは……

 

「うおおぉぉ!!? 何事だ敵襲か暗殺かぁ!!?」

 

 と、かなりビックリしたようで文字通り跳ね起きた。

 しかしこれだけで終わらないのが非常識集団装者。ここから皆が好き勝手に暴れ始める。

 

「翼さぁん! 起きて起きてぇ!!」

「朝ですよぉ!!」

「起きなさい翼ぁ!!」

「挨拶無用のクラッカー百連発ゥ!!」

「ふーっ! ふーっ!!」

「デェスっ!!」

『起きろ翼ぁ!!』

「うるさっ!!? なんだお前ら何で私の部屋にというかうるさいから止めろォ!!」

 

 カーンカーンカーン!! パパパパパパーン!! ぶわぁぁぁぁぁぁぁ! ぷうぅぅぅぅぅぅぅ!! キーン!!

 音にするならこんな感じ。いやもう五月蠅いって次元じゃない。鼓膜破れそう。破れそうだけどわたしとマリアはそのまま気にせずにバズーカを受け取っては発射し続ける。

 

「いい朝ねぇ翼!!」

「新しい朝の始まりですよ翼さん!!」

「起きたからこれを止めろ貴様等!!」

「狼狽えるなッ!!」

「狼狽えるわッ!! あと紙テープ鬱陶しい!!」

 

 キレる翼さん。そして目の前でフライパンをお玉で叩く響さんと未来さん。すっごいいい笑顔。クリス先輩もすっごいいい笑顔でクラッカーを鳴らしている。紙テープが翼さんにかかるように神調整している。そしてエルフナインの風船が天井を飛んで切ちゃんのラッパがフライパンが奏でる音と奇跡のコラボレーション。そして奏さんは。

 

『起きろ翼ぁぁぁぁぁぁぁ!!』

「うるせぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

 耳元で叫ぶ。そしてキレる翼さん。顔が結構マジだ。

 

「さて退却!!」

 

 とわたしが叫ぶと皆が持っていたものをその場で放棄して全力で部屋から逃げ出す。

 

「待て逃がさんぞ貴様等ッ!!」

 

 そしてガチギレして追ってくる翼さん。カメラさんはわたし達を見送り、わたし達と翼さんはそのまま外へ飛び出し約一キロの距離をリアル鬼ごっこし続けた。ちなみに途中で響さんが捕まった。南無。

 

 

****

 

 

「と、いう訳で翼さんへの寝起きドッキリでした」

「いやぁ、なんというか……豪華でしたね」

 

 主にメンツが。

 司会者の人が見終わったVTRに対して感想を漏らした。うん、翼さんとマリアが揃って出てくるVTRとかかなり豪華だよね。他の共演者の人達もうんうんと頷いている。

 そしてわたしの隣でVTRを見ていた翼さんは笑顔で怒っている。うん、だってあの後数時間翼さんはガチギレしてたもんね。捕まえた響さんを模擬戦と称してボッコボコにしてましたもんね。

 

「全く……やられた方はたまったものではない」

「楽しかったですよ、翼さん」

「私は楽しくない……ッ!!」

 

 まぁわたしもあんな事されたらキレる。というか響さん、未来さん、クリス先輩の持ち込んだものの煽り性能が高すぎた。流石の翼さんもあのコラボは結構頭に来たようだ。

 

「しかし、今回参戦した後輩の方々は皆さん揃いも揃って美少女でしたね」

「もしかして新人のアイドルとか?」

「あの人たちはわたしと翼さんとマリアの個人的な友達なのでお仕事仲間とかじゃないですよ?」

「私達のマネージャーからも何度かスカウトされているのだが断り続けていてな。引きずり込めれば私への被害も……」

「あ、翼さんは名誉バラドルなので対象から外れる事は無いですよ?」

「何のつもりの当て擦りッ!!」

 

 多分、クリス先輩とかは男性受けいいと思う。童顔で背も小さくて巨乳。しかも歌が上手くて声も綺麗。多分この放送がオンエアされたらネットであの子達は誰だって言われまくるんだろうなぁ。

 このまま外堀埋めてクリス先輩を芸能界に引きずり込むのもありかも……? そしたらわたしとクリス先輩で新人アイドルユニット組めるし。ちょっと考えておこう。

 とか考えながら台本通りに事を進めて休憩となった。カメラが止まって共演者の方々がその場で深く息を吐いている。けど、わたしはここで離脱。

 

「月読はこれから他の番組の収録だったか? 頑張れよ」

「はい。じゃあわたしは一足先に失礼します」

 

 という訳でわたしはスタジオから出て行った。

 なんだか共演者の方々の視線が怪しかったし翼さんがヤケにニヤニヤしているのが気になったけど……大丈夫だよね?

 取り敢えずわたしは緒川さんが迎えに来るまでは楽屋で待機。

 

 

****

 

 

 と、言うのも台本の内だ。

 まさか私がやられっぱなしで終わるわけが無いだろう? これから月読をバラドルの道へと引きずり込むのだ。

 

「……行きましたね」

「ではこれより月読へのドッキリを開始する!!」

 

 わたしの宣言と同時にギャラリーから拍手が上がる。

 そう、この前はまんまとドッキリをされてキャラ崩壊を起こしてしまったが、それの雪辱は今日この日で晴らさせてもらう。本来は奏を含めた全員にドッキリを仕掛けて回りたいのだが発案者は月読なので私が月読の狼狽える姿を見て笑わせてもらおう。

 ふふふ……まさか月読もここからドッキリを仕掛けられるなぞ思ってもいないだろう。くくく……精々狼狽えてキャラ崩壊を起こしバラドルの道へと足を踏み外すといい!!

 

「さぁ、まずは今回のドッキリの説明だ。今回は私の友人、知り合い、マネージャー、その他諸々全員の協力を得た。故に、割と本気でドッキリを仕掛けさせてもらう事にした」

 

 そう、友人、知り合い、マネージャー、その他諸々、な。

 つまりはシンフォギア装者、錬金術師、忍者、叔父さま等々、割と本気で敵に回したくない人間達がこのドッキリに全面的に協力してくれている。なに、死ぬことは無い。死なない程度には済ませる気だ。

 

「今回のドッキリを簡潔に言わせてもらおう。ズバリ、次の仕事への移動中、見知らぬ場所に放り出されたらというドッキリだ。勿論、身の安全のために私のマネージャーをつかせる予定だ」

 

 詰まる所、安全に関してだけは太鼓番だ。何せ緒川さんがついているのだからな。緒川さんでも無理な状況というのはノイズ関連のみ。それ以外なら緒川さんに任せておけば全て安心だ。

 ふふふ……月読よ。少しばかり先輩を侮ったな。ここからは私のステージだッ!!

 さて、台本ではあと少しここでトークをしてから月読が連れ去れるのであったな。ドッキリなんて私は仕掛けたことが無かったが、こうも楽しいとは思わなかったぞ。月読にはそこら辺、感謝せねばな。恩は仇で返すが。

 

「ふっ、少しばかり大人げないかとは思うが、偶にはこういう物もいいかと思ってな。さて、このVTRに関しては月読が帰還してからの放映となるため来週以降とは……」

「あ、翼さん、どうぞお水です」

「ん? あぁ、すまないな」

 

 うむ、多少喋り過ぎて口の中が乾いていたところだ。水を一口飲んで、さて。仕事のつづうっ眠気が……

 

「zzzzzz……」

 

 

****

 

 

 ……皆さんどうも。アイドルの月読調です。アイドルなんです。

 えー、今ですね。わたしが何処にいるかと言いますと……

 

「……あの、緒川さん? わたしって次のお仕事は沖縄だからフェリーで移動ってなってましたよね?」

「はい、そうですよ?」

「……ここ、何処ですか?」

「沖縄に限りなく近いけど実はそうでもない所にある無人島です」

 

 らしいです。物凄くいい笑顔の緒川さんが眼鏡かけてるからこれ、お仕事です。しかもカメラ持ってますこの人。

 多分、ドッキリです。

 水平線を見つめて呆然としているわたし。もしもこれがソロだったらシンフォギア使ってでも逃げ出した……あっ、LiNKER無いからギア使えないんだった。で、えーっと……まぁ緒川さんに泣き付いてでも逃げ出したんだろうけど。実は哀れな被害者が、今わたしの隣にいまして。

 

「……恩を仇で返そうとした罰なのだろうな」

 

 わたしの相方であり先輩である翼さんです。この人もわたしと一緒に並んで水平線を見つめています。

 ……さて、そろそろ現実を直視しないと。緒川さん、説明お願いします。

 

「はい。今回の企画は翼さん発案のドッキリへのドッキリでして、風月ノ疾双のお二人を無人島に置いてから本島……というかリディアンに帰るまでのドキュメンタリーです」

 

 いやそれはドキュメンタリーに入るの?

 っていうか。

 

「企画者ぶち殺しますよ」

 

 あ、本音漏れた。

 

「企画者は調さん達のご友人達ですよ」

「……帰ったら処す」

 

 皆、覚悟してて。帰ったらわたしと翼さんコンビとリアル大乱闘スマッシュブラザーズだから。

 それはまぁ置いておいて……

 いや。いやいや。無人島から無一文で本島まで? それアイドルのやる事じゃないよ。馬鹿のやることだよ。

 

「では、僕は基本的に何も言いませんので、後はお二人にお任せします」

「ま、待ってくれ緒川さん! 流石にここからギア無しで本島に戻るというのは……」

「頑張ってくださいね」

「いや冗談じゃ……き、消えた……」

「流石忍者……」

 

 あの人、本当にカメラマンだけをする気だ……

 ……え? マジ? マジで翼さんと二人で本島に行くの? 本気で? 無人島から? 海を渡って?

 

「……頑張りましょうか、翼さん」

「……果たして何週間かかるんだろうな」

「っていうかここ何処ですか……何処の無人島ですか……」

 

 ……アイドルになったの、早計だったかも。




~二週間後~
調「やっと着いた……」
翼「まさか本島に着いたと思ったら青森だったとはな……沖縄関係ないではないか……」
調「服は緒川さんが何処からか用意してくれましたけど……食料はマジで自分達で採ってましたからね……地獄でした……ん? あれは……」
装者's(ドッキリ大成功!! の看板を持っている)
調「……人の気も知らないで」
翼「……呑気に待っていたとはなぁ」
調&翼『……ぶっ〇す』

この後、風月ノ疾双VS装者+エルフナインでリアル大乱闘スマッシュブラザーズが開催されましたがその様子はカットされました。
ちなみにこの時の映像は翼さんへのドッキリを放送した番組のDVD&BDの映像特典になったとか。しかもかなり売れたとか。
あと、ズバババンの拉致に関してはそっとビッキーが後ろから即効性睡眠薬入りの水を渡して眠らせてます。実行犯はビッキーです。あと調ちゃんは移動中に寝落ちした所をそのまま拉致られました。

もうこれ完全にバラドルですねぇ。装者はバラエティ色に染まっていく運命……
次回はどうしようかなぁ、なんて思いながらふと思ったけど、そう言えば今まで何十もの世界線を作ってきたけど何気にひびみくが成立している世界線が存在していない……?

と、取り敢えず次回は未定。シンフォギアライダー調ちゃんが出なかったらもしかしたらまた調ちゃんが酷い目にあうかも。セレナはまだ謹慎中。


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月読調の華麗なる課金

ガチャって金銭感覚可笑しくなりますよね。

最近は執筆&ゲーム環境の向上化目指してお金貯めてるんで課金してませんが……やっぱ課金は沼ですよ、沼。友人が蝉様に八万突っ込んで本当に課金って怖いなぁって思いましたよ。

まぁ環境向上化が成功したらその後は五期の円盤やマキオンや課金にお金を溶かすんですけどね。


 ガチャガチャ、というのは魔物だとわたしは思っている。

 たった一回、ハンドルを回すだけで百円かそれ以上かの。それこそカップラーメン一個買えそうなお金を突っ込んで、ハンドルを回す。もしもそれで当たればいいけど……当たらなかったら、百円をドブに捨てるのと同じ行為だと思っている。思っているんだけど……人間というのは欲に忠実なもの。そして、欲を出しすぎて自滅する事が定められていると言っても可笑しくない生き物。

 まぁつまり。どういう事かと言いますと……

 

「またダブった……これでグリーンうーぱ三つ目……」

 

 一回百円のガチャガチャにもう千円近くお金を溶かしています、はい。そして未だに目的であるメタルうーぱは出ていない。

 その、ね。ついこの間、お料理している最中にテレビを垂れ流してたら、偶々このうーぱってマスコットが目に入って……それで、ちょっと気になって調べてみたら可愛くて可愛くて……ほら、このまんまるしてるのが可愛いでしょ?

 そんな可愛さについノックアウトさせられたわたしは、ガチャガチャがある事を知って、ついついそこまで出向いてガチャを回してしまった。しかもこれ。一週間経ってます。毎日千円近く溶かしてます。七千円近く溶かして一個もメタルうーぱは出てない……

 でも、メタルうーぱって相当レアで単品買いしても一万円以上かかっちゃうんだよね……だから当てようと躍起になってるんだけど……うぅ。流石にこれ以上は懐がキツい。

 一回百円だからってナメてた。たかが百円。一回で当てれば得、とか思ってハンドルに手をかけたのが間違いだった。小さい子に指を指されながらも頑張って回して、結局出ていない……しかも出るのは殆どがあまりレアじゃないうーぱ。ここまで来ると普通に単品買いした方が良かったんじゃないかとすら思えちゃう。

 

「で、でも次でラスト……次で出るから……」

「何が出るの、調ちゃん?」

「それはメタルうーぱに……うひゃっ!!?」

 

 お財布から新たな百円玉を取り出してガチャガチャに投入しようと思った所で後ろから声をかけられてしまい、わたしはビックリして百円玉を落としてしまいそうになる。

 この事はまだ誰にも言っていない。ほら、だって、ね? こんな歳にもなってガチャガチャってちょっと恥ずかしい物があるから……って、そんな事言いたいんじゃなくて。話しかけてきたのは誰!?

 

「一体誰……あ、響さん?」

「そだよ~」

 

 声をかけてきたのは響さんだった。

 あれ? 確か今日は響さんって……

 

「未来さんとデートじゃ?」

「実は未来にちょっとだけ用事が出来ちゃったみたいで。暫く待機なんだよね」

 

 なんだ、そうだったんだ。

 ちなみに響さんは未来さんと付き合ってます。まぁ、なんというか……知ってたというか。あれだけ好き好きオーラを互いに出していたら、付き合ってました。なんて暴露されても特に驚かないというか。やっぱりと言うか。

 ちなみに付き合い始めたのは響さんがルナアタックから帰還した直後らしくて。初デートは流星群を見に行くことだったらしい。何ともロマンティック。わたしも将来彼氏とか出来たらそういう所に行ってみたい。

 ……まぁ、現実逃避はこれくらいにして。

 

「あ、あの、この事は誰にも……」

「この事って……ガチャガチャ? えっと……うーぱ? あ、見たことあるかも」

 

 まぁ、一応うーぱって結構子供から大人まで幅広く人気あるマスコットだし。そんなマスコットだからメタルうーぱの価格が高騰している訳で。別に響さんが知っているのを驚くなんて事はなかった。

 わたしは興味深そうにガチャガチャを見ている響さんの前でガチャガチャにお金を入れて、気合を入れてハンドルを一捻り。音を立てて出てきたカプセルを天の何かに向かって祈りながら見ずに取り出す。響さんはそれを興味深そうに見ているけど……そんな事はもうわたしの思考外。

 お願い……来て!!

 

「……ノーマルうーぱ。もう十個目……」

「あ、可愛い……って十個!?」

「もう七千円使ってるんですよ、この台に……」

 

 あはは、と空笑いしてみれば響さんはちょっと引いていた。

 だよね、そりゃ引くよね。そんなにお金があったら欲しいゲームとか買えるし、ご飯もかなり豪華に出来ちゃうし。若干諦めたようなわたしの苦笑に響さんは表情を戻してふむ。と一言呟いてそっと財布を取り出し、百円玉を取り出した。

 あ、もしかして試しにやってみちゃう感じですか?

 

「じゃあわたしもやってみよっと。百円だしね」

 

 どうやらその通りだった。

 こういう事って結構あるよね。くじとか、引く気は無かったけど友達が引いたからついつい特に興味ないけど引いちゃうってやつ。わたしも切ちゃんがくじとか引いてるとついついそれに乗っかっちゃうからよく分かる。

 けど、取り敢えずわたしの言えることは……

 

「ようこそ沼へ……」

「何か言った?」

「いえ何も」

 

 そんなわたしの呪詛げふんげふん。お言葉は聞こえたのか聞こえていないのか。どっちでもいいか。

 響さんはそっと台に百円玉を入れて気楽にハンドルを回した。ふふふ、うーぱ沼はかなり深いんですよ。だからそんな簡単にメタルうーぱは出ませんよ。出るとしたらノーマルうーぱとかレッドうーぱとか。

 そうしてレアが出なかったことが悔しくなっちゃってそのまま何度も何度もメタルうーぱを求めてガチャをする事になる。それがガチャの産む沼ってやつなんですよ。だからその手に握ったカプセルの中身を見せてみてくださいよ。

 

「あ、なにこれ金属製だ。えっと……へー、メタルうーぱだって。レアなのかな?」

 

 そうそう、メタルうーぱはかなりのレアでそれこそがわたしの求めていた現在単品買いで一万円もするうーぱマニア皆が欲しがる伝説の……

 

「……え?」

「あ、シークレットなんだ。でも一回で出たんならそこまでレアじゃないのかな?」

 

 そんな言葉を聞いた直後に響さんに肩パン(全力)を繰り出したわたしは悪くない。

 

「ん? どしたの調ちゃん」

 

 けど効いてない様子。そしてこっちは全力で殴った拳が痛いです。何この人。体を縄で縛ってるの? なんか荒縄か何かを思いっきり殴った感触がしたんだけど。骨? 骨なの? わたしが叩いたの骨なの? それとも筋肉なの? どっちにしろ硬すぎて涙出てきた。

 

「い、いえ何も……っていうかそれ……」

「あぁ、これ? どうしようかな。わたしも未来も、特にうーぱには興味ないんだけど……」

 

 だ、だったら……!!

 わたしは財布の中から三千円を取り出して響さんに差し出しながら頭を下げる。

 

「それをこれで譲ってください……ッ!!」

 

 これで投資金額は一万百円……つまりさっきのノーマルうーぱと合わせればほぼ定価!! 全く損無しで確実に安全に新品のメタルうーぱを手に入れることが出来る!!

 

「へぁっ!!? いやいや、何で三千円も!!?」

「それ、今オークションとかで一万円もするんですよ……!!」

「い、いちまん!!? 百円玉が一万円!!?」

 

 響さんは今のメタルうーぱの相場を知って驚いたようで声を荒げている。

 それに、多分このメタルうーぱは将来高騰する。近々このガチャガチャの第二弾が発表されるらしく、シークレットはゴールデンうーぱかシルバーうーぱらしい。でもメタルうーぱは今回だけ。復刻はするかもだけど、どっちにしろメタルうーぱの相場は下がらないと思う。だから、これからレア度が更に上がってメタルうーぱは一万円を超える……!! だからこのメタルうーぱを……メタルうーぱをなんとしても……!!

 

「い、いや、普通にあげるよ? わたしみたいなのが持ってるよりは調ちゃんみたいな子が持ってるほうがいいだろうし」

「あなたが神か。いや女神か」

「大げさだよ調ちゃん!? っていうかそんなキャラだっけ!!?」

 

 響さんはわたしの三千円をそっと押し返すと一緒にわたしの掌の上にメタルうーぱを乗せてくれた。

 あぁ、これこそ夢にまで見たメタルうーぱ……!! この金属製になりながらも変わらないまんまるな愛らしさ……!! これはお宝にしよう。鞄に付けると無くしちゃいそうだから部屋に飾っておこう。

 これでこの弾のうーぱは全種コンプリート……これで机の上に全うーぱが揃ってくれる……うふふ。

 

「調ちゃんのテンションが今まで見たことないくらい上がってる……」

 

 そりゃ上がりますとも。だってメタルうーぱなんですから。

 これ、うーぱ好きな人には自慢できる事だよ。投資が七千円でうーぱを取れたなら三千円得してるんだもん。なんだっけ……あど? だよ。爆あどだよ。

 

「あ、いたいた。響、お待たせ」

「ん? あ、未来。用事は終わったの?」

「え? う、うん。その……あんまり喜べない結果にはなったけど……」

「どゆこと?」

 

 指紋もついていないメタルうーぱ……これはハンカチに包んで家に帰ってからすぐに飾らないと。あと、金属製だし錆びないようにしてからちゃんと全色のうーぱを揃えて並べて写真撮って……あ、ツブヤイターに画像を載せよう。きっと皆羨ましがるはず。時々千円でコンプリートしましたとか言ってくる人いるけど、そういう人には怨念を電波越しに送るとして……

 ようやく、ようやく! あの机の上にある一体分の空白を埋めることが……!! 装者としての特別手当をもうこれ以上減らすことなくうーぱを眺める事ができる!! これでうーぱを見るたびに、この子がメタルうーぱだったら……とか変な怨念を飛ばすこともなくなる……!

 

「あれ? 調ちゃん? なんか……テンション高いね」

「うん。なんかね、ガチャガチャで今まで七千円使って出なかった物が手に入ったから喜んでるみたい」

「ガチャで七千円? ならまだまだ爆死じゃないじゃない」

「え?」

「え? ……あ、やべっ」

 

 ふぅ……よし、落ち着こう。落ち着いてハンカチに包んでポケットの中に……あれ?

 

「未来さん? いつの間に?」

「い、今来たとこだよ? それにしても、運がいいんだね。たった七千円で目的の物が出るなんて」

「いえ、これ響さんが出してくれたんですけど……でも、七千円って『たった』とは言わないんじゃ……」

「え? 爆死なんて十万単位で使ってから言うものでしょ?」

「へ? 十万?」

「え? あ、でも天井があるなら九万くらいだったわね」

 

 え? 何言ってるのこの人……ちょっと怖いんだけど……

 っていうか、ガチャガチャで十万? ちょっと想像つかないし天井ってなに? 天井なら今、上を見上げればあるけど……それがどうかしたのかな? でも天井があるなら九万ってどういう事?

 ……あ、でもそんな感じの事をツブヤイターで聞いたことがあるような。というか相互さんがなんかそんな事を言っていたような。確か……ソシャゲの課金で天井やりました、とかなんとか。それでも目的の子が出たから実質アドとか。いやいやそんな馬鹿なって思って受け流してたけど……

 そういえばソシャゲのくじもガチャって言うんだっけ? 切ちゃんに何度か引かされた覚えがあるよ。わたしが引くと毎回切ちゃんが歓喜してくれるから悪い気はしないんだけど……もしかして、未来さんが言ってるのって。

 

「ソシャゲの課金ですか?」

「い、いやいや! ソシャゲなんてやってるわけないじゃない! 響に似た子が出るまでお金を突っ込んでるわけないじゃない!!?」

 

 いや、それほぼ自爆……

 

「……そういえば未来、最近暇な時っていっつも携帯弄ってるよね? いつも周回が、とかレベルが、とか武器が、とか呟いてるけど」

「それはほら。何百週しても落ちないからつい……あっ」

 

 語るに落ちた未来さんでした。

 冷や汗をダラダラ流しながら笑顔のまま固まる未来さん。何とも器用な真似を……じゃなくて。

 もしかしてこの人、課金してるの? しかも万単位で? メタルうーぱ何個分もソシャゲに使ってるの? 嘘でしょ? 確かに未来さんも非公認だけど神獣鏡の装者として訓練したり並行世界に行ってるからお金はそこそこ入ってるけど。

 わたしと切ちゃんは家賃とか光熱費とか、あと学費もそうだし色々な所で使ってるから自由に使えるお金はあまり無いけど……いや、普通の高校生よりはあると自負はしてるよ? ただ、未来さんは親からのお金で学校行って寮に住んでるから、装者として入ったお金は全部自由に使用可能な訳で。

 

「……逃げなきゃ」

「逃がさないよ?」

「ですよね」

 

 しかもあの未来さんの言葉。絶対にあの人、爆死だっけ? のラインの十万とか軽く超えてるよね。十メタルうーぱ以上突っ込んでるよね?

 そういえば切ちゃんもわたしに引いてもらうときは確実にこれで出なかったら爆死デス……! って言ってたような。

 

「そういえば、なんか部屋のごみ箱からリンゴのマークが書いてあるカードが何枚も出てきたけど……あれってまさか、そうじゃないよね?」

「い、いやだなぁ響。わたしがそんな一万円のチュンカを何枚も購入するわけ……」

 

 はい、ネットで調べて……ふむふむ。

 

「チュンカとはiTunerカードの略である。iTunerカードとはゲームの課金にも使える物である。ばいツブヤイター」

「ちょっとお話ししようか、未来?」

「こんな所に居られない! わたしは部屋に戻るよ!!」

「逃がさないよ未来!!」

 

 えーっと。未来さんが廃課金者でした。

 まさか十万単位でお金を突っ込んでいるとは。そうまでして響さん似のキャラがほしかったのかな……っていうか、あの口ぶりだと絶対にガチャガチャ以外でも使ってるよね。

 響さんの拘束を振り払って元陸上部エースらしく凄い速さで走り去っていく未来さん。しかしそれをそれ以上の速さで追っていく装者の中では生身最強候補の響さん。あれは初めての痴話喧嘩も近そうだね……

 ……未来さんがチュンカって言ってたあのカード。なんか切ちゃんも持ってたような持っていなかったような。

 ……七千円も突っ込んでおいてどの口が言えるのかってレベルだけど確認しなきゃ。

 

 

****

 

 

 という訳で家に到着。メタルうーぱを無事飾ったわたしはそっと切ちゃんの部屋に入った。

 時々掃除しに切ちゃんの部屋に無断で入るから切ちゃんも文句は言わないけど……さて、どうかな。

 確か切ちゃんのごみ箱の中に、何故か特に何にも使っていないティッシュに挟まるようにあのリンゴのカードが……

 

「……あった」

 

 金額は、確か右上に書いてあったはず。

 えっと……一万? つまり一万円分? このカードが?

 ……これ一枚でメタルうーぱ一個分? え? 冗談でしょ?

 

「これは問いたださないと……」

「調ぇ!! またガチャを引いてほしいんデスぅ!! あと一人当てれば宝具レベルがマックス……あ、あれ? その手のそれは……」

 

 噂をすれば何とやら。

 部屋に涙目で入ってきた切ちゃんを、わたしはごみ箱から発掘した、なんと三十枚ものチュンカを手の中でリフルシャッフルしながら出迎えた。ちなみに、この三十枚のチュンカに書いてある値段は、全部一万円。

 つまりこれは三十万円のリフルシャッフル。カードが固いから凄くやりにくいね? ね? 三十万もゲームに課金した悪い子の切ちゃん?

 

「さ、三十万のカードとかちょっと分からないですねぇ……」

 

 切ちゃん? 声が震えている上にいつものデスもないよ?

 つまり図星なんだよね? ね?

 

「い、いやその……それは……」

 

 別に課金したことについてはとやかく言わないよ? だってそれは切ちゃんが頑張った結果貰ったお金だもんね。

 ただね、わたしはこの三十万円の出所が知りたいんだよ? だよ? 切ちゃん。わたし達が念のためにって棚の上に隠しておいたへそくりの五十万円の内、十五万円はどこに行ったのかな? なんであの封筒の中身が三十五万円になってるのかな?

 何回天井したのかな? かな?

 

「そ、それは……」

 

 ほら、三十万円のリフルシャッフルの音だよ?

 それで、この音を鳴らしているカードの内、半分はもしかしなくても、封筒の中身なんじゃないかな?

 

「……あ、あたしは悪くねぇ! あたしは悪く……あ、ごめんなさい何でもないデスから思いっきりヨーヨーを振りかぶらないで欲しいデス。それ普通に鈍器デス」

 

 じゃあ全部喋ろうか。今ならお説教の後に耳揃えて十五万円持って来たら許してあげるから。

 ね?

 

「はいデスぅ……」

 

 

****

 

 

「もう、未来。あんまりお金使っちゃダメだよ?」

「うん、ごめんね響。これからは自重するから……」

「全くもう……未来にはリアルのわたしが居るんだから、あんまりアプリにお金使っちゃダメなんだからね?」

「響……!!」

「それに……こんな風に未来の我儘に付き合って、服の下を亀甲縛りだけにして一日過ごしてあげるのなんて、わたしだけなんだから」

「うん……! やっぱりわたしにはリアルの響が一番だよ!!」

「もう、未来は。本当に調子がいいんだから」




ク「ふぅ……今日も誰にもバレずにうたずきんグッズを買い漁れたし、アプリでも最高レアのうたデレラも十五万で完凸できた……これで暫くは貯金に集ちゅ――」
翼「……なぁ雪音。今とんでもない言葉が聞こえたんだが?」
ク「うおぉぉぉぉぉぉ!!? 記憶飛べよおおぉぉぉぉぉぉおぉぉぉ!!」
翼「あぶっ!!? いきなり殴りかかるとは何事だ雪音!!」
ク「いきなり沸いていきなり人の秘密知ってんじゃねぇぞ!! こうなったらシンフォギアで記憶飛ばしてやる!! killter ichaival tron!!」
翼「くっ、別に怒りはしないからギアを納めろ雪音ェ!! imyuteus amenohabakiri tron!!」


ゲーム課金ではなくリアルのガチャガチャに課金していた調ちゃんでした。リアルガチャで七千円は相当だと思うけどソシャゲと比べると……ね?
あと、調ちゃんが狙ってるアイテムは、最近シュタゲ見たんで、なんかもううーぱでいいやって思ってうーぱにしました。助手可愛かったです。

ついでに、今回はイチャラブしてるひびみくを書きたかったですけど……なんか変態と変態がエボルマッチしてヤベーイ!! になりました。

あと、漫画版シンフォギア見ました。ビッキーとクリスちゃん可愛い。防人。フィーネの全裸で笑いそうになる。ってか笑った。でも適合者なら満足する一品なので、読んでない人は買おう(催促)

さて、次回のシンフォギアさんは……どうしましょうね


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月読調の華麗なる欲望

シンフォギアライダー調ちゃん出ませんでした。そしてストーリーもまだ読めていませぬ。バイトと学校が忙しいんや……!! でもマキオンをやる時間と、新作として投稿したオリジナル作品の執筆時間だけはあるという。

そろそろXDの楽曲のCD出ないかなぁと期待してるんですが……やっぱりビッキーの曲まで出揃ってからなんですかねぇ。焦らされて焦らされて仕方がない。

今日までグラブル全然回れなかったからゼノウォフ剣を今日中に無凸を三本集めなきゃなぁと思いながら更新。あと、各話の閲覧数を見たらヤンデレの二本はぶっちぎりで、課金もかなり伸びてきているのを見てちょっと笑いました。お前らヤンデレと課金好きだなぁ!!


 とある日。わたし達はとある寂れた研究所へと調査のために立ち寄った。なんでも、とある日に突然ノイズに襲撃された研究所らしく、バビロニアの宝物庫が閉じられた今でも、万が一を想定してわたし達装者が、中で研究されていた聖遺物の回収をすべく、任務としてそこへと立ち寄った。

 立ち寄ったのはわたし、翼さん、響さんの三人。いつか並行世界に一緒に行った組み合わせだけど、予定が空いているのがわたし達しか居なかったというのがこの三人で組んだ理由。他のみんなは適材適所でほかの場所に出向いています。

 

「でも、ノイズが出てくるわけないよね。居たといても苦戦はしないと思うし」

「それはそうだな。だが、件の聖遺物が暴走する可能性もある。気は引き締めておけ」

「聖遺物の暴走に関しては、防ぎようもないですからね……」

 

 バイ、どこぞの剣のせいで閉鎖空間に閉じ込められたわたし。

 でも……この研究所、聖遺物を研究していたにしてはちょっと小さいかも。でも、極秘裏に研究していたのならこの広さも別段珍しくないのかな? SONGも、F.I.Sも、何気にかなり大きい研究機関ではあったわけだし。

 さてさて。研究所内部の捜索はわたし達の独断に任せるとの事だったのでわたし達は思い思いにあっち行ったりこっち行ったりしている訳だけど……これ、見つかるのかなぁ? あまり大きくないとはいえ、やっぱり色んな部屋があるわけだし。あと、廊下の片隅に盛ってある炭が怖いです。

 

「じゃあ次はここだね」

「早く見つかればいいのだが……」

 

 もう何十分もシンフォギアを纏って歩いては捜索してを繰り返してきたから、響さんも翼さんも、ちょっと飽きているというかなんというか。でもわたしも飽きているからあまり人の事は言えないかな。

 さて、この部屋は一体何があるのかなっと……あれ? なんか壁際の、ケーブルの繋がったショーケースみたいな物に何かこう……ボタン? クイズ番組とかで使われるようなボタン、としか言いようがないボタンがそこには収められていた。も、もしかしてあれが聖遺物とか……? そんな訳……

 

『あ、聖遺物の反応がありますね。何か変なものとかありませんか?』

 

 と、通信でエルフナインが告げてきた。

 いやぁ……あるにはあるんだけど……これ、どうやって説明しよう。

 

 

****

 

 

 結局わたし達はあるがままを説明してそのボタンを拝借してきた。ちなみに、近くの机に説明書みたいなのも置いてあったからそれも拾ってきた。それ以外には聖遺物の反応もなかったから帰ってきたんだけど……このボタンが聖遺物って言われてもなぁって。

 わたし達は、拝借してきた説明書も一通り読んでみたんだけど……いやぁ、ちょっとこれは流石になんというか。シンフォギアっていう非日常に触れてきたわたし達でも、ちょっと信じられないかなって。

 

「……つまり、このボタンは通称、ロストテクノロジー。詳細名は無く、古代に滅んだらしい文明の物の再現品、と。それには聖遺物も使われていて、それが反応した。そして、このボタンを押しながら願い事を口にすると、何かしらを代償にして、その願いを叶える……ですか」

「何とも信じがたいな」

 

 わたし達の見つけてきた聖遺物……聖遺物? はどうやら説明書によればかなりの力を持っているらしく、風鳴司令も、エルフナインもかなり持て余している感じだった。やはり、これを政府に預ける気にもならず、かと言ってSONGで保管する事も危険が及ぶ。

 だって、願い事が叶うんだよ? そんな物を保有している国、機関なんて絶対に狙われるに決まっている。

 だけど、これが偽物という可能性も十分にある。だって、聖遺物に説明書とか聞いたことないし。だからこれを拾ってきたわたし達に加えて他の装者全員、あとエルフナインと風鳴司令の九人でこのボタンを囲んで頭を捻らせていた。

 そんな中。

 

「じゃあ、一度だけボクが使ってみます。それで信憑性の有無も変わりますからね」

「え? え、エルフナイン?」

 

 と言ってエルフナインはボタンをとっとと手に取って願い事を口にしながらボタンを押した。え、いや、急すぎない? 皆も反応できてないし。

 

「えっと、モン○ターエナジー二十四本入りの段ボールが十個欲しいです」

 

 え、エルフナイン!? なんでそんな物が十個も欲しいの!?

 

「いやぁ、研究漬けだとしょっちゅうお世話になってるので……」

「寝たまえ、エルフナイン君!! というか、休みは与えているだろう!?」

「休みの日も研究です!」

「どうしよう。エルフナインちゃん、完全にワーカホリックだよ」

「いや、趣味と仕事が奇跡的なまでにベストマッチしているとも……」

 

 流石の風鳴司令もエナジードリンク漬けという事は知らなかったらしくてかなり驚いていた。

 ちなみに、エルフナインの定時は夜の六時くらいで、週休も完全二日制らしい。でも、風鳴司令自身、エルフナインはここ、SONG本部兼潜水艦に住んでいるからその後も研究していた事を知らなかったとか。多分、明日から誰かしらの職員が無理矢理エルフナインを部屋に押し込めるんじゃないかな。

 で、ボタンを押したエルフナインだけど……あれ? 何も起きない?

 何かが落ちてくる音とかもないし……ん? あ、エルフナインの後ろ。

 

「はい? あ、本当に出てきましたね。どうやら本物みたいです」

 

 エルフナインは早速段ボールを開けて中のエナジードリンクを一本飲んだ。いや、早いってば。っていうか、エルフナインが躊躇なくエナジードリンクを飲む光景はちょっとだけ見たくなかったかも。

 でも、このボタンが本物だということは……つまり。

 

「叔父さま」

「うむ。これは俺達の間で秘密裏に破壊しよう。あまりにも危険だ」

 

 うん。これは本当に危険。

 だって、何かしらの代償を払うだけで本当に願い事が叶うんだもん。そんな物を保管して、もしも敵に奪われでもしたら……うん、想像もしたくないね。

 フィーネだったら、月の破壊だろうし、ウェル博士なら現実の改変だろうし。キャロルみたいなのに渡したら地球分解ビーム撃たれるだろうし。パヴァリアも月の破壊だし、アダムはもうこの世が地獄化するだろうし。だから、破壊するのが一番。こんな物は存在しないほうがいいんだけど……だけど……

 その、ね? やっぱり人間っていうものは欲望がある訳で。

 

「……ねぇ、師匠」

「……なんだ」

「……わたし達も、一回だけ使っちゃいませんか?」

 

 こうなる。

 いや、だって……ね? こんな物を目の当たりにしちゃったら一回でもいいから使いたくなっちゃうよ。

 使いたくなっちゃうけど……

 

「いや、駄目だ。代償がどんな物かわからない以上、これを使わせるわけには……」

「あ、寿命みたいです。説明書の端に小さく書いてありました」

 

 じゅ、寿命……!?

 つ、つまり……その。アレだよね。

 使えば使う分だけ早死にするって事だよね? じゃあエルフナインは……!!

 

「減った寿命は体のどこかに出るみたいですね。えっと……あ、腕にありました」

 

 まさか、あれだけで何十年とか寿命が減っちゃったりは……

 

「……三日ですね。どうやら願い事のスケールと減る寿命は同じくらいらしいです」

「あまり大きすぎない願いなら自己責任で許可する。俺はもう絶版となった映画のDVD十本セットだ」

 

 そして風鳴司令が折れてボタンを押した。ついでにわたし達も自己責任で許可された。まぁ、如何にOTONAと言っても、人間だから、多少はね?

 でも、自己責任でって言ったのに、自分のお給料で解決できちゃいそうな願い事にするだけ、この人はかなり自制心強いと思う。そして風鳴司令は出てきたDVDを抱えると、段ボールを十個も抱えて大変そうなエルフナインと一緒に、凄くいい笑顔で部屋から出て行った。多分、映画を自分の部屋に保管しに行ったんだと思う。最後までわたし達を見届けないのは、多分信用しているからだと思う。わたし達なら、そんな大それた願いはしないだろうって。

 思ってるんだろうけど……

 

「……ふむ。ならば、ここはこの中の誰よりも装者として先輩であるこの私が、一番に押させてもらおう」

「待ちなさい。ここは年功序列。つまり私からよ」

「いえ、ここはステゴロで決めませんか?」

「いや、射的でいいだろ」

「だったらここは一番の黒歴史を言った人からでいいと思うデス!!」

「切ちゃんの優勝待ったなしだから駄目だよ」

「わたしは何番目でもいいかなぁ」

 

 まぁ、こうやって誰が最初にボタンを押すかで争いが起こるよね。常識人のわたしは、もう願い事も決まっているし特に急ぐ必要もないからジッとしてるけど。未来さんもそれは同じみたいで、何番目でもいいとの事。

 え? 未来さんなら響さんの貞操でも奪いそうだって? もうこの人達出来てるからそんな事願わなくても奪って奪われての関係だよ。それに、この人あんまり物欲無いみたいだし。わたしは、一応欲しいものがあるから押したいけど、なんかいきなり殺伐としたあの空間の中に混ざりこむのは……ねぇ?

 うーん……でも、あのままじゃ多分殴り合いの喧嘩になるだろうし。

 

「なら適当にわたしから」

『あっ!!?』

 

 まぁ、誰からでも押せるようにわたしが最初に押してみよう。じゃないと、あの人たち殴り合ってでも最初にボタンを押す人を決めそうだし。

 

「最高級の調理器具一式と包丁一式」

 

 ぽちっと。

 実は、今持ってる調理器具や包丁、結構ボロボロだったから新しいのが欲しかったんだよね。で、こんな機会に恵まれたんだし、折角だから最高級の物をもらおうかなと。うーん、値段と削られる寿命が比例するんなら、結構削られそうではあるけど……どうなんだろう。

 音もたてずに瞬間移動するようにわたしの前に現れた箱を、一応隅に寄せてから、わたしは削られた寿命を確認するために体のあちこちを確認した。あれ? 書いてない……?

 

「おでこに書いてあるデスよ?」

 

 お、おでこ……?

 えっと、適当に携帯で自撮りの要領で……あ、見えた見えた。

 え?

 

「じゅ、十五夜……」

 

 な、なんか微妙……もしかしてこの箱の中身も案外微妙なんじゃ……?

 って思ったけど、いざ中身を確認してみると、中の調理器具はわたしが動画や写真の中でしか見たことがないような。そんな有名で、高価な新品の調理器具が沢山敷き詰められていた。プロの人でも持ってる人が少ないような、そのレベルの高級品が沢山。

 これなら、今まで出来なかったお料理もできるかな? いっぱい作って切ちゃんに食べてもらわなきゃ。

 で、わたしがボタンを押した結果、このボタンを心の奥底で疑っていた皆に一切の迷いが無くなった。その結果、未来さんを除く皆の視線がボタンへと行った。ちなみに未来さんはわたしの調理器具一式を見て一緒に何が作れるかを考えていた。やっぱりこの人、同性愛者って事と、元RIKUJOU選手って事を除けば普通に常識人だよね。

 

「次は私よ! マイターンッ!!」

 

 で、その間にマリアがボタンを奪い取った。

 さて、マリアはどんな願いを叶えるのかな。

 

「私の将来の、運命の相手を教えなさいッ!!」

 

 マリア!?

 

「もう日本の番組で彼氏居ない歴=年齢で弄られたり一生結婚出来なさそうって弄られたりするのはもうウンザリなのよ!! こんな機会なのよ!? こんなのもう教えてもらうしかないじゃない!!」

 

 マリア……

 

「あ、紙が落ちてきたわね。ふっ、これで私も人生の勝者に……」

 

 あれ?

 マリアが手元に落ちてきた紙を見て固まった。それを覗き込んだ翼さんがその紙に書かれていた内容を口にした。

 

「『検索した結果、該当する人物が存在しませんでした』……ぷっ、くくっ……!!」

 

 思わず翼さんが口を押えて笑う。

 マリア、ごめん。これは流石にわたしも笑う。

 

「うううううううろろろろろろたええええええええ――」

「取り敢えず、壊れたマリアは端に寄せておこう」

 

 笑いをこらえながら翼さんがマリアを部屋の隅に移動させる。マリアは壊れたオーディオのように同じ言葉を震えながら連呼していた。どうやら、一生結婚できないかもしれないという無慈悲な宣言に心をやられてしまったみたい。でも、こんなのネタすぎるって。

 きっと、運命の相手じゃなくても、いい人と結婚できる可能性は存在していると信じて、マリアは放置しよう。あれに何をしても、もう無駄だと思う。

 さて、次は……あれ? ボタンがもう無い?

 

「ごはん&ごはん!!」

 

 あ、響さんがいつの間にかボタンをかっさらってた。

 で、叶えたい願いは……ごはん&ごはん? なんともまぁ、響さんらしい願い事……で、その結果は。

 

「……ねぇ、未来。炊いてない生のお米が出てきたんだけど」

「い、家でたくさん炊こうね、響」

 

 どうやら文字通りごはん&ごはんが出てきたらしい。スーパーでよく見る二キロくらいのお米の袋が二つ、響さんの足元に積みあがっていた。ギャグかな?

 響さんがこう……何とも言えない顔で未来さんの方を見ていたけど、響さんはその表情のまま未来さんの手でそっと端に寄せられた。響さんは自分の好物が出てくるって思いこんでいたっぽいけど、現実は違った。ちなみに、削れた寿命は3s。つまりは三秒らしい。いや、それ削れたって範囲に入るのかな?

 で、あと願いを叶えたい上に誰よりも早く叶えたい強欲な人は三人。

 

「雪音、暁。ここは先輩である私に順番を譲るべきではないか?」

「何言ってんすか。ここは常識人であるアタシが……」

「それだったらあたしの方がまだ常識人デス……!」

 

 もう何というか……醜いよね。ここまで欲望丸出しだと。この光景を風鳴司令や緒川さんが見たら何ていうだろう。

 でも、流石にこれ以上好き勝手させると何かしら問題が発生しかねないので、わたしから一つ名案を繰り出す。

 

「じゃあ、もう三人同時に押せばいいじゃないですか」

 

 そこまで喧嘩するんなら、もう三人同時に押してしまえば誰が先かとかもなくなるし。

 

「三人同時……? ふむ、確かにそれなら」

「まだマシな結果になるっちゃなるな」

「血が流れずに済むデス」

 

 どうやらわたしの言葉に三人の思考は賛同してくれたらしく、それならまだ結果はマシだと言って頷いた。そして、そのままボタンへと向き合って、そっと指をかけた。なんだか嫌な予感がするなぁ。

 

「行くぞ」

「三人同時だ!」

「少しのズレも許さないデスよ!」

 

 なんでこう、我先にとやりたがってたのかはよく分からないけど……なんでだろう。こういう時、ギャグ漫画とかだとこんな感じの三人は大抵犠牲になってたような……

 

「古今東西の名刀の全てをここに!!」

「アタシ自身をもっと素直に……!」

「手紙の存在を無かった事に……!」

 

 なんか翼さんだけ欲望が大きすぎません!? んでもって他二人は結構切実というか何というか……特にクリス先輩はそういう所も可愛いんですから気にしなくていいのに! あと切ちゃんは諦めよう!? 誰も口になんてしないから、ね!!

 そんなわたしの言葉も空しいかな。三人の言葉と同時に押されたボタンはそのまま光を発して……

 

 

****

 

 

 ……光が収まった時、立っていたのはクリス先輩だけだった。

 

「……あれ?」

 

 クリス先輩自身、まさか自分だけが立っているとは思わなかったのだろう。そして、クリス先輩の足元には、大量の刀に囲まれた状態の翼さんと、満足そうな顔をした切ちゃんが倒れていた。その顔には、翼さんは∞、切ちゃんは一万と大きく書かれていた。

 うん、その……欲望が大きすぎたんだねとしか。

 ちなみに、クリス先輩の顔には大きく五十って書かれている。クリス先輩の性格矯正ってそこまで寿命削るレベルだったの……!!?

 で、その惨状を見たクリス先輩は……

 

「……今日が無かったことになれ」

 

 って言ってボタンを押した。

 うん、多分だけど。その使い方が一番皆のためになるんじゃないかなって。わたしはそう思いました。




ちょっと最後らへんが適当だったかなと反省。あとマリアさん推しの方々には申し訳ない。その内マリアさん主役の回とか書くかもだから。何気に全員分の主役回は書こうとしてるから。

今回の元ネタはギャラクシーエンジェルA(三期)の第二十六話『押しまくり☆おしるこ』からでした。わかった人いるかな?

ギャラクシーエンジェルって言ったら数珠つなぎやピュルリクが有名ですけど、それ以外にも面白いエピソードは沢山あるのでオススメです。ちなみに、今回の話は、最初はピュルリクをやる予定でしたが、流石に無理でした。わからない人は、ギャラクシーエンジェルを見よう(宣伝)

さて、グラブルしなきゃ。あと、セレナの謹慎はそろそろ解こうかなと。どっちにしろネタが無きゃ出てきませんが。

ZIKAI WA MITEI


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月読調の華麗なるヤンデレ包囲網

オラ新鮮なヤンデレだぞ


 全部響さんが悪いんだ。

 そう、どれもこれも全部。全部、響さんが悪い。

 どれだけアピールしても。どれだけ頑張って誘っても。どれだけ好意を伝えても、それを受け取ってくれない響さんが、全部悪いんだ。わたしは全力で響さんを手に入れるために手を尽くした。尽したのに、響さんはどっちつかずの宙ぶらりん。だから、わたしは悪くない。

 悪いのは響さん。わたしに靡いてくれない響さん。

 だから……

 

――手に入れるためなら、なんだってしてもいいよね?――

 

 

****

 

 

 みんなの様子がおかしいって思ったのは、多分魔法少女事変が終わった辺りからだったと思う。

 翼さんとクリスちゃん、それと未来の初期メンバーとも言える三人は、フロンティア事変辺りからおかしかったけど……でも、わたしと一緒にいる時はいつも通りだし、それに様子がおかしいからと言って何かしらの問題を起こす事はなかった。だから、わたしの考え過ぎじゃないのかと。相談した師匠や緒川さんは言ってくれた。

 わたし自身、自分の身に特にこれと言った問題を起こされなかったからそれで済ませていたんだけど……明らかにみんなの視線に、今までと違ったナニかが乗り始めたのは、つい最近。パヴァリアとの戦いも終わって、まだ戦いは続きそうだけど。それでも仮初でもいいと思える平和を謳歌していて。その中で、みんなの視線はおかしくなっていった。

 毎晩、隣で寝ている未来はわたしに聞こえないレベルで何か呟いているし、翼さんはわたしと二人きりだと、テレビでも見ないような笑顔を浮かべるけど、逆に誰かと一緒だと表情が凄く硬いし、視線もどこか鋭いし……クリスちゃんは特に変わりないように見えるけど、わたし以外にはどこか素っ気ない。マリアさんは、わたしと二人きりでデートしようってよく言ってくる。別にそれはいいんだけど、わたしに用事があると、表情が凄く怖くなる。思わず一回逃げちゃったし……切歌ちゃんも、一緒におでかけを望んでくるけど、切歌ちゃんはわたしの用事を全部見透かしているのか、暇だけど暇じゃないって言うと、凄い怖い表情でその日は暇デスよね? と言ってくる。断れない。調ちゃんは、何かにつけてわたしを束縛したがる。切歌ちゃんとのルームシェアを止めて一人暮らしをした調ちゃんは、わたしとなるべく長い時間一緒にいたがる。それと、何かこう……アピールしてくる。いろんな意味で。わたしが男だったら理性の方がぶっ壊れていたと思うくらいには。

 そのせいか、最近は自分だけの時間が殆どない。唯一の救いはエルフナインちゃんかな。エルフナインちゃんだけは前と変わらずに接してくれるけど……その、会うたびに身体検査してくるのはやめてほしい。怪我なんてしてないから。っていうか、触診とか言ってわたしの胸を触ってくるのもやめてほしい。手付きがオッサンなんだけど。でもそれ以外はいつもどおりだから……

 はぁ……なんだか憂鬱。みんなと居るのは楽しいんだけど、気が抜けないからもう……

 

「どうしたんだ、立花。いきなり溜め息などついて」

「いや、何でもないんです。ちょっと明日までの宿題を思い出しちゃって……」

 

 勿論、嘘だ。

 今目の前に居るのは翼さん。翼さんとは二人でお昼ご飯を食べに来たんだけど、ちょっと考えていたことが表に出ちゃったみたい。よく、わたしは表情に出やすいとは言われるけど、ここまで出やすいとは思っても居なかったよ。まさか溜め息って形で出ちゃうなんて。

 溜め息を吐くとなんとやら。あまり吐かないようには心がけていたんだけど、どうしても内心に比例して一回か二回はついつい出てしまう。それもどうにかしたいとは思っている所存だけど、そうともいかないのが現実でして。はぁ。

 

「うむ、宿題か……私も苦戦したものだ。何せ、仕事との板挟みが多かったものでな」

「あー、芸能人ならではの悩みですね。あと、装者ならではとも」

「防人と仕事と学業。どれも手を抜く事はできないからな」

 

 ちなみに、これはお父さんにも相談してみた。

 その時の答えは、今すぐ逃げろとのこと。ちょっと意味が分からない。なんかやんでれ? がどうとか言ってたけど。

 

「あぁ、立花。これから少し時間はあるか?」

「時間ですか? まぁ、ありますけど」

 

 今日はなんとか獲得したわたしだけの時間。だから、今日の昼以降は部屋でのんびりとしていたかったんだけど……まぁ、少し翼さんと付き合うくらいなら別にいいしね。一人で居ても暇なだけだろうし、もう少しくらい誰かと一緒の方がわたしの精神衛生上、まだいい。

 お昼を食べていたファミレスから出て、わたしと翼さんは隣に並んで道を歩く。ちなみに、翼さんは変装中。まぁ、街中をあの風鳴翼が歩いていたら絶対にファンの人が押しかけてくるからね。そう思うと、こうやって翼さんと一緒にいられるわたしはファンの一人としては物凄く恵まれていると思う。

 

「ここでいいだろう」

 

 そうして翼さんに連れてこられたのは、とある公園だった。

 ここでいいって……なんだろう? 公園でお昼寝でもしたいのかな? それならわたしも全然いいんだけど……なんだか違うっぽい。ポケットに手を入れてちょっと言いにくそうにしている翼さんを見て、わたしはちょっとドキッとしたけど……同時に何故か悪寒を感じた。

 なんだろう、この感じ……了子さんやキャロルちゃんを相手にした時に感じた純粋な殺意とかじゃなくて……こう、もっと別な。ドロッとした何か……

 

「少し、話したい事があってな――」

 

 翼さんは笑顔でわたしにゆっくりと近づいてきた。

 おかしいな。翼さんの笑顔って、こうも怖かったっけ。翼さんって、こうも何かを悟らせない感じで迫ってくるような人だっけ。

 翼さんはわたしに抱き着くかのようにそのまま片手を回して、わたしが逃げられないようにすると――

 

「――私の物になれ」

 

 そして感じたのは、腹部の異常なまでの熱さ。

 普通なら耐え切れないような尋常じゃない熱さと、痛み。

 

「あ、ぐぅ!?」

 

 幸いにも、と言ってはなんだけど。わたしは色々と荒事をしてきたし、心臓にガングニールの欠片が直撃する事もあった。ネフシュタンにも、ネフィリムにも、錬金術にも。何度もボコボコにされて、腕も食われた事のあるわたしだからこそ、なんとか膝を崩さずに立つことができた。

 わたしは力の限り翼さんを突き放し、そして腹を見る。

 腹からは、柄が生えていた。刀ではなく、ギリギリでポケットに入るようなナイフ。それが、わたしの腹に刺さっていた。それを理解するのに、たっぷりと五秒ほどかかった。

 

「翼さん、どうして……っ!!」

 

 ナイフを抜くのは駄目って何かの映画で言っていた。だから、抜くことは無いけど……これ、予想以上に辛い。異物が自分に刺さっている状態って言うのがここまで辛いなんて思ってもいなかった。

 よく考えたら、わたしって大怪我しても、大抵暴走するか気絶するかで痛みなんて感じてる暇なかったからなぁ……っ!!

 

「立花が悪いのだ……お前が、私『達』の気持ちに少しも気が付かないのが……」

 

 気持ち……? 一体、なんの。

 そう思いながらも、突き飛ばされたあと俯いていた翼さんが顔をあげて……その表情を見て絶句した。

 顔は、笑っている。笑っているが、目が笑っていない。

 未来が怒っている時も、笑っているけど目が笑っていないという状況は時々あったけど……翼さんのそれは、もうその次元じゃない。もう、人が壊れてしまったかのような。そんな笑顔だった。

 今まで戦った誰よりも、怖い。思わず息を呑んでしまう位には。

 

「ほら、どうした立花。ギアを纏わねば死んでしまうぞ?」

 

 と翼さんが新たなナイフを取り出しながら言った。げっ、あの人何本ナイフ持ってんの……!?

 っていうか、ギアを纏ってって……翼さんも知ってるくせに。わたしのガングニールは、今、エルフナインちゃんに緊急メンテのために渡しているって。

 これ、かなりヤバいかも……翼さん、本当にわたしを殺す気だ……!!

 

「覚悟ッ……!!」

「くっ……ごめんなさい、翼さん!!」

 

 顔を殴るのは、駄目。かといってタックル系の技は、多分腹に響く。だとしたら。

 突っ込んでくる翼さんのナイフを紙一重で避けて、わたしは軽く握った拳を翼さんの腹に当てる。それを、一気に握りしめながら前へ軽く突き出す事によって翼さんをその勢いだけで吹き飛ばす。

 上手くいくかは、傷のせいで微妙だったけどなんとかなったみたい。ついでに、翼さんに物理的な傷をつけるのも防げた。それにホッとしながらも腹から響く鈍痛に思わず顔をしかめる。

 翼さん、どうしてこんな事を……でも、考えるより前に動かないと。翼さんにもう一度だけ謝ってから、血を流しながらSONGの本部へ向けて走る。病院に行った方がいいんだろうけど……そのせいで根掘り葉掘り聞かれて翼さんの名前を汚すのだけは憚られた。だから、本部へ行ってエルフナインちゃんに治療してもらって、翼さんにはこの事は無かったことにしてもらって……それで、終わり。それでいい。

 でも、翼さんは少し気になる事を言っていた。

 私『達』の気持ち。一瞬、翼さんはわたしを殺したいんじゃ、と思ったけど。殺したいのなら手なんて幾らでもある。ナイフだって、腹じゃなくて心臓に刺せば即死させられた筈。でも、しない理由は、翼さんを動かしているのは殺意なんかじゃなくて。もっと別の何かなんじゃないかって。馬鹿でお気楽なわたしでもそこまでは考えられた。

 でも、腹に異物が刺さっている感覚と言うのは予想以上に辛い。まだ少ししか走っていないのに息が切れる。抑えている手が生暖かい。傷が熱い。早いうちに本部へ行かないと、出血多量で死んじゃいそう……っていうか、血を流しながら走っている時点でもうSONGでも隠蔽できないような……いや、ここは撮影の練習だと言いきれば……あー、何でだろう。一周して思考が変な方向に……

 

「お、おい! 何してんだお前!!」

 

 とか思ってたら聞き慣れた声が。

 この声は……クリスちゃん? よ、よかった。知り合いに会えたんなら少し嘘ついてそのまま本部へ連れて行ってもらえば……

 

「ちょっとね……錬金術師の残党に刺されちゃって……」

「はぁ!?」

 

 そう、翼さんは悪くない。悪いのはわたしが今咄嗟に考えた錬金術師。翼さんは今、その錬金術師に気絶させられて公園で転がっている、という設定。

 これなら翼さんは悪くないって言える。指紋は……翼さんが動揺して思いっきり握ったって事で。

 

「くっ、待ってろ! 今――」

 

 助けを呼んでくれるかな? だったらいいけど……クリスちゃん、いつもそこのポケットに携帯入れてたっけ……? っていうか、なんだかポケットの中の手の動きが……ま、まさか!?

 

「終わらせてやるよ」

 

 そして取り出したのは……け、拳銃!?

 それをわたしに向けて……危ない!? 拳銃を見てからすぐに回避行動を行ったわたしは、何とかその弾丸を避ける……事は無理だったけど、左手に受けて、右手でクリスちゃんの拳銃を持った手を捻り上げる。

 い、痛い……!! なんでナイフに続いて拳銃……!! 凶器のバーゲンセールなの!?

 

「な、なんでこんな……!!」

「アタシ達は決めたんだよ。お前をいったん眠らせて、人数分『分割』しようってな」

「っ!!?」

 

 その言葉を聞いて、寒気を感じて。すぐにクリスちゃんの顔を見て、更なる寒気を感じた。

 ゾクッと。そんな言葉すら生ぬるく。クリスちゃんの顔は。いや、視線は。

 『愛』で満ちていた。

 

「ご、ごめんクリスちゃん!!」

 

 すぐにわたしは右手で握っていた手を握り直して、そのまま背中と右手一本でクリスちゃんを背負い、そのまま投げ飛ばす。その際に腹のナイフが痛かったけど、気にしていられない。

 そうだ。翼さんも、クリスちゃんも。その眼には『愛』しかなかった。深くて、とても見続けていられない程の、深く淀んだ『愛』。それを見たからこそ、悪寒が走ったんだ。

 

「に、逃げなきゃ……!!」

 

 本部に。師匠と緒川さんの所に。

 もうこれは錬金術師か何かが裏から手を引いているんじゃ。そうとも思えたが、そんな事を考えている前に逃げないと。じゃないと、最悪の場合は死ぬ。

 いくら急所じゃないとはいえ、左手に弾丸、腹にナイフじゃとてもじゃないけど耐えられない。現に今すぐ気絶してしまいそうなくらいな痛みがわたしを襲っている。

 早く。早く、本部に……!

 

「駄目じゃない、立花響」

 

 そして後ろから聞こえた声は。

 

「大人しくしてないと」

「うわぁぁぁあああぁぁあああ!!」

「えっ、ちょっ、容赦なさす――」

 

 普段なら頼れるマリアさんの声で。でも、その声を聞いた瞬間、翼さんとクリスちゃんから感じたあの悪寒が走って。だから、振り返った瞬間に自由に動く右腕だけで思いっきりマリアさんの脇腹にフックを叩き込んでそのままアッパーでマリアさんを吹っ飛ばした。

 

「ぐはぁ!!?」

「ごめんなさいマリアさん! 今度ご飯奢ります!!」

 

 鍛えていてよかった。割とマジで。

 マリアさんを沈めたわたしはそのまま走り出す。

 どうしてこんな……どうしてこんな事に……!! 昨日までみんな普通だったのに!! 取り敢えず今は錬金術師のせいにして逃げるけど、これじゃあ明日からもみんなから命を狙われる羽目になるかも……!!

 

「響さんはもう手遅れなんデスよ」

 

 更に聞こえてきた声。

 ここで殺意のバーゲンセールなんて聞いてない……!! 声からして、これは切歌ちゃん。そして切歌ちゃんがここから襲ってくるとしたら、きっとわたしが唯一抵抗のために使える武器、つまり右手を潰しに来るはず! だから!!

 

「ごめん、切歌ちゃん!」

「先読みデスと!?」

 

 思いっきり右手を振り払い、迫ってきていた切歌ちゃんの体そのものを吹き飛ばす。伊達に鍛えてないんだよ……!!

 鍛えているけど……流石に人一人を右手で吹っ飛ばすのは流石に手の負担が大きい。流石にもう一度となると力が足りなくて出来ないかも……でも、切歌ちゃんでもう終わりだろうし大丈夫。

 でも吹き飛ばしただけじゃ切歌ちゃんは追ってくる。なんやかんやで切歌ちゃんも同年代の子と比べれば鍛えている方だから、この程度じゃ気絶なんてしない。お尻を痛めるだけだと思う。だから、立ち上がった切歌ちゃんの後ろに素早く回り込んで首筋に手刀を入れる。

 

「当身」

「うっ」

 

 よし、これで大丈夫。何度も花京院の当身を見て学んで良かった。これで装者を四人無力化できた……これでもう邪魔をしてくる人はいないはず……はず。

 誰か忘れているような、忘れていないような……一体なんだったっけ。まぁいいや。とりあえず、今は本部へ向かって……

 

「ひーびきさん」

 

 走ろうと思った時。前から何かがぶつかった。

 あっ、そうだ。もう一人……切歌ちゃんがいるんならいるであろう、もう一人が……

 

「し、調ちゃ……」

 

 下を見ると、そこには普段見ないような満面の笑みを浮かべた調ちゃんが……でも、その手に持っているのって……

 

「大好きですよ」

「あがっ!?」

 

 す、すたんが……――

 

 

****

 

 

 ……うぅ。

 あ、あれ? 生きてる? 調ちゃんにスタンガンで気絶させられて……それでもうデッドエンドだと思ってたんだけど……よかった、生きてる。生きてるならどうとでもなる。とっとと本部へ移動して師匠達に助けを求めないと。

 流石に手足の痺れとかは抜けてるよね?

 ……ん? 動かない?

 いや、動くけど、動かそうとすると何かに阻害される。というか、今、わたしは両手両足を大の字に拘束されている。それに気が付けたのは、意識が戻ってから暫く経ってから。

 それで、そういえば瞼を開けていないと思い出すと、わたしは瞼を開いた。

 そして、後悔した。

 

「あ、目が覚めました?」

「し、調ちゃん……」

 

 瞼を開くと、そこには笑顔の調ちゃんが。

 それだけならまだ安心できたんだけど……その手に握られているのは、無骨なチェーンソー。今にも動き出しそうな、本物のチェーンソー。それを調ちゃんは片手で持ってわたしを覗き込んでいる。

 わぁ、そんな物持てるくらい筋力付いたんだね、なんて冗談を言える訳もなく。それを動かして動けないわたしの首に当てるだけでわたしはすぐに死んでしまう。しかも、チェーンソーは斬られている間、かなり痛いと思う。それで改めて処刑するのなら、寝ている間にすませてほしかった。

 っていうか、なんでもう生きるのを諦めているんだろう。ここは調ちゃんがわたしを助けるためにわざと監禁したんだと思わないと、流石にやっていられな……

 

「未来さん、響さんの『分割』は捕まえた人の特権でしたよね?」

「うん、そうだよ。ちゃんと頭、両手、両足、腹から上と下の七つに分けるんだよ?」

 

 助けて奏さん。

 

「でも七分割……流石にちっちゃくなっちゃうなぁ。装者五人と、未来さんと、エルフナインで分割なんて」

 

 っていうか分割ってなに。しかも部位ごとにって……一体どういうこと?

 ……いや、なんとなく分かっているけど、まさかそんなエグイことしないよね?

 

「……ねぇ、調ちゃん。どうしてこんなことを?」

 

 それに、一つだけ気になる事がある。

 みんなが、どうしてナイフや銃を使ってわたしを仕留めようとしたのか。どうしてこんなところに監禁するのか。どうしてわたしを殺そうとするのか。それだけは、未だに分からない。どうしてもわからない。

 

「簡単ですよ。わたし達みんなが響さんの事が大好きなんです。愛しているんです」

「あ、愛して……?」

「はい。もう狂っちゃうくらいに」

 

 そ、そんな……愛しているって、まさか、そういう? Loveって、事だよね? こんな状況で言われても微塵もうれしくないけどね……!!

 

「だから、みんなで響さんを分けようって事になったんです」

「わ、分けようって……」

「はい。物理的に」

 

 そう言うと、調ちゃんはチェーンソーのエンジンを入れた。

 爆音と共にチェーンソーの刃が回転を初めて、調ちゃんの手の内で暴れまわる。改めて動くそれを見たわたしの胸中は、勿論恐怖だけ。これからこれで殺されるんだと思うと、今すぐに逃げ出したいけど、体は大の字で固定されて一切動かない。こういう拘束を抜けるための技も試すけど、一切成功しない。この拘束は、予想以上に硬い。

 つまり、詰み……うそ。

 

「じょ、冗談だよね!? こんなの嘘でしょ!?」

「エイプリルフールはもう終わってるんですよ」

「や、やだ! 助けて! なんでもするから!!」

「じゃあ大人しく分割されてください」

 

 調ちゃんはゆっくりとわたしの右手に向かってチェーンソーを降ろしてくる。あと十秒も経たないうちにチェーンソーは……

 

「み、未来! 助けてよ未来!! このままじゃわたし……」

「これはみんなで決めたことなの。もちろん、わたしも含めて、ね」

「そ、そんな……」

「じゃあ、響さん。さようなら」

「や、やめて! 本当になんでもするから! 調ちゃんの恋人にだって奴隷にだってなるからお願いだからこんなこと――」

「えいっ」

 

 

****

 

 

 ふふっ、これでずっと一緒ですよ、響さん。




た/ち/ば/な/ひ/び/きとなってしまい、装者五人+未来さん&エルフナインに分けられたビッキーでしたとさ。

フラグを建てるだけ建てて放置してしまった結果、みんなの病み度が限界を超えてしまいましたとさ。きっと他の世界線でみんなを虐殺した報いだね。

セレナの謹慎を解こうと思ったけどセレナを使ったネタが思いつかなかったのでセレナさんはまだ謹慎中です。ちなみに、今回の話は調ちゃんがヤンデレに囲まれてもなんとかかんとかスルーして生存する、という話か銀魂の六股(でしたっけ?)回のパロディの予定でしたが、何故かビッキーが生贄となっていました。南無。

さて、次回も未定。なんかネタあるかなー


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月読調の華麗なる極限生活

弁明だけさせてくれ。

俺は本当にギャグを書くつもりだったんだ。

でもなんか気が付いたらこうなってたんだ。

悪気は無かったんだ……!!


「無人島での、生活ですか?」

「あぁ」

 

 入院しているわたしの元に、風鳴司令がお見舞いに来てくれた。

 そして言った言葉が、それだった。

 わたし達が一か月間生活していた無人島。そこでの暮らしを懇切丁寧に教えてくれと。まだ寝ているらしい響さん達から話は聞けないから、わたしから聞きたい。風鳴司令はそう言った。

 

「はい、大丈夫ですよ。えっと……どこから言えば?」

「……辛いだろうが、最初から最後までだ」

 

 そう言われてふと思った。

 そういえば、二週間目あたりからわたしの記憶はかなりあやふやだった。

 だから、思い出すという事も含めて、わたしは話す事にした。

 

 

****

 

 

 事の発端は、風鳴司令が唐突に口にした特訓からだった。

 夏休みの真っただ中のとある日。外に出るのも億劫な程の暑い真夏日に、わたし達は風鳴司令にとあるフェリーの発着場に呼び出された。交通費は支給してくれていたし、何よりその日から一週間近くのカレンダーの空白があったが故に、断る理由が無かったから。わたし達装者+エルフナインはフェリーの発着場へと向かった。

 忙しいハズの翼さんとマリアがそこに居たのは、多分上手いこと緒川さんがスケジュールを調整した結果だと思う。

 そして、フェリーの発着場に着いたわたし達に、風鳴司令は笑顔でこう言った。

 

「今日から一週間、SONGが保有する無人島で特訓を行う!!」

 

 とは言っていたけど。

 実際は特訓という名のバカンスであり、自然の中で山菜を採ったり魚を銛で突いたり。そうやって自然を楽しみながら体力を付けていこう、という魂胆だったらしい。平行世界に行ったり事件を解決したり外国へ飛んだりと、何かと忙しいわたし達装者とエルフナインの様子を見てのことだったらしく、風鳴司令は建前とも言える特訓の事項を口にした後、まぁ楽しんで来い、とわたし達の背中を押してくれた。

 風鳴司令と緒川さんは、まだ仕事が少しだけ残ってるらしく、夕方までには無人島へ行って合流する、と言ってくれた。暫くの引率は翼さんとマリアで大丈夫だろう、と思っていたらしい。

 けど、この時の、風鳴司令と緒川さんを含めた全員はこれから数十分後に起こる悲劇を予測なんてできるわけがなかった。もしも引率に緒川さんか風鳴司令がいたのなら。わたし達はあの極限生活を強いられることなんて、無かったんだと思う。

 全ては、十人程度が乗れる船に乗ってから十分ほど経ったときだった。船の無線に、SONG本部で待機していた藤尭さんからの連絡が来たのは。

 

『船の周囲にノイズの反応がある! 至急ノイズの殲滅をしてくれ!!』

 

 海上での戦い。わたし達は自衛のためにもそれを選択するしかなかった。

 水着型ギアを纏えるクリス先輩、マリア、翼さんを筆頭に、わたし達は海上での戦いをした。特に戦いにくそうだったのは、響さんと未来さん。響さんはその戦闘スタイルから海上での戦いに苦戦し、未来さんも神獣鏡の火力の低さからノイズを相手に苦戦していた。しかも日よけの無い炎天下での戦い。徐々にわたし達は疲弊して。水着型ギアの三人も息を切らせて。

 

「あぁもうちょっせぇ!! もう全力で周囲一帯ぶっ飛ばすぞ!!」

「雪音の意見に従うぞ! 立花、お前は私に合わせろ!!」

「もうイライラしてるんで全力でぶっ放しますよ、翼さん!!」

「あたしと調もコンビネーションで決めるデス!!」

「うん、いこう切ちゃん」

「ビームで焼き払ってやるわ!!」

「同じく!!」

「あ、あの、あまり火力を高めると船が転覆する恐れが……」

 

 そのせいか、クリス先輩の提案がやけに魅力的に感じてしまって。わたし達は全員が大技を構えてしまった。

 そして。

 

「SURFING PRIEST!!」

「双星ノ鉄槌ッ!!」

「DIASTER BLASTォ!!」

『ザババサンムーンッ!!』

「HORIZON†CANNON!!」

「流星!!」

 

 クリス先輩がミサイルを発射して。翼さんと響さんが息を合わせて天羽々斬とガングニールの広範囲の殲滅攻撃を私用して。わたしと切ちゃんで先端が丸鋸になった鎌を超巨円投断のように思いっきり投擲して。マリアと未来さんがビームを発射して。

 その結果。ミサイルが海中で爆発して、殲滅攻撃とザババサンムーンが津波を起こして、ビームが海中で謎の爆発を起こして。

 エルフナインの忠告を無視してしまった結果発生した大きな津波は、思わず呆然としてしまったわたし達を船ごと巻き込んでいき、そのままわたし達の意識は一旦途切れてしまった。

 そして目が覚めた時には。

 

『……ここ、どこ』

 

 わたし達全員が、どこかも分からない無人島に打ち上げられていた。

 後から聞かされたんだけど、実はこの無人島。わたし達が行く予定だった無人島のお隣だったらしくて、船を運転していた職員の人は運よくそっちに流されたから特に困った事はなかったらしい。手当もSONGが出したらしいし。

 でも、当時のわたしはそんな事いざ知らず。もしかしたら帰れないかもしれないという恐怖だけが残って。全員が顔色を真っ青にした。

 

「た、立花! 小日向! 雪音! 月読! 今すぐ飛んで助けを呼んできてくれ!!」

「無茶言わないでくださいよ翼さん! ここがどこかも分からないのに飛べませんよ! 特にわたしは体力を大量に消費するんですよ!?」

「そうですよ! 幾ら何でも無茶です!!」

「アタシのミサイルだってんな万能じゃねぇよ!! もし海のど真ん中で力尽きたらどうすんだよ!!」

「わたしのシュルシャガナなんてミサイルの数倍遅いんですよ!? 確実に海に落ちちゃいますから!!」

 

 こんな感じで。わたし達は混乱に混乱を極めて、どうしたらいいのかも分からず、ただ空を飛んだり海を渡ったりできそうなギアを持っている人にどうにかしてくれとギャーギャー責任を押し付けるだけだった。

 でも、こうしても仕方がないと、誰かが謝ったのはそれから二時間も経ってからだった。未来さんやわたし達、F.I.S組はギアを纏うにはLiNKERが必要不可欠だから、結局訓練用LiNKERの効果時間が切れてから、わたし達四人が落ち着いて。それを見て、ギアを纏ったままだった響さん達がこれじゃあどうにもならないと落ち着いて、ギアを解除して。

 それから、偶々マリアが持ってきていた緊急用の体内洗浄機でどうにかLiNKERの毒を体から出して、ようやくわたし達は落ち着いた。

 もしもここでわたしと未来さんの、自由に飛行できるギアを持った装者が飛んで行ったらと思うとゾッとしない。だって、わたしと未来さんは二時間でLiNKERの効果時間が切れたのだから。多分、運よく他の無人島に着地したとしても、そのまま一人で何もできず……っていうのが大いに考えられた。ついでに、翼さんが飛んで助けを、と言った際に指さした方は見事に太平洋のど真ん中に続いていた。

 

「と、とりあえず皆さん。一旦持っている物を共有しましょう。もしかしたら、どうにかなるかもしれません」

 

 そうして、何であんなに荒れていたんだと全員が全員、自己嫌悪を始めた辺りで、唯一ずっと冷静でみんなを止めようとしてくれていたエルフナインが声をかけてくれた。この中では唯一特殊な力を持たないけど、それでも一番落ち着いているエルフナインにみんなで安堵して。とりあえずエルフナインに従おうって決めて、わたし達は荷物を広げた。

 でも、特にこれといった、この状況を打開する物は出てこなかった。

 みんなが持ち込んだお菓子。着替え。歯ブラシとかの日用品。それ以外には、携帯端末や本、ぬいぐるみといった、この状況を打破するにはどうしようもない物だらけだった。

 

「……じゃあ、このお菓子を緊急時の非常食として確保しておきましょう。それで、ここからは食料確保班を決めます」

「お菓子があるなら大丈夫じゃ?」

「お菓子がある間に誰かが来てくれるとは限りませんから」

 

 本当にエルフナインは冷静だった。多分、慌てまくった結果、一周周って落ち着いたんだと思う。本人もそう言っていたし。

 そうして。装者は食料確保班を海と山の二つに分けて、体力のない人でこの海岸に仮拠点を作る事になった。

 まず、山は響さんとマリア。海は翼さんと切ちゃん。わたし、クリス先輩、未来さん、エルフナインで拠点作成、SOSサイン作成、火おこしを担当することに。

 ギアを自由に纏える三人が分かれる事でパワーバランスを調整する、というエルフナインの采配は、今思えば本当にピッタリと合っていた。

 響さんとマリアが非常食としてお菓子を幾つか持って山へ向かい、翼さんと切ちゃんが水着ギアと水着に着替えて素潜りして、わたし達が拠点の作成。ここでわたしは持ってきていた訓練用LiNKERを一本使い、大至急でエルフナインの監修の元、木を切ってアームで拠点を組み立てた。

 

「これ、意外と疲れる……!」

「頑張ってください! これがないと割と本気で死を覚悟しますから!」

 

 屋根と壁。これがないのは流石にキツい。そう判断したエルフナインによってわたしは着々と木を組み立てていく。

 そして未来さんが拾ってきた漂流物で大きなSOSサインを組み、重火器でとっとと火を起こしたクリス先輩がわたしに合流して同じように、わたしより少ないアームで拠点の組み立てを手伝ってくれる。

 そうしてなんとか。わたし達は仮拠点、SOSサインを完成させ、火おこしも終わらせた。

 仮拠点はかなり頑丈に作った。試しに響さんが押しても引いても壊れないくらいには丈夫に作った。どうしてこんな拠点を作るための知識があったのかをエルフナインに聞くと、チフォージュ・シャトー建設の時の名残とか。

 そうしてわたし達は自分達の役目を終わらせた……んだけど。ここからの状況がかなりマズかった。

 まず、響さん達が帰ってきた。手ぶらで。

 

「あーその……えっとね? 一応島の端まで行ってきたんだけど……」

「この島、直径で一キロちょっとしかないわね。かなり小さい島よ」

「それで、食べられそうな草とか探したけど、明らかに毒々しい物しかなくて……」

 

 そう。この島、とても小さかった。

 そのため、響さんとマリアが全力でこの周りを駆け回ったけど、得た物はなにも無く。一応確認を、と持ってきた確認された野草やキノコは見事に毒があるとしか言えない物で。一応、エルフナインが錬金術で簡単に調べたけど、見事に致死性の毒が含まれたアウト物件だった。

 こうして、山の方は完全にアウト。一応虫の類がいたとは言ってたけど、うら若き乙女たるわたし達はそれを食べる気にはならなかった。なお、虫にも毒があったもよう。

 そして、海班の二人だけど……

 

「フグと腹の足しにもならないうえに捕まらない小魚しかいない」

「流石にこのフグは食ったら死ぬデス」

 

 この直後、流石にこれはマズいと思ったのか響さんとエルフナインが海へ突っ込んだけど、結果は同じ。人間が食べて満足できるようなサイズの魚はいなかった。

 と、いうのも。この無人島の周辺の海域は先程の津波とノイズの出現によって大きく乱れてしまったらしく、小魚以外の魚は全部どこかへ行ってしまったらしい。だけど、辛うじて残っていた魚を翼さんと切ちゃんは取ってきてくれた。でも、それはみんなで分け合ったらすぐに無くなってしまった。

 そうして、全員が空腹に涙をこらえながら暇な時間をボーっとして過ごし、一日が終わる。

 こうしてわたし達全員が、食料の確保がほぼ不可能なこの無人島で、無期限のサバイバルを強いられることになった。そして、そのサバイバルは、地獄の幕開けでもあった。

 まず二日目。

 

「みなさん、なるべく動かないでください。極力エネルギーを使わずに助けを待ちましょう」

 

 エルフナインの言葉に従って、わたし達は極力動かずにその日を終わらせた。水は、エルフナインが何も食べずに作った海水を真水に変える装置で八人分をなんとか補った。

 三日目。

 全員が空腹の限界を感じた。一日何も食べないだけで人間と言うのは大分精神をすり減らす。

 

「……ふらわーのお好み焼きが食べたい」

 

 そんな響さんの寝言は、全員のすきっ腹に直撃して。でもお菓子は非常食だから手を付けられず。全員が何も言わずにそのまま寝るだけの日を過ごした。雨が降ってほしかった。

 もし、ここに居る人の中で癇癪を起こす人が居たら、間違いなく大参事になっていたと、今さらながら思う。

 四日目。

 まだ助けは来ず。これ以上食わないのは流石にマズいと、みんなの意見の一致で、お菓子を分配して食べた。丸一日以上も何も食べていなかったからか。お菓子の味は今まで食べたお菓子よりも断然美味しくて。でも、食べ過ぎたら生きられないと思って。空腹が紛れる程度食べて、終わった。

 五日目。

 その日も何も食べなかった。でも、響さんがとうとう木を齧り始めた。

 

「ねぇ、知ってる? 木って、噛めば噛むほど味が出るんだよ」

 

 うつろな目でそう言う響さんを止める気力は、みんなには無かった。

 とうとう火も消えた。ギアを使える人に起こしてもらおうとしたけど、響さんは限界。翼さんとクリス先輩もギアを纏えるだけの体力が無くて。わたし達は火の無い中で寝付いた。とても寒かったのだけは覚えている。

 六日目。

 響さんと切ちゃん。それからマリアが我慢できずにお菓子を全部食べてしまった。でも、残りの五人のお菓子は残っているから、それを分けた。涙を流して謝る三人にイラつかなかったと言えば嘘だ。でも、ここで怒っても仕方ない。仕方の無い事だと。全員で言い聞かせて。

 その日は、三人が全力で取ってきた魚三匹を、響さんのガングニールで火を付けて焼いて食べた。数日振りの魚は、とても美味しかった。これでお菓子の分は完全にチャラになった。どうせ、三人が食べた分と同じ量のお菓子を、今日全員で分けて食べるつもりだったのだから。

 七日目。

 魚を食べて少し余裕が出たわたし達はなんとかその日を耐えた。でも、誰も何も話すことは無かった。

 八日目。

 朝起きると、未来さんが何かを食べていた。

 むしっ。ぱさっ。むしっ。ぱさっ。そんな音を立てながら未来さんはみんなに背を向けて何かを食べていた。一瞬、未来さんが何かお菓子を盗んだんじゃ、と思い、いったんみんなで未来さんを羽交い絞めして食べている物を確認した。

 食べていたのはぬいぐるみだった。

 ぬいぐるみの綿を。毟って、口に運んで、飲み込んで。極限の環境下で、何の訓練もしていなかった未来さんが一番に限界が来たのだと。全員がようやく理解した。

 でも、ぬいぐるみって食べられるんだと。虚ろな目をした未来さんを見ながら思ったわたしは。どうしようもなく、ぬいぐるみが美味しそうに思えてしまった。

 九日目。

 耐えられなかった。

 ぬいぐるみを、食べた。

 美味しくなかった。マズかった。

 口の中の水分は持っていかれるし。お腹痛くなるし。吐きそうになるし。そもそも味しないし。

 でも、何かを食べるという行為がわたしの精神をなんとか保ってくれた。

 だけど。もし、そのままぬいぐるみを食べ続けていたら。わたしはきっと助けが来る前にリタイアしていたと思う。だから、それを止めてくれたみんなには感謝するしかなかった。

 十日目。

 久しぶりにお菓子を食べた。

 泣くレベルで美味しかった。

 でも、それでお菓子はなくなった。残ったのは、全員が持っていたポテチ一枚だけ。なんとか全員で魚を二匹確保して明日の食料に回したけど。あと二日もしたら、きっとみんなは狂う。まだこれがあるから動ける。生きれると。希望そのものだったお菓子がなくなったのだから。

 十一日目。

 魚を食べた。水を飲んだ。ポテチを食べた。それしか記憶には無い。

 十二日目。

 何もしなかった。できなかった。

 十三日目。

 本を食べた。まずかった。

 十四日目。

 木を食べた。お腹を壊した。

 十五日目。

 海水を飲んだ。逆に喉が渇いた。

 十六日目。

 服の一部を食べた。お腹が痛くなった。

 十七日目。

 ぬいぐるみを全部食べた。お腹が痛い。

 十八日目。

 フグを響さんが食べてしまった。

 十九日目。

 未来さんが同じようにフグを食べてしまった。

 二十日目。

 翼さんが発狂した。山へギアを纏って走って行って、そのまま何かを食べながら帰ってきた。

 二十一日目。

 わたしは着替えを全部食べた。クリス先輩が笑いながら気絶したっきり動かなくなった。多分眠たかったんだと思う。

 二十二日目。

 マリアがお菓子の袋を食べた。

 二十三日目。

 切ちゃんが何か赤いのを食べていた。そのあと切ちゃんも気絶した。

 二十四日目。

 エルフナインが笑いながら頭を壁に打ち付けていた。そういうお年頃。

 二十五日目。

 みんな静かになった。

 二十六日目。

 落ちていた石を食べた。

 二十七日目。

 残っていたLiNKERの中身を飲んだ。吐いた。

 二十八日目。

 切ちゃんが食べ残した赤いのを食べた。焼いたら美味しかった。

 二十九日目。

 よく見たら食べ物は転がってた。

 三十日目。

 久しぶりに満腹になった。でも吐いた。なんでだろう。

 三十一日目。

 風鳴司令が助けに来た。風鳴司令はわたしを見て言葉を失っていた。その後に謝りながらわたしを抱きしめてくれた。久しぶりに人の温もりを感じた。

 そうしてわたしはヘリに乗せられてSONGの医務室に運ばれた。

 そのあと、わたしは胃洗浄とかさせられたけど、最終的には気絶して。そうして目が覚めて今に至る。

 

「……あれ?」

「……」

 

 そうして話していて思い出したけど。

 二十三日目に切ちゃんが食べてたのって、なんだっけ。

 二十九と三十日目に食べたのって、なんだっけ。なんで仮拠点の中に食べ物が転がっていたんだっけ。

 なんで、みんなが途中から……

 

「え? あ、まさか……うそ」

 

 あの赤かったのって、お肉じゃなかったっけ。

 でも、あそこにお肉なんてなかった。あるとしたら……

 

「あ、あぁぁ、あああああああああ!!?」

 

 思い出した。

 わたしは。わたしは、生きるために。

 もう動かなくなってしまったみんなを、この手で裂いて――

 

「すまない……本当に、本当に……すまない……!! 俺が……俺がついていてやれば……!!」

 

 そうだ。

 響さんは、フグをとってきて、そのまま食べて、死んだ。

 未来さんは、その後を追って、死んだ。

 翼さんは、その現実に耐え切れずに発狂して、そのまま毒キノコを食べて死んだ。

 クリス先輩は、三人も死者が出てしまったという現実に耐え切れず。精神が死んで廃人になって。そのまま息を引き取った。

 マリアは、虚ろな目でお菓子の袋を食べて。喉に詰まらせてそのまま死んだ。

 切ちゃんは、そうやって死んだ響さんと未来さんを食べて。生で食べたからそのまま感染症で数日後に死んだ。

 エルフナインも発狂して。頭を打ち付け続けて死んだ。

 わたしは、そうやって死んだみんなを焼いて食べた。腐った肉は、本能的に捨てた。そして、肉は焼いて食べた。だから、ぎりぎり大丈夫だった。

 そうして、わたしだけが、生き残った。

 

「……」

 

 わたしは、そっとベッドのそばにあったシュルシャガナを取った。

 

「……調君、ギアを持って何を」

「various shul shagana tron」

 

 そしてLiNKERもないまま。わたしはギアを纏って。

 

「ま、待て! 早まるんじゃ……」

「――ごめんなさい」

 

 誰かに謝りながら。シュルシャガナの丸鋸で自分の首を斬り裂いた。

 あぁ、そうだ。あの日。みんなを食べた日。

 わたしが見た赤色は、これだ――




えっとね。本当にギャグで終わらせる気だったんです。銀魂の、女性陣全員が太ってポテチ一枚でとんでもないキャラ崩壊起こすってアレ。アレやろうとしたんですよ。最終的に全員気絶して全員助けられる予定だったんですよ。

でも気が付いたら未来さんが某GAのあの子みたいにぬいぐるみ食ってたんですよ。ビッキーがフグ食ってたんですよ。なし崩しに全員死んだんですよ。なんか明らかに普通なら死んでる事してるけど調ちゃんだけ一応生き残ったんですよ。

次こそはギャグやりたいなぁ……!! 流石にキャラが死ぬシリアス二連発は書いてて心折れる……!!


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月読調の華麗なる焼き鯖&ドッピオ

本日は三本立て。

多分タイトルで察してる人は沢山いると思うけど……前二本はあの作品のパロディです。三本目は凄く短いですが、先日自分達に発生した聞き間違いをネタにした小話です。

それではどうぞ。


 今日も今日とて学校。そしてお昼になってお昼ご飯の時間になった。

 学校に通っていなかった頃は、何をそんなお昼ご飯の時間だけで盛り上がれるのか、と思ってたけど、実際に通ってみると結構テンションが上がる。と、言うのも、やっぱりなんやかんやで疲れる授業が一旦中止でお昼ご飯が入るから、なんだかウキウキするというか。

 で、今日のご飯だけど。いつもはお弁当なんだけど、今日はちょっと寝坊しちゃって作るの忘れちゃって。そういうわけで購買で買ってこようという事になった。

 そんなわけで。わたしは切ちゃんにお金だけ渡して焼きそばを買ってもらう事にした。

 なんで焼きそばかって? ちょっと最近、焼きそばを美味しそうに食べているドラマを見ちゃったせいで焼きそばが食べたくなっちゃったんだよね。ほら、よくあるでしょ? なんだかドラマとかお料理番組とかで見た料理が美味しく見えて、その結果それが食べたくなるってこと。

 わたしもその一人。そういうわけで焼きそばが食べたくなった。

 さて、まだかな切ちゃん。

 

「買ってきたデスよ、調!」

 

 あ、噂をすればなんとやら。切ちゃんが戻ってきた。その手には二つの紙製のパックと、割りばしが。

 

「ありがと、切ちゃん」

 

 お礼を言ってわたしは切ちゃんから焼きそばを受け取る。

 ……ん? なんか受け取った時、焼きそばが入っているのなら明らかにしないであろう音がしたんだけど。コトっ、て音となんか重量が傾く感覚が……

 ま、まぁ気のせいだよね? 焼きそばの具が偏っているんだよね? まさか焼きそばを聞き間違えて何か買ってきたとかじゃないよね?

 うん。そうに決まっている。万が一間違えたとしても。炒飯とか、あそこらへんの単品でも食べられるものに決まっている。わたしがおかず単品を食べるような人じゃないっていうのは切ちゃんが分かっている筈だし。

 

「それじゃあ、いただきます」

 

 なんだか不安が募ってきたけど、気にせずにわたしは割りばしを手にして紙パックの蓋を開け……

 ……

 …………え?

 いや、あの、これ……え?

 うそでしょ?

 

「き、切ちゃん?」

「ん? なんデスか調」

 

 いや、なんデスかじゃなくて。

 あの、切ちゃんの食べてるのは?

 

「焼きそばデス」

 

 これは?

 

「焼き鯖デス」

 

 うん、そうだね。

 焼かれた鯖の半身が焼きそばが入る筈だったであろうパックの中に一つだけ入っているね。しかもそこそこ大きいね。身から垂れた油がやけに美味しそうだよ。

 じゃなくてさ。

 

「うん、これって、焼き鯖?」

「はいデス」

「わたしが頼んだのって……」

「焼き鯖デスよね?」

 

 その言葉を聞いた瞬間、わたしの中で何かがキレた。

 思いっきり息を吸って、吐いて。そして叫んだ。

 

「焼きそばだよッ!!」

「デスっ!?」

「わたしが! 頼んだのは! 焼きそばだよッ!! 焼いた! そばだよッ!!」

 

 なんで焼き鯖!? なんでよりにもよって焼き鯖!!?

 確かに似ているけどさぁ!! 確かに一文字違いだけどさぁ!!

 

「あ、あちゃ~。間違えちゃったデス」

「そんな簡単に済ませられる問題じゃないよ!! 由々しき事態だよ!!」

 

 あーもう!! あー……これ!! どうすんのこれ!!

 焼きそばだと思って蓋を開けたら焼き鯖!! この、お店でカレーライスを頼もうと思っていたけどカレーうどんしかなくて、渋々カレーうどんを頼んだけどなんかこれじゃないって感じになるのと似たこの感じ!!

 分からない? なら今すぐ牛丼の飯テロされた直後にうどんでも食ってきてよ! なんかこれじゃない感がすごいから!!

 

「だ、だって一文字しか違わないじゃないデスか」

「だからって……あー……もう……なんか……あー……もういいよこれで」

 

 でも、これしかないならねぇ……もう食べるしかないじゃん。買ってきちゃったんだし。捨てるなんてもってのほかだし。

 はぁ……焼きそば食べる気満々だったのに……一気にテンションダウンだよ。

 

「で、ゴハンは?」

「え? ゴハンならそこに……」

 

 ……そうじゃなくてさぁ!!

 

「白メシだよッ!!」

 

 真っ白いゴハン!! 響さんの大好物!! あれはどこ!!?

 

「いや、それだけデス」

 

 こ、これだけ!!? これだけ!!?

 いや無理だから!!

 

「どうやって単品で食べろっていうの!!?」

「いや、それは……焼き鯖頼んだのは調デスし……」

「焼きッ!! そばッ!! だよッ!! そばにソースを絡めてそのまま焼いたそばの事だよッ!! わたしが頼んだのはそんな焼きそばだよッ!!」

 

 なんで切ちゃんって時々頭のネジが緩くなるかなぁ!!

 

「じゃ、じゃあまた買ってくるデスよ。お金渡してもらえれば……」

「もうわたしお金ないんだけどぉ!!?」

 

 あーもう!! ほんともう!! どうすんのこれ!! わたし、多分今までで一番切ちゃんに対して怒ってるよ!!

 

「そ、それならもう最後の手段デス!!」

「最後の手段?」

 

 え? まさか焼き鯖を焼きそばにする最終手段が……?

 とか思っていると切ちゃんは懐から携帯を取り出すと誰かに電話を掛けた。

 

「あ、あたしデス。その、焼き鯖と白メシの交換をデスね」

 

 え?

 

「はい、教室で待ってるデス」

 

 いや、あの、切ちゃん?

 その電話先って、多分だけど……

 

「お待たせ切歌ちゃん!!」

「うおっ、予想以上に速いデス!!?」

「いやー、丁度今日は未来がおかず作り忘れちゃって困ってたんだよ。はい、というわけでわたしのご飯半分」

 

 え、いや、あの。

 嫌な予感が……

 

「おぉ、本当にいいデスか!? じゃあこれ、約束の焼き鯖デス!」

「うん、ありがと切歌ちゃん! じゃっ!!」

 

 あ、あのぉ……

 ……わたしが何か口にする前に響さんは行ってしまった。

 そして残ったのは白メシのみ……

 ……

 

「これで白メシが来たデスよ、調……」

「……焼き鯖は?」

「え?」

 

 いや、だからさぁ……

 

「焼き鯖だよッ!! おかずの焼き鯖だよッ!!」

「……あっ」

 

 このっ……!! 今度こそは容赦しないッ!!

 

「切ちゃああああああああああああああああん!!」

「ちょ、調、飛びかかってきちゃ……ぎゃあああああああああ!!?」

 

 っしゃあ焼きそば確保ォ!!

 

「あ、あたしの焼きそば……がくっ」

 

 

****

 

 

 ……お昼は酷い目にあった。

 まさか切ちゃんが焼き鯖を買ってくるなんて……

 まぁいいや。結局わたしと切ちゃんで焼きそばおかずに白メシ食べたし。白メシは響さんサイズのお弁当の内半分を分けてもらった感じだったけど、一人じゃ量は多すぎたから、二人で焼きそばと一緒に食べて丁度いい感じだった。案外焼きそばおかずにご飯って合うんだね。炭水化物と炭水化物でちょっと後が怖い感じだけど。

 で、わたしは一旦ATMでお金下ろしてから帰るという事で切ちゃんとは分かれて帰る事にした。

 なんだか久しぶりに一人で帰るから何か軽い贅沢でもしていこうかな、と思って歩いていると、ふと最近リニューアルした喫茶店を発見した。

 そういえば、最近の高校生の子ってこういうところに入る物なんだよね?

 ……よし、決めた。ここでちょっと一息ついていこう。コーヒーはよく分からないけど……まぁ、なんとなるよね?

 

「いらっしゃいませ~」

 

 さて、じゃあ……エスプレッソでも頼もうかな。これ以外にコーヒーなんてエメラルドマウンテンとかしか知らないし。

 えっと……あれ?

 エスプレッソ……これ、Sと……T?

 え、T!!? Tってなに!!? Sはスモールなんだろうけど……Tって一体!? ティー!? 茶!? いや、違う。えっと、これの読みは……えっと……

 

「あ、あの、お客様?」

「ぴぃっ!?」

 

 や、やばい。そろそろ頼まないと店員さんからの視線が痛くなる……!

 た、多分これはTって読めば大丈夫。多分それが正解……!!

 

「え、っと……エスプレッソ、の……ティーで」

「え、エスプレッソの……えっとその……トール、でよろしいでしょうか?」

 

 と、トール!!?

 Tって、とととととトール!!? いやトールってなんなのなんなんです教えてマムゥ!!

 いや、落ち着こう。その意味は後で調べるとして……うぅ……恥ずかしい……で、でも、これ限り。少し恥ずかしくても頼めれば問題なし……!!

 

「あ、あははは……え、エスプレッソのティーでも飲もうかなって……口に出ちゃって……」

 

 って何言ってんのわたしの口ィ!!

 苦しい……苦しすぎる……! ここで弁明なんてしなくてもいいから……!!

 

「じゃ、じゃあ……エスプレッソの、ティーの……スモールで……」

 

 あぁ、恥ずかしい……! 飲んだらすぐに出よう……!!

 

「え、えっと……エスプレッソの、ショートでよろしいでしょうか?」

 

 しょ、ショート!!?

 スモールじゃなくて!? 何故ここでショート!!?

 また恥かいたよ!! 三回目だよ!!

 もうどうすんのこれ! これじゃあこの店員さんから見たわたしって、完全に痛い子というか恥ずかしい子だよ! 恥ずかしい子なんて切ちゃんだけで十分だよ……!!

 あーもう頭がこんがらがってよく分からないよぉ!!

 

「じゃ、じゃあ……! スモールのショートで……!!」

 

 いやスモールのショートって何ぃ!!?

 

「は、はい。ではエスプレッソのショート……あっ」

 

 え? その「あっ」ってなに? 何かマズいことでも言った!?

 

「あの、その……ホットかアイスかはどちらに……」

「ホットで!!」

 

 よかった! ここは流石に分かる!!

 でも、どうしてホットかアイスか聞くだけでそんなやっちまった、みたいな声出したんだろう。それぐらいなら別に普通に聞けばいいんじゃ……

 まぁ、これでもう大丈夫かな。エスプレッソの、ショートの、ホット。うん。完璧な注文。席に行ったら落ち着いてコーヒー飲んでこの事は永遠に記憶の奥底に封印しておこう。

 

「その、ホットとなりますと……サイズの方が……」

 

 え? ホットになるとサイズが?

 変わるの? もしかしてSとTの他に何か……あっ、Lかな? 一番大きなサイズが追加されるのかな?

 でも、それならさっきと同じような注文をしたら大丈夫だよね?

 

「ソロと、ドッピオになりますが……!!」

 

 ソロと……ドッピオ!!?

 ど、ドッピオォ!!?

 ドッピオってなにドッピオって何語ドッピオって一体何を指しているのぉ!!? っていうかソロもなに!!? 一人でコーヒーを飲みに来た寂しい人間に対するサイズってこと!? っていうかサイズがソロとドッピオってもう訳が分かんないよ!!

 ど、ドッピオ……ソロ……一体なんなの……どこの国の言葉なの……っていうかコーヒーの注文がここまで難しいなんて考えもしていなか……あっ。

 本日のコーヒー……? こ、これだ!!

 

「え、えっと……じゃあ……その……やっぱり本日のコーヒーで……」

 

 こ、これなら……これなら万が一でもまた恥をかく事なんて……

 

「ほ、本日のコーヒーは……その……エスプレッソとなっておりますが……!!」

 

 …………

 ………………

 

「じゃ、じゃあ、それで……」

「さ、サイズの方が……ソロと、ドッピオがございますが……!!」

 

 で、ですよねぇ……

 あぁ……うん。その、ね……

 

「……もう、適当に見繕ってください」

「わ、分かりました……」

 

 ……最初からこうしときゃよかったよ。

 はぁ……もう恥かきっぱなしだよ……とりあえず席に着いて……あー……

 はっずかしい……もうどうしようこれ。もうこの喫茶店来れないよ……はぁ……

 

「こちら、エスプレッソになります」

 

 ……あぁ、来た。

 

「ごゆっくりどうぞ」

 

 ……うん、来たね。手のひらよりも小さなサイズのコップに入ったコーヒーが。

 

「……ちっせーーーーーー…………」

 

 ……もう一口で飲んで帰ろう

 ……

 …………

 ………………

 ……………………

 

「……超、にげぇ…………ッ!!」

 

 ……もう、これからは自販機でいいや。




セレナ・カデンツァヴナ・イヴの華麗なる日常その3


「セレナ、もう注文は決まったかしら?」
「うん、決まったよ。わたし、この塩鯖(しおさば)定食にするね」
「え? そんなものあったかしら……分かったわ。注文してくるわ」
「いいの? ありがと。じゃあ席を取って待ってるね」

――数分後――

「お待たせ、セレナ。はい、これ」
「わぁ、ありが……えっ、これなに」
「なにって……少佐期(しょうさご)定食よ」
「いやわたし頼んだの塩鯖定食なんだけどぉ!!? っていうかよくそんなのあったね!?」

――完――


はい。今回は日常のパロディでした。焼きそばだよ!! とドッピオは有名は話ですよね。
そして三本目は……はい。先日作者が友人と飯食いに行った時に聞いた空耳でした。塩鯖定食がしょうさご定食に聞こえてみんなで笑ったってだけです。丁度マキオン帰りだったんで、ツボったんですよ。そんだけです。ちなみにしょうさご定食の漢字はあてずっぽう。

焼きそばだよ!! とドッピオは友人から好きなギャグ漫画とその話を聞いた時に出てきたのでそのまま使いました。塩鯖定食は忘れてくれ。

次回は未定、の予定でしたが、現在途中まで書いているのが、銀魂のアニメ153話「寝る子は育つ」のパロディ、月読調の華麗なる睡眠と、銀魂のアニメ35話「外見だけで人を判断しちゃダメ」のパロディ、月読調の華麗なる尾行の二種です。没にならなければ投稿します。

最近暗い話ばかりだったからね。明るい話を書いていきたいと思ったんだ。そしてサラッと謹慎解除のセレナでしたとさ。


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月読調の華麗なる魚雷

XDのアルバム発売決定に声を出してガッツポーズしました、私です。メイドモードのFULLを早く聞きたいンゴ……!!
でも、あのアルバム、全十一曲なのに十曲しか公開されていないんですよね。これは平行世界の奏者含めた全員での曲が来たりして……まぁ、どっちにしろ、XVに続いて生きるための糧になります。生きねば。

で、今回の話はもう一つ、尾行話をこの後ろに載せるつもりでしたが、童話型ギアのセレナが二十連余したのに出なかったのでまた出禁です(無常)

ちなみに、幻獣ギアの調ちゃんは出ました。やったぜ。でも新イグナイト調ちゃんも欲しかったんだぜ。イグナイトギアって結構セクシーというかエr(ry

短いですけどどうぞ。ちなみに元ネタはみんな大好きなアレです。


追記:ラスト十連回しましたが、セレナは出なかったのでしばらくガチ出禁です。折角出禁解除されたのに可哀想ですねぇ(諸行無常)


 とある日。毎日平和でボーっとしてても何の支障もない日に、突如エルフナインがわたしを訪ねてきた。

 なんでも、この間あった身体測定で走り高跳びをした結果、とんでもない結果になったらしく、風鳴司令達が困惑するという事態が起こったらしい。エルフナイン自身、まさかキャロルから貰った体がここまで運動音痴だとは思っていなかったらしく。ついでにこの体をくれたキャロルに申し訳ないから練習したい。そういう訳で監修お願いします、とのことだった。

 どうしてわたしの所に来たのかと聞いてみたけど、どうやら最初に響さんを訪ねた結果、未来さんに捕まっていたのでどうしようもできなかったらしい。で、そのまま流れるように辿りついたのがわたし、ということ。

 わたしもあまり運動は得意じゃないから他を当たってほしい、と言いたかったけど、今日はマリアと翼さんは仕事。切ちゃんはクリス先輩と出かけているから、装者はわたし以外出払っている状態になってしまっている。だから、ここで断るとエルフナインは一人で練習するという事になってしまう。なので、わたしで良ければとそれに頷いた。

 え? 装者やってるんだから運動できるだろうって? わたしの戦闘スタイルって前に出てドンパチじゃなくて後ろで丸鋸投げたりヨーヨー振り回したりだよ? 基本的には若い反射神経に物言わせてひぃひぃ言いながら戦ってるだけだってば。人よりは運動できるかもしれないけどさ。

 で、そういう訳で。エルフナインの走り高跳びの練習にわたしは付き合うことになった。

 なったんだけど……

 

「はぁ、はぁ……えいっ!!」

 

 うん、なんというかね。

 魚雷。

 エルフナインの飛び方を見るとそれに限る。

 バーまで走ってきて、そして力をためて。そしてそのまま何故か体が斜めになってそのまま一直線に飛ぶ。そしてそのままバーの真下を潜り抜けていく。

 おっかしいなぁ。あんな飛び方、しようと思ってもできないんだけどなぁ。っていうかどうしてああなってしまうのだか。運動音痴じゃなくてイメージ力がないだけなんじゃ?

 

「えっとね、エルフナイン。飛び方はそうじゃなくて……」

 

 で、わたしがお手本代わりに飛んで見せる。まぁ、この程度ならぎりぎりできるよ。

 ちょっと拙い背面飛びでなんとかバーを飛び越えて、受け身を取りながらマットに落ちる。うん、成功してよかった。

 エルフナインは拍手しているけど……いや、その、ね? 確かに背面飛びはできない人いるだろうけど、これぐらいなら簡単に飛べるのが普通だからね?

 まぁいいや。

 

「はい、エルフナイン。飛んでみて」

「は、はい! えっと、ここでこうして……」

 

 そしてエルフナインがまた走ってきて、力をためて。魚雷となった。

 うーん。どうしようこれ。

 

「ねぇ、エルフナイン。エルフナインの運動神経ってどんな感じなの?」

「どんな感じ、とは?」

「どれくらいの事ができるのかなって」

 

 とりあえず、それを見てからいろいろ決めようかな。もしかしたら、無理に背面飛びするんじゃなくて、飛び込むように飛んだほうができるかもしれないし。

 まぁ、とりあえずは運動がどれだけできるのか試さなきゃ。

 えっと……あ、あそこの鉄棒でいいかな。

 

「ちょっとあの鉄棒で何かしてきてくれないかな」

「何か、ですか? 逆上がりとか……」

「うん。それでいいよ」

 

 逆上がりできるなら運動はそこそこできると思うし。

 エルフナインは鉄棒に歩いて行って、そして鉄棒をつかんで、体を持ち上げて。

 そして逆上がりしようとしてできず。そのまま鉄棒にぶら下がって。そしてなんとか元通りの体制になろうと踏ん張って。なんでか鉄棒を足で挟んで。ようやく体を起こしたと思ったらそのまま体が重力に従って回転を始めて、手を放してしまったエルフナインは両足で鉄棒を挟んだ状態で直立不動の体制のまま高速回転を始めた。

 ……え?

 えーっと……

 えっと。なにこの、なに。

 あんな回り方初めて見たんだけど。というか一回転してからどうしてそんな勢いで回り始めたの。

 

「……え、エルフナイン? もういいよ?」

 

 わたしがそう言うとエルフナインは足で挟んでいた鉄棒を離してこっちへ飛んで……

 ちょっ。

 

「ぐほっ!!?」

 

 わ、わたしのお腹にエルフナインの頭がぁ……!! エルフナイン弾がお腹にぃ……!! 口から女子力垂れ流しそう……!!

 

「だ、大丈夫ですか調さん! なんか女の子が出しちゃいけない悲鳴が聞こえましたけど!!」

「だ、誰のせい……!!」

 

 い、いや、落ち着こう……これは事故……事故だから……

 ふぅ……ふぅ……よし、落ち着き始めた……

 大丈夫。アダムとかにぶん殴られた時に比べれば全然大したこと……あ、でもあの時ってシンフォギア纏ってたし、シンフォギアには一応バリアみたいなのもあるからそこまでダメージはなかったような……あ、ヤバイ。思い出したら痛くなってきた。

 だ、大丈夫。大丈夫。わたしは大丈夫。落ち着いていけば大丈夫。ひっひっふー……あれ? これって出るほうだっけ。

 

「え、エルフナイン……とりあえず、急に手を離すのはやめようね……」

 

 よし、落ち着いた……

 あー、ひどい目にあった。まさかエルフナインからロケットずつきをもらう羽目になるとは……

 

「……うん。あんなのができるんなら、もう自分のイメージ通りにやったほうがいいと思うよ」

「自分のイメージ通り、ですか?」

「そうそう。ただ、もう頭突きしないでね? 結構痛いんだから」

「……わかりました。自分のイメージ通りに頑張ります」

 

 あんな新体操の選手顔負けの大車輪できるんならもう何でもできると思うんだけどなぁ。

 っていうか、なんか嫌な予感がするのは気のせいかな? なんだかちょっと寒気が……

 その寒気をどうにかする前にエルフナインが走ってくる。うん。さすがに走り高跳びの飛ぶ方向をわたしの腹に定めるなんて無理だから安心して……

 

「これで……えいっ!!」

 

 そしてエルフナインは足に力をためて。そのままわたしの方へ……

 はぁ!!?

 

「ぐっはぁ!!?」

 

 こ、このっ!!

 流石に今のはわざとでしょ!!?

 

「ぐっ……お返しぃ!!」

「あだぁ!!?」

 

 なぜか着地できていたエルフナインの背中に思考が真っ赤になったわたしのロケットずつきが炸裂する。

 空を舞うエルフナイン。そのまま倒れるわたし。そしてバーを綺麗な背面飛びで超えていき、そのままマットに落ちるエルフナイン。

 

「……すみません。実はこれ、制御不能なんです」

「……そんなアホな」

「……前は司令の顔にぶっ飛びました。真後ろの」

「……もう諦めたほうがいいよ」

「……はい」

 

 ……うん。本当にこれが制御不能というのなら。

 もう諦めたほうがいいと。思いました。

 ちなみに、このエルフナインの飛び方が魚雷飛びと命名されるのは、少し後のことになる。

 あー……おなかいたい。




というわけで、元ネタは魚雷飛びでした。運動音痴なエルフナインちゃん、有りだと思います。むしろ可愛い。でも魚雷飛びは周りの人が被害にあうかもしれないから、止めようね!!

さて、次回は何にしましょうか。尾行はセレナの出禁に応じて封印。もう一つの睡眠は書いてる途中にwindowsのアップデートで書きかけの状態で消し飛んだのでモチベダウン。まぁ、適当に何か書くと思います。

それではまた次回。


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月読調の華麗なる声優生活

まさかの声優時空の続き。まぁ、今回はギャグでもなんでもなく、ホントに毒にも薬にもならない内容ですので、何か食べたり飲んだりしながらゆっくりと読んでください。

あ、ついこの間、時間ができたので見逃したXD一周年生放送を見たのですが……いやぁ、色々と濃かった。

けどそれ以上に水着ぃぃぃぃぃぃぃ!! セレナで石使わせておまっ……水着ぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!! もう石が……石がぁ……マジで今回ばかりは無理だって……キツイって……

また未所持の調ちゃんが増えそう……もうGX、超巨円、3.5、新イグナイト、クリスマス、ライダーと未所持の調ちゃんがいるのに……っていうか一時期全く調ちゃん出なかったのに最近になって急に出すぎでしょ……!! 絶対にスタッフに調ちゃん推しが混ざってますってば……!!

まぁそんなわけでどうぞ。石貯めなきゃ……


 わたしがうたずきんの声優としてのお仕事をして、ライブも経験して、ついでにマリア、翼さん。それからクリス先輩と弓美さんにわたしが月詠了子ということをバラして。わたしは再びいつものような日常に戻った。

 普段は学生。でも裏の顔は声優。そして有事の際には装者という、普通にしてては絶対に被ることのないであろう仮面を二つも被っての生活。大変じゃない、とは言えない。でもとても充実していると思う。お仕事大変お役目大変勉強大変、って言えば社畜みたいな事になっているとは思うかもしれないけど、声優としてのお仕事は、他の声優の皆さんとお話ししたり芸能界について知ったりできてとても勉強にもなる。時々宿題とか教えてもらってるし。あと、実は他の作品の主役とかもやってみないかってオファーも来ているみたい。

 うたずきんの現場って、実は他のアニメよりも結構過酷みたいで、収録ブース内で歌って喋って叫んで、って普通ならやらないみたい。そこで元から演技力も歌唱力も評価されていたから、他のアニメでも是非、っていう声が飛んできたみたい。

 まぁ、一部にはわたしが日本政府の方から放り込まれてきたってバレてるから、パイプを作っておきたいって人も居るんだろうけど……だけど、それでも声優のお仕事は楽しいから是非とも、とわたしは思っているし、それを風鳴司令にも伝えてある。

 ちなみに、エゴサーチしてみた結果、新人なんてあり得ない、とかこの歌唱力で新人は嘘でしょとか。初仕事がうたずきんの主役ってすごいとか。色々と書いてありました。悪口もあることにはあったけど……マリアみたいにBB素材になってないだけマシだと思っています。音割れマリアBBをわたしは許さない。あれで腹筋が死んだ。

 で、そんなわたしの今日のお仕事は。

 

「では、うたずきんラジオ生放送、始めていきましょう!」

 

 うたずきんのラジオ生放送、へのサプライズゲストとしてのお仕事。今わたしはスタッフさん達のところで隠れていて、頃合いを見て飛び出してみんなをビックリさせるつもり。ちなみに、顔を隠すためにライブのときに着けていた仮面を着けて、髪形もその時の物にして、知り合いが見てもわたしとは一目で気づけないようにしている。

 で、確か台本だと……あったあった。後半の、インフォメーションのところで他の声優さんたちの台本が真っ白になっているっていうミスが発覚して、多分声優さん達は持ち前のノリでそれを流そうとするから、わたしが後ろからそっと近づいて台本を渡しながら自己紹介、だね。よし、大丈夫。覚えてるよ。

 まぁ、少しポカしてもフォローしてくれるだろうし、気楽にね。

 さて、それまでは普通にスタッフとして見つからない程度に動き回りつつ……あ、うたずきんの衣装を考えてみようコーナー? あ、特別コーナーだね。で、みんなどんなのを……ぶふっ。

 お、思わず吹き出しちゃった……なにあの絵。コメントだと画伯って……が、画伯……!!

 よし、これから翼さんを心の中で画伯と呼ぶことにしよう。声優さんの絵、翼さんの絵並みにひどいもん。

 さて、そろそろインフォメーションだね。

 

「あ、あれ? え、えっと……スタッフさーん!? 台本まっさらですよ!!? ちょっとぉ!?」

「カンペ出た……え? ノリでどうにかしろって、無茶ぶりじゃないですかぁ!!」

 

 あ、狼狽えてる……けど楽しんでるよね、あれ。真っ白な台本振り回して楽しんでるよねあれ。

 じゃ、わたし出動っと。椅子を片手に全員分の台本持ってっと。

 

「あ、台本来た。えっと、どれどれ……って!?」

「どもども。はい、これ。台本です」

「いや、ちょ、え、スタッフ!? これ聞いてないんですけど!?」

 

 ふふふ……驚いていらっしゃる驚いていらっしゃる。

 ちなみに、ここから見える画面に見えるコメントには、誰? とか女性スタッフ? とかあるけど、一部の人はなんか驚いてる。ファ!? とか出てる。

 あ、そっか。ライブで出た後、写真とかも撮ってなかったからわたしの仮面姿が分かってない人もいるんだっけ。で、ライブに来た人だけは分かってると。

 じゃ、指定された位置に座ってっと。

 

「えーっと、じゃあ皆さん誰か分かる人も分からない人もいると思いますので自己紹介を。わたし、怪傑うたずきんでうたずきん役をやらせてもらってます月詠了子です。え? キャストにいなかった? サプライズだよ!! ほらもっと驚いて!!」

 

 ちょっとテンション高めに自己紹介。

 画面は驚きの声で埋め尽くされていてわたし達の姿が見えないっていう惨事になっている。ちなみに、サプライズだよ!! のところはうたずきんの声で言ったから、代役とかじゃないっていうのは一発で分かったみたい。

 ちなみに、話している時も地声じゃなくてうたずきんの声に寄せているからわたしの地声を知っている人でもわたしとは分からないと思う。

 

「ちょ、了子ちゃん!? なんでいるの!? サプライズ!?」

「ふふふ、どうして今日の生放送が八時から九時までになったかお分かりですか? それは、未成年であるわたしが出演できる時間が十時までだからです! みんなのために情報持ってきたよ~。いえ~い」

 

 あ、なんか時々美少女っぽいとか仮面してるけど可愛いとか流れてきてる。ふふふ、美人捜査官メガネを自称しているんだから可愛いに決まってるよ。

 そういえばクリス先輩もこの生放送見てるって言ってたっけ。ちょっと携帯触って……うわぁ。ものっそい震えてる。

 

「ちなみに、わたしの正体を知ってる人にもこのサプライズは秘密だったので、今携帯が凄い勢いで震えております」

「友達にも秘密で来たんだ!?」

 

 だって、誰かに言ったらそれが広まるかもしれないからね。クリス先輩や弓美さんがバラすとは思えないけど、一応ね。

 さて、そろそろ時間も押してきているみたいだしお仕事しないと。

 

「ほらほら、皆さん台本見てお仕事しないと。ほら、カンペでも時間押してるって書いてありますよ」

「そ、それもそうだね。じゃあ、引き続き了子ちゃんを加えてお送りしていきます!!」

 

 で、その後はインフォメーションを一緒にして、ちょっとしたコーナーに参加して終わったんだけど、すごく楽しい生放送だった。また出てみたいな。

 

 

****

 

 

 と、いうのが昨日の話。

 あの後、出演者の皆さんに来てたんなら教えてよ~とか言われて写真撮ったりしました。ちなみに、共演者の皆さんはわたしの素顔知ってるから、写真撮るとき以外は基本的に仮面は外してたよ。スタッフさんにもちゃんと素顔で挨拶したし。ちなみに何でかうたずきんの脚本家の人に打ち上げで行った焼き肉の伝票が送られた。本当に謎だけど恒例らしい。

 で、今日クリス先輩と会ったんだけど……

 

「お、おい! 昨日は流石に驚いたぞ!?」

「あはは、驚いてくれたなら何よりです」

「いや、あのなぁ……いきなりカメラがお前写した時は飲み物吹き出しかけたぞ……」

 

 どうやらわたしのサプライズ登場はかなりの衝撃をクリス先輩に与えたらしい。多分、ライブに来てくれていた人はわたしの登場を見てクリス先輩と同じような反応をしてくれたんだと思う。そう思うとまたサプライズしてもいいかなとか思ったり思わなかったり。

 ……っていうか、よく考えてみると、わたしってどうして顔出しNGで声優してるんだっけ……?

 あ、そうだった。身内にバレないためだ。

 ……あれ? もう必要ない気が……あっ、そうだ。シンフォギア装者として活動してる時に何か不都合なことがないようにするためって事にしておこう。危ない危ない。

 ……っていうか、最初と比べると大分声優に本腰入れてるよね、わたし。このまま声優として生きていくのもいいかもしれない。

 

「で、アプリの方でお前のサプライズ出演に対する記念クエストとかやってるけど……」

「あぁ、わたしはもうとっくにやりましたよ。ちなみに、うたずきんのSSRは全部持ってます」

「は!? マジで!?」

「自分の演じたキャラには相応の愛着ってのが湧くんですよ。ほら、証拠です」

「うわ、マジか……ってこれ、アタシが課金しても出なかった期間限定ハロウィンうたずきん……!!」

 

 わたしは課金なんて一切してないし運営から何かやってもらってるって訳でもなく自力で全部引いてるよ。ちゃんと石を貯めてここぞという時に全部使って意地で出してるからね。多分、クリス先輩って全員好きでどんな時でも全力だす人だからゲットできない時があるんだろうけど。

 ちなみに、わたしも石以外のチケットとかはその場で使ってたり。だからうたずきん以外のSSRもちょくちょくいたりいなかったり。

 

「って、石までちゃんと貯めてんのかよ……いいなぁ……」

「あ、明後日からうたずきん全種類ピックアップガチャ始まりますから注意した方がいいですよ」

「は!? それどこ情報だよ!?」

「声優情報です」

「ぐ、ぬぬ……! うたデレラ貯金を崩すしか……!!」

 

 ちなみにこれ、あと一時間後に公開される情報だから……まぁ、これくらいの漏洩ならいいよね? クリス先輩もそれは分かってるだろうし誰にも言わないだろうけど。

 え? わたしはそのガチャを引かないのかって? 全種類持ってるだけでわたしは十分。限界突破を全部するとかは流石に……ね? だから、今回のガチャはスルー。

 

「あー……ってか、お前、声優の人たちとかと会ってるんだろ? なんか羨ましいわ」

「まぁ、お仕事ですから。ちなみに、来週に再来週放送のラジオの収録があって、明々後日にアニメの方の、今月放送分の収録があります」

「あ、じゃあ台本とかあんのか?」

「えぇ。持ってきてますけど、見ます?」

「いいのか!?」

「まぁ、ツイッターとかで写真載せてますし、一応先月の台本も持ってきてますので」

 

 と言ってわたしは先月の台本をカバンの中から出してクリス先輩に渡す。流石に明々後日使う用の台本は見せちゃだめだから、先月分のだけ、ね。

 ちなみに、わたしの部屋にはもう何冊も台本が本棚にしまってある。たまに前の台本を読み返して練習用にしたりとかもしているから、先月分と今月分の台本程度は持ってきているんだよね。やっぱりわたしはプロではあるけど、素人でもあるから練習は大事。特に、やらかしたところとか、何度もまた練習して同じようなミスをしないようにすることも大事。

 ちなみに今いる場所はSONGの食堂だから誰かに見られても特に問題なし。クリス先輩と会ったのは本当に偶然。二人して飲み物買いに来ただけだし。

 さて、わたしは今月分の台本を読んでっと…………うん、ここはこうして、これはこうして……よし、こんな感じで。

 

「うわ、すっげぇ……色々書きこんである……」

「そうしないと分からないところとかありますから。ここはこうして、ここは溜めて、みたいな」

「へぇ……」

 

 ちなみにうたずきんの台本にはここで歌、とか書いてあったりするから、それに合わせて練習もできるよ。部屋でやるとバレるから訓練室を借りてやってるけどね。あそこだと役になりきって演じれるから中々いい練習スペースだと思う。

 あ、ここ……ちょっと誰かと練習したいかも。ここの掛け合いとか、合わせとか……あ、そうだ。

 

「クリス先輩、ちょっと待っててください」

「ん? まぁいいけど」

 

 わたしはクリス先輩にここで待ってもらうように言ってから風鳴司令の所へ行って、とある許可を貰ってから戻ってきた。

 

「お待たせしました」

「なんかあったか?」

「いえ、ちょっとクリス先輩に練習に付き合ってもらおうと思いまして。というわけで、訓練室に行きましょうか」

「え?」

 

 そう、取ってきた許可はクリス先輩に練習に付き合ってもらいたいから台本を読ませてもいいか、という許可。ちなみに、その程度なら全然かまわんと即答を貰ったから安心してクリス先輩を引っ張って訓練室へ。ここなら誰にも迷惑が掛からない。

 というわけで。

 

「これ台本です。ここからここの、うたデレラの台詞を読んでもらいたいんです」

「え? ほ、ホントにいいのか?」

「えぇ。むしろお願いします」

「いや、そんなの願ったりかなったりだが……うわ、こんな展開になんのか……」

 

 ちょっとネタバレにもなるからもしかしたら断られるかも、と思ったけど案外クリス先輩もノリノリみたい。クリス先輩は真剣に台本を読み込んでいる。

 え? わたし? わたしはもう覚えたから大丈夫だよ。あのアフレコ、そういう大事な場面って歌いながらだから基本的に台本見てられないんだよね。この間なんて台本とヘッドホン思いっきりぶん投げて叫びながら収録してたし。いつか聞いたことを本当にやることになるとは思わなかったよ。ちなみに、その回はかなりの高評価でした。ぶい。

 ちなみに、普段の練習は風鳴司令とやってるから、なんやかんやで違和感は尽きません。でもクリス先輩なら違和感もないと思う、と思ってクリス先輩を誘ってみた。

 で、どうですかクリス先輩。できそうですか?

 

「あ、アタシがうたデレラちゃん……よし、やれる!!」

 

 なんかクリス先輩はかなりの笑顔でノリノリなようで。ファンだから、そういうのに関われるのが嬉しいのかな?

 じゃあ、とりあえず……練習スタート。

 

「んんっ……『どうしてわたしの邪魔をするの!? ここで戦ってたら手遅れになっちゃうかもしれないんだよ!?』」

「え、えっと……『それでも! 私は大天使長になりたい……! このままあなたを行かせたら、大天使長の座はあなたの物になる! だから、行かせられない!!』」

「『大天使長の座なんかよりももっと大事なものがあるはずでしょ!?』」

「『大天使長に一番近いあなたが……それを言っていいものか!!』」

「『だからって、わたし達が敵対しちゃ……』」

「『それが、私が大天使長に近づくための手段だから! あなたは、ここで倒れてもらう!!』 ……こ、こんなかんじか?」

「パーフェクトです。っていうか、すごく上手かったですよ」

 

 ふぅ、やっぱり思いっきり演技すると疲れるなぁ。

 っていうか、クリス先輩、かなりアフレコ上手かった。やっぱり好きな作品のキャラになりきると気持ちがこもるのかな? これなら、いつもクリス先輩に練習相手になってもらった方がいいような……

 

「っていうか、生でお前の演技聞いたけど、やっぱ凄いな……本物のうたずきんと喋ってるみたいだった」

「そりゃ、本物の中の人ですから」

 

 なんというか、元がわたし達だからかこうやって装者同士でやるとしっくり来るというか……なんか似たような展開が前にもあったような気になるというか。だからかなぁ。クリス先輩と練習すると違和感なくなるのって。

 それにクリス先輩のアフレコもかなり上手いし。これならクリス先輩も声優デビューしたら容姿も相まってかなり人気声優になれるんじゃ……?

 まぁ、それはともかくとして。このままクリス先輩には練習に付き合ってもらおう。

 

「じゃあ、次はわたしが歌いながら台詞を言うので、それに合わせてくれますか?」

「えっと……この部分か。よし、やってみるか……!!」

 

 で、続いては歌いながらの練習。これに関してはわたし、かなり体も動く感じだからクリス先輩もちょっと驚いていたけど、すぐに合わせてくれた。で、そのまま次へ次へとやっているといつの間にか一話分の練習が終わっていた。

 うわぁ、なんか本番やってる気分だったからすぐに時間が過ぎちゃったよ……それに息も切れたし……

 

「……いやぁ、今日は生演技も聞けたし生歌も聞けたしいい日だわ」

「わたしこそいい日でした。これなら明々後日の収録もなんとかなりそうです」

「おう! 練習ならいつでも相手してやるからな! 待ってるからな!!」

 

 あ、予想以上に楽しかったやつだこれ。クリス先輩の笑顔が今までで数回しか見たことないような満面の笑みだもん。珍しく満面の笑みだもん。

 まぁ、でもわたし自身、練習相手は欲しかったからクリス先輩にはこれからも練習に付き合ってもらおうと思う。

 ちなみに、収録に関してはいつも以上に良かったと言われてとても嬉しかった。ただ、ちょっと感情移入しすぎというか思いっきりやりすぎたせいでその回が放送された日は今まで以上に熱いけど熱すぎて一瞬引いたとか怖いまであったとか書いてあって少しショックだった。まぁ、迫真の演技だったからね、うん。仕方ないよね。




というわけで声優になった調ちゃんの一日でした。生放送見たから書きたくなったとも。

早くXDのアルバムの発売日にならないかな……ハートをこーしょんこーしょんしたいんじゃぁ……

次回は未定ゾ。そしてそろそろテストの時期なので落単だけはしないように気を付けないと……でも勉強からこっちに逃げてきそうで……

テストを乗り越えないとXDのアルバムが手に入らないという地獄。俺は、ただ、ハートをこーしょんこーしょんしたかっただけなのに……


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月読調の華麗なるアイドル活動

水着調ちゃん(そもそもガチャに)来ませぬ。

それはともかく、水着調ちゃんクッソ可愛いんですけど。白スク? 水着セーラー? なんかどっちにも見えてすごくいい。流石シンフォギアの色気担当は違った。

今回はネタに詰まったのでアイドル時空の話。いくつか適当にネタを突っ込んだ毒にも薬にもならない内容でございます。

いやー、こういう時空があると咄嗟の思い付きで書けるから助かる……なお思い付きが出てくるのに時間がかかる模様。


 アイドルというのはキラキラしているだけじゃない。

 キツい、厳しい、綺麗の3Kとも言える。だからこそやりがいがあるというか、それを認められた時が嬉しいというか。ファンの人からファンレター貰った時も凄く嬉しいし。

 まぁ、そういう事を学んだのがこの間のドッキリ。いや、ホントね……まさかアイドルになったと思ったら無人島に島流しされるとは思わなかったよ。レギュラー貰ってた番組も一旦お休みしたレベルだったし……いや、もうね。ホント。辛かった。

 でも、そのおかげでそこそこファンが増えたのかファンレターの数は増えた気がする。あと、学校でもわたしに話しかけてくる人が増えた。特に、あの無人島生活って本当にやったの? 本当は見えない場所で休憩してたんじゃない? と聞いてくる人は多かった。うん、まぁ、そう思うよね。是非ともそう思って。わたしをバラドルと思わないでという意味を込めて笑顔でそうだよ! と言ったらあ、うん。とドン引きして言葉を返された。どうやらわたしの意図に気が付いたようで、アレはガチで無人島からここまで戻ってきたんだと悟られたらしい。なんで。

 そんなこともありまして。つい昨日、あの無人島から徒歩でここまで戻ってくるのは疲れただろうと温泉にも行ってきて。ようやくお仕事再開。翼さんは一足先に海外に飛ばされました。可哀想に。

 

「はい、じゃあ目線こっち向けて」

 

 今日は今度の週刊誌に使う写真の撮影。グラビアとかは、ちょっとまだ恥ずかしいからやってないけど、普通に自分で選んだ服だったり選んでもらった服だったりを着て撮影。室内だから空調も効いてるし、こうやって写真撮られるのは嫌いじゃないし。けど、ずっと同じポーズをしている時もあるからちょっと疲れるときはある。

 でも、だからと言ってお仕事を適当になんてできない。常に最高と言えるような物を目指しながらやる。マリアみたいにどんな時も振り返らない。全力疾走でお仕事をやる。それがわたし流。

 それに、今日は絶対に手を抜けない理由もあるし。

 

「おぉ……調、本当にアイドルみたいデス……!」

 

 今日は、切ちゃんがスタジオに居るから。

 どうして切ちゃんが居るのかと言うと、実は今日この後、切ちゃんとお出かけに行く予定だった。けど、ちょっとお仕事が伸びちゃって、このスタジオのある建物前に集合する予定だったのにメールもできなかったから切ちゃんは一人で数分間待ってたらしい。

 で、それを知った緒川さんが機転を効かせて、どうせならわたしの仕事が終わるまで見学でもしてみたらどうかと誘ったらしい。で、切ちゃんはそれを了承。わたしを驚かせて今に至る。緒川さんも結構な笑顔を浮かべていた。

 

「はい、じゃあ一旦休憩。十分後に再開ね」

「分かりました」

 

 で、休憩。

 ふう。ちょっと照明に当てられて暑く感じてたから疲れちゃった。わたしの休憩スペースに座っている切ちゃんの所へ向かって、置いてある水を飲みながら余っている椅子に座る。

 汗は……あんまりかいてないから大丈夫かな?

 

「切ちゃん、今日はごめんね? ちょっとお仕事が伸びちゃって……」

「別に大丈夫デス! これも楽しいデスから!」

 

 み、見ているのが楽しいのかな……写真撮影の現場なんてあんまり面白みは無いと思うんだけど……まぁ、楽しんでくれているならいいかな。

 

「次の撮影で今日はおしまいなので、あと少しです。カメラマンもかなりいい写真が撮れてご満悦ですし、あと少し頑張りましょう」

「はい、勿論です」

「な、なんかアイドルっぽい会話デス……!」

「い、いや、それはないと思うけど……」

 

 こういう会話くらい仕事の現場に行けばよくあると思うんだけど……まぁ、切ちゃんが楽しいならそれでいいかな。さて。休憩時間の内に次の衣装に着替えないと。メイクも直さなきゃだし。

 確か次は夏っぽい衣装で撮影だっけ。照明って結構熱いから長袖の方がまだいいんだけど……文句なんて言ってられないよね。頑張らなきゃ。

 

「じゃあ切ちゃん。ちょっと着替えてくるね」

「そのままじゃないんデスか?」

「色んな写真を撮るからね」

 

 宣材写真とかならいい一枚を撮るだけで終わるから衣装替えとかはしないけど、こういう撮影だと色々と撮って没か採用か決めるから色々と撮るんだよね。だから、結構着替えの頻度は多め。ステージ衣装とか着て撮影するときもあるし。

 わたしの場合は、翼さんのネームバリューを借りてそこそこ知名度が出てきたから、芸歴が一年未満にしては結構多めの写真撮ってもらえてるんだよね。衣装も結構多いし。

 スタッフさんに着付けを手伝ってもらっておかしいところがないかを確認してもらってから、メイクさんにメイクをしてもらう。わたしは若いのもあって、薄いお化粧だから早めに終わる。

 

「あそこの子はお友達?」

「はい。小学生くらいからの友達なんです」

「仲がいいのね」

「大親友です」

 

 そんな感じの他愛のない会話もしながらメイクもササっと終わってわたしは切ちゃんの所に戻ってくる。

 ん? あれ? 緒川さんがいない……あ、いた。カメラマンさんを混ぜたスタッフさん達と何か話してる……緒川さんの表情的に、特に何か不利益な会話じゃないみたいだから任せておいて大丈夫かな。

 よいしょっと。お待たせ切ちゃん。

 

「調って、髪形と服が変わると一気に雰囲気が変わるんデスね……」

「ふふん。変えているんだよ、切ちゃん」

「流石プロデスなぁ……」

 

 まぁ、変えているのはわたしじゃなくてメイクさん達の力なんだけどね。ホント、薄いお化粧でもガラッと印象が変わったりするんだからメイクさんの力ってすごい。

 衣装の方も、普通にありそうな服なのにちょっとしたアクセントを変えたり小物を着けたりするだけで一気に印象を変えれるし。ホント、服とお化粧が変える物って馬鹿にできないよ。一応わたしも自分でできるように色々教わったから今度切ちゃんにも教えてあげよう。切ちゃんも素材は凄くいいからそこら辺のアイドルなんかに負けないくらいにはなると思う。

 とかなんとか話していると、緒川さんが戻ってきた。あれ? なんか凄いいい笑顔浮かべてる。

 

「切歌さん」

「デス?」

 

 あれ? 用事はわたしじゃなくて切ちゃんに? 何かあったのかな。

 

「調さんの撮影のエキストラとして参加してみませんか?」

「え!? あたしがデスか!!?」

 

 わお。そっちだった。

 まぁ、なんかスタッフさんの視線が時々切ちゃんの方を向いていたりしていたから何となくそんな気もしていたけど。本当にそうなるとは。

 こういうことってあまり無いから想像はちょっとできていなかったけど……なるほど。その撮影もちょっと楽しそうかも。

 

「え、で、でもあたしなんて……」

「あまり自信がないなら、顔は写さないそうですので」

「貴重な経験だよ、切ちゃん。こんな機会、もう無いかもしれないよ?」

 

 切ちゃんがアイドルになれば別なんだろうけど、そうじゃないなら撮影のエキストラ……というかアイドルの横に立つ仕事なんてできないだろうし。

 切ちゃんは顔を赤くしながらも迷っている様子。まぁ、確かに迷うよね。こういうのって、確かにこれから先無いとは思うけど多少は恥ずかしいだろうし。何せちゃんとした雑誌に載るんだからちょっとは覚悟も必要だろうし。なんてわたしが思っていると、切ちゃんはどうするか決めたようだった。

 

「じゃ、じゃあ折角デスし、お受けするデス……」

 

 切ちゃんはどうやらわたしの隣で写真に写ってくれるらしい。緒川さんはすぐに衣装の用意をするとかでどこかへ走り去っていき、切ちゃんはどんな感じで撮影するからどんなことをしてくれとか色々と言われている。

 ……

 …………

 ………………

 暇だなぁ。

 なんか誰も居なくなっちゃった……暇だなぁ……

 お水美味しい。

 

「月読さん、スタンバイお願いします!」

「あ、はーい」

 

 あ、ようやく出番。っていうかいつの間にか切ちゃんも着替え終わってスタジオでスタンバイしてる……けど結構緊張しているのかな? 表情が硬いや。

 

「大丈夫だよ、切ちゃん。リラックスしてれば」

「そ、そうは言われても緊張するデスよ……」

「あはは……まぁ、わたしも最初はそうだったし。でも、案外やってる内に楽しくなるものだよ?」

「そ、そうデスかね……」

 

 うーん……ちょっとそれでも表情が硬いかも。

 確かにわたしの場合は風鳴司令や緒川さんに色々と教えてもらって、ステージの上でも緊張しない方法とかこういう時に自然に笑える方法を教えてもらったりしたけど、切ちゃんはそういうの無かったし……

 あ、そうだ。硬いままならこっちから柔らかくしたらいいんだ。幸いにもまだ指示は来てないし、そのちょっとの間で。

 

「えいっ!」

「わひゃっ!? し、調!?」

「このまま擽って笑わせてあげるから大丈夫だよ~?」

「ひゃぁ!? あ、あはははは!! し、しら、やめっ、あははは!!」

 

 ふふん。切ちゃんの擽りが弱いところをわたしが知らないわけがないよ?

 さて。これで少しは緊張がほぐれたかな?

 

「ふぅ、ふぅ……こうなったらお返しデス!」

「えっ!? ちょ、あははははは!!?」

 

 ちょ、だめ、そこ弱いから! そこ擽られると我慢できないから!

 ごめんごめんギブギブ! お願いだからやめて切ちゃん!?

 

「これでお相子デス!」

「はふ……ひどいめにあったよ」

 

 うー……せめて仕返しをしてくることくらい予想しておけばよかった……あれ? なんか、カメラこっち向いてない? しかも思いっきりカメラマンさん、カメラを覗き込んでない?

 え? もしかして撮ってました?

 恐る恐る聞いてみると、カメラマンさんは無言でサムズアップしてきた。えっと、つまり。さっきまでのアレ、撮られてたって事だよね?

 

「いやー、自然な笑顔でとってもよかったよ」

 

 カメラマンさんのその言葉を聞いてわたし達は同時に顔を赤くした。

 うん、その……やっぱ、プロの人ってこういうチャンスを逃さないの凄いなぁって思ったからお願いですからこれを雑誌には使わないでくださいね……!?

 ってちゃんと言ったんだけど、後日届いた雑誌のサンプルには見事にあの写真が使われていた。

 久々に切ちゃんと二人で顔を真っ赤にして顔を手で覆ったよ。使わないでって言ったのに……!

 

 

****

 

 

 そして時はちょっとだけ経って。わたしはとあるドラマの撮影の仕事でちょっとした地方まで撮影に来ていた。

 仕事としては一話限りの犯人の女の子って扱いで、つい逆上してしまって自身の母の再婚相手である男性を刺し殺してしまい、様々な悪知恵を働かせながらなんとか逃げてきたけど、主人公の刑事さんの推理と勘にそれが見破られて……って感じ。

 なんというか……再婚相手の親とかそういうのすらないわたしにとってはちょっと理解しがたい感じだったけど、台本を読んで感情移入してみたらなんとかなった。それに、その再婚相手の男性って設定だとかなり酷い人だったから、完全には理解できなかったけど少しは理解できたのも幸いした。

 何度かNGもくらったけど、それでもアイドルとしてはそこそこいい感じに演技できていたと思う。

 で、今はクライマックスのシーンの直前。撮影は一旦休憩に入ってわたしは水を片手に呆けていた。

 インスタとツイッターに呟ける事は呟いたし、お色直しも終わったし。もう暫くはこのままだけど、これが終わったら、今日の送迎担当になった友里さんと近くの温泉に行く予定だし。完璧にやって終わらせちゃおう!

 

「ふむ。気合が入っているな、月読」

「へ?」

 

 とか思ってたら後ろから声をかけられた。

 この声、翼さん?

 

「あれ? どうしてここに?」

「ちょっと収録でこの近くに来ていてな。月読が近くに居ると聞いて様子を見に来たのだ」

 

 あ、そういえば緒川さんがこの近くに翼さんがロケに行くとか言っていたような。わたしは昨日からホテルに泊まってたし、翼さんも近いとは言っているけど普通に車で一時間かかるくらいの場所で収録って言っていたから会う事はないって思って忘れてた。

 多分、収録終わりの帰りの時間で寄ってきたんだと思う。だって翼さんの服装が私服じゃなくて仕事着……というかちょっとお洒落な感じだし。

 

「あぁ、そういえばこの間の雑誌の写真、見たぞ。中々いい写真だったじゃないか」

「え、あ、見たんですか……」

 

 あ、あれはちょっと……うん。ホントに油断してだけだから……あのあと真面目な写真も幾つか撮ったりしたけど、どうしてかアレが採用されただけだから。撮られようと思って撮られたわけじゃないから……!! 半分事故みたいな感じだから……!!

 

「芸能人をやっていればそういう時もあるものだ。私だって奏にくすぐられている所を撮られたりしたからな」

「え? そうなんですか?」

 

 いつもの翼さんのイメージからはそういうのはあまり思い浮かばないというか。

 なんやかんやでクール系で仕事もそつなくこなしている翼さんだから、そういうのは滅多に……というかまず無いと思ってたんだけど。

 今度緒川さんに言って見せてもらおうかな。

 

「案外、そういう事もある。だからあまり恥ずかしがるな。今からそれでは身が持たんぞ……!!」

 

 あ、これは経験談っぽい。きっと奏さんに色々揶揄われたんだろうなぁ。

 ちなみに奏さんはあっちの世界だとバラエティにもよく出るアイドルみたいな感じになってて、本格的にわたしの先輩みたいになってる。だから色々アドバイスを貰ってるんだけど、その中の一つにどんな状況も楽しんでプラスに考えるっていうのもあったっけ。

 ……うん。じゃああの写真も、それが原因で何か今までとは違うお仕事が入ってくると思えばいいかな。うん、そう思えば何とか……なんとか……

 っていうか翼さん。ずっと自分は歌姫だって言ってるのになんやかんやでバラドルみたいな事になってますよね。あの無人島以来正統派じゃなくてバラドルみたいな感じで扱われているわたしが言うのもなんですけど。

 

「それは緒川さんのせいだ! 大体、どうして私を思いつきでクイズ番組なんかに……」

 

 あぁ、ありましたねそんなの。なんか常在戦場とか防人とか剣とか書きまくってお茶の間と司会者と出演陣を爆笑の渦に包んだっていうアレ。当時はF.I.S所属だったわたしも翼さんの情報収集のためにそれを見て笑いかけた思い出があるよ。切ちゃんは大爆笑だったよ。

 あとは……マリアとその後コンビで出た時も思いっきりやらかしてたし。マリアに何度頭を叩かれていたっけ……流石名誉バラドルとか言われてたし。

 

「バラドルではないと何度……! まぁいい。で、月読。後は……あー……えっと……あぁ、そうだ。再来月のライブの事なんだが」

「え? あ、はい。ライブですか?」

 

 再来月のライブというのは、風月ノ疾双の1stライブの事で、わたしのCDと風月ノ疾双名義のCDが幾つか出たから、それを使ったライブをしようって事で決まったライブの事。一応マリアがサプライズゲストとしてわたし達と一緒に歌う事が決まっているし、わたしも翼さんの楽曲を歌ったり、ツヴァイウイングの歌を歌ったりする予定。

 ちなみにそこでわたしのニューシングルのSENCE OF DISTANCEが先行発売。ついでに翼さんもわたしの歌を歌ってくれたりする予定。

 

「えっと、そのライブでだな……あー……なんだっけか」

 

 けどそのライブについてはもう打ち合わせも念入りにしていて、翼さんとの合同練習もとっくにやっている。だからここで話すようなことってあまり無いハズなんだけど……だけど。

 なんか翼さん、挙動不審じゃない? 話題が尽きたのか分からないけど急に露骨に時間を稼ごうとしてきているような……

 

「えー……あー……どうするか……」

「あ、翼さん! やっと見つけましたよ!」

「げぇっ、緒川さん!!?」

 

 あ、緒川さんが走ってきた。

 っていうか、翼さん。緒川さんに対してその反応はないでしょう。

 

「翼さん、駄目じゃないですか! 勝手に収録を抜け出してきちゃ!」

「いや、それはそうだが……しかし!」

「先方にも迷惑がかかっているんです。早く行きますよ!」

「い、嫌だ! スペパププの踊り食いなど無理に決まっているじゃないですか!!」

「大丈夫です、僕も事前に一回やったんですから! ほら、行きますよ!!」

「た、助けてくれ月読! 三百円あげるから!!」

 

 えー……あー……その。

 なんか怒涛の展開になってきたし翼さんが緒川さんに引きずられて行きそうだけど……うん。とりあえずは。

 

「お、お仕事頑張ってくださいね?」

「月読の鬼! 悪魔!」

「はいはい、じゃあ行きますよ。調さんも、収録頑張ってくださいね」

「あはは……」

 

 そうして翼さんは引きずって行かれた。

 ……うん。わたしは撮影に集中しよう。

 

 

****

 

 

 ふう。撮影終わり。じゃあ友里さん。温泉に行きま……

 

「あ、お疲れ様です調さん」

 

 あ、あれ? 緒川さん……? あの、一体どうして……

 

「いえ、調さんが近くに居るんなら連れてきてロケに巻き込んでしまえとスタッフさんに提案されまして。翼さんがスペパププの踊り食いを拒否して海に潜っていってしまったので代理にと」

 

 あ、わたしこれから腹痛になる予定があるので。

 

「さ、行きますよ。大丈夫です。温泉に入る時間はちゃんと確保しますので」

 

 ちょ、やめっ、ヤメロー!!?

 スペパププってアレですよね!? あの真っ黒なアレですよね!? 無理ですって嫌ですって勘弁してください! あんなの何で食べなきゃいけないんですかそもそもこれ翼さんの仕事でしょう!?

 友里さん助け……手を振って見送らないで一緒に連行しようとしないで捕獲した宇宙人を持つみたいに運ばないでいやー!!?




テロップ『偶然近くで収録をしていたため生贄となった月読調さん』
調『ちょ、これ踊り食いって正気ですか!? 無理ですって! こういうのは翼さんの仕事でしょ!? っていうかこれ本当に翼さんの仕事じゃないですか!! あ、ちょ、なにこれいきなり動き始めきゃー!!?』
切歌「……もう調もバラドルデスなぁ」
マリア「スペパププって自ら捕食されに行くのね……調が涙目で食べてる……」
調『よりにもよって美味しいのがムカつく……!!』
切マ『美味しいんだ……』 


という事でアイドルとして活動している調ちゃんの一幕でした。

いやー、調ちゃんの水着、かなりいいですね……いいですけど……実装されないのどういう事なの……未だにバトルキャラもありませんし(7/9日時点)

あー……早くXDのアルバム発売してくれぇ……ハートをこーしょんこーしょんしたいんじゃぁ……

あ、次回は未定ですゾ。ただ、もしかしたら次回は「月読調の華麗なるゲーム実況」となるかもしれません。


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月読調の華麗なるゲーム実況

結構難産でした……

最初は調ちゃんが実はゲーム実況にハマってるって設定だったり実はクソゲーRTA走者って設定だったりと色々と考えたんですけど、この形に落ち着きました。ドラゴナイトハンター要素薄すぎるのは勘弁して。

P.S 次期ライダー、目力強くね?(小並感)


 ようやく買えた。ゲンムコーポレーションの最新ゲーム、ドラゴナイトハンターZ。

 マイティアクションXもタドルクエストもバンバンシューティングも。どれもどれも人気過ぎて売り切れ続出らしいから気になってたんだよね。切ちゃんも、クリス先輩も気になってたらしいし。

 それで、ついつい並んでまで買っちゃいました。ドラゴナイトハンターZ。これ、四人での協力プレイが前提の難易度らしいから切ちゃんとクリス先輩。それと響さん達とやるには丁度いいかなって思って。わたしはあまりゲームやらないからこういうパーティーゲーム……パーティーゲームなのかな? まぁパーティーゲームがあった方が遊びの幅も広がるからね。

 ちなみに、ゲンムコーポレーションのゲームをやるためのゲーム機は切ちゃんがもう持ってる。一応、爆走バイクを買っていたらしいけど、わたしはレースゲームはあまり興味ないから手を付けなかったけど、切ちゃんは凄く面白そうにゲームをしていた。それも、このドラゴナイトハンターZを買った理由かな。ちなみに、買ってすぐにネットの通販を見てみたら、もう売り切れ状態になっていた。やっぱり並んでよかった。

 そんなわけでわたしは朝から起きて買ってきたゲームを片手に部屋へ戻ってきた。できることなら、切ちゃんが喜ぶ顔が見たいかな。

 

「切ちゃん、ただいま」

 

 ……あれ?

 返事が返ってこない。なんでだろう。もしかして部屋で音楽でも聴いているのかな?

 とりあえず、切ちゃんの部屋の前でノック。返事は返ってこない。やっぱり音楽を聴いてるのかな。だとしたら邪魔しない方がいいかもしれない……

 うーん、どうしよう……

 

『ここでこれを撃ったら……あっ!? 外したデス!?』

 

 ん?

 

『あー……攻略動画でも見てからやりたいデスなぁ……まさかここまで難しいなんて思わなかったデス……でも、コメントと説明書以外は完全初見プレイって言ってるデスし……』

 

 ……独り言?

 確かに切ちゃんって結構独り言が多い感じだけど、こんな露骨なまでに喋らないし……誰かと通話しているのかな? いや、こんな朝っぱらからは流石にしないハズ……

 じゃあどうしてだろう。

 とりあえずもう一度ノックをしてから入室する。

 切ちゃんは……なんだろう、パソコン用のモニターでゲームやってる? あ、いや、違う。モニターにゲームを直接繋げている……いや、じゃなくてパソコンでゲームしてるんだ。キーボードとマウス使ってるし。

 で、前にあるのは……マイク? どうしてマイクなんか。

 

「あ、もうちょっと! もうちょっと……あー! また死んだデスぅ!!」

 

 えっと、やってるのは……なにこれ?

 あ、タイトルが出てきた。えっと……十三日の金曜日? 映画と同じなら結構怖そうかも。なんか、わたしの知ってるゲームよりもかなりダークな感じ。

 ちなみに肝心の切ちゃんはヘッドホンを着けながらゲームしているから、多分わたしの声は完全に聞こえていない。確かに、わたしってこの時間家事してることが多いし、そうじゃなくても自分の部屋で本読んでたりするからね。プライベートな時間だからあまり切ちゃんが何してるか知らなかった。

 ……ほんと、何してるんだろ。プレイ画面、ちょっと覗いてみよっと。

 

「くっ……今度こそは! って、ちょ、ジェイソン早いデス! 速攻じゃないデスか! こっち武器も何も無いんデス……あ、死んだ」

「ひっ!?」

 

 き、切ちゃんの操作していたキャラがとてもこの世の物とは思えない死に方で殺された!?

 う、うわぁ……ツルハシを耳に刺してそのまま首を半回転って……うわぁ……そんな死に方絶対にしたくないよ……

 

「運が悪すぎたデスなぁ……ちょっと失礼して、んんっ……あれ?」

「あっ」

 

 ぼーっとしてたら切ちゃんが急に背筋を伸ばして手も伸ばしたからぶつかっちゃった。それで切ちゃんはやっとわたしの存在に気付いたらしくて、急に振り向いた。

 

「わぁ!? ちょ、まっ、マイクマイク!!」

「え、どうしたの切ちゃ……」

「セーフ! ギリギリ名前は入らなかったデス!! セーフ!!」

 

 あ、あの……

 

「えっと、コメントで同居人が来たため一旦マイクを切っていますっと。これで良しデス」

 

 いや、あの、ほんと。

 何してるの?

 

「何って……ゲーム実況の生放送デスよ」

 

 げーむじっきょう? なまほうそう?

 えっと……それって何? よく分からないんだけど、そのごちゃごちゃした机の上が関係してるの?

 

「あ、結構声が入ってたみたいデスね……前の試合からノックの音も入ってたっぽいデス」

 

 え? 何見てそれを判断してるの?

 ……あ、なんだろうこれ。誰かのコメント? 確かにわたしの入った時間辺りで誰かがノックの音聞こえない? とか同居人が来てるんじゃない? とか書いてある。挙句の果てにはそのマイク安物だな? とか。

 安物、なのかな? 結構音を拾っちゃうから安物って事なのかな?

 まぁどうなのかは分からないけど。

 で、切ちゃん。これどういうこと?

 

「どういう事と言われても……実は最近、内緒でゲーム実況の生放送をしてたんデス。で、今日は休日なのでいつも通りに生放送をしてたんデスけど……」

 

 いつも通り?

 っていうことはこの時間帯っていっつも生放送してたんだ。

 

「まぁ、そんな感じデス。今日はいつもは夜ご飯食べてから、寝るまでの間にやってるんデスけど、調がいなかったので実況の溜め撮りから生放送に移行して、自由な時間はぶっ続け耐久! とかやるつもりだったんデスけど……」

 

 あー。そういえばわたし、何も言わずに外に出ちゃったからね。いつもそんなときって任務だったりお泊りだったり朝早くから急なお誘いで、基本的に連絡が後回しになっちゃったりするから、今日もそれだと思っちゃったのかな。わたし自身、何も言わずに出て行ったら長い事帰ってこないって合図代わりにしてる節あったし。

 でも今日は運悪く違ったと。

 

「バレても問題はないんデスけどね。近々話す予定でしたし」

「そうなの?」

「流石にずっと隠しておくのも無理だと思ったのデス」

 

 あー、まぁ、それもそうか。

 一緒の屋根の下に住んでるんだし、こうやっていつかわたしが何か用事があって切ちゃんの部屋に来るときとかあっただろうし。だから、言うつもりだったと。

 そう言うと、切ちゃんは頷いた。

 

「あ、どうせなら調も参加してみるデス?」

「え? わたしも?」

 

 頷いてすぐに切ちゃんはそんな事を言ってきた。

 えっと……参加って、つまり切ちゃんと一緒にマイクに向かってなんかこう……話すんだよね? 何話すのかは分からないけど。でも、流石にそれは恥ずかしい……だって、切ちゃんの生放送を見ている人たちに声を聞かれるんだよね? それって流石に……

 マリアや翼さんなら慣れているんだろうけど、一般人のわたしじゃ……それにわたし自身、人前に出るのって得意って程じゃないし……

 

「まぁ、物は試しデスよ。名前は適当に考えて名乗ればいいだけデス」

「そ、そんな事言われても……わっ!?」

 

 む、無理矢理切ちゃんに椅子に座らされた……切ちゃんも椅子もってきて隣に座ったし。

 

「あ、あたしの事はイガリマって呼んでほしいデス。そうやってネットだと名乗ってるデスから」

「イガリマ? それってシンフォギア……」

「じゃあ再開デス!」

 

 あ、ちょ。

 うわ、なんか一気にコメントが……え、えっと、何話せば……

 

「いやぁ、急にマイクを切って申し訳なかったデス。今回は同居人の子と実況していくデスよ」

「え、そんな事急に言われても……あ、えっと、その……」

 

 も、もうこれ声入っちゃってるんだよね?

 うわ、急に緊張してきた。えっと、何話せば……ま、まずは普通に自己紹介だよね? でも自己紹介で本名を名乗ったら駄目だろうし……でも急に別の名前言えって言われても……

 あ、そうだ! 切ちゃん! 切ちゃんはイガリマって名乗ってるんだから、わたしもシンフォギアから持ってこればいいんだ! イガリマシュルシャガナって言っても誰も分からないだろうし! 分かるとしても、それがザババの刃だって事しか分からないはず!

 

「え、えっと……き、じゃなくてイガリマちゃんに誘われました、シュルシャガナです……お願いします……」

 

 あ、だめ。予想以上に恥ずかしい……!!

 

「じゃあそんなわけでイガちゃんとシュルちゃんでやってくデスよ!」

「しゅ、シュルちゃん!?」

 

 っていうか、切ちゃんってイガちゃんって自分の事言ってるの!? あ、なんか急にコメントが……

 えっと、初々しくて可愛い? 声が美少女? 百合の花が咲いてそう? え、ちょ、そんなこと言われましても……

 

「ほらシュルちゃん、このキーボードとマウスで……あ、初心者には厳しいデスね。じゃあこのパッドをブスッと。へいパスデス」

「わっ、いきなり渡されても……!」

 

 ど、どうしたらいいのこれ!? え、これ説明書? えっと……いや見てもわからないから!!

 え? じゃあクイックマッチから? うん、じゃあクイックマッチで……え? キャラ? じゃあこの女の人で……ジェイソンも? チェーンソー持ってるジェイソンっていないの? そう……じゃあこの槍を持ってるジェイソンで。

 あ、始まった。って急に人殺されたよ!? 大丈夫なのこれ!? あ、NPCなの? でもなんか複雑……あ、操作可能になった。

 

「えっとデスね。このゲームはジェイソンに見つからないように車を直すか、ボートを直すか、警察を呼ぶか、時間経過を待って逃げ切るゲームなんデス。多分、一番難易度が低いのは警察デスね。で、次に車とボート」

「時間経過が一番簡単じゃないの?」

「バリキツいデス」

 

 そ、そうなんだ……

 じゃあ車で脱出にしてみようかな? ジェイソンでも車には追い付けないだろうし。

 

「車を直すにはバッテリー、ガソリン、車のキーを集めて修理する必要があるデス」

「あ、結構パーツって少ないんだ」

「まぁ、それにもツッコミ所はあることにはあるんデスけどね」

 

 そうなの? まぁいいや。

 じゃ、早速車を直すために動かないと。でもどこにバッテリーとかあるんだろう。え、家の中にある? どうしてそんなところに……じゃあそれを探さないと。

 まずは適当に一番近い家から……あれ? この赤色のって。

 

「あ、ガソリンデスね。運がいいデス」

「そうなの? じゃああとは車のキーとバッテリーだね。案外この引き出しの中にキーがあったり……あ、ホントにあった」

「ちょっと豪運すぎないデスかね」

 

 そうなの? 普通にこの程度は落ちているんだと思ったんだけど。

 じゃあこれを持って車の場所に行かないと。あ、マップも発見。運がいいなぁ。

 マップだと……あ、案外近いね。それに車のところにもう一人いるし。すぐに行かなきゃ。

 

「あ、走ると位置バレするから、歩いたほうがいいデス」

「あぶなっ……走っちゃう所だったよ」

 

 あ、車発見。じゃあここにガソリン入れて……

 

「え、ちょ、もうバッテリー入ってるじゃないデスか……しかもツーシート……」

「どういうこと?」

「もうこれ、ガソリン入れたら脱出可能デス」

「あ、そうなんだ。よし、ガソリン入った」

「しかもノーミスデスと……」

 

 あとはわたしが車のキーを持ってるから車に乗って、よし動いた。

 じゃああとはマップの端の方に行けば……

 ……あれ? もうこれで終わり? ジェイソンは?

 

「ジェイソン、多分諦めたんじゃないデスかね……」

 

 ふうん。

 じゃ、これでゴールっと。案外簡単だった。

 

「シュルちゃん豪運すぎてワロタデス」

 

 そんなに豪運じゃないと思うけど。あ、でもコメントだとはえぇwwwとかこれはジェイソン涙目とかこれはひどいとか色々と書いてある。じゃあこれ、本当に運がよかったんだね。

 じゃああとはコントローラーを切ちゃんに返してっと。

 

「うーん……あたしはもっとシュルちゃんが慌てふためいて驚きまくるのを見たかったんデスけど……」

 

 慌てふためくって……

 あ、そうだ。そういえば切ちゃんがずっとゲームやってて、しかもわたしも誘われたから一緒にやったけど、ドラゴナイトハンターZを渡すの忘れてたよ。わたしのお金で買ったものだけど、切ちゃんと一緒にやりたいから切ちゃんにまずは渡す。

 えっと、この袋に……あったあった。

 

「いやぁ、シュルちゃんの豪運でもう終わっちゃったデスなぁ。あたしの同居人は超豪運デス」

「そんなイガちゃんにこれ。実はこれを買ってきたから見せたかったんだけど」

「え? なんで……ふぁっ!!?」

 

 あ、切ちゃんが椅子から転げ落ちた。コメントに何事って書いてある。

 えっと、じゃあここはわたしが説明を。

 

「実は今日、ドラゴナイトハンターZを買ってきまして。実物を見せたらイガちゃんが椅子から転げ落ちちゃって」

「い、いやいや!? そんな簡単に済むものじゃないデスよ!?」

 

 え? そうなの?

 あ、コメントもなんかいきなり荒れ始めた。えっと……シュルちゃんガチゲーマー説、シュルちゃん、もしかして朝から並んでたのか? どっちにしろシュルちゃん超豪運なのには変わらない。裏山。俺買えなかったんだけど……とか諸々。 

 え? そんなに? わたし、普通に八時くらいに起きて一時間くらい並んだら買えたんだけど……あ、でもわたしの後ろの人は買えなかったみたいで視線は痛かったのは覚えてるかな。通販でももう売り切れているみたいだし。

 

「ドラゴナイトハンターZは他のガシャットとは違って造形が特殊デスから、初期生産がかなり少なめなんデスよ。後日また再販するみたいデスけど、発売日当日に並んで買ってくるなんて本当に豪運デス……」

 

 そ、そうだったんだ……っていうことは、タドルクエストとかバンバンシューティングよりもかなり入手難易度は高かったのかな? そう思うとラッキーだったかも。

 

「じゃあ、あとで一緒にやろ?」

「やべぇデス。あたしの同居人天使過ぎて辛いデス。というか後でなんかじゃなくて今やるデス」

 

 そんなことしていいの? って聞いたら、所詮はアマチュアなんデスから途中で中断しようがいきなり違うゲームやろうが構わないのデスって言って生放送のコメントを変えた。

 えっと、超豪運同居人とドラゴナイトハンターZを完全初見プレイ? まぁ確かに完全初見プレイではあるけど……あ、切ちゃんゲーム機取りに行っちゃった。

 えっと……どうしよう。

 

「い、イガちゃんがゲーム機取りに行っちゃったのでちょっと待っててくださいね?」

 

 と、とりあえずこう言っておけば……あ、なんか質問来てる。

 えっと……シュルちゃんこれから動画に本格参戦する? 女の子? 何歳? パンツ何色? って、ちょっ。

 へ、変な質問来てるんだけど……と、とりあえず変な質問には答えないようにして答えられる範囲で答えよう。じゃあまずは……

 

「動画に参加するかはまだ何とも……今日も急だったし。で、性別は女の子です。それ以外は秘密です」

 

 うん、これぐらいならいいよね。歳とか下着の色とかは流石に言いたくないし……

 あ、切ちゃん戻ってきた。

 

「よっこいしょ! じゃあこれを後は繋いで……って、シュルちゃんに変な質問するなデス! この変態どもめ!」

 

 切ちゃん怒った……と思ったらなんかまたコメントが。

 ……ありがとうございます! とか現役JKの罵倒ハァハァとか……うわぁ。流石にこれは引くかも……

 

「えーっと、シュルちゃんドン引きして絶句してるので変態発言は控えるようにデス。シュルちゃん、ネットスラングにはあまり詳しくない子なので」

 

 あ、サーセンとか通報しましたとか色々ときた。あと久々にイガちゃんのマジトーン入ったとか書いてある。確かにさっきの切ちゃんの声、結構本気な雰囲気だったかも。

 とかなんとかしてたらパソコンとゲーム機を繋ぎ終わったみたい。どんな感じで繋いでいるのかはサッパリだけど、なんかいきなりパソコンの画面にゲーム機の画面が映った。で、あとはわたしがドラゴナイトハンターZをパッケージから出して……あ、なんか凄い形してる。他のガシャットと違ってかなり形が違う。ドラゴンっぽいって言うのかな。

 じゃあこれをゲーム機にセットして。

 

『ガシャット!』

 

 あ、よかった。ちゃんと認証された。

 じゃあゲームスタート。

 

「おぉ……! もう買えるとしたら来月くらいになると思ってたドラゴナイトハンターを発売日にプレイできるとは……! シュルちゃんに感謝デス!」

「あ、あはは……大げさだよ」

 

 だってただ並んできただけだし。

 でも、喜んでくれたならよかった。二人プレイできるゲームだから一緒にプレイもできるし。

 

「じゃあ早速始めるデス!!」

「うん。一緒にやろっか」

 

 よかった。切ちゃんがこんなに喜んでくれ……あっ。

 

「え、ちょ、いきなりハメられてあんぎゃー!!?」

「チュートリアルで負けるなんて……イガちゃん、相当運悪いんだね」

「ゲームに関してはマジで屑運なんデスよ……およよ……」

「あ、レバ剣出た。へぇ、超激レアだって」

「シュルちゃんは逆に豪運すぎてもう怖いデス……」

 

 なんか、実況というよりは本当に駄弁りながらやってる感じだけど……まぁ、切ちゃんとゲームするの楽しいし、喜んでくれたし。ゲーム実況っていうのを本格的にやってみるのもいいかな。




このあと二人は実況女神ザババってコンビ名でそこそこの知名度があるゲーム実況者になったそうな。ついでに時々調ちゃんが料理している所を動画で出したりとか。

調ちゃんが自らゲーム実況する光景が思い浮かばなかったので切ちゃんが実はもうやってましたって設定にして、調ちゃんをそこに混ぜました。その結果、調ちゃんがなんか13日の金曜日プレイすることになりましたけど……

多分、この世界線も声優やアイドルと同じようにちょくちょく更新されます。エグゼイドのガシャット以外にも色んなゲームをやらせてみたい。バーサスシリーズとかマイクラとか。近いうちにもう一回この時空で何かしら書いてみたいものですね。ソシャゲをやりだす調ちゃんとか。

それではまた次回。次は何にしようかな。また封じられる世界線を書くのもいいし……

っていうか調ちゃんの水着まだぁ!!? いい加減待つの疲れたし次回のイベントも調ちゃんって勘弁してくれよ運営さん!!

ちなみに、これを書いてる途中にどうしてかメモ帳が強制終了して書き直しする羽目になりました。解せぬ


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月読調の華麗なる尾行

水着とアラビアンの調ちゃん可愛すぎて鼻が熱くなりました。浮き輪持ってくるとか反則だし、アラビアンは露出多すぎてヤバいし……もう最高です。即覚醒させました。でも覚醒素材使いすぎて3.5期調ちゃんが覚醒できない……!!

あ、アラビアン調ちゃん出す時についでにセレナも出たのでセレナの出禁を解除します。解除したのでこの話を書き終えました。

最後らへん駆け足ですしちょっと投げやりですけどどうぞ。


「セレナが! 男と! 二人きりで! デートに行くのよ!!」

『……』

「セレナがっ!! 男とっ!! 二人きりでぇ!!」

『うるさい!!』

 

 ある日の午前。マリアのそんな悲鳴にも似た叫びがわたし達の部屋に響いた。でもわたし達はそんなマリアの声をガンスルー。

 まぁ、その理由なんだけど。切ちゃんが呆れて呟いたことが、わたし達の態度に直結している。

 

「第一、相手は緒川さんじゃないデスか」

 

 セレナの出かける相手は緒川さん。まぁ、万が一にも間違いは起こらないだろうし、行く場所というのも問題は万が一が起こらない場所だ。

 

「行くのだってすぐそこの遊園地でしょ? そもそも、非正規装者扱いのセレナの護衛って名目で緒川さんがついていくんだし」

 

 そう。マリアは今日の午後には海外へ飛び立たないといけない。わたし達はその話を聞くのが遅かった、とかの理由から、セレナは一人遊園地へ行こうとしていた。

 なんでも、今度マムと行くからその下見に、そしてマムにそれがバレないようにこっちの世界の、あっちの世界にもある遊園地へ行こうとしていた。

 でも、一人だと色々と寂しいからということで、白羽の矢が立ったのは丁度その日がオフだった緒川さん。オフを次の日に回す代わりに、セレナの護衛という名目でセレナと遊園地へ行くことになった。まぁ、オフが二日に増えた感じだね。

 

『何狼狽えているのよ……ライドォ……』

『だ、団長……』

『私は世界の歌姫、マリア・カデンツァヴナ・イヴよ……この程度で狼狽えるんじゃないわよ……』

『でも……でもッ!!』

『いいから行くわよ……みんなが待ってるのよ……』

『う、うぅ……っ!!』

『貴方達が止まらない限り、私は止まらないわ……貴方達が止まらない限り、その先に私はいるわよ……ッ!! だからよ……止まるんじゃねぇぞ……』

 

 わたしと切ちゃんはマリアと翼さん主演のドラマを見ながら後ろで喚くマリアをスルーする。

 今、キボウノハナーってBGM流しながらマリアが死んだところなんだけど……うーん、なんだろう。最近ちょっと展開が滅茶苦茶だなぁって思ってたんだけど、今回は特に滅茶苦茶なような……っていうか、このポーズちょっと笑う。

 これ、またBB素材になったりしちゃうのかな? 最近マリアのBB素材増えすぎてわたし達の腹筋に悪いんだよね。何度腹筋が崩壊しかけたことか。最近は音割れマリアBBでちょっと大爆笑して切ちゃんと床で蹲った。あのコラ画像は反則だって。

 

「話を聞きなさいっ!!」

 

 なんてマリアの話をスルーしてたら怒鳴られた。

 いや、だって……ねぇ? マリアのシスコンぶりはあっちのセレナを見つけてから加速度的に増してるから、マリアの考えに乗るだけでストレスマッハなんだもん。追跡、撲滅、いずれもマッハ……じゃなくて。

 

「マリア……流石に過保護がすぎるよ」

「デスデス。相手は緒川さんデスよ? 心配事なんてなにもないじゃないデスか」

 

 そりゃあ、愛する妹が男の人と二人で、なんてイベントに何か思うことがあるのは分からないことはないけど。ただ、それが緒川さんや風鳴司令なら話は別だよ。あの二人なら信用できるからね。

 藤尭さんも、うんまぁ。信用できることにはできるけど。ただ、あの二人と比べれば劣るわけで。というかあの二人への信用が高すぎるから相対的に低く見えちゃうんだよね。

 まぁそんなわけで。それぐらい信用できる大人の人が引率なんだから別に心配しなくてもいいんじゃないかと。

 

「万が一が起きたらどうするのよ!!」

「そうしたら緒川さんがロリコンっていう受け止めたくない事実が発生するんだけど」

「そ、それは……」

 

 もしもロリコンならクリス先輩とかがヤバイよ。あの人、わたしと身長あんまり変わらないし。

 え? わたし?

 これ以上余計なことを言ってみろ。その口を縫い合わせるぞ。

 

「マリアは心配しすぎ」

「……だとしても!」

「それは響さんデス」

「こうなったら尾行よ! 万が一にも間違いがないように、全力でセレナを尾行するの!!」

 

 え、えぇ……そこまでするぅ?

 いや、その前に。

 

「お仕事どうするの」

「そんな物振り返らない! 全力疾走よ!!」

 

 えぇ……

 えぇぇ……

 それならセレナと一緒に遊べばいいのに……あ、でもセレナって結構真面目なところがあるから、そういうの許さないかも。

 

 

****

 

 

 で、緒川さんとセレナの遊園地デート……デート? 引率だね。緒川さんの引率当日。わたし達はセレナ達の後ろで茂みに隠れて待機していた。

 いや、もうね。なんというか……今回ばかりは呆れて声も出ないよ。

 だって、お仕事サボるんなら一緒に行けばよかったのに。そう思うともう呆れてね。横で双眼鏡でセレナをガン見するマリアとその隣で欠伸をする切ちゃん。どうしてか参加した奏さんを加えたわたし達四人が茂みに隠れている。っていうか、茂みに隠れていることには隠れているけど、後ろ通ってる人からは丸見えだからね? みんなわたし達見てギョッとしてるからね? あ、そこの子泣かないで、ほら、飴ちゃんあげるから。あ、そこの人写真撮らないで。マリアの痴態はもういいとして奏さんに関しては割とマジでヤバいから。

 

「調、セレナがチケットを買ったわ! 突入準備よ!!」

「あ、お巡りさん、これはその違って……えっと、シスコンな姉が妹を見守、えなんて?」

 

 ちょっと今お巡りさん説得するのに忙しいんだけど。ってかお巡りさんがマリア見てギョッとしてるよ。そりゃするよ。だって世界の歌姫がこんなところで犯罪者にしか見えないようなことしてるんだから。そりゃギョッとするよ。っていうか誰だってするよ。

 とか言ってる内にマリアがサングラスをかけて立ち上がった。あーもう勘弁してよ。

 

「今から私はマリア13よ! 緒川さんが何かしたら即……!!」

 

 おいその手の黒いのは何だ。その銃的なサムシングはなんだ。おい。マリア。聞いて。聞け。

 

「行くわよ、切歌、奏、調!!」

「えー……めんどっちいデス」

「帰ったら銀座の高級ケーキ店でケーキおごるわ」

「今からあたしはキリカ13デス。ケーキのために邪魔ものは排除するデス」

「んじゃアタシもカナデ13だ。なんか面白そうだし」

「やめて。やめろ。今すぐ回れ右して帰って。ってかその手にもってるの離して。離せ」

「行くわよ!!」

 

 あ、マリア達が走っていった……もうみんなが変な集団としてマリア達を認識して道空けてるんだけど。

 ……で、そのですねお巡りさん。これはちょっと訳ありでして。はい、あの人たち頭のネジ数本外れてるんですよ。持ってたのもエアガンですし。ほら、こんな平和大国日本のド真ん中でスナイパーライフル持ち出す人間なんていないでしょう? あの人たちは頭のネジ外れてるからモデルガンを実銃と勘違いしてるんですよ。帰ったら黄色い救急車に放り込んでおくんで。

 え? もう大丈夫? あぁ、理解してくれてありがとうございます。早速あの馬鹿どもを止めてくるので。

 ふぅ。お巡りさんの相手してたら出遅れたよ……すぐにあの馬鹿どもが変な真似しないように見張らないと。えっと、あの馬鹿13はどこに……あ、いた。思いっきりセレナの後をつけてるよ。周りの視線がやべー事になってるよ。

 

「もう、三人とも……恥ずかしいからやめようよ」

 

 とりあえず無駄だと思うけど説得フェイズ。なんとか切ちゃんと奏さんだけでも説得できたらいいんだけど……

 

「何言ってるのよ! セレナが大変な目にあったらどうするの!? それを防ぐのが私達殺し屋13よ!!」

「大変なのはマリアの思考回路だよ」

「ケーキケーキケーキ……」

「あ、こっちはもう駄目だ」

「んー……まぁ、ヤバくなったら止めるからさ。偶にはハジけようぜ?」

「一応の良心がここに……」

 

 マリアはもう周りの事見えてないし、切ちゃんもケーキに脳内支配されているし、奏さんだけが笑いながらわたしの肩を叩いてくれる。でもこの人、面白そうだからって理由で銃刀法違反する辺り相当だよね……

 

「いんにゃ? これエアガンだぜ?」

 

 と言いながら奏さんが空に向かって発砲。撃ちだされたBB弾が太陽の光を反射しながら空へ上がっていってそのままどこかへ。よかった、この人はどうやらマトモみたい。確かに銃にライフリングないし。

 え? マリアと切ちゃんの銃? 思いっきりライフリングが彫ってあるから間違いなく本物だよ。

 

「どうやら最初はジェットコースターに乗るみたいね。至急わたし達も乗るわよ!」

「はいはい……」

 

 マリアがわたしの手を掴んで引っ張りながら言うものだから、わたしも強制的に道連れ。いや、ジェットコースターに乗るくらいならいいんだけどね。乗りたかったし。

 そんでもってジェットコースター。確かここら辺じゃ一番強烈なやつだったと記憶しているけど、一体どれくらい凄いのか。なんか三回連続で回転するらしいし、ちょっと楽しみ。あ、髪は巻き込まれたりしないようにまとめておこう。

 さて、あとは発車を待つだけだね。

 

「チッ……人が邪魔で狙撃できないわね……」

「ケーキ……ケーキ」

 

 ……うん、待つだけだね!!

 

「何あの人たち……」

「銃持ってるけど……本物?」

「っていうかあれ、マリア・カデンツァヴナ・イヴじゃね?」

 

 …………待つだけだよ!!

 わたしと奏さんの前に乗ってる馬鹿二人は他人だからね!! 知らんぷりしてジェットコースター楽しむよ!! このチケットは馬鹿一号の奢りだし、楽しまなきゃね!!

 で、ジェットコースターは動き出したけど……あれ? 馬鹿二号……というか切ちゃん、その安全バーちゃんとしてる? なんかわたしから見ると、ガバガバにしか見えないんだけど……ついでにシートベルトもしてないようにしか見えないんだけど……

 あ、もう落ちる。

 

「ッ……!!」

「うおっ!? これ結構高っ……!!?」

 

 わたしと奏さんが息を呑み、そして視界が一気に下へ向かって落ちていく。

 周りの景色がまるで線のようになっているのではないかと思う程の勢いと速度を持ってジェットコースターは落ちて行って、先頭の方に居るセレナは楽しそうに両手なんて上げてる。あ、緒川さんがそっと手を下ろすように指示した。やっぱ忍者ってこういう時でも全然動じな……

 

「あばばばばああああああ!!?」

「いだぁっ!!?」

 

 あいたぁ!!? いった!!? 滅茶苦茶痛いんだけど!? 何か当たったんだけどぉ!?

 い、一体何が……あれ? 切ちゃん居なくない?

 

「ちょ、たす、たすけっ!!?」

 

 って思ったらわたし達のシートに切ちゃんがしがみついてるぅ!!?

 

「あ、安全バー閉め忘れたデス!! ついでにシートベルトも!!」

 

 やっぱり!!?

 

「馬鹿でしょ切ちゃん!? いや馬鹿だったねごめん!!」

「落ちたら死ぬデスぅぅぅぅぅぅぅ!!」

 

 これは流石に擁護不可! でも一応手は握っておく。奏さんも切ちゃんが吹っ飛ばないように手を握ってくれてるし。

 そんな感じで切ちゃんが落ちないようにしながらなんとかジェットコースターは一周回って。切ちゃんは顔面蒼白で、わたし達も腕がかなり疲れた。別に切ちゃんなら落としたとしてもイガリマ纏って無事なんだろうけど、一応国家機密だし、使わないにこしたことは無いからね。

 で、切ちゃんは職員の人からお説教受けてる。

 

「既に殺し屋13の一人が脱落してる件」

「大丈夫よ。まだ私と奏がいるわ」

 

 わたし達はこっそりセレナと緒川さんをつけながら話しているけど……

 あのさ。マリアはまだ気づいていないみたいだけど、緒川さん、完全にこっちに気が付いてるよね。時々こっち見てるし。マリアは気が付いてないみたいけど。セレナに夢中で。気が付いていないみたいだけど。

 思いっきりこっちに向かって手を振ってるときあるし。あ、またこっち見た。奏さんも手を振り返した。

 ……これ、もう尾行ですらないじゃん。

 

 

****

 

 それからというもの。

 お化け屋敷でお化け役の人に銃突きつけるマリアだったり、メリーゴーランドで銃を構えながら「追いつけないわね……」とか真顔で言っているマリアだったり、奏さんが思いっきり回しているコーヒーカップで銃を構えているから酔ってるマリアだったり、戻ってきた切ちゃんと海賊船でもう一回飛びかけたり。もうなんというか……言葉にできないんだけど。身内の恥なんだけど。

 それで時間は経ってもうすぐ夕方に差し掛かろうと言う時間。セレナはもうすぐ自分の世界に戻るらしく、締めとしてとある乗り物に乗ると言い出した。

 観覧車に。

 

「か、観覧車……!! これはもう我慢ならないわ!!」

「我慢ならないのはこっちなんだけど」

「切歌、奏、調! こっちに来なさい! 緒川さんをヘリから狙撃するわ!!」

「は?」

 

 いや、ヘリっておま。

 わたしと奏さんが呆然としていると、切ちゃんとマリアがどこかへ走っていった。そして暫くしてから少し遠くからヘリが急に空へ向かって上昇しだした。あ、これマジじゃん。

 ……はぁ。これだけは使いたくなかったんだけどなぁ。奏さん、あの二人の回収お願いします。

 

「あいよ。お前も大変だな」

「ホントですよ。あの二人のしわ寄せ、全部こっちに来るんですから」

 

 わたしは一応用意しておいた物をコインロッカーに取りに行ってから観覧車の所へと走る。

 そして緒川さんとセレナの乗っているゴンドラの一つ後ろのゴンドラに乗ってわたしは然るべき時を待つ。

 わーきれいだなー、なんて観覧車から見る景色を見ながら待つこと数十秒。とうとうヘリがやってきた。ヘリパイは誰なんだろうか。

 そしてヘリのドアが開き、そこからはグラサンとライフル装備のマリアと切ちゃんが。

 

「我等殺し屋13」

「お命頂戴するデス」

 

 なんて事ほざいてる。

 え? 聞こえるのかって? 読唇術だよ。

 で、肝心の標的になったセレナだけど、いきなりのマリアにビックリしている。で、ボディーガードの緒川さんもまさかマリアがこんな事してくるとは思わなかったのかびっくりしている。このままじゃマリアと切ちゃんの馬鹿二人が銃弾を撃って大問題になるだろう。

 でも、ここからはわたしの出番。馬鹿を成敗するために持ってきたものを担いでゴンドラのドアを開いた。そんなわたしをようやく発見したマリアと切ちゃんはビックリしたという表情を丸出しにしてこっちを見ている。

 

「わたしはシラベ13。馬鹿共のお命頂戴する」

 

 名乗りながら持ってきたグラサンをかけ、持ってきていたマリアをお仕置きすると同時に止めるための武器。RPG-7を構える。

 え? 偽物だろうって?

 本物だよ。特別に借りてきたよ。

 

「ちょ、調!? それはこっちじゃなくてあっちに撃つものよ!!」

「あ、これやっべーデス……」

 

 こんな状況でもそんなふざけた事言ってるマリアは……!!

 

「これで頭冷やそうか!! Rッ! Pッ! Gッ!!」

 

 叫びながら発射。

 え? どこで扱い方を習ったかって? 説明書を(F.I.S時代に)読んだのよ。

 

『ぎゃああああああああああああああ!!?』

 

 マリアと切ちゃんの叫びと共にヘリが爆散。二人は黒焦げの状態で吹っ飛んでいった。

 さて、お仕置き完了。

 

「じゃ、セレナ。あとは楽しんでね」

 

 こっちを見ているセレナにそれだけ告げてわたしはゴンドラから飛び降りた。

 そして飛び降りた先で待っていたギアを纏った奏さんにキャッチしてもらってからわたしはそのまま遊園地から離脱。馬鹿二人をSONGに回収してもらう様に連絡入れてから帰った。

 後日、セレナが笑顔でマムとの遊園地は楽しかったと報告してくれたり、あの遊園地が暫くニュースで映る様になったりとか色々とあったけど、とりあえず大きな問題は出ずに終わったからよかった。

 ちなみにマリアと切ちゃんは全治一か月だったよ。




イベントに出たセレナの夢がマジで尊すぎました。やっぱセレナは可愛いんやなって。その内本当にリディアンに入学したセレナとか書いてみたい……

あと調ちゃんが司令ってのは何だかしっくり来すぎているし、一人だけ夢の中で修羅場迎えててちょっと笑いました。調ちゃんはやっぱ現実見てる子なんやなって。

きねくり先輩は可愛い。可愛すぎて尊い。安定の可愛さ。アイドル時空にねじ込んでやろうかとすら思いました。

まさかの片翼続編にワクワクしながらも今回はこれまで。さて、テスト勉強しなきゃ……


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月読調の華麗なる沼

今回は課金時空の続編。

最近こんな感じの単発で終わるギャグ書いてなかったからリハビリ代わりに。もうネタが無いンゴ。


 チャリンと音を立てて百円玉がガチャガチャに飲まれていく。

 ハンドルを捻って天に祈りながら落ちてきたカプセルを勢いよく開く。

 そして出てくるのは特にレアでもない、中古屋に行ったら安値で叩き売りされているうーぱ。つまりは外れ。

 

「あぁ……また……」

 

 本日既に二千円目。もう二十個のうーぱをわたしは確保している。確保しているけど、目的のうーぱ……第三弾のうーぱガチャガチャにシークレットとして封入されているレインボーうーぱは未だに一個も確保できていない。

 少し前にメタルうーぱに一万円近く突っ込んで、次に出てきたゴールデンうーぱとシルバーうーぱに関しては、ネット通販でなんとか値上がり寸前に確保することができたけど、レインボーうーぱは確保ができなかった。だから、ガチャガチャで引くしかなくなったんだけど……これがまた出ない。

 第一弾は結構前からあるやつだったからガチャガチャそのものが置いてある場所が少なかったけど、第三弾は結構色々な場所にガチャガチャがある。だから、目に付いたらガチャガチャしてるんだけど……出ない。物の見事に出ない。

 ちなみに、もうこれでレインボーうーぱには一万円かけてます。でも、今ネットだと中古品でもレインボーうーぱは一万五千円超えているから、今出てもアドっていうね。

 はぁ……出ないなぁ。あ、また外れ……

 

「調ちゃん、またガチャガチャしてるんだね」

「あ、響さん」

 

 とか思ってたら、あの時わたしに光明を与えてくれた響さんが。

 わたしはしゃがんで、響さんはそんなわたしを上から覗いてたけど……あ、あれ? 響さん……

 

「ん? どーかした?」

「い、いえ」

 

 え、えっと……響さん、下着履いてる? な、なんか一瞬際どい所まで見えたけど、履いてないように見えたんだけど……気のせいかな。とりあえず立ち上がって、持っていたうーぱをバッグの中にしまう。

 響さんのシュレディンガーの下着は一旦思考から省くとしてっと。

 一応ここは前にうーぱガチャをしていた場所じゃなくてそこからはちょっと離れた場所にあるんだけど、響さんもちょっとビックリしていたし今回も完全な偶然だと思う。ここはお野菜とか安いから、未来さんが買い物に来ていて、それに響さんがついてきた感じだと思う。

 さてさて。わたしの手には百円玉が沢山詰まったコインケース。それが二つ空になってる。一目でそのコインケースに本来は言っていた硬貨は目の前のガチャガチャに消えたと考える事は本当に容易。つまり。

 

「えっと……程ほどにね?」

「はい……」

 

 無言で響さんは察しました。

 いや、だってさ。財布にそんな何千円分も百円玉を入れておくわけにはいかないし。かと言って一々両替しに行くのも面倒だし……って考えた結果、コインケースを買ってしまおうって思っちゃったワケで。

 響さんは苦笑しながらソシャゲよりはマシだと思うけどね、と言ってから自分の財布から百円を取り出して、うーぱのガチャガチャに突っ込んだ。そして回して……あっ、なんだろうこの光景。デジャヴを感じるよ。

 でも現実はわたしのデジャヴなんかとは違った事が起きるのが当たり前。

 

「あ、今回は金属製じゃないみたい。外れなの?」

 

 出たのは、金属製じゃないうーぱ。

 そうそう、その金属製じゃないけどレインボーにメタリック塗装されたうーぱは……

 

「土下座でもなんでもするので譲ってください」

「あ、あははは……」

 

 これからは響さんにガチャガチャしてもらおうかなぁ……!!

 

 

****

 

 

 あの後、響さんを迎えに来た未来さんと合流して、二人が買い物しに行くのを見届けてからわたしは帰路についた。もうわたしは買い物済ませたし、一番の目的と言っても過言じゃないレインボーうーぱゲットも成し遂げたし。だからこれ以上あのガチャガチャをする意味もない。

 万が一にも傷が付かないようにしっかりと保管して、わたしは帰り道を歩きながら自販機で買ったアイスを食べる。勝利……勝利って言えるのかなぁ。まぁ、勝利でいいや。勝利の後のアイスは格別。いつものチョコアイスがとっても美味しく感じれる。

 さて、帰ったらうーぱを飾らないと。そろそろ机の上に置くのも限界が近いから専用の棚とか買わなきゃ……

 

「ん? お前何してんだ?」

 

 とか思ってたら声をかけられた。

 この声は……

 

「クリス先輩?」

 

 聞き返しながら振り返ると、そこにはクリス先輩が。そしてその両手には……アニメイトの袋? なんともまぁ珍しい。

 クリス先輩ってアニメとか好きだったっけ……あ、そういえばうたずきんにハマってるって翼さんが言っていたような。どうして翼さんが知っているのかは不明だけど。でも、それならアニメイトに行ってるのも納得かな。あそこってアニメ系のグッズは凄い量あるし漫画もあるし。わたしと切ちゃんも漫画買う時は時々行くからね。

 

「おう。で、何してんだ……って思ったけど買い物か。ご苦労な事で」

「もう習慣ですから特に大変でもないですけどね」

 

 それにうーぱの事もあったから。多分うーぱが無かったらもうちょっと近いスーパーに行っていたと思う。

 

「ちなみにクリス先輩は?」

「アタシは漫画と小説をな。あそこなら確実に置いてあるし」

 

 どうやらクリス先輩もわたし達と同じ感じの用事でアニメイトに行っていたらしい。

 

「あ、そうだったんですか。てっきりうたずきん関連の物を買っているのかと」

 

 そうやって笑いながら聞いた途端、クリス先輩は手の中の袋を落としかけてあたふたした。

 ……あれ? もしかして。

 

「うたずきんのグッズも入ってるんですか?」

「ば、ばっかお前!? こんな所で!?」

 

 あぁ、やっぱり図星ですか。

 クリス先輩はどうしてこの事を、って感じでこっちを見てきたから、わたしはクリス先輩がうたずきんにハマっているというのを翼さんから聞いたとだけ、情報源をリークしておく。ついでに、クリス先輩がうたずきんにハマっている事は装者のみんなとエルフナインはもう知っているとも。

 そう教えると、クリス先輩は顔を手で覆って溜め息を吐いた。小さくやっぱり口止めしておくべきだったと言っているから、多分クリス先輩は事故気味に翼さんにバレたんだと思う。

 

「はぁ……なら隠しても無駄か。そうだよ、うたずきんグッズとアンソロ買ってたんだ」

「アンソロ?」

「短編集みたいなモンだ」

 

 そう言いながらクリス先輩がチラッとうたずきんの漫画を見せてきた。確かに、わたしの知ってるうたずきんの漫画とは表紙が若干絵柄が違うかも。

 そういうのも出てるんだ……もしかしたらうーぱのアンソロも出てるのかな。帰ったら通販で調べてみなきゃ。あったら買わないと。

 

「あーっと……なるべくこの事は言わないでくれよ? もうバレてる奴ならいいけど、学校の奴らとかには、な?」

「分かってますって。わたしもちょっと人には言いたくない事があるので」

 

 うーぱにもう累計二万円近く使っている事とかね。

 流石にそれが同級生にバレたら何言われるか分かった物じゃないし。切ちゃんの三十万よりはマシだけどさ。

 あ、ちなみに切ちゃんは最近課金を控えてるみたいで、早急にわたしや響さんにガチャを頼んでる。別に引くのはいいんだけど、出なかったときに露骨に落ち込むのはちょっと止めてほしい。いや、何も言わないから別にいいんだけどさ。捨てられた子犬みたいな目で携帯を見ているから、なんだか申し訳なくなると言うか。

 おっと、話が逸れた。

 

「ふーん。まぁ、聞きはしねぇよ」

「あはは……ありがとうございます」

 

 うーぱに関しては子供っぽいって思われるかもしれないからね。クリス先輩がそれで煽ってくることはないと思うけど、やっぱりそれに二万円も使ったのはちょっと言いふらしたくはないし。

 とか思いながらクリス先輩と世間話をしていたけど、ふと今の時間が気になって携帯を覗き込んだ。

 あ、もう三時だ。切ちゃんがわたしのおやつを勝手に食べちゃう前に自分で食べちゃわないと。

 

「あ、じゃあわたしここで失礼しますね」

「おっ、そうか。引き留めて悪いな」

「いえいえ、わたしの方こそ」

 

 そろそろアイスのゴミも捨てたかったし。

 地面に置いておいた買った物が入っているバッグを持ち上げる。さて、帰っておやつおやつ。切ちゃんは最近二の腕がぷにってきたって嘆いているけど、わたしはそんな事ないから関係なく笑顔でおやつタイム。

 

「あ、ちなみに今何時だ?」

 

 と思ってたらクリス先輩が唐突に居間の時間を聞いてきた。

 え? 今? 今なら……

 

「え? 三時ですけど……」

 

 もしかして何か用事があったのかな? それなら申し訳ない事……

 

「マジか!? もうガチャ更新じゃねぇか!!」

 

 わっ!?

 

「こうしちゃいられねぇ……!! 今回は誰が……!!」

 

 え? あ、あの……?

 クリス先輩? その、一体何が?

 

「げっ、水着うたずきん!!? くそっ、来る来るとは聞いてたけどまさかの今日かよ……!!」

 

 とか言いながらクリス先輩はポケットから財布を取り出して、その中から何かカードを取り出した。

 あ、あれ? あのカードってチュンカじゃ……しかもあの色って一万円分の。え? もしかして今課金を?

 

「まずは運試しの一万……! …………よし、一万で二人か。あと四人で完凸……!!」

 

 あー……そういえば結構前にうたずきんのゲームアプリが出たって言ってたなぁ。うたずきんが好きならそりゃやってるよね。

 でもまさかあのクリス先輩が課金するなんて思わなかったよ、うん。

 ……っていうか、さっきから財布からチラッと見えるそのカードの束って……そこから未使用のチュンカを取り出すのって、つまり……そのカードの束って使用済みの物を勿体ないから財布の中に入れているんじゃなくてクレジットカードが発行できないから買い溜めしているだけなんじゃ……

 

「よし! 今回は五万で完凸! いやー、運がよかった」

 

 そう言いながらクリス先輩が適当にポケットに突っ込んだ使用済みのカードは五枚。つまり五万円……

 ご、五万円があの一瞬で……

 

「あ、いきなりすまんな。じゃ、アタシは帰っから」

「は、はい……」

 

 さて、帰って育成だとか言いながら歩くクリス先輩を見送ってからわたしはそっとレインボーうーぱを取り出した。

 うん……切ちゃんのよりはマシだけどさ。でも、あれでこのレインボーうーぱ三つ分のお金が吹き飛んだって思うと中々に沼だよね。だって現物残らないんだもん。

 ……帰っておやつ食べよ。あれはクリス先輩のお金だからわたしが関与すべき事じゃないもんね。うん。

 

 

****

 

 

「未来ぅ……今回ばかりはバレたかと思ったよぉ……多分調ちゃんにはバレたと思うし……」

「でもパンツもブラも着けずに恥ずかしがってる響は凄く可愛かったよ!!」

「もう……未来のばか……」




プレラーティに五十連分突っ込んだんですけど、GX信号機とGX切ちゃんがすり抜けました。初の巧属性星五が来たんですけど素直に喜べない……

まぁそんな爆死話はさておいて、来週はXDのアルバムが発売ですよ! 勿論自分は予約しておいたんで当日か、もしかしたら前日に届くかもしれません。はやくハートをこーしょんこーしょんさせたいんじゃあ……

次回に関してはまたしても特になし。未定ですが投稿はします。XV放送終了までは投稿していきますぞ!!


P.S パヴァリア組に先越されたキャロルェ……


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月読調の華麗なる宿題

本当はもっと早く投稿する予定だったんですが、ちょっとモチベだったりゲームだったりで書けませんでした。

というか、先日いきなりランキングに載ったんですけど、その理由がわからなくて喜びよりも不思議が溢れて……一体何があったんですかね? 理由分かる人は教えてほしいデス。気になって仕方ないデス。

まぁそんな事は置いておいて。今回は夏休み……というかこの時期にピッタリ()な宿題の話です。本当は昨日投稿したかったんですけどね……
それでは、どうぞ。


 やってしまった。

 夏休みの宿題を、最終日までやらずに溜めておいてしまった。

 半分くらいは一応やっておいたんだけど、残りの半分が完全に手付かず。まっさらな状態で残っている。それは同じ部屋に住んでいる切ちゃんも同じで、昨日の内にちょっとはやったけど、残りの量は絶望的。頭を抱えてどうしたらいいのか……と宿題を見て、そして空を仰いだ。わぁ青い、なんて思ってすらいた。

 でも、そんな現実逃避をしても宿題という存在は変わらずこの世に顕在している。あれほど風鳴司令とか友里さんにやっておけと言われたのにそれを無視して遊んでいたから……!!

 原因の究明なんてすぐに終わる。だから腕を動かさないとと思っても残りの量をチラッと見るとやる気が無くなって空を仰ぐに終わってしまう。切ちゃんとは私室を分けているから切ちゃんの様子は分からないけど、きっと切ちゃんも同じ感じだ。もしかしたらもう諦めて携帯を見ているかもしれない。

 けど、そんな事をしても状況は変わらない。わたしはそっと携帯に手を伸ばして、とある人……偶々今日が暇で、頼れるけども普段なら忙しい人へと連絡を入れる事にした。

 ヘルプミー、翼さん!!

 

 

****

 

 

「……あれほど叔父様や雪音、友里さん達からやっておけと言われていただろうに」

「その通りです……」

 

 近くのファミレスに来たわたしと翼さん。だけどその雰囲気は完全に説教する親とされる子供。後者がわたし。

 でも、宿題をためてしまったのはわたしのせいだから何にも言えない。翼さんのありがたいお言葉を受けて項垂れるしかできない。

 

「はぁ……まぁいい。溜めてしまった物は仕方が無いからな。むしろ、半分終わらせているだけマシだ。立花は恐らく全部残っているからな」

「翼さん……! じゃあ!」

「あぁ、分からない所は教えるし手が止まったらそれとなく発破をかけよう。私も集中して作詞をする場所が欲しかったからな」

「え? 作詞ですか?」

「次の曲のな。緒川さんにやってみてはどうかと言われたのでな」

 

 そうなんだ……じゃあ次の翼さんの曲は楽しみにしておこう。

 っと、そんな事考えている場合じゃなかった。翼さんが見てくれている間に宿題を進めないと。終わらなかったら徹夜してでも終わらせないとだし……

 ちなみに、切ちゃんは部屋で爆睡していたからもう無視してきたよ。わたしも余裕なんて一切合切無いからね。こういう時、真面目な人を呼ばなくてもいい響さんはいいなぁと思う。わたしと切ちゃん、勉強関連とか宿題関連はてんで……だからね。成績は良い方だけども……

 ……この式はここで使えるから、この数字を代入して……あ、あれ? なんか変な感じに。

 

「つ、翼さん……ここ教えてもらってもいいですか」

「ん? あぁ、ここか。それなら……」

 

 ふむふむ……あ、なるほど。できた。

 翼さん、結構教えるのが上手いなぁ。クリス先輩並みに分かりやすい。

 これなら普段から教えてもらいたい……とは思うけど、学生の時ならまだしも、今はもう翼さんは国内にいる方が珍しいレベルだからなぁ。そんな簡単に教えてもらう事なんてできないや。

 

「……しかし、月読は宿題は一足先に片付けるか毎日ちょっとずつやっていくタイプだと思っていたのだがな」

 

 とか思っていたら翼さんから声をかけてきてくれた。

 うん、確かにクラスの人とかは早く宿題片付けるタイプ? って聞かれたから翼さんの言葉は間違ってはいないんだろうけども……ついでにわたし自身、自分に対してそんなイメージあるし。

 でも現実は……

 

「ちょっと言い訳みたいになっちゃうんですけど、装者としての訓練とか……何より、普通の夏休みが楽しくて」

 

 F.I.S時代は夏休みなんて無かったし。勉強はマムが教えてくれたおかげで追いつけているけどね。

 そんな感じの言葉を翼さんに伝えると、翼さんは笑顔でそうか。と頷いてくれた。

 

「楽しいのは良い事だ」

「皺寄せがきちゃってますけどね」

 

 さて、なるべく早くやっちゃわないと……

 えっと……あ、これでこうしたら……よし、一番面倒だった数学があとちょっとで片付きそう。これなら案外早く宿題を終わらせることが……ん?

 あっ、なんか携帯に通知が来てた。えっと、一体誰が……あ、切ちゃんだ。

 

「どうかしたか?」

「いえ、切ちゃんから連絡が来たみたいで」

 

 完全に夜まで爆睡コースだと思ってたから今の時間に起きるのは結構意外かも。

 えっと、なになに? 調今どこデス!? まさか一人で逃げたんデスか!? だって。失敬な。まさか宿題を目の前に逃げるわけないでしょ。昨日までは逃げていたけどさ。

 でも、逃げても解決しない所まで来ちゃってるから。逃げたら終了まで来ちゃってるからさ。だから逃げるなんて以ての外なんだけど……もしかして切ちゃん、一人でって言っている辺りわたしを連れて逃げようとしたんじゃ……それだったら流石に勘弁してほしい。

 

「さっきまで寝てたけど、今起きたみたいです」

「寝ていたのか……暁も宿題が終わってないんだったか?」

「終わってないんです。なのに朝ごはん食べたらすぐ二度寝しちゃって」

「それは……このあとが大変だな」

 

 もうすぐお昼だよ? いや、別にお昼に起きる事をとやかく言っているわけじゃなくて、こういう日に二度寝かましてお昼に起きるってのがね?

 明日から学校だよ? 変に生活リズム崩すのも嫌だし、お昼に起きちゃったら確実に徹夜ルート突入するだろうし。とりあえず切ちゃんには宿題消化中とだけ返しておいて問題を……あれ? 数学の問題、これで最後だ。あとのページは全部答えとあとがきだけだ。

 

「ん? 全部終わったか。どれ、私が答え合わせしておこう」

「いいんですか?」

「それぐらいならな。私の気晴らしにもなる。月読はドリンクバーで何か飲み物を取ってくるといい」

「じゃあお言葉に甘えますね」

 

 よいしょっと……とりあえず甘い飲み物取ってこようかな。こういう時は甘い物を飲むのが一番だし。それにもうすぐお昼だからそれに合うような飲み物を。

 えっと、オレンジジュースでも……うわっ、これ凄い薄まってる。この間、違うファミレスでめちゃくちゃ薄いオレンジジュース注ぐ事になったからちょっと見ただけで分かるよ。とりあえず関係ない物……カルピス辺りを混ぜておこう。多分これで大丈夫でしょ。

 さて、戻らないと。あまり翼さんを一人に……あれ?

 

「うーん……お休みを頂きましたが何をしたら……」

 

 あそこに座ってるの……エルフナイン?

 ちょっといつもは見ない服装だったから一瞬分かんなかったけど、あのちっちゃな三つ編みと声ってエルフナインだね。お休みを頂いたって事は、今日は久しぶりに休みだったのかな?

 

「やっぱり戻って研究を……」

「やっほ、エルフナイン」

「わっ!?」

 

 そんなエルフナインに声をかけた。

 コーヒーを飲んでいたエルフナインは、わたしの声で一瞬コーヒーを落としそうになったけどなんとかそれを堪えてわたしの方を向いた。

 エルフナインは暫く目を白黒させていたけど、一度咳ばらいをするといつも通りの感じで声を返してくれた。

 

「調さん? こんな所で会うなんて奇遇ですね」

「そうだね。エルフナインは何でここに?」

「ボクは、今日一日お暇を貰ったのでどこかへ出かけようとしたんですけど……こういう日ってどうしたらいいのかよく分からなくって」

 

 さ、流石ワーカーホリック……

 時々響さんだったり切ちゃんだったりがエルフナインを連れ出しているとは聞いていたけど……一応わたしも時々連れ出してるけどね? でも、まさか一人の休日になった途端、何をしたらいいのか分からないって……わたし達からしたらちょっと分からない感覚だけど、エルフナインは趣味と仕事がベストマッチだからなぁ……

 調さんは? と聞いてくるエルフナインに、とりあえずわたしはちょっと恥ずかしいけどここに来た理由を説明する。

 

「わたしは翼さんに宿題を見てもらってるから。あっちに翼さんもいるよ?」

 

 宿題、と言うと、エルフナインはあの悪名高い……と小さくつぶやいた。いや、悪名高いって……確かにわたしや響さん、切ちゃんは宿題を悪い物扱いしてるから反論できないけど……

 じゃあエルフナイン。わたしは元の席に戻るね。

 

「あ、それならボクもそっちに行きますね」

「え? いいの?」

「どうせなら誰かと居た方がいいですし」

 

 そういう訳で。

 

「エルフナインか……そういえば、本部の外でエルフナインを見かけるのは珍しいな。こうして外で会うのは何かしらの事件があるとき以来か」

「そうですね。ボク自身、あまり外には出ませんから……」

「むっ。それは駄目だな。時々太陽の光を浴びぬと体を壊すぞ」

「あはは……それは分かってるんですけど、研究が楽しいし忙しいしで……」

「それは分かっている。ただ、体を壊さぬ程度にな」

 

 翼さんとエルフナインが隣り合って座って話している。けど、わたしはひたすらに宿題。いや、別に会話に混ざれなくて寂しいなんて思ってないよ? 思ってないったら。

 それに、エルフナインっていう教師もできたからね。エルフナイン、研究職をしているだけあって理系に関してはわたし達の誰よりも詳しいから。文系科目は翼さんが……うん、そこそこ。そこそこね。教えてもらえるから。翼さん、時々変な所で防人とか剣とかぶち込んでくるから……で、エルフナインは文系関連はあんまりって本人が言ってるし。

 だから先にちゃちゃっと理系科目だけ。つまり残りは物理と科学を片付けちゃいたい……んだけど。

 

「あ、調さん。そこの式違いますよ?」

「え? ホント?」

「はい。そこは……」

 

 ……うん。頼もしすぎる。

 エルフナインっていう最強の理系教師を付けたからか、物理と理科の消化が早い早い。しかも教え方も上手いからとても助かる。で、時々エルフナインも覚えていない……というか覚えておく必要が無かったから分からない部分は翼さんが教えてくれる。

 うん、これ最強の布陣だね。理系は全部この二人に聞いてしまえばいいとすら思う。

 手つかずだったハズの物理科学が半分以上終わったあたりでお昼の一時を回った。そろそろ休憩がてらお昼にしようという事で三人で適当に料理を頼んで今は待機中。

 

「翼さんとエルフナインのお陰で理系科目はすぐに終わりそうです」

「いや、月読が優秀だからだ。これが立花なら……毎度毎度小日向には同情しそうだ」

「あ、あははは……と、とにかく。ボクも翼さんも、できる限りは手伝いますから、頑張って終わらせましょう」

「うん、ありがとう。でも、エルフナインは折角の休みの日なのに宿題に付き合わせちゃってもよかったの? クリス先輩とかと遊びに行っても良かったのに」

 

 サラッとエルフナインにも色々教えてもらってたけど……折角のお休みなんだし。

 クリス先輩ならもう宿題も終わってるだろうからクリス先輩の家でゲームだったり一緒に出掛けるとか、色々とやれることはあった筈だけど。

 

「ボクはこうしてのんびりしながら勉強を教える方が楽しい人間みたいで。だから、むしろ手伝わせてください」

 

 と、笑顔のエルフナイン。凄い眩しい……

 でも、エルフナインと翼さんの二人が勉強を見てくれているなら百人力。お昼を食べたらお夕飯までには全部終わらせるように頑張ろう。幸い、一番頭を悩ます原因になる予定だった物理と科学がすぐに終わりそうだし、ね。

 

 

****

 

 

 結論から言うと、三時くらいには全部の宿題が終わった。

 理系関連は時間がかかるし疲れるからあまり触れてなかったっていうのもあってそこそこ時間がかかったけど、文系科目は七割くらいは終わっている状態だったから、お昼を食べて小休止を入れて、時々翼さんが振ってくる話題や歌詞の一部をどうしたらいいかと考えたり、エルフナインが気晴らしに振ってくれる話題に応えたりしている間になんとか終わった。

 宿題の山を鞄に片付けてちょっと脱力。案外早く終わって良かったぁ……何度も宿題の内容は確認したし、クラスメイトの子にも確認したからやってない宿題は無し。

 

「お疲れ様です、調さん」

「ありがと、エルフナイン。エルフナインと、翼さんのおかげだよ」

「なに、私達は手助けという手助けはあまりしていない。殆ど月読が自力でやったではないか」

 

 え? そんな事はないと思うけど……

 少なくとも理系に関してはかなり頼ったし、文系の方もちょくちょく聞いていたし。

 というか、翼さんの作詞の方は大丈夫なんですか?

 

「ソレに関しては問題ない。エルフナインと月読が時々手助けしてくれたからな」

「あまり力にはなれませんでしたが……それでも力になれたなら何よりです」

「はい。宿題を見てくれたお礼になれたら」

「あぁ、存分に助かったとも。だから、ここは先輩として一つ甘い物でも奢るとしよう」

「え、そんなの悪いですよ!」

「遠慮はするな。いい気分転換になったし歌詞も完成した礼だ。ここは先輩の顔を立てると思って奢られてくれ」

 

 そ、そこまで言うのなら……

 わたしとエルフナインはすぐに折れて、翼さんが奢ってくれたパフェを食べて疲れをいやした。その間に翼さんは歌詞を緒川さんに届けると言って席を立ったけど……その時伝票持って行っちゃって、結局わたし達はお昼ご飯まで奢ってもらう形になってしまった。

 なんだか翼さんには助けてもらってばっかりだなぁ。パヴァリアとの時も翼さんには助けてもらったし。今度何かしらの形でお礼しないと貰ったものと釣り合わないや。

 そんな事を思いながらエルフナインと暫く服を見たりして一緒に暇を消化して、お夕飯を準備する時間になってから別れて家に帰ったんだけど……

 

「しらべぇぇぇぇ!! たすけてほしいデスぅぅぅぅぅ!!」

 

 帰ってすぐに大号泣する切ちゃんに泣きつかれた。

 何事かと思って切ちゃんの宿題を見てみたんだけど……驚くほど真っ白。

 こ、この数時間何してたの……

 

「そ、その……ゲームを……」

 

 その言葉に呆れかえったのは言うまでもない。

 とりあえずわたしはお夕飯食べたらお風呂入って自由時間にするから。と言うと面白いくらい泣いて抱き着いてきたので結局わたしは切ちゃんの分の宿題まで見る事になった。別に呼ばれるまでは隣で携帯弄ってるからいいんだけどさ……

 ちなみに、切ちゃんの宿題は翌日の朝五時までかかって、わたしは一時くらいには椅子で寝落ちしていた。切ちゃんは目にクマを作って何とか終わったデスって言ってたけど、答えの方は……ここでは口にしない事にしておく。ただ、宿題をチェックされた切ちゃんは先生からお小言貰ってたよ?




いやぁ、XDのCD発売しましたねぇ!! 自分は通販で28日の朝に届いたので即聞いたのですが……どの曲もいいですなぁ。意外に思ったのはセレナの曲が結構短かった事でしょうか。初めて聞いたときはちょっと驚きました。

そして何よりもご奉仕…メイドモード! メイドモードですよメイドモード!! もうハートがこーしょんこーしょんして言葉にできない中毒性が……クリス先輩のSAKURA BLIZZARDもカッコよくてリピート止まらないんですけど、メイドモードはもう破壊力が……!!

XDのCDについては全部書くとかなりの文字数になりそうなのでここらへんで……ただ、アプリやってない人でもきっと満足する商品になっているので買いましょう(催促)。特に調ちゃんが推しの人は買おう。ハートがこーしょんこーしょんするぞ(催促)。

っていうか、XDの方でまた調ちゃんのおニューのギア来ちゃいますねぇ。プレラーティに何十連(あの後二十連した)も突っ込んだのは早計だったか……ただプレラーティに突っ込んだら何故か持っていないGX調ちゃんが出たので後悔だけではないのですが……複雑な心境デス。

それと、自分は完凸星五を一人も持ってない人なんですけど、持ってないせいでマルチバトルが辛すぎる……誰も救援に来ないから一人でやるしかなくて……時間かかるし相手強いしで……おかげでまだ誰も上限解放できてないんですよね。もうちょっと無課金にも優しくしてほしい……あーもうやっさいもっさい!!

次回は未定っさい!!


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月読調の華麗なる特典映像(ダイジェスト版)

今回は二回目のアイドル回で無人島に島流しされた調ちゃんと翼さんの話、のダイジェスト版です。ネタが無かったから仕方がない。


 緒川さんに無人島に島流しされてから数時間が経過した。

 一応、着替えとかは緒川さんが用意しているらしく――一応、わたしの分は切ちゃんが用意したらしい――着替えの心配はない。何なら海で遊んでも問題ないくらいの日程は確保していると言ってくれた。いや、うん。何故か水着もあるから遊んでもいいんだけどさぁ。

 ただ、現在地が分からないからね? 多分、画面の向こうの皆さんには右下らへんにマップが表示されているか、わたし達の位置がちゃちゃっと説明されているかもだけどね。ただ、わたし達は見えないの。ここどこってレベルなの。マジでここどこ。

 

「悩んでいても仕方ないぞ、月読。飲み水だけは幸いにも用意されているから残りは食料をどうにかせねばなるまい」

「翼さんは適応力高すぎですって。そんな野草なんて取ってきて……っていうか生で食べてるんですか!?」

「案外生でもイケる」

「はぁ……まずはここからどうやって脱出するか決めましょうよ」

 

 いや、飲み水はあると言っても食料はどうにもならないような……それこそ海に潜るしか。

 銛とかあったらいいんだけど、それが無いから多分貝とかしか取れないし。かと言って森の中行くのは嫌だし……っていうかここからどうやって脱出したらいいのさ。

 ……いや、口には出せないけど、一応装者としての訓練の一つに戦闘中どこかへ漂流した際にどうにか生存、もしくは本島が見えるなら本島に帰れるように筏を作る知識とか毒のある物を見分ける方法とかは学んでいるけど。だけどそれを使うのはどうかなぁ……

 

「お困りのようですね、翼さん、調さん」

 

 とか思ってたら今まで消えていた緒川さんがカメラ片手に持って急に湧いてきた。思わずビックリしたけど、まぁ忍者だし……この人水上を走れるし。

 ……もしかしてわたしを運んだのって緒川さん? わたしと翼さん抱えて海走ってきた?

 いや、今はそんな事どうだっていい。翼さんはそこまで困っていないとかほざいてるけど、わたしは困っている。とりあえず翼さんにはモモパーン! して黙ってもらってから緒川さんに助けを求める。

 

「ここに安心安全な筏の作り方とこの島の食べれる物を記した図感があります。ノコギリ等の道具も用意してありますからどうぞ使ってください」

 

 と言って緒川さんがドサッと地面に何かを置いた。その中からは確かにノコギリやロープ。他にも手作りの図鑑らしきものまであった。製作者は……エルフナイン。右下に書いてあった。

 いや、こんなの作るくらいなら休もう?

 ……まぁいいや。翼さんは刀が無くて残念そうにしているけど、ノコギリの扱いならわたしが装者一。これはわたしが筏を作る事になるのかな。

 

「……っていうか、筏の材料って」

「この島で集めてください」

「ちょっ。それ帰るのに一か月くらいかかりませんか!? 場所だって分かってないんですよ!?」

「大丈夫です。ここに方位磁石はありますから」

「わーい方位磁石だぁ。これでどっちがどっちか分かるぞぉって馬鹿ぁ!!」

 

 思わず乗っちゃったけど! これ方位磁石だけでどうしろっていうの!? 水に浮かべてわぁ楽しいとか言えばいいの!? っていうか方位磁針じゃなくて方位磁石!?

 あぁもうどうしろって言うの!? 

 ……だめだ。かっかしてたら体力が先に無くなっちゃう。

 

「……とりあえずわたしが材料になりそうなもの集めてくるので翼さんは食材集めてください。幸いにもここは色々と漂流してますから」

「う、うむ。では海にでも潜ってくるとしよう」

 

 ……絶対に帰ったらみんなをリアルスマッシュブラザーズでボコボコにしてやる。

 

 

****

 

 

 筏の材料集め中。

 

「調さん調さん。今のお気持ちはどうですか?」

「友達全員の顔面にワンパン入れたい気分です」

 

 

****

 

 

 時の流れは早い物で二日が経過した。

 寝床としてわたしが適当に屋根だけ作った簡単な家とも言えない物を使いながら筏の材料を集めて翼さんに力仕事と食料集めは任せてっていう分担作業をして何とかなんとか生きながらえてきた。

 この海はそこそこ食べられる海産物があったらしくて、毎回翼さんは大量に魚とかを取ってきてくれた。そのおかげで毎日お腹いっぱいになるくらいは食べられた。そうして元気いっぱいだったのもあって筏はそこそこいい物が作れた。まぁ、説明書通りだけどね。

 着替えと水……それと、小道具の中に調味料と火が用意されてるのが本当に救いだった……なかったら精神的にきつかった。ちなみに、シャンプーとかも入ってたから誰も居ない所で自由に使える水をお湯にしてシャワー浴びたよ。

 

「ふぅ……翼さん、荷物とか忘れてませんよね?」

「大丈夫だ。パドルもちゃんと持っている」

「もう筏というよりはちっちゃい船ですけど……なんとか二人で漕いでいきましょう」

 

 そう。作った筏はもう筏というよりは小さな船。二人で乗ってパドルでえっちらおっちら漕ぐ物。

 一応水に浮くかどうかは実験したし、翼さんの水上拠点としてちょっと運用してもらったけど硬度は問題なかった。流石エルフナインの設計した筏。なんともないぜ。

 

「おめでとうございます。これから無人島脱出ですね」

「あ、緒川さん」

 

 とか思ってたら緒川さんが沸いてきた。

 ……この人、出てくると毎回スーツだけど着替えとかお風呂とかはどうしているんだろう? 一応聞いてみた。

 

「え? 普通にこの島の裏から船を出してもらって毎回深夜に本島に戻っていますが」

「それにわたし達を乗せていってくださいよ!!?」

「そんな事したら映像にならないじゃないですか」

「笑顔でそんな事言います!?」

「諦めろ月読。緒川さんはこういう人だ」

 

 ぐ、ぬぬぬ……!!

 はぁ……あきらめよう。これを機にわたしの人気も上がると信じて。多分上がるのはバラドルとしての人気だろうけどもさ。

 

「本島はここから西の方角にあります。この筏ですと大体一時間から二時間くらいかかりますね。頑張ってください」

「そんな簡単に……」

「藤尭さんも一度やったんですから」

「え……?」

 

 ちょ、それどういう事……

 

「それでは僕はまたカメラに戻らせていただきます」

 

 あ、見えなくなった……

 ……え? 藤尭さん? マジで? あの人一回これと同じことやったの? もしかして一人で?

 そ、そういえば翼さんへのドッキリが終わってから暫く藤尭さん見なかったし、戻ってきたときはかなり疲労困憊で大変そうだったけど……まさかそれが? 風鳴司令は出張で少し遠くに泊まりで行ってもらっているって言ってたけど……まさかそれ、このリハーサルに?

 ――ちなみにこれは後から知った事なんだけど、この会話の時右下に小さく藤尭さんが悲鳴を上げながら筏を漕ぐ姿が映されていた。名前は緒川マネージャーの部下藤尭って書いてあった。なんというか……お疲れ様です――

 ……と、とりあえず一旦藤尭さんの事は忘れて行きましょう、翼さん!!

 

「あ、あぁ……帰ったら藤尭さんを何かしらの方法でねぎらおう。きっとあの人はこれまでも何度か私達の前身として人柱になっている……」

「そ、そうですね……」

 

 ……わたし達って、沢山の人に支えられているんだなぁ……でも装者のみんなとはリアルスマッシュブラザーズだ。

 

 

****

 

 

 なんとか筏で渡海は成功。装者じゃなかったら心が折れていたかもしれないけど、まぁそこはわたし達。苦戦こそしたけどなんとかなった。案外本島も近かったからね。数分海に向かって漕いだら本島見えたし。

 で、本島に着いたわたし達だったんだけど……

 

「……え? ここって」

「青森……だな」

 

 青森県でした。

 ……え? なんで青森? 沖縄じゃないの? てっきり沖縄に着いたらそこからは飛行機で……って思ってたんだけど。……ん? 本島?

 あっ。

 

「……本島本島言っているから沖縄なんて着く訳ないじゃないですか」

「あっ……」

「はい。という訳でここからは歩いてリディアンまで帰ってもらいます」

 

 とかなんとか話していたら緒川さんが沸いてきていきなりこれからの事を説明してきた。

 え? 歩いて? 歩いてリディアンまで? 嘘でしょ? 流石にそんな訓練したこと無いからキツいんだけど。いや、やるしかない。やらないとお家に帰れない……!!

 そうしてわたしと翼さんによる、十二日間にも及ぶ徒歩帰宅が開始されたのだった。

 ……つらっ。

 

 

****

 

 

 道中。それはそれは辛かった。

 女の子だからって理由で道中にある温泉には一日一回入らせてもらえたんだけど、それ以外は基本的に野宿。テント張れる所は自分たちで張って、無かったら野宿。緒川さんが居るから安全面だけは完璧だったからそこら辺の心配は一切しなかったんだけど、お腹が空いたら無人島から持ってきた魚の干物だったり、わたし達のファンの人からの差し入れを食べたり。お金なんて一切ない物だから、一回山の中に入って野草取ってきたし。

 途中からどうしてこんなことを……って思って思考が虚無に陥ったけど、なんとか回復したり。そんな事が多々あって。

 

「やっと着いた……」

 

 やっとこさ見慣れた街並みに突入して、クラスメイトの人とかとすれ違ってビックリされて。そして最終的にはようやくリディアンの周囲百メートル付近にまで到着した。

 疲れた。本当に疲れた。装者の中ではトップクラスに体力のある翼さんですら木の棒を杖にして歩いているんだもん。わたしも木の棒を杖にしてるし、足の感覚がもう無い。何が悲しくて青森からここまで歩いてこなくちゃいけないんだろう……家に戻ったらケーキ食べたい。

 

「全くだ……まさか本当に着いたと思ったら青森とはな。沖縄関係ないではないか……」

 

 本当にそれです。

 沖縄とは真逆の所に連れていかれるなんて思いもしませんでしたよ……一応お土産とかは緒川さんが買ってくれたみたいだけども。時々翼さんと夜ご飯をかけたゲームをして勝ったらご当地の食べ物食べれたから全部が全部悪い事だったとは言えないけどさ。

 

「服とかは緒川さんが用意してくれましたけど、食料とかは自分たちで採ってましたからね……本当に地獄かと……ん?」

 

 やっとリディアンの校門が見えた、と思ったら校門に誰かいる。

 あれは……装者のみんなとエルフナイン? まさか出迎えに来て……んっ?

 みんなが手にもっている物……看板? なんか大きく文字が……ドッキリ大成功ぅ?

 ……へぇ、人の気も知らずにそんな番組の備品みたいな看板もって待ってたんだ。わたし達が青森付近の無人島に流されてあんな大変な思いして帰ってきたのに……みんな呑気にベッドで寝て美味しいご飯食べてテレビ見て笑ってたんだぁ……

 へぇ……

 

「人の気も知らないで……」

「呑気に待っていたとはなぁ……」

 

 チラッと翼さんの方を見た。今までに見た事ないような表情浮かべているし額に青筋浮かんでる。多分わたしも同じ。

 そんな事思っていると翼さんと目が合った。

 ……うん、殺りましょう。処しましょう。その権利がわたし達にはあります。

 

『……ぶっ殺す』

 

 アイドル? そんなの知らない。

 今のわたしはこのイライラとモヤモヤをぶつけて発散したい阿修羅すら凌駕した存在!!

 

「あ、二人ともお帰り……あれ? なんでそんな見た事もない表情を浮かべながら走って――」

『ぶっ殺してやる!! 覚悟ッ!!』

「し、調と翼さんが豹変したデスゥ!!?」

「ちょ、全員で抑えるぞ!!」

 

 このあと滅茶苦茶リアルスマッシュブラザーズした。




こんな感じでバラドルもびっくりな事して帰ってきた二人でしたとさ。

なんかここの人たち、みんな無人島にトラウマ持ってるみたいだからギャグで上塗りしてみたよ!!(いらない親切)

さて、次回はどうしましょうか。アイドル時空か声優時空か実況時空辺りで何か書くか……

できれば早く更新したいものです。ちなみに今回筆が早かった理由は体属性とか知属性のマルチバトル無理ゲー過ぎて気分転換していたからだったりグラブルで武器全然落ちなかったりしたから。星4知調ちゃん限界突破したいのに素材集まらないんよ……ついでにティア銃落ちない……


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月読調の華麗なる闇鍋

唐突ですけど私、デレマスでよしのんPと日菜子Pやってるんですよ。それで担当に声付いたんですよ。夜中に感嘆の息を思いっきり吐いて叫びたい衝動抑える位には嬉しいです

まぁそんな私事はさておき、今回は自分の友人達に案を出してもらった闇鍋回です。全部の食材について書ききれなかったのが悔やまれますが……とりあえずどうぞ。

あ、ちょっと汚いです。


 暗闇の中、マトモに物を見る事すらできない蝋燭の僅かな光に照らされてる鍋が見える。

 その鍋の中はよく見えないけど……ただ、思いっきり感じる異臭とすら言えてしまう物がわたし達の部屋の中を漂っている。それを囲むのはわたし達六人のいつもの装者組に加えて未来さんとエルフナインの八人。その全員がその鍋の方をなるべく見ないようにしている。響さんまで、だ。

 この惨状を生み出した原因。それは、エルフナインが提案した事だった。

 とある日。エルフナインは装者&未来さん&エルフナインのグループの中でこんな発言をした。

 

『ちょっとやりたい事があるので皆さんで二個ずつ食品を持ち合いませんか?』

 

 やりたい事。それがよくわからなかったけど、エルフナインがこういうプライベートな誘いをしてくるのはかなり珍しかったし、わたし達も暇していたこともあってそれを了承。次の全員の休みが重なる日にわたし達の部屋でそれを行う事を決めた。

 ただ、何をするのかが分からなかった。何を持っていけばと聞いても何でも大丈夫、という物だから……こうね。真面目に何にでも使えるような食品を選んできた人も居ればお菓子を選んできた人、それ以外にも色々なものを持ってきた人がいた。少なくとも、わたしが持ってきた物は多分……うん。

 最終兵器になる。

 

「それでは……闇鍋を始めたいと思います……」

 

 エルフナインが口を開いた。

 そう、今からやるのは闇の中で闇の食材を突っ込んで食べる闇鍋。闇鍋なのだ。

 ……あのね、実は全員一個は溶けるような物を持ってきていたらしくて、一人一周しかしないんだけど……その、実はその前に一個事件が起こった。それは、切ちゃんがわざわざ買ってきた……というかこの間任務で外国に行ったときに買ってきた物。

 

「ね、ねぇ、エルフナインちゃん……シュールストレミングの臭いがまだ残ってるんだけど……」

 

 そう。シュールストレミング。最早最終兵器を超えた終末兵器を切ちゃんは持ってきて、それを開けた。

 結果、この部屋の中には今シュールストレミングのトンデモない悪臭がこびりついている。その中での闇鍋。もう嫌な予感しかしないし、非常識集団装者が持ってきた物だから絶対にロクな事が起こらないと思うの。現にシュールストレミングのせいでトンデモない目にあったし。クリス先輩吐きかけたし。紛争地帯経験者でも駄目だったようです。

 一応シュールストレミングは五重くらいの袋の中に入れて封印したけど、多分この闇鍋はそれ以上のヤバさがある。特にわたしが入れたもの。多分それを食べた人は死ぬ。

 

「……それではいきましょう!」

 

 響さんの言葉を無視してエルフナインが闇鍋の開催を口にした。

 それに対して盛り上がるような言葉を口にする人はいなかった。だって、わたしもそうだけどここに居るほぼ全員が鍋に入れたら溶けるような物を入れているんだから。そんな煮汁をたっぷりと吸った食材を食べるなんて、想像もしたくないんだよ……

 ちなみに。わたしは最終兵器とイチゴジャム。はい。一個溶けてます。今あの煮汁にはイチゴジャムが……おえっ。

 それをたっぷりと吸った最終兵器なんて口にしたくないです。

 

「じゃあまずはボクからいきますね!!」

 

 言い出しっぺの法則とは誰が言ったのか。エルフナインが勇気を出して菜箸を鍋の中に突っ込んで食材を探す。

 ……あの、菜箸を入れた時の音がぽちゃっ。じゃなくてべちゃっ。だったんだけど。一体何が入ってるのこれ。本当に人が食べられる物なんだよね?

 エルフナインはそのまま何かを取り出すと、それを自分の小皿に……うっ、異臭が……

 

「いやー、一度でいいからヤミナベという物をやってみたかったんですよいただきます!!」

 

 なんか遺言みたいにエルフナインがそんな事を口にして小皿に取った物を食べた。

 バリッ、バキッ、と音を立てて……え?

 え? 待って。それ何? 甲殻類そのまま? 一体何を食べたのエルフナイン。

 とりあえず、今回の闇鍋は食品を一口でも食べた後は一度鍋に蓋をして電気を付けて食品を確認する事が許されている。そしてエルフナインはすぐに鍋に蓋をして電気をつけた。

 エルフナインが口にしていたのは……

 

「……え? ちょ、それ何!?」

「ね、ねぇ、それもしかして……」

 

 あ、あの……なんか甲殻類殻ごとよりも遥かにヤバイ物が……

 

「た、タガメッ!!?」

 

 虫!!? 虫だよねアレ!!? ちょ、冗談でしょなんでそんなものを持ってきた人が居るの常識的に考えてそういうの持ってこないでしょ!!? わたし達女の子だよ!? どこぞの部族の人じゃないんだよ!!?

 

「……………………おえっ」

 

 当事者エルフナインはタガメを咥えたままそのまま倒れてしまった。

 ……う、うわぁ。流石にこれは……先にとんでもない物が消費されてよかったと言うべきかエルフナイン可哀想と言うべきか……そういえばタガメって美味しいんだっけ。味は多少は良かったと思うんだけど……その、闇鍋でそんなの食べたら流石にショックが……

 

「……だ、誰よ、こんなの持ってきたの」

 

 そっと未来さんが目を逸らした。

 マジですか……どうしてそんな物を。

 

「そ、その……ちゃんと食べたら美味しいって聞いたから。みんなを驚かせるのも含めていいかなって……」

 

 いや、持ってきたところできっと誰も食べませんでしたよ。

 っていうか改めてエルフナインを見ると……なんというか、悲惨。タガメを咥えた状態で白目剥いて倒れる美少女なんて。もう衝撃的すぎるよね。とりあえずタガメは……菜箸で回収してそっとエルフナインの小皿に戻しておこう。昆虫食は心の準備がいるからね……

 

「……つ、次行こう!」

 

 そして響さんが闇鍋続行を口にした。

 いや……この惨状で?

 

「だって……食材無駄にするわけにも……」

 

 ……ですよね。

 折角買ってきたんですし、食べずに捨てるなんて以ての外ですから食べるしかないですよね。わたしの最終兵器を食べたら絶対に死体ができあがるけど。

 さて、次は……

 

「で、では。不承不承ながら私が行かせてもらおう」

 

 翼さん! 第二の人柱になってくれるんですね翼さん!!

 翼さんは電気を消して菜箸を手に取るとそのまま鍋の中にソレを突っ込んだ。やっぱりべちゃって言ってる……本当にあの中にはどんな物が溶けているんだろう。気になるけど……食べたくはない。絶対に。何があっても食べたくない。

 菜箸が鍋の中から引き抜かれてそっと小皿の上に物を乗せた。

 

「小さい物なら大丈夫だとは思うが……南無三!!」

 

 あ、食べた。

 でもタガメの時みたいな音はしない……っていうことは至極マトモな食べ物だったのかな? とりあえず翼さん。一体何を食べたんですか?

 

「なんだろうな……小さいながらもクリーミーというか。口に入った瞬間は吐きそうになったが中の味は普通だな」

 

 え? クリーミー?

 ……なんなんだろう。小さくてクリーミーなんて想像もできないんだけど。一体何が。っていうか誰が持ってきた物なんだろう。一応電気は付けてみたけど、もう小皿の上には何も残っていない。まぁ小さい物一つだけだったらしいし、なくなるよね。

 で、心当たりのある人は……

 

「生臭かったとかは?」

「無かったな」

 

 マリアがそれを聞いてなら違う。と口にした。

 そして切ちゃんが小さくあっ。と口にした。え? もしかして切ちゃんの?

 

「あ、あの……多分デスけど」

「ん? これは暁の物か。一体何を……」

「は、蜂の幼虫をデスね……偶々見かけたので持ってきたんデスよ」

 

 あっ……

 つ、つまり……今翼さんの食べた小さくてクリーミーな物って……つまりまた昆虫な訳で。

 

「……――――」

 

 翼さんが無言で倒れた。

 美味しかったんだろうけど……虫を食べたっていう事実が心に直撃したんだろうね。うら若き乙女に昆虫食なんて物。しかも心の準備ができていない状態でしちゃったらそりゃ倒れるよ。

 とりあえず翼さんはエルフナインと並べて部屋の端に転がしておこう。南無。

 ……さて、次は。

 

『…………』

 

 ……誰も動かない。

 まぁ、確かに現状撃墜率百パーセントだからね。誰も手なんて付けたくないよ。というか何でそんなに昆虫入ってるの。何で昆虫を持ってこようと思ったの。普通に並べられても食べたくないよ。

 うーん……現状、二つ食べられたけどわたしの最終兵器はまだ出ていない。でも、このまま待っているともしかしたらわたしが最終兵器を食べてしまう可能性がある。そう考えるとなるべく先に食べておいた方が。

 

「……わたしが行きます」

 

 だって、翼さんは口に入った瞬間吐きたくなったと言った。そんな煮汁に入った最終兵器を食べてしまったら絶対に吐く。口から女子力が垂れ流しになる。

 それだけは避けないと。何があっても避けないといけない。響さん辺りに押し付けないと!!

 菜箸を手に電気を消して……。どれを……どれにしようか……うえっ、なんか凄い感触が……あまりかき回したくないなぁ。あ、なんか巻き付いてきた。これにしよ。

 

「決めました」

 

 なんか……大きい。なんだろうこれ。思いっきり汁垂れてるけど……

 とりあえず汁だけきって……

 

「いただきます!」

 

 南無三!

 ……う゛っ!?

 

「う゛ぉぇっ!?」

 

 まずっ!? くさっ!? しかも苦いし辛い!? っていうか辛いの度が明らかにタバスコとか超えて口の中から食道まで痛いんだけど!? なにこれ!? なにこの汁!? 一体何を入れたの!? みんな何を入れたらこうなるの!?

 味がレインボーなんだけど……味がレインボー状態なんだけど……味覚で感じられる物全部感じている感覚なんだけど。でも飲み込めない事はない。というかこれ、普通に……

 

「お肉ですね……それも結構いいやつ……」

「そういえば翼さんが和牛を持ってきたって言っていたような……」

 

 わ、和牛!? そ、そんな良い物をこんな溝みたいな物に……確かにそれなら食べただけで結構いいお肉って分かるはずだよ。

 でも汁が壊滅的にマズくてそれだけで吐きそうになった。なんとか飲み込んだけど汁だけで十分に吐きたくなるよ。翼さんはよくこの汁を纏った蜂の子食べて平然としていられたね。

 ふぅ……なんとか落ち着いた。

 

「さぁ、次どうぞ」

「い、一応耐えられる物は入っているのな。なら次はアタシが行く」

 

 おっ、クリス先輩。さぁさぁ、菜箸どうぞ。

 

「うっ……すっげぇ臭いだな……これでいいや」

 

 菜箸を持ったクリス先輩が何かを鍋から取り出した。

 ……ん? あの形……一瞬蝋燭に照らされて見えたあの円状の物……あっ。

 クリス先輩。骨は拾います。

 

「ちまちま食っても辛いだけだからな。一気にいってやるぜ!!」

 

 一気に逝くんですね。分かります。

 そしてクリス先輩がそれを一気に全部頬張って……あーあ。わたし知らない。

 蝋燭で照らされるクリス先輩の顔色が面白いように変わっていく。青になったり……え? 緑? だったり白だったり土色だったり。

 

「……パパ、ママ。今そっちに――――」

「あっ、クリス先輩が死んだデス!!」

「この人でなし!!」

 

 クリス先輩、撃沈。

 一応鍋の蓋を閉じて確認すると……やっぱり。

 

「もしかしてこれ、お麩!? こんなの誰でも撃沈するよ!!」

「あ、持ってきたのわたしです」

「何も知らなかったとはいえ……こんな最終兵器が眠っているなんて……」

 

 そう。麩はわたしが持ってきた物。

 なんかこう、適当に麩でも持っていけば大丈夫かなって思ったんだけど、まさかそれが最終兵器に転ずるなんてね。思ってもいなかったよ。っていうか、クリス先輩よくリバースしなかったなぁ……わたしなら絶対にリバースした後そのまま気絶していたよ。

 とりあえずクリス先輩も部屋の端に転がしておいて……さて。

 

「次どうぞ」

「いや、流石にこの状況で箸持ちたくないよ……」

 

 いや、最低一人一回はやりましょうよ。わたしもやったんですから。

 

「ぐっ……ならここは最年長として私が行くわ! 箸を寄越しなさい!!」

 

 流石マリア。さ、どうぞ。

 

「これは適合率が下がるわね……」

 

 そういえばマリアって美味しい物食べるとちょっとだけだけど適合率上がるんだっけ。気の持ちようなのかは分からないけど、確かにこんなゲロそのものみたいな物食べたら適合率ダダ下がりだよね。わたしも結構後味悪いしダメージが凄いもん……今すぐ水飲みたい。

 

「よし、これにするわ!」

 

 そう言ってマリアは何かを取り出した。

 あれは……なんだろう。よく見えないや。そしてマリアはそれを食べて……

 

「くさっ!? げふごふっおえっ!!?」

 

 あ、マリアがトイレに走っていった……

 臭いって言ってたけど……そんな臭いが強烈な物って何か入れたっけ。シュールストレミングはもう隔離しておいたけど……何食べたんだろう。

 とりあえず電気を付けて……あっ。

 

「く、くさや、かな?」

「それが煮汁を大量に纏ってとんでもない事になったんだね」

 

 うん。この汁、元からとんでもない臭いするからね。それを元から臭い物と一緒に口にしてしまったらそりゃ吐きたくもなるよ。くさや、普通に食べれば美味しいんだけどなぁ……まぁ仕方ないか。

 さて。次は誰が犠牲になるのかな。

 さぁ、誰かこの菜箸を……

 

「よし、じゃあわたしが行くね」

 

 声を出したのは未来さんだった。そのまま未来さんは菜箸を手に取って鍋の中を漁り、具材を一つ取り出した。

 

「すごい臭い……こんな時じゃなかったら逃げてるよ……」

 

 まぁ……約四人ほど退場者を叩き出している闇鍋ですからね。マリア、まだ帰ってこないし……とりあえず後で様子だけ見てこよう。

 とかなんとか思っている間に未来さんが取った物をパクリ。

 

「ごほっかはっ!? さ、流石にザ・ソース入りだから辛い……!!」

 

 え? ザ・ソース? なんだろうそれ。後で調べてみよう。

 でも未来さんは大ダメージは負ったけど戦闘不能という訳ではないみたいで、時々体が拒否するのかえずきながらもなんとか取った物を食べ終えた。おぉ……流石未来さん。

 で、食べたものは一体何だったんですか?

 

「お肉だったよ。多分クリスが持ってきたイノシシ肉じゃないかな」

「い、イノシシ肉? あの人、結構な物を持ってきたんですね……」

 

 イノシシ肉なんて今日日食べられないのに……

 でも、これで何とか生存者は二人に増えた。わたしと未来さん。満身創痍ではあるけどなんとか食べる事はできた。さて、あとは……響さんと切ちゃんの二人。二人は果たして生き残れるのかな。とりあえず菜箸を置いて観戦だけしておこう。耐えたら後は見るだけ。

 

「……切歌ちゃん。ここは二人で一緒に逝こう。二人でなら怖くないよ!!」

「そ、そうデスね! 赤信号もみんなで渡れば怖くないデスし!!」

 

 いや、赤信号はみんなと一緒でも止めよう? 大怪我しちゃうからね。

 そんなどうでもいい事を考えている間に響さんと切ちゃんは鍋の中を漁って具材を取り出していた。あれは……なんだろう。

 

『せーのっ!! …………おえっ!!?』

 

 切ちゃんと響さんが同時に食べてまたえずいた。けど何とか倒れはしなかったようで飲み込むまではできたみたい。何を食べたんだろう……?

 

「た、多分アタシの持ってきたふきのとうと……」

「食用のバラ、だね……自分の持ってきた物だったからよかった……」

 

 そういえば切ちゃん、シュールストレミングが駄目になってから一回買い物に行っていたっけ。その時にふきのとう買ってきたのかな。

 そして響さん……いったいどこにそんなの売ってたんですか。というか存在したんですか、そんな物。

 まぁでも。これで一周し終わった。主に汁のせいでダメージが結構ヤバかったけど、まぁなんとか……

 

「じゃあ次。調ちゃんね」

 

 ……え?

 

「二週目デスよ。ほら、まだ具材はまだ残っているんデスし」

 

 いや、ちょ。

 

「ここからはサドンデスだよ。どうせなら取ってあげようか?」

 

 ちょまっ。

 

「これなんていいんじゃないかな。ほら、あーん」

「ちょ、いや、まっむごっ!!?」

 

 無理矢理食べさせられて口の中にレインボーな――――

 

 

****

 

 

 ……調ちゃんが白目剥いて気絶した。

 ふざけて二週目とかやってみたら大惨事だよ。

 

「……これなんだと思う?」

「フランスパン……デスかね。たっぷりと汁を吸った……」

「お麩並みに凶悪な物だったね」

 

 ……うん、二週目は止めよう。多分これ、最終的に全員倒れるやつだから。

 でも残ったやつはどうしよう。一応わたし達も具材一つ食べたんだからどれだけこの鍋が凶悪な物かっていうのは誰よりも分かってる。分かってるけど……このまま捨てるのは流石に許されない。一体どうしたら……

 

「……ねぇ、響。こんな言葉知ってる?」

 

 とか思ってたら未来が話しかけてきた。

 ……え? 何その真っ黒な笑顔。

 

「どんなマズい食べ物でもね、カレーと混ぜたら食べられるんだって」

 

 確かに聞いた事はあるけど……え? 嘘だよね? 本気? 本気でこのゲロみたいな鍋をカレーにして食べるつもり? もうゲロを通り越してゲロガ、ゲロジャレベルだよ? 最上位レベルだよ?

 

「でも、これを残すなんてできないデス。そんな事したら勿体ないお化けが出てくるデスよ……!!」

「そういう訳で……響。三人で逝こう?」

 

 あ、あははは……

 多分これ、わたし達のダメージが一番大きいんじゃないかなぁ……!!

 

 

****

 

 

 その後のお話だけど。

 どうやら未来さんと響さん、それから切ちゃんの生存組が鍋をそのままカレーに混ぜて完食したらしい。けど、数回吐いたとかなんとか。ちなみにその時トイレで気絶しているマリアを発見したとも。

 でも、三人の頑張りもあって何とか鍋は完食。闇鍋は葬り去られた……けど、全員次の日に体を壊して学校を休んだり仕事を休んで療養してしまった。大人の皆さんには呆れられたけど、ほどほどにしておけとだけ言われて休むことをなんとか許された。多分もうしないので安心してください。

 ちなみに、持ってこられた食材は後から判明したんだけど……チョコ、グミ、キャビア、麩、くさや、マーマイト、シュールストレミング、蜂の子、タガメ、イノシシ肉、和牛、ザ・ソース、ナンプラー、ふきのとう、薔薇、ジャム、フランスパンだったらしい。そりゃレインボーな味のとんでもない鍋が完成するよね……しかも何気に高級食材混ざってるし、半分近く溶けてるし。

 で、ザ・ソースって結局なんだったの?




以上、闇鍋回でした。食材案を出してくれた友人達には感謝。なんかマンドラゴラとかバラムツとか靴下とか革靴とかを途中で出してきやがりましたが、なんとか八人分の食材は埋まりました。全体的に生臭いし麩の最終兵器感が……

っていうかザ・ソースだけで味が崩れそうな感じはしたのですが、まぁ自分がザ・ソースを使った食べ物食べたこと無いんで空気は薄めです。

次回は未定ですが……少なくとも今回みたいなちょっと汚い感じの話にはなりませんのでお楽しみに。


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月読調の華麗なる天才化

さぁ、今回は皆さんお待ちかねの! この作品の代名詞とも言えるあの世界線の続きです! 友人にネタ出ししてもらってからかなりの時間が経ってしまいましたが、ようやく書き終える事ができました!!

それでは、あのシーンでは皆さんご一緒に叫びましょう! ではどうぞ!!


 どうも、頭から変な音が鳴るようになった月読調です。

 入れ替わりが起きてから暫くが経ったけど、あれから頭をどこかにぶつけたりぶつけられたりする事はなく、わたしは特に何の事件もない平和な時間を過ごしています。それこそ、シンフォギアでの災害救助とかはあったり錬金術師とのちょっとしたいざこざはあるけどね。

 切ちゃんのお尻にも最近は何も刺さってないし。切痔なんてもう過去の遺物。あれから唯一変わったのはわたしの頭から何かカラカラと音がするくらいで。多分その音も命に別状は無いハズだし放っておいてもいいよね。

 で。今日は翼さんとお出かけ予定。なんでも、ご近所でやる世界の名刀博物館って物に行きたいらしくて。でも一人だと、ファンの人にバレたりとかしたら対処しきれないからボディーガード的な物の仕事も含めて一緒についてきてほしいと。で、それを了承したのがわたし。

 緒川さんと行けばいいんじゃ、と誰かが聞いたけど、緒川さんは最近結構忙しいらしくて手が空けられないらしい。それこそ翼さんに問題が起きればすぐに駆け付けてくれるだろうけども。

 

「すまない、月読。待たせたか?」

「あ、翼さん。いえ、今さっききたばかりですよ」

 

 とか思ってたら、既に待ち合わせ場所で待っていたわたしを見つけた翼さんが走り寄ってきた。翼さんは、常日頃から会っている人ならすぐに分かるけど、そうじゃない人なら他人の空似程度にしか思わないような絶妙な感じの変装をしている。やっぱり有名人だから、ちゃんと変装しないと大変な事になるからね。

 待ち合わせ場所は、会場から少し離れた建物の前。そこそこ待ち合わせスポットとしては有名な場所だから、そこそこ周りに人がいる。けど、誰も翼さんに気が付いていないのを見ると、翼さんの変装技術は相当だって分かる。忍者が身近にいるからかな。

 

「では行くか。あまりここに居ても仕方ないからな」

「そうですね。そこそこ人も並んでいるみたいですし行っちゃいましょうか」

 

 翼さんが来るまでの二分くらいでわたしはちょっと情報を集めていたんだけど、なんか今回の博物館はそこそこの人が来ているらしい。なんでも、今日展示される刀はどこかのゲームでも出てきた刀らしいから、そこから興味が転じたって人がいるみたい。ちなみに、翼さんは人がそこそこ居るって聞いてちょっと嬉しそう。やっぱり趣味……なのかな? それに近い物のいい所を沢山の人に知ってもらえるのは気分がいいみたい。

 いつにもなく上機嫌な翼さんにつられてわたしもちょっと機嫌がよくなる。刀……というか刀剣の類に関してはちょっといい思い出ないけど……主に切ちゃんのお尻関連でね。だけど、折角だし楽しまないと。真剣なんてそうそう見る機会ないわけだし。

 

「ふむ。会場前というのにそこそこ並んでいるな」

「にしては嬉しそうですね」

「そ、そうか?」

 

 照れ照れと頬を掻く翼さん。こういう可愛らしい感じの翼さんを見ていると、なんとなくマリアが時々可愛いって言っているの分かる気がする。

 でも何でだろう。いきなり嫌な予感を感じたのは……

 

「今回展示されるのはかの刀匠村正が……ん? 月読、後ろだ!!」

「へ?」

 

 意気揚々と語り出した翼さんだったけど、いきなりわたしの後ろを見て声を上げた。一体何が……

 えっ。

 

「ちょ、どうしてここにワンちゃ――」

 

 振り返ると、そこには大きなワンちゃんが。

 わたしの体の半分以上はあるワンちゃんがわたしに飛びかかって、そのままわたしを押したおして……

 

「にゃあん!!?」

 

 あ、頭がぁ……がくっ。

 

 

****

 

 

 あぁ、まただ。月読がまた頭を打って医務室送りになった。

 今回は大型犬にいきなり押し倒された拍子に頭を打った形になる。私がついていながらこの有様……防人の名が泣いてしまう!

 

「とか言いながら逃げようとしないでくださいよ先輩」

 

 だって絶対に私達を巻き込む何かが起こるだろうが。それが分かっているのに医務室に居られるか! 私は一足先にマリアが待っているアメリカに飛ばせてもらうぞ!!

 

「防人防人言うんなら責任取って残れよ。おい、マジで逃げんな先輩」

 

 逃げようとしたら雪音に腕をガッチリと掴まれて逃げられなくなった。くっ、やはり私もここに残っていきさつを見届けなければならぬのか……変にマリアに情報が行けば絶対に私と雪音がマリアの相手をする事になる。XDマリアの相手をした装者は絶対入院している現状、なるべくここから逃げ出したいのだが。

 というか責任とは言っても私関係なくないか? 今回の犯人は犬だぞ? しかもそれに押し倒されて頭を打つなんて誰が想像できる? だから私も逃げていいだろう。

 

「だとしても当事者として残れっての」

 

 う、うむ……そうなるな……

 こういう役回りは私ではなく雪音や立花の物だろう。私はこういう時はいつも時間が合わないから、もうすぐ仕事だからと言って逃げ出せるような人間なのに、まさかこうして雪音につかまってしまうとはなぁ。

 月読が何事もなく起きてくれれば私も残りの休日を日本で暮らす事ができるのだが……もしも何かあれば、最悪の場合は入院したままこの休暇を消化してしまう事になる。それだけはどうにかして避けたい所ではあるのだが……前回のように一週間くらい長続きするのであれば私も悔しがって高跳びできるのだが……

 

「う、うぅん……」

「むっ、気が付いたようだな」

「みたいっすね。さて、今回は何が起こるやら……」

 

 できれば何も無い事が好ましいのだが……

 正直怖いな。私は月読が頭を打って何かしらの事件を巻き起こした際は基本的に当事者ではなく海外に行っているか気が付いたら終わっていたからな。こうして何かしらの症状を起こしている月読を見るのは、雪音と入れ替わっているのと今回ので二回目だ。

 

「ここは……あれ? クリス先輩に翼さん?」

「そ、そうだ月読。調子はどうだ?」

 

 会話下手か、私。いや、会話下手だった。

 

「えっと、わたし……大きなワンちゃんに突撃されて頭を打って……」

「お、覚えているのか。特に性格も変わった様子もないし幼児退行しているようにも見えない……」

「ついでに入れ替わっている感じもないっすね……これは頭を打ったら問題を起こす非常識人間卒業か……?」

 

 それならどれだけ良い事か……とりあえずはエルフナインを呼ぼう。雪音、頼んだ。

 

「うっす。んじゃ呼んできます」

 

 頼んだ。

 さて……月読。何か問題はないか?

 

「問題、ですか? 特に何もですね。強いて言うなら、頭から聞こえてた音が聞こえなくなっただけですね」

 

 あ、頭から……? それは前回も言っていたが冗談だったのでは……

 いや、何も言うまい。もし本当なら月読の頭のネジ的な物が今まで外れていたという事になる。いや、聞こえなくなったのならどこかにハマったという事なのでは……?

 考えるのは止めよう。人体って凄いとだけ思っておけば差し支えないだろう。ないようにしてくれ。

 

「そ、そうか……だが、何も無いのならよかった。何かあれば皆が心配するからな」

「あ、あはは……これからはワンちゃんにも気を付けますね」

 

 そうしてくれとは言いたいが、流石に今回みたいな事はそうそうないだろう。気に留めておく程度にしておいてくれ。

 さて。そろそろエルフナインを呼びに行った雪音が戻ってくるはずだが……どうだ?

 

「先輩、戻りましたよ~」

 

 うむ、丁度戻ってきたな。

 エルフナインは……なんだ? ノートパソコンで尻を抑えながら歩いているが……もしかしてもう何か刺さったのか……?

 

「いえ、刺さるかもと思って事前に防御を……」

 

 あぁ……経験者は語るというやつか。

 私達とて今まで経験が無かったからと油断はできぬな。後で緒川さんにズボンの裏に鉄板でも仕込んでもらおうか。いや、シンフォギアの攻撃力が加わるとなると鉄板のせいで余計に大きな傷を負う可能性も……いや、これについては後でにしよう。とりあえず暁への見舞いの品だけを考えておこう。

 

「それで調さん。調子はどうですか? 何か異常は自覚できますか?」

「異常は特にないけど……強いて言うなら、頭がスッキリした感じかなぁ。なんでだろう?」

 

 頭がスッキリした?

 それはまさか記憶が幾分か飛んでいるのでは……いや、それだったら月読も自覚する事だろう。なんやかんやで濃い日々を送ってきた一人だ。どこかの記憶が飛んでいればすぐに気が付く物だ。

 だが、頭がスッキリしただけ……というのなら、特に問題が無いのではないか? 

 

「そうですね……とりあえず、ボクの研究室に来てください。そこで色々と調査をしましょう」

「エルフナインの研究室でか? メディカルルームの方が設備は整ってんじゃねぇのか?」

「ボクの研究室には、過去の経験や観測データから元に作り出した装置が幾つかあるんです。何かしら人格や記憶といった頭の異常がある際、それを観測するための装置もこの間作りました」

 

 なに? そんな便利なものがあるのか……

 では何故先に医務室に運んできたのだ?

 

「やはり頭の怪我ですと、精密検査が必要ですから。ボクの装置を使う前に外傷はチェックしないといけないんですよ」

 

 そうか……錬金術とて怪我を全て治せるわけではないからな。そこは科学の出番、ということか。

 考える事が早計だったな。考えを改めねば。

 エルフナインに一言謝り謙遜を返された後、私達はエルフナインの研究室に向かう事になった。その際月読は周りを見渡していたが……何か気になる物でもあっただろうか? 少なくとも私にはいつもと同じ光景にしか見えないが。聞いてみても月読自身よく分からないらしく、首を傾げるだけ。

 うぅむ……明らかに月読の様子がおかしいと思うのは私だけだろうか? エルフナインや雪音は今までのインパクトのせいでこの違和感に気が付けていないのでは……いや、経験者たる二人を疑う訳にもいくまい。私はいざという時エルフナインの尻を守る役目を果たそう。

 

「ここです。じゃあ皆さんは適当にくつろいでいてください」

 

 研究室に着くと、エルフナインは散らかっている机の上を漁り始めた。

 くつろげと言われても……二人が座るので手一杯なソファが一つしか置いていないな。元より人を招くことは少ないのだろう。仕方ないと言えば仕方ないが……

 年頃の女子としてこの部屋はどうしたものか……研究室とは言え、もう少し私物が置いてあっても良いのではないだろうか。適当に本棚の文献を手に取ってみるが、中は小難しい理論が書かれた本のみ。小説や伝記といった物は一切存在しない。

 これは……叔父様も私物を置く程度なら許可しているだろうに、ここまで研究の邪魔になるような物を置かないとは。エルフナインは仕事熱心というか、ワーカーホリックだな。その内倒れたり発狂しなければいいのだが。

 

「あ、ありました。調さん、このヘッドギアを被ってください。後はボクの方で調べますから」

「うん。えっと……こうだね」

「え? あ、はい。結構複雑なのによくわかりましたね……説明する気だったんですけど」

 

 月読は幾つものパーツがひしめき合っている被り物を何も言わずに完璧にかぶって見せた。

 うむ……なにやら色々な電極やらロックやらでそう簡単にかぶることはできないようなデザインなのだが……よく月読は一目見るだけで分かったな。

 

「では後は……あ、あれ? 起動しない……どうしてだろう? 電源はちゃんとしていて、接続もできていて、本体の電源も入っていて……あ、プログラムでエラー!? もしかして未完成のまま保存してしまってそのまま……!?」

 

 とか思っていたらどうやら問題が発生したようだ。思わず私と雪音、そして月読がエルフナインのパソコンを覗くが……なんだこれは。

 英語が変な改行やらカギカッコやら何やらで並んでいて……これは人間が読むものなのか!? エルフナインはこれを全部理解しているのか!? ダメだ、見ているだけで頭が痛くなってくる……エルフナインはこんな物と四六時中睨めっこしているのだな……

 

「うぅ……どこでエラーを吐いているのか……」

「エルフナイン、その手前の行。誤字が入ってる。あと最後の方の書き方だと変な無限ループが発生して起動すらしないよ」

 

 ん?

 

「え? ……あ、ホントだ。誤字と……確かにここのプログラム、変にループしちゃってますね。えっと、修正して……って調さん、分かるんですか!? リディアンってC言語の勉強してましたっけ!?」

「C言語? してないけど……あ、あれ? なんでこんなこと分かるんだろう……?」

 

 いや、ちょっと待て。

 どうして分かるんだろうじゃなくてだな。それは私達が一番聞きたいのであって……ん?

 最初は幼児退行。次に記憶喪失。そして性格変化。入れ替わり。全部頭が関連している事が起きているとなると、もしかして今回月読に起こっているのは!?

 

「月読。1054×2972の答えは? 暗算で」

「3132488です。あ、あれ?」

「エルフナイン、答えは合っているのか?」

「ちょ、ちょっと待ってください! えっと……あ、合ってます……」

 

 間違いない。

 今回月読に起こった現象は!

 

「月読は頭を打ったことで天才になったのだ! 間違いない!!」

「うっそだろぉ!!?」

 

 

****

 

 

 月読が天才になった。その報はすぐにマリアを除いた月読が頭打った時用のグループに送られた。

 まさか頭を打つことがプラスになるとは思いもよらなかったのだろう。装者の皆……というか立花、暁、小日向はかなりオーバーな様子で驚いていた。

 それも無理のない事だ。今までマイナスに働いていた物がいきなりプラスに働いたのだ。信じられないかもしれないが、本当だ。現に月読は……

 

「LiNKERの持続時間、ここの成分をこうすると少し伸びるんじゃないかな?」

「確かに……でも、ここを弄ってしまうと毒性の物質が多くなってしまうんです。でも、これなら……これをこうすると」

「あ、じゃあここもこうしちゃえば……できた!」

「こ、これは凄いです! これでLiNKERの安全性を損なう事無く持続時間を十分も延長できました! ボクだけじゃこんな発想できませんでしたよ!」

 

 私と雪音がついて行けない会話を繰り広げながら何か作業をしている。

 どうやらウェル博士の残した体に優しいLiNKERの改良に成功したらしい。二人の天才によればこの程度数時間で終わってしまうのか……末恐ろしいな。

 

「じゃあ次はこの聖遺物の解析を手伝ってもらってもいいですか? ちょっと一人だと厳しい物がありまして……」

「うん、任せて。今のわたしはフィーネにだって追いつけるくらいだよ」

 

 それは割と洒落になっていないような気がするな……

 櫻井女史と今の月読、エルフナインのペアは果たしてどちらが上なのだろうか……いや、きっと櫻井女史なのだろう。あの人は本当に凄かったからな。比べてしまっては悪いが、エルフナインよりも技術力や知識ははるか上を行っていたと思う。

 というか月読は元フィーネの器だろうに……その方面でも結構洒落になっていないぞ。

 

「先輩、一応オッサンには報告してきたっす。暫くは好きにしてやれと」

 

 丁度その時、叔父様に事のいきさつを説明し終えた雪音が戻ってきた。そして叔父様の言葉は、好きにしてやれと……ふむ。

 

「好きに、か……では放っておくのが一番か?」

 

 叔父様の事だから、エルフナインを手伝った分の給金も出るだろう。タダ働きという訳でもなく、楽しんでいるのだから止めるのも無粋だろう。

 

「かもしんねーっす」

 

 どうやらそれは雪音も同じようだ。

 雪音は立ったまま腕を組んで私達に背中を向けてパソコンを叩く二人を見つめる。私も見つめるが……なにをやっているのかサッパリだ。とりあえず、物凄い勢いで画面が動いているのは分かる。

 

「一応、何かあった時のためにアタシはここにいますけど……先輩はどうします?」

「残ろう。緊急時の人手は多い方がいいだろう」

「なら適当に飲み物買ってきますわ。オーダーは?」

「緑茶で頼む」

 

 さて……月読とエルフナインは日付が変わるまでに作業を終える気はあるのだろうか……?

 

 

****

 

 

 結論から言おう。

 悪い予感は的中した。

 ワーカーホリックのエルフナインと天才化して今まで分からない事が全部分かるようになった弊害か、エルフナインと共にする作業が楽しくなってしまった月読は寝る時間を削って作業をし続けた。

 一日目は私達が寝てしまったことで気づけなかった。私達が寝た後に寝た物だと思い込んでいたからな。

 だが、二日目、三日目を過ぎると流石に分かってくる。二人は食事すら研究室の中で済ませて、薄気味悪い笑みを浮かべながらひたすらにパソコンと向き合っている。机の上にはカロリーメイトやらエナジードリンクやらが並び、いつの間にか紙の束や本の束が私達と月読達の間に壁を作ってしまう始末。無理矢理にでも止めたいのだが、紙の束を倒してしまうとまた何か問題が起こってしまいそうで手が出せない。叔父様達も自分たちの事で精一杯らしくこちらに来れない。

 

「あわわわ……ど、どうするデスか!? あたしの声も届かないデスよ!?」

 

 そのため急遽呼んできた暁に声をかけてもらったのだが、月読はそれにすら気が付かない。

 いかん……いかんぞ。このままでは割と本気で過労死の線が見えてきてしまう。それだけは防がなければ……!!

 

「もう強行突破しかねぇだろ!!」

「だがあの机には大量の小型聖遺物が置いてあるのだぞ!? 下手に爆発したらどうする!!」

「何もシンフォギアを使う訳じゃねぇんだ! この紙の束をあばばばばばばばば!!?」

 

 雪音が紙の束に触れた瞬間、紙の束から謎の電撃が放たれて雪音を襲った。

 なんだか雪音の骨が見えたような気がするが……それどころじゃない! なんか黒煙が上がってるぞ!?

 

「ゆ、雪音ぇ!?」

「クリス先輩!? 大丈夫デスか!?」

「し、しびれびれぇ……」

 

 い、一応無事なようだな……だがもう暫く雪音は立ち上がれないだろう。痙攣までしているからな。

 だが、こうなってしまうとどうするべきか……シンフォギアを使って強行突破しか……いや、そのせいで本部になにか甚大な被害が行ってしまう可能性すらある。もし聖遺物が無くなりでもしたらSONGの立場はとても危うい物になってしまう……

 こういう時、奏やマリア、立花ならどうする……!? 一体どうしたら……!?

 

「もうこうなったら被害も何も知らんデスよ! Zeios igalima raizen tron!」

 

 暁が聖詠を唄いイガリマを纏う……ま、待て暁! それで突撃した所でどうする気だ!?

 

「天才になってしまったからこんなことになってしまったんデス! もう一度この……適当な本の角で殴打すれば元に戻るはずデス!!」

「いや待て暁! それは死人が出るやつだ!! 鈍器で殴っているのと変わりないぞ!!?」

「そんな事知らんデス! 調を戻さない限りは!!」

「戻る前にお陀仏するから待て! 待つんだ暁ィ!!」

 

 私の制止も空しく、暁は紙の束を蹴散らし、電撃をシンフォギアで耐えながら突撃し、そのまま月読の後ろで本を上段に構えた。

 エルフナインは……寝ている? いや、気絶させられている? 何故? もしかして月読が無理矢理寝かせたのか……? いや、そんなことはどうでもいい! 暁を止めねば月読の命が割と本気で危ない!!

 

「やっとわかった……わたしが頭を打つと切ちゃんのお尻が切痔になるのは全部この世界を作った神……大本となる戦姫絶唱シンフォギアというコンテンツの中の一部、この二次元の世界を作った神に生み出されたこの世界でのおやくそ――」

「元に戻るデス、調ぇ!!」

「ごふっ!?」

 

 私がギアを展開する間もなく、暁は何か独り言を叫び出した月読の頭を暁が殴打し、ギアを解いた。

 月読はそれを躱す事はできず、そのままパソコンのキーボードに顔面と額をぶつけ、後頭部から血を流しながら気絶した。さ、流石にやりすぎだぞ……!?

 

「はぁ……はぁ……これで調は過労死なんてせずに――え?」

 

 その瞬間だった。

 月読がキーボードに頭を打った瞬間、何か変なプログラムが作動したらしく、電撃が走り壁のあちこちが爆発。その爆発は入口の方まで連鎖していき、扉そのものが爆発。左右に分割して稼働する扉は爆発によって吹き飛び、そのまま回転しながら暁の方へと飛んでいき――

 

 

 

 

 

 

「アッーーーーーーーーー!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 ……また切痔だな。

 天ノ逆鱗よりはマシだが……とりあえず、叔父様と救護班を呼んでこよう。今回は怪我人が多い……!!

 

 

****

 

 

 月読の怪我は思ったよりも大したことはなく、傷跡を縫う事もなく数日のうちに傷跡もなく塞がった。エルフナインも寝落ちしていただけらしく、特に健康に対する害は見当たらなかった。

 しかし、雪音と暁は違う。

 雪音は全身に高圧の電気を浴びたことで全身やけどだったり痺れだったりで一週間以上の入院。そして暁はいつもの切痔……なのだが、今回は刃物ではなく厚い鉄板とも言える物が突き刺さるという新たな領域に踏み込んでしまったせいか完治までに二週間以上を要する切痔となってしまった。

 切痔は二週間で完治する物なのだろうか……?

 とりあえず、深夜テンションとはいえ危険なものを作ってしまった月読とエルフナインは叔父様からちょっとしたお説教をくらったのだが……ここで新事実が判明した。

 どうやら暁の一撃は良い具合に月読が天才化していた期間の記憶を弾いたらしく、月読は何も覚えていなかった。何かとても疲れる事をやっていた記憶はあるが、それしか覚えていないらしい。

 何はともあれこれで全ては一件落着だ。私も安心して海外に行けるというものだ。

 

「……この破棄されたレポート、なんなんでしょう? 何か、知っちゃいけない物が詰まっているような……」

「何をしている、エルフナイン。早く戻って叔父様に報告することを報告するぞ」

「あ、はい。すぐ行きます」

 

 しかし……月読が最後口走っていた物はなんだったのだろうな?

 よく覚えていないが……きっとあまり深く踏み込んではいけない事なのだろう。私は歌姫であり、防人だ。そういう事はエルフナインや叔父様達に任せ、私は私の職務を全うするとしよう。




という訳で今回の視点はズバババン。被害者はいつも通りクリス先輩と切ちゃん(のお尻)でした。

いやぁ……幼児退行やら記憶喪失といった物の他にもこういう現象もあるんじゃ? と案を出してくれた友人には感謝感激。けど、もう本当にこの世界線のネタが無いため次はないでしょう。正直、天ノ逆鱗が刺さった時点でやり切った感ありましたし……w

さて、あとがきはこれくらいにして……XDのシナリオですよ! いやぁ……濃厚なきりしらをありがとうございました。とても可愛くて尊くて……あぁ~^

ダイスキスキスギも、何ですかアレ。尊さで人を殺す気ですか。早くCD化してFullを聞かせてくれ……聞かせてくれよぉ……!!

あ、ついでにメカニカル調ちゃんは十連一回で来てくれました。モーション見た時はクシャトリヤかな? と思いました。そしてヘキサクエストは一応回ってますが、初回の後一回しか調ちゃんが落ちていません……完凸させたい……

それではまた次回お会いしましょう! 次回は……特にありません。声優世界線か実況者世界線辺りの続きを書くかもしれませんね


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月読調の華麗なる声優活動

シンフォギアライブは外したのにデレマス6thは一般で受かった私です。

アズレンで饅頭集めるために海域ぶん回している間暇だったので丁度ネタが浮かんだ声優時空の話をば。

今回は調ちゃんのいつものお仕事風景……ではなく、ちょっとした事件が。


 声優としてお仕事をし始めてそこそこの時間が経った。

 わたしは今はうたずきんの役だけをしていて、うたずきんが売れているのもあってかゲームやドラマCDと言ったうたずきん関連の商品に関してはそこそこお仕事を振らせてもらってる状況にある。それに、時々あるミニイベントやライブにもわたしは出演するときがあったり、ラジオにも出演することが最近は増えてきたからこう見えても結構多忙な生活を送っている。

 そんなわたしは今日もラジオのお仕事。平日のお昼からの収録だったから学校は公欠になってるけど、休んでいることには変わりない。一応空いている時間はちゃんと勉強して何とか授業についていけるように頑張っている。

 

「ねぇ了子ちゃん。了子ちゃんって他の役はまだやってないんだよね?」

「そうですね。まだうたずきんしか役は貰ってないですね」

 

 そんなラジオの収録中。お相手の声優さんが話を振ってきてくれた。

 他の役、と言われるとわたしはこうとしか言えない。やっぱり声優として名を売っている以上はこういう話題も色々と出てくるわけで。エゴサーチしても他の役はやらないのかな? とかそういう話題や呟きは見かけるときがある。

 

「他の役の話とかって受けないのかな?」

「いえ、受けますよ? ただ、わたし自身まだ未熟ですし、それに学生でもあるのでうたずきんで手一杯な感じがあるんですよ」

「あー、確かにソシャゲの方の収録とかラジオ、それにライブの練習とかで忙しそうだもんね」

「それにレッスンとかもあるので、時間的な問題ではあるんですよね」

 

 うたずきんのソーシャルゲームの方では結構な頻度で新録のボイスを収録するときがある。季節関連の物は一気に収録するけど、それ以外の新しいうたずきんのボイスとかは新録するときが多いし、イベントのボイスもよく新録する。だからそこそこの時間がかかるし、キャラソンの方も。

 基本的に一クールに二つくらいは新キャラソンを公開していくから、それの収録も結構忙しいし、ライブも結構な頻度でやってるからそっちに時間も割かないといけない。だから学校以外の時間はそこに潰れたりしている。

 でも学校があるからって言い訳は通じないんじゃないかなとわたしは思ってる。

 

「でも、他の皆さんはうたずきんに出ながら色々とアニメに出てるじゃないですか。他にもゲームだったり映画の吹き替えだったり。だからわたしも、もっと他の作品に出てみたいなって最近思い始めて」

「あ、そうなんだ! でも声優の世界は大変だよ~? 下手なアイドル並みに大変だよ~?」

「確かに今でも十分大変ですけど、やってると楽しいので」

「おぉ~! じゃあ私達は他の現場で了子ちゃんと会えることを期待してるよぉ! と、いう事でそろそろお時間なので最初のコーナー行きましょう!!」

 

 さて。余計な事考えるのはいったん終わり。今はラジオの方を頑張らないと。

 ……翼さんに、お仕事大変な時って学校どうしてたのか聞いてみようかな。

 

 

****

 

 

 ラジオが終わって暫く。二本分も一気に収録するとやっぱり疲れを感じちゃう。

 Twitterの方で、ラジオにわたしが出る日の報告だけして、翼さんに連絡する。今翼さんは国内に居るから出てくれるとは思うんだけど……どうだろう。あ、出てくれた。

 

『もしもし、月読か。急にどうした?』

「あ、いえ。ちょっと聞きたい事があって」

『聞きたい事? ふむ、話してみろ』

「えっと、翼さんって学生時代、お仕事が忙しい時ってどうやってましたか?」

 

 きっと今のわたしは当時の翼さんよりも全然忙しくない状況だと思う。だってわたしはまだ一つの役しかやっていない声優だけど、翼さんは色々なテレビに出演したり、ライブしたり、イベントに出たり新曲の収録をしたり。きっとわたしの比じゃない程時間が無かったと思う。それでもあれだけ全力で仕事も学業も装者の仕事もできたのか。それが知りたい。

 

『仕事、か……あまり気にした事はなかったな。ただ、やはり時間はかなり限られていたな』

「やっぱり時間が問題ですよね」

『そうだな。ただ、私の時は上手い具合に緒川さんが調整してくれたからそこまで拘束されているという感じはなかったな』

 

 そうなんだ……でも確かに、わたしも週に何回かはプライベートな時間が取れてはいるし、学校があったすぐ後に仕事が入った時は次の日はなるべく仕事が入らない様にしてくれてる。そもそも疲れたって自覚する事が、ライブの練習の後やライブの後程度しかない。後は……移動中に座りつかれたとかかな?

 

『しかし、月読がこんなことを聞いてくるとは。さては声優の仕事を本格的にしていきたくなったか?』

「あはは……やっぱりバレちゃいますよね」

『最近月読は見て分かる程頑張っているからな。その時にこんな電話だ。誰だって勘付くさ』

 

 うん、だよね。

 

『だが、熱中できるものが見つかるのは良い事だ。一度叔父様達に相談してみてはどうだ? きっと快く相談に乗ってくれるだろう』

 

 相談……してみるしかないよね。

 最初は興味があったからとりあえず……的な感じで受けた声優としてのお仕事だけど、今となってはお仕事について考える事が多くなってきた。ついでに切ちゃんに家に居ない時とか公欠の時に何しているのか詮索されるようになってきたし。

 もう響さんと切ちゃんにもバラしちゃって本格的に声優としての道を歩くというのもいいよね。仮面も取って、他の声優の皆さんみたいに素顔で活動するのもいいし。

 ……まぁ、仮面のせいで変な噂がネットにバラまかれるのがちょっと嫌になってきたというのもあるんだけどね。なに、顔に大きな傷があるとか顔がバイオハザードしてるとかやましい事をしてきたから表に顔出せないって。関係者から聞きましたとか言ってる記事ホント何なの。わたしだって普通にイラつくんだからね?

 あ、話が逸れた。

 

「そう、ですね。ちょっと相談してみます。あと、仮面も取っちゃおうかなって」

『仮面も取るのか? それもいいが……月読は仮面キャラとしての地位が』

「いりません!」

『冗談だ。ただ、仮面に関しては月読を守るという意味でも効果を出しているから考えた方がいい』

「守る……ですか?」

『素顔が割れると悪質な者からの悪戯やストーカー。それから週刊誌等で良からぬ記事を書かれる可能性があるからな。緒川さんや叔父様達が予防線を張ってくれるとは思うが、それで全てを防げるとは限らない』

 

 あ、そっか……声優って声のお仕事がメインだから仮面を外して素顔を晒しても大丈夫かなって思ってたけど、扱いは芸能人とほぼ変わらないんだよね。だからもし、素顔意外にも色々とバレちゃったら何か面倒な問題がもっと沢山……それこそ今よりも出てきちゃう可能性があるんだ。

 翼さんはそういう事は基本的に緒川さんが守ってくれているらしいけど、わたしは常に緒川さんが一緒に居てくれるって訳じゃないし、もしも悪質な記事とか書かれたらそれだけでお仕事が無くなっちゃうかもしれないんだ。

 

『そこも叔父様達と相談するといい。まぁ、素顔を晒して悪質な者が付け狙った所で、こちらは国家組織だ。釘を刺されても撤回せずに続けるような阿呆はおるまいよ』

「で、ですよね……ちょっと話し合ってみます」

 

 顔を出すことで色々と問題が起こるかもしれないんだよね。そこらへんも考えないと。

 ……とりあえず、もうすぐスタジオから出るし、今着けてる仮面は外しておこう。さっきまで写真撮ってたから仮面付けっぱなしだったんだよね。

 こういう所とか撮られてなきゃいいんだけど。

 

 

****

 

 

 とか楽観していた時期がわたしにもありました。

 

「偶々スタジオ近くにいた民間人が調くんが仮面を外すところを撮って、SNSに投稿したか……まさかこんな形でバレてしまうとはな……」

「すみません、俺がもっと早く迎えに行っていれば……」

「いえ、わたしが悪いんです。周りも確認せずに仮面を取っちゃったから」

 

 一言で言うと、バレました。

 激写されました。一般人に。で、SNSに投稿されました。あーもう……なんでフラグ建てちゃったかなぁ。お陰で即切ちゃんと響さんにもバレて説明する羽目になったよ。思いっきり驚かれたし、クリス先輩に関してはすぐに電話してきたし。

 っていうか、これが判明したのってクリス先輩が電話をしてくれたからなんだよね。あの後、帰宅中にクリス先輩から電話が来てすぐ判明っていう。

 

「だが、こうするともう仮面も効果が薄くなるな……幸い、容姿についてとやかく言う者は見当たらないが」

「学校の同級生の皆さんにもバレちゃいますよね。下手したら本名まで流出する可能性が……」

「それについては既にリディアンの方に連絡をして、更に調くんのアカウントで注意喚起をしたが……それでも十全とは言えないな」

 

 まさかこんな形でこれからの事を決める事になるなんて……

 こうして顔がバレちゃった以上、今までみたいに生きる事は多分不可能だと思う。少なからず、わたしが声優だったっていう事は知る人は知るって形になっちゃうから、うたずきんの役が終わって声優を辞める事ができる機会に立っても、元声優だから知ってると言われる事はあると思う。

 あると思うけど……もうわたしは決めた。

 

「だったらわたし、これからは普通に素顔を出して活動します。本名だって流出したなら流出したで構いません」

「だが調くん。そうなると君はこれから……」

「声優として生きていきます。仮面についても、実は今日外して活動するかどうか相談しようと思っていたので丁度いいです」

 

 これからは声優として生きていく。

 安易って言われるかもだけど……それでも声優としての仕事は楽しいし、周りの大人の人はみんな信用ができる人。それに、ここまで楽しい仕事は手放したらもう戻ってこないかもしれない。それに人生はフィーネみたいなのを除けば一度きりなんだし、特別な事をして生きてみたいと思う。いや、装者の時点で特殊だけどね?

 だから、素顔がバレたこの日を切欠にこれから声優として生きる。声優月詠了子として生きる。

 

「と、いう事は……そうか。声優として将来を決めるのか」

「はい。実は本格的に声優をやっていく事は昨日の内に翼さんにちょっと相談もしました。それに素顔バレもあったので、もうこうなったら声優としてやってみようって思ったんです。それに、風鳴司令や藤尭さん、友里さんみたいな頼れる人が周りに居ますから」

 

 その言葉を聞くと、三人はちょっと照れたのか一瞬顔を逸らした。でも風鳴司令はそうか。と呟くと先ほどまでの少し暗い顔から一転。明るい顔になって頷いた。

 

「ならば俺達が調くんをサポートしてこれからも声優として頑張らせてやらねばな」

「ですね。私達が提案した事から始まったんですから、ちゃんと最後までサポートしないといけませんね!」

「実は調ちゃんがそう言った時のために来期のアニメの仕事を幾つかキープしてあります。緒川さんにも色々とアドバイスを聞いたので、これからはこんな事が起きないように完璧にバックアップしてみせますよ!!」

 

 と、いう事でわたしは頼もしい人たちに囲まれて声優活動を本格的に行う事になった。

 ……うん、周りが頼もしすぎて何も怖くない。だって普段から完璧にわたし達をバックアップしてくれる藤尭さんと友里さん。それに加えて人類最強とすら言える風鳴司令だよ? むしろ怖いものある? 何かあれば緒川さんも手を貸してくれるらしいし……この人たちに異端技術無しで勝てる人が居るんなら教えてほしいレベルだよ。異端技術が出てきたら出てきたでわたし達装者やエルフナインが動くし。

 そういう訳でわたしは、SNSでこれからは素顔も出して活動する事。うたずきんの役以外にも積極的に取り組んでいく事を告知して、早速うたずきん以外の仕事を選び始めた。

 選び始めたのはいいんだけど……時々グラビアとかあるのってなんで? 声優ってそんなアイドルみたいなこともするの……?

 

 

****

 

 

 素顔を出して活動すると報告してから暫くしてからのラジオの公開収録で、わたしは予め報告していた通り素顔を出して出演した。最初はかなり驚かれたけど、もう既に素顔バレしていたからかすぐに驚かれなくなった。

 

「いやぁ、素顔が撮られた時は驚きましたよ。お陰で謎の仮面美少女として売れなくなっちゃいましたし」

「でもその件もあってこれからは色んな役をやってみようって気になったんだよね?」

「はい。どうせバレたんならもっとやっちゃおうって。でもわたしの素顔を勝手に撮ってSNSに上げた人! わたしは一生覚えておくからね!? わたしから仮面キャラ奪った事一生覚えておくからね!? それと、これからわたしの本名は絶対に漏出させないで! じゃないとわたしが今まで築いてきた不思議キャラが全部なくなっちゃうから!」

 

 本名に関してはまだ漏洩していない。一応こういう場で釘は刺しておくけど……それでも漏洩する可能性は無きにしも非ずだからね。

 とりあえず私情についてはこれくらいにしておいて、後はお仕事しないと。これからはもっと忙しくなるけど……同時に楽しみでもある。多分闇はそこそこ深いんだろうけど、それでも声優として。何かしらの切欠がないと入らないような世界に入るんだから、それが楽しみじゃないわけがない。

 でも、お願いだからクリス先輩と弓美先輩。公開収録の最前列で興奮するの止めてください。ついつい目が行っちゃって……ほら! お友達か何か? って聞かれちゃったじゃないですか!! で頷かないでくださいクリス先輩! 周りの視線に気が付いて!! 思いっきり視線吸ってるの気が付いて!!

 ……ちなみにだけど、クリス先輩と弓美先輩の席はわたしが関係者用に用意したとかじゃなくて、完全に二人が運と実力だけで取ってたりする。そこまで必死にならなくても後ろの方のよく見える関係者席のチケットあげるのに……ちなみに切ちゃんはそこで藤尭さんと友里さんと一緒に居たりする。




そういう訳で、素顔バレしちゃった調ちゃんでした。でもこれから声優として本格的に活動していくのであまり問題はなかった模様。

そして深刻化していくクリス先輩のうたずきんオタク化。どうして声優時空のクリス先輩は特に何もしなくてもキャラが濃くなっていくんだろう……w

さて、次回はどうしましょうか。近いうちにPS4のDbD買うかもなので、それのプレイをするゲーム実況時空のきりしらとかいいかも。ではまた次回お会いしましょう。


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月読調の華麗なる肝試し

今回は幽霊時空のお話。

調ちゃん達装者がビッキー&393主催の肝試しに……

誰かマルチバトル手伝って……


「装者主催、チキチキ肝試し大会((かっこ)協力者もいるよ)(かっことじる)を開催します!」

 

 響さんのその言葉に反応したのは未来さんだけだった。

 一人で小さなラッパを吹いてるけど……正直、この中にこのイベントを歓迎している人は響さんと未来さんと。それからエルフナイン程度な物で、マリアと切ちゃんは雰囲気のあるこの墓場に顔を青くして、翼さんは何かブツブツ言っててクリス先輩は若干気絶しかけている。

 というのも。装者主催とは名を打っているこの急遽開催された肝試し大会だけど、提案企画実行は全部響さんと未来さんで、わたし達は一切関係していない。ついでに言えばわたし達はいきなり集まってと言われて集められた人だから正直、あんまり歓迎していないと言いますか……

 で、ついでに言いますと。

 

「肝試しつっても真後ろに幽霊居るんだけどな」

「幽霊なのに肝試しって……」

「エルフナインが乗り気だからいい物の、嫌々だったらオレが直々にぶち壊していたところだ」

 

 わたしの真後ろには憑く対象を変えた奏さん、セレナ、キャロルの三人に加えていつものパヴァリア三人衆が立っている。だからいつもの三人に加えてもう三人がわたしの後ろに憑いている事になる。

 うん、存在感が凄い。しかもわたしの真後ろに六人もいるからね。そのせいでかなり窮屈と言いますか何といいますか……一応わたしが一番後ろだから六人が誰かにめり込んでいるという事は無いんだけど。

 

「今回の肝試しはこの墓場の奥にある箱の中から人形を持ってきてもらいます! ちなみに許可は得ているから思いっきり叫んだとしても特に迷惑はしないよ!」

「いや、響さん。多分それを心配してるんじゃないかと」

「ちゃんと仕掛けもしてあるから楽しんでね!」

 

 あ、駄目だ。聞いてない。

 っていうか、肝試しかぁ……六人くらい幽霊を侍らせている身としては何が起ころうと驚かないような気がするんだけど。それこそ本物の幽霊だってさっきからチラホラ見えているわけで。

 あそこに座ってる人達なんてこっち見て若いのはいいのう、なんて言ってるよ。一応手を振っておこう。

 まぁ、だから心霊現象なんて起きたとしても、真後ろに強力なボディーガード兼実例が存在しているから驚きなんてしないんだよね。あ、でも急に来られたら驚くかな。

 そういう訳で、わたし一人だけ余裕なんだよね。余裕のよっちゃんイカ。

 

「じゃあチーム決めだけど、あらかじめわたしの方で決めておいたよ!」

 

 と言って響さんは勝手にチームについてを発表し始めた。

 まず響さん&未来さん。そして翼さん&マリア。クリス先輩&わたし、切ちゃん&エルフナイン。わたしと切ちゃんが離れたのが意外な程度で、それ以外はまぁ、納得な編成かな。もしかしたら平気な人と駄目な人で組んだのかもしれない。

 

「お、おい立花。このチーム分けだが明らかに……」

 

 でも、響さんと未来さんのチームは明らかに先に先行して仕掛けを起動させる気満々だよね。仕掛け人チームなんて明らかに嫌な予感しかしないし。

 それを翼さんはいち早く気が付いて意見を申し立てようとしたけど。

 

「じゃあまずはわたしと未来のチームから行くから、みんなは先に渡しておいた地図の通りに歩いてきてね!! じゃっ!!」

 

 そう言って響さんと未来さんは走って墓場の中へと突入していった。

 やっぱ元気だなぁ、あの人。

 

「……で、どうすんだよこれ。あの馬鹿共無視して帰るか?」

「いや、それもそれで問題だ。後で付き纏われては困るからな……」

「そうすると、大人しく従うしかないのかしらね。大変不服だけど」

 

 と言いながらも顔が青い三人。

 やっぱり幽霊とか怖いのかな。わたしもパヴァリア三人組と会った時はすごく怖かったし。でも今は幽霊なんてよっぽど悪い霊じゃなきゃ特に何とも思わない程度には肝が据わった。

 でもわたしも早く帰って寝たいからなぁ……いくら夏休みとはいえあんまり夜更かししたくない。

 

「じゃあサッサと終わらせた方がいいですね。ということでクリス先輩、行きましょう」

「ちょおまっ!? 正気かよ!!?」

 

 正気かよと言われましても。わたしだって急に呼び出されて肝試しに付き合わされて若干不服ですから。真後ろに霊もいるわけですし……

 

「まぁまぁ。あの子だって楽しませたくて企画したんだしいいじゃないの」

「いつもは気取っている奴が狼狽える姿を見るのも面白いワケだ」

「私にはここに居る全員を驚かせて楽しませたい、と言っているようにしか見えなかったのだがな……」

 

 でも三人の言う事も最もではある。サンジェルマンさんの言葉はあの二人の思っている事そのままだろうし、カリオストロとプレラーティの言っている事もその通り。ついでに言えばプレラーティの案は結構面白そう。

 奏さんも翼さんが驚くところを見たいようだし、セレナもマリアの事を。で、キャロルはさっきからツンデレしてるけど、なんやかんやでエルフナインが楽しむのならそれを手助けする、って感じらしい。

 一応六人の話は聞いているけど返事したら変な子に思われるから頷きだけして、とりあえずクリス先輩の手を引く。

 

「ほら行きますよクリス先輩。早く帰って寝たいんですから」

「ちょ、おまっ、もうちょっと考えようぜ!? もうちょっと、ちょっとだけな!! だからまずはこの手を離そう!! アタシはそれが一番得策だと思うんだよ!!」

 

 何言っても聞きません。

 えっと……地図によるとこの道を真っ直ぐ行くんだよね。で、ちょっと先を曲がって、真っ直ぐ……で、その後に箱があるからそこから人形を取って、帰りは違う道を通って墓場の外へ。

 多分これ考えたの未来さんかな? 響さんなら真っ直ぐな線しか引けなさそうだし。

 

「お、おい、何でお前はそんな平気なんだよ」

「何でと言われても……怖くないですし」

「い、いやいや! 夜の墓場だぞ!? 何か出そうじゃねぇか!!」

 

 何か出そう、と言われましても。もう出ているのをずっと見ているから怖くないわけで。現に今、クリス先輩の足元に幽霊が寝転がってましたし。あれ、多分変態な幽霊だろうなぁ。下からクリス先輩のスカート覗いてたし。

 カリオストロ、あれ退治して。

 

「全く、幽霊遣いが荒いんだから!」

 

 と言いながらカリオストロは寝転がって上を見ていた幽霊を綺麗な蹴りで四散させた。ありがとう、これでクリス先輩のパンツを知る不届き者はこの世から消え去ったよ。

 

「あんな不埒な幽霊も居る者なのね」

「案外いるぜ? 踏まれに行ってるやつとか、触れないからってキスしてるやつとか」

「身内が憑いている人なら、背後霊が殴ったりしてるんだけどね」

 

 そうだったんだ。っていうか、不埒な幽霊をアグレッシブに殴りにかかる背後霊なんて見たくないなぁ……もしかしたら記憶に留めてないだけで見ていたのかもしれないけど。

 とりあえず顔を青くしながらわたしに抱き着いてくるクリス先輩は放置。多分無理に引きはがしてもすぐにくっついてくるし。

 

「あ、火の玉」

 

 とか思ってたら火の玉発見。へぇ、本当にあんなの浮いてるんだ。

 

「へっ!? ひ、火の玉!?」

 

 ……あれ? 声に出てたかな? 変にクリス先輩を驚かせちゃった。

 あれもわたしと幽霊のみんなにしか見えてないっぽいし、これからは気を付けないと。墓地だからかさっきから本当なら見えちゃいけない物が沢山見えちゃってるし。

 

「……気のせいですね。っていうかクリス先輩、怖いんですか?」

「ばばばば、ばっきゃろう!! 怖かねぇやい!!」

 

 どこの時代の人の言葉ですか。

 っていうか焦りまくってるクリス先輩可愛いかも。ただ、焦りまくって抱き着いてくるから豊満なモノが体に当たってムカつく……

 

「じゃあ手を離しますね」

「い、いや、それとこれとは話が別だろ!?」

 

 やばい、この人弄りがいがある。凄く可愛い。

 でもあまり弄ると拗ねちゃうだろうし我慢して……我慢する予定だから、奏さんはこっそりクリス先輩にちょっかいかけようとしないでください。ほら、変な気配感じてビクビクしちゃってるじゃないですか。セレナもやめて。キャロルはいい笑顔で蹴ろうとしないで。そんでもってカリオストロは抱き着かない! 思いっきりクリス先輩が怖がってるじゃん!

 はぁ……幽霊に話しかけられない状況って結構辛いなぁ。もう一人ずつ肝試しするんなら、楽だったのに……

 

「ん? あっちの草むらの中、例の二人がいるワケだ」

 

 とか思ってたらプレラーティからのチクりが。

 えっと、あっち側? じゃあサンジェルマンさん、わたしの体にちょっと憑依しててください。ちょっと幽体離脱してあっち見てきますね。

 というのを目線だけで伝える。サンジェルマンさんはこれでも通じるから本当にいい人。カリオストロやプレラーティならニヤニヤしながら体を奪ってくるか曲解するかだからね。

 

「幽体離脱か、分かった。暫く体を預かろう」

 

 で、みんなの手を借りて幽体離脱。そのままサンジェルマンさんに体を明け渡して幽体のわたしはそっと草むらの中で隠れているらしい響さんと未来さんの方へ。

 さて、どんな悪だくみをしているのやら……

 

「ふふふ、未来。クリスちゃんにはこれなんかいいんじゃないかな」

「釣り竿とコンニャクって……じゃあわたしは、この紙を燃やして火の玉を作るね!」

「おぉ、未来も悪ですなぁ」

「響こそ」

 

 うっわー、楽しそう。物凄く楽しそうだよあの二人。

 っていうか火の玉とこんにゃくって。どこにそんな物隠し持ってたの……

 でも、こんな暗い墓地でそんな物が急に来たら流石にビックリするかな。コンニャクとかヒヤッとするだろうし。教えてもらってよかった。

 とりあえずわたしは自分の体に入って……あっ。

 いい事考えた。

 

「キャロル。わたしの体に入って」

「は? なんでオレが」

「いいか、らっ!」

「うわっ!?」

 

 クリス先輩にちょっかいを出すのに夢中だったキャロルをわたしの体の中に入れて、サンジェルマンさんが代わりに弾き出される。

 急に生身の肉体に入った事と、いきなりこんな事をされた驚きでキャロルが操るわたしの体がいきなり挙動不審になる。うわぁ、不自然。あ、こっち見て喋っちゃだめだよキャロル。気味の悪い子だって思われちゃうでしょ? この間体を貸してエルフナインと話をさせてあげたんだから我慢して。

 とりあえずこれでキャロルを黙らせたから、後は……あ、来た。

 

「なんかさっきから寒気が……ひぃっ!?」

「うおっ!? 急にどうし……あぁ、火の玉か」

 

 クリス先輩が急に前に出てきた火の玉に驚くけど、キャロルは特に驚かない。っていうかもうちょっと演技してよ。

 火の玉に驚いたクリス先輩はマイボディーに抱き着いてガクブル。鬱陶しいけど振りほどいたらわたしっぽくないからと嫌々受け入れるキャロル。そしてその後ろから伸びてきたコンニャクがクリス先輩とわたしの首筋にタッチ……わっ、霊体のわたしの方にもちょっと感触あった。

 

「ひゃぎぃ!!?」

「うおおぉ!!?」

 

 急なヒヤッとした感触に変な声を出すクリス先輩。そしてキャロルは……うん。もうちょっとわたしらしくしてよ。わたし、そんな声出さないんだけど。

 

「な、なんなんだよぉ……」

「び、ビックリした……急に変わったのはこういう事か……」

 

 うん、そういう事。という訳でお疲れ様~

 

「ってやる事終わったらすぐ戻るのかよ! もうちょっとオレにも生身の体を使わせろ!!」

 

 だってこれ以上やったらキャラ崩壊ってレベルじゃなくなるだろうし。

 とりあえずセレナと奏さんにキャロルを抑えてもらって、わたしは驚いていたフリをして冷静を取り戻す演技をしてからクリス先輩と一緒に歩く。

 あーあ、クリス先輩がもう涙目。この人、ホラー耐性無いのに……

 

『デスうううううううううううう!!?』

『わぁぁぁぁぁぁ!!?』

「ひぃぃ!!? もうやだぁ……」

 

 とか思ってたら今度は切ちゃんとエルフナインの悲鳴が。そしてクリス先輩が可愛い。

 っていうか響さんと未来さん、移動するの速くない? あ、設置型の罠があったんだ。なるほど。

 でも、このままだとクリス先輩が限界を迎えちゃいそう。このまま癇癪起こす……じゃなくて、変に錯乱される前に手を打っておこうかな。

 

「クリス先輩、何なら目を閉じててもいいですよ。わたしが手を握って連れていきますから」

「ば、ばか! んな事できるわけが……」

「本当に大丈夫ですか? 今はわたししかいないんですから、大丈夫ですよ。誰にも言いません」

 

 誰かが覗き見しているとは言っていない。

 わたしの説得を聞いたクリス先輩は、ちょっと泣きそうな表情のまま目を閉じてわたしの手を握る……どころか抱き着いてきた。あー……大きなお山が二つぶつかって殺意が沸いてきそう。

 とりあえず、怖がってるクリス先輩に群がってきた変態幽霊達はどこから持ってきたのか分からないガングニールとアガートラームを纏った奏さんとセレナに任せて、わたしはとっとと前に。なんかあっちの方でつまんないの~、とか言ってる響さん達がいるらしいけど、今は放置。

 

『うおおぉぉぉぉおぉぉぉぉおおおぉぉおぉ!!?』

『何よこれぇぇぇぇぇぇぇぇ!!』

 

 と思ってたら翼さんとマリアの叫び声が。

 うーん、この期待を裏切らない翼さんの叫び声とマリアの叫び声。クリス先輩もビックリしてたけど、すぐに二人の悲鳴だと判断して特に何も言わなかった。

 とりあえず、ペースを上げて歩いて……

 

「前に踏むと鈴が鳴る装置があるわね」

「踏んでみる?」

 

 冗談。今はクリス先輩を怖がらせないように歩かないとだし。

 

「クリス先輩、前に変な仕掛けがあります。ここは目を開けて行きましょう」

「お、おう……」

 

 これで仕掛けは踏まずに突破。うん、幽霊のみんなが心強い。

 とりあえずこのまま進めば……うん?

 なんだろう。いきなり右手が重く……

 横を見てみると、そこには見知った幽霊……じゃなくて、顔も体も半分以上が崩壊したような、本来目がある場所が空洞になったゾンビみたいなのが……ひっ!?

 

『からダをよコセぇぇぇぇぇぇぇ……!!』

「ひっ!?」

「黙って天に還れ!!」

 

 ほ、本物の幽霊!? っていうか悪霊!? ビックリした!! すごくビックリした!! しかも喋った!!

 とりあえず串刺しにしてくれた奏さん、ありがとうございます。それ、適当に葬っておいてください。

 あービックリした……あんな悪霊も居るんだね。きっと、わたしが何度も幽体離脱をしているか霊感が高いのを分かってて襲ってきたんだと思う。

 

「な、なんだよ今の……」

「いえ、虫が急に腕についたので」

 

 とりあえずビビり散らしてもうタダの可愛い生き物に成り下がったクリス先輩を連れて、とりあえずわたしとクリス先輩ペアはゴール。後は指定された道を戻るだけだけど……うん。特に問題はなく。強いて言うなら響さんと未来さんがまた何か仕掛けてきたけど、全部クリス先輩に当たらない様に立ち回ってわたしが体で受け止めたから実害はなかった。

 ちなみに、歩いている最中に何度か他のペアからの悲鳴が聞こえてきた。

 

 

****

 

 

 わたし達が戻ってきてから数十分。クリス先輩は戻ってきてからすぐに腰が抜けたのか座り込んじゃって、わたしは特にやる事が無いから携帯で適当にゲームをしてる。

 あ、いい感じに連鎖が……やった。新記録。

 

「ちょ、オレにもやらせろ!」

「いや、私にやらせるワケだ!!」

「なーなー、アタシにもやらせてくれよ。さっきから暇なんだって」

 

 とりあえず後ろの幽霊共は無視して、わたし達はみんなが帰ってくるのを待った。

 わたし達の次に帰ってきたのは切ちゃん&エルフナインペア。次に翼さんとマリアペア。そして最後に響さんと未来さんペアだった。

 わたしは戻ってきた切ちゃんに泣きつかれてとてもいい思いをしました。すぐにサンジェルマンさんから表情がヤバイって指摘は受けたけど、真正面から抱き着いてきた切ちゃんの感触はとてもよかったです。良い感じに柔らかくていい匂いもして……ふふ。

 で、話は戻して、響さんと未来さんが帰ってきてこの肝試しはお開きになった。

 

「いやー、特に切歌ちゃんとエルフナインちゃん。あと翼さんとマリアさんの所は悲鳴が上がりまくりでしたね!」

「し、白々しいデスよ……」

「立花達が先に何か仕掛けていたのだろう……!」

「さぁ? わたしは特に何もしてマセンヨー」

 

 こんな事を響さんは言っていたけど……うん。

 まさか響さん達だけが私腹を肥やして終わらせるなんて真似、させるわけないですよね? わたしには本物が憑いているんですよ?

 という訳でわたしは切ちゃんと一緒に……切ちゃんと二人きりで、切ちゃんを慰めて抱きしめながら帰るので! 幽霊の皆さんはあの二人に取りついて明日まで存分に驚かせてください!!

 

「よっしゃ、ここからが本領発揮だな!」

「奏さんは何しますか? わたしラップ音鳴らしますね!」

「ならオレは適当に怨念でも垂れ流すとしよう」

「偶には年甲斐もなくはしゃいでみるのもいいかもな」

「サンジェルマン、一緒に好き勝手やるワケだ」

「ちょっとプレラーティ、アーシも混ぜなさいよ!」

 

 いい笑顔で響さん達に憑りついていった幽霊六人を見送ってからわたしは切ちゃんと一緒に帰った。

 今日の切ちゃんはお風呂に一人で入りたくないからって、一緒に入ったり。一人じゃ寝れないからってわたしと一緒に寝たり、一人でトイレに行けないからってわたしについて来てって言ってくれたり。久々に茶々を入れてくる幽霊が居なかったらとってもいい夜を過ごせたよ。

 だって切ちゃんから抱き着いてきたり、切ちゃんからお風呂に誘ってきたり、切ちゃんから一緒に寝ようって言ってくれたり……ふふ、ふふふふふ。一応響さんと未来さんには感謝しないと。こんないい思いをさせてもらったんだからね。

 ふふふふふふふふ。

 

 

****

 

 

 ちなみに翌日のお二人に電話をかけてみた結果。

 

「頭の中でね、ずっと奏さんの『生きるのを諦めるな』って声が聞こえてきて、その後にすぐキャロルちゃんの『よくも殺したな……』って怨念が入ってきて、更にサンジェルマンさんのお説教が飛んできて、しかもラップ音だったり火の玉だったりがずっと……ひぃっ!? 今もラップ音が……きゃあああああ!!?」

「さっきから何もしてないのに悪寒が走って……どれだけ厚着しても悪寒が止まらなくて……しかもさっきから視界に変な物がね、チラチラと……え、なにこれ、地震……え、家具が浮いてこっちにいやあああああああああ!!?」

 

 うん。

 あんまり人を揶揄うのは、やめようね! わたしとの約束だよ!!




作者「十連の時も、二十連の時も、三十連の時も星5確定枠の時も俺はずっと! ずっと待っていた!!」
天の声「な、なにを……」
作者「新XDモードの調ちゃんだろ!!」
天の声「あぁ……」
作者「ヘキサクエストのセレナもだ! ヘキサ調ちゃんも待ってた! あんたはそんな石回収とヘキサ周回のご褒美に爆死と時間の無駄をくれるのか!!?」
天の声「うん。お前の運が下方にぶっちぎってるのが悪い」
作者「だったら運を上げてくれよぉぉぉぉぉぉ!! 全国の俺より運がいいヤツ、死ねよやぁぁぁぁぁ!!」


というわけで五十連しましたが新XD調ちゃん出ませんでした。旧XDが被った時の絶望感、プライスレス。

そしてヘキサ全力周回して八十週はしましたがセレナが一枚も落ちませんでした。あのゲーム闇しかねぇなぁ!!? 

ついでにFGOも友人から失笑されるレベルのクリ事故で高難易度えっちゃんがクリアできません!! 令呪を撃て! このまま撃て! 可能性に殺されるぞ!! (どうせ負けるので)撃てませぇぇぇぇぇん!! (もう負けしか見えないの)悲しいね……

もうね、疲れましたよ……耐久なんてできねぇよ……一撃で防御バフ全部乗せた鯖殺ってくるのにどうやって十何ターンも耐久しろと……
ついでにヘキサは時間クッソかかるし……一周十分とかキツすぎワロエナイ。なんだか一週間前後で運にぶん回されまくって泣きたくなりました。誰か運を上げる方法教えて。

次回は未定。それでは!


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月読調の華麗なる合同ライブ

今回はアイドル時空のお話。サブタイから分かるようにとある人……まぁ狼狽えるなbotとの合同ライブです。

やっぱりアイドル時空と声優時空は書きやすい……


 わたしはアイドルだけど、歌手である翼さんとユニットを組んでいる状態にある、実は結構特別な関係だったりする。

 どこを調べても、アイドルはアイドルと、歌手は歌手と組むのが一般的で、特に世界的歌手である翼さんと無名のアイドルであるわたしが組むのはかなりの異例でありながら、同じように無名のアイドルからコツコツと努力を積み重ねてきた人からしたら、かなり羨ましい立場にある。

 つまるところ、わたしは同期の人。同期じゃなくても同じようにアイドルとして活動しているけど芽吹かない人たちからすると、嫉妬心をぶつけたいにも程がある生意気な小娘に見られるわけなんだよね。

 

「あなた、一体どうやってあの風鳴翼とユニットを組んだのよ。もしかしてマネージャーに体でも売ったのかしら?」

 

 まぁこうやって憎まれ口を叩かれるわけだよね。しかも、そこそこプライドの高そうな高飛車な人から。

 もう言われ慣れたから特に口答えとかはしないけどさ。今飲んでるCMに出たから貰えた試供品のジュース美味しいし。ついでに、翼さんと故合って知り合いで友達で先輩後輩の間柄で、しかもマネージャー兼プロデューサーである緒川さんから直々のスカウトを受けた、なんて普通なら考え付かないもんね。

 とりあえずこういう人はジーっと目を見ていれば勝手に怯んでどっか行くのは分かってるからジーっと見る事にする。

 ジー……

 ジー……えっくす。

 ジー……ガンダム。

 

「な、なによ……気味悪いわね……」

 

 わたしに難癖付けてきたアイドルの先輩はそのままどこかへ消えていった。やったね。

 まぁ、緒川さんから何か言われてもできるだけ何も言わずに目を見ていれば大丈夫って言われてるからそれを実行しただけなんだけどね。ただ、やっぱりわたしの事情を知らない人……翼さんとはあまり親しくない人たちはわたしが何かしらやましい事をして取り入ったと思っているみたいで、何を勘違いしたのかお偉い人が枕を強要してくるときがあるんだよね。慣れてるでしょ? とか言って。

 変に触ろうとされる時もあるけど、装者がそんな下心丸出しの手に触られるわけがない。クリス先輩なら笑顔で手を折るレベルだと思うよ、あれは。

 わたしも正直ぶち殺……処してあげたくなるレベルだけど、そんな話を振られたら直後に笑顔の緒川さんが出てきてくれるから身の危険なんて一切なし。安心安全にアイドル活動をできています。

 

「調さん、大丈夫ですか?」

 

 それに、こういう事があってもすぐに緒川さんは来てくれるし。

 とりあえず、緒川さんには大丈夫ですって一言返して、ジュースを鞄の中にしまう。これ、まだ家に沢山あるけど、無くなっちゃったら買っておこう。すっごく美味しい。

 

「すみません……やはり調さんと翼さんのユニットを組ませるのは少し早かったのかもしれません。同業者の反応をちょっと失念してました」

「大丈夫ですよ? 特に何かされたわけでもないですし。ただ、緒川さんがわたしに手を出したって言われるとムカッとはきますね」

 

 緒川さんはそんな事する人じゃないのに、そういう事を受け入れたとか言われるとちょっとはイラッとくる。この人はわたしがそういう事言ってもちゃんと断ってくれる人だから。

 公私をちゃんとしてくれて、わたし達の事を一番に心配してくれる優しい人なんだもん。そんな人を悪い人って言われたら流石にイラッとくるよね。

 

「……調さんは優しいですね。こんな時でも人のために怒れるなんて」

「それは緒川さんもじゃないですか」

 

 緒川さんはわたしみたいに、わたしの悪口を言われたら静かに怒ってくれる人だ。この人は感情を露わにして怒る事はないけど、笑顔で静かに怒ってくれる人。特に人のために。

 わたしがお偉い人に色々と言われたときも、緒川さんは自分のことまで色々言われたのにも関わらずわたしに対して心無い事を言った事を怒ってくれたから。緒川さんにそういう事を言うと、そんな事はないですよって返してくるけど、ここまで人間ができてる人はこれから先、多分見ないと思う。風鳴司令や緒川さん。それに藤尭さんと友里さんみたいな人が周りに居るから、わたしはこうしていられるんだし。

 

「いえ、そんな事はないですよ。ですが、調さんが無事なら何よりです」

 

 ほらね。そんな事はないって返してきた。

 でも、そんな人だからこそ、わたしは緒川さんに一から十まで任せる事ができる。お仕事関連はわたしがやりたい事、やりたくない事を理解して取ってきて……あ、でも最近バラエティの量が多いから減らしてって言っても聞いてくれなかったっけ……でも、基本的にわたしの要望通りの事をしてくれるから、わたしは苦労して取ってきてくれたお仕事を精一杯やり遂げることができる。

 今回も多分、新しい仕事が取れたからそれを教えに来てくれたんだと思う。今日は翼さんの送迎で、わたしはもうちょっとここで待つ予定だったんだし。

 

「では話を切り替えて……今日はちょっと大きなお仕事が決まったのでその報告を」

「大きなお仕事、ですか?」

 

 新しいライブかな? でも風月ノ疾双のライブは結構前に終わったし、わたしのミニライブもついこの間やったばかりだから、風月ノ疾双とわたしのライブの決定はまだ早いような……

 

「実は、マリアさんと風月ノ疾双の合同ライブが決まりました。とは言っても、前々から温めておいた計画を実行に移しただけなんですけどね」

 

 ……へ?

 

 

****

 

 

 ちょっと前……とは言っても一年以上は前の話だと思うけど、翼さんとマリアの初合同ライブがあった。その時にデュエット曲である不死鳥のフランメが初披露になって、それから色々とあったけど、それ以降もマリアと翼さんは突発的にユニットを再編成しては新曲を披露したりライブをしたりしていた。

 その後にわたしが翼さんと正式なユニットを組んだって形になっていたんだけど……まさか翼さんとマリアのライブにわたしが……まぁ名目上は風月ノ疾双とマリアのコラボなんだけど、わたしがあのライブに混ざるなんて思ってもいなかった。

 こんな早期にそれが決まったのも、マリアとわたしが長い事一緒に暮らしてきた間柄であるということ。そして翼さんとマリアがプライベートでも一緒にどこかへ行く間柄であること。そしてわたしが名実共に二人の後輩であること。そして二人のマネージャー業も行っている緒川さんがわたしのマネージャーでもあること等。つまり、わたしが二人とプライベートでも仲が良く、そして後輩でもあるという事が幸いして、こんな新人アイドルが世界的歌姫とのコラボをするという、普通なら考えられないイベントが舞い込んできた。

 もっとも、マリアはわたしがデビューすると聞いた時からこの計画を考えていたらしくて、翼さんと緒川さんもそれにノリノリだったという。

 

「やっと調と歌の仕事ができるわね」

「わたしはこんなに早くマリアとライブするなんて思ってなかったよ」

「月読には秘密で計画を進めていたからな。月読がこの業界に慣れるまで温めておいたのだ」

 

 そして今日はライブの練習中。

 わたし、それから風月ノ疾双は持ち歌が少ないから、基本的にはマリアと翼さんの歌を借りる事になる。最初は不死鳥のフランメを歌って、その後は交代でソロを歌って、MCとかを挟みながら後半はデュエット、ユニット曲を歌う。で、最後は三人で星天ギャラクシィクロス。アンコールは逆光のフリューゲルをシンフォギア装者六人で歌った時の限定バージョン、虹色のフリューゲルを三人でって感じ。

 大体二、三時間くらいのライブなんだけど、その練習にはやっぱり時間がかかる。

 特にわたしは星天ギャラクシィクロスも他の曲も初めて歌うから練習には時間がかかる。でもそこは装者だから普通の人よりはかなり早く練習は進むんだけど……

 

「ふむ。こんな感じでどうだ?」

「いいわね。でもそこはこうして……あ、調。ちょっと遅れてるわよ」

「はぁ……はぁ……わ、わかった」

 

 どうしてこの二人、わたしより動いているのに全く息が切れてないの……!?

 いや、経験の差っていうのは分かってるんだけど、流石トップアーティスト。慣れているというか、体の動かし方が分かっているというか。わたしよりも遥かに綺麗でカッコよく振付をしながら歌ってみせてる。

 自信なくしそうだよ……

 

「そう落ち込まないの。調はかなり筋がいいわよ」

「そ、そうなの……?」

「えぇ。調はまだアイドルになって一年も経ってないのに、私達と並べるほどになっている。装者としての特訓である程度基礎はついていたのもあるけど、同時期の私達よりも動けている方よ。ね、翼」

「マリアの言うとおりだ。私がこれくらいの時は歌いながら踊れなくてな。何度奏にからかわれて緒川さんと叔父様に笑われたか」

 

 そ、そうなんだ……

 でも、確かにシンフォギアを使い始めてすぐの時は、歌いながら体を動かすのに違和感を覚えたり、息切れで歌が途切れたりしていたし……マリアもアーティストとしてデビューするために特訓していた時は上手くいってなかったみたいだったし。

 だからと言って二人に甘んじるなんてできない。二人に並ぶためにもっと頑張らないと。

 

「これが暁や立花ならこうはいかなかっただろうな」

「絶対に途中で飽きたり休憩したりお菓子食べてたわね」

「あぁ。雪音は文句言いながらも全力で打ち込みそうだがな」

 

 さ、流石に切ちゃんと響さんはそこまでひどくはない……と思うよ?

 

 

****

 

 

 風月ノ疾双とマリアの合同ライブ。それが発表された瞬間からかなりの盛り上がりを見せた。

 わたしは完全にオマケではあるんだけど、それでもわたしのファンの人はみんな楽しみにしてくれているっぽくて。それに、まだ色んなサイトや雑誌でライブの事が取り上げられて、わたしの知名度がまた上がった。

 テレビ番組の方でもライブについて色々と聞かれたり宣伝することができたりして、更にレッスンにも打ち込みながら学校で、クラスの人から楽しみにしてるよ! って応援されたりして更に頑張って。

 チケットの予約分は一瞬で完売。先行抽選の方も定員割れなんてするわけがなく、かなりの倍率になったらしい。

 かなり大きい会場を借りたらしいんだけど、それでも即完売。一般販売もきっと即完売するだろうとの事。一応身内の分の関係者用チケットは用意してあるけど、試しに一般枠で応募した響さんと切ちゃん、未来さん、クリス先輩はチケットが買えなかったとか。

 で、時は流れていって、気が付けばライブ当日になった。

 

「す、凄い……満員……」

 

 わたしは若干会場を見て気圧されていた。

 風月ノ疾双の時よりも更に大きな会場。そこにわたし達のライブを見るために来てくれた数万の人たち。しかもライブビューイングまでしているから、十数万人にすら数は届くかもしれない。

 

「調、狼狽えちゃだめよ。私達はここに来てくれた人のために全力を尽くさなきゃならないのだから」

「今の月読なら問題はない。リハも完璧。練習だってあんなにしたのだ。いつも通りを出していけば何も心配はいらない」

 

 そんなわたしを二人は言葉で支えてくれる。

 ……うん、そうだよね。こんなところで気圧されないでしっかりとしないと。

 折角マリアと翼さんと一緒にライブできるんだ。こんな日を緊張なんかで終わらせない。

 リハも練習も完璧。翼さんとマリアが文句なしでオーケーを出すくらいまで練習したし、リハも完璧にやった。それを緊張して足が動かなかった、なんて馬鹿な事で終わらせない。会場に来てくれた人に忘れられない思い出を刻むため。わたし自身にもいい思い出として。一生忘れられない思い出として今日を残すため、全力を出さないと。

 

「表情が変わったな。これは私達もうかうかしていられぬな」

「これじゃあ美味しい所全部持っていかれちゃうかもね」

「うん。そのつもりで今日は楽しむよ」

「それは心強い。では私もマリアの美味しい所を残さぬようにしなくてはな」

「言ってくれるじゃない、二人とも。だったら、三人でここに居る人間の記憶から一生消えないような、世界最高で最強のライブを見せてあげましょう!」

 

 その言葉にわたしと翼さんは頷く。

 大丈夫、緊張は消えた。あとは二人と一緒に思いっきり楽しむだけ。

 丁度その時にスタッフさんがわたし達の案内のために控室に来てくれた。最初は三人で別の場所から出てくるから、ここで一旦二人とはお別れになる。

 

「さぁ! 世界最高で最強のライブの開催よ!!」

「私達三人ならば、どんな壁も超えられよう!」

「全力で、自信をもって楽しむ!」

 

 そして、わたし達は三手に分かれて舞台裏へ。

 二人が最初に不死鳥のフランメを歌った時の、まるで杖のようなマイクを手に、和と洋を重ねたような衣装に身を包んで待つ。

 アナウンスが流れて、会場の電気が消えて……よし、出番。

 翼さんは右から。マリアは左から。そしてわたしは中央の下から。

 翼さんとマリアの最初のパートは変わらない。けど、二人が同時に歌うパートをわたしが歌う。けど、わたしは最初、姿を見せずにコーラス部分を歌う。舞台の下でマイクを握って、歌う。

 翼さんとマリアのパートが聞こえると同時に歓声が響いてくる。そして、二人が本来同時に歌うパートで、わたしが舞台の下で歌い、そのまま3、2、1のカウントでわたしが中心から打ち上げられて二人の間に着地する。

 歓声が響く中、間奏に入るまでをしっかりと歌いきり、そして間奏に。

 

「みんな、今日はありがとう!!」

「今夜限りの特別なライブよ! 全力で楽しみなさい!!」

「今日という日が一生忘れられないように、一緒に楽しみましょう!!」

 

 三人で歓声の中メッセージを送り、そして不死鳥のフランメ、トリオバージョンを歌う。

 きっと今日という日は一生忘れられない思い出になると確信しながら。

 

 

****

 

 

 そしてMC中のこと。

 

「今でこそ調は翼のパートナーだけど、実は翼よりも私の方が調とは付き合いが長かったりするのよ」

「うむ、そうだな。初対面はマリアとの初合同ライブの時か。あの時はマリアが尖っていたせいで、月読まで尖っていたからな」

「あ、あはは……若気の至りです……」

 

 わたし達三人しかいないわけだけど、三人でMC中。実質休憩みたいなものだから、この間に休んでかないと。あー、お水が美味しい。

 ちなみにマリアはフィーネ時代の話を持ち出されたせいで顔を赤くしながら翼さんを小突いている。で、マリアがいきなり切り出した話に観客の人たちは驚いたのか声を出している人が多数。

 

「まぁ、アレだ。私はマリア伝いで月読と知り合ったのだ。当時はこうなるとは思っていなかったがな」

 

 それはわたしもです。

 まさかあんなことをしたわたしが、今や翼さんと一緒にアイドルなんて、当時のわたしに言ったら鼻で笑われたり睨まれたりするかも。そう思うと、当時から今にかけて結構自分でも変わっていったんだなぁって。

 

「ちなみにわたしは調が小学校に入る前からの知り合いよ。縁あって年上だった私が調と……あともう一人、調の片割れとも言える子をお世話してたのよ」

「なのでわたし、実は帰国子女だったりします。ちっちゃい頃は日本で、つい最近までアメリカにいました」

「だから私は調の秘密を何でも知ってるわよ!! 例えばクールっぽい見た目だけど昔から可愛い物が大好きだったり一時期はカップラーメンを贅沢な食べ物だと思っていたりおねしょを実はゴフゥ!!?」

「マリア、言い過ぎ!!」

「更に月読は親友の子と手を繋いで登校した時もあったしカップラーメンが実はそこまで高級品じゃないと知って驚いたり、何より実は凄く甘えたがりでガハッ!!?」

「怒りますよ!!? 殴りますよ!!?」

『な、殴ってから言うな……!』

 

 なんか急にわたしの秘密暴露回になったんだけど!? 特にマリアの方は絶対に言ったらだめだからね!? あと翼さんも! 翼さんの家に泊まった時、翼さんの腕を枕にして寝ちゃったとか言わせないですからね!? 思わず脇腹を殴っちゃったじゃないですか!! っていうか翼さん、なんでわたしと切ちゃんの最初の頃の登校風景知ってるんですか!!?

 全くもう……この二人は人を弄るときはヤケにキラキラするんだから……

 

「いたたた……それじゃあそろそろMCも終わりね。次の曲は翼からよ」

「ふぅ……うむ、そうだな。月読の曲、無事に歌い遂げて見せよう」

「ではわたし達は後ろでお色直ししてきますね~」

 

 で、気が付いたらMCも終わりの時間。わたしとマリアは一緒に舞台袖に入って一息……

 

「実は調は家だと」

「マリアぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 しようと思ったらマイクの電源を落とさず思いっきり叫び出したから全力で止めました。

 マリア、予想以上にテンション上がってるよ……




というわけで調ちゃん、翼さん、マリアさんの合同ライブでした。最初の方の話は合同ライブまでスムーズに持っていくために入れただけだったり。なおこのライブの後から調ちゃんとマリアの関係を考察する記事が幾つか上がってきたそうな。

機械仕掛けの~のシナリオを半分以上呼んだのですが、ビッキーママの破壊力ヤバすぎじゃないですか? なんか不穏ですけど、ビッキーママがヤバすぎて……母性に目覚めたビッキーの破壊力よ……
そしてなんやかんやでいっつも優しいクリスちゃん。やっぱりクリスちゃんも可愛すぎてヤバイ。ってか最早クリスママ。
ママーッ!!

FGO高難易度は何とかクリアしました。えっちゃんはアイリを使ってガッツで強行突破を果たしました。
フィナーレはフレンド水着BBのカード固定でバスター固定してクリで一掃しました。で、その際面倒だったんで令呪も適当に切ったんですけど、その結果逆にピンチになるという面白案件が発生したりしました。やっちまったぜ!!

次回は未定です。ネタが思いつき次第……ですかね


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月読調の華麗なるエレベーター

ヘキサ周回中暇だから更新していくスタイル。

今回はセレナとの話。久々にこうやってセレナ書いた気がする。

どうしてセレナかって? ヘキサで落ちるようにっていう祈願だよ。


 フィクションには時々、エレベーターの中に何時間も閉じ込められて仲のいい人とギスギスし始めるって感じの話が出てくると思う。そういう時って、最終的には誰かに助けられるか自力でどこかを破壊して脱出するかっていう二択で終わると思うんだけど……

 

「……月読さん。今何時?」

「……五時」

「……もうエレベーターの中で二時間かぁ。帰りたいなぁ……」

 

 実際その状況になってみると割と本気で笑えないし、気力もなくなってくるし、どうしたらいいのか分からないし、助けが来てくれる気が微塵もしないんだよね。

 どうしてこうなったのかを説明すると、遡る事四時間前。

 わたしは暇だったから自主訓練としてSONGのシミュレーターを使おうと本部にまで足を運んでいた。切ちゃんは響さんとどこかへ出かけてるし、クリス先輩は未来さんと。翼さんとマリアは海外で、エルフナインはちょっと忙しいらしくて、結局わたし一人だけ。

 家でゴロゴロしててもいいんだけど、実は最近二の腕が……だったから、訓練にかこつけてちょっとダイエットでもと思って本部にまで来てみた。けど、そこには予想外の来客が。

 

「あ、月読さんだ。久しぶりだね」

「セレナ? ほんと、久しぶり。今日はどうしたの?」

 

 セレナが本部の中を歩いていた。

 まさかセレナがいるとは思わなかったから、思わずビックリしたんだけど、それはセレナも同じだったようで、声をかけてきた時は若干表情が驚きました、って感じのままだった。

 最近セレナはよくこっちの世界に遊びに来てくれているけど、大体マリアが居る時に来ているからこうして二人きりと言うのは案外珍しい事。だから思わず驚いたし、きっとセレナの方もわたしは切ちゃんと一緒に居る事が基本だから、一人でいることに驚いたんだと思う。

 二人して予想外の会合に驚きながら、どうしてここに居るのかを質問しあった。

 

「わたしはマリア姉さんに会いに来たんだけど、ちょっと記憶違いで……」

「あぁ、それで……わたしは誰とも予定が合わなかったから、運動がてら訓練でもって」

「訓練? やっぱり月読さんって真面目なんだね」

「あ、あはは……」

 

 まさかそこにダイエットなんて物が絡んでいるともつゆ知らず、セレナは無邪気に言ってくれる。お陰で若干心が痛い……

 とりあえず、そんな感じで暇な二人が会ったという事で、わたし達はそれなら出かけてしまおうかという事で二人で一緒に出かける事に。セレナも折角平行世界から来たんだし、このまま帰るくらいなら一緒に居た方がいいからね。

 そういうわけで二人で適当な大型のショッピングモールで遅めのお昼を食べたり買い物したりしながら時間を潰して、わたし達は無駄な徒労を避けるためにエレベーターに乗った。それが間違いだった。

 

「それでその時マリアが狼狽えるな!! って……わっ!?」

「ひゃっ!? な、なに!?」

 

 急にエレベーターが大きく揺れた。

 思わず二人して抱き合って何かあった時のために備えたけど、特に何があるわけでもなく。それ以上の揺れは襲ってこなかった。良かったと二人で息を吐いて、ビックリしたね~、なんて言っていたけど、一分も経てば異常には気が付く。

 それに気が付いたのは、わたし。

 

「……ねぇ、エレベーターが動いてないような」

「そ、そんなまさか……まさか、ね……?」

 

 結果、エレベーターは止まった。

 多分さっきの揺れが原因なんだろうけど、エレベーターはボタンを押しても反応しなくって、緊急時にあるボタンを全部押してみたけど特に何が変わるわけもなく。二人して冷や汗を流しながらどうしようと考えたけど、結果的にこんな大きなデパートのエレベーターなんだから、いつか誰かが助けてくれるだろうと楽観視して、エレベーターの中で時間を潰す事に。

 携帯の電波は、どうしてか通じていなくて圏外。だからと言って電池を無駄使いする訳にもいかないから、二人して話ながら待っていたんだけど、一時間二時間も経てば話の話題こそ尽きないけど気力の方が限界になって、四時間も経った今、わたし達は無言でこの何とも言い難い空間を共有するだけになった。

 中にはシンフォギアでどうにかすればって人がいると思うんだけど、実はそこにも問題が。

 わたしはLiNKERが無いから、きっとこのエレベーターの天井か床を破壊した所で、その後まで持たない。多分そこから着地、脱出までギアを着用してたらホントに体が壊れると思う。いざという時は止む無しではあるんだけど、それはセレナに止められた。誰か来るだろうから、無茶しなくていいって。

 で、セレナの方なんだけど……実は、エルフナインがセレナのアガートラームを見てるんだよね。

 実は最近セレナがこっちに足繁く通ってる理由。こちら側で出ているアルカノイズがあちらにも現れた場合、対処できるのはセレナ一人。そのセレナがもしギアを破壊された場合、エルフナインがあっちに居ないのなら本当にあの世界は詰む事になる。だから、マムが世界のルールを壊す事になるかもしれないけどSONGに救援を依頼。SONGの方はカルマノイズの出現の可能性を潰すため平行世界と協力するという建前で救援を受け、今はエルフナインが慎重にセレナのアガートラームを改造している。

 セレナは数時間くらいしかこっちに居れないから、改造はかなり時間をかけて進められてる。それこそエルフナインが何日も徹夜して終わらせた作業だから、時間がかかるのも仕方ない。

 そういう訳で、セレナはもしもを考えると安全面の問題で一人じゃ外には出られなかったし、今アガートラームを持っていない。

 結果、こんなことに。

 

「……エレベーターの中って、酸欠しないようにできてるんだって」

「……へぇ」

 

 会話が始まってもこんな感じ。

 どっちかが会話をして、どっちかが適当に返事を返して終わり。生憎、今のわたし達に他人の心配をする心理的余裕はあまり残っていない。それが二人とも分かっているから、どっちかが適当な返事しか返さないのを咎めたりはしないけど。

 今わたし達の中にあるのは、助かりたいという事だけ。

 もし、このまま夜までこの状況が続くのなら、シュルシャガナを使って強行突破するしかない。どうしてLiNKERを持ってこなかったんだろうなぁ……

 

「……月読さん」

「……なに」

「……お水飲みたい」

「……トイレが近くなるよ」

「……やっぱりいい」

 

 それと、ここまで荒んでいるのにはこれもあった。

 おしゃべりしていたからお水とか飲みたくなったんだけど……察して。

 つまりそういう事。あるだけ飲んだらそうなるよねって。悲惨だよねって。だから四時間前から何も口にしていない。口の中パッサパサだけど水を飲んでいない。

 そのおかげでこの四時間、悲惨な事を起こさずに済んでいるんだけど……正直、あと一時間か二時間経ったらピンチだよね。そうなったらシュルシャガナの出番だよね。

 でも何か話さないと暇で仕方ないし、精神衛生上キツいから……

 

「……マージカルバーナーナー。バナナと言えば黄色」

 

 マジカルバナナでもしよう。

 

「……黄色と言えば夕日」

 

 乗ってくれた。多分セレナもこの状況はどうにかしたかったんだろうね。

 それに、この程度ならあまり口の中が喉が渇きまくって辛い、なんてことはなくなるだろうし。

 で、夕日だね。

 夕日……

 

「……夕日と言えば今の外」

「……今の外と言えば誰も気づいてくれない」

「誰も気づいてくれないと言えばこのまま助けが来ない」

「このまま助けが来ないと言えばこのまま死亡」

「このまま死亡と言えばお先真っ暗」

「お先真っ暗と言えばわたしたち……あははっ」

「あははっ……」

 

 ……どうしてこうなったっ!!

 どうしてマジカルバナナからこうなった!! いや、途中からわたしの方もアレだったけど!! 変な空気にしちゃったけど!!

 ほら、セレナの表情がダークサイドに入っちゃったよ!! 軽く涙目で変な笑い方してるよ!! 顔引き攣ってるよ!!

 

「……ま、マージカルバーナーナー。バナナと言えば長い」

 

 も、もう一回……!

 

「……長いといえばこのエレベーター」

「……このエレベーターと言えば助けが来ない」

「……助けが来ないと言えば死亡」

「死亡と言えば……ってさっきと同じじゃん……っ!!」

 

 もう駄目だ!! もう駄目だよこれ!! どうやっても会話がマイナス方向に持っていかれるよ!!

 ほら、もうセレナがマリアとマムの名前を呼んで泣きながら笑ってるじゃん! もう精神的に限界じゃん! まだ十四歳の子にこれはきつすぎるって!! だってわたしでもキツいんだもん!!

 もうやだぁ……帰って切ちゃんとおやつ食べたいよぉ……

 どうしてこんなに助けが来ないの……? ショッピングモールのエレベーターなんてどんなに少なくても一時間に一回は誰か使うでしょ……なのになんで誰も気づいてくれないの……

 はぁ……お腹は空かないけど喉乾いた……

 けどこの状況どうにかしないと乾いた喉も潤せないし。どうにかして今の状況を、少なくともこの死んだ雰囲気をどうにかしないと。

 マリアや響さんならどうするかな。響さんならきっと、へいきへっちゃらって言ってくれるんだろうけど。でも、そんな事、わたしは言えないというかちょっと気恥ずかしいというか。

 マリアなら……マリア……そうだ。

 

「……~♪」

「え……?」

 

 わたしは、マリアが時々歌っている歌を歌う。

 確か曲名は……Apple。マリアと、セレナの故郷に伝わっている歌だっけ。

 ちょっとだけお水を飲んで口の渇きをどうにかしてから、自分なりに歌う。すると、セレナもちょっとだけ水を飲んで歌い出した。そうしてAppleを歌い終えると、セレナの表情は少しマシになった。

 歌を歌えば、気は紛れる。少なくとも、わたし達みたいに歌と共に戦った人なら。

 

「セレナ、歌おう? それなら何時間でも耐えられるよ。少なくとも明日までには救助は来ると思うから」

「……うん、一緒に! 何時間でも!」

 

 若干ヤケは入っているけど、それよりも何もせずにいるよりはマシ。

 その気持ちで歌うのは、マリアの曲や翼さんの曲。それに流行りの曲だったり。色々と歌って、気が付けば二時間以上時間は経っている。お腹は空いたけど、それでも歌うのは止めない。

 気が付けばわたし達はうろ覚えの振り付けで踊りながら携帯からオフボーカルの音源を流してノリノリで歌い始めていた。ソロ曲で歌えるのが無くなれば、デュエット曲を歌って、マリアと翼さんの曲をノリノリで歌う。

 外から聞こえてくる話声に気が付かず。

 

『~♪』

 

 そして星天ギャラクシィクロスのラスサビに入る直前に二人でビシッとカッコつけて。

 

『スターダス――』

「大丈夫、調ちゃ……あっ」

『あっ……』

 

 カッコいい感じの声でビシッと言おうとした瞬間、天井がべりっと剥がれてそこから響さん、クリス先輩、切ちゃんが顔をのぞかせた。

 ……えっ。

 

「……あー、そのな。実はここら辺で錬金術師が暴れちまって、しかもカルマノイズまで出てきて通信妨害までされてな。ちょっと救助が遅れたんだわ」

「だからその、終わってから急いで来たんデスけど……」

「あ、あははは……ぶ、無事でよかったよ、ホント……」

 

 クリス先輩は苦笑しているけど、切ちゃんと響さんは顔を合わせてくれない。ついでにわたしとセレナの顔は真っ赤。リンゴみたいに真っ赤。

 そりゃね。ビシッと振り付けまでして二人そろってノリノリで歌って踊ってたんだもん。しかも決め顔で。

 そんなところを見られたらね。そりゃ恥ずかしいよね。

 穴があったら入りたいよ……!!

 

『……い、いっそ殺して』

 

 わたし達は顔を真っ赤にしながら呟いて、結局響さん達に救助されたのでした。

 もう、暫くエレベーターは使いたくない……!!




そういうわけで、エレベーターに閉じ込められた二人のお話でした。一応元ネタ的には銀魂の何話か忘れましたが、エレベーターに閉じ込められる話です。

今更ですけど、ヘキサセレナの後ろ姿、色っぽすぎません? というかスカート……スカート? の丈が短すぎて足が出てて……すごく、可愛いです。覚醒後のイラストも可愛いです。

それとはまた別で、星4知調を限凸しました。けど星6に上げるための素材集めがダルすぎて……あれってHARDも回らないと素材集めきれないパターンですよね。HARDをイエローゾーンまで削るなんてできないんじゃが……

あと、自分は今までメモリアは重ねずに使ってたんですが、最近になってステさせてぶん殴った方が……と考え始めて、重ね始めました。あれって結局重ねずに使うのと重ねるのってどっちが強いんですかね

という訳で(?)次回は未定。もしかしたらゲーム実況時空とか、何だか急に頭で湧いてきたつばしらとか書いてみたりするかもしれません。それではばいにゃー


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月読調の華麗なる実況の日々

今回はゲーム実況時空の話です。なんだか久しぶりですね。

もう声優、アイドル、実況時空が完全にシリーズ物になって、時々切ちゃんの切痔時空、心霊時空が混じってくる感じになってる……w

もっと色々と単発の短編を出さねば……!!


 わたしが切ちゃんと一緒にゲーム実況者……っていうのかな? になってから暫くが経った。

 なんだか切ちゃんはチャンネル名? をイガちゃんの実況部屋から、実況女神ザババの部屋っていうのに変えて、わたしと切ちゃん共同のチャンネルにしたらしい。で、その時に色々とルールを決めた。

 まずわたしと切ちゃんの合同実況は週に一回は出すこと。不可能なら不可能でいいけど、出せそうなら出すこと。

 次に、動画はわたしか切ちゃんが二日に一回は最低でも投稿する事。一日に一回はゲームのプレイ時間的にも動画の編集量的にも無理があるから、二日に一回。これは最初の方に視聴者さんの方にも伝えてあるらしくて、二日に一回。もしくは三日に一回のペースを維持しているみたい。でも何か任務があるとき……つまりどうしても外せない用事があるときはツイッターでお知らせだけして終わり、って事にするっぽい。

 あと、切ちゃんのチャンネルはそこそこ人気らしくて、既に広告収入を稼げるほどにまでなっているとか。だから、広告収入に関しては基本的に全体的な収入を半分にして分配っていう事に。で、もし編集を誰かに手伝ってもらうのなら、ここから相手に報酬を出すこと。

 最後に。本名と顔。それからプライバシーが漏れそうな部分は絶対に出さない事。これは安全面の事もあるし、変な人に情報を与えないため。特にわたし達は日本の最重要機密そのままみたいな感じだから、特にシンフォギアを連想させる言葉は言わない事。言ったらカットかピー音を入れる事。これを守ればリアルの動画を撮影して投稿するのも大丈夫みたい。

 他にもいくつかあるけど、大きなのはこれだけ。でも、動画を投稿してお小遣いを稼げるのは魅力的だから、わたしはとある事を動画にしようと考えた。リアルの動画も大丈夫って言ってたからね。

 

「えっと、これでスタートしてちょっと離れて……はい、皆さんこんばんわ。シュルちゃんの晩御飯教室だよ」

 

 ゲーム実況ではないんけど……わたしは毎日ではないけど、切ちゃんと自分の分の晩御飯を作ってるから、それを動画にして動画を見ているみんなにも美味しいご飯を作ってもらおうって思って、料理を作る動画を上げる事にした。

 この動画の編集は、一週間分纏めてエルフナインに編集を頼んでいる。

 エルフナインは未だに週休二日はあるのに、それを使わないどころか休日出勤までやらかしているから、この編集をぶん投げて家に閉じ込めておいて、出勤には遅すぎる時間に作業を終わらせてその日は休ませる……という手に出てみた。

 結果は成功。エルフナインは一週間分の動画を僅か数時間で終わらせるんだけど、結果的に出勤には遅すぎる時間になって、結局その日と次の休みの日はプライベートな事に使うようになった。特に響さんやクリス先輩と映画を見に言ったりご飯を食べに行ったりね。

 わたしも動画データの受け渡しをする時にお誘いを受けるから、一緒に遊びに行くことがしばしば。ちょっと拘束時間作っちゃってるのが申し訳ないんだけど、エルフナインが動画編集を趣味にしかけているらしくて……もう断るにも断れないというか、編集全部任せてくれてもいいんですよ? とか言う始末で……あはは。

 話がそれたけど、わたしはこの料理動画を週に三本から五本くらい出している。再生リスト? を使ってちゃんと実況動画とは別枠で投稿しているから特に問題なし。

 ちなみにわたしは仮面装備。

 

「えっと、後は暫く煮込むだけだから、ちょっとコメントにお返事するね」

 

 で、お料理には暫く待つ時が時々ある。

 その時にわたしは先週分のコメントの中から一部を選んで予めメモ用紙に書いておいて、その返事をしている。

 

「最近ゲーム実況よりもこっちの方がメインになってる気がする……うん、わたしもそんな感じがする」

 

 だって、これが週三~五回で、ゲーム実況が週三~四回だもん。そりゃね……

 

「この動画の編集は友達に頼んでるんだけど、ゲーム実況の方は自分で撮って編集して……って感じだから、どうしてもゲーム実況の方が遅れちゃうんだよね。もう少し投稿スピード上げたいけど、学校とアルバイトもあるから……」

 

 あ、このアルバイトだけど、装者関連の事だよ。

 流石に用事とか何とかで誤魔化すのもキツイと思って、アルバイトしている設定にしてみた。切ちゃんとルームシェアして、ゲームとかに使うお金とかどこから出てるのか疑問に思う人が出てくるかもしれないからね。だから、一番無難で違和感がないアルバイトって言葉を選んでみた。

 あながち間違いでもないし。国家直属の機関で超特殊な装置の実験アルバイト。うわ、こうするとすっごく怖いというかマッドというか……本当は全然マッドじゃないしすっごくいい所だけど。

 

「次は、この間出かけたらシュルちゃんっぽい子がアルバイトしてるのを見ました? うん、人違いだから安心して。わたしは表に出ないタイプのアルバイトしてるから」

 

 うん、絶対に見られてない。絶対に他人の空似だし。っていうか顔も分からないのにどうやって判別するの?

 とりあえず次。

 

「イガちゃんは料理できないんですか? できません。次は……この動画の編集の仕方が違う気がする。うん、違うよ。さっきも言った通り、この動画の編集は友達のEちゃんに投げてるから。Eちゃんの編集技能の向上をご覧ください」

 

 ElfnineでEちゃん。間違ってはいない。

 

「じゃあ今回はこれぐらいで、後はカット」

 

 と言ったところで一旦動画を止める。後は煮込むのが終わってから撮りなおして……かな。

 毎日やってる事を撮っているだけだから全然大変とか思わないし、編集は全部エルフナインに投げちゃってるから編集の苦労とか無いし……

 

「あ、調~。今日からはこれの実況を撮るデス!」

「えっと、マインクラフト? あ、聞いたことある」

「これをあたしと調の二人でプレイして動画を上げるんデス! もう調の分はパソコンにインストールしてあるデスよ」

「え? 二人で一つじゃなくって?」

「これは二人別々にプレイした方が面白くなりそうデスから」

 

 そう……なのかな? っていうか、いつの間にわたしのパソコンに……

 一応、わたしのパソコンもSONGの方……というかエルフナインが、もしもハッキングとか受けたら大変だからって言って一から組んだパソコンだからかなり性能が高いんだよね。うん、高いんだよ。明らかに現行スペックを数倍は超えているレベルで。

 試しにパーツを調べてみたら、この世のどこにも存在しないパーツが幾つも使われていたんだよね。明らかに異端な技術が詰め込まれた見られるだけでアウトな代物になってるんだよね。ちょっと怖かったよ。ちなみにこれが装者&未来さんのパーソナルカラーに塗られて配られました。経費で落ちたらしい。

 でも、そんなオーバーテクノロジーなパソコンだからこそ、ゲームをやりながら録画なんて楽々。とりあえず料理の方をサクッと終わらせて切ちゃんと一緒にご飯を食べて自室に入ってピンク色のパソコン起動。

 確か設定の方は切ちゃんが終わらせているから、通話アプリを起動してからマインクラフトを起動して……

 

『あ、調。聞こえてますか?』

「聞こえてるよ。どうしたらいいの?」

『あたしが先にサーバー建てるので、調はあたしの言った通りにやってほしいデス』

「うん、わかった。どこから撮影する?」

『調がログインしたらデスね。一人は初プレイ、一人は完全初見プレイって体でやるデスよ』

「じゃあ、わたしはもう録画しちゃうね。ここからはイガちゃんとシュルちゃんで」

『あいあいさーデス』

 

 それで色々と操作して、わたしがログイン。すぐに切ちゃんは録画を開始したらしくて、ピョンピョンと飛び始めた。えっと、操作方法はこっちの紙に書いてくれているからこれを確認しながらプレイしないと……

 

『はい、始まったデス! 実況女神ザババのマインクラフト実況プレイ!』

「あ、そんな感じでやるんだね」

『こんな感じデス。あ、もう知っている人が多いと思うのデスが、イガリマことイガちゃんです』

「シュルシャガナことシュルちゃんです」

 

 なんか切ちゃんがピョンピョン跳ねてるからわたしもピョンピョン。

 さて、これどうしたらいいのかな。とりあえず切ちゃんが色々と説明するのを待っていると、どうやらマインクラフトは明確なクリア目標はないらしくて、今までもシリーズものは幾つか撮ってたけど、今回のマインクラフトはわたし達が飽きたら終了っていう感じでやるっぽい。

 それで、まずやらなきゃいけないのが、家づくり。これをしないと出てくるモンスターにやられちゃうかららしい。

 それからは自由だけど、切ちゃんはジ・エンドって所に出てくるエンダードラゴンを倒す事を目標にするみたい。わたしは完全に初耳だからへーと言うだけ。

 

『で、シュルちゃんの反応から分かる通り、シュルちゃんは完全初見プレイデス。あたしもちょっと知識として知ってるだけなので、グダグダプレイになってしまうのは勘弁してほしいのデス』

「サクサクできるようには頑張ります」

 

 というわけでここからはハイライト。

 

『じゃあまずは家を作るデス! 適当に木材を切る木こりタイムデス!』

「なんだか地味な作業だね」

『それを乗り越えてこそデス! こっちデスよ、シュルちゃあああああああああああああ!!?』

「あっ、イガちゃんが溶岩に……」

『ど、どうしてこんな地表に溶岩が……死んだデス……』

 

 なんというか、運が良いのか悪いのかよく分からない切ちゃん。

 

「あ、リンゴ出てきた。ラッキー」

『なんで木こりしてるだけでりんごが十個以上落ちてるんデスか……』

 

 あと、わたしは沢山リンゴを取ったよ。本当はあんまりリンゴって出てこないらしいね。それこそ木を養殖しないとそこまで数をそろえられないっぽいし。でも、こうやって出てくる分には嬉しいのかな。

 とりあえず後で買ってきたリンゴ剥いて食べよっと。

 

『シュルちゃん、あっちの崖に豚を発見したデス! 早速狩って肉を取るデスよ!!』

「あ、まってイガちゃん。そんなに飛び跳ねたら崖から落ち……」

『にゃああああああああああ!!?』

「……以上、イガちゃんの珍しくもない猫の物まねでした」

『足首を挫きましたデスー……』

 

 ちなみに、この動画の撮影の翌日に切ちゃんの悲鳴コレクションとして切ちゃんが悲鳴を上げている部分を切り貼りして動画を投稿したんだけど、かなり好評だったよ。切ちゃんは顔を真っ赤にして無言でわたしを叩いてきたけど。

 

「ふぅ、やっと家が完成したよ。イガちゃんはどこにいるの?」

『地下で石炭とか採掘中デス。やっぱりこれが無いと始まら……あっ、ちょ、匠がうに゛ゃ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!?』

 

 直後、爆発音と共に切ちゃんのキルログ。

 あーあ。折角集めた素材が。っていうか、さっきの猫の物まね、ヤケに迫真すぎて若干笑っちゃったよ。これ聞いて笑わない方が無理でしょ。

 切ちゃん、にゃっにゃにゃー(励ましの意)。

 

『こ、今回はこれで終わりデス……うぅ、どうしてあたしばかり死んでるんデスか……』

「まぁ、イガちゃんは屑運らしいから」

『シュルちゃんが豪運すぎるんデスぅ!!』

 

 まぁそういう訳でマインクラフトの実況一回目はこれで終わり。なんだかハイライトにしても一回目から濃かったというか、切ちゃんの死に芸が凄いというか。なんでそんなピンポイントでマグマに落ちたり崖から落ちたりクリーパーに背後から自爆されるんだろう。

 それも切ちゃんの持ち味ではあるんだけど。

 とりあえず、この動画は後でわたしが編集するとして。だってそうしないと切ちゃんって意図的に自分の醜態を消して投稿するときがあるから。多分今回も削って投稿するだろうし。だからわたしが編集役。

 

「はぁ……どうしてここまで運がないんデスか……」

「まぁまぁ切ちゃん。それも切ちゃんのいい所……あ、ごめん。一回目のガチャで虹出ちゃった」

「もう慣れたデス」

 

 で、実況終わり。わたしと切ちゃんはわたしが剥いたりんごを齧りながら休憩中。その時にわたしが、切ちゃんとやるからって事で携帯に入れたアプリで虹色の最高レア引いてたり。切ちゃんはもう天井しかない! って言ってガチャを回していないみたいだけど。

 そのせいでわたしと切ちゃんの最高レアの差って三倍近いんだよね。しかも、わたしのはとっても強いキャラばかりなのに切ちゃんのは微妙なキャラばかり。なんていうか……ドンマイだよね。

 

「うーん、まだ夜の八時デスね。明日はお休みデスし、もう一本くらい撮ってもいいかもデスね」

「じゃあ久しぶりに生放送する?」

「あ、いいデスね! じゃあ……またジェイソンをやるデス!」

 

 そしてわたし達はまた実況へ。

 これが、最近になって変わった、わたし達の日常なのでした。

 

「ちょ、なんで車がこっちにゃああああああああ!!?」

「まさか轢き逃げアタックで死ぬなんて……」

 

 そして切ちゃんの屑運も相変わらずなのでした。




相変わらず屑運な切ちゃんと、お料理動画の投稿を始めた調ちゃんでした。そろそろ声優アイドル実況時空の話ばかりになってきているような気がしてならない……

結局ヘキサは諦めました。無理です。キッツイです。落ちません。勘弁してください。勘弁してほしい。FGO回らなきゃならへんねん。配布酒呑? を取るために北欧を更地にせなアカンねん。

最近になってラタをクリアしたんでグレイセス始めました。ソフィが調ちゃんに見えかけたり見えかけなかったり。やっぱ中身全然ちげーわってなったり。

とりあえず次回の内容は未定。友人達に何かネタの提供でもしてもらえたらいいなぁと思いつつ今回はここら辺で。


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月読調の華麗なるせんぷうき

ハロウィン調ちゃん、十連で一発ツモ。前回のチャレンジカップで初ゲットした風穴クリスちゃんに続いて二人目の怒属性星5。
カボチャ型丸鋸を帽子の中にしまうの可愛すぎでは……? というかハロウィン型、クッソ可愛すぎでは? きりしらで一枚絵になるの最高に可愛いし、片っぽだけストライプのニーソなの最高に可愛いですし、魔女っ娘ですけど、どこかゴスロリっぽくて可愛いし。やっぱ調ちゃんにはゴスロリが似合うじゃないか!! 露出少ないのも調ちゃんっぽくてもう最高じゃないか!!

あ、今回はタイトルを見ればわかる人はいる……かもしれないです。
とりあえず今回はカブト狩り時空の続きです。どうぞ。


 わたし達のカブト狩りは失敗に終わった。

 それもこれも全部、わたし達の身内という名の恥となった装者共のせいだ。馬鹿とお気楽と防人とシスコンが変な事やらかして、ついでにグラビティレズが犠牲者をとうとう作り出して。結局わたし達はマジ泣きして山を下山して返ってくるハメになった。その日以降、わたしは私物の大半を持ってクリス先輩の部屋に泊まっている。

 だって、あんな事やらかした切ちゃんと前みたいに接するなんて無理だよ。もう暫く一緒に居てほしくないもん。顔すら見たくない。顔見るたびに泣きそうになるだろうから。

 でも、当初の目的だったクーラーは未だにご臨終したまま。わたしとクリス先輩は、はしたないのを理解しながら下着だけで着てフローリングに寝転んで、冷たい場所を求めてゴロゴロ転がっている。

 保冷剤、氷枕、扇風機。使える物全部使ってもクーラーという文明の利器に体の隅々まで甘やかされた現代っ子のわたし達には、そこまで使える物を使っても暑さにやられている。

 

「何もやる気起きねぇ……」

「水風呂浴びます……?」

「歩くのめんどい……」

 

 それに、この暑さのせいで立つことすら億劫。おさんどんする気にもならないから、ここに来る前に買い込んでおいた冷凍食品とかで毎日食い繋いでいる。でも、それもそろそろ限界が来ている。

 夏休みの宿題もやらなきゃいけないし、訓練も最近サボりがちだし、他にもやらなきゃならない事が盛沢山。本当にどうにかしないと……どうにか……あれ?

 

「……なんか、風が来ないような」

「……扇風機止めたか?」

「いえ……」

 

 急に扇風機先輩から送られてきていた風が止まってしまった。

 クリス先輩が扇風機先輩を独占しているんじゃ、なんて思ったけどクリス先輩の方にも来ていない。横を見てみれば妬ましい程大きな胸部装甲を、わたしには無縁なブラと一緒に晒しているクリス先輩が寝転がってる。じゃあどうしてと思い扇風機先輩を見てみれば、扇風機先輩はその首を振っていなかった。

 しかも、扇風機先輩は何もしていない。完全な置物になっていた。

 動くのは面倒だけど、扇風機先輩は最早わたし達の命そのもの。付けないと死ぬ。だから動かしてみたんだけど……

 

「う、動かない……?」

「はぁ!? そんな馬鹿な……ま、マジかよ」

 

 扇風機先輩はうんともすんとも言わない。

 つまるところ……ご臨終です。

 

「冗談だろ!? おい動けよ扇風機先輩! 生きるのを諦めてんじゃねぇぞ!!」

 

 クリス先輩が扇風機先輩に喝を入れるけど、扇風機先輩は動いてくれない。しかもクリス先輩の喝に耐えられなかったのか首がボキっと折れて生首が床に落ちてしまった。

 黙るクリス先輩。クソうるさいセミの声。天を仰ぐわたし。これはもうだめかもしれないね。

 一気にモワっとし始めた部屋の中。どれだけ窓を開けても扇風機先輩が部屋の中の空気を回さないからどうしても部屋の中は暑くなってしまう。わたし達は扇風機先輩の微力ながらも多大な功績を改めて理解する。このままじゃこの部屋は外に居るのと変わらないくらい暑い部屋の中になってしまう。

 

「……これは緊急事態だ。誰かがどうにかしないといけない」

「でも外に出たくないです」

 

 こんな外に出るなんてしたくない。

 死が見えるっていうのもあるし、何より服を着ないといけない。外を歩ける程度の衣服を纏うという事は、それだけ暑くなってしまうという事。つまり死。保冷剤とか抱えられないから死ぬ。

 

「出なきゃどうにもならんだろ。アタシが金出すから扇風機先輩を買ってきてくれ」

「嫌ですよ」

「ほら千円」

「ナメてるんですか」

 

 千円でどうしろって言うんですか。それだけじゃ扇風機買えませんって。

 

「じゃないとアタシはお前を部屋に送り返さなきゃならなくなるんだがなぁ?」

「ぐっ……!」

 

 でもそう言われると少なくとも外へは出ないといけない。

 もしクリス先輩に部屋を送り返されてしまったら、切ちゃんと顔を合わせないといけない。それは嫌だ。もうちょっと心の整理をする時間が欲しい。

 だから、わたしはクリス先輩に泊めてもらった、泊めてもらうお礼として外へ出ないと……!

 恨むよ切ちゃん……!!

 

「……分かりました。行ってきますけど、千円じゃ買えないかもですよ?」

「歩いて十分ちょっとの場所に個人経営のリサイクルショップがある。そこ行ってこい。多分あるだろ」

「ぐぬぬ……これも自分のため……未来への投資……!!」

 

 行くしか……ない……

 でも千円で扇風機なんて買えないような……

 

 

****

 

 

 外は人間を溶かす事すら容易なんじゃないかというほどの暑さ。どうして歩けるのか自分でも不思議なほどの暑さの中、タオルで汗を拭きながら近くの自販機で買った水をコマめに飲む。

 歩いている最中周りを見れば、今にも死にそうな顔で歩いているスーツ姿の男性や、日傘をさしている主婦らしき女性。そして走り回る子供。どうしてこんな暑さの中を笑顔で走り回れるのかがマジで理解できない。でも子供にとって暑さなんて笑顔で耐えられるモノなんだろうなぁ……

 一応自衛用の訓練用LiNKERをポケットに入れて歩いてはいるけど……このLiNKER、体に打ち込んでも大丈夫? 変に温くなって変な副作用起こりましたとかないよね? 使う事は無いんだろうけど……でも心配ではあるよ。

 そんなワケで、わたしは十分ほど歩いてリサイクルショップにたどり着いた。店名は……地球防衛基地? なんともまぁ壮大な店名なこと。あー、暑い……はやく扇風機を買おう……

 

「いらっしゃい」

 

 不愛想な女性の店主がクーラーの効いた店内でこっちを見てくる。

 あー涼しい……もうここに根を張ってしまおうか……

 とりあえず扇風機が無いかな……あれ? ない? 扇風機置いてないのかな……? 聞いてみよう。

 

「あの」

「何だい」

「扇風機、無いんですか?」

 

 そう聞くと、店主の女性は目を見開いた。

 え? なにか気に障ること聞いた? 大丈夫だよね?

 

「『せんぷうき』か、懐かしい名前だね。あんた、どこでそれを聞いたんだい?」

 

 え? いや。

 

「普通に知ってますけど」

 

 扇風機だよ? それが分からない人なんていないでしょ?

 っていうか何でそんなにビックリしたというか驚愕したというか。そんな予想外な言葉を聞いたみたいな顔になっているの。たかが扇風機だよ?

 

「これで何とかしてください。扇風機譲ってください」

 

 でも、なんだかこの人危ない人っぽいからもうお金だけ渡して扇風機を譲ってもらおう。千円じゃ門前払いかもしれないけど、とりあえず交渉あるのみだよ。

 だけど女の人は特に何も言わない。というか、何でかすっごい渋い表情してる。やっぱ千円じゃ買えないよね。諦めるしかないかな。

 

「そうかい……ちなみにあんた、名前は?」

「名前……? 領収証ですか?」

 

 えー……なにそれめんどくさい。

 

「……もう上様でいいです」

「そうか、上様かい」

 

 あれ? なんか空気が不穏に……

 まぁいいや。これで扇風機が買え――

 

「悪いけど、アンタみたいな悪の組織に『せんぷうき』は渡せないよ!!」

 

 と言って女の人はカウンターの下から拳銃を……はぁ!!?

 

「あばよ上様!!」

「あぶなっ!?」

 

 女の人は拳銃をこっちに向けてきたけど、なんとか下から拳銃を叩き上げて銃口を上に向けさせる。直後に引かれた引き金によって弾丸が天井へ向けて放たれて木製の天井に傷が付いてしまう。

 っていうか、どうして拳銃なんて持ってるのこの人!? わたし扇風機買いに来ただけだよ!? なんで扇風機買うだけで拳銃向けられなきゃならないの!? 装者みたいに日常的に訓練していなかったら確実に死んでたよ!?

 

「何するんですか!?」

「黙りな! 『せんぷうき』だけは何があっても渡さない!!」

「いや、たかが扇風機に何言ってるんですか!?」

 

 こ、このままじゃ撃たれるかも……ギアを纏う? いや、こんな所でギアを纏ったりしたら機密保持だったり何やらに引っかかるし、一般人……一般人? に対してシンフォギアを使うなんてそれこそ駄目。でも、相手も拳銃を向けてくるような人だし……

 そうだ、普段着とあまり変わらないようなギアを纏えば!

 

「Various shul shagana tron!」

 

 纏うのは、ハロウィン型ギア! 完全に季節外れだし、わたしがゴスロリ趣味の痛い子ってなるかもだけど、普段着と言い張れるハズ!!

 

「なっ、変身した!?」

「大人しく、して!」

 

 LiNKERを打つ前にギアを纏ったから身体的な負荷がかなり大きい。だから、拳銃を力づくで奪って投げ飛ばしてから腕を掴んでわたしが入ってきた入口の方へ向かって投げ飛ばす。そしてすぐにLiNKERを打って適合率を上げる。

 とりあえず拳銃にはカボチャ型の丸鋸を投げて破壊しておく。女性の方はシンフォギアの力で投げ飛ばされたのに普通に着地したらしく、こっちへ向かってどこに隠していたのか分からないナイフを向けている。大丈夫、ナイフ程度なら刺されても無傷で済む。

 だから今はわたしの身の心配じゃなくて。

 

「まさか悪の組織にこんな手品を使うやつがいたなんてね」

「一体何なんですか、悪の組織って! わたしは扇風機買いに来ただけなんですよ! 千円しかないけど扇風機が欲しいだけなんです!」

「『せんぷうき』を使ってその千円札を増やす事が目的だって事は分かってんだよ!」

 

 ……ん?

 扇風機を使ってお金を増やす? 一体どういう……

 

「アタシは何があっても扇風機を渡しはしない! だからここで死んでもらうよ!」

 

 くっ……ここは何とかあの人を無力化して話をしないと。それに、あの人が何か変な事考えているんなら銃刀法違反ということでとっ捕まえて警察に預けなきゃ。でも無断でギアを使ったこと、どう報告しよう……

 

「覚悟っ!」

「覚悟するのは貴様だ、地球防衛軍!」

 

 来る、と思って構えた瞬間。

 店主の後ろから男の声が響いて、更に銃声が聞こえるとともに店主の人が倒れた。

 う、撃たれた!? 一体どういう事!? さっきから何が起きてるの!?

 

「ようやく見つけたぞ、地球防衛軍の生き残りよ」

 

 ち、地球防衛軍?

 ズカズカと店の中に入ってきた男は、何かこう……明らかに悪の組織ですよ的な格好をした男の人が、右手と一体化しているらしい銃を構えている。

 その後ろには全身タイツの……なんだろう、悪の組織の雑魚敵みたいな。簡単に言っちゃうとショ〇カーみたいなのが沢山いる。正直変態にしか見えない。

 

「ふむ。で、そこの小娘は何だ? 季節外れのハロウィンでもしているのか?」

 

 と言いながら男はこっちに銃を向けてきた。

 いや、別にそういう訳じゃないんだけど……わたし、扇風機買いに来ただけなんだけど。

 

「ぐっ……あんたらの仲間じゃないのか……!?」

「違うな。だが、その小娘も我等と同じ『せんぷうき』を求めていると見た。どうだ、そこの小娘。我等の仲間にならぬか?」

 

 ……えーっと。

 なんかもう脳が追いつかないんだけど。なに、地球防衛軍とか悪の組織とか。理解できないししたくないし。そもそもわたし扇風機買いに来たら拳銃突きつけられて自衛しただけなんだけど。なんで変なオッサンにスカウトされてるの? わたし、もうSONG所属って肩書あるんだけど。

 なんかもう分からないけど……とりあえず今は。

 

「……殺X式、悪戯変化!」

「なにぃ!?」

 

 帽子の中からカボチャ型丸鋸を発射して変態集団を吹き飛ばす。その後すぐに撃たれて倒れている店主の人を回収して外へ飛び出し、建物の屋上を飛び跳ねて移動してから適当な路地裏に着地して店主の人を降ろしてギアを解除する。

 これで多分撒けたハズ。

 この人も銃をいきなり撃ってきたけど、今は負傷しているしこの人を助ける事を優先した。よく分からないけど、この人たちはシンフォギアの存在を知らないから、今頃爆発したカボチャ型丸鋸に困惑しているはず。

 

「あんた、どうして……」

「悪の組織とか地球防衛軍とか分からないけど、流石に放っておけない」

 

 応急処置は一応できるからするけど……早いうちに病院に連れていかないと。

 早いうちに救急車を呼んで……

 

「ま、待ってくれ」

 

 と思って携帯を取り出したら、その手を抑えられた。

 まだ何かする気……?

 

「あんた、悪いヤツじゃないんだな」

「……えぇ、まぁ。広義的には」

 

 シンフォギア装者っていう影から人々を守る機密そのもの……ではあるから悪い人にはならないと思う。大きな災害には人助けのために動いているし。

 だからそう告げると、店主の人は懐からメモ用紙を一つ取り出して渡してきた。これは……住所? 多分、ここから数キロ先の廃工場かな? 確かあそこには何もなかったはずだけど……

 

「ここに『せんぷうき』がある。頼む、アタシの代わりに『せんぷうき』を破壊してくれ」

 

 ふぅん、ここに扇風機が……

 はい?

 

「いや、扇風機買いに来た人に破壊を頼むって馬鹿なんですか!?」

「頼んだよ……地球の未来はアンタにかかってるんだ……」

「だからわたし扇風機買いに来たんですけど!? ちょっと、何RPGのちょっといい事言って離脱する人みたいな事言って気絶してるんですか!! お願いだから話を……」

 

 ……

 …………あー!!

 あーもう!! わかったよ! 行けばいいんでしょ行けば!!

 どっちにしろなんか変な事に巻き込まれているんだから解決しないと後々厄介な事になるパターンでしょこれ!!

 なんで扇風機買いに来ただけでこんな事に巻き込まれるかなぁ!!

 

「Various! shul shagana! tron!!」

 

 半分やけっぱちで叫んで聖詠。今度は和装型になって建物の上を走る。わたしの和装型は忍者だから、こういう場所を人目に付かず走るには和装型が丁度いい。

 数キロ先だから暫くかかるけど……と思いながら走っていると、SONGの方から連絡が来た。多分、わたしのフォニックゲインを感知したから急遽連絡してきたんだと思う。

 

『調くん、一体どうした!』

 

 ギアを纏わないといけない状態というのは、少なくとも警察組織とか自衛隊じゃ解決できないような状況に出会ってしまっているという事。だから風鳴司令はかなり焦った感じで連絡をしてきたけど……すみません、なんか巻き込まれたので自衛のために纏っただけなんです。

 一応一から十まで包み隠さず伝えると、あちら側の反応がちょっと変わった。

 

『扇風機に地球防衛軍……? …………まさか銭封機の事か!!?』

 

 え? 何を言っているの?

 

「何か知ってるんですか?」

『実は江戸時代のとある時期に大量の偽造小判が市場に流れたという記録が残っている。その際に銭封機というカラクリの名が幾度か出てきてな。その時この銭封機を誰の目にもつかない場所に運んだ組織の名が『地球防衛軍』だったという話だ』

 

 ……はぁ?

 

『すまん、俺達も眉唾か創作だろうと思っていたのだがな……だが、こうなった以上調べなくてはならない。それに、もし銭封機が実在するのなら、恐らく銭封機には聖遺物の力が一部使われているだろう』

「聖遺物、ですか?」

『詳しくは分からんがな。ただ、放っておくと面倒な事になるかもしれん』

 

 でも、そこまで大量の偽造したお金を作れるのなら、ちょっとした聖遺物の特性を利用していると思っても……どうなんだろう? 風鳴司令も困ったような声出してるし。

 

「面倒な事とは」

『偽札が大量に刷られ、混乱が起こるかもしれない。小判を作るだけなら今の世の中ではそこまで重要ではないが、念のためだ。調くん、銭封機の回収、もしくは破壊を正式な任務として頼みたい』

「……まぁ、任務ならやります。なんか馬鹿らしくて気は乗りませんけど……」

『すまんな……』

 

 気が乗らない……はてしなく面倒……

 でも、正式に任務として依頼されたならやるしかない。相手はシンフォギアを知らないってことは異端技術は出てこないだろうし、わたし一人で戦力は事足りる。っていうか暑いしとっとと片付けたいから早く終わらせちゃおう。

 そんなワケで廃工場に到着。立ち入り禁止って書いてあるけど、今のわたしに指図できるのは風鳴指令くらい。ズカズカと廃工場の中に入る。

 えっと、銭封機ってカラクリなんだし、何かメカメカしいのか……な?

 

「……えっと、なにこれ」

 

 廃工場に入ってすぐ見つけたのは、何というか……

 巨大な招き猫。まさかこれが……?

 

『極僅かだが聖遺物の反応がある。調くん、そこには何がある?』

「巨大な招き猫です。五メートルくらいはありますね」

『無駄にデカいな……とりあえず、気を付けて調査してほしい。もし危険があるようなら破壊してくれて構わない』

「分かりました」

 

 とりあえず招き猫を調査することに。

 えっと……特に動くような場所は見当たらないかな? 強いて言うならちょっと風化している程度で、でも最近までちゃんと整備はされていたみたい。使った跡は……よく分からない。重さは……うん、わたしじゃ無理。多分響さんなら投げ飛ばしたりはできるだろうけど、少なくとも中身は何か入ってる。

 とりあえず色々と触ってみて……あ、前足が動きそう。とりあえず動かしてみよう。

 ガシャッと。

 

「……あっ、お札が」

 

 前足がレバーみたいになってたから全身を使って引いてみると、招き猫の口が開いて札束がドバドバ出てきた。

 でもこのお札、風鳴司令の言う通りなら偽札。とりあえず一枚だけ手に取ってみてよく見てみると、透かし絵がない。精密に作られているけど、透かし絵だけは出てこない。でも、これをお会計の時とかにサラッと出されたら、ちょっと一目じゃ理解できないかも。

 ……風鳴司令が言っていた事、本当だったんだ。確かにこれは混乱を起こす前にどうにかして破壊するか回収しないと。

 

「それこそが銭封機の力よ!」

「早くそいつを壊してくれ!!」

 

 とか思ってたらわたしが入ってきた入口からさっき聞いたばかりの声が聞こえてきた。

 そしてすぐに右腕が銃になったオッサンと、全身黒タイツのオッサン達が入ってきた。ついでにさっきの店主の人がなんか人質になってる。はぁ……

 

「それはかつて存在した天才カラクリ技師十徳が作り上げた――」

 

 その後、なんか銭封機の正式名称みたいなの言ってたけど、忘れた。

 だってあまりにもバカバカしい名前だから聞く気にもなれなくて……風鳴司令やSONGの職員の人もなんか溜め息吐いてるし。でもね、こんな物のためにこんな暑い思いしてるわたしの方が辛いんですよ。和装型、結構露出多いし丈も短いけど、暑い物は暑いの。

 

「ここまで道案内ご苦労だったな。では、銭封機を渡してもらおうか。それとも我らの仲間となるか? 早く決めねばこいつの首が飛ぶぞ?」

「それは人を惑わす悪魔の装置だ! アタシの事はいい、早くそれを壊しとくれ!!」

 

 ……あのさぁ。

 わたしさ、扇風機買いに来ただけなの。

 なのにさぁ。

 

「クリス先輩からたった千円だけ渡されて扇風機買いに来て、これだけ汗かいて見つけたのがこのキモい顔した招き猫って……」

 

 もうね、いくらわたしがクールな美少女だからと言っても、キレたくなるよね。

 というわけで、プッツンします。

 

「いいからつべこべ言わず扇風機売れぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

 そして八つ当たりでキモイ招き猫の腕を破壊!!

 なんかギニャーとか聞こえるけど知らない!! こっちはさっきから暑さと三文芝居にイライラしてんの!! しかも成り行きで任務にまでなってるし!! わたしの自由時間奪っておいて変な装置の破壊させんな!!

 

「ああああああああああああ!!? き、貴様! それがどれだけ価値のある物なのか――」

「知るか!! 殺X式、裂風残車輪ッ!!」

「なっ、手裏剣だとぉ!!?」

 

 もうこうなったらこのキモイ招き猫も変なコスプレしたオッサンもなんかキモイ全身タイツのオッサンも!!

 全部全部全部否定してぶっ壊す!!

 わたしのストレス解消の道具になってしまえぇ!!

 

 

****

 

 

『……調くん、イライラしているのは分かるが、そこまでにしてやってくれないか』

「はぁ……はぁ……そこまで言うのなら」

 

 今、わたしの周りには再起不能になったオッサン共と銭封機だったものが転がっている。ひたすらアームドギアを投げまくって、イライラしていたわたしはついつい絶唱も使って大暴れした。

 その結果、オッサン共はボロ雑巾になって銭封機は銭封機だったものになって、廃工場は廃工場だったものになった。やりすぎたとは思っている。でも反省も後悔もしない。こんなあっつい中変な事に巻き込んだお前らが悪い。

 

「……帰ろ」

 

 結局、扇風機購入のための足は完全に無駄足だった。

 帰ったらどうクリス先輩に言い訳しようかな……はぁ、大暴れしたのに全然スッキリしないや。

 

「ま、待ってくれ!」

 

 とか思ってたら店主さんに声をかけられた。

 早く帰りたいんですけど。

 

「アンタはこの街を……いや、この国を救ってくれた英雄だよ」

「はぁ……」

 

 わたし、国どころか世界を二、三回救った人の仲間なんだけどね。

 

「お礼なら何でもする。扇風機だって用意するし、何だったらエアコンだって用意するよ」

 

 ……え?

 エアコン、本当に?

 

「エアコン、あるんですか? 千円で売ってくれますか?」

「あぁ、むしろタダでいい。何台だってプレゼントするさ」

 

 ……うん。

 偶には巻き込まれるのもいい物だね!!

 

 

****

 

 

「と、いう訳でエアコンを取り付けてもらいました。わたしとクリス先輩の部屋に二つ」

「マジか……今、アタシにはお前が後光がさしているように見えるぜ……」

「ふふふ。褒めてください、存分に褒めてください」

 

 わたしは地球防衛基地にあったエアコンを二つもらい受けて、一個はクリス先輩の部屋、もう一つはわたしと切ちゃんが住んでいる部屋に取り付けてもらった。

 これで扇風機先輩に頼らなくてもかつて存在したあの天国を……あの極楽が再び……!!

 手にはエアコン。そして視線の先にはエアコン。なんだかボロいけど……この夏を乗り切るための力を貸してくれるはず!!

 

「では、スイッチオン!」

 

 さぁ、エアコン先輩! 今こそわたし達に救いの手を!!

 ……

 …………

 ………………

 ……………………あれ?

 

「……おい、全然涼しくならねぇぞ」

「う、動いてはいますけど……」

 

 な、なんというか……

 動いてはくれるけど、オンボロのせいか全然風が来ない。というか、なんか地味に風は来るんだけど、これだと涼しくなるのに相当時間がかかるような……あっ。

 

「止まったぞオイ」

 

 エアコン先輩はピーという音を立てて動かなくなった。

 リモコンで何度操作しても操作を受け付けてくれない。エアコン本体を弄っても動いてくれない。

 これは……

 

「……クリス先輩」

「なんだ」

「水風呂に入りましょう!!」

「うっせぇ期待させやがってぇ!! 大層な作り話作ってぶっ壊れたクーラー拾ってきてんじゃねぇぞゴルァ!!」

 

 わたしは上様へと書かれたエアコン本体を叩いてから、修羅の形相になって追ってくるクリス先輩から全力で逃げ始めた。

 もう二度とあんな面倒事に首突っ込まない!! 絶対に!!




元ネタは銀魂の10巻81訓、そして21話Bパート『扇風機つけっぱなしで寝ちゃうとお腹こわしちゃうから気を付けて』でした。一応シンフォギア風にアレンジしました。そしてエアコンがこの後どうなったかは皆様の想像次第。

ハロウィン型、出てきて即出番。一番そこまでシンフォギアっぽく見えないギアがハロウィン型しかなかったし、仕方ないね。

ハロウィン型については前書きで語ったので、機械仕掛けの奇跡についででも。
前編はビッキーママ……とか言ってましたけど、後編のストーリーは立花響の正義ッ! って感じでしたよね。
ビッキーが自分の正義を信じ握りしめてシャロンちゃんを助けると決めた事や、それを無茶してでも実行に移す事……限界突破G-beatの歌詞のようにヒーローじゃなく、ただ正義を握った自分の手で守り抜いたように思えて、なんというか、ビッキーの今までの集大成みたいな感じに自分は思いました。
そこに加えて新曲のKNOCK OUTッ! はビッキーが心の中で燃やしている戦う理由や立ち上がる理由、拳を握る理由を最短で真っ直ぐに一直線に伝えているみたいで、機械仕掛けの奇跡のラストを飾り、そしてビッキーを表すにはピッタリな曲だと感じました。

なんか思いっきり語ってしまった……でも、それぐらいには機械仕掛けの奇跡はトップクラスでいいシナリオだと思いました。片翼、閃光と並ぶレベルでいいシナリオだと自分は思いました。KNOCK OUTッ! のFULLが早く聞きたい……

ではこれ以上は鬱陶しいと思うので後書きはこの辺で。次回は恐らくつばしらの話である『月読調の華麗なる憧れ』になると思います


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月読調の華麗なる憧れ

なんだか途中から憧れじゃなくなったけど憧れです。

今回はきりしら、ひびしらのどちらでもなく、つばしらです。公式だと刃物繋がりなのかちっちゃい(意味深)繋がりなのかで風月ノ疾双を使いましたし、メモリアだと調ちゃんが翼さんの腕枕で寝てたり調ちゃんが翼さんにアーンしてたり。そこそこ絡みは多いですよね。

っていうか調ちゃんの出てるメモリア、今確認したら高確率でひびしらかクリしらっていう。そもそも調ちゃんのソロメモリアが結構多めなのに驚いた。

まぁそんな事はさておいて。今回はつばしら。なんやかんやイケメン枠に収まることが多い翼さんですから、書いててあまり違和感なかったという。


 わたしには一人、憧れの人がいる。

 いつも切れる刀の擬人化みたいに落ち着いていて、それでいて激しい時には激しくなって。それでいて慕ってくれる人が多い。かくいうわたしもその一人で、響さんも、あの素直じゃないクリスさんもあの人にはあまり頭が上がらない様子。

 唯一、切ちゃん以外の誰ともユニゾンできなかったわたしと根気強く向き合ってくれて、それでいてわたしにすら分からなかったわたしの心を分かってくれて、一緒に戦ってくれた人。

 

「ん? どうしたのだ月読、いきなり呆けて。今は訓練中だぞ」

「あ、はい。ちょっと考え事をしてました」

「そうか。今は構わぬが、あまり考え事に気を取られるなよ?」

「大丈夫です。実戦ではちゃんとやりますから」

 

 そう、翼さん。

 わたしはこの間から……パヴァリア光明結社との戦いが終わったあたりから、ずっと翼さんに視線を吸われてしまっている。訓練の時も、装者のみんなで集まった時も、それこそ切ちゃんと居る時も、マリアとのライブの時も。ずっとわたしの視線は翼さんの方へと向いている。

 どうしてかは分からない。この気持ちがどういう物なのかは分からないけど、それでもわたしの視線は確実に翼さんの方へと吸い込まれている。

 今も訓練中だけど、翼さんの方に……

 

「っ、危ない月読!」

 

 急に翼さんがわたしの方へと刀を片手に走ってきた。

 何が起こったのかよく分からないせいか、動かないわたしの体。でも翼さんは一直線にわたしの方へと走ってきて、そのまま構えた刀をわたしの後ろへ向かって振り抜いた。髪の毛が持っていかれそうになったけど、振るわれた刀はそのままわたしの後ろに忍び寄っていたらしい、訓練で出されたノイズを切り裂いた。

 訓練用だけど、ダメージはちゃんと来るのがこのシミュレーションルーム。だからもし攻撃を許していたら、ダメージこそ少なかったけど擦り傷程度は負ったかもしれない。

 

「あっ……ありがとうございます、翼さん」

「いや、あのノイズはエルフナイン辺りが作った隠密特化だろう。気づけなくても仕方がない。だが」

 

 そう言うと、翼さんはわたしの頭に手を置いて、そのままゆっくりと撫でてくれた。

 

「月読に怪我がなくてよかった」

 

 そう笑顔で……っ。

 

「うっ……ほ、ほら! ノイズも前から来てますし前を見ましょう! ちょっとだけわたしが前に出ますから!」

「ん? そうか。なら、私は後ろから援護に回らせてもらおう」

 

 この人はどうして……どうしてこう、わたしの心というか、精神というか……よくわからないけど、急にわたしをドキッとさせて!

 人の気も知らないでニコって笑顔で!

 嫌な気こそしないけど、顔が凄く熱い。本当によく分からないけど……とりあえず今は、翼さんの顔はあまり見たくなかった。きっと、翼さんに赤い顔を見せる事になっちゃうから。

 

 

****

 

 

「それって……恋なんじゃないかな?」

「ぶっ!?」

 

 と、そんな感じで最近翼さんの顔すらマトモに見れなくなったのを未来さんに相談したんだけど、その結果返ってきた言葉に思わず飲んでいたお茶を吹き出してしまった。

 まさかそんな事を言われるなんて思ってもいなかったし、まさか原因をこんなに早く口にされるとは思っても居なかった。ついでに言えばあり得ないとしか言えない事だったから思わず飲んでいた物を吹き出してしまった。未来さんは慌ててハンカチを渡してくれるけど、一応自分で持ってきているから口元とか最低限の箇所だけ拭いて、一度お茶を飲んでから一息ついた。

 恋なんて……あり得ない。あり得ないったらあり得ない。だって、翼さんは女性で、わたしも女の子だよ? それなのに恋なんて……

 

「ん? いきなり見つめてきてどうしたの?」

 

 ……この人見てると、あり得ないとか口ごなしに否定できないなぁ。

 だって、未来さんだよ? 満場一致でみんなから重いって言われる未来さんだよ? そんな強烈な前例が身内に居るから、そんな女の子同士なんてあり得ない、なんて否定できない。響さんも満更じゃないみたいだし……

 そうすると、わたしのこの気持ちも……いやいや!

 

「でも、わたしは常識人だし、それにそんな気持ち翼さんには……」

 

 きっと、これが恋だとしても翼さんには迷惑に違いない。

 だって翼さんは世界的歌手だし、装者としても先輩だし、カッコいいし、ファンの人もたくさんいるし……そんな人がこんなわたしに恋煩いの感情を向けられたとしても、迷惑に決まってる。

 恋人なんてきっと選り取り見取りな翼さんが、こんなわたしの言葉に振り向くわけが……

 

「大丈夫だよ。プラスな感情を向けられて嫌な気持ちになる人なんていないって。それも、後輩から向けられる気持ちはね」

「ですけど……やっぱりわたしと翼さんじゃ……」

「もう。そういうのはやってみないと分からないのよ? 最近は女の子同士も男の子同士も結構あるみたいだし」

 

 そう、なのかなぁ。

 確かにアメリカにいた頃は、同性愛を育んでいる人っていうのはちょくちょく見かけたし、わたしはそれを見ても特に何も思わなかったけど……ついでに最近になってからソレが可愛く見えるレベルで強烈な人が身近になった事だし。

 だけど、やっぱり普通ならそうやって両想いになるのって珍しいし……出会いの場で出会ってそこからってイメージの方が強いから……というか自分がそうなるなんて一切思ってなかったよ。

 

「でも調ちゃんはまず自分の気持ちを確かめる事から始めないとね」

「自分の気持ちを……」 

「それが恋心なのか、ただの憧れなのか、ね?」

 

 ……たしかに、わたし自身この気持ちが一体何なのか、まだ完全に理解はできていないからそれを確かめるためにも何かしらの行動を起こすのは必須だと思う。じゃないと翼さんの顔を見られないままになっちゃうだろうし、それで翼さんに嫌われたり余所余所しくされたら嫌だから……

 とりあえず今は未来さんの言う通り、自分の気持ちを確かめてみよう。それをするだけなら、別に翼さんにも迷惑かからないし。うん、そうしよう。

 

 

****

 

 

 あくまでも自分の気持ちを確かめるだけ。

 そう思ってわたしは翼さんとなるべく一緒にいる事にした。できるだけ迷惑にならない距離感で、それでいてしっかりとわたしがいるという事を意識してもらえる距離感。つまりは一歩引いた距離。その距離を保ちながらわたしは翼さんに引っ付く。

 もし迷惑していると分かったのならすぐにやめるつもりだったけど、翼さんは笑顔でわたしに接してくれている。それが心地よくて、ついつい一歩引いた距離を忘れてしまいそうになる。

 そんなある日の事。わたしは翼さんが何代目かの愛車の整備をしているのを眺めていた。じーっと。声を出さない様に、バイクを整備する翼さんを眺めていると、翼さんは困ったように声を出した。

 

「……言いにくいのだが、月読。バイクの整備を見ていて楽しいか?」

「はい、なんだか新鮮で」

「う、む。あまり面白い作業ではないとは思うのだが……月読がそれでいいのなら私も無理に帰らせるわけにはいかないな」

 

 困った声と困った笑顔。多分、ファンの人には見せないのであろうこの顔と声は、響さんやクリス先輩もあまり見ないし聞かない物だと思う。翼さんはいつもいい意味でハッキリとした人だ。伊達にわたし達をまとめ上げて引っ張っていない。

 だから、翼さんの煮え切らないような表情と声はレアなんだと思う。わたし自身、こんな表情を浮かべる翼さんはあまり見たことが無い。

 本当なら手伝いたいんだけど、流石に勝手が分からないからそんな事できず。ただ、近くにある道具を渡す程度ならできるから、翼さんを眺めつつ道具を手渡す。

 そうしている内に翼さんのバイクの整備は終わったらしく、何度かハンドルを捻ってバイクを唸らせて、満足げに頷いた。

 

「よし、どうやら機嫌は直ったようだ」

「どこか壊れてたんですか?」

「いや。ちょっと最近放っておいたがために、若干声に元気がなかったものでな。恐らく拗ねていたのだろう。だが、今の声を聞いて機嫌は直ったと確信した」

 

 そういうもの、なのかな?

 機嫌とか拗ねているとか……多分、というか確実に比喩な表現なんだろうけど、それでもわたしの視線は翼さんに磨かれたバイクじゃなくて、笑顔を浮かべる翼さんに吸われてしまう。

 あぁやっぱり。こういう時に自然と笑顔の翼さんを見てしまうという事は……

 

「……そうだな。月読、どうせならタンデムといかないか?」

「え? タンデム……二人乗り、ですか?」

「あぁ。こいつも機嫌がよくなったことだし、一っ走りしたくなってな。どうせなら月読も、と思ったのだが。どうだ?」

 

 そんな素敵な事、断るわけがない。

 少し食い気味にそれを了承すると、翼さんはいつも通りの笑顔でわたしにジャケットと、ヘルメットを渡してくれた。安全はしっかりと、という事なんだと思う。それを拒むわけもなく、一も二もなく了承して少し大きなジャケットとヘルメットを身に着ける。

 どうやら翼さんの予備らしいんだけど……うん、特に何も考えてないよ? ホントだヨ?

 あとは翼さんが最初にバイクに座った後にわたしも翼さんの指示通りに座って、後ろから翼さんの腰に抱き着く。

 

「なるほど、月読はそういうイメージが強いのか」

 

 ヘルメットを被っているから声が届かない……はずだけど、どうやらヘルメットの内側に通話するための装置がついているらしく、耳元から翼さんの声が聞こえてきた。

 ちょっとビックリしたけど、声は上げない。代わりにどういうことですか? とだけ質問を投げておく。

 

「雪音は後ろのバーを掴んで、立花は手を伸ばしてグリップを掴んできたからな。こういうのは案外、人が出るのかもしれぬな」

「……つまりわたしは?」

「本質的には甘えん坊なのだろう。可愛いではないか」

「っ――」

 

 こ、この人はほんと……!

 急に人が照れるような事言って……この人はほんとにもう!!

 

「全力で絞められても特に痛くないあたり、雪音や立花とは違った可愛さがあるな」

「むぅぅ……!!」

「ははは、少々からかいすぎたか。では、これ以上姫の方が機嫌を損ねてしまう前に行くとしよう」

 

 翼さんはわたしに恥だけかかせておいて、グリップを捻った。

 何をしているのかは分からないけど、ただわたしは翼さんの腰にしがみついておく。元々外に出した状態で整備していたバイクだから、車庫から出るなんて事はせず、ゆっくりとバイクは前に進み始めてそのまま車道へ。そしてすぐにスピードは上がって景色が流れていく。

 

「わっ、速い……!」

「本当ならもう少しスピードを出したいのだがな。生憎、これ以上は制限オーバーだ」

 

 翼さんはそんな事を言うけど、バイクは十分なスピードを出している。

 わたしもギアでの高速移動……つまり禁月輪を使って高速道路を爆走した事はあるけど、バイクの後ろに乗って走るというのは新鮮で、自分が操作に関与していない状態で風をこんなにも切っていくというのは少し違和感もあって。でも翼さんに抱き着いてこうやって走るのは、なんだかとても幸せ。

 もうわたしは確信した。

 わたしの中にあるこの気持ち。もうあり得ないとか信じられないとか、そんな事を言って否定なんてできない。だってこの気持ちは、絶対に――

 

「どうだ、月読。私の相棒も見事な物だろう?」

「はい」

「雪音や立花も興奮こそしたが、一回で満足したらしくてな。私的にはバイク仲間が居てくれればいいのだが」

「……ならわたし、バイクの免許取ります。バイクの免許を取って、翼さんと一緒に走ります」

「と、いうことは……そうか、月読もこの世界に惹かれたか」

 

 わたしは翼さんの見せてくれたこの世界に……ううん。

 翼さんと一緒に見るこの世界に惹かれた。翼さんと一緒に、翼さんの隣で。翼さんの後ろで。

 こうして翼さんと楽しい事を共有できるのが、楽しい。だから。

 

「だから、隣を走れるまでは、こうして後ろに乗せてくださいね?」

「あぁ、任せておけ。共に走れるその時まで、月読にこの世界の魅力をこうして伝える事を約束しよう」

 

 もし隣を一緒に走れるようになったら。

 この気持ちも一緒に伝えて、もし受け入れられたのなら、二人で一緒に――




あと調ちゃんがカップリングできそうなのって、クリスちゃんくらいですね。あとは……メモリアだとエルフナインちゃん? エルしら? しらエル? マリアさんは……保護者なので。でもクリスちゃんもあまり想像が……w

とりあえず、これで調ちゃんのヤンデレの矛先or調ちゃんへのヤンデレの矛先がまた一つ。また禁じられた世界線が完成してしまいそう。そろそろ奏さん巻き込む?

さてさて。とりあえず今回はこんな所で。次回は未定です。

あ、ヘキサセレナ一枚落ちました。一枚落ちたところでどうしろっていうんですか!!(バナージ)


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月読調の華麗なるドM

プラトニックな話の直後の話がこれである。乙女な調ちゃんはどこ……?


「我流・星流撃槍(死なない程度)!!」

「きゃああああ!!?」

 

 響さんの渾身のライダーキックがわたしを蹴り飛ばす。

 もう何だか慣れてしまった高速で前へと流れていく景色をどこか達観した気持ちで見ながら、わたしの体はコンクリートでできた柱に激突して止まった。勿論死なない程度に手加減はされているから死にはしないけど、結構痛い。いくらシンフォギアを纏っているとは言っても痛い物は痛いし、軽減されているとはいえコンクリートの柱に体が埋まるなんて普通に再起不能レベル。

 もしこれが貯水タンクだったら花京院ごっこができたんだろうなぁ、なんて思っていると、ギアが強制解除された。あーあ、今回はこれで終わりかぁ……

 

「だ、大丈夫!? ちょっと力入れすぎちゃった!!」

 

 今回の訓練は二課組とF.I.S組に分かれての模擬戦。最初はわたし達三人でユニゾンしていたけど、翼さんにいい感じにマリアと分断されて、わたしと切ちゃんもいい感じに響さんがわたしを引き付けたせいで一対一になって、素の力がわたし達お薬ずぶずぶ組よりも強い二課組に各個撃破……という感じ。

 ちなみに切ちゃん、マリアの順にK.Oされて、最後にわたしが吹き飛ばされました。

 シミュレーターが解除されてわたしの体が空中に放り投げられる。けど、それを響さんがキャッチしたから、また新たな痛みを感じる事はなくなった。

 

「まさか柱にめり込むなんて……ごめんね、調ちゃん」

「いえ、大丈夫です。寧ろもっと強くしても大丈夫ですよ?」

「もっと強くって……それじゃあ調ちゃんを本気で再起不能にしちゃうよ」

 

 響さんはそう言って笑うけど、むしろそのレベルで殴ってくれていいですよ?

 むしろS2CAレベルの一撃を叩き込んでくれても笑顔で受け止めます……なんて事は言えない。流石にそんな事言ったら、模擬戦にかこつけながら、わたしが自分の趣味と性癖を満たしているってバレちゃうから。

 ……まぁつまるところ。わたしはこの間から痛い事が気持ちいい事だと感じるようになっちゃいました。

 なので響さんの星流撃槍……とっても気持ちよかったです。

 

 

****

 

 

 発端はアダムとの戦闘中だった。

 わたしと切ちゃんが自分たちの真後ろでなり始めた謎の黒電話……黒電話? に気を取られた時だった。

 

「余所見している場合かね? この僕から!!」

 

 そう言いながら怪物と化したアダムはわたしと切ちゃんを思いっきり薙ぎ払った。その一撃は今まで受けたどの攻撃よりも強大で、たった一撃でわたし達の意識を刈り取りかけた。しかもついでに。

 

「いたた……調、大丈夫デス、って調ぇ!?」

 

 わたしは切ちゃんの鎌が思いっきり頭のてっぺんに突き刺さってた。

 慌てて切ちゃんはわたしの頭から鎌を引っこ抜いてくれたけど、思いっきり鎌が頭のてっぺんに刺さっていたんだからぴゅーって血が噴水のように出ているわけで。切ちゃんが思わずと言った感じに生唾を呑んでいる。

 でも、わたしにはその感覚と全身に走る痛みがどうしてか苦痛ではなかった。むしろ気持ちよく感じた。

 その瞬間、わたしは悟った。わたしは多分開いちゃいけない扉開いちゃったんだなぁって。でも、開いてみたら開いてみたで特に何も変わらないし、ついでに言えばなんだか頭がスッキリしたような気がするよ。

 

「大丈夫だよ、切ちゃん。むしろ頭がスッキリしたかも」

「そ、そうデスか……?」

「っていう訳でアダムに特攻するからッ!!」

「へ? し、調ぇ!!?」

 

 その日、わたしは多分五、六回はアダムに吹き飛ばされた。途中でアダムは「ひ、開いてしまったようだね、禁断の扉を……この僕のせいで」って言ってたけど、自覚あるならわたしをもっと吹き飛ばして誠意を見せてほしかった。あと十回はぶっ飛ばしてほしかったけど、途中で必死な顔した響さんが殴り合いしてたからついていけなくなっちゃった。残念。

 まぁその日からわたしは性癖がガラッと代わった。はいそこ。頭に鎌刺さったから頭おかしくなったんじゃない? とか言わない。ちょっと自覚あるから。

 でも、人間は目先の欲望にはちょっと弱いわけで。

 わたしはそれからというもの、一人で自傷行為を快楽目的でするようになったし、訓練でわざと仲間からの誤射に当たったり模擬戦で痛そうな攻撃をライフで受けた。一番やばかったのは翼さんの天ノ逆鱗とクリス先輩のMEGA DEATH INFINITYかな。あれは流石に死ぬかと思ったよ。でもそれ相応に気持ちよかった。でも最近ハマってるのは絶唱のバックファイア。あれ結構キツイからいい感じに気持ちいいんだよね。ちょっとLiNKERの実験データ獲得のためにって名目で協力したいって言ったらエルフナインは心配しながらも了承してくれたし。

 まぁそんな感じで日常的に痛みを快楽として受けているわたしだけど。それでも装者としての何かが無い時は生傷が増えない。そういう時は大抵。

 

「よいしょ……っと。ふぅ、できた」

 

 一人自室で自分を縛ってます。

 天井から吊るしたロープに自分の手を縛って、足が付くか付かないかの限界スレスレの高さまで体を持ち上げて、腕の痛みを楽しむ。本当はリストカットでもと思ったんだけど、それやるとわたしが病んでるみたいになっちゃうからね。いや、これも十分アレだけど。

 でも、貧血の感覚が大分いいんじゃないかなとは思う。こう、頭がボーっとして物音も聞こえにくくなって。今すぐ死ぬぞって言われてもおかしくない感覚だから、大分いい感じだと思う……けど、貧血なんて日常的に起こすものじゃないし。献血にでも行けばなるのかな? 今度行ってみるかな。針で腕刺せる機会でもあるし。

 

「い、たた……でも気持ちいい……」

 

 気分は牢獄の囚人。手枷に付いた鎖を天井からつるされて、立たないといけないくらいで吊られてる感じ。やりすぎると痣になっちゃうからそこそこで止めないと。

 ちなみにやめる時は、手で昇降するための縄を握ってるから、それを操作して降ろす。ちょっと操作間違うと宙づりになるから気を付けるけど……一回宙づりになるのは癖でもある。で、それで降りてからテーブルの上のカッターでロープを切断して終わり。ロープが若干勿体ないけど、また買えばいいからね。

 でもそろそろこれにも飽きてきたかも。何か新しい境地でも開拓すべきかな……?

 あー……いい感じに腕が痺れてきて痛くなって気持ちいい……でもそろそろやめないと手に青痣が残っちゃう。気持ちいい時間も終わりにしてそろそろ……

 

「しらべー。ちょっと聞きたい事があるんデ……」

 

 ……

 …………なにこのタイミング。コント?

 

「あ、あの……調? 一体何が……」

 

 ちょうど今、わたしは腕を下ろしている真っ最中だった。

 少なくとも今の切ちゃんには、わたしは何故か天井から垂れているロープに腕を縛られているという謎の状態になっているのがはっきり見えているだろうし、わたしは現在進行形で手を下ろしてロープを切断しようとしていたから、これが第三者の手によって行われたものではなくわたしが勝手にやって勝手に終わらせようとしているというのがはっきりと分かったと思う。

 まぁつまるところ。わたしが勝手に腕を吊って楽しんでいるドMだという事が切ちゃんにバレてしまった。がってむ。

 

「……そ、そのね。これには深いわけが」

「絶対浅いデス」

 

 うん。

 

「まさか調、自分で痛い事して気持ちよくなっちゃうような非常識な人に……」

「装者なんて非常識でなんぼでしょ」

「そうデスね」

 

 うん。

 

「だから今さらわたしが非常識になっても誰も困惑しないでしょ?」

「少なくともあたしが困惑するデス。というかしてるデス」

 

 うん。

 

「相槌打ちながらまた自分の腕を吊ろうとするの止めてもらっていいデスか?」

 

 やだ。

 

「あぁ……調がどこか遠い所に行っちゃったみたいデス……」

 

 むしろ今まで遠かったみんなに対してわたしが追いついたとも。あ、でも行ってる道全然違うから逆に遠くに行っちゃったのかな? とりあえず見られながら腕吊るのが案外気持ちよかったからもう一セット。なんだかお外で変態プレイする人の気持ち、ちょっとわかっちゃったような気がする。見られるのって案外いい。

 あ、でもそういう人って隠れてしているから、見られそうで見られないギリギリを楽しんでいるのかな? 自分の体を縛って、見られない様に走り回るのも……うん、いいかも。

 

「あーもう! いいからそのロープどうにかするデスよ!!」

 

 とか思ってたら業を煮やした切ちゃんがカッター片手にこっちに走ってきた。あ、ちょ、危ないよ!?

 でもここで抵抗して切ちゃんを傷つける訳にもいかない……けどこれを邪魔してほしくない。結果抵抗して、わたしは暴れるけど切ちゃんは全力でロープを切断して。

 

「きゃっ!?」

 

 結果、わたしの抵抗も空しくロープは切断されて、わたしはギリギリつま先が付くレベルで腕を吊っていたから、支えを無くしちゃって、上手く着地することもできず倒れちゃった。そして。

 

「うわわわ!!?」

 

 わたしの顔の真横をカッターが通り抜けて、その際に頬が傷ついたのか若干の熱と痛みが走る。

 そして切ちゃんはわたしの顔の横にカッターを突き刺した状態で何とかもう片方の手でバランスを取って、わたしを押し倒したような感じになる。

 切断したのは、わたしの両手の中間じゃなくて少し先の部分だったから、未だにわたしの両手は自由を取り戻していない。どうせこうなったんなら早くこの両手を縛るロープを解いてしまいたいんだけど、切ちゃんはわたしを押し倒したまま動かないし、ちょっと頬が赤くなっている。流石に見ながらじゃないと解けないから早く退いてほしいんだけど……

 

「……ちゅっ」

「ひゃあ!?」

 

 とか思ってたら切ちゃんがわたしの頬から流れる血を舐めて……えぇ!?

 な、なにするの切ちゃん!? 一体全体どうしたの!?

 

「いや、その……調の血を見てたらつい、美味しそうだなって……」

「お、美味しそう……?」

 

 ま、まさかの切ちゃん吸血鬼説……? いや、そんなことない。だって切ちゃんは普通に日の下を歩いてるし。

 でも、一体どうして……? 流石のわたしも血が美味しそうとかは思わない。さっき頬をカッターが通り抜けていった時の痛みと、今も続いている痛みは気持ちいいけど……

 

「ちなみに、どうだったの……?」

「美味しかったデス」

 

 お、美味しかったんだ。

 でも、とりあえずは今この状況をなんとかしよう? だから早く退いてくれると助かるんだけど。

 そう言ってみるけど切ちゃんは動いてくれない。それどころか、さっきからずっとわたしの頬を見ている。正確には、わたしの頬の傷を。

 ちょっと嫌な予感と同時にいい予感を感じながら時が経つのを待っていると、切ちゃんは顔を赤くしたまま顔を落としてきて、そのままわたしの傷あとを。

 

「ひゃん!?」

 

 また舐め始める。

 ううん、違う。舐める所の話じゃなくて、吸っている。わたしの傷から血を吸って飲んでいる。今まで感じたことのない感触に立つ鳥肌と、傷跡をダイレクトで舐められて、傷を舌で少し広げられて直接傷を舐められる痛み。それが重なって身を捩りながらも気持ちよさを感じるという、なんとも危ない状態になってしまう。

 でも、切ちゃんはそれでも止めず、結局わたしの傷から血が流れるのが終わってから顔をあげた。

 

「はぁ……ち、違うんデス。そんなつもりは……」

 

 多分、ロクに息継ぎをしていなかったからか息を切らして酸素を荒く求めながら切ちゃんは赤くした顔を隠そうとせずに弁明する。表情から見ても嘘は言っていない。言っていないけど、それでも切ちゃんはわたしを……正確にはわたしの血を求めている。

 わたしが痛みと共に外へと流す血を、切ちゃんは求めている。本人にそれを言っても首を横に振るんだろうけど、ただ切ちゃんはわたしの血を求めてしまっている。

 

「でも、そんな状態で大丈夫なの? 外でもしわたしが怪我したら……我慢できるの?」

「そ、れは……」

 

 わたしの予想だけど。

 多分、切ちゃんの鎌が頭のてっぺんに刺さったあの時に切ちゃんが飲んだ生唾の意味は、どうしてそれで生きているんだという驚愕じゃなくて、わたしの血を無意識下に求めてしまったから。そしてさっき、わたしの血を見て、耐え切れなくなった。

 どうしてかは分からない。でも、この程度で思わず飛びついてしまった切ちゃんが外で耐えられるなんて思えない。流石に外で血を夢中に吸う切ちゃんとか誰にも見せたくない。

 だからわたしは、ちょっと視線を落としてすぐに両手のロープを解いてから、未だに切ちゃんが握っているカッターを床から抜いて奪い取って、自分の指の上に刃を落とした。肉と皮を少しだけ削ぎ落すように。

 

「し、調!? いきなりなんでそんな……」

「ほら、舐めて?」

 

 わたしは包丁で何度か指を切った事がある。その経験の一つに、皮と肉をそぎ落とす感じで少しだけ指を抉るかのように傷をつけてしまったことがあった。まだ野菜の皮むきに慣れていなかったときの事だけど……その時の傷は、残っていない。だからこの傷も、舐めた後にしっかりと処置をしたら傷跡なんて残らないのは分かっている。

 手首でもよかった。けどわたしが病んでる云々かんぬんがあるからやらなかった。

 指を伝って手から床へ向かって流れていく血。それを見て切ちゃんはまた唾を飲んだ。

 そして、そっと。まるで割れ物を触るかのようにわたしの手を取って、そのまま流れる血を舐め始める。くすぐったさに声が出て、その度に切ちゃんの動きが止まるけど、すぐに切ちゃんは自制心を忘れた動物のように一心不乱にわたしの血を舐める。

 ゆっくりと。指から腕の方へ、肩の方へと伝っていく細い血の道を舐めていって、そしてそのまま指へ。未だに走る自傷の痛みは心地よくて。そしてすぐにやってきた、切ちゃんの舌が傷を舐める痛み。背筋をぞくぞくっと走っていく甘い快感はわたしの頭を駄目にしていく。

 やっぱり一人よりも二人がいい。

 わたし達二人は、どうしようもなく二人で一人の半人前なんだと。この痛みと快楽が教えてくれる。

 

「……しらべ」

 

 傷を舐めて、そしてまた血が流れだすまでの間に切ちゃんはわたしの名前を呟いた。

 

「切ちゃん、さっきはわたしが遠くに行ったみたいだって言ったよね」

「……いったデス」

「なら、今の切ちゃんは?」

「しらべと、同じところにいるみたいデス」

 

 そう、二人で一人。二人で一つ。

 だから、わたし達は離れられない。ちょっとギャグ的な感じから始まったわたしの自傷だけど。

 でも、それは必要な事だったんだ。切ちゃんが、わたしが傷を作る理由になってくれて、わたしが切ちゃんの舐める血を流す。二人で延々と回る快楽と享楽。一人じゃできなくても二人ならできる。一人じゃ満足できなくても二人なら満足できる。

 何日も飲んでいなかった水を求めるかのようにわたしの血を求める切ちゃんの顔を見て、わたしは笑う。痛みと快楽に身を浸しながら。切ちゃんは、わたしの血を甘美の毒だと分かりながらも舐めていく。

 それからわたしの日課は、腕を吊ることじゃなくて体のどこかに傷をつけて血を流し、それを切ちゃんに舐めてもらうという事に変わったのは言うまでもない。




おかしいなぁ。ギャグしていたのに気が付いたら共依存的な変態きりしらに変わっていたでござる。最後は適当にSMしてるきりしらで終わらせようかと思ってたのに……あれぇ?

あ、前回の投稿から今回までの間に行われた精錬マルチバトル対策ガチャてきな物で新XD調ちゃんを三十連で三枚入手しました。やったぜ。そしてセレクトガチャで超巨円投断の調ちゃんゲット。やったぜ。あと二十連分の石があればサンタかライダーがゲットできるのに……ぐぬぬぬぬ……っていうかユニゾンクリスちゃんが強すぎて笑えない。これ、ユニゾンズバババンとか出てきて環境ぶっ壊れるんじゃ……

実はこの話書く前に一つシリアスなお話を書いてたんですよ。セレナの時みたいにカルマノイズがF.I.Sにダイナミックお邪魔しますして壊滅した結果、調ちゃんだけ生き残った結果調ちゃんがやさぐれた平行世界に切ちゃんが行って、調ちゃんを助ける的な。でもここに投下するにはシリアスすぎるなぁと。

だからいつも通りの話を生み出そうと思い生まれたのがこの共依存変態世界線である。結局いつものに落ち着くのである。ヘキサクエスト開催してるの忘れててキャリアウーマン凸るの絶望的になったのである(10/29 0:50分現在)。ちゃんちゃん


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月読調の華麗なる平行世界・前

初めに謝っておきます

今回、短編としてまとめようとしたのですが、短編どころか中編サイズとなり、前・中・後の三つに話を分けさせて頂くことになりました。文字数は三万三千文字と、今までの話で恐らく最多……どの世界線の話よりもブッチギリで長い話になっているうえ、完全にシリアスです。ギャグを期待していたかた、時間が無いから最新話を適当に……と見に来てくださった方。本当に申し訳ありません。この話は完全に自分の自己満足です。

既に全編書き終えて後は投稿を待つだけの状態となっております。三日間、同じ時間に連続更新を行い、全三日での完結予定です。

なるべくシンフォギアXDのイベントストーリーにあってもおかしくないような話の構成にしたつもりです。楽しんで見ていただけたら幸いです

それでは、月読調の華麗なる平行世界改め、シンフォギアXDanotherストーリー『翳る月、照らす暁』をどうぞ。


 夢の中のわたしは、救われていなかった。

 セレナがネフィリムを静めるために一人絶唱して瓦礫の中に消えて、マリアが突然現れたカルマノイズに。そして、切ちゃんまでもがわたしを庇って消えてしまった。それから七年近い時間、わたしは一人だった。マムは居てくれたけど、マムの直接とは言えない接し方はわたしを癒してくれたけど、ただそれ以上にマリアとセレナを同時に失って、そして自分の半身とも言える切ちゃんを失ったわたしの心は壊れていった。

 苦しい、助けて。マリア、セレナ、切ちゃん。誰か、わたしに笑顔を向けて。わたしを助けて。そう心の中で叫んでも叫んでも、誰もわたしを助けてくれなくて。太陽に照らされない月は、暗闇の中誰の目に付くこともなくただ浮いているだけ。闇夜を照らす事すらできず、ただ暗い空の中でただ一人浮いているだけ。そして、自身の力で狂っていく。

 叫んだ言葉は闇の中に消えていく。癇癪を起こしてマムに掴みかかって、職員の人に八つ当たりして。

 わたしは、誰も信じられなくなった。誰も助けてくれないから、世界を信じられなくなった。

 奇跡を拒んで、現実を否定して、ただ後ろだけを向いて、闇だけを見て。

 いつしかわたしは、F.I.Sの都合にいいコマになって動き、それ以外の日々を光の刺さない独房のような部屋で暮らすようになっていた。それが一番わたしの心を傷つけないんだって。それがこの世界を見ない方法なんだって、信じ切ってしまったから。

 誰か、誰かわたしを助けて。

 あんな暗い所で一人蹲っているわたしに、誰か光を。少しでもいいから、光を。繋ぐべき手を――

 

 

****

 

 

「響くん、シャロンくんに続き、次は調くんがそうなってしまったか……」

「はいデス……この間から目を覚まさなくって……それで、寂しい、暗い、助けてって言って、辛そうなんデス」

 

 わたしは切歌ちゃんのその言葉を聞いて、ただ現実を受け入れる事しかできなかった。

 かつてわたしは、平行世界のわたしの孤独と憎しみとトラウマを共有した結果、日常生活にすら支障をきたすようになって、最後はガングニールの浸食の苦痛までリンクして命の危機すら迎えた。そしてシャロンちゃんも、融合症例としての苦しみがリンクしていた……んだと思う。

 そして、調ちゃん。調ちゃんの苦しみは、恐らく平行世界のわたしに似ている。

 多分、F.I.Sに居たマリアさん達三人の誰かがそうなってもおかしくない事だったんだと思う。もしマリアさんが自分を導いてくれたナスターシャ教授を殺されていたら。切歌ちゃんが調ちゃんを失っていたら。そして、わたし達がいなかったら。きっと誰も救いの手は差し伸べなかったと思う。差し伸べられなかったんだと思う。

 その結果が、今の調ちゃん。

 

「師匠」

 

 わたしの言葉に師匠は頷いてくれた。

 この件を放っておくなんてできない。それはわたし達、調ちゃんを抜いて未来を入れた六人の装者の共通見解だ。何があっても、調ちゃんを助けないといけない。

 

「分かった。ならば、すぐにギャラルホルンで平行世界へと向かってもらう」

 

 そして、それを師匠は嫌な顔を一切せずに助けてくれる。

 前例のあることだからこそ、早めの処理をしないといけない。だからこそ、師匠は頷いてくれる。

 

「ならば今回は……」

「あたしが行くデス。調の危機に待っているだけなんてできないデス」

「わたしも行きます。一応、前の被害者ですし……なにより、調ちゃんを助けたいのはわたしも同じです」

「だったら、わたしも。わたしの神獣鏡なら聖遺物相手の問題は大抵解決できます」

 

 異論はなかった。

 調ちゃんの一番の理解者とも言える切歌ちゃん。そして、最初の被害者でもあり前回も動いたわたし。そして、万が一調ちゃんが融合症例化していた場合、力業で解決できる未来。この三人が行く事になって、マリアさん、翼さん、クリスちゃんは万が一こちらでノイズが出現した場合の戦力になった。

 出発は迅速に。わたし達はすぐさまギアを纏って必要な分のLiNKERを持ち、平行世界へと向かった。

 平行世界への穴を抜けて辿り着いたのは、いつもの公園……ではなく、前にセレナちゃんの世界に降り立った時と同じような林の中だった。

 

「ここが調を苦しませている世界、デスか……」

 

 思わず切歌ちゃんが呟いていた。

 間違ってはいない。間違ってはいないけど、そういう言い方は多分いけないんだと思う。だって、もしかしたらこの世界と同じような状況になっていたのはわたし達の世界なのかもしれないんだから。それを切歌ちゃんもすぐに理解して、一言謝ってから口を閉じた。

 今回ばかりは切歌ちゃんのいつものお気楽な雰囲気は形を潜めている。それにつられてわたしと未来もあまり口を挟めていない。

 多分、今回の立役者は切歌ちゃんになる。だから、わたし達はあくまでもそれをサポートする役回りになると何となく悟った。だから、切歌ちゃんの言葉に気にしていないよとだけ告げて、わたし達はギアを纏ったまま歩く。多分、この世界はまだノイズが出現する世界だから、油断はできない。

 少なくとも、こっちの世界の二課かF.I.Sに事情を説明して協力をしてもらうまでは。

 

「そこの三人、止まってください」

 

 そう思った矢先だった。

 わたし達は聞き覚えのある声を聞いた。すぐに武器を構える……事はせず、声をかけてきた人物をその目で目視するまでこちらは会話での解決を望むという意志表示のために武器は構えず待つ。

 和平の使者は……なんだっけ? そんな感じのやつの実践のために。

 

「響……」

 

 サラッと未来から可哀想な子を見る目で見られたけど気にしない! 気にしないからね!!

 ……ごほん。で、暫く待っていると、わたし達に声をかけてきた子は目の前から現れた。現れたのは勿論……

 

「調ちゃん……」

 

 調ちゃんだった。

 シュルシャガナを纏ってこちらへヨーヨー……ではなく物騒なチェーンソーのような物を向ける調ちゃんのギアは、今まで見たことのない攻撃的な形状をしていた。

 基本的な形状はあまり変わらない。だけど、目元は未来のバイザーみたいな物で隠されていて、口元だけを見ても恐らく調ちゃんは完全な無表情。それを手助けするかの如くバイザーは調ちゃんの僅かな目元の表情を隠している。

 多分、イガリマのメカニカルギアをそのままシュルシャガナカラーにして武器をチェーンソーに変えてバイザーを装備したと言ったら分かると思う。メカニカルギアのあの攻撃的な特徴をそのまま心象だけで発現させた。それが、この世界の調ちゃんのギア。

 

「調……どうして……」

 

 それを理解したからこそ、切歌ちゃんの声はどこか悲しそうだった。

 どうしてそうなってしまったのか。それが容易に想像できてしまって。

 

「きり、ちゃん……?」

 

 そして、調ちゃんは暫く会っていなかったんだと思う切歌ちゃんを見て驚愕の声をあげた。多分、F.I.Sの方でフォニックゲインを観測して来てみれば、死人がビックリドッキリの復活を遂げている。こっちの調ちゃんからしたら恐怖以外の何物でもないと思う。

 だけど、調ちゃんは一度驚愕の声を上げただけで表情は変わっていない。バイザーの下の表情は見えないけど、調ちゃんはチェーンソーをこちらに向けている。

 

「……F.I.S管理外のシンフォギア。どこでそれを見つけたのか分かりませんが、同行を願います。もし抵抗するようならこの場で殺害してでも連れていきます」

 

 調ちゃんの声は、まるで機械音声のようだった。

 感情という感情を全て殺して、与えられた任務だけを果たすために動いている機械。それがこの世界の調ちゃんのように思えた。わたし達はそれに反抗するわけもなく、調ちゃんにチェーンソーを突き付けられながら両手をあげてギアを解除して連行に従った。

 ついた先は、これまたやっぱりセレナちゃんの時と同じような外見をした研究所だった。多分、ここもF.I.Sの研究施設。と、いう事は……

 

「月、欠けてるね」

「うん。多分、こっちの世界のわたし達が」

 

 多分、遥か彼方、星となったかの日が冗談で済まない状態になってるだろうね。具体的には月の欠片と一緒にパーン。

 あっはっは。どうして平行世界のわたし達、影薄くなっちゃうん? なんか平行世界のわたしがマトモに生きてるのって多分、わたしがグレてた世界くらいじゃない? ってかそれ以外でほぼ死んでそうなわたしって一体……やっぱ呪われてたのかな……

 

「マムの元へ案内します。抵抗しないように」

 

 私語は許してくれたけど、勝手な行動は許してくれない。私語許してくれた時点で結構優しいとは思うけど、お願いだからチェーンソーでつんつん背中を突かないで、めちゃんこ怖いです……!

 それからわたし達は施設を連れまわされて、指令室みたいな場所へ連れていかれた。

 

「ご苦労様です、調。部屋に戻っても構いませんよ」

「了解」

 

 そこに居た、やっぱり車椅子に座っているナスターシャ教授は、調ちゃんにそう告げた。

 調ちゃんはその言葉に一切の質問を返さず、ギアを解除した。そして解除したがゆえに見えた調ちゃんの素顔を見て、また驚愕した。

 何に驚愕したかって言えば、目。グレたわたしの比じゃない程の闇を孕んだ目は、わたし達を一瞬とは言え絶句させた。多分、あの目を作り出すまでに感じた絶望は、わたし達には想像もできない程。

 未来ですら口元を抑えているんだから……うん、ごめん。こういう引き合いに未来出すのはちょっと冗談じゃないってのは理解してるからそっと顔を掴まないで。アイアンクローしないであだだだだだ!!?

 

「……敵地の真ん中で随分と気楽ですね」

「敵地?」

「あなた達はどこの組織の回し者ですか? シンフォギアの研究をしていたのはF.I.Sと日本の一部の組織のみだったと記憶していますが」

 

 そこまで聞いてようやく理解した。

 ナスターシャ教授は、わたし達をどこかの非合法組織で作られたシンフォギアを纏う非合法装者だと思っているんだ。

 

「そのガングニールとイガリマ……もう一つのギアは神獣鏡ですね? それはどこから入手したのかと聞いているのです」

 

 そうだった。このガングニール、元はマリアさんの物だったし、切歌ちゃんのは元々F.I.Sの物だったし、未来のギアもわたし達の世界だとメイドインウェル博士だったし。全部F.I.Sが既知のギアなんだ。

 でも、これを黙っていても良い事は起きないから、要らない事まで話しそうなわたし達じゃなくてしっかり者の未来がここに居る理由をかいつまんで説明した。

 

「平行世界に、その世界の装者、ですか。何ともまぁ幼稚な嘘を……」

「でも、ここにあたしが居るのが何よりの証拠デス」

 

 ナスターシャ教授は困ったように口を開いたけど、切歌ちゃんの言葉を聞いて黙った。

 やっぱり。こっちの世界で切歌ちゃんはもう……

 だったら。

 

「わたしも。立花響という名前も、調べてくれれば出てくると思います。ルナアタックで死んだか、まだ存命のシンフォギア装者だって」

 

 まだ死んでいるのか生きているのかは定かじゃないけど、少なくともここには死人が一人成長して現れているし、わたしに至っては死者もしくは別組織の装者だ。それがよく分からない装者と一緒に来ているんだから、少なくとも平行世界の事を信じてはくれるはず。

 あ、でもまだ信じ切れてないみたい……だったら、この言葉で!

 

「それもこれも全部ギャラルホルンっていう聖遺物の仕業なんです!!」

「なんですって、それは本当ですか!? まさかそんな力を持つ聖遺物が……」

 

 前もこれでゴリ推したからね!!

 

「えぇ……」

「なんかここの会話だけ切り取ると可哀想な人同士の会話な気が……」

 

 気にしない気にしない。気にしたらハゲるよ?

 

「うら若き乙女になんて事言うんデスか!?」

「……えぇ、わかりました、信じましょう。その言葉遣いも、間違いなく切歌の物です」

 

 そんなこんなでこっちで漫才している内にナスターシャ教授の方で何とか話はまとまったらしく、わたし達は平行世界の装者として信じられることになった。まぁ、切歌ちゃんっていう死人がここに居るんだし、そこに聖遺物の力が合わさればそうとしか思ないからね。

 まさか聖遺物でも死人を蘇らせるなんて芸当、できないだろうし。

 ……できないよね? なんかこれから先、死人を蘇らせる聖遺物が本当に出てきそうな予感が……

 

「では、改めて聞きます。あなた達の目的は? まさか、平行世界の旅行というわけではないでしょう」

 

 それを聞いて、わたし達はこの世界に来た理由を説明した。

 勿論、調ちゃんを助けると言うのもそうだけど、恐らくこの世界にはカルマノイズが出現している。多分、それを何とかしないとこの世界とわたし達の世界のあれやこれは解決しない。それを伝えると、ナスターシャ教授は顔を顰めた。多分、カルマノイズについて思い当たる節があったんだと思う。

 

「黒いノイズ……カルマノイズですか。あれを倒せるのですか?」

「はい。わたし達はアレを何度か倒しています」

 

 無事に、とは言えないけどね。やっぱり絶唱とS2CAは必須になる相手だから……それに、奏さんの世界ではエクスドライブまで使って勝った相手だから、どっちにしろ絶対に勝てるとか、わたし達に任せて、とか無責任な事は言えない。

 

「ですが、そちらの世界にも調が……それに、マリアが生きているのですね」

 

 そう呟くナスターシャ教授の目には、涙が浮かんでいるように見えた。

 

「……ここからは少し不幸語りになりますが、あなた達にはきっと、調の過去が必要となるでしょう。故に少しばかり語らせていただきます」

 

 そう告げたナスターシャ教授から語られた過去は、セレナちゃんの世界の歴史とあまり変わっていなくて。でも、たった一人になってしまった調ちゃんが歪んでしまうには十分な過去だった。

 多分、これは誰も悪くない。ただ、行き違いとスレ違いが起こしてしまった小さな傷が膿んでしまった。そんな話。調ちゃんを照らしてくれる切歌ちゃんがいなくて、間違った方向へ進もうとしたら正してくれたマリアさんがいなくて。だからナスターシャ教授もまごついてしまって、そして調ちゃんは歪んで、歪んで。あんな機械みたいになってしまった。

 

「もう、調には私たちの言葉は通じていません。あの子は、もう何年も前から……」

「でも調は助けてを求めてるデス! 助けを求めたからこそ、わたし達の世界の調は何度も助けて、辛い、怖いって! 伸ばしてくれる手を求めているんデス! こっちの世界の調の代わりに!」

 

 でも、調ちゃんは確かに助けを求めている。

 平行世界のわたしと同じように、無意識下に助けを求めているからこそ、わたし達の世界の調ちゃんにも影響が出た。だからこそ、わたし達が助けに来たんだ。

 手を繋ぎに来たんだ。

 

「……わかりました。では、あなた達には調の部屋を開けるためのカギを渡します。それから、こちらの世界で暮らすための住居も用意しましょう。なので、どうか。私の手が至らなかったばかりに歪めてしまったあの子を、助けてください」

「お任せデス!」

「ついでに、もしノイズが出現したら一緒に戦います!!」

「それは助かります。ノイズ出現の際は是非、力をお借りします」

 

 でも、わたしにはナスターシャ教授の言葉が変に思えた。

 カギを渡す。その言葉がどうしても引っかかった。

 なんで、私室に入るだけでカギが必要なんだろう。まさかカギをかけて閉じ込めているわけでもないし。

 そんな考えは、実際に調ちゃんの部屋を見てすぐに壊された。

 

 

****

 

 

「調の部屋……って聞いたんデスけど」

「ここって……」

「独房、だよね……」

 

 そう。調ちゃんの部屋と言われたのは、独房だった。厳重な鉄製であろう扉には大きなカギがかかっていて、一応内側からも開けられるようにはなっているけど、外側からはカギが無いと開かない。そんな変わった独房。

 その武骨な扉には、驚くほど質素で機械的な文字で『月読調』と書かれていた。

 まさかこんな独房に。そんな思いをしながらも、切歌ちゃんがカギを開けて、ノックをしてから扉を開けた。そして、部屋の中を見てまた驚愕した。

 暗かった。

 窓もなく、電球もなく。本も棚もなくてテレビもなくて、ただベッドとユニットバスらしき小部屋が一つあるだけの、生活感なんて無い……いや、生活ができるのかすら不安な程の部屋。そんな闇の部屋の隅に、調ちゃんは居た。

 毛布を頭から被って、丸まって座って。ただ時間が過ぎるのを待っているだけとしか言えない様子の調ちゃんは、わたし達に気が付いても毛布をはがず、そのまま声を出した。

 

「……何の用」

「あ、あたしは調とお話しに来たんデスよ!」

「そ、そうそう! ほら、ちょっと世間話でもってね?」

 

 声からして歓迎されていないのが分かった。

 ううん、多分歓迎や拒絶も正解じゃない。多分、どうでもいいと思っているか、会話する事を分かっていない。そんな無機質な声。

 今日ほどサンジェルマンさんとかからお気楽と言われ続けてきて良かったと思った。多分この空気、翼さん辺りが吸ったら黙ると思う。っていうか絶対黙る。師匠辺りでも黙殺できるレベルの空気だと思う。

 でも、そんな空気を調ちゃんが作っているんだと思うとゾッとする。調ちゃんは、あんな小さな体でどこまで闇を……

 

「……帰って」

「え?」

「帰って。あなたの姿は、見ていると不快になる」

 

 普通の……ううん。わたし達の世界の調ちゃんなら絶対に言わないであろう言葉。それを調ちゃんは、こっちを睨みながら言ってきた。自分の体を覆う様にした布団の間から見える調ちゃんの目は、あの時。偽善者とわたしに棘を吐いた時よりも遥かにキツくて。

 ううん、多分、キャロルちゃんやサンジェルマンさんが向けてきた敵意の視線なんかよりも遥かにキレそうな、正しく目線だけで人を殺せそうな目線だった。

 わたしも未来も。そして切歌ちゃんも、そんな調ちゃんを見て思わず一歩退いてしまった。退く気なんてないのに。手を繋がなきゃ駄目なのに。

 

「……響、切歌ちゃん。一旦出よう」

 

 思わず唾を飲んだところで未来が声をかけてきた。

 ここから一旦出よう。それはつまり、一旦調ちゃんを諦めるという事。

 

「み、未来? でも……」

 

 そんな事をしたら根本的な解決にはならないと言いたかった。でも、切歌ちゃんは何も言わずにそっと部屋の中から出ていった。

 思わず声を荒げそうになった。でも、切歌ちゃんがそうするのならと、わたしもそれに従った。

 

「……もう来ないで」

 

 そんな調ちゃんの声を聞いてから、未来じゃなくて切歌ちゃんが牢獄の扉を閉じた。

 本当ならこんな扉を壊して調ちゃんを外に出したかった。でも、それを二人がしないのなら、それは得策じゃない。今までの経験からそう学んだからこそ、わたしも黙る。暗い雰囲気のまま、ナスターシャ教授から貸し出すと言われた住居……というよりも施設内の部屋へと向かう。

 

「調、一体どうして……」

「分からないけど、多分……あれは、響の時よりももっと酷い状態だと思う」

 

 わたしの時。

 陽だまりが側に居ないから歪んで、そしてやさぐれて。復讐のためにガングニールの力を使っていたわたし。全部が終わってからはそれも無くなったとは聞いたけど。聞いたけど……それよりも酷い状態って……

 

「響の場合は、まだ目的があった。ノイズに復讐するっていう目的が。でも、今の調ちゃんにはそれが無い。本当に無気力で、自発的に何もしない。心を殺して悲しみすら消して機械のように動いているから……だから、あんな目ができるんだと思う」

 

 未来が言っているのは、つまり。

 廃人。それに近い物に調ちゃんはなっているという事なんだと思う。

 わたしの場合は、多分まだ救いがあった。でも、今の調ちゃんにはない。だから、それを作らないといけない。それすらせずに近づいたら、また拒絶されるだけだから。

 

「……でも、会話ができたのならその内心を開いてくれるはずデス!」

「うん。うん、そうだね! きっと、会話ができるのなら!!」

「もう……二人そろってお気楽なんだから」

 

 だとしても、会話ができる。つまりは言葉で心を通わす事ができるんだから、間違っても居ないハズ!

 お気楽お気楽言われる身だからこそ、当たって砕けろの精神で――

 

『館内放送で失礼します。ここより二時の方向にある繁華街でノイズの発生を感知しました。装者は直ちに出撃の方をお願いします』

「ノイズ……っ!」

「もしかしたら、カルマノイズがいるかも!!」

「だったらとっとと細切れにして世界の危機からどうにかするデスよ!!」

 

 でも、まずはノイズを何とかしないと!

 調ちゃんの事は気になるけど、カルマノイズがいるかもだしノイズの方に集中しないと!!

 

 

****

 

 

「ハアァァァァ!! 撃槍裂破ァ!! 続き、猛虎翔脚ッ!!」

「相変わらずバ火力デスなぁ……」

 

 ノイズの数は、あまり多くはない。それこそ、三人なら簡単に倒せる程度の数。

 それに、ノイズより格上とも言えるアルカ・ノイズ相手に無双できるわたし達のギアなら今更この程度のノイズ相手に苦戦なんてしない。それは切歌ちゃんも未来も同じで、出力だけなら最弱とも言える未来のギアでもノイズは簡単に一掃できる。

 そして。

 

「……ノイズ一個小隊殲滅」

 

 調ちゃんの方も。

 調ちゃんはわざとわたし達から距離を取って戦っている。重そうなチェーンソーを軽々と振るって、近接攻撃だけで戦っている。目にはバイザーがあって、前が見えているのか見えていないのか分からないけど、それでも調ちゃんは戦っている。

 でも、わたし達は知っている。シュルシャガナの本来の戦い方は近接格闘じゃなくて、支援が得意なギアで、クリスちゃんとはまた違った、完全な遠距離じゃなくて遠、中距離戦闘を得意とするギアだってこと。だから、こうやって近距離戦闘をしている調ちゃんを見ると、どうしても不安になってしまう。しかも、ツインテールを使わずに戦っている調ちゃんは。

 

「調ちゃん、一人じゃ危険だからこっちに来たほう、が……」

「……」

 

 未来が時々隙を見つけてはこっちに合流するように言うけど、調ちゃんは振り向くことすらせずにノイズを殲滅している。危なっかしさはあるけど、それでもしっかりと頭の中で戦略を練っている動きだから立ち回れているように見えう。

 でも、あのままじゃ万が一が……

 

「響さん! 前デス!!」

「へ? うわぁ!!?」

 

 とか思っていると、切歌ちゃんの悲鳴にも似た声。

 思わず攻撃の手を止めてしまったけど、止めて正解だった。だって、わたしの目の前にはあのカルマノイズが居たのだから。

 

「カルマノイズ!!」

「こんな時に出てくるなんて!!」

『カルマノイズが出ましたか! 倒せますか!?』

「何とか! 切り札はあります!!」

 

 イグナイトが使えない現状、わたし達に残された切り札はユニゾンじゃなくてS2CAだけ。絶唱もいいんだけど、わたしを介さずに絶唱したらその分、ダメージが蓄積されちゃう。

 だから、S2CAを直撃させるしかない。エクスドライブが使えたらそれで済む話ではあるんだけども、ね。

 

「わたしが周りのノイズを足止めするから、響と切歌ちゃんはカルマノイズの隙を作って!」

「わかった! 怯んだ隙に、S2CAをトライバーストで叩き込む!!」

 

 まぁ、この三人だとトライバーストしか使えないんだけどネ!! だって練習してないし!

 とりあえず、カルマノイズが現れた以上、ここでどうにかしなきゃ。じゃないと、被害がもっと出てしまう!

 

「切歌ちゃん、イグナイト無しでユニゾンいける!?」

「やってみるデス!」

 

 三人でのユニゾンは無理だけど、それでも切歌ちゃんとのユニゾンなら問題ない。だから、二人で息を合わせて二つのフォニックゲインを一つにユニゾンさせる。

 そして聞こえてくる、わたしのソロでも、切歌ちゃんのソロでもない曲。わたし達のユニゾン曲、必愛デュオシャウト。よし、ユニゾンできた!!

 

『うおおぉぉぉぉぉぉ!!』

 

 吠え、そして二人で突っ込む。

 ユニゾンしたわたし達なら、イグナイトにも匹敵する地力を出せる! ファウストローブを使った錬金術師だって一対一なら倒せるこのユニゾンなら、カルマノイズだって!!

 

「極めし八極! その拳无二打(二の打ち要らず)ッ!!」

 

 踏み込んでカルマノイズの攻撃を避け、そのままバンカーを展開。そのままカルマノイズに叩き込んで一気にカルマノイズを吹き飛ばす。普通のノイズなら簡単にはじけ飛んでいる威力だけど、カルマノイズはこれに耐えて見せる。ナスターシャ教授は絶唱並みの一撃を……!? とか言っているけど、ごめんなさい! 今それどころじゃないです!

 拳を叩き込んだわたしの上を切歌ちゃんが飛び越えてバーニアで加速。そのままカルマノイズに斬りかかるけど、やっぱりそう簡単にいかないのがカルマノイズ。吹き飛びながらも切歌ちゃんを迎撃して、切歌ちゃんが吹き飛んでくる。でも、それを受け止めてから切歌ちゃんの手を握って振り回す。

 

「やられたらやり返す!」

「倍返しデスッ!!」

 

 そして何度か振り回してから切歌ちゃんの手を離し、そのままカルマノイズの方へとぶん投げる。切歌ちゃんはそのまま空中でバーニアを使って加速。そのままカルマノイズに一回攻撃を当て、そのまま肩のユニットから延ばしたロープでカルマノイズを拘束と同時に急停止。そしてUターンを決めて一気にこっちへと飛びながらもう一度斬撃を浴びせ、わたしが突っ込んできた切歌ちゃんをキャッチ。それと同時にわたしが飛び出し、遅れて切歌ちゃんが追従する。

 よし、タイミングは完璧! いける!!

 

「必愛ッ!」

「デュオシャウトッ!!」

 

 わたしが突撃し、それを切歌ちゃんがバーニアで押して通常以上の推進力をもってカルマノイズに拳を叩き込んで一気にカルマノイズを吹き飛ばす。

 よし、今ならいける!!

 

「フォーメーションS2CA、セット!!」

 

 わたしの叫びと同時に未来がこっちへ飛んできてわたしと手を繋ぐ。そして切歌ちゃんも手を繋ぎ、準備は完了。今、カルマノイズは逃げる事も戦うことも出来ない弱った状態になっている。時間をかければ回復されるし、このまま普通に殴ってもカルマノイズは平気で耐えるけど、S2CAなら消し飛ばせる!!

 

『Gatrandis babel――』

「うああぁぁぁぁァァァァァッ!!」

 

 これから絶唱を……とも思った矢先だった。

 わたし達の横を、調ちゃんが駆け抜けていったのは。思わず絶唱を歌うのを止めてしまいそうになってしまった。けど、調ちゃんがカルマノイズに単身立ち向かいに行ってしまったのはマズい。だって……

 

「調!!」

 

 それを切歌ちゃんが放っておけるわけがない。

 手を離して切歌ちゃんが飛び出してしまう。結果、わたしと未来だけが取り残される。けど、やるしかない。トライバーストじゃないと威力が欠乏する可能性があるけど、それでも二人でのS2CA……それも、未来とのS2CAなら失敗はしない。

 わたし達は切歌ちゃんを信じて歌う。

 

『ziggurat edenal Emustolinzen fine el baral zizzl――』

「お前がッ! お前がッ!! お前がぁぁぁぁ!!」

「調、止めるデス!!」

 

 調ちゃんが、今までで見たことのない程の形相をしながらカルマノイズに対してチェーンソーを振るっている。でも、カルマノイズにそれは効かず、しかも調ちゃんが立っているのはわたしがS2CAを抱えた状態で突っ込む予定だった場所。

 このままじゃ調ちゃんまでS2CAの余波を受けてしまう。流石にそこまでコントロールできないわけじゃないけど、やっぱりできる限り離れてもらわないと万が一がある。だから、切歌ちゃんに調ちゃんを引きはがしてもらうしかない。

 調ちゃんを羽交い絞めにして引っ張る切歌ちゃん。でも、調ちゃんの力が凄いのか、時々羽交い絞めが解かれそうになる。

 

「マリアをッ! セレナをッ! 切ちゃんをッ!! お前が殺したんだ!! お前さえ居なければ!! お前さえッ!!」

「調っ……お願いだから、いったんおちついて……」

「離せぇぇぇぇぇぇ!!」

『調、一旦引きなさい! 今のあなたは……』

「殺すッ!! 殺シテヤルゥゥゥゥゥッ!!」

 

 獣。そう称するしかできない程の豹変。それを真近で見ている切歌ちゃんの顔は、とても居たたまれない。

 一瞬、わたしがこのままカルマノイズをやっつけてもいいのかという疑問が胸に浮かんでしまった。もしこのままカルマノイズを倒して、調ちゃんに何か悪影響が出てしまったらと。

 でも、今、わたしの手は未来が握っている。大丈夫だと強く握ってくれている。だから、それを無為にはできない。

 やるしかない。やるんだ!!

 

『Emustolronzen fine el zizzl――』

 

 瞬間、わたしの周囲に虹色のフォニックゲインが吹き荒れる。

 二人分の絶唱エネルギー! これを束ねて、指向性を持たせる!!

 

「スパーブソングッ!」

「コンビネーションアーツッ!」

『セット、ハーモニクスッ!』

 

 二人で握った手をカルマノイズへ向け、そして未来が手を離したのを確認してから両手のバンカーをドッキング。左腕を抜いてから構える。

 

「S2CA・ツインブレイク! Type-M(Mirror)!!」

「まずっ……! ごめんデス、調ッ!!」

 

 切歌ちゃんが調ちゃんを羽交い絞めしたまま思いっきり後ろに飛んで射線から逃れる。それを見た瞬間、わたしは一気に駆けだす。

 きっと、ツインブレイクでも倒せる筈ッ!!

 

「これがわたし達の絶唱――ッ!?」

 

 倒せると、そう思った。

 でも、時間をかけてしまったせいか。カルマノイズを優先してしまった結果かは分からないけど、残っていたノイズがカルマノイズを守る肉壁となって立ちはだかる。

 今さら軌道変更はできない。でもせめて余波をぶつけようと、無理無理にノイズの中心を掻き分けてできるだけ奥の方に居るノイズにS2CAを叩き込んだ。

 虹色の竜巻が起こる最中、わたしはカルマノイズに視線を向けるけど、カルマノイズは体の一部を欠損しただけで倒し切れていない。S2CAの風圧に耐えながらも黒い靄に包まれてそのまま消えてしまった。結果、S2CAの後には何も残らず、わたしが中心で膝を付くだけに終わった。

 

「響、カルマノイズは!?」

「ごめん、逃した……」

 

 多分トライバーストだったら、とは言わない。

 でも、逃してしまったのは事実。それに、いくらS2CAのバックファイアをある程度は軽減できるとは言っても絶唱は絶唱。しかも、未来とのS2CAは一度も練習していなかったのもあって疲労が凄い。体に響く疲れと痛みのせいで立ち上がるのすら億劫な状態。ギアを解除して未来に肩を貸してもらってから立ち上がる。

 幸いにもS2CAで残存していたノイズは全部吹き飛んだらしく、ギアを解除しても特に問題はなかった。

 でも、問題があるとしたら。

 

「……帰還する」

 

 調ちゃんだ。

 調ちゃんは釈然としないと言いたげな顔で切歌ちゃんの羽交い絞めから脱出すると、そのままギアを解いて歩いていった。でも、その際に小さく「今度こそ……」と呟いていたのをわたしは聞き逃さなかった。

 切歌ちゃんも立ち上がり、調ちゃんの歩いていった方を見るけど、追う事はなかった。

 多分、追っても何を言えばいいのか、分からないから。今は、次に話す内容を決めるために調ちゃんの背中を見つめるしかなかった。




あとがきでは若干のオリジナル設定の解説をば。

月読調【IF】……レセプターチルドレン唯一の適合者。立花響【IF】よりもシュルシャガナが激しく変化しており、特に近接武器であるチェーンソー、目を隠すバイザーが本来の月読調とは決定的な相違点となっている。その他にも足のローラーが存在せず、移動は徒歩で行う等、多少の変化が存在する。

S2CA・ツインブレイク Type-M……響と未来のS2CA。神獣鏡の特性上、聖遺物に対する威力は高いが、その反面ノイズに与えるダメージは通常のS2CAよりも劣る。そして響への負担はかなり大きい。


というわけで前編でした。
グレビッキーと同じようにノイズ……それもカルマノイズに恨みを持つ調ちゃん【IF】。でも、本当は憎しみよりも、もっとしてもらいたい事が……

では次回、月読調の華麗なる平行世界・中でお会いしましょう


P.S シトナイガチャ計六十連爆死しました。金鯖すら出なかったので十連一回で星5確定するシンフォギアXDは良ゲー(違


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月読調の華麗なる平行世界・中

予想以上に好評で震えている……好評で逆に心配になってくるぅ。特に話をちゃんと纏めきれているのかとか、キャラの描写とか……

さてさて、今回は中編です。

前回は調ちゃんが暴走しきって終わりましたが今回は……

一応言っておきますと、この話はちゃんとハッピーエンドで終わりますので大丈夫です。ジブンウソツカナイ。


「カルマノイズ……底が見えないとは思っていましたが、まさか数人がかりでの絶唱をしないと倒せないとは……」

「一応、絶唱しなくても追い詰めれば倒せますけど……」

「調ちゃん一人じゃ、多分……」

 

 わたし達は戻った足でそのままナスターシャ教授の所に顔を出した。

 その際にS2CAについてを聞かれたけど、これはわたしのガングニールの特性を生かしたもので調ちゃんだけでは絶対に不可能という事だけ伝えると、ナスターシャ教授は興味深そうにしていたけど、同時に残念だと言わんばかりの表情を浮かべていた。

 S2CAは絶唱を束ねて放つ、エクスドライブやイグナイトを除けばシンフォギアの最大火力。それを欲しいと思ってしまうのは仕方のない事だと思う。特に、カルマノイズに苛まれている今は。

 

「しかし、あのエクスドライブを使うか絶唱を叩き込むしか対処法が無いとは……やはり、カルマノイズはそう簡単に倒せそうにないですね」

「でも、次は倒します。調ちゃんと協力さえできれば、確実に倒せそうですけど……」

 

 そう。調ちゃんと切歌ちゃんのユニゾンで周りの敵を蹴散らして、わたしと未来でS2CAを叩き込む。それが一番確実にカルマノイズを叩く方法だと思う。

 だけど、調ちゃんが協力してくれるか分からない。歩み寄って手は伸ばすけど、それを掴んでくれるかが……

 

「調にはキツく言っておきます。ですが、カルマノイズを目にしたあの子は……」

「仇、ですもんね……」

 

 でも、調ちゃんがあそこまで取り乱した理由が分かるからこそ、何も言えない。

 カルマノイズは、この世界のマリアさんとセレナちゃんと、そして切歌ちゃんの仇だ。暴走……ではないけど、それでも心の奥底にあるカルマノイズへの恨み辛みが爆発してしまったのは何もおかしい事じゃないし、仕方のない事だと思う。

 それに、今回の戦いでこの平行世界の問題を解決する糸口は見えた。

 それは切歌ちゃんと調ちゃんの和解。というよりも調ちゃんの中に燻っている当時から燃やしている復讐心を解消して切歌ちゃんの言葉で説得する事。そしてそれをしてからカルマノイズを倒すこと。これが、この問題の解決。

 

「最悪の場合、わたし達だけでカルマノイズは何とかします。ですから、今は調ちゃんのメンタルの方を何とかしたいんです」

「調には、あんな表情似合わないデス。あんな、怒り狂った顔と言葉なんて……」

「それは同感です。まだ十六歳の子供にあんな顔、させるべきではない」

 

 でも、それも仕方のない事だと思う。

 調ちゃんの顔は。カルマノイズを目の前にした時の顔は、かつて見た奏さんがノイズへ向ける憎悪の顔と似ていた。翼さんを奪ったノイズへの怒りと憎しみから成った顔。

 あの時はみんなで何とか奏さんの心をほぐした。でも、今回は多分、切歌ちゃんにしかそれはできない。

 だから、切歌ちゃんに託す。今回ばかりは、わたしじゃなくて切歌ちゃんの手を繋ぐ方が効果的だと思うから。

 

「じゃあ、あたしは調の所に行ってくるデス」

「……拒絶されるかもしれませんよ?」

「大丈夫デス。だって、あたしは調の事が大好きで、調もあたしの事が大好きデスから」

 

 笑顔でそう言う切歌ちゃんと共にわたし達もナスターシャ教授に一つ礼をして一緒に調ちゃんの部屋へと向かう。

 相変わらず暗い独房が調ちゃんの部屋。部屋とも呼べない程だけど……でも、それを部屋だと調ちゃんは言っている。

 

「……調も、こんな所嫌な筈デス。だって、調は寂しい、暗い、助けてって……ずっと、言ってたんデス」

 

 切歌ちゃんの持った鍵が独房の鍵を開ける。

 そして重い扉を開けると、そこにはやっぱり布団を被ったまま部屋の隅で蹲っている調ちゃんが居た。こちらをそれだけで殺せそうな程鋭い目付きで睨みつけながら。

 精神の同調。それがわたし達の世界の調ちゃんと、この調ちゃんとで起きている。わたしはそのせいで命の危機すらあった。ずっと助けて、手を握って、一人にしないでと思い続けていた平行世界のわたし。言葉では否定するけど、でもこうして平行世界に異常が出ている以上、この調ちゃんもそう思っているはず。助けて。一人は嫌だと。思っているはずだから。

 

「調、さっきはお疲れ様デス!」

 

 そんな調ちゃんに切歌ちゃんはいつも通りの声色で話しかける。

 でも調ちゃんは何も言わない。言い返さない。ただこちらを睨みつけてくるだけ。だけど、切歌ちゃんはそれを気に留めない。気にしない。気に留めず気にしないようにしながら歩み寄っていく。

 

「あたし達の世界はノイズはもう出てこないから、ちょっと緊張しちゃったデスよ! でも、やっぱり調が居てくれると心強いデス!」

 

 そう、これは切歌ちゃんの本心。まぎれもない本心。笑顔も、声色も。全部が全部本音を語っている。

 でも調ちゃんは何も答えない。流石の切歌ちゃんの目も若干泳いでしまった。

 

「そ、そう……いえば! こっちのマムもなんやかんやで優しいデスな! あたし達の世界のマムも、普段は厳しかったけど優しかったんデスよ!」

 

 今更だけど、調ちゃんにわたし達は平行世界の装者だという事は既に伝えてある。切歌ちゃんも、平行世界の切歌ちゃんなんだってことも。

 でも、調ちゃんは何も言い返さなかったらしい。ナスターシャ教授が言っていた事だから、わたし達が確認したと言うわけではないんだけど、それでも調ちゃんは何も言い返さなかったらしい。切歌ちゃんが紛れもない本人だと言っても。

 

「こ、こんな所に居たら頭の中も心の中も真っ暗なままデス! ちょっとあたし達と一緒にお散歩でもどうデスか?」

「……」

「……あ、あのー」

「……不快」

「へ?」

 

 切歌ちゃんがヘルプを出すかのようにこちらへ視線を投げ飛ばした直後だった。

 調ちゃんは不意に立ち上がって、目付きを変えないまま切歌ちゃんに掴みかかった。思わずわたし達が引きはがそうとしたけど、それを切歌ちゃんが手で制した。

 

「し、調。ちょっと苦しいデスよ」

「うるさい。うるさい、うるさいうるさいうるさいッ!!」

 

 初めて調ちゃんがわたし達に対して声を荒げた。わたし達三人が一歩退いてしまう程の、憎しみに包まれたとしか言えない声はあの調ちゃんから出た物だとは到底思いたくはない物だった。

 

「切ちゃんはもう死んだ! なのに切ちゃんの顔と声でさっきからずっと……望んでもないのにずっと!!」

「た、確かにそうデスけど……でも、平行世界の調も調デス。放っておくわけには……」

「本心ではそんな事微塵も思ってない癖に!! それに、ただの同情と哀れみでわたしに話しかけるな!! 不快にも程がある!!」

 

 切歌ちゃんが突き飛ばされてしまい、わたしと未来で切歌ちゃんを受け止める。

 息を荒げながらこっちを睨む調ちゃんは、今にもこっちを刺し殺しに来そうな程だった。

 

「切ちゃんの顔と声でこっちに声をかけるな!! 同情と哀れみの目線でこっちを見るな!! お前らの事なんか知らない!! 知りたくもない!! お前はわたしの知ってる切ちゃんじゃないし、そこのお前もガングニールなんて持っているけどマリアじゃない!!」

 

 叫びながら、調ちゃんが切歌ちゃんごとわたし達を部屋から押し出す。その細い腕のどこにそんな力が、とは思ったけど、それでもわたしの力には及ばない。

 だけど、それを受け止め続ける気概がなかった。同情や哀れみを感じていなかったと言ったら嘘だし、わたしのガングニールはマリアさんの物だ。この世界には居ないマリアさんの。それを見てマリアさんを思い出さないわけがないし、調ちゃんにとってはもう死人である切歌ちゃんが成長して目の前に現れるという事が、喜びを感じさせるだけで終わらせないのは奏さんの例で知っていた。

 なのにズケズケと調ちゃんのパーソナルスペースに入ってしまったのは、わたしの落ち度だ。ちょっとへこむ。

 だから、抵抗はしない。切歌ちゃんも、未来も。

 

「もう二度とわたしに顔を見せるな!! もう二度と……もう二度と来るなッ!!」

 

 叫びながら、わたし達を部屋の外へと追い出した調ちゃんは、そのまま独房の扉を乱暴に閉じて内側から鍵をかけた。

 奏さんの時には感じなかった、圧倒的な拒絶。手を差し伸べる余裕すらないソレに、どうしたらいいのか。さっきまで思い浮かべていた計画が全部飛んでしまった。

 

「……泣いていたデス」

「へ?」

 

 だけど、切歌ちゃんが口を開いた。

 

「調、泣いてたデス」

 

 泣いていた。

 そう言われて思い返すと、確かに調ちゃんの目尻には少しだけ水滴があったようななかったような……

 

「きっと、口では拒絶しているけど、きっと心では思ってるんデスよ。助けてほしいって。ここから出してほしいって」

「切歌ちゃん……」

「……あたしはまたここに来るデス。でも、響さんと未来さんは来なくても平気デス。何とか調をここから出してみせるデス」

 

 そう言われると、止める気なんて起きない。

 きっと、ここは切歌ちゃんに全部任せた方がいい。わたし達が余計な口を挟むのはナンセンスだ。だから、切歌ちゃんに後は頼んだよ、とだけ告げる。切歌ちゃんが大きく頷き、とりあえずは経過を見ようと思った矢先、調ちゃんからの「うるさいッ!!」という叫び声と、内側から扉が蹴られた音でわたし達を三人が同時に飛び上がったのは言うまでもない。

 

 

****

 

 

 大体平行世界に来てから二日が経った。

 その間、わたしと未来は交代でだったり同時に元の世界に戻って近況を報告したり、必要な情報を交換していたりするんだけど、やっぱりあの調ちゃんはかなりの難敵で、マリアさんですらどうしたらいいのかアドバイスができなかった。マリアさんはセレナちゃんの死を何とか割り切れた人だから……多分、まだ死を割り切れていない調ちゃんに対してどんなことを言えばいいのか分からなかったんだと思う。

 そしてわたし達の世界の調ちゃんは、やっぱり容体が安定しないようで、ずっと眠っている。ほぼ常にうなされていて、助けて、暗い、誰かってずっと言っているらしい。

 でも、平行世界の調ちゃんは切歌ちゃんに心を許してくれていない。それどころか、この間はどこから持ってきたのか分からない水をぶっかけられていた。一応、何かあった時のために切歌ちゃんが部屋に入るところが見える位置にいるんだけど、水の音が聞こえた時は何事かと思ったよ。

 そんな感じで手荒い歓迎を受けても切歌ちゃんは笑っていた。笑って調ちゃんと接しようとしていた。上手くいかないと分かっていても切歌ちゃんはずっと手を伸ばしていた。そんな日の事だった。

 

『ノイズが現れました。至急、対処の方をお願いします』

「分かりました。未来、行こう」

「うん」

 

 平行世界に戻ってきたばかりのわたしと未来への出動要請。もちろん断る事はせず、未来と一緒に現場へ向かう。

 道中で切歌ちゃんと合流したけど、調ちゃんは真っ先に行ってしまったらしく、先に現着しているとか。急いでわたし達も現場へと向かった。

 その先では既に調ちゃんがチェーンソーを片手に戦っていた。ずっと一人で戦ってきたからか、その戦い方は洗練されていると言えたけど、同時に少し危なっかしいと思わせるような戦い方だった。

 見ていられないという訳じゃない。でも、このまま見ておくのは性に合わないというのはあるし、何よりも任務として承ったんだからやらなきゃいけない。首からぶら下げたガングニールを握り歌う。

 

「Balwisyall Nescell gungnir tron」

「Zeios igalima raizen tron」

「Rei shen shou jing rei zizzl」

 

 聖詠。同時に一瞬で服が格納されて代わりにギアが展開される。

 拳を握って調子を確かめてから、比喩でもない一番槍としてわたしがバンカーを展開し、歌いながらノイズの中に突っ込む。その後を切歌ちゃんが続き、未来が空中からビームの雨をお見舞いする。けど、調ちゃんはそんなわたし達から距離を取りながら戦う。あくまでも非干渉を貫こうとしている。

 切歌ちゃんに歌いながら目線を合わせると、切歌ちゃんは調ちゃんの方へ行くと目線で合図してきた。なら、行かせるしかない。

 バンカーを展開して構える。

 

「燕撃槍ッ!!」

 

 そして放ったエネルギーが調ちゃんの所までの道を作り、切歌ちゃんがその道を埋めるように迫ってくるノイズを切り裂きながら調ちゃんの方へと向かう。

 

「調、援護するデスよ!!」

「……」

 

 鎌を振り回しながら調ちゃんの元へと辿り着いた切歌ちゃんだったけど、調ちゃんはそれを無視する。分かっていた事ではあるけど、やっぱり切歌ちゃんの表情はどこか暗い。重ねてきた時間が違う同一人物だからこうなるのは分かってはいるけど、でも調ちゃんからここまで歓迎されてないオーラを出されてしまっている以上、やっぱり辛いんだと思う。わたしも、平行世界の未来とかからこんな事されたらご飯が喉を通らな……通ら……通るんだろうけど、食べる量は減ると思う。タブン。

 

「響……」

 

 なんか読心でもしたのか、また未来が可哀想な物を見る目で見てきたけど気にしない。気にしないったら気にしないんだ!! だって可哀想な物を見る目で見ても最後はわたしと一緒に居てくれるのが未来だから!!

 

「とりあえず、未来! 早くノイズを片付けるよ!!」

「うん! 切歌ちゃん、そっちはお願い!」

「大丈夫デス! だってあたしと調は無敵デスから!」

「……チッ」

「し、舌打ち……」

 

 や、やっぱりこっちの調ちゃんは中々の堅物だなぁ……あはは……

 でも、この程度のノイズだけならコンビネーションが取れなくても全然戦え……っ!?

 

『皆さん、注意してください! 今、そこにカルマノイズの反応が――』

「いえ、もう遅いです。目の前に……カルマノイズが」

「それも……二体ッ!」

 

 思わず息を呑んだ理由。

 それは、カルマノイズが二体も目の前に現れたからだ。タダでさえ強いカルマノイズが二体。流石に二体ものカルマノイズを相手するのは久しぶりだ。初めて二体以上のカルマノイズを相手したのは奏さんの世界でだけど、それでも二体のカルマノイズを一度に相手するのは骨が折れるどころの話じゃない。S2CAを二体に効率よく叩き込むか、二回使うか……誰かをエクスドライブモードにして戦うか。その三択になる。

 一番最後は現実的じゃない。だから、S2CAを叩き込むぐらいしか、勝算はない。囲んで殴れば倒せない事もないんだけど……大抵そういう時ってその状況に合った心象変化ギアが必要になってるから、S2CAを使うのが一番現実的だ。

 

「切歌ちゃん、調ちゃん! なんとかここでカルマノイズを――」

「死ネェェェェェェェェェェッ!!」

 

 わたしが一応の指示を出してS2CAを使うだけの隙を作ってもらおうとした矢先。調ちゃんが叫びながらカルマノイズの元へと飛び込んだ。やっぱり、あの調ちゃんはカルマノイズを見ると飛び道具になっちゃう……!

 ここでカルマノイズ二体と調ちゃんを戦わせちゃだめだ。いくら戦闘センスがあったところで単体の性能と数の差でシンフォギア装者は勝てない……!! しかもカルマノイズ二体組は六人の装者を倒せるほどのポテンシャルを持っているから、とてもじゃないけどエクスドライブじゃない装者じゃ相手にならない!

 

「未来、ここで一発S2CAツインブレイクを!」

「駄目だよ! 周りにノイズもいるし、何より今カルマノイズに向かって撃ったら調ちゃんを巻き込む!」

「だったら、周りのノイズをS2CAで消し飛ばしてからカルマノイズに!」

「そんな事したら響の体が持たない!!」

 

 くっ……確かに、わたしはまだガングニールと神獣鏡のバックファイアを受け止めれるほど、S2CAツインブレイクType-Mには慣れていない。一番慣れているのは翼さんとクリスちゃんとのS2CAトライバーストだけど、ここには翼さんもクリスちゃんもいないから……それに、ツインブレイクじゃ威力的にカルマノイズ二体を同時に消し飛ばせるかすら怪しい。

 八方塞がり、という訳じゃない。ここでカルマノイズを一旦見逃すという手も十分にあるけど、次にノイズが現れる場所が市街地のド真ん中とかだったら、犠牲者が出てしまう。

 そんな悲しみの連鎖……ここで断ち切らないと!

 

「だったら、無理矢理ノイズを蹴散らしてカルマノイズに直接トライバーストを叩き込む! 切歌ちゃん! 絶唱直後に調ちゃんの回収だけお願い!!」

「了解デス! 調が危険デスから、とっととノイズを蹴散らすデス!」

 

 すぐに切歌ちゃんと合流して三人で背中を合わせ、わざとわたし達を囲ませる。普通なら絶望的な状況ではあるけど、瞬間的に火力を叩き出して残りの敵を一掃するなら、囲まれていた方が逆に手数が減る場合もある!

 

「行くよッ! 星流撃槍ッ!!」

「ハッ! 阿rアJぃんッ!!」

「煉獄ッ!!」

 

 わたし達の攻撃がノイズを一気に蹴散らしていく。包囲していたから、三人で一気に分散して三方向に突っ込んでなるべくの範囲攻撃でノイズを一掃する。その作戦はなんとか成功して爆発や煙、そしてビームの跡には少数のノイズが残るだけになった。

 この数なら、S2CAができる! すぐに三人でまた集まり、即座に手を繋ぐ。

 

『Gatrandis babel ziggurot edenal――』

 

 わたし達を中心に虹色のフォニックゲインが渦巻く。やっぱりS2CAは今のわたしには負担が大きい……でも、これを決めないとカルマノイズは倒せない。だからこの程度、へいきへっちゃら!!

 

『Emustolinzen fine el――』

「ぐ、あぁ!!?」

 

 そう思った矢先。調ちゃんがカルマノイズに競り負けて吹き飛ばされた。

 しまった、流石の調ちゃんもカルマノイズを相手にしたら負けるに決まっている……! なのに放っておくなんて……!!

 どうしたら……! 今手を離すとS2CAは……!!

 

「くっ、この……がっ!?」

 

 そう思った矢先、カルマノイズの触手みたいなものが調ちゃんの首に巻きついて、そのまま宙づりにされてしまった。あれじゃあ歌も歌えないし絶唱もできない……! これじゃあ嬲り殺しにされちゃう……!

 

「っ……もう、我慢ならんデス!!」

 

 そう思った矢先、切歌ちゃんが手を離して調ちゃんの方へと走っていった。

 でも、これで調ちゃんの安全は確保できるし、こっちは早くS2CAを……!

 

「でりゃっ!!」

「っ……げほっ!!?」

 

 切歌ちゃんの鎌が調ちゃんの喉を締め付けていた触手を切り裂いて、そのままノイズ達を吹き飛ばしながら肩のアーマーから伸びたワイヤーでノイズを拘束する。よし、これなら時間稼ぎができるはず!!

 今のうちにこっちもS2CAを……!!

 

「調、だいじょうぶ――」

「うるさい!! 余計なお世話をするな!!」

 

 だけど、調ちゃんは助けた切歌ちゃんを跳ねのけて、チェーンソーを手にもう一度走り出した。

 その直後だった。カルマノイズの拘束が一瞬にして破壊され、ブドウ型のカルマノイズが全身のブドウのような物を大量に発射したのは。

 

「あっ……」

 

 その先には、一直線に駆けていく調ちゃん。

 思わずわたしと未来が手を離して走ろうとした時だった。

 

「まったく、調はあたしが居ないとダメなんデスから」

 

 そう言いながら、調ちゃんが走るのをまるで予期していたかのように横から調ちゃんを突き飛ばした切歌ちゃんがいた。防御は間に合わないと、鎌すら手放して両手で調ちゃんを真横に押し出した切歌ちゃんは笑顔で横へと飛んでいく調ちゃんを見ていた。

 そんな切歌ちゃんを見た調ちゃんは、手を伸ばしていたんだと思う。咄嗟の反射だったのか、それとも切歌ちゃんの思いが通じたのか……それはわからないけど、ただ調ちゃんは切歌ちゃんに手を伸ばしていた。

 直後、ブドウの爆発が切歌ちゃんを飲み込み、切歌ちゃんの小さな体が空を舞った。

 アーマーはボロボロになって砕け散り、ところどころが裂けたインナーからは血が舞っている。

 

『っ……Emustolronzen fine el zizzl!!』

 

 でも今は! この拳を切歌ちゃんの代わりに叩き込むしかできない!!

 

「S2CAツインブレイクType-Mッ!! これでぇぇぇぇぇぇ!!」

 

 今から接近する時間はない!! このまま遠距離でS2CAを叩き込むッ!!

 

「とど、けぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

 ドッキングさせたバンカーを備えた右手を思いっきり引き、その場で殴り抜く。

 直後に発生した虹色の竜巻がわたしの目の前を一気に蹂躙しながら進んでいく。だけど、直接それを叩き込めなかった分、威力は減衰してしまい、結局カルマノイズを完全に粉砕しきる事はできなかった。

 二発目のS2CAの失敗。一週間というスパンを置いたけども、S2CAのバックファイアはわたしの体を蝕んでいく。ギアが強制的に解除され、膝を付いてしまうけど、カルマノイズは体の八割を消し飛ばしたのにも関わらず生き残り、そして消えていった。

 

「響! 今すぐ施設に……」

「わたしよりも、切歌ちゃんを!! わたしは暫くしたら自力で戻れるから……だから、切歌ちゃんをメディカルルームに!!」

「わ、わかった!!」

 

 未来がギアが解除されて、全身から血を流す切歌ちゃんを抱えて全速で施設の方へ戻っていくのを見てから、わたしは突き飛ばされた調ちゃんの方へと向かう。

 戦意が喪失してしまったのか、ギアが解除されて自分の体を抱きしめながら座り込む調ちゃんに対する怒りはない。でも、言いたい事はあった。

 

「調ちゃん」

 

 立ち上がって近づいて、わたしが声をかけると調ちゃんは全身を一度震わせた。

 

「ち、ちがっ……わ、わた、し……そんなつもり……」

 

 もしあれで庇う事が当たり前。それが普通だって言わんばかりの態度をしていたら流石のわたしも怒った。でも、調ちゃんはそんな事していないし口にしていない。自分のやったことに後悔している。だから、わたしは怒らない。自分で自分を責めているのだから、それ以上の責めをわたしはしない。

 

「調ちゃんにとって、あの切歌ちゃんは確かに調ちゃんの知る切歌ちゃんじゃないよ。でもね、切歌ちゃんは世界が変わっても、どんな世界でも、調ちゃんの事が大切なんだよ。だから、受け入れてとは言わないよ。でも、信じてあげて。あの切歌ちゃんは、調ちゃんを助けるためにここに来たんだって」

「きり、ちゃんが……」

「わたし達の事は信じなくてもいい。体のいいコマだと思ってもいい。囮にしてもらっても構わない。でもね、切歌ちゃんだけは信じてあげて。それが、今の調ちゃんのためにも……切歌ちゃんのためにもなるから」

 

 わたしは背中を向ける。

 きっと、この言葉で調ちゃんは変わってくれる。そう信じているから。調ちゃんの根は、どうしようもなく切歌ちゃん思いのいい子なんだって、わたしは知っているから。

 

「手を繋ぐにはね、互いが手を差し出さなきゃダメなんだよ。でも、少しでも。一センチでも、一ミリでも、それ以下でも、手を伸ばせば切歌ちゃんはその手を掴んでくれる。調ちゃんは、伸ばされた手をどうしたい?」

「……で、でも……あの切ちゃんはわたしの知っている切ちゃんじゃない……切ちゃんは、あのノイズに……」

「だとしても、だよ。わたし達は、調ちゃんを助けに来たんだ。叶うはずのなかった奇跡を起こしに来たんだよ。もう二度と会えないと思った切歌ちゃんと、別の時間を歩んだとしても調ちゃんの事を、この世界の調ちゃんも助けたいと思う切歌ちゃんと会えたんだ。それを偽りだと、幻影だと言うのならそれでもいいと思う」

 

 だとしても。

 

「切歌ちゃんの調ちゃんを思う心だけは、本物だから。それだけは、覚えておいてね」

 

 未来が平行世界のわたしを助けたように。

 わたしが平行世界のシャロンちゃんを助けたように。

 切歌ちゃんも、平行世界の調ちゃんを助けたいんだ。そこに打算なんてない。ただ、調ちゃんを助けたい。この一心で切歌ちゃんはここまで来たんだ。

 切欠はわたし達の世界の調ちゃんでも、今はこの世界の調ちゃんを助けたいと思っている。そうやってわたし達は平行世界で歌ってきたんだ。正義を信じて、手を繋いできたんだ。

 

「……」

 

 きっと、今まで調ちゃんの中では切歌ちゃんは、同じ顔と声を持った完全な別人だと割り切っていたんだと思う。

 でも、そんな切歌ちゃんが笑顔で調ちゃんを助けた。身代わりになった。

 それに調ちゃんは揺れた。発破もかけた。後は、調ちゃん次第。




もうちょっとしっかりとストーリーを構成できて、もっとしっかりと文章にできたらと、自分の力不足を痛感しております……

とりあえず今回は特に解説事項はありません。


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月読調の華麗なる平行世界・後

今回で月読調の華麗なる平行世界は最終回です。しっかりとシンフォギア特有のハッピーエンドへ向けて一直線。最短で、最速に、真っ直ぐに、一直線に突き進みます。

前回、切ちゃんが自分を庇った事で錯乱した調ちゃん【IF】。その調ちゃんが本心ではどんな事を思っていたのか。それを今回で明かし、そして和解し、ハッピーエンドへと向かいます。

それでは、どうぞ。


 はじめは、何の冗談だと思った。

 わたし(調)の前に、死んだはずの切ちゃんが現れた。思わず声を出すのを忘れて、切ちゃんを見ていた。バイザー越しに、わたしと同い年くらいに成長した切ちゃんを。

 でも、違うと思った。あれは切ちゃんじゃない。きっと同じ姿をしただけの、別人だって。そう思った。

 もう心を殺すと誓った。悲しみを味わう事なんてしたくないから、塞ぎこんだ。マムも職員の人も、みんな拒んで。そうして五年以上生きていた。その矢先に、切ちゃんに似た誰かは現れた。

 だけど任務を優先しようと、わたしは三人の前に躍り出た。

 

「調……」

 

 そして聞いた切ちゃんの声は、未だに記憶の奥底にこびり付いている切ちゃんの物と同じだった。

 

「きり、ちゃん……」

 

 思わず殺した心が蘇ってきそうになった。

 でも、それを抑えて堪えて、わたしは任務を全うした。そしてマムと三人の会話を聞いて、あれは平行世界の切ちゃんなんだってようやく理解した。もしかしたら切ちゃんは、わたしを助けるためにこの世界に来たんじゃないかって、そう希望を持ってしまった。

 だけど、マムからこっそりと繋いでもらって通信を聞いて、絶望した。違った。

 

「でも調は助けてを求めてるデス! 助けを求めたからこそ、わたし達の世界の調は何度も助けて、辛い、怖いって! 伸ばしてくれる手を求めているんデス!」

 

 切ちゃんの目に映っているのは、わたしじゃない。

 切ちゃん達の世界に生きているわたしだった。

 羨ましい、憎い、妬ましい。そんな感情が牢獄の中のわたしの心に渦巻いた。

 どうせわたしなんて、どうでもいいんだ。ただ、平行世界のわたしを助けるためにわたしを利用するに過ぎないんだ。切ちゃんも、どうせわたしの事を見てくれない。切ちゃんに似た、赤の他人だって。そう割り切った。割り切れた。

 だから、拒絶した。

 嫉妬心と、憎しみと。でも、平行世界のわたしへの大きな嫉妬で。わたしみたいに暗闇の中ではなく光の下で切ちゃんと笑いあえる平行世界のわたしの記憶に。

 どうしてか、あの三人が来てから流れ込んでくる変な記憶。それが平行世界のわたしの記憶だと理解するのに苦労はいらなかった。でも、だからこそ。だからこそ、あの人達は平行世界のわたしを大切な仲間だと思っていて、その仲間を助けるためにわたしに声をかけたのだと思い込んで、再び心を殺した。確か、水をぶっかけたのもその辺り。

 あの黒いノイズが現れて、あの三人は変な力を使った。でも、関係ない。あれはわたしの獲物だ。わたしが倒さなきゃいけない、切ちゃんとマリアとセレナの仇だ。だから、わたしが殺す。わたしが倒す。

 そうやって、三人の力を借りずに戦うと決めて、戦って。

 二戦目に、それは起きた。

 

「まったく、調はあたしが居ないとダメなんデスから」

 

 そう言って、切ちゃんに似た人は、わたしを庇った。

 でも、どうしても。どうしても切ちゃんに似た人の笑顔は、どうしようもなく切ちゃんだった。声も、笑顔も。全部が切ちゃんで。どうして庇ったのか。どうしてもっと戦わせないのかと怒りを持った矢先、切ちゃんの笑顔は吹き飛んだ。

 血と金属をまき散らしながら吹き飛んだ切ちゃんは、あの時の炭になった死に方とは違う。でも、吹き飛ぶ直前に見た切ちゃんの笑顔と、どうしようもなく同じで。

 

『心配だなぁ……調は、あたしが居ないとダメなんデスから……』

 

 そう言いながら目の前で炭になって死んでいった切ちゃんの笑顔と、同じ。それがわたしの心に直接攻撃をしてこないわけがなかった。

 守られてばかりで、一人じゃ何もできなくて。罵られて馬鹿にされて足手まといだと軽蔑されてもおかしくない行動ばかりを繰り返してきたわたしを、庇った。庇う価値なんて……あの切ちゃんの一番である月読調じゃないのに、こんな救いようのない月読調を庇った。

 そんなつもりはなかった。庇ってもらうなんて、傷つけてしまうなんて。ただ、放っておいてほしかった。

 あの切ちゃんにとっての月読調は、わたしじゃない。わたしを助けるためじゃなくて平行世界のわたしを助けようとしているだけだから。また傷つくのが目に見えていたから。

 でも、現実は違った。切ちゃんはわたしを助けてくれた。こんな救いようのないわたしを。

 そんなわたしにガングニールの人が近寄ってきた。

 絶唱のバックファイアで体が限界な筈なのに。ゆっくりと。確かに自分の足で歩いて。

 

「ち、ちがっ……わ、わた、し……そんなつもり……」

 

 わたしの名を呼んだガングニールの人に対して出た言葉は、情けない言葉だった。

 殴られても仕方ない。怒鳴られても仕方ない。でも、あの人はそんな事をしなかった。仲間を盾にされたのも同義な筈なのに、わたしを怒鳴りつける事も、胸倉を掴んで投げるようなことも。わたしが今日までにやった失礼な行為に対する仕返しの何一つもせずに。声をかけてくれた。

 

「調ちゃんにとって、あの切歌ちゃんは確かに調ちゃんの知る切歌ちゃんじゃないよ。でもね、切歌ちゃんは世界が変わっても、どんな世界でも、調ちゃんの事が大切なんだよ。だから、受け入れてとは言わないよ。でも、信じてあげて。あの切歌ちゃんは、調ちゃんを助けるためにここに来たんだって」

 

 あの切ちゃんは、わたしの知っている切ちゃんじゃない。

 でも、あの切ちゃんの知っている月読調は、わたしじゃない。なのに、切ちゃんに似た人はわたしを守った。死んじゃうかもしれないのに。元の世界の人にその死因を知られる事無く死んじゃうかもしれないのに、その身で庇った。

 あれだけ失礼な事をして、あれだけ拒絶して、あれだけ拒否したわたしの手を掴もうと。わたしを助けたいと願って、その身を犠牲にしようとした。

 

「切歌ちゃんの調ちゃんを思う心だけは、本物だから。それだけは、覚えておいてね」

 

 分からない。

 どうしたらいいのか分からない。

 分からないよ、切ちゃん……

 わたしは、どうしたらいいの? 伸ばされた手を掴む方法なんて、分からないよ……切ちゃんがいないと、何もできないよ……

 助けて。助けてよ……ここは暗くて、寒くて、寂しいよ……

 だから、切ちゃん。

 わたしを助けて……

 

 

****

 

 

「切歌の命に別状はありませんでした。ですが、今回の件はわたし達の楽観視が招いた事態です。なんとお詫びすればいい事か……」

「い、いえ、そんな頭を下げないでください! これは誰のせいでもないですから!!」

 

 帰還してから真っ先にナスターシャ教授はわたしと未来に頭を下げてきた。

 調ちゃんは自力で戻ってからすぐに自室に閉じこもってしまったようで、あれから顔を見ていない。そして切歌ちゃんの方はあれだけ派手に吹き飛んだけど、ダメージ的には大した事はないらしく、明日には目を覚ますだろうとの事。

 傷も派手に血は流したけど、この施設の設備なら傷跡も残さず直せるらしく、目を覚ます頃には大きな傷以外は大体塞がっているし、大きな傷も小さな傷にはなっているだろうって。でも、それをしてしまったのは自分たちの責任だからとナスターシャ教授は頭を下げている。多分、車椅子が無かったら土下座してるんじゃないかと思う程、頭を下げている。

 正直、そこまでされるとこっちが申し訳なくなる。だって、今回の件は誰も悪くない。悪いのはこんな事態にしたカルマノイズだから。

 

「と、とりあえず! 次こそはちゃんとS2CAを叩き込んでしっかりとカルマノイズを撃破します!! 任せてください!!」

「ですが……あなたはもう二度も絶唱を」

「二回の絶唱なんてちょろいですって!! むしろ口と目と耳から血を流さないだけ余裕ですよ余裕!! それに腕も食われてませんから全然余裕のよっちゃんですから!!」

 

 ガングニールの破片が刺さったり、暴走したり、デュランダル握った時に比べればこの程度のバックファイアお茶の子さいさい……あれ? わたし、案外自分の体を大切にしてない……?

 しかもナスターシャ教授、若干引いてない? そ、そうですか……って言いながらなんだか引いてない?

 大丈夫? これ、わたしが頭可哀想な子だって思われてない?

 

「それは元からだから安心して」

「それなら安心……あれ? とうとう未来から直接罵倒された? わたし、サラッと罵倒された?」

「罵倒じゃないよ、馬鹿にしたんだよ」

「未来がいじめるぅ!!」

 

 最近嫁の言葉のトゲが太すぎますです……

 

「そ、それでですが……調の件は、もうどうにもならないかもしれませんね」

 

 ナスターシャ教授は一旦話を区切ると、調ちゃんの話題を出してきた。

 多分、もうこれ以上はどうしようもないだろうってナスターシャ教授は思ってしまったのかもしれない。未来も、若干暗い顔を浮かべている。

 でも、違う。わたしにとっては、違う。

 

「いえ、あと少しです」

「あと少し、ですか?」

「もう一つ。もう一つ切欠があれば、きっと調ちゃんは手を伸ばしてくれます」

 

 今の調ちゃんは、きっと助けを求めている。その言葉を、発し始めた。

 だから、後は調ちゃんに一つ切欠があれば、わたし達は……ううん。切歌ちゃんは調ちゃんの手を掴む事ができる。だから、あと少し。

 

「大丈夫です。きっと、調ちゃんは何とかなります」

 

 だって、とわたしは付け加える。

 

「ここには誰よりも調ちゃんの事を知っていて、大好きな切歌ちゃんが居るんですから」

 

 だから、調ちゃんを助けられないわけがない。

 それに未来が頷いて、ナスターシャ教授が困ったような表情を浮かべた後に一つ笑って、頷いた。

 

「そうですね。あの子を誰よりも分かっているのは私達ではない。切歌でしたね」

「はい! 切歌ちゃんは、調ちゃんの事なら世界一。いや、宇宙一ですから!」

 

 だから、きっと大丈夫。

 へいき、へっちゃら!!

 ――とは言っても。

 流石に絶唱のバックファイアはきっつい。強がって一人で立っていたわたしだけど、その後は結局当てられた部屋に戻ってベッドに倒れてそのまま爆睡。そして起きてから用意されたご飯を大盛で食べて未来と一緒にシャワー浴びて、映画を一本見てからもう一回爆睡。

 そして元気百倍! 昨日より元気!!

 

「響ったら、どこまでも響なんだから」

 

 ……それ、馬鹿にしてます?

 

「褒めてるんだよ」

 

 ならよかった!

 ご飯食べて映画見て寝ればわたしは復活するからね。師匠もそれで十分だって言ってたし!

 うん、体の調子はすこぶるいい! これならカルマノイズ相手でもタイマン張れちゃいそう!!

 

「全く、調子いいんだから」

 

 えへへ。

 でも、復活したのは事実。じゃあ、昨日はできなかった定期連絡でもしに行こうかな。流石に切歌ちゃんが大けがしたのにそれを報告しないのはマズいと思うし。

 それに、わたし達の世界の近況も知っておきたい。もし、あっちにもノイズとカルマノイズが現れているのなら、あっちの援護に行かないといけない。流石に装者が三人。それもマリアさん、翼さん、クリスちゃんっていう頼れる三人がいるとしても、心配な物は心配だから。

 さて、そうと決まればすぐに――

 

『すみません、ノイズが現れました。至急出撃をお願いしたいのですが……』

 

 おおう……

 フラグ建てちゃったかなぁ。っていうか、ナスターシャ教授が昨日の今日だからか流石に申し訳なさそうな声色で報告してきた。何もそんな声出さなくても、言われれば止められても出撃するのに。

 未来と視線を合わせてから頷いて、通信機に声を出す。

 

「了解です。すぐに現場へ急行します!!」

『申し訳ありませんが、お願いします』

 

 さて、お仕事の時間! いっぱい食べて映画見ていっぱい寝たから、今のわたしは昨日のわたしより進化して強い! 負ける気がしないッ!!

 

『ッ……カルマノイズまで二体も出現しています! 無理はせず、危険だと感じたら即撤退してください! これはあなた達の命を預かった私からの命令です!!』

 

 ……わたし、フラグ建てるのが上手いのかなぁ。未来も今までで数回しか見た事ないような凄い目でこっち見てきてるし。

 とほほ。なんで昨日の今日でカルマノイズ……流石に明日は休暇貰おうかなぁ……!!

 

 

****

 

 

 出撃命令を聞いても、わたし(調)は出撃しなかった。

 いや、できなかった。シュルシャガナを握っても、聖詠が思い浮かばない。きっと、わたしの心が揺れているから、シュルシャガナも力を貸してくれない。

 とうとうシュルシャガナにまで見限られてしまった。今までずっと力を貸してくれていたシュルシャガナまで。

 もうわたしには何も残っていない。慌ただしい施設の中をわたしは歩く。

 もうこんなわたし、生きている価値が無い。切ちゃんを失って、マリアを失って、セレナを失って。そして、施設の職員とマムからの信頼まで失って、そしてシュルシャガナの適合者としての資格まで失った。こんなわたし、生きている意味がない。

 そんなわたしが無意識のうちにたどり着いていたのは、メディカルルームだった。

 扉を開けると、そこには点滴のチューブを腕から伸ばして未だに眠っている切ちゃんがいた。わたしのせいでこんなに痛々しい姿になってしまった切ちゃんが。

 近くにあった椅子に座って、そっと切ちゃんの手を握る。せめて、生きている切ちゃんの温かさに触れたかった。

 

「切ちゃん……きりちゃん……っ!」

 

 わたしが変な意地を張ったせいで。

 変に切ちゃんを認めなかったせいで切ちゃんは傷ついた。

 ――本当は分かっていた。切ちゃんは切ちゃんで、平行世界の切ちゃんだとしても、わたしの知っている切ちゃんそのままなんだって。過ごした時は違っても、切ちゃんはどうしようもなく月読調が知っている暁切歌のままなんだって。でも、わたしがそれを頑なに認めず、拒絶した。

 そんな些細な意地のせいで、切ちゃんは傷ついた。

 

「ごめん……ごめん、なさい……!!」

 

 もっと早く切ちゃんと話せていれば。

 もっと早く、切ちゃんが伸ばしてくれた手を握ってくれれば。

 確かにあの時、切ちゃんは死んだ。でも、この切ちゃんはそんなわたしを助けに来てくれたんだ。平行世界を移動すると言う奇跡を成してまで、来てくれたんだ。なのにその奇跡を拒絶して……平行世界を跨いでまで来てくれた切ちゃんとちゃんと話せていたら、こんな事には……!!

 

「……まったく、しらべはほんとうに、あたしがついてないとだめなんですから……」

 

 ベッドの上に涙を落としながら手を握っていると、声が聞こえた。そしてすぐに、頭を撫でられた。

 顔をあげると、そこにはいつの間に目を覚ましたのか分からない切ちゃんが笑っていて、わたしの頭を撫でていた。

 記憶にある切ちゃんの笑顔と変わらない、暖かい笑顔を浮かべた切ちゃんが。

 

「きり、ちゃん……」

「やっと、デレてくれたデス……吊り橋効果、デスかね」

 

 変な事を言いながら、切ちゃんが上半身を起こした。痛々しい姿で、実際に体が痛んだのか切ちゃんの笑顔が少しだけ歪んだけど、切ちゃんはしっかりとこっちに笑顔を向けてくれている。わたしも知っている切ちゃんの笑顔を。

 

「……確かにあたしは、調の知っている暁切歌じゃないデス」

 

 笑顔のままわたしの頭を撫で、切ちゃんは優しい声色で話してくれる。

 

「でも、あたしが調を想う気持ちは、例え世界が違っても。平行世界の調でも、変わらないデス。だって、あたしは調の事が大好きデスから、平行世界の調も笑顔にしたいんデス」

 

 あぁ……そう、だ。

 切ちゃんは、ずっと口にしていた。平行世界のわたしだけじゃなくて、わたしも助けたいんだって。だけど、変に意地を張って、切ちゃんには平行世界のわたしがいるから、このわたしなんてどうでもいいんだなんて決めつけて。奇跡を拒んで、あり得ないもしもで傷つくのが嫌で嫌で。切ちゃんの必死な声を聞かないように耳を塞いで、伸ばされた手を振り払った。

 これ以上傷つきたくなくて、自ら傷をつけてその傷を本当の痛みだと思っていた。

 でも、切ちゃんはそれを丸ごと包んで癒してくれた。

 

「切ちゃん……ごめん、本当に、ごめんなさい……!! わたしが、変な意地を張って……伸ばされた手を振り払い続けて……!!」

「大丈夫デス。あたしは一度や二度、手を振り払われた程度じゃ気にしない程のお気楽デス。それは調も知っているデスよね?」

「……うん」

 

 切ちゃんは一度、わたしの手から手を離した。

 でも、切ちゃんはすぐにわたしに手を差し伸べた。

 

「調。あたしは確かにこの世界の暁切歌じゃないデス。でも、調を助けたいと思う気持ちは。調を想う気持ちは、この世界のあたしと変わらないんデス。だから……」

 

 切ちゃんの笑顔が、わたしの中の切ちゃんの記憶と重なった気がした。

 

「あたしは調を助けに来たんデス。調が助けを求めるのなら、この手を取ってほしいデス。この手を取ったなら、あたしがあんな暗い牢獄の中から調を出してみせますから」

「うん……うん!!」

 

 そして、わたしは差し伸ばされた手を取る方法が、ようやくわかった。

 こっちからも手を伸ばして、伸ばされた手を掴まなきゃダメなんだ。もう居ない人に、死にしがみついていたら何も解決しない。

 こっちの切ちゃんは死んだ。でも、全く同じ魂と心を持った切ちゃんが来てくれた。わたしにこの先生きるための答えを持ってきてくれたんだ。後ろじゃなくて前を向いて手を伸ばすという、当たり前の行為を教えるために。助けてもらうには、助けを求める手を伸ばさないとダメだという事を。

 

「さぁ、調。一緒に戦うデスよ。二つ揃ったザババの刃は無敵なんデスから!!」

 

 わたしは、前を向く。

 前を閉ざす暗闇なんて、いらない。

 だから、今襲ってきてるカルマノイズを倒して、マムに謝って、みんなに謝るんだ。

 マムから差し伸ばされ続けた手を取るために。死んでしまった切ちゃんやマリア、セレナが守ろうとしたこの世界を守るために!!

 

「行こう、切ちゃん!!」

「はいデス!」

 

 

****

 

 

「ぐあっ!?」

「きゃっ!?」

 

 わたしと未来をカルマノイズの攻撃が襲う。

 流石にカルマノイズ二体の攻撃は強烈で、二人だけじゃ手も足も出ないわけじゃないけど、防戦一方になってしまう。わたしも強がってはいたけど、絶唱のバックファイアが体の奥に残っていたのか、さっきから体が十分に動かない。

 これは、本気で撤退を考えないといけないかも。

 イグナイトが使えない強敵との戦闘がこれほど辛いと思ったのは初めてだよ……!!

 

「未来、せめて逃げる分の体力は残しておこう。これは、流石にマズいよ」

「そうだね……せめて、あの二人が来てくれたら……」

 

 うん。もし、切歌ちゃんと調ちゃんが来てくれたら……四人で戦えたのなら、戦況は一気に変わると思う。でも、流石にそんな都合のいい話が……

 

「呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃーんデスッ!!」

「これ以上好きにはさせない!!」

 

 ……あったね。そんな都合のいい話。

 

「イガリマ、現着デス!!」

「同じくシュルシャガナ、現着」

 

 見慣れた切歌ちゃんと、ギアの形状は変わらないけどバイザーがなくなってしっかりと目が見えるようになった調ちゃんが、そこには立っていた。

 それを見るだけで分かる。二人はちゃんと和解できた。調ちゃんは、伸ばされた手をしっかりと掴んだんだって。思わずわたしと未来も笑顔になる。そして切歌ちゃんと調ちゃんも、困ったように笑顔を浮かべている。

 二人は残っていたノイズを切り伏せてからカルマノイズを一旦吹き飛ばして距離を取ると、わたしの横に並んだ。

 

「響さん、S2CAをお願いするデス」

「S2CAを……ここで?」

 

 ……意図は分からない。

 でも、切歌ちゃんがそう言うのなら、わたしは信じる。

 

「わかった。じゃあ、手を繋ごう」

 

 わたしが切歌ちゃんと未来と手を繋ぎ、切歌ちゃんが調ちゃんと手を繋ぐ。

 

「えっと……ガングニールの人と、神獣鏡の人。今までごめんなさい。迷惑かけた分、今回は迷惑をかけないように戦います」

「大丈夫。へいき、へっちゃらだから」

「もう謝られるだけの理由もないからね。どうしてもって言うのなら、ここでわたし達と一緒にカルマノイズを倒そう?」

「はい! ここでみんなの仇を取ります!」

 

 切歌ちゃんと和解できただけで、それでいい。それ以上の事はいらないから、一緒に手を繋いで戦おう。

 そう言うと、調ちゃんは笑顔で偽善者め、と呟いた。わたし達三人でその笑顔に対してちょっと笑ってから、前を向く。そして、紡ぐ。

 

『Gatrandis babel ziggurat edenal Emustolronzen fine el baral zizzl――』

 

 その時だった。

 わたしの周囲に渦巻くフォニックゲインが、四つじゃなくて七つ(・・)に増えたのは。

 

「こ、これは……?」

 

 未来がその以上に気が付いて声をあげる。

 そして、調ちゃんは――

 

「きり、ちゃん……? マリアに、セレナまで……?」

 

 ――あぁ、そうだ。

 この歌は。三つ増えたこのフォニックゲインは、紛れもない。

 切歌ちゃんと、マリアさんと、セレナちゃんのフォニックゲインだ。

 

『やっと、前を向いたんデスね』

『本当に安心しました』

『だから、私達の全部を託して、逝けるわ』

『調、この世界を……あたし達が守りたかった世界を、守ってほしいデス』

「……うん、約束する。絶対に、この世界を守ってみせるよ」

 

 奇跡、だった。

 幻聴だと人は言うかもしれない。幻覚だと人は笑うかもしれない。

 でも、今。確実に調ちゃんの手の先には、この世界の切歌ちゃんと、マリアさんと、セレナちゃんが居る。三人が、共に歌っている。

 きっと、絶唱を歌いきれば消えてしまう意志。でも、調ちゃんは涙を流しながらも歌う。

 過去を受け入れ、前へ行くために。暗い昨日ではなく、光の明日へ羽ばたくために。

 

『Gatrandis babel ziggurat edenal Emustolronzen fine el zizzl――』

 

 だから!

 わたしは、奇跡を起こす! 起こしてみせる!!

 無茶で無謀だとしても!! 馬鹿にされようとも!!

 だとしてもと吠え続け、わたし達四人とこの世界を守りたかった三人のフォニックゲインを奇跡に変えてッ!!

 

「S2CA・セプテットバージョン!!」

 

 三人の魂が空へと昇っていく。フォニックゲインだけを残して。

 だから、わたしはそのフォニックゲインを束ねる。七つのフォニックゲインを束ね、それを二人へと向ける!!

 

「ジェネレイトッ!!」

 

 調ちゃんと切歌ちゃんのギアが空へ溶けていく。いや、再構築されて行く。

 これが、わたし達の絶唱……いや、わたし達の起こす奇跡だ!!

 

「エクス、ドラァァァァァァァァァァイブッ!!」

 

 空へと虹が昇っていく。

 わたしが起こした虹の竜巻は、三人の魂の道となって空を駆け、そして空へと昇っていった二人は虹の竜巻の中をゆっくりと降りてくる。

 そして、虹の竜巻が内側から爆ぜ、二人が姿を現す。

 

「……ありがとう。マリア、セレナ……切ちゃん。わたしはこの奇跡で、この世界を守るよ」

「この世界のあたしが守りたかった世界を……共に、調と守るデス」

 

 純白のギアを纏った二人が、姿を現した。

 巨大な鎌を持った切歌ちゃんと、チェーンソーではなく一振りの巨大なハルペーを手にした調ちゃんが。

 

『まさか……エクスドライブモードを起動したのですか……!? この土壇場で!!』

 

 ナスターシャ教授の声が聞こえる。

 エクスドライブモード。それを二人は、この土壇場で起動してみせた。幾つもの奇跡を纏い、その軌跡によってエクスドライブという奇跡の産物を必然に変えた。

 わたしは膝を付きそうな程のバックファイアに耐えながら拳を構え、未来も扇を構える。

 

「さぁ、行こう!!」

「うん!」

「はい!!」

「了解デス!!」

 

 わたしが先導してバンカーを展開して突っ込む。その後ろを切歌ちゃんと調ちゃんが続き、未来が後ろで遠距離支援の準備をする。わたしに対してカルマノイズは触手と爆弾を放ってきたけど、全部が切歌ちゃんの飛ばした鎌の斬撃によって切り裂かれ無効化される。

 切り裂かれた事によって爆発した爆弾の煙を突っ切り、そのまま触手を飛ばすカルマノイズに拳を叩きつけ、宙へと飛ばす。そのカルマノイズにエクスドライブの二人が接近し、空中でカルマノイズを囲む。

 

「これで!」

「一体ッ!!」

 

 そして二人が高速移動をしながら一気にカルマノイズを切り裂き、そのままカルマノイズを一瞬にして炭へと変えた。

 流石切歌ちゃんと調ちゃん。平行世界の同一人物同士でもそのコンビネーションは色あせないね。

 とか思っていると、もう一体のブドウを沢山取り付けたカルマノイズがわたしの方へ爆弾を飛ばしてきた。普通なら避けられない距離だけど……

 

「閃光ッ!」

 

 わたしには未来がいる。

 目の前を紫のビームが通り過ぎ、爆弾が蒸発していく。

 していくんだけど……

 

「あ、あのー、未来さん? 前髪がちょっと無くなったんですけど……」

「……てへっ」

「何故そこでテヘペロ!? でも可愛いから許すッ!!」

 

 可愛いは正義だからね!!

 まぁそんな漫才をしているわけだけど。ここまで余裕なのは理由がある。

 だって……エクスドライブの二人に対してわたし達がこれ以上茶々入れるのは、きっと足手まといになるだけだと思うからね。

 

「後は!」

「任されました!!」

 

 任せた覚えもないけど任せた!

 そう叫びながらバックステップで後ろに下がると、高速で接近していた調ちゃんのハルペーがカルマノイズを串刺しにしてそのまま空へと運んでいく。そして空中でハルペーからカルマノイズを蹴り抜くと、それを切歌ちゃんが拾って空中で滅多切りにしていく。

 そして、更にカルマノイズを上空に打ち上げると二人が囲み、目にも止まらない速さでカルマノイズの周りを旋回しながら切り裂いていき、カルマノイズの体をズタズタにしていく。そしてトドメに二人は空中で武器を合わせる。

 鎌はハルペーに変わり、二振りのハルペーが二人の手に握られる。

 翠のハルペーと、紅のハルペー。それを掲げて交差させ、落ちて行くカルマノイズへと狙いをつける。

 

『いっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!』

 

 そして二人が振り下ろしたハルペーはそのまま空気すらも切り裂いてカルマノイズをX字に切り裂いた。

 カルマノイズが炭へと変わっていき、二人は剣を下ろした。

 

「ザババの刃に」

「敵はいないデス」

 

 二人は剣を下ろしてから地面に足を付けた。

 改めてみると二人のエクスドライブは、どこか似ている。調ちゃんが近距離戦闘型としてこっちでは戦っていたからか、二人とも近距離戦闘型としてのエクスドライブを発現させて、結果的にわたし達の世界の調ちゃんとは別の意味で相性がよくなっている。

 でも、この形態も今回限り。ギアを解くか時間が経てば、エクスドライブは無くなってしまう。

 

「……マリア、セレナ、切ちゃん。わたし、世界を守れたよ」

 

 だけど、それでいいんだと思う。

 空を見て手を伸ばす調ちゃんはの目は、この間のように人を殺せるほどキツイものじゃなく、わたし達のよく知る調ちゃんの目だったから。

 

 

****

 

 

 カルマノイズは二体で打ち止めだったらしく、わたし達は元の世界に戻る準備をすぐに済ませると、一日だけ休憩してから元の世界に帰る事にした。

 その際、調ちゃんはちゃんとナスターシャ教授に謝って、これからも自分と一緒に居てほしいと頭を下げたらしい。ナスターシャ教授はそれを拒むわけがなく、こちらこそ調の事をもっと気にかけられなくてすみません、と謝ったとか。こんな言い方なのは、全部切歌ちゃんから又聞きしたから。

 又聞きする事になった理由としては、わたしの方が限界になっちゃったからかな。流石にS2CAを二日連続でぶっ放すのはきついっす……

 まぁそんなワケで、実質わたしの復活のために期間という事でこっちに一日だけ留まる事になった。で、わたしが寝ている間調ちゃんと切歌ちゃんは色々と話し合ったらしく、目を覚ましてから見た調ちゃんは、わたし達の世界の調ちゃんとあまり大差ない顔をしていた。

 そんな調ちゃんの見送りの元、わたし達は元の世界へと帰る。

 

「それじゃあ、切ちゃん。元気でね」

「調も、もう変な拗らせかたしないようにするデスよ」

「あ、あはは……善処するね」

「まったくもう……心配デスから時々様子を見に来るデス! 調はあたしが居ないとダメなんですから!」

「うん、そうだね。でもそれは、切ちゃんもだよね?」

「うっ……そ、それは……そうデスけど……」

 

 潔く認める切歌ちゃんにわたし達も笑ってしまう。

 でも、この二人はそれでいいんだ。互いが互いを支えるから、誰よりも強い。それが切歌ちゃんと調ちゃんだから。

 

「響さんと未来さんも。色々とご迷惑をかけてすみませんでした」

「いやいや、別にいいよ。それよりも、調ちゃん。きっとこれから先大変だろうけど頑張ってね?」

「こっちの世界の響を見かけたら、すぐに帰るように言ってね」

「はい。切ちゃん達が守りたかったこの世界をいつまでも守っていきます。それと、こっちの響さんは……ぜ、善処します」

 

 まぁ、会える確証なんて無いし、そもそもマトモに話ができる状況かもわからないから仕方ないよね。そもそも生きてるかすら……

 ちょっと微妙な空気になってしまったけど、多分わたしだから大丈夫って事でこの微妙な空気を笑い飛ばし、改めてわたし達はギアを纏う。

 

「……それじゃあ」

「元気でね」

「時々遊びに来るデスよ」

「うん。いつでも待ってるから」

 

 それ以上の言葉はいらない。

 わたし達はギャラルホルンの作った道を通って元の世界に帰った。道を通った先に見えた、オロオロと切歌ちゃんを心配しながら待つ、わたし達の世界の調ちゃんを見て笑いながら。




月読調【IF】……心象の変化。暗い過去ではなく明るい未来を見るため、切歌と共に戦うために目を隠すバイザーが無くなった。心の中にカルマノイズへの憎しみは渦巻いているが、切歌と共になら勝てるという確信が調【IF】を憎しみだけの暴走を止めた。

月読調【IF】エクスドライブモード……死んでしまった切歌【IF】、マリア【IF】、セレナ【IF】の魂が紡いだ絶唱と四人の絶唱が奇跡を起こし、シュルシャガナの全てのロックが解除された限定解除モード。正史の月読調とは違い武器がハルペーとなっており、正史の月読調とは別の方面で切歌と共に戦う意志が現れている。

S2CA・セプテットバージョン ジェネレイトエクスドライブ……七人の絶唱を束ねたS2CA。そのフォニックゲインが奇跡を起こすと確信したからこそ紡いだ言葉、ジェネレイトエクスドライブ。それが現実となり、切歌と調【IF】はエクスドライブとなった。


この話を書くことを決めて、まず調ちゃんの内心は最後まで明かさないという事を決め、最後はきりしらのエクスドライブを出すという事を決めて書き始めました。

そんな感じで書き始めたこの話。やはり翳り裂く閃光のように何かオリジナルの敵でも出した方がいいのかと思いましたが、変に要素を加えるよりもシンプルに終わらせないとマジでいつまで経っても終わらないと気が付いたので、特にオリジナル要素はあまり加えず、せいぜい話の展開上必要な物だけに留めておきました。

恐らく調ちゃん【IF】が出るのは今回が最初で最後ですが、もしこの話を楽しめていただけたなら幸いです。付き合ってくださった方々、本当にありがとうございます。

次回からはしっかりといつも通りな感じの話を書くと思いますので!!


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月読調の華麗なる平行世界・後日談

ピカーン(新ストーリー解放音)

というわけで今回は後日談。特にネタが思いつかなかったから後日談でお茶を濁そうとかじゃないヨ? ホントダヨ?


 わたし達は平行世界から帰ってきた。

 そんなわたし達を出迎えたのは、今にも泣き出しそうな調ちゃんだった。多分、目が覚めたら一人だったから寂しかったんだと思うけど、流石に目の前でガッツリと抱擁を見てしまったからかちょっとわたし達も照れてしまった。

 そうして元気になった調ちゃんは、特に後遺症もなく普段通りな感じに戻ってくれた。こっちの世界でも幾度かノイズは出たらしいけど、クリスちゃん達は特に怪我もしてないみたいだったし、今回もなんとか大きな犠牲は出さずに異変を終わらせる事ができた。

 

「でも、調が元気になってよかったデス!」

「切ちゃんが頑張ってくれたからだよ。こっちで寝てる間、ちゃんと切ちゃんが頑張ってくれたところは見ていたから」

「そ、そんな事言われても照れるデスよ……MVPは響さんなのに」

「いやいや、MVPは満場一致で切歌ちゃんだってば。わたしはただのS2CAブッパウーマンだったから」

「何デスかその物騒なウーマン……」

 

 でも、事実だし……わたし、S2CAブッパしかしてなくない? それこそそれっぽい発破はかけたけど、その程度だし……わたしの頑張った事、それくらいだよ?

 それに、直接的な問題の解決は切歌ちゃんがやったんだから、間違いなくMVPは切歌ちゃん。

 

「……でも、少しだけあっちの調が心配デス」

「そうかな? わたしはそうでもないよ?」

 

 うん、切歌ちゃんはそう言ったけど、わたしは特にそうは思わない。

 まぁ、心配になるのも分かるよ? でも、きっと大丈夫。調ちゃんは切歌ちゃんから大事な事を学んでいたから。装者としても、人としても大事な事を。

 

「どうしてデスか?」

 

 うん、それはね。

 

「あっちの調ちゃんは、ちゃんと手を繋ぐ意味を、手を繋ぐ方法が分かったから。だから、何があっても絶対に大丈夫だよ」

 

 手を繋ぐ事は大事だから、ね。

 

 

****

 

 

 平行世界に切ちゃんと響さん。それから未来さんの三人は帰ってしまった。いつか遊びに来るとは言ってくれたけど、平行世界に移動する聖遺物を私用で使う事なんてそうそうできないのは何となく分かっているから、もしかしたら次に切ちゃん達と会えるのは一年後……もしかしたら何年も後になってしまうかもしれない。

 それでも、わたしはもう挫けない。苦しんだ過去を思い出にして、それが悪い物だと決めつけない。わたしが前に進むための燃料として。前を向くために必要な材料として悲しまない。後悔こそあれど、それを悔いたりはしない。

 今、この世界にノイズと対抗できるのはわたしだけ。マムに聞いたけど、こっちの世界の残りの装者はルナアタック後に行方不明になってしまったらしく、生存は絶望的らしい。だから、この世界はわたしが守っていかないといけない。切ちゃんとマリアとセレナが守ろうとしたこの世界を、わたしが前を向いて胸を張って、生きて、守るんだ。それが、生き残った者のやるべき事だから。

 

「調、私達F.I.S……とは言っても、厳密には私と調、それから数名の技術者の少数精鋭によって構成したシンフォギア運用部隊は日本の特異災害対策機動部二課と協力し、ルナアタック後に紛失したバビロニアの宝物庫を閉めるための聖遺物、ソロモンの杖の回収と同時にノイズの根絶を行う事にしました」

 

 響さん達が帰ってから暫くして、マムはそんな事をわたしに告げた。事後承諾だ。

 思わずちょっと驚いてしまったけど、それでもマムの言葉に反論はしない。響さん達はSONG所属って言っていたけど、恐らくその前身となる組織はこの特異災害対策機動部二課だという事は既にマムが調べた。というか、シンフォギアを運用する組織はF.I.Sかそこの二択しかないから。

 シンフォギア装者を失ったその組織の事をマムは知り、響さん達が属していた組織なら信用に値すると秘密裏に連絡を取っていたみたい。

 

「そのために調……私達に力を貸してくれますか?」

「勿論だよ、マム。わたしはそのために歌を歌い続けているんだから」

 

 あっちの響さん達が次来た時に、この世界の事を誇れるように、わたしは戦う。そのための歌は未だ胸を燃やして消える気配を見せていない。

 だから、戦う事に異論はない。その戦いで正義を握ることの意味を響さんは教えてくれたから。

 質問を是で返されたマムは少しだけ嬉しそうに微笑んだ。もう一人だけになってしまったわたしの家族。わたしのお母さん代わり。そんなマムの頼みを断れるわけがない。

 

「では、手続きをこちらで進めておきます。調はもう休んで大丈夫ですよ」

「ううん、わたしはシミュレーターで訓練する」

 

 マムはわたしに自室……前まで切ちゃん達が使っていた部屋だけど、そこに戻ってもいいと言ってくれた。でも、私はもう少しだけ体を動かしたい気分だった。

 今までのわたしの戦い方は、シンフォギアの性能に任せた自己犠牲しかできない突撃だけ。でも、死ねない理由が、自分の体を大切にする理由ができたから、そんな戦い方はもうしない。そのためにも新しい戦い方を。一人でも十分に戦える戦い方を練習したかった。

 マムは少しだけ渋ったけど、わたしがそう言うなら、と訓練の許可を出してくれた。

 

「あぁ、それと調」

 

 そして指令室を出ようとしたわたしにマムは声をかけた。

 

「なに?」

「ドクターウェルの事は、覚えていますか?」

「ウェル……ウェル……あぁ、ウェル博士の事?」

 

 ウェル博士。あのネフィリムの実験の時にも相席していた研究者の一人のはず。数年前にここを出ていって行方不明になったきりだけど、ウェル博士が残していったわたし用に調整したLiNKERをずっと使っている。

 一応顔を何度か合わせたけど、その度に気色の悪いとか暗い、とか根暗とか色々言われたっけ。あれ? 今になってムカついてきたんだけど。当時のわたしはアレだったから何言われても無視したし口答えもしなかったけど、こうして色々と自分で考えるようになったら色々ムカついてきた。あったら一発殴ろうかな。

 

「もし彼が敵に回った時……あなたはその刃をドクターウェルに向けられますか?」

「向けるよ。でも、殺さない」

 

 答えは自分でも少し驚くほど速く出た。

 刃を向ける。向けはするけど、殺さない。死は悲しい事だって知っているから。それを押し付けるなんて真似はしない。刃を向けて、話し合って、無理なら倒して手を握る。響さん程優しく言葉をかけられないし、歪にしか手を握れないかもしれないけど、わたしはわたしなりに戦う。

 だから、相手が顔なじみでも。それこそマムでも、道を間違ってしまったのならわたしは刃を向ける。そして、戦って話し合って、手を握る。

 

「……そうですか。それを聞けたなら安心です」

「そう?」

「はい。いい方向に変わりましたね。今までのあなたより、今のあなたの方が立派に見えますよ」

「そう見えるように虚勢を張ってるから」

「虚勢なわけありません。あなたは確かに立派な子。その刃を握る理由も、その歌も。何もかもが立派な、私の教え子です」

 

 それなら、いいかな。マムにそう思われているなら、この考えは間違っていないとわたしは誇れるから。

 マムの言葉を背に、わたしは指令室を出ようとする。あんまりここに居るとマムのお仕事の邪魔にもなっちゃうし、訓練の時間も無くなっちゃうからね。

 だから早めにシミュレーター室へ……

 

「おや、通信……はい、はい……ノイズが出現ですか。分かりました、調を出します」

 

 と思った矢先だった。マムの方へ通信が飛んできたと同時に部屋の壁一面にある巨大なスクリーンにはノイズ達の姿が映された。どうやら、早速二課の方からノイズの探知と装者の出撃要請が出たみたい。

 訓練のハズが実戦になっちゃった。でも、大丈夫。その時間を使って罪のない人を助けられるのなら、わたしはそれで構わない。

 

「調、行けますね?」

「うん、任せて。おさんどんまでには間に合わせるから」

「そうですか。気を付けて」

 

 うん、精一杯気を付けて戦ってくる。

 

「あと、おさんどんの意味ですが……お夕飯という意味ではないですからね?」

 

 えっ!?

 

 

****

 

 

 ノイズを切り刻む。カルマノイズが居なければノイズ程度、シンフォギアの敵じゃない。バイザーが無くなった事によって自分の肉眼で見る世界は、少し新鮮。でも、その眼で世界を見るのは後。今は取り残された人や助けられそうな人を探して戦う。

 歌を歌い、気を付けながら大技、小技を織り交ぜる。そして飛んでくるノイズの攻撃は防ぐか避けるかして、カウンターでチェーンソーを叩き込む。うん、今日もチェーンソーの切れ味は抜群。おさんど……じゃなかった。お夕飯までには間に合いそう。マムは濃い味が大好きすぎるから、ちゃんとお夕飯を作るのに間に合う時間までに戻って薄口のご飯を作らないと。健康にも悪いし、マムももう歳だから偏食と食わず嫌い、どうにかしないとね。

 そのためにも今は!

 

「やぁぁ!!」

 

 チェーンソーでノイズを切り刻み、二つ結びの髪を格納したアームドギアから丸鋸を発射して目の前のノイズを一気に殲滅する。

 でも、数が多すぎる……! 流石にこれは疲れるというか何というか……!!

 だけど弱音なんて吐いていられない。強気で戦うんだ。そして勝つんだ!!

 

「だ、誰かぁ!! 誰か助けてぇ!!」

 

 そしてチェーンソーを振っていた時、声が聞こえた。

 助けを求める声。ちょっと前の私なら確実に無視していたであろうその声の持ち主は、今にもノイズに触られそうだった。しかもその人は、子供を抱きかかえていた。あれじゃあノイズから走って逃げられないし、そもそも壁がすぐ後ろにある。

 ここからじゃ間に合わない……! でも、助けなきゃ! この手はそのためにあるんだから!!

 

「お願い、間に合って!!」

 

 丸鋸を飛ばしてしまったら親子を傷つけてしまうかもしれない。だから、わたしは精一杯走ってチェーンソーを構える。一度でも攻撃を当てられたら、ノイズの意識は一瞬でもこっちを向く。その隙に親子を助け出せば大丈夫!!

 大丈夫だけど……だめ、遠い! 五秒もあれば十分な距離を詰めるための時間がもう無い。でも、諦めたくない!

 お願い……!! お願い、間に合って!! 届いて!!

 

「そこの装者、伏せろ!!」

 

 願いながら手を伸ばしたその瞬間、後ろから聞きなれない声が聞こえた。

 伏せろ。その言葉にわたしの体は無意識に従い、その場でわざと転んでスライディング気味に地面に伏せた。その瞬間、わたしの真上を誰かがぶっ飛んでいった。

 

「届かせるんだ、絶対にッ!!」

 

 直後、もうあと数センチで親子に触れそうだったノイズの一部は一瞬で炭にされ、親子はわたしの真上をぶっ飛んでいった人が片腕で回収。そのまま壁を蹴ってダイナミックな方向転換をしてからもう一度わたしの上をぶっ飛び、そして後ろにいるのであろう人の元へ着地した。

 その着地の音が聞こえた瞬間、ガトリングの音が響き、わたしの目の前のノイズが一瞬で殲滅された。

 

「ふぅ、間に合った。いや~、日本に帰ってきて早々、ハードだったぁ」

「言ってる場合か。まだノイズは残ってるんだぞ」

「そこの二人、早く避難を。あっちに走れば安心です」

「あ、ありがとうございます!!」

 

 後ろにいた装者らしき人は合計で三人。でも、その内の一人の声に私は聞き覚えがあった。

 立ち上がって振り返ると、そこには赤青黄の三色のギアに身を包んだ三人の装者。その内の一人のギアは、形状がちょっとだけ違うけど、それでもついこの間、わたしが見たギアとそっくりで。そのアームドギアを持たない手は、誰かを救うための手だという事を。誰かと繋ぐための手だという事を、痛い程知っている。

 その手にわたしは救われたのだから。

 思わず涙が溢れそうになる。この人は、この間わたしの前に現れたあの人じゃない。平行世界の同一人物だけど、間違いなくあの人だ。平行世界の本人は死んだかも、とか言ってたけど……それでも、生きていた。別人だとは分かっていても、それが嬉しい。

 

「お、おい。あいつ、お前の事見てんぞ。知り合いか?」

「へ? い、いや、そんな事ないけど……」

「大方、素知らぬ所で建てたフラグを回収してないだけだろう。いつもの事だ」

「女たらしがよぉ」

「いやそんな事した覚えないんすけど~……」

 

 なんかわたしのせいで思いっきり勘違いされてるけど……でも、なんだか面白い。思わず笑っちゃう。

 わたしの笑い声を聞いて今度は三人が呆然とこっちを見てくる。うん、それも仕方ないと思う。だって、急に目と目を合わせたと思ったら急に泣いて急に笑うんだもん。変人奇人の類にしか見えないよ。

 でも、構わない。

 二度目の初めましてだとしても、わたしはしっかりと初めましてをする。

 

「初めまして。わたしは月読調。F.I.S所属のシンフォギア、シュルシャガナの装者で……あなたに手を繋いでもらって、助けてもらった事があるだけの、初対面の人です」

 

 きっと、わたしの人生はここからリスタートする。全部を失って、失った物を取り戻して、そして新しくこの世界の月読調を作っていく。そんなわたしの新しい人生が。

 だから、まずは初めにちゃんと伝言は伝えなきゃね。それが、何もかもを失ったわたしに生きる意味と戦う意味を教えてくれたあの人達とした約束の一つだから。わたしは、今度は手を伸ばされる前に自らの意志で繋ぐための手を伸ばした。

 その答えは、聞かなくても分かると思う。




シュィィィィィン(石が画面上に出てくる音)

というわけで後日談でした。結構即席で考えたのでアレな所もあるかもしれませんが、ご容赦を。そんなワケで月読調の華麗なる平行世界はこれにて完全に終了。予想以上に好評だったりそこそこの人に見られたり、いつの間にかランキングに載ったりとなんか色々ありました。誰かに紹介とかされたんですかね……?
次回からは本当にいつも通りのキャラ崩壊前提のギャグとかが入るのでもう暫くお待ちを!! なにとぞお待ちを!!


ふぅ。まぁ細かい話はここら辺にして。
シンフォギアXDの方でGXガングニールマリアのヘキサ来ましたねぇ。自分は11/10日現在、確定分を除いて初日に二枚、本日一枚落とせたんですけど、案外ドロップ率緩和されてる気がする。ただ、11/10日に至っては日付変更もしちゃって、七時間程周回してたので総周回時間が割とマジで十二時間いってそうな……残り二枚、集まるかなあ……

それと、調ちゃんの配布来ないかなーとか思いながらプレイしてますが、マリアさんの配布率高すぎない? マリアさんだけ異常じゃない? 調ちゃんももっと配布を……!!

では次回は未定。どこかでネタを発掘しなければ……!!


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月読調の華麗なる実況者生活

今回は実況時空の話。


「はいどーも! ザババの常識人の方のイガちゃんと」

「同じくザババの本当の常識人、シュルちゃんです」

 

 そんな感じでいつものように机の上に置いたマイク……ではなくヘッドフォンから伸びたマイクに向かって話す。

 こんな感じでもうここ数週間ですっかりと慣れた自己紹介をしてから膝の上に置いておいたコントローラーを握る。今日は生配信の日だからあんまり下手な事を話せないという事で結構喋るのには緊張していたり。一応、最近になってエルフナインが開発した指定した単語を口にするとパソコンの方で自動的にピー音を被せてくれるプログラムがあるんだけど……流石に万が一があるからあまり頼るような真似はしたくない。

 で、今回はだけど、実はゲストが来ている。そのゲストは今隣で結構ガチガチに緊張している。

 今日は三人での配信。それがいつもみたいに二人でくっついて一つのマイクに話すんじゃなくて、ちょっとSONGの方で借りてきたインカムを使っている理由。ちなみにインカムは余ってるらしくてプレゼントされました。やったね。

 

「で、実は今日はゲストが来ているんデス! じゃあ自己紹介よろしくデス!」

「…………あ、もう大丈夫ですか? え、えっと……いつもは調さんの動画の編集をしているキャロルナインです。確か動画内ではEちゃんって呼ばれてました」

 

 あ、思いっきりわたしの本名口にしてる。でもわたしの名前が入る寸前にピー音が遮ってくれたらしくてコメントには『ピー音入ったwww』とか『実は思いっきり罵倒した説』とか色々流れている。本名なので気にしないで。

 

「ナイン、わたしの本名思いっきり言ってる」

「ピー音間に合ってよかったデス」

「あっ! ご、ごめんなさい! 次からは気を付けます!」

 

 一応、わたしと切ちゃんでダミーのスイッチを持ってるから、それを押してピー音を出しているっていう設定。だってこんなプログラム、明らかにオーバーテクノロジーすぎるし、エルフナインも異端技術を使ってちょちょいととか言ってたし。

 ちなみにだけど、エルフナインは配信に当たってキャロルの名前と自分の名前をかけ合わせてキャロルナイン。愛称としてナインで行く事になった。分かる人が聞けば一発で本名どころか本人までたどり着ける名前だけど、生憎エルフナインは裏方作業だし、まさかこの程度でバレるなんて思ってない。エルフナイン自身も結構裏で何があってもバレないように試行錯誤してたみたいだし。

 

「じゃあ気を取り直して。今日は編集担当のナインも交えてやっていくよ」

「一応あたし達共通の友達なのデス!」

「い、いつもは裏方をやってましたけど、今日は表で頑張ります!」

 

 一応歳とかそこら辺は濁して、嘘はついていないけど本当の事も言っていないってラインでエルフナインの紹介だけを済ませる。

 えっと……コメントには『何でキャロルナインなのにEちゃん?』ってのもあるし、ついでに『声からして美少女』とか、『現役JK三人組』とか色々と。うん、いい感じにミスリードできたみたい。あと、Eちゃんについてはこっちで弁明しておこうかな。最初に口にしたのわたしだし。

 

「ナインのEちゃん呼びは、普通に本名からだよ。苗字か下の名前かは教えないけど」

「まぁあたし達もここで名乗ってる名前と本名、頭文字が一致してないデスからねぇ」

 

 切ちゃんはKちゃん。わたしはSちゃんになるから……あれ? わたし、バッチリと下の名前の頭文字被ってない? うん、被ってるよこれ。

 まぁでも言わなきゃバレないしいいや。バレなきゃうんたらこうたらって誰かが言ってたし。

 で、配信の時間も無限じゃないから今日やるゲームの紹介を、切ちゃん。

 

「では、今回やるのはこのゲーム! えっと……機動戦士ガンダムエクストリームバーサス、デス!」

 

 なお、今回やるゲームのアイデア提供は藤尭さん。

 で、切ちゃんがゲームの説明をしている間にどうしてエルフナインが急に配信に参加しているかの理由を説明するけど、わたしがいつも通り料理動画の編集をエルフナインにぶん投げた時、エルフナインが楽しそうだから一度でいいから参加してみたいって溢したんだ。

 その言葉を聞いたわたしが、なら参加してみる? って聞いて、それを切ちゃんにも伝えたら是非やるデス! ってなって、そのまま予定を合わせてこうして配信がスタートした。ちなみに、今日初めてエルフナインが有給を取ったらしくって、風鳴司令からは感謝された。いつもは無理矢理取らせても働いているからこうして外に連れ出してくれて感謝しているって。

 働き過ぎはよくないから適度にね……? いやほんとに。

 

「……ってわけデス。まぁつまりガンダム使って戦うゲームデス! あ、一応あたし達はそこそこプレイしてるからグダグダにはならんデスよ」

「ちょっとだけ練習しました」

 

 一応だけど、わたし達は藤尭さんに教えてもらって基礎的な動き方とか色々と教えてもらった。既に持ちキャラも決めているし、オンラインでも切ちゃんと一緒ならそこそこ戦える程度には鍛えた。エルフナインも一人で練習したらしくって、藤尭さんが言うには大体同程度の実力を持ってるみたい。

 まぁ、配信でグダグダするのも見てもらってる人には悪いし、このゲーム、切ちゃんが結構叫ぶというか、テンションが上がるから、切ちゃんのリアクションも大丈夫だろうって。

 

「一応これ、フルブーストデスけど、DLCは買ってないからそこはごめんなさいデス。というわけで説明し終えたところで早速シュルちゃん、ナインと一緒にプレイするデス!」

「途中からは視聴者の人たちとオンラインで対戦する予定もあるから、お楽しみに」

「あ、そのためにイガちゃんの部屋にテレビとゲーム機もう一台用意したんですね」

「うん。運ぶの手伝ってくれてありがとね」

 

 あ、ちなみにどうしてこのゲームをやろうと思ったかと言うと、普通に藤尭さんに二人で協力も対戦もできて切ちゃんが面白いリアクション取れるようなゲーム無いですか? って聞いたら幾つか格闘ゲームとか渡されて、その中から適当に選んだから。あと残ってたのは、普通に2D対戦格闘のゲームとか、シューティングゲームとかだった。

 藤尭さん、このゲームはゲームセンターで大佐って階級までやったらしいんだけど……それがどれくらい強いのかわかんないです。わたし達はドウプレの上らへんにはなれるらしい。よくわかんないけど、まぁ大丈夫だよね。

 

「じゃあシュルちゃんとあたしでまずは対戦デス! あたしはデスサイズデス!」

 

 という事でプレイ開始。切ちゃんはデスサイズってキャラをよく使ってる。なんか、鎌持ってるからこれがいいって初見プレイの時言ってたっけ。

 で、わたしはだけど。

 

「わたしはヴァサーゴ。えっと……CBって何の略なんだろう」

「チェストブレイクって読むみたいですよ」

「あ、そうなんだ……ちなみに、聞いての通りわたし達はガンダムよくわかんないです」

 

 でもこの人ガンダムに乗ってるから味方の人なんだよね?

 コメントには……えっと、『Xはいいぞ』とか『初代から見ろ』とか『Gガン一択』とか書いてある。うーん、どういう意味なのかサッパリだけど、まぁいいよね。でもガンダムって結構たくさんいるんだね。初めて見た時はビックリしたよ。

 で、なんでわたしがヴァサーゴを使うのかって言うと……まぁ、単純に色が赤いし、切ちゃんが前に出る機体に乗ってるからわたしは後ろに居た方がバランスいいかなって。藤尭さんにはバンシィノルンって機体を勧められたけど、ダウンロードコンテンツだし、なんかパイロットの人がやさぐれてたからちょっと嫌だった。でもあれもガンダムなんだよね? 名前にガンダムって入ってないけど。

 まぁいいや。とりあえずこれで一対一の開始。

 

「ふふふ。その機体がタイマン性能高くないのは知っているんデス! 一気に切り刻んで……」

「びーむ」

「あばばばばば!!?」

 

 なんか切ちゃんが言いながら一直線に突っ込んできたから上から三番目のビームで迎撃。わぁ、当たったら一気に切ちゃんの体力が三割くらい消し飛んだ。これ面白い。

 

「こなくそデス! こうなったら格闘ブンブンデスよ! くらえデス!」

「ステップ、前格前格前格」

「あばー!!?」

 

 そして切ちゃんが突っ込んできたけど、適当にステップで避けてから藤尭さんにとりあえず使えば勝てるかもと言われた前格っていうのを使う。わぁ、面白いように切ちゃんに機体がベッコベコに殴られてく。

 まぁこんな感じで切ちゃんって基本的に猪武者だからビーム置いておいたり避けて迎撃したら簡単にどうにかなっちゃうんだよね。覚醒っていうのを使ってきたけどとりあえず迎撃して一番下の段の飛行機飛ばして拘束してビーム。うん、気持ちいい。

 そうしてわたしは一回だけ機体が爆発したけど、切ちゃんのゲージをそのまま削り取って勝ち。やったね。

 

「く、悔しいデス……!!」

「じゃあ次はナイン」

「シュルちゃんに変わってボクがやります!」

 

 そしてエルフナインにバトンタッチ。コメントを見て……あまりにも切ちゃんが猪だったからか思いっきり笑われてる。でも切ちゃんってわたしと組むと結構頭脳プレイしてくれるから、一対一じゃないと苦戦すると思うんだよね。

 で、エルフナインに変わった時、『ボクっ娘だとぉ!?』とか『男の娘の可能性』とか、『リアルボクっ娘とか居るんすねぇ……』とか色々と。そう言えばエルフナインの一人称って今初めて口にしたっけ? っていうか男の娘ってなに?

 

「じゃあボクはこのリボーンズガンダムで」

 

 あっ。

 確かそれ最強機体じゃ……

 

「でもあたしは負けんデスよ! 死神様のお通りデスぜぇ!!」

「変形、アンカー、ゲロビっと」

「あばばばー!!?」

 

 そして鮮やかに切ちゃんが太いビームに飲み込まれた。これはひどい。

 っていうかその機体、わたしも藤尭さんに勧められたけど結局ガチャガチャやるのが難しすぎて使いこなせなかったんだよね。でもエルフナイン、普通に使いこなせてるし切ちゃんが軽くあしらわれているし……

 

「だったらたまごっちモードデス! これなら射撃は全部……」

「前前前格」

「格闘は駄目デスよぉ!!?」

 

 そんな前前前世みたいに言わなくても。というかエルフナインの表情が結構本気なんだけど……コメントも『これは酷いwww』とか『イガちゃんよりも圧倒的に上手いwww』とか『キャロルナインちゃん、結構やりこんでないか……?』とか色々と書かれてる。

 うん、わたしもエルフナイン、案外やりこんでいると思う。だってもう切ちゃんの機体、二機目で残り体力が赤色なのにエルフナインの体力、一機目で未だに一回しかダメージくらってないもん。

 

「こうなったら覚醒でせめて一機だけでもデス!!」

「変形サブサブレバ特射変形特射サブ」

「なんデスかその弾幕あんぎゃー!!?」

 

 うっわぁ。

 

「ら、ラス一デス……でもこれで勝てば問題なしデスよ!! ここは格闘ブンブンで……」

「はい特射サブ」

「何デスかこの赤いのぉ!!」

「起き攻めのゲロビで締めです」

「じゅ、蹂躙されたデス……」

 

 これはひどい。

 

「じゃあ次はシュルちゃん、やりましょうか!!」

「え、あ、うん……絶対蹂躙される……」

 

 そして切ちゃんからコントローラーを受け取ってから、わたしも前衛キャラとして使ってみていたレッドフレームを使って頑張ってみたんだけど、エルフナインを一回倒しただけで負けちゃった。

 エルフナイン、一体どんだけこのゲームやりこんだの……?

 

 

****

 

 

 まぁその後の配信はオンラインでルームを作って視聴者の人とやったんだけど、エルフナインがわたし達のアシストをしてくれた時は勝率五割はキープできた。ただ、わたしと切ちゃんで組んだ時の勝率は多分三割無かったと思う。改めてエルフナインの腕が異常なのが分かったよ。

 で、そうやって一度ガンダムの配信は終わり。配信の時間は余り多いわけじゃないけど、エルフナインが来てくれるんならちょっと特別に二本くらいゲームをやってみようって事でわたし達は予め用意しておいたもう一本のゲームを起動した。

 

「じゃあ次はこれ! もうすぐ新作が出るけどあたし達はハード持ってないのでできません、なスマブラXデス!」

「ちなみにWii Uも3DSも持ってないから現状の最新作もできていません」

 

 それは恐らくゲームを嗜んだ人なら誰でも……とは言わないけど、最近なら一度は耳にした事があると思う大人気ゲーム、スマブラ。わたし達は別のゲーム……それこそゲンムコーポレーションのゲームとか、切ちゃんが任天堂じゃなくてバンダイナムコとかカプコンとかそういう企業のゲームを中心に買ってるから、ちょっと古めのこのゲームしか持ってないけど、面白いのは確かだから配信にはちょうどいいかなって。

 え? なんでwiiは持ってるのかって? 切ちゃんがゲームキューブのゲームをやりたかったかららしいよ。で、ついでにスマブラも購入したっぽい。一応隠しキャラは全員出してあるとか。

 

「スマッシュブラザーズ……やった事はないですけど聞いた事はあります!」

 

 と、エルフナインはちょっと興奮した様子でコントローラーを握る。もう既にキャラ選択画面に行ってるんだけど、そこで隠しキャラ全員出ているのを見てコメントでは案外やってる? ってコメントがそこそこある。どうもこのゲーム、ストーリーは十何時間分はあるっぽくて、ストーリーをやらずに隠しキャラを出すんならかなりの時間がかかるんだとか。

 あ、ソニックがいる。そういえばパッケージ裏にもいたけど……確か他の企業のキャラじゃなかったっけ? このスネークも。コラボしてるのかな?

 

「なんかやりこみ要素というか普通に格ゲーっぽく練習してる人は沢山いるらしいデスけど、あたし達はにわかなのでそこまで上手くないのは先に理解しておいてほしいデス」

「というか、さっきまでのナインが異常だっただけであって」

「ちなみにこれは今日、オンラインでやるつもりはないので、楽しみにしていた人には先に謝っておくデス」

 

 切ちゃんもストーリーを攻略を見ながら通した程度らしくて、あまり上手くないんだとか。で、エルフナインもわたしも完全に初見。ただ、切ちゃんは屑運補正があるから多分わたし達と実力は並んでいるんだと思う。

 ちなみにこういう格ゲーでの切ちゃんの屑運補正は、技が寸前で届かなかったり、突然のコントローラーの反乱で重要な場面で技が化けたり。多分ゲームやってる人ならよくある現象が多発する。わたしは時々ハメ攻撃を見つけては切ちゃんを苛めて楽しんでるけど。

 

「じゃあ時間も押している事デスし、さっそくやるデスよ! あたしは……このキャプテン・ファルコンを使うデス!」

 

 あ、Twitterでご飯の様子を投稿してる人だ。え? 違う? そうなんだ……

 

「なんでそんな事知ってるんデスか……」

「適当に見てたら目に付いて……じゃあわたしはこのカービィで。可愛いし」

 

 ぷにぷにしてて抱き心地良さそうだし、可愛いよね。え? カービィのぬいぐるみとかクッションとかいっぱいある? ちょっと興味あるかも……カービィのゲームとか買うついでに探してみようかな。

 

「じゃあボクはフォックスでいきます」

 

 フォックス……英語でキツネって意味の名前なのにそのままキツネのキャラなんだ……そういえばファルコってキャラもあんまり名前に捻り無いよね。多分ファルコンから取った名前だろうし、ウルフってキャラもそのまんまだし。

 という事でキャラ決定。わたしはカービィ、切ちゃんはキャプテン・ファルコン、エルフナインがフォックス。アイテムは色々ありでいざプレイ。

 

「ファルコンパンチデス!」

「回避、してから吸い込んでコピー。そのままお返し!」

「あばー!!?」

「ふぁいやー」

「燃えるデスぅ!!?」

「えいっ」

「そこでハンマーはキツイデス!!」

「最後の切り札、えいっ!」

「ランドマスターもやめにゃああああ!!?」

「ストーンこそ最強」

 

 まぁ、プレイの様子はこれで分かると思う。

 切ちゃんの攻撃にカウンターでコピーしてからお返しのパンチをして、それをエルフナインがファイヤーって叫ぶ技でキャッチして吹き飛ばして、わたしがハンマーで追撃。でも復帰してきた切ちゃんにエルフナインがランドマスターって戦車を呼び出して吹っ飛ばして、わたしはその間ストーンで完全無敵。

 一応、始まってからすぐにコマンド表は見たし、配信前に操作方法も確認したからなんとか動かせてる。ってかストーンでカービィがマッチョになったんだけど……

 

「うぅ……残機三が一瞬で……」

 

 そして切ちゃんは復帰ミスを一回、わたしの自滅による道連れで一回ずつ落ちて残機が無くなり終了。あとはわたしとエルフナインの一騎打ちになった。

 

「なんかこうなる予感はしてたんデスよ……」

 

 涙目でそう言う切ちゃんはいつも通りだったから無視しておいた。屑運だからね、仕方ないね。

 

 

****

 

 

 そんなこんなで配信は終わって、その日の夜はエルフナインを迎えて夜ご飯を一緒に食べた。どうも最近エルフナインはロクな食事を取ってなかったみたいで、カロリーメイト以外なんて久しぶりとか言っていた。もっと食べよう……? じゃないとキャロルから貰った体も持たないよ……?

 ちなみに、わたしは配信直後にそのまま調理動画の撮影をしていたんだけど、その最中にエルフナインが顔を出してしまい、結果編集でもどうにもならないから顔をモザイクで隠すという事で落ち着いたりと色々とあった。時々切ちゃんも入ってきちゃう時とかあったから、まぁ特には変わらないんだけど。

 で、そういう事もあったお夕飯は普通に一緒に食べた後。

 

「切歌さん、これからはボクに動画の編集をやらせてもらえませんか?」

 

 エルフナインがそんな事を言い出した。

 前々から言われていた事だけど、流石に忙しくなるだろうからってわたしが断ってたこと。それを切ちゃんにも提案してみるらしい。

 

「え? それはいいんデスけど……もうエルフナインは調の動画を編集してるんじゃ……」

 

 わたしも、してくれるんなら助かるけど、やっぱりエルフナインの作業量がね。

 

「最近はそれだけだと物足りなくて。それに、ボクが編集を担当して切歌さん達が実況をした方が動画投稿のペースも早くなると思うんですよ」

「それはまぁ……そうかもデスけど」

「それに、最近は休みの日に休むようになって、趣味が動画の編集とかになって……まぁとにかく、編集が楽しいんです!」

 

 最近のエルフナインは休みの日にちゃんと休むようになった、というのは前も言ったけど、多分それが原因で最近は動画の編集が早く終わっても仕事できず、結果暇してるんだと思う。わたし達もいつも暇があるわけじゃないから一緒におでかけとかできない日は勿論あるし、エルフナインとしては一日潰れる程度の作業量が欲しいからこうやって提案してるんだと思う。

 それにこうも言われてしまうと断りづらい所がある。趣味になってしまった動画編集を今さら取り上げるわけにもいかないし、わたし達もどうにかして動画をもう少し出したいって思ってたから……

 

「うーん……じゃあ分かったデス。今あたし達がやってる編集とかを半分エルフナインに任せて、それでも物足りないと言うのならエルフナインを編集担当にするデス」

「ほんとですか!!」

「ただ、時々誰かに様子を見てもらって、徹夜してでも、とか自分の時間を潰してまで、とか。明らかに度が行き過ぎている場合は改めて考えさせてもらうデス。これでどうデスか?」

「大丈夫です! しっかりと面白おかしく編集してみせます!」

 

 まぁ、結局条件としてはこんな感じでエルフナインには動画の編集担当になってもらう事になった。

 で、広告収入とかはちゃんと三分の一、エルフナインに払うようにして、どうしても作業が間に合わない時はそれでいいから、自分の事を第一に考えて編集作業をするように、と言っておいた。あと、編集を担当した動画には自分の名前をどこかに入れるように、とも。

 それからはエルフナインに動画のデータを渡して試しに編集してもらった結果、わたし達がやるよりも圧倒的に面白い編集をしてくる上に作業効率が一人なのにわたし達二人でやるよりも圧倒的に早く、編集済みの動画が送られてくるようになった。流石にこの早さはおかしいんじゃ、と思い藤尭さんとか友里さんに様子を見てもらったんだけど、存外暇しているエルフナインを見かけるようになったとか。どうも動画の編集が思ったよりも早く終わって、今までよりも暇な時間は減ったけど、もちろん仕事する時間には間に合わないから仕事もできず、結果的に今も十分に暇なんだとか。

 この作業量を片手間レベルでこなすエルフナインって一体……

 ちなみにエルフナインが編集を担当するようになってから今までよりも面白くなったとコメントが来たり、ナインちゃんの編集レベルがヤバいとか言われたり。

 あと、エルフナインって結構ちっちゃいじゃん? だから料理動画を見た人から中学生なんじゃ……? とか後ろ姿が美少女とか色々と言われて照れまくっているエルフナインが見られたとか見られなかったとか。




そういう訳で本格的に実況動画の編集に手を出したエルフナインちゃん。彼女の編集技術の向上はいかに……!!

ヘキサマリアさんは四枚で終了。後一枚を明後日に落として終わらせる……つもりではあるけどチャレンジカップが間に挟まって、結果的にXDをほぼ毎日フル稼働させる日々が終わらないという。今日中に風穴クリスちゃんが取れたらいいなぁ

ただ、このゲーム実況時空で題材にしているゲームって基本的に自分で触った事のあるゲームか架空のゲームなので、徐々にネタ切れが……基本的に一人プレイ用のゲームしかやらないので……
まぁそんな事はさて置いてまた次回、お会いしましょう。次回は未定でござい。


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月読調の華麗なるキャトる

なんだかやりたい事多すぎて纏まり切らなかった感がヤバイ。

あと最近、調ちゃんのSSって何か無いかなぁと思いGoogle先生で「月読調 SS」って調べたんですよ。なんでこれがPi〇ivとハーメルンでの検索結果の次に出てくるんですかねぇ……
割とマジで調ちゃんメインのシンフォギアギャグ短編物を自給自足している気がしてならない。


P.S ヘキサマリアさんラスト一枚が落ちねぇ!! 多分前回の周回分と合わせて二百週はしてるけど落ちねぇ!! あとGXXDビッキー重ねたら高速周回できそうだから重ねてぇ!!

予約投稿の時間ミスった(テヘペロ)


 今日はちょっと遅くまで遊び過ぎた。

 切ちゃんが今日は帰るのが遅くなるからって言う理由でちょっとだけ服とかを見に行っていたんだけど、気が付いたら夜も更けて切ちゃんから心配のメールを貰ってからようやく、おさんどんをすっぽかしていたのが分かった。

 だから急いで帰宅のために走っているんだけど、多分家に着くのは夜の八時とかそれぐらい。切ちゃんが帰ってきたのが七時くらいで、連絡を貰ったのが七時半だから……三十分も切ちゃんを待たせてしまう事になる。流石に今日は帰り道で適当に何か買ってきて、間に合わせで作るしかないかなぁ。

 ちゃんと反省してこれからは無いようにしないと……

 

「……なんだか夜中の道って怖い」

 

 今日走っている道は、街頭が少ない場所だから、ちょっとだけ怖い。もしも不審者とかいたら、ちょっと反応が遅れるレベルでドキドキしながら走っている。出てきてところで何とかなるとは思うし、何とかならなかったらシンフォギアを使ってしまえばいいだけで。後でお説教は覚悟だけどね……

 ほんと、これからは危険だしこんな時間に一人っていうのは避けるようにしないと。

 

「でも、空は綺麗」

 

 だけど見上げた空は幾つかの星が綺麗に輝いている。そういえば今日、響さんと未来さんは流星群を見に行くって言っていたし、マリアと翼さんは今頃飛行機に乗ってるんだっけ。

 もしかしたら同じ空を見上げているのかも。特にあの大きくて動いている星とか、なんだか不思議だよね。

 

「……ん゛っ!?」

 

 いや、待って。おかしい。ちょっとじゃないどころでおかしい。

 え? 動いてる? 動いている星? いやそれ星じゃないじゃん。明らかにあっちゃいけない物だよね!? ちょ、あれどうしたらいいの!? 写真!? 写メってTwitterに…………あれ? なんだかあの星、こっちに向かってきてない? なんだかこっちへ向けて落ちてきていない?

 

「これ、逃げなきゃいけないような……」

 

 無意識にシュルシャガナを握りつつ、走って星から遠ざかるために走る。だけど、星は一直線にこっちへ向かってきている。ちょ、なんでそんなピンポイントに!?

 こうなったら仕方ない。自衛のためにシュルシャガナを使うしか!

 

「various shul shagana tron!」

 

 非常用に持っているLiNKERを注射してシュルシャガナを纏う。

 相手が例え宇宙人とかUMAだろうと、こっちは神話の刃! そんな意味わからない存在にはこっちも意味わからない逸話を持つ刃で対抗するだけ! 降りてきた瞬間にこっちから攻撃を仕掛けて……あれ?

 そもそもこういう時の相場って宇宙船から宇宙人が下りてきたり宇宙船そのものが攻撃してくるんじゃなくてキャトルミューティレーションをしてくるんじゃ。もしかして立ち向かおうとかするんじゃなくて禁月輪で逃げるのが正解だったかも……

 だって現にわたしの真上で静止した星……というかUFOから光が降ってきてわたしの体が空に浮いて……

 

「いや楽観している場合じゃなくて!!」

 

 わたしは急いで卍火車を展開、それを地面に突き刺して自分の体を無理矢理地面に固定する。本来なら投げたり直接斬ったりするものだけど、こうやって自分の体を固定する事だって!

 と思ったのも束の間。どうやらわたしを浮かせる力は予想以上に強いようで、わたしのフルパワーを振り切ってそのままわたしを空へと浮かせて言った。

 

「だ、誰か助けてぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

 けど現実は非常かな。そのままわたしはUFOらしきものに触れた瞬間、気を失ってしまったのでありました。

 

 

****

 

 

 …………んぅ?

 ……あれ? 生きてる……?

 確かわたしってUFOにキャトられて……それから……あ、だめだ、思い出せない。けど、シンフォギアも解除されているっぽいし、とりあえず起きて現状を確認しないと。

 

「……ここ、は?」

 

 目を開けるとあったのは天井。いや、それは当たり前。

 とりあえず体を起こして周りを見てみると、どうやらここはSONGのメディカルルームらしい。見慣れた機材とあまり寝たことのないベッド、それから何かパソコンを弄っている、珍しく帽子を被ったエルフナインの姿があった。暫くそんなエルフナインを見ていたけど、エルフナインは暫くしてわたしに気が付いてパソコンから顔をあげた。

 

「あ、調さん。気が付きましたか」

「エルフナイン……わたし、どうして?」

「覚えていませんか? いえ、それも無理はありませんね。どこまで覚えていますか?」

 

 エルフナインにそう聞かれて、わたしはすぐに自分が覚えていることを答えた。

 夜中、帰るのが遅れたから急いで帰宅している中、急にやってきたUFOにキャトられて、気が付いたらここで寝ていた事を。それをエルフナインに告げると、エルフナインはやっぱり……とだけ呟き、すぐにパソコンを少しだけ弄ってデータを入力すると、テーブルの上に置いてあった手鏡を、わたしの顔が写らないように隠しながら持って私の前に来た。

 

「実は、そのUFOにボク達……正確には装者の皆さんとボク、未来さんはキャトられました」

「えっ!?」

 

 そ、それって……つまり切ちゃんやマリアも?

 

「はい。切歌さんは帰りの遅い調さんを探しに行ったときに。マリアさんと翼さんは飛行機から降りてすぐに。クリスさんはコンビニに買い物に行ったとき、響さんと未来さんは流星群を見ていたら。ボクも夜食を買いに行ったらキャトられて、全員がSONG本部前に捨てられていたそうです」

 

 そ、そうなんだ……っていうか何でそんな身内に被害が集中しているんだろう……

 でも、そうすると時系列的にはわたしは一番最初で、それから切ちゃん、マリアと翼さん、クリス先輩、響さんと未来さん、そして最後にエルフナインって事かな? もしかしてキャトられてからわたしを中心に他のみんなをキャトったって感じなのかな? 多分考えても無駄だと思うけど……

 エルフナインはわたしが比較的落ち着いているのを見てから、そっと鏡を取り出した。

 

「キャトられた結果は……鏡を見ていただければわかると思います」

 

 そう言うと、エルフナインは手鏡を手渡してきた。その際に、決して平静を乱さないようにしてくださいとだけ言ってきた。

 いや、まさかそんな平静を失うような事なんて起こっているわけないし、と思いながらわたしは手鏡で自分の顔を見た。手渡されたはいいけど、顔も普通だし髪形も解かれてはいるけど変わらないし、特に異常なんて…………えっ?

 あ、あれ? えっとその……なんか頭の所になんかある。三角形に近い形の、わたしの意志に応じて動くもの。これってもしかしなくても……

 

「キャトられたボク達は全員がこうやって……」

 

 わたしが困惑しているとエルフナインが帽子を取り除いた。

 そこから見えたのは、白くて長い、耳。人間の耳ではなく、兎の耳。

 

「全員に動物の耳やら尻尾やらが生えました。いえ、生やされました」

 

 そしてわたしは、黒い猫耳と黒い猫尻尾が生えていた。

 う、嘘でしょ……!!? わたしまでこんな面白人間になるなんて!!?

 ……あっ、耳と尻尾、結構もふもふだ。

 

 

****

 

 

「うーむ……これはどうしたものか……」

 

 そう腕を組んで悩む風鳴指令の前にはわたし達装者とエルフナインに未来さんが並んでいた。その全員の頭や腰からは耳と尻尾が生えている。

 まず響さんはチーターかライオンの耳と尻尾らしくて、猫耳に似た耳と細長い尻尾が。これは最近心象の実験で得たアニマル型ギアの事があってあまり違和感なし。クリス先輩はエルフナインとお揃いで兎の耳と尻尾が生えている。多分、寂しがり屋だから。可愛いと思います。

 で、翼さんとマリアは多分キツネ。二人同時にキャトられたらしくて、多分そのせいでお揃いにされたのかな? でも尻尾がもふもふで一度触ってみたけど、すっごく毛並みがよかった。

 次にわたしと切ちゃん。わたしは黒猫で、切ちゃんは犬。わたしのは種類までは分からないけど猫っていうのは確かで、切ちゃんはゴールデンレトリバーとかなんとか。わたしと切ちゃんでワンちゃんニャンちゃん。正直切ちゃんの犬耳と尻尾可愛い。どっちも抜け毛が凄い事になってるけど。

 最後に未来さん。どうやらリスらしい。どうしてリス? って思ったんだけど、本人も分かっていないみたい。けど尻尾が大きくて耳も丸くて可愛い。げっ歯類だけど前歯は特に変わらなかった模様。だからリスの可愛さだけ植え付けられたみたい。

 

「この中では比較的、響くんにクリスくん。それから切歌くんと調くん、エルフナインくんなら日常生活でも隠しながらの生活が楽だとは思うが……流石に翼とマリアくん、それから未来くんは中々に厳しい所があるな」

「尻尾が大きいですからね。隠そうと思っても隠しきれませんから」

 

 わたし達尻尾が細い、もしくは小さい組は服の内側に隠すなりなんなりでどうにかできちゃうものだけど、翼さんとマリア、それから未来さんは尻尾が大きすぎて隠しきれない。というか、わたしの尻尾、切ちゃんの足に巻き付いているんだけど。

 でもって、切ちゃんはわたしの後ろから抱き着いて、肩に顎を乗せている。どうして? って聞いても何となく、としか返ってこないからスルーしてるけど、どうなんだろう。犬耳と尻尾の方に体が引っ張られてるのかな? でもその状態で尻尾がゆっくり左右に振られてるから別にいいのかな。なんでか未来さんがこっち見てニコニコしてるけど。

 

「とりあえず、尻尾が見えてしまう者は藤尭と友里に家まで送らせるが、暫くは部屋から出ないようにしてほしい。どこかへ行かなければならない時は連絡してくれればこちらから迎えを出そう。それから、仕舞える者は仕舞っている状態でなら出歩いてもらって構わない」

「ボクの方であのUFOの事やこの状況をどうにかできそうな聖遺物を調べてみます」

 

 そういう事でこの場は解散。翼さん、マリア、未来さん、響さんはそれぞれ二人ずつ藤尭さんと友里さんが送っていって、残ったわたしと切ちゃん、クリス先輩は歩いて帰ることに。もちろん借りた帽子で耳を隠して、尻尾を服の内側に隠したんだけど、中々これが厄介で、わたしの意志に関係なく動くものだから背中がくすぐったいし、服の外に出て行っちゃいそうになる。

 

「まさか一生の内に動物の耳と尻尾が生えるなんて思ってもなかったわ……」

「誰もそんな事思いませんって。尻尾も耳も勝手に動きますし……」

「あたしも尻尾と耳に加えて体まで……今すぐ調に抱き着いてしまいそうデス……」

「家でやれ家で」

「やるデス」

「マジでやるのか……いや、振ったアタシがこれ以上言える事じゃないけど……」

 

 だってその程度ならよくやってるし。ただ、外だとあまりやらないってだけで。

 クリス先輩の呆れた顔を見ながら、わたしと切ちゃんは道中でクリス先輩と別れて自分たちの部屋に戻った。そこからは帽子を取って、窮屈だった尻尾も出して開放的になったわたし達は一緒にくっついたり膝枕したりしてもらったり、抱き着いたり抱き着かれたりと、ちょっといつもよりもボディタッチ多めで休日らしい休日を過ごした。

 ちなみに、どうしてかわたしの尻尾は常に垂直に立っていたりゆっくりと揺れていた。猫の尻尾って動きに規則性とかあるのかな……? 犬尻尾は一応分かりやすいけど、切ちゃんの尻尾、常に左右に振れてるし。これ、ちゃんと感情に沿ってたりするのかな……? どうなんだろう。

 あっ。そういえば学校、どうしよう。流石に尻尾は隠せても耳は隠せないよ……

 

 

****

 

 

 結局、学校で帽子を被るわけにもいかないから休みという事になった。一応SONGの方からの連絡で公欠扱いにはなってるけど、早いうちにこの耳と尻尾をどうにかしないと……

 と思い三日。エルフナインから連絡が来た。どうやらそれに近い聖遺物を見つけたらしい。

 

「一応、聖遺物というか、概念兵装は発見しました。かつて存在した神話の変身……つまりは獣化だったり女体化、男体化の逸話を再現するために聖遺物ではなく概念を機械に付与することで作られた概念兵装が、どうやら一週間ほど前に作成されましたが、盗まれたようです」

 

 という事らしい。

 よく分からなかったら簡単に説明してもらったんだけど、要するに神話の時代にあった変身を再現するための機械が作られたけど盗まれたよって事らしい。

 でもって、それはちょっとした欠陥を抱えていたらしい。

 

「この機械で獣化等をさせるには、装置との適合が必要だったらしいんです。一応、研究では聖遺物と関係のある人物が適合したと言われています」

 

 獣化したわたし達は全員、聖遺物に関係している。

 装者はそれぞれのシンフォギア。未来さんは一度神獣鏡を纏っているし、エルフナインもシンフォギアの研究をしたり改良をしたりしていた。だから、適合者として勝手に選ばれて勝手にキャトられて勝手にここに送り返されたという事なんだと思う。

 で、その事からあのUFOは宇宙人の物ではなく人の手で作られた物だという事はほぼ確定しているという事。どうやらUFOも聖遺物を使って浮かせたUFOの形をした張りぼてだったという事がエルフナインの調査で把握できたし、次に現れたらギアを使ってでもとっ捕まえちゃってくださいとのことだった。

 

「にしても、三日も経ってくると段々とこの状態に慣れてきてしまったデスよ」

「うん。特に切ちゃんは普段から分かりやすかったから、耳と尻尾があってもあんまり変わんないし」

 

 時折切ちゃんは暇になるとわたしの体のどこかに手を置いてくるようになったけど、変わった点と言えばそれくらい。わたしは……どうなんだろう? ただ、無意識の内に切ちゃんにくっつくことが多くなったし、切ちゃんと一緒に居ると結構な頻度で尻尾が切ちゃんの体のどこかに巻き付く。

 ホントにどういう事なんだろう……?

 

「わたしは最近、お肉の方が大好きになってきた気がするよ。ライオンかチーターか分からないけど、それの耳と尻尾のせいかな?」

「わたしも果物とかが好きになったかも」

「アタシは特に何もねぇな」

「私達も強いて言うならば肉が好きになったな。後はジャンプ力が強化されたか?」

「そうね。今まで届かなかった所にも一飛びで届くようになったわ」

「ボクは、その……ちょっと恥ずかしいですけど、一人になると無性に寂しくなる時がありまして……」

 

 どうやら、そんな感じで大抵の人は何かしら動物の特徴が体に出ているみたい。わたしも、体がかなり柔らかくなったと思うし、ちょっと高い所から飛び降りても全然余裕で着地できたり。あとは若干感覚が鋭くなったかな?

 で、切ちゃんは鼻がよくなったらしく、本当に犬並みに鼻が利くようになったとか。カレールーを取り出しただけですぐにカレーと判断したときは驚いたよ。あとは……二人そろって何か投げられると無意識にそれを追っちゃう事かな。一度響さんに遊ばれたけど、結局響さんも混ざったし。

 

「ですが、このままでは日常生活の方に害が出てしまいます。どうにかしてあのUFOを発見しないと……」

 

 まぁそんな感じで色々と満喫していると思われるかもしれないけどね。

 実は結構色々と問題もある。まず尻尾と耳を隠さないと外に出れないという点は勿論、外で転がる物を見ると飛びかかりそうになったり、偶々ペットショップの中を見ていた時に猫用のご飯を見つけると食べたくなっちゃうし……それ以外にも、一回試しに買ってみたマタタビでは酷い目にあったし……切ちゃんが。

 だから、本気でそろそろ戻らないとヤバイ。今はまだ気力で何とか抑えているけど、もしかしたら抑えられない時が来るかもしれない。そんな時が来てしまったらと思うと……

 

「それに、世界各地でボク達に近い症状の人が見つかっています。SONGの方から世界各地で同じくキャトられた人の保護を頼んではいますが、もしかしたら獣人となった人たちに対して何かしらの弾圧がどこからかかかってしまったらと考えると……少なくとも、マイナス方面の物事が世界各地で起こってしまう前に手を打たないといけません」

 

 エルフナインの言う通り。

 ケモ耳と尻尾が生えた人間なんて物珍しいにも程があるし、もしも宗教が厳しい国とかでわたし達みたいな人が現れてしまって、宗教的な何かに引っかかってしまったら大変な事になる。呪いだーとかでその人を殴ったり蹴ったりっていうのもあるだろうし、もしかしたら殺されちゃうかも……

 

「この三日でキャトられた人達の住んでいる場所を洗い出して統計を取ってみたのですが、どうやらUFOはある程度規則的に動いています。かなりの速さなので軍の戦闘機が捉えても撃破には至らず領空を離れていってしまったそうです。なので、こちらでUFOを迎撃する算段を立てました。後は……」

「俺が引き継ごう」

 

 これ以上の被害が増える前に装者が動いてUFOを撃墜する。そのための作戦をどうやら風鳴指令が立てていたらしい。

 だからその作戦を聞いてみたんだけど、作戦は単純明快。全員でミサイルに乗って射出。そのまま空中でミサイルからUFOに飛び乗るか、そのまま攻撃を当てて撃墜。ミサイルの燃料が尽きそうならクリス先輩のミサイルに乗り継いで、それでも追いつけないようなら最終手段として、響さん、翼さん、クリス先輩を合体技で射出。わたし達がその後の着地などのサポートをする……っていう感じ。

 つまりいつも通りの脳筋戦法! これで大抵何とかなる!!

 

「UFOは恐らく、二時間後にこの日本上空を通過する。日本の領空内に入った瞬間に作戦スタートだ。既にエルフナインくんがUFOを衛星を使って捉えている。他国の領空に入る許可も一応は得ているから、後の心配はせずに思いっきりやってくれ」

 

 という事で、装者を六人も動員するUFO撃墜命令が下された。

 絶対にUFOを撃墜してわたし達の耳と尻尾を無くして見せる……!! …………あれ? 何か忘れてるような……

 

 

****

 

 

 作戦開始時刻になった。わたし達は既にミサイルの中に搭乗して射出を待っている。

 一体誰がミサイルで人間を射出するなんていうアイデアを出したんだろう。確かにシンフォギアならミサイルのG程度どうとでもなるけど、普通こんな事考えないよ。なんて思いながらミサイルの内側でボーっとしていると、エルフナインから通信が入った。どうやら今回はエルフナインがナビゲートするらしい。

 

『UFOがこちらの予想通り領空内に入ったのを確認しました。カウントゼロと同時にミサイルを射出します。こちらで接近したかどうかはお知らせしますから、それ以降は皆さんの状況判断次第で好きに動いてください』

 

 つまりいつもの。

 わたし達の返事を聞いてから暫くして、エルフナインのカウントダウンが聞こえてくる。

 

『五、四、三…………発射!』

 

 発射の声と同時にわたし達の体に一気に上へのGがかかる。だけど、全然耐えられる程度。

 内側から外の様子は見えないけど、この感覚からしてわたしが底側かな? 一応外装が剥がれたらすぐにミサイルにしがみつかないと落ちちゃうかも。

 暫くしてエルフナインの声がもう一度聞こえてきた。

 

『UFOとの距離、百メートル以内です。外装をパージします』

 

 百メートル……結構近いけど、それぐらいがクリス先輩を除く装者の攻撃がギリギリ届く範囲内。大丈夫、撃墜できる。

 直後、外装が剥がれてわたし達が空中に投げ出されかける。でも、すぐにミサイルの内側に電鋸をぶっ刺してしがみついて、ツインテールから伸ばしたマシンアームでミサイルの上部に移動する。

 ミサイル上部には既にみんなが武器を構えて待っていた。

 

「……なんだか動物の耳と尻尾生やした奴らが仮装してミサイルに乗ってると思うとシュールだな」

「そもそもミサイルで飛んでいるのがシュールですから」

 

 クリス先輩のボヤキにわたしが一応返事だけしておく。でも、ボヤいている言葉とは裏腹にクリス先輩の両手にはいつものガトリングが。うわぁ、挨拶無用のガトリングをやる気満々だよ。

 

「まぁそんな事はさておいて往生しやがれぇ!!」

 

 クリス先輩のガトリングが文字通り火を噴いた。毎秒何発かの弾丸がガトリングから吐き出されてUFOに向かっていく。だけどUFOは直線的な移動で射線から一瞬で逃れてガトリングの弾を避けた。

 

「ンなアホな軌道があってたまるか!!?」

「だが現に起きている! 蒼ノ一閃ッ!!」

 

 クリス先輩が仰天している中、翼さんが蒼ノ一閃を飛ばす。それに続いて歌っている響さん、そしてわたし達三人も遠距離攻撃を繰り出すけど、UFOは戦闘機やヘリコプターでもできない軌道を取ると、わたし達の攻撃を避けて見せた。なんてインチキ……っ!

 こうなったら直接取り付いて攻撃するしかないかも……

 

『全く、いきなり何かと思ったらシンフォギア装者か』

 

 とか思っていたらUFOから声が聞こえた。えっ、あれ有人!!?

 ……いや、そりゃ有人だよね。だってどっかの誰かがあのUFOと概念兵装を奪ったって言ってたし。

 

『邪魔しないでもらおうか。私にはこの世界にケモっ娘王国を作るという野望があるのだからな!!』

 

 ……あーうん。

 なんかこちらから問いかける前になんか思いっきり目的暴露してくれたよ。それもすっごくどうでもいい野望。

 

「ちょっせぇ野望口にしてんじゃねぇ! いいからアタシ等のこれ戻しやがれ!! んでもってお縄に着け!!」

「でなければ割と本気の攻撃を叩き込むぞ!!」

 

 あ、この赤青コンビ結構キレかけてる。

 

『断る!! この私には夢がある!! それはこの世界にケモっ娘だけの王国を作りだし私がその王となるという盛大なる夢が!!』

「果てしなくどうでもいいデス……」

「わたし達よりも頭非常識だと思うんだけど……」

『勿論君たちも我がケモっ娘王国の国民の一人だ!』

 

 うわっ、今ゾクってきた!! 物凄いゾクってきた!!

 

「ねぇ調、今かなりの鳥肌が立ったのだけど大丈夫よね? 私、キツネじゃなくて鳥になってないわよね?」

「大丈夫。そんな事にはなってないしわたしにも鳥肌立った」

 

 なんだか馬鹿らしくなってきた。こんな男のためにわたし達の自由時間割いているなんて。ついでに嫌悪感もマックスだし。装者全員が呆れ顔か本気で軽蔑した顔をするなんてレアだと思うよ? だってそんな顔するほど相手がくだらないか嫌悪感マックスな事考えているって事だし。

 これは……もう落としましょう。

 

「うむ。立花、アレで仕留めるぞ」

「あー……はい。なんかやる気起きないなぁ……」

 

 二人はあまりやる気なさげにユニゾンすると、その場で構えた。あれは……うん、あの範囲攻撃だね。あれならあのUFOがどんな変態軌道しても当たると思う。

 

「双星ノ鉄槌ッ!」

「DIASTER BLASTォッ!!」

 

 そして響さんと翼さんが拳と刀を振ったと同時に目の前に衝撃波による範囲攻撃がさく裂。もちろんUFOは曲がって回避しようとしたけど、これって地上で使えば辺り数百メートルが一気に破壊しつくされるほどの破壊力を秘めている……つまるところ、パヴァリアの時にわたし達がやったユニゾンの、響さん翼さんっていう最も適合率が高い人たちバージョンだから、その程度で回避できるような生ぬるい攻撃なわけがなく。

 

『なにっ!!? ぬおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!?』

 

 変態はUFOと共に真っ逆さまに落ちて行って、ミサイルの上からでも見えるような大爆発を起こした。まぁ、多分生きてるでしょ。ああいう変態ってゴキブリよりも生命力高いし。

 ふぅ、これでひと段落。あとはこの耳と尻尾を消してもらえば……

 

「……そういえば、思いっきりUFOを壊したわけデスけど……あの中に概念兵装って入ってたんデスよね?」

「そうだね」

「概念兵装、壊れたんじゃないデスかね……?」

『…………あっ』

 

 ……これかぁ。忘れてたことって。

 あ、あははは……これどうしよう。




どうしてこの動物かと言われたら、なんとなくです。一応ビッキーはアニマル型ギアから、ズバババン&マリアさんは奏さんとの繋がりが少なからずあるのでキツネ、クリスちゃんとエルフナインは似合いそうだから。きりしらはなんか犬と猫が似合いそうだから。未来さんはなんかあったけど忘れた。

きりしらやりたかったけど、最後投げっぱなしジャーマンにしたら本編中のあれこれが回収できなかった。猫が尻尾を人に巻きつけたり、犬が顎乗っけたり前足乗っけたりする理由は……自分で調べてネッ!! 多分未来さんがニヤニヤしていた理由が分かるよ!!

最近ガチャを適当に引いているからか石が溜まりません。というかまだカーバンクルのイベントもできていない……石回収のためにそろそろ動かないと……
あとアニマル型のビッキー、ツインテですっごく可愛いですけど、調ちゃん出なかったのがちょっと残念。黒猫調ちゃんを公式でもっと見たかった……

次回は未定……ではありますが、つばしらでプラトニックやったんだからきりしらでもプラトニックがやりたいなぁと思ったのできりしら書くかもしれません。というか多分きりしらです。


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月読調の華麗なる相合傘

俺「GXXDのビッキー重ねたいしグレビッキーも欲しいからここはGoGoガチャを――」
俺の中のマリア「セレナああああああああああああああ!!」
俺「よし、怪盗型セレナだ」ポチー

という訳でなけなしの石200個で怪盗型セレナをゲットしました。カワイイヤッター!!

正直、限界突破ガチャって無課金からしたら欲しいキャラを確定で一枚ゲットするためだけのガチャだと思うの。というか100連できるほどの石なんてそうそうたまんないし。

今回はプラトニックなきりしら。プラトニックになってたらいいなぁ


 わたしと切ちゃんがリディアンに編入してからすぐの事だった。

 切ちゃんとは編入してすぐの頃はずっと一緒で。それこそ授業の合間合間も一緒に居て、お昼も一緒で放課後も一緒で。そんな感じでずっと一緒に居たからか、一時期はもしかして付き合ってるのかとか、色々とからかわれた。それが悪感情から来るものじゃなくて、ふざけて言っているだけというのが分かっているから、わたし達は特に何も言わずそんな事はないからと笑顔で否定するしかしなかった。

 今でこそそれも無くなって、わたしと切ちゃんはただ強烈に仲がいいだけの親友として周りからは認識されたけど、わたしとしては勘違いが横行して切ちゃんと付き合っていると声高らかに噂されても構わなかった。

 わたしは切ちゃんが好き。それは決して友愛ではなく恋愛。つまりは異性へと本来向けるべき感情を切ちゃんに向けていた。だから、勘違いされてそのまま……というのはちょっとだけ望んでいた。そうして今日もそんな感じでからかわれるのかな、と満更でもない感情で教室に入ったある日だった。

 

「あ、やばっ、消さなきゃ!」

「流石にこれはふざけすぎだから!」

 

 と言っていた、わたし達をからかいながらも一クラスメイト、一友人として接してくれていた子達が、わたしを見て黒板に何か書いていた物を体で隠した。でも、その一瞬をわたしはちゃんと見ていた。

 相合傘。矢印みたいに書いた傘の左右にわたしと切ちゃんの名前を書いたソレは、誰に意味を聞かなくてもわかる程明白な物で、未だわたしと切ちゃんがやった事のない行為だった。それを書いていた子達に見えてるよ、と指摘するとすぐにふざけすぎたとすぐに謝ったけど、別に嫌な感情は持たなかった。

 いや、ちょっと喜んでいた。それぐらいにわたしと切ちゃんはお似合いだって言われているようで。切ちゃんといつかしてみたいと思う事が増えたから。

 それから暫く経ったけど、相合傘をする時と言うのは予想以上に来なかった。

 と、言うのも。ルームシェア状態で一緒に暮らしているわたし達は、傘を忘れる時から傘をさす時までお揃いだ。わたしが天気予報を見て、それを切ちゃんに教えて、切ちゃんはわたしの分の傘を渡してくる。無邪気な笑顔で渡してくるから、受け取ってしまう。受け取らず一人分でいいよ、だなんて言えるわけがなかった。

 だから、未だにできていない。

 

「調、どうしたデスか?」

 

 そんな事を考えながらぼんやりと教室の窓から外を見るわたしに、切ちゃんは声をかけてくれた。その声がわたしだけに向いている、わたしだけを心配している声なのだと思うと、ちょっと嬉しくなる。

 心配してもらっても、特に何かあるワケでもなく。

 切ちゃんには何でもないと言うと、切ちゃんは首を傾げつつも納得してくれる。ちょっと申し訳なく思うけど、変に何か嘘を言って切ちゃんに心配をかけるわけにもいかない。切ちゃんの言葉に一言だけ謝って、わたしはもう一度だけ外を見る。

 今のわたしの内心とは打って変わった曇天模様。これがわたしの相合傘願望を心の内から引っ張り出してきた原因。この曇天さえ見なければ、わたしはこの願望を次の曇天の日まで抑えておくことができた。でも、どうせ露に入ってしまった今の時期、否が応にも曇天模様は近いうちにわたしに相合傘願望を突き付けてきた事だろう。

 若干の憂鬱を感じないわけではない。だが、心配事はないと切ちゃんの前で言った手前、溜め息を吐くわけにもいかずグッと堪えていると、切ちゃんがわたしの後ろから空を眺めた。

 

「一雨降りそうデスなぁ」

「うん。洗濯物、部屋干しにしておいてよかった」

「そうデスなぁ。でも、これがこれからずっと続くと思うと少し憂鬱デス」

 

 わたしはインドア派だけど、切ちゃんはどっちかと言ったらアウトドア派。だから、切ちゃんの言う憂鬱はきっと外に出掛けようとしても雨が降るかもしれないから、という憂鬱。わたしの、切ちゃんとどうやって相合傘をしようか悩んで、結局は打ち砕かれた憂鬱とは違う。

 そんな気持ちを悟られないために切ちゃんに「憂鬱なんて言葉知ってたんだ」なんて馬鹿にしたら、切ちゃんはぷんすか怒って「それぐらい知ってるデス!」と返してくる。ごめんごめんと謝って、またわたしの視線は外へ。

 もうすぐ放課後。後はSHRが始まるのを待って、それが終われば憂鬱な空を更に憂鬱な物に変えてきた授業も終わりを迎える。でも帰っても結局やる事なんて特にないから、帰って何をしようか。

 多分切ちゃんのご飯を作って、家事をして、宿題をしてからボーっとテレビと携帯を見て、それで一日が終わり。装者としての生活が無ければこんな感じ。今までの波乱万丈を経験してからだと物足りないと思わない事もないけど、こんな平穏もわたしが望んだ平穏。だから退屈だとは思ってもそれを否定する気にはならない。

 

「あ、降ってきたデス」

 

 そして二人して一緒に空を見ていると、空が急に泣き出した。

 ポツリポツリと空から少しずつ降ってきた涙は、いつの間にかその量を増やして窓ガラスが閉められているのにも関わらず教室の中へとその音を届けてくる。空の号泣に気が付いたクラスメイトが口にする言葉はそれぞれだ。

 めんどくさい、部活が休み、どうやって帰ろう。そんな感じのぼやきにも歓喜にも似た声を上げてSHRが始まるまでの僅かな時間を消費する。

 

「今日は寄り道せずにすぐ帰るデス」

「うん。じゃないと濡れ鼠の完成だからね」

 

 もちろん、傘は持ってきている。だから、濡れ鼠にはどうなってもならないけども、雨の中は歩いているだけで足を濡らしてくる。それを防ぐためには水たまりができてしまう前にちゃちゃっと部屋に帰らないといけない。

 もしも雨が降らなかったらと考えていた事を全部一度消去して今日はまっすぐ帰るという用事を頭の中の真っ白になった予定帳に書き込むと、先生が空の号泣の中でも聞こえるドアの音を立てて入ってくる。どうやら先生も雨で若干気分が優れないらしく、溜め息を吐きたそうな顔をしている。

 そしてSHRが始まれば、案の定先生はちょっとだけ雨に対して愚痴を言いつつ面白い事を言ってクラスの中を笑わせると、今日はこれで終わりとだけ告げ、日直が号令。SHRは瞬間的に放課後へとその姿を変えた。

 

「調、雨が強くなる前にとっとと帰っちゃうデス!」

「そうだね。濡れたくないし」

 

 教室の後ろ側にある傘立てに立っている、ピンク色と緑色の傘を手に取る。分かりやすいからとパーソナルカラーで決めたシンプルかつ若干派手めな傘は校則で許されているとは言え目立つ。みんな基本的に黒や白の傘を持ってくる中でピンクと緑だから、目立たない理由がない。

 でも、そうやって目立つ傘を二人並べておくだけでわたしはちょっとした優越感を持てる。

 切ちゃんと対を成す色を、対となる場所に置ける事。変わっているとは思われるだろうけど、そうやって切ちゃんの隣をキープできることが少し優越感を持たせる事になる。だからわたしは時折、切ちゃんの傘を預かってからわざわざ切ちゃんの傘をわたしの傘の隣に置くことがしばしばある。気づかれないからと思ってのやりたい放題。多少は許してほしい。

 閑話休題。

 

「今日のおゆはんは何デスか?」

「うーん……買い物に行ってないから、余り物でカレーかな。大丈夫?」

「モチのロンデス! 調の手料理で、しかもカレーなんて大丈夫じゃない理由が無いデスよ!」

「よかった」

 

 カレーは勿論計算済み。昨日の内にサラッとカレーの材料も買っておいたから、実は計画的犯行だったり。

 それもこれも全部、この切ちゃんの笑顔を見るため。無邪気に笑う切ちゃんの顔は、わたしの中では天使の笑顔と同義。無邪気に笑う切ちゃんを見ているとわたしも笑顔になる。

 そんな会話と笑い声を雨の声が聞こえる廊下に響かせながらその足は一直線に下駄箱へ。部室があるであろう場所へと向かう同級生や先輩を尻目にわたし達帰宅部メンバーはそそくさ帰宅。その名の通りの事をするために昇降口で上履きから革靴へ履き替えて外へ出ようとして、ふと気が付いた。

 

「あれ? あそこに居るの、響さんと未来さんじゃないデスか?」

「え? あ、ホントだ」

 

 切ちゃんが、わたし達の横。十メートル近く離れた場所で困りった表情を浮かべている響さんと未来さんに気が付いた。その手には傘なんて無く、明らかに傘を忘れて困っていますといった表情をしている。

 色々と表情に出やすいお二人だから、この状況でもその特徴は変わらない。このまま見捨てていくのも良心が悲鳴をあげてしまうから、声をかける事にした。

 

「響さん、未来さん。傘、忘れたんですか?」

「あ、調ちゃん。実はそうなんだ」

「天気予報見るの忘れちゃって……」

 

 困った表情で笑う響さんと、同じく困った表情で頬を掻く未来さん。どうやらわたしの予想はもれなく大ヒットを起こしたらしい。

 それは大変ですね、とわたしが一言。そしてお二人の視線がわたしと切ちゃんの傘に一瞬吸い込まれたのは言うまでもない。多分、内心では貸してほしいなぁと思ってるんだろうけど、二人は優しいからそんな事言わないと思う。というか、もしかしたら貸してほしいとすら思ってないかもしれない。

 でも、このままお二人を尻目にさようなら、というのもいささか後味が悪い。だからわたしは持っている傘を差しだそうとして。

 

「良かったら、あたしの傘を使ってほしいデス」

 

 先に切ちゃんが傘を差しだした。

 傘を差しだされた二人は目を真ん丸にしている。どうもこの提案は二人にとって若干の衝撃を孕んでいたらしく、二人はその言葉を聞いてすぐに困惑し始めた。

 

「そ、そんな、悪いよ!」

「それに、傘を貸したら切歌ちゃんが濡れちゃうから!」

「あたしは調の傘に一緒に入るから大丈夫デスよ!」

 

 うん。この場に傘は二本ある。だから一本貸しても……あっ。

 

「受け取ってくれないとあたしが満足しないんデス! だから大人しく受け取るがいいデス!」

「なんでちょっと上から目線なんだろ……でも、それならありがたく借りるね」

「それでいいデス! じゃあ、調一緒に……あれ? 調? しらべー?」

 

 …………はっ! ちょっと頭がフリーズしてた。

 

「う、うん。ちょっとボーっとしてただけ。で、相合傘だっけ?」

 

 そして思いっきり欲望が口から出てしまった。

 こういう時に相合傘とか言ったら意識しちゃってる事が丸わかりなんじゃ……

 

「そうデスけど……調、ちょっと顔が赤いデスよ?」

 

 とか思ったけど切ちゃんは切ちゃんだった。

 ちょっと残念な子って感じがするけど……それが切ちゃんだもん。わたしの好きな子だもん。むしろ気づかれなくて逆にホッとしている。

 

「な、何でもない。何でもないからっ」

 

 ちょっと言葉が強くなってしまったのを自覚しながら、わたしはピンク色の傘を広げる。ビニール製じゃないからピンク色が入った空が傘の内側から見えるという事はないけど、傘の下から空を見れば、そこには真っピンクな空という名の傘の内側の光景が。

 最早見慣れたソレの中に切ちゃんはスっと入ってくる。

 あまりにも呆気なくアッサリとした相合傘。顔が熱くなるこの感覚は、きっと相合傘のせいであって真上のピンクが移っているからではないと断言できる。

 

「傘は明日にでも返してもらえれば大丈夫デスから!」

「そ、それではお達者で……」

「うん、また明日。傘ありがとね」

 

 その時、わたしは見た。

 未来さんが響さんに見えないように親指を立てて……つまりサムズアップをしてから、そっと自分の鞄から折り畳み傘をチラッと見せたのは。

 あの人、もしかして……

 

「ほ、ほら切ちゃん。二人のお邪魔虫になっちゃうから行こうか」

 

 未来さん……あれって確実にわたしが切ちゃんへ向けている思いを理解してるよね。

 で、未来さんも同じ感情を響さんに向けていて、しかもわたしと同じような状況。そんな中で相合傘をするために天気予報を見なかったと嘘を吐いて、自分はこっそり折り畳み傘を持って登校して、ここで暫く時間を潰してから何か理由を付けて折り畳み傘を使って小さな傘の中で相合傘……の予定だったんだと思う。

 あの人、策士だなぁ……わたしはそんな作戦、思いつかなかった。

 

「そういえば調と相合傘なんて初めてデスね」

「そ、そうだね……」

 

 さっきからどもりまくりだけど、仕方のない事だと思う。

 わたしが普段一人で使っている傘の、もう一人は入れそうだったスペースには切ちゃんが居る。ギリギリ肩が濡れない感じで同じ傘に入っているからか、切ちゃんの肩との距離はかなり近い。ううん、ほぼゼロと言ってもいい。気づけば肩と肩が当たってもおかしくないような距離感。そんな距離を保てていることが嬉しくて、同時にちょっと恥ずかしくて。きっと今、わたしの顔は真っ赤になっていると思う。

 

「こうやって相合傘する時って、漫画や小説だと何かしらイベントが起きそうな気がしますけど、そんな事現実には起こらないデスよね」

「そう、だね。わたしはちょっと起こってほしいけど」

「あたしも、そういう事を一度でいいから体験してみたいデス」

 

 そのイベントの対象がきっとわたしじゃないのを理解しながら、そのイベントの詳細を聞いてみる。

 

「例えば?」

「うーん……隣をトラックか何かが通ってバッシャー! と水たまりの水を――」

 

 切ちゃんが自分の体も使ってダイナミックにそれを表現した瞬間だった。

 噂をすれば影とでも言いたいのか、わたし達の真横をトラックが猛スピードで通り過ぎ、その際に水たまりを踏んで跳ねあがった、ちょっと汚れた水がわたしと切ちゃんにバッシャーとかかったのは。

 髪の毛から服までぐっしょり。もう夏服に変えたばかりだから、白いブラウスが透けて二人して下着が濡れ透け。あっ、切ちゃんの今日の下着、緑なんだ……可愛い。

 

「…………こういうのラッキースケベって言うんデスかね?」

「なにが?」

「な、何でもないデス。それより、早く走って帰らないと風邪ひいちゃうし、誰かに見られちゃいそうデス」

「そ、そうだね。誰かに見られても嫌だし……早く帰ろっか」

 

 結局相合傘は慌ただしく走ってしまう、ロマンチックの欠片もない感じになっちゃったけど……まぁ、こういうのも相合傘の醍醐味という事で、わたしはこの結果を嚥下した。

 

 

****

 

 

 早く帰らないと風邪をひいてしまう。その言葉の元大急ぎで帰ってする事は一つ。お風呂。

 帰ってきたわたしはすぐにお風呂を沸かせて、その間に二人で最低限、タオルを使って濡れた箇所を拭いておく。こうしてちょっとだけでも拭いておかないと確実に明日は二人そろってベッドでダウンだから、ちゃんとやれる事はやっておかないとね。

 そうやってお風呂が沸くまでの時間を潰して待っていると、お風呂が沸いた。昨日の内にお風呂を掃除しておいて良かったと心底安心した。

 

「あ、沸いたみたいデスね。じゃあ調から入っていいデスよ」

 

 お風呂が沸いた音を聞いて切ちゃんが順番を先に譲ってきた。

 普段ならその言葉に甘えて先に一番風呂を浴びちゃう所だけど、今日はちょっと違う。相合傘という、わたしにとっての一大イベントを終わらせたばかりだからか、ちょっとだけ、もうちょっとだけ我儘を言ってみてもいいんじゃないか、なんて思ってしまう。

 だから、わたしの口は自然とその言葉を口にしていた。

 

「……どうせだし、いっしょにはいらない?」

 

 何がどうせだし、なのか自分でもよく分からなかった。

 その後になんとか苦し紛れに、このままだと切ちゃんが風邪ひいちゃうから、とか寒いだろうから、とか色々と言葉を付け加えて、もう修正なんて不可能になって頭が混乱し尽くしてしまった所で、切ちゃんはどうしてか顔を赤くしながら頷いた。

 それから数分後。

 

「い、いい湯デスなぁ……」

「そ、そだね……」

 

 わたしと切ちゃんは一緒にお風呂に浸かっていた。

 いつからかわたしと切ちゃんは一緒にお風呂やシャワーを浴びる事なんて、外で銭湯に入ったりする時以外はしなくなっていた。だからこうして一緒に入るのは久しぶりだったりする。

 そしてわたしがどういう体勢でお風呂に入っているかと言うと、切ちゃんに抱っこされる形で入ってます。背中から抱きしめられたら、すっぽりと切ちゃんで覆えてしまう形で。

 背中に感じる柔らかい、わたしには欠片程度しかない物を感じて自然と顔が熱くなる。

 心臓がバクバクとうるさい。でもそれ以上の充実感と幸福感を感じる。

 相合傘をするという夢を叶えた直後に、こんな幸せなイベント。それが嬉しくないわけがない。

 

「……切ちゃん」

「……なんデスか?」

 

 二人だけの空間で、二人だけの声が反響する。

 どこからか滴った水の音と、わたし達の声だけが響く空間。

 

「……暖かいね」

「……暖かいデスね」

 

 そっとわたしの後ろから回された両手を、そっと掴んで抱きしめてもらう。強くもなく弱くもない、丁度いい強さで抱いてもらって心まで温かくなる。

 これから先の関係は、まだわたし達には早いけど、でもいつか。

 何年後なのか。いや、もしかしたら一生を終えるまでずっと来ないかもしれない関係かもしれないけど、いつかこうやって後ろから抱きしめてもらう事が当たり前な関係になってみたい。

 

「大好き、だよ」

 

 無意識に出てしまった、その関係を表すために必要な言葉は。

 

「あたしも、デス」

 

 いつも通り、それを肯定する言葉で返された。




この先、きりしらがくっ付いたかどうかは皆さんの想像次第。

いやー、なんか久々にきりしら書いた感があって半端ない。最近はひびしらかつばしら書いてたから余計に久しぶりに思える。ヤンデレもビッキーからだったりビッキーにだったりしたし。え? ドM世界線? あれは変態きりしらだったから……

百合はいいぞぉ……なんて思いながら書いた今回の話ですが、やっぱり書いてて百合はいいぞぉ……ってなりました。公式からもっときりしらの供給して、しろ(豹変)

未だ装者の中でフィギュア化していない調ちゃんですが、いつか切ちゃんとセットのフィギュアが出てくれると期待して。というかfigma辺りからいつかシンフォギアの可動フィギュアがビッキー以外にも出てくれると信じて今回はこれまで。

次回は未定……の予定でしたが、もしかしたら前回のUFO時空の続きで、ガチで銀魂のいつも心にドライバー的な話でもやろうかなと。正直、原案はそっちでしたが誰の股間を六角ドライバーにするか迷って、結局そんな汚れ役誰にもやらせられない! ってなってケモっ娘化したんですけど……もう既に様々な時空でキャラ崩壊起こしているたやマが居るから、たやマに汚い部分全部押し付ければよくね? ってなったんで押し付けるかも。
感想でドライバー化するのかと思ったと書いてくれた方のおかげで汚い役をたやマに任せられる決心が付きました。という訳で次回はもしかしたらたやマの乳首がドライバーに変わります。

ただ、気分次第で書く話は変わるから、もし次回がたやマの乳首がドライバーに変わる話じゃなくても許してネ☆

P.S きりしらグッズに雨で濡れ透けした感じの絵があったよなぁって思って今回の話を書いた後に調べたのですが、「シンフォギア 月読調」って調べたら一ページ目にこれが出てくるってどういう事っすか


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月読調の華麗なるドライバー

主にマリアとビッキーと393が色々とアレな事になっていますが、汚れ役はマリアとかビッキーとか393に押し付けておけばいいだろうと思って押し付けました。

前回はプラトニックだったのに今回は……あーもうめちゃくちゃだよ。


 あー、先日はひどい目にあった。

 まさかUFOの形をした聖遺物的なナニかにキャトられてケモ耳と尻尾を生やされて送り返されるとは。そんなん誰も予想していないって。あの後エルフナインがこう、神獣鏡的なナニかのビームを全員に照射してなんとか事なきを得たけど。

 あの時は全員があのUFO撃墜する事しか考えてなかったし……まさかのエルフナインも風鳴司令もみんながみんな、まずは殴ってから落ち着かせて話し合おうっていう戦闘民族ムーブしてたんだから。

 

「っていうか今日も遅くなっちゃった……夜中に出歩くとまた何か起こりそうで嫌なんだけどなぁ……」

 

 そう思って一度星空を見て気分を落ち着けようと思い、視線を真上に上げた。

 すると、そこにあったのは空中で浮遊する謎の飛行物体で、そこからみょみょみょみょと音を立ててこっちへ発射される謎の光があった。

 思考が一瞬中断されると同時にグッバイ地表をするわたしの両足。

 うん、これは……

 

「またぁぁぁぁぁぁ!!?」

 

 わたし、またキャトられるようです。あっ、意識が……がくっ。

 

 

****

 

 

 気が付くと、そこは自宅前でした。

 今回はメディカルルームじゃなくて思いっきり部屋のドアの前で切ちゃんと一緒に転がされていたから体が痛むし、思いっきり体が冷えて寒いし、ついでに全身くまなく冷えたからか若干お腹痛いし。

 バッキバキの体を起こして伸びを一つすると、体からどえらい音が鳴る。うーん、寝袋もなしに野宿した次の日みたいな感じがする。さて、家の中に入る前にエルフナインに連絡しなきゃ。また体のどっかが改造されているかもしれないし。

 携帯取り出しポパピプペ。デートしてくれますか? ……じゃなくって。

 

『ふぁいもひもひ……』

 

 心の中でふざけていると、エルフナインがかなり眠そうな呂律の回っていない声で電話に出てくれた。もしかして寝てたのかな? そうすると思いっきり邪魔しちゃったって事になるし申し訳ない事をしたかも。 

 

「あ、エルフナイン? もしかして寝てた?」

『いえ……またキャトられたので、解決法を徹夜で……ふああああ……』

 

 サラッとエルフナインがキャトられたって言った。

 つまりこれ、またわたしの身内を巻き込んだ変な話って事になるんだよね? とりあえずわたしもキャトられたから真っ先に連絡したとだけ告げると、エルフナインはやっぱり、とでも言いたげな声色で返事を返してきた。

 うん、その……いつもお疲れ様。今度ご飯奢るから。

 

『んんっ……よしっ。それで調さん。キャトられてどこを改造されたか分かりますか?』

「あ、そこ確認してなかった」

 

 電話の向こう側からエルフナインの若干色っぽい声が聞こえてすぐ、わたしは自分の体のどこを改造されたのかを確認に入った。

 まず顔。特に変化なし。髪の毛も特に変わらず、体も……うん。ひんそーでちんちくりんなまま……ひんそーでちんちくりん……どうせなら豊胸でもしてくれればわたしは一切相手を恨まずお礼までするのに……

 それで、足も特に問題なし。頭から猫耳が生えていることも腰から猫尻尾が生えていることもないから、特に何か変わっているという事も……あれ? じゃあわたし、ただキャトられてここに返されただけ? とりあえずそれを知らせないと。えっと、とりあえず家の鍵……かかってないね。とりあえず人差し指のドライバーを変にぶつけないようにドアを開けて……ん?

 ちょっと待って。今なんかおかしかった。具体的には人差し指。

 

「……えっと」

 

 右手の人差し指を見て、思わず震える。

 前回はまだ日常生活に支障が出るとかはなかった。いや、外へ出るのが不便になっただけでそれ以外は特に何もなかった。なのにも関わらず、今回ばかりは日常生活に思いっきり支障が出そうな程になってた。

 

「み、右手の人差し指が、プラスドライバーになってる……!!?」

『あー……はい。まだ軽い方ではありますね』

 

 ……な、何故ここでプラスドライバー!!?

 い、いや、待とう。落ち着いて落ち着いて。今エルフナインなんて言った? まだ軽い方? これが? 指一本潰されたこれがまだ軽い方?

 じゃあエルフナインは一体……?

 

『ボクですか? ボクは……』

 

 エルフナインは……?

 

『ボクは……!』

 

 エルフナインは……!? あっ、急に画面が映像に……

 ……はっ!!?

 

『……ドライバーやってます』

 

 エルフナインは、なんか巨大なドライバーになってた。

 

 

****

 

 

 先に結論から言ってしまうと、わたしの症状……症状? は一番軽かった。他のみんなはある意味わたしよりもひどい状態になっているから、口が裂けてもわたしが一番ひどいなんて事は言えない。それぐらいにはわたし以外の全員……というか前回キャトられた組は酷かった。

 まず、既に知っているだろうけど、わたしとエルフナインの症状には既に天と地ほどの差がある。わたしは右手人差し指がドライバーになっている。対してエルフナインは全身ドライバー……というか、ドライバーからエルフナインの顔と手と足が生えているとでも言った方がいいか……なんか新手の怪物みたいな事になっている。

 で、わたしの次に症状が軽かったのは切ちゃんだった。

 

「あ、あたしの左手の親指が万能ドライバーに……」

 

 切ちゃんの左手の親指は万能ドライバー化した。どんな感じかと言うと、切ちゃんの親指には穴みたいなのが空いていて、そこに市販品の万能ドライバーの先端がはめ込み可能……って感じかな。つまりわたしの細いプラスドライバーよりはまだ利便性がある。

 とは言っても、親指を万能ドライバーにされた物だから切ちゃんの凹みようが凄い。多分、不便性で言えばわたし、切ちゃん、エルフナインがトップクラスじゃないかな? って感じ。

 他のみんなはまだ表に出る事がそこまでないから、多分隠し通す事は可能だろうけど……悲惨性で言えばわたし達はまだ軽かった。特にヤバいのは響さん、未来さん、マリアの三人。あの三人はヤバイ。

 その三人は後にするってことで、まずは翼さん。翼さんは……

 

「確かこんなキャラクターが居たな。ふんっ!」

 

 両手を握ると、指と指の間から様々なドライバーがシャキン! と音を立てて飛び出すようになった。

 多分、一番分かりやすいように言うならば、ウルヴァリン。それが今の翼さんを表すのなら一番だと思う。っていうかそれ暴発しないんですか?

 

「暴発はしないな。自分の意志一つで仕舞うのも出すのも自在だ」

「いいなぁ……わたしもそんな感じで格納式だったらよかったのに……」

「それは……まぁ、仕方ない」

 

 そんな感じで、多分一番被害が少ない人だったりする。指の間から出てくるのはプラスドライバーにマイナスドライバーに六角ドライバーに……と、計六種類のドライバーが出てくる。それを見て響さんが思わずと言った感じで声をあげているけど……仕方ないと思う。

 で、次は……クリス先輩かな。クリス先輩もある意味では被害が少ない……というか、唯一ドライバーが関係ない改造をされてしまった人だ。

 

「クリス先輩は……」

「こうやって指で銃の形を作るとグルーガンみたいに接着剤が出てくる。しかも無限に」

「便利だね、クリスちゃん」

「あ、あぁ……うん。お前に比べりゃな……」

 

 両手がグルーガンになった。一人だけ本当にドライバー関係ない。

 グルースティックがどうやら必要ないみたいで、まぁ便利っちゃ便利だし指で銃の形を作っても接着剤が出ないようにする事は可能みたいだけど、面白人間なのは変わりない。しかも勢いも調整できるみたいで、ある程度の距離が離れていても届くらしい。

 ちなみに、無限に出てくるとは言ったけど、出している間は自分の中から何かが外へ出ていく感じがしてすっごい気色悪いらしいからあんまり使いたくないとか。

 で、さっきからちょくちょく絡んできている響さんだけど、恐らくマリアと並んで一番きっつい。

 全員で一旦集合して、どんな改造をされたか報告をしていた時。響さんはいきなり履いていたズボンとパンツを下ろしながら叫んだ。

 

「なんか、股間からT字ドライバー、しかも極太が生えました……ッ!!」

 

 つまる所……まぁ、うん。肌色に塗られた明らかに男性のソレとしか見えない感じのT字ドライバーが響さんの股間から生えていました。

 思わずわたし達全員が顔を真っ赤にしたけどすぐに哀れみの視線を響さんに向けた。なんせ、股間からT字ドライバー。下ネタ以外の何物でもない。

 

「これ、わたしって女の子なのか男の子なのか分からなくなってくるよ……!!」

「しっかりしろ立花! お前がどれだけイケメンで一級フラグ建築士だとしても女だろう! 気を確かに持て!! 股間から生えているのはあくまでもドライバーだ!!」

「響のドライバーでわたしの……閃いた」

「通報した」

「どうしてよクリスっ!!」

「残当だボケ」

 

 うん、これに関しては残念ながら当然だと思います。

 実は被害報告会場に風鳴指令、緒川さん、藤高さんを始めとした男性職員が出禁になっていたんだけど、その理由が初めてここで分かったのでした。

 まぁ、響さんに付いちゃ色んな意味でいけない物が付いたのが発覚した所で次は未来さんなんだけど……

 

「わたしも股間にT字のラチェットドライバーがね」

「こっちは着脱可能か」

「キャトったやつは何考えて股間にラチェットドライバー付けたんだよ……」

 

 未来さんは持ち手がT字のラチェットドライバーがくっついていた。まぁ、切ちゃんの万能ドライバーと似たような物だね。それの持ち手がT字になったバージョン。

 お二人そろって仲がいいと言えばいいのか何といえばいいのか。全員が微妙な気持ちというか思わず溜め息を吐きたくなった。これをやった下手人に対して呆れかえってもう何も言えないというね。

 で、ラスト。マリアなんだけど……マリアで、まぁ酷い。というか一番コメントに困った。

 

「私は……ご覧の有様よ」

 

 そう言ってマリアは徐に服を脱ぐと、ブラを取ってそのたわわな果実を晒した。みんなが一瞬顔を赤くしたけど、すぐにマリアの胸にある物を見て困惑した。

 

「え、えっと……ま、マリア? それは……」

 

 思わず翼さんが声を上げた。正直、響さんと並ぶレベルでコメントに困る物がマリアの胸には付いて……植え付けられて? いる。

 

「見れば分かるでしょ」

「いや、見ればって……」

 

 分かるけども。分かるけども、なんというか。

 

「そうよ! 乳首が六角ドライバーになったのよクソッタレェッ!!」

 

 そんな空気を察してかマリアがやけっぱちになって叫んだ。

 そう、マリアの両胸にある乳首が、六角ドライバーに似た何かに変わっていた。正直、響さんなら普段がイケメンで男だったら絶対にラノベ主人公とか言われているから笑い話にできたけど、マリアの場合はちょっと……あんまり大声で笑えないというか。ほんとコメントに困る有様と言いますか。

 存在そのものがギャグになったエルフナインと、なんか微妙なわたしと切ちゃん、ウルヴァリン翼さんに唯一ドライバーじゃないクリス先輩。そして下の響さん、未来さん、マリア。もうカオス以外の何物でもないよね。

 まぁそんな感じで被害報告会場がお通夜状態になってから暫くしてマリアが涙目で叫んだ。

 

「エルフナイン! もう被害報告は終わったのだからとっとと戻してちょうだい! 前みたいに神獣鏡的なビームで治る筈でしょう!?」

 

 顔を赤くしながら涙目のマリア。やっぱ乳首が六角ドライバーってパワーワードすぎるし何より色々と女として複雑だよね。わたしもこれじゃあ日常生活が不便だしとっとと治してほしいんだけど……

 

「それが、治らなかったんです」

「は?」

 

 エルフナインの言葉にマリアが思わず聞き返した。

 そしてその言葉の意味を理解した人たちから顔を真っ青にしていった。正直、ここで被害報告をしてからエルフナインに治してもらって、キャトった奴許さないで報復を仕掛ける気満々だったわたし達はその言葉を聞いて顔を青くするしかなかった。

 かくいうわたしは、すぐに治されなかった時点でちょっとは察していたから顔に手を当てる程度で済んだけど……正直、ショック。

 

「恐らくこれは聖遺物由来の人体改造ではありません。というかそもそもドライバーが関連する神話や聖遺物なんて存在するわけがありませんし」

「ちょ、ちょっと待ってよエルフナインちゃん! それって……つまり」

「響さんの想像通り……元凶を探して叩いてとっちめない限り、ボク達の体は死ぬまでこのままです……ッ!!」

 

 あはは……

 なんとなく予想はしていたとはいえ……どうすりゃいいの、これ……

 

「っていうかちょっと待てよ! 聖遺物由来じゃないって事はこの件はどう説明するつもりだ!? まさかマジで宇宙人が来たとか言うんじゃないだろうな!?」

 

 悲観に暮れていると、クリス先輩が急に叫んだ。

 そうだ、大体こういう状況下で物事が停滞しないように口を開いてくれるのはクリス先輩だった。そんなクリス先輩の言葉だけど、確かに相手が聖遺物由来の改造をしてこないっていう事は、相手は人間の体を鉄や鋼同等の硬度に変えて固定する技術や、ウルヴァリンみたいな事にする技術、指先から銃口もないのに接着剤が出るグルーガン人間に変える技術があるという事になる。

 そんなの、聖遺物でしかありえない。わたし達がもしかしてと思い込んでいることを除けば。 

 

「そのまさかです。こちらに映像をご用意しました」

 

 と言ってエルフナインは手元のリモコンを操作してモニターに映像を映した。

 どうやら衛星からの映像のようで、空には色んな星と地球が少しだけ映っている。急にそんな映像を見せてどうしたのかと聞こうとしたけど……次の瞬間、なんか銀色の円盤みたいなものが衛星の真横を横切ってそのまま地球へと落下していった。

 思わず全員で映像から顔を逸らして見合わせてしまう。

 響さんがマジっすか? と小さく呟いている。

 

「これが、最初の被害者である調さんがキャトられる数分前の映像です。そこから一時間以内にボク達全員がキャトられて自宅、もしくは本部前に戻されています」

「……つ、つまり?」

「SONGではこの謎の未確認飛行物体、ないしそれを操縦する者を天人と命名し、現在その行方を……」

 

 サラサラっと事実だけを無表情で説明するエルフナインに思わずマリアが口を挟んだ。

 

「待て待て待て待て待ちなさいッ!! つまりエルフナイン! あなたはあれを、あの物体を、本当に宇宙人のUFOと断定するわけなの!!?」

 

 その言葉にわたし達全員が頷いた。

 だって、UFOなんて聖遺物以上にあり得ない存在がこの地球にやってきて、しかも何でか装者とその関係者を狙って拉致して変な改造施して家に帰すなんておかしいにも程がある。

 だからどうせ前回のアレみたいに馬鹿な人がなんか勝手に大回転して迷惑かけているだけだと思うんだけど……マリアの言葉を聞いたエルフナインが無表情だった顔を崩して泣きそうなのか怒っているのか、それとも両方なのか分からない表情で声を荒げた。

 

「だってそうじゃないと説明できないじゃないですか!! ボクだって昨日目が覚めてからこの映像が合成じゃないかとかUFO型聖遺物が作られた痕跡とかこの改造がどうやって成されてのか調べ尽くして結局何の成果も得られなかったんですよ!!? 世界各国に交渉とハッキング仕掛けて秘密裏に処理された真っ黒な文章にまで目を通して、人間の体の一部をドライバーに変えるっていう謎技術を真顔で探し続けて、結果何一つそんな馬鹿らしい情報はどこにも載ってなかったんですよ!!? っていうかキャロルから貰ったこの体をこんなにされて結構精神的にキツイ中でこんな冗談ぶちかませるほどボクは精神的に余裕を持ったホムンクルスじゃないですからね!!?」

 

 叫び終えたエルフナインは息を荒げながら近くに置いてあったエナジードリンクを思いっきり煽った。

 思わずマリアが目を逸らして謝る程の剣幕で叫んだエルフナインだけど、確かにエルフナインだって被害者なんだし、キャロルから貰った大事な体に変な改造をされてるんだから真っ当な精神状態でいる方があり得ないよね……うん。

 世にも珍しい……というか、今まで一度たりとも起こらなかったエルフナインのマジギレにわたし達は一歩退いていた。普段大人しい人がキレると怖いって、本当なんだね……わたし達、案外キレやすい人で構成されてるから知らなかった……

 

「はぁ……はぁ……すみません、迷惑をかけました」

「い、いいのよ……エルフナインも頑張ってるものね。少し無遠慮だったわ……」

「そ、そんな事は。ボクが皆さんの事を考えず事実だけを口にしてしまったから……」

 

 そして始まるマリアとエルフナインの謝罪合戦をわたし達で何とか止めて、改めてエルフナインからの説明を聞くことにした。

 確か、あれは本当のUFOだと現状は断定して、宇宙人は天人と命名したんだっけ。

 

「えぇ、まぁ。ボクも馬鹿らしいとは思うんですけど、上層部の決定ですから。それで、現在は天人を衛星から捜索中です。今回の件も、もしボク達みたいな人間じゃなくて一般市民に起こってしまえば混乱は避けられません」

 

 エルフナインが本気で疲れた様子でぼそぼそと丁寧に説明してくれた。

 確かに、混乱が起こる前に片付けないとまずいけど……作戦とかはもう決まっているのかな?

 

「前回と同じく、発見し次第こちらからアプローチを仕掛けます。ただ、今回は天人が相手という事で、あんまり乱暴な手には出られません」

「どうしてだ? 別に撃ち落としゃいいだろ」

「少なくとも相手は人間の体を自由に改造して、恐らく恒星間飛行のできる小型円盤を生産できてしまう程の科学力を持っている相手です。もし敵対した場合、皆さんの命が危険となる可能性が高いんです」

 

 あ、そうか……確かに前回は前情報を得ている状態で、相手も聖遺物だからこちらも聖遺物で対抗できると踏んでの戦いだったけど、今回の相手はこちらの科学力を純粋に超えてきている上に、もしかしたらシンフォギアを纏った装者を一撃で倒せてしまうような兵器を持っている可能性もあるんだ。もしかしたら言語が通じない可能性もあるし。

 だからまずは穏便に……っていうことなのかな?

 

「じゃああたし達はUFOに対して交渉をするという事で大丈夫デスか?」

「そうですね。最初はこちらから通信を飛ばすか、自衛隊の戦闘機で直接相手にアプローチを仕掛けます。それで交渉してくれるならいいんですけど、そうでなければ皆さんに直接UFOに乗り込んでもらいます」

 

 なるほど、つまりは戦闘民族式交渉術だね。

 

「まぁそうなります。先ほどのクリスさんの問いへの答えと正反対の事をしてもらうことにはなりますが……」

 

 まぁ、言葉が通じないなら肉体言語で分かってもらうしかないからね。仕方ないね。多分肉体言語なら宇宙人相手でも会話ができるはず。でも、あんまり乱暴な手は使いたくないかも。だってそれで前回色々とあったわけだし……

 でも、それしか無いというのならわたし達は頷く。多少強引な手を使うのもいつもの事だしね。

 

「できうる限りすぐさま解決にこぎつけたいわね。私の乳首をとっとと元に戻させないと……!」

「わたしもちゃんとした女の子に戻してもらいたいです……」

 

 そして解散の直前、ボソッと呟いたマリアと響さんの声には哀愁が漂っていた。

 

 

****

 

 

 結論から言うと、UFOは次の日に見つかった。どうやら日本のとある山奥にカモフラージュされていた状態で着地していたらしく、翌日になって急に浮いて地上からギリギリ見えない程度の高度まで上がると、そのままそこで滞空しているらしい。

 その間に日本政府や他国の政府が様々な方法で通信をしようと企んだけど、結果的に言えばそれは失敗。相手が出ていないのか、それともこちらからの通信を受け取る設備が存在していないのか。それは分からないけど、少なくとも会話でどうにかするという方法は限りなく不可能に近い状態になってしまったと言える。だからこそ、わたし達はすぐさま召集された。このままUFOを放っておき、また何か変な事をされる可能性を残しておくよりも戦闘民族式交渉術をわたし達にしてもらうのが手っ取り早く問題解決ができると踏んだんだと思う。

 

「一応、相手がしっかりとした言語を使って会話に応じても言語が分からないから会話できない、という事態は避けるためにこちらの方で翻訳機……という名の聖遺物の欠片を取りよせました。使えないという可能性は十分にありますが、無いよりはマシなので」

 

 で、会話に関してだけど、もし相手が不法侵入したわたし達に対して言葉を投げかけてきた場合、対応できるようにエルフナインが相手の言葉を翻訳し、こちらの言葉を翻訳できるという聖遺物の欠片を取り寄せてくれた。ほんっと、聖遺物って何でもありだよね……

 まぁ、そんな事はさて置いて、わたし達は相手を逃がさないために一刻も早くUFOに取り付くため、急いでミサイルに搭乗した。もうミサイルに搭乗っていう言葉を違和感なく使えている時点で結構アレだなぁ……とは思ったけど、まぁ速いからね。それにどこへでも行けるし。

 

『それでは皆さん。気を付けてなんとか説得をお願いします。前回みたいなことはくれぐれも……くれっぐれも!! ないようにしてください!! 本当にお願いします!!』

『あ、あはは……こんな必死なエルフナインちゃんの声、初めて聴いたかも……』

 

 だけど、それはみんな同じだ。

 わたしだって人差し指がプラスドライバーの面白人間なんてごめんだし、他のみんなも体の一部がドライバーになったり、卑猥な所にドライバーが付いていたりなんていうのは真っ平ごめん。だから多少荒い手を使ってでも絶対に元の体に戻って見せる。

 

『それではご武運を。発射!』

 

 エルフナインの声と同時にミサイルが細かく振動してそのまま空へ向かって射出される。うーん、この感覚、何度やっても慣れないかも……

 暫く待っていると予測高度へと到着したのか、自動的に外壁がパージされてわたし達が空中に飛び出す。今回はミサイルで相手を追うんじゃなくて、みんなで同時にUFOへ向かってダイナミックエントリーするから、ここでミサイルとはお別れ。

 

「みんな、各々で飛んで突撃よ!!」

 

 マリアの声に従ってみんなが飛行のために体勢を整える。響さんは両手のバンカーを展開し、翼さんは蒼ノ一閃用の刀をブースターに、両足の刀で細かい姿勢を制御して、クリス先輩は空中で展開したミサイルに取っ手を付けてしがみついて、切ちゃんは肩のブースターで一気に加速。マリアはSERE✝NADEで空中で一気に加速。わたしは双月カルマでゆっくりと優雅に飛行。

 そしてまず最初に響さんと切ちゃんが思いっきりUFOに突っ込んだ。

 

「だっしゃああああああああ!!」

「あたしの親指返せデスぅぅぅぅぅぅ!!」

 

 突っ込んでいった二人はそのままの勢いで壁を殴り抜いてUFO内部に侵入した。なんて脳筋……

 でも、二人が壁を殴り抜いてくれたからこちらも安心してUFOの中に侵入できる。ミサイルから手を離したクリス先輩、翼さん、マリア、わたしの順で続々とUFOの中に雪崩れ込むと、既に二人の宇宙人らしき存在の胸倉を思いっきり響さんが掴んでいた。

 あ、これ響さんも結構キレてるやつだ……普通あの人が胸倉を掴むなんてまず無いよ?

 

「お、お前らなんなんだよいきなりぃ! マナーってもんしらねぇのかぁ!?」

 

 で、肝心の宇宙人なんだけど……なにこれ。

 なんかね、その……黄色い全身タイツ着たオッサン二人なんだよね。いや、ホント、そうとしか言えないんだってば。一応わたしはこう、タコ的なえいりあんを想像していたんだけど、これが宇宙人……? いや、なんかこう拍子抜けと言うか何というか……こいつら程度ならギアが無くてもどうにかなるような。

 おっと。そんな事言って話を先送りにしている場合じゃない。とっとと交渉に入らないと。

 

「あの、わたし達の――」

「私の乳首返しなさい!! 今すぐに!!」

「ついでにわたしの股間のち〇こみたいに生えてるドライバー外せェッ!!」

 

 響さん! 思いっきり叫んでる!! 誰もが年頃の少女だからって言わなかった単語思いっきり叫んでる!!

 

「あ? お前ら何言ってんの?」

「ほらあれっすよ。一昨日辺りにドライバー見つからないから適当にキャトってきたやつら。多分あれっすよ」

「え? あー……あー! あったなぁんな事。ゲーム機分解用のドライバーがねぇから適当にキャトったやつを改造したんだった」

 

 え? ゲーム機……え?

 いやいや、ちょっと待ってどういう事と言おうとしたけど、無言でクリス先輩がわたしの肩を叩いてどこかを指さした。そっちを見ると、確かにそこには山のように積まれたゲームと、恐らく分解してもうこれ以上どうにもならなくなったんであろうゲーム機の残骸が……

 えぇ……なんでぇ……

 

「いいから戻しなさい!! 私の乳首を!!」

「わたしのち〇こも外せェ!!」

 

 あーもう二人とも黙って!! 特に響さんは落ち着いて!!

 

「これのせいで昨日未来に襲われたんだよ!!? どうせ外すんなら一度は使ってみないととか言って襲われたんだよ!!? もう二度とごめんだよそういう事はッ!! っていうかドライバーなのにどうやってそういうコトに使うのさ!!? 痛いだけだよ!!」

 

 ……あ、はい。ごめんなさい。

 

「っていうか急に殴りこんできておいて要望聞けとか君たち何なん? 蛮族なん?」

「人を拉致って改造しておいてよく言えたなこいつら」

 

 クリス先輩の冷静なツッコミ。確かその通りです。確かにわたし達のやってる事は蛮族臭いけど、こちらからは最大限の通信をしたんだし、こちらなりの譲歩は思いっきりした。それでも自分たちのマナーに合わせろって言うんならそっちから合わせるのが普通でしょ。だってそっちが勝手に来たんだからさ。

 っていうか何この自分たちは悪くないとでも言いたげな態度。クリス先輩もだけど、ここに居る全員が若干キレかけてるの分かってるのかな。

 そろそろわたしも電鋸で脅すよ?

 

「いやだってここの星に来た時は適当な生物拉致って改造すんのがマナーって聞いたし」

「んなマナーあってたまるかボケ共ッ!! それで満足してたら被害者一同がこうして突撃お前の宇宙船してねぇんだよ!!」

 

 そもそもそんなマナーあるわけがないよ。こう、スーパーパワーを手に入れたとかじゃなくて体をドライバーに変えられただけで喜ぶ生命体いないでしょ。

 

「あーもうこいつらの容姿と言い話してるだけで頭痛くなってくるわ……」

「とにかく、私達と地上に居る私達の仲間の体を元に戻してもらおう」

「じゃないと死神の鎌がそっと首を撫でる事になるデスよ」

「切ちゃん、それじゃあ前回と変わらないどころかもっとバイオレンスになってるから」

 

 わたしも電鋸で切り刻みたいのは山々だけど、そもそもわたし達だけじゃもうどうしようもないからこうして相手尾本拠地に乗り込んで体を直せと言っているわけで。それを殺しちゃったらどうにもならないじゃん。

 でもどうしてか、この宇宙人たちはさっきからへらへらしたままで治すと言わない。いいから治さないと、そこのガチギレしてるガングニール姉妹がマジで手を上げ始めるよ。

 

「えー、めんどくせぇんだけどぉ」

「立花響。一度ぶん殴った方がよさそうよ」

「そうですね。わたしの拳はぶん殴ることしかできませんから今回も不可抗力ですよね」

「お、お前ら人殺す気かよ!? あんな威力のパンチ受けたら死んじまうぞ!?」

「一人が塵も残さず消えてももう一人が何とかするわよね?」

「そのもう一人も殴って言うコト聞かせれば何も問題はないよね?」

 

 あー、だめだこれ。この二人もう沸点が限界に近い。

 でもそれだけキレるのも仕方ないけどさぁ。仕方ないけどもうちょっと落ち着こうよ。逆にわたしと翼さんとクリス先輩は落ち着き始めてるよ。

 とにかく、わたし達三人で響さんとマリアを引きはがしてからわたしのヨーヨーで一度拘束する。多分二人が全力を出したらすぐに解除される拘束だから、翼さんの影縫いで更にその上から拘束して一度二人を落ち着かせる。じゃないとこの二人、交渉以前に本気であの宇宙人を一人間引きそうだし。

 

「っつーかさぁ。人に物事頼むんならもうちょっと誠意を込めんのが普通じゃねぇの?」

「こんな事されて言う事を聞く宇宙人なんていないっすよ」

「……なぁ、アタシも本気で一人に自由落下の旅をプレゼントした方がいい気がしてきたんだけど」

「落ち着け。こうやって人の神経逆撫でするのがこいつらの常套手段やも知れぬ」

 

 だけど、この人たち自分が悪い事したって自覚が無いみたい。

 ……腕の一本や二本を落とす『改造手術』をしてあげれば自分たちのやらかしたことの重大さに気が付いたりしないかなぁ? そうだよね、わたしが指一本改造されたんだからこのオッサンの右手人差し指を一本改造手術してあげるのが一番いいよね。だって相手が最初にやってきたんだから同じような事される覚悟、あるんでしょ?

 

「月読、落ち着け。殺人鬼の顔をしている」

 

 だって翼さん。こいつらには自分の罪の重さを自覚させた方がいいですって。それかもうホントに宇宙船叩き落して地上でエルフナインにこのアホ共の技術を吸収してもらった方がまだ早いと思うんですよ。

 

「いいから落ち着けと言いたいが、確かに一度この宇宙船を下ろした方がいいかもしれんな。叔父様や緒川さんに交渉させれば多少は物事もいい方に向くかもしれぬ」

「は? なんで船を下ろさなきゃなんねぇんだよ」

「やっぱ指一本……」

「いいから落ち着け月読!!」

 

 さっきからほんっとうに腹立つ!! 本気で指一本どころか腕一本落とすよ!? シュルシャガナなら最大限に痛みを与えつつ人体を切断するっていう拷問すら簡単にできるんだからね!? 分からず屋にはいいお薬(拷問)を処方してオペする覚悟は元から持ち合わせているからね!?

 

「そんなに下ろしたいんなら勝手におろしゃいいんじゃねえの? まぁ、俺達以外の手でこの宇宙船を止めたいんならあのメインブレインを破壊するしかねぇけどな」

 

 と言って宇宙人の一体が指さしたのは、壁の一部かと思っていた巨大な機会だった。

 その中心にはちょっと変わった六角ドライバーの形の溝が作られていて、恐らくあそこにドライバーを突っ込んで回転させることによってメインブレインっていうのを破壊できるんだろうけど……

 

「最も、あのドライバーは特殊な上に一昨日無くしちまったからなぁ。無理だと思うけどやってみりゃ……」

「へぇ……まさかこんな所にそんな物があるなんてねぇ……」

 

 もうこうなったらこの宇宙人共を拉致ってこの宇宙船を吹き飛ばしてしまおうか、と四人で顔を見合わせた時だった。マリアがいつの間にかわたしのヨーヨーの拘束から抜け出して立ち上がっていた。 

 だけどマリアは不思議な事にギアを纏っていない。流石に素手じゃあれを破壊する事なんてできないと言おうとしたけど、誰かが声を出す前にマリアは自分の服に手をかけてそのまま脱いだ。そして現れるマリアの胸に引っ付いた六角ドライバー……に似たドライバー。

 そう。六角ドライバーに似たドライバー。みんな六角ドライバーって言ってるけど、あれは正確には六角ドライバーじゃない。六角ドライバーに似た何かだって、わたしは最初に言った。

 そしてその六角ドライバーに似た何かは……

 

「な、なにぃ!? お、おまっ、そのドライバーをどこで!!?」

「お前らの自業自得よ、変態全身タイツ宇宙人! これでゲームセット、お前らに罪の意識を植え付けてあげるわ!!」

 

 駆けだすマリアとそれを止めようとする宇宙人。その宇宙人を翼さんが影縫いで拘束し、その間隙をマリアが走り抜ける。

 

「パイルダー・オンッ!!」

 

 マリアの気合の入った声と共にマリアのドライバーがメインブレインにハマる。なんていうか……絵面が酷い……

 

「おおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

 胸を機械に接触させたまま回転するとか言う、なんとも言えない光景を生み出すマリアだけど……ふと何かが気になったのか切ちゃんが声を上げた。

 

「あの、一ついいデスか?」

「あ?」

 

 切ちゃんの鎌を付きつけながらの質問に宇宙人は声を返す。

 

「さっきメインブレインを破壊って言ったデスよね?」

「そうだが?」

「この船を下ろすにはあれを破壊するか止めるしか無いんデスよね?」

「そう言ってんだろ」

「あれを破壊したらどうなるんデス? 普通に落ちるだけデスか?」

「んなモン爆発するに決まってんだろ。あれはこの宇宙船の全システムを統括してんだぞ? それが破壊されたらどこかもかしくも爆発してぶっ飛ぶわボケ」

 

 …………え?

 

「……な、なぁ。あれ止めねぇとマズいんじゃねぇの? なんか宇宙船揺れ始めたし……」

「ま、マリア!! 一旦落ち着け!! このままじゃこの宇宙船が爆発する!!」

「おおおおおおおおおおおあああああああばばばばばばばばばばばば!!」

「おい前回もこんなオチだったろ!!? こんなんでいいのかよこれ!!」

「いいワケが無かろうが!! おいマリア、本当に止めろ!! このままじゃ宇宙船が爆発して体どころの騒ぎじゃなくなる!! おい、マリ――」

 

 その瞬間、床に亀裂が走ったと思うと同時にそこから光があふれ出し、視界が真っ白に染まった。

 こ、こんなの……こんなの!!

 

「爆発オチなんてサイテー!!」

 

 あっ、なんか光が溢れて――

 

 

****

 

 

「……結局、ボク達の体は……?」

 

 恐らく宇宙船であろう物が起こした爆発を見上げながら、ボクは呟くのでした。

 ……これ、どうしましょう。




乳首が六角ドライバーに似た何かにたやマ、生えても問題ないかもしれない物に似たドライバーが生えてしまったビッキー、着脱可能な393。改めて見るとひっでぇ……

世界線的には前回のキャトられ時空からの続きと思ってもらっても構いませんし、そこから派生した世界の一つとして考えてもらっても構いません。多分この続きというかキャトられ時空の続きはもうありませんし。

そしてなんかまたビッキーのフィギュア化が決定してましたね。そろそろ調ちゃんも初のフィギュア化をですね……

あとプレラーティが十連三回目でやっとこさ出ました。初錬金術師な上に巧属性は層が薄かったのでちょっと嬉しかったり。あの人元オッサンなのに覚醒後のイラストのお尻がエロい……落ち着けあれは元オッサンだと言い聞かせてもやっぱり性癖には勝てなかったよ。
あ、ヘキサマリアは無事完凸しました。現在上限突破のための素材集め中ですが、技属性に完凸星五なんて当たり前のように居ないので体属性マルチHARD辛すぎる……

次回は未定です。ネタが特に無ければ声優時空やアイドル時空等の不定期連載系時空を書くと思います。でわでわ。


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月読調の華麗なるラジオ

今回は確か感想でラジオとかやると面白そうかもとか言われていたのを思い出したのでアイドル時空でラジオ番組です

あと間がかなり空いてしまって申し訳ない……!!

あ、クリスマスギアのセレナ出なかったので暫くセレナは出禁です。暫くガチャ引いて出たら出禁を解除します。出なかったら一、二か月の出禁を覚悟してもらおうか……!!


 有名な人とデュエットで組んでデビュー、というのもあまり大手振って喜べることだけではない。

 その人の後輩としてデビューして、一緒のステージに立つこともあるのだから、その後輩の悪評が少しでもあればそれは先輩の方にも響く可能性がある。その点、わたしは緒川さんっていう防衛ラインもあるし、わたし自身失礼が無いようにしてはいるし、スキャンダルとかも撮られないようにはしているんだけど……やっぱりそれでも多少なりともずるがしこい人は合間を縫ってスキャンダルを作り出してくるときがある。

 今日はそんなスキャンダルを発見してしまった。思わず溜め息を吐くような内容のスキャンダルではあるけど……緒川さんも気付かないほどこっそりと写真を撮るのは最早呆れるし、そんな事できるんなら他の仕事した方がいいんじゃない? と思う時もあるけど……

 

「……まさか緒川さんとファミレスで軽い打ち合わせの所を撮られるなんて」

「こんな所から……僕も少し不用心でした」

 

 本当に時間が少しだけ余って、まだお昼も食べてなかったのもあって緒川さんと一緒にファミレスに入ってその日の予定を確認しながらお昼を食べていた時の写真をどうやらいつの間にか撮られていたらしい。

 緒川さんは悔しそうな顔をしてるけど、流石にガラス越しでここまで距離があると気づく方がおかしいというか……

 このスキャンダル発覚は深夜ごろにわたしのツイッターのリプライで急にこの写真を送ってきた人がいたから即刻判明したんだけど……書いてあることが酷い。

 話題沸騰アイドルがプライベートで男とデートか、とか。まずこの時間プライベートじゃないし。で、月読調さんは業界内ではあまりいい立場ではなく……やかましいわ。かの風鳴翼のマネージャーと金銭以外のやり取りを持って関係を持ちデビューしたと言う噂も……うん、ここはあまり否定できないかも。だってプライベートでスカウトされたっていう関係だし。金銭以外だし。ただ、やましい関係は一切持ってないから。で、極めつけにはかつて自らの体を売る売春行為をしていたという噂まで、とか書いてあるし。

 いらっ。

 

「調さん、落ち着いてください。しかしまぁ……ここまでグレーゾーンな言葉でいい感じに煽ってくるなんて、逆に感心しますよ」

「これ、どうしましょう。ちょっと炎上してるみたいですし……」

「一応、僕の方からホームページで連絡だけしておきます。それに、炎上させているのは物好きな方だけで、僕もそこそこ調さんと一緒にバラエティで顔を出しているので向かいの男が僕だという事に気が付いている人も多いですからね」

 

 ほぼバラドルみたいになってきているわたしだけど、だからこそ時々顔を出していた緒川さんのお陰で今回の炎上事件はちょっとで済んでいる。何せわたしのファンの人は大体が緒川さんの事を知っているからツイッターとかブログでこれはマネージャーじゃないか? って言われてる。

 要するにマトモに取り合っている人の方が少ないという事。わたしとしては要らない悪評広められただけでいいお薬で手術タイムに入りたい所だけど、害はほぼ無いし……

 ついでにこの記者の人、前々からこういうアイドル系のスキャンダルをよくでっち上げている人だから、ツイッターではまたこの人か……で済ませている人も多数。掲示板の方でも一時期炎上したけど、すぐにこの人が書いているって判明した瞬間に炎上収まったし……

 

「まぁ、まともに取り合わなくても大丈夫でしょう。この人が無名の記者ならまだしも、悪評は多い記者ですから」

「そこまでスキャンダルをでっち上げるなんて、相当記者としての命が苦しいんでしょうか……」

「あ、あはは。それは僕にはどうにも」

 

 別に無理にわたしを狙わなくても他にも沢山スキャンダル抱えている人って居そうなんだけどなぁ。わたしってスキャンダルっていうスキャンダル持ってないし……それこそ装者っていう最大級のスキャンダル抱えているけど、それを記事にしようものならその人は確実に黒服さん達にドナドナだからね。

 それにやましい事でもないし。いつも通り自然体で行けば何も問題は無し。

 で、今日もこうしてファミレスで緒川さんと話し合っているんだけど、その理由は今日も今日とて予定合わせ。翼さんの送迎を緒川さんはしなくちゃいけないから、本来もっとゆっくりとお昼を食べる前に行うはずの予定合わせと軽い会議をファミレスで昼食を兼任してやっている。これはその一幕だったり。

 えっと、今日の予定は……

 

「ラジオが今回と次回の分、ですね。あとはマリアと一緒に帰宅、と」

「はい。時間の方は……そうですね、それで大丈夫です」

 

 実は、風月ノ疾双はラジオを始めた。この間のマリアとの合同ライブの後から始まったんだけど、これが予想以上に好評……というかゲストとしてマリアがよく来ること、翼さんはメインパーソナリティーではないけど高頻度で来てくれる事が結構好評というか意外性を持っているというか。そうした面でのアピールもあってかそこそこに人気な番組になった。

 題名は疾双ラジオっていう、まぁ結構シンプルな題名だけど……翼さんに任せたらとんでもない物を出してきたから、これに落ち着きました。はい。

 で、今日の仕事は午後からのこれだけ。しかも最初の回はマリアと、次の回は途中で合流する翼さんと一緒のラジオ。何気に楽しみ。

 

「では、そろそろ僕は翼さんを迎えに行ってきます。もうすぐマリアさんも到着するので、マリアさんとゆっくりお昼を楽しんでからお仕事に向かってくださいね」

 

 緒川さんはそう言うと、お昼代を経費で落としてからファミレスを出て……あっ、車に乗る前にどこかへ走っていった。多分またスキャンダル企んでる人がいたんだろうなぁ……ご愁傷様。笑顔の緒川さんは怖いですよ。

 ふぅ……予想以上に早く食べちゃったし暫くコーヒーブレイクとでも……

 

「あら調。もう食べちゃったの?」

「あ、マリア。うん、結構早めに着いちゃったからね。マリアも早いね」

「道が空いてたのよ。タクシーのドライバーも中々気が利いたし、いう事なしの移動だったわ」

 

 いくら緒川さんでもあっちこっちで仕事をするわたし達三人全員を送迎するなんてできないから、時々こうやってタクシーでの移動を挟むときがある。わたしはまだこの業界に入って日も浅く、まだ心配だからっていう事であまりタクシーで帰ったり移動したりはしないけど、マリアと翼さんは結構タクシーや電車で移動することが多い。

 わたしはドリンクバーの方で注いできたコーヒーを片手に優雅な一時……的にカッコつけてた所だったからちょっとだけ恥ずかしい所を見られたけど、まぁいいや。時間もあるし、ゆっくりとマリアと話そう。

 

「案外ファミレスも美味しそうなものがそろってるわね……調は? まだ何か頼む?」

「ううん。さっき食べたばかりでお腹いっぱいだから」

「そう。なら私だけ頼んじゃうわね」

 

 そんな感じでマリアがちゃちゃっとお昼を頼んでからはマリアとメールとか電話では話さなかった近況とかを話した。

 勿論あまり暗い事……それこそ芸能界の黒い事は話さないけど、翼さんがやらかした事を面白おかしく話してみたり、マリアが経験した大変な事を冗談交じりで教えてもらったり。で、そんな大変な事を聞いたからついついポロっと色々話したら一瞬マリアが能面みたいな表情になったり。

 え? 何話したかって? わたしが枕してる噂が流れたり、そのせいで勘違いした下半身と脳が直結されてる馬鹿が馴れ馴れしく触ってきたりとか。翼さんには一応相談したけどマリアには言ってなかったんだよね……勿論手は出されてないからって言うとマリアの表情も幾分か元通りになったけど。

 ちなみにマリアもまだ駆け出し時代はよく番組に出すから代わりに……とか言われ続けたらしい。当たり前のように全部蹴っているみたいだけど。そういう輩の言うこと聞いたら落ちる所まで落ちる可能性も無きにしも非ずだしね。

 

「私、そういうのってネットの冗談だとずっと思ってたのよねぇ……だから余計にこう、失望というか何というか……」

「まぁ、芸能人故の悩みだよね……」

 

 枕とかが消えないのって、腐った人間が腐った事を教え込むから続いちゃってる悪循環みたいな感じだし……

 いや、どこもかしくもそうって訳じゃないよ? わたしが今まで知り合った番組プロデューサーさんとかテレビ局の社長さんの中にはいい人だって沢山いたし。これから向かうラジオ局の人たちもみんな……みんなじゃないかな、うん。殆どがいい人だし。

 どうしてみんなじゃないかって? わたしがアッパーカットを決めた事件があったって言葉で察してほしい。割と本気の拒絶だったよ。

 

「調は可愛いから手を出したいのは分からないでもないけど……」

「か、可愛いって……急には照れるよ、マリア……」

「そういうのが可愛いのよ」

「で、でもそんな事言ったらマリアだって美人さんだし、どこがとは言わないけど大きいし……そんじょそこらのモデルよりも圧倒的に綺麗だし……」

「ふふ、ありがと」

 

 うぅ……やっぱりこういう言葉遊びじゃマリアに勝てる気がしない……

 でもマリアって綺麗な割には男の人が――

 

「調、それ以上考えたら私にも考えがあるわ」

 

 ……ごめんなさい。

 

「……さて、お昼も食べ終わったし行きましょうか。後はブースで打ち合わせね」

 

 マリアに対する婚期弄りというか男の有無を使った弄りはしちゃいけない。わたしは改めてその掟を胸に刻んでからマリアと一緒にファミレスを出た。

 

 

****

 

 

 場所は打って変わってラジオのブース内。結構狭い室内の中にはわたしとマリアが対面して座れる感じの机と椅子があって真ん中には一個何万円するのか分からないマイクが。

 机の上にはお水やお菓子、それから今回の台本がある。台本は何分までにどんなことを話すか、この宣伝コーナーでは何を話すかっていうのが書いてあるくらいで、後はわたし達が結構自由にやっちゃう感じの結構フリーダムなラジオになっている。

 わたしが翼さんやゲストの人……というか身内のマリアと色々とプライベートとか赤裸々に話すのがこのラジオの持ち味的な感じにもなってるから、最初は結構ガッチガチの台本だったけど数回経ったらこんな感じになっちゃったんだよね。台本ぺらっぺらだし。

 

「じゃあ今日は何話そうかしらね」

「うーん……この間の切ちゃんとか?」

「それはもう話したから……響の事とかどうかしら?」

「あ、採用」

 

 そんな感じで打ち合わせというのは名ばかりの駄弁りのテーマ決めを行っていると、いつの間にかラジオの収録開始が迫っていた。その合図を黙って聞いてからヘッドフォンから聞こえるスタートの声に合わせてわたしがちょっとテンション高めにタイトルコール。

 

「月読調と風鳴翼の! 疾双ラジオ~!!」

 

 本来翼さんが居るのなら風鳴翼の、の部分は翼さんがコールするんだけど今回は居ないからわたし一人のコール。最初は寂しいと思ったけどもう慣れました、はい。

 暫くオープニングテーマが流れてからわたしが恒例の挨拶。その後にマリアの自己紹介が入る。

 うん、普通のラジオだね。

 

「はい皆さん、こんにちにゃ~。風月ノ疾双のマトモな方、月読調で~す」

 

 こんにちにゃ、と言うのはわたしが初回で噛んだ時に出てしまった謎の挨拶で、どうしてかそれが番組の挨拶となってしまいました。最初は恥ずかしかったけど今は以下省略。

 

「このラジオはわたし達、風月ノ疾双の事をもっと知ってもらいたい、ファンになってほしい、ついでに翼さんの後輩であるわたしが翼さんのあれやこれを暴露するための番組です。といういつものテンプレを言ったところで今回のゲスト紹介」

「みんな、こんにちにゃ。最早ゲストというよりは準レギュラーのマリア・カデンツァヴナ・イヴよ。もうこの挨拶にも慣れた物よね」

「三回に一回くらいのペースで来てるもんね」

 

 結構高頻度……というか準レギュラーも真っ青の頻度で来ているマリアはネットだともうレギュラーになっちまえよ、とかただの家族団欒じゃねぇかとか。そんな感じの事を色々言われている。

 時折、忘れてるかもしれないけどこの人世界の歌姫ですとか暇なの? とかそんな感じの言葉も見るけど……マリアだって色々工面しているみたいだし許してあげよう?

 

「早いものでこのラジオも始まってからそこそこ経ったけど、なんか色々緩くなったよね。最初は分厚かった台本も今はぺらっぺらだし」

「水しかなかった机の上もお菓子とジュースで埋め尽くされて、終いには携帯弄る始末だもの」

「それでも怒られないしそこそこ聞かれているのが二大スターの力。ありがたや」

「ラジオの前のみんな、これがコネを得た人間の力という物よ。若い人は今の内にコネを作っておくことをオススメするわ」

 

 なんて、同業の人に聞かれたら色々言われそうな会話をしつつ……一応、マズかったらカットお願いしますとだけ伝えてからありきたりの無い会話をしてオープニング終了で一旦CM。そこからマリアともう一度一緒に挨拶をしてから改めてコーナーに。

 

「はい、ではここからは皆様から頂いたお手紙を読んで返信の時間にさせていただきます」

「このコーナーもおなじみよね。確か初回からやっていたのかしら?」

「うん。初回はわたしの身内とかTwitterとか番組関係者の人たちから質問を貰って、それの返信をしてたけどね」

 

 栄えある第一回の質問は切ちゃんから貰った質問でした。好きな食べ物はなんですか? って書いてあったからちょっと笑っちゃったよ。知ってるでしょって。

 思わずこれ、いつも会ってる友達ですって言っちゃったし。

 さて、話が逸れるからこのぐらいにして……まず最初は。

 

「えー、ペンネーム、ミニライブの時からずっと推していますさんから」

「ペンネームが愛に溢れてるわね」

「ミニライブってあれだよね? 翼さんとユニット組むって急に発表されたわたしのデビューの。こう言われると照れ臭いけどすっごくありがたいよ」

 

 まさかあそこで偶々わたしの歌を聞いた人も、まさかわたしが翼さんとユニットを組むとは思いもしなかったと思う。でも悲しいかな、流石に全員分の顔を暗記はできていないから顔を出されても分からないと思う。

 で、お手紙にある最初の挨拶のテンプレをマリアと一緒にしてから本題に。

 

「えっと、わたしとマリアの馴れ初めをもっと詳しく聞きたいです、だって」

「つまり合同ライブの時にちょっと口にしたアレの詳細よね?」

 

 わたしとマリアの視線が一瞬だけ交差する。

 何故ならわたしとマリアの馴れ初めってあんまり褒められた事……というか人に言いふらす事ってできないからこういう質問が来るとどうしても困っちゃうというか。いつもなら緒川さんが先に取捨選択してくれて、少しでも装者に触れそうな話題は全部弾いてくれているんだけど、今日は緒川さんチェックが無かったみたい。

 でも、流石にそろそろ嘘でも言っておかないと変な噂とか立つかもだし……マリア、そういう訳で話を適当に合わせよう。

 

「まぁぶっちゃけると私と調はアメリカのとある施設で一緒だったってだけなのよ」

「っていきなりぶち込んできたね……」

「隠す事でもないでしょ? そこで私達の親代わりの人……私も調も、調の親友の子もマムって呼んでるんだけど、その人に引き取られてからずっと家族同然で過ごしてきたのよ」

 

 うん、嘘は言っていない。何にも嘘は言っていない。思いっきり濁しているし引き取るというか作戦上身元を預かると言った方が正しい感じはするけど嘘は言っていない。

 

「まぁ、大体そんな感じだよ。当時はまさかわたしもマリアも芸能界入りするなんて思わなかったけど」

「調の帰国子女っていうのも、それが主な要因ね。私が十歳くらいで調が五歳くらいの時からずっとアメリカで一緒だったから」

「それでマリアが芸能界入りして、日本で活動するって決めると同時にわたしも日本に戻ってきたの」

「まぁ色々とあったけどその後はみんなが知る通りよ」

 

 装者……というかフィーネ関連の事はぼかして視聴者の皆様に伝える。

 うん、色々の部分は聞いてる人全員が察しているだろうね。だってあの時のマリアって未だにネット上の素材として人気だから。

 一生ネットの晒し者とか言われているけど、それでも人気が高いままなのは素材としての認知度がそのまま人気に直結しているのか、それともマリア自身の人気がその程度で落ちないくらいに大きいのか……どっちもだろうね、うん。わたしは表立って行動してなかったから素材にはなってないけど。

 時折響さんに国際全裸放送の事言ってみると面白い反応が返ってくるっていうのは完全に余談。

 

「翼さんと知り合ったのも、その色々があった時だね」

「あの時は……まぁ色々とやらかしたけど今じゃいいパートナーよ。だからこそ調の事を頼めるわけだし」

 

 よく考えると、あそこまで敵対していたのに今じゃ仕事でもプライベートでもいいパートナーって凄い事だよね。実際、二人がセットの仕事ってフロンティア事変の後の処遇ってことを除いてもかなり多いし。

 さて、あんまり馴れ初めの事は話せなかったけどこの程度でいいかな。

 

「じゃあそろそろ時間だから次のお便りを。えっと、ペンネーム、きねくりパイセンから……んんっ!?」

「きねくりって……あの子、何してんのよ……」

 

 こ、これ、クリス先輩からだよね? どうしてあの人がこんなお便りを……

 とか思っているとブースの外で機材を弄っている人の一人がカンペを。えっと……?

 

「……このお便り、どうやら先ほど急にわたし達のマネージャーから来たメールを文章化したものらしいです」

「ここでどうして私達が困惑してるかを説明すると、この子、翼の後輩で調の先輩なのよ。一度私と調で翼へのドッキリをした時があったじゃない? その時に混ざっていた子の一人よ」

 

 あ、緒川さんからメールが……えっと、今届いたお便りは絶対に読んでくださいとのこと。

 えぇ……? なんかこういう時の緒川さんって色々仕掛けてくるからちょっと嫌な予感がするんだけど……まぁいいや。出されたお便りは読まないと。

 えっと、内容は……あれ? 短い?

 

「助けてくれ、センパイに拉致られた……はい?」

「これはどういう事……? あの子の言うセンパイって……」

「翼さんだね。本当にどういう意味?」

 

 とりあえず頑張って逃げてくださいとだけ答えてからわたし達はこのお便りを無かったことにして次のお便りに移行した。

 いつも通り特に中身のない質問からの特に中身のない会話をしたり、仕事の事について聞かれたからソレについて話したり、わたしの学校生活なんて物も聞かれたから当たり障りのない程度に答えたり。

 そうしている内にお便りの時間は無くなって、CMの後に次のコーナーに移行する事になった。お菓子食べたりお水やジュース飲んだりしてちょっと一休止入れてからさて、次のコーナー。なんだけど、なんだか外の様子が騒がしい……? なんか急にドッタンバッタンし始めたというか……

 まぁいいや。オーケー出てるし。

 

「なんか視界の外でドタバタしてますが次のコーナー! 月読調の――」

 

 コーナー名をちょっとハイテンションな感じで叫ぼうとしたその瞬間だった。

 急にブースの扉が思いっきり開かれてそこからあの人達が入ってきたのは。

 

「ここで先輩の乱入だ月読ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」

「どうしてアタシまでぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

「きゃああ!!?」

「な、何事ぉ!!?」

 

 つ、翼さんと……クリス先輩ぃ!!?

 ど、どうしてここに!? 特に翼さんは次のラジオからじゃなかったっけ!? あれ!? こんな事台本に書いてないけど!!?

 

「ははは!! 待たせたな月読、マリア! 雪音を拉致ってたら時間がかかった!!」

「何してくれてんすかセンパイ!! 今完全に収録中だろ!?」

「ふっ、私と月読、それからマリアの勝手知ったる仲だ。乱入程度今更だろう?」

「そりゃプライベートならまだしもこれ本番中だかんな!? っていうかアタシ完全に部外者なのに入っちまって良いのか!? 思いっきり声入ってんだろこれ!?」

 

 い、一応わたしの席が一番扉に近いからわたしの後ろで思いっきり叫び合ってる赤青コンビの二人だけど、クリス先輩の懸念の通り思いっきり声入ってます。生放送じゃなくてよかった……

 っていうかこれ本当にどういう事? マリアも知らないみたいだし……ど、どうしようこれ。

 あ、緒川さんからのカンペが。えっと……サプライズゲスト翼さん、スペシャルゲストクリス先輩でお願いします……!? あ、あの人、絶対にその方が面白くなるからってクリス先輩連れてきたでしょ!? っていうかさっきのお便りってこういう事!?

 

「急にアタシの部屋に突撃して拉致られたと思ったらこんな所にぶち込まれるアタシの身にもなれってんだ! 第一アタシは芸能人じゃねぇからな!?」

「ふっ、案ずるな雪音。案外このラジオはそこらへん緩い」

「決め顔で言う事じゃねぇの忘れんなよ!?」

「あーもうカットカットカット!! 一旦落ち着きましょうクリス先輩!!」

 

 このままじゃ絶対に埒が明かないと思ったわたしは一旦収録を止めてもらうためカットと言ってからクリス先輩をお菓子とジュースで宥めて、ようやく落ち着いたころに緒川さんからの指示でわたしとクリス先輩、マリアと翼さんで隣り合って座ってから……

 

「……えー、はい。お騒がせしました。さっきまでの放送事故で気づいているかと思うけど、今回のサプライズゲスト、翼さんです」

「この番組のレギュラー、風鳴翼だ。今日はサプライズを引っ提げてやってきたぞ」

「で、そのサプライズにされた特に芸能人でもなんでもない、わたしの学校での先輩で翼さんの後輩であるロリ巨乳な銀髪美少女、雪音クリスさんです」

「どうしてこうなって……本当にどうしてこうなった……!! ……あぁ、自己紹介か。ドーモ、雪音クリスだ。なんか家で漫画読んでたら急にセンパイ……じゃなくって風鳴センパイに拉致られて連れてこられた」

 

 わたしの疲れ切った声と翼さんの生き生きとした声と、クリス先輩のもうどこか達観したような声。ご苦労様です、とクリス先輩に言ってみると、クリス先輩はお前もな……と返してくれた。

 お互い、破天荒な先輩を持つと苦労しますよね、ホント……

 でも、まさかクリス先輩の乱入を番組のプロデューサーさんと緒川さんが認めるなんて……どうやら今回のラジオ、知らない間に映像付きで録音されてたらしくてさっきまでのわたし達のダラーっとした感じが思いっきり映像で録画されて後で特別配信されるみたい。だからクリス先輩も思いっきり芸能界デビューです。やったね。

 

「普通に芸能人のゲストなら紹介もするんだけど、この人って本当にわたしの先輩で翼さんの後輩でマリアの友人って程度だから何もいう事ないんだよね。後はツンデレとしか」

「誰がツンデレだおい。あとさっきのロリ巨乳ってどういうことだ」

「わたしよりちょっと数センチ身長が大きい程度でマリア並みの胸ですから」

 

 結構忘れられてるかもしれないけど、クリス先輩って切ちゃんよりも身長低いんだよね。わたしと並ぶとほぼ変わらないくらいなのに、わたしより十数センチもおっぱい大きいし……

 ……やっぱり子供の頃のあれやこれなのかな? もっと牛乳飲んだら今でも何とかなるかもしれないと思って牛乳飲んでるけど一向に大きくならないし……ぐぬぬ。

 

「多分視聴者のみなさんは展開についてこれていないと思うけど、ここからは翼さんとクリス先輩を交えてやっていきます」

「いや、マジでやんのか? アタシ、マジでド素人だぞ?」

「だって番組側からオーケー出ちゃってますし……」

 

 チラッと機材席を見ると緒川さんとプロデューサーさんから思いっきりオーケーサインが。

 まぁ、今回は映像付きらしいし、クリス先輩をこっち側に引き込めると思えばこの程度……

 

「こうして後輩と共にラジオを撮る……中々にいいものだな、マリア」

「そうね。最初は困惑したけど完全に身内のノリでやるラジオも中々に面白そうよね」

「マリアはもう少し何か言おうよ……」

「アタシはこっちの道に来るつもりないんだけどなぁ……!!」

 

 まぁそんな感じで完全に身内のノリでラジオは再開するのでした。

 

 

****

 

 

 ここからダイジェスト。

 収録は三十分のが二回の計一時間構成。そこに没とかが入るから大体二時間くらいが収録時間。休憩を入れるともうちょっと長いかな。

 それで、クリス先輩と翼さんを交えた、新人アイドル、世界の歌姫、世界的歌手、一般人っていうもう何が何なのか分からない四人でのラジオは……まぁ、装者四人集まっているんだからロクな事にならないよねって。

 まずコーナーを一つ潰してクリス先輩にラジオに慣れてもらうためにやったフリートークだと……

 

「雪音はもうちょっと素直になってもいいのだぞ! ほら、私の事を翼先輩と呼ぶんだ!!」

「この人なんでこんなにテンションたけぇんだよ! 余計に嫌だわ!!」

「どうしてマリアの事は普通に呼ぶのに私だけ苗字だったり先輩だけなんだ!! もっと甘えてこい雪音!!」

「だぁこの人めんどくせぇ!!」

 

 こんな感じで翼さんが大暴走。この人、ホントにクリス先輩大好きだからなぁ……特にこの場だとクリス先輩もあまり大きく騒げないと思って好き勝手言っているんだと思う。わたしとマリアは苦笑いしながらでしか見れないよ。

 

「おい、センパイっていっつもこんな感じなのか?」

「いっつもじゃないですけど……時折テンション高くなりますね」

「さぁ雪音! 私の事を名前で呼ぶがいい!! さぁ、さぁ!!」

「ちょっせぇ事言い続けんなよセンパイ!!」

 

 まぁこんな感じでフリートークは終始翼さん大暴走。クリス先輩がツッコミっていうわたしとマリアが横でジュース飲んでるだけのフリートークになった。

 で、次にやったコーナー。映像付きだからという事で行った、番組側から出されたお題を書いて、一番そのお題に沿ったものを描けた人が優勝っていうコーナーをやった。それで、お題は動物園っていうことになったんだけど……

 

「じゃあわたしのから。はい」

「うむ……制限時間内に書いたのなら普通だが、お題を見てからでないと分からないな」

「まぁ及第点じゃね?」

「じゃあ次は私ね。どうかしら」

「それっぽいが月読程じゃないな」

「やった、勝った」

「なら次はアタシだな。ほい」

「……もうちょっと頑張りましょうか」

「うっせぇ!!」

「いだだ!!」

 

 思いっきりほっぺた掴まれました。痛い。

 で、最後に問題も問題の翼さんなんだけど……なんでこの人さっきからワクワクしているんだろう。ちょくちょく見えるフリップからなんか悍ましい気配が漂ってくるんだけど。

 

「なら次は私だな。見るがいい、これが私の力作だ!!」

 

 と言って見せてきたのは……

 

「ひいいいいいいいいい!!?」

「これこの世に存在していいモンじゃうおぇっ!!?」

「中止中止中止!! いいから映像切りなさい大惨事になるわよ!!」

「どうしてだ!? こんなにも上手く描けただろう!!?」

「それは愛らしい動物の群れじゃなくて悍ましい神話生物の群れよこのバカモリッ!!」

 

 こんな感じで放送事故が起きました。

 えっと……その、思い出すのも憚られるんだけど、翼さんの描いた絵はとんでもなく邪悪で、あっちからこっちを見てきているような……正しく神話生物とか邪神とか、その類のものが描いてあるトンデモない絵でした。

 一応わたし達の絵は後で限定公開されたんだけど、翼さんの絵だけはモザイクがかけられた。のにも関わらず、見た瞬間に気分を害する人が多数現れて即座に削除。次のラジオでは開幕冒頭で謝罪すると言う事件にまで発展した。あの人の絵、日に日に悪い方向に進化しているような……

 切ちゃんが見たら気絶するまであるんじゃないかな……?

 で、数分後。

 

「……はい、お騒がせしました。もう二度と翼さんにはペンを持たせません」

「何故だ……何故だ……!!」

「さっきの惨状見て懲りろよセンパイ……っ!!」

 

 恐らくこのコーナーは二度とやらないだろうって事で決着した。

 そんな感じで大惨事を巻き起こしながらもラジオは恙なく進んでいき、最後のエンディングに。

 

「さて、もうお時間になったけど、クリス先輩、どうでしたか?」

「案外緩い感じで驚いたな。こういう収録ってもっとお堅いモンだと思ってたわ」

「まぁ普通はそうね。でもここは身内のノリだから」

「雪音、これを機に芸能界入りはどうだ? 私が一から十までサポートするぞ」

「いや、遠慮するわ。アタシのガラじゃないし」

「くっ……!! いつもこうして勧誘に失敗する……!!」

 

 まぁそんな感じでグダグダとやってから別れの挨拶をして、少し休憩をはさんでから来週分のラジオの収録を行いましたとさ。

 で、今回のラジオは言った通り映像付きで配信されたんだけど、クリス先輩の件でコメントは大盛り上がり。わたしから見ても十分に美少女な上に胸も大きくて童顔な上に背も小さい。性格は強気だけど言葉の節々から出る優しさに惹かれる人多数で、クリス先輩のデビューを望む人たちの声がちょくちょくと。

 それを伝えるとクリス先輩は顔を真っ赤にして「やっさいもっさい!!」と叫んでどこかへ行ってしまった。きっと恥ずかしかったんだと思う。クリス先輩ってこういう所が可愛いんだよねぇ……

 ちなみにその後クリス先輩は緒川さんからのスカウトを蹴り続けたけど、ラジオの方でクリス先輩のゲスト出演を望む声が増えて、ギャラも出るということでクリス先輩はお小遣い稼ぎも兼ねながら時々ラジオ出演をしてくれるようになった。

 この人、アイドルになったら絶対に成功すると思うんだけどなぁ……

 とりあえず、今度は翼さんへのお返しとして響さん辺りを乱入させる計画でも考えておこう。




そんなワケで何故かゲスト出演させられたきねくり先輩でした。愛されガールだからね、仕方ないね。そして進化していく翼さんの画伯レベル。最早天災の域に。

前回から今回までの間に片翼の続編でパヴァリアが出てきてファウストローブType-Ⅱが出てきて新曲が発表されたり、アゾースギア……リビルドギア? どっちか分かりませんけど、恐らくXVからの通常時ギアとなるソレが出てきて調ちゃんクッソ可愛いって思ったり、調ちゃんの裸Yシャツメモリアえっちすぎてリアルで悶えたりとか色々とありましたけど、一番大きかったのはXVの放送時期が伸びた事ですかね。

三か月だけではありますけど、まさか伸びてしまうとは……でもG、GX、AXZは二年スパンで夏放送でしたから、ちょっと早めに放送予定だったのが元通りになったと思えば。それに、三か月伸びる事で納得のできになるのなら三か月と言わずどれだけ伸びても自分は納得と言った感じです。
だけど伸びるたびに何をしてでも生きなきゃならない時期が伸びていく……俺はトラックに跳ねられようが心臓刺されようがXV見るまでは意地でも死なんぞぉ……!! 見た後になら死んでやるぅ……!!

まぁ他にも色々と語りたい事はありますが今回はこれぐらいで。ちなみにファウストローブType-Ⅱのプレラーティは出ませんでした。あのオッサン、エロい癖にお高く留まりやがってぇ……!!
あとキャロルちゃんはいつになったらプレイアブル化されるんですか……?(素朴な疑問)


P.S
なんかビッキーときねくり先輩のウエディングビキニとか言うとんでもなくエロい物が公式から出てて笑った。どうせならシンフォギアの色気担当である調ちゃんのウエディングビキニをデスね。
でも調ちゃんの公式抱き枕えっちぃので何かもう満足でもあるけどもっと供給してほしいという感じがヤバイデス。


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月読調の華麗なるぷちそうしゃ

副題『ぷちふぉぎあ! -プチ・シンフォギア-』

という訳で今回の話はサブタイから分かる通り、シンフォギアでぷちますです。ぷちます読み返していたら響(我那覇)と響(立花)って共通点あるしぷちそうしゃとか出てきたら可愛いよなぁ、とか思って、気が付いたら書いていました。

そんな感じで生まれた新たな時空の話です、どうぞ。


 装者としての訓練は朝早くからやる時もあればお昼過ぎにやる事も、はたまた放課後にやる事もある。時間にルーズと思う人もいるかもしれないけど、基本的にわたし達の私用とかを考慮した時間にやる事になっているから時間は結構まちまちだったり。

 そんな今日の訓練は休日のお昼から。訓練はわたしと切ちゃん、それから響さんとクリス先輩の日本に滞在している装者四人での合同訓練。だからわたしはちょっと早めに出て、本部で適当に時間でも潰しているかエルフナインとお喋りしてようと思って本部まで来た。

 今日の訓練も多分ハードだけど、ハードな分それだけ力が付くと思えば充実した時間になる事は間違いないし、こうやって一歩一歩努力をしていく事が適合率も上げていつかLiNKER無しでもシンフォギアを纏えるようになる事に繋がると思っている。だから、訓練と言えど気は抜けないしサボるなんて以ての外。

 まぁそんなワケでわたしは本部に来たわけなんだけど……今、わたしは早めに来たことを後悔しつつも早めに来て良かったと思った。その理由は、わたしの足元にある……いや、いるって言った方がいいのかな? まぁ足元にあるソレが原因だった。

 

「……こ、これは一体……」

 

 足元にあるのはダンボール箱。それはちゃんと中身が見えるように開封されていて、蓋も空いている。

 で、その中にいる子が、わたしが今現在、大いに困惑している原因でもあった。

 そう、本部前に置いてあるダンボールの中にいる子が。

 

「でーす……でーす……」

「くー……くー……」

 

 そんな感じで寝息を立てている二人のちっちゃな子。

 ダンボールには拾ってください、って書かれた紙が貼り付けてあって、ダンボールの中にはあったかそうな毛布が敷いてある。その上で丸まって寝ている二頭身くらいのピンクと緑の子。

 寝息が特徴的すぎて分かっていると思うけど、これは……

 

「こ、これ……わたしと切ちゃん……!?」

 

 そう、わたしと切ちゃんをそのままデフォルメして二頭身くらいにした子が、ダンボールの中で眠っていた。

 ……また聖遺物なんだろうなぁ。はぁ……

 

 

****

 

 

 二頭身デフォルメされたわたしと切ちゃんが入ったダンボールは、それを抱えて本部に入ったわたしを迎えに来たエルフナインに見られてあれやこれやという間に非常招集がかかり、先にわたしとエルフナイン、それから風鳴司令が司令室に集合する羽目になった。

 その際に起きたわたしと切ちゃんの二頭身はダンボールの中でじゃれ合ってるけど……

 

「で、エルフナイン。この子達の事分かる?」

「聖遺物が実体でも持ったのか……?」

「いえ、ボクも何がなんやらなので……でも可愛いですねぇ」

 

 ダンボールの中で抱きしめ合ったり擽り合ったりしている二頭身のわたしと切ちゃん。

 確かに切ちゃんの方は可愛いと思うけど……もう一体、じゃなくてもう一匹? もう一人? はわたし似だから特に何も思わないというか。自分を見て可愛いとかカッコいいとか思う人なんていないでしょ?

 試しにエルフナインが二頭身の子達を抱えて床の上に置いてみると、わたし似の子と切ちゃん似の子がこっちを見てきた。

 

「じーっ」

「でーす?」

 

 うっ……切ちゃん似の子可愛い……!! そんな目で見られると抱っこしたくなる……したくなるけどここは我慢! わたしは我慢できる女!!

 わたしが内なるわたしと格闘していると、エルフナインがダンボールの中に何かを見つけたのかガサガサとダンボールの中を漁って目的の物を取り出した。あれは……手紙?

 エルフナインは訝し気に手紙を見つめた後、読まないと解決しないだろうと思ったのか手紙を開封して中を見た。

 

「えっと、拝啓シンフォギア装者の皆様。私達の実験にて産まれた子、通称ぷちそうしゃをこの度預かっていただきたくこの手紙を出した所存でございます」

 

 ぷ、ぷちそうしゃ……?

 確かにこの子達は装者であるわたし達に似ているし、ぷちって感じだけど……

 

「お気に召さないようでしたらぷちそうしゃが入っていたダンボールをそのまま郵便で送っていただければこちらに送り返されますので、ご安心ください。引き取ると言うのならどうぞ貰ってやってください……だそうです。ご丁寧に組織名と差出人の名前も書いてありますね。黄金(こがね)さん、でしょうか? 日本の方みたいです。研究所も日本みたいですし」

 

 は、はぁ……

 その、なんていうか……色々と予想外にもほどがあるんだけど。ぷちそうしゃって何……? っていうか実験で生み出されたってどんな事してたの……?

 エルフナインが調べてみると、どうやら平行世界に存在するらしい生命体、通称ぷちどるを再現して生み出す実験をしていたらしくて、この子達はその成功例みたい。どうやらSONGによく協力してくれている研究所らしいから探せばすぐにヒットした。わたし達の素性を知ったのもSONG関連の研究所だったからみたい。

 というかこの人たちどうやって平行世界の事を観測したんだろう……ギャラルホルンってこういう人たちも使えるのかな……?

 

「ダンボールに貼ってある紙の裏に名前らしきものが書いてあるな。きり、しらというらしい」

「きりちゃんとしらちゃんですか……そのままですね」

 

 安直な名前だなぁ……というかどうやって切ちゃんときりちゃんを呼び分けよう。きりって呼ぶのもなんだか違和感あるし……まぁいいや。そこら辺はインストネーションを変えるとかそんな感じでやっていけば。

 で、名前を呼ばれたきりちゃんとしらは何事? と言わんばかりにこっちを見ている。

 

「えっと、きりちゃんとしらちゃんはボク達の言葉、分かりますか?」

「でーす!」

「こーしょん」

 

 まさか言葉が分かるのかな? って思ったらしいエルフナインが試しに聞いてみると、二体……あぁもう二人でいいや。なんか違和感あるし。

 二人は声を出しながら両手をあげて分かってるよ、と言わんばかりの合図をした。

 というかきりちゃんは切ちゃんベースだからでーす何だろうけど、なんでわたしの方はこーしょん……? 確かにハートがコーションコーションって歌ったけども……まさかそれ? あとじーってさっき言ってたし……

 とりあえずどこかに行かれても困るからわたしがきりちゃんを、エルフナインがしらを抱っこして今後の方針を決める事になった。

 

「とりあえずこのぷちそうしゃは俺達が預かるか、それとも調くんが預かるかになるな」

「え? わたし達が引き取るのもいいんですか?」

「きりくんもしらくんも、君たちが元となっているのだからな。君たちが預かった方がこの子達も負担にはならないと思ってな」

「でーす!!」

 

 抱っこしてぷらぷらと揺らしているきりちゃんが元気な返事をするけど、どうしよう。

 わたし達の部屋は特にペット禁止じゃないけど、この子達がペットという括りになるのか分からないし、まず誰かに見られたらどうしようもないと思うし……でもきりちゃん抱き心地いいから持って帰りたい……でも何食べるのかも分からないし……犬や猫みたいに扱うべきなのか普通に人として扱うべきなのか……

 SONGに預ければ何の心配もないんだろうけど、それにこの子達がストレスを感じるのも嫌だし……というかきりちゃん可愛いし。

 

「とりあえず切ちゃんと相談してみます。わたし一人じゃ決められないので」

「その方がいいだろう。とりあえず今日の所は訓練を中止にしてぷちそうしゃの扱いについて話し合う事に……」

 

 改めて風鳴司令が装者のみんなが集まったらやる事の予定を組み立て始めた時、司令室に繋がる扉が開いて、どうやら今来たらしい響さん、未来さん、クリス先輩、切ちゃんがドタバタと慌ただしくやってきた。

 どうしてそんなに急いでいるんだろうと思ってすぐにそっちを見て思わず唖然とした。

 何故かと言うと響さんとクリス先輩はダンボールを抱えていて……うん、もうこの時点でみんな察してると思うけど、そのダンボールからはデフォルメされた切ちゃんを除く三人、に加えて今は外国にいるハズの二人のぷちそうしゃが顔を覗かせていたから。

 

『なんかちっちゃいわたし(アタシ)達が玄関前に!!』

 

 どうやらぷちそうしゃはきりちゃんとしらだけじゃなかったみたい。

 というかどうして未来さんのぷちまで居るんだろう……

 

 

****

 

 

 混乱している四人をなんとか落ち着かせながら確認したぷちそうしゃの名前は結構覚えやすかった。

 響さんのぷち、びっきー。未来さんのぷち、みくさん。翼さんのぷち、ちゅばさ。クリス先輩のぷち、くりちゅ。マリアのぷち、まりにゃ。切ちゃんのぷち、きり。わたしのぷち、しら。これが現在司令室にて姿を確認されたぷち……恐らくぷちそうしゃ全種類。

 これで全員なんだよね、びっきー?

 

「ごはん!」

 

 ……合ってるよね、みくさん。

 

「ひびき!!」

 

 ……ちゅばさ?

 

「じょうざいせんじょう」

 

 そういえばこの三人は会話によるコミュニケーション取るのほぼ不可能だっけ……

 えっと、じゃあくりちゅとまりにゃ。これで全員でいいんだよね?

 

「やっさいもっさい!」

「ふぃねふぃね」

 

 こくこく頷いているからどうやらこれでぷちそうしゃは全種類らしい。というかくりちゅも結構コミュニケーション辛いなぁ……鳴き声がやっさいもっさいなんだもん。

 鳴き声についてはびっきーがごはん、もしくはみく。みくさんがひびき、ちゅばさがじょうざいせんじょう……だけじゃなくて翼さんが言いそうな防人っぽい言葉全種類、くりちゅはやっさいもっさいとかちょっせぇのクリス先輩の迷言。まりにゃがふぃねとセレナの名前。どうして知ってるんだろう……でも一応全員、一言二言程度の言葉なら口にできるから、案外鳴き声にはバリエーションがある。

 で、どうしてびっきーとみくさん、ちゅばさとのコミュニケーションが不可能かと言うと、まずびっきーは常に笑顔と言うか何考えてるのか分からない表情している上に言葉がごはんだけだから基本的に理解不能。ごはんに関しては目が無いみたい。で、みくさんはずっとびっきーか響さんにくっ付いてる、もしくは名前を叫んでるから基本的にコミュニケーション不可。どうやってひびき! からコミュニケーション取るのさ。ちゅばさは……うん、普通に何言ってんのか分かんない。ジェスチャーをしてくれるとなんとかなるんだけど……

 

「にしても最近装者として任命した未来くんまでぷちそうしゃとなっているとは……」

「えっと、ぷちそうしゃはうどんの生地に聖遺物を練り込んだらできたUMAの一種であり……えっ待ってうどん?」

 

 そんなぷちそうしゃを見て風鳴司令は頭を抱えて、エルフナインは何か一人で調べて驚愕としている。何というかカオス空間だけど、一応ぷちそうしゃはわたし達が抱っこして脱走しないようにしている。

 っていうかすっごい増えたけどどうするんだろう……流石にわたしと切ちゃんの部屋もきりちゃんとしらを迎え入れたらいっぱいいっぱいだし……ねー、きりちゃん。

 

「でーす?」

 

 あぁもう可愛い! 切ちゃんに駄目って言われても絶対にお持ち帰りする!!

 

「ちっちゃい響と響に挟まれることができるなんて……はぁはぁ……」

「ひびきぃ!」

「うっはぁ……なんか未来とみくさんからやっばい雰囲気が……」

「ごはん?」

 

 そしてびっきーを抱っこして響さんの隣に座ってヤバい表情する未来さんと、響さんに抱っこされて……というか自ら胸元に抱き着いた状態で動こうとしないみくさん。それに対して響さんは顔を青くしながら苦笑していて、びっきーは特に何も思っていないのか首を傾げるだけ。

 ……びっきーも可愛いなぁ。あとで抱っこさせてもらおう。なんか間抜け面してるけど。みくさんも抱っこ……うん、駄目かも。さっきから響さんがどうにかして剥がそうとしているけど剥がれないし、結局フェイスハガーみたいに顔にくっついちゃったし。

 で、ちゅばさとくりちゅは……

 

「ゆきにぇ、ゆきにぇ!」

「ちょっせぇ!」

「どうしてお前らアタシの頭の上に乗るんだよ……別にいいけどさ……」

 

 やっぱり翼さんが元だからクリス先輩がお気に入りらしいちゅばさはクリス先輩の頭の上に乗っている。っていうかゆきにぇって言えるんだ。舌足らずなのも可愛いなぁ……

 で、くりちゅはクリス先輩の頭の上のちゅばさの頭の上に乗ってる。言葉はアレだけど満足しているから別にいいかな。クリス先輩も特に気にしていないみたいだし。

 で、後はまりにゃとしらかな。

 

「おぉ~、まりにゃの髪の毛はマリアみたいになってるデスねぇ。しらも髪の毛サラサラデス!」

「ふぃね?」

「じーっ」

 

 まりにゃとしらは切ちゃんの膝の上に乗って髪の毛……髪の毛? よく分からないけど一応髪の毛を弄られている。っていうかまりにゃの髪の毛は普通に触ってみたいかも。その猫耳みたいな髪形、どうなっているのかいつも気になっていたし……え? まりにゃのそれ本当に猫耳になってる? 本当に? …………本当だ……

 なんか驚愕の真実が明らかになったけど、とりあえずぷちそうしゃに関してはこんな感じ。みんな特に問題なくコミュニケーション取れているし。

 

「聖遺物をうどんに練り込むなんて最早馬鹿としか……あっ、ぷちそうしゃは皆さんに懐いたみたいですね」

「そうみたいだな。こうして見ていると微笑ましい限りだ」

 

 確かに響さんと未来さんも色々とアレだけどぷちそうしゃと遊んでる所は楽しそうだし、クリス先輩も嫌々言いながら笑顔でちゅばさとくりちゅの相手してるし。わたしもきりちゃんが可愛くて満足だし。

 あー、お人形みたいでホンット可愛い……あったかいしふわふわだし……家に帰ったらお人形用の服とかで着せ替えできないかな? 試してみるのもいいかも。あ~いい匂い……

 

「でーす!?」

「調がわたしのぷちの頭に顔埋めてるのは何だか衝撃映像デス……」

 

 だっていい匂いなんだもん。あぁ癒される~……

 

「それで、だ。ぷちそうしゃの件だが、こちらで預かるかそれとも君たちの方で引き取るかを聞きたいのだが……」

『こっちで預からせてもらいます』

「そ、そうか……」

 

 ここで本部預かりにする訳ないじゃん。こんなに可愛いんだもん。

 まぁそんな感じで急に現れたぷちそうしゃ達はわたし達が引き取って一緒に暮らす事になった。ちなみに食べ物はわたし達と同じものを食べるみたいだし、SONGから自立稼働型聖遺物の起動実験という名目でぷちそうしゃの分の食事代と生活費が振り込まれ始めたからお金の心配もなし。

 そういうわけで、わたし達には新たな仲間が増えました。今日は切ちゃんと一緒にきりちゃんとしらも加えた四人で一緒に寝ようかな。




ぷちそうしゃはびっきー、みくさん、ちゅばさ、くりちゅ、まりにゃ、きり、しらの七人でした。一応全員ギアを纏う事ができたりできなかったり冬毛に生え変わったりお湯をかけるとイケメンになったりしますが大体は本文中で説明したとおりです。

本当はびっきーをちびきって名前にする予定でしたが、流石に元ネタ丸パクリは却下という事で中身ははるかさんなびっきーになりました。一応モチーフがあるのはびっきー(はるかさん)、みくさん(あふぅ)、ちゅばさ(ちひゃーのくっだけ。あと胸)、きり(ちびき)、しら(やよ)って感じです。くりちゅ、まりにゃはそこそこオリジナル混ざってますが、まりにゃは冬毛でちひゃー化します。

恐らくぷちそうしゃ時空も気が乗ると書く不定期連載時空となると思います。ならなかったらごめんね!
最初はエルフナインの分も出そうかなぁと思いましたがあくまでもぷちそうしゃなので登場はなくしました。設定も無かったしまぁいいかなって。セレナのぷちこと「せれにゃ」、奏のぷちこと「こかな」も一応名前だけ考えていましたが出るとしたらまた次回。

それでは次回ですがこれまた未定。何かネタがあればそれで書きます。

あと、活動報告でシンフォギアXDのフォロワー募集のためにフレンドID載せておいたのでマルチを手伝ってくれる心優しき方々はどうかフォローの方を。フォロワー枠空いていたらフォロバしますので


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月読調の華麗なるクリスマス

今私はタイにいます。時差二時間の中投稿。果たして時刻はどっち優先になるのか……


『……チッ』

 

 わたしとクリス先輩のわざとらしい舌打ちがヤケにカップルの多い広場に溶けて消えていく。その音を聞いたカップルはもれなくわたしとクリス先輩の側をコソコソと離れていき、遠目で見てるカップルはわたし達の醸し出す空気に何も言わずに距離を取っている。

 今日は偉大なるキリストの誕生日、クリスマス。うぃーうぃっしゅあめりくりすます、とか子供の頃は歌ってはしゃいで……ごめん嘘。そんな余裕なかった。

 まぁそんな訳で今日はクリスマス。俗に言うリア充の祭典。リア充は今日という日を楽しみ尽くして非リア充はそれを涙を噛み締め来年こそはと夢を見るか何かしら自傷行為に走るか。

 わたしとクリス先輩は後者だった。

 

「……なぁ、ちょいとばかりここに居る人間全員病院送りにしてもアタシ等悪くねぇよなぁ?」

「……クリスパイセン、殺傷は起こさないってここに来る前に決めましたよね」

 

 なんてわたしはクールぶるけど、本当はこの場にいる全員に対して禁断の遊びを仕掛けて殺戮ショーの始まりをやらかしたい所なんだけど、それはここに来る前にエルフナインから止められた。

 はい、ここで質問。わたし達はどうしてクリスマスにこんな地獄兄弟みたいな事してるのでしょうか。

 答え、フラレたから。答えたやつ後で死刑。

 

「まさかよぉ、センパイとマリアが付き合ってるとか思わねぇじゃん? あんだけアタシに雪音雪音って構ってきてたのに本命はマリアとか」

「わたしもまさか切ちゃんを藤尭さんに寝取られるとか予想だにしてませんでしたよ。まだ付き合ってないみたいですけど……藤尭さんにあらぬ罪吹っ掛けて通報してやろうかな……」

 

 わたし達は本命である人に見事にフラレて玉砕した二人組。クリス先輩は翼さんに、わたしは切ちゃんにフラレた。

 その詳細は語った通り。はー、ほんと人生クソゲー。

 クリスマスの予定を切ちゃんに聞いたら藤尭さんとのデートを約束できたんデスよ! とか笑顔で言われたらもう何も言えないじゃん。多分その時のわたし能面みたいな表情だったよ。

 イヴの日のクリスマスパーティは端の方でわたしとクリス先輩で感情が殺された人みたいな顔してたから即同士だと見抜けたよね。で、即お通夜ムードからの翌日、慰め合うためにデートするって事になって……これだよ。

 

「響さんも未来さんとデート……エルフナインはそういうの興味ないからで一蹴……」

「あー、世界滅びねぇかなぁ。今ならキャロルに協力する気満々だってのによぉ」

「奇遇ですね、わたしもです。世界解剖してリア充滅殺する方法を探したいです」

 

 あー、世界滅びないかなぁ……!!

 ……いや、まぁさ。わたし達が一切合切生産性のない恋愛してたのは認めるよ? 普通なら成熟しない恋だったのは分かるよ?

 でもそれとこれとは話が別なんだよ。ん? そこのリア充、あそこの子達可哀想だって?

うるせぇぶっ殺すぞ。

 おっと口調がクリス先輩に。

 

「君達、ちょっといいかな」

『はい?』

 

 マジな殺意を乗せて怨念を飛ばしてたらなんか急に声をかけられた。ナンパかな? よし殺そうと思ってその方を向いたらそこに居たのはチャラ男じゃなくて警察官だった。

 ……まだ補導時間じゃないんだけど?

 

「ちょっとここでまるで人でも殺そうとする程の殺意をぶつける人が居るって通報があってね。悪いけどちょっとついてきてもらえないかな?」

 

 ……チっ。通報した奴見つけたら万回殺す。

 でも、これはエルフナインが予期していた事。わたし達の惨状を見たエルフナインが気が済むまでやってくださいって呆れた顔でわたしとクリス先輩に調査命令を出してくれたんだよね。

 場所は未定。とりあえず怪しい所のパトロールって感じで。だから、今のわたし達は犯罪行為さえ犯さなきゃ警官にしょっぴかれる事なんてできないし、その権力以上の権力を持っている。

 という訳でわたし達はSONGの社員証……なのかな? を見せつける。

 

「悪いが任務中だ」

「分からないなら上の人に聞いてみてください」

 

 相手も国家権力だけどこっちも国家権力。しかもこっちの国家権力は政府直属。ほら控えろ。

 警官は暫く困ったように視線を左右にやってから無線機で何か聞き始めた。で、暫くすると驚いたと言わんばかりの顔をして無線機を腰に戻した。

 

「す、すみませんでした。特に問題は無いようです」

「……まぁそっちも仕事だしな。もうちょい目立たないように自重する」

「知らなくて当然ですし」

 

 ……まぁこの人もこの時間に勤務してるってことは独り身なんだろうし。そんなに当たり散らす事はせずに勘弁してあげよう。もしこれで男女ペアとかで来てたら思いっきり厭味ったらしく色々と言ったんだろうけど。

 そんな訳でクリボッチ警官を見送ってからわたし達は改めて道行くカップルに怨念と殺意を飛ばす作業に入った。

 はぁ……リア充滅びないかなぁ……

 

「……なぁ、調」

 

 とか何とか思ってたらクリス先輩が珍しくわたしの事を名前で呼んだ。多分、クリス先輩がわたしの事を名前で呼んだの、この間の誕生日とかLINE上くらいじゃないかな?

 それで、なんですか? 武力行使は認めませんよ。

 

「いや、そのな……? さっきからずっと折れかけてた心を蛮勇で固めてここまで来たけど……もう、キツイわ……」

 

 そう言うクリス先輩の目は、もう今にも決壊しそうだった。

 

「ちょっ、言ったじゃないですか! 弱音は一切無しだって!」

「でもさ……やっぱつれぇわ……傷口に塩塗られてる気分なんだわ……」

 

 クリス先輩が泣きだしてしまう。そんな、泣かれましても……泣きたいのはこっちも同じなのに!

 ほら、みんなクリス先輩の事見てますから一旦落ち着きましょう? ね?

 そんな事を口走りながらわたしはクリス先輩を半分抱えるように手を貸しながら根を張ると決めた場所から退散して人気のない場所に。

 元々、これはただの恨み辛みで始めた事じゃない。失恋の悲しみから逃げるためという悲しい現実から逃げたいがために免罪符のようにわたし達が勝手に作り出した恨み辛みを使った逃げ。

 わたしは数年来の恋に破れ、クリス先輩もやっとできた自分の好きになった人との恋が結ばれなかった。その辛さはとてもじゃないけど笑って誤魔化せるものじゃない。だから、八つ当たりという大義名分で気を晴らしていた。

 それをエルフナインは分かってるから、わざわざ面倒な手順を踏んでくれた。これで少しでもわたし達の気が晴れるのならと。

 でも気が晴れるわけがない。ただ恨み辛みとこの世への不満が募りに募って今にも泣きそうになっている。クリス先輩に至ってはもう泣いている。

 

「もうアタシ自身も自分の感情が分かんねぇんだよ……センパイを祝いたいのにそれを認めたくなくて……」

「わたしも分かります。分かりますから……」

 

 ……どうしてこんな世界的におめでたい日にわたし達は泣いているんだろう。

 全部、わたし達のせいだ。現状に満足してそれ以上に踏み込む事を怖がってただひたすらに現状維持を繰り返した結果がこの始末。最早何度後悔しても遅すぎる。

 世界の時間は、流れていくだけで戻す事なんてできないから。

 それに……女の子が好きになってるわたし達はもう、普通の恋愛なんてできない。男の人と付き合うなんて、考えられないから。

 

「ははは……つい数年前まではクリスマスなんてくだらない、恋人なんて知ったことかだったのに、今じゃそれに踊らされちまってるよ……」

「わたしも、この間までそんな事を考えられない程忙しかったのに……」

 

 けど、それは言い訳。

 わたし達二人はどうしようもなく悲しくて、涙を流すしかなかった。

 この世の無情にではなく、今更実感した失恋の苦痛の大きさに。

 そうしてわたし達はわんわん泣き続けて、誰も来ないことをいい事に二人で抱き合ってそのまま泣きじゃくって、気が付けば涙なんて枯れるほどに泣いていた。

 どちらからともなく抱きしめあっていた手を離して目を擦り、真っ赤な目で声を荒らげる。

 

「あーくそっ!! 泣きまくったら腹減った!! おい調、どっかの店でケーキと酒買ってアタシん家で飲むぞ!!」

「とことん付き合いますよ!! 法律違反なんて知ったことじゃありませんし!!」

 

 人間、悲しみが一定を超えて泣きまくると変な方向に吹っ切れるというのがよく分かった。

 適当な店でホールケーキを買って、ついでにターキーとかチキンも一緒に買って、合鍵も持ってるし今日は居ない事をいい事にマリアの部屋に侵入してマリアが時々飲んでる酒をありったけ確保してお金だけ置いていって、わたし達はクリス先輩の部屋で思いっきりどんちゃん騒ぎしまくった。

 お酒が入って最早無礼講。意識が半分飛んだわたし達は何がおかしいのか笑いまくって笑いまくって、ついでに泣いて怒って物理的に跳ねまくって。わたしの記憶は気が付けばプッツリと途絶えていた。

 それを自覚したのは、クリス先輩のベッドの上で意識を覚醒させた直後に感じた頭痛に耐えている最中だった。

 肌寒い冬の季節の朝はとても冷えたから、目を閉じながら布団を引き上げて頭まで布団を被って、そしてようやく頭痛がある程度引いた辺りで目を開いて上半身を起こした。

 

「さっむい……」

 

 どうやら酔っ払ったわたしは髪は解いてから寝てくれたようで、変な癖になっているという事はなかった。

 でも、上半身を起こした際に外気に触れた肌に痛いまでの冷たい空気がぶつかって思わず震えながら自分の体を抱くようにして両手で自分の二の腕を少し擦った。

 外気に直接触れている、自分の二の腕を。

 

「……あれ?」

 

 おかしい。わたしは半袖の服なんて着ていなかった筈。なのに何で二の腕が露出を……?

 ……って、わたし服着てない!? 下着すら着てないし思いっきり全裸だ!?

 え、なんで? フィーネの最後っ屁? 酔うと全裸になる習性でも植えつけていったの? あの露出狂そんな迷惑な習性を植え付けたの?

 と、とりあえず落ち着こう……なんか下半身辺りがシットリしてるけど漏らしてるとかじゃないし……

 

「うわぁ……服脱ぎ散らかしてる……」

 

 あーあ、なにしてんの酔ってるわたし。

 とりあえず下着だけでも着ないと……あれ?

 ……なんか、明らかにサイズの合わない、というかクリス先輩の物らしきブラが落ちてるし、それとセットのパンツまで……

 ……え゛っ。

 

「んっ……さみぃ……」

 

 わたしがその事実に固まっていると、クリス先輩が起きて上半身を起こした。何も衣類を身につけていない状態で。

 ……こ、これ、もしかしてだけど。なんかすっごい記憶が蘇ってきたんだけど……この記憶、もしかして……

 

「あっ……その、昨日は、なんつーか……激しかったな」

 

 あ、あははは……

 マジですか。つまる所これって朝チュンですよね……? わたし、酔った勢いでクリス先輩と……?

 あぁ、確かに……確かにヤッたよ……恋人が居ないんなら恋人がいない同士で恋人になっちゃえばいいじゃんって言ってじゃあ恋人になっちゃおうかってなって、そのままじゃあ恋人っぽいことを……って一通りヤッた……

 

「そ、その、さ。アタシも調も酔ってたんだし、別に気にしなくてもいいぞ。別に女同士だし、特に何かなくなったとかじゃないし……」

 

 と、クリス先輩は昨日の事を思い出しながらなのか真っ赤な顔をして言ってきた。

 ……あっ、だめだ。このクリス先輩見てるとなんて言うんだろう……庇護欲? 違う、独占欲? みたいな物が沸々と湧いてくる。

 昨日のアレでわたしは予想以上にクリス先輩の事を、なんというか……愛してしまったみたい。

 今じゃ切ちゃんよりも、いつもよりも弱々しくて女っぽい所を見せてくれたクリス先輩にわたしは惹かれてしまってる。わたしの思っているよりも。

 

「……クリス先輩」

「な、なんだ?」

 

 わたしは服も下着も着ないままに起き上がったクリス先輩の上に覆いかぶさるようにベッドの上を両手両足で移動して、上半身を寝かせることでしか逃げることができなかったクリス先輩をそのまま押し倒した。

 

「今からもう一回しましょう」

「は、はぁ!? お、おま、昨日のは酔った勢いなんだし……」

「嫌なら押し退けてください。押し退けなかったら、そのまましますよ」

 

 わたしの言葉にクリス先輩は何も言わず、ただされるがまま。

 その後がどうなったかは……クリス先輩の部屋で少し遅れた性夜が改めて始まったのでした。




クリスマスなのに一日遅れてすまない。代わりにクリしらやったから許して。

自分、前書きで書いた通り今タイにいるので恐らくこれが今年最後の更新となります。帰ってくるのが元旦なので書けるとしたら1/2日以降になります。

今回はあんまり後書きがありませんがこんな感じで。でわでわ


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月読調の華麗なるすごろく

一か月近く間が空いてしまってすまない……すまない……!!

こんな体たらくを披露してしまいましたが今年も一年、よろしくお願いします……!!

あ、今回は新年らしくすごろくのお話。え? もう一月下旬だって?

……本当にすまないと思って(無言のTESTAMENT


 すごろくしようよ! そんな響さんの言葉に誘われ、一部は拉致されわたし達はSONGの訓練室へと集合した。拉致られ組であるクリス先輩はかなり不機嫌そうに腕を組んでいるけど、ノリノリで参加した切ちゃんと翼さんは何が起こるのか分かってないので楽しみにしているようだ。

 で、特に用事もないし暇だから参加する組であるわたしとマリアは特に何をするでもなく待機。未来さんはどうやら仕掛け人側らしくてここには居ない。

 そして今回のゲスト、エルフナイン。エルフナインもどうやらすごろくやろう! で連れてこられたらしくて、どうしてすごろくをするのに訓練室に来るのかが理解できていない。

 まぁ態々ここに来た時点で何となーく理解はできるけどね、うん。

 

「はいはーい! みんなおっまたせ~!」

 

 と、言いながら響さんは箱を片手に訓練室に入ってきた。その後ろには小物入れを手にしている未来さん。

 あれ? わたしはてっきりこの訓練室を丸っとそのまま巨大なすごろくにしてリアルすごろくとかやる物だと思っていたんだけど……なんだ、違うんだ。

 てっきり響さんだし安直にそんな感じかなって思ったんだけど。

 

「なんか軽くディスられた気がするけどすごろく始めるよ!」

 

 げっ、心読まれた。

 そっと顔を逸らすわたしを尻目に響さんは地面にすごろくの箱を置いて、その中から出したシートを地面に敷いた。それを見た瞬間、エルフナインがあっ……って声を出したのがすっごい気になったんだけど。

 まぁいいや。それで、響さん。このすごろくは? なんか箱のメーカーの部分に思いっきりSONGって書いてあるのはわたしは気のせいですか?

 

「ふっふーん。これは昨日わたしがSONGの倉庫で見つけたリアルすごろく! なんと、訓練室で使用したらこのマス目に書いてあることがリアルで起きるっていうすごろくだよ!」

 

 わたしの予想大体合ってたんだけど。

 しかし、これ、明らかにエルフナインが何かしら関わったやつだよね。エルフナインがそっと目を背けて顔を青くしているし。

 で、エルフナイン。これは?

 

「そ、その……ボクと藤尭さんの悪ふざけで作った負の産物でして……」

 

 なんか負の産物を作る時って大抵エルフナインが関わっている気がするのは気のせい? この間の闇鍋も切欠はエルフナインだったし。

 

「それで?」

「料理が出てくる、とかもホントに出てきてしかも食べられる謎プログラムを組んであるんですけど、腹痛で一回休みとかのマスはホントに腹痛が起こっちゃうんです。ちなみにプログラムはボクが、マスの内容は藤尭さんが考えたみたいです」

 

 ……うっわ。一気にやる気なくした。帰ろっかな。

 

「あれが広げられた時点でもう逃走不可能です……」

 

 と言ったエルフナインはそっと自分の顔の横を指さした。

 そこには数字の1が浮かんでいた。えっ、何それと思いながらわたしも横を見てみると、そこには数字の8が。その数字を見て何かを察したけど、一応試しに逃走を試みてみる。まぁ結果は訓練室のドアが開かないというね。ファ〇ク!

 

「クリアするまでは脱出不可能ですよ。諦めてクリアを目指しましょう、ふふふ……」

 

 エルフナインが壊れたような笑い声をあげている。これならトイレ行ってくるとか言って逃走しておけばよかった。

 ちなみにみんなの顔の横に数字は浮かんでいて、エルフナインが1でそこから切ちゃん、響さん、マリア、未来さん、クリス先輩、翼さん、わたしの順番に数字が浮かんでいる。多分これすごろくの順番だよねぇ……はぁ、憂鬱。

 そんなわたしの内心とは裏腹に今回の計画を立てた張本人、響さんは楽し気に笑顔を浮かべてコマを八つ並べた。

 

「このすごろくの勝利条件は一位でゴールする事か、周りの人が全員ノックアウトされて生き残るかの一つだけだって!」

「待ってください。ねぇ待って」

 

 ノックアウトって言った? 今ノックアウトって言ったよね?

 エルフナイン、説明。

 

「えっと……これ、訓練の一環として考えた物なのでかなりキツいマスもあるんです。それらでシステム側がリタイアと判断したらノックアウトとされて退場となります。一応逃げる道の一つですけど……相当キツいですよ?」

 

 実にファ〇キングな出来事なんだけど。

 なに、つまり無事にこのゲームを終わらせるにはそういう過酷なマスに止まる事無く運ゲーを突破して無傷でゴールするしかないって言うコト? 何そのクソゲー。

 っていうか響さん、絶対にマスに書いてあるご飯とかで釣られたでしょ。そうじゃなくてもいい特訓になるかもとか思ったんでしょ。少なくともそのために心を決めておくのと決めておかないのとでは心持が雲泥の差なんですけど。誰もあなたみたいに能天気だとは思わないでくださいよ。

 

「なんかすっごいディスられてる気がするけど、とりあえず始めよっか! 今説明した通りマスに書いてあることは本当に起こるからね!」

 

 どうやらエルフナインがした説明をかなりマイルドにした物を既にみんなに説明していたらしくて、響さんはすごろくのシートの前に座った。

 もうこうなると逃げられないので溜め息を吐きながらわたしもシートの前に座って、みんなも観念するかワクワクしながらシートの前に座った。これはわたしの運を信じてやるしかない。とりあえず最初はエルフナインだから、エルフナインがルーレットを回して進むマスを出す。

 出たのは、3。まぁなんとも中途半端な。

 

「えっと、いち、に、さんっと。えっと……今日は筋トレだ! 200kgのバーベルを持ち上げる!! ……え゛っ」

 

 えっ、何それは。

 わたし達が目を見開くと同時にエルフナインの目の前に巨大なバーベルがドンッ! と出現した。

 マジで? とエルフナインがみんなを見るけど、わたし達にどうにかできる訳もなく。

 五分後。

 

「――――」

「え、エルフナイーンっ!!?」

 

 エルフナインは全体力を使いきりそのままぶっ倒れた。結果、エルフナインはすごろく側からリタイア判定をくらって初手で退場となった。流石にわたし達もあれは持ち上げられないし、そんなものをエルフナインが持ち上げられるわけがないからね……うん。

 でもスタミナを使い切るだけでリタイアとなったエルフナインはちょっと羨ましい。わたしも3を出せればすぐに見学になれるかな……とりあえず、次は切ちゃんの番。

 

「な、なんかやべー事に片足突っ込んだ気がするデスよ……とりあえず、えいやっ!」

 

 ルーレットがカラカラカラと音を立てて回され、出た数字は1。なんとも幸先の悪い。でも、マス次第では幸先のいいスタートにはなる。

 とりあえず切ちゃんが一個、自分の深緑の駒を進め、下に書いてある内容を読む。

 

「畜生、一歩目からバケツをひっくり返した! ずぶ濡れになる……は?」

 

 直後、急に切ちゃんの頭上に水の塊が出現し、重力に従い落ちてきた。そして水が思いっきり切ちゃんにぶっかかり、跳ねた水はどうしてかわたし達を濡らさず、切ちゃんだけが濡れる羽目になった。

 濡れ鼠になった切ちゃんは何とも微妙な顔をしている。どうかしたの?

 

「……妙に温かったデス」

 

 あぁ……冷えた水は流石に今の季節辛いから、なのかな? でも冷える前に着替えないと。

 そう言う前にハロウィンギアを纏って早着替えした切ちゃんを他所に、次は響さんの番となった。

 

「じゃあ次はわたし! 出た数字は……4!」

 

 どうせならバーベル200kgとかずぶ濡れになってしまえと思いっきり私怨を飛ばしてみたけど結局私怨が運に干渉する事もなく、響さんは4を出して前へ。

 そして止まったマスは。

 

「えっと……ハンバーガー大食い対決に挑戦だ! 次の手順までに食べきれれば次はルーレットを二回! やったぁ!!」

 

 そして響さんの後ろにテーブルと机、そして机の上には十個のハンバーガーが。わたしのようなあんまり量を食べない人からしたら一個で十分な程度のハンバーガーが並んでいるけど、響さんにとってその程度はどうやら朝飯前らしく、笑顔でいただきますの一言の後、ガツガツとハンバーガーを食べ始めた。

 しかも相当美味しいらしく、相当な笑顔。

 くっ……諸悪の根源が楽しむなんてそんなのあっていいハズが……!!

 

「次は私ね。まぁ、変なマスに止まらないように祈りましょう」

 

 そしてマリアが出した数字は2。えっと、マスには何があるかな?

 

「のど自慢に挑戦。次の手順まで持ち歌を歌い続けよう。歌い続けられればルーレットを二回回せる……ラッキーね。これは確実に貰ったわ」

 

 直後、マリアの後ろに出現するカラオケの機械。マリアはついでに手元に出てきたマイクを手にして思いっきり歌い始めた。

 うわぁ、何だろうこの豪華すぎるすごろく。マリアの生歌聞きながらすごろくとか全世界のマリアファンが羨ましがるだろうなぁ。ちょっとこればかりはわたしをちょっと強引にここに連れてきた響さんに感謝しなきゃ。マリアって忙しいから一緒にカラオケ行けないんだよね。

 久々のマリアの生歌に思わずサイリウムを振りたくなったけど、とりあえず次の番になった。

 次は未来さん。

 

「ルーレットまわれー」

 

 気の抜けた声と共に出した数字は、3。

 あっ……

 

「バーベル上げかぁ……とりあえず、Rei shen shou jing rei zizzl」

 

 全員が未来さんもリタイアかぁ、と思ったけど、未来さんが急に神獣鏡を纏った事でその空気も一変した。

 そういえば、わたし達はギアの使用を制限されていない。切ちゃんもこうして現にギアを纏えているし、このすごろくのルールにはギアを纏ってはいけないなんて縛りは無いからギアも別に使おうと思ったら使えるんだ。

 誰もギアを使う発想なんてなかったから目からうろこ状態。そんな中未来さんはギアを纏った両手で少し重そうにバーベルを一度持ち上げた。それだけでバーベルは消えて、命令はクリア判定に。

 

「ふぅ。ギア越しでもちょっと重かった」

「まさかギアが使えるなんて……盲点でした」

「本当はギアペンダントを回収した上で使う予定の訓練用すごろくだから。ギアを持ち込めた時点で相当楽に済むはずだよ」

「確かに……」

 

 少なくともギアを纏っていたらカラオケも、バーベル上げもどうにかなる範疇。本来は生身でやる事を想定ているならエルフナインみたいなのが増える事になるけど、ギアがあるのなら問題はない。

 よし、勝った! これそんなに辛くない!!

 

「んじゃ、次はアタシか。えっと、ルーレットは……7? ってこれ8まであんのか」

 

 そしてクリス先輩は7マス進んだ。

 そこに書いてあったのは。

 

「ゴキブリが大量発生した部屋に閉じ込められた! 全て退治するか次の手順まで逃げられない……あ゛?」

 

 えっ、なにそれは。

 そんなわたしの心を他所に、クリス先輩がカーテン付きの部屋に閉じ込められた。直後。

 

『ひぃぎゃあああああああああああああ!!? ちょ、出して!! 出してぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!! ひっ、口に飛おえぇ!!?』

 

 じ、地獄……!? あの部屋の中では地獄が繰り広げられている!?

 わたし達全員が顔を真っ青にしてカーテンで中の様子が分からない部屋の行く末を見守る。その中からは常にクリス先輩の悲鳴が聞こえてくる。

 こ、こんな人でなしなマスが存在するなんて……これ考えたの誰!? 人間ならこんな残酷なマスを作るわけがない! せめて助けてあげたいけど、わたし達全員、そんな大量発生したゴキブリを見るなんて無理。わたしと、後は未来さんは一応一匹程度ならなんとかできるけど、二匹以上はホント無理。

 そうこうしている間にクリス先輩の悲鳴が消えた。直後に部屋が消え、中からは気絶したクリス先輩が。

 

「か、髪の毛まで白く……そんな修羅場が……!」

「翼さん、元々クリス先輩の髪はその色です……」

 

 変なボケを翼さんがかましたけど、この中の全員が心に決めた。

 あのマスには何が何でも入らない。絶対に入らない。入ったら最後、PTSDを負って気絶する。

 そっとエルフナインと一緒に訓練室の端へとクリス先輩を移動させて、次の番に。

 

「わ、私か……7だけは、7だけはどうか……!!」

 

 翼さんのその祈りは届き、数字は2。

 

「勝った! マリア、共に歌おう!!」

 

 そして始まる翼さんとマリアのデュエット。

 思わず一曲分、生存組でコール入れながらプチライブをしたのは言うまでもない。というか、さっきのクリス先輩の惨状がひどすぎて、現実逃避がしたかったとも。

 一曲分、二人のデュエットに全員で盛り上がって、気が付けばわたしの番。

 とりあえず二人の歌をバックにしながらわたしはルーレットを回す。えっと、出た数字は……5。よし、7じゃない。

 マスの内容は……どれどれ?

 

「大変だ、カマドウマが大量発生した。全てを退治するか、次の、手順……まで……」

 

 ……

 …………

 ………………

 た、助けひいいいいいいいいいいいいいいい!!?

 

 

****

 

 

 調ちゃんがカマドウマが大量発生した部屋の中に放り込まれて無事気絶した。

 うん、その……女の子に虫は鬼畜の所業だと思うの、うん。全身に鳥肌が立っている状態で気絶している調ちゃんとか見たくなかったよ……

 でもすごろくは続くよ、最後の一人になるまで。

 エルフナイン、クリス、調ちゃんを神獣鏡を纏っているから丁度いいという理由でわたしが端に寄せて、次はエルフナイン……だけど気絶しているから切歌ちゃん。

 

「回すのが怖いデスよ……えっと、出た数字は6デスから、クリス先輩とおな」

 

 直後、切歌ちゃんはゴキブリ部屋に放り込まれて一分もしない内に気絶した。

 まさかの二回目で脱落者が半分に到達してしまった。これには流石の響もマズいと思ったみたいで冷や汗をかいている。わたしも付き合わなきゃよかったかも……

 で、次は響。

 

「実はハンバーガーを食べたらそこそこお腹いっぱいになってたり。とりあえず後の事は知らないって事でルーレット回れー! えっと……1だから調ちゃんと同じところ……だけどもう一回回す! 出た数字は……8!」

 

 カマドウマ部屋の被害者が増えるかと思ったけど、響はそれをもう一回ルーレットを回す権利で回避。結果、響は9マスも進んで誰よりもリードした。

 それで書いてあったのは……

 

「満漢全席をご馳走された! 全部食べ切るまで逃げられない……は?」

 

 流石の響も真顔になった。

 直後、響の真後ろに満漢全席が配膳されたテーブルが現れた。そして椅子から伸びたアームが響を捕らえてそのまま椅子に拘束。腰を拘束されて動けない状態に。

 

「……あぁわかったよ! 食べるよ!!」

 

 多分、食べ物関連で涙目になった響を見たのはこれで二回目だと思う。一回目は闇鍋ね?

 で、響が満漢全席を食べている間にマリアさんの番。

 

「ふぅ、熱唱したらそこそこ疲れたわね。えっと、ルーレットを回して……7と、あともう一回で7。あら、ラッキーセブンね。えっと、次のマスは……」

 

 14マスも進んだマリアさん。多分これ、響はもう動けないだろうしマリアさんと翼さんの独走状態になるんじゃないかな。そんな事を思いながらマリアさんの止まったマスを見ると……

 

「今までの強敵たちと勝負だ! 全員倒さないと進めない!! ……え? ちょっと待って」

 

 何そのマス。

 わたし達生存組……というかわたし、マリアさん、翼さんが頭にハテナを浮かべつつ、嫌な予感に肝を冷やしていると、マリアさんが急に透明で広い部屋に隔離された。そしてその中に現れたのは。

 

「フィーネの邪魔はさせねぇ!!」

「逆鱗に触れたのだ。相応の覚悟はできておろう?」

「さぁ行けネフィリム!」

「奇跡など殺すと誓ったのだ!!」

「ぶち殺してあげるわ、アイドル大統領!!」

「お前なら少しは楽しめそうだゾ!」

「ふむ……派手にやるとしよう」

「剣ちゃんじゃないのが残念ねぇ」

「邪魔をすると言うのなら排除するまで!」

「あーしのハートはビックバンよ!!」

「サンジェルマンの邪魔をするなら排除するワケだ」

「本気で思っているのかね? この僕を倒せるとでも!!」

「アダムの邪魔をするんなら許さないんだからぁ!!」

 

 クリス(ネフシュタン)、フィーネ(最終決戦仕様)、ネフィリム(最終決戦仕様)withウェル博士、キャロルちゃんご一行(最終決戦仕様)、サンジェルマンさんご一行(ファウストローブType-Ⅱ)、アダム&ティキ(最終決戦仕様)。

 つまるところ、響たちが苦労して倒した所謂中ボスとラスボスの皆さん

 

「えっ、ちょ」

 

 マリアさんの表情が面白いように青く変わって文字通り絶望の表情が貼り付けられた。

 あ、その……はい。

 頑張ってくださいね?

 

「た、助け――」

 

 直後、轟音が響き渡ってマリアさんの助けを求める声と悲鳴は聞こえなくなった。でも、業火の中で涙目になりながら動き回っているマリアさんが見えたから死んではいないみたい。

 だけどこれは気絶するのも時間の問題かなぁ……多分あれ、エクスドライブの装者を全員連れてきても勝てないだろうし……というかフィーネとネフィリム、キャロルの三人が無理ゲー過ぎる。デュランダルはないわソロモンの杖のないわエクスドライブにはなれてないわで。しかもそこに中ボスの皆さんとパヴァリアの皆さんが混ざっているわけで。

 これ、風鳴司令連れてこないと倒せないんじゃないの……? というかあの人ならこれでも倒せるんだろうなぁって感じがして、その……ね?

 とりあえずマリアさんには合掌して次は私。

 えっと、出た数字は5。誰も行ってないマスだね。書いてあるのは……

 

「一回休み」

 

 ……

 はい、休んでます。

 次、翼さんですよ。

 

「う、うむ……せめて大食い系にしてほしい物だが……」

 

 そう言って翼さんが出した数字は、8。

 

「ちょっと待ってくれ。これマリアの所に放り込まれるパターンじゃないか?」

 

 で、まだ回すんですか?

 

「そう、だな……そのマスに何があるか分からぬ以上は前に進むしかないだろう。もう一回回す」

 

 と言って翼さんはもう一回ルーレットを回して……

 

「6。つまり14進むか。ふむ、なるほど。小日向、たすけ」

 

 なんかすっごいクールにわたしに助けを求めてきたけど哀れ、翼さんはマリアさんと一緒に地獄を体験する事になった。

 

「よく来たわね翼ァ!! ここが地獄の一丁目よォ!!」

「クソがぁ!! あぁ分かった!! やってやる、やってやるぞ!! 防人の剣、この程度の困難では折れない物と知れェ!!」

「ファ〇ク!! ファアアアアアア〇ク!! 生きて帰ったら覚えてなさいよ立花響!! 藤尭ァ!!」

 

 あーあ、キャラ崩壊起こしちゃってるよ。

 とりあえずあの二人は放っておけば勝手に気絶するだろうし、後は響かな?

 

「……も、無理」

 

 と思っていたけど響は口一杯お腹一杯に中華料理を詰め込んだけど、結果は食べすぎで限界を迎えて気絶。

 うわぁ、ギャグ漫画みたいにお腹が膨れてる。押したら色々と大惨事になるんだろうなぁ。とかそんな事を考えながら十分後。

 クリス(ネフシュタン)、パヴァリアの皆さん、オートスコアラー全員をゴリ押しで倒し切った翼さんとマリアさんだったけど、流石に完全聖遺物を二つ持ったフィーネ(最終決戦仕様)と完全聖遺物そのものであるネフィリム(最終決戦仕様)、エクスドライブ六人分の力でようやく倒したキャロルちゃん(最終決戦仕様)は流石に無理があったらしく、こんがりと焼かれた二人が虫の息の状態で返還された。

 こうしてすごろく勝負はたった二回の手順でわたし以外の全員が気絶によるリタイア。わたしの一人勝ちになった。

 

「……なんでぇ?」

 

 わたし、みんなと一緒に面白おかしくすごろくがしたかっただけなんだけどなぁ……

 ちなみに後日、響と藤尭さんはみんなからお仕置きとしてゴキブリ部屋、カマドウマ部屋、ボスラッシュ部屋に叩き込まれて地獄を見ていた。わたしも実は一枚噛んでたんだけど……わたし、しーらないっと。平行世界に行ってグレた響を愛でないとだからね~




いやぁ、年末から今日まで色々とありましたねぇ。

とりあえず個人的に一番苦悩した所をば。

七十連もしてんのに巫女調ちゃん出ねぇんだけどォ!!? ついでにグレビッキーの新カードも出ないんだけどォ!!? あと生放送のアレ、もしかしたらXDの新アルバム発表あるかなーとか思ったらまさかのバンドリとのコラボ、だとぉ!!? またギャラルホルン君が働くのか……(世界観が)壊れるなぁ……

まぁこんな所。あと天ノ逆鱗ズバババンは58レベルになりました。もうここまで来たらあと一人来ちまえよ。そして出ない巫女調ちゃん。黄金錬金ビッキースルーしてまで石突っ込んでんだから出て?(懇願)

そんな気持ちを込めて今回の話を書きました。未来さんは一度もすり抜けなかったのでこの通りですが、すり抜けた方々と出なかった方々はおもっくそ今回は被害者になってもらいました。エルフナイン? 必要な犠牲だよ。

こんな感じで今年もやっていこうと思います! 今度は一か月とか間が空く前に投稿できたらします!!



P.S 活動報告の方でネタ募集をしています。期限は無いのでこんなネタ思いついたよ~って思ったらポンっと気楽に書いていってください。
あと相談も一つ一緒に書いてあるのでそっちの方も何かお言葉がありましたら是非ともご協力の方をお願いします。


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月読調の華麗なるスタンド温泉

今回は心霊時空の話です。

流石に新入りはもう入ってきませんが幽霊繋がりでこの話のパロをチョイス。

それではご覧ください!


 幽霊温泉。

 まぁ言葉だけなら結構簡単に言えるけど、まぁ実際に見る事なんて早々ないと思う。それこそわたしのような幽霊を憑かせている程霊感がある人じゃないと。

 どうしてこんな事を言いだしたかと言うと、今わたし達SONGの装者と未来さん、エルフナイン、それから風鳴司令達大人組四人は幽霊温泉宿に泊まっているから。そうなる切っ掛けは翼さんのお父さんが世界を救ったのにご褒美の一つも無いのは流石に酷だろうという事で温泉宿の予約をしてくれたから。

 もう予約してしまったし、ついでにそんな好意を無為にするわけにもいかないからわたし達は一日に一本しかないバスに乗って温泉宿、仙望郷へと向かった。

 以下回想。

 

 

****

 

 

「ふむ……ここが仙望郷、か……なのか?」

「これ温泉宿だった物じゃないっすかねぇ、師匠……」

「かつて温泉宿だった物、かもな……」

 

 風鳴組と響さんがまぁ結構好き勝手言ってるけど、とりあえず看板に思いっきり仙望郷って書いてあるから、ここが翼さんのお父さんが昔一度だけ行ったことのあるらしい秘境の温泉、仙望郷って事は間違いないと思う。

 わたしはみんなから一歩下がった位置でわたしに憑いている幽霊達……まぁいつもの六人を背中に従えて適当に会話をしていた。

 

「……ここ、かなり強い霊場だな。少し力が増すと言うかテンションが上がってくると言うか」

 

 そして温泉宿に着いた途端、サンジェルマンさんがそんな事を言いだした。

 強い霊場? それって?

 

「まぁ簡単に言ったら霊脈が通ってるって事ね。そのせいで幽霊達が集まりやすいし、毛ほどの霊感しかない人でも幽霊が見えるようになるかもっていう事よ」

「わたし達が誰かに見られる可能性が出てきたというワケだ。それに、恐らく怨霊の類もここには集まってきていると予想できるワケだ」

 

 あ、そういう事。

 つまりここは霊的な力が凄く強い場所で、それが幽霊であるみんなにも影響を与えるし、本来は霊的な物が見えない人も霊的な物が見えるくらいには霊感が強くなるかもしれない場所って言うことなんだ。

 確かに言われてからみんなを見てみるといつもは半透明だったり足が無かったりしてるけど今日は足がしっかりと見えてるし半透明よりも少し色が付いているように見える。確かにそんな場所だと幽霊が勝手に寄ってくるとかはありそうだね……

 少し用心しとかないと。みんなに変な影響が出たら嫌だしね。

 

「んじゃ、アタシ等はどうする? アタシは見えてもいいけど……」

 

 と、なると困るのがここの幽霊達。

 何せこの中の誰か一人でも見えたら確実に装者達は面倒な事を引き起こすだろうし……特に奏さん、セレナは見えたら最後、絶対に翼さんとマリアが面倒な事になる。

 本音を言えば見えるのなら見せてあげたいんだけど……見えない方が奏さんやセレナも気が楽だろうし。時々わたしの体に入って世間話してるしね? だから特に話したいとかの欲求はないっぽいし。

 

「まぁ余計な混乱を与えないようにドロンしておくとしよう。幸いにも存在を希釈にする程度ならオレ達でもできる」

 

 キャロルの提案にみんなが頷いて、姿がかなり薄くなった。

 それこそここでどれだけ霊感が強化されても憑いているわたしにしか見えない程度には。

 みんなも幽霊生活そこそこ長いからね。

 

「とりあえず、変な霊がちょっかい出して来たら守ってね?」

「まぁ錬金術師四人と装者二人にちょっかい出すような人、いないとは思うけど……」

 

 うん、セレナの言う通りかも。

 で、わたしが幽霊達と会議をしている最中、どうやら女将さんを響さんと翼さんが見つけてきたらしくて女将さんを連れてきた。

 

「あらあら、気が付かなくてごめんなさいね? 私はここの女将をしているお岩と申します。今日はゆっくりと疲れを癒していってくださいね?」

 

 連れてきたけど……あれって、あれだよね。

 思いっきりかなり強い怨霊に憑かれてるよね?

 

「確かにそうなワケだ。しかもあの女将からも少しばかり邪気を感じるワケだ」

「アーシ達はこのままの方がいいかもね。調ちゃん、あんまり気を許さないように」

「お前の魂に何かあればエルフナインが悲しむ。オレ達が守るとはいえ過信はするな」

「まぁ憑依だけならこちらでも何とかする。ただ憑依後に飛び出た魂魄までは守り切れないかもしれない。そこは注意してくれ」

「うん、ありがとみんな」

 

 まぁこの六人を倒してわたしに害をなせる程の幽霊って居ないと思うよ……? だってあの肝試しの時に居た霊もそうだけど、それ以外にも大量に道端に居る幽霊の中には相当怨念の強い霊とかいるし。

 それを片手間で退治するこの守護霊たちをどうにかできるとでも……?

 まぁそこら辺慢心していたらやられるかもしれないからしっかりと気は張っておかないと。

 とりあえず皆が仙望郷の中に入っていったから、わたしも急いで後を追った。

 

「し、司令! さっきの幽霊と言いあの女将の幽霊と言い! ここ絶対におかしいですって!!」

「ゆ、幽霊だと? そんなわけないだろう。そんな非科学的な物居るわけがない」

「じゃあ何だって言うんですか!?」

「……す、スタンドだ! あの女将はスタンド使いであり俺達はスタンド使いに目覚めたんだ、緒川、藤尭!!」

「んな訳がありますか!!」

「実は俺は何を隠そうスタンド使いだからな。ほ、ほら、あれだ。普段は隠していてな? 緒川とかアレだろ。仕事の時とか耳にかかるだろ、スタンドが」

「眼鏡ですよ!! 何をどうしようが眼鏡ですよ!! あんな独特なスタンドがあってたまりますか!!」

 

 …………

 えっと、あの……わたしが後ろで話を聞いているの分かっているのかな?

 でも、どうやらさっき言った通り霊感が無い人でも霊が見える程度には霊感が強化されているっぽくて、風鳴司令、緒川さん、藤尭さんはどうやらここに着いてすぐに幽霊を見て、直後のあの女将の背後霊を見たらしい。

 っていうかスタンドって……

 

「ジョジョの奇妙な冒険に出てくる守護霊というワケだ。まぁ厳密には違うワケだが」

 

 あぁ、ありがとうプレラーティ。

 ジョジョの奇妙な冒険……っていうとあれかな? 最近プレラーティがわたしにDVDを借りさせて見ていたあの。確かにあのアニメ、主人公とかの後ろに変な背後霊みたいなの写ってたよね。

 あれがスタンドって言うのかな? じゃあここに居る間は風鳴司令達に合わせて幽霊の事をスタンドって呼ぶことにしよっかな。

 

「普通はスタンドを二体以上持っていないワケだが……」

 

 うるさい、わたしのスタンド。

 というかさっきからわたし達の部屋に向かって歩いているけど、時々スタンドがいるんだよね。まだ司令達は気が付いていないみたいだし、女子陣は全員霊感が無いっぽいけど。

 わたしも気づかれると面倒だし気が付かない振りでもしておこうかな。温泉宿に来てまで変な問題に首突っ込みたくないし。

 

 

****

 

 

 そんな訳でわたし達はスタンド温泉宿に泊まることになった。

 十二人という事で結構部屋は無理に用意してくれたらしくて、一人だけ一人部屋になっちゃうという事だった。どうやら四人部屋が一つ、三人部屋が一つ、二人部屋が二つ、一人部屋が一つという内役らしい。

 とりあえずわたしはスタンド達が居るという事で洋風の一人部屋に泊まることにした。洋風と言ってもなんか普通に和風だけど……とりあえず先住民らしき幽霊は強制成仏の刑に処したよ。

 で、男性組は三人部屋の和風の部屋に泊まることになったけど……あの部屋、思いっきりお札とか南京錠とかあったよね? 大丈夫なのかな……? 変なのに憑かれたりしないかな?

 女将さんは昔ロックにハマってたから何とかとか言ってたし、お岩っていう名前もその時から来ているとかなんとか。

 

「あれ、普通にインテリアだったぞ? 多分女将が怖がらせるために作ったんじゃねぇか?」

「あ、そうなんですか? でも女将さん、確実に幽霊……じゃなくてスタンドについて気づいてますよね?」

「まぁ、確実にな。じゃなきゃあんな怨霊に憑かれて無事なわけがない」

 

 で、女将さんについてだけどわたし達の見解だと普通にギルティ。あれは完全に気づいてるね。

 あの怨霊、怨念だけでもかなり凄いし。それを従えている節があったから確実にあの女将さん……お岩さんだっけ? は幽霊に気が付いているしあの怨霊を飼いならしているまであると思う。

 でもとりあえずは大きな問題が起きないようにしないとね。わたしがスタンド使いって事も気が付かれると面倒だろうし。

 とりあえず温泉に入る準備でも……

 

『面舵いっぱいで急カァァァァァァァブッ!!』

「きゃっ!!?」

 

 とか思ってたら青い顔した風鳴指令と藤尭さんがドアを蹴破ってきた!!? あ、その後ろに申し訳なさそうな顔してるけど焦ってる緒川さんが。

 急に入ってきた大人組にわたしがビックリしていると、二人はこの部屋にスタンドが居ないかを確認してすぐにわたしに向かって土下座してきた。

 

『頼む! 俺達と部屋を変わってくれッ!!』

「ぼ、僕の方からもどうか……」

「は、はぁ……?」

 

 となると、あの部屋ってスタンドが居たのかな?

 それにわたしの部屋に来ていきなりそんな事を言いだしてきたって事はわたしの部屋以外にもスタンドが居たとか?

 うーん……真相は分からないし、一人部屋を三人部屋に変えてくれるんなら別にいいけども……女の子をあの部屋に放り込もうとかする? それにわたしも怖がらずに受け入れたらちょっと不審に思われるかもだし、スタンドを強制成仏させて一人優雅にしてたら怪しまれるだろうし……

 

「そ、その……流石にあの部屋は怖いので……」

「……だ、だよな」

「ふ、普通そうだよね……」

「ここは僕達が腹を括るしか……」

 

 ……と、とりあえず後でスタンドを強制成仏だけしておこうかな? 流石に大の大人が顔を青くして土下座してくるほど必死だったわけだし。

 流石にあの部屋まではわたしのスタンドは射程範囲外だし、後でこそっと強制成仏させるのが一番かも。それか部屋の外からスタンドを向かわせて強制成仏させるか。

 風鳴司令達が顔を青くしながら立ち上がった時だった。急に外の方に続く戸が思いっきり音を立てて開かれたのは。

 

「おやつターイム!」

 

 そしてそこから現れたのはお岩さんだった。

 持っているのは……柿ピー? なんで?

 まぁいいや。貰えるものは貰っておこう。柿ピー、口の中乾くからあんまり好きじゃないんだけど……マリアはお酒飲みながら美味しそうに食べてたけどね?

 柿ピーをわたし達の前に置いたお岩さんは風鳴司令達に顔を近づけてこう呟いていた。

 

「バラしたら殺す」

『ッ!?』

 

 ……はい、ギルティ。

 どうやらお岩さん、何か裏があるっぽい。スタンドに気付いている程度なら何も言わなかったけど、ここまで露骨な事をされるとね……?

 とりあえずわたしのスタンドはわたしか元々憑いていた人以外からは離れられないから誰かを守るためにスタンドを飛ばせないけど、何かあったら動こうかな。何も無ければ帰るだけだけど。

 お岩さんは柿ピーを自分のスタンドに食べさせてどや顔するとそのまま去っていった。

 ……まぁ、スタンドに柿ピー食べさせてどや顔する程度ならいいんだけどね。とりあえず顔を青くして震えているこの大人三人はどうしよう……?

 

 

****

 

 

 結局大人三人を部屋に押し返してわたし達は温泉に入りに来た。

 入りに来たんだけど……思いっきりスタンドがお湯に浸かってるんだよね。ちょっと邪魔。

 

「いや~、いい湯だねぇ、調ちゃん!」

「はい。入るまでが寒かったですけど、入ってしまえば凄く気持ちいいですね」

「温泉……ほんとに気持ちいいですねぇ……」

「あ、エルフナイン、そのまま寝ちゃだめだよ?」

「その寒さも露天風呂の醍醐味という物だ。しかし、こんな雪山の温泉をお父様は知っていたとはな。言ってくれればよかったものの……」

「まぁ、こうして招待してくれたんだしいいじゃない」

「そうね。あ、マリアちゃん、熱燗どう? 美味しいわよ?」

「いいわね、頂くわ。お風呂でお酒も乙な物ね」

「はえー……大人っぽいデス……」

 

 まぁ、スタンドが居るとはいえわたしにしか見えていないっぽいしわたしが何もしなきゃ特に問題も無いかな?

 時々スタンドが話しかけてくるけど気づかない振り。気づいちゃったら色々と面倒な事になるからね。このスタンドたちが女将の手先って言う事も全然考えられるわけだし。

 とりあえずみんなからちょっと離れた位置で温泉に浸かっているわたしのスタンドの方にも近づいてみる。

 

「日本の温泉……ホテルのシャワーで十分だとは思っていたが、こうも気持ちいい物とはな。局長も変な風呂を作る訳だ」

「あれは違うと思うわよ……?」

「あの変態はただ露出がしたかっただけなワケだ、多分」

「しっかし翼もでっかくなったな。胸は……うん」

「姉さん、すっごいスタイルいいなぁ……それに対してわたしは……」

「死んだ時で体は固定されているからな。仕方ない事だ」

 

 なんかアダムに対してすっごい風評被害が行ってるけど、まぁ多分露出狂なのは間違ってないから気にしない。

 あの時は必死だったけど、わたしの記憶に空中で風に揺れる汚物という史上最低な物を刻み込んでくれたアダムは絶対に許さないから。思い出して顔真っ赤にしちゃったじゃん。惜しげもなく抜剣してくれちゃってからに……!!

 まぁそれはもう今更だし気にしないようにしよう。早く忘れないと、あんな汚物……

 とりあえずアダムとかいう汚物の話はこれくらいにして。

 けど、本当にいい湯。日ごろの訓練の疲れとかが全部無くなっていくような感じだよ……溶けそう……

 

「ブワハハハハ! 調ちゃん、いい感じに溶けかけているな!」

「はい、響さん。気持ちよくて……はい?」

 

 え? ブワハハハハ?

 ちょっと待って。響さんってそんな笑いかたしたっけ? というかこんな口調だっけ!?

 とりあえず急いで響さんの容体……を……

 

「どうしたのだ、調ちゃん。そんなにワガハイの体を見て」

 

 …………

 ちょっと待とう!? おかしいよね!? これおかしいよね!?

 なんで響さんが閣下になってんの!? なんで十万十六歳みたいな事になってんの!? 髪形もなんかすごい事になってるし、口調と笑い方が閣下だし!!

 

「ブワハハハハ! どうしたの、響。ワガハイ含めてみんなもう温泉から出るところだぞ?」

「呼びに来てくれたのか、すまないな未来。ブワハハハハ!」

 

 ……か、勘弁してよぉ!!

 なにこれドッキリ!? わたしに対して十万十六歳で接したらどうなるかっていうドッキリ!? っていうか地味に口調が安定していないからなんか変なキャラ崩壊起こしているようにしか思えないし!?

 って言うか何で閣下!?

 

「ど、どうやら変な幽霊が憑依したようだな……しかもそのまま本人の魂を抑えつけているみたいだ」

「その結果が閣下化……アーシ、ちょっと頭が痛くなってきたわ……」

「少なくとも無理矢理引っぺがしたらどうなるか分からないワケだ……」

「……うわ、あっちで翼たちも閣下になってる」

「マリア姉さん……」

「え、エルフナイン!? さてはあのお岩とか言う女の仕業か!! おい調、体を貸せ!! オレがぶっ潰してくる!!」

「ま、待とうキャロル! もしかしたら違うかもしれないから一旦様子を見よう!? ね!?」

 

 あーもうスタンドが好き勝手喋るからもうよく分からないよ!!

 でも、とりあえずあれが変なスタンドが憑依した結果であって、それを無理矢理にどうにかしようとしたら確実に面倒が起きるという事は分かった!

 とりあえずわたしに憑りつこうとしてくるスタンド共は避けて温泉から出ていった閣下達の後をついて行く。

 き、気づいていない風に接した方がいいよね? 多分霊感が無い人からしたらあの閣下化なんて見えないんだろうし……見えない、よね? もうこの場にスタンドが見えない人が居ないから分かんないよ……

 閣下達のブワハハハハ! を聞きながらわたしは浴衣に着替えて女湯を出た。

 すると、丁度温泉から出てきたらしい藤尭さん達と合流した。

 合流したけど……

 

「ブワハハハハ! どうだみんな、いい感じにリフレッシュはできたか!? ワガハイも十分にリフレッシュできたぞ!」

「ブワハハハハ! 見る限りみんなリフレッシュできたようだな!!」

 

 誰!?

 いや、髪色的に風鳴司令と緒川さんなんだろうけど、緒川さんに至っては口調が変わりすぎて言葉を文字に起こしたらもう誰か分からないレベルだよ!?

 や、ヤバイ、藤尭さんは無事だけどわたし達以外みんな閣下化した……!! ブワハハハハうるさいしみんな閣下だし自己主張激しいし!! え? わたし、これに囲まれて食事したりしなきゃいけないの……? 一人部屋だから流石に囲まれはしないけど……こ、これ、どうするの?

 

「し、調ちゃんは閣下化していないんだな! よかった、俺以外にもスタンドに憑かれていない人が!!」

 

 や、ヤバイ、この状況じゃわたしは完全に浮いている……! わたしもスタンド使いだってバレる……!

 れ、冷静に……冷静にここは嘘を吐こう。そうしよう。最初からそう決めてたからね?

 

「す、スタンド? 何を言ってるんですか? それに閣下って……何の閣下なんですか?」

 

 ごめんなさい、今度何かしらの埋め合わせはします……!

 

「え? き、気が付いてない……? って事は調ちゃんはそもそもスタンド使いとしての素質が無かった……?」

 

 ありますけどね、はい。

 

「ブワハハハハ! どうだ、ワガハイの部屋でUNOでもせぬか?」

「面白そうだな、ブワハハハハ!」

「ワガハイは強いぞ? ブワハハハハ!」

 

 あーもう誰が誰!?

 で、でもこれに着いて行かなきゃダメなんだよね……?

 

「そ、それじゃあみんながUNOするみたいなのでわたしも混ざってきますね……?」

「そ、そんな!? ちょ、みんな、俺を置いていかないで! こんな所で俺を一人にしないでくれぇ!!?」

 

 ……あー、この閣下の中でUNOするのかぁ。

 こっそり途中で抜け出してほとぼりが冷めるまで寝てよっと……

 

 

****

 

 

 結果から言うと次の日になっても閣下化は一晩経っても解けることは無かった。お岩さんは閣下化もしてないしスタンドも見えていないわたしに対して首を傾げていたけど、流石にわたしにスタンドの話をしたら変に思われると思ったからか何も言ってこなかった。

 だからわたしは一人部屋でお岩さんの運んでくる美味しい料理を食べて満足……しているんだけど、流石に今日はこの旅館から帰る日。流石にスタンド達も勝手に離れていくだろうし……

 

「ご、ごめん調ちゃん。俺、暫くここで働くことになって、みんなも暫くここに居るみたいで……それにここに繋がる唯一の道も落石で潰れたみたいだから、暫くはここでのんびりとしていてくれ」

 

 とか思ってたらこれだよ。

 さてはお岩さん、この状況を狙って作ったっぽいね。

 確実に閣下化したみんなとわたしを人質に、藤尭さんにここで働くことを強要したっぽいね。とりあえずその日の夜、わたしは行動を起こした。

 ギアを纏ってコソコソと物音を立てないように移動してお岩さんと藤尭さんの会話を盗み聞きした。

 

「しかし、あんなに居てアンタだけしか残らないとは。見えるのは三人、怪しいのが一人居たけどまさかこんな結果になるなんてね」

「怪しいの……? それって?」

「今も閣下化してない黒髪の子だよ。見えてない癖してスタンドに憑依されないとはね。予想外中の予想外だよ」

 

 まぁその結果、ビンゴだった。

 どうやらあの閣下化はこのお岩さんが引き金で、藤尭さんはどうやらここでほぼ強制的に働かされているみたい。なんかレイっていうスタンドを従わせているけど……スタンドを貸し出されたのかな? というかあのスタンドも従業員だったり?

 

「まぁ、ここを抜け出すって言うんなら好きにしな。その結果、あの黒髪の子も含めてお仲間がどうなるかは分からないけどねぇ?」

「ぐっ……!」

「ほらとっとと働いた。スタンドに憑依されない生身の人間は貴重なんだからね」

 

 その会話が終わると藤尭さんは少し悔しそうな顔をした後、かなり悪い顔をしながら部屋を出ていった。とりあえずバレないように後ろを着いていってみようかな? 藤尭さんが何しているのかも気になるし。

 このまま藤尭さんが何もできないようならわたしが動く必要もあるしね……? お岩さんのスタンドも多分わたしのスタンド相手ならどうしようもできないだろうし。

 

「藤、どうやら苦情が来ているらしい。対処しに行くぞ」

「分かったよ、レイ。これもみんなのためだ……」

 

 ……本格的に動く準備だけはしておこうかな?

 とりあえずこそこそしやすいようにどこにどんな部屋があるのかだけは確認しておかないと……あ、この部屋から何か殴ってる音が。なんだろう……

 

「ぶっコロす! バーバーッ!!」

 

 ……ザビエルがいた。

 とりあえずそっ閉じしておこう……

 

「……ザビエルの髪の毛って本当にあんなんだったんだな」

「っていうかバーバーって誰……」

 

 あ、藤尭さん達がザビエルの部屋を覗いた。

 

「いや誰だアレぇ!!?」

「ザビエルさんだな。どうやらあの髪型が流行らなかった事に恨みを持っているらしい。床屋のバーバーに」

「んなの当たり前だろうが!? っていうか信長といい光秀といい秀吉といい、どうしてこんなに夢を壊してくんだよ!!?」

 

 え、信長と光秀と秀吉って……

 と、とりあえずその三人だけ見てこようかな。だって日本でもトップクラスの有名人だよ? もしかしたらこう、いい感じにカッコよく決めてくれるかもしれないし。

 ――そしてわたしはブリーフ(スリー)を見たショックで二日ほど寝込んだ。あれが天下統一王手まで行った戦国武将と実際に天下統一した戦国武将って……しかもあんな汚物見せられてもうわたしの心はボロボロだよ……スタンドのみんなも慰める程だし……

 もう二度と歴史上の偉人に夢なんて見るもんか……

 

 

****

 

 

 ブリーフショックによって寝込んだわたしは決意した。

 あのブリーフ共、許さん。消し飛ばしてやる。

 

「別にそこまでピュアな訳でもないし殺す程恨まなくても。〇ン筋見えたくらいで……」

 

 うるさいカリオストロ。ソルトフィンガー。

 

「ああああああああああああああああああああああ!!?」

 

 びっくんびっくんするカリオストロ。

 もうスタンドが見えるとか見えないとか気にするもんか! 昨日なんか温泉の方で変な爆発が起きて藤尭さんが空を舞ってたし、そろそろわたしが動かないと本格的に今回の件は解決しそうにない。

 というか閣下共が夜通しうるさいから寝れないんだよね。だからそろそろ動かないと寝不足でこっちの気が狂いそうになる。

 スタンドのパワーを全開だ! 今日この日でこの旅館に蔓延るスタンド共を強制成仏させて明日は普通に帰ってやる!

 そのためにまずは陽動として藤尭さんを動かさないと。という訳でわたしは二人の閣下からとある物を剥ぎ取ってからなんか旅館の奥の方にある檻の内側でなんか倒れている藤尭さんの元へ。

 

「藤尭さん」

「うっ……し、調ちゃん? どうしてここに?」

 

 どうやら藤尭さんからしたらスタンドが見えないわたしがここに居る事が不思議で仕方がないらしい。

 まぁそりゃそうだよね。唯一スタンドの影響を受けないどころか見えもしなかったわたしがここに居るなんて。とりあえずギアを纏ったら色々と面倒だから普通に私服の状態でここに居るわけだけど……まぁそれが余計に不思議だろうね。

 生身のわたしなんてただの小娘だし。

 でも、スタンドが居れば違う。

 

「藤尭さんがだらしないのでわたしが動くことにしました、とか言ったらちょっとそれっぽいですか? と、いう事でカリオストロ。もうソルトフィンガーをくらいたくなかったらこの檻破って」

「全く、幽霊遣いが荒いわ、ねっ!!」

 

 ちょっと毒を吐いてからカリオストロに檻を拳で破壊してもらう。

 急にわたしがカリオストロを召喚した所を見て藤尭さんは目を見開いていた。まぁそれもそうだろうね。わたしも切ちゃんとかが急にマムを召喚してきたら驚くだろうし。

 ここが強力な霊場だからかわたしの肉体を使わなくてもある程度なら現世に鑑賞できるようになったカリオストロの一撃を見て藤尭さんはビックリ仰天。わたしはカリオストロを横に置いて藤尭さんの前に。

 

「わたしの方がスタンド使い歴長いんです。物理的な事はわたしが決着をつけますから、藤尭さんはそこら辺のスタンドを相手にしてください。多分適当に満足させれば大丈夫なので」

「……え? い、いやいや!? 調ちゃんってマジのスタンド使いだったのか!?」

「スタンドというか幽霊ですけど。結構前から憑いてますよ」

「ぜ、全然気づかなかった……」

 

 とりあえずわたしは閣下から奪ってきた物……ギアペンダントを二つ、改めて首から下げて合計三つのギアペンダントを首から下げて藤尭さんに背中を向ける。

 

「それじゃあ藤尭さん、わたしはちょっとブリーフ3を抹殺してくるので」

「お、おう……?」

 

 ……さて、じゃあまずはブリーフ3を消し飛ばしますか。

 

 

****

 

 

 ブリーフ3は案外早く見つかった。というのも、藤尭さんがレイさんを助け出してなんかラブコメの主人公みたいな事をした後、一つの部屋を使って大々的にスタンドたちの成仏を始めた。

 藤尭さんの千の風になってで成仏していく霊たち。お岩さんの手によって藤尭さんの阻止のために送り出されたブリーフ3をわたしは真正面から迎え撃つことにした。

 

「待てブリーフ3」

『あん?』

 

 なんか光秀が消えかけてるけど知ったもんか。

 わたしが消す。

 

「varios shul shagana tron」

 

 聖詠をしてシュルシャガナを纏う。

 ちゃんとリンカーは投与済み。

 

「うおっ、なんだこの子!?」

「これが今流行りの魔法少女ってやつっすかね!」

「案外ボディラインが出てエロ――」

 

 なんか信長が言ってたけどとりあえずまずはお前だって感じで塩を振りまいた電鋸を思いっきり信長に叩き込んだ。結果、信長は強制成仏。塩の力は偉大。

 

「と、殿ぉぉぉぉぉぉ!!?」

「魔法少女なのに電鋸とかどうなってふごっ!?」

 

 そして今度は光秀の顔面をストレートでぶん殴って強制成仏。

 さて……残りは一人。

 覚悟、わたしのトラウマの原因、豊臣秀吉……!! その汚らしいブリーフのせいでわたしのピュアハートは穢れてしまった……!!

 

「……元から穢れているワケだ」

 

 黙れプレラーティ。ソルトフィンガー。

 

「あんぎゃああああああ!!?」

「ま、まさか魔法少女に加えてスタンド使い!? この子どんだけ属性を盛ったら――」

「死ね秀吉ィ!!」

「ごふぅ!?」

 

 そして秀吉にも電鋸を叩き込んで強制成仏させた。

 よし、これでわたしの心に穢れた物を刻み込んだ奴らは全員この世から消え去った。実に清々しい気分だよ、ホント。

 さて、後は藤尭さんと合流してお岩さんを止めないと。あの様子だとラスボスはお岩さんの背後に居たあのスタンドだろうし、ちょっとだけ気合入れようかな。そのために閣下共からペンダントを奪ってきたわけだし。

 

「調、後ろだ!!」

 

 へ?

 

「オラァ!!」

「させん!」

 

 わたしがギアを解除して一息ついていると、急に奏さんが叫んだ。

 一体何が? と思っていると急に後ろからお岩さんの声が聞こえ、すぐにキャロルの声が聞こえたと思ったら何か硬い物がぶつかり合うような音と衝撃波が発生してわたしの体が外へと吹き飛ばされた。

 あっぶなっ。装者としての訓練をしていたからなんとか受け身を取る事ができたけど、まさか不意打ちされるなんて。

 

「害は無いと思い放っておいたあの小娘がまさかスタンド使いだったとはな。しかもそのスタンド、相当強力だな?」

 

 この声はお岩さん……だけど、何だろう、気配が……

 

「まぁいい! あの男は後回しにして貴様から先に蝋人形にしてくれるわ!! ブワハハハハハハハ!!」

「って閣下じゃん!!」

 

 とか思ってたらお岩さんも閣下だったんだけど!?

 しかもすっごい巨大化してるし! なに、今閣下化が流行ってんの!? スタンドの間では空前の閣下ブームなの!?

 ま、まぁいいや。多分お岩さんは自身のスタンドを取り込んだ結果閣下になったんだろうし。とりあえずお岩さんを倒してしまえばこの件も無事に解決する。

 

「サンジェルマンさん、カリオストロ、プレラーティ、キャロル!!」

「この霊場ならある程度なら戦えるだろう。カリオストロ、プレラーティ、やるぞ!」

「本気出しちゃおうかしら!」

「まぁ所詮は一般人だ。そう苦戦する事はないワケだ」

「エルフナインのためだ。お前を潰す!!」

 

 そして!

 

「奏さん、セレナ! わたしの中に!」

「んじゃお邪魔するぞっと」

「いっつも一人しか入れないから窮屈かも……」

 

 スタンド四人に加えて他のスタンドをわたしの中に。本来三人分の魂を体に入れたら誰か二人が弾かれるけど、ここはかなり強い霊場だから頑張ればできない事も無いっていうのが昨日判明した。 

 だから、錬金術師組四人を外で戦わせて装者組で肉体を使う。もし戦いが発生するんならそうしようと元から決めていた。

 と、いう事で。今日のわたしは結構強いよ……!!

 

「ふん、まだスタンド使いとして目覚めて日も浅い小娘が! 死ねぇぇぇぇ!!」

「近距離なら、奏さん! ……あいよ! Croitzal ronzell Gungnir zizzl!」

 

 体の主導権を奏さんに明け渡す。

 そしてわたしの口から零れる聖詠は、響さんのガングニールから送られてきた物。それを歌えば奏さんが主導権を持ったわたしの肉体がガングニールを纏い、手には巨大な槍が出現する。

 

「なにっ!?」

「悪いがアタシはただのスタンドじゃないんでね! オラァ!!」

 

 ギアの適合率は肉体の方も重要だけど、魂の方も重要になる。これはちょっと前にマリアがウチに遊びに来た時、セレナを憑依させたわたしの肉体がマリアのアガートラームを触った時、聖詠が歌えそうだったっていう事から発覚した物。

 だからわたしが奏さんとセレナの魂を肉体に入れていれば、その魂に応じたギアを使う事ができる。

 今回は奏さんが肉体の主導権を得ているからわたしの体はガングニールへの適性とシュルシャガナへの適性、両方があることになる。で、近距離戦闘なら奏さんのガングニールが最適だからガングニールを纏ってもらった。

 一応わたしのパーソナルカラーであるピンク色だけどね?

 

「ぐっ! まさかこんなスタンドが!」

「こっちを忘れてもらっては困るな!」

 

 そして後ろから飛んでくる錬金術師組の遠距離攻撃。お岩さんはそれを拳で防ぐけど、そこにギアの攻撃が混じればどうなるかな?

 

「セレナ! ……はい、いきます! Seilien coffin airget-lamh tron!」

 

 奏さんがガングニールを解除してセレナに主導権を渡す。そしてセレナがアガートラームの聖詠を口ずさめば、わたしの体はピンクと白銀の混じったアガートラームに纏われる。

 そしてセレナが二本の短剣を空へと放り投げた。

 

「これでどうです! IGNIS†FATUUS!!」

 

 セレナが空へと投げた短剣が空で円を描き、その中心にエネルギーが発生する。

 直後、まるで流星群の様に降り注ぐアガートラームの光がお岩さんを襲った。

 ……これ、一般人には流石にオーバーキルじゃ。

 

「ぬおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

 お岩さんは勿論それを避ける事も迎撃することもできず、そのまま爆炎の中に飲み込まれた。

 ……あれ? 終わり?

 

「ぐっ……小娘と侮っていた事が間違いだったか……! だが、最強のスタンドはTAGOSAKUだ! 以前、変わりなく!!」

 

 とか思ってたらボロボロのお岩さんがまだ立っていた。

 なんかラスボスっぽい事言ってるけどもうすぐ終わりそうだよね。

 

「じゃあ後は月読さん! ……あ、わたし? うん、わかった。varios shul shagana tron」

 

 なんかこのままわたしはニート決め込んでも勝てそうだったけど、どうやら最後はわたしに主導権を渡してくれたみたい。まぁ、いいかな。

 とりあえず聖詠を口ずさんでシュルシャガナを纏う。うん、体にも馴染んでるしやっぱこれだね。

 ガングニールもアガートラームも魂を変えれば纏えるってだけで、体へのフィードバックはきついからね。やっぱシュルシャガナが一番。

 

「小娘如きがあああああああああ!!」

「その程度!」

 

 お岩さんが殴りかかってきた。

 速い。しかもかなりの威力。だけど、響さんの拳に比べれば恐れるに足らない!

 拳を横から殴りつけて逸らし、そのままお岩さんの顔に向かって後ろ回し蹴りを叩き込む。生身の状態ならまだしもシンフォギアを纏ったわたしの一撃なら!

 

「ごふっ!?」

 

 例え徒手空拳を得意とするギアじゃなくても戦える!

 そっちのTAGOSAKUがどれだけ強くても、フィーネの遺産に比べれば所詮はちっぽけな物!

 

「その、程度でぇ! オラオラオラオラオラオラッ!!」

 

 と思ったら目にも止まらない程のラッシュ!? こんなの響さんのTESTAMENTや風鳴司令のラッシュくらいでしか見た事無いよ!?

 少なくとも生身の状態でシンフォギアに一歩後ろに付ける程度には強いって事だよね……!!

 とりあえず急いでガードしたけど、ラッシュに押されて吹き飛ばされてしまった。けど、ダメージは軽微! 全然耐えられる!

 

「とりあえず援護だ! ミリアドスフィア!!」

「アグレッシブバースト!」

「トリビアルミスチーフ!」

「エンシェントバースト! エレメンタルノヴァ!!」

 

 なんかキャロルがかなりオーバーキルレベルの技を使ってるけど、錬金術師のみんなの攻撃がお岩さんに集中する。

 だけど、所詮はスタンド単体での攻撃。お岩さんはダメージを受けつつもラッシュでそれらをなんとか防いで見せた。あのTAGOSAKU、やっぱり相当強力なスタンドっぽい……!

 でもこっちのスタンドには及ばない。少なくともTAGOSAKUを憑依させた状態でシュルシャガナにパワー負けしてるんだから相手に勝機は一切ない!

 

「ぐぅ! 木っ端のスタンド使い如きがぁ!! オォラオラオラオラオラオラオラオラオラァ!!」

「いい加減!」

 

 確かにラッシュは驚異的。

 だけど、その程度なら無理に押し通せば!

 

「大人しくして!!」

 

 無理矢理拳の雨を押しのけてそのままお岩さんの顔面にドロップキック。ついでにツインテールの先からバーニアも吹かせて火力アップ!

 これがオカルトと科学が融合した力! つまるところ非常識の力!!

 

「ぐああああああ!!?」

 

 わたしのドロップキックでお岩さんはそのまま吹き飛び、地面に倒れた。

 それと同時にTAGOSAKUが体から抜けてお岩さんは閣下状態から元に戻った。

 はー……流石に生身の人間を相手にしたからちょっと手加減が面倒だったかも。ついでに体の中に奏さんとセレナも入ったままだからちょっと体が怠い。やっぱ幽霊を体に入れたままだとちょっと体の方に不具合が発生する……

 

「し、調ちゃん! そっちはだいじょ……ってあれ?」

「お、お岩さんが倒されている……!? あの最強のスタンド使いであるお岩さんと最強のスタンドTAGOSAKUが……!?」

「あ、藤尭さん。そっちは終わりました?」

「あ、あぁ……って、調ちゃん、まさかシュルシャガナを!?」

「自衛のために一応。じゃあ、後は藤尭さんに任せますから。わたしは温泉に入ってゆっくりしてますね」

 

 まぁ所詮わたしは助っ人だしね。今回の事件の中心にいるのは藤尭さんだし。

 わたしは一度部屋に戻って閣下達の中にギアを放り込んだ後、一人で温泉に浸かった。

 なんか途中、どこかへ向かって引きずり込まれかけたりしたけど特に問題なく、何か空に向かってスタンド達が昇っていったけどまぁわたしには関係ない事だと思う。

 あー……やっぱ温泉っていいなぁ。すっごい癒される……

 

 

****

 

 

 みんなの閣下化は無事解除されて、みんなは特に問題なく復活した。

 とりあえずこの周辺で変な聖遺物が暴走してみんなが閣下化したから、藤尭さんがそれを解決するために動いたって設定を押し通したから特に問題も起こらず、スタンドも居なくなったから風鳴指令と緒川さんは安堵の息を吐いていた。

 普通聖遺物で閣下化とか意味わかんないと思うけどそこは聖遺物。意味わかんない事が起こるのがいつもの事だから。エルフナインはあり得ないと言いたいのか口を開きっぱなしにしてたけど。

 で、今日はやっとこさ帰宅の日。

 

「これからはしっかりと成仏できないスタンド達に最後の極楽を与えてしっかりと成仏してもらう、元の仙望郷として切り盛りしていくわ。もしあなた達が成仏できないならここに来なさい。しっかりと一発で成仏させてあげるから」

「もうスタンドの話は懲り懲りですよ……っていうか調ちゃん。昨日のスタンドは……」

「さぁ。もう成仏したんじゃないですか? わたしもこの間、ばったり会っただけなので」

 

 どうやらこの仙望郷は本来は成仏できないスタンド達に最後の極楽を与えて笑顔で成仏してもらうための温泉だったらしくて、お岩さんは夫である田吾作さんが死んでからはその目的も忘れてスタンド達をここに繋ぎとめていたらしい。

 で、昨日わたしが温泉に入った後、そこら辺のいざこざがあったけど無事に解決して、TAGOSAKUこと田吾作さんは成仏。その際に残した言葉によってお岩さんは本来の目的を思い出し、この仙望郷を最後の極楽の地にする事を改めて誓ったらしい。

 正直途中まで惰眠を貪っていたわたしとしては言われてもはぁそうですか、としか言いようが無いんだけどね。まぁハッピーエンドになったならそれでよし。終わりよければすべてよし、だよね。

 

「どうした藤尭、調くん! もうすぐバスが出てしまうぞ!」

「あ、はい! 今行きます! それではお岩さん、また機会があれば」

「えぇ。いつでも遊びにいらっしゃい」

「温泉、気持ち良かったです。温泉に入りたくなったらまた来ますね」

「その時は殴りかかった迷惑料も兼ねてしっかりとおもてなしさせてもらうわ」

 

 まぁ特に痛くなかったから気にしてないんだけどね。

 さてっと。

 帰って閣下共のせいで発症した寝不足を直そうかなぁ!! なんでわたしを寝不足に陥れた閣下になった人たちはあんなにピンピンしてるの!?

 あんなにUNOばっかしてたのにさぁ!! あーもうねっむい!! 今日は切ちゃんのベッドに潜り込んで一緒に寝ようそうしよう!! ちょっと頑張ったしその程度の我儘は許されるはず!

 ……あわよくばちょっと変なところを触ってみたり。うへへ……

 

「これが純粋なワケ」

「ピュアどころか薄汚れまくってるわよねぇ」

 

 黙れ元オッサンスタンド共。女の子はいつだってぴゅあっぴゅあなの。




という事で元ネタは銀魂のアニメ131話~134話、原作第百九十六訓~二百一訓にて放映、連載されたスタンド温泉編のパロでした。

流石に一から調ちゃんを絡ませるとなると確実に初っ端でブレイクが確定するので調ちゃんには最後の最後で動いてもらって、銀さんの位置に藤尭さんを配置する事でいい感じに裏でスタンド温泉編の話を消化してもらいました。

というかあれだけ端折って一万五千文字って……やっぱアニメ四話分に相当する話ですからね……長い長い。しかも調ちゃんを中心に置かなかったせいでかなり無気力というか無責任な感じになったような……ww

まぁ本音を言うとザビエルの「ぶっコロす! バーバー!!」が書きたかっただけとも。あのシーンはアニメ版で大爆笑した覚えがあります。ヤケに気合入った声でしたし。

で、次回の予定ですが……ネタ募集で集まったネタを使いたいのですが、自分がテレビ番組を見ないせいで格付けチェックはよく分からないし笑ってはいけないはネタを考えるハードルが……ww
とりあえず頑張って笑えるネタを考えます! そして書けたら投稿します!

それでは残り二人のヘキサセレナを集める作業があるので今回はこれまで。ちなみにすり抜けだけで天ノ逆鱗ズバババンが完凸しました。解せぬ。


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月読調の華麗なる配信

今回は実況者時空の話で、主に配信関連のお話です。

エルフナインを交えたきりしらコンビの配信をどうぞ。


 いつもの生配信の日。今日はわたし達は互いの私室でSkypeを開いて通話をしながらゲームをする。パソコンのゲームをやる時はずっとこれだから、もう準備もササっと終わらせてすぐに準備は終わった。

 で、今日の配信はエルフナインも追加参戦。エルフナインは生配信の時は結構な頻度でわたし達のゲームに混ざってくれるようになった。風鳴司令も年頃の趣味を見つけたみたいでよかったと笑顔だったし。それに、エルフナイン、最近はしっかりと休みの日は休んで仕事の時は仕事をするっていう普通の人なら身に付けているサイクルをやっと身に付けたみたいで、目に見えて健康的になってきた。

 ちなみに編集だけど、もう切ちゃんと合意の上でエルフナインに全部ぶん投げることにした。だってエルフナインの編集、すっごく早い上に日に日に面白くなっていくんだもん。半分じゃ全然暇って言われてから試しに作業全部ぶん投げたら丁度いいって……

 まぁ、そんな訳でわたし達は最強の編集者を味方にして今日も実況者してます。広告収入のお金も入って最近ご飯がちょっと豪華になったし。

 

『テステス。二人とも、ちゃんと聞こえてますよねー?』

「うん、聞こえてるよ、切ちゃん」

『こっちも聞こえてますよ~』

 

 今日のゲームは最近みんなでパソコンに入れたフォートナイトってゲーム。三人とも下手なんだけど、まぁ下手の横好きという事でとりあえずやってみようってなって配信しつつ上手い人からアドバイス貰えたらなーって。

 

『じゃああたしのパソコンの方で配信開始するデス』

「こういう時、アカウントが二つあったら別視点で撮れたのにね」

『流石にそうなると視聴者も見るのが大変ですし。それにプロじゃないんですからこれでいいと思いますよ』

 

 と、言いながら三人で色々と機材の方とかを最終チェック。試しにシンフォギア関連の禁足事項を言いまくって例のプログラムがしっかりと作動していることを確認してから切ちゃんが配信を開始した。

 わたしのパソコンに繋がっている三つの画面の内、一つが切ちゃんの画面を映したのを確認してしっかりと配信が始まってる事を確認。同時に後日動画版として見やすいようにカットと編集をした物を投稿するための録画ができていると切ちゃんから報告を受けてから一息ついた。

 

『今日も特に問題なくスタートデスね』

「じゃあ後はいつも通りちょっとだけ雑談タイムだね」

『とは言ってもさっきからずっと雑談してましたから話題とかありませんよね』

 

 エルフナインの言葉に笑いながら頷く。

 一応配信の時はタイトルの後ろに出演者の名前のイニシャルを入れる事が定番になったからエルフナインが混ざっているって言うのも見ている人はすぐに分かってるはず。

 

『そういえばこの前、美味しいクレープがあるお店を見かけたんです。今度三人で行きませんか?』

『おぉ、いいデスね! 是非とも行くデス!』

「というか、ナインが珍しいね。いつもは引き籠りしてるのに」

『さ、最近は外に出てますよ! 本を買ったりゲームを買ったり……』

「でも趣味嗜好はインドアのままなんだね。ナインらしい」

『ワーカーホリックよりかは遥かにマシだからいいんです!』

 

 エルフナインの言葉に二人で笑うとエルフナインがもうこの話題止めです! って言ってきた。画面の前でぷくーって膨れっ面してるエルフナインが簡単に想像できるよ。

 最近ようやく買ったカービィのおっきなぬいぐるみを抱きながらふとコメント欄を見てみると、ワーカーホリックについて結構言及してくるコメントがあった。あー、そういえばエルフナインも同年代って設定だった。まだ高校生のわたし達がワーカーホリックって想像できないもんね。

 じゃあ適当に……

 

「ナインのワーカーホリックは単純にアルバイトをぎっちりと入れていただけだよ。週七とかで」

『え? あ、えっと……そ、そうですね。最近は普通に休んでますけど、ちょっと前までは働くために生きていると言っても同義でしたから』

『止めろって何度言っても止めなかったデスからなぁ……』

「わたし達が編集を押し付けたら何でか普通に休むようになってプライベートな時間を取るようになったんだよね」

 

 まぁこんな感じでいいかな? コメントの方は……

 えっと、『週七!?』。『なんでそんなにバイトをしてたんだ……』。『ワーカーホリックの先が編集に向いただけ疑惑』とか色々と言われているけど、まぁSONGの事は言えないから……

 

『普通に生きるためですね。まぁ色々とありまして』

 

 その瞬間、視聴者の人達にエルフナインの家庭、相当ヤバイ疑惑が降って湧いてきた。

 うっわー、なんかすっごいエルフナインの事を心配するコメントが……そこまでお金が必要なほどに追い込まれていたのか、とかだからあんなに小さいのか、とか。

 違う。違うんだけど……駄目だ、エルフナインの事を少しでもバラすとSONGに繋がる。ど、どうやって弁明したら……

 

『欲しい物があってバイトを入れ込んだらそれが日常になっただけですよ。自業自得ですから特に心配はご無用です』

「そ、そういえばナインはパソコン関連とかに興味あるもんね」

『お金使うんですよねぇ。マザボとかグラボとか。最上級を求めると十万とか越えますし』

 

 そ、そうだったんだ……

 ……って言う事はこの現行の環境ではハイスペックの中でもトップクラスらしいこのパソコン、もしかしてお値段からしたら相当なんじゃ。わたしはてっきり高くても十万程度かなーって思ってたんだけど……

 いや、でもこのパソコンの中にはエルフナインが異端技術を使って作ったっぽいパーツも入っているし多分十万円程度だと思う。そう思いたい。

 

『そ、それじゃあ気を取り直してフォートナイトをやっていくデス! 今回はトリオでビクロイするデスよ!』

「まぁわたし達全員下手だからどこまで行けるやら……」

『大抵激戦区に降りては死んでますからね。生き残ることだけを考えたら上位には入れますが……』

 

 ずっと隠れてれば上位に入ることだけはできるからね。でも誰かと出会った瞬間即死だから結局勝てないって言う。

 PUBGの方は上手く立ち回って行けば誰も殺さなくても勝てるらしいけど、フォートナイトじゃまず無理だもんね。それに隠れてても結局はパルスで死んじゃうし。

 とりあえずゲームスタート。待機ロビーに入ってからは暫く待機。

 

『じゃあいくデスよ! せーの!』

「えいっ」

 

 で、待機中は暇だからカービィを膝の上に乗せながら三人でダンスを全く同時にやってちょっと奇妙な三人組を作ってみたりして待っていると、バスの音が聞こえて視界が一瞬でバスを後ろから見下ろしている視点に切り替わった。

 えっと、エルフナインが先にピンを仕込んでいたのは……あったあった。この雪の中のお城みたいなところだね。とりあえずカービィは降ろしてっと。

 

「ジャンプ!」

『フリーフォールも最近はやってないデスなぁ』

「一時期は結構やってたもんね」

 

 主にステルス輸送機兼家だったアレとか、SONGのヘリコプターとか、クリス先輩のミサイルとか。コメントで結構アクロバティックな趣味しているとか言われたけど……まぁ、そういうことにしておいて。あんまり触れると会話全部にピー音が入ることになるから。

 とりあえずグライダーを開いてお城の屋上に着地。切ちゃんは途中の階層に降りたみたいで、エルフナインは敵が居ないのを確認してから民家の方に降りたみたい。とりあえずわたしは上から虱潰しにしていこう。

 何が落ちてるかなー……

 

「うーん、ハンドガンと、アサルトライフル……一応ショットガンもあるけど……」

『こっちの宝箱でレジェンドのヘヴィーショットガンでたのでシュルちゃんにあげるデス』

「わたしがショットガン使えないの知ってて言ってる? あ、宝箱からスナイパーのエピックでたから別にいいや」

『実銃だと結構反動強くて当たんねーんデスよねぇ。ショットガンとスナイパーって』

「わたし達女の子だしね」

 

 まぁ暫くはこのスナイパーで後ろから芋っていようかな。狙い撃つぜ、ってね。

 とりあえず漁りながらふとコメントを見てみると、実銃撃ったことあるの? ってコメントが。

 そういえば日本だと実銃撃った事ある人なんて海外旅行に行った人くらいだもんね。そんなコメントが来るのも仕方ないね。

 

「銃はわたしとイガちゃんがアメリカに居る時に撃ったよね」

『え? ……あー、そういうコメントデスか。一応あたし達帰国子女なので、アメリカでやれるような事は大体やっとるデスよ』

 

 F.I.Sの射撃訓練で、だけどね。

 ハンドガンもショットガンもスナイパーライフルも。軍隊とかで使われるような銃は大体撃ったことがあるよ。あと英語もペラペラ。わたしなんて物心ついた時……いや、違う。月読調としての記憶が始まった時から元から喋れた日本語と現地で覚えた英語の二か国語が使える。

 そのおかげで学校で英語の授業が出たら普通にいい点数取れます。切ちゃんはどうしてか喋れるのに書けないから点数低めだけど。国語ができない日本人みたいな感じです、はい。

 

「あ、イガちゃん。ミニポーションとでかポーション余ったからあげるね」

『おー、ありがたいデス。ナインは大丈夫デスか?』

『チャグチャグ拾ったんで大丈夫ですよ~。風船も拾ったので後で分けますね~』

 

 ゲームの方はこんな感じで順調も順調。ストームの方はそこそこ離れているから探索もいい感じの所で切り上げて円の方に向かって走って行かないとね。風船があるからある程度は余裕だとは思うけど。

 とりあえずお城の中で切ちゃんと合流。シールドポーションを渡してから二人でお城を出てエルフナインと合流。風船を貰ってからお城を飛び降りた。

 

『とりあえずティルディッドの方に向かいましょう。激戦区なので道中敵が居ると思います』

「頭抜けるかなぁ……」

『ロケラン欲しいデス……』

 

 三者三様な事を口にしながら向かった先はビルが立ち並ぶ街。うっわぁ、そこら中に建築の後がある……わたし達全員、建築ができないからどうにもなぁ……

 とりあえず三人で移動して誰かがやられたらすぐに蘇生できるようにしないと……

 ……あれ? 切ちゃん居なくない?

 

『あ、ロケランが落ちてたデス! 誰かの遺品デスかね?』

「ってイガちゃんどこ!? ……遠っ!?」

『とりあえずイガちゃんを途中で待ってから先に進みましょう。幸いにもここには敵が居ないっぽいですし』

『他にも物資が大量デス! エピックのアサルトとかもいい感じデス――』

 

 その瞬間、パーン! という乾いた音が数回響いて切ちゃんの体力バーが赤色になった。

 ……うん、その。今回ばかりは屑運というよりかは立ち回りの問題だよね、切ちゃん。

 

『……悲しいデス。あ、死んだデス……』

「どうする、ナイン。逃げる?」

『ここは戦いましょう。どうせデュオで行っても死ぬだけですし……』

「そ、そうだね」

 

 という事で突貫。敵の居る方角は分かっているから二人で固まって移動して……あ、見つけた。

 

「いたよ。正面、建物の上」

『あ、こっち見てませんね。シュルちゃん、抜けますか?』

「なんとか抜いてみるね」

『……この録画部分をちょっとこうしてこうやって……よし。これは後で視聴者サービスに……』

「イガちゃん。死にたくなかったらその素材を捨てようか。よし、ヘッショ」

『……うっす』

 

 とりあえずわたしのヘッドショットでお相手さんはその場でダウン。どうやらシールドが無かったらしくヘッドショット一発でダウンした。とりあえず後で切ちゃんが作った卑猥な素材はしっかり削除されたか確認するとして、助けに来るであろう人を確認しつつダウンした人を撃ってゲームから退場させる。

 うん、いい感じ。

 でも残りの二人はどこだろう……確実にわたし達の位置はバレているだろうし、警戒しておかないと……

 

『あ! シュルちゃん、NE方角! 敵二です!』

「え、NE!? う、うん!」

 

 どうやらわたしからちょっと横の位置に居たエルフナインが交戦に入ったらしく、瞬く間に銃声が。わたしもすぐにスナイパーを構えてそっちの方を見るけど、スコープ越しに写ったのはエルフナインが敵二人と建築をしながら撃ち合いをしていた。

 ……え? ちょっと待って。エルフナインって建築できたの? なんか思いっきり上級者っぽい動きをしてるんだけど……というか壁のせいで頭が狙えない……

 ……ちょっと頭出してくれないかなぁ。とりあえず壁撃って破壊しておこ。

 

『よしまず一人! あとはダイナマイトプレゼントで……よし二人! 確キルです!』

 

 とかやってたらエルフナインが勝手にやってくれた。

 ……その、なんていうかさ。

 

「……ナイン、実は練習してた?」

『ちょっと編集終わりに一日中練習してただけですよ』

 

 いや、それ相当練習してるんじゃ……いや、でも上手い人ってもっと練習しているよね。

 それでもこの短期間でここまで上手くなるのって……

 あーもうめんどくさい。とりあえずエルフナインはゲームについては結構得意なんだなー程度に想い留めておこうそうしよう。

 ちなみにこの後二人で行動していたけど奮闘空しく途中で負けましたとさ。ちゃんちゃん。

 あ、切ちゃんが作ったわたしとエルフナインの声の卑猥素材はちゃんと削除されてたよ。ただ視聴者の人達はすっごく欲しがってたみたい。流石HENTAI大国日本の国民だなーって思いました。

 

 

****

 

 

 まぁそんな感じにいつものゲーム実況の生配信を終わらせた翌日。わたし達はカメラ片手にカラオケに来ていた。

 そう、今日はゲームの生配信じゃなくてカラオケの生配信。わたし達全員が素顔がしっかりと見えないように仮面をして、エルフナインに件のプログラミングを仕込んでもらったノートパソコンから直接カラオケの様子を配信するっていうだけ。

 要するにわたし達が楽しみながらお金を稼ぐってだけです、はい。

 前々からこういうリアルでの様子をちょっとだけ配信……っていうのもしてみたかったんだよね。特に歌はわたしと切ちゃん、それからエルフナインも好きで最近は一緒に行く事も多いからね。あと、装者として歌の練習は重要だしね。

 作業動画とかでわたし達が無意識に歌ってる鼻歌とかも結構人気っぽいし。それならいっそ配信しちゃおうって事で今日はカラオケの生配信。昨日の生配信は最後にその告知をするためにやっていたり。

 ちなみにツイッターの共有アカウントの方でもしっかりと報告済み。

 

「カラオケはフリータイムで好きなだけデス! ガッツリ歌ってガッツリと配信するデスよ!」

「あ、切ちゃん。何か注文する?」

「それじゃあポテトと……あとは唐揚げが食べたいデス!」

「じゃあボクはこのロシアンたこ焼きっていうのがやってみたいです!」

「エルフナイン、チャレンジャーだね……それじゃあそんな感じで注文しちゃうね?」

 

 とりあえず注文はわたしの仕事。

 一応わたしも食べたいのを選んで……あっ、このサラダ美味しそう。これにしよっと。

 あとは……まぁこんな感じかな。食べたかったら注文したらいいし。

 お金ならある。

 

「もしもし……あ、はい。注文を。えっと……唐揚げを一つと、ポテトを一つ。それと、ロシアンたこ焼きを一個と、トマトサラダを一つで。はい、お願いします」

 

 よし、注文完了。

 なんでトマトサラダかって? ほら、ちょっと前にトマトを食べてからハマっちゃって。トマト美味しいよね。色んな調理法が試せるし、それでいて美味しいし。

 まぁそんな事は置いておくとして、ちゃんと仮面も着けてるしいつ配信が始まっても……

 

「よし、配信早々デスけど、ちゃっちゃと始めるデス! 今日はあたし、イガちゃんとシュルちゃん、それから編集者ナインのカラオケ生配信デス!」

「あ、もう始めたの?」

「もう始めちゃったんデス」

 

 よく見れば切ちゃんもエルフナインも素顔が見えないようにしっかりと仮面をしてる。

 ちなみに、このノートパソコンには件のプログラム……つまりはシンフォギア関連とか本名とかにピー音を自動で淹れてくれるプログラムに加えて、もし素顔が見えちゃったらモザイクが自動でかかるプログラムまで搭載している。だからシステム側でわたし達の素顔が割れる可能性があると自動的にモザイクがかかるんだけど……うん、問題なし。

 で、もう始めちゃったけど……挨拶とかはどうするの?

 

「しなくても大丈夫デスって。生配信できちっと挨拶した事なんて数回程度デスし」

「そ、そうだっけ? ……そうだった」

「まぁ緩い配信ですからね~」

 

 と、エルフナインがドリンクバーの所にあったソフトクリームを食べながら言っている。確かに緩いけど一応真剣にはやってるんだよ? 一応は。趣味の延長とか趣味そのままとか言われると何も言い返せないんだけどね。

 まぁ所詮はアマチュアだし、ね?

 

「じゃあ最初はあたしから入れるデス。えっと、Dark Oblivionっと……あ、あったデス」

 

 トップバッターは切ちゃん。入れた曲は……マリアの曲だね。

 一応、わたし達はプライベートの事は嘘を交えたこと以外はあまり話さないようにしているから、マリアとの関係とかはあまり言わないようにしておかないと。

 翼さんの後輩とか言おうものならリディアンに所属しているってだけで身元がバレそうだしね。しっかりと身元は守って行かないと。

 まぁそこら辺はしっかりとプログラムがシャットアウトしてくれるみたいだけど。

 

「トップバッター、一番槍決め込むデス! ~~♪」

 

 切ちゃんが歌い始めた。

 じゃあその間に私は……

 

「わたしはこれ入れまーす」

 

 カメラにしっかりと曲を入れるための端末の画面が映るように見せてから送信。出てきた曲名はルミナスゲイト。最近翼さんが出したシングルの曲だね。

 あ、コメントがちょっと来てる。切ちゃんの曲が間奏に入ったしちょっとコメントを返しておこうかな。

 えっと、まずは……

 

「イガちゃん歌上手い、現役JKの歌声ktkr、みんなちっちゃくて可愛い……とりあえずイガちゃん含めてわたし達の歌の基準はこんなものだよ。それと、次のコメントはスルーで……ちっちゃいのは分かってるけど、一応気にしてるからあまり言わないでほしいかも」

 

 特にわたしは背も胸もちっちゃいから……

 どうして切ちゃんはわたしとほぼ変わらない食生活なのに胸はあるんだろう……何かの嫌がらせ? あとエルフナインについてはノーコメント。成長した結果はキャロルで見てるから。

 ホントにあんな風になったらもいでやろうか。っていうかエルフナインって肉体年齢は何歳なんだろう? ここからあれだけ成長するってなるともしかして十代前半……? キャロルってそこら辺から成長止めてたのかな?

 

「あ、シュルちゃん。食べ物が来たみたいですよ」

「え? あ、うん。ちょっとボーっとしてた」

 

 なんかジッとエルフナインの方を見てボーっとしてた。とりあえず店員さんの顔が映っちゃわないように料理を受け取って……あ、変なコメントが。

 えっと、キマシタワー? うっさいオタク共。最近ネットスラングをよく目にするから意味が分からないと思ったら大間違いだよ。

 ……いや、まぁ、その。わたし達の距離感ってそう勘違いされてもおかしくない程度には近いのは自覚してるけどね? でもわたし達全員レズじゃないし。レズは未来さんだけで十分。

 

「~♪ ……ふぅ、やっぱこの曲、英語ばっかりでちょっと歌いにくいデスなぁ」

「にしては毎回歌ってるよね?」

「まぁ、一応はアレデスから。うん、アレ」

「持ち歌って事?」

「そ、そうそう、それデス」

 

 まさか身内の曲とは言えるわけもなく切ちゃんが言葉を詰まらせたところでわたしがヘルプを入れた。

 とりあえず次はわたしかな。ルミナスゲイト、カラオケで歌うのは初めてだけどちゃんと歌えるかな。とりあえずちょっとだけ喉の調整して……よし。

 ちょっと低めだから声を低めにして……

 

「~~♪」

「おぉ~。シュルちゃんの最近は滅多に聞けない低音曲デス」

「いつも音程が高い曲歌ってますからね」

 

 翼さんの曲、わたしの声とはあんまり合わないんだよね。デュエットすると声がピッタリと合うんだけど、わたしが翼さんの曲を歌うとどうしても結構低くなっちゃって声が張れなくなったり。

 昔は低めの曲が得意だったんだけどなぁ。多分昔のわたしなら特に調整も無く歌えたと思う。

 

「……あ、ナインナイン。どうやらあの人達もここにいるっぽいデスよ」

「え? あ、ホントですね。ツイッターで写真なんて上げてます。変に乱入されなければいいですけど……」

 

 なんか切ちゃんとエルフナインがぼそぼそと喋ってるけど聞こえないや。

 まぁ今は普通に歌う事に専念しよう。っていうか、カラオケ以外の場だと体を動かしながら歌う事が大多数だからこうして立ったまま歌っているとちょっと物足りなく感じちゃう。

 わたしも装者として大分毒されてるなぁ……

 っと。そんな事考えてたらもう終わりだ。

 

「よし。じゃあ次はナインだね。何入れたの?」

「FLIGHT FEATHERSです。ボク、あんまり曲のレパートリーが無いので」

「でもあたし達は翼さんとマリア……さんの曲は大抵歌えるんデスよね。多分全曲アカペラも余裕デス」

「うんうん。……あ、コメント。ファンなの? って。ここの三人はあの二人のファンだよ」

「CDも全部初回限定版でコレクションしてあるデス」

 

 まぁ身内っていうのもあるけど、普通にあの二人の歌が好きだからね。むしろ買わない選択肢が存在しないから。

 とりあえずまだ翼さんの声が高めだった頃の曲をチョイスしたエルフナインはマイクを両手に歌い始める。

 なんだろう、この……エルフナインってちょっとだけ舌ったらずな所があるから、歌を聞いてるとちょっと癒されるんだよね。なんかこう、子供の歌を聞いているみたいで。

 ちなみにこれをエルフナインに言うと顔を真っ赤にしてぽかぽか叩かれるから注意。本人は早く大人になりたいって心の奥底では思ってるみたいだから。

 コメントは……可愛いってコメントが大多数。ちなみにわたしの時のコメントは……? 綺麗、上手いとかが大多数。ありがとうございます。

 

「イガちゃん。久々に二人でORBITAL BEATを歌ってみない?」

「おっ、いいデスなぁ。最近やってなかったデスからね」

 

 リディアンの学園祭で歌ったあのORBITAL BEATを今ここで。音楽の専門学校の歌コンテストでトップを競う程の歌、今こそここで発揮すると……き?

 ……あれ? なんかドアの隙間から誰かがこっち見て……えっ!?

 ちょ、あれもしかして……!?

 

「い、イガちゃん! あっちあっち!」

「え? ……あっ!? もしかして偶然あたし等を見つけたデスか!?」

 

 やっぱあの窓から覗いてるの、響さんだよね!?

 まずっ、リアルがバレる!! あ、ちょ、ドアノブに手を掛けちゃったよ!? にっこにこしてこっちに乱入してくる気満々だよあの人!?

 とりあえずあの人を部屋の外に追いやらないと!!

 

「イガちゃん、後始末よろしく!」

「了解デス!」

「やっほ……」

「お帰りはこっちです!!」

「おうっはぁ!!?」

 

 切ちゃんに後の事は任せてわたしは入ってきた響さんの腰にタックルをしかけて思いっきり響さんを吹き飛ばしてそのままドアを閉じた。

 よ、よし! これで響さんの声は最低限しか入らなかった筈!

 ふぅ……セーフ。なんとかなった。ミッションコンプリ―ト。

 

「し、らべちゃん……どうして……」

「なんか馬鹿が部屋からはじき出されてきたんだが……ってかその仮面何だ? 仮装でもしてんのか?」

 

 これで配信の方は問題なし。切ちゃんが上手い事弁明してくれるのを期待して、わたしはタックルで虫の息になった響さんと呆然としているクリス先輩に事情を説明しないと。

 

「実はわたしと切ちゃんと、それからエルフナインでカラオケ生配信してるんですよ」

「は? 生配信? お前ら変わった事やってんのな」

 

 クリス先輩は若干呆れ顔でそう言ってくるけど、まぁ変わった事っていうのは否定しない。

 だってリディアンでゲームとカラオケの生配信してるの、わたし達くらいだろうし。

 

「まぁ、はい。それで、素顔も含めてリアルの情報は一切漏れないようにしてるので、響さんにダイナミック退室を決め込んでもらいました」

「ほー。だからそんな妙ちくりんな仮面している上にこの馬鹿をタックルで吹き飛ばしたわけか。まぁ、この馬鹿を混ぜたら確実に本名とか流出するからな」

「一応エルフナインがそこら辺をガードしてくれるプログラムを作ってくれたんですけど、確実に響さんが入るとピー音だらけになるので」

「ん、まぁ事情は理解したわ。ネットってのは結構怖いもんだからあんま変な事すんじゃねぇぞ? 特にSONG関連とかは」

「分かってますって。それと、この事はマリアとかには内密にお願いします」

「あ? なんでだ?」

「にっこにこして乱入してきそうなので……」

「……あー、理解したわ。とりあえずこの馬鹿は回収してくから、お前らはお前らで楽しめよ」

「はい。ありがとうございます、クリス先輩」

 

 とりあえず大体の事情を大雑把に理解してくれたクリス先輩は響さんを蹴り転がしながら自分たちの部屋らしいわたし達の部屋から一個右のお向いさんの部屋に入っていった。

 あんな所に居たんだ……気が付かなかった。というか響さん、蹴り転がされてたけど大丈夫かな? 埃とか。

 まぁいいや。とりあえず戻ろう。

 

「ふぅ。なんとかなったよ」

「お帰りデス、シュルちゃん。一応事情は説明しておいたデスよ」

 

 どうやら切ちゃんは自分達の友達が偶々同じ店に居て、わたし達を見つけたから乱入してきたのを防いだっていう事実に嘘をちょっとだけ織り交ぜた事を喋ってなんとかお茶を濁したっぽい。

 クリス先輩とか響さんにはバレちゃったけど……まぁ大丈夫だよね。あの人達に人の秘密を言いふらして楽しむなんて趣味は無いから。

 さて、とりあえず今は響さん達の事は忘れて歌おっと。丁度わたし達のORBITAL BEATの番だからね。




と、いう訳でお送りしました今回のお話。フォートナイト、難しいですよね。特に建築もして相手を立ち回りで倒さなきゃいけないって言うのが。自分はPC版でやっているのですが建築無理です、できません。そしてPCでTPS、FPSも初めてなんでエイムガバガバです。誰か助けて。

そして後半はカラオケ。自分は二時間経過すると喉が潰れかける人なんでフリータイムは喉が持ちません。まぁ初っ端から激唱インフィニティとか歌ってるから最後まで持たないんでしょうけどね。
エルフナインちゃんのキャラソンマダー?

最初はソシャゲ関連の事でもさせようかなーとか思ったんですけど、シトナイガチャで累計百十連近く爆死したので嫌になりました。シンフォギアもグラブルもFGOもガチャで何もでねぇ。切ちゃんの屑運が移ったのかと疑うレベルで。というかFGOに至っては半年の間ずっと星5鯖来てねぇや。泣けるぜ。

まぁそんな感じでいつも通り後書きに怪文書を書き記した所で、次回は月読調の華麗なる格付けチェック……の予定です! 何せ自分、格付けチェックはあまり見ないので友人の録画とかを見させてもらってるんですが、中々に難しい。
それではまた次回!


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月読調の華麗なる格付けチェック

よっしゃ誕生日に間に合った!

という訳で今回はリクエストで結構来ていたアイドル時空の格付けチェックとなります。元となる格付けチェックは2019年、つまりは今年の物です。他の年のは見てないのでそれをパク……オマージュさせていただきました。
出てくるのは調ちゃん、たやマ、ズバババンに加えて我らがきねくり先輩。果たして明らかにやらかしそうな先輩共と共演した二人はどうなってしまうのか。

で、書きましたが……なんと文字数一万六千文字。平行世界の中編を置いておけば恐らく文字数最多記録! メモ帳の容量が34KBとかいう平行世界の半分近い容量を叩き出しております。

誕生日という事でいつもよりも多めに書いておりますって事にして、本編をどうぞ!


 お正月……というわけではないけど、それよりも少し前。わたしとマリア、それから翼さんに加えてなんとクリス先輩がとある番組にお呼ばれされた。トップアーティストである二人に加えて最近は人気も出てきたアイドルであるわたし、それからそんなわたし達とラジオをやっているクリス先輩。その四人が呼ばれた番組、というのが……

 

「芸能人格付けチェック! お正月スペシャルー!!」

 

 そう、お正月や時々改編期にやっている日本人なら八割以上の人は知っているであろう特番、芸能人格付けチェック。それにわたしとクリス先輩は翼さんとマリアのお仲間として呼ばれた。

 という事でわたし達はチーム歌姫としてなんかすっごい貫禄のある方々に囲まれてこの芸能人格付けチェックに出させてもらう事になった。

 ハッキリ言わせてもらうとすっごい緊張する。

 だってあの芸能人格付けチェックに一年目から出るんだよ? どれだけそれがすごい事か……というか周りの人がすごすぎるというか……生GCTさん初めて見たしすっごいカッコいいし……

 

「それでこちらがチーム歌姫! 今やトップアーティストである風鳴翼さんとマリア・カデン某さんが率いる身内軍団!」

「ちょっと私の名前くらいちゃんと呼びなさいよ!?」

 

 まぁ紹介方法もこうなるよね。

 別に間違っても無いしこっちの方が笑ってもらえるからいいんだけどね。ちゃんと番組ではしっかり紹介してくれるだろうし。

 というかこの司会者の人もよく見る人だけど……改めて見るとホント貫禄が違う。

 

「一応風鳴様は過去に一度だけ出たことがございますが、今年はどんなお気持ちでしょうか?」

 

 ちなみにその過去に一度というのが奏さんとのツヴァイウイング時代に出たやつなんだけど、その時の結果は奏さんが引っ張ったけど二人ともボロボロで、最後はそっくりさんで終わるって感じだった。案外奏さんもポンコツでしたって話。

 平行世界の奏さんもよく格付けチェックに出てるらしいんだけど、まぁ結果はお察しみたい。

 

「勿論、このまま一流芸能人としてここに残らせてもらう所存です。今日は後輩達も連れてきましたからね!」

「さて、そう言われました後輩の方々、月読様と雪音様はどうですか?」

「が、がんばりましゅ!」

「な、なんとかします!」

「えー、駄目みたいですね。諦めましょう」

『ちょっとぉ!?』

 

 確かに返しとしては減点レベルだったけどぉ!

 でも、司会者の人の言葉でわたし達の言葉も全部笑えるような言葉になってるんだからすごいよね。っていうかクリス先輩、何とかしますって何ですか何とかしますって。

 そりゃわたしも変な事言っちゃったから駄目だけどさぁ……まだ芸能人やってから一年も経ってないし許してもらえると……え? だめ? そう……

 

「最後はマリ某様、どうですか?」

「だからちゃんと名前言いなさいってば!」

「読みにくいねんてお前の名前ェ!!」

「ですよねェ!!」

 

 思わずマリアの言葉に笑いそうになった。ですよねって……ふふふっ。

 何気にマリアもバラエティ慣れしてるよね。結構色んなバラエティに翼さんと一緒に出てるし。最近はユニットとしてわたしも出ているけど、未だにどうやったらいいかとか慣れてないもん。その辺、この司会者の人って凄いよね。つまらない言葉でも返し一つで笑えることにしちゃうんだから。

 

「まぁ、そんな事は置いておくとして。私は世界の歌姫よ? それが一流でない理由がどこにあるのかしら?」

「うっわー、負け犬くせー事言い出しやがりましたよコイツ」

「あなた私にだけは辛辣ね!?」

 

 でも司会者の人の言う事にも一理あり。思わず頷いていると横に座っているマリアがこっち見てきた。

 

「頷くんじゃないわよ調ぇ……!!」

 

 そしてついでに思いっきり頬っぺた抓ってきた。

 いたいいたい! ここテレビだから! わたしアイドルだからそういうのやめてぇ!! 素材になっちゃうぅ!! マリアみたいに拡散されるぅ!!

 必死に抵抗したらパッと離された。うー、頬っぺた絶対に赤くなってるよ……

 ……えっと、それで後のチームの紹介の間にどうしてこうなったかを説明すると……まぁ簡単で、本来はわたしと翼さん、それからマリアに対して元からオファーが来てたの。わたしが絡んだ仕事、この二人って殆ど断らないからね……ほんと、愛されてます、はい。

 それで、ならついでにクリス先輩も連れてきちゃえって事で連れてこられたのがクリス先輩。美味しいご飯食べれるよって言ったらホイホイ着いてきたそうな。クリス先輩……

 

「さて、それでは最初のチェックですが」

 

 あ、いよいよ始まった。

 よし、頑張らないと。

 

「まずは代表者一名にワインでチェックしてもらいます」

 

 うん、台本通り、最初はワイン。

 ちなみに最初のチェックはわたしとクリス先輩、それから翼さんは飲めない事からマリアに出てもらう事になっている。マリアは楽屋で自信満々に任せなさいって言ってるけど……わたし、知ってるよ?

 マリアってコンビニで安く売ってたお酒しか飲まない事。高級な物食べると味が分からないって事。やすっぽい舌が完成してるって事。

 ……ほんとに大丈夫かなぁ?

 

「チーム歌姫は本来ならお二人に出てもらう所ではありますが、二十歳以上が一人しかいないという事でマリア様に出てもらいます」

 

 で、次の音のチェックの時にわたし達三人が出る感じ。

 ここで一旦カットが入ってマリア達ワインを飲む芸能人たちが退出。あ、GCTさんも飲みに行くんだ……わたしもGCTさんとちょっと話したかった……

 それで暫く待っていると、収録が再開されてモニターには控室に座っている皆さんが。

 

「……な、なぁ。これ、アタシがいてもいいやつなのか……? おもいっきり場違い感があるんだが……」

「今更ですよ。わたしなんて手汗ヤバいですよ、ほら」

「アタシなんて冷や汗でさっきから背中が……」

「……お前達、流石に声が入るぞ」

 

 ちょっとクリス先輩と色々と話していたら翼さんから注意を受けた。ご、ごめんなさい……

 ちなみに周りの人たちは何だか微笑ましい感じの視線を向けてくれていた。よかった、非難の目じゃなくて……

 で、暫く控室の様子が写されてからはやっと格付けチェックが始まった。トップバッターは……あ、違うチームの人だ。

 最初の人は……AとBで分かれた。どっちかが百万円のワインらしいけど……どうなんだろう。

 それで、一組目……? まぁ最初の二人が終わると正解がわたし達と視聴者の人にだけ発表される。

 

「答えは……Aです!」

 

 どうやら今回の答えはAらしい。

 流石のマリアも百万円のワインは分かる……よね? 大丈夫だよね? あ、駄目だったチームの人が思いっきり落ち込んでる。ドンマイです。

 で、暫く待っているとマリアの番が。

 マリア、お願いだから……!!

 

『……色がなんだか薄いような気がするわね』

「絶対に分かってませんよアレ」

「ふっ……!!」

 

 マリア、ここを出る前に思いっきり大口叩いていたけど、わたしには分かる。あれ、司会者の人が言ったように何も分かってないよ。だから思いっきり笑っちゃった。

 で、でも大丈夫だよね? Aのワインを飲んで……

 

『……なるほど』

「何がなるほど、やねん!」

「マリア……!!」

「すまん、アレは笑う……!!」

「ぜってぇ分かってねぇって……!!」

「ってチームの人も笑っとるやんけ!!」

 

 だってマリアのあんな決め顔見た覚えないし……!!

 アレだよ。ほら、フィーネを宣言した時のアレ。あの時の顔にそっくり。だから思いっきり笑っちゃうってあんなの。

 暫くして今度はBのワイン。

 

『色が………………』

「だから色がなんやねんて!! 言えや!!」

 

 わたし達大爆笑。せめて色が何なのかくらい言おうよ! さっき色が……とか言ったけど見分けつかないから言葉を濁したでしょ!

 あーもうマリアほんとに面白い。何でマリアって自分から爆死しに行くような真似しかしないんだろう。翼さんと言いマリアと言いなんでこうも装者はバラエティ受けしちゃうんだろう。

 で、マリアが一口飲んで……あれ? 首傾げてない?

 

「首傾げましたねぇ。大丈夫でしょうか?」

 

 あ、これわたし達に振ってきたやつだね。

 どうだろう……

 

「目ぇ泳いでないか? あれ」

「ああいう時のマリアって駄目なような気が……」

「というかマリアってビッシリ決めた時あったか?」

「仲間内からひっどい言われようですな」

 

 だってわたし達の中のマリアって……ねぇ?

 なんかこうビシッと決めようとしては変に滑るし、年長者という割にはなんかこう情けないし、成年している割には少女とか言ってるし。なんというか……ガワ以外残念な人だから……

 特に私生活とかも知ってるわたしからすると、ね? だって昔からシスコン拗らせた残念な人だし……

 でもこういう時はさすがに決めてくれるハ――

 

『これは……Bね!!』

『マリアァ!!』

 

 三人で立ち上がりながら叫んだ。

 やっぱ駄目だよマリア!! もう駄目だよマリア!! あれちょっと引っ叩きたいんだけど!! ドヤ顔してBね!! じゃないよマリアの馬鹿ぁ!!

 

「あんだけドヤ顔して結局ダメじゃんマリア!!」

「やはりマリアは駄目だったか……!!」

「あーもう……」

 

 わたしが思いっきり叫んで翼さんは下を向いて、クリス先輩は思いっきり天を仰いでいる。

 なんかこうなるの、思いっきり見えてたしなぁ……マリアならやらかしそうって思っちゃえたもんなぁ……

 

「ではチーム歌姫は一流芸能人から普通の芸能人へと格下げでございます!」

 

 マリア……マリア……!!

 やっぱりちょっと前までの貧困生活のせいで舌が貧乏になってる……! どんなものだって美味しく感じれる舌になっちゃってるよ……!!

 翼さんも額を抑えてるし、クリス先輩は急に叫んじゃったからかちょっと顔を赤くしてちょこんとお人形っぽく……可愛い。クリス先輩ってやっぱりこういう時はすっごく可愛いよね。ホント。

 

「いやぁ、あんなにドヤ顔しておきながら見事に外していきましたねぇ!」

「マリアって昔からポンコツだから……」

「ドヤ顔しておきながらミスした事は数知れず……」

「世界の歌姫も地に落ちとるやんけ!! っつか身内からひっどい言われようやなぁ!!」

 

 結局わたし達は普通の芸能人に格下げされて、暫く中継を見ていた。

 結果、マリアの他に一人だけ間違えたけど、ほとんどの人は正解するで終わった。その殆どに入れなかったマリア……!! 今までもポンコツだとは思っていたけど今日はいつも以上にポンコツだよマリア……百万円と五千円くらい見分けようよ……

 ちなみにドアが明けられた時、信じられないと言った感じの戦慄した表情を浮かべていた。何でそんなに自信満々だったのさ。

 で、みんなが戻ってくる時になった。

 

「あ、どうやらBの部屋に入った皆さんが戻ってきたようですね」

 

 と、司会者の人が言ってすぐ後、部屋の方に繋がる大きな扉……ではなく横の方にあるちっちゃな隠し扉みたいなのからマリアともう一人の芸能人の人が出てきた。

 ……で、なんでマリアはそんな決め顔してるのかな? もしかしてここで何も問題ない……とか言おうとしてるのかな? 言った瞬間足に超低空ドロップキックでも……

 

「……やっちまったわ」

『決め顔で言うセリフか!!』

「狼狽えるな!!」

『少しは狼狽えろ!!』

 

 ……結局マリアはマリアだったよ。うん。

 これだから結婚できないんだよ、マリアは。

 

 

****

 

 

「では次のチェックは楽器です!」

 

 よし勝った!!

 わたし達は装者だから特に音楽関連については詳しいんだよ。これはもう貰ったとしか言えないね。

 説明を聞いていると、どうやら初心者用の楽器と何十億もする楽器で同じ曲を弾き比べる……っていうのが今回の趣旨みたい。

 

「あ、あの楽器知ってるわ……ってか聞いたことある」

 

 とかボソッとクリス先輩が呟いていたけど……マジですか?

 

「ほら、アタシのパパとママがクラシック装者だったからさ。子供の時に一回だけ聞いたことがあるんだわ。ホント、一回だけだからもう覚えてねぇけど……」

 

 でも、そっか。クリス先輩のご両親はバイオリンとか弾いていた人なんだっけ。懐かし気に呟くクリス先輩の表情は何というか、すっごく大人びている。

 こそこそっと話していたけど大丈夫だよね? 音、拾われてないよね? 緒川さん、大丈夫ですか? ……あ、大丈夫。よかった。

 

「チーム歌姫からは風鳴様、月読様、雪音様」

 

 あ、名前呼ばれた。で、暫くして全員の名前が呼ばれてから代表者の方はって言葉を聞いてから三人で移動する。

 控室にはお茶とお菓子があるけど……他の方がケーキなのに対してわたし達は板チョコとティーパックで淹れた紅茶。う、うーん……前から思ってたけど露骨だよね、これ。まぁ美味しいからいいんだけどさ。

 

「クリス先輩、あんまり食べ散らかさないでくださいね」

「い、板チョコでそんな汚さねぇよ……」

 

 どうだか。

 暫くすると一番最初の組の人が呼ばれて行った。なんかこういう時ってすっごく緊張するよね。

 

「そういえば二人は翼ちゃんの後輩なのよね?」

 

 と思ってたら横から先輩の芸能人の方が話しかけてくれた。

 えっと、確かこの人は女優さんの人だっけ? それも超大御所な。わたしだってテレビで見たことがあるような人だよ。

 すっごい……生だと迫力というかオーラがあるなぁ……

 

「はい。一応あの中だとわたしが最年少で」

「十六歳だものねぇ。はー、お肌とかぷにっぷに」

「クリス先輩もかなりの美肌ですよ、ほら」

「うおっ!?」

「あらほんと」

「あ、ちょ、やめ、こまり、あー!」

 

 ふふふふ。クリス先輩、可愛い。大御所さんに寄られていつも通りの態度も取れず顔を真っ赤にして触られるだけだからホントに可愛い。

 え? わたしのお肌も? あ、ちょ、困りま、あー!

 ……とかふざけてたらわたし達が呼ばれた。もうスタジオだと答えは発表されているのかな? 緊張するー……

 

「あまり緊張するな、月読、雪音。私達だぞ? 大丈夫だ」

「い、いや、テレビ出演ってのに緊張してんすよ、センパイ……」

「わたしもちょっとだけプレッシャーが……」

 

 装者として、アイドルとしてね?

 とりあえず翼さんは思いっきり笑ってるけど……なんだかその笑顔にちょっと不安を覚えちゃうのはわたしだけかな? え? クリス先輩も? そうですか……

 とりあえず三人ともう一人の芸能人の方で座って、流される音を聞く。

 ……Aの曲、普通に上手いなぁ。それで楽器の方は……なんだろう? ちょっとそれぞれの音に尖りみたいなのがあって、でもいい感じに互いが互いを潰していないような……あ、終わっちゃった。でも迫力があったなぁ。

 で、Bの方は……マイルド? なんか音がマイルドな気がする。

 ……っていうかわたし、一度も高い楽器の演奏なんて聞いたこと無かった。だからどっちが高いのか分からない。

 あはは、どうしようこれ。とりあえずAにしようかな……

 スタッフさんの合図でわたし達は一斉に札を上げる。

 

「……あれ? クリス先輩もAですか?」

「おう。で、センパイは……」

「Bだ」

 

 どうやらチーム内ではわたしとクリス先輩がA、翼さんがBみたい。で、先輩芸能人の方はA。

 うーん、これは普通にAっぽいけど……どうなんだろう?

 

「月読、雪音。私を信じろ。これはBだ」

「いや、でも……」

「アタシはもうAだって確信が……」

「いや、絶対にBだ。私が歌姫を初めて何年だと思っている? 芸能界で高い楽器など多々聞いてきた。そんな私が選んでいるのだ。自身を持ってBに変えるんだ」

 

 えー……?

 だってクリス先輩はあの楽器聞いたことがあるんだし……いや、でももう何年も前だから忘れてるって言ってたし……

 

「……まぁ、センパイがそう言うのなら」

「……じゃあお二人がそう言うのなら」

 

 あーあ、意志が弱い後輩だこと……でもきっと翼さんがそう言うんならその通りのハズ。だって翼さんはトップアーティストだし。

 とりあえず翼さんに従って札をBに変えて三人でBの部屋に移動。

 もう数人が部屋に来ているはずだから、きっとBの部屋にはいっぱい先輩の芸能人が…………

 

「……ん? 誰もいないか?」

 

 その瞬間、わたしとクリス先輩で頭を抱えながら崩れ落ちた。

 やっぱりわたしとクリス先輩が正しかったじゃん! 翼さん間違ってるじゃん!! あの人、あんなに自信満々に言う物だからこっちかなーって思っちゃったじゃん!!

 ――ちなみにオンエアを見てみると、崩れ落ちたわたし達に対して不正解を確信、って書かれていたよ。ホントにその通りだったよ――

 

「どうやら今回は私達だけが正解のようだな」

「んな訳あるか!! 明らかに不正解だっての!!」

「信じるんじゃなかった……こんな先輩……!!」

 

 もう好き勝手言ってるけど翼さんにはどうしてわたし達が絶望しているのかが分かっていないみたいで首を傾げてるけど……はぁ、もういいや。あとで挽回できると信じて今は諦めよう。

 暫くすると、一人だけ共演者の人が入ってきたけどそれだけだった。その瞬間翼さんは嬉しそうにしていたけど……明らかにわたし達はお通夜ムードだった。いやー、だって、ねぇ? とりあえず正解に期待せずに待っていると、司会者の人が扉の前までやってきた。

 

『では、正解の部屋を開けさせていただきます!!』

 

 その声に翼さんともう一人の共演者の人は手を合わせて祈っている。

 わたし達は不正解を確信してるけど……まぁ、とりあえず手だけは合わせておこう。そして暫く経って、ドアノブが回された。

 直後、音を立ててドアが開かれて。

 

「よ――」

 

 翼さんが声をあげようとしたけど、直後にドアが閉められて隣の部屋のドアが開かれた。

 あー、まぁ分かってたよ?

 

「…………そ、その、なんだ。すまん、二人とも」

 

 間違った答えをドヤ顔で言った上にぬか喜びまでした翼さんは顔を赤くしながらその場で謝った。それに対してわたし達がしたのは、しらーっとした視線を向ける事だけ。

 とりあえずマリアと翼さんは格付けチェックだとポンコツってのが分かったよ。

 この後は自分を信じてやっていこう……じゃないと写す価値なしになっちゃう。初出演でそれだけは絶対に避けないと……!!

 ちなみに戻ってから。

 

「なんで君ら折角合ってたのに意見変えてもうたん?」

 

 って司会者の人に言われたから。

 

『これのせいです』

「どうも、戦犯のこれです」

 

 と、まぁこんな感じで翼さんに指先向けてこれ扱いしました。

 戦犯の翼さんなんてこれで十分だよ。

 そしてわたし達は二流芸能人に格下げ……とほほ。

 

 

****

 

 

 やばい、もう後がない。

 ここからの問題は二ランクダウンが二個もある。もしここで二ランクダウンを引いてそっくりさん、そして次に間違ったら最終問題に行く前に映す価値なしになる……!! それだけはどうしても避けないと!!

 でも、次はホントにヤバイ。自分を信じろと言っても信じきれない。だって次の問題は……

 

「続いてのチェックは、味覚です」

 

 そう、次は味覚。

 約二百円のカップ麺を高級なんて言っていたわたしの味覚なんてお察しの物! ついでにクリス先輩も紛争地帯経験者故に食べれればいい的な所もあるから舌が馬鹿になってる!

 つまりこれ、かなりキツイ。最悪、選んじゃいけない物を選ぶ可能性がある……!

 え? マリアと翼さん? もう信じないよ。

 

「つ、月読、雪音。今回は私達を信じて……」

『いや、無理』

「……はい」

 

 特にマリアなんてワイン外してるから信用ならないよ。

 で、わたし達の料理はフグ。天然フグのから揚げらしい。どうしてかフグと聞くと嫌な予感がしない事もないんだけど、まぁきっと変な電波を拾ってるだけだから気にしない。他は養殖フグのから揚げとなんとカエルのから揚げ。まぁカエルなんて別に今さらだし気にしないよ。スペパブブ踊り食いと比べれば軽い物だし。

 とりあえず暫く待ってわたし達の番。

 

「なぁ」

 

 と思って移動している最中、クリス先輩が声をかけてきた。何かあったのかな?

 

「とりあえず次の問題はアタシに任せてくれ。少なくとも二ランクダウンを引かない自信がある」

「え? 何か秘策とかあるんですか?」

「いや、カエルは食ったことあるから。バルベルデで」

「あっ……な、なるほど。期待してますよ? 前を歩いてる二人はポンコツですから」

「まぁ、一ランクダウンを引かない保証はないけどな」

 

 そこはわたし達全員同じですから。

 と、いう事で四人で並んでピンク色のアイマスクを付けてお食事タイム。スタッフの人に食べさせてもらう事に。

 ふと思ったんだけど、このアイマスク、絶妙に人を煽る感じの目が書かれてるよね。なんというか、このアイマスクを付けた人に馬鹿にされたらちょっとキレる自信がある。

 まぁそれはどうでもいいとして……件のから揚げだけど。

 分かりません。全部美味しいです。

 っていうかフグなんて食べた事無いからどれがフグなのかすら分からないし……!!

 四人でアイマスクを同時に取ると、マリアと翼さんは自信たっぷり。対してクリス先輩はちょっと自信なさげ。だ、大丈夫だよね? カエルだけは分かるんだよね?

 とりあえずわたしは……なんか一番食べやすかったものにしよう。

 スタッフさんの合図に合わせてわたし達は同時に札を上げた。

 

「割れたわね……」

「だが私とマリアは同じだ」

 

 そう、意見は割れた。

 わたしがA、マリアと翼さんのポンコツがB。クリス先輩がCって具合に。

 

「クリス先輩!」

「Bだけは違う! これは断言できる!」

『ちょっ!?』

 

 もう確定だよこれ! クリス先輩もBは違うって言うしポンコツ共はBを上げるし! とりあえずわたしはすぐに札をCに変えた。わたしの舌が馬鹿になってる以上、ここはクリス先輩を頼ってみるしかない!

 

「ちょっと待ちなさい二人とも! これはBよ、断言できるわ!」

「そうだ、あの舌触りと食べやすさは間違いなくBだ!」

『黙れポンコツ共!』

『ポンコツ!?』

 

 こっちは一秒でもテレビに写るために必死なの!

 

「いいからBだけはやめろ二人とも! そのまま意見を押し通すようならアタシにだって考えがあるぞ!」

「きょ、今日の雪音はなんだか積極的だな……だが分かった。ここは後輩の意見を信じるとしよう」

「間違ってたらタダじゃおかないわよ?」

「安心しろ。二ランクダウンだけは絶対にあり得ねぇ」

 

 とりあえずそんなわけでわたし達四人はCの部屋へ。そこに居たのは……

 

「あ、よかった、結構いる!」

「よっしゃぁ!! これ貰っただろ!!」

 

 共演者の方がほぼ全員だった。数人別の部屋に行ってるみたいだけど、よかった。これで二ランクダウンは免れる!

 わたしとクリス先輩は胸を撫で下ろしてどこかの席に座……ろうとしたけどほぼ全部埋まってるからテレビに映るギリギリの所で立っておこう。

 で、暫く経ってから数人がこの部屋に入ってきてわたし達の正解がほぼ確実になった。

 ちなみにその間のわたし達と共演者の方々の会話がこちら。

 

「いやー、マリアと翼さんに逆らったらみんな居たからよかったですよホント」

「もう翼ちゃんもマリアちゃんも信用されてないじゃん」

「だってさっきからずっと外してますし。先輩と言えどもう信用しませんよ」

『ほんとすみません、はい……』

「こいつらがこんなにしょんぼりしてんの初めて見たわ……」

 

 まぁそんな感じでポンコツ二人に対して色々と物申していました。

 共演者の人たちもみんななるほど、って感じで首を縦に振ってるし。さっきからずっとこの二人のせいでわたし達は二流芸能人に格下げされたの見てるから、まぁ妥当って感じなんだろうね。

 翼さんもマリアも番組とかでいい物食べてるはずだからもっと頼りになると思ったし、音楽に関しても二人とも結構いい楽器の演奏とか聞いてるはずだからまさか間違えることは無いって思ってたんだけどなぁ。やっぱ頼りになる先輩はクリス先輩だってハッキリ分かるんだね。

 で、結果発表。もしかしたらこの部屋が一ランクダウンの部屋かもしれないから祈りながら待っていると……

 

『皆さんおめでとうございます』

 

 ……あ、あれ!? こっちの部屋に来ない!?

 も、もしかしてここは不正解の部屋……

 

『ここは一ランクダウンの部屋でございます』

 

 ……え? 一ランク?

 

「よ、よかったぁ……」

「こんなフェイントもあるんだ……」

「でもこれでもう二択に……」

 

 ホッとしていると周りの共演者の人がそんな事を口にしている。

 うん、確かによかったけど……この部屋が二ランクダウンの部屋だっていう可能性はまだ全然残っている。だからまだまだ油断できない。それは共演者の人も分かってるからまだ祈ってる。

 わたし達もそれに続いて祈る。お願い、二ランクダウンでそのままそっくりさんコースだけは……!!

 

「おめでとうございます!!」

 

 そう祈っていた最中、司会者の人が扉を開けて入ってきた。

 

「やった!!」

「っしゃあ!! 二分一の運ゲー大成功だ!!」

「ナイスですクリス先輩!! ……え? ちょっと待ってください。運ゲー? マジですか?」

「……実はな。B以外は分かんなかった。でもイエーイ!!」

「い、イエーイ!!」

 

 いえーい! でわたしとクリス先輩はハイタッチ。その横でポンコツ二人は露骨に胸をなでおろしているけど同時に申し訳なさそうな顔をしている。

 だってこの二人、二ランクダウンの絶対に間違ったらいけない食材……つまりはカエルを天然フグだと思っていたんだもん。そりゃこんな顔にもなるよ。

 やっぱ頼れる先輩はクリス先輩だよね!! 運ゲーかましてたけど!! ついでに司会者の人ともハイタッチ!

 よし、これでまだまだ戦える!!

 ちなみにGCTさん達も正解していたみたい。やっぱ凄いね、GCTさんは。

 

 

****

 

 

「さぁ、次のチェックに参りましょう!!」

「次のチェックは、オーケストラです」

 

 そして始まる第四回目のチェック。

 四回目はオーケストラ。

 女の人の司会者が説明をしているのを聞きながら、とりあえずわたしは任せましたという意味を込めてクリス先輩に目線を送った。

 このオーケストラを聞くのはクリス先輩とマリアの二人。そしてその次がマリアと翼さん。そして最後の最後はわたしとクリス先輩って感じになってる。だから今回はクリス先輩にお任せ。

 

「それでは代表者の方は控室にどうぞ」

「今度こそは芸能界の先輩として……」

「お願いします、クリス先輩!」

「おう、任せときな!」

「……ぐすん」

 

 ぐすんじゃないよ豆腐メンタルの戦犯。悪いけどこの格付けチェックの間だけは結構辛辣にやらせてもらうからね。

 で、控室に向かっていくクリス先輩とマリアに声をかけて激励をしてからわたし達は待機。

 あの演奏も分かったクリス先輩ならきっと何とかしてくれるはず! マリアがポンコツで使い物にならないのは分かっているはずだし。

 で、控室に行ってから暫くすると準備ができたみたいで最初の二人が席に座って演奏が始まった。

 これは……わたし的にはB、かな? なんかAよりもBの方が……

 

「ちなみに、音楽関連で売っているチーム歌姫はどうお考えですか?」

 

 あ、話振ってくれた。ほんといい司会者。

 

「私はAだ。そっちの方が音に高級感があった」

「わたしはBです。これ、信用できないので」

 

 と、言うのは笑わせるための方便で、実際わたしはBの方が正解だと感じた。なんというか、Bの方が……こう、音の一つ一つにメリハリというか、各楽器が活き活きとしていたというか。こう、楽器の素質を引き出しているような音だった、気がする。

 

「おい月読」

 

 でも、嘘でもそんな事言ったからか翼さんがちょっとじとーっとこっち見てきてる。

 さっき億と万の違いがある楽器の音色の違いが分からなかった人に言われたくありませんよーだ。

 

「このユニットギスギスしてんなぁ。大丈夫なんか?」

「とりあえずこれが終わったら話し合う必要がありそうだ。なぁ?」

「こうして先輩からのパワハラが生まれるんですね。やだこの歌姫、怖い」

「本当に話し合う必要がありそうだな!?」

「こりゃ明日にも風月ノ疾双が解散とかありそうやな」

 

 まぁ軽口のたたき合いっていうのは分かっているから特に翼さんも怒ってはいないみたいだけど、ちょっと生意気になりすぎたかな……? でも格付けチェックの間はこんなもんでいいでしょ。ラジオとかでもこんな感じに話す事は多々あるし。

 で、肝心のマリアとクリス先輩だけど……

 

『私はAよ!』

『アタシはBだ』

「おっと割れたぁ! というかこっちと同じ感じで割れとるやんけ!」

 

 もうこれはわたしとクリス先輩、翼さんとマリアのチームを作った方が二人が即映す価値無しになって面白ムーブを決め込む可能性があったんじゃ……いや、そもそもそんなに枠がないし無理だよね、うん。

 

『クリス、ここは私を信じなさい!』

『いや、ここは後輩の顔を立てると思ってアタシに任せてくれ。駄目だったら飯奢ってやる』

『ふーん? 大きく出たわね。最低でもロイホよ?』

『おー任せとけ。ちなみにAが間違いだったら?』

『ザギンでシースーを奢ってあげるわ!』

「言い方がふっるいなぁ!」

『古っ……まぁいいや。とりあえずアタシとあいつに奢りな』

『えぇいいわよ。どうせあなたが私にロイホを奢る事になるのだから』

 

 マリアが着々とフラグを建てながらクリス先輩と一緒にBの部屋に入っていった。

 

「……で、翼さんは何か賭けませんか?」

「ならば私は月読と雪音に焼き肉を奢るとしよう。それも私の知る限りでは一番高級な所の、だ」

「よし。ならわたしも翼さんにそこの焼き肉奢ります。これでフェアな賭けです」

「そうだな。フェアな賭けだ」

「サラッとこっちでも賭け事しとるでぇ。現金な先輩後輩やなぁ」

 

 サラッとわたしと翼さんが賭け事してる間に二人はBの部屋の中に入っていた。Bの部屋にはそこそこの人が居て、マリアがちょっと冷や汗を掻いていた。ザギンでシースーをわたしとクリス先輩に奢る事になるかもしれないから、かなりそわそわしてるね。最高に面白い。

 で、そのまま着々と進んでいって、結果的にBの部屋にはマリアとクリス先輩を含めた殆どの人が入って行って、隣の部屋には二組だけが入っているという状況になった。そうなるとマリアの顔色が面白い事になる訳で。

 

「さぁ、世界の歌姫は後輩たちにザギンでシースーを奢る羽目になるのか! それでは、結果発表と参りましょう!」

 

 と、言ったところで司会者の人たちが移動。そのまま部屋の前に。

 今回のオーケストラのチェックはわたし達にも答えが分かっていない状態だからクリス先輩達が合っているのか分からない。けど、人の多さ的にも絶対にそう。間違いなくBの方が合ってる。

 

『では正解の扉を開けさせていただきます!!』

 

 そして司会者の人がAとBの扉に手をかけて……そのまま思いっきりBの扉を開けた。

 

『おめでとうございます!!』

『よし!! マリア、約束忘れんなよ!』

『……え、えぇ。でもやっぱりかっぱ寿司で勘弁を……』

『は?』

『……なんでもないわ』

『なんや一人だけ正解したのに喜んどらん奴が居るけどまぁいいでしょう!!』

 

 まぁそうなるよね。クリス先輩なら間違うはずがないもん。

 で、翼さん?

 

「……そ、その。やっぱりファミレスにしてくれないか?」

「駄目です」

「……はい」

 

 よし、焼き肉とお寿司ゲット! 今日はいい日かもしれない。

 戻ってきたクリス先輩にそれを伝えたらクリス先輩もいい笑顔を浮かべていた。対照的にマリアと翼さんはしょんぼりしていた。

 先輩からの奢りなんだし遠慮なしに食べちゃおっと。金欠になってしまえ、二人とも。わたし達は代わりにお腹いっぱいいい物を食べるから。

 

 

****

 

 

 次は絶望のマリアと翼さんペアがチェックする番。

 で、そのチェックとは。

 

「次のチェックは、盆栽です!!」

 

 盆栽。

 つまりわたしとクリス先輩は全然役に立たないという事で、番組が始まる前はそこら辺を一度でも見たことがありそうな二人に頼んだんだけど……た、多分翼さんが何とかしてくれるはず。だって翼さんのご実家には翼さんのお父様の趣味なのか嗜みなのかは分からないけど盆栽があるみたいだし。

 でもこればっかりは間違っても仕方ないよね。盆栽について詳しい人なんてこの中にはあまりいないだろうし。

 

「それでは代表者の方はスタンバイルームへどうぞ!!」

「こ、今度こそ先輩と風を吹かす者として正解せねば!」

「ぜ、全問不正解だけは避けないと……!!」

 

 そうだよマリア。ここで正解したらわたし達からの評価も一気に鰻登りだよ。

 で、スタンバイルームにマリアと翼さんは向かって言って、わたし達はここに残された。

 暫く待っているとチェックが始まって、盆栽の様子がモニターに出された。こ、これは……だめだ、わかんない。

 確か片方が盆栽を模して作った盆栽で、もう片方が本物……なんだけど、ホントに見分けがつかない。これ作った人相当すごいよ……普通に尊敬できちゃう。

 じゃなくって。どっちが本物だろう……

 

「クリス先輩、分かりますか?」

「……アタシは、Bかな? なんかそれっぽい気が……」

 

 ……そ、そう言われるとBな気が。

 でも、ここは一旦着眼点を変えてみよう。今わたしが食べたいと思えるような物を…………

 

「わたしは……A、ですね。なんかそっちの方が美味しそうです」

「あー、そういう目線か……いや、でもこれ分かんねぇわ。どっちも美味そう」

「そう言われるとどっちも美味しそうに見える……!!」

 

 これはホントにマリアと翼さんがミスってもなにも文句言えないね。わたし達だって分かんないんだもん。三流芸能人行きも覚悟しないとね。

 で、件のマリアと翼さんの番になった。二人はジーっと盆栽を見て、首を傾げてから分からないのか小さく笑ったりしながら鑑賞タイムを終わらせた。で、二人の出した答えは……

 

『うむ……B、だな』

『私も、Bかしら。ちょっと難しいわね……』

『今回ばかりは自身が無い……』

 

 まぁ、こればっかりは仕方ないよ。わたし達も分かんないし。っていうか分かってる人の方が少ないだろうし。

 で、翼さんとマリアはBの部屋に。それから全組の鑑賞が終わったころにはなんとBの部屋の方が人数が多いという結果になった。と、いう事はわたしが間違ってたのかな……?

 

『それでは正解の扉を開けさせていただきます!』

 

 そしてドキドキの正解発表に。

 その結果は……

 

『おめでとうございます!!』

 

 Aの部屋。なんと二組しかいないAの部屋が正解だった。

 これは……仕方ないよ。わたしだって普通に迷ってたし、翼さんに言われたらBに変えてただろうし。こればっかりはね。

 で、暫くしてから翼さんとマリアが戻ってきた。

 

「……本当にすまない」

「全問不正解……」

「こ、この問題は仕方ないですって」

「だからあんま凹むなって。アタシ達は気にしてねぇから」

 

 どうやらマリアは自分の出した答えが全問不正解というのが確定してかなり凹んでいるみたいだった。

 まぁこればっかりは豆腐メンタルじゃなくても落ち込むだろうし……あんまりきつい言葉はかけないでおこうかな。

 

 

****

 

 

 そしてついにやってきた最終チェック。

 

「最後のチェックは、もちろん牛肉です」

 

 そう、最後はお約束の牛肉。つまりはいいお肉か安物のお肉かを判別するチェック。格付けチェックの代名詞ともいえるチェック。

 

「今回のチェックでは、100g一万六千円の神戸牛を食べていただきます」

 

 い、一万六千円……! そんなお肉食べた事がない……!

 出番の問題からわたしとクリス先輩がやる事になったこの問題。でもわたしの舌は高級な物と安い物を分別できないくらいに馬鹿になってるし、クリス先輩もどうやらそんな感じみたいだし……

 心配だなぁ……!!

 

「最後のチェックは間違えると二ランクダウンとさせていただきます」

 

 そしてこれは台本にあった事。

 最後はミスすると二ランクダウン……つまりわたしとクリス先輩がミスをすると丁度映す価値なしとなってしまう。でもここで何とかしたらわたし達は三流芸能人のままで格付けチェックを終わらせる事ができる。

 普通の芸能人なら一流に戻れるけど……仕方ない。絶対に間違えないようにしないと!

 

「では、チーム歌姫からは……月読調、雪音クリス」

「はい調です」

「クリスです」

 

 なんというか、モロに扱いが軽くなったけどそういう物だから仕方ないよね。

 でもここは絶対に正解しないと!

 クリス先輩と一緒にわたしはスタンバイルームに移動。そこで暫く待機してからいよいよわたし達の番になった。食べるのは神戸牛か、スーパーで売ってる千円くらいの牛肉……!

 ……どっちも豪華だって言ったら駄目です? 駄目? そう……

 ま、まぁそんな十倍以上の差があるこの食べ比べ、絶対に外すわけにはいかない!

 

「あ、すみません、自撮りいいですか?」

 

 ……へ? GCTさんの自撮り? 生で見れるの?

 え? わたしも映っていいんですか!? やった!

 

「ありがとうございます」

「こ、こちらこそありがとうございます! 嬉しいです!」

「あ、アタシ、ホントに芸能界の大物の自撮りに混ざれた……学校の奴らに自慢しよ……」

 

 これでもう間違っても大満足だよ! しかもさり気なくGCTさんと会話できたし!

 帰ったら切ちゃんに自慢しよっと。えへへ~

 

 

****

 

 ……すっかり格付けチェックの事が頭から抜けてたよ。

 クリス先輩と一緒に案内された席に座ってアイマスクをして待っていると牛肉のいい匂いが漂ってきた。

 で、味は……うっ、どっちも美味しいしどっちも高い牛肉だよ……というか牛肉自体高いからあんまり食べれてないから調理法で誤魔化されると本当に分からない……!

 だってわたしの中の高級はついこの間まで二百円ちょっとだよ!? 分からないよこんな牛肉のチェック!

 で、でも食べやすさ的には……的には……

 あぁ、スタッフさんに急かされてる! は、早く決めないと……!

 ……こ、こっち!

 

「わたしはBです!」

「あ、アタシもBだ!」

 

 うぅ、舌が馬鹿な人同士で被っちゃった……!

 

「な、なんかこう……食べやすかったので。というかもうどっちも美味しかったので……!」

「アタシもそんな感じ……」

 

 コメントとしてはもうこんなモンだよ。これ以上言えないんだもん……

 で、わたし達はBの部屋へ。Bの部屋には一人だけ入っていた。

 

「あ、よかった、人が居た……」

「わ、ワンチャンある……」

 

 Bの部屋の椅子に呟きながら座ると、先に居た女優の人が話しかけてきてくれた。

 

「どうだった?」

「いや、なんかこう……Bの方が食べやすかったので。でも不安です」

「だよね~! 私も不安で仕方なくて」

「というかアタシ達ってこれミスると消えるから……!」

「初参加で消えるっていうのも全然あるからねぇ」

「き、消えたくない……!」

 

 でももう後戻りはできない……! ガクガクと震えながら待っていると、あと一人だけ人が入ってきた。その人の言葉もわたし達と同じような感じ。食べやすいからって言葉だった。

 それで全員分のチェックが終わったけど……Bの部屋には三組だけ。Aの部屋にはその他全員。

 お願い……!!

 

『それでは、正解の部屋を開けさせていただきます!!』

 

 ここを乗り越えさえすれば……!

 手を合わせて願い続けていると、ドアノブが回された。お願い、こっちに来て……!! いや、きっとこっちに来る。だってわたしはあの翼さんの後輩なんだか――

 

『おめでとうございます!!』

 

 ……あっ。

 ……そ、その、なんというか。

 とりあえず消える前に一言だけ。

 

「ご、ごめんなさ~い!!」

「マジですんませんでしたセンパイ!!」

 

 そしてわたし達は編集の力によって画面から消えてしまいましたとさ。

 今度リベンジする機会があったら絶対に最後まで映ってやるぅ!!

 

 

****

 

 

 ちなみに後日。

 

「まぁ最終的には映す価値なしになっちゃいましたけど、焼き肉ご馳走様です、翼さん」

「いやー、悪いっすねセンパイ。こんないい肉食わせてもらって」

「か、賭けは賭けだからな……というか少しは手加減してくれないか……?」

「翼さん翼さん。ツイッターにあげる写真撮るんではいチーズ」

「肉うめぇ」

「くぅ……!!」

 

 えっと、写真を貼り付けて、文字の方は翼さんの奢りで焼き肉です。どうしてこうなったかは新年あけた後の格付けチェックを要チェック、と。

 通知は決してあるからどんなリプが返ってきてるのかは分からないけど、今は焼き肉を食べよう。

 あー、奢りの焼き肉美味しいなぁ。

 

「……ちょっとATMで下ろしてくるか」

 

 本当にご馳走様です翼さん!

 で、後日マリアにもお寿司を奢ってもらいました。なんやかんやで有言実行する二人、わたしはちゃんと尊敬しています。嘘じゃないよ?




結局は映す価値なしとなって消えてしまう調ちゃんでしたとさ。何気に食べ物関連は二つともミスっていたり。そして結構的中率は高いクリスちゃん。でも最後にやらかして映す価値無しに。そしてまさかの一度も正解しない先輩共。さてはこいつ等ボンクラだな?

とりあえず今回は常識人枠の追加ということでクリス先輩にも来てもらいましたが、多分これから先クリス先輩はラジオ以外では仕事の現場に出てくることは無いでしょう。

あとシンフォギアXDで次のイベントでは星5確定チケットと交換できるアイテムが出てくる……マジっすか。ちょっと頑張ってぶん回します。古戦場あるけど。あと誕生日メモリアの調ちゃんクッソ可愛い。あとツイッターのトレンドに調ちゃんの誕生日が上がってて嬉しくなったり。

さて、いつもの如く怪文書を乗せた所で次回は未定です。もし笑ってはいけないをするのなら、今年の笑ってはいけないの一部分だけにゲスト参加……的な感じになりそうです。でも調ちゃんのお尻をシバく描写を書くなんてとてもじゃないけど……ちょっと興奮し(無音の禁月輪


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月読調の華麗なる野望

シンフォギアXVのティザーサイトが公開されたのでテンション上げて書き終えました。


 今日の任務は珍しい事にわたしとクリス先輩の二人体制で行われることになった。

 普段、わたしは切ちゃんか翼さんと組むことが多いからクリス先輩と組むのは結構新鮮だったし、どっちも後衛って事もあって若干の不安はあったけど、やる事は単純。違法な研究をしているらしい聖遺物研究所を襲撃、そのまま撃破して職員たちを拘束するだけの簡単なお仕事。

 まぁ平行世界で時折見る完全聖遺物が相手じゃなければシンフォギア……それも今のラストイグニッションギアなら余裕な訳で。わたしとクリス先輩は速攻を仕掛けてあれよあれよの間にとっとと職員たちを拘束し終えた。

 ちょろい仕事。

 

「まぁ給料貰ってるしやるこたやんなきゃな」

「そのやる事ももう終わりましたけどね」

『あぁ、ご苦労だった。後は俺達の方から回収班と解析班を送る。それまでは待機していてくれ』

「分かりました」

「おうよ。ってかちょっと運動したら小腹減ってきたな……帰ったらなんか食いに行かないか?」

「あ、いいですね。行きましょう」

 

 ちなみに普段一緒に組んでいる切ちゃんは今現在補修中だよ。あと響さんも。

 翼さんとマリアはお仕事中。そう考えるとわたしとクリス先輩が組むのって当然だよね。

 まぁそんな事は置いておくとして。この研究所、どうやら刀関連の聖遺物を研究していたらしくて今わたし達が居る部屋には大量の刀が飾ってある。なんか曰く付きっぽいけど……翼さんが見たら大興奮なんだろうなぁ。えっと、これは……薄緑もどき? もどきって……こっちはへし切長谷部もどき? いや、もどき多すぎない?

 聖遺物を再現する研究でもしていたのかな……? まぁどっちにしろ違法な事をしていた事には変わりないんだし気にしない気にしない。

 で、この刀は何のもどき……え? ちょ、ちょっと待って。この刀の名前は……説明は……

 …………ふふ、ふふふふふ。

 今思えばわたしって世界を救っちゃってるし? 裏で暗躍する正義の味方だし? こういうのをちょっとだけ使っても別に怒られないよね? それにクリス先輩ってばよく重いとか肩が凝るとか言ってるし……それを助けてあげる人助けだから。これは人助けだからね?

 

「おい、何してんだ? んな妙ちくりんな刀なんか手に取って。ぽいしとけ。変な呪いにかかっても知らねぇぞ?」

 

 ふ、ふふふ……

 

「……いや、なんでこっちにそれ向けてんだよ。おい、冗談ならそこら辺にしと……危ねぇ!!?」

「クーリスせんぱーい? 痛くないですから大人しくしてましょうねぇ?」

 

 実際、さっき指をちょっとだけ斬ってみたけど血は出なかったし。大丈夫、痛くは無いし血も出ないから安心安全なポン刀ですよ。

 

「おまっ、だからぽいしとけっつっただろうが! 変な呪いにかかってんじゃねぇか!!」

「かかってませんよ。これはクリス先輩を助けてあげるためですから」

「強制成仏で極楽浄土なんか求めてねぇんだよ!」

「いや、そんな事しませんけど……お覚悟ぉ!!」

「くっ、こんな狭い部屋じゃ動きづら……うおおぉぉぉぉ!!?」

 

 よし、とった!!

 思いっきりクリス先輩の肩から腹にかけて一閃!

 

「ぐっ、斬られ……ん? 痛くない……? それどころか体が軽く……?」

「クリスせんぱーい。この刀の名前って何て言うんだと思います?」

「あ? 刀の名前だ?」

 

 そう、この刀の名前。

 飾られてるショーケースに書いてあった名前とその説明を見てからわたしはついついそれを手に取って自分の指を切ってから本当に血が出ないかを確認して、安全確認をしてからクリス先輩に振ったこの刀。

 その刀の名前は、わたしは聞いたこと無い。というかこんな日本刀が存在するんなら色々と笑いごとになっていただろうし。

 そんな笑える刀の名前は。

 

「この刀って妖刀なんですよ。銘は……妖刀『乳喰』」

「……は? 乳喰?」

「はい。乳喰です」

 

 ……なんで真顔でこんな下ネタに近い名前を口にしているんだろうね。

 でも、クリス先輩はその名前からその効果を何となく察したらしく、自分の胸を見た。乳喰。その名前通りの効果を持っているのなら……そう思ってわたしも期待して、説明を読んで、指を少し切って少なくとも怪我だけはしないと確信して振った。

 そしてわたしはその効果をその身で受けた。クリス先輩もその身で受けた。

 その効果は……

 

「なっ……!? あ、アタシの胸が……!!? ってお前の胸も!?」

「えぇ、そうですよ。この乳喰の持つ効果はご想像の通りです」

 

 そう、クリス先輩は半分程度にまで小さくなった自分の胸と、小さくなった分大きくなっているわたしの胸を見て、ようやくこの妖刀の恐ろしさに気が付いた。

 そう、この妖刀『乳喰』の効果は……!

 

「この刀は、斬られた相手の胸を吸い取り、斬った人へと吸収する! つまりは手術不要で豊胸ができる素晴らしい刀なんですよ!」

「な、なんだってー!!?」

 

 つまり今のクリス先輩のバストとわたしのバストは81cm。一気に全部切り取って吸収するのではなく半分ずつなのはちょっと驚いたけど……それでも、わたしはクリス先輩から一気に9cmも胸を吸収する事ができた! どれくらいの大きさかと言うと、大体切ちゃんと同じくらい!

 これが……この重さが巨乳の重み。貧乳を馬鹿にできる最高の重み……!

 

「あーもう満足したならとっととその刀をアタシに渡せ! 元に戻すから!」

 

 どうやらクリス先輩はわたしが遊び感覚で胸を切り取って吸収したと思っているらしく、呆れた顔をして手を差し出してきた。

 確かにこの刀は斬られた人が斬った人を斬り返せばその分だけ胸が戻ってくる。だからここでクリス先輩にこの刀を差しだせばクリス先輩も特に大事にする事無く事態を始末してくれる。

 でも、そんな簡単にこの刀を渡すわけがない。渡すはずがない。

 

「嫌です!」

「はぁ!?」

 

 この刀はシリコンとか豊胸手術とか上げて寄せるとか、そういうのじゃなくて本当に相手の胸を切り取って自分の胸にする事ができる。こんな素晴らしい刀を誰が手放してなるものか!

 

「それよりもクリス先輩のもう半分の胸……! それを削り取ってわたしは夢の90台に突入する! その後はマリアと響さんを削り取って誰にも負けない胸を手に入れる!」

 

 わたしのかつてのバストサイズ、72cmにまで相手のバストを減らす事ができるとしたら、響さんからは12cm。マリアからは24cmも削り取る事ができる。そうしたらクリス先輩の90cmにその分を足して……126cm!! 装者一の貧乳から装者一の巨乳に成り代わる事ができる!

 このチャンス、逃すわけがない! そのための道具を手放すわけがない!

 

「お前馬鹿だろ!? 前からちょっと思ってたけどやっぱ馬鹿だろお前!!」

「巨乳の人には分からないんですよ! 貧乳の人の気持ちが! 散々胸が小さい方がいいとか煽られ続けるこの感覚、この気持ち! 前と後ろが分からないとかまな板とか洗濯板とか言われ続けるこの気持ちが!!」

「オーケー、悪口言った奴らの粛清ならアタシがしておくし、コンプレックスを刺激するような事ももう言わねぇからとっとと元に戻すぞ! じゃないと面倒な事になるのが目に見えてんだろ! 特にあの子と先輩に渡したらもっと被害が加速する!」

「知った事ですか! その胸、わたしに寄越せぇぇぇぇ!!」

「やべっ、ここ狭いから避けられ――」

 

 

****

 

 

 ふふふ、他愛なし。

 わたしは狭い場所での戦闘という事もあって無事にクリス先輩の胸を削り取ることに成功した。

 ちょっと体のバランスが崩れたから歩きにくかったけど……それでもこの感覚。歩くと胸が揺れて痛いまであるこの感覚。とても素晴らしい。

 胸を削り取ったついでに気絶させたクリス先輩をひん剥いて服とブラを交換して無事に服の問題もどうにかしたわたしは次なる標的の元へ向かうことにした。

 ちなみに胸が小さくなったクリス先輩はわたしとほぼ変わらない身長と相まってただの合法ロリになったよ。あ、でもまだ十七歳だから合法じゃないっけ。まぁいいや。

 さて、次の目標はマリア……ではなく響さん。今のマリアは仕事中でどこに居るか分からないし、いつSONGの職員が哀れなクリス先輩を発見して事情を聴きだしてから緒川さんや風鳴司令を派遣してくるか分からないから、それまでにわたしは可能な限り胸を削り取ってこの乳喰をどこかに埋めるか折るなりしてこの胸を完全にわたしの物にする!

 と、いう事でわたしは響さんの帰り道で響さんを待っている。周りからすっごい視線を吸っているけど……まぁ気にしない。ポン刀持ってるって事で通報されなきゃいいけど……

 

「あれ? 調ちゃん? 調ちゃん……だよね? あれ? おっぱい大きいけど……あれ?」

 

 とか思ってたら響さんがどうやらやってきたらしく声を掛けられた。

 ……確かにわたしの胸はクリス先輩と同じくらいだけど、そこまで心配しなくてもいいと思うの。顔はわたしだから。胸だけはクリス先輩だけど。

 

「ふふふ……実はこれには秘密があるんですよ」

「秘密? なになに、何したの?」

 

 響さんは生身なら翼さんと並ぶほどの生身最強。大人の方々は次元が違うから比べる事すら烏滸がましいけど、同年代の少年少女と比べれば普通に最強候補に上がる人。

 そんな人相手にわたしが刀を持って真正面から挑んでも確実に勝てない。ボコられるだけ。

 でも、あっちから近づいてもらってから不意打ちで斬ってしまえば何も問題はない。わたしは二回攻撃を当てればいいだけだから、響さんよりも圧倒的に有利。

 

「それはですね」

「ふむふむ?」

 

 来た。

 今のわたしと響さんの間合いは一足一刀。つまりわたしが踏み込んで抜刀しつつ刀を振れば当てる事ができる。一切の警戒をしていない響さんの回避となりふり構わず当てる事だけを考えているわたしの刀。どっちが速いかなんて考えなくても分かること!

 くらえ見よう見まねの抜刀術!

 

「こういう事です!!」

「うわっ!?」

 

 わたしの抜刀術による斬撃が響さんにヒットする。よし、当たった! 胸を吸えた!!

 

「し、調ちゃん!? 一体何を……ってあれ? 傷がない……?」

「ふ、ふふふ……響さん。自分の胸を確認してみてくださいよ」

「えっ、胸? ……うわっ、小さくなってる!? ブラに謎の隙間が!?」

 

 ブラに謎の隙間……そんなの今までのわたしには存在すら許せなかった。でも今はそんな事は無い。

 この圧倒的優越感……! 響さんの胸も吸ってわたしは更に巨乳になった……!!

 

「これがわたしの胸が大きくなった理由です。わたしがクリス先輩の胸を吸い取った!」

「そんなバカみたいなことが!?」

「バカな人に言われたくないです! 残り半分の胸、覚悟ぉ!!」

「久しぶりに調ちゃんにバカって言われた気がするなぁ!!」

 

 もう残りの胸も吸って後はマリアの胸を吸えばわたしの計画は……わたし巨乳化計画は無事に達成される! あとは翼さんと未来さんにこれを渡してしっかりと後始末をしてもらえばわたしのこの胸は未来永劫わたしの物になる!

 とりあえず驚いて動けない響さんに最後の一撃!

 勝った! 第三部完!!

 

「笑止千万! 甘いよ調ちゃん!!」

「へ?」

 

 わたしの剣は見事に響さんの体に吸い込まれて行った……ハズなのに、響さんを斬った感触が無い。それどころか響さんの手前で止まってビクともしない。

 視線をしっかりと刀身の方へと向けてみると、そこには両手で刀を左右から挟み込んでいる……つまりは真剣白羽取りを成功させている響さんの手があった。

 ……う、嘘でしょ?

 まさか漫画やアニメでもないのに……!

 

「翼さんの剣に比べればまだまだ甘いよ! という訳で刀没収! アンド斬ッ!」

「あぁっ!?」

 

 わたしの一瞬の抵抗も空しく響さんに刀を奪い取られてそのままわたしが斬られた。

 あぁ……わたしの胸が……!! 響さんの分も大きくなった胸が……

 

「ふぅ、ようやく体に違和感なくなったよ」

「ぐぅ……!! でも、取られたら取り返せばいいだけ!!」

 

 こうなったらシンフォギアを使ってでも響さんの胸を!!

 

「おい。お前、よくもまぁやってくれたな?」

 

 とか思った矢先、わたしの体が後ろから羽交い絞めにされた。う、動けない……!

 というかこの声……そして明らかに減った胸……! まさか!

 

「あ、クリスちゃん!」

 

 そ、そんな……! あんなにタコ殴りにして気絶させたのにもう目を覚ましていたなんて!

 これじゃあ折角吸った胸が……! わたしの栄光のバスト九十センチが……!!

 

「よう、馬鹿。とっととそのポン刀こっちに寄越せ」

「うん、いいけど……胸が小さいクリスちゃんって子供みたいだね」

「ぶっ殺すぞ。いいからとっととそのポン刀貸せ」

「いやだぁ! またあんな惨めな気持ちになんてなりたくない!! わたしはもっとこの胸で優越感を!!」

「ちょっせぇんだよ! オッサンにド叱られる前にとっとと元に戻すぞオイ!!」

 

 そうしてわたしはクリス先輩にザックリと二回斬られて胸を持っていかれましたとさ……

 ちなみにこの刀はSONGの方で厳重に保管されるとか。うぅ……せめて一日か一週間だけでも巨乳生活を……あの栄光を……

 なお、わたしはこの後訓練と称したクリス先輩からの報復によりタコ殴りにされました。いくら何でもだだっ広い空間でMEGA DEATH CARNIVALは卑怯だと思う。

 

 

****

 

 

「ふふふ……月読め。すぐに私に救援を要請しておけばこんな面倒な事にならなかったものの。まぁいい。こうして私がこの妖刀『乳喰』を持ったからには雪音も、立花も、マリアも、暁も。巨乳と呼べる巨乳の身内の胸を吸いつくして――」

「翼さん? おいたはそこまでにしましょうか?」

「げぇっ、緒川さん!? くっ……いくら緒川さんでも今回ばかりは押し通らせてもらうぞ!! 覚悟!!」

「甘いですよ。変わり身の術、からの首コキッと」

「けぺっ」

「はぁ……この件、司令にどうやって報告した物か……」




と、いう訳で今回はネタ提供してもらった話でした。なんか書いてる間に一か月経っていたけどキニシナイ。

いやー、XVのティザーサイト来ましたね。ティザーサイトの調ちゃん、両足でピョンっと飛んでて笑顔でクッソ可愛かったです。いやー、今から七月が本当に楽しみです。

まぁその間に地獄の就活があるんですけどね……マジでどうしよう……ずっと物語書いて生きていきたい……

あとバンドリコラボで調ちゃんの参加が確定していましたけど、どんな衣装になるのかがマジで分からないので今から楽しみです。バンドリ好きな友人に調ちゃんの衣装がどのユニットのどれかを教えてもらおうか迷ってたり。
ちなみにバンドリを始めてみましたけどその程度のにわかじゃシルエットの判別は不可能でした。

XDの方もなんかやべービッキーが来ましたけど石貯めておかないと……調べちゃんを取るまでは石をせめて百連分は……


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月読調の華麗なる花粉症

いやー、就活とバイトと学校の板挟みでクッソ辛いっす。どうも私です。

今回は調ちゃんが花粉症になってしまった時空のお話です。自分は今年の花粉が大分辛くて外に出る時はほぼほぼマスクを着用している状態です。去年までは平気だったんですけど、元々花粉に対するアレルギーは少なからずあったので今年からすごい事に……

まぁそんな私情があったので調ちゃんも花粉症にしてしまえと思い生まれた今回の話。花粉症は辛いよ。


「っくしゅん! へぷしゅっ! ……うぅ、目は痒いし鼻がムズムズする」

「調も今年から花粉症デビューデスかぁ」

「勘弁してほしい……っくしゅ!」

 

 花粉症。結構な割合の人が恐れて怒り狂うその症状にわたしは今まで理解が無かった。

 でも、今年からわたしもそんな人たちの仲間入りをする事になった。風邪を引いていないのにくしゃみは出続けるし喉は変な感じだし鼻水は止まらないし目は痒いし……

 変装のために持っている伊達眼鏡をかけて何とか目は防御してるけど、丁度マスクを切らしていたから、わたしは今地獄を体験している。というか眼鏡も殆ど防御力無いし。

 ティッシュは凄い勢いで無くなってくし、薬も持ってないから部屋の中でもくしゃみが止まらないし。

 はぁ……どうせマスクあるしって思って洗濯物を取り込むために防御力皆無の状態で外に出るんじゃなかった……花粉滅べ。

 

「とりあえずあたしがマスクと薬を買ってくるデスから、調は一度顔を洗ってきた方がいいんじゃないデスか? すごい事になってますよ?」

「そ、そうする……へっきし!」

 

 ……まぁ、実のところ、わたしって花粉に対するアレルギーは元からあったんだよね。

 ただ、今年までどうしてか特に対策しなくても何も無かったってだけで。今年だけ花粉症患者真っ盛りな状態になってる。ほんと、嫌になっちゃう……

 まさか花粉症がこんなに辛いなんて。顔を洗ったら幾分かはマシになるけど、部屋の中に入っちゃった花粉のせいですぐにまたくしゃみと涙が……花粉滅べ!

 とりあえず切ちゃんが戻ってくるまでは絶えないと。はぁ、ティッシュがすごい勢いで無くなっていく……

 もしこんな時に出動があったらわたし、確実に足手まといだよね。花粉のせいでくしゃみしまくりで確実に歌えないだろうし、前も涙で見えなくなるだろうし。

 まぁでも、ギャラルホルンが最近は大人しくなった今日この頃、まさかこっちの世界ですったもんだがある訳が……ん? 通信? 本部から?

 あっ……

 

『もしもし、調くんか? すまないが聖遺物関連で任務を頼みたい。至急、本部に来てくれるか?』

 

 ……あ、あはははは。

 とりあえず女の子として大丈夫な顔で本部にたどり着けるのか、わたしは心配です。

 花粉滅んじゃえ!!

 

 

****

 

 

「うわ、調ちゃん、すっごい顔だね」

「花粉症か……難儀なモンだな」

「とりあえず調、マスクとお薬デス」

「ありがときりちゃん……」

 

 結論、駄目でした。

 目はまだいいの。まだ痒いだけで何とかなるから。でも、鼻は駄目。くしゃみと鼻水が止まらない。移動中何度もくしゃみをしてはポケットティッシュを消費し続けた。その結果、わたしの手には自分の使用済みのティッシュが大量に詰められたビニール袋が。

 しかも鼻の周りが真っ赤だし、目尻も真っ赤だし。

 だけど、花粉の被害者はわたしだけじゃない。今、わたしの横に被害者の一人が立っている。その人とは……

 

「……未来さんも凄い事になってますね」

「わたしは毎年結構酷くて……薬が丁度切れちゃってね……花粉滅べ」

 

 そう、未来さん。

 この人も思いっきり花粉症の被害にあったらしく、マスクはしているけど目は真っ赤だししきりにマスクを外しては鼻水を拭いてまたくしゃみしてる。わたしも切ちゃんからマスクと薬を受け取って本部内の自販機で買った水で流し込んだけどまだ効かない。

 とりあえず未来さんも一つどうです? あ、水はわたしの飲みかけで良ければ。

 

「す、すまないな。色々と大変な中呼びつけてしまって」

「いえ、大丈夫です。この程度我慢すればどうって事ありません」

「それにマスクも薬もあるのでへいき、へっちゃらです」

「みくー、それわたしのせりふ―……」

 

 まぁ、マスク付けてもちょっとは花粉の影響が出ちゃうんだけどね……

 巷には花粉を水に変えるマスクがあるとか言っていたけど、エルフナインにそれってどうなの? って聞いたらすっごい微妙な顔されたから買ってないんだよね。高いし。本当にどうなんだろう?

 とりあえずマスク事情は置いておくとして。

 風鳴司令にどうぞどうぞと話を則して今回の任務についてを説明してもらう。

 

「今回の任務だが、この位置にある聖遺物研究所の制圧だ」

「研究所の制圧? それってわたし達じゃないと駄目なんですか?」

 

 そもそも、こういった制圧系の任務でわたし達が召集されるのってそこそこ珍しい。

 何せ普段ならアルカ・ノイズを出してくる違法研究所くらいしかわたし達が向かうことは無い。そうじゃなかったらSONGの実働部隊で何とかなっちゃうからね。

 でも、わざわざこうして任務となるって事は。

 

「あぁ。連中はアルカ・ノイズを展開してきている。すぐに職員は退避したため被害は無いが、奴らの目的は不明な上に錬金術師も絡んでいる事はアルカ・ノイズで明らかになっている。なので、このアルカ・ノイズを従える錬金術師と研究者達が何か手を打ってくる前に可及的速やかにこの研究所内部を制圧してほしい」

 

 まぁ、そうなるよね。

 アルカノイズに対抗できるのはわたし達だけ。だからそれが出てきた瞬間、わたし達の出番になる。

 頑張らないと、とは言っても所詮はアルカノイズだしわたし達が無双して終わらせちゃうんだけどね。いえーい、わたし達、地上最強集団装者。

 

「すぐにヘリを出す。装者諸君はソレに乗ってすぐさま現場に急行してくれ」

『了解!』

 

 ……とりあえずマスク着けて花粉を防がないとね。

 ギア、装備したままでもマスクって着けれるのかな? ……むりくさい。

 

 

****

 

 

 結論、無理でした。

 見事に耳の部分にある装飾に引っかかってマスクを着けられなかった。だからわたしも未来さんもひっどい状態。もうそれはそれは、涙と鼻水を垂れ流しの酷い顔で。

 わたしと未来さんは歌おうとしてもすぐにくしゃみで中断されるうえに攻撃中にくしゃみで逸れる逸れる。何度響さんが未来さんのビームを背中に受けて悶絶していたか。ちなみにわたしの殺人ヨーヨーは何度か切ちゃんの頭を削ったよ。大丈夫、無傷だから。

 でも、流石にお気楽二人も誤射ばっかりのわたし達に、仕方ない思っていてもカチンと来たのかそっとわたし達の肩を掴むと、一度クリス先輩に戦場を任せてから笑顔でわたし達を戦場からそこそこ離れた場所に座らせて戦いに戻っていった。

 どうも、足手まといです。

 

「……しらべちゃん、ポケットティッシュある……?」

「ないです……ぐしゅっ!」

「もっともってこれば……へっしゅ!」

 

 もう会話すら成り立たない酷い状態。

 というかこんな状態になるまでわたしの花粉症って酷かったっけ? 確かに今年の花粉は酷いとかよく聞くけど、こんな行動に支障が出る程花粉症って酷くなる物なの?

 うー……考えている間にも鼻水と涙が……しかも頭までボーっとしてくるし。

 っていうか、もうポケットティッシュも切れちゃって今は念のために持ってきておいたボックスティッシュを使ってるんだけど、これも凄い勢いでなくなってく。なんか、コンビニで買ってきたティッシュって結構早くなくなるイメージがあるの、わたしだけ?

 とりあえず未来さんにもティッシュを分けて二人で使いあう。もう口を開けるだけで変な感じもするから言葉も発したくない。

 

「よし、これでアルカノイズは大体片付いたね」

「いつも後ろから援護してくれる二人が居なかったからちょっとキツかったデス……」

「うわ、あいつらの周り、使ったティッシュだらけになってら」

 

 もう持ってきたビニールもいっぱいいっぱいなんですよ。とりあえず未来さんに焼き払ってもらって環境に対する保護は何とかしたけど。

 研究所の中にゴミ箱があったら捨てさせてもらおうかな。あとはアルカノイズに直接ぶつけるか。

 アルカノイズっていい感じにゴミ箱になるよね。

 

「お前ら、馬鹿な事考えてないでとっとと行くぞ。いい加減くしゃみの音でノイローゼになっちまいそうだ」

「そこまでひどくないでっくしゅ!!」

「ハイハイ分かった分かった。いいからくしゃみするときはそっぽ向け」

 

 うぅ……クリス先輩が冷たい。あれ? いつもの事?

 とりあえずちょっと離れて移動する三人の後ろをわたし達花粉症組が追いかける。とりあえず室内に入ったから花粉症の症状も大体抑えられて任務に支障は出なくなる……と思ったんだけど、どうもわたしの予想と現実は違ったみたいで、研究室に入ってからもくしゃみは出るし鼻はムズムズするし目は痒いし……

 なに? 外から空気でも取り込んでるの? 昔ながらの空気清浄でもしてるの? この研究所は花粉症患者に喧嘩でも売ってるの? 買うよ?

 とりあえずわたしと未来さんはくしゃみをしながら三人の後をついて行く。一応本部の方からナビゲーションがあるから道に迷うことなくそのまま研究室の重要な施設があるらしい部屋に。

 

「オラ国家権力様のお通りだ! とっとと後悔に後悔重ねてお縄に付きやがれ!!」

 

 クリス先輩がボウガンを構えながら部屋の中に突入。その後に続いて響さんと切ちゃんが前に出て、わたしと未来さんはそっとドアの所から顔を出している。

 で、部屋の中だけど何人もの研究員っぽい人と如何にも錬金術師ですって言わんばかりの黒ローブを羽織った数人の男の人が。そして部屋の隅には何やら色々な装置やら何やらが繋げられた怪しい機械が。なんだろうあれ。

 

「なっ、シンフォギア装者だと!? アルカノイズが研究室前にいたはずだぞ!!?」

「アタシ等にんなちょっせぇモンが通じるって思ってんなら笑っちまうほど哀れだなぁ! おい馬鹿二人! とっとと制圧しろ!」

「いやー、とは言ってもクリスちゃん。生身の人をぶん殴るのはいささか……」

「キャロルの腹と顔ぶん殴った奴が言う言葉か! 縄でもなんでもいいから括って縛れ!」

 

 そういえばキャロルって響さんから生身の状態でエクストリーム腹パンと顔パンくらってたっけ。二発くらっても沈まなかったけど。

 とりあえず響さんがどこから取り出したのか分からない縄を手に、切ちゃんも肩のアーマーから延ばせるワイヤーをブンブン振り回しながら錬金術師の方へと近づいていく。

 だけどそれを見た研究員が一人、仰々しい機械の前に立って叫び始めた。

 

「お、お前ら、それ以上動いてみろ! この装置を作動させるぞ!」

「あぁ? んな木偶を動かしてどうする気だって?」

 

 いや、少なくとも木偶じゃないとは思うんだけど……

 それに、ここまで自信満々に言うんならちょっとは凄い機械なのかな? ここら辺一帯を爆破するとかその程度ならわたし達は無傷で帰還できるけど。

 

「この装置はな、この世のありとあらゆる花粉を世界中へと放出する我らの秘密兵器だ!!」

「は?」

 

 …………は?

 

「この装置が動いた瞬間、この世のありとあらゆる花粉症を患った人間は例えマスクを着けようが空気清浄機を付けようがくしゃみと涙が止まらなくなる! そして脱水症状で死に絶える!!」

「……はぁ?」

「この装置は我らが世界を支配するための軛。この世を花粉という自然の災害により混乱に陥れ花粉という抑止力によって我らが世界を支配する! 貴様らがそれ以上動けばこの装置は作動しこの世は未曽有の混乱に――」

「卍火車」

「煉獄」

「おちいあっぶなぁ!!?」

 

 あっ、ちょっと話が長かったから思いっきり攻撃しちゃった。しっぱいしっぱい。

 とりあえず今、卍火車とビームで装置を思いっきり叩いたけど……へぇ。まだ壊れないんだ。とりあえずあれ破壊しないと。

 あれはこの世全ての悪とも言える装置。破壊しないと。

 

「き、貴様等! 一体何を!!」

「は? ただでさえ花粉のせいで迷惑被ってるのにそれ以上の迷惑巻き散らすとか。殺すよ?」

「花粉症じゃない人には分からない苦痛を何倍にして与えてもいいんだよ? いっぺん死んでみる?」

「あっ、ウチの花粉症患者がキレやがった」

 

 わたしはヨーヨーと電鋸を。未来さんは鏡状に展開した扇を手にしてゆっくーりと近づいていく。

 まさか花粉症患者に対してそんなド外道な行為をしようとか万死に値する。というかここら辺一体の花粉がヤケに酷いのって絶対にこれのせいじゃん。こいつらが変な事やってるせいじゃん。

 滅さないと。

 こいつらに花粉症の恐怖を刻み込まないと。

 ぶっ殺~

 

「ま、待て! 分かった、世界を支配した暁には貴様たちに世界の半分をやろう! それで手を打たないか!!?」

『どこの竜王だ己はぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!』

 

 死に晒せッ!!

 

「ぎゃあああああああああああああああああああああ!!?」

「……多分こいつら、アタシ等の中だと一番マジギレさせちゃいけねぇ奴だからな。おー、くわばらくわばら」

 

 

****

 

 

 結局、あの研究所の破壊はそれから一時間後に無事成された。

 わたしと未来さん。電鋸とビームにかかれば解体できない建物なんてない……けど、ちょっと風鳴司令からはやり過ぎだって怒られた。一応友里さんが花粉症患者だから気持ちは分かるって言って庇ってくれたから、お説教をちょっと減ったけど。

 ただ、そのお陰であの装置は修理しても修理しきれるか怪しいくらいにまで破壊できたし、この辺一帯の花粉も他の地域と大体同程度にまで落ち着いた。それでも涙とくしゃみは止まらないけど。

 そんなわたし達の涙と鼻水を流すだけに終わった今回の任務だけど、一個だけ収穫が……それも大きなものがあった。それは、任務が終わってから数日後にエルフナインからの電話によって発覚と同時にプレゼントした。

 

「どうやらあの研究所は花粉症対策を聖遺物を使ったアプローチでできないかと研究していた研究所らしく、あの装置は元々装置の範囲内の花粉を除去するっていう装置だったらしいんです。どうやらあんなことになったのは我欲が出ただけらしくて……それでその装置をボクの方で解析して改良して普通の空気清浄機レベルにまで小さくしたのでお二人にプレゼントしますね」

 

 と、いう事でわたしと未来さんにはそれぞれ試供品という事で一定範囲内の花粉を打ち消す空気清浄機がプレゼントされた。

 このおかげでなんとわたしと未来さんは部屋に中に居る限りは花粉症の症状がでなくなった。外に出れば地獄だけど、洗濯物を取り込んだ後に地獄を見ずに済むようになったのは凄く大きい。

 大きいんだけど……

 

「……どうして切ちゃんもわたしの部屋にずっと居るのかな?」

「……どうやらあたしも花粉症デビューしちゃったみたいなんデス……外に出るとくしゃみと涙が……」

 

 どうやら切ちゃんも花粉症デビューしてしまったらしく、後日クリス先輩と切ちゃんと一緒にお出掛けした時は二人してマスクと眼鏡装備で、しかもそれでも時々くしゃみするものだからクリス先輩は相当微妙な顔をしていた。

 ……いつか花粉症を完治させる薬、発売されないかなぁ。




という事でまぁいつも通り聖遺物を絡めりゃこんな事もできるだろうと思ってこんな風になりました。
この世から人間に害を成す花粉を飛ばす植物、絶滅してくれないかなぁ。

まぁそんな恨み辛みは置いておきまして。シンフォギアXDの方でパスパレ調ちゃんを無事完凸まで持っていけました。多分百連ちょっとして二枚はメダルで交換してようやく完凸です。精神的に疲れました。

っていうか調ちゃんがパスパレと絡むと知ってバンドリを軽く調べてプレイして、やっぱ調ちゃんをアイドルにしようと考えついた自分は決して間違ってなかったんやなって。パスパレ調ちゃんのウインクを見てそう確信しました。あのウインクは人を尊さで殺せる。間違いない。

パスパレ調ちゃんについてはもっと語れそうですがただの限界オタクと化しそうなのでこの辺で。
まぁ今回のバンドリコラボにてギャラルホルン先輩はバンドリ世界とも無事今後も交流可能としたっぽいですけど、そうなるとここでもバンドリキャラを出せるようになるって事なんですよね。
と、いう事で一つアンケートを。この作品でもバンドリキャラを時折ゲスト参加させる事に賛成か反対か、の二択のアンケートです。多分反対が多くてもちょっとは書くと思いますが、バンドリキャラの登場頻度を考える際の参考にさせてもらう予定です。
よろしければすぐ下にアンケートが出現しているのでご協力の方をお願いします。


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月読調の華麗なるガールズバンド

今回は前回のアンケートでガルパキャラを使っちまえよYou! となったので早速ガルパ世界にお邪魔する話を書くことにしました。

恐らくこの作品で出てくるガルパのキャラは主にパスパレのメンバー、それも彩ちゃんと千聖さんが中心となると思います。調ちゃんが主役という関係上、調ちゃんと関係があった二人が一番動きやすいからね、仕方ないね

まだバンドリを始めてから一か月も経ってないような人間なので二人や他のちょい役のバンドリキャラに違和感があるかもしれませんが、まぁそれもキャラ崩壊の一つだと思ってどうぞご覧ください


 ライブハウス『CiRCLE』。わたし達がついこの間起こった平行世界の異変の解決のために訪れた場所で、異変の解決のための力を貸してくれた場所……そして、わたし達に新しい出会いと新しい楽しみを教えてくれた。

 ガールズバンド。平行世界から帰ってきたわたし達が新たに趣味として結成したもの。バンド名はシンフォギア。構成員はギターの響さんとクリス先輩。ベースのわたし、キーボードの未来さんにDJの切ちゃん。多分、ハロハピ並みに結構王道から外れた感じの構成してると思う。だってドラムいないし。

 リードギターとサイドギターは色々とあった結果、響さんがリード、クリス先輩がサイドってなったけど、まぁその際のドタバタはご割愛。

 わたし達は平行世界の人間だからそう簡単にCiRCLEでのライブには参加できないんだけど、まりなさんがわたし達のために枠を一個取っておいてくれたらしくて、この間練習の成果とかを披露しに行ったときにわたし達の分の予約をしてくれた。

 だから、今、わたし達は数日後の本番のために本部の訓練室を借りて猛練習中なのでした。

 

「~~♪ …………よし! 何とか通せたね!」

「後はブラッシュアップしていくだけだな」

 

 わたし達が練習している曲は、ツヴァイウイングの曲で響さんとクリス先輩がボーカルの逆光のフリューゲル。わたしと切ちゃんがボーカルのORBITAL BEAT、響さん、未来さん、クリス先輩がボーカルの激唱インフィニティの三曲。あんまり歌える時間も多くは無いからこの三曲でわたし達の出番はおしまい。

 あっちの世界にはツヴァイウイングが存在していないからツヴァイウイングの二曲はわたし達のオリジナル曲っていう扱いになるんだけど、翼さんはそれでも是非歌ってくれって了承してくれた。

 世界を越えて自分達の歌を伝えてくれるのなら大歓迎だし、きっと奏さんもそう言うに決まってるからって。ちなみにその日に遊びに来ていた奏さんも笑顔でオーケーしてくれた。

 そういう訳でわたし達は本格的にツヴァイウイングの曲とシンフォギアから流れてくる曲をオリジナル曲として、ついでに好きな曲をカバーソングとして練習してる感じ。

 

「それじゃあ次は激唱インフィニティを通してみて……」

「あ、ごめんなさい。わたし、そろそろお仕事の時間です」

 

 ちなみにわたしはアイドルやってる月読調だよ。

 ……いや、アイドルしてないわたしなんてこの世界には居ないんだけどね。なんでこんな事思ったんだろ?

 まぁ、そこそこ売れっ子アイドルのわたしは練習を途中で抜ける事も時々ある。一応楽屋とかでヘッドフォンアンプを着けて練習したり、移動中もタクシーとかロケバスじゃなかったら練習してるけど、やっぱりもっと纏まった練習時間が欲しいなーって思う事も時々。

 

「あー、もうそんな時間?」

「じゃあ調のベースの音はこっちから出すデスよ。この間全員分の音は一通り機材に入れておきましたから」

 

 あぁ、そういえばこの間、練習の前にDJ用の機材弄ってたっけ。その時に入れたのかな?

 

「それじゃあわたしはこの辺で。とりあえず明日はお昼からなら参加できますので、お昼になったら来ますね」

「うん、調ちゃんもお仕事頑張ってね」

「は、はい。頑張ってきますね……」

 

 ちなみに今日のお仕事は思いっきりバラエティーです。

 わたし、もう完全にバラドルの仲間入りしちゃったよぉ……おかしいなぁ、装者の中では一番常識人なのに……

 まぁ、だからなのかな。パスパレにどこか親近感を覚えちゃったのって。パスパレも結構体張った仕事してるみたいだし、この間はなんかコマーシャル時間の獲得のために水着で鉄棒からぶら下がったりサーフボードに乗って泥の中に落ちてたし。

 わ、わたしなら何分かは持つけどね、うん。

 ――ちなみにこの日のお仕事は鉄棒にぶら下がった状態を維持している間に翼さんが問題に答えていくっていうクイズ番組で、わたしは見事四分近くも粘るという快挙を成し遂げたけど、翼さんが四分間全問不正解を叩き出して最下位になりました。ちなみにわたしは泥の中に落ちてから引き上げに来た翼さんを思いっきり泥の中に引きずり込みました。

 あと、番組内でわたしは女の子の形をしたゴリラとか言われたけど気にしてないもん。わたし、装者の中では一番非力なんだもん。ただ、殺人ヨーヨーをぶん投げてはキャッチしてるから握力とか腕力があるだけだもん。響さん程じゃないもん。ほんとのゴリラはあの人だもん。

 

 

****

 

 

 泥の中に落ちてから早数日。わたし達は前日の内に平行世界に向かってこの間貸してもらったお部屋をまた借りて最終調整をしてた。

 最終調整とは言っても大きな音を出して練習はできないから本当に楽器の手入れをしたりとか、明日の衣装を試しに着てみたりとか。ちなみに衣装はツヴァイウイングっぽい感じに仕立て上げてもらったよ。一応小さな音でなら練習はできるから響さんとか切ちゃんはヘッドホンを着けて練習中。

 で、わたしはと言うと。

 

「えっと、確かこの辺に……あっ、居た」

 

 とある商店街の一角に来てます。その理由は単純にある人と待ち合わせてるからなんだけど、最初は見つけるのも至難だろうからどうしようって思ってた。まぁ実際はすぐに見つかったんだけどね。

 平行世界だからこそ晒せる素顔で待ち合わせ場所に向かって見つけたのは、あのお二人。

 

「あ、調ちゃん!」

「お久しぶりです、彩さん、千聖さん」

「えぇ。数週間ぶりね」

 

 そう、こっちでお世話になったPastel*Palettesのお二人、彩さんと千聖さん。

 二人ともアイドルをやりながらバンドをやってる……というか、バンドやりながらアイドルをやってるのかな? どっちかは分からないけど、アイドルとバンドを両立してる人たち。二人とはアイドル仲間っていう事と、歌を生業にしている繋がり。それ以外にも気が合うとか色々とあって仲良くしてもらってる。

 

「っていうか、私達、変装してるのによく分かったね?」

「え? え、えぇ……なんかこう、なんとなーく……」

 

 変装って聞いて素で変装しているのか聞き返しそうになったけど、確かに今の彩さんって服装はダサT……じゃなくてちょっと変わった服で、サングラスかけてるし……変装と言えなくもない、けども……

 千聖さんの方にちょっと視線を向けてみると、呆れた顔をしながらも頷いていたから、多分彩さんはこれが本当に変装だと思ってるんだと思う。多分、ファンの人からしたらバレバレだと思うんだけど……どうなんだろ?

 

「まぁ、こんな所で話していてもアレだし、近くの喫茶店に行かない?」

「あ、そうですね。立ち話してたら誰かに声を掛けられるかもですし」

 

 とりあえず、千聖さんの言葉でわたし達は近くの喫茶店……えっと、羽沢珈琲店って所に来てみた。

 

「あ、いらっしゃいませ、彩さんに千聖さん。あと……確か、この間見かけた……」

「月読調ちゃんよ。ほら、ピンクのシンフォギアの」

「えっと……あっ、あの子ですね」

 

 あれ? この人ももしかしてCiRCLEの関係者……?

 あ、違う。確か、クリス先輩と親交があるAfterglowってバンドの人だっけ? 一応わたし達全員、Poppin' partyとRosellia、AfterglowにPastel*Palettes、ハロー、ハッピーワールド! の人たちとは軽く顔を合わせた事はあるけど、他のバンドの人たちとは最後に一回顔を合わせただけで終わっちゃってるから、名前を覚えてなくても仕方ないんだよね。

 だからこの人の名前が思い出せない。えっと、羽沢珈琲店の人だから……

 

「つぐみちゃんだよ。羽沢つぐみちゃん」

 

 あ、そうだ。つぐみさんだ。羽沢つぐみさん。

 クリス先輩がアフグロの癒し担当とか言って笑ってたような気がする。

 

「この間からクリス先輩がお世話になってます」

「お世話になってるって……そんな事ないよ。むしろこの間はみんなのお陰でCiRCLEがまた使えるようになったんだし」

 

 でも、クリス先輩もよくこっちに来てアフグロの皆さんの所にお邪魔してるっぽいし。

 

「すみませーん、注文いいですかー?」

「あ、はい! えっと、席の方は空いてる所に座っていいから、ゆっくりしてってくださいね~!」

 

 このまま雑談……としゃれこもうとした時、つぐみさんはお客さんに呼ばれて走っていった。

 とりあえずわたし達は立ちっぱなしというのもアレだから適当な席に座ってメニューを見る事に。

 

「そういえば、今日はイヴちゃんはいないみたいだね」

「今日はブシドーの鍛錬のために山に行くとか行ってたような……」

「え? 山? っていうかイヴさんってここでバイトしてるんですか?」

「うん、そうだよ?」

 

 イヴさんと言えばパスパレのメンバーの一人である若宮イヴさんしか出てこないし、多分二人の会話から出てきたとすればその人しか居ないんだけど……え? 武士道?

 そういえばこの間会った時もよくブシドーブシドー言ってたような。変わった人だなー程度にしか思ってなかったけど、もしかして結構変わってる人? でもそんな人なら翼さんとかと引き合わせるとちょっと面白い化学反応が見れるかも。

 

「イヴさんってアイドルしてるのにここでアルバイトもしてるんですよね……?」

「一応私も近くのファーストフード店でアルバイトしてるよ?」

「アイドルしながらアルバイト……大変ですね。わたしはアルバイトする時間なんて取れないです」

「と、いう事は調ちゃんはあっちだと結構売れっ子なのね」

「そんなに売れてるわけじゃないと思いますけど……わたし達の先輩の、国民的アーティストとユニットを組んでるので、その繋がりで結構お仕事を貰えてるんです」

 

 彩さんはすごーい! って言ってくれてるけど、千聖さんはふーん、と一言。

 ……まぁ、こう言うとわたしって完全に翼さんに引っ付いて人気を得たみたいな感じだから何言われても言い返せないんだけどね。実際その通りだと思ってるし。

 緒川さんの腕でも、翼さんと組んでなかったらわたしの人気ってまだ芸歴相当程度だったと思うし。

 

「ちなみに、その先輩はイヴさんと結構相性いいと思いますよ? 今を生きるリアル防人ですから」

「リアルさきもり? さきもりってなんだっけ?」

「彩ちゃん……防人っていうのは」

「まぁ現代の武士とでも思ってくれたらいいですよ。説明面倒ですし」

「あらっ」

 

 だって間違いじゃないし。

 千聖さんの苦笑を躱しながらわたしはとりあえずメニューを見る。

 ここってケーキが結構売りみたいだね。メニューでも結構推されてる感じ有るし。

 とりあえずこのコーヒーと、あとはイチゴのショートケーキは頼むとして、他はなにを頼もうかな……これだけでいいかな?

 

「けど、調ちゃんの方も大変そうだよね。アイドルしながら装者? だっけ? をして戦ってるんでしょ?」

「はい。でも、わたし達が出るような場面って実は結構少ないのでそこまで大変って訳じゃないんですよ?」

「……それでも凄いわね。命をかけて戦ってるんでしょ?」

「そうしないといけない理由がありますから」

 

 マムが命を懸けてまで守ったあの星を。色んな人の命と思いと歌で繋がれたあの世界を守るためなら、命を懸けて守る程度、どうってことない。

 それに。

 

「命を懸けてるとは言っても、殉職する気はサラサラありませんし、一緒に戦ってくれる心強い人たちが居ますから」

 

 確かに一時は死を覚悟したわたしだけど。それでも、響さん達と背中を合わせているのなら死ぬ気なんてサラサラ感じない。

 だから大丈夫。そう言うと千聖さんはまた困った感じの笑顔を向けたけど、すぐに小さく笑ってくれた。

 まぁ、装者になって命を懸けるなんて今さらだし。結局今日まで死んでないんだからきっと大丈夫大丈夫。なんか些細な事で日常が崩れて死ぬ気だけはちょっとだけするけど。

 なんでだろう。無人島って単語に若干の恐怖を感じるのは。この間ドッキリで島流しされたから?

 

「あ、ちなみに調ちゃん。あっちではどんなお仕事をしてるの?」

「お仕事ですか? えっと、この間は鉄棒にぶら下がって泥に落とされたり、その前は格付けチェックに出ましたし。後はドッキリを仕掛けたらドッキリを仕掛け返されて無人島に流されて二週間で本島まで戻ったり……」

「調ちゃんってバラドルなのね」

「誤解です。それを言うんならパスパレだって……」

「ねぇ知ってる? 芸人って芸能人の略だから私達は芸人と言われてもそれはただの芸能人、つまりはアイドルという」

「自覚、あるんですね」

 

 パスパレも無人島に行った事、わたし知ってるんですからね。

 それ以外にもパスパレって結構芸人っぽい事をそこそこしていたような気がするし。千聖さんが何も言えない感じの表情のまま固まっているのを尻目にわたしは近くを通りがかったつぐみさんに注文をして一旦話を区切る。

 とりあえず言える事はわたしとパスパレってそこそこ似通った感じの境遇なんだよね。バンドをしているかしていないかとかの細かい違いはあるけど、多分当てられるお仕事に就いてはわたしと一緒でほぼバラドル路線……いや、バラドルって認めちゃ駄目。わたしはアイドル。普通のアイドル……

 

「でも、私達の方は事務所がちょっとアレで嫌になっちゃうわ」

「ち、千聖ちゃん。別にそんな事は……」

「え? そうなんですか?」

「実際私達に起きた問題って大体事務所のヘマが原因なのよ。まぁ最初のは……そういう路線でいこうっていう元からの案だったから仕方ないとしても、その時のミスはあっちのせいだし……あと、それ以降もちょっとねぇ。私の伝手で仕事を取ってきたり彩ちゃんのための策が完全に裏目ったり無人島の時はなんかスタッフの方でガバってたり……」

「よ、予想以上に色々と……」

 

 流石に芸歴が長い千聖さんも愚痴を言いたくなる程度には色々とあったんだと思う。彩さんもそこそこ心当たりがあるのか苦笑しているし。

 とりあえずまだまだ闇を吐き出しそうな千聖さんを彩さんと一緒に落ち着かせてからつぐみさんが持ってきてくれたケーキとコーヒーで小休止。ちなみにその時にわたしの事務所はどうなのかって聞かれたんだけど、仕事に関する手腕をつらつらと喋ってみたら千聖さんがまた闇落ちしそうになってた。

 確かに緒川さんは仕事の手腕は有能も有能だけど、代わりに担当した人を積極的にバラドルの道に叩き落そうとしてくるから何とも。わたしもその道に叩き落されたし……

 

「……そういえばさ、千聖ちゃんと調ちゃんってあんまり身長変わんないよね?」

「え? あ、そういえば」

「座高もほぼ一緒ね」

 

 そんな風に思っている中、彩さんがふと気になったのか投げかけてきた疑問はなんとなーく今まで気にしてなかった事。

 なんか千聖さんって身長大きいイメージというか、あんまり小さくないイメージがあるんだけど、確かにこうして見ると身長は小さめかも。彩さんともそこそこ身長差あったし。

 

「ちなみに調ちゃんは身長幾つ?」

「152ですけど」

「あら、一緒ね」

「え? ホントですか?」

 

 という事で一旦並んで身長を測ってみる事に。

 靴底の厚さが違うからほぼ一緒という事は無かったけど、靴を脱げば大体一緒だろうって事で落ち着いた。それにしても千聖さんと身長がほぼ一緒ってちょっと意外だったかも。

 

「まぁ、身長が小さくても別に気にすることは無いわ。小さくても大きくても一定の需要は……」

「でも千聖ちゃん、この間携帯で身長を伸ばす方法調べ……あっ何でもないですハイ……」

「ふふふ。世の中には言わなくていい事の一つや二つあるのよ?」

「一瞬凄い目で見られた……」

 

 まぁ、気持ちは分かりますよ。小さくてかわいいとか言われてもちょっと複雑な気分になりますもんね。わたしもすっごく経験があります。

 しかも翼さんとマリアが身長高めだからか実際の身長よりも小さいイメージまで持たれてるっぽくて……

 わたしの場合はF.I.Sで訓練とかばっかりしてたからっていうのはあるんだろうけど……でもそうなるとマリアがあんなに成長している事だったり切ちゃんだったりで納得ができない。

 とりあえずこの世の不条理許すまじ。

 

「と、とりあえずこの後は服とか見に行かない?」

「えぇ、そうしましょうか」

「世界が違うと売ってる服もかなり違うときがあるので楽しみです」

 

 でもその事は一旦忘れて今は彩さん達と一緒に楽しもうかな。

 ……で、だけど。なんかわたしってこの世界で一つだけやり忘れてる事があると思うんだよね。何かは分からないけど、ただ放置してたらマズい物を放置しているような気が……




と、いう事であやちさと一緒にのほほんとアイドル時空の調ちゃんがお茶するだけの話でした。とりあえず実はちっちゃい千聖さん可愛いという事で。

個人的にバンドリのバンドの中ではハロハピ、Roselia、パスパレが好きなのでそこら辺のキャラを中心に出していきたい所。一応千聖さんがハロハピとの繋がりを持ってますし、日菜ちゃんがRoseliaとの繋がりを持ってますから出す事は可能なような気がしないでも……

本当はこの後シリアス目な話を一個書いて……と思ってたのですが予想以上に文字数がいってしまったので今回はここで一旦区切りを。そのもう一個の話は……まぁ、調ちゃんが最後にフラグ建てたから何が出てくる話かは分かると思いますが……

そうだよ、お前だよ。サラッとストーリー上で存在を忘れられて最初の方しか出てこなかった結果最後は謎のモンスターに出番を奪われ生死不明のまま消え去ったカルマノイズくん


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月読調の華麗なる初ライブ

今回は前回の続きでガルパ時空での話となっております。

本当は長くても一万文字くらいで終わるだろーとか思っていて、前回と合わせて一万六千文字。うん、そんぐらいだなとか思ってたら今回だけで一万七千文字を叩き出しました。

もうこれなら前回の話も統合して月読調の華麗なるガールズバンドとして一話分に纏めた方がよかった……とか思ったんですが、まぁやっちまったもんは仕方ない。

あと日菜ちゃん書くの難しい。

それでは、どうぞ。

2019/10/13
ライブシーンに歌詞を追加


 わたしと彩さん、それから千聖さんの買い物は特別何か問題が起こることもなく終わりかけてる。ちょっと二人がファンに囲まれかける時があったけど、そこら辺はまぁなんとかした。

 買い物についてはわたしと千聖さんが身長は同じで体型も結構似ているから今着ている服を交換してみたり、お互いに選んでみたり彩さんに選んでもらったり。そんな感じで選んだり遊んだりしながら結局そこそこの量を買っちゃった。あと、わたしがあっちでやっている変装とかを教えたり、逆に千聖さんの変装方法を教えてもらったり。あとついでに彩さんの自己紹介を教えてもらったり。

 まん丸お山に彩をって、ホントに上手く考えてるよね。わたしの名前はなんというか、そういう可愛いふわふわな感じじゃないから何とも言えないけど。

 それと、あっちで組んでる風月ノ疾双ってユニット名を教えたら微妙な顔をされたというのは完全に余談。

 

「それでその時にイヴちゃんがすっごい顔しちゃってね~」

「なんというか、筆舌し難いキリっとした顔だったわよね……」

「ど、どんな顔してたんですか……」

 

 あと、こうして話していると案外パスパレの皆さんも非常識に塗れているような気が。

 彩さんと千聖さんはまだ常識的だし、麻弥さんも常識的、なんだろうけど、ちょっと行動がぶっ飛んでる時が……日菜さんとイヴさんはかなり非常識な気がする。日菜さんは天才っていう非常識があるし、言動もちょっと響さんとか切ちゃんとか、そこら辺に通ずるものがある気がする。

 あとイヴさんは……可愛い翼さん? いや、違う。なんかこう、よく外国人に見る日本の文化を勘違いした人……? でもそんな所がイヴさんは可愛いよね。

 まぁとにかく。この世界の人も結構行動がおかしい人いるよね。

 

「えっと、こんな顔よ」

「ふっ、くく……!! あ、アイドル、ですよね?」

「あ、アイドルだよ……? 最近芸人みたいな感じになってるけど……」

「言ってしまえば全員芸人気質なのよね……」

 

 流石にこれは誰でも笑うってば。

 というか何でこんな顔になっちゃったの? 緊張とか表情筋とかで片付く問題じゃない気が……

 響さんの話を聞く限りポピパも結構凄い人がいるみたいだし、ロゼリアもクールに見えて中身は可愛い感じとかちょっとイメージしがたい事があるみたいだし。あとは……ハロハピは凄いみたいだね。アフグロは常識人枠? なのかな?

 

「と、とりあえず次はどこに行く?」

「あ、それならわたし、CDショップに行ってみたいです。パスパレのCD、前に来た時はバタバタしてて買えなかったので」

「CDショップ……ってこの近くにあったかしら?」

「あ、それならそこのお店にCDコーナーがあるから行ってみたら~?」

「じゃあそうしよっか……って、あれ?」

 

 ……ん? なんか一人分声が増えたような……

 

「……って日菜ちゃん!? いつのまに!?」

 

 わたし達三人が首を傾げて後ろを向くと、本当にいつの間にかやってきたらしい日菜さんがシレっと混ざっていた。彩さんは結構ビックリしているし、わたしも内心はビックリしてるんだけど、千聖さんはある程度予想できていたみたいで苦笑してる。

 なんで天才な人ってこう、すっごく突拍子も無い事とかするんだろうなぁ。

 

「いや~、なんかこう、るんってする方に来てみたら彩ちゃんと千聖ちゃん、それから調ちゃんが居たんだ~」

「るんってする方……なんか日菜さんらしいですね」

「まあねー」

 

 日菜さんとは最初にパスパレの皆さんと出会った時はあんまり関われなかったけど、二回目以降ちょくちょくこっちに来ている間に仲良くなれた。日菜さんは感覚派の天才みたいな感じで今までの知り合いにはいなかったタイプだけど、まぁもっと厄介な天才でクソッタレな英雄と話したことがあるから、全然日菜さんは普通に思えた。

 ……まぁ、あっちでぶっ飛んでいる人に分類される人がぶっ飛びすぎていて、日菜さん程度なら何とも思わなくなっただけとも言えるんだけどね。少なくとも身内に天才じゃないけど日菜さんよりも身体能力とか運動神経がヤバイ感じの人、数人いるし。司令とか響さんとか緒川さんとか。

 ただ、イヴさんと麻弥さんとはまだあんまり話せてないんだよね。基本的に彩さんと千聖さん繋がりでパスパレの人とは繋がってる感じだから、二人と一緒に居ないとあんまり話す機会が無いというか。

 日菜さんは謎の嗅覚で接触してきたから比較的仲は良いけど。

 

「それよりも今日はなにしてるの? 調ちゃん、明日はCiRCLEでライブでしょ?」

「久々にこっちに来れたので彩さんと千聖さんと一緒に買い物でもと思ったんです」

「えぇ~。それなら私も誘ってくれたらよかったのに」

「日菜ちゃん、今日はオフだし家で紗夜ちゃんと一緒なのかなーって思って」

「いや、私も最初はお姉ちゃんと一緒にごろごろーって思ってたんだけど、お姉ちゃんってば練習に行っちゃったんだ~」

「それならどっちにしろ誘っても来るって言わなかったじゃない……」

「あはは~」

 

 なんというか、日菜さんって色々と軽いよね。

 響さんとか切ちゃん辺りとはかなり相性よさそう。あの二人もお気楽だから日菜さんの感じとはすごいマッチしそう。

 能天気に笑っている日菜さんがで、CDショップ行くの? と話を切り替えてきたからそれで大丈夫ならとわたしが許可を取って、三人から一人増えて四人で日菜さんが知ってるCDショップに行く事に。

 

「それでお姉ちゃんがその時、急にポテェ……って言い出しておかしくってさ~」

「ぽ、ポテ……?」

「お姉ちゃん、フライドポテトが大好きだから」

「最早禁断症状のレベルね」

「しかもそこら辺の感覚を共有してるっぽくて、私だけがポテト食べてるとお姉ちゃん、物凄くポテトが食べたくなるみたいで」

「双子ならではってやつ……? っていうか、わたしの中の紗夜さんのイメージがただの面白キャラに……」

 

 ロゼリアでギターやってた時は凄くカッコ良かったのに、紗夜さんにはそんな秘密が……

 確かに未来さん、ロゼリアの皆さんの事を話す時って笑いをこらえながらよく話してたけど……紗夜さんがそんな面白キャラの一人だから? 確かボーカルの人……友希那さんも結構な人って聞くし。

 あれだけカッコいい曲とか歌うのにそんな感じなんて。やっぱり人って外見じゃ判断できないね。

 身内に外見だけじゃ判断しきれない人、相当数いるからちゃんと学ばないと。特にマリアとか。表立ってはかなり真面目と言うかキリっとしてるのに裏だと庶民感満載なマリアとか。

 ……そういえばどこかのバンドにマリアと似た声の人いたよね? アフグロだっけ?

 

「あ、あとね、さっきイヴちゃんから写真が…………あれ?」

 

 日菜さんが笑顔で話しながら携帯と取り出そうとした時、ふと日菜さんの笑顔が消えて進行方向とは別の方向に視線を向けた。

 あっちに何かあるのかな……? でも特に何も見えないような……

 

「……なんか、あっちから変な感じがする」

「変な感じ? いつものるんっじゃなくて?」

「うん。でもなんだろこれ。ライブ中に変な異音が混ざったような感覚……」

「っていうかあっちから何か聞こえない? さっきから悲鳴と言うか叫び声と言うか、そんな物が聞こえる気がするのだけど……」

 

 ライブ中に異音……? それってつまり歌の中にノイズって事なのかな?

 それだけじゃ何も分からないけど、すぐに千聖さんが言った言葉を聞いてからちょっと耳を澄ませてみると、確かに何か尋常じゃない音が聞こえてくる気がする。

 ノイズ……悲鳴……

 …………ま、まさか。

 

「……すみません、わたし、ちょっと行ってきます」

「え、調ちゃん?」

 

 ノイズ。わたし達の世界の災厄。

 それがこの世界に出てきたなんて情報は無い。ノイズが齎す特殊災害なんてものもない。

 でも、この間この世界にはカルマノイズが現れた。つまりそれはノイズがこの世界に出現する可能性が多少なりとも存在してしまうという事。

 もしもノイズが本当にいるのなら、行かないと。この場で歌を響かせる事ができるのは、わたししかいない。

 

「そ、それなら私も行くよ! 何かあったんなら人手は多い方がいいと思うし!」

「そうね。何かあったのなら避難誘導くらいは手伝えるわ」

「え? 何のこと? まぁいいや。私も行こ―っと」

「彩さん、千聖さん……あと日菜さん、軽いですね……」

 

 ま、まぁそれが日菜さんのいい所なのかもだし。

 とりあえず、もしもの場合は三人に避難を手伝ってもらってわたしが殿になる。わたし一人で行くよりは全然マシな結果にはなると思うし。

 それに気のせいなら気のせいで笑って終わらせられるし、とりあえず今は三人に着いてきてもらおう。

 ……一応、念のために響さん達に一言連絡だけしておこう。もしかしたらわたし一人じゃキツイ案件かもしれないし。

 

 

****

 

 

 大体走ってから数分も経たない内に日菜さんが違和感を感じる場所……つまりは悲鳴の中心に来ることができた。道中で逃げてくる人とすれ違ったけど、そのほぼ全員が顔を青くしていた。

 間違いない、何か起きている。そんな確信を得つつも走りながらLiNKERを首に打ち込みシュルシャガナを握りこんでわたしは騒動の中心へ。

 逃げてくる人を追いかけるように現れたソレは、カラフルなマスコットみたいな存在と、それの色違いで黒と紫が基調になっている存在。つまりは。

 

「ノイズ……!! やっぱり、この世界にも!」

「の、ノイズ……? あ、でもあの黒いのはあの時出てきた奴だよね?」

「何だかマスコットみたいね。あれにみんな悲鳴を上げてたの?」

 

 ノイズ。それから、その中心にいるのは間違いなくカルマノイズ。それも、ここに最初に来た時にわたしたちが見つけた、あのカルマノイズ。

 そうだ。わたし達はアレを倒しに来たのに、よく考えればわたし達はカルマノイズの最後を見たわけじゃない。音響怪獣とも呼べるアレを倒してCiRCLEを元に戻して、そのままわたし達は事件全部を終わらせた気でいた。

 今日感じていた何かを忘れている感じって、カルマノイズだったみたい……

 

「へぇ~。なんかかわい~」

 

 わたしが固まっていると日菜さんがノイズに近づいて……って危ない!?

 

「駄目です日菜さん! それに触ると死んじゃいます!」

「え? ってわお危ない!?」

 

 自らノイズに触りに行くっていう自殺行為をしに行った日菜さんだったけど、わたしの声を聞いてすぐにノイズに触るのを止めて、逆に触りに来たノイズを華麗に避けてこっちに戻ってきた。

 よ、よかった、取り返しの付かない事にならなくて。

 でも、これで安心していられない。これ以上取り返しが付かない事になる前にわたしが止めないと。

 

「彩さん、千聖さん、日菜さん! 今すぐ取り残された人を連れてここを離れてください!」

「そ、それはいいけど……調ちゃんは!?」

「あれが本来わたし達が戦うハズの敵です。確かに生身なら死んじゃいますけど、わたしの(やいば)はこのためにあるんです!」

 

 見た所、ノイズが襲おうとしている人は今、三人。ノイズに囲まれてる人、腰が抜けてるのかノイズから逃げられない人、車の上に乗ってノイズを追い払おうとしている人。

 その人達の周りには炭が舞っている事から、多分あの人達はノイズに分解された人を見てしまった人……その人達を新たな犠牲者にする訳にはいかない!

 

「various shul shagana tron」

 

 詠い、腕を振るう。

 服とギアが一瞬で入れ替わってわたしが腕を振るうと同時にノイズに囲まれている人、ノイズから逃げられずに震えている人の周りにいるノイズを一気に蹴散らして、そのついでにその人達をヨーヨーの糸で縛ってこっちに引っ張って救出。

 

「この人たちをお願いします。わたしはあっちの車の人を助けます!」

「う、うん! 頑張ってね!」

「うわ~、調ちゃんの変身初めて見たけど魔法少女みたいだね~」

「日菜ちゃん、あんまり呑気な事言ってないで逃げる準備!」

 

 多分わたしだけじゃあの三人を助けても避難まではさせられなかったから三人についてきてもらってホントに良かった。とりあえずツインテールの方から巨大鋸を展開して振り回しながらわたしは残り一人、車の上でノイズから逃れようとしている人の元に行ってその人を助け出す。

 

「大丈夫ですか!?」

「ひ、人が! あれに触った人が、黒くなって!」

「大丈夫です、あとはわたしが何とかしますから、今は避難を!」

 

 その人を抱えて来た道を全力で戻って彩さん達の元へ。

 彩さん達もどうやら助け出した人から人が炭になった事を聞いたらしくて、表情が強張っている。

 触っただけで即死。ノイズを常識として知ってるわたし達ならまだしも、それを知らない彩さん達からしたらそれは恐怖でしかないと思う。

 

「し、調ちゃんはあれに触っても平気なの?」

 

 わたしが抱えた人を下ろしてもう一度戦いに向かおうとすると、彩さんがそんな事を聞いてきた。

 多分、わたしがさっきから思いっきりヨーヨーとかでノイズを消し飛ばしている所をみていたからそう思ってるんだろうけど、そこら辺の説明は位相差とか中和やらでめんどくさいから……

 

「シンフォギアを纏っているならノイズに触れても大丈夫なんです。元々シンフォギアは対ノイズ戦を想定したモノですから」

 

 その証明のためにすっごい勢いでこっちに近づいてきていたノイズの頭をアイアンクローで握りつぶしてみると、三人ともなんか微妙な顔をしていた。

 ……流石にアイアンクローはやり過ぎたかな?

 

「とりあえず皆さんは避難を。ノイズは壁もすり抜けてきますから、なるべく建物の中じゃなくて広い場所にいてください。あと、わたしの事は秘密でお願いします!」

 

 あんまり悠長に話しているとノイズが広範囲に散ってしまうかもしれない。それに、徐々にノイズもこっちに寄ってきているからそれを百輪廻で一気に片付ける。

 シュルシャガナは一対一の火力は低い方だけど、一対多の状態でなら真価を発揮できる。つまりここは響さん達よりもわたしの土壇場!

 

「たかだかノイズならわたし一人で……!」

 

 ヨーヨーを振り回して鋸を発射しながら注意を引き付けて彩さん達が逃げた方には一切行かせないようにしてるけど……流石にカルマノイズが混ざっている以上、油断はならない。

 さっきから一撃でももらえば大ダメージは確定な攻撃をバンバン飛ばしてきてるし、それを回避して攻撃してもノイズが減ってる気がしない。もしかしてどこかでバビロニアの宝物庫が開いてる……とかは無いと思うけど。ただ、わたし一人じゃ減らしきれない程度には湧いてきたんだと思う。

 負担は少ないけど、流石に数が多いしカルマノイズから目を離せないから結構辛い……!

 

「そこ動くんじゃねぇぞ!!」

 

 そう思った矢先、聞きなれた声が聞こえた。

 その声に従ってわたしは足を止めて攻撃も一旦止める。その瞬間だった。

 

「ドシャブリな百億連発!! サービスだ全弾持ってきやがれェ!!」

「クリスに続くよ!!」

 

 クリス先輩と未来さんの声が響き、直後にわたしに被害が及ばない調整が成されたミサイルとガトリング、それからビームがわたしの周囲を一気に焼き払った。

 

「行くよ切歌ちゃん!」

「任せるデス! 今この場はあたしが剣となるデス!!」

 

 直後、上から降ってきた響さんと切ちゃんが残っていたノイズに向かって突撃していった。

 よかった、ちゃんと連絡に気付いてくれたみたい。わたしは少しだけ上がった息をすぐに整えてからヨーヨーを握りなおして、響さん達と同じように降ってきたクリス先輩と未来さんに並ぶ。

 

「チッ。カルマノイズの野郎、あの怪獣に食われたもんだと思ってたが……」

「あの音響怪獣を倒したから全部終わったって思ってたけど、最初に見てからずっと姿を隠してたもんね」

「しかもそれがノイズを引き連れてまた出てくるなんて……」

「けど今のアタシ等の敵じゃねぇ。五つの歌がありゃ黒いブドウなんざ!」

 

 クリス先輩がそう叫んでガトリングを構えた瞬間だった。響さんと切ちゃんの向こうで何もしていなかったカルマノイズの姿が急に黒い靄に包まれてそのまま消えていってしまった。

 

「チッ、また逃げやがった!」

「カルマノイズ、本当に厄介だね……」

 

 未来さんの言葉に頷いてわたし達はノイズの残党を片付けてからギアを解除する。

 一応民間人が他に居ないかを確認したけど、逃げ遅れた人はわたしが見つけた三人で最後だったみたい。多分警察がもうすぐ来るだろうから急いで退散しないと。

 ギアを纏ったままの方が早く移動はできるけど、SONGが無いから情報規制もできないし、見られたら見られたでその分情報が拡散するからあまり長時間ギアを纏っているのは現実的じゃない。だからすぐに五人でこの場から退散しようとした時だった。

 

「皆さん、人目が付かない場所まで送ります。お乗りください」

 

 猛スピードで走ってきたリムジンがわたし達のすぐ横に止まって、窓から顔を出した黒服さんがわたし達に声をかけてきた。まさかこんな所にまで飛んでくるなんて思っても居なかったけど、こういう支援は本当にありがたい。わたし達はすぐにリムジンに乗り込んで警察や野次馬が来る前に移動を始めた。

 

「まさかノイズまで出てくるとはな……しかもカルマノイズもまだ生きてやがった」

「SONGや二課があれば出てきたらすぐに現場に迎えるんだけどね……」

 

 クリス先輩と響さんの言葉にわたし達は首肯する。

 今回、ノイズの事に気が付けたのはわたしが偶々近くに居たから。もし、わたし達の誰もがその場にいなかったら被害は拡散し続けて、わたし達が到着するまで人が死に続ける所だった。

 いや、もう何人かがノイズの犠牲になってる。この世界はノイズの存在が政府に理解されてないから、今回死んだ人たちは家族に死んだと認識される事もなく、きっと行方不明扱いのまま……

 

「皆さんはあの生き物をご存知なのですか?」

 

 わたし達が暗い顔をしていると、黒服さんが声をかけてきた。

 そう言えば黒服さんにはノイズの事をちょっと教えた程度で終わってたっけ。

 

「あれがわたし達が本来相手にしている敵、ノイズです」

「強いて言うなら、人間の天敵。現代兵器の攻撃は一切通らず相手は一方的に攻撃してくる……その上、ノイズに触ると人間は炭素分解されて炭になって……」

「っ……それは、とんでもない非常識ですね」

「だからこそのアタシ達(非常識)なんだがな……対抗できんのは現状、シンフォギアだけだ」

 

 錬金術でもそういう事はできるのかもしれないけど、この世界には多分異世界からの来訪者であるわたし達しか対抗する事は叶わない。

 

「あの生き物……ノイズ、でしたか。アレはどのような条件で出てくるのですか?」

「ソロモンの杖っていう聖遺物がノイズの住み家であるバビロニアの宝物庫を閉じる事ができますけど……多分、あのノイズはバビロニアの宝物庫から来たノイズじゃない」

「多分カルマノイズが出してきたノイズデスよね。だからカルマノイズさえ倒す事ができれば……」

 

 カルマノイズさえ倒す事ができれば。

 でも、カルマノイズの逃げ足は早い。一瞬でも目を離せば逃げ出す程度には。わたし達が行けば被害を食い止めることはできるけど、ノイズの数が多ければ多い程手間取って倒せなくなる。

 だから、次にあれが出てくるまでにわたし達の方でどうやって相手するか対策を立てなきゃいけない。

 

「分かりました。こちらの方で関係各所にノイズの事を知らせ、被害は最小限にするようにしましょう。ですが、私達だけではノイズを倒す事はできませんので……」

「大丈夫です。あれを倒すのはわたし達の仕事ですから」

「カルマノイズさえ倒しゃ全部終わるんだ。次見つけたら何が何でも倒すぞ」

 

 クリス先輩の言葉に頷いて、わたし達は今借りている部屋に……と思ったんだけど、わたしは彩さん達の所に顔を見せなきゃいけないから、三人の居る近くに車を止めてもらって下ろしてもらった。

 彩さん達は思いのほかすぐに見つかった。わたしが心配なのかうろうろしていたけど、わたしの姿を見つけると露骨にホッとして走り寄ってきた。

 

「調ちゃん! よかった、無事だったんだね」

「はい。ノイズ程度に遅れは取りませんから」

 

 彩さんの言葉に余裕綽々で返せば、後ろの方で千聖さんが若干呆れた感じの顔をしていた。

 だけど、日菜さんの方が携帯を見て顔を顰めている。

 

「日菜さん? 何かあったんですか?」

「あ、うん。実はさっきの事が色んな所に漏れているみたいで。ほら、この写真とか」

 

 日菜さんが差し出してきた携帯を見ると、そこにはノイズを真正面から撮った写真が。しかもその人のアカウントはその次に人が炭になったという書き込みの後、もう書き込まれていない。それに、もう動画サイトにその様子があげられているみたいで、人が炭になっていく所が録画された動画まであった。

 あんまりいい状況じゃない。ノイズの驚異が知らされるのはいいんだけど、ノイズの特性が十分に分かっていない以上、変に攻撃する人とかが出てくるかもしれない。

 

「こ、これ、どうしたらいいんだろ……私達だけじゃもうどうしようもない気が……」

「また出てきたらすぐにわたし達が元凶を潰しに行きますけど……彩さん達はあまりノイズの事に触れないようにしてください」

「どうして? 私達のような芸能人が注意喚起した方が……」

「その場合、千聖さん達が危険です。どうしてノイズの情報を知っているのか、どうして見たことがあるのか、どうして生き残れたのか。それが火種になって千聖さん達を苦しめる可能性があるんです。わたしはノイズの災害から唯一生き残ってしまったがために誹謗中傷を受けた人を見たことがありますから……」

 

 そう、響さんの事。

 今の千聖さん達はあの場にいたことがバレていないし、何か言われても人違いで通せる。けど、こちらから何か言ってしまえば千聖さん達はノイズについて詳しい事、あの惨劇から逃げ出した事を自ら知らせる形になってしまう。

 しかも、この世界でノイズは未知の存在。その情報を知っているとなるともっと変な事に巻き込まれることになる。

 千聖さん達の場合はSNSでちょっと口にするだけで一気に情報は拡散していくだろうけど、その分だけ千聖さん達の身が危機に陥っていく。だからこそ、千聖さん達には迂闊な行動をしてほしくない。

 だからわたし達は一刻も早くカルマノイズを倒してノイズと言う存在をこの世界から淘汰しないといけない。

 

「……そうね、その通りだわ。ちょっと迂闊だった」

「とりあえず三人はノイズの事は知り合い以外に聞かれても知らぬ存ぜぬでお願いします。ただ、友達とかご両親とか、大事な人にはノイズを見かけても絶対に近寄らない事を教えてから口封じもお願いします。公な注意喚起と情報提供はこっちの方で何とかしてみますから」

 

 とりあえずこの世界で捨てアカウントを作ってそこからノイズの情報を纏めて、発信しておこう。

 何もしないよりはその方がマシだと思うから。

 

「そんじゃ、堅苦しい話も終わったしCD見に行こっか!」

 

 わたし、彩さん、千聖さんが重い空気を出していると、その外からいつの間にかいつも通りの笑顔を浮かべた日菜さんがわたしの後ろから肩を叩てそう言ってきた。

 ちょっとびっくりしたけど、日菜さんの笑顔に笑顔で答えて重苦しい表情の二人に声をかける。

 

「そうしましょうか。大丈夫です、ノイズなんてわたし達が何とかしますから」

「……そうね。餅は餅屋というし、調ちゃんに任せて私達はいつも通りにしていましょうか」

 

 大丈夫。わたし達は絶対に負けない。

 だってわたし達、もう何度も世界を救ってるんだから、もう一度世界を救う事なんて容易い。装者足るモノ、世界を救ってなんぼだよ。

 ちなみにパスパレのCDはちゃんと全部買ってきました。帰ったら聞こっと。

 

 

****

 

 

 翌日。わたし達はバンド衣装に身を包んでCiRCLEの控室で待機していた。

 確かにカルマノイズの事は重要だけど、カルマノイズの方から出てこないとわたし達は手出しできない。それに、折角CiRCLEの方でわたし達の枠を取ってくれたんだから楽しまないと。できる女は切り替えが早いんだよ。

 そうこうしている間にわたし達の前のバンド、ハロハピが演奏を終わらせたらしく、歓声に包まれて舞台袖に戻ってきた。

 

「お疲れ様デス、こころ、ミッシェル! あとはあたし達に任せるデスよ!」

「えぇ、切歌! 切歌たちの歌でみんなをもっと笑顔にさせるのよ!」

「合点デス!」

「いやー、元気だね二人とも…………あっつ……」

 

 切ちゃんとこころさんがハイタッチしながら言葉を交わして、その横をミッシェルが通り抜けていく。なんか素の声が聞こえた気がしたけど気にしない。

 その後ふぇぇ……やら儚い……やら色々と聞こえた気がしたけど、とりあえずわたし達はわたし達で最終チェックを済ませて後は表に出ていくだけ。切ちゃんを呼び戻して、響さんからの提案で円陣を組むことに。

 

「それじゃあチームシンフォギア初ライブ、思いっきり歌いつくそう!」

「ったりめぇだ! で、掛け声とかどうすんだ?」

「…………未来!」

「響、言い出しっぺの法則だよ」

「うぐっ……」

 

 あ、響さん何も考えてなかったんだ。

 ほら、何でもいいですからやっちゃってください。時間ないですよ?

 

「そ、それじゃあ……よし!」

 

 響さんが覚悟を決めて息を吸い込む。

 

「解放全開ッ!!」

 

 解放全開。その後に続く言葉は、きっと。クリス先輩も、未来さんも、切ちゃんも分かってる。いや、分からないわけがない。四人でちょっと笑ってから響さんに視線を向けると、響さんも笑ってもう一度声を出す。

 

「イっちゃえ!!」

『ハートの全部でっ!!』

 

 叫んで五人同時にステージの上へと走っていく。

 ステージの上は真っ暗。既にチューニングを終わらせたベースを片手にわたしは所定の位置について切ちゃんの方へと視線を向ける。

 暗闇の中、切ちゃんが一つ合図をした瞬間、響さんが小さく曲名を宣言する。

 

「激唱インフィニティ」

 

 その言葉の直後、未来さんのキーボードが音を鳴らし始め、もうすぐわたし達全員の音が重なるというタイミングでわたし達は遅れてバンド名を叫ぶ。

 

「皆さんはじめまして! わたし達!」

『シンフォギアです!!』

 

 わたし達の名乗りに観客の声が重なり、そして同時に演奏は一瞬で音を重ねてヒートアップしていく。

 最初に歌う曲は、盛り上がりが多い曲。三人が同時に歌う激唱インフィニティ。今回は最初だからという事でかなり長めにしてある前奏を流し、未来さんが務める翼さんのパートから三人が歌い始める。三人の強さを裏付けるような強い歌声に一気に観客のボルテージはマックスに。

 ロゼリアやアフグロとはまた違う、闘争心、戦う覚悟、守る誓い。そんな強い思いが込められた曲は一気に観客のハートを掴んでくれた。

 そして最初のパートが終わり、短い伴奏に。

 

「それじゃあ自己紹介! ギター、立花響! それから同じくギター、雪音クリス! キーボード、小日向未来! そしてベースとDJ、月読調と暁切歌!! そしてこの曲のボーカルはわたし、クリスちゃん、未来の三人!!」

「っしゃあ!! 上げていくぜお前らァ!!」

 

 クリス先輩の煽りに観客からの声が答える。そして。

 

「レッドゾーンガン振りしてねじ込む拳ィ!」

「一片の曇りなく、防人れる剣」

「零距離でも恐れなく踏み込めるのは」

「背中を託してッ!」

「番える!」

『君を感じるからッ!!』

 

 流れる三人の歌声は、装者という戦い、世界を救うという偉業すら成し遂げた自信から織りなされる力強く心強い歌声。三人の心象風景が織りなす優しく強い歌は観客のハートを鷲掴みにしていく。

 最初は上手くベースを弾けるか少し心配だったけど、演奏が始まればそんな事は無い。ただひたすら楽しくて、ついつい三人の歌声にコーラスをちょっと入れるくらいにはテンションが上がっている。そして伴奏中は切ちゃんと並んでカッコつけてみたり、前に出て響さんと並んで演奏してみたり。

 わたしは普段楽器を持たずに歌ってるけど……でも、楽器を持って演奏するのも凄く楽しい。だから、五分の曲は本当にあっという間だった。

 

『激唱ッ! インフィニティ!!』

 

 最後のフレーズを歌い終わり、演奏は余韻を残しながら消えていく。

 そして曲が終わった直後、歓声が響き渡る。

 ライブハウスという閉じた狭い空間の中で響き渡る歓声は、アイドルとしてのライブと比べてどこか力強さを感じる気がした。

 次の二曲目。今度はわたしと切ちゃんの番。切ちゃんがDJ台を操作して特徴的な前奏を流し始める。

 

「さぁ、待っている時間も惜しいデスから二曲目、バーンと行くデスよ、調!!」

「うん、切ちゃん。一曲目は響さん、クリス先輩、未来さんで激唱インフィニティだったから、今度はわたし達の番」

「はいデス!! じゃあ二曲目、曲名はORBITAL BEAT!!」

 

 前奏と重なる部分を丸々口上に置き換えてわたし達は歌い始める。

 切ちゃんがマイクを片手にステージの上を駆け回り、わたしも響さんと場所を交代して前の方でORBITAL BEATを歌う。装者だからこそ、マイクを片手にステージの上を駆け回って観客を煽りながら歌うなんて楽勝。一切息切れなんて起こす事もなく、切ちゃんは最小限の操作をDJ台の方でしつつ、わたしと並んで歌う。

 そして、ORBITAL BEATも本当にあっという間。いつの間にか曲はラスサビに入って、わたし達は並んで叫ぶように歌う。そのまま、最後。背中を合わせ、最後のフレーズを口にする。

 

『この闇を、越えて!!』

 

 ギターとDJ台からの音が最後の音を掻き鳴らし、曲は一瞬で締まる。

 激唱インフィニティとはまた違ったカッコよさを秘めた曲に観客からの歓声は一切衰えることは無い。

 そして二曲を終えてから一旦MCと休憩タイム。

 

「……二曲目はわたし、月読調と切ちゃん、暁切歌でORBITAL BEATでした」

「いやー、思いっきり歌うとやっぱり楽しいデス!」

「うん、ホントに。もう十分近く経ってるのが信じられないくらい」

「こうやってステージの上で歌うのは初めてデスけど、楽しすぎて我を忘れちゃいそうになる程デスよ!」

 

 ……切ちゃん、ほぼ我を忘れて前で飛び道具してなかった?

 まぁ、楽しいからいいんだけどね。プロとしてのステージならもうちょっと言うんだろうけど、これはあくまでもアマチュアの人のためのステージ。抱える気持ちはプロ同然だとしても、楽しむ心で楽しんでも全然大丈夫。

 切ちゃんと一つのマイクでMCしつつ後ろに下がれば、その代わりに響さんが前に出てくる。

 

「やっぱり二人のデュエットは凄いね。これはわたし達も負けられないよ、クリスちゃん!」

「後輩共に負けられるかってんだ! ここからはラストスパートの三曲目だ! 付いてこれる奴だけアタシ等に付いてきやがれ!! まぁ付いてこれねぇなんて言わせねぇけどなッ!!」

 

 そして流れる三曲目。

 壮大なコーラスとキーボード。その音に負けない程の熱さを持つ二人の声が響き渡る。

 

「三曲目もまたまたわたし達オリジナル! 曲名は逆光のフリューゲル! ボーカルはわたしとクリスちゃんのギターコンビ!! 行くよ、クリスちゃん!!」

「アタシ等二人の翼、とくとその目に焼き付けな!!」

 

 そして前奏が本格的に始まる。

 二人の歌うパートは、ガングニール繋がりで奏さんの所を響さん。翼さんの所がクリス先輩の構成にしてある。わたし達は後ろでパフォーマンスをしつつ二人の歌声に負けないような音楽を奏でる。

 二人の歌声は奏さんと翼さんの歌声にも負けないくらい力強く、そして心地いい。そのせいか自然とわたしの指も気分よく音を奏でる。でも、楽しい時間はあっという間。すぐに歌はラスサビにかかり……

 

『もっと高く! 太陽よりも高く!!』

 

 最後のフレーズを弾き終わり、余韻が響く。

 同時に、歓声。歌い終わった響さんがクリス先輩とハイタッチして、その後すぐに駆けよってきた未来さんともハイタッチ。そしてわたしは横から飛びついてきた切ちゃんを抱き留めて笑いあう。

 演奏はまだプロの人とかには遠く及ばないけど、それでも楽しみ尽くせた。わたし達の今できる最高を伝える事ができた。

 そして。

 

『アンコール! アンコール!!』

「うわわ、アンコール!? ちょ、どうしようクリスちゃん!」

「あ、アタシに言うな!」

 

 なんとアンコールまで貰っちゃった。

 いや、一応最初にどの曲をやるか決まってなかったときは六曲くらいは平行して練習してたけど、流石にアンコールとなると……それに、時間的にも押してるだろうし。

 そう思って五人で舞台袖を見ると、そこにはスタッフさんが居て、頭の上で丸のマークを作っていた。

 つまり、やっちまえとの事。その後ろにいるこころさん達ハロハピメンバーも笑顔でゴーゴーって言ってるし。

 

「もうこうなったらやるしかないですね」

「一応練習しててよかったデスね」

「でも、何にする? 虹色のフリューゲルは逆光のフリューゲルとほぼ同じだし、折角全員ボーカルできるんだから最後は全員で……」

「ならあれしかないよ! 一応パート分けも終わってるし、盛り上がりもアンコールに負けないから!」

 

 響さんの言葉。多分、響さんの言っている曲は一応五人でも歌えないことは無いあの曲。

 本来は翼さんとマリアを交えた六人で歌う曲だけど、一応パート分けはバランスよく、違和感ないように済ませている。響さんの言葉に頷き、わたし達はもう一度配置へ。

 

「それじゃあアンコール受けたので、もう一曲だけ。最後だから全員でボーカルをやる、この曲で。曲名は、アクシアの風」

 

 直後、旋律が流れる。

 わたし達全員の聖詠と、絶唱と、激唱と旋律を一曲に纏めた、わたし達の新たな象徴とも言える六人ユニゾン曲。それを、五人でパートを分けた五人で奏でるアクシアの風。

 

『Croitzal ronzell Gungnir zizzl』

 

 まずは五人での聖詠。奏さんのガングニール、全ての始まりとも言える聖詠。

 そして、そこから響さん、響さんとクリス先輩、クリス先輩がガングニール、天羽々斬、イチイバルの聖詠を。次のF.I.S組は切ちゃん、わたしの順番でそれぞれ二回聖詠を口にし、そして最後は未来さんの神獣鏡の聖詠。

 それらを締めくくるのは、五人の絶唱。

 

『Gatrandis babel ziggurat edenal Emustolronzen fine el baral zizzl Gatrandis babel ziggurat edenal Emustolronzen fine el zizzl――』

 

 絶唱を奏で終える。

 シンフォギアの切り札である、絶唱。それを歌い終えれば戦いはほぼ終わりのような物。まるで戦いそのものが終わたった後の静けさを生み出す。全ては終わり、歌は潰える。

 けれど、激唱と旋律は消えたりしない。

 

『激唱旋律、歌になれ!!』

 

 二課組とF.I.S組を表す二つの単語は音となって混ざり、同時に曲は一気に盛り上がる。

 始まり、そして終わり。けれどそこから歌はまた紡がれる。翼さんのパートを未来さんに、そしてマリアのパートを響さんに任せる。響さんと未来さんがクリス先輩と手を繋ぎ、そして響さんは新しくわたしと切ちゃんとも手を繋ぐ。それを表すパートはそれぞれの曲名を象徴とし、歌へと変える。

 

「負けない愛が拳にあるッ!」

「美しき刃で月下に翼舞う!」

「GUN BULLET X-Kiss-! 力に変わる!」

「Stand up! Ready! 示せ、天へと歌い!」

「メロディ明日に繋ぐんだ」

「サンシャインとなり」

『絆束ね!』

 

 六人の曲名を歌へと変えて歌えば、五人での合唱パートに。

 わたし達装者が胸に抱く歌をそのまま直接ぶつけるような歌。それが激唱インフィニティ、逆光のフリューゲル、ORBITAL BEATに負けるわけがない。

 激唱と旋律を歌とし掲げる。決して諦めず戦い、そして守り抜く。その直接的な歌詞は観客を煽り、ボルテージを上げ。

 

『歌は、死なないと!!』

 

 掲げ、吠え、終わる。

 歓声を受け、それを噛みしめる前にもう時間が押しているというちょっとしょうもない理由から響さんを急かして最後の挨拶をしてもらう。

 

「それでは、シンフォギアでした! 今日は本当にありがとう!!」

 

 そしてわたし達は楽器を抱えて舞台袖へと捌けていった。

 

「いえーい、大成功!!」

「やったなオイ!」

「観客の人たちも満足してるみたいだし、上手くいってホントによかった」

「ステージで立って歌うのって凄く気持ちいいデスね、調!!」

「うん、こうやって歓声を浴びるのって、いつでも最高。だから切ちゃんもあっちでアイドルしよ?」

「い、いやー、それは流石に……」

「ふふっ、冗談だよ」

 

 五人ではしゃぎながら控え室に戻ると、一足先に控え室に戻ってたらしいこころさんが真っ先に切ちゃんへ向かって飛び出してきた。

 

「凄いわね、切歌! 私、聞いててすっごく熱くなっちゃったわ!」

「そりゃああたし等の歌は激唱で旋律デスから! 火傷するまで熱くなるもの当然デス!」

 

 控え室の前でテンションを上げて話すこころさんと切ちゃんをいつの間にか来ていた美咲さんがそっと横にずらしてわたし達の道を開けてくれた。美咲さん、なんだか凄い疲れてるけど何かあったのかな? ライブにも居なかったし。

 ……もしかしてミッシェルの中身? 今度聞いてみよっと。

 

「凄いね、クリス。演奏もそうだし、歌声もバンドを初めてすぐとは思えないくらいだったよ」

「いや~、流石モカちゃんが見込んだだけの事はあるな~」

「へっ、これがアタシ様の実力ってやつさ!」

 

 そしてクリス先輩もハロハピの一個前に演奏していたアフグロの人たちの所へ行って楽しそうに話している。

 で、わたしと響さんと未来さんだけど、今日はパスパレ、ポピパ、ロゼリアの人たちは出演してないから控室でそれぞれ話す事はできない。だから一足お先に衣装を着替えたり楽器を片付けたりしてる。

 

「ほんと、ステージで歌って演奏するの、すっごく楽しかった!」

「わたしも、こんなにみんなの前でキーボードを弾いて歌うのが楽しいなんて思わなかった」

「ほら二人とも、アイドルって道を歩めばパスパレみたいにアイドルバンドできますよ? 五人であっちでもアイドルバンドしましょ?」

『それは流石に……』

 

 くっ、手ごわい……

 響さんと切ちゃん辺りが来たら確実にバラドル路線はその二人に引き継がれてわたしは正統派アイドルとして復帰できるというのに……!!

 とりあえず話している切ちゃんとクリス先輩もようやく楽器を片付けたり更衣室へ向かって着替えたりしている。そうしてライブの余韻も冷めぬままにちょっと興奮して喋っている時だった。いつの間にか室内にいたこころさんお抱えの黒服さんが切ちゃんに耳打ちしていた。

 どうやらわたし達シンフォギア組を呼んでほしいとの事らしく、わたし達が集まると、黒服さんが改めて要件……というよりも発生した問題を口にした。

 

「どうやらノイズが現れたそうです。現在、私達の方で周囲を封鎖していますが、あまり持ちそうにはありません」

 

 ノイズ……ノイズ、か。

 

「黒いノイズはいましたか?」

「はい。中心に他のノイズとは違う色合いのノイズが居るとの事です」

 

 いつもなら身構える所だけど……今のわたし達は違う。

 

「こんな時に出てくるなんてカルマノイズがちょっと可哀想になるよね」

「へっ。テンション上がってこんなに気分のいいアタシ等を相手取るなんざ同情して泣いちまいそうだなぁ!」

「任せてください。すぐに終わらせてきます!」

 

 そう、今のわたし達は気分も良ければテンションも高い。シンフォギアは気の持ちようも出力に関係してくるところがあるから、今のわたし達はベストコンディションもいい所。

 カルマノイズ? 二体でも三体でも相手にできる自信があるよ。

 すぐに向かって叩きのめす!

 

「どうしたの切歌? 何か用事?」

「ちょーっと、世界を救うヒーローとしての用事ができたんデス。ちゃちゃっと行ってパパっと終わらせて今日は打ち上げにでも行くデスよ!」

「あ、どうせなら私、みんなで打ち上げがしたいわ! 近くのファミレスなんてどうかしら?」

「大賛成デス! それじゃあちょっくらミサイルに乗ってヒーロー見参してくるデス!」

「おー、頑張ってね……って待って。ミサイルに乗って?」

 

 わたし達は即座に控え室を出てCiRCLEの裏手に出ると、そのまま聖詠。シンフォギアを纏ってクリス先輩が出した五つのミサイルに乗って空へと飛び出した。

 

「……ホントにミサイルに乗ってっちゃったよ…………」

「すごいわね、美咲! 私達も今度あれをやりましょう!!」

「え? 待ってこころ。ミサイルに乗る気? マジで? え、ちょ、黒服さん、その電話は一体どこに――」

 

 ……なんか、美咲さんの心労が増えた気がするけど気にしない気にしない。

 ――これは余談だけど、後日ハロハピの野外ライブでは空から降ってくるハロハピメンバーと空を飛ぶ一つのミサイルがあったとかなかったとか。

 

 

****

 

 

 ミサイルに乗ったわたし達はあっという間に現場に到着。そして戦闘……なんだけど。

 まぁテンションが上がったわたし達が苦戦なんてするわけもなく。

 

『ザババサンムーンッ!!』

「全身凶器でミサイルパーティーの時間だオラァ!!」

「消えちゃえぇ!!」

「かーらーのー!! S2CA、今回はおまけしてなんとペンタゴンバージョン!! という事でぶっ飛べぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

 まぁこんな感じで蹂躙しつくしてカルマノイズは哀れにもオーバーキルにも程があるS2CAペンタゴンバージョンを貰ってお空の彼方へと消えていきました。まぁ、装者が五人もいるんだし負ける理由なんてないよねって。

 そんな訳で最初はどうしようかと悲観していたカルマノイズも無事消し飛ばしたわたし達は黒服さんの用意したリムジンに乗ってこころさんが言っていた打ち上げ会場であるファミレスへ。もうみんな来ているみたいで遅れてはいると、なんとハロハピとアフグロの他にもパスパレ、ポピパ、ロゼリアの皆さんまで混ざった大所帯がわたし達を出迎えてくれた。

 どうやらパスパレ、ポピパ、ロゼリアの人たちは今日のライブを見に来てくれていたみたいで、こころさんがそれを発見して拾ってきたみたい。

 で、みんなはそのままそれぞれのバンドの所へ散っていって、わたしもパスパレの皆さんの所にお邪魔した。

 

「凄かったよ調ちゃん! すっごくカッコ良かった!」

「調ちゃん達があんな熱い曲を歌うなんて思っても居なかったから驚いたけど、とっても楽しかったわ」

「ほんとほんと! わたしもるんって来た!」

「私も皆さんの歌にブシドーを感じました!」

「いや、イヴさん、どこにもブシドーっぽい感じは……」

「あ、分かりました? 実はこの間話した防人の人をイメージしたフレーズもあったんですよ」

「ってマジっすか!?」

 

 そんな感じで感想をわいわい言い合って、一緒に食べ物食べて、なんか日菜さんがポテトを大量に食べていて、それを横からロゼリアに居る日菜さんのお姉さんの紗夜さんがジーっと見てたりして……

 打ち上げはまぁそれこそ語り切れないくらい色々とあったけど、わたし達チームシンフォギアの初ライブは無事、大盛況で終わり、この世界に残っていた災厄の芽も無事摘み取り終えて全部ハッピーエンドで終わったのでした。




と、いう訳でどうでしたでしょうか、今回の話。
この話を書いた理由としましては、カルマノイズくんいつの間にか行方不明になってて草生やしたんで、じゃあこっちでその続きを書いてカルマノイズくん焼き払うと同時にガルパキャラを使った話を書いちまえと思いまして。アイドル時空を使った理由としては単純にパスパレもアイドルだからって理由です。

ちなみに今回セリフがあったガルパキャラは自分のお気に入りキャラだったり。みさこことモカらんすこ。

これにてガルパ時空のちょっと真面目な話はこれでおしまい。次回からはいつも通りの華麗なる日常に戻ります。それと、ギャラルホルンが存在する時空での話ではちょくちょくガルパキャラの名前や話題が出てくるかも。

恐らく次にガルパキャラを交えた話を書く時はギャグ中心となる事でしょう。個人的にはガルパピコとかいう非常識な話にシンフォギアの非常識をぶち込んでカオスに仕立て上げたいとか思ってたり。

ではまた次回、お会いしましょう。

っていうか最近、めちゃくそポテト食いたくて仕方ないんですけど、これって氷川姉妹の姉の方からぶつけられた呪いかなんかですかね?


~おまけ~
調「日菜さん日菜さん。こんな事ってできます?」
日菜「え? えっと~……この水面走るやつ? 流石にこんなCGみたいなことはどんな天才でも無理だよ~」
調「で、ですよね。あはは……(これ、CGじゃないんだけどなぁ……)」


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月読調の華麗なる自作ゲーム

今回はネタ募集をした際に供給されたネタの一つ、シンフォギアのゲームを売るというネタを書きました。多分原案とはかなり違う感じにはなりましたが、ネタを供給してくれたモラルタさん、ありがとうございます。

今回は配信者時空での話です。それでは、どうぞ。


 今日は訓練もなく用事もなく暇な一日。なので奏さんの世界に遊びに行くついでに本部の自室で編集か休んでいるかのどっちかをしているであろうエルフナインに会いに行くことにした。今度の配信の打ち合わせもあるからね。

 最早お馴染みになった廊下と職員さんに挨拶しながら歩くと、エルフナインの自室が見えてくる。

 ノックを一つしてからドアを開けると、そこには自分のパソコンを前にコントローラーを持ってゲームをしているエルフナインが。何やってるんだろ? 格ゲー?

 

「エルフナイン、何してるの?」

「え? あれ、調さん? ちょっと待ってくださいね」

 

 と言いながらエルフナインはポーズ画面を出してゲームを中断。

 なんか画面をよく見るとちょっと暗くなった画面にGUNGNIRって文字とAMENOHABAKIRIって文字が……

 ガングニールと天羽々斬と聞くともうシンフォギアしか出てこないんだけど……それに画面に映ってるキャラもどこか響さんと翼さんっぽい感じがするし。

 

「で、エルフナイン。このゲームは?」

「これはボクがお仕事として作った格ゲーです」

「エルフナインが? 仕事で?」

「はい。ついこの間、やっとテストプレイができる範囲まで完成したので、今テストプレイしてたんです」

 

 仕事でゲームを作るなんて……というかもしかして一人で作ったの?

 そう聞くと、エルフナインは頷いた。まさか一人でゲームを作るなんて……それに完成度もかなり高く見える。でも、UIとかはどこかで見た事あるような安っぽい感じだし、企業が作った物と比べるとちょっとチープに見える部分がチラホラ。

 でも、仕事でゲームを作るなんて何があったんだろう。エルフナインってプログラマーじゃないし。

 

「実は政府の方から、そろそろうたずきんだけだと誤魔化せない事象が多くなってきたので、ゲームという方面でもシンフォギアの非現実性をアピールしようという事になりまして。なので、ボクが仕事として装者の皆さんをモチーフにしたキャラが戦う格ゲーを作ったんです」

 

 と、言いながらエルフナインはコントローラーを動かしてキャラ選択画面に行くと、わたしに現在使用可能らしいキャラの一覧を見せてくれた。

 そこには響さんっぽいキャラや翼さんっぽいキャラの他にも装者のみんなに似たキャラの顔アイコンがあった。勿論わたしっぽい感じのキャラも居たし、切ちゃんっぽいキャラも居た。それ以外にもなんと風鳴司令や緒川さんっぽいキャラに加えてフィーネやネフィリム、それにオートスコアラーやキャロルっぽいキャラなんてのもあった。

 とてもじゃないけど素人が作る格ゲーのキャラ数じゃないと思う……ホントに一人で作ったの?

 

「キャラのモデリングとかは管轄外なので外注で。それとキャラの大まかな動きは風鳴司令にモーションキャプチャーで全部やってもらいましたし、皆さんの固有技は映像記録から再現しました。ボクはゲームの根幹とキャラの性能調整くらいですね。それも藤尭さんに手伝ってもらいましたし」

 

 あ、そうだったんだ。

 というかわたし達の動き以外にもオートスコアラーとかの動きもコピーできる風鳴司令って一体……

 まぁあの人が人外の領域に両足を突っ込んでいるのはもう気にしない……というか気にしたら負けだとして、このゲームって一体どうするの? 実際に販売するの?

 

「今度の同人即売会にサークル参加して頒布の予定ですね。ちょっとでも売れて評判が良ければ委託販売に任せておくことで自然とゲームのキャラの知名度が……といった感じです」

 

 あー、そういう事ね。そういえば切ちゃんも今度、大きな同人即売会でコスプレとかしてみたいとか言ってたし。

 もしかしたらギアを纏うだけでゲームのキャラのコスプレって扱いになっちゃったりして。いや、わたしは出ないけどね。体のラインとか結構出ちゃうし大勢の人に見られるのは恥ずかしいし、そもそもシンフォギアは国の重要機密だし。

 エルフナインはそういう事で、と一言言ってわたしにコントローラーを渡してきた。

 

「調さんもテストプレイ、手伝ってくれませんか? 人が多い方が意見は集まりますし」

「うん、それくらいなら全然いいよ。今日は暇だったし」

 

 何の遠慮もなくコントローラーを受け取ってからわたしはエルフナインの横に椅子を持ってきてから座って、改めてキャラを確認してみる。

 キャラを選択すると、左右にキャラの名前と立ち絵が出るんだけど……これが多い多い。

 まずは響さんモチーフのキャラ、ガングニール。ギアはラストイグニッションじゃなくてそれ以前のギアで、明らかに主人公っぽい感じ。で、次が翼さんモチーフの天羽々斬にクリス先輩モチーフのイチイバル……なんだけど、何でかクリス先輩モチーフのネフシュタン・シルバーっていうのもある。

 次にわたし達F.I.S組のアガートラーム、イガリマ、シュルシャガナ……なんだけど、こっちもバリエーションがある。まずマリア版ガングニールのガングニール・ブラック。それとわたし達が一纏めになったザババ。性能的にどうなってるんだろう……

 で、大人組はさっきも言った通り風鳴司令&緒川さん。明らかに強い。

 それと敵キャラ組。まずはフィーネことネフシュタン。ネフィリムはそのまんまネフィリム。そしてオートスコアラーは一纏めになってオートスコアラー。どうもガリィを中心に他はアシストだけっぽい。それとキャロルは二パターンあって小キャロルことアルケミストと大キャロルことダウルダブラ。

 後はパヴァリア組だけど、これはサンジェルマン達が一纏めになったパヴァリア。それとアダムことマスター。

 これで終わり……かと思ったらまだある。

 何と奏さんモチーフのガングニール・オリジン。それからセレナモチーフのアガートラーム・オルタナティブ。未来さんモチーフの神獣鏡。それとこの響さんは……ラストイグニッション前の響さん? 名前は……ガングニール・アナザー?

 

「エルフナイン、この響さんは?」

「あ、それは藤尭さんから闇落ち主人公とかいると盛り上がるって聞いたので作ってみました。なんやかんやあってグレちゃった響さんって設定です」

「なんやかんやって……」

 

 まぁ、ゲームだしなんやかんやあったんだろうね。

 ガングニール・アナザー……じゃなくてグレた響さんことグレ響さんの戦い方とか気になるけど、とりあえず自分モチーフのシュルシャガナから使ってみようかな。

 とりあえずエルフナインから説明書を受け取って読んでからゲームスタートして、ポーズをしてからコマンド票を見て技を確認する。

 えっと……卍火車、裂擦刃が通常技で空中技が艶殺アクセルと降下巨刃。それからゲージ技が百輪廻、禁月輪、超巨円投断みたい。

 

「シュルシャガナは遠距離主体のキャラですけど、近距離もできる万能キャラです。特徴はガードの上から相手の体力を削る削り攻撃がかなり多い事ですね。ただ、技一つ一つの判定がかなり遅かったりするので接近戦は注意が必要です。ただ、艶殺アクセルだけは判定が鬼のように速いし強いです」

「あー、確かにシュルシャガナで一対一って大分キツいし艶殺アクセルで攻める感じになるよね……ちなみにリーチはどうなってるの?」

「他のキャラと同じ感じですけど、一部の技がかなり長いです。ちなみに最初のバランス調整のへったくれもない時は中距離で強攻撃当たった瞬間コンボ完走でノーゲージフィニッシュができるぶっ壊れキャラでした……」

「うわぁ……」

 

 試しに強攻撃を振ってみるとかなり判定が長い。けど、見てからガードが余裕な程度には発生が遅いからこれだけで攻めるのはかなり難しい感じかな? ただ弱攻撃は素手で殴るだけだから発生はそこそこ。でもガングニールの弱攻撃と同時にやると簡単に潰される。

 うわぁ、これかなりペースを自分の方に持ってこないと厳しいキャラだ。ただ、使いこなすとかなり強い感じかな。

 ただ、エルフナインが言った通りのぶっ壊れ性能だったらそれはそれで……だったしこの位がちょうどいいのかな? とりあえず動かないガングニールをボコボコにして具合を確認してから再スタート。

 

「とりあえずヨーヨー投げておけばいいかな」

「残念ですけどこっちにも捏造遠距離技はあるんです」

「うわっ、何その波動拳」

「まぁ主人公キャラなので」

 

 そんな感じで話しながらシュルシャガナとガングニールで戦う。

 ただ開発者のエルフナインにそう優勢を取れるわけもなくわたしのキャラはコンボを食らって簡単にダウン……と思ったら急に画面にカットインが入って正義を信じて、握りしめてのオフボーカルが流れ始めた。

 え? これなに?

 

「あ、説明してませんでしたね。一旦止めてっと……キャラにはそれぞれ戦闘スタイルがあって、装者、錬金術、人形、黄金錬金、聖遺物、達人の六種類があります。その内の装者と錬金術は相手のダウン中にコマンドを入力すると歌が流れるんです。これは次ダウンするまで永続的にゲージが上昇を続けます。ですけど、一回の対戦中に一回しか使えないので使うには注意が必要です」

「装者の歌はそうやって再現してるんだ……でも、一回だけだと装者っぽくないような」

「何度も使えるとダウン奪っては延々と歌を切り替え続ける謎の戦いに発展するので……」

「あぁ……」

 

 実感のこもった言葉って事は、当初はそうだったんだね……延々と相手のダウンを奪ってゲージを回収してはゲージ技で殴り続けるゲームに変わっちゃったんだね……

 とりあえずエルフナインの苦労話は置いておいて、ゲーム再開。

 歌い始めたガングニールのゲージが見て分かるレベルでモリモリと増えていく。マックスは七だからあまり好き勝手させておくとゲージが貯まり切って面倒な事になっちゃう。

 とりあえず距離を離す……振りをしてくらえっ、判定が鬼のように強い艶殺アクセルっ!

 

「うわっ、流石技の発生1Fの強技!」

「ってそれぶっ壊れじゃない!?」

 

 とりあえず初心者用に用意されている弱攻撃ボタン連打でのコンボ完走をしつつエルフナインに叫ぶ。

 艶殺アクセルは確実に修正案件だと思うけど……

 けど、こうやってゲーム用語を聞いてすぐに理解できるようになった辺り、わたしも結構ゲームに詳しくなったよね。昔なら確実に発生判定とか聞いても何のことか分からなかっただろうし。

 とか言っている間にわたしのキャラはエルフナインのキャラにボコられて無事ワンセット取られました。流石エルフナイン、強い。でもわたしは賢い事を思いついた。

 くらえ、延々と艶殺アクセル連射。

 

「…………艶殺アクセルは流石に修正案件ですかね」

「私怨での弱体修正!?」

「いえ、それ実は飛び道具打ち消しの判定もあるんですよ。しかも持続時間はそこそこ長いですし、連射可能ですし。多分潰せる技がスーパーアーマー付きの突進しかないです」

「どうしてそんなぶっ壊れ技を……」

「これ作ってる時、すっごく眠かったんです……」

 

 眠いってだけでゲームのバランスを崩壊させられても……

 とりあえずこのラウンドはわたしが延々と艶殺アクセルを擦ってコンボ完走とゲージ技ブッパで無事奪取。禁月輪が画面全体に判定のある暗転からの攻撃だからかなり使いやすいんだよね。百輪廻は卍火車のゲージ技だから使い勝手いいからコンボの締めに使えるけど……超巨円投断は削りが凄いけど全然当たらない。直当て無理でしょ……

 そのまま第三ラウンドも延々と艶殺アクセルを擦り続けてゲージ技をくらいながらもゲージ技をねじ込んでそのままわたしが勝利って事に。

 

「あー、やっぱシュルシャガナはまだ調整が必要ですね。これでもかなり弱体化したんですけど……」

「っていうかガングニールはあんまり強くなかったような……」

「元々主人公タイプとして使いやすい技構成にしたせいか、性能も普通になっちゃったんですよ。一応中間程度の強さはありますけど、天羽々斬がその完全上位互換になっちゃって……」

「そうなの?」

「ほぼガングニールと同じ技構成でリーチが長い感じですから」

 

 確かガングニールの技は捏造遠距離攻撃の波動拳もどき、拳で突撃、アッパーの三種。それからゲージ技がどんな状況でも打てる高火力打撃、突撃の強化版、パンチとキックから衝撃波を飛ばす波動拳もどきの強化版。後はゲージ三つで使える投げ始動のS2CAだっけ。

 S2CAはかなり威力高いけど発生は遅めだしリーチはかなり短いしで当てづらい技だよね。

 で、翼さんこと天羽々斬は?

 

「突撃技と、影縫い、対空アッパーですね。で、ゲージ技が蒼ノ一閃、騎刃ノ一閃-雷終-、それを空中で打つと千ノ落涙。で、三ゲージ技でどこからでも打てる天ノ逆鱗です」

 

 うーん……確かにそれは三ゲージ技の火力以外はほぼほぼガングニールの上位互換と言うか……

 初心者が使うキャラとしては申し分ない技構成と性能をしているだろうし。しかもエルフナインの言葉的には多分ガングニールと技の発生はほぼほぼ同じだろうし。

 こういう所の調整はかなり難しい所だよね。一点だけ特化するとそれだけでぶっ壊れになりかねないし、かと言って長所を潰していったらただの産廃キャラに成り下がるし……

 

「ちなみにエルフナインが使った感じだと誰が一番強いの?」

「ちょっと前まではシュルシャガナ、アガートラーム・オルタナティブとオートスコアラーでしたね。シュルシャガナは言った通りでして、アガートラーム・オルタナティブは弾幕技を多くしたら誰も近寄れなく……オートスコアラーは単純にコンボ火力がヤバいです。軽く修正しましたけどオートスコアラーはアシストキャラが三人もいるので手数多めなんですよ」

 

 と言いながらエルフナインがオートスコアラーを実際に使ってみせてくれたけど……なんかとんでもない所からミカ達が出てきては相手を浮かせて戻っていって、また出てくる。それを繰り返してゲージ技を叩き込んでで簡単に五割も体力を削っていった。

 こ、これでマイルドになってるんだ……

 

「コンボルートをかなり潰して火力をかなり落としてこれです。多分レイアのコイン連射とガリィの凍結がクソキャラっぷりを加速させてますね……」

 

 レイアのアシストはコインを相手に向かって連射。ガリィの凍結はゲージ技なんだけど、一回凍結させたら三秒は動けないからそれを打つ前にミカを呼んで、溜めはかなり長いけど火力の高い攻撃をしてもらってファラが竜巻でそれを打ち上げて、そこからガリィの空中コンボが入って締め。

 コインをガードしたら固められるから投げ始動コンボで凍結からのミカ。コインが当たったら当たったでそこから凍結、もしくはゲージ貯めのコンボからの凍結でミカが安定する。

 

「……とりあえずミカの溜めを増やしてレイアの拘束時間を短くしたら?」

「そうですねぇ。ただ、あまり溜めを増やしすぎるとミカが使えなくなるので厳しいんです……安すぎると出す意味ありませんし……ただレイアはそれでいいかもしれません」

 

 うーん……ミカの調整はかなり難しいよね。ガラッと技そのものを変えちゃうとか有りかもしれないけど、それで弱くなりすぎるのもアレだし、折角作った分が無駄になるかもだし。

 とりあえずちょっと前までの強キャラは分かったけど、今強いキャラって誰なの?

 

「オートスコアラーが一番強くて、アガートラーム、天羽々斬、ネフィリムですね。その下にシュルシャガナ、ザババ、パヴァリア。それでやっとアガートラーム・オルタナティブ、ネフシュタン、アルケミスト、ダウルダブラです」

 

 やっぱりオートスコアラーは強いんだね……

 確かにミカ達オートスコアラーってかなり強かったし。ミカなんて当時……というか最近まで一番強かったイグナイト状態でのザババユニゾンを相手に互角以上の戦いができる化け物スペックだったし。プレラーティやカリオストロよりも強かった疑惑まで沸いてるからね。

 

「まぁ、ミカは戦闘に極振りした結果完成したバグスペック持ちですから……」

 

 あの特徴的なだゾっはもう聞きたくないです……

 でも、エルフナインの調整でもそうやって差が出るって事は強キャラ弱キャラが出てくるのはもう仕方のない事なんだね。バランスがマイルドなゲームでもやっぱり強キャラとかお手軽キャラっていうのは出てきちゃうし。

 まぁそれぞれのキャラがしっかりとした個性を持っているって事なんだろうけど……

 ちなみに弱キャラは?

 

「マスターです。意図して弱くしました」

 

 そ、そう……

 

「風に揺れる汚いダインスレイブをボクは許さない……!」

 

 う、うん……あれは確かにちょっとトラウマ物だったからね……わたしも暫く頭から離れなかったし……

 

「っていうか司令と緒川さんが強キャラ入りしてないのは以外かも」

「司令ことコマンダーはバ火力で技の発生が鬼な代わりに装甲が紙っぺらです。そうしないとぶっ壊れになったので……で、緒川さんは火力、装甲共に低いですけどスピードがかなり速いキャラなのでこの二人は使いようによってはかなり強いですけど弱点が相応にあります」

 

 あ、確かに風鳴司令もフィーネの一撃には勝てなかったって聞いたし。でも司令なら例え核の爆発の中からでも生還してきそうな気がするのは気のせい? いや、きっと気のせいじゃ無いハズ……

 でも二人を使うのも面白そうだよね。とりあえず今日はこのゲームをプレイして暇をつぶして……

 あっ。

 

「そうだエルフナイン。テストプレイをするついでに色んな人から意見を求めつつ宣伝をできる方法があるんだけど」

「え? それって……あっ、そういうことですね!」

「うん、そういう事」

 

 

****

 

 

 と、いう事で。

 

「はい、どうも皆さん。今日はゲリラ生放送です、シュルちゃんです」

「今日はイガちゃん無しの突発的ゲリラ放送ですよ~。あ、ナインです、ご無沙汰してます」

 

 切ちゃんに許可を取ってからエルフナインの部屋で生放送をする事にした。機材は一通り揃っているからわたしと切ちゃん、あとはエルフナインの共有アカウントで放送を始めるだけの簡単ゲリラ生放送。

 ある程度人が集まってきて、ついでにゲームの方も見せれるようにして、機密事項漏洩阻止用プログラムの方もしっかりと今回に合わせて調整してからの挨拶。なので結構な人がもうすでに放送を見てくれている。

 

「今回は休日だったしみんな暇かなーって思って放送してみました」

「一応アーカイブも残しておくので見れなかった方はそっちの方へ……と言っても今ここに居る人にしか分かりませんけどね」

 

 エルフナインの苦笑交じりの言葉を聞きつつ、今回の放送内容を発表する事に。

 

「今日の放送は、ナインが作った格ゲーをプレイするよ。本邦初公開のできたて格ゲーだよ」

 

 と、同時にゲームのタイトル画面を移すと、コメントが一気に流れてくる。

 凄い、とかナインちゃんプログラマーなの、とか流れてるBGMの詳細情報とか。フリー素材だけど分かる人いるんだ……

 とりあえずこの格ゲーこと、戦姫絶拳フォニックギアについての説明を、エルフナイン、よろしく。

 

「これはボクが今度の同人即売会で頒布しようと思ってるゲームです。初めてのゲーム作成ですけどこうして形になったので皆さんに色々と意見を聞きたいなーって思って今回の放送をする事にしました」

 

 そう、この放送はこのゲームの宣伝をすると同時に、ゲームのバランスについての意見を集める事に目的がある。

 制作者であるエルフナインが色々と説明をしつつ放送を見ているゲーマーの皆さんに意見を求めるっていう感じ。で、隙間隙間に頒布する時の詳細を発表したりするとか、そんな感じ。

 

「とりあえずこのゲームの体験版をダウンロードできるページのURLを概要欄に貼っておいたので、気になった方は実際にプレイしてみてください。じゃあ、実際にやってみましょうか」

 

 ちなみに体験版はわたし達六人の装者だけが使用可能で、フリー対戦しかできない簡易版。最初からエルフナインが用意していたらしい。

 とりあえずエルフナインがつらつらとゲームについてを説明しながらコンピュータを殴るところを見つつ、わたしは流れているコメントからいい感じの案をメモしていく。

 

「と、主人公キャラであるガングニールはこんな感じです。一応ボク達で全キャラ使って対戦してみるので、気になる点とかあったら意見が欲しいです。調整内容も思いついたら是非とも言ってほしいです」

 

 と言いつつエルフナインはゲーム画面を小さくして左右に黒い空間を作ってそこにテキストを置けるようにする。

 

「じゃあやりましょうか、シュルちゃん」

「うん。あ、体験版を触った人も何かあったらコメントしてね」

 

 コメントに現在プレイ中とか完成度たけーとかあるのを確認してから実際にわたしとエルフナインで対戦を始める。

 一応この放送を始める前に全キャラ使ったから使い勝手は分かるよ。けど、まずは……

 

「シュルシャガナの艶殺アクセルでハメる……!」

「その技ぶっ壊れ確定なのであんまり使わないでくださいよ~……」

 

 ちなみに艶殺アクセルは明らかなぶっ壊れ技なので即修正案件となりました。まぁ発生1Fの時点で……ねぇ?

 これは体験版をプレイした人も明らかにこの技ヤバいって思ったらしく重要修正案件に無事入りました。

 とりあえずこれでこのゲームについてはできることはやったのかな……? 実際に販売したらどうなるか楽しみかも。

 

「うっわこの技繋がらない筈なのに……またバグが……」

「この下強技やってるだけで永久コンボ完成したんだけど……」

 

 ……と、とりあえず修正頑張ってね、エルフナイン。




という事でこんな感じの話でした。でもシンフォギアの格ゲーとか実際に出てもおかしくないと思うの。全員格ゲー映えする技持ってるし。

さて、シンフォギアXVももうすぐ放送。Youtubeの公式チャンネルでアニメ本編の毎日公開などが始まったシンフォギアですが……

SSSS.GRIDMANとコラボってどういう事ォ!!? 俺得過ぎてその情報見た時クッソ変な声出たし思いっきり咽たんですけどォ!!?
いや、ホント俺得過ぎます。元々特撮オタでもあってグリッドマンは中学の時に電光超人の方を一気見して友人たちにオススメしまくったくらいにはグリッドマン好きなんですよ。で、シンフォギアも同様に三期やってる時に追い始めてハマったタチでして。
ハナトハゲも読んでくださっている方は分かっていると思いますが、SSSS.GRIDMANは毎週楽しみにして後書きで感想垂れ流してましたし。ホント、俺得過ぎるコラボでもドキがムネムネ。正直好きなアニメの中でもトップクラスの二作品のコラボとかもうホント……ホント(語彙力消失)

まだ決定以外の情報は出てませんが、ストーリー次第ではここでもグリッドマンとコラボする可能性があります。というか多分書きます。思いっきりグリッドマン出します。
という事でシンフォギアもこれから色々ありますし、楽しみにしながら待ちましょう。
さぁ、僕と一緒にアクセス、フラーッシュ!!


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月読調の華麗なる生徒会役員共

響の太鼓「ドドンっ!」
クリスの笛「ピッピッピ。ピッピッピ」

未「私立リディアン音楽院生徒会会則、ひとーつ! 秘め事は、全て報告せよッ!」
調「えっ、全部!?」
未「そう、赤裸々に!」
調「んな無茶な!?」


 リディアンに編入する事になったわたしと切ちゃん。今日はその編入の日なんだけど、切ちゃんが今日はSONG本部の方に行かなきゃならない用事があったからわたしと切ちゃんは一日遅れで編入をする事になった。それいいの? って思うけど国の命令だし仕方ないよね。

 で、今日はわたしの初登校。朝早くから起きたせいか自然と出てくる欠伸を噛み殺しながら歩いていると、校門がようやく見えてきた。

 やっと始まるわたしの普通な生活。今までは絶対に見る事無いと思っていた生活。それにドキドキしながらわたしはいつも通りを保って校門へと近づくと、つい最近でよく見るようになった顔が見えてきた。

 

「あ、調ちゃん! おはよー!」

「あれ? 響さん?」

「うっす。そういやお前は今日から登校だったな」

「クリス先輩も?」

「えっと、確かちょっとだけ会った事あるよね?」

「神獣鏡の人……? どうして三人が校門前に?」

 

 校門前に居たのは響さんとクリス先輩の装者組と、ちょっとだけ顔を合わせた事がある人……確か、小日向未来さんだっけ? の三人が。

 なんでここに居るんだろうと思って首を傾げたけど、よく見ると三人の腕には共通の記章が。

 えっと……生徒会?

 

「おっ、気が付いたか。見ての通り、アタシ等はここの生徒会をやっててな」

「生徒会……って確か、生徒の中でも偉い立場の人でしたっけ?」

「まぁそんな感じだよ」

 

 生徒会……えっ、響さんが?

 そんな目でジーっと見ていると響さんが苦笑している。この人が生徒会って言われても何だかちょっと違うようなそうじゃないような……

 とか思っていると未来さんがこっちをジーっと見返していた。な、なに?

 

「調ちゃん、ネクタイ緩んでるよ?」

「あっ……ちょっと暑かったから緩めちゃったんだった」

 

 そういえばここに来るまででちょっと暑かったからネクタイ緩めちゃったんだっけ。

 とりあえず締めなおさないと、と思っていると未来さんの手が伸びてわたしのネクタイをしっかりと締めてくれた。

 

「もう、しっかりしないと駄目だよ?」

「す、すみません……」

「うん、反省するのは良い事だけど……」

 

 あ、あれ? なんだかネクタイにちょっと力が。

 

「とりあえず校則違反の罰を与えます」

「ぐえーっ!?」

 

 ちょっ、思いっきりやられると苦しっ!?

 

「あー、わたしもあれやられたなー」

 

 ね、ネクタイ慣れてないから勘弁してくださーい!

 とか思っているとすぐにネクタイにかかる力はなくなって解放された。特に咽ないし結構絶妙な力加減で思いっきり絞められたよ……

 かなりキツめだから違和感のある首元を触りながらチラッと響さんとクリス先輩の方を見ると二人とも苦笑している。もしかしてこれって通過儀礼?

 

「わたしは校則にはうるさい女だからね。だって締まりの悪い女とは思われたくないし!!」

 

 …………ん?

 は、はぁ……ジョーク、だよね?

 

「でもこれだけじゃまたやっちゃうかもしれないし……何かいい案ないかな?」

「調ちゃんも生徒会に入れるとか?」

「あ、それいいかも! じゃあ調ちゃん、今日から生徒会の書記ね」

「え? あ、はい、分かりまし……えっ!? 編入早々!!?」

 

 いや、そういうのってもっとこう、何かそれらし物を経てから任命するんじゃ……

 とか思っているとそっとクリス先輩に肩を叩かれた。

 

「ウチの生徒会長様は勝手するから諦めろ」

「うっわー、もう目が諦めの境地に達してる」

 

 というか未来さん、生徒会長なんですね……

 とか思っている間に響さんから記章を無理矢理つけられてわたしは無事生徒会役員のメンバーに……えっ、ホントに? 冗談じゃなくて?

 

「じゃあ新メンバーに改めて自己紹介。わたしは生徒会長の小日向未来」

「んでもって副会長の立花響!」

「会計の雪音クリスだ。ってかこの紹介いるのか……?」

 

 どうなんでしょう……とりあえず誰がどんな役割なのかは理解しましたけど……

 とりあえずわたしの高校生活はかなりの波乱万丈になりそうな気がします、はい。

 

 

****

 

 

「ん? あの馬鹿から受け取った鍵が合わねぇな……何のカギだこれ?」

「さぁ……見たことない形状ですね」

 

 

****

 

 

 生徒会役員になってから数日。わたしもわたしの周りも結構バタバタしている最中。わたしはSHRが終わってすぐに教室を飛び出して、集合時間から数分遅れてようやく生徒会室に入室した。

 

「ご、ごめんなさい。遅れちゃいました」

「もう、今日は大事な会議があるって言っておいたのに。どうしたの?」

「実は道に迷っちゃって……」

 

 リディアンって結構校内が複雑だからどうにも覚えづらくって……

 地図も無いし案内図も無いからどこになにがあるのか分からなくって、やっと見知った廊下を見かけたころにはもうとっくに集合時間が過ぎちゃって……

 廊下を走る訳にもいかないから早歩きで移動していたんだけど、やっぱり駄目だった。

 そんなわたしの顔を見た未来さんは納得したような声を上げてから立ち上がった。

 

「そうだよね、まだ調ちゃんは入学して日が浅いから。それじゃあ今日は会議は後回しにして調ちゃんに校内を案内しよっか」

 

 と、いう事で今日はわたしに校内を先輩直々に案内してもらう事になった。

 

「ここが保健室」

 

 保健室……あんまり来たくはないかな。怪我したくないし。

 っていうか何で初っ端からここ?

 

「ここが女子更衣室」

 

 うん、体育の時とか使うからね。重要だよね。

 ……だからなんでこのチョイス?

 

「ここが普段使われていない無人の教室」

 

 ……いや、なんでここ?

 

「で、ここが体育館の倉庫……ってあれ? 年頃の子がドキッとするような場所を重点的に案内したんだけど、不満?」

「うん」

 

 こういうのでドキッとするのは男子生徒だよ。

 

「ここが音楽準備室。グランドピアノの上が使いどころだよ」

「って続けるんだ……」

 

 暫くして。

 

「で、ここが女子用のトイレ」

「あ、この階のトイレってここにあったんですね。無いと思って別の階のトイレをずっと使ってました」

 

 ようやくマトモに校内を案内してもらえるようになりました。

 響さんと未来さんの教室だったり、クリス先輩の教室だったり。で、確実にいつかは利用するであろうトイレも。この階のトイレは分からなかったからちゃんと覚えておかないと。

 

「ちなみに、ここでは用を足す他にもナ〇キンを装着したりするよッ!!」

「いや、そこまで説明求めてないです……」

 

 流石に分かります。わたしも女の子ですし。

 

「ちょっと未来!」

「へ? 響?」

 

 あ、響さん、ようやくそういうのはいいからもっと普通に校内を案内した方がいいって一言言ってくれる気に……

 

「わたしはタン〇ン派だよ!!」

 

 おい。

 

「ご、ごめん……自分を基準に言ってたよ……」

 

 いやそういう問題じゃねーだろ。

 

「……慣れた方が身のためだぞ。あいつらの下ネタ」

「まさかド直球で下ネタ飛ばしてくるとは思いもしませんでしたよ」

 

 これからも続くの? この感じ。

 

 

****

 

 

「ねぇ未来。わたしの貞操帯の鍵知らない?」

「え? 今響が持ってる鍵じゃないの?」

「あっ……これ教室の鍵だ。渡し間違ったみたい」

 

 

****

 

 

「ついこの頃はいじめが社会問題となっているよね。だから、緊急アンケートを実地してみたよ」

 

 生徒会室に呼び出されてから未来さんがそんな事を口にした。

 どうやら響さんとクリス先輩は知っていたらしくて、知らなかったのはわたしだけらしい。多分わたしが来る前にやって、それの集計が終わったとかかな?

 でも、いじめかぁ。弱い人を大勢で精神的、肉体的にタコ殴りなんてどんな教育をされたらそんな事をしようって気になるのか。あ、でもウェル博士みたいな人なら許されると苛めるかも……

 

「やっぱりいじめは悪い事だよね」

 

 と思っていると響さんが遠い目をしながらそんな事を。

 そう言えば響さんって……

 

「でもお父さんはお母さんにいじめられて喜んでたから悪い事だらけじゃないんだろうなぁ」

「仲、睦まじかったんだね」

 

 んな過去を思い出して遠い目をするんじゃあない!

 

 

****

 

 

「最近は少子化が問題だけど、逆じゃなくてよかったーって最近思うよ」

「なんでですか?」

「だって三年生がP組まであったら大変でしょ?」

「クラスのイメージカラーはピンクだね、未来!」

「うっわ何も言えねぇ」

 

 

****

 

 

「よりよい学校を作るには生徒個人の意見も大切。だから、この学校では実は目安箱を設置しているんだけど……調ちゃん、知ってる?」

「いえ。言われるまで存在すら」

 

 そんな箱の存在あったんだ……

 新しくできた友達の誰もそんな事を言わないから存在すら知らなかったよ。

 

「まぁ、知名度はそんな感じだから、改めて設置を告知して、同時に票を入れたくなる工夫をしてみようって思ったんだ」

 

 あ、それは良い事かも。

 未来さんが取り出した目安箱は青色の箱に大きく目安箱って書かれているだけで、確かに見たことがあるようなないようなって感じの箱。確かにこれだとちょっと目立たないかも。

 でも、これに票を入れたくなるような工夫かぁ……一体どんな工夫なんだろう。

 とりあえず未来さんが書き終えるのを待ってから、実際に入れるところを見てみてっと。

 

「これならきっとみんな入れてくれるよね!」

 

 ……と言いながら自信満々に書き終えたのは二重丸の外になんかこう、黒い線が生えてて。それでその中心が入れる所に。

 おい。

 おい。

 

「……そ、そんなに見られると恥ずかしいかも」

「自分で書いたのに何恥ずかしがってんだ」

「これ不信任モノでしょ……」

 

 この不信任モノ目安箱は無事この後設置される運びになった。

 この学校本当に大丈夫……?

 

「そう? 挿入れたく――」

 

 

****

 

 

「屋上ってすっごい眺めがいいですね」

「だろ? アタシも実は好きなんだよ、この風景」

「え? そうなんですか?」

「あぁ。普段は見えない下が良く見えるからな」

「その胸そぎ落としてやろうか」

 

 

****

 

 

「今回は沢山投書が来てるよー!」

 

 響さんがこの間設置された目安箱を両手に生徒会室に入ってきた。

 よくあんな恥物持てるなあの人……

 んでもって目安箱の中には実際に多数の投書が。マジであれに手を突っ込む人居たんだ……わたしと切ちゃんは流石にあの中に手を入れたくはなかったんだけど……

 

「数学の白石先生がズラ疑惑だって」

「あれはズラだね」

 

 あ、これには何が書いてあるんだろう。

 えっと……

 

『立花先輩に手を出したら穴ブチ抜きます』

 

 …………それ会長に言えよ……っ!!

 

 

****

 

 

「この学校、女子校だけど校内恋愛禁止とかあるんですね」

「だってこの学校の子達ってみんな百合だから」

「…………あぁ」

「冗談だよ……って何でそんな納得したような顔してるのか説明してもらおうかな?」

 

 

****

 

 

「校内恋愛禁止、髪染め禁止、廊下を走るの禁止、校内での携帯の使用禁止、下校中の買い食い禁止、ジャージでの下校禁止……って校則厳しいですね、この学校」

 

 ふとした日。生徒手帳の校則部分を読んでいるとかなり禁止事項が多い事が分かった。

 校内で携帯は使わないように、とは聞いていたけどそれ以外はほぼ初耳。廊下を走るなっていうのはお約束だからしていなかったけど、ホントに校則で禁止されてたんだ。

 しかも買い食いまで禁止なんて……そういえば未来さんや響さんも一旦帰ってから買い食いしていたような。

 

「まぁ学校は勉学に励む場所だからね。仕方ないよ」

 

 うーん……でも花の女子高生生活が……

 っていうかマジで校内恋愛禁止ってどんな校則? ここ女子校だよ?

 

「でも何でもかんでも禁止にすると逆に生徒の反感を買う可能性もあるよな。それに、禁止されてるからやるってバカもいるだろうし」

 

 あぁ、確かにそういうのあるかも。

 ルール守ってる自分がかっこいいとか思っている人、少しはいるかもだし。

 クリス先輩の言葉に未来さんは悩んで、暫くしてからもう一度口を開いた。

 

「……なら、恋愛はともかくオ〇禁は解禁しよう!!」

「んな校則ねぇよ」

 

 っつーかプライベートにそこまで踏み込むんじゃあない!!

 ……まぁ、未来さんの下ネタにも慣れてきたしとりあえずはツッコミ一つでスルースルー。

 でも、覚えること多いなぁ。どうしたものか……

 

「あ、調ちゃん、爪噛んでるよ? 癖なの?」

「えっ、あ、はい。実は……」

 

 とか思っていると爪噛んじゃった。

 子供っぽいからやめようって思ってるんだけど、困っちゃうとついつい噛んじゃうんだよね。

 

「癖になると厄介だよ?」

「ですよね……」

「でも女の子は深爪にしないと大事な所傷つけちゃうかもだからね!」

「んな心配はしてないっ!」

 

 いきなり何言いだすんだこの黄色ッ!

 

「まぁそれはともかく、癖になるとねぇ……」

「まぁ、深爪の話はともかく……」

「わたしもア〇ル弄るの癖になっちゃいそうだし!!」

「黙れぇい」

「でもノーパンはもう癖になりきっちゃって……」

「いいからその口閉じろぉい!」

 

 だからいきなり何言いだすんだこの黄色ぉ!!

 ……ってかあんなに動くのにノーパンなのこの人っ!?

 

 

****

 

 

「実はわたしってアワビだけは苦手なんだよねぇ」

「そうなんですか? 響さんっててっきり何でも食べるって思ってたんですけど」

「だって共食いしている気分になっちゃうし」

「今日も響さんのジョークはきちーっすわ」

 

 

****

 

 

「そういえばわたし達が通っていた小学校、今度廃校になっちゃうんだよね」

 

 あくる日。響さんが急にボソッとそんな事を呟いた。

 廃校かぁ。わたしは小学校中学校行ってないからそう言われても特に何も思い当たらないかも。

 クリス先輩もですか?

 

「いや、アタシは一応ゲリラに攫われる前は通ってたから行ってたぞ。けど、この間見に行ったら廃校になってたわ」

「最近は少子化が問題だもんねぇ」

 

 少子高齢化。結構問題になってるよね。

 でもそうなっているのもこの国のあれこれが問題な気がするんだけど……よくネットで安い給料で人を長時間働かせたいのが今の日本って聞いたことあるし。その点わたし達は国直属の公務員ルートだから何も心配はないんだけど。

 

「わたし達も何かできないかなぁ」

「いや、流石に一般生徒のわたし達にはどうにも……」

 

 だってこれは国の問題でわたし達は……

 

「でもできる範囲で何かしないと…………とりあえず、将来セッ〇スする時は常に〇出しで」

「よく臆面もなく言えるな、この紫」

「ゲリラ時代にされまくったから勘弁してくれ」

「えっ…………えっ!?」

「冗談だからンな顔すんな。偶にはアタシにもボケさせろ」

 

 あんたの下方面の洒落は洒落にならないんすよ!! そこの紫と黄色も絶句してるからそういう笑って流せない冗談は……

 

「ち、ちなみに……気持ちよかった?」

「してねぇっつってんだろ」

「その体もそうやって作られて……ごくり」

「おい人の話聞けやボケ共」

 

 もう駄目だったわこの人達。

 

 

****

 

 

「最近ドライアイがひどくって……」

「なんですかそれ?」

「あれ? 調ちゃんは知らないの? ならちょっと問題を交えて説明してあげようかな。って事でこの空欄に当てはまる言葉を答えてみて」

『ま〇こが濡れにくい』

「ん~~~~~~~~~……(唸りです)」

 

 

****

 

 

「いっつ……」

「ん? どうしたの、調ちゃん」

「ちょっと指を……」

「指を使って……隠れてオ○ニー?」

「隠れてイッたんだね!」

「イッてねーよ」

「大丈夫! わたしもたまに隠れてシてるし!」

「だからイッてねーよ!!」

 

 

****

 

 

「で、どうかな、調ちゃん。最近生徒会には慣れてきた?」

「はい。ちょっとまだ慣れない所はありますけど」

 

 まさか未来さんと響さんがかなりの下ネタ好きとか、それに付き合わされるとか、仕事の量とか。実は慣れない事はちょっとどころじゃないんだけど……それでも未来さんのフォローや響さんのフォローがあるから仕事はなんとかできている。

 この二人の足を引っ張らないようにしないと。わたしも生徒会役員なんだし。

 

「うん、ならよかった。じゃあ生徒会役員共! これからもア〇ル引き締めていこー!!」

「ってこんな終わり方っ!!? ……えっ、マジで!!?」




という事で前書きは会則から始まったのでありませんでしたので、作者のコメントはここから。
今回は生徒会役員共のパロで今回はお送りしました。最近夜中に生徒会役員共見てたのでついつい書いちゃいました。
この時空も好評なら続き書くかも。

で、各キャラの立ち位置は見て分かる通り、役職こそ違いますがこんな感じ。一応載せておくと立ち位置は以下の通り。
シノ→未来
アリア→響
スズ→クリス
津田→調

今回パロったのが生徒会役員共の前半の方の話だったので調ちゃんのツッコミにまだ遠慮的な物が含まれてるなーと思いました。多分次書く時はもうちょっとズバズバツッコミが入ると思う。
しかし、下ネタをブチかます汚いひびみくが書いてて楽しかったのは秘密。ちなみにここのひびみくはノーマルらしいよ?

今回の話は生徒会役員共の原作が無料公開されてる範囲内と記憶にあるアニメの範囲内から選出しました。次回書くことがあったらしっかりと原作買って確認しつつ書いていきたい。
しっかし、四コマ漫画を元にしたからか場面切り替え多いなオイ。


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月読調の華麗なるブシドー見学

今回はサブタイの武士道がカタカナでブシドーとなっているので分かる方は分かると思いますが、パスパレメンバーが出てくる話です。

ちょっと非常識に打ちのめされる日菜ちゃんと翼さんと意気投合してテンション上がりまくるイヴちゃんが書きたかった。ちょっとキャラ崩壊が激しすぎたらごめんね☆

あ、今回はアイドル時空じゃないです。どの話とも繋がっていない平行世界の話です。強いて言うならパスパレ時空。


 最近、わたし達はよくとある平行世界にお邪魔している。

 その世界はガールズバンドが流行っている世界で、わたし達がガールズバンド『シンフォギア』として活動している世界。住んでる世界が違うからわたし達はかなり不定期にライブをやるバンドとしてやってるんだけど、そこで練習や本番のついでに、それぞれ関わったバンドの人達と遊んだりお茶したりという事が多い。というか約束して遊びに行くから平行世界に、というパターンが結構。

 それはわたしも例に漏れず、今日も何でか温泉施設を兼ねるようになったCiRCLEで練習を終わらせてからパスパレのメンバーである日菜さんと某ファーストフード店で屯する事に。

 

「それでさー、彩ちゃん。その時お姉ちゃんがね~」

「ちょ、ちょっと日菜ちゃん、今バイト中だから……」

「日菜さん、いい加減退きましょうって」

「ふぇぇ……え、えっと、次の方どうぞー!」

 

 ……いや、これが目的とかじゃないよ? 本当はポテトとジュース買って店の中でお喋りしようって事になったんだけど、彩さんが接客しているのを見てから日菜さんがそこへ特攻。そのまま彩さんに一方的に喋りつける事に。

 ほら、後ろの人が結構怖い顔してますからそろそろ退きましょう? 彩さんの冷や汗が凄い事になってますし。横に居るハロハピの花音さん……だったよね? 花音さんが大変な思いしてますから。

 そんなわたしの言葉は聞こえず笑顔で喋る日菜さん。これは駄目だと判断したわたしは日菜さんを羽交い絞めしてポテトM一つとポテトL一つ。それからウーロン茶とコーラを頼んで力任せに日菜さんを引っ張っていく事に。

 

「もー、何するの調ちゃん」

「こうでもしないと退かないじゃないですか。ほら、彩さんが後ろの方で謝ってますよ」

「ああやって困る彩ちゃんって面白いんだけどな~」

「ナチュラル畜生ですかあなたは」

 

 屈託のない笑顔でそう言われましても。

 すぐに日菜さんは冗談冗談って言ってきたけど、果たして本当に冗談なのだろうか。この人、時々笑顔で冗談言い出して真偽が分からなくなる時があるからなぁ。

 溜め息一つ吐いて日菜さんに視線を向けると日菜さんは特に反省の一つもしていないような顔。

 天才ってわたしも数人見たことがあるけど、空気読まないのがデフォなのかなぁ。フィーネもなんかゴーイングマイウェイだったらしいし、ウェル博士もゴーイングマイウェイだったし。エルフナインは……あれは秀才だから違うか。

 

「ん? 私の顔に何かついてる?」

「天才特有の表情が」

「あれ。分かっちゃう?」

「わたしも天才は何度か見たことがありますし」

 

 まぁ、日菜さんみたいなのは可愛いものだけどね。

 ほんっと。ほんっとに! 可愛いものだからね!! あの露出狂と史上最低の英雄と比べれば、ホンットに!!

 

「へぇ~。私以外にも天才な人見た事あるんだ。どんな人だった?」

「変な人に片思いした結果何度も転生して月をぶっ壊そうとして実際に数割ぶっ壊した露出狂の天才と、英雄になりたいからと言って暴走しまくった結果、自分が英雄になれないならこんな世界要らないと言ってマジで世界ぶっ壊そうとしたけど最終的には最低な英雄になった天才ですね」

「ごめん、それと一緒にされるのだけはるんって来ないしなんか屈辱的」

 

 日菜さんが珍しく真顔に。

 まぁ、あのやべー人達と比べれば日菜さんなんてまだ可愛い方って事だよ。だって日菜さんって身内であれこれしてみんなで笑ってるだけだし、可愛らしい所があるから、あの二大やべー天才と比べればどうって事ないよ。普通の人にしか思えない。

 いや、わたしの感覚が麻痺してるとしか言えないのかもしれないんだけどね。

 真顔な日菜さんおもしろー、なんて思いながら写真でも撮ってみようかと携帯を取り出そうとしたところでわたしと日菜さんの前に一つのトレーが。顔を上げて誰が持ってきてくれたのかを確認すると、そこには彩さんが。

 

「あ、彩ちゃん。もう説教はいいの?」

「もう止めてねで済んだよ……ほんと、もう止めてよ?」

「善処しまーす」

 

 とか言いながらも日菜さんは笑顔。

 まぁ、これは完全に日菜さんの性格だよね。彩さんもなんやかんやでまんざらでもないようだし。とか思っていると彩さんは少し待ってね、とだけ言うと店の裏に引っ込んでいって、代わりに制服を脱いで私服の状態でバーガーとジュースを手にして戻ってきた。

 あれ? バイトは大丈夫なんですか?

 

「もう定時だから」

 

 あ、そうだったんですね。

 ふとレジの方を見てみると、確かに花音さんもいつの間にか居なくなってる。多分裏から帰ったんだろうね。

 とりあえず二人席から四人席に一旦移動してから彩さんを交えた三人で喋りあかす事に。

 

「それで、二人とも何の話していたの? 日菜ちゃんが真顔になってたけど……」

 

 移動してすぐに彩さんがバーガーを齧りながらそう聞いてきた。

 まぁ、日菜さんが真顔になる程の事なんてよっぽどだから気になるよね。

 とりあえずちょっとだけオブラートに包んで教えておこっかな。

 

「日菜さん程度の天才なら、まだわたしの世界の天才と比べても可愛い方だって」

「え? 日菜ちゃんが? わたしからしたら日菜ちゃんよりも凄い天才って考えられないなぁ」

 

 と、彩さんが言うので特別に先ほど日菜さんに言った事とほぼ同じことを言ってみた。

 すると彩さんも真顔で。

 

「日菜ちゃんって普通の人だったんだね」

 

 と返してくれた。

 うわー、この人達の反応面白い。わたし達の世界じゃこういう事、一般人には話せないし、こっちじゃシンフォギアなんていう非常識も無いから非常識中の非常識をぶち込むとホント面白い反応してくれる。

 はっ。まさかこれが日菜さんが人の反応を見て面白いって思う理由……?

 

「まぁ、天才じゃなくても映画を見るだけでミサイル殴り返したりする人居ますし、忍者も居ますし」

「…………ひ、日菜ちゃん、できる?」

「あはははは。そんな人いるわけないって」

 

 って言うので特別に風鳴司令と緒川さんの非常識シーンを見せてみた。

 最近はあの二人と模擬戦する事もそこそこあるから映像記録残してあるんだよね。あと海の上を走っていた時の動画。

 で、見せてみると彩さんは目を白黒。日菜さんは真顔。

 

「で、どうですか日菜さん」

「人間は物理法則に則っているからできる事とできない事があると思うんだよね」

「これ、映画じゃないの……?」

 

 日菜さんの真顔、なんかちょっと面白いかも。

 暫くすると日菜さんが頭を抱えながら「私は天才じゃなかった……? ただの一般人だった……?」と呟いてて確実にアイデンティティをクラッシュされかけていたけど、まぁ気にしなくても大丈夫だよね。

 彩さんはしきりに「これCGだよね?」って聞いて来るけど、無言の笑顔を見せると面白い位にビックリしてくれる。なんか日菜さんの気持ちが分かった気がする。

 まぁとりあえず日菜さんにはこの人達が異常なだけで十分に天才ですよ、とフォローだけ入れておいて日菜さんのSAN値を回復させたところで、とりあえずこの話題は一旦ゴミ箱に。

 で、次の話題は……あ、そうだ。

 

「そういえばわたし、あんまりイヴさんや麻弥さんと話したこと、無いんですよね」

 

 日菜さんはあっちから来てくれたからこうやって会える程度には仲が築けてるけど、イヴさんと麻弥さんってあんまり会う機会が無かったから友達ではあるけど、あまり会えないよね的な関係になってる。二人ともいい人だし、機会があれば遊びに行きたいんだけどね。

 彩さん千聖さんは一緒に練習する仲で、日菜さんは……うん、教えてもらっても擬音ばっかりで分からないから、そういうの抜きな仲。で、イヴさんと麻弥さんとはあまり会えない。こんな感じかなぁ。

 

「そうなの? あ、でも調ちゃんって住んでる場所が場所だし、気軽にこっち来れないもんね」

「そうだったの? 私、結構な頻度で会ってる気がするけど」

「日菜さんとは口約束とか感覚とかでどうにでもなっちゃいますから……そもそもこっちで使える携帯、持ってませんし。わたしの携帯、ここじゃ使えませんから」

 

 と言って携帯を見せると電波は圏外。Wi-Fiにも繋がらない。

 Wi-Fiくらいは繋がってくれても……って思うけど、そうはならないのが平行世界事情。そもそもこうやって平行世界を簡単に行き来できる時点で相当な奇跡が起こってるんだからこれ以上の事を望むのは高望みにも程がある。

 幸いにもお金は同じだからこっちで使ってもあっちで使ってもバレないけど。まぁ、多分、大丈夫。たかが数百円だし。

 

「ホントだ。そもそもWi-Fiすら拾ってない」

「ふーん。なんか変なの~」

 

 二人ともわたしの携帯を見て珍しい物を見たって感じの声を出してる。

 まぁ、そういう訳で口約束以外は約束方法も無いから、基本的に彩さんや千聖さん。それから別れる時に次会える日を聞いてその日に、って感じで約束をよくする日菜さん以外とはあまり会えないんだよね。

 それにパスパレの五人は全員アイドルだから、暇もあんまり無いみたいだし……

 ……ないん、だよね?

 わたしはアイドルじゃないからそういう所分かんないんだけど……

 

「……ちなみに彩さんってちゃんとアイドルとしてのお仕事、できてます?」

「えっ、なに急に。どうしたの?」

「いえ、アルバイトしながらアイドルって何と言うか……お仕事無いのかなーって思っちゃって」

「してるよ!? しっかりとお仕事してるからね!?」

「あははは。でも調ちゃんの言う通りかも。彩ちゃん、なんやかんやでずっとここでバイトしてるよね」

「なんやかんや長いからね」

 

 ……っていうかよく考えると、このお店って実際にアイドルとして活躍している人が接客するお店、なんだよね?

 なんだかここの店長的な人、彩さんを集客に使えると思って彩さんに残ってもらっているとか……はないよね。ないない。だって彩さん、明らかに接客中に誰からも気づいてもらってなかったっぽいし。

 あれ? でも気づいてないって事はやっぱりアイドルとして成功してないんじゃ……? でもパスパレって普通に人気なアイドルユニットだし、彩さんもよくテレビに出てるみたいだし……あ、あれ?

 なんだろう、あんまり触れちゃいけない事のような気がしてきた。本質はもっと簡単なんだろうけど深読みし続けた結果変な思考の迷路にはまっている気が……

 

「とりあえず調ちゃんがリアル百面相している間にるんってしたからイヴちゃんと麻弥ちゃん呼んでみたよ」

「いつの間に……っていうか二人とも今日、千聖ちゃんとお仕事じゃなかったっけ?」

「早めに終わったから暇だったらしいよ? 千聖ちゃんも来るってさ!」

「これ食べてるところ見たら怒られそう……」

 

 とかなんとか考えていると日菜さんが何かしていた。

 何したんですかって聞いてみると、イヴさんと麻弥さん、あと一緒に居た千聖さんを呼んでみたとの事。アイドルなのにそんな簡単に呼べるんだ……

 それから暫く、こっちの世界の事とか彩さん達が最近やった仕事とかで笑いながら待ったり、日菜さんがポテトを食べ終えたからお代わりを注文しに行ったり、彩さんがバーガーとジュースのごみを捨てて証拠隠滅したりで時間を潰していると、入ってすぐの所に千聖さん達らしき人達三人組を発見。

 三人が入ってきてからこっちこっちと手を振って三人を呼び寄せる。

 

「ここに居たのね。久しぶりね、調ちゃん」

「お久しぶりです。イヴさんと、それから麻弥さんも」

「はい! お久しぶりです!」

「お久しぶりっす」

 

 千聖さん達も席に座ってこれでパスパレが全員集合。

 ……この店、今現役アイドルが五人もいるって事なんだよね? それって結構凄い事なんじゃ。これをパスパレのファンの人が見たら凄い興奮すると思うし、その中に混ざっているわたしって一体何なのか気になると思うんだけど……

 ま、まぁ気にしなくてもいいよね。だってわたし、平行世界の住人だし。何言われてもぴゅっと逃げればノーダメージだし。

 

「にしても、仕事終わってすぐにここに来て大丈夫なんですか? 色々と他にやる事とかあるんじゃ」

「気にしなくてもこっちは平気よ。それに、イヴちゃんもこの頃ずっと調ちゃんに会いたがってたみたいだし」

「そうなんですか?」

「はい! シラベさんはホンモノのブシと友達だって聞きました! だからまた会ってお話がしたいって、ずっと思ってたんです!」

 

 あー、これはあれかな。日菜さんがサラッと口にした感じかな?

 視線を日菜さんに向けると、日菜さんは特に何もせずに笑顔。るんっ、て効果音が聞こえてきそうな程度には笑顔。まぁ、いいんだけどね?

 とりあえずイヴさんには武士じゃなくて防人と知り合い、とだけ訂正しておくことに。でも、事実わたしが武士の一人と知り合いだという事が事実と知ってより一層目を煌めかせている。

 なんか、その気持ち、分かるかも。わたしも日本の記憶が無い時に日本のあれこれを聞いて本当に忍者や武士は居るって思っていた時期があったから。

 ……まぁ、事実だったけどね?

 とりあえず武士じゃなくて防人と知り合いですよ、とだけ返しておく。

 

「防人……って何だっけ? 千聖ちゃん、分かる?」

「確か大化の改心辺りに九州を守るために集まった武士集団……だったかしら?」

「そうです! サキモリは――」

 

 ここからイヴさんの長いトーク。

 まぁ大体の事はwikiとかに載っている事だった、とだけ。

 でも防人も一括りしちゃえば武士みたいなものだし。こういうのにうるさい人に聞かれたら違うって言われるのかもしれないけど、まぁイヴさんも刀を持って戦う人=武士みたいに思ってる節があるっぽいし。

 

「――と、いうものです!」

「へぇ~…………殆ど分からなかった……」

「なんか今のイヴさんの気持ち、分かる気がするっす……」

 

 まぁ、多分もう歴史のテストにも出ないような事だろうし、覚えておかなくても多分何とかなるからね。分からなくても仕方ないと思う。

 とりあえず一頻り語ったイヴさんの目はまだキラッキラ。日菜さんはそんなイヴさんを見て笑顔。千聖さんは額を抑えて苦笑。千聖さんってイヴさんには甘いらしいから、何か言おうとしても言えないんだろうね。こんな曇りのない目をした人をついつい甘やかす気持ちは分かるけどね。

 

「まぁ、わたしの先輩の防人はどっちかと言ったらその名の通り守るために戦う人って事で防人って言ってる感じですけどね。でも、確かに刀を握って戦ってますよ」

「ホントですか!? じゃあ、こう、刀を腰に構えて座禅するとか、蝋燭を斬ったりとか!」

「してますね。休みの日は家でそうやって鍛錬している時もあるとか」

 

 そう言うとイヴさんのテンションが、メーターがあるとしたら振り切れるんじゃないかと言わんばかりに上がりまくる。流石にこれ以上騒ぐのはマズいからって事で千聖さんと麻弥さんがイヴさんを止めた。

 とりあえずイヴさんには翼さんの戦闘記録を見てもらって、暫く大人しくしてもらうことに。わたしの携帯を受け取ったイヴさんは目をキラキラさせながら翼さんが刀を持って戦ってる映像を見ている。あと、この間忍術の修業をしたときに撮った翼さんの修業風景もあるから、それも見せるとイヴさんの目がキッラキラ。この人の目、眩しいです。

 

「それにしても調さんの交友関係って何と言うか……独特ですよね」

「あはは……シンフォギア装者って個性的な人しか居ませんから」

「確かに調ちゃんも個性的だもんね~」

 

 ……えっ?

 え?

 

「待ってください日菜さん。それだけは看過できません。わたしは普通です。一般人です」

「あはは~。調ちゃんってそんな必死に冗談言えるんだね~」

 

 いや、そんなはずは……!

 わたしがあんな非常識集団の一員な訳が……!

 違いますよね、ってメッセージを込めて千聖さんと彩さんを見ると、見事に視線を逸らされた。そんな馬鹿な……

 

「大人し気だけど、結構アグレッシブな所あるし……」

「何と言うか、色々と一般人からは程遠いわね……」

 

 も、もしかして知らない内にあの非常識集団に洗脳されていた疑惑が……!?

 衝撃の事実を貰ったけど、わたしはまだ認めない。わたしがまだ装者の中で一番マトモで一番普通な人間だという事を。少なくとも翼さんとかマリアとか未来さんよりは圧倒的に普通な人間だから……! 絶対にまともな人間だから……!!

 あと緒川さんみたいな忍者よりも普通の人だから……!

 とか言ったら忍者と知り合いなの? と聞かれたのではいと答えた。結果。

 

「す、凄いです! ブシに加えてニンジャまで……! やっぱりブシとニンジャは実在しているんですね!」

「イヴちゃん。それは平行世界だけだよ。私達の世界にそんな物理法則に喧嘩を売っている人種は存在しないから」

「ひ、日菜ちゃん……? 急に真顔になってどうしたの?」

「日菜さんの真顔、初めて見たかもしれないっす」

「ちょっとアイデンティティがクライシスしかけてるだけなので大丈夫だと思いますよ」

 

 まぁ、日菜さん的にはシンフォギアっていう謎システムならまだしも忍術っていう生身の人間がやれる超常現象に耐え切れなかったんだろうね。

 ほら日菜さん、まだ人間には神秘がありますよ? これなんてほら。翼さんが弾丸を三つに斬り分けてますよ。それからクリス先輩も歯で弾丸を受け止めてますし、風鳴司令なんて橋を破壊するほどの震脚をしてますよ。

 

「……人間って、予想以上に理解できない生命体だったんだね」

「調ちゃん! そろそろ日菜ちゃんの頭の許容量がいっぱいいっぱいだからここら辺にしてあげて!」

 

 ちなみに翼さんの弾丸斬りはイヴさんにはかなり好評だった。それを日菜さんにできます? って聞いたらいい笑顔で無理っ! って返ってきた。

 まぁ、わたしもギアを纏っておかないと防げないのでできなくても仕方ないですよ。

 

「……ん? ちょっと待って。調ちゃん、もしかして飛んでくる弾丸が見えるの……?」

「まぁ流石に反応はできませんけど」

 

 だってそれくらい見えないと装者なんてやってられないし。

 ……で、なんで皆さんちょっと引いてるんですか。わたし、響さんみたいなゴリラじゃないですよ? 普通の女の子ですよ? だからそんな人外を見る目で見ないでほしいんですけど……

 

 

****

 

 

 数日後。わたしは翼さんと一緒にまたこの世界へとお邪魔していた。

 と、言うのも。実は先日イヴさんにどうしても翼さんに会いたいってせがまれて、流石にそこまで言われると無碍にもできないから翼さんに相談してみた。その結果、翼さんは快くオーケー。なんでも、今時防人に憧れる人は貴重だし、いい話もできそうだからって事で、翼さんも是非とも会ってみたいって事になって、わたしが連絡の懸け橋になってたった数日で会合が実現した。

 我ながらすっごい仕事したと思う。でもイヴさんが翼さんに会えるって聞いて満面の笑みを浮かべていたから、この世界往復は決して無駄じゃなかったと思う。

 と、いう事でわたしは翼さんと共にパスパレの皆さんを待っている。

 

「外で変装もせずに居られるなんて何年ぶりだろうか。この感覚、既に忘れていた」

「まぁ、翼さんはあっちじゃ国際的歌手ですからね」

「ツヴァイウイングをしてから変装が基本だったからな。こうして特に髪型も変えず顔も隠さずとも立っていられるのは気持ちがいい。これだけでもこの世界に来た甲斐があったと言う物だ」

 

 ツヴァイウイングとして翼さんが有名になったのってもう何年も前だしね。だから変装もせずに外を出歩けるのって相当久しぶりだと思う。

 素顔のまま立っていても誰も自分の事に気が付かないって感覚を懐かしんでいるのか笑顔な翼さんの隣でわたしは腕時計を確認する。えっと、もうすぐパスパレの皆さんが来る時間帯だけど……

 

「いたいた! 調ちゃーん!」

「あっ。彩さん」

 

 とか思っていたら丁度彩さんの声が聞こえた。

 そっちを向くと、そこには変装したパスパレメンバーが。でも、彩さんが大声を上げたからか千聖さんがすぐに小声で彩さんに注意している。

 千聖さんに平謝りな彩さんに苦笑していると、イヴさんが真っ直ぐこっちに向けて走ってきた。

 

「シラベさん! この人がサキモリの人ですか!」

「そ、そうですよ。っていうか顔近いです……」

 

 走ってきてそのままほぼゼロ距離でわたしに聞いてきた。

 ハーフの人だからか結構人との距離が近い人だけど、ハグ以外でここまで近いのは初めてかも。でも、それだけ今日を楽しみにしてたって事だよね?

 

「君が月読の友人の若宮イヴ、だったか。私が月読の紹介に預かった風鳴翼だ。あっちの世界で防人と歌手をやっている」

「よろしくお願いします、ツバサさん!」

「あぁ、よろしく、若宮」

 

 満面の笑顔のイヴさんと翼さんがガッチリ悪手。その様子をわたしと、それから麻弥さんがちょっと離れて見守る。

 

「いやー、あそこまでテンションの高いイヴさんは久しぶりっす」

「そうなんですか?」

「ちょっと前に武士道とか、そういうのを特集している雑誌のインタビューや撮影の仕事が入った時のイヴさんに近い物を感じますねぇ」

 

 元々テンションが結構高い方のイヴさんだけど、今日はもう最初っからトップスピードを決め込んでる感じがする。

 それは麻弥さんから見ても同じだったようで、苦笑しながらも楽しそうなイヴさんを見れて満足しているみたい。で、日菜さんはと言うと。

 

「なんか予想していたよりふつーかも」

 

 大凧に乗って空を舞い、刀で弾丸を斬るような人だからもうちょっとエキセントリックな人だと思っていたらしいけど……心配しないでください。この人、わたしの身内の中でもトップクラスでエキセントリックな人ですから。

 で、既に大盛り上がりな二人に混ざれないわたし達の所へようやくお説教が終わった彩さんと、お説教を終えた千聖さんが合流。

 

「うわ~。なんか凄い綺麗な人~」

「……そういえば調ちゃんが言うには調ちゃんの世界のトップアーティスト、だったかしら」

「はい。今や世界中から引く手多数の超有名アーティストですよ。恐らく知らない人が居ない程度には有名です」

「……そう」

 

 彩さんは単純に翼さんをジーっと見ていて、千聖さんはちょっと黒い気配が。

 多分、ジャンルは違えど芸能界のアーティストという部類でトップに立つような人を見て、色々と対抗心とか何やらが燃えているんだと思う。

 千聖さんって、確かにかなり有名な元子役だけど、翼さんみたいに世界に羽ばたいているかと言われたら違う感じだし……多分、緒川さんのような人にプロデュースしてもらったらそのレベルまで行ける位の才能はあるんだろうけど。

 とか思っていると千聖さんが一人翼さんに近寄った。

 

「少しいいかしら?」

「ん? あぁ、構わんぞ。君は確か、白鷺千聖だったか。幼い頃から芸能界で戦う者同士、話してみたいとは思っていた」

「私もよ。世界は違えどトップアーティストと呼ばれるまでになった人とこうして話す機会なんてそうそうないでしょうし」

 

 ちょっと千聖さんからのオーラが黒い感じがするけど、翼さんはそれをサラッと受け流している。

 多分芸歴的には千聖さんの方が先輩なんだろうけど、知名度的には翼さんが断トツ。だからこそ千聖さんも対抗心を燃やしているんだろうけど……

 暫く話してから、ずっと集合場所で話し明かすと言うのもアレだから、当初の予定通り貸し切っておいた体育館に行く事に。

 

「若宮は武士道について学びたいんだったな」

「はい! ブシドーは私の憧れです!」

「そうかそうか。そこまで言われるとこちらもあまり恥ずかしい姿は見せられないな。ならば今日は私の武士道……いや、防人としての生き様をしっかりと見せつけなければな」

「お願いします!」

 

 歩きながらイヴさんと翼さんはかなりテンションが上がっている。

 翼さん、多分武士道を志す後輩的ポジションの人が出てきたからすっごいテンション上がっている。だって顔がかなり笑顔だし。結構うずうずしてるし。

 やっぱり好きな物を共有できる人と話す時ってテンション上がるよね。

 

「武士道……もしかして、芸能界で勝ち残るには武士道が必須……!?」

「千聖ちゃーん? なんか変な事口走ってるの気づいてるー?」

 

 なんか千聖さんが迷走しかけたけど日菜さんの無邪気な毒舌が千聖さんに突き刺さる。

 とりあえず千聖さんに関しては彩さんと日菜さんに任せておこう。

 で、どうして体育館に向かっているかと言うと、単純に武士道を語るのなら体育館の方がまだいいだろうから、との事。わたし達は横で遊んでいるつもりだけど、多分翼さんとイヴさんはずっと武士道について語ってると思う。

 あと、竹刀もレンタルできるっぽいから、それでちょっとした事もするとか。

 そんなこんなで時折千聖さんが迷走しながらわたし達は体育館に着いた。で、靴を脱いで室内用の靴に履き替えてから早速遊ぼう……と思ったとき。

 

「あぁ、ちょっと待て。流石に外ではできないからな。一つパフォーマンスをしておこう」

 

 と、言うと翼さんは自分達の事を誰も見ていないのを確認してから、ペンを六つ取り出した。

 

「既に忍術は緒川さんの映像で見ていると思う。かく言う私も少しばかり忍術が使えてな。その一つがこれだ。影縫いッ!」

 

 どうやら自分が防人であり、同時に忍術も多少使えるという証拠を見せるらしい。

 で、空に向かって投げられたペンは変なジャイロ回転をしながら落ちてきて、そのままパスパレメンバーの皆さんの影に。

 あ、これ相当動けなくなるやつ……ってあれ? なんかわたしも動かない。

 

「う、動けない!?」

「こんな非現実が……!?」

「えっと、さっきのって……あっ、ふーん。ちょっとるんって来たかも」

「ってどういう原理っすかこれ!?」

「す、凄いです! 本物の忍術が見れるなんて、カンゲキです!!」

「いやどうしてわたしまで!?」

「ははは。ちょっと張り切り過ぎた」

 

 パスパレの皆さんだけじゃなくてわたしまで影縫いに巻き込まれた。

 うわ、流石に生身だとビクともしない。暴走した響さんを止めれるだけの事はあるよ。

 とりあえず影縫いはすぐに翼さんペンを抜いてもらって解除してもらって、事なきを得た。で、イヴさんはリアルで忍術まで見てしまった事で更にテンションが爆上がり。最早翼さんの事を尊敬の目で見ている。

 対して彩さん達はすごかったね~、で済んでるけど……日菜さん? なんかさっきから首を捻って素振りしてますけど、あなたまさか。

 

「これをこうして、こう!」

 

 嫌な予感がした直後、日菜さんが自分のペンを取り出してそのまま彩さんの影に向かって投擲。そのままペンは彩さんの影に刺さって、体育館の中に入ろうとしていた彩さんの体がまるで一時停止ボタンでも押されたかのように急に止まる。

 

「あ、あれ? また体が……」

「うわ、これ面白い! るんって来ちゃう!」

「って日菜ちゃん、あなたまさか、さっきのを一回見ただけで!?」

「ほう、これは……」

 

 日菜さんがたった一回見ただけで影縫いを習得してしまった。

 確かに影縫いは忍術の中では簡単な方だけど、確か最初は刃物を使って練習するんだったよね? なのにいきなりペンで成功させるって……やっぱり日菜さんもイカれてないだけで確かに天才の一人だったみたい。わたしはそもそも練習してないからこれ以上は何とも言えないけど。

 翼さんも一回見ただけで影縫いを成功させちゃう日菜さんにちょっと感心している様子。

 

「いやー、リアルで見ると案外分かっちゃうもんだね~。彩ちゃん、こしょこしょ~」

「ちょ、ひなちゃ、あははははは!!? く、くすぐったいのに動けないははははははは!!」

「日菜さん、凄いです!」

「流石天才っすね……」

「というかこれ、日菜ちゃんに覚えさせちゃいけない忍術トップクラスな気が……」

 

 千聖さんの言葉に激しく同意。

 つまりこれから、日菜さんは影縫いを普通に悪戯に使うって訳で。これ、もしかして日菜さんのお姉さんの紗夜さんにも毒牙が向かうんじゃ……

 急に影縫いして突撃してくる日菜さん……しかも影縫いは時間経過か日菜さんにしか解除は不可能……ってこれ、ホントに日菜さんに覚えさせちゃいけなかったんじゃ……さ、流石にテレビとかで見せたりはしないとは思うけど……

 

「一発で影縫いを覚えるとは凄いじゃないか、氷川」

「そりゃ私、天才だし~」

「だが、その影縫いは不完全だな。丸山、もうちょっと力を入れて動いてみろ」

「え? あ、はい。えいっ! ……あっ、動けた」

 

 とか思っていたけど、どうやら日菜さんの影縫いは不完全だったらしく、彩さんがちょっと力を入れて動いてみると簡単にペンが弾かれる……どころかバキッと折れて彩さんが動けるようになった。

 ど、どういう事?

 

「表面上は成功しているが、内側は成功していなかったという事だ。表面を触っただけの影縫いによくある事だ」

「えぇ~! なんで~!」

「影縫いとはシンプルだが奥が深い忍術だ。私も習得には三年要したが、氷川レベルになるまではあまり時間はかからなかった。そこから影縫いの本質を知り、影縫いを極めていくことによって完全なる影縫いが完成する。イメージ的には、氷川の影縫いは丸山の周りに薄い膜を張っただけ。私の影縫いは影を伝って体の内側を凍らせて固めるような影縫いだ。それに、ペンが折れたのも未熟な証拠だ。本物の影縫いは例え力づくで破られてもペンが折れることは無い。そもそもこれは小刀や苦無でやる物だからな。その度に武器を折ってしまってはたまらん」

 

 へぇ~……影縫いにも色々とあるんだ……

 日菜さんはムキになって折れてもいいような棒状の物を何度も彩さんの影に投げているけど、投げられるたびに彩さんが即影縫いを解除して、最終的に彩さんも慣れたのか影縫いが効かないほどに。また翼さんがお手本を見せてみるけど、日菜さんの影縫いはずっとそのまま。

 どうも日菜さんはある一定レベルまではすぐに習得できるけどそれ以降の習得には努力が要るって感じなのかな? その一定レベルが一般人からしたら高すぎるってだけで、忍術のような非常識レベルではまだまだお子様レベルとか、そんな感じ?

 

「ツバサさんの言葉、カッコいいです!」

「そうか? 触ってからその本質を知り、それを極めるために努力する。これは武士道にも通ずることでもある。そうだろ、若宮?」

「はい、ツバサさん!」

 

 なんかあっちの方は完全に師匠と弟子みたいな感じになってる。

 日菜さんは暫く影縫いを練習していたけど、全然できなくて結構イライラしている感じ。

 日菜さんからしたら初めてだったのかもね。ちょっと練習しても全然できない事って。

 ちなみにわたしもちょっとやってみたけど無理。できる気しないです。

 で、気が付いたら体育館の中に入っていたけど、日菜さんの復帰を待ってから翼さんとイヴさん、後はそれ以外で別れてわいわいする事に。一応今日は運動しやすい格好だから本気で動いても問題なし。

 

「バスケなんて久しぶり!」

「ここは通さないっすよ、調さん!」

「甘いですよ麻弥さん! そして後ろの日菜さんも抜かせてもらいます!」

「おっと、影を踏んで影縫い。奪って千聖ちゃーん」

「あっ!?」

「ナイスパスよ、日菜ちゃん」

 

 で、わたし達はバスケットボールとゴールがあったからバスケ中。二人が攻めで他三人が守りって感じのちょっと変則的なゲームをしているんだけど、守備に回っても攻めに回っても日菜さんがチート過ぎる……!

 どうやら影を直接触って影縫いをする方法を覚えてしまったらしく、横を抜けようとするとすぐに影を踏んで影縫いしてくる。これを見ていた翼さん曰く、影縫いの初歩は相手の影を直接踏んで動きを止める事らしいから、ペンを投げて影縫いできた日菜さんならできてもおかしくはないんだろうけど……!

 ちなみに、日菜さんの影縫いはすぐに禁止になった。当たり前だよね。

 で、翼さんとイヴさんは。

 

「まず基本は座禅。そして瞑想だ。例えどんな時だろうと平常を保てるようにすることが基本だ」

「はい!」

「その特訓にはこの二つの蝋燭を使う。この目を閉じ構えたまま、火が一瞬でも揺らいだ蝋燭を察知し、そして斬る。実際に私がやってみるとしよう」

「おぉ……! お願いします、ツバサさん!」

「失敗しなければいいがな。さて、では行くぞ…………………………ハッ!!」

「す、凄いです! 竹刀なのに蝋燭が斬れました!!」

 

 ……ってあっちの方はなんか凄い事してるんだけど。

 あの人とうとう刃物を使わなくても物を斬れるようになったの……? やっぱ響さん並みにあの人も人間卒業しているよね。人間という括りに入れていいのか分からない風鳴司令は別として、やっぱり翼さんも生身なのに異常な強さだよね。

 

「これが武士としての……いや、防人としての基本だ。こうして修業を繰り返していけば、自ずと己の武士道が見えてくる」

「己のブシドー、ですか? ツバサさんのブシドーは、なんですか?」

「友と共に戦い、そして守り抜く事だ。それこそが防人である私の武士道であり、全てだ」

「カッコいいです……!!」

「武士道とは何も他人が示した物だけが答えではない。己の中にある信念と、剣を握る理由。自分が正しいと思う事のために戦う理由こそが、武士道であると私は考えている。だから、若宮もいつか自分の武士道を見つけるといい。今は分からなくても、いつか答えは見えてくる。それが見え、己の生き様がそれに恥じない物であると胸を張る事ができた時こそが、若宮も立派な武士であり、防人となった証だ」

「はい、ツバサさん!! 私、これからも自分のブシドーを探し続けます!!」

「うむ、いい返事だ! ならば、この場で私が教えられる事は全て教えよう!」

 

 あー、なんかあっちの方、ちょっと前の少年漫画みたいになってるよ。でも言ってる事は至極真面目な事なんだよね。千聖さんと麻弥さんも何とも言えない感じの表情しているし。

 で、彩さんはなんか翼さんにちょっと感化されてるし、日菜さんはさっきのできないかなーって竹刀握り始めたし。

 とりあえずあっちで一昔前の少年漫画の登場人物みたいになった人達は置いておいて、こっちはこっちで楽しむとしようかな。

 さっきから日菜さんにバスケで全敗しているし、せめて一勝くらいはしていい顔してやる……!!

 なお、無理だった模様。くそう。

 

 

****

 

 

 翼さんを連れてきた日から暫く経ったけど、どうやらパスパレ内……というか日菜さんとイヴさん、それから千聖さんに若干の変化があったらしい。

 日菜さんは予想していた通りに結構気軽に悪戯とかで影縫いをしてくるようになったとの事。彩さんを始めとするパスパレメンバーはもう対策を知っているから影を踏まれる影縫いじゃない限りはすぐに脱出できるけど、日菜さんのお姉さんである紗夜さんとか、日菜さんの後輩であるつぐみさんは結構な被害にあっているみたい。

 特に紗夜さんは動けなくされてから突撃ハグをされまくっているとか。でも最近本気で怒られて自粛中とか。

 まぁ、悪用していないだけマシだよね。影縫いって使いようによっては凄い事にできちゃうから。事故に見せかけた他殺とかも簡単にできちゃうからね。

 で、イヴさんはだけど、最近かなり活き活きとしている様子。

 翼さんから武士道のあれこれ、防人としてのあれこれを聞いて翼さんにも憧れているらしく、一人前の武士として、防人として名乗れるように頑張っているそう。

 でもこれに関しては良い感じにパスパレのやる気に火を付けた結果になったらしくて、イヴさんに負けられないとより一層頑張っているとか。是非ともみんな頑張ってトップアイドルになってほしい。

 で、千聖さんだけど。翼さんが帰る前に色々と話したらしくて、千聖さん本人のやる気も凄い事になっていた。やっぱり同年代でトップアーティストになった翼さんと知り合って、絶対に負けていられないって張り切った結果らしい。翼さんもそういう感じでちょっとだけ煽ったらしく、効果はてきめん。

 だけど、ちょっとメンバーに甘くなったとか。多分奏さん関連で色々と言ったんだと思う。それを千聖さんも自分に当てはめて、怖くなったのかも。

 まぁそんな事があったけど。わたしはあまり変わらず時々パスパレの皆さんと会っては遊んでいます。

 ちょっと変わった事と言えば、時折翼さんも一緒について来るって事かな?




と、いう事で特に毒にも薬にもならない話でした。

流石の日菜ちゃんでも映像で見たから忍術真似たりリアルで見たから忍術をその場で完璧に習得したりは無理だよね? とか思って書いてました。む、無理だよね? なんか日菜ちゃんならサラッと緒川さんの水面走り真似ってても違和感ないと言うか……
でも影縫いくらいならサラッとやりそう。

で、そんな日菜ちゃんがちょっと自分のアイデンティティをクラッシュ……というか認めたくない映像から現実逃避する話と、イヴちゃんが翼さんと会って意気投合する話でした。

っていうか、ホント翼さんってパスパレメンバーと絡ませたらクッソ面白い事になるのになーと思う。というか日菜ちゃんもイベントで出演してほしかった。非常識を目にしたときの日菜ちゃんの反応が見たかった。

SSSS.GRIDMANコラボが始まりましたが、SSSS.GRIDMANのキャラを出す話なんですが……調ちゃん、お留守番になっちゃいましたね……これじゃあグリッドマン達と面識が無い状態だからどんな話を書けばいいのか……
個人的にもグリッドマンや新世紀中学生を書きたいので頑張って考えますが……もしかしたら調ちゃんをグリッドマンに変身させるとかするかも。

あ、フルパワーヒビットマンとツバッサナイトはしっかりと二枚ずつ引きました。フルパワーヒビットマン完凸させたいけど流石にそこまでの石がない。バンドリコラボの時並みに優しくして。


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月読調の華麗なる夢のヒーロー

今回はこの作品でのグリッドマンコラボです。ただ、調ちゃんが主人公という事からグリッドマン本人との関りが無いので、グリッドマンの登場キャラと絡ませて、ついでにオリジナルの話を作って無理矢理グリッドマン達を登場させました。

という事で今回はグリッドマンコラボ。一応アプリのストーリーの後という設定です。


 世界が、崩れていく。

 響さんも、翼さんも、クリス先輩も。みんな、みんな倒れた。全平行世界の装者達を再び結集させて、また一つ世界蛇に襲われる世界へと戦いに赴いた。でも、世界蛇は強くて。

 XDモードになる事もできず、スクルドの力も借りれず。

 それでもそれぞれの全力を果たして戦ったけど、勝てなかった。続々と現れる世界蛇の末端。そしてカルマノイズ。それに苦戦を強いられているうちに、再び空は紫色に染まって世界蛇がその姿を現しかけている。

 電子で構成されたこの世界は徐々に崩壊していく。この世界がもしも崩壊したら、わたし達も間違いなく終わる。

 いつの間にか緑色の輪郭と、黒で構成された、この電子の世界の骨格とも呼べるものがむき出しになった。この電子の世界の住人達も世界蛇に吸い上げられていく。

 もう、どうする事もできない――

 

 

****

 

 

「また、ギャラルホルンのアラートが発生したんですね」

 

 司令に呼び出されてすぐにわたし達は今回の騒動についてを聞いた。

 どうやらまたギャラルホルンがアラートを発したらしく、わたし達は至急、本部へと呼び出された。何せ、ギャラルホルン関係と言えば、ついこの間、わたし達装者全員の力を結集しても勝てなかった相手が出てきたばかり。それから暫く、世界蛇とはご無沙汰だったけど、また遭遇する可能性もある。

 だから集まった、わたし含めた七人の装者の顔は、かなり険しいものになっている。

 

「あぁ。しかも、今回のアラートはあの時の……世界蛇が出現した時と似ている物だ」

 

 そして、その言葉を聞いて全員の表情が更に強張った。

 世界蛇が初めて出現したあの日。ギャラルホルンが発する警告は今までの比ではなかったから。それと似ているような警告が出たという事は、世界蛇が出現する可能性が高いという事。

 それを理解したうえで想像するのは、最悪の未来。

 また、あの時のような地獄が目の前で繰り広げられるという地獄。

 それでも、戦わないといけない。例え一欠片でも勝てる未来が残っていると言うのなら。完全聖遺物ミョルニルがアレに対抗できたのなら、わたし達だってできる筈だから。

 

「今回もいつも通りチームを分ける。そして平行世界の問題がそれで解決できたのならいつも通りだ。だが、世界蛇が出現した場合は、一旦こちらに戻ってきてくれ」

「皆さんの力を信じていないわけではありませんが、それでも万が一があります。なので、奏さんとセレナさんも呼んで万全の体制で挑みます」

「今回は翼、マリアくん、調くんに行ってもらう。大丈夫か?」

「はい。問題ありません」

「寧ろ問題なんて探す方が難しいわね」

 

 翼さんとマリアの言葉にわたしも頷いて、今回はわたし、翼さん、マリアの三人が平行世界へと向かう事になった。

 作戦が決まったのならすぐさま。わたし達はギャラルホルンの前でギアを纏って準備完了。後はあっちで流れに任せて事件を解決するだけ。そうやって毎回解決してきたからね。

 

「マリア、調、危なくなったらすぐに撤退してくるデスよ!」

「全く、心配性ね、切歌は」

「うん、本当に。でも、大丈夫だよ切ちゃん。引き際を見誤るなんて事、しないから」

「それでも心配な物は心配デスよ……」

 

 切ちゃんの言葉にマリアと一緒に苦笑しながらもわたし達はギャラルホルンのゲートをくぐる。

 ギャラルホルンのゲートはいつも通り虹色の輝いている。少しばかり目が痛いけど、それでも平気。だけど、なんだろう。虹色の中に電流が走っている感じと言うか、いつもと違う感じに見えるのは。

 でも、カオスビーストの空間のように赤色じゃなかったら敵は出ないハズ。そう思いながらも一応はいつでも交戦できるように構えながらゲートを潜って、そしてゲートの出口に到着した。

 到着したけど……出てきたのはいつもの公園じゃなくて、どこかの駅の出入り口。

 なんともまぁ、変な所にゲートが……

 

「出口がいつもと違う……? これは一体……」

「ちょっと前の、音響怪獣が出た世界と同じですから、大丈夫です。未来さんみたいに別の場所に弾かれたとかではないので」

「それならいいのだけど……」

 

 マリアの言葉に翼さんも頷いた。

 今回の世界は出入り口がいつもとは違うだけで特に問題はないね。けど、何だろうこの世界。ちょっとだけ違和感があると言うか。

 でもそれはいいとして、一旦ここら辺を歩いて拠点を確保しないと。流石に野宿をしながら平行世界の問題を解決するっていうのはちょっとハードモード過ぎる。一旦太陽を見て軽く時間をかくに…………

 

「ん? どうした月読。急に固まって」

「い、いや、翼さん! あ、あれ! あれ見てください!」

「あれ? あれとは……なっ!? あれは!?」

「どうしたの二人とも……って、怪獣!?」

 

 わたし達の視線の先には、巨大な怪獣が居た。

 それも一体や二体なんかじゃない。もっと大量に、十何体も。写真を撮ってみたりしても、しっかりと映っている。あれって一体……?

 いや、でも動いていないみたいだから死んでいる……のかな? それともただの怪獣型の建造物?

 

「……動いては、いないみたいだな。害が無いと言うのならこちらからあまり手を出すものではないだろう」

「そうね。アレが動き始めた時の対処は、動き始めてからにしましょう。にしても、まさか人生で二度も怪獣を目にする羽目になるなんて……」

 

 翼さんとマリアの言葉に頷き、先を歩く二人の後ろをついて行く。

 あ、そういえば駅名だけ確認しておこう。えっと、駅名は……ツツジ台駅? そんな駅、日本にあったかな。

 

 

****

 

 

 一応街中を一通り歩いてみたけど、特に異常な所は何も見つからなかった。時々怪獣の事について聞いてみたんだけど、それについてはわたし達以外見えてないみたいで、変な人を見る目を向けられるだけで終わった。

 この世界は、いたって普通。戦いの跡とかがあるわけじゃないし、大きな歴史の変化もない。裏の事……つまり装者絡みの事は流石にあっちから接触してこない限り調べられないから何とも言えないけど、一応表面上はかなり普通な世界みたい。

 三人纏めて数時間は歩いていたからちょっと座りたくなって、わたし達は一旦喫茶店に訪れた。

 かなりいい雰囲気。それにここにも特に問題はなし。ノイズが出ているっていう情報も無いから本当に平和な世界っぽい。

 いや、平和な世界だったらギャラルホルンのゲートが繋がる訳ないんだけど……

 

「数時間歩いて手ごたえ無し、か。カルマノイズが現れなければ何もする事ができないというのがもどかしいな」

「この世界にはノイズが存在していない。そしてそれに近しい存在の出現も確認されていない。現状はお手上げね」

 

 マリアがコーヒーで口を潤しながらボヤいた。

 こうなったら先に拠点を確保して長期戦を覚悟で挑んだ方がいいかも。それか三人が分散してカルマノイズを捜索……いや、これは悪手。一人でカルマノイズと遭遇したら、戦える事には戦えるけど決定打を与える事ができない。だから、最低でも二人で行動したい。

 そう考えると結局三人で移動する事が一番……ってなっちゃうんだよね。

 ドン詰まりかぁ。

 

「ボヤいても仕方ない。明日までは情報を集めよう。何も集まらないようだったら誰かがそれを叔父様の元へと報告しに向かう。これでどうだ?」

「異議なしね。そうなると情報を集めながら適当なホテルでも探しましょうか」

「お金、普通に使えたからね」

 

 あとお金に関しては普通に使えた。一応三人とも現金を結構持ってきておいたから、適当なホテルに数日泊まるくらいならできそう。それに、無駄遣いしなきゃ経費で落ちるし、心配ないね。

 作戦が決まったところでコーヒーを一気に飲み干して空のカップをゴミ箱に捨ててからわたし達はもう一度外へと歩を進めた。

 さて、それじゃあどっちに……ってあれ? 何だか外に出た瞬間慌ただしく……

 

「き、君たち! 死にたくなかったらあっちへ逃げるんだ!」

 

 と思ったら目の前を走り去ろうとしていた男の人が足を止めて声をかけてきた。

 死にたくなかったらって……まさかあの怪獣が!? と思って視線を上にあげたけど、怪獣は動いていない。じゃあ、一体何が……

 

「え? 一体何があったんですか?」

「怪物だ! 黒い怪物みたいなものが怪物を沢山呼び出して襲いかかってきたんだ!」

 

 黒い怪物……! 間違いない、カルマノイズ!

 すぐに翼さんとマリアに視線を向け、二人とも頷いたのを見てからわたし達は即座にカルマノイズを倒すために男の人の静止を無視して、逃げてくる人並みの中を逆走した。

 大きな被害が出る前に、倒さないと!

 

「……あの子達、もしかして」

 

 

****

 

 

 カルマノイズは無事に倒した。

 これにて一件落着……と思いたいけど、ギャラルホルンのアラート的にもカルマノイズが一体だけとは思いにくい。だから戦闘が終わってから暫くはギアを解除していなかったけど、ノイズは出てこないし人も集まってくるだろうからギアを解除した。

 

「なんとかなりましたね」

「あぁ。カルマノイズ一体だけだったからまだ良かったものの……」

「けど、周りの建物に被害が出てしまったわね……」

 

 マリアの言葉に従って周りの建物に視線を向けると、そこには戦闘の跡が。

 カルマノイズを倒すために結構全力を出したから、電鋸とか刀で思いっきり傷つけちゃったところがあって。こういう時、SONGがあったら気にしなくてもいいんだけど、ノイズが出現しても何も無かったって事はそういう機関はないわけで。

 ど、どうしよう。謝る、とかできないし……逃げるしかないのかな。

 

「あー、建物? それなら気にしなくていいよ。後で勝手に直るから」

「ッ!? 誰だ!!」

 

 三人でちょっと暗い顔をしていたら、急に後ろから声をかけられた。翼さんが一番に反応して後ろを向いて、わたし達もいつ襲われてもいいように身構えながら振り向いた。

 そこに居たのは、武装した人間とかじゃなくて、一般人にしか見えない女の子。多分、わたしと同年代くらいの子だと思うけど。

 紫のパーカーを着崩して、内側にはシャツを着ているから多分学生だと思うんだけど、今って普通に学校ある時間だよね……? いや、そんな時間に出歩いているわたしも異常なんだろうけど……

 

「あのゆるキャラもどきだけはあたしでもどうにかできないから見ているしかなかったんだけど、倒してくれてありがとね?」

「あ、あぁ……それが私達の義務だからな……」

 

 女の子のマイペースな声に翼さんが毒気を抜かれたのか声に覇気がない。

 

「で、あなた達って何者? どうやってこの世界に来たの? さっきのコスプレは?」

「話してもいいのだけど……その前にあなたの素性が知りたいわ。素性の知らない相手においそれと話せる事じゃないのよ。あと、さっきのはコスプレじゃないわ」

 

 相手が聖遺物関係者とかなら話してもいいんだけど、生憎と相手がそうじゃないなら話すわけにはいかない。だから、そういう人なら先に素性を話してもらって、それからこっちの事情を全部話して協力を得ないと。

 じゃないと話が変にこじれる可能性だってあるから。相手に理解があると分かったうえで色々と聞かないと。

 

「あたし? えー、なんであたしからー? ……まっ、いいけど」

 

 女の子はちょっと不機嫌そうになったけど、すぐに表情を元に戻した。

 何と言うか……感情の起伏が激しいのかな? いや、面の皮が厚いとも……? どうなんだろう。よくわかんないや。

 

「あたしは新条アカネ。この世界の神様やってるんだ~」

 

 ……か、神様?

 ……えっと、精神病院ってどっちにあったかな?

 

「まぁ、あなた達はこの世界の味方みたいだし、ついて来て。そっちも何も分かってないみたいだし、人目の付かないトコで説明するよ。あたしもちょっと見つかると厄介な子がいるから……」

 

 ちょっと暗い感じの顔をしたアカネさんはそのまま背中を向けて歩き始めた。

 説明する……って事は、この世界の事を色々と知っているのかな? それに敵意はないみたいだし。翼さんとマリアも毒気をすっかり抜かれたのか、両手を軽く広げて首を横に振った。お手上げ、よく分かんない、って事なんだと思う。

 わたしも同じ動作を返してから、とりあえずアカネさんについて行くことにした。今は闇雲に敵対者を増やすよりも事情を知った方がいいだろうし。

 そう思ってアカネさんの後ろを歩く事数十分。わたし達は普通の民家に案内された。横は……喫茶店、なのかな? でも家具とかも売ってる。後で見に行ってみようかな。

 そんな事を考えつつアカネさんに家の中に通され、そのまま適当なソファに座らされるとお茶を出された。あ、普通のお茶だ……

 

「ここなら誰にも話を聞かれないから大丈夫。それで、三人は一体どうやってここに来たの? それにさっきの怪物。あれもどうやって倒したの?」

「い、いや、それを話す前にまずそっちの素性をだな」

「だーかーらー、神様だって言ってんじゃん。この世界を作った神様。正確には、元だけどね」

 

 ……えっ?

 この世界を作った、神様……!?

 

「どうやってこのコンピュータの世界に入ったのかは分かんないけど、わざわざここに来たって事はそれを知った上で来てるんでしょ?」

「初耳なんですけど……えっ、コンピュータの世界? この世界を作った神様……?」

「……えっ、嘘。知らないの? マジで?」

 

 わたし達からしたらいきなり語られた真実に驚いたけど、アカネさんはこっちの無知っぷりに驚いている様子。

 いや、でも、えっ? この世界がコンピュータの世界? コンピュータの世界なんて精々0と1で構成されている程度しか分かんないし、それならこの世界の住人って一体……

 

「うーん……調子狂うなぁ。とにかく、あたしはそういう存在。一旦リアルに戻ったんだけど、あの怪物が現れてこの世界を滅茶苦茶にしてるって知ったから一旦出戻りしてきただけ。街の被害もあの怪獣が明日までには直してくれるから心配しなくていいよ。明日まではちょーっと騒ぎになってるけど」

 

 で、そっちは? とアカネさんは若干不機嫌な感じで聞いてきた。

 なんだか胡散臭いし信じられない。そんな言葉を飲み込みながらどうしたものかと視線を合わせていると、我慢がちょっと限界に至ったのかアカネさんに家の中の一室を見せられた。

 そこに広がっていたのは、なんだかサイバーチックな世界。確かにSFっぽくてコンピュータ感がある世界で、次に外を見せられると、青空に紛れて同じような世界が天井には広がっていた。確かにこれを見せられると信じざるを得ない。

 わたし達は、ギャラルホルンのゲートでコンピュータの世界に来たという事を。

 ……ギャラルホルンって孤立した世界にゲートを繋げてたけど、まさかコンピュータの世界にも繋げられるなんて思わなかったよ。

 

「……こうなっては仕方あるまい。こちらの事情も話すとしよう」

 

 アカネさんが神様である証拠とかは見られなかったけど、それでもここがコンピュータの世界だという事は確かに理解できた。だから、翼さんとマリアは秘匿する事を諦めて、いつものテンプレを口にしてわたし達がどういう存在なのかをアカネさんに教えた。

 するとアカネさんはうっそー、とか最初は言っていたけど、ノイズの説明とかカルマノイズの説明、それから装者の事を聞いて口を閉じた。どうやら納得してくれたみたい。

 

「装者とノイズとカルマノイズって……アニメかなにか? っていうかそんな方法でこの世界に来れるなんて……」

「そのセリフ、そのままお返しするわ」

 

 全く持ってその通り。

 アカネさんとこっちで互いに渋い顔を作って数分。互いに嘘を言っていないのは分かるんだけどどこか信じられない。そんな感じの間。

 でも結局。

 

「実際見ちゃったし、信じるしかないよねー……」

 

 と、アカネさんが納得してくれたことでこっちもなし崩し的に納得する事に。

 ここで口論していても始まらないからね。

 

「とりあえずそっちは今回の件の解決方法、知ってるんでしょ?」

「一応は、な」

「なら物理系はよろしくね。あたしにはもう、この街の人達の記憶と、街そのものをリセットするくらいしか力は無いから。最も、それも壊れた借り物を何とか使えるようにした程度、だけどね」

 

 一応、わたし達が戦う見返りにアカネさんはこの家の一室を貸してくれて、あと食事とかも用意してくれるみたいだけど、どうにもアカネさんのペースが掴めないというか、何と言うか。

 あと、お隣さんと、赤髪の子と、眼鏡かけた子にはなるべく会っても話しかけないように、会ったとしてもアカネさんの事は言わないようにって釘を刺された。どうしてなのかは分かんないけど、無理に火種を作る必要もないから、とりあえず頷いておいた。

 

 

****

 

 

 このコンピュータの世界に来てから、二日ほどが経過した。

 その間に倒したカルマノイズの数は、なんと六体。明らかにカルマノイズの量が多すぎる。だからわたしは一旦SONGに戻ってからいつでも奏さんとセレナを含めた装者全員を呼び出せるようにだけしてから、今日もまた戦った。

 アカネさんの言う通り、一日経てば街の人達から記憶は消えて、建物も同様に元に戻った。だけど、根本の問題を解決していないから、カルマノイズはこれからも出続ける。

 あの世界蛇とは別にカルマノイズを生み出している要因が存在するのか、それとも世界蛇が現れる兆候なのか。翼さんとマリアがソレの調査のために街中を歩きまわって、わたしはアカネさんからもっと情報を聞き出すために一旦拠点としているアカネさんの家に戻ってきた。

 戻ってきたんだけど……

 

「アカネ! 居るんでしょ、アカネ!」

「ちょ、落ち着けって。何度もインターホン鳴らしたのに出ないんだから、日を改めようぜ? 本当に留守にしてるだけかもしれないだろ?」

「そ、そうだよ……新条さんに迷惑だよ……」

「二人は黙ってて!」

『はい……』

 

 戻ってきたら赤髪の子と眼鏡をかけた子と、確かお隣の喫茶店兼家具屋さんの娘さんが居た。

 ……うわー、アカネさん、明らかにわたし達には言えない厄ネタ抱えてるじゃん。女の人は結構ご立腹と言うかなんというか……思いっきりドア叩いてるし。

 ちょっとアカネさんの部屋がある二階部分を見てみると、丁度下を見てどうしようと狼狽えていたアカネさんと目が合った。えっと……追い払って? そんな無茶な。

 

「ほら、六花! そこで人が見てるから!」

「え? うわっ、マジだ……」

 

 赤髪の子にどうやらわたしは既に気づかれていたみたい。三人の視線を受けてついついわたしは苦笑い。

 えっと……これ、どうしよう。

 逃げた方が……いいのかな? でもアカネさんが上から早く早くってジェスチャーしてるし……ど、どうしたら……

 

「……そういえばこの子、ちょっと前にあの怪獣の事について聞きまわってたような」

「えっ、内海、それホント?」

「いや、知り合いから聞いただけなんだけどさ。なんか見慣れない人が街の怪獣が見えないかって聞きまわってたって」

 

 あっ、これヤバい。

 ……っていうかこの人達、もしかしてあの怪獣の事が見えている? 確かあの怪獣はこの街を直して夜中の間に霧でここの住人の記憶を消すって役目があるだけで……それで、普通の人には見えない筈じゃ。

 もしかしてこの人達、アカネさんと結構親しい感じの人?

 いや、だとしてもアカネさんからどうにかしろって言われてるし、無視するわけには……

 

「ねぇ、ちょっといい?」

 

 女の子から話しかけられた……

 え、えっと……こういう時は!

 

「ご、ごめんなさい!」

 

 三十六計逃げるに如かず! 背中を向けて即逃走!!

 

「あっ、逃げた!」

「やっぱ事情通か! 追うぞ、裕太!」

「う、うん!」

「ちょっと待ってよ! 別に取って食おうってわけじゃないんだから!!」

「ごめんなさい無理です!」

 

 そこから繰り広げられるわたしVSアカネさんの友人らしき方々による逃走劇。

 あっち行ってこっち行って。できる限り迷わないように死ながら十分以上は走った。途中から後ろの方で速すぎ、とか体力多すぎ、とか文句が聞こえたけど、いつの間にか聞こえなくなっていた。

 まぁ、装者は体力勝負みたいな所もあるから、一般人に追いつかれるような真似はしないって事。とりあえず暫く辺りをうろちょろして完全に撒いたのを確認してから、わたしはアカネさんの家にようやく戻ってきた。疲れた。

 

「おかえり~。ごめんね、急に六花たちのこと、任せちゃって」

「別にいいですけど……」

 

 名前を知っているって事はやっぱりあの人たちはアカネさんの知り合い……もしくは友達だったみたい。

 でも、それならどうして会う事を拒否するんだろう。友達、それも態々家まで様子を見に来てくれるような仲なら、そんな居留守とか使わなくてもいいと思うんだけど。

 

「なんでそこまで会おうとしないんですか?」

 

 そんな思いを込めたわたしの問いに、アカネさんは言いづらそうに顔を逸らして、それから呟くようにその答えを口にした。

 

「……ここは、あたしが居ていい世界じゃないから。だからあたしは、神様の真似事して、ここを作って、壊したことに対する責任を取ろうとしてる、だけだから」

 

 呟いたアカネさんは、暗い顔をしていた。

 でも、どこか吹っ切れたような。それでいいんだと納得しているような表情で、わたしもそれ以上言及する事はできなかった。

 間違いなくアカネさんは何かをわたし達に隠している。わたし達にそれを追求して全てを知る権利も、それをするだけの恩知らずっぷりもないけど、暗い顔をしているのならどうにかしたい。

 だからわたしは、その日の夜。翼さんもマリアも寝付いた深夜にアカネさんが起きているのを確認してから、夜食の代わりに大量にストックされていたトマトジュースを飲みつつ、何も無い私室の窓際で黄昏るアカネさんの元へと向かった。

 アカネさんはわたしが部屋の中に入ってきたのを見て、視線をこっちに向けたけど、すぐにまた外を向いた。

 窓の外……空は変わらず緑で縁取りされた黒い空間のような物が埋め尽くしていて、ここが電子の世界だという事を嫌にも認識させられる。

 

「……なぁに? あんまり夜更かしすると、背が伸びないよ?」

「とっくに成長限界ですよ。もう十六歳なので」

「えっ? あっ……ご、ごめんね?」

 

 悪かったですね、ロリ体系で。

 というかアカネさんの中でわたしは一体何歳に見られていたんだろう。そこが気になるけど、それは飲み込んで。一緒に窓の外を眺めて暫く無言の時間を経てから、今度はわたしの方から口を開いた。

 

「アカネさん。一体何を隠しているんですか?」

「……ちょっと、自己嫌悪するような事」

 

 ひび割れた眼鏡を軽く押し上げて、アカネさんはどうしてか部屋の中を見渡した。

 綺麗な部屋。布団とタンスの、必要最低限しかない部屋にはクーラーすらついていない。そんなアカネさんの部屋はちょっと寂しいけど、まるで今のアカネさんの心情を表しているように見えた。

 

「……あたしはね、本当はここに逃げてきたんだ」

 

 アカネさんの声には、寂しさと、ちょっとした嬉しさが含まれているように聞こえた。

 

「で、逃げてきて、口車に自分から乗って好き勝手して、あたしはこの世界を作った神様だからここを好き勝手してもいいんだ、なんて思って。でも、それが間違いだって気付かされたんだ。それを教えてくれたのが、さっきここに来てた響くん達」

 

 響……

 あの人と同じ名前だからか、その人がアカネさんに色々とお節介を焼こうとしている場面がなんとなーく浮かんだ。多分、あの赤髪の子。

 

「でもね、ここはあたしが作っただけで、あたしが居るべき世界じゃないの。あたしの世界はリアルの方にしっかりとあって、ここは響くんや内海くん。それから、六花達の世界。三人と、お節介なヒーローにお説教されて、あたしはリアルに戻ったんだ」

「……じゃあ、あの三人に顔を見せたくないのは、また心配されないために。」

「いや、あんな別れ方したのにポンって戻ってきたらちょっと顔合わせづらいと言いますか……」

 

 おい。

 

「じょ、冗談だよ! 調が言ったことが殆ど正解だから!」

 

 ちょっと肩に手を乗せて思いっきり肉を掴んだらしっかりと本心を喋ってくれた。時には物理的解決も必要だって事を、わたしは響さんで学んでるから。

 いたたた、なんて大袈裟に言って肩を抑えるアカネさんに白い眼を向けつつ、わたしは外に立つ怪獣に目をやる。

 今も霧を吐いて街の人と、街をリセットしているあの怪獣。わたし達には効かないけど、それでも街の人にはしっかりと効いているのはわたしも知っている。

 

「……今、この世界はね。霧でこの街と他の街を区切ってるの」

「霧で……?」

 

 アカネさんが次に口にしたのは、この世界の現状。

 この電子の世界が今、どうなっているかの説明。

 

「少しでもあの怪物の被害を抑えるために、標的をこの街だけに絞ってるの。本当はそんな事したら六花達が危険だって分かってるけど、それでもこうしなきゃ世界中がパニックになっちゃうから。でも、あたしにはそれが限界。過去の遺物を引っ張ってきて、昔みたいに管理しても戦う力は無いの。だから、調達が来て、すっごく助かってる」

「アカネさん……」

「それに、六花達と会えない約束……実はもう一個だけあるの。だからこの事件、六花達が全部知っちゃう前に解決して、元の世界に戻りたい。あたしはここで見てる事しかできないけどね」

 

 アカネさんの言葉にわたしは何も言い返せず。

 そのまま二人で空を眺めて自然解散となるまで、わたし達はずっと無言のままだった。

 でも、一つ決めた事はある。

 この世界は電子の世界だけど、アカネさんの事を心配する大事な友達と、そんな友達を心配するアカネさんのためにわたし達は戦わないといけないって事。例え世界蛇が現れても、友達思いなアカネさんに悲しい涙だけは流させてはいけないって事。

 ――どこからか、罅割れるような音が聞こえたのは、多分気のせい。そう、気のせい。

 

 

****

 

 

 翌日もわたし達がやる事は変わらなかった。

 

「調! そっちに飛行型ノイズが!」

「大丈夫!」

「マリア! カルマノイズに仕掛ける! 合わせてくれ!」

「任せなさい、翼!」

「道はわたしが切り開く!」

 

 現れたカルマノイズに対してわたし達が戦い、そして勝つ。アカネさんが街中にドローンを飛ばしてわたし達はそれでノイズの出現を知ったらすぐさま戦いに向かう。

 そんな風に戦って、今日もわたし達はノイズ集団とカルマノイズを何とか倒し終えた。

 

「今日もカルマノイズか……少し嫌な予感がするな……」

「そうですね。こうも多いと……」

「待ちなさい二人とも! まだ勝負は終わってないわ!」

 

 戦いも終わったからギアを解除しようと思ったその矢先、だった。マリアの声に半分反射的に体を動かすと、視線の先にはもう何度も見た瘴気が集まってきて、そのままさっきとは別のカルマノイズが出現した。

 

「また現れた、だと!?」

 

 翼さんとわたしが構えるのとほぼ同時だった。再び瘴気が集まって二体目のカルマノイズが出現した。

 しかも、その駄目押しと言わんばかりにもう一体のカルマノイズまでもが現れた。こっちは三人しか居ないのに、三体ものカルマノイズ……! これはちょっと厳しい……!

 ――そう思った、直後だった。何かが罅割れるような音が聞こえたのは。

 ――その音は徐々に大きさと、激しさを増して。最悪の予感と共に空を見上げると、そこには罅割れていく青い空と、その隙間から見える赤色の空間。そして、紫色の体と黄色の瞳。

 ――世界蛇。それが、現れてしまった。

 

「世界蛇……だと!!?」

「次はこの世界が標的って訳……!!」

 

 あれが現れたって事は、間違いなくこの世界はあの世界の破壊者に狙われたという事。

 しかもこの場には装者が三人だけ。いくらなんでも手数が少なすぎる。

 

「翼! すぐにみんなを呼んできなさい!」

「だが、お前達二人だけでは!」

「時間なら稼ぎます! だから、できるだけ早く!」

 

 だからこそ、この場で求められるのは何よりも戦力。

 マリアとわたしで時間稼ぎをして、翼さんが響さん達を呼びに行く。そうでもしないと、世界蛇まで現れたこの戦場は確実にわたし達の敗北で終わる。

 翼さんは顔を顰めて一言だけ謝ると、ギャラルホルンのゲートへと向かって走り始めた。その直後にギアにアカネさんからの通信が届いた。

 

『し、調だよね!? あの蛇なに!? 新しい怪獣!?』

「ちょっと今までよりもヤバい敵ですけど……なんか、アカネさん、楽しそうですよね?」

『えっ!? い、いやいや! あれ、なんかナースに似てるよねー、とか思って怪獣好きの本能が擽られたわけじゃないよ!? ホントだよ!?』

 

 ……怪しい。マリアも何とも言えない顔してるし。

 

「とにかく、アレが今回の元凶です。この世界を食らおうとしている、平行世界の破壊者。世界蛇」

「アカネ、絶対に家から出ないで。世界蛇は私達でも勝てるか、分からない」

『えっ? 勝てるか分かんないって……』

「今、わたし達の仲間を呼んでいます。絶対にこの世界を破壊させはしません。だから、アカネさんは信じて待っててください」

 

 それだけ言って、通信を切る。

 絶対に、負けられない。あんな食欲だけで世界を壊すような存在に、負けたりはしない……!!

 

 

****

 

 

 空に、怪獣が現れた。

 だからあたしは、あたしが作ったんじゃない天然の怪獣にちょっと浮かれちゃったけど……すぐにあの怪獣はあたしの好きなウルトラ怪獣とかなんかよりも、もっと邪悪で、そして気持ち悪い物だってものを見せつけられた。

 黒い霧みたいなので壊される世界。それに吹き飛ばされる調達。調の仲間が現れたけど、あの蛇は多勢に無勢って言葉なんて知らないように調たちを蹂躙している。

 それをあたしは見ているだけ。ドローンで遠目から。

 あたしには何となく分かった。何度も敗戦したからこそ、感覚で分かっちゃった。

 調達じゃ、アレには勝てない。決定的に、戦力が足りていない。火力も、防御も、何もかもが。

 既に調たちは肩で息をしながら、それでもこの世界を守るために戦っている。あたしが守らなきゃって思っていた世界を、必死に守ろうとして。

 あたしは、何もできてない。できたのは、この街を隔離して被害を最低限に抑えようっていう魂胆と、せめて死んでしまった人を忘れられるような優しい嘘を塗りこむ霧を生み出すだけ。それ以外、何もできていない。

 ――ウルトラマンが欲しい。

 あたしが今まで見てきたウルトラシリーズの主題歌に、そんな歌詞があったのを何となく覚えている。あたしの目的はあくまでも怪獣で、ウルトラマンには興味が無かったけど。でも、今ならその言葉の意味が何となく分かる気がする。

 この場にウルトラマンが居れば。この場に、光の戦士が居れば。

 この場に、グリッドマンが居れば。

 気が付けばあたしの足は動いていて、六花の家へと向かっていた。店の中に入れば、そこにはジャンクを前に歯噛みしているグリッドマン同盟の三人が。

 

「えっ? あ、アカネ!?」

「新条さん!?」

「お、おまっ、どうしてここに!?」

 

 三人は思い思いに驚いている。 

 そりゃそうだ。だって、今までいるとは確信していたけど姿を頑なに見せなかったあたしが、自ら現れたのだから。

 でも、あたしが聞きたいのはそんな声じゃない。

 

「グリッドマンは!?」

 

 グリッドマン。

 彼なら。この世界と、敵であるあたしまで助けてくれたあのヒーローなら、きっと調たちを救って、この世界を救ってくれる。

 そんな確信があるからこそ、あたしはここに来た。

 

「いや、その前に! 新条アカネ! 外のアレはなんだよ! またお前が何か――」

「いいから! グリッドマンはどこ!?」

 

 内海くんのあたしを疑う声は、最も。

 怪獣と言ったらあたしで、あたしと言ったら怪獣。だから、あれもあたしが生み出した怪獣なんだと思っている。それは仕方ないと思う。

 けど、今内海くんに構っている余裕はない。響くんに半ば掴みかかるように迫って、グリッドマンの事を聞く。

 そこまでしても響くんは困ったような表情を浮かべるだけ。ジャンクPCには何も映っていなくて、六花も、内海くんも、あたしの声を聞いて、あたしがグリッドマンを倒すためにグリッドマンを探しているという考えはすぐに省いてくれたけど、肝心のグリッドマンは。

 

「居ないよ。この前、変な怪物が現れた時も、あの街を直す怪獣が出てきた時も。グリッドマンは来ていない」

 

 六花の声に感じたのは、絶望じゃなかった。

 やっぱり。そんな言葉。

 ここまで騒ぎになって、怪獣も出ているのにグリッドマンは出てこない。その理由は、この世界にグリッドマンは居ないから。

 

「で、アカネ。どうしてここに居るのかは今は聞かないけど……あれは? あの怪獣は、なんなの?」

 

 唇を噛んで、ヒーローなんてやっぱり……と思っていると、六花が世界蛇について聞いてきた。

 あたしだって世界蛇の事はあまり分からない。さっき、調が漏らしていた言葉だけ。でも、一応情報は共有しようと、口を開いた。

 

「世界蛇……平行世界を食べる怪獣だって!?」

「しかもそれと戦っている人たちがいるって……まさか、この間新条さんの家の前に居たあの子が!?」

「あの子と、その仲間が数人。でも、全然歯が立っていない。だからグリッドマンに、この世界を、あたしの新しい友達を助けてって……」

 

 徐々に空は紫に染まっていって、世界蛇の腹らしきものが空を覆いつくしている。

 世界の終わり。それを表すにはこれ以上ない程の光景。それに六花達もあたしの言っていることが冗談でも何でもないって十全に信じてくれた。

 でも、信じてくれたところで、グリッドマンは。

 

「こんなんどうしろって言うんだよ……グリッドマンは居ないってのに……!!」

 

 内海くんの言葉は最も。

 調達も絶対に勝つって言ってたけど、あんなの人間にはどうしようもないよ。あんな、怪獣なんて枠には入らないような、悍ましい化け物相手なんて――

 

『――太! ――う太! 裕太!!』

 

 その時、声が聞こえた。

 

 

****

 

 

「ぐっ……! こんな、ところで……!」

 

 世界蛇の攻撃に響さんまでもが倒れた。

 もう、装者は誰一人として立てていない。辛うじて生きているけど、それでももう戦う力が残っていない。

 翼さんも、クリス先輩も、マリアも、切ちゃんも。平行世界から来てくれた奏さんとセレナまで、既に地に伏せている。わたしも立ち上がろうとするけど、膝を付いた状態から体を持ち上げる事はできない。

 既に世界蛇はその本体を現しかけている。そして、既にこの世界の全部を食らおうとして、渦のような物を生み出して電子の世界の人々を、そしてこの世界を食らい始めている。更にはこの街を直す役割を持っている怪獣も。この街を隔離していた霧も、いとも簡単に世界蛇に壊れされた。

 何とかしないと。アレを倒して、この世界を守らないといけないのに。それでも、立ち上がる事ができない。

 

「だめ……! まだ、戦わないと、いけないのに……!!」

 

 でも、体は動かない。

 わたし達を睨む世界蛇の末端が、口を開いた。その中に集まってくる瘴気。

 逃げるか、防御しないと。そう思っても体は動いてくれない。マリアとセレナの防御も、もう適わない。

 既にこの世界はテクスチャのような物をはがされて、内側にある空の世界と同じような輪郭が見え始めている。人々も、食われ始めている。そして、わたし達も殺される。

 でも、諦めたくない。

 こんな所で、終わりたくない。

 アカネさんに約束したから。この世界を守るって、約束したから……! だから……!

 奮起しても、体は動かない。それどころか前のめりに倒れて、それ以上動いてくれない。そして、瘴気は完全に溜り切ってしまう。

 

「こんなのに……! こんな、好き勝手に世界を滅ぼすような奴に……!」

 

 瘴気は、無情にも放たれた。

 わたしを含めた、倒れた装者達は倒れた状態でも、何とか瘴気を相殺しようと攻撃を放つけど、その全てが弾かれた。

 

 ――アクセス、フラッシュッ!!――

 

 暴力とも呼べる破壊の力を持った瘴気は、そのままわたし達の視界を覆いつくして――

 

「グリッドォォォォォォォ……!! ビィィィィィィィィィムッ!!」

「グリッドナイトォォォォォォォ……!! サーキュラァァァァァァァァッ!!」

 

 ――直後、後ろから風を切って飛んできた金色の光と紫色の光輪が、そのまま瘴気と世界蛇を覆いつくし、世界蛇を瘴気ごと消し飛ばした――

 い、今のは……!?

 

「遅れてすまない! 我が友、シンフォギア装者達よ!」

「この世界なら、俺達は実体化できる! 後は任せろ!!」

 

 振り向けば、そこには巨人が居た。

 赤青白の巨人と、紫と赤の巨人。あの姿は、確か響さん達のデータで見せてもらった、異世界の正義のヒーローたち……!  確か名前は……

 

「グリッドマン!!?」

「グリッドナイト! 来てくれたのか!!」

 

 グリッドマン。そして、グリッドナイト。

 ちょっと前に響さん達が向かった平行世界で響さんと翼さんに力を貸してくれた正義のヒーローたち。五十メートルはありそうな全長を持つその二人の巨人がそこには立っていた。

 直後に、アカネさんから通信が入った。

 

『調! 大丈夫!? 生きてるよね!?』

「な、何とか……満身創痍ですけど……」

『よかった……もう大丈夫だから! グリッドマン達が来てくれたから!』

 

 アカネさんはグリッドマンを知っている……? いったいなんで……

 いや、そんなのは関係ない。今は立ち上がらないと……!!

 

「グリッドマン、来てくれたんだ……!」

「すまない、響。この異常を察知するのが遅れてしまった。だが、君とこうして共に戦える日がまた来たことを、心から嬉しく思う」

「グリッドナイト、あなたも来てくれたのですね。感謝します」

「俺はグリッドマンを倒す者だ。だからこそ、グリッドマンと共に立ち、グリッドマンの敵を倒す。それ以上の理由はない」

 

 グリッドマン達が世界蛇の末端を一つ潰してくれたから、わたし達も一旦立てるだけの時間を確保する事ができた。でも、全員が満身創痍で立っているだけでやっとの状態。これで世界蛇やカルマノイズと戦うなんて……

 

「皆ボロボロのようだな……今は君たちの傷を治そう。フィクサービーム!!」

 

 ふらつきながらも立ち上がったところでグリッドマンからビームがわたしに向かって放たれた。ちょっと身構えたけど、あの光は優しい光だったから、避けようなんて気にはならなかった。

 光に当たると、わたし達の体の傷や内側から来る痛みは一気に無くなっていって、物の数秒で傷は完全に無くなってしまった。

 すごい……これが正義のヒーローの力……

 そう思っていると、そこら中に現れている世界蛇の末端から瘴気が放たれて、わたし達の周りにカルマノイズが大量に出現した。

 

「シンフォギア装者達よ! あの怪獣の相手は私達がしよう! 君達はその小さな怪獣を倒してくれ!」

「でも、グリッドマンとグリッドナイトだけで世界蛇の相手なんて……!」

「大丈夫だ。私には心強い仲間が居るからな。来てくれ! キャリバー、マックス、ボラー、ヴィッター!!」

 

 グリッドマンの声に応えたのか、空に青色の紋章のようなものが現れて、そこから巨大な剣と、トラック、ドリル装甲車、戦闘機の四つが姿を現した。

 あれは一体……?

 

「新世紀中学生も来てたのか!」

 

 クリス先輩が声を上げた。

 えっ、新世紀中学生……? あれ中学生が乗ってるんですか……?

 

「いや、それには色々とあるのよ、色々と……」

 

 マリアの何とも言えない表情にとりあえずそれで納得しておく。

 空から現れた四つの武器や乗り物は空に居る世界蛇たちに攻撃を仕掛けながらわたし達の周りに集まってきた。

 

『ったく、あんな奴らに負けるなんざ情けねぇぞ!』

 

 って喋った!?

 しかもなんか響さんの声に似てる!?

 

「ボラーちゃん! いや、あれ結構強いんだよ! だから油断しないで!」

『ま、任せておけ。巨大な相手は、俺達の得意分野だ』

「すみません、キャリバーさん。世界蛇の方はお願いします」

『お前達はこの小さな敵を頼んだ。私達ではいささか小さすぎるのでな』

「任せておきな! 終わったらファミレス奢ってやるからよ!」

『そんじゃま、一つお仕事といきますか』

「終わったらこの間言った通り、カフェにでも行きましょうか!」

 

 どうやら新世紀中学生という方々は響さん達と結構仲がいいらしくて、軽口をたたき合っていた。

 そしてグリッドマンが空へと跳躍すると同時に、新世紀中学生の四人……四機? どうなんだろう。とにかく、四人はグリッドマンと共に空へと飛びあがり、空中でそれぞれのパーツに分裂した。

 も、もしかして合体するの!?

 

「今こそ我らの力、合わせる時!」

『応ッ!!』

 

 グリッドマンの声に合わせて新世紀中学生のパーツがグリッドマンの体に合体していく。そして完全に合体が完了するとグリッドマンの全長はかなり大きくなって、同時にヒーロー感というよりはロボット感が強くて。でも、それ以上に力強さを感じる姿になっていた。

 

『超合体超人ッ! フルパワーグリッドマンッ!!』

 

 フルパワーグリッドマン……! すっごくカッコいい……!

 だけど、合体はそれだけじゃ終わらなかった。

 

「グリッドナイト!」

『俺を使え!』

「あぁ! グリッドナイトッ! キャリバーッ!!」

 

 フルパワーグリッドマンの持っていた金色の剣がグリッドナイトへと投げ渡されて、グリッドナイトの手に収まると金色の刀身は紅に染まって、グリッドナイトのカラーになった。なんかグリッドナイトも忍者っぽい感じがしてカッコいい……!! 

 間違いなくグリッドマン達は全力。そしてわたし達の体力も全快! これなら世界蛇だって倒せるかもしれない。そう思った時、更に奇跡は起こった。

 

『~♪ ~♪』

「えっ? なに? 急に音楽が……」

 

 急に世界に音楽が、響き渡った。

 ふと近くの建物の屋上を見上げると、そこに女の子と怪獣が居たような気がしたけど、瞬きをすると消えていた。でも、音楽は聞こえる。

 力強くて、わたし達を応援するような。そんな、ピアノの音が。

 もしかして、この音を……フォニックゲインを使えば!!

 

「響さん! S2CAを!」

「うん! みんな、手を繋ごう!!」

 

 わたしの声に響さんは反応し、そして響さんの声にみんなが答えて手を繋ぎ、絶唱。

 絶唱のエネルギーを響さんに渡し、マリアがこの世界に溢れるフォニックゲインを再配列して響さんへと手渡し、そして響さんがそれを束ねる。

 

「S2CA! ジェネレイトエクスドライブッ!! いっけぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

 響さんが絶唱のエネルギーを解放すると同時にわたし達のギアのロックが限定的に全て解除されて、エクスドライブへと変化する。

 八人でグリッドマンとグリッドナイトの顔の横に並び、そして空を見上げる。

 

「それが君達の全力か。心強い!」

「うん、グリッドマン!」

「響さん、カルマノイズ程度ならエクスドライブ五人でも十分に相手になるデス! だから、響さん達はグリッドマン達と一緒に世界蛇を!」

「分かった!」

 

 グリッドマン達と世界蛇と戦うのは響さん、翼さん、クリス先輩、マリアの四人。そしてカルマノイズを掃討をしてから合流するのがわたし、切ちゃん、未来さん、奏さん、セレナの五人。前はエクスドライブ八人とアイギスを使う未来さんの九人でも勝てなかったけど、今回はグリッドマンとグリッドナイト、それから新世紀中学生達が居る!

 負ける道理なんて、一切ない!!

 

「行こう、切ちゃん! この街のカルマノイズを一気に倒して、グリッドマン達の援護を!」

「合点デス! エクスドライブになった以上、怖いものなしデス!!」

 

 エクスドライブならカルマノイズなんてただのノイズ同然。街中を一気に駆け巡ってカルマノイズとノイズを一気に切り裂いていく。未来さんも空からビームを撃って一気にノイズたちを消し飛ばしているし、奏さんとセレナも協力してノイズたちを殲滅していっている。

 そして、グリッドマンと響さん達も。

 

『世界の前にこいつを食らいやがれ!! ツインドリルブレイクッ!!』

「数が多い程度! グリッドナイトォォォォォォ……ッ!! ストォォォォォォォォムッ!!」

「ブレストッ! スパァァァァァァァァァァクッ!!」

「二人に負けてられない! 我流・超特大撃槍ッ!! こいつでぇぇぇぇぇぇ!!」

「グリッドマン達と立花に続くぞ、雪音、マリア!!」

「任せなっ! 後方支援はお手の物ってな!!」

「世界蛇だろうと、この戦力なら!!」

 

 グリッドマンとグリッドナイトは必殺技を盛大に放って世界蛇の末端を一網打尽にしている。それに負けじと響さん達もコンビネーションとグリッドマン達からのアシストを受けながらで一体ずつ確実に世界蛇の末端を倒していっている。

 そしてわたし達もエクスドライブの機動力に物を言わせて一気にカルマノイズとノイズを駆逐する。その最中にアカネさんの家の前にも飛んできて、集っていたノイズたちを一気に殲滅した。

 

「調!」

 

 そしてまた他の場所に向かってノイズを、と思った時、お隣の喫茶店の中からアカネさんが出てきた。

 

「アカネさん!? どうしてここに……いや、危険なので避難しててください!」

「大丈夫、調があの怪物を倒してくれたから!」

 

 どうやらさっきまで結構なピンチだったらしく、アカネさんの額には少しばかり冷や汗が浮かんでいた。

 そしてアカネさんが出てきてからちょっとして喫茶店の中からアカネさんのお友達の二人が出てきた。赤髪の子がいないから……えっと、六花さんと内海さん、だっけ?

 

「うおっ、特撮ヒーローと怪獣の次は魔法少女って……」

「しかも飛んでるし……」

「ま、魔法少女……?」

 

 いや、魔法少女じゃないんだけど……

 ……でも一般人から見るとあんまり変わらない、のかな? こんな電鋸持ってる魔法少女なんていないと思いたいけど。あっ、でもこの間チェーンソーとかトゲ付きバットを持った魔法少女を見たような気が……

 って、そんな事どうでもいいから。

 

「調、頑張って! こんなに勝ちフラグ建ってる中で負けちゃだめだよ!」

「はい! アカネさんも、余波に巻き込まれないようにしてください!」

「と、とりあえず頑張れ魔法少女! 応援してるからな!」

「色々と聞きたい事あるけど、今は頑張って!」

「任せてください!」

 

 アカネさんからの声援と、六花さんと内海さんからの応援も貰ってわたしはもう一度空へと駆け上る。

 空の方ではフルパワーグリッドマンが世界蛇の末端を相手に大立ち回りをしていて、グリッドナイトも飛びあがって建物を足場にしては世界蛇の末端を一気に斬り裂いて撃破している。そして、響さん達もフルパワーグリッドマンと一緒に空で世界蛇の末端と戦っている。

 そしてカルマノイズとノイズの掃討も何とか終わったわたし達が合流して、空で戦っている響さん達とフルパワーグリッドマンの元へと合流する。

 

「響さん!」

「調ちゃん! 下の方はもう大丈夫なの!?」

「なんとか!」

 

 前はここまで空に上がる事なんて、世界蛇の攻撃が激しすぎてできなかったけど、世界蛇の攻撃の事如くをフルパワーグリッドマンが防御して無効化しているから攻撃がほぼこっちに来ない。しかも下からグリッドナイトも攻撃してくれているから世界蛇の末端が何もできずに斬り裂かれている事も。

 けれど、埒が明かない。いくらグリッドマン達が圧倒的な戦闘力を持っているからと言っても物量が多すぎる。グリッドマンもそれを察したのか周りの世界蛇の末端を一気に蹴散らしてから一度地に足を付けてグリッドナイトと並び、わたし達もそれに続いた。

 

「一気にやるぞ、グリッドナイト!」

「任せろ、グリッドマン!」

 

 二人が声をかけあって、そして構えた。

 

『ツインバスタァァァァァァァァッ!!』

「グリッドォォォォォォォォォォ……ッ!!」

「ナイトキャリバァァァァァァァァ……ッ!!」

 

 フルパワーグリッドマンと、グリッドナイトの武器に凄いエネルギーが集まってくる。これ、S2CAなんか目じゃないほどのエネルギーなんじゃ……!?

 

「ビィィィィィィィィィィィィムッ!!」

「エンドォォォォォォォォォォォォッ!!」

 

 フルパワーグリッドマンのツインバスターグリッドビームと、グリッドナイトのナイトキャリバ―エンドが同時に空に向かって放たれた。それが世界蛇の本体であろう腹に直接ヒットして爆発。その爆発が一気に連鎖していって姿を見せていた世界蛇の末端が一気に消滅していった。

 そして見えるのは、先ほどの攻撃のダメージが効いたのか悶えている世界蛇本体の物であろう腹のみ。

 あれさえ倒してしまえば!!

 

「グリッドマン! あれが本体だよ!」

「まだ顕現しきってはないみたいだな……! 今なら、攻撃を与えれば引かせる事ができるかもしれん!」

「ならば全力を叩き込む! グリッドナイト、もう一度やれるな!」

「当然だ、グリッドマン!」

 

 グリッドナイトがフルパワーグリッドマンにキャリバーを返して、キャリバーが再び金色に。

 そして二人には再びとてつもないエネルギーが集まってきた。

 わたし達の攻撃はアレに届かないし、当たったとしてもダメージを与えられるかどうか分からない。なら、わたし達の力をグリッドマンに合わせたら。

 そんなわたしの思考はみんなと一致したらしく、装者全員が近くのビルの屋上に降り立った。

 

「グリッドマン! わたし達の力も!」

「微力かもしれんが、使ってくれ!!」

 

 響さんと翼さんが同時に手を向けてエクスドライブの力をグリッドマン達に与えるに合わせて、わたし達も自分達の力をグリッドマン達に向ける。

 九つの力が集まってグリッドマンキャリバーとグリッドナイトの腕に先ほどのエネルギー以上のエネルギーが集まった。

 

「これは……! 感じるぞ、装者達の力を!」

「これならば、どんな敵だろうと!」

 

 フルパワーグリッドマンが剣を構え金色に輝き、そしてグリッドナイトも腕を掲げる。

 

『グリッドォォォォォォォ!! ハイパーフルパワァァァァァァァ!!』

「グリッドナイトォ! ハイパァァァァァァァァ!!」

 

 いっちゃえ! グリッドマン、グリッドナイト!!

 

『フィニィィィィィィィィィィィィッシュッ!!』

「サーキュラァァァァァァァァァァッ!!」

 

 グリッドマンが巨大な金色の刀身を得たグリッドマンキャリバーを振り抜き、そしてグリッドナイトも巨大な紫の光輪を放った。

 そしてそれらが世界蛇の体に当たり、爆発。更にグリッドマンはダメ押しと言わんばかりに縦に振り抜いたグリッドマンキャリバーを横に振って十字に世界蛇を斬り裂いた。

 

――GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!――

 

 世界がそれだけで壊れるかもしれない程の叫び声が聞こえた気がした。

 だけど、それだけ。グリッドマンとグリッドナイトと、そしてわたし達の力を合わせた全力の一撃は世界蛇本体に確実なダメージを与えたらしく、世界蛇の姿は薄れていって、そのまま紫色の空は青空を取り戻した。

 その光を受けて立つグリッドマンとグリッドナイトの姿は、正しく正義のヒーローという佇まいだった。

 

 

****

 

 

 世界蛇との戦いは、無事わたし達の勝利で終わった。

 それでも、世界蛇は完全に討伐できたわけではない。グリッドマン達の全力で退いただけ。でも確実に傷は与える事ができた。

 

「ありがとう、グリッドマン! 助けに来てくれて!」

「グリッドナイトも。改めて感謝します」

『私達は仲間だ。仲間のピンチとなれば助けるのは当然の事だ。寧ろ遅れてしまった事に詫びなければならない』

「そんな事! 寧ろベストタイミングだったよ!」

 

 響さんと翼さん、それからクリス先輩とマリアはグリッドマンとグリッドナイトが入っているらしいPCや新世紀中学生と話している。

 けどわたしはそれに混ざらず、アカネさんの元に。

 

「アカネさん。勝ちましたよ」

「……うん。ありがとね、調」

 

 この世界の被害は、グリッドマンのフィクサービームによって完全に元の形を取り戻した。そしてアカネさんの怪獣も同時に直って、明日にはこの世界で起こった世界蛇との戦いは無かった事になって、それを最後のお役目としてアカネさんもこの世界を去る。

 そしてわたし達も。世界蛇との戦いは済んだから、これ以上この世界に留まる事はあまり良くない。だから、すぐに帰らないといけない。

 それが分かっているから、アカネさんは寂し気な表情を浮かべている。けど、そんなアカネさんに近づく影が一人。

 

「アカネ」

「六花……」

 

 六花さんだった。

 戦いが終わってから自己紹介されたけど、本名は宝田六花さん。アカネさんの親友。

 

「……アカネは、この世界がピンチって知って来てくれたんだよね」

「うん……でも、あたしは何もできなくて……」

「したよ。アカネはあの怪獣を使って、街を直していた。アカネはしっかりと戦ったよ」

 

 うん。アカネさんのサポートが無かったら、わたし達はあそこまで大きく動けなかった。それに、装者の事が割れて変な所から狙われるかもしれなかった。

 それを無くしてくれたのは、アカネさん。アカネさんもしっかりと戦っていた。

 だから、何もしていないわけじゃない。

 

「ただ」

 

 六花さんはアカネさんを励ましてからすぐ、俯いているアカネさんの額を軽く小突いた。

 

「そういう時は私にも相談してよ。友達、でしょ?」

「六花……」

「そ、そりゃあ、あの時、アカネにあんなお願いをしたのは私だけど……でも、友達にまた会えて喜ばないような薄情者じゃないよ? 私は」

 

 アカネさんは六花さんの言葉を聞いて、色々と決壊したのかそのまま六花さんに抱き着いた。

 多分、アカネさんはわたし達が来る前から戦っていた。その緊張の糸とか、自分では戦えない事とかに不甲斐なさとか、感じちゃってたんだと思う。それに、六花さんに会えない事とか。

 だから、色々と決壊しちゃったとか、そんな感じ。

 

「そっちの……調、だっけ? ありがとね。アカネと一緒に戦ってくれて」

「いえ。わたしは装者としての義務を果たしただけですから」

「へぇ。まだちっちゃいのに凄いや」

「……一応十六です。こんな成りでも」

「えっ? あ、あはは。ごめんごめん」

 

 終いにゃ怒りますよ。

 まぁ、でもいいかな。二人ともまた友達として会えたみたいだし。その程度で怒ってたらキリ無いしね。

 

「ってアカネ。そんな泣かないの」

「だってぇ~……」

「全くもう。久しぶりに会えたんだし、遊びに行こ? もうすぐまた帰っちゃうんでしょ? ならこんな所で泣いてないでさ」

「うん……」

「調も、一緒に行く?」

「いいんですか? それじゃあ、お言葉に甘えますね」

 

 全部終わって平和になった事だし、コンピュータの世界で遊ぶのも悪くないよね。

 その後、わたしは泣き止んだアカネさんと、そんなアカネさんに苦笑する六花さんに並んで二人と一緒にそのまま遊びに行って、夕方になるまで遊びつくしたのでした。




という事で、アプリ版がグリッドマン達に焦点を当てていたのでこちらではグリッドマンのキャラクター……アカネちゃんのその後に焦点を当ててみました。

アカネちゃんがコンピュータワールドに来れてる理由とか、グリッドマンが何か等身大のまま合体してんだけどとか、なんで技がハイパー化してんねんとかあると思いますが……そこはこう、勢いだ! 特撮に深い理由を求めるな!!(ごめんなさい)

もう会えませんようにって願いと共に別れたからこそ、アカネちゃんは六花ちゃんに会わないように戦っていましたが、事件が解決して六花ちゃんと会ったからまた一緒に遊びに行って……な話が書きたかった。

そして今回の敵は初登場の世界蛇さん。読み方分かりません。
グリッドマンと戦うのだから相手は怪獣……でもアカネちゃんサイドの話だし、アレクシスは捕まってるし、カーンデジファー復活させんのも……せや、世界蛇ボコしたろ、的な軽い理由で世界蛇さんを出しました。

そしてグリッドマンとアクセスフラッシュしたのはアニメ通り響裕太です。最初は内海にしようかなとも思いましたが、そこら辺は原作通りに。グリッドマンも急いでたんや。

という事でグリッドマンコラボでした。多分これから先、グリッドマンのキャラは出ないんじゃないかなぁ……アカネちゃんが確実に出せないのが痛い。とりあえずネタが出てきたら今度はグリッドマン側に焦点を合わせた話を書くかもしれませんが、とりあえずこの作品のグリッドマンコラボはこんな感じ。

では次回、お会いしましょう。


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月読調の華麗なる逃走中

今回はネタ提供で受け取ったネタの一つ、アイドル時空の調ちゃんで逃走中をするというやつです。

調ちゃん視点じゃなくてテレビを見ている装者視点にしたらー、とかありましたが、普通に調ちゃん視点でやらせていただきました。流石にテレビを見ている視点だと他の出演者の視点がめんどくさくて……

という事でどうぞ!


 今日はとある番組の収録。

 最近、普通のアイドルとしての仕事が少なくなっている気がしないでもないけど、それも有名税と思って受け入れている今日この頃。でも、今まではお茶の間で見ている事しかできなかった番組に参加できるというのは凄い嬉しいし名誉な事だと思う。

 そんなわたしは今日、安全のために両肘両膝にプロテクターと手のひらを擦り剥かないための指空きグローブ、それからカメラの付いたヘルメットを装着して動きやすい格好で収録場所に立っている。

 隣に立つのは数十人の芸能人さんと、翼さんとマリア、それから最近はアイドルとして徐々に有名になってきてしまったクリス先輩。最近はラジオだけじゃなくて雑誌の写真撮影とか、真っ当なアイドルっぽい事をしている。

 本人曰く。

 

「なんかあの忍者に地盤固められてたっつーか……気が付いたら後戻りできなくなったっつーか……確実に年末のアレのせいでアイドルとして認知されたと言うか……」

 

 との事。

 まぁ、分かりますよ、その気持ち。でもクリス先輩が出るのって基本的にラジオの収録と、雑誌の撮影。それから枠があれば有名な番組にわたし、もしくは翼さんとセットって感じだから、お仕事の頻度は少なめ。

 ちなみに今回の番組はクリス先輩が出れるのなら出てみたいって要望を受けて緒川さんが枠を取ってくれたとか。

 そんなクリス先輩も出れるのなら出てみたいと思う程の番組。そしてわたしもちょっと気合を入れてバラドルと言われようがちょっとマジで挑む番組は。

 

「まさかアタシが逃走中に出れるなんてな……! ぜってぇ賞金確保してやる……!!」

「ハンターなんかに捕まってやらない……!」

 

 そう、逃走中。

 ハンターから制限時間内、逃げ切れる事ができれば六十万円近くの賞金が確保できるというあの番組。わたしは普通にお仕事としてオファーが来たから、そしてクリス先輩はお金が貰えるからという理由で参加。

 わたしが日本に来てからの短いスパンでもそこそこの回数開催されている逃走中だけど、その参加者の一員になれたのは素直に嬉しい。ハンターの俊敏性は確かに凄い物があるけど、緒川さん程じゃない。絶対に逃げきってみせる!!

 そんな風に覚悟を決めるわたし達の隣には結構リラックスした感じの翼さんとマリアが。どうやら二人はあんまり緊張していないらしい。

 そんなこんなしている間に収録はスタート。さぁ、振り切るよ……!

 と思っていたところで急に参加者の一人の、支給された携帯に着信が。び、ビックリしたぁ……

 

「えっと、読みますよ! これより逃走中を開始する! 六十秒後、三体のハンターが放出され、制限時間百分のゲームがスタートする!」

 

 うん、全部聞いていた通り。

 そして後ろでエアーが放出される音が響いて、振り向けばそこには檻の中に格納されたハンターが三人。よくスーツであんなに速く動けるなぁと思ったけど……緒川さんも動いているし、一定以上鍛えた人には服なんてどうでもいいんだろうなぁ。

 とりあえず、開幕は!

 

「逃げなきゃ!」

「こんなのと鬼ごっこしてられるか!」

「流石に百分は厳しいな……隠れるところを探さねば!」

「後ろを見ない! 全力疾走よ!!」

 

 前へ向かって全力疾走! とりあえずどこでもいい。隠れる場所を探さないと! 

 いくら鍛えているとは言っても百分間も全力疾走なんて無理だし、本家本元の人には適わないハズ。だからまずは適当な場所に向かって走る!

 

「うわあの子達はっやっ!?」

 

 後ろからそんな声が聞こえたけど気にしない! カメラマンさんが大変そうだけど勘弁してね!

 隠れる場所は……って、そうこうしている間にハンターが!? 一分って短い。

 一応、室外よりも室内の方がいいよね。遮蔽物が多いから最悪の場合はパルクールして逃げる事もできるし。この日のために緒川さんと風鳴司令、それから響さんとシミュレーターや学校、それ以外にも街中や山の中でパルクールの練習してきたからね。まぁ、前々からそれっぽい事はできてたから、途中から減量目的だったけど……

 にしても。

 

「雰囲気怖い……テレビで見るよりも緊張感が凄いよ……」

 

 室内の壁の曲がり角で待機しつつボヤく。

 出る前は余裕余裕とか思ってたけど、出てみると予想以上に雰囲気が……

 

 ――♪♪♪♪――

 

「わっ、着信!? いきなり何!?」

 

 とか言ってたら急に着信が!?

 一体何が……えっと、確保情報?

 

「マリア・カデンツァヴナ・イヴ、確保!? マ、マリアぁ!!?」

 

 あの歌姫なにやってんの!?

 とか思ってたらまた着信来たんだけど!? えっと、今度は……

 

「か、風鳴翼、確保!? あの馬鹿何してんの!?」

 

 あの防人も何してんの!? 仮にも装者でしょ!? まだ開始してから二分経ってないのに身内二人が脱落したんだけど!? 

 ……こ、これ大丈夫かなぁ。色々と。

 

 

****

 

 

 ふっ。私は歌姫、マリア・カデンツァヴナ・イヴよ? 所詮日本のバラエティ番組。ハンターなんて言っても素人の集まり。故に、装者であるこの私を捕まえるなんて不可能!

 

「余裕そうですね?」

 

 と、カメラマンが。

 そりゃそうよ。だって所詮はバラエティ番組だもの。この程度の些事……なんて言うわけもなく、ここはお茶を濁すために。

 

「普段から鍛えているもの。走り込みだってしているし問題はないわ」

 

 そう、装者としての厳しい特訓を経ている私に脱落の二文字なんてあり得ない! 

 でも、万が一という事もあるわ。室外で構えているのもいいけど、一応遮蔽物に身を隠しておきましょうか。本気になれば絶対に見つからない遮蔽物に身を隠して百分間、なんて事も余裕なのだけど、それをやると番組的にも面白くないわ。

 視聴者の事も考えて演じる。これも歌姫の厳しい所ね。

 とりあえずどこに身を隠そうかし……っ!

 

「見られたわ」

 

 とか思っていたらハンターとかち合ったわ。しかも真正面から見られたからには追ってくる。

 でも何も心配はいらないわ。私は全力疾走。ハンターに捕まるわけがない。

 どれ、ちょっと後ろを向いて悔しがるハンターの顔でも……!?

 

「ちょっ!? なんかクッソ速いんだけど!? こんなに速いものなの!!?」

 

 普通に追いつかれてる!? そんな馬鹿な! だって私はあんなに厳しい特訓を経て今ここに……あっ。

 ……そういえば、最近はステージばっかりで走り込みなんてしてなかったわね。全力疾走だって久しくしていなかったし、速力が訓練していた時期よりも落ちているのは当たり前。

 つまり。

 

「ちゃんと走っておけばよかったぁぁぁ!!」

 

 あぁ! 背中に! 背中にぃ!!

 

 

****

 

 

 常在戦場。例えバラエティだとしても私に一切の油断はない。

 マリアなんかは最近怠けていたからな。ハンターから逃げられなくてもおかしくはないが、私はしっかりと常日頃から鍛えているし走ってきた。特に走る速度に関しては立花のような規格外を除けば装者一だろう。

 捕まる気なぞない。前回の格付けのように情けない姿ばかりを晒す防人ではないと知れ。

 

「初参加の身ではあるが、賞金はしっかりと持ち帰らせてもらう。今度こそ月読と雪音には敗北の奢りではなく勝利の奢りをしてやりたいからな」

 

 あの格付けチェックの後、私には完全にギャグキャラのイメージが付いてしまった。

 格付けチェック全敗。それに加えて月読が投稿した奢りの一幕。そのせいで私は後輩に劣る戦績を叩き出した上に後輩に賭けで負けて焼き肉を奢った情けない先輩というイメージまで付いてしまった。これは断じて許されることではない!

 だからこそ、今日の逃走中で六十万の賞金を持ち帰り、月読と雪音に賞金で美味い飯を食わせる! そして私も敗北の味ではなく勝利の味を噛みしめる! 更に残った賞金はバイクのパーツとメンテナンスに!

 完璧だ。我ながら完璧な未来設計だ。

 これには月読も雪音も、そしてファンの皆も翼先輩きゃー素敵と……おっと。

 

「くっ、見られてしまったか!」

 

 見られないために狭い路地に入ったはいいが、まさか同じ道をハンターが辿ってくるとは! 我が不幸ながら嘆きたいものだ。

 だが、私の俊足、そう簡単には捕らえられぬと知れ!

 カメラマンよ、すまぬが置いていくぞ! これには私の先輩としての面目がかかっているのでな!

 

「私とて鍛えている! ハンターとてそう追いつけはせぬぞ!!」

 

 よし、引き剥がせている! これならば月読や雪音でも十分に撒ける程度だな。

 緒川さんに走るフォームから足運びまで、全てを監修された半忍者とも言える身だ。インストラクター程度には少し荷が重かったか。

 どれ、そこの曲がり角を曲がって完全に撒いて……

 

「あっ……」

 

 ……えっと。

 その。

 どうして曲がり角を曲がったら目の前にハンターが?

 目と目が合う~とでも歌えばいいか? 駄目? そう……

 

「ど、どうも……ちょっとそこを通らせてもらっても……」

 

 あっ、肩叩かれた。

 確保ですか、はい、そうですか。

 そうですか……

 ……ん? あのハンター、どこかで見たことがあるような。

 

 

****

 

 

 まぁ、アタシは分かってたよ。あの二人は絶対出オチするって。

 実はアタシ、センパイが逃げる一部始終は見ていた。だからハンターの速さをその目で見たが、あれなら十分に逃げられる。この日のためにあの馬鹿とオッサンとニンジャに頭下げてパルクールの指導と走る姿勢の矯正を頼んだ甲斐があったってもんだ。むしろあの馬鹿の全力の方が速かった。

 アタシはこの金を貰ってパパとママの仏壇をもうちょっと豪華にする予定なんだ。SONGからの初任給と、アタシがテレビに出て稼いだ金。この二つの金を使ってパパとママに、立派に装者と芸能人擬きを両立してるって伝えるためにな。

 だからっ!

 

「見つかったが、捕まってやるかよ!!」

 

 こんな所で脱落してやるかってんだ!

 この路地に行き止まりが無い事は知っている! だから数個路地を曲がったところで……あっ、この壁這い上がって裏へ行っちまえ! この裏もどうせ路地だ!

 よし、撒いた!

 流石に速かったな……

 

「へへっ、どんなもんだ……って言っても結構心臓バックバクだ。やっぱテレビで見るのと現物見るのじゃちげーわ……」

 

 失敗したら即アウトだからな。練習の時なんかよりも更に疲れやがる。

 カメラマンからはパルクール的な動きも面白い事になるからドンドンやってくれって許可得ているし、暫くはこの調子でカメラマンを気にする事なくパルクールだな。

 ただ、今はまだ近くにハンターが居る。しかもセンパイが捕まったから二体は確実に居る。あんまり外に出て姿を晒したら補足されてこっちの体力が持たないって可能性だって十分にあるからな。それに、この路地は細いからあんまりハンターと遭遇戦なんてしたくねぇ。

 もうちょっと経ったら室内に入ってアイツと合流でもしてみるか。逃走中っつったらミッションだからな。一人じゃできないって可能性も十分にあるし、アタシとアイツなら二人一緒でも十分に逃げられる。だからここは……

 

「きゃあああああああ!!?」

「こっちに何か居るぞー!!」

「逃げろぉ!!」

 

 とか思ったらミッション開始っぽいな。

 どれ、テレビ映えするためにちょっと顔見せておくか。えっと……

 

「うわっ、恐竜いんだけど。マジかぁ……アレに近づきたくはねぇなぁ……」

 

 作りモンだけどヤケにリアルだからあんま近づきたくねぇわあれ。普通にこえー。

 でも、ああいうのって参加者が直接近づくって事は無いから逃げるふりして距離を取りつつ室内に入るか。近くにハンターも居ねぇみたいだし、今が逃げ時だ。

 

――♪♪♪♪――

 

「って徐に着信音しやがった!? 頼むから静かにしてくれっての!」

 

 けど、これはミッション発生の証拠だよな。とりあえずメールは確認しねぇとな。どれどれ?

 

「三機のドローンが出現した。ドローンは逃走者を見つけるとハンターに位置情報を転送するだぁ? うっわマジかよ……流石にドローンに見つかったらダリィな……」

 

 逃げれるっちゃ逃げれるが、ドローンも追ってくるんならいつか確実に捕まっちまう。

 どこかドローンが入ってこれないような場所で隠れておくってのもありだが、どうやら手形認証をするとドローンは解除されるみたいだな。

 どこぞの馬鹿二人が既に消えちまってるが、これ大丈夫か? 一応ついて来てるスタッフにこれ一人で全部やっても大丈夫かだけ聞いておくか。

 

「あの、これって一人だけで三つクリアしても大丈夫なやつですか?」

「一人で三つの装置を止める事はできますよ」

「……よしっ。ちょっとアイツの先輩らしく、カッコいいトコ見せつけるとするか……!!」

 

 さてっと。いつもは前座なアタシ様だが、今日はカッコよくヒーロー見参するとすっか!

 

 

****

 

 

 馬鹿二人が捕まってから暫く経ってミッションが来た。

 ミッションは、今わたしの目の前を飛んでいるドローンを止めるための物。一応ドローンのカメラには写っていないけど、徐々にこっちに近づいて来てる。

 柱を影にしているから音でどっちから来るかを予測して隠れる事はできるけど……厳しいなぁ。っていうか、この建物の三階に見えるんだよねぇ。今わたしの目の前を飛んでいるドローンと同じ色をした認証装置が。何とかして抜け出してから上の階に上がらないと。

 ハンターは、居ない。ドローンが……行った! 今!

 

「おっしゃドローンあっち行きやがった……っておまっ!?」

 

 と思って柱の陰から飛び出したら、丁度建物に入ってきたクリス先輩とかち合った。ビックリしたけど足は止めずに階段を駆け上りながらクリス先輩と言葉を交わす。

 

「クリス先輩!? クリス先輩も動いてたんですか!?」

「そりゃアタシの危機でもあるからな! とりあえず二人で行って様子見するぞ!」

「はい!」

 

 階段を駆け上がって目的の装置がある部屋に。

 部屋に突入。そのまま少し先に入っていたわたしが認証装置に手を当てるけど、何も起こらない。

 あれ?

 

「おいよく見ろ! これ三人同時じゃないとダメなやつだ!」

 

 と言われて見てみたら、ホントだ。三人同時に認証しないと止まらないって書いてある。

 くっ、こういう時に青色と白色が残っていたら呼びつけて認証を手伝わせたのに! クリス先輩はそういう事か……って腰に手を当てて唸ってるし。

 とりあえず今はこの装置、どうにかしないと。あと一人用意して……って思ったら来た!?

 確かあの人は、男性アイドルユニットに所属している人! もしかして同じ建物の隠れてたのかな? でも好都合!

 

「えっ、もしかして終わった?」

「いや、これ三人じゃないと動かないんです!」

「丁度いい所に来てくれた! ここ、ここタッチで!」

「あ、うん!」

 

 タイミングいい事に来てくれたからホントに良かった。とりあえず三人タッチで無事クリア! 色と対応しているドローンが停止して落下していくのを見て一安心……したんだけど装置を止めてくれた人が走り出した。

 えっ、なんで? 別に止めたんだから走らなくても。

 

「見られちゃったから! 来ちゃうよ!」

 

 あ、そういう事!

 

「やっべ、逃げるぞ!」

「はい!」

 

 別にあの人を責める気は無い。だって捕まるかもしれないのに来てくれたって事なんだから寧ろ感謝するべき。

 二人して三階から二階の階段へと飛び降りて、そのままもう一度同じ要領で二階から一階へと飛び降りて着地。上であの人が目を見開いてこっちを見ているけどそんな事気にせず一目散に次の装置を探しに二人で走る。

 っていうか。

 

「クリス先輩もパルクールできたんですか!?」

「今日に備えて習った!」

「わたしと同じですね!」

 

 とりあえず走りながら次の装置を探していると、一人の芸能人の方が装置の前で立ち往生していた。あの人は確か、普通に芸人の人だった気がする。

 わたし達に気が付いてこっちこっち! って手を振ってるし、わたしがまごついている間に結構時間も経っちゃっていたから急いで装置を止めるために走る。

 

「うわ二人ともすっごい速いじゃん!」

「今日のために鍛えましたから!」

「よしこれで二つ目ぇ!」

 

 喋りながらも二つ目タッチ。一旦一息吐こうと思って後ろを振り向いた瞬間、そこには黒いタキシードが。

 やっば、ハンター!

 

「ってぇ!? 見られてた!?」

「散ッ!」

「はいッ!」

 

 驚いている所悪いんだけど、わたし達は目線で左右に分かれて走ることを合図してから同時に左右へと飛び出した。これが装者ならではの連携! で、走り始めたわけだけど、ハンターはわたしを追ってきた。でも、大丈夫! 何とか撒ける速さ!

 街中パルクールをしながらハンターを撒くために延々と走る。けど、気配がある程度遠くなった辺りで適当な障害物の影に滑り込んで乱れた息を整えていると、丁度ハンターがわたしの走った後を追ってきた。口を押えて乱れた息を隠している間にハンターはわたしを見失ったようでどこかへと歩いて行った。

 あっぶなー……

 暫く待っているとカメラマンさんが追い付いてわたしにカメラを向けてきた。

 

「逃げ切った上にミッションもやりました。いえーい」

 

 わたしはどこぞの情けない先輩達とは違うからね。できる女だから。

 でも、暫くはここで息を整えようかな……流石に三階から飛び降りて走ってパルクールしたから疲れたよ……

 大体五分くらいはそのまま何も無く、その間にドローンも他の方が何とか止めてくれたみたいで無事ミッション達成の報告が入った。

 よかった~……これで残り一個が止まってなかったら悔しいもん。

 で、まだ待っていると電話が鳴った。相手は……クリス先輩?

 

「はいもしもし」

『おっ。逃げれたみたいだな』

「まぁ、何とか。流石に疲れましたけど」

『ハンター、クッソ速いもんな。まぁ暫くは息整えておこうぜ』

「そうですね。ちょっと座り込んで回復してます……」

 

 どうやら逃げ切れたかの確認だけしたかったみたい。

 この位置は息と気配を殺せば多分ハンターだろうと見つけれられない……というかわたしが小さいからいい感じに隠れられているから見つからないけど、流石にここでずっと引き籠ってるのは面白くないから途中で動かないと。

 暫く待っていると携帯が何度も鳴って色んな人が確保されてった。あっ、響さんが好きな特撮の主演俳優の人も捕まっちゃった。番組終わったらわたしの分もサインを貰う約束してたけど、あまり凹んでないといいなぁ。

 

「……とにもかくにも逃げないと。賞金、持って帰るって約束したし」

 

 切ちゃんに今日は帰ったら高い肉ですき焼きパーティーだって伝えてあるし。

 絶対に生き残ってお肉を切ちゃんと食べるんだ……!!

 と思っていたらカメラマンさんから誰に? と聞かれたから答える事に。

 

「わたしが今住んでる部屋でルームシェアしてる子です。賞金を持って帰ったら一緒に高い肉と高い野菜ですき焼きしようって約束したんです」

 

 残ったお金はいいテレビを買ったり、いい家具を買ったり、一緒に遊ぶゲームとか本を買ったり。あと、切ちゃんがHDD内臓のブルーレイディスクレコーダーが欲しいって言ってたからそれも買わないと。

 あ、でもテレビの代わりにいい冷蔵庫を買ったり……!?

 

「って見つかった!?」

 

 嘘でしょ!? なんでここが見つかっ……?

 ん? ちょっと待ってあのハンター。見覚えあるんだけど。というかあの走り方であの異常な速力、完全にあの人だよね!? あの髪型、その気配の殺し方、完全にあの人だよね!?

 緒川さんだよねあのハンター!!? カメラに映らないようにニッコニコしているから流石に分かるよ!? 

 やばいこれは無理!! わたしの逃走中、ハード過ぎない!?

 

「やばいやばいやばい!!」

 

 通用するか分からないけど路地曲がって、そこの角曲がって、その壁乗り越えてからその段差飛び越えて、そのアクリル璧も乗り越えてからスライディングで身を隠す! ここまでやれば……!

 …………よし、来ない! 流石にこのパルクールに追いつくには忍者しないといけないから来れないよね。

 

「はぁ……はぁ……き、肝が冷えた……」

 

 でも、次緒川ハンターに会ったら逃げ切れるか分からない。

 とりあえず適当な場所で引き籠ろう……お外怖い……

 

 

****

 

 

 なんであの忍者ハンターやってんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?

 いや、逃げたけど! 逃げたけども!

 間違いねぇ。あの忍者、普通のハンターじゃアタシらが余裕で逃げるだけだから自分も参加してアタシらを捕まえに来やがった! ニッコニコして隠れてるはずのアタシに突撃してきたから流石に分かったわ! 肝も冷えたけどな!

 建物の中に引き籠ってるけど、次あの忍者と遭遇したら逃げられる気がしねぇ……なんだあの装者絶対殺すマン。

 

「ぜぇはぁ……ぜぇはぁ……あ? ミッション? 賞金が百円上がるけどハンター一人……やんねぇよ! リスクとリターンが合ってねぇんだよ!!」

 

 やってられっかンなミッション! アタシはここで引き籠る! 誰かが引き上げようと知った事か! あの忍者がそこら辺徘徊してる逃走中になんか出られるかってんだ!

 

「一応周囲のクリアだけはして……」

「忍者怖い忍者怖い……わっ!?」

「うおっ!? ってビックリした……お前か……」

 

 一応クリアリングだけしておこうと思ったら丁度アイツとかち合った。忍者怖い忍者怖いってうわ言のように呟いてたからコイツも忍者を見たんだろうな……まぁ、無事ならよかった。

 

「く、クリス先輩! 忍者が! 忍者が!」

「分かってる! アタシもわかっ……」

 

 ……わ、分かってる。

 分かってるから、な? 後ろ向け? そうだ、後ろを向くんだ。

 ほら、そこに居るだろ? アタシ等を確保するために遣わされたハンター型忍者が!!

 

『きゃあああああああああああ!!?』

 

 もうやだこの逃走中ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!

 

 

****

 

 

 忍者怖い忍者怖い……なんであの人わたしとクリス先輩が隠れている場所を的確に察知して襲ってくるの……残り五十分になったけど、二十分程度の間に三回はかち合ったよ……

 ニッコニコして追ってくるグラサンタキシードとかそれ恐怖映像でしかないよ……あの人、絶対にわたし達が逃げ惑う所を見て楽しんでるよ。あの人本当はドSだよ間違いない。

 でも、大丈夫。緒川さんはしっかり撒いた。それに体力も回復できたから、あと一回や二回は確実に逃げられる……ん?

 携帯が鳴った。さっき、結局賞金アップのミッションは誰もやらなかったから賞金もハンターも増えなかったって来たばかりなのに。誰か捕まったのかな?

 あ、違う。新たなミッション? もう……?

 えっと、ミッション内容は……

 

「選ばれた三人が図書館棟に存在する復活カードを持って行って牢獄に捕まった人を復活させることができる? なお、図書館内には恐竜とハンター二体が存在しているって……」

 

 かなり厳しい条件だよね、これ。リターンが無いリスクを冒してまで助けに行くかって……これで捕まってもリスクなしならまだしも、捕まったらゲームオーバー。やるにはかなり勇気がいるよ。

 で、選ばれた三人って言うのは……えっと、最初のミッションを一緒にやったアイドルの人と、今回参加しているプロアスリートの人。それから……

 

「月読調……って、わたし!?」

 

 なんでわたしが……いや、間違いない。確実にあの二人がわたしならって推した! わたしならこういうの断れないからって!

 うん、確かに断れないよ。頼りにされた以上は。

 それに忍者ハンター以外からなら逃げれる自信もあるし。それなら、行ってもいい……かな? 室内だからパルクールできずに苦しい戦いにはなるけど。

 ……よし、行こう!

 決めたからには全力ダッシュ! 図書館と牢獄は、確かあっち! ハンターは、目視した範囲内ではいない! よし、最速で最短に真っ直ぐに一直線に! 牢獄が見えた!

 

「おぉ、月読! 一番に来てくれたか!」

「調! 無理はしなくていいから頼んだわ!!」

「頑張れ調ちゃん!」

「応援してるよ!」

「うるさいそこのポンコツ歌姫! あと声援ありがとうございます! 行ってきます!」

『ポンコツ歌姫ってどういうことだ!!』

 

 事実でしょ!

 とりあえず走ってきた勢いのまま図書館にエントリー! 階段を駆け上がっていざ図書館に!

 上がって、復活カードは……左右には無い。なら、真正面の開いた空間! あそこに置いてあるはず! 恐竜がいるけど、恐竜を盾にしたらある程度は動き回れる。やれる。やれる気しかしない!

 真っ直ぐ行って突撃。そして発見、確保! やった! 後は帰るだ……は?

 え? ちょ、は?

 

「うっそでしょ!?」

 

 嘘だよねこの光景!?

 冗談って言ってよ!?

 タキシードとグラサン装備の風鳴司令(真顔)と響さん(真顔)が居るとか冗談だよねこれ!!? 外には忍者、ここには二種類の人類の最終防衛ラインとかどうなってんのこれ!? しかも見つかったし!

 やっばい逃げろ!! すっごい速いよこの二人ぃ!!

 とにかく走って走って、階段を半ば転げ落ちてそのまま外に出てゴールイン!! あっぶなっ!!? なにあのトラップ危なすぎでしょ!? 風鳴司令と響さん呼んでくるとか何考えてんの!? わたしとクリス先輩以外だったら絶対捕まってるよ!?

 

「えっ、うそ! もう帰ってきた!?」

「すっげぇ! しかも復活カード持ってる!」

 

 息を切らして膝に手を当てて呼吸を整えていると、牢獄からは歓声が。

 あ、そうだった。復活カード持ってきたんだった。あの二人のインパクト強すぎて忘れてたよ……

 

「やるじゃないか、月読!」

「流石よ、調!」

 

 んでもってあの二人はどっちかが復活できると確信してオーバーリアクションしてるし。

 とりあえずカメラに向かってやりました、とガッツポーズ。それからもう一度息を整えて改めて牢獄の前に立つ。翼さんとマリアはウッキウキだ。

 

「えっと、待ってください。復活カード渡すの、今二択で迷ってるんですよ」

 

 沸く牢獄内を見ながらわたしは復活カードを片手に考える。

 どっちにしようかな……迷うけど……

 決めた! ここは後からを考えて!

 

「翼さん!」

「あぁ!」

「の、横にいる俳優さんで!!」

「なぁっ!!?」

「えっ、俺? マジで!? いいの!?」

 

 わたしが復活カードを渡したのは翼さんの隣に立っていた、結構前に捕まった、特撮の主演をやっていた俳優さん。選んだ理由は、後でサイン貰いやすくなるだろうし、という理由と、特撮の主演をやっていたくらいだからきっと逃げ切ってくれるはずという理由。あと、共演するにあたってこの人の演じた特撮をちょっと見たんだけど、カッコ良かったから。普通にファンです。

 で、復活カードを渡して俳優さんを外に出すと、周りは拍手しているけど、翼さんとマリアはすっごい恨めしそうな目でこっち見てる。

 

「月読! どうして私じゃないんだ!」

「私か翼の二択じゃなかったの!?」

「誰もそんな事言ってないけど。わたしはそっちの歌手の人か、この人か迷ってただけで……」

「月読の人でなし! お前なら、お前なら私を復活させてくれると信じていたのだぞ!」

「クリスは絶対に私達を選ばないから調を選んだのに!!」

「だって絶対出オチするじゃん。二人とも」

 

 主に忍者ハンターの手によって。

 わたしの言葉の矢がぶっ刺さって二人がダウンした。哀れ。

 とりあえず復活した俳優さんにわたしは後でサインだけお願いします、とだけ伝えると笑顔でいいよ、と答えてくれたからわたしハッピー。でもあまり一緒に行動していると忍者が出てくるから二手に別れてわたしは避難。

 えっと、隠れる場所は……近くの建物の中でいいかな。確かこの中からだと牢獄が見えたはずだし。

 建物の中に入って牢獄の方を見ていると、残り二人の選ばれた人も入っていったけど、一人は中で捕まっちゃったみたい。でも、もう一人のアイドルの人は無事脱出したらしく、そのままわたしが悩んでいた方の歌手の人を復活させたみたい。あの人、あの二人相手に逃げたんだ……すごっ。

 とりあえずこれでミッション達成。疲れたー……と思って数分。復活した歌手の人は無事捕まっていた。

 まぁ、こればっかりは運だしね。仕方ないよ。わたしだって今、解放した人が捕まっても仕方ないで済ませるし。

 

「ふぅ……とにかく、今は潜伏しよう」

 

 忍者ハンターがここを嗅ぎつけなきゃいいけど……

 ……あっ、下から足音。さて、逃げよっと。

 

 

****

 

 

 残り二十分になった。

 逃げる自信はあったけど、実際にこんな時間まで逃げられるとは思ってなかったから正直びっくりしてる。けど、その中で残ったのはわたしとクリス先輩。それから他三人。五人も残っているって思えばいいのか、五人しか残っていないと思えばいいのか。

 自首は、勿論しない。そんな事したらわたしを鍛えてくれた三人に顔向けが……

 ……いや、あの三人がわたしの努力を水の泡にしようとしているんだから自首してもいいんじゃ。

 いや、しないしない。テレビを見ているであろうわたしのファンの人に顔向けできないし、子供が見たらこの人卑怯って指さすかもしれないから。絶対しないよ。自主はしない。

 

――♪♪♪♪――

 

 と思っていたら着信が来た。

 多分、時間的に最後のミッション。これをクリアしたら逃走成功までは秒読みレベル。成功させて撮れ高確保してから緒川さんから逃げきって賞金六十万円を確保する! 絶対に!

 で、ミッション内容は……

 

「エリア外にハンター十体が出現した。このハンターの侵入を阻止するには正門を阻止しなければならない。残り五分になるまでに正門を閉じろ……よし、やろう。流石にハンター十体は逃げきれない」

 

 それに、正門を閉めるだけ。ぴゅっと行ってすぐ閉じれば何も問題はない。

 よし、行く!

 後ろを振り向かない、全力疾走……って、今あの建物から出てきたのって。

 

「クリス先輩!? またですか!?」

「またお前か!? ブッキング率たけぇなおい!」

「ですね! クリス先輩もミッションですか!?」

「ったりめぇだ! とっとと行ってとっとと終わらせるぞ!」

「はい!」

 

 けど、全力疾走するとスタミナが持たないからちょっと小走りみたいな感じで走る。

 で、暫く走るとハンターの気配もなく正門にたどり着いた……けど。

 正門の前には大きなコンテナと、生肉が四つ置いてあった。で、その生肉の上には看板があって、肉で恐竜を誘導してコンテナに入れないと正門は閉じないって書いてある。

 まぁ、逃走中だもん。この程度のコトは予想してたよ。

 クリス先輩と目を合わせて頷いて、肉を一個ずつ手に取る。

 

「アタシはあっち行くからお前はあっちな!」

「クリス先輩、残り二十分ですから気を付けて!」

「お前もな! ヘマすんじゃねぇぞ!」

 

 正門の先の道は二手に分かれている。この道を真っ直ぐ行って路地を少し曲がれば確実に恐竜は居る。

 そんな確信と共に向かえば、居た。恐竜は建物の中に居て、その横にはなんか白衣を着た人が。あの人、どこかで見た事ある俳優さんな気が……まぁいいや。

 

「おぉ、君! すまない、ティラノの誘導を手伝ってくれないか!」

「そ、そのつもりですけど……こんな風で大丈夫ですか?」

「もっと近づけて! そうだ、君ならできる!」

 

 とりあえず恐竜の鼻先で肉をちらつかせて後退していくと、恐竜もついて来る。

 これなら案外簡単かも。そうそう、こっち、こっち来て。じゃないとわたしの六十万がパーになっちゃうからね……って、恐竜の後ろにハンターいるじゃん! こっちガン見してるし逃げないと!

 生肉抱えて走って、あっちこっち。とりあえず撒きながらハンターを恐竜から引き剥がしてからもう一度恐竜の元へと戻ると、そこにはまたもやあの男性アイドルさんが。そう言えばこの人もミッションほぼ常連だよね。

 

「あ、確か調ちゃんだっけ! 一緒にやろ!」

「はい! やりましょう!」

 

 という事で一緒に恐竜を誘導し始めて……すぐにまたハンターが来て散会して、撒いたのを確認してからもう一度集まって誘導した頃には時間が残り六分。つまりハンター十体まで残り一分になっていた。

 急がないと……! コンテナもすぐそこだし!

 こっちこっち! 速く、速く……!

 

「後はこのコンテナに肉を投げ込んでくれ!」

「投げ込む!? えっと、こう!?」

 

 そしてコンテナ前で指示をされたからコンテナの中に肉を投げ込むと、無事恐竜はコンテナの中に。そして正門はそれに反応して一人で閉まって、それとほぼ同時に十人のハンターが正門に現れた。

 あっぶな……もうちょっと遅れてたらこれとバッタリ遭遇戦しなきゃいけない所だった……っていうかなんかハンターの中に見慣れた真顔の赤髪……奏さんが混ざってるのは気のせいじゃないよね。あの人面白半分で混ざってきたよね、絶対。

 まぁいいや。とにかくこれでミッション達成! 後は逃げるだけ!

 とりあえず距離を取ってメールを確認すると、もうさっきのアイドルの人以外にはわたしとクリス先輩しか残ってないみたいだった。

 一応適当な場所に隠れて残り五分、やり過ごさないと。

 そう思って心臓がバックバクな状態で待っていると、視界の端に見慣れた銀髪が。

 

「あ、クリス先輩!」

「ん? あ、お前もこっち来てたのか!」

 

 やっぱりクリス先輩。こっちに逃げてきたんだ。

 呼び止めるとクリス先輩もこっちに気が付いて走り寄ってきた。

 

「やったな! ここまで来たら後は逃げるだけだ!」

「はい! 残り時間は……あと二分! やれますよ、これ!」

「あぁ!」

 

 あと二分なら三体に囲まれでもしない限り……?

 ……ん? あれ? あっちから走ってくるのって。

 

「ちょ、クリス先輩! 後ろ後ろ!」

「え? ……うっわマジかよ!!?」

 

 忍者だ! 忍者が全速力で走ってきた!!

 ここから二分間忍者と鬼ごっこ!? 冗談でしょ!? ここまで来て!? 何度わたし達の安息を邪魔するのあの人は!?

 ヤバイ逃げないと!! とりあえずクリス先輩と一緒に全力で走るけど、緒川さんが徐々に徐々に追いついてくる。あの人、徐々に距離を詰めて楽しむつもりだ!!

 

「クリス先輩、二手に!」

「いや、ここ路地だから二手になんて別れられねぇよ! 死ぬときゃ一蓮托生になっちまった!」

「どっちかが捕まったらどっちかもジエンドって事ですか笑えません!!」

 

 でも逃げないと!

 狭い路地をあっちこっち。更にパルクールで逃げるけど緒川さんはわたし達以上の速さでそれを追ってくる。今が間違いなく一生のうち一番長い二分間だよ!!

 とりあえずそこの建物入ってその道を……って!?

 

「い、行き止まり!?」

「こんな所でドン詰まりかよ!!?」

 

 嘘でしょ、あと少しなのに!?

 振り向くとそこには真顔で迫ってくる緒川さんが。

 つ、詰んだ……!?

 

「こんな夢半ばでぇ!!?」

「アタシなんも悪い事してねぇだろぉ!!?」

 

 思わず二人で抱き合いながら叫んで緒川さんの手を一瞬でも長く避けられるように壁に体をくっ付ける。

 そして緒川さんの手が伸びてきたその瞬間――

 ――緒川さんの手が止まった。

 同時に、緒川さんがその場で直立不動のまま俯いた。

 ……えっ?

 

「……な、なにが」

 

 二人で抱き合って呆然としていると、緒川さんの後ろのスタッフさんが自分の腕を指さした。

 え? 腕って……あっ、携帯!

 急いで携帯を手に取って確認してみると、表示されていたタイマーはゼロだけを指していた。

 

「こ、これって……」

「逃げ切った……?」

 

 ……に、逃げ切れた? この忍者から……?

 ほ、ホントに!? 六十万手に入れられたの!?

 

「やったー!!」

「生き残れたぁ!!」

 

 また二人で抱き合ってピョンピョン飛び跳ねてからスタッフさんの指示で牢獄前に案内された。

 そこには既に一緒にミッションを三つもクリアしたアイドルの人が待っていて、六十万円の現金が透明な箱に入れられた状態で三つ、用意されていた。

 

「やったよマリア!」

「六十万はアタシらのモンだぜ、センパイ!」

 

 二人でマリアと翼さんを煽りながら牢獄前に来て、三人一緒に透明なケースを開けて六十万を手に取った。

 うわっ、こんな量のお札初めて握った……! 諭吉さんが六十人だよ、六十人! もしF.I.S時代のわたしが見たら卒倒するレベルだよ!

 実際に手に取ってみると凄い重量感……! 普段はATMにギャラが入っているから手に取る事なんてないんだけど、六十万を手に取ってみると凄い気持ちいい……! これで頬を叩かれたいって人の気持ち、今なら分かるよ……!!

 あ、カメラさんからコメントしてって急かされてる。急がないと。

 

「無事六十万円取りました!」

「パパ、ママ! アタシやったぜ!!」

「切ちゃん、今日はすき焼きだよ!!」

 

 これにて逃走中終了!

 生き残れてよかったぁ~……

 

――♪♪♪♪――

 

 ……へ?

 着信? でもこれ、わたしが持ってる携帯からじゃない。牢獄の人の携帯から?

 

「え? なに急に!? えっと……これよりボーナスミッションを始める!? 指名された三人が図書館内にある千円札計百枚を好きなだけ取って戻ってきたら、その取ってきた分だけ賞金を山分け!?」

「つまり十万円山分けできるって事!?」

 

 あっ……

 ……あの中から、お札を取って戻ってくるんだ。

 人類最強が居る図書館から。

 既にカメラは牢獄内を映しているからわたしとクリス先輩がちょっとフェードアウトしてこそこそ会話。

 

「なぁ、お前何でそんな察した顔してんだ?」

「あの中、風鳴司令と響さんが居たんですよ」

「何その魔境。ってかあの人よくそんな魔境から逃げられたな……」

「奇跡的に見つからずに走り抜けたみたいです」

 

 ちなみにこれは恐竜誘導中に聞いた事。

 でも、ホントに奇跡だよね。あの二人から逃げ切るなんて凄腕の錬金術師でも無理だと思うのに。

 そんな事を駄弁りながら待っていると図書館の中に入る人は決まったらしい。プロアスリートの人と、翼さんとマリア。あぁ、うん、終わったね。

 

「ふっ、待っていろよ月読、雪音。ここでたんまりと賞金を持って帰ってくる! これが終わったらまた私が高級焼き肉を奢ってやるから待っていろ!」

「私もまたザギンでシースーを奢ってあげるわ。しかも今度は調も一緒よ! 何せ今から私達は賞金を大量に確保してくるのだから!」

 

 あーあー、もうそんなにフラグ建てちゃって。

 そんなこんなでフラグ建てた二人とプロアスリートの人、計三人が同時に図書館内に侵入していった……けど。

 

「あんなの無理だろ……!!」

「どうしろって言うのよ……!!」

 

 三十秒くらいで翼さんとマリアが戻ってきた。

 まぁ……ね? あの二人だし。

 でもプロアスリートの人は善戦しているらしく、一旦戻ってきたけど山分けするには足りないって思ったのかすぐに図書館の中に戻っていってから時間ギリギリで戻ってきた。

 しかして、取ってきた札の数は?

 

「ご、五千円……」

 

 と、苦笑しながら発表してました。

 

「いや、小学二年生のお年玉じゃねぇんだからさ!?」

 

 芸人さんのそんなツッコミがちょっとツボったのは秘密。

 で、わたしとクリス先輩は両手両足を地面に付いて凹む二人の元へ向かってそっと肩を叩いた。二人は慰められると思ったのか半分泣きながら顔を上げたけど……

 そんな慰め、すると思う?

 

『高級焼き肉と銀座の寿司、待ってるから』

「……え、えっと」

「……しょ、賞金、持って帰れなかったし」

『へぇ、嘘吐くんだ』

「……払わせて、いただきます」

「……奢らせて、いただきます」

 

 と、いう事でわたしの逃走中は翼さんとマリアからの焼き肉と寿司の奢りもプラスされるという破格の終わりを迎えたのでした。ちなみにマリアと翼さんは三百円、賞金を山分けしてもらってた。やったね!

 

 

****

 

 

 あの逃走中の収録が終わって、放送がされてからわたしとクリス先輩、それから翼さんとマリアはとある所で食事をしていた。

 それは勿論。

 

「あ、このお肉美味しいですよ、クリス先輩」

「マジ? んじゃ一切れ……おっ、マジでうめぇ! んじゃアタシのも一つやるよ」

「いいんですか? ……あっ、美味しいです!」

 

 そう、高級焼肉。

 あの時、翼さんとマリアは賞金で焼き肉と寿司を奢るって言ってくれたからね。遠慮なく食べてるよ。

 勿論SNSには写真を撮ってアップ。翼さんの奢りで高級焼き肉です! って文面と共に投稿したら沢山草を生やしたリプが飛んできたよ。

 ほんと、人の金で食べる焼き肉って美味しい!

 

「……な、なぁ、月読、雪音。そろそろ腹いっぱいなんじゃないか?」

「え? まだまだですけど?」

「いやー、センパイ。奢ってもらっちまってわりぃっすね! でもセンパイはあの時しっかりと奢るって言ったんでお言葉に甘えさせてもらいますわ!」

「……そ、そうか」

 

 ちなみにわたしの賞金は既に新しいテレビと、新しい最新の冷蔵庫。それから欲しかったゲームと本を買って、切ちゃんの欲しかったブルーレイレコーダー。それから残ったお金でわたしの調理器具の新調とベースの道具を新しく幾つか買ってみたりした。

 それからクリス先輩は仏壇をちょっと豪華にしてから、残ったお金で家具を新調して、ちょっと余ったお金で最近は食べ歩きをしているとか。

 翼さんとマリアの賞金? 美味しいです。

 

「……また、財布に冬が」

「私も半分払うわ、翼……」

「マリア……! ならば私も寿司の時は半分払おう……」

「ありがとう……! でも、痛み分けにしかならないのよね……」

 

 ちなみに逃走中の評判だけど、翼さんとマリアが出オチした事でポンコツ歌姫の名が広まった。そしてわたしとクリス先輩のパルクール移動がちょっと話題になった。けど流石無人島から生還したアイドルとか、身体能力お化けアイドルとか、名誉バラドルとか言われてるのは納得いかない。

 あと、あれかな。わたしとクリス先輩がよく一緒に行動していた上に最後は抱き合っちゃったものだから、わたしとクリス先輩で百合疑惑が。緒川さんは百合営業できるから問題なしって言ってるけど……いや、わたしの性癖、ノーマルです。

 でも彩さん達パスパレメンバーも事務所から百合営業してみない? とか言われてるっぽいし。結構メジャーなのかなぁ? でもしたいかしたくないかと言われればしたくないです。そこ、貧乳ロリとロリ巨乳の百合とか言った奴。表出てこい。切り刻む。

 で、緒川さん、風鳴司令、響さんのハンター組は面白そうだったから参加したそうな。覚えておけよ。特に緒川さん。今度地味な嫌がらせで仕返ししてやる。座る椅子にブーブークッション仕掛けてやる。

 まぁ、そんな所。

 そんなこんなでわたしの逃走中は大成功でしたとさ。




という事で今回の元ネタは2019年1月5日に放送された逃走中でした。恐竜が出てくる一時間ちょっとのやつですね。

安定のポンコツ出オチ歌姫共は置いておき頑張った調ちゃんとクリス先輩。でも二人の身体能力的にハンターも振り切れそうだよなぁと思った結果、忍者ハンターを設置しました。アイエエエ!!?
そして図書館内には師弟コンビ。最早殺しにかかっているまである。

そんなこんなで好き勝手しました逃走中でした。そしてなんか翼さんとマリアさんが調ちゃんとクリス先輩に焼き肉と寿司奢るのが最早オチになりかけている。多分次のアイドル時空はまた翼さんとマリアさんが焼き肉と寿司奢る事になる。

ではまた次回、お会いしましょう!
あ、初期イグナイト調ちゃん完凸しました。やったね


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月読調の華麗なる生徒会役員共*

響の太鼓「ドドンっ!」
クリスの笛「ピッピッピ。ピッピッピ」

未「私立リディアン音楽院生徒会会則、ふたーつ! 筆おろしは、慎重に」
調「それ会則!?」
未「わたしが会則と言えば会則!」
調「暴君か何か!?」


 わたしがリディアンの生徒会の一人となった日から大体一か月くらいの時が経った。

 まさか転入初日に生徒会に入れられて、しかもそれが通ってそのまま生徒会役員になるなんて思ってもいなかったけど、もう一か月も経てば慣れた物。仕事も鼻歌交じりでやりながら、今日のお夕飯を考える。それに身内四人で組んだ生徒会だから小さなミス程度なら互いにカバーできるし、人間関係も楽。

 だからこのまま高校生活は生徒会役員として内申点も稼ぎながら楽に……と思っていたんだけど。

 

「そう言えばもうすぐ中間試験だけど、クリスは勉強大丈夫?」

「あぁ、別に問題ねぇぞ。アタシとしてはそこの馬鹿の方が心配なんだが」

「わ、わたしには優秀な家庭教師がいるから大丈夫!」

 

 そう、もうすぐ中間テストが始まる。

 学生からしたら魔の時間。それはわたしにとっても変わらないわけで、最近は帰ったら切ちゃんと勉強を頑張ってるけど……やっぱり高校の勉強って難しいし、わたし自身勉強が得意って訳じゃないから相当苦戦してる。

 でも、平均程度の点は取らないと後々困るからなんとか頑張ってる。

 

「もう、響ったら……調ちゃんは?」

「ちょっと心配ですけど……一応平均程度は取るつもりです」

「平均程度って……あ、そうだった。調ちゃんには言ってなかったっけ。生徒会のテストの順位ノルマは二十位以内だって」

「……えっ」

 

 ナンデスカソレ。

 に、二十位以内? この学校、マンモス校程じゃないけど相当生徒数多いよ? その中で二十位以内って……

 そんな事を思いながらクリス先輩達の方を見ると、二人とも頷いていた。どうやら未来さんの言葉に嘘偽りはなかったみたい。

 うそー……ちょっと絶望なんだけど。

 

「成績に自信ないのによく生徒会に入ろうって思ったね」

「わたしの記憶違いじゃなきゃアンタに入れられたんだよ」

 

 ……まぁ、それは置いておくとして。

 ノルマがあるんじゃ頑張らざるを得ないけど……わたしも切ちゃんも、どっちかと言ったら勉強できない組だから、先生に聞くとかして頑張らないと……

 

「うーん、じゃあ今日はもうやらなきゃいけない仕事も無いし、調ちゃんの勉強会にしよっか」

「え? いいんですか?」

「同じ生徒会だもん。それに、わたし達もここで勉強会する事、結構あるし」

「まぁ、センパイとして顔を立てさせろってこった。後輩にいい顔すんのも先輩の仕事ってな」

 

 クリス先輩……! 本当にありがとうございます!

 と、いう事で。わたしは先輩達から勉強を教えてもらう事になった。折角なら切ちゃんもって思ったんだけど、三人は誰かに教えれる程度にまで知識を付ける事も大切。そして教える事で復習する事も大切って言ってくれたから、切ちゃんにはわたしが教える事に。

 

「それじゃあ教える前に。調ちゃんってS? それともM?」

「え? 何ですか急に」

「Sだったらビシバシ行くけど、Mならビシバシいかない! 悦ばせるだけだからね!」

「ならMでいいです」

 

 ホント、なんでこの人すぐに発想が下に向かうんだろう。

 思春期にも程がある。

 

 

****

 

 

「あ、調ちゃん。この間の修学旅行のお土産あげるね」

「え? いいんですか、ありがとうございます」

「つまらないものだけど、いいかな?」

「気持ちがこもってたら大丈夫ですよ」

「じゃあ、はい。この『舞子のおしろいは白濁液』って小説を」

「悪意込めてんじゃねぇよ」

 

 

****

 

 

 未来さん達に勉強を教えてもらってわたしも成績アップだー、なんて思っていたら目敏く切ちゃんにわたしが先輩達に勉強を教えてもらっていることがバレ、勉強会に切ちゃんも参加する事になった。

 ちょっといい顔して教えてたらポロっと漏らしちゃったよ。残念。

 で、切ちゃんも勉強会に放課後すぐに参加する事になったんだけど、切ちゃんは予定から十分ほど遅れて生徒会室に入ってきた。

 

「いやー、遅れて申し訳ないデス!」

「どうしたの、切歌ちゃん」

「ちょっとトイレに……」

 

 あ、そういえば切ちゃん、わたしが先に生徒会室に行く時もじもじしてたような。

 トイレ行きたかったんだ。なら案内の一つでもしておけばよかったかも。

 

「トイレで、オ〇ニー?」

「いきなり何言いやがんだこの会長」

「それはお昼に済ませたデス。普通に便秘デス」

「いや学校で……え?」

 

 ちょっと待って? 普段はあまり下ネタ言わない切ちゃんから思いっきり下ネタが飛んできた気がしたんだけど?

 

「お昼かー。わたしは授業の休み時間、誰かが来そうだけど来なさそうなタイミングでシちゃうのが良いと思うな!」

「違うよ未来! 授業中、誰にもバレないようにローターとか仕込んでこっそりとイくのがいいんだよ!」

「甘いデスよ二人とも! 振動に反応するローターを使って自分の手を使わず不規則に動くローターで、声を漏らしちゃうかもしれないって背徳感を!」

『それもいい!』

「よくねーよアウトだよ。公共の場でイってる時点でアウトだよ」

 

 ……いや、あの。

 ちょっと待って。

 なんでいきなりこの緑は本能覚醒してるの? なんでいきなり思春期に突入してんのコイツ。

 

「別にあたしは下ネタ嫌いってわけじゃないデスよ? むしろ普段は抑えてるだけで」

 

 そうだったの!?

 もう年単位で一緒に居るのに初めて知ったんだけど……って、これから切ちゃんをここに連れてくる度に切ちゃんから下ネタが飛び出てくるって事だよね……?

 っていうか切ちゃん、もしかして今もローターを仕込んでいるんじゃ……

 

「あとは単純に迷っただけデス。この学校広いデスし、まだ校内を覚えられてなくて」

「あー、それは仕方ないね。じゃあ初っ端から勉強し続けるっていうのも辛いだろうし、校内案内を先にしよっか」

 

 ちょっと待って。このタイミング、この人選で校内案内って確実にヤバイ事にしかならない気がするんだけど。クリス先輩は天井眺めて諦めてるし。

 そして何故かわたしも連れられて校内案内に……

 

「ここが保健室」

「ふむ……メディカルセ〇クスデスね」

 

 ……

 

「ここが女子更衣室」

「…………百合花畑、デスね」

 

 ……

 

「ここが普段使われていない無人の教室だよ!」

「スチューデントデスクセ〇クス!」

 

 …………

 

「体育倉庫!」

「ホワイトマットぉ!」

『セーーーーー〇クス!』

 

 ………………

 

『そしてここが音楽準備室。グランドピアノの上が使いどころ。鍵盤セ〇クス』

「セ〇クスセ〇クスうるせぇよボケ共」

 

 こいつら思春期か! あ、思春期だった。

 なお、この後の勉強会は時々下ネタが飛んできたけどその程度で何とかなった。ツッコミの心労も考えてくださいお願いします。

 ――ちなみにテストは二十位以内に入れず、五十位くらいだった。ちくしょうめ。

 

 

****

 

 

「もうすぐ高総体だね」

「行事が入ると忙しくなるよねー。ちょっと気が滅入るかも」

「そうですか? わたしはお祭りごと好きですよ? 未来さんと響さんは好きなイベントとかないんですか?」

「うーん……曲がり角でヒロインとごっつんこ」

「桜の木の下で告白かな」

「ギャルゲ―のイベントじゃねぇよ」

 

 

****

 

 

 さて、テストも終わったところで生徒会も通常運転。ノルマ達成できなかった事にちょっと怒られたけど、まぁその程度で挫けない。この程度で挫けてたら装者なんてできないからね。

 と、いう事で生徒会も通常運転になってすぐ、クリス先輩がとんでもない物を教室に持ってきた。どうやら没収品らしいんだけど……

 

「……どうしてエロ本が女子高に」

「たまーに居るんだよ。ふざけ半分で兄弟の持ってくる奴とか」

 

 没収品は何とエロ本。表紙には裸の女の人が載っている本物のエロ本。こんなのコンビ二に行ったとき、偶々本棚の前を通ると見ちゃう程度でしか見た事無いんだけど。

 

「ふーん。男の子ってこういうの本当に見るんだ」

 

 と、響さんがエロ本を手に持ってそんな事を。

 ちょっと、そんな風に持ってる所を見られたらどうするんですか。置いてくださいよ。

 

「違うよ響。見るんじゃなくて使うんだよ」

「あ、そっか!」

「いいからそれ置けよ馬鹿共」

 

 その訂正は求めてないんだよ。

 

 

****

 

 

「そういえばクリス先輩って牛乳好きですよね」

「まぁな。お前は……牛乳、嫌いか? 美味いんだぞ?」

「よくも目線を下に向けてくれたな」

 

 

****

 

 

 唐突だけど、わたしはお昼にお弁当を食べる時は主に生徒会室で食べている。

 お昼にもやらなきゃならない事はあるし、話す事もあるからここで食べた方が一々あっち行ってこっち行ってってやらなくても済む。一応ここにも学食はあるけど、わたしは基本お弁当だし、未来さんと響さんもお弁当。クリス先輩は購買で買ってきたあんパンと牛乳。

 勿論、時々学食も利用するけど、基本的に食べるのはここって感じ。

 で、今日も今日とてわたしは生徒会室でお昼。勿論未来さん、響さん、クリス先輩も一緒に居る。

 

「そういやさ、お前らの弁当、いつも凝ってるよな」

 

 適当に話しながらお昼を食べていると、クリス先輩が未来さんと響さんに向かってそんな事を。

 確かに言われてから確認してみると、二人のお弁当は昨日の夜の残り物、とかじゃ済まない程度には凝っているように見える。わたしは夜の残り物とか冷凍食品とか、そういうのを詰め込んだり、前日の内に買っておいた総菜を入れただけの簡単お弁当って感じだけど、二人のは違う。

 

「そうかな? 買い溜めし過ぎて賞味期限が危なくなったのを適当に調理して詰めてるだけだけど」

「そうだったの? でも十分に美味しいよ、未来」

「ふふっ。ありがと、響」

 

 いや、調理しているだけ凄いと思いますけど……

 ちなみに未来さんのお弁当は普通のサイズだけど、響さんのは重箱一歩手前のサイズ。これを毎朝作ってるんだから凄いよね……っていうかよくそんなに胃に入るなぁ……

 とか思ってたら箸で持ったご飯を落としかけた。一応下に手皿をしてあったから落としても大丈夫だったけど。

 

「あ、調ちゃん。手皿は上品に見えるけど、実はマナー違反だよ?」

「え、あっ、ごめんなさい。まだそこら辺、あんまりわかんなくて」

 

 ついこの間までアメリカに居たから……っていうのは理由にはならないよね。とりあえずこれからは気を付けるようにしないと。

 

「でも未来、精〇の場合は妖艶さが増すと思わない?」

 

 おいゴラ。食事中だぞ馬鹿。

 

「…………論破されちゃった」

「されてねぇよ。まだ責め立てる所が沢山あるだろ」

 

 この人達、食事中でもおかまいなしに下ネタ叩き込んでくる所さえどうにかしてくれたらなぁ……

 

「お前はマシだ。アタシなんて牛乳飲んでる時にこれだぞ」

「……よく何事も無かったかのように飲めますね」

「慣れた」

 

 慣れって怖い。

 

 

****

 

 

「前に立ってるだけなのに朝会ですっごく緊張しちゃいました」

「分かるわそれ。で、その後背筋伸ばしたりすると気持ちいいんだよな。こうやって腕広げて思いっきりさ」

「ホントですか? それなら真似して……あ、これ結構いいかも」

「だろ?」

(ブチッ!!)

「あ、やべ、ブラのホックが……」

「…………んー!! んんんんーーーーー!!」

「いや、ホントすまん……」

 

 

****

 

 

 時期は既に夏間近。なんだけど、今年は夏前なのに熱いらしくて、やっと衣替えになったけど暑すぎて溶けそう。

 一応教室の中とか生徒会室の中はクーラー効いてるから涼しい事には涼しいんだけど、教室は事務室っぽい所でクーラーの操作を一括管理しているみたいだから、温度調整できないんだよね。

 で、今日の教室はと言うと、あんまり涼しくならず、窓際に居る人はすっごい汗かいてた。それは他の教室も同じらしくて、中には先生が我慢できずに事務室に直談判しに行ったとか。

 

「いやー、窓際だったからすっごい汗かいちゃったんだよねー」

 

 で、響さんはどうやら窓際に座っていたらしく、こっちに来たときは涼しさにありがたみを感じつつ、タオルで汗をぬぐっていた。

 わたしは廊下側に近いからそんなことは無かったけど、こっちに移動してくるまでに汗かいちゃってタオルで吹いている。制汗剤とか、汗かいてもいいように何かしらケア用の物を持ってきた方がいいのかな……

 

「早く帰って体を洗っちゃいたいよ」

「そういやお前、よく汚れるけど綺麗好きではあるよな」

「確かに。いつも訓練が終わると一番にシャワー浴びに行ったりしてますよね」

 

 装者の訓練とかでわたし達は結構汚れたり汗かいたりするけど、響さんはいの一番にシャワーを浴びに行ってる。潔癖、とかじゃないんだろうけど、単純にお風呂とか好きなのかな? それとも綺麗好きとか。

 いや、そもそも女の子なんだし、汚れたらお風呂に入りたくもなるよね。

 

「まぁ、綺麗好きなのはいい事だ。ちょっときたねぇ場所に居るとそれが身に染みて分かるからな」

「そうだよね、ア〇ル洗浄は良い事だよね!」

 

 わたしとクリス先輩の視線が、顔を逸らす響さんを貫いた。

 っつか癖になっちまったんかい。

 

 

****

 

 

「もう、切ちゃんが寝坊するからわたしまで遅刻しそう!」

「ご、ごめんなさいデス! 昨日、ちょっと夜遅くまでハッスルしてたらついつい」

「ンな事聞いてねぇよ!!」

「とりあえず急ぐデス……あっ」

(ゴトッ。ブーーーーーーー……)

「ごめんデス! んっ、あっ……よし、これで大丈夫デス!」

「ごめんで済むレベルじゃないぃ!! っていうかソレ明らかにスカートの内側から落ちてきたよね!? しかもまた内側に入れたよね!? 嘘でしょ切ちゃん!? それ入れたまま学校行くの!? ちょ、待てやゴルァ!!」

 

 

****

 

 

 さてさて。時は過ぎて、今日はもうちょっと……あと数か月後にある体育祭でやる競技の草案を出す会議中。

 無難な所からマイナーな所まで出していって、と未来さんが言ってくれたのでとりあえず色々と案を出す事に。

 

「うーん……わたしがテレビとかで見たのだと、リレーとか、借り物競争。あとは玉入れですかね」

 

 まぁここら辺は王道だと思う。

 漫画とかテレビとかでもこういうのってよく見るし、F.I.Sに居た頃からも聞いたことがある競技だから特に違和感とかは無いハズ。

 

「もう、調ちゃんは何言ってるの?」

「え?」

 

 とか思ってたら未来さんからツッコミが。

 わたし、何かおかしい事言いました? 普通の競技を出したつもりなんですけど。

 

「入れるのは玉じゃなくてサオじゃない?」

「アンタこそ何言ってんだ」

 

 しかも意味が分かってしまう自分が嫌になる。

 ……いや、わたしだって思春期だからね? それにそこまでピュアなお年頃って訳でもないし、いろんな業界の裏を見てきたからそりゃそういう汚い事だって知る訳だし。

 って、わたしは一体何に対して弁明してるんだろう……

 

「他にもあれやこれとか……」

「こんなのもいいんじゃね?」

 

 で、その後はこんな感じで色々と案を出していったけど……

 おいそこの黄色。騎馬戦をドキッ! 女子校生だらけの騎馬戦大会とか書くんじゃない。なんかちょっと違う感じになるでしょうが。

 

「あ、響。そこ、誤字あるよ」

「え? どこ? ……あ、ここか!」

 

 あ、女子校生が女子高生に直された。

 でもなんでだろ。この人の誤字一つでちょっと変な意味に見えてしまうのは……

 とか思いながらまた草案を出しつつあれが駄目これが駄目、じゃあこれは、と言いながら会議を進めていると、生徒会室のドアがノックされて来客が。

 

「調、ちょっと聞きたい事が……って、会議中デスね……」

 

 入ってきたのは切ちゃんだった。

 どうやらわたしに聞きたい事があったらしいんだけど、今のタイミングは思いっきり邪魔者みたいなタイミング。

 だけど、ちょっと白熱し過ぎていたから切ちゃんの来訪はいい感じにクールダウンになった。一旦冷静を取り戻して切ちゃんに要件を聞こうとしたけど、その前に切ちゃんはホワイトボードの前に立った。

 

「あたしの用事は帰ってからでもできるので、お仕事頑張ってほしいデス!」

 

 と、言いながら切ちゃんは女子高生の高の部分に白いマグネットを張り付けて隠してから出ていった。

 あいつ、余計な事しかしやがらねぇ。

 

「まぁ、これは置いておくとして」

 

 未来さんがマグネットをそのままに会議を続ける。

 いや、そのままでいいんですかソレ。

 

「他に何か無いかな? 競技の事じゃなくてもいいんだけど」

 

 うーん……とは言われても……

 

「アタシ的には運動部員の数が多いクラスの方が有利になるから、ちょっとしたハンデがあるといいと思ったんだが」

「あー、確かに。響なんて並みの人じゃ適わないくらいの身体能力あるしね」

 

 未来さん、あなたも大概なの忘れないでください。ソロモンの杖を一切の減速なく空へ向かって投げ飛ばしたあなたの身体能力は十分にバグってますから。装者の中でもトップクラスでバグってますから。

 

「でもハンデかぁ……あ、そうだ! 運動部のみんなは前日に家で限界までオ〇ニーをして体力を極限まで削ってから来るって事で!」

「わたしの方で考えておくので未来さんは黙っててください」

「未来! それだとわたし、朝までかかっちゃうんだけど! しかも多分それでも限界が来ないと思う!」

「はっ! そっか、確かに性欲が強すぎる人なら朝までかかっても……寧ろそれで体力が回復する人も!」

「黙れ脳内ピンク共」

 

 ホントこいつらの下ネタをどうにかしてくださいお願いします。

 

 

****

 

 

「トイレトイレ……ふぅ」

(コンコン)

「あ、入ってまーす」

「なるほど、調ちゃんはタン〇ン派なんだね」

「ちょっと待ってろそこの紫色。すぐに出て一発叩き込んでやる」

「えっ、一発叩き込むって……もしかして調ちゃんってふ〇なり!?」

「んなわきゃねーだろ!! 胸は無いけど正真正銘女だ!!」

「……あっ、うん。ごめんね。別に胸が無いから男の子とか、そんな風に思っては無いから」

「いや、あの……急にマジな声になるのやめてもらえません!? 泣きたくなるんですけど!?」

 

 

****

 

 

 今日も今日とてお仕事。と思っていたらクリス先輩が花束を手に持って生徒会室にやってきた。

 

「あれ? それどうしたんですか、クリス先輩」

「緑化委員から貰ったんだよ。花瓶とかねぇか? 折角だし飾ろうぜ」

 

 緑化委員……そういえばこの学校にもあったっけ。花壇とか屋上とかで花とか育ててる人を見かけた事あるし。

 でも、花瓶かぁ……この辺にあったかなぁ?

 

「あ、じゃあクリスちゃん。これに入れるから貸して」

「え? あぁ、いいけど……何に入れるんだ?」

「オナ〇ール。よっと」

 

 響さんに任せてしまった結果、お尻の形をしたオナ〇ールから花が生えているとかいう最低な光景が生まれてしまった。っていうか何で生徒会室に花瓶は無いのにオナ〇ールはあるんだよ! 使えねぇだろ!!

 

 

****

 

 

「あ、校庭に犬が入り込んでますね」

「え、ホント?」

「ほら、あそこ」

「……そんな人いないよ?」

「そういう意味の犬じゃねぇよ」

 

 

****

 

 

「あれ、クリスちゃん。ニーソのここ、破れてるよ?」

「え? あ、マジか。どっか引っ掛けたかな」

 

 仕事をしている最中、クリス先輩が立ち上がったんだけど、その時に響さんがクリス先輩のニーソがちょっと破れている事に気が付いた。

 あー、もしかしてさっき、一緒に外で仕事した時に草とかに引っ掛けちゃったのかな。そうするとわたしのせいかも。

 

「え? クリス、破れたの?」

「あぁ、やっちまったっぽい」

「どれどれ?」

 

 と、言いながら未来さんがクリス先輩のスカートを持ち上げて。

 

「ちげーよもっと下だボケ!!」

 

 ほんっと、この人は……!!

 

「じゃあわたしも確認しよっと」

「撃ち殺すぞ馬鹿共!!」

 

 ほんっと、この人達はぁ……!!

 

 

****

 

 

「実はわたし、昔は魔女っ娘に憧れてたんだ」

「そうだったの、未来。初耳だよ」

「可愛らしいですね」

「だってほら。魔女っ娘って箒に跨るじゃない?」

「そうだね」

「はい」

「あれ、気持ちよさそうでしょ? だからね」

「それ分かるよ、未来!」

「分かっちゃ駄目だろ」

 

 

****

 

 

 今日は生徒会室の掃除。

 とは言っても普段からしているから、じゃあ今日は棚の裏とか掃除しようって事で力仕事を響さんに任せて、わたし達が掃除の実働隊に。

 わたしも部屋だと家事担当だから、掃除は慣れた物。

 という事でせっせせっせと掃除をしているんだけど、棚の裏からは色んなものが。

 

「あ、これアタシの消しゴムだ。無くしたと思ったらこんな所に」

「わたしのシャーペンまで……こんな所に落ちてたんだ」

 

 主にわたし達の私物なんだけど、失くしたと思った物が棚の裏から結構見つかる。このシャーペンとか、結構お気に入りで無くした時はちょっとショックだったんだけど、こんな所にあったんだ。

 汚れとか落としたらまだ大丈夫かな? あ、百円玉発見。ラッキー。

 

「ん? あれ、こんな所にあったんだ」

 

 とか思ってたら未来さんも何か見つけた様子。

 何を見つけたんですか?

 

「ローターのリモコン。やっと止められるよ~」

 

 何でそんなもんを生徒会室で取り出して使う必要があったんだよ。

 

 

****

 

 

「ふあぁ……」

「ふぁああ……」

「あくびって人に移っちゃうね」

「そうですね、不思議な事に」

「この現象を使えばイ〇〇〇オをさせる事も可能だね。あくびをした瞬間にドスンと」

「うーんわたしにそれは分かんないなぁ」

 

 

****

 

 

 今日は珍しく生徒会室じゃなくて、本部に生徒会一同で訪れた。

 その理由は、壊れた学校の機材を直してもらいたいから。最近あったごたごたの末に新しく仲間になったエルフナインが、機械いじりというか修理ができるって言うから、試しに頼んでみたらオーケーを貰えた。

 だから壊れた機械を手に本部にあるエルフナインの研究室に訪れて、お仕事の対価としてジュースを奢りつつエルフナインに修理をしてもらった。

 

「……よし、これで大丈夫ですね。直りましたよ」

「ありがと、エルフナインちゃん。にしても凄いね、あんなに叩いても動かなかったのにすぐ直しちゃうんだもん」

「まぁ、ボク自身、こういうの弄るのは好きですし」

 

 ついでに、これからも困った事があったら頼ってくれていいって言ってくれた。

 でもエルフナインってつい最近まで聖遺物専門だったよね? どうして機械工学もできるようになったの?

 

「相思相愛みたいなものですし」

 

 相思相愛? どういうことだろ……

 

「ボクもよく機械に弄ってもらってますから!」

 

 ……どうやらエルフナインは女性になってから自分の性を楽しみつくしているようです。

 というか屈託のない笑顔でそんな事言わないで。今までのエルフナインのイメージが色々とアレになる……

 

 

****

 

 

「んん……」

「あれ、調ちゃんが居眠りしてる。珍しい」

「だね。でももう少し時間あるし、寝かせてあげようか」

「そうだね、未来」

「ん……んくっ」

「あ、ビクンってなった」

「ジャーキングだね。寝てる姿勢が悪くて体に負担がかかると起こる現象みたいだよ?」

「そうなんだ。わたしは調ちゃんが寝たふりしてイったのかと」

「イってねーよ!!」

「あ、起きた」

 

 

****

 

 

「未来さん、お土産の感想をみんなに聞いてるっぽい……暇だったし読んじゃったから感想を言えるようにしておこう」

「あ、調ちゃん。丁度いい所に。あのね、一つ聞きたい事が」

「あぁ、未来さん。あの小説、よかったですよ。特にいきり立った肉助が舞子にぶっかける所とか」

「えっ、急にどうしたの!? ただあの書類ってもう出したか聞きたかっただけなのに……もしかして新手の羞恥プレイ!?」

「ちくしょう早まった!!」

 

 

****

 

 

「もう結構経ったけど、調ちゃんも生徒会の仕事に慣れてきたよね」

「えぇ、まぁ。色々とありましたし」

 

 本当に、生徒会に入ってから色々とあった。

 本当に。ほんっとうに色々と! 下ネタを叩きつけられたり下ネタを目撃したり、今まで見た事が無かったローターを始めとしたアダルト用品を目撃したり!

 ……まぁ、それ以外には文句なんてないんだけどね。下ネタを除けばいい先輩達だし、普段はしっかり頼りになって優しい所もあるし。

 

「でも慣れた頃が一番ミスしやすいんだから、気を付けるんだよ?」

「分かってます。しっかりと気を抜かないようにしていきますから」

 

 ……ん? なんかこの流れ、前にもあったような……

 

「それならオーケーだね! じゃあ生徒会役員共! これからもア〇ル引き締めて、いっくよー!!」

「ってまたこのオチかい!!」




はい、という事で今回は生徒会役員共時空の話でした。横島先生枠とかムツミ枠とか、色々とキャラ不足があったので使えるネタが限られてましたが、大体一万文字くらい書けてホッとしました。
……ふ、伏せ字とか大丈夫だよね……? うっかりミスったりしてないよね……? また非公開設定にされたら嫌だよ……?

で、今回この時空に新たに参戦した切ちゃんとエルフナインですが、二人にはコトミと轟さんの二つの枠を兼任してもらう形になると思います。というか切ちゃんがコトミネタしつつ轟さんネタしつつ横島先生ネタをやって、轟さんの機械関連をエルフナインが担当ですね。
全国の切ちゃん&エルフナインファンには申し訳ない。オープン下ネタな二人で笑ってくれ。

それで、前回の話を投稿してから今回までの間に、友人がシンフォギアを見始めたんですよ。毎回毎回送られてくる感想にニヤニヤしながらネタバレしないように返事してます。自分もあんな感じだったなー、って懐かしがりながらLINEしております。ちなみにビッキー&奏さん推しらしい。

友人は四期にもウェル博士が出てきたら驚くんだろうなーとか思いながら今回はここまで。また次回お会いしましょう。


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月読調の華麗なる超次元サッカー

今回は案の中にあったシンフォギアキャラで少林サッカー、もしくはイナズマイレブンという案の中からシンフォギアキャラでイナズマイレブンです。

結構イメージで必殺技使わせている所があるのでご容赦を。それでは、どうぞ。


 今日はとある結社からとあるお誘いを受けた。

 それは奏さんの世界のパヴァリア光明結社の四人、サンジェルマン、カリオストロ、プレラーティ、アダムの四人が今度、秘密裏に二課と手を結ぶ事となり、友好の証とかそんな感じのやつのためにサッカー大会をしようという事になった。

 いや、どうしてサッカー? と思ったけど、あちらの代表アダム曰く、友情を育むには一番じゃないかね、スポーツというものは。との事。

 で、あちらの風鳴司令もそれに乗っかって、実際に試合しようという事になったんだけど、圧倒的に人数が足りないという事でわたし達にもお誘いが来た。まぁ、わたし達にとっても他人事じゃないからね。

 という訳で奏さんの世界で第一回、装者&錬金術師のごちゃ混ぜサッカー大会が開催される事になった。

 

「このクジを使って決めようか、それぞれのチームはね」

「シンフォギアや錬金術と言った反則は使わず、スポーツマンシップに則り試合をするようにな」

 

 サッカーで肝心のチームはくじによって決める運びに。

 参加者はわたし達七人に加えて、パヴァリア錬金術師四人、奏さん、セレナ、グレ響さんの合計十四人。これが二チームに分かれて七人によりチームを結成してサッカーをする運びに。全員、身体能力は相当高いからかなりレベルの高いサッカーが予想されている。

 という事でくじを引いて、チームが分かれた。

 仮称Aチームが響さん、翼さん、未来さん、切ちゃん、奏さん、サンジェルマン、カリオストロ。仮称Bチームがマリア、わたし、クリス先輩、セレナ、グレ響さん、プレラーティ、アダム。結構均等に別れたのかな? 一応響さん二人が別れたし。

 で、それぞれのチームで作戦会議が開始された。

 

「キーパーは僕がやるよ、唯一の男手という事でね」

「それじゃあ痛そうなポジションは局長に任せてわたし達は他のポジションにつくワケだ」

 

 キーパーはアダム。そしてDFがわたし、セレナ。MFがグレ響さん、マリア、プレラーティ。FWがクリス先輩になった。わたしとセレナがあんまり運動が得意じゃないから、最終防衛ラインをアダムに任せて、グレ響さんにはDFとMFを兼ねてもらう事になった。

 結構めんどくさがってたけど、勝負ごとになれば話は別みたいで、ちょっと気合入れてたし大丈夫だと思う。

 で、あちら側のポジションは、キーパーが響さん、DFが切ちゃん、未来さん。MFがサンジェルマン、カリオストロ。FWがツヴァイウイングになった。うっわ、フォワードがすっごい豪華。

 それから暫く経ってから、審判は風鳴司令でこちら側のボールでキックオフとなった。

 

「それでは、準備は良いな。では、キックオフ!」

「っしゃあ! あの馬鹿の面に一発かましてやるぜ!!」

「待ちなさいクリス! 息を合わせるのよ!」

 

 で、キックオフになったんだけどすぐにクリス先輩が先行。それをマリアが追う形になるけど、目の前にはツヴァイウイングのお二人が。

 

「甘いな雪音!」

「アタシ達を抜けるかな!?」

 

 二人は息の合ったコンビネーションでクリス先輩の進路を塞ぎ、そのままボールを奪い取ると、後ろに居るサンジェルマンにボールを渡してからFWとMFの四人で一気に上がってきた。

 そのまま四人はマリアとグレ響さん、プレラーティを抜いて、翼さんがボールを蹴りながらこっちへ。

 止められるかなぁ……

 

「この距離ならやれる! 受けてみろ、アダム!!」

「ほう。決める気かね、この距離のロングシュートを!」

 

 とか思ってたらセンターラインとゴールの距離が丁度半々程度の場所で翼さんが止まって、ボールを踏んで止めてから腕を組んで構えた。

 一応わたしとセレナも翼さんを止めるために走るけど……あれ、なんだろう、この嫌な予感。なんか今この瞬間、わたしは何か知らない領域に両足を突っ込んだような……

 

「くらえッ!!」

 

 わたしが嫌な予感を感じて思わずセレナの腕を引いて翼さんとアダムの直線上からその身を引いた瞬間、翼さんがボールを一回だけ蹴って、その場で構えた。

 次の瞬間、翼さんは一瞬でボールに接近すると、そのままボールを一回蹴って、わたし達に向かって背中を向けて……

 

「菊一文字ッ!!」

 

 ビシッと構えた瞬間、ボールを蹴った位置から刀の形をしたビームが飛び出してきた。

 

『は?』

 

 わたし、セレナ、アダムの声が重なる。

 そして。

 

「ぐはあああああああああああああ!!?」

 

 アダムの腹にボールが激突。そのままアダムの体はゴールネットに押し付けられてしまった。

 ……いや、あの。

 大人の男の人がゴールネットに押し付けられたんですけど……?

 

「ゴール! Aチーム、一点先取だ!!」

「よし! やったよ、奏!」

「流石だな、翼!!」

 

 いや、やったよじゃなくて。殺ったよじゃないのそれ。

 とりあえずわたしとセレナは倒れるアダムの元に走り寄って、アダムの手を引いて起こした。

 

「あの……大丈夫、ですか?」

 

 思わず敬語になっちゃったけど……あれは流石に可哀想と言うかなんというか……

 

「だ、大丈夫だ……しかし、ボールでビームを出すのかね、今時の子は」

「いえ、そんな事は……」

「わたしが寝ている間にサッカーって進化してたんだね……」

「いや、そんな事は……」

 

 少なくともわたしはボールを蹴ってビームなんて出せないんだけど。

 一体何が起こったのか理解できてないけど、とりあえずボールをセンターラインに戻してこちら側のボールでゲームスタート。

 クリス先輩がマリアにパス。そのままマリアが一旦グレ響さんにボールを渡してから、プレラーティにボールが行って、すぐにマリアの元へとボールが戻っていった。

 

「悪いけど容赦はしないわよ!」

 

 と、言いながらマリアがその場で両手を広げた。

 こんな時に遅れた中二病? とか思いながらそれを見ていると、マリアの背後に短剣がズラっと……はぁ!?

 

「グラディウスアーチッ!!」

 

 いや、何それぇ!?

 DF以下三人が間抜け面を晒し、ボールは剣と一緒に飛んでいく。もうそれで戦ったらいいんじゃないかな!? 多分アルカノイズ程度なら斬り裂けると思うけど!?

 

「甘いですよ、マリアさん!! 爆裂パンチ!!」

 

 とか思ってたらマリアのシュートは響さんが高速でボールにパンチを叩き込むことによって吹き飛ばされ、ゴールすることは無かった。

 いや、あの高速パンチは明らかにおかしいし、それでないと防げないシュートっていうのもおかしいし……とか思っていたら弾かれたボールはディフェンスの切ちゃんに……じゃなく、そこまで一気に駆け上がってきていたクリス先輩がトラップした。

 

「へっ、まだまだこっちのターンだ!! 行くぜぇ!!」

 

 叫びながらクリス先輩もまたその場で両手を広げた。

 そして出てきたのは、マリアと同じ短剣……じゃなくて、なんかミサイルポッドみたいなもの。それが地上からニョキっと生えて後ろからボールを確保しに来ていた切ちゃんが吹き飛ばされた。

 

「デスレインッ!!」

 

 そしてクリス先輩がボールを蹴ると同時にミサイルポッドからサッカーボールが発射され、それが空中へと飛んでいくと急に曲がって響先輩へと降り注いだ。

 ってボール増やしちゃダメでしょ!?

 

「くっ、爆裂……ぐああ!!」

 

 そして響さんはまた高速パンチで弾き飛ばそうとするけど、ボールの威力に負けてそのままゴールを譲る事になった。

 なにあの超次元サッカー……わたし達の知ってるサッカーじゃないんだけど。

 

「へっ。アタシ様に勝とうだなんて百年はえぇんだよ!!」

「爆裂パンチじゃだめだった……! でも、次は絶対に止めてみせる!!」

 

 いや、多分人間じゃ止められないと思うんですけど……

 そんなわたしのツッコミを他所に再びプレイボール。

 

「例えどれだけ点を取られようと!」

「甘い。クイックドロウ」

 

 すぐに翼さんがこちらへと詰め寄ろうとしてきたけど、即座にグレ響さんが瞬間移動で翼さんのボールを奪っていった。いや、なんすかそれ。っていうかあなたもそっち側ですか、グレ響さん。少なくともあなたはこっち側だと思っていたんですけど。

 そんなわたしの絶望は余所に、グレ響さんは前へと走っていく。

 けど。

 

「甘いわよ!!」

 

 カリオストロが出てきて、そのまま拳を地面に叩きつけた。

 今度は何が出てくるの……

 

「ビバ! 万里の長城!!」

 

 ……あれ、錬金術じゃないんだよね?

 なんか、万里の長城的な物が急にフィールドに出現したんだけど。っていうかビバって何。ビバって。ビバビバ。

 セレナは完全に観戦モードだし、アダムは困惑してるし。マトモなのはわたしだけ?

 で、グレ響さんは万里の長城を見て思わず足を滑らせて転んで、カリオストロは万里の長城の上でなんか笑ってる。いや、早くボール確保してよグレ響さん。

 そんなわたしのツッコミも叶わず、サンジェルマンがボールを確保。そのまま上がってきた。

 

「止めるわ!」

「甘い! ダッシュストーム!!」

 

 そしてサンジェルマンは止めに来たマリアに対して高速で走ってきて、その風圧でマリアが場外へと吹き飛んでいった。

 ……ってぇ!?

 

「ま、マリアああああああ!!?」

「姉さーーーーーーーん!!?」

「呼んだ?」

『うわっ!?』

 

 場外へと吹き飛んでいったと思ったマリアだったけど、気が付いたら後ろに居た。

 ビックリしたぁ……っていうかさっき飛んで行ったマリアって一体……? お星さまになってたよね、マリア。戻ってくるにしても凄く時間がかかると思ったんだけど……

 そんな物理法則を明らかに超越しているっぽいマリアに気を取られていると、いつの間にかサンジェルマンがアダムの前に。

 しまった、これじゃあアダムがサンドバッグに!!

 

「日頃から汚物を見せられている恨み、今こそ果たす!!」

「待ちたまえ! そんな風に思っていたのかね、僕の体の事を、日ごろから!?」

 

 ……これは許される怒りだと思う。

 とか思っていたらサンジェルマンは普通にシュートの体制に。よかった、普通のシュート……

 

「オーディンソードッ!!」

 

 とか思ったら蹴った瞬間ビームが飛び出してきた!?

 そしてサンジェルマンの蹴ったボールはそのままアダムの体にゴールイン。

 

「ゴール! Aチーム、二点だ!」

「ふっ。いかに統制局長と言えど、必殺技を使わないのなら他愛もないわね」

「す、少しはしたらどうかね……手加減というものを……」

 

 最早ただの苛めな気がするんだけど……

 そんなわたしのツッコミはさておいて、すぐさまキックオフ。さ、流石にわたし達も働かないと色々とアレだろうし、ちょっと前に……

 

「行くぜオイ!! デスレイン!!」

 

 とか思ってたらクリス先輩がボールを受け取ってからすぐにシュート。うっわ、またエグイ軌道を描いて飛んでいった……と思ったらなんかマリアがそれに追いついてる!?

 

「シュートチェインだ、マリア!」

「任せなさい! フォルテシモッ!!」

 

 で、落ちてきたボールに向かってもう一発シュートって……一体何してるのあの二人は!? 何の世界に行ってきたの!? しかも明らかにボールの威力が上がってるし!?

 もう分かんないよ! わたしはこの光景を見て一体どんな反応をしたらいいの!?

 響さんも、構えてないで逃げた方がいいと思いますよ!? 死にますよ!?

 

「甘いよ二人とも!! これがわたしの必殺技、正義の鉄拳ッ!!」

 

 とか思ったらなんか拳が回転しながら飛んできた!? しかもそれでシュートを弾いた!?

 わたしは一体何を見せられているんだろう……

 

「次はわたしの番」

 

 とか思ってたら今度はグレ響さんがボールをトラップ。今度は何が飛んでくるんだろう……

 

「さぁ来い、平行世界のわたし!」

「無駄に熱血なのは苦手……くらえ。ノーザンインパクトッ!」

 

 グレ響さんがボールを受かせて、体を軽く回転させてから足の裏でボールをキック。そのままボールを蹴り飛ばした。よかった、なんか普通に見える技で。

 でも明らかにボールの威力がヤバいよね!? なんか凄い勢いで飛んでいってますけど!?

 

「だとしても! 正義の鉄拳ッ!! ……っ、そんな、押されて!? ぐああ!!?」

 

 はい、ゴールイン。

 なんかもう、一周周って冷静になってきたよね。なんか響さんとグレ響さんでドラマしてるけど、わたしはそんなの知った事じゃないし。あー、空が綺麗だなー。

 ……これ、わたしとセレナが居る意味ある? ないよね? コンビニ行ってこようかな。

 とか思ってたら再びキックオフ。今度はあちらからのボール。

 

「雪音達もやったのだ。今度はこちらがやらせてもらうぞ!」

 

 げっ。今度は翼さんがロングシュート決める気だ。

 とりあえず下がっておこ……

 

「初手より奥義にて仕る!! 伝・来・宝・刀ッ!!」

 

 わー、翼さんの足からビームでできた剣が生えてボールを蹴ったらなんかすっごい勢いでボールが飛んできた……

 さて、アダム、後はよろしく。

 

「これ以上点はやらないワケだ!! ザ・ウォール!!」

 

 とか思ってたらプレラーティがボールの前に出て、壁を召喚して止めた!? あれ本当に錬金術じゃないの!? え、違うの!?

 もうサッカーがどんなものか分からなくなってきた……と思ったら。

 

「甘いよプレラーティさん!」

「なっ!? お気楽が来ていたワケだ!?」

 

 なんか響さんがゴールから上がってきていた!? あの人一体何考えてんの!?

 

「わたしは本来、フォワードなんだよ! という訳で行くよ、みんな!!」

「アレだな、立花!」

「任せるデス!」

「四人の息を合わせて!」

 

 えっ、四人で必殺技……?

 明らかにヤバいのが飛んでくるような気が!

 

「風!」

「林!」

「火!」

「山!」

『デストロイヤーッ!!』

 

 他三人は遠方で叫んでるだけだったけど明らかにヤバいのが飛んできた!! 退避退避! セレナ、そこに居ると巻き込まれるから!! 急いで退却!!

 

「もう君達それで戦えばいいんじゃないかぐはああああああああああああああ!!」

 

 哀れアダム。アダムはそのままゴールネットに突き刺さりました。

 い、痛そう……というかアダムがボールを受ける間際に行った言葉は確かに的を得ていた。あれならバルベルデで空中に浮いていた戦艦も破壊できると思うの。

 とりあえずセレナと一緒にアダムに肩を貸して起こしてから、ボールはこちら側に。ついでに。

 

「ここからはわたしがフォワードだよ! 未来、キーパーよろしくね!」

「大丈夫、ゴールは割らせないから!」

 

 本格的に響さんがフォワードに参戦。そして未来さんがキーパーに行ってDFは切ちゃんだけの超攻撃型編成に変わった。

 けど、これどうしたらいいんだろう……なんかもう色々と巻き返すの無理な気がするんだけど。こっちはDF、キーパーがザル状態なのにあのボールをどうやって防いだら……

 とか思っている間に再びキックオフ。こちらボールからスタート。

 

「点を取られたら取り換えしゃいいだけだ!」

「やらせると思うか! 影縫いッ!」

 

 あーもう今度は翼さんが忍術使ってきたんだけど!?

 

「させねぇ! アグレッシブ、ビートッ!!」

「何だと!?」

 

 と思ったらクリス先輩が胸に手を当てて、気が付けば翼さんの後ろに!? あの人いつの間にあんな技を!?

 

「おっとそこでストップだよ、クリスちゃん! もちもちぃ! きなこもちぃ!!」

「ぐっ!!」

 

 ……もうツッコまないよ。響さんがどこかから黄な粉餅を召喚してそれでボールを絡めとって頭の上に乗せる所とか。絶対にツッコミなんて入れないから。しかも黄な粉餅どっかいったけど、わたしは気にしていないから。もう世界のルールに喧嘩売ってる奴らに常識を突きつける気なんてないから。

 で、そのまま響さんがこっちに……ってやばい! 巻き込まれる!!

 

「これがわたしの必殺技!」

 

 ……あれ? なんか響さんが急に地面に消えたんだけど。

 ……でも嫌な予感はする! 退避退避!!

 

グングニル(ガングニール)ッ!!」

 

 うわっ、なんか異空間から槍みたいなのが飛んできた! あれサッカーボール!? サッカーボールなんだよね!? とりあえず退避退避ぃ!! アダムもそれ避けていいから……ってもう居ない! 流石!!

 

「させない」

 

 いや、居た! 代わりにグレ響さんが!

 キーパー変わってるわけじゃないし……もしかして体で止める気なんじゃ!?

 

「止めるッ! 真空魔ッ!!」

 

 と思ったら空中で足を振り抜いて……空間に切れ目が!? しかもそこを通った瞬間にボールが減速してそのままグレ響さんの胸元に!? なにあの技!?

 

「後は任せた」

 

 わたしのツッコミを他所にグレ響さんがボールを蹴っ飛ばす。その先には、プレラーティが。

 

「受け取ったからには繋ぐワケだ! たまのりピエロ!」

 

 プレラーティがサッカーボールの上に乗ってそのままサッカーボールを転がして前へ前へと進んでいく。しかもすっごい速い。

 で、プレラーティはそのままマリアにパスを出して、マリアは前で待機しているクリス先輩にパス。

 さて、次は何が出るやら。

 

「お前が相手だからって容赦はしねぇ!!」

 

 クリス先輩がボールを思いっきり踏んだ。

 踏まれたボールは分裂しながら空へと舞い、クリス先輩はそれを追ってオーバーヘッドキックをするようにジャンプと同時に反転。

 

「ダブルショットォ!!」

 

 そのまま二つのボールを両足で蹴ると、ボールは空中で一つに戻ってそのまま未来さんへと突っ込んでいく。

 あーもう滅茶苦茶だよ。とうとうボールが二つに分裂したよ。

 

「させない! 王家の盾ッ! っ……!? と、止められ、きゃああああ!!?」

 

 そして未来さんが手に盾を作り出してクリス先輩が蹴ったボールを止めようとしたけど、止めきれずにそのままゴール……って!?

 なんか未来さんの後ろに切ちゃんが!?

 

「ハンターズネット!!」

 

 切ちゃんが両手を大きく振るうと、そこには光のネットができあがって、そのままクリス先輩のボールを絡めとって止めてしまった。

 切ちゃんもそこまで非常識に染まっちゃっちゃんだね……

 で、切ちゃんが防いだからゴールにはならず。そのまま未来さんがボールをキャッチして、そのままボールが蹴られあっち側のターンが始まった。

 

「行こう、奏!!」

「あぁ!」

「させないわよ!!」

 

 翼さんと奏さんのコンビがわたし達の方へと迫ってくる。けど、その前にはマリアが。

 わたし達に変なのが飛んでくる前にそれ止めて!

 

「甘いぞマリア! 王の剣!!」

「がっはぁ!!?」

「ちょっ!?」

 

 なんか翼さんが剣取り出して思いっきりマリアを斬ったんだけど!?

 

「審判! あれ反則! レッドカード!」

「必殺技だから問題ない」

「嘘ぉ!?」

 

 いや、サッカーに必殺技とか持ち込んでる時点でどうかしてると思いますけど!? とか思ってたら思いっきりツヴァイウイングがこっち来てる! セレナもアダムも退避……ってあれ? なんかゴール前にアダムが居ない。代わりにグレ響さんが。

 

「変わってもらったんだよ。キーパーをね」

 

 とか思ってたらアダムはわたしの隣に。

 なるほど、あれ以上超次元必殺技を受け続けたら体が持たないんですね、分かります。とか思っていたらツヴァイウイングはプレラーティまでも斬り払ってグレ響さんの前に。

 

「奏!」

「見せてやろうぜ! アタシ達の双翼を!!」

 

 ボールを中心に二人が見合って、同時にボールを蹴って真上にボールを弾き飛ばした。

 そのまま翼さんがボールの上に、奏さんがボールの下でオーバーヘッドの体勢になって全く同時のタイミングでボールを蹴り。

 

「炎の!!」

『風見鶏ィ!!』

 

 なんかボールが火を纏って、ついでに火の翼を生やして突っ込んできた!? あれ触ったら死ぬよね!? セレナ、見惚れてないで退避!! 死ぬよ!!

 

「……全く、熱い技ばかり。けど、キーパーになったからには、止める!」

 

 グレ響さんも! 拳握ってないで逃げないと焼け死ぬ事に!!

 

「はぁぁぁぁ……っ!! ドリル! スマッシャァァァァッ!!」

 

 とか思ってたら回転しながらボールに突っ込んだ!? しかもそのままボールを弾き飛ばした!? そんな馬鹿な事が!?

 で、ボールはそのままプレラーティがトラップ。そのまま上がっていくけど……なんかグレ響さんも前に上がっていった。大丈夫なのかな……ロングシュート撃たれたら止められないけど……

 そのままグレ響さんは前に前に走っていって、プレラーティからマリア、マリアからクリス先輩にボールが渡った。

 

「なんでキーパーのお前まで……そうか、合わせろってんだな!」

「タイミングは任せる」

「だったらやってやろうじゃねぇか! アタシはあの馬鹿共と違ってクールな女でもあるんでな!」

 

 そしてクリス先輩がグレ響さんにボールをパスして、グレ響さんはその場でボールを打ち上げた。

 直後、グレ響さんとボールが纏めて凍り付き、グレ響さんは暫く後に自力で氷を剥がして空中のボールの元に……って、どういう原理!?

 

「氷結の!」

 

 グレ響さんがそのままボールを蹴る。その前方にはクリス先輩が居て、青い軌跡になって飛んでいくボールを走って追いかけて、そのままオーバーヘッドでボールの下を陣取り。

 

グングニル(ガングニール)ッ!!』

 

 そのままボールを蹴ると、ボールを中心に氷の結晶が発生して、ボールは未来さんの方へと飛んでいった。

 死ぬね、未来さん。

 

「もう一度! 王家の……っ!? はやっ、きゃあああ!!?」

 

 そしてボールは未来さんを弾き飛ばしてゴールイン。

 未来さん、あれ死んだよね、確実に。思いっきりボールに跳ね飛ばされ……いや、生きてる!? なんかピンピンしてる!? 嘘でしょ!?

 ……あーもう何でもいいや。なんかもう……わたしの常識じゃ計り知れない事が起こっているって事で、もういいや。

 

 

****

 

 

 それからも超次元サッカーは白熱した。

 ボールが炎になって氷になって剣になって。わたし達三人を巻き込みながらボールでドンパチ。だけど、決定打は決まらず四対四のまま。残り時間も僅かになった。

 いつの間にかわたし達のチームは押し込まれていて、気が付けば相手のチームがキーパー以外こっちに押しかけている現状。いい加減解放してくれというわたしの願いも空しく、アダムがボールの巻き添えをくらってダウン。セレナも端っこでガタガタ。

 あーもうさ。

 もうさ。

 

「調! ボールがそっちに行ったわよ!」

「そのボール、いただきデス!」

 

 必殺技って言って滅茶苦茶していいんならさ。

 こっちだって考えはあるんだよ!

 

「くらえ切ちゃん!!」

「およ?」

 

 いい加減自重しろ、非常識共!!

 切ちゃんにボールを渡すフリをして!

 

「必殺! ジャッジスルーッ!!」

「ごふぅ!!?」

 

 ファール? 知った事じゃない! これも必殺技! わたしの必殺技だからノーカン!

 あとはこのボールをゴールに向かって蹴ればいいんでしょ? 思いっきりかっ飛ばせばいいんでしょ? ならやってあげるよ!! 思いっきり必殺技でゴールを割ってあげるよ!!

 

「根性見せてよ、切ちゃん!!」

 

 切ちゃんの足を掴んで、持って、構える!

 狙いはあっち。ボールを浮かせて……くらえっ! 常識人達の怒り!!

 

「ド根性!! バットォ!!」

「ぎゃふんっ!!?」

 

 よし! 非常識人を介してボールを打ったからかなり高速で飛んでいっている! 未来さんもあまりの事に反応できず……

 

「ご、ゴール!! そしてゲームセットだ!!」

 

 ゴール! これぞ満塁ゴール!! ついでに勝ち!!

 切ちゃんを放り投げてわたしはそのままセレナの元に向かって、カタカタ震えるセレナにそっと手を差し伸べた。

 

「帰ろっか、セレナ」

「……はい。帰りましょう」

 

 もうこんな場所に居る理由はない。わたしは手を取ってくれたセレナと一緒に帰ったのでした。

 非常識人共は本当に反省してください。こっちには常識人だっているんですよ。




という事で超次元サッカーでした。最後に調ちゃんが大暴走して終わり。調ちゃんに切ちゃんでド根性バットさせるのは元から決めていました。という事で以下は各キャラの技構成紹介を簡易的に。案だけあって出なかった必殺技もあるよ
6/29日、未来さんの必殺技が抜けてたので追記

ビッキー……爆裂パンチ、せいぎのてっけん、風林火山デストロイヤー、もちもち黄な粉餅、グングニル(秘伝書)
ズバババン……伝来宝刀、菊一文字、王の剣、影縫い
きねくり先輩……デスレイン、ダブルショット(シュートコマンド07)、ファイアトルネード、アグレッシブビート
奏さん……炎の風見鶏、ジ・イカロス、ザ・フェニックス、ディープジャングル
たやマ……フォルテシモ、グラディウスアーチ、流星ブレード、オールデリート
切ちゃん……ハンターズネット、デスゾーン、デスゾーン2、ザ・タワー
393……王家の盾、ザ・ハリケーン、風神の舞、疾風ダッシュ
サンジェルマン……オーディンソード、ダッシュストーム、リフレクトバスター、ラストデスゾーン
プレラーティ……たまのりピエロ、ザ・ウォール、アトランティスウォール、オメガアタック
カリオストロ……ビバ!万里の長城、ザ・マウンテン、ワープドライブ、ビッグバン
グレ響……ドリルスマッシャー、氷結のグングニル、真空魔、ノーザンインパクト、クイックドロウ(秘伝書)、ひとりワンツー(秘伝書)、もちもち黄な粉餅(何故か使える)

調ちゃん……ジャッジスルー、ジャッジスルー2、ジャッジスルー3、ド根性バット、メガネクラッシュ(メガネの人間でド根性バットした時のみ)、ジャッジスルー(アレスの天秤ver)


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月読調の華麗なるぷちぷちそうしゃ

今回はサブタイ通り、ぷちそうしゃ時空の続きです。今回はあの二人のぷちも大登場!

アニメ五期、XVも放送されまして、語りたい事は山ほどありますが、ここは一旦我慢して後書きにて色々と語りたいと思います。そしてリアタイでの自分のアレコレはTwitterの方を確認してもらえば見つかりますぞ。

あと、シンフォギアXVが終わるまでは一週間に一話くらいのペースで更新していきたいと思ってます。毎回毎回後書きに自分の感想を乗っける感じで。


 わたし達が装者をイメージしたちっちゃな謎の生命体、通称ぷちそうしゃを引き取ってから大体一週間ちょっとの時間が過ぎた。

 ぷちそうしゃはわたし達がきりとしら、響先輩と未来さんがびっきーとみくさん、クリス先輩がくりちゅとちゅばさ。で、本来はわたし達がまりにゃを引き取るつもりだったんだけど、エルフナインが働き過ぎて過労死しないように監視をしてくれるとの事で、まりにゃはエルフナインと同居中。

 時々きりとしらを連れてまりにゃには会いに行ってるからきりとしらも特に寂しくはないみたいだし、わたし達もぷちそうしゃを三……人? 匹? も預かるのはちょっと負担があったから丁度良かった。

 で、ぷちそうしゃを引き取った生活だけど。

 

「しら、その調味料取って」

「こしょ」

「ありがと。そっちは大丈夫?」

「こしょこしょ」

「うん、大丈夫だね。じゃあわたし、切ちゃん達を起こしてくるから」

 

 まぁ、こんな感じでわたしとしらは家事担当。

 え? ぷちに家事ができるのかって? できちゃうんだよね……

 最初はいきなり包丁を持って台所に立ったから焦ったんだけど、家事の腕は相当。料理もわたしと同程度にはできるし、他の家事も小さいながらもできているから、しらはわたしと一緒に家事担当になった。

 ……うん、言いたい事は分かるよ。この光景、明らかに異常だし、しらの手って何て言うか、延べ棒みたい感じで指が見当たらないのにしっかりと包丁を握れてる所とか。

 色々と異常だとは思うけど、まぁ気にしたら負け。このナマモノとしか呼べない生命体は多分触れちゃいけない物理法則とかでできてるから。

 

「切ちゃん達。もうご飯できるから起きて顔洗ってきて」

「ううぅぅ……まだ眠いデス……」

「でーす……」

「昨日遅くまでゲームしてるからでしょ? 自業自得だから起きた起きた」

 

 切ちゃん達を無事起こして、顔を洗いに行かせてからわたしはしらと一緒に朝ご飯をちゃっと作り終えて、しらがお皿の上に料理を盛りつけて、わたしが配膳。そうしていると、顔を洗ったのにも関わらず眠そうな切ちゃんときりちゃんがやってきた。

 

「ほら、切ちゃん達。もう朝ご飯できてるよ」

「おいしそうなにおいデスなぁ~……」

「でーす……」

 

 欠伸混じりな二人に溜め息を吐きつつ、四人で席について手を合わせてからいただきます。そのまま朝ご飯を食べ始める。

 うん、今日も美味しくできた。満足満足。

 テレビでニュースを見つつ、ついでに朝ご飯を食べながら寝そうな切ちゃんの足を時々突いて起こしつつ、今日の予定を思い出す。

 今日はまず、本部で訓練して、それから任務から帰ってくる翼さんとマリアを迎えに行って、ついでにぷちそうしゃ達の服を、今はちょっとしか無いからもうちょっと買い足しに行って……

 と思った時。

 

「あれ? 誰か来たみたいデスよ?」

 

 インターホンが鳴って、誰かが来たことを伝えてくれた。

 あれ? 今日は特に誰か来る予定も無かったはずだけど。それに、通販を使った記憶も無いし……本部から何か届いたとかかな? 出ようとする切ちゃんを止めて、きちんと着替えているわたしが玄関に出る事に。

 

「はい、どなたですか?」

「宅急便です。荷物を持ってきたのでサインをお願いします」

「え? 荷物……ですか?」

「発払いなのでサインだけで大丈夫です」

 

 荷物、しかも発払い……一体誰が? 送り主の住所は……どここれ? よく分からない。

 でもって荷物の内容は……な、ナマモノ? なにそれ……? とりあえずサインだけして荷物を受け取る。うっ、そこそこ重い……

 部屋の中に持ち帰って、床の上にそれを置いてから切ちゃんと一緒に様子を見る。

 

「……危険物、ではなさそうデスけど」

「ナマモノって……そういうのってクール便とかで送るんじゃ……」

「こーしょん?」

「でーす?」

 

 きりとしらの二人も荷物を見て不思議そうに……と思ったら一人でにダンボールを開け始めた。

 いや、別に開けるつもりだったからいいけど。でも、中には一体何が入ってるんだろう? きりとしらが小さい体で頑張ってダンボールを開封した所で、わたし達もダンボールの中を覗いて……って!?

 

「し、調! これって!」

「う、うん……ぷちそうしゃ、だね。それもこの子は……」

 

 ダンボールの中からわたし達を見上げる新しいぷちそうしゃ。

 最後に見たのは何年も前だけど……間違いない。このぷちそうしゃは。

 

「あぷ?」

「せ、セレナ……の、ぷちだね」

「マジデスか……」

 

 猫耳みたいなのが生えた小さいセレナ。つまり、セレナのぷちそうしゃに間違いなかった。

 

 

****

 

 

 と、いう事で。

 

「セレナのぷちこと、せれにゃを持ってきました」

 

 こういう時は本部に相談。せれにゃをわたしが抱えて、切ちゃんがバッグの中にきりとしらを押し込んでから合計五人……二人と三匹? よく分からないけど、とにかく結構な大所帯で本部にやってきた。

 本部を見たせれにゃは本部内をわたしの腕の中から見渡している。けど、飛び出そうとか探検に行こうとか、そういうのじゃなくて単純に興味があって見ているだけみたい。大人しい感じの所もどこかセレナっぽい。

 で、そんなわたし達を風鳴司令とエルフナイン&まりにゃが出迎えてくれた……んだけど、まりにゃとせれにゃが出会ってすぐに。

 

「ねーちゃ! ねーちゃ!」

「せれにゃ!!」

 

 まりにゃとせれにゃが抱き合った。そして暫く抱き合った後は両手を上げて嬉しいのポーズ。はい、よくできました。

 

「にしても、まさかセレナさんのぷちまで出てくるなんて……」

「手紙によると、なんか気が向いたのでまた作っちゃいましたって事らしいデス」

「だからと言って生み出した命を俺達に押し付けるな……!! 俺はこの研究者のいる研究所にちょっとした手紙を書いてくるため、席を外してくる」

 

 どうやら風鳴司令はお説教モードらしい。多分、お手紙には変わりないんだろうけど、ちょーっと怖い感じのお手紙だと思う。怒った風鳴司令は怖いからね……南無。

 で、肝心のまりにゃとせれにゃだけど、さっきから二人一緒にずっとくっ付いているから引き剥がす訳にもいかず。ついでにきりとしらも合流して四人で嬉しいのポーズしてるから、一旦放置しておくことに。

 にしても、この面子は懐かしいなぁ。F.I.Sでネフィリムの暴走が起こる前は大体この四人で一緒に居たっけ。そう思うと何だがまりにゃ達を見ていると懐かしい気分になる。

 

「にしても、セレナさんのぷちですか。こうなると、奏さんのぷちも出てきそうな……」

 

 あっ、エルフナイン。それフラグ。

 そう言おうとした瞬間、部屋の自動ドアが開いて、そこから響さんと未来さんがなだれ込んできた。あっ、その抱えている子ってまさか……

 

「な、なんか宅急便で奏さんのぷちが送られてきたんですけどぉ!!?」

「だぜ!」

 

 や、やっぱり……

 

 

****

 

 

 と、いう事でぷちはこれまでの七人に加えてせれにゃと奏さんのぷち、こかなの計九人になった。

 ちなみにせれにゃの鳴き声はあぷ。多分、マリアとセレナが時々歌ってたAppleから、かな? で、まりにゃに対してはねーちゃ。これはマリアを見た時も同じだったから、せれにゃの中でマリアってカテゴリに入るとねーちゃって言葉が出てくるんだと思う。

 で、こかなの鳴き声はだぜ。それで、翼さん、もしくはちゅばさに対してはつばしゃ。多分、せれにゃと同じ原理だと思う。ついでに、こかなは他のぷちよりもちょっとだけ話せる言葉が多いみたい。一言二言以外にもちょっとした言葉なら話す事ができるみたい。

 ……それで、どうしてわたしがマリアと翼さんに対する限定の鳴き声も知っているかと言いますと。

 

「セレナァァァァァァ!! セレナ、セレナぁ! セレナぁぁぁぁ!!」

「ねーちゃ!」

「あーもう可愛すぎる!! 何この可愛さ!! セレナが小さくなって猫耳が生えたら可愛いに決まってるじゃない! こんなの可愛いの大洪水よ!!」

「か、かなで……? 小さくなったけど、かなで、なんだよね……?」

「つばしゃ。よしよーし」

「かなで……! かなでぇ!!」

 

 今、目の前でマリアと翼さんがせれにゃとこかなを抱きしめて泣きじゃくったり叫んだりしてうるさいからです。

 その気持ち、わからないでもないけど……もう会えないと思った人と似たマスコットみたいなナマモノと出会ったら感極まるのはね。

 でも、流石にうるさい。響さんや未来さん、エルフナインは苦笑。クリス先輩は額に手を当てて溜め息ついてるし、切ちゃんもちょっと呆れてる。それで、わたしも絶賛呆れてる。

 せれにゃ、こかなを迎え入れてから、わたし達はクリス先輩を迎えに行って空港に向かって二人を拾ってから本部に来たんだけど、その瞬間これ。二人にはぷちの事はまだ話していなかったし、サプライズみたいな感じで教えようと思ってたのがちょっと仇になった。

 でも、二人ともせれにゃとこかなを拾った時には既に飛行機の中だったし、どっちにしろここに来たらこうなってたかも。

 

「ねぇ、この二人どうしよう」

 

 いい加減うるさい二人を若干鬱陶しく思ったのか響さんが苦笑しつつわたし達に聞いてくる。

 どうしよう、と言われましても。ぶん殴って落ち着かせるくらいしかわたしは思いつかないです。無理矢理引き剥がすとなんか抵抗されそうですし。

 

「ったく……おいそこの歌姫共。こっちのぷち達が引いてっからいい加減正気に戻れ」

 

 言いながら、クリス先輩が後ろでマリアと翼さんにドン引きの目を向けるぷち達に指をさす。あ、でもびっきーは間抜け面してるしみくさんは絶賛響さんの後頭部にしがみついてるからそうでもないかも。

 けど、マリアと翼さんはその程度では落ち着かず、ずっとせれにゃとこかなを抱きしめたまま。

 もう本当に殴ってでも止めようと思ったその矢先。まりにゃとちゅばさがてちてちとわたし達の前に出てきた。

 何する気だろう? 思いっきりビンタとか?

 

「ふぃね!」

「ちゅるぎ!」

 

 とか思ったら大声で鳴いただけだった。

 でも特にマリアと翼さんは動かず。駄目だこりゃとわたし達は顔を見合わせてお手上げ。もう本当にどうしたら……

 

「せーれんこーふぃんあーがーとらーむとろーん」

「いみゅてーすあめのーはーばきりとろーん」

 

 ……ん?

 

「えっ、今聖詠が聞こえたような……」

「それに何だか嫌な予感が……」

「ふぃねっ!」

「ちゅるぎだ!」

「なっ、小さい私がギアをぐっはぁ!!?」

「何と面妖ながはっ!!?」

 

 ……えっ?

 ……いや、あの……えっ?

 わ、わたしの見間違いじゃなければなんだけど……まりにゃとちゅばさがアガートラームと天羽々斬を纏って二人を思いっきり斬り裂いたんだけど。でも傷はないみたいで血は出てない。

 ……いやいやそうじゃなくて!? どうしてぷちがギアを!?

 

「あ、言ってませんでしたっけ? ぷち達は本物のシンフォギアを纏えますよ。最も、武器は精々しばき棒程度の硬度で、切れ味なんて以ての外レベルなので対ノイズ戦における戦闘能力は皆無ですけど」

 

 いや、なにそのビックリドッキリ拡張機能!? っていうかあの短剣と刀、立派に光を浴びて光ってるけどしばき棒程度のダメージしか入らないの!?

 ただでさえ二頭身のビックリドッキリナマモノなのに、ギアまで纏えるなんて。エルフナインなんて信じたくない物を信じてしまっているせいか、遠い目をしながら笑ってるし。

 で、二人をぶっ飛ばしたまりにゃとちゅばさはせれにゃとこかなを抱えて二人から距離を取る。でもせれにゃはまりにゃに抱きしめられてきゃっきゃしてるし、こかなはちゅばさを落ち着かせるために頭を撫でてる。

 

「け、結構痛かったわ……」

「う、うむ……昔、奏にプラスチックのバットで思いっきりケツバットされた時程度には痛かった……」

 

 何してるんですか若かりし頃のツヴァイウイング。

 でも、プチ達の一撃で正気に戻ったマリアと翼さんは改めてせれにゃ&まりにゃ、こかな&ちゅばさの前で屈むと、そのままぷちを観察し始めた。

 

「デフォルメされた自分を見るのは、どことなく不思議な感覚だな……」

「にしてもギアまで纏える二頭身の生命体……聖遺物って何でもありね……」

 

 二人は改めてまりにゃ、ちゅばさごとぷち達を抱っこ。まりにゃとちゅばさはちょっと二人を警戒していたけど、まりにゃの方はせれにゃが喜んでるから、ちゅばさの方はこかなが宥めているから大人しくしている。

 

「こうして見ると、デフォルメされたマリアも中々愛くるしいじゃないか。それに、あっちの立花達のデフォルメの方もな」

「そうね。この剣、中々可愛いじゃない」

 

 どうやら二人はしっかりと正気に戻ったようで四人のぷちを抱えたままこっちに来ると、他のぷち達の事も観察。そのまま抱っこしたり撫でたりと完全にペットを愛でる感覚でぷち達を触っている。

 まぁ、これで目下の問題は何とかなったけど、次の問題があるよね。

 

「それで、せれにゃとこかなは誰が面倒見るんですか?」

「それなんだよなぁ。流石にアタシも三匹は面倒見切れねぇ」

「ボクも、なんやかんやでまりにゃを放置してしまう時間が長いですし……」

 

 そう、新しく加わった二人のぷちを誰が面倒みるか。

 今までのぷちは自分達を元にしたぷちを預かって、ちゅばさはくりちゅとの繋がりでクリス先輩が。まりにゃはエルフナインの監視のためにエルフナインの元に。

 でも、クリス先輩の所にちゅばさ繋がりでこかなを預けると、クリス先輩も面倒見切れないし、まりにゃ繋がりでエルフナインにせれにゃを預けたらまりにゃが大変そうになるし……どうしよう。

 

「奏の小さいの……確か、ぷちだったか。それと、マリアの妹のぷちはまだ誰が面倒みるか決まってないのか?」

「実はそうなんですよ。クリスちゃんの所にこかなを預けようとしても負担が大きいですし」

 

 そうなると本部全体で面倒を見るって事になる……のかな。でも、それだと流石に他の職員の人に迷惑がかかりそうだし。

 じゃあ大人の人達に交代で面倒を見てもらって……いや、それだとぷち達のストレスが。

 

「それなら私が奏のぷち、こかなを預かろう。それと、私のぷち、ちゅばさも預かるぞ」

「え? いいんすか、センパイ」

「あぁ。ちゅばさもこかなと一緒の方がいいだろうしな。雪音の元から引き剥がす事になるから、少し心苦しいがな」

「だったら私も、まりにゃとせれにゃは預かるわ」

 

 翼さんとマリアからの提案を聞いて、本人たちが預かれると言っているのだから後はぷち達本人の意志でどうするかを決める事にした。

 その結果、ちゅばさもまりにゃも今の住み家から二人について行く事を選択したみたいで、ちゅばさ、こかなは翼さんが。まりにゃ、せれにゃはマリアが預かる事になった。ちゅばさはこかなと一緒に居れればよかったみたいで、時々クリス先輩の所に遊びに行く程度で良いみたい。で、まりにゃはせれにゃと一緒だから何も問題はないって。

 その会話をわたしと切ちゃんは暇だからびっきーとかきりちゃんとかしらを抱っこしながら横の方で聞いていた。

 

「びっきー、きりちゃんやしらと違って何だかもちもちしてる。可愛い」

「しらは相変わらず可愛いデスなぁ。ツインテも可愛いデスし」

「こしょ?」

「撫で心地も最高デスし。それ、百輪廻デス!」

「こら切ちゃん。引っ張ったらしらが痛が――」

 

 切ちゃんがしらの髪をちょっとだけ引っ張って横に広げたからちょっと注意をした瞬間。なんかしらの頭頂部から飛んだ。

 それが部屋の天井に当たり、そのまま落下。切ちゃんもまさかツインテを引っ張ったら何かが飛び出すとか思ってなかったみたいで、口が開きっぱなし。そしてわたしも唖然。ついでに他の皆も唖然。

 飛んでいったのを確認してみると、それは。

 

「……た、タケノコ?」

「な、なんでタケノコがしらの頭から……」

 

 し、しら、まさか後ろ手で隠していたとか……?

 

「……も、もっかいデス」

 

 切ちゃんがビクビクしながら軽くしらのツインテをもう一回引っ張った。

 そしてもう一発頭から発射されるタケノコ。それが響さんの顔面に直撃し、響さんがノックアウト。そしてみくさんが顔面にフェイスハガーの如く張り付き、響さんが窒息する。

 

「……ぷ、ぷちって不思議デスね」

 

 どうやら、ぷちそうしゃにはまだまだ知らない秘密が隠されているみたいです。

 ……とりあえずタケノコは持ち帰って食べる事にして。

 はっ、まさか、しらの髪を引っ張れば引っ張る程タケノコが量産されて、毎日タケノコが食べ放題になるんじゃ!?

 

「おい。悪い顔してんぞ」

 

 じょ、冗談……ですよ?




と、いう事で新たなぷちそうしゃ、せれにゃとこかなの登場でした。せれにゃは特に元ネタ無しのぷち。こかなは名前がこあみ、こまみから、その他はたかにゃとかちっちゃんとかのミックスになります。

そして判明するぷち達の意外な真実。多分ぷちそうしゃ時空をやるたびに何かしら出てくると思います。あずささん枠も出したかった。あらーと手を叩くとワープしてどっかへ。

で、ここからはシンフォギアXVの感想です。思いっきりネタバレしますのでまだ見てない方は注意。

と、いう事で始まりましたね、シンフォギアXV! 放映開始数分前からテレビの前に張り付いて、そしてスタート。そして開始数分でのビッキーの新バンク! 一期から四期までの要素詰め込むとか馬鹿じゃねぇの神かよ!! しかもグレビッキーっぽいマフラー要素まで!! ありがとうございます!!
そのまま棺とやらとの戦闘は相も変わらず作画がおかしい。動き過ぎだしカッコ良すぎだし! そしてALL LOVES BLAZINGは予想していたよりも遥かにカッコいい! CD早く!! はよぉ!! 後、皆さん、ビームを避けた後のクリスちゃんとマリアが喋ってる所の横で構えてる調ちゃん、見えました? あの手を組んで構える調ちゃんが可愛かった。
そして最初の技カットインは調ちゃんの百輪廻! XV初カットインありがとうございます! あとビッキーの音ハメ攻撃マジでかっこいい。作画神かよ。
あときりしらのスケート技。あそこに入る前の二人の足の動き方が尊い。ヤバイ。しゅき……
そこからももう最高でしたがカット。マジで感想だけで二千文字超えそうなので。ひびみくの観覧車デートとか尊い。あと、敗北して凍った時の調ちゃんの格好がちょっとえr(ry
最後にもうちょっとだけ。一話で六人合唱とか熱すぎて火傷するぅ! あと調ちゃんの歌声マジ神。他の装者達の歌声も神。あと六花繚乱の歌詞がマジ尊すぎる。そしてビッキーの扱いを覚えたエルフナインちゃんのぶん殴ってくださいで笑ったのは自分だけでは無いハズ。
それとビッキーの水中戦。一つ思い浮かんだ単語を言わせてください。
ゲッターポセイドン。
あとラスト! 継戦能力を全て捨てた捨て身の一点集中攻撃とか熱すぎィ!! ギアブラスト? ヘキサリボルバー? カッコ良すぎて心臓爆発するぅ!! ただその前が分からない。C3SA? C3FA? S2CAでは無かったけど……個人的にはC3SAだと思ってます。
しかも何気にインナーだけでしっかりと正面から映ったのは一期以来? 調ちゃんのインナー姿えっちすぎるよぉ……やっぱ調は可愛くて色気有りすぎデスよぉ……
来週が楽しみで仕方ありません。しかも再来週なんて調ちゃんのソロがもう来るんですよ! 多分そのままユニゾンもやってくれるでしょうし。ホント生きていく理由ができた。できてくれたんだ……
というか、最終話が終わった後、興奮のし過ぎで心臓止まったりしないか心配です。最終話後に死んだら察してください。多分最終話で興奮して召されてます。

P.S
逆羅刹コプター、マジで空を飛ぶとはなぁ……四期は落下していくだけだったのに……


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月読調の華麗なる片割れ

今回は月読調の華麗なる平行世界の続編的な話です。なので上中下後日談を見てない方は置いてけぼりになる感じの話になります。

無事、切ちゃんの説得によって前を向いて手を伸ばす事を知った調【IF】の世界に何者かの魔の手が。果たして調【IF】は自分の世界を守り切る事ができるのか。

そんなシンフォギアXD風のあらすじを乗っけてからの、本編です。どうぞ。


 SONG。それは日本にある聖遺物を扱う組織、特殊災害対策二課という組織とわたし達の組織、F.I.Sが統合し、その他聖遺物を研究している機関が多数集まって国連に認められる事でできあがった国連が運営する聖遺物及びノイズによる新たな特殊災害対策組織。正式名称はSquad of Nexus Guardians。

 それが、F.I.S唯一のシンフォギア装者であるわたし、月読調と何か月もかけて日本とは正反対の場所から徒歩で日本に舞い戻ってきた立花響先輩、風鳴翼先輩、雪音クリス先輩の計四人の装者を内包する、世界で唯一認められた正規のシンフォギアを扱う組織。わたしが新たに身をやつす事になった組織だ。

 三人が戻ってきてからまぁ色々とあったわけだけど……そこら辺は割愛。響先輩が乱痴気騒ぎに巻き込まれただけだからね。

 そんな感じで戻ってきた三人だけど、三人は学校が色々とマズいという事でSONGが結成されてから暫くは勉強に励むことになって、わたしが大々的にSONGのシンフォギア装者として動くことになった。わたしはまだ動けない三人に変わってこの世界を守りたいから学校には行かず、マムの家庭教師だけでいいって言ったら渋々……ほんっとうに渋々だけど了承されたから三人が動けない間の実働隊として動いている。

 そんなわたしだけど……実は結構大忙し。

 何せソロモンの杖はルナアタックの後に保管されていたんだけど、紛失。そのせいで世界各地で出てくるノイズはその発生頻度が増し、わたしは世界各地をあっちこっち。ノイズが出てこなくなればもう少し楽になるんだろうけど……そのためにソロモンの杖をわたし達は探し求めている。

 

「……ここも違う。マム、風鳴司令、指示を」

『ではこのまま退却を』

『後始末は俺達に任せてくれ』

「了解。即座に帰還します」

 

 そして今日もソロモンの杖らしき聖遺物を研究していたらしい違法研究所を制圧したんだけど、ここも外れ。研究所は情報通りかなり嫌な所で、人体実験は当たり前、聖遺物の力を使った紛争ビジネスにも手を出していて、とてもじゃないけど優しいあの三人には任せられない、汚い仕事だった。

 わたしが居る部屋には何人もの研究者がわたしに叩かれて伸びているけど、部屋の奥には既に息絶えてしまった人達……聖遺物を埋め込まれたり聖遺物の力の犠牲になったり、単純に解剖されたり……

 肌色よりも赤色の方が占める色が多い。そうとしか言いようがない地獄がそこにはあった。

 心を殺せばまだこの光景の中でも平常心を保っていられる。そうする術をわたしは身に付けてしまったから。でも、他の人たちは違う。絶対に心に傷を負ってしまう。

 そうして心を殺していたからこそ、激情に身を任せて研究者達を皆殺しにする、なんて真似もしなかった。でも、きっとここを出ればわたしはどうしようもない怒りに支配されて八つ当たりの一つでもすると思う。

 わたしは唯一生き残っていた女の子を抱えて入ってきた黒服の人たちに後を任せて部屋を出る。

 

「……もう大丈夫だからね」

 

 意識を保っているけど衰弱している女の子……名前は、シャロンか。まだ小さなシャロンを安心させるために声を掛けながらわたしは研究所を出て待っていた医療班の人たちにシャロンの身柄を預けた。

 

「お疲れ様です。このヘリに乗って退却の方を」

「はい。それと、この子の事、お願いします」

「任せてください。私達の力の全てでこの子を救ってみせます」

 

 それなら安心かな。

 ギアを解除してわたしはヘリに乗り込む。とりあえず自由行動できる時になったらシャロンのお見舞いにでも行こうかな。待機所までは暫く暇だし、ちょっとだけ仮眠でも……

 

「ノイズだ!!」

「総員、至急退避! 被害者の安全の確保を最優先しろ! 月読さん、お願いできますか!?」

「っ……任せてください。即座に鏖殺します」

 

 この現場で一番偉い人の言葉を聞いてわたしは即座にヘリから降りてギアペンダントを握り締めた。

 また誰かを助けるために、力を貸して。シュルシャガナ。

 

「various shul shagana tron……!!」

 

 シュルシャガナの聖詠を唄い、わたしはもう一度シュルシャガナを纏う。

 直後、わたしの目の前にノイズが現れ、職員の人たちがわたしを見てから安堵の表情を浮かべて後ろへと走っていく。シャロンを乗せたヘリはいの一番に離陸して空を舞っている。これならシャロンは安心……っ!?

 空をノイズが飛んでる!? 確か響先輩達から一度だけ聞いたことがある、あの超巨大飛行型ノイズ……!? なんであんなものも……!!

 

「くっ……ヘリはすぐに逃げて!」

 

 シンフォギアの標準機能である通信機能でヘリに呼びかけてからすぐにわたしはチェーンソーを片手に跳躍。アームドギアの先端からブースターを展開して火を吹かせて普段の何倍もの跳躍力を得てから飛行型ノイズの上を取る。

 そのままチェーンソーを足のアームドギアとドッキング。チェーンソーが巨大な丸鋸に変化した。

 これで!

 

「はぁぁ!!」

 

 丸鋸を使った急降下キックで飛行型ノイズを一撃で四散させる。

 けど、結構無茶な技をしたからか少しだけ体がキツい。わたしの適合率はあの日、エクスドライブを経てから上がった。それでもわたしの適合率は平行世界に帰った切ちゃんよりも下。神獣鏡の適合者である未来さんよりも。

 だからたった一回の大技でわたしの体はバックファイアによる自傷が走る。

 それでも。だとしても、まだ倒れるわけにはいかない。ここにいるノイズを全部駆除するまで、倒れるわけには。

 この世界を守るため、また切ちゃんと会った時に胸を張って頑張れたと言うため……このノイズによって死んでしまかもしれない誰かを守るために!

 

「ひいいぃぃぃ!!? だ、誰かぁぁ!! 助けてくれぇぇぇぇ!!」

「っ!? 職員は退避したはずなのに……まさか、一般人!?」

 

 今日、わたしは何度驚いたらいいんだろう。でも、そんなどうでもいい事は後で考えるとして、今は聞こえた声の方向へとノイズを切り裂きながら走っていく。

 そしてようやく、ノイズに包囲されているその人を発見する事ができた。

 あの人は……どこかで見たことが……? あ、思い出した!

 

「まさか、ウェル博士……!?」

「へっ? ……き、君は確かシュルシャガナの!?」

 

 ここで突然のウェル博士!?

 どうしてこんな所に……いや、話はあと!

 

「すぐに退避してください! ここはわたしが引き受けます!」

「あ、ありがたい! 君は命の恩人だぁ!!」

 

 例えこの人がF.I.Sから逃げてどこかで油を売っていた人なのだとしても、今のわたしにはこの人を助けるだけの理由がある。というかノイズ殲滅のついでに助ける。

 だからわたしが切り開いた道をウェル博士に突っ走ってもらって誰かに回収してもらってから、わたしはすぐにこのノイズ達を排除しないと。わたしがチェーンソーを改めて構えると同時にウェル博士がわたしの方に走ってきて、そのままわたしとすれ違いになり……

 

「えぇ、命の恩人ですよ。この世界の、ね」

「……え?」

 

 ウェル博士の言葉に疑問を抱き、振り返ろうとした直前に何かが首に押し付けられた。押し付けられたソレを押しのけるだけの時間すら与えられず、わたしが急いで首に当てられたそれを振り払った時にはわたしの体に異常が走っていた。

 

「一体何を……うぐっ!!?」

「ふっふっふふ……アハハハハハハ!! 所詮シンフォギア装者と言えどただの子供!! まさかあの時の人形がこうも生き生きとしているのは驚いたが……やってやったりしてやったりぃ!!」

 

 か、体が、いう事を……!?

 ち、違う、これは……LiNKER無しでギアを纏った時と同じ……いや、それ以上の、負荷が……!!

 このままじゃ、ギアが、解除、され……いしき、も……

 

「これで聖遺物一個確保っとぉ! さて、後はこの研究所の聖遺物もパクって……後はネフィリムの起動だぁ!!」

 

 ごめ、ん……たすけて、きりちゃ……

 

 

****

 

 

 目が覚めると、わたしは何処か分からない場所に居た。

 ここは……どこ? 外で……周りには土とか木ばかりで、前にあるのは……建造物? なんなんだろう、あの建造物は……

 

「ようやくお目覚めですか。あの頃は言われなくても起きていたのに……本当に、随分と変わりましたね。当時を知る者としては嬉しい限りですよ?」

「ウェル、博士……!!」

「ご明察ゥ!! 僕こそがこの世界の救世主にして英雄となる男! ドクタァァァァァ! ウェルゥゥゥゥゥゥゥゥ!!」

 

 あ、相っ変わらず頭のネジが外れたような言動してる……

 っていうかここは一体……? どこかの建物の中? それとも、洞窟の中? 少なくともどこかの研究室とかじゃない。それに、特に縛られても無いし体を障られた痕跡も……

 あの人、一体なんでわたしを攫ったの……? どこかの国に売りつけるなら縛り上げるだろうし、手を出したいのならとっくに……!?

 

「おやおや、やっと気が付きましたか」

 

 ぎ、ギアが! シュルシャガナがない!?

 

「あなたの大切な大切なギアはここですよ。こ、こ」

 

 そう言うウェル博士の手元には、確かにわたしのシュルシャガナと……他にもギアが?

 なんでギアが他にも……シンフォギアは二課とF.I.Sしか作ってない筈だから、紛失したアガートラ―ム、ガングニール、イガリマ以外は存在しない筈……

 いや、もしかして! あの残りの三つのギアって!

 

「そう、あなたの大切なギア。ガングニールとアガートラーム。そして、イガリマもねぇ!!」

「か、返して! そのギアは、それは切ちゃん達の!!」

「故人に所有物もへったくれもあった物ですか! むしろ僕に利用されることに感謝している事でしょう。この世界を救う英雄となる僕を手助けできたことにねぇ!」

 

 そ、んな事!!

 

「……おっと、そういえば説明していませんでしたね。僕が今から何をしようかを」

 

 どうにかしてウェル博士からギアを取り戻さないと……

 あれは切ちゃん達のギア。今までのわたしはそれを気にしていなかったけど……今は違う。せめて切ちゃん達がこの世に残した物はしっかりと、それを正しく使ってくれる人に受け継がないといけないのに。

 あんな人に任せてなんて……

 

「出てこい、ネフィリム」

 

 ウェル博士の言葉に従って何かが出てきた。

 あれは……黒い、怪物……?

 いや、違う! あれは!

 

「見覚えがあるでしょう? コイツ……完全聖遺物ネフィリムに関しては、特に。あなたがお人形のようになった切欠ですからねぇ」

 

 ネフィリム……!?

 どうして、こんな所に……いや、違う。どうしてまたネフィリムが起動しているの!?

 あれはセレナの絶唱で待機状態に戻った筈なのに。あれを再起動できるのなんて聖遺物に詳しい研究者位しか……ってウェル博士、まさか!?

 

「そう、ネフィリムこそが今回の計画、フロンティア計画の鍵。この世界を救う計画の要なのですよ!」

「ネフィリムで、世界を救う……?」

「そう。このフロンティアは! ネフィリムを動力源とする事により起動する! 神獣鏡の力によってこの遺跡は目を覚まし、そして僕が制御するネフィリムによって起動し、この僕が人類を新天地へと誘う!!」

 

 ……え、えっと。

 これ、狂言回し?

 いや、そうじゃなくて!

 

「どうしてそれが世界を救うなんて事に」

「おや、知らないのですか? 先のルナアタックで砕かれた月の一部。それは月機能を不全とさせ、遠くない未来に月はこの地球に落下しようとしている」

 

 つ、月が!?

 そんな事、ニュースなんかじゃ言ってなかった……いや、言えるわけがない、か。

 そんな事を報道してしまったら、全世界でパニックが起こる。もし月が地球に落下したら地球は人が住めない土地に変わってしまうかもしれない……

 月を砕くなんて人類には不可能……それこそ完全聖遺物の力でも使わない限りは。

 でも、このフロンティア計画はそれを防ぐ計画で……新天地へ、誘う? この遺跡が? 一体どうやって……

 ……まさか!?

 

「そう! この遺跡こそが人類の新たなる新天地なのですよ!」

 

 ウェル博士の言葉を無視して遺跡の外へと出る。

 遺跡の外は、海。だけど、この遺跡は……土地は、空に浮いていた。確かにここならあまり多くはないけど、人が暮らすには十分な土地もあるし、緑もある。

 

「っ……! けど、これだけじゃ世界を救うなんて、できない! 全人類を救うだなんて!」

「おや、誰が全人類を救うと言いましたか?」

「えっ……?」

 

 だって、この計画は、人を救うための……

 ……いや、もしかして。

 そうだとしたら、ウェル博士の言葉は。

 

「……まさか、救う人を厳選して、他を見捨てるつもり!? そして自分がその人達を救った英雄になろうと!!」

「正解正解大正解ぃ!! そう、これこそが僕のフロンティア計画!」

 

 世界を救うために戦うのならまだしも、それをダシに自分の野望を叶えようだなんて……!

 

「それに、この世界には僕の妨げとなる存在はもういない。この通り」

 

 ウェル博士は憎い顔を更に憎い笑顔に変えると、懐からまた何か……!?

 あれは、まさか……!?

 

「天羽々斬とイチイバル。これがここにある理由、あなたなら分かりますよね?」

 

 そんな、あの二人のギアが、どうして!?

 わたしのギアならまだしも、あの二人のギアが……!!

 

「カルマノイズ、でしたか。あなたが眠っているうちに現れたのですよ。そして、そこで僕はカルマノイズとの戦いに疲弊した装者達をネフィリムに襲わせ、これを奪った。なに、殺してはいませんよ」

 

 カルマノイズが、また現れた……!?

 確かに、カルマノイズは装者三人がかりでやっと倒せるような強敵。いくら響先輩達でも、あの時来てくれた響さん達よりも戦力的にはまだ劣っているから、それに加えてネフィリムの相手までしたら、いくら響先輩達みたいな半分不死身のような人でも……!!

 

「神獣鏡の出力がネックでしたが、それも何とか突破した。邪魔する装者ももうこの世界には居ない。カルマノイズだろうと例えネフィリムを止める事は不可能! あなたには僕が今ここで英雄となった事を証言する生き証人となってもらいますよ」

 

 そんな……

 どうしたら……一体どうしたら、この状況を……

 ……そうだ、シュルシャガナを。シュルシャガナさえ取り戻してここを脱出したら、平行世界に助けを求めに行ける! 響さん達に助けを求められる!

 響さん達なら、切ちゃん達ならきっとこの状況も!!

 

「おっと。何か企んでそうですね。ならばそれは先んじて潰すゥ!!」

 

 そう思った直後。ウェル博士の手にいつの間にか握られていた杖が光り、わたしの周りにノイズが大量に現れた。

 ノイズを召喚する杖……って言うことは、あの杖って!

 

「そう、ソロモンの杖は僕の手元にある! 装者も居なくなったこの世界に最早僕の夢を止められるものは居ないッ!!」

「ソロモンの杖まで……」

「さぁ、後はお食事タイムだネフィリムゥ!! シンフォギアを食らい完全体になっちまいなよ!!」

 

 そう叫びながらウェル博士はシンフォギアをネフィリムに投げて……

 ――また、なの?

 また、わたしは見てるだけで……

 目の前で全部終わって、わたしだけがのうのうと生き残って……!!

 ……嫌だ。そんなの、嫌だ!!

 今走れば、きっと間に合う! ノイズの間を走って、あそこまで辿り着けば、きっと間に合う!!

 

「ノイズなんて……今さら、ノイズなんてぇ!!」

「なっ!? ノイズに向かって走り出した!? 正気か!?」

 

 確かにこの行動は狂気だけど、それ以上に正気の沙汰!!

 こうでもしないと、全部あのいけ好かない男の思い通りになっちゃう! 切ちゃんとこの世界を守るって約束したんだから、絶対に守る!

 だから!

 

「この程度の危険、なんてッ!!」

 

 お願い、届いて……!!

 

 ――全く、調はあたしが居ないとダメなんデスから――

 

 ……え?

 切、ちゃん……?

 

「幻姿・阿rアJぃん!!」

 

 切ちゃんの声が、聞こえた気がした。

 その瞬間に、わたしの周りに砂埃が舞って、ノイズ達が一瞬で斬り裂かれた。

 い、今の攻撃って……まさか!

 

「当てるっ!!」

 

 後ろを向いて攻撃の主を確認しようとした瞬間、後ろから紫色のビームが飛んできて、ネフィリムの体を焼くとそのままネフィリムを吹き飛ばした。

 何が起こったのか分からないけど、今がチャンス! 開いた道を走って、わたしのシュルシャガナと、それからイガリマ、ガングニール、アガートラーム、イチイバル、天羽々斬を回収する。

 よかった、間に合った……!

 

「なっ、お、お前は!? い、いやあり得ない! そんなまさか! 死人が蘇るなどと!!」

 

 ウェル博士の声が聞こえる。

 やっぱり、そうだ。ここに来てくれたのは!

 

「調がピンチなら、あたしは例えどこだろうと。フロンティアだろうと、平行世界だろうと、助けに来てみせるデス!!」

「やっぱり、切ちゃん!!」

「遅れてごめんなさいデス、調! でも、ここからはあたし達も戦うデスよ!」

 

 わたしの後ろからノイズ達を斬り裂いてくれたのは、やっぱり切ちゃん。前に会った時とギアの形状が変わってるけど、何となく分かる。あの姿の切ちゃんは、前の切ちゃんよりも遥かに強い。

 そしてその後ろには。

 

「こっちの世界のわたしまで利用して、こっちの響を困らせるなんて……! 絶対に許さない!」

 

 バイザーを開いてウェル博士を睨む未来さんまでもが。

 間違いない、あの未来さんもわたしが知っている、平行世界の未来さん。神獣鏡の正規装者の!

 

「しかも神獣鏡、だとぉ!? 馬鹿な、神獣鏡はあの時、融合症例との戦いで消えた筈! ……いや、待てよ? まさか君達は、F.I.Sのレポートにあった平行世界の!!」

「その通りッ!!」

 

 きっとこの後来るのは響さん……そう思った。

 けど、聞こえた声は違った。どこかで聞いたことがあるような、無いような。でも、懐かしさを感じるこの声。凛々しさを感じるこの声は。

 ……まさか。来てくれたのは響さんじゃなくて!

 

「例え月の落下があろうとも! 最低な英雄の打算があろうとも! この世界には、歌があるッ!! この場に槍と歌を携える者が居ないのならば、その代わりに私が歌う!! この、マリア・カデンツァヴナ・イヴと銀腕・アガートラームがッ!!」

 

 マリア……マリアだ! 切ちゃんの世界で生き抜いて、戦い抜いてきた、アガートラームを纏うマリアだ!

 

「調、あなたからしたら久しぶりなのよね。色々と話したい事があるけれど、今は我慢よ。そして、今までの状況に危機を抱いていたのなら、安心しなさい。例えこの世界の装者が倒れようと、絶望する必要はない! 何故ならここには私達が居る! 歌がある! ならばこの場において敗北はあり得ない!!」

「うん、マリア!!」

「ちっ、亡者共が群雀のように!! だがこの現状、よく考えればチャンス以外の何物でもない! 行け、ネフィリムッ! 更に多くのシンフォギアを食らうのだ!!」

 

 っ、ネフィリムが!

 いくらマリア達でも、ネフィリムが相手だと……!

 

「ドクター・ウェル、忘れたのかしら? こちらには聖遺物への哲学兵装があることを!!」

「ネフィリムの相手は、わたしが! 閃光ッ!!」

 

 いや、そんな事はない! ネフィリムが相手でも、神獣鏡なら。聖遺物に対する絶対的アドバンテージを持つ神獣鏡がこの場にあるのなら、ウェル博士の全ての武器を使われても!

 

「ノイズが無数とネフィリムが一体。確かに、戦力差は絶望的。そんな状況だからこそ、立花響の言葉を借りるわ。そう、状況は絶望的。これ以上の援軍は無し。だとしてもッ!! この場にはそれを打開するための歌がある!! 神の義手と、女神の刃! そして未来を映す鏡があるのならば!!」

「偉そうな御託をぐだぐだとぉ!!」

「行くわよ、切歌、調! 小日向未来の援護をしつつ全てのノイズを殲滅、そしてドクター・ウェルからこのフロンティアとソロモンの杖を取り戻し、世界を救うわよ!!」

「あたし達三人が揃えば、できない事なんて存在しないデス!」

「うん! 一緒に戦おう!」

 

 切ちゃんからLiNKERを受け取って、聖詠を唄い、シュルシャガナを纏う。

 既に未来さんは一人でネフィリムと戦っている。聖遺物特攻があったとしても、完全聖遺物の相手はシンフォギア装者一人には荷が重い。

 だからこそ、わたし達が援護する。

 わたし達が揃えば、倒せない相手なんて存在しない。マリアと、セレナのアガートラーム。そして、切ちゃんと、わたし。F.I.Sの装者とシンフォギアが、この場には全て揃っている。

 そして、この胸に浮かぶ歌は。

 

「……これが、わたし達三人の歌」

「そうよ。私達だけの歌。勝利の賛歌よ!」

「さぁ、切り刻むデスよ!」

「……うん。うん! 行こう、マリア、切ちゃん!!」

 

 旋律を奏で、三人で走る。

 その目の前にはノイズ達が立ちはだかるけど、それを全て一気に斬り払う。

 ユニゾンじゃないから、出力の上昇は微々たる物。あくまでも三人での合唱だから、数値的にはいつもと変わらない強さ。でも、今のわたしは心っていう埒外の力がある!

 だから、例え完全聖遺物だろうと!

 

「な、なんだこの勢い、フォニックゲインは! これほどのフォニックゲインがたった三人の装者から放たれるだとぉ!?」

「ドクター・ウェル! もう私達はあなたが知る私達ではない! その証をその目に刻み込みなさい!!」

「ヒィッ!? こ、こんな所で負けてたまるかぁ!!」

 

 っ、ウェル博士が外に逃げた!

 でも、ネフィリムがここには居る。それを未来さんに任せておくわけにはいかない。

 だったら!

 

「切ちゃん! ネフィリムを!」

「表に出して喧嘩するデスよ!」

 

 わたしと切ちゃんが左右からネフィリムを挟み、一気に距離を詰めてからチェーンソーと鎌で思いっきりネフィリムを斬り飛ばす。

 

「未来、続きなさい!!」

「はい!」

 

 そして吹き飛んだネフィリムにマリアと未来さんのビームが突き刺さり、ネフィリムの片腕が千切れ飛ぶ。更にネフィリムの体は外に逃げたウェル博士の近くに落下し、ウェル博士はその衝撃で転んで尻もちをついた。

 そこへとわたし達も飛び出し、さっきまでの狭い空間じゃなくて広い場所でチェーンソーを思いっきり構える。

 

「だ、だがこれだけ広ければドデカイビックリドッキリノイズだって出せるんだよォ!!」

 

 けど、ウェル博士は巨大なノイズを出して抵抗。

 全長は、五メートルを超えている。そんなノイズが数体も現れ、空にはそれと同じくらいのサイズのノイズが十体以上は飛んでいる。

 お、多すぎる……! これがソロモンの杖。ノイズの召喚使役を可能にする完全聖遺物……!

 ……いや、でも、多いだけ。

 多いだけなら、やりようは幾らでもある!

 

「調。ここは私達が一撃で蹴散らすわ」

「後詰めはお願いするデス!」

「……二人がそう言うのなら、信じる!」

 

 でも、二人がここは一撃で王手直前まで持って行ってくれる。だったら、私は最後の詰めだけを担当する。

 切ちゃん、マリア、未来さんが絶唱を口ずさみ、その手にフォニックゲインを蓄える。

 絶唱なんて使ったら、確実に後隙ができる。だから、この作戦は確実にわたしがこの後の後詰をできると信じてくれているからの絶唱。それを、無為にするわけにはいかない。

 

「行きなさい、調!!」

「ノイズでモーゼの時間デス!!」

「ネフィリムは、わたしが!!」

 

 マリアと切ちゃん、二人の絶唱によって生まれた白と緑の光が空と地に炸裂。そのまま爆発して全てのノイズを焼却していく。

 そして未来さんの絶唱によって放たれたビームがネフィリムの体を消し飛ばし、心臓だけを残す。

 道は、開いた。

 今度は、わたし自身の力で間に合わせる!!

 

「なっ!? そんな馬鹿な技が!!?」

「そこぉぉぉぉ!!」

「しまっ!?」

 

 ツインテールと腰のユニットからバーニアを吹かせて一気にウェル博士に肉薄。そのままチェーンソーを握ってない手でウェル博士の持つソロモンの杖を力任せに奪取。

 ウェル博士は抵抗したけどシンフォギアの前には無力。勢いあまって転んだウェル博士の首元にそのままチェーンソーを突きつける。

 

「わたし達の、勝ち。ウェル博士、あなたをSONG所属の正規シンフォギア装者として拘束します。抵抗は無駄です」

「ぐっ……! こ、殺せぇ!! どうせなら僕を殺して英雄にしろぉ!!」

「殺しません。あなたは、英雄じゃなく人として裁きます。それが、わたしの信念で、理想だから」

 

 こうして、ウェル博士が起こした騒動は、わたしと、平行世界から来てくれた切ちゃん達のお陰で何とか解決する事ができた。

 

 

****

 

 

 それからの事。

 ウェル博士はそのまま逮捕されて然るべき処罰を受けるとの事。そして、ソロモンの杖を使ってわたしはバビロニアの宝物庫という所を完全に現世から切り離して閉鎖。ノイズが未来永劫、出現しないようにした。

 それから、SONGがフロンティアを調査。そして月の軌道を直すプログラムが存在するのを確認すると、それを使って月の機能を修正。月は地球に落下することなく、これからも今まで通り地球の周りを回り続けるんだって。

 あと、カルマノイズだけど、実はマリア、切ちゃん、未来さんはこっちに来た装者の別動隊で、あっちの世界の翼さん、クリス先輩が戦って殲滅したみたい。響さんはあっちの世界のわたしと一緒に残って、万が一に備えてたとか。

 それと、響先輩達の方だけど、暫く入院で命に別状はないみたい。響先輩の胸に埋まってたガングニールの欠片は消えたから、融合症例じゃなくなったけど、マリアの形見のガングニールを渡したら適合できたから、今まで通りガングニールの正規装者をするんだって。

 ただ、融合症例としての響先輩はどうやら命の危険もあったらしくて……平行世界の皆からその話を聞いた時、わたし達全員、顔を青くして冷や汗を流した。結果的に未来先輩は響先輩の命を救ったみたい。

 最初は響先輩のガングニールの消失に少しだけ残念がってたし、未来先輩もウェル博士に攫われて半分洗脳みたいな事をされて戦ったとはいえ、響先輩からガングニールを奪っちゃった事に後悔してたけど……なんやかんやでガングニールは正規品を使うことになったし、命の危険も去ったし、結果オーライだね。

 で、そういった処理をなるべく短い間に終わらせてから。

 

「それじゃあ、私達は戻るわ」

「調の様子を見に来ただけですっごい事に巻き込まれてしまったデス」

「カルマノイズにフロンティア事変……遊びに行くだけの筈だったんだけどなぁ」

「まぁ、こういう事も偶にはあるだろう」

「アタシ等にゃのほほんのんびりよりもこういう鉄火場の方が似合ってるってこった」

 

 どうやら響さんが大人しく留守番したのは、本当はただこっちに遊びに来ただけだったからみたい。

 響さんはまた今度来るから、今回はこの五人が、って感じ。

 にしても遊びに来たら事件に巻き込まれるって……すごい確率だなぁ。

 

「今度はあたし達の世界の調も連れてくるのも面白いかもデスね」

「へ、平行世界の自分と会うのってなんだか変な感じになるかも……」

 

 ドッペルゲンガーと会ったみたいな感じで。

 でも、なんだか面白そうだねって事で笑いあって、もうそろそろ切ちゃん達は帰らなきゃならない時間になった。

 もっとお話したいし、遊びに行ったりもしたかったけど、あっちの世界に帰らないと処理的にもマズいみたいだから、また今度。

 もうノイズも出てこないから、暫くは平和だろうしね。今度来たときはみんな一緒に遊べると思う。

 

「それじゃあ調。またね、デス!」

「うん、切ちゃん。またね」

 

 そして、切ちゃん達はギアを纏って元の世界へと戻っていった。

 ……よし、わたしももっと頑張らないと! この世界を守るって、約束したからね。

 だから。

 

「見守っててね、切ちゃん」

 

 一個から二個に増えたペンダントを握りしめながら、空を見上げた。

 何となく、空から応援が聞こえた気がして、わたしはちょっとだけスキップをしながら響先輩達のお見舞いに行くために病院へと向かった。

 さぁ、明日からまた世界を守るために特訓しないとね。




と、いう事でどうでしたでしょうか。月読調の華麗なる平行世界はG以前の話であり、GX直前風の話でしたので、今回は順当にGの話をやりました。本当は調【IF】が一人で戦い抜く……みたいに考えてたのですが、やっぱりそんなのじゃなくて誰かと共に戦うのが一番いいと思い、平行世界から切ちゃん、マリア、未来さんが援軍に。

本編と違ってウェル博士がネフィリムの細胞を腕に打ち込んでいない。ネフィリムの成長がビッキーの腕を食った時の大きさで止まっている等、そうした要因がありネフィリムは何とか未来さんの絶唱により撃破。ソロモンの杖は奪還してSONGが管理する事に。そんな感じのお話でした。

以下、簡単に二話の感想etc
きりしら尊い……しかも未熟少女Buttagiri! まで流してくれるなんて大盤振る舞い過ぎて前半はすっごく満足してました。
前半は。
後半のライブが終わった後ォ!! いや、大体はTwitterで色々と呟いたけど、自分は大きなどんでん返しが無い限り、ミラアルクを好きになれる気がしません。というか、パヴァリア残党組も好きになれないと思う。
いくら仲間のために手を汚せると言っても限度がありますし、既にミラアルクはサンジェルマン達が殺した総数を越えているわけですし。
あと、それを止める素振りすらしなかった他二人もですよ。十万も殺すのを黙認する理由があったのかよと。サンジェルマン達ですら長年かけて七万ちょっとですよ? それを三万も超える数を、一日で殺しているのを黙認、容認している時点で……しかも、目的を察する限り、翼さんの精神を追い詰めてなんか仕掛ける事ですし。たった一人を追い詰めるために十万殺してる時点で。
というかそもそも人の命を塵芥と目的遂行のための道具としてしか見ていないようにしか見えないので……それに、一般人を意図的にガードベントして自分で殺す時点でちょっと……
そんな、相手側から殺しという行為を何とも思っていないと感じた二話でした。

それではまた次回、お会いしましょう!


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月読調の華麗なる超短編集

ザレイズの周回ばっかしてたら日曜投稿が危なかったゾ

今回は生徒会役員共時空方式の小ネタ集と言うか、どこかで見た事あるようなネタをやりまくるだけの話。

本当はつい思い出した空港でお金ないけどジュース買ったネタをやろうとしたんですけど、流石にそれで五千文字は無理だったので急遽短編集にして、2chの笑えるテンプレネタと、調べたら出てきたコンビニネタを交互に挟む感じで一話構成しました。時折キャラ崩壊する調ちゃんで笑ってみてください。

それとXV三話はクリス先輩のバンク来たので調ちゃんのバンクは無いと思ったらまさかのバンク有り。クリス先輩のてんこ盛りバンクも良かったですが、調ちゃんのバンクはマジで……マジで……(語彙力)
とりあえずバンクを見返してもっと幸せな気持ちに……あ゛っ!!(死)


 今日はマリアが外国でのお仕事から帰ってくる日。結構久しぶりに帰ってくるから今日はわたし達の部屋に泊まって三人一緒に寝る約束……なんだけど、どうにもマリアが中々来ない。

 LINEを飛ばしてみても反応が返ってこないし、もうすぐ終電も来ちゃうだろうし……

 どうしたんだろう?

 

「……あっ、通知?」

 

 と思いながらゴロゴロしつつ携帯を見ていたら通知が。

 これ……マリアがLINEのグループに発言したのかな? とりあえず見てみよう。

 

『まさか飛行機が降りれず予定よりかなり遅れるなんて思わなかったわ』

 

 という事は今までマリアは空港じゃなくて飛行機の中だったんだ。それなら確かにこんな時間まで音沙汰なかったのも納得。

 それに対して響さん達が大変でしたねー、とか災難だったな、とか。そんな感じの言葉を投げつつ、翼さんも稀によくある事だな、とコメント。稀によくあるって一体……?

 とりあえずマリアにはもうすぐ終電来ちゃうし速く移動したら? とコメントしておいた。じゃないとタクシーで移動する羽目になっちゃうし。

 それから暫くすると、マリアがまたコメントをした。

 

『電車に乗ろうとしたらSuicaにお金が入ってなかったわ』

『あー、ありますあります。数百円もない時とかよくあります』

『チャージするのすっかり忘れちまうんだよなぁ』

『わたしは一回で大量に入れるからあまり忘れないかな』

 

 あー、電車に乗れなかったんだ。わたしもよくある。

 時々お金を入れるの忘れちゃって、でも急いでいるから改札を走り抜けようとしたら思いっきり通せんぼされて結局電車逃しちゃったり。よくあるよくある。

 マリアのあるある体験に笑っていると、またマリアからコメントが飛んでこなくなった。

 お金をチャージしているのかな? それとも電車に走って乗り込んで息を整えているとか? 海外行く時は大荷物だから何をやるにしても時間かかるからね。

 

『ヤバイ。現金がないわ』

 

 え?

 

『ATMに関してはお金を預けてる銀行がメンテ中で使えないし、カードも使えないっぽいから結構ヤバいわ。まさかクレジットまで使用不可になるなんて……』

 

 そういえば、テレビとネットで、とある銀行のシステムがメンテナンスで暫く使えないとか見たような。だから現金を下ろしておいて、って言われてたけど。まさかマリアがその銀行を使ってたなんて。

 もしかして、今のマリアってホントにヤバいんじゃ。

 と、とりあえず聞いてみよう。

 

『外国のお金を変えたりとかできないの?』

『窓口全部閉まってるし、ついでに言えば財布の中はすっからかんよ。カード払いだったから』

 

 う、うわぁ。

 電車に乗れない、ATMは使えない、現金もなければ今は深夜。ホントに移動手段全部潰れたんじゃ……い、いや、まだ何かできる事はあるハズ。切ちゃんは耐えれず寝ちゃったしわたしが何とか案を出さないと。

 

『それなら緒川さんに迎えに行ってもらったらどうだ?』

『それは緒川に悪いわ。こんな時間に呼び出すなんて』

 

 うん、確かにそれもそう。

 でもどうにかしないと帰れないし……

 

『残金二百円……どうしましょう』

『もう空港に泊まっちゃうとかどうですか? ベンチで座ってたらすぐでしょうし』

『いや、流石に女一人で空港に寝泊まりはマズいだろ』

 

 確かに、襲われてもなんとかできるとは思うけど、マリアのような芸能人が空港泊……それもお金がないからって理由で泊まるのは流石にいかがなものかと……

 でもお金がないんじゃどうにもできないし。ATMが使えればよかったんだけど、それも使えないんじゃ……

 SONGの本部で夜勤している人に迎えに来てもらうとか? いや、それしちゃうとその人に迷惑がかかっちゃうし、お仕事の邪魔になっちゃうし。

 うーん、どうしたらいいんだろう。

 

『ボクがお金持っていきましょうか?』

『流石に悪いわよ、エルフナイン。まだ手はあるかもしれないから考えてみるわ』

 

 って、今エルフナイン何してるんだろう。まだ残業中? 早く休んで。

 一応わたし達の誰かがお金をもってタクシーで移動って言うのも全然いいんだけど、マリアがそれは流石に申し訳ないからってさっきからずっと断っている。

 

『どうしましょう。飛行機の中だと寝てたから喉も乾いているのよね』

『でも残金は二百円なのだろう? 流石に我慢した方がいい』

『そうね。さて、残金は残り八十円。どうするべきかしら』

 

 そうそう。残り八十円……

 って、ジュース買ってる!!?

 

『言った側からジュース買ってんじゃねぇよボケッ!!』

 

 クリス先輩のツッコミが入り、結局マリアは一日を空港で過ごして、明日の朝に緒川さんに迎えに来てもらいましたとさ。

 

 

****

 

 

 とある日のコンビニ。わたしと翼さんはお弁当を買って、送迎の車の中で食べるから温めてもらう事に。

 と、いう事で店員さんにお弁当を渡してっと。温めますか? って聞かれたらちゃんと答えないと。

 

「こちら温めますな?」

 

 ……えっ、今噛んだ!?

 

「左様でござる」

 

 翼さん!?

 

「……かたじけのうござる」

 

 そして店員さん!?

 ……ちなみに、この後しっかりとあったまったお弁当を渡されました。

 いや、左様でござるって……翼さん、あなたそういうキャラじゃないでしょ……

 

 

****

 

 

 いたたた……訓練で思いっきり腰逸らしたら腰痛めちゃった……

 通り過ぎてから攻撃が来たから、思いっきり体を逸らして防御したんだけど、その時にやり過ぎたみたいで腰が痛くなっちゃった。暫くは気のせいかなって思ってたんだけど、どうもそうとは言い切れなくて、友里さんに病院に送ってもらった。

 という事で病院に来てみたんだけど、どうやら痛みは勘違いとかじゃなかったみたいで、治療のためにウォーターベッド、なのかな? それに似た物がある部屋に案内された。

 どうやら振動で腰を治すみたい。こんなのあったんだ、ってちょっとだけ感激した。

 

「それじゃあ、最初は弱の振動を出しますから、振動が伝わらなかったら言ってくださいね」

 

 看護婦さんにそう言われたから、はいって返事して治療が開始された。っていうか、弱中強の三段階なんだね。もうちょっと細かい感じの調整とかあるのかなって思ってた。

 開始されたのはいいんだけど……あれ? 全然揺れてない?

 気のせい、かな? どうしてだろう。

 でもベッドは動いている……んだよね? そもそもこれが普通なのかな?

 

「……にしては何も感じない」

 

 もしかして普段から振動に慣れ過ぎて体が気づけてないとか? 道が悪い所でもローラーで思いっきり突き進んでがっくんがっくんってなる時あるしなぁ。

 でも、このままじゃ治療にならないかもだし、強さ上げてもらおうかな。という事でナースコールぽちっと。

 

「すみません、何も感じないんですけど……」

「そうですか? じゃあ中にしますね」

 

 と、言われて中にしてもらった。

 けど、また何も感じない。

 あ、あれ? これわたしがおかしいのかな? だって三段階中の真ん中だよ? 明らかに揺れているのを察する事ができてもおかしくないのに……

 でも、これじゃあ治療にならないし……

 い、一応強にしてもらおうかな。これでだめならとうとうわたしがおかしいって事になるし。

 という事でナースコールぽちっと。っていうか、手で触っても揺れてるか分からないんだけど……

 

「どうかしましたか?」

「その、全然振動を感じれなくて……」

「じゃあ強にしますね」

 

 そんな簡単でいいのかな?

 とりあえずこれで振動が……

 ……あれ?

 全然感じないよ。これで本当にいいの? でもさっきちゃんと操作してくれてたし。

 けどこれっておかしいよね。他の人って一体どうなってるのかな。確か、横のおばあさんが先に治療受けてて、弱で振動させてもらってたし、試しに見てみようか――

 

「あばばばばばばばばばばば」

「ぶっ……くくっ!」

 

 ちょっ、横のよぼよぼのおばあさんがガタガタ猛烈に振動してるんだけど……!! 思わず吹いちゃったじゃん……!!

 と、とりあえずナースコールしておばあさん助けなきゃ……

 

「あばばばばばばばばばば」

「ぷ、はははは! ごめんなさはははははははは!」

 

 ごめんこの絵面は流石に笑っちゃう! 本当にごめんなさい!!

 ――ちなみに、この後ちゃんと振動の方はどうにかしてもらって治療してもらいました。けど、流石にあれは腹筋に悪いです。暫く装者間での笑い話にもなったし。

 

 

****

 

 

 先日は温めますかが温めますなになって、左様でござるって答えた翼さんが居たけど、今日は一人。

 噛まれても特に面白い事は返さないようにしよう。

 

「温めますか?」

 

 あ、今日は普通だ。

 でも今日は帰ってから食べる予定だから温めなくてもいいんだよね。

 

「そのままでいいです」

「遠慮なさらず」

 

 ……えっ!?

 

 

****

 

 

 とある日、わたしは切ちゃんと一緒に買ったポケモンのゲームをしていた。

 どうやら切ちゃんは昔からやりたかったみたいだけど、一人でやるのも寂しいという事で、わたしにバージョン違いの同じソフトを買って遊ぼうって提案してきた。

 だからわたしもそれに応じて買ってみたんだけど、中々面白い。

 ゲームってあんまりやった事無かったけど、可愛いポケモンも多いし、捕まえて育てるのが楽しい。このイーブイって子がお気に入り。ネットで見たらグレイシアって可愛いポケモンに進化するみたいだし、このまま育ててみようかな。

 

「調はイーブイがお気に入りなんデスね」

「うん。可愛いからね」

 

 とは言っても始めたばかりだから、技もまだ殆ど初期の物なのだけどね。

 なきごえとかも残ってるし。

 あっ、新しい技覚えるみたい。これはなきごえを忘れさせるべきかな。よし、そうしよう。

 一、二の、ぽかん。これでなきごえは綺麗に忘れて……

 

「そうして調のイーブイは二度と鳴くことが無かったデス。力を得る代償に自らの意思表示手段である声を捨ててしまったが故に、もう二度とイーブイは……」

「切ちゃん。殴られたくなかったら黙って」

「ごめんなさいデス」

 

 

****

 

 

 今日もまたコンビニで買い物。

 とは言っても、なんか漫画見てたらうまい棒食べたくなったから買いに来ただけなんだけどね。

 美味しいよね、コーンポタージュ味。

 

「こちら十円でーす」

 

 えっと、じゃあ小銭を……

 あ、あれ? まさかの一円しかない……

 

「えっと、Suicaで」

「ではタッチをお願いします」

 

 こういう時のSuica。危ない危ない。十円すら持ってない子だって思われるところだっ――

 

「あっ……足りませんね」

「……えっ」

 

 ……えっと。

 今日はキャッシュカードも持ってないからお金下ろせないし……

 ………………その。

 

「……も、戻してきます」

「あ、はい……」

 

 ……恥ずっ!!

 

 

****

 

 

 今日のお昼は牛丼屋さんで。

 作るのも面倒だったし、今日は切ちゃんが用事でいなかったし、丁度いいかなって。それで、牛丼屋さんでお昼ご飯。ちなみに店名は松〇さん。

 牛丼の大きさは並。大盛も食べきれない事はないんだけど、流石に無理して食べるよりは適量食べる方がいいからね。という事で、目の前に来た牛丼の並に手を付ける。

 うん、美味しい。たまにはこういう所で食べるのもいいよね。流石に毎日とかだと、お金がすぐになくなっちゃうけど。

 時々紅ショウガも乗せて……うん、美味しい。

 今度自分で牛丼作ってみようかな。切ちゃんも喜んでくれるだろうし。

 

「え? 今どこにいるかって? 吉〇家だよ。そうそう、牛丼の」

 

 ……え?

 なんかカウンターに座ってる若いサラリーマンの人がそんな事を話してた。

 ……あれ? あれって、よく見たら藤尭さんじゃない? もしかして電話相手って友里さん?

 いや、藤尭さん。ここ、吉〇家じゃないですよ? 松〇ですよ?

 

「好きなんだよ、吉〇家の牛丼が」

 

 いや、だからここ松〇だよ! 気が付いて!

 多分、わたし以外のお客さんも同じような事を考えていると思う。ここは松〇であって、吉〇家じゃない事を。店員さん達も苦笑いしてるし。

 指摘してあげるにも、流石に電話中に割り込むのは失礼だし。

 

「そうそう、吉〇家は豚丼よりも牛丼だよな」

 

 いや、ここ松〇ですってば! これ以上恥を上塗りするのはやめてください!

 

「そうそう、チーズもいいけどあっさりとおろしポン酢もな。やっぱ吉〇家のおろしポン酢牛丼は最高だよな」

 

 あー、早く指摘してあげたいけど流石にちょっと距離が離れてるし、藤尭さんは会話に夢中だし……

 とりあえず、これ以上恥の上塗りをしない事を祈っておこうかな。さっきから顔を伏せて笑ってるお客さん数人いるし、店員さんも一人壁に手を当ててしゃがみこんじゃったし。

 わたしも笑いそうで口元を手で抑えてる状態だし。

 

「松〇も好きだぞ? でも、吉〇家も好きでさ。……いや、でも今日は吉〇家の気分だったんだよ」

 

 だからここ松〇ですよ! 電話先の人、誰か分からないけどちょっと察したから助け船出したんじゃないの!?

 あっ。とかなんとかしてたら牛丼が。

 

「あ、じゃあ牛丼来たから切るわ。また後でな」

 

 とうとう電話切った。

 で、藤尭さんは牛丼を確認して、割り箸を割った。もしかしてこのまま気づかないまま終わるんじゃ……

 

「……はぁぁぁぁ」

 

 あ、あれ? 溜め息?

 もしかして注文間違ったとか? 一体何が……

 

「ここ松〇だ」

「ぶふっ!?」

 

 ごめんなさい無理! 流石に笑います!

 

「え? あ、あれ、調ちゃん!? どうしてここに!?」

「ご、ごめっ、わ、わらいくふふふふふ……!!」

 

 ちなみにこの後、藤尭さんは本部内で松〇と吉〇家を間違えた男としてちょっと笑い話になったとか。

 ごめんなさい、広めたのわたしです。

 

 

****

 

 

 今度は店員さんに振り回されたり店員さんに恥を見せないために、わたしが店員になってみた。

 偶々一日だけレジ打ちするバイトがあったし、社会勉強にもやってみるのがいいんじゃないかって言われたから受けてみた。

 ちなみに髪型はポニテにしてきてとのことでした。

 という事で、一日だけコンビニ店員です。結構楽です。レジ打ちしか仕事無いからね。

 

「こちら三百円です」

「んじゃ千円から」

「はい、千円お預かりします」

 

 レジ打ちするだけだしね。そりゃ楽だよ。

 という事でちょっと拙いけど、お金を数えて……

 

「君、女の子?」

 

 ……なんか聞かれた。

 じゃあちょっと振り回してみるためにバレる嘘を吐いてみようかな。

 

「男の子です」

「そっかぁ」

「七百円のお返しです。レシートはご利用ですか?」

「あ、いいよいいよ。男の子かぁ……おっぱい無いもんなぁ」

 

 手元にあったハサミを投げつけなかったのを褒めてください。

 声高くて顔も整ってるポニテの男店員がどこにいるって言うの!!? っていうか女の子は胸だけじゃないよ! 終いにはぶっ殺

 

 

****

 

 

「ねぇ、調ちゃん。何か面白い話題ない?」

 

 とある日、任務があったんだけど、ちょっと暇な時間ができて響さんと待機している時、響さんがそんな事を。

 いや、何ですか藪から棒に。

 

「いや、暇で暇で……」

「それはわたしも同じですけど……」

 

 でも、そんな面白い話って……

 あっ、そうだ。一個だけある。

 

「そうですね。これはわたしがアメリカに居た時なんですけど」

「うん」

 

 そう、あれはアメリカに居た日。

 ――わたしは、F.I.Sの研究員の人にギアの性能チェックのために訓練時のデータを取らせてほしいって言われたから、それに従って動いてみた。

 それで十分なデータが取れたから、この日の予定は終わり。後は自由時間という事で、ギアを解除して私服に戻ったんだけど、わたしのデータを取っていた一人のアメリカ人っぽい感じの研究員の腕にタトゥーが彫ってあるのが見えた。

 別にそれ自体は珍しい事じゃない。あっちじゃ珍しいって言いきれるほどじゃないし。

 でも、彫ってある言葉に問題があった。

 そう、言葉。

 その言葉とは、『要冷蔵』。

 

「よ、要冷蔵……ふふっ!」

 

 そうなんですよ。要冷蔵なんです。

 それが思いっきり腕に彫ってあったんです。思わずわたしは笑いかけましたけど、流石にいきなり笑っちゃうのは失礼だったし、ちょっと聞いてみたんです。

 どうしてそのタトゥーを入れたんですかって。

 そうしたら、こう返してきたんです。

 

――これはいつもクールにって意味なんだ! どうだい、お嬢ちゃん。イカすだろ!!――

 

 わたしは何も言わずに笑顔を浮かべて、そのままその場を去りました。

 

「に、日本語って……む、むずかしいね……!!」

「そうですね。わたしもそう思います」

 

 ……今もあの人は要冷蔵を誰かに自慢しているのだろうか。

 ちょっと気になっちゃいました。

 

 

****

 

 

 コンビニリベンジ。

 今日はもう店員に振り回されたり店員を振り回したり店員になってハサミを投げかけたりはしない。今日は雑誌を買って帰るだけ。

 

「いやー、もしかしたら俺の頭を読み込めたりして」

 

 ん? なんか店員が話してる。

 あの人は……スーツの人? あ、社員さんだね。頭を読み込むって……あっ。

 よく漫画で見るようなあの頭してる。けど、流石に無理でしょ。

 

「いやいや無理ですって」

「一応試してみます?」

「おうおう。やってみなよ」

 

 いや、何であの人乗り気なの。男の人ってハゲには相当メンタルやられるって聞いたことあるのに。

 まぁ、今日はこのまま雑誌買って帰るだけだしいいか……

 

――ぴっ――

 

 ……え?

 

「あっ、読み取れぶっ!!」

「や、焼き鮭おにぎり……!!」

「ふふふふふふ……!!」

 

 ごめんなさいこれは流石に笑う。

 

「そ、そっかぁ……読み取れちゃったかぁ……」

「あ、あそこの子笑ってるじゃん……!!」

「笑うってこんなの……!!」

 

 社員さん涙目で笑ってるじゃん! なんでこんな事しちゃったの!

 っていうかお腹痛い……! 笑い過ぎでお腹が……!!

 ……っていうかわたし、コンビニに行くたびに珍事に巻き込まれてるよね!? どういう確率!?



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月読調の華麗なる暗闇決闘

今回はリクエストにあった、装者&OTONAの真っ暗闇の中での模擬戦です。

そう、OTONAと。つまりOTONA対装者になるのが目に見えている話です。そこまでリクエストだったので普通にその展開を使わせていただきました。

あと、リクエストに関しては全部目を通してますが、書けない物、書こうとしたらなんかメモ帳落ちて内容全部吹っ飛んだ物もそこそこありますので、ネタ募集の方でも言いましたがそこら辺、改めてご容赦を。

で、今日は調ちゃんのCDの発売日。自分はDL版とCD版の両方を購入してどんな状況下でも調ちゃんの曲を聞けるようにしました。
とりあえず今も聞いていますが調ちゃん尊すぎて……それに君が泣かない世界にがう゛っ!!?(死)


「今日は暗闇の中でも戦えるための訓練を行う!」

 

 とは、今日集まった装者に放たれた風鳴司令の言葉。

 今日はこれから先、激化するかもしれない戦いに備えた訓練の日なんだけど、そこで急に風鳴司令がそんな事を言いだした。

 暗闇の中で。確かに、わたし達は狭い場所、暗い場所で戦った事はあっても真っ暗闇の中で戦ったことは無い。そもそもそんな場所で相手も戦わなければこっちも戦わない。けど、もしかしたら相手に視力は弱いがそれ以外の感覚が強い者が現れるかもしれない、っていう司令の言葉にわたし達は納得せざるを得なかった。

 いついかなる時でも対処できるように特訓は積むべき。ついでに響さんと翼さん、それから切ちゃんが案外乗り気だったので訓練は行われた。

 

「ちなみに、今日は俺も混ざらせてもらう。最近体を動かしていなかったからな、偶には暴れさせろ」

 

 なお、風鳴司令も参加。一人勝ちが確定した瞬間である。

 でも、訓練となれば全力を出さざるを得ない。シミュレータールームで全員が目隠しをした状態で入室。エルフナインの指示で一人一人指定の位置に立ってからシミュレータールームが真っ暗闇になった。

 

『今、この部屋は一切の光が存在しません。目が慣れる事もない上に互いに互いの位置が分からない状態です。なので、音と攻撃の際の一瞬の光から相手を確認して戦ってください』

 

 そう、この部屋は文字通り光が一切存在しない。

 目が慣れるのは、その空間に僅かに光が存在しているから。でも、その光を完全になくしてしまえば、その部屋はどれだけ目が慣れるのを待っても何も見えない。だから、わたし達が互いの位置を確認できるのは音と気配。それから、攻撃の際の火花やマズルフラッシュ。

 あと、わたししか居ないけど、エネルギーワイヤーの光とか。

 あれ? これわたしとクリス先輩が不利なだけじゃ……

 

『それでは始めてください。こちらでダウンと判定した場合は即座にその人を囲う空間を作って安全を確保しますので、安心して殴り合ってください』

 

 はーい。

 ……さて、これで通信も終わり。後は誰がどこにいるかを確認するだけなんだけど、目隠しを取っても本当に何も見えない。自分が目隠しをしているのか、していないのかすら判別できないくらいに暗い。自分の体も見えない。

 本当に真っ暗闇。こんな状況でどうやって戦えば……!!

 とりあえず、適当に動いて……

 

『そこだぁ!!』

「ひっ!?」

 

 動いた瞬間なんか飛んできたぁ!!?

 イナバウアーで避けた瞬間、わたしの顔の真上で何かがぶつかり合って火花が散った。これは……拳と拳と剣!? 戦闘民族がわたしめがけて突撃してきたって事!? 一歩動いただけだよ!?

 声出さなかったからまだわたしとはバレてない筈だけど……こ、腰が!

 

「先ほどの声……響くんと翼か!」

「師匠!? マジっすか!?」

「くっ、いきなり叔父様と立花とぶつかってしまったか……だが、面白い!! しかし、月読の声が聞こえた気がしたが気のせいか?」

「……!!」

 

 こ、声を出したらバレる! わたしがここに居るってバレる! この戦闘民族共にタコ殴りにされる!! あと腰痛い!

 

「まずは叔父様から仕留めるぞ、立花!」

「共同戦線ですね!」

「ふっ、いいだろう! かかってこい!」

 

 お願いだから早くどっか行ってって願ってたら、三人の気配が離れていって、代わりにちょっと遠くで火花と鋼がぶつかり合う音が。

 よ、よかった。わたしには気が付かなかったみたい。

 腰もそろそろ限界だったし、体勢を戻してその場でぼっ立ち。多分また動いたら標的にされる。

 だからここはボーっとしておくのが正義。だからここは待機して……

 

「そこだ! 蒼ノ一閃!!」

「甘いぞ翼! その程度避けれないと思ったか!」

 

 あれ? なんか青色の斬撃が真っ直ぐこっちに……

 

「あっぶ!?」

 

 怖い怖い! 何とか避けれたけど当たったら一発退場なんだけど!? っていうか怖すぎてやってられな……

 

「そこってな!」

「いった!?」

 

 とか思ってたら今度は横から撃たれた!

 この声と銃って事は間違いなくクリス先輩! あっちで戦闘民族共が戦ってる上にわたしの位置がさっきの蒼ノ一閃で分かったからわたしから仕留めに来た!

 でも、銃が相手ならここに鋸を置いておいて、ザクっと刺してから抜き足忍び足で……

 

「……あ? 手応えねぇな。一発目は当たったってのに」

 

 よかった。自分の銃撃音でわたしの足音には気が付かなかったみたい。

 これで一安心……

 

「あら? ここに誰か……」

 

 とか思ってたら目の前を何かが!?

 あ、これマリアの短剣だ……って、もしかしてマリアとは目と鼻の先!? マリアは空ぶったから気が付いてないけど、わたしは気が付けた。なら、そーっとアームドギアを展開して、そーっとそーっと……

 それでクリス先輩の位置はあっちだから……よし!

 電鋸を一気に展開!

 

「っ!? 目の前で殺戮音!?」

「そぉれ!」

「ぐっ!?」

「あ? なんかこっち飛んでき……」

 

 それごっつんこ!

 

『いっだぁ!!?』

 

 よし、クリーンヒット! これでマリアとクリス先輩が勝手にぶつかり合ってくれるだろうし、あと残るのは切ちゃんだけ。

 戦闘民族、巨乳組で戦っているから後はわたしと切ちゃんの仲良しコンビで戦うだけ。

 でも、切ちゃんとは手を組んだ方がいいかな。面倒なら四方八方蹂躙走行したら多分何とかなる気がする。

 

「チッ、飛んできたのはマリアか!」

「さっきのは調……だけど、今はクリスを何とかしないと!」

 

 よし、計画通りあっちの方で戦い始めた。

 後は切ちゃんの場所を……

 

「調、調」

「うわっ。びっくりした」

 

 とか思ってたら切ちゃんに肩をつんつん……じゃなくて頬をつんつんされた。多分本人は肩をつんつんしたつもりだったんだと思う。

 でも、来てくれたのなら好都合というか予定通り。切ちゃんも敵意はないみたいだし、提案してみよう。

 

「切ちゃん、ここは組もう。闇雲に一人で戦っても多分痛い目に合うから」

「その提案を待っていたデス」

 

 よし、これで切ちゃんと組めた。

 後はあっちで潰し合いが起きるのを待つだけ……

 

「っつかあっちではオッサン達戦闘民族がやりあってんのか……」

「そうみたいね。このまま私達で潰し合いしてもいいのだけど……」

「確実に最後はオッサンの一人勝ちになるな」

「……クリス。提案があるわ。ここで司令を叩いて潰し合いは後にしない?」

「……癪だが賛成だ。オッサンに殴られたくないからな」

 

 あっ、マリアとクリス先輩も司令討伐に参戦するみたい。

 すぐに二人が動いて、響さん達の方で起こっている戦闘音に銃撃ともう一つ剣の音が追加された。どうやら本当に暗闇の中で風鳴司令をリンチしようとしているみたい。

 ……これは待機でいいかな。流石に四人もいたら風鳴司令もどうにもできないだろうし。

 

「行きます! そこっ!!」

「貰った!!」

「ちょっせぇ!」

「くらいなさい!」

 

 あっ、仕掛けた。

 前は一人ずつ、それも風鳴司令がどれだけビックリドッキリ人間なのか分からずに攻撃を仕掛けた結果、あんな風に吹き飛ばされた。でも、今回は四人全く同時の攻撃が暗闇の中で襲ってくる。

 これは幾らなんでもただの人間である風鳴司令には耐えきる事なんて……

 

「甘いぞお前ら! フンッ!!」

『がはぁ!!?』

 

 ……え?

 なんか物凄い風圧感じたんだけど。

 それになんかわたしの真横を吹っ飛んでいったんだけど。あと切ちゃんが何かに捕まってそのまま後ろの方へと流されて行ったんだけど。代わりにわたしの前にはなんかすっごい威圧感があるんだけど。

 

「外したか。さぁ、かかってくるといい、調くん」

 

 どうやら位置バレていた様子。

 ……で、でも! わたしには必殺の範囲攻撃がある! 風鳴司令を質量で押しつぶしてしまえばこっちの勝ち! え? 死ぬかもしれない? この人が死ぬのなんて想像できないから無問題! ノイズに触っても死ぬ様子が想像できないからね!

 という事でぶっ飛べ巨円断!!

 

「調くんにも見せてやろう。これが発勁だ!!」

 

 で、わたしが投げた巨円断は見事風鳴司令の拳によって粉砕されました。なんかバッキーンって割れたんだけど。ヨーヨー戻ってこないんだけど……

 ごめんなさい粋がりました。敵の拳ならちょっと痛い程度で全然耐えれるけど風鳴司令のは洒落にならないのでお願い殴らないで……

 

「視界が潰された中で広範囲攻撃。なるほど、悪くない。だが、硬度が足りない!」

「アームドギアを砕くような人にこれ以上どうしろと!?」

「気合いだ! さぁ、次はこちらから行くぞ!」

 

 気合いってそんなに便利な物じゃないと思うんです! って、凄い圧がこっちに向かって!? 

 あ、これ多分死ぬね。さようなら現世。こんにちはあの世。切ちゃん、マリア。マムに一足先に会ってくるね。

 

「ここで戦力を減らすわけには!!」

「いかない!!」

 

 …………あ、あれ?

 すっごい音は鳴ったけど、特に痛みはない……

 

「大丈夫、調ちゃん!」

「月読、ここは一旦協力しよう! 叔父様相手に戦力を潰しあうのはマズい!」

「ひ、響さんと翼さん!?」

 

 もしかしてわたしを庇ってくれたの!? というか庇えたの!?

 でも、ここは腹をくくるしかない。

 

「暗闇の中の乱戦パーティーの筈がオッサン討伐クエストになるなんてな」

「全くよ。でも、こうでもしないとあの人は止まらない!」

「六人で、しかも暗闇の中ならやれるデスよ!」

「……うん! 六人で風鳴司令を倒そう!」

「ははは!! いいぞいいぞ! 六人纏めて相手してやろう! かかってこい!!」

 

 そう、こっちは六人相手は一人。数的有利を作ったんだから負ける理由なんてない!

 ついでに六人合唱して出力上げて、一気に畳みかける!!

 

 

****

 

 

『訓練終了です。勝者は司令でした』

「ふっ、まだまだ甘いな」

 

 ……はい、無理でした。

 響さんと翼さんが秒で吹き飛ばされて、響さんは壁に突き刺さって壁尻状態。翼さんは天井に刺さってマミってる。で、次に突っ込んだ切ちゃんが床に逆さになって埋まって犬神家、マリアも突っ込んだけど頭にゲンコツを受けてそのまま地面に突き刺さって逆犬神家。最後の砦のクリス先輩は殴り飛ばされて壁にクリス先輩型の穴が空いた。

 最後のわたしは、拳を防御こそしたんだけど、その時の衝撃で上に吹っ飛ばされて天井にビターン。そのまま張りついて終了。

 顔が痛いです。あと本当に天井から体が剥がれないです。視界真っ暗。助けて。

 畳みかけるって何だったんだろうね。見事に次にバトンタッチする間もなく壊滅させられたよ。

 

「あぁ……なんだか予想したよりも酷い事に……」

 

 わたし達全員がダウンしていると、シミュレータールームに緒川さんが入ってきた。

 予想していたんなら止めてくださいよ。

 

「う、うむ……少しばかり張り切り過ぎたか……」

「そう言ってないで皆さんを引き抜くの手伝ってくださいよ。天井の翼さんと調さん、それから壁にめり込んだクリスさんは僕が引き抜きますから、後の方は司令がやってください」

「わ、分かった……しかし、見事に加減を誤ったな。特にマリアくん……生首みたいになっているな……」

「見る人が見たらただのショッキングシーンですよ、これ。白目剥いてますし」

 

 とりあえず。

 風鳴司令の喧嘩を買ってはいけないというのが身に染みて分かりました。

 ちなみに、回収された中で意識を保てていたのはわたしだけ見たい。もう二度と風鳴司令と模擬戦なんてしたくない。圧倒的な戦力差で蹂躙されるんだもん。



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月読調の華麗なるVR

何とか日曜日更新が間に合ったんだぜ。

今回は装者全員で自分達をモチーフにしたVRゲームをプレイする話です。一応、これとは別にもう一つ、ファンタジー系VRゲームを装者&エルフナインでゆるゆるとプレイする、ネタ募集にあった方の話も書く予定です。

あと、最近ネタ集めでバカテス一気見したらバカテス的な話が書きたくなった。卒論の中間発表がもうすぐなのに何やってんだろうね、この馬鹿は。


 ついこの間の事、とある会社からVRゲーム機が発売された。

 どうやら今まではテーマパークとかにしかなかった、自分の意識までもをゲーム内に入れて、実際にゲームの中に居るように遊ぶ事ができるって言う画期的なシステム。それが、ようやく個人でも遊べる形で発売された。

 お値段は……ちょっと学生じゃ手が出ない程の物だったんだけど、実はこれ、SONGが関係していたりする。

 と、言うのも。

 

「VRで装者みたいにノイズを倒すゲームを作れば、なんかこう、いい感じに民衆のストレス解消とかに使えるんじゃないかとか言われまして。それで、色んな所と合同研究して作ったんですよ。本部のシミュレータールームの技術を基にしたVRゲーム機」

 

 暫く忙しそうにしていたエルフナインから疲れを隠さない表情でそう暴露されたから。

 で、SONGが全面協力して作った上に、装者のデータも多少なりとも使ったからか、協力費としてVRゲーム機と、同時発売のソフトを一つ貰っちゃいました。

 そのゲーム名というのが『戦士絶唱シンフォニックアーム』。プレイヤーは国連所属組織、ARMSに所属する対ノイズ特殊兵装、フォニックアームの装者となりノイズを倒しながら黒幕を倒し、世界からノイズを消滅させる……ってゲームみたい。

 キャンペーンモードっていうストーリーモードの他に、オンラインモードもあって、装者同士で対戦する事もできるし、オンライン限定のクエストとかをクリアして報酬を獲得したり、オンライン専用のストーリーをクリアする等々。国が先導して作ったからか結構ボリュームは凄いみたい。

 で、ジャンルとしてはアクションRPG? みたい。レベルを上げて敵を倒す感じ。で、使用できるギアそれぞれにレベルがあって、それを使ってクエストをクリアするとレベルが上がるとか。そういうの。

 それで、ゲーム内で使用できるギアはわたし達六人のギア。名前もそのままガングニール、天羽々斬、イチイバル、アガートラーム、イガリマ、シュルシャガナ。それから、オンラインで特定の条件を満たすと神獣鏡が解放されるみたい。その七つのギアの中から好きなギアを選択するんだって。

 で、どうしてギアの名前がそのままなのかって聞いてみたんだけど。

 

「街中で聖遺物の名前を言っちゃってもゲームの話題って誤魔化せるからですよ。普通の人は、まさか聖遺物が実在してるとか思いませんし」

 

 だ、そうで。

 確かに、わたし達は幼い頃から聖遺物に触れてきてるから、聖遺物は実在しているって思えているけど、響さんみたいに最近まで聖遺物の事を知らなかった人からしたら、実在しているだなんて思えないよね。

 それでいて、ギアの方は個人カスタマイズも可能みたい。

 シンフォギアはどんな状況下でも運用できるように、様々な機能が搭載されているんだけど、その機能の数は装者でも分からないほどに多い。それこそ、土壇場でやってみたらできたって事もそこそこある。響さんなんてその時の勢いでやってる事もあるから、その最たる例だね。

 だから、その再現のためにわたし達の技を幾つかテンプレート化して、それをセットする事で特定の動作をすると技が発動するのだとか。

 その他にも色々とあるけど、この辺で。

 

「それじゃあ早速プレイするデスよ! 今日から解禁なんデスから!」

「そうだね。ソロプレイ用のキャラも使えるみたいだし、やろっか」

 

 わたしと切ちゃんはエルフナインから貰った、一個ウン万するゲーム機で早速戦士絶唱シンフォニックアームをプレイしようとしていた。

 ちなみに、ソロプレイは既に経験済みで、キャラメイクもその時に済ませている。

 男性キャラも女性キャラも作れるみたいで、女性が男性キャラを使う、って事も可能みたい。

 ギアの方も男性がやるのに合わせて男性キャラ専用のギアの形状も考えたとか。女性向けは基本的にわたし達のギアの形状になるみたい。レベルが上がると徐々に今に近い形状に変わるんだってさ。

 

「そういえば、調はどのギアにしたんデスか?」

「イガリマだよ。切ちゃんは?」

「勿論シュルシャガナデス!」

 

 ちなみにギアの方は、わたしがイガリマ。切ちゃんはシュルシャガナを選んだみたい。

 でも、ゲーム内でギアは変更できるから、時折ガングニールやイチイバルで遊んでいたり。

 あとキャラの方は、オンラインでやるんなら自分に似ていないキャラを作った方がいいって言われたから、わたしは自分の中で見たフィーネを、わたしにちょっとだけ近づけた感じのキャラにしてみた。

 まぁ御託はこのくらいにしておいて。

 

「それじゃあゲームスタートデス!」

「ぽちっと」

 

 ヘルメット型のゲーム機の側部にあるボタンを押してゲームスタート。勿論座ってからプレイしたから、意識をゲーム内に入れてからぶっ倒れて体が痛い、なんてことはない。

 ゲームをプレイすると、一瞬視界がブラックアウトして、次の瞬間には目の前にはゲームのタイトル画面が。ここから自分の体を動かせる。

 今までは押しても現在未実装ですで終わっていたオンラインプレイの所を押すと、インターネットに接続していますって出てきて、次にサーバーの選択画面が。サーバー選択については予め決めておいたから、指定のサーバーを選択。使うセーブデータは勿論今日までプレイしてきたセーブデータ。

 

「あっ、始まった。えっとここは……ゲーム内の部屋だ」

 

 ちなみに、ゲームを始めると研究所っぽい内装をした、このゲーム内での二課、F.I.S、SONGに当たる本部で目が覚める。それで、管制室へと向かってこのゲームの司令官に話しかけると、クエストを選択する事ができて、プレイが可能。

 多分、その管制室や本部内で他のプレイヤーのキャラと会える感じ……かな?

 あと、藤尭さんから先んじてオンラインゲームでのマナーを聞いておいたんだけど、全体に聞こえる設定にした状態で本名で呼び合うと、何が起こるか分からないからNGとの事。あと、キャラ名を本名にしないようにした方がいいとも言われた。

 わたしのキャラ名は、英語しか使えなかったからZABABA_Rだよ。切ちゃんはZABABA_L。

 

「とりあえず管制室に行かないと」

 

 管制室では他のプレイヤーのキャラと会えるって先に聞いておいたから、ショートカットで管制室へ。

 あと、設定でわたしの声が聞こえる人は、パーティを組んだ人だけにしておいたから、独り言だったり叫んだりしても身内にしか聞こえないから問題なし。

 で、管制室には数人のプレイヤーキャラが。大体二十人くらいかな?

 放課後にプレイしているから、わたし達が一番乗りって訳じゃないんだよね。

 それで、みんなはもう居るかな? 一応キャラの上に名前が出てるからそれで……あっ。ZABABA_L発見。フレンド申請してから、パーティ申請して……よし、通った。

 

「調デスよね?」

「うん、そうだよ切ちゃん」

 

 よし、やっぱり切ちゃんだった。

 切ちゃんのキャラは、写真で見たことがあるマムの若い頃というか、華の十代の頃とか。そんな感じ。切ちゃんの面影はないかな。

 

「他のみんなはまだデスかね?」

「一応、みんなの名前も聞いているから、来たら分かるけど……」

 

 ……なんか周りを見ても、他のプレイヤーの半分くらいが女性キャラ使ってるからか、外見だけ見ても分からないんだよね。

 そもそもこのゲーム、わたし達のギアを元にした装備ばかりだからか、女性キャラ向けのアレコレが充実してるんだよね。フラゲした人の情報でも、女性キャラ作った方が楽って言われてたみたいだし。

 だから、男性が女性キャラ使っても不思議じゃないんだけど、如何せん分かりづらい。

 とりあえずウロウロして……あっ、なんか来た。えっと、フレンド申請だとパーティ申請だ。

 名前は……BikkiBikkiとFuture。確か響さんと未来さんの名前だ。ついでに、こっちに手を振ってる二人組発見。間違いなくアレだね。

 という事で承認。

 

「おっ、承認してくれた。やっほー二人とも」

「二人とも、リアルとは違う感じのキャラ作ってるみたいだね」

「そういう二人も結構リアルとは違うデス」

 

 二人の外見は、わたし達は見た事無いかな。多分、適当に可愛く作ったやつだと思う。

 

「ちなみに二人はどのギアを選んだんですか?」

「わたしはもちろん、ガングニール! ……って言いたいんだけど、偶には違うギアを使いたいし、アガートラームだよ」

「代わりにわたしがガングニール。響みたいに拳で戦う感じにしてみたよ」

 

 なるほど、二人はアガートラームとガングニールと。

 既にこの場にあるギアはザババの刃とアガートラーム、ガングニール。そこそこにバランスは良いけど……なんだろう、このF.I.Sを思い出す構成。

 響さんは本当は神獣鏡が良かったって言ってるけど、それに関してはオンラインでプレイして頑張りましょう? わたし達もお手伝いしますから。

 

「後は翼さんとマリアさん、それからクリスちゃんだけだね。まだかなぁ?」

「……あっ、わたしの方にクリスから来たよ」

「こっちにもマリアから来たデス」

 

 あっ、続々と。

 とか思ってたらこっちにも翼さんからメッセージが来た。なので承認すると、視界の左上にあるHPゲージと名前が一気にわたしを含めた七人分に増えた。

 クリス先輩の名前はSnowSong。翼さんはIKUSABA。マリアはSerenade。聞いていた通りの名前だね。

 というか、左上のゲージがちょっと邪魔かも。摘まんでえいってやったら小さくできるからいいけどね? という事でえいっ。

 

「やっと見つけたぞ。案外やりにくいな、VRゲームは」

「そう? 私は結構好きよ。こういうの」

「だな。コントローラーよりも直感的にできるからな」

 

 そして三人も来たけど、やっぱり三人とも適当に可愛く作ったアバターを使ってるみたい。でも、マリアだけはなんとなーくガリィみたいな感じのキャラになってる。

 それで、三人ともギアは何にしたの?

 

「私はガングニールだ。奏っぽくやってみようと思ってな」

「アタシは天羽々斬だ」

「……わ、私もガングニールなのだけど。被ったわね……」

 

 と、いう事はイチイバルが無しでガングニールが三人と……

 未来さん、翼さん、マリアのガングニールトリオってすっごい違和感あると言うか、面白い構成と言うか。

 でも遠距離攻撃が無いのは不安みたいで、それならと響さんが手を当てた。

 

「あ、それじゃあわたし、イチイバルも育ててるのでイチイバルにしますね! 遠距離攻撃が無いと大変ですし!」

「なら私はアガートラームにしてみるか。刃物を使うギアは一通り使えるようにはしてある」

「んじゃアタシもガングニールに変えてみっか。一応育ててるし」

「……なんかごめんなさい。天羽々斬を使わせてもらうわ」

 

 という事でわたし、切ちゃんはギアを交換でザババ。未来さんが拳版ガングニール、クリス先輩が槍版ガングニール、響さんがイチイバル、マリアが天羽々斬、翼さんがアガートラームになった。

 普段じゃ絶対にできない編成ができるようになったけど、こういうのがゲームの醍醐味だよね。

 ちなみにわたしは、イガリマ以外にもアガートラーム、ガングニールが育ててあります。あとイチイバルをほんの少しだけ。

 

「じゃあじゃあ! ここで話しているのもアレですし、早速クエストに行きましょう!」

「そうだな。七人での初プレイだ。気を引き締めて行こう」

 

 と、いう事で、あんまり話し続けるのもアレだから、クエストに行く事に。

 クエストに関してはよく分からないから、とりあえず響さんに受けてきてもらう事に。でも、ボス戦とかにいきなり行くのはマズいから、通常ノイズを規定数撃破しろ、とかそういうのを受けてきてもらうことに。

 で、響さんが適当にそれを発見したみたいだから、それを受けてプレイする事に。

 クエストを受けて、管制室の出口へと向かえば勝手にフィールドへ。ちょっとしたローディングを挟んでから、市街地へと出た。

 

「相変わらずすごいよねー。流石にリアルとそっくりとは言わないけど、触るとしっかりと感覚があるし。でも食べ物を食べても味がしないのが残念……」

「仕方ないよ。食べ物の味までプログラミングすると、凄い時間がかかっちゃうから無理だったって、エルフナインちゃんが言ってたし」

 

 VRゲームは、生身で動いているのと殆ど大差ない感覚で動けるんだけど、五感の内、味覚だけはどうしても再現ができなかったみたい。

 大雑把に感じる事はあるんだけど、それだけ。正直、砂を噛んでる気分になる。

 でも、時間が経ったら、お料理練習のために味覚を搭載したゲームが発売されるかも、とはエルフナインが言ってた。

 

「空腹も喉の渇きも感じない以上、食事も必要ないという事だろう。立花には多少、酷ではあるがな」

「まぁ、そもそも食べ物の種類が殆どないのでいいんですけどね」

 

 まぁ、そんな食べ物事情は置いておいて。

 

「それじゃあ、早速ノイズ狩りとするデスよ! Various shul shagana tron」

「こいつの言う通りだ。いつもはできない位に大暴れしてやるとすっか! Croitzal ronzell gungnir zizzl」

 

 聖詠は勿論、それぞれが持っているギアの物になる。

 ガングニールだけは、響さん式かマリア式、もしくは奏さん式に分かれていて、技の構成次第で自動で切り替わるみたい。拳系列が響さん、マントとビームがマリア、それ以外が奏さんみたいな感じで。

 で、わたしもイガリマの聖詠を歌ってギアを装着。

 

「こうしてギアを装着してみると、リアルでもやってみたくなるわね。もしくはリアルそっくりなアバターを作ってやってみたり」

「やるとしたらソロプレイの時だね」

 

 オンラインで自分の顔を晒すのは流石に。

 と、いう事で。

 

「行こう!」

 

 響さんの言葉に従い、全員で一気に走る。

 けど、響さんが一番遅いみたいで、徐々にみんなに置いて行かれている。代わりに一番早いのはクリス先輩とマリア。ガングニールと天羽々斬だから、当然っちゃ当然だけど。

 

「おい馬鹿! お前だけ遅いぞ!」

「だ、だってイチイバルに移動技は無いし、何でかステータスも防御以外は並み以下なんだもん!!」

 

 で、ギアに関しての注釈だけど、それぞれのギアにはゲームらしく、ステータス要素がある。

 例えば、今響さんが言った通り、イチイバルは遠距離攻撃と殲滅力に長けているけど、ステータスが並み以下。防御力が若干高いくらい。シュルシャガナは、同じようにスピードは速いけどそれ以外が軒並み低い。

 ガングニールにも三種類くらいステータスの成長率があって、響さん方式は攻撃特化で防御だけが全ギア中最下位。マリア方式は攻撃が低いけど防御がトップクラスでそれ以外が並。奏さん方式はスピードが少しだけ抜きんでてて、それ以外が全部並。

 アガートラーム、天羽々斬は全ステータスが高水準。だけど、技がピーキーで技構成に苦労する。イガリマも同じ感じなんだけど、武器が武器だけに取り扱いに苦労する。そんな感じ。

 多分、一番初心者にオススメなのは奏さん方式ガングニールだと思う。一番バランスが良いし、武器も技も扱いやすいからね。でもわたしは響さん方式。

 

「ミサイルに乗ればいいだろうが!」

「わたしのイチイバル、そこまでレベル高くないからミサイルなんて出せないよ!」

「え、マジ? ミサイルねぇの? 初期技に?」

「えっと、ガトリングとマイクロミサイル、それから狙撃とボウガンかな。技構成はそんな感じだけど、ミサイル習得はもっと後だったよ」

「あー……マジか。確かにアタシのガングニールも、あんまし火力高くねぇからなぁ……槍投げても分裂しねぇし」

「ゲームだから仕方ないですよ」

 

 ギアを使って、そのギアのレベルを上げる事で次々と技が解禁されていく感じだから、こればっかりは仕方ない。

 わたしだって、切ちゃんがよく使う基礎的な技しか使えないし。ティンカーベルとか、あそこら辺の強い技は使えないよ。ジュリエットとかでちまちま削る感じ。

 でも、基礎的な技は出が早いけど大技は出が遅いから、四つしかない技のスロットをどうやって埋めるかは本人たち次第。

 

「その点、天羽々斬は最初から基礎的な技が揃ってて使いやすかったな。蒼ノ一閃に逆羅刹、千ノ落涙しかなかったけど」

「天ノ逆鱗とか使えてもよかったのにね。でも、一番戦えるギアだとは思うわ」

「そうか? やはり、一番カッコいいギアは天羽々斬だったか。そうかそうか」

「でも、レベルが上がると技が使いにくくなるよな。正直、天ノ逆鱗がクッソ使いにくい」

「途中で攻撃をくらってキャンセルされることが多発するものね」

 

 うん……まぁ、翼さんって大技はあんまり乱用しない人だし、そうなるのも仕方ないかなーって。

 ちなみに響さん方式のガングニールを育てると、完全にマルチプレイ専用の技になるんだけど、S2CAが使用可能になるよ。体力を半分以上削って撃つ半分自爆技だけど、情報だけ見たら威力が他の技のウン倍もあってビックリした。

 あとは、イガリマとシュルシャガナ限定のユニゾンも結構あった。かなり人を選ぶ武器ではあるけど、その代わりユニゾンの火力は他のギアの必殺技を越えるから、そこまで育てられたら強い。

 

「さぁ、ノイズが見えたぞ! 誰が歌う!」

「じゃあトップバッターはわたしで! えっと、曲セレクトで、Bye-Bye Lullaby! いっきまーす!」

 

 で、シンフォギア特有の歌に関してなんだけど、これに関しては現状、誰か一人しか歌う事ができない。

 歌うための方法は、メニュー画面にある歌唱の項目から、実装されている曲を選択するしかない。それで、パーティメンバーと何回もクエストに行くと、その内にユニゾンや合唱も可能になる。そんな感じのシステム。

 それで、歌っている人は永続的に技を打つためのポイントと、体力も回復していく。ついでに、周りの人も技を打つポイントの方がちょっとずつ回復してく。

 しかも空中に出てくる歌詞をしっかりと歌うとボーナスで回復速度が更に上昇。伴奏だけでも回復はしてくれる。そんな仕様。絶唱も、しっかりとメニューの曲セレクトから選んで歌いきれば、発動してくれる。

 

「Hyahaッ! ゴートゥー、ヘェェェェェェル!!」

「アタシの曲はそんな叫ばねぇぞ!?」

「いや、叫んでる」

「思いっきり叫んでるわね」

「叫んでるデスね」

「叫んでますよ」

「叫んでるよ」

「えっ、マジ……? あの馬鹿並に叫んでんの、アタシ?」

 

 クリス先輩は装者の中でも叫ぶ方ですよ。

 多分響さんとマリアの次には叫んでますから。クリス先輩の間抜け面は置いておくとして、わたし達近接組が斬り込みながら響さんからの援護をもらう。

 うわー、なんだろうこの感じ。響さんから援護をもらうってすっごい違和感あると言うか。しかも弾が殆どどっか行ってるし。

 とりあえず鎌をブンブンするのです、っと。一応ヒットはするんだけど……ゲームだからか、ノイズに体力があるんだよね。だから斬ってもノックバックするだけで体力を削り切らない限りは倒せない。

 正直面倒。でも、死が隣り合わせじゃないからちょっとふざけたりして遊べたり。

 

「あーもう弾が当たらない! ここはわたしのガンカタだぁ!!」

「あの馬鹿にイチイバル任せるの悪手だろ! 絶対アイツ後衛する気ないだろ!!」

 

 とか思ってたら響さんが前に出てきた。いや、ホントになんであなたイチイバル使ってるんですか。装甲だけは厚いけど囲まれたら逃げるなんてできないイチイバルで前に出てどうするんですか。

 そんなわたし達のほぼ共通の考えとは裏腹に突貫した響さん。だったけど、どうにもこうにも近接戦の鬼だからか、イチイバルで相手の真ん中に突っ込んでガンカタするのが案外ハマってる。というか、普通にダメージを与えられている。

 イチイバルって、範囲攻撃多めで与えられるダメージは低めの筈なんだけどなぁ……

 

「いや、響さんはそれでいいかもデスけど、後衛が居なくなったからノイズが押し寄せてくるデスよ!?」

「マリア! 天羽々斬なら後衛も可能な筈だ!」

「ゲージ技でどうやって後衛しろって言うのよ! っていうかノイズ硬すぎない!? 適正レベルのクエストよね、これ!?」

 

 え?

 適正レベル……そんなのあったっけ?

 いつも適当にシナリオを進行させてるだけだからそんなの知らないんだけど。と、思ってメニューからクエストの確認をしてみると、確かにそこにはクエスト情報と、適正レベルの表記が。

 えっと、適正レベルは……三十? みんなのギアの平均レベルは大体二十だから……あっ。

 

「立花ァ!!?」

「えっ、わ、わたしですかぁ!?」

「おまっ、相手のレベルもアタシ達よりも十たけーじゃねぇか! どうすんだこれ!? なんか攻撃の通りが悪いと思ったらオンライン補正とレベル差で最悪な事になってるだけじゃねぇか!!」

「オンライン補正ってなんですか、クリス先輩」

「多人数でソロプレイ用の難易度に行ってもヌルゲーになるだけだから、相手の体力とか攻撃力が上がってんだよ、マルチプレイ用に……ってあっぶね!?」

 

 あー、そういう事……

 一応、わたしと切ちゃん、未来さんは本命のギアで戦っているからある程度のダメージは与えられているし、レベル差も五程度だから、まだマシなんだけど、他の四人はあんまり育ってないギア……特に翼さんのアガートラームなんて十レベルしかないから、さっきから翼さんの顔が修羅場に突入してる。

 ちなみに、レベルが二十位から、徐々に適合率が上がってきたって設定で、外見が変わるよ。

 エルフナインから教えてもらったのは、二十レベルからフロンティア事変、三十で魔法少女事変、四十レベルでイグナイト解放、五十からイグナイトが使えない代わりに基礎能力が上がるラストイグニッションか、イグナイトを使える状態で維持かの二択が選べるとか。

 あと、このゲーム、レベルが上がると自動的にステータスが上がるんだけど、ちょっとだけ自分達で弄れるポイントも貰えるから、それでステータスはみんな違う感じになるんだけど、確か翼さんのアガートラームは攻撃特化にしてあるから一発でも攻撃を貰うと……

 

「いった! いったぁ!? 体力がゴリっと減ったぞ!?」

「うっわ、センパイ脆すぎっす」

「ふざけるな! こっちは十発攻撃してやっとノイズ一体なのに一発でこれか!? ええい、立花! 私に歌わせろ! 回復させろ!!」

「え? あ、はーい。歌唱中断っと」

「くっ、元凶がふざけてからに……!!」

 

 ちなみに響さんのイチイバルは二十レベルだから、翼さんよりは大分マシ。それに歌ってたから体力もかなり残ってるしね。

 けど翼さんの体力はもう四分の一を切っている。というか、三発しか攻撃を貰ってないのに体力がそれしかないって、やっぱりレベル上げって大事。

 

「できればわたしも後で歌わせてほしいです……」

「え? ……うわっ、未来さん、その体力どうしたんですか!? もう数ミリしかないじゃないですか!」

「響方式のガングニールでスピードと攻撃特化にしたから、防御力がほぼ初期値で……」

 

 わたしも響さん方式のガングニールを使ってるから分かるんだけど、響さん方式のガングニールって、放っておいても攻撃力が異常なほど上がっていって、スピードもかなり高くなるんだけど、防御力と体力がかなり低くなるんだよね。それこそ、ステータス振り分けを全部そっちにやらないと、ワンパンで体力を相当削られるレベルで。

 一応、蘇生アイテムとか回復アイテムもこのゲームには、ある事にはあるんだけど、蘇生アイテムはゲーム内通貨を結構使うし、回復アイテムも大量に持ち込めるって訳じゃないから……

 もう回復アイテムを全部使っちゃったらしい未来さんに回復アイテムを幾つか渡してから、未来さんをマリアと一緒に守りながら戦う。

 

「うおぉぉぉぉぉぉ!! セレナァァァァァァァァァァデッ!!」

「ねぇ、調。翼ったらどうして一人でありがとうを唄いながらを歌ってるの? 馬鹿なの?」

「操作間違ったんじゃない?」

「せ、正解だ! 息が続かん!!」

 

 一応、酸素の概念とかはないけど、普通に呼吸しないと苦しくなるからね、このゲーム。

 だから三人歌唱曲を一人で歌った日には……うん。

 翼さんの声から、こう、いつもは感じない酸欠気味の雰囲気を感じる。

 

「でも、敵もあと半分程度ですね! 頑張りましょう!」

「黙れ立花! お前は特に黙れ立花ッ!!」

「えっ、ひどくない?」

 

 とりあえず自傷ダメージで死にかけてる翼さんは放っておこう。

 でも、あと半分だから、ちょっとずつ技も使ってノイズを倒しておかないと。未来さんも体力は回復して、ワンパンでノイズを倒せるだけの火力はあるけど、一撃でも攻撃が掠れば致命傷に繋がるし、あんまり前に出せないからね。

 と、いう事でわたしと切ちゃんが前に出て、他に援護してもらって殲滅。大体十分くらいで出現したノイズは倒しきった。

 

「よかった、全員生存で」

「わたしと翼さんは一回だけダウンしちゃったけどね……」

「寧ろ一回でよく済んだ方だ……」

 

 よし、これでクエストクリア…………

 ……あれ? 終わらない?

 

『緊急事態発生、緊急事態発生』

 

 あっ、なんかアナウンスが。

 

『超巨大ノイズが街中に出現。至急、装者は急行してください』

「殺す気かッ!!」

「まぁ、これだけで終わるわけがないデスよねぇ……」

 

 多分、レベル三十の装者だけで行けば結構簡単にここまで来れるんだろうけど、翼さんがなぁ。あと、未来さんもステ振りが極端だし。

 それに、ユニゾン技とかの高火力技とかもまだ無いし……

 ちょっと苦労しそうかも。

 

「とりあえず、未来を中心に戦うようにしましょう。今、この場で一番火力が高いのはあの子よ」

「えっ、多分超巨大ノイズの攻撃なんて当たったら即死するんですけど……」

「小日向。気合いだ」

「えぇ……」

 

 流石の未来さんもいつもは二人が振らないような指示にドン引きの様子。

 普段、二人とも根性論なんて出さないからね……

 でも、今は未来さんを中心に戦わないといけないのは事実。わたしと切ちゃんのレベルが高くて、ユニゾンが使えるのならまだしも、それが無いのだとしたら未来さんの攻撃が唯一マトモにダメージを与えられる攻撃になるだろうし……

 未来さん、頑張って!

 

「響って、普段からこういう無茶ぶりされてたんだね……」

 

 いえ、普段はもうちょっと慎重……慎重……じゃないね。なんかノリと勢いでやってる感あるし。

 

「とにかく行こう、未来! 大丈夫、わたしが守るから!」

「響……! うん、一緒に頑張ろう!」

 

 よし、このクエストをクリアして一気にみんなのギアのレベルを上げちゃおう!!

 

 

****

 

 

「ちょっ、イチイバルの装甲が一撃で八割あばー!!?」

「レベル四十のボスキャラとか勝てるわきゃねぇあんぎゃー!!?」

「ふっ……サヨナラッ!!」

「翼が蒸発ぎゃー!!?」

「無理無理無理ひゃー!!?」

「これなんて無理ゲーデスぅ!!?」

「それじゃあ皆さんさようなきゃー!!?」

 

 結論、無理でした。

 一番硬い響さんは一撃で八割持って行かれるし、他の全員は一撃で溶けたし。蘇生アイテムなんて使う間もなく殺られたよ。思いっきり目の前にGAME OVERって出てるし。

 なんか仕様なのか半透明になった全員でクエストリタイアを選択。一応、ノイズを倒した分でちょっとは経験値を貰えたけど、ちょっとだけ。わたしはレベルが上がらなかったし、翼さんのレベルが二くらい上がっただけ。ソロプレイなら、もしかしたら勝てたかもしれないけど……マルチプレイの補正のせいで攻撃は通らないし受けるダメージはあり得ないし。

 

「いやー、みんなめんごめんご! クエスト間違ってたよ!」

「お前なぁ……! お前なぁ!!」

「今度はもっと簡単なの行こう! あ、ほら、これなんてクリアすると、セットするとギアがメイド型になる技が貰えるみたいだよ!」

「それ、一体どのギアが使えるんデスか?」

「えっと……ガングニール、神獣鏡、シュルシャガナ!」

「もういい立花には任せられん! 私が選ぶ!」

「いや、ここは私が選ぶわ! 私にだって欲しい報酬があるのよ!」

「だったらアタシが!」

「いやここはわたしが!」

「響には任せられないしわたしが!」

 

 で、終わった後はいつもの通り喧しく。

 どうしようこれ……あっ、このクエストクリアすると和装ギア解放されるんだ。イチイバル、シュルシャガナ、イガリマが対象だし、これ受けよっと。えいっ。

 

「あっ、調が勝手に選んだみたいデスよ」

「え? ……まぁ、調ちゃんならいいかな」

「そうね。とりあえずこれ行きましょうか」

 

 という訳でいざ出陣。

 和装ギア、リアルでも結構動きが軽くなるから好きなんだよね。さてさて、とっととクリアして技を貰って、セットしないと……

 

「おいこれ適性レベル五十とか書いてあるんだが!?」

「攻撃通らないんだけど!? わたしの攻撃ですらちょっとしかダメージが入らないんだけど!?」

「月読ァ!!」

 

 あっ……

 ご、ごめんね?




相手が強すぎてギャグ的な悲鳴を上げる翼さんが書きたかったんや。許してや。

以下四話感想デス。ネタバレ注意デスよ。

いやー、四話凄かったですね……まさかサンジェルマンがビッキーと一緒に花咲く勇気を歌うなんて……やっぱり、花咲く勇気は本来はあの形が完成系だったのかな、なんて思います。とりあえず、CD化希望。
アマルガムもようやく本編お披露目しましたね。今作のイグナイト枠っぽい気がする。
というか、あれビッキーだけに許された主人公専用強化フォームかと思ったら何気に装者全員! 調ちゃんのおニューギアが! 調ちゃんに新しいギアが!! 調ちゃんの攻撃特化フォームが!! 調ちゃんのアマルガムを見るまでは絶対に死なない! というか調ちゃんの新インナーが可愛す(死
あと、今回はビッキー×サンジェルマンでしたけど、もしかしてビッキー×切ちゃん×サンジェルマンとか、ズバババン×調ちゃん×プレラーティとか、そういうのも見られるんですかね。期待してますよ!!
……幽霊時空どうしよう。
そしてノーヴルレッドにはやはり同情できない自分が居る。ごめん、やっぱ十万殺してるから人間に戻りたいとか言われても同情できない……!!
というか、OTONAなら銃突き付けられても発砲される前に動いて全部どうにかできるんじゃ、とか思ったり。


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月読調の華麗なる偽物

今回は昔読んだことがある、ひぐらしのなく頃にのスピンオフ……でいいんですかね? の小説にあった話のパロディです。

元ネタ読み返そうと思いましたけど、実家に置いて来てしまった事。ついでに最後に読んだのが七年程前という事もありうろ覚えの話でしたが、こんな感じ。

元ネタがしっかりと分かる人居るかな?

あと、最後に練習を兼ねた特殊文字を叩き込んだんですが、そのせいで最後が読みにくいか、目がしぱしぱすると思います。ふざけんないつも通りやりやがれ、という方はそうコメントするなりなんなりしていただければ、すぐにいつも通りに戻します。

一応、元の色はマジで目がやられそうだったんでちょっと変えたんですけどね……


 わたしは、響さんと翼さんと一緒に再び別の平行世界へと向かった。

 ギャラルホルンからのアラートは一瞬だけ鳴ったんだけど、特にノイズが現れるとか、そう言うことは無く。ただ単に何かあってからでは遅いから、先んじてこちらから調査に向かい、異変があればその異変を解決してこい、との事。

 その任務にわたし達は応じて、新たなる平行世界へと向かった……そう言う訳。

 

「で、来てみたはいいけど……」

「特に異常は見当たらないな……」

 

 でも、平行世界に降り立ってから一時間ほど経過したんだけど、特に異常は見当たらなかった。

 敷いて特に何かいう事もなく、特に誰かがピンチとかも無くて、ついでにノイズとかカルマノイズも現れはしない。本当に平和な世界で、どうしてここにギャラルホルンは道を繋げたのか、その理由が分からなかった。

 学生も歩いているし、ふらわーもあるし、見知ったお店も並んでいるし。本当に、何がおかしいのか分からない。

 だから、本当に暇。という事で、わたし達は一度山奥でギアを纏って模擬戦をして、二課やF.I.Sが在るのならそれを誘き寄せて色々と話を聞く作戦をしたんだけど、特にそれで二課やF.I.Sが来ることも無かった。

 本当に、本当に何も無い。恐らくこの世界には聖遺物を研究する機関も、フォニックゲインを調査する機関も、錬金術師も、きっと何も無いんだと思う。異端技術という物を経由せずに文明が発展した世界線……つまりは、そういう事なんだろうけど……どうしてギャラルホルンはこの世界に道を?

 

「どうします? 一旦、師匠たちの所に戻りますか?」

「いや、一日はここで時間を潰そう。もしかしたら、夜中に何かが起こっているという可能性も無きにしも非ずだ」

「そうですね……明日までどこかで時間を潰しましょうか」

「うえー……野宿決定かぁ……」

 

 山中でもいいし、どこかの廃墟でもいいし。

 とりあえず壁と屋根があれば文句はないけど、無いのなら無いで仕方がない。シンフォギアでも纏って寝れば、雨風なんて大したこと無いし、わたしの電鋸を屋根代わりにもできるから。

 と、いう事でまずは廃墟を探す事にした。

 クリス先輩も、最初は廃墟を拠点にしていたみたいだし、すぐに見つかるとは思う。

 そんな楽観的な事を思いながら、わたし達は一度下山。シンフォギアを纏ってちょちょいのちょいで下山してから、誰も見てないのを確認してからギアを解除。そのまま街中を歩くことに。

 歩くことに、したんだけど。

 

「……おかしいな。人気が殆どないぞ」

「えっ、まだ夜の八時ですよ? 深夜じゃあるまいし……」

 

 何故か、街中に人気が無かった。

 おかしい、何かがおかしい。何か、致命的にこの世界は狂っている部分があるかもしれない。

 そんな事を思い始めた。そんな風に、思い始めた。

 けど、それが分からない。だから、わたし達の世界では廃墟が立ち並んでいる場所へと、歩を進めた。適当に雨風を凌ぐための建物が欲しかったから。

 そして、廃墟街に足を踏み入れた時だった。

 

「動くな! 動くんじゃない!」

 

 そんな声をどこかから浴びせられた。

 敵襲。それを察した響さんがわたしの前に立ってくれて、翼さんが服の内側から隠し持っていたナイフを取り出し、構える。

 確かあのナイフって風鳴家の家紋が刻まれた特注品だったような……それ、出しても大丈夫なんですか?

 そんな事を思ったけど、わたしはその後ろで、いつでも聖詠を唄えるように待機。何かあったら、わたしがいの一番に飛び出して、二人を庇いつつ二人の聖詠を待つ形になる。

 けど、敵はいくら待っても襲ってこない。流石に意味が分からず構えを解こうとした時、廃墟の中から誰かが出てきた。

 

「……どうやら、ここに居る人間の偽物じゃないみたいだな」

 

 出てきたのは、わたし達が知っている人だった。

 

「ふ、藤尭さん……?」

「こんな所で一体何を……?」

 

 そう、藤尭さん。ちょっとヘマを踏むときもあれば、ドジをする時もあるけど、しっかりをわたし達のサポートをこなしてくれる頼もしいオペレーターの一人。

 そんな人が、険しい顔でライトを片手にこっちへとやって来た。

 特に怪我をしているようには見えないけど、顔が怖い。わたし達を敵として認識しているみたいで。

 

「君達、街の方から来たよね。君達の偽物は一体どうなった?」

「に、偽物……?」

 

 そして、藤尭さんがかけてきた言葉は、ちょっと意味が分からない言葉だった。

 偽物? どうなった? その真意が分からない。

 藤尭さんはそんなわたし達の反応を見て、惚けるな、と一度だけ怒鳴ったけど、それでも今の雰囲気を崩さないわたし達に異常を感じたのか、険しい表情を一度だけ解いた。

 

「す、すみません、わたし達、一体何が起こっているのかよく分からなくて……」

「少し遠い所から来たもので。説明してもらえると助かるのですが」

「説明も何も……これは全世界で起こっている事だ! 知らないわけがないだろ!」

 

 全世界で、起こっている事……?

 一体何が起こっているの……?

 

「……ほ、本当に知らないのか? …………いや、でも街から来た人間は信用できない! お前達が偽物のスパイで、俺達の情報を流そうとしているかもしれないからな!」

「いや、だから偽物とか何なんですか!? 言ってる事、全然わかりません!」

「説明してください! 私達ならば、力になれるかもしれません!」

「信用できるか! けど、一応最低限の事は教えてやる。誰か、あの日の新聞を持ってきてくれ!」

 

 いくら何でも怪しすぎるファーストコンタクト。それ故に、藤尭さんはわたし達を信用することなく、建物の方に何かを叫んだ。

 あの日の新聞。もしかして、そこにこの世界の事が書いてある?

 一応、抵抗するつもりはないと、翼さんはナイフを服の中に隠し、響さんはファイティングポーズを解いた。そして、藤尭さんが言うあの日の新聞を持ってきたのは。

 

「あ、あれ? ふらわーのおばちゃん? お昼の時はお店に居たのに……」

 

 ふらわーの人。昼、この街を見て回った時に店の中で見かけたあの人だった。

 その人が、疲れ切った表情で新聞を持ってきて藤尭さんに渡した。

 

「あなた達、私の偽物を見たのね」

「お、おばちゃんの偽物……? それって……」

「私が本物よ! 本物なの! あの私は、あの日急に現れて……それで、私の全部を!」

「落ち着いてください! 大丈夫です、あなたが本物なのは俺達が保証しますから! 君達も、これを持ってここから去ってくれ。君達が偽物と争っている所が見れない以上、信じられないんだ……」

 

 そう言われて、わたし達は投げ渡された新聞を片手に、廃墟街を去る事になった。

 一体何があったんだろう……それを疑問に思いながらも、新聞にはその答えが載っていると。そう信じて。

 

 

****

 

 

 ――任務報告書一日目。

 この世界は、予想以上に深刻な問題に悩まされていた。そして、わたしは、わたしがわたしである証拠として、この報告書を常に携帯しておく事にする。

 これは響さんと翼さんも同じで、本物と偽物の両者がギアを纏えると仮定した場合、真偽を見分ける事が不可能に近いと判断したため、この任務報告書のノートを持っている者が本物である事とする。これを持っていないわたし達を見かけた場合、そのわたし達は偽物であるため、その偽物を速やかに排除し、元の世界へと帰還する事を許可する事にした。

 まず、この世界はある日、とある研究所が爆発。そして、異常な物質が流出した事が原因で崩壊した。

 その物質とは、人に寄生し、その人と全く同じ人間を作り出すという異常な物質。その大きさは目には見えない程小さく、その人が寝ている間に異常なまでに繁殖。そして、その人のクローンとも言える存在を作り出すという物。

 けれど、それだけでは終わらない。

 このクローンは、なんとオリジナルを自分の偽物と称して排除しようとする傾向にある。しかも、排除した後は排除したオリジナルに成り代わり生活を行う。それを可能にするため、クローンが生まれたその日までの記憶をクローンは所持しており、自分こそがオリジナルだと信じ込んでいるらしい。

 このクローン、通称『偽物』を生み出す物質は、既にこの世界中に散布されていて、もうどうする事もできない。

 だから、わたし達はわたし達の『偽物』を排除する事にした。

 何故なら、『偽物』はその物質を延々と散布し続ける存在だから。そして、この物質は『偽物』を排除しない限り、本体からも散布され続けるという悪質な物質だから。本体からの散布を止める方法は、『偽物』を殺すしかないから。

 この物質を、元の世界に持ち込むわけにはいかない。

 絶対に。

 

 

****

 

 

 ――任務報告書二日目。

 一日目は適当なビルの屋上を陣取って眠りに就いた。だから、体中が痛くて仕方がなかったのを覚えている。

 二日目は、この世界の『偽物』と本物事情を見る事にした。

 その結果、情勢は二つに分かれている事が判明した。それぞれの街は、『偽物』か本物、どちらかが街を自分達の物とし、もう片方は廃墟や山奥などで反撃の機会を待っている。そんな感じの光景が、どこでも見られた。

 一応、物流とかは街を支配している方が本物だと仮定する事によって成り立っているみたいだけど……いや、そうしないとやっていられないのかも。街を支配した方が本物で、そうじゃない方が『偽物』。そうしないと、この世界は疑心暗鬼だらけになる。

 もう全世界の人間に『偽物』が現れた以上、物質の散布は関係ない。本物が『偽物』を殺し、『偽物』が本物を殺す。その果てに何が在ろうと、関係ないのだ。

 『偽物』は『偽物』から増えないから。本物が死ねば、それまでだから。

 だから、生き残った方が本物。そうなる。

 二日目はギアを纏っていろんな場所を飛び回っているうちに終わった。今日の寝床は、山奥の洞窟。いつかテントを人数分用意して、ちょっとだけ浮かれた気分で夜を過ごしてみたい。

 

 

****

 

 

 ――任務報告書三日目。

 三日目は特にやる事が無い。強いて言うなら、買い物をするだけ。

 一応、街中でちゃちゃっと食料を買ったりはしていたんだけど、そろそろ本格的に寝具とかが欲しい。

 ホテルに泊まる事も考えたんだけど、ホテルで寝ている間に『偽物』に襲撃されたら任務報告書を奪われるかもしれない。だから、テントを山奥で張って、誰かが寝ずの番を行って『偽物』の奇襲を躱し続ける。そして、『偽物』を発見したら、街中では駄目だけど、奇襲をした場合はギアを使って相手を殺す。

 それを作戦として、今日は眠りに就いた。……いや、これは駄目。

 ギアを使うのは駄目。これは元から決めていた事。

 もし奇襲を誰かに見られたら、『偽物』も本物も、わたし達を利用するためどんな手を打ってくるか分からない。

 だから、わたし達はこの世界の人間に扮して、本物と『偽物』の殺し合いを演じ、殺し合いの果てに本物であることを証明しなければならない。そうしないと、わたし達には尾鰭が付きそうだから。

 

 

****

 

 

 ――任務報告書四日目。

 結局、寝具は今日買った。

 三人でキャンプに行くみたいにはしゃいでテントを買った。後は寝袋と、ランタンと、食料と。お金は一応持ってきておいた事には持ってきておいたんだけど、わたしも響さんも学生という事であんまり多くお金を持ってきていなかった。

 だから、念のために現金を大量に持ってきていた翼さんに全額払ってもらう事になってしまった。経費で落ちるからいい、とは言うんだけど、ちょっと複雑な心境。

 でも、これで明日からは体が痛くなる事も無いし、偽物の襲撃にも備えられる。

 テントは拠点と決めた山奥に設置したままにする事にした。例え『偽物』に占拠されても、任務報告書を持っているわたし達が本物だ。

 大丈夫。これは奪われないし奪わせない。それは、三人で決めた事だ。

 例え、ギアを奪われても任務報告書だけは奪わせない。

 初日に決めた、絶対の約束。これを破る訳にはいかない。

 

 

****

 

 

 ――任務報告書五日目。

 出た。

 出てしまった。

 出てきてしまった。

 わたし達の『偽物』。それが、街中を歩いている最中に襲ってきた。

 嘘だ。あんなにそっくりなんて。嘘だ。あんな存在あり得るわけがない。

 見てから分かった。あんなの、見分けがつくわけがない。しかも、『偽物』はわたし達を『偽物』だと断定して殺しにかかってきた。

 見分けなんて着かない。この任務報告書だけが真偽を判別するための物だ。

 奪われてたまるか。奪われた瞬間終わる。

 わたしも、わたし達の世界も。全部が終わってしまう。

 駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ。怖い、怖すぎる。

 わたしがわたしを狙ってくるなんて。この任務報告書を狙いに来るなんて。

 死んじゃだめだ。生きて帰るんだ。生きて切ちゃんに会うんだ。わたしが本物だから。あの温もりを、『偽物』なんかに奪わせるわけにはいかないんだ。

 

 

****

 

 

 ――任務報告書六日目。

 

 

****

 

 

 ――任務報告書七日目。

 六日目に街中で襲撃を受けた。しっかりと任務報告書は守り抜いた。それを響さんも翼さんも見てくれていた。

 けど、攻防戦の中でわたしは『偽物』からナイフで右腕を刺された。けど、わたしもそのナイフを奪い取って代わりに『偽物』の右腕を刺してやった。

 ざまぁみろ。

 わたしが本物だ。

 それは紛れもない事実だ。攻防戦を見ていた二人もしっかりと保証してくれている。二人も報告書を持っている。

 わたしは本物だ。間違いない。

 

 

****

 

 

 ――任務報告書八日目。

 『偽物』の襲撃は荒さを増している。

 それは一昨日の攻防戦でハッキリとしたことだ。だから、わたし達も武器を持つことにした。

 もう悠長にこれを書いている暇もない。一分一秒。いつ『偽物』が襲ってくるか分からない以上、これを死守する事を考えなきゃならない。

 一応、初日に十日目までは見出しを書いておいた。けど、足りるか分からないから十五日まで追加しておこう。

 この間に勝負を付けたい。

 もし他の装者がこの世界に来てしまったら、真偽の見分けが付かない。だから、早いうちに勝負を付けないと。

 そして、『偽物』に関する新たな情報も手に入れた。

 『偽物』は、本物を殺した際に自分の記憶を書き換える。自分が本物であり、『偽物』を殺したことを自覚させるために。だから、この任務報告書を奪われ、殺されてしまったらと考えると、ゾッとする。

 

 

****

 

 

 ――任務報告書九日目。

 

 

****

 

 

 ――任務報告書十日目。

 昨日は危なかった。

 山で『偽物』を誘き寄せる作戦をしていたら、予想通り相手から奇襲された。けど、殺すには至らなかった。

 任務報告書ではなく、いつの間にかギアを奪われて使われそうになった時はどうしたらいいのか不安になったけど、代わりに任務報告書は守り抜いた。

 あの約束は……この世界でギアを使わないという約束は、わたし達本物しか知らないから。だから、相手がギアを使ってくる事は想定で来ていた。だから、それを潰す事に成功もした。

 後はギアを使われる前に『偽物』を始末するだけ。

 わたしが本物なんだ。

 だから、この任務報告書を守り抜

 

 

 

 取り返した!!

 任務報告書! 取り返した!!

 

 

****

 

 

 ――任務報告書十一日目。

 わたし達本物組は、六日目に『偽物』三人を発見した。だから、相手から先手を打たれる前にこちらから打つため、翼さんが隠し持っていたナイフで『偽物』の右腕を刺した。そして、響さんも『偽物』との戦闘に入り、翼さんももう一本のナイフで『偽物』との戦闘に入った。

 けど、負けた。

 わたしは右腕を刺され、任務報告書を三人とも奪われた。だから、わたし達はここから先は任務報告書を持たない方が本物であるとして、撤退した。

 そこからは拠点にしていたテントも離れて、もう一度奇襲をかける事にした。

 それが、九日目。テントに帰る最中の『偽物』を襲撃した。そこでギアを使ってでも『偽物』を排除しようとしたけど、ギアを使う前に攻めれられて防戦を余儀なくされた。結果は、撤退。

 わたし達はそのまま一度退いた……そう見せかけて、撤退した先でギアを展開。そのままギアを持たない『偽物』を奇襲で排除して任務報告書を取り返した。

 その時に『偽物』の首をシュルシャガナで掻っ切ったから、ノートが血で染まってしまった。

 それにしても、今、七日目以降の記録を見ると虫唾が走る。

 奇襲された? 違う、奇襲したんだ。

 ギアを奪われた? 違う、わたしがずっと持っていたんだ。

 ギアは使わない? そんな事一言も言っていない! わたしの記録を書き換えるな! わたし達は元の世界にこんな物質を持ち込まないためにどんな手でも使うと決めた!

 しかも八日目の最後。『偽物』は記憶を書き換える?

 そんな情報、どこにもない! 藤尭さんにだって聞いた! そんな事実はない! 『偽物』が記憶を書き換える事は、一切ない!

 そう、わたしが本物なんだ!

 わたしが本物で、アレが偽物! 今日の朝に山奥に埋めたアレが偽物なんだ!

 わたしが!! わたしだけが!! 月読調なんだ!!




さて、最終日に任務報告書を持った調ちゃんは七日目以降の調ちゃんを『偽物』と断定していましたが、果たしてそれは本当だったのか。最終日の調ちゃんは本当に本物なのか。
途中の横線は果たしてどういう事なのか。最終日の調ちゃんの気性の荒さはただ興奮しているだけか、それとも『偽物』がオリジナルを殺したからか。
そしてこの後、元の世界に帰還した三人は本当に本物なのか。

そんなちょっとばかりスカッとしないお話でした。
結末は、読んでくれた方々にお任せします。

……という真面目な話は置いておき、ちょっとばかり特殊文字を使用して遊んでみました。最後の部分はひぐらしの小説版にもあった、血の描写を取り入れてみたんですが、予想以上に目がしぱしぱ。
本来は鮮やかな赤の予定でしたが、流石に目が死にそうだったんで血が固まった後の黒っぽい赤としてこの色をチョイス。あんまり黒すぎると文字が見えないからね。
見にくかったらすぐに真っ白に戻します。
16:50分 不評多数だったので戻しました。まぁ自分も読みにくかったので仕方ないね

で、五話ですけど……多分あのケチャップ、ミラアルクの腕かオッサンですよね。
そして案の定やべー翼さんとなんか不穏な感じになってきたひびみく。けど着々とエルフナインちゃんが戦闘に参加するフラグができてきてんのが笑う。キャロルとダウルダブラ、歌おうか(ニッコリ)
今回調ちゃんの出番は少なかったですけど、サラッと切ちゃんをお馬鹿扱いしてたり毒吐いたりしてて可愛かった。五期は全体的に調ちゃんの表情が緩くて可愛い。

次回こそはネタ募集の際にいただいたVRMMOでのんびりファンタジーする装者の話を書こうと思います。


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月読調の華麗なる殺害現場

バカテスネタが一つ固まったので更新。丁度マリアさんのCD発売日と誕生日だし、おめでとうという事で。

最初に言いますが、ギャグです。殺害現場とか言ってますけど、ギャグです。元ネタがバカテスで、姫路さんの肉じゃがと言えば分かる人には分かります。

マリアさんには悪いし、勝手な属性を付与したセレナにも悪いですが、とりあえずマリアさん! これが俺のFGOガチャ138連金鯖1体のみ(アナちゃん被り)の八つ当たりだ!! 死ねぇ!!


 マリアが食中毒……? に近い症状で入院をしてしまった。

 どうやら食中毒? の原因は肉じゃがなんだけど、どうやらその肉じゃがはマリアの目の前でセレナが作っていたらしい。セレナはどうしてこんな事に、って泣いていて、マリアの回復を願っていたけど、マリアは目を覚まさず。

 でも、救急車が来たとき、マリアは笑顔で気絶していたらしい。命の危険すらあるこの今。わたしは偶々マリアがセレナの愛らしさゆえに回していたビデオを、原因究明のために確認する事にした。どうもマリアが肉じゃがを食べた机には穴が空いていて、そこからは強烈なナニかの臭いがしたらしいけど……

 もしかしたらこれは、他殺かもしれない。一瞬セレナが目を離したりした時に、毒を入れられて……

 そんな事があったのなら、SONGに連絡して、然るべき処置を。

 だから、わたしは恐る恐る、その映像を、今、再生した。

 

『それじゃあマリア姉さん! 美味しい肉じゃが、作ってあげるからね!』

『えぇ、楽しみにしてるわね』

「……ここだけなら普通のホームビデオ」

 

 でも、セレナって料理得意だっけ? こっちのセレナが存命の時期にセレナが料理した事なんて無いから、分からないんだけど……

 とりあえず、映像を見る事にしよう。

 

『そうだ、セレナ。ちょっとレシピの紹介とかもしてくれないかしら?』

『うん、いいよ、マリア姉さん! それじゃあ今日作るのはセレナ特製肉じゃが! あの人の舌もとろけちゃう、もう誰の肉じゃがも食べられないくらいになる程だよ!』

 

 ……うん?

 あの人の舌もとろけて、もう誰の肉じゃがも食べられない……?

 いや、そんなの勘繰り過ぎ。多分、その美味しさに思わず他の肉じゃがなんてもういらない! って言う程、絶品な肉じゃがって事だよね?

 物理的にって話じゃないよね? 今マリアが物理的に他の人の肉じゃがはもう食べられない体になろうとしているし……いや、きっと気のせい。気のせいに決まっている。

 でも、一応メモしておこうかな? 後で再現してみたら何か分かるかもしれないし。

 

『材料は、これ! じゃがいも四個、玉ねぎ一個。それから、しらたきが一玉で、牛肉が200g。グリーンピースが大さじ三、しょうゆが大さじ四。で、みりん『風』調味料が大さじ三!』

 

 ふむふむ。最後にみりん風調味料……うん?

 みりん……風? みりん、じゃなくて? あぁ、違う。普通にみりん風調味料の事だね。変に勘繰り過ぎだよ。

 えっと、みりん風調味料と、それから砂糖、塩、水と。ここまでは普通の肉じゃがだよね。もしかして、本当に毒とか入れられた結果、マリアが倒れたのかも……

 絶対にマリアを殺そうとした犯人を捜さないと。という事で、次。

 

『それに加えて、今回は愛情の籠った秘密のレシピを使うよ!』

『セ、セレナの愛情……! よし、バッチコイ!!』

「いや待って!!?」

 

 待って!! 本当に待って!!

 その秘密のレシピとやら、こっちから見えないんだけど!? でもうっすらと見えている範囲だと、明らかに食材を入れる瓶ではない瓶が映っているよね!!? 

 い、いや、多分大丈夫。その秘密のレシピとやらが見えないのは気になるけど、多分大丈夫……後からセレナに聞けばいいんだし。

 という事で次。

 

『それじゃあまずは下ごしらえ! 玉ねぎ、じゃがいも、牛肉を適当な大きさに切ります!』

 

 うん、これは普通。

 でも、ちょっとだけ刃物を使う手が危ないかな? そこは追々、セレナに指導をしていくとして。

 で、次は。

 

『お鍋に油を引いて、それから玉ねぎを炒めます』

 

 うんうん。これも普通。こうしないと玉ねぎに火が通らないからね。

 でも、ここまでは普通なんだよね。本当に、誰か第三者の手が入ったって考えるのが妥当かもしれない。一応、誰か変な人が入ってきたかを確認しながらチェックを進めないと。

 

『それで、玉ねぎが透明になったら、お肉とじゃがいも、それから水を切ったしらたきを入れて、更に炒めるよ』

 

 普通だね。普通に肉じゃがだね。

 見てるとお腹減ってきた……今日は肉じゃがを作ろうかな。切ちゃん、喜んでくれるかな……って、そうじゃなくて。というか今肉じゃがを作ったら確実に切ちゃんがマリアの事を思い出して不安になるよ。

 肉じゃがは今度にするとして、今は映像の確認だよ。

 

『程よく火が通ったら、水、砂糖、醤油、みりん風調味料、塩を入れて煮込む!』

 

 入れてから? そこまでいったら後は煮込むだけのような気もするんだけど……

 あ、暫くセレナとマリアの雑談だ。ここら辺はちょっと飛ばして……

 えっと、ここら辺かな? また調理するみたい。

 

『それじゃあここでワンポイント! 全体に煮汁の色が均等になったら、ここで『濃硫酸』を45cc入れます!』

「えっと、ここで濃硫さ……は?」

 

 え?

 今なんて言った?

 濃硫酸……? 硫酸って言わなかった!!? 間違っても料理で聞くような言葉じゃなかったよね!? 聞き間違えだったとしても濃硫酸とか日常生活じゃ聞かないよね!!?

 というか間違いなくこれだよね! マリアがぶっ倒れたのって濃硫酸入り肉じゃがを食べた事が原因だよね!?

 ま、マリア、これでよく生き残れたね……体の内側から火傷して死ぬとか普通に考えられるレベルなんだけど……マリアの撮影する手もなんか震えてるし……

 

『薬ビンを持つときは必ずラベルを上に向けてっと』

『セ、セレナ……? の、濃硫酸って何で入れるのかしら……?』

『濃硫酸を入れて煮込むことで、じゃがいものデンプンが加水分解されて単糖類になるから、甘みが増すんだよ!』

『そ、そう……せ、セレナは物知りなのね……』

 

 んな馬鹿な……

 えっと、一応調べてみよう。えっと、濃硫酸、デンプン、加水分解っと。

 それで……加水分解はできる、と。でも硫黄が残ります……!?

 普通にこんなの食べたら死ぬんだけど!!?

 ま、マリア……こんなの押し付けられたんなら逃げれば……いや、シスコンなマリアだから、もうここまで来たら後戻りなんてできるわけがない。

 でも、大体わかった。

 マリアが今死にかけている理由は、ただのセレナのメシマズっぷりとマリアのシスコンっぷりが謎の化学反応を起こした結果だという事が!! ばっからしい。

 ……一応、続きも見ておこうかな。

 

『それで、一煮立ちしたら一旦火を止めて』

 

 火を止めて、終わりだよね?

 

『隠し味にクロロ酢酸を加えます!』

 

 いやクロロ酢酸ってなに!!?

 日常生活じゃ聞かないような薬品が出てきたよ!? というかまだ入れるの!?

 

『サッパリとした食感が食欲をそそるんだよ!』

『そ、そう……セレナは色々と知ってるのね……』

 

 そんなアホな……

 しかもなんかドバーッて入れてるし。セレナにはラベルに書いてあったどくろマークが見えなかったのかな……

 

『ここで防腐剤として、硝酸カリウムも入れます!』

 

 はいアウト!

 っていうか何で防腐剤!? 肉じゃがに腐る要素ってあったっけ!?

 

『美味しさが長持ちするから、お弁当にも使えるんだよ!』

『そ、そこまで長持ちさせる気は無いわね……』

 

 な、なんと言うか……その……マリア、よくこれを食べたね……

 

『後はまた煮込んでから、完成!』

『そ、そう……塩酸と硝酸って何かトンでも無い物ができたような気がするのは気のせいよね……』

 

 マリアの声も手も震えているのが分かるよ……

 っていうか、今マリアが口にした事が気になるんだけど。えっと、塩酸と硝酸でできる物?

 

「そんな物あるのかな……既に食べたらダメな物が完成していると思うんだけど……」

 

 とりあえずググってみよう。えっと、塩酸、硝酸、化学反応っと。えっと、どれど…………

 ……あの。上の方に王水って言葉が出てきたんだけど。金とかプラチナとか溶かせる液体が出てきたんだけど。一応確認してみたけど……うん。塩酸と硝酸でできる奴だね、これ。

 ……えっ、嘘。これ食べてマリアってまだ生きてるの? 食道から肛門まで最速で最短で真っ直ぐで一直線な道ができそうな物を食べて生きてるの……? ま、マリア……シスコンもそこまで行くと最早意味不明だよ……!!

 

『それじゃあこれで完成! のんびりしてるとお鍋も溶けちゃうからササっと盛りつけてっと。あっ、ここで普通の容器を使うと溶けちゃうから、ガラス製の容器で食べなきゃだめですよ!』

『あ、うん……』

 

 マリアも恐怖からか生返事になってるし……

 ……マリア、多分この辺りから自分が死ぬことも考慮に入れてると思う。だって王水だもん。普通死ぬもん。

 

『それじゃあ、マリア姉さん! どうぞ召し上がれ!』

『あ、ありがとう、セレナ。でも、ちょっとだけ席を外してもいいかしら? 録画を確認したくて』

『うん、いいよ!』

 

 あっ、何か急に映像がちょっと乱れて、セレナから離れた所でマリアの顔が映った。

 

『これを見ている人に告げるわ。もしかしたら私は死ぬかもしれない。でも、決してセレナを責めないで。そうね……適当な錬金術師が何か細工をしていた、とでも言ってちょうだい。セレナに悲しみを背負わせるわけにはいかないから……』

 

 マリア……

 いや、食べるのを断ればいいんだよ……!!

 

『敵に負ける事だっていい。例え王水に体を溶かされたっていい。それでも、チクショウと吠えて自分には負けない事が私、マリア・カデンツァヴナ・イヴの炎よ』

「マリア! カッコつけてないで逃げて!! それ食べなきゃいいだけだから!!」

『それじゃあ、逝ってくるわ。妹の笑顔を守る事こそが、私が天国のマムに顔見せする理由よ』

「いや、絶対にマム激怒するから! 多分開口一番で説教が飛んでくるから!!」

 

 そんなわたしの言葉も空しく、マリアは戦場へと向かった。

 セレナに笑顔を向けて、震える手で箸を持って。

 

『いただきます』

 

 そう言って王水入り肉じゃがを口に含んだマリアは、気合で半分ほどを胃に収めると、顔を面白い色に変化させてからその場で倒れた。

 そして、セレナがマリアに駆け寄り、救急車を呼んで、映像は止まった。

 ……これは、不幸な事故だよ。わたしは敬礼をしてから映像を切ると、そのまま映像の入った記録端末を握ってSONGの本部へと向かった。

 みんな、マリアが生死の境を彷徨っているからか、その表情を暗くしている。マリアをあんな事にした張本人であるセレナが一番泣いているのは、なんだかシュールだけど。

 

「戻ってきたか、調くん。それで、どうだった」

「……錬金術的なアトモスフィアのサムシングが見えました」

「錬金術、だと!? という事は、錬金術師の仕業か! それで、顔は見えたか?」

「……いえ、見えませんでした。ただ、マリアも起きたらそう言うと思います。錬金術的アトモスフィアサムシングのせいだって」

「……そうか。わかった。辛かったかもしれんが、ありがとう」

「いいんです……いいんです。これで、マリアの尊厳が守れたと思えば」

 

 シスコンとメシマズが綺麗に融合した結果生まれた悲劇なんて、わたししか知らなくていい。

 そもそも何をやらかしたのか分からないセレナも、これでありもしない錬金術師に敵意を燃やす。マリアは、ちょっと負い目を感じるだろうけど、生きていれば復帰してそれに加わるか、宥めるかする。

 生きていれば。

 多分死ぬけど。

 ただ、わたしが言える事はただ一つ。

 

「……セレナ。もうちょっと、お料理を勉強しようか」

 

 もしマリアが生きていたのなら、王水の悲劇をまた起こさないため、セレナのメシマズをどうにかするための約束をする。

 ただ、それだけだった。




そういう事でマリアさん殺人事件という名のセレナのお料理教室が終わりました。みんなも作ってあの人の舌とほっぺたを溶かそう!!

今回はパパパッと書けたんで投稿しましたが、既に今週末投稿の話はできております。そっちの方は前にも宣言した通りファンタジーVRゲームをみんなでやるだけの話となっております。

という事で今回はFGOの爆死の恨みをマリアさんにぶつけてみました。もうあのゲームのモチベマジで上がらないんですけどどうしたらいいですかね。推しキャラは不遇だしガチャは何も出ないしで。
その点シンフォギアは全キャラちゃんと扱いいいですし、ガチャは……うん。でもアニメが神ですし、調ちゃんのバンクで心臓止まりかけましたし、満足です。

やっぱ調ちゃんすこるのが正解やなって。


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月読調の華麗なるVRファンタジー

今回は、前々回でやったVRゲーム時空とはまた平行世界の話で、調ちゃん達がファンタジー物のVRゲームを遊ぶ話です。

こういうゲームでお決まりのスキル名とかは、考えるのが面倒だったのでテイルズから技だけ拝借。個人的に好きな技とかを詰め込んでみたり。


 もうそろそろ二千年代に入ってから、半世紀が経過しようとしている今日この頃。最近は街中の至る所に存在するあんな部分やこんな部分に使われる技術が進歩してきて、十年前と比べて街中は大分近未来化をしてきたと思う。

 そんな技術は勿論娯楽にも使われている。その中でも特に子供や大人が分け隔てなく楽しむ物と言えば、ゲーム機だと思う。

 VRゲーム。それも、ゲームの中に実際に意識を入れる事により遊ぶゲーム。誰が呼んだかフルダイブ式VRゲーム。

 発売されてから瞬く間に売れていって、今もなお新作ゲームを次々と発売しているそのゲーム機には、様々なゲームがある。

 お料理を実際に学ぶゲームだったり、ゲームの中で戦う物だったり。

 その中で、最近になって装者&エルフナインの間でプチブレイクしたのは、MMORPGって呼ばれている、RPGみたいなゲーム。それの、VRバージョンだったりする。

 ファンタジー世界のゲームで拳や剣で戦ったりする感じだからか、響さんや翼さんが現実じゃ危険でできない動きとかを平気でやるし、クリス先輩も弓を最近は使うようになってきたから、その練習になるってやってたり。

 マリアも時々暇潰しにやってるみたいだし、切ちゃんも鎌を使って楽しんでいる。そしてわたしも、電鋸は無かったから色んな武器を使ったり、ちょっとサポート方面のスキルを育てて楽しんでいたり。

 そんな訳で今日も今日とてゲームにログイン。アバターの体に乗り移ってレッツプレイ。

 

「あ、シュルちゃんも来たね」

「これで全員来たね」

 

 シュルちゃん、っていうのはわたしのアバター名。シュルシャガナが本当の名前なんだけど、長いから以下略みたいな感じ。

 一応みんなの名前を紹介すると、まず響さんがガングニール。通称ガン。未来さんが神獣鏡で、通称シェン。翼さんが天羽々斬、通称ハバキリ。クリス先輩がイチイバルこと、イチイ。マリアがアガートラームことラーム。

 で、切ちゃんがイガリマでイガちゃん。エルフナインがキャロルナインでナインって所。

 普段は結構まばらに集まって、適当にそのメンバーでフィールドに出る事が多いんだけど、今日は総勢八人のキャラが勢ぞろいしている。

 

「あ、ハバキリさんとラームもいる。全員集合は珍しい」

「偶々仕事が早く終わってな。ログインしたら全員居たんだ」

「明日は夕方に帰国するだけだし、好きなだけやれるわよ」

「らしいぞ。まぁ、久方ぶりの『SONG』メンバー全員集合だ。派手にやるとすっか」

 

 それで、一つだけ説明し忘れたけど、ここのメンバー全員は一つのギルドに所属している。

 名前はSONG。リアルで所属している組織の名前まんまだけど、まぁ知名度がある訳じゃないしいいかなって。そんな前置きと共にSONGって名前を響さんが提案して、みんながそれを了承する形でギルド『SONG』が完成した。

 メンバーは身内だけの八人。時折入団希望者が来るけど、身内ギルドだからって事で拒否してる。来てくれたのはありがたいけど、身内でワイワイやりたいからね。

 ギルドとしては小規模なんだけど、実はそこそこ有名だったり。未来さん、エルフナインを除く六人がリアル戦闘技能持ちだから、レベルに似合わない戦闘技術と連携。ついでに、全員女性っていうのが、まだギルドメンバー以外へのボイスチャットのミュートを知らなかった時に知れ渡っちゃったらしくて。

 女性プレイヤーは結構貴重らしいし、同レベル帯のPvPでなら無双できる程度には戦闘技能もあるせいか、徐々に有名になっちゃったみたい。

 一番大きい理由は、多分アレなんだろうけど……それは割愛。

 

「あっ、ちょっと待って。先に入団志望蹴っちゃうから」

「頼んだ。ちなみに今回は何人来てる?」

「三人だね。初心者さんっぽいのが二人と、強そうな人が一人だよ」

 

 そのせいかさっきも言ったとおり、入団志望者が時々来るんだよね。しかも、身内以外お断りって書いてあるのに志望してくる人いるし。初心者さんはよく分からずに適当に申請送るだろうし仕方ないんだけど、強そうな人が送ってくるのは……ね? 

 やっぱ身内女性プレイヤー八人だけで構成されてるのが羨ましいとか、混ざりたいとか、そんな感じなのかな……?

 別にそれに対して何も言わないけど、逆恨みとかはしてほしくないかな。別にネットで悪口書かれても、わたし達はわたし達でワイワイやるから関係ないけどね。エンジョイ勢最高。

 ちなみに、このギルドの約束事は三つだけ。全員、楽しくプレイする事。例えどんな時も、リアルの名前は言わずにキャラ名を言う事。ギルドのお金で高い買い物をしたらしっかりと報告する事。これだけです。

 

「じゃあ、七人でフィールドに行くとするデスか! ナイン、何か取ってくる素材とかあるデスか?」

「えっと、確かガンさんの新しいガントレットの素材が足りないので取ってきてほしいです。これなんですけど」

 

 そう言ってナインが表示したアイテムは、大体ゲーム内時間で三十分ほど先にある火山地帯に生息する、レアモンスターのドラゴンの鱗だった。

 これ、この間イチイ先輩の新しい弓作りに必要だったから、ガンさん、シェンさん、ラーム、わたしで狩りに行ったような気がする。これならもっと大量に確保しておくべきだったかも。

 

「それじゃあこれを取りに行くとするか。ナインはいつも通りギルドハウスの方を頼む」

「はい。いつも通り鍛冶スキルを上げつつ作った装備でお金を稼いでおきますね」

 

 で、このゲームにはスキルって言うのがある。

 そんなに難しい物じゃなくて、例えば武器の剣スキルがあるとすると、そのスキルの熟練度を上げていく毎に新しい技とかアビリティとかが追加されていく感じ……なんだけど、これが中々上がらない。

 特に鍛冶スキルは上がりにくくて、わたしも上げているんだけど、片手間じゃなかなか上がらない。

 という事で、ウチの鍛冶と商売担当はナインがやっている。本人たっての希望だったからみんなで受け入れました。

 

「じゃあ早速行こう!」

 

 ナインにギルドハウスの方を任せた所で、いざフィールドへ。

 このゲームはファンタジー物だから、車とかバイクとか、そう言うのはない。代わりに、馬や馬車。果てには飛竜なんて物に乗って移動をする事になる。

 SONGは最初は徒歩で全部やっていたけど、着々とお金を貯めていった結果、今は飛竜と籠をギルド共有で持っているから、飛竜の操作をハバキリさんに任せて、わたし達は籠に乗って出発。

 

「バイクとは少し違うが、空を駆ける竜に乗るのも中々気持ちいい物だ」

 

 なんて、ハバキリさんは結構ご機嫌だったりする。

 

 

****

 

 

 フィールドに着くと、結構暑い。火山地帯だから仕方ないんだけど、装備によっては蒸し焼きになりそうなくらいに暑い。けど、ナイン特製の冷却薬を飲むことによって暑さは緩和できる。

 

「いつも思うんだが、これって何でできてるんだろうな。リアルで欲しいわ」

 

 まぁ、イチイ先輩。そこら辺はゲームですから。

 ちなみに、今日のわたしの装備は魔法使い。ローブとトンガリ帽子、ついでに杖を手に持って魔女っ娘です。

 で、近接組のガンさん、イガちゃん、ラームはガッチガチの鎧姿。イチイ先輩は胸当て部分だけが金属製で、他は革製の防具で機動力アップ。

 ハバキリさんは刀を使う上に和風が好きだからか、なんか武士みたいな格好してる。

 シェンさんはわたしと同じで魔法使いなんだけど、シェンさんは主にバフデバフと回復を担当。装備というか服は、わたしみたいな魔女っ娘ちっくじゃなくって、ドレスと指輪のちょっと変わった装備。

 

「相手はレアモンスターだから、結構長期戦になるね。気を引き締めないと!」

「ここら辺は私達のレベルより少し上のレベルのモンスターが出てくるから、細心の注意を払いましょう。デスペナをくらわないためにもね」

 

 あ、デスペナは所持金半減と、次のレベルアップまでに必要な経験値が増加です。地味に痛い。

 

「早めに見つけて倒しちゃって、次のフィールドボスを倒したいよね。あっ、雑魚敵発見」

「それじゃあちょっくら腕慣らしっと」

 

 という事でまったりと戦闘開始。

 六匹くらい出てきた狼型の雑魚敵を囲まれないように動きながら倒す。普段からノイズ戦で慣れているわたし達だから結構余裕。

 

「よっ、ほっ、たっ。それ、ファイアボール」

「えっと、ちょちょいの、ちょいっと。アグリゲットシャープ」

 

 で、魔法だけど、特に詠唱とかありません。

 メニューから選択するか、ショートカットで登録しておいた既定の動作を行う事で、目の前に次々と出てくる点を杖か指で規定回数タッチして、魔法名を口にすると魔法が発動します。魔法が強ければ強い程、点が出ては消える速度が速くなって発動が難しくなったり。

 

「いやー、やっぱり魔法使いが二人いるとやりやすいよねぇ」

「そうデスねぇ。後ろからしっかりと援護が来るのは頼もしいデス」

「弓矢もな。火力的には魔法に劣るが十分な援護だ」

 

 という事で前三人はバンバン前に出ては相手を殴って斬って。

 あ、言い忘れたけどこのゲームの武器の種類は、結構多い方。剣に弓に槍に。他にもそういう武器から派生して薙刀とか刀とかクロスボウとか。シュルシャガナみたいな電鋸は無かったから、仕方なく魔法だったり槍だったり、わたしは色々と使うオールラウンダーなんだけど、イガちゃんは槍からの派生で鎌があったからそれを。他のみんなも同じような感じ。

 イチイ先輩はちょっとだけ異端で、弓から派生したクロスボウと銃を同時に装備して、その場に応じて持ち変えて戦うスタイル。だから時折前に出てガンカタし始めたり、延々と後ろからクロスボウで狙い撃ったり。

 ゲームだからそう言う事が可能なわけなんだけど、ゲームだからできる事っていうのはまだある。

 さっきから周りの雑魚敵が音に寄ってきて敵が増えるだけだから、前衛組がちょっと本気出すみたいだし、見れるかも。

 

「戦ってたら相手が次々と音に寄ってくる……よし、スキルを使って一気に蹴散らします!」

「ならば私も続こう!」

「私も続くわ!」

「あたしは後詰するデス!」

「構えは確か、こうからこうで! 掌底破ッ!!」

「行くぞ、ラーム! 四葬天幻ッ!!」

「了解よ、ハバキリ! 風雷神剣ッ!」

「ラストはあたしデス! 四紋ッ!」

 

 勿論、近接武器使いにもMPゲージみたいな物はあるから、それを使えばスキルが使用できる。構えて、声を出せば自動的に体が動いて発動する。

 ガンさんが掌打を放てば、その衝撃はで一気に相手が吹き飛んで、それを追ったハバキリさんとラームの蹴りと斬撃が相手を斬り裂いて、イガちゃんが最後に投げた鎌が四つに分裂してそのまま雑魚を一気に殲滅した。

 けど、少しだけ撃ちもらした雑魚もいる。そのお掃除はわたし達のお仕事。

 

「そこと、そこ。コンセントレイト。あと、こことここで、シャープネス」

「バフも貰った所で。えいっ、よっと、ほほいの、ほいっと。アイストーネード!」

「行くぜ一撃! 龍炎閃!」

 

 わたしが範囲攻撃魔法を放って吹っ飛んで纏まった相手を一気に殲滅。そしてイチイ先輩も龍の形になった炎の矢で相手を貫通攻撃。そのまま無事相手を倒しきった。

 これで周りの相手をある程度倒したから、リポップでレアモンスターが出てきてくれたらいいんだけど、そうもいかず。

 

「出てこない、か」

「仕方ないですよ。レアモンスターですし、適当にウロウロしてレベル上げしながら待ちましょう?」

 

 待ち続けたらなんでゲームしてるか分からないし、フィールドをウロウロする事に。

 雑談しつつ出てくる雑魚を斬り捨てて暇を潰す事一時間ちょっと。そろそろレベルが一つ上がりそうで、ウキウキとしている中、リポップしてきたモンスターの中にひときわ大きな存在を見つけた。

 間違いない。レアモンスターのドラゴンだ。

 

「あ、出たデスよ!」

「よっしゃ! ぜってぇ逃がすんじゃねぇぞ!」

 

 見つけた所で戦闘開始。

 いつも通り四人が前に出て、残り三人は後ろに下がる。

 

「まずは防御バフだね。えいやっ、とう。フィールドバリアー」

「それなら攻撃バフが行くまでは時間稼ぎを。ちょちょいの、ちょいっと。ウィンドカッター」

「一応アタシもなんかしとくか。アローレインっと」

 

 シェンさんのバフも少し時間がかかるから、その時間をこっちでカバーするために魔法と矢で援護。こういう時、遠距離で牽制できるわたし達が一応の役に立つ。

 けど、ウィンドカッターを選んだのはちょっと駄目だった。やっぱりあのドラゴン、なんか風属性魔法はあんまり効かないみたい。イチイ先輩の矢には怯んだけど、わたしの魔法には怯んでない。火属性のドラゴンっぽいし仕方ないとは思うけど。

 それなら、次の魔法はこれに……ってうわっ。

 

「すっごい量の指示……ちょっと時間かかります」

「じゃあその間に、アグリゲットシャープ」

「ついでに龍炎閃」

 

 バフが飛んで、足止めの矢も飛んだところでわたしも次の魔法の準備に。

 この魔法、四属性から外れた光魔法だから、闇属性に弱点を突けて、他の四属性には等倍で通る便利魔法だからなぁ……ちょっと発動まで面倒でも仕方ないかも。ちなみに、もう一個、本当にどの属性にも関係ない雷魔法があるんだけど、こっちは本当に発動まで長すぎるから基本使いません。威力は高いんだけどね?

 前の方で前衛組が殴って斬って足止めしている最中に、せっせせっせと杖を動かして点をタッチ。

 結構杖が重いから、大変なんだよね……よし、できた。

 

「いきます! プリズミックスターズ!」

 

 光魔法、プリズミックスターズ。多分、雷魔法を除けば白魔法使い風の魔法構成にしてあるわたしのキャラの中では、火力はお墨付きレベル。

 ドラゴンの周りから幾つもの光弾が発射されてドラゴンの体力を一割ほど削り取る。

 うん、ボスレベルのレアポップモンスターの体力を一割も削れれば十分上出来。二十秒近く発動に要しただけの事はあるね。

 じゃあ、次の魔法は……この間取得できたけど、発動まで長すぎて使えなかった水属性の最強魔法でいこうかな。

 

「うっわ……指示の量が……」

 

 で、指示の量なんだけど、プリズミックスターズの倍近く。

 これ、多分一分近くかかるね……

 

「シュルちゃんが大技やるっぽいから、わたし達で時間稼ぐよ!」

「委細承知! 閃く刃は勝利の証! 白夜殲滅剣!」

「続くわ! クリティカルブレード!」

「浄破滅焼闇! 闇の炎に抱かれて馬鹿なデス!!?」

「あぁ、イガちゃんがカッコつけてる間にぶっ飛ばされた!? でも気にせずわたしも! 獅哮爆炎陣!!」

 

 なんかイガちゃんが黒歴史っぽい事を言いながらぶっ飛んでいったけど、みんな結構モーションが長めの技を使ってくれたからドラゴンのヘイトがそっちを向いてくれた。

 だからこっちもなんとかかんとか必死に、三十秒くらいで魔法の指示をこなしたから、みんなを巻き込む覚悟で!

 ……一応言っておくけど、フレンドリーファイアは無いからね?

 

「じゃあ、そんな調ちゃんにコンセントレイト」

「ありがとうございます。じゃあ、これでトドメ! タイダルウェイブ!」

 

 という事で大技発動。

 ドラゴンの足元に渦潮みたいなのが発生して、四方八方から津波が発生して一気にドラゴンを飲み込んで、そのままダメージを与える。うん、気持ちいいくらいにごりっごり体力が削れてる。流石バフ盛り奥義。

 でも、ドラゴンの体力はまだ半分くらい残ってる。

 じゃあ今度は雷属性の技……あっ、こっち使おうかな。ネットでチート呼ばわりされてる技。

 案外発動までが簡単だからね。グランドタイダルウェイブの半分くらいだし。

 

「まだ半分か……案外タフだな。ラーム達はこれを四人で倒したのだろう? よくやる物だ」

「勿論、シュルのチート魔法を何十回も使って、それでも十分近くかかったわよ。ほら、その時のリプレイの如くシュルが用意してるわよ」

 

 ふふふ。これこそが魔法使い系のキャラは絶対に取った方がいいとまで言われている技。

 発動まではどうしても二十秒近くかかっちゃうけど、発動したら十秒間相手を止める事ができる、いつか絶対に弱体化が入る事間違いなしの魔法。

 MPがすっからかんになるけど、今日はMPポーションも大量に持ってるから関係なし。

 という事でとにかくいっけぇ!

 

「タイムストップ!」

 

 公式が黙認しているチート魔法、タイムストップ! 一度誰かが発動したら三十秒は誰も同じ魔法を発動できないデメリットがあるけど、そんなの気にならない程度にはチートな魔法! 一分に一度じゃ弱い? そんな事はない。むしろ一分に一度十秒間相手を止めれるんなら相当強い!

 という事でどーん!

 

「あっ、出た。公式黙認のチート魔法」

「これ何でナーフが入らないんデスかね……」

「時を止める魔法なんて存在していいのか……?」

「公式が作ったからいいのよ。ほら、殴るわよ」

 

 十秒も有れば前衛組が大技を出し切るまでの時間は余裕で稼げる。という事でみんなでぼこぼこタイムに入り、残り半分のHPを前衛組の大技で八割近く消し飛ばして、残りの二割はMPを回復させたわたしの魔法でチクチクと削って無事に討伐。

 さて、誰か鱗はゲットできたかな?

 

「あっ、鱗落ちてる」

 

 どうやらガンさんが鱗を入手したみたい。

 よかった、これで最低限のノルマは達成だね。で、他は?

 

「見た所、ガンだけか。どうする? もうギルドハウスに戻るか?」

「わざわざここまで来てそれも寂しいデスし、もうちょっとレベル上げしてから帰るデスよ」

 

 イガちゃんのそんな提案にみんなで乗って、結局この後ドラゴンを二、三体飼って鱗を五枚くらいゲットしてから帰ったのでした。

 ちなみに、最近の装者の訓練は、みんなゲームの中の技を再現したりして、風鳴司令からどんな映画を見たのか聞かれることがしばしば。まさかゲームの技です、なんて言えるわけもないから、ちょっと笑ってごまかしてたり。

 でも、最近響さんが生身で虎の闘気を出せそうになっているのは放っておいてもいいのかな。あの人、その内映画とゲームのハイブリッドになって手が付けられなくなるような気が……いや、今さらだね、今さら。




本当はインディグネイト・ジャッジメントとかしたかったけど、流石にインディグネイション系は詠唱が無いと味気ないので出すのは断念。

当初、調ちゃんの武器はチェーンソーか何かで、と思ったんですが、流石にファンタジーゲームにチェーンソーは……と思ったので魔法使いになってもらいました。魔女っ娘調ちゃんのXDでの実装に期待しています。可愛らしい外見でインディグネイションとかシューティングスターとか、結構カッコいい系の魔法を使ってほしい。


で、XV六話ですけど……あの、もう折り返しなのにこれから先どうなるのか、全然わかりません!
とりあえず最後に出てきたアレ、神の腕というかそんな感じのアレですよね? 何でアレがシャトーの中から出てきたのかは分かりませんけど、あの中に居るのって未来さん? それともエルフナインちゃん(withキャロル)? とにかくキャロルちゃん! みんなに復活を望まれてるから大人しく復活しよう!!?
あとオッサン、案の定死んでましたな。知ってた。
んでもってアレですよ。アレ。緒川さん。
忍法車分身で笑っちまいましたよ。アレで笑うなって方が無理でしょ。笑うわあんなん。
あと、クリスちゃんの下半身を凝視できたドライバーは……いい冥途の土産ができたな? いつ死んでも後悔は無いな?
とりあえずこれで緒川さんは動いたから、今度はOTONAが大暴れしてくれないかなーって。折角TVシリーズも大詰めなんだから、最後の最後に大暴れしてほしい。

正直、毎週をシンフォギアの30分のためだけに生きている気がする今日この頃。シンフォギアというコンテンツの終了まで俺は生き続けるがその後は知らん! シンフォギアに全力投球の夏だ!
…………コミケは、うん。行ってギャグ同人誌とか欲しかったけど……なんか熱中症でシンフォギア終わる前に命が終わりそうだったんで行けませんでした。冬コミ行けたら行きたいです。情けない俺を許してクレメンス……


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月読調の華麗なる声優の日々

今回は要望も多かった声優時空の話です。個人的には前回の話で一区切り……って感じになってたんで、中々続きが思い浮かびませんでした。

今回からは、調ちゃんがしっかりと声優として頑張るために新たなお仕事に挑戦したり、ラジオしたり、生放送したりと、そんな感じの話が主になると思います。

あ、最後の方はなんかこう、思い浮かんだは良い物のどこにぶち込もうか悩んだ話をぶち込んでみたり。という事でどうぞ。


 声優というお仕事を将来の仕事として見据えて、そうして声優として生きていこうと決意してからというもの、私生活が結構忙しくなった。

 普段からちょっとずつやっていた練習も、本格的なレッスンに切り替えて行ったり、色んなアニメのオーディションに行って実際に演技してみたり。時には監督さんに首を傾げられて不合格っていう事もあるけど、それでも仕方ないと切り替えて。

 うたずきんの収録やライブの練習とかを行って、ついでに声優雑誌のインタビューとかも受けつつと忙しくしていたところ、言ったら駄目かもだけど、数打ちしてとにかく当たれーってやったアニメのオーディションに見事受かって、今日はその初収録。

 

「月詠了子です。今日はよろしくお願いします。あ、これ差し入れです。どうぞスタッフの皆さんで食べてください」

「あぁ、ありがとう。今日はよろしく頼むよ?」

「任せてください」

 

 と、いう事で監督さんやディレクターさんに差し入れをしつつ、大体同じタイミングで現地入りした他の声優さんにも挨拶。

 わたしが貰えたアニメの役は、メイン……ではないんだけど、ヒロインの一人の役。ファンタジー系のアニメなんだけど、なんでも昔、暗殺されかけて命からがら逃げだしたものの、その先で事故にあって記憶を失ったとある貴族の末裔……って子みたい。それで、裏組織で色んなことをしていたみたいなんだけど、その先で出会った主人公達に助けられて、なんやかんや一緒に行動する……って感じの子なんだけど。

 

「……なんだかわたしに似ているような」

 

 と、ちょっと首を傾げたり。

 細かい所は大分違うし、一概に同じとは言えないんだけど、なんだろう。大雑把な部分が一緒というか。事故にあって記憶喪失とか、裏組織に居たりとか、なんやかんや助けられてなんやかんや表側の人と行動を共にしたり。

 どことなーく、色んな部分が一緒な気がしてならない。でも、これなら感情移入とかしやすいかも。

 あっ、ここアドリブ入れとこっと。

 

「……とりあえず、友里さんには終わりそうな時間だけ伝えておかないと」

 

 収録に入ると、みんなでブースの中に入るから携帯なんて弄れないからね。先に友里さんにいつ頃終わりそうかだけを伝えておいてっと。

 あ、ちなみに今回のアニメは、わたしが演じる女の子の設定から結構ガッチガチなシリアスファンタジーと思うかもしれないけど、ギャグアニメだよ。ストーリーのあるギャグアニメ、とでも言ったらいいのかな? とりあえず、家で練習した分のメモとかはちゃんと残ってるし。よし、もう全員揃うみたいだし、先にブースに入って……あっ。

 

「あれ? 了子ちゃん?」

 

 今入ってきた声優さん、うたずきんで共演してる人だ。この間一緒にラジオ撮ったし、すぐに分かった。

 

「この間ぶりです。まさか一緒の現場なんて……」

「意外だねぇ……」

 

 二人して首を傾げつつ、意外だ意外だなんて言っていると、この作品の主人公の声優さんがこっちに来た。どうやらこの人とは何度も共演した仲らしい。

 

「もしかして、この子がうたずきんの?」

「はい、そうなんですよ」

「ど、どうも。月詠了子です」

「よろしく。多分、うたずきんのアフレコよりは楽だと思うから、あんまり気を張らないようにね?」

「は、はい……」

 

 さ、流石に初対面の人と話すのはまだ緊張する……

 ちなみに、この人とは今度のアニメ放映記念の生放送で共演する事がもう決まっていたり。今の内に色々と親交を深めておかないと。当日、息が合わないとかがあったら嫌だからね。

 よしっ。早速ブースに入って頑張ろう! あっ、その前に挨拶挨拶。

 

 

****

 

 

 アフレコは無事に終わった。まぁ、うたずきんが凄すぎて、こっちのアフレコは結構楽だったと言うか……ほら、うたずきんって台本とヘッドホンが舞ったり、あまりにも熱気が籠り過ぎて酸欠状態が続くから、皮膚呼吸スキルが求められたりするから……一応、わたしはそこら辺の訓練もしてきたから、何とかなったけどね、うん。

 一応、今は四話まで収録が終わってる。

 わたしの本格的な出番は四話からなんだけど、実は一話からちょっとセリフがあるから、最初から現場入りしてたんだけど……まぁ、暇だったのはご愛敬。うたずきんでは主役をやってたから、常に出番があると言っても過言じゃなかったけど……ね?

 で、今日はアニメ放映記念の生放送をやる日。既に四日は主演の人と、メインヒロインの人、それからうたずきんで一緒になった人の、今日生放送を一緒にやる人三人とはよく話したから、大丈夫だと思う。

 

「放送十分前でーす」

 

 と、スタッフさんが声を上げて、わたし達もステージの方で準備……じゃなくて、駄弁ってる。

 いや、わたし達の台本合わせとかはもう終わってるし、話す内容も大分固まってるから、後は待っているだけというか。あんまり直前まで打ち合わせしていても、内容が飛んじゃうかもしれないからね。

 

「そういえば了子ちゃんは今日、学校だったんだよね? 明日も平日だけど大丈夫なの?」

「最悪、サボりですね。慣れてますから大丈夫です」

「いや、サボっちゃダメでしょ!」

「一応行きますよぉ。一応、ですけど」

「居眠りも駄目だからね?」

「はーい……」

 

 なんて事を話しながら暫く待機。

 今日は平日で明日も平日だから、勿論わたしは今日、学校からここまでノンストップで来ました。だから、SONGの社用車に予め着替えと靴を詰めておいて、学校の鞄は社用車に置いたまま、服と靴が入った鞄を持って楽屋入りして、着替えてたり。

 制服で出てもいいんだよ? とか言われたけど、恥ずかしいし本名バレに繋がるかもしれないから却下という形で。もしかしたら、そのせいで変な人に狙われる、とかあるかもしれないからね。

 

「あ、そうだ。今日、これが終わったら打ち上げがあるけど、了子ちゃんも行くんだよね?」

「はい、行きますよ」

「お酒は勧められても飲んじゃだめだからね?」

「分かってますって。うたずきんの時も飲んでないじゃないですか」

「いや、案外大人の人って飲ませたがるものだからさ。二人も経験あるでしょ?」

「こういう所の打ち上げでそんな事はないって。近所のおっちゃんならまだしも」

「あー、私も近所のおっちゃんに勧められたことあります。なんでかビール勧めてくるんですよねぇ」

 

 打ち上げかぁ。

 うたずきんの時の打ち上げは、何故か伝票がとある人に送られ続けて、その人も毎回律義に払っているけど、普通の打ち上げはどうなんだろう? そういう会費とかから出てるのかな?

 よく分かんないけど、そこら辺の詳しい手続きは友里さんや藤尭さんがしてくれているから、わたしは特に気にせず美味しいご飯を食べます。

 だから、今日は切ちゃんが家で一人なんだけど、切ちゃんはこういう時、翼さんやマリア、時にはクリス先輩と一緒に食べているらしいから、わたしは気にせず良い物を食べます。今日の打ち上げも焼き肉です。やったね。

 

「本番一分前でーす」

 

 あっ、もう本番だ。

 よし、気合入れないと。いつもの身内感覚でやったら絶対に失敗するから、キッチリと気合入れて頑張ろう!

 

「じゃあ始まる前にお水を……」

「本番! 五、四!」

 

 あっ、ちょっと待って今お水飲んでる! 早くこれ置いて……あっ、始まった!?

 って落としたぁ!?

 

「それじゃあ、初めて行きま」

「あっ、ごめんなさいお水が!」

「って初っ端からグダグダだなぁ!!?」

 

 ご、ごめんなさい~!

 ――い、一応、生放送は盛況で終えたよ? ただ、冒頭のお水落下は結構ネタにされたから……うん。これからはもっと気を付けます、はい。

 

 

****

 

 

 実はお仕事はあのアニメだけじゃなくて、後一個だけ準レギュラーキャラで貰っていたり、ソシャゲーの新キャラのボイスの収録をしたりと、ちょくちょくとお仕事してます。

 ただ、時折こう、ダメージを貰った時とかに小さい悲鳴とかを当てる時があるんだけど、そういう時に時折SNSとかの感想でリアル女子高生の喘ぎ声とか書くのは止めてほしい。死ぬほど恥ずかしくなるというか……

 で、今日はその収録終わりにSONGの本部に寄って装者としての仕事を色々と終わらせて帰る所……なんだけど。

 

「……つけられてる、よね」

 

 ボソッと独り言。

 そう、なんかつけられてる。どこかの国の諜報員に、とかじゃなくって、一般人に。

 流石に一般人の尾行なんて、分からないわけがない。一日目から誰かが後ろにいるのは気が付いていたけど、わたしが徒歩で帰宅するときとか、大体半々くらいの確率で出てくるんだよね。

 一応、友里さんや藤尭さんには連絡済みだし、何かあった時に自衛をする事を許可してもらったけど。

 SONGのボディーガードを付けてもらう事も提案してもらったんだけど、もしも逃げられてわたしと国の繋がりが露呈するとかはあってはいけない。出版社とかなら、圧力をかければなんとかなるんだけど、口コミって案外馬鹿にできないからね。

 

「はぁ……切ちゃんにどう報告しよう」

 

 このまま帰ってもいいんだけど、もしそれで部屋を特定されて嫌がらせとかされたら困るから。今まではその足で電車に乗って、ストーカーが居ないのを確認したらUターンして帰って……とかしてたけど、今日は切ちゃんとご飯を食べに行く予定なんだよね。

 だから、あんまり時間を使いたくないと言うか。

 一人でも自衛ならできるけど、捕まえられるかどうかまではよく分からないし。やっぱり友里さんや藤尭さんに付いてきてもらった方が良かったかな。相手もこっちが気づいてるとは思ってないみたいだし。

 歩きスマホをするフリをして後ろを確認するけど、間違いなくこっちが気づいてないと思ってこの間よりもちょっと動きが大胆になってる。一応、連日ストーキングされてるのをこうやって確認しつつ写真を撮ってるから、捕まえられれば簡単なんだけどね……

 どーしよこれ……

 

「このまま帰るべきか……あっ」

 

 もうこっちから襲いかかってしまおうか、なんて思考が物騒な方向にシフトした時、目の前に見知った二人組が。

 ……よし、あの二人にちょっと助けを求めよう。邪魔するのは忍びないけど……一応、先に一言だけ注意を送って……よし、見てくれた。

 

「響さーん、未来さーん」

「あっ、しら……じゃなくて了子ちゃんだ」

 

 目の前に居たのは響さん&未来さんの二人組。そして、わたしが送った注意は、わたしの事を了子と呼んでほしいという事。それだけ。

 

「了子ちゃんって今日、切歌ちゃんとご飯を食べに行くんじゃなかったっけ?」

「もういい時間だし、帰らなくても大丈夫なの?」

「はい、まだちょっと時間に余裕がありますから。ほら、切ちゃんからもこんな連絡が来ましたし」

 

 なんて言いながら、わたしは携帯の画面を二人に見せる。

 ストーカーされてるので協力をお願いします、とだけメモ帳に先んじて打っておいた画面を。

 

「えっ? 了子ちゃ……」

「あー、そういう事! じゃあ切歌ちゃんの用事が終わるまでどこか行かない!?」

 

 未来さんがストーカーの事について言及しようとしたけど、すぐさま響さんが未来さんの言葉をさえぎってくれた。どうやら響さんも一瞬で状況を判断して誰がストーカーかを大雑把に判断してくれたみたい。

 で、ここから先どうするかだけど。

 

「そういえば、最近流行りの……なんだっけ? タピオカ? を買いに行くところなんだけど、了子ちゃんって食べた事ある?」

「あー……一応ありますけど、すっごく並びますよ?」

「だよねー。わたしも響にそう言ってるんだけど、聞いてくれなくって」

 

 なんて言いながら、響さん&未来さんと携帯の画面を見せ合って作戦を伝える。

 と、言うのもいたって簡単。せーので路地を曲がって、相手が追ってきたところを強襲。未来さんは危ないからちょっと離れた所でSONGの人を呼ぶって事になった。

 ちなみに友里さんや藤尭さんには既に通達済み。こっちから仕掛けますって言ったら、もうちょっとだけ待ってほしいって言われたから、今は二人の許可待ちだけど。

 

「えっと、ここがタピオカを売ってる……うっわぁ」

「三十分待ちだって、響」

「まぁ、まだ人は少ない方だと思いますけど……」

 

 で、そんな事を連絡しあいながら響さんの当初の目的であるタピオカの店に来たんだけど、すっごい並んでる。最近人気だからなぁ。わたしもそういう流行りに乗ってみたけど、やっぱりこんなに並ぶんなら……って考えの方が強かった。

 だって、これ一個買うだけでカップラーメンを二個くらい買えるんだもん。すっごい高いよ。同級生の子とか、よく買ってるみたいだけど、よく頑張るなぁって素直に感心しちゃうもん。

 

「えー……弓美達からはここは空いてるって話だったのに……」

「空いてるほうですよ。凄い所は六時間待ちとかするみたいですし」

「ろ、六時間……? 飲み物に六時間……? ご飯炊けるよ……?」

「響のそのご飯算はなんなの……?」

 

 別にわたしは並んでもいいんだけど、流石の響さんもこれは流石にきつそう。

 

「夜ご飯まで時間あるから、それまでの間食にーって思ったのに……」

「だから急にタピオカなんて買いに来たんですね」

「後は、みんなが美味しい美味しいって言ってるから、ついわたしも響も釣られちゃって」

 

 とか何とか言っている間に、結局タピオカは買わずに店を出る事に。でも、今度時間がある時に切ちゃんも連れて一緒に来ようって事になった。切ちゃんも気になってるみたいで、この間出先で一人で買ったのがバレた時はほっぺたぷくーってなってたし。可愛かった。

 という事で店を出てどうしようか悩んだところで、丁度友里さんから連絡が。近くで構えているからやっちゃっていいよ、との事。

 

「あ、響さん、未来さん。あっちの方に何か」

「え? あっ、どれどれ?」

 

 人気の無さそうな路地を曲がって、ストーカーを誘き寄せる事に。

 三人で同時に路地に入って、響さんが構えて、未来さんは後ろに。で、わたしも響さんの横で構えておいて……あっ、来た。

 

「あ、あれ?」

「調ちゃん、この人?」

「はい。間違いないです」

 

 ストーカーは何故か出待ちされている事に困惑しているけど、そんな事は気にせず、響さんの確認に頷く。

 間違いない。この人がこの間からわたしをつけてきているストーカー。

 本当はこんなのついてほしくなかったんだけど……まぁ、有名税として捕えておこう。って訳で。

 

「確保!」

「腕失礼します足失礼します背負い投げ失礼しまぁす!!」

「ぐっはぁ!!?」

 

 わたしの声と同時に響さんが動いて、流れるような動作で背負い投げをかました。そのまま響さんが腕を極めてストーカー犯が動けないようにしたところで友里さんが丁度路地に入ってきた。

 

「あらま。結構派手にやったわね」

「な、なんなんだよ一体! 訴えるぞ!」

「訴えるのはこっちの方。あんなバレバレのストーキング、バレないと思う?」

 

 と、言いながらわたしがこの人のストーキングの証拠として撮った写真の数々を見せると、ストーカー犯の顔色は面白いように変わっていった。

 普通ならストーカー犯を怖がったり、報復を恐れちゃうからこんな事はできないかもしれないけど、こっちのバックには国家権力が居る。例え再犯されたとしても自衛なんて容易だし。というかそもそも、SONGからの緘口令やら何やらを受けた状態で再犯なんてできないだろうし。泣く子も黙る事だってできるからね。普段は絶対にしないけど。

 

「それじゃあ、三人とも。後は私が預かるから」

「いいんですか?」

「こういうのの処理も私達の仕事よ。連行、お願いします」

 

 これで何とかなった、と思っていると、友里さんがどこかへ連絡。直後に黒服の人が数人出てきて響さんに一度下がってもらうと、ストーカー犯をそのまま拘束した。

 うわ……そっか。装者って国家機密レベルだから、それが漏れていないか、漏れているんなら緘口令のためにお話する必要があるから……

 

「な、なんなんだよこれ!?」

「悪いけど、私達の本部まで来てもらうわ。彼女、機密事項の塊だから、警察に任せる前にワンクッション必要なのよ」

「は、はぁ!? お、俺は何もしてねぇよ!」

「疑わしきは罰せずよ。大丈夫よ、本当に何も無いんならお詫びと一緒に傷一つなく帰してあげるから」

 

 と、言ったところで友里さんが連行を指示。そのままストーカー犯は友里さんの乗る黒塗りのワゴンに乗せられドナドナされていった。

 ……なんていうか、予想以上に大事になっちゃったけど、まぁいいや。

 

「そ、それじゃあ。ありがとうございました」

「ううん、いいよいいよ。どうせタピオカを買いに行くついでだったし」

「結局買えなかったけどね」

「それじゃあ今度、お二人にタピオカ奢りますね。並ぶのは変わりませんけど」

「ホント!? やったー!」

「もう、響ったら……奢ってもらえるのは嬉しいけど、本当にいいの? 特にわたしとか何もしてないし、歳上だし……」

「大丈夫ですよ。こう見えても稼いでますから。それに、普段の恩返しも含めてるんですから、気にせず奢られちゃってください」

 

 案外アニメの主役を貰うっていうのはそこそこ稼げるからね。少なくとも装者のお給金と声優のお給金で響さんよりも稼げてるから。

 と、いう事で二人にはお礼をして、わたしは帰ってからご飯を食べに行ったのでした。ストーカー犯のその後は……とりあえず、黒服の方々からこわーい言葉を貰ってから警察に引き渡された事しか知りません。もしシンフォギアの事を知っていたらと思うと……ちょっと怖いね?

 ――後日、響さんと未来さん、それから切ちゃんと一緒にタピオカを買いに行ったんだけど、その日は休日だったからかすっごい並んでいて、一時間以上並んでから買えたんだけど、並ぶ間にちょっと疲れちゃった。でも、そこそこ気に入ってくれたみたいで疲れた表情はすぐに消えました。

 SNSの方にも写真を上げたけど、そっちでも結構好評だったり。

 と、いう事で色々とあるけど、わたしは声優頑張ってます。




タピオカって実際どうなんですかね? 自分はファミマのタピオカカフェオレとタピオカココナッツミルクを飲みましたが、前者はよく分からん。後者はココナッツミルクが好きじゃないってなって、総評はよく分からんって事になりました。あんな列に並ぶ気もしないし、あんな洒落た所に行く気概もないから多分一生の謎になる。

で、声優時空の方は新たなお仕事と生放送で頑張ってる調ちゃんの一幕を。うたずきんよりは体力使わないみたいですよ? XVが現行しているのであんまり話を進められないのが悲しい所。アイドル時空もそうですが、XV終わったら、XVより先の話とか書いて行こうかなー、とは思ってます。

それで、XV七話ですけど……いや、もう、最高すぎです。
オートスコアラー復活が予想できずに声を上げたのはもちろんの事、キャロルぅ……! やっぱお前エルフナインと一緒にいたんだなキャロルぅ……!!
いや、もう泣けばいいのか燃えればいいのか叫べばいいのか分かんないです。いや、言葉が出ない神回を見たのはホント久しぶりです。
ありがとうシンフォギア……! やっぱ俺の生き甲斐なだけあるよ……! 俺、また一週間生きていけるよ……! 生きるための活力貰ったよ……!!


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月読調の華麗なる特訓

リアルがごたごたしてましたが、何とか週一更新を守れました。これ、書き終えたのは更新二時間前ですw

今回の元ネタは銀魂から。またもや銀魂ですが、何となくこれ使えそうだなーと思ったので使いました。あと、今回の調ちゃんは大分天然が入っております。

それでは、どうぞ。


 強くなりたい。そう思った。

 わたしと切ちゃんは、装者の中では一番適合率が低い。だから、単体戦力としてはわたしと切ちゃんが一番下。マリアも同じように適合率はLiNKER無しではギアを纏えないくらいだけど、マリア自身の機転や戦闘力がわたし達の一歩上を行く要因になっている。

 だから、強くなりたい。

 例え適合率が低くっても、マリア達と並べるくらいに強くなりたい。

 

「だから、響さん!」

「あたし達を強くしてほしいデス!」

 

 だから、わたし達は響さんに頭を下げた。

 響さんも最初は装者としての戦闘力はそこまで高くなかったらしい。今まで響さんは普通の女の子として生きていて、それで装者になってから訓練をして、それで装者の中でも一番の戦力とまで言える程になったらしい。

 そんな響さんに色々と教えてもらって、強くなりたい。みんなの足を引っ張らない位に、強く。

 

「……いや、わたし、今刺されて入院中なのわかってる?」

 

 とは言ったものの。

 実は、今、響さんはちょっと事故って……痴情の縺れって絶賛入院中。どうやら未来さんとお出かけする予定をすっぽかして弓美さんと遊びに行ったらしくって、怒った未来さんがついついザクっと。鍛えていたからそこまで酷い怪我にはならなかったし、未来さんが刺したって事はみんなで隠蔽したから、特に問題はない。未来さんも反省してるみたいだし。

 でも、流石に傷が完全に塞がるまでは入院を余儀なくされて、現在入院中。まぁ、響さんも恋人を放置して色んな人と遊んでいたらしいし……

 

「でも、あたし達は響さんみたいに強くなりたいんデス!」

「そう言ってくれるのは嬉しいけど、わたし、入院中だよ?」

 

 つ、強くなる方法だけでも教えてもらえれば、あとはわたし達で実演したら……!

 

「うーん……じゃあさ、二人はどうやって強くなろうとかイメージできてる?」

「イメージ、デスか?」

「わたしは師匠っていうバグスペックが近くにいたから、師匠のやり方で強くなったの。幸いにも、武器は同じだったからね」

 

 確かに……風鳴司令も拳が武器だし、響さんもそれと同じ。だから、風鳴司令を自分の一旦の目標として上へ上へと向かっていったけど、わたし達はそうもいかない。

 わたし達の武器は、相当特殊。だから、映像とか文献とかで自分の上限っていうのを設定する事が難しい。

 そう言われると、確かにわたし達は強くなりたいって駄々をこねるだけで、それ以上を自分達で求めようとはしなかった。明確な目標がないのに、強くなれる筈もない、かぁ……

 

「でも、二人とも反射神経とか身体能力とか、そこら辺を上げるっていうんなら、アレだよ」

 

 アレ?

 

「山籠もりとか。ああいう、ちょっと古臭い特訓っていうのは案外効果的なんだよ?」

 

 な、なるほど……

 でも、山に籠ってから何をするかは自分で考えないと。籠っているだけならただのサバイバル生活だから……

 うーん……

 

「山に籠って……」

「うんうん」

「……く、熊と」

「うん?」

「……あ、足を持ってもらって腹筋とか」

「いやどうしてそうなったの!?」

 

 い、いや、だって。

 特に何も思いつかなくって……ギアを使えば熊だろうと倒せる事には倒せるんだけど。

 ただ、生身じゃ熊と戦ってもすぐに熊のご飯にされちゃうだけだから、駄目だろうし……かといって熊を倒すとかじゃないと熊をどう活かすかなんて……

 

「いやいや! もっとこう、熊を活かそう!? 戦わないにしてももっとやれる事あると思うけど!?」

 

 あ、そっか!

 

「じゃあ熊の足を持って腹筋を!」

「どんな活かし方!!? なんで自分じゃなくて熊を特訓させてるの!!? っていうか腹筋なんて山行かなくてもできるじゃん!? そこら辺のスポーツジムで事足りるじゃん!! インストラクターで十分じゃん!」

 

 えぇ……じゃあ、わたしの部分をインストラクターに変えれば……

 

「なんで!!? もうそれ調ちゃん関係ないじゃん! ただの熊の特訓じゃん! っていうかもう山から帰ってきてるし!!」

「かなり斬新だと思います!」

「斬新も何も今まで存在しないよ! だって自分が特訓してないんだもん!!」

 

 うぅ……そう思うと結構難しい……

 どうやって特訓ってするんだろう。マリアはわたし達と一緒に特訓していてああなったのに、どうしてわたし達は……

 熊を使う事も響さんからしたら駄目みたいだし……一体どうしたら……

 

「全く。最近様子がおかしいと思ったらそんな事を考えていたのね」

 

 こ、この声は!

 

「あ、マリアさん。どうしてここに?」

「あなたのお見舞いよ。全く、本当に痴情の縺れで刺される人間を見る事になるとは思わなかったわ」

 

 マリアが普通に響さんのお見舞いに来たみたい。手にはフルーツ籠が。

 もしかして、わたし達の相談も全部聞いていたのかな? そう思うとちょっと恥ずかしい感じはするんだけど……

 

「そういう事ならどうして私に相談しなかったの? 響はこう、特例だからこういう時に頼るのは間違っているのに」

「あはは~。どうも特例です」

 

 た、確かに特例と言えば特例だろうけど。

 ……クリス先輩がちょっと見ない間にえらい強くなったって言っていたし、成長速度も特例っていう事なのかな? それとも特訓内容が特例なのかな? どっちも特例なんだろうけど。

 とりあえず、マリアにも色々と教えてもらった方がいいかも。

 

「そうね。やっぱり二人とも、自分のゴールを先に見据えておいた方がいいわ」

「響さんと同じことを言ってるデス」

「つまりそういう事よ。強くなろうとしている者は、まず自分のゴールを見据える事から始めるのよ」

 

 やっぱり、明確なゴールが無いとダメって事だよね。

 明確なゴール、かぁ……

 

「こういう時、絵にかいてみるのもいいかもしれないわね。自分がこうなりたいって言う図を、下手でもいいから書いてみるの」

「あぁ、いいですねそれ。遠回りになるかもしれないですけど、それでこそ見えるモノがあるかもしれませんし。あ、一応ここにスケッチブックありますけど」

「ナイスよ。じゃあ、これに書いてみましょうか」

 

 絵、かぁ……どうやら響さんとマリアも改めて書いてみるみたいだし、わたしも真剣に書いてみようかな。

 わたしの目標……

 

「書けたデス」

 

 とか考えていたら切ちゃんがもう書き終えていた。流石に早くない?

 

「早くない? 見せて見せて」

「これデス」

 

 そう言って切ちゃんが出したのは……

 

「調と結婚したいデス」

「誰が人生のゴールを書けって言った!!? しかも絵じゃなくて文字だし!?」

「き、切ちゃん……そういう事はもっと違う所で……」

「うん、家でやろうか!? わたしの病室でやる事じゃないよね!?」

 

 も、もう、切ちゃんったら……今日のおかずはちょっと多めに作ってあげなくちゃ。

 でも、なんでかさっきから響さんが叫びまくって体力を消費しているから、叫ばない程度のコトを書かないと……とは言っても、さっきから真面目に言ってるし書いてるのに響さんったらツッコミを入れてくるからなぁ……

 何を書こう……まだ考えついてないからなぁ……

 あ、そうだ。これをこうして……

 

「描けました」

「どれどれ?」

 

 どうぞ。

 なんか強そうな熊です。

 

(ソイツ)はもういいっつってんじゃん!!? っていうかその熊、色々とツッコみどころあるけど、口に血ィ付いてるよね!? 明らかにそれさっきまで話題に出てたインストラクターのだよね!?」

「ケチャップです」

「ンな訳あるかぁ!!?」

 

 もう、ただのケチャップなのに。

 原材料はアレだけど。

 

「響、さっきからうるさいわよ。ここ、病院よ?」

「わ、分かってますけど……ってマリアさんは描けたんですか?」

「えぇ。ゴールを設けても、とどかないんじゃ絵空事。だから、地に足の着いたしっかりとした目標を立てないと。これくらいね」

 

 と、言ってマリアが見せてきたのは、翼の生えた女性が空を飛んでいる絵だった。

 な、なるほど……こうやって翼が生えるくらいに強くなるって事なんだね、マリア!!

 

「なんか調ちゃんがすっとこどっこいな事考えてるっぽいけど言わせてもらうよ! さっき地に足着いたって言ってたくせに思いっきり空飛んでんじゃん! 羽ばたいてんじゃん! 一体何になろうとしているの!?」

 

 い、言われてみると、そう、なのかも?

 これぐらい強くなるって事じゃないのかな……? 明らかに書き込みがこの数分で済まない程度には凄い事になっているけど。でも、マリア位になるとこれぐらいできるって事だよね。流石マリア!

 

「っていうかその天使、何か持ってません……? 男の人的な……」

「インストラクターよ。熊に襲われている所を助けたの」

「なんでさっきの調ちゃんから続いてんの!? 誰も紙芝居やれだなんて言ってないからね!?」

 

 でも、それぐらい強くなれって事だから……あれ? 翼生えるくらい強くなるのってどうやるんだろう。

 これ、ゴールまでの道のりは見えても、そこに至るまでの道が分からないような……

 

「マリア。先ほどから何を言っている」

「こ、この声は翼さん!?」

 

 あ、ホントに翼さんだ! 翼さんもお見舞いに来たのかな? 何だか今日のお見舞いは結構騒がしい感じかも。

 っていうか、なんか翼さん、絵をかいて来てない? なんか持ってるんだけど。

 

「後は私に任せろ」

「任せようと思いましたけど気が変わりそうなんですが!? その持ってる絵! なんかすっげー怖いんですけど!? なんですかその死体の山と赤い川!!」

「屍山血河」

「文字通りかよチクショウ!!」

 

 つまり翼さんは敵で屍山血河を作れるくらいに強くなる……っていう事なのかな?

 確かに翼さん、屍山血河のなんとかかんとかって言ってたし、翼さんならわたしが感じた疑問とかにしっかりとした答えを教えてくれるかも!

 

「暁、月読。世の中、大きな物を一発で当てようとしても、そうとはいかないんだ。一度どん底に落ちたからこそ分かる。そんな都合のいい事は起こらないんだ。もっとも、それ以降は私達全員で大きな物を起こしまくったがな。ただな、それを起こすにしても、普段からのたゆまぬ特訓が必要なのだ」

 

 普段からのたゆまぬ特訓……

 

「こんな話を知っているか? ある所に綺麗好きな男と不潔な男がいた。綺麗好きな男は小便をする時、飛沫を気にして座って用を足した。だが、不潔な男は立ったまま用を足した。飛沫なんて気にしないからだ」

「あの、翼さん。何で急にそんな話になってるんですか」

「落ち着け立花。話はここからだ。それでだな、二人はそうして用を足したわけだが、大きな違いが出てきたのだ。綺麗好きな男は座って用を足すから、徐々に足が衰えてきた。対して、不潔な男は常に立っているから足が鍛えられてきたのだ……誰が予想できた? こうして筋力をつけた者、つけなかった者の違いが最終的に」

 

 さ、最終的に……?

 

「関ヶ原の戦いの勝敗を分けるなんてな。そう、この男達こそが徳川家康と石田三成なのだ!!」

「ンな訳あるかぁ!!」

 

 響さんが枕をぶん投げて翼さんにツッコミを入れていたけど……

 まさかあの関ヶ原の戦いにそんな裏の話があっただなんて、知らなかった……!

 

「どうして翼さんが徳川家康と石田三成の小便事情知ってるんですか! 適当過ぎません!?」

「関ヶ原の戦いって、最終的に延長戦に持ち込んでPK戦で決まったらしいぞ?」

「戦国時代にPKなんて概念があってたまるか!!」

 

 そ、そうだったんだ……

 今度テストに出てきたらしっかりと答えないと。関ヶ原の戦いはPK戦で決まったって。

 やっぱり日本って昔から結構凄い歴史があるんだなぁ……

 

「ちなみに、家康にこの修業方法を伝えた僧がいるらしい」

「なんつーもん伝えてんですか!!?」

「家康に寵愛され、江戸幕府の影の支配者と言われたこの、天海と呼ばれた僧。一説によればあの秀吉に討たれた明智光秀」

 

 あ、明智光秀!?

 まさか明智光秀がその時代まで生きて……

 

「の、インストラクターだ」

「またインストラクターかよ!!?」

 

 そ、そっか! 明智光秀のインストラクターならその時代まで生きていてもおかしくなんてない!

 今度テストに天海の正体とかが出てきたら、しっかりと明智光秀のインストラクターって答えないと。どこかにメモしておこうかな。

 

「さっきからなんでそんなインストラクターを出してくるの!? インストラクターに呪われてでもしてるの!?」

 

 いや、だってインストラクターって結構万能だし……

 

「おい馬鹿。いい加減落ち着け。傷口開くぞ?」

「その声はクリスちゃん!」

 

 あ、今度はクリス先輩が来た。

 って、クリス先輩が絵を……お、お墓? あ、そっか! さっきの翼さんの屍山血河をしっかりと供養したんだ! 流石クリス先輩!

 

「しゃーねぇ。アタシがひよっこのために、アタシ達がここまで強くなるためにやった修業を教えてやるとするか」

「っ!? ま、まさかクリスちゃん、あの修業を!? 駄目だよ、あれは過酷すぎる!!」

「こいつらが強くなりてーって言うんなら仕方ねぇだろ。これが一番効果的だからな」

 

 そ、そんな修業方法が……!

 

「ほら、こいつらの目を見ろ。いい目だ」

「それは……そう、だけど」

「だったら、やらせてみるのもいいんじゃねーか?」

「……そうだね。やらせてみようか」

 

 クリス先輩に、強くなった後の響さんもやった特訓……! それをしたら絶対に強くなれ……

 

「じゃあまずはこの亀の甲羅型の重りを背負ってもらう」

「え、あ、はい?」

 

 こ、甲羅型?

 これに何の意味があるんだろう?

 

「んでもって、これからアタシがこの、雪って書いた石を投げる。これを拾ってこい。いいか、適当な石に雪って書いてもすぐわかるからな。この石は一つしかないから、拾ってこれるのはどっちか一人だ。拾ってこれなかった方は晩飯抜」

「誰が亀仙流の修業させろっつったデスかッ!!」

「ごっはぁ!!?」

 

 あ、切ちゃんが思いっきりクリス先輩に重りを投げつけた。

 え、えっと、亀仙流って何なの?

 

「まさかどこかでカメセンリュウとやらにパクられていたのか……?」

「パクったのはそっちデスよ! ドラゴンボールやってんじゃないデス!!」

 

 ど、ドラゴンボール? さっきから一体何が……?

 

「もう、クリスちゃん。これじゃあ違うよ」

「そうだったか?」

「うん。背負う物から違うよ」

「あたしは二人がこんなパチモンみたいな修業で強くなったと勘違いしかけたデスよ。調なんて純粋なんデスから、絶賛頭の中がハテナで一杯になってるじゃないデスか。可愛いデスけど」

 

 そ、そんな、急に可愛いだなんて照れちゃう……

 

「それじゃあ、わたしが本当の特訓を教えるよ」

 

 ほ、本当の特訓!

 クリス先輩は間違っていたっぽいし、しっかりとした物を教えてもらおう!

 え? その前に甲羅は下ろしていい? そうなんだ。

 

「背負うのは甲羅じゃなくって、このインストラクターだよ」

「またインストラクターじゃないデスか!!」

 

 い、インストラクター? っていうかその二人のインストラクターはどこから出てきたの?

 

「今からこの、響って書いたインストラクターを外に投げるよ」

「だからインストラクターはもういいって言ってるじゃないデスか!!」

「適当なインストラクターを拾って響って書いても無駄だからね。文字で分かるから」

「顔で分かれデスッ!!」

 

 い、インストラクターって投げる物じゃないと思うけど……

 でも、投げられたインストラクターを拾ってこればいいんだね!

 

「もうやってらんねぇデス! 調、行くデスよ!」

「い、行くって? 今響さんがインストラクターを投げるみたいだし……」

「投げねぇデスよ! インストラクター拾いだなんて罰ゲームやる気にもならないデス!!」

 

 ちょ、切ちゃん、まだ響さんにお土産のお菓子渡してないから、せめてそれだけでもぉ!

 

 

****

 

 

「……行ったね」

「それでいいのよ」

 

 まったくもう。二人とも、そんな事で悩んじゃうなんて。

 

「自分の行く道は、自分で決める物だ」

「修業の第一関門、突破ですね」

 

 そう、これがわたし達の考えた修業。

 わたし達はいつも、悩んで悩んで、その結果、自分達で道を見出して自分が強くなる道を歩んできた。だから、誰かに与えられるだけの道じゃなくて、自分で選んだ道を行って欲しいんだ。

 

「弱音なんて吐いたら承知しないわよ」

「まぁ、アタシ達はいつでも見守ってるからな。なんやかんやで、アタシにゃ勿体ないくらい、良くできた後輩だからな」

 

 そうだね。だからこそ、間違った道は行ってほしくない。

 

「ソウ、ワタシ達ハ」

 

 うん、インストラクターさん。

 わたし達は。

 

『あなた達の、人生のインストラクターなのだから』




と、いう事で本来は月読調の華麗なるインストラクターという名前で投稿しようとした話でした。たまには内心で荒ぶらない銀魂ネタの調ちゃんが書きたかった。

実はグレ調時空の続きを投稿しようと思ったんですけど、間に合いませんでした。まだ話の中盤にもいってないのに二万文字はヤバすぎる。

それでXV八話……ヤバかったですね。
マジでキャロルが仲間になって、それからキャロルの大立ち回り。やっぱキャロルつえぇっすわ。流石GXラスボス……というか、アダムとか除けば本編で登場した錬金術師の中でも最強レベル。アレが仲間になるのは心強すぎる。
しかも装者達の方もキャロルの七十億のフォニックゲインでGX版が主体になった新デザインのエクスドライブになって……! しかも最後にシェムハが……! オッス我シェムハ。へいきへっちゃらよりも(ピー)-LA HEAD-CHA-LA。
いや、もう八話ホントに凄すぎました。ただ、これ十三話で終わるのかなとw ここでエクスドライブまで出してきちゃったわけですし、まだアマルガムがビッキー以外出てきてませんし。ワンチャン、続きは劇場で! とか?
あと、何気に調ちゃんの初絶唱顔。血涙だけで良かったと言うべきか、もうちょっとアップでもよかったと思うべきか。ただソロ絶唱がまだ無いから……調ちゃんのソロ絶唱ください。
というか、エクスドライブがあそこまでボロボロになったのって初めてですかね? あと、きりしらのミサイルじゃなくビームサーカスで一瞬調ちゃんのアップが見えたような気がしたのは気のせいでしょうか。あっ、可愛いってつい思ったんですけど。


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月読調の華麗なる奇跡・前

今回はグレ調時空の続きです。多分、グレ調時空はこれで終わりかなーとは思います。

前回の片割れみたいに、長くても一万文字くらいで終わるかなーとか思ったらまさかのその五倍近い文字数になり、やむを得ず分割。前後で更新しますが、前が三万文字近く、後が二万文字ちょっとあります。

機械仕掛けの奇跡をやりつつ、三期の要素を回収するのは流石に一万文字じゃ終わらなかった……! メモ帳の容量が138KBとかいう今まで見た事ない程の容量になりました。

あと、大分独自設定ぶち込みました。なので今回は独自設定注意です。

それと、キャロル&エルフナインは味方になります。先んじて仲間verのキャロルを書かせてもらおうか!

って、緒川さん!!?(XD)


「パパの遺言……世界を知れという遺言は、これで果たせたのかな?」

「さぁな。まだ世界を徒歩と船で一周しただけだ。世界を知ったとは言えんだろう」

「そうですね……でも、もしもキャロルにボクが居なかったら、キャロルってば今頃何をしていたか分からないよね。もしかしたら、世界を解剖して世界を知る、とか狂言吹いてた可能性もあるし」

「……否定できんな。お前にぶん殴られて説教されなきゃそうだったかもしれん。妹に説教される姉なぞ、威厳も何もあった物じゃない……」

「双子なんだから、姉も妹もあったものじゃないと思うけど」

「あるんだよ。少なくとも、姉と言われてパパに育てられた身としてはな」

「そういう物なのかなぁ……? ……それで、どうするの?」

「そうさな……万象黙示録でも完成させるか?」

「キャロル……? ボク、言いましたよね? それを完成させるんならこっちにも……」

「分かってる分かってる! 冗談だ! というか、ダインスレイフの欠片はオレが持っているが、ヤントラサルヴァスパはお前に預けたままだろう。だったらどっちにしろ無理だ」

「え? ボク、ヤントラサルヴァスパは受け取ってませんけど」

「……ん? いや、オレはお前に渡したぞ? ほら、百年ほど前に」

「いや、キャロルからそんなの受け取ってませんけど。でも、百年前と言えば、路銀を得るために幾つか聖遺物を国に売ったような……」

「………………さて、旅を続けるか」

「キャロル? ヤントラサルヴァスパがもし非道な人に渡ったらどうなるか……分かりますよね?」

「……クソがっ!! あぁ分かった! 責任取ればいいんだろう!! 癪だがな!!」

「全くもう……ボクはいつも通り、テレポートジェムとかお布施用の錬金術体験キットを作ってますから、キャロルは荒事が起こった時のために準備しておいてくださいね?」

「くっ……! オレはいつまで妹の尻に敷かれればいいんだ……!!」

「何か悪い事したら……分かってるよね?」

「するか! ンな事したらパパにあの世で何言われるか分かったもんじゃないからな!」

 

 

****

 

 

 フロンティア事変は相当大変な事になったけど、結果的には万事解決の終わりよければ全てよしという形で終える事ができた。

 でも、それだけで問題は終わらなかったというのが今回のオチだったりする。

 わたしが直前の任務で回収した女の子、シャロンにまつわる問題が起きてしまった。

 シャロンは孤児で、どうやらあの研究所に引き取られていたんだけど、そこで様々な非人道的実験をさせられた結果、シャロンはとんでもない存在になってしまっていた。

 それが。

 

「聖遺物との融合症例……まさか、響くんの事が解決した直後にこの問題が来てしまうとはな……」

「聖遺物は不明……しかし、放っておけば確実に彼女は命を落とす事でしょう」

 

 そう、聖遺物との融合。シャロンは実験の末、体に聖遺物を埋め込まれた状態で救出された。

 もしここに神獣鏡があるんなら、シャロンに神獣鏡の力を使う事で問題は万事解決したんだけど、神獣鏡のギアはフロンティア事変の際に響先輩の体内のガングニールの破片と共に消失。平行世界の未来さんに救援を望むしかなくなってしまった。

 でも、それは最終手段。全てが平行世界頼りになってしまえば、わたし達が居る意味がない。だから、わたし達が自力で解決しなきゃいけない。

 けど……

 

「これに関しては、わたし達は無力……」

「果報を寝て待つ事しかできぬか……」

 

 集中治療室で眠るシャロンの映像を、わたし達は眺めるしかできない。

 聖遺物との融合は、体にメスを入れて取り出せばいいって問題じゃない。元から聖遺物との融合を基に始められた実験だからか、シャロンの体は言うならば、聖遺物の苗床に変化しつつある。そこから核とも言える聖遺物を摘出したんなら、どうなるか。

 もしかしたらシャロンはそれで死んでしまうかもしれない。そうじゃなくても、体に何らかの異常が発生して、一生眠ったままという可能性もある。

 それをどうにかできる唯一の方法が、聖遺物の影響すら消し去る事ができる神獣鏡だったんだけど……

 

「……ん? 司令、どうやら来客みたいです」

 

 とか思っていたら、オペレーターの藤尭さんがパッとしない声で来客を告げた。

 今時来客……?

 

「来客? 誰だ」

「さぁ……? どうやら日本政府からの許可証を片手に、やんとらさるヴぁすぱ? とやらを受け取りに来たとか言っているみたいで……」

 

 や、ヤントラ……なに?

 わたし達、そんなの持ってないんだけど……でも、どうやら日本政府からの許可証は本物らしくて、結局来客を迎え入れる事に。

 どうやら女の子二人組らしくて、歳はわたし達よりも下。シャロンとほぼ同じくらいの身長の子が二人らしい。

 本当に誰……? 新しい装者、とか?

 とにかく来客を管制室に呼ぶわけにもいかないから、食堂で来客に対応する事に。一応、わたし達装者四人も何かあった時のためにそこへ向かった。

 で、食堂で待っていたのは。

 

「あぁ、来たか」

「お忙しい中、急にすみません」

 

 トンガリ帽子を被った、ヤケにゴテゴテとした服を着た子と、若草色のワンピースを着た女の子。

 なんというか……わざわざここに来る意味がない子と言いますか……

 

「あ、あぁ……待たせてすまないな」

 

 風鳴司令はそう言うと、司令補佐であるマムと共に二人の少女の前に座って、わたし達もその横に一列に座る事になった。

 

「それで、君達は一体?」

「オレ達はここに運び込まれた完全聖遺物、ヤントラサルヴァスパの回収に来た。アレは管理を少しでも間違えばとんでもない悲劇を引き起こすモノだからな」

 

 ヤントラサルヴァスパ……? しかも完全聖遺物って……

 少なくともわたしは聞いた事が無い聖遺物の名前。響先輩達にも知っているか目配せしてみたけど、三人は首を横に振るだけ。どうやら響先輩達が回収した聖遺物というわけでもないみたい。

 

「ヤントラサルヴァスパ……一応、資料では見た事がありますね。しかし、ここにはそんなモノはありません」

 

 マムの言葉に風鳴司令も頷く。けど、対面の、ちょっと口調が強めの子は少し不機嫌そうに顔を顰めるだけ。けど、もう一人の子はどこか会話の歯車が噛み合ってないのが分かったみたいで、首を傾げてる。

 どういう事なんだろう?

 少なくとも装者はヤントラサルヴァスパなんて回収した覚えはないけど……

 

「馬鹿を言うな。いいからとっととヤントラサルヴァスパを出せ。封印処置をしているのならまだしも、剥き身で持っていたらいつ自滅を誘うか分からんぞ」

「いや、本当に俺達はヤントラサルヴァスパなどという聖遺物は知らん。調査履歴を見るか? この許可証はそれすら可能にできるぞ」

「だからそこまでする気は無い。ヤントラサルヴァスパを渡せば終わる話だ」

「だからヤントラサルヴァスパという聖遺物は――」

 

 本当に会話が致命的に噛み合っていない。

 どうすればいいんだろう……わたし達が口を差し込めるような事でもないだろうし……

 とりあえず、わたしが一度席を立って直近……というか、SONGができてからの調査と聖遺物の回収履歴を管制室で貰ってきた。部外秘だけど、あの許可証はそれができる物だから。

 印刷してきた履歴を、未だに口頭合戦している三人ではなく、若草色の子に手渡してみると、その子は書類をササっと見た。

 

「……あっ、キャロル。もしかして……」

「ん? ……あぁ、マジか……そういう事か……」

「これが本当なら相当……」

「ヤバいな……アレは万象の鍵とも言える聖遺物だぞ……マッド共はなんつーことを……」

 

 紙を見ていた二人は何やら納得したように呟くと、額に手を当てて思いっきり溜め息を吐いた。

 えっ、なに? わたし、何かマズい事した……? わたし、ただ印刷してきて持ってきただけだよ……?

 

「……この、シャロンという娘か。この娘と会わせてほしい」

「シャロンくんとか? しかし、彼女は……」

「恐らくこの娘に植え付けられた聖遺物とやら。これがヤントラサルヴァスパだ」

「なんだと!?」

 

 えっ……!?

 

「ったく、面倒な事になった……どうする、エルフナイン」

「ボク達の目的は、ヤントラサルヴァスパの回収です。それは揺るぎません」

「待て。もしシャロンくんに手を出そうと考えているのなら」

「そんな野蛮な事をするものか。お前達、この娘を助けたいのならオレ達をここに暫く置け。こうなったのはオレのせいでもあるからな。ヤントラサルヴァスパをこの娘から無事に引き剥がしてやる。ただし、ヤントラサルヴァスパ本体はオレ達が保管する。悪用されないためにな」

「そんな事ができるのですか? 彼女の体から聖遺物……ヤントラサルヴァスパを無理矢理にでも引き剥がせば、どうなるか分かった物では」

「ボク達にとって解剖と分解は朝飯前です。それに、この子はボク達のうっかりの被害者ですから、傷一つなくヤントラサルヴァスパを摘出する事を約束します」

 

 そ、それって、丁度かかえたわたし達の問題を解決する事に繋がるんじゃ……!!

 風鳴司令もマムも、ちょっと怪訝そうに顔を顰めたけど、わたし達にシャロンをどうにかする手は浮かばないから、二人の提案を受け入れる事にした。

 

「協力、感謝する」

「それじゃあ、早速ボク達はヤントラサルヴァスパの摘出の準備を……」

「待ちたまえ。その前に、君達の名前を聞かせてくれないか? こちとら国家機密組織だ。せめて記録を取るために名前くらいは聞かせてほしい」

 

 つまり、これから暫くは友好関係になるんだから、自己紹介くらいはしようって事。

 

「それもそうか。オレの名はキャロル・マールス・ディーンハイム。ただの錬金術師だ」

「ボクはエルフナイン・マールス・ディーンハイムです。錬金術師をやってます」

 

 へぇ、錬金術……へ?

 

「あ、これ、錬金術体験キットです。ちょっとは錬金術を知る助けにはなると思います。あと、こっちがアメリカのお土産で、こっちがアマゾン川で売ってたお土産で、こっちが中国で、あとこっちがイタリアとイギリスで、それからこっちが」

「いい加減にしろ、愚妹」

「いたっ。叩く事ないでしょ」

「相手が混乱しているだろうが。せめてそういう時は一か国だけにするか、纏めておけと」

「あ、そうだね。じゃあまずはこのアメリカのお土産を」

 

 ……いや、そうじゃなくって。

 あの……錬金術ってなんですか……?

 

 

****

 

 

 錬金術というのは、どうやらわたし達が想像している魔法に似たような物みたい。

 何かを燃焼する事によって魔力を錬成して、それを基に力を行使する、っていうのが錬金術の大雑把な解説で、その何かについてはそれぞれの技術体系によって変化するとかなんとか。それがエルフナインが持ってきた錬金術体験キットの説明書に書いてあった事。

 錬金術体験キット内にある小さな魔力を使う事で、火を起こしたり水を出したり、っていう遊びができるみたい。

 試しにやってみたけど、魔力を固めた石みたいなのを片手に、ペンや木の棒を持って特定の文字を描くと、石が小さくなる代わりに火や水が出てくる。そんな簡単な錬金術が誰でも楽しめます。

 

「しかし、錬金術……我等の知らぬ異端技術、か」

「聖遺物やシンフォギアの他にも錬金術などという異端技術があったとは……夢幻の存在ではなかったという事ですね」

「まぁ、現代を生きる者からしたら無理もない事だ。錬金術は中世に一部の人間の間で広まった異端の力だ。まぁ、フィクションで言う魔法代わりの代物だが、それ故に異端として扱われて恐怖された。魔女狩りなんてのもその一つだな」

 

 魔女狩り……確か、その名の通り魔女を異端者として狩るために行われた事、だっけ。それで死んだ人は凄い多くって、魔女と言いながらも男の人までもが殺された。

 わたし達はそんなのを見た事が無いから何とも言えないけど、多分、凄い悲しい事が起こり続けたって事だけは分かる。

 

「ならば、キャロルくん達はどこでそれを知ったのだ? まだ十代も前半だろうに」

「オレはもう何百年も生きている錬金術師だ。エルフナインもな。当時から錬金術を齧ってきている、業界面ではトップクラスの錬金術師だ。外面だけで人を判断するな」

 

 えっ。

 っていう事は、キャロルって見た目は子供だけど中身はお婆ちゃんって事……?

 

「……誰がババアだ」

「えっ、き、聞こえてた……?」

 

 ば、ババアとは言ってないけど、もしかして無意識のうちに声に出てたとか……? それだったらちょっと失礼な事をしちゃったかも……

 

「顔を見れば分かる。まぁ、悪気はないようだから勘弁してやるが……色々と裏技があってな」

「裏技?」

「自分の記憶……まぁ、脳ミソの中身を空っぽの肉体に移す。そうすれば人間は新たな肉体がある内はいつまでも生きていく事が可能だ。もしくは、完全なる肉体に体を入れ変える事だな。そうする事で不老長寿になる事はできる」

 

 そ、それって、元の肉体は死んでいるから生きているって言える……のかな?

 

「言いたい事は分かる。だが、オレ達錬金術師にとっては結果が全てのような物だ。それに、こうして本人が生きていると言っているんだ。それでいいだろう」

 

 そう、なのかな。

 

「っていうかキャロルちゃん」

「なんだ。というかちゃん付けは止めろ」

 

 わたしが一人で首を捻っていると、いち早く哲学的な問題から抜け出した響先輩がキャロルに声をかけた。確かに、キャロルって外見上はキャロルちゃん、だけど中身はキャロルさん、だよね……そこら辺どうなんだろう。本人はちゃん付けじゃなければ良さそうだけども。

 一応、わたしはキャロルって呼び捨てしてるし、それをキャロル本人も受け入れてくれてるからいいんだけど。

 

「キャロルちゃんはエルフナインちゃんの作業を手伝わなくてもいいの?」

「役割分担だ。オレもやれないことは無いが、エルフナインは戦闘系の錬金術を完全に捨てた代わりに、オレよりもこうした作業は得意だからな。オレは万一に備えているだけだ」

「万が一? でも、最近はノイズも出てこないし、そんな問題なんて起こらないと思うけど……」

「さてな。ヤントラサルヴァスパの利用価値は尋常じゃない。やろうと思えばここを一瞬で無力化、制圧する事だってできてしまうくらいの力を持っている。それを利用しない人間はいないだろう」

 

 キャロルは簡単に言ってみせたけど、響先輩を除く、翼先輩とクリス先輩。それから、司令とマム、わたしはその簡単な言葉に驚愕した。

 ヤントラサルヴァスパの力。わたし達はよく分かっていないけど、キャロルの言ったことが本当だとしたら。装者を内包するこのSONG本部を無力化できてしまうような力を本当に持っているのなら。

 そんな聖遺物は野放しにはできないし、たった一人の女の子の体に埋め込んでいいものじゃない。

 

「……なんだ、お前らは知らんのか」

 

 驚愕しているわたし達にキャロルがそんな事を言ってきた。

 ヤントラサルヴァスパの事を詳しく調べていないだけ、とも言えるんだけど、キャロルの言った通り、わたし達はヤントラサルヴァスパの力を知らない。わたしが頷くと、キャロルは溜め息を一つ吐いた。

 

「一応、教えておいてやる。ヤントラサルヴァスパは、言うならば様々な機械へのスケルトンキーのような物だ。様々な機械のコントロールを奪い、新たな力を与える事もできれば、沈黙させる事だってできる」

 

 そ、そんな聖遺物があるんだ……

 でも、それを悪用しようと思ったら、どれだけでも悪用なんてできるよね。確かにこの本部もヤントラサルヴァスパの力があれば一瞬で制御を乗っ取って無効化だってできてしまえそう。

 司令とマム、それに響先輩達もヤントラサルヴァスパの力に思わず息を呑んだ。そんなモノを体内に埋め込まれ、更には大人に悪用されようとしているシャロンを。小さいのにも関わらず、その身に課せられそうになった最悪のシャロンの運命を考えるだけで、あまり心象は穏やかじゃない。

 

「……そんな顔をするな。そのためにオレ達が居る。一応、オレは面倒には関わらない主義だが、自分の引き起こしたことに関しては別だ。今回の事に罪悪感が無いわけでもないしな」

「ん? つまりどういう事だ? これはキャロルくん。君が問題の発生源だとでも言いたいのか?」

「まぁ、直接的な物ではないがな。ヤントラサルヴァスパは元々、オレの計画に必要だった聖遺物で、オレの手元にあった。それをちょっと、な。こう、紛失してしまったが故にこうなった。まぁ、その、そうだ。ちょっと色々とあってな」

 

 なんかキャロルの目が泳ぎまくってるけど、多分嘘は言っていない。ただ言葉を分厚いオブラートに包みこんでいるだけで、それ以外には特に何も無いと思う。

 確かにキャロルがヤントラサルヴァスパを手放したことが原因かもしれない。

 けど、シャロンの問題はそんな事は些細とも言える事から始まっているから、特に司令もマムも、キャロルを責めるような目はしていない。

 

「そうか。だが、シャロンくんの件は聖遺物を悪用しようとした汚い大人たちのせいだ。キャロルくんのせいではない」

「そうですよ。あまり気にしないでください。こちらとしては八方塞がりだった問題に手を貸してくれるだけ、御の字という物ですから」

「……ふん。まぁ、オレが撒いた種なのは変わらん。責任はとるさ」

 

 キャロルが若干照れてるのが分かったけど、みんなそれを言及はしなかった。

 なんかこう、これ以上顔を赤くさせたら錬金術飛んできそうだし。

 で、重苦しい話も一応終わったから、ここからは雑談タイム……なんだけど。

 

「そ、その、だな。キャロルくん。錬金術を使えるという事は、こう、手をパンとしてな」

「は?」

「ほら、キャロルちゃん! こう、手をパンってやって、ドンってやる感じの!」

「いや、何を言って……あぁ、そういう事か。アレだろ、ハガレンできるのかって事だろ」

「で、できないかな……?」

「できるのならこう、男のロマン故に見てみたいというだけでな」

「……しょうがない。そこまで期待されたのならやってやろう! 見ろ、これがマジモンの手パン錬金だ!」

『おぉ!!』

「更に指パッチンで炎まで起こしてやる!!」

『おおぉぉぉ!!』

 

 案外ノリが良いキャロルと司令と響先輩のキラキラした目が妙に噛み合ったのか、キャロルが色々と錬金術を披露して、最終的には錬金術ショーみたいな感じになった。

 手パン錬金とか言って、手を音を立てて合わせてから、机や椅子を別の物に組み替えたりしていて、普通に凄いとは思ったけど、ハガレンってなんだろう? 日本のアニメとか? なんかクリス先輩もちょっとニヤニヤしているし。

 とりあえず今度、わたしも調べてみよっと。

 

 

****

 

 

 夜中。響先輩達は帰宅して、わたしは本部内にあてがわれた私室でのんびりとしている。

 わたしにも本来、親代わりのマムと一緒にアパートとかの一室が与えられる予定だったんだけど、マムがあまり帰らないし、こっちで泊まり込む事が多いから、それなら普段は本部内にあてがわれた私室でのんびりして、休日になったら一緒に帰る形にしようって事になって、わたしとマムは普段は本部内の私室で暮らしている。

 今日もマムは仕事が長引いているから、わたしは一人でアニメを見ている。さっき響先輩達が言っていたハガレンってアニメなんだけど、これが結構面白い。

 確かにこれをリアルでやってくれる人がいたら凄いかも。

 明日、またやれないか聞いてみようかな……

 

『調さん、今、大丈夫ですか?』

 

 とか思ってたら聞き慣れないノックと一緒に声が聞こえてきた。

 この声は……確か、エルフナイン? 今は作業中だったと思うんだけど……とりあえず、返事を一つしてからドアを開けてエルフナインを招き入れる。

 

「どうしたの、エルフナイン……って、あれ?」

 

 ドアを開けると、そこに居たのはエルフナインと、もう一人。

 

「シャロン? どうしてここに?」

 

 そう。エルフナインの後ろに引っ付くようにシャロンが一緒に居た。

 まさかの来客に驚いたし、そもそも目が覚めたのが以外だったし、それにまだシャロンの体内の聖遺物をどうにかする作業の真っ最中だった気がするから、わたしの中で混乱が強くなる。

 

「作業の方が一段落ついたんです。まだヤントラサルヴァスパの摘出はできてませんが、目を覚まして歩ける程度には回復したので、ここまで連れてきたんです」

 

 あぁ、そういう事。

 

「でも、どうしてここに? ここ、わたしとマムの部屋だけど……」

「それはですね」

 

 エルフナインが説明しようとした時、その背後にいたシャロンがいきなり飛び出してわたしに抱き着いてきた。

 いきなりの行動にビックリしたけど、この程度で転ぶような柔な鍛え方はしてません。シャロンを抱きとめてエルフナインに視線を飛ばすと、エルフナインは苦笑している。

 

「シャロンさんはどうやら、自分を助けてくれた調さんと一緒に居る方が安心できるみたいで。ボクなんて目が覚めた瞬間、思いっきり距離取られましたからね。すぐに筆談で調さんに会いたいって言われたので連れてきたんですけど……」

 

 まさかエルフナインも、ここまでシャロンがわたしに懐いているのは予想外だったようで、苦笑を浮かべたまま。

 

「と、とにかく、どうしたらいいの?」

「シャロンさんと一緒に居てあげてください。ボクの方は今日得たデータを基にシャロンさんの救出案を練り直さなければいけませんから」

「練り直す……? それって?」

「……予想以上にシャロンさんの体にヤントラサルヴァスパが馴染んでしまっているんです。いえ、寧ろシャロンさんの体がそれ用に調整されたとでもいいましょうか。ボクが想定したよりもかなり早く、そして根深くヤントラサルヴァスパは根付いてしまってるんです。当初、用意していたボクの案では救出できない程にヤントラサルヴァスパは馴染んでしまっています」

「っ……それって、もしかしてシャロンは」

「そんなもしもはありません。当初用意していた手が使えないだけで、ここには機材も情報もあります。時間はかかってしまいますが、確実にシャロンさんは助けます。ボクの錬金術師としての誇りもありますから、絶対です」

 

 エルフナインの印象は、どこかポヤポヤした女の子って感じだったけど、今見せた目つきと言葉は、どこかキャロルみたいに自信にあふれた言葉だった。

 外見と言い、言葉といい。姉妹らしいし似ているなー、なんて思いながら、エルフナインを軽く応援してから、わたしは改めてわたしに抱き着いてきたシャロンを連れて部屋に戻った。

 とは言ってもなぁ……

 

「……わたしも、あんまりコミュニケーションは得意な方じゃないし」

 

 だってわたし、七年か八年か忘れたけど、それくらいの年月、コミュニケーションを放棄してきた根暗少女だから、シャロンを前にどうしたらいいか……

 エルフナインが戻っていってから、急に離れて部屋の端っこの方でポツンとし始めちゃったし。

 うーん……

 

「シャロン、この部屋にある物は何でも使っていいから。ベッドは、わたしと一緒になっちゃうけど、いいかな?」

 

 わたしの言葉にシャロンは一つ頷いて、座ったら? とわたしが腰かけているベッドの横を叩けば、シャロンは大分ビクビクとしながらわたしの横に座ってきた。

 なんだろう。小動物的で可愛いんだけど……人に親切にされることが慣れてない感じ。

 ……それもそっか。あんな違法な研究所で実験台にされてきたんだから、扱いなんて雑極まりなかっただろうし、怖かっただろうし、娯楽なんて物も無かっただろうし。

 かく言うわたしも、娯楽なんて最近触れ始めたから、何が最近の流行りとかは分からないけど。

 

「……とりあえず、アニメでも見よっか。何もしないのも暇だからね」

 

 何もしないのもアレだから、シャロンと一緒にさっきまで見ていたアニメを見る事にした。

 この部屋、壁が真っ白だからプロジェクターと壁を使えば映画館っぽくできるんだよね。それで大迫力なアニメを見ていると、シャロンも何となく気に入ってくれたようで、さっきまでのビクビクはちょっとだけ取れていた。

 で、その後は夜も遅かったから一緒に寝たんだけど……シャロン、いい感じに温くっていい抱き枕になってくれました。翌朝、いつの間にか戻ってきていたマムに笑われて恥ずかしかったケド。

 

 

****

 

 

 翌日、響先輩達は学校に行ったけど、わたしは本部で待機。一応、マムや職員の人に家庭教師をしてもらってるから、勉強はしてるけどね。ちなみにその間、シャロンはずっとわたしの側に居た。拒絶する理由も無いし、時折、わたしの息抜きにも付き合ってくれるから、何も問題は無いからね。

 けど、それも終わってシャロンと一緒に管制室に顔を出せば、キャロルとエルフナインの二人が司令と顔を合わせていた。ちなみにマムは今日、病院で検査の日だから居ないよ。

 

「シャロンという娘についてオレ達でも調べてみた。そうしたら妙な事が……ん? 噂をすれば影とやらか」

「調くんにシャロンくんか。どうした?」

「いえ。その、暇になったので」

 

 シャロンも頷いたけど、キャロルが妙な事を言っていた。

 シャロンについて調べていた? 一体何を……

 

「……この話題はここで言うべきではないな。なに、お前が居た研究所に怪しい点があったというだけだ。誰もが分かっている事を掘り下げただけにすぎないから安心しろ」

 

 キャロルは優しい顔でシャロンにそう言うと、そのままシャロンの頭を撫でた。

 やっぱりかなり年上だし、色々と知っているからか、子供を安心させる方法も知ってるみたいだけど……シャロンは撫でられるのが止まった時点で即座にわたしの後ろに引っ込んだ。

 

「あー。嫌われちゃったね、キャロル」

「黙れエルフナイン」

 

 エルフナインの揶揄いに割と本気でキレてる感じの声を出すキャロル。それを聞いてびくっとするシャロン。

 

「シャロン、大丈夫だから。っていうか、キャロルってあんな顔もできたんだ」

「……オレの目的は、弱き者を守る事でもあるから、な。パパがそうだったように、オレもそうありたい。それだけだ」

「キャロルの、お父さん?」

「立派な人だったさ。異端を恐れた者達によって処刑されたがな」

 

 っ……それ、は。

 

「そんな顔をするな。オレの中ではもう過ぎ去った事だ」

「何が過ぎ去った事なのやら。パパが殺されてから百年くらいはこの世界ぶっ壊す! って息巻いてボクとマジの喧嘩をしたのに」

「わ、若気の至りだ! というかお前も止めるのが遅いんだよ!」

「中二病か何かかと思って放っておいただけだから。まさか本当に実行しかけるなんて、これだからキャロルは……」

「おまっ……! いいだろう、数百年振りに喧嘩するか……?」

「トラップ発動、一ヵ月ご飯抜き」

「ごめんなさい」

「よわっ」

 

 あまりの弱さに思わず声が出てしまった。

 けど、キャロルがこの世界を壊そうとした理由、何となく分かる。

 わたしも、切ちゃん達に助けられるまではこんな世界、どうなったっていいって思ってたから。装者をやっていたのも、カルマノイズを殺すためって側面が強かったし。

 だから、親しい人を殺されて自暴自棄になるのも何となく分かる。

 そんな風に思っていると、キャロルがこっちを見て口を開いて……

 

「これは……日本政府からの装者の出動要請!? 司令!」

 

 アラートが鳴った。

 その直後、オペレーターの友里さんが声を上げて司令からの指示を待つ。急な事態にわたし達の気が一気に引き締まって、シャロンは大きなアラートを聞いて身を縮めてしまった。

 シャロンに大丈夫、と言いながらそっと背中に手を回してあげて、わたしは司令の指示でモニターに出てきた映像を見る。

 こ、これは……!?

 

「馬鹿な……これは、ノイズだとぉ!!?」

 

 の、ノイズ……!?

 そんな、どうしてノイズがまた!?

 

「あれは……チッ。厄介な事に」

「現状報告! 急げ!!」

「数分前、急にノイズは出現した模様! また、下校途中だったガングニール、天羽々斬、イチイバルが既に交戦準備に入っています!」

「三人が既に向かっているか……回線を繋げ!」

「了解! 回線、繋がります!」

 

 わたしは呆然としているけど、友里さんや司令の行動はかなり迅速。例え想定外の事が起きようと、確実に、冷静に対処できるような訓練をしたからか、本当に行動は迅速。

 モニターに表示されるマップを見ると、ノイズの発生源から少し離れた場所に響先輩達の反応がある。下校途中だったって言うから、多分未来先輩は一足先に逃げていると思うけど……

 友里さんの声と一緒に響先輩達と通信が繋がる。

 

「三人とも! 事態は把握できているか!?」

『一応、ノイズが出てきたという事くらいは!』

『もう現場に向かっている! 避難誘導を頼んだ!』

「分かった! こちらから調くんと誘導部隊を向かわせて市民の誘導に当たらせる! 調くん、頼めるか」

「了解。迅速に現場に向かい、市民誘導とノイズの対処を行います」

「頼んだ。響くん達はそのままノイズを排除しろ!」

 

 頭の中をいつもの状態から仕事用に切り替える。

 ノイズの犠牲を出すわけにはいかない。

 

「シャロン、ちょっとだけ行ってくるから」

 

 シャロンにそっと告げるけど、シャロンは首を横に振った。

 多分、シャロンも一人じゃ寂しいから拒否したんだろうけど……わたしは行かなきゃ。

 

「大丈夫。絶対に帰ってくるから。帰ってきたら、一緒にお出かけでもしよう?」

 

 一方的に告げて、司令からインカムを受け取って耳につけてから管制室を出る。このインカムは管制室と繋がっているから、現状をリアルタイムで確認する事ができる。

 誘導部隊の人は車での移動だけど、わたしはあの三人を除けば唯一ノイズに対抗できる人間。だから、誰よりも早く先に到着して、誘導部隊の人が犠牲にならないためにノイズを予め殲滅する必要がある。だから、本部内にある装者移動用のミサイルの中に搭乗して、LiNKERを首に打ち込んでから発射の時を待つ。

 数秒待てば即座に発射。既に慣れた感覚と共にミサイルに乗って空を飛ぶ。

 

『ガングニール、天羽々斬、イチイバル、ノイズと交戦開始!』

『待ってください! アレと戦わせちゃダメです! キャロル、早く援護に!!』

『駄目だ、あそこにはテレポートジェムの転移先を設定できていない! オレが行くまで時間稼ぎに徹しろ! 絶対に相手の攻撃に当たるな! 掠る事も許されん!』

『なに、それは一体どういう……』

 

 管制室からの音声がそのまま聞こえるけど……キャロルとエルフナインは一体何を?

 ノイズ程度ならシンフォギアを使えば大丈夫だけど……もしかして、二人はシンフォギアの事を知らないのかな? それならこの反応も納得だけど……

 

『アレはアルカノイズ! ノイズを基に錬金術を用いて作られた兵器です! その分解能力は、接触する場所によっては害はありませんが、ノイズと比べて数段階も上です!! シンフォギアだろうとアレは分解します!』

『なん、だと!? マズい、三人とも、撤退を……』

『そ、そんな……!? ガングニール、天羽々斬、イチイバルのフォニックゲインが低下して……ギアが、破壊された!!? 衣服のコンバーターシステムまでもが破壊されて……マズいです、装者三人が丸腰のままノイズに囲まれました!!』

 

 そ、そんな……!? シンフォギアがノイズに分解される……!?

 しかも、ノイズに囲まれたって……くっ、行くしかない!

 シュルシャガナ。お願い、力を貸して……! 外装、パージ!

 

『っ!? 装者運送用ミサイルの外装、パージされました!』

『待て、調くん! あのノイズは!』

「それでもわたしが行かなきゃ三人が死んじゃうのなら!! Various shul shagana tron!!」

 

 ミサイルから飛び出してギアを纏う。そして、アームドギアの先端と腰のバーニアで空中で一気に加速。そのままアルカノイズが出現している場所を肉眼で確認。

 行ける。間に合う!

 例え分解されるのだとしても、攻撃の一切合切を避けられるのなら、ギアを分解なんてされない!

 

「ハアァァァァァ!!」

 

 響先輩達に触れようとしていたノイズ達……確か、アルカノイズを上空から強襲。百輪廻で意識をこっちに引き付けて、着地と同時に響先輩達をアームドギアから延ばしたマシンアームとわたしの両手で捕まえて近くのビルの屋上へと避難させる。

 

「た、助かった……?」

「すまん、月読。油断してしまった……!」

「どういうこったよ、あのノイズは……!」

 

 先輩達は悔しそうな顔をしている。

 けど、わたしは近くの監視カメラから三人の体を隠しつつ、叫ぶ。

 

「っていうか何で三人とも全裸なんですか!? そういう趣味ですか!?」

『断じて違う!!』

 

 いや、だってこんな土壇場で全裸って、流石に考え……あっ。

 そういえばコンバーターシステムが破壊されたって言ってたから、服が戻ってこないんだ……って事は、三人はどこかで服を確保しない限りは全裸のまま……?

 と、とりあえずどこかで服を確保してこないと。

 

『よくやってくれた、調くん! 三人の事はこっちに任せろ!』

「いや、三人とも全裸ですよ!?」

『大丈夫よ、既に野郎どもの目は私が潰しておいたわ! それに回収班も女性だから問題はないわ!』

『しかし友里くん、俺の目に指を突っ込むのは……』

『男は見るな喋るな! 一時的に指揮権をはく奪します!』

『お、おう……』

 

 ……なんかあっちが修羅場になってるなぁ。

 でも、ここからはわたし一人でやらないと。屋上から下を覗けば、アルカノイズ達がこっちを仕留めようとして来ている。それ以外にも、わたし達から意識を離してどこかへ行こうとするアルカノイズも見える。

 下に行って戦いたいけど、ここでわたしまでギアを失ったら、本格的にアルカノイズへの対抗手段が無くなっちゃう。でも、行かなきゃ大勢が犠牲になる。

 ……切ちゃん、力を貸して。この怪物どもからみんなを守るための力を!

 

「……行きます」

『待って、調ちゃん! ここは撤退を!』

「そうだ月読! お前のギアが最後の砦なのだ! 早まるんじゃない!」

「行かなきゃ、みんなが死ぬのなら。行かずにみんなを殺すのなら!! 世界が守れないのなら、わたしが守ってみせる!!」

 

 友里さんと翼先輩の言葉を無視して、わたしは屋上から飛び降りる。

 下には大量のアルカノイズが居るけど、大丈夫。アルカノイズに触れないように攻撃をしたらいいだけ。シュルシャガナなら、それができるから! それに、わたしは今まで一人で戦ってきた。相手の攻撃を極力貰わないように。一人しか居ない装者だからそれを求められたから!

 だから、行く!!

 

「わたしが、守るんだ!!」

 

 チェーンソーを振るって周囲のアルカノイズを斬り裂く。

 大丈夫、攻撃は効いてる! 相手も一撃だし、こっちも一撃! 普段のハンデがイーブンになっただけなら、何も怖がることは無い!

 攻撃は当てる! そして避ける! これだけの事、できないわけがない!!

 

『す、凄い……シュルシャガナ、次々とアルカノイズを撃破! 未だに一撃も攻撃を貰ってません!』

「お前達なんか! お前達なんかに!!」

 

 大丈夫、チェーンソーも、ツインテールのアームドギアも、破壊されていない! アームドギアがあるのなら、自分が触れる事無く戦える! 何も、恐れることは無い!!

 そのまま目視できたアルカノイズを二割程倒せた所で、唐突にチェーンソーがその動きを止めた。

 これは……まさか!?

 

「チェーンの部分と内部の一部が分解されてる……!? いつの間に……!」

 

 攻撃を貰ってはいないのに、チェーンソーは少しずつ分解されていた。これじゃあ重い荷物を持っているのとほぼ同義。

 舌打ちをしながらチェーンソーを投げ捨てて、その勢いで数体のアルカノイズを撃破。だけど、わたしにはまだツインテールのアームドギアがある!

 

「負ける、もんか!!」

 

 けど、チェーンソーが無いと近接での自衛が……!

 歯噛みしながら、だけど確実に広範囲の敵をアームドギアから発射する電鋸で蹴散らしていく。そして、振り向いて電鋸で次のアルカノイズを撃破しようとした時。

 

「しまっ!?」

 

 目の前に、アルカノイズが伸ばしてきた触腕らしきものが。

 あ、当たる……!? ここで、負ける……!?

 切ちゃん……!!

 

「――死にたくなければそこから動くな!!」

 

 思わず顔を庇って目を閉じた直後、声が聞こえた。

 元から動けなかったわたしはその声を聞いて、足を止めて。

 直後、わたしの周囲を暴力的な何かが薙ぎ払った。わたしのギアは無事で、だけどアルカノイズは周囲から一掃されていた。

 こ、これは……

 

「ったく、オレが行くまで時間稼ぎに徹しろと言っただろうが」

「キャロル!?」

 

 まさか、今のって錬金術!?

 

「アルカノイズは錬金術の産物だ。錬金術師の不手際は、錬金術師が拭う。お前は下がれ」

「……嫌だ。わたしも戦う」

「……はぁ。ったく、どうしてオレの周りには馬鹿な頑固しか集まらんのだ」

 

 キャロルは溜め息を吐きながらも、わたしの隣に立ってくれた。

 

「お前が囮でオレが本命だ。いいか、攻撃に当たるな。攻撃をする必要もない。回避に専念しろ。後はオレがやる」

「ありがとう、キャロル」

「ふん。お前のような奴はどうにも嫌いになれんだけだ」

 

 キャロルと拳を合わせて、わたしは駆けだす。

 大丈夫。避けるだけなら、造作もない!

 

 

****

 

 

 アルカノイズは、あれから十分も経たないうちにキャロルと共に殲滅する事に成功した。

 だけど、損害は大きかった。

 

「ガングニール、天羽々斬、イチイバルの破損……これは痛いな」

「ごめんなさい、師匠……アレがあんな力を持ってるなんて知らずに……」

「いいや、むしろよく分からぬまま交戦を許可した俺達の責任だ。響くん達は一切悪くない」

 

 シンフォギア三つの破損。それは、再びこの世界には装者が一人しか居ないという状況を作り出す事と同一だった。

 一応、全損というわけではないし、昔、二課に所属していた櫻井了子……つまり、フィーネなら修理が可能だったかもしれないけど、今のSONGにはシンフォギアの破損を修理できるような人はいない。

 つまり、実質的に三つのシンフォギアは機能を停止させられたも同義だった。

 

「ごめんね、調ちゃん。折角、形見のガングニールを譲ってもらったのに……」

「いいんです。マリアがここに居ても、こうなった事には怒らないでしょうし」

 

 それもこれもあの初見殺しノイズが悪い。

 とは言ってみたけど、戦力が低下したのは事実。キャロルもいつまで力を貸してくれるか分からないし……そもそもキャロルって政府に認可されている戦力なのかもわからないから、いつまでキャロルの力に甘える事ができるかも……

 

「櫻井理論、か。なるほど、これを基にすればシンフォギアは直せるのだな?」

「キャロルくん……それはそうだが……」

「なら、シンフォギアの修理はオレが請け負おう。幸いにも似たような物を作った事がある。アルカノイズの攻撃でも分解しないように改造もやってやろう」

「本当か!?」

「乗り掛かった舟だからな。わざわざ見捨てるのも後味が悪いし、オレがやらねばエルフナインが率先しただろうからな。ヤントラサルヴァスパの摘出と同時並行で。だったらその程度のサービスはしてやる」

 

 言われて、エルフナインがそっぽを向いて口笛を吹いた。

 多分、図星だったんだと思う。

 

「で、モノはついででもう使わぬモノだ。これもくれてやる」

 

 と、言ってキャロルが取り出したのは、箱だった。

 その箱を開けると、その中には何かの欠片が詰まっている。これは……なんなんだろう。多分、聖遺物だとは思うけど……

 

「呪われた剣、ダインスレイフ。その欠片だ」

「ダインスレイフ……」

「こいつをシンフォギアに組み込む事でそこの黄色がなった暴走状態を強制的に起動し、それを内部からのセーフティーによって制御する。名前は、そうさな……イグナイト、なんてどうだ?」

 

 イグナイト……?

 ……そういえば、切ちゃんや響さんが最初に来た時、イグナイトが使えれば、とか言っていたような。

 まさか、それがこれ?

 

「……それは確実に安全なのか?」

「オレをナメるな。その程度のシステム、修理ついでにぶち込むくらい余裕だ」

「ボクも手伝いますから、万が一は無いと思います。ただ、暴走状態は理性を失うとの事なので……恐らく、暴走状態を制御できるだけの装者の強い精神が必要になると思います」

 

 暴走を制御する、強い心……

 ……そっか。だからイグナイトを切ちゃん達は使わなかったんだ。カルマノイズは他の人の黒い心を刺激するってデータがあったから、イグナイトを使うと、その暴走状態の心の揺さぶりに拍車がかかって、暴走を引き起こす可能性が高くなる。そう考えると、切ちゃん達がイグナイトを使わずにカルマノイズと戦っていた理由が何となく分かる。

 けど、カルマノイズが居ないのなら、イグナイトの制御はギアの利便性と火力、その他もろもろに大きな影響を与えてくれる。

 

「司令。わたしは大丈夫です。イグナイトの搭載を許可してください」

「わ、わたしもです! もしこれから先、強い敵が出てきたとしたら、イグナイトは必要になると思います!」

 

 わたし達の説得に司令は折れて、正式にキャロルとエルフナインにシンフォギアの修理と、イグナイトシステムの搭載を依頼する事になった。

 でも、イグナイトを搭載するのは、わたしが一番最後になった。まず、わたしのシュルシャガナの改修をすぐに終わらせて、アルカノイズに対してシンフォギアを一つだけでも動かせる状態にしておく。それで、その後に三人のギアを改修と同時にイグナイトの搭載を行って、最後にわたしがイグナイトの搭載を行う。こんな感じで、なるべく装者はいつでも出れる状態にしておく事になった。

 

「なら、ギアを寄越せ」

「うん」

 

 手を差し出すキャロルに、わたしは首から吊るしている二つのギアの内、一つを。シュルシャガナをキャロルに渡す。けど、キャロルはイガリマの方を見て、首を傾げた。

 

「そっちのギアは何だ? まさかお前、二つのギアを使うのか?」

「ううん。これは、切ちゃんの……わたしの親友のギアだから」

 

 今、イガリマには適合者が居ない。だから、見つかるまでの間、イガリマはわたしが持っていてもいいって事になった。もしも適合者が見つかればイガリマはその人に渡す事になるんだけど……わたしの勘だと、わたしがシュルシャガナの装者をやっている内は見つからないんじゃないかって、そう思ってる。

 なんとなく、だけどね? もし本当に見つかったら、ちゃんと渡すつもりだから。

 それまで預かってるだけ。アガートラームは破損してるから、今は修理待ちで保管してあるけどね。

 

「……そいつがここに居ないって事は、そういう事か。どれ、そっちも貸せ」

「え? でも、イガリマは……」

「なるほど、それはイガリマか。なかなかどうして……」

 

 キャロルは暫く腰に手を当てて唸ったけど、一つ手を叩くと、もう一度わたしに手を伸ばしてきた。

 

「イガリマも貸せ。悪いようにはしない」

「悪いようにはって……」

「ちょっと頑丈にするだけだ。宝物がアルカノイズや錬金術師の攻撃で灰になるのも嫌だろう?」

 

 うっ……そう言われると。

 それに、キャロルも親切心でやってくれるみたいだし。それなら別に預けてもいいかな。

 シュルシャガナに続いてイガリマも手渡すと、キャロルは頷いてから背を向けた。

 

「じゃあ、早速作業に取り掛かる。エルフナイン、お前もとっとと作業にとりかかれ」

「はいはい。キャロルったら、素直じゃないんだから」

「お前が錬金術師にしては甘すぎるんだ! っと。言い忘れたが、流石にシンフォギアの改修には少し金を貰うぞ! 何せオレ達も金欠だし、ちょっと手間だからな!」

「分かっている。ギアの改修に強化までしてもらうんだ。こちらで用意できる物ならなんだって報酬として渡そう」

「それでいい。報酬が出るとなれば、こちらもちょっとはオマケをしてやろうという気にはなる」

 

 キャロルがちょっと照れくさそうな顔をしながら、エルフナインを引き連れて出ていった。

 エルフナインはキャロルに対して呆れた顔をしていたけど、なんだろう。この二人って結構お互いの事を酷く言いながらも、結構噛み合っているよね。何百年も一緒に居る姉妹だし、流石と言うかなんというか。

 わたしはギアも渡しちゃったし、暫くは暇になっちゃうから、シャロンが待っている自室に戻った。シャロンはわたしが帰ってきてからすぐに抱き着いて来たけど、この日は響さん達も一緒に来たから、五人でゲームをやったりトランプをやったりした。

 シャロンってカードゲーム得意なんだね。まさかババ抜きでも七並べでも完敗するとは思わなかったよ……

 

 

****

 

 

 次の日、本部内の自室で寝ていたわたしは、もう起きていたシャロンと一緒に外に出る事にした。

 と、言うのも。シャロンをずっと本部内に留めておくわけにもいかないし、偶には一緒に外に行って気分をリフレッシュさせた方がいいだろうという事で、二人で外に行くことにした。

 幸いにも、キャロルが昨夜の内にこの街のあちこちにテレポートジェムって呼ばれる、瞬間移動を可能にするための結晶の転移先を指定してくれたから、何かあればキャロルがすぐに駆け付けてくれる事になっている。流石に、元々の契約はシャロンのヤントラサルヴァスパの摘出で、もう、ついでで終わるような話じゃなくなってきたから、一回出動したらその度に謝礼が出る事になったけど……まぁ、キャロルとエルフナインも法外な報酬を吹っかけてる訳じゃないし、普通の人の平均的な日給の倍程度らしいから、普通に受け入れられたみたい。

 もうちょっと吹っかけてもいいって言ってたけど、キャロルが大金を持つと、結構色んな事にお金を使っちゃうタチらしいし、エルフナインも衝動買いが結構あるみたいだから、そういう豪遊ができる程のお金は手元に残さないようにしているみたい。

 

「シャロン、どこ行きたい?」

「……?」

 

 そこら辺は閑話休題。

 シャロンと一緒に外に出てきたわけだけど、シャロンにどこに行きたいか聞いても、シャロンは首を傾げるだけ。特にどこに行きたいか、とかどこがいいか、とかは考えていないみたい。

 いや、もしかしたら考えられないのかな? どこに行けばいいか分からないとか、そういう感じに見える。

 

「うーん……じゃあ、まずは服を買いにいこっか」

 

 とは言っても、わたしも特に何かしたい事があるわけでもないから、シャロンと一緒に服を買いに行く事に。

 シャロンの今の服、職員の人が一旦、という事で用意した服だから、普通に可愛い服を用意してあげたいからね。その後にシャロンと一緒にご飯食べたり、遊んだりしたらいいから。

 シャロンも特に異議はないみたいだから、まずは服屋に。

 

「それじゃあ……シャロン、この服着てみて?」

「? ……?」

「あぁ、着る場所はあそこの試着室でね」

 

 シャロンは試着室がよく分かんなかったみたいだけど、試着室に案内して服を着てもらう事に。

 試着室に入ったシャロンが暫く着替えに時間を使って、それでカーテンが開くと、シャロンはわたしが渡した服をちゃんと着てくれてた。

 うん、やっぱりシャロンは素材がいいから何着ても似合いそう。

 

「うん、可愛いよ、シャロン」

 

 わたしの言葉に照れたのか、シャロンはちょっと顔を赤くするとすぐに試着室に戻って行っちゃった。

 今日までのシャロンの服は、味気ない感じだったしね。これぐらい可愛いのが丁度いいんだど……

 近くにある服を手に取って値段を見てみると、ちょっと眩暈がした。

 

「……子供の服って、高いんだね」

 

 一着ウン千円。わたしが今着ている服も結構いい値段がする服だけど、子供の服だからと侮ることなかれ。いい所の服はやっぱりいい値段がする。わたしが着ている服と同じくらいの値段がする。

 シャロンの服は経費で落ちるからいいし、わたしも今持っている現金は二万ちょっとあるから、全然服は買えるし、わたしの貯金もF.I.S時代に装者として出動したからか、銀行に結構な額のお金があるけど、一回の買い物で数万とか飛んでいくのは背筋が冷えるよね。

 そんなわたしの懐事情はさておいて、シャロンを着せ替え人形にして、わたし自身楽しみながらシャロンに似合う服を次々と着せる。

 響先輩達と出会ってからすぐに、わたしが服をあんまり持ってない事からか着せ替え人形にされまくったんだけど、他人を着せ替え人形にするの、結構楽しいね。

 

「それじゃあ、試着したやつ全部買っちゃおうか」

「!?」

「どうしたの? あぁ、お金の事? 大丈夫、全部SONGから出るから、心配しないで」

 

 と、いう事でお会計に。

 

「お会計、三万六千円になります」

 

 Uh-oh。

 

「……ちょっと下ろしてきます」

 

 ほ、本当は下着を買う分も下ろしてきたんだけど、軽く予算オーバー……

 ちょっといい所で大人買いなんてするものじゃないね。お金の心配はないけど、流石に肝が冷えるよ。

 と、いう事でシャロンの服を買った所で、今度はランジェリーショップに。

 

「シャロンは欲しい下着とかある?」

「……?」

「まぁ、分かんないよね。じゃあ、適当に数着、シャロンのサイズに合う下着を選ぼうか」

 

 それじゃあ、まずは店員さんにサイズとか測ってもらって……

 えっ、シャロン、歳と身長の割には出る所が出て……えっ、バスト、わたしよりもちょっと大きいの? こんなに細いのに? えっ……えぇ……

 ……なんか不条理を見た気がする。いいもん。別に胸の大きさなんて気にしてないからいいもん。小さい方が攻撃よけやすいからいいんだもん。いいんだもん……

 

「……!」

「慰めなくてもいいよ、シャロン。これは昔のわたしが食事なんて最低限でいいってやらかした結果なんだから……」

 

 ……でも、切ちゃんが平行世界のわたしとこのわたしはほとんど変わらないって。

 もう考えるのは止めよう。クリス先輩を殴り飛ばしたくなるから。

 まぁ、そんな訳でランジェリーショップでの買い物も終わったし、あとは靴とかも買って私服は大体揃った感じ。けど、流石に買いすぎてわたしもシャロンも両手いっぱいに荷物を持つことに。

 

「じゃあ、後はご飯食べて帰ろっか」

 

 流石に経費で落ちるとはいえ買いすぎた。でも、暫くシャロンはSONGで身元を預かるんだし、これぐらいしてもいいよね。

 

「うーん、ご飯はどこで……」

「…………? …………!?」

 

 あっ、あそこのレストランとか……ん?

 

「どうしたの、シャロン。上に何かある?」

「!!」

 

 なんかシャロンが急に上を向いてわたしの服を引き始めた。

 何かそんなに気になる物があったのかな? もしかして風船が飛んでるとか? まぁ、アルカノイズとかじゃなきゃいいけど……!?

 な、なに、あれ!?

 

「あれって……鉄の人、いや、ロボット!?」

 

 明らかに今の技術じゃ作る事ができない物が空に浮いてる! 人型で、空に浮いてるし、多分ロボットなんじゃないかとは思うけど……見た事が無いから分からない!

 でも、ここは!

 

「本部! 応答してください!」

『どうしました、調』

「わたし達の頭上に、謎のロボットが!」

『ロボットですって!? 司令、すぐにモニターを!』

『あぁ! 映像、出せ!』

 

 本部の方でどよめきの声が聞こえる。

 既にわたしはシャロンと一緒に逃げるために走ってるけど、ロボットはずっとわたし達を追ってきている。どうしてこんなものがこんな所に……! 周りの人なんて動画とか写真撮ってるし……!

 そこら辺は後で情報統制がかかるからいいけど、問題はここで襲われないかどうか……! 流石にシュルシャガナが無いのに戦うわけには!

 

『なんだ、これは!? 本当にロボットだとでも言うのか!?』

「まだ襲ってこないけど、もしかしたら襲ってくるかも……!?」

 

 言った側だった。ロボットが急降下してわたしに襲いかかってきたのは。

 手に持っていた荷物をぶちまけるのを承知で、シャロンを抱えて横に飛ぶ。ロボットはわたしの真横を通り過ぎると、着地。そのままこっちへとゆっくりと歩いてき始めた。

 

「シャロン、逃げて!」

「!」

「首を横に振ってないで! わたしが時間を稼ぐから!」

 

 狙いがシャロンって言う可能性は十分にある。

 けど、狙われているのがシャロンだとしてもわたしだとしても、ここはわたしが時間を稼がないと!

 

「このっ!」

 

 とりあえずパンチ!

 っ、硬すぎる……!! しかもカウンターでパンチが飛んできた!

 

「くっ!」

 

 なんとか避けるけど、相当早い。

 ギア無しだったらいつまで持つか……しかも、明らかに当たったらタダじゃすまないような威力をしてる……!

 こんなの、マトモに相手なんて!

 

「調さん、下がってください!」

「っ!」

 

 直後に聞こえた声を聞いて、バックステップで一気に距離を取る。

 わたしがバックステップで距離を取ってすぐに、誰か……いや、エルフナインが空から降ってきた。

 来てくれたのはエルフナイン……! でも、エルフナインって戦闘は不得意なんじゃ……!

 

「攻撃が不得手でも、あれを破壊する程度はできます!」

 

 言いながら、エルフナインは突っ込んできたロボットに対して手を掲げた。

 そしてロボットがエルフナインを殴り抜こうとした瞬間。エルフナインの手から金色の魔方陣みたいな物が浮かんで、それがロボットの一撃を防いだ。

 す、凄い。あの勢い、ギアを纏った上からでもくらったら、確実に吹っ飛ばされるくらいの威力があるのに……戦闘はできないって言ってたけど、それでもやっぱり十分に強い……!

 

「ヘルメス・トリスメギストスなら、この程度!」

 

 そしてエルフナインがロボットを吹き飛ばした直後、魔方陣を展開したのとは反対の手を掲げると、そこから竜巻のような物が吹き荒れて、ロボットを一瞬で細切れにした。

 す、凄い……キャロルの錬金術も凄かったけど、エルフナインの錬金術も十分に凄い……

 

「ふぅ……何とか残しておいた思い出だけで事足りましたね……」

「思い出……?」

「ボク達の錬金術は思い出……つまり記憶を焼却する事で行使できますから。色んなところを旅しながら、支障がない程度に思い出を貰ってたんですよ。通勤の最中とか、酔っぱらった時の要らない記憶とか、忘れたい記憶とか。それを行使したんですけど、大半をキャロルに渡してるので、ボクはあんまり思い出のストックが無いんです」

 

 また誰かから適当に貰わないとなぁ、ってエルフナインは呟きながら、何かの機械を取り出した。

 

「ちなみに、調さんは忘れたい記憶とかありませんか? ボクの方でリサイクルしますけど」

「うーん……特に無いかな。アレはわたしが覚えておかなきゃいけない記憶だから」

「そうですか。恥ずかしい記憶とか、忘れたい記憶があったら言ってくださいね。こっちでリサイクルして燃料にしますから」

 

 なんというか、燃費が良いのやら悪いのやら分かんない錬金術だなぁ……

 あ、でもそんな事言ってる場合じゃないや。すぐに本部に戻ってこの事についての会議をしないと。

 

「それじゃあ調さん。テレポートジェムで本部に帰還しますから、シャロンさんと一緒にこちらへ」

「うん。それ、便利だね」

「座標の指定をしないと、どこへ飛ぶか分からないのが、ちょっと不便ですけどね」

 

 言いながら、エルフナインはわたしとシャロンがエルフナインの近くに来たのを確認して、テレポートジェムって言ってる結晶を叩き割った。

 直後に赤い光に包まれて、気が付けばわたし達は本部の管制室についていた。

 初めてテレポートっていうのを経験したけど、変な感覚。慣れればどうって事無いし快適なんだろうけど、なんだか慣れないなぁ。でも、これからのために一個くらい貰っておこうかな。

 

「テレポートジェムって貰えたりしない?」

「一ダース百円です」

「お金取るんだ……」

「そういう商売してますから。それに、異端技術の塊ですから、タダであげるというわけにも」

「なるほど。でも、異端技術の塊って言う割には結構安いんだね」

「案外簡単に作れるので」

 

 とりあえず、管制室のアレコレが収まる間にエルフナインに百円を渡してテレポートジェムを貰っておく。

 座標の設定は、やり方がよく分からなかったから、管制室と私室の二つに設定してもらった。これでさっきみたいな事があっても咄嗟に逃げれるし、いい買い物かも。今度、本部内以外のわたしの部屋とか、街の中とか、いろんなところに座標を設定してもらってテレポートジェムをいっぱい買おうかな。

 そんな事を考えている間に、響先輩達も到着して、改めて今回の件について話し合う事になった。

 

「来たか、三人とも」

「月読が謎の機械に襲われたと聞きましたが」

「あぁ。これを見てくれ」

 

 そう言って、司令が映したのはさっきのロボットの映像。

 空中を浮遊して、わたしに向かって拳を振るってきた謎のロボット。その存在は響先輩達にとっても衝撃だったようで、目を見開いている。

 けど、シャロンが何でか俯いたまま。怖かったのは分かるけど、ここまで露骨に怖がるなんて……

 

「師匠、これって……」

「分からん。だが、無人の機械であることは確かだ」

「私達はこれを以後、オートマシンと呼称する事にします。ロボットだけでは、違う物も指してしまいますからね」

 

 オートマシン……

 確かに、無人の全自動で動く機械だから、オートマシンっていうのが一番分かりやすいカモ。

 けど、オートマシンがわたし達に敵対的な行動を取ってきたという事は、オートマシンとアルカノイズ。二つの新しい敵性存在と戦わなきゃいけないって事になる。

 下手をしたらノイズだけと戦うよりも過酷な状況になるかもしれない。

 

「ここで言っておくべきは、これから先、オートマシンを我等の敵と一時的に仮定し、黒幕を見つけるまではSONGがこれの対処を行う事になった」

「し、師匠。説得とかは……」

「できればいいのだがな。生憎、相手は知性を持たぬ機械だ。これを操る者と会わぬ限り、和解はできないだろう」

 

 響先輩は優しいし、手を繋ぐことがアームドギアでもあるからそういう事が言えたんだろうけど、一度会えば分かる。あれは破壊するしかない。仮に手を繋ぐのなら、黒幕に会ってからになるよね。

 で、司令はこのオートマシンとアルカノイズを裏で操る存在を探りながら、これの対処をしていくって事だけを告げて、その場は解散になった。

 わたしのシュルシャガナと、切ちゃんのイガリマの改修は明日、明後日くらいまではかかるみたいだから、大人しく待機。そうなったんだけど、どうしてかシャロンは部屋に戻ってからもずっと震えていた。なんでそんなに震えているのか、わたしには分からなかった。けど、シャロンと一緒に居て、安心させてあげることしかできないと思ったから、シャロンを抱きしめてベッドで横になるしかできなかった。

 大丈夫。何があってもわたしが守るから。

 もう、守れないわたしじゃないから。

 

 

****

 

 

「おい、調。シュルシャガナとイガリマの改修、終わったぞ」

「ありがと、キャロル」

 

 オートマシンとアルカノイズの襲来はこの二日間、特に起こらなかった。その間にキャロルはシュルシャガナの改修を終わらせてくれたみたいで、わたしにシュルシャガナとイガリマを返してくれた。

 うん、やっぱりシュルシャガナがここにある方が安心する。イガリマも、おかえり。

 

「これならアルカノイズを倒す事は問題ないだろう。ただ、オートマシンだけはオレもよく分からん」

「そうなの?」

「直接見てないからな。ただ、あんなモノが自律して動くとは思えん。恐らく、アレを操る存在がどこかに居る。注意しておけ、オートマシンの種類があれだけとは限らん」

 

 確かに、そうだよね。まさかオートマシンがあれだけとは思えないし。

 とりあえず、注意しておくだけしておかないと。

 

「オレはこれから他のギアの改修に移る。それと、シャロンの治療についてももうすぐ進展があるだろう」

「ほんとに?」

「あぁ。次の治療で体内に侵食したヤントラサルヴァスパを切り離し、シャロンの体力が回復し次第、そのままヤントラサルヴァスパの摘出だ」

 

 ヤントラサルヴァスパの摘出……

 それが終わると、キャロルとエルフナインは……

 

「……そんな顔をするな。暫くはここに残るつもりだ」

「ほんとに?」

「少なくとも、イグナイトが安定して稼働するのを見送ってからだな。それに、オレが居ると言うのにアルカノイズなんて物を出してきた馬鹿が居る。そいつに表立って動いた錬金術師がどうなるかも教えねばならん。アルカノイズが暴れているかどうかなんて、ここの施設でなければよく分からんからな」

 

 よかった。折角仲良くなれたのに、すぐにお別れなんて寂しいからね。

 けど、キャロルは何だか照れくさそうにしている。キャロルってあんまり素直じゃないけど、結構分かりやすい感じの言葉とか出すよね。

 わたしの視線を受けて照れくさかたのか、顔を赤くしながらわたしを軽く突いて、戻る! って叫ぶとそのまま研究室に戻っていった。

 さて、シュルシャガナは手元に戻ってきたけど、どうしようかな……

 シャロンは今、エルフナインの所に行っているし、響先輩達は学校だし……案外暇な時間って何するか迷うよね。アニメでも見て……

 

『アルカノイズ反応、探知!』

 

 ……とか思ったらアラートと同時に藤尭さんの声が。

 よし、お仕事だね。

 

『調くん! シュルシャガナは使えるか!?』

 

 インカムを取り出して耳に着けてからすぐ、司令の声が聞こえてくる。

 大丈夫。今、シュルシャガナは戻ってきたばかりだから。

 

「大丈夫です」

『出動、頼めるか』

「了解。アルカノイズ殲滅任務のため、これより現場に急行します。運送用ミサイルの使用許可を」

『既に取ってある! 存分に使え!』

 

 言われる前には既にミサイル発射口に向かってました。

 すぐに整備員の人に挨拶をしてから、ミサイルに乗り込んで、LiNKERを首に打つ。よし、大丈夫。

 わたしがミサイルに乗り込んで、外装がしっかりと取り付けられてからすぐ、ミサイルが発射。そのまま上空の旅へ。

 あー、この感覚も慣れた物だなぁ。最初は舌噛んだけど。ぺっ! とか変な声出たのは覚えてる。

 

「外装パージ。よし、行こう」

 

 外装をパージして、思いっきり外の空気に吹っ飛ばされながらスカイダイビングに。

 こうやって飛び降りていると、なんだかスカイダイビングが趣味みたいな感じになってくる。とかなんとかいう前にとっとと聖詠。

 

「Various shul shagana tron」

 

 聖詠して、回転してギアを纏って着地。きりっ。

 目の前にはアルカノイズの大軍。よし、行こう!

 

「っ!!」

 

 まずは小手試しにアルカノイズの攻撃をチェーンソーで受け止める。チェーンソーは分解……されない! これならギアだって破壊されない! 今までのノイズと同じように戦う事ができる!

 

『強化型シンフォギア、アルカノイズに分解されません!』

『アルカノイズの分解機構への攻撃も問題ありません!』

『よし! 行け、調くん!』

「了解ッ!!」

 

 こうなった以上はノイズ相手に負ける理由がない。

 カルマノイズでも出てこない限りはわたしがアルカノイズを倒す事ができる。

 チェーンソーにアームドギアを組み合わせた、シュルシャガナの近中遠距離対応の攻撃は伊達じゃない。チェーンソーを振り回して、丸鋸を発射して、足を振るうと同時に足裏から巨大な電鋸を出して一気に周りを殲滅。そのまま電鋸は切り離してアルカノイズを一直線上に撃破。

 このシンフォギアなら、この世界をまだ守る事ができる。みんなを守れる! 響先輩達も前線に復帰できる!

 みんなで一緒に世界を守る事が!

 

『ッ! 司令! シュルシャガナの上空にオートマシンが多数出現! 更にアルカノイズまで出現しました!』

『なんだと!?』

「問題ありません! わたしが倒します!」

 

 とは大見得切った物の……流石に数的不利が。

 オートマシンの実力がどれほどか分からないから、油断はできない。アルカノイズだって、ギアペンダントに攻撃を直接受ければどうなるかなんて分からない。

 アルカノイズを切り刻みながら、上空から降ってくるオートマシンに対してチェーンソーを構え、飛び蹴りを受け止める。

 

「うっ!? 力が、つよっ!!?」

 

 けど、予想以上の力強さに押されてしまう。

 そんな、シンフォギアで力負けするなんて! いや、でも大丈夫! 今までも、わたしは単純な力負けをする戦いなんて何度も経験した! だから、力しかない相手に負けるわけがない!

 

「ハァァ!!」

 

 吹き飛ばされたけど、すぐに着地して構え、オートマシンに斬りかかる。

 これで一体……!?

 

『そんな……シュルシャガナの攻撃、効いてません!』

『なんて硬度だよ……! 明らかに先日現れたオートマシンと比べて硬度が上昇しています!』

『まさか、ボクの錬金術を基に性能を上げた……!?』

 

 いや、違う。これは完全に相性の問題……!

 チェーンソーは相手に押し付けて、削り斬る事で切断する武器だから、刀や鎌と比べると切れ味に劣る。一定の硬度までなら切断はできるけど、それ以上になると切断なんてできなくなる……!

 何度も斬りつけるけど、弾かれるだけ。しかも……!

 

「チェーンが、馬鹿に……!」

 

 徐々にチェーンの方が悲鳴を上げる。

 チェーンを確認したら、もう何度か斬りつければチェーンが完全に切れて使い物にならないのが目に見えている。

 一度チェーンソーを地面に突き刺して、その上に乗って起動して、後ろへ向かって道を削りながら高速で進む。

 これは、ちょっと困る……!

 

『一体何の騒ぎだ!』

『キャロル! 実は、この間現れたオートマシンがまた! しかも、ボクの錬金術を受けてか、相当性能が上がってるんです!』

『なんだと?』

 

 電鋸を発射してアルカノイズは撃破するけど、オートマシンだけはどうにもならない。

 多分、アルカノイズとオートマシンは指揮系統が別だと思うから、アルカノイズにオートマシンを分解してもらって……と思ったけど、さっきからアルカノイズとオートマシンが編隊を組んでいる。

 間違いなく指揮系統は同じ。わたしを倒すために戦力を投入してきている。

 

『オイ、調!』

 

 この声、キャロル?

 

『いいか、一度しか言わんぞ! 胸の歌を信じろ!! それがお前の力であり、お前の片割れが残した物だ!!』

 

 胸の、歌……?

 わたしの片割れ……切ちゃん、の?

 ……あっ。これって。

 ……分かったよ、切ちゃん!

 

「お願い。力を貸して、イガリマ!!」

 

 声に出した瞬間、それはもっと大きく感じる事ができた。

 そして、同時に緑色の光がわたしを包み込んで、わたしのギアが変化した。

 

『これは……シュルシャガナの反応と共にイガリマの反応が!』

『まさか、ギアの二重展開だとでも言うのですか!?』

『ザババの刃は互いに相性がいいからな。心象変化による形状変化にイガリマを意図的に組み込むことにより、シュルシャガナのフォニックゲインをイガリマに流し込み、イガリマを強制的に起動させ、テクスチャのように被せただけだ。言うならば、ザババギア、か』

 

 両手には鎌と、チェーンソーが変化したハルペー。エクスドライブの時の剣に似ているけど、ちょっと短い。髪のアームドギアはそのままだけど、肩には四つのアーマー。それと、トンガリハットみたいな装飾が額を覆って、足はローラースケートみたいになっている。色は、それぞれのギアのアームドギアや装飾はそれぞれの色に。インナー部分はピンクと緑と黒と白の四色。ちょっと、カラフルかな?

 まさにわたしのシュルシャガナとイガリマを組み合わせたギア。

 多分、わたしの中のイガリマと、わたしが思う最強のシュルシャガナを組み合わせた姿。それが、ザババギア。

 

「テクスチャってキャロルは言ったけど、そんな事はない。力が漲ってくる。今までよりも強いのが分かる!」

『ザババの刃だからこそできた聖遺物の二重起動だ。他の聖遺物でやったら暴走か装者の死だからな。この機能を付けるのには少しばかり苦労したぞ』

 

 も、もしかして二日以上改修にかかったのってザババギアをシステムに組み込んだからなのかな?

 でも、ザババギアなら……切ちゃんと一緒なら!

 

「いける!!」

 

 オートマシンを鎌で切り刻み、もう片手に持っているハルペーでも一刀両断。更に髪のアームドギアから丸鋸を飛ばして一気にオートマシンを殲滅して、肩のアーマーから飛ばした小型の鎌付きワイヤーを飛ばしてアルカノイズを一気に切り刻む。そのついでに足のローラーで高速移動してスカート部分を硬質化させて丸鋸にしてからアルカノイズに接触して切り刻む。

 

『ザババギアのフォニックゲインと推定出力、シュルシャガナの比ではありません!』

『何故かデータ内にあったシュルシャガナとイガリマのユニゾンには及ばんが、それでもアレだけでイグナイトと同程度の出力は出せる。というか、ザババギアを使いながらイグナイトは無理だな。アイツの体が持たん。ザババかイグナイトの二者一択だ』

『つまり、調にはイグナイトの代わりにザババギアを……なるほど。一人のイグナイトよりも二人のザババの方が調らしいでしょう』

 

 キャロルとマムの声が聞こえる。

 そっか。これは、わたしだけの。わたしと切ちゃんの力。暴走状態のイグナイトに匹敵する、わたしらしい力。

 一人よりも、二人。わたしはいつも誰かに支えられてきたんだから、一人だけの力のイグナイトよりも、二人分の力があるザババギアの方がいい。

 ハルペーと鎌を地面に突き刺して、肩のアーマーを小型の鎌に変化させてぶん投げる。それで一気にアルカノイズもオートマシンも殲滅される。

 よし、残存戦力はあと少し。これなら……

 

『……ん? この反応は』

 

 と、思ってたら藤尭さんの声が。

 えっ、一体何が?

 

『……っ!? 司令! 本部内に侵入者です!』

『なに!?』

 

 ほ、本部に侵入者!?

 いけない、すぐにオートマシンとアルカノイズを全部倒して戻らないと!

 

『一体どこに……は、反応ロスト? 侵入者、テレポートジェムを使いどこかへ転移した模様です』

『な、なんだったんだ……損害は!?』

『職員は無事みたいですけど……ッ!? どうやら侵入者はエルフナインちゃんの研究室に侵入、そのまま……!』

 

 そ、そのまま……?

 

『そのまま、シャロンちゃんを攫って逃走した模様! 犯人の追跡、不可能です!』

『まさか、装者を外に出したのはこのためだとでも言うのか!!?』

 

 そ、そんな……!? せっかく、ザババギアでこれから先も大丈夫だって思った矢先に……!?




原作からの変更点は多すぎるので言いません。ですが、キャロルとエルフナインの関係は創造主とスペアボディから双子の姉妹に変更しています。こうしないとキャロルって原作ルート驀進しそうだったので、ブレーキとして設定を根底から変えたエルフナインをぶち込みました。なので、エルフナインもちょっとは錬金術が使えます。

で、今回の話ですが、オリジナルでザババギアなんて物を出しました。実は前回の片割れの時点でこれをヤントラサルヴァスパの力で出す予定だったのですが、話を短くしてGの回収だけした結果、使わなかったので。アプリ的には、コスト16、もしくは配布のイベント限定ギアみたいな感じです。外見は武器と色が違うだけの切ちゃんのメカニカルギアみたいな感じだと思っていただければ。

んでもってXVですが……情報量多すぎぃ!! OTONAが負けたのは衝撃的でしたけど、まぁ殺す気の相手と殺さない拳だったら……みたいなとこもありますし。それに、OTONAは子供を導いてこそのOTONAですから。翼さんもパパさんの意思を継いでOTONAになってくれ……
OTONも立派にビッキーを導いてましたね。やっぱOTONもGXで一皮剥けてたんやなって。未来さんは……このまま最終話までシェムハさんルートが有り得そう。
それで、翼さんのアマルガムも登場。ビッキーは拳で翼さんは剣。となるときりしらは多分、鎌とツインテールでしょうね。楽しみですなぁ。
ノーブルレッドは……自分達のためだけに人の命を蔑ろにしてきた奴等が蔑ろに殺されたのは、まぁ残当と言いますか。自分達が不幸だから全部ゼロに戻そうぜ! でも何の罪もない奴等はいくら死のうと関係ないし敵も利用するだけ利用したら殺害して自分達だけ笑顔でルンルンで全部終わり! 死んだやつ? こっちの目的地達成できたし知らんけど? みたいに考えてた小悪党の死に様なんてこんなもんでしょう。

次回の更新は明日の12時です。お楽しみに!


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月読調の華麗なる奇跡・後

今回は前回の続きです。

独自設定をぶち込んで、前回はGXで必要な部分は大体回収したので、今回で機械仕掛けの奇跡を終わらせます。

グレ調が主人公だからか、信号機トリオが空気になってしまいましたが……まぁ、この作品は調ちゃんが主人公ですし、今さらだよネ!!


「チッ。オレが研究室に居れば……」

「ごめんなさい、まさか本部内に侵入されるなんて……」

 

 オートマシンとアルカノイズの殲滅はあの後すぐに終わった。

 でも、シャロンは攫われてしまった。シャロンと、ヤントラサルヴァスパが。

 ヤントラサルヴァスパは悪用しようとしたらどれだけでも悪用できる聖遺物。それを、シャロンの体を度外視で使われたらどうなってしまうかなんて……!

 

「……オレがアルカノイズなんて作らなければこんな事にはならなかったか」

「……それは、どういう事ですか?」

「昔、とある組織に言われて大量に作って売ったんだよ。丁度、この世界を壊そうと思ってた時にな。その時のアルカノイズがこうなるとはな……若気の至りだったとはいえ、謝罪する」

 

 確かに、キャロルがアルカノイズを作った事には多少の責任があるかもしれないけど、そんな責任はそれを私用に運用して人を殺そうとした人間の責任。キャロルが謝る事じゃない。

 だから、それは一旦置いておくとして、考える事は相手が何をしようとしているか、何がしたかったのかの分析と、シャロンが攫われた先の特定。

 相手の目的はアルカノイズを使ったシンフォギアの無力化と、万が一、アルカノイズに対する対抗策が出てきてしまった場合の時間稼ぎ。それで戦力が一通りシャロンから目を離した瞬間、シャロンを攫う。

 これが相手の目的。そうして攫ったシャロンの中にあるヤントラサルヴァスパを使って、何か悪だくみを。そこからが不明な点。

 

「調べたところ、本部内の壁に穴が空いていた。恐らく、アルカノイズで分解した物だと思われる」

「アルカノイズ一体で壁を分解。そのままシャロンを攫い、アルカノイズには自壊させ自分はテレポートジェム、か。オペレーターが拾った反応はアルカノイズ一体の物だろう」

 

 相手の作戦は、上手い具合に噛み合ってしまった。

 本来ならこんな事、無いハズなのに。思わず歯噛みするけど、事実は変わらない。

 シャロンは攫われた。なら、シャロンを助けるのが最優先。

 

「ならば、これよりシャロンくんの救出を最優先事項として行動する」

「シンフォギアは間に合わぬかもしれんな。万が一の時はオレが動く。エルフナイン、アレの最終調整を頼めるか」

「いいですけど……本当に使うの?」

「構わん。オレが撒いた種でもある。お前の言う通り、相応の責任は取る事にする。もしも失敗したら、お前、うるさいだろう?」

「はいはい。素直じゃない姉だこと」

 

 エルフナインはやれやれと首を振りながら、研究室へと戻っていった。

 対してわたし達は何かしらの手掛かりが見つかるまではここで待機するしかないんだけど……歯がゆい。

 この場は一度解散になって、次の日、改めて管制室に装者一同と協力者達で集まる事になった。だから、私室に一度戻ったんだけど……なんだか、寂しい。

 シャロンが居た痕跡がまだ残っているからか、すぐにシャロンが部屋に戻ってきてくれるような気がした。けど、そんな事はなくて、昔も最近も感じることは無かった、自分の部屋で一人きりという感覚に、何となく慣れずにいた。

 マムは常に警戒態勢を敷かれているから今日中は部屋に戻ってくる事は無さそうだし、部屋から出たらピリピリした空気だし。わたしは、まだ未成年だし、装者は体力勝負。寝不足なんてあったらいけないからという事で、すぐに部屋に返されたんだけど……正直、寂しい。これなら、誰かと一緒に起きて何かしていた方がまだマシなくらいに。

 ……絶対に、連れ戻すから。だから、待っててね、シャロン。

 

 

****

 

 

 シャロン奪還の切欠は、なかなか掴めなかった。

 何せ、相手は異端技術を使って逃亡した相手。こちらが保有する異端技術なんてシンフォギアくらいなもので、追跡に異端技術を使用できない分、分が悪かった。

 キャロルとエルフナインも、そういった追跡やら逃走やらに使うための錬金術は持ち合わせていないみたいで、本当にキャロルは攻撃、エルフナインは補助に回った錬金術が得意なんだっていう事が分かった。

 既にシャロンが攫われてから四十八時間が経過した。わたしはその間にザババギアを何度も動かして、その力の強さとかを確認したけど、響先輩達のシンフォギアはまだ改修と改良が終わっていなかった。

 ――ちなみに、ザババギアの運用実験中に絶唱も一度だけ試してみたんだけど、なんでかすっぽ抜けて鎌がちょっとだけ刺さっちゃったんだよね。あんまり痛くなかったから特に問題は無いと思うけど――

 前にもちょっと言ってたけど、キャロルは技術方面の事はあまり得意じゃないみたいで、どうしてもシンフォギアの改修に手間取っているみたい。

 エルフナインは何かの調整をしつつ捜査に協力しているみたいだけど……

 そうやってザババギアの調子を確認して、管制室でそのデータをマムと確認しながら、戦い方の粗を出している最中だった。

 

「司令、秘密回線から何かが飛んできました。暗号化されているようです」

「一体なんだ」

「分かりません。ただ、ボイスメッセージのような物だと思われますが……解析には数分ほど要します」

「構わん。やってくれ」

 

 シャロンの手掛かりが無いからと頭を抱えていたけれど、何かが飛んできた。

 このまま空気を掴むような事をしていても変わらないからという事で、司令は飛んできたメッセージの解析を許した。一応この場にはエルフナインもいるけど、エルフナインに近代技術の知識はあっても、それを使うだけの技量はオペレーターの藤尭さんや友里さんには負けているみたいで、大人しく後ろからそれを見ていた。

 わたしも、一旦データの確認を止めてから、そのメッセージの解析を大人しく見ていることにした。

 そして、数分後。

 

「解析結果、出ました。どうやらただのボイスメッセージのようですが……送信者は不明です」

「ふむ……再生しろ」

「了解、再生します」

 

 少し怖いけど、再生しない事には始まらない。

 だから、再生をした。

 

『どうも初めましてだな、SONGの諸君。私の名はオズワルドという。元々はF.I.Sの所属機関、NEXTの所長をしていた者だ』

「ナスターシャ教授、調くん。聞き覚えは?」

 

 わたしは、そんな人の名前は聞いた事が無い。

 というか、あの時代のわたしに人の名前を覚えるだけの人間らしさは無かったし。

 でも、マムは顎に手を当てて、まさかと言わんばかりの表情をしている。

 

「まさか、あのオズワルドですか……? しかし、NEXTはネフィリムの暴走事件の際に解体された筈……オズワルドはその時、本国の研究所に家族と共に身を移したと聞きましたが……」

「どうやら、知っている者みたいだな……続けてくれ」

 

 そんな人居たんだ、っていうわたしの心を他所に、話は続く。

 

『この度は私の娘であるシャロンが世話になったようだな。礼を言わせてもらうぞ』

「娘、だと?」

 

 シャロンの、お父さん……?

 でも、シャロンは孤児だし……いや、もしも、この人がシャロンを孤児という事にして研究所に売ったのだとしたら。

 

『ヤントラサルヴァスパの依り代となった娘を保護する、なんて真似をしてくれた事には少し遺憾だったが、あの馬鹿共は聖遺物の融合を早め、シャロンを完全に聖遺物と一体化させるところだった。それを治療してくれた事には礼を言おう。そのおかげで、シャロンは人としての意識を持ったまま、私の言葉を聞く操り人形となってくれたからね』

「こいつ……まさか、シャロンくんの父親でありながら、シャロンくんを利用しようとしているのか!?」

「墜ちる所まで墜ちましたか、オズワルド……!!」

 

 そうだ。シャロンのお父さんなら。シャロンの事を案じているのなら、警察に行方不明届の一つでも出すはず。なのに、それをしなかった。

 しかも、シャロンの身柄を異端技術で攫うという形でどこかへと移動させた。その時点で、この人はシャロンの事を一切案じていない。それに、この口草。明らかにシャロンの事を道具としてしかみていない。

 多分この人は、あの違法研究所にシャロンを売ったんだ……! ヤントラサルヴァスパを埋め込ませるための触媒として、自分の娘を……あんな子を!!

 

『くだらん話はここまでにしよう。SONGの諸君、取引と行こう』

 

 取引……?

 

『これから私がやる事に、一切の手出しをしないでもらおうか。そうしたら、君達の身の安全は保障させてもらおう』

「身の安全、だと?」

『私達は聖遺物、ヴィマーナを起動させた。君達の構成員にはF.I.Sの者もいるのだろう? ならば分かるはずだ。あの聖遺物の力が。シンフォギアなどという木端程度では太刀打ちできない絶対の力が!』

「ヴィマーナを起動させた、ですって? 馬鹿な、そんな事が……! アレは発見こそされましたが、起動できない程破損していた聖遺物のはず……」

『きっと疑問に思う事だろう。ヴィマーナは動くはずがないと……だが、こちらにも異端技術を使う同盟者がいたという事だ。錬金術という名のな』

「錬金術……まさか、錬金術でヴィマーナを修理し、動かせる程に……?」

『それでは、お別れだ。矛を交える機会が生まれない事を期待しているよ』

 

 ボイスメッセージだからなんだろうけど、オズワルドは言いたい事を言ってそのまま。

 けど、聖遺物の起動とシャロンの、ヤントラサルヴァスパの力は多分繋がっている。ヴィマーナという聖遺物を起動させるためにヤントラサルヴァスパが必要だったんだろうけど……

 それでもシャロンの手掛かりは掴んだ。相手は錬金術師と結託している以上、恐らくは非合法組織。いや、聖遺物を始めとする異端技術を扱う合法的組織は現状、SONGとその直轄の組織しかない。だから、非合法組織に違いない。だから、SONGの権限を持ってすれば、シャロンを一時的に預かって、オズワルドのやってきた事を暴くことができる。

 シャロンを助ける事ができる。

 

「ナスターシャ教授。説明してもらっていいだろうか。聖遺物ヴィマーナとオズワルドの事を」

「えぇ、勿論です。ヴィマーナは――」

 

 マムがオズワルドが口にした聖遺物、ヴィマーナについての説明を始めようとした瞬間だった。

 本部の床が唐突に揺れ始めた。

 

「じ、地震か。しかし、デカすぎる気が……」

 

 地震で本部が揺れるのは仕方ないけど、司令の言う通りどこか揺れ方がおかしい気がする。

 そんな事を考えた直後だった。

 

「司令! 太平洋沖から何かが浮上しました!」

「なに!? くそっ、この間から驚かされてばかりだな! 映像繋げ!!」

 

 司令の軽い愚痴を挟みつつ、指示が飛んで映像が映された。

 そこに映ったのは、異形の戦艦だった。

 青と白の、巨大な戦艦。それが、猛スピードで本島へと接近してきている。それを見て、誰もが確信した。あの戦艦こそが聖遺物ヴィマーナであり、あの中にシャロンが居る事を。

 

「ッ! 司令、同時にノイズの反応です! カルマノイズの反応まで存在します!」

「こんな時にカルマノイズだと!? 一体何が起こっているんだ!!」

 

 しかもカルマノイズの出現。

 ヴィマーナの対処をしなきゃいけないのに、同時にカルマノイズまで……! これは本当に、平行世界の切ちゃん達にも助けを求めないとまずいかも……あんまり褒められたことじゃないけど、背に腹は代えられないから。

 

「ヴィマーナ、市街地及びカルマノイズ上空に到達! 続いて、ヴィマーナより高エネルギー反応!」

「なんだと!?」

 

 こ、高エネルギー反応ってなに!?

 モニターを見ていると、ヴィマーナの下部に光が集まっている。明らかに危ないしこれが発射されたらと思うとゾッとしない。なんて思った直後だった。

 ヴィマーナの下部が光った瞬間、本部にまで伝わってくる揺れと轟音が響き渡った。

 

「ど、どうなった!」

「待ってください! モニター回復……来ます!」

 

 そして再び来た映像に、わたし達は絶句するしかなかった。

 辺り一面が焦土となった街並み。この街に避難勧告なんて出ていなかったから、恐らくここに居た人は全員……! 幸いにも響先輩達が暮らす場所は無事だったし、すぐに装者とソレに近しい人の無事は確認できたから良かったけど……!

 オズワルド……シャロンを利用してこんな事を……!!

 

「か、カルマノイズの反応、ありません! 先ほどのヴィマーナの砲撃によって消し飛んだものだと思われます!」

「同時にヴィマーナに高エネルギー反応! 同時にロックオンアラート!」

「くっ……先手を潰されたか……!」

 

 確かにカルマノイズを始めとする異端の存在にヴィマーナは有効打になる。

 けど、その度に街を焦土にされるんじゃ、たまったものじゃない。アレは、シンフォギアなんかよりも扱いが難しくて、この世にはあってはならない異端の力……!

 だけどわたし達は既に矛を突きつけられている。あれを受け止めるのは、相応の準備をしてからじゃないと……!

 

「くだらん。エルフナイン、出るぞ」

「はいはい」

 

 ヴィマーナを相手にわたし達が頭を抱えていると、キャロルとエルフナインが立ち上がった。

 

「待て。どうする気だ」

「知れた事を。アレを止める」

「先ほどの攻撃を貰えば、君達とてタダでは済まんぞ」

「だろうな。だが、やるしかあるまい。アレはオレ達の責任でもある。それに、錬金術師が関わっている以上、同じ錬金術師であるオレ達が出るしかあるまいよ」

 

 言いながら、キャロルは何かを取り出した。

 アレは……琴? にしては大きすぎるけど……

 

「……それに、オレ達は弱者を虐げ、世界を守った気でいる存在が気に食わん。あのオズワルドとやらは言うだろう。シンフォギアなどという矮小な存在ではこの世界を守り切れない。だからこそ絶対的な力でこの世界を征服し、人を守るとな。だが、そこに無辜の民と罪もない少女の死が関わるというのなら、見過ごせん。オレが直々に叩き潰す」

「キャロルが出ている間、ボクがあの攻撃を防ぎます。SONGはこの世界を守るため……正義を暴走させた人間達から罪のない人を守るために必要な組織です。だから、ボクが命を懸けてでも守り抜いてみせます」

 

 エルフナインは軽くそう言うけど、アレを防ぐ錬金術なんて、きっと代償が凄い。

 エルフナインは言った。思い出を、記憶を焼却する事で、その対価として錬金術を行使するのだと。二人が持ち合わせている他人のどうでもいい思い出が無くなったら、きっと二人は自分の記憶を焼却し始める。

 もし、二人が自分の記憶全てを焼却したら? それは、数百年を生きた二人の死が確定する事になる。肉体を入れ替えて、記憶を上書きし続けた二人の死は、きっとそうやって。

 

「……ったく。そういう時は協力者である我々を頼れ。アレはカルマノイズと共に市民を虐殺した。ならば、俺達が出ねばなるまいよ」

 

 けど、わたし達はそんな事を許しておけない。

 ここには、シンフォギア装者たるわたしが。

 そして、人類の最終防衛ラインである司令、風鳴弦十郎が居る。

 

「SONG司令として命令だ。ヴィマーナを止めるため、協力者であるキャロルくんとエルフナインくんに協力する。今回は、俺も出る」

「待ってください! 調さんならまだしも、生身の人間では!」

「心配するな。こう見えても、鍛えている」

 

 キャロルとエルフナインは言っている意味が分からないとばかりに目を見開いているけど、わたし達は安堵している。

 司令がここを守る気で外に出たのなら、万が一もあり得ない事に。

 

「まぁ、任せておけ。調くん、キャロルくんと共にヴィマーナに行けるな」

「任せてください。必ず、シャロンを連れて帰ります」

 

 キャロルとエルフナインの意見は無視して、実働隊が決まった。

 SONGからヴィマーナ攻略組としてわたしが。そして、協力者としてキャロルが。本部護衛の任には、司令と協力者であるエルフナインが。二人は溜め息と苦笑を浮かべたけど、どうせ止めてもついて来るのが分かったからか、呆れ混じりにそれを了承してくれた。

 たった四人だけの最終決戦だけど、あの時だってわたしは四人で戦い抜いた。

 負ける気なんて、一切しない。今は、ザババギアもあるんだから。

 あまり時間をかけていると、ヴィマーナが何をしてくるか分からない。だから、行動は迅速に、すぐさま行われる事になった。

 わたしとキャロルはミサイルに乗ってヴィマーナに直接取りつき、司令とエルフナインは本部の前で待機。そして、わたし達が打ち上げられてから作戦開始になる。指揮は、一時的に司令からマムへと移されて、マムがわたし達に指示を飛ばしてくれる感じになる。

 

「調。これを」

 

 LiNKERを打ち込んで、いつでもシュルシャガナを纏えるようにしていると、マムが何かを手渡してきた。

 受け取ってみると、それは壊れたギア。セレナのギアだったアガートラーム。

 

「お守り代わりです」

「……うん。ありがとう、マム」

 

 きっと、マムはずっと持ってたんだと思う。わたしがイガリマを持っていたように、マムもアガートラームをずっと。

 シュルシャガナ、イガリマに続いて三つ目のギアを首からかけて、改めてミサイルに乗ろうとすると、今度はキャロルから何かを投げ渡された。

 

「こ、今度はガングニール? しかも直ってないし……」

「元々はお前の仲間のギアだったんだろう? ならば、お守り代わりにでも持っておけ。お守りは多い方がいいだろう」

「そう、なのかな?」

「知らん。だが、ここで腐らせるよりはマシだろ」

 

 シュルシャガナ、イガリマ、アガートラーム、ガングニール。F.I.Sの装者が持っていたギア四つ。それが、わたしの首に。

 なんか、ジャラジャラして音が凄いし、一瞬どれがどれだか分からなくなるけど、確かにキャロルの研究室で腐らせておくよりはいいかな。ザババギアみたいにはならないけど、マリアとセレナも一緒に居てくれる気がして安心するし。

 そういう事で、わたしとキャロルはミサイルに搭乗し、ミサイルハッチが開いた。

 きっと、この瞬間に。

 

『ヴィマーナの高エネルギー反応、収束!』

『攻撃、来ます!!』

 

 わたしが持ち込んだ携帯端末には本部の入り口の様子が。ヴィマーナに対峙する司令とエルフナインの様子が映されている。

 すぐにエルフナインが魔法陣のような物を展開しようとしたけど、その前に司令が飛び出した。

 直後、閃光と轟音。そして、衝撃波。

 

『装者搭乗ミサイル、発射します!!』

 

 ソレに紛れるようにミサイルが発射された。

 と、同時にわたしの背中側からキャロルの声が。

 

「オイ、一体どうなった!?」

 

 さっきの衝撃波が尋常じゃない事を察知してか。それともエルフナインが錬金術を行使していないのが分かったからか、キャロルが焦ったように声をかけてきた。

 どうなった、かぁ。

 普通なら信じられないだろうけど……

 

「その、ね?」

『ヴィマーナからの攻撃、司令の拳により完全に相殺! 本部及び司令、無傷です!!』

「……は?」

 

 司令が拳でやってくれました。

 映像には呆然として尻もちついているエルフナインと、完全に無傷の司令が。

 まぁ、うん。こうなるのは分かってたよ。そして、司令からの通信が。

 

『本部は俺に任せろ!! 君たちはシャロンくんを頼んだ!!』

「はい、任せてください」

「……なぁ、お前らの司令官、異端技術の塊だったりしないよな?」

「ふ、普通の人間だよ? 美味しいご飯食べて、映画見て、寝てるだけの……」

「…………もうあいつ一人でいいんじゃないかな」

『……ボク、いらなかったですね』

 

 で、でも、ノイズやアルカノイズ相手には流石に負ける……と思うし。

 切ちゃん達が行った平行世界には、RN式なんとかかんとかでノイズを殴り倒せる司令が居たとかいう話を聞いたことあるけど……完全聖遺物を殴り倒したとか聞いたし。

 

「と、とりあえずそろそろヴィマーナ上空だし、出撃準備しよう?」

「なぁ。オレが普通の人間でもノイズに触れる装置を作れるとか言ったらどうする?」

「わたし達が不要になるよ」

「そうか……そうかぁ……」

 

 キャロルの何とも言えない感じの声を聞いた瞬間、ミサイルの外装がパージされた。

 眼下には、ヴィマーナが。それを確認した瞬間、もう一度ヴィマーナから攻撃が……ビームのような物が本部に向かって飛んだけど、それは何かに激突して四散していった。

 それを見た、一緒に降下しているキャロルはあんぐりと口を開いている。

 司令があのビームを相殺しているのが見えて、ビックリしたんだと思う。しかも、直後に本部から何かが飛んできて、一瞬ヴィマーナの何かに阻まれたけど、次の瞬間にはヴィマーナの下部が爆発した。

 

「……なぁ。オレの目にはあの男がエルフナインの作った簡易的な槍をぶん投げたと思ったら、ヴィマーナの防御フィールド的な物をブチ抜いてヴィマーナの砲台が爆発したように見えたんだが」

「錯覚じゃないよ、それ」

「……もう何も言うまい」

 

 流石司令だなーって思わないと、この世の法則に疑問を感じる羽目になるからね。

 そんな事はさておいて、わたし達はヴィマーナの上に着地。キャロルは大きな琴を片手に。わたしはシュルシャガナを纏ってヴィマーナの中を駆ける。

 とりあえず、虱潰しに移動しながらシャロンを探さないと。

 えっと、この部屋は……何も無い。この部屋は……うん、何も無い。この部屋は……な、なんかピンク色の部屋が……べ、ベッドが回転してるしお風呂まであるし……

 

「ラブホかっ!」

 

 キャロルがツッコミを入れて、わたしを担いで部屋を出てからドアを閉じた。

 何でそんな部屋が聖遺物の中に……と、とりあえず次に行こう。

 この部屋は……うわっ。なにこれ、カプセルみたいなものが大量に……

 

「……なるほど、そういう事か」

 

 わたしより先行してキャロルが入ってな部屋の中を見たけど、そのカプセルの内の一つを見て、キャロルは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべてカプセルの中を指さした。

 わたしもその中を見て、絶句した。

 そこにあったのは、人じゃない。人じゃないけど、わたしがこの間見たばかりの存在。

 

「オートマシン……!」

「どこから来ているのかと思ったら、ヴィマーナ産だったか。どうやらこれを止めれば、オートマシンはこれ以上出てこないらしいな」

 

 アルカノイズとオートマシンは協力体制を取っているとは思ったけど、まさかオートマシンがヴィマーナ産だったなんて……

 という事は、オズワルドは元から錬金術師と協力してこのヴィマーナを動かすためだけに……!

 でも、キャロルの言う通りヴィマーナを止めればオートマシンも出現しないようになる。だから、一刻も早くこれを止めないと……

 

「調。来客だ」

 

 そう思っていたら、キャロルがそんな事を言った。

 キャロルが向いている方を向けば、そこには黒ローブの集団がいた。

 

「ネズミが入り込んでいると聞けば……貴様か、キャロル・マールス・ディーンハイム。裏切り者の錬金術師がどうしてここにいる?」

「裏切り者だと? 元よりオレはお前達に協力したことは無いがな。というかお前達誰だ。割とマジで知らんぞ。誰かと勘違いしてないか?」

「なんだと……! 貴様、数百年前にパヴァリア光明結社内の我等の派閥に入れてやろうと思い声をかけてやった事を忘れたか!!」

「あー……? えー…………ん? うーん…………あっ、アレか。チフォージュシャトーの建設協力を求めて弾かれた時に、なんか意味わからんことを言ってきた奴ら。確か、なんだったか。この世界を支配するから力を貸せとか胡散臭い事を言ってきたことは覚えているが……えっ、お前らいい歳こいてそんな事してんの? えっ、マジ? ウケるんだが。そういうのを言って許されるのは中学二年生までだぞ?」

 

 なんかわたしが知らない内に話が進んでいるけど、キャロルがすっごい勢いで煽っている。

 確かにそんな中二病臭い事を言っているのはウケるけど、あちらさん、結構マジらしいしそこら辺にしておいてあげよう? 黒ローブの内側から見える顔がなんか真っ赤になりかけてるし。

 

「そ、そもそもだ! 貴様、錬金術師でありながら国家の犬共に取りつくとは何事か!」

「そんなのオレ達の勝手だろうが。というかオレ達がそうやって生きる事はパヴァリアには伝えておいたはずだが? アダムもそれで納得したし、表立って錬金術を公表しない限りは好きにしろと言ったしな」

「我等はあの後すぐにパヴァリアからは抜けたわ!!」

「あっそ」

 

 キャロルが至極どうでも良さそうに相手の言葉を受け流す。

 わたしもよく分からないしどうでもいいので、早くシャロンを助けに行きたいです。

 キャロルもさっきから耳の穴ほじってどうでもよさそうにしているし。痒いなら後で耳かきしてあげるから、そういう事はしないようにしよう? はしたないからね?

 

「んで、なんだ。ご用件をどうぞ?」

「どこまでも我等を侮辱してからに……! キャロル・マールス・ディーンハイム! 本当は貴様を我等の仲間に入れてやろうと思ったが、気が変わった! ここで殺してくれるわ!!」

 

 キャロルが最後に煽ると、錬金術師達の周りにアルカノイズが出現して、更にオートマシンまでもが稼働してわたし達の前に立ちはだかった。

 煽ったはいいけど、流石にこの数はザババギアを使っても少し時間がかかるかも……!

 ザババギアを起動させようと胸に手を当てるけど、わたしの前に手を出して、キャロルが一歩前に立った。その手には、さっきからずっと持っていた巨大な琴がある。

 

「ふん。木端の錬金術師程度が大きく出たな! いいだろう、貴様らのような木端とは違う、本当の錬金術を見せてやる!!」

 

 キャロルが叫んで、琴をつま弾いた。

 直後。琴が光に包まれて変形し、キャロルの体に纏わりついた。その光に一瞬目を隠しちゃったけど、次にキャロルの姿を見ると、キャロルの服装は……いや、装備は変わっていた。

 シンフォギアと同じような感じの、でもシンフォギアではない何かに。

 しかも、なんか成長してる。色んなところがボンキュッボン。

 は?

 いや、その……うん。そんな簡単に大きくできるんならわたしも……なんでもない。別に最近、クリス先輩やあっちのマリアや切ちゃんが羨ましいなんて思ってないもん。

 

「ダウルダブラのファウストローブだと!!? キャロル・マールス・ディーンハイム、貴様、いつの間にそんなものを!!」

 

 ファウストローブ……?

 

「錬金術師のシンフォギアのようなものだ。オレの切り札でもある」

 

 わたしの表情を見て、キャロルは簡単にだけど説明してくれた。

 錬金術にもシンフォギアみたいなものがあったんだ……後でダウルダブラについても調べてみよう。

 

「力の違いを見せてやる。オレの歌は、少しばかり高くつくぞ?」

 

 直後、キャロルが腕を振るうと、ワイヤーのような物が伸びて一瞬にしてオートマシンとアルカノイズを斬り裂いた。

 す、すごっ……これ、ザババギアよりも強いんじゃ……

 

「行け、調。お前がシャロンを助けろ」

「えっ。で、でも……」

「木端の相手に時間を潰す気にはならん。それに、シャロンもお前が行った方が安心するだろ。オレもこいつらを片付けてすぐに追いつく」

 

 そう言いながら、キャロルが魔法陣のようなものを出して近づいてきていたアルカノイズとオートマシンを消滅させた。

 た、確かにキャロルを心配するよりも早くシャロンを助けてあげた方がいいね。

 よし、行こう!

 

「それでいい。さて、ここで一つ、お前らに絶望を教えてやろう」

「な、なんだと?」

「オレの歌は、たった一人で七十億の絶唱を凌駕する。オレが完全体セルで、貴様等はチャオズだ! 分かったらとっとと去ねィ!!」

「くっ……! だが我らとて幾多もの同胞を犠牲にしてきたのだ! ここで諦めるわけには!」

「お前もその仲間に入れてやるってんだよォ!!」

 

 なんか衝撃的な事実が聞こえたけど、七十億の絶唱とか言われてもピンとこないからシャロンの元に向かいます。

 後ろから破壊音と爆音と悲鳴が聞こえてくるけど無視無視。

 シュルシャガナのチェーンソーの上に乗って高速移動をしていると、途中でアルカノイズが出てきた。けどそれを全部斬り裂いて素通りして、暫く移動していると目の前に大きな空間が見えた。きっとあの中に……

 

「ほう。あの錬金術師が来ると思ったらシンフォギア装者が来たか」

 

 あの中のどこかにシャロンが居る。そんな確信と共に部屋の中に入ったけど、直後に誰かに声をかけられた。

 チェーンソーの上から降りて構えれば、中央にある装置の後ろから男の人が出てきた。多分、あの人がオズワルド。シャロンのお父さんで……シャロンを聖遺物の苗床にした、張本人!

 

「来なければ死ななかったものの。君はシャロンの友人らしいからな。せめて生かしてやろうと思ったのだが……」

「ふざけないで。今すぐシャロンを解放したら、手荒な真似はしない」

「君は状況が分かっていっているのか? ここはヴィマーナの中。全てが私の手の中だ」

 

 シャロンはどこっ……!

 見れる範囲内では見つからないけど……!

 

「しかし、シンフォギアか。そんな矮小な存在で何ができる」

「……どういうコト」

「ヴィマーナの力を見ただろう。シンフォギアでは適わない、あの黒いノイズだろうと一撃で倒してみせた。例えルナアタックがまた起ころうと、完全聖遺物の暴走が起ころうと、このヴィマーナはそれを打ち砕く! 最早シンフォギアは時代遅れの産物なのだよ!」

 

 ……確かに、シンフォギア単体での出力は、とてもじゃないけどヴィマーナには及ばない。例えエクスドライブになったクリス先輩が絶唱を重ねても、さっきのヴィマーナの一撃には届かないかもしれない。

 だけど、そうじゃない。

 わたし達の力は、戦うだけにあるんじゃない!

 

「矮小でも、時代遅れでもない! このギアは、みんなが託してくれた、この世界を守るための力! あなたの敵を倒して誰かを虐げる事でしか、世界を守れない力よりも、よっぽど優しくて、強い力!」

「ふん。平行世界の装者の力を借りなければマトモに戦えん小娘が何を言うかと思えば!」

「だとしても、あんな胡散臭い錬金術師と結託して、人々を巻き込んで、たった一人の少女も救えず、圧倒的な力でねじ伏せるだけの力なんて、この世界を守る力足りえるわけがない!」

 

 例え世界のお偉いさんが自分達は助かるからとヴィマーナを認めようと、世界中の誰もがそれに巻き込まれることをおびえ続ける日々に納得しようと、わたし達は絶対に認めない。

 

「シャロンはどこ! 話が通じない以上、力づくで連れ戻す!」

「ほう、できるとでも?」

「わたしは、他の装者みたいに甘くない! 大事な人を助けるためなら、拷問だってやれる。痛い目を見たくなければ、今すぐ言って!」

 

 シャロンを傷つけて殺そうとしている人なんて、例えシャロンの父親なのだとしても容赦はしない。殺す寸前まで痛めつけて吐かせてやる。

 あんな男なんかよりも、シャロンの方が数億倍大事だから。死んだとしても、不慮の事故だとか何とかでもみ消す。

 響先輩達ならそんな事はしないだろうけど、わたしはあの人達みたいに優しくはない。大事な人を守るためなら、その程度の覚悟!

 

「脅されなくても教えてやる。この装置の中だ」

 

 そう言ってオズワルドが指を指したのは、中央にある装置を指さした。

 まさか、あの中にシャロンを閉じ込めて、利用しているの……!? だったら、アレを破壊してシャロンを助け出す!!

 

「シャロン!!」

「させん!」

 

 シャロンを助け出すために走り出したけど、直後にオートマシンがわたしの周りに出現して、行く手を遮った。

 くっ、こんな時に……でも、こっちにはザババギアがある!

 

「切ちゃん、お願い。力を貸して!!」

 

 胸に手を当てて、暖かな光を身に纏う。

 ザババギアの展開は一瞬。ハルペーと鎌を手に、オートマシンに斬りかかる。

 この間みたいに簡単に倒せる程じゃないけど、それでも全然余裕。例えどれだけオートマシンが居ても、ザババギアなら倒していける!

 

「チッ。量産型だけではダメか……ならば!」

 

 オートマシン達を斬り裂いている最中だった。オズワルドの声に反応したのか、壁が変形して一体の赤いロボットができあがった。

 しかも、あの中にシャロンが組み込まれた装置までもが組み込まれてしまった。

 あの赤いオートマシンを無暗に攻撃したら、中に居るシャロンが無事じゃ済まない……!!

 

「さぁ、シンフォギア装者よ、これをどうする!」

 

 くっ……! どうにかしてあの中からシャロンを助けないと……!!

 

 

****

 

 

 歌が、聞こえる。

 誰かの歌が。

 誰だっけ? 誰の声だっけ? なんでここにいるんだっけ? わたしって、誰だっけ?

 

『待ってて、シャロン! 絶対に、助けるから!!』

 

 シャロンって……誰だっけ?

 あっ……わたしだ。

 なんでわたしって、ここに居るんだっけ……なんでわたし、この人を攻撃してるんだっけ……

 ……そうだ。パパが。パパが、わたしの中のヤントラサルヴァスパを使ってヴィマーナを動かさないと、みんなを殺すって言ったから……

 ……だめ。みんなを殺させちゃ、だめ。調お姉ちゃんを守らないと。

 わたしを守ってくれた調お姉ちゃんを、守らないと。だから……お願い、ヤントラサルヴァスパ。調お姉ちゃんに、力を貸してあげて。

 

 

****

 

 

 一体一体のオートマシンの性能は、ザババギアには及ばない。

 けど、管制塔でもある赤いオートマシンを攻撃できないし、普通のオートマシンも無尽蔵に湧いてくるから、手数が足りないわたしじゃじり貧になる。

 それに、オートマシンの攻撃は徐々に激しさも強さも増してきている。それが、疲れを感じるわたしに当たり始めて、ギアのアーマーが砕け始めている。外見上はボロボロだし、ザババギアの負荷がイグナイトで想定されているよりも低いとしても、それでも負荷がかかるギアなのには変わりない。その負荷も、徐々に体を蝕んでいる。

 幸いなのは、フォニックゲインの補給はわたしが歌う限り可能だって事だけど……!

 

「くっ……」

「どうした、シンフォギア。もう終わりか? ならばギアを破壊して私に楯突くものを皆消してくれようか!」

「わたしの裸は、そんなに安っぽちじゃない!!」

「何をいきなり!」

「わたしの裸が見たいなら、もっとイケメンになって若くなって、精神面でSONGのみんなに負けないようになってから出直せ!」

「お前のような貧相な娘の裸なぞ金払ってでも見たくないわ!」

「こいつ殺す!! 絶対殺す!! 何があっても殺す!! ぶっ殺してやる!! 解体し尽くしてこの世に産まれたことを後悔させながら殺してやる!!」

「な、なんだこいついきなり……怖っ」

 

 周りのオートマシンを吹き飛ばしてオズワルドを解体しにかかるけど、またオートマシンは湧いてくる。

 歌でエネルギーは補給できても、体力の補給はできない。

 しかも、赤いオートマシンは攻撃しちゃいけない上に、明らかに性能が他のオートマシンと比べて上……! 下手をしたら、ザババギアと並ぶくらいに強い!

 全力で戦えば倒せるだろうけど、そのためには他のオートマシンとシャロンの存在が……!

 

『調お姉ちゃん……』

「え……?」

 

 この声、誰の……?

 ……もしかして、シャロンの声!?

 

『負けないで、調お姉ちゃん……!』

 

 シャロン、こんな可愛い声してたんだ……

 ……大丈夫、負けない。

 

「絶対に、助けるから。絶対に、連れて帰るから!!」

 

 ハルペーと鎌を構える。

 例えギアが砕けても、ハルペーと鎌があるのなら、負けない。まだ、戦える……!!

 ――そう、思った直後だった。ギアペンダントが急に光始めたのは。

 

「な、なんだ!?」

 

 この光……ザババギアを纏う時と同じような……

 きっと、この光は。そう確信した直後だった。ギアペンダントが強い光を放って、ザババギアが再び変化した。

 シュルシャガナのハルペーは消えて、代わりに手には槍が。そして、左手には大きな白いとオレンジのガントレットと、背中には黒いマント。そして、わたしの周りには短剣が沢山浮いている。足の部分には、セレナのアガートラームについていた透明な羽根みたいな物が生えている。

 間違いない。これは全部、F.I.Sのシンフォギアの武装だ。

 髪のアームドギアと足の部分はシュルシャガナ。肩と鎌がイガリマ。マントと槍とガントレットの一部がガングニール。ガントレットの一部と、足の部分の側面から生えている透明な羽根。そして、わたしの周りに浮いている短剣はアガートラーム。

 インナーの方も、ピンク、緑、白、黒の四色にオレンジと淡い黄色が加わってもっとカラフルになってるし。さ、流石に派手すぎるような……

 ……ほんと、てんこ盛りって感じ。でも、ザババギアよりも出力が上がっているのは明らか。

 

「……名づけるなら、F.I.Sギア。今回だけの、奇跡のギア!」

 

 きっと、シャロンがヤントラサルヴァスパの力を使ってガングニールとアガートラームも起動してくれたんだと思う。大分無理矢理だし、ゴテゴテしているけど……このギアなら、絶対に負けない! どんな事だってできる!

 

「ま、まさか、四つのギアの多重起動だとでもいうのか!? そんな馬鹿な事が!! ……まさか、シャロンか!? 薬で自我を奪ったはずの人形風情がそんな奇跡を必然にしたとでも言うのか!!」

「シャロンと、みんながくれたギアだから。絶対に、シャロンを助けてみせる!!」

 

 機動力は変わらないけど、武装は増えた!

 赤いオートマシンの元へと突っ込みながら、シュルシャガナのアームドギアを使って前方のオートマシンを一気に蹴散らす。そして、後ろから迫ってくるオートマシンは大量の短剣を動かして近づく前に細切れにする。そして、それでも残っている敵は鎌と槍で蹴散らしていく。

 赤いオートマシンがビームを飛ばしてくるけど、それをマントで防いで四散させる。同時に、鎌と槍を変形。鎌の刃を飛ばしてから、槍の矛先からビームを出しつつ、辺り一帯を薙ぎ払う。

 

「わたし達を、F.I.Sの装者をナメるなっ!!」

 

 例え包囲されても、このギアなら。

 オートマシンの攻撃をマントで全て防いで、短剣を近くに引き戻す。そしてもう一度放たれた赤いオートマシンからのビームを短剣で展開したバリアで防ぎ、赤いオートマシンの腕に付いているビーム発射口に向けて短剣を蹴り飛ばして突き刺し、腕の発射口を完全に破壊する。

 けど、その間にまたオートマシンが囲んでくる。しかも、こっちが長物しか持ってないからと距離を詰めながら。

 それに対応してこっちも武器を一度ダウンサイズ。小型化させてから腰にマウントして、両手に短剣を持つ。それを蛇腹にして周りの敵を一刀両断。

 直後にそれを隠れ蓑に接近してきたオートマシンを見て、跳躍。両手の短剣の柄を連結して一本の剣にしてから地面に向かってぶん投げて、爆破。突っ込んできていたオートマシンを一気にせん滅する。

 これで道が!

 

「土壇場の奇跡に計画を壊されてたまるか! アルカノイズも投入だ!!」

 

 道が開けた。だから赤いオートマシンに近づこうとしたけど、その直前にアルカノイズが行く手を阻んだ。

 こんな時にアルカノイズまで! でも、このギアなら!!

 

「止められると、思わないで!!」

 

 腰の鎌を取り外してサイズを元に戻して、回転しながら振り回し、更にそこにマントまで纏った状態でコマのように動いて一気にアルカノイズを切り刻む。

 それを止めた瞬間に降り注いでくる、鳥型のアルカノイズは短剣で自動防御させて斬り裂いて、鎌をもう一度腰にマウントしてから肩のアーマーから一つ、小さな鎌を取り出して短剣と接続。鎌を鎖鎌に変化させてぶん回す。

 

「くそっ、シンフォギアにここまでの機能があるなんて聞いていないぞ!」

「これはわたしだけのシンフォギアじゃない! わたし達の、F.I.S全員のシンフォギア! だから、わたしだけじゃできない事だってできる!」

 

 ガントレットから数本の短剣を取り出し、それを投げつけてから腰の槍を取り出し、先端の装甲を分離。長槍と短槍に変えて一気にアルカノイズとオートマシンに斬りかかる。

 目に見えてアルカノイズとオートマシンが減ってきた所で槍を一本に戻して、地面に突き刺す。それが自動で変形して砲台に変化した所で、槍の一部に腕を突き刺してドッキング。そのままビームをぶっ放す。

 

「なんでも有りか奇天烈め!!」

「あなたが言うか!」

 

 オートマシンとアルカノイズの混成部隊に加えて人質とかやったオズワルドに言われたくなんてない!

 叫びながら鎌と槍の柄を小さくして、その石突同士を合体させる。

 それを振り回せば、周囲に竜巻ができあがる。その中にマントを纏ってわたし自身が入り、ドリルのように固定したマントで竜巻の中を飛び回り、一瞬でアルカノイズとオートマシンを細切れにする。

 これで、雑魚の大半は片付けて、道は開けた!!

 

「ガングニールとアガートラームなら!!」

 

 左手の、二つのギアが合体したガントレットを構えながら、オートマシンに向かって飛ぶ。

 二つのギアが合体したガントレットは、銀色と金色の巨大な手に変化して、赤いオートマシンに突き刺さる。大丈夫、さっきシャロンの声が聞こえた時、シャロンの大体の位置は割り出した! あとはそこを、このガントレットでえぐり抜けば!!

 

「や、止めろぉ!!」

「掴んだ! ハアァァァァァァァ!!」

 

 そのまま、えぐり取る!!

 赤いオートマシンに巨大な穴が空いて、わたしの体がその中を通り過ぎる。

 そして、巨大な銀と金の手の中には。

 

「調お姉ちゃん!」

「シャロン、助けに来たよ!!」

 

 無事なシャロンの姿が。

 これで、ヴィマーナの中核をなすシャロンを助け出せた! 後は、この赤いオートマシンと、その後ろに居る雑多のオートマシンとアルカノイズを吹き飛ばす!

 シャロンを右手で担いで、左手のガントレットを再び変形させる。

 短剣と槍と鎌を組み込んで、巨大な砲台に。一人で支えるには重すぎるけど、腕から伸びた支えがしっかりと腕を固定させてくれる。

 照準、良し!

 

「吹き飛べぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

 ぶちかます!!

 砲台から発射されたのは、白、オレンジ、緑、ピンクの砲撃。それがシャロンが居なくなった赤いオートマシンとその後ろに居た雑多のオートマシンとアルカノイズを文字通り消し飛ばし、残るのはオズワルドただ一人となった。

 ……自分でやっておきながら、とんでもないなぁ。流石、四つのギアが合体したギア……

 

「……オズワルド。お前をぶっ殺」

 

 槍を構えてぶっ刺してやろうと思って振り上げたけど、シャロンがマントの裾を引いて、首を横に振っていた。

 ……命拾いしたね。事故に見せかけて殺すのは勘弁してあげる。

 

「……逮捕します」

「そ、そんな馬鹿な……我がヴィマーナが……」

 

 このままオズワルドも拘束して引きずりながら、ボロ雑巾にして連れて行きたい所だったけど、なんかヴィマーナが揺れ始めてから、念のために持ってきておいたテレポートジェムをオズワルドにぶつけて本部の管制室に直接転移させる。勿論、直前に管制室の方には伝えておいたから、問題なし。

 ……指の一本でも詰めておけば良かったかな。

 キャロルの方は、ついさっき無限湧きオートマシンを片付け終わって、わたしがシャロンを助け出してヴィマーナが揺れ始めた時点でボコった錬金術師を抱えて帰還したみたいだから、このヴィマーナに残っているのはわたし達だけ。

 ……さて。

 

「それじゃあ、帰ろっか、シャロン」

「うん。一緒に帰ろ」

 

 どういう心境の変化があったのか分からないけど、喋れるようになったシャロンを抱えたまま、わたしはマントを纏い、ドリルみたいにヴィマーナの床をガリガリと削っていってそのままヴィマーナの底を抜けて地上に帰還。そのままシャロンを抱えたまま、無事SONG本部に帰還した。

 はぁ……なんだか疲れたなぁ……

 

 

****

 

 

 結局、わたしのF.I.Sギアはたった一回だけの奇跡のギアとなり、データを収集しようとした矢先に消えちゃったものだから、ギア本体に残ったデータしかF.I.Sギアを証明する物はなくなった。

 けど、ガングニールは響先輩の物だし、これでいいのかなって思った。

 後はヴィマーナの事なんだけど、ヴィマーナはシャロンを失った事により、太平洋沖に墜落。恐らく、もう誰も発掘できないような場所まで沈んでいったと思う。それに加えて、オズワルドと、手を組んでいた錬金術師は無事に逮捕され、檻の中に。近い内に判決が下るそう。

 それと、シャロンのヤントラサルヴァスパは、攫われてから二日の内に、再び体内に馴染んでいたらしいんだけど、エルフナインが一日でその分を取り戻し、二日も経てば無事にシャロンの体内からの摘出に成功。ヤントラサルヴァスパは、キャロルとエルフナインに返すには暴れすぎたから、深淵の竜宮という聖遺物を補完する場所に保管される事になった。

 キャロルもエルフナインも、元々は自分達で悪用されないように保管するために動いていただけだから、それに同意。ついでに、持っておくには危ない聖遺物もそこに保管しておく事になった。一部の、必要な聖遺物……ダウルダブラや余ったダインスレイブは持っているらしいけどね?

 で、暫く経って面倒な報告や手続きも終わって、三つのギアの改修も無事終わったから、キャロルとエルフナインとの本来の協定条件はこれで達成。二人はこれからどうするのかってなったんだけど……

 

「それじゃあオレ達はまた旅に出る。なんか追加報酬も貰ったしな」

「そうか……君達さえ良ければ、特別待遇で雇おうと思ったんだが」

「と、特別待遇だと……?」

「ちなみに、お給料って出るんですか……?」

「これぐらいだ」

「暫くお世話になります。キャロルの事は馬車馬の如く使ってください」

「おいエルフナイン!? ……ま、まぁ、アレだ。旅の路銀集めに、暫くは協力してやる。ここに居た方が好きに動けそうだし、弱きを助けるにはもってこいだからな。だ、断じて金に目がくらんだわけじゃないからな!!」

 

 二人をお金で釣る事に成功。二人はSONGの特別協力者として日本政府と国連にも公認された唯一の錬金術師となった。まぁ、異端技術の塊だから、国家機密なんだけどね。

 あとは、二人とも雇われる条件として思い出の収集に協力してもらうっていうのが加わった。どうやら、この間使ったダウルダブラっていうファウストローブはかなりの思い出を消費するみたいで、今回で相当量の思い出を消費してしまったとか。

 だから、職員のどうでもいい記憶とかを収集して、政府関係者の忘れたい記憶とかを貰うのを雇われる条件にしたみたい。

 二人を悪用しようとしても、収集した思い出は閲覧して映像で映し出す事も可能らしいから、あくどい記憶の隠滅とかはできないみたい。

 そうやって色々と丸く収まった後。シャロンとキャロル&エルフナインはと言うと。

 

「シャロン、ご飯できたから持って行って」

「はーい」

 

 まず、シャロンはわたしとマムと一緒に住むことになった。

 だから、わたしも本格的に住む場所をSONGから支給されたアパートの一室に移して、緊急時以外はシャロンと一緒にここで過ごす事に。そろそろシャロンも小学校に行く準備ができるみたいだし、こうやって毎日ずっといるのは難しくなるけどね。

 で、キャロル&エルフナインだけど。

 

「おっす、調。飯食いに来たぞ」

「すみません、お邪魔します」

「はぁ……そろそろ来ると思った。キャロルとエルフナインの分も作っておいたから、並べるの手伝って」

「こういう時、お前が隣の部屋で本当に良かったと思うぞ。タダで飯が食える」

「お金は渡してますからね? それにしても、いつもボクまでいいんですか? 面倒だと思うんですが……」

「別にいいよ。キャロルにご飯あげないと不機嫌になるし、三人分も四人分も変わらないし」

 

 わたし達の部屋の隣を借りて、そこに住んでます。

 いっつもわたしの所にご飯をたかりにくるキャロルと、謝りながらもちゃっかりと食べていくエルフナイン。

 二人とも、自分の部屋で仕事をしているみたいだから、毎食こっちに来るんだよね。だから、最早この部屋が三人部屋から五人部屋になりかけているっていうのが……

 

「シャロン、今日こそはポーカーで勝つからな!」

「ふふん。キャロルお姉ちゃんになんて負けないから!」

「このガキッ……! いいだろう、今日こそはお前の泣き面を拝んでやる!」

「はぁ……キャロル、いい加減にしたら? ただでさえシャロンさんにボロ負けして面目なんて立ってないのに……」

「うるさいエルフナイン。お前とはポーカーじゃなくて喧嘩で泣き面を拝んでやっても――」

「一年間お小遣い無し」

「イキりましたすみません」

『よわっ』

 

 でも、賑やかになったしいいかな。

 シャロンもよく喋って笑うようになったし、キャロルもエルフナインもなんやかんやで楽しい人たちだし。

 だから、別にいいんだけど……

 

「やっほー調ちゃん! 遊びに来たよー!! あれ、ご飯中? わたしも混ぜてー!」

「ちょっ、響! 迷惑だから!」

「全く……立花は変わらんな……」

「センパイは呆れてないでこの馬鹿を止めろっての! オイ、一旦出直すぞ馬鹿!!」

「えー、わたしだってー」

「いいからこっちに来い!!」

「あー!!」

 

 ……騒がしすぎるのも考え物だよねって。

 あーもう!

 

「今日は多めに作っちゃいましたから、入るんなら入ってきてください! 玄関前で騒いでたら本当に追い出しますからね!」

 

 騒がしすぎるけど……楽しいからいいかな!




~ザババギアの特訓中~
調「ザババギアの絶唱ってどんな感じになるんだろう。一応、出力抑えて一回だけ……あっ」スポッザクッ
フィ(眠)『う゛っ』スーッ…
ナ「し、調!? 大丈夫ですか!?」
調「う、うん。なんか急に鎌がすっぽ抜けてちょっと刺さっただけだから……うーん、なんですっぽ抜けたんだろう? それに、心なしか体が軽くなったような気が」
ナ「そ、そうですか……しかし、イガリマには魂を斬り裂く特性があった筈では……いえ、ちょっと刺さっただけですし特に問題はありませんね」

〜設定簡易解説〜
月読調【IF】
平行世界の切歌に助けられて、共に戦って、心強い先輩もできた事で精神面はかなり正史に近い感じになっている。学校には通っていないが、ノイズの出現が無くなったこと、新たな戦力であるキャロル達の参入、シャロンに格好が付かない事から、大人に諭され、学校に行く事も少し考え始めている。
オシャレ雑誌を読んだり、ドラマを見たり、先輩達と美味しいご飯を食べに行ったり遊びに行ったりしてキャッキャする程度には普通の女の子をしている。
任務の時や戦闘中に激昂した時に昔の冷徹だった面が出てくる時がしばしば。任務を受けた時の返答は昔からの癖で少しばかり味気ない。
ただ、最近は全体的に小さい自分の体にコンプレックスを抱き始めている。昔はコンプレックスなんて抱けるほどの精神的余裕なんて無かったため、ちゃんと人として成長してはいるが、キャロルに金を差し出しながら頭を下げる日は近いかもしれない。

月読調【IF】ザババギア
キャロルがイグナイトの代わりに搭載したシュルシャガナの決戦装置とも言える代物。瞬間火力はイグナイトに劣るものの、継戦能力はイグナイトを圧倒しているため、十分に決戦機能となりうる。
ザババギアのためにはイガリマをシュルシャガナ内に取り込む必要があるうえに、本来想定されてない機能であるため、最初の起動は結構不確定要素だらけだったりしていた。外見はメカニカルギア(イガリマ)にピンクを加えた感じ。
調【IF】の心象変化もあってか、大分正史の調に近づいてきている。また、エクスドライブを経たからか、ザババギアとなった瞬間、シンフォギアのロックも少し外れ、武器がチェーンソーからハルペーへと変化している。

月読調【IF】F.I.Sギア
誰もが想定していないシュルシャガナ、イガリマ以外の二つの聖遺物を重ねて起動させた、奇跡の形態。フォニックゲインを使わない聖遺物及びシンフォギアの同時起動が必要なため、この奇跡を必然にするにはヤントラサルヴァスパが必要不可欠となる。
ザババギア、イグナイトを超える出力を叩き出す事が可能であり、四つのギアのアームドギアと特性を全て使い、それを重ねる事が可能なため、単体での戦力及び戦場への適応力はイグナイトを超えるが、エクスドライブには劣る。
今回は全体的にバランス良くギアを使っていたが、槍だけを使い単純なガングニールの上位互換として、鎌だけを使い単純なイガリマの上位互換として、という運用することも勿論可能。
調【IF】の心象風景故か、全ての武装は彼女の心の中に残っていた各ギアの装者が使用していた物に片寄った。ガングニールのマントがあったのは、彼女自身マリアのガングニールに……?

またもや中編を見ていただき、ありがとうございました。この後はAXZとXVがありますが……まぁ、現状はグレ調時空はこれで終わりという事で。
グレ調時空は、最後ばかりは平行世界の力を借りず、この世界の戦力だけで解決させると考えていたので、F.I.Sギアのために信号機トリオが参加できない状態でも何とか話を纏められたので良かったです。
代わりに司令が暴走しましたけど。

前回の片割れでやりたかったこと、ザババギアとF.I.Sギアを出す事だったんですけど、それも全部できましたし。
これで片割れから撒いておいた伏線も回収しましたし、同時にGXもキャロルが仲間になるという形で解決しました。次回からはまた普通の短編に戻ります。それと、グレ調時空もこれで完全に終わりになると思います。
それでは、また次回、お会いしましょう。


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月読調の華麗なる超短編集2

今回は二回目の超短編集です。本当は麻雀バトル! とか書きたかったんですけど、麻雀にわかには荷が重かったので、麻雀を短編にしてその他の短編でお茶を濁してしまえと思いました。

と、いう事で超短編集。コピペ系のやつから持ってきましたので、元ネタが分かる人は結構居るかと。


 どうも今日はちょっとおかしな事になった。

 いや、装者の様子がおかしいのはいつもの事なんだけど、発端は切ちゃんが本部内で見つけた物だった。

 

「なんか麻雀セット見つけたデス」

 

 どうやら切ちゃん、倉庫の掃除を手伝っていたみたいで、その時に麻雀のマットと牌、点棒とサイコロがセットになった物を見つけてきたらしい。特に本部内で使う事も無いし、暇ならこれで遊んでてもいいって事になった。

 で、現在は丁度訓練後でみんな暇していたところ。だからか、全員巻き込んで装者内麻雀大会と相成った。

 ほんと、おかしな事になったなぁ……一応、わたしはちょっとばかりは自信あるっちゃあるけど……

 

「ふっ、アタシ様に麻雀で勝てるなんて思うなよ!」

「クリス先輩に負けてられんデスよ!」

「成年済みの者として負けてられないわね」

 

 最初はわたし、クリス先輩、切ちゃん、マリアの四人でやる事になった。

 翼さんはルールも役も分からないから、わたし達のを見て学ぶみたいだけど……その、ね。明らかにクリス先輩も切ちゃんもマリアも、ルールが分かってないんだよね。

 わたしはマムとF.I.Sの職員に交じって暇潰し&お小遣い稼ぎにやった事あるけど、切ちゃんとマリアが混ざった記憶なんて無いし。しかも、三人とも中々山を作らずにジャラジャラしている。

 もうこの時点で分かる。三人とも、雰囲気でやってるだけでルール分かってないね?

 ……これはちょっと面白い事ができそう。ちょちょいっとジャラジャラと牌を混ぜて、ちょちょいっと牌を選別してっと……これで良し。わたしが自分の目の前の山を作ったあたりでようやく三人は自分の前に山を作った。

 ふふふ。ふふふふふ。

 

「それじゃあわたしが仮東として先にサイコロ振りますね?」

「お、おう? す、好きにすりゃいいんじゃねぇの? その程度ハンデにもならねぇからな」

 

 許可貰ったし、サイコロコロコロっと。

 勿論出目は、五。

 

「あっ、わたしが仮親ですね。それじゃあ、もう一度」

 

 で、次の出目は九。

 これでわたしが親になった。ちょろいちょろい。この程度の出目操作に気が付かないんだもん。

 全自動卓だったらこんなサマできないけど、全自動卓じゃないんならサマなんてし放題だからね。わたしが東のカードを貰って、他の三人に方角のカードを配ってから、今度は配牌。

 

「じゃあ、次は親のわたしがもう一回サイコロ振りますね」

「ど、どんと来いデス!」

 

 勿論ここでも出目は操作させてもらうよ。わたしの山が一切崩れないようにね。

 

「この出目なら、クリス先輩の所からだね。ちゃちゃっと配牌しちゃおっか」

「そ、そうだな!」

「は、早く始めるデスよ!」

 

 ちゃんとわたしが誘導して、三人に配牌させてあげる。クリス先輩は南家だから、わたしの山には手が届かない。つまり、わたしが手を加えた自分の山に三人は触れる事ができないという事。

 で、配牌もしっかりと終わって、まずは親のわたしから。

 配牌は……まぁ、普通かな。良くもなく悪くもなく。役満は狙えないけど、早上がりは狙えそうな手。

 じゃあ最初は、東を落としておこうかな。

 

「ほら、クリス先輩ですよ」

「お、おう! え、えっと……チッ、何も書いてねぇ、ハズレか!」

「っ、ぷくく……!」

 

 い、今トーフ捨てながらこの人なんて言った……? 何も書いてないからハズレ……?

 ちょ、ちょっと手元狂いそうになるんだけど……!

 ……まぁ、いいや。翼さんも響さんはわたしの方を見ていない。他の三人は自分の手牌ばっかり見ている。最初はそうなるよね、分かる分かる。

 みんなわたしを見てない事だし、やっちゃおうかな。

 手牌を音もなく倒して……今! 秘技、ツバメ返し!!

 

「ん? 今音がしたような気がするデスよ?」

「ごめんごめん。間違って手牌崩しちゃった」

 

 よし、成功成功。しめしめ。

 これで手牌は緑一色四暗刻のダブル役満聴牌……!! さぁて、細工は流々。後は仕上げを御覧じろってね。

 

「とりあえず、これ捨てるデス」

「あ、あまり手牌が良くないわね……」

 

 なんて言いながら二人は手牌を捨てるけど、しめしめ。

 山から一枚牌を取って……ハズレか。まぁいいや。これ捨てて点棒取ってっと。

 

「リーチ」

「り、リーチ!?」

「は、早くないデスか!?」

「運が良かったみたい」

 

 完全に腕の差だけどね!

 と、いう事で後は初心者共が捨てる牌を見ておけば……って、捨てない? なんだ、つまらない。とりあえず三巡目……よし、掴んだ。

 

「ツモ」

「つ、ツモ? あ、あぁ、ツモね、ツモ」

 

 あっ、マリア、さては上がり方をロンしか知らないね。

 

「まさかリーチしてすぐに上がり牌を引いてツモできるなんて思わなかったよ」

「そ、そう、上がったの。流石調ね」

 

 あーおもしろ。

 で、手牌を見せてもみんなピンときていない。

 リーチ一発ツモ、とか言ってみたいけど、まぁこの役にソレはいらないし。

 

「緑一色四暗刻。ダブル役満、三万二千オール」

「さ、三万二千……?」

「全員から三万二千点って事ですよ」

『はぁ!!?』

 

 全員から三万二千点。で、最初の点数は全員二万五千点。

 つまり、全員飛びました。面白過ぎるでしょこの麻雀。

 わたしもマムや職員の人によくイカサマされて役満直撃とかしてボコボコにされたからね。こっちもイカサマし返して思いっきり毟り取った時もあったけど。

 流石に三巡目で親番のダブル役満なんてやったら即座にイカサマ発覚するから、あっちに居る時はできなかったんだけどね。けど、今はそんなの気にせずにできちゃうからホントに楽しい。このまま全員を最初で飛ばしまくってわたしだけ楽しんじゃおうかな。

 翼さんとか、いい反応してくれそうだし。

 

「くっ、まだ一回だ! 一回だけの幸運で調子乗んなよ!」

「次こそは倒してやるデスよ!」

「調にそう何度もいい顔はさせないわよ!」

 

 で、三人はまだまだ好戦的な模様。

 それじゃあ、次もツバメ返ししてトリプル役満とか……あれ、携帯が。えっと……響さんから?

 あんまり苛めてあげないでねって……あっ、もしかしてバレた?

 携帯を弄ってる響さんの方を見ると、響さんはこっちを見て苦笑した。さてはあの人、経験者だね。試しに聞いてみれば、そうだよって返ってきた。

 これは多分、ツバメ返しも見られてたかも。

 ……仕方ない。今回はみんなに華を持たせてあげようかな。サマを使えばみんなの最初の手牌を操作することだってできちゃうからね。と、いう事で。

 

「それじゃあ、わたしが仮東でもっかいサイコロ回しますね」

 

 じゃあ次は……クリス先輩に字一色でもさせてあげようかな。

 初心者のビギナーズラックという名のサマで笑顔になってくださいね。

 

「またハズレがありやがった!!」

 

 ……何やってんのあの人。折角二巡目で字一色できる手牌にしてあげたのに。一応、字一色を間違って捨ててもこっちがカバーできるように国士無双手牌にしておいたから、一個字牌を捨てた程度ならカバーできるけど……

 …………あーもう我慢できない!

 

「ロン! 白単騎待ちの国士無双! 三万二千点です!」

「はぁ!!?」

 

 これでトーフで役を作れることを思い知れ!!

 ちなみにこの後、響さんともやったんだけど……なんか、すっごく強かったです。急に山が~、とかこの山は地元の~とか言い出して、明らかに別人が乗り移ってた気がするし、後ろにジャージの下を履いてない女の子の幻影が見えた気がしたんだけど……気のせいかな?

 

 

****

 

 

「しりとりするぞ」

「存外暇なんですか、翼さん。急にそんな事言いだして」

「敵がいつ来るかは分からんが、息抜きは必要だと思ってな」

「何言ってんだか、この先輩」

「遺憾を示しながらも付き合ってくれる月読は、やはりいい後輩だ」

「だって付き合わないと後でうるさいじゃないですか」

「癇癪など起こさんよ」

「よしんばそうだとしても、少しはうるさくなりますし」

「知らぬ間に生意気になりおってからに」

「にべもないよりはマシって事です」

「すまぬな、別に責めた訳ではない……さて、出動だ」

「だったら、勝負は中断ですか?」

「帰ってくるまでは継続としておこうか。月読は勝負が決まるまではやり続けるタイプであろう?」

「有無も言わせずに自己完結しないでください。流石に中断で」

「で、あるか」

「勝った負けたが決まらないと終わりそうにないですね、これ。という事で、ちゃんちゃん」

「ン・ダグバ・ゼバという怪人を知っているか? 知っているのならまだまだ続くぞ」

「ゾッとするのでもう止めです。永遠に終わらないですし」

「しまったな。本当に歯止めが効きそうにない」

「いつまで続ける気なのやら……」

 

 

****

 

 

 最近、切ちゃんの寝起きが悪い。

 わたしはちょっと早く起きてからご飯を作ってるんだけど、切ちゃんが目覚ましに一向に反応せずに、そのままご飯ができても寝ているとかザラにある。

 これはどうにかしないとなぁとは思っても、わたしにはいい案が思い浮かばない。

 と、いう事で、響さんのお嫁さん的立場な未来さんに意見を聞いてみる事にした。

 

「……って感じで、切ちゃんが目を覚ましてくれないんですよ。これじゃあ目覚まし時計を買った理由が……」

「分かる分かる。響も前はそんな感じだったし」

 

 前も、という事は最近はなんとか解決したのかな?

 それはどんな方法なんですか?

 

「どんな方法と言っても……これは裏技みたいなものなんだけどね?」

 

 ふむふむなるほど……

 未来さんから聞いた方法は、なんだか馬鹿らしかったけど、切ちゃんなら通じるんじゃないかなと思った。

 だから、わたしは帰ってからエルフナインに目覚ましを持って行って、とある改造をしてもらった。改造と言っても、単純にアラームの音を変えてもらうってだけなんだけどね。

 という事で、細工した目覚ましをそっと設置した。これで目を覚ましてくれたらいいんだけど……

 そんなこんなあって翌日。わたしはいつも通り起きて朝ごはんを作ってる。そろそろ……かな?

 

『~♪』

 

 あっ、始まった。

 まだ起きてこないけど……この曲のサビ終わりで……きた!

 ふんふんふん……そして輝く。

 

『ウルトラソウッ!!』

『ハイ!! ……あれ? もう朝デスか?』

 

 あ、目を覚ました。

 ……なんというか、切ちゃんらしいなぁ。これは暫く、切ちゃんの目覚まし音はウルトラソウルかな。

 

 

****

 

 

「なぁ、調ちゃん」

「なんでしょう、藤尭さん?」

「この間さ、電車内で女子高生に挟まれたわけよ」

「はぁ」

「その状況ってさ。オセロ的に考えると俺も女子高生になるじゃん」

「……はぁ」

「でもさ、囲碁的に考えると……俺は消滅する」

「じゃあ、くだらない事を教えてくれたお礼に、わたしと切ちゃんと響さんと未来さんとクリス先輩で囲んであげますね。囲碁的に」

「やべぇ消滅させられる!!」

 

 

****

 

 

「……終わったな。だが迎えが来るまで暇だ」

「ですね……」

「……そういえば月読。睡眠薬って飲み過ぎると中毒になるらしいぞ」

「そんな事ないですよ。わたし、もう十年以上飲んでますけど全然中毒じゃないです」

「おい」

「我ながらナイスジョーク」

 

 

****

 

 

 今日はマリアの車に乗って移動中。単純にマリアの買い物に付き合っているだけなんだけど、マリアってば、買い物のためだけにSONGで車を借りてきたみたい。

 社用車は結構余ってるらしいから、使わせてくれたんだけど……お仕事で使うための車をこんな私用に使っていいのかわたしはよく分からない。

 けど、マリアが良いって言うんだから良いんだと思う。

 

「あっ、ガソリンが無くなりそうね……ちょっと給油していくわ」

「うん」

 

 ガス欠はまずいし、マリアが近くにあったガソリンスタンドに車を止めた。

 車を止めてすぐに店員さんが来てくれて、運転席側から顔を見せた。

 レギュラー満タンで、とか何とか言ってたけど、わたしはよく分かりませんでした。普段車なんて乗らないし、乗ったとしてもガソリンスタンドには行かないからね。

 で、給油をしようとした時。

 

「すみません、給油口逆ですね」

「あら、ごめんなさい。この車、借り物だからつい」

 

 どうやら給油口が反対側だったみたいで、一度車を動かしてからもう一回給油を。

 

「給油口あけてくださーい」

「えぇ。えっと……これね」

 

 で、給油口を開けようとしてマリアが何かを操作した時だった。

 すごい音と共にトランクが開いた。これには流石に店員さんも苦笑い。わたしが出ていって閉めようとしたけど、店員さんが親切に閉めてくれた。

 ウチのポンコツがすみません。

 

「え、えっと……じゃあこれね!」

 

 と、言いながらまた何かを操作したマリア。

 そして開くボンネット。いきなりフロントガラスの先が鉄板で覆われてしまった。このミスには流石に店員さんも若干笑いを隠し切れないようで、半笑いの状態でボンネットを閉めてくれた。

 ほんっと、ウチのポンコツがごめんなさい。

 で、そのポンコツはと言うと、給油口を開けるための操作が分からないらしくて、暫く運転席であっちこっちに手を伸ばして。

 

「分かったわ、これよ!!」

 

 と、言いながら座席のレバーを引いた。

 その瞬間、物凄い勢いで倒れていくマリア。

 

『ぶっ!!』

 

 そしてわたしと店員さん、同時に爆笑。

 ごめん、これに笑うなって方が無理だって。

 結局給油口はその後しっかりとマリアが開けて、給油はできたんだけど……その後何度もマリアがこの事は秘密に、とか誰かに言ったら、とか言ってきたから、しっかりと翼さんに教えておいた。

 その結果か知らないけど、後日の訓練で異常なまでにマリアに追われた。

 ちょっと茶目っ気出しただけじゃん!

 

 

****

 

 

「調ちゃん。急だけど美味しい炒飯の作り方を教えてあげるよ」

「いきなりですね、未来さん」

「まず田んぼを用意します」

「暇なんですか?」

「うん」

 

 

****

 

 

「ファミチキください」

「あるわけないだろ、月読」

「ファミチキください!!」

「いきなりうるさい」

(ファミチキください)

(こいつ、気合でギアのロックを解除して直接脳内に……!?)

 

 

****

 

 

 今日は体育の授業……なんだけど、先生の話が長い。

 グラウンドで座ってるだけだとなんだかお尻が痛くなるし、切ちゃんなんて欠伸してるし……あっ、そうだ。

 ちょっと暇潰しがてら切ちゃんを笑わせてみよう。

 そこの雑草引っこ抜いてっと。

 

「切ちゃん」

「ふぁぁぁ……なんデス?」

「これ、何だと思う?」

 

 と、言いながら雑草を見せつける。

 

「これね、ミキプルーンの苗木」

「ぶっふ!?」

 

 一発ギャグで切ちゃんは無事吹き出して笑ってくれたけど、その後に先生のボードの角で頭を殴られていた。

 その後切ちゃんに怒られたけど、おゆはんのおかずを一品増やす事で納得してくれた。チョロい。

 

 

****

 

 

「切ちゃん。今度学校で避難訓練だって」

「えー、面倒デスなぁ」

「でも、しておいて損はないよ。ほら、避難訓練のおはしって結構重要でしょ? わたし達は特にそれが分かってるし」

「あー、アレデスね。『お話を、話させない、したら許さない』デスよね」

「切ちゃんはお話に何の恨みを持ってるの」

 

 

****

 

 

「……そういえば、ちょっと髪を切ったからか少し頭が軽いな」

「へぇ。あたまいかれたんですか」

「よぉし、根切りの時間だ」

「ちょっ、ごめんなさい! 割と素で間違えました!! 許して!!」

 

 

****

 

 

 どうやらクリス先輩が新しいゲームを買ったらしい。

 一人の暇潰し用に買ったRPGらしいんだけど、これがなかなかどうして面白いのだとか。だから、わたしは一度クリス先輩のやってるゲームを見に、クリス先輩の部屋にお邪魔した。

 買ったのは某国民的RPGの最新作らしい。ちょっと前まではクリス先輩が一人でゲームなんて、そう考えられなかったけど……まぁ、この人もそれぐらい暇してるって事だよね。

 で、クリス先輩にもちゃんと約束を取り付けておいたから、インターホンを鳴らして入ると、すぐにコントローラーを握ってゲームをプレイしているクリス先輩を発見した。

 

「あっ、丁度やってるんですね」

「まぁな」

 

 クリス先輩はいつものように素っ気ない感じで答えると、まぁ座れよ、と隣に置いてあった座布団を叩いた。

 ご厚意に感謝して座布団に座ってクリス先輩のプレイしているゲームの画面を見た。

 けど、一瞬開いたメニューで見えたレベルは十かそこら。まだ全然序盤のレベル。買ってからもう三日は経ってるはずなんだけど……

 

「あんまりやってないんですか?」

「いや、やったよ」

 

 やったのにこのレベル……?

 一体何が……

 

「最初な、主人公の名前をダーリンにしたんだ。なんか面白そうだから」

 

 ……はぁ。

 

「それで暫くプレイしてたんだけどな。女性キャラがみんなダーリンって呼ぶからちょっと気を良くしたんだよ。ただ、途中で出てきたキャラがな」

 

 途中で出てきたキャラ?

 えっと、パッケージを拝見して……あっ。

 

「そうだ。その半裸の筋肉達磨にダーリンって言われた瞬間、なんかこう、なんとも言えない感じになってな。冒険の書消したんだよ」

 

 ……それは自業自得では?

 

「我ながら馬鹿な事したと思ってるよ。だから今回はハニーにしてみた」

「半裸の筋肉達磨にハニーって呼ばれますよ」

「……冒険の書消すか」

 

 

****

 

 

「ねぇ、調ちゃん」

「なんですか、響さん」

「最近シュークリームがマイブームなんだけどさ」

「はい」

「シュークリーム食べると確実にお尻からクリームが出てきちゃうんだけど……どうにかならないかな?」

「すごい体質ですね。どんな体してるんですか」

「拳でツッコミ、オーケー?」

「ノーセンキュー」

 

 

****

 

 

「涙の数だけふふんふふっふふん」

「アスファルトを裂く花のように~」

「強すぎじゃないですかそれ」

「すまん、素で間違えた」

「おいトップアーティスト」

 

 

****

 

 

「なぁ、月読」

 

 とある日、急に翼さんに声をかけられた。

 なんだろう?

 

「この間から現代で作れる最高の刀について考え始めたんだが、私ではありきたりな案しか出なくてな」

 

 あー、つまり、わたしにもそれを考えてくれと。

 

「そうだ」

 

 まぁ、いいでしょう。暇してましたし。

 でも、現代でも作れる最高の刀かぁ……多分切れ味とかはそういう職人の人に作ってもらえばピカ一だと思うし、そうすると妖刀の類とかの方がいいのかな。

 妖刀なんて代物を作れる材料があるとは言えないけどね。

 妖刀が駄目だとしたら、最高の刀の定義を……つまり、確実に相手を殺せる刀?

 そうすると材料が……

 

「……ウランやプルトニウムで作った刀とか」

「なんでそうなった」

「近づくだけで相手死にますよ」

「誰が持つのだそれ」

 

 誰、かぁ……

 うーん……

 

「下請け」

「邪悪の権化にも程があるだろお前」

 

 さぁ。

 

 

****

 

 

「クリス先輩」

「ん?」

「コアラのマーチの対義語って何だと思います?」

「ゴリラのレクイエム」

「パワーワード感ヤバくないですか」

「あぁ。自分で言っててもパワーワードすぎて若干笑いそう」

 

 

****

 

 

「今度、オーストラリアに行くのだ」

「いいじゃないですか。わたしもオーストラリアのご飯とか食べたいです」

「ハハハ。家でコアラのマーチでも食ってろ」

「ぶっ散らすぞアンタ」

 

 

****

 

 

 偶には映画でもレンタルして見ようかなと思ってレンタル屋さんに来てみた。

 見た事も聞いたことも無い映画とかもあるけど、今日見るのは決まってる。任務で忙しくって結局見るのを逃した、アメコミ映画の完結作。

 半年近く待機させられたからすっごい気になってたんだよね。ネタバレも見ないようにしていたし。

 えっと、この辺に……あったあった。うわっ、やっぱり一泊二日とかだし、全然高い。

 ……けど借りちゃう! 偶にはこういう思いっきりも!

 

「あれ、調ちゃんだ。どうしたの?」

「響さん?」

 

 とか思って手に取ったんだけど、そこで響さんが登場。

 響さんも何か借りに来たのかな? この人も映画を見て食事して寝るっていう訓練をしているみたいだし、それで強くなってるし。

 響さんの手元を見てみると、数点の映画のブルーレイが。

 

「これ見るんだ。まだ見てないの?」

「はい。見逃しちゃって」

「実はわたしもなんだよね~。あ、どうせなら割り勘して一緒に見ない?」

「いいですね、一緒に見ましょう」

 

 やった、お金浮いた。

 それに、一人で見るのはちょっと寂しいなぁって思ってたところだし、丁度いいや。わたしの部屋で一緒に見ようかな。

 

「あっ、そういえば」

「なんですか?」

「あっちの方に題名も何も書いてない、黒いパッケージのDVDがあったんだけど……調ちゃん知ってる?」

 

 だ、題名が書いてない、黒いパッケージのDVD……?

 それって……

 

「仕切り用のダミーじゃないですか?」

「………………行こっか」

「はい」

 

 二人で見る映画は面白かったです、はい。

 あと、顔真っ赤な響さんは可愛かったよ。

 

 

****

 

 

「調さん、調さん」

「なに、エルフナイン」

「このチラシすごいですよ」

「チラシの何が?」

「この住宅、築五分ってだけでもすごいのに、駅から五年ですよ、五年。どこまで歩かせる気なんでしょう?」

「エルフナイン、暇なの?」

「はい。かまちょです」

「ゲームしよっか」

「わーい」

 

 

****

 

 

「月読、かまちょ」

「おととい来やがれ」

 

 

****

 

 

 今日は未来さんとおでかけ。

 一緒に夜ご飯の材料を買いながら、調理器具を見に行くって事で二人で出かけて、今は喫茶店で休憩中。

 

「やっぱり圧力鍋が欲しいなって思うの」

「圧力鍋、いいですよねぇ……作れる料理の幅が広がりますし」

「響にはやっぱり、美味しいご飯を食べてもらいたいから」

 

 けど、圧力鍋は学生が手を出せるような値段じゃない。結構いい値段がする。

 圧力鍋があるだけで色んな料理にも手が出せるし、いつもの料理も圧力鍋を使うと美味しくなったりと、あって損はない鍋だから、ぜひとも欲しいんだけど……やっぱりなぁ。

 お金貯めて買うのが一番かな。それ以外にも包丁を新調したいし、他にも調理器具とか……

 

「……ね、ねぇ、調ちゃん」

「はい?」

「外国人って……け、結構、入れ墨入れてる……くくっ、人、多いイメージが……ふ、ふふ、あ、あるよね」

「まぁ、確かに」

 

 なんか未来さんがすっごい笑ってるんだけど。一体何が?

 よく分からないけど、未来さんの様子を暫く見ていると、未来さんがどこかを指さした。そっちを向くと、そこには確かに外国人らしき人が。

 あの人に一体……? あっ、入れ墨だ。しかも日本語?

 えっと……そだっ!?

 

「そ、そだいごみ……!!」

「ご、か、漢字はかっこいいと、思うけど……ははははは!!」

「ぷっ、ふふっ……くくくくく……!!」

 

 せ、せめて日本語を調べてから刺繍入れようよ……!!

 

 

****

 

 

「ねぇ、調」

「なに、マリア。もう寝ようと思ったんだけど」

「アメリカに居る時思ったのだけど、あっちの人ってトマトをトメィトゥみたいな感じで言うわよね?」

「そうだね」

「いつも思うのよ。ちょっと大げさじゃないかって」

「おい外国人」

「ポテトはポティトゥで卵はタメィゴゥでしょう? なんか大げさすぎる気がするのよ、ホント」

「卵はエッグだよ」

「…………もう寝るわ」

「お疲れさま」

 

 

****

 

 

「翼さん、ぞんざいに扱ったのは謝りますから、こっちに向けてるソレ、眩しいので消してください」

「誰をだ?」

「ライトですよ」

「分かった。ライトという人間を消せばいいのだな」

「待って。激しく待って。そして全国のライトさん逃げて」

「………………暇だな」

「ですね……」

 

 

****

 

 

「なぁ、月読」

「暇なんですか」

「あぁ。で、だ。猫が突如空虚を見るアレ。ちょっと怖くないか?」

「フェレンゲルシュターデン現象の事ですね」

「そんなのがあるのか……どれ、調べて…………おい、何も出てこないぞ」

「そりゃ嘘ですし」

「よし、喧嘩するか」

「やべぇ逃げなきゃ」

「逃がさん!」

「くっ、この……!!」

『ギャフベロハギャベバブジョハバ!!』

 

 

****

 

 

「……いい加減、迎えが来てもいいと思うのだが」

「ですよね……あっ、司令からメールが」

「ん? 叔父様から?」

「えっと……迎え用の車のカーナビの音声を松〇修造にしたら迎え用の車が大炎上して大破したようです」

「…………歩いて帰るか」

「そうですね……」

「…………しりとりをだな」

「しません」




なんか時折調ちゃんから邪悪がにじみ出ている気がしましたが、多分書いている時に感じた錯覚だと思います。

今回の幕間的な話はコンビニではなく翼さんと任務完了後のお迎え待機中の一幕でした。とりあえず色々とコピペネタぶち込んだりオリジナルをちょちょいと入れてみたり。
あと、かまちょですって言ってるエルフナインを書きながら想像すると可愛すぎた。

XV10話はきりしらユニゾン回でしたね。いやー、調ちゃんのバンクで死にかけて、ユニゾン曲のお披露目もあって。今回はどんなトンチキタイトルで来るのかと思ったら割と普通目? な感じ。Cutting Edge×2 Ready,Go! ……うん、打ちにくい!
同時に二人のアマルガムも初お披露目になりましたね。切ちゃんは鎌が正統進化というのは予想ついてましたけど、調ちゃんのアマルガムはまさかの盾……と思わせてのヨーヨー……と思わせてのロボット! 多機能にも程がある! そして急遽予定を変更して放映されるふたりはきりしら! ツインハートはとてもようござんした。緑とピンクの糸を一緒に引いて戦うのはとてもえがった。
しかし、ユニゾンで押し負けたのは流石に驚きました。これって、ノーブルレッド>素のパヴァリア幹部って事になるんですかね? そうなると相当強化されてますよね。

で、装者の裏で行われていたノーブルレッドのあれこれ。本物の怪物に成り下がった三人ですけど、何と言うか、自分的には怪物から人間に戻る選択肢というのがあったと思うんですよね。特に、ビッキーは積極的に手を伸ばしたんですから、それに応じて胡散臭い爺よりも手を伸ばしてくれた人の所へ行けば、まだ救いはあったのかもしれないでしょうに。自業自得と言うかなんというか。
だと言うのに、案外生き生きしてハッスルしているヴァネッサ&ミラアルクと、泣いているエルザ。誰かを想って泣けるのは、それはそれで十分人間臭い事ですけど……
エルザはまだ人間寄りの心を持ってるようには見えますけど、ヴァネッサとミラアルクは完全に怪物の心に染まってるようにしか見えない。なんというか、やってきた事の跳ね返りでこうなってるんだろうなとは思いました。


P.S
エルザの一本しか入らなかった穴に五本も……薄い本が暑くなりそう。


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月読調の華麗なる実況日和

今回は実況者時空の話になります。題材のゲームは、最近自分が結構やっているモンハンワールドアイスボーンです。

アイスボーン、一人でやるとすぐに飽きちゃいますけど、友達と笑いながらやるとホントに面白いですよね。シンフォギア始まるまでの暇な時間にやってたら、友人二人がガルルガの顔面に弾丸生やして爆発させて綺麗なイルミネーションだなぁとかマジキチ発言かまして笑ってました。

まぁ、そういう裏事情もあって今回は実況女神ザババのモンハン実況。屑運切ちゃんは何度落ちるのか。

あと、XDのアルバム第二弾の発売が決定しましたね。全十曲って見て、まだ第一弾発売から九曲しか発表されてなかったのか……とか思ってたり。果たして最後の一曲は誰の曲か。とりあえずダイスキスキスギを全力で待機。


 装者と敵との戦いが続く最中でも、休日と言うのは当然訪れる物。

 なので、偶々できた休みでわたしと切ちゃんでゲームの実況を撮る事に。エルフナインは、やっぱり色々と忙しいから編集だけしてもらう感じで今日は不参加。仕方ない事だとは思うけど、エルフナインは有事の際は最も忙しい身の一人でもあるから、仕方ない事。

 でも、今回やるゲームは、つい最近大型拡張コンテンツが配信されたモンスターを狩る有名タイトル。それを二人っきりでやるのはどうにもこうにも寂しいというか、単純にわたし達の腕だと勝てないと言いますか。

 だから、今回は助っ人を呼んでみた。

 

「マイクテスマイクテス。二人とも、聞こえてますか?」

『聞こえてるよー!』

『おう、バッチリだ。アタシ達の声も入ってるよな?』

『そこら辺は今から録画チェックを……オーケーデス!』

 

 その二人と言うのは、この間、カラオケ配信をした際に乱入未遂を起こした響さんとクリス先輩のお二人。二人もこのゲームを買ってプレイしていたみたいで、わたし達よりもかなり進んでいるみたい。

 一応、わたし達も買ってから二人の協力を得て何とか本編のラスボスを討伐。ある程度上位装備を整えてから追加コンテンツの実況プレイと相成りました。

 今は集会エリアで四人分のキャラが並んでいる状態。それで、録画はいつも通り切ちゃんとわたしが。二人分の視点があると、面白い映像が偶然撮れたりするから、このスタイルは結構重宝していたり。

 わたしもしっかりと録画できているのを確認してから、切ちゃんの声に合わせて、そこから録画を開始したという体で実況を始める。

 

『三、二、一! ……はい、皆さんおはこんばんちわデス! いつもお元気お気楽ガールのイガちゃんデスよ!』

「皆さんどうも。お元気お気楽ガールストッパーのシュルちゃんです」

 

 ジェスチャーでキャラを動かしながらの自己紹介。

 わたし達のキャラはリアルの髪色やら髪型にちょっとだけ似せつつ、でも絶妙に別人になるようにしてあるから、リアルバレは問題なし。

 キャラの名前に関しては、わたしがMOON、切ちゃんがSUN。つまりは太陽と月コンビです。

 

『今回はこのゲーム、モンスターハンターワールドをプレイしていくデスよ! ちなみに、ワールド本編の方は手慣らし代わりにやってあるので、追加コンテンツのアイスボーンからのプレイになるデス!』

「でも、本編を通して分かったのは、二人ともモンハン初心者だから絶妙に下手で、これじゃあ実況に差し支えると思ったから、特別ゲストという名のリア友を二人連れてきました。自己紹介お願いしてもいいですか?」

 

 二人に声をかけると、オーケー、と響さんの結構軽い声と、ん。とクリス先輩のちょっと緊張している感じの声が聞こえてきた。

 あんまり緊張しなくても大丈夫ですよとは言っておいたけど、そうともいかないみたい。

 ちなみにだけど、二人の進行度はアイスボーンの中盤かそこらまで進んでいる感じで、防具と武器はわたし達の進行度に合わせて変えてくれるという采配を取ってくれるみたい。面倒ならガチ装備でもとは言っておいたんだけど、それじゃあ詰まらない映像になるからって、わざわざ付き合ってくれた。

 本当に感謝してます。今度広告収入でご飯を奢ってあげようかな。

 

『えっと、もういいのかな? 二人の先輩してます、立……じゃなかった! ビッキーです! ……その、ちょっとだけピー音お願いね?』

「分かってますよ」

『ったく、この馬鹿は……アタシはパイセンだ』

 

 とは言うものの、二人のキャラ名は結構違う。

 響先輩のキャラは、実は未来さんのキャラと共有しているらしく、名前は未来さんが決めて、外見は響さんが決めた結果、名前はFutureになってる。で、クリス先輩のキャラの名前だけど、こっちはシンプルにBULLET。筋骨隆々のオッサンキャラです。

 あと、名前の方はしっかりとピー音被せるし、失言してもしっかりとピー音被せるから特に問題はなし。エルフナインが。

 

「それじゃあ、ストーリーを進めよっか。一応、既にわたしのデータはアイスボーンのオープニングは終わってるから、イガちゃんのデータでオープニングを見る感じだね」

『それで、あたしの調査クエストに三人が参加してもらって……みたいな感じで進めていくデス』

「だから、わたしの視点でのオープニングと最初のモンスターとの会合はありません。期待してくれた方はごめんなさい」

『クエストが終わったら、一回ごとに視点は交代でやっていくデス。任務クエストに行って、ムービーを見たら他三人が参加して、みたいな感じで進めていくデスよ。あたしとシュルちゃんは同時にムービーを見るので、多分一番最後に参戦する形になるデスね』

 

 それができるのはワールド本編で確認済みだからね。

 探索やクエストに行って、ムービー見て、終わったら先輩達が合流。わたしと切ちゃんの内片方はムービーが終わり次第クエストリタイアして、もう片方のクエストに参加して、みたいな。

 と、いう事で最初の視点は切ちゃん。でも、録画ミスが怖いからわたしの方でも録画しておく。常に二人が録画し続ける感じだね。

 で、オープニングも終わったから、切ちゃんが探索へ。

 

『……ローディング長いデスよねぇ』

「HDDをSSDに変えたら早くなるらしいよ?」

『けど、プレステ本体に手を加えるのってちょっと度胸要るよね』

『気持ちはわかる』

 

 で、ローディングが終わってから切ちゃんの実況がスタート。

 最初はレイギエナの痕跡探しだっけ。受付嬢が中々進まなくってちょっとイライラした。けど、レイギエナの痕跡を見つけてからは話はパパパッと進んで、オープニングムービーに。

 

『うわー、レイギエナの大軍デスね。しかも何か飛んでるデス。あれ、クシャルダオラデスかね?』

「イヴェルカーナじゃない? 色合いはクシャに似てたけど」

『まぁ、ネタバレするとイヴェルカーナだよ』

『特に意味のないネタバレだけどな』

 

 で、そこから話がトントン拍子で進んで、渡りの凍て地へ。で、翼竜に乗ってたら落とされて、探索がスタート。それから暫くしてブランドトス戦へ。

 そこでようやくわたし達も参加可能になる。

 参加申請して、ご飯食べて、アイテムも補充して……よし、準備完了!

 

「あ、わたしの武器は双剣です。イガちゃんは太刀で、ビッキーさんはスラッシュアックス。パイセンは弓でしたっけ」

『合ってるぞ。あんだけ苦労して掘ったガイラ弓全種に、ドラケン装備も今やゴミ同然……辛いもんだな……』

『十二時間耐久ガイラ武器掘りマラソンとか、二人で野良を入れてドキドキ誰がエクリプスメテオで落ちるでしょう大会を数時間したもんね……あれは辛かった……』

 

 が、ガイラ掘り? よく分からないけど、十二時間は流石に作業を通り越して苦行にしかならないような。

 放置できるならまだしも、できないゲームだから相当辛いと思うんだけど……

 とか思ってる間に準備完了。切ちゃんが頑張ってるフィールドへ。一分ちょっとのローディングを挟んでから受付嬢のテンプレセリフを聞いて、支給品を貰ってから切ちゃんの元へ。

 で、切ちゃんが悲鳴を上げながらブランドトスと決闘している中にわたし達乱入。

 

「えっと、強走薬飲んで……」

『鬼人薬グレート、硬化薬グレート、粉塵二種と種二種齧って、ついでに減ってるイガちゃんの分も応急薬グレート飲んでっと』

『一瞬でエグイ量のバフが付いたんデスけど』

『ほい、傷つけた。もっかい傷つけた。更に傷つけた』

「どうしてパイセンはそんなにクラッチクロー決めれるの……?」

『転身』

「なるほど……」

 

 ちなみに、わたしも切ちゃんも転身の装衣は持っていません。若干マゾ仕様なのは認めます。

 で、わたしは乱舞だったり突撃回転切りだったりでチクチクとダメージを与えていく。とかなんとかしていたら、響さんがブランドトスの上に乗ってスラッシュアックスを突き刺して爆破。更にもう一回突き刺して爆破。またまた突き刺して爆破と好き放題やっている。

 何アレ楽しそう。

 

『あぁ、転身零距離解放突きが気持ち良い……』

『偶にアタシもスラアクやるけど気持ちいいよな。すっげぇ分かる』

「乱舞も気持ちいいですけど……爆発するのホント気持ちよさそうですよね」

『た、太刀の抜刀鬼人切りも決まるとすっごく気持ちいいデスよ……えっと、ここの部分の素材を後で切り取って視聴者プレゼントに……』

「イガちゃん?」

『そんな事考えてないデス』

 

 前の配信で変に切り取って加工したセリフの配布を止めた事はあったけど、あの時も視聴者の人はみんな欲しかったらしいけど……でも、こういうのは流石に駄目だと思います。

 とか思っている間にクリス先輩が思いっきりクラッチクローで敵を傷つけて、響さんは延々と剣で斬って斧で叩いて剣を突き刺して爆破している。切ちゃんも、クリス先輩と響さんがヘイトを稼いでいるから、楽しそうに納刀鬼人切りとか兜割を叩きこんでいる。

 わたしも乱舞やりまくって本当に楽しい。けど、多分先輩達の方が与えたダメージは多いと思う。

 

『ブランドトス捕獲する?』

『闘技場でやる程、こいつらの素材って重要か? いや、したいんならするけど』

『それじゃあお願いしてもいいデスか?』

『はいはーい』

 

 ブランドトスは切ちゃんのデータで捕獲する事に。

 一応、わたしがシビレ罠とか持ってるし、落とし穴も持ってるから、どんな状況でも捕獲はできるとは思うけど。

 ……ん? あ、視界の端に別のモンスターが。

 

『あぁ、あとイガちゃん。横注意な』

『へ?』

 

 なんでか知らないけど別のモンスター……えっと、バフバロだったかな? が切ちゃんにロックオンして切ちゃんに向かって雪玉か岩か分からないけど、それを転がしながら突っ込んできた。

 わたしは回避距離と回避性能を付けてあるから、何回もステップを繰り返して退避。響さんとクリス先輩はすぐに既に退避していてバフバロの突進範囲からは逃げ出してくれている。で、切ちゃんは取り残されたまま。

 結果、イガちゃんが被害を被る羽目に。

 

『ファッ!? ちょまあああああああああ!!?』

『うわっ、体力九割消し飛んでる』

『おもしれ』

『ちょっ、しかもピヨって……ぎゃふん!!?』

 

 バフバロ突進、気絶、そのままブランドトスの追撃でそのまま切ちゃんの体力が十割消し飛んだ。

 もし秘薬が広域化の効果を伴えるんなら、切ちゃんは助かったかもしれないけど、響さんの回復は間に合わず切ちゃんはそのまま一乙。

 で、切ちゃんの体力が消し飛んでからわたしがこやし玉をバフバロに。で、バフバロがどっかに行った辺りで響さんがシビレ罠を使って拘束。それから麻酔玉でクリス先輩がブランドトスを捕獲した。

 切ちゃんはその後の二十秒で間に合わず、クエストクリア。残念ながら切ちゃんの画面は一乙までの華麗な流れが一番の面白い部分になった。

 

『すっごいくだらない死に方しちまったデスよ……多分、詰まらない部分はカットされてるので、あたしが落ちた所はカットデスね!』

「残念だけど、あれが一番面白かった部分だから、カット無しだよ」

『なんでデスか!』

 

 ――この後、エルフナインに収録してもらった動画を見たら、切ちゃんの死にざまは面白おかしく編集されてたよ。字幕とか画面のエフェクトとか、他にも色んな素材でかなり面白くね――

 これでブランドトスのクエストは終わったから、どうやら渡りの凍て地に新しい拠点を作ったらしくって、新しい拠点の名前とかアレコレとかでストーリーが少し進んでから、また調査に向かう事に。

 で、その先で出てきたモンスターは、さっき切ちゃんを一回落としたモンスターのバフバロ。

 今回はわたしが暫く逃げ回って、三人の合流を待つ事に。で、数分後に三人が合流。戦闘開始の流れになった。

 

『バフバロなぁ。これから先のモンスターを考えるとめっちゃ弱いんだよなぁ』

「えっ、さっきから近づけないくらいに攻撃してきて辛いんですけど……」

『正直、バフバロのウン倍は理不尽な攻撃してくるモンスターが沢山出てくるから、慣れたと言うかなんというか……特にアレとかアレとかアレとか……』

 

 そのアレの中身が気になるんですけど。

 なんて話してたら、わたし達めっちゃダメージくらう。ちょ、やばいやばい!

 

「か、回復が間に合わない……!!」

『ほいほーい』

「何もしなくても回復していく……」

『やっぱ後で転身取りに行くか。あと、体力の装衣持った方がいいと思うぞ? 初心者なら結構ありがたいくらいには体力上がるからな』

『ちょっ、バフバロがなんか木を持ってこっちにあんぎゃああああああ!!?』

「はいイガちゃん一落ち」

『お前はサラッと避けてる辺り、単純にPSの問題くせーな』

 

 だって双剣っていざという時はステップ連打で避けれるんだもん。スタミナが恐ろしい勢いで消えていくけどね。でも、アレと回避性能のおかげで結構避けれるから案外バフバロの突進も見てから回避が余裕。

 切ちゃん? 切ちゃんはほら……脳筋だし、抜刀術攻撃無属性強化とかいう攻撃ガン振りスキル構成で頭に透かしてばっかりだから……

 とか言っている間に切ちゃんは戻ってきて太刀をぶんぶんし始めた。わたしもクラッチクローで張り付いて傷を付けながら、段差を見つけたら回転斬りで一気に頭から尻尾へ。ほんと、これがあるから双剣をやってるようなものだよ、うん。禁月輪ってね。

 

「まぁ、流石にイガちゃんも二落ちはしないだろうし、これは勝ったも同然――」

 

 その瞬間、切ちゃんが突撃をくらってから気絶して、回復薬を響さんが飲む前に攻撃をもらって無事二落ちした。

 ……その。

 

「……真面目にやろう?」

『やってるデスよ!!』

 

 この後バフバロを響さんのスラアクが消し飛ばしましたとさ。

 

 

****

 

 

 その後も動画の撮影は続けて、一応バフバロが終わってからは二本目という体で動画の撮影。バフバロの次に出てくるトビカガチ亜種を倒したところで装備作成タイム。わたしがトビカガチ亜種の防具を作って、切ちゃんはフリークエストに出ていたトビカガチの太刀を作成。防具は後回しにするとの事で、そこら辺の撮影も終わったところでその日の撮影は打ち切った。

 で、響さん達にはまた後日、実況に付き合ってもらうという事にして、とある日に二人と一緒にご飯を食べに行った。

 もちろん、これからもお世話になるし、この前もお世話になったから、出演料としてご飯を奢るという名目で。

 

「ほんとに奢ってもらっちゃっていいの? 流石に後輩から奢ってもらうのはなんだか……」

「出演料デスから気にしなくても大丈夫デスよ。ここでのお金も、全部広告収入で出たお金を使ってますし」

「わたし達、実は小金持ちなんですよ」

「まぁ、奢ってもらえるってんなら奢ってもらうか」

 

 わたし達がSONGの装者として稼いだお金には一切手を付けてないし、こっちはお金を稼いでいるのに、二人に何の報酬も無いのは流石にどうかと思ったから、これはわたし達の気持ちの問題でもある。

 クリス先輩はそれが分かってるみたいで、響さんを強制的に黙らせてから、メニューを見始めた。

 ちょっとお高いお店だけど、三分の二に分けた広告収入で全然払える域の料金だからね。エルフナインに渡す広告収入に手を付けなくても全然余裕。毎日動画投稿して、それが数万再生とかされると、一日の稼ぎは別としても、全体的に見れば結構なお金が入るんだよね。

 だから、ちょっとお高いお店のお高いメニューを四人分なんて案外余裕なのでした。

 昔のわたしが見たら卒倒するかもね。

 

「しっかし、二人とも結構人気だよね。チャンネル見てみたけど、登録者も再生数も結構いってるし」

「女子の実況ってのが男を引き付けてるのか、単純にお前の屑運がお笑いを誘ってるのか」

「く、屑運じゃないデス……とは言い切れないのが……!!」

「蒸気機関のスロットを、自然燃料を全部溶かすまで当てられなかったのは流石にギャグだったよね」

「この後大丈夫か? 防具作りに天鱗使うのに、出せるのか?」

「まぁ、最悪の場合はわたし達で金枠調査クエスト貼ればなんとかなるよ」

「手厚い介護が暖かいデス……」

 

 なんて、ちょっとお高い店で華の女子高生が話すにしては、ちょっと違う気がする会話をしながら、わたし達は広告収入でご飯を食べるのでした。

 さて、今日の献立は何にしようかな。




絶対に切ちゃんが落ちるから介護用装備で来ようと決意したビッキーと、クラッチクローの鬼のクリスちゃんも混ざってのきりしらアイスボーン実況でした。ちなみに四人が使ってる武器は自分が使える、もしくは使っていた武器です。

天上天下天地無双刀作りたいけど天下無双刀のためのレウスコインが取れない私です、はい。蒼レウスはゲームから削除されろ。

で、XV十一話ですけど……はい神回。今回も神回。
不死鳥のフランメ流すとかそんなん神回認定するしかないだろ!!? しかもCM!! 割とマジで可愛いッ!! 可愛すぎるッ!! って叫んでしまっただろうが!!
いきなりぶっ飛ばしましたが……いやぁ、これ、あと二話でしっかりと終わるのかってレベルで話の風呂敷が。あと出てくるネタの元が古い! ゲッターにセーラームーンにキン肉マンって! あとビッキーのぶっ飛び方がカッコ良すぎてクリスちゃんの言葉に全面的に同意しました。
最後は本部が! ってなりましたけど、エルフナインちゃんが席から立っていた時点で、キャロル化して動いてんやろなぁとか、司令が脱出を則していない時点で何かしらの策があるんやろうなぁとか、忍者も居るしなぁとか。本部がアラート鳴らしてるのに全く心配にならないアニメとか早々ないよなぁとか思いました。

で、今回で不死鳥のフランメが流れましたけど……あと二話で後何曲新曲を出す気なのでしょうか。四巻時点でCutting Edge×2 Ready Go! が収録されて、今回で新曲無し。で、円盤特典は五、六巻はCD……ノーブルレッド楽曲、新六人合唱曲、ひびクリユニゾン、ひびみくユニゾンって考えたらピッタリですけど、そんな訳もないでしょうし……片方はサントラだとしても、確実に一話ずつ新曲が来るパターン!
さぁ、来週も命燃やして視聴するぜ!!

……っていうか、これ最終話でしっかりと終わるの……? ひびクリVSヴァネッサ(ひびクリユニゾン?)、響VSシェムハ(キミだけに)、装者VSシェムハ(新六人合唱or六花繚乱)、エピローグが少なくとも待っているわけで……えっ、マジでこれ終わる? 続きは劇場版! とか来そうな気がしてならないんだけど。これ二クールアニメだっけ? 自分の記憶違いですかね?


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月読調の華麗なるVRバトル

今回はVRファンタジー時空の続きです。まぁ、PvMがあるんなら、PvPもあるよねって事で、今回はPvPの様子となります。

結局フルダイブ系のVRゲームってリアルでの動きがチートな人ほどゲーム内での動きもヤバすぎて無双するイメージがあるので、今回は装者ことリアルで死線を何度も潜り抜けて世界を救ってきたチート集団によるスペックだけは高い一般人の虐殺回となります。


 わたし達がやっているVRゲーム。ファンタジー世界を題材にしたゲームは、何もモンスター戦だけが華という訳じゃない。

 こういうゲームには、対人戦というのも付きもの……なんだと思う。だから、結構な割合でこのゲームでは公式がPvP大会なんて物を開く。勝てば賞金とか、激レアアイテムとか、時にはギルドハウスなんて物も商品となったりする。

 この時点でお察しだと思うけど、わたし達のギルド、SONGがここまで有名になったのはこの大会で何度も優勝をもぎ取っているからだったりする。ギルドハウスも商品だし、賞金とアイテムのお陰で戦力は水増しされていく。それで更に優勝をして、といい循環を果たした結果、いつの間にか有名になってました。

 まぁ、前に言った有名になった理由の一番って言うのが、絶対にこれ。廃人プレイヤーとかを差し置いてわたし達SONGが毎度毎度優勝していくからね。

 レベル差もスキルの強さの差も途轍もないんだけど、所詮は戦闘素人集団の大雑把な威力重視の攻撃。このゲームは確かに素早さの値も弄れるけど、リアルが関わっているからかあくまでも人間が見て認識して対処できる限界レベルでの速さまでしか上げる事ができない。

 そんな、一般人の限界程度、わたし達はとっくに突破しているからか……相手の攻撃、全部当たらないんだよね。

 しかも、中途半端にリアルの事をできちゃうせいか、響さんと翼さんの装者内人間辞めました部門優勝候補の二人が全部殺っちゃうというか。心臓とか頭とか吹き飛ばせばどんなキャラも即死するし、範囲攻撃は溜めが長いから、二人が速攻を仕掛けて範囲攻撃を仕掛ける魔法使いを一瞬で祀り上げるから、もう手の打ちようがないと言うか。

 そんな事は置いておくとして。今日は件のPvP大会の日。

 イベントステージには様々なプレイヤーが集まっている。あと、ここだとミュートが強制解除される仕様だからか、結構うるさい。運営がズルされないようにミュートを解除する仕様にしたらしいけど、これどうなんだろう。ズルとか元からできないと思うけど。

 

「いやー、今回も賑わってるね~」

「今回の参加者も軒並み高レベル揃いね……くたびれそう」

「でも、今回は商品が激レアのガントレットだしな。馬鹿が強化されりゃこっちも楽になるし、適当に頑張るか」

「ちょっ、イチイちゃん! 適当じゃなくて本気で頑張ろう!?」

「はいはい」

 

 今回の参加メンバーは、七人フルメンバー……と、言いたいんだけど、実はこの大会、一度の試合に出れるのは各ギルドから五人ずつ。だから、七人の内二人は見学をしなきゃいけない。ナインは本人が笑顔で見学を申し出るから何を言おうと七人。

 で、メンバーなんだけど、実はわたしか未来さんは固定。わたしもスキル構成次第では回復ができるし、未来さんも補助特化だから、どうしても高レベル相手だと必須になる。掠っただけで致命傷だからね。

 残りの三枠、ないしは四枠が前衛組&イチイ先輩になる。

 予め出場メンバーを提出してから対戦相手が決まるから、後出しは無理。という事で大抵は前日にじゃんけんで決める事になる。

 出場チームが多いから、それぞれのブロックに分かれてそのブロック優勝者で更に四つのブロックに分かれてトーナメント方式のバトル。最後にその四つのブロックの優勝者で戦いあって、勝利数が一番多い所が勝ちの総当たり戦がここのルール。

 で、優勝者は特別に大量のブロックの中のどれか一つにシード枠で配置されて、そのブロックの優勝者と戦う。だから、他の人よりも戦闘数は少なくすることができたり。

 

「あっ、始まったみたいね」

「うわぁ、相変わらずみんな、戦闘が派手だね」

「ネットを見たらわたし達みたいなのが異端って言われてたよ」

 

 と、ガンさんが苦笑。

 このゲーム、いくら急所を吹き飛ばせば倒せるとは言っても、所詮素人の剣の振り方なんてアレだから、武道経験者が前に出て無双する……ってなる筈なんだけど、それをねじ伏せる高火力で素早いモーションのスキルをぶつければゴリ押せるから、腕の差を出さないために派手な技の応酬になりがちなんだよね。

 それすらねじ伏せて実力でボコるわたし達が異端なのを忘れてはいけない。多分風鳴司令と緒川さんがこのゲームに混ざったらゲームバランスが崩壊する。

 

「しかし、エフェクトばかりで目が痛いな……どうにかならんのか」

「それがこのゲームの売りよ、ハバキリ」

 

 エフェクトに関しては……まぁ、ホントにこれがこのゲームの売りだから。派手なエフェクトと派手な技で派手に楽しむのがこのゲームだから。実力でねじ伏せれるわたし達が異端なだけだから。

 何度もわたし達の使ってるスキルにナーフ入ってるけど、それを気にせず戦えているわたし達が異端なだけだから。

 最近ゲームの公式Twitterで開発者らしき人の愚痴があったから。リアルチートはどうにもできませんって泣きごと書いてあったから。個人のアバターをナーフしないと無理って書いてあったから。

 ……別にしてもいいんだよ? その分だけリアルで力を付けて蹴散らすだけだから。

 順序が逆というか、やってる事が逆? ………………細かい事はいいんだよ!

 

「おっ、あたし達の出番みたいデスよ」

「ホントだ。えっと、最初は誰だっけ?」

「えっと、わたし、ハバキリさん、ラームさん、シュルちゃん、シェンの五人だよね?」

「よし。掻っ捌いてくるか」

「ハバキリとガンを押し出せておけば無問題ね。私は二人の援護に回るわ」

 

 相手のレベルは現状ではトップレベル。対してわたし達はその四分の三はあったらいい方……なのかな?

 レベルだけ見れば無謀な戦い。でも、既にわたし達は相手のレベルの五分の一程度のレベルで下克上を叩きつけ続けて勝ち続けているから何も心配いらない。

 ちなみに今回のわたしのスキル構成と武器は、槍をメイン武器にして、回復魔法を使えるようにした中距離と援護に偏ったスキル構成。白魔法使いとか黒魔法使いとかよりも、こっちの方が自衛できるんだよね。シェンさんも守れるし。

 

「アタシ達は留守番か。負けんじゃねーぞ?」

「今回も優勝して連勝記録を上塗りデス!」

 

 イチイ先輩とイガちゃんの声援を背に、イベントエリアにある転送装置の上に立つ……んだけど、立つ前から色々と声が聞こえてくる。

 

『アレがSONGのギルドメンバーか? 装備もレベルも言っちゃなんだが……』

『お前、大会を見た事無いのか? あのメンバーはアレで優勝を重ねてるんだぞ』

『俺もあのギルドに入りたくていつも申請送ってんだけど蹴られるんだよなぁ……全員女の子みたいだし』

『は? お前レベルもカンスト手前で装備も一級品なのにか? どんな姫プレイを所存なんだよ』

『いや……あそこ、身内団だぞ? 蹴られて当然だろ』

『あんだけ優勝しといて身内団? ぜってぇちげぇって。貢いでる奴がいるって』

『いや、メンバーは八人で身内以外不可って詳細に書いてあるだろ。確かに入りたい気持ちはあるけどよぉ……』

『分かる。女の子八人に囲まれてこう、いつかオフ会とかでな?』

『お前何あそこのメンバーが美少女って前提で話してんだよ』

『声が既に美少女』

『ばっかお前、そういうのに限ってリアルの方は』

『っていうかもう一人はどこだよ』

『時々いんだろ。多分内職専門だって』

 

 ……あれ、殺してきていいかな? 流石に好き勝手言われ過ぎて……

 

「どうどう。落ち着け」

「まぁ、ゲームやってる女の子なんてそんな評価になるのが当然だから、ね?」

 

 わたしは美少女とは言えないだろうけど、他のみんなは間違いなく美少女だよ。大きな欠点はあるけど、間違いなく美少女集団だよ。

 ……とは言えないのが悲しい所。顔隠して声だけ晒しているからね。何言われても仕方ないから我慢我慢。

 けど、下心有りの男を入れる気にはなりません。帰った帰った。

 

「まぁ、いつも通り私達の力は結果で示そう。転移が始まるぞ」

 

 ハバキリさんの声に頷いて、転移の光に一度目を閉じる。

 そして目を開ければ、そこは闘技場みたいなフィールド。対面には相手のチームが。

 

「アレが今まで何度も優勝してるギルドか?」

「前情報通りレベルも防具も武器も低レベルだな……」

「まぁゴリ押しでなんとかなるだろ」

 

 そう言う相手は全員、防具もレベルも最上級。けど、首を落とせば関係ない。

 

「フゥ……ハァァ!!」

「幾許の屍山血河を越えし防人が剣……!」

 

 ガンさんが一歩踏み込み、拳を握って姿勢を低く構える。そしてハバキリさんも刀を抜いて腰を落として構える。

 構えから達人の雰囲気を感じつつ、ラームも短剣を取り出して構えて、わたしも槍を振り回してから何となくで構える。そしてシェンさんが杖を構えていつでも魔法を発動できるようにして、相手側もそれぞれ武器を構えて戦闘態勢を整えた所で、フィールド中央に数字が浮かんで、カウントダウンが始まる。

 五、四、三……とカウントが始まって、相手が速攻を仕掛けてこっちをステータスの差で押しつぶそうとしているのを理解してから、わたしとシェンさんはバックステップ。わたしがそこでもう一度構え、シェンさんが全力で後ろに向かって走り始める。

 わたしが囮となってシェンさんを守る陣形。それを組んだ瞬間、相手がそれを理解したけど、戦闘開始のブザーが鳴る。

 

「八方極めし大撃槍、いざ参るッ!!」

「いざ行かんッ!!」

 

 気づいた所でもう遅い。

 二人がフライング防止の見えない壁が消えた瞬間に踏み込んで、そのまま相手の陣地へと躍り出る。それに続いてラームが走り、わたしは槍を回して回復魔法の準備。シェンさんは念のために強化魔法を唱える。

 

「速っ!?」

「大丈夫だ! レベルも装備もこっちが上だから、ゴリ押しで」

「その程度の壁、撃ち貫く!!」

「そっ首、掻っ捌く!!」

 

 作戦会議なんて先に済ませて、混乱を先に消しておくべきだったね。

 ガンさんの一撃がリーダーらしき人の顔面に直撃。その人の顔面に当てた拳を支点にしてグルっと回転し、ガンさんが上を飛んで、その後ろから迫っていたハバキリさんの剣が鎧の隙間を縫って首を刺突で一撃。そのまま鎧の隙間を刃を通して掻っ捌き、そのまま絶命させた。

 これがあるからこのゲーム、クソゲーだと思うんだよね。モンスター戦だとHP削るまでどうにもできないのに、PvPだと人間の急所でダメージが即死レベルに跳ね上がる。

 

「ど、どうなってんだよこいつらの身体能力!」

「チートだろ!!」

「悪いけど、私達はいつもこうよ! チートを疑うのなら過去の動画でも漁ってきなさい!」

 

 そしてラームが二人の合間を縫って暗殺を仕掛けて無事成功。普段からみんなの後詰とかを担当してくれるラームだからこそ、こういう時に相手の裏を取る事ができる。

 というか、前衛二人のヘイトの稼ぎ方が異常過ぎて、裏取りがしやすいというか。

 これで後衛が倒れたから二人目。

 

「このっ! 瞬迅剣ッ!」

 

 で、相手がスキルを使ってきたら……

 

「見える!」

「はぁ!? 避けた!!?」

「そしてリカバーが遅い! 仕留める!!」

 

 例えどんなに相手のスキルが速くて、当てるだけなら苦労しないとか言われるスキルを使われようと関係なく避けて、そのまま攻撃に移る。

 特にガンさんは拳が武器だからか、結構エグイ連撃を入れる。

 腹パンしてから頭を持って、顔面に膝、そのまま首を抱えてドラゴンスクリュー。そのままゴキッと相手の首が折れて無事退場。うっわ、ゲームだからって流石にえぐっ。これで三人目。

 

「バケモノかよ!?」

「防人だ! 魔神剣ッ!」

「そんな初期スキル!」

「ただの目くらましだ! 去ねぃッ!!」

 

 そしてハバキリさんが初期スキルに遠距離攻撃技で相手の意識をそっちに向けてから、一瞬で側面に回り込んでわざと声を出して相手を振り向かせる。振り向いた所に刀を額にザクっと刺して終了。無事即死で四人目。

 

「ラームさん! 最後に合体技いきますよ!」

「あ、あれをするの!? ……分かったわ、やってやろうじゃない!」

「このっ、いくら何でもこんなの!!」

「駄目押しのアグリゲットシャープぅ」

 

 相手が最もな事を言った所で、シェンさんからの気迫の無い魔法発動の声が。

 そして、後はいたぶるだけになった相手にガンさんとラームが仕掛ける。

 

「ぶっ飛ばす! 烈破掌ッ!」

 

 ガンさんが相手の攻撃をすり抜けて下から掌打。相手を空に浮かして、相手が落ちてくる前に二人が跳躍して相手を挟む。そしてそのまま頭と足を抱えて、なんかよく分からない動きをして。

 

「普段危険だからできない技その幾つか!」

雷我弐不乱遁爆弾(ライガーツープラトンボム)ッ!!』

 

 うっわぁ。

 なんかこう、上下でエビぞりにされてガッチリとロックされてるんだけど。あれリアルでやったら相手の背骨がバッキバキになって死ぬよね? というか背骨以外にも胸骨とかも砕けて死ぬよね? 内臓破裂して死ぬよね? というか下手すりゃ上下で真っ二つだよね?

 ……あれを使う無慈悲さがガンさんになくてよかった……あれくらってたら流石にグロ映像をまき散らしてたから……

 

「おっ、じゃあ着地点に刀を置いておこうか。防人からのサービスだ」

 

 そしてそっとハバキリさんの余計な一手間。落下地点にハバキリさんの予備の刀がそっと置かれた。ちゃんと切っ先が天辺を向く形で。

 ちなみにお相手さんはステータスの差でなんとか抜け出そうとしてるけど、ガッチリと極まっているのか手も足も動けない様子。南無。

 

『どっせい!!』

「ぐえーっ!!?」

 

 そして哀れ。相手の人はそのまま腹に刀が刺さって、ついでに色んな所の骨が折れて無事死亡。わたし、出る幕あらず。

 なんまいだー。

 

「ウィーっ! ラームさん、ウィーっ!!」

「恥ずかしいからやめなさい……!」

 

 そして謎のテンションのガンさんとラームが一応のハイタッチをした所でリザルトが。

 勿論わたし達の勝利。すぐに転移が始まってわたし達は元のステージに戻された……んだけど。

 

『……見ろよ、あんな可愛い顔してあんな技を決めて相手を惨殺したんだぜ?』

『こわ……近寄らんとこ……』

『掲示板で悪鬼羅刹の擬人化とか言われてるぞ。ええんかこれ?』

『妥当だろ』

『ただの殺戮現場だったんだが……』

『女の子じゃなくてゴリラの集まりだろ。ゴリラ・ゴリラ・ゴリラだろ』

『いつもの』

『知ってた』

『お待たせ』

『うわ出た』

『親の虐殺より見た虐殺』

『もっと親の虐殺見ろ』

『親の虐殺ってなんなんですかねぇ……』

 

 まぁ、うん。会場の空気が死んでるね。

 一部、わたし達の試合を何度も見ている人は頷いて、まぁそうなるよね、みたいな事を言っているけど、初めて見た人はあまりの残忍っぷりにドン引きしている。

 ちょっと待って、ゴリラはガンさんだけだし、悪鬼羅刹はハバキリさんだけなんだから、わたしとシェンさんだけは省いてよ。後ろの方でニコニコしているアイドルとかでも言ってよ。じゃないとわたしまで妖怪の類みたいになるじゃん。

 いや、確かに一人であの五人ぶっ殺す程度できるけどさ。ミカとかプレラーティとか、ああいうのと比べればあんなの雑魚同然だし。

 

「いやー、いつも通りひでー言われようだな」

「実際ガンさんのアレは傍目で見るとやべーデス」

「ついつい調子に乗っちゃってね? 普段はやったら殺しちゃうからさ」

「サラッとそういう技を習得してるあなたがやべーって言ってるのよ」

 

 まぁ、大体こんな感じです。

 と、いう事で。あとはダイジェスト。

 

 

****

 

 

「アタシ様の矢を避けたきゃ全身鉄で覆う事だなァ!!」

「死ぬデスよぉ! あたしの姿を見たやつは、みんな死んじまうデスよぉ!!」

「陸奥圓明流もどき! 雷!!」

「例え全身鎧だろうと、掻っ捌く!!」

「悪鬼羅刹に混ざって好き勝手やらせてもらうわ!!」

 

 ……まぁ、こんな感じで酷い虐殺が起こりました。

 だって、ねぇ。所詮速いだけの素人剣術なんて、剣筋が読めるから回避なんて楽勝だし、そもそもそれ以上に速い攻撃をわたし達はライフで受けてるわけだし。そう思うと所詮速くて重いだけの素人剣術なんて当たらなければどうってことは無いんだよね。

 でも、時折腕とかに当たって一撃で体力消し飛んだりするけど。ステータスの差のせいで掠るだけで死ねるんだよね。まぁ、体力が少しでも残っていれば、わたしが全部回復できるから良いんだけど。

 そんなオワタ式でも決勝戦まで無事に残る事はできて……

 

「これで終わり! 翔破裂光閃っ!」

 

 最後は相手がわたしとシェンさんから倒そうとしてきたから、わたしが一撃を叩き込んで無事終了。確かにシェンさんは戦闘訓練をしてないから、手を出されたら負けちゃうけど、わたしなら使い慣れていない得物でも素人程度ならなんとかできる。

 と、いう事で今回も無事優勝。いえーい、ってみんなでハイタッチすると、目の前にウィンドウが現れて賞金と優勝賞品が無事譲渡された。

 今回の優勝賞品は、確かガントレットだっけ。

 

「やったー! ようやくわたしもトップ層の武器デビューだ!」

「ラームとイガちゃん、それからシェンさんに続いて四人目かな?」

「シュルちゃんの槍もデスよね?」

「あっ、そうだった」

 

 こうやって貰える武器は、基本的にどこかでドロップする武器なんだけど、色々と手心が加えてあるんだよね。それこそ凄い量の強化がされていたり、名前と外見は最序盤でゲットできるのに、内部データだけエラい事になっていたり、なんか専用技が撃てたり、先行実装だったり、えげつない程ドロップ率が低い武器だったり。

 そんな物の一種をゲットできたからかガンさん大喜び。

 勝利の余韻をそうやって噛みしめている内に、どうやら退場時間になったらしく、わたし達はバトルフィールドから強制的に転送されて、会場の方へと戻された。

 

『やっぱやべーな、SONGの連中は』

『なんであの装備で勝てるのか。コレガワカラナイ』

『俺、もっかい入団申請してみようかな……』

『だから入れねぇっての。あれ身内団だって何度言ったら分かんだよ。スレにも書かれてんだろ』

『ちなみに、何であんだけ強いのか分かる奴いる?』

『一応柔道やった事ある身から言うと、ガングニールってやつの動きはリアルでもギリギリできそうなレベル。でも頭おかしい身体能力と動体視力が必要だから無理ポ』

『流石にあのレベル差だと相手の攻撃とかほぼ見えないレベルだと思うんだけどな……俺、剣道やってたけど、流石にあそこまで完璧に見切るのとか無理だったぞ。ってか無理』

『って事はあいつら、リアルでアレとほぼ同じ動きができるって事になるぞ?』

『若者の人間離れか……』

『最近の女の子ってこわっ……』

 

 まーた好き勝手言われてるよ。

 でも、最後の方の言葉って大体その通りなんだよね……わたしの槍含めて、全員がこのゲームと謙遜無い動きで斬るし、リアルでも再現できるし。

 それに、ガンさんとハバキリさんの動体視力って割とバケモノ越えてる部分あるし、一番近接職に向いていないイチイ先輩ですら弾丸を歯で噛んで止める事すら可能だからね。まぁ、それはシンフォギアありきの話で、生身でやったら歯が砕けるからできないけど。

 つまり、全員それが最低限のレベル。わたし達の被弾って、不意を突かれたり、弾丸以上の速さで物が飛んできたり、高速範囲攻撃でぶっ飛ばされたり、力づくでぶっ飛ばされたりがほとんどだから……

 よく考えたら、わたし達そんなヤバイのを相手にし続けてよく生き残れてきたね。シンフォギアのバリアフィールド様様だよ。なかったら何回死んでるやら。多分三桁届くレベルで死んでると思う。

 んでもって大会が終わると始まるのが、身内団と言っているのにも関わらず飛んでくる入団申請の却下。これができるのは団長の響さんと副団長の翼さんだけだから、二人は既にメニューを開いて、飛んでくる入団申請を蹴りまくってる。いい加減にしてほしいかなぁ、ホント……

 

「初心者さんならまだしも、明らかに装備整ってる人は流石にもう駄目だって理解してほしいよ……毎回蹴るこっちの身にもなってほしい……」

「視界の端でずっと入団申請が来ていると鬱陶しいからな……」

 

 そこら辺の通知をオフにできるようにはなっていないみたいで、二人とも相当大変そう。

 

「うわっ、アタシ等の事、結構スレの方で言われてんぞ。ほら、これ」

 

 とかやってたらイチイ先輩がゲーム内からネットの掲示板を調べてそのままこっちに見せてきた。

 えっと……バケモノ集団とか、やべー奴らとか言われてるけど、それ以上にチート疑惑がかなり多いみたい。けど、それを否定している人もいるし、どうやら相手した人もアレはチートじゃなくてただのリアルチートって言ってる人も……

 あと、なんかハバキリさんとラームの声が翼さんとマリアに似ているとかいう言葉まであるし。マジで本人なのは否めないし、これ認めると絶対に入団申請がもっと増えるだろうから絶対にそうです、とは言えないけど。

 あっ、なんかわたし達のリアルの動きを撮った動画が出れば認められるとか書いてある。

 ……つまり、わたし達がリアルの動きを撮って動画で投稿したら、それを見る人が出てきて、再生数を稼いで広告収入でお金が……!?

 

「なんかシュルちゃんの目が$マークになっている気がするデス」

 

 き、気のせいだよ?

 

「でも、リアルの動きを一回撮って動画にしたら面白いかもな」

「やってみる? 流石にハバキリさんとラームさんは無理だけど」

「そうだな。一応、顔を出さずに銃弾斬りとかはやってもいいが……流石に顔バレすると色々と駄目そうだしな……」

「まぁ、そこら辺は後で考えましょう? ナインが新しい武器見せて、強化させてってチャットでかまちょしてきてるし」

 

 と、いう事でわたし達は一旦ギルドハウスに戻って新しい武器を改造したがっているナインに、ガンさんの新しいガントレットを渡して強化してもらうのでした。

 これでバ火力が一人増えたなぁ……

 

 

****

 

 

 で、後日。わたし達はリアルでゲーム内の動きをしてチートじゃない事を証明しつつ、広告収入でご飯食べよう! って感じの計画を立てたんだけど、流石にリアルバレするかもしれないからっていう事で、ゲーム内の光景を撮影して投稿してみようという事にした。

 第一弾は近接職によるガチタイマンの様子を撮ったんだけど、これが面白いように再生回数が伸びていった。

 そもそもこのVRゲームが最近流行り始めてるし、画期的なゲームでもあったから注目度はあったという事で、やってる人やってない人のどっちもが見てくれたり、コメントをくれたり。ただ、若者の人間離れとかお前ら人間じゃねぇとか言うのは止めてもらいたい。まだ人間だよ。司令は大分怪しいけど。

 しかも、わたし達の動きがチート染みているからか、とうとう公式にお問い合せと言うか通報が入ったらしく、中にはこいつらチート使ってるけど公式はいいの? みたいな、まずわたし達がチートを使っている事前提なお問い合わせも入ったらしくって、公式がわたし達はチートを使っていないという事を明言する事態にまで発展した。

 

「あっ。なんか運営からメールが来た。えっと……なんか次の大会から、わたし達はシード枠という名の特別枠にぶち込んで、優勝チームとだけ戦って、勝ったら賞金と商品が貰えるけど、負けたら何も無しみたいな感じになるみたいでっす」

 

 で、最終的には大会をやるとわたし達が荒らすからという事で、わたし達はシード枠にぶち込まれる事になった。ただ、このシード枠はわたし達が負けるか不参加を決め込むと、シード枠に勝った、もしくは戦う予定だったチームに譲渡される感じになるみたい。

 シード枠が勝つと、シード枠専用のアイテムが。負けるとシード枠には何も無し。優勝賞品はシード枠と戦ったチームには確実に貰えるようになるとか。

 どうやらゲームを荒らし過ぎたみたい。ごめんなさい。でも負ける方が悪いから。

 

「まぁ、別にこのゲーム楽しいからその程度は気にしないんだけどね!!」

「ゲームをしながら新たな技を身に着けれる。実にいいゲームだ」

「このゲーム、本当はリアルでできない動きをして戦いを楽しむゲームなんですけどね……装者の皆さんにはただの特訓装置にしかならないのは目に見えてましたけど……」

 

 別に対人戦が強すぎて公式から隔離されても気にしません。だってこのゲーム、普通のモンスターと戦うのも楽しいからね。

 ただ、お願いだからヨーヨーか電鋸を実装してください。わたしのメイン武器なくってどれにしようか絶賛浮気中なんです。




ギアって纏った所で動体視力とかだけは流石にどうにもならないと思うのに、クリスちゃんって弾丸を口で止めたり、ビッキーに至っては高速で飛んでくる戦車の砲弾を殴り飛ばしてたから、少なくとも銃弾並みの速度の攻撃なら反応できると判断した結果、こんな事に。まぁ、装者ならギアで動体視力もブーストされてたとしても素人じゃ攻撃当てらんねぇだろって事で。

なお未来さんだけは普通に攻撃が当たります。当たった瞬間拳構えた黄色がすっ飛んできて首を折ってきますけど。ゲーム内だし慈悲はない。

で、XV十二話……あーもうヤバすぎ。キャロル再登場で三回目のスフォルツァンド。エルフナインも歌ってくれたり……とか思ったけど、やっぱそうじゃなかった。でも満足。
にしても、思い出という問題さえなければ神にも匹敵するレベルのキャロルってやっぱり作中最強クラスの錬金術師っていう証明にもなりましたね。やっぱキャロルは強かった……
んでもって月の方はひびクリVSヴァネッサ。ユニゾンは来ませんでしたが、クリスちゃんのアマルガムの技名何て読むの? からのビッキーの絶叫聖詠。毎度毎度ビッキーの絶叫は気合が入り過ぎている……!!
その後に装者を地球に送り届けるため怪物トリオは消滅……最後は怪物としてではなく、人として行動した……という事でしょうか。七万を殺した罪は雪がれるものではありませんが、それでも人類を救うために殺した分以上に人を救おうとした……という事なのでしょうね。本人たちがそう思っていたのかは分かりませんが。

そして最後は翼さんからビッキーに手をつなぎ、アマルガムによる大気圏突入と絶唱、からの新たなエクスドライブ!!
ビッキーのエクスドライブからはサンジェルマンの装飾品が追加されてますし、巨大な翼が……! アマルガムとエクスドライブが混ざったような、炎のように揺らめくエクスドライブがカッコ良すぎる。
調ちゃんの新エクスドライブはまさかの髪がアームドギア内部に格納されていなくてビックリしました。そのせいかすっごく神々しいしボリュームが凄いように見えます。あと切ちゃんも髪の毛が伸ばされていて結構色っぽく。
ビッキーの新エクスドライブからはどことなく奏さんを感じる事ができました。奏さんとサンジェルマンの二人からガングニールとアマルガムを受け継いだビッキーの最終形態と思うとそれだけで泣けてきます。

XVも来週で最終回! 実は昨日、青信号の横断歩道渡ってたら曲がってきた車が突っ込んできて割と本気で入院を覚悟しましたが無事でしたし、多分来週のシンフォギアを見るまでは天に生かされることでしょう!!
せめてシンフォギアを見届けるまでは死なん! という事でまた来週、シンフォギアが完結した後にお会いしましょう!
それでは!!


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月読調の華麗なる撮影協力

今回はリクエストにもありました、調ちゃんがバンドリ側のアレコレに巻き込まれる話です。バンドリ側の話としては、イベントストーリーの『地底人☆お届け大作戦!』となります。

最初はバンドガールズ・オブ・ザ・デッドにしようかと思ったんですけど、ここに調ちゃんを巻き込むのは無理があると思ったので、地底人☆お届け大作戦となりました。

今回はブシドーの時とは違って、アイドル時空の調ちゃんの話となります。久しぶりにアイドル時空も書きたかったからね。

という事でどうぞ。


 今日はアイドルとしてのお仕事も無くて、切ちゃんも出掛けちゃって暇だったから彩さん達の世界に遊びに来た。

 特に理由はないけど、強いて言うなら羽沢珈琲店のコーヒーが恋しくなった……って感じかな? とりあえずコーヒー飲んで一休みして、彩さん達と会えたら会おうかな、とかそういう魂胆。

 そんなこんなでギャラルホルンを通って平行世界。相変わらず異端技術とは無縁な世界に羨ましさを感じつつ、こっちに来たら最低一回は行っている羽沢珈琲店へ。イヴさんもバイトしてるし、パスパレの皆と遭遇できる可能性も高いんだよね。

 シュルシャガナは早いうちに解除して、その足でそのまま羽沢珈琲店へ。道中すれ違うこころさんとか美咲さんに挨拶しつつ、チリンチリンという音を鳴らして羽沢珈琲店の中へ。

 

「いらっしゃいませ~。あっ、調ちゃんだ。久しぶりだね」

「久しぶりです、つぐみさん」

 

 久しぶりとは言っても大体一ヵ月ぶりくらいかな? 最近は色々とあったから来れなかったんだよね。

 つぐみさんとこのまま話したい所なんだけど、流石につぐみさんもお仕事中だから会話は手短に。クリス先輩に、アフグロのメンバーに会ったらよろしく言っておいてくれって言われたから、クリス先輩がよろしくって言ってましたと、言葉そのまましっかりと伝言を伝える。

 それじゃあ、席はどこにしようかな……

 

「あっ、そうだ。今、彩さんと千聖さんと、あと日菜先輩が来てるよ?」

「え? あ、ホントだ。イヴさんと麻弥さんは居ないんですか?」

「今日は収録みたい」

 

 さっきからずっと悩んでいるから行ってあげて、って急かされたから、話もそこまでにしてとりあえず彩さん達の所へ。どんな風に声をかけて驚かせようかなと思っていると、日菜さんがこっちにバッチリ気が付いて、ジーっと見つめてきた。

 どうしたんだろう。彩さんも千聖さんもジッとこっち見てるし……

 

『アクションできそうな知人いた!!』

「へ? ……へ?」

 

 いや、あの……彩さんに日菜さん、急に叫ぶとお店に迷惑です、よ?

 なんて言う間もなく、二人が叫んでからすぐに、わたしは両腕を掴まれてそのまま日菜さんの隣に強制的に座らされた。

 一体どういうことなのかよく分からなかったけど、そこら辺はしっかりと三人から……というか、主に千聖さんから懇切丁寧に説明される事となった。

 話を要約すると。

 

「今度、パスパレが主演の映画を撮る事になったけど、事務所がアクションシーンの適役に男性じゃなくて女の子を使いたいから、アクションできそうな知人を探してきてくれと言われて途方に暮れていた所、わたしが来たと?」

「ごめんなさい、調ちゃん。こっちの話に巻き込んじゃって……」

 

 どうやらわたしの解釈は大体合っていたらしい。

 にしても、なんて傍迷惑な事務所なんだろう……アイドルの映画だから、敵役も女の子にして全体的に華やかにしたいとかで知人を連れてこいって……

 知人が居なかった場合は、普通に男性のスタントマンを起用する予定だったらしいんだけど、知人を連れてきたらその分だけ恩恵あるよー、とか言われて、ちょっと悩んでたらしい。で、居ないのは居ないで仕方ないからそう事務所に伝えようと思った所でわたし登場。無事連行されました。

 ……いや、いいんだけどね? 暇だったし、こっちだと無名の一般人だし。

 

「……まぁ、アクションはできますよ? 多分、下手なスタントマンよりも色んな事できるとは思います」

「だよね! あの時もすっごいズバーッて戦ってたもんね!」

「それぐらいはできないと、多分三桁は死んでますから……」

 

 それに、最近は逃走中でパルクールやったせいか、肉体派アイドルとか言われるようになっちゃいましたし、バラドルの汚名がもう雪げない状態になりかけてますし……

 という闇は一旦呑み込んでおくとして。

 別に撮影に付き合うのはやぶさかではないんだけども、わたし自身に問題がある。

 わたし自身のスケジュールが、パスパレの撮影に合わせられるかどうか。ついでにわたしがこっちでの連絡手段を持っていない。

 

「でも、わたしにも一応予定はありますし……それに、装者としての任務もいつ来るか分かりませんし」

「あっ……そ、そうだよね。調ちゃんもアイドルだし、装者っていうのをやって世界を守ってるんだもんね」

「えー。あたし、調ちゃんと撮影できると思ってるんってしてたんだけどなぁ。サボれないの?」

「流石にちょっと……」

「こら、日菜ちゃん。無茶な事言わないの」

 

 こう見えても多忙なんです、わたし。

 学校にアイドルに装者。どれもこれも簡単にサボれるような物じゃないから……一応、アイドルとしての仕事を優先していて、装者としての仕事は合間の時間に詰め込んで緊急事態以外は二の次の状態。でも、最優先は学業。

 スケジュール表を見てみるけど、休めそうなのはレッスンくらいかなぁ……ここら辺は基本的に緒川さんや司令に見てもらうやつだし、二人も私情優先で大丈夫って言ってくれたけど、既に入っているお仕事だけはどうしても……それに、もしあっちで異常が発生したらこっちには暫く来られないだろうし。

 ……まぁ、でも。

 

「実は、アイドルのお仕事の方なんですけど、ライブの練習も始まるので暫くはリフレッシュしてこいって事で、結構お休みを貰ったんですよ。それに、わたしってまだラジオ以外のレギュラー番組を持ってませんから、お仕事も結構まちまちでしか入ってませんし。装者としての仕事は流石にサボれませんけど、アイドルの方のお休み中に終わるんでしたら、付き合いますよ?」

 

 わたしだって彩さん達とお仕事したいなーとは思ってたし、受けてみようかな。

 やられ役なんて早々やれる物じゃないし、いい経験にはなりそうだからね。

 

「ほんと!? 流石調ちゃん!!」

「ちょっと彩ちゃん……でも、いいの? 貴重なお休みなんでしょ?」

「いいリフレッシュになりますから」

 

 でも、学校には行くけどね。

 ちょっと忙しくなりそうだけど……まぁ、彩さんも日菜さんも嬉しそうだし、別にいいかな。

 ちなみに撮影するのは映画で、パスパレの五人が主役。なんか地底人を見つけて元居た場所に帰すためにあっちこっち奔走する話らしいんだけど、その際に地底人を確保するために来る刺客がわたしらしい。

 ……この映画のジャンル、SFになるんだ…………

 

 

****

 

 

 あの後は事務所の方に連れていかれて、わたしのスケジュールの空きと撮影のスケジュールを照らし合わせて、わたしが撮影に参加する日、リハーサルに参加する日を決めた。そのついでに、わたしがどれだけアクションできるのかをパスパレの五人と、事務所の方&撮影監督に実際に見せる事になったんだけど、そんじょそこらのスタントマンよりも遥かに動くわたしを見て、事務所の肩と監督さんは気に入ってくれたようで、無事撮影には参加する事になった。

 まぁ、借りたジャージとスニーカーでバク転とかバク宙とか、風月ノ疾双のMV撮影の時に翼さんと練習した殺陣を披露しただけなんだけどね。あとパルクール。

 ……あのMV撮影は地獄だったなぁ。本気で斬りかかってくる翼さん相手に立ち回って互角を演じろとか、何その無理ゲーって何度思った事か。そのMVの方は翼さんの剣技は実戦剣術だし、わたしもそれに近い型を披露したからか、一時期SNSが凄い事になったけどね……主に若者の人間離れ的な意味で。

 しかも、わたしがかなり動けるという事で、アクションシーンが増えました。わたしが出るのは合計二回なんだけど、本当は最後の一回だけアクションする筈が、最初の登場シーンでもアクションする事に……

 

「調ちゃんすごっ……剣もあんなに振れるんだ……」

「凄いですシラベさん! まさにブシドーです!!」

「いや、昔取った杵柄というだけで……」

 

 で、一回目のアクションシーンはわたしが一人で壁を蹴ったり階段から飛び降りて着地したりして、五人の追手となるわたしの脅威を見せる感じで、二回目では木刀を持つイヴさんと実際に斬り合う感じになる。

 いや、わたしのキャラ、思いっきりポン刀持ってるのに木刀と斬り合うんですか……? なんかもう勢い以上に適当が過ぎる気が……まぁいいや。

 それからわたしは元の世界に一度帰ってから、緒川さんに一応報告。休暇を潰してアクションシーンの撮影をする事に緒川さんはちょっと渋い表情を浮かべたけど、体を壊さない事、ちゃんと体のケアは怠らない事を条件に許可してくれました。

 

「もしライブの練習に影響が出そうでしたら、すぐに止めますからね。それだけは覚えておいてくださいよ」

「大丈夫です。今さらそんなヘマはしませんから」

 

 散々敵にぶん殴られた後でもケロっとお仕事に行ってるわたしだもん。今さらアクションシーン程度で……

 …………あれ? なんかわたしの体、ちょっと頑丈さがおかしくない? いや、シンフォギアのバリアフィールドのおかげだから。そうに違いないから。

 まぁ、そんな事は置いておくとして。

 空いた時間に彩さん達の所へ行ってリハーサルをして、イヴさんと斬り合う練習をしているうちにいつの間にかわたしが出演するシーンの撮影に入ったらしくって、わたしはしっかりとメイクをした後に黒スーツに着替えさせられた。わたしは政府から派遣されたエージェントっていう役で、彩さん達がとある日に捕獲した地底人、モグちゃんを捕獲するために彩さん達の前に立ちはだかる、という設定らしい。

 ……こんなちんまいエージェントって色々と大丈夫なのかな? なんかただのコスプレみたいな感じになってるけど。

 

「それで、月読さんにはパステルパレットさん達があっちへと走っていくシーンで立ち上がってもらって、全力で走る五人に追いついてもらいつつ、この壁を蹴って皆さんの前に回り込んでもらう形になります。台本通りですが、大丈夫ですか?」

「あー……えっと、一度練習させてもらっても?」

「時間が押していますので、なるべく手早くお願いします」

「大丈夫です。スーツと革靴でできるかが不安なだけなので。えっと、彩さん達があっち向いたとして、立ち位置は確かここだから……よっ、ほっと!」

 

 リハーサルの方はジャージで一度終わらせたけど、流石にスーツでできるかは分からなかったから、練習はしっかりとさせてもらった。

 彩さん達が練習室から出てきて、五人で固まって移動するから、その五人に追いつきつつ通せんぼするために無駄にアクロバティックな動きで五人の前に回り込む。本来はここで見逃すはずなんだけど、監督が勝手にねじ込んだみたい。台本も追加で渡されたし。

 軽く走って、横に飛んで、壁を蹴って前方宙返りをしてから着地。パルクールの技術がここで活きたよ。

 よし、大丈夫。完璧。

 

「うわ、調ちゃんすっご……」

「なんか特撮見ている気分っす……」

「まぁ、これくらいできないと、な環境でしたから」

 

 明らかにアイドル始めてからもっと別な技能が身についてるけどね。

 まぁ、それはともかくとして、お色直しを終えたパスパレの皆さんも戻ってきたから、通しでリハーサル開始。わたしが五人が居る準備室のドアを叩いた、という体でドアの前で待機している場面からスタート。

 

「あー、すみません。ここは今日、ジブン達がずっと使う予定で……」

「いきなりですみません。ちょっとお話だけ聞きたくて」

 

 わたしの言葉に怪訝な表情を浮かべた麻弥さんと、その後ろからこっちを見ているパスパレの四人。

 次のセリフを忘れるなんてポカはしない。しっかりと覚えてるよ。

 

「ここら辺で奇妙な生き物を見たという情報を得まして。ご存知ないですか?」

「奇妙な生き物、っすか?」

「えぇ。こう、小さくデフォルメされたモグラ、みたいな」

 

 と、言いながら目線を日菜さんの方へ。日菜さんの手にはモグちゃん役の人形がしっかりと握られている。

 で、その直後にヤバいと判断した日菜さんがわたしの体を押してから部屋を出て、そのまま部屋の外へ。その際になんだけど、わたしはかなり派手に吹き飛ばされて、との事。

 それじゃあご希望に答えまして。

 

「知りませーん!!」

 

 そう叫びながら突撃してきた日菜さんを一瞬受け止めてから、わたしは違和感がないように後ろへ飛んで思いっきり背後の壁に背中を大きな音と共に打ち付ける。

 っていうか予想以上に日菜さんの力が強すぎて割と本気で吹き飛ばされたんですけど。いや、受け身も取ったから痛くないけどね。そこら辺のリハーサル忘れたから日菜さんも加減間違えたっぽい。

 まぁ、それを悟らせないレベルでいいスタントができたけども。

 

「うっ!!?」

「し、調ちゃん!? 大丈夫!?」

 

 で、ここから日菜さんがこっちこっち! と言いながら五人を先導する場面なんだけど、かなりの勢いで吹っ飛んだわたしを心配して演技を無視してこっちに来ちゃった。

 これには思わずわたしもジト目。後ろで千聖さんが怖い表情してますよ。

 

「……あ、あれ?」

「演技ですよ、彩さん」

「い、いや、でもすごい音が……」

「全然痛くないですから。自分から当たりましたし、受け身も取りましたし。ほら、この通り」

「あっ、ホントだ。なんだ、よかったぁ」

「彩ちゃん……?」

「…………ご、ごめんなさい」

 

 という事でリハーサルはテイク二。

 わたしが吹き飛ばされて、思いっきり壁に背中を打ち付けて、そこから日菜さんが部屋からモグちゃんを連れて出てくる。

 

「こっちに非常口があるから、あっちから逃げよ!」

「そ、そうね! みんな、行くわよ!」

 

 で、五人が走り始める。

 日菜さんがこの中では一番足が速いけど、他の四人に合わせるからわたしの全力疾走で十分に追いつける。

 ここからのセリフはっと!

 

「いっつ……逃がしませんよ!」

 

 と、叫びながら一気に五人の後ろに追いついて、横の壁へと跳躍。そのまま壁を蹴って前方宙返りをしながら五人の前に着地。勿論五人もこれは知っているから、わたしが壁を蹴った時点で足を止めてわたしの方を見ている。

 ドヤ顔の一つでもしたいところだけど、まだリハーサル中。着地してから余韻を数秒出しつつ振り返って腰の模造刀に手をかける。

 

「大人しくそこの地底人を渡さないと、無事では帰しませんよ……?」

「さ、流石政府のエージェント……! すごい身体能力っス……!」

「どうしますか? そこの地底人を渡すか、痛い目にあってみるか……二つにひと」

「ブシドー!!」

 

 で、わたしのセリフを遮って何故か木刀を持っているイヴさんからの奇襲を貰う。

 勿論、寸止め……なんかじゃなくて、実際に腕でガードしつつ後ろに飛んでダメージをゼロに。でも演技だから腕を抑えて小さく苦痛の声を漏らす。

 

「ぐぅ……っ!? たかがアイドル風情がよくも……!」

「今の内に逃げましょう!」

「あっちにも非常口あったよね! あっちに行こう!!」

「ま、待て!」

 

 五人はそのまま走り去っていき、わたしは腕を抑えたまま舌打ちを一つして、このシーンは終わり。

 

「し、シラベさん、大丈夫ですか!!?」

 

 で、終わった直後にイヴさんがこっちに走ってきた。

 一応このシーンは何度も練習したし、一度も受け止め損ねて本当にダメージを貰うなんて事は一度もなかったけど、イヴさんはやっぱり心配だったようでかなり焦った表情でこっちに向かって走ってきた。ついでに麻弥さんや彩さん、千聖さんも。

 あんなに練習したから大丈夫なのに……心配性だなぁ。

 

「大丈夫ですよ。ほら、この通り」

 

 袖を捲くって腕を見せれば、ちょっとだけ赤くなってるけど特に痛くもなんともない腕が。

 ブンブン振って何度か叩いて見せた辺りでようやくイヴさんは安心したようで、ホッと一息をついた。流石に木刀で人を殴るなんて今までなかっただろうし、その焦りもあったんだろうね。

 わたしなんて幾ら木刀で殴られても大丈夫なのに。木刀よりキツいのを何度も貰ってるし……訓練でも生身で数メートル吹き飛ばされる時あるし……ははっ。

 

「それじゃあ本番いきまーす!」

 

 で、その後は本番……なんだけど、ちょっとここで悪戯心が発動。

 イヴさんに木刀で奇襲されるシーンでちょっとだけふざけてみました。

 

「ブシドー!!」

「づあぁぁぁ!!? ぐっ、この……!! よくも、よくもたかがアイドル風情が!!」

『!?』

 

 割と本気でアドリブの演技してみました。

 日菜さんはあんまり驚いてくれなかったけど、他の四人はかなり驚いてくれたし、しかも受け身の取り方もちょっと変えたからイヴさんが本当に殴っちゃったと思い込んだみたいでうろたえている。

 でも千聖さんがなんとか機転を利かせてくれて、なんとか彩さんもセリフを言ってから走っていってくれた。

 で、カット。無事このシーンを撮り終える事ができたんだけど……

 

「シラベさん、今、思いっきり痛そうな声を!!」

「演技ですよ。ほら、当たったところも特に何も無し」

「へ……?」

「にしては迫真過ぎっす!! 心臓に悪いっすよ!!」

「アイドル兼装者ですから」

 

 なんてちょっとお茶目を見せたけど、この後千聖さんにお説教されました。

 解せぬ。

 ちなみに監督さんには好評だったようで、このカットはしっかりと使ってもらえる事になりました。やったね。あと、その直後の光景はNGシーン集で使ってもらえる事にもなりました。

 あと事務所の方から演技を買われて本気でアイドルにならないかとスカウトもされたけど、断りました。もうなってるんで。

 

 

****

 

 

 それから暫く。

 あの日の撮影はアレで終わって、暫く経ってからもう一度撮影に入った。その撮影っていうのが、モグちゃんを迎えのUFOに送り届けるために山の中にやってきた彩さん達と決戦するっていう話。

 ここではわたしとイヴさんが一騎打ち。そのためにチャンバラの練習もしたし、イヴさんと入念な打ち合わせをした。わたしなら万が一があっても避けれるし、攻撃を逸らす事もできるけど、そんな事したら不自然になっちゃうからね。一応、わたしは翼さんの所で刀の握り方とか色々と教えてもらえたし、結構その道の人っぽく動く事ができるんじゃないかな?

 リハーサルも終えて、いよいよ本番。流石にスーツと革靴でアクションするのはくたびれるけど、頑張ろう。

 

「うわっ、あっちの方に黒服さんが沢山いるっす!」

「どうしてココがバレたんでしょう!?」

「おかしいなぁ。痕跡とかは極力消してきたんだけどね」

 

 と、五人が演技している間、わたしは木の上で待機。

 どうしてかと言われれば、監督がわたしは忍者っぽく木の上から現れてみたら面白いんじゃ、とか言い出すもんだから、試しにやってみたらそれでいこうって言われて。これこそ本当にスタントマンがやる演技だと思うんですけど……

 まぁ、この監督がその場の勢いでアレコレ言うのは結構見てきたし、わたしも平行世界のではあるけど、プロなんだし。与えられた仕事はバッチリとこなすよ。

 

「……そういえば彩ちゃんって、ずっと自撮りばっかりしてたわよね?」

「え? してたよ? はいチーズ」

「言ってる側から撮らないの。で、撮った写真は?」

「SNSに上げてるけど……」

「うわ、彩ちゃんのSNSにあたし達が居る場所とかモグちゃんとかバッチリ写ってる」

 

 彩さんはエゴサ癖はあるけど、そんな頻繁に自撮りをSNSに乗っける人じゃなかったと思うんだけど……ちなみにこのSNSの写真とかは、実際に彩さんのSNSに投稿される予定で、映画公開日に合わせて彩さんが毎日撮影中に撮った自撮り写真をSNSに合わせて投稿して、この映画が本当に起こった事、みたいな感じのキャンペーンみたいなのをやるんだとか。

 そんな事を考えている内にわたしの出番が。木の上で座って待機してたけど、出番が来たと同時に木の上で音を立てずに立ち上がる。

 

「その通りです。お陰であなた達には簡単に追いつけましたよ」

 

 と、言いながら木の上から飛んで、前方に何回か宙返りしつつ着地。忍者っぽく登場してみる。

 本当の忍者は残像を残すんだけど……まぁそこら辺は特にツッコミを入れない方向で。

 

「あ、あなたはこの間の!」

「さぁ、その生命体をこちらに渡してもらいましょうか。今度ばかりは、わたしも本気です」

 

 刀の抜き方もちょっと魅せる。

 腰から刀を取って、柄と鞘を握ってゆっくりと抜刀。鞘は投げ捨てて刀を回しながらカッコつけて構える。実戦でこんな事したら敵から隙ありって殺されるのでやめましょう。

 

「若宮イヴさん、でしたか。この間はよくも煮え湯を飲ませてくれましたね。今回は容赦しませんよ」

「ここは私が時間を稼ぎます! ブシドー!!」

「何度も愚直な突進を!」

 

 と、言いながら交戦開始。ここら辺は結構練習した場面だし、イヴさんもプロ根性でしっかりと木刀で巧みに戦ってくれる。

 真剣と木刀だと、流石に木刀が不利。というか、ぶつかり合えば確実に木刀がスパッと斬れるから、基本的には二人で相手の攻撃を受け流す感じの立ち回りをする事になる。最初はわたしが優勢、みたいな感じで押すんだけど、途中からイヴさんの攻撃に押されて……という感じになる。

 

「くっ、たかがアイドルと侮ったばかりに……!」

「貰いました!」

 

 で、この一撃でわたしが片腕を使って防御して、それが偶々前回イヴさんが木刀で叩いた所だから、完全に腕が使えなくなって片腕のまま戦うけど、イヴさんはわたしを圧倒……という予定。

 だったんだけど、貰いました! と言った直後に防御姿勢を取ったわたしに木刀は当たらなかった。

 どうも木刀がすっぽ抜けてしまったらしく、イヴさんの木刀は後ろの彩さん達の方へと飛んでいってしまっている。あっ、これ駄目だ。完全にリテイクパターン。

 

「よっと」

 

 まぁ、ミスはしかたないよね。日菜さんが軽く木刀をキャッチしたし、リテイクで……

 ……あれ? なんか日菜さん、こっち見てない? なんかうずうずしてない?

 あっ、これ。

 

「といやー!」

 

 やっぱり殴りかかってきた! 明らかに目線がやっちゃうけどいいよね? 答えは聞いてない! って言ってたもん!

 けど、こうなった以上は仕方ない。イヴさんを軽く押して下がらせてから、日菜さんと斬り合う。

 って、この人普通に強い!?

 

「よっ、ほっ、たぁ!!」

「調子に……!!」

 

 やっぱり天才って凄いんだなぁと思いつつ、しっかりと攻撃は受け流す。そしてわたしが斬りかかっても日菜さんは軽くそれを受け流す。

 明らかにイヴさんの時よりも動き方が素人のソレを超越した殺陣になってるんだけど……まぁ、日菜さんが楽しそうだしいいかな。で、そろそろ撮影時間もアレだし、攻撃を食らっておこうって事で、わざと受け流しをミスして片腕に木刀を当てる。

 

「ぐぁっ!? こ、この間の傷に……!!」

「あれ? まぁいいや。イヴちゃん、ナイスパスだったよ!」

 

 勿論しっかりと衝撃は殺しながら当たったから、怪我は一切なし。

 イヴさんは日菜さんから木刀を受け取って、改めてわたしに斬りかかってくる。さっきのは日菜さんが上手く演技でカバーしたみたいだし、監督たちもなんか満足気だし、まぁいいかな。

 この後は片腕しか使えないから押し切られて、わたしはイヴさんの木刀に吹き飛ばされてKO。倒れている間に彩さん達は山を登って行って……

 

「カット! いやぁ、実にいい殺陣だったよ!!」

 

 無事に撮影終了。あとは彩さん達がモグちゃんをしっかりと送り届けて、わたしはこのまま時間を潰してから、負けてからのアレコレを撮影するだけになった。

 

「日菜さん、アクションできたんですね」

「イヴちゃんと調ちゃんのを見てたら覚えちゃった!」

 

 それで覚えるって、やっぱり天才は凄いなぁ。

 イヴさんと彩さんは結局わたしの心配ばっかりしてくれるけど、勿論無傷。痛い音が鳴った? 大丈夫、その程度で傷付くほど柔な特訓はしていませんから。もっとヤバいので殴られまくってますから。

 

「これは、もしかして調ちゃんよりも強くなっちゃったかな~?」

 

 とかなんとかやっていたら、日菜さんがそんな事を。

 ほう。

 そんな事言いますか。それじゃあイヴさんの予備の木刀を拝借しましてっと。

 

「じゃあ試してみましょうか。わたしも本気でいきますよ?」

「ふふふ。あたし流剣術を見せてあげよう!」

「覚悟!」

「あらよっと!」

 

 ちょっとカチンと来たわたしは暫くの間、日菜さんとチャンバラごっこして時間を潰していました。

 ――ちなみにこの光景、彩さんが撮っていたらしく、映画公開後にSNSに投稿した所、ちょっとバズったそうな。あと、映画を見て居ない人はわたしが誰か分からず、ちょっとだけ話題にもなったらしい――

 

 

****

 

 

 映画の撮影も無事終わって、それが公開されてら暫く。わたしはまたもや彩さん達の世界に訪れてみた。

 映画の方は、パスパレファンの方からは結構好評だそうで。そのついでと言っちゃなんだけど、わたしの顔もパスパレファンの方にはちょっと知れ渡ってしまった様子。敵役の刀をぶん回している子は誰だ、とか、そういう感じで。

 

「そんな訳で、調ちゃんの事がそこそこ言われてるんだよね」

「一時期、パスパレの新メンバーになるんじゃ、とか言われてたよね」

「わたし達の方で否定はしておいたし、調ちゃんの事は今回限りの出演だとは言っておいたのだけど……」

 

 で、彩さん達と同年代でスタントマンばりのアクションができるような人材なんて結構貴重に決まっているし、あの監督さん、わたしの事をえらく気に入ったみたいで。

 羽沢珈琲店で駄弁っているわたし達の前には、出演オファーのお手紙が。勿論、敵役の殺陣要員として。

 わたしと音信不通状態が多いせいか、監督さんはパスパレの事務所にお手紙を届けたらしく、そのお手紙が彩さん達に渡され、そしてわたしの前に。

 まぁ、断るしかないんだけどね。

 

「暫くはこっちでも変装が必要そうですね……」

「そうなるわね。ごめんなさい、調ちゃん。唐突に巻き込んじゃったせいで」

「別に大丈夫ですよ。変装には慣れてますから」

 

 念のためにいつも持ち歩いている帽子と伊達眼鏡で即座に変装完了。いつもの三人と一緒に居る所を見られてバレて、色々と聞かれたら困るからね。学校の友人、と言える程度には変装しておいて損はない。

 で、この後はパスパレメンバー+わたしで、スタッフ主催ではなくわたし達だけの打ち上げをする予定だから、そろそろ移動しようという事で腰を上げた。

 

「あ、調ちゃん。打ち上げの時に写真に映ってもらっていい? その方がファンの人も喜ぶかなーって」

「いいですよ。特に断る理由もないですし」

 

 さて。打ち上げが終わったら元の世界に戻ってアイドルしないと。

 頑張るぞっと。




なんやかんやで結局自分から巻き込まれた挙句ノリノリで撮影に協力する調ちゃんでしたとさ。

で、アニメの方ですが……シンフォギア、終わってしまいましたね……
面白かったですし、最高に燃え上がれましたが、ポッカリと胸に穴が空いた気分です……でも、最高の充実感があります。

本編の方の感想ですが、装者+キャロルによる対シェム・ハ戦。作画も良ければ全員がしっかりと活躍できていて、更にこれがエクスドライブだと言わんばかりに滅茶苦茶やりますし。翼さんはグラブルの某オクトーさんみたいな事するし、クリスちゃんはシャイダーですし、FIS組はまたロボ出してるし。
未来を奪い返したい、って本心をぶちまけるビッキーはいつもに増してビッキーっぽく見えましたし、そのビッキーがバラルの呪詛が無くなった人たちの心を一つにしてぶん殴るのなんて、最高にビッキーでしたし。
METANOIA、最高でした。

もう後書きじゃ語りつくせないほどの十三話でした。本当に、これが正真正銘の最終話なんやなって……

曲も新曲が三曲も。PERFECT SYMPHONY、Xtream Vibes、未来のフリューゲル。キャロルが混ざった七人での合唱、未来さんが混ざった六人らしい歌、最後はシンフォギアの始まりの曲でもあるフリューゲル。
全部聞いててすっごく良かったです。やっぱ最高だよシンフォギア……

最後のCパートは、ビッキーと未来さんが流れ星を見に……未来さんが直接伝えたかったことと、それと同じであろうビッキーが伝えたかったこと……
ごめん、完全に告白にしか見えない!! あれあの後告白してひびみくでしょ!? 結婚式しよう!?
はい、調子に乗りましたごめんなさい。何気にキミだけにのオフボーカル、流れてましたよね。

CMは、最後の最後だからおふざけなしに終わっちまうのか……と思ったらビッキーが意味深な発言を。
お願い、今日のラジオで劇場版とかOVAの作成決定とかそういうのを!! それがあればどれだけ辛くても生きていけるんだ!!

サラッとキャロルがアプリディスった直後に参戦決定で笑いましたけど……ホント、シンフォギアは最高でした。

自分はGXから見始めたんですが、四年の間、ずっとシンフォギアを楽しみに生きてきました。こんなキャラ崩壊上等のやらかしSS書いてる馬鹿野郎が何言ってんだという感じですが、シンフォギアに出会えてよかったです。

この四年間、ずっと一番好きだと言い続けたアニメがシンフォギアです! だから、十年先でも自分はシンフォギアを好きで居続けるでしょう! シンフォギアに出会えたことは自分の人生の中でもトップクラスに幸運な事だと、そう思います!

それでは、次回からは毎週更新とかはできないと思いますが、地道に更新していこうと思います! では、また次回!!


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月読調の華麗なる爆死

はい、今回は久しぶりの課金時空。

XV完結後一発目がこれよぉ!! いつもの如くキャラ崩壊をしていますが、そこら辺はまぁいつもの事なので、多少はね?

今回の課金時空の話は、リクエストにもあった、いつも通りガチャを回す調ちゃんの前にビッキーではなくズバババンが……という感じの話になります。ちょっと短いですが許してね。

あと、グレ調時空のXV編みたいなのを考えたんですが、マリア&セレナが居ない→appleが歌えない→ついでにGで70憶の絶唱をしていない→シェム・ハの棺が浮上してこない→XVが起こらない、ついでにパヴァリアが善性組織なのでAXZも起こらない→グレ調時空はマジでGX編で完という事になりました。


 ガチャガチャガチャガチャ。百円をつぎ込んではハンドルを回すけど、まぁいつもの如く出ない。

 今回わたしが狙っているのは、新弾うーぱガチャにて登場してきたフルメタルダイキャストうーぱ。文字通り全身ダイキャスト製で、その上から銀色のメッキが塗られている感じの、しかも可動するうーぱ。今までのうーぱは動かなかったんだけど、今回のフルメタルダイキャストうーぱはしっかりと動く。

 言ってしまえば、可動するメタルうーぱ。あのうーぱの足や耳が動くなんて、そんなモノ欲しいに決まっている。という事で、今日この日のために貯めた貯金を使ってフルメタルダイキャストうーぱをゲットするためにガチャガチャを回しているんだけど……

 

「まぁ、出ないよねぇ……」

 

 見事に一台目のガチャガチャを底まで洗ったのにも関わらずフルメタルダイキャストうーぱは出ませんでした。コインケースの中身も残り少なくなって、そろそろ本格的にヤバいのに、ここでお店チェンジ。

 ちなみにこのフルメタルダイキャストうーぱ、相当生産数が少ないらしくってオークションでは過去一番の値段がついてるんだよね……わたしが貯めたお金でも足りないレベルの値段が。

 こうなると、もう泣きながらガチャガチャを回すしかないんだけど、出ません。

 徐々にこう、吐き気みたいなのがしてくるんだよね。出ない確率の方が高いフルメタルダイキャストうーぱに湯水のごとくお金をつぎ込んで、もしも本当に出なかったらどうしよう、出たとしてもこの後どうしよう、とか。そういう事を考えると徐々に吐き気が……

 

「……なんで泣きながらガチャガチャを回してるんだ、月読よ」

「うぅ……つ、翼さん……?」

 

 いつもなら幸運の女神である響さんが来るんだけど、どうやら今回は違ったらしい。

 偶々買い物に来ていたらしい翼さんがしゃがんでガチャガチャを回すわたしを見下ろしていた。翼さんはわたしのハズレうーぱが大量に入った袋の中身を見てちょっと引いている。

 そりゃそうだよね。こんなにガチャガチャを回している人を見たら引くよね……

 

「見ての通りです……激レアのフルメタルダイキャストうーぱが出なくって……」

「ふ、ふるめた……? よく分からんが、そんなに出ないモノなのか、最近のガチャガチャという物は」

 

 喋りながらガチャガチャ回しているけどフルメタルダイキャストうーぱは出ない。

 そんなに出ないのか、と言ってくれたので、わたしが今日使ったお金を教えると、更に翼さんはドン引き。既に万以上のお金をつぎ込んでいるからね……

 

「そ、そんなにか……しかし、雪音もそうだが、お前もか月読……」

「クリス先輩がどうかしたんですか……?」

「あぁ。この間、十五万もゲームのアプリに突っ込んだと言っていてな……それを聞いてしまい、記憶を消すためだと頭を殴られかけた」

 

 じゅ、十五万……

 でも、切ちゃんもそれぐらい課金していた……あ、違う。その倍だ。

 まぁ、確かに切ちゃんとか未来さんとかクリス先輩に比べれば、まだ軽い方ではあるんだけど……ただ、一般人で常識人であるわたしにとって、数万円も博打につぎ込むのは中々吐き気がすると言いますか……でもやめられないとまらないガチャガチャガチャ……

 

「……そ、そこまでして欲しいものなのか?」

「もう二度と手に入らないと思うと、どうしても欲しくって……」

 

 うーぱガチャをやっている会社は、過去のレアうーぱはもう復刻しないって明言しちゃっているから、ここで出さないと本当にこのうーぱは手に入らなくなっちゃう。

 だから根性込めてガチャガチャしてるんだけど、勿論出ない。

 次々と積まれていくガチャのカプセル。そして袋の中に放り込まれて行くハズレうーぱ。

 

「……どれ、ここは一つ私もトライしてみよう。そこまで出ないのなら一回ぐらいは運試しをしてみたくなるという物だ」

 

 で、そろそろわたしの心とお財布が限界に近付いてきたところで、翼さんがお財布から百円を取り出してわたしの横から台に百円玉を入れた。

 ……あっ、これ、もしかして。

 いつものパターンなら、ここで翼さんがフルメタルダイキャストうーぱを出して、わたしがそれを有り金全部で買い受ける完全勝利パターン……!!

 

「……すまん、月読。ハズレだ」

 

 と思っていたんだけど、翼さんの手の中に会ったのはフルメタルでもダイキャストでもないただのうーぱ。

 まぁ、そうだよね。何回も何回もそんなパターンで出ないよね。

 とほほ……お財布が寒くなるよぉ……

 

「……いや、ほんとすまん」

 

 結局、今日この日まで貯めておいたお金は全部消し飛んで、代わりにわたしの手元には大量のハズレうーぱが残ってしまうのでした。

 とりあえず一種類ずつは確保して、他はどこかの誰かにプレゼントでもするか、どこかに売ろうかな……

 うぅ……フルメタルダイキャストうーぱぁ……

 

 

****

 

 

 結局、月読は有り金を使い果たしたらしく、帰ってしまった。

 しかし、ガチャガチャとはあんなにも人の心を惑わせ、金を使わせるような物だったのか……一応、私も仕事でゲームアプリの主題歌を歌わせてもらい、そのゲームの宣伝のためにゲームを少しだけプレイしたことがある。

 そこでもガチャという物はあったが、最高レアが排出される確率は僅か一桁。そしてガチャを回すにはゲームをやるか課金するかの二択だとも聞いた。

 まさかそれに課金する者など居ないだろうと思ったら、雪音がそれだった。

 しかも、話に聞けば小日向と暁もそうだったと聞く。

 なかなかどうして、ガチャとは悍ましい物だ……

 

「あぁ、うーぱかぁ。子供や若い女の子には結構人気なとあるアニメのマスコットキャラだけど……どうしていきなり?」

 

 だが、あんまり無知な訳にもいかないので、一応藤尭さんにうーぱとやらについて聞いてみた。

 この人はそういうカテゴリにはそこそこ聡い人だ。うーぱとやらについても知っているかと思い聞いてみたが、案の定知っているらしい。

 しかし、アニメのマスコットキャラか……私は見た事ないが、そもそも私はアニメを見ないからな。知らなくても無理はないという事か。立花辺りは知っているかもな。

 

「いえ。月読がそれにハマっているようでして」

「調ちゃんかぁ。確かにあの子、可愛いのが好きそうだしね。となると、ガチャガチャとか回してるとか?」

「私の目の前で数万円溶かしてましたよ」

「うわぁ……うーぱガチャは闇とは聞くけど、そこまでかぁ……」

 

 ガチャは闇……? よく分からんが、闇と言われる程ヤバイ物だという事か。

 中々に業が深い存在だな……ガチャガチャ……

 

「俺もアプリとかくじとかやるけど、そんな何万も溶かす程じゃないかなぁ。流石に溶かした後が怖いし」

「雪音が十五万溶かしていたな……」

「……それに関しては俺は何も言えねーわ」

 

 私もです。

 だが雪音はあまり金に困った様子もないし、しっかりと貯金もできているようだしな。そもそも、装者は案外高給取りだ。偶に散財する程度なら大丈夫だしな。

 私だって結構な頻度でバイクのパーツを買い変えている。案外雪音の事を馬鹿にはできん。

 いくらアーティストとしての給金があるとはいえ、雪音の十五万が可愛く見える程大量に金を溶かしている分、あんまり人の事は言えん。

 

「まぁ、調ちゃんには金の使いすぎに注意するよう言っておいてあげてくれ。あとこれ、試しに焼いたクッキーなんだけど、よかったらどうぞ」

「あぁ、どうもありがとうございます。藤尭さん、クッキーとか焼けるんですね」

「自分が食べたいと思ったのしか作れないし、作る気ないけどね」

 

 とりあえずクッキーはありがたくいただきます。

 洋菓子と緑茶は合わぬからな……今日はちょっと珍しくコーヒーでも買ってみるか。マリアはよく美味いと言いながら飲んでいるし、エルフナインが飲むのもよく見かける。美味いクッキーに美味いコーヒーで気を休めるとしようか。

 ……あと、ついでに立花にもうーぱについて聞いてみるか。知っているか程度だがな。

 

 

****

 

 

 爆死って、空しいね。

 ウン万もお金を使って、うーぱガチャに爆死。わたしが好きにできる分だけのお金を使ってガチャガチャしたわけだけど、それでもやっぱりお金が消えるのは空しい。マムが見たら怒るんだろうなぁ……

 余ったうーぱは中古買取ショップに持って行ったけど、まぁ千円にも満たず。でも戻ってきたお金でまたうーぱガチャを回して無事死亡。二度の爆死を経てわたしは一歩大人になりました。

 泣きたい。

 

「そんなに落ち込んでたら身が持たないデスよ、調」

「そうは言っても切ちゃんみたいにお金を溶かす事に慣れてないんだもん……」

「あたしだって慣れたくて慣れたわけじゃないデスよ!?」

 

 ソファで横になって切ちゃんの膝を枕にしているけど、やっぱり心の空しさはなくならない。

 何もしないのも落ち着かないから切ちゃんのお腹に顔を埋めてみるけど……あっ、ぷにってる。さては体型維持サボったね、切ちゃん。

 今度のおやつはノンフライのポテチとダイエットコーラだよ。

 はぁ……世界を救うためにあっちこっち飛び回って月旅行までしてシェム・ハを倒して……わたし、フルメタルダイキャストうーぱを引けてもいいくらいには徳を積んでるよね……? いや、神様倒したから幸運が降ってこないのかなぁ……

 なんか切ちゃんがわたしの指を動かしてアプリのガチャ画面をタッチしようとしているから成すがままにされつつ、片手で切ちゃんの脇腹をぷにぷにする。

 

「し、調? くすぐったいんデスけど」

「今度のおやつはダイエットするためのおやつだからね」

「うぅ……ショックデース……ついでにガチャが爆死デース……」

 

 切ちゃんも爆死したみたい。

 まぁ、わたし達揃いも揃って爆死したし、仲いいね。

 はぁ……フルメタルダイキャストうーぱ欲しいなぁ……流石にへそくりを使うわけにもいかないし……今回ばかりは本当に諦めるしかないのかなぁ……

 

「あっ、調。なんか携帯が震えてるデスよ?」

「んー……? だれぇ……?」

 

 今のわたしは突かれても寂れたリアクションしかできないよ。

 えっと、来たのはメッセージ? で、送り主は響さん……?

 わたしの幸運の女神……ではあるけど、今回はガチャしている所に来てくれなかったし、わたしが連れて行ってもそんな簡単には出ないだろうし……

 ……って、そんな事考えずにとりあえずメッセージの確認をしないと。

 えっと、画像を送ってきてる? どれど……!?

 

「ちょっ、フルメタルダイキャストうーぱ!!?」

「デスっ!?」

 

 な、なんか響さんがフルメタルダイキャストうーぱの写真を送ってきた!? ひ、膝枕されている場合じゃない!!

 な、なんで!? 響さん、今回は一緒にガチャしてないよね!?

 

『翼さんから調ちゃんがまたガチャガチャしてるって聞いて一回だけ回してきたんだけど、これって調ちゃんが欲しがってたやつ?』

 

 は、はい! そうです!

 

『そうです!』

『あ、やっぱり? いつもの如く、わたしは特に欲しくないし、今度あげるね』

 

 ま、マジ!? ホントに!? ホントにフルメタルダイキャストうーぱをくれるの!?

 

「あぁ、響さん……! やっぱりあなたがわたしの幸運の女神……!!」

「なんか調のキャラが崩壊している気がするデス……」

 

 そして翼さんも、幸運の女神を呼び寄せてくれる最高の先輩……!

 あぁ……この二人と知り合えて本当に良かった……

 じゃ、じゃあ響さんには今度恩返ししないと。何がいいだろう……やっぱり響さんはご飯だよね。じゃあ、わたしの全力で響さんにフルコースをご馳走しないと!

 よし、がんばるぞ!

 

 

****

 

 

「もー、響ったら。調ちゃんのためにガチャガチャなんかして……」

「まぁまぁ、一回だけだし、未来との買い物ついでだから許してよ、ね?」

「……じゃあ家に帰ったら、この間買ったネグリジェ着てもらうから」

「うっ……あ、あのスケスケのやつだよね……? ちょっと恥ずかしいけど……未来の頼みなら、いいよ」

「やったー! 響だーい好き!」

「わたしも大好き!」




今回の時系列はXV後、という事にしましたが、なんかここのひびみくはもう変態プレイするレベルで付き合ってるし、シェム・ハが出てくる隙はあったのかな、なんて思いましたがまぁいいや。

今回は翼さんが来たことから紆余曲折を経てビッキーにその話が伝わり、結果、ビッキーがいつもの一発ツモをかまして調ちゃんが泣いて喜ぶお話でした。なお切ちゃんは爆死した模様。そしてひびみくはまた変態プレイに興じる模様。
ここの装者ちょっとヤバくて草。あ、装者そのものがやべーやつ集団だった。

XV最終話を経て公式の用語解説を待ったんですが、バラルの呪詛が解除された後の世界とか、バーニング・エクスドライブ中の技とか、ほぼほぼ解説が来なかったんですよね。なので、どうしたものかと悩みましたがいつも通りでいいや、となったんでこれからもいつも通りやってきます。

あと、ハーメルンでは今後歌詞の掲載が可能になったので、キャラが歌うという形で歌詞の掲載を行おうと思います。一応、この話以前の話も歌詞をぶち込めるような場所があったらぶち込もうかな程度には思ってます。
では、また次回、お会いしましょう。


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月読調の華麗なる歌収録

お久しぶりですが、今回も実況時空の続きです。

活動報告の方で貰ったリクエストを参考に一話組み立ててみました。ついでにこの話は歌詞を乗っけるテストも兼ねております。なので、バリバリ二人が歌います。


「いつも同じOPだと何だか飽きてくるから、新しいOPを作るデスよ!!」

 

 響さんとクリス先輩の二人にモンハン収録に付き合ってもらって、撮り溜めが結構できた頃、切ちゃんがそんな事を言いだした。

 わたし達のゲームの進行状況はお世辞にも早いとは言えなくて、まだストーリーはあの爆撃機が出てきたところで止まってるし、あの二人はもうエンドコンテンツを走りまくって装飾品を発掘しているから、早いうちにクリアしないとなぁと思ってたんだけど、そんな事は知らないと言わんばかりの切ちゃんの声。

 OPと言えば、切ちゃんが作ったやつだね。適当なフリー素材の音楽と切ちゃんが過去に撮った実況の画面から切り取った名場面的なのを繋げたやつ。わたしとエルフナインの紹介も最後の方にやっつけ編集されてたけど、それを作り直すの?

 

「いい加減、コメントでも言われてるんデスよ。OP変えないんですかって。確かにやっつけ編集で作ったムービーデスから、そろそろ変えたいなーとは思ってたんデスよ」

 

 へぇ。そんな事考えてたんだ。

 確かにチャンネルのあれこれは基本的に切ちゃんに丸投げしてるし、わたしはあんまり関与していないから、OPとかは完全にノータッチだったけど。確かにエルフナインの編集技術と切ちゃんのやっつけOPはお世辞にも比べられない位の差があるからね。

 それじゃあ変えるって事でいいんだろうけど……どうするの? エルフナインに丸投げするの?

 

「ふふふ。実は、ツイッターの方でフォロワーさんからあたし達のファンアートを書いてもらったんデスよ! これとゲーム画面を使ってエルフナインにOPを作ってもらうようには既に言ってあるんデス」

 

 と、言いながら切ちゃんは動画告知用のアカウントをわたしに見せてきた。そこのDMには確かに、わたし達のファンアートを勝手に描いたのでお納めください、なんて声が。

 切ちゃんはそれに対してお礼の言葉と、OPの素材に使ってもいいかという質問を飛ばしていて、無事快諾されている様子が書かれてる。ちなみにエルフナインの方にも既に話はつけてあるみたいで、了承済みで後はOPを作るだけなんだとか。

 まぁ、OPとは言っても十秒から二十秒程度の短いやつだからね。あんまり長いと尺取っちゃうし。

 

「で、もう作ってもらったの?」

「いいや、まだデス。OPに付ける曲の方がまだデスから」

 

 曲?

 それならまた適当な音源を取ってきたらいいんじゃないかな?

 

「それじゃあつまらないデス。今回のOPはあたし達のオリジナルソング、とは名ばかりのシンフォギアから流れる曲を直撮りして、それを使うデス!!」

「またおかしなこと考えてる……っていうか、それ大丈夫なの? 怒られない?」

「既に司令には許可を貰っているデス。元々翼さん達の歌手デビューも、戦場でツヴァイウイングの歌が聞こえても誰かが音楽を流しているだけ、と勘違いさせるためデスし、それに則ったカモフラージュも兼ねていると言えば一発だったのデス」

 

 切ちゃんにしては結構考えているかも。

 司令からしっかりと許可を貰っているんなら、わたしからは特にいう事もないかな? ゲームの作業プレイ中とか、結構わたしや切ちゃんの鼻歌とか二人での輪唱とか入ってる時あるからね。

 で、いつ収録するの?

 

「今からデス! それじゃあ行くデスよ!!」

 

 えっ、今!?

 いや、まぁいいけども……急だなぁ……

 

 

****

 

 

 切ちゃんに連れてこられましたは訓練室。そこにエルフナインが本部に置いてある機材を借りてきて続々と設置して、気が付けば簡単な収録ブースが組みあがっていた。

 シンフォギアからの音源を拾って機材に記録するための変換機とか、ギアペンダントのマイクから音を取って、それをパソコンに記録するためのコードとか。普段は取りつけないようなコードとか機械とかをシンフォギアにガチャガチャと付けていって、普段は見えないような内部フレームにまでコードを取りつけること数十分。

 

「それじゃあ、試しの音取りいきますね。適当に喋ってください」

「あーあー、本日もピーカンの空が最高デス」

「切ちゃんはいつものーてんき」

「……はい、大丈夫ですね。しっかりとこっちで音を拾えてます」

 

 まぁ、シンフォギアって言っちゃえば超高級で戦闘機能を搭載した機密事項の塊なカラオケ装置だからね。マイクから拾う音も結構いいものになるだろうし、シンフォギアから流れる伴奏も結構いい感じになると思うし。

 わたし達は突っ立って歌うだけだから特に疲れることもないし、エルフナインも途中で喋ったりしてもマイクユニットには雑音一つ入らないし。流石シンフォギア。カラオケ装置としてのスペックすらけた違い。

 

「歌う曲は、一応ユニゾンの四曲、と言う事で大丈夫ですか?」

「そうデス。どれを使うかはエルフナインに一任デス」

「はい。責任をもって最高のOPを作りますね。じゃあ、こっちは録音準備ができたので、思う存分歌っちゃってください」

 

 エルフナインの指示に頷いて、すぐに切ちゃんとユニゾンする。

 そして流れ始める、わたし達のユニゾン曲。まずは、Edge works of goddess ZABABA。フロンティア事変の時に歌ってた曲。この曲歌うのも久しぶりだなぁ。

 

「んんっ……警告メロディ死神を呼ぶ、絶望の夢Death13!」

 

 切ちゃんがバッテンの横に指を三本立てて並べて、13を表す振り付けをしてる。この動きどこかで見たような……

 あー、でも、なんだか懐かしいなぁ。

 この曲歌ってた頃はまだリディアンに居なかったし……今やもう、リディアンの二年生も近づいている状況だしね。もう一年とちょっと経とうとしてるんだから、時の流れも早いよね。

 おっと、次はわたしだ。

 

「DNAを教育していく、エラー混じりのリアリズム。人形のようにお辞儀するだけ、モノクロの牢獄」

 

 この時の音程で歌う事って最近はもうなかったような気がしないでもないような。

 と、こんな感じでいつも通りのユニゾンでいつも通りに歌いながらあっという間に一気にラストまで。まぁ、本当に歌っているだけだからね。特に何かがある訳でもないし。

 

「輝いた」

「輝く」

「絆だよ」

「絆」

「さぁ、空に」

「抱きしめ」

『調べ歌おう!』

 

 よし、いい感じにフィニッシュ!

 久しぶりに歌ったけど、やっぱり体が覚えているものだね。エルフナインの拍手にちょっと照れくささを感じつつも、すぐにエルフナインがパソコンを操作。

 次大丈夫ですよ、というエルフナインの声に頷いて、今度はJust Loving X-Edge。これは確か、キャロルと戦っていた時期に歌っていた曲だっけ。そういえば、最初の方はキャロルとオートスコアラーとアルカノイズにボッコボコにされたっけ……切ちゃんが顔面スライディングしてわたしが死にかけたのも何となくいい思い出……なのかな?

 っていうか、今だからこそ笑い事にできるけど、当時は笑い事にならなかったし、わたし達のイグナイトユニゾンですら苦戦したミカって下手したらキャロルやアダムを抜いたら普通にトップクラスなんじゃ……いや、考えないようにしよう。ミカ強すぎて若干トラウマだし……

 

「危険信号点滅! 地獄、極楽、どっちがいいDeath!?」

 

 ここら辺から徐々に切ちゃんの歌から語彙力が失われて行きます。

 いや、冗談です。この後のデンジャラス・サンシャインからだよ。

 

「未成熟なハートごと、ぶつけた敵対心。行き場のないボルテージ、隠したティアーズ」

 

 そしてわたしの歌もここら辺から徐々に高音になっていくよ。

 こうして歌っていると、当時とのテンションの差とかが思いっきり音程に現れている所が結構あるから、なんとなーく当時のわたしの心境が分かるんだよね。

 と言う事でそのまま歌いきって。

 

「強くなる勇気を心に秘めて、月を包む輝きに!」

「強く、なれば……太陽の輝きに、近づけるかな?」

「君を照らしたい!」

「君に照らされ」

『Just Loving!』

 

 無事完走。結構ノリノリで歌いきってJust Loving X-edgeも収録完了。

 ……ここら辺まではいいんだけど、メロディアス・ムーンライトがかなり高音だからもう少し喉を温めておかないと。声が裏返る所とかも結構多いわけだし。

 と言う事で一度お水を飲んでから。あっ、このお水美味しい。エルフナインが持ってきたSONGの備品だけど、結構いいやつっぽい。メーカーとか調べて買ってみようかな。

 よし、準備完了。と言う事で。

 

「それじゃあギザギザギラリ☆フルスロットル! 三曲目いくデスよ!」

 

 切ちゃんの語彙力が徐々に曲にまで現れ始めた曲です。と言う事で。

 

「地獄からテヘペロちゃん☆! 悪魔だって真っ青顔! 鎌をブンブンするのDeath!」

 

 はい、語彙力が溶け始めています。

 と言う事で次がわたし。

 

「小っちゃいってナメないで、電鋸は。一番、痛いの、Understand?」

 

 うん、やっぱりわたしの持ち歌の中でも相当音程が高い。けど、戦いながら歌った曲だし、全然歌える。

 

「ニャッニャニャー!!」

 

 そして切ちゃんのこれは励ましの意らしいんだけど、これが伝わる人っているのかなぁ。この時の切ちゃん、疲れていたとかそういう感じだったのかなぁ。今度からはもっと優しくしてあげるべきなのかなぁ……

 そんな事を言いつつも、そのまま最後まで歌いきって。

 

「KIZUNAギュッと! 熱く束ね、さぁ!」

「KIZUNA束ね」

『重ね合おう!』

「「大好き」が、溢れる!」

「「大好き」がね、溢れる……!」

「Yes!」

『支え合って、強くなろう!』

 

 無事、ギザギザギラリ☆フルスロットルも歌いきりました。

 という事で次が最後のCutting edge x2 Ready Go! なんだけど、x2の所はスクエアと読むのを忘れちゃダメ。ちょっとややこしいけど、x2の部分はスクエアって読むのが正解だよ。

 それじゃあ、あんまり長い間訓練室を独占しているわけにもいかないし、ちゃちゃっと歌っちゃおう。

 

「天真+、爛漫×、重低音ブッぱDeath! 可愛さ余って肉を食べたい少女の参上デス!」

「高出力全開でフィールドを駆けよう。勝負も夢も、命懸けのダイブ!」

「決戦のFight song! 重なる」

「Let's sing……重ね合う」

『歌が!』

 

 相変わらずこの歌を歌う時の切ちゃんの語彙力は壊れていると言うか溶けているというか……とうとう歌の中にブッぱとか、肉を食べたいとか、エンヤコラサとか。前までは入れていなかったちょっと歌に入れるには……なフレーズが入っている辺り、結構切ちゃんの語彙力がアレになっているのが……

 けど、これもしっかりと歌いきって。

 

「信じ」

「信じて紡いで」

「紡いで」

『越えた』

「涙」

「歴史は」

『今、星に!』

「闇を照らせ! 今この瞬間! 希望、光、支えに待ってる人が!」

「照らそう、今この瞬間も。光、支えにほら! 待ってる人が……!」

『一緒に行こう! TWIN-HEART!!』

 

 よし、歌いきった!

 ……ほんと、いつもユニゾンしていると思うんだけど、切ちゃんのパートってかなり難しいと言うか、エグイというか。わたしのパートに釣られる要素てんこ盛りで、わたしなら歌いきれる気があんまりしないんだよね……そこら辺を全く気にする事なく歌いきれる辺り、本当に切ちゃんも歌が上手いって事なんだけど。

 まぁ、なんにせよ。これでOP用の歌の収録が終わったから、後はエルフナインに全部任せるだけだね。

 

「よし、ちゃんと撮れてます。あとのOP作成はこっちでやっておきますね」

「うん、ありがとうエルフナイン。で、エルフナインは撮らないの? また逢う日までとか」

「と、撮りませんよ! ボクは裏方なんですから!」

「とは言いつつも、撮っちゃってたりするんじゃないデスかぁ?」

「撮ってません!」

 

 エルフナインに激しく否定されたけど、もしかしたらその内視聴者からエルフナインverのOPとか期待されちゃうかもね。その時は……ね? ちなみにこの後、エルフナインにこっそりとソロバージョンを歌ってほしいという事で、わたしの曲のソロを歌ったんだけど……何に使うんだろう?

 で、それから暫くして時間ができたから、エルフナインと一緒にご飯食べに行って、夜に動画の撮影をする事にしました。

 最近はエルフナインも娯楽に触れ始めてきたし、いい事だよね。そうやって楽しんでいる方がキャロルも嬉しいだろうし。

 

 

****

 

 

 エルフナインにOPを任せてから大体三日くらい。わたし達の予想だと他の編集もあるから、二週間前後はかかるかな? って思ってたんだけど、エルフナインはまさかの三日でOP作成を済ませてきた。これには切ちゃんとわたしも勿論驚いたし、自分の時間を蔑ろにしていないか不安になったけど、まさかの片手間作成。

 本編の編集に行き詰まったらこっちを作って、みたいな事をしていたらポンってできたみたい。

 そんな片手間感覚で動画って作れないと思うんだけどなぁ……ちなみに、一番最初に新しいOPをのっけるゲームは、新しく実況するやつだけど、結構古いゲーム。

 ロックマンXってやつ。前々から切ちゃんはロックマンシリーズやりたかったみたいだし、それのタイトルがいっぱい入ってるやつを買ったから、それの実況プレイ。

 勿論既に撮影済みで、切ちゃんは何度も死んだり偶々敵の弾が避けられない状態っていう屑運を披露して死んだり。わたしも結構死んだよ。

 

「それじゃあ、新しいOPの拝見デス!」

 

 ちなみに、わたし達は新しいOPをまだ見てない。視聴者さんと一緒に見る感じにしてみた。

 という事で新しいOPを見てみることに。

 

『信じあって繋がる真の強さを、「勇気」と信じてる! そう、紡ぐ手!』

 

 あ、結局Edge works of goddess ZABABAの方を使ったんだ。

 ……っていうか、あれ? このサビ、なんだかおかしいような……

 

『きっときっと、まだ大丈夫。まだ飛べる! 輝いた絆だよ、さぁ……空に調べ歌おう!!』

 

 ……あっ、これわたし達のユニゾンじゃなくって切ちゃんの獄鎌・イガリマだ!

 えっ、どういう事?

 

「……あっ。まさかエルフナイン、あたしがあの後に撮ったソロバージョンの方を使ったんデスか!?」

「えっ、切ちゃんも撮ったの?」

「その口ぶり……もしかして、調もデスか?」

 

 あれー? って言いながら首を傾げて、とりあえず動画をチェックがてら一通り見終わって……うん、わたし達の動画は特にEDもないし……

 

『誰かを守るためにも、真の強さを。「勇気」と信じてく。そう夢紡ぐTales』

 

 あ、あれ? 急にわたしのソロが……

 

『忘れかけた笑顔だけど! 大丈夫、まだ飛べるよ! 輝く、絆抱きしめ、調べ歌おう!!』

 

 ……も、もしかしてエルフナインってば、切ちゃんとわたしのソロバージョンをそれぞれOPとEDにしたってこと……? しかもそのためにEDの映像も新しく作り直して、動画最後のお別れの挨拶から、徐々に曲がフェードインする感じの編集までしたの……?

 な、なんて凝り性……

 そんな風に驚いていると、すぐに切ちゃんがエルフナインに電話をかけた。エルフナインの方はお仕事が終わって暇だったのか、すぐに電話に出てくれた。

 

『もしもし、切歌さんですか? どうですか、ボクのサプライズ。気に入ってくれました?』

「十分に驚いたデスよ。てっきりユニゾンが流れると思い込んでいたんデスから」

『あっ、もちろんユニゾンの方も使いますよ。というか、全曲使います。今回はソロバージョンで、もうちょっと経ったらユニゾンバージョンを使う予定です』

 

 なるほど、ちょっとずつOPを使い分けるんだ……

 

『あとは、要望が多かったらお二人の歌を歌ってみた、として投稿する事も考えていたんですけど、どうします? 多分、フルで聞いてみたいって要望が来ると思いますけど』

「あー……今コメント欄とか、ツイッターの方もチェックしてるんデスけど、オリジナル曲だと知ってフルで聞いてみたいって声が幾つか上がってるデスなぁ……これはいい再生数稼ぎになるかもしれないデス」

 

 まぁ、そもそもわたし達って一度カラオケ配信してるからね。元々歌が好きなのはバレてるし、時折カラオケ動画単品での投稿とかも望まれてたし。

 そう思うと、撮りなおした方がいいんじゃないかなと思ったんだけど、よく考えればわたし達は顔出ししていないんだし、適当な背景と一緒に歌を投稿した方がいいかも。変にリアルの部分を出してリアルバレとか一番笑えない状況になること間違いなしだし。

 ちなみに、イガリマとシュルシャガナの曲は、曲名から聖遺物の名前を省いて獄鎌と鏖鋸って曲名になってたよ。

 

「それじゃあエルフナイン。早速、OPに使った曲で歌ってみた動画の作成をお願いしてもいいデスか? その間はこっちで編集を請け負うデスよ」

『ふふふ。ボクを誰だと思っているんですか? 最近聖遺物関連の事件も起きないから完全に暇人なボクですよ! そんな簡単編集動画を作りつつ普段の編集をするなんて容易いです! というかもっと編集ください。暇です』

「えぇ……」

 

 あっ、切ちゃんが珍しく引いてる。

 確かにこの編集量で毎日投稿して、尚且つ暇とか言われたらこっちは何とも言えないと言うか……日に日に成長していくエルフナインの編集技術が凄まじいです。切ちゃんが死ぬ瞬間にTo Be Continuedは流石に笑い死ぬかと思ったし、そこからまさかの生還をしたと思ったら二段構えでまたTo Be Continuedが出て死んだときは本当にお腹が痛くなった。

 それと、時折音割れマリアBBとか止まらないマリアBBを持ってくるのは勘弁してほしい。完全に身内特攻だから、あれ。ほんっと、腹筋に悪いです。切ちゃんがガバって死にかけた時にうっすらと音割れマリアBBがフェードインしてくるのは本当に腹筋が崩壊するかと思ったから。んでもって死んだら、案の定音割れマリアBBが急に大音量でフェードインしてくるし。耳が壊れる。

 

『それじゃあボクはもっとOPとEDを作りつつ歌ってみた動画も作るので! それでは!』

「あっ、切っちゃったデス……最後のエルフナインの嬉々とした声、あまり聞けるものじゃないデスね……」

 

 やっぱりエルフナインって、頭の中が完全にワーカーホリックなんじゃ……

 ……いや、エルフナインの悲しい生態について考えるのはもうやめておこう。

 エルフナインが楽しそうで何よりです。そろそろ何かしらの編集を取り上げるべきかと、最近考えております。

 

 

****

 

 

 結局、わたし達の歌ってみた動画はそこそこの人気が出た。

 最初にソロ二曲を出して、そこからソロを立て続けに出していって、わたし達の合計八曲が出そろった当たりで今度はユニゾン曲を発表してって感じ。

 まさか別々の曲が合体するとは思っていなかったようで、視聴者の方々は相当驚いていた。

 作曲者は誰とか、作詞は誰、とか聞かれたけど、そこら辺はシンフォギアさんのおかげだから、知人のAさんって誤魔化しておいた。まさかシンフォギアですとは言えないしね。

 と、こんな感じでOPとEDを変えて心機一転。バラルの呪詛も消えた世界でわたし達は今日もお小遣い稼ぎと趣味になってしまったゲーム欲を満たすためにゲームをプレイするのでした。

 

「ここは昇竜拳で一撃デス! と言う事でしょーりゅーけ……あ゛っ」

「ぷっ。コマンドミスで暴発して死んでる」

「だ、だったらシュルちゃんがやってみるデスよ!」

「しょーりゅーけん」

「い、一発、デスと……!?」

 

 あと、ここぞという時に屑運のせいでコマンドミスする切ちゃんとか面白いしね。




はい。合計使用楽曲情報がいきなり六曲となった話でした。Cutting edgeの方は未完成愛と未熟少女の二つの作品コードを叩き込んだ。

実況動画ってOPが華やかだとなんだか惹かれない? と言う事で、OPやEDの事を話しつつリクエストにあった歌ってみた動画についてを書いてみました。多分、違うそうじゃない敵な感じになってると思いますが、許して許して……

XVが終わり、XDの方が徐々に動き始めましたね。XDのアルバムジャケットがイケメン三人で草生えたりしましたが、今回のイベントはマリアさんイベ。
これでイベント高コストカードが調ちゃん以外の全員揃ったので、恐らく次は調ちゃんの高コストカードが来るという事がほぼ確定しましたね。
助けて。

グレ調時空の事もちょっとずつ考えてます。エルザをゲストとして召喚しつつ、片翼世界のあれこれをやって完とするか、オリジナルXVをやって完とするか悩んでおります。

そんなアレコレがありましたが、これ以上は長くなるのでまた次回お会いしましょう。それでは。


P.S
書き終えてから試しに未完成愛流しながら未熟少女を、未熟少女を流しながら未完成愛を歌ってみたら、圧倒的に未完成愛を流しながら未熟少女が難しすぎた。ちくせう。


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月読調の華麗なるもしも

シンフォギアのキャラ副くじを八回ほど引いたんですけど、B賞のタペストリーはゲットできませんでした。調ちゃんのギアインナータペストリーが欲しかった……
でもD賞のミニタオルはゲットできたので勿論調ちゃんのを好感してきました。部屋の中に貼ってあります

今回はちょっとしたもしも、の話です。まぁ、いつものように簡単に読める山無し谷無しの短編です。

……にしても、ゴジラコラボの続報、まだですかね。もう三週間待ってるんですけど、決定以外何も来ないのが不安と言うかなんというか……
バンドリやグリッドマンの時と比べてかなり遅いっすよね。


 実はわたしには、あんまり言いふらしてはいないんだけど、電子機器の修理を始めとした機械弄りが人よりも得意っていう、ちょっとした特技がある。

 この特技がまぁ、ちょっとしたお小遣い稼ぎには最適でして。クラスの友達が壊しちゃった電子機器を千円くらいでなるべく早く修理するっていうお小遣い稼ぎ方法で最近のわたしは小金持ち。そりゃあ、ちょっとした物なら千円以下で直すし、基本的にお店に行くよりも安い感じで直してる。

 パーツの方は……まぁ、その、ね?

 

『調ちゃん、そこはくっ付けると変なエラーが起きちゃうわよ?』

「わっ、あぶなっ……っていうかフィーネ、急に話しかけないで。ビックリする」

『あなたのお小遣い稼ぎに付き合ってあげてるのに酷い言い草ね?』

「ぐっ……そう言われると何とも……」

 

 ……まぁ、トリックは今割れたんだけど、つまりフィーネに色々と教えてもらってパーツとかもSONGの中で出たもう使われないジャンクから拝借してきてるから、ほぼ元手もゼロなんだよね。

 まさかフィーネに教えてもらって使えそうなジャンクパーツを一通り持っているとかそう簡単に言える事じゃないし……

 フィーネがどうしてまだわたしの中に居るのか、と言われたら答えは一つ。あの時、切ちゃんのイガリマにザクっと刺されて昇天したハズのフィーネの定着率というか、そんな感じのものがイガリマで消しきれないほどになっていたらしくって、大体数か月前。魔法少女事変当たりかな? そこら辺からまたフィーネが復活したんだよね。

 これにはフィーネも驚いていたし、急に体の主導権を奪われたわたしも驚いた。体はすぐに返してもらえたけどね。

 で、それ以来という物、まさかまたイガリマに刺してもらうなんて事もできるわけがなく、とりあえずフィーネとは共生関係というか、そういう物を取りつけた。基本的には今まで通りなんだけど、時折フィーネにも体を貸すとか。変な事をしたら即イガリマっていう条件は勿論付けたよ。

 

『ほら、はんだが取れちゃってる。ちょっと貸してみなさい』

「あっ、ちょ……ほら見てなさい。こういうのはもうちょっと繊細に扱うのよ。例えばここをこうやって……」

『だから急に体を乗っ取らないで!』

 

 でも、実はフィーネの方からは結構簡単に体の主導権を奪えちゃうみたいで……ルナアタックの時に響さんと色々と話して和解したからか、特に変な事は考えてないみたいだけどね。

 わたしの体を勝手に使って基盤にはんだ付けするフィーネを見て、何ともモヤモヤ。確かに趣味代わりに機械弄りしてお小遣い稼ぎしているのは事実だけど、殆どフィーネに教えてもらってやってるから、あんまり強く言えないのが……それに、フィーネも自分のやりたい事をやるにはお金が必要だし、そこら辺を見ても一応いい感じの共生はできてるんだよね。

 ……っていうか、今ふと思ったんだけど、フィーネってもしかして一生わたしの体に付き纏うつもりなのかな……?

 

「これでいいわ。動かしてみると、この通り」

『やっぱりフィーネにはまだ勝てない……!』

「そりゃそうよ。こちとら何百年も最先端技術に触れ続けてるんですもの。まだ十六歳の子供には負けないわよ」

 

 しっかりと直った依頼のブツを見て思わず歯噛みする。

 同じ体を使っているのに、ここまでスラスラとわたしにできなかった事をしてみせられると、何とも言えない気持ちになる。

 

「にしても、あなたのクラスメイトはこんな盗聴器を使って何するつもりなの?」

『彼氏が浮気してるかもしれないから、部屋に仕込むらしいよ?』

「け、結構ガチなのね……友達付き合いは選ばないと将来苦労するわよ?」

『経験談?』

「一応よ」

 

 まぁ、フィーネって何度も人生やり直してる感じの人だし、色々とあったんだろうね。

 初恋はエンキさんで、次の恋は司令みたいだけど。

 ちなみにフィーネは先の事件の時、色々とわたしの横でうるさかったよ。シェム・ハの棺の事も知っていたし、そこから色々と考察していたり、特にバラルの呪詛の事が判明した時はめっちゃくちゃ取り乱してたね。しかもそこからエンキさんの映像を見た時はわたしの体を乗っ取って飛びかかりそうになってたし。

 全力で押さえつけたけどね。だからわたしだけ端の方で結構ガチな喧嘩してたんだけど、それはまたのお話。

 最後はエンキさんと成仏したと思ったんだけどなぁ……数分後に普通に戻ってきたんだよね。さっさと成仏しようよ……

 でもそのお陰でわたしはお小遣い稼ぎができてるからありがたい事にはありがたいんだけど。

 

「ほら、体返すわ…………ふぅ。この感覚、何度やっても慣れない」

『私もこんな風に体の貸し借りというか、魂の共生なんてするの初めてだから、新鮮も新鮮よ』

「そういえば今までは目覚めると、魂を完全に乗っ取ってたんだっけ?」

『えぇ。何でか調ちゃんだけはそうもできないけど。にしても調ちゃんの体、何度使っても軽いわね。ちゃんと食べなきゃだめよ?』

「食べてる。けど、体型維持も考えると……」

『身長はそれぐらいの時もあったけど、もうちょっと重かったような……あっ』

「ぶっ散らすよ?」

 

 わたしの胸を見て察したような声を出すな年増。

 

『私の今までの体って全部ナイスバディーだったから……』

「イガリマ案件にされたくなかったら黙って」

『はいはい』

 

 はいはい、そうですよ。どうせわたしはもうこのまま成長する事の無いお子様体型ですよ……

 ……まぁ、別にいいよ。胸が小さかったから回避に成功したことだってあった筈だし。マリアやクリス先輩ならやられてた場面もあったはずだし。

 そう思わないとやってられない。何が悲しくて一人だけ幼児体型をしなきゃいけないんですか……

 まぁ、とかなんとか考えている間にちゃちゃっとクラスの子に直ったよって連絡を送って、お代の方も連絡する。この盗聴器、かなり本格的でお高くてパーツも特殊だったから、結構手こずったし大体千五百円くらいで、と連絡するとすぐにお礼と明日ブツと交換で払うって言ってくれた。

 いつもよりは高いけど、お店で修理すると倍以上は簡単に取られるから、結構良心的だと思う。直るまで一晩だしね。

 はぁ、機械は結構あり合わせの部品でも何とかなっちゃうことがそこそこあるのに、体の方は思い通りにいかないんだろう……

 ……あっ。

 

「ちなみにフィーネって人の体をこう、弄れないの?」

『弄れるわよ? 弄れるけど、弄った後は大変よ?』

「例えば?」

『胸を大きくしたとするわね? でも、肉を無から生み出すなんてできないから、どこかの肉を持ってくる事になるから、腕や足にお腹や背中が奇形になったり、それでも足りなかったら内臓や骨も変な事になるし、ついでにそのせいでマトモに動く事ができない位に……』

「あっ、もういいです」

 

 どうやらズルはいけないみたいです。

 この世の全ては等価交換だから、とフィーネは言うけど、やっぱりどうにも諦められない。けど、諦めるしかないのが悲しい所。パッドとかは……うん、着けてもいいんだけど、ギアを起動させると確実にバレるし、そうじゃなくても普通にしている時にバレたら絶対に哀れみの視線を送られるし……

 ……服の上からでも分かるような膨らみが欲しいなぁ。

 ……まぁ、そういうのは置いておこうかな。依頼の品も直し終わったし、ここからは趣味の時間だね。

 よいしょっと。

 

「えっと、電源入れてヘッドフォンっと」

 

 結構大きな装置なんだけど、これは盗聴器からの音を記録してくれる装置。ノイズキャンセラーとか音の切り抜きなんかもこれ一つでできちゃったりする優れもので、ノートパソコンと通信機やら廃材やら何やらを組み合わせて自作しました。

 フィーネが。

 聖遺物を使わないと発見できないような特殊な盗聴器の音を拾えるのはこれだけだし、ついでにボタン一つで切ちゃんの部屋に仕込んだ超小型カメラで部屋の中を盗撮可能。それはUSBメモリに直接記録が可能で、もしもバレそうになったらボタン一つで盗聴器とカメラを破壊して跡形もなく消滅させる事だって可能。

 そんな超便利盗撮盗聴キット。しかも全部自作だよ。

 フィーネの。

 

『……作った私が言うのもなんだけど、あんまり褒められたことじゃないわよ?』

「でもフィーネだってエンキさんが相手ならこれ使うでしょ?」

『当たり前じゃない』

「わたしだって切ちゃんが好きなんだから使ったっておかしくない」

『まぁ、それもそうね。それにしても……同性の子が好きな依り代は初めてねぇ』

 

 フィーネが何か言ってるけどわたしはヘッドフォンから流れてくる切ちゃんの声やら何やらを楽しむ。

 えっと、今日は……あっ、誰かと通話してるみたいだね。えっと、電波をこっちでも受信するようにして……出た出た。えっと、相手はマリアだね。あっ、今度三人でコース料理? しかもマリアの奢り? やった。コース料理なんて食べたこと無いから今から初めて。

 ふふふふ。切ちゃんの声可愛いなぁ。ついでに盗撮もして、モニターに写真を出して……やっぱりこれだけじゃ物足りないからもう一個のカメラでしっかりと映像も出さないと。これも記録するからUSB刺してっと。

 この魔改造USBならSSD並の速度で5TBも記録できるから、もう暫くはUSBに困る事は無さそうだね。

 勿論フィーネが作ってくれました。あ、でも組み立てとかはんだ付けはわたしがしたよ? 中身というかプログラムとか回路図とかはフィーネがやってくれたけど。

 

「はふぅ……幸せぇ。ねぇフィーネ。やっぱりどうにかして合法的に切ちゃんと結婚できるようにできない?」

『あなた、ホント時折滅茶苦茶言うわね。だから同性婚ができる国で結婚するのが早いって言ってるじゃない』

「だよねぇ。切ちゃんにわたしの子供を産んでもらいたい……」

『最近の子ってなんか……アレねぇ』

 

 うるさい年増。

 響さんと未来さんは結婚できなくても幸せそうだけど、やっぱりこうして女の子として産まれたからには結婚したい。お揃いの結婚指輪つけて、一緒の部屋で毎日一緒に寝て、休日は一緒にデートして……正直切ちゃんがわたしに依存しきってくれるぐらいにわたし無しでは生きていけないようにしてあげたい。

 さて、今日はこのまま切ちゃんの部屋を盗聴して、切ちゃんが寝た辺りでわたしも寝ようかな。

 あぁ~……切ちゃんかわいいよぉ……

 

『はぁ……』

 

 溜め息吐くな年増。

 

 

****

 

 

 さて、調ちゃんは寝たわね。

 それじゃあ私は私でお仕事をしましょうか。体借りるわね、調ちゃん。

 

「全くもう。この子たちはギアの扱いが雑すぎるのよ。錬金術師のあの子がいるからどうにかなってるけど、私が定期的にメンテナンスしないとその内使えなくなっちゃうわよ?」

 

 私のお仕事は、私の遺産とも言えるシンフォギアの本格的なメンテナンス。

 この異端技術が徐々に裏から表へと出てき始めている世界でシンフォギアは唯一の抑止力となりえる。それが経年劣化によって使えなくなったら最後、恐らくこの世界は再び秩序を乱され異端技術を持つ者が持たざる者を虐げる時代となってしまう。

 この世界は良くも悪くも、異端技術を日常から遠ざけすぎた。

 だからこそシンフォギアはこの世界の最後の砦……なのだけど、この子達ったら無茶苦茶してくれちゃって。特にバーニング・エクスドライブなんて、ギアが本当に燃え尽きる程の奇跡を起こしてくれちゃって。あの子だけじゃギアのオーバーホールが間に合わなくて六つの内どれかは確実に壊れてたわよ。

 私が考えていなかった機能だって生まれているし。本当にいつ壊れてもおかしくなんてないのに。

 

「少なくとも、シュルシャガナとイガリマはしっかりと調整してあげましょう。ガングニールとかは時々になっちゃうけど、やらないよりはマシね」

 

 私が関与していないシステムが幾つも増えているけど、その程度を理解できない私じゃないわ。何故なら私はフィーネ。シンフォギアの開発者よ。アマルガムだって何するものぞ、ね。

 せめて、この子たちが最後まで笑える世界を作る。それが亡霊となった終わりの巫女の最後の仕事。

 あの人だって今の世界を見れば、今の世界を守るために戦うはず。弦十郎くんっていう最強の砦が居る事には居るけど、アルカ・ノイズは弦十郎くんでも倒せない。なら、それを倒して世界を守るためにシンフォギアは必要不可欠。

 シェム・ハが託しあの人が遺した世界を守る。それが彷徨える先人の使命ね。

 

『むふふ……きりちゃん……いいにおい……』

「全くもう。魂だけの状態で寝言なんて器用な事をするわね」

『きりちゃんの……〇○○も○○〇もかわいくてきれい……』

「えっ、なんて? 局地的にバラルの呪詛でもかかったの?」

 

 ……まぁ、この子がむっつりすけべのレズっ子なのは承知の上だけど、ここまで思いっきり下ネタを口にするのは初めてね。イガリマの子が聞いてなくてよかったわね。

 さて、早いうちにメンテを終わらせておかないと魂はまだしも肉体の方が疲れて明日の調ちゃんが大変になっちゃうわね。はんだごてとドライバーがあれば人間はどんな機械だって……あら? ちょっとメンテを中断して……

 

「しらべ~? 起きてるデスか~?」

 

 イガリマの子がすっごい小声でドアを開けてきたわね。ノックも無しに。

 ……まぁ、この子が時々こうやって来るのは知ってるからいいのだけど。

 

「どうしたの、切ちゃん。寝れないの?」

「あっ、お、起きてるんデスね。いえ、特に用事はないんデス。起きてるかどうかだけ知りたかっただけデスから」

「そうなの? 切ちゃんも早く寝ないと、明日起きれないよ?」

「わ、分かってるデス。それじゃあ、また明日デス」

 

 我ながらこの子の演技が上手くなってきたわね。

 ……あの子、アレで本当に色々と隠せてるつもりなのかしら。思いっきり手の一眼レフ見えてるわよ。

 偶にというか、大体三日に一度くらいはあの子、こうやって調ちゃんの部屋に来るのよね。しかも、一、二時間くらい寝て調ちゃんが確実に寝ている時間になってから。

 一眼レフと夜中に侵入。

 お察しの通り、あの子、調ちゃんの寝顔とか思いっきり撮ってるのよね。しかも、時折服や下着を脱がせて……

 正直調ちゃんの方がまだマシってレベルの事をしてきたから、最初に見た時は驚いちゃったわ。未来ちゃんとかもそうだし、最近の子ってヤバいのね……

 私が盗聴器やらカメラを作ってあげたのも、こうやって夜這いされてるのがなんだか不憫からだったってだけで。

 装者の給料って結構いいから、あんな子でも暗い所でバッチリと寝顔が撮れるいいカメラと、調ちゃんを起こさない程度の光を出す照明とか、色々と買えてるのよね。

 

『うぅ……今日も駄目だったデス……仕方ないから今日はこの間やっと成功したベッドの上で全裸の調で――』

 

 あーあー聞きたくない。あの子のプライバシーのためにも聞きたくなーい。一週間前に調ちゃんの服と下着全部剥いで写真撮って満足げに服と下着を着せて帰っていった子の声なんて聞きたくなーい。

 ……はぁ。とっととくっ付いてくれた方が私もまだ楽なのに。どうして百合っ子達の変態っぷりをまざまざと見せつけられてるのかしら……

 ……私もあの人や弦十郎くんとそういう事を、じゃなくって。早くギアのメンテしちゃいましょう。

 じゃないと調ちゃんの体が疲れちゃうものね。




フィーネと調ちゃんの話かと思ったら変態きりしらに溜め息を吐くフィーネさんのお話でした。

フィーネのせいでヤケに本格的な機材をゲットしていた調ちゃんでしたが、それ以上に夜這いを毎度毎度成功させて色んな写真を撮っている切ちゃんもヤバイ。
全裸の調ちゃんの写真で一体ナニをする気なのか……

それと、適当にアンケート乗っけておきます。よかったら答えてね。


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月読調の華麗なる生徒会役員共まっぱ!

響の太鼓「ドドンっ!」
クリスの笛「ピッピッピ。ピッピッピ」

未「私立リディアン音楽院生徒会会則、みーっつ! 見られたら……見せ返せ!」
調「何を!?」
未「ナニを!」
調「ちくしょうツッコミをミスった!!」


 わたしが生徒会役員共の一人となって早数か月。もう未来さん達の下ネタにも慣れたし結構雑なツッコミを入れることに慣れてきた自分も居る。

 安定の思春期の男子かと言いたくなるくらいに下ネタをバリバリぶち込んでくる会長、未来さん。どうやらわたしの同級生からは優しくて華があり、上品な生徒会長と思われているらしい。ふっ。

 そして結構天然な感じで下ネタを叩き込んでくる上に自分の性癖を大っぴらに暴露してくる事まである副会長、響さん。真面目な時はあんなにカッコいいのにどうしてこうなってしまったのやら。ちなみにわたしの同級生からはイケメン系と思われてるとか。ふーん。

 そんでもってわたし同様ツッコミ担当、会計のクリス先輩。もげろ。

 そんなわたし達生徒会役員共だけど、今日はSONGの訓練という名目で生徒会役員共四人と切ちゃん、エルフナインを加えた六人でキャンプに来ています。なんで未来さんとエルフナインも居るのかと聞かれたら……まぁ、訓練は名目だから。ただのキャンプだから。

 

「それじゃあ、テントの割り振りだけど、まずわたしと響。それからクリスとエルフナインで、もう一つが切歌ちゃんと調ちゃんでいいかな?」

『異議なーし』

 

 で、どうして急にこんな名目でキャンプに来たかと言うと、実はリディアンの方で来年か近い内かは分からないけど、こうやって生徒だけでキャンプを張ってキャンプをするっていう林間学校に近い物をしようって案が出てきた。

 でもいきなりそれをやるのは難しい。なら生徒会であるわたし達が少人数で体を張って実際にキャンプ場でキャンプしてこようって事になった。

 そんな訳で始まりましたキャンプ。わたし達装者は案外野営の経験とかもあるからテント張るのは慣れてるんだよね。逆に未来さんとエルフナインは結構苦戦してそう。

 テントを張ってご飯を作ってさぁ寝よう……の前に、ちょっと問題が起きました。

 

「あっ、切ちゃん。報告書書いてなかったからちょっと電気付けるね?」

「了解デス。それじゃああたしは……あっ、携帯を充電してなかったデス。ちょっと鞄漁っとるデス」

 

 学校に出すはずの報告書、書いてなかった。

 机なんて無いから地面に適当な板を置いてその上に紙を乗せてっと。さて、書かなきゃ。

 

 

****

 

 

「よっこいしょっと」

「未来、今のはちょっとおばちゃんくさいよー?」

「そう?」

「そうそう。人前でやると恥かくよ? 夜の営みの時とか」

「じゃあ、相手が熟女好きだったら?」

「はっ……! その発想があったか……!!」

「なんでこの人達そんなにどうでもいい事を真剣に話せるんだろう」

 

 

****

 

 

 ふっふっふ。調ちゃんと切歌ちゃんへのドッキリターイム。

 このわたし、小日向未来がただのキャンプで全てを終わらせるわけがない! という事で、わたし達は予め持ってきておいた色んな道具を手に調ちゃんと切歌ちゃんを驚かせるために夜のキャンプ場を歩いてます。

 

「……まぁ、アタシはなんも言わねぇよ」

「と言いながらクラッカー装備するクリスの事、わたしは好きだよ?」

「す、好きとかそういう事簡単に言うんじゃねえ!!」

「具体的にはこの間エルフナインに貸してもらった触手マシーンくらい好きだよ!!」

「そういう事を大っぴらで簡単に言うんじゃねぇよボケナスビ」

 

 えー? わたし的にはあのマシーン、結構好感度高いんだよ? あっ、勿論挿入れてはいないから清い体のままだよ! エルフナインはもっとヤバイ感じの触手マシーンで毎日気持ち良くなってるらしいけど。

 わたしもちょっと興味あるけど、せめてお嫁に行くまでは清い体でいたいじゃん? 具体的には処女でいたいじゃん? そういう事です。あっ、でも万年処女って言うのも……

 

「おい、ピンク色な事考える前にとっとと行くぞ」

 

 あっ、そうだね。とっとと行こうか。夜中に外でずっと騒いでいるわけにもいかないし。という事でみんなで調ちゃんと切歌ちゃんのテントに突撃ー!

 

「テントで騒ぐのも迷惑だと思うんだけどなぁ」

 

 気にしない気にしない! だって結構離れた所に一般客がいるくらいで近くには誰も居ないからね!

 よし、見えてきた見えてきた。中からの光で影も浮かんでるし……うん、二人ともいるね。じゃあ早速……

 

『うーん、無いデスねぇ。調、どこら辺デスか?』

『もっと奥の方じゃない?』

「えっ……」

「ちょっ」

 

 えっ、えっ、う、うそ?

 なんか調ちゃんが四つん這いになって切歌ちゃんがその後ろから調ちゃんに向かって手を突っ込んでる!? しかもあの位置って……う、うわぁ。

 あっ、すっごい腕入ってるよ!? 肘くらいまで思いっきり入ってるよ!!? 大丈夫なの!? 色んな意味で大丈夫!?

 

『あれ、変なものが入ってるデス』

 

 あっ、手が出てきた……って、何か握ってない?

 あれは……な、縄!? 調ちゃんの体の中から縄!!? とんでもないプレイしてる!!?

 

『えっ? あっ、入れっぱなしにしてたみたい。いつのだろう』

『結構長いデスね』

『引っ張って抜いておいて』

 

 う、うわぁ……あのロープ五メートル以上はあるんだけど……そんなものがあんな小さな体に……う、うわぁ……

 これには流石のわたしもドン引き……た、確かに響は結構ア〇ル弄るの好きになってるけど、こんなものまでは入らないだろうし……どんなに開発したらあんなものが……

 

『ん? なんでこんなのが入ってるんデスか』

『その傘は切ちゃんが入れたやつだよ』

『あれ? そうだったデスっけ?』

 

 こ、今度は傘!!? しかも折り畳みじゃないし!!

 なんであんなものまで体の中に……というかあんなの入ってるんなら見ただけで分かるくらいに体がおかしな事になってると思うんだけど!?

 調ちゃんの体はカービィ並みの四次元だった……? いや、そんな事は……

 っていうか、あの二人何でこんな外であんなプレイを……響もエルフナインも口を開けちゃってるしクリスは……え? 何その達観した顔。

 

『わっ!? なんか吹き出してきたデス!』

『あー、偶に暴れ出すんだよね。あんまり吸い込まない方がいいよ?』

 

 こ、今度はお尻から何か噴出してる!? しかも見て分かるレベルで!!

 えっ、ホントに何入れてるの!? いつもツッコミばかりしてるのに実は裏であんな凄い技を開発していたの!? む、むっつりスケベとかそういう領域じゃないよねアレって……

 

「ビョーキだよ……」

 

 思わず響が呟いていた。

 そ、そうだよ。あんなの最早病気だよ。

 

『あっ、さっき買った瓶コーラ忘れてたデス。えいっ』

『ちょっと切ちゃん。そこで開けたら危ないよ?』

『ちゃんと気を付けてるデスよ』

 

 こ、今度は調ちゃんのお尻で瓶コーラの蓋開けてる……ポンッていい音したよ……

 

『……えっ、なんかカブトムシ入ってたデス……し、調?』

『知らないよ。誰か入れたんじゃない?』

『悪戯なのかそれとも勝手に入ってきたのか……』

 

 お、お尻にカブトムシって勝手に入るような物だっけ……というか生き物まで入れるなんて最早調ちゃんが生き物を超越した存在になっているような……

 

『えっと、これをここにやって、えいっ』

『あんまりやりすぎたらダメだよ?』

『大丈夫デスよ。というか調の方は大丈夫なんデスか?』

『うん、もうちょっと』

 

 しかも今度はテニスラケットの柄の部分を入れてる!? しかもハンマーで先端を打ち付けて思いっきり調ちゃんの中に入れてるし!!?

 死んじゃうよ!? そんな事したら流石に死んじゃうよ!?

 

「う、うわぁ……」

「ひ、人の体ってテニスラケットが入っちゃうんですね……」

「アタシはお前らが全く疑うことなくそういう事を思える事にうわぁだよ」

 

 で、でも、アレって完全に入ってるよね? 調ちゃんの体が四次元ポケット並に色んな物を受け入れちゃってるよね……?

 

「ったく……おい後輩共! 恐れおののけ先輩共の登場だオラァ!!」

 

 あっ、クリスが勝手にテントの中に入ってクラッカー鳴らした! ちょっと、折角のプレイ中なのに邪魔したら……って、あれ?

 

「うわっ、ビックリした……どうしたんですか、クリス先輩。わたし、今報告書書いてるのに」

「こっちも携帯の充電器探してたところだったんデスよ」

「あー、まぁそういうこったろうなぁ。ここのランタンと影で奇跡的に汚い光景が見えていたと」

『はい?』

 

 ……つ、つまり、あの光景は調ちゃんが四つん這いになって地面で何か書いている間、切歌ちゃんがバッグの中に手を突っ込んでいる光景が奇跡的に被って四つん這いになっている調ちゃんの体の中に手を突っ込んで色々と取り出している風に見えていた……って事?

 …………なにそれぇ。

 

「まぁ、今回はお前らに不備はないが……せめてもうちょい鞄の中片付けておけ。あとカブトムシは森に返しておけ」

『はーい』

「本当にそういうコトやってたら面白かったんだけどねぇ」

「でも愛する後輩のお尻にやべーのが入ってる所はちょっと見たくないんだけど」

「そういうプレイならまだしもですね。あっ、でもボク、この間機械で弄ってる時に間違ってお尻に釘バ

 

 

****

 

 

「うーん、中々綺麗な三角形にならないなぁ」

「それなら響さん。わたしの定規使いますか?」

「剃毛に定規は使わないかなぁ」

「どこの毛とは言わんが、生徒会室で剃るなよ。いや、マジで」

 

 

****

 

 

 この間のプチ林間学校みたいなのは楽しかったけど、わたし達にはやらなきゃいけない仕事が結構ある。という訳で、旅行気分も程々に、わたし達は学校で次なる仕事に取り組むのでした。

 

「今日からリディアンは動物愛護週間だよ。この中に動物を苛めて楽しむようなやべー性癖の人がいないのは知ってるけど、みんなの見本となるように行動してね」

「性癖って単語にツッコミ入れるのもう疲れた……」

 

 わたしのボヤキはさておき、今日からリディアンは動物愛護週間。特にこれといった目標はないけど、動物には優しくしようね、って感じの期間。まぁ、この学校に動物を苛めるのが趣味な人なんてまず居ないだろうから、殆ど意味は無いんだろうけど。

 でも、ペットとか飼ってる人はこれを期にまた自分のペットの可愛さを再認識してもらって、もっと大事にしてもらうとか、そういうちょっとしたことを感じてもらえれば。

 

「まぁ、アタシは特に関係ねぇか。動物が身近に居る訳じゃないし」

「わたしも響の事は大事にしてるから、いつも通りかな~」

「わたしだって……ん? ちょっと待って。未来さ、今わたしの事をペットとして扱わなかった?」

「響、お手」

「ワンっ」

「胃袋も手綱も掴まれてるのがこうも顕著に表れるとはな」

 

 なんか先輩達がふざけているけど、わたしも特に問題はないしいつも通りかな。

 特にペットとかは飼ってないしね。強いて言うなら、もしも校内に犬とか猫が迷い込んで来たら優しくしてあげるくらいかなぁ。

 という事で、動物愛護週間が始まったのはいいけど、生徒会の間では特に変わりなし。いつも通りにやっていきましょうと言う事で。

 

「後は……男性の先生たちにはオ〇禁を」

「あんまりツッコミたくないんですけど言わせてもらいますね。その人たちは命を粗末にしているわけじゃねーよ」

 

 この学校に来てからそういう知識だけが増えていく気がするのは気のせいだろうか。

 

 

****

 

 

「あっ、猫が木の上に」

「ホントだ。ほらこっちに降りておいでー。モフらせてー……って、駄目だ。警戒しちゃってる」

「そういう時は猫耳と尻尾で猫に扮して安心してもらおう! ほらこっちだにゃー」

(……ツッコまないぞ。わたしは響さんのスカートの内側から出てる尻尾についてはツッコまないぞぉ)

 

 

****

 

 

 お昼時。それは生徒たちにとっては至福というか気が休まる時間。でも、お昼を食べる時間を延ばすと昼休みの内にやっておきたい事をやれないっていうジレンマもあるから、ちょっと急ぎつつお昼を食べて自分のやりたい事をやる時間。

 そんな時間の中でわたしはいつも通り生徒会の先輩達と一緒にお昼を食べる事に。最初の頃は切ちゃんと食べる事も多かったんだけど、最近は生徒会で固まって食べる事の方が殆どかな。でも、週に一、二回は切ちゃんと一緒に食べてます。

 でも今日はお弁当を作り忘れたし、未来さんと響さんもお弁当を作り忘れたみたいでみんなで学食に。

 

「今日のお昼は激辛たらこスパ~」

「あれ、今日はお米じゃないんですね。あとクリス先輩はこんな時でもあんパンと牛乳ですか」

「うめぇんだからしゃーない」

 

 珍しくお米を食べない響さんといつも通りなクリス先輩。

 未来さんは普通に定食で、わたしはおうどん。ちょっと七味をかけてピリ辛に。

 

「うーん、辛い!」

「って言いながら美味しそうですね。響さんって辛いもの好きでしたっけ?」

 

 わたしの記憶では特にそんな事は無かったかなーって思うんだけど。海外に任務で行ったときとかも激辛料理とかには手を付けてなかったと思うし……

 

「実は最近、癖になっちゃったんだよねぇ」

 

 あー、マイブーム的な。

 わたしもよくあり――

 

「トイレの時に」

「とうとう行くところまで行きましたねアンタって人は」

 

 

****

 

 

「いやー、プールだからってはしゃぎすぎちゃったデスよ」

「流石にプールの時は何も入れてないよね……?」

「と思うじゃないデスか。実は……あれっ」

「おいやめろ。ここで出そうとするんじゃ――」

「……間違ってお昼のフランクフルトが入ってたデス」

「もうやだこいつ」

 

 

****

 

 

 あー、今日は調ちゃん遅いなぁ。未来もなんかちょっと遅れて登校するって言ってたし。

 暇だなぁ……

 

「おはようございます」

「お待たせ響」

 

 あっ、二人とも来……

 ……えっと。

 あの、その。

 これってツッコミ待ち……? それともマジ……? いや、ここは友人として、先輩として一つ言っておこう。

 

「パッドを入れるんならもうちょっと控えめの物を入れた方がいいと思うよ」

『うるせぇお前に貧乳の気持ちが分かってたまるかぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』

「……二人とも泣いて暴言吐きながら出て行っちゃった」

 

 いや、だってさぁ。

 あの二人の胸、クリスちゃん並みになってたんだもん。そりゃあ言うよ。違和感凄かったし。

 というか二人が遅れた理由ってまさかアレ……?

 

 

****

 

 

「これが資料として搬入された美術用の石膏像だね」

「みたいだね。にしても、立派だね」

「うん、とっても立派」

『……はぁ、はぁ…………』

「……あっ、調ちゃん。これは違うんだよ。これは一種の体温調整で」

「おめーら犬かよ」

 

 

****

 

 

 今日の夜ご飯はどうしようかなぁ。

 適当にカレーかシチューでも作り置きしておいて何日かはそれをアレンジした物を食べるようにしようかな。切ちゃん、カレーもシチューも大好きだし。

 そうと決まればまずはどっちにしようかと決めて……うん?

 

「――そうそう、そういうワケだからごめんね。でも誘ってくれてありがとね~」

 

 あっ、響さんだ。その横には未来さんとクリス先輩も。

 もう話は終わったみたいだし、ついでにちょっと生徒会関連で話したい事もあったし話しかけておこうかな。

 

「響さん」

「あっ、調ちゃん。どうしたの?」

「いえ、さっきの会話。遊びにでも誘われたのかなと」

「そんなんじゃないよ。柔道部に入らないかって誘われてね。それを断ったところ。ヒマがある時だけでいいって言われたんだけどねぇ」

 

 あー、部活動……

 そういえばリディアンは部活の掛け持ちとかはオーケーだし、生徒会でもしっかりと仕事をするんなら部活動に入るのは許可されているから、その柔道部の人も響さんに入ってもらえたらって望みを込めて話しかけたんだろうね。

 でも、わたし達ってそこそこの頻度で学校を休むし、そのせいで生徒会の仕事で手いっぱいになる時が多いからね。部活動に入ったらそれこそ生徒会の仕事なんて手が付かないよ。

 

「そういえばアタシも何でか調理部に誘われたな。作ったのを食べてくれるだけでいいからって」

 

 ……それ、ただの愛されマスコット枠じゃ。

 いや、何も言うまい。

 

「わたしも流れ星とかを見に行ってるって言ったら天体観測部に誘われたよ。もちろん、断ったけどね?」

 

 へぇ、未来さんも。

 ……あっ、そう言えば。

 

「わたしもちょっと前に経験のない弓道部に誘われたんですよね」

「へぇ、弓道部……」

「……あぁ、そういう事か」

「そこの視線をちょっと下に下げた二人。今度の訓練でボロ雑巾にしてやるから覚悟しておけよ」

「……実はね、わたしも誘われた事あるんだよ……!!」

「未来さん……!」

 

 この気持ちは巨乳の二人には分かるまい……!!

 

 

****

 

 

「実は趣味でちょっとしたロボットを作ってみたんですよ。これなんですけど」

「へぇ、結構よくできてるね」

「これで完成なの?」

「いえ。まらできてないんですよ」

「そうなんだ~」

(……まだできてない、を噛んだだけだよね。それか舌足らず)

(でもエルフナインの事だからもしかしたら……)

 

 

****

 

 

 あっ、これこの間のテニスの大会の結果だ。

 確かこれ、わたしのクラスの人も出てるんだよね。生徒会の方にもその結果は届いて、それに応じて何かするなら何かしてって感じ。だから、休日はちょっとした任務で遠くに行ってたから結果を見れなかったわたしにとってはありがたい。

 という訳で見ちゃおっと。

 えっと、どこに……いた、この子だ。えっと、この子は……あー……

 

「テニス部の結果を見て溜め息なんてどうしたの?」

「いえ、クラスの子が出ていたんですけど、負けちゃったみたいで」

 

 あの子、結構気合入れてたのに、二回戦負けなんて……

 やっぱりスポーツの世界は厳しいって事だよね。

 

「これは後で会った時になんて声をかけたら……」

 

 下手な慰めは傷つけちゃううだけになるかもしれないし……

 どうしよう……

 

「調ちゃん。勝負の世界は時に無常なんだよ。それをその子も分かってるだろうから、慰めは不要だと思うよ」

 

 響さん……

 響さんがそう言うのなら、下手な慰めはせずにまた頑張ろうって言ってあげた方がいいかな。

 うん、そうだ。そうしよう。

 

「そうだよ。慰めは個人でするものだからね」

「言葉の意味がちがぁう!」

 

 そんでもってそれを全部ぶち壊す未来さんと来たら……!!

 

 

****

 

 

「偶には正座して精神統一でも」

「響さんが急に武人っぽい事を」

「最近見た映画で正座して瞑想してるシーンがあったからじゃないかな」

「あぁ、そういう事ですか。で、効果のほどは」

「……正座してると踵が丁度当たってヘンな気分に」

「パンツ履けよ」

 

 

****

 

 

 今日は学校も終わっておゆはんのお買い物を切ちゃんと一緒に。

 なんやかんやで買いすぎる事があるから切ちゃんと一緒に来た方が楽に済むんだよね。という訳で今日のおゆはんの材料を……

 

「あっ、調。このキュウリを二本買ってもいいデスか?」

「キュウリ? いいけど……食べきれるの?」

 

 キュウリを使う予定はないし、わたしも特に食べたいとは思わないから買ったとしても切ちゃんに食べてもらう事になるんだけど。

 そうするとお味噌とかも追加で買っておいた方がいいかな? 切ちゃんの事だから丸かじりするとか言いそうだし。

 

「一本は食べるデス」

「もう一本は?」

「夜に使う用デス」

「買ってやるから両方食えボケ緑」

 

 

****

 

 

「あれ、エルフナインがこの時間に本部のシャワー使うって珍しいね」

「いやー、昨日シャワー浴びる前に寝落ちしちゃって今起きたんですよ」

「ちゃんとベッドで寝ないと駄目だよ? っていうか、結構日焼けした? 外に居たの?」

「はい。ちょっと焼いてみようかなーと気まぐれで。よいしょっと」

「ふーん…………で、どこで焼いたの。日焼け跡ないけど」

「大丈夫です。本部の甲板の上で焼いたので」

「きっとキャロルは今頃あの世で泣いてるんじゃないかな」

 

 

****

 

 

 今日は本部の方に用事があったのでいつもの生徒会メンバーと共に本部に寄ってきました。

 司令に用事があるから、普通に指令室に行けばいいかな……って、あれ?

 

「藤尭さんだ」

「談話室の椅子で寝ちゃってるね」

「休憩中か? なら起こさないようにしないとな」

 

 そうですね。

 藤尭さんはいつも忙しそうだし、こういう時は起こさないようにした方がいいよね。よく見たら頭のすぐ側に携帯電話が置いてあるから、多分アレでアラーム鳴らして休憩が終わる前に起きる気だろうし。

 いつもわたし達の後始末とかしてくれてるからね。その分だけこっちもちょっとずつ恩返ししていかないと。

 

「それじゃあ起きないうちに」

「ここを通り抜けないと、ですね」

「いや、今のうちにこれ(デ〇ルド)を!!」

「はい処分」

「ちょっ、クリスちゃん! 流石に冗談だしそれ高かったんだから捨てないで! ふざけただけだから!! まだ使ってないの!!」

 

 わたしは響さんを助けずクリス先輩のアシストに入った。

 

 

****

 

 

「初めてエルフナインの研究室に入ったけど、結構静かに研究してるんだね」

「結構静かでしょう?」

「うん。凄い静か」

「ですよね! 実は振動音がしないように改造したんです!」

「もう来るのやめようかな」

「あっ、調さんも一個どうです? 授業中とか使えますよ」

「いらねぇ」

「切歌さんは喜んで貰って行ったんですけど」

「あのクソ緑ィ……!!」

 

 

****

 

 

 今日は未来さんと一緒に晩御飯のお買い物に。

 切ちゃんと来るのが多いんだけど、未来さんも主婦的な所があるし、台所を仕切っているから献立に迷った時とかは一緒について来てもらってるんだよね。

 で、今日は晩御飯の献立に迷ったから未来さんについて来てもらって色々と助言をしてもらう事に。

 

「カレーはこの間やっちゃいましたし、ハンバーグも作っちゃったし……本当に何を作ろうか迷っちゃって」

「それならスパゲッティとかは?」

「あっ、それいいかも。候補に入れておきます」

 

 一応スパゲッティを候補に入れておいて、具材は何にしようかな……

 ……ん? あっ、あれって。

 

「うわ、すごっ」

 

 松茸が二本並んでる。

 しかも二本で軽く一万円超えてる……これは学生どころか一般人でも中々手が出ないほどだね……

 

「あっ、ホントだ。凄いね」

 

 未来さんも松茸に気が付いたみたい。

 やっぱり松茸高いなぁ……食べてみたい気はするけど、こんなのを買ったら次の日からはパンとスープだけの生活になっちゃいそうだよ……

 

「こんな所で兜合わせが見られるなんて」

「わたしの求めてる回答はそれじゃない」

 

 

****

 

 

「しーらべちゃん」

「うわっ、どうしたんですか響さん。急に真正面から抱き着いてきて」

「んー? いや、ちょっとね…………あれっ」

「………………おい偽善者。今背中を撫でてブラしてるっ!? って驚いただろ」

「そ、ソンナコトナイヨー」

 

 

****

 

 

 ふぅ、授業終わりっと。

 昨日ちょっとだけ夜更かししちゃったから眠い。なんで昨日は急に面白動画見始めちゃったんだろう……昨日の自分がちょっと嫌になる……

 でもやっちゃったものは仕方ない。居眠りだけはしないように気は引き締めて行かないと。

 ……一応、目が覚める感じのスーッとする目薬差しておこっと。うっ、結構染みるぅ……!! でも目は覚めた! よし!

 

「調、次は移動教室デスよ」

「うん。ちょっと待ってね、今準備するから」

 

 えっと、次の授業はアレだから、これとこれ持ってっと。

 

「よし、行こっか」

「そうデスね。あっ、でも後でちょっとトイレに寄ってくるデス」

「うん」

 

 ……

 

「もうすぐイっちゃいそうで」

「言わんでいいわ」

 

 言うと思った。

 とりあえず横の色ボケ緑の下ネタは無視するとして、ちゃちゃっと移動だけしないと。これで変な遅刻とかしたくないしね。

 最初はこの移動教室一回で相当慌ててたのに、最近は校舎に慣れた事もあって移動教室なんてほぼ苦じゃなくなった。めんどくさいっていうのはちょっとだけあるけどね……?

 ……あっ、欠伸が出そう。

 でもこんな所で大口開けるわけにもいかないし我慢しないと……!!

 

「うっふ……」

 

 も、もうちょっと……

 

「……つわり?」

「あくび」

 

 あっ、収まった。

 

 

****

 

 

「えっと、確かこの辺に……」

「ひゃっ!? 調ちゃん、そこはわたしのお尻だよ!」

「あっ、ごめんなさい」

「ついでに言うと、わたしのHなスイッチだよ」

「マジで顔赤くすんじゃねぇよボケナスビ先輩」

 

 

****

 

 

「調ちゃんが生徒会に加入してから結構経ったよね」

「そうですね、言われてみると確かに」

 

 フロンティア事変が終わって、魔法少女事変も終わったと思うと、もう結構な時間をこの人達と一緒に過ごしてるんだなぁと自覚する。

 まさか偽善者偽善者言った人がド変態だったり、一番言葉遣い荒い人が一番苦労人だったり、一番戦いから遠いと思っていた人がド変態だったり、切ちゃんが目覚めたりエルフナインが目覚めたり……いや、ホント色々あった。

 お願いだから下ネタなんて飛び交わなかった頃に戻ってほしいけど、それはもう叶わぬ願い。

 でも、学校生活は結構楽しい。今まで普通を味わえない身だったから、普通の日常がホントに楽しい。

 

「なんやかんやで仕事の飲み込みも早かったしな。アタシ達の仕事も結構楽になった」

「そうだねぇ。わたしなんかよりもよっぽど飲み込みは早かったよ!」

「おっ、自虐か?」

「褒めただけで自虐扱いされるとはこれ如何に」

 

 まぁ、面白い先輩達もいるしね。

 こんな日常が楽しくないわけがない。

 

「よーし、それじゃあこれからも生徒会役員共! ア〇ル引き締めていくぞー!」

「おー!」

「もうわたしは何も言いません」

「それが正解だ」

 

 でも唐突に下ネタを叫ぶのはやめてくれないかなぁ。

 いや、ホント。マジで。




サブタイのまっぱはMax Powerの略。

はい、一ヵ月近く放置してしまってすみませんでした。卒論と卒研が忙しすぎてネタを探したりそれを文に起こしたりとか全然できてませんでした。

更新していない間に色々とありましたね。いや、マジで色々とありましたね。もう何から話題にすりゃいいのか分からないレベルで。

とりあえずXDの方はゴジラコラボも終わりXDクエストも最終章が配信されなんかガングニール型ギアの未来さんまで出てきたという。んでもってドール型ギアの調ちゃんは……やっぱゴスロリ似合いますねぇ!! マジで公式でゴスロリ衣装着せてくれるとは思わなかった。あと公式がマジでチェーンソー出してくるとは。

あと大きな発表と言えばやはりライブでしょうか。今回こそは当選して適合者の一人として現地で装者の歌を聞きたい所。ワンチャンそこで劇場版とかOVAの製作決定が発表されるかも……

他にも色々とありましたが、あんまり触れすぎると長くなるのでここら辺で。とりあえず、まだXDクエスト最終章がプレイできてないので早いうちにドール型調ちゃんを完凸させてプレイする事にします。


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月読調の華麗なる笑ってはいけない新米装者

よし、百話記念+調ちゃん誕生日に間に合った!!

という事で今回は去年からやるやる詐欺して終わっていた笑ってはいけないをやります!

百話記念という事で上下分割もせず、ついでに調ちゃんの誕生日までには間に合うようにと思って書いていたのですが、滅茶苦茶ギリギリまでもつれ込みました。

と、言うのも横のシークバーをご覧になった方はお分かりでしょうけども……はい。

今回の話、これだけで約三万五千文字あります。幾つもの笑ってはいけないの中から自分が印象に残った物をピックアップしつつ書いて行ったら三万五千文字かかりました。しかもこれ、一月中旬あたりからずっと書いてました。


で、最後にちょっとだけ注意の方をば。

今回の話は例の歌を使っているのでPDF保存ができません。それと、もしかしたら例の歌のせいで下ネタ判定くらって非公開にされる可能性があるかもしれません。その場合はどうにかします。
それと、時折自分が書いているゆゆゆ二次とのクロスとかどう? って言われていたのですが、流石にそれで一本書くのも……と思っていたのですが、今回はとりあえず色んなキャラ出すし、こっちからちょっと引っ張ってくるかぁと唐突に思ったので、自分の他の二次創作のオリキャラが一人出てきます。不評が多かったら書き直します。ご容赦を。

それでは長くなりましたが、発案執筆まで一年以上かかった笑ってはいけないをどうぞ!


 とある日、わたし達SONGの装者は平行世界……奏さんの並行世界の二課から謎のお誘いをいただいた。どうやらSONGと合同で何かをしようとしているらしいんだけど、それのお披露目的な何かに是非とも来てほしいとの事。

 なんでか奏さんはその後セレナの世界に向かって、それからグレ響さんの世界にも行ってから自分の世界に大急ぎで戻っていったけど。一体何をがしたかったんだろう? あと未来さんも連れて行っちゃったし。

 で、そんなわたし達、SONGの装者六人は何故かヤケにいい笑顔なSONGの方々と、特別いい笑顔なエルフナインに見送られ、二課へと向かう事に。

 なんでそんな風にほぼ個別で行くのかが分からないけど……まぁ、お誘いを貰って、更にSONGから許可を貰ったのなら行かざるを得ないだろうという事で、とりあえず集合場所であるゲートの近くの公園で待機する事に。

 

「まったく、奏はいつも急に……本当に困った性格だ」

「まぁいいじゃない。何かの催し物に誘ってもらえたんだから」

「でも、詳細は聞いてないですよね。未来だけは連れて行っちゃいましたし」

「なんでかすっげぇいい笑顔で引っ張られて行ったよな」

「なんか嫌な予感がするデスよ……」

「き、気のせいだと思いたいけど……」

 

 奏さんも結構いい笑顔だったからなぁ……セレナもチラッと見たけどかなりいい笑顔だったし。

 まぁ、それだけ楽しいイベントがあるって事だよね。確か迎えは藤尭さんって話だったけど……あっ、来た。

 来たけど……あれ? 二課の制服とはちょっと違う感じの制服のような気がしないでもない……? 分かんないや。

 

「おぉ、よう来てくれたな、お前達」

 

 えっ、何で関西弁? しかもなんかカメラ持った人が横に居るし。

 

「なんで関西弁なんですか」

「……今日はな、お前達にとある企画に参加してもらう」

 

 いや、無視ですか。

 

「企画? それが今日ここに誘われた理由かしら?」

「せや。お前達には今日から二課の新人装者として研修を行ってもらう。題して、笑ってはいけない装者体験や!」

 

 その瞬間、わたしと切ちゃん以外の四人が悲鳴のような笑い声を上げながらリアクションを取った。

 響さんはうわ~、と言いながら顔を抑えて翼さんは崩れ落ち、クリス先輩は笑いながら下を向いて、マリアは額に手を当てて笑いながらどうして……と軽い悲鳴みたいなのを上げている。

 笑ってはいけないって……そんなテレビ番組があったような気がするけど。

 

「えっ、どういう事デス?」

「テレビでそんなのがやってたような……」

「つまり笑ったらお尻をシバかれるんだよ。そっかー、だから藤尭さんが関西弁なのかぁ……」

 

 えっ……

 お尻をシバかれるって……マジですか?

 

「これから二課の新人装者となるお前達のために、制服を用意した。そこの更衣室で着替えてくるんや」

 

 あっ、特にこっちのリアクションについては何も言ってくれないんですね。

 で、藤尭さんが指をさしたのは、なんかわたし達の名前が扉に書いてある小屋以下の部屋。えっ、屋外で着替えろと? というかアレが更衣室?

 でも周りに人がいないし、部屋に鍵もかけられるし隙間も無いから覗かれる心配はないと思うけど……

 

「俺はあっちの方で待っとるから、はよ着替えるんや」

 

 で、藤尭さんはなんか全力でダッシュしてわたし達から距離を取った。カメラも一緒に距離を取って、ついでにこっちの方を映さないようにしてくれた。

 えぇ……マジですか?

 

「多分逃げようとしても連れ戻されるだろうし、やるしかないわよね……」

「一応、野外で着替えるための配慮はされているみたいだしな……何気に防音だぞ、この更衣室」

「着替えてバス乗ったらぜってぇ笑わねぇ……!!」

 

 逃げ帰っても無駄なのかも、と何となく察したマリアと翼さんが先に部屋の中に入って、その後にクリス先輩と響さんも入っていった。

 こうなるとわたし達も入らざるを得ないよね……? なんか不安だけど、着替えに最大の配慮をしてもらえているのなら別にいいかな……覗かれたら覗いた人をころころするけど……

 なるべく早めに着替えて更衣室の中にあった着替えが終わったら押してくださいって書いてあったボタンを押した。思いっきり扉に着替え終わっても合図があるまで待っててね、って書いてあったから結構狭い更衣室で待つ事数分。

 

『それじゃあ、出て来てくれ』

 

 という藤尭さんの声が更衣室内に聞こえたから、更衣室から出る。

 着ている服は特に変哲もない二課の制服。友里さんと同じデザインの物だって言ったら分かりやすいかな? ちょっと着てみたかったから役得、なのかな?

 で、横を見てみると。

 

「着替えは普通で良かったわね。ここでネタにされたら溜った物じゃないわ」

「全くだ。っつかちょっと胸元がきっちぃ」

「流石規格外デスね」

 

 普通に同じデザインの制服を着ている切ちゃん達と。

 

「えっと、響さんと翼さんは……ぶっ!?」

 

 ちょっ、翼さん、なんて格好……!!

 

「おい月読。私を見て笑った理由を教えてもらおうか」

 

 だ、だって翼さん……!!

 黒スーツなのはまだいいですけど! まだ十分に似合ってますけど! 

 なんでアフロのカツラ被ってるんですか!?

 

「いや、あったから……」

 

 あったからじゃなくて! ほら、他の四人も笑ってるじゃないですか!

 あと響さん!

 

「一人だけなんでチャイナドレスなんですか!? 一応下にズボン履いてるみたいですけど!」

「…………我们学习武术是帮助弱点。您永远不会为伤害别人而战。您总是在帮助别人」

 

 えっ、なんて!?

 

「よし、しっかりと着替え終わったようやな」

「まさかのスルー!? ってかセンパイそれでいいんすか!?」

「いや、案外快適でな。ほら、アフロの中に菓子も入ってる」

「なんでそんなのがアフロの中に入ってるのよ!」

「憑自我 硬漢子 拼出一身癡」

「響さんはさっきから何語を喋ってるんデス!?」

 

 駄目だあの翼さん、腹筋への破壊力が高すぎる! ついでに響さんがさっきからわたし達を笑わせようと何語か分からない……いや、多分中国語当たりなんだろうけど、映画で齧ったソレを適当に話してる! 

 あまり直視せずマトモに聞かないようにしよう……響さんの言葉曰く、笑うとお尻をシバかれるらしいし……

 

「ほな、あっちに送迎用のバスがとまっとるから、それに乗って二課の本部まで移動するで」

名字(メンチ)!」

「メンチじゃなくて普通に返事してくださいよ……」

「次からそうする」

 

 ホント、そうしてください。急に中国語みたいな言葉が聞こえてくるとビックリするんですから。

 そんな感じで着替えフェイズは無事に終わって、わたし達は藤尭さんに連れられて公園の外に。どうやらわたし達が着替えている間にバスが着ていたようで、結構大きい普通のバスがそこには止まってた。貸し切りにしたのかな?

 

「ほな、このバスに乗ったら笑ってはいけない装者の開始や。乗ったらもう後戻りしても笑った時点でキツいお仕置きが待っとるで」

「いつものアレか……まさか自分でそれを受けるかもしれない身になるとはな……」

 

 クリス先輩がボヤキながらバスに乗った。

 けどわたし達は乗らない。なんかマリアにそっと乗らないように肩を掴まれたから

 

「……おい。そういうお約束要らねぇから」

「クリス」

「んだよマリア」

「翼をよく見てみなさい。あの胸、盛ってるわよ」

 

 えっ?

 ……あっ、ホントだ。よく見てみるとサラッと響さんくらいにまで盛ってる。

 けどそんな事を言ったら翼さんキレるんじゃ……

 

「あぁ、盛ってるぞ」

『ふっ、ふふふ……!!』

 

 う、受け入れるの!? 思わず笑っちゃったけど!?

 

「っ……! だははは!! 駄目だろその暴露!! んでもって何でセンパイは誇らしげなんだよ!!」

 

 何故かドヤ顔の翼さんと笑ってしまったクリス先輩。

 その結果。

 

『クリスさん、アウト~!』

 

 と、どこからかエルフナインの声が聞こえた。

 えっ、なんでエルフナインの声?

 

「いや、ちょっ、ハメやがったなセンパイとマリア!!」

 

 俯いて笑っているマリアと翼さんに叫ぶクリス先輩だったけど、どこからか出てきた黒服の女性に無理矢理お尻を突き出すポーズをさせられると、そのまましばき棒で思いっきりお尻を叩かれた。

 スパーンっ! っていい音が響いた。うっわ、痛そう……

 

「いっでぇ!!?」

 

 ご愁傷さまです。

 

「ちなみにだな」

 

 と思っていたらなんか翼さんが。

 

「今の私のバストは84cmだ」

「いや、センパイ?」

「84cmだ!!」

「だから」

「具体的には立花と同じだ!! これで私だって盾の擬人化とか防盛とか壁とか言われなくても済むんだ!!」

『ぶっふ!』

『クリスさん、アウト~!』

 

 自虐ネタで無理矢理笑わせてくるの止めてもらえません!?

 翼さん渾身の貧乳ネタで笑わされたクリス先輩は哀れもう一撃をお尻に見舞われる事になった。

 いい音が鳴ってクリス先輩が小さく悲鳴をあげつつお尻を抑えた。

 あーあ、後で座ると痛くなりそう……

 

「だぁもうとっとと乗るぞ! じゃないと終わんねぇからな!」

「それもそうだね。クリスちゃんばかりシバかれるのも見てて心苦しいし」

「の割には笑顔だなオイ?」

「大丈夫。乗る時には真顔になるから」

 

 そ、そっか。ニヤニヤしてるとそれだけで笑ってる判定になるかもしれないから、極力笑顔は作らない方がいいね。

 うんわたしなら大丈夫。だってわたしは一時期表情筋完全に死んでたから。今みたいな笑顔なんて全然作れなかったクールっ子だったから平気平気。笑顔のプラクティスを一時的に忘れようそうしよう。

 

「あっ、月読。これをやる」

 

 はい? あぁ、どうも。

 えっと……なんですかこの白いの? なんか仄かに温かいし……

 

「今外した、私が詰めていたパッドだ。お前も付けるといい。立花の気分を味わえるぞ」

『響さん、クリスさん、マリアさん、切歌さん、調さん、アウト~!』

 

 駄目だって!! そういうの真顔でやられるとダメだって!

 えっ、ちょ、マジでシバかれるんですか? いや、わたし女の子ですよ!?

 

「いったぁ!?」

 

 お、思いっきりシバかれた……

 け、結構痛い……

 こういうイベントでノリノリなのは響さんだと思っていたけど、案外この人もそういうイベントにはノリノリなのを忘れていた……! 一応最重要人物としてマークしておこう……

 翼さんは満足げに頷いた後に横一列の席の響さんの隣に陣取って、全員が座ったところでバスが発車した。あっ、後ろの方に一般人が乗ってる。多分今回のために雇ったエキストラさんかな? あの人達は多分笑わせてこないだろうし、とりあえずあっちの方は気を付けなくていいかな。

 いつもならバスの中で駄弁って笑いながら移動するのに、笑ったらお尻をシバかれるから全員無言。何かをトリガーに仲間割れが発生しないように気を付けている。

 ……で、この受け取ったパッドはどうしよう。流石に更衣室の外で付けるわけにも……

 あれ? 裏に何か書いてある。えっと……

 

――もるもるもるね! 盛れば盛る程バストが大きく!――

 

『調さん、アウト~!』

「へ、変なパロをしてからに……!! ふっ、くくくく……!!」

 

 誰でも笑うでしょこんなの!

 もう笑ってしまったらどうする事もできず、わたしはお尻をシバかれました。いったい……

 今日のせいでスリーサイズが変わったらどうしてくれようか……労災とか降りるのかな……

 パッドを懐にしまって封印してからバスに揺られる事数分。バスが停留所らしき場所で止まった。誰か乗ってくるのかな?

 

「危なかった! する所だったよ、遅刻を!」

 

 え?

 この声、喋り方……アダム?

 まさか今回の企画、パヴァリアまで噛んでるの? あの人達暇なのか――

 

「ふぅ。よかったよ、間に合って。忘れてきてしまったけどね、服と下着を」

『全員、アウト~!』

「いてっ」

「ぬっ!」

「ってぇ!?」

「いっつ……!」

「あうっ!」

「いたっ!」

 

 あのさあ!!

 アダムが全裸になるだけで普通にシリアスな場面でも笑っちゃうくらいシュールなんだからこういう場でぶっこまないでくれないかな!? っていうかセクハラでしょこれ! マジで全裸だよ!!? 汚いダインスレイブ見えてるんだけど!?

 

「おや、お嬢さん達。どうしたんだい? こっちを見て」

 

 全裸だからだよ! とは言えず。

 わたし達全員でそっとアダムから視線を逸らすけど、アダムは汚いダインスレイブを揺らしながらこっちに来る。

 やめてよ! エキストラも笑ってるじゃん! というか年頃の女の子からしたら普通に目に毒!

 

「ほら、いいんだよ、遠慮しないでも。見たまえ、存分に」

 

 見たくないです!

 

「ほら、ほら」

 

 あっ、わたしの前から居なくなった……けど代わりに響さんの目の前に立ってる! しかも響さんは座ってるから汚いダインスレイブが顔から結構近い所に。

 うっわぁ……わたしなら絶対に蹴り飛ばしてる……

 でも、響さんは意を決したのかそっと前を見た。

 

「それでいいんだよ。見ることだね、ぞんぶ」

「サンジェルマンさんから聞いてましたけど、随分とお粗末ですね」

『翼さん、クリスさん、マリアさん、調さん、アウト~!』

「た、たちばな……!! ぬぅんっふふ……!」

「マジかよこの馬鹿……! はいいってぇ!」

「や、やるわね……! アウチっ!」

「えっ? どういう意味デス?」

「いたいっ!」

 

 ひ、響さんが普段じゃ到底ありえない切り返し方でアダムを……!

 とりあえず切ちゃんはそのまま純粋でいてね。このネタが分かるのはちょっと汚れてる証拠だから。

 アダムがマジでショックを受けた表情で一歩退き、わたし達はお尻をシバかれる。なんだろうこの状況。なんでわざわざ平行世界に来てまでお尻をシバかれるのかよく分からなくなってきたよ。

 

「……い、いや、こう見えてもだね、肉体には自信が」

「自信が……? ふっ」

『クリスさん、マリアさん、アウト~!』

『いったい!』

 

 鼻で笑わないであげてよ!

 今度は耐えたけど、クリス先輩とマリアは笑っちゃってもう一度お尻をシバかれる羽目になった。切ちゃんはよく分かってない様子だし、翼さんとわたしは口を抑えてなんとか耐えているけど。

 まさか響さんが下ネタに下ネタで返すなんて思ってもいなかった。しかも男性にはクリティカルな感じの下ネタだし。アダムが今までで見たこと無い程傷ついた感じの表情でこっち見てるし。

 

「そ、粗末なものか! この僕の肉体が! ほら、思うだろう! そっちの乗客も!」

 

 あっ、アダムが一般人の方へ。わたし達よりも年下な感じの子も数人乗ってるのにいいの? マジで訴えられるんじゃ……ってよく見たらそういう子は目隠しさせられている。よかった、猥褻物陳列罪で檻にぶち込まれるアダムなんて居なかったんだね。

 

「ほら、君、そうだろう! 同じ男なら分かるだろう!」

 

 とか思ってたら中学生くらいの男の子に掴みかかった。

 あれ放っておいて大丈夫なの? 助けないと。

 

「えっ、打ち合わせと違っ……」

「そんな粗末じゃないだろう、僕の体は! ほら、見てくれ、ちゃんと!」

「ちょっと待って落ち着いてください! 俺達エキストラだから何もしなくていいって……」

「ええい、つべこべ言わずに言ってくれたまえ! ほら、早く!!」

 

 あーあー、アダムが錯乱して男の子の肩を掴んでがくがくと揺らしてる。

 これは強制退場……かな? わたし達のお尻をシバいてた人がアダムを捕縛しようと動き出したし。

 なんだろうこの光景。わたし達、お尻をシバかれ損だったりする?

 

「コレか! 素直に物を言えない頭は! このっ、このぉ!」

「マジで止めっ! ってかそろそろお前らも目隠しとって俺の事助けてくれても……!」

 

 男の子が結構マジでうろたえながら顔を掴むアダムから離れようとしたその瞬間だった。

 男の子から何か黒い物が取れた。

 えっ? とアダムがその瞬間に声を出し、シバき隊の皆さんも停止した。

 頭部から取れた黒い物。ふさふさとした黒い物。

 わたし達も思わず笑いそうになったけど、多分アレは笑っちゃいけないやつ。男の子の頭が黒から肌色に変わったけど、笑っちゃいけないやつ……!!

 

「あっ……いや、その……これはだね……」

 

 そりゃあ困惑もするよ。

 だってあの男の子の髪の毛がアダムの手でスポンと抜けちゃったんだもん! 男の子の頭部が年若いのに焼け野原になっちゃったんだもん! こんなの当人は困惑するし周りは笑うって!

 

「……もういいんでズラ返してもらえません?」

「あぁ、うん……その、すまない。本当に、すまない……」

 

 そしてアダムは男の子の頭の上に取れた髪の毛を乗せると、シバき隊の手によってドナドナされていった。

 ……どこからどこまでが台本だったんだろう。

 

「災難だったね、ハゲ丸くん」

「身内全員にはハゲバレするし知らない全裸のオッサンにハゲバレさせられるし……俺何か悪い事した……? なんかの撮影のエキストラしただけなんだけど……?」

「今回ばかりはとりあえず同情しておいてあげるわ……」

 

 なんか周りの女の子から慰められているけど、わたし達は無視で大丈夫なのかな……?

 そもそもかける言葉も見つからないし。わたし達は男の子の事を無視して笑わないように何とか表情を固めながらバスに揺らされ、そのまま二課へと向かうのでした。

 ……今度アダムに会ったら汚いダインスレイブ見せてきた罪で処しておこう。そうしよう。

 

 

****

 

 

 どうやらバスに乗っている間の刺客は一人だけだったらしく、わたし達は無事二課へと到着した……んだけど、二課ってリディアンの地下にあるんだよね? ここ、リディアンじゃないんだけど……

 

「着いたで。ここが新設された特異災害対策機動部二課の本部や」

「……まぁ、どうやって用意したのか深堀はすべきではないだろう」

「そうね。多分今回の企画のために借りただけだとは思うけど」

 

 で、なんか「ボクが主犯者です」とでも言わんばかりのいい笑顔でダブルピースしたエルフナイン(初代二課司令って書いてある)の額縁に入った写真をスルーして新設二課本部を歩く。

 

「このまま現司令の所へ挨拶しに行くで」

 

 現司令って……それ風鳴司令が出てくるだけなんじゃ……

 

「司令はとても厳しい人やからな。くれぐれも失礼が無いようにするんやで」

「……なんかわたし、エルフナインちゃんの写真があった時点で察したんだけど」

「いや、ンな訳ないだろ。アレも暇じゃないだろうしな」

 

 なんか響さんが察していたけど、エルフナインの写真で何か察せる所ってあるかな……? わたしは帰ったらエルフナインを一発ぶん殴るくらいしか思いつかないんだけど。

 無駄に複雑な建物の中を歩く事数分。ようやくわたし達は司令室って書かれた部屋の前に立った。

 

「それじゃあ、入るで。何度も言うけど、くれぐれも失礼が無いようにな」

 

 まぁ、多分中に居るのは身内だろうし、そんなに緊張とかはしなくても大丈夫だとは思うけ――

 

「よく来たな。オレが特異災害対策起動部二課の現司令、キャロル・マールス・ディーンハイムだ」

 

 いや、どうしてキャロル!?

 完全にこっちの事敵視する側のキャロルがどうして司令なんかやってるの……? 流石にビックリの方が勝って笑うことは無かったんだけど、どうして何のつながりもないキャロルが司令をしているんだろう。

 ……って、エルフナインか! エルフナインが初代だからそれに関連のあるキャロルが引っ張られてきたんだ! だから響さんもクリス先輩も察してたし、翼さんとマリアも無言で察してたんだ!

 

「司令、こちらが新しく着任した装者です」

「ご苦労だった。よく来たな、新たなシンフォギア装者達よ」

 

 そう言ってキャロルはやけに豪勢な椅子から立ち上がってこっちに寄ってきた。

 

「不躾だが、貴様達の情報は予め調べておいた。こちとら国家機密だらけの機関だからな」

「知ってるっての」

 

 クリス先輩のツッコミが入ったけど、特にキャロルは動じず。

 

「そして装者にはコードネームも必要だ。故に、オレが自らお前達のコードネームを考えた」

「いや、それって聖遺物名とかシンフォギアの番号じゃ……」

 

 響さんのツッコミが入ったけど、キャロルは特に動じず。

 けど、なんかニヤニヤしてない? アレもアウトにしてお尻をシバいた方がいいんじゃない?

 とかなんとか思ったけど、キャロルはそのまま響さんと距離を詰める。響さんも特に退く事無くキャロルと目線を合わせる。

 

「お前のコードネームは『おっぱいの付いたイケメン』だ」

『翼さん、クリスさん、マリアさん、切歌さん、調さん、アウト~!』

 

 反則! それは反則だしみんな思ってる事だから!

 

「えっ!? いや、わたしは今を生きる可愛い女子高生だよ!? イケメンとかじゃないんだけど!?」

「いや、イケメンだな」

「センパイの言う通りだ、女誑し」

「この子、時折下手なイケメンよりもイケメンになるものね」

「そうデスよ。まごう事無き真実デスよ」

「否定材料がありません」

「これマジ?」

 

 マジです。

 響さんがそんな筈じゃ……と頭を抱えるけど、そんな響さんには目もくれず、キャロルは翼さんの方へと。

 さぁ、どんな爆弾が落ちてくるか。

 

「お前は『無乳ライダー』だ」

「ぶっ殺してやろうか貴様ァ!!」

『響さん、クリスさん、マリアさん、切歌さん、調さん、アウト~!』

 

 ごめんなさいこれだけは耐えられません! そしてお尻がいったい!!

 でもお尻の痛みに悶絶している間に翼さんがマジでキャロルを襲いかねないから全員で半笑い状態で翼さんを取り押さえる。

 

「離せ貴様等! 私はこの阿呆を殺さねばならない!!」

「お、落ち着いてくださいよセンパ……ぷっ、くく……!」

『クリスさん、アウト~!』

「雪音ァ!」

「そうだぞ、落ち着け無乳ライダー」

『響さん、マリアさん、切歌さん、調さん、アウト~!』

 

 笑ってしまったものは仕方ないので一旦翼さんから離れてお尻をシバかれます。

 この企画が終わった頃、スリーサイズが変動していないといいなぁ……で、わたし達がシバかれている間に翼さんは何とか落ち着いたみたいで息を荒げながら拳を握りつつではあるけど、キャロルを襲おうと言う気は無くしたみたい。

 で、次はクリス先輩。

 

「そこの銀髪。お前は『愛されマスコット』だ」

「はぁ!? 愛されマスコットって……アタシはそんな柄じゃねぇ!!」

 

 えっ?

 

「気付いてないの? クリスちゃんって結構庇護欲引く感じだよ?」

「寧ろピッタリなコードネームじゃないか」

「そうね。口は乱暴だけど可愛い所の方がもっと多いもの」

「だからこそ学校でも人気爆発中デスし」

「クリス先輩の可愛さはマスコット級」

「いや、もっとこう、先輩としての威厳とかがあるだろ!?」

『え?』

「お前らこの企画終わったら覚えておけよ……!!」

 

 だってクリス先輩に先輩としての威厳が無いって最早いつもの事と言うか、ただの愛されキャラというか、そんなイメージが強すぎて。

 先輩としての顔もそりゃああるんだけど、それ以上に可愛い場面が多すぎるから装者のマスコットって感じになってきてるし。本当に今更過ぎるけどネ。

 で、クリス先輩がこっちを睨んでくるのをスルーしていると、今度はマリアの番。けど、なんかキャロルが結構ニヤニヤして……

 

「よろしくな、『アイドル大統領』」

「出てきなさいガリィ!! ぶっ壊してやるッ!!」

『響さん、翼さん、クリスさん、アウト~!』

 

 あっ……マリアの黒歴史が……

 い、いや、わたしは笑わない、よ? 一応我慢はしておくから、ね? なんやかんやでその頃からの身内だからね?

 マリアがガリィを壊すために動こうとしているけど、響さん一人に羽交い絞めにされて動きを封じられている。流石生身最強格。ギアを使わない限りはどうにもならないね。

 で、今度は切ちゃんなんだけど……あれ? なんかキャロルがまだニヤニヤしてるんだけど……

 

「頑張れよ、『てがみ』?」

「ヒェッ……」

 

 ……うん、笑いはしないけど。笑わないけど、どこでその情報漏れたんだろうね……?

 ま、まさかわたしのメールの下書きまで見られているとか……いや、別にあれは見られても恥ずかしい物じゃないから。だからどしっと構えておこう。

 顔を青くしている切ちゃんを置いてキャロルがこっちに。

 さぁ来い。わたしは笑わないぞ。

 

「お前のコードネームはな」

 

 コードネームは?

 

「『日和山』だ」

 

 ふーん、日和山かぁ。

 あの標高6mの日本一低い山ねぇ……なるほど…………

 こいつぶっ殺してやるッ!!

 

『響さん、翼さん、クリスさん、マリアさん、アウト~!』

 

 あと笑ったそこの四人も後でぶっ殺してやる!! その前にまずはキャロル!! 覚悟ッ!!

 

「ま、待って調ちゃん!」

「そ、そうだぞ! ここは甘んじて受け入れ……ふっ、くく……!!」

「笑うな無乳ライダーッ!!」

「んだと日和山!! そっ首叩き落してやるッ!!」

「上等!! 無乳どころか陥没するまでえぐり取る!!」

『響さん、クリスさん、マリアさん、アウト~!』

 

 くっ、なんか響さん達が腹を抱えてうずくまっているけど、今はこの無乳ライダーを陥没ライダーにする方が!!

 ……あれ? なんかキャロルがこっちに。

 そんでもって……あの、何でわたしの胸を触ってるんですか。しかも翼さんの方も触ってるし。で、自分のも触って……?

 

「……ふっ」

 

 鼻で笑いやがった!!

 

「オレの方がデカいな!!」

『殺す!!』

『響さん、クリスさん、マリアさん、アウト~!』

「っっっ……!! し、しぬ……!! わらいでころされる……!!」

「せ、せんぱいのかお……!! ひっしすぎんだろ……!!」

「ご、ごめんなさいしらべ……ふふふふふふ……!!」

「あ、あたしは笑わないデス……! 笑わないデスよ……!!」

 

 この後滅茶苦茶キャットファイトした。

 

 

****

 

 

 キャロルも巻き込んだキャットファイトは痛み分けという結果で終わってしまった。

 髪も掴んで殴ってのキャットファイトをしたせいで髪型が乱れたし、翼さんのアフロはどっかに行ったけど、とりあえず簡単に髪型だけ戻してわたし達は控室に連れてこられた。

 でもわたしは忘れない。あのキャットファイトを見ている藤尭さんが大層笑顔だったことを。企画が終わったら絶対に折檻する。

 で、控室なんだけど、机が人数分の六つある。勿論笑っちゃいけないし、ついでに色々と設備もある。お湯とかお水とかあるから、飲み物には困らないね。食事は……どうするんだろう? 後で出るのかな?

 

「机かぁ……」

「アレだよね」

「引き出しネタね。間違いなく」

 

 引き出しネタ? 何の事だろう?

 とりあえず引き出しを開けばいいのかな? それっ。

 

「あっ、調ちゃん!?」

「無知故にやりやがった!」

 

 はい? 何かマズい事でも?

 あっ、なんか入ってた。大きな封筒? 中に何か入ってる気がする。

 

「封筒、か……何かありそうだな」

「確実に何かあるわよ」

「およ? 何があるんデスか?」

 

 何かあるって……まさか爆発するわけでもないし。

 いや、中にわたし達を笑わせるための何かが入ってるのかも。そう思うとあまり開けたくないけど、でも折角用意したんだし……ってちょっとは思っちゃう。

 ……まぁ、中を見ても笑わなきゃいいだけだよね。断じて中が気になったとかじゃないからね?

 という事でオープン。

 

「あっ、写真みたいなのが入ってますね」

「写真? 嫌な予感が……」

 

 まだ裏を向いてるから見えないけど、とりあえず皆にも見えるように表を向け――

 

『私、ナスターシャ十四歳!』

 

 見なきゃよかったぁ!!

 魔法少女の格好したマムのコスプレ写真なんて笑うに決まってるじゃん!!

 

『全員、アウト~!』

「キッツっ……!! 痛いマン!!」

「しかもノリノリ……ヌッ!!」

「歳考えろっての! っでぇ!!」

「ま、マムのイメージが……っづぁぁ!!」

「なんで引き受けたんデスか! いったぁい!!」

「ふ、ふっきんが……ひゃんっ!」

 

 わ、笑い死ぬところだった……!

 マムの腹筋破壊写真はちょっと引き出しの中に封印しておこう。じゃないと何度腹筋を壊される事になるか分かった物じゃない。

 ……あっ、なんかもう一枚入ってた。

 

「もう一枚ありますね……見てみましょうか」

「そ、そうだね。流石にナスターシャ教授レベルの破壊力は早々出ないだろうし」

 

 という事でオープン。

 

『私、魔法少女セレナ・カデンツァヴナ・イヴ!』

 

 あっ、普通に可愛い写真だ。

 

「セレナの写真ね。似合ってるじゃない」

「マリア、あげる」

「よっしゃ!」

 

 マリアが思いっきりガッツポーズしてからセレナの写真を受け取った。

 流石シスコン。セレナの写真への食いつきは凄いね。

 

「あっ……」

 

 と思ってたらクリス先輩が何かに気が付いて、入口の方を指さした。

 わたし達がそれに気づいてそっちを見ると……

 

「……じーっ」

 

 ……あれっ、セレナご本人?

 どうしてドアの隙間からこっちを覗いてるの?

 

「……笑ってくれないかなぁ」

 

 あっ。

 

「……頑張ったんだけどなぁ。誰か笑ってくれないかなぁ」

 

 ろ、露骨! めちゃくちゃ露骨!

 すっごい悲しそうな表情でこっち見ながらわたし達の誰かが笑う事を期待している! で、でも駄目だ。ここは心を鬼にしないと、わたし達のお尻が大変な事になっちゃう。

 同情でもここで笑うわけには!

 

「……は、ははは」

『マリアさん、ガリィ~!』

「やった!」

 

 マリア!?

 

「セレナが喜ぶのなら、こんな尻、幾らでも差し出してやるわ!!」

 

 さ、流石マリア……セレナの事に関しては抜け目ない……

 ……あれ? アウトになったのにシバき隊が来ない? いつもは迅速にこっち来るのに。っていうか、さっきアウトの代わりにガリィって聞こえたのがとんでもなく不穏なんだけど……

 あっ、来た……

 

「はぁい、アイドル大統領」

 

 やっぱりガリィだ! ガリィがシバき隊としてやってきた!!

 しかもその手に持ってるドデカイ氷柱は……ひえっ。あれで叩かれたら死ぬんだけど……

 

「常人なら死ぬわよ!? でも、今のわたしはセレナの写真で無敵! その程度の攻撃で死ぬほど柔じゃないわ! さぁ来なさい!」

「それじゃあ遠慮なく。オルルァァッ!!」

「ン゛オ゛オ゛オ゛オオオオォォォォォォォォ!!?」

 

 いつものスパァン! じゃなくてゴッシャァ! って音が響いてマリアが数メートル吹っ飛んだ。マリアを吹っ飛ばしたガリィは物凄い笑顔で氷柱を抱えたまま部屋を出て行った。

 ……その、大丈夫?

 

「こ、この程度の痛み……セレナの笑顔の対価と思えば……」

 

 マリアは死にそうでフラフラしながらもなんとか立ち上がって、自分の席に座った……けど、すぐに痛かったのか立ち上がって自分のお尻を押さえながら壁に手を付いた。

 アレは暫く座れないだろうね……あとついでに、後でガリィぶっ壊すって念仏のように呟いているマリアがちょっと怖いです。

 セレナもいつの間にか居なくなった事だし、痛みに悶えながらも何とか立っているマリアを他所に今度は切ちゃんが自分の引き出しを開けた。

 

「あっ、なんかあったデス」

 

 どうやら、何かあったみたい。

 取り出したのは……ボタン?

 

「ぼ、ボタンかぁ……」

「嫌な予感しかしねぇなぁ……」

 

 そうですか? 特に変哲のないボタンですけど。

 

「ボタンがあったら押してみたい! という事でポチっとデス」

 

 あっ、切ちゃんがボタンを押した。

 

『切歌さん、アウト~!』

「は? …………は?」

 

 そして切ちゃんが真顔になった。

 うわ~……あのボタン、そういうやつ? 響さん達信号機トリオが頷いている中、シバき隊が入ってきて切ちゃんのお尻をシバいて帰っていった。

 

「いっつぅ……な、なんデスか、このボタン」

 

 お尻を押さえながら切ちゃんがボタンを忌々しそうに睨んだ。

 まぁ、そうなるよね。まさか押したら自分のお尻が叩かれるなんて思わないよね。で、そのボタンは事故が起きて誰かが押しちゃわないようにしておかないと危険だけど……

 

「さぁな。おい、それ寄越せ。封印しておいてやるから」

「お願いするデス」

 

 クリス先輩がボタンを切ちゃんから受け取ってどこかに封印する事に。

 よかった、これで事故でお尻を叩かれ続ける切ちゃんっていう可哀想な図は無くなるんだね。でも、なんかクリス先輩、ボタンを貰った瞬間、すっごい悪い顔してない? その横で響さん達もなんか悪い顔してるし。

 ……なんか察したけど、いい先輩であるあの人達やマリアがそんな事するわけないよね? 大丈夫だよね?

 

「あっ、テガスベッター」

 

 あっ。

 

『切歌さん、アウト~!』

「ちょっとおおおおおおお!!?」

「わりっ、テガスベッタ」

 

 ほ、本当にそんな事やる人居る……? しかも半笑いで。

 半笑いだからギリギリカウントはされていないけど、切ちゃんは理不尽に叩かれることに。抵抗も空しく切ちゃんはシバき隊にお尻を叩かれてしまった。

 もう何度も叩かれているから慣れただろって思う人がいるかもしれないけど、そんな事無いからね。普通に痛いからね。しっぺされた所の上から更にしっぺされるようなモンだからね。普通に何度も痛いからね。

 

「それ返すデス!!」

「これやるよ、馬鹿」

「ありがと。あっ、テガスベッチャッタ」

『切歌さん、アウト~!』

「アンタ等後で覚えていろデス!! いったいデス!!」

 

 そして今度は響さんの手によって切ちゃんのお尻が叩かれてしまった。

 これは酷い。しかも切ちゃんはボタンを押される限りシバかれ続けて動けないからボタンを回収する事ができない。

 酷い先輩達だ……

 

「もう満足したデスよね!? それをとっととこっちに戻すデス!」

「翼さん、どーぞ」

「うむ。ではここは私も一つ」

 

 あぁ、無常な現実が……今度は翼さんが切ちゃんのお尻叩きボタンを押して……

 

『翼さん、ガングニールキック~!』

「ん? ……ん? …………おい? おい!?」

『響さん、クリスさん、マリアさん、切歌さん、調さん、アウト~!』

 

 ま、まさか切ちゃんだけが叩かれるボタンじゃないとは思わなかった……!

 不意打ちのアウト宣言と翼さんのうろたえっぷりに思わず笑ってしまったわたし達はお尻をシバかれたけど、その直後に部屋の中に入ってきた人と、ガングニールキックの意味を知って思わず翼さんに同情してしまった。

 だって入ってきたの、グレ響さんなんだもん。普通にガングニールを纏ったグレ響さんなんだもん。

 

「待て!! 死ぬ!! グレ立花のソレは普通に死ぬ!!」

「面倒だから早くケツをこっちに向けて。一応手加減するから」

「ふざけるな! ふっざけんな!! 死ぬわ!! 手加減されても死ぬわ!!」

「早くしないと顔面殴るよ」

「しかも物騒だなお前!? おい掴むな、私は先輩だぞ! 国民的歌手だぞ! わかった、蹴ってもいいからソフトタッチだ! 赤子の肌を撫でるようにそっと触るだけの蹴りだけで済ませろ! そうしたら私の尻は守られ――」

「フンッ!!」

「あああああああああああっっっっはっはうぐああああぁぁぁぁぁ!!?」

『響さん、クリスさん、マリアさん、切歌さん、調さん、アウト~!』

 

 ちょっ、悲鳴が迫真過ぎて笑っちゃったじゃん……!!

 蹴られた瞬間射出されるように翼さんの体が飛んで、そのまま翼さんはお尻を抑えたまま地面に転がって悶え始めた。しかも痛すぎてバラルの呪詛でも発生したのか分からないけど、よく分からない言葉を口にしながらずっと悶えている。

 こんな情けない国民的スターは見たくなかったなぁ、とか思いながらもやっぱり面白いから笑っちゃって、結果的にわたし達全員のお尻はシバき隊によってシバかれました。

 でも翼さんの様子が面白過ぎて見ているだけで笑っちゃいそう。

 マリアのガリィと翼さんのガングニールキックのどっちが痛いかと聞かれたら微妙だけど、シスコン補正の乗ったマリアと特に何の補正も無かった翼さんのどっちが辛いかと言われたら後者だと思う。

 翼さんは半泣き状態で悶えているし、グレ響さんは結構申し訳なさそうな顔をしてから退場していった。

 

「いたい……いたいよぉ……かなでぇ……」

 

 しかもなんか精神が若干退行しちゃってるし。

 痛そうだなぁ。でも、見ていると笑っちゃうから無視無視。響さんとクリス先輩は大分我慢しているようだけど。

 

「かなで……どこ、かなで……」

『…………』

「かなでぇ…………かなで、かなでぇ……」

『………………』

「かにゃでええええええええええええええええ!!」

『ふふっ……』

『響さん、クリスさん、アウト~!』

「よし」

「いい加減にしてくださいよズバババン!!」

「情けねぇ声出すなや!!」

 

 もう恥も外聞も知らずに思いっきり情けなく叫んだ翼さんによって響さんとクリス先輩のお尻がシバかれた。

 で、翼さんはと言うと、ちょっとお尻を庇いながらもすまし顔で普通に自分の机の上にあるもうどういう事が起こるのか分からないボタンを適当な場所に置いてから戻ってきた。

 うん、そうするのが一番いいと思う。じゃないと次は誰が犠牲になるか分からないからね。

 なんか部屋の中の空気がちょっと悪くなったけど、気にする事無く全員が引き出しの中を見たけど、中に何かあったのはわたし達だけらしく、その後は誰も喋らずにただの休憩時間となった。もしボタンを押して自分がガングニールキックになったら嫌だしね。

 

 

****

 

 

 休憩時間を思い思いに無言で過ごす事数十分。音を立ててドアが開いてそこから藤尭さんが入ってきた。

 

「おいお前ら、訓練の時間や。早速やけど、表に出るで」

「急に来たかと思ったら……こんな企画中にも訓練ですか?」

「ぜってぇロクでもねぇだろうけどな」

 

 という事でわたし達は文句をグチグチ言いながらも建物の外へと出た。

 で、外には……あれ? 特に何も無い? てっきり何か漫才でも見せられるかと思っていたのに。でも、なんか変な台がある。あと、檻みたいなのも。アレなんなんだろ。

 

「あー……これかぁ……」

「いてぇやつじゃん……」

「しかも中に入っても辛いやつだな……」

「通気性とか悪いって聞いたけど……」

 

 え? なんでこの四人は知って……

 そう言えばこの企画、四人は元から知ってるみたいだったし、多分元ネタがあるのかな? で、この四人はそれを知っていると。

 でもわたしと切ちゃんは特に知らないから首を傾げるだけ。

 多分テレビ番組の企画なんだろうけど、わたし達、あんまりテレビ見ないから。基本的に携帯見てたりゲームしてたり。年末なんて気が付いたら年明けてたしね。

 で、一体何をさせられるんだろう。

 

「ってか、あの中には誰が……おい、なんか黒子がアタシの方に来てんだけど。マジかよ、アタシがあん中入んのか!? やめっ、やめろぉ!! あたしはあんな事されたくねぇ!! 離せ! はっなっせっ!!」

 

 あっ、クリス先輩が攫われて檻の中に閉じ込められた。

 あのままクリス先輩を放置して帰っていいですか? 駄目? そう……

 

「それじゃあこれから、お前らには訓練をしてもらうで。あっ、この訓練の間、つまり今から終わりまでは笑っても大丈夫や」

「ホントですか? あはははは…………あっ、ホントだ。アウトにならない」

 

 なんだ、それじゃあヌルゲーじゃん。

 楽勝楽勝。で、何をするんですか?

 

「お前らには、あの装者が閉じ込められている檻の鍵が入った宝箱を探してもらう。でも、それじゃあただの宝探しゲームだからちょっとした障害もあるで」

「ただの宝探しゲームでいいんですけど」

「……障害ってのはな、一定時間毎にあの台の中から鬼が放出されるんや。その鬼に捕まるとキツイお仕置きが待っとるで」

「またお尻をシバかれるんですか?」

「それは捕まってからのお楽しみや」

 

 えぇ……いや、捕まりたくないんですけどそれは……

 けど藤尭さんは台本を読み上げるマシーンになりきっているせいか、特にわたし達の反論には答えてくれず、結局わたし達はこの鬼のような企画に参加させられる事となった。

 

「ほな、頑張るんやで」

 

 そんな藤尭さんの声と同時にクリス先輩が閉じ込められている檻からちょっと離れた所にある台から煙が発射されて、全身タイツな上に顔を同じような感じで見えないように覆った人が出てきた。

 うわっ、変態だ。

 そう思ったのも束の間。その黒タイツが手に持っているのがスリッパで、体にはスリッパって書いてある時点で何となく察した。

 間違いない。捕まったらあのスリッパで叩かれる!

 

『散!!』

 

 それを察したわたし達全員が一斉に散らばった。

 これで自分が終われなければあのスリッパによる一撃を受けずに済むから。

 で、狙われたのは。

 

「わたしぃ!?」

 

 響さんだった。

 だからわたし達は響さんを追う鬼を傍観しつつ集まって響さんの行く末を見守る。

 響さんは逃げるけど、相手も結構鍛えている人なのか分からないけど、巧みに響さんとの距離を詰めていき、そのまま響さんを見事掴まえた。

 掴まった響さんは無理矢理首を垂れさせられて。

 

「いっだぁ!!」

 

 思いっきりスリッパで頭を叩かれた。

 あーあー、痛そう。

 

「アレは痛いな」

「痛いわね。しかも相当」

 

 で、叩かれた響さんは頭を抑えながらこっちに来た。鬼はどっかに行った。

 一回お仕置きしたらどこかに行って待つっていう制約でもあるのかな? それなら暫くはお仕置きを気にしなくていいから楽かも。

 

「女の子の頭を思いっきりスリッパで叩くなんてひどいと思わない……?」

「別に大丈夫だろ。立花の頭なら」

「これ以上馬鹿にはならないから大丈夫デス」

「今度の訓練で必要以上にボコるから覚えとけよそこの二人」

 

 なんか響さんの荒い口調、初めて聞いたかも。

 でも、割とマジで痛い事をされるのは分かった。これは全力で逃げないとお尻以外の部分にも深刻なダメージが残ってしまう可能性が……

 ……ん?

 あっ。やべっ。

 

「あれ? どうしたの、調ちゃん。そんな全力で後ろに向かって走って……はっ、殺気!!」

「ヤバイ、何か来てるわ!!」

「薄情だぞ月読!!」

「あたしには教えてもらってもいいじゃないデスか!」

「わたしはどこも叩かれたくないから!」

 

 でも、これであの五人のうちの誰かにお仕置き内容もよく分からない黒タイツが行くはずだから……あれ? こっち来てない? あの五人じゃなくて先に逃げたわたしに思いっきりロックオンしてない?

 あっ、ヤバイ! ホントにこっち来てる! しかも速い! なんなのアレ! わたし、一応結構鍛えている部類の人だよ!? 普通に追いつかれるんだけど!?

 

「うわぁ。調ちゃんが今まで見たこと無い表情で逃げてる」

「自業自得だ。仲間を見捨てた罰だな」

「しかも書いてあるのって……うわぁ、ハリセン。痛そう」

 

 痛そうじゃなくて!

 あっ、ヤバイ気配が真後ろに! 捕まる捕まる! 誰か助け……あっ。

 

「掴まったみたいデスね」

「無念……」

 

 は、ハリセンって……しかも結構巨大だし……

 その、わたし女の子だよ? こんなか弱い女の子の頭をそんなドデカイハリセンでシバくなんて事しないよね? ね? ちょっ、ホントに手加減し……

 

「いったぁい!!」

 

 思いっきり叩かれたぁ! しかもいい音が鳴ったぁ!

 しかもあのハリセン、何気に厚紙製だから滅茶苦茶重かったし滅茶苦茶痛いし……あー……耳がキーンってする……頭の中で音が反響しているみたい……ハリセンって、あんなに痛いんだね……

 頭を押さえて皆の元に戻ると、みんなはニヤニヤしながらわたしを出迎えてくれた。

 くそっ、今度こそ絶対に擦り付けてやる。

 

「まぁ、なんだ。早く雪音を助けようか。私もハリセンでシバかれたくないからな」

「そうね。スリッパでも叩かれたくないし」

 

 絶対にこの二人にはお仕置きにあってもらわないと。

 

 

****

 

 

 ……あっちぃなぁ。

 なんだよこの檻。檻って言うか見世物小屋か? 外からの日差しがガンガン入ってくるから普通にあっちぃ……

 でもジュース置いてあるから何気に気は楽だな。ヒマだけど。

 

「おっ、あの馬鹿がスリッパで頭叩かれてやがる。おもしれ」

 

 ……流石にアタシみたいな女子がトンデモないキスとかされるとかはねぇと思うけど……

 ……あれ? なんか後ろの方がちょっと騒がしく。やべっ、逃げた方が……ってぇ!?

 

「なんだこれワイヤー!? おいこれやってるのキャロルだろ! 離しやがれ!!」

 

 ワイヤーで拘束されちまった!

 くそっ、あまり痛くはないけど逃げ出せないし壁際まで引きずられて……あっ、なんか壁から手が。

 おいやめろ! 触んな、今のアタシに触んな!

 

「ぎゃははははははははははは!! ちょっ、それはだっはははははははははは!!」

 

 くすぐんなぁ!!

 

 

****

 

 

 鍵を探し出すまでわたし達は何度もシバかれた。

 翼さんはケツバットされるし、マリアはスリッパとハリセンのコンボをくらうし、切ちゃんは仲間を売ろうとしてケツバットされたし。

 わたしと響さんも何度かスリッパとハリセンとケツバットを貰った。もう頭とお尻が限界だよ……

 

「ま、まだか……まだ鍵は見つからんのか……」

「そろそろこっちの肉体の方が限界よ……クリスもクリスで多分キッツイお仕置きを受けてるだろうし……」

「そういうものなの……?」

「あっち側も見てると結構辛い感じだよね……さっきチラッと見てきたけど、思いっきりくすぐられてたよ……」

「どっちにしろ辛いデス……」

 

 全員満身創痍。だけど時間をかければ絶対にロクな事にならない。だから全員でとりあえず纏まって鍵を探す事に。

 でも、中々見つからない。本当に鍵が置いてあるのか不安になるレベルで見つからない。

 これで不正発覚とかしたら今度この世界の二課を攻撃してやる……!!

 

「こうなったら二手に分かれた方がいいかもね。それじゃあわたしは……翼さんと! 行きましょう!」

「そうだな!」

 

 え?

 なんかこっちが何か言う前に響さんと翼さんが全力で走っていった。

 ……いや、もしかしてこのパターンって!

 

「後ろに居るわよ!」

「あの先輩達今度処すデス!!」

「同じく!」

 

 あの先輩共、わたし達に鬼を擦り付けやがった!

 絶対に今度の訓練で必要以上にボコボコにする! と思いながら逃げていると、最後尾になった切ちゃんがそのまま鬼に捕まった。 

 えっと、罰は……び、ビンタ……

 

「いや、女の子の顔にビンタとか冗談デスよね!? やるならボディにしないと女の子の顔に紅葉がぶへっ!」

 

 あー……痛そう。

 思いっきりビンタされた切ちゃんはそのまま顔を押さえながら崩れ落ちた。

 痛みよりも精神的な痛みの方が大きいらしく、なんか顔を押さえたまま下を見つめている。

 可哀想だけど……ただ、わたしとマリアはそっと距離を取った。だって傷心の切ちゃんに鬼がそっと近づいて来てるんだもん。

 

「うぅ……もう嫌デス……え? あっ、鬼デスか。ハネムーン……? これ付けろって事デスか? 嫌なんデスけど……あっ、はい。拒否権無しデスね……」

 

 そして切ちゃんは腰に大量の缶が括り付けられたベルトを取り付けられた。

 で、切ちゃんはガラガラと音を出しながらこっちに来たけど、わたし達はそれと同じスピードで切ちゃんから距離を取る。

 

「なんで逃げるんデスか!」

「位置がバレるからよ! 切歌だけは単独行動しなさい!」

「切ちゃんなら一人でも大丈夫だから、ね!」

「ふざけんなデス!! 二人も道ずれデス!!」

 

 この後、何故かわたし達同士で鬼ごっこしながら時折鬼にシバかれました。

 ちなみにわたしがくらったお仕置きの中で一番痛かったのは自転車通勤。板の下敷きにされた後にその上を自転車の通路にされた。

 めっちゃくちゃ痛かった。特に最後のデブ。

 

 

****

 

 

「……暇だなぁ。あっ、くすぐりもう一回? いや、勘弁してひゃははははははははは!!」

 

 

****

 

 

 満身創痍のわたし達はなんとか宝箱を三つ、発見する事ができた。 

 その内二つは外れで、開けた瞬間煙が吹いて主にわたしが攻撃をくらったけど、三つ目の宝箱でなんとか鍵をゲットする事に成功した。

 

「やっと終わりか……」

「そうですね……さっきのエルビスで描かれた所が全然落ちない……」

「でも、これでこの地獄からおさらばよ!」

「代わりに来るのは笑ってはいけない地獄デスよ」

「どっちも嫌だぁ……」

 

 でも、クリス先輩を解放しない限りこの地獄は終わらない。

 という事で、皆でクリス先輩の所へ。

 

「クリスちゃーん。迎えに来たよー……ってあれ? 息絶え絶え?」

「ご、五分ごとに擽られりゃこうなるわ!!」

 

 あー……そんなハイペースで擽られてたんだ……ご愁傷様です。

 で、響さんが見つけた鍵を刺して……あっ。

 退散!!

 

「あれ? みんなどこに逃げ……っ!?」

「アレはヤバイ!! なんだ全部って!!」

「全身に色々と括り付けてますよ!!?」

「文字通りって事デスか!?」

「ヤバいわよ!!」

 

 くっ、後はクリス先輩を解放したら終わりなのに!!

 ……ん? クリス先輩?

 ……よし、やろう!!

 

「どうした月読! 雪音の檻の前になんて行って!」

「まだ鍵は刺さったまま! なら、これをサッと開けてドアを開いて!!」

「おい何考えてんだお前!! やめろ、まだ開けんな!! お前なんつー事考えてやがんだ!! おいやめろ!!」

 

 クリス先輩の檻のドアを開けてそのまま中へと襲撃。その後にクリス先輩をわたしの盾にして、檻の中に入ってきた鬼に対する盾にする。

 これがわたしの最後の作戦! クリス先輩ガード!! クリス先輩は死ぬけどわたしは生き残る!

 

「ざっけんな! おい、アタシを掴むな! ふざけんな! 離せ馬鹿!!」

 

 わたしの作戦は、無事に成功。

 クリス先輩は鬼に捕まり、そのまま外へと引っ張り出された。

 そして行われるお仕置きは酷い物ばかり。ハネムーンの缶の一つで思いっきり頭を殴られて、その後にスリッパとハリセンの連撃。で、倒れている所にエルビス化が入って、更にケツバット。で、更に自転車通勤をさせられた後に思いっきりビンタをされた。

 うわぁ、痛そう。でも見てるの面白い。

 こうして最後は五人で笑顔になって無事この地獄を潜り抜けたのでした。

 

「……お前今度殺すわ」

 

 ひぇっ。

 

 

****

 

 

 訓練という名の鬼ごっこが終わってから、わたし達は無事控室に戻ってきた。

 あの苦しかった鬼ごっこは何とか終わったけど、わたし達は満身創痍。頭をシバかれたりお尻をシバかれたり自転車通勤されたりと色々とあったせいで精根尽き果てた感じで六人同時に椅子に座って天井を眺めた。

 いつもの訓練よりも疲れた気がするけど、まだこの企画は終わらない。一応食事は後で出るみたいだけど、もうちょっと先との事。

 で、控室という事は、もしかしたら引き出しの中の物が補充されてるかもしれない。

 

「……とりあえず厄介なモン先に片付けるか」

「そうだな……引き出しネタは疲れて笑えない内にどうにかしてしまおう」

 

 で、今は笑いたくても笑えない状態だから、引き出しのネタを先に片付けてしまって笑えるものは極力省いてしまおうという事になった。

 という事でまたわたしから引き出しを開けたけど、わたしと切ちゃんの引き出しには何も無くて、マリアの引き出しにも何も無かった。

 これはもしかしたらヌルゲーが開幕したんじゃ? と思った直後、響さんが引き出しを開けた後に表情を曇らせた。あー、何かあったんだなぁ……と察した後に響さんが取り出したのは、意外な物だった。

 

「割り箸と、頭巾だね」

「なんだそのチョイス」

 

 出てきたのは、割り箸と頭巾という、なんとも言えない物だった。

 これで一体どうしろと? と全員で顔を合わせていると、響さんがそれを無表情のまま手に取った。

 そして頭巾をしっかりと着けて、割り箸を割ってから自分の下唇と鼻の穴で固定して……

 

「…………」

「………………」

『……………………』

 

 ……誰か何か言おうよ。響さんが捨て身で女の子捨ててるんだから。

 

「……次、私が開けよう」

ひょろひくおねひゃいしましゅ(よろしくおねがいします)

 

 わたし達は響さんを無視して翼さんの引き出しに注目した。

 で、翼さんは何かを見つけてしまったのか、何とも言えない表情をしながら引き出しの中から何かを取り出した。

 それはスイカ割りをしている翼さん……なんだけど、そのスイカがウェル博士になっているっていう、なんとも言えない合成写真だった。

 

「……おい、私はこんな写真撮った覚えはないぞ」

「アレじゃねぇか? グレた馬鹿の世界のセンパイ。あっちのセンパイはこっちのセンパイとほぼ同じだったし」

ひょうだったん(そうだったん)……ヴぇっ!?」

 

 ぶすっ。

 

「いったっ!? いっだぁ!!? 割り箸が奥の方に刺さっいだだだだだだだ!!」

『ぶっ』

『翼さん、クリスさん、マリアさん、切歌さん、調さん、アウト~!』

「ちょっとぉ!!?」

「折角笑わずに堪え切れたのに何してくれてんだこの馬鹿!!」

「捨て身にも程があるデスよ!!」

「わ、割とマジで奥の方に……しかも鼻血が……」

「自業自得です!」

 

 どんな感じになったかは、響さんのために言わないけど、それはそれは間抜けな感じで鼻血を出していました。

 そしてわたし達は久しぶりにお尻をシバき棒で叩かれ、お尻を抑えながら軽く悶絶する羽目に。

 くそっ、響さんが余計な事をするからお尻を叩かれた……

 これでさっきまでの無の境地を捨てちゃったから、この翼さんとウェル博士の変な写真でも笑っちゃいそうという事で写真はそっと引き出しの中に戻した。

 その後に今度はクリス先輩の引き出しを開けたんだけど……

 

「はい嫌なモンが出てきた!」

 

 出てきたのはボタンだった。

 あぁ、切ちゃんのお尻がシバかれるか翼さんがガングニールキックされるボタンが再び……いや、もしかしたら違うのかな?

 

「マリア、押してみて」

「嫌よ」

 

 だから確かめるためにマリアに押してもらいたかったんだけど、マリアは押してくれなかった。

 ケチ。

 ボタンは押しても押さなくても自由だからこのまま押さないという選択肢があるんだけど……ただ、誰かに押させるという選択肢もある。

 故にクリス先輩はボタンを手にしてそっと響さんに近づき。

 

「おい馬鹿。握手しようぜ」

「え? うん、いいけど」

 

 握手しようぜと言って響さんが手を出したのと同時にボタンを響さんに押し付けると言うド外道行為に出た。

 

「はああああああ!!?」

「ざまぁ」

 

 まさか裏切られるとは思わなかったのか、鼻にティッシュを詰めた響さんは思いっきり声を上げたけど、クリス先輩はケタケタと笑う。

 そして告げられた罰は。

 

『クリスさん、アウト〜! 響さん、ハグ~!』

「嫌だ、ガングニールキックだけは……って、ハグ?」

「どうしてだよ!? クソがってぇ!!」

 

 まさかのハグ。

 どういうコト? と全員が首を傾げていると、ドアから急に奏さんが入ってきた。

 

「うっす」

「奏さん? はっ、もしかして!」

「そういうこった。罰だから思いっきりハグしてやる!」

「わーい! ご褒美だ~!」

 

 ボタンを押して起きたのは、まさかの奏さんとのハグ。特に羨ましいとは思わないけど、罰とも言えない罰があるなんて思わなかった。響さんと奏さんは笑顔でハグしているし。あれアウト判定にならないの……?

 で、それをジッと見つめるのが翼さん。

 きっと奏さんに甘えている響さんの事が羨ましかったんだと思う。で、翼さんの視線はクリス先輩の持っているボタンに行って、すぐに奏さんに行って。

 

「……雪音。ボタンをくれ」

「いいっすけど」

 

 そのままクリス先輩からボタンを回収。そしてすぐに自分で押した。

 結果は。

 

『翼さん、ガングニールキック~!』

「ざっけんな!!」

『クリスさん、調さん、アウト~!』

 

 本日二発目のガングニールキックだった。思わずそれにクリス先輩とわたしが笑ってしまったけど、翼さんの様子はそれどころじゃない。

 それが告げられてからすぐにドアからガングニールを纏ったグレ響さんが入ってきて、即座に翼さんを拘束した。

 あーあー、あれは痛いよぉ。

 

「反省しない人め……」

「おい待て! 二発目は流石にないだろう!? これは何かの間違いだ! そうだ、そうに違いない! 一度考え直せ! わたしはただ立花が羨ましかっただけでそれ以上の事もそれ以下の事も思ってなんか――」

「セイッハァ!!」

「いだあああぁぁぁああぁぁぁぁぁあぁぁっっっふっっふっふぐううぅぅぅぅぅぅぁぁあああぁぁぁぁあああ!!?」

「だっははははは!! なんだその情けない悲鳴!!」

『響さん、クリスさん、マリアさん、切歌さん、調さん、アウト~!』

 

 奏さんも大爆笑のガングニールキックだったけど、同じように笑ったわたし達にはお仕置きが。

 お尻をシバかれてヒリヒリするお尻を軽く擦りながら元の位置に戻ったけど、翼さんは本日二度目のガングニールキックがかなり堪えたのか、半泣きになりながら地面で横になっている。

 生身でガングニールキックなんて普通は受けないし、受けたとしても一撃でKOされる物だからね……そんな物を一日に二回も受けた翼さんのお尻がどうなっているかなんて、多分簡単に想像できると思う。

 もしかしたら明日以降、椅子に座れないんじゃないかな。今日は座らないと体力回復しないから意地でも座るだろうけど。

 

「もうやだ……おうちかえる……」

「まぁ、あと数時間だから頑張れよ! そんじゃあな!」

 

 幼児退行を決め込んだ翼さんを無視して奏さんが戻っていった。

 あの人、本当にハグするためだけに来たんだ……暇だったのかな?

 で、沈んだ翼さんをそのままにわたし達は暇だから適当にボーっとしたり携帯を見たりしながら次の企画を待つ事数十分。

 ダメージから回復した翼さんがようやく椅子に座ったところで唐突にドアが開いた。

 

「みんな、お疲れ様。お昼の時間よ」

 

 入ってきたのはワゴンを押す友里さんだった。

 そのワゴンの上には色んな料理が乗っている。アレがお昼ご飯かな? よかった、お昼ご飯は普通みたい。

 

「やったー! ようやくご飯だぁ!!」

「もう昼も二時近いから、本当にようやくだな。腹減った」

「そうね。お昼を食べて、後は一個や二個企画をしたら終わりかしら」

 

 まだ企画なんて一個や二個しかやってないし、まだここに来てから二時間も経っていないんだけど、凄く疲れた気分。殆どが待機時間だったハズなのに……あっ、待機時間も時々仲間割れしていたからだ。

 それじゃあご飯の方を……って思ったけど、何故か友里さんはご飯が乗っているであろうワゴンからご飯を出そうとしてくれない。

 ……ま、まさか。

 

「おっと。ご飯は確かにあげるけど、タダじゃあげないわよ」

「なんデスと!?」

「酷いですよ友里さん! 鬼の所業です!」

 

 切ちゃんと響さんが文句を言うけど、友里さんがすぐにご飯の事を口にしなかった時点で何かあるんだろうなぁとは思ってわたし含めた四人は露骨に嫌な顔。

 だけど友里さんは表情一つ変えずにどうやったらご飯を獲得できるのかを説明し始めた。

 

「みんなには、わたしが出すお題にそってその場で俳句を読んでもらうわ。その即席俳句の完成度が高かった人から豪華なご飯を出していくわ。最下位は初めに言っておくけど、おにぎり一個だけよ。あっ、勿論お題は直前に出してすぐに俳句を作ってもらうわ」

「そんなの翼さんが有利なだけじゃないですか! あの人普段から意味わからない俳句みたいな事を言い続けているんですから!」

「おい立花。今度喧嘩な」

 

 なんか響さんと翼さんの絆が若干壊れかけたけど、そんな事気にせず友里さんは手元のカードをシャッフルし始めた。

 うわー、アレでお題出してくるんだ……本当にその場で即席の俳句を言わないといけないとか、相当難易度高い……

 でも、やらないと経費で落ちる美味しいご飯が食べられない……やらないと……!!

 

「それじゃあ早速行くわよ! まずは響ちゃん!」

「げぇっ、もうですか!? ちょっと心の準備が!」

「考える暇すら与えないわ! という事でお題は……これ! 白米!」

 

 早速始まってしまった。

 トップバッターは響さん。でお題は白米。

 これは……いけるんじゃない? 響さんの大好物だし。

 

「え、えっと……ごはん&ごはん! ごはん&ごはん&! ごはん&ごはん!」

「誰が好物を連呼しろって言ったよこの馬鹿」

 

 駄目でした。

 クリス先輩に頭をシバかれた響さんは納得いかないような感じでクリス先輩を見たけど、その前に友里さんが動いた。

 

「次はクリスちゃん! 行くわよ!」

「げっ、嘘だろ!? もうちょっとテンプレを頭の中で用意させろ!」

「却下! という事でお題は……これ! あんぱん!」

 

 で、次はクリス先輩だけど、出てきたお題はあんぱん。

 大好物でもできないのが響さんの例で分かっちゃったし、多分これは……

 

「あ、あんぱん!? あんぱんあんぱん…………あんこをね! パンで包んで! 美味しいね!」

「クリスちゃんもダメじゃん!」

「お前よりはマシだこの馬鹿ッ!」

 

 い、一応製造過程だけどそれでいいのかな……? いや、美味しいねってただの感想だし……よく分からないや。

 採点基準は友里さんだし、これは採点結果が酷い事になってしまいそうな気がプンプンする。

 で、次は。

 

「次は翼ちゃん! 行くわよ!」

「よし、来い!」

 

 翼さんだった。さて、翼さんはどんな俳句を返してくるのか。

 

「お題は……これ! トムヤムクン!!」

「はぁぁ!!?」

 

 ごめん笑う。

 

「と、トムヤムクン!? 私食べたこと無いぞ!?」

「残り五秒で失格よ!」

「ふっざけんなよ!? くっ、適当に……と、トム君が! 病んで作った! トムヤムクン!」

「史上最悪の俳句ができあがった!」

「クソがああああああ!!」

 

 多分これ、奏さん辺りがいい感じに裏で翼さんを苛めるために暗躍してるよね。じゃなかったら翼さんの時にピンポイントでトムヤムクンが来るわけがないし。

 翼さんが勝ちを確信した表情から一転して崩れ落ちたのを見届けてから、次は誰かと構える。

 二課組が終わったから、今度はわたし達F.I.S組が来る。

 多分響さんと翼さんよりも酷いのはできないから何とかなる……ハズ!!

 

「次はマリアちゃん、行くわよ!」

「俳句なんて作った事無いけど……いいわ、来なさい!」

 

 よかった、次はマリアだ。

 さて、マリアは何が出てくるのか……

 

「お題は……これ! ステーキ!」

「す、ステーキ……ステーキだから……肉焼いて! ソースをかけて! 召し上がれ!」

「即席にしてはいい方なんじゃねぇの?」

「くっ、語彙力が……!」

 

 でも、比較的いい方なんじゃないかな。分かんないけど。

 で、こうなると次はわたしか切ちゃん。

 さぁ、どっちに来る!

 

「次は切歌ちゃん、行くわよ!」

「あたしデスか!? ば、バッチ来いデス!」

 

 友里さんが構えて切ちゃんも構えた。

 さぁ、どうなる。

 

「お題は……これ! ご飯にザバーっとかける物!!」

「それ食べ物じゃなくてトッピングゥ!!」

 

 まさかのトッピングが来たんだけど。

 

「と、トッピングデスか!? でも、やるっきゃないデス! …………ご飯にね! ザバーッとかけたら! デリシャスデス! いや無理デスよねこれ!!?」

「そ、そうよね……これ、テスト段階で抜いたはずなんだけど……」

「まさかの企画側のミスデスか!?」

 

 まぁ、うん。こればっかりはどうしようもないんじゃないかな……

 でも、切ちゃんが来たという事は、今度はわたしの番。

 ……さぁ、来い!

 

「じゃあ最後! 行くわよ、調ちゃん!」

「はい!」

「お題は……これ! わさび!」

「だから調味料とかトッピング出してくるの止めません!?」

 

 なんでわたしと切ちゃんのザババコンビは調味料とかトッピングとか、感想も言いにくい物を出してくるんですか!?

 でも、ここで頑張らないとご飯が……!

 ワサビワサビ……ワサビと言ったら……

 くっ、時間が無い! 言うしかない!

 

「練りわさび! わさび醤油に! 生わさび!」

「わさびの種類じゃねーか」

 

 言い終わってすぐにクリス先輩から頭をシバかれた。

 まぁこうなりますよねー。

 でも取り返しなんてつかないから、ここからは友里さんの独断によるお昼ご飯の配膳が始まる。お願い、一番は無理でも普通のご飯を食べさせて……!

 でもその前に。

 

『全員、アウト~!』

 

 一度全員一回は笑ったので全員でお尻をシバかれました。あーいったい。

 で、お尻をシバかれてから全員で席につき、お願いだからおにぎり一個は止めてと手を合わせながら待っていると、友里さんはまず響さんの横についた。

 

「じゃあまずは響ちゃん」

「はい!」

「響ちゃんのは、これよ」

 

 と言って置かれたのは、おにぎりが二つとお味噌汁。

 

「やった、ビリじゃない!」

「なんかもう察した……」

 

 喜ぶ響さんと諦めてしまった翼さん。

 まぁ、最下位争いは明らかにこの二人だったからね……で、次は翼さんなんだけど、翼さんのは勿論。

 

「はい、翼ちゃん。おにぎり一個よ」

「はい……」

 

 おにぎり一個。

 で、ここからは四人で一位争いになる訳だけど、果たして誰が一位になるのか。

 次はクリス先輩の所に。さぁ、クリス先輩は。

 

「クリスちゃんはこれよ」

「おっ、ラーメンか。ちょっと伸びてるけど、全然許容範囲内だな」

 

 クリス先輩はラーメン。それもチャーシュー麺だからチャーシュー大盛。

 これは結構点が高かったんじゃないかな?

 で、次はマリア。

 

「マリアちゃんはこれよ」

「ステーキにライスとスープ。完璧なランチね」

 

 これはマリアがトップだったんじゃないかな? ステーキ定食とも言える位には量があるし、鉄板もまだあっつあつだから美味しそうな匂いと音がする。

 これにはマリアもにっこり笑顔。適合率もちょっと上がるかもね。

 で、次は切ちゃん。

 切ちゃんはどうなるかな? あっち側の不手際があったらしいけど。

 

「切歌ちゃんのはこれよ」

「おぉ、野菜炒め定食デスね。普通に美味しそうデス」

「それと、お詫びもこめてプリンもあげるわ」

「もう最高のお昼デス! さっきの事はこれでチャラにしてあげるデスよ!」

 

 うん、普通のお昼ご飯。

 となるとわたしは……あー、もしかして結構下の方だったのかな? でも、あんまり量食べられないから、トーストと目玉焼きとかでも全然足りるし平気かな。

 おにぎり一個は流石にきつかったけど。

 さぁ、わたしのお昼はなんだ。

 

「調ちゃんのお昼はこれよ」

 

 と言って置かれたのは、真っ赤な具だくさんのスープと日本のお米とは違うちょっと細長いお米。

 うん、これは……アレだね。

 

「トムヤムクンとタイ米じゃないですか!!」

「あっつあつの激辛よ。とっても美味しいわ!」

「わたしでオチを付けないでくださいよ!!」

 

 これなら普通に野菜炒め定食とか焼き魚定食の方がマシだった!

 でも文句ばっかり言ってられないから、とりあえずトムヤムクンを一口。

 

「かっら!!?」

 

 めちゃくちゃ辛かった。

 あぁ、胃が熱い……

 

 

****

 

 

 水が無かったら即死だったよ。

 わたしと翼さん以外は満足な食事をしつつ、わたしだけは激辛料理と格闘しながら何とか昼食は終わった。

 タイの人はトムヤムクンをタイ米にぶっかけながら食べるのを知ってからはそこそこ楽だったよ。それまではめちゃくちゃ辛かったけど……いや、美味しかったよ? 具だくさんで海鮮物もお肉もお野菜も入ってたし、量もあったから。ただ辛いの。すっごい辛いの。

 まぁ、トムヤムクンについてはこの辺にしておこう。珍しいモノ食べられたしね。

 で、お昼を食べ終わってから暫くして、再び藤尭さんが部屋に入ってきた。

 

「おいお前ら。ウチの専属の発明家がお前達と顔を合わせるために時間を作ってくれたから、会いに行くで」

「嫌です」

 

 二課の発明家と言えば……あぁ、あの人。

 この世界だとフィーネじゃないけど、まぁ確実にあの人。で、あの人がノリノリでわたし達を笑わせてこないわけがない。

 つまり、行きたくない。

 

「……じ、時間があるからとっとと行くで」

「嫌よ」

 

 響さんの拒否に続いて今度はマリアの拒否。

 さぁ、どう出る。

 

「……その、来てくれないと俺が怒られるんで、来てもらえません?」

『ふふっ……』

『全員、アウト~!』

 

 まさかの素! 台本通りにいかないとどうしようもできない大根役者だと言う事が判明してしまって思わず全員でお尻を叩かれる羽目になった。

 お尻がいったいけど、流石に藤尭さんが可哀想だから六人で藤尭さんについて行く事に。

 さて、鬼が出るか蛇が出るか、それとも両方出るのか……両方だろうなぁ……

 で、ついて行った先は研究室と書かれた部屋。そこに藤尭さんを先頭にして入ると、その先に居たのはあのフィーネこと……

 

「どうも、サンジェルマンです」

「カリオストロよ」

「プレラーティだ」

『響さん、クリスさん、マリアさん、調さん、アウト~!』

「そこは了子さんじゃないの!? いたいです!」

「完全にフィーネがくるパターンだったろ! あだっ!!」

 

 まさかの面子にわたし達のお尻がシバかれてしまった。

 あー、もうこれは暫くスリーサイズに変動が起きるね……間違いない……

 で、わたし達を笑わせた張本人であるサンジェルマン達は一頻りわたし達がお尻をシバかれた所で話は続くことに。できる限り迅速に終わらせてくれると助かるかな……

 

「紹介の通り、私達は二課の技術職だ」

「だから、色んな物を作っているのよ」

「その一環として、こんなものを作ってみたワケだ。お前にやるワケだ」

 

 サンジェルマン達曰く、自分達で発明した物を何故かプレラーティが翼さんに渡した。

 あれは……袋? 布の袋みたいだけど、あれに何の意味が……?

 

「お、おう? 私か? ありがたくいただくが……なんだこの袋は? マリアの顔が書いてあるが……」

 

 あっ、ここからじゃ見れなかったけどマリアの顔が書いてあるんだ。

 だとすると、余計にどうしてそんな物をプレゼントしたのかが気になるんだけど……

 

「それの中心を押してみるワケだ」

「う、うむ。ポチっとな」

 

 古臭い言葉と一緒に翼さんが袋の中心を押した。その瞬間。

 

『ふはははははは!!』

 

 マリアの笑い声が響いた。

 あっ、これそういう……

 

『マリアさん、アウト~!』

「は? はぁ!? ちょっ、待ちなさい! 私が笑ったんじゃいっつぅ!」

 

 マリアが笑ったわけじゃないんだけど、袋を押した瞬間マリアの笑い声が響いた結果、マリアのお尻がシバかれる事となった。

 また不和の原因になりそうなものが配られてしまった……

 

「これは『マリア・カデンツァヴナ・イヴの笑い袋』なワケだ。使い道はお前達に任せるワケだ」

 

 そんな物を自由にしていいとか言われたら、今のわたし達はただの仲間割れにしか使わない。わたしだってアレを渡されたら何連射かはするもん。マリアがお尻をシバかれるの面白過ぎるから。

 でも今、笑い袋は翼さんの手に渡っているわけで、わたしは翼さんの動向に身を任せるだけ。笑わないようにしっかりと気を張っていればこの案件は完全にスルーする事が可能だからね。だからわたしは極力空気になる。わたしは空気。でも笑い袋を渡される時だけは人間。

 

「そうか。そうかそうか。ならもう一回……」

「させないわよ! それは私が預かる!」

「その前に雪音にパスだ」

「うっす。って事でもっかい」

『ふはははははは!!』

『マリアさん、アウト~!』

「雪音クリスァ!!」

 

 結果、笑い袋はクリス先輩に渡され、そのままクリス先輩が笑い袋を押してマリアがお尻をシバかれた。

 でもこれ以上マリアを弄ると企画とかそういうの抜きで最短で最速で真っ直ぐに一直線にぶん殴られそうという事で、クリス先輩はマリアに笑い袋を渡し、マリアはそれをガッチリと両腕でホールドして絶対に音が鳴らないように構えた。

 そんなに構えなくても、一度手放した物を奪いにかかるような野蛮な事はしないのに……しないよね……?

 

「それじゃあ、次の発明だが……」

 

 で、サンジェルマンが今度はいつものシバき棒よりも遥かに大きな、明らかにヤバい感じのシバき棒を取り出そうとした時だった。

 何故かカリオストロとプレラーティがサンジェルマンの手を抑えて、サンジェルマンの行動を阻害した。

 あれ? もしかしてあの二人って味方?

 

「そこはあーし達が発表させてもらうわ」

「サンジェルマンはそこで見ているワケだ」

「は? いや、そんな事台本には……」

 

 あっ、そんな事無さそう。完全にサンジェルマンだけを困惑させようと企画をぶっ壊そうとしている感じだ。

 で、二人はそのままサンジェルマンの動きを止めて無理矢理わたし達の横に移動させてきた。いや、サンジェルマンまでこっち側? 

 

「という事で、これがあーし達が作り出したお薬、その名も『農夫と神様』よ!」

 

 の、農夫と神様?

 それって……?

 

「あー……もう察したよ……」

「最新のネタをぶち込んできやがったか……!」

 

 あっ、でもわたしと切ちゃんとサンジェルマン以外の四人は何か察したみたい。

 えっと……どういうコト?

 

「この薬は飲んでからとある歌を歌う事により体の中で反応し、体にとある物を作り出すという薬なワケだ。これを実際にカリオストロが使ってみるワケだ」

「そういうコト。という訳でレッツイッキ!!」

 

 あっ、カリオストロがピンク色の薬を飲んだ。

 一気に飲んだカリオストロは「まずいッ!!」って叫んで瓶を投げ捨てて、何故かプレラーティはギターを持ってきた。何でギター? とか思う前にプレラーティは一人でギターのチューニングを始めてカリオストロはなんか一人で喉を調整している。

 で、サンジェルマンはそんな二人を見て目を点にしている。ほんとに何も聞いてなかったんだね……

 

「それじゃあ行くわよ!」

 

 あっ、始まるみたい。

 プレラーティがギターを弾き始めて、カリオストロが歌い始めた。

 

「あーしは貧しい錬金術師。あの人と突き合うため、薬を探しに森にやってきた~」

 

 あれ? 普通だよね?

 でもなんかちょっと付き合うの所のインストネーションが違ったような気がするんだけど……

 

「待っていたぞわたしが、悩める錬金術師を救う、この森に住む錬金術師だぁ」

 

 あっ、今度はプレラーティが歌った。

 っていうか、二人とも錬金術師なんだ。薬の名前は農夫と神様だったのに。片方が農夫で片方が神様役で歌うのかと思ったけどそんなことは無かったらしい。

 

「あの人を想うお前の、一途な心に胸打たれ、お前を助けにやってきたぁ」

「本当ですか! 信じられない、有難き幸せ!」

「お前の望み、一つだけ叶えてやろう~!」

 

 望み?

 なんだろう、その意中の人と付き合いたいから手伝ってくれとか、そういう感じかな? なんか笑わせるんじゃなくて普通に楽しませてくれるために歌ってくれているのかな? それならこの時間は全然楽に終わりそう……

 

「な~ら~ば~!」

 

 ならば?

 

「大きなイチモツをください!!」

 

 ぶっ。

 

「大きなイチモツをください!! ズボンを突き破る程の、大きなイチモツをあーしにくださいぃぃ!!」

「お前は何を言い出すんだカリオストロ!!」

 

 ちょっ、下ネタじゃん! 急に下ネタが来たから思わず笑っちゃったし!! しかもサンジェルマンが思いっきりツッコミ入れちゃったし!

 って、あれ? アウトにならない? もしかしてこれが終わった後に後で纏めてお仕置きされる感じ?

 

「そうじゃないだろう、話が違う。意中の人はどうした?」

「そうだ、そうだった! あの人を射止める事が一番大事~!」

「…………だよな? そうだよな? イチモツよりも優先すべき事がお前にはあるワケだな?」

 

 あっ、セリフ入った。

 で、ここからはしっかりと軌道が修正されるんだよね……?

 

「だ~け~ど~!」

 

 あっ。

 

「大きなイチモツをください! 大きなイチモツをください!! ベッドでサンジェルマンが二度見する! 大きなイチモツをあーしにください!!」

 

 あーもう!!

 意味が分かっちゃうわたしが嫌だし、響さんは大口開けて天井を仰いでなんとか耐えているけど、他の四人は全員腹抱えて笑ってるし! ついでにサンジェルマンがドン引きした感じの表情を浮かべてるし!

 

「もうやめてくれ、お前のために出てきたわたしが馬鹿だった」

「嘘です嘘です! あの人のハートを射止めてくださいぃ……おーねーがーいーしーまーすー!」

 

 もう滅茶苦茶だけど、なんとか纏まりそう……なのかな?

 なんかちょっと間が生まれてる。この間、絶妙すぎて笑いそうなんだけど……

 

「……だよな? そうなるよな? じゃあそういう方向で」

「つーいでーに!」

「は?」

「大きなイチモツをください! 大きなイチモツをください!! 乙女のイメージを壊す程の! 大木を薙ぎ倒す程の! 装者が赤面する程の! 大きなイチモツをください!!」

 

 これ収拾付かないでしょ。響さんもとうとう「がふっ」って声出して笑っちゃったし。

 ……で、ホントにどうするのこれ。そろそろ笑いすぎてお腹が捩れそうなんだけど。

 

「いや、あの……」

「あーしとプレラーティの二人に! サンジェルマンを泣かせるほどの! 大きなイチモツをください!!」

「おい」

 

 とうとうサンジェルマンが普通に声を投げかけたけど、二人はそれを一切無視してまだまだ歌い続ける。

 

「ならばいいだろう。お前とわたしに、大きなイチモツを授けてやろう」

 

 えっ。

 いや、そんな事言ってどうするの。

 ……って思ったらなんかカリオストロとプレラーティの股間の部分がなんか盛り上がってきた!? 普通に下品!!

 

「大きなイチモツをありがとう! 大きなイチモツをありがとう! サンジェルマンが引くほどの、サンジェルマンが泣くほどの! 大きなイチモツをありがとう!!」

 

 うーわ……普通に下ネタで終わったんだけど……

 ……っていうか、あの盛り上がった股間のアレ、まさか本当にイチモツじゃないよね……? 作り物だよね?

 あっ、プレラーティがギターを置いた。これで終わりって事だよね?

 

「と、いう事でサンジェルマン?」

「わたし達とベッドで夜戦開始するワケだ」

 

 あっ、はい……

 じゃあわたし達は退散しておきますね……

 

「するか!!」

「今のあーしにはサンジェルマンが引くほどのイチモツがあるのよ? これを無駄にはしないわ!」

「わたしとカリオストロの二人ならサンジェルマンを押し倒す事だって可能なワケだ!!」

「ふざけるな! おい、立花響他装者五名!! 見ていないで私を助け……」

『お邪魔しました』

「おい!!?」

 

 なんかサンジェルマンが悲痛な声を上げていたけど、それを無視してわたし達はそっと室内から出てドアを閉めた。で、中からすっごい音が聞こえてくるけど、それを意図的に無視して藤尭さんと一緒にちょっと部屋から離れてから。

 

『全員、アウト~!』

 

 全員でお尻をシバかれるのでした。

 なんというか……その……

 

「……普通に腹筋に悪いからやめてほしかったかな」

「アレで笑うなって方が無理だろ」

 

 全く持ってその通りです。

 

 

****

 

 

 控室に戻ってきたわたし達だけど、カリオストロとプレラーティが台本通りなのか台本通りじゃないのかよく分からない行動を起こした結果なのか、それとも仕様なのかよく分からないけど、引き出しの中には特に何も入っていなかった。

 よかった、これでまた腹筋崩壊レベルの何かが入っていたら笑っちゃいけない企画で腹筋が崩壊しつくすところだったよ。

 で、カリオストロとプレラーティの下ネタ攻撃で笑い疲れたわたし達は水を飲みながら暫く待機する事に。

 あー……こうやって仲間割れも笑いの刺客も何も無い時間が一番だよ……ずっと笑わされていたら流石に腹筋が持たないしお尻が座れないほど痛くなっちゃう。

 で、待つこと十数分程度。

 

「お前ら。今日の最後の仕事や」

「最後……? あぁ、ようやく終わるのか……」

「クッソ長かったデス……」

 

 藤尭さんが入ってきて早々、そんな事を口にした。

 最後の仕事。つまり、これが終わればこんな狂った企画から解放される。

 ……な、長かったぁ。ようやくこの狂った企画とはおさらばできるよ……

 

「それじゃあ、体育館の方に集合やから、ついて来るんやで」

 

 その言葉にはーい、と返事をしてから六人で体育館の方へと移動する事に。

 ようやくこの企画も終わりかぁ……長かったなぁ……

 

「次の仕事やけど、先輩装者との挨拶や。それが終わったら今日はおしまいやで」

「先輩装者? それって奏さんとかセレナちゃんとかですか?」

「そこら辺は着いてからのお楽しみや」

 

 着いてからのお楽しみって……それ絶対に奏さんやセレナじゃないって事じゃん……

 うわぁ……なんかオートスコアラーとか出てきそうでちょっと怖いんだけど……それで最後に肉体的にやられたらもうノックアウトされる気しかしない……

 そんな風に全員でげんなりしながら体育館に向かって、中に入ると、その先輩装者とやらは既に中で待機していた。で、一体誰が……って、あれ?

 

「普通に奏さんとセレナちゃんだ」

「うっす。さっきぶり」

「皆さん、お疲れ様です。わたし達とちょっとお話したら今回の企画はもう終わりですよ」

 

 な、なんだ……勘ぐって損した……

 それに、ちょっと話したら終わりって、相当楽だよね。さっきまでのわたし達のお尻をシバくための企画が無いって事だから、よっぽど楽だよ。

 

「いやー、しっかし、よく叩かれてたな。裏で見てたけど、めっちゃ面白かったぞ」

「特に風鳴さんのガングニールキックとか、わたし、お腹抱えて笑っちゃいましたから」

「忘れてくれ……」

 

 あぁ……あの忘れたくても忘れられないガングニールキックね。

 確かにアレはお腹抱えて笑うレベルだよ。わたしだって笑っちゃいけないっていう制限が無かったら絶対にお腹抱えて大爆笑していたもん。

 他にも面白い企画は色々とあったけど、笑っちゃいけないっていう縛りのせいでそれら全部が最早憎たらしく思える……!!

 

「っていうか翼。お前なんであのボタン押しちまったんだ? 押さない方がよかっただろ?」

「え? いや、それは……立花が奏に抱きしめられてて……その……」

「あはははは。役得ってやつでした~。まさか奏さんにああやって抱きしめてもらえるご褒美が待っているなんて、思ってもいませんでしたよ!!」

 

 まぁ、そうだよね。確かにあんなご褒美とも言えるような物が……

 ……うん? ご褒美? ボタンを押した罰で?

 ……そう言えば、こっちには未来さんも来てるはずなのに未来さん居ないような。こっち来てから一回も未来さんを見てないよね。ここの先輩装者ってもしかしたら未来さんなんじゃ……って、ちょっとは思ってたけど、結局いなくって……

 

『響ぃ……? 奏さんと、何をしたって……?』

 

 と、思った矢先だった。

 何故か未来さんの声が体育館に響いた。

 

「………………あっ、これわたしがあの役?」

「諦めろ」

「お前だけご褒美だったんだからな。甘んじて受け入れろ」

 

 響さんが泣きそうな表情でクリス先輩と翼さんの方を見て、二人はそっと肩を叩いた。

 その直後、体育館のドアが文字通り吹っ飛び、その奥からあの人が……紫のギアを纏った未来さんが現れた。

 

「げぇっ、未来!!」

「響ぃ……? わたしが居ない所で何してたのかなぁ……?」

「い、いや、ちゃうんすよ。これは企画で……」

「響ぃ!」

「ごめんなさいごめんなさい! どうして怒ってるのか分からないけど謝るから許して未来ぅ!!」

 

 ギアを纏った未来さんとギアを纏っていない響さんの身体能力の差なんて最早比べる程でもないくらいだったからか、響さんは一直線に突っ込んできた未来さんに胸倉を掴まれた。

 ……こ、これ、大丈夫なの? というかどこからどこまでが企画?

 

「許してほしい?」

「ゆ、許してほしいかなーって……」

「……わかった。じゃあビンタ一発で許してあげる」

「そ、そういうこと……ふふふふっ」

 

 あっ、マリアが笑った。ついでにクリス先輩と翼さんもお腹を抱えて笑ってる。

 わたしも何でか痴話喧嘩始めた二人に笑いそうだし、切ちゃんもなんとなーくこの後の事が想像できているのか笑ってる。

 

「ちょ、ちょっと待って! ギアは解こう!? ね!?」

「そんな事したらお仕置きにならないでしょ?」

「なるから! なるからギアはやめて! 死んじゃうから!」

「響がこの程度で死ぬはずないでしょ!!」

「どんなキレ方してんの!!」

 

 叫ぶ響さんと叫ぶ未来さん。

 これどっちがキレてるんだろう……既にわたしも切ちゃんも笑っております。

 

「いいから早く構えて!! じゃないと今すぐビンタするよ!!」

「そもそもわたしがビンタされる理由がどこにあるの!!?」

「わたしが響にイラついたから!! だからビンタする!!」

「それは別に分かったから!! ビンタしてもいいからギアは解いてって言ってるじゃん!!」

「嫌だ!!」

「嫌だじゃなくて!!」

 

 あーもう酷いよこの痴話喧嘩。どっちも怒鳴り合ってどっちもキレてるから収拾付く気配がないし。

 

「じゃあ響!! 奏さんに抱き締められてた時に全然役得とか感じていませんでしたってわたしに明言できるなら、ギアは解除してあげる!!」

「おー分かったよ言ってあげるよ!!」

 

 あっ、終わりそう?

 

「わたし、立花響は!!」

 

 ここで響さんが奏さんに抱き締められた時に特に何も感じませんでしたと言えばそれで終わる……けど、響さんは奏さんの方をチラッと見て、何か覚悟を決めたように歯を食いしばった。

 そして。

 

「正直あの瞬間、今日まで生きててよかったって心の底から思いましたッ!!」

「あははははははは!! 言いやがったあの馬鹿!!」

「なんで自ら勝機を取りこぼしに行くんだ……!! くっ、ふふふふ……!!」

「ははははははは!! 馬鹿でしょあの子!! はっははははは!!」

「何してんデスか響さははははははははは!!」

「ふ、くくく……!!」

 

 響さん、自分には嘘を吐けず。その慟哭に思わずわたし達五人が大笑いして奏さんとセレナも後ろの方でお腹を抱えて大爆笑。

 で、その結果は勿論。

 

「馬鹿ァ!!」

「ゴッパァ!!?」

 

 響さんはギアを纏った未来さんに思いっきりビンタされ、面白いように空中を回転しながら舞ってそのまま地面へと落下した。

 

「もう、響の馬鹿! わたしなら言われなくても抱きしめてあげるのに!!」

 

 で、響さんをビンタした未来さんはギアを纏ったまま体育館から出て行き、響さんは頬を抑えたままよろけつつもなんとか自分の足で立ち上がった。

 あーあ……真っ赤な紅葉が響さんの顔に……

 立ち上がった響さんは泣きそうな目でこっちと、ついでに奏さんの方を見て。

 

「……あの、もう帰ってもいいですか?」

『翼さん、クリスさん、マリアさん、切歌さん、調さん、アウト~!』

 

 割とマジな表情でそんな事を言い、そしてわたし達五人がお尻を最後にシバかれたのを企画の区切りとして、この笑ってはいけない地獄みたいな企画は終わったのでした。

 

 

 

****

 

 

「あっ、お帰りなさいみなさん! 今回の企画、どうでした? 皆さんの息抜きになればいいなって思って、この間テレビでやっていたのを参考にしてボクがプロデュースしてあちらの方で実行してもらったんですけど…………あの、なんでボクは両脇から抱えられてるんですか? あの、そのシバき棒はなんですか? いや、確かにボクもこの後来るであろう映像を楽しみに待ってる節はありますけど、息抜きにはなりましたよね? そんなので叩いたらボクのお尻が酷い事にあいったー!!?」

 

 この後滅茶苦茶エルフナインと他の装者を必要以上にボコった。




ネタに関しては幾つかの笑ってはいけないから引っ張ってきたので、どこからとか解説できません。ただ、結構青春ハイスクールから引っ張ってきてます。大きなイチモツとかね。
あと俳句の所は適当に食べ物を書いてから書いてる間にマジで即席で作りました。誤字の修正こそすれど書き直しは一切行わない男気執筆をしました。

それと、笑ってるシーンとか、草を生やすのは控えていたのでどうやって描写しようかめっちゃ苦戦しました。六人も出すのは正直やり過ぎたと後から思いました。あと、全員に不憫な目にあってもらおうと思って頑張りました。なんか罰が偏り過ぎてる気がするけどキニシナイ! ちなみに五回くらい書いてる途中でメモ帳が強制終了して萎えました。

と、いう事でいかがだったでしょうか、百話記念兼調ちゃんお誕生日記念の本話。ちょっとでも笑っていただけたなら幸いです。



で、話はちょっとだけ脱線しますが……ゴジラが終わってすぐにまさかのコラボが来たと思ったら進撃の巨人……
えー、ここで先んじて言っておきますが、進撃の巨人は全く見てないのでコラボ終わってもゲストでエレンとかは百パーセント出てきません。これは断言します。絶対に出しません。というか出せません。
エレンが巨人化した辺りで違う、そうじゃないって言って切ってしまったのでそこら辺はご容赦を。

あと、ゴジラコラボもとっくに終わりましたが、現在ゴジラコラボの話を書く予定を立てています。
コラボ対象はゴジラVSシリーズ……ではなく、恐らく平成モスラを題材にして書くと思います。なので、もしかしたら怪獣ギア装者&モスラVSデスギドラとかいうやべー戦いが始まるかも。
それをいつ書くかは未定ですが、今回みたいに一年後とかにはならないように頑張ります。

ではまた次回、お会いしましょう


P.S
GA文庫大賞12回後期で一次選考突破しました\( 'ω')/


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月読調の華麗なる実況プレイ

どうもお久しぶりです。最近引っ越しとかもあって色々とゴタゴタしていたら小説書くのをすっかり怠けていました。色々と鈍ってるのでリハビリがてら今回は実況者時空のお話です。

ゲーム繋がりで、つい最近とあるアケゲーに推しが追加されたんで五千円くらい突っ込んだんですけど、途中で冷静になって馬鹿な事したなぁってめっちゃ自己嫌悪しました。やっぱあのゲームは金を突っ込むんじゃなくてストーリーを楽しむゲームなんだって改めて認識しました。
五千円あったらエクバ2を沢山できたよ……やっと少佐に上がったんだからもっとやって階級ゲージ安定させときゃよかった……

お前も鳥ィ!!


 今日も今日とてゲームの実況中。どうも、実況女神ザババのピンク色の方です。って言っても、実況女神ザババなんて現状二名+アシスト一人+ゲスト二人で終わってるんだけど。

 今日は最近頑張ってるモンハンの実況中。この間わたし達が一番最初に実況したと言ってもいいドラゴナイトハンターの方をクリアしたから、そろそろ遅れに遅れているモンハンの方を一気に終わらせてしまおうと言う事で、響さん達に手伝ってもらって四人でストーリーを一気に終わらせる事にして、現在それを九割程消化し終えた。

 響さん達はわたし達よりも遥かに進んでいるらしくて、なんか武器と装備が似通ったものに変わってるし、クリス先輩がライトボウガン持っていたりしたけど、それも後でやってくれるとの事。

 で、今はというと。

 

『やっとラスボスデスなぁ。まさか悉くを滅ぼすネルギガンテから即ラスボス戦に飛ばされるとは思わなかったデスけど』

「一旦クエストリタイアして戻ってきたけど、相手の名前はまだ分からないんだね」

『エンディングで分かるからね。けど、あそこのコトネってあんなに弱かったっけ』

『アタシ達の装備見てみろ。そうしたら分かるだろ』

 

 今の二人は本気じゃない装備なんだけど、どうやら二人の本気装備は響さんが太刀で、クリス先輩の武器はライトボウガンになってるらしい。覚醒爆破太刀と覚醒水ライトって言うらしいんだけど……覚醒って何?

 よく分からないけど、今のわたしの武器は双剣がなんかアイスボーンで弱体化入って弱くなってるって聞いたし、スタミナ管理がやっぱり難しいのと、あと切ちゃんがよく落ちるから生存重視でランスに変えてみた。で、切ちゃんは相変わらず太刀のまま。切ちゃんは響さんに我儘言って天上天下天地無双刀を作ってて、わたしはちょっと頑張って死を纏うヴァルハザクのランスを持ってる。装備は適当。

 ストーリーの進行度的にはもう悉くを滅ぼすネルギガンテを倒してラスボスっぽい岩でできた蜘蛛みたいなのと対面して逃げ帰ってきたばかり。わたしと切ちゃんが回復薬とか無くなっちゃったから、急遽戻ってきた感じ。で、今はまたクエストを受けて出発準備中です。

 

『それじゃあ、ラスボス戦、行くデスよ!』

「うん。これでやっと次からエンドコンテンツだね」

『まぁ、これは雑魚同然だしすぐ終わるよ』

『弱点なんだっけか……氷と爆破か。んじゃアタシはそうだな……イビルライトで徹甲ライトしとくわ』

『わたしは笛でもいいんだけど、それで落ちたらカッコ悪いし、パンパンセミするね。武器は……ブラキスラアクでいいかな』

『えー? お前も火力出すの? じゃあアタシも火力出すかぁ。死ハザクガンスにするわ』

 

 なんか二人とも大量に武器を作っては装備も大量に作ってるせいか、時折使う武器をこうやって悩むんだよね。わたし達は選べるほど作れてないから食事したらアイテム整理しているか蒸気機関回している時間になる。

 結局、二人の武器はブラキディオスのスラッシュアックスと死を纏うヴァルハザクのガンランスを使うって事になったみたい。装備も、今のわたし達が作れるレベルの物で構成されているから、介護と呼べるような介護じゃなくて、ちゃんと装備のレベルはこっちに合わせてくれてる。

 装飾品もなるべくレア度が低い物を使ってくれてるみたいだし。

 で、響さん達の勧めで水辺での移動速度が上がるスキルを付けてから、いざラスボス戦。ムービーが入って、目の前にあの岩石の蜘蛛みたいなのが出てくる。蜘蛛と言っても翼だけなんだけどね。

 

『イシュワダさんなんて結構久しぶりだなぁ。上位防具で行ったら即死くらったっけ』

「イシュワダさん?」

『あっ、しまった……まぁ、アレだよ。悉くを滅ぼすネルギガンテをコトネちゃんって呼ぶみたいな、そんな感じ』

 

 あぁ、なるほど。つまり、このラスボスはイシュワダって略せるような名前なのかな? まぁ、今のうちにどれだけ考えても分からないんだけどね。

 響さんが最初に不動の装衣を着て頭に傷をつけてくれたから、みんなで頭に集って、とりあえず殴れるところを殴る。クリス先輩はまたクラッチしてスリンガーの弾を落としてからなんかガンランスをガチャガチャやってるけど……何してるんだろ? よく分からないや。

 と思ったら響さんがクリス先輩が落としたスリンガーの弾を拾ってイシュワダさんの頭にクラッチした。

 

『壁とキスしましょうね~』

『ナイスデス!』

 

 で、クラッチしてすぐに響さんがスリンガー全弾発射でイシュワダさんを吹っ飛ばした。最初は響さん達もあれをやってなかったのに、気が付いたらやるようになってたんだよね。なんかラスボスの前辺りからはちゃんとできるようにしておいたって言ってたし。

 そのままイシュワダさんは壁に当たってダウン……ってあれ? なんかカメラが変わった。

 

『うわっ、イシュワダさんが壁に当たったと思ったらついでに落石ですごいダメージが入ってるデス!?』

「しかも凄い落し物が……」

『正直イシュワダさんってこれやんないとダルイからね』

『しかも一気に部位破壊もできるから気持ちいい』

 

 あっ、ホントだ。なんか一気に部位破壊の報告が。

 しかもなんかイシュワダさんの体、えぐれてない? 部位破壊ってここまで抉れる物だっけ……?

 もしかしてイシュワダさんって岩でできた生命体とかじゃなくて何かが中に居るとか? そういうモンスターが過去に居るって聞いた気がするし。

 でも、今はみんなでボコボコタイム。頭を囲んでわたしはとりあえず突きまくって切ちゃんは兜割り。で、響さんはイシュワダさんにくっ付いてパンパン爆破してるし、クリス先輩はイシュワダさんの腕になんか刺して延々と砲撃をしてる。

 

「面白いように部位破壊できますね」

『まぁ、この状態はこうやって遊ぶ形態だから。イシュワダさん自身も全然強くないし、二人の防具ならそう簡単に落ちないと思うから適当に殴ってても……』

『んおおおおおお!!? 逝くッ! 逝くッ! イガリマことイガちゃん! 十六歳! 先輩達に雑魚って言われたモンスター相手に一乙決めるデスよぉ!! でも回避するから見ているデス!! ふっふっふっふっふ!! あっ』

 

 なんか急に切ちゃんがうるさくなったと思ったら安定の一落ちをかました。

 ……まぁ、うん。なんというか、いつもの光景だよね。

 

『ドフラミンゴ構文叫びながら死んでいった馬鹿にアタシは草を生やしていいんだろうか』

『いいんじゃない? あっ、よいこの皆はドフラミンゴ四十一歳で検索しちゃだめだよ』

 

 なんか先輩ズが暴走しているけど、とりあえずそれは無視して切ちゃんも戻ってきたところで四人でもう一度イシュワダさんをタコ殴りにする。

 っていうか、なんか殴ってると徐々に頭が凹んでいっているような……特に響さんの爆破でエグイダメージ入っているし、これその内顔面無くなるんじゃ……って、流石にそんな事無いよね。でもそうとは言い切れない位には徐々に頭が凹んでいっている……

 まぁいいや。とりあえず殴ろう殴ろう。ガ強付いてるから基本的にガードしつつチクチクしてれば死なないもんね。

 

「カウンタークラッチして、顔面殴って……よし、落石と壁ドン」

『おっ、ナイス。これはもうそろそろか?』

『そうだね。もう結構ダメージ入れたし来ると思うよ』

 

 え? 来る? それってどういうコト?

 まぁいいや。とりあえず殴って……あっ、起きちゃった。ならまた生存第一に……ってあれ? なんか表面が崩れて……

 

「うわっ、羽根の中身が!? 骨!? きもちわるっ!」

『肉体キャストオフとか聞いてないデスよぉ!?』

『あー、分かるわその気持ち。アタシもアレ見えた時は気持ち悪かった』

『色合いが完全に肉が削げ落ちた骨だからねえ』

 

 いや、その前にキモイ……ってあれ? なんか中から普通のモンスターが。

 うわっ、何この色!? 白か肌色がベースでそこに赤と紫が混ざったような……うっわ気持ちわるっ。モンハンのモンスターじゃなくて洋ゲーのグロ重視のモンスターみたい……

 でもこうやって出てきたって事はモンスターなんだろうし、とりあえず殴っておこう。うわー、キモイ……

 

『さて、イシュワダさん第二形態だけど、とりあえずイガちゃんは注意しておこうか』

『へ? 何でデスか?』

『そりゃお前。コイツの攻撃透明だし』

 

 へ?

 

『あっ、なんか翼の先端から透明なのがあばーっ!!?』

 

 イガちゃん吹っ飛ばされた―。

 

「ギリギリ盾間に合った……けど透明って言う割には結構見えますね」

『正直これは初見殺しってだけだよね。慣れれば結構避けれるし』

『時折理不尽な攻撃が来るけどな。こんなのとか』

 

 あっ、言いながらクリス先輩が地面が急に爆発すると同時に吹き飛んだ……かと思ったけど、普通にガードで防いでた。そう言えば今のクリス先輩、ガンランスで溜め砲撃連打してるんだっけ。

 

「あー、これちょっと急にやられると無理です……あと何気に地面がなんか沼みたいになってますね」

『だから水場での移動をどうにかするスキルを付けてこいって言ってたんデスね』

『最初の内はあると無いとじゃ凄い違うからね。わたしはセミしてるしスロットに余裕ないから付けてないけど』

『アタシも結局ガードできるからな。付けてない』

 

 でもわたしやイガちゃんなら必須レベルかな。特にランスは突撃とかカウンタークラッチしない限り速く動けないし。

 あっ、なんかイシュワダさんが構えて透明なのをチャージし始めた。

 当たったら乙りそうだし下がっておこうかな。

 

『見てるデスよ! このビームを見切りして不動で兜割り叩き込んでやるデス!』

『あっ……えっと、粉塵粉塵……』

『いや無理だな』

 

 え?

 あっ、切ちゃんが構えているイシュワダさんの前に行って思いっきり太刀振ってる。わたしはさっさと目の前から退避したけど、切ちゃんはそのまま斬り続けて結局不動の装衣を着たまま見切りして……

 

『あっ、ちょっ、不動のせいでダメージが!!』

『はいはいいつもの』

『イガちゃんは本当によく不動事故起こすよね。わたし達も歴戦だと偶にやるけど』

 

 結果、見切りの無敵判定が消えた後も不動のせいでダメージを何度も食らい続けてそのまま切ちゃんは二乙をかました。

 もー、こんなんだからコメント欄でへたくそとか地雷プレイヤーとか寄生型ふんたーとか呼ばれるんだよ、切ちゃんは。まぁ、わたしも乙らないだけで上手くはないから時折下手って言われるんだけどね。そこは自覚しているから特に言い返せないけど。

 

『っと、あいつが落ちた所でようやく目が開いたか』

『結局落石できなかったね。まぁ、できる方が珍しい感あるけど』

 

 え? 目が?

 うわっ、なんかホントに目が開いてる! 気持ち悪いっていうか怖いっていうか!

 こっち見ないでよ気色悪い!!

 

『ちなみに気づいたか?』

「え? 何がですか?」

『イシュワダさんの目、お前のキャラじゃなくてモニターの向こうのお前見てるの』

 

 へ?

 あっ、ホントだ。マジでこっち見て……

 怖っ!? イシュワダさん怖っ!!? なんでこっち見てるの!? さっき普通にこっち見てるの怖いって言ったけど、改めて言われると怖さ倍増なんだけど!?

 

「だ、大丈夫ですよね!? ゲーム越しに呪われるとか無いですよね!?」

『安心しろ。だったらアタシ達は既に何十回と呪われている』

『しかも何体も殺してるからね。あっ、頭破壊』

『ナイスぅ』

 

 そ、そうだよね。普通に発売しているソフトがこっち呪って来たとか、それ返品を通り越して何かこう、別の事件に発展するよね。じゃあ大丈夫かな。イシュワダさんをとっとと倒してしまおう。

 

『よし、あたし復活デス!』

『やっと戻ってきたか……あっ、やべっ』

 

 イガちゃんが戻ってきたんだけど、なんかそれと同時にイシュワダさんが地中に潜ってステージの端っこに。で、なんか透明な球を頭上に作ってる。

 あれは見てすぐにわかるよ。大技だね。逃げてついでに盾構えておこう。

 じゃないとワンパンされそう。防具がちょっと弱いからね。

 

『およ? なんかチャージしてるデス?』

 

 あっ、ブッパしてきた。

 

『へ? あばーーーーーーーーーーーーー!!?』

 

 そして切ちゃんが落ちた!

 

「イガちゃんが三乙かました!」

『この人でなし!!』

『戦犯ブチかましてしまったデス……』

 

 この後もう一度狩りに行って無事にイシュワダさんは討伐しました。

 ちなみに切ちゃんはもう一回二乙したよ。

 

 

****

 

 

 モンハン実況は一旦完結という事にして、これからは視聴者参加型の企画とかもやりたいなーとか思いながらも、とりあえずモンハン実況が一区切りしたと言う事で後日お疲れ様会という名の食事に来ました。参加メンバーは実際にモンハンを一緒にやったわたし含めたあの四人です。

 

「という事でモンハンお疲れ様デス。付き合ってもらって本当にありがたいデス」

「わたしと切ちゃんだったら何十時間かかった事か……」

「あ、あはは……冗談だと思いたいけど、切歌ちゃんのアレを見ると冗談には聞こえないのが……」

「まぁ、アタシ達もそこそこ楽しかったし別に気にすんな。飯も一回奢ってもらったからな」

 

 いや、ホントありがたいです。

 おかげでキャリーされているとか寄生型プレイヤーとか色々と言われたけど、それでもクリアできたことが嬉しんです。わたし達だけだったら本当に後何本動画を投稿する事になっていたか……

 モンハンだけじゃなくて他のゲームも色々とやってるから、モンハンも早いうちに終わらせて次のゲームをしつつ、モンハンはエンジョイ勢として遊びたかったんだよね。モンハン、普通に面白いし。だから二人が参加してくれて本当に助かった。

 

「でも、その後適当に行った歴戦古龍の調査クエでサラッと攻撃珠Ⅱを二個も出したのだけは許さんからな」

「アレってそんなにレアなんですか? 普通の攻撃珠とかもそうですけど、結構ポンポン出る物なんじゃ?」

「全ハンターが欲しがる程の激レアだボケ」

 

 あっ、そうだったんだ。ならラッキー。

 五回くらいしか調査クエストしか行ってないのに二個も出たからあんまりレアじゃないと思ってたんだけど、どうやらそうじゃないみたい。切ちゃんがなんか特に使う予定の無い装飾品ばかり出ていたのはいつもの事だし、切ちゃんも最早攻撃珠をウィッチャーとのコラボクエストを頑張り続けて十五回に一回くらいは攻撃珠を確定で落とせるようになってやっと攻撃特化の装備作れてたけど。

 わたし? わたしならほら、今は導きの地をちょくちょく進めて切ちゃんと分担してるから結構いい感じの装備作れてるよ? 有り合わせの装飾品でも攻撃と見切り、それから超会心と弱点特攻付いた装備作れたし。

 

「で、響さん達はこれからも時折モンハン実況には顔を出してくれるって事デスけど」

「うん。四人プレイ結構楽しいからね」

「それにこっからは覚醒武器使えるからな。ようやっと普通にやれる」

「本当にありがたいデス。でも、最近コメント欄で二人はモンハン以外の実況には参加しないのかって声が時々あるんデスよ」

 

 あっ、そう言えばそんなコメントもあったね。

 二人ともなんやかんやでゲーム上手いから、わたし達の下手なプレイを編集したやつ以外にも、上手い視点を編集して面白くして感じで見たいってコメントも時折あったし。

 FPSとかならエルフナインがそこそこ上手いからエルフナインの視点を出す事もあるけど、そういうゲーム以外にも何か参加してほしいって。

 

「うーん……わたしは遠慮しよっかな。元々そういう実況とかはあんまり得意じゃないし」

「アタシも同感だな。時折ゲストで出る程度ならまだしも、シリーズを持つってのはなんつーか……キャラに合わないって感じか?」

「正直モンハンの実況で満足しちゃったから。わたしも時折ゲストで出るだけならいいかな」

「了解デス。あっ、それとカラオケ配信とかは……」

「それには参加しよっかな。普通にカラオケ行きたいし」

「……まぁ、アタシも行ってやってもいいかな」

 

 という事で、二人はエルフナインみたいに四人くらいでやるゲームにゲストとして混ざる感じで、カラオケ配信があったら基本的には遊びに来る感じの人って立ち位置になった。

 よし、二人の今後の立ち位置も決まったところで、お昼ご飯注文しないと。

 

「……あっ、エルフナインが急にイガちゃん戦犯&悲鳴集とかいう動画アップしてるデス……しかも何気に伸びてるデス……」

「アイツもなんやかんやで編集生活エンジョイしてんのな……」

 

 ただ、最近エルフナインが編集って言う趣味を見つけて活き活きしているというか、前よりもかなりのハイペースで動画を渡してるのに全部しっかりと編集しきってしまう辺り、そろそろこっちからの動画の供給をローペースにしてエルフナインを部屋から引っ張りださないといけないかな……

 じゃないと趣味=仕事なワーカーホリックエルフナインの二の舞になってしまいそう。




という事で今回はモンハンを実況した調ちゃん達の話でした。
イシュワダさん表記はネタバレ防止。とは言っても多分意味無いんでしょうけど。最初、イシュワダさんの第二形態が見えた時はマジでキモかった。骨が出てきたのかと。

話は変わりますが、最近マスクやら何やらが品切れ続きで結構酷いですよね。かく言う自分はティッシュとトイレットペーパーはちょっとだけまだ余裕があるのですが、マスクがそろそろ無くなりそうです。
そうです、花粉症である自分の生命線とも言えるマスクが無くなりそうです。電車の中とか派手にくしゃみしなければマスクしてればあまり見られませんけど、今時電車の中で特異なアクションしようものなら絶対にヤバい奴認定されますからね。一度くしゃみする時に思いっきり舌噛んで変なくしゃみして視線が一気にこっち向きました。死にたい。

マスク転売してる奴全員花粉で苦しんで顔中から液体垂れ流し状態になって死なないかな。また花粉症時空というか、花粉症調ちゃんの話でも書こうかなとか思ったり。主にマスク転売による被害にあった調ちゃんの。
まぁ、冗談ですけど。多分次回はアイドルか声優時空、もしくは心霊時空いきます。

それではまた次回、お会いしましょう。


P.S GA文庫大賞第十二回後期でまさかの二次選考通過。これマジ? 


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月読調の華麗なる平行世界の先輩

いやー、長い事お待たせしました。今年度初投稿です。

今年度から自分も学生という身分から無理矢理蹴り飛ばされて社会人一年生となったわけですが、この生活に慣れるの中々大変で……どれだけ学生の遊びに使える時間が多かった事か。

入った会社は中々いい所で、この調子なら繁忙期以外は普通に定時帰りできそうな雰囲気ですし、頑張れそうではあります。更新頻度もできる限り上げていきたいなーとは思えますし。

というか、寧ろ学生時代のようなクソみたいなやべー生活習慣が改善されて健康面でかなりいい方向に進んでいると言うか……w

あっ、大賞は三次選考落ちしました。畜生。


 今日のクリス先輩は、なんだか変だ。

 何が変って……もう色々と変だ。一から十まで変だ。

 

「どうしたの、月読さん」

 

 まず言葉遣い。クリス先輩は敬語なんて使おうと思って簡単に使える人じゃないし、それ以前にわたしの事を月読さん、なんて呼ばない。オイ、とかお前、とか、アレの片割れとか、頑なに苗字だろうと名前を呼ぼうとはしない。だから、この時点で怪しい。

 姿こそクリス先輩そのままだけど、目付きなんかもあの人は基本的に吊り上がっているというか、ちょっと性格がやんちゃに見える感じの目付きというか、そんな感じだけど今のクリス先輩は垂れ下がっている。まるで可愛さ全振りのお嬢様にしか見えない。

 

「……本当にわたしの知ってるクリス先輩ですか?」

「えっ!? ほ、本物だよ!? 本当に雪音クリスだよ?」

「いや、わたしの知ってるクリス先輩はそんな喋り方しません。もっとガサツで乱暴です」

「が、ガサツで乱暴…………やっぱりこっちのわたしってそんな感じなんだ……」

 

 しかもなんだかしおらしくって若干おどおどしているけど、実はそんな感じじゃなくて。

 ……うん。間違いない。一見すれば調子が悪いクリス先輩に見えない事もないし、今着ている制服も同じだけど、確実にこのクリス先輩はアレだ。

 響さんから軽くだけど話を聞いた、あのクリス先輩。

 

「とりあえず、わたしや他の装者には正体をバラしたらどうですか、平行世界の影護所属のクリス先輩?」

「やっぱりバレた……そりゃそうだよ……」

 

 正体を言い当ててみたら、白状した。

 やっぱりこのクリス先輩はわたし達の世界のSONG所属のクリス先輩じゃなくて、シャロンが居る世界で影護って機関に所属している平行世界のクリス先輩だ。

 響さんからそこのクリス先輩はわたし達の知るクリス先輩と性格が百八十度違うって聞いてたけど、こうやって見ると確かにわたし達の知っているクリス先輩とは性格が百八十度近く違う。いつものクリス先輩はもっとガサツで乱暴だしね。優しい所は勿論あるし、可愛い所も勿論あるよ? でもそこには少なくともギャップがある訳で……

 

「で、どうして平行世界のクリス先輩がここに居るんですか?」

「そこら辺はこう、深い事情が……ある訳じゃないけど、けどあんまり軽く説明できない理由があって……とりあえずほわんほわん雪音~って感じで回想に行くね?」

 

 ほわんほわん……? どういうことですかソレ。

 

「ノリ、かな? ちゃんと説明するから」

 

 はぁ……そうですか……?

 

 

****

 

 

 わたしこと雪音クリスと影護所属でわたしの仲間の翼は、とある日に影護の任務とはまた別に、プライベートな時間を使って変装をして街中に繰り出していた。

 本当にプライベートでお出かけしただけだから、影護であることを意識したりはしていないんだけど、それでも職業柄どうしても人込みの中に繰り出すのは結構勇気がいるんだけど、何かあった時のために影護の人が近くに居るし、わたし達のバイタルとかに何か問題があれば即座に回収される手筈になってるから問題ない。

 もっとも、そうなる前にシンフォギアを纏うけどね。

 

「いやー、やっぱこうやって外に堂々と出るのは気持ちがいいよな、クリス!」

「うん、翼。にしても、本当にいいのかな……あっちの世界のわたし達の格好で外を出歩くなんて……」

「あっちの世界のオレ達がこの格好でブラついても特に問題なかったから大丈夫だろ! 精々オレ達のそっくりさん程度に終わるって」

「そうかなぁ……」

 

 でも、わたし達ってどうやってもギアを纏うと顔を出しちゃうから、わたし達の顔を知っている人ってそこそこ居るんだよね。だから、プライベートの時も細心の注意を……って感じなんだけど、平行世界のわたし達は変装なんてせずとも外に出て普通に過ごしていたらしいって話を聞いて、なら平行世界のわたし達の格好をして外に出たら安心なんじゃないかって。

 そう言う事で、わたしはあっちの世界のわたしが着ていた服と似たものを何とか購入して、翼もあっちの翼が着ていた服を購入して、髪型もあっちのわたし達に似せてから外をぶらついている。

 翼は髪を短くしているから、あっちの翼の真似を完全にできているわけじゃないけど、わたしの方は二つ結びにするだけだったから結構簡単にできた。できたけど、あっちのわたしとはちょっと服のセンスが違うせいで若干落ち着かない……

 もうちょっと大人しい感じというか、ゆるーい感じの服が好きなんだけどなぁ……

 

「おっ、あっちで新作のヘッドフォンが! 行くぞクリス!」

「ちょっと、翼!?」

 

 って感じに思いながら翼とデート中なんだけど、翼が新しいヘッドフォンが売ってるのを見て駆けだしちゃった。

 それを放っておくわけにもいかないし、わたしも翼について行った……訳なんだけど。

 

「クリスちゃん! あっちに美味しそうなお店が!」

「おい引っ張んじゃねぇ! 危ないだろうが!!」

 

 丁度思いっきり駆けだしたわたしの前に、なんかどこかで見たことがある顔が出てきて。

 

『あっ』

 

 どうも、なんて言おうと思った時にはすでに遅し。わたしとどこかで見たことある顔こと、どうして何もないのにこの世界に居るのか分からない平行世界のわたしとエンゲージと同時にごっつんこ。そのままわたしは頭が痛むのを感じながら倒れたんだけど……

 目が覚めると、わたしは。

 

「あっ、目が覚めた! 大丈夫、クリスちゃん。思いっきり誰かと頭を打ち合わせてたけど……」

 

 なんかガングニールの人に介抱されていた。

 

「えっ…………あの、大丈夫、だけど……」

「ほんと!? よかったぁ、クリスちゃんに何かあったらって思うと気が気じゃなくって……」

 

 心配してくれるのはありがたかったけど、その前に周囲を見渡すと、平行世界のわたしらしき人物と翼はどこにも居ない。この人は誰かと好きに敵対する人じゃないから一応信用はできるけど、でも翼が居ないのは不安。

 という事で、早々に自分の事を明かした。

 わたしは影護のわたしで、そっちの雪音クリスじゃないって。そう言うと、ガングニールの人はなんか急に顔を青くした。

 

「……そ、そー言えば、なんかどこかで見たことある人が誰かを背負ってどこかに走っていったような……」

 

 それ間違いなく翼と平行世界のわたしだね。

 なんか取り返しのつかない事になってるー、なんて思いながらガングニールの人を、わたしも丁度そっちのわたしの変装をしていたから仕方ないよ、なんて言って慰めていると、懐の通信機が震えた。名前を口にしながら出てみれば、どうやら通信をかけてきたのは翼みたいだった。

 

『クリスか! お前今どこだ!?』

「さっき翼がわたしを置いてヘッドフォン売り場に走っていった場所のすぐそばだけど」

『やっぱりか! 実はなんだけどな……』

『おいここどこだよ!? なんでアタシ気が付いたら他所様の潜水艦にお邪魔してるんだ!? アタシここから外に出れるんだよな!?』

『それに関しては暫く浮上する予定はないから何とも……』

『はぁぁ!!? ざっけんじゃねぇぞ!!』

 

 あっ、ふーん。

 

「……翼、十年近い付き合いのわたしと平行世界のわたしを間違えて連れて帰っちゃったんだ」

『うっ……だ、だって服装も髪型も同じだったし、オレもクリスが怪我したって思ったら焦って……ごめん』

 

 やだ、しおらしい翼可愛い。きゅんって来たから許しちゃう。

 でも、わたしが許したところで事態は好転しない。現に平行世界のわたしは現在進行形で影護の本部である潜水艦にお邪魔しちゃってるみたいだし、わたしもガングニールの人があわあわしているのをチョークスリーパーで何とか落ち着かせている状態だし。なんか思いっきり腕叩かれてるけど、なんでだろ。

 

『クリスさん、聞こえますか? 九皐です』

「九皐さん。この状況、どうしましょう?」

『既に本部は太平洋沖へ向けて出港していまして、少なくとも陸に戻れるのは一週間以上は先の見通しなんです』

「あらま」

『あらまってお前軽いな!? こちとら一週間以上潜水艦生活スタートさせられかけてんだぞ!?』

「そう言われても、どうしようもないし……」

『うっ……そりゃそうだが……』

『という事で、クリスさん。あなたは一度二課の方へと向かってください。こちらから話は既に通しておきましたから、暫くは影護ではなくSONGの雪音クリスとして身分を偽ってください』

「それはいいですけど……」

『それと、こちらとしてもSONGとはあまり深く接触していませんでしたからね。いつか接触しなければとは思っていたので、そのまま許されるのなら平行世界へと向かって菓子折りの一つと挨拶の一つをお願いします』

「分かりました」

『いいのかよ!? そんな軽くていいのかよ!? いや、こっちは多分来る物拒まずだろうけどさ!』

『その前にクリス! オレを置いて平行世界なんて遠い場所に行く気かよ!!?』

「わたしを間違って置いて行った翼の事なんて、もう知らないっ」

『がっ!!? あ、ぁ、ぁぁぁ…………』

『おいどうした平行世界のセンパイ!? 真っ白になってんぞ!? なんか体崩れかけてるけど大丈夫か!!?』

 

 許したとは言ったけど、気にしていないとは言っていないからね?

 という事で、わたしはチョークで締め落としちゃったガングニールの人を叩き起こしてから事情を話して二課に一度顔を見せてからそう言う事があったからちょっと独自で動きますね、とだけ言っておいて、適当な菓子折りを買ってガングニールの人と一緒に平行世界に向かったのでした。

 で、平行世界についたわたしは早速SONGの司令……つまりは師匠と出会って。

 

「お、おい、なんか初対面で泣き付かれたんだが……俺はここからどうしたらいいんだ……?」

「ここは大人しくされるがまま、というのが一番でしょう。そちらの雪音の事は、私も知らぬ存ぜぬで一杯、というわけではありませんので」

 

 平行世界の同一人物だけど、まさか師匠と会えるなんて思っても居なかったから、ついつい泣いちゃって、そのまま抱き着いてしまった。あっちからしたら初対面の女の子が急に泣いて抱き着いてくる、なんて意味わからない状況だったんだろうけど、それでもちょっとうろたえただけで受け入れてくれた平行世界の師匠には感謝しかない。

 で、結構長い事泣いていたわたしがようやく落ち着いて、師匠に事のあらましを伝えて入れ替わっちゃったことを納得してもらってから、ついでに菓子折りを渡して簡単な挨拶を終えたんだけど。

 

「で、だ。これから君はどうする気だ?」

「どうするも何も……戻って野宿か二課の中で適当な部屋で寝泊まりするとしか……」

「それはいかんな、雪音。そうだ、この際だからこういう時でなければやれない事をやる、というのはどうだ?」

「こういう時じゃないとできない事?」

「例えば、そうだな……こっちの雪音と入れ替わって生活してみる、なんてどうだろうか?」

 

 その時はそんなご冗談を、と笑ったんだけど、なんか気が付いたらその方向で話が固まっていて、気が付いたら何故かSONG本部の中に置いてあった学校の制服を貸し出されて、なんか気が付いたらSONGの中で一週間ほど寝泊まりする事が決まって、なんか気が付いたらあまりわたしの素性がばれないように気を付けてって言われて、気が付いたら本部から送り出されてこうやって学校に……

 と、言うのが、今日こうやって月読さんと出会うまでの回想。

 納得できた?

 

「とりあえず、こちらのお馬鹿さんとそちらのお馬鹿さんによる奇跡的なニアミスによって起こったよく分からない奇跡という事だけは納得できました」

 

 つまりはそう言う事。

 

 

****

 

 

 どうしてクリス先輩が平行世界のクリス先輩と入れ替わっているのかは納得できた。というか、そう言われるとあぁそうですか、としか言えないし、話を聞いた後に翼さんに連絡を取ってみたら笑いながらビックリしただろう? なんて言われたからせめて装者には教えておいてよ……と溜め息を吐いた。

 で、横にはお昼休みの今、のほほんとお昼ご飯を食べている平行世界のクリス先輩……えっと、これだと長いし呼びにくいし、どうしよう……まぁ、ヘイクリ先輩でいいかな。もしくはアナクリ先輩。で、そんな風にのほほんとしているアナクリ先輩の後ろから、クリス先輩の同級生らしい人達が影に隠れてコソコソと見ている。どうやら、朝一番から雰囲気が違うクリス先輩を不審に思っているらしい。

 

「こっちのわたしって、こんな風に誰かから見られながら毎日過ごしてるの?」

「いや、土日挟んだら人格変わってたら誰だって不審に思いますって」

「確かに言われてみると……でもわたし、そんなに演技できないし……」

「キレると怖いって聞きましたけど」

「そ、そんな、わたし、あんまり怒った事ないから」

「響さんを素手で締め落としたって聞きましたけど」

「人一人締め落とすなんて簡単でしょ? こう、キュって」

 

 そのキュッ、で響さんみたいな人を締め落とせる人なんてこの世界ではごく少数だと思うんですけど……

 そう言えばこのクリス先輩は平行世界の弦十郎さんに長年師事してもらったから体術も相当できるんだっけ。そう思えば響さんをキュッって落とすのも可能……なのかもしれない。わたしはこのクリス先輩と手合わせなんてしたことないから、アナクリ先輩がどれだけ強いのかは分からないしね。

 でも平行世界の装者ってもれなく全員なんかわたし達数人分位は戦える気がするし、わたしよりも遥かに強いかもね。

 

「やっぱり無理があったと思う。こうやって平行世界のわたしに変装して学生生活なんて……」

「まぁ、確かにそうかもしれませんけど……楽しくなかったり苦痛だったら、早退しても大丈夫なんですよ? そこら辺はSONGが帳尻合わせるでしょうし」

 

 リディアンは未だに元二課であるSONGの息がちょっとかかってるからね。アナクリ先輩が早退した程度なら簡単に帳尻合わせて二人に迷惑が掛からないようにする事は容易いとは思うけど。

 でも、アナクリ先輩はその言葉を聞いても頷かない。

 理由は分かるけどね?

 

「……普通の生活、楽しいですか?」

「……うん。影護の生活も楽しいけど、やっぱり普通の女の子の生活もいいなって」

 

 わたしもアナクリ先輩側だったから、その気持ちはよく分かる。というか、装者の内半分は今のアナクリ先輩の気持ちはわかると思う。

 ダルイ、メンドクサイなんて言いながらもやっぱりこういう戦いが無い普通の日常って言うのはとても貴重で、とても暖かくて、とても楽しいのはわたし達みたいな裏で生きてきた人間が一番知っている。だから、一時的とは言え手にする事ができた普通を自ら手放すのは、したくないんだと思う。

 

「まぁ、後の事はこっちのクリス先輩に任せて楽しんだらどうですか? あの人、なんやかんやで面倒見いいですし、察して口裏合わせるくらいの事はしてくれますよ」

「こっちから問題を起こしておいて後始末まで任せるのは申し訳ない気が……」

「自分に気を使ってもいい事なんて起きませんよ?」

「自分という名の限りなく他人に近い存在だと思うんだけど」

 

 それは否定しません。

 

「じゃあ、そろそろ時間なのでわたしは戻りますね。また後で合流しますか?」

「そっちが大丈夫なら、それで。一人だとちょっと不安だから」

「分かりました。全く、弦十郎さんも翼さんも、せめて一言位話してくれてれば……」

 

 あの叔父と姪コンビの悪戯大成功、と言わんばかりの笑顔を思い浮かべて若干イラッとしたけど、したところで仕方がないので普通にわたしはアナクリ先輩と別れて教室に戻りました。

 えっ? 切ちゃんはどうしたのかって? 今日は切ちゃん、翼さんと一緒に定期検診中だからお休みだよ。なんか今日ある小テストを回避できて喜んでたけど……次の授業で一人だけやらされるの分かってそう言ってたのかな。ちなみにわたしは半分も解けませんでした。ヤマが外れたのが悪い。

 

 

****

 

 

 帰りにアナクリ先輩を拾ったわたしは響さん、未来さんも誘ってどこかに行こうと思ったけど、二人とも弓美さん達とどこかへ行っちゃったから、仕方なく二人で街中をぶらぶら。

 

「アナクリ先輩、どこか行きたい場所ありますか?」

「あ、アナクリってわたし……?」

「アナザークリス先輩という事で。で、どうですか?」

「行きたい場所、かぁ……特にないかな。わたし、いつも翼に引っ張られてたし、翼と一緒ならどこでも満足だったから」

 

 ……なんだろう、このアナクリ先輩から微妙に感じる響さんと未来さんみたいな雰囲気。

 いや、アナクリ先輩は平行世界の翼さん……もうアナつばさんでいいや。アナつばさんとずっと一緒でわたし達ザババコンビみたいな感じだからと思えば納得はいくけど。

 わたしと切ちゃんはあの二人みたいにガチじゃないけどね? 普通の親友だけどね?

 

「うーん……それなら、あそこ行きますか? 装者ならほぼ例外なく大好きな場所」

「そんな場所あるの?」

「はい。多分、アナクリ先輩も気に入りますよ」

 

 という事で、ちょっと歩いて到着したのは学生の暇潰しに味方にしてわたし達装者が十割近く好きであろう施設。

 

「装者が例外なく好きな場所って、カラオケだったんだ……」

 

 そう、カラオケ。

 装者は全員大なり小なり歌が好きっていうのが共通しているから、カラオケに来たら基本的にテンション上がるし楽しめるんだよね。わたしも切ちゃんも例外じゃないし、他の装者も、果てにはプロをやってるマリアや翼さんもカラオケは大好きだからね。

 という事で。

 

「さ、どうぞ。何か歌っちゃってください」

「何かって……わたし、こっちの世界の歌、あんまり知らないんだけど……」

「基本的には大体同じだと思いますよ? 装者が歌手をやってたりするとその曲があったりなかったりって程度で」

「あっ、ホントだ。知ってる曲名もちらほらある」

 

 これは結構平行世界に遊びに行く響さんが実証済みだし、わたしもセレナと一緒にカラオケに来たときにセレナが普通に曲を入れて歌ってたから知っている。基本的に平行世界って装者が居るか居ないかとかの違いしかないから、こういう裏が関わらない部分っていうのはあんまり変わらない事が多いんだよね。

 で、アナクリ先輩が入れたのは……?

 

「君の肩に悲しみぃがぁ……雪のように積もる夜にはぁ。心の底から誰かをぉ。愛する事ができぃるはずぅ。孤独で、君の空っぽの、そのグラスを満たさないでぇ。誰もがぁぁぁ、泣いてるぅ」

 

 えっ、渋っ!!?

 

「構成員の人が歌ってるのを聞いて気になっちゃって、ついついそのまま」

 

 な、なるほど。しっかし、渋い所行ってるなぁ……

 

「誰もがあぁぁぁぁ、うぉぉおおぉぉおぅ、愛するぅ。人の前を、気づかずにぃ、通り過ぎてゆくぅ」

 

 まさかの選曲に驚いたけどわたしも時々そうやって凄い昔の曲を知るとき、普通にあるから何とも言えないや。弦十郎さんとか藤尭さんが歌ってるのを聞いてついつい、とかあるし。

 じゃあわたしは何となくビビッと来たこの曲で。

 

「放て! 心に刻んだ夢を、未来さえ置き去りにして! 限界など知らない、意味ない、この力が! 光り散らすその先に遥かな想いを!」

「うわっ、すごい。なんか……なんて言うんだろう。違和感がないと言うか」

 

 それは多分これを歌ってる人の声色にわたしが似せているからか、アナクリ先輩が原曲を知らないからのどっちかだと思う。多分後者? これ弓美さんが口ずさんでいたアニソンを調べて聞いてみたらちょっとハマったやつだし。

 ちょっと振り付けしつつビシッと歌いきりました。

 で、次はクリス先輩の版。えっと、入ってる曲は……うわっ、これも懐かしい。

 

「大都会にぃ、僕はもう一人で。投げ捨てられた、空き缶のようだぁ。互いの全てを、知り尽くすまでがぁ。愛ならばいっそ永久に眠ろうか……! 世界が終わるまでは!! 離れる事もない!!」

「なんでアナクリ先輩はそんなに懐メロばっかり……」

「実はあの潜水艦の中って案外最近のトレンド曲とか聞く機会がなくって……自然と持ち歌が昔の曲に」

 

 あー、そういう裏事情が。でも、それ、よく分かります。

 わたしもF.I.S時代は、研究所に居る時は研究員の人が教えてくれた歌くらいしか知らなかったし、そこから飛び出したフィーネ時代も知っている曲と言えばマリアの曲か、不服だけどウェル博士が上機嫌になると口ずさんでた曲くらいで。

 本格的に歌を聞きだしたのって、リディアンに入学してからだからね。

 だからアナクリ先輩がこんな風に昔の歌しか歌えない理由も、よく分かる。だとすると……

 

「あとはあっちの翼さんの曲を歌える程度ですか?」

「え? 翼の歌……? 翼、特に曲を作ったりとかはしてないけど……」

 

 あれ? そうすると後は身内の歌くらいしか聞かないんじゃって思ってたけど……あっ、もしかして。

 

「そっちの翼さんは歌手としてデビューしてないんですか?」

「してないよ。わたし達は裏の人間なんだから、そんな風に表に出るなんてできっこないよ」

「なるほど……」

 

 言われてみると納得した。

 マリアの場合は、国土割譲の要求だとか、フィーネの事を知らせるだとか、色んな要因が重なって歌手デビューに至ったけど、それが必要なかったらわたし達みたいに裏でコソコソが基本だっただろうからね。こっちの翼さんみたいに、歌手デビューしないといけない理由が無いんならしないよね。

 

「その口ぶりだと、もしかしてこっちの翼は歌手デビューを?」

「してますよ。しかも、国民的です」

「す、凄い……やっぱり平行世界でも翼は凄いや」

 

 その証拠にとちょっと歌うのを止めて自動的に流れてくる映像だとかを見てみれば、そこには新曲の公開&配信の挨拶をする翼さんが。それを見てアナクリ先輩は思わずといった感じで声を出している。

 それなら、この後は翼さんのCDが売ってるところに連れて行くのもいいかもしれない。平行世界に来るなんて経験、滅多にできないからね。

 じゃあ、その前にここはわたしが翼さんの曲を……

 

「あれ? 月読さん、携帯鳴ってるよ?」

 

 と思って端末を操作していたら、わたしの携帯が震えてた。

 誰からだろう? えっと…………本部から?

 本部からこうやって急に連絡が来るって事は、明らかに緊急事態!

 

「はい、もしもし」

『調くんか。すまないが、そこから少し離れた場所でアルカノイズが出現した。原因の錬金術師は現在は本部内に居た切歌くんと翼が追跡中だが、アルカノイズの方にまで手が回りそうにない。大至急、排除を頼めないか?』

「大丈夫です、すぐに向かいます。響さんや未来さんは?」

『二人にも既に連絡済みだ。現地で合流する事になるだろう』

「分かりました。じゃあ、すぐに向かいます」

 

 やっぱりここ最近、こういう突発的な錬金術師による襲撃がちょっと問題。

 相手側はソロだから止めることができないのが本当になぁ……でも、やられたからには対処しなきゃいけないのがわたし達装者の使命。すぐに外に出るために携帯を仕舞ってアナクリ先輩の方を見ると、アナクリ先輩はいつの間にか自分の荷物をちゃっかりと纏めて外に出ようとしていた。

 

「ど、どうしたんですか?」

「ノイズが出たって、ちょっと聞こえたから。ノイズが出たんなら、わたし達の出番でしょ?」

 

 どうやら、通話がちょっと聞こえてたみたい。

 もしかしたらノイズって単語にのみ敏感なのかもしれないけど。でも、間違ってはいないからそれに頷いて、わたしもとっとと荷物を纏めて立つ。多分、こういう時は待っててというよりも一緒に行った方がいざこざも少なくなるし、本人も満足するからね。

 もう一度軽く通話してアナクリ先輩も一緒に行く事を伝えると、本部からは本人がそれでいいんなら頼みたいと了承を貰った。ここら辺柔軟なのが本当にSONGの良い所だよね。

 という事でお金を払って外に出て、アルカノイズが出た方向へと走ればそこには逃げ惑う人とアルカノイズが。

 

「行きますよ、アナクリ先輩」

「うん。わたしは後ろから援護するから」

「じゃあわたしが前で相手の気を引きます」

 

 アナクリ先輩と軽い作戦会議を数秒で終わらせてから、ギアを手に握る。

 

「various shul shagana tron」

「killter ichaival tron」

 

 ギアがカッと光って纏わりついてパンパンパンと弾けて変身完了。

 よし、行こう!

 

「綺羅綺羅の刃で、半分コの廃棄物(ガーベッジ)! 予習したの、殺戮方法ッ!」

 

 とうっ、と飛び出してヨーヨーを投げ飛ばし、百輪廻をばら撒いてから着地してアルカノイズの中心でなるべく近づけないように回転しつつヨーヨーをぶん回しながら戦っていると、後ろからはガトリングじゃなくてビームによる狙撃弾の援護がやってくる。

 なるほど、これがクリス先輩とアナクリ先輩の基本的な立ち回りの違い。クリス先輩は狙い撃つんじゃなくてばら撒いて牽制するのが基本的な立ち回りだけど、アナクリ先輩はばら撒くんじゃなくて一撃必中で相手を倒すのが基本的な立ち回り。多分、前衛を完全に信じ切る事でできる立ち回り。

 だったら、その期待に沿う動きをしないと!

 

「開放!!」

「全開!!」

『イっちゃえ! ハートの全部でぇぇぇぇぇぇ!!』

 

 とか思ってたらなんか目の前のノイズが八割程消し飛びました。

 あーこれはいつもの夫婦のお二方ですね。火力とさっきの声で分かります。

 

「調ちゃん、お待たせ!」

「加勢するよ!」

 

 現在進行形で歌っているので頷いて、わたしはヨーヨーを両手にちょっと下がりながら攻撃後の後隙か何かを見つけたのか分からないけど迫ってきていたアルカノイズを撃退する。

 

「Let's sing……重なる、歌が。どんな高い壁も、伐り刻んで未来を創る」

 

 こういう時、会話に混ざれないのってちょっと寂しいよね。

 

「あの……なんか、他の方でも戦いが起こってるみたいだけど、そっちは?」

「あっちはあっちでマリアさんが行ってるみたいだし、三人もいれば大丈夫って言ってたから、こっちの被害をこれ以上広げないようにしてくれって!」

「なるほど……信頼、してるんだね」

「そりゃあ勿論! あっ、クリスちゃんの事も勿論信頼してるからね! じゃあ、四人でやろうか!」

 

 という事で、アルカノイズに四人も装者が戦闘を挑めばどうなるかなんて、言う必要もないと思う。

 十分ちょっと全滅しなかっただけ、褒めてあげるべきじゃないかな。褒めた所で喜ぶような存在じゃないけどね、アルカノイズなんて。わたしも歌を歌い終わっちゃって普通に戦ってたし。

 で、アルカノイズの駆除を終わらせたわたし達は武器を収めて本部からの指示を待つ。あっちが戦闘終了ならそのまま解散なんだけど、そうじゃなかったら援護に行かなきゃだめだしね。

 

「さて、次のお仕事は……」

「否……されども嘆きすら、断罪の力に変え!」

 

 と思ってヘッドセットからの師事を聞こうとした途端、遠くの方から歌が聞こえてきた。

 この歌は……翼さんだ。っていう事は。

 

『四人とも、どうやら三人がちょこまかと逃げ回る錬金術師相手に苦戦しているようだ。近くまで戦闘がもつれこんでいるため、至急援護に向かって確保を急いでほしい』

「了解です、師匠! じゃあ、みんなで行こっか!」

「死惨血河の幾許を、築き敗れれば! 命の火を外道から、護る事があああああああ!!」

「……ねぇ、こっちの翼ってあんな物騒な歌を毎回歌ってるの……?」

「え? まぁ、アレが普通じゃないですか? わたし達の歌が物騒なのって今さらというか、響さん以外は基本物騒か電波ですし」

「えぇ……」

「剣よ、道を斬り拓け!! 剣よおおおおおおおおおおおおお!!」

 

 うわぁ、青い炎が空まで……今日の翼さん、気合入ってるなぁ。

 

 

****

 

 

 どうやらあの日の翼さんは今までずっと欲しかった激レアで高価な売り切れている状態が通常のバイクパーツを奇襲によって壊されたらしくて、相当キレてたらしい。民間人に被害は出なかったし、強いて言うなら錬金術師を捕らえた後、思いっきりお尻に向かって剣を突き刺してマスターソード引き抜きごっこをしようとしていたのをマリアが羽交い絞めして止めたくらいで。

 で、その後は特に何事も無く、強いて言うならアナクリ先輩がみんなと一言二言挨拶して、暫くは厄介になります程度のコトを言った位かな? その日はすぐに別れたし、その後は響さんとかマリアとか翼さんとかと一緒に出掛けたらしいけど、詳しい事はよく分からない。

 けど、アナクリ先輩は帰る時、結構いい笑顔で帰っていったのは確かだよ。翼さんのCDを大量に持ってね。

 で、戻ってきたわたし達のクリス先輩はだけど……

 

「……なんつーか、アレだな。人って、無限の可能性があるんだな」

 

 どうやら、アナつばさんがこっちの翼さんとはかなり違っていた事に驚いて、人には無限の可能性がある事を改めて思い知ったとか。

 

「でもやっぱあのセンパイの方が安心するわ。なんつーか……実家のような安心感と言うか」

「実家なのは間違ってませんよね。自分の世界(実家)

「流石に広義すぎんだろそれ。間違ってねぇけどさ」

 

 ちなみに戻ってきたクリス先輩は、真っ先に甘いものを食べに行きました。

 潜水艦の中、娯楽もお菓子も少なくてちょっと辛かったんだって。まぁ、仕方ないよね。

 

 

****

 

 

「ほらほら翼! あっちの翼のCDだよ! 一緒に聞こうよ!」

「や、やめろクリス! なんかこう、自分の声で知らない歌を歌われるとなんか知らないが気色悪いんだ!! やめろ、そのイヤホンをこっちに近づけるな!!」

「じゃあこの歌を覚えて歌ってほしいな!」

「ぐ、ぬっ……! ごめん無理!!」

「あっ、翼ぁ!」




今回はリハビリがてらIFクリスちゃんの話を書きました。旬に乗り遅れた気がしないでもないですが、気にしない気にしない。また笑ってはいけないみたいなオールスター系をやる時は影護の事とか一切考えずに参加させるかもね。

で、更新していない間卒業旅行に行ったり実家帰ったりコロナ死滅しろって思いっきりボヤいたり初任給でまず予約する物を調ちゃんのえちえちコスのタペストリーに決めたりとか色々とありましたが……

シンフォギアライブ2020!! チケット当選しました!!

AXZの頃、当たりませんでしたと嘆いていた自分ですが、今回は無事当選しました!! 一枚だけ一席だけ応募したんですが、見事バチコリと当選!! ラストのライブを現地で見れるという幸運を授かる事ができました!!

もしかしたらラストじゃないかもしれませんし、OVAとか劇場版とか色々と展開するかもしれませんが、それでも区切りになる事は間違いありません。そのライブに参加できることがもう嬉しくて嬉しくて……当選を見た瞬間思いっきり叫びました。近所迷惑になりました。ごめんなさい。もう年甲斐も無くあんなに叫びません。でも一回だけだから許して。

という事で今回の怪文書もここまで。次回はなるべく早くに更新したいと思っています。
もしかしたら次回はメンインブラック3のパロみたいなものになるカモ。最近MIBを3まで一気見したので……


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月読調の華麗なるタイムジャンプ

なんか月一投稿になってきているな? と思う今日この頃。お仕事が忙しいとかじゃないんですけど、帰ってきてから何もやる気起きずに寝落ちしちまってるの許して許して……

今回は前回書いた通り、メンインブラック3のパロです。

とは言っても宇宙人が出ないのでタイトルは月読調の華麗なるメンインブラックから月読調の華麗なるタイムジャンプへと変更しましたが。

いつかはメンインブラックしてる装者を書きたいです。


 今日も今日とてわたし達に課せられた任務は、ここ最近あまり自重しなくなってきた錬金術師達への対応。パヴァリア光明結社という枷が無くなったせいで好き勝手に色々とやりたい放題な錬金術師達と何度も何度も相対してはやっつけて、相対してはやっつけて。

 クリス先輩と一緒に任務に向かう時なんて、ちょっとふざけて「錬金術師は?」なんて聞いてみたら、「バンバンだ」なんて言いながら、クリス先輩はRED HOT HORIZONで狙撃を決め込んでいた。

 それぐらいに最近錬金術師が自重を止め始めているから、装者二人もいれば対処可能と言えど、流石にヘビーローテーション決め込む必要が出てきてオーバーワーク気味。いや、こうでもしないと錬金術師のせいで被害が広がっちゃうから、やるしかないんだけどね。

 わたし達もそれに異論はないし。

 で、今日も今日とてわたし達日本に常駐している装者ことリディアン生徒組四人で発見した錬金術師の本拠地に乗り込んでいた。

 外を先輩達二人に任せて、わたし達は本拠地内に潜入して暴れ放題好き放題。

 

「とうとう本丸デスよ!」

「慎重にいこうね、切ちゃん」

 

 とは言うけど、何かあって大怪我とかはごめんだから、結構注意は払っている。

 で、注意を払いながらずんずんと奥へ進んでいって、発見しましたは錬金術師の工房らしき場所。そこの扉を切ちゃんが蹴り開けて、わたしはヨーヨーを両手に構えながら切ちゃんの一歩後ろから入場。そこでは無駄に広い工房の中でこっちを見て表情を歪めている錬金術師標準装備の黒ローブさんが。

 

「大人しくプチョヘンザデス!」

「逮捕オアザババ。どっちがお好み?」

「くそっ、政府に飼い慣らされた小娘共が!」

 

 叫びながら黒ローブが挨拶も無しにアルカノイズをけしかけてくるけど、その全部を切ちゃんは一息に斬り裂いて、逃げようとしている黒ローブに向かってワイヤーを発射して雁字搦めにするとそのまま拘束した。

 うん、いつものことながら天晴な腕前だね、切ちゃん。

 

「さぁ、年貢の納め時デス! これ以上暴れたら二百数本の内一本くらいは骨が事故で折れる可能性があるデスよ」

「弦十郎さん、調です。自制の効かない大きなお子様を拘束しました」

『よくやってくれた、二人とも。すぐに外に待機させていた者達を突入させるが……いつもと言葉遣いが違うと思えるのは気のせいか?』

「二人で洋画を数時間耐久コースしちゃったせいで」

『なるほど、分かるぞその気持ち。ちなみに何を見たんだ?』

「エクスペンダブルズです」

『話が分かんじゃねえか、後輩共。良い趣味してやがる』

 

 なんか急にクリス先輩が割り込んできた。

 とりあえず三人で映画談義をしていると、切ちゃんが何度か逃げ出そうとしている黒ローブを動くたびに鎌の石突きで制止させて、黒ローブが絶対に逃げれないようにしている間にSONGの職員が登場。そのまま切ちゃんが拘束していた黒ローブを掴み上げて連行していった。

 

「小娘共め、絶対に許さんぞ!! この私を敵に回したことを後悔するんだな!!」

「あーはいはい、よくある捨て台詞をどうもありがとうデス」

「あなたは今日までの行いを後悔して檻の中へどうぞ」

 

 映画の三流悪役みたいな捨て台詞を吐いて錬金術師が拘束されたまま連れ去られて行った。ドナドナ~。

 こうなったら後はSONGに後始末を任せるだけだから、わたし達は一応ギアを纏ったまま外に居る先輩達と合流してからようやくギアを解除して帰還用のヘリに乗り込んで、本部から何か連絡が来たらすぐに対応できるように右耳に小型のイヤホンマイクを取り付けて談笑。

 まぁ、こういう時に連絡が来る事なんて滅多にないんだけどね。

 そんな事を思いながら響さんも交えて四人でオススメの映画とか、最近見た映画とかで話題を膨らませていると、滅多に通信がかかってこないイヤホンマイクに通信がかかってきた。

 嫌な予感。

 

『すまない、君達。連行班の方で手違いが発生した』

「手違いですか?」

『あぁ。早い話が逃げられた。奴め、アルカノイズを隠し持っていたようだ。幸いにも職員は全員無事だが、奴には逃げられた。すまないが、もう一仕事頼めるだろうか?』

「あぁ、大丈夫だ。おバカな良いコに鉛玉のプレゼントしてこりゃいいって話だろ? 楽勝だ」

 

 クリス先輩の言葉に頷き、ヘリが向かった先でもう一度ギアを纏ってアルカノイズを殲滅……したのはいいんだけども。

 あの黒ローブは見つからず、暫くの間黒ローブを捜索していたけど結果は駄目。結局あの黒ローブは取り逃してしまったという形でわたし達は帰還する事になってしまった。

 ただ、その後の調査でエルフナインが言うには、どうもあの黒ローブはあの工房の中で時間についての研究を行っていた、とか。多分若返りか、そこから派生する不老不死の研究なんじゃないかとは言っていたけど……わたしにはよく分からない。

 一応、あの黒ローブが突如襲ってくる可能性もあるから細心の注意を払うように、と注意を受けてわたし達は帰還したのでした。

 

「あぁ、すまない調くん。ちょっと話がある」

「はい、なんでしょう」

「すまないが、ギアを纏ってこの書類を至急ここまで運んでくれないだろうか?」

「ここって……ギアでも夜中の間は走らないと着けないんですけど」

「本当にすまない。至急というわけではないし、俺か緒川か藤尭に行かせるのが一番なんだが、俺達は事後処理でここを動けなくてな……埋め合わせは確実に行う。だから、頼まれてくれないか?」

「まぁ……別に大丈夫ですよ。明日休みですから」

「すまない、恩に着る。人目などは気にしなくてもこちらが全て対処する。君はこの書類を届ける事だけを考えてくれ」

「分かりました。じゃあ、行ってきます」

 

 でも、わたしだけはこの通り残業を命じられたのでした。

 別にいいんだけどね。この程度の事なら、夜中にあっちに着いて適当なホテルで泊まって、朝の内にこっちに戻ってきたらいいだけだし。切ちゃんの夜ご飯は……マックにでも行ってきてもらおうかな。わたしも多分道中マックで済ませるし。

 よし、行こう。

 きょうのきーずなにー。たいしのーためにー。

 

 

****

 

 

 あー、今日は犯人を取り逃すし調が残業でどこかに行ったからマックで……と思ったら寝落ちしちゃったせいでマックの営業時間が過ぎちゃったせいでマックどころかコンビニの298円以下のカップ麺でお夕飯を済ませる事になって散々だったのデス……

 でも、明日はお休み! しかも調が居ないという事は夜更かしし放題デス!

 お菓子にコーラを用意して、ネットで今日クリス先輩にオススメされたバックトゥザフューチャーでも見ながら思いっきり夜更かしするのデス!!

 

「タイムスリップ物だと聞いてはいるんデスけど、どんな感じの話なんデスかね。楽しみデス!」

 

 それじゃあ、さっそく再生を…………

 ……あれ? なんだか目の前が歪んで……しかもなんか周りまで変な感じに……しかもなんだか頭痛と吐き気が…………!?

 こ、これ本当にヤバい奴デス! すぐに本部に知らせないと、調達まで巻き込ま「ぅぁっ」

 

 

****

 

 

 あすにむーかってー。って感じで歌いながら明朝の高速道路を思いっきり爆走して戻ってきました。

 明朝の車が殆どない高速道路を爆走って中々気持ちいいね。ついでに途中で朝市みたいなのを見つけたから新鮮な魚とか買ってきたし、朝ご飯は焼き魚とお米とみそ汁かな。ちょっと遅くなっちゃうけど……どうせ切ちゃん、夜更かししているだろうから、朝ご飯はちょっと遅いくらいがちょうどいいよね。

 朝ごはん前の運動をしたのに加えて、LiNKERの効果時間がほぼ切れたせいか頭痛と吐き気がなんかすごいけどね。しかも喉まで乾くからついつい道中のコンビニでチョコレートミルクを買って禁月輪しながら飲んできちゃった。

 でもお腹が減っているのには変わりないから、お腹が鳴る前に弦十郎さんに書類を届けてきた事を知らせないと、という事で戻ってきた足でそのままSONGの本部へ。発令所まで行くと、丁度そこには弦十郎さんが。

 

「おぉ、調くんか。戻ってきてくれたか」

「はい。ちょっと一泊してきちゃいましたけど、無事に」

「そうか。あれは緊急を要する案件だったからな。機動力がある君に任せたのだが、解決してくれたのなら何よりだ」

 

 え? あの書類、そんなに重要なモノだったの? 昨日はそこまで切羽詰まっているようには見えなかったけど。

 

「お役に立てたのなら。じゃあ、わたしは帰りますね」

「本当に助かった。今日は一人ゆっくりと休んでくれ」

 

 そうします。

 ……あっ、そうだ。

 

「すみません、チョコレートミルクもらえませんか?」

「チョコレートミルクか? 可能だが……好物なのか? そんな記憶は無いが」

「いえ、なんか今朝から妙に飲みたくって……ここに来る前も一杯飲んだんですけど、なんでかまた欲しくなっちゃって」

 

 なんでだろ、ヤケにチョコレートミルクが飲みたくなるんだよね。さっき飲んでハマったからって言えばまだ聞こえはいいけど、さっき買った時も妙にチョコレートミルクに惹かれてついついって感じで他の飲み物をスルーして買っちゃったし。

 食堂で作ってもらえるのなら作ってもらいたいけど。

 

「そうか。ならば、すぐに食堂へ行こう」

「弦十郎さんもですか?」

「あぁ。俺の料理の腕は知っているだろう? 最高に美味いチョコレートミルクをご馳走しよう」

 

 え?

 弦十郎さんって、そんなにわたし達に手料理を振舞ってくれた事ってあったっけ? 時々弦十郎さんも外に出て任務で、しかも野営とかになった時は弦十郎さんがサバイバル料理とか作ってくれることはあったけど……

 あー、駄目だ。なんか深く考えると頭痛と吐き気が酷くなる……

 とりあえず何も考えずにわたしは弦十郎さんについて行って、エプロンを着けた筋骨隆々の男の人にお手製のチョコレートミルクをご馳走され、それを手に持って帰った。

 なんだろう、この釈然としない感じ……あっ、美味しい。

 弦十郎さんお手製のチョコレートミルクを飲みながらわたしはまだ朝焼けの街中を歩いて、今住んでいるアパートの部屋に。切ちゃん、どうせ鍵もかけずに夜更かししているだろうし、鍵は出さなくても……あれ?

 

「鍵閉まってる? よかった、切ちゃんもようやくそこら辺を気を付けてくれるようになったんだ」

 

 前々から何度も言ってるのに聞かなかったから、今日もかと思ったけど、どうやら切ちゃんはしっかりと防犯意識を見に付けてくれたみたい。

 よかったよかった。じゃあ、鍵を開けてただいまーっと。

 

「朝から禁月輪で何十キロも移動するのはちょっと疲れた……切ちゃん、おきてるー?」

 

 聞いてみるけど、やっぱり声は帰ってこない。

 やっぱり夜更かしして寝てる。

 このまま切ちゃんの部屋に突入して起こしたい所存ではあるけど……なんかさっきから頭痛と吐き気が収まらない上に頭痛も吐き気も限界ギリギリのラインで留まってる感じだから、気分が悪いと言うか。

 端的に言えば体調が悪い。

 月の日はまだ先だし、かと言って病気ではないだろうし。よく分からないから、朝の間は寝て過ごす事にした。

 で、寝て起きたんだけど……

 

「……治らない」

 

 どうして。

 ちくしょうと言いながらもとりあえず立ち上がって頭痛薬……の前にコンビニに行ってチョコレートミルクを購入。あー美味しい。で、飲み干してから部屋の常備薬を飲んだんだけど、これがまた効かない。

 月の日が予想以上に重かった時みたいな感じで頭痛と吐き気がすっごい。けど我慢できないほどじゃないからちょっとイライラする。でも、あんまりイライラしてられないからさっき買ってきたもう一つのチョコレートミルクを飲みながら切ちゃんを起こすために切ちゃんの部屋に突入する。

 

「切ちゃーん。そろそろ起きて……あれ?」

 

 枕を抱えて寝ているであろう切ちゃんを起こすために部屋に入った……はいいんだけど、切ちゃんは居なかった。

 いや、居なかった、なんて問題じゃない。

 

「……こ、これ、なんのドッキリ?」

 

 切ちゃんの部屋が、切ちゃんの部屋だったもの、になっていた。

 切ちゃんのベッドも、机も、椅子も、本棚も、タンスも。何もかもが無くなっていて、切ちゃんの部屋だったもの、に。部屋の中に入ってクローゼットの中を調べたり、黒歴史ノートがある隠し棚も確認してみたけど、クローゼットの中には何もないし、黒歴史ノートに至っては隠し棚ごと無くなっていた。

 ほ、本当に何のドッキリ? こんな質の悪い冗談を決行するなんて、一体誰が……?

 呆然としながらも切ちゃんの部屋を出て切ちゃんを探すけど、切ちゃんは居ない。それどころか、切ちゃんがいたという痕跡すらない。歯ブラシも食器もコップも靴も、全部わたし一人分しかない。切ちゃんが買ってきたゲーム機も雑誌も無くて、あるのはわたし一人が生活していたという痕跡だけ。

 切ちゃんが隠していた冷蔵庫の中のプリンも確認したけど、やっぱり無い。

 

「ど、どうして……? いったい何が……」

 

 冷や汗が溢れ出てくる。ついつい手に持っていたチョコレートミルクを一口飲んで、そんな場合じゃないと頭痛と吐き気を抑えて切ちゃんを探す。

 だけど、見つからない。

 本格的にわたしの焦りが酷いモノになってくる。どうしよう、このまま切ちゃんが見つからなかったら……

 手がかりの一つもないせいで息が荒くなるけど、そんな中、わたしの端末に連絡が。

 これは……弦十郎さんから?

 

「はい、調です……」

『調くんか。すまないが、至急本部に来てくれるか? 緊急の任務が入った』

 

 こんな時に……!?

 いや、でも切ちゃんもドッキリで隠れているのだとしたらこの報告は無視できない筈。つまり、本部に行ったら切ちゃんは絶対に居る!

 なんだ、焦って損した……

 

「わかりました。すぐに向かいます」

 

 返事を一つ返してから、わたしは走って本部に向かった。

 悪戯切ちゃんめ……あっちで顔を合わせたら説教してやる。

 

 

****

 

 

 説教してやる。そう思って本部に来たけど、切ちゃんは一向に来ない。

 響さん、クリス先輩、翼さんとやって来て、後はマリアと切ちゃんが来るのを待つだけ。その間にも軽くブリーフィングはしているけど、どうやら今回は旅客機がハイジャックにあったせいで墜落するかもしれない状態で既に十数分間飛んでいるから、それに対してミサイルで追いついて空中で取りつき、そのまま内部に侵入してハイジャック犯を犠牲無く仕留めるのが任務らしい。

 こんな任務、あまり来た事は無いんだけど、響さん達は気合十分。わたしはチョコレートミルク片手に頭痛と吐き気に格闘中。

 というか早くマリアと切ちゃん来てよ……絶不調なわたしをあんまり繊細な現場に出さないで……

 

「すまない、遅れたわ」

「ごめんなさい、ここに来るまでの道が混んでいて……」

 

 あっ、やっと来た。

 もう、切ちゃん。あんな悪戯は………………え?

 

「あぁ、マリアくんに『セレナくん』か。構わない、来てくれただけありがたい」

 

 う、嘘、でしょ?

 なんであそこに、セレナが……? しかも、あの日のセレナよりも成長している……

 な、なんで? なんで切ちゃんは来なくてセレナが……?

 

「ん? どうしたの、調さん。わたしの顔に何かついてる?」

「え、あ、違っ……そうじゃ、なくて……」

 

 上手く言葉が出てこない。

 どうしてセレナがとか、なんでここに、とか。色々と言いたい言葉が溢れてくる。でも響さんや弦十郎さんは特に何も思っていないらしく、普通にブリーフィングを進めていく。

 

「突入役には、ガングニール装者である響くんとマリアくんの二人に頼む。翼とセレナくんは天羽々斬とアガートラームの応用力を以って二人のアシストを。クリスくんと調くんは旅客機の外で万が一に備えて……どうした、調くん? 顔色が悪いが……」

 

 そりゃあ、悪くなる。

 だってみんな切ちゃんの事に全く触れないし、セレナが居る事にも全く不信感も何も覚えていない。そこに居るのは切ちゃんのハズで、セレナはもうこの世にはいない筈なのに、どうしてみんなセレナが普通に居るのを受け入れて居られるの……?

 いや、嬉しいよ? セレナとまた会えたのは嬉しい……だけど、それ以上に疑問と、切ちゃんの安否が……

 

「調、どうしたの? さっきから変よ?」

「マリア……いや、だって、切ちゃんが……」

「っ……切歌が、どうかしたの?」

「みんな、切ちゃんが来ないのに普通にしてて……セレナも居て……よく、分からなくて……」

 

 切ちゃんの名前を出した途端、マリアの表情が一気に変わった。

 まるで悲しさを抑えているような、そんな表情に。

 

「……司令、どうも調は調子が悪いみたいなの。その分の穴は私が埋めるわ。調には休ませてちょうだい」

「マリア!? 確かにちょっと吐き気と頭痛はあるけど大丈夫だよ!?」

「調、いいから。ごめんなさい、あなたがそんなに思い悩んでいるのに気づけなくて……本当に、ごめんなさい。話は後でゆっくりと聞くわ」

 

 そんな事を言われても余計に訳わかんないんだけど。

 わたしの内心を無視して話は進んで、結局わたしは精神を病んじゃっているかもしれないからという事で、本部で待機する事になってしまった。

 いや……わたしは切ちゃんの事を聞きたかっただけなんだけど……

 ポツンと発令室の端っこで椅子に座ってるわたしを他所に作戦はどんどん進んでいく。それをポツンとチョコレートミルクを飲みながら観戦しているわたしの元に、どうやら作戦が大体は上手く行き始めたから手持ち無沙汰になったエルフナインがやってきた。

 

「調さん、調子はどうですか?」

「今朝から特に変化ないけど……強いて言うなら頭痛と吐き気が酷いだけで」

「そう、ですか……あの、失礼かもしれませんけど、先ほど口にした切ちゃん、という方は暁切歌さんの事ですよね?」

「そうだけど、どうしてそんなに他人行儀なの? エルフナインもいつも切ちゃんとは顔を合わせていたでしょ?」

「いえ? ボクは一度も暁切歌さんとは顔を合わせたことはありませんが」

 

 ……へ?

 

「……エルフナイン? ふざけるのは」

「ふざけてませんよ。ボクは一度も暁切歌さんとは会ったことがありませんよ。だって、調さんはよく言っていたじゃないですか」

 

 ――暁切歌さんとは、F.I.S時代に死別したと――

 

「…………は?」

 

 え? し、死別……?

 いや、そんな、こと、あるわけないでしょ。

 だって切ちゃんは昨日まで一緒に居て、任務もこなして、面白おかしく談笑して……

 

「う、嘘だ。だって切ちゃんは昨日もここに来てたし、一緒に住んでいたのに!」

「嘘じゃありませんよ。確かに、イガリマの装者であった暁切歌さんが亡くなった事で調さんはかなり長い間塞ぎこんでいたとは聞きましたが……まさか、そこまで思い詰めていたなんて……」

 

 ち、ちがっ……!

 

「そんな訳ない! 携帯にだって切ちゃんの写真はしっかりと……」

 

 しっかりと…………

 …………嘘。

 なんで? なんで切ちゃんの写真が一枚も無いの? 全部、わたしやマリア、セレナが映っているだけで、切ちゃんの写真は一枚も無い。連絡先も見てみるけど、一番使っているハズの切ちゃんの連絡先だけが、奇麗に消えている。

 切ちゃんが生きていたという痕跡だけが、奇麗に消えている。

 思わずチョコレートミルクを一気に飲み干す。

 

「調さん、今日の所はもう帰って落ち着いた方が……」

「わたしは落ち着いてる! 切ちゃんは確かに昨日まで生きていた! だからっ…………」

 

 でも、現にわたしの携帯からは切ちゃんの情報が消えているし、他の所でも切ちゃんが生きていたという痕跡は完全に消えている。

 それが意味わからなくて、わたしはイライラしながらコップを片手に立ち上がった。

 

「調さん!」

「チョコレートミルクをお代わりしてくるだけだから」

 

 どうしてか、チョコレートミルクが無いと落ち着かない。

 イライラしつつ吐き気と頭痛と戦いながら立ち上がってチョコレートミルクをお代わりにしに行こうとしたけど、その前にエルフナインに手を掴まれた。

 

「待ってください。今、チョコレートミルクって言いましたか?」

「言ったけど、それが何? エルフナインには関係ないでしょ」

「もしかしたら関係あるかもしれないんです。いいですか、調さん。ボクの質問に答えてください」

 

 いつになく真剣な表情のエルフナインに思わず気圧されて、頷いてしまう。

 でも、どうせわたしが異常だって事を知らしめるために……

 

「調さん、暁切歌さんは昨日まで生きていたんですね?」

「そうだよ。わたしは昨日も切ちゃんと一緒に任務に出た」

「昨日、特に任務は無かった、というのはこの際置いておきます。次に、頭痛と吐き気はしますか?」

「思いっきり」

「いつから?」

「今朝、起きてからかな。寝る前は全くなかったけど」

「……じゃあ、最後に。どうしてチョコレートミルクを?」

「なんか、急に飲みたくなって」

 

 どうしてそんな事を? と聞く前にエルフナインはもしかして、と呟いて、弦十郎さんの方へと何かを伝えるとわたしの手を引っ張って発令室を出た。

 

「え、エルフナイン?」

「調さん、調さんは昨日と今日で、何か劇的に変わった事は思いつきますか? 簡単にでいいです」

「劇的に変わった事……? そう言えば、昨日は届け物をする時に弦十郎さんから急ぎの用事じゃないけどって言われたのに今日戻ってきたら急ぎの用事だったって言われたり、なんか弦十郎さんが料理が得意って言ってたし。後は……セレナが、生きていたり」

「……現状、考えられる状況は三つあります」

 

 連れてこられたのは、エルフナインの研究室だった。

 どうしてこんなところに? と思っていると、エルフナインはファイルを一つ取り出してその中を速読でもしているのか一気に読み込んでからソレを閉じて、わたしの頭に思いっきり打ち付けた。

 

「いっだぁ!!?」

「まず一つ目、古代から生息しているダニに寄生されている事。これに寄生されると甘いものを異様なまでに欲して頭痛と吐き気に悩まされ、一日経過した後に体がパーンってなります」

「パーン」

「パーンです。ただ、寄生されると痛みを感じないらしいのでこれは違いますね」

 

 か、体がパーンってどういうことなの……?

 いや、聞かないでおこう。多分予想している通りの事だろうから。っていうか、そんなダニが古代から生息しているなんて聞きたくなかったんだけど。死滅してないの、そのクソみたいなダニ。

 で、次に、とエルフナインは口を開いた。

 

「調さんが寝ている間に何者かの手によって平行世界に放り投げられた、ですね。そのせいでなんかこう、頭がパーンってなった」

「頭がパーン」

「頭がパーンです」

 

 なんなの、そのパーンって擬音。

 本当にわたしの頭がパーンってなってるみたいで怖いんだけど。ホントなんなのパーン。

 でも、エルフナインはそれだとチョコレートミルクをお代わりし続ける理由がよく分からないからきっと違う、と自己完結して、何かを取りだした。

 懐中時計かと思ったんだけど、それにしてはメカメカしいし、なんか変だし。

 

「もう一つは、時空断裂に巻き込まれた、です」

「じ、時空断裂?」

 

 そんな仰々しい事に巻き込まれたって……一体いつの間に?

 

「正確には時間改変ですね。文献によると、それにより改変された事象に近しい人は頭がパーンってなった人みたいに有り得ない事を口にして、頭痛と吐き気を訴え、そしてチョコレートミルクを欲するとあります」

「それ大真面目に書いた人、頭がパーンってなってるんじゃないの? というかさっきからパーンって擬音多すぎでしょ」

「便利ですから、パーン。で、調さんの場合は最初は頭がパーンかと思ったんですが、チョコレートミルクをピンポイントで欲する。そして、有り得ない事を口にし続ける。これがヒットしています」

 

 時間改変に巻き込まれた……

 それで過去を変えられたのだとしたら、セレナが生きているのも納得いくし、切ちゃんが死んでいるのも……

 どうしてそんな風に過去が、なんて聞いても多分分からないから黙っているけど、でも本当にそうだとしたら、わたしにはどうしようもできないんじゃ……

 

「そして、事象の改変を覚えているのは、改変の瞬間に居合わせた人だけです。調さんは恐らく、事象の改編の瞬間……暁切歌さんの死亡の瞬間に居合わせたのでしょう」

 

 っ……!

 覚えて、ないけど……でも、そんな瞬間を見たら、塞ぎ込んでいたって言われても納得できる。

 そうすると、本当に切ちゃんは過去を改変されて、誰かに……!!

 

「調さん。ここに、ボクが試作したタイムジャンプ機があります」

 

 そう言ってエルフナインが手渡してくれたのは、さっき取り出したメカメカしい懐中時計のような物だった。

 これが、タイムジャンプ機……?

 

「これはとある錬金術師が作り上げたのをパヴァリアが押収し、ボクがパヴァリアの支部跡から設計図を発見して作り上げた物です。使うなと念は押されましたが……もしも時空断裂が起きているのだとしたら、それが原因でどんなパラドックスが起きるか分かりません。下手をしたら、新たなカストディアンが襲来し世界が滅ぶ、なんて事も有り得ます」

 

 そんな事まで……!?

 

「調さん。これをあなたに預けます。もしも本当に過去が改変されているのなら……調さん、これを使って悲劇が起こる前に、世界を元の形に戻してください」

 

 これを使って、過去に……?

 急に言われても一から十まで納得できない……けど、本当に切ちゃんが過去で殺されたのなら、わたしはこれを使って切ちゃんを……!!

 

「使い方は単純です。高い場所から落下してください。そうすると、この緑色の部分が光り、この装置の中心に青色の線が発生します。それを指で切ってください。そうしたら、タイムジャンプできます」

「なるほど……でも、どうして落下しなきゃいけないの?」

「ジャンプ、だからですよ。タイムジャンプだから」

 

 ……そ、そういう理屈?

 

「ボクが聞いている暁切歌さんの命日は、ここです。詳しい時間については任せます」

 

 なんかさっきからトントン拍子で話が進んでいるけど……タイムジャンプなんて、そう簡単にやってもいい事なの?

 色んなSF映画とかだと、タイムジャンプには細心の注意が居るとか、そもそも禁止されているとか色々とある筈だけど……

 

「確かに、タイムジャンプ無しで起こった出来事にタイムジャンプで干渉するのは、規則どころか人の領分を超えています。ですが、それを元に戻すためにタイムジャンプするのなら、きっと許されるハズです。それに、もしかしたら調さんも時空断裂に巻き込まれて、元からいない歴史が作られる可能性もありますから……」

 

 えっ、なにそれ怖い。

 

「時間っていうのは、それだけ繊細なんです。それと、一つ、これだけは覚えておいてください。タイムジャンプ先で切歌さん以外の人を助けようとは思わないでください。生者と死者は差し引きゼロ人。誰かが死んだら誰かが生きる。誰かが生きたら誰かが死ぬ。これがタイムジャンプの鉄則です。いいですね?」

 

 生者と死者は差し引きゼロ人……

 そっか、だから切ちゃんが居なくなった代わりにセレナが……そう思うと、どうしてセレナが生きているのかは何となく理解できる。

 つまり、切ちゃんを助けるにはセレナを……

 ……いや、まだ諦めない。エルフナインには止められるだろうけど、もしかしたら裏技があるかもしれない。もしかしたら切ちゃんを助けてセレナを助けるための手段があるかもしれない。

 一生に一度であろうタイムジャンプ……絶対に成功させる。

 

「あとは、これを。恐らく当時でも使える電子マネーです。数十万円程、今入れました。きっと何をやるにもお金は必要でしょうから」

 

 エルフナインが渡してくれた電子マネーのカードを受け取る。

 ほ、本当にいいのかな……と思ってエルフナインの顔を何度か見たけど、どうやら経費で落ちるし、もしかしたらこのやり取りも無かった事になるからと言ってエルフナインは頷いてくれた。

 

「きっと時間が元に戻ればボクは全部忘れていますが……幸運を」

「任せて。全部元に戻してくる」

 

 エルフナインに向かって頷いて、本部を出る。

 そしてそのまま手短な高い建物の上に行って……よし。行こう。

 

「っ!」

 

 高層ビルから垂直に落下。右手にタイムジャンプの装置を握って、エルフナインにセットしてもらった時間の二日前をセットしているのを確認してから左手で念のためにギアを持ち、そのまま聖詠を唱える。

 

「various shul shagana tron!」

 

 ギアを纏って、空中から落下しながら装置を見る。

 確かエルフナインは緑色のランプが光るって言っていたけど、全然光らない……あっ、光った! それに装置の真ん中に青色の線も出てきた。

 

「後はこれを、指で切れば!」

 

 エルフナインに言われた通り、着地する前に青色の線を指で切る。

 本当にこれだけでタイムジャンプできるのか不安だったけど……でも、青色の線を切った瞬間、地平線から緑色の光が溢れてきて、光が地上の様子を一瞬にして塗り替えた。

 あれって……恐竜!?

 

「も、戻りすぎでしょ!?」

 

 叫ぶけど、まだ落下には時間がある。

 とりあえず途中で止まったら何が起こるか分からないから、自然落下に身を任せたままひたすら落下する。恐竜が大口を開けてこっちを見ていて、思わず攻撃しそうになったけど、その前に再び緑色の光が地上を覆って、今度は普通に現代の地上が見える。

 急いで着地のために体勢を整えようとしたけど、落下してビターンとなる直前に何故か体が停止。そのまま上空に打ち上げられたと思ったら、気が付いたらわたしは飛び降りる前に立っていたビルの上に立っていた。

 

「……えっ、なに、いまの」

 

 呆然としながら地上を見るけど、わたしがもう一人ビターンってなってるわけでもなく、特に問題は見当たらない。右手のタイムジャンプ装置も普通だし、ギアも普通。でも、この時代にもフォニックゲインの反応を捉える装置があるかもしれないから、急いでギアを解除。来た道を戻ってビルから降りる。

 で、降りたのはいいんだけど、特に何か変わっているようには見えない。

 本当にタイムジャンプに成功しているのか不安だけど、きっと大丈夫だと思ってそのままコンビニへ。えっと、新聞新聞……あった。

 

「日付と年は……本当に過去に戻ってる……」

 

 内心まだタイムジャンプなんて……って思っていたからか、本当に過去の年と日付を指す新聞を見て改めてここが過去なんだって事を自覚できた。

 本当にタイムジャンプしたんだ……この時代では一人っきりと思うとなんだか心細く思えてきたけど、大丈夫。きっと上手くやれる。

 という事でまずは。

 

「アメリカに飛ばなきゃ」

 

 ……先にアメリカに行ってからタイムジャンプしたら良かったかも。

 

 

****

 

 

 SONGの端末を用いればパスポートの偽造も何のその。しれっと適当な漫画喫茶に入ってパソコンと端末を直結。ゲームしてるだけですよ風な感じで端末を弄って偽造を終わらせて、後は適当な場所でそれを受け取るだけにしてからちょっと休んで漫画喫茶を出て偽造パスポートを受け取る。

 ちょろいちょろい。何するものぞ、この時代の日本のセキュリティ。

 ……今回はSONGの端末の中に入っている、この間の響さん達みたいに平行世界から帰還不可能な状態で何週間も独自で動かないといけない時になってしまった時に備えた、ハッキングや偽造を行うためのアプリがあったから何とかなったけど、もしもこれが無かったらと思うと、ゾッとする。

 まぁ、そんなもう有り得ないもしもは置いておくとして、あとは安い飛行機を取ってそのままアメリカまで飛ぶ。ちょっと面倒だったけど、これにてアメリカへの移動の任務コンプリート。まぁ、無理そうだったらギアで潜入して密入国するんだけどね。

 

「お嬢ちゃん、一人で旅行かね?」

「はい。親戚がアメリカにいるので、会いに」

「そうかそうか。えらいねぇ」

 

 そしてお隣のお婆さんからそんな事を言われたんだけど……わたし、一人旅できない位の子供に見られてる……?

 まぁ、いいけど。今更背が小さい事は気にしないよ。気にしても負けだから……

 どうせこの時代で今のわたしに何かしようにも無駄だろうしね。

 で、飛行機の中で当時の映画を見ながら暇を潰して機内食を食べて、気が付いたらアメリカに。確かこの空港が研究所に一番近かった……ような、気がする。あの研究所を出たのなんてもう何年前だろう。もう忘れた。

 手持ちの荷物はかなり少ないと言うか、ほぼ手ぶらなんだけど、特にそれを気にすることなく空港の外に出てからSONGの端末でこの近くにある空いてるホテルを探す。

 えっと……あっ、あった。ここは比較的安めだし、研究所に近い場所にあるし評価も低くもなく高くも無いからここにしよう。

 

「ヘイタクシー」

 

 久々にアメリカなんて来たけど、とりあえず英語でタクシーを捕まえて場所を伝える。

 で、伝えるとタクシーの運ちゃんは目的地まで運んでくれる。お金のことはちゃんとその前に電子マネーで払えるか可能かを聞いたから大丈夫だよ。

 目的地に着いたらタクシーの料金をしっかりと払って、その日はホテルで一泊。翌日に研究所に着いた。

 

「久しぶりに来た……あんまりいい思い出はないけど、ここで切ちゃんが」

 

 茂みの中で隠れながら研究所を観察する。

 本当に久しぶりに来たけど、この研究室はわたし達レセプターチルドレンの教育をしたりする場所。そして、セレナが死んだ場所。

 こっちの時刻に合わせた端末を見てみれば、その日付はわたしの中でも印象に残っている日付を指している。

 過去に飛んだ時は必至すぎて気づかなかったけど、今なら十分に思い出せる。

 明日にネフィリムの起動実験が始まって、セレナが死ぬ。つまり、切ちゃんは本当にセレナの代わりに死んだって事なんだと思う。許せないけど……それをわたしは止めることができる。

 絶対に止める。

 ……と、決意したけど、まさか中に潜入して一日過ごす訳にもいかないし、ギアを纏うわけにもいかないから今日はここで一先ず退散。明日は明朝の内からここで張り込もう。

 

 

****

 

 

 あの後ホテルに戻ったけど、切ちゃんが明日……って思うとどうしても寝つきがいいとは言えない結果になった。そわそわしながらほぼ眠れずに今日を迎えたけど、ドキドキする。

 もしもわたしが失敗したら、切ちゃんが死んでしまうのはもう確定している。それがどうしてもプレッシャーになっちゃう……でも、わたしがやらないといけない。わたしがやらないと、切ちゃんが。どうして切ちゃんが急に狙われるのか理由が分からないけど、わたしが絶対に止めてやる。

 

「一先ずは潜入かな」

 

 見張りの人に見つからないようにこそこそと動いて、そのまま裏口から侵入する。

 荷物搬入の入り口って実はちょちょいってやると開くんだよね。昔はそれを知っていても技術も知恵も無くてできなかったけど、今ならそれも容易い。装者七つ道具の一つ……ではないんだけど、まぁ普通に端末をプラグインしてアプリを起動したら御開帳。アラートも鳴らさずこそこそと中に侵入する。

 手慣れてるって? そりゃあ……孤立無援な状態で平行世界に行く事もちょっとはあったし? 特に一度普通に捕まったしね……そこから学んでしっかりと対策を立てました。それに、ここは勝手知ったる場所でもあるからね。

 さて、じゃあ後はどこに隠れてようかな……

 んー…………あっ。

 

「確かここ、職員用の更衣室……よし」

 

 服パクろう。

 今着ている服は、帰る時に着ていくから持ち歩くとして……後は制服を着て、誰の私物か分からない鞄の中をぶちまけてわたしの服を入れておこう。これで持ち歩けるね。

 服パクって、後は研究所の仲をうろちょろ……するんじゃなくて、ここはわたしの記憶通り動く。確かこの時代のわたしはずっと切ちゃんと一緒に居たからね。既にシュルシャガナは持たされていたけど、まだLiNLERもマトモに無い時代だから適合率が比較的高めであるわたしや切ちゃんが持ってるってだけだからね。

 

「……あっ、そういう、事なのかな」

 

 わたしが切ちゃんの事を覚えていたのは、わたしがずっと切ちゃんと一緒に居たから。

 その中でピンポイントで切ちゃんが殺されて、この時代のわたしはそれを目撃して……それで、わたしは時空断裂に巻き込まれた人間として、この時代の記憶に塗りつぶされず、元の時代の記憶を保持していた。

 ……つまり、セレナが死んだあの日、わたしが何をしていたのかをしっかりと思い出せば、切ちゃんを助ける事はできる。

 だから、思い出すんだ。今日、わたしが何をしていたか。今日、わたしがどこで切ちゃんと一緒に居たか……!!

 ……確か、あっちだ。

 

「あっちで、切ちゃんと一緒にマリアとセレナを待っていた。でも、その結果はセレナは帰ってこなくて、気絶したマリアが……」

 

 ……そうだ、思い出せないわけがない。

 この日を、セレナが死んだあの日のわたしを。

 

「……行こう」

 

 ……きっと、セレナは助けられない。

 エルフナインは言った。誰かが死ねば、誰かが生きる。誰かが生きれば、誰かが死ぬ。切ちゃんやわたし、そしてマリアの誰かが死ねばセレナは生きて、セレナが死ねば、わたし達三人が生き残る。

 わたし達の私利私欲で誰かを犠牲にする事なんて、できない。元の時代に戻すためには、死ぬと分かっていながらもセレナを……!!

 

「……いた。わたしと切ちゃんだ」

 

 でも、その考えを捨てて、職員に紛れて移動を続けて、まだ子供のわたしと切ちゃんを見つける。

 きっと、もう既にセレナとマリアはネフィリムの実験をしているあの場所に行っている。この時には既に装者としてアガートラームと適合していたセレナと、そんなセレナを心配してマムに懇願して呆れた顔をされながらも連れて行ってもらえたマリアが。

 マムはもしもがあった時、わたし達全員がそこに居れば確実に誰かが犠牲になると思って、連れていかなかったんだと思う。その結果は、確かに正解だったと思う。もしわたし達があそこに居たら……きっと、施設の崩落に巻き込まれて死んでいたかもしれない。

 

「……あとは、わたしと切ちゃんを見張っていれば」

 

 職員のほとんどはネフィリムの方に行っていて、わたし達レセプターチルドレンの方は放っておかれている。精々やる気の無い職員が見張り程度に見ている程度。そこにシレっと混ざる程度、訳が無い。

 これなら、何があっても……!!

 

「ふぁぁ……くそ、暇だな。どうして俺がネフィリムの実験じゃなくてこんなガキどもの面倒を……」

 

 あー……なんかそんな風にぼやいていたのが居たの、なんとなーく覚えてる。

 にしても、切ちゃんは一体どうやって殺されたんだろう……? わたしが覚えてない以上、分からないから構えているしかないんだけど……

 

「……ん? 何だあれ。炭、か……? ったく、誰か書類でも燃やしたのか?」

 

 どうしよう。もうギアを纏ってこの人を気絶させておいた方が……いや、でもシュルシャガナを纏えば確実にわたしと切ちゃんにバレる。変にタイムパラドックスが起きたら……いや、もう起きてるから時空断裂なんてものが発生してるのかな? そうだとしたら別に今さら我儘起こした程度で……

 

「ひぃっ!? の、ノイズ!!? そんな、警報なんて鳴ってないぞ!!?」

 

 っ!?

 の、ノイズ!? こんな時になんて……いや、おかしい。

 この時期にノイズなんて出てこなかったはず。だと言うのにノイズが居るって事は……まさか!

 

「おい、お前も逃げろ!」

 

 そう言いながらこっちに来た男の人の後ろを見れば、そこに居るのはノイズ……だけど、ちょっと違う。間違いない、アレはアルカノイズ!! あの錬金術師は、こうやってアルカノイズをけしかけて切ちゃんを殺したんだ!!

 

「で、でも、誰かに伝えた方が……」

「ガキの心配でもしてるのか!? ガキの身か自分の身どっちが大事なんだ! 悪いが俺は逃げるぞ!!」

 

 ノイズを発見した男の人が逃げて言ったけど、それなら好都合。これならシュルシャガナを纏って……!!

 

「の、のいず!? のいずデスか!!?」

 

 と思った矢先に切ちゃんが!?

 くっ、見られている以上はシュルシャガナを使う事なんて……!!

 

「きりちゃん、にげよう!」

「そ、そうデス! そっちのおねえさんも……およ? どこかでみたことが……」

「言ってる場合!? 悪いけど、担ぐよ!」

 

 しかもわたしにまで見られたしなんか気づかれかけた! もうこうなったらウダウダしている時間なんてないから、子供のわたしと切ちゃんを抱えて思いっきり逃げる。

 お、重い……! そりゃそうだよね、二人分も子供を抱えたらわたし一人分以上にはなるもんね! でも挫けない! だって鍛えてますもの!! 二人の子供を抱えてそれゆけ全力疾走! ギアがあればこんなのへいきへっちゃらなんだけど、ギアが無いとへいきへっちゃらじゃない! わたしはお米の袋より重い物を生身で持ったことがありません!!

 

「あっ、あぶないデス!」

「っ!?」

 

 抱えていた切ちゃんが叫んだから、咄嗟に身を捩った。

 その結果、思いっきり二人を前に投げ出す結果になり、更にわたしのシュルシャガナが紐の部分を分解されてどこかに飛んでいった。

 そんなっ!? いや、ギアなんて後でいくらでも回収できる。今は二人を連れて逃げないと……って!?

 

「き、気絶してる……!?」

 

 思いっきり二人をぶん投げてしまったせいか、二人は気絶してしまっていた。

 頭を打ったのか、衝撃で気絶したのかは分からない……それに、ギアがどこかへ飛んでいっちゃったから戦うための力が……

 

「ふっ、無様だな、装者よ」

 

 もう一度走るために気絶した二人を抱えようとしたけど、その前に男の声が。

 この声は……!!

 

「ま、まさか本当にこんな分解器を持ったノイズを持っているとは……驚いたぞ、未来の俺よ」

「ふっ、当然だ、過去の俺よ。さて、本来なら俺をふざけた言葉遣いで邪魔したそっちの金髪の装者を殺すだけで終わらせてやろうと思ったのだが……まさかあの時のピンク色が何故かこの時代に居るのは誤算だった。まぁ、タイムパラドックスを恐れてシンフォギアを使えなかったようだがな?」

 

 あの時取り逃した錬金術師……!

 それも御大層に過去の自分まで引き連れて!!

 

「……何罪になるのかもう分からないけど、とりあえずあなたを逮捕します。罪状はそっちがご存じのはず」

「はっ! ギアの無い小娘が一人で何ができる! 過去に自力で来た事だけは褒めてやるが、記憶を持った貴様がここに居るのなら殺すしかあるまい!!」

「そ、そうだ! シンフォギアなんてよく分からん物を使う異端者は殺してしまうべきだ! お前たちのようなのがいなければ、俺のタイムジャンプ装置の完成は早まるらしいからな!!」

 

 って、まさかのこのタイムジャンプマシンを作ったのって、この人!?

 た、確かにタイムジャンプマシンを自分で作れるなら自力で過去に戻って過去改変だってできるけど……いや、今はそんな事はどうでもいい。タイムジャンプ装置を持っていようが持っていなかろうが、どうでもいい。

 この場を切り抜けて、アルカノイズを倒して歴史の流れを元に戻さないと!

 でも、この手に握っていたはずの鋸が……

 ……いや、ある。

 そうだ、この時代のわたしなら!!

 

「やっぱり! ごめんね、借りるから!」

 

 やっぱりあった。シュルシャガナのギアペンダント。

 リビルドギアでもないし、強化改修もしていないからアルカノイズ相手には不利だけど……でも、アルカノイズの総数は十体程度。それなら、未強化のシュルシャガナでも!!

 

「various shul shagana tron!!」

「なっ、過去の自分のシンフォギアを!?」

「過去のわたしのギアなら、適合できない理由なんてどこにもない!!」

 

 纏うのはかつての黒いギア。

 出力が予想以上に低い……エルフナインが作ってくれた愛と優しさのLiNKERを使っても、魔法少女事変の時の出力まで至らない……!!

 でも、なんとかなる!!

 

「卍火車!!」

 

 バックファイアのせいで大技は使えないけど、それでも基本的な技なら使える!

 丸鋸を発射して、一気にアルカノイズを殲滅する。それと同時に過去のわたしと切ちゃんを担ぎ上げて、ついでにすっ飛んでいたわたしの本来のギアも同時に見つける。

 相手からの攻撃は来ない。なら、ギアは回収だけしておけば大丈夫!

 

「この、国の犬風情がぁぁぁ!! 行く先々に現れ俺の崇高なる目的を邪魔してからに!!」

「国の作ったルールも守れず変な目的のために、夜な夜な一人でやらしい事をしている人の邪魔なんて、いくらでもしてやる!」

「おい、過去の俺!! 最終手段だ!!」

「ほ、本当にやるのか!?」

「当然だ! このすぐ横では聖遺物の起動実験をしている! そいつは聖遺物を食らう聖遺物だ! それをシンフォギア装者にぶつければ!!」

 

 聖遺物を食らう聖遺物って……間違いない! この錬金術師共、ネフィリムをわたしに!!?

 

「そんな事、絶対にさせない!」

「させない? ふん、それはもう手遅れだ」

 

 手遅れ? まだ何もしてないなら間に合うはず……!

 

「既に実行しているからだ。過去の俺がぐずぐずしていたからな。こっちのスイッチで、既にここに至るまでの壁をアルカノイズで炭にしておいた。ほら見ろ、来るぞ、貴様らの天敵がな」

 

 錬金術師が話したと同時に、わたしの真横の壁がアルカノイズによって消え去る。

 それと同時にその奥に見えるのは……!!

 

「アルビノ・ネフィリムッ!!」

 

 聖遺物を使わず機械で起動させた結果生まれた、あの白いネフィリム!!

 アルカノイズに炭にされるんじゃなくてアルカノイズを食らいながら聖遺物を纏うわたしに突っ込んでくるネフィリムに対して、急いで大きな丸鋸を二枚展開して盾にするけど、それを突き抜ける程の衝撃と共に二枚の丸鋸が食われ、そのままわたしの体は吹き飛ばされる。

 

「ぐぁぁっ!?」

 

 いったい……!! でも、両手で抱えた過去のわたし達だけは、守り切る!

 二人を抱えて背中から叩きつけられる……けど、守り切った!

 アマルガムを使えば倒せるかもしれないけど……でも、今のわたしは過去のわたしのギアを使っている。これじゃあアマルガムを使えない……!! 出力の低いギアでどうやってネフィリムを倒せば……!!

 

「はははは! いいぞ、もっとやれ聖遺物喰らいの聖遺物よ!!」

 

 そんでもってあっちの傍観者はウザい!!

 後で拷問にでもかけてもう二度とこんな事を想い付かないように調教しておいた方がいいんじゃ……

 

「お、おい、なんかあの怪物、こっちを見てないか!?」

「は? 気のせいだろう。あいつが狙うのは聖遺物だけだ。俺達は聖遺物なんて……」

「タイムジャンプ装置の中に埋め込んでいるだろ!!? 時空間に干渉する聖遺物を!!」

 

 ……へ?

 いや、ちょっ、拷問にかけるとは言っても殺すなんて言ってない! もうネフィリムのせいで誰かを殺させたくなんかない!

 

「間に合って!!」

 

 すぐに卍火車を撃つけど、今のわたしの卍火車じゃネフィリムを止められる訳も無く、むしろネフィリムはそれを喰らって大きくなるだけ。わたしの方を見ずに、恐らく力が強力なのであろうタイムジャンプ装置を持つ錬金術師の方へと向かって……

 

「や、やめっ」

「い、嫌だったんだ! 最初から! こんな計画に乗るなんてぇぇぇ!!」

 

 助けようと手を伸ばしたけど、二人はわたしの目の前で食われてしまった。

 っ……また、ネフィリムのせいで犠牲者が……多分過去のあの人は本当に関係ないはずだったのに……!!

 ……でも、時間はできた。一度ギアを解いて、昔のわたしの手に握らせてから、わたし自身のシュルシャガナを握る。

 

「various shul shagana tron」

 

 ギアを纏い、そのまま両手を交差する。

 

「アマルガムッ!!」

 

 ギアインナーが変わり全てのエネルギーが金色のバリアフィールドへと変換される。それを束ねて咲いた金色の花を掲げ、不退転の武器とする。

 切ちゃんが居ないアマルガムは初めてだけど……でも、この盾で、守る!!

 もうネフィリムに殺される被害者なんて、要らないんだ!!

 

「この力で、守るんだ!!」

 

 盾を掲げ、ネフィリムと相対したその時。

 

「だからこそ、共に戦いましょう!!」

 

 ネフィリムが通ってきた穴から、銀色のビームが飛んできてそのままネフィリムに炸裂。同時に飛んできた短剣が次々とネフィリムに突き刺さり、ネフィリムは怯む。

 このビームと短剣……当時のマリアはまだアガートラームへの適合はできてない……

 なら、このアガートラームの攻撃の主は!!

 

「どうしてあなたがシュルシャガナを纏っているのか分かりませんが……月読さんと暁さんを守ってくださっているのなら、共に戦いましょう! お二人と、F.I.Sのみんなを助けるために!!」

「セレナ……!!」

 

 やっぱり、セレナだ!!

 そうだ、まだネフィリムが稼働しているのなら、セレナは死んでいない。むしろネフィリムがここに居るのなら、セレナの死因が無くなったと言ってもいい!

 でもこのまま一緒に戦えばきっとセレナは死んじゃうけど……だけど、この場で共闘しない理由が無い!!

 

「わかった、一緒に戦おう!」

「はい!」

 

 二人で並んで武器を構えてネフィリムと相対する。

 白いネフィリム……こうやって見るのは初めてだけど、あの時の赤いネフィリムと比べれば、赤子も同然!

 

「わたしが時間を稼ぐ! 隙ができたらわたしがネフィリムを止めるから、セレナはその間に絶唱を!」

 

 セレナの絶唱の適性ならネフィリムを止めることができるから、今回の戦いはセレナがカギになる。

 

「わたしの絶唱……はい、わかりました! わたしは大丈夫ですけど、あなたは大丈夫なのですか!?」

「この黄金錬成の不退転なら、心配いらない! あんな芋虫もどき、どうとでもなる!」

 

 盾を投げ、変形させて人型にする。

 それを両手の指から伸ばしたエネルギーワイヤーで操り、わたし達の前に立たせる。

 きっと一度でも食われれば、再生はできない。この力は不退転。後退なんて許されない力にスペアなんてない。一度使ったのなら、勝つか負けるかの戦い!

 チャンスは一回きり。その一回で、ネフィリムを倒す!!

 

「来た!」

 

 ネフィリムがわたし達を食べようと突っ込んでくる。

 それならカウンターで!!

 

「そこっ!!」

 

 ネフィリムに殆ど思考能力はない。だからこその愚直なカウンター。

 突っ込んできたネフィリムの前足を金色のロボットで斬り裂き、もう片方の足をそれを操るエネルギーワイヤーで斬り裂く。きっと通常時のギアだと力負けしていただろうこのカウンターも、アマルガムの力なら力づくで押し込めた。

 両前足を斬り裂き、ネフィリムが倒れた所でロボットを変形。檻のようにしてそのままネフィリムを拘束する。

 

「セレナ!!」

 

 ネフィリムが咆哮を上げながらロボットに食らいつく。

 いくら不退転の力でも、ネフィリムのような聖遺物特攻の攻撃を受けたら無事では済まない。徐々に徐々に食われて行く檻に顔を顰めながらも、でも絶唱分の時間は稼げたことで勝利を確信する。

 セレナの絶唱が一撃でも当たれば、この戦いは!

 

「――Emustolronzen fine el zizzl…………いきますっ!!」

 

 セレナが絶唱を唄い終え、白銀のエネルギーを放出する。

 そのエネルギーの波に巻き込まれたネフィリムが苦しみだし、わたしはセレナの邪魔をしないように檻を縦に戻して腕に装着。そのまま後ろに飛び、同時に気絶している過去のわたしと切ちゃんを抱えて上げて衝撃から逃れる。

 十数秒。いや、もしかしたら数分にも及ぶセレナの絶唱によるエネルギーベクトル操作が行われ、白銀の光が徐々に徐々に収まったと思うと、ネフィリムが居た場所には基底状態にまで戻ったネフィリムが。そして、セレナは肩で息をしながらもなんとか立っていた。

 

「はぁ……はぁ……や、やった……!!」

 

 基底状態にまで戻したセレナはそれを見て喜んでいるけど、わたしは見逃さない。

 セレナの真上の天井が絶唱の衝撃で崩れ始めているのを。

 

「危ない!」

 

 それを盾で防いで壊し、セレナを何とか助ける。

 

「あっ……ありがとう、ございます……」

「ううん。セレナのお陰で助かったから、代わりに助けただけ。辛いなら寝てていいよ。後はわたしが何とかしておくから」

「い、いえ……大丈夫、です。それよりも、月読さんと、暁さんを先に……」

 

 絶唱のバックファイアで目と口から血を流して本当に辛そうなのに、セレナは過去のわたしと切ちゃんの心配をしてくれる。

 優しいなぁ、セレナは。

 でも、そんなセレナにいつまでも構っていられない。ここでもたもたしていたら、もしかしたらわたしのせいで未来が変わってしまうかもしれない。こうしてアルビノ・ネフィリムを基底状態に戻して切ちゃんを助けられた以上、わたしはここで退散しないと。

 

『セレナ! 無事ですか、セレナ!』

 

 そう思いながらも、とりあえずここからどうしようだなんて考えていると、マムからの通信が入った。

 そっか。一応過去の通信もシュルシャガナなら傍受できるんだ。

 

「ま、マム……ネフィリムは、封印しました。それと、月読さんと暁さんも、無事です」

『よかった……待っていてください、セレナ。すぐにそちらに回収班を寄越します。本当に、よく頑張りましたね』

 

 ……それなら、ここでわたしは退散しようかな。

 これ以上ここにいたら厄介な事になるし、ね。

 

「……じゃあね、セレナ」

「え? あっ、ちょっと!?」

 

 アマルガムのまま、こっちのわたしのシュルシャガナをセレナに投げ渡して、そのまま研究所を出る。

 多分セレナはこの後、運命通りに……でも、切ちゃんは助かった。歴史はきっとこれで元通りになる。

 だから、これでいいんだ。これで。

 わたしはF.I.Sの追手が来ない内に飛行機のチケットをその場で取ってそのまま日本に戻り、この間飛び降りたビルの上から再び飛び降りた。

 きっと、これでいいんだ。セレナは助からなかったけど、切ちゃんは助かったから、これで……

 目下に広がる恐竜達の喧嘩やらを見送りながら、どうしても釈然としない気持ちを持って、わたしはそのまま現代へと戻ってきたのでした。

 

 

****

 

 

 そう、釈然としないまま、戻ってきた。

 だってセレナはあの後死んでしまい、歴史は元通りになるのだから。だから、もう二度とセレナには会えないって思っていた……思っていたのに。

 

「あっ、月読さん。昨日はどうしたの? 訓練にも来ないで休んだりして」

「そうデスよ、調! 連絡しても出てくれないなんて酷いじゃないデスか!!」

「えっ、あ、いや、その、それは……ね?」

 

 なーんであの日ちょっとだけ見た大人になったセレナが素知らぬ顔で混ざってるの!!?

 

「調さんにはボクが作った装置の実験に極秘裏に行ってもらってたんですよ。こればかりはあまり知られたくない事だったので、切歌さんとセレナさんにも秘密にしてもらったんです」

「そ、そうそう、そう言う事……」

「なんだ、そうだったんデスか。てっきりあたしと同じで頭痛と吐き気で休んだのかと……あっ、ちょっとチョコレートミルク飲んでくるデス」

 

 どうやら歴史の改編で昨日のわたしはエルフナインの言う通りの事をしていた事になったけど、それ以上に気になるのはやっぱりセレナだ。

 あの後、セレナは運命通りに死んだはず。じゃないと、過去に戻る前にエルフナインに言われた、生者と死者は差し引きゼロって……

 …………ん? 生者と、死者は、差し引きゼロ…………

 

「…………あっ!!?」

 

 そ、そうだ!! ネフィリム!!

 ネフィリムに一人食われてた!! あの時代の、あの場に居る筈が無かった錬金術師が一人、あそこで食べられていた!!

 セレナが死んで切ちゃんが生きるのなら、セレナの代わりにあの錬金術師が死んでセレナが生きていたのだとしたら!!

 

「どうしたの、月読さん。そんなに大きな声を出して」

「い、いや、なんでもないよ……ちなみに、セレナ。アルビノ・ネフィリムって、セレナはどうやって基底状態に戻したんだっけ……?」

 

 セレナとはもうあれから会わないだろうからと思って共闘したけど、セレナが生きているって事は……

 

「……戦って、戻したよ?」

「そ、そうだよね。ち、ちなみに、それは一人で……?」

 

 汗をダラダラと流しながら聞けば、セレナはどうして今さら? と言いたげな表情をしていたけど、すぐに何かに思い当たったかのような表情をして、笑顔でこう告げてきた。

 

「月読さんと、だよ? あの時はありがとね、ついさっきまでどうにかして過去に行っていた月読さん?」

「あ、あはは……な、ナンノコトヤラ…………」

 

 ば、バレテーラ……

 わたしはどうやら意図せずに歴史を変えてしまったらしい。やっちまったと言わんばかりに冷や汗をダラダラと流して、こっちに戻ってきた瞬間消失したタイムジャンプ機を思い浮かべながら、とっととその場を離れた。

 だ、だからなのかなぁ……さっきからずーっと、チョコレートミルクが飲みたいって思うのは…………

 …………もう考えないようにしよう、そうしよう。




という事で時空断裂をどうにかしたつもりが新たに時空断裂を引き起こして過去が変わってあーもう滅茶苦茶だよ状態だけどいい方向に世界が進んだのでチョコレートミルクをがぶ飲みエンドでした。サラッとその場に居た切ちゃんもチョコレートミルクをがぶ飲みエンド。

はい、こっからはいつもの怪文書ですが……まずはULTRAMANコラボ。とうとうやりやがったなと思いながらもストーリーを読んで、やっぱULTRAMANの諸星さんとか北斗は性格全然ちげーなーって思いました。
最初は洗脳……家族を殺された……それぐらいできる天才……つまりバルタン星人だな!! とか思った直後にノラザム星人出てきて誰だよテメーは。いきなり現れて好き勝手言ってんじゃねーぞ状態でした。でも面白かった。
あとエースギアの調ちゃんが可愛い。ウルトラタッチしたりホリゾンタルギロチンするの可愛い。凸れなかったけど。

で、ようやく書けたし更新よーとか思った直後!! なのはコラボって俺得コラボでコラボの八割を占めるのをヤメロォ!(建前)ナイスゥ!!(本音)
多分なのは、フェイト、はやての三人が出てきて三人をモチーフにしたギアが出てくるんでしょうけど、個人的には翼さんにレヴィのバルニフィカスを持って欲しい。水色だからフェイトさんよりも合ってるだろうし。
最近色んなとこでなのはがコラボしてるなーとか思ってたんですが、まさかのシンフォギアとまでコラボしてくるとか予想外でした。いや、上松繋がりで来ねーかなとか思ってたんですけどね?
ゴジラ、ULTRAMAN、なのはとコラボしたから出したい作品が増えていく……とりあえずゴジラの平成モスラコラボ話書いて、ULTRAMANはどうしましょうか……バルタン星人がシンフォギア世界にやってきてスペシウムが使えるF.I.S組が戦うとか、そんな話を書いてもいいかもしれませんね。

コラボキャラ使ったこんな話を! とかあったら活動報告の方に怪文書で乗っけてくれるともしかしたら参考にするかもしれません。

君達の怪文書、待ってるぜ!!

……そういや三人娘って一応聖遺物纏っているんだからギャラルホルン通って異世界に来れたりしないのかな。可愛いと思ったらやべーくらいゲスでジジイに惚れてるあの子もギャラルホルンを通ってこれたんだし。
可能なら出してあげたい感ある。


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月読調の華麗なる二本立て

今回は活動報告でいただいたネタの二本立て。

リクエストにあったアイドル時空でうた〇んの中〇くんと大〇くんの下克上コントと、超〇塾のパロで絶唱塾です。最初はこれで一本とか考えたんですが、自分の力ではちょっと無理があったので、二本立てという形にしました。

ご期待に沿えた出来に仕上がってるかはわかりませんが、これが俺の下克上コントと絶唱塾だぁぁぁぁぁぁ!! という事でどうぞ。


**月読調の華麗なる乱闘**

 

 どうも、アイドルの月読調です。

 誰に自己紹介してるんだろうね。わたしもよく分からないよ。でも確実に言えるのは毎度毎度わたしは変な電波を拾っているという事。

 で、だけど。今回緒川さんが取ってきた仕事なんだけど、結構意外なモノだった。

 

「えっと、つまり私達にうた〇んで乱闘を始める仲〇さんと大〇さんをやれと?」

「はい。バラドげふんげふん。新人アイドルと世界的歌手であるお二人ならではの失礼な言動とそこから始まる乱闘を見てみたいという話が時々出ていまして」

 

 そんなのが見たい人なんているんだ……

 あの番組は見たことあるけど、確かごにょごにょと横に居る人から何か言われた人がその通りに失礼な事を言って、結果大物の人がキレて乱闘騒ぎになりかけるっていう天丼を繰り返す感じの奴だったと思う。

 その失礼な事のキレが良すぎてついつい笑っちゃうんだよね。わたしも結構笑ったよ。

 で、今回はあの日、わたし達を無人島に連れていきやがった番組内のミニコーナーみたいなので、それをやってほしいとの事。緒川さんにバラドルって言われて十分キレそうだったけど、もう名誉バラドルなのは逃れられそうにないから遠い目をして受け止める。このお仕事もほぼ拒否権ないからね……いや、できるんだけど、した所で多分後でハメられて結局やる羽目になるか、緒川さんが悲しそうな顔をして結局受ける羽目になるかだから。

 

「という事でこちらが台本です。当日はマリアさんとご一緒に、翼さんが仲〇さんの役を、調さんが大〇さんの役をやってもらう事になります。それと、仮面を被ったあの日の寝起きドッキリメンバーも数名いますが、基本的に乱闘を止める係ですね」

 

 なるほど、わたしがマリアに色々と吹き込まれて悪口を言うんだね。

 それじゃあ、その日のためにちょっと表情筋殺す訓練でもしてようかな……多分真顔で言った方が面白いだろうし。

 ――と、言う事で。

 

「では始まりましたこの企画。あの日ドッキリをしてきやがったメンバー共の本音を聞いてみようのコーナー。メインのパーソナリティーとしては私達風月ノ疾双の二人である私、風鳴翼と」

「月読調です。そしてゲストに」

「マリア・カデンツァヴナ・イヴよ。この日のためにアメリカからの帰国命令が出たわ。お陰でちょっと寝不足よ」

「いつの間にかモデル業メインにアイドルやり始めちまった雪音クリスだ。どうしてこうなったのかアタシも知りたい。ちなみに、アタシはあの日のCって名乗ってた奴だったりする」

「そして残りのメンバーは仮面をかぶったわたし達! 謎の美少女仮面Hと!」

「Mです。それから」

「Kデス! まさかまたこの仮面を被ってテレビ出演なんて思ってもいなかったデス!」

 

 メンバーはなんというか、とりあえず即席で集められるメンバーという事で、お小遣いをちらつかせて出演してもらった響さん、未来さん、切ちゃんの三人。

 ちなみに三人はちゃんと仮面を被っているから顔バレは無いと思うよ。あったとしても編集でモザイクがかかるだろうしね。

 さて。そう言うわけで本日のメンバーは六人。疾双ラジオの豪華版みたいになっているけど、ノリとしてはそれの延長線みたいな感じだし、なんかいつものテレビの収録よりもちょっと気楽に来ています、はい。

 

「何気に顔見知りだらけのこの収録。いつものように気を張るのではなく、リラックスしてやろうではないか」

「そうですね。わたしも結構気楽にやります」

「某番組の乱闘をやれと言われても、この雰囲気ではできぬかもな、ははは。さて、適当に話した所で本題と行こう。それじゃあ最初はたちば……じゃなくてH。お前から行け」

「マジっすか? えっと……確かこのフリップを出すんでしたっけ?」

「そうだ。この通り、普段ならリテイク物の物忘れでも、普通にやっていくぞ。というわけでドン」

 

 響さんが急に流れを振られたせいで戸惑っていたけど、リテイクなんてせずに翼さんの言葉に合わせて響さんがフリップを出した。

 そこに書いてあるのは……

 

「温泉シーンが全体的にアレ……と。どういう事だ?」

 

 温泉シーンが全体的にアレって……確実にアレじゃん。

 わたし達のとある一部の発達が未熟だからなんかこう、色気が足りないって事じゃん。

 ……え? マリア? もう? あ、うん。えっと、なになに?

 

「いやー、二人ともどちらかと言えば胸が慎ましやかじゃないですか? そのせいでなんかこう、男性的にはちょっとアレだったんじゃないかなって思っちゃいまして」

「ケッ。お前は大きいからそんな事が言える」

 

 ……えっ、マジで? マジでそんな事言うの?

 思わず笑っちゃったけど、勿論リテイクなんてかからずに、翼さんに視線を向けてオーケーを知らせる。

 さて、一発目の悪口行きましょうか。

 

「さて、私はこの通り結構イラついたが月読はどうだ?」

「翼は器まで小さいからこの程度でキレんだよ」

 

 その瞬間、翼さんが立ち上がってこっちに掴み掛ろうとしてきたけど、その前に響さん達が翼さんを羽交い絞めして止める。わたしはマリアに抱き着いて素知らぬ顔。

 

「貴様ァ!! 誰が器も小さいだゴルァ!!」

「お、落ち着いてください翼さん! そういう風に怒ると本当に器が小さく思われますよ!?」

 

 うわぁ、結構マジギレしてる感じ……

 ……これ、収録が無事に終わってもその数日後には真っ二つにされて死んでそうなくらい逆鱗に触れてるくさいんだけど。これ本当に大丈夫? わたし数日後に死んでないよね? 

 えっ、マリア、ここでまた?

 うん、うん……分かった。

 

「くっ、そうだな……私はこの程度ではキレぬ先輩だ。いつもはもっと優しいからな、そうだろう?」

「そういう所が器がちいせぇ理由だよ」

「叩っ斬るぞオルァ!!」

「落ち着いてくださいってば! 収録中ですよ!?」

 

 翼さんが台本を丸めて構えているけどこっちはマリアに抱き着いて素知らぬ顔。

 スタッフがかなり笑ってるし、緒川さんも思わずといった感じに顔を背けて笑ってるけど、あの人は本当にアレでいいんだろうか。これでわたし達の仲がこじれたら……いや、この程度じゃ別にどうにもならないか。なんやかんやで世界救った仲だもんね。

 

「くっ……! お前後で覚えとけよ…………」

 

 翼さん、割とマジギレの表情で着席する。

 これ大丈夫だよね? 後でわたし殺されないよね? 死惨血河の一部にされないよね?

 

「次だ。後輩M、フリップを」

「あっ、はい。えっと……これです。案外翼さんってフランクですよねって」

 

 あー、なるほど。

 確かに学校の人とかって翼さんは近寄りがたいイメージが、とか言ってたけど、翼さんのクラスメイトだった人って結構翼さんと仲良かったらしいし。案外翼さんってフランクだから親しみやすい人なんだよね。

 

「ん? これは……どういう事だ?」

「わたしもビックリしたんですけど、翼さんってほら。世界的歌手じゃないですか。そんな人がこんな一般人と仲良くなる訳がないって思ってたんですけど、こうやって仲良くなってみるとすごい普通の人でビックリしたなって」

 

 え? 翼さんが、普通……?

 あの人一番奇天烈……いや、なんでもない。

 で、マリア。今度は何? えっと……えー、そんな事言うの? まぁ、番組だし仕方ないけどさ……

 

「Hもそうか?」

「はい。それまでは結構憧れというか、天上の人ってイメージだったんですけど、いざ会ってみると凄い良い人で。ただ、最初の頃はちょっと冷たいと言うか、硬いと言うか、そんなイメージでした」

「そうか。確かに、私はイメージでそういう人間だと思われることが多いようでな。まだまだ改善の余地有りか。で、月読はどう思う?」

「器もちいせぇのに初対面の他人への態度も硬いとか終わってんな」

 

 はい乱闘。

 

「おまっ! おまっ!! それは言ったら決闘だろうが!!」

「落ち着くデス! そういう企画デスから落ち着くデス!!」

「剣持てぇ!! 決闘だオルルァ!!」

 

 しかしわたしはマリアに抱き着き庇われます。

 と言うかこれ、大丈夫だよね? 本当に後で仲違いとかしないよね? ちょっと不安になってきた。

 え? もう次の仕込み? うん、いいけど……

 

「わ、私は優しい先輩だからな、怒らない怒らない……だが、実際当時のクラスメイトにもHと同じような事を言われたのは確かだ。雪音なんか最初は喧嘩腰だったからな?」

「そ、それはもう忘れろセンパイッ!!」

「月読も最初はかなり喧嘩腰だったな?」

「その程度の人間だろうって初対面で思ったからだよ」

 

 はい再び乱闘。

 

「言うに事欠いてそれか月読ァ!!」

「センパイ!! これ企画!! イラつくのは分かるけど落ち着けセンパイ!!」

「ついでに言っておくがこれ結構辛いからな!!? 疲れるんだぞ!! Hとか頼んでも無いのにガチでこっちを締め上げてきてるからな!!? 割とガチだぞコイツ!!?」

「予想以上に翼さんの力が強いんですから仕方ないじゃないですか!?」

 

 そんな感じでかなりの頻度で乱闘した結果、この企画は三十分程度の収録だったのに最終的にわたしとマリア以外全員肩で息するほどになりましたとさ。

 

 

**月読調の華麗なるコント**

 

 

 どうも、特に特殊な肩書は何もない月読調です。

 いや、装者っていう特殊な肩書はあるんだけどね? なんかこう言っておかないとアイドルと勘違いされるぞって電波が……ホントどういう事だろう。

 で、今のわたし達だけど、実はSONGの忘年会に来ています。

 普通に楽しむっていう名目もあるんだけど、もう一つある名目としては、実はわたし達装者でコントとかをやるって話になりまして。いつもは緒川さんとか藤尭さんとか弦十郎さんとかが一発芸をしてるんだけど、今回は翼さんやマリアが正式にSONGの構成員になったという事で、それなら二人にその一発芸みたいなのをしてもらおうという事で、二人が一発芸をする事になったんだけど……

 なんでかわたし達も参加する流れになりました。いやー、場酔いって恐ろしいね。なんでかわたし達でやる事になっちゃったよ。クリス先輩もなんだかノリノリだし。

 あっ、この人ツッコミね。

 で、練習を重ねて今、その当日です。

 

「……なぁ、もう一度聞くが、マジで導入これでやんの?」

「元ネタにはある程度忠実にいかないと駄目だからね!」

「一応元ネタ通りは止めてちょっとマイルドにしただろう。これ以上は電車ごっこになるぞ」

「完全に元ネタ通りはシュールすぎたものね……」

 

 で、舞台裏。今回わたし達がやるのはコント。一応ショートコント……なのかな? とある芸人たちのグループがちょうど六人で、わたし達と丁度いい感じに人数が合っていたから、ボケはあまり似合わないしツッコミが似合う女だって事でクリス先輩がツッコミ。他五人でボケをする事に。

 司会をしてる藤尭さんから視線が送られて、そろそろいいかな? と聞かれる。それに頷いて、クリス先輩を響さんが背負って、翼さんをマリアが背負って、切ちゃんがわたしを背負って準備完了。

 ちょっと恥ずかしいけど……まぁ、なるようになれ!

 

「よし、次は我等がアイドルこと装者六人によるコント! 絶唱塾、どうぞ!」

 

 と言いながらステージの上から退いた藤尭さんを確認してからせーのっ、で息を合わせて響さん達がわたし達を背負ってステージの上へ。

 

『ぱーっぱぱーっぱーぱーぱらっぱっぱー!』

 

 ちなみにわたしとクリス先輩とマリアは自棄です。

 で、登場したところで降りてっと……

 

「どうも! わたし達、絶唱塾です!」

『夜露死苦ッ!』

 

 ビシッとポーズを決めてカッコつけ。このポーズやる意味ある? って言われても特にないですとしか言い返せません。

 まぁ、コントだし、これぐらいはね?

 で、六人で横に並んで、後は決めたネタをやるだけ。

 

「実はわたし達、軍隊みたいに点呼を取ってもらいたい!」

「はっ、お前等みたいな非常識集団にできるかよ!」

「じゃあ私が点呼を取ってもらうぞっ!」

『なにっ!』

 

 最初は翼さんから。

 ちなみに並び方は翼さん、マリア、切ちゃん、わたし、響さんの順番。

 

「じゃあアタシが番号! って言ったら一、二、三、四、五と言うように。行くぞ、番号ッ!」

「こいつ一ッ!」

「これが二ッ!」

「この子三ッ!」

「この人四ッ!」

「あの人五ッ!」

「なんでややこしくするんだよッ!!?」

 

 翼さんから切ちゃん、マリア、わたし、響さんの順に指を指して最後に響さんが翼さんを指さして点呼を取ったらクリス先輩のツッコミが翼さんに炸裂した。しかも結構思いっきり。

 リハーサルと違って結構マジなツッコミに翼さんの目が白黒してるけど、とりあえずネタを進める。

 

「普通に言えばいいのにどうしてややこしくすんだよ!」

「じゃあ次は私が先頭!」

『なにっ!』

 

 で、次はマリアが先頭に。翼さんはわたしと響さんの間に。

 

「番号ッ!」

「一! から」

「五ッ!!」

「横着すんな!! 真ん中すっ飛ばしてんじゃねぇ!」

 

 切ちゃん、わたし、翼さんをすっ飛ばした点呼のせいでマリアが思いっきり頭を叩かれた。

 

「次はあたしが先頭!」

『なにっ!』

 

 で、次は切ちゃんが先頭。マリアは翼さんと響さんの間に。

 

「番号!」

「2-1!」

「4/2!」

「9÷3!」

「2の二乗!」

「2.5の二倍!」

「なんでややこしくすんだよ」

 

 そして今度はクリス先輩のツッコミが切ちゃんの頭に。

 やめたげて、これ以上切ちゃんがお馬鹿になったらマズいですよ!!

 ……というのは置いておくとして。次はわたしの番。

 

「なら次はわたしが先頭」

『なにっ!』

 

 えっと、ネタは……よし、覚えてる。やろう!

 

「番号!」

「一!」

「私が一だ!」

「なら二!」

「私が二よ」

「なら三!」

「あたしが三デス!」

「なら四!」

「わたしが四!」

「なら五でいいよ……」

「折れるな!」

 

 はい完璧。

 でもなんかちょっとツッコミ強くありません? 結構痛かったんですけど……

 まぁいいや。

 それじゃあ最後だけど、最後を締めるのはやっぱりこの人!

 

「じゃあ次はわたしがせんちょっ……」

「言えてねぇよ」

「……んんっ! わたしが先頭!」

『なにっ!』

 

 そう、響さん。という事でわたしが一番後ろに行って響さんはみんなの前を通って先頭へ。

 

「番号!」

 

 で、ここでわたしの出番!

 

「一を言う三秒前!」

「三!」

「二!」

「一!」

「一ッ!!」

「普通に言えやッ!!」

 

 バシンッ! とクリス先輩が思いっきり響さんの頭をしばいてこのネタは終了。横一列に並んでいたのを解散してばらばらになりながらとりあえずネタを進める。

 ちなみに今回は一本じゃ物足りない感じの時間だったから二本立てだよ。

 

「あー、あたし達は点呼もできないんデスか」

「ならそれはそれと置いておこう」

「じゃあわたし、ゴレンジャーやりたい!」

 

 という事で整列。今度の順はマリア、翼さん、響さん、切ちゃん、わたしの順番。

 本当ならマリアの所がクリス先輩だといいんだけどね。クリス先輩、ボケじゃなくてツッコミがいいの一転張りだったから……

 

「はっ、お前らにゴレンジャーができるわけないだろ」

「じゃあ私がゴレンジャーになってやるわ!」

『なにっ!』

 

 という事で二本目スタート。

 

「出たわね悪の組織! 私はアカレンジャー!」

「アオレンジャー!」

「キレンジャー!」

「ミドレンジャー!」

「モモレンジャー!」

「ごに」

「四人揃って!」

『ヨレンジャー! 出たなアカレンジャー!』

「誰と戦ってんだお前等!」

 

 クリス先輩が思いっきり翼さんの頭を叩いて元の位置に戻っていった。

 最初はパーソナルカラーで合わせたけどこの後は普通にバラバラになります。

 

「なら私がアカレンジャー」

『なにっ!』

 

 という事でマリアがわたしの横について、翼さんがアカレンジャー。

 

「出たな悪の組織! 私がアカ、Ranger」

「アオRanger」

「キRanger」

「ミドRanger」

「モモRanger」

「五人揃って!」

『ゴ、Ranger』

「なんで発音よくなるんだよ!」

 

 ちなみに翼さんと響さんは結構似非というか、それっぽい発音の英語だけど、わたし達F.I.S組は結構ネイティブ寄りの発音だったりするよ。要らない所でガチだよ。

 で、次は翼さんが退いて響さん。

 

「次はわたしがアカレンジャー」

『なにっ!』

 

 わたし達で戦隊物しようとしたら、色的にはクリス先輩がリーダーだけど、実質的には翼さんやマリアがリーダーかもね。

 とか思っていたら響さんに実は戦隊には白やピンクがリーダーだった戦隊もあるって聞いて結構驚いた。赤だけがリーダーじゃないんだね。わたしは日本の戦隊もパワーレンジャーもにわかだからこれ以上口出しできないけど。

 

「出たな悪の組織! わたし、アカレンジャーと申します」

「アオレンジャーと申しますデス」

「キレンジャーと申します」

「ミドレンジャーと申す者よ」

「モモレンジャーという者だ」

「五人揃って!」

『ゴレンジャーと申します』

「名刺出すな!!」

 

 そして響さんから連続で懐から名刺入れを取り出して五人で同時に名刺交換したらクリス先輩から叩かれた。

 まぁ、普通に考えて五人同時に名刺交換とか無いよね、うん。あと戦隊が相手に向かって名刺を出すとか。

 出すとしたら何だろう……社畜戦隊サラリージャーみたいな?

 

「じゃあ次はあたしがアカレンジャーデス!」

『なにっ!』

 

 で、次は切ちゃんがアカレンジャー。

 

「出たな悪の組織! あたしがアカレンジャー!」

「わたしがアカレンジャー!」

「ならアオレンジャー!」

「私がアオレンジャー!」

「ならキレンジャー!」

「私がキレンジャー!」

「ならミドレンジャーっ!!」

「わたしがミドレンジャー!」

「もうモモレンジャーでいいデスよ……!!」

「もっと自分を強く持てや!!」

 

 スパーンと切ちゃんがクリス先輩に叩かれる。

 まぁリーダーがこんな風に赤じゃなくて桃まで譲る結果になって、しかも不貞腐れていたら誰でも頭を叩いてツッコミを入れたくなるよね、そりゃあ。

 あっ、次わたしだ。

 

「ならわたしがアカレンジャー」

『なにっ!』

 

 トリはわたしだよ。

 じゃあ、最後に行こうか。

 

「出たな悪の組織。わたしが牙狼レンジャー!」

「ウルトラレンジャー!」

「仮面レンジャー!」

「刑事レンジャー!」

「トミカレンジャー!」

「五人も揃ったら!」

『方向性が違ってくる』

「もうちょっと纏めてこい馬鹿共ッ!!」

 

 わたしが剣を構えるポーズをして、マリアがスペシウム光線のポーズを取って、翼さんが手を斜め上にピシッと伸ばして、響さんが手を翳して、切ちゃんが敬礼。

 で、ここからが最後の締め!

 

「くそっ、こうなったら!」

「ゴレンジャーの!」

「必殺技をお見舞いしてやるデス!」

 

 わたし達がマリアと翼さんを体で隠してセリフを言って、二人の準備ができたのを信じて響さんが声を上げる。

 

「くらえ必殺! 身内の権力」

「お前達だな? このこくっみんっ! 的歌手の身内に手を出したのは」

「あなた達の悪い噂を芸能界とコネを使って全力で流してやるわ。覚悟しておきなさい!」

「最低じゃねぇか!!」

 

 クリス先輩が思いっきり翼さんの頭を叩いて、二人があの一瞬で懐から出してかけたサングラスがズレた。

 

「以上!」

「絶唱塾の!」

「ロックンロール!」

「劇場!」

「おしまいっ!」

『シーユーッ!』

 

 と、言う事で絶唱塾でした。

 ちなみに職員の皆さんには結構受けが良かったよ。やったね。




本当は最後の身内の権力の所を翼さんとマリアさんじゃなくてビッキーにして
「くらえ必殺! 特撮のマスコット」
「くだらない質問の多い奴だな!」
って感じで特撮の中の人繋がりでやるか
「くらえ必殺! クウガ系女子」
「もう、誰かが泣いてるのを見たくないんです! だから、聞いてください! わたしの、絶唱ッ!」
とかやろうと思ってましたが、身内の権力にしました。

で、そろそろなのはコラボも開催ですね。なのはキャラを出す話は一応ストーリーが出きってから話を考えるので遅くなると思います。
にしても、既に登場する装者とコラボするキャラは決まりましたが、赤色ツンデレ繋がりでヴィータ×クリスちゃんとか、日笠繋がりでマリア×イリスとか、ピンク繋がりで調ちゃん×キリエとかも見てみたかった。

ではまた次回、お会いしましょう。もしかしたら暫くはこうやってリクエストを二本立てとかして消化していくかも。


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月読調の華麗なる魔法バトル

今回はなのはコラボ回です。
文字数迫真の二万四千文字。長すぎィ!!

やりたい事詰め込みたかったけど詰め込み切れなかった。普通に装者七人+なのは側からも結構主要人物だしたのでそりゃあやりたい事やりきれないよねって。

調ちゃんがコラボに混ざってたら人数もうちょっと減らせたんですけどね……

そんな各キャラの出番を考えながら書いたなのはコラボ回です。ちょっと今回から歌の部分を分かりやすいように色分けしてみましたが、不評なら戻します。

という事でどうぞ。


 わたし達が海外に出張している間に片付いた魔導士という魔法を使える、言っちゃえばマジモンの魔法少女達と一緒に響さん達が異変を解決してから暫く。

 響さん達のギアに搭載されたフォーミュラって言うのはギアの改修を手伝った姉妹の方々に回収されたらしいんだけど、あの時確かに魔法を一時的に借りる形で使えていた響さん達のテンションは、その後も結構高かった。何せ錬金術じゃなくて本物の魔法だからね。そりゃあテンションも上がるよ。

 にしても、小学五年生の子達が魔法を使って世界を懸けた戦いをしてるって……世の中分からないよね。

 わたし達も比較的世界の危機とは対峙してきた方だし、なんだったらウルトラマンやゴジラみたいなヒーローや怪獣とも戦ってきた身ではあるけど、小学生の魔法少女、なんていうのは流石に驚いた。しかもそれが世界を救っているんだから驚き。

 確か……八神はやてって子の夜天の魔導書っていうのがバグって起こした事件がそれに繋がったんだっけ? 聖遺物も危ないけど、魔法も魔法で結構危ないんだね……未来さんから特別に教えてもらって、色んな物も使いよう一つで世界の危機を引き起こすんだなって、改めて分かった。

 で、どうしてこんな話をしているか、というと。

 いつも通り本部でストレス解消だったり運動だったりダイエットがてらだったりで訓練をしていたわたし達の元に、司令の方からとあるお知らせが来た。

 

「先日共闘した時空管理局の魔導士達から迷惑をかけたお詫びにと、つい先ほど招待を貰った。本来なら装者七人を留守にするのはあまり得策ではないが……」

「その間はベヒモスの他にもあちらの世界から持ち込まれた危険物が無いかどうか、時空管理局の方が調査しがてら問題が発生した場合は緊急の連絡と対応を手伝ってくれるらしいので、皆さんは是非とも息抜きがてら遊びに行ってはどうでしょうか? 折角のお誘いですし」

「そうだな。平行世界に全員で遊びに行くなど、ギャラルホルンを使うと中々に面倒だしな。あちら側の技術で遊びに行くのなら手続きなんて必要ない。七人での平行世界旅行とでも洒落こんできてくれ」

 

 というお知らせがあったので、それならと司令とエルフナインの言葉に甘えて時空管理局とやらの本部があって、先日の魔法少女達が現在本拠点っぽくしているミッドチルダって世界に遊びに行く事になった。

 ちなみに時空管理局っていうのは、魔法文化を持ったいくつもの世界を管理する、警察と軍と裁判所が一緒になったような組織なんだって。

 きな臭いって思ったわたしって心が穢れてるんだと思う。

 で、この世界はどうやらあちら側的には魔法技術を持っていないから管理外世界って扱いなんだって。第九十七管理外世界にもう一つ地球があるらしいんだけど、そっちが魔法少女の子達の故郷とか。だからこの世界に来た時は心底驚いたらしいよ。地球なのに知ってる人が居ないって。

 

「そっかぁ、なのはちゃん達とまた会えるんだ!」

「随分と嬉しそうだな、立花。まぁ、私もフェイトと会えるのは楽しみではあるがな。あそこまで私の事をシンプルに先輩として見てくれる存在は貴重でな……」

「あ、あはは……あの子達は翼さんの奇麗な部分しか見てませんからね……」

「小日向??」

「まぁ、翼さんの日常を見たらフェイトちゃんの態度もわたし達と似たような物になると思いますよ?」

「立花???」

「だろうな。だってセンパイだし」

「雪音????」

 

 だって翼さんだし、としか言いようがありません。

 そりゃ最初はまるで切れたナイフというか、斬れる刀というか……なんかすっごい怖そうな人ってイメージだったけど、色々と話したら結構ポンコツな面が多いって分かったし……一応先輩として尊敬してはいるよ? いるけど、それとは別にこう、この人も人間なんだなって思う点が多いと言うか多すぎると言うか……

 完璧超人なんてこの世にはいないんだなって。

 ……マリアとか特にそれだし。

 

「なんでかしら。急に調の頭に拳骨を落としたくなったわ」

 

 ひぇっ。

 拳を構えるマリアから距離を取ってとりあえず翼さんの後ろに隠れて、ちょっと呆れたようなこいつらは……と言いたいのか、多分後者であろう笑顔を浮かべる弦十郎さんが遊びに行くのが決定したのなら、とあちら側から指定された事の説明をしてくれた。

 まず、あちらの指定した場所に行く事。そしたら連絡する事。そうしたら迎えが来るとの事。

 わー簡単。

 という事で、わたし達はあちら側が指定した場所に移動した。ちょっと遠かったけど、歩いていける距離だったよ。で、ついてみるとそこには謎の機械があるくらいで、それ以外は特に何もない。

 まさかその機械を弄る訳にもいかないし、暫く待機していると、目の前の機械が急に光始めた。うわまぶしっ。

 

「よし、ゲートはしっかりと正常に作動しているな」

 

 と言いながら出てきたのは、男の子だった。

 男の子……なんだろうけど、わたしよりも背が高い。というかもしかしたら翼さんよりも高いかも……男の人の方がいいかな……?

 

「君達が件のシンフォギア装者だな。話には聞いているよ。僕は時空管理局執務官、クロノ・ハラオウンだ」

「クロノさん、ですか? なんかどこかで聞いたような……」

「あの事件の時に丁度援軍要請を受け取っていたから、恐らく母さんが僕の名前を言ったんじゃないかな。一応言っておくと、僕はリンディ・ハラオウン艦長の息子だ。それと、フェイトの義理の兄という事にもなる」

「そう言えば、フェイトは義理の兄がいると話している時に言っていたな。なるほど、あなたの事だったか。私は風鳴翼だ。フェイトには世話になった」

 

 フェイトって子関連で先に知っていたらしい翼さんが一歩前に出て手を差し出すと、クロノさんはその手を取って普通に握手。

 てっきり魔法少女が出てくるのかと思ったけど、普通に魔法使いの人が出てきた。

 魔法少女魔法少女って言ってたから、魔法少女みたいな女の人で構成されたところなのかな、とか勝手に思ってたけど、普通に男の人もいるみたい。

 ……じゃなきゃ時空管理局なんて大層な名前付けないかな。わたしが魔法少女で魔法少女だけの組織を作るんなら、もっとメルヘンチックな名前を付けると思う。

 

「なるほど、君がフェイトと仲が良かったという。いや、こちらこそフェイトが迷惑をかけたみたいだね。それと、フェイトに構ってくれて感謝する。何分、フェイトは引っ込み思案でね。取っ付きにくくなかったかい?」

「いやいや、あなたの妹君はとてもいい子だった。むしろ私の方が普段は取っ付きにくいと言われていてな。フェイトの人懐っこさが無かったら会話なんて続かなかったさ」

 

 ……何と言うか、互いに謙遜しあっていると言うかなんというか。

 聞いててもどかしい会話だなぁ。でも、それぐらいにフェイトって子がいい子なんだって言うのは分かる。

 

「それと、敬語は使わなくても大丈夫だ。きっとこの中じゃ僕が一番年下か、年下の子と並ぶくらいだからね」

「そうなのか? にしては背が……」

「こう見えても十六だ。二年前まではなのは達と同じくらいだったんだがな……ここ最近で急に伸びてこれだ。おかげで年齢確認されなくなった」

 

 に、二年で……

 …………わたしなんて身長止まったのに。

 せめて翼さんくらいの身長があればスレンダーとか言えるのに、身長止まったせいで完全にロリだし。クリス先輩はまだロリ巨乳とか言われてるけど、わたしはロリのままだし……!!

 羨ましい……!! 魔法文化に何か身長を伸ばす秘訣とかあるのかな……是非とも知りたい……!! ついでに胸も……!!

 

「な、なんかあっちの子から睨まれてるが、僕が何かしたか……? したなら謝るが……」

「気にしないでいいわ。この子、ちょっとあなたの身長が羨ましいみたいで」

「マリア!」

 

 何で言うの!? というか何で分かったの!? 今日のマリアはなんでわたしの心を読めるの!?

 

「あ、あぁ、そうか……いや、ユーノからも時々言われるから一応慣れてはいるが……あまり伸びすぎてもいい点は少ないぞ? 狭い天井にはぶつかるし、小さい方が作戦時も何かと隠密がしやすいからな」

「みんな言う! 背がある人は! みんな言う!!」

「五、七、五。月読、迫真の俳句であった」

「季語無しだな」

 

 この赤青コンビ、後で処す……!!

 

「ま、まぁ、なんだ。ここで立ち話もなんだ。早速ミッドチルダに案内しよう。本来なら管理外世界の者をミッドには連れていけないのだが……ベヒモスの件で力を貸した現地協力者だ。観光ぐらいならこちらの権力で精一杯楽しめるように押し通すさ」

「えっ、そうするとクロノさん……さんでいいのかな?」

「好きに呼んでくれ。呼び捨てでもさん付けでも何でもいい」

「じゃあクロノさんで。身長高いし。クロノさんって、偉いんですか? 聞いてる感じだと凄い偉い人って感じが……」

「まだそこまでだな。だが、執務官っていうのは案外我儘が利いてな。ついでに闇の書の件もあって大体中堅位の地位には居る。将来は母さんと同等の地位に付くのが目標だが、今はその道半ばだ。あまり偉い訳じゃない」

「いや、時空管理局の規模を聞いた上だと相当だと思うんすけどぉ……」

 

 せ、世界を幾つも管理する警察組織みたいな組織の中堅だもんね……というかもしも謙遜が入ってるとなると更にその上だろうし……

 か、確実に偉い人だ。しかも十六歳でそれっていう事は、相当エリートだ。

 凄い……そんな絵に書いたようなエリートなんて初めて見たかも。

 ……後で魔法少女の子達にさり気なく聞いてみようかな。

 

「それじゃあ、ゲートを起動する。全員、ゲートの中に入ってくれ。入って一分もしない内にそのままミッドチルダだ」

 

 そう言われてゲートと呼ばれている機械の中に入ると、そのまま機械が作動して光に包まれた。

 で、暫く待っていると急に周りの風景がさっきまでの人のいない場所からSFチックな場所に変化した。

 うわっ……何この、SF映画にありそうな凄い目に悪そうな青色の光の部屋……

 呆然と周りを見ていたけど、クロノさんからこっちだ、と声をかけられてそのまま青色の部屋を出る。なんかSONG本部にしかないような空気が抜けるような音と共に開く自動ドアを抜けると、その先にあった窓から見えた光景は都会……なんて言葉じゃ生ぬるい程の建物がひしめいた、まるで近未来の都市が広がっていた。

 

「ようこそ。魔法と科学の世界、ミッドチルダへ」

 

 クロノさんの言葉を聞きながら、わたし達は思った以上に魔法じゃなくて科学な都市を見て呆然としていた。

 なんというか……

 …………魔法のイメージがまた崩れました、はい。

 

 

****

 

 

 その後は歩きながら魔法の簡単な説明とかを聞きつつ、魔法少女の子達が待つ場所へと向かったんだけど、そこで魔法って言うのは科学に近いものなんだっていうのを聞いた。

 まず、デバイスっていうわたし達でいうギアみたいなのを持って、リンカーコアっていう魔力の源的な期間から魔力を取り出して、デバイスが魔法のプログラムを実行して魔法の行使をサポートする事で魔法を発動するんだとか。デバイスを使わなくても魔法は使えるらしいんだけど、デバイスがあった方が効率も威力も段違いなんだって。

 だから、何と言うか……魔法の杖的なのはあるけど、それはかなりメカメカしくて、あくまでも魔法っていうプログラムを起動するための装置なんだとか。なんか携帯電話代わりにもできる万能小道具的なのではあるらしいんだけど……

 なんというか、想像していたほどメルヘンじゃなかった。というか、SFだった。

 本当にイメージを崩されたけど、リンカーコアというのがあれば地球人でも魔法が使える。というか、魔法少女の子達三人の内二人は地球人らしいから、わたし達にも魔法が使えるんじゃって張り切ったんだけど、結果は一人を残して全滅。

 唯一リンカーコアがあったのはなんと翼さんとマリア。本人達も驚いていたけど、魔力総量的にはリンカーコア持ち同士ができる念話がギリギリ使える程度。ミソッカス魔力らしいです。翼さんとマリアは折角新しい力を! とか張り切った矢先に落とされて膝から崩れ落ちていた。

 にしても、なんで翼さんとマリアだけなんだろう……クロノさんと響さん、未来さんは翼さんとさっきから話題に出ているフェイトって子の声が似ていたよねー、そう言えばマリアの声に似た人がこの間の事件でー、なんて話していたけど、まさかそこに秘密が……? 

 

「おっと。どうやら待ち人が待ちきれずにこっちまで来てしまったようだな」

 

 と、色々と話して……というか、ほぼわたし達がクロノさんに質問攻めをしていると、ふと前の方を向いた。そっちに思わず視線を向けると、そっちの方から茶髪のツインテールの子とショートの子。それから、金髪のツインテールの子が走ってきた。

 あれは……あっ、そうだ。確か魔法少女の。

 

「響さん!」

「なのはちゃん! この間ぶり!」

 

 そうだ。高町なのはちゃんと、フェイト・T・ハラオウンちゃん、八神はやてちゃんだ。

 早速響さんが走って、そのままなのはちゃんとハイタッチを決めたけど、何と言うか……やっぱりあの人元気だなぁ。なのはちゃん達もだけど。

 わたし達全員で苦笑して、とりあえずそのまま手をつないでピョンピョン跳ねてるお二人の元へ。フェイトちゃんとはやてちゃんもなんか苦笑してるし。

 

「先日はありがとうございました、翼さん」

「いや、こちらこそ助かった、フェイト。お前の力が無ければ、ベヒモスは止められなかった」

「未来さんも、この間はありがとうございます。今日は楽しんでいってくださいね」

「ありがと、はやてちゃん。平行世界に行くのってわたしは珍しい方だから、お言葉に甘えて楽しんじゃうね」

 

 こうやって見ると、この三人が響さん達並に強くて事件解決に貢献するほどの活躍をしたって言われてもあまり信じられないかな……だって見る限りはただの小学生の子供だから。

 だってこの中では最年少のわたしよりも四つ位年下なんだよ?

 そんな子達が装者と肩を並べて戦いましたって言われても、実際にその場を見てないわけなんだから、ちょっと信じられないと言うか。でも、この三人がこうやって笑顔で話してるって事は、本当に強かったんだろうね。

 空も飛べるって言うから、本気で喧嘩したら、エクスドライブか空中を浮遊できるギアじゃないと簡単にあしらわれるだけになるかも……

 

「それじゃあ、ミッドを案内しますね! とは言っても、特に観光名所とかはないんですけど……」

 

 で、早速このミッドチルダに観光を……ってなったんだけど、なのはちゃん曰く、観光名所とかは特にないみたい。そうなんですか? とクロノさんの方を向くと、残念ながら、と言って苦笑しながら頷いた。

 軽く話を聞いてみると、どうやらミッドチルダの近辺の殆どが近代化が進んだ結果、自然だったり建造物だったりと言った、昔ながらの観光名所っていうのが殆ど無くなっちゃったかどこかに移動させられたらしい。で、それに加えて、そう言う昔ながらの物は危険なロストロギア……えっと、聖遺物みたいなものみたい。で、そのロストロギアの可能性もあるから、基本的には管理局がそのまま押収して管理してるんだってさ。

 じゃあどこで娯楽を満たせるのかと聞いたら、そこら辺はやっぱり魔法関連の技術を盛大に使ったテーマパークとか、娯楽施設とかがそれに当たるらしい。でも、娯楽施設を観光名所とは言い張れないから、観光名所は特にないとの事。

 なんというか……魔法世界も色々とあるんだね。

 

「強いて言うなら、聖王教会やな。あそこは結構観光名所として有名って聞いたことがあるで。わたしのコネで中には入れるやろうし」

 

 ここで再びクロノさんにクエスチョン。聖王教会って?

 その答えは、本当に単純なんだけど、ミッドの中のベルカ自治領って所にある教会なんだってさ。一応このミッドの中では最大手の教会らしくって、そのトップは管理局に所属して共にロストロギアの回収や事件の解決に手を貸す感じで協力関係を結んでいるとの事。

 で、そこは結構他所の管理世界から来た人の観光名所になっていたり、結婚式を挙げる場所としても人気らしい。

 

「無限書庫とかもいいんじゃないかな。あそこは地球には絶対にないような場所だし、それに今はユーノもいるから書庫の中に入れてもらえると思うよ」

「あっ、それいいね! じゃあ最初に無限書庫に行きましょうか! で、その後に聖王教会に!」

「む、無限書庫……? それって、図書館みたいなところなの?」

「うーん……行ってみれば分かるんやけれど……あっ、この中に無重力が駄目な人とかいます? 居るんやったらちょっと厳しいんやけれど」

 

 む、無重力が駄目……?

 それは……大丈夫じゃないかな? なんやかんやでわたし達、未来さん以外はギアを纏ったまま真空の宇宙に放り出されてから大気圏突入した経験あるし……それに、響さん達もなんやかんやでスペースシャトルの上に相乗りしたまま大気圏突破してたし。

 でも、どうして無限書庫って図書館と無重力が関係してるんだろう……

 

「それじゃあ、僕は仕事があるからこれにて失礼させてもらう。なのは、フェイト、はやて。あんまり無茶苦茶言って装者の皆さんを困らせるなよ? 特になのは」

「そんな事しないよ、クロノくん!」

「どうだか。君達はその場の勢いでなんだかんだやらかす時があるからな。それじゃあ、装者の皆さん。帰りは僕じゃなくて彼女達が案内する手はずになっているから、今日は思う存分楽しんでいってくれ。とは言っても、観光名所はさっきも言った通り聖王教会程度なんだがな」

 

 と言ってクロノさんは苦笑しながらわたし達が来た道とは反対方向に向かって歩いていった。

 っていうか、あの人仕事中に抜け出してきたんだ……なんだかちょっと申し訳ない事したかな。クロノさんだって多分そんなに暇な立場じゃないだろうし。

 

「全くもう、クロノくんはなんでわたしを名指しで……」

「その件については全面的に同意かな……なのはって勢いでやらかす時があるし」

「闇の書然り、この間のエルトリアの件も然り。フェイトちゃんも人の事言えてへんけど、なのはちゃんのはその倍以上はヤバい事やってのけるしなぁ」

「二人とも!?」

「なるほど、そう聞いていると高町と立花の気が合ったのも納得がいくな」

「そうですね。なんというか、響の魔法使いバージョンというか、小さい響と言うか」

「うえっ!? わたし、そんなに勢い任せじゃないよ!? ねっ!?」

『………………』

「あっ、みんなからの視線が……」

 

 この人ほど勢いって言葉が似合う人、わたしは知らないんだけど。

 フロンティア事変から始まってこの間のシェム・ハまで、響さんは最後まで勢いたっぷりだったもん。トッポに負けないくらい勢いたっぷりだったもん。

 で、そんな事で笑いながら、なんとなーく翼さんとフェイトちゃんの声が似ているようなそうじゃないような……なんて思いながら結構歩くと、ようやくその無限書庫って所にたどり着いた。

 管理局の中ってこんなに広いんだ……ここで働いている人って迷わずに自分の行きたい場所に行けるのかな。絶対に毎年数人は遭難者が出ると思うんだけど。

 

「ユーノくん、来たよ!」

「あっ、なのは。全く、急に十人分の無限書庫への立ち入り許可を出してって、ちょっとはこっちの事も考えてよ。ちゃんと取っておいたけど」

「にゃはは……ごめんごめん」

「まぁ、いいけどね。こういう時は僕も一緒に入ってちょっとした休み時間に入れるし」

 

 で、無限書庫に入ると早速なのはちゃんが茶髪の男の子と話し始めた。

 えっと、ユーノって……そう言えば事件の記録でベヒモスの事を調べていた捜査協力者の中の一人に名前があったような……

 

「えっと、こうして顔を合わせる人も、話すのも初めてな人も、初めまして。僕はユーノ・スクライアです」

「あの時ベヒモスの情報を集めてくれた者だな。しかし、まだ子供なのにあれほど早く聖遺物の情報を集めてこれるとは……高町達もそうだが、魔法を扱う者達は特に外見で能力の強弱の判断などできないな」

「いえ、僕はこの無限書庫でベヒモスの情報を調べてきただけなので。それに、僕はそう言う事専門ですから」

 

 裏方専門って事なのかな。エルフナインみたいな。

 確かに、前に出て戦うってよりは後ろでみんなのサポートをするってイメージがするかも。

 

「あまりここで長話するのも他の司書の迷惑になるので、中に入っちゃいましょう。僕やなのは達がいるので問題は無いと思いますが、中で遭難しそうになったら大きな声を上げてください。すぐに助けに行きますから」

「えっ、そんなに広いの……?」

「広いと言うかなんというか……まぁ、入ってみると分かります」

 

 と、言われたので前を歩くユーノについて行ってその無限書庫の中とやらに案内してもらう。

 この部屋も普通に図書館っぽいのに、まだ奥に何かあるのかな……? まぁ、こんな風な図書館で無限書庫って言われると確かに違和感はあるけど。

 カウンターでの手続きとかは全部ユーノに任せること数分。細かい手続きが終わったらしいユーノが全員分の何かを差し出してきた。

 これは……な、何語……?

 

「これが無限書庫に入るための許可証です。無くさないようにしてくださいね」

 

 あっ、なるほど。

 っていうか、図書館一つに入るだけでこんなのがいるんだ……もしかして、色んな機密が入っていたりするのかな。だとするとわたし達が入っていいのかは甚だ謎ではあるけども……

 とりあえず許可証を首から下げて、ユーノ達が入っていった扉の中に一緒に入る。

 中は……ってうわっ!?

 

「な、なにこれ!? 浮いてる!?」

「なるほど、無重力とは言葉の通りであったか」

「す、すっごい……壁一面に本が……」

「こりゃすげぇな……って、最上部と最下層が見えねぇ……」

「なんか体を動かすたびにどっか行っちゃうデスぅ!?」

「ちょっ、切ちゃん!? ほら捕まって!」

「確かにこれは無限と言っても言葉負けしてないわね……」

 

 中は円柱型の空間だったんだけど、その円柱型の空間がバケモノ染みた広さを誇っている。

 まず上と下。円柱型と言うからには最上部と最下部が見えるのが普通かもしれないけど、なんかこう、霞がかった感じで最後まで肉眼で目視できない。そんな明らかに異常と言えるほどの空間なのに、出入り口は見た所一つだけ。

 もしかしたらあの迷宮よりも広いかもしれない。

 そんな場所が無重力空間。これは確かに調べものに夢中になっちゃったりした場合は出入り口から離れすぎて、しかも場所が分からなくて遭難なんて事は容易にあり得るかもしれない。

 これは確かに許可がいるね……

 

「ようこそ、無限書庫へ。ここは全次元世界のありとあらゆる本が現在進行形で追加され続けている、広がり続ける図書館です」

「ひ、広がり続ける図書館……!? それに全世界って……」

「漫画や小説から始めて、誰が書いたのか分からない日記や黒歴史ノートまで保管されています。多分、探せばなんでもありますね。探せれば」

 

 と、言いながらユーノがちょっと遠い目をした。

 

「……いや、ほんと、探せばあるんですよ。だからついつい探し物に夢中になって何度遭難しかけたか……」

 

 あっ……

 な、なるほど。確かにこういう所は本の虫にとっては天国みたいな場所だから……

 この中に本を好んで読む人はあまりいないけど……でも、漫画とかが置いてあるんならちょっと読んでみたいかも。

 

「えっと、探したい本はこっちの端末から。それか、僕に話しかけてくれれば検索魔法で取ってきますよ。あと、無重力空間が慣れない人はなのは達に頼んで運んでもらってください。飛行魔法ならここを自由に移動できるので」

 

 と、言う事で一旦ここで自由行動。みんなで思い思いの本を探して読む時間になった。

 うーん……じゃあ、ちょっと無茶苦茶かもしれないけど、あの本を……

 

 

****

 

 

 暫くして無限書庫で本探しの時間は終わった。

 いや、ホントにあるとは思わなかったよ。マリアが初めてインタビューを受けた雑誌とか、翼さんのツヴァイウイングデビュー時の特集雑誌とか。

 まさかそんなものまであるとは思っていなかった二人は思いっきり妨害してきたけど、こそっと読みました。

 あとは響さんや切ちゃんは漫画を探してたし、翼さんはなんかどこかの剣術の指南所みたいなのを読んでた。クリス先輩とマリアはなんか小説読んでたし、未来さんは料理本を読み込んでた。

 ただ、言っていいのか分からないから内緒にしているけど……ふと好奇心に負けてウェル博士の名前を調べてみたんだよね。そしたら、優しいLiNKERの作り方ってタイトルの本が……

 ……忘れよう。これ多分エルフナインが発狂するやつだから。あと論文で櫻井了子って調べたら櫻井理論の本まであったし……

 む、無限書庫の名前に偽りなし、だね!!

 

「しかしこれは……管理局という名を堂々と使うだけあるな」

「各平行世界の書籍を一か所に詰め込んだ場所なんて、それだけで最早兵器よ。これを守り抜き、そして正しい事に扱うための下地があるが故に、の名前なのかもしれないわね」

 

 そんな風にわたし達は呑気に無限書庫で自分達の読みたい本を探していたんだけど、幾つかの書籍を手に取っていた翼さんとマリアはこの無限書庫に関してわたし達よりもちょっと遠い所……戦略兵器としての使い道を見出したみたい。

 確かに、これだけの情報があればそれはただの兵器になる。多分、この無限書庫一つで数万数億の人の命を使ってでも、って人は沢山いると思う。

 もしもこれがわたし達の世界に聖遺物として存在していたら……って思うと、怖いよね。

 

「あはは……確かにこれ一つだけでも相当な脅威ですけど、勝手知ったる人が手を加えないとこの無限書庫はマトモに散策する事すら適わないゴミ箱になってしまいますから。僕が来るまではどうも無限書庫は本をしっかりと本棚に入れるだけで手いっぱいだったみたいですし」

「それを可能にしたのが魔法、という訳か?」

「はい。僕達……えっと、スクライアの一族は遺跡の探索やこういう書物を探る事に長けているんです。それを応用して魔法を組み上げて、それでようやく停滞から一歩進んだ、という形です」

「知識のごみ箱だった、とでも言えばいいのかしら。でも、それをどうにかする魔法を一人で作り上げるなんて。あなたは優秀な魔法使いなのね」

「いえ、別にそんな事は……ただ、趣味と仕事が偶々一致したってだけで……」

「いやいや、謙遜はそうするものではない。趣味と仕事が偶々一致したのだとしても、今まで停滞していたソレを進める程の案を出し、実際に実行に移し成功している。それは並の人間ではできない事だ。それは、十分に誇っていい事だ」

 

 マリアと翼さんに褒められてユーノが照れてる。

 あそこまで褒めちぎられたらそりゃ照れるよね。それに、ユーノってわたし達よりも一回りは下の年齢っぽいし、そんな子があの二人にああやって褒められたら、ね? 二人とも凄い美人だし。

 で、無限書庫についてはそれ以上はあまりイベントは無かったかな? 強いて言うなら異世界の料理について書かれた本を見て、色んな料理もあるしちょっとあり得ない感じの料理もあるのが分かったくらい。まさかあんなのを使って……ううん、これはあまり思い出さないようにしよう。結構ショック強かったし……

 ……でも試してみようかな? 響さん辺りならゲテモノ料理も味が美味しければ食べてくれるかも……いや、止めておこう。後で未来さんからの制裁が怖い……

 で、その後は無限書庫を出て聖王教会へ……なんだけど。

 

「移動方法、バスなんだね。案外普通と言うか……」

「みんながみんな魔法で空を飛んでるとかじゃないんだな」

「ミッドで飛行魔法は禁止されているんです。飛行した結果、空中で航空機との事故を起こしたり、落下してしまったりして大怪我をする可能性があって危険なんです。誰かが空を飛んでいる時は、それ相応の事件が起こっていると思った方が自然ですね」

「それと、大規模な魔法も使うと管理局側に連絡が行って漏れなく事情徴収からの連行コース……ですね」

「専用の訓練場とかを使えばなんも問題ないんやけど……そういう所って結構人気やから、全力で魔法を使える機会って実は案外少ないんです」

「魔法のための法整備もしっかりとされているのね……何と言うか、頭の中にあったファンタジーが徐々に現実味を帯びたものに侵食されて行く気がするわ……」

 

 わたしもマリアと同感。

 魔法ってもっとこう、キラキラしたモノかと思ってたんだけど、こうやって内情を聞いてみると魔法とは名ばかりの兵器と言うか、それに近しい物と言うか。

 一応非殺傷設定っていう設定があるらしいから兵器よりはマシなんだろうけど、それをみんながみんな解除したら、多分魔法は兵器よりも凶悪なものになるかもしれない。それをしっかりと抑え込む法があるのはいい事なんだけど……

 でも、やっぱりイメージが粉々に崩れていく……これじゃあリリカルなんて名ばかりのロジカルだよ……

 

「リリカルマジカルかと思っとったらロジカルフィジカルでちょっとがっくりするの、よくわかります」

「とは言うけど、この中で一番フィクションの魔法っぽい魔法を使うのってはやてだよね。わたしはほら、結構近距離型だし、なのははアレだし」

「アレ!? アレってなに!?」

「ほら、桜色が…………ごめん、ちょっと気分が」

「桜色がなんなの!? もしかしてスターライトブレイカーの事言ってる!? というかわたし、気分が悪くなるような事、一度でもした事あった!?」

「ねぇ、なのは。なのはは案外普通にぶちかましてるけど、拘束された状態で桜色が視界を覆うのって凄い怖いんだよ」

「あぁ……うん。フェイト、お前の気持ちは何となく分かるぞ。あれがこっちに来たらと思うと……」

「というか、なのはちゃんの魔法って撃つときにビームライフルみたいな音してるよね……」

「マジ……カル……?」

「マジカルです!!」

 

 び、ビームライフルみたいな音……? というか桜色が視界を覆うって何……?

 もしかしてわたし、魔法とは名ばかりの違う物に触れようとしている……? そう言えば響さんもフォーミュラっていうナノマシンで魔力を扱えるようにしたって言ってたし……

 よく考えればナノマシンってマジカルじゃないよね。ナノマシンって時点で魔法って言葉とはかけ離れた物だよね。

 

「えっ……? なのはちゃん、あんなエグいビーム撃っておいてまだマジカルとか言っとるん……?」

「はやてちゃんまで!? というかそれを言うんならはやてちゃんのミストルティンとかラグナロクとかディアボリックエミッションとか、そこら辺も十分フィジカルだよ!」

「石化魔法、魔力攻撃、範囲指定型魔力攻撃や。どこもフィジカルやあらへんで」

「だったらわたしだって!」

「ビームマシンガン、ビームライフル、ビームバズーカ、ビームジャベリン、サテライトキャノン。魔……法……?」

「普通の魔力攻撃!!」

「新機動戦記なのはガンダムX、はじまります」

「ガンダムじゃないからぁ!!」

 

 なのはちゃんとはやてちゃんが和気藹々と話していると思ったらキレたなのはちゃんが桜色の玉みたいなのを出してはやてちゃんに発射した。

 と、思ったらはやてちゃんの方はそれを壁みたいなのを出してガードしてドヤ顔。

 そのままもう一発とでも考えたのか思いっきり腕を振りかぶったなのはちゃんだったけど、横に居たフェイトちゃんに取り押さえられて二発目は放たれなかったけどじたばたしてる。

 周りにお客さんいなくてよかったかも。居たら多分ちょっと迷惑だったかも。

 

「だが、あれほどの力があるのなら、一つ手合わせでも願いたい所だな。私達の世界にもこの世界の魔法を使える者が攻撃に来た際、魔法と相対するためのいろはがあれば立ち回りも変わってくる」

「模擬戦って事ですか? それなら受けて立ちますよ!」

「あはは……なのはのちょっと悪い癖が……」

「なのはちゃん、人と本気で戦うのは結構嫌がる方なのに、模擬戦やと遠慮なく本気でぶつかってくるからなぁ……でも、フェイトちゃんも模擬戦大好きやろ?」

「ちょっと、ね? 確かにシンフォギアの本気とぶつかってみたいって気はするけど……」

 

 あっ、翼さんの一言からなんだかちょっとだけ血気盛んな方向に話が……

 でも、翼さんの言う通りではあるよね。

 この間のベヒモスが起こした事件、わたし達は関与していないし、アレには魔法が関与していた。だから魔法に対する対抗策を物にするために友好関係である管理局の魔法使いと模擬戦をして魔法への対応策を見つけようっていうのは。

 特にわたし達は魔法をこの目で見たことはないから、実際にぶつかってみるっていうのは全然ありだと思う。今度魔法使いが来たときにわたし達しかいなくて、勝手が知らなくて負けましたとかは洒落にはならないし。

 

「でも、そうなると人数の差があるよね。ほら、わたし達七人だし」

「それならわたしの家族を呼びますよ。丁度リィンを入れると五人ですけど、リィンはわたしとユニゾンするので、実質七対七です。多分、シグナム辺りなら喜んで模擬戦に来ると思いますし」

「あー……シグナムなら確かにレヴァンティン構えてニコニコしながら来そう」

「二人のシグナムさんへの評価って一体……」

 

 あっ、本当に模擬戦するって話になるんだ。

 ……LiNKER、持ってきてたっけ。確か持ってきていたような持ってきていなかったような……あっ、あった。

 

 

****

 

 

 あの後、聖王教会って所にみんなで一度行きました。

 うん、大きくて綺麗だった。流石に関係者以外立ち入り禁止の所は入れなかったけど、はやてちゃんが持ってるコネって言うので、機密とかではやてちゃんでも見れないって部分以外は殆ど見る事ができた。

 あんな立派な教会、地球で探しても見つからないんじゃないかな。それに、シスターさんもいっぱいいたし。ミッドチルダの最大手の教会って言うのは全然冗談じゃないみたい。

 信仰しているのが聖王って人らしいんだけど……その人はすっごい昔の古代ベルカって時代に戦乱をロストロギアっていう聖遺物みたいなもので止めた人なんだってさ。簡単に聞いただけだからそれ以上は分からないけど……でも、当時戦っていた王様とか民族の子孫はこの世界にいるらしいよ。覇王って人の子孫やエレミアって種族は見つかってるらしいし。

 古代の時代からの子孫が今もいるって凄いよね。

 で、聖王教会の方にもあんまり長い事滞在してお仕事の邪魔はできないからって事で、観光と写真を程々撮って、結婚式するならこういう所がいいよねー、なんて言いながら管理局の方まで戻ってきました。

 そこでやる事と言ったら。

 

「じゃあ模擬戦、やりましょうか!」

「うん! 全力でぶつかり合おう!」

 

 はい、模擬戦です。

 道中ではやてちゃんの御家族四人と合流して、管理局内にある模擬戦スペースまでやってきました。

 はやてちゃんが呼んだのは四人……というよりは、三人と一匹。

 

「お前達が主はやて達と共にベヒモスと戦ったというシンフォギア装者か。私はシグナム。夜天の書の守護騎士、ヴォルケンリッターの一人だ。烈火の将とも呼ばれている」

「同じく、守護騎士のヴィータだ」

「シャマルです。今日はよろしくお願いしますね」

「私はヴォルケンリッターの一人。守護獣のザフィーラだ」

 

 シグナムさん、ヴィータ、シャマルさん、ザフィーラさんの三人+一匹。

 それに加えて。

 

「リィンフォースⅡです! 今日はリィンも全力で戦います!」

 

 妖精さんみたいに小さな子、リィンフォースⅡ。

 普通に小さい人間にしか見えないんだけど、融合騎、またの名をユニゾンデバイスって言って、主人とユニゾンして戦う命を持ったデバイスなんだって。そんなデバイスもあるんだ、と思ったけど、どうやらユニゾンデバイスっていうのは凄い珍しいらしくて、なのはちゃん達もユニゾンデバイスはリィンしか知らないんだって。

 で、ヴォルケンリッターっていったい何? って話もしたんだけど。

 

「私達は人間ではなく、夜天の書に搭載されている主を守るための騎士だ。プログラムが本体、とでも言った方がいいか。故に、夜天の書の主である主はやてに仕える騎士、というわけだ」

「プログラム……っていう割には人間にしか見えないわね。どの辺がプログラムなのか分からないわ」

「まぁ、こうして表に出てきている以上は中身は人間だな。これ以上成長する事も老いる事も無いが」

「みーんな、わたしの自慢の家族なんです。なー、ヴィータ?」

「うわっ!? きゅ、急に抱き着くなよはやてぇ!」

 

 なんかサラッと魔法って凄いとしか言えない事を言われたけど、こうして見ている以上は普通の人間だよね。

 まぁ、要するにはやてちゃんの家族って事だよね。わたし達F.I.S組みたいな感じで。

 だからか、苗字も普通に八神って名乗ってるみたい。

 で、そんな八神家の方々だけど、ヴォルケンリッターっていうカッコいい名称に負けないくらい強いらしい。というか、普通に管理局の中でも各方面でトップを取るのも夢じゃないくらい強いのだとか。

 わたし達は基本的に脳筋七人衆だけど、ヴォルケンリッターの四人は前に出てはやてちゃんに攻撃が行かないように前線を維持するシグナムさんとヴィータ。後ろで二人の援護をしつつ、敵のサポートを妨害しながらサポートをする支援特化のシャマルさん、そんな四人を常に守りながら戦況を有利に進めるザフィーラさんって形でしっかりとバランスが取れてるみたい。

 で、ここに後方支援に加えて超広範囲爆撃ができるはやてちゃんが混ざる事で夜天の書の主と騎士は完結するそうで。

 ……えっ、これ脳筋でぶっ壊せる?

 わたし、マリア、クリス先輩が頭を抱えたけど、他の脳筋がレッツバトル、といった感じで魔法使い組と模擬戦室に入っていったのでわたし達も続きました。

 

「この模擬戦室はクラッシュエミュレートが実装されてるので、どれだけ攻撃をしても生身の体は傷一つないんです。代わりに、例えば骨が折れるレベルの攻撃が当たったら実際に腕は動かなくなりますし、無理に動かせば相応の痛みが走ります」

「後は、全員ヒットポイント制で、それを超過したダメージを貰ったらそのまま退場です。そうなる頃には大抵地面に転がってますけど……」

 

 で、肝心の模擬戦なんだけど、今説明してもらった通り、クラッシュエミュレートってやつで実際にはダメージを貰わないんだって。試しに翼さんと響さんが思いっきり殴り合ったけど、実際に怪我はなかったよ。代わりにARのホロウィンドウみたいな物にダメージを貰った箇所が赤く染まる形でダメージが表現されて、HPが減って、ついでに怪我の内容も書いてあった。

 顔を殴られた翼さんは頬骨粉砕って書いてあったし、思いっきり斬られた響さんは裂傷って書いてあったけどね……響さん、もう少し加減しましょう……? 思いっきり震脚しましたよねあなた……?

 まぁ、そんな事故は置いておくとしまして。

 

「模擬戦だけど手加減はしないよ、なのはちゃん!」

「こちらこそ! 全力全開でいきます!」

「空を飛べないからと侮るなよ? こちらとて空を飛ぶ敵の相手は何度もしてきからな」

「勿論です。全力でお相手します」

「えっと……わたし、あんまり実戦慣れしてないからお手柔らかにね?」

「わたしもあんまり頑丈な方じゃないので、お手柔らかにお願いします」

 

 あっちの方はなんかすっごい平和そうに会話してるけど……

 

「ふっ……新たな力との会合か。腕が鳴るな、レヴァンティンよ……!!」

 

 あのっ、こっちの方になんか人斬りみたいな雰囲気で怖い笑顔浮かべてるピンク色のお侍さんが居るんですけどぉ……!!

 

「あー……なんかその、ウチの馬鹿がすまんな。お前等今日休みだったんだろ? 模擬戦に呼び出しちまってなんか悪いな」

「いや、アタシの方は別にいいんだけどよ……とりあえず、シグナムに気をつけろよ。あいつ、こういう時は割とマジで斬りかかってくるから」

「お、おう……そっちも、ウチの馬鹿には気を付けておけよ。あいつ、生身が相手だろうと腹パンと顔パン決めてくるから」

 

 あとなんかあっちで赤色の二人が苦労人面しながら仲良くしてるのはどうしよう……!? わたし、色繋がりのせいかピンク色のお侍さんに思いっきり狙われるんですけどぉ!! ああいうの翼さんの相手でしょ!?

 あっ、ホロウィンドウのカウントダウンがゼロに……

 

「ディバインバスターッ!!」

「最速で最短で真っ直ぐに一直線にぃぃぃぃ!!」

「ハーケンセイバーッ!」

「受けて立つ! 蒼ノ一閃ッ!」

「小手調べに!」

「こっちだって!」

 

 うわっ、眩しっ!?

 えっと……なのはちゃんのビームと響さんの拳、フェイトちゃんの発射した鎌型の斬撃が蒼ノ一閃と相殺、はやてちゃんと未来さんのビームがそれぞれ相殺……?

 というかなのはちゃん、いつの間にあんなビームライフルみたいな武器を……? さっきまで普通の杖持っていたような気がしたんだけど……

 

「行くぞ、レヴァンティン!!」

「しゃーねぇ。やるからには全力だ! 潰すぞ、アイゼンッ!!」

「調の元には行かせないわ!」

「お前みたいな突撃してくるヤツの相手は慣れてるんだよ!!」

 

 と思ったら目の前でマリアとシグナムさん、ヴィータとクリス先輩がタイマンで交戦し始めた。

 どうやらシグナムさんは、やっぱりわたしを狙って来ていたらしいけど、マリアがなんとか庇ってくれた。シグナムさんも明らかにヨーヨーっていう切り結ぶには心許ない武器よりかはマリアの短剣と斬り合うことを選んだみたいだし。

 で、赤色のお二人に関しては、最初から互いに互いを潰そうと思っていたらしく、ヴィータの鉄槌をクリス先輩は響さんを相手する時のようにガンカタで捌きながら互いに攻撃が当たらないように動いている。

 あの二人、わたし達の中では普通に戦闘力でトップクラスのマリアとクリス先輩を相手に一歩も引かないなんて……やっぱり守護騎士の名は伊達じゃないって事かな。

 それじゃあ、わたしは!

 

「行こう、切ちゃん!」

「援護とタンクを先にやっちまうデス!」

「ザフィーラ、ちょっと私じゃ援護が心許ないかもしれないけど!」

「大丈夫だ、シャマル。お前には指一本触れさせん!!」

 

 わたし達のユニゾンなら、守護獣だって突き破れる!!

 

「恐れ戦くデスッ! 天真+、爛漫×! 重低音ブッパデェスッ!!

「歌い始めたか! だが、その程度の小手先でこの身を突き破る事はできんッ!!」

 

 切ちゃんがジュリエットを飛ばすけど、ザフィーラさんはそれを自分の体だけで弾き飛ばして見せた。

 う、うそ、流石に硬すぎじゃ……

 いや、でも、ユニゾンしたわたし達なら!!

 

高出力全開で、フィールドを駆けようッ!

「高速移動からの突撃か、悪くはない! だが、圧倒的に重さが足りんッ!!」

勝負も夢っ……!?」

 

 き、禁月輪が真正面から止められた!? そんな馬鹿な!!

 いや、だけど!

 

決戦のFight Song!! 重ね合う歌がっ!!

「やはりそう簡単には見逃されんか。いいコンビネーションだ!」

 

 わたしは一人で戦ってるんじゃない!

 最高のタイミングでの切ちゃんの突撃でわたしが解放されて、そのまま着地。けど、ザフィーラさん相手に切ちゃんもかなりやりにくそうで、今までみたいに力押しを重点に置いた攻撃じゃどうにもザフィーラさんを打ち砕けない。

 これが守護獣……! その名前は伊達じゃない……!

 だけど、こっちだってシンフォギア装者だ!

 

どんな高い壁も! 切り刻んで未来を創るッ!!

 

 くらえ、超巨円投断ッ!!

 

「させないっ!」

 

 これでザフィーラさんを押しつぶし……!?

 あ、あれっ、なんか超巨円投断が急に言う事を利かなく……

 って、なんか緑色の突風みたいなのが吹いて横から超巨円投断を見当違いの方向に!?

 

「助かる、シャマル!」

「相手にリンカーコアがない以上、これぐらいしかできないもの。当然よ」

 

 くっ……! この二人、凄くやりにくい……!!

 ザフィーラさんは硬すぎるし、シャマルさんの援護も侮っていた……!

 

「まだまだ行くわよ!」

 

 とうとうザフィーラさんだけじゃなくてシャマルさんの援護が本領を発揮してきた……!

 なんとか相手の手数をこっちの手数で押し退けるけど、切ちゃんの方がかなりやりにくそうにしている。幸いにも目立ったダメージはないみたいだけど、時折当たる攻撃で徐々にHPを減らされている。こっちも相手に有効打を与えられてないし……このままじゃ切ちゃんが押し切られてわたしまで……!!

 

「拳の距離は! わたしの距離だぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「何ッ!!?」

 

 こ、この声は響さん!

 四人同時にそっちを見ると、響さんはなのはちゃんから距離を取ったついでにとでも言いたいのかこっちに突っ込んできている。

 確かに切ちゃんじゃ決定打を決める事ができなかったけど、拳と拳の響さんなら!

 

幾つの闇を! 乗り越えたならぁぁぁぁぁぁ!!

「なんという迫力……! だが、止めるッ!!」

 

 響さんが歌いながらザフィーラさんとぶつかり合う。

 その威力にザフィーラさんが地に足を着けながらも殴り飛ばされる。響さんの拳の威力は、その時に抉れた地面がどれほどの物だったのかを示してくれている。

 

胸に刻んだ、数多の想い! 痛みだけじゃない! 焼き付いたメモリアッ!

「くっ、重い上に速いか……! 良き師匠を持ったと見る。だが、私とて盾の守護獣としての誇りが、この拳で守り抜くだけの誇りがある!」

「うわっ! こ、この人、崩せない上に一撃の重さが尋常じゃ……! いや、だとしても! わたしにだってこの拳、この歌にぶん守るだけの誇りがあるっ!!」

「面白いッ!! お前の拳、誇り、歌ッ! その全てを賭してこのオレを越えて見せろ!! テォアアアアアアアアア!!」

 

 えっと……ここ、バトル漫画の世界でしたっけ。

 なんか急にあの二人が拳同士のタイマンをし始めた。というか響さんが簡単に突破できないって、そりゃあわたしと切ちゃんじゃ手をこまねく筈だよ。

 それじゃあザフィーラさんは響さんに任せて、こっちは!

 

「ザフィーラさん、避けてくださいね……! レイジングハートっ!」

『All right master. Hyperion Smasher stand by OK』

「一閃爆砕っ! ハイペリオンスマッシャーッ!!」

 

 あれを止めるッ!!

 

「調!」

「切ちゃんの思う所はお見通しっ!」

 

 切ちゃんが二本の鎌を組み合わせた物を受け取って、それをわたしの丸鋸と組み合わせて三重の盾を作り出して回転させながらなのはちゃんのビームを受け止める。

 だけどこれ……! いくらなんでも重すぎる……ッ!!

 いや、でもユニゾンで高めたフォニックゲインなら!!

 

「止められるっ!!」

 

 なんとかなのはちゃんのハイペリオンスマッシャーっていう技を受け止めきる。

 危なかった……ユニゾンしていなかったら確実に撃ち抜かれてた……

 

「う、うそっ、止められちゃうんだ……」

「そのビーム以上の攻撃は、何度だって受け止めてきた。体で」

「それ普通に死ねません……?」

「何度死ぬかと思ったか分からんデスよ」

「ライフで受ける事に慣れればこの程度!」

「慣れたくないんですけど……」

 

 むしろわたし達ってどっちかと言ったら紙装甲だから相手の攻撃は基本的にライフで受け止めるしね!

 ……いや、そのせいで何度死ぬかと思ったか分からないけど。

 よし、響さんはザフィーラさんの方に行ってもらっているし、今度はわたしか切ちゃんがなのはちゃんを足止めしてシャマルさんを。

 

「思い通りにはさせません」

「調、後ろデス!」

 

 えっ、後ろ?

 

「あなたの思い通りにも、ね!」

「っ、読まれていた!?」

 

 うわっ、後ろで鉄がぶつかり合う音が!?

 すぐに振り返ればそこにはフェイトちゃんの鎌とつばぜり合いをしているマリアが。ま、まさかあっという間に後ろに回られていた……? もしもマリアが居なかったらリタイアになっていたかも。

 でも、マリアが庇ってくれたんならよし。後はわたしは予定通りに……

 

「私との決着を放棄しどこへ行くつもりだ!」

「くっ、二体一は……!」

「加勢するぞ、マリア! フェイト、お前の相手は未だ私のままだ!」

「撒いたと思ったのに……!」

 

 なんか急にわたしの真ん前でシグナムさん&フェイトちゃんVSマリア&翼さんのタッグマッチが……!!

 

「行くぞ、レヴァンティンッ!」

『Schlangeform』

「蛇腹剣……! それならこっちにも分がある!!」

「わたしならこの中でも飛べる! 距離を取って……当たれ、フォトンランサー!」

「受けて立つ! 千ノ落涙ッ!」

 

 わたしが全力で後ろに下がると同時にシグナムさんの剣が蛇腹剣に変化してマリアに襲い掛かるけど、マリアも短剣を蛇腹剣にしてそれを迎え撃つ。

 そんな地獄みたいな刀身の結界の中をフェイトちゃんは飛び回って翼さんから距離を取りながら黄色の弾を放ってくるけど、翼さんがそれに対して千ノ落涙で迎え撃って蛇腹剣の結界の中で爆発が起きる。

 わたしはその間にシャマルさんの方へと向かうけど、シャマルさんもこっちをよく見ていて近づけないように糸を操ってくる。

 

「切ちゃん、ユニゾンの続きを!」

「合点デス!」

 

 でも、それならなのはちゃんは一旦放置してシャマルさんを仕留めるために切ちゃんと動く。

 まだユニゾンは続いている。だから、歌えば出力は!

 

二人じゃなきゃ出せない力になり、勇気に変わる!

「なるほど、二人の歌を合わせて出力倍増ってわけね……! これは流石にわたし一人じゃ……!!」

「だったら援護するで! とにかくばら撒いて妨害や!」

 

 っ、歌っている最中に横やりが!

 文字通りの大量の魔力の槍みたいなものを二人で防ぎながらわたしと切ちゃんで丸鋸と鎌を飛ばすけど、それは横の方から飛んできた赤い人のハンマーで破壊されて阻まれる。

 

「アタシが居る限りはやてに傷一つ付けさせねぇ!」

 

 ヴィータ……!

 いいタイミングで邪魔をしてきてからに。

 でも、それならこっちにだってフリーになった装者がいる! 

 

「だったら諸共ぶっ飛ばしてやりゃあいいだけだッ!! 合わせるぞ、後輩共!」

 

 クリス先輩の攻撃にわたし達の歌を重ねれば!

 

Ready Go!!

 

 わたし達がミラアルクに向かって放った電鋸発射装置を作り出して、更にクリス先輩がその後ろからミサイルを設置。それで更に推進力を増したこの電鋸をぶちかませば!!

 

「だったら真正面から迎え撃ってやる!! アイゼン、カートリッジロードッ!!」

「わたしも続くよ、ヴィータちゃん! レイジングハート、カートリッジ!」

「それならわたしもや!」

 

 か、カートリッジ?

 よく分からないけど、これで三人纏めて!!

 

歌う仲間と泣いて、笑える今日が!!

新たな仲間と泣いて、笑える今日が!!

 

 電鋸を発射して、更にミサイルによってその推進力を上乗せする事でミラアルクに向かって撃った時よりもはるかに強力なソレを三人に向ける。

 だけど、発射した直後、ヴィータのハンマーに変化があった。

 

「轟天、爆砕ッ!!」

 

 巨大化。

 そうとしか言いようがない程に巨大化したハンマーがヴィータの細い腕で思いっきり持ち上げられる。更になのはちゃんとはやてちゃんの魔法陣の光もそれに合わせてどんどん強くなる。

 も、もしかしてヤバい……?

 

「ギガントシュラークッ!!」

「ハイペリオンスマッシャーッ!!」

「クラウソラスッ!!」

 

 冷や汗を掻いて切ちゃんの肩から降りた直後、ヴィータのハンマーの一撃でわたし達の合体攻撃が粉砕され、更になのはちゃん達の砲撃が迫ってくる。

 ま、まずっ、防御が間に合わない――

 

「よし、直撃!!」

「これで三人撃破や!!」

「……いや、待て! クラッシュエミュレートが反応してねぇぞ! あいつら、どうやってか防ぎやがった!!」

 

 ……あ、危なかった。

 

「わたしの神獣鏡の力は、禍払い。だから魔法だってどうにかできる!」

 

 未来さんの滑り込みからの咄嗟の防御が無かったら危なかった。アマルガムを使わない限りあそこからの脱出は不可能だったかも。

 頭部のアームドギアをもう一度再生性してヨーヨーを構えてわたしはもう一度シャマルさんの方へ。それと同時にクリス先輩がはやてちゃんの方へ、未来さんがなのはちゃんの方へ、切ちゃんがヴィータの方へと向かう。

 

「うわっ、物騒なモンを……! 銃刀法違反ですよ!」

「はっ、そんなもんアタシ様が知るかってんだ! オラオラ行くぜ!!」

「このっ、はやてにそれを向けんじゃねぇ!」

「あたしの事を忘れてもらっちゃ困るデスよ!」

「二人とも! くっ、援護が……!」

「神獣鏡、どうやらなのはちゃんには凄い相性がいいみたいだね。あなたの魔法は強烈だから、わたしが封じる!」

 

 そのままはやてちゃんとヴィータ、クリス先輩と切ちゃんがツーマンセルする形で動いて、なのはちゃんは砲撃を撃つけどもその全てを未来さんの神獣鏡が防いでいるせいでマトモに援護ができていない。

 で、相手が重火器にビビり散らしているのをいいことに、クリス先輩が歌いながら両腕の装甲と大型拳銃を組み合わせてガトリングを両手に作り出し、いつもの弾幕を形成する。

 

鼻をくすぐるGunpowder & smork! ジャララ飛び交うEmpty gun cartridges!

「が、ガトリング!? シンフォギアって何でもありにも程があるやろ!」

「しかも防がねぇと結構体力持って行かれんのがタチわりぃ!!」

血を流したって、傷になったって! 時と云う名の風と、仲間と云う絆の場所があああああああ!!

 

 あっ、MEGA DETH PARTY。

 

「ミサイルまで……! でも、あんまり好き勝手にはさせへんで! 弾幕には弾幕や!」

「ついでにこいつをくらいやがれ! ラケーテンハンマーッ!!」

 

 ミサイルまで撒き始めてとうとうクリス先輩の一方的な展開になるかと思ったけど、それをはやてちゃんが力任せの魔法の弾丸の弾幕で全て迎撃して、更にヴィータがハンマーの先端からブーストを噴出して回転しながら加速して弾丸の中を突っ切ってクリス先輩へと突撃する。

 でも、クリス先輩もそれを見て何もせず、ただ横から乱入してきた切ちゃんに全てを任せている。

 

「力業は響さんの十八番デスけど……回転はあたしの十八番デスっ!」

 

 切ちゃんもその場で回転。そのまま走行を展開してコマみたいな形に変化すると、そのままヴィータと真正面からぶつかり合い始める。で、更にクリス先輩も巨大なミサイルを発射して気持ち良くなって、はやてちゃんの方もそれに合わせて魔法の弾丸の大きさを変えてくるから、あの一帯だけなんか戦争地帯みたいになっている。

 

疑問? 愚問だッ!! 挨拶無用ッ!!

「ええ加減諦めてほしいんやけどなぁ……!」

「こいつっ、いい加減こっちに譲りやがれ!」

「絶対に負けてなんかやらないデス!!」

「ひぃーん! 砲撃が通らないよぉ!!」

「えっと……なんかごめんね……?」

 

 気持ちよくなっているクリス先輩とその相手をさせられているはやてちゃん。回転勝負が未だに決着しないヴィータと切ちゃん。半泣きになりながら砲撃を撃つけど全部未来さんに封じられているなのはちゃん。

 なんというか、いつも通りカオスな戦場になってきたところでわたしもようやくシャマルさんを射程圏内に収める。

 これで仕留めさえすれば……!!

 

「翔けよ、隼ッ!!」

『Sturmfalken!!』

「ホーネットジャベリンッ!!」

「だったら! 翼さん!」

「あぁ! 双星ノ鉄槌ッ!!」

「DIASTER BLASTッ!!」

 

 な、なんか放っておいた方で切り札のぶつかり合いが!!?

 その余波のせいでわたしとシャマルさんが吹き飛ばされて一緒に壁に激突する。顔は痛くないんだけど、それのせいでダメージをくらって二人してHPを減らす事に。

 

「……なるほど、切り札でも互角か」

「まさか剣を弓とするとはな。だが、私達とて弓の相手は慣れている」

「フェイトちゃんがまさかビームまで撃てるなんて。すっごい驚いたよ!」

「わたしも、まさか響さんが合体技で範囲攻撃をしてくるなんて驚きました。でも、そうすると個々の技の威力はほぼ互角……なら!」

 

 響さんと話していたフェイトちゃんが急になのはちゃんとはやてちゃんの方へと視線を送ると、三人は頷いて急にそれぞれ相手にしていた装者から距離を取って空中で三人一緒に並んだ。

 もしかしてあれって、合体技……?

 だとしたら、放っておいたらマズいんじゃ!!

 

「アクセラレイターッ!! 戦局が拮抗してるなら!!」

「三人のブレイカーで!!」

「戦局を傾けたる!!」

 

 やっぱり、あれを放っておいたら確実にこっちの技をどれだけ重ねようとも関係なくぶん殴られる!!

 ど、どうしよう。何かいい方法は……

 

「そっちが切り札を切るって言うんなら!」

「こちらとて切り札を切るまでの事! 小日向、来い!!」

「は、はい!」

 

 えっと、響さん、翼さん、未来さん三人が並んだって事は……

 う、嘘。まさか模擬戦でやるつもり?

 いや、でもあっちもそれと並ぶくらいの技を使ってくるんなら、妨害はさせない!!

 

「させないわ!」

「こっちだって!」

「やらせるか!!」

「逃がさんデス!」

「何をするかは分からんが、止める!!」

「そりゃこっちのセリフだ! お前を止めてからあっちを止める!」

「いやいや待て待て待ちなさい!! そこの馬鹿三人、今すぐそれは止めなさい!!」

「主達の元へは行かせん!」

「退きなさい!! じゃないと多分ヤバい事になるわよ!!」

 

 シャマルさんの妨害をわたしが妨害して、ヴィータの妨害を切ちゃんが妨害。更にシグナムさんとクリス先輩が互いに妨害しあって、マリアの妨害をザフィーラさんが妨害する。

 そんな風に四人で妨害しあってる中、三人組の方は切り札の準備が進んでいく。

 

「これがわたしの全力全開っ!!」

「轟け、雷光一閃っ!!」

「響け終焉の笛っ!!」

Gatrandis babel ziggurat edenal――』

 

 ……って、これ、もしかして妨害とかしている場合じゃない?

 

「エクシード!!」

「プラズマザンバー!!」

「ラグナロク!!」

「スパープソング!!」

「コンビネーションアーツ!」

「セット、ハーモニクス!!」

 

 あっ。

 

「……なぁ、ふと思ったんだがよ」

「あぁ、多分アタシもそれ思った」

『……これ、逃げ場無くね?』

 

 クリス先輩とヴィータの察したような自分の死期を悟ったような声が聞こえた直後だった。

 

『ブレイカーッ!!』

『S2CA、トライバーストォッ!!』

 

 桜、金、銀の極太ビームと虹色の竜巻が空中で炸裂して、わたし達の視界は一瞬にして白に染まった。

 あぁ、光が逆流して――

 

 

****

 

 

 結果から言うと、魔法使い組の砲撃……エクシードブレイカー、プラズマザンバーブレイカー、ラグナロクブレイカーを組み合わせた切り札、トリプルブレイカーとこちらのS2CAトライバーストが炸裂した瞬間、どうやら管理局の建物で超局所的な地震が起きたらしい。で、その中心にいたわたし達は全員その衝撃で気を失いました。

 一応訓練室というかその周辺は無事だったらしいけど、内部はかなりの有様で、あの一撃を叩き込み合った六人は床か天井に埋まった状態で発見され、わたし達もほぼ全員が白目を剥いた状態で発見された。

 唯一ザフィーラさんが意識を保っていたらしいけど、救護班を呼んでからぶっ倒れたとか。

 で、それからという物。

 

「全く、室内でトリプルブレイカーを使えばどうなるかなんて分かり切っている事だろうが! あの余波のせいでテロ疑惑まで出たんだぞ!! 僕の仕事を無意味に増やすな!!」

『ごめんなさい……』

「どうしてあそこでS2CAを撃つのよ! あっちが怪我したらどうするの!? アマルガムにしておきなさいよ、アマルガムに!! 特に翼! あなたが止めなくてどうするの!!」

『申し訳ございません……』

 

 トリプルブレイカー組とS2CA組はこってりと絞られました。

 トリプルブレイカー組はクロノさんに。S2CA組はマリアに。

 まぁ、止めなかったわたし達も一応同罪ではあるんだけど……止められたかと言えば止められないし。

 

「はぁ……今回の事はすまなかった。君達は体が動くようになったら帰ってくれて構わない。僕はこの三人とヴォルケンリッターをこってりと絞る作業がある」

「そうね、そうさせてもらうわ。全くもう、この馬鹿共は……」

 

 クロノさんとマリアは溜め息を吐いているけど、トリプルブレイカー組とS2CA組は顔を合わせると笑顔を浮かべた。

 

「えっと……また今度会ったら続きしようか」

「はい! 今度は勝ってみせます!」

『特にお前たちは暫く模擬戦禁止だ!!』

『そんなっ!!?』

 

 で、結局最後にはクロノさんとマリアからなのはちゃんと響さんに模擬戦禁止令が出て、わたし達はちょっと離れた所で溜め息を吐いた。

 なんというか……魔法は暫くいいかなぁ。

 あぁ、白色の光が逆流する恐怖が……




最後はS2CAトライバーストVSトリプルブレイカーにして爆発オチと決めて書いたらこうなった。

この時代にクラッシュエミュレートってあったっけ? とかクラッシュエミュレートってこんなんだっけ? とか思いながらも書いたので結構なのは側があやふやだったり。まぁ、この作品なんてお祭り作品だし調ちゃんのキャラが常に崩壊してるし、大丈夫でしょ()

調ちゃんからの魔法少女組の呼び方に悩んだりもしつつも書きあがったなのはコラボ回、如何でしたでしょうか。模擬戦のメンツは最終的に魔法少女組+八神家でしたが、実は途中まで装者七人の内誰かを留守番させてマテ娘三人を、とか七人なら紫天一家を、とか考えてたのですが、あの四人をエルトリアから引っ張ってくる理由が思い浮かばなかったのでヴォルケンズが出てきました。

なのは組は暇なら普通に来れるぐらいの緩さで世界間移動できるかもなので、今後はパスパレ並みに出番があるゲスト枠になるかも。

実はなのデトの資料が無くてテレビ版の知識で半泣きになりながら書いていたりいなかったり。

次回は特に決めてませんが、ネタが思いついたら投稿します。それでは、また次回。

P.S
コロナてめぇぜってぇ許さねぇからなぁ!!?


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月読調の華麗なる声優日和

今回は皆さんお待ちかね(?)の声優時空です。

声優時空って何気に最初期から存在するのに投稿頻度少ないので改善しようかなーとは思っているんですけど、如何せん声優ってお仕事を描写するのが難しくて……

まぁ、アニオタクリスちゃんを大々的に書けるのなんてここ位ですし、声優時空は声優時空でアイドル時空や実況者時空には無い要素ばかりですから、書いてると楽しんですよね。

それでは声優時空のお話をどうぞ。


 どうも、声優をしている月読調です。いや、月読調ってわたししか居ないからこんな事考えても無意味なんだけどね。いや、ホントなんでこんな事急に考えたんだろう。

 まぁいいや。わたしはまだ声優になってから日が浅くてまだ新人声優としてのレッテルは剥がれてないんだけど、幸運な事にお仕事はそこそこある。

 だからわたしのスケジュールにはそこそこ忙しかったりする。だと言うのに装者としてのお仕事を強いてくる厄介な人っていうのはこちらの都合を一切考えずに厄介ごとを起こしてくれる。

 明日は学校を休んで収録のお仕事があるんだけど、もう十一時を過ぎたこの時間帯に装者としての仕事が舞い込んできた。

 どうやら錬金術師がアルカノイズと一緒に聖遺物の研究をしている研究所に攻撃してきたとか。幸いにも襲撃が起こってすぐにわたし達に出撃要請が来て、聖遺物が盗まれる前に到着できたんだけど……

 

鉛玉の大バーゲン! 馬鹿に付けるナンチャラはねぇ! ドンパチ感謝祭さ踊れ! ロデオの時間さBaby!!

「クリス先輩、そっちは人が居るかもしれません! 慎重に!」

世の中へと文句をたれたけりゃ、的から卒業しな! 神様仏様、アタシ様が許せねぇってんだぁ!!

 

 切ちゃんと響さんが人員救助と聖遺物の確保のために研究所内部を走り回っているんだけど、どこに誰が居るか分からない以上、クリス先輩もガトリングとかは使えず大型拳銃でガンカタをして頑張ってくれている。

 わたしもヨーヨーで頑張っているけど、予想以上にアルカノイズの数が多くてちまちまと削る事しかできない事にちょっとむしゃくしゃする。

 けど、戦わないといけない。歯を食いしばりながらクリス先輩と背中を合わせてアルカノイズを何とか減らす。

 

傷ごとエグって涙を誤魔化して、生きた背中でも! 支える事笑い合う事、上手クデキルンデスカ!?

『調ちゃん、こっちで生存者は全員回収したよ!』

『こっちも聖遺物を回収したデス! ドカンと一発やっちまうデスよ!!』

『責任ならこっちに擦り付けろ!! 犯人を殺さない程度に吹き飛ばせ!!』

 

 クリス先輩が歌いながら戦っている中、響さんと切ちゃんからどれだけぶっ飛ばしてれても構わないという言葉が聞こえてきて、同時に弦十郎さんから責任は任せろと許可をくれた。

 これだから弦十郎さんは大人の鏡!

 

「了解! クリス先輩、合体技で!」

慣れねぇ敬語でもどしゃぶる弾丸でも、ブチ込んでやるから!! 繋いだ手だけが紡いだ!

 

 クリス先輩の肩に乗ってアームドギアを展開。直後にわたしの肩に乗っかるように展開してきたミサイルにわたしのアームドギアをくっ付けてミサイルをデコレーション。そこを通るだけで万物を斬り裂く最高のミサイルが完成した。それをわたしが発射装置ごと腕に装着して左右に狙いをつける。

 

笑顔達を守る強さを教えろぉぉぉぉ!!

「全部吹っ飛べっ!!」

 

 そのままミサイルを発射。ミサイルは高速で飛んでいって、しかもわたしの鋸で地面を叩いて軌道を修正、なんて事もしてのけるから、クリス先輩の遠隔操作でミサイルが一気にアルカノイズを殲滅。更にはアルカノイズに守られていた錬金術師も爆風で吹っ飛ばした。

 錬金術師は吹き飛ばされた後のダメージを抱えながらも逃げようとするけど、それを見逃すわたし達じゃない。

 

「フリーズ」

「プチョヘンザだ。文句言いたかったら先に的から卒業しておくべきだったなぁ?」

 

 クリス先輩の肩に乗ったままで移動してもらえば、クリス先輩が吹き飛ばして体勢を立て直そうとしていた錬金術師に拳銃の銃口を突き付けて、わたしもクリス先輩の肩に乗ったままアームドギアを展開して突きつける。

 これには流石に錬金術師も観念したようで両手を上げた。文字通りプチョヘンザだね。

 

「っつかお前いつまでアタシの肩の上に乗ってんだよ」

「いや、なんか降りる機会見失っちゃって」

「んだそりゃ。まぁいいけどよ。あの馬鹿よか重くねぇ」

「女の子に体重の話は厳禁なのはクリス先輩がよく分かっているでしょう?」

「ごもっともだが、アタシとしてはプロフの体重でサバ読むのはアウトだと思うぞ。胸も体重も」

「プチョヘンザです」

「やめろマジでトゲが生えたヨーヨー突きつけんじゃねぇ」

「何かわたしが喜ぶことを言ってくれたら許します」

「ファンです」

「知ってます」

 

 というか、所詮誰にもバレないんですから公開されてるプロフでサバ読んでもいいじゃないですか! どうせわたしが数センチ胸の大きさ偽っても気づく人なんていませんよ! それでも未来さんより小さいんですから!

 そんなわたしの慟哭も意味なく、後始末にやってきた黒服さんが錬金術師の身柄を引き取ってくれて、わたし達はいつも通りヘリで本部に帰還する事に。ちなみにギアを解除してもクリス先輩に肩車してもらってたけど、あの人がわたしを降ろさなかったせいで思いっきりヘリの搭乗口の上の所に頭ぶつけたよ。

 で、本部の方に戻ったんだけど、その頃にはもう日付が変わっていまして。

 

「みんな、すまんな。こちらとしてもこんな深夜に装者を呼び出す事は控えたいのだが……」

「少なくともわたし達は平気ですよ、師匠。調ちゃんがちょっと怪しいかな、程度で……」

「寝不足確定です」

 

 一応LiNKERの体内洗浄とかしてデブリーフィングも終わらせて、さぁもうすぐで帰れるぞって頃には既に睡眠時間は三時間を切っていました。

 後一時間で夜が明けるよ……明日は七時起きだよ……今から帰ったら普通に五時近くだよ……あっ、残り睡眠時間二時間じゃん。いや、別にわたしはいいんだけど。F.I.S時代にマムからもしも襲撃された際にしっかりと逃げて安全を確保できるようにって寝ずに三日くらいは動けるように訓練されたから。

 

「いや、ホントすまん。今度埋め合わせをする事は約束できるのだが、明日の事となるとこちらではどうにもならなくてな……すまんが、明日は頑張ってくれ。近い内に苦労を掛けた分の埋め合わせはさせてもらう」

「じゃあ、その時はその言葉に甘えさせてもらいます」

 

 まぁ、訓練したとは言っても眠い物は眠いんだけどね。

 でもSONGの人達はどれだけ疲れてても交代の人が出社してくるまで頑張ってるわけだから、わたし達が先に音を上げるわけにもいかないし。それに、まだ寝れるだけマシだからね。

 ちなみに響さん達と切ちゃんは明日……というよりももう今日だけど、この後はこのまま学校に行ってもやれる事もやれないだろうからという事で公欠扱いで休みみたい。公欠とは言っても別に勉強しなくていいってわけじゃないからんだけどね。

 という事でこの後は各々帰宅……という事にしたかったんだけど、流石に女の子をこんな時間に一人で帰す訳にもいかない、という事からSONGの黒服さん達に家まで送ってもらった。

 

「こんな夜遅くにありがとうございました」

「事故らないように気を付けるデス!」

「いえいえ。これぐらいやらないと普段守ってもらってる分の恩が返せませんから。それでは、自分はこれで」

 

 黒服さんってサングラスかけてスーツ着ていかにもって感じの人だけど、基本的にみんな優しい人たちだから外見が怖いだけなんだよね。時々響さんとか翼さんがもうちょっと緩い服装でも、とか言ってるみたいなんだけど、流石に公的というか国営というか、国がお金を出して運営している組織だからそこら辺はしっかりしないとドヤされるんだってさ。

 そんな黒服さん談義は置いておくとして、いつも通りエレベーターでわたし達の部屋がある階に移動していつも通り鍵を開けて着替えて歯を磨いてから就寝。で、しっかりと七時に目が覚めたんだけど……

 

「ね、ねむ……」

 

 うるさく鳴り響く携帯を握りながら何とか目を覚ましたんだけど……予想以上にキツい。最近睡眠時間を数時間程度にして寝て起きる事をしてなかったからかな……眠って眠気が綺麗サッパリというよりかは、眠気のせいで更に意識朦朧とする上に逆に疲れた感じが……

 でも、携帯のアラームを無視するわけにもいかずになんとか上半身を起こしてアラームを消した段階で寝落ちしないように立ってからアラームを止めて、寝間着から私服に着替える。

 私服に着替えたら友里さんが迎えに来るまでの間に顔を洗ってご飯を軽く食べて歯を磨いて……そうこうしている間に徐々に目は覚めてきたけど、やっぱり眠いのは変わらず。切ちゃんの朝ご飯は……どうせ起きないだろうし作らなくていいかな。多分起きるとしたらお昼頃だろうし。

 けどお昼はどうしよう。わたし、今日は夕方まで普通に収録があって帰ってこれるのって夜になるから……まぁ、いっか。どこかで食べてもらおう。クリス先輩とか多分外で食べるだろうし、とりあえず自分でお願いとだけお昼に言っておこっと。

 トーストを食べて、コーヒー飲んで。まだボーっとして眠い頭を何とか叩き起こして震える携帯の画面を見れば、友里さんからそろそろ時間だから降りてきて、と連絡が。一言返事を返してから靴を履いて鞄を持って忘れ物が無いかを確認してから駐車場に行くと、見慣れた車が。顔を見せてわたしの事を確認してもらってから車に乗り込めば、そこでようやく一息。

 

「おはよう、調ちゃん。昨日……というかさっきは大変だったわね」

「おはようございます。大変でしたけど、やらないと誰かを助けられませんから」

「いい志ね。とりあえずこのまま現場に向かうから、調ちゃんは寝てていいわよ」

「いいんですか?」

「子供は大人に甘えておきなさいって事。そうね、大体一時間半くらいで現場だから、その間はゆっくりとしてて」

「それなら、お言葉に甘えてちょっと寝てます」

「えぇ。おやすみなさい」

 

 さっきおはようをしたばかりなのにもうおやすみ。

 でも眠いのは確かだから、ちょっと体を深く座席に預けて目を閉じれば、すぐに眠気がやってきて意識が遠のいた。

 確か今日は一気に三話分くらい収録するから……――

 

「――ん。しら――ん。調ちゃん。起きて、現場に着いたわよ」

 

 ――……あれ?

 あっ、もう外にスタジオが……

 

「んんっ……おはようございます……」

「おはよう。予定通りに現場に着いたから現場入りしちゃいましょ」

「はい……」

 

 目を擦って何とか起きて。

 行きの間ずっと寝れたから大分気分はよくなったけど、でもやっぱり眠気はあると言うか、普通に考えて三時間半程度しか寝れてないのに十分なわけがないから普通に眠いわけで。

 でも、普通に寝れたしさっきよりも全然元気。よし、お仕事頑張ろう。

 

「それじゃあ私は調ちゃんの現場入りの後は本部に戻ってるから、何かあったら電話してね。六時過ぎには迎えに来るから」

「ありがとうございます。でも、なんだか送迎に時間を取らせちゃってちょっと申し訳ないです……」

「いいのよ。送迎がある日はその分だけ仕事しなくても……じゃなくって。ちょっと早めに帰って明日はちょっと遅めに出社できるから!」

 

 一瞬社会人の闇を見た気がした。

 でもこういう時はスルー安定だと言う事をわたしは知っているから、それなら役得ですね、なんて言って現場入りして、お世話になるプロデューサーさんや他の声優さんに挨拶してもう一度台本を読み直しながら残りの時間を待つ。

 ……あっ、この部分の読み方聞こうと思ってたんだった。聞いておかないと。

 最近のアニメの技名とかって普通に読みにくいのが沢山あるから困っちゃうよね。覚えられないし。

 ちなみに技名とか言ってるけど、今日わたしが収録するアニメはギャグアニメだよ。一応純レギュラーキャラです。やったね。

 

 

****

 

 

 収録、無事に終わりました。ぶい。

 ちょっと声の質と言うか高さと言うか、そんな感じの物を変えていたんだけど、その状態でずっと演技していたからかちょっと自分の声に違和感……

 というかわたしが演じたキャラの子、天才キャラのはずなのに徐々に徐々に言動がアホっぽくなってIQの数値が最初は五百だったのに今日の終わりには五万まで上昇していたのはこう、大丈夫なのかな。天才キャラという名のお馬鹿キャラなんじゃ……いや、お馬鹿キャラだね、あれは。吹っ飛ばされて悲鳴を上げるシーンで、何度もっとギャグっぽく、とかもっとアホっぽく、とか言われた事か……

 最終的にあんぎゃーって叫んだら何とかなったよ。リアルであんぎゃーって叫ぶ人いないよ。

 まぁ、そこら辺の面白おかしさを楽しむのもアニメだからね。わたしのあんぎゃーで笑ってくれるならそれでいいよ。リアルJKのあんぎゃーだよ。笑えよ。

 そんなお仕事事情はさておいて、他の声優さんへの挨拶を終わらせてから外に出てみると、そこにはあくびをしながら缶コーヒー片手に車にもたれかかりながら待っている友里さんが。

 

「友里さん」

「あっ、しら……じゃなくてここじゃ了子ちゃんね。お疲れ様、了子ちゃん。お仕事どうだった?」

「いつも通り、無事に終わりました。監督さんも新人でこれだけできるならセンスがいいって褒めてくれました」

「デビュー前に受けたレッスンが効いたのかしら?」

「十中八九そうですね」

 

 弦十郎さんの映画式演技トレーニングと緒川さんwith翼さんの演技トレーニング。そのお陰で今のわたしがあります。あの期間はやっぱり辛かったけど、そのトレーニングとうたずきんっていう声優界でも屈指の難易度を誇るアフレコを経験したお陰で他の現場でのアフレコもなんとか乗り切れています。

 いや、ホント歌いながら演技するうたずきんの難易度が異常で……政府の命令だったとはいえ、演技始めて一年経ってない人にやらせるもんじゃないよ、あれは。

 ちなみにうたずきんに関してはこの間無事最終話までの収録が終わったよ。いやー、長いようで短かったうたずきんのアニメだったけど、何とかこれで終わり。ゲームの方は売り上げがいいらしく続いているから、そっちでの収録がまだまだあるんだけどね?

 だからこの間収録お疲れ様の打ち上げに行ってきて、写真も撮ってSNSにアップしたし。その時の打ち上げ費用はいつも通りの事になったよ。いや、ホントなんでああなったんだろう。

 

「それじゃあ帰りましょうか……と、言いたい所だけど。この近くに美味しいレストランがあるって他の職員から聞いたのよ。もう私も上がりだし、一緒にどう?」

「是非とも」

「そうこなくっちゃ。って、そう言えば切歌ちゃんの方は……」

「コンビニで適当に済ませてもらいます」

「了子ちゃんって案外ドライな所あるわね」

「この前切ちゃんにはわたしの秘蔵プリンを食べられたので、その仕返しです。あのプリン、高かったのに……!!」

「食べ物の恨みは何とやら、って事かしら」

 

 帰った時にプリンが冷蔵庫の中から忽然と消えていたあの時の恨み、忘れはしないよ……!!

 という事でわたしは友里さんと一緒に食事へ。切ちゃんはどうやらお昼くらいに起きたようで、それについての返事は了解デス! だったけど、今のご飯食べてくるから切ちゃんはコンビニで済ませて、の連絡には裏切り者ぉ! って返ってきた。勿論わたしはプリンの恨みと一言だけ返事したけど、切ちゃんから返事が来ないです。まぁ、図星と言うか思い当たる節のせいで口を閉じざるを得なかったんだろうね。

 

「しかし、まさか了子って名前をちゃん付けで呼ぶ日が来るなんてね」

「え? 意外でしたか?」

 

 で、切ちゃんとの会話を終わらせると、友里さんがそんな事を言いだした。

 

「えぇ。了子って名前の元がどこから来てるかっていうのは、聞いてるわよね?」

「はい。フィーネだった櫻井了子さんからと」

 

 月読を変えて月詠に。名前を櫻井了子さんことフィーネから貰って了子。それがわたしの芸名、月詠了子。これを考えてくれたのは弦十郎さん。

 あの人はわたしにフィーネの魂を宿していたのなら、了子くんの名前を使ってみるのはどうだ? なんて笑顔で聞いてきて。わたしはそれに頷いて、月詠了子という芸名を名乗る事になった。

 

「司令としては、了子さんの名前がマイナスの意味で使われ続ける事が嫌だったのよ。何年も苦楽を共にしてきた仲間だからこそ、了子って名前がルナアタック事件の黒幕として歴史に消えていくのは嫌で……だから、政府の我儘に溜め息を吐きながらも応えた月詠了子って声優を作り上げた。了子ちゃんの名前って言うのは、そんな男の意地でできた名前なのよ。だから、まさかそんな意地のお陰で了子さんの名前を調ちゃんが名乗って、了子って名前をちゃん付けで呼ぶなんて……って、ごめんなさいね。急に身内だけにしか分からないような話をしちゃって」

 

 ……フィーネは、当時の二課の人達を裏切ってカ・ディンギルを作っていた。そしてクリス先輩にイチイバルを与えて、ネフシュタンの鎧を隠し持って。それで、最後には裏切って月を壊そうとしたって、聞いた。

 でも、友里さん達の中だと、そんな裏切りをしたフィーネの事なんて、どうでもいいみたい。

 ただ、櫻井了子っていう正体がフィーネな女の人が居て、その人にはいっぱいお世話になって。そんなお世話になった人の名前がルナアタック事件の黒幕として事務的に処理され続けるのが、辛抱たまらなくて。

 確かに裏では裏切るための手解きをしていたけど、それまでの間にしてくれた親切を、櫻井了子さんの良心をずっと信じ続けているんだと思う。

 

「……いえ。わたしも覚えておきます。櫻井了子さんがどれだけ凄い人だったかって」

「調ちゃん……ありがとう。それじゃあ、今日の晩御飯はお姉さんが奢っちゃうわよ」

「えっ、いや、悪いですから!」

「いいのよ、元々奢る予定だったし。こう見えてもお金はあるのよ? 任せておきなさい。というか、独身だからお金だけが溜まっていって……仕事もあるから使いきれずに徐々に徐々にお金が溜まっていって通帳を見るたびに嬉しいけど悲しい気持ちに……」

「わー!?」

 

 結局この後は友里さんを慰めるために色々と口先を回しました。

 いや、ほんと、良い人見つかりますから……ね? あと、晩御飯は美味しかったです、はい。

 

 

****

 

 

 それから暫く。

 うたずきんの最終回放映記念という事で、わたしは生放送にお呼ばれしました。結構長い事やっていたうたずきんだけど、これにて終わり。そのお陰でライブとかラジオとかを結構な頻度でできたんだけど、ライブについては最終回が終わったという事で最後の集大成に。ラジオは引き続き、という形になる。

 で、この生放送は最終回記念ではあるんだけど、名目はラジオの出張生放送という名目で、主役ことわたしの他にラジオのメインパーソナリティー二人ともう二人のメインのキャストさんが出演するという結構凄い生放送。

 という事で、リハも終わって台本渡されて。

 こうやって台本見ると思い出すよね。台本が白紙だった事件からのわたしの初登場。

 そして生放送だとお水落下事件……も、もう落とさないからね!

 あっ、そう言えばこのうたずきんのフィギュア、結構完成度高いよね。どれどれ……

 

「いえーい! それでは始まりました……って、了子ちゃん? 本番始まってるよ?」

「え? あっ、あれ!? は、はい!」

 

 い、いつの間に!?

 

「まぁ、私の方から本番前の合図はハンドサインでってさっき指示したから気づいてなくても当然なんだけど」

「ちょっ!? またわたし切り抜きで動画化しちゃうじゃないですか!」

「いいじゃんいいじゃん。愛されていけー?」

「求めている物と違いますから!!」

 

 ――はい。この後お察しの通りこの部分が切り抜きで動画にされました。ネットの人達はどうしてこんなにも人の失敗を面白がるの!? いや、音割れマリアBBとかで確かにわたしも笑っていたから素材の面白さというか、そんな感じの物は分かっているけども!! それでファンが増えるのは嬉しいけど、ちょっと求めているファンの増え方と違うと言うか――

 

「はい、じゃあ生放送の方やっていきましょう!」

 

 まぁ、わたしのミスは一旦置いておいて、生放送の方がスタート。

 今回は最終回記念なんだけど、ついでにゲームの方の情報も公開するらしく、既にわたし達の台本には今度の新イベントやら何やらの情報が。

 それを話すのは番組の後半だから、暫くは声優さんたちと一緒に収録の裏で起きていたことを話したり、この日はこんなことがあったりとか、そういう思い出話を面白おかしく話す。

 で、最終的にはゲームの情報とかも伝えて、ミニゲームみたいなことをして、わたし達がそれをクリアしたらゲーム内で貰えるアイテムが増えるよーって事をやったんだけど……

 

「次の問題は……タイの首都はどこでしょう!」

「えっ、タイの首都って……それを四人で書くんですよね?」

「そうだけど……あれ? タイの首都ってどこだっけ?」

「………………分かった!」

「え? 分かったって……あっ、なんか持ってる!?」

「ふせげふんげふん! 文明の利器だよ了子ちゃん!」

「ほら、タイの首都ってバーン! としてコクがある感じの……」

「あー! バーン! としてコクがある感じの!」

「ふ、不正なんてなかった!」

 

 まぁ、こんな感じにふせ…………じゃなくて出演者同士の絆を確かめて!

 

「あっ、この問題難しい……監督さーん! 答え教えてー!」

「えっと、私が……よっしゃ分かったぁ!」

「これ不正じゃない! 不正じゃないから! 監督さんっていう出演者の力だから!!」

 

 後はなんかチート使って!

 無事全ミッション達成でアプリでのアイテム配布は最大数になりましたー! わーいわーい。

 いや、誰がどう見ても不正だよ。

 まぁ、それでも不正は無かったと言い続けるのがこの番組というかこの作品の生放送というか、視聴者さんもそれで楽しんでくれているから別にいっか、という事で。

 

「それじゃあ名残惜しいですが本日の生放送はここまで!」

「今度メインパーソナリティー二人で公開ラジオ収録とかやるからみんな来てねー」

 

 こんな感じで生放送は無事に終了しました。

 いやー、何と言うか……

 凄い不正を見てしまった。

 というのは置いておいて、やっぱり初主演作品が終わるって言うのはちょっと寂しい事で。ちょっとばかりしんみりとしちゃったりもしたけど、まぁこの後また打ち上げで焼肉に行って、無事領収書はいつもの所へと飛んでいきました。

 なんというか……またうたずきんってやりそうだよね。OVAとか劇場版とかで。

 よし、それじゃあうたずきんがまたやる事を祈って、わたしはいつでもうたずきんを演じれるように頑張ろうそうしよう!

 

 

****

 

 

 ちなみに。

 

「うぅぅぅ……うたずきん終わっちまった……でもすっげぇいい話だったし最終回もよかった!! けどアタシはいつか復活してくれるってそう信じてる!! お祭りゲーへの参戦だったりライブの後で劇場版やOVAの制作決定の報告とか!! アタシは一人のファンとして待ち続ける!! だから今ある情報だけでもアタシに!! どうかアタシに生きる希望を恵んでくれ!!」

「いや、流石に秘匿義務とかあるので……」

「もうアタシ明日から何を生きがいにして生きて行きゃいいのか分かんねぇんだよぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

 クリス先輩がうたずきん最終回後に無事限界オタク化しました。

 まぁ、一か月後くらいに発表されたうたずきんのライブ開催決定の報告を聞いて舞い踊ってたけどね。




偶には時間軸上最新の歌を使うんじゃなくて昔の歌で戦ったっていいじゃない? という事で今回のクリスちゃんが歌ったのはTRUST HEARTでした。今後ビッキーが戦う時に急に撃槍・ガングニールが流れたりマリアさんが戦う時に銀腕・アガートラームが流れるかも。

今回のお話はとうとううたずきん役が終了までのお話。いや、厳密には終了じゃないんですけど、ずっとうたずきんやるのも……という事でうたずきんはXVも終わった事ですし終わり、という形にしました。今後の声優時空ではうたずきん以外の声を担当する調ちゃんが見れるかと。

そういえばXVのアンソロを遅ればせながら購入したのですが、その途中の話で翼さんがステージに上がる時のペアでクリスちゃんと調ちゃんを指名していた描写で、頭の中にアイドル時空の事が出てきてしまいました。
アンソロで書かれたんですし、クリスちゃんを使ってアイドル時空のステージ上でBAYONET CHARGEを……とか考えていたりいなかったり。

それではまた次回、お会いしましょう。


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月読調の華麗なる同一人物

久しぶりにグレ調書きたいし、ついでにノーブルレッドにもそろそろ出番与えた方がいいかなと思ったので今回はグレ調時空です。

前みたいに中編ストーリーではなく、ゆるーいお話ですのでシリアスではなくギャグ寄りみたいな感じです。
前のグレ調時空書いている時はまだ平行世界の同一人物が出会うとどうなるかが分からなかったので書けなかった平行世界の調との交流も書きたかったので。

という事で平和になったグレ調時空の話です。どうぞ。


 本日もわたしの世界は平和。ヴィマーナの一件以降、わたしは基本的にSONGの潜水艦で訓練しているか待機しているか勉強しているかの三択をして、シャロンが学校から帰ってくる時間になったらマムと一緒に帰宅する。そんな感じの毎日を送っています。

 時々、聖遺物とかを狙ってパヴァリアを抜けだした錬金術師がアタックを仕掛けてくるときとかがあるけど、ザババギアを持つわたしにはその程度十把一絡げの敵。ついでに殆どの強敵は思い出の供給場所を確保した結果よっぽど燃費が悪い技を使わない限りバ火力をどんどこぶっ放すキャロルのお陰で相手もすぐに降参してくれる時があるし、普通に響先輩達も戦線に混ざるから木端の錬金術師に勝てるわけもなく。

 そんな訳でわたし達の世界は案外平和なので、わたしが待機している時間も結構無意味だから……

 

「調、あなたには平行世界のSONGとの連絡係を請け負ってもらいたいのです」

「えっ、わたしが?」

 

 そんな仕事を振られました。

 わたし達の世界のSONGは、言ってしまえばあちら側のSONGを参考にして作られたと言ってもいい組織。マムと風鳴司令の相談の元、国連のお偉いさんとかも交えて話し合って、ついでに平行世界の事例なんかも出して作られた組織なんだよね。

 で、あっちの切ちゃん達曰く、平行世界で問題が発生するとあっち側の世界に問題が生じる可能性があるし、ついでに世界蛇……だっけ? あれみたいなのがまた現れないとも限らないからね。

 当時のわたしはこっちを響先輩達とキャロルに任せて、あっちの世界で無尽蔵に沸いてくる敵を相手してたり。ザババギアが無かったら多分相当足引っ張ったのは間違いないと思う。あと、なんか知らないファウストローブを纏ってるキャロルとか、どこかで見たことありそうな司令っぽい人とか居たけど。そして空を飛ぶヴィマーナも。

 そんなあっち側の世界の問題……というか、世界蛇みたいな各平行世界に影響を及ぼすような問題にはこちらからもアプローチを仕掛けて解決しなくちゃ、という事で正式に平行世界のSONGとわたし達が手を結ぼう、という事でわたしがその連絡係を任せられた。

 

「任せられますか?」

「うん、任せて」

「それならこの書類も平行世界のSONGにお願いするでアリマス!」

 

 頷いてマムからデータ端末を受け取ってポケットにしまうと、横から今度はクリアファイルに入った書類を差し出された。

 誰かと思って横を見てみると、キャロルの件から交流を持つ事になったパヴァリアさんの方からの常駐というか派遣というか……まぁ、言ってしまえばこっちで仕事をしつつあちら側からの情報をこっちに伝えるっていうそこそこ重要な立場の子が。

 

「えっと、パヴァリアの方もSONGに?」

「そうでアリマス。あの全裸野郎からもしもSONGが平行世界と協定を結ぶ時があったら、この書類を一緒に持っていってもらうように、と元から仰せつかっていたのでアリマス」

「あはは……一応請け負うけど、流石に自分の組織のトップを全裸野郎とかは言わない方がいいと思うよ、エルザ」

「別にあの全裸は気にしないから言っておけばいいんでアリマスよ」

 

 こちらパヴァリアからの派遣さんことエルザ。こっちに常駐している会社で言うならサラリーマン的ポジションの子なんだけど、普段はパヴァリアさん用に用意したスペースで書類仕事をしていたり、キャロルやエルフナインと何か錬金術的な話をしていたりと、色々としている様子。

 

「その通りだゼ。あの全裸なんて言っておけばいいんだよ。あっ、ナスターシャ。これディーンハイム姉妹からの請求書だゼ」

「ありがとうございます、ミラアルク。どれどれ……いいでしょう、こちらから経理の方には話を付けておきますと伝えてください。それと、先日の実験のレポートを早く出せ、とも」

「はいよー」

「あっ、ミラアルク。これ、さっき間違って買っちゃったトマトジュース。あげるからお仕事頑張って」

「おっ、気前いいじゃん。あざまーす」

 

 で、こっちがエルザと一緒にこっちに常駐しているミラアルク。

 二人ともパヴァリアを抜けた錬金術師達の実験によって人間じゃなくなって怪物みたいな感じになっちゃったらしいんだけど、その後に二人の言う全裸野郎ことアダムとパヴァリアの幹部の三人に助けられてからはパヴァリアに在籍してるんだって。

 当面の目標は人間に戻る事。だから、錬金術では一方通行しかできなくても聖遺物とキャロル達なら……という事で、パヴァリアはSONGに協力する代わりに条件としてエルザ達が人間に戻れる可能性が見つかったら情報を秘匿する事なく提供する事と、エルザ達をこっちに常駐させる事を提示してきた。

 まぁこっちとしてはそれを蹴る利点も無いので、是非ともという事で三人を常駐のパヴァリアの職員として迎え入れ、現在も三人が人間に戻れる可能性を追い求めながらパヴァリアと共に世界の平和を維持しております。

 

「あらら、ちょっとエルザちゃん。平行世界宛の物はそのクリアファイルじゃなくてこっちのクリアファイルよ?」

「え? あっ、間違えたでアリマス!」

「全くもう……まぁ、お姉ちゃんが気づけたからお咎めは無しよ。はい、調ちゃん。こっちが本当の書類」

「あ、うん。じゃあこっちは返すね、ヴァネッサさん」

「はい、受け取りました。じゃあお仕事頑張るのよ?」

 

 で、この人がヴァネッサさん。立場的にはエルザとミラアルクの上司になるっぽい。いつもパヴァリア代表としてSONGの会議に出席してたり、結構忙しそうにしているのを覚えている。

 ちなみにエルザは狼男、ミラアルクが吸血鬼、ヴァネッサさんがフランケンシュタインが元となった怪物らしいんだけど……エルザに関してはただの犬耳がついたマスコット、ミラアルクは吸血鬼(パワー特化)、ヴァネッサさんはロボットなせいか、怪物と言うよりかはタダの色物としてSONG内では認識されております。

 あと、風鳴司令と響先輩、それから一部の職員はヴァネッサさんの内蔵火器のアレコレを見てめちゃくちゃテンション上げてました。ヴァネッサさんもそれは予想外だったようで、興奮する人達を見て軽く引いてました。

 ちなみに風鳴司令は三人の素性を聞いて「怪物くん……!?」って驚いてたけど……怪物くんってなに?

 

「じゃあ行ってくるね。エルザ、帰ってきたら響先輩達も誘ってカラオケでも行く?」

「ガンス!」

「あらあら。いつもエルザちゃんと遊んでもらっちゃって悪いわね」

「いえ。ヴァネッサさん達もどう?」

「うーん、お姉ちゃんは今日は体のメンテナンスがありますので」

「ウチも今日は寝不足だからパースだゼ」

「ミラアルクはいつも寝不足してない……?」

「日本のゲームが面白すぎるのが悪いんだゼ」

「全くもう、ミラアルクは自堕落すぎでアリマス」

 

 なんだか和むパヴァリア組の会話を聞きながら、わたしはすたこらさっさと外に出てそのままギャラルホルンのゲートをシュルシャガナを纏って通り、そのまま平行世界のSONGのギャラルホルンが保管してある部屋へ。

 こうやってこっちの世界に来るのって、なんやかんやでまだ二回目かもしれない。切ちゃんが遊びに来てくれることは多々あったけど、こっちからこうやってお邪魔するのって初回が前の世界蛇の一件だったから……うん、二回目だね。

 この世界にも月読調がいるらしいけど……その前にちゃちゃっとこっちの風鳴司令に話を付けないと。

 途中親し気に挨拶してくれる職員の方々に頭を下げて、そのまま指令室へ。

 

「ん? なんだ、調くんか。今日は切歌くんと出かけると聞いていたが、そっちはいいのか?」

 

 ……あれ?

 あっ、そうだ。

 こっちにもわたしが居るんだから、そりゃあ何も言わずに来たらこっちのわたしと勘違いされるよね。

 

「あ、いえ。わたしはこっちの月読調じゃなくて、平行世界の月読調です。切ちゃんに助けてもらった……」

「なに? …………あぁ、あの時、切歌くんと響くん、そして未来くんで向かってもらった平行世界の調くんか! すまんな、ここまで顔つきも体格も一緒だと気が付けなかった」

「こちらこそ、急にお邪魔したんですから間違われても仕方ないですよ。でも、何かこっちのわたしと差別点を付けた方がいいですよね? そうすると……」

 

 うーん……

 あっ、そうだ。髪型を変えておこう。いつもギアを纏う都合上ツインテールにしてたけど、今日は多分ギアも纏わないだろうし、例え纏っても強制的にツインテになるからポニテにしておこう。

 よし、これでオーケー。まぁ、お仕事終わったらすぐに戻るけど、間違われないようにね? これからこっちに来るときもポニテにしておけば目印になるだろうし。

 

「という事で、このわたしがこっちに来るときは基本的にこの髪型にしておきます。これならこっちのわたしとの相違点になるでしょうし」

「そうだな。そうしてくれるとこちらとしても助かる。で、用件はなんだ? 遊びに来ただけというのなら、存分に遊んできてもらっても構わないぞ」

 

 それは魅力的だけど、今回はお仕事だから。

 という事で、ポケットから記憶端末を取り出して、ついでに抱えていたクリアファイルもこっちの風鳴司令に手渡す。

 

「これ、わたし達の世界のSONGとパヴァリアからの御届け物です。一応、SONGからは今後、平行世界間での影響がある問題が発生した際のために協力関係になりましょう、というのをマム……えっと、こちらのSONGの副指令であるナスターシャ教授から言い伝えられています。パヴァリアの方はよく分かりません」

「ふむ、そちらの世界のSONGから、か。それと、ナスターシャ教授は普段通りマム、と呼んでくれて構わない。君がマムと呼称するほどの人物など、一人しか知らないからな」

 

 なんというか、風鳴司令って平行世界でもすっごい良い人だなぁ。だからこそ切ちゃん達も信用して組織に籍を置いているんだと思う。

 で、風鳴司令はこっちのSONGのデータが入った記憶端末をオペレーターの人……あっ、友里さんだ。友里さんに渡した後に、クリアファイルの中から紙を取り出して目を通した。

 

「ふむ……なるほど、パヴァリアからは純粋に、こちらと協力体制を取り有事の際は情報の共有、戦力の貸し出しを行う、という事を記した誓約書とでも呼ぶべきものだな。君たちの世界ではパヴァリアは善性組織なんだな」

「はい。一応、キャロルとエルフナインが元々所属していた組織ですし、今はヴァネッサさん達もこっちに来て荒事の際は力を貸してくれたりもしていますから」

 

 何気にヴァネッサさん達って個々の力はシンフォギアよりは劣るけど、三人一緒だと息の合ったコンビネーションをしてくるから装者一人よりも遥かに強くなるんだよね。イグナイト装者相手に引き下がらないくらいはできると思う。

 でも燃費悪くて稀血が必要になってくる辺り、そう簡単に三人を前線には出せないんだけどね。そんな命を削ってまで戦う真似は最終手段です。

 

「キャロルくんに加えてパヴァリア残党までもがそちらでは味方に付いているのか……?」

「え? パヴァリア残党って……? 一応、キャロルはシャロンのヤントラサルヴァスパ絡みで、ヴァネッサさん達は派遣社員というか常駐社員って形で協力してくれてます」

「シャロンくんとヤントラサルヴァスパの名前が出てくると言う事は、ヴィマーナの件までもが絡んでいるのか……凄いな、そちらの世界は」

「そ、そうですか?」

 

 別にキャロルもヴァネッサさん達も普通にいい人だから仲間になるのなんて結構簡単だと思うんだけど……

 切ちゃんもそこら辺は秘匿事項だしすっごい気を付けて口にしていたから、こっちのパヴァリアがどうなっているのかは分からないんだよね。

 

「なるほど……分かった。現状だが、こちらとしても平行世界の組織が仲間となってくれることはとても心強い。寧ろこちらから願い出たい程だ。故に、そちらからの提案には首を縦に振らせてもらう事になるだろう」

「ホントですか? それならよかったです」

「ただ、こちらも受け渡すデータや書類の用意がある。少しばかり時間をくれないか? その間、調くんはこちらからの連絡が届く範囲でなら自由にしていてくれ。外に行くのなら、こちらから通信端末を渡そう」

「分かりました。じゃあ、少し平行世界のSONG本部を探索してます。もしかしたら外に行くかもしれないので、その時はもう一度ここに立ち寄ります」

「あぁ、分かった。準備ができたらこちらから君を呼び出そう」

 

 という事で暇になりました。

 外に出ても良かったんだけど、こっちのSONGとわたし達のSONGがどれだけ違うのかは元々気になっていたし、切ちゃんに挨拶するのはその後でいいかな、と考えた結果、まずはSONGの本部を見学しよう、と思ったからまずはSONG本部をぶらぶらと。

 全体的には変わりはないんだけど、ちょくちょく変わっている所があるね。こうやって見てるとなんだか見知ったはずなのに新鮮でちょっと面白い感覚になる。

 えっと、ここは……あっ、シミュレーター室か。ここで普段切ちゃんも特訓してるのかな?

 

「あれ? 調さん……じゃないですね。平行世界の調さんですか?」

「え?」

 

 と思って見てたら、声をかけられた。

 でもこの声って……

 

「エルフナイン? こっちにもエルフナインが居るんだ」

「はい、エルフナインです。こっちにも、という事は、そちらにもボクが居るんですか?」

「うん、いるよ。キャロルとエルフナインにはいつもお世話になってるから」

「えっ、キャロルもいるんですか……?」

「そりゃあ双子だし。そう言えば、こっちのキャロルはどこにいるの?」

「キャロルは……その……」

 

 かなり言いにくそうにしていたエルフナインだったけど、何とかエルフナインはこっちの世界のキャロルの事……ううん、二人の事情についてを教えてくれた。

 こっちのキャロルは、どうやらいつかキャロルとエルフナインが言っていた世界の解剖を……二人が大喧嘩してヤントラサルヴァスパのアレコレの問題を引き起こす事になった原因とも言える万象黙示録の完成を進めたらしく、その結果SONGと対立して、そのままキャロルはエルフナインに体を明け渡して……という結末になったらしい。

 でも、最近になって復活して一回だけ装者と共闘したらしく、今もエルフナインはまたキャロルと会える日を夢見て頑張ってるんだって。

 

「そうだったんだ……また、キャロルに会えるといいね」

「はい! そのために頑張ります!」

 

 こっちのエルフナインは、何と言うかちょっと幼い感じだよね。わたしの知ってるエルフナインはキャロルと比べるとどっちがお姉ちゃんなのか分からないくらいには大人と言うか、キャロルが子供っぽいから相対的に大人に見えると言うか、守銭奴というか……

 あと、エルフナインから定期的に買っているテレポートジェムの座標をここに設定してもいいかと聞いたら、何でわたしが持っているのかと驚かれた。そりゃあエルフナインから買ったからだけどって言ったら、そんな簡単に量産できるような設備が……? って驚いていた。

 なんかわたしの知ってるエルフナインは息をするようにその場で作っては売り捌いているからそこら辺分からないんだけど、とりあえず見せると、なんでこれが片手間で……? と驚かれた。

 とりあえず座標は設定させてもらって、ついでにおすそ分けで一つ、こっちのエルフナインにプレゼントしておいた。ダース百円だしね。いやー、ホント安いし使いやすいからこれが無い生活には戻れないよ。地面に叩き付けるだけで楽々テレポートだもん。SONGの職員さんも愛用している人多いし。そのせいかエルフナインががっぽがっぽ儲けてるし。

 で、あんまりエルフナインの仕事を邪魔しても悪いから、とりあえずエルフナインとは別れて……さて、どこに行こうかな。

 

「うーん……あんまり暇すぎるのも考え物……」

「ちょっと切ちゃん。いくら定期診断の後だからってはしゃぎすぎ」

 

 ……あれ?

 

「折角辛気臭い所から解放されたんデスから、早く……およ?」

「あっ」

 

 切ちゃんだ。

 

「切ちゃん。久しぶり」

「あっちの調デス! どうしてここに居るんデスか?」

「マムからこっちのSONGと協力関係になるから書類とかデータとか届けて来いって。おつかいみたいな物」

「そうだったんデスか」

「切ちゃん? わたしはこっちに居るけど……えっ」

「ん?」

 

 …………わお。

 目の前に同じ顔が……

 

「……えっ、誰?」

「月読調」

「わたしも月読調」

「うん、知ってる」

「…………あっ、平行世界の?」

「そう言う事。初めまして、よろしく」

「うん、初めまして」

 

 とりあえず初対面な事には変わらないから初めましてしたけど、自分に対して初めましてってすっごい違和感が……

 握手して、手を合わせて、唐突にポーズを取ってみたけどあっちもあっちで同じポーズを取って、完全に鏡写しの状況ができあがった。横で切ちゃんが困惑してるけど、こればっかりは平行世界の同一人物と出会った人じゃないと分からないと思う。何も考えずにポーズを取っても相手が相手だから鏡写しができあがる。

 流石に唐突に荒ぶる鷹のポーズはやりすぎたかな? って思うけど。

 

「その、切ちゃんから色々と聞いた。そっちじゃ切ちゃん達が……」

「でも、それはもう過去だから。乗り越えた過去だから」

「……うん、それも見てた。わたしもこっちで寝込んでいる時に、そっちの光景が夢で見れてたから」

「あ、そうなんだ。じゃあ切ちゃんが居なかったら未だに牢屋の番人してたっていうのも」

「何となく分かってる。でも、それを乗り越えられたのはいい事だと思う」

 

 やっぱり相手がわたしだからか、何も言わなくても分かる事が結構ある。

 なんで平行世界の同一人物が苦しむともう片方にまでリンクするのかはよく分からないけど、そこら辺は多分世界の法則と言うか、わたしが何か言えるようなことじゃないんだろうね。

 

「あっ、そうデス! この後の訓練、あっちの調も一緒にどうデスか?」

「え? 訓練?」

「あ、うん。この後、いつもの訓練をする予定で。多分切ちゃんは三人いた方が楽になるからって理由で誘ってるんだろうけど……」

「そ、そんな事ないデス、よ?」

 

 うーん、訓練かぁ……

 そう言えば最近書類仕事というか、お手伝いというか、訓練はあまりしてこなかったから、偶には思いっきり体を動かすのもいいかも。戦闘が起きてもイグナイト三人組とかキャロルのせいで後ろでポツンとしてたら終わってる時が多いしね。

 

「なんだか切ちゃんらしいね。でも、いいよ。最近あんまり動いてなかったし」

「やったデス! じゃあ司令にもそうやって言うデスよ!」

「あーもう……なんかごめんね?」

「別にいいよ。最近フラストレーション溜まってたのも事実だし」

 

 偶には思いっきり暴れないとね。

 と、言う事で。切ちゃんが風鳴司令に話を付けに行く間、わたしはわたしでこっちのわたしが使っているLiNKERを一本使っておく。

 うん、こっちのわたしのLiNKERでも問題はないみたい。これならもしもこっちの世界で何かあった時、LiNKERを持ってきていなくても借用して戦う事ができるね。と、いう事で先にシミュレーター室で待っていると、切ちゃんがやってきて、ついでにエルフナインが機械の方を弄っている。

 

『それでは、いつも通りの対アルカノイズを想定した戦闘の方を行いますね。それと、平行世界の調さんのデータはどうしますか? こちらの要望としては是非とも取らせていただきたいんですが』

「大丈夫だよ。多分、そこら辺含めての協力関係だし」

『ならよかったです。では皆さん、怪我だけはしないようにお願いします』

 

 エルフナインとの会話が終わると同時に室内の光景が一瞬で街中の物に変わって、すぐにアルカノイズが出現する。

 すぐに切ちゃんとこっちのわたしはギアを纏って臨戦態勢。ならわたしも。

 

「Various shul shagana tron」

 

 ギアを纏って。

 

「切ちゃん……!」

 

 胸のギアを、イガリマの力を借りてザババギアを展開する。

 

「うおっ、なんか急にあっちの調のギアが変わったデスよ!?」

「し、心象変化……?」

「ううん。これはわたしの世界の切ちゃんが残してくれたイガリマを一緒に起動させて纏ったギア。ザババギア」

『確かにシュルシャガナの反応に加えてイガリマの反応もありますね……ザババの刃たる二つのギアだからこその同時起動、というわけですか……』

「キャロルがやってくれました。細かい理論は分からないけど」

『なるほど……!!』

 

 本当にザババギアって体への負荷もかなり少ないし火力はあるしでかなり高性能なんだよね。イグナイトと比べたら確かに瞬間火力は確かに負けるけど、代わりにイグナイトには無い継戦能力があるから。イグナイトが数分程度だけど、ザババギアなら十数分は余裕で戦えるしね。

 わたしのシュルシャガナのイグナイトの代わりの決戦機能っていう名目のザババギアだけど、結構簡単に使えるしデメリットもほぼ無いせいで決戦機能というよりはただのパワーアップになっていると言うか……

 まぁ、そこら辺は置いておこう。

 

「……切ちゃん。わたし達もアレ」

「いや、無理デスよ!?」

「うん。わたしはシュルシャガナと一緒にイガリマも持ち歩いているからできている」

「じゃあイガリマ貸して」

「もっと無理デスよ!?」

 

 今の所、イガリマの次の適合者が出てくる気配が無いから、本当にザババギアはわたしの特権になりそうなんだよね。

 イグナイトかザババギアかの二者一択だったし、ザババギアの方がわたしには合っているから何も文句は無いんだけどね。ただ、あっちのわたしはザババギアっていうパワーアップを見て羨ましいのか、それともイガリマとの同時起動が羨ましいのか、切ちゃんからイガリマを貸してもらうように強請っている。

 でも、こればっかりはキャロルが改修してくれないとできなかった事だから、何とか説得してあっちのわたしを引き下がらせる。

 ……まぁ、ザババギアを使ったとしても、あっちのわたし達のユニゾンには及ばないんだろうけどね。

 

「それじゃあ行くデスよ!」

「うん。いつも通りパパっとお片付け」

「目標、アルカノイズ。これより殲滅します」

 

 いつも通りにハルペーと鎌を構え、横の二人が駆けだすと同時にわたしも駆けだす。

 

「調、ユニゾンデス!」

「大丈夫、切ちゃんの事はお見通し!」

 

 わたしと切ちゃんで突破口を開いて、あっちのわたしが後ろから援護、っていう流れだったんだけど、切ちゃんの言葉に声に反応したあっちのわたしが前に出て、切ちゃんと一緒に前線を構築し始める。

 ……やっぱり、適わないな。ユニゾンに関しては、本当に。

 

地獄からテヘペロちゃん! 悪魔だって真っ青顔!! 鎌をブンブンするの、Deathっ!!

ちっちゃいってナメないで! 電ノコは、一番痛いの! Understandッ!

 

 ……でも、だからと言って負けられない!

 わたしの隣には確かに切ちゃんは居ないけど、それでも切ちゃんが残してくれた力がユニゾンに劣る訳が無い!!

 

「シュルシャガナの殲滅力とイガリマの突破力、二つを合わせたザババギアなら!!」

 

 出現するアルカノイズを二人から離れて斬り捨てる。更にシュルシャガナのアームドギアで遠方の敵を両断しつつイガリマの鎌をダウングレードしてハルペーと一緒に腰にマウントしてから、肩のアーマーから四つの内二つを鎌に変化させてそれを投げつけて敵を斬り裂きつつ、残りの二個も手に取って小さい鎌にしてからアルカノイズの群の中に潜り込んで一気に周囲を斬り裂く。

 投げた後に戻ってきた鎌二つをキャッチして、四つの鎌を石突部分で連結。それを十字に組んで卍型にしてから今度はそれをシュルシャガナのアームドギアの中にセットして射出。それで一気に周囲のアルカノイズが消し飛んだ。

 

『ザババギア、凄まじいですね……決戦機能級の出力とイグナイトを越える継戦能力ですか……それに、二つのギアが一つになっているからこそ、シンフォギア特有の武装の豊富さが倍増して一人でできる事が倍以上に……!!』

「F.I.Sギアよりはできる事は少ないけど、それでもザババギアでできる事はユニゾンに負けてないよ」

 

 F.I.Sギアは本当にあの一回だけしか纏わなかったけど、あのギアはイグナイト以上の出力だったからね。エクスドライブよりは体感弱かったとは思うけど、多分エクスドライブと比べて手数に関してはF.I.Sギアの方が上だと思う。まぁ、マントで防御とかはエクスドライブじゃできないもんね。でも、火力に関してはエクスドライブ一強だと思う。

 まぁ、そんな事は置いておいて、ハルペーと鎌をブンブンしながら敵を殲滅しているわけなんだけど、やっぱりザババギアで二人分働こうとしても、どうしても手数は一人分の域を出ないから、二人分には適わない。

 

「あっちの調もやるデスね! あたし達二人のスコアに一人で並ぶなんて!」

月はいつでも、自分だけじゃ! 輝けないの……!

二人で一つだよ!

「そう、かな? 決戦機能を使ってこれじゃあちょっと情けない気はするんだけど……」

「あんまり卑下しないで。二人と一人でここまでスコアが並んでいるのは凄い事。響さん達でも無理だから」

KIZUNA ギュッと熱く束ね!

さあ重ね合おう!

 

 時々会話しながら背中を合わせつつ戦っているんだけど……その、二人ともユニゾンしながら喋りかけてくるせいかすっごい忙しい事になってるのは笑う所なのかな? まぁ、響先輩達も三人で歌っている時にこっちに話しかけてくれる時とか、すっごい忙しそうにしているし、時々自分のパート無視して会話する事もあるし。

 確かに二人分のスコアには適わないけど、それでも全力を尽くすために今度はハルペーを手に持ってイガリマの鎌と連結。そのまま鎖鎌にして思いっきりぶん回して周りのアルカノイズを一掃。ついでにアームドギアから電ノコを射出しつつ飛び上がって、足のユニットにハルペーの柄をドッキング。次の瞬間にチェーンソーに変形したハルペーを使ってそのままライダーキック。うーん、爽快。

 ついでにハルペーを元に戻して握ってからなんかこう、フォニックゲインの塊みたいなのをハルペーを振って飛ばして遠距離攻撃もしておく。

 

「疑似蒼ノ一閃。多分翼先輩が見たらにっこり笑顔浮かべるやつ」

 

 見様見真似です。

 で、シミュレーターのアルカノイズ供給量をとうとうこっちの殲滅力が上回ったのか、わたしの周りにはアルカノイズはいつの間にか居なくなっていて、ラストと思われる巨大アルカノイズの前に切ちゃんとこっちのわたしが立ちはだかって、合体技を見舞っている。

 

大好きがね、溢れる!

大好きが溢れる! Yes!

支え合って強くなろう!!

 

 うわ、何あの鎌の先端にヨーヨーを取り付けた感じの雑に強そうな技。

 わたしもあれできるかなぁ……なんて思いながらザババサンムーンって言うらしいそれを見届けると、シミュレーター室の風景が変わって訓練を始めるまでの殺風景な風景に切り替わった。

 

『お疲れ様です。切歌さんと調さんの方はいつも通り息の合ったユニゾンでした。そして平行世界の調さんも、素晴らしいデータをありがとうございます。二つのギアを用いた疑似的なユニゾンと二つのギア特性、機能を組み合わせた従来のシンフォギアを越える利便性に殲滅力はこちらとしてもいいデータになります』

「そう? 役に立てたなら、良かった」

『それにしても、流石キャロルですね……まさか二つのギアを同時に起動させて一人での疑似的なユニゾンを行う事により決戦機能並の出力を得る……しかもザババ由来の二つの聖遺物だからこその体への負荷の低減までやってのけるとは……これはボクも頑張らないと!』

「あー、エルフナインの変なスイッチが入っちゃったデスよ」

「こうなると長いよね」

 

 え、そうなんだ。

 こっちのエルフナインはデータとか見ても無言でそれを集めて勝手に何かして勝手に何か作ってきたりするから、うるさいというよりかは急に静かになるんだよね。で、しかも仕事すっごい早いし。

 あとイラついている時は無言に加えて無表情になったり。一度キャロルがエルフナイン秘蔵のプリンを食べた時は最早能面だったもん。で、キャロル発見した瞬間に般若。ダインスレイフの欠片から疑似的にダインスレイフ作り出して二刀流にして般若面被ってキャロルを追っている時はギャグかと思ったけど。攻撃は捨てたんじゃなかったの、エルフナイン。

 

「えっと……こうなったらエルフナイン長いし、あなたはどうするの?」

 

 え?

 あー……どうしよ。

 

「うーん…………じゃあ、一度風鳴司令の所に行ってくる。終わってるなら書類持って帰らなきゃだし」

「それじゃあ一旦お別れデスね。まだ時間があるなら一緒に遊びに行くデスよ!」

「カラオケとかいいかも」

「確かにいいと思うけど……わたし達が出歩いていいのかな……? ほら、髪型はどうにかできても顔が……」

 

 完全に同じだからね……

 …………そう言えば、こっちのわたしってわたしみたいにグレて牢屋の番人をしていない筈なのに身長とか胸の大きさとか、そこら辺がわたしと変わらないと言うかほぼ同一……

 ……つまりわたしって何をどうしても。

 いや、考えるのは止めよう。既にシャロンに負けた胸囲は本当に悲しくなるから。

 

「それじゃあ、行ってくるね」

 

 じゃあ、一度お仕事の確認を……

 

『市街地にアルカノイズ反応検知! どうやらまた錬金術師によるボヤ騒ぎの模様!』

『恐らくこちらへ輸送中の聖遺物を狙っての犯行と思われます!』

『全職員、配置に付け! それと本部内に居る切歌くんと調くんは出動を頼む!』

 

 あら。

 

「げーっ。さっき訓練したばかりなのにハードスケジュールデスよぉ!」

「でも、行かないと被害が出ちゃうから」

 

 ……なんというか、アルカノイズが出たのに蚊帳の外ってちょっと新鮮かも。

 でも、アルカノイズが出たのならわたしも戦わないと。平行世界だからって理由で見捨てる理由にはならないし。

 

「わたしも行く。お邪魔じゃなかったら、だけど」

「およ? いいんデスか?」

「うん。まだあっちで戦ってもらった恩も返せてないし、何よりもこれからは協力関係だから。だからわたしも……って言いたいけど、この会話、風鳴司令に届いてる?」

『大丈夫だ、聞こえている。協力してくれるのであればこちらとしても非常に助かる』

 

 あっ、聞こえているんだ。

 なら。

 

「わたしも協力します。移動は自分の足で行けばいいですか?」

『いや、装者運送用のミサイルを既に用意してある。切歌くんと調くんと共にそれに乗り込み出撃してくれ。それと、今回は未だに避難の済んでいない市街地での戦いとなる。あまり戦闘が長引かないように戦ってくれると助かる』

「わかりました。なら、最初から全力で行きます」

 

 という事は、今回も初っ端からザババギアかな。

 切ちゃんとこっちのわたしの誘導に従って格納庫に移動すれば、そこには見慣れた装者運送用のミサイルが。最近はミサイルが乗り物って理論に反論抱かなくなってきたなぁ……

 とりあえず二人が乗り込んだのを見てからわたしも乗り込んで、すぐに射出。

 そうそう、この振動。これがちょっと癖になるんだよね。ジェットコースターに乗ってる気分。本当はジェットコースターよりも遥かに速く遥かに高く飛んでいるんだけども。

 で、外装がパージされると同時にミサイルを飛び出して落下。パラシュート無しスカイダイビング、面白いです。

 聖詠して変身してドスンと着地。目の前には大量のアルカノイズとトラックに向かってアルカノイズをけしかけている錬金術師さんが。

 

「そこまでデス! 例え一時の感情が許しても、あたし達がそれ以上の犯罪を許さないデス!」

「神妙にお縄について」

「チィッ、装者が感付いたか! えぇい、時間を稼げ、アルカノイズ共!!」

 

 アルカノイズがこちらに向かってけしかけられる。

 確かにそれで少しは時間を稼げるかもしれないけど……今のわたし達には敵じゃない。

 という事で、瞬殺タイム。

 

「ザババギア!」

 

 ザババギアを纏ってハルペーと鎌を構える。

 ここはわたしが突破して、二人にはあの錬金術師を……

 

「だったらあたし達も!」

「勿体付けずに切り札を見せつける!」

『アマルガムッ!!』

 

 え?

 

「こいつで一気に!」

「一網打尽デス!」

 

 えっ、なにその金色でカッコいいの。わたしも欲しい。

 っていうか、なんだっけ。アマルガム……? いつの間にそんな機能が……

 

「そっちのわたしは、錬金術師の方に」

「アルカノイズはあたし達のトラバサミの餌にしてやるデス!!」

 

 切ちゃんが啖呵を切ると同時に鎌と盾がそのまま変形。巨大なトラバサミになると殺戮機関かと言いたくなるくらいに地面を駆けて行ってその中にアルカノイズを捕らえていく。

 う、うわ……なにあの速さ……

 

『ポリフィリム鋏恋夢ッ!!』

 

 で、そのままアルカノイズ全部を捻り潰すかのようにトラバサミが……うわぁ……

 多分攻撃力はイグナイト並みかそれ以上か……

 防御力は、纏っているのがインナーだけだからかなり落ちている……というか、一発当たればアウトの紙装甲何だと思うけど、それを補うための火力があるっていう、なんとも脳筋で不退転な機能……

 ……でも、装者にとってはそれが一番心地いい。元々撤退なんて考えない脳筋集団だからね!

 と、言う事で!

 

「お縄に!」

 

 肩のアーマーからワイヤーを射出して呆然としている錬金術師を捕らえる。今度はアームドギアの方からもワイヤーを射出しながら足のローラーで錬金術師の周りを旋回してグルグルとワイヤーを巻き付けて、最後にはあの二人を真似してハルペーと鎌を組み合わせて鋏みたいなのを作り出してからそれで錬金術師を挟んで持ち上げて地面に柄を突き刺して固定。更にその上からもう一度ワイヤーで雁字搦めにして完全に拘束。

 

「付かせて終わり!」

 

 という事で無事拘束。

 

「いやー、今回は早かったデスなぁ……」

「決戦機能三つ切ってるからね。多分オートスコアラーとか以外なら秒殺」

「オートスコアラー?」

「そこら辺は追々話すデスよ」

 

 で、暫く現場で待機していると。

 

『は、早いな……すまん、こちらの対応で少し通信が遅れた。迅速な対応、本当に感謝する』

「いえ、当然のことをしたまでです」

「あっちに付き合うのはダルいデスから、ギミック無視の初見最速攻略デス!」

『そうしてくれると、被害も少ないからこちらも安心できる。本当によくやってくれた』

 

 どうやらあっちはあっちで避難誘導とかにリソースを割いていたせいでちょっとこっちの事後対応に遅れたみたい。暫く通信していると、職員さんがぞろぞろとやってきてわたし達に頭を下げると、雁字搦めにされた錬金術師を持って行こうとする。

 あっ、ちょっと待ってください。鋏とその上から巻き付けたワイヤーだけ回収しちゃうんで。え? その下のワイヤー? あー……どうなんでしょう。多分その内無くなると思いますから、暫くは反省の意味を込めてこのままにしてあげた方が……あ、本当にそうするんですね。どうぞどうぞ持ってっちゃってください。

 

『それじゃあ、あちらの調くんにも書類を渡して……といきたかったんだが……ちょっと新たに仕事も増えてしまってな……適当に時間を潰してくれると助かる』

「それなら三人でカラオケ行くデス!」

「うん。三人で歌おう」

「らしいので、そちらはわたしに気にせずお仕事頑張ってください」

『すまないな。そちらのカラオケが終わるタイミングで手続きが終わるようにしておく。思う存分楽しんできてくれ』

 

 という事で。

 この後はたっぷりと切ちゃんとこっちのわたしと一緒にカラオケをして、大体夕方のいい時間帯にあちらから書類とデータの用意が終わったとの事で、それを受け取って帰りました。

 でも、カラオケに行く間に色々と話していた分かった事と言えば、キャロルやパヴァリアの事でして。

 

「……キャロルを止めてくれて本当にありがとね、エルフナイン」

「はい? えぇ、まぁ、一応妹ですし?」

「あとパヴァリアも……善性組織で本当に良かった……」

「ガンス? あっ、調、カラオケどうするでアリマスか?」

「今日はもう遅いし……また今度にしよっか。あっ、どうせならご飯も一緒に食べる? ミラアルクとヴァネッサさんも」

「そんじゃウチが美味いトマト料理出している店知ってるから、そこに行くんだゼ!」

「もう、ミラアルクちゃんったら……キャロルちゃんとエルフナインちゃんも来るわよね?」

「ちゃん付けで呼ぶなと何度言えばお前達は……まぁ、飯ならオレも行く。最近あんま外出てなかったしなぁ。エルフナインも来るだろ?」

「そりゃ勿論。というか、ここまで大人数になるんなら響さん達も誘いましょうか。後四人増えても同じですし」

「ならシャロンも迎えに行ってからみんなでご飯だね。マムも行こ?」

「そうですね……はい、こちらも仕事が一通り片付きましたので、是非とも」

 

 みんなが味方で本当に良かったと改めて実感してから、シャロンを迎えに行ってみんなでご飯食べに行きました。

 そう言えば今度、パヴァリア側もあっちのSONGと友好関係を結べたから、一度色々な確認のために幹部の人達も顔を見せに来るって言っていたけど……その人たちとも仲良くなれるといいな。

 あと、身内みんなで食べた晩御飯はとても美味しかったよ。




最後らへん力尽きました。

という事でグレ調時空でした。この時空ではパヴァリアが善性組織なのでノーブルレッドに対しパヴァリア側はノーブルレッドが人間に戻るため協力しており、ノーブルレッド側も対価としてパヴァリアの派遣社員みたいなことしています。ついでにシャロンは学校に行き始めました。

で、調ちゃん二人の会合に関してはちょっとギャグ風味に。で、あちら側の事件に巻き込まれましたが、決戦機能×3相手に一般錬金術師が勝てるわけないだろいい加減にしろ!

そして今回の挿入歌(?)はギザギザギラリ☆フルスロットル。AXZで曲名見た時は何があった!? って笑った記憶があります。

ではここで関係ない話ですが、秋葉のXVショップ、行ってきました。くじを28回くらい引きました。クリスちゃんのタペストリーしか出ず、調ちゃんタペストリーは出ませんでした。友達に「二万爆死wwwwwwww」って笑われました。「もっかい引いて来いよwwwww」とも言われました。中指立てました。終わり。

それではまた次回、お会いしましょう!


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月読調の華麗なるバラドル

今回はネタ切れしたのでバラドル時空でお茶濁し。とうとうタイトルもバラドルに汚染されちまったよ……

とりあえず話的には、リクエストにあったパイ投げと、自分が先日経験したモノを使ったドッキリ編となります。いや、アレは地獄だったね、うん……

それではどうぞ。


 一歩一歩、あの人が近づいてくるのが分かる。

 息を殺して、この曲がり角で身を潜める。

 チャンスは一瞬……この一瞬を逃したら、もう勝機は無い。

 だけど、やるしかない。わたしが踏み越えてきた人たちの無念を背負ってわたしはここに居るんだ。だから、絶対に失敗するわけにはいかない!!

 あと三歩……二歩……一歩………………

 今ッ!!

 

「貰いました!!」

「なっ!? まずっ――」

 

 全力で!!

 右手に持った皿に盛られたパイを!!

 クリス先輩の綺麗な顔面に叩き付けるッ!!

 

「勝ったッ!!」

 

 べちゃっ。

 そんな音と共にわたしの右手には確かにその感触が。パイ、という割にはクリーム十割でできたパイを誰かの顔面に叩き付ける感触が伝わった。

 そして目視でも確認するけど、間違いない。わたしのパイはクリス先輩の綺麗な顔面に叩き付けられている。

 ラスト二人になった新人アイドル対抗のパイ投げ合戦。既に双方残弾一だったからこその攻防。それを制したのはこのわたし!! わたしとクリス先輩はチームで報酬の宣伝時間はもう貰っていたけど、この戦いはバトルロワイヤル。どっちかは絶対にパイを顔面に塗りたくられた状態でそれをしなきゃならない。

 けど、わたしはそれを回避した! クリス先輩がバラドルで、わたしはアイドル!! これが今、決定づけられ……

 

ふぁけんな(ざけんな)

 

 あ、あれ?

 あの、クリス先輩? そのパイを持ってない左手でなんでわたしの肩を掴んだんですか?

 そのままなんでパイを構えるんですか?

 あの、勝負付きましたよ? わたしの勝ちですよ?

 こんな可愛い後輩の顔面にパイを塗りたくるつもりですか? 二人で一緒にバラドルの烙印を押される気ですか? というかルール無視ですよ?

 だからまずその手を離しましょう? ここはしっかりと勝ち負けで差を付け――

 

『………………』

 

 ……べちゃっと顔面にパイを叩き込まれました。

 そのあとめっちゃ顔を押さえつけられて顔面にパイを押しつけられた状態で皿を動かされ塗りたくられました。だからわたしも思いっきりクリス先輩の頭を掴んで更にパイを顔面に押しつけて塗りたくりました。

 身長がね、殆ど変わらないからね、互いに腕が届いちゃうからね。こんな事できちゃうんですよ。

 

 

****

 

 

『という事で、わたしとクリス先輩の学校の先輩後輩で組んだユニット『雪月』の1stシングルは来月末に発売予定です』

『それと、アタシ達のインタビュー記事が乗ってる雑誌も来週に発売だから買ってくれよな』

「何と言いますか……調とクリス先輩、体張りすぎデスよね?」

「ふふ……緒川さんの手にかかればわたしもクリス先輩も平等にバラドルだよ……」

 

 あの日の収録が終わって暫く。切ちゃんがあの日収録した番組を見て、何とも言えない表情を浮かべながらこっちを見てきた。わたしは何も言い返せずに苦しい言葉を返すだけ。

 はい、あの日、普通にパイは思いっきり顔面にくらって二人して顔面真っ白の状態で宣伝をする羽目になりました。折角ユニット組んで一発目の仕事なのにね。どうしてこうなっちゃったんだか。

 新ユニット、雪月の宣伝のチャンスという事で新人アイドル達を蹴落として無事宣伝タイムをもぎ取ったわたし達だけど、最終的にその有様は人様にお見せするには笑いを誘う形になっちゃって……悪あがきしたクリス先輩許すまじ。

 あの後髪にこびりついたパイを落とすの大変だったんだからね……

 

「で、これがさっき言ってた調とクリス先輩のCDとインタビューが載ってる雑誌デスか?」

「うん。試供品というか、サンプルと言うか。ここら辺は芸能人の特権って感じかな」

「おぉ~! じゃあちょっと部屋でCD聞きながら雑誌読んでるデスよ!」

「分かった。あと、こういうのはあんまり誰かに広めないでね?」

「分かっとるデスよ!」

 

 あと、さっきのパイ投げのVTRはまだ続きがあって、互いにパイを叩き付けたはいいんだけど、そのままクリームと皿のせいで息ができないのにも関わらず互いに意地になって全力でパイを押しつけてたせいか、途中でスタッフさんが仲裁に入ったんだけど……よくも邪魔してくれたなってイラッときちゃって、互いに全く同時に皿を顔から離して止めてくれたスタッフさんの顔面に二人でまだ持ってた皿を叩き付けたりして大惨事になりました。

 勿論スタッフさんには謝ったよ? ただ、番組のプロデューサーさんは面白かったからヨシ! って言ってたし、スタッフさんもなんかご褒美です。とか言ってたし。

 ……あの局の人達、色々と大丈夫? 特にスタッフさん。あれわたし達に説教の一つしてもよかったんだよ……?

 とりあえずエゴサして評判見ようかなっと。

 えっと……

 

「なになに? アイドルの顔に叩き付けられたパイを顔に叩き付けられるとかご褒美? 関節キスじゃん? 最初の頃の清楚な感じはどこにいったのか? じゃかあしいわ」

 

 ネットには変態しかいないの? いや、いないんだった。

 ただ、最後の人の清楚な感じっていうのは……ごめんなさい、もうわたしは緒川さんの手によってバラドルとして汚されちゃいました……もう終身名誉バラドルです……

 とりあえず、SNSにわたしが出る番組が放送されたって事と、見てくれた人はありがとうございました、って一言だけ書き込んで、おゆはんを作るためにおさんどん。わたしが料理をよくするって事を聞いてCMに使ってくれた企業さんから送ってもらったシチューを今日は作るよ。本当に沢山もらったから二日に一回はシチューにしないと賞味期限がちょっと怪しいかもなんだよね。

 まぁ、美味しいからいいけど。切ちゃんもシチューの頻度多くて喜んでるし。

 とりあえず具材とか切って煮込んでいる間にちょっと携帯を確認。

 あっ、クリス先輩も呟いてる。リプしとこっと。

 えっと……

 

『負け犬先輩のせいで顔面白粉状態だったんで今度責任もってご飯奢ってもらいますから』

 

 よし、これでいいや。

 さて、料理の続きっと……ん? クリス先輩からのリプの返信が。

 

『ココ〇チの十辛限定な』

『今度喧嘩しましょうか』

『上等』

 

 明日の訓練で思いっきり轢き潰してやる。

 

 

****

 

 

 はい、という事で翌日の訓練終わり。

 

「月読調と風鳴翼の疾双ラジオ」

「ウィズ雪音クリス~」

 

 訓練後にちょっと大変だけど今日はラジオの収録です。相方はこの番組じゃもうレギュラーになっちゃったクリス先輩。でも本来のレギュラーである翼さんは今日ご欠席。今海外だってさ。

 

「はい、始まりました月読調と風鳴翼の疾双ラジオ、ウィズ雪音クリス。本日のパーソナリティーはわたしこと月読調と?」

「雪音クリスだ。っつか、本当にこれでいいのか? センパイもう一ヵ月くらいラジオ欠席してっけど」

「あの人も忙しい人ですから。わたし達みたいな新人アイドルとは違って」

「まぁアタシ等も芸歴短い割には、だけどな。センパイとマリアの効果で」

「そうですねぇ。わたしはマネージャーからスカウトされてから早数か月。クリス先輩は……あれ? いつアイドルデビューしたんでしたっけ?」

「いや、アタシも分からん。なんか気が付いたら小滝興産のアイドルになってたんだよ。多分センパイにここに拉致られたのが全てのスタートだな。どうしてこうなった……」

「でもクリス先輩、案外アイドル活動楽しんでません?」

「否定はしねぇよ」

 

 うん、本当にクリス先輩って気が付いたらアイドルになってたよね。

 最初はここに拉致られて来たんだけど、それからここでのパーソナリティーを偶にやるようになって、それから雑誌のモデルとかもやるようになって、気が付いたらテレビ番組に出演し始めて、気が付いたら立派にアイドルやってる。

 お陰で学校の方でも今まで以上に人気が出てきたんだとか。可愛いもんね、クリス先輩。気持ちはわかるよ。

 

「まぁ、一時期なんやかんやあってお仕事をちょっと多めに休んじゃったので、これからはもっと頑張らないといけませんね」

「そうだな。本当になんやかんやあったからな……なんやかんやな……」

 

 主にパヴァリアとシェム・ハの事を指します。

 あの時は本当に裏方の人達の情報操作が無かったらヤバかったと思う。翼さんとマリアのライブもあんなことになって、それからパヴァリア残党との揉め事からVS神様だもん。クリス先輩なんて高速道路で撃ち合いしてたし、わたしも病院に全力ダッシュで入り込んだりしてたし。

 しかも世界蛇なんて輩も来たし平行世界に行って怪獣と戦ったり色んな戦いを繰り広げたもんだからもう大変。

 えっ、この一年充実しすぎ……? というか明らかに一年で起こるようなイベントじゃないよね、これ。過労死するよ? いいの? いや、しないけど。そこら辺SONGがしっかりと管理してくれてるから。しないけど。

 

「まぁ、そのなんやかんやはプライベートなので置いておくとしまして」

「ん、そうだな」

「わたしとクリス先輩の共通の話題と言ったら、アレですよ。この間の番組でのパイ投げ」

「あぁ、あれな。さっきその件でバトってきたろ」

「そうですけど。でも、わたし、まだ納得してませんからね? あれわたしの勝ちだったじゃないですか。なのにどうしてわたしの顔面にパイ叩き付けたんですか」

「そりゃお前、アレだよ。道ずれ」

「控えめに言ってファック」

「おいアイドル」

「バラドルですよ」

「認めちまったかぁ……」

 

 認めるしかないでしょう。これ以上否定してもそれがネタとして定着するだけですよ。

 緒川さんのせいでわたしの清楚系アイドルとしての道は閉ざされました。いや、翼さんと一緒に組まされた時点でもう確定していたのかな……

 あっ、ファックって言っちゃったけど、これ収録だし、そこら辺の失言カバー用コンプラピー音は全部編集で何とかしてくれるからわたし達は何の遠慮もなく失言できるよ。やったね。いや、そんなにしたらイメージ壊れるからしないけど……

 あれ? バラドルだからそこら辺ノーダメなんじゃ……? わたしは訝しんだ。

 

「まぁ、お前くらいキャラが濃い奴ならバラドルが丁度いいだろ。いい判断だったと思うぜ?」

「それを言うんだったらクリス先輩の初手バラドル路線は最高のスタートだったと思いますよ? お陰で最初からへっぽこ新人ロリ巨乳バラドルとして売れてるじゃないですか」

「おっ? 戦争すっか?」

「先輩ぞ? 我芸歴先輩ぞ? 敬え」

「死ね」

「超速球のストレート暴言止めません? 泣きそう死ね」

「お前が死ね」

 

 こんな調子ですけど普通に普段から仲いいですからね? あくまでもこれはバラドルとしての路線に踏み込んでしまったわたし達の仕方ないド突き合いですから。

 だから思いっきり互いに胸倉掴み合ってるけど大丈夫。この後クリス先輩の普段見えない場所に痣作るかもしれないけど大丈夫!!

 やったるぞおらぁん!!

 あっ、なんかスタッフさんの方から……えっと、そろそろオープニングトーク終わり?

 はーい。

 

「さて。じゃあそろそろオープニングも終わりにして本編行きましょうか」

「お前のせいで脱線しちまったな」

「うるさいです。あと、今日は番組の終わりにわたし達が新しく組んだユニット『雪月』からのプレゼントもあるので最後まで楽しんでいってくださいね」

「んじゃ、今日も今日とてメインパーソナリティー欠席してるラジオこと疾双ラジオウィズ雪音クリス」

『は~じま~るよ~』

 

 と、言う事でこっからが本番です。

 プレゼントってなんぞ? と言われると、それはまぁお約束と言いますか。わたし達の生サイン付きデビューシングルをプレゼント、ってやつ。身内とかに普通にササっと書いてあげるようなやつだけど、それでもファンの人からしたら凄く嬉しいだろうし、今後プレ値付くかもしれないからね。

 こういう所でも頑張っていくのです。

 

 

****

 

 

 ラジオ収録ももう慣れた物、という事であの日のラジオは普通に終わり、収録後は普通にクリス先輩とご飯食べに行きました。で、ラジオ収録終わりにご飯食べに来ました、なんて雪月の告知用のアカウントでわたしが二人で撮った写真を貼って、二人で美味しいご飯を食べて帰りました。

 で、明日も仕事だし、という事で帰って早めに寝て、それからアイドルやってから今度は訓練して帰って寝て、学校行ってお仕事行って寝て、というのがわたしのルーチン。こうやって書くと全然休みが無いと思われるかもしれないけど、そこら辺は緒川さんの手腕によって普通にプライベートの時間を確保できてるから、結構休めているんだよね。

 まぁ、翼さんやマリアレベルになると、流石に休みも少なくなるみたいだけど。

 でも、今日は偶々翼さんと休みが被ったから、帰国していた翼さんと一緒にお出掛け。

 

「そうか、雪音もバラドルとして最近は頑張っているのか」

「わたしもクリス先輩も、バラドルは不服ではありますけどね……」

 

 最初はアイドルとして緒川さんのスカウトを受けたのに、いつの間にかバラドルとして活動し始めている。それに不服かそうじゃないかと言われたら普通に不服なんだけど、緒川さんの取ってくる仕事がバラドル多めだから、結果的にバラドルになってしまったというか……

 いや、別にバラエティでも面白いリアクションとか繰り返さなかったら清楚枠保てるんだけど、わたし達装者がそもそもそういう面白いリアクションしがちだから結果的に……ね?

 溜め息しか出ないよ。でも、そのお陰で知名度は上がってきてるし、ファンの人も増えてきているから何とも言えないんだけど……

 

「そうだ、月読。今日の食事は寿司でいいか?」

「えっ、お寿司いいんですか?」

「あぁ。偶には後輩にいい寿司を奢ってやろうと思ってな」

 

 流石翼さん、太っ腹。

 今日は適当なファミレスで一緒にお昼を、って思ってたんだけど、お寿司を食べさせてもらえるんならわたしはどこにでもついて行きますよ。

 という事で、ちょっとショッピングをしてから翼さんと一緒にお寿司屋へ。

 流石に回転寿司だけど、一皿110円の所じゃなくて、一皿ちょっとお高めのお寿司屋さん。こんな所に来るのなんてすっごい久しぶりかも。

 

「さっ、何でも食べてくれ。私のお勧めはネギトロだが」

「そうなんですか? ならネギトロ頼みます」

 

 お客さんも少なかったからかなりスムーズに椅子に座れた。だからまずは、翼さんのオススメらしいネギトロの軍艦をチョイス。暫く翼さんと駄弁りながら待っていると、わたし達の座っているテーブル席宛にと、わたしの頼んだネギトロの軍艦と、翼さんの頼んだ普通のアジの寿司が。

 

「それじゃあ、いただきます」

「あぁ、存分に食べてくれ。存分に、な」

 

 ん? なんかちょっと翼さんの言葉に含みが?

 いや、気のせいか。それじゃ、いただきますっと。

 うん、おいし…………ん?

 あれ? なんか噛んだ瞬間にネギトロじゃない違う物の感触が……あっ、ちょっと待って。

 

「ん゛ん゛っ!!?」

「ふっ、ふふふふ……」

「あ゛っ……!!? う゛っ、えぁっ!!? ごふっ!!」

 

 ちょっ、まっ、これっ、ネギトロ、間、わさびがっ!!?

 

「み、みじゅ……!! ちゅばしゃさ……う゛え゛っ!!?」

「あはははははは!! 綺麗に引っかかったな月読!! それは番組が用意した激辛わさび寿司だ!!」

 

 な、なにしてくれてんだこの青色ぉ!!

 あっ、ちょっ、鼻が……っていうか飲み込めない!! 飲み込もうとすると体が拒否して咳が!! 嗚咽がぁ!!

 いや、でも出すわけには……女子力があるわたしが出すわけには……!!

 み、水……!! 水で流し込んで……!!

 

「っ……!! ぁっ……!!」

 

 い、息が……息ができない……!! 吸おうとするとわさびの辛さと胃が本来受け入れられない物を受け入れたせいで思いっきり動いて何か出そうになる……!!

 

「はっ……ぁー……げっふっ!? ごふっ、ごほう゛ぇ゛っ!!?」

 

 や、やっと息ができたと思ったらこれだよ……!!

 いや、落ち着こう。落ち着こう……吐かなければ全部大丈夫……大丈夫だから……

 何度か咳き込んで吐きかけたけど、落ち着いた。よし、落ち着いた……顔が酷い事になってるけど大丈夫……とりあえずお手拭きで口周りとかは拭いておいて……

 

「…………翼さん」

「ふふっ、ははははは!! ははっ……はぁー……あ、やっと落ち着いたか? 月読?」

 

 この人、わたしが苦しんでいるのを見てずっと笑ってたよね。

 ドチクショウ。

 

「ぶん殴っていいですか? っつかぶん殴ります」

「まぁまぁ、落ち着け月読。これはドッキリだ」

 

 ドッキリぃ?

 

「ほら、あっちの席の人、カメラ持ってるだろ? これは某番組のドッキリでな、わたしが提案した、普段は大人しそうな雰囲気なお前に激辛わさび寿司を食べさせたらどんなリアクションをするのか、というドッキリなんだ」

 

 な、なんて悍ましいドッキリを仕掛けてるんだこの人……!!

 

「どうだ? 美味かったか?」

「死んでください」

「直球だなオイ」

 

 そりゃああんなもん食べさせられて美味しかったか? なんて言われたらこんな暴言も出てくるよ。

 未だに口の中なんかピリピリするし……胃もなんか今まで体験した事無い動き方しているし……というかこの人貴重な休みの日に何をしでかしてくれてんの。

 

「まぁ、いい。ここからは普通に食事をしようじゃないか。ドッキリとは言え悪かったな。今日のこの後の支払いは全部私……というか番組で請け負うから気にせずに食べてくれ。もうわさび寿司はないから」

「それぐらいしてもらわないと割りに合いませんよ……っていうかこのネギトロ軍艦、どうしたら……」

「わさびだけ取って醤油にちょっとずつ溶かしておけ。そうしたら害はない」

 

 と、言いながら翼さんがアジの寿司を口に運んだ。

 ったく、この人は本当に…………あれ? なんか翼さんの様子が。

 

「あっ、ちょっと待て……これ、あっ、いや、その……嘘だろ? まさかそういうドッキリか? そりゃあ月読だけにやっても尺が足りぬしな。何故落とし穴じゃなくてこっちを、と思ったが……あっやばっ」

 

 え? 何がヤバいって?

 

「う゛っ!!? ごぶっ!!? げっ……あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!? う゛ぉえ゛ッ!!?」

 

 えっ、急に何。怖い怖い怖い……って、あれ?

 なんかこの反応、ついさっきしたような……ちょ、ちょっと待って。一旦翼さんのもう一貫のアジチェック! ……う、うわっ。

 

「何このたっぷりわさび……」

「お、がわ゛さ゛ん゛!! だま゛じだな゛ぁ゛!!? う゛ぅっ!!?」

「そりゃあこんな風にもなる……っていうか、わたしもこんなの食べさせられたんだ…………まぁ、いいじゃないですか翼さん。人の痛みを知って人は強くなるんですよぷぷぷ」

「づぐよ゛み゛ィ゛!!」

 

 あーあー、美人さんなのに涙と鼻水と唾液で酷い事に。

 おもしろっ。

 ――ちなみにそれから暫く経った後にわたしはこの番組に風月ノ疾双名義で出演させてもらって、翼さんからのドッキリを仕掛けられた側と番組からのドッキリを仕掛けられた側としてコメントした後、やっぱり翼さんは許せなかったので思いっきりチョークを極めました。




という事でパイ投げは、叩き付けた後に痛み分けエンド。そして色々とあってから、最終的には翼さんのドッキリによってわさび寿司の刑。&翼さんが番組からのドッキリによってわさび寿司。
そしてサラッと決まっている調ちゃん&クリス先輩のユニット。ユニット名は二人の名字の最初を取って雪月に。というか翼さんからの拉致から始まったクリスちゃんのバラドル道ェ……緒川さんも策士よのう。

実は先日、わさび寿司食べたんですよ。ロシアンで見事引っかかりまして。
あのね、アレ無理。飲めない。息できないし胃がわさび寿司の侵入を拒むから嗚咽が酷いんですよ。水も多分口に含んだ瞬間吹き出すのが目に見えたんで自分はトイレに直行しました。

割と激辛わさび寿司は洒落にならないから、みんなもおふざけで友達に食べさせないようにね! わさび寿司を食べた人からの助言だよ!! 多分アレをロシアンとかじゃないのに食べさせたら割と友達無くすよ!!


で、投稿していない間にマジで色々とありましたね……奏セレナ393のイグナイトだったり、公式でのIF調ちゃんの登場だったり、LOST SONG編の公開とOPでの白ガングニールロリマリアさんだったり……とりあえずIF調ちゃん可愛い。自分はなんか武装がガザCっぽいんでガザCらべちゃんとか言ってますけど。
公式からのIF調登場を受けての、今後のグレ調の扱いですが、ここでは調の可能性の一つとしてこれからも登場し続けます。

IF調ちゃんのセリフがなんかすっげーセンシティブに感じるゾ、と思っていたり思っていなかったりすることを暴露して、今回はお別れです。
一応更新してない間、色々と書いていまして、バンドリキャラ……というかパスパレキャラが世界超えてきちゃう話やもう一度なのはコラボとしてマテリアル娘&三食団子でちょっとした話をやろうかと思ってそれぞれちょっとずつ書いています。次回はこのどっちかになるかも?

それではそれでは。


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月読調の華麗なる超能力

いやー、結構長い間放置してしまい申し訳ございません。

別に仕事が忙しかったとかじゃないんですけど、なんか筆が進まなくてちょっと何も書かない時間が長かったです。

書いていない間にLOST SONG編が始まったりしましたが、個人的に凄く驚いたし嬉しかったのはテイルズオブシンフォニアとのコラボです。テイルズの中では一番シンフォニアが好きというか、最近やったテイルズがシンフォニアなので、グリッドマンやゴジラみたいに好きな作品×好きな作品とかいう完全な俺得状態でした。

で、今回の話ですが、fripsideの曲を聞いてた時に、ふととあるの超能力と装者を合わせたらいいのでは? という発想から生まれました。
なんでそうなったかって? fripsideのボーカルが調ちゃんの中の人だからです。

そんな突飛な発想で生まれた世界線です。どうぞ。

追記
簡単に書いたメモまでコピペで投稿してました……泣きたい


 レイラインのエネルギーが尽きかけている世界から、燃え尽きそうになっていた建造物の破片を持って帰ってきた響さん達。それを触った時に、わたしの中に居るのか、それともわたしを通して外界に干渉しているのか分からないツクヨミがわたしに憑依したりと色々とあった。

 ……一瞬、わたしって霊的な物に憑かれやすい感じなのかなって思っちゃったのは秘密。フィーネ然りツクヨミ然り。

 で、超技術で作られたらしいソレの解析は現代の科学だけではどうにも時間がかかってしまうせいで解析は難航していたんだけど、そんな中でマリアがふと口を開いた。

 それなら、平行世界のわたしに一度頼ってみるのもいいんじゃないかって。

 今回ばかりはスクルドも何が起こっているのか分からない以上、少しでも手がかりを集めようという事で、切ちゃんがスクルドのユリウスさんと一緒にデュプリケーターで平行世界に向かい、平行世界のわたしを何とか説得して連れてきた。

 ちょっとした条件を加えて、だけど。

 

「……まぁ、大体事情は分かった。ただ、こっちにも話せる事と話せない事はある。だから、ブツを見てから全部決める。一応、恩はあるし」

 

 こっちに来てすぐに、わたしはかなり怠そうにしながらもサイズが合っていない白衣を着たまま建造物の破片を見に行った。

 わたしがあのわたしと会うのは初めてだけど……いや、なんだろう。あのわたしのようでわたしじゃないって独特な感覚。確かにわたしなんだけど、決定的にわたしと違う所があるせいで別人にも見えるし、ドッペルゲンガーにも見えるし。

 あっちのわたしはわたしを見てこんなに違うんだ、と言わんばかりに一回顔を掴まんでグニグニしたけど、特にそれ以外のアクションは起こさなかった。

 で、破片の方を確認しに行った平行世界のわたしが、それじゃあ代わりに、と言って置いて行った条件。それが、今現在わたし達の前に転がっている。 

 その条件というのが……

 

「人の脳内で行う演算を現実に干渉させて超能力を起こせるようにする機械、ですか……」

「あっちの調は効力そのものは一日程度だから安心安全って言っていたデス」

「だからって簡単に受けられるものじゃないわよ、これ……」

「何と言うか……面妖だな」

 

 そう、超能力を人に発現させる機械。ヘッドギアみたいな形をしたソレは、わたし達装者七人+エルフナインが囲んでいるテーブルの前に置かれている。

 興味があるか無いかと言われれば、ある。

 わたし達は確かに超能力紛いの力を使ってはいるけど、それは超能力とかじゃなく、オカルトと科学の融合。だから、純科学の超能力っていうのは興味がある。まぁ、何もしてないのに超能力染みた力を持っている人は数人いるけど……

 

「だけどよ、これって人の頭ン中弄るってこったろ? いくら一日で漂白されるつったってな……」

「確かにねぇ。どうしよっか?」

 

 と、みんな口では言っているけど、わたしにはわかる。

 みんな、これを一度使ってみたいと思っていることを。

 響さんはチラッチラッと装置の方を見ているし、クリス先輩は口の割には目が輝いているし、翼さんも何だか挙動不審だし、マリアは周りをせわしなくチェックしているし、切ちゃんは顔は背けようとしているけど目はガッツリと装置の方を向いているし。

 わたしと未来さん、エルフナインはその様子を見て苦笑しているけど、まぁ興味はある訳で。

 

「じゃあ、未来さん。わたし達で使っちゃいましょうか」

「そうだね。みんな怖がってるみたいだし」

 

 あんまりにもみんなが素直じゃないから、わたし達が使ってみようと言ってみると、他の五人も急いで反応してきた。

 

「し、調がやるんならあたしもやるデス!」

「わたしも! 未来がやるんなら!」

「こ、後輩共に任せてられるか! アタシだってやってやらぁ!!」

「なっ、お前達さっきと意見が違うではないか! なら私だってやらせてもらう!」

「そ、そこまで言うんなら私も混ざるわよ!」

 

 ほらね。ああいう状況でわたし達が先に手を出すって言えば、絶対にこの五人は混ざってくるから。

 その光景に未来さんと一緒に笑いながら、とりあえず装置を使ってみることに。ただ、エルフナインはあまり興味が無いと言うか、その超能力が発現する瞬間辺りに興味があるらしく、自分は使わないけど使っている所を見せてくれ、と言ってきたので、とりあえずわたし達装者七人で装置を使ってみることに。

 装置を被って、パソコンでプログラムを走らせて、待機状態になったら装置のボタンをぽちっとな。すると、なんだか頭の中に何かが流れ込んでくるような感じが数秒間起こって、それで超能力の発現は終了。その際に能力名的な物がパソコンに出てくるらしく、わたし達は能力が発現してすぐに自分の能力を知る事になった。

 まずはわたしだけど……

 

念動力(テレキネシス)? なんかふつーだね」

「一番シンプルな超能力っぽいの来たデスなぁ」

 

 能力は念動力。手短な物を浮かせたりできます。

 うん……普通!

 で、次は切ちゃん。切ちゃんの能力は……

 

絶対等速(イコールスピード)……デスか? なんか地味っぽいデス……」

「物を投げると一定の速度でそれが移動し続ける能力ですか……面白そうな能力ですね?」

「確かに。超能力っぽいと言えば超能力っぽい能力ではないか」

「あたしはもっとこう、ガー! っとなってボガーン! ってなる能力の方が欲しかったのデス……」

 

 安定の切ちゃん語彙力にちょっと笑いそうになったけど、確かに折角超能力を身に付けたのなら派手な事がしてみたいと思わないでもない。わたしも念動力って言うシンプルな超能力を見てガッカリしなかったか、と言われればもうちょっとオンリーワンな感じの力が欲しかったなと思うし。

 そんな切ちゃんの言葉を置いておいて、未来さんをラストにして四人が能力を発現させたんだけど、内容としては。

 

「アタシは空力使い(エアロハンド)? よく分かんねぇけど空気関連の能力か。まぁ、空気が読めるアタシ様にはピッタリってわけだな」

「全く、この子ったら……で、私は精神感応(テレパシー)? ……なんかエクスドライブになればできそうなのが来たわね……」

「まぁ良いではないか。司令塔としてはピッタリな能力だと思うぞ。さて、私は………………浸紙念力(パーフェクトペーパー)? ……えっ、なんだこれ。私はオチ要因なのか……?」

「か、かっこよさそうな名前じゃないですか翼さん! で、わたしはっと~……天衣装着(ランペイジドレス)! すっごいカッコ良さそうで強そうなの来た!!」

 

 こんな感じになった。

 空力使いのクリス先輩、精神感応のマリア、浸紙念力の翼さん、天衣装着の響さん。確かにこの中だと、響さんの天衣装着が一番カッコいいかも。

 空力使いは文字通り風を使う能力。精神感応も文字通り念話ができる能力。翼さんの浸紙念力は一番ショボそうな感じだったけど、パーフェクトって言っているだけあって、どうやら紙を自在に操る上に強度をタングステン並みに変えれるっていう、紙があればかなり強力な能力らしい。

 で、響さんの天衣装着は自身の体のリミッター的な物を外して動けるんだとか……あれ、これって第二の弦十郎さんが……いや、言わないでおこう。

 ラストに未来さんが能力を発現させたんだけど……

 

「能力名は……き、死角移動(キルポイント)? なんか嫌な予感が……」

「相手の背後に移動できる能力みたいだよ、響?」

「そ、そっすか……ちなみに未来? なんでさっきからわたしが後ろ向くたびに後ろに移動してくるのかな?」

「なんでだろうね?」

 

 多分、一番持たせちゃいけない人に持たせちゃいけない能力が発現しました。哀れ響さん。ちょっと羨ましい能力だなーとか思ったりはしていない。

 ただ、未来さんは単純に煽り目的で使っているらしくって、さっきから背後に周って響さんをツンツンしてはもう一度背後に移動して、を繰り返している。ただ、連続で使ったせいかちょっと疲れた、という感じで椅子に座った。

 

「なるほど。あまり超能力を使いすぎると倦怠感があるようだな。今日一日、超能力が芽生えたからと言ってはしゃぎすぎるのは危ういかもしれんな」

「そもそも、超能力ってなくても困る物じゃないもの。強いて言うなら、調の念動力が便利そうって程度かしら?」

「あたしの絶対等速なんて使い道に超困るデスよ……」

 

 確かに、絶対等速はちょっと使い道が考えられないよね。でも、それを浸紙念力の前でも言える? ほら、翼さんがそうだよな、困るよな……って言いながら紙弄ってるよ。

 まぁ、そんな感じで好き勝手に色々と話していたけど、平行世界のわたしがこの装置を回収しに来るまではどっちにしろ暇だから、それぞれ超能力で遊びたいんなら周りに被害が出ない程度に遊んでみましょうという事に。

 それでわたしも念動力を使ってみたんだけど。

 

「念動力で浮かせられるのは精々椅子一個分程度かぁ……」

「私の精神感応もあまり範囲は広くないわね。精々数十メートル、といったところかしら」

「わたしの死角移動も結局誰かの背後にしか回れない瞬間移動だし……」

「となると、この中で利便性がありそうなのってアタシの空力使い程度か?」

「一応わたしの天衣装着もいい感じの能力だけど、そんなに使うかと言われたら……だしね」

 

 使いどころに困る超能力ベスト2の絶対等速と浸紙念力は省くとして、わたし達五人も超能力を使ってみたけど、結果としては無くてもあんまり困らない能力だって事しか分からなかった。

 わたしの念動力は上限がかなり低い。精々椅子一個を浮かせられる程度で、二個以上を対象に取る事もできない。しかも動かすのにかなり集中するから動かしている間、わたしは動けない。マリアも数十メートルっていう狭い範囲内でしか念話ができないし、死角移動は背後にしか回れない瞬間移動。しかも、他人を連れて瞬間移動ができないし、背後に周りたい相手を視界に入れておかないとダメ。

 空力使いは空気を操ってモノを動かしたり、空気の射出口なんてものを作れる、結構利便性のある能力だった。で、天衣装着もカッコいいし強い能力なんだけど、そんなに使うかと言われたら使わないかなーって感じ。

 結局、超能力なんてあっても無くても変わらなかった。

 

「超能力って、あってもあんまり変わらなかったね」

「所詮そんなもん。この超能力はその人の才能で強弱が左右される欠陥品みたいなものだから」

 

 あってもなくてもあまり変わらなかった。そんな結論がわたし達の中で出た所で、丁度平行世界のわたしがドアから入ってきた。

 

「あっ、お帰り、わたし」

「はいはい。で、そっちはそっちでしっかりと装置は使ってくれた?」

「使ったデスよ。あまりカッコいい超能力は使えないデスけど……」

「この装置はその人の素質によって発現させられる能力が変わってくる。諦めて」

 

 まぁ、人それぞれ千差万別って事だよね。

 で、そっちの解析結果はどうだったの?

 

「…………機密事項。あまり言えない」

 

 あ、そうなんだ……

 

「まぁ、仕方ないな。そちらは信頼関係で成り立っている商売だ。そちらの月読が機密事項と口にするようなものが存在していると教えてくれただけ十分収穫はあった、という事だろう」

「……そんな風に考えられるなんて、呑気な。まぁ、今後もしかしたらわたしもそっちに協力を要請したり、協力のために共闘するかもしれない。その時になったら嫌にでも色々と分かると思う」

 

 そう言うと、平行世界のわたしは超能力発現装置を抱えた。

 

「もう帰るの?」

「あまりラボから離れていたくない。ダメ助手が何かやらかすかもしれないし、切ちゃんも心配だし……」

 

 あー……それは仕方ないね。

 

「何かあったらすぐに言ってね! 最短で最速で真っ直ぐに一直線に助けに行くから!!」

「……まぁ、その時はヨロシク。じゃ」

 

 響さんの言葉に一つ言葉を返してから、平行世界のわたしは軽く手を上げてから帰っていった。

 ……ああやってみると、本当にアレってわたしなのか怪しく思えてくる。話によるとエナドリ大量摂取して家事なんてしないらしいし……本当にアレはわたしなんだろうか。もう別人でいいんじゃない?

 さて、平行世界のわたしも帰っちゃったことだし、これから何しようかな。超能力でもうちょっと遊んでみたり……

 ん?

 

「あっ、サイレン……って事は」

「また錬金術師か?」

『装者諸君、街中でアルカノイズ反応を検知した。至急、向かってくれるか』

 

 はい、いつも通りのアルカノイズ反応です。

 よくもまぁ、わたし達に止められるって分かっているのにアルカノイズで悪さしようとするよね。一々止めなくちゃならないこっちの身にもなってほしいんだけど。

 そんな愚痴を言っても始まらない。公務員は問題があったら即参上するのです。という事でいつも通り本部から出てギアを纏って、現着。その間にアルカノイズが出現した辺り一帯はSONGの人達の手によって避難誘導がされているから、わたし達は存分に戦える。

 アルカノイズを出した錬金術師さんも間が悪かったね。よりによってフルメンバーが揃っている時に来るなんてさ。

 

「アルカノイズ程度、わたし達で止めてみせる!!」

「油断はするなよ、立花! 小日向と雪音は立花のサポートをしつつ突貫だ!」

「わたしと翼で要救助者の救助に向かうわ。切歌と調はあの三人の取りこぼしを刈り取って頂戴!」

『了解!』

「さぁ、行くわよ!! 「手の届く場所だけを守れればいい」! それしかわたしにできない……! 弱い自分だからこそ、目に見える分の! 幸せが掴めればそれでよかった!!」

 

 司令塔である翼さんとマリアからの言葉に従って、響さん、未来さん、クリス先輩がアルカノイズの大群の中へと突っ込んでいく。その間に翼さんとマリアは要救助者の反応を聞いてそこへと向かっていく。

 わたしと切ちゃんは突っ込んだ三人から逃げるように移動してくるアルカノイズを一匹ずつ倒しては次の場所へ向かって、を繰り返す。

 爆発力の響さんと、それをサポートできる未来さんとクリス先輩を中心として、ギアに一番利便性がある翼さんとマリアで要救助者を助けに行って、機動力があるわたし達ザババコンビが狩り残しや別動隊を狩る。多分、七人での戦いとしては一番理想的な動きだと思う。

 戦闘時間は五分もかからない。要救助者を大至急で救助し終わった翼さんとマリアが戦線に混ざって討ち漏らしがほぼ無くなったところでわたし達もそこに混ざり、一気にアルカノイズを殲滅。無事、大災害となりかけたアルカノイズの進行を阻止する事ができた。

 できたから……さて、後は。

 

「黒幕サマのお手々にワッパかけてやんねぇとなぁ?」

 

 装者全員で集合し、クリス先輩の声に合わせて武器を構える。

 わたし達の視線の先には、五人の錬金術師が。その全員が不敵な笑みを浮かべているけど……でも、装者七人が揃って勝てない相手なんて数える程度しかいない。あの錬金術師達がアダム並の力を持っているのならまだしも、それ以下の実力しかないのならわたし達七人が揃った時点でほぼ勝ちは決まったようなもの。

 さぁ、覚悟。

 

「ふっ、まんまと我等が策に引っかかったようだな、装者共よ」

 

 このまま一気に確保と思って動こうとした瞬間、五人の内一人が口を開いた。

 ふーん、この状況でそんな口が利けるんだ。

 

「ほう。では、貴様らにはここから私達を蹴散らす程の得策があると?」

「逆に見てみたいわね。そんな奇策があるのなら」

 

 翼さんとマリアが口を開きながら、左右に居るわたし達に目線で合図をする。

 クリス先輩は建物の上に。響さんが二人の前に。そしてわたしと切ちゃんで相手を挟むように動き、未来さんが背後にすぐに回り込めるように空中に浮遊。

 七人で取り囲んで一気に相手を蹴散らすための陣形。わたし達五人の近距離型装者を抜かしたとしても、クリス先輩と未来さんの遠距離攻撃で一網打尽にできる。これをどうにかできるのなんてフィジカルでわたし達に勝る相手くらい。サンジェルマン達でも苦戦すると思う。

 特にわたしと切ちゃんがいる以上、ユニゾンが可能だしね。翼さんとマリアでも頑張ればユニゾンは可能だし、何だったら七人のユニゾンっていう奥の手もある。完全聖遺物でも出てこない限り、負ける相手じゃ……

 ……ん? 今なんか踏んだ?

 

「ふっ。貴様等がそうやって動く事そのものが我等の策だという事にまだ気づかぬか」

「いつまでそんな減らず口を…………ん? なんか踏んだか?」

「クリス先輩、そんなの放っておいて……あれ? あたしもなんか踏んだくさいデス」

「瓦礫とか何かじゃ……あれ? あの、翼さん、マリアさん。なんか今、わたしの足元からカチって音が……」

 

 ……えっ。

 わたしだけならまだしも、各個散会したみんなが何か踏んでる? というか、なんかカチって音が響いてる?

 全員で冷や汗を流しながらそっと足元を確認すると…………

 わお。なんか地雷的サムシングが。

 

「ぜ、全員、とっととその場を離れな――」

「うぎゃああ!!? なんか変な液体が噴出してきたデス!!? えんがちょ!!」

「しかもなんか霧になって周囲に!!?」

「なんだこれきったねぇ!!」

「なんか緑色なんですけど!! 汚いよ未来ぅ!!」

「ちょっ、こっち来ないでよ響ぃ!!」

「ええい落ち着けお前等!! 所詮汚いだけだ!! 毒だろうが何だろうがギアを纏っている限りは無害だ!!」

 

 うわっ、吸っちゃった! 思いっきり吸っちゃった!!

 何あの緑色の液体!! まさか虫から煎じた液体とかじゃないよね!? 普通にもう帰りたいよぉ!!

 空中に散布されたら霧みたいになって消えて行ったけど、なんか辺り一面若干緑色になってるし!! こんなんじゃ気が滅入るだけで適合率が下がるぅ!!

 あーもうほんとにえんがちょだよこれ!! もう、早くあの馬鹿錬金術師共をひっ捕まえて帰ってシャワーを……って、あれ?

 …………なんか、体が?

 

「うぐっ……!? な、なんか体が重いデス……」

「それどころか、なんかギアから変な音が……」

「あ、あの、翼さん……これ、もしかして……」

「あぁ、そっくりだな。かつてアンチLiNKERを吸わされた時の感覚に」

「って事はコレ、もしかして適合率が下がってるって事か!?」

「みたいね……くっ、ギアを維持できない……!!」

 

 マリアの言葉を筆頭に、未来さんのギアが無理矢理解除されて、次にわたし達F.I.S組。つまりはLiNKERに頼っている組がギアを纏い続ける事ができなくなった。いや、正確にはまだ纏えることには纏えるんだけど、バックファイアが強すぎるから多分少し動いただけで血涙吐血でマトモに逃げる事すらできなくなる。だから、無意識のうちに解除した、としか。

 ただ、すぐに響さん達はギアを出力の低い状態のモノに切り替えてなんとかギアを維持しようとしていたけど、それすらも難しくなったのかギアを解除する事になった。

 

「ふははははは!! 我等が作り上げた、人間と聖遺物との適合率を下げる薬剤は効果覿面のようだな!!」

「アイツら、なんつーもんをこの土壇場で……!!」

「戦場で剣を鞘に納めさせられるとはな……!!」

 

 散会しようとしていた全員で集まって無手のまま構えるけど、やっぱりギアを纏っていた時と比べればかなり心許ない。

 響さんと翼さん、それからマリアならまだ錬金術師と生身の状態でも戦えそうだけど、わたし達は鍛えているとはいえ、異端技術を使う相手を生身で相手できる程強くはないし……!! 緒川さんと弦十郎さんが来てくれるのを願ってここで時間稼ぎをするしか……?

 

「こうなればただの小娘。我等の錬金術によって処刑してくれるわ!!」

「みんな、わたしの後ろに! ここはわたしが!!」

「一人で出るな、立花! 私とて防人だ! 例え生身だろうと!」

「あなた達は本部へ! ここは私達三人で時間を稼ぐわ!!」

 

 響さん、翼さん、マリアが前に出て、赤色の魔法陣みたいな、錬金術特有の紋章を出した五人の錬金術師の前に立つ。

 確かに、被害を抑えるためには三人に時間を稼いでもらうのが一番なんだろうけど……何かできる事は……!!

 …………あっ、ある。

 幸いにもここら辺はさっきの戦闘の余波で瓦礫とかが散らかっているから、これを使えば……!!

 

「響さん、翼さん、マリア! 頭下げて!!」

 

 後ろから叫んで、三人が頭を下げた瞬間に錬金術師達が放った炎に向かって、思いっきり周囲に散らばっていた瓦礫を順番に飛ばす。

 素手で、なんかじゃない。今日一日だけわたしが使える特別な力。

 超能力で。

 

「な、なんだと!!?」

 

 これには流石に相手も予想外だったようで、炎を受け止めながら飛んでくる幾つかの瓦礫にビビり散らした相手はそれをかなりギリギリで避けた。

 よし、これならギアが無くても戦える!!

 

「い、今のは……そうか、超能力か!!」

「遊び半分だったからすっかり忘れていたデス!!」

「確かに、超能力なら生身でだって戦える!!」

「ちょ、超能力だと!!? 貴様ら、いつの間にそんなビックリドッキリ人間に生まれ変わった!!」

「錬金術をこのご時世に街中で披露する方がビックリドッキリ人間よ!!」

 

 マリアの叫びに合わせて、今度は全員で構える。

 その直後にマリアから、精神感応での念話が飛んできた。

 

『前線は一時響一人に任せるわ。ただ、後ろからクリスと調で適当に瓦礫を飛ばしておきなさい。翼、あなたは近くの建物に入って紙の確保を。切歌は一旦自分の能力で何ができるかを確認して。戦闘への参加が無理そうなら、一旦私に教えてちょうだい。未来は……そうね。適当に隙を見つけたら後ろから相手の頭蓋をコンクリの瓦礫で叩き割ってあげなさい』

「えっ……えっ!?」

 

 急に殺人紛いの作戦を要求された未来さん以外が何も言わずに受け取り、動く。

 響さんがみんなの前に立ち、わたしとクリス先輩がその後ろに。そしてマリアは近くの建物を見渡し、翼さんとどの建物に行くかを確認してから即座に散会。そして切ちゃんと未来さんはわたし達の後ろで一旦待機。

 

「ええい、怯むな!! 例え超能力などという眉唾が使えた所で所詮は小娘に変わりはせん!!」

「我等が錬金術の方が上だという事を思い知らせろ!!」

 

 相手の叫びと共に、今度は黄色の陣が生み出されて、そこから当たれば確実に大怪我は間違いない土塊が飛んでくる。

 けど、響さんはそれを前にしても一切退かない。

 

「わたしの天衣装着は言っちゃえば身体能力が上がるだけ。でも、それならつまり!!」

 

 一瞬響さんの体に稲妻のようなものが走ったと思った直後。響さんが震脚を繰り出し、そのままアスファルトを畳返しのような感じで捲り上げて飛んできた土塊全てを防いだ。

 うわぉ……

 

「師匠しかできないような技だって、今なら使える!!」

 

 あっ。これ響さんだけで戦局どうにかなるレベルですね……

 と思った直後にクリス先輩が前に出て、めくりあげられたアスファルトに手を当てた。

 

「んでもって、美味しい所はアタシ様のモンってな!!」

 

 クリス先輩の能力は空力使い。だから空気を使う能力なんだけど、アスファルトに手を当てて何をするのかと。そう思って様子を見ていると、アスファルトには小さな竜巻のようなものが発生していた。

 それが突風を生み出し、畳返しされたアスファルトが高速で射出され、そのまま錬金術師たちの方へと迫っていく。

 けど、アスファルトはさっきの一撃で結構ダメージが入っていたのか、それを防ぐための攻撃によって砕かれ、相手をダウンさせる事は無かった。更にそのお返しにともう一度土塊が飛んでくるけど。

 

「ピンチにあたしが大登場デス!!」

 

 切ちゃんがわたし達の後ろから前に出て、手に持っていた何かを投げた。

 あれは……お金? 十円玉とか一円玉とかの類だけど、それを絶対等速を使って投げただけ……かな?

 絶対等速の効果でお金はゆっくりと進んでいくけど、そのゆっくりと進んでいたお金は高速で射出された土塊とぶつかりあっても弾かれる事無く、それどころか逆に土塊を全部粉砕した。

 えっ、なにこれ!?

 

「絶対等速はどうやら物を投げた後に、そこに何があろうとずっと等速で進み続ける能力らしいのデス。さっき試しにお金を建物にぶつけたら建物にめり込んだから間違いないのデス!!」

 

 そ、そうなんだ……って、その能力強くない……?

 さっきのアスファルトの壁だって切ちゃんの手にかかれば、壊れるまでは間に何があろうと進み続ける盾になるって事でしょ? それに、お金だって逃げ場がない人間にぶつければ、間違いなく貫通するだろうし……も、もしかしてこの中でもトップクラスに殺傷力が高い……?

 一応、切ちゃんは防御札に使ったお金はすぐに能力を解除して地面に落としていたけど。

 

「くっ、超能力などという眉唾の異端に……!!」

「どうやら形勢は逆転したようだなぁ?」

「大怪我する前に降参した方が身のためデス!!」

『もしも降参しないようであれば、翼が上から奇襲するわ。それに合わせて一気に殲滅するわよ』

 

 降参を打診した瞬間、すぐにマリアからの連絡が。

 翼さんの奇襲。という事は、紙がある程度見つかったという事。

 超能力は使いすぎると良くない、というのはこの戦いの前に未来さんが体験して言っていたし、短期決戦を仕掛けるしかないのは何となく分かっていた。

 だから、ここでもしも相手が両手を上げないようなら……

 

「だ、誰が国家の犬どもに首を垂れる物か!! 貴様らなぞ皆殺しにして我等が野望を果たすまで!!」

 

 ここで一気に片付ける!!

 

「そうか。ならば夢半ばにて果てるが良い!!」

 

 マリアの念話通りに、翼さんが建物の屋上から紙を階段のように配置してから、それを一気に駆け下りての奇襲を仕掛けた。

 流石に屋上から紙を足場にして奇襲してくるなんて思っていなかった相手はそれに硬直。その間に翼さんは紙で作り上げた刀を振り切った。

 

「がはっ!」

「安心しろ、刃はない。もっとも、そんじょそこらの鋼よりも硬度はあるがな」

 

 浸紙念力で何枚もの紙を刀に仕立て上げた翼さんの不意打ちによって一人がダウン。それに驚き攻撃を翼さんに集中させようとした瞬間に、今度は未来さんが。

 

「え、えいっ!!」

「あだぁっ!!?」

 

 死角移動で残り四人の内一人の背後に周って、手に持っていた特大のコンクリの塊で頭部を殴りぬいた。

 な、なんか血がべったりとついてますけど……あれ、大丈夫なのかな……? 死んでないよね……? 相当生々しい音が聞こえてきたけど……

 

「あわわわわ……や、やっちゃった……」

「き、貴様ッ!! よくも同士を殺してくれたな!!」

「こ、殺してません!! 多分!!」

 

 多分五割以上の確率で死んでる仲間を見て頭に来たのか、未来さんに向かって錬金術で攻撃しようとする相手。でも、それを見逃さない人がこの場には確実に一人いるわけで。

 

「ねぇ、未来に何しようとしてるのかな?」

 

 響さんが、天衣装着の力で超人じみた身体能力を手にして未来さんと相手の間に割り込み、そのまま腕をへし折らんほどの力で握りしめている。

 まぁ、あの人が未来さんを攻撃しようとしている人を見逃すわけがないよね、うん。

 

「なっ!? い、いつの間に!!?」

「こうやって未来を攻撃しようとしたって事は……あなた、自分も攻撃されるかもしれないって覚悟をしてきた人なんですよね?」

「な、なにを……」

「覚悟はいいですか? わたしはできている」

 

 なんかどこかで聞いたようなセリフを口にした響さんはそのまま腕を掴んだ人をポイっと投げ、両拳を構えて。

 

「オォラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァッ!!」

「ぶげぇっ!!?」

 

 そのまま超高速のオラオラ。あーあー……あれは再起不能だね……だってほぼTESTAMENTだもん、あれ。

 で、そんな響さんのラッシュにビックリした残りの二人は硬直している間に。

 

「ほい、お疲れさん」

 

 クリス先輩が音もなく忍び寄って、そのまま二人のお腹に手を当て、さっきの竜巻を発生させて吹っ飛ばし、気絶させて終了。

 まぁ……相手の策略は結構よかったとは思うけど、今回ばかりは相手が悪かったよねって。

 そう思いましたとさ。

 

 

****

 

 

 で、その後の事なんだけど。

 まず、錬金術師五人は無事しょっぴかれました。ただ、わたし達がアンチLiNKERもどきでギアを解除させられた後に独断専行しすぎ。しかも危険な行動をしてしまった事もあってちょっとお説教されました。ただ、あの場から逃げるのは困難だったし、結果的には無傷で終わった事から、これからは戦場では油断せず、こういう事もあるかもしれないと思いながら行動する事、という事を言われて解放された。

 お説教の後は天衣装着を使った響さんと弦十郎さんがまるで人外同士の最終決戦と言える程に互角の戦いを繰り広げたり、翼さんが浸紙念力を使って紙飛行機を大量に飛ばして遊んだり、未来さんが死角移動で色んな人にちょっかいかけたりしていたけど、特に何か大きい事件が起きる事無く翌日になり、超能力は消えましたとさ。

 ……もうちょっと超能力で遊びたかったかなーとは、実はみんな思っていたり。




本当はもっと超能力でバッチバチに戦う描写を入れたかったんですけど、アルカノイズ相手に無双なんてのは無理なのでこんな感じに。一万文字あるから許して許して……

そしてサラッとIF調初登場。科学方面での問題発生装置は暫くIF調になりそうとか思っていたり。
ちなみに装者の能力はひびみく以外はレベル5以外の個人的に好きな能力を集めた感じです。ひびみくの能力だけは二人のイメージから選びました。多分未来さんは二人っきりになった途端にビッキーにセクハラしていた事でしょう……

さて、更新していない間にあった事は前書きで書きましたが、とりあえずLOST SONG編が終わるまではグレビッキーの出番が無くなります。あったとしても、LOST SONG編より前の時間軸のグレビッキーが出てくる事になりますね。
で、他のAnotherキャラは切ちゃん以外はちょくちょく出す予定です。切ちゃんはLOST SONG編でどんな風に出てくるかで今後が決まります。

で、個人的にシンフォニアのキャラを出したい……というか今回のコラボで出番が無かった残りの四人や、続編のエミマルの二人なんかを書きたいなーとか思ってるんですけど、時系列上、ロイドくんのエターナルソードを頼りにできない上にTOS組の記憶が消えているっぽい以上、どうしようかと……

というか、ゴジラコラボの装者in平成モスラ回となのはコラボのマテリアルズ回が残っている上にULTRAMAN勢に至っては一回も出てないしバンドリキャラがシンフォギア世界にって話も書けてないからそっちどうにかしなきゃいけないんですけどね!

それではまた次回、お会いしましょう。


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月読調の華麗なる交響曲

皆さまお久しぶりです。

サボってた訳じゃないよ? ただ、apexやったりゲームしたりVにハマったりとか色々と忙しかったわけで……

よし、この話ここまで!

今回は何か月か前の話になりますが、テイルズオブシンフォニアとシンフォギアがコラボしたので、そのコラボ回です。
ただ、一点だけ注意を。

今回の話は厳密に言えばテイルズオブシンフォニアではなく、テイルズオブシンフォニア ラタトスクの騎士とのコラボです。そのため、エミルやマルタが出てきます。
ついでに言うと、時間軸も色々な事情から物語も終盤も終盤、ギンヌンガ・ガップへと向かった直後の話となります。

なのでラタトスクの騎士のネタバレが多大に含まれていますし、エンディングにも軽く触れています。

既にラタトスクの騎士をプレイ済み、もしくはそれを承知している、という方のみここから先へとお進みください。




で、改めて軽く書きますが、ギンヌンガ・ガップ突入直前の部分からエミル達がやってきますので、エミルは常時緑目状態。つまり、エミル状態で話が進みます。ラタトスク状態はありませんのでご注意ください。

それと、一部のキャラが思いっきりレイズの技を使いますので、知らない技だなーと思ったら大体レイズの技だと思っていただけるとありがたいです。

それでは、本編をどうぞ。
ちなみに五万文字あります。


 この間、翼さん達はギアを纏わなくてもギアを纏った装者並に戦えるファンタジー世界の人達と一緒にちょっとした事件を解決したらしい。

 エターナルソードとか、天使術とか、魔法とか……そういう錬金術とはこれまた違ったファンタジーな事に巻き込まれて翼さん、奏さん、マリアの三人は大変だったけど楽しかったとか、あの四人はきっと世界を救えたんだと語っていた。

 それと、モンスターを倒すとアイテムとかお金を落として、本当にRPGの世界がそのまま具現化したみたいだった、とも言っていた。なんやかんやでわたし達が知り合った異世界の人って、ガールズバンドのみんなが一般人程度で、他は大体怪獣だったりヒーローだったり調査兵団だったり魔法少女だったりで、RPG的なファンタジーな人たちは初めてだから、翼さん達も話を聞かせてくれる時は凄い笑顔だったよ。

 で、そんな話を聞いたものだから、わたしもその、ロイドさん、だっけ? その人たちと会いたいなー、とか思いながら今日も学校に向かっている……んだけど……

 

「う、うぅ……ま、マルタ……退いて……」

「な、何が起こったのよぉ……」

 

 …………不審者を二名がベンチの上でくんずほぐれつしていました。

 男女の不審者で、どっちも服装が明らかに日本に合っていない物なんだけど、それ以上に不審な点が二つ。

 まず男の子なんだけど、腰に剣みたいなのを吊るしてるんだよね。た、多分真剣じゃないと思うんだけど……ここ日本だしね。で、女の子の方は何だろう……ヨーヨー? じゃなくてチャクラム……? でもなくて……そんな感じの円状の物を手に付けている。で、わたしの見間違いじゃなければ確実にアレ刃付いてるよね……

 えっ、警察に連絡すべき? それともSONG? これ何案件……? 公の組織に知らせていいやつ? それともわたし達が対処すべきやつ? なんか後者な気がするけど……

 

「いててて……確か僕達、ギンヌンガ・ガップに行くために……」

「うん、異界の扉に行って、それから光に包まれたって思ったら……」

 

 な、何を話しているの? ぎ、ぎんぬん……なに? 異界の扉って……?

 あ、明らかにこれわたし達案件だよね……聖遺物、異端技術、平行世界案件だよね!!

 そう思いながら携帯で弦十郎さんに電話をしようと思ってポケットからスマホを取り出した。えっと、弦十郎さんの電話は……

 

「……あれ? あそこに誰かいない?」

「あ、ホントだ。女の子、みたい」

 

 あっ、気づかれた。

 ど、どうしよう。ギアを纏って逃げるべき? でも、あの二人は全然敵意を持っていないみたいだし、言葉もしっかりと通じるっぽいから、普通に話しかけてみてからでも遅くない……かな?

 

「あの、ちょっといいかな?」

 

 とか思ってたら声をかけられた。

 と、とりあえず話は通じそう、かな。こういう時って会話が通じずに戦闘に発展する時が八割くらいだから、ちゃんと会話してくれるんならありがたいや。

 

「あ、はい。なにか?」

「えっと、ここってどこか分かる? ルインやパルマコスタじゃないみたいだし……」

「る、ルインって何? えっと、ここは……」

 

 なんかやっぱり異世界案件っぽいなー、と思いながらも、ここが日本のどこかを説明する。けど、二人とも首をかしげてどういうコト? と言わんばかりの表情をしている。

 

「ぎ、ギンヌンガ・ガップじゃない……みたいだね。見ればわかるけど……」

「ど、どうしよう……コレットやジーニアス達も居ないみたいだし……完全にあたし達二人だけで見知らぬ場所に飛ばされちゃうなんて……仲間にした魔物も居ないみたいだし」

 

 コレットに、ジーニアス……?

 そういえば、その二人の名前ってこの間マリアから聞いた気がする。確か、コレットって子は天使術を使って、ジーニアスって人も魔法を使うとか言っていたような。

 ……そういえばこの二人、なんだかファンタジー系の人っぽい服装してるよね。現代風じゃなくて中世風というかなんというか。

 ……一応聞いてみる? まさかそんなミラクルが起きるわけないだろうけど。

 

「そのコレットとジーニアスって、天使術を使う人と魔法を使う人? 確か……金髪の子と、銀髪の。あっ、チャクラムとけん玉を使ってるって言ってたっけ」

 

 マリアから又聞きした情報を二人に伝えてみると、二人ともかなり驚いた様子でわたしにちょっと詰め寄ってきた。

 

「コレットとジーニアスを見たの!?」

「ど、どこで!? あと、それ以外に誰かいなかった!?」

 

 ちょっ、ちょっと落ち着いて……

 とりあえず二人を一旦押しやって冷静にさせてから、改めてマリアから又聞きした事について説明する事にした。

 もしかしたら名前が同じで特徴も一緒の別人かもしれないしね。あと、その二人を見たことはないし。

 

「わたしは見た事無いよ。ただ、この間わたしの仲間がその人たちと会ったの」

「君の仲間が?」

「うん。確か会ったのは……二刀流を使うロイドさんと、天使術を使うコレットさん、魔法を使うジーニアスさんと、斧を使うプレセアさん、だっけ。わたしも又聞きしただけだから知り合いとは限らないけど……」

「ま、間違いない。それ、僕達の知ってるロイド達だよ」

 

 えっ、本当に?

 それなんてミラクル?

 でも、そうなるとこの人たちは確実に平行世界の人って事だよね。しかも、マリア達の出会ったロイドさん達の仲間の。

 ……ど、どうしよう。生身の人はギャラルホルンを通ることはできないし、シグルドのデュプリケーターも異世界から来た痕跡が無いとこの人たちを元の世界に帰す事なんてできないし、APPLEはこの間帰っちゃったし、平行世界で出会った平行世界の響さん含めた人たちはそもそも敵対しているし……

 となると、事情を説明してSONGで保護してもらうしかないよね。SONG本部にまで来てもらえば、少なくとも事情をある程度は知っているであろう翼さんとマリアが来てくれるだろうし。二人とも今は日本に居るからね。

 

「えっと、とりあえず現状なんだけど、多分二人とも何かしらの理由で平行世界……この世界に来ちゃったんだと思う」

「へ、平行世界? そんな……いや、でも……」

「少なくともわたし達の世界でそんな剣を持ってたらすぐに逮捕されて檻の中だから、間違いないと思う」

「えっ、そうなの? 剣を持ってるだけで逮捕って、なんだか敏感過ぎない?」

「逆に物騒だよ。だから、わたしの所属してる組織で一旦保護してもらおうと思うんだけど、どうかな? もしかしたらあなた達の仲間のロイドさん達、だっけ。その人たちも保護されてくるかもしれないし。嫌なら無理強いはしないけど……」

 

 もしもこの人たちが自力で帰る術を持っているんなら過干渉すべきじゃないからね。だから、保護されるか自分達で動くかはこの人達の最終決定次第にはなると思うけど……

 まぁ、最終的には銃刀法違反で逮捕からのわたし達が引き取りって形になるだろうから、最終的にはSONGで保護、って形になるのかな。

 あ、あと。

 

「それと、多分そっちのお金もここじゃ使えないからその内生きていく事も難しくなるかも……」

「お、お金も!? ガルド使えないの!?」

「うん、確実に」

 

 そんなお金聞いた事無いし。

 そう言うと、二人は困ったように顔を会わせた。

 

「ど、どうしよう……食材、全部ジーニアスとプレセアが持ってるし……」

「僕達、魔物用の餌しか持ってないもんね……一文無しのすかんぴんって……」

 

 その剣を質屋に出せばワンチャンあるよ、とは言わない。多分剣って剣士の魂的な感じだろうから。

 暫く待ってみると、二人ともやっぱり一文無しですかんぴんの、しかも犯罪犯している状態で街中を歩くのは嫌だったのか、背に腹は代えられないと言わんばかりにがっくりと肩を落とした。

 

「えっと……君の所属してる組織って、ヴァンガードみたいな感じじゃないよね?」

「ヴぁ、ヴァンガード……? カードゲームの事……? いや、別にやましい事が無ければ平行世界のお客さんはしっかりと保護してくれる優しい組織だよ?」

「それじゃあ、せめて帰る手段が見つかるまでそこに居させてもらっても大丈夫? あっ、ちゃんと働くわよ?」

「そこは心配しなくてもいいと思うけど……分かった、ちょっと待ってて。今事情を説明して迎えの車に来てもらうように説明するから」

 

 よし、二人とも剣を抜かずに話に応じてくれた。

 やっぱ人間には言葉があるんだからこうならないとね。今まで挨拶代わりに戦闘があったのが異常だったんだよ、うん。

 あっ、そういえば自己紹介してない。

 

「えっと、わたしは月読調。調が名前ね。二人の名前は?」

「あ、そっか。名前、言ってなかったっけ。僕はエミル。エミル・キャスタニエ。よろしく」

「あたしはマルタ・ルアルディ。よろしくね、調」

「うん、よろしく。エミル、マルタ」

 

 これは今日の学校は公欠かな。また追加の宿題がどーんどーんと……いや、人命には代えられないから別にいいんだけどね、うん……

 二人も保護に同意してくれたし、一旦二人には剣と、手の丸い武器を下ろしてもらってから弦十郎さんに電話をかける事に。あ、でも弦十郎さんのプライベートの奴じゃ駄目だよね……じゃあ本部宛に電話をしないと。で、そこから転送してもらえば弦十郎さん達、本部の人達にこの事が伝わる筈だし。

 じゃあ、本部の方に……

 

「っ……! 待って、調」

 

 え?

 なんか急にエミルが剣の柄を掴んでわたしの前に立った。しかもマルタまで。

 えっと、急にどうしたの?

 

「来るよ、マルタ! 調はなるべく下がってて!」

「大丈夫、調の事はわたし達が守るから!」

「え、えっと、何か来てるの? せ、説明してくれると……」

 

 わたしが混乱して二人に説明を求めた瞬間だった。

 空から、何かが降ってきた。

 その衝撃に体が若干吹き飛びそうになるけど、それを抑えて前を見れば、そこには見たことも無い生き物が鎮座していた。

 まるで木の化け物。そうとしか言えないような生き物が、触手のような枝を動かしながらこちらを見ている。

 

「トレントが三体! くっ、こういう時にジーニアスやゼロスの魔法があったら!」

「でもわたし達ならトレント程度、敵じゃないわ! 行きましょう、エミル!」

「うん、マルタ!」

 

 わたしも戦えるって言おうとしたけど、出遅れた結果エミルが走り出して、マルタがその場で構えた。

 っていうか、エミル凄く速い! 剣を持ってるのに、ギアを纏ったわたし達にも負けない速度でトレントに向かって走っていってる!

 

「はぁぁぁ!! 魔神剣ッ!!」

 

 走りながらエミルが叫んで剣を振り上げた。すると、剣を振った時の衝撃波が飛び出してトレントに当たり、トレントを怯ませた。あ、あんなことをギアも無しにやるなんて……

 

「まだだ! 虎乱蹴! そして、崩襲脚ッ!!」

 

 しかもエミルはそのまま一気に一体のトレントに接近して、飛び上がりながらトレントを蹴って、更に空中で体を回してトレントを蹴って跳躍すると、今度は炎を纏って空中から蹴りをトレントに叩き込んだ。

 な、何か生身でギアでしかできないようなことしてる……炎を纏って蹴りって……

 その蹴りでトレントの一体が燃え始めてわたし達よりも大きな体を悶えさせながらエミルに突っ込んでいく……って、危ない!

 

「various shul shahana tron!」

 

 このままじゃ確実にエミルが大怪我を負う。だから、聖詠を口にしながらマルタの横を抜けて、そのまま真っ直ぐエミルの元へと走る。

 大丈夫、これなら間に合う!!

 

「し、調!?」

 

 後ろからのマルタの声を敢えて無視しながら走り、途中でギアの展開が完了したからギアでの走行に切り替え、エミルを追い抜かす寸前で禁月輪を使って更に加速してそのまま燃えるトレントを真っ二つに斬り裂いた。

 

「なっ!? し、調、なんだよね? その装備は……」

「話はあと。今はこいつらを倒さないと」

 

 真っ二つに斬り裂いたトレントは何故か消えて行って、その場に見た事が無い硬貨を落とした。

 この特徴……確かに翼さん達が言っていた魔物の特徴そのものだ。だから、確実にこのトレント達はエミルたちの世界から来たんだと思う。

 でもなんで……? なんでそう平行世界から…………いや、考えるのは後。今はこのトレント達が一般人に被害を与える前に討伐しないと。

 

「二人とも、下がって!」

 

 そう思いながらもヨーヨーを構えてエミルの横に立ったけど、直後にマルタからの声が。

 振り返れば、マルタが目を閉じてこちらに手を向けていた。何をするのか分からないけど、エミルが下がったのに従ってわたしも後ろに下がる。

 すると。

 

「煌きよ、威を示せ! フォトンッ!!」

 

 フォトン、とマルタが叫ぶと同時に一体のトレントを光の球体が包み込んで、それが破裂する事によってトレントの片腕……片枝? が吹き飛んだ。あれが魔法なんだ、とわたしがその光景に驚いていると、すぐにエミルが前に向かって飛び出した。

 

「決める! 砕覇、双撃衝!!」

 

 剣を突き刺してからの二連撃。その攻撃にトレントは耐えられなかったみたいで二連撃によってトレントは斬り裂かれ、消滅していった。

 生身であれを斬り裂くなんて、本当に凄い……けど、負けてられない。

 一気に前に出たエミルを狙って最後の一体のトレントがエミルを攻撃しようとするけど、その前にわたしが飛び上がって足から電ノコを生やして一気に落下する。

 

「これで、トドメ!!」

 

 もちろん、電ノコに木が勝てるわけもなく、トレントは真っ二つに斬り裂かれて消滅していった。で、代わりになんか落ちた。

 えっと……これ、グミ?

 えっ、グミ? 思いっきり地面にボトって落ちてたけど食べていいのこれ……?

 

「お疲れ、調」

「凄いじゃない、そんな装備を持ってたなんて!」

「えっ、あ、お疲れ様。まぁ、持っていたと言うか変身したと言うか……」

 

 とりあえずグミは一旦置いておくとして、ギアを解除すると二人は驚いたのか目を見開いていた。

 まぁ、そりゃそうだよね。シンフォギアなんてビックリドッキリの塊みたいなものだし。

 ギアについては多分説明しても分からないだろうし、わたしだってどういう原理でギアが展開されるのかとか分からないから、一応変身して戦えるようになるんだよ、とだけ説明してから本部に連絡を入れた。

 本部の方でもわたしのフォニックゲインは観測できたらしく、事情と用件を伝えればすぐに迎えが来る、との事で暫く待っていたら車が来たので乗り込み、そのまま本部へ。

 ちなみにエミルとマルタは初めての車に驚きながらもちょっと興奮してたよ。でも、二人の言ってたレアバードっていう一人乗りの空飛ぶ機械の方が凄いと思うんだけどなぁ……

 

 

****

 

 

 本部に着いてから、わたしとエミル、それからマルタの三人で弦十郎さんと、自分の仕事を切り上げて事情の把握のために指令室に来ていたありのままを説明する事にした。

 一瞬二人が弦十郎さんを見た時に「つ、強い……!!?」って一歩退きながら呟いていたけど……もしかして二人とも、相手を見ただけで何となく強さが分かったりするのかな……?

 で、エミルとマルタがどうして自分達がここに居るのか、というのを説明し終えた。

 

「――という訳なんです。僕達もどうして自分達がここに居るのか分からなくて……」

「魔界への扉、ギンヌンガ・ガップか……エルフナインくん、聞いた事は?」

「調べてみましたが、こちらの逸話としてはギンヌンガガプが残されていました。ですが、ラタトスクは世界樹ユグドラシルに住まう栗鼠の精霊です。それがギンヌンガガプの主と言うのはとてもですが……」

「ついでに言えば、シルヴァラントやテセアラという土地についてもこちらは何も情報を持ちえないな……やはり、君達の世界は我等の認知するどの平行世界よりも遠い平行世界で間違いないだろう」

 

 今回に関しては、結構状況が詰みに入っていると思う。

 翼さん達の時はエターナルソードがあったから何とかなったけど、今回ばかりはシグルドの定期連絡も結構先みたいだし、結構詰みが入っていると思う。

 あと、エミルがラタトスクは栗鼠の精霊って言葉に何故か反応して「僕ってこっちだと栗鼠なんだ……」って遠い目していたけど、エミル達とラタトスクってそんなに因縁があったりするの……?

 

「そう、ですか……その、元の世界に帰る方法って、あったりしませんか?」

「すまんな……我等の持つ平行世界への移動手段は調くん達のような聖遺物を纏う者でしか行うことができない」

「聖遺物……シンフォギア、ってやつ?」

「あぁ。聖遺物そのものが移動できることも確認してはいるが……」

「それって、あたしじゃ使えないの?」

 

 とりあえず、現状はシグルドを待つしかない。そう思いながら溜め息を吐いていると、ふとマルタがそんな事を切り出した。

 確かに、ギャラルホルンを通るにはシンフォギアを纏うのが手っ取り早い。けど、それには奇跡的な確率でしか持ちえない適合率が必要だから、実際にシュルシャガナを握ってもらったけど、やっぱり纏うことはできず。

 エミルの方も試してみたけど、案の定。

 で、その後も結局どうしたらいいのかは分からないから、最終的にはシグルドを待つことになって、エミルとマルタもどうしようもないという事でそれに頷いてくれた。

 

「では、エミルくんとマルタくんは俺達SONGが責任を持って保護させてもらう。何かあれば遠慮なく言ってくれ」

「ありがとうございます、弦十郎さん」

「あ、じゃあ早速一ついい? 多分あたし達だけじゃなくて仲間のみんなもこの世界に来ているから、見つけたら同じように保護してほしいのだけど……」

「勿論だ。ならば、君達の仲間の特徴や名前を教えてくれるか? 警察やその他関係部署にも掛け合ってそのような人物の保護履歴等が無いか確認してみよう」

 

 もしかしたら既に保護か逮捕されているかもしれないから。

 そういう訳で二人に仲間の特徴を聞くと、結構分かりやすい感じの特徴を教えてくれた。

 赤い服で二本の剣を吊るしているロイドさん。ロングの金髪で巫女服を着た天使コレットさん。銀髪でけん玉を武器にしている見た目は子供なジーニアスさん。そんなジーニアスさんのお姉さんのリフィルさん。忍の一族でお札とかをいっぱい持っているらしいしいなさん。日本人……?

 で、後は赤髪でイケメンらしい女ったらしなゼロスさん。ピンクの髪を二括りにした見た目は子供年齢は大人のプレセアさん。手枷をしているかもしれないし牢屋に居るかもしれない巨漢のリーガルさん。えっ、悪口?

 

「いや、リーガルさんは色々とあって……」

「そこら辺はあたし達が勝手に言っていいか分からない事情があるから……」

「後は……なんだろう。捕まりやすい運命……なのかなぁ……」

 

 そ、そうなんだ……二人とも結構暗い顔しているし、本当に重い事情なのかも。

 とりあえず、仲間の事が分かったから弦十郎さんはすぐに捜索の手配を始めてくれて、結構厳重な感じで平行世界からのお客さん探しが始まった。ちなみにわたしは既に遅刻確定……というかここに来るまでに既に一時間目の授業が終わって切ちゃんから鬼のようにメッセージが飛んできているのでこのまま公欠ルートです。後で返事しておかないと。

 

「えっと……じゃあ、僕達は何をしていたら」

 

 携帯の通知を見て切ちゃん心配し過ぎだなー、とか思っているとエミルがふとそんな事を。

 待っていればいいんだけど……どうやら二人ともただ待つだけじゃなくて何かをしながら待っていたいみたい。

 

「うーむ……別に好きにしていてくれて構わないのだが」

「魔物とかが出ているのなら倒してくるわよ?」

「マルタ、こっちに魔物は居ないから」

「じゃ、じゃあお仕事手伝います!」

「その申し出はありがたいのだが、機密事項があるのでな……迂闊に外部の者に触れさせるとまずいんだ」

 

 どうやら二人とも、待ち時間や暇な時間があった時はクエストって形で貼り出されている魔物討伐とかをして報酬を貰いながら過ごしていたらしくって、どうにも保護されっぱなしというのは気まずいみたい。

 でも、この世界に魔物なんて居ないし、ここの仕事だって機密事項ばっかりだから迂闊に外部の人に知られると大変だし、何か取ってきて、とかも無いし……

 うーん……そうするとSONGの仕事でできそうなのって……

 あっ。

 

「そうだ。じゃあ、食堂のお手伝いとか」

「おっ、いいじゃないか。二人とも、料理はできるか?」

「僕はできますけど、マルタが……」

「あたしが、なんだってぇ……?」

「じょ、冗談だよ冗談! 最近はマルタも料理すっごく上手になってるから!」

 

 っていう事は最初は……まぁ、わたしも最初はカップ麺だったし、よく頑張った仲間という事で。

 

「ほら、テネブラエも最近はマルタの料理が上手って………………あっ」

「あっ? あって一体…………あっ、テネブラエが居ない!!?」

「ど、どうしようマルタ! いつも傍にいたから今も居るんだと思って!」

「早く見つけないと珍しい動物として売られちゃう!!」

 

 え、えっと……とりあえず、そのテネブラエって人も捜索対象に入れておかないと……ね?

 人じゃなくてセンチュリオン? 犬っぽい感じの黒くて渋い声……?

 ふぁ、ファンタジーの世界ってそういうペットもいるんだね……えっ、ペットじゃなくてセンチュリオン…………うん、よく分からないや!

 

 

****

 

 

――スキット『異世界のいろは』――

 

「にしても、この潜水艦は凄いわね。テセアラでもここまで凄い技術は無かったわよ」

「この世界には魔法が無いから、その代わりに科学が発展したのかな?」

「そうとも限らないよ。魔法……この世界だと錬金術がそれにとって変わっているんだけど、錬金術師も少なからずこの世界には居るから」

「そうなの? じゃあ街中で魔法使ってもいいんじゃ?」

「ううん。確かに錬金術はあるけど、この世界で錬金術や、魔法、魔物、神様とかは全部テレビや漫画の存在って言われているから。街中で大っぴらに使ったら大問題になっちゃう」

「テレビ? 漫画?」

「あー……えっと、後で見せてあげるね? まぁ、簡単に言うと実在すると思われてないから街中でドンパチは止めましょうってこと」

「なるほど……ちなみに調のシンフォギアってやつは?」

「勿論使っちゃダメなやつ」

「結構制約が多いんだね……」

「というよりも、裏に潜んだ非常識が多いってだけかな……」

「息苦しいったらありゃしないわね」

 

 

****

 

 

 とりあえずエミルとマルタの二人は食堂で臨時のお手伝いさんとして働きつつ、もしも異世界案件が来た時は民間協力者として戦う事になった。もしも異世界から来た魔物が自分達の仲間だった場合は、声をかければ絶対に暴れないし、力になってくれるから、とも。

 で、それから一日が経ったけど、二人の仲間がどこかに居た、という報告は一切来なかった。痕跡無し、とすら言えるとか。

 で、一応違いの認識の相違が無いかを確認するためにロイドさん達と実際に会った翼さんとマリアをすぐに呼んで二人と会話をしてもらったんだけど。

 

「間違いない、この者達が話しているのはロイド達の事だ」

 

 エミル達の言っている人たちは間違いなく翼さん達が出会ったロイド・アーヴィングさん達で間違いないらしい。殆どの特徴が一致したし、聞いた話も大体一致していたからほぼ間違いないとか。

 ただ、何故か四人ともちょっと不可解と言わんばかりに首をかしげている。

 

「ただ、ちょっと不可解なのよね」

「不可解?」

 

 どの辺が?

 

「えっとね、翼達が知ってるロイドと、僕達の知ってるロイドはちょっと合わないんだよ」

「具体的には、翼達が言っているのはあたし達の知ってるロイドじゃなくて、二年前のロイド達の事。まだテセアラとシルヴァラントが一つになる前の時代の事なのよ」

「あぁ。ロイド達が無事世界を救い、統合を成し遂げた事は素直に嬉しい事だ。ただ、私達からしたらまだ数か月も経ってない程最近の話だ。それが、二年も前の話となると……」

「単純にこちらの世界とあちらの世界で時間の流れが違うか、あの島はそういった時間や空間を超越していたせいでそこら辺がごちゃごちゃになっているかの二択ね。まぁ、何はともあれ、この二人はコレット達の仲間で間違いないわ」

 

 なるほど……ちょっとした時間の差異があったんだね。それに、翼さん達もロイドさん達の旅は無事に終わったのか、生きているのか、力を貸せなかったけど大丈夫だったのかとか、大丈夫だと信じてはいても結末は気になっていたみたいだから、それを聞けて嬉しそうにしている。

 奏さんにも教えてあげないとね。

 で、ここからは二人を元の世界に戻す方法なんだけど……

 

「うむ……やはりエターナルソードがロイドの手を離れている以上、シグルドを待つしかないか……」

「でも翼。あなた、ロイドの力を使っていた時にエターナルソードを使ってたわよね?」

「あれはギアでロイドの技を再現したに過ぎない。確かにまたあのギアを纏えればエターナルソードに似た剣を作ることはできるが、それに時間と空間を操るだけの力はない」

「そういう事だったのね」

「まぁ、魔神剣や裂空斬、獅子戦哮は通常のギアでも使えるがな」

「魔神剣は基礎中の基礎の技だからね。頑張れば誰でも使えると思うよ」

「とは言うがな、エミル。こちらはそちらの世界とは色々と違うのだ。まず普通の人間は剣を振っても衝撃波が出ない」

「えっ……!!?」

 

 まぁ、あんな事できる人なんてそれこそ弦十郎さんみたいな規格外だけだよね……じゃないとわたしだって翼さんの剣を借りて頑張れば魔神剣使えるって話になっちゃうし。だからエミルはそんなに驚かないで。

 世界が違う事によるカルチャーショック的な事を受けてるエミルはとりあえず放っておくとして、今はこれからの方針を決めないと。

 現状はエミル達の仲間を探す、エミル達が元の世界に帰れる手段を探すっていうのが固まった方針ではあるんだけど、そこに向かうためにやる事を決めて行かないといけない。

 そうなるとエミルたちの仲間を探すためにはわたし達が行ける平行世界に実際に行ってみて、エミルたちが別世界でバラバラになってないかを探す事が第一優先かな? 全員が全員この世界に来ているとは思えないし。それに、エミルたちと戦った魔物も気になるし、エミルたちの仲間だった魔物に加えてテネブラエってセンチュリオンの事も気になる。

 それに、原因についてもね。

 平行世界行き来できるトンネルができたって事は、それをしてしまう程の力を持った聖遺物が関わってる可能性もあるから。もしかしたら二つの世界を文字通り崩壊の危機に招く可能性だってあるんだし。

 

「そうだな。まずは立花達を呼んでロイド達を捜索しよう。行くべき平行世界は多数あるからな」

「とりあえずは虱潰しに、ね。それと、カオスビーストの空間も覗いてみるべきね。もしかしたらそこで戦っている可能性もあるから」

「えっと、じゃあ僕達は……」

「エミル達は私達が留守の間、この世界の事を頼む。月読の時のように、いつ魔物が現れるか分からないからな。そういうのは知らぬ存ぜぬの私達よりも勝手知ったるお前達の方が適任だろう」

「分かったわ。こうしてお世話になっている以上、恩はしっかりと返すわ」

 

 よし、方針決定。とりあえずこの事は弦十郎さんに相談して、装者のみんなにも共有しなきゃいけないけど……

 ……招集かけたのに響さん達、なんか遅いね?

 

「確かに遅いな。立花と暁なら道端で人助けか何かで遅刻する可能性はあるが、今回は小日向と雪音が居るのにも関わらず連絡すらないとは……」

「わたし、響さんに電話してみます」

「なら私は雪音にかけるか」

 

 学校に行っている四人には既に招集をかけたのに、何故か時間通りに来ないし連絡もない。

 電話に出れないようなら確実に危ない事に巻き込まれているし、そもそも連絡が来ない時点で戦闘が始まるかもしれないって認識は持たないといけない。

 もしかしたら分断されているかも。そう思いながらわたしは響さんに、翼さんはクリス先輩に電話をかけることに。あと、マリアも切ちゃんにかけてくれるって。

 という事で電話。エミルとマルタが興味津々にスマホを見てくるけど、ちょっと待ってね。多分二人にも後で支給されるから。

 お願いだから出てよ…………あっ、出た?

 

「もしもし、響さん?」

『あっ、調ちゃん。ご、ごめんね、呼ばれたのに遅れちゃって』

「それはいいんですけど……何かありました?」

『まぁ、あった事にはあったんだよね……というか、今丁度それに引っかかっていると言うか……』

 

 引っかかっている?

 どうやらクリス先輩は電話に出なかったようで翼さんは首を横に振った。でも、響さんの近くにクリス先輩はいるようだし。

 とりあえず、わたしはスマホをスピーカーモードに切り替えて響さんとの通話を続ける。

 

「引っかかってるって、何に?」

『えっとぉ……』

 

 何故かわたしの質問に答えにくそうな響さん。

 そんなに答えにくい事って……

 

『ねぇねぇ、いいじゃんそこの君達ぃ。ちょーっとそこでお茶しながらお話させてもらえればいいんだからさ~』

『だぁかぁらぁ!! こっちにそんな時間はねぇんだっての!! そもそもなんだお前その格好! コスプレ会場から抜け出してナンパとかいい度胸してんじゃねぇか!』

『いやいや、これはコスプレじゃなくて俺様の正装だってば。いいじゃんいいじゃん、ちょっと話するくらい』

『だぁもう話聞けや!!』

『く、クリス……もう時間過ぎちゃってるから口喧嘩やめよう?』

『怒られちゃうデスよ……』

『アタシが今現在怒髪天ブチ抜いてんだよ!! このしつけぇナンパ男にな!!』

『だって一通りこの街の女の子見てみたけど、一番可愛かったのが君達だったし? まぁ、話聞くだけなら誰でもいいんだけど、どうせなら可愛い子とお茶しながらの方がいいじゃん?』

 

 う、うわぁ……ナンパされてる……

 …………ちょっといいなぁ、とは思わない。

 って、あれ? エミルとマルタ? なんで溜め息吐いたり怒ったりしてるの?

 

「……ねぇ、調。今ここで叫んだらわたしの声ってそっちに聞こえるのかしら?」

「え? あ、ちょっと待ってね。響さん、そっちスピーカーから音出せますか?」

『うん、出せるけど……ちょっと待ってね。はい、できた』

「マルタ、もう大丈夫」

「ありがと。はぁぁぁ…………」

 

 で、マルタがわたしのスマホを持って口に近づけて……

 

「異世界に来てまで何ナンパしてんのよゼロスッッ!!」

 

 急に叫んだ……って、知り合い!!?

 

『おわっ、なんだ!? 急にマルタちゃんの声が……』

「この機械から喋ってんのよ!! アンタ、異世界に来てまでやることがナンパとか……もっとやることがあるでしょう!!?」

『い、いや、ナンパしようとか思ったんじゃなくて……いや、ちょっと思ってたけど、この子達からいろいろ情報を聞こうかなって思って……』

「やってる事言ってる事が完全にナンパじゃない!! しかも否定しきれてない!! いいからそこの子達と一緒にこっちに来なさい!! こっちにはエミルも居るから!!」

『わ、わかったわかった! だからあんまり怒んないでよマルタちゃん』

「はぁぁぁぁ……ちなみに、他には誰かいるの?」

『他って言うと……一応、しいなとリーガル、後はプレセアちゃんは俺と一緒にいるぜ。ハニー達はまだ見てねぇな』

 

 プレセアって……そういえば、二人と一緒に戦ったって言う……

 

「プレセアが居るのか!?」

「よかった、顔見知りは一応いるみたいね。奏は居ないけど、また会えるのなら嬉しいわ」

「そういえばプレセアと二人は一緒に戦ったって言ってたね。じゃあ、ゼロスにはこっちに連れてきてもらわないと」

 

 二人ともこんなに早く顔見知りと会えるとは思っていなかったのか、結構驚いていた。

 でもプレセアって人とよく喋ってたのは奏さんらしいし、ここに奏さんが居ないのが残念かも。後で奏さんにこっちに来てもらって顔を合わせてもらうのが一番いいかな?

 

「そう……分かった。じゃあ、その三人が待ってるところにそこの子達と一緒に行ってちょうだい。調、ゼロスたちの迎えって出せる?」

「出せると思うよ。えっと、仲間なんだよね?」

「えぇ……この状況じゃ否定したいけど……」

 

 あ、あはは……

 な、なんというか……その、個性的だね……

 という事で、一応電話越しにわたし達から事情を大体説明して、響さん達をナンパ……じゃなくて話を聞いて事情を把握しようとしていたらしいゼロスさんと、人気のない場所で待機しているらしい残りの三人いるらしい仲間を本部に迎える事にした。

 その間マルタは溜め息吐いてるし、エミルは苦笑しながらごめんね? って謝ってくるし……なんかこう、本当に個性的なんだなーって思いました。

 ちなみに、ゼロスって人みたいに女性に目が無いのはゼロスって人だけらしい。まぁ、ああいうのが何人も居たらちょっと話も纏まらなさそうっていうのはあるけどね。それに、その人もしっかりするところはしっかりするらしいし。

 で、弦十郎さんに事のいきさつを伝えて迎えを出してもらい、待つ事十数分。

 

「って事で。アタシはしいな。このアホ神子がほんっとうに悪い事しちまったみたいで……アンタもいい加減その女癖直したらどうだい!!?」

「いででででで!! 結果的にエミルくん達は見つかったからいいじゃねぇかよ! あっ、俺様はゼロス・ワイルダーだ。かわい子ちゃんはいつでも大歓迎だぜ?」

「すまんな、騒がしくて。私はリーガル・ブライアン。一応事情はある程度彼女達から聞いている。私達にできることがあれば喜んでやらせていただこう」

 

 エミルの仲間であるしいなさん、ゼロスさん、リーガルさんが無事合流した。

 ゼロスさんは何と言うか……チャラそう。というか、チャラい。女癖が悪いっていうのはどうにも事実らしく、会って早々わたし達にもナンパしてきた。特にマリアに対しては結構凄かったね……マリア様ぁとか言いそうだったし。お姉さんっぽい人が好き……なのかな……?

 で、その反面リーガルさんは凄く礼儀正しい人。こっち来て早々職質からの手錠コンボで付けられた手錠が外せずにいるけど、何故かそれでも落ち着いた状態で話してくれている。

 それも当然、リーガルさんはとある会社の社長らしい。だからこそ紳士的で優しくて礼儀正しいんだとか。あと、筋肉の量が弦十郎さんに匹敵しそう。

 しいなさんは何と言うか……

 

「日本人、じゃないんですよね?」

「あぁ、そうだよ。アタシはミズホの人間さ。にしても、こっちの世界じゃミズホのような名前が一般的なんだね。驚いたよ」

「それは国によりますね。アメリカって国だとマリアみたいな名前が一般的ですし」

「なるほどねぇ。じゃあどっちかと言ったら少数派って訳かい」

 

 しいなさんの言葉に頷いて、わたしはチラッと翼さん達の方を見る。

 実はなんだけど……ちょっとばかり問題があるんだよね。

 

「ぷ、プレセア、私達の事を覚えていないのか?」

「ほら、あの島での……」

「すみません……どうしても、思い出せなくて……」

 

 プレセアと翼さん&マリアの感動の再会は、プレセアがその時の事を覚えていないせいであまり良くない雰囲気が出てきちゃっていた。

 翼さんとマリアは確かに覚えている。けど、どうしてかプレセアはそれを覚えていないみたい。

 初めましてと挨拶されて、二人は困惑しながらもその時の事を話しているけどプレセアは全然覚えていない様子。

 どうしてなんだろう……プレセア側からしたら確かに二年前の話ではあるらしいんだけど、覚えていないって言える程薄い体験じゃない筈だし……

 

「もしや、エターナルソードで帰還する際に異常があったのでは……?」

「それはあり得ません。エターナルソードの力は確かに強力ですけど、人の記憶を消すなんて力は……」

「難しい話ね……まぁ、今ここでそれを議論してても仕方ないわ。プレセアからは初めまして。わたし達からは久しぶり、で通しましょう」

 

 でも、ここで話していても解決はしないからと、プレセアと二人は改めて一度だけ握手してから一旦この話は置いておくことになった。

 一旦全員の会話が終わったところで、とりあえず今後の事を改めて話し合うために弦十郎さんとエルフナインを交えて色々と話す事に。

 

「さて。こうして異世界からの客人が六人も集まったのだが、エミルくんとマルタくんには先ほども言った通り、現状君達を元の世界に帰す手段は我等の手には無い。それだけは先に留意してもらいたい」

「それは確かにこっちに来るまでに事情と理由も聞いたけどよぉ。俺様達はこう見えても急いでんだ。あまり道草食ってる訳にゃいかねぇんだが?」

「ゼロス」

「わーってるって、しいな。こうして勝手知らない場所で屋根と壁貸してくれるだけありがてぇのは確かだが、俺様達が急いでんのも確かだ。わりぃけど、帰れるってなったら先に帰らせてもらうって事だけは言っておくぜ」

「それは構わない。寧ろ、君達の帰還こそが現状、我々の第一優先事項だ。そこは安心してほしい」

 

 ゼロスさんが結構憎らしい言葉を使って自分達の事情を話してくるけど、それは重々承知している事。平行世界で取り残されるっていうのがどれだけ辛い事なのかは装者であるわたし達と、それをバックアップしているSONGが一番分かっている。だからこそ、客人の帰還は最優先にしなくちゃいけない。

 その言葉に満足したのか、それとも毒気を抜かれたのか、ゼロスさんはそれでいいんだよ、とだけ言って口を閉じた。

 

「そっちが親切にしてくれるってのはよく理解したよ。それで、帰れる手段が見つかるまでアタシ達は何したらいいのさ。この世界には魔物も居なければクエストも無いんだろう?」

「それについては、SONG内での仕事を手伝ってもらう、としか言えんな。現状は食堂が多少人手不足だから、そこを手伝ってくれるとありがたい」

「このメンツならそれでも問題あるまい。もし戦闘が起こるのなら、私達を使ってくれ」

「あぁ、助かる。エミルくん達と共に魔物が出た例があったからな。その際は、力を貸してもらおう」

 

 とりあえず、異世界組は人手不足だった食堂の方に行かされるみたい。

 まぁ、何もせずに手持ち無沙汰のまま、よりはいいのかな? 後は、体を動かしたいんならシミュレータールームを使っての自主訓練もしていいとの事。

 後は残りの四人を見つける事を現状の優先事項に。残りは自由時間……という事になる筈だったんだけど。

 

「えー。折角異世界にまで来たってのにこんな薄暗い所で閉じこもってるとか退屈で仕方ねぇんだけどぉ? どーせならさ、街中にパーッと飛び出して異世界のカワイ子ちゃんをだなぁ!」

「うるさいアホゼロス!! 寝れる場所をタダで貸してもらえるだけありがたく思っておきな!!」

「あだだだだだだ!!?」

 

 あーあー、ゼロスさんが引き金でなんかひどい事……

 でも、ゼロスさんの言う事も一理くらいはあるかも。ずっと本部に籠っているのもどうかと思うし。

 

「ですけど、わたしもここまで文明が違う世界というのは少し気になります」

「私やゼロスはいいが、プレセアやしいなは特に外が気になるだろう。すまないが、時々でいいが外出できる時間をくれないだろうか」

 

 まぁ、そうだよね。

 翼さん達から又聞きした情報を元にすると、科学技術も発展はしているらしいけど文化の違いや娯楽の差がある程度はあるっぽいし。

 本とかはあってもテレビとか映画は無いとか。

 

「それに関しては問題ない。言ってくれれば自由に外出してくれてもいいが……武器は置いていってもらえないか? しいなくんのような符ならまだいいが、斧や剣と盾は流石にな……」

「武器持ってっちゃいけないとか、危機感無さすぎじゃねぇの?」

「そういう法があるのでな」

「確かに、私も脛当てでこの世界の警察に手錠までかけられたからな……それと、この手錠についてだが……」

「あぁ、任せておけ。フンッ!!」

「……お見事」

 

 リーガルさんの手錠は無事弦十郎さんの力により引きちぎられ解体されました。これにはリーガルさん他異世界組の目は点に。

 とりあえず……あまり時間が経たない内にエミルやマルタ、後は興味ある人を連れて映画館とかショッピングに行くのがいいかな?

 

 

****

 

 

――スキット『それぞれの娯楽』―― 

 

「ふむ……この映画というモノは中々面白いな。映像によって劇を見せる……これならば、実際に劇場に足を運ばずとも家庭で劇を見る事ができるな」

「そうですそうです! じゃあ、次はこの映画を見ましょう!」

「あぁ! 男の鍛錬に必要な物、それは飯をたらふく食べ映画を見てよく寝る事だ!」

「それも確かに正しい鍛錬かもしれんな。それに、この映画の中で繰り出される技は確かに新たな技の参考になる。響、そして弦十郎よ。次の映画を見たら一つ手合わせなどどうだ?」

「望むところです! 師匠もリーガルさんも、一緒に技を磨きましょう!!」

「勿論だ!」

 

~場所は変わって~

 

「こんにゃろっ! なんだこれ全然思い通りに動かねぇぞ!」

「格ゲー初心者にあたしが負ける筈ないデスよ! それ十連コンボデス!!」

「だぁぁぁ!!? クソっ、もう一回だもう一回!! 勝つまで止めねぇからな!!」

「ぷっぷっぷー。ゼロス如きに負けるあたしじゃないデスよ」

「こ、このガキンチョ……ッ!! 絶対に泣かすッ!!」

 

~更に場所は変わって~

 

「プレセアなら、こんな服が似合うんじゃないかしら? ほら、結構可愛いわよ」

「た、確かに可愛いですけど……わたしには似合いませんよ……それにわたしが着るにはちょっと子供っぽすぎるような……」

「何言ってるの。ほらほら、早く試着室で着てきちゃいなさい」

「わ、わたしは大人ですから……! もうちょっと大人っぽい服装を……!!」

「ふむ……しいなのように身長も高くスタイルも良いのなら、このような服がよいのではないか?」

「おっ、いいじゃないか。だったら翼にはこれがいいんじゃないか?」

「なるほど、こういう着眼点もあるのか……そういえば、しいなは日本寄りの文化の者だったな……なら、このような着物など良いのではないか? ほら、この画像のような」

「こんな煌びやかな着物もあるのかい? けど、こういうのってもっと地位が高い人間が着るモンだろ? アタシのようなのが着るモンじゃ……」

「心配は無用だ。私もある程度は着物を持っているし、レンタルもできる。折角異世界に来たのだ、こういう物も着てみるといい」

「……なら、お言葉に甘えようかね」

「わ、わたしも、わたしもあっちに……!」

「ほらプレセア! 次はこれよ!」

「あっ、あぁぁ~……」

 

~また場所は変わって~

 

「ねぇエミル、あたし達もあの映画っぽくしない?」

「ま、マルタ……さ、流石にちょっと恥ずかしいよ……」

「ねぇエミルぅ……だめぇ……?」

「うっ……だ、駄目じゃ……ないけど……」

「………………何だろう、この敗北感……二人ともわたし達の事見えてないっぽいし……」

「ま、眩しい……! 純粋な二人が眩しい……!!」

「……恋愛物は失敗だったな…………砂糖吐きそうだ……」

「……クリス先輩、未来さん。コーヒーどうぞ」

「……あんがとな」

「あ、ありがと……なんか空気が甘いなぁ……」

「エミルぅ……」

「マルタ……」

 

 

****

 

 

 色々とあって翌日。あの後、エミルたちの仲間である残りの四人を発見することはできず、わたし達装者が行ける平行世界にとりあえず行って、協力組織がある場合はそこでエミルたちの説明を、そうじゃない場合は数時間ほど操作をしたり聞き込みをして残りの四人の行方を追った。

 けど、発見することはできず。奏さんは時間が空いたらプレセアに顔を見せに来るとの事だったけど、それ以外に新しい展開は特に起こらなかった。

 強いて言うなら……エミルとマルタが付き合ってるのかそうじゃないのか、分からなかった事が改めて分かったかな。あの距離の近さと仲の良さから付き合ってるんじゃないかってずっと思ってたんだけど、実際に聞いてみたら二人とも顔を真っ赤にしてそっぽ向いたんだよね。

 確実に両想いなんだろうけど、付き合ってはないっぽい。

 ただ、エミルとマルタの二人にちょっと話を聞いた限りだと、キスしたり抱き合ったり、色々としたらしいです。告白はしてないらしいけど……いや、そこまでしたんならもう付き合えばいいじゃん!? 完全に両思いじゃん!? 最初は初々しい二人にきゃーきゃー言ってたけど、途中から何と言うかもどかしい上に惚気るせいでコーヒー飲んじゃったよ!

 ……ごほん。取り乱した。

 で、昨日は色々とあったんだけれども。

 今日、わたし達装者は学校に行かず、いつ問題が起きてもいいようにという事で本部で待機する事になった。念には念を入れて、という事らしいけど……

 それは功を奏した。

 

「街中で奇妙な生物を目撃したとの報告が!」

「怪我人も出ているようです! 警察の武装では手も足も出ないとの事!」

「分かった! ポイントは!」

「合計四か所! いえ、今五か所になりました!」

「くっ……数が多い……! ならば、装者と協力者を計五か所に分散させる!」

 

 五か所同時に魔物が発生。昨日、エミルとマルタの二人の前に出てきた魔物以外、魔物が出てこなかったのは嵐の前の静けさだった、とでも言わんばかりの同時発生に本部はかなり慌ただしかった。

 けど、こちらには装者七人に加えてエミル達六人が居る。その合計十三人を五か所に分散させよう、というのが今回の作戦だった。

 

「班分けは君達の方に任せる。特に、エミルくん達は自分達の連携がしやすいように人員を分けてくれ」

「分かりました。じゃあ……」

 

 異世界組はエミルを中心に、班を分ける事になり、わたし達装者はそれに合わせる事になった。

 その結果、リーガルさん、響さん、未来さん。しいなさん、ゼロスさん。クリス先輩、翼さん。マリア、切ちゃん。そして、魔物の数が一番多いらしい場所には一番人数多めでわたし、エミル、マルタ、プレセアの四人で向かう事になった。

 装者で構成されたクリス先輩達は即座にミサイルに乗り込んで本部から一番遠い場所に。響さんと未来さんにリーガルさんを加えた三人は一番近い場所に車で。

 そしてわたしと他三人は……

 

「…………えっ、これで行くって正気ですか?」

「すまんな……車が全て交通網の封鎖に出てしまっているんだ……」

「いや、それは分かってますけど……わたしの腕に紐括ってリアカー繋げてそこに三人乗せるって正気ですか?」

「……周りの目は、気にするな!!」

「気にしますけど……!!?」

 

 わたしが禁月輪を使います。両手がフリーになります。わたしの腕にロープ繋げます。その先にリアカー繋げます。それで移動します。

 馬鹿じゃないの?

 まぁ、それしか手段がないらしいからやるしかないけど……シュルシャガナならそこら辺なんとかなる速度で走れるけど……その、周りの目が……

 ……いや、人命の方が大事だからやりますけども……よっこらせっと……

 

「それじゃ行ってきます……」

「あ、あぁ……その、帰ってきたら我儘の一つは叶えよう」

「じゃあ美味しいご飯奢ってくださいということで」

 

 それじゃあ行ってきますっと。

 相乗りならシュルシャガナで問題なくできたんだけど、それができないから仕方ない。きゅいいいいんと音を鳴らしながらリアカー背負ってミサイルが飛ぶ空の下をわたしが走る。

 アスファルトの上だからリアカーもあまり揺れないけど、ちょっと辛いだろうし、なるべく早めに……

 

「これを光らせながらこの紙に書いてある事を言えばいいんだっけ?」

「はい、声を大きくする機械です」

「僕がやるの……? えっと……『き、緊急車両が通ります! 道を開けてください!!』」

「車両じゃないけど!!?」

 

 誰、それ用意したのは!! 土壇場でふざけたの誰!!

 えっ、響さんと切ちゃん?

 あのお気楽コンビ、後でお説教!!

 とりあえずエミルには変な事を言ってもらうのは止めてもらって、案外後ろが余裕そうだったからそこそこ全力で走る。

 禁月輪で走る事数分。無事現場に到着した……けど。

 

「な、なにあの魔物……竜……?」

「ウェアドラゴンだ! いや、でも一体だけ……?」

「それだけじゃないわ。気を付けて、多分あのウェアドラゴン、相当強いわ!」

「あの魔物はあそこまで強くない筈なのですが……」

 

 そこにいた魔物は二足歩行の竜、と言えるような存在だった。身長はわたし達よりも大きいし、炎も吐いているから相当強そうだというのは何となく分かるんだけど、エミルとプレセアはあの魔物……ウェアドラゴンを見て軽く驚いている。マルタも驚いていたけど、すぐに切り替えたらしく、腕のスピナーを構えた。

 とりあえずわたしはリアカーをパージしてそのまま射出。エミルたちはその途中でリアカーから飛び降り、リアカー本体はそのままウェアドラゴンに激突した。

 けど、ウェアドラゴンはそれを物ともせず、それどころか即座にこちらを向いて火を噴いてきた。

 

「ブレスだ!」

「任せてください! 崩襲! 地顎陣ッ!」

 

 それを即座にプレセアが前に出て斧を振り上げながら飛び上がり、回転しながら地面に叩き付ける事で地面を隆起させて防いで見せた。

 すぐにプレセアは斧を地面から引き抜いてもう一度構えるけど、その額にはうっすらと冷や汗が。

 

「強い……ですね。ウェアドラゴンだからと侮っていては痛い目にあいそうです」

「そうだね。気を引き締めて行こう!」

 

 エミルの激励に頷いて相手がいつ動いてもいいように改めて気を引き締めた、瞬間だった。

 ウェアドラゴンが大きく吠え、同時にその体から黒い瘴気のようなものが溢れてきたのは。

 いや、あれは……!

 

「な、何!?」

「あんな技、ウェアドラゴンが使える筈が……!!」

 

 いや、あれは技とかじゃない。

 わたしの間違いじゃなければ、あれは……!!

 

「カルマノイズの、瘴気!?」

「カルマ、ノイズ……?」

 

 いや、間違えるわけがない。世界蛇と一緒に猛威を振るってきたあの瘴気を、よりにもよってわたし達が。

 すぐにクリス先輩達に連絡を入れようと思ったけど、その前にクリス先輩達装者組から通信が飛んできた。

 

『おい、魔物とやらがカルマノイズの瘴気を纏っていやがるぞ! どういうこった!』

『こっちでも確認したデス!』

『同じくこっちも! しかもリーガルさん曰く、魔物が本来よりも相当強くなってるって!』

 

 やっぱり、他の所でも同じような事が……!

 すぐにわたしも響さんと同じようにエミル達が本来よりも強化され、瘴気を纏った魔物が出てきたとだけ伝えてから通信を終えてヨーヨーを構える。

 ここで瘴気が出てくるっていう事は、ほぼ間違いない。

 ウロボロスの残党が今回の件には関わっている。やっぱりと言うべきか、APPLEと一緒に倒したウロボロス残党は最後じゃなく、まだまだ残っていたという事なんだと思う。数多の平行世界に関与していた裏の組織だから、残党がいくら居ても不思議じゃないとは思えちゃうんだけどね……!!

 

「みんな、注意して。あの瘴気を纏っているって事は、相当強化されているはず」

「何か知ってるってわけね。分かったわ、気を付けましょう」

「そうなると、他のみんなが心配だ。手早く終わらせてみんなの援護に行こう!」

 

 その言葉と同時にエミルとプレセアが駆けだし、マルタも詠唱を始める。

 なら、とわたしもマルタよりも前に出て二人を援護するためにヨーヨーを構えながら前進して、歌を歌う。

 

綺羅綺羅の刃で、半分コの廃棄物! 予習したの、殺戮方法!!

 

 二人が剣と斧を振るう前にわたしが牽制として百輪廻を放ってウェアドラゴンを足止め。けど、ウェアドラゴンは効かないとでも言いたいのか、百輪廻を受けながらも前に前にと進んでくる。

 百輪廻が効かないとなると、もうちょっと火力の高い技じゃないとダメ、かな……

 でも、エミルとプレセアはそんな事知らないとでも言わんばかりに生身とは思えない程の速さでウェアドラゴンの足元に潜り込んだ。

 

「穿孔破ッ!」

「翔月双閃ッ!!」

 

 エミルの突きとプレセアの斧を振り上げながらの二連撃がウェアドラゴンに当たるけど、ウェアドラゴンの鱗は相当硬いのか、二人とも顔をしかめながら剣と斧を引いてブレスと同時に後ろに跳躍した。

 その合間を縫ってもう一度百輪廻を使って隙を作ろうとするけど、ウェアドラゴンの鱗に電ノコは弾かれるだけ。

 でも、詠唱を早めに完成させたマルタがウェアドラゴンに向かって魔法を放った。

 

「剣に秘められし七色の裁きを受けよ!  プリズムソードッ!」

 

 魔法の発動の直後、ウェアドラゴンに向かって降り注ぐ結晶のような物でできた剣。それがウェアドラゴンの周囲に何本も刺さって結界みたいなものを作って弾けると共にウェアドラゴンが全身に傷を作りながら後退した。

 けど、そのせいでウェアドラゴンの敵視がマルタに向いてしまい、マルタに向かってブレスが放たれる。

 もちろん、そんな事はわたし達の全員が分かっている。だから、即座にわたしが禁月輪を使ってマルタの腕を掴んで後ろに乗せてからブレスの範囲を即座に離脱する。

 

勝負も夢も、命掛けのダイブッ!

「ありがと、調!」

 

 マルタのお礼に頷きつつ、禁月輪での移動を止めずにヨーヨーを投げつけて攻撃を続けるけど、禁月輪を移動に割り振っている以上、これ以上の火力を出す事ができない。

 アームドギアがしっかり使えればもっと火力は出せるんだけど……けど、この戦いはわたしが前に行かなきゃいけない戦いじゃない。エミルたちが代わりに前に出てくれる戦いだから。

 

「くらえっ! 砕覇、双撃衝ッ!!」

「獅哮、滅龍閃ッ!」

 

 マルタが作った傷に向かってエミルが突きを叩き込み、更に二連の魔神剣を叩き込む。それでウェアドラゴンがふらついた瞬間、プレセアが斧を思いっきり振り回してウェアドラゴンに一撃を叩き込み、更にもう一撃、虎の形をした衝撃波を乗せた攻撃を叩き込んでウェアドラゴンを吹っ飛ばした。

 吹っ飛ばした事で生まれた隙。それをプレセアは見逃さず、倒れたウェアドラゴンに向かって飛び掛かった。

 

「終わりですッ!」

 

 その一撃はウェアドラゴンに突き刺さり、直後に地面が隆起し始める。

 

「塵と化しなさい……ッ! 奥義ッ! 烈破焔焦撃ッ!!」

 

 プレセアが技名を叫んだ直後、ウェアドラゴンの真下の地面から爆炎が吹き上がり、そのままウェアドラゴンの体を焼きながらウェアドラゴンを上空まで吹き飛ばした。

 陸上で生活する形で進化した生物だからか、ウェアドラゴンは翼を使って一瞬滑空する事はできたけど、安全に着地することはできずにほぼほぼ最大速度で地面に叩き付けられる結果となった。

 これで、倒せたかな……?

 

「よかった、これで何とか……」

「いえ、まだです!」

「調! 油断しちゃダメだ!」

「えっ?」

 

 あんな凄い技が当たったんだから買ったに違いない。そう思ってしまった直後、ボロボロになりながらも起き上がったウェアドラゴンがわたしに向かって火球を吐いているのが見えてしまった。

 禁月輪も止めてマルタも下ろしたからマルタは無事だけど……ま、マズい、間に合わない……!?

 せめて防御だけでも――

 

「――飛天翔駆ッ!!」

 

 そう思い、電ノコを展開しようとした瞬間だった。

 わたしの後ろから誰かが飛び出し、急降下しながらウェアドラゴンの放った火球を切り払った。

 それに呆然としていたけど、更に後ろから声が聞こえてくる。

 

「行くわよ、ジーニアス!」

「うん、姉さん!」

『プリズミックスターズ!!』

 

 プリズミックスターズ。その魔法名が聞こえた瞬間、ウェアドラゴンの周囲から光の玉が飛んできて、ウェアドラゴンに炸裂しては弾ける。

 さらに。

 

「聖なる翼よ、此処に集いて神の御心を示さん……! エンジェル・フェザー!!」

 

 続けて飛んできた光輪のようなものが満身創痍のウェアドラゴンに炸裂し、吹き飛ばす。

 そして最後は。

 

「散沙雨ッ! 続ける! 秋沙雨ッ! 驟雨、双破斬ッ!!」

 

 わたしを助けてくれた双剣使いの人が目にも止まらないほどの連続突きをウェアドラゴンに叩き込み、最後に切り上げてから切り下げる二連攻撃でウェアドラゴンを吹き飛ばした。

 そのままウェアドラゴンはカルマノイズの瘴気と共に消えていき、ウェアドラゴンが居た場所にはトレントから落ちた物と同じようなグミが二、三個落ちた。

 

「危ない所だったな。大丈夫か?」

 

 双剣使いの人はウェアドラゴンが完全に消えたのを見てからわたしに声をかけてくれた。

 勿論大丈夫です、と声を返したけど、この人ってもしかして……

 

「ロイド! よかった、無事だったんだね!」

「あぁ、エミル。お前も無事でよかった。それより、お前達はどこにいたんだ? 結構探したんだぞ?」

「それはまぁ、色々とあって……それよりも、コレット達も居るんなら、これで全員だね」

「全員って事は、しいな達もいるのか?」

「うん、みんな調の仲間に保護してもらったんだ。あっ、そうだった。紹介するよ。この子が調。この世界に飛ばされた僕とマルタを助けてくれたんだ」

 

 なんか凄い自然な流れでわたしの紹介が入った。

 急に話を振られて驚いたけど、とりあえず目の前に立つ双剣使いの人……ロイドさんと、後ろに居る三人にも自己紹介をする。

 

「えっと、月読調です。ロイドさん達の事はある程度聞いてます」

「そうなのか? なら話は早いな。俺はロイド。お前の後ろに居るのがコレット、ジーニアス、リフィル先生だ」

 

 翼さん達からの話だとロイドさんって凄い明るい人ってイメージがあったけど、こうして話してみるとなんだか大人びた人って感じがする。ロイドさん達の方は二年の時が経っているらしいし、その間に成長したって事なのかな?

 とりあえず後ろに居た人……コレット、ジーニアス、リフィルさんにも挨拶をして、一旦本部と翼さん達に通信だけ入れてから、こっちの通信が終わるのを待っていたらしいリフィルさんとちょっと話す事に。

 

「まず、あの子たちを保護してくれて感謝するわ。私達も独自に動いて探していたのだけど、何故かこの世界の警察組織が追ってくるからあまり大々的に行動できなかったのよ」

「この世界じゃ武器を持っているだけで違法ですから。リフィルさんやジーニアスの武器ならまだしも、ロイドさんやコレットの武器はちょっと……」

「なるほど……世界が違えば法も違うという事ね。それで、そっちの方でこの世界へと来てしまった原因は把握できていて?」

「いえ、こちらは殆ど情報を得れず……そちらの方は?」

「ロイドの話と、私とジーニアスの仮説で半々……って所かしら。そこら辺はもうちょっと落ち着いたら話す事にするわ。ゼロス達も居ないみたいですし」

 

 半々……って事は、もしかして何か重要な情報を掴んでいる?

 それなら早くみんなと合流して情報を共有しないといけない。パーティのまとめ役の一人でもあったらしいリフィルさんはそれからも軽くこの世界について色々と聞いて来たけど、その途中で空をミサイルが飛んでいき、そこからクリス先輩と翼さんが落下してきた。

 二人ともかなり身軽に着地した物だから、それを見た事が無いエミル達はちょっと驚いていた。

 

「すまない、待たせた。どうやらこちらも片付いているようだな」

「んで、増えているメンツが異世界からのお客さん、ってわけか? 随分と大所帯になったもんだな」

「十人いるからね。一応、これでテネブラエ達を除けば全員だよ」

「それはよかった」

 

 とりあえず迎えについてももうすぐ到着するとの事で、もうしばらくはここで待機する事に。

 だから雑談する時間ができたんだけど……翼さんはロイドさんとコレットの二人に声をかけて、落胆していた。

 

「そうか……やはりお前達もプレセアと同じで覚えていないか……」

「え、えっと……ご、ごめんね? 思い出そうとはしてるんだけど……」

「いや、いいんだ。あまり気にしないでくれ」

 

 ロイドさん達は、翼さんの事を覚えていなかった。

 プレセアさんが覚えていなかったから予想はできていたんだけど、それでも一緒に戦った仲間が自分の事を覚えていない、というのはショックだったようで、翼さんの表情はあまり浮かんでいなかった。

 そんな翼さんに罪悪感を覚えたのか、ロイドさんは申し訳なさそうな表情をしながらも口を開いた。

 

「……ごめんな。俺はお前の事を覚えてないけど、あまり気にせず、前に出会った時のように話してくれると嬉しい」

「ロイド……あぁ、そうだな。いつまでもこんな顔をしていたらお前に申し訳が無いか」

 

 浮かない顔をしていた翼さんだったけど、ロイドさんの言葉で浮かない顔をするのを止めた。

 覚えていないのは悲しいけど、また出会えたって事実は変わらないからね。

 

「なら、改めてよろしく頼む。また手合わせしてくれると嬉しい」

「こちらこそ。見た所、相当腕が立つみたいだからな」

 

 前に一度一緒に戦ったからか、それとも剣を持つ人同士で通じるところがあったのか、二人は笑いながら握手した。けど、その時だった。 

 手を取り合った瞬間、ロイドさんが急にボーっとし始めた。手を握ったまま、翼さんの方を見ているんだけど翼さんを見ていない。そんな感じで、呆けているように見えた。

 それが十秒以上続くものだから、流石に周りのみんなが心配し始めて、翼さんもどうしたらいいのか分からずこっちを見たりあっちを見たりしていたんだけど、暫く経ってからロイドさんがようやく戻ってきた。

 

「……す、すまない。急に立ち眩みが……」

「だ、大丈夫か? 調子が悪い用なら……」

 

 額に手を当てて軽く俯いたロイドさんに、もしかして体調が悪いんじゃないかと心配した翼さんが声をかけて顔を覗き込んだ。

 そのままロイドさんは暫く翼さんの顔を見て、呟いた。

 

「……翼、か?」

「あぁ、そうだが……」

「…………そうだ、翼だ! 思い出した!」

「思い出したとは……ま、まさか!」

「あぁ! 久しぶりだな、翼! よかった、お前達も無事だったんだな!」

「ロイド……! あぁ、お前達も無事で何よりだ!!」

 

 え、えっと……これって、もしかして。

 

「ロイドさん、翼さんの事を思い出したの?」

「あぁ、なんでかさっきまで忘れていたが、翼と握手した瞬間に思い出したんだ。あの島での出来事を。翼達と一緒に戦った時の事を」

「えっ、ロイド。その人とどこかで会ったことあるの?」

「どこかって、ジーニアス。お前も居たじゃないか……って言っても、多分俺と同じで覚えていないんだろうな。あの場にはコレットも、ジーニアスも。あと、プレセアも居たんだ」

 

 どうやらロイドさんは何かが切欠で翼さん達の事を思い出したみたい。だけど、プレセア達はまだ翼さん達の事を思い出せていないようで、首をかしげている。

 けど記憶を取り戻したロイドさんは翼さんと楽しそうにアレから何があった、とかこんな事があった、とか会話を膨らませている。翼さんも、ロイドさんとまた出会たからか、相当楽しそうに喋っている。お陰でわたし達はちょっと置いてけぼりな感じ。

 二人で楽しそうに喋るのを見ながら、残りのメンツで集まってやれやれ、と言わんばかりに溜め息を吐いたんだけど、今度は回収地点に合流するために建物の屋上を飛び跳ねてきたマリアと切ちゃんがやってきた。

 

「待たせたわね、みんな。プレセアの仲間が合流したって聞いたけど……」

「マリアか! 久しぶりだな、お前も元気だったか?」

「その声……ロイド!? 合流した仲間ってあなたの事だったのね! あなたは私達の事を覚えているの?」

「あぁ、そのことなんだが……」

 

 ロイドさんがマリアの事を覚えている感じで声をかけた物だから、一瞬マリアがその過程にあった事を知らずに勘違いしそうになったけど、すぐに翼さんがさっきまでの事を説明してマリアもここで起こった事を理解する事ができた。

 

「なるほど……じゃあ、コレット。あなたも……」

「ごめんなさい……ロイドは思い出せたみたいだけど、わたしは思い出せなくて……」

「いいのよ、気にしないで。ロイドが思い出せたのだから、いつかコレットも思い出せてくれるって信じてるわ。だから、またよろしくね、コレット」

「うん! よろしくね!」

 

 やっぱりコレットもマリアの事を覚えていなかった。けど、それはプレセアの件で何となく理解はしていた事。けど、ロイドさんが翼さん達の事を思い出せたのも事実。だから、いつかコレットがマリア達の事を思い出せてくれると信じて、手を伸ばした。

 それをコレットは両手で取り、ブンブン。

 

「え、あ、あれっ……?」

「ど、どうしたの、コレット」

 

 けど、ブンブンしていたコレットが、さっきのロイドさんと同じように呆けた。

 すぐに翼さんとロイドさんが目を合わせ、同時にさっき、ロイドさんが記憶を取り戻した時の事を思い出したわたし達ももしかして、と目線を合わせた。

 これは多分……

 

「…………え、と……ご、ごめんね、なんか急に立ち眩みが……」

「だ、大丈夫なの? 調子が悪いなら休んでいた方がいいんじゃないの?」

「う、ううん。だいじょぶだから……あれ?」

「ど、どうかしたの?」

「マリア……? マリア!? 思い出したよ、マリア! 久しぶりだね!!」

「本当なの!?」

「うん! どうして忘れちゃってたんだろう……ちょっとわからないけど、今はちゃんと思い出せるよ! マリア達と一緒に戦った時の事!」

 

 やっぱり、と言うべきか。コレットはマリア達の事を思い出す事ができた。

 すぐにコレットはマリアの後ろに居る翼さんにも久しぶり、と挨拶していたけど、疑問はやっぱり残る。

 どうして急にロイドさんとコレットは二人の事を思い出せたんだろう。二人が共通してやった事といえば握手だけど……プレセアは二人と握手しても記憶を取り戻さなかったから違うのかな……

 

「……なんだか、わたし達だけ仲間外れな感じがしますね、ジーニアス」

「そ、そそそそそそうだね、ぷ、ぷれ、プレセア……」

 

 あと、あっちで挙動不審になってるジーニアスとそれを気にしないプレセアについてはどうするのが一番なのかな……

 

 

****

 

 

 本部からの迎えが来て全員で一度本部に集まって、そこでリフィルさん達の状況やリフィルさんが組み立てた仮説を元に色々と話す場が設けられた。

 勿論、一旦ロイドさん達とエミル達が再会できたから、それを喜ぶ時間もあったけど。

 ただ、喜ぶのも少しだけ。どうやらロイドさん達はそれどころじゃない事態を把握しているようで、すぐに意識を切り替えてリフィルさんが指令室に集まったメンツを前に自分達が置かれていたらしい状況を放し始めた。

 

「まず、エミル達はこの世界のどこかにバラバラで飛ばされてきた。これは間違いないわね?」

「あぁ、間違いないよ。ただ、アンタ等も探しつつ移動はしたけど、見つからなかった。どこに隠れていたんだい?」

「それについてなのだけど、結論だけ言ってしまえばわたし達は世界と世界の狭間にある建物に飛ばされたわ」

 

 世界と世界の狭間にある場所……?

 それって、ギャラルホルンの道の事!? いや、でも建物となると……一応、ミレニアムパズルの入り口はあったけど、あそこは建物とは言えないし、そもそもあんな場所に移動させられたら帰る手段なんて無いに等しいだろうし……

 

「目覚めてからすぐに敵に囲まれて、何とか逃げ出したのだけど……相手は、ウロボロスと名乗っていたわ。この名前に聞き覚えはなくって?」

 

 う、ウロボロス……!?

 

「聞いたことがあるも何も……」

「この間、そいつらの残党と戦ったばかりだ」

「ウロボロスは私達が壊滅させた組織だ。ただ、残党は残っているようで色々と企んでいるらしいが……」

「なるほど……ウロボロスの目的は?」

「世界蛇を使い平行世界を喰らいつくす。これに尽きるわ。ただ、世界蛇は私達で倒してその幼体もこの間撃破したわ」

「平行世界を、喰らいつくす……!?」

 

 リフィルさんはウロボロスが狙っている事の大きさに驚いたけど、すぐにリフィルさんに変わるようにロイドさんがみんなの前に出て、リフィルさんの説明を引き継いだ。

 

「だとしたら、納得がいく。奴らはあの剣を……エターナルソードを使って世界蛇ってやつを復活させようとしている。戦った時に、世界蛇の復活を、とか言っていたからな」

 

 エターナルソード……? それって、確か……

 

「いや、待てよハニー。エターナルソードは、ハニーのマテリアルソードは……」

「あぁ。フランヴェルジュは母さんの墓に置いてきた。けど、奴らはエターナルソードを保管していた。多分、俺のエターナルソードとは違うエターナルソードを……恐らく、作ったか、平行世界から持ってきて」

 

 確かに世界蛇の復活は何が何でも止めなきゃいけない。じゃないと、また数多の平行世界が犠牲になってしまう。

 けど……

 

「その……そんなにエターナルソードって剣はそんなに凄い剣なの?」

「言ってもただの剣だろ? ンなもん一本あったところで……」

 

 そう。確かにエターナルソードは平行世界に行き来する事ができる凄い剣っていうのは知っているけど、それだけで世界蛇を蘇生させる事ができるとは思えない。

 

「いや、立花、雪音。そうじゃない。エターナルソードは確かに世界を渡る事だって可能とする剣だった。だが、あの剣の力はそれだけじゃない」

「エターナルソードは時空を……時間と空間を操る事ができる剣、だったわよね」

「あぁ。だからこそ、エターナルソードは過去に干渉する事も未来に干渉する事もできる。お前達に倒されたという世界蛇を、倒される前の時間から連れてくる事だってできてしまうんだ。俺はそれを使ったことがあるから分かる。あの剣は、その程度の事は簡単にやれちまう、最強の剣なんだ」

 

 空間だけじゃなくて、時間も……!? 時空を操るって、そういう……

 いや、だとすると!

 

「それじゃあウロボロスにエターナルソードを取られているのって駄目じゃないデスか!?」

「むしろ、もう手遅れな可能性も……」

「そこは大丈夫だ。エターナルソードを使える奴は限られている。それこそ本来はハーフエルフしか使えない剣なんだ。それを俺は、とあるアイテムを鍵にして使えるようにした。だから、相手にそれこそミトス並みの力を持つハーフエルフが居なければエターナルソードはそこにあるだけだ。現に世界蛇ってやつがまだ出てきていないのがその証拠だ」

 

 そ、そうなんだ……良かった。

 もしもエターナルソードって剣が誰にでも使える剣だったら、今回の件は相手にエターナルソードが渡った時点で既に詰んでいた可能性があったからね……というか、それだったらとっくに世界蛇が復活しているもんね……

 よかった……とはあまり手放しに喜べないかな。

 どっちにしろ、相手にはエターナルソードって言うそれ一本で世界蛇をこの時代に呼び出すための鍵が渡ってしまっている。これを放っておくわけには……

 ……でも、そうなるとまだ疑問点はあるよね。

 

「ならば、どうして君達がウロボロスの拠点に飛ばされ、エミルくん達はこの世界に飛ばされたんだ。いや、そもそもどうやって君達をこの世界に?」

「恐らくエターナルソードの力を無理に使って、エターナルソードの力を扱える人間を呼び寄せようとしていたんだ。本来ならエターナルソードの力でも、無理に使っただけじゃ俺達を呼び寄せることはできない。けど、俺達は丁度その時、世界の狭間に居た。だから、無理に使った力でも不完全にそれができちまったんだ」

「世界の狭間……そっか、ギンヌンガ・ガップへの!」

「あぁ。けど、結果的には俺だけを呼び出す事はできず、周りに居たコレット達を同じ場所に。エミル達を近くの世界に飛ばした。多分、魔物とか、人間やそれに近しい存在以外は何とかして呼び寄せる対象から除外したんだろうな。だからテネブラエも居ないし、仲間の魔物も居ない。あの強化された魔物も、あいつらが俺達を呼び寄せるために実験していた際の副産物なんだろう」

 

 なるほど……

 本来はロイドさんだけを狙った犯行だったけど、使った力が不完全だったせいでロイドさんの周りの人達をそのまま攫ってきただけになってしまった。その際に不必要だったエミル達はこの世界に、ロイドさんとその近くにいた人はウロボロスの拠点に飛ばされる羽目になった……

 

「その後、ウロボロスってやつらの拠点に飛ばされた俺達はレアバードみたいな乗り物があったから、それを奪って逃げてきたんだ。乗り物は近くの山の中に隠してある」

「そんな乗り物があったのか……」

「一応、乗れるのは操縦する奴とその後ろに乗るやつの合計八人までだ。覚えておいてくれ」

 

 八人……

 ここに居るのは十七人だから、半分以上はウロボロスの拠点に行けない事になる。少数での戦闘になるからかなり辛い戦いになるかも……

 そこら辺は要相談になる……のかな。

 でも、相手の目的と敗北条件、攻撃する場所とやらなきゃいけない事はこれで明確になった。

 相手が欲しいのは、ロイドさんの力。そしてエミル達も元の世界に帰るためにはエターナルソードの力が必要になる。だから、ロイドさんを中心に戦ってエターナルソードを奪取、そのままウロボロスの拠点を破壊してみんなで帰還する。

 

「なるほど、事情は理解した。では、我等の目的は同じという事で間違いは無いか?」

「あぁ。俺達はエターナルソードを手に入れて元の世界に帰る。そしてあんた達は」

「ウロボロスの残党を殲滅する。そのために、力を貸してくれ」

「勿論だ。強化された魔物の件もある。なるべくすぐにウロボロスを倒そう」

「じゃあ、ウロボロスの拠点に行くメンバーとこの世界で戦うメンバーをまずは分けよう。それから、準備ができ次第ウロボロスの拠点を叩く」

 

 エミルの言葉に全員が頷き、メンバーを決めてから、準備のための自由時間を思い思いに過ごす事になった。

 

 

****

 

――スキット『その後のロイド』

 

「そうか……ロイドは世界を救った後にそんな事を……」

「あぁ。世界中のエクスフィアを回収する旅。その中で濡れ衣を着せられたけど、それでも俺にはやらなきゃならないことがあった。そのせいで、コレット達にはちょっと迷惑かけちまったけどな……」

「だがその後にロイドはエミル達と和解できたのであろう? ならばよいではないか。終わりよければ、というやつだ」

「それもそうだな」

「ところで……ロイドよ。そのエクスフィアを集める旅というのは、一人でやっていたのか?」

「いや、コレットと一緒だったけど……って、な、なんだよその顔……」

「いや? という事は、少しはコレットとの仲も進んだのではないかと思ってな」

「…………」

「……す、すまん、揶揄いすぎたな」

「い、いや、事実だからな……その、一緒に旅をしていく中で……」

「そ、そうか……だが、お似合いだと思うぞ。お前とコレットは」

「ありがとな、翼」

「さて、ではコレットに情けない姿を見せないよう、もう一つ手合わせといくか!」

「あぁ! 行くぞ、翼!」

 

――スキット『その後のコレット』

 

「やっぱりコレットは可愛い服が似合うわね。いつもの神子服もいいけど、もうちょっとお洒落な服を着てみるのもいいんじゃないかしら?」

「そ、そうかな? わたしにはちょっと可愛すぎるような……」

「コレットが可愛すぎるから似合っているのよ。そういう服を着た方がロイドもちょっとは意識してくれるかもしれないわよ?」

「そんな事しなくてもロイドはわたしの事を見てくれるからだいじょぶだよ………………あっ」

「…………あら? なるほどなるほど。二人ともそういう仲になってたのね」

「ち、ちがっ、違くないけどちがっ、あうあうあうあう……!?」

「ふふふ。コレットは二年経ってもコレットのままね」

 

――スキット『その後のプレセアとジーニアス』

 

「そ、その、ぷぷぷぷ、ぷ、プレセア……こ、ここ、楽しい?」

「はい。にくきゅうがいっぱいあって天国です。ふにふに……」

「……えっと、あの二人っていつもあんな感じなんですか?」

「あぁ……ジーニアスも、しっかりとする時はしっかりとするのだがな。如何せん、惚れた弱みというのは辛いらしい」

「そうなんですね……所でリーガルさんも肉球、好きなんですか?」

「勿論。これはとても素晴らしい物だ。それに、この猫カフェというは実に素晴らしい。元の世界に戻ったらこの猫カフェを参考ににくきゅうを思う存分楽しめるカフェを作るとしよう」

「その時はわたしもご協力します。いえ、させてください」

「ぷ、プレセアが手伝うんなら僕も手伝うよ!!」

「……なんか、あの二人の関係って面白いですね」

「だろう?」

 

 

****

 

 

 戦う準備とウロボロス残党の拠点に向かうメンバーの選出は終わった。

 拠点に向かうメンバーは、まずロイドさんとコレット、ジーニアス。それからエミルとマルタに加えてわたし、マリア、翼さん。残りのメンバーはこっちの世界に残ってウロボロス残党の攻撃と強化された魔物を撃退する役目に着いた。

 装者を多めに残す理由は、もしも相手がアルカノイズとかを召喚してきた際の手札を増やすため。残党の拠点に向かうメンバーも、エターナルソードに詳しいロイドさんを中心に素早く移動しつつサポートができるメンバーを選んだ。コレットは本来こっちの世界に残る予定だったんだけど、コレットはいざという時の切り札として連れて行かれることに。

 転んだらいいことあるかもって……どゆこと?

 とにかく、その八人でウロボロス残党の拠点に向かう事に。

 

「じゃあ、まずは乗り物を回収してこよう。俺達がウロボロスの拠点に向かったら、すぐに先生達は魔物が現れてもいいように弦十郎の所で待機だ」

「分かったわ。こっちの指揮は私がするわ。それと、怪我をしたらすぐに私が回復するわ」

「では、作戦は決まりだ。この作戦はウロボロス残党の戦力が現状未知数だ。エターナルソード回収班と現地での戦闘班はくれぐれも気を付けて戦ってくれ。エターナルソード回収班も、エターナルソードを回収でき次第、こちらの世界に戻ってくる」

 

 この作戦、あまり相手に気づかれちゃいけない作戦でもある。

 ウロボロス残党が、プレセアの強力な攻撃を受けても耐え切るほどの魔物を何体も用意している事は容易に想像できる。わたし達はそれを八人という少人数で突破しなきゃいけないし、こっちの世界も次々に現れるであろうそれらを民間人に被害が出る前に片っ端から倒していかないといけない。

 それを抑えるためには、なるべく相手に気づかれる事無く潜入してエターナルソードを奪取、そのまま相手の拠点をエターナルソードの力で破壊してこっちに帰ってくる必要がある。

 幸いにも、こちらの敗北条件はロイドさんがエターナルソードを使って世界蛇を召喚するという、洗脳でもされない限りは絶対にありえない敗北条件。

 まず負けるなんて事は、ない。

 

「行くよ、みんな! エターナルソードを取り戻してウロボロスを倒すんだ!」

 

 エミルの言葉に全員で頷き、ロイドさん達が世界の狭間に居るウロボロス残党の拠点に向かうための乗り物を格下場所へと走る。

 勿論わたし達はギアを纏って。残りのメンバーも交通規制と情報統制によって人気が無くなった街中を武器を手にしながら。

 このまま乗り物まで辿り着ければいいんだけど、やっぱりそうはいかないというのが現実。

 乗り物の場所へと向かう最中、急に空に切れ目が出現したかと思うとそこから黒い瘴気を伴った魔物達が降り注いできた。その中にはこの間、わたし達が苦戦したウェアドラゴンの姿も何体も確認できて、他にも対面するだけで強いと分かる魔物も沢山いた。

 

「魔物だ!」

「エミル、道は私達が作るわ! あなた達は一刻も早くウロボロスの拠点に!」

「はい! みんな、突っ切るよ!!」

 

 後ろからのリフィルさんの言葉に頷いて、エターナルソード回収班は全力で前に。その道を開くために近接戦闘が得意な人は前に、遠距離での戦闘が得意な人は後ろに下がって攻撃を始めた。

 

「命を糧とし、彼のものを打ち砕け! セイクリッド・シャインッ!!」

「あたしの力を見せてやる……! 風塵ッ! 封縛殺ッ!!」

「持ってけダブルだッ!!」

「いっけぇぇぇ!!」

 

 リフィルさんの魔法としいなさんの奥義、そしてクリス先輩のミサイルと未来さんのビームが一気に目の前を塞ぐ魔物たちを吹き飛ばし、その空いた空間に今度はゼロスさんが飛び込んだ。

 

「へっ、俺様の魅力に惚れるなよ……? 食らいなッ! シャイニング・バインドッ!!」

 

 直後にゼロスさんの体から放たれた光がそのまま攻撃になり、一気に魔物たちを蹴散らしていく。

 そして、そこに割り込んだのはインファイターでもある響さんとリーガルさんの二人。

 

「行くぞッ!」

「はいッ!」

『殺劇舞荒拳ッ!! ハァァァァァァッ!!』

 

 前に出た二人の、まさかの合体技。目にも止まらない拳の連撃と蹴りが魔物を次々に吹き飛ばし、さっきまでの五人の攻撃すらも耐えていた魔物すら二人の技に続々と蹴散らされて消滅していく。

 

「まだだ!」

「まだ終わりじゃない!」

『トドメぇぇぇぇぇぇぇ!!』

 

 そして最後は二人が同時に飛び上がり、地面に向かって蹴りを叩き込むと地面が隆起して爆発。それに巻き込まれた魔物はそのまま消滅していった。

 けど、それでも倒しきれないほどに魔物はうじゃうじゃと沸いてくる。思わず足を止めそうになるけど、わたし達の上をプレセアと切ちゃんが飛び越えた。

 

「道を開くのならあたしが適任デス!」

「狙いを定めて……シュートッ!」

 

 飛び越えた瞬間、切ちゃんが回転してティンカーベルの状態になり、それをプレセアが斧を使って全力で殴りつけて切ちゃんを吹っ飛ばした。

 普段の何倍もの速度を出しながら突っ込む切ちゃんは文字通り魔物の群れをホームランしながら道を作っていく。

 多分、あれは後で目が回って女の子がしちゃいけない事をしちゃうパターンだね。でも、道を作ってくれたのは確かだから切ちゃんの尊い女子力の犠牲を無駄にしないために前に前に進んでいく。

 けど、そうして前に進んでいる時だった。

 

「……しまった、囲まれました」

 

 後ろで切ちゃんと一緒に突出していたプレセアが魔物に囲まれていた。

 すぐに戻れば助けられるんだろうけど……続々と魔物は迫ってきているから、足を止めればわたし達も囲まれてジリ貧になっちゃう……! 後ろの響さん達も自分達を囲もうとする魔物に精一杯みたいだし、どうしたら……!

 

「――プレセア、そこ動くなよ!! オラァ!!」

 

 この状況を打開するための策を考え始めたその瞬間に上空から声が聞こえて、同時に降り注いできた無数の槍がプレセアの周囲を囲んでいた魔物に突き刺さり隙を作った。

 その隙を縫ってプレセアが自分を囲んでいた魔物の内、手近な魔物の首を斧で斬り付けて消滅させて難を逃れた。

 そして空からプレセアの窮地を救った人が降ってきて、プレセアの横に着地した。

 

「よっ、加勢に来たぜ!」

「奏!」

「ナイスタイミングよ!」

 

 着地したのは、なんと奏さんだった。

 多分、丁度いいタイミングでこっちに来て、そのままこっちの戦いに参加してくれるという事で通信する前に本部を飛び出してきたんだと思う。

 奏さんが来てくれるなんて、相当心強い。これならプレセアの方も任せてわたし達は前に進める。

 

「事情は聞いてるよ。プレセアはアタシの事を覚えてないんだろ? アタシの方は覚えてるから、そっちは好きにやりな。アタシがそれに合わせるから」

「えっと……ありがとうございます」

「いいって事よ。アタシとプレセアの仲だからな」

 

 奏さんはいつもの頼れる笑顔を浮かべながら乱暴にプレセアの頭を撫でた。

 最初はプレセアも困惑して奏さんの手を退かそうとしたけど、プレセアも急に呆けて……

 ……も、もしかして?

 

「…………あっ。思い、出しました」

「お? って事は……」

「はい、お久しぶりです。まさかまた会えるなんて」

 

 急にプレセアも奏さん達の事を思い出した……

 えっと……ロイドさんは翼さんと握手した時に思い出して、コレットも同じような状況で思い出して……で、プレセアが頭を撫でられた時に思い出して……

 ……もしかして、翼さん達の誰かが触ると思い出すとか、そういう仕組み? もしかしたらギアを纏っている時じゃないとダメ、とかの条件はありそうだけど……

 

「なんだよ、ちょーっとは寂しいかと思ったら全然そんな事なかったな。っつか、それならジーニアスにもアタシ達の誰かが触れば思い出すんじゃねぇのか?」

「そんな簡単なわけないじゃない、奏。だったらこれで解決しちゃうわよ」

 

 とか言いながらマリアが思いっきりジーニアスの頭に手を置いた。

 まぁ、確かに奏さんの言う通りならこれでジーニアスも……

 …………あれ?

 なんかジーニアスも同じような感じに……

 

「……え、えっと、どうにもその通りだったっぽいね?」

「嘘でしょ?」

「あはは……ひ、久しぶり。と言っても、僕は途中で捕まってたから影薄かっただろうけど……」

 

 えぇ……そんな簡単でいいの……?

 ……まぁ、思い出したんならそれで良し、だよね。

 

「じゃあ、奏! プレセアの事、お願いね!」

「任せときな! んじゃ、いっちょ派手に暴れるぞ! プレセア!」

「はい。この程度の魔物、蹴散らしましょう」

 

 ジーニアスの言葉に奏さんが頷き、二人が槍と斧を構えた。

 その瞬間だった。プレセアの首元の宝石が輝き、奏さんのギアが光に包まれてその姿を変えて、まるでコレットの服装そのままのように変化したのは。

 あれって……心象変化? そういえば、翼さん達はロイドさん達の力をある程度使えるようになるギアに心象変化を起こしたって言っていたけど……それがあのギアなのかな。

 

「おっ、またギアが変化したな。こうなったんなら、やる事は一つだ!」

「タイミングは?」

「そんなもん、勢いでどうとでもなる!!」

 

 直後、奏さんが斧に変化した槍を振り回して近づいてきていた魔物を叩き斬りながら吹き飛ばす。更に二人が吹き飛んだ魔物を跳躍しながら追い、斧を魔物に叩き付けた。

 

「これで!!」

「終わりです!!」

 

 直後、前に見たプレセアの技のように地面が隆起。そのまま炎が噴き出し、二人の斧が空中に吹き飛んだ。

 けど、二人はそれを即座に跳躍してキャッチ。それを思いっきり振りかぶり回転しながら倒れる魔物に向かって斧を叩き込んだ。

 

『緋焔ッ! 滅焦陣ッ!!』

 

 追い打ちとして放たれた一撃で更に地面から炎が大量に吹き出し、それを叩き込まれた魔物どころかその周囲の魔物をも巻き込んで消滅させていく。

 その凄まじい一撃に思わず呆然とするけど、すぐにわたしはマルタに手を引かれて乗り物のある方へと走る。

 あれなら、この場は絶対に大丈夫。だからわたし達は前に行かないといけない。

 

「時は戻らない。それが自然の摂理……」

「あぁ、その通りさ」

 

 二人の会話を最後に、わたし達はそのまま魔物が発生してきた場所を何とか通り抜け、人気のない所に隠してあった飛行機のような形をした乗り物に二人ずつ搭乗し、ウロボロス残党の拠点へと向かった。

 

 

****

 

 

 ――スキット『レアバード』

 

「すまないな、ロイド。操縦を任せてしまって」

「いや、いいんだ。レアバードの操縦なら慣れているからな」

「レアバード……っていうの? この乗り物」

「多分違うけど、結構それに近いよね。わたし達も前は一人一台ずつレアバードを持ってたんだ」

「今は必要もなくなったし、返しちゃったから持ってなかったけど、まさかまた操縦する事になるなんてね」

「一応ロイドは持ってるんだっけ?」

「あぁ。けど、俺のレアバードはあっちに置いてきちまったからな。今は持ってない」

「そうなんだ。わたし、エミルとこんなにくっ付けるし、この乗り物好きだな~」

「ま、マルタ……お願いだからみんなの前では……」

「……いつもあんな感じなの?」

「まぁ、何もない時は大体ね。僕もいつかプレセアと……」

「ちょっ、ジーニアス!? 照れるのはいいけどせめて操縦はちゃんと!! 世界の狭間に落ちちゃう!!」

 

 

****

 

 

 色々とあったけどウロボロス残党の拠点に到着した。

 外観は、世界の狭間に不自然に存在している研究所って感じなんだけど、とりあえずそこの屋上のような場所に着陸してから八人で拠点の中を走る。

 

「エターナルソードの場所は!」

「ここの地下だ! みんな、急ぐぞ!」

「きっと僕達が来た事はバレているから、戦闘準備も怠らないで!」

 

 ロイドさんを先頭に、案内してもらう形で拠点の中を走る。

 本当に普通の研究所みたいな感じなんだけど、どこか不気味な気配も感じる。油断していたら即死するほどの罠があると考えてもいいと思う。

 けど、ロイドさん達はここに一度来た事がある。だから、ロイドさん達に気を付けるべきポイントは教えてもらいながら屋上から下へ下へと進んでいく。何故か階段の場所が西側から降りてきたと思ったら東側に行かないと次の階段が無かったりと、かなり面倒な作りになっていたけど、問題なく進んでいく。

 地下まで残り二階程になったころ。廊下を走るわたし達の前にウロボロスの構成員が現れた。

 

「来たな、装者とその仲間!」

「時の剣は渡さん!」

「エターナルソードは世界を壊すための道具なんかじゃない! 悪いが、エターナルソードは俺達が手に入れる!」

 

 ロイドさんが剣を構え、ウロボロスの構成員がカルマノイズの力を取り込んでガンド化する。

 流石にガンド化した構成員は強いけど……けど、この八人なら絶対に負けない!!

 

「魔神剣・双牙!!」

「魔神剣ッ!」

 

 ガンド化した構成員に向かってロイドさんが魔神剣を二回放ち、更にエミルもそれに続いて魔神剣を放つ。けど、構成員はそれを簡単に打ち消しながらこっちに迫ってくる。

 それをロイドさんとエミルは剣で迎え撃ち、ガンド化した構成員と一対一で互角以上に立ちまわって見せる。

 勿論、わたし達だってそれを黙って見ているわけじゃない。

 

「御許に仕える事を赦したまえ……響け、壮麗たる歌声! ホーリー・ソングッ!!」

「助かる、コレット! 蒼ノ一閃ッ!!」

「HOLIZON†CANONよ!!」

 

 コレットが天使術を発動すると同時に、体に力が漲ってくるのを感じた。その力を受けた二人はそれぞれの攻撃を構成員に放ち、加勢する。

 その瞬間に奏さんの時と同じようにロイドさんの手の甲に付いている宝石とコレットの首元に付いている宝石が光り輝き、翼さんとマリアのギアが二人の衣装をモチーフにしたものに変わった。

 

「心象変化か!」

「このギアなら、同じ技が私達にだって使えるわ! 行くわよ、コレット!!」

「うん! その御名の元、この穢れた魂に裁きの光を降らせ賜え!!」

『ジャッジメントッ!!』 

 

 二人の力の一端を使う事ができるギア。その力を使ってマリアがコレットの天使術に合わせて天使術を使う。

 発動された天使術により、構成員の足元に魔法陣が浮かび上がり、その魔法陣を目印に降り注いだ光の雨が構成員に無視できないダメージを与えていく。

 

「ぐああああああ!!?」

「な、なんだこれはああああ!!?」

「チャンスだ、ロイド!」

「あぁ、一気に決める!!」

 

 その一撃で膝をついた二人の構成員に向かって、翼さんとロイドさんが剣を掲げ飛び上がった。

 剣には雷が走り、二本の剣がまるで一本になったかのように見える程の輝いている。その輝いた剣を落下しながら構成員に向かって叩き落とした。

 

「決めてやるッ!」

『翔破蒼天斬ッ!!』

 

 二人の息を合わせた技は文字通りガンド化した構成員を切り裂き、吹き飛ばした。

 この一撃は流石のガンド化した構成員と言えど耐え切れなかったようで、ガンド化も解除された構成員はそのまま気絶。わたしとマルタは何もするまでもなく、二人のガンド化した構成員は無力化された。

 

「よし、行くぞ! もうすぐで地下だ!」

 

 剣を構えたまま油断は一切していないロイドさんの声に従って、再び拠点の中を走る。

 その最中に時折構成員や魔物が出てきては道を塞いできたけど、その度に敵を全て蹴散らし、一気に地下へ。

 地下の空間はかなり広く、階段を降りてすぐにだだっ広い空間のド真ん中に鎮座している台座に突き刺さったまま、神々しいとも言える光を放つ一本の剣を発見する事ができた。

 ここまで来たら間違う理由もない。

 あれが、エターナルソード。時と空間を司る、究極の剣。あれがあればエミル達は元の世界に帰れるし、世界蛇をこの時代に召喚して世界を破壊することだってできる……

 

「……間違いない、エターナルソードだ。ただ、やっぱり俺のエターナルソードじゃない。それに、新しく作られてって訳でもなさそうだ。どこかの世界にあったもう一本のエターナルソードで間違いないと思う」

 

 ロイドさんもアレはエターナルソードだと言っている。

 けど、ロイドさんの想像通り、あれはロイドさんのエターナルソードじゃなく、どこかの平行世界から持ってきたエターナルソードで間違いないという。

 すぐにそれを回収しに行きたかったけど、エターナルソードを確認してすぐに白衣を着た男がわたし達の前に現れた。明らかに、エターナルソードを研究していますとでも言わんばかりの風貌をしている。

 

「来たか、エターナルソードの担い手」

「エターナルソードはお前達みたいな奴等には渡しちゃおけない。俺が元の世界に戻す。だから、そこを退け」

「渡してやってもよい。だが、その対価にベアトリーチェ様と世界蛇を復活させてもらおうか?」

「それこそ断る! お前達の狂った野望に協力なんかするか!」

「お前達みたいな狂った信仰心が生む願いなんて、願い下げだ!」

 

 交渉する余地はない。剣を構えるロイドさんとエミルの後ろでわたし達も武器を構える。

 例えあの人がガンド化しても、わたし達ならガンド化した人の一人や二人程度、簡単に倒せる。寧ろ過剰戦力とも言える。

 それは相手にも分かっているはずなのに、相手は何故か不敵に笑っている。

 

「ならば、貴様の心を折り、我等の野望のために力を振るう傀儡としてくれるわ! この力を使ってな!!」

 

 そう言いながら、相手は懐からリモコンのような物を取り出し、ボタンを押した。

 まさか基地ごと自爆する気じゃ……とか思ったんだけど、そんな予想はすぐに違うと気が付いた。

 エターナルソードが輝き、まるで空間そのものに切れ目が走ったと言わんばかりの現象が起こって何もない場所が罅割れた。そうして罅割れた空間から、剣を持った骨の異形。そうとしか言えない存在が姿を現し、わたし達に向かってその手に持った剣を構えた。

 あの骨……こうして対峙すると分かる。相当……それこそ、わたし達が力を合わせないと勝てないくらいに強い。

 

「なっ……!? ソードダンサー!?」

「そんな、アレは二年前に……!」

「まさかエターナルソードの力を使って呼び出したのか!?」

「その通り! 確かに世界蛇とベアトリーチェ様を呼び出す程、エターナルソードの力は解析できていない。だが、強力な存在を無作為に呼び出す程度なら既に幾多の実験を重ねて成功している! さぁやれ! あの赤色の男以外は不要だ!」

 

 あの骨の名前はソードダンサー、というらしいけど、どうやらあれはロイドさん達が一度倒したことのある相手らしい。けど、ロイドさん達はかなり表情を強張らせている。

 そんなソードダンサーを召喚した相手はかなり得意げだけど……

 呼び出しただけの魔物が、本当に人の言う事なんて聞くの……?

 

「……うるさい。邪魔だ」

「は?」

「くっ、ソイツから離れろ!! 殺されるぞ!!」

 

 そんなわたしの疑問を解決する言葉。ロイドさんの敵に対して放った言葉でこの後起こる事が容易に想像できてしまった。

 その予想を裏切らないとでも言いたいのか、ソードダンサーは四本の腕で持った剣の内一本を使い、相手を切り裂き、そのまま吹き飛ばした。吹き飛ばされた人は血を流しながら倒れ、動かなくなった。

 予想通り、としか言えない光景。でも、ソードダンサーの後始末はわたし達がしなくちゃならない。

 

「……強き者よ。命を賭してその力を我に示せ」

「俺達に倒される前の時間のソードダンサーか、それとも別の世界のソードダンサーか……気を付けろ! アイツは強いぞ!!」

 

 アレが喋っていることについては、気にしない。相手はファンタジーなんだから何が起こったって不思議じゃない。

 ただ、わたし達の前に立つあの骸骨、ソードダンサーは途轍もなく強い。それだけは確かだった。

 

「ダメージを受けたらあたしが回復するわ!」

「援護は僕が! 地に伏す愚かな贄を喰らいつくせ! グランドダッシャーッ!!」

「……グランドダッシャー」

 

 ジーニアスがけん玉を構えて魔法を放つけど、それと全く同じ魔法がソードダンサーから放たれ、二人の目の前の床が同時に裂けて瓦礫を吹き飛ばしながら二つの魔法がぶつかり合った。

 二つの魔法の威力は殆ど互角。けど、ソードダンサーが詠唱をほぼせずに魔法を放てたって事は、ソードダンサーはその気になればほぼノーモーションで魔法を放てるということ。その事実にジーニアスが顔を顰めるけど、すぐに次の魔法の詠唱を始め、それとほぼ同時にマルタも詠唱を始める。

 

「雷雲よ! 刃となりて敵を貫けッ! サンダーブレードッ!!」

「剣に秘められし七色の裁きを受けよ! プリズムソードッ!!」

「翼、エミル! 詰めるぞ!!」

「あぁ!」

「任せて!」

 

 ジーニアスが二発目の魔法を放ち、それにマルタが続いてプリズムソードを使い、雷と光の剣が同時にソードダンサーに向かうのを確認した翼さん達剣士組が一斉にソードダンサーへ向かって飛び掛かった。

 

「魔皇刃ッ!!」

「魔神連牙斬ッ!!」

「空牙衝ッ!!」

 

 ロイドさんと翼さんの、今までとは一味も二味も違う魔神剣。それに加えてエミルが空中で放った相手を切り裂く衝撃波がソードダンサーに一斉に襲い掛かる。

 更に、後ろからコレット、マリアが追撃の準備をするのに合わせて、わたしもなるべく前の三人を誤射しないようにソードダンサーの横に回り込みながら百輪廻のためにアームドギアを展開する。

 

「レイトラスト!」

「リミュレイヤーッ!!」

「当たって!!」

 

 二本の魔法の剣に加えて何連発もされた魔神剣、更にエミルの衝撃波に加えてコレットが投げたチャクラムとマルタが剣を振る事で飛ばした三個のチャクラム。更にわたしの百輪廻と、普通の敵ならオーバーキルレベルの攻撃を重ね合わせた合体攻撃。

 流石にこれならソードダンサーもダメージを負うだろうと思って、ジーニアスとマルタを除いた全員が攻撃を放った直後に前に出る。

 

「……天光満つる処我は在り。黄泉の門開く処汝在り」

 

 けど、ソードダンサーはわたし達の攻撃を受けてもビクともせず、攻撃を見てから始めた詠唱を何の妨害も受けなかったと言わんばかりに続けている。

 さ、流石に少しくらいは堪えても……

 

「ッ!? あの詠唱は!?」

「みんな下がって! あれはマズい!!」

 

 そう思いながらも、魔法一発程度なら見てからでも避けれるなんて判断してわたしと翼さん、それからマリアは更に前進するけど、詠唱を聞いていたロイドさん達は顔色を変えてわたし達に下がれと言ってきた。

 それに従ってわたし達も即座に下がり、構えるロイドさんの後ろに隠れる。

 

「て、天光満つる処……」

「出でよ、神の雷……!!」

「ダメ、間に合わない!」

「くっ、粋護陣ッ!!」

「リデュースダメージ!」

 

 ロイドさんと、その横に急いで並んだコレットが同時に緑色の結界のような物を展開した。

 けど、それが意味なんて無いと言わんばかりにソードダンサーの周りには当たったら確実に死ぬと確信できるほどの紫電が散っていた。

 思わずわたしも電ノコを展開して壁に。翼さんも天ノ逆鱗を五本もわたし達とソードダンサーの前に突き刺し、マリアも短剣を大量に召喚してバリアを作り出した。

 その瞬間。

 

「インディグネイション……ッ!!」

 

 ソードダンサーから放たれた雷が、わたし達が作り上げたバリアを簡単に破壊し、そのままロイドさん達が作り上げた結界に突き刺さる。

 

「くっ、流石に……!!」

「い、威力が……きゃっ!!?」

 

 その威力にコレットが吹き飛ばされるけど、それを見てからすぐにわたしが前に飛び出し、両手をクロスさせる。

 できるなら最後までとっておきたいとっておきだけど……今使わないと少なくともロイドさんの負担が途轍もない事になる。それに、三人で作り上げた簡易バリアと魔法の性質のおかげで、攻撃が来る場所は分かっている。

 なら、そこに潜り込んで、絶対防御の盾を使えばこの攻撃は防げる!

 

「アマルガムッ!!」

 

 ギアが弾け、わたしの周囲に黄金のバリアを作り上げる。

 そのバリアに簡易バリアを貫通してなお一切威力が減衰してないんじゃないかとすら思える雷がぶつかり、視界が白一色の光に呑まれる。

 けど、アマルガムのバリアフィールドはシンフォギアの最強の盾。これを貫ける攻撃なんてない。

 数秒の雷撃を何とか受けきり、バリアフィールドの中から後ろを確認する。勿論、アマルガムのバリアフィールドで雷撃を全て受け止め切ったからか、ロイドさん達は無事だった。

 

「ぶ、無事なのか……?」

「アマルガムを使ったのね……いい判断だわ、調」

「す、すごいよ! インディグネイションを防ぎきるなんて!」

「ありがと、エミル。でも、これを使っている間は動けないし、動けるようにするともうこれは使えないから気を付けて」

 

 アマルガムをとっておきたいとっておきと言った理由は、そこにある。

 アマルガムを使うという事は、不退転の戦略を取らざるを得なくなるというコト。火力は上がるし、発動した瞬間は絶対防御の盾があるけど、それを矛にした瞬間、わたしの防御力はほぼ生身と変わらないレベルまで落ちる。

 防御に回す全てのエネルギーを攻撃に転換する不退転の力こそがアマルガム。それを一度切ったという事は、もうわたしに一切の被弾は許されない。

 それを覚悟しながら、前を向きこのコクーンをイマージュに変えようとして。

 

「えっ?」

 

 前を向いた瞬間、わたしの目の前で剣を振り被っていたソードダンサーを見て思考が停止した。

 いつの間に?

 そんな風に呆けていると、バリアフィールドの上から強烈な一撃がブチかまされ、ダメージこそ無かったものの足が地面を離れて物凄い勢いで壁に叩き付けられた。

 

「な、なにっ?」

 

 思わず呆然としてしまう程の速度。多分、あのまま流れでイマージュを展開していたら確実にわたしの体は一刀両断されていた。

 その事実にゾッとしながらも、ソードダンサーからの追撃が来てもいいようにコクーンの状態で待ち続けるけど、ソードダンサーはこちらに来ず、ロイドさん達と斬り結ぼうとしていた。

 

「調!!?」

「調なら大丈夫よ、それよりも、今は斬りかかってきたコイツを!!」

「来るぞッ!!」

 

 わたしが壁にバリアフィールドごとめり込んだ状態で戦場を見ていると、ロイドさんが双剣を構えると同時にソードダンサーの一撃がロイドさんを襲った。

 それをロイドさんは両手の剣で何とか受け止め、受け止めた剣の上にその時の衝撃を利用して飛び乗った。

 その曲芸染みた動きに合わせて翼さんが一緒に剣の上に乗り、二人同時にソードダンサーの顔に向けて剣を構えながら飛んだ。

 

「合わせろ、ロイド!」

「あぁ!」

『鳳凰天駆ッ!!』

 

 二人が空中から炎を纏って落下し、そのままソードダンサーの顔を斬り付けた……かのように思えたけど、それをソードダンサーはバケモノ染みた反射神経でガードしていた。

 けど、二人はそれを手応えで確認し、ソードダンサーの後ろに降り立った瞬間に振り向いて剣を構えて。

 

「行くぜッ!」

「衝破ッ!」

『十文字ッ!!』

 

 一瞬の速度で放った突きをクロスさせて、ソードダンサーの足に一撃を叩き込んだ。

 けど、足りない。ソードダンサーの足はそれではヒビ一つ入らず、二人に向かって四本の剣を自在に振るってくる。そんな凶刃の雨霰の中、ロイドさんと翼さんは時折攻撃を防ぎ、時折避けながら再び連携の準備のため、ソードダンサーの前に二人で並んで立った。

 

「風輪火斬・月煌ッ!!」

「獅子戦哮ッ!!」

 

 翼さんが風輪火斬でソードダンサーを切り抜け、ロイドさんがそこに獅子戦哮を合わせる。それによりロイドさんが全身に炎を纏い、獅子戦哮で軽く怯んだソードダンサーに追撃を叩き込んだ。

 

「獅哮爆炎陣ッ!!」

 

 ロイドさんと翼さんの完璧に息の合ったコンビネーションにソードダンサーも流石に堪えたのか、獅哮爆炎陣を剣でガードしたけど、その一撃で大きく仰け反った。

 そこに剣に炎を纏ったエミルが飛び込み、その剣を地面に向かって叩き込むと同時にマルタが魔法を発動させた。

 

「魔王地顎陣ッ!!」

「ディバインセイバーッ!!」

 

 エミルの炎を纏った斬撃とマルタの光の剣が同時に突き刺さり、ソードダンサーが怯む。

 この勢いなら、もしかして勝てる……?

 

「一気に片付けるぞ、翼!」

「あぁ!」

「わたしも続く!」

「僕だって!」

 

 翼さんとロイドさんが一気にソードダンサーに向かって距離を詰めるのを見て、わたしも即座にアマルガムをコクーンからイマージュ形態に変化。右手に盾を持って、それを力の限りぶん投げ盾の側面を刃に変えてソードダンサーの顔面を砕くためにエネルギーワイヤーを使った遠隔操作を行う。

 翼さんとロイドさんは剣を構えて飛び掛かり、エミルもそれに続いて飛び掛かった。

 けど、その瞬間だった。

 

「……」

「なっ!?」

「しまっ!?」

「くそっ!」

 

 ソードダンサーが何も言わないまま、その上半身を思いっきり回転させた。

 その勢いと速度にロイドさん達は反応する事ができず、なんとかガードはできたみたいだけど、そのまま吹き飛ばされて地面に叩き付けられ、地面を数バウンドして壁に叩き付けられた。

 

「ロイド!」

「エミル!!」

「っ、駄目よ二人とも! 今は!!」

 

 吹き飛ばされたロイドさんとエミルを助けようとコレットとマルタが飛び出したけど、その瞬間にソードダンサーが飛び出した二人の前に飛び込んできた。

 それに二人の体が硬直し、助けようとしたマリアが前に出たけど、マリアがアマルガムを使う暇もなく短剣でガードした直後にマリアが短剣ごと体を吹き飛ばされ、そのままコレットとマルタを巻き込んで壁に叩き付けられた。

 

「み、みんな!」

「……クレイブ」

「えっ、うわっ、フォースフィールドっ!」

 

 更にジーニアスが反撃をする前にジーニアスに地面が隆起する魔法が直撃し、一瞬ジーニアスがバリアを展開したけど、その魔法はジーニアスのバリアを簡単に叩き割ってジーニアスまでも吹き飛ばした。

 い、一瞬で全滅した……!? 残ってるのはわたしだけ……という事は!

 

「来るッ!」

 

 吹き飛ばされた盾を手元に戻して腰を落として盾を構える。

 その瞬間にソードダンサーが突っ込んできて、その剣をわたしの盾に向かって叩き落とした。その一撃で盾にとてつもない衝撃が走り、腕と足が今にも折れそうなほどの衝撃に晒される。

 とてつもなく痛いけど、耐えられない事はない。続く一撃を横に転がって避け、盾を展開。人型に変更させてからソレを操作して更に放たれた横凪の攻撃を防がせた。

 わたし一人だけならこれである程度は防げるけど……でも、ロイドさん達が……

 

「ぐっ……みんな、大丈夫か……」

「な、なんとかな……」

「ぐ、グミを……」

「ついでにファーストエイド……!」

 

 よ、よかった、みんな生きてる!

 けど、ちょっとこっちが危ないかも……!!

 …………でも、みんなが戻ってきても、このままじゃジリ貧になっちゃうんじゃ……何か、ソードダンサーを圧倒できるような力が……

 ……あっ。

 エターナルソードをロイドさんに手渡せば、もしかしたらその力でソードダンサーも倒せるんじゃ。そうと決まれば取りにいきたいけど……ソードダンサーの攻撃が激しすぎて防御に使う手を緩められない!

 

「と、とりあえずホーリーソングを使うね! えっと、えっと……御許に仕えることを許したまえ、響けんそうれん…………あっ」

「ちょっ、コレット!? あなた詠唱間違ってない!?」

「えへへ、失敗失敗~」

 

 いや、ちょっとギャグしている暇があったら!?

 

「あれ?」

「へ? えっ、ちょっ、急にギアが!? なんなの一体!!?」

 

 へ?

 

「も、もしかしてこれって……」

「いいぞコレット!! ナイスだ!!」

 

 あっ、なんか急に周りが白く……

 

「ぐおおおおおおおお!!?」

「きゃあああああああああ!!?」

「あっ、調が巻き込まれた!?」

「調ぇ!!?」

 

 うわわわわわわっ、なにこれなにこれなにこれぇ!!?

 わたしの周りに急に白い光が!? 一応頭上を盾でガードしているから何とかなってるけど、すっごい勢いで白い光が!!?

 あっ、でもその光でソードダンサーがかなりダメージを受けてる……と、言う事は、今なら!

 

「こ、こっち!!」

 

 全力で走って謎の魔法の範囲を抜けて台座に刺さっているエターナルソードを握る。

 わたしじゃその力は使えないけど!

 

「ロイドさん、これを!!」

 

 エターナルソードをロイドさんに向かって投げる。

 これを使ってもらえば!

 

「ッ! あぁ!!」

 

 回転しながら飛んでくるエターナルソードをロイドさんは両手の剣を鞘に仕舞ってから何とかキャッチ。それを掲げた。

 

「エターナルソードか! それならば!」

「あぁ! コレットが作ってくれた隙を見逃すな! 一気に攻めるぞ!!」

 

 その言葉と共にロイドさんが掲げたエターナルソードを全力で振り下ろした。

 

「ウロボロス! お前達は根本的に間違っているぜ!! 双星! 響振陣ッ!!」

 

 それだけでまるで斬撃そのものが空間を引き裂かれ、突如として現れた光の斬撃がソードダンサーを切り裂いた。

 その隙を逃すわけがなく、みんなが一気にソードダンサーへと詰め寄る。

 とりあえず、ロイドさんが作った隙を伸ばすために!

 

「双β式・連刑断刃!!」

 

 盾を変形させたロボットでソードダンサーを切り刻み、ロイドさんが作った隙を更に長くする。

 その長くなった隙を使って、エミルが仕掛けた。

 

「吹き飛べ!!」

 

 エミルが吠えると同時にエミルの周りで暴風が起き、ソードダンサーを宙に浮かせた。更にエミルはそれを追って跳躍した。

 

「やってみせるよ!」

 

 更に跳躍した先でソードダンサーを斬り付け、踵落としを最後に叩き込んでソードダンサーを地面に叩き付ける。

 

「僕の全力を込めて! 絶対に負けないッ! 襲翼虎乱旋ッ!!」

 

 更に剣から飛ばした衝撃波でソードダンサーを追撃した。

 そこに更にマルタが追撃をかけるため、腕に装着したスピナーを分離させた。

 

「あたしが、ラタトスクの騎士なんだから!!」

 

 分離したスピナーは高速で飛び交い、マルタを頂点の一角としてソードダンサーを中心にした三角形の魔方陣を作り出す。その魔法陣に閉じ込められたソードダンサーは動けないらしく、エミルの攻撃で体勢を崩していたソードダンサーはその場で釘づけにされた。

 

「邪悪を退ける正義の力を!!」

 

 そしてマルタの額の赤色の宝石が一層強く輝き、マルタの腕にもう一度スピナーが戻った。

 その瞬間、マルタが作り上げた魔法陣が強く輝いた。

 

「レイディアント・ロアーッ!!」

 

 その光が弾けると共にすさまじい衝撃が。その衝撃に晒されたソードダンサーは少なくないダメージを受け、更に弾けた光はみんなの傷を癒した。

 それで一気に調子が出たのか、ジーニアスが追撃を仕掛けるために構えた。

 

「天光満つる処、我は在り。黄泉の門開く処、汝在り……! 出でよ、神の雷!!」

 

 あの詠唱って、確かインディグネイション!?

 でも、さっきのように紫電こそ散っているけどその紫電は空中に集まって形を作っている。

 あれは……剣? もしかして、インディグネイションよりも強い魔法を!?

 

「へへっ、力の違いを見せてやる!!」

 

 紫電はそのまま文字通り剣となり、紫色の巨大な剣となる。それを見たソードダンサーは思わずガードをしようとしていたけど、そんなの無駄だと言わんばかりにジーニアスは笑いながら構えたけん玉を振り下ろした。

 

「インディグネイト・ジャッジメントッ!!」

 

 それに連動して叩き落とされた雷の剣はソードダンサーに突き刺さると同時に巨大な爆発を起こした。

 この一撃でソードダンサーの体がかなりボロボロになる。けど、ソードダンサーは健在。それを見たロイドさんと翼さんは即座にソードダンサーの足元に潜り込んだ。

 

『決めてやるッ!!』

 

 ロイドさんがエターナルソードを構え、翼さんが持っていた二本の刀を頭上に掲げ、一つの剣に……エターナルソードに変える。それをロイドさんと同じように構えると二人の足元から衝撃波が走り、ソードダンサーはそれにダメージを受けながら空へ舞い上がっていく。

 そして二人は同時に跳躍し、ソードダンサーの上を取るとエターナルソードを構えた。

 

『天翔!! 蒼破斬ッ!!』

 

 エターナルソードの力を使った一撃。それを叩き込まれたソードダンサーの体はかなり罅割れた。

 けど、まだ生きている。全身をほぼ砕かれているけど、それでも立ち上がろうとしている。

 

「まだだ……まだ……終わりでは……!!」

 

 流石に切り札をくらいすぎたソードダンサーはもうボロボロ。けど、それでも立ち上がろうと剣を地面に刺してでも立ち上がろうとしている。

 けど、もう終わり。ここまで来たら、もうわたし達のターン。

 ソードダンサーに好きにはさせない。

 前に出るエミルとマルタに合わせてわたしも前に出る。

 

「行くよ、二人とも!」

「うん、エミル!」

「合わせるよ!」

 

 エミルとマルタが背中を合わせ、わたしもその後ろに回り込んで変形させていた盾を元の形に戻して構える。

 そしてエミルが先に突っ込み、その手に持った剣でソードダンサーを高速で斬り付ける。更にマルタがそれに続いてその手のスピナーと体術を使って一気にソードダンサーをボロボロにしていく。

 わたしも、それに続き盾を投げてぶつけ、更にエネルギーワイヤーを使ってソードダンサーを縛って破壊する。

 

「お願い!」

「合わせるよ!」

「逃がさない!」

 

 マルタが突っ込み、エミルが跳躍し、わたしは盾を変形させてもう一度ロボットの形にしてから突っ込ませる。

 

「これで!!」

「この一撃で!」

 

 直後、突っ込んだマルタが魔力を放出してソードダンサーにダメージを与えながら吹き飛ばす。その追撃にわたしがロボットを動かし、空中でソードダンサーを切り刻む。

 そして最後は剣に炎を纏ったエミルが空中でその剣を構えて。

 

「終わりだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 剣を振りぬき、その炎をソードダンサーに叩き込んだ。

 その一撃でソードダンサーの体は砕け散って地面に散らばった。

 

「み、ごと……だ…………」

 

 ソードダンサーは最後にその一言だけ残すと、そのまま動かなくなった。

 …………勝った?

 

「……俺達の、勝ちだ」

 

 ロイドさんはそう呟き、エターナルソードの剣先を落ろした。

 それに続いてエミル達も武器を収め、わたし達もギアを解くまではしないけど、一息ついて武器を下した。

 

「ソードダンサーは倒した。それに、世界蛇の復活を目論んでいた奴も……」

「……後は、この拠点を破壊すれば終わりだ」

「分かった。この拠点は、エターナルソードの力で破壊する」

「そうだね。じゃあ、帰ろっか。調達の世界に」

 

 みんながエミルの言葉に頷き、ロイドさんはエターナルソードを軽く振るった。

 そして行使されたエターナルソードの力で空間が切り裂かれ、わたし達の世界への入り口ができあがった。わたし達はその中に入って元の世界に帰還し、ロイドさんは最後にエターナルソードを一度振るって拠点をエターナルソードの力で真っ二つにすると、同じようにわたし達への世界の入り口を通って帰還した。

 

 

****

 

 

 その後だけど、今回の事件にかかわったみんなで軽く祝勝パーティーをした。

 こっちの世界の料理や、エミル達の世界にしかない料理を作ってもらってのみんなでの祝勝パーティー。それはホントに楽しかったし、ウロボロス残党が企んでいた世界蛇の復活も阻止できて、本当にほっとした。

 けど、エミル達にはやらなきゃいけないことがある。だから、別れの日はすぐに来た。

 エターナルソードを片手に持つロイドさんと、その周りに集まるエミル達。ロイドさんが剣を振るえば、世界を繋ぐ道が再び出来上がる。ロイドさん達はそこに入り、エターナルソードはエターナルソードが元あった場所へと戻るように手放す。

 そうしたら、もうエミル達の世界とわたし達の世界は繋がる事は無いかもしれない。ギャラルホルンも繋がらないかもしれない。

 ――それに、祝勝パーティーが終わって暫くしてから……エミルから、こんな事を聞いた。

 

「……そう、なんだ。じゃあ、エミルがギンヌンガ・ガップに行こうとしたのは」

「うん。僕は、精霊ラタトスクとして生きる事にしたんだ。ギンヌンガ・ガップで、扉を守り続ける……」

「……そうなったら、エミルはもう」

「……みんなには、会えない。僕は、世界と一緒に、ギンヌンガ・ガップで扉を守り続けるんだ」

 

 ……エミルとマルタは、とても仲が良かった。ううん、仲がいいなんてものじゃない。互いに好き合っている。

 けど、二人は元の世界に戻ったら、もう二度と会えなくなる。

 それでいいの、とか。そんな事よりも、とか。そういう事を言いたくなかったわけじゃない。でも、エミルは覚悟を決めた目をしているし、マルタもそんなエミルと一緒に、ギンヌンガ・ガップに行こうとしている。

 ……わたしには、エミルが決断するまでに至った心の辛さは分からない。けど、本当に、本当に悩んで……それしかないから、その決断をしたんだと思う。

 だから、わたしがするのはエミルにそんな事をしちゃいけないという否定の言葉をぶつける事じゃない。友達として言える事は、一つだけ。

 

「……頑張ってね、エミル。応援しているよ」

 

 応援、する事だけ。

 

「うん、ありがとう調。元の世界に帰って、ギンヌンガ・ガップに封じ(・・)られても……僕は、君達の事を忘れない。この出会いの事を……短いようで長かった、時間の事を」

 

 わたしはそれに頷いて、エミルの決意を否定はしなかった。

 だって、それはエミルが決めた事なんだから。

 例え何百年、何万年と一人で生き続けるのだとしても。それが、エミルの選択なら――

 

「……それじゃあな、翼。また会えてよかった」

「あぁ。私もだ」

「元気でね、コレット。あまり転んでロイドを心配させちゃ駄目よ?」

「あはは、だいじょぶだよ。ちゃんと気を付けるから」

「プレセアも、じゃあな。短い間だったけど、また会えて嬉しかったよ。ジーニアスも、ちょっとは頑張れよ?」

「はい。わたしも嬉しかったです」

「えっ、頑張れって……か、奏には関係ないだろ!?」

 

 昨日はエミルとの湿っぽい話はそれだけで終わらせて、後は楽しい思い出が残るように面白い話やおかしい話なんかを沢山した。

 もう十分話した、とは言えない。だから、盛り上がるみんなを尻目に、わたしもエミル達と最後の会話をする。

 

「……じゃあね、エミル。マルタも、元気でね。わたしはギンヌンガ・ガップって所には行けないけど、二人の無事を祈ってるから」

「調も、元気でね。ウロボロスなんて訳の分からない奴等がまた出てきても、負けるんじゃないわよ?」

「僕も調達の事を応援しているよ。きっと、調達なら大丈夫」

 

 エミルとマルタと握手をして……そっと、マルタの耳元で囁く。

 

「大丈夫だよ、マルタ。きっと、奇跡は起きるから」

「えっ……?」

「エミルと一緒に居たいって。そう願って、足掻き続けて。諦めずその手を伸ばし続けて。そうしたら、きっと奇跡は起きてくれるから」

 

 そして、今度はエミルにも。

 

「エミルも。一人でずっと扉を守り続けるなんて、寂しいだけだから……だから、手を伸ばすのを諦めないで。そうしたら、きっと誰かがその手を繋いでくれるから」

「調…………うん。ありがとう」

 

 もうわたしは、二人に会う事はできない。

 けど、二人の友達として、二人が全てを解決した後に、ずっと一緒に居られる事を願っている。

 

「じゃあ、行くか。みんな、本当にありがとな。今度は、元の世界に帰った後も、みんなの事を絶対に忘れない」

「あぁ。私達も、絶対に忘れない。だから、頑張れよ」

「そっちこそ」

 

 ロイドさんは最後にそれだけ言うと、エターナルソードを後ろの何もない空間に向かって振るった。

 すると、あの時と同じように空間が裂け、その先にはよく分からない場所が広がった。

 ……あれが、ギンヌンガ・ガップ。その先には扉があって……エミルは、そこで精霊ラタトスクとして。

 

「……じゃあね、調」

「元気で」

「うん。二人がずっと一緒に居られる事……わたしは祈ってるから」

 

 最後に、二人にそれだけ言うと、二人はロイドさん達と一緒に世界の裂け目の中に入っていって。

 そして、消えた。

 ……エミル達は、最後の戦いに挑むための、元の世界に戻っていった。

 ……ちょっと寂しいけど。でも、もしかしたらギャラルホルンがいつか、エミル達の世界との道を作ってくれるかもしれない。

 わたしはそれを待っている。いつかあの二人ともう一度会える日々を。

 だから、二人に負けないようにわたしも戦おう。みんなが暮らすこの世界を、無数の平行世界を守るために。

 

 

****

 

 

「……本当に、よかったのか」

「あぁ。どっちにしろ俺はここで扉を守り続ける。それは……もう、決まった事だ」

「そう、か……確かに、お前一人ならそうかもしれないな」

「なに? どういう事だ」

「簡単な事だ、ラタトスク。俺は、お前に手を伸ばす。お前のコアの宿り木となるために、俺はこの場で手を伸ばそう。そして、お前の肉体は地上へと行け」

「……そ、それは」

「俺は、エミルには人としての一生を過ごしてほしい。それに、それを願っているのは何も俺だけではない筈だ。お前の仲間は、最後までその道が無いかと手を伸ばしていた。だが、それでも一歩足りず、お前も、お前の仲間も手が届かなかった。ならば、俺がその一歩を埋めよう。俺がお前の手を繋ぎ、お前の仲間と手を繋がせてやる」

「リヒター……」

「お前が俺の手を取らないのは勝手だ。だが、お前が手を取るのならば。俺はこの体を貸そう」

「…………」

 

 ――手を伸ばすのを諦めないで。そうしたら、きっと誰かが手を繋いでくれるはずだから。

 

「……勇気は、夢を叶える魔法」

「あぁ。お前は、俺の手を取る勇気はあるか? それとも、このまま手を伸ばす事を諦めるか?」

「…………俺は――」




ED曲:二人三脚ver.2013

いやー、長かったっす……という事でTOS-Rコラボ話はこれにて終了。

書きたい事を色々と詰め込んで、ついでに一部カットしたのにも関わらずこの長さ……正直に言うとロイド視点で合流までの話を書くとかも考えてたんですけど、流石にコラボキャラの一人称を使う訳にもいかなかったので、調視点で話を進めていきました。

実は当初は敵をガンドで強化されたアビシオンにして、敗戦するけどエターナルソードの力で何度も戦いを繰り返しているループ系を書こうとしたんですけど、流石にエターナルソード使ったら記憶持ち越すだろうし……と悩んだ結果、ストーリーはこんな感じに。

で、基本的には原作の技を使っていましたが、一部の技はレイズから持ってきています。襲翼虎乱旋なんかはレイズの魔鏡技ですし、マルタのレイディアント・ロアーもレイズ仕様になっています。
そっちの方がテンポ良くて書きやすかったので……
それと、ロイドくんのみ決戦魔鏡こと双星響振陣を使っております。個人的にこの魔鏡、クッソ好きなので今回採用しました。

そんなこんなあってこのコラボ回はできあがりました。エミマルとロイコレすこ過ぎて要素ぶち込んでしまって申し訳ない。
ちなみに皆さんはロイドくんの旅をした仲間イベ、誰を選びましたか? 自分は何の迷いもなくコレットを選びました。ロイコレてぇてぇんだ。ついでにエミマルもてぇてぇんだ。アリスとデクスもいいぞぉ。ジニプレもいいけど攻略王のせいで二人がくっ付くところが想像できない……すまんなジーニアス。

次回はまたいつも通りに戻る……かもしれません。
だってガメラコラボ来ちゃったんだもん……ゴジラとULTRAMANがまだ残ってるのにガメラ来ちまったんだもん……公式の供給過多なんだもん……
とりあえず自分はイリス好きですって事で次回へと続く。
……ガメラコラボに調ちゃん居ないけどどうすっぺ…………マジでネタががががが……


P.S
ここのエミルとマルタはイグニスのコアとトルトニスのコアをロイドよりも先に入手しています。つまりエミルとマルタは最終決戦後に……


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月読調の華麗なる超次元サッカー2

なんかね、気が付いたら四月でした。

社会人になってからなんか時の流れが恐ろしく早いの……少なくともシンフォギアライブやるまではエタらないから許して許して……

今回は超次元サッカー時空の続きです。主役はガザCらべちゃんこと、調ちゃん(アナザー)です。

それではどうぞ。


 平行世界の切ちゃん達……SONGと、この間ヒビキと一緒に戦った人たち、APPLEの司令塔でもあり装者であるあの二人からわたし達宛にこんな招待が送られてきた。

 

「平行世界間での親睦を深めるためのサッカー? なんでまたそんな面倒な……」

「まぁまぁ、いいじゃないですか。どうやら今回は旅に出たらしいヒビキさんも捕まえて我々VSSONG装者の、遊び感覚のサッカーらしいですし」

 

 ダメ助手の若干ノリ気な言葉にイラつく。

 この間箱買いしてきた安いエナジードリンクを飲みながら、やけにノリ気なダメ助手を放っておいて、その横にいる切ちゃんに視線を向ける。確か切ちゃんはFISにいるとき、他の子とサッカーで遊んでいた。そのせいか、切ちゃんの目がキラキラしている。

 行きたい、っていうのはよーくわかった。別に切ちゃんが行く分にはこちらとしてはいいんだけど……

 

「……それ、わたしも強制参加でしょ? あまり運動とかしたくないんだけど」

「えー、いいじゃないデスか! 調、最近はちょっとお腹が……」

「おっと、それ以上はライン越え。それ以上は切ちゃんでも容赦しない」

 

 なんで切ちゃんはずっと寝てたのにあんなに育って、わたしは出るとこ出ないのに出ちゃいけないところが……いや、わかってるけど。明らかに栄養不足と睡眠不足による発育不足だってことは。

 でも、だとしたら菓子しか食べないダメ助手はチビデブでいいはずなのに……

 

「どうかしましたか?」

「死ね」

「理不尽!?」

 

 ……まぁ、切ちゃんもリハビリはとっくに終わってみんなと訓練できる程度には回復してきているし、たまには生身で目一杯運動する機会を設けてもいいか。テスラとの一件が終わって以来、他の装者とは会ってないし近況報告の場としては十分だろうし。

 TEC以外にも、この平行世界に蔓延る不穏な影はある。それこそ、SONGが戦ったっていうウロボロスなんかは特にそれ。

 わたし達も自衛はできるけど、常に後手に回る気はないし。先んじて情報を仕入れておけば自衛手段だって増える。ウロボロスはまだ残党がちょっと残っているみたいだし。

 レセプターチルドレンとして集められたこの身……どうにも放っておかれるとは思わないし。

 

「……仕方ない。ダメ助手、準備しといて」

「調さんならそう言うと思ってとっくに用意できてますよ」

「無駄に用意周到な所が腹立つ。そういうコトだから切ちゃん、行こうか」

「ラジャーデス!」

 

 ついでに、平行世界の見知らぬエナジードリンクをお土産がてら買ってくるのもいいか。

 この箱買いしたエナジードリンク、クッソまずいし。なんだこのビーフストロガノフ味って。作ったやつ舌イカれてるでしょ。買ったわたしもわたしだけど……

 

 

****

 

 

 実際問題、平行世界を移動するのは結構簡単。

 わたしが作った例の装置を使えば二人までなら移動可能だし、今回はAPPLEにダメ助手と切ちゃんが向かってから、わたしがそのあと回収される手はずで無事三人同時の移動が叶った。

 正直クッソだるいけど、わざわざ仲間達との仲を怠惰で潰すわけにはいかないし、偶には戦いなんてないのんびりとした平行世界旅行だって切ちゃんにとっても嬉しいはず。普段から研究所で窮屈な思いをさせているし、家事ばっかりしてもらっているから、こういうところで還元していかないと。

 ……まぁ、クソだるい以外にもあの地獄みたいなトレーニングという名の拷問のせいでここに若干のトラウマがあるとも言えるけど。もう二度とあんな拷問、受けたくない……!!

 という事でマリアとセレナの二人に拾われ、道中翼とクリスを拾って、例の世界に出向。

 

「にしても、こんなに早くこのメンツが揃うなんて思ってもいなかったわ」

「平行世界って遠いようで近いしなぁ。オレ達はギャラルホルンのゲート使わないといけないけど、徒歩数分だし」

「わたし達なんて、平行世界を移動する船が家ですから」

「案外まともに地に足付けて生きてる人、少ないよね」

「まぁ事情が事情デスし」

「SONGみたいな組織がないとこうなるのも仕方ない」

「いや、なんか普通に駄弁ってるけど、わたし、そこそこ重い決意を固めて平行世界の旅に出たんだけど……なんか急に拉致られたこっちの身になってほしいんだけど……」

「あの時はこっちが助けてやったんだから付き合え。人付き合いが悪いやつめ」

「えぇ……?」

 

 ちなみにヒビキは話にもあった通り、既にマリアとセレナに捕まっていた。

 ヒビキも、わたし達の返事がある前に時間がもったいないという事でAPPLE式拷も……トレーニングを受けていたけど、なんか普通にけろっとしていたし、普通にシャワー浴びて戻ってきた。

 テスラの件から顔を合わせたことはなかったけど、なんかこいつ、凄い活き活きしている。話によると、テスラに消されたらしい親友が分解の構築が行われたときに戻ってきたらしく、テスラ達の事もしっかりと受け止めているらしいから今まで以上に活力にあふれているとか。

 ……まぁ、気持ちは分からなくもないけど。わたしも、あの切ちゃんのために頑張っている今この時が楽しくないわけじゃないし、多分あの切ちゃんが戻ってきたら、ヒビキみたいになると思うし。

 

「あ、もうすぐSONGに着きますよ。多分皆さん待ってますから、早めに降りましょう」

「さぁ、わたしの必殺技が火を噴くわよ!!」

 

 必殺技が火を噴くって……この人、本当にセレナの姉なの? 明らかに逆というか、子供というか……

 ……まぁ、魂が肉体に引っ張られて子供っぽくなっていると思おう。多分、これが普通に成長していたらSONGのマリアみたいな感じになるんだろうし。

 全員で生暖かい視線を送りつつ、船から降りれば、そこは既にグラウンド。どうやらSONGがこの日のために貸しきっておいた場所らしい。で、わたし達の前にはジャージに着替えているSONGの装者が。

 

「あ、来た来た! みんなこの間ぶり!」

「おう!」

「わたしも、今日は楽しもうね!」

「あーもう分かったから一々くっつかないで……」

 

 抱きついてくるあっちの響に文句を言うヒビキだけど、特にまんざらでもなさそう。

 ……もしかしてそっち系? 流石に平行世界の自分とはちょっと……

 ……にしても。

 

「……改めて見ても、過ごしてきた環境一つでこうも変わるか」

「えっと……?」

「ううん、こっちの話。あの時はありがとう」

「あ、こちらこそ。改めて、切ちゃんが迷惑かけたみたいで、その節は本当にごめんね?」

「いや、どちらかというと迷惑かけたのはこっちだから……」

「そうかな……? あと、うん……多分わたしだから同じ感じになると思うけど、避難の準備はしておくといいと思うよ」

「は? 避難?」

「まぁそこら辺はそのうち分かるよ、うん」

 

 なんでサッカーごときで避難? まぁ、運動不足が祟って足首をくじきましたとかはやるかもしれないけど。

 とりあえずわたしとの会話は程々に、とりあえず一戦やるという事でポジションにつくことに。

 こちらはマリアと翼とクリスがフォワード、切ちゃんがミッドフィルダーでわたしとセレナがディフェンス、ヒビキがキーパーになった。まぁ、わたしは特にきびきびと動く気はないし適当にがんばれ。

 で、あちら側はあっちの翼とクリスがフォワード。マリアと……えっと、誰だっけ。あぁ、そうだ。未来だ。その二人がミッドフィルダー。で、切ちゃんとあっちのわたしがディフェンス、響がゴールキーパー。まぁ、あれだよね。平行世界とは言えあんまり変わらないよね。

 という事で。

 

「では、試合開始だ!」

 

 SONGの司令の宣言で試合開始。ボールはこちら側から。

 まぁ、前でフォワードがあれこれやってる間、わたしはのんびりと……

 

「ヒャッホォォォォォッ!!」

 

 ……ん?

 …………あれ?

 なんか翼、ボールの上に乗ってない? というかなんかボール変形してない? なんかボールすっごい平べったくなってない?

 あぁ、最近疲れてるから幻覚……

 

「まずは小手調べだ! スパークルウェイブッ!!

 

 いや、そんなわけあるか!?

 えっ、なにそれ!? ボールがボードみたいに変形したと思ったらその上に人が乗ってなんか星のエフェクト出しながら空中飛んで、最終的にはボールが自分で相手のゴールに突っ込んでいったけど!? しかもなんか明らかにサッカーボールで出していい速度越えてるけど!?

 

「凄いシュートだ……! でも、簡単に点はあげないよ!!」

 

 いや、逃げた方が……

 

「この距離ならこの技で! カウンター、ドライブッ!!

 

 とか思っていたら響は響で翼のシュートにアッパーを叩き込んだ。流石にそれだけじゃ止まらないと思ったけど、そんなわたしの科学者的計算を完全に無視したボールはアッパーによってかけられたであろうバックスピンで地面をえぐりながらもラインギリギリで止まった。

 もうなんか……物理現象どこ行った?

 

「やるな! 次は入れてやるからな!」

「こっちだって何回だって防いでみせます!!」

 

 目の前の科学者の一人として容認したくない現実から目を背けていると、あっちのわたしからヤケに生暖かい視線が。

 そうなるよね、と言わんばかりの視線に思わず知っていたんなら言えよ、と思ったけど……まぁ、言われたところで信じないし。信じたくないし。

 で、地面にめり込んだボールを手にゲーム再開。

 ……ん? なんかさっきボールがめり込んでいた地面、直ってない……? えっなにそれこわい。

 

「未来! お願い!」

「うん!」

 

 で、響からのボールは未来に。

 ……まぁ、一応前に出ておく? いや、わたしディフェンダーだしボーっとしてていいか。あんなシュート飛んで来たら多分死ぬし……

 

「悪いが、ボールは貰うぜ!」

 

 未来のボールを奪おうと翼が突貫。無意味に突貫したら必殺技で死ぬんじゃ……

 

「甘いよ! 疾風ダッシュ!

 

 と思ってたけど、なんか普通の技が出た。

 ……いや、瞬間移動張りに高速移動するのを普通とは言いたくないんだけど、さっきのボールをサーフボード代わりにしたシュートと比べると普通と言いたい。

 っていうかそれ戦闘で使えよ。多分凄い活躍できるから。

 

「マリアさん! アレを!」

「えぇ、いいわよ!」

 

 えっ、ロングシュート……?

 この距離からシュートを撃ったところでキーパーに普通にキャッチされる……あっ、必殺技か。下がっておこ。

 で、下がってからすぐにあっちのデカいマリアにボールが渡って、そのままボールを軽く打ち上げた後、それを足で挟んで思いっきり回転させた。

 その結果、ボールを中心に竜巻が起こる。

 …………あーもう知らね。

 

「これが私達の必殺技!」

ザ・ハリケーンッ!!

 

 で、その竜巻を起こしているボールを、未来がとんでもない速度の助走を丸っと乗せたライダーキックでこっちに向かってぶっ飛ばしてきた。

 うん、あれをくらったら死ぬ。下がっておいて正解……ん?

 なんかボールが上に向かって……? しかもあっちのクリスがなんかボールに向かって走っている……?

 

「シュートチェインってなぁ!」

「やらせない!」

 

 ボールがある程度こっちに向かって飛んできたところであっちのクリスが体を回転させながら飛び上がった。しかも、その体には炎が巻き付いている。

 しかも、それを止めるためにこっちのクリスまでもが飛び上がる。地面に膝をつくくらい溜めてから思いっきり跳躍して、回転しながら炎を纏っている。

 ……あの技、なんか似てる?

 

「ッ!? チィッ!!」

 

 あっちのクリスが舌打ちしながらも、更に体を回転させながら飛んでくるボールに追いついた。

 更にこっちのクリスも、そのボールとタイミングを合わせて足を伸ばして……

 

ファイア、トルネードッ!!

 

 どうやらあの二つ、細かい点は違うけど同じ技だったらしい。

 空中で平行世界の同一人物同士の同じ技が炸裂した結果、ボールは二人のキック力に負けて上空に向かって弾かれた。

 …………さぁて、ツッコミどころしかない。なんで人間が炎を出せるのか。なんで人間があんな回転しながら何メートルもトランポリンも無しに跳躍できるのか。あと、そこから普通に着地できているのか。装者って物理法則に対して喧嘩を売る人間の総称だっけ?

 

「……まさかファイアトルネードが使えるなんてな」

「そっちこそ。ちょっと型は違ったけど……」

「お前の師匠はオッサンだったな……なら、ファイアトルネードが使えてもおかしくねぇって事か」

「……そういうこと」

 

 いや、なんか少年漫画みたいな事してないで普通にサッカーしてよ……

 ちなみにボールは、若干あっち側の威力が高かったのか、こっち側のミッドフィルダーの所に落ちてきた。つまり、切ちゃんの元に。

 ……あっ、ヤバい。

 

「切ちゃん逃げて!?」

「大丈夫デス! あたしだって一端のサッカープレイヤーデス!」

「ならばその腕前、試させてもらおう!」

 

 あっ、あっちの翼が切ちゃんの元に!?

 切ちゃん逃げて!! ホント逃げて!!

 

「まだ昔程じゃないデスけど……!」

 

 もうサッカーなんてどうでもいいから切ちゃんにタックルしてでも推定物理法則超越女から切ちゃんを守ろうと思って走り出したけど、切ちゃんは足の甲にボールを乗せて、もう片足を軸にして体勢を低くしながら回転し始めた。

 ……ん?

 

デスサイズロー、V3ッ!!

「なっ、ガハッ!!?」

 

 そのまま足から衝撃波のような物を出してあっちの翼を吹き飛ばした。

 …………あの、切ちゃん?

 

「こう見えても昔はサッカー頑張ってたんデス!」

 

 いや、知ってるけど、そんな人間離れした事ができる程だったの!!?

 

「くっ、まさか技が進化する程とは……! これで本調子では無いとはな……!」

「本当はZまで進化していたんデスけど……鈍ってるのは仕方ないデス!」

 

 あ、うん、そだね……シカタナイネ……

 

「このまま前に詰めるデス!」

「行かせない!」

「だったら、押し通るデス! デスサイズローV3ッ!!

「きゃあっ!?」

 

 わー、きりちゃんつよーい。がんばれー。おうえんしてるよー。

 

「あっちのわたしが遠い目してる……そうだよね、特にそっちの切ちゃんが急にあんな事したらそうなるよね……」

 

 きりちゃんかっこいー。いいぞもっとやれー。

 

「くっ、もうゴールまで……!」

「このまま一点、貰うデス!」

 

 わー、きりちゃんのシュートだぁ……

 ……さて、そろそろ現実見ようかな……

 

真ギアドライブッ!!

「っ、また進化した技……!! だったら、わたしだって手加減は一切しないよ! ハァァァァァァッ!!」

 

 …………ん? 現実に戻ってきたら、なんか切ちゃんが歯車を召喚してブチかましたシュートに対して響がなんか出してる……?

 紫色の煙……? オーラ? それがなんか人型に……

 は?

 

「これがわたしがフォワードからキーパーに転向した理由……! どんな物だってブン守る力ッ!!」

「っ!? ま、まさかのまさかデス!?」

 

 えっ、いや……は?

 えっと……ここってジョジョ的な世界線だっけ……? それともペルソナ……?

 

「これがわたしの『化身』ッ!! 魔神グレイトォ!!

 

 …………あーもうどうでもいいや。

 なんかあっちのわたしも目を見開いてるし、多分今日が初出しの情報だったんだろうなぁ……

 

「化身使いが相手だとちょっと分が悪いデスよ!」

「そっちの切歌ちゃんの全力、わたしが受け止める!!」

 

 あっ、なんか構えた……

 

グレイトォ!! ザ・ハンドォッ!!

 

 なんか化身とやらの手のひらが切ちゃんのシュートを受け止めたと思ったら、化身はビクともせずに切ちゃんのシュートを受け止めた。

 ……もうさ、シンフォギアよりもそれで戦った方が良くない? 多分ノイズ程度なら化身とやらで倒せるよ。確実に。

 

「化身は選手の気力が高まった結果現れる存在……けど、都市伝説になるレベルで、実際に化身にできる選手は希少だって言うのに……」

「まさかあんなにも強力な化身を使えるなんて、完全に予想外でした」

「化身は必殺技よりも遥かに強い必殺技を使う事ができるしな……けど、あの魔神グレイトは多分化身の中でも相当上位の化身……! そんなのと戦えるなんて、すっげぇワクワクしてきたぜ……!!」

 

 いや、どういうことなの。説明聞いても分かんないよ。あと約一名、少年漫画の主人公かライバルキャラみたいな事言ってるんだけど。

 正直科学的に解明したい事が多すぎるし、多分解明しようとしても失敗することだらけで正直気が狂いそう。というか狂う。

 

「みんな、一気に攻勢に移ろう! 景気づけに、翼さん!!」

「あぁ! 立花が化身を使ったのだ。それならば、私も化身を使わねば不作法という物!!」

 

 えっ、なにそれ。

 まさかあの化身とやらを使えるの、まだいるの?

 

「来い! 戦国武神ムサシッ!!

 

 ……うわ、ホントに出た……

 しかも物凄い勢いでこっちに走ってくるし。あっ、こっちの翼とクリスが吹き飛ばされた。

 ……あれに当たったらわたしみたいな虚弱体質、死ねる。下がっておこう。

 

「化身使いが二人も!? っていうか化身まで使ってのガチバトルなんて聞いてないわよ!?」

「でも姉さん。姉さんなら、止められますよね?」

「……ったく、仕方ないわね。なら見せてあげるわ! このわたしの化身をッ!!」

 

 えっ、こっちも?

 

「来なさい、わたしの化身ッ! 戦旗士ブリュンヒルデッ!!

 

 うわ、こっちまで本当に出た!!?

 

「そちらも化身か……! 相手にとって不足はない!!」

「来なさい! 真正面から粉砕してあげるわ!!」

 

 なにこのスタンドバトル……でもなくペルソナバトル……でもなく超次元バトル。

 化身と化身がなんか取っ組み合い始めようとしているし、その下ではあっちの翼とマリアがバトル始めようとしている。

 あっ、その前にあっちの翼が飛び上がった。

 

「ならばマリアごとゴールを割らせてもらう! これが私の化身必殺技!! 武神連斬ッ!!

 

 あっ、なんかさっきまでのシュートとは明らかに別格なシュートが飛んできた……

 これ、わたしまで巻き込まれないよね? 結構端にいるけど、衝撃波で吹き飛ばされたりしないよね!!?

 

「あまりシュートブロックが得意なわけじゃないけど……でも、やってみせるわ!!」

 

 わたしはシュートの勢いのせいで発生している暴風に吹き飛ばされないように必死なのに、マリアはその正面で涼しい顔をしながら構えていた。

 ……いや、化身出しただけであれと真正面から戦えるってどういうことなの……ほんとマリアもそれで戦えばいいのに……

 

ヴァルキリーフラッグッ!

 

 化身の旗を使った必殺技っぽい物がシュートを真正面から受け止めた。

 けど、どうやらあっちの方が威力が上なのか、マリアの化身が吹っ飛ばされた。

 

「きゃあっ!?」

 

 いや、あの威力を真正面から受け止めてきゃあっ、だけ? 普通死ぬと思うんだけど……

 あっ、死ぬと言えばヒビキ……

 ……南無。骨は拾ってしっかりと元の世界に埋めておくから。

 

「わたし化身使えないんだけど……まぁ、これぐらい威力が弱まってるんなら、楽勝かな」

 

 は?

 

「化身が使えないなら、化身並みの力を持つ必殺技を作ればいい。未来と一緒に居た短い間に考えて作り上げた、最強の必殺技!!」

 

 楽勝って言葉が聞こえて耳を疑った瞬間、ヒビキが胸に手を当てながらシュートに背中を向けた。

 まさか背中で受ける気じゃ、と思ったけど、ヒビキは胸に当てた手を、体を正面に戻しながら地面に向けて突き出した。すると、確かに化身のエネルギーに負けないほどのエネルギーを放出する翼がヒビキの手から生えて、それがVの字に折れ曲がった。

 いや、もう本当にそれで戦えばいいじゃん!? 多分そのエネルギーでぶん殴ったら相当な火力出るけど!?

 

「これがわたしの、化身を越える必殺技!! ゴッドハンドVッ!!

 

 で、そんなエネルギーをシュートのキャッチに使ったもんだから、そりゃあ勿論シュートをキャッチできるわけで。

 

「なんというキーパー技……!!」

「すごい……! すごいよわたし!! そんな技を開発していたなんて!!」

「どうも。そっちが化身を使うなら、こっちもこの技で絶対にゴールを守ってみせる。だから、シュートは任せた!」

 

 ヒビキが叫びながらキャッチしたボールを前に向かってぶん投げた。

 その先には、吹き飛ばされていた翼とクリスの二人が。

 

「任された! こうなったら加減は無しだ! クリス、ここはあの技を!!」

「うん。あの技なら、きっと化身にも負けない」

 

 化身バトルを見ていたせいでディフェンスはあの二人を止められない。まぁ、あっちのわたしも一般人っぽいし、そりゃ止められないよね……

 

「例え二人が相手でも! 来て、魔神グレイト!!

「行くぞクリス!」

「タイミングは、翼に合わせる!」

 

 魔神グレイトを再び出す響。対して翼とクリスは全く同じ速度で走りながら、徐々に左右に分かれて距離を取っていく。

 そしてある程度距離が離れた所で翼がボールを打ち上げ、二人は全く同じタイミングでボールが落ちる地点に走っていった。

 

「ハッ!!」

「っ……!!」

 

 そして走るとほぼ同時に、翼は赤い炎を。クリスは青い炎を纏って、そのままボールを中心に一度すれ違ってから。

 

クロスファイアッ!!

 

 体を翻して、二色の炎を纏わせたボールを蹴り出した。

 ……もうツッコミはするまい。

 

「凄いシュートだ……! でも、止める!! グレイト・ザ・ハンドッ!!

 

 そして響も対抗してグレイト・ザ・ハンド。また普通に止めるんじゃないかと思ったけど、シュートを受け止めた途端、響の顔が歪んで一瞬響が後退した。

 けど響はそのままシュートを受け止め続け、徐々に徐々にシュートの勢いでゴール側に押し込まれて行く。

 そんな一進一退っぽい勝負は、最終的にラインの寸前でなんとかシュートを止めた響の勝利だった。

 

「いったた……ナイスシュート、二人とも!!」

「くそっ、止められた!!」

「けど、あの調子なら次こそは……!」

「ううん、次も絶対に止めて見せる! という事で未来!」

「うん! からの、クリス!!」

「おうよ!!」

 

 翼とクリスが悔しがっている間に響が受け止めたボールが未来に、そしてそのままパスであっちのクリスに渡った。

 さて、わたしは下がっておこう。

 

「あっちのアタシ達があんな技披露してんだ。こっちもやるしかねぇよな、センパイ!!」

「無論だ! 雪音、タイミングはお前が!」

「へっ、上等! きっちり合わせてくださいよ、センパイッ!!」

 

 どうやらこちら側に触発されたらしいあの二人が、ドリブルしながらこっちに走ってくる。勿論わたしは退避済み。

 で、件の二人はボールを蹴り上げて、足を止めた。両足を開いて、互いが鏡合わせになるような形で構えてから炎を纏って飛び上がった。

 あれって確か……

 

「ファイアトルネード!?」

「違うわ! まさかあの二人、ファイアトルネードを二人同時に!? そんな事が可能なの!?」

「いや、オレもファイアトルネードは使えるが、ファイアトルネードの回転方向は同一……! 仮に逆回転でやったとしても、回転しているせいでタイミングなんて本当に一瞬しか無いってのに……!!?」

 

 えっ、そんなに難易度高いの?

 まぁ確かに完全に回転する速度と飛び上がる角度、タイミングを合わせないといけないと言われると難しいような気はするけども。いや、わたしじゃ無理だから難しいというか不可能としか言えないけどさ。

 

ファイアトルネードD(ダブル)D(ドライブ)ッ!!

 

 で、なんか完璧なタイミングでファイアトルネードとやらを決めた結果、なんかトンデモない威力のシュートがヒビキに向かっていった。

 ……ホントに死ぬんじゃないの、あれ。

 

「くっ、せめて少しでも威力を! ザ・ミストッ!!

デーモンカットV3ッ!!

 

 一応セレナと切ちゃんが必殺技で止めようとしたけど、ザ・ミストとかいう霧はいとも簡単に抜けられるし、切ちゃんの悪魔みたいな形をした衝撃波も結局真正面からぶち抜かれた。

 あれ、本当に威力弱められてるの……? わたしの目では全く変わらないように見えるんだけど。

 

「これぐらい弱まれば! ゴッドハンドVッ!!

 

 でもどうやらかなりシュートは弱まっていたみたいで、ヒビキのゴッドハンドVで無事キャッチする事ができた。

 

「くっ、硬いな!」

「だったら何度だって打ち込むだけだ! なぁ、センパイ!!」

「無論だ! 一度防がれただけでは諦めん!!」

「何度だって止めてみせる。例え、化身のシュートだって」

 

 …………これ、わたしとあっちのわたし、いる? ベンチに居た方がいいんじゃないかな。

 

 

****

 

 

 試合はかなり白熱した。

 なにせ、必殺技の応酬なのだから、まぁ派手なわけで。

 

「姉さん!」

「えぇ!」

キラーフィールズッ!!

「ロングパスだ! グングニル(ガングニール)!!

「シュートブロック……! アトミック、フレア!!

「これがわたしが研究した最強のペンギンよ! 皇帝ペンギンXッ!!

「させないデス! ハンターズネット!!

「姉さんが使えるのなら、わたしだって使えます! 皇帝ペンギン7!!

もちもちぃ! きなこ餅ぃ!! からのやきもちスクリューでパス!!」

「止めるデス!! デーモンカットV5!!

「また技が進化しただと!!?」

「段々と思い出してきたデス!」

「だったらこっちだって! 爆熱スクリューッ!!

 

 と、まぁこんな感じで。

 もうどっちがどっちが分からない程度には必殺技が飛び交ったけど、後半のかなり後まで0対0。このままロスタイムまで突入するかと思われたんだけど……

 

「翼さん、クリスちゃん!」

「何でお前が前に……って、そういう事か!」

「まだ未完成ではあるが……面白い! 決めるぞ、二人とも!!」

「タイミングは任せたぞ、馬鹿!!」

 

 まさかのゴールキーパーである響が前に出てのシュート。それを止めるためにこっちも動いていたけど、既にシュート体勢に入った三人を止められるわけもなく、響がボールを両足で挟んだまま飛び上がって、空中で思いっきりボールを回転させながらボールの上を陣取った。

 更にそれに追従するようにファイアトルネードDDの体勢で飛んでくるあっちの翼とクリス。

 

ファイアトルネードT(トリプル)C(クラッシャー)ッ!!

 

 まさかの合体技を、こっちのチームは誰も妨害できず。

 

ゴッドハンドV!! …………ぐぅっ!!」

 

 ファイアトルネードDDの時点で危うかったヒビキのゴッドハンドVが破られ、得点を入れられる事になった。

 

「やったぁ!!」

「やるじゃねぇか!!」

「やはり立花は本番に強いな。よし、残り時間は僅かだ! この一点、死守するぞ!!」

 

 あっちはテンションがかなり上がっている。

 でも、なぜかこっちも負けじと。

 

「なに、たった一点よ! こっちが二点入れてしまえばこの状況も覆るわ!!」

「化身はそう何度も使えません。このままシュートを決め続ければ、確実に逆転はできます!」

 

 それが難しいんだけど、というツッコミはしない方がいいんだろうね。

 で、試合再開。こちらボールから……ん?

 

「調、パスデス!!」

 

 え?

 あっ、ちょっ、切ちゃんの馬鹿!!?

 折角今まで空気に徹していたのに!! これじゃあわたしが必殺技の餌食に!!

 

「悪いけど、ボールは貰うわよ!」

 

 ほら! あっちのマリアがわたしの方に!!

 ひ、必殺技なんて使えないのに……! ひ、必殺技……必殺技…………

 ……あっ、そうだ。

 もう炎出したり化身出したりペンギン出したりしている時点でどれが必殺技なのか分からないんだし、こっちに来たダメ助手が監視カメラ代わりにハッキングした、どこかの軍の監視兼攻撃用のアレを使えば……

 えっと、確かこうやってこうやって、こうすれば…………あっ、できた。

 

「もらっ…………ん? なにこの線」

 

 よし、照準用のレーザーが降ってきた。それじゃあ、わたしはちょっと離れてっと。

 

「なにって、わたしの必殺技」

 

 文字通りのだけど。

 

「えっ、ちょ」

軍事衛星フォボス

 

 その瞬間、あっちのマリアが光に包まれた。

 ハッキングしておいてよかった軍事衛星フォボス。という事でボールは適当にセレナにパス。

 

「ナイス必殺技です!」

 

 …………うん、これも超次元サッカーでは十分に必殺技になってるみたい。

 とりあえず、黒焦げになったあっちのマリアは端に寄せておいてっと。

 

「…………試合終了だ!!」

 

 で、ここからがこっちの番だと言わんばかりに攻める前に試合が終了した。

 残念、こっちの負け。

 

「くっ、負けたか……! でも、いい勝負だったぜ!!」

「あぁ。できればまたやりたいな」

「今度はこっちが勝つ」

「何度だってアタシ達がブチのめしてやるよ!!」

 

 で、試合が終わった後はなんか色々と称えあっているけど……

 とりあえずわたしはこの世界のわたしと顔を合わせ、こそっと二人でグラウンドを抜け出した。

 なんでかって?

 

「……その、お疲れ様」

「そっちこそ……で、何あれ」

「超次元サッカーとしか……」

「そう……もう疲れた……今日は切ちゃんとも顔合わせたくない……認めたくない現実に頭痛がしそう」

「あはは……とりあえず、ご飯でも行こっか」

「賛成。で、こっちの世界ってマ〇クある?」

「あるけど……体に悪いよ?」

「ジャンクフードこそこの世のジャスティス。ハンバーガーとエナジードリンクを所望する」

「本当に体壊すよ……?」

 

 ……常識人同士で溜め息吐きながらご飯食べるため。

 とりあえず帰りはダメ助手に迎えに来てもらおうそうしよう……今日はもう装者と会いたくない……

 っていうかどうしてこっちのわたしはそんなに平気な顔してるの。

 

「……慣れた、としか」

 

 あぁ……




という訳で調ちゃん以外が超次元なサッカーでした。どうしてこれを書いたかと言うと、最後の軍事衛星フォボスがしたくて書きました。
オリオンであれが出てきたとき大爆笑したのはいい思い出です。必殺技って言っとけばサテライトキャノンも許される世界。それがイナズマイレブン。

ちなみに前回登場組の必殺技は2になった事で変わっているのもしばしば。

では、お約束として今回出てきたキャラの必殺技一覧だけ載せておきます。それではまた次回、お会いしましょう。

ビッキー……カウンタードライブ、やきもちスクリュー、もちもち黄な粉餅、ファイアトルネードTC、いかりのてっつい(秘伝書)、グングニル(秘伝書)、グレイト・ザ・ハンド(化身:魔神グレイト)
ズバババン……伝来宝刀、菊一文字、王の剣、影縫い、武神連斬(化身:戦国武神ムサシ)
きねくり先輩……ダブルショット(シュートコマンド07)、ファイアトルネード、アグレッシブビート、ファイアトルネードDD、アテナアサルト(化身:虚空の女神アテナ)
たやマ……フォルテシモ、グラディウスアーチ、オールデリート、エアーバレット
切ちゃん……ハンターズネット、ラスト・デスゾーン、スカイウォーク、ラ・フラム
393……ザ・ハリケーン、風神の舞、疾風ダッシュ、シロウサギダッシュート

グレビッキー……ドリルスマッシャー、グングニル、ゴッドハンド、ゴッドハンドV、スーパーメガトンヘッド(秘伝書)、タマシイ・ザ・ハンド(秘伝書)
アナつば……スパークルウェイブ、ファイアトルネード(アレスの天秤)、マキシマムファイア、爆熱スクリュー
アナクリ……アトミックフレア、ファイアトルネード(アレスの天秤)、クロスファイア、スパークエッジドリブル
アナマリ……皇帝ペンギン2号、キラーフィールズ、皇帝ペンギンX、ペンギン・ザ・ゴッド&デビル、ヴァルキリーフラッグ(化身;戦旗士ブリュンヒルデ)
アナセレ……ザ・ミスト、ディープミスト、バタフライドリーム、皇帝ペンギン7
アナ切……デーモンカットV5、真ギアドライブ、デスサイズローV3、真刹那ブースト





調ちゃん……ジャッジスルー、ジャッジスルー2、ジャッジスルー3、ジャッジスルー(アレスの天秤)、ド根性バット、メガネクラッシュ(ド根性バットをメガネの人間でやる)

アナ調ちゃん……軍  事  衛  星  フ  ォ  ボ  ス


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月読調の華麗なる苦労

どうもお久しぶりです。

登校サボってる間にシンフォギアも色々とありましたねぇ。聖闘士星矢コラボだったり女子プロレスとのコラボだったり。

ただ、一番驚いたし嬉しかったのは、何と言っても調ちゃん主人公のスピンオフこと『戦姫完食シンフォギア~調めし~』が公式で始まった事です!

調ちゃん主人公の本作を書き始めてから早三年……ようやく、ようやく公式から調ちゃんが主人公の話が供給されて……もう本当に感無量です。

できればこの作品も一月に一回は更新して調めしと本作、二つの作品で調ちゃんを楽しんでいただけるようにしていきたい所存です。

で、そんな所存で登校した今話はセレナとのお出かけ回です。と言う事でどうぞ。


 今日は定期連絡があったからセレナとマムが居る世界に遊びに来た。

 最近は平行世界も物騒だからね。こういう定期連絡こそがそういう物騒な事を未然に防ぐ事に繋がるかもしれないから、面倒くさがらずにやるのが一番。

 という事で、いつも通りセレナの世界に来てマムに報告をしたから後は自由。という事で後は適当に帰ろうかなー……とか思ってたんだけど。

 

「あっ、月読さん月読さん」

「ん? なに、セレナ」

 

 マムとの連絡が終わってすぐにセレナに声をかけられた。

 まぁ、帰って何か用があるってわけじゃないし、引き留められても全然問題はないんだけどね。というか、寧ろ暇だったから遊びに誘ってくれるとちょっと嬉しいというか。

 

「あの、つい最近この研究所の近くに大きなショッピングモールができたんですよ。この後時間があるようでしたら、一緒に行きませんか?」

『ッ!?』

 

 へぇ、ショッピングモールができたんだ。そういえばここら辺って一応森には囲まれているけど、ちょっと歩けば普通にそこそこ栄えている場所に出るんだよね。だから、本当にすぐ近くにショッピングモールができたんだと思う。

 それまではあんまり、そういう娯楽施設的な物って多くは無かったからね。セレナがそれに興味を惹かれるのは全然普通の事だと思うけど……なんで今周りのみんなは息を呑んだの? セレナ、何かダメな事でも言ったっけ?

 

「うん、いいよ。今日はもう暇だったし」

「やった! じゃあわたし、ちょっと用意だけしてきますね!」

「わかった。わたしはここで待ってるから、準備はゆっくりでいいからね?」

 

 喜びながら発令室から出ていくセレナをとりあえず見送ってから、振り返る。

 すると、そこでは何故かマムを始めとする色んな人が、まるでノイズが出た時のような感じであたふたしていた。いや、これから外に遊びに行くだけなのに何してるの……?

 なんて思っていると、マムが若干焦りながらわたしに詰め寄ってきた。

 

「調、あまり時間がありませんので簡単に説明します」

「え? あ、うん」

 

 ま、マムは一体何に対してそんなに焦っているの……?

 とりあえず聞くけども……

 

「いいですか、外に出てからは絶対にセレナから目を離してはいけません。離すとしても……大体十秒程度が限界です。もしくは、ずっと手を繋いでいてください。いいですね?」

「えっ……いや、いいですねと言われても……何故?」

「いいですね!!?」

「い、いえすまむ……」

 

 久しぶりに聞くマムの気迫が籠った声に思わず詳細な理由を聞けずに頷くことになってしまった。

 いや、まぁ、そんな長い時間目を離す気はないけどさ……何でマムはそんなに必死なんだろう? それからも何度かどういう事? って聞いてはみるけど、毎回マムからは行ってみればわかる、とだけ言われてあしらわれる始末。

 別に何も言われなくても行くけども……セレナと二人きりでお出かけなんて滅多にない事だし。だからと言って大人数でお出かけする事が嫌いってわけじゃないよ? ただ、偶には珍しく二人きりもいいなって。

 とか変な言い訳を心の中でぶつぶつ言っていると、準備を終えたらしいセレナが発令室に入ってきた。

 

「お待たせしました、月読さん」

「ううん、全然待ってないよ」

 

 セレナは余所行きの服を着て、財布と小物が数個入る程度の小さなショルダーバッグをかけていた。

 やっぱりセレナって可愛い系の服装とかが一番似合うよね。まだセレナが十四歳程度の体で止まっているからだとは思うけど。

 とりあえずセレナも来た事だし、マムに視線を向ければ、マムは忙しなく動きながらもこっちに視線を向けて頷いた。

 いや、その気を付けてください、的なシリアスな視線を向けられましても……まぁ、いいや。

 

「じゃあマム、行ってきます」

「多分夕方までには戻るから」

「えぇ、気を付けて。本当に、気を付けて……!!」

 

 いや、そこまで必死にならなくても……

 何故か凄い必死なマムに若干引きながらも手を振ってからセレナと一緒に施設を出る。そこから森の中を道に沿って抜けて行けば、大体徒歩十分かそこらで徐々に人が住んでいる場所に出る。

 そんなに近いと一般人が施設に入らないのかって思うかもしれないけど、ここは私有地だし一応柵で囲まれているからほとんど入ってこないらしいよ。偶に悪戯目的の子供が入ってきたりするらしいけどね? で、ついでに言うと柵も結構広い範囲を囲っているから、爆発とか起きても多分人が居る場所までは聞こえてこなかったり。

 まぁ、そんなF.I.Sの施設についてはさておいて、セレナと一緒に駄弁りながら歩いていると、目の前に結構大きなショッピングモールが見えてきた。

 

「あっ、見えてきましたよ」

「ホントだ、結構大きい。映画館とかも付いているみたいだね?」

「シネマって看板がありますね」

 

 本当に結構大きい所みたい。ああいう所なら品揃えとかも凄いだろうし、結構行きたい場所もあるかも。

 それじゃあ……あっ、そうだ。

 

「ちょっと待ってて、セレナ」

「え? あ、はい。どうかしました?」

「ちょっと自販機でお水だけ買ってこようかなって」

 

 どうせマムと話した後はすぐに帰るからって思って、ちょっと喉が渇いていたけどそのまま出てきちゃったんだよね。で、話終わってから外に出てちょっと歩いたから普通に喉が渇いちゃった。

 という事で、ちょっと脇道に逸れた所にあった自販機にセレナに待ってもらってから向かって、水を買おうと財布を取り出したけど、予想以上に小銭が入ってなかった。仕方ないから千円札を使ったけど……うわぁ、全部百円玉と十円玉で返ってきた。

 財布が小銭で分厚くなる……まだ五百円玉とかの方が使いやすいし嵩張らないんだけどなぁ……まぁいっか。

 よし、ちょっと長くなっちゃったけどセレナの所に…………

 

「……あれ? セレナ?」

 

 さっきまでセレナが居た所に戻ってきたけど、何故かセレナが居ない。

 どこに行ったんだろう…………ん? あれ、あんな所にセレナが……

 

「ほら、お嬢ちゃん。この車に乗ってくれたらお菓子あげるから」

「わーい」

「わぁぁぁぁぁい!!?」

 

 セレナぁ!!? ちょっ、セレナぁ!!? それ小学校低学年の子供でも引っかからないやつぅ!!

 全力で走ってセレナの腕をがっちりキャッチ!

 

「うわっ。ど、どうしたの、月読さん」

「どうしたもこうしたもないけど!? なに誘拐されかかってるの!?」

「誘拐……?」

「いや、わたしが気づいたからいいけど……そこの人はこっち見てないでどっか行って! 警察呼びますよ!」

 

 掴まえたセレナを抱き寄せてからこっちをじっと見てくるロリコンおっさんに向かって、こっちでは使えないわたしの携帯を取り出して脅してどっかに行ってもらう。

 あ、危なかった……この世界唯一の装者が誘拐されるとか冗談じゃないんだけど……普通に詰みが入るんだけど……

 というかセレナ、流石に警戒心無さ過ぎでは……? 今は任務中じゃないけど、あんな小学校低学年の子でも引っかからないような誘拐手口に引っかかりかけるって……というか、あのおっさんもなんでセレナをそれで誘拐できるって思って実行したのか……

 なんかもうツッコミどころしかないけど、とりあえずセレナを解放する。

 本当にもう……危なかった……

 

「気を付けてよ、セレナ……あんな古典的かつ小学生でも引っかからないような手口に引っかかりかけるなんて……」

「でもあのおじさんはお菓子をくれようとしていただけですよ?」

「お菓子ならわたしが買ってあげるから! お願いだから知らない人について行かないで!」

「はーい」

 

 ほ、本当に理解してるのこの子……

 ま、まぁいいや……そう何度もあんなクソみたいな誘拐手口には引っかからないでしょ……あんなの切ちゃんでも引っかからない……引っかから………………今度切ちゃんに色々と教育しておかないと。

 よし、この思考は一旦止め止め。思いっきり叫んで冷や汗流したせいで凄い喉渇いた……

 とりあえず買ってきた水飲んでっと………………あっ、飲みきっちゃった。

 

「ちょっとこれ自販機横のゴミ箱に捨ててくるね」

「わかりました」

「絶対に、絶対にわたしが来るまで動いちゃだめだからね!」

 

 マリアがあそこまで過保護な理由が若干分かりかけたけど、まぁ二度目はないでしょうという事でとりあえず空のペットボトルをゴミ箱に。

 ……って、すっごいみっちりとゴミ箱に入っているせいで入らない。とりあえず押し込んでおこう。変に触ると逆に溢れちゃいそうだし。

 さて、それじゃあセレナの所に戻って……

 

「あ、月読さ――」

 

 あれ、なんかセレナの声が途絶え……

 

「おいとっとと出せ!」

「サツに通報される前にずらかるぞ!!」

 

 あっ、なんかセレナが口を塞がれた状態でハイエースに詰め込まれて、そのままハイエースが出発……

 なんで!!?

 ちょっ、セレナが遠くっ!! LiNKER首に刺してからの!

 

「various shul shagana tron!!」

 

 変身、そして禁月輪!! からの公道爆走!

 ごめんなさいマム! それもこれも人命+唯一の装者重視の結果という事で!

 車は結構法定速度ぶっちぎって走っているけど、わたしの禁月輪なら車が出せる最高スピード程度、すぐに超えて走る事ができる。だから、セレナを攫った極悪人共の横に追いついてから!

 

「禁月輪轢き逃げアタック!!」

 

 そのまま真横に方向転換してそのまま車にアタック!

 結果、車は真ん中からパカっと割れて大事故に。だけど、車が完全に事故ってどんがらがっしゃんする前にセレナをヨーヨーで救出して抱えてから、残ったエネルギーワイヤーで適当に犯人共を括って適当な場所に投げ捨てておく。

 で、わたしはセレナを抱えた状態で建物の屋上に飛び上がって、さっきセレナがハイエースされた場所に戻ってセレナを下ろしてから変身解除。

 あー疲れた……

 

「あ、あの、月読さん? 大丈夫ですか?」

「だ、大丈夫……大丈夫だけど……お願いだからもうちょっと自分の事に危機感持って……」

 

 ……もしかしてだけど。

 マムは施設を出る前、わたしにセレナから十秒以上目を離すなと言ってきた。で、さっき自販機に行くときに十秒以上目を離した結果、セレナは二度も誘拐されかけた。

 ……本当にもしかして、セレナって、相当なトラブル体質に加えて天然レベルでの危機感の無さが相まって十秒以上目を離すと確実に何か問題ごとを引っ張ってくるとか、そういうのじゃ……

 と、とりあえずマムに聞いてみよう。えっと、通信機どこにしまったっけ…………

 ……あれ? 確か鞄のこの辺に……あっ、あった。えっと、通信先をマムに……あれ? なんかさっきまで隣に居たセレナが……

 

「ほらほら、こっちに来て。こっちに来たらいい物が沢山あるから」

「えっ、でも月読さんが……」

「いいからいいから」

 

 はいごめんなさい十秒目を離しました!!

 このっ、変態が!!

 

「よくないから!!」

 

 思いっきり誘拐未遂犯の顔面にドロップキックを叩き込んで気絶させ、セレナの手を引っ張って全力でショッピングモールの方向へと走る事にした。

 そりゃあマリアもあんなに過保護になる筈だよ!! そりゃあシスコンになる筈だよ!!

 じゃないとセレナが簡単にどこかに誘拐されるんだもん! 

 あーもうやっさいもっさい!!

 

 

****

 

 

「楽しかったですね、月読さん!」

「あぁ、うん……そだね……楽しかったね……」

 

 セレナとショッピングモールに入った後だけど……そりゃあもう酷かった。

 十秒以上目を離すどころか、一瞬でも目を離すとセレナが元居た場所から消えていて、どこに行ったかと思ったら不審者にどこかに連れて行かれていたりやけに手慣れた不審者に拉致られかけていたり。

 その度に相手を蹴り飛ばして止めるんだけど、その果てにはどこの国の人間か分からない黒服たちが拳銃片手にこっちに来るもんだから、セレナの手を引っ張って人気のない所に誘導してからギアを使って死なない程度にボコったり、更にセレナが何を考えたのかギアを纏ったままどこかに行こうとして全力で止めたり……

 いや、ほんと、なんだろう……

 よく今日まで無事だったよね、セレナ。多分このトラブル体質の果てがネフィリム暴走なんだろうけども……

 でも何故かセレナはそれを殆ど自覚しないもんだから、無邪気な笑顔で楽しかったですねと言ってくる始末。

 セレナは楽しかっただろうけど、わたしはそれ以上に疲れたよ……いやマジで。わたしがセレナの歳の時はもっとしっかり……してたと思う。施設暮らしだったからあまり外に出た事無かったけど。

 ……でもまぁ、セレナが楽しかったんならいいかな。

 さて。

 

「じゃあちょっと自販機で水買ってくるから待ってて」

「はーい」

 

 最後に水だけ買って帰ろうかな。

 今度はせめてマリアも連れてこないとマトモに楽しめないかも。えっと、百円の水買ってっと。

 

「お待たせ、セレ……あれ?」

 

 ……水買うのなんて五秒くらいだったのに居なくない?

 どこに……

 

「つくよみさーん」

 

 ん? なんか上の方からセレナの声が。

 

「つくよみさーん。こっちこっち~」

 

 あ、そっち? えっと、大体斜め上の方向だね。

 えっと…………

 

「つくよみさーん。なんかカラスさん達がわたしの事を~」

 

 …………なんかセレナがカラスの集団に拉致られてる!!?

 

「嘘ぉ!? えっ、ちょっ、待ってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!?」

 

 そしてわたしは、人生で初めてのカラスとの鬼ごっこを始める羽目になったのでした。

 セレナには悪いけど、もう暫くセレナと一緒に出掛けるのは勘弁!!




はい、トラブル体質+超無邪気セレナに振り回される調ちゃんのお話でした。

本当は調ちゃんがVの者になって配信者する、とかそういう話を考えていたんですけど、ちょっと筆が止まっちゃったので先にこの話を完成させました。Vの者を題材にするのはちょっと遅すぎた感がありましてな……

で、自分は勿論調めしを読んだのですが……流石に敵キャラ全員実は生存していましたは草生えました。これ確実に奏さんとかセレナとかマムも生存してますよね。明らかにそういうフラグ経ってますよね。
サラッとオートスコアラーがライブにゲスト参加してるのも草生えましたし。

ですが、公式がそれやるんならこっちだってやっちまえるというもの。オートスコアラーを出したりフィーネ出したりウェル博士出したりキャロル出したりが解禁されたので、そこら辺のキャラを出す話も考えてみたい所。

と言う事でまた次回お会いしましょう。でわでわ。


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月読調の華麗なるゲーム配信

えー、はい。お久しぶりです。

シンフォギアライブ行ってすっごいモチベ上がったんで書けました。という事で実況者時空の話となります。

それでは本編どうぞ。


 今日は実況女神ザババの配信日。なんだけど、今日やるゲームは五人でパーティを組んでプレイできるから、流行りもののゲームに興味があった響さんとクリス先輩、それから編集ばかりしてたエルフナインを加えての大人数配信となりました。

 

『はいどうも、実況女神ザババのクソエイムの方、イガちゃんデス!』

「実況女神ザババのサポ専の方、シュルちゃんです」

『仕事と趣味に挟まれて人生豊かなナインです』

『ナイン含め働いている友人がみんな揃ってワーカーホリック気味、パイセンだ』

『部屋の隅に作った冷房無しの小型防音室で汗だくになって死にそうなビッキーです』

 

 初手の自己紹介が半分事故紹介みたいなもんになってるんだけど?

 まぁ、それに関してはいいや。響さんに至っては、これも修行! とか言って笑顔だろうし、前々から防音室に入ってはいただろうし。

 

『今日はタイトルにもある通り、OW2やってくデスよ』

「パーティの上限が5人だから、ナイン達も連れてきたよ」

『ボク達の事、全員知ってる人って何人いるんでしょうかね?』

『そこそこじゃね? あと防音室の馬鹿は大丈夫か?』

『途中無言になったら察して』

「察してって……前配信してた時はどうしてたんですか」

『普通に居間でやってたんだけど、同居人の子……えっと、コッヒーでいいかな。コッヒーに笑顔で凄まれてね……部屋の隅に防音室をDIYしたんだけど、マジで酸欠と暑さで死にそう』

 

 あー……未来さんから苦情来たんですね……というか防音室、今回の為に用意したんですね。

 そういえばこの間、緒川さんに吸音材の事質問してたような……

 とりあえず、あとでわたし達の方から経費として防音室代は出そうかな。これに関しては必要経費っぽいしね。

 

『小さい扇風機とか置いたらどうデスか?』

『置いたよ? けど、PCの熱と電球の熱で……』

 

 あー……意味無いんですね。

 ちなみにわたし達の部屋とクリス先輩の部屋、エルフナインの部屋は完全防音なのでいくら叫んでも大丈夫です。

 響さんの部屋もそうなんだけど……流石に無関係な未来さんがいるしね……

 あっ、コメントが……えっと、汗だくの女の子で閃いた?

 

『通報したデス。あまりぐだぐだしてるとビッキーさんがリアル昇天するので、早速始めるデス』

 

 そしてマッチング画面へ。

 ちなみにこのOW2はロールがあって、タンク1人、ダメージディーラー2人、サポートが2人で1パーティを構成するよ。

 ちなみにわたしとエルフナインはサポート、切ちゃんとクリス先輩はダメージディーラー、響さんがタンクだよ。

 結構リアルでの戦い方に引っ張られてるってのは否定しないよ。

 とか何とか言ってる間にマッチングしたね。

 

「じゃあわたしはキリコ」

『アナやりまーす』

『ハンゾーでいくわ』

『ウィドウメイカーで頭抜くデスよ!』

『一番槍ことウィンストン、吶喊します!』

 

 基本的にキャラのピックはある程度使って使いやすいか否かで決めてるよ。切ちゃんだけはどれ使っても首傾げてるけど。

 ちなみにランクマじゃなくてカジュアルマッチだから気楽にやれるよ。

 

『よーし、早速頭抜くデスよ!!』

『ゴリラ吶喊!』

『あの馬鹿帰ってこれるかな……』

『ボクが何とか回復するので……』

「わたしも無敵投げる準備だけはしますから……」

 

 ルールは拠点取り。拠点を取って一定時間キープしたほうが勝ちのシンプルなルールだね。

 で、開始も各チーム同時。だから足が速いと結構詰めれたりもするんだけど……響さんの使うゴリラことウィンストンが凄い勢いですっ飛んで行った。

 多分死ぬでしょう……と言いたいけど、ドームファイトしてる響さんをわたし達で何とか回復しないと各個撃破されて負ける。

 ちなみに響さんにはラインハルトとかも使ってもらったんだけど、あの人の性格的に合いませんでした。

 わたしは何故か巫女がしっくりくるんだよねぇ……

 あっ、ヒールヒール。

 

「ビラくばり〜」

『ヤバい、10枚単位でビラをポケットに突っ込まれてる』

『リアルでこんな感じでホーミングビラされたらキレますよね。とりあえず毒投げときます』

『ホーミングビラってすげぇワードだな。うっし、リーパー抜いた。タンク殴るぞ』

 

 ちなみにこのパーティ、クリス先輩のハンゾーと響さんのゴリラが生命線です。

 クリス先輩は凄いエイムが上手いからヘッドショット沢山決めてくれるし、響さんは謎に生き残るし。で、わたしとエルフナインがそれを全力サポート。

 切ちゃん?

 切ちゃんは……

 

『狙い撃つデス!』

 

 パーン!

 

『は?』

 

 パーン!

 

『は?』

 

 パーン!

 

『は?』

 

 パーン!

 

『は?』

 

 パーン!

 

『は?』

 

 あっ、やばっ、ソジョーンがこっち見て……あっ、切ちゃんが見られた。

 

『だあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!?』

 

 切ちゃんのウィドウメイカーがソジョーンのレールガンに頭抜かれたね……

 ちなみにコメントだと切ちゃんのこのクソエイムは失明した尾形百之助とか銃口がひん曲がった次元大介とかインフルエンザの時のゴルゴ13とか銃の才能を消し去ったのび太とか呼ばれてるよ。

 

「イガちゃん、よくウィドウメイカー続けられるよね……」

『頭抜いたとき気持ち良すぎるのが悪いんデスよ』

『ぜってーキャスディとかの方がいいだろ』

 

 個人的に切ちゃんにはウィドウメイカーよりもゲンジとかリーパー使ってもらいたいかな……後ろで芋られて狙撃外されるよりかは活躍できるだろうし……

 まぁ、そんなお荷物がいても笑ってやれるのがカジュアルのいいところ。

 

『そしてここでアタシの空き巣』

『おっ、いい空き巣いい空き巣! いよっ、プロ空き巣!!』

『空き巣の達人ザドリームマスター』

『空き巣がいっちゃん気持ちいいんだよな。よし取れた……あっやべっ、警察来た! 三枚くらい警察来た!』

『ここであたしの狙撃デス!!』

 

 パーン!

 

『はい負け』

 

 パーン!

 

『負け』

 

 パーン!

 

『負け』

 

 パーン!

 

『負……ほっ!? 当たった!!? 当たったデス!!』

 

 ズガーン!

 

『うおあああああああああああああああ!!?』

「何しに来たのイガちゃん……あっ、二連ヘッショで落とせた。ラッキー」

『こっちも寝かせました! パイセンさんもナイスショットです!』

『これ詰めよう! イガちゃん居ないけど詰めよう! もう全力の笑顔で歯茎出して四人で詰めよう!!』

『ここでアタシの歯茎ウルト』

「ついでにおきつねさまー」

『合わせるしかない! 本能覚醒! ジャングルの王者、ジュウオウゴリラ!!』

『色々と間違ってるデスよ!?』

 

 脳死でゲームしてるとこういう会話するよね。まぁ、わたしと切ちゃんは脳死すると口数少なくなる。

 ちなみに響さんはなんかネタに走るしクリス先輩は変なこと言い出すんだよね。

 

『わたしは歌えば強くなる! と言う事で歌います。ビッキーで動物戦隊ジュウオウジャー。はーるーかー! おおぞーらーへ! 自由ーに羽ばたくー!

『著作権的にこれ大丈夫デスかね……? まぁ、駄目だったら著作権元にお金が行くので許してほしいデス』

「ってかこの人マジで人の配信で好き勝手しやがるよね……」

イーグル! シャーク! ライオン! エレファント! タイガー!

『あっ、ちょっ、回復間に合わな』

本能! 覚醒!! 最強の王者ジュウオウジャアアアアアアア!!?』

「この人好き勝手歌ってそのまま落ちたんだけど!!?」

『わたしはジュウオウザワールドを推します』

「聞いてない!」

『そしてアタシはロビンフッドが好きなので、仮面ライダーゴーストより我ら思う、故に我ら在りを歌います』

『あなたはツッコミなんデスからボケに回らないでほしいデス!!』

同じ時代に今出会えたなーかーま達よ! 我ら思う故に!! アタシ死んだ!!』

『とっととグレートアイで生き返ってくるデスよ!! ちょっ、これ三人はムリムリムリムリムリ!!』

「ここからわたしが生き残れることは不可能!」

『愚かそす』

 

 はいはいデスワイプデスワイプ。

 っていうか響さんとクリス先輩はっちゃけ過ぎじゃない? 切り抜き確定の場所多すぎるんだけど? というかなんか一瞬エルフナインに声帯経由で違う人入ってなかった?

 とりあえず10秒くらいでリスポーン。五人で一気に前に……ってやばっ。相手も歯茎出してこっちの入り口まで押してきてる。

 どうしよっかなこれ。おきつねさままだ溜まってないしなー……

 

『ここはあたしの狙撃に任せ』

 

 ズガーン!

 

『…………』

 

 バンバンバンバン!!

 

『んー……おい馬鹿、前出れるか?』

『まっかせてー。ドームファイトするから回復はお願いね』

『はーい』

「あなたの懐にビラを詰め込む企業、ザババ」

『あっビッキーです』

 

 言っといてなんだけどどんな企業?

 で、わたしが遮蔽に隠れつつクナイ投げてると、響さんが一気に前に出て相手の陣地を荒らし始める。

 すぐにわたしが回復してエルフナインとクリス先輩が少しずつ敵を削って切ちゃんがソジョーンに頭ぶち抜かれてる。まぁ、うん……ソジョーンのワンパンがこっち来ないならいいよ、うん。

 で、ちまちまやってたらエルフナインが敵のリーパーを眠らせてクリス先輩がヘッドショットでキル。さらに切ちゃんが珍しい事にソジョーンにカウンタースナイプを決めた。

 一気に枚数有利になったので一気に詰める。

 丁度わたしのウルトが溜まったしね。という事で。

 

「ここでおきつねさま」

『いいウルトいいウルト。このまま拠点取れそうかな?』

『ここ取れたら後はオーバータイムさえどうにかすりゃ終わりだな』

 

 で、その後の展開としては命を賭して時間を稼ごうとした人達の吶喊を捌いてわたし達が一本。

 今回のルールは二本先取なので、そのまま次のゲームへ。

 で、二本目は。

 

『ちょっ、無理無理無理!! 流石にやり過ぎた無理無理無理!!』

『ビッキーさん戻って! すぐ戻ってください!』

『言ってること分かるけどムーリームーリー! 履かせるオムツムーリーマン!! あ゛っ』

『それムーニーマンじゃね? って頭抜かれたクソがぁ!!』

『ここであたしのヘッショが……はい無理デース。身の程わきまえまーす』

「どうして……どうして……」

 

 珍しく響さんがやらかして取られました。

 で、三本目。キャラピックだけして待機中。

 

『……ねぇ、ふと思ったんだけど』

『なんデス?』

『日本のゲームとかって結構ほら……非現実的なレベルで胸が大きかったり美少女じゃん? でも外国産のゲームってそうじゃないなぁって』

「海外の人って凄い大人っぽいですから、そこら辺の感覚が反映されてるのでは?」

『なるほど。でもわたしはおっぱい小さめの元陸上部系の子が……うわやっべ、防音室の外からとんでもない殺気が』

 

 未来さんの事ですね、わかります。あの人もどっちかと言ったらわたしと翼さんの同類だし、そういう話題は結構NG。

 というか何故急に地雷を踏みに行ったのか……

 まぁいいや。

 とりあえず3本目、いってみよー。

 

『よーし、一番槍、再びとっか』

『ちょっと【ピー】!? さっきからすっごいうるさいしちょーっとさっきの言葉について色々と聞きたいことあるんだけどぉ!!?』

 

 あっ。

 

『げぇっ、【ピー】!!? いや、ちょっとこれは色々とありまして……ってマイク入ってる!?』

『いいからこっち来て色々と話し合うわよ! 誰の胸が【ピー】ちゃんみたいにまな板ですって!?』

『言ってない言ってない!! しかもおもっくそ失礼なこと言ってるよ!? ほらマイク越しに聞こえてごっふぁあ!!?』

 

 …………

 えっと……なんか人が殴られて吹っ飛ぶ音が聞こえましたね……

 

『……ぴ、ピー音ナイスデス、ナイン』

『ど、どうも……』

 

 エルフナイン特性、装者とその関係者の本名が出ちゃった時、リアルタイムでピー音被せるプログラムが役に立ったね……

 

『親フラならぬ同居人フラかよ……ってかあいつマジでどこか連れてかれたか?』

「みたい……ですね。なんか凄く小さく説教だったり殴られてる音聞こえてきますし。あっ、イガちゃん、ディスコでビッキーさんだけミュートにしておいて」

『やったデスけど……コメントが大草原なんデスけど。ってかあたしも普通に笑いそうなんデスけど』

『ボクもマウスぷるっぷるですよ』

『ちょっ、ごめん、暫くミュートするわ。マジで笑いそう』

 

 ちなみに既に三本目は始まってるよ。始まってるけど……響さん、なんかすっごい殴られてる。すごいサンドバッグにされてる。でもってわたし以外の全員が一斉にミュートした。ヘッドセット外してみると部屋の外から切ちゃんの大爆笑の声が。

 わたし? わたしは笑ってないよ?

 ただ、未来さんとは今度お話かなぁ……誰かの胸がまな板とか言ってたしね。絶対殴る。あの人も大して変わんないでしょうが。怒りのせいで口角よりもコメカミがピクピクしてるよ。

 で、三本目に関しては流石に常時タンク落ちで数人マウスぷるっぷるなので勝てるわけもなく。

 負けてから暫くロビーで待っていると。

 

『あの……大変長らくお待たせしました……』

「あっ、ビッキーさん帰ってきた。イガちゃん、ミュート解除」

『了解デス。ビッキーさん、何か一言』

『えー……防音室の扉半開きでした。そりゃ外に聞こえるよね色々と……で、お仕置きされてました。前が見えねぇ』

 

 あぁ、うん……ご愁傷さまです。

 というか、さっきの外から殺気云々って未来さんの勘が良かったとかじゃなくて単純に外に聞こえてたんですね。

 とりあえずこの後は響さんがしっかり防音室の扉閉めて音が漏れないのを再確認してからの再開となりました。

 

 

****

 

 

 後日。

 

「えっ、あれって録画とかじゃなくて配信だったの!? うそっ、わたしの声入ってた!?」

「思いっきり入ってましたよ」

「しかもその時の切り抜き、とんでもない勢いで伸びてるデスよ。ほら、もうこんなに」

「ちょっ、恥ずかしいから消してよ!?」

「嫌です」

「ひどい!」

 

 偶々リディアン組でファミレスにご飯食べに行ったんだけど、そこで響さん折檻事件の事が話題に出た。

 ちなみに、今回のご飯はわたし達の奢り。響さん達のおかげで結構広告収入入ったしね。いつもの撮影協力代だよ。

 で、あの折檻事件は未来さんが今回の件は多分動画撮影だろうから乱入しても問題ないだろうと思ってやった事らしく、配信されてるとは思ってなかったらしい。

 ただ……あの日のアレ、エルフナインに切り抜きしてもらったらすっごい伸びてさ。切ちゃん悲鳴集に並ぼうとしてるんだよね。

 

「も、もしかして響の名前とか配信で出ちゃった……?」

「そこはエルフナインちゃんの謎プログラムでモーマンタイだってさ、未来。ただ、調ちゃんは分かったっぽいよ?」

「え? 分かったって……」

「ねぇ未来さん。誰の胸がまな板ですって? 名前はビー音で伏せられましたけど。ねぇ未来さん?」

「………………」

 

 未来さんが黙った。

 

「……切ちゃん。今日の食事代、未来さんに払ってもらおうか」

「えぇっ!? 無理無理無理!! 謝るからそれだけは! というかそもそもの発端は響だよ!?」

「発端は響さんでも地雷踏んだのは未来さんなので」

 

 暫くこの事で未来さんをじーっと見てたけど、まぁ流石に急に食事代奢りとかはやり過ぎなので、今度クレープ奢ってもらう話を付けてこの日はわたし達の広告収入から払いました。




ちなみに作者はOW2やってはいますが、ほぼにわかです。

と言うことでだいぶ久々に投稿しました。前の投稿日は……考えないようにします。

ちなみに装者&エルフナインの会話は自分と友人の会話だったりとある動画投稿者の方の配信が元ネタになってたり。

これからは少しずつ更新できるようにしていきたいですね、という事でまた次回お会いしましょう。


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