司波家の長女は何をする? (孤独ボッチ)
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入学編1

 星を呼ぶ少女で、ほのか達のあられもない姿を見て
 発作的に気分転換がてら書いたものです。
 
 メインでないので、連載間隔は遅いと思います。


               1

 

「納得できません!どうして()()()やお兄様が補欠なのですか!」

 達也に深雪が詰め寄っていた。

 試験結果は、まあ深雪が1位だったよ。

 深雪が負けるとすれば、私みたいなチート転生者ぐらいなものだろう。

 

 そう、私は転生者である。

 適当に特典をお願いしたんだけど。まさかこんな事になるとはね。

 私は司波家の長女として転生したのだ。

 因みに、達也と深雪が双子として生まれている。

 

 司波深景。それが今の私の名前です。

 男に生まれるっていうのも興味あったんだけど、言い忘れたんだよね。

 別に、百合な訳じゃないけど、ほのかとにゃんにゃんしたり、雫をモフモフしたかった。

 ま、そんな事したら嫌われるかと、前向き?に考えている。

 容姿の方は、深雪と比べれば地味だけど、よく見れば整っている。

 だけど、幼い時に()の制御ができなかった関係で、眼鏡を着用していた。

 それが、今ではライナスの毛布みたいになって、手放せない。

 野暮ったい黒縁眼鏡です。

 

「深雪。俺は試験結果に納得している。我ながらよく合格できたと思うよ」

 達也が宥めるように深雪にいう。

「そんな覇気のない事で、どうするのです!?」

 達也がチラチラこっちを見てくる。

 私に振るな、私に。

「実技は兎も角、筆記はお兄様とお姉さまがトップではありませんか!?」

「深雪が、どうして姉さんや俺の成績を知っているかは、敢えて訊かないが、魔法科高校なのだ

から、実技が優先されるのは仕方ない事だ。分かるだろ?」

 相変わらず、この二人兄妹に見えんわ。

 私は少し、距離をおいて見物中だ。他人のフリ他人のフリ。

「お姉様もです!今からでも抗議に参りましょう!」

 だからさ。抗議の余地ないから。全く完全無欠にないよ。

「深雪!」

 達也が少し強い調子で窘める。

 深雪がビクッと体を震わせると、ようやく口を閉じた。

「どうしようもない事なんだよ」

 一転して、優しい声音でいう。

 流石、ジゴロ。お姉さん君の将来が心配だよ。

「でも!お兄様は本来なら!…」

「深雪」

 静かだが、それ以上の発言は許さない厳しさを含んだ声に、深雪が再び口を閉ざした。

「それこそ、いってもどうにもならないんだ」

 

「すいませんでした。お兄様」

 

 もう、私、講堂の方に先行っていいかな?私、完璧に空気じゃん。

「と、いっても姉さんに関しては、姉さんが手を抜いたと思っているけどね」

 あれ?矛先がこっちに向いたぞ?

「ですよね!?」

 折角、落ち着いた深雪が再びヒートアップし出す。勘弁してくれ。

()()()()を誤魔化せるとでも?」

 私は大した事がないように見える筈だ。達也の目でも。

 

 私の特典は以下の通り。

 ①世界の根源にノーリスクでアクセスできる目。以下天眼。

 (幼い頃これが制御できなかった)

 ②アクセスした技術・魔法をそれ以上のレベルで使いこなす才。

 ③魔法特性として、概念レベルでエネルギー操作・遮断・切断ができる。

 (分かり易くいえば、一方通行(アクセラレータ)の能力に操作・遮断・切断ができると思って)

 以上だ。

 

 神様が私に三つだけ、魔法のランプに因んで叶えてやるといわれて頼んだもの。

 まあ、三つっていっても、これはズルだわな。

 他の人間には使えないからね。

 因みに、私の四葉での地位はない。表向き達也のような特殊な魔法特性もないしね。

 ショボい奴はいらないという訳だ。公式には達也の補佐…かな?

 

「いや。俺の勘だけどね」

 アッサリと達也は、そういって引き下がる。

「まあ、深雪はそろそろ打ち合わせに行っといでよ。あれが私の妹だって自慢させて?」

 深雪が頬を赤くして俯いてしまった。

 そういう反応は、達也だけでいいよ。まあ、嬉しくない訳じゃないけどさ。

「そうだね。ダメ兄貴にも深雪の立派な姿を見せてくれ」

 達也は私の方を苦笑いで見てから、深雪にとろけるような笑みを向ける。

「い、いやだ。御二人共、私しか見えないなんて…!!」

「「……」」

 出たよ。セリフ脳内改変。

 達也は内心の不可解をスルーして、私はそっとしておこうの精神でスルーした。

 

 深雪がテレテレでくねくねしていたが、私達のプッシュでようやく打ち合わせに行った。

 

 深雪が身を翻して講堂へ入って行く。

 その制服には、校章が入っていたが、私と達也の制服には校章が入っていなかった。

 

 お決まりだから、いっとくか。

 

 国立魔法大学付属第一高校。ここに入学を許された時点で魔法という才能を、認められた

エリートである。だが、この学校には入学した時から、優等生と劣等生が存在する。

 

 

 

 えっ?本来なら追憶編辺りから始めるべきじゃないのかって?

 小さい頃なんて、私にとっても黒歴史なんだよ。

 必要が出たら、語る事にするよ。

 それこそ、追憶編とかに。

 

 深雪をどうにか、打ち合わせに送り出し、私と達也は2人で並んで歩いていた。

「一緒で大丈夫かな?」

 達也が私を見ながら、そんな事をいった。

「何?達也も女の子と一緒に歩いているのが恥ずかしい?深雪とほぼ一緒にいるクセに変な

事、気にするね」

 私は揶揄うように達也を見た。

「いや…。そうじゃなくて…」

 視線を逸らした。ん?何?

「深雪に文句を言われそうだな…」

 は?私がいわれるなら分かるけど、達也が文句いわれる?何それ?

 まっいいか!

「恥ずかしくないなら、エスコートして下さる?」

 ニッコリといってやる。

 達也が苦笑いしつつ、片腕を開けてくれる。

 私はそっと腕を組んだ。

 二人で笑顔で歩いていく。

 

「ぷっ!何アレ!才能ない者同士、お付き合いってわけ?ダッサ!」

「聞こえるよ?ぷっ!」

 向こうから来た上級生の女の嘲笑が聞こえてくる。

 

 悪いね。実はアンタ等より実力上だわ。全然、気にならんわ。

 だが、意外な事に達也が不快げにしていた。

「達也。いいから」

「俺だけならいい。でも、姉さんが馬鹿にされるのは耐えられない」

 そう、原作では深雪だけに向けられていた愛情の残りは、私にも振り分けられている。

 私に使わせてしまって申し訳ない。

 叶うなら、ほのかにでも分けてあげたい。

 今は妹だから、深雪を可愛がっているが、私はほのかと達也がくっついてくれればと

思っている。恋じゃ、足りないから愛になった時、私はほのかに協力する。

 どう転んだとしても、あの天パにほのかを渡すのは御免だぞ。

 

 仕様がないので、人目に付かない場所に座って時間を待つ事にする。

 お互いに読書。

 会話はない。

 いいけどね。

 私の方はメールチェックもする。

 いくつか、私宛に依頼が来てるな。

 実は私は根源からの知識を漁って、漫画・アニメの知識も動員して刀匠をやっている。

 ええ、趣味です。でもプロです。

 因みに、工房は家の最下層で構えている。

 今では、九字光虎の銘で仕事をしている。実はこっちで有名人です。

 達也同様本名は隠しているが、どうしても隠匿しないといけない訳じゃないので、達也の

シルバーほどブロックしている訳じゃないけどね。

 錬金の方にも手を出していて、実は凄い金属を再現したのだが、達也に見せたら外に出せ

ないといわれた。仕舞には軍事物資扱いになった。おい!

 

 ただ、ちょっとヒヒイロカネを再現しただけじゃないか!

 

 お陰で私まで、魔装大隊に所属させられることになった。

 迷惑を掛けてすまん。弟よ。

 

「あら?」

 何やら聞き覚えのある声に、私は顔を上げると、そこには何故か七草真由美が立っていた。

 

 

               2

 

 人目に付かない場所というだけあって、ここは偶々入り込んでくる場所じゃない。

 何故に?アンタ打ち合わせは?

「御免なさい。先客がいるとは思わなくて…」

「いえ。こちらこそ失礼しました。すぐに退きます」

 先輩のようだし、座ったままは不味いと思った達也が、すぐに反応する。

 七草先輩は慌てたように、手を振って退かなくていいと告げている。

「いえいえ、いいのよ」

 さて、どうするか。私は達也と顔を見合わせる。

「ここ、エアポケットみたいに人が来ないものだから、驚いてしまったのよ」

 七草先輩が苦笑いしつつ、そんな事をいった。

「貴方達は新入生ね。私は七草真由美といいます。数字の七に草で七草(サエグサ)といいます」

 達也は表情を変えない。

「自分は司波達也といいます」

「司波深景といいます」

 七草先輩が、ああっという感じで納得したような顔をした。

「筆記試験でトップだった御二人ですね?」

 原作でも思ったけど、よく覚える気になるね。

 

「会長ぉぉぉ~。どこ行っちゃったんですか~」

 気の抜けた声が響く。

 小っちゃい子供みたいな声だよね。

「ね?分からないでしょ?それでは」

 そういって七草先輩が来た道を戻って行った。

 

「七草。十師族だね」

「そうだね。一度も十師族から落ちた事がない名門だ」

 

 この時、私は気付いていなかった。あのお姉さまが、私の人生に執拗に絡んでくるとは。

 

               3 

 

 入学式まで、まだ少し時間があるけど、私達は講堂に入った。

 前半の席が優等生(ブルーム)、後半の席が劣等生(ウィード)という具合に、原作通りに分かれている。

 お見事な分かれ方で。

「空いている席は、後ろだね」

「そうだね」

 私達は揃って腰を下ろす。

 通路側が達也で私は内側だ。

 

 少しして、目の前に二つの脂肪がブルンと視界を塞ぐ。

「あの、お隣。いいですか?」

 そこにいたのは、柴田美月さんその人だった。

 スゲェ。ついこの間まで、中学生ってボリュームじゃないよ。

 私も深雪に勝ってるのは、表向き胸の大きさだけだから、大きい方だけど。

 これは破格だわ。

 肩凝り凄いだろうな。お気の毒に。

 可愛いから男のエロ視線も浴びただろうし。

 

 私は隣の達也を見て、訊いてみる。

「どう?」

「構わないよ」

 達也はあっさり頷いてくれた。

 それを確認した美月の後ろにいた女の子達が、座り出す。

 当然のように、そこには千葉エリカも混じっていた。というか美月の隣だ。

 座り終えた面々は、そのまま自己紹介の流れへ。

「私は柴田美月といいます」

「私は千葉エリカね」

 他の女の子三人も自己紹介した。

「私は司波深景」

「自分は司波達也だ」

 最後に私達が名乗る。

「もしかして、姉弟?」

 エリカが興味深そうに訊いてくる。

「うん。まあね」

 もう1人いるけど。妹が。

 頻りと感心してから、エリカが例の発言をした。

「でも、これは大した偶然だね。司波に柴田に千葉だよ!語呂合わせみたい!」

 女の子達も凄~いと喜んでいる。

 これ、そんなに面白いか?

 

 それから、入学式は恙なく終わった。

 深雪の発言はかなり際どかったけど、良かったと思う。思いっきり拍手したよ。

 深雪も気付いたみたいで嬉しそうだった。

 

 姉バカだよ!文句あるか!

 

 

              4

 

 今日は、このまま終了だ。

 エリカ達に校内を見て回らないか誘われたけど、今日は帰宅致します。

 二人だけで行ってくればいいのに、二人も今日は一緒に帰るというので、一緒に待つ。

 待つのは勿論、我が妹・深雪である。

「お待たせ致しました。お姉様、お兄様」

 私もいるので、辛うじて深雪はデート云々はいわなかった。

 しかし、名立たる生徒会長と副会長を引き連れている。

「深雪。生徒会の方々の用事は済んでいるのかい?」

 達也が訊くと、深雪は思い出したようにハッとした。オイ!

「申し訳ありません!」

 深雪は慌てて頭を下げる。

「いえいえ。いいんですよ。今日は挨拶に伺っただけですから」

「会長!」

 七草先輩の言葉に、範蔵君は慌てる。

 七草先輩は、範蔵君をガン無視し、また後日といって去って行った。

 何故か、達也だけでなく私までガン飛ばされたけど。

 達也は例によって、不愉快そうな顔をしていた。

 私は宥めるように、達也の腕をポンポン叩いてやった。

 

 エリカ達と深雪は友達になったよ。

 

 

              5

 

 クラス分けの発表。

 女の子達とは原作通り別クラス。

 だが、私というイレギュラーを含み、主要キャラ全員E組となった。

 吉田幹比古君ボッチ。

 私と達也は高速でタイピング中。

 カリキュラムを検索中。

 完了。嘘です。

 因みに席は私の後ろに達也がいる感じだ。

 この時代。姉弟は別クラスとか席が離れるとか、配慮はないらしい。

 

「スゲェな」

 感心したようにガタイのデカい男の子が、私達の前に立っていた。

 西城レオンハルト君である。

「キーボードだけで入力なんて、初めて見たぜ。しかもスゲェスピード」

 まあ、今はちょっと考えるだけで、PC操作出来る世の中だからね。

 技術革新は凄い。

「俺は西城レオンハルト。レオって呼んでくれ!」

 気さくな人ですな。初対面の達也と握手。

 私には片手を上げて、ご挨拶。

 オッス!

 私達も自己紹介して、名前で呼んでいいといっておいた。

 

 エリカとレオ君は痴話喧嘩していた。あの二人将来、絶対付き合うね。

 原作じゃ、そこまでいってなかったから勘だけど。

 

 

              6

 

 昼食を食べていた時の事。

「ご一緒していいですか?」

 深雪がやってきたけど、一科生に邪魔される。

 レオ君に、深雪を紹介出来た。

 

 事あるごとに、一科生に邪魔される。

 

 イラッ。ストーカーか、アンタ等は。

 

 そして、遂に爆発。美月が。

「いい加減にして下さい!」

「俺達は司波さんに相談があるんだ!」

 そういうのは、先生にしろや。

 エリカとレオ君からの援護射撃で、一科生ヒートアップ。

「深雪さんは、お姉さん達と一緒に帰るっていってるんです!何の権利があって邪魔する

んですか!」

 一科生も切れ気味。

「邪魔はお前達だろ!ウィードの分際で!!」

 エリカ・レオコンビの表情が変わる。

 だが、ここに先手を打つ強者が一人。

「…同じ新入生じゃないですか…現時点でブルームの貴方達がどれだけ優れてるっていうん

ですか!」

 ああ、いっちゃったよ。

「…どれだけ優れてるって?知りたいか?」

 因みに、この子森崎君だね。アニメでは可哀想な顔改変をされた人物。

 こっちでは二枚目(死語)だよ。

「じゃあ、教えてやるよ!」

 他の一科生が後退る。

「お兄様!」

「ああ。不味いな」

 

「面白れぇ。教えて貰おうじゃねぇか」

 レオ君がいつでも突っ込めるように、構える。

「これが、才能の差だ!!」

 素早く抜き撃ちしようとしたが、CADが反応しなかった。

 

 突っ込もうとしたレオ君が、思わずつんのめる。

 エリカは伸ばした警棒を所在なさげに、下ろした。

 

「!!」

 森崎君は、慌ててCADを弄っているが、無駄だ。

 私がCADにサイオンがいかないようにしてるからね。

 

 ここで失敗!?

 

 一科生もドン引きである。

 

「え~と。CADぐらいちゃんと整備した方がいいよ?」

 エリカが呆れたようにいった。

 

 森崎君、顔が真っ赤である。

 

「何を騒いでいるのです」

 七草先輩が、渡辺お姉様を連れて来たみたいだ。

 魔法は不発だったし問題ないでしょ。

 感謝したまえよ。森崎君。

 

 上級生による指導後、白けたのか一科生の連中も去って行った。

 ほのかと雫は、居残ってるけど。

 森崎君はお友達に慰められている。友達に恵まれたね。

 

 視線を感じたので、見ると視線の主は、達也と七草先輩だった。何?

 

 こうして私達の最初のトラブルは、微妙な感じで幕を下ろした。

 

 

 

 




 気分転換に書いたものなんで、すいませんね。


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入学編2

 え~。一話の修正をしました。
 あそこで、入学終わっちゃいかんがね。
 範蔵君の名前もね。


 それでは、お願いします。


               1

 

 一科生の連中が白けて、上級生に窘められて退散し、私達だけが残った。

 これで達也が、風紀委員会に呼ばれる事もないでしょう。

 何故か、上級生コンビは居残っているが、気にしない。

 さて、撤収~。

「…何故魔法が発動しなかった?何をした?」

 渡辺お姉様は、鋭い視線を私達に向ける。

 そんな目してたら、彼氏に嫌われちゃうよ?

 見てたなら、不思議だろう。()()()()()()()()()()()()()()()()()

 だが、説明は簡単だ!

「彼も男の子ですからね。綺麗な女の子や可愛い女の子の前で、格好よく決めたい

という気持ちがあったからでしょう。気負い過ぎたんですね」

 なんかジットリした視線を、仲間達から受ける。なんで?

「お惚けか?」

 尖った声を出すお姉様。

 失礼な。

 あの年頃の男の子には、重大な事ですよ!

 イケメンエリート彼氏持ちの勝ち組には、分かるまい。

「まあまあ、摩利。もういいじゃない。気負い過ぎ、そういう事よね?深景さん?」

 何故、私に確認を取る。

「勿論です!」

 断言できる!あの年頃の男は、エッチな事しか考えていない!

 今度は我らの友が、私の言い分に白けていた。え?一般論でしょ?

 納得できなさそうなお姉様を引き摺って、七草先輩は去って行った。

 

 去って行く上級生コンビを、エリカが睨んで見送った。

 

 

               2

 

 さて、今度こそてっしゅ…。

「あの!迷惑掛けてすみませんでした!」

 そうだ。君達が残ってたね。

 声の主はほのかちゃんである。

 親御さんは誇りに思うべきだね。いい子だもん。思ってるか。

 そして、雫もちょこんと頭を下げた。可愛いな。

 一緒に帰ろう!ということになった。

 素直に謝ってくれたしね。私達はそこまで大人げなくないよ。

 他のみんなも、友達になった。

 私達、司波家一同は、名前で呼んでもらう事に決定したよ。三人もいるしね。

 

 こうして、私達は帰り道に、魔法士あるあるで盛り上がり、CADとかどうしてる?

という話題に移る。

「じゃあ、深雪のCADは、達也さんが調整してるんですか!?」

 ほのかが目をキラキラ輝かせている。

「ええ。お兄様に調整して頂くのが一番だから。お兄様がいらっしゃらない時は、

お姉様にやって頂いてるけど」

 そう、私はサブだ。

「へぇ~。二人してCAD調整できるんだ!」

 エリカが感心してる。

 それから、レオ君、美月が達也を褒める。

「じゃあさ!私のも見てよ!」

 エリカが冗談交じりにいう。

「俺には無理だ。特殊過ぎる。そういうのは、姉さんの領分だ」

「深景の?っていうか、流石だね?これがCADだって分かるんだから!」

 エリカはニヤリと笑って警棒を取り出した。

 達也も迂闊な反応をしたとばかりに、黙り込む。

 エリカは、それを見て満足したのか、追及はしなかった。

「じゃあ、深景!ちょっと見てよ!」

 私は仕方ないので警棒を受け取る。

 そして、一通り調べ、最後にサイオンを流す。

 

 私はエリカに警棒を返却した。

 

「それ、弄ったら角立つでしょ?」

 私の言葉にエリカが目を見開く。

「分かるの?」

 意外と意地が悪い子ね。

「多分、エリカの親しい人が送ってくれたものじゃない?私が調整すると

三分の一くらい刻印変更するよ?刻印の出来はエレファント」

「え!?象?そんなに刻印、変えるの?」

 エリカが不可解な顔で、自分の警棒を見ている。

 プロですから、自分が納得する仕事となるとそうなる。

 原作で刻んだ人も知ってるけど、まだまだだね!

「だからいったろ。そういうのは姉さんの領分だ」

 達也そういって締め括った。

「もしかして、この学校。一般人の方が少ないんでしょうか?」

 美月がズレた事を呟く。

「魔法科高校に一般人はいないと思う」

 雫からの容赦のない突っ込みが、美月を襲った。

 

 

               3

 

 我家にて、寛ぎ中。

 

 達也は隣で携帯端末を弄っている。

 私も次の刀の構想を纏める為、端末を弄っている。

 自分の部屋でやれって?これが我家のコミュニケーションです。

「姉さん。どうしてエリカのCADが親しい人からだって、分かったんだい?」

 ほらね。

「刻印の仕方。しつこいくらい安全重視で刻まれてたから。その所為で、少し流れが悪くなって

たりしたからさ」

 少し達也が呆れるように、苦笑い。

「普通、刻印をその歳で、()()()()()()()()高校生はいないよ。しかもエレファントは酷い」

 エレファント。

 数学で美しい証明の事をエレガント。不格好な証明をエレファントと呼ぶ。

 刻印は、正解は一本道。

 美しく纏まる。あれは見事な部類に入るけど、美しくない。

 確かに好みもあるけど、目的がハッキリしている場合は、同じところに辿り着くのだ。

 それが、刻印とCADプログラムの違いといえる。

 エリカの立場なら、私が間違っていると思うだろうね。

 それでも別に構わない。職人として真っ当に評価しただけだし。

 

 私と達也が意見交換をしていると、深雪がキッチンに直行していった。

 でも、様子が可笑しい。

 私は達也とアイコンタクトをとる。

「深雪。どうかしたのか?」

「あの人達から、連絡がありました。入学祝いだとかで…それで御二人には?」

 キッチンから深雪が固い声が返ってくる。

 ああ、それでか。

「いつも通りだよ」

「以下同文」

 キッチンから深雪の冷気が漏れる。勿論、比喩じゃないよ!

 キッチンが痛むから!止めてぇ!深雪の魔法は、現代の備えでさえ破壊する。

 達也が立ち上がろうとするのを止めて、私がキッチンに行った。

 深雪の身体から冷気が漏れ、辺りが凍り付いている。

 仕様がない子だね。

 私は近付いていくと、深雪の肩に手を置いた。

 暴走を止めてやる。私もこれくらいは出来る事にしている。

 制限した力でやると、手が霜焼けになるけど。

 キッチンが復旧していく。

「落ち着きなさい。深雪」

「でも!」

「私も達也も、仕事を本格的に手伝えといわれたのを無視したわ。喜ばれるとは思ってない。

逆に祝いなんて今更きたら、それこそ気色悪い」

 私の物言いに、深雪が苦笑いを浮かべた。

 取り敢えず、感情面でも落ち着いてくれたみたい。

 よかったよかった。

 私は深雪の頭を撫でて上げた。

 深雪は、子供扱いなさらないで下さいとか、ボソボソいってたけど、顔が真っ赤だった。

 毎度、思うんだけどね。この反応どうなんだろうか。()()()()()()()()()

 実は私も錬金術関連でFLTに協力している。

 そのお陰で、実用化した技術もある。

 うちの宿六親父は、私にも進学せずに仕事を手伝えといってきた。

 私は私で、仕事があるわ!という意味の断り文句をいってやった。

 遣り取り終了になった。諦めるの早っ!有難いけどね。

 

 落ち着いた深雪を入れて三人で、珈琲を飲んだ。

 こんな感じで夜が更けていきます。

 

 

               4

 

 達也が、朝練に出掛ける。

 九重寺へ。

 深雪と一緒に同行する。

 私も長女として、弟がお世話になっている関係で、八雲さんに挨拶しなきゃいけない。

 高校入学の挨拶です。正直いらんと思うの私だけ?

 深雪は()()()()()()()()()()()()、私と達也は()()()()()()

 深雪が先に門を潜る。

 続いて達也が入った瞬間に、坊主に襲われた。

 達也は、体術のみで捌いていく。

 これは稽古なんです。腐女子が喜ぶ展開ではない。そして、私は腐ってはいない。

 深雪と共に、達也の戦い振りを見守る。

 と、接近してくる怪しい気配が。

「深雪君、深景君!」

「先生!」

 お約束通り、深雪が声の方を振り返るが、誰もいない。そっちじゃないよ。

 私は、深雪の頬に触れようにするセクハラ坊主の指を掴んだ。

「あたたたた!」

 私に指を掴まれ、痛がるセクハラ坊主。

 大袈裟な。私が手を放すと、ワザとらしく指をフウフウしている。

 いい大人がやると引くわ。

「…相変わらずキツイね。深景君」

「変わらないのは、八雲先生もですよ」

 いい加減、少し悟りに近付いて貰いたい。アンタ忍びの前に坊主だろ。逆?

「ご無沙汰しております。先生」

 深雪が礼儀正しく礼をする。

「これだよ!深景君。僕が求めているのは!」

 そうですか。

 相手にして貰えないと分かり、深雪に向き直る。

「う~ん。それが第一高校の制服かい?初々しくていいね!」

 私がいるので、原作のようなトチ狂った行動には出ない。

「ありがとうございます」

 そう。深雪だけ制服で、私はジャージだ。

 

 が、原作通りの展開もあった。

 

 八雲さんが、突如振り下ろされた手刀を防ぐ。

「総当たり稽古。終了しました。師匠」

 達也が後ろから攻撃を加えたのだ。見ると坊主が死屍累々である。

 八雲さんがニヤリと笑う。

「やるねぇ。達也君。お姉さんや妹さんを取られたみたいで、苛立ったかい?」

「違います」

「僕の後ろを取るとはね。恐るべき成長だねぇ。今度から二人にちょっかいを出すのも

修行の一環にするかい?」

「しつこいですよ」

 そこから、師弟対決が始まった。

 

 まあ、達也が勝てる訳ないよね。

 

 倒れているのは達也だった。深雪が介抱している。

 そこから、私が準備した朝ご飯を八雲さんを含めた四人で食べた。

 メニュー?おにぎりですよ。

 手抜き?失礼な。具は凝ったものだよ!

 八雲さんは女子高生が握ってくれたおにぎり!って喜んでたよ。

 

 若干、二人の冷たい視線に晒されてたけど。

 

 

               5

 

 第一高校に登校中である。

「深景さ~ん!達也く~ん!深雪さ~ん!」

 どこかで聞いた声が、背中から聞こえてくる。

 私達は、嫌な予感を感じて振り返ると、案の定そこには我らが生徒会長殿が走って

きていた。おまけに満面の笑みで手を振っている。

 周りから視線の集中砲火を浴びる。

 会長と親しそうなアイツ等は、何者だ!?という殺気と好奇心を含む視線。

「ねぇ。あれ、新手の嫌がらせかな…」

「「……」」

 達也は顔を顰め、深雪は苦笑いしている。

「おはようございます!」

 爽やかに朝の挨拶をする生徒会長殿。

 私達は、気持ちの籠らない挨拶を返す。

 私達は親しくありませんよ~。みなさん!

「深雪さん。今日、お話したい事があるので、時間を貰える?」

 深雪が私と達也を窺うように見る。

 私と達也は無言で、微かに頷く。

「はい。伺います」

 深雪は優雅な所作で答えた。

 が、生徒会長殿は、更にとんでもない事をいった。

「御二人も!」

 

 深雪はまだ子供だけど、付き添いが必要な程じゃないよ!

 

 

               6

 

 森崎君。恥の掻き損。

 恨むなら、小野先生を心行くまで恨んで頂戴。

 私のやった事が無駄になってしまった。

 達也が渡辺お姉様に目を付けられる原因を、作ってしまったのだ。

 事の発端は、例のカウンセリング。

 教室に顔を出さなかったから、油断したよ。

 達也を、カウンセリングルームに呼び出したんだよ。

 例のエロを全面に押し出した格好で。

 問題は他の男子生徒にも、エロメインの格好で情報を取っていた事。

 あんな感じで、甘く囁かれたら勘違いする奴いるよね?

 いつの間にやら、ファンクラブみたいな連中がいて、達也に一段上のエロを提供して

いた事が、判明してしまったのだ。

 小野先生とすれ違った女子が目聡く発見した。上着で隠してたらしいけど、女子の目

は誤魔化せなかった。ブラ透けてますがな!?って。

 で、信じられない!って女子特有のトークを、男子が聞いてしまった。

 そこから勘違い男子が、暴発。

 達也に喧嘩を売った。

 間が悪い事に、その時にほのかと雫までいた。

 ほのかは、達也を守る為に、閃光魔法を使おうとしてしまったのだ。

 あとは、原作通りお姉様と七草先輩のお世話に。

 達也は、起動式を読み取れる事を示してしまった。最悪だ。

 小野先生も大人で捜査官なら、上手くやって貰いたい。

 何せ、この世界はエリカのブルマですら、大騒ぎするんだよ?

 あんな格好で、カウンセリングする奴がいるか!

 アンタ等のいうモラル崩壊時代でさえ、ないわ!

 

 公安のみなさん!人選ミスってますよ!スキルだけじゃ、ダメですよ!

 

 その所為で、小野先生は学校から怒られたらしい。当然だわね。

 あの騒動のお陰でサイオンの遮断まで、達也がやったと勘違いされているとか。

 

 すまん!弟よ。

 

 

               7

 

 昼に生徒会室に行く。

 すると、範蔵君以外のメンバーが待ち構えていた。

 何故か、渡辺お姉様もいるけど。

 達也は、既にお姉様に目を付けられているからだとして、私は何の為に来たの?おまけ?

 深雪が綺麗な礼を披露すると、感嘆の声が漏れた。

 私と達也は軽く頭を下げただけだよ。

 テーブルが片方不自然に空いている。

 私達はそこに促されて座った。

 市原鈴音さんとか、ザ・小動物女子中条あずさちゃんもいる。

 市原さんクールビューティーだわ。

 

 弁当自販機で弁当を奢って貰う。ゴチになります。

 不味くはないんだけどね…。

 

「という訳で、我々は司波深雪さんに生徒会入りを望みます」

 深雪のスカウト理由を説明し、七草先輩がそう締め括った。

 そこから深雪が私と達也を生徒会入れろ!と暴走したりしたが、なんとか収まった。

 深雪は結局は引き受けたよ。最初から波乱を起こさずいこうよ。

「ちょっといいか?」

 渡辺お姉様が案の定、達也を風紀委員会へ入れるといい出した。

 やっぱり目を付けられてたか…。

 森崎君。君の犠牲は忘れない。二日くらい…。

 達也は抵抗を試みているが、もう決まりくさい。無力な姉を許してね。

「あと深景君だが、生徒会の雑用で使ったらどうだ?役員じゃないし、前例も確かあった

だろう」

 お姉様ぁぁぁーーーー!!なんだ雑用って!小物感満載じゃない!

「確かに前例はあるけど、多忙だったからお願いした側面があるから…。失礼じゃない?

いくら下級生っていっても」

 おお!正論ですな。

「でも、深雪君もお姉さんが一緒の方が遣り易いだろう?」

「ええ…まあ」

 深雪は自分が望んだのと違う事に、歯切れ悪く頷いた。

 いや、頷かないでよ。

 なんか話がついたみたいに、先輩方が立ち上がっている。

 

 なんか決定してる!?

 

 私と達也は、溜息を隠す事が出来なかった。

 

 

               8

 

 すっ飛ばして、放課後。

 私は達也と同じ決意を持って、この場に臨んでいた。

 断ってやりますよ! 

 

 生徒会室に三人で入って行く。

 そして、窓際に佇む一人の男。

 何やってんの?みんな仕事黙々とやってるよ?

 夕日を背に振り返る範蔵君。

 厨二病?演出?

 範蔵君は、私と達也をガン無視して、深雪に握手を求める。

「服部刑部です。生徒会副会長を務めています。よろしくお願いします」

 深雪は辛うじて眉を顰めるに止まり、握手に応じた。

 いいよ!大人の対応。でも、表情を変えないように努力しようね。

「おっ!来たな達也君。早速、風紀委員会の説明をするから付いてきてくれ」

 渡辺お姉様が達也を連れて行こうとするが、阻む者がいた。

「お待ちください。渡辺先輩。私は副会長として、司波達也の風紀委員会入りに反対

します。風紀委員会は場合によっては実力で、相手を取り押さえなければなりません。

実技の不得手なウィードに務まりません」

 渡辺お姉様の表情が消える。

 鋭い眼光を受けても、範蔵君は怯まなかった。

「禁止用語を私の前で吐くとは、いい度胸だ。服部刑部少丞範蔵副会長」

「服部刑部です!」

 咳払い一つで、なんとか立て直す範蔵君。

 あの忍術の服部家と勘違いされるから、否定は当然ですよね。

 名前で苦労しますな。

 そこから言い合いが始まったが、平行線。当然だけど。

 なんせ、達也が起動式を読み取れるのも、信じないんだから話が通じない。

 私は聞き流しに入ったよ。

 だが、突如流れ弾が飛んできた。

「ついでに雑用もいりません。風紀委員会が雑用を押し付けるのも、越権行為では

ありませんか。しかもこれもウィードだ」

 渡辺お姉様は口を開きかけたが、遮られた。

「お姉様とお兄様は実力があります!国際基準が御二人を評価出来ないだけです!」

 深雪が遂に噴火した。

 まあ、深雪にしたらよく耐えた方だろう。

「司波さん。家族をよくいいたい気持ちは分からない訳じゃない。でも、魔法士は

現実を見据えなくてはいけない」

 ヤバ…。深雪が本格的に大噴火しそうだよ。

 それを察知した達也が前に出ようとするのを、私は押し止めた。

「姉さん?」

 私は二人に微笑んだ。大丈夫。任せてくれていい。

「服部カンゾウ副会長ぉ!!」

「服部刑部だ!それは某・巨匠の漫画に出てくる忍者だ!」

 おお!ノリがいいね。

 実はオタクですか?弟と妹を怒らせなければ、語り合いたかったね。

「私と一勝負しませんか?」

「ウィードの君が、俺と?」

 私は笑顔で頷いてやる。

 範蔵君の顔が険しくなる。鋭い視線が向けられるが、その程度はそよ風にもならない。

「正直、生徒会も風紀委員も興味ないんですが、妹の目が曇っているとか、弟を侮る

ような発言をされて、黙っていられる程、大人ではないんですよ」

 範蔵君は睨み付けているが、私は笑顔を崩していない。

「どうやら随分と調子に乗っているようだな。いいだろう…身の程を教えて上げよう」

 お願いします。

 

 でも、私の最弱(まほう)は痛いよ?

 

 

               9

 

「お姉様、お兄様…。ご迷惑をおかけして申し訳ありません」

 深雪が悲し気にいったが、私はその頭を撫でてやった。

「気にする事ないよ。私がしゃしゃり出ただけだから」

「俺が相手をしてもいいけど」

 私は無言で首を振った。

 達也の腕を軽く叩いてやる。

 気持ちは嬉しいけど、これくらいは引き受けてやらないとね。

 原作通り、達也がやってもよかったけど、それはあまりにもサボり過ぎだと思った

んだよね。姉として頼れるところを見せるチャンス…今のはカットで。

 

 

「お待たせしました」

 一応、礼儀としてそういって入室する。

 先輩達は既に準備完了しているみたいだし。

 範蔵君は余裕タップリに立っている。

 私はケースから拳銃型のCADを取り出す。銃身が長いハンドガンタイプ。

 それは黒光りしていた。

 私はCADを持って範蔵君と相対する。

「そのCADは…まさか!?」

 これを知ってるの?中条ちゃんくらいしか知らないと思ったよ。

「レギュレーション違反なら、使いませんよ?」

「いや。問題ない」

 それからルール説明がなされる。原作通りです。

 

「それでは。始め!」

 お姉様の腕が下ろされる。

 

 範蔵君はCADを操作しようとした瞬間。私はその位置から消えていた。

「!?」

「無拍子」

 達也の呟きが聞こえる頃には、私は範蔵君の背後にいた。

 CADの引き金を引く。

 範蔵君が背中から吹き飛ぶ。ヘッドスライディングで着地。

 痛そうだね。南無。

 

 遠当て。

 サイオンの塊を叩き付けるだけの魔法。

 サイオン徹甲弾ではない。それより密度が低いからね。

 手加減したから、気絶したぐらいだ。

 因みに、ここでの無拍子は予備動作を消して動く事を指すからね。

 現実の武術のものと違うから、よろしくね。

 

 あ~。終わった終わった。

 

 範蔵君が立ち上がらないのを、確認してお姉様が宣言する。

「勝者。司波深景!」

 高校生初勝負終了。

 

 勝利とて虚しいものだ。

 

 

 

 




 皮肉ですね。
 メイン投稿より、いい滑り出し。
 う~ん。難しいものですね。

 次はいつになるやら、見当が付きません。
 こちらも並行やっていこうとおもうのですが…。


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入学編3

 色々、疑問に思うかもしれませんが、精一杯説明した
つもりです。

 それでは、お願いします。


               1

 

 さて、撤収。

「待て!訊きたい事がある」

 渡辺お姉様が、私の背に鋭い声を投げる。また、撤収できなかったよ…。

 私は無視する訳にもいかず、内心渋々振り返る。

「なんでしょう?」

「今の動き…予め自己加速を掛けていたのか?」

 何を言い出すかと思えば…。

「それはないって知ってますよね?」

 何しろ、私達を監視していたのは、お姉様だけじゃない。

 生徒会総出で監視してたんだから。

 私が魔法を使ってない事くらい分かる筈だ。

「……」

 お姉様がムッとする。

 いやいや、難癖つけられて不愉快なのは、私の方なんですが?

「歴とした身体技術ですよ」

 私はこれ以上ごねるのは、大人気ないので仕方なく答える。

「お姉様は、剣聖・塚原精一郎先生の指導を受けているのです!」

 深雪が誇らし気にそういった。

 

 塚原といっても、塚原卜伝の傍系ですらない。赤の他人である。

 あの人は自分の流派を興していない。

 様々な失伝した秘剣、必殺剣などの再現をしてきた功績で、剣聖といわれるように

なった今でも同じだ。

 本人は、未だに剣術研究家を名乗っている。

 かなり愉快なお爺ちゃんである。

 

「何!?」

 渡辺お姉様が驚く。

 まあ、あの人、滅多に教えたりしない人だからね。

 それで、あの動きは納得して貰えた。

 最後の質問です。

「何故、服部が()()()()()()()?」

 うん?それのどこに疑問が?

 私の怪訝な表情に、七草先輩が口を開く。

「サイオンの塊を放ったようにしか、見えなかったのだけど」

 そうですけど?

「姉さん。姉さんがやった事は、説明しないと分からないよ」

 達也が、頭の上に?が飛び交っている私に、助け舟を出してくれた。

 すまない、弟よ。

 で、どう説明しろと?

「お姉様。九重先生や塚原先生を基準に考える癖は、直された方がいいと思いますよ?」

 深雪にまで窘められてしまった。

「結論からいえば、サイオンを一部変質させているんですよ」

 達也が見兼ねて説明してくれた。

 でも、そんな特殊技術?これ。

「え!?そんな事、できるんですか?」

 七草先輩が疑問を口にする。

「古式魔法の使い手が、サイオンを操って離れた相手を押したり、突き飛ばしたりして

いる映像を見た事はありませんか?」

 氣功の特集で、転生前にもテレビで見た事あるよ。

「魔法師はサイオンを知覚します。故に、予期せぬサイオンに晒されると自分が本当に

押されている。突き飛ばされていると錯覚するのです」

 原作でも聞いたよ。その説明。

「私も剣術家の端くれだ。それは理解できる。だが、吹き飛ばすなどできるものなのか?」

 渡辺お姉様の突っ込みが入る。

 まあ、サイオンそのままだと、そうだよね。

 押されて、尻餅をついたりはあるだろう。

「では、これらの技術は、非魔法師には通じない技術なのでしょうか?答えは否です。

非魔法師であっても、この技術は通用します。ただし、熟練の古式魔法の使い手なら」

 テレビのレポーターって、大体非魔法師だもんね。

 そいつ等も転がされてるんだから、分かるでしょ?

「古式魔法の熟練者は、魔法式を介さずとも僅かな事象改変を起こす事ができます。

いうなれば、サイオン自体を事象改変の対象にしているのです」

 だから、一般人にも通じる。

 古式が積み重ねてきたものの差だね。

 サイオンが別の何かになってる訳でもないから、魔法師に使えば効果は抜群。

「「「「!!?」」」」

 生徒会メンバーが驚いてる。

「勿論、長年の修行の果てに会得できるものです。アッサリと使えている姉さんが、

可笑しいんですけどね」

 あれ?最後にディスられた?これ。

 

 お姉さん、悲しいぞ。

 

 

               2

 

 さて、疑問も解消されたし、撤収…。

「成程。国際基準では評価できないとは、この事か…」

 おや?カンゾー君。お目覚め?早いね。

「どの項目も、サイオンを変質させるなど評価対象にしていない」

 よろめきながらも、しっかり立ち上がった。

 脚がプルプルしているのは、ご愛嬌といったところだね。

「ハンゾー君。大丈夫ですか?」

 小悪魔会長が、物凄く顔を近付けて覗き込む。

 幼気な男心を弄ぶとは、やりよるわ。

 小悪魔が支えるように、更に近付いた瞬間、カンゾー君はシャッキッとした。

「大丈夫です!!」

 うん。嫌いじゃないよ。そういうキャラ。

 気合が入った所為か、しっかり歩いている。スゲェ。

 そして、()()()()()立ち止まる。

「確かに、俺の目の方が曇っていたようだ。申し訳ない」

 なんと、原作では深雪に非を認めたが、達也には結局何もいわなかったカンゾー君が、

私達三人に頭を下げたのだ。

 不覚にも驚いたよ。達也も軽く目を見張っている。

「分かって頂ければ、それでいいのです」

 深雪は笑顔でそういった。

 

 カンゾー君は無言で部屋を出ていった。

 

「伊達に副会長じゃないのよ!」

 七草先輩は、笑顔でそういった。

 確かに、そのようで。

 

 

 

               3

 

 私には分かるぜ!お約束が!

 まだ、撤収させて貰えないんだよね?

 そして、案の定腕に衝撃が。

 見ると中条ちゃんが腕に貼り付いていた。

 正確にはCADにだけどね。

「あーちゃん!?」

「まさか、こんなところで幻のCADに出会えるなんて!!」

 中条ちゃん、七草先輩の声聞こえてません。

「深景さんは、どうやって手に入れたんですか!?よく買えましたよね!?」

 実は、私のCADは訳アリ品なんだよね。

 原作でドイツが、特化型と汎用型のCADを繋げる実験したでしょ?

 あのショボイのを、使えるようにしてみよう!って事になった。

 達也と私、ミスターアフロ・牛山さんと一緒に考えて、イケるんじゃね!?

 ていうところまで詰めた。

 それから、達也がシステムを組み上げ、私が根幹となる触媒を製作、ミスター

アフロがハイテンションで、他の仕事をうっちゃって作成した。

 異例のスピードで出来上がってしまった。後悔はしていない。

 だけど、テンションが高かったのは、ミスターアフロが作成するまでだった。

 まず出来上がりを見て、普通のハンドガンくらいの重さになっていたし、

 某・吸血鬼がもっている化物銃くらいの大きさだった。

 そして、問題点を全て洗い出す意味もあり、試射もやった。

 結果、系統の異なる魔法を格納するのは、問題なかった。

 ループキャストだって正常に作動した。

 だが、問題はスピードだった。十分に特化型を名乗れる発動スピードだったけど、

 シルバーホーンに負けてしまったんだよね。

 

 その結果を受けて、三人の共通見解として、改善がなされない限り、発表できない

という結論が出た。

 

 問題は、その後に発生した。

 誰が情報を漏らしたのか知らないけど、宿六親父と高飛車継母が乗り込んできた。

 一体型のCADができたなら、何故発表しない!?といってきたのだ。

 勿論、私達は冷静に説明を行った。

 いつもなら、それで引き下がる宿六が、珍しく高飛車継母と共に食い下がってきた。

 世界初をわざわざ捨てる必要ないだろ!?って事らしい。

 挙句、社命として押し付けてきた。

 私達は、不承不承に発売に同意した。

 が、私達だって黙って認めた訳じゃない。

 会社に交換条件を突き付けた。

 ①五十台限定でしか造らない。

 ②トーラスシルバーの名を出さない。

 ③勿論、シルバーホーンとも呼ばない。

 ④不完全な技術故に、技術の公開はしない。

 それを条件にした。

 改善も他に投げて、手を引いた。

 だから、このCADはシルバーホーンとは真逆の色なのだ。

 刻印もFLTの製品であると示すもののみ。

 それでも、物好きはいるもので、一分もしないうちにネット予約は瞬殺された。

 故に、幻のCADと巷ではいわれているそうな。

 でも、折角造った物だ。勿体ない。 

 だから、私は試作一号をカスタマイズして使っている。

 勿論、カスタマイズしたのは内緒だ。

 宿六が五月蠅いし。

 

 だって、私、客じゃないし。勿体ないもの。

 二人は微妙な顔をしてたけど、勿体ないでしょ!?

 

 中条ちゃんは、裏サイトからの予想として、今説明したような内容を語り、CADに

頬擦りしている。

 誰も聞いちゃいない。

 涎は止めようね。乙女としてそれはどうかと思うよ。

 中条ちゃんは、なかなか放してくれなくて、苦労した。

 

 

 

               4

 

 達也は風紀委員の仕事が入り、深雪は生徒会の仕事で忙しくなった。

 私は雑用だけどね!

 某・窓際部署の警部さんみたいに紅茶を入れる。

 簡易的なキッチンまで付いているので、軽くお茶請けを作って出したところ好評だった。

 なんだかんだで、やってますよ…。

 あとはパシリとして資料集めとか。関係各所に書類を届けるとか。

 後は、カップとか片付ければ仕事終わり。

 

 市原さんが、サッサと仕事を片付ける私を見て、ボソリとこんな雑用ならいいですね、

とかいってた。

 内心反対だったんなら、その時に声を上げようよ。リンちゃんよ!

 そして、私にそれ以外の仕事はない。

 故に二人を待つのに時間を潰す羽目になっていた。

 先に帰ってもいいんだけどね。

 

 

               5

 

 ある日の放課後。

 今日も今日とて時間を潰していた。

 

 部活の勧誘が凄い。そして、何故あるお宝発掘部。

 興味を惹かれたが、入部する気はない。

 適当に文化部に入ればいいでしょ。暇そうな。

 この学校。役員以外は部活に入らないといけないらしい。

 幽霊部員でいいらしい。何の意味があるの?

 そこらを冷やかして回る。

 こういう時、地味なのは助かる。

 エリカみたいな事にならないからね!

「ちょっ!放してよ!どこ触ってんの!?」

 エリカが絡まれていた。

 振り払えばいいのに。変なところで乙女なんだよね、あの子。

 辺りを見回すが、原作でいたマイブラザーはいない。

 私が助けるの?これ。

 放って置くと、ポロリもあるね、あれ。

 仕方ない…。

 私は滑るように人混みを進み、エリカまでの経路と離脱の為の経路を予測する。

 多少、振り払う必要があるか…。

 それじゃ、深景、いっきま~す!

 僅かな隙間を縫って、エリカの元に辿り着く。

 何人かの親指を握り、手をやんわりと外す。

 エリカの手を掴む。

 手を引いて離脱。

 風が吹き抜けるみたいに、流れる動きで一連の動作を行う。

 人垣を抜け出した時、背後からあれ!?とか、あの子、どこ行っちゃったの!?

とかいう声が聞こえる。悪いね先輩方。

 エリカは途中まで引き摺られていたけど、今はキチンと走っている。

 

 人混みを避けて、建物の陰へ。

 ここまで来て、ようやく私は手を放した。

「大丈夫?」

 後ろを振り返ると、エリカがシリアスな顔をしていた。

「深景。アンタ…」

 私は片手を上げて、エリカを制止する。

「まずは服装の乱れを直した方がいいよ?今のところ画像には撮られてないけど、

そのままだと、撮られるよ?」

 私は、エリカの大胆に開いた胸元を指差してやる。

 もうちょっとで、君も小野先生と握手。

 エリカは自分の惨状に気付くと、声にならない悲鳴を上げて横を向いて制服を直した。

「もっと、早くいいなさいよ!!」

 え~。そりゃないでしょ。

 エリカは顔を真っ赤に染めて、暫く喚いていた。

 

 こうしてみると、可愛い。

 

 エリカの恥じらいを愛でていると、エリカがボソリと何かをいった。

「え?何?」

 私が訊き返す。

「付き合いなさいよ!!」

 部活動の見学ですね。承知していますとも。

「立ち合い」

 

 え?お姉さん、ちょっと聞き違いしたみたいなんだけど?

 部活の見学だよね?

「剣で勝負して」

 わざわざいい直された…。

 あの動きで、私が剣術やってるなんてよく分かったね。

 腕が立つ程度に思われるだろうとは、思ってたけど。

 まあ、見る人間が見れば分かるか。

 私は不承不承に頷いた。

「機会があればね」

「作るから」

 さいですか。

 

 

               6

 

 第二小体育館。

 私はエリカと一緒に来ていた。

 勿論、部活見学じゃありませんよ。

 部活勧誘週間なんだからさ。使える訳ないじゃん。

 頼んでも貸してくれないよ。

 エリカもそれは分かってると思うけどね。

 今は、ただの見学会と化している。

 剣道部のデモ中です。

 貴方にも分かりますよね?お約束が。

 それは、まだ起きていない。

 願わくば、起こらないでほしいところだ。

 

 試合のデモ。

 綺麗な面の一本。

「つまらないわね。あれじゃ殺陣じゃない」

 エリカが零す。

「まあね。部活勧誘でやってるから、カッコよく見えるの重視でしょ」

「あれに何か思うところないの?」

 エリカが、不満そうに半眼でこっちを見る。

 いや。別に。

 考えが顔に出てたのか、エリカが不機嫌そうに視線を戻す。

 

 そして、響く男の呻き声と倒れる音。

 私達がそっちに視線をやると、気合の入ったアンチャンが弱い者イジメをしていた。

 好きな子にちょっかいを出すタイプですか?高校生にもなって、それは悪手ですよ。

 面を外した壬生先輩が、気合の入ったアンチャンに食って掛かっていた。

「面白くなりそうね」

 エリカが不敵に笑い、近寄っていく。私を引っ張って。

 悪趣味な。

 

「桐原君!剣術部のデモまで時間がある筈よ。大人しく待ってる事もできないの!?」

 桐原のアンチャンが、フッと笑う。

 取り巻きズも嗤う。

「心外だな。今のじゃ、実力を出し切れなかっただろうから、協力してやろうって

申し出だぜ?有難いだろ?」

 壬生先輩、めっちゃ怒ってるよ。

 アピール間違えてるよ。

「無理矢理勝負を吹っ掛けといて、協力ですって!?」

「先に手を出したのは、そいつだ」

 桐原のアンチャンが、倒れた剣道部員を指差す。

 人を指さしちゃいけませんよ。

「桐原君が、そう仕向けたからじゃない!!」

 壬生先輩は、竹刀の切先を桐原のアンチャンに向ける。

 それもダメでしょ。

「やるか?」

 言葉短く、桐原のアンチャンがいう。

「魔法に頼りきりの桐原君が、私と?」

 桐原のアンチャンは、ニヤリと嗤う。

「心配するなよ。剣道部への協力だ。魔法はなしだ」

「剣技のみに磨きを掛ける私に、勝てるとでも?」

 お互いに挑発しとりますよ。

 

「面白いカードね」

 隣のエリカが本当に面白そうにいう。

「知ってるの?」

 私も原作で知ってるけど、こっちじゃ聞いた事ないんだよね。

 エリカが人物紹介してくれる。原作通りですね。

 聞いた事ないなぁ。

「因みに一位は、なんて呼ばれてんの?」

 壬生先輩が、全国二位で剣道小町なんだよね。

 原作じゃ容姿云々いってたけど。なんかあるでしょ。

「鬼瓦」

 エリカが、バツが悪そうにそういった。

 どこぞのレイバー隊か?

 

「始まるみたいよ!」

 エリカが話を逸らすようにいった。

 

 

               7

 

 壬生先輩は面を付けてもいない。

 桐原のアンチャンは、防具なし。

 いやいや。二人共、防具付けなさいよ。危ないんだから。

 二人の周りから人が引いていく。

 無言で竹刀を構え、相対する。

 エリカは、完全に面白い見世物を見るみたいに、見物モード。

 仕様がないな。

 まっ、私も止めたりしないけどね。

 

 お互い微動だにしない。

 辺りが静寂に包まれる。

 ピンと空気が張り詰める。

 

 それが不意に崩れる。

 お互いが同時に動く。

 竹刀を振り上げる動作も同じ。

 竹刀が空中で同じ軌跡を描いて、ぶつかる。

 互いの竹刀が左右に別れ、打ち込まれる。

 

 決着。

 

 互いの腕に竹刀が、打ち付けられている。

「相打ち?」

 エリカが、一転して真剣な表情で呟く。

「違う」

 私が否定する。

  それを示すように、壬生先輩が桐原のアンチャンの竹刀を払う。

 そして、自分の一撃は骨に届いているが、アンチャンの一撃は届いてないと、説明

している。

 

 さて、そろそろアンチャンの暴挙のお時間かな?

 

 アンチャンは呆然と固まっている。

「!!」

 私は弾かれたように周囲を見回した。

 微かに、サイオンが反応した。

 

 

               8

 

 突然、辺りを見回し出した私に、エリカが怪訝な顔をする。

「どうしたの?」

 私は、それに答えず通信端末を取り出す。

 達也のナンバーにコールする。

 それ程待たずに、達也が出る。

『どうしたんだ?』

「すぐに、第二小体育館にきてくれる?なんか不味い事が起こりそう」

 達也は私の声に只事ではないと、感じたようだ。

『すぐ行く』

 言葉短くいうと、通信を切った。

 視線を壬生先輩達に向けると、時間がなさそうだった。

 桐原のアンチャンの表情が変わっていたからだ。

 

 精神干渉魔法。

 

 桐原のアンチャンが、魔法を発動。高周波ブレード。

 原作通りか!

 

 桐原のアンチャンが、壬生先輩に自己加速で加速したスピードで斬り掛かる。

 すかさず私が割って入る。流石に見過ごせないよ。

 私はアンチャンの手を取って、投げ飛ばす。

 そのまま、私は桐原のアンチャンを抑え込む。

 凄い力で暴れるが、私は余裕を持って抑え込む。

 力で解けるか。

 再び、サイオンの反応。それもごく僅かなもの。

 剣術部の連中の目が怒りに染まる。

 全く!腕がいいな。

 剣術部の連中の中には、魔法を使おうとしている奴等がいる。

 

 その時、飛び込んでくる人影があった。

 それは、達也ではなく、エリカだった。

 

 

               9

 

「加勢するわよ!」

 いや、有難いんですけどね。

 なんで、楽しそうなの?貴女。

 

 いやいや。魔法使おうとしてる奴いるからね!?

 

 エリカが、突っ込んでくる奴を叩きのめしている。

 仕様がないな!

 私は桐原のアンチャンを気絶させて、魔法を使おうとしている連中の魔法を遮断

する。魔法が不発した事に、戸惑い隙ができる。

 私は魔法を使おうとした連中に向かおうとしたが、そこには新たな影が。

 達也だった。ちょっと!遅いよ!!無茶を承知でいうけど!

 結局私達は、三人で剣術部を無力化した。

 押っ取り刀で風紀員会の他のメンバーが雪崩れ込んできて、終幕…。

 

 な訳ないじゃん!!

 

 誰だ。こんな事やったのは!!見付けてやんよ!!覚えてろよ!!

 

 

 

 

 




 塚原先生の名前は、剣聖の苗字、別の剣聖の名前から取りました。
 サイオンって昔は、気って呼ばれてそうですからね。
 ああいう説明をしました。
 五十台という数字は、特に意味はありません。
 販売台数を抑えようとした結果と思って下さい。
 
 今のところ、平行して投稿できてる?と思います。

 次回もお付き合いして頂ければ幸いです。


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入学編4

 久しぶりにテンション上がりました。
 書いてて、なんか可笑しくなってたんでしょうね。

 では、お願いします。


               1 

 

 私達は、三人でお偉いさんと面会していた。

 小悪魔会長、渡辺お姉様、十文字さんの三巨頭が目の前に。

 まるで、裁判ですよ。

 私とエリカは連行されてきた。

 壬生先輩は、助けて貰ったのに加勢できなかったのを申し訳なく思ってくれて、弁護の為に

同行してくれたのだ。

 あの似非インテリ眼鏡に、止められたそうな。ああ、剣道部主将の事ね。

 エリカは不機嫌丸出しで、目の前のお姉様にガン飛ばしている。

 お姉様はといえば、困った顔でエリカを見ている。

 彼氏の妹だから、扱い辛いか。

 事情聴取にもつっけんどん。終わんないから。

 二人の…いや、エリカのバトルを横目に内心溜息を吐く。

 まあ、壬生先輩はキチンと証言してくれて、弁護もしてくれたんだけどね。

 風紀委員会でもないのに、乱闘した事はやっぱり不味かったみたい。

 そこから、エリカがブチ切れて、お姉様に食って掛かった。

 それが、経緯です。

 

 それに十文字会頭。貴方、絶対年齢詐称してますよね?

 そして、いるのに発言は一切ない。

 

「失礼します」

 膠着状態になった時、丁度達也が戻ってきた。

 おお!戻ったか!我が弟よ!

 そして、渡辺お姉様に書類を渡す。

 渡辺お姉様は、一瞬怪訝な顔をしたけど、大人しく書類に目を落とす。

 黙読が終了し、渡辺お姉様は険しい顔で、隣の小悪魔会長に書類を渡す。

 そして、最後に十文字さんへ。

 十文字さんでさえ、若干表情が変化した。

 どうやら、達也はキチンと証拠を掴んできたようですね。

「二人共、今回は確かに緊急性があったと判断する。こちらからは注意に止める」

 無罪判決ですね。

 何かあった時は、すぐに風紀委員に連絡するように、改めて注意があった。

 いやいや。それじゃ、手遅れになる局面があると思うけどね。

 エリカがそれを聞いて、鼻で嗤う。

 その反応に、流石にお姉様と小悪魔会長が不愉快そうだった。

 無闇に喧嘩売るの止めようよ。

 私はエリカの頭を掴んで、無理矢理頭を下げさせた。

 勿論、私も下げたよ。

 

 退出許可が出た為、私達三人は揃って退出した。

 エリカはブチブチ文句をいっていたけど、聞く耳はない。

 達也は、説明と注意喚起の為に残っている。

 

 フゥ。娑婆の空気は美味いぜ。

 

「ねぇ。お詫びを改めてさせてくれない?カフェテリアで奢るわ」

 出た時に、壬生先輩が声を掛けてくる。

 私とエリカは顔を見合わせる。

 

 なんだか、付いていったら、起こるお約束が読めるような気が致しますが?

 

 

 

               2

 

 :達也視点

 

 姉さん達が退出した後、委員長が口火を切った。

「で?このデータに間違いはないのか?」

 俺は簡潔に頷く。

 三巨頭が揃って険しい表情だ。

 

 第二小体育館で剣術部を鎮圧した後。

 姉さんは俺だけに聞こえる声で、精神干渉魔法が使われた事を告げた。

 姉さんを連行させるのは、業腹だったが姉さんの頼みで仕様がなかった。

 俺は魔法を使われた証拠を探す事にした。

 俺の目を使えば分かるが、それでは第三者の証明にならない。

 それで、魔法を検知する機能付きの監視カメラを精査する。

 俺の目で確認していた事だが、改めて厄介な相手が紛れ込んでいる。

 残留サイオンを検知出来ない程の、小規模の魔法が放たれている。

 しかも、巧妙な事に群衆に紛れて使用している。

 殆どの生徒が、いざという時の為に魔法を準備していた。

 つまり、複数人が僅かながらサイオンを漏らしていた。

 その所為で、人物の特定が困難にさせていた。

 この状況では、俺の目も人物特定に至らなかった。

 それで件の犯人は、結果を出せた事が凄まじい。

 元々あった感情を後押しする事で、騒ぎを起こす。

 俺にすら正体を隠し通す手練れだ。

 これは、由々しき事態だ。深雪や姉さんに害が及ぶ可能性がある。

 速やかに排除したい。

 

 俺の説明が終わった後。

「どうやら、日和見が過ぎたようだな」

 委員長が渋面で呟く。

「まあ、対立を煽るような子達がいるのは、知ってたけど…。ここまで深刻な事態になっていた

とはね」

 会長も同様の表情で発言する。

 知っていて放置はどうかと思うが。

「その連中の事は、把握しているのですか?」

 俺は尖った声になっていると自覚していたが、気にしない。

「噂なのよ」

 会長が困ったような声を出す。

「分かっていたら止めさせている」

 委員長が断言するが、そういう事ではない。

「違います。その連中の背後にいる連中の事です。例えば、ブランシュのような連中ですか」

「「っ!!」」

 噂の出処など全て塞げない。

 ネットを漁れば見付けられる程度の情報だ。

「いずれにしても、この状況を放置する訳にもいくまい」

 今まで無言だった十文字会頭が口を開いた。

 

 内々で調査する人間を選出して、調べる事になった。

 これでどうにかなるといいがな。

 

「桐原達はどうする?」

「ご自分の非を認められた為、処分は必要ないと判断しました」

 それに、ある意味あの人達も被害者だしな。

 迷惑を掛けた詫びを剣道部に入れるといっていた。それも報告する。

「分かった。いいだろう」

 委員長の言葉で俺も退出した。

 

 

               3

 

 カフェテリアにて先輩と向き合っていた…んだけどね。

「差別撤廃ぃ?」

 エリカが顔を顰めて、思わず声を上げた。

 やっぱりね。わかってたよ、この展開。

「そう。授業で教師に教われないとか、それは仕方ないと思う。でも、私の剣まで否定される

覚えはないわ」

 壬生先輩が、大真面目でそんな事を言った。

 鬱屈したものがあるのは、分かるけどね。

 エリカは、恨めしそうに奢って貰ったオレンジジュースを睨んでいる。

 ゴチになろうとしたら、興味ない事聞かされて、エリカは既に聞く気がなくなっている。

 それは私もだけどね。

 私も無心でカフェオレを飲む。

 最初は、普通に部活の勧誘だったんだよ。

 それが原作通り、こんな事に。

 風紀委員云々もあったけどさ。私の弟、風紀委員なんですけど。

 先輩の熱弁は続いていた。

 だが、ここに勇者は存在した。

「先輩。申し訳ないけど、アタシ等興味ないわ」

 エリカが心底から興味なさそうに、いい切った。

 剛速球ですな。

 壬生先輩が硬直してるよ。

「お詫びっていうなら、場所貸して貰えませんか?」

「ば、場所?」

 すいませんね。歯に衣着せぬ子なんですよ。

 こうして、呆然としてる壬生先輩から場所の貸出許可を、エリカがもぎ取っていった。

 上級生をイジメた一年生二人組なんて噂が立たなきゃいいけど。

 

 叶わぬ夢か…。

 

               4

 

 カフェテリアを出てから、エリカは不機嫌だった。

 まあ、無理ないけどね。

「壬生先輩さ。中学の頃と比べものにならないくらい強くなってた」

 突然、エリカがそんな事をいい出した。

 何、突然?

「でもさ。高校で、活躍してんの聞かないなって思ってたのよ。あんな事にかまけてたから

じゃないかな」

 どうだろうね。高校のレベルが高いのかもしれないけどね。

「約束したんだから、付き合ってよね」

 エリカは、壬生先輩が剣道に集中できないのが、勿体ないと思ってるのか。

 

 いいんだけどね。

 できればさ、原作通りエリカと壬生先輩でやってくんないかな。

 

 

               5

 

 :???視点

 

 周囲に人がいない事は、十分に確認している。

 俺に気付かれずに接近できる者など、いる筈もないが。

 俺は通信端末を取り出し、依頼人に掛ける。

 すぐに依頼人が出た。

「不味い事になった。気付かれた」

 相手が驚く。本当に驚いているか怪しいが。

「悪いが、ブランシュの奴等との接触は断つぞ」

 相手が了承する。

 アイツ等はやる事が迂闊だ。

 一緒にいるだけで危険が増す。

「心配するな。手引きまでは契約のうちだ。完遂する」

 相手が安心したとか、適当な事をいっていた。

 

 俺の魔法を見抜いたあのガキ。日本の仙術使いか?

 いずれにしても、今まで以上に注意を払う必要があるだろう。

 

 

               6

 

 我が家は落ち着きますよ。厄介事なくて。

 

 まだ立ち合いは実現していない。

 あの似非インテリ眼鏡の許可を取ってる最中らしい。

 達也は勧誘期間中に、ブランシュの下部組織エガリテに所属してる生徒に襲われたらしい。

 それで、ブランシュの説明を達也がしようとしたが、私は知ってるから断った。

 達也が今頃、深雪に説明している最中だろう。

 つまり、今部屋に誰も入ってこないと。

 ちょっとしたお仕事の時間です。

 PCを立ち上げ、ネットに接続する。

 ゴーグルのようなものを装着すると、ネットの世界に潜り込む。

『お久しぶりです特尉!』

 ネットにダイブした瞬間に声を掛けられる。

 エージェント機能で、遊んでいたタチコマだった。

 因みに、私の階級も特尉なんですよ。

「無断で遊んでると、真田大尉に怒られるよ」

 実は私、タチコマ好きなんです。

 元ネタの説明は無用ですよね?

 ええ、特典使いましたよ。真田大尉に設計図渡して造って貰いましたよ!

 呆れられましたよ!何故だ?

『いやいや。バレなきゃいいんですよ!』

 そういえば、ゴーストが囁いちゃう人もこの性格に苦労してたっけ。

「あっそ。ならさ。ちょっとしたゲームしようか」

『ゲーム!?わ~い!!』

 いるんなら手伝って貰おう。

『あ~!!ズルいぞ!!お前だけ遊んで貰うなんて!!』

 他の五機もゾロゾロ出てくる。

 纏めてお相手いたしましょう。

「この男の行動全てを洗い出して!一番早かった子にはご褒美がありまーす」

 私は似非インテリ眼鏡の写真を見せる。

『『『『『『ご褒美!?』』』』』』

 あの子達は、大喜びで作業を始めた。

 私もやらないとね。一応は。

 

 すぐに洗い出せた。優秀で結構結構。

 今度、天然オイルみんなに上げるよって約束した。

 そこから、摘発できそうなネタを探すと、見付かった。ラッキー。

 後は兄弟子…もとい、知り合いの刑事さんに連絡だ。

 タチコマ達に早めに帰るように助言して、別れて現実に帰還する。

 

 私は素早く通信端末に手を伸ばすと、目的の人物にコールする。

『あいよ。どうしたよ。こんな時間に』

「お久しぶりです。源田刑事。善良な市民として情報提供をと思いまして」

 源田刑事が呆れているのが、分かるよ。

 仕事してくれればいいけどさ。

 

 後はよろしく!これだよ!これがあるべき姿なんだよ!

 

 

               7

 

 翌日、ニュースにブランシュの武器取引現場を、警察が押さえた事が報じられた。

 流石、源田刑事!お見事です。私は思わずニヤリとした。

 ニュースでは、千葉警部が面倒そうにコメントしている。あの人も引っ張ったのか。

 

 キッチンで手早く朝食を用意して、テーブルに並べる。

 達也と深雪が朝練から帰ってくる。

 身支度を整える頃には、準備が完了している。

 家族三人揃って朝食です。

「姉さん。何かやったかい?」

 達也がニュースを見ながら、そんな事をいった。

 まさか。平和を愛するこの私が。

「ブランシュの連中の一部が、捕まったみたいだけど?」

 逮捕者の中には、日本支部の幹部も含まれている。

 これで派手な事は、できなくなったでしょ。

 あのチキン支部長に、この状況で騒ぎを起こす度胸はない。

「そうなの?天罰を信じたくなるね」

「随分、人為的な天罰だけど」

 そう言って、達也が苦笑いした。

 深雪は私達を見て、微笑ましそうに笑っていた。

 

 穏やかな朝、素晴らしい。

 

 

               8

 

 エガリテ所属生徒は、朝っぱらから動揺してるようだ。

 おいおい。あからさま過ぎでしょ。

 一応、達也情報で調査する人間は動いてるらしいけど、寧ろ遣り易くなったかな?

 

 そんなこんなで放課後。

 剣道部が場所を貸してくれるというので、エリカと共に懐かしの第二小体育館へ。

 口には出さなかったけど、剣道部全体が練習どころではなくなったみたい。

 もうちょっと普段通りにするとか、しないの?

 袴や防具を付けて、最後に面を装着。

 その間、お互いに話はない。こちらも話し掛けない。

 やる以上は真剣にやるのは、私も同じだ。

 主審役のみであとは見学である。

 剣術部の桐原のアンチャンもいる。似非インテリ眼鏡にすぐに謝罪したそうだ。

 何しろ、今からやるのは剣術の立ち合いだ。

 危険になったら止める人間だけでいい。

 他の格技系の部活も手を止めて、私達の立ち合いを見学している。

 それ程、張り詰めた空気なのだ。

 

 礼を済ませ、あとは合図を待つのみ。

 

「始め!」

 

 お互いにすぐに動かない。

 身体の一部が、僅かに反応しては止めるを、お互い繰り返している。

 勝負は一瞬。

 お互い手を決めると認識する前に、身体が動く。

 竹刀が鋭い音を上げて、振られる。

 パアァンという音で、お互いに動きが止まる。

 周りからは、声もない。

 私の抜き胴が決まり、エリカの竹刀が空を切ったのだ。

 残心。

 今の何の変哲もない動きには、魔法と剣技をお互い注ぎ込んで打った。

 そこからは、立ち合いではなく稽古の様相を呈してきた。

 エリカが止めなかったのだ。

 今持てる全てを出し切るエリカを、私は容赦なく打った。

 時には、投げ飛ばして地面に叩き付ける。

 立ち上がろうとするエリカに、竹刀を突き付ける。

「おい…。ちょっとやり過ぎじゃねえか…」

 そんな言葉も聞こえてくるが、知った事ではない。

 これは、エリカが望んだ事だ。

 存分に付き合おうじゃないの。

 

 もう何度目か、打たれてエリカが膝を突いた。

 それでも、立ち上がろうとしたその時。

「それまで!!」

 制止が掛かった。

 

 壬生先輩が掛けた声ではない。声は達也だった。

 ああ、達也に深雪も来てたんだ。

 壬生先輩は、呆然と立ち尽くしていた。

「達也君。審判、頼んだ覚えないわよ」

 エリカの声は尖っていた。

「このままでは、脱水症状を起こして危険だ。文句は幾らでも聞く」

 そこまでいわれて、エリカはようやく息を吐いて、稽古終了となった。

 

 いや。疲れますな。

 

 

               9

 

 面をお互い外す。

 防具を外している時、横から視線を感じてそちらを向くと、エリカが見ていた。

「何?」

 これで、エリカとは険悪になるかもしれないが、仕様がない。

 多分、ここで誤魔化しても、将来決裂する時がくるから。

 それを覚悟してたけど、エリカの視線に険はない。あれ?

「深景って、深雪のお姉さんなのね」

 そんな事を突然いった。

 ん?いきなりどうしたの?

「眼鏡。変えた方がいいよ。勿体ない。今度、買いに行こうよ」

 いやいや。これじゃなきゃいけない理由があるんだよ。

 どうやら、決裂は今しなかったらしい。

 それと眼鏡は変えないから。

 

「あの、ちょっといい?」

 壬生先輩だった。

 私とエリカ無言頷き、先を促す。

「剣道部に勧誘したけど、アレ…忘れて」

 壬生先輩の顔には、劣等感や嫉妬、卑屈になっている様子もない。

 どういう訳か、憑き物が落ちたような顔をしていた。

「いいんですか?」

 私は色々な意味を込めて、そういった。

 壬生先輩は、それを承知した上でしっかり頷いた。

「二人の立ち合いを見て、自分が如何に無駄な時間を使ったか、思い知らされたわ」

 何しろ、私とエリカの立ち合いは、魔法を殆ど補助的な意味にしか使っていない。

 二科生で可能な魔法という事だ。それでここまでできる。

 エリカはそれを教えたかったのかもしれない。

 でも…。

「無駄ではありません。エリカがいっていました。壬生先輩は強くなったと。やり

方は間違ったかもしれませんけど、無駄ではないですよ」

 本来なら、達也がいう事だけど関わったのは、私だからね。

「ありがとう…」

 壬生先輩は下を向いてしまった。

 肩が震えていたが、見なかった事にした。

「壬生先輩。どうして、こうなったんですか?」

 エリカが、遠回しに差別撤廃運動なんぞに参加した理由を訊いた。

 壬生先輩も、その意図を察して答えた。

「渡辺先輩は知ってるでしょ?私、あの人に憧れてて一手指南をお願いしたんだけど、

すげなくあしらわれてしまって…。私が二科生だったからだって思ったら、悔しく

なって。それで意地になっちゃったんだと思う」

 エリカが舌打ちする。

「何を偉そうな事を…」

 忌々しそうにエリカが吐き捨てた。

「先輩。防具を付けて下さい。あの女の影、私が払ってあげますよ」

 エリカが、再び防具を付け出す。

 ちょっと待てぃ。アンタ、脱水症状起こし掛けてんでしょうが。

 そんなエリカの前に、スポーツドリンクが差し出される。

 エリカが思わず手を止めてしまう。

 差し出したのは達也だった。

「どうしてもやるなら、水分を補給しろ。壬生先輩も準備があるだろう」

 エリカは不承不承に受け取って、チビチビ飲み出した。

 私の分もあったので、私も飲んだ。

「うん。あとは、動けなくなったら、達也にお姫様抱っこでベットまで行って貰うから」

「「っ!?」」

 エリカと深雪が驚愕する。二人共、真っ赤だった。

「なんでよ!!」

 エリカが抗議の声を上げる。

「あれ?嫌?…ああ!エリカにも好みがあるからね。レオ君の方がいい?」

「論外よ!!」

 ウガァーーと取り乱すエリカ。ヤバい楽しい。

 

「「「その役目!!俺が引き受けたぁ!!!」」」

 第二小体育館が揺れた。

 一科二科の垣根を越え、男子の心が一つになった。

 理由を除けば、感動する場面だろう。

 

 まあ、エリカ可愛いしね。

 

「という訳で、タイプの男の子を選んで貰って…」

「いい加減にしときなさいよ!!!」

 

 エリカと壬生先輩の試合は、原作より壬生先輩が持ち堪えたが、壬生先輩の敗北で

幕を閉じた。

 因みに、エリカは疲労困憊していたが、どういう訳かしっかりした足取りだった。

 

 ちっ!面白くないな。

 

 

 

 

 




 まだ、入学編終わりませんよ。
 九校戦には、まだまだです。
 原作のあとがきで、壬生紗耶香は入学編での劣等生だと
いっていました。成程なと思いました。
 
 では、次回もお願いします。


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入学編5

 今回、短めです。

 では、よろしくお願いします。


               1

 

 精神干渉魔法の使い手探しは、難航中。

 活動を停止しているのか、尻尾がまるで見えない。

 こういう時、無闇に焦らない我が弟は頼もしい。

 そして、調査状況を聞く為、昼休みに生徒会室でお手製弁当を食べている。

 大した話は案の定なかったんだけどね。来て損したわ。

 寧ろ、なんで私がいるのかって話だけどね。

 達也と深雪だけでいいんじゃないの?

 理由は小悪魔に我等姉弟妹セットで指名されたから。

 会話は二人に任せて、黙々と弁当を食べていると、渡辺お姉様が話し掛けてきた。

「深景君。噂じゃ二年生の壬生をエリカとイジメていたそうだが、本当かい?」

 ああ…。やっぱりそんな噂になったか。そんな気がしてた。

「大嘘です」

 私はキッパリとそういった。

 イジメてなんていませんよ。エリカの剛速球に壬生先輩が反応出来なかっただけですよ?

 失礼な。

「そんな噂になっているがな」

 そんな事いうなら、私も聞かせて貰おう。

「それなら、こちらからも聞かせて頂きたいですね」

「何をだい?」

「壬生先輩の稽古の申し込みに、二科生如きと練習できない(超意訳)といったのは事実

ですか?事実だとしたら、リーサルウェポン・エリカを差し向けますけど?」

 渡辺お姉様の顔が、盛大に引き攣った。

「風紀委員長に堂々と刺客を送ると宣言するんじゃない!!それとなんだ!超意訳って!!」

 渡辺お姉様は、怒ってるのか焦ってるのか分からない態度だ。

 まさか、原作と違って事実なの?

「壬生に練習相手を頼まれたのは覚えている!だが、そんな失礼な事はいっていない!!」

 まあ、ですよね。

「じゃあ、摩利はなんて言ったの?」

 小悪魔会長が口を開く。

 渡辺お姉様がいうには、いった事は原作通りらしい。

「摩利は壬生さんの方が強いから、自分では相手は務まらないといったの?」

「ああ。そりゃ、魔法を使えば私が勝つだろうが、剣のみでは壬生に勝てん」

 安心しましたよ。

 と、なると。

 私は横にいる達也を見る。

 達也も私が何をいいたいか察して頷いた。

「御二人ともどうしたんですか?」

 深雪が不思議そうに訊いてくる。

 まあ、犯人を捜す範囲が多少狭まったってだけだよ。

「何か分かったんなら、聞かせて貰いたいんだがな」

 渡辺お姉様の棘のある声で口を挿む。

「俺も壬生先輩が話をしている時、一緒に聞いていましたが、壬生先輩はハッキリすげなく

あしらわれたといっていました」

「だから!」

 声を荒げようとする渡辺お姉様を、達也が制止する。

「分かっています。話を聞いた時に委員長らしくないと感じました」

 渡辺お姉様が、分かっているのならといった感じで引き下がる。

「壬生先輩の記憶違いは激しいものです。通常では考えられない程に」

 達也の言葉に、全員の顔が険しくなる。

「つまり、記憶をすり替えられたって事!?」

 小悪魔会長が核心を突く。

「おそらく、セリフを弄っただけだと思いますが、それで印象も変わります」

 記憶の操作まで可能となれば、本物の邪眼である可能性も視野に入れる必要がある。

「手口から言って、今までバレていないのですから同一犯と見ていいと思います。ならば、

魔法は近距離から行使されたと、考えるのが妥当です。距離が開く程にサイオンセンサー

に引っ掛かる可能性が高まりますから」

 難易度を例えるなら、後ろからコッソリ近付いて背中を押すのと、同じく近付いてポケットから

財布を取り出して中身を一部取り換えるくらいの違いがあるからね。

 原作だと催眠術でやったって事だけど、それには壬生先輩をアジトに連れ出さないと

いけない。一応、アレも魔法だし。

 でも、壬生先輩の口振りでは、渡辺お姉様の件が切っ掛けっぽい事を言っていた。

 ならば、記憶の改変はその場か、近場で行われた筈だ。

「お兄様。それでは…」

 深雪も私達の考えに気付いたようだ。

「ああ。俺も姉さんも、壬生先輩の周囲に術者がいる可能性を考えた」

 面と向かって話しても違和感がない相手だろう。

「早速、壬生に話を聞こう」

 渡辺お姉様がそう言って立ち上がる。

 お待ちなさいな。

「ダメです。壬生先輩は()()()()()()()()()()です。風紀委員の人間に連れ出された

と分かれば、裏切りを疑われます。最悪、危害が及ぶかもしれません」

 私の言葉に、お姉様が言葉に詰まって席に座り直した。

「周囲を探る事は、出来るでしょう」

 達也のフォローで、生徒会役員と渡辺お姉様が頷く。

「あくまで、推測とも呼べない憶測ですから注意して下さい」

 私が最後に釘を刺した。

 

 慎重にお願いしますよ。

 

 

               2

 

 :紗耶香視点

 

 なんだか頭の中にあった靄が、晴れた気がした。

 それ程に、あの立ち合いは衝撃だった。

 あの二人の剣に魔法は殆ど使われていなかった。

 だけど、最小限の魔法で最大効果を出していた。

 あれを見れば、自分がいかに無駄な事に時間を費やしたか分かる。

 勿論、剣の才が並外れて高い二人だからこそだろう。

 だが、自分にもできる事が示されていた。

 今からでも、私は本当の意味で剣を握り直したい。

 それには、エガリテから抜けなければならない。

 辛い時の支えになってくれたメンバーには、申し訳なく思うけど。

 

 私はやっぱり剣道が好きだ。この道で頑張りたい。

 

 声を掛けてくれたのは、主将だ。まずは主将に話そう。

 決意を持って、第二小体育館に入った私は、ビックリしてしまった。

 だって。剣道部と剣術部が合同で練習してたんだから。

 どうなってるの!?

 私は司主将に駆け寄った。

「主将。これは?」

「見ての通りだ。桐原からの申し出でな。基礎練習を合同でやらせて貰えないかとな」

 司主将が感情の読めない顔のまま、私の質問に答えた。

「もう一度、魔法抜きの剣を磨く必要を感じたそうだ」

 桐原君が…。

「失礼な態度は取らないし、取らせないからと頭を下げられたら断る事ができん」

 司主将の苦悩が聞こえた気がした。

 剣道部員も剣術部員も、ただ自らの腕を磨く為だけに竹刀を振るっている。

 こんなに簡単に関係が改善されてしまった。

 主将もこれを見て思うところがあったんだろう。

 顔には出ていないけど、声には苦いものが感じられるから。

 

「おお!壬生!遅せぇぞ。相手をして貰っていいか?」

 桐原君が声を掛けて来た。

 私はぎこちなく承諾した。

「突然で驚いたか?」

 私の態度に桐原君が苦笑いする。

「ええ。まあね」

「だろうな。でもよ。あんなもの見せられて、今まで通りなんて奴いねぇよ」

 二人の立ち合いは、格闘技系の部員の殆どが見ている。

 

 確かに、そうね。私も変わった一人だもの。

 

「手加減しないわよ」

 私の言葉に桐原君がニヤリと笑った。

「当然だ」

 空いた場所に移動する為に、桐原君が背を向ける。

 私も移動しようとしたけど、その時に不意に桐原君が口を開いた。

「俺が好きだった壬生の剣が戻ってきた。ホッとしたよ」

 呟くような声だった。

 私にしか届いていないだろう。

 

 私は思わず立ち止まってしまった。

 なんとなく、恥ずかしくて頬が赤くなった。

 

 

               3

 

 夜、我が自宅にて。

 私は引き続き、ブランシュ叩きを行っていた。

 ネットにダイブして、情報を漁る。

 タチコマ達は、あれ以来うろついていない。

 響子さんとか、真田大尉に見付かってとっちめられたんだろう。

 ああ、因みに、これ魔法だよ。エレクトロキネシスから派生させた魔法。

 ええ、特典で探し当てましたよ!

 ゴーグルみたいな奴は、専用CADです。

 魔法でネット世界を可視化してるんだよ。

 源田刑事に情報提供しまくってるけど、術者の情報が出てこない。

 ブランシュ?もう、ズタズタだよ?

 幹部は大体逮捕されたし。

 これで、腰砕けになってくれるといいんだけどね。無理か…。

 バックにあの困ったちゃんの連合がいるし。

 問題は術者にお仕置きが出来ていない事だ。 

 

 

               5

 

 :紗耶香視点

 

 ようやく主将と話す事が出来た。

 結局、あの後、動揺があって話さずに帰っちゃったし…。

 主将にエガリテを辞めたいと申し出た。

 てっきり、あの目で睨まれるって思ったら、眉間に皺が寄っただけだった。

「今は認められない」

「主将!」

 主将は声に苦いものが混じっていた。

「郷田さんが騒いでいる。今辞めるといい出せば、郷田さんが何をやるか分からん。

徐々に距離を取っていけ」

 郷田さんとは、エガリテの取り纏めをやっている人達の一人だ。

 過激な言動が多い人だ。

 騒ぐって何を!?

「ブランシュが頼りにならない今、自分達が立ち上がるべきだといっている」

「何を馬鹿な事を!?」

 主将が苦々しく頷いた。

「全くだな。だが、残念だがあの人には勢いがある。身辺に気を付けろ、壬生」

「どういう事ですか?」

「お前の父親の事はバレているという事だ。郷田さんはお前をジャンヌダルク

にしようとしている」

 衝撃の発言だ。

「父から何か引き出そうとしているのですか!?」

 公安の情報とかを、私を使って引き出そうっていうの!?

 主将が首を振る。

「そこまで甘い事は考えていないようだがな。公安の地位ある人物の娘が、

先頭に立って運動する事に意味を見出しているようだ」

 よく見れば、主将の顔には疲労の色がある。

「お前を引き込んだのは、俺だ。許してくれとはいわん。気を付けろ」

 今までの主将なら、こんな事はいわなかった。

 主将も変わった一人という事だろう。

「主将もこんな事は止めましょう!」

 主将はハッキリと表情を歪めた。

「俺は手遅れだ。今更、手を引けない。母の事もある」

 母?何の事だろう?いや、主将のお兄さんは、確か…。

「まさか!?人質に取られているのですか!?」

 主将が首を振る。

「いや。兄は母に気を遣っているよ。それに親子が同居するのは違法ではない」

「そんな!!」

「お前は引き返せ。頑張れよ」

 

 去って行く主将に、私は声を掛けられなかった。

 

 

               6

 

 あれ以来、活動を完全に停止しているようで、私と達也でも探し出せない。

 面倒だから、学校ごと吹き飛ばすとかダメですか?ダメに決まってますね。

 昼も夜も調査に当ててるから、怠いです。

 それで机に突っ伏している時だった。

 

『皆さん!!私達は学校の差別撤廃を目指す有志同盟です!!』

 放送が大音量で流された。

 この状況で動くとか暴走してますね。

 主張内容。一言でいえば、立てよ二科生!!です。

 真面にヤル気あるのかしら。

 

 通信端末にコール。あれ?私、風紀委員じゃありませんが?

 私は通信に出る。

「このナンバーは現在使われておりません。ナンバーをご確認…」

『深景さん?手伝ってほしいのだけど?』

 小悪魔会長だった。有無をいわせない口調でした。

 一人称が吾輩な大悪魔様みたいに、閣下とお呼びするのがいいかもしれない。

『深景さん?駆け足で生徒会室まで来てくれるかしら?』

「サーイエッサー」

 

 

               7

 

 :紗耶香視点

 

 私は今日剣道部の活動が休みの為、近所の道場で練習しようとしていた。

 主将の話を考えながら、放課後の学校を歩く。

 誰かに相談すべきと思うが、どう話していいか分からない。

 あの下級生二人か。フッと桐原君の顔が浮かんだが、首を振って追い出す。

 

 そんな事を考えていると、いきなり放送が流れた。

 

 立ち上がるって、まさか、こんな事を!

 私は踵を返す。放送室へ。

 だが、私は手を掴まれ立ち止まった。

 振り返ると桐原君だった。

「桐原君!今、急いでるの!放して!」

 桐原君は手を離さなかった。

「お前は関わるな!」

 強い口調で桐原君が止める。

 事情を知っていそうな雰囲気だった。

「もしかして、立ち聞きしてたの!?」

「なんの事か分からねぇが、ヤベェ話を聞いたのなら会頭に話してるぜ。奴等は暴発

した。お前が出てけばややこしくなるだろ!」

「……」

 桐原君なら声で気付くかもしれない。

 あの声は空手部の沼田君のものだ。私も一緒に差別撤廃のビラを配ったりしたから、

そこから気付いたのかもしれない。

「なんかヤベェ事があるにしても、あの三巨頭が見逃す程間抜けな訳がねぇ」

 私は力なくスピーカを見詰めた。

 

 私は桐原君に手を掴まれたままだった。

 

 

               8

 

「ごめんなさいね。ハンゾー君とあーちゃんは調査の取り纏めやって貰ってるし、

リンちゃんは現場だし、人手が足りなくて」

 閣下曰く、そういう事らしい。それでパシリ登場ですか。

 やる事は閣下の補佐だった。

 学校側との交渉だ。

 一言で言えば、この問題は私が預かる!文句あるか?

 私は前例をピックアップして、文書にする。

 閣下の言葉に根拠を付け加えるのも、お仕事の一つです。

 校長が気の毒でしたわ。

 十師族相手だから、あんまり強く出れないみないだし。

 かといって、仕事したくありませんとか態度で示せば、どこに転勤になるやらだし。

 まあ、チャンと問題を片付ける事を条件に任される事になった。

 

 貴方の毛根の無事を祈ってる。

 

 

               9

 

 そして、現場へ。事件は現場で起こってるんだ!懐かしいネタですね。

 原作と違って、壬生先輩が放送室にいなかったみない。よかった。

 現場は収まり掛けている。

 私達は空きスペースを縫って、渡辺お姉様のところに行く。

 静まれ!こちらのお方を何方と心得る!現生徒会長・七草真由美閣下なるぞ!

 閣下に気付いた人は、道を開けている。

 そして、私に視線が向けられる。

 分かるよ。私も何故くっついてきてるか分かってないからね!

「摩利。彼等を放して上げてくれる?」

 お姉様の顔は不満そう。

 達也と深雪は傍観してたようだ。

 深雪が動くと惨事になるけどね。

 閣下が学校との交渉結果を話す。

 それでエガリテ一同は解放された。CADは校則違反で預かりになったけどね。

 余談だけど、彼等を捕まえた方法は、達也が十文字さんと市原さんに交渉に応じる

と、扉越しに交渉させたからなんだって。

 

 原作と違って、深雪から嫉妬されなくてよかったね。

 

 

 

 

 




 そろそろ入学編クライマックスですね。
 あと二話か三話ってとこですか。

 では、次回も頑張ります。


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入学編6

 原作を少し読み進めました。
 校長出てましたね。まあ、こっちじゃこれって事で。
 
 それでは、お願いします。


               1

 

 解放されたエガリテ御一行様の代表者が、生徒会室で交渉の打ち合わせを行ったみたい

だけど、助っ人一時終了の私は勿論、達也や深雪も参加していなかったので、閣下に訊いて

みる事にする。

 朝から張り込みを開始。

「お姉様。何故、アンパンと牛乳を持って、隠れているのですか?」

 深雪が引き気味に訊いてくる。

 フッ、張り込みに必須なアイテムだからさ!っていうのは冗談だけど。

「うん。実は朝食食べてないから、今食べようと思って」

 これなら待ってる間に、すぐ食べられるし。

 こんな事してんの、私だけなんだよ。まあ、お行儀が悪いのは確かだしね。

「そういえば、今朝いらっしゃらなかったですけど、何かあったのですか?」

 朝食は作り置きしたよ。二人分。

「うん。ちょっと情報屋のとこに行ってた」

 深雪が美しい眉を僅かに顰める。

 達也もあまりいい顔をしなかった。

 信用できる人なんだけどね。

 私はその人物の命の恩人だし、後暗い秘密も共有している。

 ネットで漁れる情報は漁ったから、今度はネットにない情報を漁る。

 今も昔も、ネットに全て情報が上がる訳じゃない。

 そんな情報を得るには、やっぱり人間を攻めるのが一番だ。

 

 なんとか閣下が来る前に、食べ終える。

 勿論、お口のケアは忘れません。簡易的なものになるけど。

 技術革新舐めたらあかんぜよ。

 

 そして満を持して向こうから、只者ではない気配が…って嘘です。はい。

 閣下が来るのが見える。

 そして、ある程度接近してから、達也が声を掛ける。

 予想していなかったのか、原作通り普通の対応。

 いつもの…すいません。

 何やら殺気じみたものが飛んできたよ。怖い。

 達也に察知させないとは、やりよるわ。

 私がバカな事を考えている間に、話は進行していた。

 纏めると、やっぱりエガリテ御一行様は、何も考えていないらしい。

 

 彼らの主張。平等じゃなきゃ認めない!何が平等か分かんないけどね☆。

 

 何考えてんだか…。

 それで我らが生徒会長閣下は、公開討論会をやって上げる事にしたらしい。

 勿論、生徒会からは閣下が出陣する事になる。

「それでね。壇上にはハンゾー君にも上がって貰うんだけど、達也君と深景さんにも待機して

ほしいのだけど」

 まあ、達也起用は理解できる。

 達也の魔法式読み取りは、知られてしまってるからね。扇動してる魔法士対策でしょう。

 でも、私が待機する意味が分かりませんが?

「貴女も鋭敏な感覚を持っているんでしょ?」

「……」

 調査での聞き取りの時かな。

 達也と深雪は表情にこそ出さなかったけど、警戒が一レベル上がっている。

 

 油断ならない人だね。バレてましたか。まあ、ですよね。

 

 

               2

 

 そんな朝の一幕を乗り越えて、昼。

 

 私とエリカは、カフェテリアで壬生先輩と向き合っていた。

「ごめんね。付き合わせちゃって…」

 深雪には心配されたけど、説得してこっちに来たよ。

 その甲斐あって、壬生先輩から興味深い事を聞けた。

 似非インテリ眼鏡の話とか、壬生先輩を祭り上げるバカ計画とか。

 エリカは視線を鋭くして聞いていた。

「千葉家の力で保護って訳にはいかないか」

 私の言葉にエリカが首を振る。

「具体的に何しようとしてるかも分からないんじゃ、無理ね」

 危険度が高いと予想できないとダメですよね。

 となると。

「壬生先輩。桐原先輩のナンバー分かります?」

「まあ、登録してあるけど…」

 壬生先輩の言葉に、エリカがへぇ、といったような顔になった。

 ニンマリとした顔で、まるで猫が獲物を狙っているような感じ。

「別に!最近、一緒に練習する事が多いし、それで…」

 慌てて否定するも意味はない。女の子というのは恋バナ大好きな生き物なんじゃ!

 と、それはまた今度ゆっくり聞くとして。

「通信端末貸してくれます?」

 話が逸れたのを幸いに壬生先輩が、サッサと通信端末を私に渡す。

 桐原先輩に通信できる状態で渡されたので、ナンバーを見ないようにして掛ける。

 すぐに本人が出た。

『どうした?』

「すいません、司波です。壬生先輩じゃなくてすいません。因みにデートはまだですか?」

「ちょっと!」

 壬生先輩が慌てて手を伸ばすが、渡しはしません。

『余計なお世話なんだよ!』

 桐原の兄貴。動揺が凄いね。惚れてるってバレバレな返答ですがな。

「今、どちらに?」

『帰ろうとしてたとこだよ』

 声が震えてますぜ?

「カフェテリアの入り口じゃないんですか?」

『……なんの事か分からなねぇな』

「そうですか。じゃあ、入り口からこちらを窺っているのは、勘違い野郎ですか」

 エリカと壬生先輩が入り口を凝視する。

「ストーカーとは許せませんね。安心して下さい、壬生先輩。ストーカーは社会的に抹殺

しますから」

 壬生先輩は、私の突然の宣言に戸惑っている。

「取り敢えず、犯人の画像を入手して証拠を捏造すればいいでしょう」

『何、サラっと犯罪行為やろうとしてんだよ!!』

「女子剣道部更衣室から、壬生先輩のショーツを顔面に装着した状態で出てくる映像に

しましょう。これで確実に殺れます」

 所謂、究極変態仮面スタイルですよ。

 あれ、女の子にとって笑いより恐怖を感じますからね。私だけかな?

「ちょっと!!それ、私も死ぬわよ!!恥ずかしくて!!」

 壬生先輩は、真っ赤になって抗議している。

『「テメェ!何、冤罪作ろうとしてんだよ!!」』

 入口の方と端末から同じ声が聞こえてくる。

「入口から桐原先輩の声が聞こえてますが?この糸電話みたいなヤツ、まだやります?」

『ホント!質の悪ぃ女だな!』

 それほどでも。

 

 桐原先輩は観念してこちらに歩いてくる。

 それを壬生先輩は冷ややかに見ている。

 エリカは生温かい視線を向けている。

 

 そして、ラストを飾るのはこの私。

 サムズアップ!

「ドンマイ!!」

 

「テメェの所為だろうがぁーーー!!!」

  

 

               3

 

 結局は騒ぎ過ぎで場所を移した。

 例の閣下愛用のベンチへと。

 エアポケットになってるっていってたけど、ホント人が来ないんだわ。

「桐原君。結局、立ち聞きしてたって事でいいの?」

「立ち聞きする積もりはなかったが、聞こえちまったんだよ。身辺に気を付けろとか

なんとかいってんのがよ…」

 どうも、全部立ち聞きした訳じゃなくて、部分的に会話内容を聞いたが正解らしい。

 それで桐原兄貴は、自主的に護衛に就いていたらしい。

 怒った壬生先輩を宥める為に、私は口を開いた。

「まあまあ、桐原先輩も壬生先輩が心配で、ついやってしまった事ですから」

「ついってなんだ!ついって!」

 まるで罪を犯したようないい方に、カチンときたようだ。

 私は桐原兄貴を無視して、エリカに視線を向ける。

「どう?来てる?」

「馬鹿話だと思ってくれたか、ここに来たらバレるから追ってこなかったか分からない

けど、大丈夫」

 壬生先輩は怪訝な顔で、桐原兄貴は押し掛け護衛だけあって表情が引き締まる。

 カフェテリアで壬生先輩を窺ってたのは、桐原兄貴だけじゃないからね。

「もう桐原先輩も巻き込みましょう」

 私の言葉に、壬生先輩は仕方なさそうに溜息を吐いた。

 

 そして、壬生先輩から改めて説明して貰う。

 

 説明を聞き終えた桐原兄貴の顔に、危険なものが浮かぶ。

「成程、じゃあその郷田って奴と話せば、壬生は安全って事だな?」

 んな訳ないでしょ。

「それはダメでしょう。そのジャイアンも煽られている一人でしょうし」

 私を除く全員に?が浮かぶ。ドラえもんネタが通じない!?

 でも気にしない。

「つまり、その件の人物を片付けても、次が湧いてくるって事です」

 桐原先輩は舌打ちする。

「そこで、桐原先輩。正式に壬生先輩を護衛して貰えませんか?突然、私達が周りを

うろつくと不審に思われるでしょうし」

「そんな護衛なんて!」

 壬生先輩が難色を示すが、ここは呑んで貰わないと。

「正直、もっと護衛がほしいくらいなんですよ。実際」

 私の言葉に壬生先輩が言葉に詰まる。

 桐原兄貴だけじゃ、正直不安だけど、あんまりゾロゾロ連れ歩くのもなぁ。

 八雲先生に派遣して貰うかな…。

「だが、問題もあるぞ」

 桐原兄貴が真面目な顔でいう。何?

「俺が色々と誤解された事だ!!」

 ああ、そんな事?

「大丈夫ですよ!健気な男の子の行動として、生温かく見守られた筈です!!」

「う~ん。そう聞くとキモいかも」

 エリカ。ここは空気を読みましょう。

 

「大丈夫な要素ねぇじゃねぇかーーー!!」

 

「でも、護りたいんですよね?」

 一転して真面目に私は訊いた。重要な事だ。

 桐原兄貴も真剣な表情で頷いた。

「桐原君…」

 ハイハイ。恋バナは、この件が片付いたらゆっくりと聞くから。

「壬生先輩。もし、お仲間から何か訊かれたら、桐原先輩との関係に悩んで相談したって

事にして下さい。あと口裏合わせといて下さいよ?」

 余計な事は、話さないようにお願いしますよ?

 その為のおふざけだ。まあ、楽しんだけどね!

 そんな事は、おくびにも出さずにいう。

 壬生先輩も承知してくれた。

 

「護って上げて下さい」

 私の言葉に桐原兄貴が苦笑いする。何故に?

「その顔はズルいな」

「?何がですか?」

 

 エリカが私の肩を気にするなとばかりに、ポンポン叩いた。

 

 いや、意味分かりませんが?

 

 

               5

 

 さて、私は九重寺に来ています。

 達也と深雪も一緒にね。

 そこで、似非インテリ眼鏡の調査結果を聞いている。

 どうも、達也襲撃犯と同一人物らしいのと、最近美月に声を掛けていたらしい。

 壬生先輩の話とは、食い違う行動だ。

 因みに、調査結果は、原作と同じ内容だったよ。

「それで?深景君の情報はどういったものかな?」

 情報を語った後、私に訊いてくる。

 私はタブレット端末を取り出す。

「今日、壬生先輩から相談を受けました。それで興味深い事が聞けました」

 タブレットを操作する。

 名簿が出てくる。

「これはもしかして…」

 深雪が困った顔で私を見た。

「うん。壬生先輩の交友関係のリスト。いけないね。年頃の娘さんが」

 もうちょっとセキュリティに気を遣わないと。

 あまり感心しないといった顔の深雪を、取り敢えず見なかった事にして続ける。

 結論からいえば、おかしな動きをしてる人はいなかった。

 通話記録、メール、接触している人物もエガリテ関連以外は、おかしな事は

なかった。

 エガリテ関連も、ブランシュ逮捕後距離を取る人間が増えていた。

 だから、気付かなかったんだよね。

 似非インテリも、エガリテから距離を取っている人間の一人だったのだ。

 で、今回の話だ。

 どこでそんな情報を手に入れたんだろう?

 あのチキン支部長かな?いや違う。

 あのチキンは家に帰っていない。

 

 監視社会。怖いですねぇ。

 

 それで的を絞って探ったよ。

「さてさて、お立合い」

 ある映像を二つタブレットに表示して、順番にタップして拡大。

「通信端末が違うね」

 達也がすぐに気付く。

 その通り。デザインは、ほぼ変わらないのに、よく分かったね。

 これは、ブランシュやエガリテが使ってる違法な端末って訳でも、()()物でもない

んだな。

 違法端末の出処を調べ上げれば、それぞれに特色があるからね。

 二つの組織で使用している物とは、違うと断言できるよ。

「いやいや。恐ろしいねぇ。ここまで調べ上げるんだから」

 私の調査を聞き、八雲先生がおどけたような口調で冗談を飛ばす。

 響子さんだったら、最初の調査で気付いてたかもね。

 私も経験が足りない。

「褒めて頂いて光栄ですけど、ここで行き止まりでした」

 奴の持ってる片方の端末は、履歴や通信先が不明だった。

 この端末の情報がない。

 ネットじゃ、ここが限界。

 情報屋に追加で調べて貰ったけど、他の国の軍関係かもとしか分からなかった。

 どうせ、他国って困ったちゃんでしょ。

 本来、頼んでたのは分かったからいいけど。

「情報屋の調べじゃ、ブランシュ支部長は逮捕騒動の後は、隠れてるみたいよ。

 新宿の怖いオジサマのところに滞在してるみたい」

 八雲先生が、ああっと地味な反応。知ってんだ。ですよね。

 達也に深雪が顔を顰める。

 そこまで嫌わなくてもいいじゃない。

 そして、最後に私は壬生先輩の護衛をお願いした。

「うん。いいよ。何人か付けておくよ」

 勿論、お金掛かりますよ?自腹だけど、それで人の安全が買えれば安いでしょ。

 

 

               6

 

 公開討論会当日。

 ここまでに動きなし。あるとすれば、今日なんだけどね。

 生活主任の先生が、くれぐれも問題を起こさないようにといってきた。

 原作では、この先生で交渉終了な筈なんだけど、こっちじゃ違った。

 校長にまでお鉢が回ったよ。

 しかし、ブーメランですな。

 結局、主任さんが監督役に。

 あンた、背中が煤けてるぜ。

 エガリテ御一行様が、参加を呼び掛けただけあって、人が多い。

 一科生の方もそれと同じくらい多い。

 バランスいいですよね。

 チクリと市原さんが、嫌味をいっていたけど。

 渡辺お姉様は、実力行使前提です。

 私達は待機。

 そして、閣下とエガリテ御一行様の討論。

 閣下の演説会に変貌しています。

 ヤル気がない連中とじゃ、そうだよね。

 はてさて、原作通りに事が起きるのかな?

 

 な~んて、考えていると空気が変動する。勿論、実際に変動した訳じゃない。

 直感に従い視線を移動させていく。

 おや?なんか光りましたよ。

 っと!これは!!

 私は走り出す。誰も止める間もない。

 舞台では丁度、閣下のターン。

 私は閣下を横抱きにして、スライディング。

 それと同時に窓が割れ、閣下の頭があった場所に銃弾が通過する。

「達也、深雪!!狙撃手!!」

 二人の顔は確認できない。

 でも、分かる。

「深雪」

 達也が深雪の肩に手を添える。

「愚か者」

 深雪の絶対零度の声。

 今頃、狙撃手は氷の彫像になっているだろう。

 私は接近してきたカンゾー君に、閣下を投げ渡す。

 閣下が似合わぬ可愛らしい悲鳴を上げて、カンゾー君の腕に納まる。

「おい!!司波!!」

 私は答えずに、舞台を飛び降りる。

 

 閣下の決意表明なかったけど、機会を再度作っていうんだろうな。

 重要な話だしね。

 

 エガリテ一同、行動開始。行動終了。

 

 窓ガラスが割れて、榴弾が飛び込んでくる。

 私は懐から十手を取り出す。私が刻印を刻んだものだ。

 想子剣。サイオンの剣を造り出すだけのCAD。

 不可視の剣が形成される。

「落合流・首位打者剣!!」

 見事なスイングで打ち返す。突き破った窓から外に榴弾が出ていく。

 う~ん。無敵。

 外で煙が上がっている。

 某・鉄火場が嫌いじゃないマフィアがいってました。ビビったら負けだと。

 だから、これでいいんです!

 立て続けに爆発音が起きる。

 これ、学校で起きる事件じゃないよね。

「姉さん!」

「お姉様!」

 達也と深雪が駆け付ける。

 それじゃ、晴れて潰しにいきますか。

 私は二人と駆け出した。

「気を付けるんだぞ!!」

 渡辺お姉様の声が掛かる。

 

 いってきます。 

 

 

               7

 

 :桐原視点

 

 公開討論会があるが、今日俺達は参加しない。

 真っ直ぐ壬生を送って帰る。

 俺は周囲を警戒しつつ、壬生と並んで歩く。

 あの一件以来、生温かい視線を向けられる事が増えた。

 服部にも、壬生と一緒にいる時によかったな!とかいわれた。

 違うんだよ!こんななし崩し的な事じゃなくてよ。

 もっとちゃんと!って…今、それどころじゃねぇな。

 俺はポケットの中の短い柄を確かめる。

 司波姉が俺に寄こした物だ。

 護衛をやるに当たり、遠距離攻撃がそれ程得意という訳じゃねぇ俺にアイツが

寄こした代物で、柄に付いているスイッチを押すと短い刃が出る。

 圧斬りを発動させる事に特化しただけでなく、刃を手裏剣のように飛ばす事も

できる優れものだ。なんでも刻印と魔法陣を組み合わせて刻んだものらしい。

 何者だ?あの女。

 いつも竹刀や真剣を、持ち歩く訳にいかねぇから、助かるがな。

 

 そして、人通りが段々と疎らになっている事に気付く。

 古式の術式か?魔法の気配がする。

 街中で大胆にも程があるな。バカなのか?

 これならすぐに警察が飛んでくる。最悪時間稼ぎをすればいい。

 壬生も気付いている。

 視線を交わす。

 足早に歩く路地に差し掛かると、突然車に進路を塞がれた。

 案の定かよ。

「壬生。下がってろ」

「冗談じゃないわ」

 おい!

 壬生は警棒を取り出している。

 やっぱり、司波姉が渡した物だ。

 後からも車が来て停車。

 同時に二台の車から野郎が、ワラワラと出て来た。

「なんか用でもあるのか?そんなとこ停めると邪魔だぜ?」

 俺も既にポケットから得物を取り出している。

「同志・壬生。一緒にきてくれ」

 ガタイのいい男が口を開く。

 一斉に襲い掛かってくる。問答無用って訳か!

 遠慮は無用だな。

 俺は素早く圧斬りを発動。不用意に手を伸ばす野郎を斬り倒す。

 殺しちゃいねぇよ。

 連中が怯んだ隙を、壬生と俺は見逃さなかった。

 次々と打倒していく。

 ガタイのいい男へ斬り掛かろうとした時、ガタイのいい男が右に一歩ズレる。

 そこには、一人の男が拳銃を構えていた。

 コイツ!いつからいやがったんだ!

 躊躇なく引き金が引かれる。

 咄嗟に回避したが、凄まじい衝撃が肩を貫く。

 情報強化の弾丸だと!?

 堪え切れずに地面に転がる。

 意識が途切れそうになる。だが、そんな事は許されねぇ!

 立ち上がろうと顔を上げると、銃口が額に向けられていた。

 こんなとこで、終われるか!!

 

 だが、引き金が引かれる事はなかった。

 俺の前に壬生が立ったからだ。

「止めて下さい!」

「お前次第だな」

 銃を持った男が、初めて口を開いた。

「おぃ!止めろ!」

 壬生が俺の制止を無視して、警棒を捨てる。

「ごめんなさい…」

「壬生…!!」

 衝撃が襲う。

 

 俺の意識はそこで途切れてしまった。

 

 

               8

 

 :九重寺僧侶

 

 お嬢さんの護衛だが、今日が襲撃が起きる可能性が高い。

 気を引き締めて務めていた。

 だが、不覚にも気付かれたようだ。

 居場所まで掴まれている。接近してくる。

 他の者に指示を出して、警護対象者のところに行かせようとするが、複数の敵が

接近していた。

 背広を着用しているが、日本人ではあるまい。

 気が男から立ち昇る。

 

 これは道術か!?

 

 戦闘を正面切って行う事になろうとはな。

 

 

               9

 

 :???視点

 

 爆発音が複数聞こえてくる。

 これで、仕事は終了だ。

 予想外に魔法が気付かれたりもしたが、終わってみればこんなものだ。

 それにしても、日本であの瞳に出会うとは、思わず声を掛けてしまった。

 できれば、拉致したいところだが、今回は見送るべきだろう。

 声を掛けていたところを見付かったが、言い訳は幾らでも出来る状況だった。

 問題ない。

 それにこの学校にあの瞳の持ち主が、いるというだけで収穫だったのだから。

 それにしても、あの娘を計画後に演説に使うという話だが、使えるのか?

 まあ、これはあちらの問題だ。

 

 好きにすればいいさ。

 

 

 

 




 壬生先輩拉致られました。
 美月拉致フラグ立ちました。回収されるか今のところ不明。
 おい!

 入学編ラストに向けて頑張ります。


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入学編7

 まだ、エスケープ編読んでないですわ。
 いつ読めるかな。
 多分、完結まで読まないんじゃないかと懸念しとります。

 それでは、お願いします。


               1

 

 一番戦場みたいになってる場所へ、私達は走る。

 本命は原作通り、図書館だと思うけど無視はできない。

 実技棟、映像でしか見た事ないような事になってるもん。

 全く、この学校は、日本にあるんじゃないの?

 原作知ってても疑問に思うよ。目の前の情報を拒否したくなるよ。

 実技棟、ロケットランチャー食らってますよ。

 許されるなら、回れ右したい。

 途中出会ったテロリストは、原作よりマシな練度の連中のようで、戦闘に参加している

生徒は、乱戦の上に押されている。

 なので、三人でお掃除しながら進む。

 

 レオ君が暴れているのが見える。

 私は更に加速し、深雪が魔法を使う為に急停止。達也は深雪を護る為、一緒に停止。

 レオ君は順調に敵を薙ぎ倒していたが、相手はレオ君を難敵とみたか、包囲に入って

いる。レオ君も気付いているけど、目の前の相手に精一杯だった。

 一時包囲している連中が、深雪の魔法でお空に旅立つ。

 私は、その後からバックアップしようとしている連中の傍を、流れる水のように走り

貫ける。その度に、テロリストは想子剣で打ち据えられて、倒されていく。

 気付いた連中も反撃を試みるが、そんな事はさせない。

 乱戦にしたのを後悔しなさい。

 戦っている生徒と、テロリストの中を駆け抜ける。

 敵を巧みに盾にして打ち倒し、盾がなくなれば魔法師用の高速弾を斬り落とす。

 咄嗟にナイフを取り出した最後の男を斬り伏せた。

 取り敢えず、ここはこれで全部かな。

 

「達也、深景!助かったぜ!!」

 レオ君が爽やかに礼を言ってくる。

 残念だけど、まだ終わってないわ。

「魔法を使ったのは深雪だ。俺じゃ、あんな事はできない」

 達也が冷静に訂正する。

「そうだったか。ダンケ!深雪!」

 素直に深雪に感謝し直すレオ君。

 深雪はニッコリ笑って礼を受ける。

 

「レオーー!!」

 エリカの声が聞こえてくる。

 エリカが自分の警棒とレオ君のCADを持って、走ってきた。

「既に援軍が来てたか…」

 ドンマイ!エリカ。まだまだいるから、あの連中。無駄じゃないよ。

「どうなってんだ?これ」

「テロリストが入り込んだ」

 レオ君の疑問に端的に達也が答える。

「物騒だな、オイ」

 レオ君の顔の方が物騒ですよ。獰猛に笑ってますよ?顔が。

「それじゃ、問答無用にブッ飛ばしていい相手って事ね?」

「ああ。生徒じゃなければ手加減無用だろう」

 エリカの問いにも簡潔に達也が答える。

 それとエリカ。貴女の顔もヤバいから。

「高校って、思ったより楽しい場所ね」

 異議あり!こんな楽しい要らない!ラブ&ピース!

 因みに、レオ君とエリカが居残ってたのは、自主練を結果的に二人でやってたから

だそうだ。これ、説明する時の慌てっぷり。もう付き合っちゃいなよ。

 教師が常駐している場所は、怪我人は出たみたいだけど、粗方制圧したみたい。

 少しぐらい、襲撃者の実力が上がろうが護ってくれる。有難い事で。

「陽動か…」

 達也が今までの材料から、正解に行き着く。

「討論会もでしょうか?」

 深雪が達也に疑問を投げ掛ける。

「まあ、体よく使われたってとこでしょ」

 それには、私が簡潔に答えて上げた。

「これからどうするかだが…」

 達也が呟くようにいう。

 だが、考えるまでもなく正解は示される。

 

「本命は図書館よ」

 そこには小野遙先生がいらっしゃった。

 

 

               2

 

 小野先生の格好は、チャンと防御を考えたものだった。

 金属繊維でできた服を着込んでいた。

 こんなところに、ノコノコ出てくるだけありますね。

 それにしても、ロリ巨乳ですね。ここまで絵に描いたような存在、この世界ならでは

じゃないですかね。十文字さんと逆の年齢詐称してませんか?

「主力は既に図書館内に入り込んでいるわ。生徒達もね」

 全員の訝し気な視線を向けられる小野先生。

 そりゃ、こんな意味あり気な登場すれば、こうなりますよ。

 表面上は平然としてるけど、貴女動揺してますよね?

「後ほど、説明して頂けますか」

 達也の素っ気ないセリフが、小野先生に突き刺さる。

「却下します、っといいたいけどダメよね。その代わり、お願いがあるの」

「なんでしょうか」

 達也のどこまでも素っ気ない態度にも、今度は怯まなかった。

 ま、いわなきゃいけない事だからね。

「カウンセラーとしてお願いします。彼等に…生徒達にチャンスを上げて貰えないかしら。

彼等も魔法科高校という特殊な場所で悩んでいたの。私も相談に乗ったけど、彼らの力に

なれなかった…」

 小野先生の顔には悔しさが滲んでいた。

「甘いですね」

 達也はバッサリと切り捨てる。

 今度は私が口を開いた。

「小野先生。図書館に主力が向かっていると掴んだ方の立場の貴女は、何をしたかった

んですか?」

 小野先生は言葉に詰まってしまった。

 答えは聞かなくていいだろう。

「もういいよ。行こう」

 私はみんなを促して走り出す。

 後からレオ君が声を上げていたけど、今はそれどころじゃない。

 

 結局、レオ君も付いてきてるし。

 

 

               3

 

 図書館前は、ルール無用の大乱闘中だった。

 三年生連合は、押され気味とはいえ、どうにか踏ん張っている。

 流石です。欲をいえば、片付けてほしいけど。

 そして、私達を追い越していく人物がいた。

 古の古城城壁に匹敵する男。レオ君である。

 雄叫びを上げてレオ君が、乱闘中の集団に突撃。

「パンツァーーーー!!」

 フォー!!

 っと、ネタをブチ込んでる場合じゃないですね。

 走っている最中に、レオ君のCADと魔法についての説明が語られる。

 サラッとエリカが原作通りにディスった。

「ここは俺に任せて、先に行け!!」

 知らない事は幸せな事もある。

 折角、格好よく決めたのに、ディスられたなんて知らない方がいいでしょ。

「よろしく!」

「気を付けろよ!レオ!」

 私達は、漢の横を駆け抜けた。

 

 死ぬんじゃないよ。

 

 

               4

 私達は図書館内に侵入した。

 達也が精霊の眼(エレメンタルサイト)で、図書館内を探る。

 いやはや、便利だね。

 私の特典?今は使いませんよ?達也がいるし。

 特別閲覧室に四人。閲覧室外に二人。階段の上り口に二人。上り切ったところに二人。

 少し原作より多いかな?

「凄いね。達也君がいれば待ち伏せなんて意味ないね。敵に回したくなよ」

 若干、引き気味にエリカが感想を述べる。

「特別閲覧室で何をやってるかは、考えるまでもなしっと」

 クラックしてる訳じゃないらしいし、原作通り機密文書の強奪でしょ。

 ここまでやって、やってる事同じって…。まあ、いいけどね。

「ええ!?じゃあ、普通にスパイ活動!?うわっ!」

 エリカが顔全体でつまんねぇーー!っていっている。

 現実なんて、そんなもんさ。

 

「それじゃ、せめて露払いくらいしますか!」

 エリカが飛び出して行く。

 階下にいたモロバレ要員1・2号が、エリカに突撃していく。

 南無阿弥陀仏。

 エリカにあっと言う間に、警棒で叩きのめされてしまいました。

 描写?必要ないくらいアッサリ終わったよ?

 

 それじゃ、私は階上にいるモロバレ要員3・4号を、片付けますか。

 私は、達也と深雪より先にジャンプして階上に降り立つ。

 3・4号が襲い掛かってくるが、それぞれ一太刀で打倒す。

 お手々の皺と皺を合わせて(以下略)。

 

 エリカに門番をやって貰い、私達は特別閲覧室へ急ぐ。 

 

 

               5

 

 ここも精鋭が踏み込んだとはいえ、所詮は雑魚キャラ。

 入り口のモロバレ要員5・6号は、達也の魔法でアッサリと無力化された。

 塀の中で養生して下さい。

 

 頑丈な扉も達也の前には、襖と変わらない。

 アッサリと破壊。ギャグみたいに向こうに扉が二枚とも倒れた。

 中の連中は流石というべきか、すぐさまライフルを撃ちまくる。

 だけど、こんなに近くちゃね。

 回避と同時に深雪が、ライフルをすぐに凍結させて使い物にならなくした。

 止めは、達也が魔法を人数分打ち込んで戦闘終了。

 ワンサイドゲームもここまでくると、敵が哀れですね。

 

 そして、私は、ここまでほぼ何もしてないよ。素晴らしい。

 

「なんでだよ!お前達だって二科生じゃないか!!悔しくないのかよ!!」

 私が感慨に耽っていると、横から水を差す喚き声がする。

 声の発生源は、男子生徒だった。

 あれ?まだ残ってるよ?ああ、撃ったの三人か。

 確か放送室占拠事件の際、いたような?空手部の…コータローさんでしたっけ?

 どうやら、私と達也に向けていっているらしい。

「お前等だって、馬鹿にされただろ!?侮蔑されただろ!?これは必要なんだよ!!」

 こりゃ、酷いな。なんの疑問もない訳?

 呆れてものがいえない私に代わり、深雪が口を開く。

「私は御二人を誇りに思っています。例え全世界が御二人を認めなくとも、私は変わらぬ

敬愛を捧げます」

 揺るぎのない深雪の態度に、コータローさんがたじろぐ。

「確かに御二人を蔑む愚か者は、存在します。そんな有象無象の言葉で私の心が変わる事

はない!!」

 ほぼ全世界の人間を、有象無象扱いした気がするが、私はスルーできる!

 伊達に、この子と生活を共にしている訳じゃない!

 

 私が深雪の過激発言と脳内対決している間に、コータローさんは投降した。

 あの迫力からは、逃げられないよね。

 

 

               6

 

 :???視点

 

 もうじき、校門を出る。

 少し早足で、近付いていく。

 あの騒ぎの最中、自分を呼び止める暇人もいないだろうが、可笑しな行動を取る訳に

いかない。

「おう!司!帰んのかい?」

 随分と砕けた声が掛けられる。

 暇人はいるものらしい。

 声の主は、成り済ましている人物の知人だ。友人という訳ではない。

 俺は振り返ると、当人が立っていた。

「辰巳か。それは帰るだろ。こんな状況で居残る方が危険だろう」

 動揺するような事は、一切ない。

「そりゃ、そうか!部活なんてこの状況じゃ、できねぇわな!」

「ああ、そういう事だ。こっちは無力な二科生なもんでな。帰るぞ」

 そういうと、サッサと歩き出す。

「まあ、待ちな。ちょっと聞きてぇ事があんだよ」

「この危険な状況でか?」

「ああ。今じゃなきゃ、不味いんだよ」

 俺はワザとらしく溜息を吐く。

「なんだ?」

 俺は顔に不快感を出す。

「ウチの委員長はよ。感心できねぇ特技があってよ。気流を使って複数の香料を掛け合わせ

て、自白剤を造っちまうんだよ」

 俺は呆れ果てたように、装う。

「それは確かに感心しないな。いっていいのか?それは」

 最近の学生は、何をやっているんだ。

 本気で呆れる。

「あー。分かった。単刀直入にいうぜ?風紀委員本部に来てくれや。お前が手引きしたって

事は、もうバレてるからよ」

 俺は鼻で嗤ってやった。

「さっき違法な手段で訊き出した、といっていたじゃないか。渡辺が誘導尋問していわせた

んじゃないのか?」

 俺は、厳しい表情で辰巳を睨み付けてやった。

 辰巳も厳しい表情だ。

「司先輩!!ご同道願います!!」

 後から威勢のいい声が放たれる。

 確か、沢木とかっていったか。

「実力行使…という訳か?」

「大人しく来ねぇってんなら、仕様がねぇわな」

 俺は、持っていた鞄を投げ捨てる。

 二人は既に戦闘態勢に入っている。

 中々鍛えられているじゃないか。

 俺も無言で構えを取る。

「それは抵抗するって事でいいのか?司」

 何を今更。

「俺を叩きのめせたら、本部でもどこでも行ってやる」

 二人は警戒する。

 すぐに弱者と見て掛かってこなかったのは、評価できるが、相手の実力の把握が甘いな。

 スムーズに魔法を発動させ、まずは辰巳に接近する。

 突然、間合いに入られても、辰巳は動揺せずに後退を選択。

 だが、もう騙されている。

 振り抜かれた拳が、辰巳の顎を捉える。

 俺は間合いも誤魔化していたんだよ。

 倒れこそしなかったが、よろめく。

 俺の拳が蛇のように鋭く、陰湿に辰巳を捉える。

 遂に、辰巳が掌底を受けて、吹き飛んだ。

 ここまでで、ゼロコンマの時間。

 後の沢木には、辰巳が一瞬で倒れたように見えただろう。

 学生の防御など、紙に等しい。

 沢木が奇襲のつもりか、飛び蹴りを放つ。

 挙動の大きい攻撃は、隙を生むものだ。

 アッサリと蹴りを避けて、拳だけで沢木を沈める。

 

 倒れ伏している二人を見下ろし、俺は呟くようにいってやった。

「よかったな。本当なら、死んでいたところだぞ?」

 

 俺は、何事もなかったように学校を去った。

 

 

 

               7

 

 怪我人多数を出して、ようやく鎮圧。

 見えないところで、生徒会や風紀委員も頑張っていたようだ。

 勿論、部活連も。主に十文字さんが叩きのめしたらしい。

 ファランクスを使わなくても強い。

 あとは、エガリテの溜まり場に行って残りを潰して、チキン支部長を源田刑事に逮捕

して貰えばいいでしょ。

 精神干渉魔法の使い手にお仕置きするのも、忘れてはいけない。

 タチコマは、追尾できてるかな?

 こんな事もあろうかと、今回は真田大尉に設計者権限で借りました。

 ストーカーごっこの結果は後で聞くとして。

 なんて考えていると、通信端末が呼び出し音を鳴らす。

 な~んか、こういう時の電話って、嫌な予感がするですけど…。

 出ない訳にいかないからね。通信に出ると八雲先生だった。

『深景君!済まない!実は…失敗しちゃってね』

 最悪だ。私は天を仰いだ。

 

 私達は保健室に来ていた。

 生徒会などの主だったメンバーも集合している。

 怪我人で溢れ返っている。まるで野戦病院ですよ。

 そこのベットの一つに、桐原兄貴が寝ていた。

「面目ねぇ…。それしかいえやしねぇ」

 話を聞くと、仕様がないね。

 ここを襲った連中より、凄腕が混じっていたんじゃ。

 相手は、情報強化の弾丸を撃ってきたそうだ。

 寧ろ、至近距離から弾丸を受けて、意識を飛ばさなかったのは、大したものだ。

 壬生先輩は、桐原兄貴を護る為に投降したという。

 桐原兄貴の顔色は悪い。どす黒いよ。入院した方がいいよ。

 

「それで、どうする?」

 渡辺お姉様が、兄貴の話を聞き終え閣下に意向を確認する。

 風紀委員の二枚看板が、似非インテリモドキを捕らえようとしたらしいけど、これも

失敗している。因みに、二人は保健室のお世話になっている。

 達也経由でアレをマークしていたらしい。

 証拠を掴んでいざ!で、負けたと。

「校内なら兎も角、外で拉致となるとね。これは警察かしら…」

 校内なら面子の問題もあったって訳ですか。

 全員が無言だった。

 

 それじゃ、間に合わないかもしれないでしょ。

 

 私は踵を返す。

「深景さん?どこ行くの?」

 閣下の声が背に掛けられれる。

「帰るんですよ。雑用には荷が重い話ですし」

 私は背を向けたまま、答えた。

「姉さん。まだ外は危険だからね。送っていくよ」

 達也が拒否を認めない口調でいった。

「あら、お兄様。私は送って下さらないのですか?」

 深雪が揶揄うようにいう。

「勿論、送っていくつもりだったさ」

 ハイ、そこ。二人の世界を作らない。

「そうね。私も一学生だし。帰ろうかな」

「俺も帰るわ」

 エリカとレオ君コンビは、とてもこのまま帰宅するとは、信じられない口調だった。

「!!俺も!帰らせて貰えますか。こんな怪我人だらけのところを占拠したら、

申し訳ないですからね」

 桐原兄貴が無茶をブチ込んできた。

 兄貴の傷は、魔法で治療済みだが、再成じゃあるまいし、一発で治らない。

 魔法が定着するまで、大人しくしている必要がある。

 

 生徒会メンバーは頭痛を堪えているのが、背中越しにも分かる。

 

「ならば、俺が車を出そう。防弾仕様の車だ。徒歩よりいいだろう」

 重々しい声が響く。十文字さんだ。

「十文字君!?」

 閣下の驚愕の声が木霊する。

「止めても、こいつ等はやる。ならば、監督役が必要だろう」

 私、やるといってませんが。どうして分かるんですかね?

 渡辺お姉様を筆頭に、自分も行くという申し出を十文字さんは却下した。

 まあ、ですよね。

 

 私を怒らせた事を、後悔させて上げないとね。

 

 

               8

 

 私は一人、トイレによっている。みんな、主に兄貴の支度があるし。

 八雲先生は、このままお仕舞では沽券に係わると、弟子を襲撃した道士を担当して

くれるという。

 依頼料の返却を申し出てくれたけど、断った。

 八雲先生の高弟が、失敗するような相手では責められない。

 これから怪我の治療もあるだろうし。

 便器に座り、タブレットに目を落とすと、タチコマが手を振っていた。

「どう?」

『尾行を警戒しつつ、埠頭方面へ向かっているみたいですね!』

『何度か顔を変えてますけど、僕達は欺けません!』

『元々、医療用に開発された造顔装置を使ってるみたいです』

 タチコマ達が、代わる代わる出てきて喋る。

 その度に資料やデータが提示される。

 顔が病気で崩れてしまった人等を、治療する目的で開発されたものだが、コイツみたい

に犯罪に使う奴がいる為、一般には出回っていない。

 顔を変える程度では、タチコマの解析は誤魔化せない。

 骨格や歩行パターン、僅かな癖、全て解析するんだから。

「そのまま追跡して」

『りょ~かい』

 

 さて、お仕置き行脚に行きますか。

 

 

               9

 

 :十文字視点

 

 家に連絡した車が到着した。

 あとは、連中を乗せていくだけだ。

 司波(男)は、小野先生に情報を訊いている。

 事情をよく知っているのも、当然か。彼女の素性を考えればな。

 

 桐原が歩いてくる。

 安宿先生をどう説得したのか知らんが、よく来れたな。

 あの人は体術のエキスパートだ。いう事を聞かない患者は、容赦しない。

 矛盾しているようだが、実力差で押さえ込めるのだから問題ない…ようだ。

「お待たせしました。他の連中は?」

「小野先生に話を聞いている」

 桐原は訝し気な顔をしたが、結局何も言わなかった。

「何故、無茶をする?ここで無理をすれば、どんなハンデを背負うか分からん訳では、

あるまい」 

 桐原は決然と俺を見返している。

「今、ここで行かなきゃ、俺の剣が死ぬからですよ」

「何故、そこまで壬生に拘る?」

 そこで桐原は、フッと笑った。

「惚れているからですよ。あいつを護らずに誰を護るっていうんです。あいつ一人護れ

ずに、国防に携われると思いますか?ここで何もしなかったら、俺の腕なんぞ、もげた

のと同じですよ。今度こそ護りたいんです、あいつを」

 ここまでいう男とは思わなかった。

「会頭にしてみたら、馬鹿馬鹿しい事かもしれませんが、俺には命を懸ける理由になり

ますよ」

 桐原は最後まで目を逸らす事なく、俺にいった。

 俺は一つ頷いた。

「理解した。一つ訂正がある。馬鹿馬鹿しいとは思わん。上等な理由だ」

 桐原は一瞬、目を見開いた。

 

 話し終えると、残りのメンバーが戻ってきた。

「乗れ」

 一言、全員にいうと俺は車に乗り込んだ。

 

 

 

 




 次回で入学編が終わる予定となっております。
 次回、ようやくオリ主の実力が明らかになる筈です。
 気長に待って頂ければ幸いです。

 


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入学編8

 今回、この作品にしては、長くなっております。
 お付き合い願えればと思います。

 それではお願いします。


               1

 

 エガリテの連中が潜伏している場所は、ブランシュのお下がりだった。

 これは、小野先生情報。

 つまりは、原作通りの使われていない工場ですよ。

 いる連中が違うだけ。

 桐原兄貴は、普通に参加していた。いやいや、アンタ怪我人でしょうが。

 てっきり、十文字さんに止められて、途中下車の旅に出ると思ってたけど。

 あの怪我で第一高校まで戻って知らせてくれた根性を、買ったのかもしれない。

 それとも男同士で、原作以上の語りがあったのか。

 腐った展開を想像しないようにね。

 まあ、何はともあれ、私も失敗したとはいえ、私も兄貴を買っている。

 だから、傷を治して上げた。

 達也が使う再成のマイナーチェンジ魔法。名付けて再築。

 再成が、エイドスをフルコピーするのに対し、再築は情報を限定してコピーして上書き

する魔法になっている。勿論、特典フル活用した結果です。カンニングですが、何か?

 これは、私にも使える。無傷の状態の部位を、ピンポイントでコピーするから痛みも、

それ程じゃありません。今は、達也に目を借りて、コピーしたけどね。

 再成も実は天眼で使えるけど、あれ痛いからさ。

 何かいいた気な、二人にウインクして黙って貰う。

 惚れた女を護る為、奇蹟を起こしたって感じでよろしく。

 

 作戦は達也が立てた。

 

 殆ど、軍用車みたいな車で、目的の工場に突撃を敢行。

 ここでもレオ君大活躍。ゲート破壊に。

 原作と違って、外にも人員を配置していた。

 銃を抜き身でぶら下げてたよ。大胆だね、どうも。

 

 十文字家自家用車で、外の奴等を蹴散らし、混乱したところに車から飛び出したエリカ・

レオ君コンビが片付けていく。特にエリカの活躍が凄い。私達は観戦モードでした。

 粗方掃討されたところで車を降りる。

「作戦通りいこう」

 達也が指示を出していく。十文字さん、口出しなしとは凄いですね。

 原作通りの指示で、エリカ・レオ君コンビはニヤリと笑う。

 コンビ・漢は、裏口から突入。

 私達は正面からだ。

 

 さて、お仕置き第一弾いってみよう!

 

 

               2

 

 :桐原視点

 

 十文字会頭の前を俺は走る。

 会頭は、後ろから悠々と付いてくる。

 対魔法師用の高速弾を相手は撃ってくるが、問題にならない。

 回避し、剣術部に置いてある刀で銃弾を弾く。

 腕や脚の腱を斬り、銃を斬り、鞘で殴り、接近戦で膝を打ち込む。

 剣術部は伊達じゃねぇぞ。

 剣道は竹刀しか使えないが、剣術大会は組打ちも有りだからな!

 

 俺達を襲った連中がいない。ここじゃねぇんじゃねぇだろうな!?

 不安を押し殺して、目の前の奴等を倒す事に集中する。

 

 どこだ!?壬生!!

 

 

               3

 

 :紗耶香視点

 

 私が連れてこられたのは、ブランシュが使用していた場所だった。

 目隠しはされていなかったけど、後ろ手に魔法師を拘束する為の手錠は

されていた。

 桐原君を撃った男と、外国人らしき集団は、到着と同時に姿を消していた。

 そして、今まで集会で使っていた場所ではなく、事務室内の一室に連れて

こられた。

 部屋の真ん中に椅子が置かれていて、そこに座らされる。

 暫くすると、ガッチリした体型の大男が現れた。

「随分と久しぶりな気がするな?同志壬生」

 郷田さんだった。

 エガリテの武闘派の名に相応しい、鍛えられた身体の持ち主だ。

 因みに一般大学生だ。

 魔法大学への進学が出来なかった事で、エガリテに入ったと聞いた。

「もう、会う気はありませんでした」

 キッパリとそう言うと、郷田さんは嗤った。

「随分ストレートな物言いだな?一応、念の為に確認するが、我々に協力する気はない

んだな?」

 私は相手の目をしっかりと見て、ハッキリと頷いた。

 例え、どうなろうと怯えた態度など絶対に取らない。

 郷田さんは、余裕な態度を崩さずに、そうかとだけいって、後ろにいる連中に目配せ

する。

 二人が部屋を出て、すぐに戻ってきた。

 手には注射器と薬瓶を持っていた。

「なら、仕方がないな。無理矢理、協力して貰おう」

 薬物。やっぱり、私は間違えていた。

 自分の馬鹿さ加減に情けなくなった。遂にツケが回ってきたという訳ね。

「こいつはな、洗脳に使う薬品だ。何でもいう事を聞くようになるぞ?裏切り者には

甘い処分だと思うがな」

 連中が何人か私を動けないように、押さえ付ける。

 制服の上着の袖が、乱暴に引き千切られた。

 

 怖い…。でも、最後の最後まで屈したりしない!

 郷田を睨み付ける。このくらいの抵抗しかできないけど。

 

 だが、突如何かが破壊される音が、響き渡った。

 

「なんだ!?何があった!!」

 郷田が声を上げる。

「襲撃です!何者かに襲撃を受けている模様です!」

 遠くから状況が知らされる。

 警察?でもこんなに早く動ける訳が…。

 銃声と悲鳴が上がる。

 警察じゃないなら、まさか!?

 

               4

 

 我等三姉弟妹の道を阻める者などいない。

 先陣は私が走る。達也と深雪が付いてくる。

「姉さん。次を右。敵3、ライフルを構えてる」

「OK!」

 スピードを上げて角を曲がる。勿論、魔法のアシストを使った歩法があればこその

動きだけどね。

 銃弾がフルオートで放たれる。

 だが、銃弾はほぼ真っ直ぐにしか飛ばないんだな、これが。

 狙いもまる分かりだし、霞むように私の姿が消えたもんだから、敵は射撃を少し

緩めてしまった。

「疾!」

 スピードを生かし、駆け抜けながら一人目の胴を斬り払い、二人目の首筋に一撃、

勢いを落とさずに三人目の側頭部を打つ。

 仲間が倒されて、遅れてワラワラと敵討ちに馳せ参じるも、達也の魔法で沈黙する。

 戦力逐次投入とか、流石ド素人。

 雑魚を掃除し、倉庫のような場所の前に辿り着く。

「中にいるのは、おそらく本隊だと思う。射撃体勢で待機している」

 達也の言葉に私は軽く頷くと、想子剣を振るうと同時に、扉から飛び退く。

 勿論、二人も退避済み。

 想子剣で斬られた穴から銃弾が、大量に飛び出してくる。

 暫く続いたが、銃弾が止んだ。

「誰だ。何が目的で来た?」

 男の声が、穴だらけになった扉の向こうから聞こえる。

 今更、そんな事訊いてどうすんの?

「お礼参りだよ。端的にいえば」

 中から嘲笑の合唱が聞こえる。

「なら、返り討ちにするまでだな」

 余計なお喋りに、時間を費やすアンタには無理だよ。

 中から金属が床に散らばる音が響き渡る。

 達也がシルバーホーンを構えたまま、頷くのを見て、私は先に入室した。

 お邪魔します。

「それじゃ、お仕置きタイムといきますか」

 遅れて二人が倉庫に入ってくる。

 皆さん、呆然自失中だった。が、一人逃げ出す奴がいた。

 纏め役臭い、ガタイのいい男。

 あれがジャイアンだ。

 

「お姉様、お兄様。ここは私が」

 深雪の言葉に私達は頷いた。

 平然と、案山子のモノマネ中の人達を縫って、ガタイのいい男を追う。

 

「御二人に銃など向けねばよかったものを…祈りなさい」

 後から深雪の怖い声がしたが、敢えてスルーした。

 なんか、後から強烈な冷気が迸ってたけど、気にしない。

 でも、これだけはいわせて。

 ちゃんと解凍すれば、蘇生するんだろうね?あの連中。

 

 あとで、深雪のフォローもしないといけないね。

 

 さっきまでの偉そうな口調、どうしたの?っていいたくなる逃げっぷり。

 ジャイアンは、扉に手を掛けようとしていた。

 逃げたのは当たりだけど、運が悪かったね。

 

 逃げた先の扉から、刀が飛び出したんだから。

 

 

               5

 

 :桐原視点

 

 もう抵抗も殆どない。

 粗方雑魚は倒したみたいだな。

 警戒は緩めずに奥へ進んでいく。

「壬生!!いるなら返事してくれ!!」

 耐えられずに、俺は声を上げる。

 本来なら、壬生が目的だと知られるのは、こちらの弱味を教えるようなもんだし、

悪手といえる。それでも声を上げずにはいられなかった。

 会頭も咎めなかった。

 声を張り上げ、出てくる奴を斬り倒していく。

 もう、会頭が障壁で防ぐ事もなくなっている。

 

 微かに声が聞こえて、俺は足を止める。

 耳を澄ます。

 俺は振り返って会頭を見ると、会頭にも聞こえていたようで頷いた。

 

 待ってろよ。壬生!!

 

 事務所として使っていたであろうスペースから、声がした。

 会頭と共に慎重に進んでいく。

 

「壬生!!」

『桐原君!扉に、ッ!!…』

 殴りつけられたようで、途中で壬生の声が途切れる。

 だが、どこの部屋かは分かった。

 俺は扉のノブに手を掛ける。

 案の定、銃弾のシャワーが浴びせられるが、全く問題ない。

 ここには、鉄壁の護りを得意とする魔法師がいるんだからな。

 銃弾は全て障壁に弾かれた。

 穴だらけになった扉を蹴破る。

 部屋の中には、壬生の他にも二人いた。

 壬生は口内を切ったのか、血が出ていた。

 一人が壬生を人質に取り、残りがこちらに銃を構えていた。

「そこを退け!こいつがどうなってもいいのか!?」

 壬生に銃を突き付けている。

 床には注射器と薬瓶が転がっている。

「ああ。分かったよ。ほらよ!」

 俺は、持っていた刀を捨てて見せて、扉の前から退く。

 会頭も黙って道を空ける。

「ハッ!馬鹿が!」

 壬生を人質にしていない方が、俺に銃を向ける。

 だが、次の瞬間、不可視の刃に切り裂かれ、銃を取り落とす。

 俺は司波姉に貰ったCADを、刀を捨てている間に握り込んだのだ。

 壬生を人質に取った方も、気が逸れる。

 俺は迷わず踏み込んだ。

 咄嗟にどうするか判断に迷ったんだろう。何もできずに斬り捨てられた。

 壬生を人質に取ってた奴が、倒れ込む。

「下衆野郎が」

 俺は倒れた奴に、不可視の刀を振り上げた。

「桐原!」

 会頭が刀を投げて寄こす。咄嗟に受け取った。

「手錠を外してやれ」

 俺は渋々刀を鞘に納めて、手錠を斬った。

 俺は壬生の頬を軽く叩いて声を掛ける。

「壬生!壬生!大丈夫か!?」

 それに反応して、壬生が薄っすらと目を開けた。

「桐原君…」

「大丈夫か!?気分は?」

 意識がハッキリしたのか、すぐに立ち上がろうとしたが、それを押し止めた。

「少し休んでろ。片を付けてくるからよ」

 だが、壬生は首を振って拒否した。

「気持ちは嬉しいけど、結末を見届けたいの。お願い」

 それでも渋っていると、会頭が口を開いた。

「桐原。連れていってやれ」

「会頭!?」

「足手纏いにならないなら、構わんだろう」

 会頭が親切からいったのではない事は、分かった。

 会頭は初めから、壬生に結末を突き付ける気でいたんだろう。

 もし、壬生が何もいわなければ、無理矢理連れて行ったかもしれない。

「ありがとうございます。十文字会頭」

 壬生もそれを承知で礼をいった。

 

 壬生を連れて、更に奥へ進んでいく。

 扉を開けようとした時、誰かが走ってくる音が聞こえてくる。

 この慌て振りからすると、味方じゃねぇな。

 これは、司波姉弟妹に追われてきたな。只者じゃなさそうだったしな。

 

 俺は使い慣れた高周波ブレードを発動させ、扉に突き入れた。

 

 

               6

 

 桐原兄貴が、態々扉を切り裂いて現れた。

 ジャイアンは挟み撃ちされた形だ。

 流石にチキン支部長よりは、狼狽えなかったのは褒めるべきところかな。

「よう!司波姉に司波」

 桐原兄貴が、危険な笑みを浮かべてジャイアンと向かい合う。

「で?こいつは?」

 もう予想は付いてますよね?

「それがジャイアンですね」

「何だ!?ジャイアンって!?」

 世界の名作ドラえもんを知らないとは、貴様それでも日本人か!

 いや、だが、ジャイアンは、ただのいじめっ子ではない。

 男気のあるガキ大将でもある。

 同じ扱いは、ジャイアンに失礼だったか。

 ごめん、ジャイアン。

「エガリテの郷田という男のようですよ」

 私が下らない事を考えている間に、達也が後からフォローしてくれる。

 達也にも、関係者リスト渡しててよかった。

「そうか、テメェが」

 桐原兄貴が無言で刀を構える。

 怒気がここまで伝わってくるよ。

 お任せしますか。

「ガキが、舐めるなぁぁーー!!」

 郷田が剛腕を生かし、殴りかかっていく。

 だが、剣術大会の上位の兄貴に素手で挑むのは、無謀だったね。

 アッサリと郷田の片腕は、宙を舞った。

 声にならない悲鳴を上げ、郷田が蹲る。

 だが、兄貴は止まらない。刀を振り上げて止めを刺そうとしている。

「先輩!そこまでです。そいつは先輩の手を汚す価値はありません」

 私の言葉に兄貴の動きが止まった。

 後から十文字さんが、滑り込むように入ってきて、郷田の止血をする。

 

 壬生先輩は無事だね。よかったよかった。

 気持ちの整理は、壬生先輩自身がやるだろう。

 

 さて、私はやり過ぎた妹を慰めにいきますか。

 

 

               7

 

 さて、私は今、埠頭にやってきています。

 何故か。それはお仕置きファイナルを決行する為です。

 

 あれから、警察が押っ取り刀で駆け付け、後はお任せしてきた。

 源田刑事よろしく。

 因みに、エガリテ壊滅と同時にチキン支部長は逮捕されてます。

 第一高校襲撃を企てた人物ですからね、逮捕は当然ですよ。

 直前で関わらなかったとはいえ。

 余罪もまだまだあるそうですよ?

 そして、本物の司甲もあの工場から発見された。

 脱水症状で衰弱していたが、命に別状はないそうだ。

 まあ、それは兎も角、お仕事です。

『特尉!団体様がそちらに向かっています!』

 今、私が装着している顔半分を覆うゴーグルに、連中の姿が映し出される。

『全く。こんな下らん仕事で、本国の信用など得られるのか!?』

 タチコマも気が利いている。音声まで拾ってるよ。

『やれといわれれば、下らなかろうがやらねばならん。ただそれだけだ。それで我等の

待遇がよくなるなら、安いものだ』

『日本軍相手なら兎も角、ガキの相手だぞ!?』

『ガキじゃない奴も、相手をしただろう。火傷したようだがな』

 舌打ちしている。

 今は全員が作業服姿だ。

 今夜のうちに連中は船で、帰宅する予定になってるんだよね。帰さないけど。

 

 始めますか。

「タチコマ。船の中を制圧してきて。手加減無用」

『りょ~かい!ではっ!』

 タチコマ六機が船に向かう。

『では、そろそろこちらもいいかな?深景君』

 八雲先生からも連絡がくる。

「はい。お願いします」

 気配が波紋のように消える。まさか、直々に対応してくれるとはね。

 霧が立ち込める。

 濃霧で連中が立ち止まる。不自然さに気付いているだろう。

 だが、構わない。

 私は亜空間から刀を取り出す。

 私が鍛えた自信作の一振りだ。

 連中の前まで跳躍し、着地すると、霧が晴れていく。

 

 一人を除き、倒されていた。流石、今果心。

 八雲先生は返り血一つ浴びずに、いつも通りに飄々とした態度で立っていた。

 一人残った男は、八雲先生を感情のない目で見詰めている。

「九重八雲か」

「いや~。まさか高名な人形遣い(ムーアウ・ダーシー)に名前を憶えて貰っているとはねぇ。僕も

捨てたものじゃないねぇ!」

 八雲先生は軽薄に笑っていった。

「では、高名な先生の相手は私が」

 私がそう申し出ると、こちらに人形遣い大先生が視線を向けた。

 

 纏う空気が変わった。

 私の、そしてあちらの。

 刀を構える。あちらもどこからか剣を取り出した。

 薄い剣だ。おそらく仕込みだろう。通常の剣筋と同じに考えない方がいいだろう。

「いやぁぁあーーー!」

「疾!!」

 変幻自在に変わる剣をいなし、迫りくる脚や拳を受け流す。

 激しく鋭い一撃を交わす。鎬が火花を散らす。

 何合も入れ替わり立ち代わり打ち合う。

「ハイ!!」

「疾!!」

 交錯する。私の制服の袖がハラリと切れる。あちらの肩から血が流れる。

 すぐさま向かい合ったが、お互い動かない。

 向こうの剣は、こんなものらしい。()()()()()()

 

 あちらが一筋汗を流す。

 魔法を使えば隙ができる。まして私が相手では魔法に気をやった瞬間に、斬り捨て

られる。

 あちらは、静かに自分を消し去っていく。

 そうきたか。自分を無にして、私という存在と同調し攻撃を読み取る。

 ならば、読み取って貰おうじゃないですか。

 

 私はゆっくりと太刀を動かしていく。

 そして、刹那の間にお互い剣技を繰り出していた。

 人形遣いは()()()()()()()()()()()()に、二つまで弾いてみせたが、最後の一撃で

腹を大きく切り裂かれた。

 残心。

 人形遣いが倒れ込んだ。

 

 秘剣・燕返し。

 

 いわずと知れた暗殺者のクラスの人が、使っていた必殺技である。

 

 私は完全に()()()()()()()()を確認し、刀を払って納刀した。

 

「お見事!」

 八雲先生が称えてくれるが、私は騙されない。

 八雲先生は、私の実力を測る為に態々霧を消した。自分の実力は見せなかったのにね。

「流石の人形遣い(ムーアウ・ダーシー)も暫くは活動できないだろうね」

 そうこの人は人形だ。本体ではない。だが、精神的に繋がりを持っていた。その繋がりを

操り糸として動かす。それが人形遣いの手口。

 リンクを切られる前に殺したから、精神的なダメージは計り知れない。

 八雲先生のいう通り暫く活動できないだろう。

 できれば始末したかったんだけどね。

 

 これらの情報も八雲先生のサービスだ。

 

 私はタチコマから制圧の報告を受けて、撤退を命じた。

 

 

               8

 

 :八雲視点

 

 怪我をした弟子の回復は順調だ。

 依頼が失敗した時は、どうしようかと思ったけどね。

 今回は相手が悪かった。最悪、命を失ってもおかしくなかったからね。

 鍛え直しができる事を、感謝しないとね。

 

 そして、通信端末が呼び出し音を鳴らす。

 普段なら弟子が取るんだけどね。今回は私が取った。

 受話器を耳に当てる。

 通信端末は、古い電話機の形をしているんだよ。

 

 相手は風間君だった。

「珍しいね。君から連絡してくるなんて」

『すみません。お聞きしておきたい事がありまして』

 まあ、予想は付くよ。

「深景君の事かな?」

 風間君は隠す事なく頷いた。

 彼のところには藤林の御嬢さんがいた筈だ。彼女なら街中にある監視カメラを見る事が

できるだろうに。

 てっきり、見ていると思ったんだけどね。

 聞いてみると、苦い口調で答えた。

『街頭カメラで見ようとしたんですがね…』

 彼の話だと、該当箇所のカメラを映すと、肝心なところで“暫くお待ち下さい”のテロップ

と、軍歌が流れるだけで、見られなかったそうだ。

 彼には悪いけど、思わず笑ってしまった。

 深景君は、そこまで細工して臨んだのか。

 独立魔装大隊の多脚戦車の映像記録も、消されていたらしい。

 そこまでやって、風間君のところ以外、映像を弄られた事に、気付いていないというのも

凄い。

 それは近くで見た僕に訊くだろうね。

『それでどうですか?』

「うん。そうだね。これは僕からの忠告だけどね…」

 端末の向こうで、彼が僅かに驚いたようだ。

 こんな事を彼にいう事はないからね。

「彼女とは仲良くする事だよ。最悪、敵にならない事を心掛けた方がいいだろうね」

『…そこまでですか』

「君は、()()()()()()()()()()()()()、などという事ができるかい?」

 隠し切れない驚愕が、感じられる。

 当たり前だ。そんな事、世界中のどの先人にも成し得た者はいないだろうからね。

 僕の知る限り、そんな事ができるのは彼女だけだ。

 しかも、剣技のみですら、あれが本気だったとは思えない。

 いや、本気ではあっただろうけど、全力ではなかった。

 僕ですら、彼女の底は垣間見えなかった。

「兎に角、敵対する事になったら、僕を巻き込まないようにしてくれ。まだ死にたくない

からね」

 彼女は、達也君にも技術の一端を、教えているようだからね。達也君も手強いだろう。

 今の達也君なら、倒す事も可能だろう。でも、そうすると彼女が出てくる。

 深雪君とて、無視できない。

 あの姉弟妹に手を出さない事が、重要だろうね。

 

 それに彼女の料理は、美味しいからね。あれが食べられなくなるのは、惜しい。

 

 

               9

 

 桐原兄貴は、まだ入院していた。

 原因は、私だったりする。

 そう、再築で治したから、治療魔法で定着するまでやる筈が、一発で治ってたもんだから

話がややこしくなった。

 兄貴、こんな事に巻き込んでしまって、本当に済まない!

 でも、いい事もあったんだよ。

 原作と違って壬生先輩が入院しなかったから、彼女の方がお見舞いに頻繁に来てたそうだ

から。それでお付き合いまで漕ぎ着けたんだから、グッジョブでしょ。

 エリカと私は、壬生先輩と仲良くなった関係で、惚気話を聞かされてウンザリですよ。

 恋バナは好きでも、惚気話なんざ聞きたくないんじゃぁー!

 こういう時は、なんていうんだろう?爆発しろ!?

 ああ、そうそう、エリカと壬生先輩は原作通り、さーや、エリちゃんと呼び合う仲に

なったよ。

 散々検査して、一発治癒の原因は病院では判明しなかった。

 いいじゃん。愛の力が奇跡を起こしたで。

 兄貴と壬生先輩にそれをいったら、茹蛸みたいになっていた。

 中学生か、アンタ等は。

 因みに、原因を知っている我が家族は、呆れた表情でこちらを見てたけどね!

 

 肝心の処分の方は、誰もされなかった。原作通りの大人の事情って奴で。

 まあ、いいけどね。

 壬生先輩は勿論、司甲もエガリテの勧誘をやってたくらいで、殆ど閉じ込められてた

みたいだ。涙を誘う待遇だね。

 それでも、彼は学校を辞める事に決めているそうだ。

 彼は京都の神社で修行しながら、一般高校に通う事に決めたという。

 以上が壬生先輩情報。

 

 何気に一番大変だったのは、深雪の相手だった。

 何しろニヴルヘイムで、とんでもない惨状を作ったからね。

 解凍して、連中が無事だったのは、よかった…と思う?

 けど、なんで達也じゃなくて、私に甘えてんの?

 心を無にして甘えさせて上げたけどさ。

 

 

 そして、退院の日。

 私達司波家の面々とエリカ・レオ君コンビが来ていた。

 勿論、壬生先輩もいますよ。

 そして、真打登場。

 退院した兄貴が登場する。

「お?わりぃな。態々来てもらっちまってよ。身体はなんともねぇっていってんのに、

医者が退院させてくれなくてよ」

 達也と深雪が私に視線を向けるが、私はそれをにこやかに黙殺した。

「退院、おめでとうございます」

 私達は代わる代わる退院を祝った。

 深雪が花束を渡し、照れた兄貴に壬生先輩が、殺気を放つ一幕があったくらいで、

概ね平和だった。

 

「君が司波深景君かな?」

 ダンディな声が後から掛かる。

 振り返れば、そこに何故か壬生先輩のお父様がいらっしゃっていた。

 壬生先輩が入院してた原作なら分かるけど、娘の彼氏の退院を見届けに来ないでしょ。

「ああ、済まない。突然だったね。私は紗耶香の父の壬生勇三だ」

 私の疑問に満ちた顔を、誰やねんアンタにとった壬生父が、自己紹介してくれる。

 そういえば、壬生先輩はお父さんの仕事を、公安だっていってたけど、原作通り内調の

人だった。

 表向きは公安という事にしているらしい。

 いい感じに、秘密にしなきゃいけない仕事だしね、公安って。隠れ蓑にし易いのかな?

「今日はお礼をいいたくてね」

 ん?原作と違って達也は壬生先輩とは、あんまり関係なかったし。私も特に何もして

ないけど?

 おっと。エリカが兄貴をイジリ倒してる。

「深雪。ちょっと、エリカの暴走止めて来てくれる?なんか乱闘になりそうだから」

 深雪は惨状を確認すると、苦笑いでエリカのところへ行った。

「君達のお陰で娘が、早く立ち直る事ができた。その礼がいいたくて、今日は寄らせて

貰った」

 達也と私は顔を見合わせる。

「娘から聞いているよ。千葉の娘さんと君の立ち合いを見て、目が覚めたと」

 苦笑いで壬生父がいった。

「いえ、あれはエリカが、積極的に壬生先輩の腕前を惜しんだからです」

「努力し続けた事は無駄ではないといったのは、君だろう?」

 うん。確かにそんな事をいったけど。あれ、達也が本来いった事だしね。

「娘はその言葉に、本気で感謝していたよ。勿論、千葉さんにもお礼をいう積もりだ。

達也君…だったね。君も色々と奔走してくれたんだろ?」

 おや?初耳ですよ?

 私の視線に達也は、目を逸らした。

 

 教師陣が原作通りじゃない事は、確認していたが、学校は当初壬生先輩達を処分して

終わりにしようとしたらしい。大人の事情どこいった?

 そこで達也が色々と生徒会に深雪経由で、入知恵して処分を撤回させたんだとか。

 いってよ!そういう事。

 

「だから、礼をいわせてくれ」

 壬生父にここまでいわれれば、受けるけどね。なんだかな。

 私と達也の反応を見て、壬生父が笑う。

「君達は、本当に風間のいった通りの子達だな」

「!!」

 達也が風間天狗の名に反応する。

「少佐をご存じなのですね」

 達也の声には警戒が混じっていた。

「君は驚かないのだね?」

 壬生父が私の方を見る。まあ、そりゃね。

「歩き方からして、軍人かと思いましたから」

 一定の歩幅に歩調だからね。

 まあ、カンニングですけどね!本当は。

 壬生父はそうかと苦笑いした。

「君達が、実際に救ってくれた事を知っている。そう伝えたいだけなんだ。改めて、

ありがとう」

 壬生父は丁寧に頭を下げた。

 

 本当に礼をいいに来ただけらしく、エリカに礼だけいって、彼氏に何も言わずに

去って行った。

 父としては複雑なのかね。

 礼は、兄貴にもいうべきだろうに。

 

 私達は、エリカ劇場が開演している現場へと戻った。

 騒ぎ過ぎて、看護婦さんに怒られたのは、いうまでもない。

 大騒ぎが終了して、帰宅しようとした時だった。

「御二人は、学校が嫌ではありませんか?本来なら御二人ならば高校など行く必要

はないのに、侮られてまで高校に行くなんて」

 深雪も今回の事で思うところがあったのか、そんな事を言った。

「俺は深雪と一緒に学生でいるのが、楽しいよ」

「私もね」

 それに穂波さんとの約束もある。

 

「まあ、気にしない気にしない!サッサと帰ろうよ日常ってやつにさ!」

 

 これにて、入学編終了でござい。

 

 




 さて、次、いきなり九校戦編に突入しようか、考え中です。
 今のところ、九校戦編にいく事に傾いていますが…。

 気長に待って頂ければと思います。


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九校戦編1

 随分と長くなってしまいました。
 色々な意味で。

 では、お願いします。


               1

 

 前回の騒ぎが終息して、ぎこちなさは残っているものの日常が戻ってきた。

 ぎこちなさは、時間が解決するでしょう。

 騒ぎは原作通りだと、立て続けに起きますがね!

 彼等の今後の活躍に乞うご期待っといったところですね。

 

「聞いているのかね!?」

 

 ええ。現実逃避してましたよ。

 只今、絶賛取調べ中でございます。

 何故、そんな事がって?テストの結果ですよ。

 実技は置いといて、筆記は私達司波姉弟妹が1・2・3位を独占したんですよ。

 これからの展開を暗示するようですね。

 深雪は問題ない。でも、二科生の私達が問題になった。

 これからの展開を暗示するようですね。はぁ(溜息)

 

 お前等実技苦手なのに、なんでそんなに魔法に関して理解が深いんだよ!

 手抜きしてんじゃないだろうな!?

 

 それが目の前にいる先生陣の主張です。

 私に関しては当たりです。いわないですけどね。

 終了まで、数時間を待たなければならなかった。

 

 生徒指導室を達也と出る時は、グロッキー状態ですよ。

 お世話になりました。

 出ると仲間が心配そうに待ってくれていた。

 有難い事です。

「どうしたんだ?」

 達也が、不思議そうに仲間に疑問をぶつける。

 私は達也の横っ腹に肘を撃ち込む。

 不意打ちに達也の身体が、くの字に曲がる。

 達也が顔を顰めて黙る。

「ごめんね。うちの弟が。折角心配してくれたのにさ」

 私は申し訳ない気持ちで、仲間に謝った。

「容赦ないね。深景」

 エリカが、思わずといった感じで、言葉を漏らした。

 エリカ・レオ君コンビが顔を引き攣らせる。

 ほのかは達也に駆け寄っている。恋する乙女は偉大だ。

 達也は手で大丈夫と、ほのかを押し止めている。

 後で深雪が若干冷気を発しているが、見なかった事にした。

 雫はノーリアクション。

「それにしても、どうしたんだよ?いきなり、先生に呼び出しなんてよ」

 レオ君が代表で訊いてくる。

「試験結果に関して、尋問を受けていた」

「尋問ってのは、穏やかじゃねぇな」

 レオ君達が不快そうに顔を歪めた。

 それで私が端的に手抜きを疑われた事を告げる。

「何よ、それ!そんな事してなんの得があんのよ」

 目立たない効果があります。

 結果、ちぐはぐで悪目立ちしたけど。

「先生が疑うのも、分かる。衝撃的な結果だったから」

 雫が、ここで感想をブチ込んでくる。

「そんな、御二人が手抜きなんてする訳ありません!」

 真面目な美月が、否定の声を上げる。

 深雪が冷気を消して、美月を宥めた。

 雫は怯む事なく、言葉を続ける。

「いくら理論と実技が別でも、限度がある」

 まあね。

 結果的に、達也が先生連中に納得させたけどね。

 その後も、四校に転校しろとか五月蠅かったけど。

 そこら辺も説明すると、仲間は荒れた。

 生徒指導室の前で、学校批判を展開するのは危険だよ?皆さん。

 中に先生いるからね。

 今回も大して小野先生は使えなかった。

 事前連絡だけって。もう少し活躍して下さいよ。

 

 しかし、友達っていいもんですね。もっと大切にしなきゃダメだよ。達也。

 

 

               2

 

 夜に、九重寺に来てるけど、達也の鍛錬の為ではなく、深雪の練習の為です。

 いつも一緒に来ていないんだけど、私が来ている理由は、私も訓練に付き合って

いるからです。

 今日はミラージ・バットの練習です。

 因みに、深雪の出場競技は原作通りですよ。

 色とりどりの鬼火が空に浮かぶ。

 深雪と私が跳躍する。

 私の方が反応は速い。向こうは魔法発動が速いけど。

 私は深雪の進路を妨害する。そう、本戦に出場している人の技術ですよ。

 深雪が減速した隙に、鬼火を打ち消す。

 実際は魔法少女の杖みたいな、香ばしいものを持つんだけどね。

 練習だからさ、警棒使ってます。

 得点は現段階で私がリード。

 実力を封印した状態じゃ、あんまり付き合えないから、練習の仕上げとして、

付き合っている。

 深雪は、こう見えて負けん気が強い。

 今も、必死に逆転方法を模索しているのが分かる。

 進路妨害と見せかけて、しないとかやってると、物凄く悔しそうで可愛い。

 だから、少し調子に乗ってしまったよ。

 

 深雪は、今日のところは対策を立てられず、同点という屈辱に甘んじた。

 最後は、私の息切れだったしね。

 

「姉さん。新人戦で流石にそんな事してくる選手がいるとは、思えないよ?」

 練習終了と共に、達也が苦言を呈する。

 知ってる。原作通りにする気はないけど、万が一だね。

 飛行魔法でゴリ押しもいいけど。深雪にだって駆け引きは必要でしょ。

 してやられているという事は、深雪の経験不足だ。

 いつでもどこでも広域殲滅って訳にいかない。

「正攻法を鍛えるのもいいけど、深雪には駆け引きも覚えさせないとダメでしょ」

「まあ、それはそうだけど」

 達也は言葉を濁す。

 

「で?小野先生。いつまで、そこにいるんです?」

「うぇ!?」

 小野先生が、淑女にあるまじき声を上げる。

 達也も当然気付いている。

 だけど、小野先生とは思わなかったようだ。

 警戒の視線を送る。

 なんだか、誤魔化し笑いをして現れる小野先生。

 貴女、本当にいくつなんですか?

「流石だねぇ、深景君。彼女の隠形を見破るだけでなく、正体も看破するとは。

それにしても、達也君、目に頼り過ぎだよ?」

 達也が素直に頭を下げる。

 私の存在の影響か、八雲先生は達也に手厳しい。

 現段階で原作より強い筈なんだけどね。

「え!?司波君にも見破られてたの!?」

 小野先生は背中にオドロ線を背負って、落ち込んでいる。

「まあまあ、彼等が特殊なだけで君の隠形は、見事だよ。消すだけでなく、気配を

偽る事も重要だよ?」

 小野先生も神妙な様子で、勉強になりましたと頭を下げた。

 八雲先生も頷いている。

「ご教示も有難いのですが、そろそろ説明して頂けますか、師匠」

 達也が私や深雪の前に立って、八雲先生に問う。

「大丈夫だよ。彼女も僕の教え子だ」

 そういうと八雲先生が、わざとらしく考え込む仕草をする。

「これは、不公平かな?」

 八雲先生は、小野先生に意味あり気な視線を向ける。

 小野先生は、それだけで諦めの境地に達したのか、溜息を吐いた。

 手でどうぞ、という仕草をする。

「本人の了解が取れたという事で、ぶっちゃけると彼女は公安の捜査官だよ」

 私達がノーリアクションだった事に、拍子抜けした感じの八雲先生。

「あれ?驚かないのかい?」

「俺達にも自前の情報網がありますから」

 達也が端的に理由を話す。

 八雲先生が、それだけで出処を察して、いいのかねぇと呟いている。

 それは貴方も変わりありませんから。by達也。

 

 反政府組織の動向を探る目的で派遣された人、という言葉に小野先生が拒否反応

示したり、自分の魔法特性の評価にぐちゃぐちゃいったり、自分の素性を秘密に

しろとか、色々取引があって、お互いギブアンドテイクで行く事に決定した。

 なんのこっちゃ?事実こんな感じです。

 

 でも、方々に正体バレてそうだよね。知らぬは本人だけって感じで。

 

 

               3

 

 体育の授業。

 ハイコートバスケットでした。

 ボルテッカではない。ゴールポストが異常に高い位置にあるバスケットです。

 エリカと組んでいれば、楽勝過ぎて美月がハンデに一切ならない。

「深景!」

 エリカから、叩き付けるようにパスが放たれる。

 当たれば大怪我確定だけど、魔法科高校の体育なんて、こんなのばっかりです。

 パスの進行方向に向かって高く跳ぶ、加速したボールのコースを変更する。

 阻止しようとしたF組生徒の横を、ボールが通過し、ゴールにリバウンド。

 それを片手でキャッチし、ゴールに直接叩き込んだ。

 

 私達E組の圧勝で、終了した。

 

 男子はサッカーモドキで大変で、女子を見学する余裕はない。

 よかったね、美月。動くと凄かったからね。

 あと、私も止めたがエリカはブルマだった。

 

 もう試合のない私達は、男子の見学です。

 レオ君が、重戦車のような活躍を見せていますよ。

 達也はそれをアシストする形で、活躍している。

 いよいよボッチ・吉田幹比古君が満を持して登場する。

 達也のパスからダイレクトシュート。

 ゴールネットを揺らし、試合終了。歓声が上がる。

 流石、将来の美月の彼氏。私が読んでた頃も付き合ってなかったけど、確定

でしょ。この二人は。

 

 試合が終わり、達也達は男同士で友情を築いていた。

 さて、商ば…ゴホゴホ!もとい、私も紹介して貰わないと。

 近付いていくと、丁度エリカの話題だった。

「幹比古。エリカと親しいのか?」

 達也が、エリカとの関係を、訊いているところだった。

「所謂、幼馴染ってヤツね。教室では避けられてたけど」

 やはり、男子の反応がない。

 エリカの脚に目が釘付け状態ですよ。

 私は咳払いしてやる。

 幹比古君がハッと我に返る。

「エリカ!?なんて格好してるんだ!?」

 幹比古君再起動。

 エリカは美脚の持ち主ですからね。ガン見してしまうのも理解はするよ。

「何って?伝統的な女子用体操服だけど?」

 自分が他者に、どんな影響を与えているか分かってないね、この子。

 時代が変われば、価値観も変わるものですよ。

 幹比古君は、呆然と伝統っと呟いている。

 もしもし?またガン見してますよ?

 しかし、ここで我が弟の天然攻勢が始まり、エリカは押され始める。

 ようやく、恥じらいを思い出したらしい。

「っ!ブルマっていうと、あれか!モラル崩壊時代に女子中高生が、小遣い

稼ぎにエロ親父に売ったっていう!!」

 ここでレオ君が再起動。

 しかし、すぐにエリカの会心の一撃に沈む事になった。

 

 エリカがこの後、すぐにスパッツに戻す事を決めたのは、いうまでもない。

 それから、例の幹比古君名前問題が発生。

 

 当然ながら、エリカの圧勝?で終わった。

 一応、私も紹介して貰ったよ。

 まっ、今日は顔繫ぎって事で。

 

 

               4

 

 熱い夏がやってくる。

 九校戦の季節です。

「深景さ~ん!助けて~!!」

 私はドラえもんではない。四次元ポケットは…近いのを持っているが、便利

道具は所持して…いない…と思う。

 この声を上げた主は、実は驚くなかれ閣下ですよ。

 前回の事件で銃弾から庇ってから、やけに貼り付いてくるようになったんです

けど、百合って事ないですよね?

 私は可愛い女の子は好きだけど、百合じゃないわよ?っと素が…。

 最近、暑くなっているのに、更に暑くなって最悪ですよ。

 今日だって、お昼はエリカや美月と食べようと思ってたのに、拉致られて

しまって、ここ生徒会室にいる。

 ここでお昼を過ごすのは、雑用の仕事にない筈だ。

 無心で食べていると、閣下の溜息が聞こえた。

 選手の方は十文字さんの協力で、どうにかなったそうですけど、やっぱり、

エンジニアは、決まらないそうです。

「まだ、数が揃わないのか?」

 お姉様が眉を顰める。

「ウチは魔法師志望が多いから、魔法工学関係の人材は危機的状況なのよ」

 いざとなれば、閣下と十文字さんがとか言っている。

 そこからダークサイドにいった閣下が、お姉様をイジり倒して鬱憤晴らしを

開始。いたくないんですけど、ここ。

 仕舞には、市原さんに何度目かの打診が入り、断られていた。

 

 達也は、ここから撤退を決意している。

 何度も視線で合図が送られる。

 いつでも、いいよ。マイブラザー。

 私達は決意を持って、立ち上がり…。

「なら、司波君達がいいじゃありませんか?」

 二人共、撃墜された。

 しかも、何?達って。まさか、私が入ったりしてないでしょうね?

 CADオタから、如何に達也の調整が優れているかを語られると、閣下の目が

生気を取り戻していく。

「盲点だったわ!」

 閣下の目は、既に正気ではない。これ、ダメなヤツだ。

「それじゃあ、深景さんは、私のエンジニアって事ね!?」

 本気でダメだ、こりゃ。

「それはありません。そんな事をすれば、暴動が起きます」

 市原さんが冷静に指摘する。

 冷静な人がいてよかった。

 原作で達也に嫌味いってた人、閣下のファンか?

 ここから、達也の理論攻撃が行われたが、正気を失った閣下のなりふり構わない

反撃に敗北を喫した。

 まさか、深雪が裏切るとは。お姉さん悲しいよ。

 達也は見せ場だろう。だが、私は何?専門古式媒体なんですが?

 そりゃあ、出来るけどさ。

 深雪のお姉様がいて下されば万全です発言に、私の参加も決定した。

 

 某・真夜中のテレビに潜る人達じゃないけどさ。

 イベントに姉弟妹全員参加って、どんな軍団なの?

 

 この後、弟の飛行魔法考察があったが、燃え尽きていた私は聞いていなかった。

 見せ場を見逃して済まない。弟よ。

 

 

               5

 

「それでは、生徒会はエンジニアスタッフに司波深景さん、達也君の両名を推薦

します」

 九校戦準備会合は、閣下の爆弾発言から開始された。

 勿論、否定的なざわめきがありましたよ。

「要するに、司波の技能が分からない事が問題という事だな」

 十文字さんの有無をいわせぬ迫力で、ざわめきが静まる。

 怖っ!

「それはそうだが、どうする?」

 お姉様が十文字さんに訊く。

「実際に調整をやらせればいい。実験台なら、俺がなろう」

 実験台ってアンタ。わざと失敗したろか?

 ノリノリで座ってんじゃないのよ、こっちは。

 モルモットの立候補者は、一定数いた。

 結果。

「俺にやらせて貰えませんか?」

 立ち上がった桐原兄貴を、達也が。

 強硬にモルモットに立候補した閣下を、私が担当する事になった。

 なんだか、殺気が飛んでくるんですけど。

 

 まずは私からです。

 主役はラストを飾るのが、定石ですしね。

 閣下に検査装置を使って貰う。

「外して下さって結構ですよ」

 試験内容は、原作同様ご本人が使っているCADの設定を、競技用のCADに

コピーする、です。

 これ、実は如実に実力出るんですよ。分かってやれっていってるんですかね?

 達也の見せ場を奪うのは、気が引けるけど、私もマニュアル調整でやる。

 完全に設定を生かす為には、仕方ない事ですよ。逆にいうと、これしかない。

 調整は完了する。

「終わりましたよ」

 閣下にCADを渡す。

 それにしても、私の方は変則じゃないですかね?

 閣下のスマートフォンみたいな汎用型から、競技用の特化型に移し替える

なんて。

 

 閣下が、緊張で少し硬くなっている。原作風でいうとご愛嬌ってヤツですね。

 シューティングレンジに移動する。

 閣下は私が調整したCADで、的を射抜いた。

 反応がない。

 すわっなんかあったか!?と騒ぎ始めた頃。

「凄いわ!これ!!」

 はしゃいでおられる様子。これを見れば、それが試験結果でいいでしょ。

 閣下には違いが、よく分かったのだろう。

 大体の学生君のやり方じゃ、普段のものとの違いに慣れる為、練習を必要と

する。

 だが、私達の腕なら安全面を確保した上で、遜色ない性能を出せる。

「やっぱり、深景さんに…」

「会長。司波君が待っていますので」

 危ないな!ホントに!市原さん、遮ってくれてありがとう。

 それでも殺気は飛んできたけど、完全にいわれるよりマシと思おう。

 

 次の達也も、兄貴のCADを完璧に仕上げた。

 兄貴の反応も良好である。

 

 私も達也もスーパー調整をしたにも関わらず、ディスられた。

 知ってたけどね。この展開。

 

「この結果が何を意味するか、先輩達にはお分かりになる筈です。桐原の

CADは勿論、会長がお使いになっている機種は、競技用のものより、遥か

にハイスペックなものです。使用した際に全く違和感がない。それは、高く

評価すべきだと思いますが」

 カンゾー君が、ディスっている方々に強烈な言葉を叩き付ける。

 それに微妙なエンジニア連が、黙り込んだ。

「服部の指摘は尤もなものだ。俺も司波達のチーム入りを支持する」

 最後に十文字さんが、賛成した事で誰も何もいえなくなった。

 

 これで、参加決定か…。

 

 

               6

 

 参加決定した日の夜。

 私は達也達と別れて、街中にいた。

 情報屋に会う為だ。

 

 地下にある喫茶店に出向く。

 エリカ達と一緒に行く喫茶店と、一緒にできない場所だ。

 怪し過ぎて。

 ここ、追い詰められるような立地の癖に、逃げ道があちらこちらにある。

 扉を開けると、視線が注がれる。

 だが、私だと分かると視線が、あからさまに逸らされる。

 カウンターに座って、コーヒーを頼む。

「お久しぶりっす」

 情報屋が声を掛けてくる。

 姿は誰にも見えないだろう。認識に干渉して見えないように細工している

のだ。街中でやれば逮捕待ったなしだけど、ここじゃお金は払えば有りだ。

「うん。で?暫く連絡取れなかったけど、どうかした?」

 私は礼儀として、情報屋がどこにいるか気付かないフリをする。

「ヤバいって思ったもんで、ちょっと潜ってたっす」

 そりゃ、申し訳ない。

「どうだった?」

「九校戦にちょっかい出しそうな奴等、でしたね?」

 私は前回で反省した。イレギュラーは発生して当たり前だったのだ。

 私という存在がいるんだから。

 なら、できるだけ備えないとね。

無頭竜(ノーヘッドドラゴン)くらいしか、見当たらないすっね」

 う~ん。原作通りか…。

「雇われそうなヤツは?」

「凄腕は今、日本に入国してないっすよ。まあ、プロなら痕跡残さないのが、

基本っすけど。それでも、噂くらいは流れますからね。引っ掛かりそうなのは、

無頭竜(ノーヘッドドラゴン)ですね」

「注意すべき魔法師とかは?」

 情報屋は考え込む。

「姐さんの敵になりそうなのは、いねぇっすね」

 今度は私が考え込む。

 今回は、なし…なんて安易に考えるのは危険だけど、ねぇ。

「連中、九校戦で賭けやるみたいっすね。ココさん経由で聞きましたよ。笑える

のは、連中、ココさんにも声掛けたみたいで、レームさんとバルメさんに追い

払われたみたいっすよ?」

 ああ、ココって、商売以外でああいうのと付き合いたくない人だもんね。

 私は意地の悪い笑みを浮かべる。

 さぞかし不機嫌になっただろうね。

「引き続き、情報集めてくれる?」

「いいっすよ。あと、ココさんが、そろそろ協力するんじゃー!って、騒いで

ましたよ」

 しないよ。他の人でできるでしょ?私いらないよ。

 私とココはアプローチ違うし。それに、私の場合はいざとなったらの手段だし。

「それじゃ、よろしくね」

 私はそういうと、お金を置いて立ち上がった。

 

「任せて下さいよ。俺は鬼畜ライター、ジーザス・御子柴っすよ?」

 

 さて、帰りますか。

 

 

               7

 

 家に帰り、夕食を済ませ、再びネットに潜る。

 御子柴の話じゃ、無頭竜(ノーヘッドドラゴン)は、前回のような大物を送り込まれる組織じゃないとか。

 理由は、例のフランケンが大量にいるから。平気で使い捨てにできる。

 ソーサリーブースターの供給源ではあるが、それ故に貴重な人材を投入していない

んだそうだ。

 無差別テロやり放題だもんね。させないけど。

 因みに、前回のアレは例外的な出来事なんだとか。噂もなかったって。

 まあ、向こうの神仙の類だったらしいし、仕方ないか。

 

 家に帰った時間が、結構遅い時間だったからか、風間天狗から既に連絡がきた後

だった。

 達也からサードアイと乖離剣・エアのオーバーホールが完了し、システムのアップ

デート依頼が来ている事を聞いた。

 因みに、乖離剣・エアは想像通りの代物、とだけいっときます。

 あれ程威力ないから戦術級ってとこかな。

 まんまも造れるけど、大惨事になりますからね。

 色々な人の理性が吹き飛ぶだろうし。微妙な威力だからこそ理性を保って貰える。

 

 私は情報収集を継続した。

 暫くして、私の部屋がノックされる。

 家にはあと二人しかいない。ノックの仕方から判断するに深雪かな?

 私はゴーグルを外し、大き目の抽斗に放り込んだ。

 PCの電源も落とす。

「どうぞ」

『失礼いたします。お姉様』

 扉越しに案の定深雪の声。

 入ってきた深雪は、魔法少女だった。ミラージ・バットの衣装ですね。

 杖の代わりにコーヒーを持っていた。

 私はコーヒーを受け取る。

 さて、なんかいえ、私。

「どうですか?似合ってますか?」

 華麗にクルリと一回転。

「うん。可愛いよ!」

 私は無難に返した。魔法少女…ないわぁ、なんていえるか!

 深雪を悲しませるのは、本意ではない。

 

 用件は、まだあって、達也からの招集だった。これは時期的に…。

 

 

               8

 

 達也の部屋に二人で入る。

 深雪はコスプ…もとい、衣装のお披露目は済ませていたようだ。

 そして、案の定達也は椅子に座らずに宙に浮いた状態で、空気椅子をやっていた。

「お兄様!それは!?」

 深雪が歓喜の声を上げる。

 うん。そろそろできると思ってた。飛行魔法。

「おめでとう!達也!」

 私は心から弟を祝った。

 そこから達也の謙遜が入ったが、深雪が古式魔法をディスって達也の謙遜をダスト

シュート。

 いや、妹よ。私はその古式魔法が専門なんだけど?

「いつも通りに二人にも試して貰いたいんだ」

 私と深雪が頷いた。

 喜んでやりましょう。

 

 まずは深雪から。

 問題なく使用できる事を証明し、今は空中でトリプルアクセルを決めていた。

 美少女だと絵になるね。

 

 私は達也と深雪を眺めながら口を開く。

無頭竜(ノーヘッドドラゴン)の件は?」

 まあ、風間天狗がいったろうけど。

「聞いてるよ」

 達也が深雪に気付かれないように、表情を穏やかにしたまま呟く。

「連中、私達で賭けをやるってさ」

 達也の顔からスッと表情が消える。

 おお、怒ってる怒ってる。

「また、あの男から情報を取ったのかい?」

 え?そっち?

 彼は実は一校OBなんだけどね。

「達也。護る為には色々必要でしょ。八雲先生に頼り過ぎもよくないよ?」

 憮然と達也が息を吐いた。こりゃ、納得してないね。

 まあ、問題を起こしたライターだからね。達也が嫌がるのも分かるけどね。

 これじゃ、ココの話はできませんな。

 

「大丈夫。護るよ。二人共ね」

 私の言葉に達也が首を振る。

 ん?

「違う。二人で、だよ」

 達也が深雪に視線を送る。

 

 私はそんな達也を見ながら思った。

 いつか、深雪や私以外に大切な人ができるよ。私はその為にいるんだから。

 

 

 




 ココはご想像の通りで、おそらくシリーズラスト辺りに
 出てくる…予定になっています。
 御子柴はあの復讐漫画のアッサリ殺されちゃった人です。
 ここじゃ、長生きするといいと思います。
 どんな問題を起こしたかは、機会がありましたら。

 閣下の方は、使える後輩を確保する意味しか、今はありません。
 でも、好意はあるって感じですかね。

 それでは、またも次回まで気長に待って頂ければ…。


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九校戦編2

 魔法科高校の劣等生2期ってやらないんですかね。
 映画は来訪者編の後なのに。

 だから、こんな話になりました。
 
 では、お願いします。


               1

 

 FLTのCAD開発センターへ来ている。

 理由はいわずもがなですね。

 飛行魔法は、私と深雪で試して問題はなかった。

 とくれば、次は通常の魔法師さん達で、試して頂くしかない。

 因みに、サードアイと乖離剣・エアのアップデートと性能試験は終了させてます。

 ここでなら達也は正当な評価を受けられる。

 まあ、ミスターアフロのとこ限定ですがね。

 だから、ここに来ると深雪の機嫌が大変よくなる。

 アフロがいる場所に到着。

「お邪魔します。牛山主任はいらっしゃいますか?」

 一番近くにいる研究員に達也が尋ねる。

 すると、向こうからアフロが現れた。呼ばれてもいないのに、察知する流石です。

「お呼びですかい?ミスター」

 この人は、達也の事をミスターと敬意を籠めて呼ぶ。

 他の人達は、御曹司。この呼び方は、個人的にどうなんだ?って思うのよね。

 因みに、私はみんなから御前っていわれてます。何故?

 どうも鈴鹿御前とかの御前らしいけど…。

 深雪は普通に?お姫様なのにね。

 

 達也がアフロに呼び付けた事を謝って、ダメだしを受けていた。

 あとは、お互い褒め殺し合戦をやっていた。

 勿論、我が弟が勝利していたけど。

 そして、真打登場。

 飛行魔法専用CAD~!(牛山アフロ謹製)

 歴史的快挙にみんなテンションアゲアゲの状態になりました。

 早速、試験じゃぁ!!っとなった。

 そして、休みだったテスターさん、申し訳ない。

 

 某・レイバー隊整備班みたいなノリで連行されたテスターさん達が、試験場に集結した。

集結した。

 命綱という名のケーブルを付けられ、いよいよ飛行魔法の試験開始。

 結果は、原作通り上手くいった。達也は問題点を見付けたみたいだけど。

 そして、テスターさん達は、本気で鬼ごっこに興じていた。

 そして、へたり込んだテスターさん達に、追加の手当てを出さないとアフロが

いい渡していた。実はブラックか、ここ。

 

 その後、問題点について、達也、アフロ、私で改善案を纏めた。

 飛行魔法開発には、私、関わってないんだけど、いいのかな。

 

 

               2

 

 そして、帰宅の時はやってきた。

 アフロ曰く、うちの宿六には連絡したそうだけど、ヤツはやってこなかった。

 深雪は冷気を発していたが、私は来なくてホッとした。

 当の達也は、全く気にしていない。どうでもいい人、筆頭ですし。

 一体型の時は乗り込んで来たから、ちょっと来るんじゃないかと心配したよ。

 そして、アフロとは途中で別れた。

 忙しいのに途中まで見送りみたいな事させてゴメン、アフロ。

 

 もうすぐ出口というところで、宿六と妖怪人間が揃って現れた。

 因みに、妖怪人間とは、執事序列第四位の青木の事です。

 だってさ、あの顔色、どう考えても早く人間になりたいっていいそうじゃない?

「これは深雪お嬢様。ご無沙汰しております」

 妖怪人間が、丁寧に一礼した。

 深雪は既に不機嫌度MAXです。まだ冷気は発してないけど、凍るのは時間の

問題でしょうね。

「お久しぶりです。青木さん。こちらこそご無沙汰しております。挨拶が足りない

のではありませんか?ここには、姉も兄もおりますが?それに、お父様もご自分の

娘や息子に声を掛けないのですか?」

 火の粉は宿六にも飛んだが、宿六はボンヤリしている。流石宿六。

 そのうち、前触れもなくメガンテで自爆するかもしれない。気を付けよう。

「お言葉ですが、お嬢様。私は四葉家執事序列第四位の地位にある身、秩序を守る

義務がございます。ガーディアン如きと、ガーディアンにすらなれぬ役立たずに礼

など示せません」

 次の瞬間、深雪からは冷気が、達也からは殺気が迸る。

 ビビる妖怪人間と宿六。ビビるくらいなら、いわなきゃいいのに。

「深雪。早く挨拶受けてやりなよ。第四位殿も忙しいんだしさ。ホント忙しいと

思うよ、四位だし。三位との間に大きく溝を開けられてるし。必死なんだよ。

第四位殿は」

 妖怪人間の額の血管は、ブチ切れそうになっている。おお!顔色よくなったね?

 四位連呼されんの嫌がるんだよ、この人。

 深雪は清々しい程の笑顔を浮かべる。怖い。

「それでは、ご苦労様です。青木さん。お仕事頑張って下さい」

 有無もいわせぬ笑顔でそういうと、妖怪人間は冷や汗を流して一礼した。

「それと、父上様。一体型の欠点の修正はまだですか?世間じゃ幻扱いされて

ますよ?それでは、胡麻擂りご苦労様です。ごきげんよう!」

 私はお嬢様らしく挨拶すると、脳梗塞で倒れそうな妖怪人間と、ボンヤリ顔に罅が

入った宿六の横を通り過ぎていった。

 

 原作と違って何もいわれなかったよ。自分を抑えるのに忙しくて、頓珍漢な事も

いえなかったようだ。

 

 それと、達也。殺気は止めなさい。アンタの洒落にならないんだから。

 

 

               3

 

 朝、学校に行くとエンジニアに選ばれた事が、知れ渡っていた。

 みんなからお祝いの言葉を頂きました。

 有難いんだけど、実は二人共やりたくなかったのは、秘密だ。

「みんな情報、早ぇな」

 レオ君が感心したようにいう。

「まだ、正式発表してませんよね?」

「どっから、聞き付けたんだろうね?」

 美月とエリカがそれぞれ不思議そうに感想をいう。

 大方、ネガティブ情報として聞いただろうね。

「御二人共、発足式に出席するんですよね?」

 美月が確認する。それに頷く、私と達也。

 そうですよ。態々、五時間目変更してやりますよ。

 一科生はエンジニアを出せなかった為、かなり悔しがっているらしい。

 いいじゃない。選手は一科生オンリーなんだから。

 達也も同様の意見だった。

「でも、今回は安心じゃない?石やら魔法やら飛んでこないんだから」

 エリカが冗談交じりにいった。

「だといいけどね」

 私もエリカの冗談に付き合って上げた。

 

 

 そして、九校戦発足式。

 渡されたのはブルゾン。デザイン…これ作業着じゃないの?

 まあ、正しいんだけどさ。

 選手はジャケットなのに、技術スタッフはブルゾンという名の作業着。

 いいんだけどさ。なんだ、この裏切られた感。原作で知ってたけどさ。

「御二人共、よくお似合いです」

 深雪のキラキラした目でいわれる。

 なんだ。この微妙な感じ。勿論、笑顔でありがとうをいったさ。

 式は滞りなく進んでいく。

 まるで珍獣ですよ、扱いが。居心地が悪い事悪い事。

 五十里先輩は気さくな方でしたよ。婚約者が怖いから、サラッと流した

けど。

 閣下が式の進行を務めている。

 一人一人に深雪が徽章を付けていく。

 そして、私達の時だけ、拍手が前の方に陣取っている1-Eの面々から

しかなかった。拍手が響く響く。ありがとう!みんな!

 涙ぐんでみようとしたが、無理だった。演技の才はありませんな。

 

 後半になって盛り下がる。

 なんというか、微妙な閉幕となった。

 

 

               4

 

「エンジニアの司波達也です。CADの整備・調整、訓練メニューの作成、

戦術立案などを担当します」

「サブエンジニアの司波深景です」

 担当選手達の前に自己紹介しました。

 因みに原作通りのメンバーでしたよ。

 お馴染みのほのかと雫、それに深雪。

 明智 英美さん。

 里美 スバルさん。

 滝川 和実さん。

 まあ、最初ですからね。お馴染みさん以外は、感じよくないです。

「まあ、女の子が混じってるのはいいけど、腕は大丈夫?」

 これは、明智さん。

「僕はどうでもいいよ。仕事さえして貰えればね」

 これは、里見さん。

 ほのかが失礼と怒ってくれる。ありがとう、ほのか。いい子だ。

 ほのかが達也をさん付けで呼んでいる事に、新参の三人が騒ぎ出す。

 キャピキャピ五月蠅い。

 ほのかと達也の事で、新参三人が揶揄い出した。

 深雪が冷気を発して怒り出したところで、新参三人は黙った。

「それじゃ、打ち合わせを始めていいかな?」

 達也が溜息交じりにいった。

 少し、待って貰えるかな?

「ちょっといいかな」

 私の言葉に、達也が不思議そうに譲ってくれた。

 それじゃ、ちょっと失礼して。

「みんなに確認しときたいんだけど、みんなは優勝したいのかな?」

 私の質問にみんなが、ハァ?って感じになった。

「したいに決まってるじゃないか」

 里見さんが、何を当然の事をっていわんばかりにいった。

 他の新参さんも同じような反応。

「私が訊いてるのは、自分自身が優勝したいのか、それとも第一高校

が優勝できれば、踏み台になってもいいのかって事」

 私の言葉に唯一、深雪だけがすぐに反応する。

「私は優勝したいです。負けたくありません」

 キッパリとそういった。

 私は笑顔で頷く。

 新参三人は、黙り込んだ。

 意味がようやく分かったみたいだね。

 私はこう訊いたんだよ。

 深雪を倒したいかってね。

 同じ競技に出るなら、深雪と対戦する可能性は高まる。

 その時、譲ってしまうのか、戦うのか。私はそれを訊いたのだ。

 

 はい。勝つ気なし…。

 

 そう結論を出そうとしたら、雫が手を挙げた。

「ん?質問?」

 雫は頷いた。

「勝ちたいっていったら、勝たせてくれるの?」

「それは雫次第だね」

 私の言葉は無責任に聞こえるだろう。どう答えるかな?

「私は優勝したい。誰が相手だろうと」

 雫は真剣な眼差しでいい切った。

 その意気やよし。

「達也。雫のピラーズブレイク。深雪と対戦する時は私、雫の方に

行くから、よろしく」

 

 達也は少し困った顔で、渋々頷いてくれた。

 

 

               5

 

 雫の訓練だけプラスαが付きます。

 無理させる気ないけどね。

 それまでは合同で練習を行う。

達也と一緒に、戦術の説明とどこでどう使用していくか、などを

確認していく。

 最初のうちは侮っていた新参三人だけど、今は大人しくいう事を

聞いてくれます。

 因みに若干二名程、達也の調整より私の方がいいという変わり者

がいましたよ。なんでも無理矢理力を引き出されてるみたいで怖い

んだって。

 CADの調整は、ユーザーとの信頼関係が重要。

 という訳で、そういう子には、私がメインに交代する事になった。

 達也の調整があるべき姿なんだけどね。

 達也の調整は、例えるなら一瞬で必要なだけ力が引き出される感じ。

 私のは、滑らかに滑り出しスピードに乗る感じかな。

 達也の調整が苦手な人は、明智さんに滝川さん。

 それで明智さんと仲良くなれました。今はエイミィと呼んでます。

 滝川さんは、普通に名前呼び。つまらん。何か考えよう。

 なんだかんだで上手くやれてるなって思ってた時でした。

 

「ごめん。今日はモノリス・コードの全体練習があるから、抜ける

よ。深景!今度多めに時間取って貰っていいかな?」

 エイミィがそんな事をいい出した。

 

 うん?お姉さん、ちょっと聞き間違ったみたいだからさ。もう一度

いってくれる?

 今、女子競技じゃないのに練習するとかいってなかった?

 

「あれ?もしかして、深景ってモノリス・コード見た事ない?」

 エイミィの声がやけに遠くに聞こえます。

 この胸の高鳴りは、不整脈?心室細動?

 どちらにしても、病院に行くべきだ。AEDはどこ?

 自分で某・半笑い仮面さんみたいに胸に電撃するか?

 

「モノリス・コードは、男子三人、女子一人でやるんだよ。私は

モノリス・コードの新人戦に出るから」

 エイミィが誇らし気にそういった。

 

 なんじゃぁぁぁぁそらぁぁぁぁぁぁ!!

 

 取り乱しまして。大丈夫じゃないけど、大丈夫です。

 何?これフラグ?事故起きたら、私が駆り出されるの?

 

 ノオォォォォォーーーー!!

 

 やったろーじゃありませんことぉ!!

 フラグ叩き折ってやりますよ。エイミィとは友達になっちゃったし!

 

 あんまり人類を舐めるんじゃありませんよ!!

 

 

               6

 

 ショックを引き摺りながらも、練習終了。

 雫のプラスαが残ってるけど、少し休憩して貰ってます。少しだけど。

 ふらついていると、精霊が漂っているのが見えた。

 これって、まさか?

 全くメルヘン要素なしの精霊さんを追っていく。

 向かった先は、魔法薬学の実験室。

 既に扉は開いており、美月が立っていた。

「誰だ!」

 ボッチ幹比古君の鋭い声が聞こえる。

 あ、ヤバっ!

 美月が手を前に出し、顔を背けて防御態勢。あんまり意味ないけど。

 精霊が攻撃しようとしたのを、私がサイオンを放って精霊を追っ払う。

 全く!危ないな!

「はい。落ち着こうか、幹比古君。落ち着けないなら気絶させるけど」

 私の怒気に幹比古君が慌てる。

「ごめん!!そんな積もりじゃなかったんだ!!」

 今度は一転して項垂れている。感情の起伏の激しい子だね。

 美月は何かいいたそうだが、結局口を開かなかった。

 そこから原作通り、精霊と水晶眼の説明になりました。

 それにしても、精霊の色の振り分けって、幹比古君の流派のやつが

妥当じゃないの?それ以外って、何考えて別の色割り振ったの?

 そして…。

 美月の水晶眼に驚き、顔を美月に近付けるボッチ。

 初心な子に止めなさい。強引はダメ。

 肉食系なんて、いい訳は聞く気ないよ。

 私は手でボッチ君の顔を遮ってやった。

「ああ!ごめん!!つい!!」

「いえ…。こちらこそ…」

 二人で真っ赤になってイチャついている。

 

 私も恋人できるかな?今まで大してほしいと思わなかったけど。

 

 初心な二人を馬鹿馬鹿しくなって放置して、雫の訓練に勤しんだ。

 私は職人として生きる女。恋人なんていいんだ。

 

 

               7

 

 家に帰って猛然と調べもの開始。

 最初は無頭竜(ノーヘッドドラゴン)を潰す!とか思ってたんだけど、流石に幹部は

自分の居場所を、巧妙に隠してて、原作で集合するタイミングしか、

集まる事はなさそうな感じ。

 一人でも打ち漏らすと、例の制裁にビビって賭け続けそうだし。

 それならば、工作員を潰す計画にシフトする。

 こっちは幹部に比べれば、ガードが甘い。

 調べれば、出るわ出るわ。

 媚薬に、ハニートラップ、脅迫、日本人に化けてるのもいた。

 それらの証拠を搔き集める。

 

 で、送った先は大会委員会。九島家。あとは御子柴。

 大会委員会の自浄作用で解決ならよし、九島家が対応してくれるの

でもいい。それでも動かないなら、鬼畜ライターの出番だ。

 

 三日経ったが、動きなし。OK、ジーザスやっちゃって。

 因みに、彼は殺し屋でも、俺の名だ、のキメ台詞もない。

 

 そして、魔法を快く思わない週刊誌に記事が出た。

 不正と金が絡む九校戦の見出しが躍る。

 流石に、九島家がストップを掛けたので、十師族批判記事は掲載

されなかった。弱腰め。

 

『いやぁ~!済まねぇっすね、姐さん!こんなネタ頂いちまって』

 御子柴からお礼の通信があった。

「いや。逆に悪いね。危ない橋を渡らせちゃって」

 これで無頭竜(ノーヘッドドラゴン)は大損害を被った筈だ。

 イカサマが開始前にバレたんだから、対応に苦慮しているだろう。

 記事では、犯罪組織が絡んでいるってところまで書いてたし。

 御子柴が報復対象になったのは、間違いない。

『いいんすよ。ライターなんて真面目にやってりゃ、こんなもんっすよ。

寧ろ、今が最高に楽しいっすよ』

 彼はこれからほとぼりが冷めるまで、潜伏するそうだ。

『ものの喩えっすけど、暫く釣りでもして、のんびり過ごさせて貰いますよ』

 最後に暫く仕事受けられないで、よろしくといっていた。  

 

 頑張って生き延びてよ。

 

 この時、私は原作より厄介なものを呼び寄せた事に、気付いていなかった。

 

 

               8

 

 :ダグラス・(ウォン)視点

 

 私は冷や汗と共に、通信を受けていた。

 通信先は揃って顧客達からだ。今回の賭けに乗った裏社会の危険人物達。

 それより恐ろしいのは日本支部の幹部揃って、このままでは制裁を加え

られる事は間違いない点にある。

 これ程、ハッキリしたイカサマの証拠を出されては、誤魔化しようが

ない。顧客は怒りより、猫がネズミを甚振るように通信の向こうで、薄ら

笑いをしているのが、分かる。

 何故、こうなった!?

 これをやったのは、顧客ではあるまい。

 あの忌々しい記者は殺すだけでは足りない。

 バックに誰がいるのか、吐かせないといけない。

 脳裏に白い女ココ・ヘクマティアルが浮かぶが、決め付けるのは早い。

 クッソ!拳を握り締めて耐える。

『それで、賭けは中止ですかな?』

 若い声が疑問を口にする。

『まさか…。続行ですよ。寧ろ、皆さんにはフェアな賭けを楽しんで頂ける

と考えております』

 穏やかに、そしてぬけぬけと私はいい放った。

 最早、中止になどできない。ここで挽回しないと、命どころか尊厳さえ

奪われるだろう。そんな終わり方は絶対に嫌だ。

 やってやる。なんでもやってやる!!

 通信の向こうで一斉に嘲笑が起きる。

『まあまあ、皆さん。黄さんが誠意を見せてくれているのですし、ここは

続ける意思のある方のみ、参加としては?』

 偉そうに仕切っているのは、得体のしれない若造だった。

 ビジネスネームしか分からない。伊集院左京。

 武器を売っている訳でも、薬を売っている訳でもない。

 何をやって金を稼いでいるのか、誰も知らない。

 だが、敵対したら最後、全員殺される。

 そんな男だった。

『では、まずは私が。賭け金の追加を』

 左京の若造が宣言すると、他の奴等も剛毅だとかなんとかいって媚びを

売っている。

 調子に乗るなよ。若造。

「ほう。いくら上乗せしますかな?」

 破滅させてやる。

『90兆円』

 何?こいつは今、なんといった?

『第一高校が勝つ方に90兆円』

 

 

 狂ってるのか、この男は!?

 流石に他の連中も黙り込んだ。

『ご心配には及びませんよ。私の全てを絞り出せば、そのくらい払える

でしょう』

 正気じゃない!!しかも通信の向こうで、微かに笑っているのが分かる。

「いいでしょう。では、他の方は?」

 負ける訳にはいかない!!破滅させてやる、絶対にだ!!

 他の連中は、観戦料とでもいいたげな値段しか、賭けなかった。

 全員に挨拶すると通信を切る。

 

「うがぁあぁぁぁぁぁーーー!!」

 テーブルをひっくり返す。暴れ回りようやく落ち着いた。

「戸愚呂!!」

「そんなに大声で、いわなくても聞こえますよ」

 後に控えていた大男が、苛立たしい程ゆったりと答える。

 こいつは数日前に、自分の腕を売り込んできた。仲間と共に。

 腕は確かだった。名は聞いた事がなかったが、偽名であるし、実は名が

通っているのかもしれない。

 何しろジェネレーター三体を、一瞬で潰してしまったんだからな。

「第一高校を潰せ!!どんな事をしても構わん!!」

 戸愚呂は溜息を吐いた。

「幼気な若者を苛めるのは、気が引けますなぁ」

「ふざけた事をぬかすな!!」

「せめて、面白そうな奴がいる事を祈りますか」

 戸愚呂はそう言ってニヤリと笑った。

 

 だが、その笑みは背筋が凍るようなものだった。

 

 

               9

 

 :左京視点

 

 自室でゆったりと音楽を楽しんでいると、通信が入った。

 通信に出る。

『第一高校を潰せと指示されましたが、よかったんですか?』

「構わないさ。賭けは自らが有利なばかりでは、スリルがない」

 通信の向こうで呆れた気配がある。

「だが、くれぐれも鴉や武威を連れて行ったりしないでくれよ?」

 彼らは本番まで温存しておきたい。

 勿論、戸愚呂にもだ。

「君も実力は20%くらいに止めてくれ」

『ふう。ストレスが溜まりそうですなぁ』

 彼のボヤキが可笑しくて笑ってしまった。

「私は見たいからね。人の世ではない世界が。君もだろ?」

 だったら、少し我慢してくれ。

 戸愚呂もこっちのいいたい事を察した。

「こっちじゃ、もう相手もいなさそうですからねぇ。なら、()()に帰るしか

ありませんなぁ」

 少し打ち合わせをしてから、私は通信を切った。

 

 久しぶりに楽しい事になりそうだ。

 

 

 

 




 どこをチョイスするか、悩みどころですね。
 原作通りの箇所は結構スキップしてますけど。
 拾いたい箇所もあったりして。

 今回、幽遊白書から人を引っ張ってきました。
 戸愚呂が無名の理由は、九校戦編ラスト辺り
 で明らかになる予定です。
 設定は捏造済みです。

 それでは、次回も気長に待って頂ければ。


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九校戦編3

 長くなってしまいました。
 よくない傾向ですね。
 でも、書いときたかったんです。

 では、お願いします。


               1

 

 週刊誌でスキャンダルが暴露されて、大会委員会は大慌ての大混乱だったみたい。

 ザマまぁみなさい。

 

 そして、遂に一校でも九校戦対策会議が開かれる事になる。

 九校戦参加者は全員参加となり、会場は講堂で行われた。

「皆さん。週刊誌の件は既にご存知だと思います。本日は今日までに分かった事を

ご報告させて頂きます。そして、それを踏まえ、我々はどうすべきかを話し合う

会議となります」

 まずは閣下が、どのような目的の会議かを告げる。

 なんでも中止の話も上がったそうだけど、結局はやる事にしたみたい。

 アンタ等に信用なんてないって分かんないの?

「まずは、重要な警備の点は、軍が直前に要員を選び会場警備を担ってくれるそう

です。CADのレギュレーションチェックも軍で人員を選抜する事が決定しています。

大会委員会は、審判のみとなります」

 勿論、大会委員会の人員総入れ替えが断行された。

 これを聞いて、ホッとする人、まだ不安そうな人様々だ。

 大会の撮影も軍の広報が担当する徹底振りだそうだ。

「以上が大会委員が示した改善案となります」

 講堂は閣下の声のみが響いている。

 有り得ない程、私語がない。

 その後は、各魔法科高校の対応の話に移る。

 自分達が賭けの対象になっていたという事実は、特に第三高校が激しい拒否反応を

示しているそうだ。

 大会委員会にも不審感を露わにしているとか。

 流石、尚武の気風。

 賭けくらいは、どの年度でも勝手にやってた連中がいただろうけど、今回のは犯罪

組織の行っている大々的なものだ。本命を優勝させない為に、手を尽くしていたという

事実は、彼等には許せない事だろう。

 他校も参加を渋っているとか。

 まあ、危険が消えた保証もないしね。

「そこで、我が校の方針を決めなくてはなりません」

 妨害第一目標となっている一校の判断次第では、今大会全魔法科高校が出席しない

という事も有り得る。

「参加、見合わせた方がいいんじゃないんですか?」

 誰かがボソリと呟くようにいった声が響く。

 今までなら、大会委員会がガッチリとガードしてくれていた。だが、今回その大会

委員会そのものが信用できない状況だ。

 この発言もやむなしでしょうね。

「でも、このまま引き下がるのかよ!」

「そもそもどの程度の犯罪組織なんだよ!?」

「チンピラの訳ねぇだろ!?」

 誰かさんの発言に触発されて、徐々に声が上がり出す。

「犯罪組織の正体に関しては、今、警察が捜査中です」

 閣下が疑問に答える。

 閣下と十文字さんが、視線を交わし頷き合う。

「少し聞いて貰いたい。我々の考えを先に述べさせて貰う」

 十文字さんが立ち上がり発言する。

「これは当校に対するテロ行為に等しい。屈する訳にはいかん。だからといって、

参加を無理強いするものではない。生徒会役員並びに部活連有志のみでの参加を

考えている」

 十文字さんのセリフに参加者がざわつく。

 おお!では、頑張ってきて下さい!応援してますよ!って訳にいきませんよね。

「そんな!!」

 講堂内は喧々囂々ですね。

「俺達だって魔法師ですよ!会長達だけで送り出すなんて有り得ません!!」

「会頭が行くってのに、俺達だけ居残りなんて恥だぜ!!」

 俺達だけで行ってくるよ発言は、不評なようです。

 でも、私には違う意図が見えるんだよね。

 こんな状況を作った原因の私がいうのも、なんだけどさ。

「我々の三連覇が掛かっているが、そんな事は重要ではない。少しでも己の実力に

不安があるのなら、ここは堪えて参加を見送ってほしい。誰一人、こんな事で生徒

が犠牲になる事があってはならない」

 止めの言葉が十文字さんから放たれる。

 士気が高まりますよ、これ。

 

 乗せて使うのが、お上手で。効果絶大過ぎだけど。

 

 結局、慕われている人達の演出で、止めますなんて言える雰囲気じゃなくなった。

 閣下達にしてみれば、選手を奮い立たせる演出だったんだろうけど、作戦スタッフ

から、エンジニアまで誰も降りなかった。

 閣下は十文字さんに、ちょっとやり過ぎじゃないの?という視線を送っているが、

十文字さんに動揺はない。流石天然。

 第一高校参加表明が決定した。

 

 そこからは会議内容は、安全管理の話し合いにシフトした。

 今こそ、勇気を振り絞る時ではないでしょうか。辞めるっていう。

  

 

               2

 

 会議という名の独演会が終了し、講堂から人が吐き出されて行く。

 私達もその流れに乗って、出ていく。

 結局、口挿む暇なんてありゃしませんでしたよ。

「深景さん!」

 背に声を掛けられ、振り返ると閣下が立っていた。

「どうかしましたか?」

「ちょっといいかしら?」

 生徒会室までご案内。

 

 生徒会室には、カンゾー君を含めたフルメンバーが揃っていた。

 一人凄い圧力の人が、追加されているけど。

 呼ばれたのは私だけど、結局は私達司波家全員参加してます。

 なんでしょうかね。

「選手の方は、想定を超える結果になったけど、応援にくる生徒をどうするかを

決めないといけないわ」

 え?来なくていいんじゃありませんか?それか自己責任。

「これからの為にも、応援も兼ねて見学は積極的にさせているのだけど、今回は

危険もあるし、来ていいとはいえないのよね」

 そういえば、アニメでは観客席に一校生一杯いましたね。

 あれ、見学者だったのか。

「今回は安全を考えて、見送った方がいいのでは?」

 達也が尤もらしくいうが、お姉さんは分かってるよ。

 どうでもいいと思ってるでしょ?

「逆に例年通りにしたら、どうです?」

 私は敢えて達也と逆の意見をいう。

 話し合いは、色々な意見が出た方が判断材料が増えるからね。

 対策会議は、それすら実行されなかったけど。

「う~ん。でも、達也君のいう通り危険なのよね。深景さんはどうしてそう思うの?」

「会頭の意見と同じ理由ですね。どこかの規模を縮小すると、もう一息だと思うアホ

もいるかもしれませんし」

 私の意見に生徒会の面々が渋面になった。

 それに軍が警備やってくれるなら、そこまで気にする必要ないんじゃない?

 記事では、軍の敷地に調査に入っていたようだとも書かれたしね。

 今回の件で軍も少なからずダメージ受けたし、これでしくじり先生やったら、評価

は地に落ちるよ。原作通り、風間天狗もくるだろうし。いざとなったら、天狗さんに

お願いしようよ。公務員に向いている方にさ。

 無頭竜(ノーヘッドドラゴン)くらい、あの面子なら余裕で潰せるでしょ。

 十文字さんは、私の意見を支持。閣下はどちらかといえば、達也の意見に傾いて

いるといった感じ。

 カンゾー君、渡辺お姉様が私の意見に賛成。CADオタ、市原さんが達也の意見に

賛成。

 あとは、深雪が意見をいっていないけど、さてどうするかね。

 ここまで分かれると、閣下の意見に掛かってくるんじゃないかな。

 閣下がまだ決めかねている為に、二手に分かれて議論を展開する。

「まあ、軍も面子がありますし。チャンとやってくれると思いますけどね」

 膠着状態になってしまったので、仕方な私は口を挿む。

「軍が護ってくれるなら、確かにある程度大丈夫なのではないでしょうか?」

 深雪がおずおずと口を開く。

 一番生徒会では下っ端な為に遠慮していたみたい。

 まあ、所詮犯罪組織だもんね。

「では、応援に来るのは構わないけど、身の回りに注意するよう警告する事に

しましょう」

 閣下が決断を下す。

 まあ、結局は自己責任ですよね。

 

 ところで、私は何故この面子の会議に呼ばれたんでしょうか?

 

 

               3

 

 なんとか練習も間に合い。準備も整いました。

 そこには、学生とは思えない残業がありましたけどね。

 なんで今から、こんな事してるんでしょうか?

 因みに一校が参加を表明した事により、九校戦中止はなくなった。

 何しろ、一番の標的が出るのに、優先順位の低い学校が出ないなんていえないで

しょうからね。

 可能なら、私も不参加を表明したかった。

 

 そして、出発当日。

 閣下が原作通り遅刻しています。事前連絡貰ってますけどね。

 達也と私で閣下を待ち受けています。

 私は日傘を差してますけど、達也は汗を乾かす魔法くらいしか使っていません。

 別に遅れてくるの分かってるんだから、中である程度待ってもいいと思うんです

よ。紫外線も長時間浴び続けるとヤバいですよ。若いといっても。

「ゴメンなさ~い!」

 閣下が到着したようですね。

 長かったよ。

「ごめんなさい。待たせちゃって」

 閣下は達也と私に丁寧に謝った。

 バスから鋭い視線が突き刺さるので、それくらいでいいですよ。

「いいえ。お気になさらずに。家の用事と予め聞いていましたので」

 達也が表情を変えずにいった。

 達也が持っているタブレット端末に、出席のチェックを入れる。

 これで完了っと。

「ところで、どう?この服」

 原作と同じ格好ですね。

 ただ、訊く相手間違ってませんか?

「地味過ぎず、派手過ぎず、可愛いと思いますよ」

 避暑地のお嬢様って感じですね。

「そう?」

 閣下が顔を赤らめて微笑んだ。

 しかも、席隣に座れとかいい出されて参った。

 

 ホント、相手間違えてますよ。なんで私に訊いたんですか。

 

 

               4

 

 技術スタッフは、機材と一緒に別のバスで移動する。

 まあ、変な気を遣わなくていいから、楽っていえば楽だ。

 しかし、私に油断はない。

 まあ、連中も忙しいと思うけど、警戒は緩めない。

 逆ギレもいいところだけど、報復攻撃とかはあるかもだし。

 目を閉じて、ジッと精神を研ぎ澄まし周りを探る。

 

 おっと。いらっしゃったよ。

 

 この精神状態だと、フランケンか。

 手加減無用だね。

 車がパンクし車体がスピンする。

 こっちに、ガード壁を使って跳んでくる積もりだろうけど、それはさせない。

 上方に跳び上がる力を、私の魔法で同じく瞬間的に上方に掛かる力を切断する。

 車は普通にガード壁に追突して止まった。

 

 お疲れ。

 

 一校のバスは、そのままただの事故車両の横を通り過ぎて行った。

 すれ違う瞬間に車を爆破しようとしたが、それも阻止。

 参ったか、これぞ秘技・放置プレイ。

 それから、何度か車やバイクの事故が多発したが、バスは無傷だった。

 

「今日は事故が多いのね」

 選手が乗るバスの中では、そんな呑気な発言があったとか。

 誰がいったかは、名誉の為に伏せておく。

 

 

               5

 

 問題なく現地到着。

 さて、ここまでくれば、普通に競技するだけ…といきたいですね。

 選手は悠々とそのまま懇親会まで休憩なのに、技術スタッフは仕事があります。

 ブラッキーめ。

 私も機材を乗せた台車を運び込んでいく。

 達也は私の分もやるといってくれたが、断った。

 押し付けるのもね。

 

 台車を押して、達也と深雪と一緒にホテルに入る。

 深雪は、律儀に私達を待ってくれていました。

「深景!深雪!達也君!ヤッホー!」

 陽気な声が出迎えてくれる。

 貴女の親、こんな状況なのに来させたんだ。

 エリカが私服姿で手を振っていた。

「エリカ!?貴女、どうしてここに?」

 深雪がエリカに訊く。

 お家の事情です。

「それじゃ、深雪。先に行っているぞ。エリカも後でな」

 達也はサッサと行ってします。

「それじゃ、私も以下同文」

 私も達也の後を追う。

 エリカがリアクション不足で、ブツブツ文句をいっているようだった。

 そして、見事に遊びに来ました的な格好の美月が、エリカのところに駆け寄る。

 う~ん。なんだか嫌な感じだね。何、この原作通り感。

 

 機材を置いてセッティングを行うと、懇親会まで暇ができた。

 私と達也に掛かれば容易い事よ。

 部屋に戻ろうと角を曲がった瞬間、赤と黒の制服が目に飛び込んで来た。

 私はいるのは分かっていたので、少し横にズレてやり過ごす。

 が、向こうはビックリしたようだ。

 顔を見て、私もビックリですよ。

 

 こんなところで何してんですか?ヘタレ赤王子。

 

 そこにいたのは、クリムゾンプリンスこと、一条将輝君だった。

 厨二病全開ですね。気の毒に。将来、黒歴史確定路線だ。

 向こうは何故かボケッと私を見ていた。

 うん。流石ヘタレ。反応が色々と残念過ぎる。

 フッと見ると袖が少し破れていた。

 何やったの?君。もうじき懇親会だよ?

「あの、袖、破れてますよ」

 あたふたとしてから、どうにか正気を取り戻したようだ。

「どうも、どこかに引っ掛けてしまったようで…」

 私はここで考えた。

 このヘタレは深雪のお相手候補だ(私の中では)。

 ここで姉として、いいところを見せてはどうだろう?

 深雪にベタ惚れしたくらいだから、この人は面食いだろう。

 となれば、私は範囲外。

 感じのいいお姉さんがいるな、くらいに思って貰ってもいいだろう。

「替えの制服は?」

 王子様は困った顔で、首を振った。

 まあ、だろうね。

「袖、見せて下さい」

 私の言葉に、ぎこちなく袖を見せる。

 私はポケットに手を入れて、亜空間からソーイングセットを取り出す。

「いつも持ち歩いているのかい?」

 ビックリしたように王子様がいう。

 勿論、違う。亜空間に放り込んであるだけだ。

 私は答える代わりに、尼~ズの和物オタの人並のスピードと精度で、応急処置

を行う。

 うん。これでまじまじ見られない限りは、大丈夫だろう!

「気を付けて下さいね!」

 私はそういうと、用事は済んだとばかりに部屋に戻った。

 

 どうして、あのヘタレ王子は、ずっと私を見てたのかな?

 深雪の生霊でも背負ってたかな?

 

 

               6

 

 :将輝視点

 

 一校が参加を表明した時は、感心した。

 逃げずに戦うとは流石だ。いや、十師族の直系が二人もいるのだから、当然か。

 

 ホテルに到着し、選手は競技に備える。

「将輝。袖が破れてるよ!?」

 親友であり、俺の参謀である吉祥寺真紅郎が、慌てて指摘した。

 俺はコイツの事をジョージと呼んでいる。

「どこかで引っ掛けたかな」

「将輝。替えの制服は?」

 ジョージに訊かれ、俺は返答に詰まった。正直競技では制服は着ないし、一着

で十分だと思って持ってきていない。そもそも、持ってきてる奴いるのか?

「確か、伊原先輩は被服部を兼部していた筈だ。応急処置くらいはしてくれるよ」

 流石、ジョージ。そんな事まで把握しているとは。

 俺は伊原先輩を探す事にした。

 しかし、これが見付からない。

 当てもなく歩き回る羽目になった。

 

 暫く歩いていると、角から突然女生徒が出て来た。

 咄嗟に避けようとしたが、それより早く女生徒はアッサリと俺を躱した。

 凄腕だな。身のこなしが尋常じゃない。

 だが、それ以上に困惑する。

 女生徒は一校生のようだった。

 綺麗な長い黒髪に端麗な容姿。でも、眼鏡が台無しにしている。

 野暮ったい黒縁眼鏡の所為で、顔全体が地味な印象になっていた。

 

 それでも、彼女は柔らかい光に満ちていた。

 

 俺にはそう見えたというだけで、実際光っている訳じゃ勿論ない。

 俺はこの時、親父の言葉を思い出していた。

『美登里に初めて逢った時、輝いて見えたんだ。その場で声を掛けたさ』

 俺はこれを聞いた時、信じられない思いだった。

 勿論、女性が光る訳ないし、何より親父が初対面の女性に声を掛けたという事

に驚いたものだ。

 まさか、自分がそんな体験をするとは。

 

 彼女は怪訝な顔で、俺を見ていた。

 いかん。不審に思われたようだ。

「あの、袖、破れてますよ」

 涼やかな声でそういわれた。

 俺はなんて見っともない姿を晒したんだ!!

 心中で己を罵った。これ以上の無様は許されない。

「どうも、どこかに引っ掛けてしまったようで…」

 思うようにいかん。

「替えの制服は?」

 俺は首を振った。おい、これじゃ愛想のない男みたいだろうが!!

「袖、見せて下さい」

 俺はギクシャクと袖を見せると、彼女はポケットからソーイングセットを取り

出した。

「いつも持ち歩いているのかい?」

 驚いた。今までそんな物をパッと出した女性は、見た事がなかった。

 彼女の手が俺の腕に触れる。硬い。大凡女性らしいとはいえない手だった。

 おそらく何度も手のマメが潰れて、硬くなったのだろう。

 これは彼女の努力の証だ。大抵の男なら嫌がるかもしれない。

 だが、俺は美しいと思った。

 彼女は恐るべき早さで、袖の応急処置を終えた。

 見てみると、よく見ないと気付けないくらいの出来だった。

「気を付けて下さいね!」

 ボケッと袖を見ている間に、彼女は背を向けて歩き出していた。

 呼び止めようと、手を伸ばしたが、言葉は出なかった。

 俺は何もできずに、彼女の背を見送った。

 

 彼女からは、火と鉄の匂いがした。

 

 立ち尽くしていると、後ろから声が掛かった。

「若。ここにいましたか」

 俺は顔を顰めた。

 振り返ると案の定知った顔だった。

 市之瀬奈津。一条家の親戚筋に当たる家の子で、俺と同い年だ。

 市之瀬の家は、一条家のサポートを担っている。

 だからか、彼女は俺の事を若と呼ぶ。

「何度もいうがな。俺を若と呼ばないでくれ。同い年じゃないか」

 奈津はいつもの如く無視した。

「伊原先輩を見付けました。行きましょう」

「ああ、それはもういいんだ」

 奈津が怪訝な顔をする。

 俺はグイッと袖を見せてやった。

「これは見事な。何方にやって貰ったのですか?」

 袖を見て奈津が感嘆の声を上げて、訊いてきた。

「……」

 それも訊いていない。

「一校の女生徒だ。名前は…訊いていない…」

 忸怩たる思いでいう。

 顔を上げると驚いた事に、奈津が驚いたような喜んでいるような顔をして

いた。なんだ?

「いえ。この奈津。ホッと致しました。このままクロウとの衆道ルートかと、

心配しておりましたので」

 おい!!なんだ、それは!!

「まあ、クロウは茜ちゃんが付いているから、平気だと思いましたが、少し

不安を感じていました」

 俺だけ変態みたいだろう!!

 クロウとは、ジョージの事だ。俺達三人は大抵一緒にいる。

「これは、御当主様に報告しなければなりません。若が女に興味を示した、

と!!」

 ふざけるな、お前!!

 おん…なに…。

 

 俺は、顔が真っ赤に染まっていくのを感じて、ソッポを向いた。

 

 

               7

 

 ヘタレた王子様との出会いがあったり…まあ、それだけですな。

 懇親会に突入した。

 

 一校代表団が他校の代表団と挨拶を交わし、陰険に戦力の探り合いをやって

いる。勿論、主力選手ではない私と達也は壁の置物と化している。

 花という程、華やかでも舞踏会でもない。

 突っ立っていると、エリカがジュースを持って来てくれた。

 私は達也と葡萄ジュースを片手に、ボンヤリと会場を眺めていた。

「お姉様、お兄様」

 深雪が帰ってくる。挨拶回りは終了したらしい。

 その後、ほのかに雫が合流。

 一校一年は、こっちの方をチラチラ気にしている。

「深雪。チームメイトはいいのか?」

 達也が見かねたのか疑問を口にする。

 深雪が苦い顔をする。

「みんな、深景さん達がいるから、こっちに来れないんだよ」

 代わりに雫が答えてくれた。

 私も含むんですか。

「バッカバカしい!今はチームメイトじゃない」

 私達の話に乱入してくる人がいた。

 千代田キャノンさんである。もとい、花音さんである。

 婚約者が絡まなければ、まあいい人ですね。

 彼女の婚約者・五十里先輩が宥めている。苦労してますな。

 達也がその発言を受けて、深雪を一校の挙動不審な一年の元へ

送り込んだ。

 キャノンさんは、御不満なご様子だったが、去って行った。

 入れ替わりで、エリカが幹比古君を引っ張って現れた。

「あれ、深雪いなくなっちゃった?」

 どうも、これを機に紹介して上げようとしたらしい。

 当の幹比古君は、ホッとしていた。

 エリカがそれを見て、幹比古弄りを開始。

 彼は戦術的撤退をしていった。

「幼馴染でしょ?もう少し手加減して上げたら?」

 私がいうと、エリカも浮かない顔をした。

「まあ、確かに八つ当たりだったかな」

 私は特に何もいわず、エリカの腕をポンと一つ叩いた。

 エリカはビックリしたように、私を見た。

 私は達也を引っ張って移動した。

 エリカは、私の背をジッと見ているようだった。

 

 移動したから、新鮮な光景を見る事ができた。

 深雪が第三高校の三人組に絡まれていた。

 やけに、いいとこの出って感じの三人だね。

「第三高校一年、一色愛梨といいます」

「同じく、十七夜栞」

「同じく、四十九院沓子じゃ、よろしく頼む」

 最後の人、なんか面白い。

「第一高校一年、司波深雪といいます」

 深雪が優雅に挨拶を決める。

 だが、三人共、えっ!?って顔で顔を見合わせている。

 気を取り直したのか、一色さんとやらが微笑む。

「一般の方でしたか。失礼しました。てっきり名のある方だと思って、声を

掛けてしまいました。試合、頑張って下さい」

 悪意満載で一色さんとやらが、笑った。

 相手との力量を測れない段階で、大した事なさそうだね。

 それにしても、原作でいなかった人だし、イレギュラーって事なのかな?

 

 うん?

 

 一色さんとやらの背後を、何かが追っていく。

 私はすれ違いざまに、それを掴み取った。

 私は手の中でジタバタしているものに、目を落とす。

 精霊いや、妖か…。こんなものがどうしている?

 コイツ等は、そこら辺をうろついているような存在ではない。

 考えられる事は、一つ。

 原作より厄介な相手を敵にしたという事だ。

 私は溜息と共に、妖を握り潰した。

「姉さん。何があった?」

 達也が険しい顔で訊いてくる。

「うん。妖がいたんだよ。厄介な事になりそうだね」

 一瞬、達也が驚愕の表情をするが、すぐにポーカーフェイスに戻り、

 真剣な表情で頷いた。

「かっ…会長に教えとかないといけないね」

「狙いは一校。そういう事かい?」

「タイミング的にそれしかないよ」

 

 厄介事避ける為に、更に厄介事が発生するとか。泣きそうだ。

 だって、女の子だもん。

 

 

               8

 

 :将輝視点

 

 懇親会で各校の代表と挨拶をしていく。

 一年でも俺とジョージ、奈津は参加させられている。

 まあ、実際に有力選手を間近に観察するのも、勉強になるし断れない。

 しかし、後にいるのをいい事に、あまり集中できていない。

 気が付くと視線を周囲に彷徨わせている。

 そんな事を繰り返していると、横から肘で突かれる。

「若。個人的にはいい傾向だと思いますが、時と場合をお考え下さい」

 奈津に注意されてしまった。

 ジョージは不思議そうに俺を見た。

「将輝。誰か探してるの?」

「ああ…いや、気にしないでくれ」

 俺は目の前の事に集中すべく、首を振って気を取り直した。

 

 挨拶回りを終えて、各校の生徒が自由に話す場になった。

 俺は話し掛けてくる相手が途切れず、勘弁して貰いたくなった。

 すると、周りの同級生が騒がしくなる。

 なんだ?

「見ろよ!すっげぇ!ウチの学校もレベル高い子一杯いるけど、あそこまで

のは、流石にいねぇぜ!」

「何、興奮してんだよ。見るからに高嶺の花じゃねえか。無駄無駄」

「うるせぇな!将輝だったら、イケるかもしれねぇだろ!?」

 俺は同級生連中の視線の先を追う。

 そして、驚いた。

 あれは、別格だな。

 美しいのは勿論だが、物凄い輝きだ。あれは女王だな。

 彼女を最初に見ていなければ、あの子の輝きに目が眩み、膝を突いて賛美

したかもしれない。

 でも、今なら分かる。あれは隣に立つ男を飾りにしてしまう。

 惚れた男は、自らの才覚に絶望する事になるだろう。

 今から、その男に同情を禁じ得ない。

「若…。あの方ではないのですか?てっきり…」

 奈津が信じられない、といった感じて訊いてくる。なんなんだ、一体。

「ああ、袖を応急処置してくれた子?」

 ジョージも口を開く。

「違うな。あれは目の毒だ」

 二人が同時に信じ難い者を見る目で、俺を見た。

「若。そんなだから、将輝×真紅郎の薄い本を出されてしまうのですよ」

 ちょっと待て。なんだそれは!!

 ジョージもあまりの言葉に、奈津の方を向く。

「なんですか!?それは!?」

「男同士でベタベタくっついていれば、そういう妄想も生まれるという事です」

 尤もらしく奈津がいったが、納得など到底できるものではない。

「奈津さん。後でそれを作った人を教えて下さい。()()()()話し合わなければ

なりません」

「俺も立ち会おう」

 二人で腐った嗜好の持ち主を、潰す決意を固めた。

 

 そんな俺達を見て、奈津は無駄だと思いますけどねっと呟いた。

 

 

               9

 

 口からエクトプラズムを垂れ流しつつ、閣下に耳打ちする事になった。

 閣下は笑顔のまま、後で詳しい話をっと囁いた。

 渡辺お姉様が、外に未だにいる連中を呼び戻す。

 会場からアナウンスが流れる。

 来賓から長~い挨拶が始まる。

 そして、最後は腐れ爺…もとい、九島烈の登場である。

 

 爺さんは普通に舞台袖から出て来た。

 あれ?精神干渉のトリック使わないんだ。

 なんて思ってたけど、あれ、当人じゃないね。歩き方が若い。若過ぎる。

 三巨頭も気付いているようだ。

 閣下はCADに手を掛けているし、十文字さんは一校生徒の前で仁王立ちしている。

 渡辺お姉様も、いつでも動けるように余計な力を身体から抜いている。

 だが、私と達也はもう一つの仕掛けに気付いていた。

 視線を交わし、頷き合う。

 達也は深雪の傍に。私は渡辺お姉様すぐ動けるように構えた。

 すると何かに制止されたように、偽烈が歩みを止めた。

 マイクスタンドの前に照明が当てられる。すると本物が悠然と立っていた。

 偽烈の姿が霞むと、若い男が姿を現す。

 爺が手で下がるように合図すると、舞台袖に戻っていった。

「まずは、悪ふざけに付き合わせた事を謝罪する。だが、君達の警戒の甘さが露呈した

結果になったな」

 その一言に会場がざわめく。

「これは魔法というより手品だ。大したものではない。しかし、君等はそれを見破れず、

騙されてしまった。私の見たところ、最後のタネまで見抜いた者は二人だけだった」

 そこで、爺が私と達也をチラッと見た。

 気付いた人達も偽烈に注意していたからね。

「つまり、私が件の犯罪組織とやらで、君等をどうにかしてやろうと思えば、阻止する為

に動ける人間は二人。あとは偽物に気付いた五人が参加できるかといったところだろう」

 偽物にすら気付けなかった連中は、顔を顰めて聞いている。

 爺の話は、ここから聞いた事のある話だった。

 魔法を工夫して使わんかい!!以上である。

 

 微妙な拍手と共に、爺は去って行った。

 

 

               10

 

 :戸愚呂視点

 

 全く困った雇い主だね。

 勿論、左京さんの方ではない仮の雇い主の方だ。

 ホテルの一室でビールを飲んでいると、通信が入る。

 出ると件の仮の雇い主だった。

『どういう事だ!?戸愚呂!!』

 それはこっちが訊きたい事だね。

「そっくり返しますよ。昼間のコントは何のマネです?」

『何故、連中を黙って行かせようとする!!』

 冷静さも何もあったもんじゃないね。

「これでも雇い主を思い遣ったんですがね」

『何!?』

「第一高校が到着しなかったら、賭けになりゃしませんよ。それじゃ、顧客もアンタの

ボスも納得しないでしょうなぁ。合計で91兆円。これくらい稼がないと命が危ういんで

しょう?なら、開始前に無用の警戒なんてさせてどうするんですかねぇ?」

 黄は言葉に詰まった。

 やれやれだねぇ。

「こちらとアンタとの間に齟齬があっちゃぁならない。第一高校を道連れに自殺する気

なら、今すぐ殺してきますがね」

 沈黙が続く。辛抱強く待つ。

『負けさせられるんだな!?』

「それが仕事だと思ってたんですがね」

 普通の魔法師なら、ここまで軍が警戒していては無理だろうねぇ。

 でも、私達なら可能だ。

『いいだろう。失敗は許さん。定時連絡を忘れるな』

 乱暴に通信が切られる。

 

 俺は溜息と共に、ビールを呷った。

 

 

 

 




 深景はずっと深雪と暮らしていたので、容姿に関して自己評価
 が低くなっています。
 
 オリキャラは奈津さんです。
 因みにボーイッシュな女の子であります。
 王子様が興味を示したくらいだから、深雪レベルだろうと勘違い
 してました。

 あと、戸愚呂の一人称どうだったか忘れたので、俺にしました。
 この世界じゃ、これって事でお願いします。

 これからが本番です。
 頑張って、どんな魔法を使わせるか考えないとな。
 どうするかな。

 では、次回も気長にお待ち頂ければ。


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九校戦編4

 戸愚呂の件について。
 確か、本人が下戸だっていってましたね。
 しかし、修正はしません。
 何故なら、捏造設定では名前だけで、完全な別人に
 なったからです(爆)。
 能力はそのまま…の筈です。

 では、お願いします。


               1

 

 お偉いさんの講演会みたいな懇親会が終了し、私は一校の九校戦首脳会議に出席していた。

 といっても、私は説明するだけだけど。

 因みに、専門家として達也に幹比古君を拉致して貰っている。

 彼は達也の隣で硬直している。大丈夫?

 深雪?深雪は選手だし部屋で待機して貰ってるよ。

「つまり、古式の人達がいうところのパラサイトがいたって事で、いいのね?」

 私の説明を聞き終えて、閣下が纏める。

「正確には精霊寄りの雑鬼の類ですけどね」

 強力な存在と共にこっちに来て、腰巾着みたいに纏わり付いているヤツだ。

 それでもずっとくっ付いている訳ではない。

 お気に入りの負の感情を見付けると、少し浮気してフラフラ付いていったりする。

 といっても、それ程離れる事はない。

 だから、強力な存在の探索の手掛かりになるくらいだ。

 あの金髪さん、深雪を見下してたしね。それに惹かれたんでしょ。

「でも、彼等がいるという事は、強力な個体が近くにいるという事です。だとすれば、少し

軍の護衛では心許ないかもしれません」

 さっきまで硬直していた幹比古君は、得意分野の話題で復活を遂げていた。

 物理・魔法では頼もしい存在だけど、精霊魔法を使える軍人は少ない。

 今の主流じゃないしね。

「軍にも警告して、実家から術者を数人派遣して貰おうと思いますが…」

 幹比古君が首脳陣を伺うように言葉を切った。

「軍には、俺から話そう」

 十文字さんが重々しくそうコメントした。

 閣下は頷く。

「吉田君。どれくらいで到着しそうか、分かったら教えてくれる?」

「はい。勿論です」

 幹比古君が力強く頷く。

 閣下は深刻な表情で溜息を吐く。

「それでは、各自でできるだけ注意して貰ってくれる?」

 首脳陣全員が苦い顔である。

 文字通り人外が敵かもなんて、私でも嫌になるよ。

 

「でも、そんな強力な存在を制御できるかな?」

 幹比古君が考え込みながら、ポツリと呟いた。

 歴史的に見て、肉体を持った上位の妖は真正の化け物だ。

 肉体を与えた直後に術者は死亡しているというのが、古式術者の定説だからね。

 例を挙げると、九尾の狐だね。

 あれは術者が意図した行動じゃないのは、間違いないそうだし。

 文献を見ると、楽しんでいたみたいだ。

 とても術者に縛られていたとは思えない。

 となると、今回は相手の目的に沿い過ぎている気がする。

 まだ、何も起きていないから、断定は禁物だけど。

 でも、これだけいっとくかな。

「別に制御する必要はないかもしれないけどね」

 幹比古君が不思議そうに私の方を見た。

「え?どうして?」

「餌場を用意して招待するだけなら、制御なんていらないでしょ」

「馬鹿な…!」

 幹比古君が衝撃を受けた顔で、硬直した。

 首脳陣の表情も険しくなる。

 そう、あの運命0でいってた事だよね。

 

 幹比古君は、応援到着まで気休めにしかならないけど、魔除の護符の作成に入るといって、

慌てて出ていき、会議は解散になった。

 まあ、警戒はするに越した事はない。

 これが大間違いで、真実は私の想定斜め上どころか、突き抜けていた事が分かるのは、

もう少し時間を要する。

 

 ココみたいに、何故かいたりしない?

 鬼太郎とか、鬼切丸とか、薬売りさんとか。

 おっと、年齢が…。ええと、新しいのは腹巻した猫だっけ?

 ともあれ、私の知らないところで片付けてくれないかな。無理か。

 皆々様の真と理、お聞かせ願いたく候、とかいって出てきてくれないかな…。

 

 

               2

 

 :深雪視点

 

 みんなの表情は、明るいとは決していえるものではなかった。

 けれど、新人戦への情熱は失っていないようで、安心する。

「新人戦、緊張するなぁ」

 ほのかが枕を抱き締めて、少し強張った顔でいった。

 ほのかの性格なら、今回の騒動での参加は恐ろしいだろうに、よく耐えている。

「まだ早いわよ。私達の新人戦は大会四日目からよ?」

 緊張しているのは、新人戦だけではないと分かっているけれど、ほのかに合わせて、宥める

ように、新人戦のみに言及した。

 雫も珍しく微かに微笑みながら、頷いた。

 ほのかが顔を赤らめる。

「そ、そうよね、早過ぎるわよね!」

 そういい終えると、顔を隠すように持っていた枕に顔を埋めた。

 部屋にノックがされる。

 ほのかが枕を退ける。

「私が出るよ!」

 そういうと、ほのかがドアに向かう。

 私はCADを持って、ほのかの後を追った。

 軍施設だから、平気だとは思うが念の為だ。

 ほのかがドアを開けると、エイミィが顔を覗かせる。

「こんばんわ!みんなで温泉行かない?」

 エイミィが唐突にいった。

「え!?温泉!?」

 ほのかが目を白黒させている。

「うん!温泉!」

 このままだと、ずっとループしそうだったので、助け船を出す事にする。

「確かここ、人工の温泉があったわね」

「そうなの!」

 でも、軍施設よね?勝手に入っていいのかしら?

 それを訊くと、エイミィは抜かりなくそれを訊いてきたらしく、大丈夫

という返事を貰っているらしい。

 それならばと、みんなで入りに行く事になった。

「ああ!少し待って貰える?お姉様もお誘いしたいの!」

 もう話し合いも終わった頃だ。折角だし、久しぶりに一緒に温泉に入りたい。

 みんな意外に抵抗はないらしい。

 お兄様もお姉様も、やはり本当に凄い人は認められるものよね!

 特にお姉様は、エイミィと友人になっていた。

 この調子で、周りの頭の固い人達も認めてくれるといいのだけど。

 部屋の内線電話でお姉様をお誘いすると、少し考えるような間があってから、OKの返事が

貰えた。

 

 みんなの支度は素早かった。

 そんなに楽しみだったのかしら?

 私も温泉に入るなんて、久しぶりだし、お姉様と一緒だし、楽しみだけれど、そこまで早く

支度できないわよ?

 残ったのは、私とお姉様だけになってしまった。

 念入りに汗を流さなくては。

 そんなに汗は掻いていないけど、お姉様に汗臭い妹だなんて思われたら、私は自殺する。

 私がシャワー室を出ると、お姉様も出て来た。

 私はホゥと溜息を吐く。

 どうして誰もお姉様を称えないのでしょう?

 湯着姿でも見事なスタイル。お姉様の力は強いけど、決して筋肉質という訳ではない。

 寧ろ、筋肉が付いているとは信じられない程で、寧ろ引き締まっているだけで筋肉はそれ程

目立たない。

 それに肌は輝くばかりの美しさだ。まるで真珠のようだ。

 お姉様は鍛冶の仕事をなさっているけど、火傷等一切ない。

 ご本人は、気を付けているだけと仰っているけど、それだけでない事は明らかだ。

 おそらくは、魔法の影響だとお兄様も仰っていた。

 今は髪をアップにして纏めているけど、私は鴉の濡れ羽色の艶やかな髪だと知っている。

 容姿だって美しい。今は流石にお姉様も眼鏡を外している。

 どうも私の影響とお姉様の眼鏡が原因で、印象が薄くなっているようだ。

 それが悔しいような、ホッとするような複雑な思いがある。

 でも、分からなくていいのかもしれない。

「それじゃ、行こうか?」

「はい!」

 笑顔で答える私に、お姉様が手を差し伸べてくれる。

 お姉様の美しさは、私達兄妹だけが知っていればいい。

 私はお姉様のエスコートで温泉に向かった。

 

 中が随分騒がしい。

 どうしたのかしら?

「何を騒いでいるのかしら?」

 お姉様と入っていくと、私に視線が集中する。

「な、何?」

 何か魅入られたような危ない視線が、私から離れない。

 こんな事で怯んでしまう私は、まだ未熟なのだろう。

「これ以上、深雪を変な目で見ると氷風呂に入る事になるよ!!」

 ほのかの鋭い警告に、全員がハッと我に返った。

 ほのかはどうしてか、少し怒っているようだった。

「いや、失敬失敬。つい見惚れてしまったよ」

 スバルが気取った感じでいった。

 彼女は魔法特性の関係で、こういう芝居がかった物言いになるらしい。

 困って隣のお姉様を見ると、肩を竦めただけだった。

「まあ、警告はほのかがしてくれた訳だし、入ろうよ。ここで突っ立ってても仕様がないし」

 お姉様の言葉に、ほのか以外の全員がビクッと反応したけれど、見なかった事にした。

 そういえば、雫はどこにいったのかしら?

 いつも、ほのかの傍にいるのに。

 それから、暫くして雫がサウナから戻ってきた。

 雫がいない間に、何かあったらしいけど、訊かない方がいいわね。

 

 ここからは男性の好みの話に移っていった。

 曰く。

「バーテンの小父様が素敵だった」

「五十里先輩、包容力があって素敵!」

「十文字会頭は頼もしいよね!」

 等々。

 正直、私はどうなるか分からない。恋愛に今のところ興味は…ない。抱いても仕方がない。

 そういう点では、みんなが羨ましかった。

「そういえばさ!三校に一条の御曹司がいたよね!」

 滝川さんが興奮していう。

 一条君か。どこにいたかも分からない。

「うん!いい男だったよね!」

 エイミィが応える。

「でも、なんか彼は上の空っていう感じで、誰か探してたようだけど」

 スバルもコメントする。スバルもチェックしてたのね。

「深雪でも探してたんじゃない?あそこで深雪以上の女の子なんていなかったもの」

 ほのかがそういうと、みんな若干納得できなさそうにしていたけど、最後には頷いた。

「まあ、それが妥当…なのかな?深雪はもしかして知り合いだったりするの?」

 エイミィが、興味深々といった感じで訊いてくる。

「深雪、どう?」

 雫も興味があるのか訊いてくる。

 私は素直に、写真でしか見た事がない事と、どこにいたのかも分からないと告げる。

 全員が何故か鼻白んだ。

「じゃあ、好みのタイプはどんな人?」

 エイミィはただ一人、素早く立ち直り質問してきた。

「やっぱりお兄さんみたいな人?」

 エイミィは本当に物怖じしない子だ。逆に感心してしまった程だ。

「お兄様みたいな男性がいたらいいとは思うけれど、無理な相談でしょうね。強いて

いうなら、精神的に大人な男性ね」

 そう私が答えると、みんなが何故かおお~と歓声を上げた。

 お姉様も何故か少し微笑んだようだった。

「じゃあさ、深景は?どんな人が好み?」

 私は反射的にお姉様を伺った。

 

 お姉様は結局はぐらかしてお答えにならなかった。

 その様子に私は秘かにホッとした。

 

 

               3

 

 魔法を学ぶ若者とはいえ、普通の女の子だねぇ。

 好みの男性のタイプとは。

 まあ、実際好きになる人なんて、好み通りとは限らないと知ってるからね。

 好みなんてお天気みたいなもの。

 そんな事をいっていた小説があったけど、その通りだと思う。

 晴れた日が好きであっても、雨の日にいい事がある時もある。

 それで雨の日が好きになるかもしれない。

 それに私の好みの具体例なんて誰得ですか?

 流石に前世がオタ女でも、アニメキャラは上げませんよ?

 

 それより、深雪が頑なに兄妹だからを強調しなかった事が嬉しい。

 変な力を入れてない証拠のようなものだから。

 ヘタレ王子君、チャンスですよ? 

 

 

               4

 

 九校戦開会式が始まったのを、私達は一校待機用テントでモニターで見ていた。

 そう、選手しか参加できないんですよ。当然といえば当然ですけどね。

 それにしても、今解説してる人、軍の広報の人の筈だけど、やたら慣れてるの何故?

 DJポリスならぬDJアーミーですか?

 第一高校が優勝を勝ち取るのか、第三高校が連覇を阻止するのか!?なんて煽っている。

 

 そして、響子さん。

 貴女、何やってるんですか?DJアーミーと一緒に今回の見どころなんかを話している。

 お仕事、遂に放棄したんですか?ちょっと、会ったら訊いてみようと思う。

 

 

               5

 

 :戸愚呂視点

 

 態々チケットまで黄は手配してくれたので、会場入りして一校生を眺めていた。

 是非、こういう手助けだけにして貰いたいねぇ、今後は。

 お供は蛭江と魅由鬼だ。他のメンツは人間の姿でも固まっていると目立つ為、ホテルに

置いてきた。

『で?どう攻略します?』

 隣に座っている魅由鬼が思念を送ってくる。

『優勝のキーはやっぱりあの三人だね。まずはあの三人が惜しいところで敗退ってシナリオ

でいきたいねぇ。あとは状況を見て、適当に星を落として貰うってところかね』

 魅由鬼がニヤリと隣で嗤う。

『それじゃ、七草真由美は任せて貰っても?嫌いなんですよね。恵まれ過ぎた女って』

 まあ、女の敵は女って事にしとこうかね。

 蛭江が忍び笑いを漏らすのを、魅由鬼が鋭く睨み付ける。

 蛭江はお道化た仕草で、両手を小さく上げて降参のポーズを取った。

『あくまで、優勝させない事が第一だと忘れなければ構わない』

『了解しました』

 魅由鬼は小さく頷いた。

『蛭江。女の試合ばかり見ていると目立つから、注意してほしいんだがね』

 蛭江は女好きで、放って置くと女子の試合にばかり行きそうだ。

 外見が外見だから、不審者扱いされたら目も当てられない。

『分かってますって』

 蛭江がお道化て返事を返す。

 コイツが一番、人間だった時の癖が抜けているのかもしれない。

 これから、各自別行動で妨害の機会を窺う事になる。

『ホテル待機組も、そろそろ開会式が終わる。話は聞いていたな?』

 全員から肯定が返ってくる。

『最優先で妨害するのは、七草真由美、十文字克人、渡辺摩利の三人だ。ここぞという時

以外手を出すなよ?』

 こういうのは、狙い澄ましてやるもんだ。

 雑魚の勝ち星はある程度無視していい。

 あまり勝ち過ぎるなら、調子を落として貰うがね。

『あまり固まるなよ。では、定時連絡を怠らないように。現時刻をもって行動を開始する』

『『『『『了解』』』』』

 

 人間だった時の癖ってのは抜けないものだねぇ。

 開会式で見どころを語る声を聞きながら、溜息を一つ吐いた。

 

 

               6

 

 競技が厳戒態勢で開始された。

 軍にも妖の話は通っている筈だが、どういう対策を取る積もりなのか風間天狗に訊いて

置きたいところだ。

 吉田家の伝手で呼ばれた応援は、装備を整える時間も含めて二日後になるらしい。

 幹比古君は、夜なべして魔除の護符を大量生産し配った。お疲れ様です。

 

 一日目はスピードシューティング男女・予選・決勝まで。

 そして、バトルボード男女・予選となる。

 本戦だから、一年に出番などある訳もなく、観戦モードです。

 純粋に楽しめないのは、非常に残念なんだけどね。

 

 まずは閣下の試合から観戦。

 勿論、あの人はスピードシューティングですよ。

 まあ、魔法使ったクレー射撃ですね、これ。

 観客席に行くと、エリカ達が席を取って置いてくれた。

 流石にエリカ達は、分かっているので最前列に陣取ったりしていない。

 最前列は…青少年の群れが会長を凝視している。

 女の子は…大歓声。所謂、お姉様素敵!の人達ですね。

「うっわ!嘆かわしいったらないわね」

 エリカの皮肉が炸裂した。

「まあ、そういうな。確かにアレは近くで見る価値があるかもしれん。別人みたいだしな」

 達也が何気に酷い事をいい放った。

 エリカがそれを聞いて、私と深雪に浮気だなんだと騒いだが、苦笑いも出ません。

 深雪は苦笑いしてたけど。

「会長、エルフィン・スナイパーっていわれてるんだよね?」

「本人は嫌っているって話だから、会長にはいわない方がいいぞ」

 ほのかが若干興奮気味にいうのを、達也が釘を刺した。

 ほのかがそれを聞いて、気まずそうに気を付けますと答えていた。

 素直で結構。

「会長をネタに同人誌作っている人もいますしね」

 美月がいきなり爆弾をブチ込んできた。

 その破壊力は凄まじく、全員が沈黙した。

 アニメなら兎も角、あの人で同人誌作るとか勇者がいるね。

 まあ、エッチなヤツじゃないんだろうけど…。

「…初耳ね」

 あのエリカが突っ込みに、ここまで時間を要するとは。恐ろしいネタだ。

「一つ確認して置きたいのだけど、貴女、それをどうして知っているの?場合によっては

友情を見直したいんだけど」

 エリカの言葉に、美月が慌てて関与を否定していた。

「始まるぞ」

 達也の言葉で二人がお口にチャックした。

 命拾いしたね、美月。

 

 閣下は一発も外す事なく、ドライアイス弾をクレーに叩き込みパーフェクトで、予選を

通過した。まあ、順当で面白くもなんともない。いい結果だけど。

 

 達也に視線を送ったが、妨害の気配はなかった。

 雑鬼も見えない。まあ、幹比古君印の護符が貼ってあるからってのもあるけど。

 

 

               7

 

 そして、お次に登場するは渡辺お姉様です。

 バトルボード予選ですね。

「女子にはかなりきつい競技だ。ほのかは大丈夫か?」

 達也がほのかに体調を尋ねる。

 ほのかは達也のアドバイスに忠実に従っていた。

 だからこそ…。

「ほのか、随分と筋肉が付いてきたんですよ」

 まあ、私も見せて貰ったけど、当初プニプニだったからね。

 魔法競技でも筋肉が要らない訳じゃないからね。よかったよ。

「そのいい方だと、マッチョになったみたいじゃない!止めてよ!」

 珍しく達也がそれを聞いて、噴き出していた。

 ほのかのスタイル維持の為にも、筋肉はある程度必要だよ?

「ほら!達也さんに笑われっちゃったじゃない!」

「ほのかのいい方が可笑しかったからだよ」

 雫が隣から鋭い突っ込みを入れる。

 雫にまでいわれて、ほのかは完全にいじけています。

 そこから、自分だけ達也の担当が少ないとこぼし始め、達也のフォローも逆効果。

 仕舞には、達也は女性陣から鈍いとか朴念仁だとか、集中砲火を浴びていた。

 助けを求めるような視線を達也から向けられたけど無視した。

 君もこういう経験をして、勉強し給えよ。

 

 そんな事をしている間に、お姉様の出陣のお時間です。

 たった一人だけ、ボードの上にお立ちになっていらっしゃる。

 主に女の子からの黄色い声に、手を振る余裕まである。

 なんか一人別世界にいらっしゃいますよ。

「うわっ!ないわ」

 エリカが渡辺お姉様の人気に物申す。

 でも、それは原作のような鬱屈は感じなかった。なんか軽いな。

 エリカにも心境の変化があったのかな?

 

 渡辺お姉様が出走した。

 それを見ながら、達也が解説を加えていく。

 硬化魔法のところでレオ君が食い付いていた。

 だけど、私の耳には入っていなかった。

 興味なかったのも理由の一つだけど、それより嫌な視線が渡辺お姉様に向けられている

のに気付いたからだ。

 何気なく、周囲を探るとタンクトップのマッチョが目に入る。

 あれ?あのマッチョ、どこかでみたような…みないような?

 う~ん、どこで見たんだっけ?主要キャラじゃないだろうけど…。

 

 結局は渡辺お姉様は、随分な余裕を持って予選を通過した。

 

 

               8

 

 午後にスピードシューティング・準決勝・決勝戦が行われる。

 けど、その前に重要な仕事が一つ。

 お偉いさんにまたしてもお呼ばれです。

 今度は国防軍の方ですよ。

 私の場合は、達也と違って軍事物資を作り出した人間としての保護だった筈なのに、

何故か国防に参加させられているんですが?

 この理不尽、納得できないんですけど。

 まあ、訊きたい事もあったので、いいんですけどね。

 

 という訳で、ホテルの高級士官用の客室の前に、私と達也は立っていた。

 私達を案内してくれた警備の兵士が、扉を開けてくれる。

 入るとそこには、公務員としては納得いかない豪華な部屋。

「来たか。まあ、掛けろ」

 風間天狗がいうが、そう簡単に座れない。立場的な話で。

「二人共。今日は君達を戦略級魔法師・大黒竜也特尉、戦術級魔法師・白崎蒼空(ソラ)特尉

として呼んだんじゃない。友人として招いたんだ。遠慮は無用だよ」

 真田大尉が穏やかにいった。

 白崎蒼空というのが、独立魔装大隊での私の名前だ。

 達也の大黒の反対という事で、白崎。

 竜也の関連で竜は空にいるものって事で、蒼空って訳。

 ネーミングセンスが…なんて思うなかれ。適当ですよ、偽名なんて。

 戦術級なのは、乖離剣使用時の話。って事になってます。

「それに立ったままだと、話し辛いだろう」

 これは柳大尉。

 ここまでいわれれば、いいでしょ。

 私と達也は着席する。

 独立魔装大隊には、ティータイムでの掟として円卓でやるという謎な決まりが存在する。

 イギリスなら分かるけどね。なんで日本でティータイムの決まりなんてあるんだろう?

 しかも、この円卓、態々持ち込んだものらしい。どんだけ拘ってるんですか。

「お久しぶりね。ティーカップだけど乾杯といきましょう」

 響子さんが紅茶を運んでくる。

 私と達也もティーカップを受け取る。

「そういえば、なんで開会式で解説なんてしてたんですか?」

 私はティータイム開始前に響子さんに疑問をぶつけてみる。

 響子さんは苦笑い。

「ほら、私、九校戦で二校の優勝に大きく貢献した事になってるでしょ?その関連で出て

くれっていわれたのよ。あれだけよ。もう解説の真似事なんてしないわ」

「いやいや、なかなか様になっていたよ」

 響子さんの言葉に、真田大尉が穏やかな声のまま揶揄う。

 響子さんが睨むと、真田大尉が視線を逸らす。

「まあ、この前に達也君と会ったから、久しぶりって事はないけど、ここは藤林君の顔を

立てようか」

 真田大尉はそんな事をいって誤魔化す。

 そして、酒飲み軍医・山中少佐が、ブランデーを紅茶にドバドバ入れている。

 真昼間から何やってんの、この熊軍医。

 

 それなりに雑談という名の、どんな状況でも軍事機密指定の魔法使うんじゃないぞ、

という釘差しが終わり、私は本題を口にする。

「で、パラサイト対策ってどうなってますか?」

 気になる事を訊いておく。

「正直、古式魔法師、それもパラサイトに対応できる魔法師となると、滅多にいないのが

現状だ。俺も柳も、藤林にしてもそういった方面は不得手だからな」

 風間天狗がぼやくようにいった。

 で?言い訳は要らんですよ。対策カモン!

「監視カメラのサイオンセンサーから、不自然な反応を拾うように強化している」

 風間天狗の言葉に響子さんが頷く。

 響子さんがやってるんですか。

 あとは、幹比古君印の護符を会場中に貼る事を認めさせたそうだ。

 術者の受け入れも、問題なく段取りしてくれているとか。

「そうですか。それでは申し訳ないんですけど、調べて頂きたい人物がいるんですけど」

 私は、渡辺お姉様に嫌な視線を送っていたマッチョの特徴を説明する。

「そう、ちょっと追ってみるわ」

 響子さんは部下を使って調べてくれるらしい。

 

 それでは丸投げさせて頂きます。

 

 

               9

 

 私達は仲間達と別れ、閣下の試合会場に向かう事にする。

 会場に近付くにつれて、人が増える。

 流石、閣下の試合。人が多いな。

「あっ!君!」

 突然、背中に声が掛かる。

 うん?この声は。

 振り返るとそこには、何故かヘタレ王子と残念参謀、それに見た事のない女の子がいた。

「ああ…。一条さん。どうも」

 取り敢えず無難な返事をしておく。

「知っていましたか」

 ヘタレ王子は照れたようにいった。

 そりゃ、有名人ですから。リアルに雑誌とかに取り上げられてる人なんだよ。

 知らん訳ありませんよ。

「偶々、見掛けたものだから、失礼かと思いましたが、声を掛けさせて貰いました」

 そして、自分の袖を見せるヘタレ王子。

「これのお礼を迂闊にもいっていなかったので」

 おお!律儀ですね。お姉さんそういうの嫌いじゃないよ。

「姉さん。これは?」

 達也が怪訝な顔で私を見る。

 そうか、いってなかったか。

「ちょっと困ってたみたいだから、手助けしたんだよ」

 簡潔に説明する。

「そうか…」

 達也はそれだけいって黙った。

 でも、弟よ。視線が若干鋭いのは気のせいじゃないよね?

「改めて、一条将輝です。ありがとう。助かったよ」

 君、妖に憑りつかれた訳じゃないよね?

 初対面の挙動不審が全くないんですけど。

「よかったら、君の名前を教えてくれないかな?」

 なんか距離近いですよ。

 なんかグイッと距離詰めてきましたよ?

 面食らっていると、達也がスッと手でヘタレ王子を制した。

「プリンス。少し不躾じゃないか」

 ヘタレ王子を私から離してくれる。

 ありがとう、弟よ。

「失礼した」

 ヘタレ王子も少し詰め過ぎたと思ったらしく、素直に謝罪した。

 なんか隣にいる女の子が、耳打ちしてるよ。

「私は司波深景です。ご覧の通りの第一高校の生徒です」

 なんかズルズル遣り取りが延びそうだったので、早々に自己紹介する。

「深景さんですか…」

 なんか隣から不快!っていう空気が流れてきてるから、締めに入らねば。

「制服、気を付けて下さいね。では…」

 撤収!

 

「あの!よかったら一緒に観戦しませんか?」

 彼の顔付きを見て、心の中で驚愕する。

 え?これ、もしかしたら、もしかするの?

 深雪のお相手候補、略奪しちゃった!?まさか!?

 あれか、袖か袖なのか!?あれで墜ちるとか、チョロ過ぎんでしょ!!

 なんか、雰囲気が()()同じなんだけどよね。

 前世で、初めて付き合った彼氏にさ。

 ホント、オタ女だった私のどこを気に入ったのか、告白してくれた彼。

 違ってたら、イタイ女だけど…。

 

 駄神よ。この展開は貴様の差し金か。

 

 

               10

 

 :真由美視点

 

 準決勝までは順調。

 調子だっていい。妨害は心配だけど、気にしてもどう仕様もない。

 なら、自分のベストと尽くすだけ。

「七草。CADの調子はどう?」

 三年の技術スタッフで和泉理佳。通称・イズミん。

 九校戦では二年の時から専属のようなものだ。

 その彼女に笑顔で応える。

「問題なしよ!イズミん!」

 深景さんの調整を経験しちゃうと、正直ちょっと物足りないけど。

 口には出さない。

「普通に呼んで頂戴、頼むから」

 頭痛を堪えるようにイズミんが、呻くような声でいう。

 普通に呼んだら詰まらないじゃない。

「それじゃ、行ってくるね!」

 嫌がっているのは知っている。でも、これは私なりの親愛の証。

 うん、直す必要なし。

「頑張ってきて頂戴ね」

 重い溜息を吐いてイズミんは答えた。

 試合前なんだから、もうちょっと明るく送り出してよ!

 

 控室を出て、真っすぐ自分の立つステージを目指す。

 外の光が眩しい。

 手を翳して、外に出た。

 

 つもりだった。

 

 何故か、私は控室前に立っていた。

 白昼夢!?いえ、そんな訳がない。

 小走りに外へ。

 でも、気付くと私は控室の前に立っていた。

 

「まさか!?…妨害なの!?」

 控室の前の通路に私の声が、虚しく響いた。

 

 

 

 




 将輝君が挙動不審じゃなかった理由は、次回の将輝君視点
 にて説明されます。
 本当は将輝君視点までやろうと思いましたが、これ以上は
 と思いとどまりました。

 エリカの心情変化も次兄上の登場時に説明します。

 妨害開始です。

 次回も気長に待って頂ければ。


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九校戦編5

 進行が遅くなっていますね。
 お話の方が…。

 では、お願いします。


               1

 

 :将輝視点

 

 結局、懇親会では彼女は見付けられず、そのまま大会関係者のスピーチになった。

 そして、最後は十師族の長老・九島烈の登場になった。

 魔法の巧みさから老師、或いは最巧の魔法師ともいわれている。

 父さん曰く、食わせ者の爺さんという事だが、直接お会いした事はない。

 まあ、実務はまだ父さんが担っているのだから、当然だが。

 舞台袖から老師が出て来たのだが、違和感を感じた。

 尤も、すぐに理由は分かったが。

「ジョージ、奈津」

 二人に注意を促す為に声を掛ける。

「大丈夫だよ、将輝。気付いてる。前に学会ですれ違った事があるけど、歩き方や雰囲気が違う」

「そうなのですか?」

 ジョージは、いわれるまでもなく気付いていた。流石だな。

 奈津は気付けなかったようで、舞台を歩く偽物を気付かれないように窺う。

 俺達は普段の九校戦なら持ち込み不可のCADを、いつでも使用可能な状態にした。

 俺達の行動に触発され、奈津もいつでも動けるように身構える。

 彼女はあまり魔法が得意ではない為だ。

 やはり、気付く人間は気付くようで、人が動く気配がする。

 でも…少ないな。

 予想以上に警戒態勢に入った人数が少ない。

 大声で警戒を促せば、報道の影響でパニックになるかもしれない。

 偽物が予定を変更して、無差別に暴れ始めるかもしれない。

 思わず舌打ちしたくなった。

 周りの気付いたメンバーはどう動く?

 さり気なく視線を巡らせる。

 第一高校の三人は動き出している。それと同時に二人動いているのが見えた。

 俺が探していた彼女と、彼女の隣にいた男だ。

 随分親し気だが…、いや、今はそれどころではない。

 意識を戻す。

 緊張感を保っていると、偽物がマイクの前に辿り着く前に、照明がマイクを照らした。

 そこには老師が、立っていた。おそらく本物の。

 

「まずは、悪ふざけに付き合わせた事を謝罪する。だが、君達の警戒の甘さが露呈した

結果になったな」

 あの偽物は、注意を逸らす為のデコイか!

「これは魔法というより手品だ。大したものではない。しかし、君等はそれを見破れず、

騙されてしまった。私の見たところ、最後のタネまで見抜いた者は二人だけだった」

 確かに手品だ。タネを明かされれば。食わせ者だな。

 内心悔しく思ったが、表情には出さなかった。

 そして、老師は手品を見破った者が二人いるといった。

 それは彼女とあの男の事だった。老師の注意が、一瞬だが二人に向けられ、二人もそれに

気付いた様子だった。男は軽く目礼し、彼女だけは一人憮然としていた。

 偶然か、男の方と視線が合ってしまった。

 だが、向こうは関心もなくすぐに視線を逸らしてしまった。

 

 お前は彼女と同じステージにいない。

 そういわれた気がして、自分自身の不甲斐なさに怒りが沸いた。

 

 次はこんな無様は晒さない。

 俺はそう決意した。

 

 次の日、開会式が恙なく終了し、あっという間に競技が始まった。

 新人戦参加の選手は、それまで時間がある。

 当然、俺達もだ。

 先輩方の応援は勿論するが、俺達は別に有力選手の試合を見て置く事にした。

 特に一校の三人は、来年にはいない。競う事はほぼないだろうからな。

 だからこそ、見て置こうと思ったのだ。ジョージも賛成し、奈津も同行する事になった。

 そして、彼女を見付けた。

 彼女はまたあの男を連れていた。

 あの男は、さり気なく彼女が歩き易いようにガードしながら歩いていた。

 彼女もそれを承知していて、気を遣っていた。

 心の中に嫌なものが広がる。イライラする。

 気付けば俺は彼女に向かって歩き出していた。

 苛立ちのお陰か、躊躇せずに彼女に歩み寄る。

「ちょっ!将輝!どこ行くの!?」

 ジョージが、突如進路を変えて歩き出した俺に声を掛けてくるが、返事をしなかった。

「あっ!君!」

 俺は気取った呼び掛けになってしまった事に、またしても不甲斐なさを感じたが、

取り敢えず、今は気にしない事にする。

「ああ…。一条さん。どうも」

 彼女は驚いていたが、折り目正しく挨拶する。

 礼が綺麗だ。キチンとした作法を教わっているのだろう。

「知っていましたか」

 自分が有名人モドキだとは自覚していたが、思わずそんな事をいってしまった。

「偶々、見掛けたものだから、失礼かと思いましたが、声を掛けさせて貰いました」

 これは本当だ。

「これのお礼を迂闊にもいっていなかったので」

 袖を見せて、俺はいった。

「姉さん。これは?」

 隣の男がこちらを胡乱な目で見ている。失礼な。

 しかし、姉さんという事は、コイツ、彼女の弟か!

 ホッとした。

「ちょっと困ってたみたいだから、手助けしたんだよ」

 説明を求める弟君に、彼女が簡潔に説明した。

「そうか…」

 一応の納得をしたのか、弟君は引き下がったが、まだ視線が鋭い。

「改めて、一条将輝です。ありがとう。助かったよ」

 ようやく礼がいえた。

 これから、名誉挽回していかないとな。

「よかったら、君の名前を教えてくれないかな?」

 テンションが上がり過ぎて、彼女との距離をグッと縮める。

 すると、弟君が俺を制するように手で止めた。

「プリンス。少し不躾じゃないか」

 なんだ、コイツも俺を知っていたんじゃないか。

 なら、なんで俺をあんな目で見る。不審者じゃないぞ。

 だが、彼女も戸惑っているようだった。

「失礼した」

 いかんいかん。もっと、紳士的であらねば。

「若。思いっきり引かれてますよ。落ち着いて下さい。それと一緒に観戦しませんかと、

誘って下さい」

 奈津が小声で耳打ちしてくる。

 そうか!そうだな。それは自然な流れだ。ありがとう、奈津。

「私は司波深景です。ご覧の通りの第一高校の生徒です」

 凛とした声で名前が告げられる。

「深景さんですか…」

 いい名前だ。似合っている。

「制服、気を付けて下さいね。では…」

 迂闊な行動が響いたのか、彼女が移動しようとする。

 俺は咄嗟に声を掛けた。

 

「あの!よかったら一緒に観戦しませんか?」

 

 

               2

 

 :奈津視点

 

 若の惚れた(ひと)は、なんというか途轍もなく地味だった。

 顔は悪くないのに、野暮ったい黒縁眼鏡が台無しにしている。

 まあ、若を間近で見たのに引いていた事から、玉の輿狙いとか、一条家の権力狙いの女

ではなさそうですね。

 そこら辺の若の人物眼は信用してますが。

 若も見合いの話が舞い込む年で、候補のお嬢さんと会わされたりしていますが、そういう

あからさまな相手は、ハッキリと断っている実績があります。

 しかし、マニアックな趣味ですね。

 まあ、別に私が付き合う訳じゃありませんからいいですけど。

 あとは人となりを確認したいですね。

 なので、若に一緒に観戦するように耳打ちしました。

 ここで、自己紹介が入りました。司波深景さんというらしいですね。

 しかし、綺麗な所作ですね。

 サッサと去って行こうとする二人を、なんとか若が引き止めてくれました。

 一緒に観戦する事に了承を貰いました。

 隣の彼はなんか嫌そうです。

 私達の事は取り敢えず無視して、姉をエスコートしていますね。

 う~ん。隣の彼は紳士ですね。顔は若が圧勝ですが、紳士としては若の負けですね。

 勿論、私達を無視している点は、しっかりと減点した上です。

 

 ああ、私もクロウも自己紹介しましたよ。

 隣の彼は、司波達也。

 正真正銘の弟さんだそうで。

「奈津さん。いいんですか?」

 クロウが小声で訊いてくる。

 ここでのいいのかは、御当主様の意向を確認しないでいいのかという問いでしょう。

 まあ、御当主様は、そこら辺の事は気にしませんよ。他家が寧ろ気にしますかね。

「それを今から、じっくり観察するんじゃないですか」

 クロウは一条家に恩義がある所為か、私以上に一条家の心配をしますからね。

 ま、相応しくないと感じたら、若がどう思おうが引き離しますよ。

 

 放って置けば、向こうから距離を置きそうではありますが。

 

 

               3

 

 一緒に観戦しませんかって…。

 どうするよ?いや、私が決めていいんだろうけど。

 まあ、一条家の御曹司ともなれば、すぐに興味を無くすでしょ。より取り見取りだし。

 金沢と東京だし。

 よし!大した事ない!

「では、友人と一緒でよければ」

「勿論です。一緒に観戦できるだけで十分です」

 うわっ!イケメンスマイル!私には目の毒だね、これ。

 隣で不機嫌オーラを発している弟を宥めて、豪華メンバーを引き連れて歩き出す。

 それで弟よ。人混みをブロックしてくれるのは有難いけど、ヘタレ?王子もブロック

してるよね?まあ、いいけどさ。

「そういえば、申し遅れました。私は市乃瀬奈津と申します。以後お見知りおきを」

 身のこなしから、魔法より武術の人みたいだね。

 転生者って訳じゃないよね?イレギュラーだと…いいのかな?

「彼女は幼馴染です」

 いや、お気遣いなく。彼女でも怒りませんよ?

「市乃瀬家は、一条家の補佐をしている家なのです。若にはなんら異性としての関心は、

ありませんからご安心を」

 若!!凄い呼び方だね!私もヘタレに?が付いたから、若様とお呼びするかな。

「吉祥寺真紅郎です。将輝の友人であり、参謀です」

 おお!残念参謀!お疲れ様です。

「親友です」

 ココでも訂正を入れる若様。

 そして、全員から視線が集中して達也がようやく口を開く。

「第一高校一年、司波達也だ」

「姉弟、だよな?」

 若様が分かり切った事を確認してくる。

 達也も短く肯定の言葉を口にするのみ。

 

 ええっと、ずっとこの微妙な空気の中観戦すんの?早まったかな…。

 

 

               4

 

 準決勝でスタンドは既に満員。

 エリカ達は私達の分は確保してるだろうけど、若様御一行の分は保証の限りじゃないよ?

「深景!達也君!こっちこっち!」

 エリカがブンブン手を振っている。

 見えているし、聞こえてるよ。

 近付いていくと、みんながビックリした顔をする。当然ですよね。

 それから、若様御一行が自己紹介と、ここに来た経緯を説明してくれる。

 まあ、楽でいいけど。

「あら~。そうなんだ!丁度、三つ席を余分に確保しててよかった!」

 エリカの顔が猫に見えるよ。

 雫とほのかが、何か妄想を展開しているのが分かるよ。

 

 嫌だ!雫さん!ご覧になって!

 ええ、ハッキリと見てますわ。

 

 まさにこんな感じです。

 それより、何故満員なのに三つ席を余分に確保したんだ、アンタ等は。

 若干二人程を除いて全員がニマニマした顔で、自己紹介をする。

 因みに、笑っていないのが、深雪、雫。リタイヤが幹比古君。

 体調を悪くして原作通り休んでるそうな。

 貧弱な。そんなので美月をゲットできるとでも?できそうですね、はい。

 

 それじゃ、座りましょう!となって問題が発生した。

「お姉様!こちらへどうぞ!」

 深雪の右側に二つ、左側に一つが空いている。

 深雪が強力に自分の左隣をプッシュしてくる。

 あれ?そこ達也じゃないの?そう思ったから、私は右隣りに座る事にする。

 私が座ると若様が付いてくるが、深雪は何を思ったのか、瞬時に席を移動し私の右隣りに

席を移した。そして素早く達也が私の左隣に座った。

 若様、一瞬の事で硬直。

 もう、達也の隣しか空いていない。

 残念参謀と市乃瀬さんは、既に席に座っている。

「君が席を移動する必要があったのかな?」

 穏やかなのは顔だけで、目が鋭い光を放っている。

「嫌ですわ。一条さん。お姉様を初対面の殿方の隣に座らせる訳に参りませんわ」

 深雪も微笑んでいるが、目が氷のように冷たい光を放っている。

「実は初対面ではありませんがね」

「お姉様から、親しくされていると伺った事はありませんわ」

 冷気と熱気が激突する。

 リアルインフェルノが展開されてるよ。

 原作と大違いですね。それと別のところでやって貰う訳にいきませんかね?

 

「ハッハハハハハハ」

「フフフフフフフフ」

 

 丁度、位置的に私が真ん中にいるんで、勘弁してほしかったりして…。

 

 

               5

 

 そんな心臓に悪いイベントを乗り越えて、なんとか腰を落ち着ける。

 達也は後のほのかに気を遣って、声を掛けたりしている。

 もうじき準決勝開始というところで、美月がビクリと反応した。

 奇遇な事に私も選手の出入り口辺りに、嫌な気配を一瞬感じたりした。

 でも、一瞬の事。

「美月。何か感じた?」

 私は後ろを振り向き、美月に訊いてみる。

「一瞬ですけど、何か嫌なオーラが出入り口から漏れた気がしたんですが…」

 今は感じないと。私と同じだな。

 達也と深雪が顔を見合わせる。

 

 そして、選手の入場。

 だが、相手選手は出て来たけど、閣下の姿がない。

 最初は特にみんな騒がなかったけど、時間が経つにつれて会場が戸惑いの空気に包まれる。

 和泉先輩が審判に駆け寄り、何かいっているようだ。

「おい。もうすぐ失格だろ?」

 そんな声がどこからか漏れる。

 そう、時間内に位置についていないと失格なんですよ。大体の競技がそうですけどね。

 

 やむを得ないか…。

 

 私は眼鏡を外して、出入り口から奥を見通す。

 根源にアクセス。

 精霊の眼(エレメンタルサイト)のインストール開始。

 完了。

 精霊の眼(エレメンタルサイト)・発動。

 ここまでで刹那の間だ。

 達也にだって、疑ってみないと分かりはしない。

 閣下はっと。

 うん?控室の扉の隣で立ち尽くしてる?

 更に解析。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 しかも、凄い高度な認識阻害。

 私は眼鏡を掛け直すと、立ち上がる。

「お姉様!?どうされたのですか!?」

「姉さん?」

 深雪と達也が、突然立ち上がった私に声を掛けてくる。

「達也。深雪をお願い」

 私はそういうと座席を蹴って飛び上がると、駆け出した。

 

 後で若様の声が聞こえたが、今はそれどころではない。

 

 

               6

 

 走り出すと後から追ってくる気配が二つ。

 これは、若様と残念参謀か。

 申し訳ないけど、有難迷惑かな。

 監視カメラの死角となる場所で、亜空間から刀を取り出す。

 商売用の商品ではない完全な私物。

 

 鳴神尊。

 

 元ネタでは小刀だが、こっちでは私が鍛えた刀だ。

 ある技を使う為に、使えると思って鍛えた物だ。

 刀としても優れ、魔法とも相性がいい為、比較的表沙汰にできない事によく使う。

 今回あの技は流石にいらない…と思う。

 認識の壁が見える。

 私は術式解散(グラムディスパージョン)を放つ。

 が、術が崩壊したように見えたが表面のみで、壁は健在である。

 ファランクスじゃあるまいし!!

 だったら、全部打ち抜いて斬り捨ててやる!!

 刀を振り上げ、壁一杯まで距離を詰める。

「疾っ!!」

 気合一閃。

 青白く光る刀身が、多重に展開されている認識の壁を真っ二つにする。

 壁が一気に消し飛ぶ。

「なっ!?」

「馬鹿な!?」

 若様と残念参謀が追い付いてきて、第一声がこれです。

 残念ながら、突っ込んでいる余裕はありません。

 刀を鞘に納める。

 控室の扉の横で立ち尽くして、脂汗を滝のように流している閣下に駆け寄る。

「どうしてしまったんですか?七草さんは…」

 若様が閣下が未だに何も反応しない為、私に訊いてくる。

「兎に角、警備を呼んでくるよ!」

「そうだな…。頼む」

 残念参謀が競技場に走る。

「深景さん?」

 私が閣下の頭を両手で挟む形で動かない為、訝しく思ったようだ。

 こっちでは精神干渉魔法の分類で存在する魔法・疑似体験迷路。

 いわば相手の意識を、脳内に閉じ込める魔法だ。

 ここで、達也と深雪、お馴染みメンバーと市乃瀬さんも駆け付ける。

「姉さん。これは…」

 達也も閣下を険しい顔で観察している。

「精神干渉魔法…だね」

「っ!!」

 深雪がそれを聞いて、怒りの表情を浮かべる。

 私は魔法を無力化する為に、徐々に術式を解体していく。

 一気にやると後遺症が残ったりするんだよ、この魔法。

 脳に作用してるから。

 人が懸命に救助しているというのに、警備の軍人と和泉先輩がドヤドヤと大挙して

やってくる。

「ちょっと!!二科生が何やってんの!?」

 和泉先輩が苛立たし気に怒鳴り付ける。

 五月蠅いな。見れば分かるでしょ?救助してんだよ。

「和泉先輩。今大事なところです。お静かに願います」

 達也が有無もいわせぬ口調で、和泉先輩を黙らせる。

 あとは、最後のコードを処置する。

 閣下の瞳に理性の色が戻ってくる。

「大丈夫ですか?」

 私は閣下を覗き込んでいう。

「えっ!?深景…さん?どうして…ここに?」

「もう大丈夫です。競技場に行って下さい」

 軽く混乱している閣下に、私は言い聞かせるようにいう。

「で、でも…」

「大丈夫です。術はもう解けています。それとも、相手の思惑通りに棄権しますか?」

 私の挑発の言葉に閣下の瞳に炎が灯る。

 ゆっくりと首を振る。

「だそうです。和泉先輩。一緒に行って下さい」

 和泉先輩は返事もせずに、閣下を連れて競技場に向かった。

 慌てたように警備の軍人も後を追う。

「随分と失礼な態度だな」

 若様の声は小さな声だったが、よく通った。

 まあ、私が何かやったから閣下が正気に戻ったのは、明らかだしね。

 例え、何をやっているか分からなくとも。

 和泉先輩にも非難の声は、聞こえていただろうが振り返らなかった。

 そして、若様のセリフは、この場にいる全員の気持ちでもあったと思う。

 

 まあ、感謝して貰いたくてやった訳じゃないけどね。

 

 

               7

 

 さて、残りはっと。

 達也が無言でシルバーホーンを抜き、反対側の壁にポイントすると、躊躇なく魔法を放つ。

 私以外の全員が突然の行動に驚く。

 空間が揺らぐ。

 何かが弾けるようにサイオン光が飛び散る。

「あら、怖いわね。坊や。そんなんじゃ、女にモテないわよ?」

 額に一筋汗を垂らして、外見は女の人外が姿を現す。

 だが、ここにいるメンバーも只者ではない者ばかり、動揺をねじ伏せて素早く戦闘態勢に

入っていた。

 私はほのかと雫を後ろに下がらせる。

「余裕だな。この人数に囲まれて逃げられると思っているのか」

 人外が嗤う。

「ええ、勿論よ」

 いうや否や、人外が腕を振るうと壁面が水面のように波紋を描く。

 私は誰よりも速く反応し、超神速の抜刀術を放つ。

「っ!?」

 私の剣は誰にも認識できなかっただろう。

 光の筋が走ったくらいには、見えたかもしれないけど。

 それでも人外は反応した。

 咄嗟に壁に逃れていた。

 だが、ただで逃がした訳じゃない。

 致命傷は避けられたが、重症の筈だ。()()()()()()()()()

「姉さん」

「うん。一応は、捜索を依頼しようか。無駄だと思うけど」

 達也が苦い顔で頷いた。

 

 仲間達を振り返ると、みんながCADを構えたまま、ポカンとしていた。

 

 

               8

 

 :魅由鬼視点

 

 私は反対側の壁から出ると、疑似瞬間移動でその場から離れる。

 あの化け物から、少しでも距離を取らないと。

 追手が掛かっていない事を確認し、傷口を塞ぐ。

 脇腹から肩にかけて大きく切り裂かれている。

 服も酷い有様だから、ホテルに見られないように戻らないと。

 あの女!あの一撃は、魔法を一切使っていなかった。

 それであのスピードで斬り付けるなんて、有り得ないわよ!!

 刀も見た事のない素材で、できてるみたいだし!!

 しかも、私の傑作の結界を切り裂いた!!

 男の方も見た事のない魔法だったし!!

 第一高校の制服を着てたわね。

 

 これは、報告しといた方がいいわね。

 

 

               9

 

 結果からいえば、閣下はスピードシューティング優勝をもぎ取った。

 やっぱり、調子は崩していたようで、決勝戦は接戦だったけど。

 若様御一行は、色々気になっていたようだが、準決勝終了後にお帰り願った。

 帰りには深雪と若様が、またリアルインフェルノを展開してたけど、見なかった事にした。

 お前がヘタレだって?実際にあのプレッシャーを受けてみなって!!無理だから!!

 

「疑似体験迷路!?あれって理論だけの話だった筈じゃ…」

 閣下が私からの話を訊いて、驚愕する。

 今は、一校首脳会議中です。

 優勝の喜びなんて、この場にありません。

「ええ、私も達也や美月程ではないにしても、多少は見て分かりますから」

 この眼鏡はライナスの毛布というだけではない!

 私の目が、少し普通と違うというアピールでもあったのだ!

 首脳陣が深刻な表情で黙り込んでいる。

 疑似体験迷路は、こんな事も可能になりますよ~的な話しか出ていない魔法で、実用化?

何それ?のレベルの魔法だからね。疑いたくなる気持ちも分かりますよ?

「同じ所をグルグル回っていたんじゃありませんか?」

「…ええ、そう、ね。出られなかったわ」

 その時の事を思い出したのか、閣下が顔を顰める。

 まあ、実際は突っ立ってただけですけどね。動き回っていたのは脳内です。

 捜索も案の定、空振り。術者が野放しです。

 そりゃ、暗くなるわ。

「達也君も同じ意見?」

 閣下が達也にも訊く。

「はい。魔法式からいって間違いないと思います」

 達也の返答に、閣下は渋面で頷いた。

「そんな魔法が使える魔法師相手となると、応援の術者は来て貰っても仕方がないかしら?」

 閣下が謎のセリフをいう。

「?妖なんですから、必要だと思いますよ?」

 何いってんの?そうじゃなかったら、普通の人間じゃ使えない魔法の数々だよ。

 私みたいな転生チートじゃない限りはね。

 

 最早、首脳陣からは呻き声も漏れなかった。

 応援到着まで、暇な時は私・達也・美月が試合を出来る限り監視する事になった。

 

 

               10

 

 :戸愚呂視点

 

『ほぅ。そんな事がね。分かった。暫く休んでくれ』

 魅由鬼から報告を受けた。

 面が割れた以上、顔くらいは変えて貰わないと、この仕事は続けさせられないね。

 文句をいうようなら、今回の件から外すかね。

 なかなか興味深い報告だねぇ。

 未知の魔法に、魔法を使わずに魅由鬼の反応が遅れる程の剣を使う剣士。

 詰まらない依頼が、一転して面白くなってきたねぇ。

「今はどのくらいの力なのかね?試してみるかね」

 思わず独り言を漏らしてしまった。

 足りなければ、叩いてみるのも一興だねぇ。

 それで強くなってくれれば、御の字だ。

 楽しめなければ、それこそ故郷に帰郷すればいい。

 準備は本当の依頼主の方が、USNAで仕込んでくれている。

 それが成功したら、いよいよ帰郷だ。その前にこっちの意地でも見せてほしいねぇ。

 思わずニヤリと笑ってしまった。

 

 七草真由美は調子を崩してくれているし、片手間の仕事もまずまずかね。

 こういうセコイ仕事は嫌だね。ストレスが溜まるよ。

 

 まあ、楽しみができたのが救いだねぇ。

 

 

 




 本投稿ではお伝えしたんですが、これから投稿が
 遅くなりそうです。
 
 それでは、気長にお待ち頂ければ…。


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九校戦編6

 どうも長くなっていかんです。
 もう少し短く纏めたいところですが、できない…。

 では、お願いします。


               1

 

 閣下の不調は、各方面に伝染しているみたいです。

 特に男子は、閣下の件(という事にしておく)で酷かったとか。

 会議の時は触れなかったのは、優しさという事で。

 今、生徒会メンバー(女)+α(女)が閣下の部屋に集合していた。

 結構ラフな格好でね。もうすぐ就寝時間だし。

 きわどいセクシーさを演出している人は、一人もいませんので悪しからず。

「スピードシューティングは男子も優勝したけど…。結構ギリギリだったわね」

 それでも優勝したんだから、御の字ですよ。結果よければ全てよし。来年?知りませんよ。

 閣下は自分が不調をバラ撒いている事を自覚しているのか、表情が優れない。

「服部もあわや、という感じだったしな」

 バトルボードは、苦戦どころの話ではなかったらしい。

 カメラ判定での辛勝だったらしい。

「CADの調整が合っていなかったようです。試合の後ずっと、木下君と調整し直してましたね」

 市原さんは淡々としているけど、少し眉間に皺ができている。

「まだ、終わってないみたいですけど…」

 CADオタが微妙な顔で、とんでもない事実を暴露した。

 終わってどのくらい経ってると思ってるの!?掛かり過ぎでしょ!?

「木下君も下手ではないんですが…」

「残念ながら名手ではないな」

 市原さんがフォローしようとするが、お姉様がバッサリと切り捨てる。

 まあ、下手なんだろうね。ここまでくると。

 それともカンゾー君が納得しないだけか。こっちもありそうだね。

「あの…木下先輩だけの所為じゃないと思いますよ?服部君、動揺してましたし…」

 まあ、確かにね。敬愛する会長閣下が標的になったのは、効いたようだけどね。

「厳しい事をいうが、それも含めてアジャストするのがエンジニアの役目だろう」

 何いってるの。

「それは当然ですが、選手も競技に臨むに当たって、ベストの状態にする義務がありますよ」

 私の冷ややかな言葉に、お姉様がたじろぐ。

 こっちもフォローはするけど、競技をするは結局のところは選手なんだよ。

 女房役にも限界がありますよ。

 掛けた言葉が耳に入らないなら、無理に聞かせても煩わしく感じてしまうだけだ。

 CADオタが、思わずうんうん頷いてお姉様に睨まれていた。

「まあ、幸いハンゾー君は明日オフだし、気の済むまでやらせてあげるしかないんじゃない?」

 閣下がとりなすようにいう。

「問題は明日の木下君の担当ですね」

 市原さんが端末を見ながらいう。

「木下君は女子クラウドボールのサブエンジニアですね。抜けても大丈夫そうですが…」

「和泉一人に任せるのもキツイんじゃないのか?二試合・三試合同時に面倒見る事になるぞ?」

 市原さんの言葉にお姉様が問題点を指摘する。

 そういう事態を回避する為のサブだしね。

「男子のサブの石田君に兼任して貰いますか?」

「それだと、石田君に負担が掛かり過ぎよ」

 市原さんの提案に閣下が難色を示す。

「それでは、明日、明後日とオフの司波君か深景さんに頼むというのは?」

「いいわね!それ!じゃあ、深景さん!お願いね!」

 閣下。全然よくないよ、私は。

 深雪。ここで声を上げてくれていいんだよ。ニコニコしてないで、いってやってよ。

 私、監視業務もあるんですが?

 

 仕方がないので、達也と美月に頑張って貰う事にした。

 応援に幹比古君を送り込むよ。体調が悪い?却下じゃ。

 

 

               2

 

 九校戦二日目。

 クラウドボールの競技場に来ております。

 護衛も兼ねるので、刀も持ち込みですよ。

 因みに、刀は通路に隠してたという噴飯ものの嘘を押し通しました。

 そして、予想通りでしたよ。技術スタッフに嫌な顔されたよ。

「もしかして、不機嫌?」

「いいえ。仕事ですから」

 閣下の言葉に、私は答えにならない返答をする。

 取り付く島もない私の態度に、閣下が苦笑いする。

「何か用事が?」

「ええ、様子見にきたのよ。データは頭に入ってる?」

 あれから大急ぎに叩き込みましたよ。

 前世と違ってお頭のできは悪くないのが、幸いだよ。

 私は素っ気なく入っていると告げると驚かれた。

 いやいや。貴女方がやれといったんですがね。なんで驚くかな。

「全員分!?」

 全員入ってないと意味ないでしょうが。

 私は端末を弄りながら頷く。

「達也君がそういう事ができるっていうのは、知っていたけど。深景さんも凄いのね!それって

瞬間記憶とか完全記憶とかいわない?」

 いや、違うと思いますよ。達也はその域に達していると思うけど。

 私は地道にやったよ。今も確認中ですし。

 

 閣下が私の前でストレッチを始める。

 閣下はご機嫌麗しいご様子。

 私は、閣下の特化型CADに異常がないか確認中。

「深景さん。ちょっと手を貸してくれない?」

 ああ、原作で達也にお願いしてたヤツですね。

 ここはお約束通り、全体重掛けてプレスするとこですよね?

 まあ、この人には無意味か。普通にペタンと身体と脚がくっつくますもんね。

 今生じゃ、私もそうだけど。

 何回か繰り返し、ストレッチ終了。

 閣下から手を差し出される。いやいや、貴女、自分で立ち上がりましょうよ。

 無言で見詰め合っていても、仕様がないので手を取って立たせて上げる。

「ありがとう」

 そういって微笑む閣下。

 不調は引き摺らない。結構な事です。

「はいはい」

 ここで閣下が微笑みから笑いに変換する。何?

「なんか新鮮ね!」

 どこら辺がですかね?

「深景さんって、遠慮しないでしょ?摩利だろうと私だろうと意見をいう時はいうし」

 これでもいいたい事は、セーブしているんですがね。

「そうですかね?」

 私は無難に返す事にした。

 さて、別の選手を見に行きたいところだけど…。

「七草……それに、司波さん。貴女は七草を見ていて。他は私が見るから結構よ」

 やって来るなりそれですか。

 和泉先輩はツカツカやってくるなり、異議は認めないとばかりの命令口調でいった。

「あら、イズミん」

 和泉先輩の顔が引き攣ったけど、なんとか持ち直す。

 もう訂正しても無駄と悟ったようですね。今更ですけど。

「了解です」

 まあ、こういう人と喧嘩しても仕様がないからね。

 素直に頷いておいた。

 原作のズレで、私が他の人のCADを見るなんて展開にならないか心配で、データ

を覚えただけだし。

「それじゃ、宜しく」

 和泉先輩はそういい捨てて去って行った。

「悪い子じゃないんだけどね…」

 いい子でもないですよね?

 

 さて、妨害されないように、私の魔法特性を生かすとしますか。

 

  

               3

 

 :真由美視点

 

 クラウドボールの試合が始まる。

 選手がコートに入る。

 私は実は不安だった。前回みたいに成す術なくやられてしまうんじゃないかって。

 深景さんがサブを引き受けてくれたのは、よかった。

 何度か助けて貰ったから、安心できる。

 勿論、あの後、お礼はいったわよ?

 イズミんは、なんにもいわなかったからね。

 それにしても、なんで一条の御曹司が一緒だったのかしら?

 

 試合開始の合図でボールが排出される。

 二十秒ごとに次々とボールが追加されていく。その数九つ。

 ブザーがセット終了を告げるまで、ボールを休む間もなく追いかける事になる。

 だけど、私は違う。

 開始から動いていない。

 飛んできたボールは、悉く運動方向を変えて対戦相手のコートに飛んでいく。

 妨害の兆しすらない。

 何かに護られているような気すらする。

 真剣な眼差しが私の背中に注がれている。

 胸の奥が温かくなる。彼女には前回の事件、今回の妨害と二度も助けて貰っている。

 だからだと思うけど、私も意外に単純みたいね。

 彼女が見守ってくれている限り、負ける気がしない。

 ブザーと共に相手選手が膝を突いた。

 

 インターバルに入ったので、ベンチに戻る。

 彼女が無言でタオルを差し出してくる。

「ありがとう」

 受け取って、汗を拭く。そんなに汗掻いてないけど。

 次はドリンクを渡される。

「次の試合に備えてCADをチェックしましょう」

 彼女が頂戴とばかりに手を出す。

 その前に、まだ試合終わってないわよ?

 私がそれを指摘すると、彼女は表情も変えずに私の勝ちだといった。

「どういう事?」

「サイオンの枯渇ですね。次のセットをやっても、途中で倒れます。真面な判断力が

あれば、棄権しますよ」

「よく分かるわね…」

 なんでも、サイオンの消耗特有の症状が、相手選手に顕著に出ていたらしい。

 私だけ見てた訳じゃないのね…。

 褒めるべき事だと分かっていても、別の子に注意を向けていた事が、面白くないと感じていた。

 突然むくれた私を、彼女は不思議そうに一瞥した。

「計測した方がいい?」

 何か話して欲しくて、私は口を開く。

「プログラムを弄ったとして、試す時間が取れません。中身を綺麗に掃除するだけに止めますよ」

 中身の掃除?

 私が疑問を口にするより早く、彼女はCADのチェックを終えて私に返してきた。

 そして、彼女の読み通り相手選手の棄権が告げられた。

 

 第二試合。

 私絶好調!

 第一試合の棄権のお陰で、休憩が長めに取れた事もあるし、何よりCADの調子がいい。

 流石に疲労を少し感じてきたが、効率が上がっている為、問題にならない。

 セット終了のブザーが鳴る。

 

 私は効率アップの秘密を訊いておく事にした。

 ベンチに戻ると早速彼女に訊いてみる。

「効率が上がったのって、やっぱり、さっきやった中身の掃除のお陰?」

 思い当たるのは、それくらいよね。

「ええ、アップデート前のシステムって残骸として残る場合があるんですよ。それを掃除

したからでしょう。効率も多少は上がりますから、もしかして、気になりました?」

 彼女が若干申し訳なさそうにしたので、私は慌てて否定した。

「そうじゃないのよ!調子がよくなった秘密を知りたいなって思っただけだから!」

 不満なんてない事を全力で伝えると、彼女は優しい笑顔を向ける。

 頬が熱くなるのが分かる。

「後で、その掃除…教えてくれる?」

 私は照れ隠しにそっぽを向いて、それだけいった。

「いいですよ。取り敢えず、今は勝ちましょう」

「当然よ!」

 疲れなんか吹き飛んだからね!

 

 その後、私は無失点ストレート勝ちで、クラウドボールの優勝をもぎ取った。

 これで、みんなの調子も戻ってくれるといいんだけど…。

 

 

               4

 

 アイスピラーズブレイク予選二回戦。

 いわずもがな、魔法を使った棒倒し…もとい、氷柱倒しです。

 氷柱十二本を先に倒した方が勝ち。シンプルなゲームだが、疲れる。

 私達は地震娘さん千代田キャノン先輩の応援に来ている。

 私達といっても、司波家一同と雫しかいなかったりする。

 エリカとレオ君は、桐原兄貴の試合の応援に馳せ参じていた。

 絶対、兄貴が望む応援は、紗耶香さんだけだよね。

 なのに、エリカが付き添いと称して参加し、レオ君が巻き添えになっている。

 お邪魔虫はいかんよ。

 美月は幹比古君ガードの元、監視業務。

 達也も地震娘さんの試合の監視を兼ねて、この場にいる。ついでに私も。

 雫は先輩の試合を見て置こうという気持ちで、ここにいる。

 雫は達也の解説染みた話を聞きながら、真剣に頷いている。

 雫のピラーズブレイクの担当は相変わらず達也だけど、深雪との対戦の時だけは私が準備した

CADと戦術を使う事になっている。原作通りにいけば対戦する事になると思う。

 

 いよいよ、キャノン先輩がステージに上がる。

 この競技、ファッションショー染みた側面もあるそうですけど、二年ともなると落ち着いた

ものですね。両選手共にカジュアルな格好ですよ。

 これから、魔法を使った派手な氷柱倒しが始まる。

 それから、五十里先輩とスタッフ用のモニタールームに向かった。

 

 キャノン先輩の調子は原作通り、好調らしい。

 五十里先輩からは、自信有りの雰囲気。

「まあ、()()()()がなければ…だけどね」

 一転して五十里先輩が真剣な声音でいった。

 達也と私は頷いた。それだけで、どういう意味か先輩には分かったようだ。

 そんなトラブル起こさせませんよ。

 先輩は少しホッとした顔をした。

 雫もトラブルという言葉に反応したけど、表向き動揺は見えない。

 

 試合開始のブザーと共に地震が局地的に発生。千代田家の地雷源。

 正確には、爆発的振動らしいけど、別にどっちでもいいよね。

 多分、この人、一年生の時も同じ戦法で戦ったよね?

 誰も対策してないのかな?素直にガタガタやられてるけど。

 キャノン先輩もブレないようだ。

 必殺・倒される前に倒しちゃえ☆戦法で、見事勝利していた。

 

 妨害の兆しすらなかったね。

 どうも無暗矢鱈に妨害する気はないみたいね。

 的を絞っている。となると、次はお姉様かな、やっぱり…。

 

 

               5

 

 キャノン先輩が、ピラーズブレイク三回戦突破を決めて、一校天幕へ凱旋したけど、天幕内

はオドロ線が支配していた。入ったら、おおぅっ!って感じだったよ。

 話ができそうな市原さんに、五十里先輩が代表して何があったか訊く。

「男子クラウドボールの結果が悪かったのです」

「悪かったというと?」

 淡々と答える市原さんに、五十里先輩が更に踏み込む。

「一回戦敗退、三回戦敗退です」

 ええと、詰まりは二人一回戦負け、一人三回戦負けといった内訳ですか。

「まだ分かりませんが、来年のエントリー枠が減るかもしれません」

 結構できる人が参加してた筈だけど、運が悪かったね。

 対戦相手をチェックすると、悉く他校の有力選手とぶつかっている。

 兄貴は三校のエースと三回戦で激突している。

 こりゃ、落ち込んでるね…。紗耶香さん、あとは頼みます。

「新人戦は予測困難ですが、女子バトルボード、男子ピラーズブレイク、ミラージバット、

モノリスコードで優勝すれば安全圏ですね」

 作戦スタッフの二年生が、とんでもない事をいい放った。

 原作読んだ時も思ったけど、作戦スタッフって皮算用するのが仕事じゃないと思うんだよね。

 勝てる作戦を話し合いなさいな。それが作戦スタッフでしょ。

 

 妖だけでも頭痛いのに、勘弁してほしい。

 

 

               6

 

 偶々立ち寄ったラウンジで、バッタリ兄貴と紗耶香さんに会ってしまった。

 ヤバい。私がお邪魔虫だよ。

 ここでエンカウントするの達也じゃなかったっけ?

 さあ、どうする。

 対象とバッチリ目が合ってしまった以上、離脱は薄情かな。

「どうも、お疲れ様です」

「ああ、司波姉かよ…」

 この人もオドロ線背負ってるよ。当然だけどさ。

 紗耶香さんは心配そうですね。いい彼女ゲットしましたね、兄貴。

「三回戦で惨敗だぜ…」

 これは放置して大丈夫ですか?

 紗耶香さんに視線で訊ねる。

 紗耶香さんも視線で何かいって上げて?とでもいいたげに見ている。

 OKです!!ここはマイブラザーの手法を取りましょう!!

「結果を確認しましたが、惜敗じゃありませんか。よく三校のエース相手に、あれだけ戦った

と思いますよ。向こうも消耗していて準決勝で敗れていますし、痛み分けですね」

 かなりの接戦だったみたいですからね。

 競技に適した魔法特性をもった人相手に、魔法特性なしでよく食い下がったよ。

 本来なら三校エースのぶっちぎり優勝だった筈だ。

 うちの皮算用作戦スタッフも、二位か三位狙いでしたし。

「愛ですね」

 恋人二人が真っ赤になって硬直する。

 彼女に優勝を捧げようと気張ったからこそでしょう。

「お、おまっ…何をっ!!」

 兄貴、呼吸困難みたいになってますが、大丈夫ですか?

「何、恥ずかしい事いってんだよ!!」

「ん?事実ですよね?」

 真顔でいってやると、兄貴が諦めたように盛大に溜息を吐いた。

「落ち込んでる奴に、普通いうか?そんな事」

「まあ、荒療治的な?」

 紗耶香さん苦笑い。

 兄貴がガックリと頭を下げた。

「こういう場合は、気まずそうな顔で見ないフリして、通り過ぎんだよ」

「おお!そんな手が!?やり直します?」

「要らねぇよ!!」

 

 うん。元気になってよかったよかった。

 でも、おかしいな。痛み分けに反応されなかったよ?

 

 

               7

 

 :達也視点

 

 明後日から始まる新人戦の技術スタッフとして、担当選手のコンディションとCADの

チェックなどを済ませ、ホテルのフロントに向かう。

 そこで俺宛ての荷物を受け取る。

 先日、渡辺先輩が見せた硬化魔法の使用法を見て、思い付いた玩具の設計図とプラグラム

を牛山さんに送っていたのだ。それが驚くべきスピードで送り返されてきた。

 何かのついででいいと書いたんだがな。無理してないだろうな。

 牛山さんなら、こんな玩具は朝飯前か…。

 そう思い直して、割り当てられた部屋に戻る。

 

 時刻はまだ夕食前。

 この時間を使って玩具のテストしたいと考えていた。

 姉弟だから問題ないと考えられたのか、姉さんと同室だ。

 姉さんの方は、雫と何か打ち合わせをしていた。

 後からくるだろう。

 ダイヤルロックのハードケースを開けると、そこには注文通りの物が入っていた。

 形状は、剣の柄が付いた平べったい棍棒といったところだ。

 武装一体型CADだ。

 軽く動作を確認すると、全く問題なく作動した。

 このままテストまでいってしまうか…。

 そう考えた途端にドアがノックされた。

 友人達が押し掛けてきたのが分かる。

 寧ろ、丁度いいのかもしれない。このCADはアイツ向きだろう。

 扉がこちらが返事する前に開かれる。

「ただいま。今、戻ったよー。深雪と友達連れて」

 姉さんがそういいながら入ってくる。

 そして、言葉通り深雪と友人達がゾロゾロと後に続く。

 一気に部屋が手狭になった。

 レオは、目敏く机に置かれている武装一体型CADに、興味を示している。

 意外だな。エリカも興味を持つと思ったが…。

 いや、エリカは姉さんの持っている刀の方に興味がいっていて、気付かなかったようだ。

「ねえ、深景。その刀、見せて貰ってもいい?」

 案の定、エリカが入るなり、口を開いた。

「ああ、これか……まっいいか」

 姉さんは少し考えてエリカに鞘ごと渡す。

 エリカは神妙に受け取ると、口にハンカチを咥えて鞘から抜き放った。

 刀の目利きのように見る。

 そして、最後にサイオンを流した。

 刀の内部に刻まれた刻印や魔法陣が、浮かび上がる。

 相変わらず、どうやって鍛えているのか分からない。

 これで刀としても名刀の域にある。

 姉さんが女だと知っても、刀や魔道具を造って貰いたいと依頼する人間が多いのも頷ける。

 姉さんが刀を鍛えられるのは、長期の休みのみだ。今はどうにかなっているようだが。

 エリカはというと、魅入られたように刀身を見詰めている。

「しっかし、スゲェな。刀なんて全然分からねぇ俺でも、スゲェもんだって分かるぜ」

 レオが感心したように刀を見ていた。

「ええ、とっても綺麗です」

 美月が呟くようにいった。

 みんなが同意するように頷いた。

 参ったな。俺のCADが霞んでいる。

 エリカは存分に見たのか、刀を鞘に納めた。

「これ、誰が鍛えたの?」

「私だけど?」

 姉さんが事もなげに答える。

 

 

「「「「「「ええ!!?」」」」」」

 

 友人達が悲鳴のような驚愕の声を上げる。

 まさか、自分で鍛えているとは思わないだろうからな。仕方のない反応だ。

 みんながポカンとしている間に、姉さんが刀を取り戻す。

 正気に戻ると、友人達がどういう事か問い詰めていた。

 姉さん自身隠す気はあまりないようなので、アッサリと自分が九字光虎だ

と告げていた。

 最も、分かったのはエリカしかいなかったが…。

 エリカは暫くは呆然としていた。

 そこからは、ようやく俺のCADの話題に移った。

 あまりにもエリカが衝撃を受けているので、レオが気を利かせたからだ。

 まあ、レオ自身も興味があったからだろうが。

 そこで俺も都合がよかったので、乗ってやる。

 ハードケースを投げ渡してやった。

 危ないとか文句をいっているが、顔が笑っている。

「試したくないか?」

「仕様がなねぇ。実験台になってやるよ!」

 俺の言葉にレオがニヤリと笑っていった。

 

 テストは、正気に戻ったエリカのコネで、場所を提供して貰った。

 テストは上手くいったとだけいっておく。

 

 

               8

 

 :退魔師視点

 

 嘗てない程の力を持つパラサイトが現れたという話を聞き、急ぎ準備を整えたが、随分と

時間を食ってしまった。

 吉田家の話が本当なら、我々も覚悟を決めなければならない。

 刺し違えてでもこの世界から叩き出す。

 

 深夜も車を走らせる。

 もうじき、到着できるだろう。

 連絡は既に入れてある。

 カーブを曲がった時、ヘッドライトに人の姿が突如浮かび上がる。

 慌ててハンドルを切り、ブレーキを踏む。

 後続もどうやら轢く事なく回避したようだった。

 私は窓を開け、立っていた人物に声を掛ける。

「大丈夫ですか!?」

 立っていたのは病的に痩せた小男だった。長髪の所為で顔がよく見えない。

 立ったまま返事もしない。

 私は仲間と顔を見合わせ、車を降りる事にする。

 近寄っていくと、小男はニヤニヤと笑っている事が分かった。

 ちっ!悪戯か。

「大丈夫みたいですね。こんなところで立っていると危ないですよ」

 私は冷ややかに注意だけして、車に戻ろうとする。

「ああ。確かに危ないな」

 小男は笑いながらいった。

 流石にムッとして振り返ったところで、何かが突き刺さった。

 見ると、私の胸に何か長いものが刺さっていた。

 

「こんな時間に車を走らせるのは、危ないな。夜は俺達の時間だぞ?」

 私の意識はここで途切れた。

 

 

               9

 

 :戸愚呂視点

 

 七草真由美の調子が戻ったようだが、不調は一校に居座っている。

 けどねぇ。

 ここらで、一人くらい退場して貰うかね。

 そんな事を考えていると、端末に通信が入った。

 通信に出ると、よく知る存在だった。

『よぅ。弟よ。慢心はいけないな。退魔師の応援が結構な人数来ていたぞ?』

 兄者だった。

 今の言葉で大凡何があったか分かったが、一応確認しておく。

「兄者。それでどうしたんです?」

『弟の仕事の邪魔はよくないからな。皆殺しにしたよ。安心しろ。死体は灰も残さず、

燃やしたよ』

 溜息を堪えて、どうもと返事を返す。

『何、いいさ。暇だったからな』

「それじゃ、左京さんの事を頼みますよ」

『クックック。分かっているさ。これで帰るよ』

 

 別に無理にこの仕事を成功させたい訳じゃないが、何故どいつもこいつもストレスが

溜まるような真似をするのかねぇ。

 

 

               10

 

 :風間視点

 

 警備体制の打ち合わせに、私も参加させられる事になった。

 七草嬢の件が原因だ。

 アドバイザー程度の参加だが。

 すると、打ち合わせ中にも関わらず、藤林が入って来る。

 どうも厄介な事が起きたらしい。

 私に耳打ちする。

「吉田家の派遣した退魔師が、消息を絶ちました」

 私は黙って頷いた。

 これ程の厄介事とはな。

 

 すぐさま、捜索隊を組織する事を提案しないとな。

 

 結果からいえば、退魔師は車ごと行方不明になり、見付かる事はなかった。

 

 

 

 




 なかなか進まない。
 そして、どんどん長くなる文章。
 なんとかしないとな、と思うんですが。

 月の投稿回数が減る事になりました。
 集中して書く時間が取れない為です。
 しかし、チョコチョコ書いていますので。
 次回も気長にお待ち頂けると幸いです。


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九校戦編7

 時間が掛かってしまいました…。
 そして、長くなってしまいました。
 
 それでは、お願いします。


               1

 

 九校戦も三日目に突入しました。

 悪い話は、朝一で届けられた。

 爽やかな朝が、土砂降りの夜みないに見えるよ。神も仏もありゃしないよ。

 駄神は仕事しなよ。

 応援に来る筈だった退魔師が、消息不明になったのだ。

 風間天狗は、中止を提案してくれたようだけど、腐れ爺・九島烈が様子を見ましょうと、

どこぞのご隠居みたいな事をぬかし、続行になった。

 あの爺、基本、学生の事は二の次にしやがりますからね。

 この事は、直接被害を被る一校首脳陣に告げた。

 みんな顔色が土気色してましたよ。

 幹比古君にも告げなければならなかった。大層動揺してた。

 追加戦力は、なかなか派遣の目途が立たないらしい。

 戦力逐次投入は愚策だからね。

 仇はとるよ。機会を作って、必ずね。

 

 問題は、今日の出場者に要注意の参加者が、二人もいる点ですよ。

 まずは本命と疑われる渡辺お姉様、そして妖怪ぬりかべ…もとい十文字さんだ。

 この第一高校のキーパーソンは、間違いなく三巨頭だ。

 妨害があるとすれば、この三人が一番有力だと考えている。

 原作では邪魔されなかったのが、不思議なくらいだからね。

 十文字さんは邪魔したら殺されそうだけど。

 もしかして、原作・無頭竜(ノーヘッドドラゴン)ってビビったの!?

 まあ、下らない事はいいんだけど。

 私が渡辺お姉様監視で、達也が十文字さん監視に回って貰った。

 因みに深雪も達也の方へ行った。

 十文字さんはアイスピラーズブレイク出場だからだ。深雪も出る競技だしね。

 参考にはならないだろうけど。

 カンゾー君とキャノン先輩の試合は、私と達也、美月で分担してやる事にした。

 スケジュールの調整がタイトどころじゃありませんよ。

 応援している暇はありません。

 お二人共、私等の応援なんてどうでもいいだろうけど。

 

 そういう訳で、私は渡辺お姉様の試合に来ている。

 見学メンバーは、ほのかに雫、幹比古君と美月という顔触れです。

 ほのかは、本当なら達也のところに行きたかったろうが、出場競技という事もあり今回は

こちらに来ていた。

 結構、軽い対応してたから心境の変化があったのかと思ったけど、エリカは十文字さんの方に

行った。レオ君を連れて。まっ、いいか。

 成績の方は、皮算用スタッフの皮算用通りにほぼ進んでいるらしい。

 クラウドボールの痛手はあるけど。どうにか穴埋めできそうな感じらしい。

「もうすぐスタートですね」

 美月が私に話し掛ける。

 あっ、もう、そんな時間か。

 渡辺お姉様は、達也に自分の試合は見に来るんだろうな、といっていたらしいけど、彼氏が

いる女性としては、勘違い野郎を生む原因になり兼ねないですよ。

 噂では、達也が来ないと知って、少しイラッときていたらしい。

 今朝のニュースがあったのに余裕ですね。

 でも、修羅場は止めて下さいね。文字通り血の雨が降りそうだから。

「うん。美月、頼むよ。幹比古君もキッチリ護って上げてね」

「はい!」

「分かったよ!」

 二人は気合十分に頷いた。

 幹比古君は美月に心配掛けないように、表面上は取り繕えるようになっていた。

 男の子の意地だね。

 美月の周りには護符が張り巡らされており、美月の眼を保護している。

 美月は、もう眼鏡を外している。

 準決勝は三人で二レース行う。

 

 流石に準決勝となれば、全員がボードの上で立ったまま、いつでもいける状態だった。

 

 

               2

 

 :摩利視点

 

 私はいつでも飛び出せる状態のまま、隣をチラリと見ると、偶々目が合った。

 去年は、お互いに優勝を掛けて勝負した仲でもある。

 第七高校の水上。海の七校などといわれる学校だが、コイツは別格といっていい。

 間違いなく、これが事実上の決勝戦となる。

 視線を合わせたのは一瞬。それで十分。言葉など不要だ。

 今度も勝つ。今度こそは勝つ。お互い正しく相手のいいたい事を理解していた。

 一回目のブザーが鳴る。

 そして、二回目のブザーと共にスタートが告げられた。

 

 私は一気に先頭に躍り出る。

 様子見も、手加減もない。

 後ろを向かなくても分からる。水上が背後にピッタリと追走している。

 どのような魔法も難なくボードを操り対処する。更には、こちらの隙を伺っている。

 魔法だけなら自分の方が上だろう。だが、ボードの扱いに関してはあちらが上。

 振り切る事ができずに、鋭角のコーナーに差し掛かる。

 私はギリギリで減速に入ろうとした、が。

 減速しなかった。

 CADも全く反応しない。

 妨害工作の事を忘れた訳じゃなかった。

 だが、こんな事で慌てたりしない。

 口頭で呪文を唱える。大凡、呪文というイメージから掛け離れたものではあるけど。

 だが、次の瞬間に、腹から強烈な痛みで呪文が途切れた。

 何かが内臓を掴んでいるような感じだ!!

 痛みを激しさを増す。本能が危険を訴えていた。

 痛みに耐え、前を見た時には、コースの防護壁がすぐそこにあった。

 しまった!減速のタイミングが!と思っても遅い。

 私は目を固く閉じて、対ショックの態勢を取った。

 だが、衝撃はやってこなかった。

 目を恐る恐る開けると、防護壁の目の前で私は停止していた。

 審判が赤いフラッグを上げている。

 それは、失格を示すものだった。

 水上が苦虫を嚙み潰したよう顔で、横を通り過ぎて行った。

 どうも、私の様子がおかしいのを見て取って、距離をとったようだ。

 

 私が意識を保っていられたのは、そこまでだった。

 

  

               3

 

「流石は海の七校だね」

 幹比古君が感嘆の声を漏らす。

 原作でも競り合ってたけど、こっちじゃ後ろからプレッシャー掛けてるくらいだ。

 原作より、向こうの選手は実力が上がってるね。

 両者、そのまま鋭角のコーナーに差し掛かろうという時、美月が声を上げる。

「CADから火花みたいなのが!」

 私にも見えていたので頷く。

 原作じゃ七校選手に仕込んだけど、こっちじゃ直接狙いに来たか!

 おそらく、原作のような大会委員会の工作員の細工ではなく、直接CADに干渉したのだ

ろう。

 更に、嫌なものが眼に飛び込んでくる。

 水面から蟲のようなモノが、お姉様の腹に飛び付き身体に直接呪いを発動。

 途端にお姉様の顔が歪む。

 お姉様はCADをダメにされても、慌てず口頭で呪文を唱えて魔法を使おうとしたようだが、

蟲に阻まれて、魔法がキャンセルされる。

 誰も気付いている様子はない。当然だ。アレは…。

「まさか!?呪殺用の…」

 式神の類より、もう妖扱いしていいヤツだ。

 幹比古君が素早く立ち上がり、護符を構える。

「君!何やってる!?」

 警備の軍人が既に銃を構えて、幹比古君を威嚇していた。

 ほのかが銃に怯え、雫は宥めるように寄り添う。

「今はそれどころじゃ!!」

 このまま私が手を出さなければ、お姉様は大怪我をする。

 いや、あの呪殺を目的とした式神を放置すれば、死ぬかもしれない。

 そんな事を座視していい訳がない。

 失格させた事の罵倒は、甘んじて受ける。

 私は、まだ根源にアンインストールしていない精霊の眼(エレメンタルサイト)を起動する。

 どこから術を使ってる?

 巧妙に隠していても無駄だ。

 常人では気付けない頼りない糸を確認する。

 魔法の使用は術者とどうしても繋がりができてしまう。遠隔であっても。

 それが糸、場合によってはもっと濃く見える。

 精霊魔法なら誤魔化せるとでも思った?見付けた!!

 ここまで一瞬で読み取る。

 私は意を決して、お姉様のボードの運動エネルギーを切断する。

 冗談みたいにボードが防護壁の前で停止する。

 そして、式神の干渉を切断する。

 式神が戸惑ったように震える。私はそのまま式神を呪詛返しで術者に送り返した。

 古式魔法師が用いるような道具など、一切使わなかった。

 幹比古君が驚愕するのが分かったが、構っている暇はない。

「おっ!?」

 間の抜けた声が私の耳に入る。

 振り向き群衆の中から、あのマッチョのタンクトップを見付ける。

 アレだったか。

 私は刀を引っ掴むと、そのまま走り出した。

「先輩を頼むよ!!ほのかと雫はジッとしてて!!」

 二人は取り敢えず頷いてくれた。

 私はお姉様の様子を確認する事なく、追跡を開始する。

「柴田さん!ここを動かないで!!彼女を頼みます!!」

 幹比古君が、警備の軍人に無理矢理美月を押し付ける。

 銃構えてる相手に無謀な。

 お姉様のところには、いわれずとも軍人が向かっているようなので、よしとする。

 タンクトップは慌てた様子も見せずに立ち上がると、会場を出ようとしていた。

 逃がさない。

 スピードを上げて、タンクトップが入った通路に飛び込む。

 すると、警備の軍人が二人血塗れで倒れていた。

 響子さんも仕事はしてくれたようだけど、半端な事したな。気の毒に。

 それを見ても私は足を止めない。

 だが、前方で爆発音と衝撃波が伝わってきた。

 眼で確認すると、意外な人物がタンクトップの前に立ち塞がっていた。

 

 若様。せめて、残念参謀と警備の軍人くらい引き連れてきなよ。

 

 

               4

 

 :将輝視点

 

 もう俺の方の新人戦用CADの調整は済んでいる。

 エンジニア兼選手として忙しいジョージなら兎も角、俺には時間があった。

 手伝いたくとも、俺では足手纏いにしかならない。

 俺も自分のCADの調整くらいできるが、ジョージの足元にも及ばない。

 因みに奈津もエンジニアとして参加している。

 ジョージ程ではないが、なかなか巧みに調整する為、人手不足の解消の為メンバー入りした。

 みんなは初めての競技で、戦術面などを時間のある先輩やエンジニアに相談したり、自分で

検証して試したりしている。

 俺にはそれは必要のない事だ。もう、本番を待つばかりの状態だ。

 そんな訳で俺は、今日は一人だった。

 

 奈津が世話になっている先輩の試合があるので、応援に行けない奈津に代わって、応援に

行く事にする。

 といっても、悪いが俺はほぼ勝ちはないと思っている。

 バトルボードで第一高校の渡辺選手、七校の水上選手と同じレースだったからだ。

 流石に勝つのは厳しいだろう。

 七草さんの試合を思い出すと、また何かあるのではと嫌な予感も感じていた。

 だが、会場で彼女を見付けた。存外嫌な予感も気の所為かもしれない。

 やはり縁があるようだ。

 近くに行こうとしたが、真剣な様子でコースを見ているのを見て、考え直す。

 ここは何かあった時に備えて、フォローできる位置にいた方がいいだろう。

 全体を見渡せる後ろの席を探して座る。

 彼女の隣に座るチャンスを逃すのは断腸の思いだが、これまでいいところなしの現状から脱し

たいという気持ちもあった。

 

 レースが始まる。

 残念ながら予想通りの展開で、先輩が二人に引き離されていく。

 しかし、二人共見事なものだ。

 水流をどう流せばいいか、どうボードを操ればいいかよく知っている。

 相手に何をされても動揺する事なく、逆にそれを活かして進む。

 名勝負といっていいだろう。

 だが、それが突如破られる。

 渡辺選手が減速しないのだ。

 いや、できないのか!?しかも、表情が歪んでいる。何が起こっている!?

 情けない事だが彼女の方を窺うと、近くにいた男が立ち上がって護符を構えて、警備の軍人

に銃を向けられている。

 次の瞬間、信じられない事が起きた。

 防護壁に激突すると思われた渡辺選手が突然止まったのだ。

 なんだ、今のは!?

 冗談みたいに止まったかと思えば、魔法が渡辺選手に向かって放たれる。

 どうやら、彼女が何かやったようだ。

 審判が険しい表情で赤のフラッグを上げる。

 失格を示す旗だ。外部から魔法干渉を認めたからだろうが、事情を鑑みないのか!?

 渡辺選手の様子を見れば、助けるのが目的なのは明白なんだがな。

 こんな時にジョージがいれば、彼女が何をしたか教えて貰えたんだがな。

 それよりも、彼女の動きが劇的だった。

 すぐに振り返ると、ある男に視線を定め、走り出す。

 俺は彼女が敵を特定したのだと確信する。

 ここで待機した甲斐もあったというものだ。

 彼女より、俺の方が接触が早いだろう。

 すぐさま動き出す。近くの出口に飛び込む。

 自己加速で地面を蹴り、曲がる際は壁を蹴り加速する。

 男の断末魔の声が通路に響く。

 どうも犯人は、こちらに落ち着いた歩調で歩いている。

 どういう神経をしている!?

 俺はそこに辿り着くと、すぐに特化型CADを構えた。

「動くな!死にたくなければ投降しろ!」

 そこには返り血を浴びた大男が立っていた。

 特に驚いた風でもなく、大男は歪んだ笑みを浮かべた。

「やっぱり、俺にゃ小細工は向かねぇな。そう思うだろう?王子様よ」

 どうも俺の事を知っているようだ。

 次の瞬間、大男の姿が霞む。

 魔法の照準を外される。

 だが、こんな事は奈津や親父と模擬戦をすれば、よくある事だ。

 慌てる事なく、意識を接近戦に即座に切り替える。

 大男からは想像もできない程、しなやか動きで死角を取ると拳を繰り出す。

 拳が砲弾のように飛んでくるが、俺は片手で受け流すと、大男の肩に蹴りを見舞う。

 大したことがないと高を括っていたようだが、大男は体勢を崩し、驚愕の表情を浮かべる。

 CADをトンファーのように持ち替え、攻撃を繰り出す。

 大男は舌打ちして、スルリと攻撃を躱し距離を取った。

 すぐさま、俺はCADを持ち替えて、迷わず魔法を放つ。

 気体を魔法で膨張させ爆発を引き起こし、それに指向性を持たせ大男を吹き飛ばす。

 爆轟という名の魔法だ。これは一条家の固有の魔法ではないが、重宝している。

 完全に直撃したが、直感がヤツが普通ではない事を囁いていた。

 油断なくCADを構えたまま、警戒する。

「んだよ。王子様、なかなかやるじゃねぇかよ」

 案の定、傷一つない。

 あの妙な女も見た事のない魔法を行使していた。こいつにもそういった手段があると考える

べきだろう。まだ、出していない札が。

「砲撃戦が得意な魔法師だから接近戦に持ち込めば。とでも思ったか?」

「ああ。確かに侮ったわ。悪かったな」

 俺の言葉をアッサリと認めて、大男は獰猛に笑った。

 そのタイミングで、彼女が通路から姿を現した。 

  

 できれば、彼女が来る前に片付けたかったんだがな…。

 

 

               5

 

「お前は俺のペットを返してきた奴か。大切に育ててたのによぉ。」

 追いついた瞬間、タンクトップがそんな事をいった。

 ペット?蚤とかゴキブリとかをペットにしてる登場人物がいるドラマとか、映画があるそう

だけど、呪殺用の蟲毒をペットにしてる奴は初めて聞いたよ。悪趣味だね。

 呪詛を返されても、少し驚く程度でなんともないってのも呆れるけど。

 私はそれについて口では感想をいわずに、持っている刀を鞘から抜き放った。

「深景さん。ここは俺に…」

 若様が頼もしい事をいってくれるが、首を振る。

「お気持ちだけ受け取って置きます。こちらも仕留める理由があるので」

「では、加勢させて貰います。これは譲れません」

 私は思わず笑みを漏らした。

 女一人で立ち向かわせる事などできなかったんだろう。

 古い考えといえばそうだけど、嫌いじゃないよ。その考え方。

 一人じゃなきゃ、なおよかったんだけどね。万が一があったら困る。

 ここで幹比古君も追い付いてきて、護符を取り出す。

 目付きが険しい。

「んだよ。あの人が始末したっていってたのに、まだ残ってるじゃねぇか」

 タンクトップが呆れたようにいった。

 だが、その言葉は応援に来る筈だった人達の失踪に、自分達が関与していると白状した事を

意味する。

「殺したのか…」

 幹比古君の表情が消える。

「らしいぜ?」

 幹比古君がそれだけ聞くと、護符を放った。

 問答無用で全ての護符が、タンクトップに直撃し青白い炎を上げて燃え上がる。

 その炎が勢いを増して燃え上がった。

 若様がアシストしたのだ。

 並の奴なら骨も残らないだろう。

 だが、青白い炎から哄笑が響く。

「残念だったよな。このくらいじゃ、ビクともしねぇよ」

 炎吹き散らし、マッチョタンクトップの身体が膨張する。

 広く造られた通路が狭く感じる。

 タンクトップは人型から妖に姿を変えた。

「お、鬼!?」

 幹比古君が引き攣ったように呟く。

 

 ようやく、思い出した。

 

 こいつ、幽遊白書に出てきたヤツだ。

 確か、飛影と蔵馬とつるんで閻魔の宝を盗んでたヤツだ。名前までは忘れたけど…。

 なんでこんなのいるの!?なんか出てきちゃいけないヤツじゃないの!?世界観的に!!

 芋蔓式に思い出したけど、あの女も幽遊白書に出てきたヤツじゃなかったっけ!?

 ダメじゃん!!例えるなら、食戟のソーマに初期ラーメンマンが出てくるようなもんでしょ!?

 超人をラーメンにするなんて暴挙、料理漫画だからって許可できないでしょ!?

 

 取り乱しました。失礼。

 

 文句をいっても仕様がない。ここで倒す。

 こっちもチートだ。人類を舐めるんじゃありませんよ!!

 刀を手に滑るように鬼との間合いを詰める。

 巨体からは信じられないスピードと、身のこなしで鬼が拳を振るう。

 この体術…。既視感がありますよ。

 どうも、こいつ等、幽遊白書そのままって訳じゃなさそうですね。

 当たれば強化していようが私などボロ雑巾になる攻撃を、最小限の動きで掻い潜り、刀を

一閃する。

 途轍もなく硬い皮膚に阻まれ、斬り損ねる。

 金属のように皮膚から火花が散る。

「その歳で、大した一撃だな!!」

 振り抜いた事で隙ができたと見て、大胆に拳を振るう。

 こっちが斬れないと見切っての事だろうが、甘い。

 攻撃を難なく躱し、手首を返し、返す刀で隙が生じた鬼を斬り上げる。

「効かねぇっ…っ!?」

 更に斬り返し上段から斬り下ろす。

 鬼返の逆手。元ネタは我間乱である。一応秘奥に分類される技である。

 原作では関節を外して伸ばしたりしているが、私は柄の握りを変えて刀の長さを変えて

放っている。

 更に技としての斬鉄の要素を加え、斬り付けたのだ。

 全く同じ個所を二連撃した為、身体が中半まで切り裂かれる。

「こ…この!!」

「滅せよ!朱雀の焔!!」

 何かセリフをいおうとした鬼を遮り、幹比古君が新たな護符を叩き付けていた。

 血が噴き出す前に、聖獣の火が鬼を焼く。

 私は巻き込まれないように、後ろに跳んでいた。危ないな!もう!

 次の瞬間、鬼が真ん中から割れて爆発する。

 若様がお家芸を放ったようだ。

 若様がCADを構えたまま、残心。

 まあ、厄介なのは、ここからだからね。

 そんな事を考えていると、忍び笑いが床の残骸から聞こえる。

「「っ!?」」

 若様と幹比古君が驚愕する。

「こっちには専門家がいる。知っている事を話して貰うよ」

 私は驚く事なく、残骸にいう。

 もう、本体は身体じゃないからね。驚く事はないよ。

 残骸が嗤う。

「仮にそれが本当だとしても、無駄だな」

「どういう意味だ」

 鬼の言葉に、驚きを抑え込んだ若様が訊く。

「実戦経験があるっていっても、そんなもんかよ?可笑しな事を口走られる前に、どうにか

する手段があるに決まってんだろうがよ」

 残骸がそういうと、それを肯定するように金色の火が残骸に点火する。

「「っ!?」」

「ほらな?」

 パラサイトの本体まで金色の火は焼き尽くす。

 

 残骸は核が燃え尽きるまで、哄笑した。何がそんなに愉快なんだろうね、こいつ。

 

 

               6

 

 すっご~く、遅いご到着で軍人様がやってきた訳だけど。

 若様が事情説明をした。私等じゃ、埒が明かないもんだからね。

 警備の軍人にとって私等は、試合に横槍入れた酷い女とその仲間らしい。

 軍の連中は事情説明を聞いて、若様に礼をいっていた。

 私等二人はぽつーんですよ。

 表向き、民間人じゃないのか十師族。

 私達は若様に後事を託し、その場を立ち去る事にした。

 若様は何かいいたそうだったが、取り敢えず気付かないフリでいきます。悪しからず。

 埋め合わせは、いずれ精神的に。いや、問題か?このセリフ。

 

 お姉様は病院に運び込まれていた。

 精密検査をチャンとしてくれるようだ。呪詛を受けたんだから頼むよ。

 そこは幹比古君が専門家として、アドバイスをしてくれるそうだ。

 そして、予想はしてたがお姉様は失格になっていた。

 やっぱり、審判が気付かないとダメなのか。アイツ等のやり放題だね。鬱だ。

 駆け付けた閣下に私は頭を下げたが、逆に感謝された。

 首脳陣も私より、この期に及んで何もしない大会委員や軍に怒りを向けているのだとか。

 寧ろ、グルかと疑う程、何も動きがない。天狗様使えないですわ。

 確か、あの爺、パラサイトの軍事利用考えたりしたよね?

 まさか、この時期にもう結託してたりしないだろうね?

 明らかに、あの妖はおかしかった。

 自動的に証拠が消されるようになっているなんて、まるでイギリススパイものみたいだよ。

 響子さんには悪いけど、探ってもらうかな…。いや、身内だからな…。

 自分で探りますか。

 

 そして、閣下の口からとんでもない事を聞かされたのだった。

 

 

               7

 

 :達也視点

 

 姉さんが病院に来る前。

 十文字会頭の試合まで時間は遡る。

 

 俺は十文字先輩の試合を監視する事になった。

 姉さんの予測では、渡辺委員長と十文字会頭が最も狙われる可能性が高いという事だった

からだ。俺もその意見に賛成だ。

 会長を含めた三巨頭は、一校の要といっていい。

 一校を優勝させないなら、俺でもこの三人を狙う。

 決勝までは問題なく勝ち進んだ。

 妨害するなら、ここが今日最後の機会になる。

「でも、十文字会頭ってブルドーザーみたいよね。全部、一度で更地にする!みたいな」

 エリカがいい得て妙な感想を口にする。

 どんな防御もものともせずに圧し潰すのだから、対戦相手にとっては悪夢だろう。

「いや、お前、喩えが失礼だからな」

 レオが真っ当なツッコミを入れる。

 深雪も苦笑い気味だ。否定する材料がないので、困っているのだろう。

 そして、いよいよ決勝戦の選手が登場する。

「それにしても、十文字会頭…なんで態々あんな格好をしているのでしょうか…」

 深雪が、どこか遠い目で十文字会頭の格好にコメントする。

 それには、俺もコメントに困る。俺にもあの人の思考は理解できないのだから。

 十文字会頭は、戦国時代の武将のように甲冑姿だった。

 やたらと似合うが、ピラーズブレイクに出る選手としては、どうなんだろうか。

 まあ、相手選手も、一瞬腰が引けたようだし効果はあるのか?

 そうこうしているうちに開始のブザーが鳴る。

 決勝に残っている選手だけあって、対戦相手も大したものだが、十文字会頭の相手をする

には力量不足のようだ。

 必死に防御しているが、もう前列のピラーが圧し潰されている。

 このまま押し切ると思いきや、十文字会頭が突然よろめいた。

 会場から悲鳴が上がる。

 あの人に限って熱中症というオチはないだろう。

 俺は精霊の眼(エレメンタルサイト)で、十文字会頭を調べる。

 魔法が暴走し、魔法演算領域に多大な負荷が掛かっている。

 このままでは、魔法師生命が絶たれかねない。

 相手選手は戸惑ったようだが、そこは決勝に残った選手。

 魔法が弱まった隙に攻めに転ずる。

 十文字会頭のピラーが、ドンドン崩れていく。

 術者はどこだ?精霊の眼(エレメンタルサイト)で探すが、魔法と術者の繋がりが見えない。

 より深く探る事で、ようやく繋がる糸が薄っすらと映る。

 これでよく強力な効果を得られるものだ。

 これでは機器も審判も妨害と判断できないだろう。

 そして、糸を辿り、術者を見付け出した。

「っ!!」

 俺は術者を見付けた瞬間に察した。

 これを殺すには手段を選んでいられない。そういう相手だと。

 ここでやり合えば、甚大な被害が出るだろう。深雪も巻き込む事になるだろう。

 しかも、術者はこちらを見ていた。

 視線があったまま、身動きが取れない。

 深雪や友人達は、俺の様子に気付き俺が見ている視線の先を見る。

 その時、試合終了のブザーが鳴り、糸が消える。何かが倒れる音と悲鳴が会場に溢れる。

 十文字会頭を最初に見た時も、巌のような人だと感じたが、術者の男は長身で鍛えられている

ようだが、細身で十文字会頭のような体格ではない。

 その筈なのに、あの男は古の伝説に語られる巨人のように感じた。

 男がニヤリと笑い、自分の喉の辺りをトントンと指で叩いた。

 深雪が息を呑むのが分かる。

 エリカも、知らず知らずのうちに冷や汗を流している。

 あの物怖じしないレオも小刻みに震えている。

 俺は、深雪の肩を抱く。

「大丈夫だ。倒さなければならないなら()()()()()()()()()()()

 深雪が驚いたように俺の顔を見た。

 そう、俺はいざとなれば戦略級魔法を使用してもアレを倒す。そういったのだ。

 深雪や姉さんに危害を加えるなら、どれだけ周りに被害が出ようが、俺はやる。

 男を睨み付けると、これ見よがしにゆっくり立ち上がると、会場を去って行った。

 脅威は去った。見逃されたというのが正しいだろうが。

「何…あれ」

「まさか犯罪組織って、アイツかよ!シャレにならねぇぞ」

 エリカとレオが呪縛が解けたように口を開いた。

「お兄様…」

 俺は深雪を安心させるように、微笑んだ。

「十文字会頭が気になる。行こう」

 俺は三人を促して、歩き出した。

 

 あれは人間にできる魔法じゃない。自信たっぷりになるのも頷ける。

 だが、今度はこうはならない。

 

 

               8

 

「はぁ!?十文字さん準優勝!?」

 閣下はええ、と言葉少なく返事した。

 病院の廊下にも関わらず、大声を上げてしまった。それ程、衝撃的だった。

 あっちには達也が付いていたのにだ。

「それで十文字さんは、大丈夫なんですか?」

 私の質問に、閣下が頷く。

「ええ。自分で暴走を抑え込んだみたいだから。でも、暫くは安静にしていないといけない

けどね」

 深刻な後遺症なども大丈夫だったようだ。

 ホッとする。

 聞けば、達也は術者を特定したようだが、周りの被害を考えて挑めなかったそうだ。

 具体的にいえば深雪を巻き込みそうだったって事ね。

 達也が戦うのに二の足を踏む相手とはね。

 どんな化け物なのかね。やっぱり、幽遊白書ネタからのご出演かなぁ。

 幽遊白書っていえば、戸愚呂だけど。

 お願いします!あれは勘弁して下さい!

 

 カメラに写っているだろうから、要チェックだね…。

 因みに、十文字さんの試合も妨害行為が確認できないとかで、判定は覆らなかったそうな。

 

 

               9

 

 :戸愚呂視点

 

「世話になりました」

 私は通信機を手にホテルの一室にいた。

 部下の一人、剛鬼のフォローをして貰った関係で、協力者に礼をいわなければならなかった。

 戦っての戦死なら、ヤツも本望だろう。

 欲をいえば、もっと上手く仕事をしてほしかったがね。

『いや、問題ないよ。第一高校の渡辺君だったか。彼女の時のような事はこれっきりにして

ほしいがね』

 精霊魔法に類する魔法は視認が困難とはいえ、あれは流石にあからさまにおかしいと思われた

みたいだしねぇ。物凄い抗議やら問い合わせがきたらしいねぇ。

 その為の協力者だ。頑張って貰いたいねぇ。

 もう少し誤魔化せって苦言も分かるけどねぇ。

 こっちにもいいたい事がある。

「こちらも人員を勝手に動かすような真似は、止めて貰えますかね」

 兄者の件で釘を刺しておく。

 おそらく、邪魔な退魔師を処分させる為に、兄者に情報を流したんだろうがね。

 向こうは、こっちの性能を確認したがっていたからねぇ。

『君なら兎も角、君の部下が大勢犠牲になるかもしれんと、気を遣ったつもりだったんだがね』

 アンタにも火の粉が掛かるかもしれないんですがね。

 溜息一つ吐いて、話題を変えようとしたが、あちらが違う話題を振ってきた。

『君がそうなったのが、残念であり、天の配剤であるとも思うよ。君達はこの国の国防に重要な

存在だよ。見返りを期待していると、伊集院君に伝えておいてくれ』

 通信が切れる。

 まあ、これ以上急ぐ案件もないからいいがね。

 それにしても、あの食わせ者が残念か…。

 考えても仕様がない事を頭から追い出す。

 

 それにしても、あの男、司波達也とかいったかねぇ。

 あれは伸びる。まだまだ。もう一人の方も期待できそうだねぇ。

 あの殺気の籠った眼。若者の成長に貢献してやるとしよう。

 知らないうちに私は笑みを浮かべていた。

 

 

               10

 

 :響子視点

 

 達也君からの情報提供で、十文字家次期当主殿の妨害を行った存在を追っていた。

 防犯カメラの映像とサイオンセンサーとを精査していく。

 そして、手が止まった。

 有り得ない…。

 そこに映っている該当者は、私がよく知る人物だったからだ。

 もう、この世にいない筈の人…。

 

「どうして…貴方が……」

 

 

 

 

 

 

 




 これだけ書いて、ハーフを折り返したところとは…。
 すみませんが、九校戦編まだまだ終わりません。
 
 文章の改行がおかしいとのご指摘を頂きました。
 時間を見付けて、考えて修正していけたらと思って
 います。

 難しいものですね。文章書くって…。


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九校戦編8

 ようやく、書き終えました。
 では、お願いします。


               1

 

 渡辺お姉様の具合はというと、内臓の損傷まではいかなかったようでホッとする。

 私はそれを聞いて、少し力を使う事に悩んだのが、内心申し訳なく思う。

 と言っても、ミラージバットは原作通り棄権となりましたが…。

 何しろ損傷までいかずとも、ダメージはあった訳だから仕方がない。

 まあ、呪いの影響も見守る必要もあるしね。

 

 十文字さんは、魔法領域の暴走を引き起こされ、魔法師生命が絶たれる瀬戸際だったらしい。

 でも、そこは十文字さん。あの老け顔は伊達じゃない。

 術者が魔法干渉を止めるまで、暴走を抑え込んだらしい。

 当人曰く、魔法領域の暴走は十文字家の宿命で、ある程度抵抗ぐらいできるって事らしい。

 そして、モノリスコードには出場すると宣言しているとか。

 

 渡辺お姉様と状況が違うとはいえ、結局は強靭な肉体がものをいうのか…。

 

 

               2

 

 原作通りの波動解析だのは、一切必要ない。

 事態は単純明快です。犯人姿現しまくりですし!!

 そういう意味では、調査の必要がないんだけど、別の意味で調査が必要です。

 連中が、幽遊白書からのご出演とすると、達也が交戦を躊躇った相手が気になりますよね?

 それでチェックしました。自分で。

 そこで一言。

 

 神は死んだ。寧ろ殺す。生きてるなら神様だって殺してやりますよ!!

 

 アレ、思いっ切り戸愚呂ですよ!!

 まさか百二十パーセントまで、力使えたりしないだろうね!?

 ま、まあ、B級妖怪でよかったじゃない!そう思うしかないじゃない!!

 それに、気になるのは、それだけじゃない。

 覚えてますかね?鬼の動きに既視感があったっていったでしょ?

 そこで考えてみれば、既視感ある筈ですよ。

 だって、独立魔装大隊独自の格闘戦技術と同じだったんですから。

 流石に被害者といえども、これは一校首脳陣にはいえない。

 それについて、問い合わせしようと風間天狗に面会を申し込んだら、忙しいって断られた。

 これ、黒ですか?戸愚呂だけに…って笑えないよ!!

 この事を話すとすれば、二人しかいない。

 マイブラザーとマイシスターである。

 という訳で、達也と私の部屋で互いに報告し合う。

「それは独立魔装大隊が、この一件に絡んでいるという事ですか!?」

 深雪が怒りの声を上げる。

 気持ちは理解出来るけどね。

「深雪、落ち着け。おそらくは、犯人がよく知る人物で調査中といったところだろう」

 達也が深雪を宥める。

 おそらく、達也の読みが当たりだと思う。

 知り人だから、大慌てで怪しい行動を取ってしまったのだと思う。

 多分、元隊員ってとこじゃないかな。

 もし、天狗様が絡んでいるなら、何食わぬ顔で対応した筈だ。

 天狗様らしくない行動こそ、関与していない証だと思う。

 まあ、断定はできないけどね。

「なんにしても、これから独立魔装大隊の協力は当てにならなさそうだね」

 私の言葉に流石に達也も顔を顰めた。

 あちらさんも混乱中だろうし。

 協力して貰う積もりで使われてた、なんて洒落にならないからね。

 なんて、考えていたら部屋のドアがノックされる。

 ん?遅い時間だけど、どなた様かな?

 達也と視線を交わす。

 達也が、立ち上がり安全を確認して扉を開ける。

 

 誰かと思えば、一校首脳陣からの呼び出しでした。

 

  

               3

 

 呼び出しに応じて、一校に割り振られている部屋まで三人で行くと、首脳陣勢揃いで

待ち構えていた。まあ、だろうけどさ。

 ベッドで安静の筈のお姉様、同じく安静の筈のぬり…十文字さんが当然のように座っている

のはどうかと思うんだけど。誰か止めなよ。

「ごめんね。こんな時間に。明日の準備は大丈夫?」

 まずは閣下が口を開く。

 この時間で大丈夫じゃなかったら不味いって。

 原作と違って、達也だけじゃなく私もいるからね。終わっているのだよ。

 私と達也は準備OKと返事しておく。

「流石ね。掛けてくれる?」

 閣下はニッコリと笑う。

 なんか面倒事の予感が…。

 司波家一同は椅子に座って、相手が話すのを待つ。

「少し相談したい…いえ、大事なお願いがあって呼んだの」

 大事なお願いときた。それって拒否権なしと同義じゃないの?

 閣下が真剣な表情で私達を見る。

「リンちゃん。説明を」

 閣下が市原さんに説明を投げる。あとは秘書から、みたいな感じだね。

 市原さんが頷く。

「今日の成績は知っていますね?」

 女子ピラーズブレイク優勝。男子ピラーズブレイク準優勝。

 男子バトルボード準優勝。女子バトルボード失格。

 といった感じです。いってみれば、ヤバ~い雰囲気が…。

 バトルボードに関しては、私の所為だしね。

 司波家全員当然把握しているので頷く。

「今回の事でかなり三校との差が殆どありません。となると新人戦が重要になってきます。

当初は大差をつけられなければ、問題なかったのですが、こうなると新人戦優勝は欲しい

ところです。しかし、本戦のポイントは新人戦の二倍。私達作戦スタッフはミラージバット

に戦力を注ぎ込むべきと判断しました」

 ああ…。ありましたね。そんなイベント。あまりの衝撃キャラの参戦に忘れてたよ。

 これで深雪は本戦に出る事になるんだよね。

 達也も、ミラージバットに戦力を注ぎ込むで察したようだ。

「深雪さん。貴女に摩利の代役として本戦に出て貰いたいの」

 担当エンジニアは引き続き私達でいくという。

「先輩方の中にも一種目しかエントリーされていない方がいらっしゃいます。私が何故、

新人戦をキャンセルしなければならないのでしょうか?」

 深雪が冷静にツッコミを入れる。

 経験者ってホントにいないの?

「ミラージバットは他と比べても難しい競技です。故に、補欠を用意していなかったのです」

 市原さんの冷静な説明が返ってくる。

 その説明にお姉様も頷いている。

「市原がいったような理由で、一年生とはいえ、練習を積んだ選手の方が見込みがあるんだ。

それに…君達の妹なら優勝できるだろう?」

 お姉様が最後に私達に向けて、面白がるようにいった。

「「可能です」」

 私と達也が同時に答える。

「お姉様、お兄様…」

 深雪が少し驚いたように私達を見る。

 首脳陣達はニヤリと笑ったり、驚いたりで反応はまちまち。

「そのように評価して頂いての事なら、エンジニアとして全力を尽くします。深雪、やれるな?」

「はい!」

 二人の世界に突入。

 また、一人ぽつーんですよ。

「それで、深雪さんが抜けた新人戦の穴は、深景さんに埋めて貰おうと思っています」

 

 

「は!?」

 市原さんがとんでもない爆弾を投下した。

 何、いきなり無茶振りしてんの!?

 私、選手じゃありませんから!!

「深雪君の練習相手を務めていたそうじゃないか」

 渡辺お姉様が悪戯に成功した小僧のような顔でいった。

 私は思わず我が家族を見る。

 同時に二人が目を逸らす。

 何故にそんな余計な情報喋るかな!?

「いやいやいや!私じゃすぐに息切れするって聞いてません!?」

 私の言葉を無視してお姉様が、二人を見る。

「君達の姉なら、やれるだろ?」

 ちょっと!無視しないで貰えます!?

「「可能です」」

 ブルゥゥゥゥタァァァァス!!

 本来なら、認められないし、あったとしても新人戦モノリスコードで適用される事を、どうも

閣下とぬりかべ(もうこれでいく)が腐れ爺に捻じ込んで実現したとか。

 どういう交渉能力してんの、アンタ等。

 

 ホント、どうしてくれようあの爺…。

 

 

               4

 

 大会四日目。

 新人戦開始です。

 どうやったのか知らないけど、私のサイズでバッチリ合わせたコスチュームが用意されていた。

 もう精神年齢合わせれば、いい歳した女があの格好するのホントにキツイんだよ!!

 ほのかとか、里美さんには一緒に頑張ろう!なんていわれた。鬱だ。

 深雪の本戦参戦は、大型モニターで大々的に発表された。

 各校、そこまで追い詰められてんのかと、喜ぶより同情している雰囲気だね。

 チッ!もっと苦労すればいいのに、大会委員会。

 

「ほのかは最終レースだな」

「はい!午後からのレースなので女子スピードシューティングとは重なりません!!」

 私と達也は今、絶賛最終チェック中。

 一応、電子金蚕の注意はしとかないと、足をすくわれたんじゃ笑えない。

 まあ、ないとは思うけどね。直接やれちゃうみたいだし、アイツ等。

 そして、ほのかは健気にもアピール中。可愛いじゃないの。

 達也はそれに押され気味。

 ほのかがここでアピールしているのには訳がある。

 まあザックリといえば、ほのかが競技向けの人材じゃなかったので、どの競技をやらせるか

悩んだ挙句、達也が担当じゃない競技に割り振られたんだよね。

 その間は私が深雪や雫を担当してもいいんだけど、難色を示す方がいてね。

 どうも、厄介な二科生は、セットで扱っておきたいという人達が根強いみたいでね。

 あんまり、分散を許すと担当が二科生なんて洒落にならない事態もあると、心配してるみたい。

 そんな訳で、ほのかは達也に担当して貰うというチャンスを逃した。

 ミラージバットまで我慢してね。私も何故か参戦ですがね!!

 この場には、深雪も同席してるけど、助け船なしの状態。

 救援要請は達也から発せられているが、私達は黙殺する。

「…本当はCADの調整も手伝いたいけど…」

 ほのかの顔がパッと輝く。

「それは無理だから」

 輝きが消灯した。

「せめて近くで観ている事にするよ」

「本当ですか!?約束ですよ!!」

 流石の達也も恋する乙女には勝てないか。

 誰かさんが噴き出したようだが、正体は確かめないよ。目が笑ってなかったら怖いから。

 

 正直、ほのかなら達也を任せられるような気がするんだけどね…。

 

 

               5

 

 まずは雫の出番となる。

 私はエイミィの担当だから、モニターで応援する。

「雫!頑張って!」

 隣じゃ、エイミィがすっかり観戦モード。

 原作では緊張して眠れないという繊細さを見せたのに、こっちのエイミィはキチンと眠れている

らしい。

 まあ、眠れないなら手を貸そうか?って脅したのが効いたのかもしれない。

 予選は対戦相手なしの、ただのクレー射撃。

 達也の調整したCADで雫が予選落ちなんて、変な妨害がない限り有り得ない。

 観戦モードにもなろうってもんですよ。

 因みに、雫は達也の調整したCADの虜になってしまったようで、事あるごとに契約しない?と

迫られているらしい。私?全く話ないよ。

 ブザーが鳴り、クレーが飛び出す。

 有効範囲にクレーが入った瞬間に砕けていく。

 能動空中機雷(アクティブ・エアー・マイン)

 達也オリジナルの魔法。私も少し口出ししてたりする。

 将来の為に威力が上がらないようにしている。

 流石にまだ無名の雫には、妨害の兆候はない。

 そのまま、パーフェクトで予選を終えた。

 

 さて、今度はエイミィの番だね。

 

 

               6

 

 エイミィがステージで特化型CADを構える。

 その姿からは緊張は見て取れない。うん。いいみたいだね。

 開始のブザーが鳴り、クレーが吐き出される。

 複数のクレーがほぼ同時に、光球に撃ち抜かれて、砕け散る。

 勿論、能動空中機雷(アクティブ・エアー・マイン)じゃない。

 破弾撃(ボム・スプリット)

 スレイヤーズからの採用です。

 光球を放ち、術者の臨んだ場所で炸裂させられる。

 熱が一切発生しないため殺傷能力も低い。競技向きだ。

 だから、正確には撃ち抜いている訳じゃない。

 クレーに接触したら炸裂するように、設定しているだけなんだよね。

 クレー以外の物に当たっても炸裂しない。

 ここら辺は、エイミィと話し合ってこういう設定になった。

 負担が少なく、連射が利くようにしている。

 エイミィとしては狩猟部に所属している意地で、キチンと狙い撃ちしたいらしい。

 決勝トーナメントでも応用が利くから、ショットガンみたいにしてもよかったんだけどね。

 どうしてこっちの世界の魔法にしないかっていうと、意外に弾丸生成して撃ち出すくらいの魔法

しかないんだよ。最適なのって。そうじゃなければ、達也みたいに自作しかないんだよね。

 まあ、当人の嗜好にそこら辺は任せるよ。勝てるなら。

 放課後にどれだけ練習付き合った事か…。

 エイミィの腕はいいから、すぐに使いこなしてたけどね。

 

 エイミィもパーフェクトで試合を終えた。

 

 

               7

 

 エイミィとハイタッチで勝利を喜び、激走して滝川さんのところへ向かう。

 うん?渾名はって?諦めたよ。この子、線引きした以上に仲良くなる気なさそうだし。

 クリステルっていうのもねぇ…。だから、止めた。どうでもいいですね。

彼女にチョイスしたのは、高速誘導弾です。

 彼女、それ程射撃に拘りないし、勝てればいいという。まあいいけどね。

 射出されるクレーは、厳密に大きさが決まっている。

 だから、それを撃ち抜く設定にしておけば、引き金を引くだけで目標を砕ける。

 誘導弾は術者からもコントロールできる。

 決勝トーナメントでは、クレーの色を設定するだけで応用できる。

 ちょっと術者に負担が掛かるけどね。

 どちらかというと、エイミィ向きの魔法なんだけど、エイミィが派手な方がいいっていうからさ。

 それで滝川さんに使って貰う事になったんだよね。

 一撃でクレーを幾つも撃ち抜いていく。

 

 滝川さんも予選程度では問題なくパーフェクトでフィニッシュした。

 

 

               8

 

 滝川さんを適当に労って、友人達の元へ行く。

 雫やらエイミィ、達也達と合流する。

 あとは予選終了まで暇だしね。

 雫は熱心で他の予選を見ておきたいというので、付き合う事にする。

「気になる選手がいる…」

 原作じゃ、そんなのいなくてアッサリと優勝したような気がするけど。

 どうも、三校の選手らしい。

 モニターじゃなくて、直接見に行く事になった。

 

 会場入りすると、客が大勢いた。

 本当に注目選手らしい。

 やっぱり、イレギュラーなのかな?

 席を人数分どうにか確保して座る。

 丁度その時、DJアーミーが喋り出す。

 一校の選手も大袈裟に紹介してたよ。

 彼も激走している一人だろうね。

『第三高校・十七夜栞選手の登場です!!第一高校出場選手全員がパーフェクトという状況で、

注目選手の一人としてどのような魔法を魅せてくれるのか!?』

 随分、力入ってますね。

 もしや、好みのタイプか?

 おお!彼女は深雪に絡んでた命知らずの一人じゃありませんか!

 会場にbe quietの表示がモニターに映し出されると、DJも会場も静まり返る。

 クレーが射出される。

 まずは普通に一つ目を砕いた…と思ったら違った。

 砕かれたクレーの破片が、他のクレーに当たり連鎖的にドンドン砕かれていく。

 ビリヤードでも見てるみたいだね。

 凄い空間把握力だね。

 未来予知に迫る演算能力。

 注目選手は伊達じゃないか。

 最後のクレーが砕かれフィニッシュ。

 会場から歓声が上がる。

 十七夜選手もパーフェクトで予選を突破した。

「今年の新人戦スゲェぞ!!」

「インデックスに登録されんじゃねぇか!?」

 あちこちからそんな声が聞こえる。

 インデックスはないな。

「ええ!?そうなんですか」

 ほのかが外野の声に反応して、達也に訊く。

「いや、登録される事はないだろう。あれは個人特有の能力だからね。もっと汎用的じゃないと。

金沢魔法理学研究所で訓練して身に付けたものだろう」

 金沢魔法理学研究所。

 結構、色物的な立ち位置の研究所だよね。

 なんせ、個人の能力アップを突き詰めるやり方だからね。

 私も噂程度でしか知らないけど。

「そんな事まで分かるんですか!?」

 ほのかがビックリして大きな声を上げる。

 達也は言葉短く肯定した。

「それにしても、三校は面子が高校生離れしている選手が多いな」

 アンタがいうなシルバー。

「お兄様達も人の事はいえないと思いますけど?」

 深雪が私と達也を見て、微笑んでツッコミを入れる。

 私は何もいっとりませんがね。

「そうか?」

 達也が首を傾げる。

 何、その反応。思わず私は呆れてしまった。

「達也さんがいてくれる限り、負けないよね!」

 ほのかが輝くような笑顔でいう。

 お刺身のツマとして私もいるよ?

 

 場が和やかになったところで、準々決勝に備えて、達也・雫、私・エイミィが席を立った。

 

 

               9

 

 途中までは道は同じという事で、四人で固まって移動していた時だった。

「第一高校の北山さん?」

 突然後ろから声を掛けられた。

 全員で振り返っちゃったよ。

 声の主は、命知らずその二(十七夜さん?)だった。

 隣にはその一もいる。ああ、雑鬼くっ付けてた人ね。

「こんにちは。第三高校の十七夜です」

 無表情で素気のない自己紹介をするその二。

「知っているみたいだけど、第一高校の北山雫です」

 一応の礼儀として初対面の為、雫が同じく無表情かつ素気ない態度で自己紹介する。

「予選は見せて貰いました。いい腕ですね。次は準決勝で会いましょう」

 まだ準々決勝終わってませんよ?

 私、楽勝だけど、貴女は?ってとこかな。

「分かった。次は準決勝で」

 雫が珍しく不敵に笑っていった。

 両者からゴゴゴゴゴッて字が見えましたよ。漫画よろしく。

 

 因みに、私とエイミィはぽつーんって感じでしたよ。

 眼中なしですか…。いや、別にいいんだけどさ。

 

 

               10

 

 :真紅郎視点

 

 準決勝。

 一校は驚異的だな。

 出場選手三人共、準決勝に上がってきた。

 こっちは一人を残して敗退したのに。

 もう一方の試合は、一校生同士の対決になる。

 しかも、三人共、魔法式の改良された魔法か完全オリジナルの魔法でだ。

 更に、エンジニアの名前を見れば、司波達也に司波深景となっていた。

 あの時に、一緒に騒動に巻き込まれた人達だった。

 いや、首を突っ込んでしまったが正しいかな?

 まさか、これ程の実力のあるエンジニアだったとは、意外だった。

 しかも、将輝が気にしてる子がだ。

 パッと見てエンジニアに見えなかったけど…。僕もまだまだって事かな。

 もう、一校に二位・三位まで取られるのは確定だけど。

 一位は三校が貰うよ。

 十七夜さんに、今から対戦する北山選手の魔法の解析結果を伝える事にする。

 予選と対戦形式になった準々決勝は、若干の変化がみられたからね。

 まあ、彼女には不要かもしれないけどね。

「自分のクレーのみを狙い易くする為に、空間に対する自分のクレーの密度を高める収束魔法

を、掛けている。相手のクレーはその反動で軌道を変えられ、得点が伸ばせなかった」

 反動といっても出力規模の違う起動式を、最大九つ使い分けていたから、相手選手も惑わされ

た。だが、彼女ならどれも対応できるだろう。

 それを告げると、彼女は不敵に微笑む。

「当然よ」

 

 北山選手に試合前に出会う。

「北山さん、宜しくお願いします」

「こちらこそ」

 十七夜さんと北山選手が、短い遣り取りを交わす。

 お互い意識しているようで、準々決勝の互いの試合をチェックしていたらしい。

 司波達也は何もいわない。僕もいわない。

「貴女の魔法。検討させて貰ったわ」

「へえ。そう。準備万端?」

「ええ。お互いベストを尽くしましょう」

 それだけいうと、二人は視線を合わせず、同じ通路を歩いて行った。

 

 僕達も視線も言葉も交わす事なく、別れた。

 さあ、僕達の戦いも始めようか。

 

 

 

 

 




 まだまだ終わらない九校戦。
 新人戦にようやく突入しました。
 魔法科高校の劣等生原作は最終章に突入したとか…。
 そろそろ読み進めないとな…。
 時間ないけど。
 修正もいずれします。投げている訳ではありません。
 一応ですが、十七夜さんは読み方、かのうです。
 フリガナ入れた方がよかったですかね?

 それでは次回も気長にお待ち頂ければ幸いです。


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九校戦編9

 随分と時間が掛かってしまい申し訳ありません。
 言い訳はするまいと思います。

 では、お願いいたします。



               1

 

 注目の三校選手・命知らずその二と雫が姿を現す。

 同時に出てきたよ。

 私はといえば、次の試合の準備を終えてエイミィ、滝川さんと一緒にモニター見物している。

 次は二人の出番だしね。

 普通は百家相手じゃ、終わりと諦めるところだけど、達也が調整し戦術を組み立ててサポート

した雫が敗退する事は考えられない。雫も学年二位の実力は伊達じゃない。

だから、リラックス観戦モードですよ。

 開始のブザーが鳴り響くと同時に、雫が能動空中機雷(アクティブ・エアー・マイン)を発動する。

 命知らずその二は、CADを構えるのみ。

 

 はてさて、どこまでやれるかお手並み拝見っと。

 

 雫は準々決勝同様に相手の撃つべきクレーを逸らし、自分のクレーを砕いていくが、向こうも

簡単にやられない。

 クレーが逸らされているにも関わらず、砕かれた破片がビリヤードのように連鎖して次々と

クレーを砕いている。

 かなりの接戦だね。本当なら手に汗握る展開だろうけど…。

「雫…大丈夫かな?」

 エイミィがちょっと心配そうにいった。

 まだ、接戦なんだから、心配いらないよ。

「雫の実力は勿論だけど、雫には達也が付いてるんだよ?このままな訳ないでしょ?」

 私は二人に自信ありげに笑ってみせた。

 実際大丈夫だしね。

 

 そして、命知らずその二の計算が狂った。

 

 クレーの破片が次のクレーに当たらなかったのだ。

 すぐさま修正したけどね。

 

 もう勝ったね、これ。

 

 

               2

 

 :真紅郎視点

 

 ポイントだけなら、今はこっちが有利だ。

 それで、見学にきた同級生達が勝てると騒いでいるが、僕の顔は強張っていた。

 同じく見学に来ていた将輝も同じだった。

 流石に将輝は気付いている。

 天秤が傾き出している事に。

「不味いぞ。ジョージ」

 将輝の言葉に僕は返す言葉がなかった。

 あれは…あのCADは当然、特化型だと思い込んでいた。

 研究者である身には、あるまじき失態だった。

 先入観に囚われ、事ここに至るまで真実に気付けなかった。

 よく相手のCADを見れば、一目瞭然だったのに!

 使われる魔法にばかり目がいって、CADの観察を怠るなんて!

 どこかで天才だなんだと、おだてあげられて気の緩みがあった。

 学生レベルの大会なんて敵はいないと。

 

 北山選手のCADは特化型じゃない。()()()だ!

 

 ドイツで発表されたお粗末な一体型。

 FLTで発表された一般サイズより大きいがキチンとした一体型のCAD。

 前例があったのに僕は見逃していた。

 あまりにレアだ、などという言い訳はするまい。

 照準補助が付いていた。ただそれだけで決めつけてしまった。

「うん。これは僕のミスだ。見事に嵌められたよ」

 僕は漸くそれだけ将輝にいった。

「嵌められた?」

「元々あれだけの起動式を、特化型が格納できる訳がない。照準補助の汎用型は実例がある以上、

警戒すべきだった!ご丁寧にあちらは、敢えて出力を抑えて態と少ない起動式で戦っていたんだ。

 こちらの誤認を誘う為にね。特化型に劣らぬ精度と速度は、選手の魔法力なしに実現しない。

 まさに自分の技術力と、選手の実力を信頼した見事な策だ!」

 一方、僕はといえば、選手を補佐する立場でありながら、それを怠った。

 これは間違いなく僕のミスだ。

「そうか…。前回と同じ数の起動式に対応するように調整してたからな」

「そうだ。あれだけ起動式を増やされたら明らかにオーバーワークだ。対応できないよ」

 将輝の言葉を引き継ぐように僕が結論を告げる。

 僕達の予想通り、連鎖はどんどん途切れていき、ポイントの差は開いていく一方だった。

 

 そして、遂に最後のショットも連鎖に繋げられず、十七夜さんは敗退した。

 それと同時に僕の敗北でもあった。

 

  

               3

 

 結局のところ、エイミィと滝川さんの試合は、エイミィの勝利となった。

 魔法の性能としては、滝川さんの方が上だけど、扱いに関してはエイミィの方が上だったのだ。

 決勝は雫VSエイミィになったが、流石にエイミィは負けてしまった。

 作戦で一応結構いいとこまでいったんだけどなぁ。やっぱり一体型はチートだね。

 じゃあ、自分でも造ればよかったって?弟の見せ場は奪えないでしょ。

 三位決定戦に関しては、命知らずその二が棄権した為、滝川さんの不戦勝。

 これで、一校は一位・二位・三位を独占する事になった。

 

「凄いじゃない!深景さん!達也君!これは快挙よ!」

 一校天幕では閣下のテンションが可笑しくなっていた。

 私達の背中を叩きまくっている。

 あの…そろそろ止めて貰っていいですかね?

 この時の私達の顔は、悟りを開いたような顔になっていたと思う。

「会長。落ち着いて下さい」

 市原さんの冷静なツッコミで、漸く叩くのを止めてくれた。

 有難いけど、もう少し早く助けてほしかったです、先輩。

「もしかして、嫌だった…?」

 閣下が私を覗き込むように見てくる。

 なんとなく潤んだ眼。おいおい、そういう表情は男に見せなさいな。

 ほら!周囲もなんだか空気が可笑しいぞ。

「いえ。喜んで頂いているのは分かりますから」

 仕方なく私はそう口にした。

 さっきの潤みが嘘のように消え去る。おい。

「でも、ホントに凄いわ!一位・二位・三位を独占なんて!」

 さっきの遣り取りが、なかった事になったようだ。

 閣下が笑顔で一同を見渡すと、可笑しな空気が霧散していく。

 私は今、恐怖政治を見た。皆さん、革命なら陰ながら声援を送りますよ?

「優勝したのも、準優勝したのも、三位に入ったのも俺や姉さんじゃなく、選手ですよ」

 達也も流れに乗る事にしたようだ。

「勿論、北山さんも明智さんも滝川さんも、よくやってくれました!」

 それを真っ先に選手に、いってあげるべきだったと思うよ。

 三人共、あまり生徒会と接点がない為、緊張していたようだが、さっきの遣り取りで脱力した

のか苦笑い気味だった。それでも声を揃えてありがとうございますといっていた。

「まあ、真由美の反応は兎も角、君達の功績は凄いものだ。間違いなく快挙だよ」

 渡辺お姉様がそういって称賛してくれた。

 だがしかし!貴女安静にしてなきゃダメでしょうが、本来は。

 なんか当たり前みたいにいるけど、ダメだからね、本当は!

「ありがとうございます」

 達也はどこまでも素っ気なかった。

 雫も普段は表さない程、熱く達也の手腕を褒め称えた。

 私が担当した二人も、お世辞をいってくれた。

「三人の使用した魔法に関しては、大学からインデックスに正式採用したいと打診があった程

ですから」

 珍しく微笑んで市原さんがいった。

 達也の能動空中機雷(アクティブ・エアー・マイン)は、分かっていたけど、私のもか。

 普通なら大喜びするとこだけどね…。

「そうですか。では…」

「お断りしといて下さい。達也のもです」

 私は達也のセリフを遮っていった。

「「「はぁ!?」」」

 閣下、お姉様、市原さんが驚きの声を上げる。

 そりゃそうだよね。魔法研究者としてはインデックスに登録されるのは、到達点の一つだしね。

 一年生は声もなく固まっている。

 達也も軽く目を瞠っている。

「ちょ、ちょっと待って!断る!?冗談でしょ!?」

 閣下が錯乱気味に詰め寄って来る。

 顔近いです。

 私は手で閣下の顔を押さえると、グイグイ押し返した。

「そんな事したら、もうインデックスに登録できなくなるかもしれないんだぞ!!」

 お姉様も大慌てでいった。

 まあ、あれ半強制みたいな感じだから、断ったらどうなるか分かってんだろうな!?的なとこ

ありますよね。

「弟なら、向こうから頭を下げてくるぐらいのものを考えると確信しています。私に関しては、

登録できなくなっても別に構いませんし」

 私は顔色一つ変えずにいった。

「…それだけですか?」

 市原さんは流石なもので、逸早く立ち直ったようだ。

「理由はあと二つですね。一つは、いずれも応用すれば戦術級以上の魔法になる可能性がある

からです」

 私は冷静な声でそういった。

「そんなの使う側の問題じゃない!」

 閣下が正論をいう。正論が正しいとは限らないんだな、これが。

「開発された時、そして使用された時、魔法大学が身を挺して私達を庇ってくれると思います?

それとも十師族…いえ、ナンバーズが総出で庇ってでもくれるんですか?」

 そうなれば、連中は庇うどころか下手すればスケープゴートにでもしかねないよね?

 非魔法師に何かいわれれば、下手に出るのが魔法師だ。

 魔法使えない人間見下してる癖にね。

 十師族でさえそうなのだ。魔法大学が庇ってくれたとしても、大して役にも立たない。

 だったら、自分で身を護るしかないじゃない。

 実のところ、原作での出来事を覚えていてのセリフだけどね。

 だから、私達が新しく造った魔法は、徹底して競技用にした。

 達也に口出ししたのは、この部分だったりする。

「今回使用した魔法も、九校戦が終わったら完全にCADごと潰して破却します」

 今回は勝つ為に使ったけど、次回から使わないという意思表示でもある。

 私の強い口調に全員が黙り込む。

「あと一つは家の事情です」

「姉さん!!」

 達也が鋭い声で制止するが、私は片手を上げて頷いて見せる。分かってるよ。

「深雪は兎も角、私達が目立つ事をすると、うちの素晴らしい両親がハッスルするんですよ」

 それだけでみんなが疑問を差し挟まなかった。

 魔法師の家系って例外はあるけど、基本歪んでるからね。特にうちは酷いもんだよ。

 色々と愉快な想像を掻き立てた筈だ。

 最終的にこれが決定打になり、納得してくれた。

 

 この事は、閣下から魔法大学に返事をしてくれる事になった。

 渋々だったけどね。

 

 

               4

 

 :将輝視点

 

 まるでお通夜のような有様だな。

 スピードシューティングで上位を独占され、緊急会議をする事になったが、みんな一様に

意気消沈といった感じだ。

 隣に座るジョージは流石に頭の切り替えが済んでいるようで、今は平然としている。

 奈津は俺の後に従者のように立っている。

 別に座っていいんだがな。いっても聞かなかったんだ。

 俺は誰も口を開かないので、先頭を切って話す事にする。

 話題は当然ながら、一校の戦力分析についてだ。ジョージの受け売りだけどな。

「それじゃあ、一校は彼女達の個人技能で上位独占を果たした訳じゃないんだな?」

 同級生の一人が漸く口を開く。

 俺は全員を見渡してから頷いた。

「確かに、北山選手の魔法力は卓越していた。だが、他の二人はいい腕ではあっても、そこ

まで脅威には感じなかった。魔法力だけなら、あの結果にならない筈だ」

「それにバトルボードは今のところ、うちが有利。今年の一年が特別優れてるとは思えないよ」

 俺の言葉にジョージが付け加えるようにいう。

「選手のレベルでは負けていないとすれば、他に要因がある」

 俺の言葉に今まで口を利いた事のない人間が声を上げた。

「では、二人はなんだと思うのですか?」

 一色愛梨だ。

 大抵は三人で一緒だが、今日は十七夜がいない。

 余程ショックだったのか、三位決定戦にも出られなかった。この場にもいない。

 ハッキリいって、試合には出てほしかったけどな。

 俺は驚きを顔に出さずに、ジョージに視線を送る。

「エンジニアだね。スピードシューティングに付いたエンジニアが凄腕だったんだよ」

 俺は、ジョージの意見に頷く。

「エンジニアが凄腕だからって!」

「一色さんは、北山選手のCADを見たかい?」

 一色のセリフを遮って、ジョージが訊く。

「CADですって?特化型だったというくらいは…」

 一色はあまり見ていないようだ。

「あれは汎用型だよ。車載用汎用型セントールシリーズだった」

 ジョージは淡々と正解を告げた。

 俺を除いた全員が驚愕する。

「そんな!?照準補助が付いていたのくらいは見ているわよ!!」

 一色が抗議するように声を上げる。

 俺達にいわれても困るがな。

 ここで、集まった同級生達がFLTのヤツか!?とか、レギュレーション違反だ!とか、

騒ぎ出した。

「あれは自作ものだよ。あのエンジニア…司波達也がレギュレーション違反なんて初歩的なミス

はしないだろうね。チェックも通っている訳だし」

 ジョージの淡々とした声が、騒いでいた同級生達を黙らせた。

 漸く気付いたようだ。俺達がどんな化け物を相手にしなければならないのか。

「今回、北山選手が使用したCADは特化型と変わらない精度と速度、系統の異なる起動式を

処理する汎用型の長所を兼ね備えたものだった。間違いなく高校生レベルじゃない。一種の

化け物だ」

 俺はみんなの考えを肯定するように、ダメ押しのセリフを口にする。

「一人のエンジニアが、全ての競技を担当するのは不可能だけど…」

「司波達也が担当する競技は、苦戦を免れないだろう。少なくともCADで二・三世代分の

ハンデがあると考えるべきだ」

 ジョージのセリフを引き継ぐように、俺が言葉を続けた。

 向こうも外部に敵を抱え込んでいるから、キツイ立場だろうがな。

 

 俺達以外は、重い沈黙に包まれていた。

 このまま、会議はお開きになった。

 

 

               5

 折角のお祝いムードを台無しにしてしまったので、天幕に居辛くてフラフラしていた。

 何も考えずに歩いていたら、いつの間にやら別の学校のいる区画に来てしまったようだ。

 いかんいかん。戻らないと。

 背を向けた瞬間に、後ろから声が聞こえてきた。

「栞!聞こえているんでしょ!?返事して頂戴!」

 うん?なんかあった?

 何か困ってるなら、手を貸せそうなら貸そうか。

 だが、私も日々成長している。

 曲がり角から、そっと覗いてみる。

 そこには命知らずその一、その三がいた。

 この面子がいるという事は、部屋の中にいるのはその二かな?

 三位決定戦に出てこないと思ったら、引き籠ってたのか。

 ショックなのは分からないとはいわないけどさ。どうかと思うよ。

 フラグが立つ前に去るとしますか。

 アッサリと手を貸す事を止める私。

「一人にしておいて…私、もうダメだから、私の残りの競技は代役を立てて…」

 微かな声だけど、私には不幸な事に聞こえてしまった。

 静まり返っているからというのもあるし、私の耳がよかったというのもある。

 勿論、事情はあるんでしょうね。彼女にも。

 でも、私は正直に白状するとムカついてしまった。

 命知らずその二に対してだ。

 スピードシューティングを投げただけじゃ飽き足らず、他の競技も止める?もうダメ?

 その程度で潰れるヤツが深雪に喧嘩を売ったの?

 ふざけるな。

 何やらその一がゴチャゴチャいっていたけど、私は引き返してしまった。

 命知らずがいる方へと。

「?ちょっと貴女、何の用なの?」

「おお!予感はこれじゃったか」

 その一と三がそれぞれ喋るが、私は無視して通過すると、扉の前に立った。

「ちょっと!なんなのですか!」

 その一が私の肩を掴むのを振り払い、私は足を振り上げた。

 次の瞬間、扉が勢いよく壁に激突する。

 簡単な話、扉を蹴破ったんだよ。某BAU捜査官が得意としていたヤツだ。

 (注:勝手な個人の言い分です)

「おお!」

 なにやらその三が感嘆の声を上げる。

 なにやら喚き散らしているその一を無視して、部屋に踏み込んでいく。

 部屋は真っ暗で、入ってきた私をその二が虚ろな目で見ていた。

「アンタ、百家でしょ。負けたぐらいでギブアップできるとでも思ってるの?」

「だからこそよ。負けた人間に価値なんてないわ…」

 その二が視線も向けずにボソボソとそういった。

「価値ならあるでしょ。勝者を称えなさい。あの百家を打ち負かした人間に」

「なんでそんな事しなきゃいけないのよ!!」

 漸くその二がこっちを見た。

 私はその憎悪すら篭った視線を、平然と受け止める。

「それがナンバーズの義務だと、私は思うからよ」

「「何ですって!?」」

 奇しくもその一とその二が同時に激昂する。

「じゃあ、なんの為にいるの?アンタ等ナンバーズって」

 私は原作を読んでいた時から思っていた事を問う。

 特権を与えられ、国から優遇される。その実力を維持し、向上させないといけない。

 いうなればナンバーズは相撲に例えると、三役だと思う。

 強いのは当たり前、下の挑戦には真っ向から勝負を受けないといけない。

 それに下が勝てば金星だ。負けた側は次はもっと強くなると決意を新たにする。

 そうする事で切磋琢磨していく事で、実力が上がっていく。

 それが正しい姿だと思う。

 なのに負けると、みっともないくらいに連中は体裁を気にする。

 決して下にいた者を称えない。負けた人間を恥だという。

 勿論、これは私の勝手な意見だ。何か政治的な理由やらが存在してるんだろう。

 でも、納得いかない。ガキだって?結構だよ。

 魔法業界を牽引するといいつつ、伸びようとする人間の頭を押さえつける。

 選ばれ引き上げられる人間もいるが、それはごく稀なケースだ。

「それにダメなんてのはね。最後まで戦った人間が初めて口にしていい言葉よ」

「こんなので!!最後まで恥を晒せっていうの!?」

 震える手を私に突き出して、その二が叫ぶ。

 その手を私は掴んだ。

「そうよ。光に向かって一歩でも前に踏み出そうとする限り、人間の魂に真の敗北はない!!」

 血界戦線のクラウスの言葉だ。

 …少し違うかもだけど。いい言葉だよね。

「恥にするか、勇気にするか、それは貴女の気持ち次第でしょ。投げ出すのはいつでもできる。

戦わずに引き籠る方が私は恥だと思うけどね」

「っ!!?」

 虚ろな目よりはマシになったかな。

「悔いが残らないように全力でやれば?親や親族がなんといおうと」

 例え、家のみんなが罵倒しようと、ここで引けば彼女は一生戦えない。

 重要なのは自分自身の気持ちだ。

 それができるだけアンタはマシなんだよ。

 

 部屋が静まり返る。

 一人ニコニコしてる人がいるけど。

 ああ!!ガラにもない事いいまくったよ!!サッサと帰る!! 

 偉そうな事いえる人間じゃないのにさ!!黒歴史確定!!

 

 いつの間にか入り口にはギャラリーが一杯いた。

 ヒィィィィーー。

 掻き分けて外に出る。

 

 日々成長してるっていったけど、あれは嘘だ。

 

 

               6

  

 羞恥心で足早に三校区画を立ち去る。

 ああああああ!!記憶抹消したいですよーーーー!!

 覆水盆に返らずだけどさ!

 扉?大丈夫だよ。軍には現在進行形で迷惑しか被ってないから!

 修理代くらいタダにしてくれるよ!いざとなれば、風間天狗のポケットマネーで宜しく!

「もし!ちょっと待ってくれんかの!」

 後から妙な口調で呼び止められた。

 ガバっと振り返ると、そこにはちんまい命知らずその三がいた。

「お友達はいいの?」

「大分目に力が戻っておったからの。大丈夫じゃろう」

 それだけが救いかな。

「まあ、なんとなく予感はしておったが、随分な荒療治じゃったな」

「正直、ただムカついただけだから。治そうと思った訳じゃないよ」

 四葉の直系として育てられた深雪。

 才能もないのに無理矢理魔法師にされた達也。

 深雪は幼い頃から魔法漬けだった。愛情など与えられず育ち、魔法師しか生きる道を許され

ない子だった。魔法技術向上の為、何度も容赦なく叩きのめされていた。勿論、泣こうが喚こう

が許されない。幼い深雪はいつも泣いて嫌がっていた。

 達也は精神構造を弄り回され、感情が殆ど動かなくなってしまった。理不尽と感じようと、

耐え得る精神に改造されてしまった。

 訓練は種類は違えど、二人共地獄だった筈だ。それに耐えて今がある。

 だからこそムカついたんだ。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 かくいう私も地獄の研鑽を積んだ。チートというのも磨かないと光らないんだよ。

 あの時の私はサッサと家を出ていきたくて、自活できる技術や火の粉を払う方法の習得に必死

だった。だから、無視していた。自分の弟を妹を。

 結局のところ、その二にやった事は、ただの八つ当たりに近いものがあったと思う。

「それでも、感謝する。ワシ等はあやつの事情を知っておるからの。こういう時、どうも上手く

いってやれん」

 命知らずその三が苦い顔でいう。

「こっちも、勝手に乱入して勝手な事いってごめんね」

 私は素直に頭を下げた。

 少しは頭が冷えたからだ。

「いやいや。よいのさ。結果オーライというヤツよ」

 そういってその三が笑った。感情豊かな人だな。

「まあ、今更ではあるが、自己紹介しようかの。ワシは四十九院沓子じゃ!」

「司波深景です」

 

 話してみると気が合うね、この子。

 古式に精通している事も分かった。

 話しているうちに、いつの間にか友達になってたよ。

 メアドや通信ナンバーも交換してしまった。

「ほう!深景は古式術具が専門なのか!」

「うん。だから九校戦のCADはできなくはないって感じかな」

「できなくはないでアレか。お主もやるな」

 背が小っちゃいから同級生とは思えないね。

 難しい顔して眉寄せてる姿が、なんか可愛い。

「おお!そうじゃ!ワシの術具も造ってくれんか?」

 まあ、いいけど。大丈夫なの?百家ともなると専属がいるでしょ。

 私の表情からいいたい事を察したのか、沓子が二ッと笑う。

「心配いらん。ワシに専属で頼んでおる者はおらん。どうも合わんでな」

 沓子が苦笑いしていった。

 ふ~ん。じゃあ今度データでも送って貰うか。

 私は沓子の術具の製作を請け負った。

 沓子もデータにして送るといった。

「それではの。これから試合じゃ」

 

 おおい!試合前にこんな話込んでよかったんかい!

 CADの確認とかあるでしょ!?

 私も気付かなかったよ!

 沓子がお気楽に走り出そうとした時、視界に漂っている人物を発見した。

 

「ほのか。何やってんの?」

 

 

               7

 

 ほのかは、はわわとかあわわとかいってそうな感じで、フラフラと廊下を漂っていた。

 プレッシャーに弱いにも程ってもんがあるでしょ。

「ふむ。お主の友か」

 私は苦笑い気味に頷いた。

 沓子が一つ頷くとトコトコほのかに近寄っていった。

 いや、試合にいかないと間に合わないよ?

 沓子はほのかの前に立つと、顔を下から覗き込むようにして見た。

 そこまでされると、流石にほのかは気付いたが、随分邪推しているのか警戒するように

身構えた。

「まあ、そう警戒するな!()()なら起きぬよ」

 ほのかが固まる。

「お主がそこまで緊張する事もあるまい。予選などお主の実力なら余裕じゃ」

「え?ええ!?」

 沓子は背丈的に肩に手が届かず、ほのかの腕をポンと叩いて走り出した。

「深景ぇ~。それでは、またのぅ~!」

 沓子は背を向けて、それだけいうと走っていってしまった。

 

 慌ただしいというか、なんというか…。

 あと、ほのか、不思議そうな顔してるけど、全部顔に出てたから。

 

 

               8

 

 :ほのか視点

 

 バトルボードの一校の待機場所に達也さんが訪ねてきた。

 約束を守ってくれたんだ!嬉しい!

 あの後、深景さんに拉致されてエンジニアの中条先輩のところに連れていかれたけど、その時

にはもう緊張は綺麗さっぱりなくなっていた。

 いい事が続くのは嬉しい。

 でも、来るのが早いような…。

「司波君。どうしたんですか?」

 中条先輩が真っ先に疑問を口にする。

うん。やっぱり少し早いよね…。

「居心地が悪くて避難させて貰えないかと…」

 その言葉で私にも察しが付いた。

 達也さんが二科生であるだけで、敵視している人達が原因だと。

 達也さんは、どうして二科生なのか分からないくらい凄い人なんだから、素直に認めればいい

のに、男子スピードシューティングのメンバーが対抗意識剥き出しにしてた。

 でも、そのお陰で達也さんが早く来てくれたんだから、今回は感謝しなきゃいけないかな?

「ああ…そういう事ですか」

 中条先輩も事情を察したのか、納得してた。

「ええ…。ですので何かお手伝いできないかと」

「それじゃあ、他の選手も見ておきたいので、司波君が一緒にいて上げてくれますか?すぐに

戻りますから」

 中条先輩がそういって踵を返す。

 でも、私はハッキリと見た。先輩が私に微笑んだのを。ありがとうございます!先輩!!

 二人っきりだ!!って何を話せば!?

「試合まで一時間はあるな」

 達也さんが時計を見て呟く。

「そうなんですよ!」

 達也さんはちょっと考えて口を開く。

「なら、他の選手の試合をチェックしに行こう」

 そういうと達也さんは、私を促して歩き出した。

 試合の観戦といっても、二人っきり!中条先輩から頼まれたからっていうのが、残念だけど。

 人混みから守るように私を連れて行ってくれる。

「丁度、時間的にほのかがマークすべき相手が出る」

 うん?マークする?

 観客席に出ると丁度出走間近だった。

「第三高校・四十九院沓子選手だ」

 達也さんの視線の先には、さっきの深景さんと一緒にいた小さい女の子がいた。

「あっ!さっきの…」

「知り合いか?」

「いえ、さっき声掛けられただけですけど、深景さんは親しそうでしたよ?」

「姉さんが?」

 達也さんが何故か溜息を吐いた。

「今は姉さんの事は置いておこう。俺が師匠筋から聞いた話だが、四十九院家は由緒正しい

神道系古式魔法を受け継ぎ、ルーツは白川家に行き着くらしい」

 白川家というのは神道の大家で水に関する魔法を使う家系なんだって、達也さんが説明して

くれた。

 でも、それってもしかして…。

 私の表情から、気付いた事を察した達也さんが頷く。

「そう。()()()()()()()

 その言葉と同時にスタートのブザーが鳴り響く。

 真っ先に飛び出したのは、あの四十九院さん。

 追い付こうとすると、ボードが止まったり、流されたりして全く四十九院さんに近付けない。

 圧倒的な大差で彼女はトップでゴールした。

 

 ええ!?あの子と競うの!?

 

  

 

 

 

 




 深景は小さい頃、苦しんでいた妹を放置していました。
 勿論、性格的にまだ深雪が、攻撃的だった所為もあります。
 今はそれを後悔しています。
 だからこそ、一度負けただけでダメ発言は、深景にはムカ
 つきました。事情があったとしても、いわずにいられない
 事でした。でも、介入すべきじゃない事も、深景も承知し
 ています。だから八つ当たりと称しています。
(因みに、十七夜さんは漫画では三位決定戦に出ている事は
 承知しています。今回敢えてです)

 クラウスのセリフについては敢えて調べませんでした。
 なので、少し違っていてもOKとして下さい。
 記憶なので少し違うくらいが丁度いいでしょう。

 しかし、全然、話し進んでませんね。すいません。

 次回も気長にお待ち頂ければ。




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九校戦編10

 長く投稿できずに申し訳ありません。
 漸くできましたので投稿します。

 では、お願いします。


               1

 

 :ほのか視点

 

 バトルボードで水面と水流を好きにされたら、どうにもならないよぉ!

 雫が結果を出したのに、私、もしかしてダメかも…。

 気分が沈んでいく。

「ほのか」

 どこまでも沈み込んでいきそうになった時、達也さんの声がして顔を上げた。

「確かに有力選手で強力な魔法を使うが、必要以上に恐れる必要はない。ほのかだって負けて

いないさ。まずは予選の通過に集中しよう。」

 達也さんの真摯な眼差しに、私の心は少し浮き上がった。

「はい」

 私は感謝を籠めて頷いた。

 私はバトルボードの特訓の時の事を思い出していた。

 

 

 私は小さい頃から本番に弱かった。

 実力を発揮すれば大丈夫と、よく励まされたけど、それもプレッシャーにしかならなかった。

 その失敗体験をずっと引き摺っていると、頭では分かっていても、どう仕様もならなかった。

 その所為で今もそれは改善できていない。

 具体的には、夜に眠れなくなったり、挙動不審になったりする(人から聞いた話だけど)。

 あれは、練習用に造られたコースで練習をしていた時だった。

 雫からは、アドバイスとして実力を磨くのが一番の勝利への早道、と聞いていたから、私は

体力トレーニングとミラージバットの練習以外は大抵コースに出ていた。

 渡辺先輩の助言もあったからだ。

『うん?どうやったら速く走れるか、か?スピードを出せばいいというものでもないしな。

強いていうなら、コースのどこで減速するか、どこまで加速するか。タイムトライアルでは

ないから、相手を如何に気分よく走らせないか…だろうな』

 バトルボードで女子高生最強から、アドバイスを貰おうと質問したら、その答えが返ってきた。

 雫のいう通りという事だろう。

 近頃では体力もようやく追い付いてきて、思う通りの走りができるようになってきている。

 みんなから筋肉が付いてきたと、揶揄われるけど…。

 私は通しでコースを走る。

 ゴールすると同時にストップウォッチを確認する。

 悪くないタイムだけど…。これでいいのかな?

 不安が頭を擡げる。

「ほのか」

 突然、声を掛けられて驚いて顔を上げると、達也さんがいた。

「済まない。驚かせる積もりはなかったんだが…」

 達也さんが申し訳なさそうにするのを、私は顔をブンブン振って、そんな事ないと告げた。

「い、いえ!ちょっと考え事してただけですから!達也さんこそ、どうしてここに?」

 達也さんは自分が担当する競技の練習には、可能な限り付き合ってくれる。

 この時間は、確かピラーズブレイクの練習があった筈…。

「いや、雫から随分煮詰まってると聞いてな。見てきてほしいと頼まれたんだ」

 雫!!ありがとう!!…じゃなくて!!担当競技じゃないのに、わざわざ抜けさせちゃ、ダメ

なんじゃないの!?

「いや、心配はいらない。今は自主練の時間だ。キチンと最後には顔を出すさ」

 達也さんが私の心を読んだみたいにいった。

 多分、また顔に出てたんだなぁ…。

 羞恥で顔が赤くなる。

「どこか問題点はあるか?」

 達也さんらしく単刀直入だった。

 確かに煮詰まっているといえるし、私は話してみる事にする。

「漠然としてて申し訳ないんですけど…。チャンとやれてるのかなって」

 私は雫と違って魔法が上手いとはいえないし、運動神経も優れているとはいえない。

 そういった事を私なりに伝えた。

 達也さんは要領を得なかったのか、少し悩ましい表情だった。

「実際に走って見せてくれないか。話はそれからだ」

 ああ!そうですよね。

 私は頷くと、スタート位置まで戻って、達也さんの合図でスタートする。

 フィニッシュ。

 達也さんはモニターを見ながら、難しい表情をしていた。

 やっぱり、何か問題かな?

 でも、これで直るかも。

「正直、問題らしい問題はない。寧ろ、この期間にこれだけ仕上げた事に驚くよ」

 あれ?なんか予想と違って、褒められちゃった?

「となると問題は…。担当の中条先輩には失礼な事だけど、少し作戦を考えよう」

 達也さんが、ボードを持って上がってくるように私にいう。

 私は大慌てで上がって、達也さんの隣に行く。

 達也さんは、コース横に設置されたベンチに座って待っていた。

「そんなに慌てなくて大丈夫だよ」

 達也さんが苦笑いする。

 私は赤くなりつつも、ごにょごにょと声にならない事をいって、隣に思い切って座る。

 達也さんは、既に魔法の起動式の作成に入っていた。

 凄いな。起動式をこんなに簡単に作れちゃうんだ。

 達也さんは起動式を作り終えると、私に見せてくる。

「スタートと同時にこれを使おうと思うんだ」

 覗き込むと閃光魔法の起動式みたいだった。

 妨害するって事だよね?でも、これ反則じゃ…。

「確かに、直接の干渉による妨害工作はルール違反だ。だけど、水面に干渉した結果ならルール

違反にならない」

 うっ。また、顔に出しちゃった…。

「でも、妨害魔法を使うくらいなら、実力を鍛えた方がいいって雫も、渡辺先輩もいってました

よ?」

「ほのかじゃなければ、それは正論だ。だけど、ほのかの魔法特性ならスタートダッシュの妨げ

にならずに、行使できる。これは、ほのかしかできない事だ」

 私だけの…。

「頑張ります!!」

「あとは練習して確実にものにしよう」

「はい!!」

 他にも優勝までの作戦も一緒に考えてくれた。

 

 

 担当は達也さんじゃないけど、作戦は達也さんが、CADは中条先輩が完璧に仕上げてくれた。

 中条先輩は、CADに入れる魔法に首を捻ってたけど。

 あとは、私が応えればいいだけなんだよね。

 

 いよいよ、私の出走が近付く。

 

 

               2

 

 私は達也と同じ担当だから、キッチリほのかの応援に行きますよ!

 沓子とは、友達になったけど、それはそれだからね。

 達也に沓子の事を聞かれたけど、アッサリと友達になった事を認めたら呆れられた。

 ちょっと、商売も絡んだからかな。

 いいじゃない!私はシルバーみたいな高給取りじゃないんだよ。

 給料?少し意見いったりしてるから、少し貰ってるけど、お小遣い程度だよ。身内だし。

 新人戦の妨害に関しては、未知数だ。

 このまま大勝ちすれば分からないけど、今のところは海の物とも山の物ともいえない新人。

 そこまで気張る事はないと思うけど、友達優先で監視任務も致します。

 

 ほのかは達也パワーが効いたのか、挙動不審な感じはなく、落ち着いてスタート位置にいる。

 大丈夫そうだね。

 因みに、もう例のサングラスは配られている。

 不思議なんだけど、CAD調整したのCADオタの筈なのに、なんで作戦知らないの?

 一応、担当なんだから、作戦にも興味持とうよ。

 あっ…そろそろスタートだね。

 スタートのブザーと同時に、水面に反射する光が有り得ない閃光を放つ。

 私達以外視界が利かなくなってるね。

 天空の城のあの人みたいに、目がぁ~の状態で落水する選手も出てるよ。

 お気の毒に。

 当のほのかはといえば、スタートダッシュを一人決めて単独トップに躍り出ている。

 雫と深雪はお気に召さないみたいだけど、CADオタは感心していた。

 私?いいんじゃないの、勝てれば。 

 ほのかはのびのび走ってるね。

 他の選手も慌てて追いかけているけど、今更どうにもならに距離を離されている。

「これはほのかに悪い事をしたな」

 達也が苦い表情でいった。

「どうしてですか?司波君の作戦通りですよね?」

 CADオタが不思議そうに尋ねる。

「単純にスピード勝負で勝てたようですから…」

「それは分かっていた事でしょ?問題はほのかのメンタルだったんだから、いいんじゃない?」

 今更気にしてもどうにもならないよ。

 それに、ほのかもあのリードがあるからこそ、あそこまで実力を発揮したんだから、悪い結果

じゃない。これで自信が付けば御の字じゃない?

 私の語外の言葉に気付いたのか、達也もそうだねと苦笑いして頷いた。

 ほのかは最初の太陽拳でセコイと思われるかもしれないけど、かなり速い。

 二位を大きく引き離しほのかは一位で予選を通過した。

 

 予選終了後、達也は盛大にほのかに抱き着かれていた。

 男なら、少し反応して上げなさい。困ってないで。

 そして、深雪。殺気を少し抑えなさい。少しくらいなら可愛いもんだからさ。 

 

 ほのかはそれから幼稚園まで遡って失敗譚は語り、今回の勝利の意味の大きさを語っていた。

 

  

               3

 

 新人戦一日目が終了し、一度天幕に戻る。

 ほのかの勝利でいい気分だったのが、一校天幕に戻って台無しになった。

 最近、戻るとあまりよくない話をされるね。

 原作で知っていたけど、男子の件だ。

 達也と私に対抗意識を燃やし、ヤル気を空回りさせて負けて更に空回りという悪循環。

「森崎君が準優勝したけど…」

 あとは軒並み予選落ち。

 因みに競技はスピードシューティングです。

 閣下も失望を隠せない様子。

 まあ、ここに空回り男子連はいないからいいけどね。

「女子の貯金がまだ効いています。そこまで悲観的になる必要もないと思いますが」

 市原さんは冷静に指摘する。

「そうだな…。女子ができ過ぎだったんだ。今のところ新人戦はウチが有利という事で、よしと

しないとな」

 渡辺お姉様が自分に言い聞かせるように、市原さんの意見に頷いた。

 だが、ここで空気を読まない漢が一人。

「だが、男子の不振は早撃ちのみではない。他の競技もだ。このまま不振が続くようなら、今年は

よくとも来年に差し障りが出るかもしれん。どこかで梃入れが必要だな」

 嫌な現実に直面して、閣下とお姉様が顔を顰める。

「しかし、今更どうする?」

 お姉様が十文字さんに疑問点を問い質すが、明確な返事が返ってこなかった。

 梃入れも結構なんですが、私を使わない梃入れでお願いしますね。

 女子の私に、男子の梃入れなんてできませんがね!

 それと毎度の事ですが、私と達也がここにいる意味が分かりませんが?

 

 この時、私は重要な事をど忘れしていた。

 

 

               4

 

 :愛梨視点

 

 新人戦一日目が終了した。してしまった。

 明日にも栞の出番がある。

 今日のように試合を棄権するのは、流石にさせられないし、できない。

 あの滅茶苦茶な女の所為で、栞とは碌に話もできずに別れる羽目になった。

 全く。沓子も何を考えているのか、あんな女といつの間にか仲良くなったらしい。

 あの女と戦う機会があれば、完膚なきまでに打ちのめしてやる。

 私は栞の部屋の前に立って、修理された扉をノックする。

 今、話してダメなら栞のいう通り、代役を立てるしかない。

 その時は私も覚悟決めなければならない。

 だが、私の気負いは肩透かしを食った。

 アッサリと扉が開いたからだ。

「……」

 まだ、顔色がよくないけど、生気は戻ってきているようだった。

「栞?」

「明日のピラーズブレイクの件でしょ?みんなが許してくれるなら、出場させて貰うわ」

 私は驚くよりも安堵の方が勝った。

このまま立ち直れないかと心配したから。

「ホッとしたわ。栞。このままだったら代役を立てるしかないと思っていたから…」

「でしょうね。それが常識的な判断よね」

 栞が苦笑いして私の言葉に頷く。

 彼女も自分でそれを望んでいたものね。

 立ち直ってくれたのは嬉しいのだけど…。

「引き籠っているのが、バカバカしくなったからっていうのもあるわ。引き籠っても扉がこの通り

の有様になるしね」

 私の疑問が顔に出ていたのか、栞が訊くよりも早く答えを返す。

 二人で真新しい扉に視線を向ける。

 だけど、扉を見た時の感情は別だった。

 栞は苦笑いで私は怒りだ。

「それにナンバーズを踏み台扱いするなんてね。あそこまでいわれたら、見返してやろうって気

になってきたのよ」

 栞が立ち直ってくれたのは嬉しい。

 だけど、理由が納得いかないのだけど!

 栞にとっては、自分の価値観を破壊されるような発言だった筈だ。

 

 もしかしたら、逆なのかしら?

 

 彼女の実家は、数字落ち(エクストラナンバーズ)になってしまった家だ。

 原因は父親の不手際だったと聞くけど、詳細は流石に知らない。

 それが原因で、彼女の両親の仲は急激に悪化した。

 そのとばっちりは、彼女にも及んでいたそうだ。

 だが、捨てる神あれば拾う神ありで、彼女の才能を十七夜家が目を付けて引き上げたのだ。

 彼女は常々いわれている。

 負ける事は許されないと。

 故に、彼女は負けるのを恐れていた。

 折角這い上がった場所から落とされるのを恐れた。

 しかし、あの女はそんな想いも無視していった。

 勝者を素直に称えろと。

 そして、それを糧に更なる研鑽をしろと。

 一度負けたくらいで、潰れるような者に未来などない。

 何度失敗しようと、諦めずに研鑽し続けろという意味の言葉に救いを感じたのかもしれない。

「光に向かって一歩でも前に踏み出そうとする限り、人間の魂に真の敗北はない…ね」

 思わず、あの女のいった事を口にしてしまう。

「ふざけてるわね」

「ええ。ふざけてるわね」

 私達は笑い合う。苦笑いではあるけど。

 随分、久しぶりのような気がする。

 実際は、それ程、時間は経っていない筈なのに。

 

「「叩き潰してやりましょう」」

 私達は、あの失礼な女に借りを返してやる事を誓った。

 

 

 

               5

 

 私と達也は参加意義不明の会議を終えた後、部屋に帰る途中だ。

 柄にもない事やっちゃうわで、疲れたよ。精神的に。

 二人で部屋の前に立ち、ドアノブを握ろうとして止まる。

 横にいる達也に視線を送る。

 達也も当然気付いている。

 部屋の中に人の気配がする。

 動いていないし、感じからするとベットか何かに座ってる?

 達也が、私に割り込むようにして身体を滑り込ませると、ドアノブを私の代わりに握った。

 全く、強引だな。

 私は押されるような形で場所を譲る。

 達也が躊躇なくドアを開けると、侵入者の姿がすぐに確認できた。

 それは、マイシスター深雪だった。

 達也はもう部屋にいる深雪の存在が分かってたか…。

 まあ、繋がっている訳だから当然だったよね。

 警戒した私に気を遣って、代わりに開けてくれたんだろう。

 すまん、弟よ。

 深雪は私の予想通りベットに座って、私達を待っていたようだ。

 ああ…そういえば、そんな出来事あったよね!今、思い出したよ!

「こら!何時だと思ってるんだ」

 達也が厳しい声で深雪を叱り付ける。

「睡眠をキチンと取っておかないと、実力を出し切れない事もあるよ?それに美容にもよくない」

 私も達也の援護に回る。

 深雪は、私達の言葉にいちいち反応して肩が揺れる。

「申し訳ありません!」

 勢いよく立ち上がって頭を下げるマイシスター。

「分かればいいんだ。姉さん。深雪を送っていくから…」

「待って下さい!少し、ほんの少しだけ、お時間を頂けませんか!?」

 深雪が、達也の言葉を遮るとは珍しい。

 ええっと、どういう用件だったけ?

「…本当に少しだよ?」

 深雪に甘い達也が折れる。まあ、私も甘いけどね。

「雫に聞きました。お姉様、インデックスに登録される名誉を、お兄様の分も含めてお断りに

なったそうですね」

 ああ、その件だったか…。

「深雪は抗議に来たのかな?」

 達也の意志も確認しなかったからね。

 深雪は俯いたが、表情が暗く沈んでいる事は隠し切れない。

「いいえ。雫から聞きました。叔母上の御意向を汲んだ結果だと…」

「より正確にいえば、危ないからだけどね」

 それでも深雪の表情は、明るくはならなかった。

「俺も断る気でいたよ。姉さんがいい出さなくてもね。魔法大学の調査力は侮れない。シルバー

は兎も角、司波達也・司波深景では四葉との繋がりを暴かれる可能性は、否定できない」

 深雪が、耐え切れずに泣きそうな顔をする。

 深雪はその理由に関して何もいわない。

「九校戦出場だけなら、どうにかなるだろう。しかし、インデックスに登録となると脚光を

浴びる事になる。そんな事を、あの叔母上が笑って認めると思うかい?」

 尤もな話だ。

 嫌になる程の完璧な理由だ。

 だからこそ、深雪は何もいえない。

「今はまだ力が足りない。叔母上を倒したとしても、別の厄介な存在が出てくるだけだ。暴力

だけでは、屈服させる事はできない。今は従うより他ない。俺も姉さんも」

 だからこそ、達也は常駐型熱核融合炉を造ろうとしている。

 それは魔法師全体の為になる事だが、造る大部分の理由は私達の為だ。

 達也だって、こんな遠回りは望んでいない筈だ。

 ただ、これが最善だと、自分に言い聞かせているだけだ。

 深雪が私達に抱き着いてくる。

 三人でくっ付いている感じだ。

「味方ですから…いつまでも御二人の味方ですから…」

 深雪が囁くように私達にいった。

 私と達也は、それぞれ深雪の背を片手で抱き締めてやる。

 

 ありがとうね。深雪。

 

               6

 

 :真由美視点

 

 新人戦二日目で午前はクラウドボールだけど、大丈夫かしら?

 正直、少し不安だったりする。

 深景さんや達也君が付いている訳でも、有力選手という程の人材もいない競技になっちゃった

からねぇ。

 特に男子は、気合が空回りしたままのようだし…。

 十文字君は、どう梃入れする気なのかしら?

 取り敢えず、私は女子を見に来ている。

 男子の方はハンゾー君に任せてある。

 何かあれば連絡を貰えるようにしてあるし、応援に徹しましょう。

 隣には摩利も腕組して見ている。

 視線を感じるわね…。

 まあ、私達二人が揃っていれば仕方ないかしらね…。

 結果は予想よりよかった。

 クラウドボール出場者は、春日さんと里見さんの二人。

 春日さんは相手が悪くて、入賞止まりだったけど、よくがんばったわ。

 里見さんの方は更に勝ち進み、準優勝を捥ぎ取った。

 うん!十分快挙といっていいわ!

 私も思わず摩利と手を叩いて喜んでしまった。

 それにしても、二人を破った三校の一色さんは流石というしかないわね。

 圧倒的なスピードで二人を寄せ付けなかった。

 里見さんは少し粘ったんだけど…。

 

「流石、()()の異名を取るだけはあるわね」

 因みに、男子はハンゾー君が不甲斐なさに怒っていた。

 この事から、結果は分かるわよね?

 ホントに男子には、梃入れしたいわね、できるならだけど。

 

  

               7

 

 新人戦二日目。

 アイスピラーズブレイクとクラウドボールの予選が午後にある。

 必然的に私の出番であります。

 エンジニアとしてだけどね。

 もう、これだけでお願いしたいよ。ホント。贅沢いわないからさ。

 第一試合でエイミィが出る。

 控室でCADの最終確認を行う。

 妙な細工はなし。

 確認が終わると同時に扉が開き、エイミィが入ってきた。

「深景!おはよう!」

 原作と違って、寝不足なんて結果になってないね。よかったよかった。

「おはよう。早速で悪いけど、確認してくれる?」

 私は挨拶を返し、エイミィに最終確認の済んだCADを渡す。

 使うのはエイミィだからね。キチンとエイミィの使い心地も確認しないといけない。

 因みに、エイミィの格好は原作通り、乗馬服スタイルだ。

 CADもショットガンみたいな形だし。

 まあ、第一試合の相手は遠目で見た限りじゃ、エイミィの敵じゃなさそう。

「うん!いいね!問題な~し!!」

 エイミィが、ショットガン型のCADをクルクル回していった。

 ホント、イングランド系に見えない子だ。

「だから、イングランド系だから!」

「何もいってないよ」

「いってたよ!目が!」

 さーせんでした。

 勘のいい子だね。

 私はいってないいってないとばかりに手振ってやった。

 エイミィは疑わしそうに見ていたが、試合の開始時間が近い為、控室を出て行った。

 私は技術者の専用スペースに移動だ。

 

 移動すると、もう相手選手も準備万端といった感じで、エイミィを睨み付けていた。

 アグレッシブな子だね。

 エイミィは悠然と視線を受け止めている。

 因みに二校の子で、格好は我が校に比べれば普通で、カジュアル系の格好だった。

 程なくして、開始のブザーが鳴り響く。

 相手の魔法発動より先に、エイミィが先制攻撃を加える。

 ショットガン型から魔法が放たれる。

 同時に先頭の縦列二つのピラーが、撃ち抜かれ崩れ去る。

 会場がどよめく。

 相手選手も驚きで、一瞬CADの操作を忘れた。

 その隙を見逃すエイミィじゃない。

 更に二つを射抜く。

 そりゃ、驚くだろうね。

 ピラーの強化も防御もしてたのに、まるで意味を成してないんだから。

 さて、私がエイミィにどんな魔法を用意したかっていうと、オリジナル魔法です。

 といっても、似たのはどっかの作品にあるだろうけど。

 まず、杭の形に障壁を形成し、領域干渉を内部に注入。極小の針の先から対象に接触

したら、領域干渉を一点集中で注入する、注射器のイメージ。更に杭をピラーに叩き付け、

そのままピラーを食い破る。魔法名はそのままパイルバンカーにしといた。

 硬いなら対象の強度を下げて、硬い杭で叩けばいいでしょ?の精神で作りました。

 エイミィの力なら、結構派手に撃ち抜ける。

 例によって本人のご希望です。

 まあ、防御の方も考えた魔法だけど、これは使う時にでも説明するよ。

 ただし、欠点は物凄く燃費が悪い魔法だって事だ。

 効率よく使ってね。

 

 結局、エイミィは対戦相手に圧勝した。  

 

 

 

               8

 

 :達也視点

 

 俺と雫も、姉さんの試合を控室で見ていた。

「エイミィのは、こうなってるんだ…」

 雫が、振袖の裾を襷で邪魔にならないようにしながら見ていた。

 姉さんの魔法を見て、雫の格好に突っ込むどころではない。

 俺もピラーズブレイクに関しては、姉さんのセレクトを知らない。

 随分なモノを渡したものだな。

 ピラーズブレイクは、個人戦だ。

 同じ学校の生徒も戦うので、練習は個別でお互いに手の内を見せないようにしている。

 相変わらず、姉さんの発想は変わっている。

「あれも砲弾か何かかな?」

 雫が訊いてくる。

「いや、どちらかというと杭だろう。障壁展開の技術で杭の形に成形して、叩いて砕いる

のだろう」

 姉さんの事だから、まだ仕掛けがありそうではあるけど。

 魔法式はコンパクトだが、それでも規模は大きい。

 エイミィの魔法力で扱えるギリギリの線だ。

 よく分からない記号がところどころに散見していて、正確には内容が読み取れない。

 しかし、こんな内容の魔法式を提出したら軍が騒ぐ。

 騒がないという事は、何か偽装しているのかもしれない。

 姉さんの事だから、風間少佐に何か捻じ込んだ事も考えられるな。

 勿論、その場合は取引になるだろうが。

「さて、今度は俺達の番だ」

「うん。行ってくる」

 

 結局、雫は努力の甲斐あって、よく仕上げてあった為、スムーズに勝利を捥ぎ取った。 

 

 

 

 

               9

 

 私達は、雫の応援よりも予選通過後に当たる相手の偵察を、優先させて貰った。

 薄情というなかれ。

 雫が初戦で負けるなんて有り得ない、そう信じるからだ!

 さて、あの引き籠りは出てくるのかな?

 そう、予選が終わって

 おお!出て来たよ。ダメだと思ったよ。

 こっちはその方が楽だったんだけどね。

 格好はスピードシューティングとあまり変わらない。

 あれが好みなの?

 相手は四校の子みたいだね。

 チャイナドレス…モドキのセクシーな格好だね。

 お臍出してるよ!この時代じゃ十分セクシーですぜ、男子諸君。

 

 試合開始のブザーが鳴る。

 と同時に四校の子のピラーが一つ砕ける。

 四校の子は情報強化を選択したみたいだけど、ピラーは次々と砕かれていく。

「何!?」

 エイミィが声を上げる。

「波の合成だよ」

 達也もよくやってるから、分かりますとも。

「ええ!?でも…」

「起点が空中に設定されてるんだよ。ピラーの強度を上げても、合成される波の威力

に耐えるものには届かない」

「うわっ!私のも大概だけど、あっちも容赦ないわね!」

 四校の子も気付いたね。

 ピラーを移動させるという荒業に出た。

 けど、結果として読まれていた上に、悪手だったみたいね。

 移動させるのに、情報強化を解除しちゃったか。

 そりゃ…。

『十七夜選手!自陣のピラーを無傷で完勝です!!』

 こうなるよね。

 

 引き籠り完全復活の狼煙って訳ですか。 

 

 

               10

 

 会場を出ようとした時、バッタリ会うとか。

「扉を破壊して出ていた人ね。丁度よかったわ」

 気の所為ですね。

 エイミィが頭に?を大量に浮かべて、私と引き籠りを交互に見ている。

 私は構わずスタスタ去ろう。

「ちょっと待ちなさい!!貴女の事よ!!」

 深景は逃げ出した。だが、回り込まれてしまった。どうする?

「ああ…引き籠り…」

「引き籠りじゃないわよ!!十七夜栞よ!!」

 ああ、じゃあ、そっちで呼ばないといけないのかな?

「じゃあ、私も扉から離れてくれる?司波深景だから」

「じゃあ…って、そうじゃないわ!あろう事かナンバーズを踏み台扱いした事を後悔

させて上げるわ!そっちも勝ち上がってきなさいよ!」

「だって、エイミィ」

 やるの私じゃないしね。

「ええ!?私!?」

「貴女にもいってるのよ!!」

 ちょっと、貴女さ。キャラ変わり過ぎじゃない?

「うん。エンジニアとしては全力を尽くすよ」

「叩き潰して上げるから、覚悟しておいてね」

 漸く最後に気を取り直してようで、キャラが戻った。

 それだけいって去って行った。

 慌ただしい人だね。

 

 たださ。残念参謀が置いて行かれてますよ?

 

 

 

 

 

 




 まだ、指摘された修正ができません。
 忘れた訳ではありませんが、できれば九校戦編を終わらせて
 からにしようと思います。
 キリよくしたいですし。

 だがしかし、全く進んでいない。
 大丈夫なのか!?

 すいませんが、次回も気長にお待ち頂ければ幸いです。


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九校戦編11

 これだけ長い間、投稿しないとは、さては折れたな?
 と思った方。すいません。
 メイン投稿が上手くいかず、苦戦しているうちに
 御無沙汰しておりました。

 まだ、折れていません。
 そして、まだ九校戦が終わらない。

 それではお願いいたします。


               1

 

 アイスピラーズブレイク。

 遂に真打登場です。

 マイシスターです。

 胡散臭い巫女服です。

 達也よ。魔法儀式の装束として…なんていっているなら、何故あんな花の飾りが付いている?

 髪飾りじゃないよ、帯だよ帯!

 それとも私が無知なだけで、ああいうのもどっかの地方に存在してるのか!?

 マイシスターのカリスマよりそっちが気になってしまった。

 これが、私の悪い癖…。

 みなマイシスターの美しさに見惚れている。

 登場の瞬間、リアルで会場から溜息が漏れるとか、我が妹ながら恐ろしい子!

 女が僻んだり、嫉妬しないレベル…に近い。

 

 そして、試合開始。

 

 終了。

 

 蹂躙とは、まさにこの事か。

 相手選手、ほぼ何もさせて貰えなかったよ。

 勿論、抵抗はしてたけど、意味をなさなかった。

 

 相手選手の心の冥福を祈った。

 

 

               2

 

 :真紅郎視点

 

「まさに一蹴だな」

 モニターに映る圧倒的な魔法力を将輝はそう評した。

 まさに十師族直系並の魔法力だ。

 これで、ナンバーズの有力な家系と血縁がない?

 大体、どの魔法関係の家も、ルーツはどこも盛っているものだけど、彼女の場合は検索可能な

範囲で、ナンバーズと繋がりが確認できない。

 そしてエンジニアは、司波達也。

 魔法師業界では、稀有な兄妹だ。

 信じられない。

 一般の家系から、あれだけの魔法師が出てくるなんて…。

 流石に自信家の一色さんの顔色も優れない。

 それでも、彼女の顔には闘志が宿っていた。

 流石、言わざるを得ない。

 十七夜さんも比較的落ち着いている。

「いや、凄いものじゃな。一度、手合わせ願いたいわ」

 のんびりとした声がする。四十九院さんだった。

「対戦したいの?」

 十七夜さんが、少し驚いたようにいう。

「それはそうじゃ。あれ程の者と安全に競い合うこと等、そうそうあるまい」

 四十九院さんが満面の笑みでいい切って見せた。

 やはり、彼女達も口には出さなくても、司波深雪が自分達を負かす力があると認めている。

 いや、勝つことは難しいと分かっているんだ。

「そうね。だからこそ、彼女に勝利することに価値がある。これが競技である以上、不可能では

ないわ」

 一色さんの顔色が戻っている。

 いい感じに変に入った力が抜けたみたいだ。

 狙っているのか、偶然なのか、四十九院さんは人の心をほぐすことに長けている。

 四十九院さんのこういうところは、素直に凄いと思う。

 一色さんの言葉に十七夜さんも、力強く頷いた。

 こちらも大丈夫そうだ。

「まずは、あの司波深景から片付けないといけないけどね?」

 十七夜さんが不敵に笑ってみせた。

 

 僕もエンジニアとして、その勝利を支えるまでだ。

 

  

               3

 

 エイミィと一緒に観戦していた私だが、エイミィの様子が…?

 色々と対戦予定の相手の心を圧し折ったマイシスターだが、実は味方も戦々恐々だった。

「分かってたけど…。何あれ」

 味方で心強いけど、ピラーズブレイクは個人戦。

 当然、深雪と戦う事は想定される。

 対戦する方は完全な罰ゲームだよね。

 同じ学校のエイミィにしても、味方に完膚なきまでに粉砕されるなんて嫌だろうし。

 エンジニアとして全力は…尽くした事になっているが、雫に授けた秘策がないと無理だわ。

 ごめん、エイミィ。

 そこまでいったら諦めて。

 しかし、これから酷なことを確認しなきゃね。

 次の次はあの命知らずその二だ。

 エイミィより実力は本来上の相手。

 方針を確認しないといけない。

「エイミィ。確認しておくことがあるんだけど」

「うん。何?」

 エイミィが不思議そうに答える。

「次の次なんだけど、貴女が取れる道は二つある。一つ、あのカトウ?」

「カノウね」

「ああ、そのカノウ選手の疲労を誘うことに重きを置いて、負けを覚悟する。二つ、勝ちを狙う」

 ただし、勝ちを狙う場合、次の試合には回復が間に合わない。つまり、そこで終わる。

「勝ったとして、次はどうなると思う?」

 敢えていわなかったけど、やっぱり気付くか。

 自分のことだしね。

「エイミィは、この先の競技にも出るし、エンジニアとしては棄権を勧める」

「そっか…」

 エイミィも冷静に頷いた。

 エイミィは、雫と違い優勝したいと宣言しなかったグループだ。

 だから、雫のような特訓はさせていない。

 故に、これしかいえない。

 エンジニアとしては失格だが、私もできる範囲でしか協力する気はない。

 これでもエイミィには友達になったし、肩入れしたぐらいだ。

「どっちにする?」

 二者択一。

「初めてのミーティングの時、さ。深景、訊いたよね?優勝したいかって…」

 でも、エイミィの口から出たのは、答えではなく別のことだった。

 私は口を挿まずに、黙って聞いていた。

「正直ね。ピラーズブレイク、深雪と雫が出るし、私じゃ優勝できないなって諦めてたんだ」

 あの二人は他とレベルが違う。

 正攻法では勝ち目が薄い程に。

 そして、深雪と雫でも差が開いている。

 雫は十分に優れている。

 凄すぎるのはマイシスターなのだ。

「でも、雫はいった。勝ちたいって。深雪に挑んだんだ。凄いと思ったよ。実はさ、雫の訓練を

コッソリ見に行ったことあるんだよね。あの雫が座り込んでるのなんて、初めて見たよ。でも、

雫は楽しそうだった。何やってるのか、私には分かんなかったけど」

 雫の魔法力は、私の秘策を実行することに問題はない。

 だが、維持する精神力の問題で、よく雫はへたり込んでいた。

 サイオン切れじゃないけど、エイミィには分からなかったか。

 実はエイミィも一部同じことをやっているんだな、これが。

 雫は更に深く踏み込んでる内容なだけで。

「それ見てさ。私もやってやろうじゃんって思ったんだよね」

 エイミィは微かに微笑んだ。

「勝つよ。勝った後でどんなにみっともなく、負けてもね!」

 エイミィが私の正面に回り込んで、私の眼を真っ直ぐに見て満面の笑みで宣言した。

 

 勝てるかどうかは、五分五分だ。

 私も今からできる範囲で、その決意に応えよう。

 

 

               4

 

 :エイミィ視点

 

 深景は、私の話を黙って最後まで聞いて分かってくれた。

 基本的に深景は、できる範囲で私達の意見を採用してくれる。

 何も司波君が無視する訳じゃないし、ちゃんと話を聞いてくれてたけど。

 なんというか、深景は私達のスピードに合わせてくれるのだ。

 私は、最初のミーティング後のことを思い出していた。

 

 

 司波君のエンジニアとしての腕は、すぐに見せて貰えた。

 なんにしても、深雪とほのか、雫のお墨付きとはいえ、私達は司波君達の実力を知らない訳だ

から、見せてほしいとお願いしたのだ。

 彼が調整したCADで魔法を使わせて貰った。

 結果は想像以上だった。

 信頼に値する凄い男の子だと思った。

 でも、どうにも肌に合わないというか、兎に角ダメだった。

 なんか無理矢理力を引き出されているような、強制感というか…。

 叩き出される結果は破格だから、好き嫌いの問題で拒否していい話じゃないのも分かるんだ

けど…。

「あの!深景さん?だったけ?貴女はどのくらいの実力なの?」

 和美が、言い辛そうに手を挙げていった。

 どうも彼女は私の同志だったらしい。

 司波君の調整に苦手意識があるみたいね。

 名指しされた彼女は、私?と首を傾げた。

「達也の調整は理想的なものだけど、苦手だった?」

 いい辛いことを!!

 和美と私は、内心で悲鳴を上げる。

 表情には出さなかった筈だけど、深景さんは分かったらしい。

「ああ、いいよ。人それぞれだし。ね?」

 深景さんは隣の司波君に声を掛ける。

 司波君も怒った様子もなく、平然と頷いた。

 一番、恐ろしい深雪の反応も特になかった。

 さっきも睨まれて、内心怖かったからさ。

 あとで、深雪はお姉さんも大好きだから、馬鹿にされたり、侮られたりしない限り、怒らない

ことが分かった。

「ああ。じゃあ、姉さんもやってくれるかい?」

 司波君が気軽にいうと、深景さんはアッサリと頷いてCADを調整した。

 エンジニアになっただけあって、慣れている。

 和美と私の分の調整を、あっと言う間に終える。

 結果をいえば、私達は二人だけ深景さんをメインのエンジニアに選んだ。

 女の子だからかな?こっちのペースを考えてくれているのが、よく分かる調整だった。

 司波君みたいに最初からMAXって訳じゃないけど、()()()()()()()

 これで伝わるかな?まあ、いいか。誰に説明するでもないし。

 

 使用魔法のセレクトの時の話だった。

 最初は軽い雑談で、少し身構えている私の気を紛らわせてくれた。

 そして、いつの間にか、私がどんな魔法が得意かまで喋っていた。

 話し易いし、聞き上手。

 この時から、私は彼女に好感を持ち始めた。

 二科生ってことで、身構えてたけど、そんなのは関係ないと教えられた気がした。

 これが友達になるキッカケになったと思う。

「それじゃ、エイミィは構造物を移動させるのが、得意なんだ?」

 深景も私もいつの間にか、名前を呼び捨てにするようになっていた。

「うん。大質量物体を高速移動させる砲撃魔法だね」

 グランマの庭の石を勝手に動かして、遊んだこともある。

 物凄く怒られたけど。

「砲撃か…」

 深景が考え込む。

「うん!できればスカッとする派手なヤツがいいな!」

 遠慮なく要望も添えてみる。

「それじゃ、私も試したいことがあるんだ。ちょっと冒険してみない?」

 深景が悪戯を思い付いた子供みたいにいった。

 最初、出来上がってきた魔法式を見た時は、私に使い切れるかな?と思ったけど、

意外に大丈夫だった。

 司波君同様に、キチンとコンパクトに纏めてくれたからだと思う。

「それじゃ、試してみようか」

 演習場で試し撃ちしてみることにする。

 前代未聞のやり方で杭を作成し、高速で撃ち出す。

 強化されようと、杭が止まろうと、更に力を加えて打ち込むことができる。

 面白い魔法だと思う。

 ショットガン型のCADをクルリと回して、私はノリノリで魔法を撃ち出した。

 相手の抵抗がない状態だと、ボーリングのピンみたいに一撃でピラーが躍り、全て破壊できた。

「気持ちいい!!」

 この杭には更に仕掛けがあるし、これはいいな。

 面白い!

 

 あとは習熟するだけ、ということで深景は雫の訓練に向かった。

 私もモノリスコードの合同訓練があったし、そっちに向かった。

 もう、日が沈む頃にようやく解放された。

 いやー。楽しいけど、しんどいわ。

 何度吹っ飛ばされたことか…。

 なんてトボトボ歩いていると、深景と雫の姿が見えた。

 あの二人もまだやってるんだ。

 軽い気持ちで見物することにする。

 何をやっているのか、見当が付かないけど、魔法…なの?

 なんとも不思議な感じだった。

 サイオンが飛び交っているようだし、魔法なんだろうけど()()()()()()()()()()()()()

 それが終わると雫が、地面に座り込んでしまう。

 雫は遠目でも汗だくなのが分かる。

 その雫に深景がしゃがみ込んで、端末を見せながら何かいっている。

 疲れて座り込んでるんだから、少し待ってあげればいいのに。

 深景らしくないような気がして、内心深景を非難した。

 でも、それが間違いなんだって気付いた。

 雫が、食い入るように深景の端末を見ていたから。

 これは雫が望んだ事なんだ。

 それを深景は最大限応えているだけなんだって。

 雫は深雪に本当に勝ちたいんだ。

 雫は学年二位の成績で、私より遥かに上の力を持っている。

 その雫がここまで必死になっているのに、私はどうだろう。

 結構、遊び感覚じゃないかな?

 どうせ、深雪と雫に勝つのなんて、無理なんだから楽しまないと!なんて思ってた。

 雫の姿を見て、熱くなった。

 こんなの本来の私のキャラじゃない。

 でも、この時の私は、私だって負けていられない、やってやる!なんて柄にもなく思った。

 

 

 思い返してみれば、熱気に当てられたんだと思う。

 でも、そのお陰で今、落ち着いているんだから、いいと思う。

 

 よし!大物に私も挑んでやろう。

 

 

 

               5

 

 その日の夕食は、ちょっとしたお祭りムードだった。

 一年女子に限るけど。

 まあ、上級生に対する妨害工作を見てるから、不安を紛らわせたかったって意味もある

だろうけどね。

「凄かったよね!深雪のアレ!」

「A級魔法師でも難しい魔法なんでしょ!?」

 インフェルノに皆さん大興奮でした。

 他にもお褒めの言葉を方々から頂戴しております。

 エイミィや雫も褒められているが、インフェルノのインパクトに負けております。

 達也も、普段は話し掛けられない子から、話し掛けられている。

 問題は…。

「あーあ。私も司波君に担当して貰えばよかった!」

 手の平返しはいいけど、失礼な発言してる子がいることだ。

 貴女の担当だって全力を尽くした筈だ。

 実力的にしょっぱくても。

 まあ、少なくとも私よりマシということだ。

 これは不味いと思い、深雪に目配せする前に雫が注意してくれた。

「ダメだよ。CADの所為にしちゃ」

 雫がやんわりといってくれる。

 注意された子も、いいたい事を察したのか、先輩に失礼だったね、なんていって謝っていた。

 うんうん。それでよし。

 口は禍の元。なんて私がいえたことじゃないね。

「いや、でも司波君を譲ってくれた男子には感謝だよね!」

 譲ったというか、男子が病気レベルだったというか…。

「うん!お陰で絶好調だもんね!私達!」

 ここまでくると、流石に達也も苦笑いしていた。

 だが、突然大きな音を立てて立ち上がる者がいた。

 残念イケメン森崎である。

 一緒に恥を分かち合った友を置いて、森崎君は去って行った。

 まあ、恥を掻いたのは森崎君一人だったか。

 競技は、三校の戦力に力負けするのも仕方ない。

 でも、空回りしてるのは、自分自身の責任でしょ。

 そんなことじゃ、女の子にモテないぞ。

 証拠に女子がジト目だぞ。

 

 夕食が終わり、食堂を深雪一党がゾロゾロと出ていく。

 私と達也も後をカルガモよろしく付いていく。

 すると命知らずその一と三校女子集団に、出口でバッタリと出くわしてしまった。

 三校は今から食事らしい。

 お互い突然の遭遇で、少しの間無言。なんで?

「あら、一校の皆さん。御夕食でした?」

 一番最初に声を出したのは、命知らずその一。

 優雅な笑みでの第一声だった。

 雑鬼を乗せてた人物と同一人物とは思えない。

「お先に頂きました。三校の皆様はこれから?」

 深雪が同じく優雅な笑みで答える。

「ええ。入れ違いで残念です。でも、丁度よかった」

 命知らずその一の笑みが消える。

「司波深雪さん。この前は侮った発言をしたことをお詫びします。貴女は私達の世代で間違い

なくトップクラスの魔法師。だからこそ、全力を尽くして貴女を倒します」

 一校女子が、命知らずその一の発言に、無言でどよめくという器用なことをやる。

 私と達也は観戦です。

 すると後ろから誰かに抱き付かれる。

 誰かは分かるが、なんでそんなことをしたのかが分からない。

「あの…かっ、会長?」

 私の問いには閣下は答えずに、深雪と命知らずその一の遣り取りに、目を輝かせている。

「あら!今年もやってるわね!」

「喜ぶな!」

 お姉様も同伴か。

 でも、今年も!?

 毎年やってんの!?このドラマ!?ヤダ、帰りたい。

 そんな馬鹿なことを考えている間に、ドラマはクライマックスへ。

「私も負ける気はありません。お互い全力を尽くして戦いましょう」

 深雪が余裕の笑みで手を差し出す。

 命知らずその一が、迷わずその手を掴み握手する。

「ええ、いい戦いをしましょう」

「ええ」

 お互いに同時に手を離すと、一校と三校がすれ違う。

 深雪と命知らずその一以外が遅れたのは、ご愛嬌ということで…。

 

 ところでいつまでくっ付いているんですか?閣下。

 

               6

 

 :ダグラス・黄視点

 

 横浜の中華街。

 滅多に集まることのない幹部達が一堂に会していた。

 食事が目の前にあるものの、手を付ける者は誰もいない。

「確かに、その戸愚呂とかいう男のお陰で、接戦ではあるが、まだ第一高校が一位のままだ。

予断を許さない状況だな」

 口を開いたのは幹部の一人。

「もう少しなんとかならんのか。こっちの寿命が縮むぞ」

 他の幹部が次々と愚痴をいい始める。

 今は、あの男に任せるしかない。

 左京の若造も、我々の動向に目を光らせている筈だ。

 戸愚呂ほどの男でなければ、ヤツの目を掻い潜るのは難しいだろう。

「新人戦にしても、第三高校が有利という下馬評を覆して、第一高校が点を伸ばしている」

 他の幹部の一人が、焦りを滲ませた声でいった。

 私は余裕のある笑みを浮かべる。

「心配するな。念の為、ジェネレーターも何体か持ち出させた。戦力は申し分ない」

 他の幹部を安心させる為にいった。

 ジェネレーターなど使ったら、すぐに我々の介入だとバレるからな。

 他の幹部もそれは承知している。

 だから、顔を顰めて少しの間、黙った。

「心配しなくとも、不味いことになれば手を打つ」

 私は他の連中を見渡す。

 だが、皆の表情は優れない。

「是非、そう願いたいものだな。我々の尊厳の為にも…」

 他の幹部が汗ばんだ手を握り締めて、絞り出すようにいった。

 私も騒ぎ出したくなるのを抑えて、余裕のある顔を維持した。

 

 戸愚呂には、すぐ連絡するとしよう。

 

  

               7

 

 アイスピラーズブレイク二回戦。

 第一高校女子軍、負ける要素なし。

 圧倒的だな、我が軍は。

 などと調子に乗ってみる。

 因みに、ここで深雪のエンジニアとしていた達也に、王子様と残念参謀が宣戦布告に

きたそうだ。

 閣下の言葉通り、ありふれたことなんだね。

 そういえば思い出したけど、原作でもそんなシーンあったわ。

 

 次はいよいよカ…ノウ?と対決か。

 

 

               8

 

 決戦の時です。

 決勝リーグですけど、決勝戦じゃありません。

 私とエイミィだけクライマックスです。

 いつになくキリッとした顔で立つエイミィが、モニターに映っている。

 相手も特に気負う様子もなく、試合開始を待っていた。

 相手が打ってくる手は、ある程度予想できるので、全て伝えて対策も打ち合わせ済み。

 DJアーミーが喧しく何かをいっているが、二人には聞こえていないだろう。

 当然、私も聞いてない。

 間もなく試合開始で、DJアーミーがやっと黙る。

 

 試合開始。

 

 最初に仕掛けたのはエイミィ。

 杭を高速で射出する。

 エイミィから見て、左から二番目の列に着弾する。

 十七夜側のピラーが一箇所に集合する。

 やっぱりそうしてきたか…。

 巨大な一つの氷の塊として、強化してあるのが分かる。

 杭が少し刺さったところで止まる。

 更に杭を押し込もうとしたエイミィが、標的を変更する。

 上空に、十七夜の共振破壊の起点が多く作成されたからだ。

 それも前の試合で見たより多い。

 これも予想はしていた。

 だが、計算が追い付くの?って思ったけど。

 おそらく好きなところから、波の合成を造り出すことが、できるんだろう。

 エイミィが発動兆候があると分かった場所から、撃ち抜いていく。

 達也みたいな眼を持っている訳じゃないから、それはかなり遅い。

 エイミィのピラーには、多少影響が出ている。

 だが、まだ破壊判定をされる程ではない。

 それが蓄積すれば、不味いけど…。

 後手に回る予想はしていたから、エイミィにも焦りの色はない。

 いいね。

 相手側のエンジニアである残念参謀を見ると、微かに口元が笑っている。

 今のところ思惑通りの青山通りでしょうからね。

 だけど、こっちもやられっ放しじゃないよ?

 突然、十七夜側の攻撃が緩む。

 十七夜の顔が険しくなる。

 気付いた?知ってた筈なのにね。杭の中には仕込みがあることに。

 上空でエイミィが撃ち抜いた杭は、役目を終えると杭が砕けて、中身の魔法が撒かれる。

 実はアレは領域干渉というより、ジャミングに近い。

 領域干渉は要は力技で魔法を抑え込むものだ。

 でも、これは魔法の形成の一部を阻害することを目的としたものだ。

 全体を抑えるのではなく、一点に集中して阻害する。

 つまり、魔法の維持が困難になる。

 困難になれば、余計な力を使いガス欠が早くなる。

 残念参謀が今更キーボードを叩いて、私の作成した魔法を精査しているけど、遅い。

 攻撃で防御が緩んだ隙に、エイミィが刺さった杭を更に深く打ち込む。

 ピラーの一つに大きな亀裂が入った。

 ここで、初めて十七夜が防御に力を入れた。

 そう、思わず入れてしまった。

 深く突き刺さった杭が砕け、領域干渉モドキが十七夜側に一定範囲広がる。

 どっちの維持もやり辛くなったことで、少しでも焦れば勝機は転がり込んでくる。

 問題は、いつ十七夜が冷静さを取り戻すかと、エイミィがどこまで持つかだ。

 この魔法の欠点は燃費が悪い事だからね。

 湯水のようには使えない。

 一方、十七夜は緻密な計算を頭の中で行えるし、力もエイミィより上。

 少し自陣側に起点を作成し、効果を及ぼすようにすれば、逆襲が可能になる。

 後はこのアドバンテージがある内に、エイミィがどこまで突き放せるかだ。

 エイミィが新たな杭を射出する。

 これでピラーを一つ破壊し、次のピラーに突き刺さる。

 イメージだよエイミィ。

 それが通じたのか、一列のピラーを一気に破壊した。

 これで三本。

 会場がどよめく。

 これで、一つのオブジェクトではなく、二つになったね。

 真ん中に砕けた氷の残骸があるから、統合もできないでしょ。

 ここで十七夜が反撃の方法に気付いた。

 私の、なんちゃってジャミングの効果範囲に気付いたのだ。

 影響を予め受けていたエイミィ側のピラーが、二つ破壊される。

 二本損失。

 最も効率のいい破壊法を、頭の中で計算しているのが分かる。

 エイミィ。確かに杭は大質量体じゃない。でも、何よりも硬い。それは…。

「私は!!砲撃が得意だぁぁぁ!!」

 謎の叫び声を上げて、エイミィが杭を放つ。

 今まで以上のスピードで。

 そう。いいたいことはそれだ。

 右から二番目のピラー一本を破壊し、次に刺さるが、そこでストップした。

 これで四本。

 でも、十七夜側もピラー強化のコツも掴んできたみたいね。

 早いな。

 十七夜も、冷静さを完全に取り戻したと見るべきでしょうね。

 そこからは、じわじわとピラーが破壊されていく。

 六本損失。

 ここにきて、エイミィの方が焦っている。

 杭がなかなか深く刺さらない。

 焦らないで…。

 魔法師は世界を騙す詐欺師。

 イメージこそが現実。

 

 信じて。自分が勝つと。

 

 

               9

 

 :エイミィ視点

 

 予想より立ち直りが早い…。

 どんどん自陣のピラーが破壊されていく。

 私の抵抗なんて、関係ないとばかりに…。

 どうする?どうする?…。

 どんどん破壊されて、残り五本。

 無駄撃ちはできない。

 どうしたら…。

 

 その時に思い出した。

 

『いいこと?アメリア。嘘には慎重にならなければいけないわ』

 グランマの言葉だ。

『魔法師の嘘は無意識に、現実を書き換えてしまうのよ』

 小さい頃にいわれたことだけど、ずっと心に残っている言葉。

 そうだった筈なのに、今の今まで忘れてた?

『魔法師ってさ。世界に対しての詐欺師なんだよ。嘘を現実だと騙すんだよ』

 これは深景がいったこと。

 

 思い出されるのは、あの日の雫の姿。

 

 このまま…終われるか!!

 

 私は杭を砕くと、新たに杭を造り出し放つ。

 十七夜選手が、無駄なことをとでもいいたげに笑う。

 私は撃ち抜ける!!

 杭に回転が加わる。

 右端の一列のピラーが砕ける。

 十七夜選手の驚愕が伝わる。

 これで七本。イーブン…一本差。

 自陣のピラーがまた一本倒れた。

 八本破壊されている。

 こっちのスタミナも、そろそろ限界。

 それはきっと十七夜選手にもバレてる。

 だって、もう驚きから立ち直って、勝負ありみたいな顔してるもん。

 だけど…

『緻密な計算で成り立ってる魔法はね。位置情報を変えるだけで威力が弱まるの』

 流石、深景。

 私は残り四本の自陣のピラーの場所を、微妙に動かす。

 このくらいなら問題ない。

 間一髪凌ぐ。

 相手の残り左端のピラー一列三本。右から二番目の一列二本。

「これで!!」

 向こうの計算が終わる。

 どう考えても私は最後の一発になる。

 無茶だけど…やってやる!!

 イメージはボーリング。

 私は最後の力を振り絞って、ピラーをくっ付け、CADの引き金を引く。

 ここも凌ぐ。

「足掻きはそこまでよ!」

 一列三本のピラー左下を高速で撃ち抜く。

 三本のピラーが横っ飛びする。

「なっ!?」

 イメージは完璧。

 飛んでいったピラーは、見事二つのピラーを破壊しながら倒れた。

 見れば、私のピラーはまだ二本健在だった。

 

 向こうにはない…。

 

 やればできるだね、私。

 残念ながら、ここから意識が途切れてしまった。

 

 

               10

 

 歓声が響く。

 エイミィの勝利が宣言され、十七夜も倒れた。

 向こうも慣れないことに、連続で対処させられて、本人の予想を超えて消耗していた

んだろう。

 私は控室を走って出ていくと、エイミィのところまで素早く辿り着く。

 向こうも同様に十七夜を回収している。

 救護室行きになったのは、いうまでもない。

 

 考えてみれば、相手も救護室行きになったんだから、会うことも予想しておくべき

だったよね?

 私は残念参謀と向き合っていた。

「マナー違反を承知の上で、教えて貰えますか?」

「答えられることなら」

 残念参謀が険しい顔で訊いてくるのを、私はアッサリと応えた。

「僕は最初、あの杭は古式魔法の技術応用によるものだと、思っていました。遠当て

の技術の発展だと。杭が砕けた後はサイオン波が撒き散らされる故に、魔法が妨害され

るのだと。でも、違った。障壁の生成に領域干渉、それを射出する、挙句打ち付ける

ことまでできるなんて有り得ない。明智選手のCADは間違いなく特化型だった」

 ああ、そのことね。

 いやぁ、聞いたらガッカリするよ?

 私は、エイミィが使っていたCADを残念参謀に渡した。

 残念参謀は、怪訝な顔で黙って受け取った。

 CADを調べ始める。

「これは!?」

 気付いた?

 これには()()が付いている。

「銃口には螺旋の溝じゃなく、刻印が彫ってある。エイミィはサイオン流して撃ってた

だけなんだよ」

「馬鹿な!?別々の魔法を組み合わせて刻印が作成できるっていうのか!?」

 それが刻印や魔法陣のいいところだしね。

 欠点は、それだけ余計にサイオンを流さないといけないこと。

 エイミィのやることは、出来上がった杭を射出して、質量体を動かす要領で杭を

押し込むだけにしてあったけど、無駄撃ちできない為、効率よく撃つ必要があった。

「別にCADの銃身に、びっしり精密機器が詰まってる訳じゃないんだし、可能でしょ」

 空きスペースに銃口を通して、サイオンが流れるようにしただけだし。

 私は米に刻印を彫れる程だよ?銃口に刻印彫るなんて朝飯前ですよ。

 デバイスチェックでも、何もいわれなかったよ?

「それは…」

 絶句している残念参謀に、私は背を向けた。

 まあ、答えることは答えたでしょ。

 

 まあ、エイミィが勝ってよかった。

 

 

 

 

 




 エイミィの魔法のタネ明かしです。
 まあ、何でもありですからね。
 
 次回、ようやく雫と深雪が競う事になるかな?
 と思います。

 次回は来年になるかと思います。
 気長にお待ち頂ければ幸いです。


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九校戦編12

 今年、劣等生初めの投稿になります。
 では、お願い致します。

 


               1

 

 午前の競技が終了し天幕へと戻ると、暗い話題ばかりでオドロ線が支配していた空間が、

若干持ち直していた。

 ほのかの方は、達也の作戦通り、通路に影を落とす作戦で勝利して、決勝戦へと駒を

進めたそうな。分かってたよ。

 そして、男子は絶賛空回り中。分かってたよ。

 エイミィも起き上がれるくらいに回復していた。

 その彼女と一緒に閣下の元へ。

 重大な用件との事で呼び出されたけど、やっぱりあれだよね?

 一校一年ピラーズブレイク組が集結する。

 勿論、エンジニアも。

 閣下が厳かに三人を見る。

 どんな話か分からない一年は、深雪を除いて若干緊張気味。

「時間がないので、手短に。決勝リーグは我が校の独占という結果になりました。

皆さん、よくやってくれました」

 厳かな顔を引っ込め笑顔で閣下はいった。

 緊張の糸が緩むが、三人でお辞儀した。

 全く、揶揄っちゃいかんぜよ。

「この快挙に、大会委員から三人を同率優勝としては?と提案がありました」

 出た!ザ・手抜き!

 達也も皮肉っぽく口元が歪んでいる。

「提案を受けるかは、皆さんの判断に任せます。ただ、時間がないので、ここで決めて

下さい」

 そんな中、真っ先に手を挙げた人物が一人。

「はい!私は勝負…」

 するといいだす前に、私は口を塞ぐ。

「しません」

 続きがいえないエイミィに私が代わりにいってあげた。

 エイミィは抗議しているようだが、エンジニアとしてやらせる訳にいかない。

 覚悟は立派だが、やらせるかは別ですよ。

 次の競技もあるしね。

「ええっと…。明智さんは降りるという事でいいの?」

 閣下が私とエイミィを見比べて、困惑したようにいった。

「はい」

 私はエイミィを押さえ込んだまま、笑顔でいい切った。

 私は失礼します、といってエイミィを引き摺ってその場を後にした。

 後でエイミィに文句をいわれるだろうけど、甘んじて聞いて上げよう。

 それと、原作通り深雪と雫は戦う事にしたようだ。

 

 それでは、姉として妹に試練を与える壁となりましょう。

 

 

               2

 

 エイミィの文句を、菩薩のように聞いてあげても、エイミィは拗ねていた。

 拗ねるエイミィを大事を取って休ませ、私は次の準備へと取り掛かる。

 だが、深雪と雫の大一番の前にバトルボード決勝がある。

 それの応援を私はモニターで見ている。

 何故なら、私は雫の方に付いていないといけないから。

 自分の仕事は最低限しないといけないしね。

 雫にも悪いし。

 バトルボード決勝が終了した後、すぐにピラーズブレイク決勝というスケジュール

なのだ。

 殆ど準備は終えていても、直接ほのかの応援には行けない。

 移動が間に合わないからね。

 だから、モニター越しに応援させて貰おう。

 沓子には悪いけど、今回はほのかを応援させて貰うよ。

 

 決勝は二人での一騎打ち。

 ほのかVS沓子

 達也がまたも作戦を授けたと聞いているから、一方的な展開にはならないだろうけど、

力量としてはほのかが不利かな。

 そして、レーススタート。

 序盤はほのかが達也の波対策もあり、沓子を抑え込んでいたが、中盤で沓子がほのか

の光に対する感受性の高さを見抜いた。

 それによりダミーをバラ撒かれ、ほのかに隙が生じてしまった。

 それを見逃す沓子ではなく、あっさりとほのかを追う抜いていく。

 しかも、使用魔法は古式魔法ではなく、現代魔法。

 あの子も食わせ者だね。

 両方使えたんだね。

 一気に加速した沓子がほのかを突き放す。

 ほのかの士気が落ちていくのが、目に見えて分かる。

 これは不味いかな?

 原作では確か優勝してたような気がするけど、イレギュラーじゃ仕様がないかな。

 

 なんて思った時期もありました。

 達也が、魔法偏重の作戦立てる訳ないよね。

 ほのかは種でも割れたのか、別人のようにサーファーと化した。

 どんな荒波も乗り、沓子の罠を躱していく。

 逆にそれを利用して加速すらしている。

 勝負は最後のカーブまで縺れ込んだ。

 沓子がインベタでほのかをブロックする。

 だが、ほのかは幻影魔法でコースに影を落とし、沓子の認識を狂わせていた。

 沓子はインを塞ぎ切れていなかったのだ。

 ほのかが、その隙間から沓子を抜き去る。

 それが決めてとなり、ほのかが優勝を飾った。

 

 いや!感動した!

 次は私の番だね。

 

  

               3

 

 :将輝視点

 

 いよいよ女子ピラーズブレイクの決勝。

 一色も四十九院の応援ではなく、こちらに来ている。

 一色としてもミラージバットで対戦する相手だ。

 見ておきたいだろう。

 この試合に注目している人間が多い事は、観客の顔触れで分かる。

 企業、研究者、軍の人間もチラホラ見える。

 注目しているのは、司波深雪一人だろうが。

 勿論、北山選手も卓越した力の持ち主だが、司波深雪には及ばない。

 観客の方も、司波深雪の実力をどの程度引き出せるか興味があるといったところだろう。

 俺の方としては、北山選手を応援するが。

 何故なら、エンジニアの担当が深景さんだからだ。

 北山選手も本来なら司波達也がエンジニアだが、今回は一校生同士の戦いになる。

 メインとサブで別れた形だ。

「司波深雪の勝利は揺るがないだろうが、ジョージ、お前はどう見る?」

 俺は隣にいるジョージに声を掛けた。

 だが、いつもなら自分の意見をすぐに答えるジョージが、考え込んでいた。

「どうした?」

「ああ…。うん。難しいところだと思ってね」

 俺の怪訝な声に、ジョージが歯切れ悪く答えた。

 難しい?何が?

「司波達也が、厄介なエンジニアなのはその通りだけど、司波深景も別の意味で厄介

だからね。確かに司波深雪が圧倒的優勢だろうけど、司波深景が黙ってやられるとは、

あまり思えなくてね」

 俺の疑問が伝わったのか、先回りして答えるジョージ。

 だが、その答えに俺は驚いた。

 ジョージは確かに深景さんの選手に敗北しているが、思いの外高い評価だったからだ。

 ジョージが驚く技術を見せた司波達也なら分かるが、ジョージは深景さんをエンジニア

としては、優秀ではあるが驚く程ではないと評価していたからだ。

 深景さんを、いつの間にか司波達也同様の強敵とジョージは認識していたのだ。

 そこでジョージは、深景さんのCADの事を説明してくれた。

 特化型CADに、刻印を刻んだ銃口を取り付けていたという。

 それどころか…。

「何!?銃口に二つの魔法を組み合わせて使用していたのか!?」

「うん。レギュレーション違反はしてない。だけど…刻印魔法は古式魔法に分類される。

 それを現代魔法を刻印化して、尚且つ組み合わせるなんて、常識では考えられないよ。

 司波達也の戦術は、ルールの隙を突いてくるクレバーなものだけど、技術は正統派と

いえる。でも、司波深景の方は、何をやってくるか分からない怖さがある」

 勿論、刻印魔法は古式の魔法を刻印として表したものだ。

 現代魔法には適用されない。

 一部されているものもあるが、まだまだ分からないことの多い発展途上な分野といえる。

 それを簡単に実行した深景さんの実力は、脅威だろう。

 成程。何が起きるか分からない以上、ジョージとしては評価が難しいという訳か。

 意外に見応えのある試合になるかもしれないな。

 

 ジョージが深景さんを評価していることに、内心で喜んでいる俺は重症なんだろうな。

 俺は試合に意識を集中しつつ、そんなことを考えていた。

 

 

               4

 

 :達也視点

 

 俺は深雪と最後のミーティングに臨んでいた。

 相手は雫に姉さん。

 そう雫の実力は、悪いが深雪には届かないだろうが、姉さんが付いた段階で油断は禁物

だ。

 それは勿論、家族である深雪も認識を共有しているところだ。

 証拠に、雫も静かな闘志の中に自信を覗かせていた。

「おそらく、今回は苦戦するだろう。深雪の魔法力を活かせない局面も想定したが、どう

だ?」

 深雪は念入りにCADをチェックし、頷いた。

「問題ありません、お兄様」

 いつもある笑顔がない。

 かといって緊張しているでもない。

 姉さんのいう通りで、こういう戦いも深雪には必要だな。

 いつも以上の集中力を発揮している深雪を見て、俺は口元が緩んだ。

 問題は、深雪の相手が務まる魔法師が少ないということだ。

 今後、考えていかなければならない課題だろう。

 

 深雪が部屋を出る前に、渡辺先輩が一人で俺のところに顔を出した。

 ここのところセットでいる会長の姿がない。

「真由美なら、深景君のところに行ったぞ?」

 俺の視線をどう誤解したのか、渡辺委員長が頓珍漢なことをいった。

 いつもなら過剰に反応する深雪も、今回は黙って渡辺先輩に頭を下げて部屋を出て

いった。

 俺はそれを見送り、渡辺先輩の頓珍漢な言葉に返答する。

「いえ、渡辺先輩はいいんですか?」

 会長を放置して、とはいわなかった。

 渡辺先輩は面白くなさそうに頷いた。

「流石に試合前なんだから平気だろう」

 姉さんは、おそらくそれでも迷惑しているだろうが。

「で?自信の程はどうだ?」

「やってみなければ分かりませんが、調子は最高にいいですよ」

「まあ、見物ではあるな」

 俺はそれに関しては、ノーコメントで通した。

 姉さんの手の内は、おそらく…という程度は予想できているが、問題はどの程度、

()()()()()()()

 

 会場に深雪が姿を現す。

 もうじき始まる。 

 

 

               5

 

「ほのか…。優勝したね」

 実は一緒にモニターで応援していた雫が、隣で感慨深げに呟いた。

 ひやひやしたけどね。

「さて、じゃあ雫も続かないとね」

「うん」

 下手をすればプレッシャーになるような私の言葉に、雫は淡々と頷いた。

 できることはやり尽くした。

 あとは全力でやるだけ。

 そんな状態の雫には、この程度の言葉はプレッシャーにならない。

 いいね。

 私はCADを二つ取り出す。

 ブレスレットと短刀。

「具合を確かめて」

 雫は無言でチェックする。

 緊張して見えるが、そうではない。

 もう雫は試合に集中している。

「うん。更に扱い易くなってる。完璧」

 最高の評価だ。

「それなら、あとは雫次第だよ?」

「分かってる」

 雫は口元に笑みを浮かべて応えた。

 ブレスレットを付けて、短刀は腕に巻き付け目立たないようにする。

 

 あとは会場へ、という時に乱入者が一人。

「深景さん!北山さん!応援に来たわよ!」

 閣下だった。

 この人、達也の方に行かなかったんだ。

「摩利は達也君・深雪さんの方へ行ったから大丈夫よ!」

 私の訊きたいことに、先回りで答えてくれる。

 何が大丈夫なのか分からないけど。

「それでどう?勝ち筋は見えているの?」

 顔は笑っているが、目は真剣だった。

 非常に興味があるだろうしね。

「そうですね。一泡吹かせることは最低でも可能ですね」

 あとは雫次第。

 私の言葉に閣下が、正直に驚く。

「それは凄いわね」

 閣下が素で驚いている隙に、雫に目配せする。

 この隙に行っちゃっていいよ。

 雫は正しく私のメッセージを受け取ったようだ。

「それでは行ってきます」

 雫は閣下に頭を下げて席を立った。

「え?ええ!頑張ってね!」

「ありがとうございます」

 雫は控室を出て行った。

 閣下は、それを見送り私に向き直った。

「それじゃ、見せて貰おうかしら。貴女の秘策」

 流石に魔法師。

 目が怖い。

 有効そうなら取り入れる気満々ですね。

 まっ、当然か。

 

 私は適当に頷いておいた。

 もうすぐこちらも決戦だ。

 

               6

 

 決勝を戦う二人が姿を現すと、会場が歓声に包まれる。

 一校生同士の決勝でも注目度は、当然のように落ちない。

 何しろ達也がエンジニアで、深雪が選手だからね。

 閣下と同じ目的の人とか、スカウト目的とか、色々な人が集まっている。

 みんなが、深雪達を見詰めている。

 それじゃ、会場を驚かせてあげようか?雫。

 

 歓声が少しづつ静まっていく。

 二人が放つ静かな闘志が会場を黙らせている。

 DJアーミーも大人しい。

 開始のカウントダウン。

 

 開始のブザーが響き渡ると同時に、両者魔法を発動。

 

 深雪はまずは小手調べで氷炎地獄(インフェルノ)

 雫も序盤は原作通り、共振破壊。

 深雪は雫の共振破壊を完全ブロック。

 雫も情報強化で耐える。

 それにしてもやっぱり最初は大技できたね、深雪。

 深雪の顔に落胆が見える。

 だけど、見損なうのは早いよ?

 このまま深雪が例によって押し切る。

 会場にいる全員がそう思った時。

 

 どれくらいの人が気付いただろう。

 雫の口元に微かに笑みが浮かんだことに。

 

 雫が満を持してブレスレット型CADを操作する。

 

  

               7

 

 :雫視点

 

 深雪の凄まじいまでの猛攻。

 本人は、まだまだ余裕を持っているみたいだけど、私からすれば十分な猛攻。

 でも、まだこっちも一つのピラーも破壊されていない。

 そして、漸く綻びが見えた。

 深雪でも勝ちが見えた瞬間は、気が緩む。

 既に十分こちらに魔法の影響を引き込んだ。

 そろそろいくよ?

 私はブレスレット型CADを操作する。

 魔法式は深景さんに見せて貰っている。

 深雪の得意な魔法は全部。

 正直、ここまでやっていいのってくらい。

 どこを突けばいいかも、感覚的にだけど理解した。

 私は深雪の魔法に干渉を掛ける。

 勿論、深雪の魔法を完全に抑え込むなんて私には無理だ。

 だけど、()()()()()()()()()()()()

 突如、深雪の魔法が揺らぐ。

 深雪は感性が鋭いから干渉されていることに気付いた筈。

 今まで干渉なんて許したことがない筈だ。

 深景さん曰く。

『強力な魔法、Aランクの魔法っていうのはね。総じて繊細な制御を要求されるの。深雪

なら立て直すだろうけど、でも主要な部分を弄られると、なかなか立て直せずに大崩れする

んだよね。いくら深雪でもね。私達はその隙を突いて戦うって訳』

 深雪に初めて動揺させた。

 ここまでが準備。

 ここまでは問題ない。

 ここからが本番。

 更に効果範囲を設定している部分に干渉して、書き換える。

 私のピラーを範囲外へ。

 猛火と吹雪を深雪に押し付ける。

 自陣から深雪の魔法が消えた。

 氷炎地獄(インフェルノ)が深雪のピラーに襲い掛かる。

 深景さん曰く。

 他人の褌で相撲を取ろう作戦。

 ネーミングはどうかと思うけど、やってるのはその通り。

 深雪は即座に魔法の制御を諦めて、魔法を終了させる。

 あれだけ乱れたのに、一瞬で収めるなんて流石深雪。

 だけど、チャンス。

 私は袖から短刀を取り出す。

 会場がどよめき、深雪が驚きに目を見開く。

 CAD同時操作って程じゃない。

 私は短刀を振り抜く。

 熱線が深雪のピラーを撃ち抜く。

「フォノンメーザー!?」

 どこからか正解を告げる叫び声が聞こえる。

 深景さんは、最終的にはモノにできるだろうけど、試合には間に合わないと踏んだ。

 それは正しい。

 だから、それを補うものを用意してくれた。

 フォノンメーザーの魔法式を刻印化した短刀を。

 私が普通にCADから放ったのでは、深雪の防御にここまで被害を与えるのは、

難しかった。

 深雪のピラーが二つ崩れ去る。

 

 深雪がリードを許したことはない。

 でも、そんなことで満足する気はない。

 必ず勝つ。

 

 

               8

 

 :深雪視点

 

 お兄様は流石です。

 使われる魔法は、お兄様の予想通り。

 そして、お兄様は仰った。

 どの程度、予想を超えてくるか、問題はそこだと。

 私が展開した魔法式に一部とはいえ、干渉してきた!?

 咄嗟に魔法を終了させてしまった。

 エイミィの魔法を見て、お兄様は予想を立てていた。

 おそらくは私の魔法発動を妨害してくると。

 予想を超えてくるだろうと、いわれていても驚いてしまった。

 雫はこちらが攻めに集中し踏み込み、勝ちを確信する瞬間を待っていたのね。

 攻めが強力な分、それがこちらに跳ね返る形になった。

 まだ、破壊されていないピラーも、かなりダメージがあるとみるべきね。

 しかも、フォノンメーザーまで持ち出すなんてね。

 

 でも、このまま勝てるなどと思わないで、雫。

 

 私にもお兄様が用意してくれた対策がある。

 予想を超えていても、まだ対応できる範囲だったことは幸いだったわ。

 私は雫が次の攻撃を行う前に、CADを操作する。

 選択魔法はニブルヘイム。

 雫の陣地に極寒の地獄が現れる。

 それでも、雫は余裕の態度。

 そうよね?お姉様から私の得意魔法ぐらい聞いているわよね?

 その雫の余裕に罅が入る。

 雫にはお兄様の様な眼はない。

 お姉様のような感覚がない。

 一般の魔法師の範疇で、魔法式に当たりを付けて干渉している筈。

 エンジニア以外に、キルリアンフィルター付きのカメラは使用不可。

 なら、その感覚を疑わせればいい。

 当然お兄様なら、魔法式を私用に最適化したものを使うと思ったんでしょ?

 お姉様すらそう思った筈。

 干渉しようとして、大した妨害になっていない事実に戸惑っている。

 ニブルヘイムは、雫の陣地から多少揺らいだだけで、依然として雫の陣地に

居座っている。

 その動揺を今度は私が突く。

 ニブルヘイムを解除して、衝撃波を放つ。

 雫が咄嗟にCADを操作して、衝撃波に干渉して被害を抑える。

 それでも中央の四本のピラーが破壊される。

 氷炎地獄(インフェルノ)も、雫のピラーに確実にダメージを与えていた筈。

 ここで壊せなかったとしても、じっくりと攻めればいい。

 私は再びニブルヘイムで雫の陣地を襲う。

 

 悪いけれど、勝ちは譲らないわよ。雫。

 

 

               9

 

 やっぱり達也は、こっちの手を読んでたか。

 深雪のCADには、最適化したニブルヘイムと、公開されている魔法式そのままのニブル

ヘイムの二つが、入れられていたんだ。

 大体の感覚では、効果範囲設定部分の魔法式にズレが生じるだけで、効果が激減する。

 一方、深雪は魔法を使う側だから、魔法式は正確に把握している。

 主要部分が無事なら幾らでもリカバーしてしまう。

 深雪くらいの使い手ならの話だけど。

 普通の魔法師なら維持することもできない。

 雫。焦らないで。

 最適化されただけで、位置は若干変わっているだけだよ。

 落ち着いて探して。

 その祈りが通じた訳ではないだろうけど、雫が落ち着きを取り戻す。

 魔法師は冷静に。

 雫に練習でいい続けていた甲斐もあった。

 同じニブルヘイムなんだから、答えは雫にも出せる。

 雫がニブルヘイムを探るように干渉し出す。

 そう、落ち着いて。

 必ず分かる。

 雫が目を閉じて集中している。

 深雪が頃合いとばかりにニブルヘイムを終了させようとした、その時。

 雫が目を見開く。

 ニブルヘイムが深雪のピラーも巻き込み出した。

 これは博打としては分が悪いよ?

 雫が干渉したのは、効果範囲を示す部分ではない。

 制御系の部分。

 深雪が暴走寸前の魔法の制御に追われる。

 雫のピラーだけでなく、深雪のピラーまで巻き添えにしている。

 深雪の表情に余裕はない。

 額には汗が大量に流れている。

 ここまでくると時間の勝負になる。

 雫のピラーには時間がない。深雪のピラーには若干だが、雫のピラー以上の余裕がある。

「フッ!」

 雫が気合一閃で短刀を振るう。

 熱線の形だけでなく、私の短刀は斬撃としても使用できるんだな、これが。

 深雪の陣地のピラーが、防御を貫いて斬り裂かれ崩れていく。

 

「ハァ!!」

 

 誰の声か一瞬分からなかった。

 声を発したのは、深雪。

 暴走寸前の魔法を収めてしまった。

 一瞬で。

 今度は雫もそんなことで動揺したりしない。

 

 次で勝負が決まる。

 

 

               10

 

 :達也視点

 

 破壊判定こそされていないものの、両陣地共にピラーはボロボロ。

 ここまでくれば、ピラーの本数が幾つ残っていようと関係ない。

 次の魔法で決まる。

 

 二人の選択魔法は奇しくも同じ。

 

 共振破壊。

 

 氷が砕ける音がやけに大きく響いた。

 

 会場が静まり返っている。

 深雪のピラーの残り二本の内、一本が崩れる。

 だが一本、深雪の傍にあったピラーが無事に立っていた。

 そして、雫の陣地には綺麗にピラーが消えていた。

 

『激戦を制したのは、第一高校・司波深雪選手!!!』

 

 耳障りな絶叫が会場に響き、会場も釣られたように歓声を上げた。

 ギリギリの戦いになったな。

 雫があそこまでギャンブルをやるとは、流石に予想できなかった。

 下手をすれば、ニブルヘイムを暴走に追い込んだ時点で終わっていただろう。

 深雪が咄嗟に制御に集中したことで、ニブルヘイムの威力が落ちた。

 それにより、雫のピラーの耐久度が多少残った。

 そして、雫に反撃のチャンスが巡ってきた。

 もっと、雫が干渉技術に習熟していたら、結果は違っていたかもしれない。

 深雪もそこを理解しているようで、勝ったというのに観客の歓声に応えることはない。

 同様に雫も健闘を称える拍手と歓声に応えなかった。

 もっと習熟していれば。

 それは雫こそ痛感している最中だろう。

 それにしても、姉さんもとんでもないことをする。

 魔法式の一部分のみを全力で押さえ込むなど。

 キャストジャミングなど目じゃない程、厄介な技術だ。

 姉さんも領域干渉に偽装しているだろうけど、効果が別物だ。

 惚けても厳しいだろう。

 これは風間少佐と相談しないといけない。

 姉さんが、また顔を顰めるのが目に浮かぶ。

 やり過ぎたんだから、堪えて貰おう。

 

 こうして、新人戦・ピラーズブレイクは、深雪の優勝という形で幕を下ろした。

 

 

               11

 

 :戸愚呂視点 

 

 やれやれ。

 新人戦くらいはゆっくりしていられると思ったんだけどねぇ。

 通信機を耳から離し、仮初の依頼主からの怒声という名の命令を聞いていた。

 ま、仕方ないかね。

 新人戦とはいえ、ここまでされたら妨害せざるを得ない。

「了解しました。新人戦・モノリスコード辺りで仕掛けますよ」

 

 そういい捨てて、返事も聞かずに通信を切った。

 溜息が出るねぇ。

 

 

 

 

 

 




 本当ならほのかを掘り下げて上げたかったんですが、
 沓子との戦いは優等生の通りだったので、端折り
 ました。

 やっとここまできたか。
 魔法に対するツッコミは無用でお願いします。
 私の脳ではこれが限界です。

 次回も気長に待って頂ければ幸いです。


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九校戦編13

 少しづつ話は進んでおります。
 遅いけど…。

 では、お願いします。


               1

 

 ピラーズブレイクが終わった。

 雫が戻ってくる。

 当然、落ち込んでいた。

「お疲れ様。最後は賭けに勝ったってだけだから、次回は更に相手の裏をかく方法にしないと通じ

そうにないかな」

 この後、天狗さん辺りがこの技術の問い合わせをしてくるだろうけど、別に構わない。

 ()()()()()()()()

 この技術も結局は修練がものをいうものだし、私のサポートなしだと何十年単位で修行が必要に

なる…と思う。

 なにせ、短期習得の為に結構裏技的な方法を駆使したからね。

 それでもチートの妹は越えられなかったけど。

 即実戦投入とはいかない技術であるのは間違いない。

 習得は軍なんだから各自で宜しくという積もりだ。

 雫はといえば、てっきり慰めでも口にすると思っていた使えないエンジニアが、次回などと

いった事に、ビックリしたようだ。

「次回…?」

「そう、次回。何?雫と深雪の対決ってこれで終わりなの?負けたら引き下がるの?」

「っ!!」

 そんな鳩が豆鉄砲を食ったような顔しなくても…。

 当然次回あるでしょ。

 九校戦は来年もあるんだから。

 それが叶わなくても手合わせくらいやってもいいし、授業で競うこともあるでしょ。

 何も原作通りでなくても、そこはいいでしょ。

「ああ…そう…だね」

 雫はカクカクとぎこちなく頷き、その後になんとか笑みらしきものを浮かべた。

 うん。表情がマシになってよかった。

「でも、普通、こういう時に掛ける言葉じゃないと思う」

「異論はないけど、少しは気が紛れたんだからいいんじゃない?」

「それも自分でいうことじゃないと思う」

 私は笑った。

 正論だ。

 雫も笑った。

 声を出して笑った訳じゃないけど、雫だから。

「それじゃ、反省会といこうか」

「…わかった」

 私は結構容赦なくダメだった点とよかった点を指摘した。

 録画した映像を二人で観ながら。

 雫は真剣な表情でそれを聞いていた。

 

 終わった頃には、親密度が上がったような気がした。

 あくまで気がしただけだけど。

 

 反省会が終わって、帰る途中でほのかが待っていた。

 二人が暫し見詰め合う。

 私は余計だね。

 私はほのかに耳元で後を宜しくと、サクッと無責任に丸投げして退散することにした。

 

 

               2

 

 後は間の悪いことに達也達が雫達とエンカウントしてしまったりしたそうだが、原作通り乗り

切ったようだ。

 ささやかなながら、ピラーズブレイク優勝・準優勝のお祝い会を開こうといった時、いつも通り

の雫に戻っていたから、ほのかも上手くやってくれたんだろう。

 勿論、我が弟と妹も頑張ってくれたんだろう。

 我が弟は、金銭的な意味でも貢献したらしいけど。

 あと、天狗さんは忙しいらしい。

 達也もあれから面会できないそうだ。

 別に私は話したくないからいいけど、寧ろずっと忙しくしてて下さい。

「それではカンパ~イ!!」

 ルネッサ~ンス。

 っと、いかん年齢が…。

 里美さんの乾杯の音頭でお祝い会がスタートした。

 勿論、ジュースでの乾杯だよ?

「いや、まさか折角の覚悟が友に止められるとは!!」

 大袈裟な仕草でエイミィが嘆く。

 アンタ、モノリスコードに出るんでしょうに。

「フッ!僕の本領はミラージバットさ」

「ほのかとスバル、それにお姉様は明日からミラージバットね」

 嫌な事を思い出せないで。

「しかし、風呂で深景さんのスタイルは見たけど、ミラージバットの衣装を着られると、強調

されるね」

 里美さんが眼鏡を光らせて、下らないことを宣う。

 止めなさいっての。

 しかも、私の衣装さ。

 誰の陰謀か知らないけど、みんなと少し違うんだよ。

 どっかのうっかりさんの元を逃げ出した杖と契約しちゃった魔法少女みたいなコスチューム

なんだよ!一体誰得なの!?鬱だわ!!

 大体、どこから持ってきたのよ、アレ!?

 あの衣装に許可出すとか、大会委員会も何考えてんの!?

「そうなんだ!!もう揉ませろ!!」

 錯乱したエイミィに極小の霊丸を叩き込み撃沈する。

 詰まらぬものを撃ってしまった。

 ところでほのかに雫。百合の世界に行っちゃったんじゃないよね?

 お互い手を握って見詰め合ってるけど!

 それと深雪。なんでしなだれかかってるくるの!?

 里美さんは、なんだかヅカの人みたいにポーズを決めてるし!

 これ、酒混入してんじゃないよね!?

 ここから女の子が入り乱れる狂気の沙汰に突入していくことになるなど、この時の私には

分からなかった。

 夜が明けた時、昨夜の惨事を覚えていた子はいなかった。

 

 なんでやねん!!

 

  

               3

 

 悪夢のような日が来てしまった。

 ミラージバット予選。

 どうか夢なら醒めて!!なんて悲劇のヒロイン気取っても、誰も助けてくれないのさ!

 達也がエンジニアを引き受けてくれたんだけど、矢鱈気合が入ってましたよ…。

 衣装合わせと同時にCAD調整完了って、どんだけ~って感じだよ。

 これが私の魔法少女デビューか…。

 くっ!殺せ!

 私は深雪の穴埋めだから、里美さん、ほのかの後に登場になる。

 私の役割としては、決勝までいって二人のサポートってとこだよね。

 表向きの私だと、予選に勝つのキツイんですけど!!

 二人は順調に決勝への切符をもぎ取った。

 私の出番です。

 いやだいやだいやだ…。

 ゲシュタルト崩壊しそうだわ。

 円柱の柱の上に立つと、歓声と共にエロ視線が突き刺さる。

 スタイルが前世よりよくなったのも、良し悪しだね。

 テンション下がるわぁ。

 だが、四方向からの謎の殺気が発せられ、会場が静まり返る。

 まあ、もうツッコマナイヨ?

 

 さて、参ります。

 開始のブザーが鳴る。

 

 ホログラムの球体が現れると同時に飛び上がる。

 お!流石マイブラザー。軽い軽い。

 私の表向きの魔法力でも、他の選手より早く球体に到達する。

 魔法のステッキで叩く。

 他の子が、叩く標的を失い虚しく着地。

 次々と球体が現れる。

 みんながぴょんぴょん飛び跳ねて、ポイントを重ねる。

 がっついてますな。

 新人戦だけあって、ペース配分がなってない。

 私は焦らず自分のリミッターと相談して、一定のリズムで跳び上がる。

 一瞬で自分が叩く球体を判別するなんて、プレイヤースキルの範疇。

 他の子達が無駄に跳ね回り、息切れしてきた中。

 私はマイペースでやっていた。

 ハッスルしてボロ出すなんて、御免だからね。

 これで負けたらどうするんだって?

 それは残念で済ませるよ。

 元々が無茶振りなんだからさ。

 だがしかし、予想に反して、がっついた人達のミスで私は予選を突破した。

 キツイ筈なのに普通に突破とか、思惑通りの青山通りっぽくて嫌だね。

 誰の思惑だって?

 そんなのコレを押し付けた人達に決まってるでしょ。

 

 なんか閣下の熱っぽい笑顔が視界に入り、更にテンションが落ちたのは内緒だ。

 

 

               4

 

「見事だったよ、姉さん。勿論、二人も」

 三人で戻ったら、達也からそういわれた。

 深雪と雫も一緒だった。

観戦が終わってから合流して、待ってたんだろうね。

 しかし、姉として取り敢えず。

 私は無言でステッキを達也の頭に振り下ろした。

 鈍い音がしたが、達也は頭をさするだけだった。

「達也さん!」

 恋する乙女・ほのかが駆け寄る。

 例によって達也は、ほのかを手で制して大丈夫アピールをしていた。

 素直に受けなさないな。

 もう一発いっとく?

 ほのかが泣きそうだし、自重するしかないか。

 深雪は苦笑い。

 雫は無表情でサムズアップしている。

 里美さんは、一人ドン引きしているようだ。

「私は穴埋め要員なんだから、まずは二人を称えないとダメでしょ」

 達也が、ああ!みたいなリアクションをする。

 勿論、私と深雪にしか分からない程度の反応だけど、失礼だから、それ。

「いやいや。ホントに深景さんは二科生かい?蔑視的な意味じゃなくて…」

 達也と深雪に配慮したのか、最後が言い訳っぽく聞こえる。

「だって、普通に予選突破してるからさ」

 今度は素直に感心した様子で里美さんがいった。

 達也と深雪は何やら嬉しそうに頷いている。

「いや、あれは他の子の自爆でしょ。ペース配分がなってなかったもの」

「そのペース配分が難しいんですよ!」

 ほのかが、私が謙遜でもしたと思ったのか、否定に力を入れていった。

 そうかな?だって、二人だって達也の指導でペース配分完璧じゃない。

「その指導も君は受けてないだろ?」

 私の考えていることが伝わったのか、里美さんがいった。

 そんなに考えてること分かり易いかな、私。

「兎に角、次は決勝だ。それまで体を休めてくれ」

 達也がエンジニアとしてのコメントをして、背を向ける。

「お兄様?」

 そのまま去って行こうとしていた達也に、深雪が声を掛ける。

「済まないが、少し休むよ。深雪はモノリスコードの見学でもしておいで」

 達也が振り返って、深雪のいいたいことに答えた。

 

 それじゃ、私もそうするか。

 なんて呑気に構えていたことを私は後悔することになる。

 

 

               5

 

 :戸愚呂視点

 

 さて、仮初とはいえ、依頼主。

 依頼は実行しないといけないねぇ…。

 見たところ、魔法師の卵もいいところで、叩き甲斐もなさそうだねぇ。

 これは蛭江にでも一人で遣れる仕事だ。

『蛭江。新人戦モノリスコードで妨害の指示が出た。お相手の四校の仕業にでも見せ

掛けろ』

 通信機がなくともこうして指示ができるようになったのは、便利になったものだねぇ。

『要ります?そんな小細工』

 ヘラヘラした声が返ってくる。

『勿論、気付かれているだろうけどね。キチンと証拠があれば、無視もできないものさ』

 蛭江はこういう細かい作業が得意だった、人間だった頃から。

『分かりました。野郎ばっかりの競技ですからね。サクッと開始同時にフライングって

感じでやりますよ』

『くれぐれも…』

『分かってますって、バレないように注意はしますよ』

 多少、不安が残ったものの、これ以上いっても仕様がない。

 つくづく詰まらない仕事だ、今回のは特に。

 

 溜息を吐きたくなるのを、コーヒーを飲み干して、モニターを眺めた。

 

 

               6

 

 :真由美視点

 

 ミラージバットは、出場選手三人が決勝進出で順調。

 深景さんも期待に応えてくれた。

 新人戦が魔法競技初めての一年生じゃ、あんなに淡々と一定のリズムで得点を重ね

られたら、平静ではいられない。

 しかも、最初に圧倒的な発動スピードで跳び上がったのも効いている。

 その所為で、他校の選手は焦りでペースを乱されて、後半まで体力が持たなかった。

 やっぱり()()()()は、普通じゃないわね。

 それにしても、深景さんのあの衣装…いいわね!

 急いで私が一年生の時に使ったヤツを、手直しさせたけど間に合うものね!

 実家の力をこんなところで使うのかって、父には嫌味をいわれたけど。

 問題ないわ!

 決勝も期待しましょう!

 

「会長?」

 気が付くとハンゾー君が怪訝そうに、私を見ていた。

 ボゥっとしていたから心配されたみたいね。

 しまったわ。

 ここは天幕内で、これから新人戦モノリスコードの応援だったわ。

 男子はハンゾー君に任せきりにしてものね。

 私はなんでもないと適当に微笑むと、ハンゾー君は真っ赤になって引き下がった。

 う~ん。相変わらず揶揄い…面白い子ね!

「会長が心配なされるのも当然ですが、流石に最下位の四校が相手です。大丈夫でしょう」

 いいように誤解されたので、私は笑顔で頷いておく。

 今のところ男子の空回りっぷりは、発揮されていない。

 明智さんが上手く森崎君を操縦している。

 そのお陰もあって、順調に勝ち進んでいる。

 リーダーの森崎君は、やる気満々だけど三校には敵わないでしょうね。

 準優勝を狙って貰うしかないわね。

 そんなことはおくびにも出さずに、試合を見守る。

 みんなこの試合の勝利を疑っていないから、リラックスして気軽に眺めていた。

 そして、開始のブザーが鳴り響いたその瞬間。

 一校のスタート地点である廃屋が、崩れ落ちた。

「はぁ!?」

 誰かが声を上げる。

 それを合図にして混乱が全体に広がった。

 四校のフライングだと騒ぎ出す子もいた。

 私自身も戸惑っていたが、そんな暇はなかった。

 みんなを宥めるのに、私は力を注ぐ必要があったから。 

 

 四校の反則行為?それとも…。

 答えは見ていても、四校を疑ってしまうのは仕様がない。

  

               7

 

 私は深雪と雫と一緒になって、エイミィの雄姿を観戦する積もりだった。

 だが、それは色々な意味で砕かれた。

 開始早々に、スタート地点が潰されたのだ。

 なんで忘れてたかな…。

 あの残念イケメンと一緒にモノリスに出るということは、この妨害行為に巻き込まれる

可能性があったんだ。

 何故、このことを忘れていたのか。

 原作でもあったことなのに。

 分かってる。

 自分に降り掛かった災難で頭が一杯になって、それどころじゃなくなったんだ。

 肝心なところでこれか!!

「お姉様」

 深雪の冷たい手が、私の手に添えられる。

 それで初めて気付かされた。

 握り締めた拳から血が滴っていた。

 深雪がハンカチを取り出して、巻いてくれる。

「ごめんね。ありがとう」

「いえ」

 自己嫌悪で一杯になりそうになっていたから、丁度よかった。

 今はそれどころじゃない。

 私はエイミィ達の無事を確認する為に、歩き出した。

 精霊の眼(エレメンタルサイト)で魔法の痕跡を探す。

 どんな僅かな痕跡も見逃しやしない。

 今、達也は休憩中。

 他の誰にも気取らせやしない。

 見付けた。

 僅かな糸を。

 どんなにサイオンを偽装し、痕跡を誤魔化そうと私の眼は欺けない。

 糸を辿っていくと、もう術者は観客席から離れていた。

 見るからにスケベそうな男が、ヘラヘラ歩いていた。

 コイツか。

 明らかに普通の人間ではない。

 パラサイトだ。

 遠慮はいらない。

 後ろにいる二人に気付かれないように、厳重に魔法式及び魔法の痕跡を隠蔽する。

 サイオンセンサーにすら引っ掛からないくらいに。

 別空間にコアがあるパラサイトを殺すのだ。

 別空間に展開する魔法なのが、丁度いい。

 ≪崩霊裂(ラ・ティルト)

 私はこの世界には存在しない魔法でパラサイトを焼き払った。

 間の抜けた声を上げて、スケベ面は一瞬にして青白い炎の柱に焼かれ、燃え尽きた。

 分かっている。

 こんなことはなんの救いにもならない。

 ただの自己満足だ。

 だけど、これは反撃の狼煙だ。

 派手にいこうじゃないの。

 

 スケベ面が燃え尽きた辺りで、騒ぎが起こり始めていたが、私は無視して歩き続けた。

 

 

               8

 

 エイミィ達は、結果をいえば命に別状はなかった。

 魔法万歳ではあるけど、重症だ。

 全治魔法込みで二週間。

 三日は絶対安静。

 取り敢えず、原作より酷くなってはいない。

 犠牲者が増えている分、酷いといえなくもないけど。

 私は、もう気持ちを切り替えていた。

 今回の連中には私が制裁を下す、と。

 私にできることは、これ以上被害を出さずに九校戦を終わらせて、首謀者を速やかに

片付けることだ。

 その為なら、多少目立とうが、嫌だろうが、()()()()()()()()()()()()()()

 自己満足だと承知の上で、決意を新たにすると、後ろからマイブラザーがやってきた。

「お兄様!」

 深雪が真っ先に反応する。

 達也の顔が険しくなった。

 私達の様子だけで何かあったと察したみたい。

「モノリスコードで何かあったか?」

 雫が何かいう前に私が口を開いた。

「また妨害工作だよ」

「お姉様、まだ決まった訳では…」

 私の断定に深雪が宥めるようにいった。

 残念ながら、私は確認しているから決まっている。

 理由はいえないけどね。

 雫は少し落胆した様子だった。

 なんかこの子の感情が読めるようになってきたよ。

 雫にしてみれば、組織の妨害などでなく四校のフライングの方がいいと思っていた

んだろう。

 そっちなら怒りをぶつける先もある。

 だが、組織であるなら、彼女が手を出すことは好ましくない。

「姉さんなりに確信がある。そういうことかい?」

「まあね」

 達也の問いに、私は素っ気なく答えた。

 その確信は語る積もりがないことを示したのだ。

 話すことがなくなり、みんな黙り込んでしまった。

「達也君も戻ったのね。悪いけど、深景さんと達也君はちょっと付き合ってくれない?」

 気まずい空気が出てしまった直後に、有難いことに閣下が後から声を掛けてきた。

 私と達也は視線を交わすと、頷き合った。

 異論はない。

 

 私達は、閣下の案内で天幕内に幾つかある区画された部屋に通された。

 閣下が入った瞬間に音を遮断する魔法を使用する。

「見事な遮音障壁ですね」

「まっ、これ位はね」

 達也の称賛に閣下は少し照れて答えた。

「いきなり本題なんだけど、今回の件も件の犯罪組織の妨害だと思う?」

「ええ。だと思いますよ。いくら九校戦といっても、技術優先の四校がバレバレの反則

やる価値が、新人戦にあるとは思えませんしね」

 前置きなしで本題に入った閣下に、私は表向きの理由を口にする。

 大体ここで勝っても、四校の成績じゃ意味がない。

 四校が一校に今更意趣返しする理由もない。

 達也も隣で賛同してくれる。

「向こうがここまでやってくるとなると、私達も考えなくちゃいけないわ」

 お好きにどうぞ。

 私は勝手にやるだけです。

 ここで閣下は迷うような態度を見せた。

「考える、とは?」

 達也が話の続きを促すようにいった。

 閣下が意を決したように私達を見る。

「今、十文字君が折衝中なんだけど、メンバーの入れ替えをして競技を続けようと思う

の」

「しかし、モノリスコードではメンバーの入れ替えは…」

「分かってる。それは今回の事態を考慮して貰うし、認めさせるから」

 閣下がキッパリといい切った。

 凄いね。あの腐れ爺にそこまで強気に交渉できるのか。

「それでね。モノリスコードに貴女達に出てほしいのよ」

 達也の眉間に皺が寄る。

 達也が何かをいう前に、私が達也の肩に手を置く。

「姉さん…」

 渋々といった感じで達也が黙る。

「つまり、私達に代わりに妨害工作の盾になれってことですね」

「ええ」

 閣下は真っ直ぐに私の目を見ていった。

「貴女達の実力を評価した結果だけど…軽蔑してくれていいわ」

 原作と違って、閣下の口から参加を強制されるとはね。

 でも、これは想定していたことだ。

「他の二人はどうする予定なんです?」

「姉さん!?」

「いいの?」

 達也と閣下が驚いて私を見た。

「エイミィとは、もう友達になったんです。放置することはできません。別に一科生の

ことは身内以外どうでもいいですが、身内に手を出された以上、何もしない訳にいきま

せんよ」

 閣下はどうでもいいって…なんていって凹んでいた。

 なんで貴女が凹むんですか。

「姉さんの気持ちは、分かった。俺もベストを尽くすよ」

 達也は止めても無駄だと思ったのか、私を護ることにシフトしたようだ。

 大丈夫。迷惑は掛けない。

「その代わり、成績の方は約束できませんよ?ミラージバットの後ですし、CADの

レギュレーションまでは流石にどうにもできないですよね?」

 閣下は苦い顔で頷いた。

 メンバーの入れ替えだけでも、相当の無理がある筈だ。

 流石にレギュレーションを無視は向こうが了承しないだろう。

 そんなの許可したら、他校が暴動を起こすだろう。

「それでは、メンバーぐらいはこちらで指名させて頂きますよ?」

 達也が有無をいわせぬ口調でいった。

「え?いいけど…」

「それでは他のメンバーは、西城レオンハルトと吉田幹比古をお願いします」

「ええ!?それはちょっと…」

「メンバーを入れ替えるんですから、人員を変えるのなんて今更でしょう。飲ませて

下さい」

 達也、容赦ないね。

 ついでにレオ君も幹比古君も、やりたいと思ってないと思うよ。

 更にあのぬりかべに、成績の件も伝えて置いて下さいね。

 

 結局閣下はすぐに天幕を出て、ぬりかべと共に員数外のメンバー参加を、腐れ爺に

飲ませた。

 

 

               9

 私とほのか、それに里美さんが達也の前に整列していた。

 悪夢のミラージバット決勝の始まりです。

 悪夢であろうが、今回止める訳にはいきません。

 ほのかを危険な目に万が一でも合わせられないし。

 ついでに里美さんも。

 ガードの意味でも降りられない。

「予選と戦い方は何も変わらない。…みんなの持ち味を出し切れば、一・二・三位独占

間違いなしだ」

 うん。私は兎も角、二人の場合は正しいね。

 それよりお姉さん、みんなの前の間が気になります!

 口には出さないけど。

 私も達也に倣っていつも通りを通している。

 即ち、渋面してます。

 断っておくけど、これはいつも通りを意識した結果です。

 断じて本音ではない。

 証拠に二人共気付いてないから。

 何故、達也と二人でいつも通りにしているかといえば、閣下に不安になっている子達

のケアも頼まれたからだ。

 動揺は感染する。

 なんてことないって感じを出さないといけないのだ。

 証拠に女子はある程度落ち着いたよ。

 私以外の二人は、達也の言葉に嬉しそうに頷いて出て行った。

「達也」

「分かってるよ。見逃しやしない」

 原作では新人戦のちょっかいはここまでだったが、原作とは異なる以上、無警戒など

愚かなことはしない。

 達也の言葉に頷くと、私も二人を追って決勝の舞台へと急いだ。

 

 開始のブザーが鳴り響く。

 開始前のエロ視線があまりなくなっていたので、精神的に少し楽だ。

 その代わり、達也がガン見されたけど。

 真っ先にほのかが先制点を叩く。

 流石、光のエレメント。

 速い速い。

 お次は里美さん。

 他の選手は跳び上がれても、競り合うところまでいけない。

 呑気に構えて見えても私は達也と共に周囲を警戒しつつ、試合もやっていた。

 ほのかの進路妨害を無謀にも企んでいた二校の選手に、進路を塞ぐようにフェイントを

掛ける。

「っ!!」

 二校選手は咄嗟に回避なんて芸当ができずに、高く跳べずに着地する。

 勿論私も。

 実際フリだけだし。

 フェイントに引っ掛かった二校の選手が私を睨み付けるが、気にしない。

 そう、今回、悪いけど私はガードとサポートに徹する。

 三位くらい他校にやってもいい。

 それで二人の安全が買えるなら安い。

 今度は私が先に跳び上がる。

 二校選手はお返しとばかりに、私の進路を塞ごうとするが、私は身体を捻って躱す。

「っ!?」

 私のステッキが球体を叩き、得点を捥ぎ取る。

「おい!?なんだあれ!?魔法か!?」

「おいおい。魔法なしであんなことやれるなんて、本戦レベルじゃねぇか!!」

 おや?正解をいい当てた人がいるよ。

 跳び上がるのは魔法。

 躱すのは自前の身体能力だ。

 節約しないといけないからね。

 私はそれからも一切他校の三人に、二人の邪魔はさせなかった。

 いいように翻弄してやりましたよ。

 目立ったけど…。

 

 結果はほのかが優勝。

 里美さん二位。

 三校選手が地味に三位。

 

 私は目立ったにも拘らず五位。

 

 だって、邪魔に徹してたんだもん。

 

 

               10

 

 :ダグラス・黄視点

 

 新人戦モノリスコードを観て、幹部が胸を撫で下ろす。

 これ以上の快進撃は困るからな。

 これでモノリスコードは棄権だろう。

 戸愚呂にもう少し仕事をさせるか?

 そんなことを考えながらミラージバット決勝を観ると、またしても快進撃。

 クソッ!もどかしい!!

 いっそ、もっと手を出させるか!?

 その願いが伝わったのか、戸愚呂から通信が入った。

 あの男からとは珍しい。

『部下が一瞬で消されました』

「何!?国防軍か!?」

『いえ。もっと厄介な相手のようですなぁ。この先は少し派手にいくかもしれません。

承知して置いて下さい』

 ヤツの部下も尋常じゃない連中だ。

 それが一瞬で、だと!?

 

 その衝撃に、派手にいくだのという過激発言や、戸愚呂が酷く楽しそうな様子に、私は

気付いていなかった。

 

 

 

 

 




 雫は深雪と本気で戦う機会を気にしていましたが、そんな
 の自分で作りなさいと思っていたので、こういうことに
 なりました。
 十文字さんの説得パートは省略になりました。
 達也が逃げているなら、一科生はなんなんだって思ったの
 私だけですかね。
 深景のミラージバットは、アッサリした感じになりました
 が、原作もサラッとしてましたし、これでご勘弁を。
 深景は原作の細部は薄れ始めていて、これからも漏れは
 出るでしょう。まあ、当然だと思いますが。

 それでは次回も気長にお待ち頂ければ幸いです。


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九校戦編14

 時間が掛かってしまい申し訳ありません。
 今回もあまり話が進んでいない…。
 それでも、前進はしている…筈だ。

 それではお願いします。


               1

 

 今現在、室内はどんよりとした空気です。

 主に男の子二人から漂っている。

 因みにつるんでる二科生組は、全員私と達也の部屋にいた。

「なあ、達也。マジなのか?」

 レオ君が呆然自失というか、魂が離脱しかけながらも言葉を紡ぐ。

 彼等は、死刑宣告…もとい、モノリスコード強制参加をぬりかべから仰せつかったのだ。

 あまりの事に抵抗らしい抵抗もできなかったようだ。

 あの強面でくわっ!て睨まれたら、一高校生が抵抗などできる筈がない。

 ヤクザより質が悪いんだから。

 因みに、その後、呆然とする二人を達也が、無情にも拉致してきて今に至る。

「会長ならいいそうだが、十文字会頭がこんな冗談を言うと思うか?」

「いやいや、会長さんならいうってのは兎も角…マジなのか?」

 私はレオ君の肩に手を置いて、ニッコリと微笑んだ。

「ドンマイ!」

 いい加減、男の子なら覚悟を決めなさい。

 レオ君が、お腹が痛い子みたいな顔で項垂れた。

 そして、落ち着きなく貧乏ゆすりしているのは幹比古君。

 彼は派遣された術者を殺され、突然モノリスコードに強制参加させられグロッキーだ。

 精神的な意味で。

 隣で美月が、どう声を掛けてよいものか悩んでいる。

 だが、ここにはリーサルウェポン・エリカがいた。

 情け容赦なく幹比古君の頭を引っ叩いた。

 死人に鞭打つとは、まさにエリカの為に存在しているよね。

 幹比古君が無様に前のめりに倒れ込んだ。

「ひ、ひでぇ」

 レオ君が恐怖に震えている。

「全く、落ち着きなさいよ。ミキ」

 声の感じは、ちょっと注意したみたいな感じなのに、行動がバイオレンスだね、エリカ。

「ぼ、僕の名前は…幹比古だ」

 倒れ込んでもツッコミは忘れない。

 素晴らしい人材だ。

 美月が慌てて助け起こしている。

 だが、痛みで再起動は果たしたようだ。

 流石、幼馴染。

 分かっていらっしゃる。

「しかしよ。やれっていわれても、なんにも用意してないんだぜ?」

「うん。妨害を防ぐ意味合いがあるなら、協力は吝かじゃないけど、装備なしの無手で

挑むのは無理だよ」

 やっと真面なことを口にした二人。

「安心しろ。俺と姉さんも何も準備してない」

「いやいやいや。それダメだろ。色々と」

 達也のボケにレオ君が即ツッコミを入れる。

「安心できないなら、心配するな」

「それ、意味が同じだから」

 思わず達也の言葉にツッコミを入れてしまうエリカ。

 でも、それくらいしかいえないよね。

「まあ、CADオ…もとい、中条先輩がバッチリやってくれるよ。多分…」

 私は宥めるようにいってあげた。

「多分!?」

 幹比古君が、名前ネタ以外で初めてツッコミに参加した。

「心配するな。中条先輩は段取りのいい人だ。キッチリやってくれるさ」

 達也がフォローを入れてくれる。

「それにCADなら俺が用意する。一人四十分で仕上げて渡すさ」

 当たり前の如く、絶技を宣言したマイブラザー。

 普通は四十分なんて無理だ。

 まっ、私も手伝うことは当たり前に決まっておりますがね!

 四十分ってそこから出た時間だし!

「自分達のもあるでしょ。大丈夫なの?」

 エリカが若干心配気に言った。

「まあ、自分のなら…」

「すぐにでも終わる」

 私達の言葉にエリカは乾いた笑いを漏らした。

 この言葉に二人も覚悟が決まったようだ。

 こりゃ、逃げられんわ、と。

 よかったよかった。

「あ~あ。私がやりたかったなぁ」

 エリカのボヤキに全員の心の声が、私にはハッキリと聞こえた。

 

『アンタ、接近戦専門でしょうが!』

 と。

 

 

               2

 

 そこからCAD調整に即突入する。

 時間ないしね。

 既にCADオタは待機していた。

 段取りがいいこと。

 しかし、ここで一悶着。

 達也が吉田家の術式の欠陥を告げたのだ。

 その所為で幹比古君が魔法を上手く使えないと。

 原作通り、これはクリアしたけどね。

 原作では達也が一人でやってたけど、今回は古式を専門にしている私がいるから、私も

手を貸すことになった。

 といっても原作では達也一人でやってたから、私が口を出す必要もないから、サポート

してただけだけどね。

 それを見て、CADオタが硬直してたけど、気にしなくていいだろう。

 傍から見ると、クレイジーな作業に見えるだろうからね。

 最早、二人で新魔法作っちゃいました的な作業だ。

 普通の魔工師がやったんじゃ、使うのは遠慮申し上げるところだ。

 だが、見れば分かって貰える。

 魔法師なら、これは使えると。

 だから、幹比古君も黙って見守っていた。

 流石、使う術が多彩なこと。

 二人でああだこうだいいながら作業して、ジャスト四十分で作業を終わらせた。

 レオ君?

 原作通り小通連だよ。

 あれの調整は達也がパパッとやっちゃったよ。

 ここでもサポートです。

 チャンと試験はしていたようだし、扱いは大丈夫でしょ。

 

 私達の分は宣言通りと言わせて頂く。

 ついでにCADオタは、エクトプラズムを吐いていた。

 

  

               3

 

 :戸愚呂視点

 

 蛭江は戦闘要員としての技能は低いとはいえ、それは我々の基準の話だ。

 そこ等の魔法師に後れをとることなどない。

 それが一瞬にして本体ごと消された。

 身体を捨てる余裕すらなかったということだからねぇ。

 依頼主にも断りは入れた。

 ここ等で茶番も終わりにしたいことだし、最後は派手にやりたいねぇ。

 問題は()()()()()()()()()()()()()()()()

 ニヤリと思わず笑みがこぼれる。

 私の疑問の答えのような発表がなされる。

 一校がメンバーを総入れ替えして、モノリスコードに出ると。

 メンバーには、どっちも容疑者が入っている。

 これだねぇ。

 考えることなどないって訳だねぇ。

 神なんて信じちゃいないが、こういう時は有難く感じる。

 私の予想通りなら、一校は決勝まで勝ち進む筈だ。

 途中で負けるなら、妨害するまでもない話。

 本戦に、()()()()()ちょっかいを出すまでだ。

 仮の依頼主もその方が喜ぶだろうが、私的には嬉しくない。

 是非、頑張って貰いたいねぇ。

『各員へ。次の妨害目標、新人戦モノリスコード。おそらくは決勝になるだ

ろう。いつでも出れるように待機しておくように』

 少し、相手もウォーミングアップが必要だろうし、丁度いいんじゃないかねぇ。

 残りメンバーから、何故決勝に?という質問は出ない。

 私の面白そうな相手とは遊びたい心理を、理解してくれているからだろうね。

『あと、使えそうなヤツを何人か呼ぶことにする』

『それは剛鬼と蛭江がやられた関係で?』

 私の言葉に隠魔鬼が確認してくる。

『そうだ。こっちも総力を上げて取り組んだと見せないと、いけないからねぇ』

 頷くような気配なのは、無口な獄門鬼。

『今からいうことじゃありませんけど…』

『分かっているよ。退路を考えることまで敵前逃亡などという積もりはないよ』

 相手の厄介さが身に染みている魅由鬼が、いい辛そうに切り出したことを先回りして

私は肯定してやった。

 蛮勇より臆病の方がいい。

 こっちも大した実力者は連れてこなかったとはいえ、生き残ってくれれば次も使える

から、こっちも有難い。

『それでは、各員待機せよ』

 

『『『了解』』』

 

 

               4

 

 突貫作業でCADを仕上げ、即席チームでいざ出陣。

 因みにお相手は八校で森林ステージ。

 さて、どこで仕掛けてくるかな?

 これは八校の話じゃなくて、エイミィに怪我させた連中の話だ。

 八校なんて、ぶっちゃけどうでもいい。

 趣旨はレオ君達は理解している。

 危険であることも。

 それを含めて、閣下が試合前の演説にいらしている。

「っていう訳で、森崎君達の貯金を含めても、残りのチームの成績のお陰で全敗すると、

決勝トーナメントにいけません。その方が丸く治まるけど」

 やっぱり、一校の強引なやり方は他校の反感を買ったみたいだね。

 残りの対戦相手は二校と八校。

 彼等はウチにだけは負けたくないとか、思ってる様子だとか。

 こっちは妨害のハンデがあるのは承知だが、ルールを曲げさせるのまでは許容範囲外

らしい。

 しかも、代役のメンツは意味不明。

 エンジニアから二人、メンバーにすら入っていない応援メンバー二人。

 他校にしてみたら、ルールまで曲げてまでこれか!?ふざけてんのか!?って話。

 同情一転、ヘイト満点、おまけで困惑が隠し味って感じらしい。

「特例で試合する以上、勝ちますよ。当然でしょう」

 達也はハッキリといい切る。

「余計な心配だったわね」

 閣下が微笑んで頷いた。

 それで送り出されたんだけど…。

 なんだか、私だけ凄く応援して貰ったんだけど、なんかペタペタ引っ付くの止めて

貰えません?

 それで出てって、観客からの、は!?って感じの声が聞こえてくるようですよ。

 なんせ、レオ君は腰に棍棒モドキを下げており、私に至っては完全に刀下げてんだから。

 実際、こっちから観客なんて見えませんがね。

「なんか…悪目立ちしてるんじゃないかな?」

 カメラ越しにさえ感じる視線。

 凄いね。

 幹比古君が引き攣り気味にいう。

 疑問の余地もない。

 悪目立ちしているけど、それが何か?

「選手が注目されるのは当然だ。気にするな」

 達也がバッサリと切り捨てる。

「明らかに、コイツと深景の刀が原因だろう」

 レオ君がげんなりと自分の得物を見下ろし、溜息を吐いた。

 うん。当たりだね。

 ドンマイ!

 

 もうすぐ試合が始まる。 

 

 

               5

 

 :将輝視点

 

 モノリスコード予選で一校のメンバーが、入れ替えられた。

 俺とジョージは敵情視察で観に来ていた。

 これに止むを得ないと考える者、やり過ぎだと思う者もいるようだ。

 なんにせよ、大会委員会が是としたなら、文句をいっても仕様がない。

 問題なのは…。

「出て来たね、あの二人が」

 こっちの方だろう。

 深景さんと何かと注目されているエンジニア・司波達也が試合の代役として出て来た

のだ。

 他に一競技にしか出ていない選手はいた筈なのに、エンジニアや応援で来ていた人間

を代役にする。

 異常なことだ。

 例え、深景さんであろうと、試合である以上は手加減するつもりはないが、心配でも

ある。

 妨害工作を躱す為の人選だろうが、ならば何故代役に選ばれる程の選手が応援に

回っていたのか?

 あの二人が只者じゃないのは分かるが、残りの二人はどういう事だ?

 まさか、生贄ということはあるまいが…。

「ああ。まさか選手とは思わなかったがな。どういう意図なのか…」

「それをこれから見分しようじゃないか、将輝。二人共独特だね。二丁拳銃スタイルに

司波達也はブレスレット型、司波深景は武装一体型…かな?使いこなせるのかな?」

 俺の言葉の意味を察したジョージが、サラッと話題を変えた。

 考え過ぎるなということか。

 もう始まっているのだから、確かにここであれこれ考えてもそれこそ仕様がない。

 だから、ジョージの気遣いに乗った。

「伊達やハッタリではないだろう。いずれも特化型か」

「最初から二丁拳銃スタイルみたいだけど、複数の系統魔法を使いたいなら、汎用型を

チョイスすればいいと思うけど…」

 ジョージが考え込む。

「まあ、その狙いをこれから見分しようじゃないか」

 ジョージが苦笑いでそうだねと答えた。

 司波姉弟は、今大会で学生では有り得ない技術を見せたスーパーエンジニア。

 少しでも魔法が分かる者なら、侮りなどしない。

 他校も最大限の警戒をしているだろう。

 俺も今はあの二人がどれ程のものか見せて貰おう。

 

 だが、彼女が()()()()()()()()()に晒された時には、その限りではない。

 もうすぐ試合が始まる。

 俺は意識を集中して全てを見逃さないように備えた。

 

 

               6

 

 さて、始まりましたモノリスコード。

 オフェンスが達也、ディフェンスがレオ君、遊撃が青春中の幹比古君。

 そして、なんと!私も遊撃だったりする。

 私も古式ですし、ですよねぇ!って役割。

 決して手綱が取れないから、放置されたのではない。

 ココ重要です。テストには出ないけど。

 対戦相手は何度もいうけど八校。

 八校相手に森林ステージ。

 八校は野外実習を遣りまくっている学校で、森とか大好物らしい。

 だが、残念でした。

 私達姉弟も大好物です(得意という意味で)。

 達也が身体能力の高さを示し、私も高速移動中。

 縮地で。

 あっという間に、敵さんを一人発見。

 まだ、こっちに気付いてないよ。

 相手は女の子のようだ。

 それじゃ、失礼。

 ハンドガンタイプのCADを構えて、撃つ。

 霊丸を調節して撃ち込んだ。

 見事に八校の女の子が直撃を受けて、転がっていく。

 ピクリともしない。

 よし、気絶してるね。

 断って置くけど、死んでないからね。

 こういう時、便利な技だわ。

 

 私はすぐさまその場を離脱する。

 

  

               7

 

 :真由美視点

 

 試合開始からビックリの連続だった。

 達也君と深景さんが開始と同時に高速で移動し、姿を消す。

 達也君の動きは、九重先生に師事していると聞いていたから驚かなかったけど、深景

さんの方が問題だった。

 突然、姿が霞むように消えた。

 カメラが案の定、彼女の姿をロストする。

 達也君の動きは、キチンとカバーしているにも関わらずに。

 ロストしたと思ったら、八校の選手が倒れた。

 こちらはカメラがカバーしていたが、八校選手の視界外から放たれた一撃で倒れた

ようだ。

 おそらくはハンゾー君に使った遠当てか何かを使用したんだと思う。

 得意のサイオンの一撃で八校選手が吹き飛んだ。

 あの短時間で距離を詰めるなんて、物凄いスピードだ。

「もしかして…縮地か!?」

 隣にいる摩利が声を上げる。

「知ってるの?」

「ああ、もう、都市伝説みたいなものだな。習得していたヤツがいたとはな…」

 あの摩利が呆然としている。

 使い手は今、確認されていないそうだ。

 文献にのみ、あったと伝えられる技術なんだそうだ。

 摩利も彼氏経由でその文献を覘いたことがあるそうだ。

 八校有利の森林ステージで、気配も覚らせずに接近し、一撃で仕留める。

 とんでもないわね。

 観客席全体から戸惑いと驚きのどよめきが聞こえる。

「あっ!モノリスが開きましたよ!」

 あーちゃんが声を上げる。

 深景さんに気を取られている間に、達也君が八校のディフェンスを躱しモノリスを

開いたようだ。

 大会委員会が気を利かせて、リプレイ映像を出す。

 同じく達也君が高速で八校ディフェンスに迫り、突然の回避行動で八校選手の魔法の

照準を外すと、自身もCADを構えて魔法を放つ。

 おそらくは加重系統だろう。

 八校選手が思わず膝を突くが、行動不能にまでには至らない。

 それでも、彼は敵モノリスに走る。

 八校選手が達也君の背中を撃とうとCADを構え、魔法を放とうとした時。

 達也君が八校選手を見もせずに、CADを背後に向けて魔法を放った。

 その時、八校選手の魔法式が砕け散る。

 あまりのことに、八校選手がCADを取り落とす。

「っ!?」

術式解体(グラムデモリッション)!?」

 

 あの姉弟には、本当に驚かされる。

 その後、摩利が術式解体(グラムデモリッション)を知らなかったので、説明して上げた。

 

 

 

               8

 

 :達也視点

 

 さて、モノリスはこじ開けたが、流石に悠長にコードを打ち込む暇はない。

 すぐさま離脱を選択。

『こっちは一人片付けたよ』

 どうも移動中らしい姉さんから念話が入る。

 流石に早いな。

 射撃音が響いていたので、倒したのは分かったが。

 念話は古式の同調を利用した通信法で、姉さんが()()()()()()()使えるようにした

ものだ。

 本当に一定距離しか使えないのか怪しいが、姉さんがいわないなら訊くことはしない。

 姉さんをオフェンスにしなかった理由は、姉さんを自由に動き回らせる為だ。

 多分、姉さんをオフェンスにすると、色々と窮屈な思いをさせてしまうだろう。

 姉さんには、好きに行動して貰った方が、パフォーマンスがいい。

 さて、こっちもオフェンスの役割を果たさないとな。

『幹比古君が、木霊迷路で一人を戦線に加われなくしてる。レオ君が一人撃破』

 俺は口元を緩ませる。

 遠くで悲鳴が聞こえる。

 おそらく幹比古が無力化した選手に、姉さんが狙撃で止めを刺したんだろう。

 となると、俺に報告を入れた頃には、姉さんは幹比古のカバーに入っていたということ

だろう。

 俺は敢えて魔法で木の上に跳び上がると、魔法なしで隣の木に跳び移る。

 さっきの八校ディフェンスが、魔法の気配を察知してCADを手に慎重に接近してくるが、

魔法で跳び上がった木を警戒して、こちらに気付いていない。

 これでチェックメイトだ。

 八校選手の背を遠慮なく、俺は撃った。

 姉さんのように、サイオン自体を武器に出来ないが、行動不能にするくらいは俺にも問題

なくできる。

 今度こそ、身動きができないようだ。

 

 それを確認すると、俺はモノリスに走る。

 俺は悠々とコードを打ち込むと、俺達の勝利を告げるサイレンが鳴り響いた。 

 

 

               9

 

 :エリカ視点

 

 試合終了と同時に安堵した。

 他の子達は無邪気に勝利を喜んでる。

 まあ、それは別にいいんだけどさ。

 水を差す気はない。

 それに深景や達也君が居れば、まあ負けないでしょ。

 あの二人は高校生としては、別格といっていい。

 しかも、深景があの有名な九字光虎だったとはね…。

 次兄上が刀の製作を依頼していたから、どういう人物か調べたことがあったけど、顔や

年齢は公表していなかった。

 昔に失伝した技術と新たに造り出した技術を融合させ、新たな妖刀を打ち続けている

刀匠。

 妖刀などといえば聞こえは悪いが、ある種の魔法を使う専用の刀型のホウキは総じて

妖刀といわれる。

 現にウチにも何本かあるし、私も継承者の一人だ。

 実は私は実家を出て早々に剣の修行に出たかった。

 家の柵でそれは叶わなかったけど、今はそれでよかったのかもしれない。

 だって、深景に出会えたから。

 正直、深景が九字光虎であるというのがショックだった。

 剣の腕があれだけ凄まじいのに、剣が片手間だったということに裏切られたとすら

感じた。

 剣一筋に鍛えた私を、軽々と越えていた癖にって。

 でも違った。

 深景は剣を御座なりにしている訳ではなかった。

 剣を打つ為に、剣を深く学んだ結果だったのだ。

 深景なりに一本筋を通していたのだ。

 あの縮地でそれが分かった。

 正確には視認はできなかったが、軍用のプロテクターを着用していても、刀が動き

の邪魔にならず、尚且つすぐに抜けるようになっていた。

 人が刀に合わせて使うのは、現代では当たり前のこと。

 だって、刀は現代の主力兵器じゃないんだから。

 でも、深景の刀は違ったのだ。

 刀が使う人に合わせて打たれていたのだ。

 刀を扱う者の気持ちになって造る。

 それを体現した結果だったんだと、感じた。

 だから、深景は現代戦闘は勿論、古武術・剣術を学んだのだろう。

 より現代に使うに相応しい刀を打つ為に。

「エリカちゃん?大丈夫ですか?」

 考えごとをしてたら、横から美月が心配そうに声を掛けてきた。

「ああ!なんでもないなんでもない!気にしないで!」

 

 勝手に一人で拗ねてただけだし。

 

 

               10

 

 :将輝視点

 

 試合は予想通り、と言っていい結果。

 想定外も。

「今の試合、どう見る?」

 言葉短くジョージに問う。

「それは試合の総括じゃなくて、あの姉弟のことだね?」

「そうだ。どう攻める?」

 ジョージが一つ頷くと、少し考えてから口を開いた。

「あの二人は凄く戦い慣れているように見える。魔法より寧ろ戦闘技術に警戒すべきだね」

「魔法技術の方は?」

術式解体(グラムデモリッション)には、驚いたけど、彼の方はそれ程警戒する必要はないと思う」

 それから司波達也が使った魔法に関して解説を加えていく。

 確かに、不意打ちだったにも拘らず、意識を刈り取れてなかったな。

「寧ろ、彼女の攻撃手段があれだけしか確認できなかったのが、痛いかな?でも、僕の勘でいって

いいなら、サイオンを利用した攻撃しか手持ちはなさそうだね」

 勘といいつつジョージは、自信があるように見えた。

 俺は黙って続きを促す。

「他に手持ちがあるなら、もっとスマートな魔法をセレクトしたんじゃないかな?そこから導き

出される結論は、二人共、強力な魔法が使えないんじゃないかな?奈津さんとタイプは同じと

思っていいと思う。普段は、高度にチューンしたCADを使用してるもんだから、慣れてもいない

んだろうと思う」

 成程な。

 アレだけのアレンジスキルがあれば、そうだろうな。

 それに深景さんなら、敵に自分達の仲間を一人減らしたことを喧伝するような魔法は、使わない

だろう。

 あの抜刀術を思い出し、俺はそんなことを考えた。

 司波達也の方の分析にも納得できる。

 それにしても、奈津と同じタイプか…。

 ルール有りの競技で幸いだな。

 お互い何の制約なくぶつかれば厄介な相手だが、魔法競技なら恐れる必要はなさそうだな。

「本当の事情は分からなくていいんじゃない?兎に角、魔法は術式解体(グラムデモリッション)以外警戒する必要はない

と思う。彼女の狙撃も僕達や一色さんなら感知できる。寧ろ、彼の駆け引きに嵌ってしまうことを

警戒すべきだね」

「真っ向勝負に、どう持ち込むか、だな?」

「そうだね。彼女のスピードは恐るべきものだけど、ウチにも一色さんがいる。彼女は一色さんに

倒して貰おう。あとは将輝のいう通り、どう真っ向勝負に持ち込むか、だね。それができれば勝て

るよ。草原ステージに当たれば、九分九厘…ってとこだね」

 九分九厘といいつつ、ジョージの顔に笑みはなかった。

 

 やはり、あの姉弟を敵に回すとなれば、更なる隠し球も警戒しているんだろう。

 それにしても…一色に深景さんが倒せるのか?

 そんな疑問が浮かんだが、ジョージには口にしなかった。

 きっと、ジョージは自分でも不安に感じているだろうからな。

 

 

 

  

 

 

 




 今回は、色々な人の視点でお送りしました。
 三校は楽観視はしていませんが、どうするよ?って感じに
 なっています。一応、一色さんに参謀君が渡す予定になって
 いますけどね。
 モノリスコードのメンバー入れ替えに関しては、いくら非常
 時とはいえ、文句は出なかったの?って疑問からこうなり
 ました。
 
 次回も気長にお待ち頂ければと思います。


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九校戦編15

 ようやく、後半に入ってきましたかね。
 それでは、お願い致します。


               1

 

 次の試合を待つ間、私は自身が持ち出した刀のチェックをする。

 幹比古君は、周囲を窺う小動物のような動きで落ち着きがない。

 レオ君は、達也に微調整して貰った小通連の具合を見ている。

 だが、背後に挙動不審な人が居て落ち着かないのか、レオ君が背後を振り返る。

「おい、幹比古。試合はまだ始まってないんだぜ?今からそんなんじゃ、もたねぇぞ?」

 あまりの落ち着きのなさに、レオ君が呆れた声で幹比古君に物申す。

「レオはよく平気だね?普段全く関りがない人達に囲まれているのに!」

 ここは一校選手の控室で、当然他の一科生も居たりする。

 ジットリとした視線を向けて。

 控え目にいって居心地は悪い。

「吉田君は人見知りなのですね?」

 深雪が場違いな程、艶やかな笑みで明るくいった。

 

 もみもみ。

 

 刀を持つ手が振動でカタカタと震える。

 遣り辛い。

 イライラ。

 

「幹比古の態度の方が普通だろう。このくらいの年齢の男子はシャイなんだ、深雪」

 達也が、自分のCADと私のCADを高速で弄っている。

 因みに起動式を絶賛入れ替え中です。

 

 カタカタ。

 

 達也のガタイが邪魔で、片腕が動かし辛い。

 イライラ。

 

「まあ!シャイなお兄様なんて是非私にも見せて頂きたいです!」

 深雪が目を輝かせて、達也を見ているが、両者の手は止まらない。

 そろそろ気付いてくれていいのだよ。

 

 もみもみ。

 

「なんか色々と不健全ね!」

 にゃも?

 これは閣下の声。

 やたらと声が明るいが、後ろからはドス黒いオーラが漂っている。

 しかも、その声は耳元でする。

 これは不健全に入らないにゃも?

 イライラ。

 

 ぎゅぅぅぅぅ。

 

 どうでもいいけど、閣下。

 気道が塞がれてるにゃもよ…。

 私の首には閣下の腕が巻き付いているからにゃもね。

 そこに市原さんとCADオタが入ってきたにゃも。

 市原さんは器用に片方の眉を少し上げる。

 CADオタは真っ赤になってアワアワしていたにゃも。

「会長。次の試合のステージが決定しました。市街地ステージです」

「ええ!?市街地でまだやるの!?」

 閣下が思わず、私の首から腕を放したにゃも。

 ふぅ。

「ステージ選定はランダムです。選定から外す気はないようですよ」

 外さないにゃも?

 閣下は不満げにゃもね。

「ところで…どういう状況なんですか?これ…」

 CADオタが、恐る恐る気にしていたであろうことを訊いてくれる。

 よく聞いてくれたにゃも。

 深雪は私の脚をマッサージと称してもみもみしてるし、達也は私に寄り添って

キーボード叩いてるし、閣下はそれを見てチョークスリーパーにゃも!

 レオ君は、見ないフリしてるにゃもよ。

 幹比古君の方は、にゃも達のやってることが恥ずかしいみたいにゃも。

 因みに何故、変な語尾になったのか…。

 結果ハーレム状態でお世話?されていて、なんだか某・仮面の男にやられちゃう

雑魚王様みたいだなって思ったからだよ。

 突然の思い付きです。意味は特にない。シュタインズ・ゲートの意味と同じで。

 二人ばかり女で、一人は男だけど弟で、本当の意味でもハーレムと違うけどね!

 女の子らしく逆ハーでもないっていうね。

 いやー、モテすぎてツレーです!

 って…。

 

「邪魔じゃぁぁぁぁぁーーーーーー!!!」

 

 私は刀のチェックしとんのじゃーーーー!!

 私の絶叫が外まで響いたとか、響かなかったとか。

 

 

               2

 

 私の怒りが炸裂したり、大会委員会が見事な手抜き仕事してたりで予選最終戦。

 懲りずに、またボロビルスタート。

 お前等、マジでヤル気あんの?っていいたい。

 若者の安全を守る事について、腐れ爺と徹底的に話し合いたい。主に物理的に。

 そして、試合開始。

 妨害はまだない。

 私と達也が慎重にビルからビルへと飛び移る。

 相手方は、慎重に地面を走っているので、会敵が遅い。

 それにしても移動しているのは…一人?

 私は達也と頷き合ってから、二手に別れる。

 別アプローチで私は好きにサポートする予定だ。

 今回、幹比古君はレオ君のサポートに残している。

 幹比古君は重要な役割がもう一つあるけどね。

『幹比古、姉さん。始めよう』

 達也が念話を早速使いこなしている。

『OK。達也』

 普通に幹比古君も使いこなしていた。

 流石、元神童。君も天才側の人間なんだね。

 まっ、私みたいなズルに言われたくないか。

 私もいつでもどうぞと答える。

 幹比古君は、原作通り精霊を使ってレオ君のサポートと、モノリスの位置特定を

担当していたのだ。

 視覚同調は達也とだけだ。当然だけどさ。

 そうこうしていると、自陣のモノリスに動きがあった。

 レオ君だけは、念話が使えないから、幹比古君の精霊経由で状況を把握するしか

ない。どうもレオ君から敵の侵入警報がきたらしい。

 どうも幹比古君のフォローもあり、無事敵を小通連で殴り倒したらしい。

 無論、ルールに抵触しないようにしてたからね?

 私も敵を一人発見。

 なんかつり目の男の子。しかも長髪。ビルの中をCADを構えて歩いている。

 うん?モノリス、この中かな?もしかして…。

 まあいいや。さて、行きますか。

 私は自分のいるビルの屋上から自由落下する。

 拳銃型のCADを構えたまま、落下する。

 一瞬の交錯。

 レームさんがいってた。銃口と人が重なった瞬間に引き金を引けば当たるって。

 重なる。

 つり目君と目が合った。瞬間魔法を発動する。

 何かがぶつかる音と呻き声が聞こえた。

 うん。当たったね。()()()()()()()()()()

 いやぁ。レームさんは流石だね。こっちじゃ、あの人、元スターズなんだけど話の

分かるおっちゃんだから、射撃とか気前よく教えてくれたんだよね。

 例え、そこにココが悪人顔で笑っていようが。

 っていっても、これどっちかっていうと後ろに立つと怒る人みたいな絶技ですね。

 そのまま、地面に激突なんていうギャグはやらず、着地して即座につり目君がいた

ビルに飛び込む。

『二人共、見付けたよ』

 幹比古君から念話がくる。

 

 丁度いい。答え合わせといこうじゃない。

 

  

               3

 

 :達也視点

 

『二人共、見付けたよ』

 早いなもう見付けたか。

 精霊魔法は優秀な使い手であれば、これ程便利なんだな。

 姉さんも古式が専門だが、流石に精霊魔法は使えないだろう。おそらくは…。

 その姉さんはといえば、もう一人倒したようだ。

 幹比古が探し当てたモノリスの位置は、今いる場所から近い。

 ビルを一つ越えれば、すぐそこだ。

 屋上から跳び、魔法も使わずに壊れた窓から滑り込むようにして、侵入する。

 人の接近を感じて再び跳び上がると、曲がり角から女生徒がCADを構えてこちら

に近付いてくる。

 女生徒は、極度に緊張しているようだ。

 視野狭窄を起こしている。

 確かにこのビルの天井は、他と比べて高いが、少し酷いな。

 ()()()()()()()()()()、そんなことを考える。

 何故、見上げているのかといえば、俺は天井にぶら下がっているからだ。

 足を天井に着けて。

 このままやり過ごしてもいいが、折角隙があるのだ。

 それを見逃すのも傲慢だろう。

 そう考えると、音もなく彼女の背後に下りると、遠慮なく魔法を放った。

 女生徒が崩れ落ちるように倒れた。

 極度の緊張しているところに、脳震盪の錯覚を起こさせる魔法を食らったことで、

少し過剰な効果になってしまったようだが、緊張と上手く付き合えなかったのが悪い

ということにしておこう。

 倒れた女生徒を残して、モノリスの真上に到着すると、CADを地面に向けて鍵を

発動させ、モノリスを開くと、突然背後の扉が蹴破られ、残りの一人が魔法を放つ。

 鎌鼬か。

 モノリス付近に三人もいたのか…。

 迎え撃つ作戦だったのか?

 俺は呑気にそんなことを考えながら回避しつつ、柱の陰に身を隠す。

 残り一人は、ヒステリックに魔法を放ち続けている。

 出てくるのを待つ気なのか、それとも柱ごとヤル気なのか。

 いつでも飛び出せるように備えていたが、突如残り一人がヘッドスライディング

して倒れた。

 慎重に柱から様子を窺うと、残り一人の背後に姉さんが立っていた。

 

 幹比古がモノリスのコードを打ち込み中だったんだが、無駄になってしまったな。

 俺達の勝利を告げるサイレンを聞きながら、俺はそんな感想しか出てこなかった。

 

 

               4

 

 :真由美視点

 

 こちらの勝利を告げるサイレンが鳴り響き、一安心。

 なんだか二校、空回りしてたのかしら?

 釣り出された八校の失敗を参考に、自陣で迎え撃つ構えだったんでしょうけど、

明らかに失敗だったわよね。相手の駆け引きに乗らずに、戦おうとしたのはいい。

 おそらく一人だけ外に出ていた選手は、オフェンスを引き込む役目だったんだろう。

 でも、誰にも出会わずに相手のモノリスまで行ってしまい。あとはアドリブと

いったところかしら?アッサリと全員撃破されたんじゃね。ちょっとお粗末ね。

「これで決勝トーナメントの切符は、手に入ったわね」

 どうも他の二人のメンバーの動きが不安だけど、あの姉弟がフォローも問題なく

やってくれている。これ以上は贅沢な望みでしょう。

「ああ、そうだが…。あの二人、特に深景君の方は手抜きが過ぎるんじゃないか?」

 隣に座る摩利は、私とは違う感想みたいね。

「そうなの?」

 私は摩利とは違って戦闘に特化した魔法師って訳じゃないから、よく分からない

部分があったのかもしれない。そう思いながら摩利に話の続きを促す。

「アイツならあの程度の攻撃しかできない相手、制圧にそれ程時間は掛からない筈だ。

それなのに曲芸染みたことやってみたり、遊びが過ぎるぞ」

 ああ。あの落下時の一瞬の交錯での狙撃のことね。

「遊んでるんじゃなくて、できるだけ撃ち合いにならないようにしてるんだと思う

けどね」

 私は自分でも驚くぐらい素気ない声でいっていた。

 摩利は、怪訝そうに私を見る。

「摩利。深景さんが二科生だって忘れてない?あの攻撃もかなり古式の裏技駆使して、

結構強引に使っているらしいわよ」

 そう。達也君と違い、彼女の攻撃は確かに相手の意識を刈り取っている。

 だが、逆に言えば、それだけしか攻撃手段が彼女にはない上に、スペックの低い

CADでは、彼女曰く無理して撃って三発が限度らしい。

 サイオン自体を事象改変の対象にするなんていう技術、普通は達人の技術だというし、

二科生の彼女に出来る精一杯ということでしょうね。

 あの刀に関しては、秘密だっていっていたけど、彼女のサイオン弾以上の切札として

用意したといっていた。切札という以上、かなり消耗する筈だ。それを考えれば実質、

フルに三発撃つことはできない。

 彼女は万が一に備えてできる限り、力を温存しつつ戦う必要に迫られている。

「そして、それを強いているのは私達。文句なんていえないわよ」 

 私がそう説明を締め括ると、摩利は苦々しい顔をした。

「確かに、そうだな」

 私の言葉を認めて、自分の非も同時に認める。

 だが、直後に疑わしそうな視線を向けられる。

 何かしら?

「随分とご立腹の様子だが、一応、友として確認するが、本気で変な趣味に走った訳

じゃないよな?」

 私の心臓が跳ね上がるのを感じた。

 自分で自分の反応に驚く。

 だが、私も十師族の長女。演技はお手の物だ。

 心外そうな顔を作って見せる。

「私は七草の長女よ?父がそんな趣味、許容する訳がないし、私も義務は弁えてるわよ。

ただ、素敵な男性に出会えていないだけで、キチンとノーマルよ」

 私の渾身の演技に摩利は納得したようだ。

 まあ、これくらいはね…。

 そう。ただ揶揄っているだけよ…。

 本気で同性に恋なんてする訳がない。

 

 私は、心臓が不意に高鳴ったのは、図星だったからか、それとも予想も付かないことを

いわれてビックリしたのか、考えるのを止めた。

 

 

               5

 

 :戸愚呂視点

 

 敵情視察で試合を観戦させて貰った。

 手の内は二人共見せていないようだ。

 ガッカリはしていない。この程度でそれを見せる方が問題だからねぇ。

 決勝トーナメントに順調に残ってくれてよかった。

 この分なら決勝まで期待通りに行ってくれるだろう。

 笑みを噛み殺して会場を後にしたが、通路で足を止めた。

「これはこれは、随分と懐かしい御仁と再会ですなぁ」

 視線をある一点に向ける。

 そこには()()()()()()()()()

 だが、私には分かっている。

「相変わらず見事ですがね。今の私は誤魔化せませんよ?ハッタリじゃないと証明しない

といけませんかねぇ」

 出てくる気配がないので拳を握り締めると、空間が揺らぐように一人の男が姿を現した。

「久しぶり…というべきなのか迷うがな」

 軍服を着た男が苦い表情でいった。

「そうですね。私は人間じゃなくなりましたしね。初めましてとでもいえばいいですか

ね?風間…今は少佐ですか」

「佐渡で何があった?()()()()

 風間少佐が人間だった時の苗字で呼んだのは、明らかだった。

「止してくださいよ。元・中尉で、元・人間ですよ。昔のことです」

「元部下に何があったか、訊きたいだけだ。私にいえないなら、せめて藤林には話して

やれ」

 自然と顔が苦いものになる。

 人間だった頃のことだ。既に私には関係なくなっている。

 人だった頃に婚約までした相手でもだ。

「さっきもいいましたがね。もう人間じゃないんで、そういうのは分からないんですよ。

人間同士でやって貰えますか?」

「どうしても話せないか?」

「どうしても…ですねぇ。面倒なんですよ。元来饒舌な方じゃないんでね。これ以上は

実力行使になりますが、死にますよ?」

 一触即発。

 お互いの闘気が高まっていくのが分かる。

 ここで殺すのも一興かねぇ。

 思わず笑みがこぼれる。

 だが、あちらの闘気がみるみるうちに消えていった。

 面白くないねぇ。

「ご納得頂けたようなので、失礼」

 私は風間少佐の横を、ゆっくりと通過した。

 背後で気配が消える。尤も私には分かるけどねぇ。

 まあ、焦らずともいずれ戦う時は来ますよ。近い将来ね。

 もうすぐ出口というところで、壁に背を預けている男がいた。

 これもまた懐かしい顔だ。

 お互い声も掛けず、何も仕掛けることなくすれ違う。

 

 襲ってくれるなよ。柳。

 昔、友だった男に背を向けて、私は会場を後にした。

 

 

               6

 

 さて、やってきました決勝トーナメント。

 そろそろ出番がありますかね、私の刀。

 組み合わせも決まりました。原作通りです。以上。

 という訳で、第一試合を見物に行きます。

 三校に女子が混じるイレギュラーがある。人員はあの命知らずその一。

 お手並み拝見と。

 その前に、早めの昼食を取りましょうかって訳で司波家一同移動中。

 深雪に視線が集中してるけど、ノーリアクション。

 私達姉弟には慣れたもんです。刺身のツマになるのなんてさ。

 しかし、行く手には修羅場が…展開されていなかった。

 揉めそうなメンツが並んでいたにも関わらず。

 メンツをご紹介致します。

 攻撃は千葉エリカ。防御するは千葉修次。援護は渡辺摩利でお送りしております。

 どうやら原作通り、イチャイチャしていたお姉様と修次氏をエリカが発見し、突発的に

バトルが発生したようだ。

「次兄上。タイへ剣術指南に行かれたと伺っておりましたが、私の記憶違いですか?

 恋人の為に任務を放棄されたということはありませんよね?」

 原作では途轍もなく激昂していたのに、こっちのエリカは半眼で呆れ果てた声で、

冷静にグイグイ攻めている。

 あれ?お姉様を恋人として認めてる?

「いやいや、キチンと許可を貰って帰ってきたんだよ?それに向こうの人は、筋も

よかったからね!」

 何やら、修次氏もいつもと勝手が違うのか、そこにツッコむことができず、防戦一方

である。思いっきり誤魔化し入ってると宣言するかの如き、声の上擦りとセリフ。

「まあ、エリカ、落ち着け。シュウも任務を放棄するような真似はせんさ」

 恋人の後ろを護る摩利お姉様。

 黄色い声援を送る恋人(女)には、見せられん姿ですな。

 見た目と喋り方を除けば、乙女だと知っているけどね。

「先輩には訊いてませんよ。黙っていて下さい」

 お姉様を見もせずに、バッサリと斬るエリカ。

「許可を得たといっていましたが、余程に重要な案件だったのでしょうね?何故、重要

案件で戻られた筈の次兄上が、ここにいるのでしょうか?」

 追い詰めたネズミを甚振る猫の如き攻めを見せるエリカ。

 タジタジになって最早、腰が引けている修次氏。

 そろそろ撤退を本部に打診しているところだろうか。

「いや、アレは任務というより親善を目的としたもので…」

「つまり親善交流であるという理由で、正式に拝命した任務を放棄してこちらにいらした

ということですね」

「……」

 見事に自爆頂きました。

 はい。詰みましたね、これ。

「父上に報告入れときますね」

 ガックリと項垂れる修次氏に背を向けて、アッサリと去って行くエリカ。

 修羅場ですらないワンサイドゲームで、エリカの勝利といったところですね。

 修羅場って、ほら!お互いにドロドロすることでしょ?

 

 何やら鳥みたいにクルクル首を回している修次氏。

 いつもと違うので、戸惑っているって感じかな。

 あと、お姉様。苦笑いだけしか感想ないの?

 

  

               7

 

 まあ、取り敢えず勝ち組は放置して、原作とは違う颯爽とした姿で去って行った友達を

追う。

「エリカちゃん!」

 おお!いつの間にか美月もいたようだ。

 エリカが美月の声に振り返る。

 エリカからは、なんの負の感情も感じられない。凄くアッサリとしてる。何故?

「ああ。いたんだ。何?もしかして暴れるとでも思った?」

 図星だったのか美月がアワアワしている。

 美月にしてもエリカがお姉様と何かあるのは、感じてただろうし。

 あのイケメンの正体がエリカの兄とくれば、予想は難しくない。

 達也と深雪が互いに視線で会話している。なんて器用な。

 要約すると。

『まさか委員長の恋人が、千葉修次氏だったとはな。委員長に当たりが強かったのは、

どう考えても…』

『ですよね?』

 そんな感じ。分かる私も大概だ。

 深雪は修次氏の詳細は知らないだろうけど、美月と同じ理由で察しているだろう。

「いくらあの女が気に入らないからって、場所も考えず暴れたりしないわよ。一応、家の

用事で来てるんだしさ。そんなことしようものなら、クソ親父が五月蠅いもの。クソ親父

には、報告してやらないけどね」

 エリカは、そんなことをいいながら、ないないといわんばかりにパタパタ手を振った。

「でも、盗み聞きはよくないわね。罰として一回奢りね」

 エリカは人の悪い笑みでいった。

 達也と深雪が苦笑いする。

「分かった分かった。ただ常識の範囲で頼むぞ?」

 達也が合わせるように意地悪く笑った。

「え~。どうしよっかな~」

 そういってエリカは先頭を歩き出した。

 美月は、慌ててエリカの後を追った。

 何、この違い。

 まあ、いい方に変化したなら歓迎するけどさ。

 

 達也が高校生離れした余裕でみんなに昼食を奢った。

 全員に奢ってくれたんだよね。流石、シルバー!お金持ってるねぇ!私?こういう時、

奢って貰うのが、私という人間だ!!姉としてどうなんだって?いいじゃん!達也の方が

高給取りなんだから!

 奢りの美味しい昼食を食べながら話す。

「それで?まだ何か訊きたいことがありそうじゃない?」

 エリカが、訊きたそうにしているみんなの空気を読んで、口を開く。

「委員長に対して当たりがキツイと思っていたが、委員長は修次氏と交際していたのか」

 達也が真っ先に感想を述べる。

「達也君も修次兄貴知ってたんだ?って知っててもおかしくないか。深景は仕事で知って

るよね?」

 私は頷いた。

 そう、あの圧斬り用の剣だ。剣というより飛び出しナイフって感じで、剣とは私として

はいいたくない。次があるとすれば真面な刀を注文してほしいと、お兄さんにいっといて。

「世界的な剣術家でいらっしゃるのでしょう?凄いわ」

 深雪が笑顔で褒める。だが、笑顔に黒いものが混じっているような?

「女に現を抜かして、仕事サボるヤツだよ?昔はさ、剣一筋でさ。格好良かったんだけど

さ。前までは一番尊敬できる剣士だったよ」

 エリカが溜息を吐くように、言葉を吐き出す。

 前までは?今は変わったの?まっ、いっか。充実した修行ができてるなら。

 私がそんな事を考えていると、深雪がニッコリと笑う。

「あら!そんなこといってはいけないわ。それに()()()なのでしょう?」

 深雪が、的確にエリカの触れられたくないところを撃ち抜く。

 我が妹ながら、恐ろしい子!

「あぁぁぁああ~!忘れて!あんなの本来の私じゃないんだから!!」

 自分でも似合っていないと思っているようで、エリカがのたうち回っている。

「いいのよ。大好きな次兄上の前ですもの。あれくらいどうってことないわ」

「違う!!」

 なんか他人を甚振る姿が、御当主の美魔女に似てる。口が裂けてもいえやしないけど。

 あの美魔女、ウチのヒステリーとは比べものにならないくらい見た目若いからね。

 ネチネチ攻めている姿が、恐ろしいこと恐ろしいこと。

 深雪は将来ああなるのかね。そこも矯正しなきゃダメですか。

「エリカはブラザーコンプレックスだったのね」

 笑顔で深雪が他人のことは、断じていえない発言をする。

 それ、アンタがいっちゃいかんでしょ。

「アンタがいうなぁぁぁーーー!!」

 エリカの絶叫が木霊する。

 そろそろ迷惑だから、止めとこうか?

 おや?何やらおかしな気配が…。

 

 この後、二人の人間にスタンドが発現したとかしないとか。

 私は何も見ていない。

 

 

               8

 

「おい。二人共、大丈夫か?」

「なんだか、凄く疲れてそうだけど?」

 レオ君と幹比古君が、私と達也を見て心配してくれる。

 ありがとう。一服の清涼剤です。

 あの後、深雪とエリカの背後から世紀末救世主伝説っぽい何かが立ち上がり、とんでも

ない応酬を繰り広げた…とかしないとか。何故、スタンドが世紀末救世主伝説だったのか、

主人公とお兄さん…、いや、私は何も見ていない。

「試合で気合が入れば大丈夫だ」

 如何に達也といえども、あの想像を絶する出来事は堪えたようだ。

 いつもより言葉が少ない。

「同」

 私は更に少ない。説明する気力はない。

 幹比古君が、牧歌的に一科生関連の出来事と勘違いして謝ってくれたが、現実はもっと

過酷だ。あれに比べれば一科生のやっかみなんてお子様の駄々と変わらない。

 だけど、調子悪いといって見逃す訳にはいかない三校の試合。

 レオ君達に無理しないようにいって貰い。

 申し訳ないが、適当に大丈夫大丈夫といって対応終了させる。

 

 そして、三校の試合が始まった。

 

 

               9

 

 結論をいうと。

 全く参考にならなかった。

 忘れてたよ。今回は達也を挑発する為に王子様マーチだったんだ。

 一人でモノリスまで物騒なお散歩を見ただけだった。

 命知らずその一の手の内も見れなかったよ。

 クラウドボールに出てた感じだと、雷系かね。

 兎に角、ぬりかべスタイルでちょっかい出す蟻を爆破して回ってたよ。嘘だけど。

 吹っ飛ばしてたけどね。

「おいおい。なんだ、あの防御力」

「プリンス以外、手の内を見られなかったのも痛いね」

 レオ君と幹比古君がそれぞれ感想を漏らす。

 私は白目。達也はあまり困ってなさそうな、困ったな発言。

 で、残念参謀がカーディナルジョージと分かって、幹比古君が腰が引けたりしてけど、

これで観戦終了。

 勿論、達也先生の魔法講座もあったけど、それは長いので割愛する。

 無情にも弟の活躍をカットする私。

 

 で、残念王子様、何故かモニターに手を振ってたけど、ファンサービス?

 女の子が黄色い声援上げてたけどさ。

 

 

 

 




 戸愚呂の件は、来訪者編まで説明はなされない予定です。
 大まかには決まっています。
 最早、別人じゃねぇか!とかなんだそりゃ!とかツッコミ
 どころがあったとしても、お目こぼし下さい。

 深景の霊丸については閣下に説明した時に、捻り出した
 言い訳です。本来、バンバン打てますCADなしで。
 変に頼られても面倒なので、急遽でっち上げた内容です。
 これもお目こぼし下さい。
 
 にゃもは単なる趣味で意味はありません。
 いきなり仮面の男が出てきたりは…しません。
 
 それとスタンドは比喩です。混じったりしません。

 二校の作戦についてはオフェンスのうっかりミスです。
 それがなくてもダメダメでしたが…。

 次回も、気長にお待ち頂ければ幸いです。


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九校戦編16

 少し時間が掛かりましたが、なんとか書き上がりました。
 長くなりました。
 それでは、お願いします。


               1

 

 直前の試合観戦が無駄に終わって、私達の出番がやって参りました。

 九校と渓谷ステージ。原作通りです、ありがとうございます。

 試合も女子交じりのイレギュラーにも負けず、原作通りの決着がつきました。

 幹比古君が霧を発生させ、相手の視界を奪うと同時に結界を張り、自陣を護る。

 そして精霊を用いて、河童の如く選手を川に引き摺り込んでいた。

 王子様マーチのあとは、リア充独壇場ですね。

 私達、特にすることなかったよ。

 達也が一人で走っていってモノリス開いて、コード打ち込みして試合終了。

 

 今回もちょっかい出してこなかったね。いいんだか、悪いんだか…。

 だが、襲撃はきっとある。

 肌に感じるヒリついた刺激を、私はそっと撫でて宥めてやった。

 この空気は非常に覚えのあるものだった。

 いい要素もあるけど、決勝とか結構ハードモードだね。

 

 

               2

 

 もう決勝の準備を達也が始めている。

 どうも達也は小野先生をパシリに使ったようで、いい笑顔で荷物を受け取っていた。

 その後は、何やら怪しい笑みを浮かべて密談してたけど。

「お待たせ、姉さん。行こうか」

 荷物を持って私と合流する。

 私は、柱に手をついて猿の反省ポーズで燃え尽きている小野先生に敬礼を贈った。

 ウチの弟がすまん!

 勿論、心の中だけだけど、私は小野先生に詫びを入れて達也に続いた。

 

 試合前のブリーフィングを開始する。

 達也が用意した切札に、皆さん興味津々だ。

 さあ、聞いて驚け!見て呆れろ!

 達也が切札を開陳する。

 集まった生徒会メンツと二科生の勇者二人が覗き込む。

 そして、暫し沈黙。

「…コート?」

 閣下の声が虚しく響く。

「いえ。マントとローブです」

 どうだ。凝ったCADだとでも思ったでしょ?でも、出てきたのは古式の術式媒体だ。

 私の専門分野だけど、今回は達也の伝手で用意したものだ。

 何故、私は用意しなかったのかって?私の造ったやつは表に出せないって、達也に

却下されたからさ。

「ええっと…防御力の強化…とか?」

 閣下が窺うように私を見る。

「まあ、そんな感じですかね」

 間違っている訳でもないので、私は頷いておく。

 達也の方も特に訂正する気はないようだ。

「お兄様。もうデバイスチェックは通していらっしゃるのですか?」

 深雪が肝心な部分を訊く。

「いや。まだだが、おそらくは大丈夫だ。魔法陣を織り込んだ装備を着用してはならない

とは、ルールブックには書かれていないからね」

 達也の言葉に閣下の頭の上に?が浮かぶ。

「古式の術式媒体で刻印と仕組みは同じですよ。設定された魔法の使用が容易になります」

 助け舟を出した私を見て、閣下がポンと手を打って納得した。

「補助効果って訳ね!…確かにルール違反って訳じゃなさそうだけど、ただ想定外って

だけなんじゃない?」

 閣下が一転して心配そうな顔をするが、達也は平然としたものだ。

「ダメだといわれたら、素直に諦めますよ。これがないと試合が成り立たない訳では、

ありませんからね」

 閣下の表情からまだ心配の色が抜けず、少し考え込んでいるようだ。

 暫く黙っていたが、意を決して顔を上げる閣下。

「決勝戦に出てくれただけで、こちらの目的は達しているし、これ以上の無理はしなくて

いいのよ?」

 閣下が気遣って、そんなことをいってくれた。

 結局なんだかんだで、帳尻が合って新人戦優勝は一校で決まったからね。

 だが、決着を付けずには終われない。ハードだろうとなんだろうとね。

 決勝は別の意味で荒れるだろうな。

 

 この素晴らしい装備は、勇者二人のものだと明かされて、二人は沈黙していた。

 ヒーローの定番だよ、いいじゃない。ガンバ!

 

 

               3

 

 五十里先輩にデバイスチェックを丸投げして、私は決勝に向けての根回しをすることに

した。

 達也は決勝前に身体を温めて置くつもりのようだ。

 本来なら遊撃の私もやるべきなんだろうけど、こっちの方が優先度が高い。

 という訳で、ズンズンと幹部が泊まるエリアに踏み込んでいく。

 天狗さんの部屋の前には、二人の軍人が立っている。

 その二人が私を見て目を見開くと、私の前に立ちはだかる。

「特尉。アポイントメントはないでしょう。お引き取りを」

 軍人の一人が私にそんなことをいってくる。

「重要な話があるのですが、取次も無理だと知っているので、押し通ります」

「「はっ!?」」

 二人はまさか私がそんな無茶をするとは思えなかったのか、隙だらけになって驚く。

 悪いけど、隙を見逃すほどお人好しでもないんだよ。

 私は流れるような動きで、二人に拳の一撃を見舞う。

 二人が崩れ落ちるようにダウンする。

「悪いね」

 私はそういうとノブに手を掛けようとして、手を止める。

「特尉。問題行動だな。処分は避けられないぞ?君は四葉の関係者でもだ」

 扉越しに天狗さんの冷たい声が響く。

 残念ながら、そんな声出しても怯まないよ。

 更に残念なお知らせを教えて上げよう。私も今、非常に不愉快な気分だ。

 この不愉快な気持ちを分かち合いましょう。

「それも含めて話し合いたいので、入りますよ?」

 部屋に掛けられている術を、サイオンで強引に破壊して扉を開ける。

 天狗さんは、ちゃんと椅子に座っていた。

 隠れている訳でも幻影でもない。

 頭痛を堪えるような渋面で天狗さんが迎えてくれる。

 招かれざる客だろうしね。

「やり過ぎだぞ。処分を覚悟しろ」

 私は鼻で嗤ってやる。

「そちらはどうなんです?九校戦にちょっかいを出しているのが、独立魔装大隊・隊員

であったという問題は」

 それを聞いた天狗さんは苦り切った顔で黙り込んだ。

 やっぱり図星か。

 そもそも電子の魔女(エレクトロンソーサリス)が、こんな単純な作業で無回答なんて有り得ないしね。

「それを問い合わせても、梨の礫でしたが?疚しいことでも?襲撃があるとすれば、次の

決勝でしょう。いい加減待てないんですよ。護って貰えないなら、自分達の身は自分達で

護る必要があるでしょうが」

 ハッキリいって、元だろうがなんだろうが独立魔装大隊に所属していたヤツが、絡んで

いる以上、警備を担当している国防軍全体の問題だ。それを伏せて、裏でコソコソしてる

だけで動かないとか、舐めてんの?思いっ切り迷惑を被ってるんだけど?

「襲撃?この状況の動かしようのない時にか?有り得んな」

 天狗さんがバッサリと切り捨てる。

「まさか、この空気が感じ取れないとでも?」

「……」

 やっぱり天狗さんも察してるんじゃないですか。

 鼻もぐぞ。

「まさか達也が何もいわないのが、忖度の結果だなんて思ってないですよね?私は親切で

来てるんですよ?今のうちに黙認して下されば、口裏くらい合わせますよ?」

 何について黙認するかはいうまでもなく、これから暴れることに関してだ。

 暗躍の大好きなクソ爺とか、野心のある軍人とかを刺激しないように、そっちで対処

してほしい。何もしないなら、それくらいのフォローは遣ってほしい。

 アレが原作通りで本気なら、軍を含めて全滅してる。妨害工作も本気なら、もっと上手

く、一校をズタズタにできただろう。B級妖怪とかいうカテゴリーが生きているか知らな

いが、向こうは本気を出す気が今のところないのでは、と思う。

 メンツもネタ元と多少変われど、本気のメンバーじゃない。勿論、ここは魔法科高校の

劣等生の世界だから、存在していない可能性はあるが、取り敢えず最悪を想定しておいて

損はないだろう。元ネタ通りじゃないなら、それは朗報だ。だがもしいるなら、向こうは

まだ本気を出す時期じゃないと考えている可能性が高い。それなら、私の封印を解除せず

ともやりようはある。向こうが負けてくれるなら、想定より痛い目にあってもらう。

 エイミィの傷の借りは返さないとね。

 いずれ、本気でやる時がくれば、こっちも正式に倍返しするまでだ。

 達也が何も反応しないのは、いざとなれば自分で強引に片付けると決めているからだと

思う。何しろあの子は、原作二年の時の九校戦でコース消し飛ばそうなんて考える子だし。

 野放しにすると、本気で軍がヤバいですよ?

「達也がやるより、私の方が穏便に済みますよ?」

 天狗さんは、改めて達也のやらかしそうな事柄に、思いを馳せているようだ。

 実は達也、ちょくちょくやり過ぎてたりするし。

 この天狗さん、達也のことは評価してるけど信用はしてないからね。ある種の信用は

してるだろうけど。ついでに私の評価もあんまり変わらないだろうけど、達也ほど無茶は

しないよ…?説得力?…まあ、気にしないで。

 黙考した後、天狗さんが溜息を吐いた。

「分かった。ただし、達也には言い含めて貰うぞ」

 はい。言質頂きました。

「了解しました」

 私は笑顔で敬礼してやった。

 私は別に魔装大隊が、いつまでも味方だなんてお花畑な考えは持っていない。

 私が読んで知っている未来でさえ、魔装大隊との関係は微妙になっていた。

 故に、私はいつまでも仲良くできるとは考えていない。

 気に入らない時は、ハッキリいうし、行動しますよ。

「ああ()()

 出て行こうとした私を天狗さんが呼び止める。

 なんぞや?

「処分だが、減俸とする。二人の慰謝料の代わりになるからな。かなり長い期間になる

だろう」

 天狗さんよ。この場で勝手に決めていいのかな?

 私の心を読んだように皮肉っぽく笑う。

「それが妥当だと、説得するさ。懲戒の上、身柄を押さえるなどというのは悪手だろ?」

 これはあの生臭坊主、何か吹き込んだな。

「それに、こっちの方が効くだろう?」

 きゃー。小父様素敵!斬りたくなっちゃう!

 

 まっ、本業があるから困らないけど…。

 嫌な仕事なのに、薄給とか。地味に嫌だ。  

 

 

               4

 

 天狗さんにも断ったし、気紛れでも本気を出されたりする前に、想定外のダメージを

負って()退()()()貰わないといけない。凄く高度なミッションだよね。

 何故、撤退かって?あの真正の化け物、軍の手に余るし、手段を用意してないほど

迂闊だとも思ってないからだよ。

 心の中でブチブチ愚痴りながら帰ると、達也が眉間に皺を寄せていた。

「どうしたの?」

 私が声を掛けると、達也が困った顔でいった。

「深雪に勝ってほしいといわれたんだ」

 あ~。成程ね。無茶しないと王子様には勝てないよね。

 最悪を想定するなら、決着が着いた直後、或いは直前にあの化け物に参戦されるのが、

一番困るから、もう少し楽に勝てるようにしたいけどね。

 やっぱり刀を使うのが、一番無難か。レギュレーションに引っ掛からないように偽装

してあるが、王子様と残念参謀のコンビくらいなら、どうにかできるだろう。

「達也。分かってるだろうけど…」

「分かってるよ。襲撃のことを考えると苦戦程度で勝たないと不味い。更にハードルが

上がるな」

 私の言葉に、達也が苦笑いする。

 お互いハードルが高いことやらなくちゃいけなくて、大変だよね。

 それに達也も襲撃はあると踏んでる訳だ。まっ、達也も同じ位実戦経験あるしね。

 当然か。

 残念王子のことは任せたよ(丸投げ)

「まあ、新人戦優勝の結果は動かないから、どうなるかまだ分からないけどね」

 自分でも信じていないようなことをいってみる。

 そう、妨害するには本当なら遅い。もっと前にやっておかないといけないが、あちら

は何もしてこなかった。これが向こうが本気じゃないと判断している要因の一つに

なっていたりもする。

 達也も頷いたけど、同じことを考えているみたいだ。

 次が本命だと、戦場の勘と空気が告げている。

 実戦を経験すると、そういう勘が働くようになり、独特の空気も感じられるように

なってくる。

 どこでそんな実戦を積んだんだって?勿論、ブラック職場・魔装大隊でだよ。

 原作じゃ、どうだったか知らないけど、結構チョコチョコ入り込んだ他国の工作員と

やり合う機会があるんだわ、これが。

 

 その勘がいっている。襲撃はあると。

 なんかもうね。ずっと鳥肌が立ちっぱなしなんだよね!

 達也は、もっと理性的な理由かもしれないけど。

 

 

               5

 

 うんざりする程の原作通り、私達の決勝ステージは草原ステージに決まった。

 襲撃があったら、何も盾にできないじゃないですか。少しくらいこういうところは、

変わってもいいのだよ。駄神よ。

 知らせを聞いた一校の天幕は、重苦しい沈黙に包まれた。

「厳しい戦いになりましたね。お姉様、お兄様」

 全くそうだね!

 深雪が自分自身でハードルを上げておいて、そんなことをいってくれた。

 まあ、いいんだけどね。頑張るの達也だし。

 それにしても、この空気で真っ先に口を開くとは、流石マイシスターよ。

「いや、一条家の爆裂を考えれば、渓谷ステージや市街地ステージにならなかっただけ

マシといえる。限定された空間で水蒸気爆発など起こされたら堪らないからね」

 達也が非常にポジティブな発言をした。

 本来の使い方したら、ルール上アウトだけど、水蒸気爆発なら加減すればセーフになる

からね。

 でもそうか、それを考えれば盾がないくらいは耐えないといけないのかな?

 ギャグみたいに吹き飛びたくないし。

「しかし、遮蔽物のないステージで、砲撃戦の得意な魔法師と対峙しなければならない

ことには変わらないだろう。策はあるのか?」

 カンゾー君が珍しく私達の心配をしてくれているようだ。

 原作よりこの人、マイルドだけど親しいとまではいえない先輩だから、やっぱり多少

驚くよ。

 達也が軽く目を瞠っている。

 閣下は俯いて考え込んでいる様子だ。

 表情からは、漠然とした不安を感じているのが読み取れる。

 閣下も理性では襲撃は現実的でないと思っているようだが、本能の方は警告を発して

いるのだろう。カンゾー君に任せ切りである。

 達也がお触りしなければいいんですよ、なんて説明を聞きながら、私も覚悟を決めた。

 

 さあ、それじゃツケを払わせますか。

 

 

 

               6

 

「やっぱり、これ、おかしくね?」

 レオ君がマントの襟を立てながら、赤面していった。

 少しでも顔を隠したいんだろうけど、逆に目立つから、それ。

「なんで僕達だけなんだ…」

 幹比古君がフードを深く被りつつ、そんなことをいった。

「お前の方がまだいいじゃねぇか。俺なんて顔がモロだぜ」

「じゃあ、交換するかい?」

 レオ君の愚痴を、ヤケクソ気味にぶった切る幹比古君。

「……」

 結論、どっちも変わらない。

「いいじゃない。マントなんてヒーローのお約束だよ?実際は事故の元になるらしいけど」

 洋物ヒーローの博士が、事故ったヒーローの例を挙げてたっけ。

 おっと、余計なことをいってしまったか!二人の顔にオドロ線が!

 私は最後の言葉を誤魔化す為に、笑顔でサムズアップしてあげた。

「フォローしてぇのか、とどめ刺したいのか、せめてハッキリしてくれねえ?」

「じゃあ、交換しよう!そうしよう!」

 レオ君は私の発言にげんなりしているが、幹比古君はなんか壊れていた。

 そんなに嫌かな?

 リアルに私は付けてもいいけど?魔法の世界だし。

 なんだったら、私の魔法少女コスと交換してやろうか!?

 おっと、熱くなってしまった。失敬。

「二人共、それくらいにしておけ。使い方の説明はしたし、意図も説明して納得した

だろう?」

「「……」」

 達也の言葉に黙り込む二人。

 正論は人を助けない。

 分かっていても、つい愚痴りたくなるんだよ。

「今頃、笑ってやがるんだろうな…」

 レオ君の哀愁漂う言葉に、幹比古君が項垂れた。

 

 その誰かさんは、予想通り周りが引くレベルで笑っていたとか。  

  

  

               7

 

 :将輝視点

 

 こちらに都合よく草原ステージになってくれて、喜んだジョージだったが、相手陣営の

姿を見て顔を強張らせた。

「なんだありゃ?」

 男子の最後のメンバー保坂が、軍用プロテクターの上から羽織るマントを見て鼻で嗤う。

「意味のないコスプレではないでしょう」

 女子唯一のメンバーである一色が、冷静な声でいった。

 保坂は発言者が一色とあって、肩を竦めて黙った。

 保坂からすれば、ナンバーズにものはいい辛いだろう。

 確かに新人戦において、今までにない戦術や魔法を見せ付けてきた二人が、ここにきて

遊びに走った訳じゃないだろう。現実的な意見としては…。

「おそらくは、不可視の弾丸(インビジブルブリット)対策じゃないからしら」

 一色は、そういってジョージを横目で見た。

「その可能性は高いね。でも、貫通力がないとはいえ、あんな布一枚で防がれるものじゃ

ないし…」

 司波達也はジョージのことを知っていた。

 一色のいう通りの可能性は極めて高い。

 ジョージもその可能性が高いことを認めている。だが、不可視の弾丸(インビジブルブリット)はジョージにとって

特別な魔法だ。ジョージが初めて成した大きな功績だ。それが破られると完全には肯定

できないのだろう。

「幸いこちらはただのハッタリではないと分かっている。分からないなら、これ以上あれ

これ考えても仕様がない。力押しする以上、食い破っていくしかないさ」

 ジョージが本格的に考え込み、調子を崩す前に俺は明るく声を掛けた。

「そうだね」

 俺の考えが分かったのか、少し申し訳なさそうにジョージは答えた。

 保坂も俺の考えを察したのか、ジョージの肩を軽く叩いた。

 ジョージもそれに苦笑いで応えていた。

「新人戦優勝は持っていかれてしまったが、せめてモノリスコード優勝くらいは貰おう」

 俺の言葉に全員が力強く頷いた。

 

 だが、なんだ?この不安感は…。

 

 

               8

 

 :九島烈視点

 

「九島閣下!このようなところに何故!?」

 本部席近くのスタンドにある来賓席に座った私に、大会運営を担う軍人がやって来る。

 私の姿を見た観客の一部が騒めいている。

「なに、偶にはこちらで観よう思ったのだよ」

 別に君に落ち度があった訳ではない。そう気にすることもないのだがね。

「それは光栄ですが…」

 それでも急な行動の疑問は解消されない軍人が、こちらを窺うように見た。

 私は、その視線に笑顔で応える。

「面白そうな若者の多い試合でね。ここで観たくなった。それだけだよ」

 一応の納得をしたようで、軍人は部屋を出て行った。

 嘘はいっていない。

 面白そうな若者は多い。だが、それ以上に興味深いことがこれから起きるだろうと私は

見ている。

 この空気には覚えがある。戦場で稀に感じる感覚。極めて重要なことが起きるという

予感だ。私は未だにこの感覚を信頼している。

 

「さて、見せて貰おうか。我が国の将来の国防の姿を」

 

 

               9

 

 試合開始のブザーと共に、砲撃魔法が幾つかこちらに向けて発動する。

 王子様マーチ再びである。

 達也は冷静に発動直前の魔法を無効化して、王子様同様にマーチして行く。

 今頃、観客席は驚きと歓声に包まれていることでしょう。

 こんな真っ向からの撃ち合いなんて、中々見る機会はないだろうしね。

 ステージは静かだ。一応、魔法を打ち消す音、魔法を防ぐ音はするものの、その印象は

変わらない。私は三校の動きは見つつ、周辺を警戒していた。

 肌がピリピリする。

 どこで仕掛けてくる?

 ここで達也が王子様の攻撃を捌き切れなくなってきた。

 それと同時に三校陣営が動く。

 残念参謀と命知らずその一が左右に別れて走り出す。

 達也を迂回して二人で攻めに来るか。

「幹比古君。私はいの…もといあの派手な子を引き受けるから、カーディナルよろしく!」

 私は幹比古君に断りを入れると、決意に満ちた顔で幹比古君が頷く。

 これは想定通りだ。王子様が前の試合で、達也を挑発したことを考えれば、当然の帰結

といえる。

 レオ君も笑顔でサムズアップして応えてくれた。

 私は拳銃型CADを腰から引き抜くと走り始めた。

 命知らずその一が、物凄いスピードでこちらに向かって来る。

 迂回する様子もなくこっちを見据えている。

 こっちも真っ向勝負か。二科生相手に大人気ないなぁ。向こうには関係ないか。

 でも、嫌いじゃないわ!

 思わず不敵な笑みが零れてしまう。

 CADを走りながら構えた瞬間、命知らずその一の姿が掻き消える。

 私は慌てることなく横っ飛びで転がると、私が通ったであろう進路が爆ぜる。

 雷撃。

 しかも雷と遜色ないスピードでの移動魔法も使えるか。

 まっ!予想の範囲だけどね!

 私は転がりつつも、素早く起き上がる。

 人の身体能力を越え、人外の技を持って戦う剣士に稽古を付けて貰ってたんだ。

 速い程度では、やられてあげないよ。

 一瞬にして相手の姿が掻き消えては、現れる。

 魔法発動も流石に速い。

 達也と王子様の対決とは違い、私と命知らずその一の戦いはお互い触れられるような

距離での接近戦となった。

 お触りしなければいいんですよって?意外に達也と気が合うのかな?

 私もスピードが落ちる攻撃魔法発動の瞬間を狙って、霊丸を発動するが避けられる。

 ほんの僅かだが、私には十分な時間だ。

 至近距離で高速移動しつつ、撃ち合う。

 どうやらあちらは、ガチでの戦いを所望らしい。

 距離を取っては、避けられると初手で悟ったようだ。

 尤も、撃ち合うといっても弾数制限がある私が不利で、一方的に撃たれてますが何か?

 だが、あちらの攻撃も当たらない。

 動きが速くとも、攻撃の瞬間は移動に比べれば遅い。そんなもの余裕で躱せる。

 私は辛抱強くチャンスを待つ。

 大体動きのリズムも把握している。そろそろか。

 これだけのスピードだと、ある程度リズムを無意識に決めて動いてしまう。

 スピードに乗ると、それだけ動きに融通が利かなくなるから、その方が楽なのだ。

 それに反応できて、避けられるなら、捉えられる。

 私は視線を動かすことなくCADの銃口を背後に向ける。

「っ!?」

 見なくても、驚愕が伝わる。

 グッバイ、命知らずその一。

 

「っ!?」

 

 だが、私はCADの引き金を引くことはできなかった。

 咄嗟にCADを捨て、身体を捻ると逆手で命知らずの首根っこを掴み地面に引き

倒した。

「ルール違反…」

 命知らずがいい終えないうちに、命知らずの頭があった場所が燃え上がる。

 咄嗟に引き倒さなかったら、首から上が焼け落ちてただろうね。

 命知らずも、それが分かったのか、非難を飲み込んだ。

 私は、それをやったヤツの方に向き直る。

 感情のない顔で黒服の団体さんが歩いてくる。

 タイミングが想定より早いな、まだ余裕がある時にくるなんて、向こうは余裕だ

ね。

「ちょっと!なんなの!?どうして試合中にこんな連中が!」

「わぁ。団体さんがお着きだ」

「感想がそれなの!?」

 命知らずが喚くが、今は無視だ。

 ちょっとネタが通じず悲しい…なんてこと、ないんだからね!

 精霊の眼(エレメンタルサイト)で確認すると、既にカメラは全て破壊され、人員も始末されている。

 そして、誰も応援に遣って来ないし、人も近付いて来ない。

 随分、隠密や人を寄せ付けない術に長けたヤツがいるようだ。

 

 そして、全員がパラサイトだ。

 

 これであっちは本気で仕事してないことが確定した。

 試合で刀を使うことがなくなってしまった。フラグ回収ならず。要らんフラグを回収。

 まあ、どっちにしろエイミィの借りを返さないといけないから、いいか。

 まっ、何はともあれ…。

 

「100秒目標で…六根清浄!!」

 私は、命知らずを置き去りに一瞬で間合いを詰めると、炎を放ったパラサイトを一刀で

斬り捨てた。

 コアが極彩色を放って消えていった。

 

 

 

               10

 

 :エリカ視点

 

 試合は最初から凄い展開になった。

 クリムゾンプリンスは、有名人だ。実力者であり実戦経験済みの魔法師として。

 これは試合だから加減しているとはいえ、ドンドン砲撃しながら1校のモノリスに向けて

歩いてくる。

 達也君もそれを無効化しながら、等速度で近付いていく。しかも反撃を入れながら。

 ホントに達也君は二科生というのが詐欺な存在ね。一科生でもあれができる学生は殆ど

いないと思う。

 観客からも歓声が沸き上がる。

 でも、だんだん達也君の手数が減ってる。

 それはそうだ。地力が違うんだから。

 遂に誤魔化し切れなくなって、達也君が走り出す。

 魔法が地面に着弾し、地面が派手に爆ぜる。

 それでも達也君は止まらない。魔法を無効化しつつ走って行く。

 そうこうするうちに、三校側が動く。

 カーディナルと一色家の娘が左右に別れて走り出す。

 予め決めてあったんでしょうね。

 その動きを見て、深景達も動く。といっても走り出したのは、深景だけだったけど。

 一色は、深景を見据えて一直線に一校のモノリスへ走っている。

 深景と一対一で戦うつもりなんだ。

 三校の生徒は誰もあの姉弟をナメたりしない。

 さて、お手並み拝見しますか。

 なんて考えた瞬間、一色が姿を消した。

 移動系魔法!?

 深景がほぼ同時に横っ飛びに転がる。

 地面が爆ぜる。

 深景は、そのまま転がりながら器用に起き上がった。

 そこから始まった戦いに観客も私達も驚くことになった。

 瞬間移動でもしているのかって位のスピードで移動し攻撃する一色に、深景は足捌きと

一瞬の起こり、第六感のみで一色の攻撃を躱し、一撃だけとはいえ反撃までして見せた。

 まるで深景は一人で舞でも舞っているように見える。

 私でも一・二回は躱せるだろうけど、あれ程までに回避するのは不可能だ。

 無意識に私は手を強く握り込んでいた。

 魔法がなくても人は、あそこまでいけるのだ。私は感動すらしている。

 今すぐにでも稽古がしたくなる。 

 私の目指す剣は、あの先にある。

 魔法剣術ではなく、古武術としての剣術。私はそれを極めたい。

 勿論、魔法剣術だって好きだけど、一生続けたいのは剣術なんだと改めて確認した気分

だ。

 私の興奮を余所に深景の戦いは動きを見せる。

 最初は冷静だった一色も、全く当たらない攻撃に痺れを切らしてきていた。

 深景は、一方的といえる猛攻にも全く動揺を見せない。寧ろ集中が高まっているように

見える。

 そして、遂に深景が後に突然現れた一色に視線も向けずにCADを突き付けた。

 勝負あった。

 そう思った瞬間、草原ステージを映すモニターがブラックアウトした。

 観客が戸惑いの声を上げる中、私は立ち上がりもう映らなくなったモニターを睨んだ。

 

 原因なんて、一つくらいしか思い付かない。

 でも、こんな意味のないところで何故?という疑問で一杯だった。

 

 

               11

 

 :九島烈視点

 

 モニターがブラックアウトし、ここからでは何が起こっているか確認できない。

 私は残念に思いつつ、立ち上がった。

 頼まれていた後始末を片付けなければならない関係で、ゆっくり動かねば。

 来賓席の扉のノブに手を掛けようとして、止まる。

 何故なら、その扉が開いたからだ。

「閣下。こちらでしたか」

 扉を開けたのは風間君だった。

「どうしたのかね?」

 風間君が扉を塞ぐように立っているので、通ることができない。

 できれば早く対処しに行きたいのだがね。

「閣下はどこかへ行かれるおつもりでしたか?」

「不測の事態が起きたようだからね。対処しにいこうと思っているのだが?」

 風間君の質問に簡潔に答える。嘘はいっていないよ。

 風間君は、私の答えに頷く。

「では、こちらで既に手配致しましたので、暫くこちらで待機して頂けますか?」

「何?」

 戸愚呂の話では、邪魔が入らないように万全を期していると聞いた。

 なのに、手配しただと?

「腕利きですので、ご安心下さい。護衛も付けましょう。藤林」

「っ!?」

 風間君の後ろから無表情の孫娘が姿を現し、慇懃に頭を下げた。

「気を遣わせてしまったかな?」

 少し皮肉を込めていってしまったが、そんなことで恐れ入る可愛げはこの男にない。

「いえ。職務を遂行したに過ぎません。失礼いたします」

 いうことをいって、サッサと風間君は出て行った。

 腕利き。

 察するに深夜の子供か。風間君がそこまで評価するとは、戸愚呂の遊びも無理からぬ

ことか。あの男の強者への拘りは、人間を辞めても治らなかった。

 最早、仕事を無視して自分の楽しみに走っている。

 丁度いい。私も見せて貰おう。深夜の子供の力を。

 直接見れないがね。

「では閣下。こちらへ」

 孫娘が慇懃な態度を崩さずに座るように促す。

 私は苦笑いしつつ、椅子に座った。

 まあ、嫌われる覚えはあり過ぎるからな。仕様がないか。

 

 それに私が居なければ、どうにもならない訳ではない。

 いわずとも動いてくれる者はいる。

 問題ない。

 

 

               12

 

 :戸愚呂視点

 

『いいんですか?向こうが潰し合った後でも…』

 魅由鬼からの念話が届く。

『心配することはない。ある程度、向こうがウォーミングアップしたら私が相手をする

からねぇ』

 相手が多い方が面白いじゃないか。それに仮の依頼主には、意趣返しっていう理由で

出てきてるしねぇ。叩き甲斐のある若者に成長を促すのも、年長者の務めというものだ。

 そうこうするうちに、一人コアを斬り捨てられた。

 面白いねぇ。

 思わず顔が緩む。

 

 私は気軽に歩きながら遊びに行くことにする。

 どれだけ、楽しめるかねぇ?

 

 

 

 

 

 

 




 本格的な戦いは次回になります。
 深景は、魔装大隊と積極的に敵対したいと思っていませんが、
 だからといって、なんでも受け入れる訳ではありません。
 実は結構、抗議を入れたりもしてたりします。軽いもの
 でしたが…。
 今回のような処分に発展したのは、初めてです。

 ようやく九校戦後半になりました。
 随分、長くなったものだと思いますが…。

 次回もかなり時間が掛かるかと…。
 気長にお待ち頂ければ幸いです。



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九校戦編17

 随分と長い時間が掛かってしまいました。
 どうも申し訳ありません。

 では、お願いします。





               1

 

 私は黒服達の間合いに一瞬で入り込んでは、身体ごと核を斬り捨てる。

 私の使っている刀は、元ネタ知ってる人どの程度いるよ?って感じの物だ。

 特に元ネタでも銘はない。ただ魔剣(イニシャライザ)といわれる。

 達也の分解と似た機能を持っているが、それだけではない。

 実はこれ霊子を変換して力に変えるんだな。

 つまり、妖の核をこれで破壊したりもできる。

 まあ、相手の力量にも左右されてしまうんだけどね。

 これを刻印と魔法陣技術で再現して、刀という形にした。

 元ネタは光剣なんだけどね。

 細工も簡単、経路を幾つか塞ぐだけ。偽装し易い。今は刀の制限を解除している。

 試合で使うには物騒だが、実戦で使うなら問題はない。

 雑魚妖なら核だけ確認して斬れば、容易く倒せるし、力に変換して溜めて置けば

強力な一撃も放てるという訳だ。

 私は素早く踏み込み、刀を振る。

 血煙が上がり、黒服が倒れる。

 宿主に気を遣う必要はない。

 こいつ等と一体になった段階で、人間の価値観なんて大体変質している。

 相手も棒立ちになっている訳ではない。当然こちらを倒そうと手を尽くしてくる。

 雑魚でもCADすら必要せずに、向こうは魔法を使用できるし、かなり速く動く

ことも可能だ。

 次々と高速で連携して襲い掛かって来る黒服に、私は縮地をもって応える。

 連携の隙ともいえない隙を掻い潜り、斬り捨てていく。

 だが、相手もその事を学習し網を絞ってくる。

 逃げ場がない状態で囲み込まれるが、私は不敵に笑い、刀を上空に投げる。

 黒服が一瞬不意を突かれたように止まると同時に、跳び上がり伸身の要領で身体を

捻る。

 私は回転し下を向く瞬間に拳銃型のCADを抜くと、サイオン徹甲弾を早撃ちする。

 下で核を撃ち抜かれた黒服が倒れ込む。

 私はそれを見ずに、空中で刀をキャッチして着地。

 素早く着地と同時に走ると、稲妻が爆ぜて黒服が吹き飛ばされる。

 かなりの威力で身体が損壊している。

 思い切りがいいな。

 命知らずその一が再起動したようだが、この攻撃は問題だ。

 身体を失えば、妖の本体が身体を求めて他に憑依する。

 私は飛び出した妖をサイオン徹甲弾で射貫く。

「こいつ等は妖だよ!パラサイトって呼び名の方が分かる!?」

「それがなんなの!?」

 意外と命知らずは余裕がないようだ。声がヒステリックだ。

 私は動きを止めずに、縦横無尽に刀を振るって黒服を始末しながら答える。

「つまり、身体を失うと新たな依り代を探すってこと!次は貴女かもしれないよ!」

「っ!!」

 私の言葉を黒服の攻撃をどうにか躱しながら、命知らずが息を呑む。

「人間辞めたくなかったら、動きを止めて!なんとかするから!」

「…分かったわ」

 素直で宜しい。

 そこから命知らずは、私に合わせるように動いてくれるようになった。

 脚を魔法で吹き飛ばすことに専念する。

 次々と脚を吹き飛ばされ、動きを少しの間止める。

 すぐに脚を再構築し出すが、雑魚では再構築には時間が掛かる。

 そこに私が迅速に止めを刺す。

 流石に尚武の校風な学校だ。連携して戦うのに、すぐに慣れてきたようだ。

 いつの間にか、互いの背を庇い合う戦い方に落ち着いた。

「貴女!効率がよくないわね!」

 命知らずが、失礼なことをいってくる。

「魔法が苦手なもんでね!便利な手札が少ないの!」

 まあ、表向きそうなんだから文句をいっても仕方ない。

 

「決着は付けるわよ!別の機会にね!」

「いや、いいよ。面倒だし」

「ちょっと!」

 

 緊張感緩み過ぎですね。はい。

 

 

               2

 

 :将輝視点

 

 向こうは案の定、こちらの挑発に乗ってきた。

 今のところは、こちらの想定通り。

 あちらは食い下がっているが、手数が減ってきている。ジョージの見立て通りだ。

 いよいよ対応しきれなくなってきたようで、司波達也は走り出した。

 手筈通り、ジョージと一色が同時に左右に別れて、走り出す。

 俺達を迂回して敵のモノリスへ。

 一色の方は深景さんに阻まれたようだが、ジョージの方は問題ない。

 ジョージの実力ならば、例え吉田家の術者であっても対応して見せるだろう。

 問題があるとすれば、深景さんの相手をしている一色だ。

 深景さんは、やはり魔法より身体技能が達人級であるようだ。

 普通ならば、躱し切れない程の攻撃を一色はしているが、悉く躱されている。

 一色が冷静に戦っているのが救いか。

 ジョージの方は、司波達也の隠し玉に不可視の弾丸(インビジブルブリット)が封じられたようだ。

 念の為に、救援に入る準備はすべきだな。

 俺は周りの状況を把握しつつ、司波達也を追い詰めていく。

 だが、左右に別れた二人がほぼ同時に危機に陥った。

 司波達也に振り分けていた攻撃を、二人の救援に少しだけ回す。

 油断なく畳み掛けたかったが仕方がない。

 魔法を撃ち込もうとしたまさにその時、異変は起こった。

 黒服の男がいつの間にか、大勢こちらに向かってきていたのだ。

 明らかに大会職員ではない。

 となれば、正体は…。

 答えに行き着く前に、深景さんが黒服の一人を斬り捨てた。

 妨害だとしても何故こんなタイミングで?

 潰し合わせて疲弊した瞬間の方が効果的だろうに。

「プリンス!試合は中止だ!!幹比古!!」

 司波達也が、こちらに大声で伝える。いわれるまでもなく、分かっているさ。

 吉田選手も西城選手も当然分かっているようで、もうモノリスに拘っていない。

「保坂!!身を守ることを第一に考えろ!!ジョージと合流を!!」

 俺も保坂にモノリスの放棄を伝えるが、保坂の方は事情を上手く呑み込めていない

ようで、戸惑っている。

 ならば…。

「ジョージ!!保坂と合流してくれ!!」

「分かった!!」

 ジョージは返事と同時に保坂のところまで戻って行った。

 流石に参謀だな。打てば響くように応えてくれる。

 司波達也が何か古式と思しき魔法を放つと、黒服が倒れた。

 何をしたのか分からんが、こちらも始めるか。

 と思った矢先。

「プリンス。くれぐれも身体を爆散させるなよ。本体が新たな身体を求めて出てくるぞ」

「むっ…」

 出鼻を挫かれて、俺は思わず顔を顰めてしまう。

「戦うなら、俺に合わせてくれ。俺にはアレを倒す手段がある。姉さんと同じくな。

 うちの吉田はいうまでもないだろう?」

 そちらが主体で戦闘をやるという訳か。

「姉さんを見ろ。キチンと一色選手に動きを止めることに専念させているだろ」

「俺に露払いをやれという訳か」

「手段がないなら仕方ないだろう」

「…了解した」

 実戦に置いて手段がないなら、プライドに拘るなど愚の骨頂でしかない。

 俺は競技用のCADをホルスターに戻した。

 偏倚解放などでは、この場合使い勝手が悪い。

「では、行くぞ」

「露払いなのだろ?先に行くのは俺だ」

 俺は敢えて司波達也の前に立った。

 後でフッと笑う気配がして、眉が寄るのを感じたが無視だ。

「ジョージ!!俺はこのまま司波達也の後塵を拝す積もりはない!!」

 俺は信頼篤い参謀に叫ぶ。これで通じる筈だ。

「補佐が僕の役割だからね!!無茶振りにも精一杯応じるよ!!」

 俺は、不敵に笑う。お前ならそういってくれると思っていた。

 そう、俺にもこいつ等を倒す手段を用意するように頼んだのだ。

 司波達也に用意できて、ジョージにできない筈はない。

 ジョージならば、この短時間でもやってくれる筈だ。

 

 無茶振りなのは承知の上だがな。

 

 

               3

 

 :達也視点

 

 随分と負けず嫌いな男だ。

 いくらカーディナルジョージでも、決着が着く間にパラサイトを討つ魔法を完成

させるのは不可能に近い。にも拘らず頼み、なんの躊躇もなく頷くカーディナル

ジョージに、思わず笑みが浮かぶ。

 プリンスが走り出す。

 口頭詠唱であるにも拘らず魔法の発動が早い。CADなしの戦いも想定している

とは、流石実戦経験済みの魔法師だな。

 一瞬にして一番前を走るパラサイトの脚が、一斉に吹き飛んだ。

 俺は、サイオン徹甲弾で動きの止まったパラサイトを撃ち抜いていく。

 姉さんが、こんなこともあろうかとと用意していた手段だ。

 姉さん曰く。

「習得しといた方がいいと思うよ。うん。そんな気がする」

 ということだった。

 姉さんは、古式が専門のようなこともあり、こういう応用が得意だ。

 習得には師匠にも付き合って貰ったが、かなり酷い目に遭った。

 時間が掛かったが、無駄にはならなかったな。

 狙いも正確に打ち抜けるようになった。

 俺の眼には、青白い燐光が弾けるように消えるのがハッキリと見える。

 幹比古達も順調に同じ戦術で殲滅しているようだ。心配はないな。

 実戦経験済みの魔法師同士、すぐに相手の呼吸を読んで素早く合わせられる。

 味方だと心強いものだな。敵だと厄介な相手だが。

 この調子でドンドン数を減らしていく。

 意外に簡単に済みそうだ。

 などと思った瞬間、プリンスと俺、同時に反応する。

「「っ!?」」

 同時にその場から大きく跳躍して離れると、轟音と共に巨漢が着地する。

 完全に見た目から鬼だ。これはパラサイトなどといっていいものじゃないな。

 姉さん風に妖と呼んだ方がいいものだ。

「オオオォォォォォーーー!!」

 雄叫びと共に拳を放つ。

 黒服の雑魚とは違うようだ。連中よりも動きが洗練されている。

 黒服の動きはアレと比べれば、どこかぎこちなさを感じる。

 どうやら雑魚の戦いを観察していたようで、プリンスがCADを使っていないこと

を踏まえて時間を与えないように動いている。

 だが、プリンスはやはり凄腕だった。

 大雑把なように見えて研ぎ澄まされた一撃を躱すと同時に、相手に向かって

踏み込んでいく。

 ここまででプリンスは口頭詠唱を終えている。

 鬼の巨体が地面に叩き付けられる。

 衝撃波の方向性を集中させて相手を殴り倒したのだろう。

 だが、相手もそのままやられる程、弱くないようだ。

 サイオン徹甲弾を撃とうとしたが、鬼が倒れた姿勢から勢いを付けて回り

跳び退いたのだ。

 鬼が距離を取った瞬間、声が響いた。

「将輝!!」 

 カーディナルの声だ。

 まさか、もう完成させたというのか…。

 鬼が距離を取った瞬間を狙い、ブレスレット型のCADが投げ込まれる。

 プリンスは、それを鬼を見据えたままキャッチした。 

「御望みの魔法以外、消去済みだ!」

 それを聞いて、プリンスが不敵に笑う。

 CADをなんの躊躇いもなく操作。

 その場で急造しただけあって、ところどころ間に合わせというか、強引なところ

があるが、キチンと発動に耐えるものになっていた。

 鬼の身体のあちこちが、俺の眼には光って見えた。

 成程、俺や美月、姉さんのようにパラサイトの本体が見えないから、見えなくて

も倒せるように組み立てたという訳か。

 核の霊子が突如膨張して破裂する。

 鬼の動きが止まり、身体がボロボロと崩れ落ちていった。

 

 これは、カーディナルという天才を甘く見ていたな。

 

 

               4

 

 :吉祥寺視点

 

 将輝から頼まれたことを考えてみる。

 手元にあるのは、競技用のコードを打ち込むだけの端末にCAD。

 これが全てだ。

 ならば、頭でシュミレートするしかない。

 仕事柄、現代魔法のことばかりだと視野が狭まるので、一条家に縁のある古式魔法師

に話を聞きに行ったりしていたので、パラサイトのことはある程度の理解はある。

「そこから考察するか…」

「おいおい!マジでここで新魔法でも造る気かよ!?」

 どうやら考えが声に漏れていたらしく、保坂が反応する。

 確かに、試験もなしにぶっつけ本番で新魔法を試すなど、狂気の沙汰だ。

 真面な研究者のやることではない。

 しかし、将に望まれては仕方ない。僕はそれに応える義務がある。

 その為に、僕は生きているといってもいい程だ。

「済まない。殆どはこっちに来ないようだけど、来たら身体をなるべく破壊しない

ように足止めに徹してくれないかな?」

 パラサイトの殆どは、司波深景と一色さん、将輝と司波達也、吉田選手と西城選手

の方へ行っている。僕達の方に構っている暇のある奴はいなさそうだ。

 相手にされていないのは、思うところもあるが、今は思考に集中できる環境ができた

と思うことにする。

「おいおい!マジか!?」

 保坂の信じられないといわんばかりの声に、心ここにあらずの状態で頷く。

「頼んだよ」

 まだ保坂が何かいっていたが、僕は思考の海に潜り込んでいて聞いていなかった。

 

 時間がない。

 プライドに拘っている場合でもない。

 だから、司波達也がどうパラサイトを滅しているかも考察しないといけない。

 パラサイトは通常の魔法攻撃では倒すことができない。

 つまり魔法の干渉が届かない場所にいると考えられる。

 ここで古式魔法師に話を聞いた時の事を思い出す。

 そこから推論すると、おそらくはパラサイトは精霊の一種又はそれに類するものだ。

 だとすれば、情報体次元、所謂精霊がいる場所といわれている場所にいるのでは

ないのか?

 憑依という形を取っている以上、手に入れた身体からそう遠くない座標にいるだろう。

 彼の動きからするに、僕の考察はそこまで的が外れていない筈だ。

 次元の座標に違いはあっても、身体と本体は近くにいると仮定する。

 司波達也はサイオンの塊を放っているようだ。では、どうやって当てている?

 司波達也も特別な視界、例えば霊子放射光過敏症などの特殊な視界を持っていると

考えられる。当てられる理由は、それ以外に考え辛い。

 ならば、視界で捉えずに情報体次元にいるパラサイトを潰す手段がいる。

 ………。

 そうだ。古式魔法師が精霊を使う時、術者と精霊の間に魔法的な繋がりを設ける。

 といっても、例え特殊な眼を持っていても、見えない程の繋がりらしいけど。

 だが、確かに存在しているらしい。

 パラサイトは、向こうから繋がりを強引に作っているんじゃないのか?

 ならば、身体と本体は魔法的な繋がり、回線と呼べるものが存在する。

 視野の狭窄を起こさない目的で、古式魔法師の話や術について秘奥に迫るようなこと

以外は、一条家の伝手で聞けたのが、ここにきて役に立ちそうだ。

 司波達也や古式魔法師達のように直接の攻撃は無理だが、身体から回線を通して相手

を破壊すればいい。どうせ無駄だと、精霊との繋がり方などザッと話してくれた術師に

感謝だ。

 繋ぎ方を逆利用で辿り、パラサイトの核といえる霊子にサイオンを送り込んで砕けば

いい。

 僕は、腕のウェアラブルキーボードを取り外し、回線を幾つか引っ張り出す。

 そして、自分のCADからも回線を引っ張り出し、繋げる。

 かなり強引なやり方だと承知の上だ。試す時間と余裕もない。

 研究者としてあるまじき行い。だが、今は無理を通さないといけない。

 

 小さいキーをもどかしく思いながら魔法式を構築していく。

 魔法式を打ち込む事くらいは可能とはいえ、こんなことをする日が来るとは。

 凄く荒削りな魔法式で不格好。

 だけど、これでやるしかない。

 魔法名は、起爆といったところかな…。

 僕は、すぐさま走り出した。

 将輝はデカい鬼と交戦中だった。

 戦況を見定めて渡すしかない。

 将輝が鬼を地面に叩き付け、司波達也が止めを刺そうとした時、鬼が勢いを付けて

跳び退いた。

 身体が自動的に反応する。

「将輝!!」 

 機を逃さず、CADを投げる。

 精密機器にこんな扱いをするのは、これで最後にしたいものだ。

 将輝は、鬼を見据えたままキャッチした。 

「御望みの魔法以外、消去済みだ!」

 顔は見えなくとも、将輝が不敵に笑うのが分かった。

 CADを操作する。それは信頼。

 魔法発動の直後、鬼の身体が崩れ去った。

 

 司波達也の驚いた顔が見られたもの痛快だった。

 

 

               5

 

 :幹比古視点

 

 達也の声で事態は、この上なく把握した。

 試合は信じられないくらいに尻切れトンボに中止になった。

 普通じゃない。

 これだけの数が乱入しているのに、誰一人駆け付けてこない。

 来れないのか、それとも()()()()()…。

 考えている時間は、もうない。やるしかない。

 深景さんを見ると、一色選手に動きを封じて貰い、止めを刺すという形にしている。

 成程、上手いやり方だ。

「レオ!!」

「分かったよ!あれと同じことをすればいいんだな?」

 レオも頭は悪くない。すぐに僕の要求することを察してくれた。

 この感想は彼に失礼かな?

 やっぱりレオは接近戦になると強いな。

 次々と黒服を薙ぎ倒していく。止めを刺す方が大変な程だ。

 何しろ、試合用のCADだから昔ながらの詠唱で術を使わざるを得ないからね。

 大変だ。

 これじゃ、最後まで持たないな。

「レオ!ちょっと纏めてくれないかな、一箇所に!」

「難しいこというな!まあ、やってみるけどよ…」

 無茶は承知だけど、みんなが順調に片付けているのに、本職というべき僕が他に回す

訳にいかない。僕にも意地がある。

 こんなところで発揮するものじゃないと、承知の上だけど…。

 レオもやってくれるんだから、有難い。

 多分、こいつ等は生まれて大して経っていない()だ。動きがよくない。

 これだけ悪いのは珍しい。

 何かがおかしい気がするけど、これを追及している場合じゃない。

 逆に考えるべきだ。今が倒し時とでも考えて、倒すことに集中しよう。

 

 他の二組がドンドン片付けていくから、最後まで息切れせずに倒し切ることができた。

 レオも流石に無茶をした所為でボロボロだ。ごめん、レオ。

 残念だけど、他に回さないのが精一杯で応援に向かうのは、流石に無茶が過ぎる。

 邪魔にしかならないだろう。

 あとは任せるしかないだろうな、なんて考えていた時だった。

 背筋に悪寒が走る。修行で培った感覚が僕から完全に失われた訳ではなかったようだ。

 視線を走らせると、レオに目が留まる。

「レオ!!避けて!!」

 咄嗟に注意を促す。

 レオは思いっ切り地面に身体を投げ出して転がった。

 鮮血が散る。

「レオ!!」

 レオが転がった勢いのまま立ち上がる。

「大丈夫だ!!」

 レオの背には引っ掛かれたみたいな傷が、プロテクターも斬り裂いて付いていた。

 敵が見えない。攻撃の瞬間に気配のようなものを捉えられたのは運がよかった。

「んだよ。避けなきゃ、楽に死ねたのによ」

 どこからか、声が響く。

「テメェ!出てこい!!」

 レオが怒りの声を上げる。

「アホか、誰が出るかよ」

 嘲笑うように声が聞こえるが、どこから聞こえてきているのか、まるで分らない。

 レオも相手の位置を探ろうとしているが、効果はあまりない。

 ドンドンレオに切傷が刻まれ、鮮血が散る。

 僕の方も攻撃を完全に避けられない。このままではやられる。

 向こうが嬲る気じゃなければ、既に二人共死んでいるだろう。

 攻撃の瞬間は、なんとなく感じ取れる。頼りないが、これが突破口だ。

 この草原に誘い込めるような限定空間はない。おびき寄せて広範囲攻撃で一気に殲滅

とはいかない。

 方法は一つしか思い浮かばない。

『レオ。なんとかヤツの術を無効化して姿を見えるようにする。だから、その隙に一撃

食らわせてくれるかな?そしたら、最後に僕が止めを刺す』

 教わった念話。役に立つな。

 レオは使えないから、僕に向かって黙って頷いた。

 僕は意識を集中する。どんな些細なことでも見逃すな。

 今から使おうとしている術は、効果が微妙過ぎてあまり使ったことがない。

 練度に問題があるし、口頭詠唱で攻撃される前に素早く術を完成できるかどうか

分からない。

 だが、やるしかない。まずは相手の術を破らないことにはどうにもならない。

 少し前の僕だったら、やろうとすら思わなかっただろう。

 でも、そんなことをいっている場合じゃないというのもあるけど、少しづつ僕も

変わったからだと思う。

 あの姉弟を見ていると、僕の心にも負けん気というものが、まだ息衝いていると

驚かされる。僕だってやれる筈だ。いや、やれる。

 詠唱開始。

 レオの周辺で気配の影のようなものが感じられる。

 もう少し、もう少し。

 何かが振り抜かれようとしている。

 カッと目を見開く。

「霊威を持って払え!オオカムヅミ!」

 草原の草が黄金色に輝き、妖気に反応して伸びる。

 何もない虚空に黄金色の草が絡みつき、小柄な猿のような体格のフード男が姿を現す。

 本来なら、オオカムヅミは黄泉の軍勢を追い払った桃を指すが、うちの術はただの

植物に干渉し同じ効果を発揮させ、対象の動きを絡め捕り拘束し、相手の術も無効化する術だ。

 妖には嫌な臭いと神威で弱い雑鬼程度なら、拘束されるだけで滅する力を持つ。

 時を経た大妖怪でなければ、動きを一時的に止めるくらいはできる。

「っ…ぅ」

 思わずといった感じで、フード男が呻き声を上げるが、すぐに拘束を解こうと藻掻く。

 レオがそれを見て不敵に笑う。

「待ってたぜ。この瞬間をな!!」

 鬱憤が溜まっていたのか、レオがとんでもない勢いで棍棒のような小通連を振り抜く。

 グシャリと嫌な音と共に土煙が上がる。

 レオがフード男の肩から袈裟斬りで地面に叩き墜としたのだ。

 悲鳴もなかった。

 土煙が晴れると、レオが小通連でフード男を押さえ込んでいた。

「舐めるな、クソガキィ!!」

 足からも刃が飛び出し、フード男がレオを斬ろうとする。

 頭に血が上っているようで、姿が消えていない。これなら!

「レオ!!」

「応よ!!」

 刃がスピードに乗る前に、レオが肩で刃を止めて、フード男の脇腹に蹴りを入れる。

 僕の方にフード男が蹴り飛ばされてくる。

 こっちは使い慣れている。

「滅せよ!朱雀の焔!!」

 金色の炎が眩く光りフード男を絡め捕る。

「ギィィィィヤァァァーーーーーー!!」

 身体ごとコアを焼き払う。

 灰すら残さず燃え尽きていた。

「終わったか?」

「こっちはね。でも…」

 レオの言葉に答えたけど、もう他に加勢に行く気力はない。

 僕は情けない限りだけど、座り込んでしまった。

「少し休んでろって!俺は行って来るぜ!」

 レオは結構血だらけにも拘らず、元気に走って行った。

 

 なんて、頑丈で体力があるんだ。僕もまだまだだな…。

 レオを背を見て、僕は溜息を吐いた。

 

 

               6

 

 命知らずと奇しくも共闘状態で、ドンドン敵を片付けていく。

 見る人が見れば、私の刀が発光しているのが分かっただろう。

 結構溜まってきたな。これなら…ふふふふふ。

 そして、突如の違和感。

 空間が飴のように伸びた感覚がした。ああ、これはあれだな。

 命知らずも違和感に気付いたようで、辺りを警戒している。

 空間が揺らぐと、今まで倒した敵が一斉に再生される。

「なっ!どういうこと!?」

 命知らずが驚きの声を上げる。

「まあ、落ち着きなよ。大丈夫だから」

 もう、術式は解析済み。同じ手が二度も通じるとでも思ってたのかな。

 多少は変えてあっても、似た部分が多ければ私や達也には一発で分かるのだ。

 相手はできるだけ力を浪費させようとしたんだろうけど、相手が悪かったね。

 すぐさま解除を実行すると、何かが破砕する音が聞こえる。

 疑似体験迷路が壊れたのだ。

 目の前で武器を振りかぶったまま固まる女が一人。

「いやはや、久しぶりだね。かっ…会長が随分とお世話になったようで!」

 私はにこやかに挨拶をして上げる。

 コイツは閣下に妨害工作した輩だ。あの時は逃げられたが今度は逃がす積もりはない。

 命知らずは驚きで固まっている。まあ、放置でいいでしょう。

「うっ…あああ!!」

 女はまたあの時のように逃げようとしたが、術式解体(グラムデモリッション)で妨害する。

 これもまた一つの魔法。発動タイミングさえ見切れば壊せるんだよ。

 女が青白い顔で目を見開いて驚愕している。

「悪いね。私はここで見逃す程甘くないんだよ」

「うわぁあああーーー!!」

 女が覚悟を決めたのか、素早い動きで襲い掛かって来る。

 私は思うところあって、刀を鞘に戻すと同じく動いた。

 一瞬の交錯。

「見切った」

 私は振り返り、亜空間から出したアルコール除菌ティッシュで手を拭く。

 ()()は顔を真っ赤にして睨む。

 元ネタからもしかしてと思ってたんだよ。

 コイツも幽遊白書からの登場だ。確か名前が妹とかぶってるんだよね。

「貴様!!」

 無駄だと思い知っただろうに、性懲りもなく向かってきた。

 私は神速の踏み込みで抜刀する。

 相手を思いっ切り斬り上げ、勢いのまま背後に回り返す刀で斬り下ろした。

 核の霊子が刀にエネルギーとして吸収される。

 敵は倒れた。

 確か妖って、姿とか自由に変えられるんだよね?

 なんでオカマのままだったんだろ?

 何?どうやって確認したんだって?当然、あっちの主人公と同じ方法だよ。

 恥じらい?精神年齢おばちゃんの私にそんなのあるか、っといかん。

 今更ながら恥じらって見せとこ。

 まっ、なんにせよ。妹と同じ名前なのが気に入ら…閣下に迷惑を掛けた借りは

返したよ。

 

 そこで、場違いな拍手が聞こえて来た。

 振り返ればヤツがいた。

 それは間違いなく戸愚呂弟だった。

  

  

               7

 

「いやいや、お見事だねぇ。まさか一瞬とはねぇ」

 うわっ!生戸愚呂だ!!実物見て、これ程喜べない奴はそうはいない。

 私は刀を握り締める。自身の力を封印したままでも一泡吹かせる備えもした。

 準備も整っている。あとはベストを尽くすのみ。

「な…な…」

 命知らずにも感じられるか。このヤバさが。

 長身で細身であるにも拘らず、巨人の如きオーラを発している。強い。

 目の前に立たれて実感する。まだ素の状態だというのに鳥肌が立つ。サッサとご退場

願いたい。

「それじゃ、今度は私がお相手願おうかね」

 そういうと戸愚呂弟が気合の声と共に、全身に力を入れる。

 上着が筋肉の盛り上がりにより弾け飛ぶ。

 ズボンもヤバい。色々な意味で。

 まあ、アッチの原作では百二十%の力にも耐えたズボンだから平気だと信じたい。

 アンタの筋肉マッパなんて需要は…もしかしたら腐女子にはあるのか?

 更にヤバいのは、筋肉の盛り上がり以上に妖気が跳ね上がったことにより、その影響

が風圧となって直接きていることだ。気の弱い奴だったら、心臓が停止してるよ、これ。

 筋肉の膨張と風圧が収まる。

 来る。

 視界から戸愚呂が消える。

 それ程の速さで、しかも滑らかに動いたのだ。武術の腕も破格のようだ。

 独立魔装大隊にいたなら、そりゃそうだろうけど。

 私はビビっている命知らずを突き飛ばし、自身は迎え撃つ。

 ここまでを戸愚呂が消える寸前に済ませる。

 拳が私の顔面を粉砕する前に、刀を滑らせるように拳に割り込ませる。

 ただの正拳突きが、一撃必殺の威力を帯びる。

 これは真面に受けたら、封印した力じゃ吹き飛ぶくらいじゃ済まないな。

 刀で拳を逸らすように捌いていく。

 スウェーバックのように後退しながら、腕が伸び切るタイミングで合わせているにも

拘らず、物凄い衝撃が私の腕に伝わってくる。

 腕を斬り付けるように叩き付けているのに、向こうは腕に薄っすらと赤い線のような

傷ができては再生して傷が消えていく。このまま押し切られては不味い。

 私は刀で戸愚呂の腕を跳ね上げ、更に踏み込む。

 姿勢を低く、下から斬り付けようとすると、今度は向こうが後退しながら拳を

打ち下ろす。

 地面が拳の風圧で草が千切れて舞い、土が舞い上がる。

 堪らず後退する、ように見せて止まり、逆に踏み込む。

 後退する気配に釣られた戸愚呂は、間髪入れずに追撃しようとしたのだ。

「っ!」

 この程度の視界の悪さで、攻撃を断念なんてするか。

 私は剣術研究家の教え子だ。当然、闇稽古なんて当たり前に熟している。

 文字通り視界ゼロで行われる稽古で、心眼が鍛えられていないと控え目にいって

酷い目に遭う。

 完全に攻撃タイミングを外したのに、平然と攻撃を修正してくるが、こちらの方が

速い。

 頬に拳が掠めていく。

 一瞬遅れて血が流れるが、私の動きは止まらない。

 サイオンを籠めて刀が走り、戸愚呂の左脇腹から右脇までを深く斬り上げた。

 普通ならここで勝負ありだが、相手は真正の化け物だ。斬り上げた刃を返し体捌きで

脇を抜ける瞬間にクルリと体制を変えてさらに斬撃を加えようとして、強引に身体を横

に倒す。

 戸愚呂が、すぐさま後ろ蹴りを放ち攻撃の流れを断ち切る。

 蹴りが私の上半身を粉砕する勢いで飛んでくる。 

 かなり強引に身体を捻った甲斐はあったが、すぐになりふり構わず地面に転がる羽目

になった。

 後ろ蹴りを器用に連撃してきたのだ。

 戸愚呂が態勢を立て直しながら、後ろ蹴りから回し蹴り、拳での攻撃に繋げていく。

 やっぱり封印の限定解除くらいしないとダメか!?

 下手に立ち上がろうとすると、軽く身体がなくなりそうだ。必死に転がって避け

続ける。

 なりふり構っていられないと、決意と共に刀を握り締めた時、戸愚呂へ金属板が

飛んできた。

「うぅぅぅおぉぉぉらぁぁあーーーー!!」

 レオ君だ。

「っ!!」

 戸愚呂はすぐに反応し、小通連の剣先を拳で叩き墜とす。板状の剣先はひしゃげて

見る影もない状態で地面に叩き付けられた。

 だが、その隙に私は体勢を立て直すことができた。ありがとう、レオ君。

 って、ちょっと!

 レオ君は何を思ったのか、そのまま拳を振り上げ突撃を敢行した。

 私は迷わずに戸愚呂へ突っ込んでいく。

「パンツァーーー!!」

 いやいや。

 私の姿が掻き消える。

 案の定、レオ君渾身の一撃は効果を発揮せず、逆に痛烈な一撃が返される。

 寸前で割って入ることができたが、受け流すことはできそうにない。

 覚悟を決めて、受け止める。

 レオ君諸共、ギャグみたいに吹き飛ばされる。

 私は空中で身体を捻って着地したが、レオ君は上手く着地できずに遠くに転がって

いった。

 レオ君の行方を心配する暇はない。非常識な威力の拳がもう私を捉えている。

 そりゃ、追撃されるよね。

 封印限定解除の前に切れるカードを切る。

 縮地で拳を躱す。

 戸愚呂が予想していたとばかりにニヤリと笑う。

 このスピード・動きも見切られたようだ。縮地を使った私に攻撃を合わせる。

 悪いね。こっちも予想通りだ。

 無理矢理止まる。

「っ!」

 まさか強引に止まるとは思わなったようだ。

 だが、驚くのはここからだよ!

 そこから縮地で方向転換する。

 捕捉されそうになれば、強引に方向転換し、再度縮地を発動。地面が抉れて土が草と

共に巻き上がる。身体強化されているからこそ可能な無茶な動き。身体が強化していて

も悲鳴を上げる。

 勢いのまま刀を振るうが、まるで木刀でタイヤを斬ろうとしているような感触だ。

 手応えがまるでない。攻撃の為の、十分な踏み込みができていない所為だ。

 なんとか十分な一撃を放つ機会を窺う。

 その時、達也のサイオン徹甲弾が戸愚呂を捉える。

 同時に戸愚呂の霊子核の回路のようなものが発光する。

「むぅん!!」

 同時に戸愚呂の尋常じゃない霊子核が膨張し、徹甲弾を弾き返した。

 霊子核への攻撃?の方も同様の方法で、伝わる力を拡散させたようだ。

 うっそ!!効かないだろうなって思ったけど、ええ!?何、その脳筋な対応!?

 振り向かなくても達也の驚愕が伝わる。達也にしたら十分驚愕といっていいレベルの

反応だ。

 うむ。あと一人は王子様か。あんな魔法使えたっけ?

 まあ、いいや。レオ君はお星さまになったし、二人に援護をお願いするとしよう。

「達也!!」

「分かってる」

「協力します!!」

 二人が背後で同時に動く。

 私の指示で動くとか、しかも呼んでないのに動くとかいいのか?王子様。

 頼む気だったからよかったけど。

 私は戸愚呂を達也達のところに行かせない役割だ。

 正直、割って入って来られると、レオ君のようにお星さまになりそうだし。

 そして、達也達が隙を作ってくれたら、切札を切る。

 その為には、この距離は維持したいところだ。

 私は変則縮地で翻弄し、刀を振るう。

 死の風が吹き荒れる中、私は平然とそれを縫うように攻める。

 達也は効かないと分かっていても、サイオン徹甲弾を放つ。

 それだけではなく、王子様も流石なもので、すぐさま効果のない魔法を捨てて、

動きの阻害を目的とした人体破壊にシフトしている。

 私を捉えそうになる一撃を内部爆発で破壊して防いでくれている。

 すぐ再生してるけど。

 雑魚とは再生速度が桁違いだ。

 達也も核への攻撃を継続している。

 手足に妖気が尋常じゃない程集中する。

「っ!…散開!!」

 二人がハッとした顔で慌てて跳び退く。

 間合いを詰めて接近戦をしているからこそ、逸早く気付けてよかった。

 間一髪で、手足から繰り出される鎌鼬・衝撃波を含んだとんでもない威力の連撃から

逃れた。閃光も何もない。

 一瞬でも退避が遅れていたら、私達姉弟は兎も角、王子様とかヤバかった。

 まだマッチョのレベルであれとか、バカ過ぎる。

 筋肉で化物形態になった時の強さは知りたくない。

 手足が文字通り霞んで消えたと思ったら爆撃でもあったかのように周辺が抉れ、

もうもうと土煙が上がっていた。

 土煙が晴れる。

 ニヤリと笑う戸愚呂が構えを維持したまま、こちらを見ている。

 随分と余裕だ。こんな攻撃手段も持っていると態々教えてくれた訳だ。

 あっちの原作より強くない?

 こりゃ、強引にでも決着を急ぐ必要があるね。

「一条さん。お願いがあります」

「なんでしょうか?」

「次で決めようと思います」

 王子様は、まだ詳細を聞いていないのに力強く頷いてくれた。

「達也。切札を切る。今のうちにいっとく、ごめん…」

「姉さんを護るのも、俺の仕事だと思っているから、気にしないでいいよ」

 姉弟だから、これだけで伝わる。

 何やら不快そうな気配の王子様と、機嫌がいい弟。

 何が背後で繰り広げられているのやら。

 

 それで、私はプランを王子様に素早く手短に伝えた。

 

 

               8

 

 :戸愚呂視点

 

 いやはや、予想外というべきだね。

 二十%とはいえ、これだけ戦って無事とはね。

 結構今の状態で本気でやってるんだけどね。

 嬉しくなって、つい大人気ない攻撃を見せてしまった。これも躱されたけどね。

 向こうの作戦会議も終わったようだね。

 次で決着を付ける気だね?分かるよ。目がそういっている。

 ならば、それを受けて立つのが先達の義務というべきかね?

 自分でも口元が緩むのが分かる。

 司波深景と司波達也。だったかね?二人が同時にこちらに迫る。

 二人で攻める気か。いや、後から一条の御曹司が続いている。

 御曹司にラストアタックさせる積もり…ではないだろうねぇ。

 面白い魔法だったが、私には通用しないからね。

 何を隠してる?撃ってこい。全力で。

 相手をしてやるとも。だから、楽しませて見せろ。

 司波達也が牽制攻撃を継続する。

 これも面白い魔法だが、私には効かない。

 だが、防御は必要だ。核に当たれば、多少なりにもダメージを受けそうだからね。

 微々たるものだが。

 撃ちながら近付けば、どうにかなる程甘くはない。

 攻撃を弾いた隙を突いて、司波深景が神速の踏み込み。

 その歳で大した腕前だ。これだけ接近して攻撃を捌ける相手はそうはいない。

 拳でラッシュを掛けるも、刀で捌かれてしまっている。

 だが、こちらもある程度、攻撃を見切っている。反撃の機会はみるみるうちに減って

いる。

 それでも焦りなど微塵も見せない。

 ここで司波達也が素早く踏み込み、接近戦に介入しようとした。

「っ!」

 接近戦ができないとは思わないが、姉に任せるものだと思っていたが。

 司波達也が手刀を繰り出してくる。

 この一撃は受けるべきではない。

 一瞬の判断。

 初めて後退する。一歩だけだが、後退は後退だ。

 腕がスッパリと斬り裂かれた。

 魅由鬼が見たことのない魔法を使うといっていたが、これが、いやこれもそうか。

 危うく腕を一本落とされるところだった。

 その隙を司波深景は見逃さずに、刀を走らせる。

 銀閃が防御より速く身体を斬り裂く。

 この時、私は一条の御曹司のことが一瞬頭から抜けていた。

 身体が魔法干渉をされる。

 爆裂を使う気か?随分と本気でやるようだ。

 身体が傷んでも面白くない。抵抗するかね。

 再び、手足に力を集中すると、披露した時よりも素早く攻撃を繰り出した。

 受け切れないと悟っている二人は、逸早く離脱。

 一条の御曹司は魔法干渉中であった為、対応がゼロコンマのレベルで遅れる。

 拳で二人を退けて、御曹司までの道を開くと、前蹴りを放つ。

 御曹司はガードが間に合ったようだが、吹っ飛んだ先で地面に激突し沈黙した。

「この!」

 司波深景がやはり一番早く戦闘に復帰する。

 霊子核だけになっても、対応がある程度可能な人間がこの場に三人いる。

 本体では攻撃手段がない訳ではないが、限られてしまう。私クラスでもだ。

 だから、思い切って身体を破壊しようと思ったのだろうが、当てが外れたといった

ところかね?

 明らかに動揺した様子の司波深景は、攻撃が粗くなっていた。

 まだ若いのだ。仕様のないところもあるだろう。いい経験ができたと思うんだね。

 粗くなった動きは、捉えやすく容易く拳を打ち込むことができた。

 ミシリと拳に手応えを感じる程、真面に攻撃が決まった。

 御曹司同様に司波深景は吹き飛ばされて行った。

 さて、残りは一人。

 司波達也に目を向けると、ヤツは思っていたより私に接近してきていた。

 注意は払っていた筈だが…。

 そんなことを考えたのは一瞬のことだが、それが隙となった。

 司波達也が手刀を先程と同じに繰り出す。

 同じ手が何度も通じるとでも思っているのかねぇ。

 手刀ごと相手を粉砕すべく、全身の力を拳に乗せる。

 小賢しい攻撃ごと粉砕する一撃は、意外なことに他ならぬ司波達也に止められた。

 グシャリと嫌な音が響く。

 常人ならば、意識を保つことなどできないだろう攻撃を、司波達也は受け止めた。

 手刀は餌か。私が拳を自分に受け止め易い場所に打ち込むように誘導したか。

 だが、それで…。

 そこで気付いた。私の影が拘束を受けている。

 これは…忍術か。古式の動きだとは思っていたが、こいつは忍術使いか。

 だが、動きを止めたところで、どうしようもないだろうに。

 そう思っていたところに雄叫びと共に接近してくる者がいた。

「っ!」

 流石に驚かされた。

 あの棍棒のような武装一体型CADで攻撃してきた若者だったからだ。

 あの攻撃に耐えられたのか!呆れた頑丈さだ。

 そして、可能性が頭を過ぎる。

「まさか!」

 視線を吹き飛ばされた二人に向ける。

 一人いない!司波深景が!

 そして、気付く。司波達也が私の動きを封じた訳が、黒い影が走る。

 縮地を習得している彼女なら、これだけの短い時間でも再び接敵することぐらい

可能だったのだ。とすれば、あの動揺は演技か。

 面白い!!

 制限が煩わしい程に!!

 この化物を殺すことを彼女達は、少しも諦めていない!!

 ならば、制限の範囲内とはいえ、私も本気で、全力で相手をしなければ失礼という

ものだ!!

「ぬうぅぅおぉぉぉーーー!!」

 私は、力を籠めて片腕の拘束を強引に振り解く。

 普通ならこれで魔法効果が破壊されるところだが、この司波達也という男は並では

ない。すぐさまリカバリーして片腕を除く、部分の拘束をして見せた。

 だが、これで十分だ。

 まずは頑丈な若者を片付けようと、拳に力を集中し、一撃。

「ふざけんな!何度も殴られて堪るかよ!!」

 驚異的な反射神経で私の拳を掻い潜り、私の脚にタックルしてくる。

 それでも拘束になんら影響が出ない。

 私は若者の背中に拳を打ち下ろそうとして、軌道を変える。

 捨て身の突きを放つ態勢の司波深景に。

 捨て身の全力攻撃である為に、隙だらけだ。今度こそ終わりだろう。

 そう思った。

 だが、突如私の眼をもってしても彼女の姿を見失った。

「何!?」

 直後、身体を貫く衝撃が伝わる。

 私の眼は彼女の後に向けられていた。

 私の眼でも捉えられないスピードの正体。

 一条の御曹司だ。

 縮地中の彼女の背に、衝撃波を集中させて弾き飛ばしたのだ。

 身体強化を彼女が習得しているのは分かっていたが、まさかそんな無茶をやるとはねぇ。

 敬意を表して、ここで引くとしようかねぇ。

「こんな無茶を…やるねぇ…」

 刀は核を素通りさせているが、彼女には核を突き刺したと錯覚している筈だ。

 これで、手打ちだね。

 拘束が解かれ、後に倒れる小芝居をしようとした時だった。

「二人共!離れて!!」

 司波達也が、無事な方の腕で若者の首根っこを引っ掴み、走り出す。

 

「術式一番・開放。赤の光波(デリーター)

 

 吸収した霊子が収束されていくのが、分かる。

 本能が危機を激しく告げている。

 

「霊子性質変換・崩霊裂(ラ・ティルト)!!」

 

 咄嗟に左京さんとの約束を破棄する。

 三十%では足りない。

 もっとだ。

 危機の中にあって、冷静に状況を見極める。

 

 赤い光が一瞬にして青に染まる。

 光が爆発する。

 

「オオォォッォオーーーー!!!」

 

 光を腕で抑え込むが、腕がボロボロと黒く崩れていく。

 胸の刺し傷が拡大していく。

 五十%!!

 だが、それすら呑み込み光が私を塗り潰した。

 

 これは、手加減要らなかったかねぇ…。

 そんなことを思って、ニヤリと笑った。 

 

 

               9

 

 今、私はベットに寝かされている。

 当然の話でボロボロだったからね。

 実力を隠さないと面倒になる家ってこれだから嫌だ。

 なんていっても仕様がないけど。

 御神流の奥義・閃の概念とあっちの主人公・桑原コンビの作戦を融合させた作戦

だったけど無茶やったよ。脚が普通に砕けたからね。強化がやっぱり足りなかったよね?

 一番の痛手は刀が出力オーバーで砕けて修復不能になったことだ。

 崩霊裂(ラ・ティルト)に性質変換して、同時に赤い光波(デリーター)の威力も残した一撃は、とんでもない負担を刀に掛けた。ついでに私の身体にも。

 いいとこ取りなんて上手くできないよね。

 一番幸いなのが、刀がお釈迦になったことだ。

 レギュレーション違反だったのでは?なんて今更なこと大会委員に勘繰られて、

かなり不愉快な思いをさせられた。失礼な、解除したのは試合どころじゃなくなって

からだ!なんていえる筈もなく。王子様がやったことにした。

 証拠が木端微塵で調べようもなく、王子様の発言もあり有耶無耶になった。

 私の刀の力を王子様のパワーでもって、引き上げたということにしたんだよ。

 王子様のパワーに耐えられず刀は壊れたってことで。

 因みに、王子様は笑顔で引き受けてくれたよ。

 あの後、軍人連中が漸く来ることができたといった感じで、押っ取り刀で駆け付けて

きた。

 まあ、その間に王子様に話を通して置いたのだよ。

 でも、これで王子様の手柄になったし、師族会議も原作程五月蠅くないだろう。

 これで貸し借りなしってことで一つ…。

 

 被害状況をいうと、達也は肩と腕を粉砕骨折、レオ君が骨折箇所多数に罅多数。

 レオ君が一番の大怪我だったのは、戸愚呂の攻撃の余波と、私の攻撃の余波を不幸

なことに受けてしまった結果だった。

「いや、大型自動二輪を正面から受け止めたことがあるけどよ…。あれ、それ以上

だったぜ…」

 これはレオ君の言である。

 他の被害状況もお知らせして置こう。

 王子様は肋骨三本骨折、幹比古君は、切傷多数。残念参謀及び三校の男子、ほぼ

無傷。命知らずは、ところどころ擦り傷ができた程度。

 達也はもっと酷かったが、自己修復で内臓とかは治し、内臓に刺さった骨も骨折程度

にしたからであり、本来なら死んでいる。

 やっぱりチートな能力で、治るからといってやらせていい訳がない。

 レオ君共々、巻き込んでしまって本当に申し訳ない。

 治癒魔法で表面上は治っているけど、当面は安静にして傷の定着を待つことになる。

 面倒だが、この偽装は必要だ。

 

 試合がどうなったかといえば、一校の優勝ということになった。

 表向き戸愚呂を倒したことになっている王子様率いる三校を優勝に、という声は

あったが、王子様自身がそれを辞退した。

「この勝利は、一校の選手が主に戦果を挙げた結果です。私は止めを刺すのに協力

したに過ぎません。この上、優勝の栄誉など貰えません」

 三校の参加選手からも当然、異議は出なかった為、一校が優勝と相成った。

 普通は、再試合か中止して同率優勝かにするだろうが、王子様は英雄扱いである。

 贔屓もされるってものだ。

 大会委員会は不満タラタラだったようだが、知ったことではない。

 因みに、王子様は決着は次回に付けると達也と話していた。

 これから、王子様は原作より強くなるかもね、と予感めいたものを感じた。

 

 さて、これで暫くはあの化物も動けないだろうから、あとは原作連中の始末だ。

 達也には休憩して貰って私が遣ろうと思う。

 せめてそれくらいはしないといけないだろう。姉としては。

 

 だが、この時私はあの化物を侮っていたと鬱になることになるとは思いもしなかった。

 

 

               10

 

 :戸愚呂視点

 

 随分と遠くまで吹き飛ばされたものだねぇ。

 私は山の中に落ちていた。富士山まで飛ばされるとはねぇ。

 登山道から外れていて良かったよ。

 見付かったら、始末するか記憶を弄る必要が出るからね。

 本当なら九島の老人に回収して貰う予定だったんだけどねぇ。

 回収の手間は省けたかねぇ。

 腕は崩れ去り、胸には大穴が空いている。

 それでも自分の口元には笑みが貼り付いている。

 あれは私と同じく、力を隠していた。あの瞬間確信したよ。

 司波達也と御曹司もいい敵になりそうだが、司波深景はもう立派な敵だ。

 まだ、この世には楽しいことがあるんじゃないか。

 向こうの連中は、こっちに出たがるようだが、何故こんな退屈なところへ行き

たがるのか不思議だったが、今は少しだけ理解できた。

 自分にも妖としての価値観はあるが、そこだけは理解が及ばなかった。

 主だった仲間もそうだったが、少し意見が変わった。

 井の中の蛙大海を知らず、か。

 自嘲の笑みがくっきりと浮かぶ。

「随分と派手に壊されましたね。大丈夫ですか?」

 接近は感じていたが、反応しなかったのはよく知る者だったからだ。

「鴉か。ああ、大丈夫だよ」

 私は上半身を起こした。

 鴉は相変わらずの黒尽くめで立っていた。

「二十%では足りませんでしたか?」

「瞬間的に六十%まで上げたよ。直撃を受けたら()()()()()()()()()()()

だろうね」

「っ!それ程ですか」

 鴉が珍しく目を見開いて驚いた。

 私は身体をほぼ一瞬で復元した。身体の傷など人間を辞めた私には何の意味も

ない。核は咄嗟に六十%まで引き上げたお陰で、無傷だ。

()の貴方が傷を負ったかもしれないと!?」

 私は頷いてやる。

 そう私が取り込んだのは、古式の連中がいうところの親だった。

 私は、それを食らって生き延びたのだ。 

「さて、左京さんのところに戻るとしようかね。その前にやることがあるが」

 私はニヤリと鴉に笑ってやった。

 

 彼女への挨拶も必要だろう。

 

 

               11

 

 :ダグラス・黄視点

 

 どうにか潜り込ませた連中から、信じられない知らせが届いた。

 通信で席を立て正解だった。

 その場で受けていたら、他の幹部に知られて大変な騒ぎになっただろう。

 戸愚呂が敗れたというのだ。

 映像で確認ができなくなって、気が気ではなかったが、こんな結末とは!

 あの男!!散々偉そうなことをいって結果これか!!

 使えない奴め!!

 壁に拳や蹴りを入れる。

 

 一頻り、怒りをぶつけたところで、漸く頭が冷える。

 どうする、これから…。

  

 項垂れたのは短い時間。

 すぐさま遣るべきことを決める。

 

 まだだ。まだ戸愚呂達に持ち込ませたジェネレーターや、観客に紛れ込ませた

術者がいる。

 

 終わっていない。まだ終わっていないぞ!!

 

 

 

 

 

 




 あまり言い訳染みたことは書きたくないのですが、正直
 書く時間が確保できなかったことが大きいです。
 勿論、苦手な戦闘メイン回だった所為もありますが。
 魔法科高校の劣等生原作、全然読めていません。
 もしかして、パラサイトについて詳しいことが解説され 
 ているかもしれませんが、魔法理論に関してはこれで
 ご勘弁を…。自分なりに脳みそを絞った結果ですので。

 暫くは、こんな日々が続きそうです。
 良ければ、次も読んで頂ければと思います。
 正直、いつになるか明言できない状態ですが…。
 
 因みに、魔剣はブレイブレイドからの出典です。
 それを拡大解釈して出したものです。





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九校戦編18

 相変わらずの日々が続いています。
 地味に書き続けています。
 それではお願いいたします。






               1

 

 治癒魔法様様な他の人と違うと不便な事もある。

 私と達也は既に治っていたりするが、かったるい傷の定着待ちを偽装する日々が

始まった。

 現在進行形で怪我治療中の人達は、割と深刻であったりするけどね。

「いや、大型二輪に撥ねられた事あるけどよ。あれ、それ以上だったぜ。我ながら

よく生きてたもんだぜ」

 これはレオ君談である。

 やっぱり原作通り大型二輪に撥ねられたようだ。 

 向こうが全然本気じゃなかったからよかったね!

 筋肉妖怪の本性を現したら、指弾だけで死ぬよ。

 幹比古君は、平然としている私達やレオ君を遠い目で見ていた。

 

 閣下からは休んでもいいのよ?なんていわれたが、休める訳もない。

 妖のカチコミという大事があったとしても、九校戦は続いていく。

 休息などある訳もない。

 そもそもこれからミラージバットの本戦が始まるんだからさ。

 マイシスターの出番ですよ。

 当然の如く、私もCADオタと一緒に補佐しますとも。

 念入りにチェックしていく。

 正直、CAD自体は達也が殆ど仕上げている訳だから問題ない。

 新人戦から本戦に変わったとしても、あのズル…もとい切札の前では勝てる選手が

いる訳がない。

 だったら、何をチェックしているのかというと機器の安全確認だ。

 機器が汚染されていたら、目も当てられない。

 外周部の警備や見回りは軍がやっているが、内部の各校の天幕は学生で運営している。

 プロではない学生では、余程注意しないと好き放題やられて仕舞い兼ねない。

 そう、妖が退場したとしても、賭けを楽しんでいらっしゃるお歴々が健在である以上、

用心は必要だ。原作では電子金蚕をCADに潜り込ませていた。

 こっちではまだ使用されていない。

 使われない保障がない以上、チェック体制を厳重にしないといけない。

 勿論、全く別手段である事も念頭に入れないとダメだろう。

 という訳で、余裕はなく忙しく動き回る羽目になっている。

 私は達也と違って、深雪さえ無事なら後はどうでもって訳でもないから、一応、閣下を

通してエンジニア組に注意を促している。これで無視して同じ結果なら、もう知らん。

「ウチの機器は異常が認められないです。後は人を寄せ付けないようにしましょう」

 達也がダブルチェックの為の機器の安全を保障する。

 機器は完全にスタンドアローンで、特殊な手段でなければハッキングはまず受けない

が、遮断シールドと警戒の為の人員を置く事を追加で決める。

 その案を持って、私と達也は生徒会の面々の所に向かった。

 CADオタは上級生と残っている為、私達で報告に行く事になったのだ。

 オタも生徒会だが、今はエンジニアの纏め役と化しており、そっちを優先している

ようだ。

 報告と対策承認はスムーズに済んだ。

「もう終わった、と考えた瞬間が一番危ないものね。ローテーションはハンゾー君と

十文字君に組んで貰うから、大丈夫として…。でも、CADの細工を見抜けるといい

けど…」

 そう閣下にしてみれば、所詮学生の集まりであり、プロの犯罪者の攻勢を凌ぎ切れる

か不安なのだろう。その本音が思わずポロリと出た感じだった。

「データは、一校のエンジニアがおかしなところがないか調べればいいと思います。

それ以外の工作に関しては幹比古君に頼ろうかと思います」

 データに関しては、自分で組んだプログラムだ。違和感くらい気付くだろう。

 流石に達也にチェックを依頼すると、一科生がエリート発作を起こすので無理だから

諦める。

 精霊に対する注意に関しては、渡辺お姉様の件ですんなりと受け入れて貰えた。

 今度は人間の術者がなんかやるかも、で済んだ。

 妖が退場したのになんで?とか言われなくてよかった。面倒だし。

 電子金蚕も精霊だ。幹比古君もCADに精霊が潜んでいれば気付く事が出来ると確認

している。

 彼には、ここでも活躍して貰う事になる。

 二科生であっても、精霊魔法の大家である家柄の彼なら、発作も軽く済むと見越して

の事だ。

 生徒会も今まで尽力してくれた幹比古君の評価は高いようで、すんなりと納得して

くれた。

 

 態勢も出来る限りは整えて、いざミラージバット本戦へ。

 

 

               2

 

 :術者視点

 

 私はミラージバット本戦開始前の会場を歩いていた。

 組織からは今回は保険としていろと言われていたが、ヘマをやった奴等のお陰で

目出度く本命として活動する羽目になっていた。

 チケットを何度も確認して見せる。

 勿論、監視カメラを意識しての行動だ。

 チケットは本物だし、素性も滅多な事ではバレないように戸籍を丹念に育てたもの

を使用している。

 名義を売っている日本人から戸籍を買い取り、何年にも渡り税金を払い。

 顔を変え、生活費を滞納する事なく払い続ける。

 日本人としてなんら不自然な事もなく国民の義務を果たし、戸籍の信頼を高めていく。

 これを我々は戸籍を育てると呼んでいる。

 原始的なやり方のように感じるかもしれないが、意外と少し疑われたくらいでは発覚

しないのだ。

 日本に長く滞在して仕草も完璧だ。

 今の私はどこからどう見ても、そこらのオジサンだ。

 いかにも迷い込んだといった風を装って歩く。

 向こうから軍人が歩いてくる。

 こちらを見て、日本軍の軍人が目を細める。

「止まりなさい。ここからは関係者以外立入禁止だ」

 軍人が、小銃をいつでも撃てるように構えつつ口を開いた。

「ああ!すいません!ちょっと迷っちゃって!D-45って区画に行きたかったんです

けど…」

 私は両手を上げて、アタフタと慌ててチケットを振って見せた。

 軍人は苛立ち交じりに溜息を洩らした。

「D-45区画はもっと先の通路だ。立入禁止の看板があっただろう」

「ああ!すいません!急いでたもんで…。ほら!もうじきミラージバットが始まる

でしょ?いい場所取らないと、目の保…試合が見れないじゃないですか!?」

 私の態とやった失言とその後の誤魔化しを見て、軍人が冷ややかな視線を向けてくる。

 これは呆れも混じっているかな?

 大方、スケベ野郎がとでも思っているのだろう。

「分かった。もう行け。二つ先の通路だ」

「いやぁ。ありがとうございます!」

 私は踵を返して、早足でアッサリと戻っていく。

 

 私はカメラの死角で口角をキュッと上げて笑った。

 これで仕込みは終わった。

 私の魔法は発覚し難いし強力だ。

 これからが疲れるが、仕事なんだから仕様がない。

 

 

               3

 

 ミラージバット本戦が始まった。

 DJアーミーが例によってノリノリで喋り倒している。

 本日は曇天。ミラージバットをやるにはいい天気だ。

 深雪の出番は次だが、私は気になっている事があった為に、この場に居る。

 どうせ、私に深雪の戦術やらCADに何か口出しする余地などないんだから、

いいよね?

 何が気になるのか?

 決まってるよ。これから小早川さんが出るんだよ。

 名前を見て思い出したよ。ここで小早川さんが原作だと犠牲になるんだよ。

 一応、平河姉にも閣下が注意を促してたけど、どうなったか気になってさ。

 何しろ、原作では平河妹に逆恨みされる原因になった出来事だからね。

 勿論、これから出てくる横浜中華街の長髪イケメンの所為ではあるが、変なネタは

なるべく作りたくない。

 是非とも回避して貰いたい。なってしまったとしても、最小限に抑えたい。

 故に、この場に居る。

 今のところ忠告は聞いて貰えているようで、平河姉は念入りにデバイスチェック後の

CADを調べているし、幹比古君もチェックしている。

 幹比古君は私の視線に気付いたのか、頷いて見せた。

 流石に何も仕込まれていないか。

 

 そして、本戦は始まった。

 小早川さんは順調に点を取っているようだ。

 お姉様曰く、小早川さんは気分で調子の良し悪しが決まるところがあるそうだが、

今のところは乗っているようだ。

 ホッとしたのも束の間、小早川さんの様子がおかしくなってきた。

 呼吸が荒く苦しそうな様子だ。

 だが、タイムなどというものは九校戦には、基本存在していない。

 どうしたのか訊くことすらできない。

 他校は調子に乗って息切れしたと思っているようだが、あれは様子が違う。

 体調に悪い変化が起きている。

 練習に付き合っている筈の平河姉もおかしいと思っているようで、身を乗り出して

見ている。

 幹比古君も眉を顰めている。

 私は精霊の眼(エレメンタルサイト)を使って小早川さんを観察する。

 ()()()()()()()()()()()()

 何が増殖しているか、目を凝らして確かめる。

 ウイルスじゃないし、寄生虫でも勿論ない。

 あれは…魔法式だ。しかも大陸系の特徴を有している。

 CADじゃなく、直接選手に手を出す事にしたのか!

 それじゃ、分からなかった訳だよ!

 小早川さんの顔は青白く脂汗がダラダラ流している。

 魔法の発動も不安定になってきているのが分かる。

 てっきり今度はCADの細工でくると思ってたよ。直接は散々やったんだしさ!

 平河姉に御注進に行かないとダメだ。

 私は走って一校のエンジニアの待機エリアに飛び込むように入る。

 幹比古君がギョッとした顔で私を見る。平河姉も目を見開いている。

「試合を止めて下さい!」

 私の剣幕に二人がさらに驚く。

 いやいや、アレだけ具合悪そうなんだからさ。検討ぐらいしてたんじゃないの!?

「僕もそう言っていたところなんだ」

 幹比古君が驚いたのは、どうやら私が関係ない他人の為に飛び込んで来た事にある

らしい。

 私は達也程、他人がどうでもいいと思っている訳じゃないんだけどね。

 いや、変わらないか。

 これも深雪に同様の手が使われた時の為に、手段を明らかにしたいだけなんだし。

 だけど、ほんのちょっぴり、小早川さんを心配しているよ?

 平河姉は、まだ迷っているようだった。

 基本的に体調不良に陥った時は、審判員の制止か選手自身が申告する。

 そこにはエンジニアも含まれるのだが、基本的に選手出ないと試合の深いところまで

理解する事は難しいとされている。それを補う為の審判員の筈だが、連中は知らん顔

している。

「文句をいわれる事を恐れるより、小早川さんの無事を考えましょうよ」

 私の言葉に平河姉は、漸く重い腰を上げた。

 棄権を申し出ようと平河姉が動いたその時、私は偶々小早川さんや審判員連中を視界

に入れた。

「っ!?」

 危うく声を上げるところだったが、なんとか耐えた。

 一気に小早川さんの体内で魔法式が活性化したのだ。

 そして、審判員連中。動かない筈だ。本職のプロの癖にしてやられていた。

 既に敵の魔法に汚染されていたんだ、こいつ等!

 迂闊だった!こいつ等をチェックしてなかった!

 私は走り出していた。

 平河姉を追い越し、自己加速でスピードを上げる。

 審判員連中が無表情で私の前に立ち塞がる。

 連中は既にCADに手を掛けている。

 だが、私はスピードを緩めるどころか更に加速した。

 魔法の照準が外れる。

 その隙に私は、体術で迎撃しようとした審判員連中の懐に飛び込んでいた。

 術式解体(グラムデモリッション)を寸勁の要領で、審判員連中の体内に打ち込む。

 実際に寸勁も叩き込んでいる為、妨害しようとした審判員は内側に直接打ち込まれた

衝撃で崩れ落ちた。

 術を完全に破壊するに至っていないが、邪魔さえされなければ今はいい。

 私は勢いを殺すことなく、競技場を仕切っているフェンスを蹴って跳び上がる。

 小早川さんが吐血して、魔法が中断される。

 自由落下を開始して、会場に悲鳴が上がる。

 私は小早川さんを空中でキャッチすると同時に、体内に術式解体(グラムデモリッション)を流し込む。

 吐血は止まったが、すぐに病院に行く必要があるだろう。

 一校のお偉方が走り込んでくる。

 大会警備の軍人が後に続いている。情けないプロだな。

「担架!!」

 着地と同時に私は叫ぶ!

 閣下が軍人連中の上着を脱がせると、即席の担架を造らせると即搬送されていった。

 そして、当然ながら私は身柄を拘束された。

 説明してやろうじゃないか。アンタ等の情けなさを。

 特に逆らうことなく連れて行かれてやった。

 閣下が後で猛烈に抗議している声を聞きながら、平河姉を見ると顔が真っ青を通り越し

て白くなっていた。

 これ、もしかして私が平河妹に恨まれる流れか?

 もしかして、幹比古君も巻き込んでしまったかも…。

  

 こんなことに巻き込んでしまって、本当に申し訳ない!

 

 

               4

 

 :響子視点

 

 身内ということで祖父の監視をやらされることになったけど、私では相性が悪いの

だけど。

 隊長のことだから私の方は囮みたいなものだと思う。

 だから、一応の監視をしつつ、別に仕掛けられたカメラで映像を見る。

 監視カメラで確認していたが、深景さん達と戦っているのは間違いなく()だった。

 動揺していても監視は怠らなかった為、私は見た隣にいる男の顔を。

 楽し気な顔で見ていた。

 この男は知っていた。ずっと前から、彼がパラサイトとなって生きていたことを。

 本来なら、パラサイトになったなら性格も変質する傾向にあるが、彼は全く変わって

いないと会った隊長がいっていた。

 生きていたとしても人でなくなったことで関係を断つ。

 彼らしいとも思うが、何かいってほしいと思ってしまう。

 祖父に向かって、声を荒げたくなるのを必死に堪える。

 戦闘は実質三対一。

 だが、彼にはまだまだ余裕があるように見える。

 実力に枷が掛かっている達也君や、専用のCADが必要な深景さんでは厳しい戦い

になっている。プリンスも競技用のCADでは本領発揮とはいかないだろう。

 だが、無茶ともいえる方法で深景さん達は勝った。

 意外に冷静に結果を受け止めている自分に驚いてしまった。

 いや、受け止めているといういい方は間違いだろう。

 彼は死んでいないだろうという確信に近い予感があったからだろう。

 祖父も驚きはしても、彼が死んだとは思っていないようだった。

 これで一件落着と考えるような人間は、魔装大隊ではやっていけない。

 警戒を密にしていた筈だが、またしてもやられていたようだ。

 ミラージバットで深景さんがそれを暴いた。

 そして、軍人に危害を加えた生徒として拘束された。

 調べが付けば無罪放免だろうが、早い方がいいだろうというのが隊長の判断だ。

 私達はただでさえ彼の対応で彼女を怒らせている。

 関係修復を図る為にも素早い行動が大事だ。

 そういう訳で私が身元保証人として出向いた…んだけど。

 扉の前に到着した途端に怒号が聞こえた。

「バッカじゃなかろうか!!」

「貴様!なんだ!その態度は!下手に出てれば調子に乗りやがって!!」

 遮音魔法くらい使いなさいよ。

 隊長…。遅かったかもしれないです。 

 私は頭痛を堪えながら、扉をノックして修羅場と化した部屋に突入した。

 

 最初は苛々としていても落ち着いて話もできたようだが、軍の不甲斐なさを声高に

主張し始めると深景さんは止まらなくなり、軍の取調官も頭にきたようだ。

 これだけ頭を下げたのは結構久しぶりね…。

 達也君や深雪さんが突入してくる前に、片付けられてよかったのが唯一の救いね。

 試合は第一試合の終了後、中断になっているから二人共突入可能だったのよ。

 

 彼のことを考える暇がないのはいいけど、もう少しマシな仕事ならよかったわね。

 まだ怒りが収まらない彼女を連れて一校の天幕まで連れて行った。

 そこで二人から嫌味の雨が降ることになるんだけど、思い出したくないから省略

するわ。

 

 

               5

 

「あんまり無茶しないでね…」

 迎えに来てくれた響子さんには悪いけど、お世話になりましたという気になれない。

 なれないけど…。

「どうも。ありがとうございました」

 達也と深雪に集中砲火を浴びたことには、心からご同情申し上げる。

 だから、お礼くらいはいっておいた。

 トボトボと帰っていく響子さんに心の中で敬礼してやる。

 私が心からのお見送りをしていると、後ろから咳払いが聞こえた。

 振り返ると、そこには閣下が立っていた。

「それで、そろそろ事情を聞かせて貰える?」

 ですよね。

 

 私は達也と二人で一校首脳陣と相対する。

 達也に付いて来て貰ったのは、何も心細かったからではない。

 連行される時に、実は達也に小早川さんの体内の魔法的な残留物の調査を、念話で

お願いして置いたからだ。

 勿論、深雪の安全に繋がることなので二つ返事で了承してくれている。

 そして、幹比古君にもオブザーバーとして参加して貰っている。

 今回は古式が大活躍しているし、私の予想通りとするなら彼の知識も有用だからね。

「では、聞かせて貰おうか」

 ぬりかべが厳かに口を開いた。

 体調はあまり芳しくないようだが、表面上それを窺わせることはない。

 流石、御当主様といったところか。いや、代理だったけ?

「まず、小早川先輩の血中から蟲毒が発見されました。おそらくは最初の注入では大した

量ではなかったでしょう。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 達也の報告に、一校首脳陣が驚きを露わにする。

「そんなことができるの!?」

 閣下が声を上げる。

 蟲毒は本来の使い方をするなら、呪術の媒介として使用される。

 だが、解毒困難な毒としても使用用途はある。

 欠点は解毒困難であり、解毒は不可能ではない点だろう。

 今回の不可解な点は、毒が体内で増殖した点にある。

 蟲毒にそんな性質はないからだ。

 閣下も良家のお嬢様だし、暗殺に対する知識もある程度あるんだと思う。

 だからこそ、疑問を呈したのだろう。

「おそらくは今回用いたのは、窮奇針だと思います。しかも、現代魔法や化学を駆使

したかなり高度な代物だと思います」

 私の言葉に、考え込んでいた幹比古君はハッと顔を上げる。

「窮奇針って何?」

 閣下がすかさず質問してくる。

 まあ、当然の反応ですよね。かなりマニアックな大陸系の古式魔法だ。

 窮奇は四凶の一角であり、人心を惑わすモノである。

 実際は怪物にされたり、霊獣にされたり忙しいモノだが、これは悪い方を象徴とした

魔法である。使われた者は、操られたり呪殺されたりと碌な目に遭わない。

 それを使う重要な役割を果たすのが化成体で、蚊などの針を持つ虫を使う事から

窮奇針と呼ばれる。刺された人間は、目的の効果を作り上げる設計図を注入され、

その当人の血液を媒体にして増殖し、望む効果の魔法を完成させる。小さい化成体で

あるなら、小さいし感知が難しい。しかも、魔法式は極小を極める。制御も難しいし、

構築もマゾのレベルだ。

 ハマれば強力といった魔法である。

 だが、使うのは困難を極める。そら廃れますわ。

 今回は人を操る術と、蟲毒の成分の増殖を促す術式を体内で作成したということ

だろう。

 古式剣術も守備範囲の私の先生から聞いたことで、使い手は殆どいないそうだ。

 知名度が低ければ、使われても気付かれ難い。

 それにしても、幹比古君はよく知ってたな。

 私の説明に一校首脳陣の顔が曇る。

「でも、化成体なんて使ったら分かるんじゃないの?」

 またも閣下が疑問を口にする。

「流石に小動物サイズなら分かりますが、蚊くらいなら余程のセンサーでないと分かり

ませんよ」

 幹比古君が私に代わり答える。

「上手いな。季節として蚊が飛んでいても化成体だと疑って掛かる要素はないでしょう」

 達也が捕捉を入れる。

「一応、軍の方には?」

 ぬりかべが私に訊いてくる。まあ、今まで聴取されていたんだから訊かれるか。

「その疑いがあるとはいいましたよ。本当かどうか疑われましたけどね」

 あのボケ共からは、君の創作じゃないのか?と鼻で嗤われたよ。

 誰得の嘘だよ。全く。実際にあるわ!

「…俺からも注意は促して置こう」

 ぬりかべが似合わぬ溜息を吐いていった。

 このままでは、またぞろ同じことになり兼ねないのに、無策はぬりかべ的にも不味い

だろう。

 閣下も一緒に行くということで、各人、虫に注意という微妙な対策案が出されること

になった。

 

 化成体には蚊取線香効かないけど、どうすんのかな?

 

 

               6

 

 :達也視点

 

 中断されていたミラージバット本戦が再開される。

 CADの調整も問題はない。機器の方にも問題はない。

 妨害に厄介な魔法が投入されたからといって、機器に手を出されないという保証など

ない。寧ろ、隙あらば、そこを突いてくるだろう。

 そろそろ攻めに転じたいところだ。

 小野先生には無頭竜のアジトを調べて貰っているが、流石にまだ報告はない。

 厄介な敵の方はなんとかなったと思えば、今度は犯罪組織がしゃしゃり出てくる。

 鬱陶しいことこの上ない。深雪や姉さんの安全の為にも速やかに排除したいが、今は

ジッと耐えるしかない。前回は姉さんに大部分を頼ることになってしまった以上、今度

こそ俺が肩を付ける。

 まずは深雪をこの悪意から護るのが先だが。

 今、俺はデバイスチェックの為に列に並んで待っている。

 姉さんと幹比古の見立て、そして、俺自身の調査で警戒すべき点は理解している。

 姉さんが居なかったら、俺でもしてやられていたかもしれない。

 それ程、馬鹿げた魔法であり、技術だ。

 精霊の眼(エレメンタルサイト)で周囲や人を探る。

 人に至っては、体内の状態まで読み取らねばならず、非常に神経を使うが仕様がない。

 遂に俺の番になる。

 俺はCADを検査員に渡した。

 その時、俺の眼は異常を捉えた。

 極小の何かが、俺の腕に飛び込んで来た。

 検査員の身体から俺に向かって。

 微かな違和感。

 だが、無視はしない。目を凝らす。そして、正体が判明した。

 それは蚊ではない。

 

 ダニだ。

 

 蚊なんてものを化成体にして操るだけでも大儀だろうに、まさか更に小さいとはな。

 魔法式など考えることも放棄したくなる小ささだろう。

 事前の情報がなければ見過ごしていただろう。

 すぐさまダニを分解して無力化する。刺される前に処理してやった。

 リンクは素早く切断したようだな。

 まさに変態的な制御能力だな。これでは術者を追えない。

 引き際まで鮮やかとは、と感心すらさせられる。

 さて、となると、この検査員も操られているだろうな。

 更に成程と思わせることがわかった。

 CADにも何かが入り込んだようだ。

 二段構えとはな。

 CADを無感情に返してくるが、俺は受け取ったCADを即座に机に置き直した。 

 怪訝そうに検査員が見てくるが、俺は無言で検査員を殴り倒して気絶させた。

 同僚がやられて周りの連中が殺気立って立ち上がるが、俺をそれを一睨みで動きを

封じた。

 自分の不甲斐なさに腹が立っていたので、流石に殺気は抑えきれない。

 魔方式の元が極小の為に、俺の眼を以ってしても検査員の体内の魔法からも術者が

追えない。

 CADの方も辿れるか怪しい線だ。

 思わず舌打ちしたくなるのを抑えていると、背後から騒ぎが起こった。

 振り返ると、そこには九島烈が供を引き連れて立っていた。

「何事かね?」

「ハッ!当校への不正行為を認識した為、取り敢えず無力化したところです」

 俺は姿勢を正して、九島烈の質問に答えた。

「ふむ。どれ…」

 九島烈は供の一人に目配せすると、心得たように動きCADを九島烈に渡した。

 じっくりと眺めた後、一つ頷く。

「成程。確かに異物が入り込んでおる」

「どうやら操られているようなので、尋問は無駄と判断し意識を刈り取りました」

 九島烈が確認した後、事の次第を説明した。

「成程。そういうことなら致し方がない。司波君といったか?このような事態だ。

改めて検査は不安が残るだろう。特例として予備があるなら検査は必要ない。それ

を使い給え」

 勿論、予備も準備している。

「ありがとうございます」

「老師!」

 九島烈の言葉に、検査を行っていた責任者と思しき軍人が、十師族相手に勇敢にも声

を荒げた。

「黙り給え。君達は注意を受けていながら、この事態を防げなかった。国防を担う君達

に言い訳が通用するなどと考えていないだろうな?」

「……」

 どうやら会長と会頭経由で念押しした関係で、九島烈にも耳に入っていたようだ。

 検査を担当する軍人達は、下を向いたまま同僚を拘束した。

 目を覚ましたら、暴れないかふあんだったようだが、もう身体に影響は残っていない。

 魔法の効果が切れて終了したことで、証拠も処分か。

 厄介だな。

「司波君。いずれ()()とはゆっくり話をしたいものだ」

「ハッ!機会がありましたら」

「その時を楽しみにしているよ」

 九島烈は背を向けて去って行った。

 

 君達には、おそらく姉さんも入っている。

 あの妖の件、あの男は関わっていないのだろうか。

 どうもこの男が気付かなかったとは思えない。

 俺は、そんなことを考えながら、去って行く背を見送っていた。

  

  

               7 

 

 :術者視点

 

 やれやれ、失敗したな。

 まさかこれ見破る奴がいるなんて思わなかった。

 こちらに影響が出る前に、リンクを切断しているし、魔法も用が済めば魔法式も残ら

ない。

 少なからずプライドに傷が付いたが、そんなことより生きて逃げることだ。

 そうと決まれば、ミラージバットが終わったら、サッサと逃げるのがいいだろう。

 再度やるなんて危険な橋を渡る程の義理はない。プロなら引き際誤ってはいけない。

 声掛けてくれる組織は他にもあるんだ。いいか。

 という訳で、報告を入れる。

『ふざけるな!貴様!一度失敗した程度で逃げるなら、死ぬ覚悟をしておけよ!!』

 ヒステリックに叫ぶ。

 ボスはどうやら随分と正気を失っているようだ。

 これを破る程の奴がいる以上、小細工ではもう無理だ。

 大会そのものを潰すしかないだろう。

 まあ、今のボスなら遣り兼ねないな。最悪、すぐに逃げられるようにしておこう。

「そういう訳ですので、長い間お世話になりました」

 まだ何か喚いていたが、私はそれを聞かずに通信を切った。

 私は周りにへこへこ頭を下げて、席に戻る。

 さて、ここからは純粋に試合を楽しむとしよう。

 悔しいから、精々スケベ親父丸出しで観てやろう。

 

 この後、私は皮肉なことに再び代替わりした無頭竜に世話になることになるが、

それはまた別の話だろう。

 

 

               8

 

 遂にミラージバット本戦で、マイシスターの出番だ。

 まあ、負けないよね。例のヤツがあるし。

 しかし、まさかダニでやってたなんてね。予想外だったね。

 軍も忠告聞かないとか、もうダメだこりゃ。

 達也が深雪の周りに神経を尖らせている。

 破られた以上、何をしてくるか分からないからね。

 同じ手ではこないと思うけどさ。

 でも、電子金蚕は結局使われたし、油断する訳にはいかない。

 姉弟二人で厳重に警戒中です。

 

 選手が会場に出揃う。

 歓声が凄い。

 主に深雪への。他の出場選手も美人さんやら可愛い子はいるのに不憫な。

 深雪に比べると、他の子が霞んでしまうのは仕方ない。ドンマイ。

 私は君達の理解者だ。いつもそういう経験しているからね!

 同情しつつも、警戒は怠らないよ。

 そんなこんなで開始のブザーが鳴り響く。

 

 空中に光球が散りばめられる。

 一斉にお嬢さん方がジャンプする。

 一際速く高く跳んだ者がいた。

 だが、それは深雪じゃなかった。

 深雪ですら一呼吸ほど遅れている。

 ああ、あれが原作の三校のミラージバット特化型の選手か。

 参考にさせて貰いました。

 三校選手が、深雪より先にポイントを奪い取った。

 微かに深雪の眼が細められる。

 おっ!マイシスター本気モードですな。

 微妙な変化だけど、私達には分かるんだよね。練習中は結構拝む機会あったし。

 違う標的をフェイントで狙えば深雪もそこそこポイントが稼げる。

 だが、深雪はそれをしない。自分の狙いが読まれている事を承知の上で挑む。

 そして、三校選手がお得意のブロックを敢行したが、今度は三校選手が驚愕する。

 深雪は同じく身体を捻ることで三校選手のブロックを躱し、魔法力を存分に生かした

力強い跳躍で光球を打ち抜いた。

 会場から歓声が沸き上がる。

 観客は、高度な試合にも熱狂し出したようだ。

 でも、そこは経験豊富な上級生の魔法師。深雪にリードは許さない。

 そんな熾烈な乙女の争いに、皆さん興奮しっ放しである。

 そして、第一ピリオド終了。

 

 深雪は原作通り若干のリードを許した状態で終えた。

 

 

               9

 

 :深雪視点

 

 第一ピリオドが終わり、お兄様の元へ戻る。

 その途中に思い浮かぶのは、先程の試合内容。

 慢心していた積もりはない。

 でも、()()()()()()()()()あちらが上であると認めなければならない。

 お姉様と違って、ブロックは魔法を用いていたが、それだけにお姉様以上に抜くのが

困難だ。

 お姉様に練習で身に付けた空中戦のやり方がなければ、ポイントはもっと開いていた。

 姿勢制御の類だろうけど、跳躍に組み込んでくるとは流石に九校戦だわ。

 できればお姉様に散々練習に付き合って頂いたのだから、切札はできるだけ使わずに

勝ちたかったけど、仕様がない。

 多分、この僅かな差は大きく、試合中に埋まることはないと思う。

 これだけで私には忸怩たるものがあるのだけど…。

 かといって負けるという選択肢はナンセンスだもの。

「お兄様。アレを使わせて頂けませんか」

 本来ならば、これは決勝の切札。

 お兄様としても温存して置きたかったことは分かっている。

 それでも、私は負けたくはないし、負ける訳にもいかない。

 お兄様がフッと微笑む。

「いいよ。お前の為に用意したものなのだから」

 本来なら、お兄様の微笑みの余韻に浸りたいところだけど、今はいけない。

 そして、第二ピリオドが始まる。

 試合内容は、一気に様変わりして、一方的な展開になった。

 私一人がポイントを重ねていく。

 当然だ。イチイチ跳ばなくてもいいのだから。

 お兄様の切札。飛行魔法と専用のCAD。

 お兄様の読みでは、想定されていないだけなので、将来的に規制のルールができる

といっていたけど、今はルールに抵触していない。

 悪いけれど、存分にやらせて貰う。

 

 こうして私はミラージバット決勝にコマを進めた。

 観客の熱狂的な反応に笑みで応えたけれど、本心から笑うことは難しかった。

 

 

               10

 

 :ダグラス・黄視点

 

 妨害対象が飛行魔法を使い、圧倒的な勝利を収めた。

 その報告を受けて、思わず大声で叫び出したくなってしまったが、どうにか今回は

抑えた。

 窮奇針を使う男が、仕事放棄をやり醜態を晒したばかりだ。

 必死に自分を落ち着かせる。

 最早、破滅を回避することはできないのか…。

 いいだろう。死なば諸共だ。

 不思議と腹を決めると、自分の顔に笑みが出た。

 破滅の寸前だというのにな。

 私は他の幹部が待つ部屋へと戻って行った。

 

「もう九校戦を終わらせようと思う」

 私は部屋に入るなり、そういった。

 幹部達が目を見開く。

「そ、そんなことをしては、顧客が納得せんぞ!!」

「納得?して貰う必要はない。皆も分かっているだろうが、もう取り返しが付かない

状況だ。ならば、意趣返しくらいせねばならないだろう?」

 私の笑みに幹部達が追撃の言葉を失った。

 私に狂気を感じたからだろう。

「戸愚呂達に持ち込ませた。ジェネレーターを全員を暴走させる。武器の持ち込みは

できなかったが、リミッターを解除してやれば、相当数客もガキも殺せるだろう」

 

 舐めてくれた礼は、死んで償わせてやるぞ。

 

 

 

 

 

 

 




 相変わらずのガバガバな魔法。
 小早川先輩は、体内で毒を魔法式により合成しています。
 これでも頭を捻っているんです。
 なんか、また進みが悪くなったような…。

 次回もいつ投稿できるか不明瞭な状況です。
 次回もお付き合い頂ければ幸いです。





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九校戦編19

 相変わらず時間が取れない…。
 いい訳ですけどね。
 それでは、お願いします。


 


               1

 

 達也に聞いた話になるけど、窮奇針はダニを使用していたらしい。

 どうもお疲れ様といいたい。

 難易度は蚊を上回るだろうに、達也にさえ居場所を特定させない腕前とは、最早変態と

断じていい。

 それだけ用心深い奴なら多分もうトンズラしたろうが、用心に越したことはない。

 多分、そろそろ破れかぶれになってフランケン大暴走をやってくるんじゃないかと、

疑われる状況で面倒臭い。

 原作じゃ、フランケンは一体しか登場しなかったみたいだけど、原作とは違うこの世界

だと、当てにはならない。毎回のことですよね。フラグですよね。分かります。

 単なる決意表明とか心配がフラグとか、泣いていいでしょうか。

 などと泣いている余裕はない。

 マイシスターのことは任せたぞ、弟よ。

 心の中で密かにエールを送っていると、大会委員会のお歴々が訪ねて来た。

 フランケン退治に出掛けようとしていた矢先だったのに、気になるじゃないか。

 サブエンジニアとして、是非聞かせて貰おう。

 同席させて貰うと、思い出した。

「つまり、飛行魔法の術式を公開してほしいと?」

 達也が淡々とした声で、大会委員会お歴々の長い話を要約した。

 そうそう、こんなこといってきてたわ。

「何分、不正疑惑が出ているからね。まあ、こちらもそれなりの対応をしないといけない

のだよ」

 達也は特に怒っていなかったが、よく知らない人には圧が凄い為、怒っているように

見えるのだろう。

 術式タダで公開しろとか、本来なら舐めるなの一言で終了案件だもんね。

「いいですよ」

 だから、アッサリと承知されて向こうは拍子抜けした感じだった。

 達也にしてみれば、想定内の反応だったろうし、原作でもタダでデータが取り放題と

腹黒いことを考えていたような気がする。このデキる弟は、損をするような間抜けでは

ないのだよ。

 大会委員会のお歴々は、ホクホクして帰って行った。

 仕事完遂してやったぜ(ドヤァ)ってところかな。

「もうちょっと困らせてやってもよかったんじゃない?」

「いや、これでいいんだ。こっちも損する訳じゃないよ。データをわざわざ提供して

くれるというんだからね」

 あ、やっぱりそう思ってたよ。

「じゃ、そういうことで、そっちは任せたよ?」

「姉さんは、どうするんだい?」

「私は勿論、警戒だよ」

 具体的にフランケンの。

 それかイレギュラーの。

 達也には自分が代わろうか?とかいわれたが、無理に決まってるでしょ。

 達也はそれよりもダニの警戒の方を宜しく。

 多分、もういないと思うけどさ。

 そういったら、達也は眉間に皺ができていた。

 納得いかない?それとも厄介事に反応してるの?

 まあ、どちらにしてもさ。

 

 決勝はまだとはいえ、メインのエンジニアが消えてどうする?

 

 

               2

 

 :愛梨視点

 

 飛行魔法。

 確かに、ミラージバットであんなの使われたら反則といいたくなる気持ちは分から

なくないわ。

 でも、インパクトに惑わされている部分もあるわね。

 光球が現れてステッキで打つまでのタイムを考えると、対抗できなくはないわ。

 私も飛行魔法に動揺することなく、決勝への切符を捥ぎ取っている。

 そんな私達に驚きの知らせが届いた。

「飛行魔法!?私達にも使っていいっていうの!?」

 なんと大会委員会から直接、不正疑惑を晴らす為という理由で開示されたのだ。

 ミラージバットで戦術的理由からエンジニアを引き受けてくれた栞が、若干困惑した

顔で教えてくれた。

「でも…」

「ええ。問題は使い熟せるかどうかね。しかも、ほぼぶっつけ本番になるわ」

 流石に栞は特性を把握していて、私と同じ危惧を抱いていた。

 確かに、使えれば便利。だけど、ぶっつけ本番で使い熟せるような魔法ではないこと

を考えれば、寧ろ混乱の元であるともいえる。

「他校は飛び付くでしょうね」

「ええ。文字通りね」

 こんな冗談が出るくらいには、冷静さを保っている。

 お互いに皮肉っぽく笑った。

 だが、他校は違う。他校に私のように跳躍のスピードで勝負できる選手はいない。

 あの司波深雪に勝つ為には、飛行魔法を使うしか手がないと考えるでしょう。

 他校は自分達なら使い熟せると思い込み、使うだろう。

 だが、練度に違いがあり過ぎて、勝負になるとは思えない。

「跳躍を柱に戦うわ。飛行魔法は使うにしても、状況次第というところかしら?」

「貴女なら、そういうと思ったわ。調整はしておくから、できるだけ試してみて」

「分かったわ」

 返事してから、私はあるアイディアが浮かんだ。

 かなり無理のあるプランだけど、頼んでみて損はない。

 まあ、我儘と呆れられるだろうし、無謀と怒るだろうけどね。

「どうしたの?」

 栞が突然苦笑いした私を不思議そうに見た。

「いえ。少し頼みたいことがあるのだけど、無理なら無理でいいわ」

「ちょっと怖いわね。一応、いってみて?」

「跳躍の術式に飛行魔法の行動の自由度を加えられないかしら」

 栞が難しい顔になる。

 それはそうよね。

 跳躍は高く跳ぶ為の魔法。

 相手をブロックしたり、ブロックを躱したりしたら跳躍速度が落ちる。

 何も飛び回る必要はない。飛行魔法を狭い範囲で応用できれば、減速することなく

回避やブロックが可能になるのでは、と思ったのだけど。

「いわんとすることは分かるわ。でもそれ、吉祥寺君の手を借りること前提よね?」

 栞の顔に苦いものが混じる。

 吉祥寺真紅郎に自分が私のエンジニアを担当するといい切った手前、いい辛いの

だろう。

「ごめんなさい。私自身も賛成した身としては、勝手なことをいってる自覚はある

わ。でも、同じ三校で今は味方なんだもの。手が届かないところを頼ったっていい

んじゃない?」

 司波深雪とは、そういう敵だ。下らないプライドなら捨てて望まないとね。

 絶対に譲れないことは抱えていけばいい。

 栞は少し目を見開いて、困ったようにフッと笑った。

「はいはい。選手の為に私が吉祥寺君に頭を下げればいいのよね」

「やってくれる?」

「残りは愛梨だけだもの。勝つ可能性があるのは。なら、私も覚悟を決めないとね」

 栞は憑き物が落ちたみたいに笑った。

「ありがとう」

「どういたしまして」

 お互いに笑い合った。

 その直後、水を差すみたいに通信機が呼び出し音を鳴らした。

 何かと思って出ると、信じ難い相手からだった。

 

「お母さま?観戦にいらっしゃるの?」

 

 

               3

 

 ミラージバットの予選は続いている。

 まあ、マイシスターが終わっている以上、私にとって後は決勝までは、消化試合

みたいなものだけど、フランケンを警戒しておかないといけない。

 確か、普通に観客席に座っていたような記憶がある。

 途轍もなく怪しいのだから、すぐに分かるだろうと思っていた時期が私にもあり

ました。

 

 あれ?見当たらないよ?

 

 遂に勝利した?いや~素晴らしい成果だ!君は英雄だ!ってそんな訳ないよね。

 会場にいないなら、外で待機してる可能性を除外できない。

 なんせ、あの怪しさ大爆発の見た目だからね。フランケンは。

 戸愚呂だってそうだった筈だけどさ。

 まあ、あの化物は自分の犯行を隠す技量が半端なかったからだとしても、あの

フランケンはマークされたらお仕舞いでしょ。

 まして軍が警備してるんだからさ。

 戸愚呂の時はふざけた対応だったんだから、こっちは真面にやって貰いたいね。

 いつまでも愚痴ってても仕方ないから、探すか。

 精霊の眼(エレメンタルサイト)で会場の外を探してみる。

 

 ですよね~。

 

 トラックに仲良く座ってらっしゃいますよ。

 十人程。多!!

 原作通り魔装大隊三人掛かりで倒すとか、無駄な割り振りしなきゃいいけどね。

 最悪、一人でお掃除ですかね、これ。

 

 さて、気が進まないけど、片付けに行きますか。

 おや、丁度リミッター解除ですか?

 あれれ?チョイヤバですか。

 ゾロゾロ出てきてるよ!?

 

 私は全力で駆け出した。

 

 

               4

 

 :ダグラス・黄視点

 

 戸愚呂達に持ち込ませたジェネレーターは十体。

 その全てのリミッターを解除すれば、大会の継続は不可能だ。

 日本の軍隊であっても対応などできるものではない。

「では、皆、異存はないな?…リミッターを解除する」

 私はリミッターの解除信号を送る。

 トラックの荷台の中には内部が見えるようにカメラが設置されている。

 トラックに座っていたジェネレーター達が、一瞬震えるような反応を示す。

 全員が一斉に立ち上がる。

 まずは舐めた真似をしてくれた第一高校の連中を優先してやらねば。

 リミッターを解除すると複雑な命令が理解できなくなるのが難点だが、簡単な命令

で事足りる。

 

 私達は、もう終わりだが、貴様等も道連れにしてやるぞ。

 

 

               5

 

 最速で向かったが、時既に遅しでフランケンはバラバラに遊びに出掛けたようだ。

 できるだけ殺して回る為だろう。

 まあ、妖連中より対処は楽だけどね。普通に魔法効くしさ。

 精霊の眼(エレメンタルサイト)で行く先を突き止める。

 どうやら一体は柳さんが原作通りやってくれるようだから、仕事して貰うとして、

他の面々も動いてるな。これで動いてなかったら、本気で怒るけどね。

 一般の警備を担当してる軍人じゃ、相手は厳しい。

 イチイチ追い付いて斬るには、犠牲者が増え過ぎる。

 なら、答えはこれだ。

『タチコマ。聞こえる?』

『『『『『ほ~い!』』』』』

 やっぱり来てたか。

 反応を探ると、近くにいるようだ。

 この子達にも色々経験させてやらないとだしね。連れて来てると思ったよ。

 この場にいなかったら、エージェント機能でサポートして貰う積もりだった。

『敵の現在地を送る。足止め宜しく!』

『別に倒してしまっても構わないのだろう?』

『……』

 どこで拾ったんだ、そのネタ。それ死亡フラグだからね。笑えないよ。

『無理しない程度に宜しく。魔法の射程に入らないように気を付けてね』

『『『『『『ほ~い!』』』』』』

 何故、態々フラグを立てた?

 内心の不安を押し殺して、気を取り直す。

 そして、私は一体型の拳銃型CADをホルスターから引き抜く。

 私のやること、それは狙い撃ちだ。

 だから、足止めでいいのだよ。

 タチコマでも上手く立ち回れば倒せると思うけどね。

青魔烈弾波(ブラムブレイザー)

 柳さんのところ以外の九体のフランケンに同時に照準する。

 タチコマ達は見事自分達の仕事を果たしている。

 注意を引きつつ、適度に距離を保ち、射撃で足止めしてくれていた。

 優先的に被害が拡大しそうなところを教えたから助かるよ。

 それに比べて魔装大隊の皆さん。仕事ショボ過ぎませんかね。

 響子さん仕事杜撰過ぎない?位置特定できてないの?

 柳さん以外の他の面子がタチコマより到着が遅いよ。

 まあ、私が片付けるけどさ。

 離れていても、この眼なら問題にならない。

 銃口がフランケンの近くに出現する。

 流石に人間辞めさせられただけあって、照準した瞬間にフランケンは反応して

見せたが、避けられるより速く私は九つの青い衝撃波を放つ。

 タチコマがいるところはタチコマの対応があったから余計に遣り易かった。

 フランケンが避けるより速く頭が吹き飛んでいた。

 貫通力のある衝撃波を放つ魔法である。

 何故か、衝撃波が青い為に目立つが、簡単に真似できて便利だったんだよ。

 だから、同時照準で撃ち抜くくらいは、今の状態でもできる。

『特尉!任務完了しちゃいました!』

 タチコマ。しちゃいましたって…。嫌味をいえるようになったのか?

 まあいいや。

『ありがとうね!あとで天然オイル差し入れるよ』

『『『『『『わ~い!』』』』』』

 まあいいけどね。

 

 頭のない死体を残しとくと面倒だなと考えて、処理までやるかと決めた時だ。

 後から気配が湧いてくる。

 咄嗟にしゃがみ込む。

 私の頸があった場所をワイヤーが通過する。

 ワイヤーは魔法の輝きが宿っている。

 危うく首が物理的に飛ぶところだったよ。

 拳銃型とはいえ、銃口が相手を向いていなければ何もできない訳ではない。

 振り返らずに、背後に衝撃波を放ち、素早く転がり距離を取る。

 立ち上がりながら、衝撃波を連射する。

 一発目の衝撃波を躱しつつ、突撃してくる。

 姿を見れば、女型のフランケンでしたよ。いたの?造ってたの?

 そんなことより倒さなきゃだけど、どこに隠れてたの?

 私の眼を誤魔化すとか、随分と完成度が…って、こいつパラサイトじゃん。

 憑いてんじゃん。誰の撃ち漏らしだ。文句をいってる場合じゃない。

 疑問が解消されたところで、やりますか。

 女フランケン改め、パラフランケンが人間離れした動きで迫って来る。

 人間だったら、あんなにグネグネ動いたら身体がヤバいことになるが、

お構いなしだ。どうなってるんだか。雑技団にでもいたのか、この女。

 憑かれた奴特有のスキルESPで魔法を発動する。

 不可視の刃が無数に舞う。

 ワイヤーとの合わせ技のようで、かなり厄介な攻撃だ。

 私は遠当てで弾幕を張って対応。

 やっぱり、シューティングは好きになれないな。

 力の無駄遣い臭くて。

 弾幕を掻い潜って飛んでくる不可視の刃を躱しながら、顔を顰めた。

 私はCADをホルスターへ戻す。

 好機と見たのかパラフランケンが、攻撃の手数を増やしてきた。

 集中している私にとって、それはゆっくりとしたもので防御も回避も問題はない。

 私は拳を徐に突き出して、開いて見せた。

 その瞬間に凄まじい閃光で周囲が真っ白に染まる。

 ほのかが、最初に原作で使おうとしていた閃光魔法の強力なヤツである。

 パラフランケンはニヤリと嗤った。

 そう妖連中には目潰しなど、あまり効果はない。

 肉体は人間ベースだから視界は利かなくなるが、妖はそれで困らない。

 何故なら、情報体である連中は、別の視点を持っているからだ。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 閃光が収まる。

 パラフランケンが自分の視界が回復した時、怪訝な表情に変わる。

 それはそうだろう。

 目の前には無傷の私がCADを構えて立っていたんだから。

「残念でした」

「っ!?」

 パラフランケンは、すかさず腕を振るうが攻撃は空を切った。

 振るうべきワイヤーは、切断されて使い物にならなくなっていたからだ。

 とうにワイヤーは無効化されていたのだ。

 ただ闇雲に振り回させただけだとでも?

 私はCADの引き金を引いて魔法を放つ。

 コアを正確に狙って。

烈閃槍(エルメキアランス)

 戸愚呂みたいな化物には、あんまり効果がないだろうけど、アンタみたいなヤツ

にはキツイでしょ?

 コアが消滅したのを確認し、槍を消した。

 私が何をしたかといえば、簡単なことだ。

 まずはパラフランケンの視界を潰し、敢えて妖本来の視界に切り替えさせた。

 そして、偽の情報体を仮装行列(パレード)の劣化版で偽装して、それに注意を

向けさせた。ただそれだけである。あくまで劣化版であるし、情報体を見易くして

やっただけだ。

 見えていれば不自然極まりなかっただろうが、閃光で視界は利かない。

 ワイヤーに関しては、私自身が狙われていた訳じゃないから、対処は簡単だった。

 振り回されたワイヤーを切断するのは余裕である。

 おまけとばかりに、閃光魔法を派手にブチかましてサイオンを撒き散らし、劣化版

の魔法を正確に検知できないようにしてやった。

 これでバレても幻影ですとかいって誤魔化せる。いや誤魔化す。

 

 さて、面倒な人が来る前に遠山の金さんみたいにドロンしよう。

 死体の始末は諦めよう。仕様がないし…。

 

 

               6

 

 :ダグラス・黄視点

 

「なんだとぉ!?」

 私は思わず絶叫してしまった。

 ジェネレーターから妨害報告が来たが、すぐに途絶えた。

 何故なら、十体のジェネレーターの反応が消えたからだ。

 しかも、会場内にいた女型のジェネレーターまでも謎の行動に出て、始末される

有様だ。

 まだ、何もしていないというのに…。

 視覚情報取得可能な個体の情報をモニターに投影すると、青いチャチな

多脚戦車が映っていた。

 確か、あのチャチな多脚戦車は日本の特殊部隊の装備だったな。

 あの多脚戦車にそんな性能があるというのか!?

 いや、常識的に考えるなら魔法師の魔法による攻撃と考えるべきだ。

 日本軍は我々のような思い切りはない。

 妙なヒューマニズムに縛られている。

 あの多脚戦車に人間の脳が繋がれているなどということは、ないだろう。 

 多脚戦車に魔法を使うことはできない。操縦士か?

 いずれにしても、余計な場面でしゃしゃり出てきおって!!

 悔しさのあまりテーブルを叩き割ってしまった。

「おい!もう万策尽きたぞ!!逃げよう!!」

 幹部の一人が世迷言をいう。

 それをキッカケにそれぞれ勝手に喚き始めた。

 ふん。どこに逃げろというのだ。

 逃げるぐらいでどうにかなるなら、遠の昔にそうしているわ。

 私はドッカと椅子に座り、喧騒を眺めていた。

 

 私は最早、万策尽きた。

 こんな終わり方をするとはな…。

  

  

               7 

 

 :愛梨視点

 

 通信機で聞いた久しぶりの母の声は、元気そうだった。

 十師族に並ぶ存在として実力をアピールしてこい、というのが一色家の

意向だが、それを抜きにしても無様な試合をする訳にいかなくなった。

 もとよりする積もりなどないけれどね。

 

 栞から魔法の準備が整ったという連絡がきたので、急いで練習に向かう。

 時間の無駄はできない。

 到着すると、栞と吉祥寺 真紅郎が話込んでいた。

「待たせたかしら」

「いえ」

「いや、予め問題点になりそうな部分を探していただけだよ。悪いけど、

着いたなら早速始めてくれるかな?」

 私の言葉に二人が答える。意外と協力し合えるじゃない。

 頼んでおいてなんだけどね。

 私は渡されたCADを操作する。

 身体が重力から解放された。

 軽く跳ぶだけで、フワリと身体が宙に浮かんだ。

 私は姿勢を色々と変えてみる。

 問題はなさそうね。流石、飛行魔法といったところかしら?

 さて、次が問題ね。

「光球を出してくれる?」

「分かったわ」

 栞が空中に本番さながらの色とりどりの光球を投影する。

 私は地面に一度着地すると、再びCADを操作する。

 大地を思いっ切り踏み切って飛び上がる。

 私の魔法特性も含んでいるとはいえ、物凄いスピードで目標の光球まで到達した。

 光球を叩くタイミングは覚える必要があるわね。想定より速いわ。

 同じ位のスピードで着地すると、今度は違う光球に狙いを定める。

 ()()()()()()()()()

 私は着地すると、ニヤリと笑って見せた。

 吉祥寺真紅郎は目を見開いた後、脱帽とばかりに拍手したが、栞は当然とばかり

に頷いただけだった。でも、栞の顔には隠し切れない笑みがあった。

 

 これで勝機が見えてきたかしら?

 

 

               8

 

 フランケンとパラフランケンというおまけを片付けたが、まだ九校戦は終わって

いない。気を緩めずに行こう。

 達也が合法ロリ巨乳に無頭竜のアジトを調べて貰っている筈だから、そこを横

からインターセプトして私が片付ければ、今回のお仕事は完了ですな。

 何故、インターセプトするのかって?

 私が長女であり姉だからだよ。だからなんだってツッコミは要らんですよ。

 面倒臭いことはしたくないけど、やらないといけないことだからね。

 

 それはそうと、フランケンの件では天狗さんから問い合わせがきたが、惚けて

置いた。これ以上、詮索しないでねの意味を込めて。

 向こうはこっちに貸しでも作る積もりなのか、アッサリと引き下がった。

 タチコマ無断使用で嫌味くらいはいわれるかと思ってたけど、よかった。

 今更って話だけども。

 情報体偽装の件もツッコミなかったし。勝った。

 

 なんて思っていると、DJアーミーが喋り出した。

 そう、いよいよ決勝戦ですよ。

 

『さあ!いよいよ始まります!妖精達のラストダンスが!皆さん一時も目を離せ

ないぞぉ!!』

 

 矢鱈、テンション高かった。

 

 

               9

 

 :深雪視点

 

 選手が一斉に定位置に立つ。

 決勝だけあって、随分と凝った演出をしている。

 一瞬、照明が落ちて再び照明が戻ると、私達が立っているという趣向だった。

 決勝は最初から飛行魔法を使う積もりだ。

 何故なら、お兄様の予想では全員が飛行魔法を使うだろうという予想があった

からだ。お兄様がそうなるというなら、そうなるんだろう。

 そんなことで私の勝利が揺らぐことはないけど、少し残念な気持ちはある。

 結局、お姉様から教わったことを、あまり活かせなかったから。

 最初に飛行魔法を使うと決断した私の所為ではあるのだけど。

 

 照明が点いた時、耳がおかしくなるくらいの歓声が上がる。

 それでもここに立っている選手全員が表情を崩すことはない。

 試合に集中しているからだ。

 申し訳ないけど、歓声も今はただの雑音。

 

 そして、開始のブザーが鳴り響く。

 一斉に光球に向かって選手が跳躍する。

 そして、()()()()()()誰も地上に下りなかった。

 私は思わず一人下りた選手を見てしまった。

 全員が飛行魔法を使うものだと思い込んでいたから。

 決然と宙を見ている。決して諦めている人間の眼じゃない。

 私はフッと微笑みを浮かべてしまう。

 なら、どんな手で戦うのか見せて貰いましょう。

 他の選手が光球を叩こうとした時、地上に居た選手が紫電と化す。

 飛行魔法を使っていた他の選手のステッキが空を切る。

 物凄いスピードで上昇し、光球を他の選手が叩くより速く叩いたのだ。

 その選手は、宙を蹴るように方向を変えて光球目掛けて突撃する。

 私とは違う直線で最短距離を最速で目標に向かうスタイル。

『す、凄い!!一色選手!!まさに神速というべきスピードで連続得点だぁ!!!

まさに稲妻!!エクレールの異名は伊達じゃない!!!』

 実況を担当している人が、興奮して大声を上げる。

 そうだ。彼女とは挨拶は済ませている。確か一色さんだったわね。

 私はリードを許したにも拘らず、口元に笑みを浮かべてしまう。

 ならば、私もそれ相応のプレイをしないと相手に失礼だわ。

 

 私はお姉様の教えも吸収している。

 だから、私は無暗に飛行魔法に頼っている訳じゃない。姿勢制御だけ荷重移動だけ

でも、自前でやれば負担が減るということをお姉様から教わった。

 魔法師のイメージは、それだけで負担を軽減できるものだと驚かされたものだけど。

 私は舞うように飛んでいる他の選手を躱して、雷光のような高速機動をやっている

選手も躱して、光球を叩き割る。

 本当に雷速で動いているなら、どうしようもないけど、そこまでに達していない。

『ミラージバットだと、イメージはフィギュアスケートかな?』

 お姉様の言葉が自然と思い浮かぶ。

 飛行魔法を使って練習していた時に、お姉様がしてくれたアドバイスだ。

 身体の使い方に参考になる点が多い。

 空中では叩く動作の関係上、立ち姿勢からの行動が多いから。

 期せずして、一色さんと目が合う。

 お互い不敵な笑みを浮かべて交錯する。

 確かに彼女の魔法は速い。

 彼女は直線でしか動けないけど、私は曲線で臨機応変に動くことができる。

 不利な訳じゃない。

 一色さんは器用に宙を蹴って猛スピードで動いている。

 私は慌てることなく、最小限の動きで得点を重ねる。

 もう私達二人の勝負と化している。

 他の飛行魔法を使った選手は、次々とサイオン残量が少なくなり、お兄様が構築した

システムで軟着陸させられていく。

 そして、同時に一色さんと同じ光球を狙うことになった。

 それだけ試合終了が近いということだ。

 私はステッキを伸ばすが、今回はスピードが速い彼女に譲ることになるかしら。

 

 だけど、速かったのは私だった。

 

 

               10

 

 :愛梨視点

 

 急にスピードが落ちた。

 不味い。魔法が弱まっている。

 原因は明らか。

 知らず知らずにいつもよりハイペースで飛ばし過ぎていた!

 この私が調子に乗るなんて!

 あの司波深雪と勝負できているという事実が、私に本来のペースを忘れさせた。

 意識したら急に息苦しくなってきた。

 汗が滴る。

 時間がやけにゆっくりと感じる。

 司波深雪は、まだ天高く舞うように光球を追っている。

 折角、拮抗していた点がドンドン開いていく。

 これが才能の差なの?それとも習熟度の差なの?

 私は今まで自分の才を恃みに戦ってきた。

 今度は私がそれ以上の才に叩き潰される番という訳ね。

 自嘲気味に笑う。

 ごめんなさい。私ももう…。

 そう思った時だった。

 視界に久しぶりに見る母の姿が入った。

 心配そうに私を見詰めている。

 瞬間、身体中の何かが沸騰した。

 

 終われない。

 

 こんなところで諦められない。

 一色家の事情なんかじゃない。

 一人の魔法師として、私はまだ全力を尽くしていない。

 折角来てくれた母に無様な姿など見せられない。

 この国に失望して去って行った母に、これ以上失望して欲しくない。

 諦めて膝を突いた他の選手のような姿を晒せない。

 私は、まだやれる!

 他の選手のようにまだ地上に降ろされていない。

 どれだけ差が開こうが、どれだけ時間が迫ろうが関係ない。

 私は自分の為に最後まで誇りを持って戦う。

 私は歯を食いしばって、宙を蹴る。

 この行為に実は意味などない。

 でもイメージが重要な魔法師には意味がある。

 残ったサイオンを考えれば、今までのような動きはできない。

 動きは直線で最短にしていた。これは変更できない。

 ならば、打つ光球を絞る。

 一点でも多く司波深雪から点を奪い取る。

 叩くという動作すら無駄だ。

 ならば、最適解は明白ね。

 

 私は司波深雪が狙う光球に迫る。

 

 叩いていたのでは間に合わない。点を取られる。

 だから、私はこうする!!

 

 私はフェンシングの要領でステッキを最速で振り抜いた。

 司波深雪のステッキより少しだけ速く光球が光となって散る。

 司波深雪が少しだけだが目を見開いた。

 これが私の本来の戦い方よ!!

 

 この戦い方を見出して得点を重ねたところで、インターバルに入った。

 

「凄いわ。愛梨。ここにきて調子を上げるなんて」

 栞が私の傍に駆け寄って来て、そんなことをいってくれた。

「ありがとう。でも、私自身、分かっているわ。もう逆転可能な点差じゃないって」

「愛梨…」

 栞の顔が曇る。

 私が落ち込んでいると思ったかもしれない。

 でも、違う。

「私は私の誇りの為に戦うのよ。最後までね」

 私は力強く笑って見せた。

「愛梨…。私も最後まで見届けるわ。貴女の戦いを」

 私はもう一度微笑んだ。

 言葉は要らない。

 

 インターバルが終了した。

 これが最後。ここで決着が付く。

 私はステッキを握り締めた。

 試合再開のブザーが鳴る。

 

 

               11

 

 :深雪視点

 

 魔法のパフォーマンスが落ちた一色さんが持ち直した。

 本来なら有り得ないことだけど、彼女は自身の技術をこの土壇場で応用し、もの

にして見せた。

 貴女にも譲れないものがあるのね。

 でも、それは私も同じこと。

 悪いけど、負けて上げられないわ。

 貴女が自分の限界を超えたなら、私もそれに応えるのみよ。

 私は、その後も手を緩めることなく点を容赦なく重ねていく。

 

 インターバルに入り、お兄様が傍に来る。

「流石に付け焼き刃では、誰も深雪に敵わないな。もう点差からいって、インター

バル後にそのまま立っていても勝てるくらいだが…」

 お兄様が開口一番に、そんなことをいってくれた。

 褒めて貰えるのは嬉しいけれど、でもダメ。

「お兄様。私がそんなことをするとお思いですか?」

 一緒に来ていた会長達が驚く。

 私がお兄様に珍しく厳しい声でいったからだろう。

 でも、お兄様はフッと苦笑いして首を振って見せた。

「いいや。お前の思う通りに飛んできなさい」

 お兄様の優しい声に、私は笑顔で頷いた。

 

 試合再開のブザーが鳴り響く。

 もう残っているのは三人程、あとの選手はサイオンの残量の関係で競技続行は、

もうできずに棄権している。

 一色さんが物凄いスピードで上昇する。

 インターバルの前より明らかに速く洗練されている。

 もう、勝敗は決しているし、疲労の度合いは厳しいレベルだろうに、ここまで

自身を高めるとは、素直に凄いと思う。

 でも、足りないわ。

 

 一色さんが狙った光球を横から叩いて点を奪い取る。

 一色さんは驚愕という言葉が似合うくらいに驚いていた。

 傍から見て、私の飛行速度は変わっては見えないだろう。

 当然だ本気ではあるけど、全力を出し切っている訳ではないのだから。

 私は空中を滑るように飛んで、得点を更に重ねていく。

 実況を担当している方が、どういうことか分からないというようなことを捲し

立てている。

 これは魔法の息継ぎの差だ。

 飛行魔法では息継ぎは重要な技術となる。

 位置情報を常に更新して飛んでいる現代版の飛行魔法は、常にループキャストで

魔法を使っているのと同じようなものだからだ。

 それが洗練されていれば、自然と空中機動に目では分かり辛くとも全く質の違う

ものになる。

 そして、一人また棄権して地上に降りていった。

 もう残るは一色さんと私だけになった。

 一色さんは、これだけの差が開いても瞳の闘志は衰えず、光球を追っている。

 その姿には一部の(三校生徒が主な面々)人達が声援を送る。

 そして、最後の光球が宙に灯る。

 一色さんが最後の力を振り絞るように飛ぶ。

 今までで見たこともない突き。

 それでも最後まで譲れない。

 そちらがフェンシングなら、私はお姉様の剣術を参考にする。

 イメージのまま身体を動かす。

 

 光球がステッキで斬られ儚く消えた。

 

 紙一重の差だった。

 僅かな差で私のステッキが、一色さんの突きより速く光球を薙いだ。

 一色さんがゆっくりと地上に降りていく。

 それは彼女の意思ではなく、彼女のサイオンが限界に達したことを示して

いた。

 

 私もゆっくりと地上に降りる。

 歓声が爆発するように上がる。

 私は穏やかにそれに応えた。

 

 こうして私は本戦・ミラージバットの優勝を勝ち取ったのだった。

 

 

               12

 

 いやいや、凄い試合だったね。

 ナイスファイトだったよ。命知らず、もとい()()()()は。

 深雪相手にあそこまで粘るとはね。

 試合観ていなかっただろうって?

 そう、それで深雪に盛大に拗ねられて大変だったんだよ。

 私は私で働いてたけどさ。それをいう訳にいかないからさ。

 試合の記録映像で観ての感想を述べたという訳だよ。

 勿論、深雪の無双には絶賛しましたとも。

 ここで一色さん褒めたら、私は氷漬けになったかもしれない。

 冗談抜きで。

 しかし、マイシスターは化物ですな。最後の一閃、完全に私の模倣でしたよ。

 完璧でしたよ。私の立つ瀬がないわ。

 

 という訳で、今回も暗躍のお時間です。

 憂さ晴らし…もとい、今回のお仕置きをせねばなりますまい。

 

 それで私はある人物に通信を入れる。

『誰?』

 警戒の混じる声が数コールの呼び出しの後に聞こえて来た。

『どうも!合法ロリ巨…もとい、小野先生!無頭竜のアジトの場所分かりました?』

 

 通信機の向こうで合法ロリ巨乳が息を呑んだ。

 

 

 

 




 響子さんはきっと自覚なく動揺しています。
 仕事に多少の影響が出ています。
 深景が早いというのもありますけどね。

 漸く九校戦も終わりが見えてきたようです。
 一色さんちの事情は、まあ予想はつきますが
 捏造するか、そのままスルーするかは、その
 時に考えようと思います。

 並行投稿している為、かなり長い期間開いて
 しまいますが、お付き合い頂ければ、幸い
 です。




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九校戦編20

 随分時間が掛かってしまいましたが、
 どうにか書き上がりました。
 
 では、お願いします。

 


               1

 

 通信機の向こうで、合法ロリ巨乳が息を呑む。

 何故、通信程度でここまで驚くのか?

 答えは、この通信ナンバーは彼女の公安としての仕事用のナンバーだからだ。

 多分、達也もこのナンバーを知らない。

 ミス・ファントムとしてのお仕事用なだけあって、知られると不味いのだ。

 結構、厨二マインドを刺激する異名だよね。

『どこで、このナンバーを?』

 警戒心剥き出しの声で合法ロリ巨乳が訊いてくる。

「緊急連絡網で調べたんですよ?」

『……』

 おや?エクトプラズム出ちゃってる?

『ハッキングは犯罪よ』

「なんの事でしょうか?それは兎も角、達也からの調べもの依頼の件なんですけど…」

『なんでそんな事まで!?』

「いや、それは普通に話してましたよね?」

 無言が続くけど大丈夫かな。

 

『で、なんの用なの?』

 どうやら彼女の中では、今のはなかった事になったようだ。

 実際は少し距離があったから、禁断ラバーズ的な風景しか見てないけど、

原作を知っている身としては、内容の想像なんてお茶の子さいさいですとも!

「達也から、無頭竜のアジトの場所を調べるように依頼されましたよね?」

『さあ、どうだったかしら?』

 この期に及んで真面目な人だね。

「じゃあ、この際どいビキニの写真…うん?ちょっと見えてません?これ?

まあ、いいや。それをネットに…」

『よくないわよ!公安捜査員を脅迫してんじゃないわよ!!って、そもそもどこで

見付けたのよ!!そんなもの!!』

 実はこの写真、交友関係洗った時に元カレを偶々見付けたんだけど、その男の秘蔵

データにあったものだ。それをコピーしたんだよね。こんなこともあろうかと!でも、

データはロリ巨乳だけだったな。

 そんな感じで説明してあげた。 

「依頼されましたよね?」

『で、どういう話なの?』

 おっ!認めないけど、話は聞いてくれる訳だ。

「調査結果渡すの少し遅らせて下さい。それだけでこの元カレの趣味全開のビキニの

件は忘れるし、消しますし、依頼料を上乗せしますよ」

 元カレも、そんな厳重にロックして保管するくらいなら、別れなきゃいいのに。

 そうすれば、今も普通に見られただろう。

 それにしても、ロリ巨乳は倦怠期を乗り切ろうと、涙ぐましい努力したね。

 いじらしいよね。

 恋人でも倦怠期でいいんだっけ?

「別に嘘を言う必要はありませんよ?」

『別に脅しに屈した訳じゃないわよ』

 合法ロリ巨乳が憎々しい声で、そう吐き捨てた。

 

 さて、達也が動く前に私がお仕置きをやる。

 

 

               2

 

 :エリカ視点

 

「え?深景さん、寝てるんですか?」

 美月が驚いた様に言った。

 いやいや、それで驚いちゃ、流石に深景が可哀想でしょ。

 疲れてもおかしくないくらい忙しかったんだしさ。

 でも実際、深景は具合が悪くて寝てる訳じゃないけどね。

「うん。精神的に疲れたから不貞寝するって」

「ふ、不貞寝…」

 美月はコメントに困った顔で、それだけ呟いた。

 流石に達也君も絶句してたな。結構貴重なものを見れたわ。

 くれぐれも起こしてくれるなって、凄い形相でいってて笑った。

 まあ、実際にもう深景に出番はないんだし、寝てても支障はないし、いいんじゃない

かと思うけどね。

 本来はエンジニアとしての参加だったのに、選手までやらされたんだし、疲れたと

いっても罰は当たらないでしょ。

 次はモノリスコード本戦。

 もう、一校の優勝でほぼ決まりって状況だ。

 

 無理して観戦する必要もないでしょ。

 私はそう思った。 

 

 

               3

 

 私は夜、コッソリと達也のいない隙を突いて外に出た。

 警備網をすり抜けるなど簡単な話だ。私にとってだけどね。

 勿論、対策はバッチリだ。

 カメラはハッキング済みだし、ベットには()()()()()()を残してきた。

 では宜しく影分身。

 私だけあって、ベットから手を振って応えてくれた。

 私なのに、羨ましい。

 素早くライダースーツとフルフェイスヘルメットを着用し、完全なる不審者へ

と変身する。

 今回は、タチコマを使う訳にはいかない。

 お仕置きは、自分で行うのだから。軍の手は借りない。

 無闇に手の内を晒すのも馬鹿らしい。

 そういう訳で、()()()()()()()()()()()()()

 四菱ジャパンカスタム。またの名をガルム。

 元ネタはブラスレイターの主人公のバイクだ。趣味です、はい。

 この世界だからバイクが、ライダーなしで走ってても特別注目されない。

 代車の手配などで使用される技術だからね。

 事故自体滅多に起きないけど!

『お待たせ』

 バイクのハンドル辺りに女の子のホログラムが浮かぶ。

 制御システムであり、このバイクのAIであるエレアだ。

 私はバイクに乗り、走り出した。

 

 IRシステムにも、既にリアルタイムハッキングして姿を記録させていない。

 笑い男と同じ手口だ。私は通ったが、記録されない。

 網を張ってあった場所に、無頭竜の幹部が集まっているのを並行して確認した。

 やっぱり、原作通りに集まってたな。逆に、ここまでこないと集まらなかった

訳だから面倒臭い。

『一つ、訊いてもいいかしら?』

 道路を爆走していると、角が生えているものの、美少女なホログラムのエレア

が姿を現していった。

『どうして、貴女がやるのかしら?』

「それは自分でお仕置き…」

『おふざけ抜きよ』

 エレアが冷ややかに、ぴしゃりと私の言葉を遮った。

 私はフルフェイスヘルメットの中で苦笑いする。

『達也は、やる気なんでしょ?放って置けば、達也がやってくれる。貴女がやる

必然性はないわ』

 タチコマを使う訳にはいかないので、エレアにサポートをして貰った関係で、

彼女は事情を把握しているのだ。

 性能がいいのも考えものだね。

 心配して貰えるのは有難いけどさ。

「だって、狡いでしょ?」

『狡い?』

「そりゃ、さ。達也に任せれば、なんの後悔もなく、微塵の躊躇なく始末して

くれると思うよ?達也は気にしないし、気にならない。だから汚れ仕事を全部

弟に押し付けるって、どうなの?姉としてさ」

 達也に全て任せるなら、私がいる必要もない。

 それは、過去に私が望んでいたことだった筈だった。

 

『私を人といってくれるなら、約束してくれますか?二人を護って上げて下さい。

 家族として』

 

 それは過去にした大切な約束。

 投げ捨てる気満々だった私に、唯一といっていい家族だった人とした約束。

 自分には、なんでもできると過信していた頃の話だ。

「だから、私が罰を下す」

『そう…バレないように精々気を付けて?』

「今の私に死角はないよ」

 

 自分にかけた誓約は、解除してあるからね。

 

 

               4

 

『それじゃ、済んだら呼んで頂戴』

 エレアは、そういうと走り去った。

 横浜中華街。

 今や怪しげな連中の巣窟と化しています。勿論、ご飯は食べられるけどね。

 私は連中の会議室が見える高層ビルを、呼び止められることなく上っていく。

 私は屋上の扉を開け放つ。

 風が強く吹き込んでくる。

 私は原作達也と違って、フルフェイスヘルメットのまま狙撃地点に立つ。

 鷹の目で、連中を捉える。

 よしよし、全員揃ってるね。じゃ、いってみよー。

 なんか中の会話を聞いてると、逃げる算段してる奴やら、もうお手上げ状態

の奴やらで、場は混乱していた。

 まっ、知ったことじゃないけど。

「ハロー!無頭竜!」

 ヘルメットに仕込んだマイクで優しく呼び掛けてやる。

 響子さんが、できることぐらい私にもできるのだよ。実は。

 室内にいきなり声が流れて、硬直するお歴々。

「旅行の算段かな?優雅だね。因みに、こっちでキャンセルしといたし、貴方

達が使っている偽造パスポートね。データを警察にリークしてあるから、いかな

い方がいいよ?どうせ、使う機会ないけどね」

 海外へトンズラ準備組の通信機を乗っ取って、こちらの声を流してやると、

驚いて通信機の端末を放り出してしまう。

『誰だ?君は』

 比較的、冷静な声でダグラス・黄が訊いてきた。

 因みに、この人はお手上げ組だ。

「色々と富士でお世話になった者だよ」

 一部を除いて、出口に殺到するが開かない。

「無駄だよ。ロックしてあるからね」

『16号!』

 フランケンに魔法で壊せと命じる幹部。

 当然、それも対策済みだ。予想できることだしね。

 フランケンが魔法を使うが、扉にも壁にも傷一つ付かない。

『なっ!?どういうことだ!?』

「悪いけどね。貴方達のいる部屋だけ()()()()してるんだよ。壊せないよ?』

 私は親切にも幹部の疑問に答えてあげる。

 元ネタは、某有名ラノベ作家の作品からです。

 空間凍結されると無関係の人間を選別して出すことができるし、何より物が

壊れないんだよね。それを利用して閉じ込めてる。

『なんなんだ!!お前は!?』

「だから、お世話になったから恩返ししにきた鶴って感じ?」

 襖の向こう側を見てはいけません。

 そして、私が知る限り一番外道な魔法を使う。

 護るように立っていたフランケンが突然、()()()()()()()()()()()()()()()()

 血肉を撒き散らし、フランケンの一体がこの世から消えた。

 おお!怖がってる怖がってる。

 って私もおえぇっ!感じだけど。自分で使っといてなんだけど。流石禁術。

 私が使ったのはバスタードに出てくる魔法だ。

 暴凶餓鬼地獄(エッド・ツェペリオン)の範囲限定版だ。

 達也みたいに分解してもいいんだけど、それだと達也の犯行だと誤解される。

 それでは意味もないので、犯人が特定できないような魔法であるべきだよ。

「化物は好物でしょ?さて、次に餌になりたい人は?」

 ソーサリーブースターなんてものを造っている連中だ。

 餓鬼魂とも仲良しだろう。

『17号!どこからだ!?』

『不明です』

 フランケンが淡々と幹部に答える。

 そこは空間凍結で隔離されているから、魔法で私を探り当てるのはフランケン

でも無理だ。

 その答えに奇声を上げて、暴れ出した奴が発生する。

 そんなに刺激するとさ…。

 なんて考えていると、餓鬼魂に美味しく頂かれていた。

 ついでに、残った17号フランケンも庇おうとした為に、頂かれていた。

 結界が消えるまで、見えなくともいるからね。言動には気を付けようね。

『まっ待て!!』

 ダグラス・黄が声を上げる。

「何を?」

 私は白々しく訊いてやる。

『我々は、日本から撤退する。二度とこの国に手を出さない』

『いいのか!?』

 ダグラス・黄の宣言に、幹部が驚愕の声を上げる。

「それが仮に本当だったとして、貴方達が帰った後に別口がやってくる

んでしょ?」

 ダグラス・黄が口を再度開こうとした時、幹部の一人が懐から拳銃を抜いた。

 大方、裏切り者の始末という手土産でも作ろうという魂胆だったんだろうけど、

出れないのにどうするつもりだったんだか。

 かなり判断能力が低下しているようだね。

 こりゃ、サッサと聞きたいこと聞いた方がいいかな。

 そんなことを考えている間に、銃弾はダグラス・黄を掠めて壁に着弾し、

撃った当人はご飯と成り果てた。

 かなりスプラッターな光景の連続に、遂に年季の入った悪党も腰を抜かした。

『は、話を聞いてくれ!誓う!無頭竜は日本には二度と来ないし、手も出さない!

だから、もう止めてくれ!!』

「貴方にそんなこと誓われてもね。トップが否といえばそれまでじゃない?」

『いや!私にはそれだけの権限がある!ボスも私の言葉を無視できない!

 大丈夫だ!』

 原作でもそういってたね。

「それじゃ、トップの本名は知っているよね?いってみてよ」

 そこで本命の質問だ。

 魔装大隊に頼まれた訳じゃないけど、ソーサリーブースターなんて

製造元から潰しておきたいからね。本名さえ分かれば、あとは原作通りか確認

できる。

 あとは壬生パパにリークしとけば、勝手にやってくれるでしょ。

 私が直接、どっか~んやってもいいんだけど、流石にそこまでやると本格的

に探られるからね。面倒は避けるに限る。できる限り。

『そ、それは…』

「踊り食いされたいと…」

『まっ待ってくれ!…リチャード・孫だ』

「本名っていったけど?」

『孫公明…』

「お疲れ様。それじゃ、さようなら」

 私は餓鬼魂に最後の食事を許可した。

 外道の所業だ。だが、こいつら生かして帰す訳にはいかない。

 私は、このことを忘れない。

 だから、しっかりと彼等が怨念を吐き散らしながら、食われるのを最後まで

目に焼き付けた。

 

『悪…魔め!!』

 

 ダグラス・黄の最後の言葉がこれだった。

 私は、少し溜息を吐いた。

 

 

               5

 

 お仕置きが完了しても、少しもスッキリした気分にはなれない。

 だけど、別にいい。

 エレアを呼んで帰ろうと数歩足を進めたけど、私は止まった。

 

 ああ。だよね。分かってた。ご無事だと思ってましたよ。

 

「やぁ。どうも」

 そこには筋肉妖怪・戸愚呂が立っていたのだ。勿論、無傷で。

 無事だとは思ってたけど、回復早くない?

 暫くは動けないと高を括っていたんだけど、そうは問屋が卸さないよね。

「こんばんわ。敵討ちに馳せ参じた訳じゃないよね?」

「もしかしたら、予想がついているのかもしれないけどねぇ。依頼主は別にいる

んでね。あいつらをついでに片付けろといわれたが、面白そうなものが見れそう

だったんでね。見物させて貰ったよ」

 それは余裕なことで。

 顔は隠れているけど、意味なしですか。

「まだ牙を隠してそうだねぇ。挨拶がてら、見せて貰おうか」

「ご期待に沿えますかどうか」

 私の返答に戸愚呂がニヤリと笑う。

「おさらいといこうか。…60%だ」

 いやいや、待て待て!そんな力、体感してないから!

 私の心の悲鳴を無視して筋肉を膨張させるマッチョ。

 凄まじい力が圧となって襲い掛かる。

 何かいっても聞いてもらえる空気じゃないよね!

 私が亜空間から刀を取り出すと同時に、戸愚呂の姿が掻き消える。

 あんな筋肉、絶対動きを阻害しそうなのに速いこと速いこと。

 私は、当たれば死亡確定と確信できる拳の運動エネルギーを断ち切る。

 拳は不自然に止まったことに、僅かに戸愚呂が片眉を器用に持ち上げるが、

それでもお構いなしに止まった拳を押し込むように伸ばした。

「っ!?」

 刀で受け流そうとして、私は眼を見開き、回避に変更する。

 ビルがものの見事に斜めに割れて、重力に従い地面に落下していく。

 その拳には、十三束 鋼が使っているレンジゼロと拳の物理的破壊力が同居した

とんでもない一撃だった。今の私でも刀で受けていれば、刀が折れただろう。

 それ程の威力と魔法粉砕が可能なものだと瞬時に理解した。

 手加減していると理解していたが、ちょっと力を出すとまるで別物で、泣きそう

になる。やっぱり、あの時に死んどいてほしかった。

 私は落下途中の瓦礫と化したビルを蹴り、戸愚呂に向かっていく。

 戸愚呂は、試すように拳を打った姿勢のまま、落下している。

 丁度、戸愚呂の元ネタでの主人公を試した時のように。

 ならば、応えてやらないと女が廃る!

 泣きたくなる気持ちを跳ね除けて、気合を入れてみる。

 私の選択した刀は天狼。

 そう、あの滅茶苦茶侍の刀です。厨二マインドを刺激しますよね。

 さて、押して参る!

 気配を遮断し、瓦礫の陰から躍り出る。

 そして、目が合う。やっぱり、誘ってたな。

「無明神風流。玄武」

 厨二ワードはいわないですよ。

 瓦礫ごと戸愚呂を神風が押し包み、動きを封じた上で神風が戸愚呂に襲い掛かる。

 戸愚呂が、神風を信じられないことに思いっ切り吸い込んだ。

 普通なら、内側からズタズタになりそうなものだが、戸愚呂は平然と吸い込んで

いる。

 アンタ、どっかの麦わら帽子なの!?

「かあぁぁーー!!!」

 神風を半分程吸い込み、裂帛の気合と共に放出する。

 たったそれだけで、玄武が無効化される。

 滅茶苦茶の上をいくんですか。

まあ、瓦礫を大地に見立てたのは無理があったけどね。

 それでもあんまりでしょ!

 瓦礫が消えた代わりに、身を隠す場所がない。

 戸愚呂は、そのまま着地(派手に)。

 私は魔法で穏やかに着地して、再び対峙する。

「それじゃ、締めといこうかね?」

 戸愚呂はニヤリと笑う。

「そうだね」

 私も天狼を構える。

 

 お互いの集中力が高まり、時が制止したみたいに感じる。

 

 お互い同時に動いた。

 

「キュクロプス」

「無明神風流。朱雀」

 

 戸愚呂の身体が得体の知れない力で黒く変色し、炎を纏う。

 恐らく、人間の時の家か何かの代名詞というべき魔法。

 一方、私の方は、浄化の炎で形成された巨大な朱雀を放つ。

 絶対回避不能の攻撃技。

 60%で受けてみろ!

 今度は何をやっても向かってくる朱雀に、戸愚呂は不敵な笑みを浮かべ、

破壊を選択する。

 

 黒い拳と炎の朱雀が真正面から激突する。

 

 両者の技の激突で生じた衝撃波が荒れ狂う中、私は踏み込む。

 なんのチートも含まない純然たる剣技のみで、刀を振るう。

 衝撃波を割って拳が飛んでくる。

 

 そして、衝撃波自体が吹き飛び、静寂が訪れる。

 

 私の顔の横には黒い拳が。

 戸愚呂の頸には私の刀が当てあれている。

 

 そう、これは挨拶だ。

 次の為の。

 

「私達はね。次に最後の騒ぎを起こすつもりでね。次、今度こそ本気で殺り合おう」

 戸愚呂は楽し気にそういうと拳を下した。

 私は苦々しい顔で刀を鞘に納める。

「止めてくれない?面倒ごとは嫌いだよ」

「それは無理だねぇ。別に止めなくてもいいけどねぇ。世界が裏返ってもいいなら

ね」

 そういうと背を向けて悠々と去って行った。

 ここで本気で殺り合うと、とんでもないことになるとお互いに分かっていた。

 本気を出して片を付けるには、向こうもまだ目的を投げ出す時じゃないし、

私もバレてもいいやって時じゃない。

 だから、追わなかった。

 向こうも承知の上で背を向けたんだ。

 

 多分、騒ぎって元ネタ原作でやろうとしてた魔界に帰ろうとするやつだよね?

 それに該当しそうな騒ぎありますわ。

 魔法科高校の劣等生にも。

 今までの経験から、防げる気がしない…。

 それでも探り入れなきゃな。ああ…鬱だな。

 

 あっ!警察と軍向かってるわ。

 逃げなきゃ。

 

 私は一つ問題を片付けて、一つまた厄介な問題を抱え込んだ。

 

 

               6

 

 結構本気で逃げて、エレアに拾って貰ったんだけどね。

『貴女、何やってるのかしら?』

 呆れられました。

 あの麦わらキンニクンに文句いってくれるかな?って思ったけどね。

 未だに謎の事件として報道されています。

 

 そして、今現在、分かってるのか疑われているのか、私だけ天狗さんに呼び出し

受けてます。

 内心で白目を剥いていると、天狗さんが話し始めた。

「横浜の無頭竜の幹部が殺害された件と、付近に発生したビル爆破事件に関してだ」

 わぉ!テロリスト扱いされてます!

 主にあの麦わらキンニクンがやったことだぁ!

 因みに、お馴染みのメンバーも部屋の中に既にいらっしゃった。

 そして、発覚と調査内容が語られる。

 一同に沈黙が流れる。

「あの…なんで私だけ呼ばれたんですかね?」

 この部隊じゃ、私、完全に達也のおまけなんですが。

 本気で疑われてます?掴まれてます?

 いや、まさか!はっはっは!

 白々しく訊いてみる。

「ということは、ソーサリーブースターの手掛かりは途切れた。

 ということですか?」

 真田さんが私の質問を無視していった。

「いや、()()()()()()()()()()()()()()()。どうも正しい情報のようだといって

いたから、そこは問題あるまい」

 天狗さんが、素っ気なく答えた。

「しかし…」

 真田さんが何かいい募ろうとしたのを、天狗さんが止める。

「無頭竜のボスの名も、ご丁寧に伝えてもらっている。あとは壬生の仕事だ」

 真田さんは納得したのか、口を閉じた。

 他の面々は渋い顔で黙っている。

「あの!」

 無視決め込んでんじゃないよ!

 天狗さんが漸くこっちを向いた。

「達也のことだったな。達也なら中華街の調査をしてくれている。尤も、あまり

時間が取れないがな」

 今朝から姿を見ないと思ったら、中華街行ってたのか。

 それにしてもさ。答えられることなら、サッサと答えて貰いたかったよね。

 調査ね。

 まっ、痕跡はキレイに消してあるから、大丈夫でしょ。

 

 合法ロリ巨乳が、達也にチクらなければ大丈夫だと思う。

 当人も、ギリギリアウトな水着姿をバラされたくないだろうから、必死にやって

くれると思う。

 

 

               7 

 

 :達也視点

 

 今は中華街にまで来ている。

 エンジニアとしての責任は、もう果たしているので少しくらい姿を消しても平気

だろう。

 小野先生に無頭竜のアジトに関する情報を貰う筈だったが、その前にこの有様だ。

 辺りは封鎖され、軍が警備している。

 使用された魔法は、おそらく戦術級であると判明した瞬間から、軍に主導権が

移った。こっちとしては有難いことだ。調査がやり易くなる。といっても機器を

使った調査は軍がやっているから、俺の方は精霊の眼(エレメンタルサイト)で、観るだけだが。

 だが、不自然なまでに痕跡は消されている。

 どんな魔法を使用したかも分からない。

 威力から戦術級だろうと推測しているだけだ。

 新たな魔法が開発されたのなら問題だが、俺はあまり深刻には考えていなかった。

 犯人として、疑っている人物がいるからだ。

 尤も、その人物はアリバイもあるのだが、その人物なら突破しそうだと俺は思って

いる。

 その人物とは、他ならぬ俺の姉だからだ。

 

 姉さんは、魔法師として凡庸以下だ。

 試験で二科生に割り振られたことからも分かることだ。

 だが、それは俺も含めて既存の評価項目では、評価されない部分が優れているから

だ。

 姉さんは古式魔法や技術を得意としている。

 俺の知らない古式の技や技術を、密かに習得していたりする。

 師匠との鍛錬で俺の異能も完璧なものではないのは、嫌という程に理解している。

 そして、古式は限られた人間しか使えないが、効果は絶大なものが多々ある。

 姉さんが、それを行使したなら、俺の眼も軍の調査も潜り抜けるのも不可能では

ない。

 問題は相手だが、こっちは犯人は判明している。

 新人戦モノリスコードで、戦ったあのパラサイトだ。

 あの攻撃を受けて生きているとはな。

 流石に、追跡を許す程迂闊ではないようで、足取りは追えなかった。

 こっちは報告すべきだろう。

 姉さんの件は報告しないが、少佐達も疑いは持っている様子だろう。

 だが、証拠がない以上、追及はできないだろう。

 姉さんは迂闊なところもあるが、ギリギリのところで尻尾を掴ませないという点

では周到だからな。

 姉さんを疑う点は、もう一つ。

 小野先生だ。

 俺は無頭竜のアジトを探してもらっていたが、約束の日時に間に合わなかった。

 そして、この事件だ。

 何かあると感じて、小野先生に連絡したところ、何故か情報が掴み難くなったと、

歯切れ悪く語った。

 カマをかけたり、色々と揺さぶったが、小野先生は頑なに当初の発言を貫いた。

 逆にそれが、姉さんの関与を疑わせたんだが。

 

 姉さんが、まだ俺達に話すべきでないと思ったのなら、待つのも信頼だろう。

 少なくともそうだと知っている。

 俺は少佐に報告すべく富士へと戻った。

 

 富士へと戻ると、呼ばれていた姉さんの姿はなかった。

 視線をチラッと動かしただけだが、少佐にはそれだけで分かったようで、姉さん

が聞きたいことを聞いて退室したことを知った。

 俺で調べた内容を伝えると、少佐は珍しく渋面で頷いたのみだった。

 そして、俺にも姉さんと同じ内容の話が説明される。

「無頭竜のボスの情報ですか…」

 語外にそんなもの価値があるのか?といったニュアンスが伝わったのか、真田大尉

が苦笑いする。

「君のお姉さんは、不思議に思わないみたいだけどね。あの組織は普通の犯罪シンジ

ケートじゃないんだよ。ソーサリーブースター。知っているよね?」

 やはり姉さんは疑われているな。

 ここでも決定的な証拠は掴ませていないだろうが。

 それにしても、ソーサリーブースターか。

「画期的な魔法増幅装置でしたか。眉に唾して聞いていましたが」

 魔法の増幅など、易々とできるとは思えない。

「正確には増幅ではなく、増設、とでもいった方が適切かもね」

 真田大尉の眼に物騒な光が宿る。

 増設ということは、魔法師の使用できるキャパシティを増設するという意味だろう。

 そんなことが可能だとすれば…。

「まさか、人間の脳そのものを?」

「正解。より正しくいえば、魔法師の大脳だね」

 成程。だが、他人の脳では残留サイオンがあるので、他人が使用できる筈はない。

「呪術の理論応用。こういえば君なら想像が付くんじゃないかな?」

「成程。恐怖や苦痛といった感情を与えて、脳を摘出する訳ですか」

「これまた、その通り」

 俺の納得の表情を確認して、少佐が纏める。

「倫理的な問題もあるが、ブースターの存在は純粋に脅威でもあったという訳だ。

 今回で元を叩ける」

 いいことのように聞こえるが、実際には軍は関与していないという事実が、ここに

いるメンバーの顔を暗くしているのだろう。

 

 まあ、走り出した姉さんを止めるのは困難だ。

 この機に、少佐達には記憶に刻んで貰おう。

 

 

               8

 

 私は取り敢えず、クラスメイトからは不貞寝から起きてきた風を装って現れた。

 不貞寝している私のところには、エリカが冷やかしに来たり、響子さんが訪ねて

きたり、忙しなかった。

 響子さんのあの段階での訪問は偶然だろうか。

 どうでもいいか。問題ないし。

 奇しくもアリバイは完璧になったしね。

 

 達也も調査と報告が終了したのか、後から合流して会場に向かう。

 どこのって?本戦・モノリスコードに決まってるよ。

 原作と違い、残念王子が大活躍したことになっているから、ぬりかべが俺TUEEEE

をやる必要はないし、穏やかなものだ。

「俺達とは安心感が違うな」

「全くだね」

 達也のセリフに私は全面的に賛同した。

 だってね。

 メンバーが。

 

 十文字ぬりかべ。

 服部カンゾー君。

 辰巳親分。

 七草閣下。

 

 反則級のメンバーで固まってるんだもの。

 まさに無双ですよ、これ。

 他のチームはモブのようになって、すっ飛んでいる。哀れな。

 

 哀れ他の高校。

 カンゾー君と閣下に撃ち放題撃たれて、ぬりかべの魔法と辰巳親分の魔法でぶっ飛

ばされていた。

 原作では深雪が、達也達だって負けてないよ!みたいな発言してたけど、今回は

流石に苦笑いしてるもの。十師族直系二人だもの。いえやしないよ。

 

 結局、あの三校でさえ、一蹴して試合は終了となり、我等一校が優勝を飾ることと

なった。

 

 

               9

 

 表彰式が終わり、あっという間に夜となりダンスパーティーに突入した。

 妹は男女問わずに人に群がられ、達也はおっさんから大人気である。

 勿論、腐女子的な意味の人気じゃないよ?技術者としての腕を青田買いしようと

いう魂胆を持った連中だ。

 私のところ?来ないよ。特殊だし。

 ぼんやりと壁の花となって、渡辺お姉さまにつつかれている弟を眺めていると、

肩をつつかれた。今度は私がつつかれたよ。

 見れば、深雪に喧嘩を売っていた命知らずズだった。

「ぼんやりしとるのぉ~」

 沓子が、相変わらずのテンションと口調で話し掛けてくる。

「まあ、お仕事終わったからね」

 残り二人は、どことなくムスッとしている。当然か。

「今回は優勝を持っていかれたけれど、今度は勝つわ」

「エンジニアとしても選手としてもね」

 二人がそれだけいうと、沓子がまだいるのに去って行った。

「全く、素直じゃないのぉ。まあ、二人共お前さんを認めたということをいいたかった

のよ」

「は?」

 深雪は兎も角、私何か認めて貰うようなことしたっけ?

「色々といってくれたじゃろ?」

 呆れたように苦笑いして沓子がいった。

 

 ああ。黒歴史のやつか。思い出しちゃったじゃないか…。

 

 思わず遠い目で明後日の方を見てしまった。

「おお!深景よ!CADのデータを送るぞ!」

 その声で我に返り、データを受け取る。

 沓子が実家からのCADのデータを送って貰ったそうだ。

 早いな。本気で造らせるのか。

 まあ、データがあれば造る気ではあったけど、社交辞令だと思ってたよ。

 鉄扇のような形がいいのだそうだ。

 沓子と別れてから、ダンスが始まった。

 社交ダンスを当然の如く修めている高校生。凄い。

 私は男性のステップも女性のステップも、どんとこいだけどね!

 深雪の練習相手として。達也が忙しい時の代理だったけど、思えばどうして私だった

んだ。わざわざ女の私が覚える必要あっただろうか?…考えないことにしよう。

 

 だが、それが役に立つ時が!

 いらん展開ですよ。

「深景さん!踊ってくれない?」

 閣下が満面の笑みで手を差し出していた。

 私も笑顔で答える。

「私、実は踊れないんで!」

「深雪さんが踊れるっていってたわ!」

 

「「……」」

 

 無言の笑顔で向かい合ってしまった。

 

 ブルータァァァス!!

 

 結局は踊ることになった。

 会場からは、何やら溜息が漏れていたが、気にしたら負けだと思ってる。

 勿論、私が男性ステップ担当です。

 それから面白がったエイミィがダンスを申し込んできて、相手したりした。

 そして、何故か沓子も申し込んできた。

 勿論、深雪も申し込んできましたよ!

 私、なんで同性ばっかりと踊ってるんだろうか?

 そして、唯一例外が…。

「姉さん。踊ってくれるかい?」

 弟です。

 因みに、弟は女性メンバーと一通り踊ってました。原作通りに。

 唯一、例外は閣下とは踊ってないくらいかな。謎だ。

 こっちも男性ステップでやってろうか!? 

 マイブラザー!貴様は女性ステップだよ!

 

 勿論、普通に踊りましたけどね。

 

 一通り踊り終えて、何故か精神的に疲れた。理由は明白か…。

 壁に寄り掛かると、目の前にグラスが差し出された。

 持ってきたのは、達也と深雪だった。

 私はお礼をいって遠慮なく受け取ると、飲み干した。

 喉乾いてたんだよ。

「お疲れ様です。お姉さま」

「お疲れ様」

「はい。疲れました」

 三人で笑ってしまった。

 きっと笑ったのは深夜のアレと同じ現象だ。

 目立たない高校生活するんじゃなかったっけ?

 

 そして、人混みから残念王子が姿を現した。

 一直線に私達へと向かってくる。

 後ろを伺いつつ、少し戸惑い気味な顔だ。

 後方を見ると、女生徒と男子生徒数人が何やら指示出ししているのを、残念王子

が気にしているようだ。

 達也と深雪の顔が一瞬、険しくなった。

 残念王子が私達の前に到達した。

 周りの女子が、ヒソヒソと何やら話しているのが聞こえる。

「深景さん。お久しぶりです」

「そうですね。二日ぶりですね。制服、大丈夫でした?」

 繕って上げたからね。

 それくらいしか訊くこと思い付かん。

 傷のことに関しては、私等の方が酷かったしね!

 主にウチの男子二人。

「はい!全然目立たないですし、助かりました!」

 まるで子犬のような顔ですね。

 う~む。趣味人ならばコロリといきそうだ。

「それはよかった」

 私も微笑ましい顔に笑顔で答える。

 だが、和やかな雰囲気に水を差す失笑。

 発生源を見ると、深雪でした。どしたの?

「失礼。随分活動的な方なのですね。一条さんは」

 意訳すると、制服破くなんて、子供みたいな方ですねってところですか。

 私には副音声みたいに聞こえたよ。

「ええ。男には色々と力仕事もありますから。そこら辺の女性とは比べ物にならない

仕上がりで、驚きましたよ」

 破れたのは、仕事してるからですよ。針仕事を見事に熟すなんて、貴女にはできない

でしょう。

 そんな副音声が聞こえた。

 胸の大きさを除けば、勝っている点の一つではあるね。

「はっはっはっ」

「フフフフフフ」

 そして、発生するインフェルノ。

「それでプリンス。何しにきたんだ」

 流石のマイブラザーも、インフェルノを浴び続けたくないようで、用件を促した。

 促された残念王子は、途端に固まる。

 そして、ジェスチャーゲームを開始する三校一年生男子達。

 それが目の端に見えているのか、口元が引き攣る残念王子。

 身体の向きを変えて、三校応援団に背を向ける。

 そして、咳払いすると、私の方を真っ直ぐ見詰める。

 

「俺と踊って頂けませんか」

 

 後ろのヒソヒソ女子が悲鳴を上げる。

 まあ、残念王子ゲットできれば、玉の輿だものね。

 でも、目立ちたくない身としては、この状況をどう乗り切るか。それが問題だ。

 断っても、受けても、目立つのは最早避けられない。

 ジッと考えたのが不味かったのか、残念王子の顔が捨てられた子犬のようになって

しまっていた。

 私の顔も引き攣りますよ。

 これ、断ったら鬼ですよね。

「私で…宜しければ」

 不機嫌なオーラが二つ立ち昇るが、発生源を確かめるのは止めておこう。

「どうしてあんな地味な女が…」

 そんな声が小さく聞こえた。ごめんね。私も辛いんだよ。

 だが、そんな不満の声も二方向からの殺気に黙り込んだ。

 

 そして、大会にでも出るつもりかといいたくなるくらい私達は一生懸命踊って

しまった。

 だって、話が弾まないんだもの。

 

 

               10

 

 残念王子は結局、深雪とは踊らなかった。

 原作と違って、仲がいいんだか悪いんだか分からない感じだから、仕様がないん

だけど。

 去って行く直前、連絡先を交換しましょうといってきたが、深雪に阻止されていた。

 いやいや。深雪、過保護過ぎやしませんかね。

 

 そんなことを考えていると野太い声が掛かった。

「司波。疲れたか?」

 ぬりかべである。

 そして、達也を連れていた。

 珍しい面子だね。

「そうですね。色々とありましたし」

 ぬりかべは重々しく頷く。

「そうか。済まないが、付き合ってくれ」

 そういうと人の返事も聞かないで、クルリと方向転換してズンズン歩いていく。

 達也と顔を見合わせて苦笑いしてしまった。

 

 ぬりかべが案内したのは庭だ。

 まあ、誰もいないし、いいんだけどね。

「そろそろ祝賀会が始まりますが?」

 達也が控え目に声を掛けると、ぬりかべが振り返る。

「すぐに済む」

 さいですか。

「司波。お前達は十師族の一員だな」

 断定口調でぬりかべがいう。

 思わず反応しそうになっている達也の手を、私はチョンとつつくと、達也はいわん

とすることが分かったのか、自然体に瞬時に戻った。

「「違います」」

 そして、図らずもハモってしまった。

 実はこれは嘘ではない。

 正確にいえば、私達は十師族ではない。

 四葉は特殊な家で、分家であっても四葉の姓を名乗ることが許されなければ、

子飼いの魔法師と扱いは変わらないのだ。

 つまり、この先、十師族となる可能性があるのは、後継ぎ候補の深雪のみなのだ。

 原作では深雪は、四葉を名乗るけど、この世界では分からない。

 まあ、他の候補者は顔触れは変わらないから間違いないだろうけどね。

「そうか…」

 大した追及もなくぬりかべが頷く。

「ならば、師族会議・十文字家代表補佐として助言しよう。お前達は十師族になるべき

だ」

 なんで?

 この発言は、達也が残念王子を倒したことからきていた筈だ。

 なのに、何故そう思う?

「一条の御曹司が実戦経験済みの魔法師であることは知っているが、それでもあの

消耗具合は有り得ない。軽過ぎる。何しろ、離れた場所からでも、あれだけの力を

放つ相手だ。一条がメインで戦ったのならば、もっと疲弊していなければおかしい」

 おやおや。鋭いね。

「気付く者は、気付くぞ。その前に縁を結んだ方がいいだろう。

 司波。お前は一条に気に入られたようだし、彼奴はどうだ?」

 結婚ですか?いや、まだ早いから!

「司波達也。お前は七草なんてどうだ。あれで中々可愛いぞ」

 閣下に対する評価、なんか雑じゃありません?

 グイグイくるぬりかべに、私達はタジタジである。

 流石に押し過ぎたと気付いたのか、ぬりかべが攻勢を弱める。

「時間はあまりないぞ?早く決めることを勧める。それでは戻るか」

 ぬりかべは、一方的に攻めまくるとアッサリと背を向けて、こっちを待つでもなく

歩み去って行った。

 

 後には、精神的に疲れ切った私達が残されたのだった。

 

 

 こんなグダグダ感で、私達の九校戦は終わった。

 

 

 

               11

 

 :風間視点

 

 私は今、厄介な人物の訪問を受けていた。

「十師族嫌いは相変わらずのようだね?」

 その人物は穏やかな声でそう宣った。

 その人物は、老師こと九島 烈だ。

「それは誤解だと、お話しした筈ですが?」

「別に気にしないとも伝えたと思うが?」

 相変わらず平行線になるのも厄介な点だ。

 私に気に入らない点があるとすれば、子供に自分達が兵器であるかのように吹き

込む輩だ。

「それで、どういったご用向きでしょうか?」

 サッサと本題に入って貰うことにした。

 老師は苦笑いを浮かべる。

「深夜の子供達。見せて貰ったよ」

 話の先が予想できた為に、内心でムッとする。

 反応をする程、未熟ではないが、この男には気付かれているだろう。

「私はあの子達の師であったからね。知っていてもおかしくないだろう?まさかあれ

程のものだとはね。それで惜しいと思ってしまった訳だよ」

「惜しい?」

「そうではないかね?あの姉弟は一条の御曹司と並んで、我が国の魔法戦力の中軸と

なるだろう。私的なボディーガードに据えるなど勿体ない話だろう」

 試合内容だけで、それだけ評価するような内容は見せていないだろうに、堂々と

一件に関わっているといったようなものだ。

「閣下は四葉の弱体化をお望みですか」

「十師族には互いに牽制し合うことで、暴走を抑える役割がある。だが、このままで

は、四葉は強くなり過ぎて、牽制の役割を果たせなくなる。この上、あの姉弟が四葉

の当主の爪牙となったら、手に負えん」

 引き剥がせると思っているならば、それは甘い考えだ。

 私は冷ややかそう思った。

 それに当主は司波深雪以外有り得ない。

 ()()()()()()()()()()()()()()

「閣下。お伝えしておきましょう」

「何かね?」

「達也のことは兎も角、深景の方は閣下の予想を大きく上回る存在です。あまり

ちょっかいを掛けないことを勧めて置きましょう」

 あの師匠が戦いたくないとまでいった相手だ。

 例え老師であろうと、おそらく変わらない。

 これは勘だが、自信がある。

 おそらく無頭竜の一件も、彼女が関わっているだろう。

 どうやったかは分からないが。

 分からないからこそ、恐ろしいのだ。

 彼女の逆鱗に触れるのが。

 

 老師は、まさか私からそんなことをいわれるとは思わなかったのか驚きのあまり、

言葉を失っていた。

 

 

               12

 

 :戸愚呂視点

 

 挨拶を済ませて、本来の依頼主の元へ戻る。

「帰ったか。始末は任せてきたのか?」

 左京さんが軽い調子で開口一番そういった。

「まあ、そうですね。面白いものが見れたし、本当に楽しみですよ」

 帰る前に、いい土産話になりそうな相手だ。

 いや、生きるか死ぬかの戦いを、また味わうことができるかもしれない。

 私も悪びれもなくそう返したが、左京さんはそれに目を閉じてフッと笑うのみだ。

 このくらいで怒る依頼主じゃないからねぇ。

「そうか。楽しいならいいな。アッサリと成功しては面白くない。だが、暫くは大人

しくして貰うことになるだろう。USNAに行って貰う訳にもいかないしな」

「目立って仕様がありませんしねぇ」

「そういうことだ」

 笑いを含んだ声で左京さんがいった。

 しかし、どうやってるのかねぇ。他国の軍施設に細工なんて。

 

 ま、いいんだけどね。細かいことは。

 重要なのは結果だしねぇ。

 

 私はニヤリと笑って左京さんの仕事部屋を出て行った。

 

 

 

 

 

 




 やっとこさ。九校戦が終わりました。
 深景は勿論もっと凄い威力の魔法を使えます。
 使いどころが難しいですけど…。
 ちょっとマニアックなネタが多数使われて
 いますが、そういうもんだと思って下さい。

 小野先生の彼氏に関しては、いうまでもなく
 捏造です。公安に前からスカウトされており、
 その為に別れさせられたという設定です。
 
 次回から横浜騒乱編に入ってしまうか、短編
 にするかどうしようか考えています。
 よかったら、どっちがいいか意見を頂ければ。

 相変わらず、状況が変わらない為、投稿
 ペースは上がりません。
 気長にお待ち頂ければ幸いです。




 


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夏といえば、恋!?

 結構、世間は深刻な状況になってきましたね。
 健康に気を付けて過ごしていきましょう!

 今回は短編です。

 ではお願いします。





               1

 

 いやぁ~。嫌な日々が続きましたね。

 危うく殺されそうになったり、努力をドブに投げ込まれたりさ。

 おまけに、ぬりかべに、親戚のおばちゃんよろしくお相手斡旋されたりとかね!

 余計なお世話ですよ!

 えっ!?化物に目を付けられたのはって?思い出させないで貰いたいな…。

 そんな私に癒しの時が!

 

 夏休みがやっときましたよ!

 

「海に行かない?」

 雫が、そんな提案をしてきたのがキッカケだ。

 勿論、深雪経由でのお誘いだ。

 ああ!そういえば、そんなイベントありましたね!

 セレブのプライベートビーチ!

 前世じゃ、縁なんかありませんでしたよ。そんな言葉!

 おお!心の友よ!

 何せ、ウチ絡みで行くところは大抵ロクでもない事が起きるからさ。

 一応、ウチもセレブの端くれの筈なのに。

 なんて、愚痴っても仕様がない。

 小笠原の無人島丸々一つご購入とか。

 今年は、雫のお父さんが、友達も呼んでいいのだぜ!といった事が発端らしい。

 予定は、一番忙しい達也に合わせるといってくれている。

 私も、この機会に打っておかないといけない刀があるし、有難い。

 私の場合、長期の休みでもないと、仕事が捗らないからね。

 

 そんなこんなで私達は、海水浴へ行くことになった。

 

 

               2

 

 達也も私も既に職を持っている為に、お互いに調整して時間を抉じ開けた。

 そして、達也がお馴染みのメンバーに声を掛け、全員が参加と相成った。

 達也は、誰も都合が悪くない点を訝しんでいたが、そんなの全員が予定をズラす

とかして調整したに決まっている。

 美月とレオ君くらいじゃないかな。調整が楽だったのって。

 決して馬鹿にする訳じゃないけど、他のメンバー多かれ少なかれ面倒な柵がある

からね。厳密には、レオ君も持っているけど、今は放置されているから除外だ。

 レオ君の問題が表面化するのは、まだ先だろう。

 脱線したね。

 その日までに、他の女の子達は水着を新調しに走り、達也は付き添いとして苦労

したらしい。心なしか帰ってきた達也は、オドロ線を背負っていたように見えた。

 詳しくは、誰も黙して語らないから分からないけどね。

 私は、日程調整の為、別日に一人で買いに行ったよ。

 姉らしく、弟に苦労を掛けなかったさ!

 

 そして、()()()()()()()()当日を迎えたのです。

 

 別荘までは北山家のクルーザーで行くのが、恒例らしくて私達も乗せて貰うことに

なっている。

 葉山のマリーナに現地集合ということで、私達三人は少し早めに到着したが、よく

いる楽しみなことには早く到着してしまう人達はいるもので、私達がラストだった。

「済まない。待たせてしまったか?」

 達也が開口一番に謝るが、皆、笑顔で気にしていないと笑顔で告げた。

 そりゃ、遅刻してないから怒られても困るけどさ。

 皆、テンション高かった。

 達也がクルーザーの観察をしたり、エリカが千葉家のクルーザーについて愚痴った

りしていると、船長コスを身に纏ったコスプレオヤジが現れた。

 雫のお父さんこと、北山 潮さんだ。

 この人、実はただのコスプレオヤジじゃない。

 ビジネス界だけでなく魔法業界でも、かなりの有名人なのだ。

 この人は非魔法師なのだが、奥さんは若い女優さんというだけでなく、腕のいい

魔法師だったのだ。その恋愛模様は、かなり話題になった。軽くドラマにできると

思う。すったもんだでゴールインしたそうな。チッ!爆発しろ!

 新たな雫の友人として、二科生組はコスプレオヤジに紹介されて、挨拶した。

 達也を見て、娘は友達を見る目があると評したコスプレオヤジは、大物だと思う。

 深雪は、美しさを賛美されていたが、私は普通に挨拶されただけだった。

 一番、詰まらない反応です。有難うございました。

 そして、コスプレオヤジは、実の娘と娘のように可愛がっている子に追い立てられ

るように、仕事へ向かった。

 高校生にもなると、父親は鬱陶しく思うようになるものだ。

 私にも覚えがあるもの。

 私は、去って行くコスプレオヤジに心の中で、ドンマイ!と声を掛けた。

 

 だが、そんな声が届く筈もなく、その背は哀愁が漂っていた。

 

 

               3

 

 ウチと違って向かった先で戦争が起こったり、賊に襲撃されることもなく、無事に

別荘へ到着。普通って、なんて素晴らしいんだろうか。

 別荘に荷物を置いて、早速水着に着替えてビーチに出る。

 いやいや、一部の方は気合が入ってますね。

 ワンピースタイプが多い中、ほのかと美月はセパレートタイプでも上下に分かれて

るビキニっぽいデザインだった。美月なんて高校生とは思えない胸を強調したもので、

胸元が大きく開いていた。

 自分の魅力をアピールすることに躊躇はないとは、美月、恐ろしい子!

 ほのかはそこまで大胆じゃないものの、スタイルのよさが際立っていた。

 他の子達は、私も含めてワンピースタイプです。

 だってビキニタイプなんて、ポロリし易いでしょ?

 私とエリカはワンピースでも、スポーツタイプだし。

 雫と深雪は、女の子らしい花柄やらフリルが付いた可愛いやつだ。

 因みに可愛らしい花柄が深雪。フリルが使われている方は雫ね。

 男性陣?ブーメランじゃなきゃOKですよ。

 男性水着って競技用じゃなきゃ、どれも変わらないしさ。

 TPO弁えてれば、いいです。

 因みに、弁えてない人は、ここにはいないといっておこう。

 

 レオ君、幹比古君は、ただひたすらに泳いでいる。

 レオ君は純粋に楽しんでいるみたいだけど、幹比古君は自棄になってるっぽい。

「エリカ。幹比古君、大丈夫なの?あれ」

 泳ぎ方が荒いし、かなりキてると思うけどさ。

「ああ。大丈夫でしょ。達也君のお陰でかなり事情は改善したしさ」

 流石、幼馴染。把握してますな。

 じゃ、いいか。

 アッサリと、幹比古君のことは気にしないことにする。

「ねえ!あのビーチバレーってやつやろうよ!この前、アーカイブで観たけど、意外に

面白そうだったし、家にあったから持ってきたよ!」

 てっきり空気で膨らませるやつかと思ったら、本格的な競技用だった。

 どうして千葉家にあるんだろうか…。剣術の名門だよね?

 男性陣は達也を除き、遠泳中で帰って来なかった為、女性陣でやることになった。

 ビーチでやるバレー擬きになるのかな?これ。

 私、ほのか、深雪チーム。相手はエリカ、美月、雫チームとなった。

「それじゃ、いくよ~」

 まずは私からのサーブで。

 ジャンプサーブを打ち込む。

 バシィィィィーーーーン。

 砂地なのにそんな音と共に、ボールが回転しながら砂に埋もれた。

 衝撃を逃がさずに打ち込んだだけのことはあるな!

 上手くスピンも掛かったし、完璧…。

「「「「止めましょう」」」」

 エリカ以外のメンバーから、サーブ一発で止める発言されたよ。

「普通に怪我するよ。あの威力」

 雫が淡々と告げる。

 結局、エリカと普通にバレー擬きをやった。

 だが、他の女性陣は全員海に避難していた。解せぬ。

 確かに、私達の周りだけ、砂がもうもうと立ち上り、ウエスタンな感じになってた

けど、設定した場所からボールは出さなかったんだけどな。

 

 達也は、疲れている訳じゃないだろうけど、水平線をボンヤリと見詰めていた。

 途中、女の子の水着に目がいっていたのは、ご愛嬌ということにしておこう。

 達也にそういう感情は薄いしね。

 達也だけは私達のバレー擬きに退避せずに、ボウっとしていた。

 私達のバレー擬きが終了したタイミングで、女の子達が達也のところに集まって

くる。そういえば、達也のハーレムっぽい姿って、原作じゃ、これ以降見掛けなく

なったよね。弟のモテ期を、しっかり目に焼き付けておこう。

 そうこうするうちに、そういう感情が薄い筈の達也が水着女子に囲まれたからか、

珍しくポカをやらかした。

 羽織っていたヨットパーカーを脱いでしまったのだ。

 ヤクザ系のチャララ~ンって感じの音楽が聞こえてきそうだ。

 達也の身体は筋肉美で終わる身体じゃない。

 身体中が傷だらけなのだ。それは洒落にならないレベルで。

 再成も完璧じゃない。

 命の危機や戦闘に支障が生じない傷は、そのままなのだ。

 ()()()()

 私の場合は違うが、迂闊に私のバージョンを達也に施せない。

 そんなものをポンと渡したら、四葉の連中がどんな反応するか考えたくない。

 だからこそ、再築でお茶を濁している訳だからね。

 そのヤバい身体を見て、私達家族を除いた女性陣が息を呑んだ。

 そりゃ、どうしたって思うよね。

「済まない。あまり気分のいいものじゃなかったな」

 達也は、すぐにヨットパーカーを羽織り直そうとしたが、それより速く深雪が動い

た。達也からヨットパーカーを取り上げたのだ。

 そう、恥じる必要なない。それは…。

「私達は知っています。お兄様がどれ程、ご自分に厳しい鍛錬を科しているのかを。

 私達を護ろうとした努力を、見苦しいなどと思いませんよ」

 深雪が穏やかな表情でそういった。

「私も思いません!!」

 ほのかがすかさず賛同する。

 流石は恋する乙女!立ち直りが早いね。

 しかも、ほのかにしては頑張って達也の手を握っている。

「大胆ですね…」

 美月が思わずといった感じでポツリと呟く。

「し~っ!いいところなんだから!」

 エリカがワザとらしく口に指を当てていったが、色々と台無しな感じだよ。

 達也と深雪のジト目がエリカに突き刺さる。

 エリカは、ナハハハなんて誤魔化し笑いで反省の色を見せない。

「いや~。ごめんね!達也君。変なリアクションしちゃって」

「その点は気にしなくていいよ。俺も少し配慮が足りなかった」

 達也は、その点はといったことから、茶化されたのは気にしろといっている

が、エリカは案の定黙殺した。

「まあまあ、お詫びに私も少し見せて上げるからさ!」

 エリカは水着の肩紐に手を掛けて、少し上げて見せた。

 美月が大慌てで止めに入ったが、勿論、本人は冗談で本気で見せる気はな

かっただろう。なのに、深雪は達也に冷たい笑顔で牽制し、ほのかは意味不明

な叫び声を上げて、達也の目を手で隠していた。

 

 いやいや。過剰反応だから。

 

 

               4

 

 そんなドタバタを経て、達也も泳いでいた。

 そんな嵐が去ったタイミングで、二人の男が帰還する。

 レオ君はいい笑顔だったが、幹比古君は何やら燃え尽きていた。

 そんな様子に美月が心配して声を掛ける。

「吉田君。大丈夫ですか!?」

 顔を伏せ気味に歩いていた為に、モロに美月の胸をガン見することになり、

幹比古君は慌てて顔を上げた。

 幸い、美月はその変化に心配そうにしただけで、胸をガン見されたことに

気付かなかったようだ。

「だ、大丈夫!ちょっと疲れただけだし!」

 胸をガン見したことを誤魔化すように、上擦った声で答える幹比古君。

「それなら、少し休憩したらどうですか?」

「う、うん!そうだね!」

 だが、ここで美月にとって悲劇が起こる。

 幹比古君が疲れていたのは、事実だったのだ。

 何しろ、体力お化けのレオ君に付き合ったんだから。

 少しふらつくくらい許される。

 そこで美月の水着を掴まなければ。

 芸術的な力加減で美月の胸がポロリする。

 幹比古君が天国を目撃するより早く反応したのは、私とエリカ。

 エリカはビーチバレーボールを蹴り、レオ君の顔面にクリーンヒット。

 私は幹比古君に物理的な蹴りを叩き込み、意識を刈り取る。

 そして、上がる美月の悲鳴。

 北山家のメイドである黒沢さんが、慌てずにどこから取り出したのかバス

タオルで美月の身体を素早く覆った。

 美月に大丈夫だからと、私とエリカの二人掛かりで宥めて、漸く落ち着か

せたのだった。

 

 それにしても、主人公でもないのにラッキースケベを発動とは。

 幹比古!恐ろしい子!

 

 そして、時を同じくして、達也と一緒に泳いでいたほのかが溺れかけ、

達也が救出したのだが、その際にどういう具合かほのかがポロリしてしまい、

救出の際に達也はバッチリ見たことは、報告しておこう。

 

 こっちは、雫がセコンドのようにほのかにアドバイスを送ることで鎮静化

した。

 

 

               5

 

 ほのかは、セコンド・雫によってチャンス!と思い直し、二人でボートに

乗っている。

 残された人達はといえば、顔面に氷嚢を乗せたレオ君。

 頬に氷嚢を当てた幹比古君。

 どんよりとした美月。

 不気味な笑顔の深雪。

 いや~。軽く惨事ですね!え?私の所為でもあるって?気にするな。

 流石のエリカも、隣の深雪に若干引き気味だよ。

 何しろ、不気味な笑みと共に、手近な場所にあるフルーツを手に取って、

シャーベットに変えまくっているしね。そして、表情を変えずに皆にそれを配って

いる始末。本当は文句をいいたいレオ君も、黙って顔を冷やしている。

「雫。悪いけど、少し疲れてしまったわ。お部屋で休ませて貰っていいかしら?」

「いいよ。気にしないで。黒沢さん」

 平常運転の雫は、黒沢さんに深雪の案内を任せる。

 そういえば、黒沢さんも私と雫を除けば平常運転だわ。

 穏やかな笑みを湛えて、平然と不気味な笑みを浮かべる深雪を案内するんだもの。

 そして、深雪と黒沢さんの背が見えなくなった瞬間、私と雫以外のメンバーが

大きく気の抜けた声を上げた。

 

 プレッシャーが半端なかったから仕様がないけど。

 

 

               6

 

 さて、一気に夜になり、夕食ですよ!

 夕食は浜辺でバーベキューです。

 いいよね!月夜の下、海辺で小波を聞きながら食べるって!

 風情があるっていうか、なんというか!

 流石は北山家だよね!いい肉だよ!

 香ばしい匂いが食欲をそそりますな!

 勿論、野菜もブランドだし!

 

 見ない振りをしても、皆の空気はどことなくぎこちない。

 その理由としては。

 

「達也さん!こっちのお肉が焼けてますよ!」

「あ、ああ」

 ほのかが攻めまくっているからだ。

 達也もその勢いに押され気味である。

 もう少し、普段のジェントルマンオーラを維持しなさいな。

 情けないな。

 

 さあ!皆も楽しもうじゃないか!

 折角の高級な食材バーベキューなんだからさ!

 

 

               7

 

 そして、定番のカードゲームが始まった頃には、どうにか雰囲気も落ち着いて

きて、皆、平常運転に戻っていった。

 私はカードゲームに参戦!していた。

 美月が弱いこと弱いこと。

 だって、もろに表情に出るんだもの。

 こうして美月最下位が何回目かの時に、雫から声が掛けられた。

「深景さん。ちょっと散歩に出ない?」

 え?私?

 正直、ビックリしたといっていい。

 九校戦でエンジニアを限定で引き受けたとはいえ、基本的にそれだけの関係で

しかなかったからだ。

 そりゃ、多少は仲良くなったとは思う。

 だけど、二人で散歩する程じゃない。

「…まあ、うん、いいよ」

 雫の目が真剣だった所為だろう。頷いたのは。

 

 どんな話されるのかね。

 

 別荘を出て、海辺を雫の後から歩く。

 星がよく見える。

「ごめん。付き合わせちゃって」

「いや、いいよ。何か話があるんでしょ?」

 雫の足が止まる。

 こちらにゆっくりと振り返り、これまたゆっくりと頷いた。

 私もゆったりと雫の言葉を待つ。

「意見を聞きたくて」

「何を?」

「深雪って、やっぱり達也さんのこと好きなの?一人の男として」

 意見というには直球な質問だね。

 そういえば、原作で直に本人に訊いてたっけ。

 で、なんで私に訊く。

「それって、本人いるんだから本人に確認したらいいんじゃない?」

 常識的には訊き辛い話なのは確かだけどさ。

「私もそれを考えた。けど、多分、深雪は本心をいわないでしょ?だから、傍で見て

きた深景さんに訊こうと思って」

 原作よりは、深雪はマシになった。

 でも、今日の反応からすると、完璧に納得はしていないのは明らかだと思う。

 そう簡単に治らないのは、心の問題なのだから、時間を掛けていくしかない。

「愛してると思うよ。家族としてね。ちょっといき過ぎてるのは確かだけど」

「本当にそう?」

 いやいや、雫の中で答えが出てるなら、私の話要らなくない?

「深雪って、深景さんのことが大好きだけど、達也さんのことは、少し深景さんと

違うように思えるよ」

「まあ、いいたいことは分かるよ。それよりもさ。気にしなきゃいけないことある

よね?」

 私の言葉に、雫が首を傾げる。可愛いな、全く。

「深雪がどう思うかなんて、関係ないってこと。本当に好きなら、愛してるなら、

そんな障害飛び越えて見せてよってこと。察するに、ほのかは今、達也に告白の最中

なんじゃない?」

 雫の目が泳ぐ。まあ、原作思い出したから、カンニングに等しいけどね。

「多分、達也は断るよ。それは、ほのかが悪い訳じゃない。ウチが面倒なドロドロを

抱え込んだ家だってことだから。寧ろ、ほのかが義妹ならいいなって思うよ。気が

早いけどさ。でも、好きじゃ、恋だけじゃ、ウチの事情の前に押し潰されるよ。

 それじゃ、弱いんだ。悪いけど、ほのかには恋がしたいなら、別の相手を探すこと

をお勧めするよ。どんなものが立ち塞がろうが、突破してやる!ってくらいじゃない

と」

 雫が目を見開いて、私を凝視している。

 まさか、私がここまで真剣に意見するとは思わなかったみたいだ。

 雫にしてみれば、軽く私に探りを入れるのが目的だったんだろうけど、それより

ヘビィな返答が返ってきてしまったという訳だ。

 個人的には、ほのかには頑張って貰いたい。

 でも、ほのかは優し過ぎる。

 押すことはできても、障害物を破壊する思い切りはない。

 それじゃ、ほのかの青春は浪費されてしまう。

 私もいくら弟の為でも、それは推奨しない。

 雫は驚きから立ち直ったようだが、今度は考え込んでしまった。

 そして、徐に顔を上げる。

「もしかして、本当の兄妹じゃない?」

 いきなりな発言に、私は思わず苦笑いしてしまった。

「いや、キチンと私達は血縁のある家族だよ。ただね。本物の家族になり損ねたんだ

と思う」

「深景さん…」

 私のしんみりとした言葉に、雫が言葉を失う。

 

 私達は仲良くなったが、どうしようもなく捩じれてしまった。

 

「まあ、ほのかにその覚悟があるなら、私は応援するし、援護もするよ?」

 私は、自分で撒いた暗い空気を吹き飛ばすつもりで、ウインクして明るくいった。

 ほのかは勿論、私は何より深雪にも楽しい人生を歩んで欲しいと思っているから。

 だから、応援するし、援護する。

 不健全な関係は、更なる捩じれを引き起こすに決まっているから。

 

 結局、話はそれ以上続かず、別荘に二人で引き返すことになった。

 

 

               8

 

 翌日です。

 あれから雫のアドバイスが再びあったのかは、私は知らない。

 だが、案の定、ほのかからの告白はあったらしい。

 わざわざ夜に報告してくれたよ。

「ある程度、俺の心の話もしたよ」

 達也は、そう平然といった。

 だから、私も持論を話した。

「達也。消されても感情っていうのは、生まれると思うよ」

 こればかりは、平行線を辿ったが、仕様がないんだろうね。

 感情を失っても、取り戻した例はある。

 少しでもほのかに対する好意があるなら、ほのかに覚悟があるなら、上手くいく

んじゃないかと私は思っている。

 魔法の枷なんて対処法なんて、いくらでもあるのは達也だって知っていることの

筈だし。最悪、力技も研究中であったりするし。

 それが主な使い道じゃないけど…。

 

 そしてビーチでは。

「達也さん!今日もボートに乗りましょう!!」

 ほのかは、いつになく気合十分な様子である。

 いつもは少女漫画風に花でも背負ってるほのかの背に、少年漫画のような炎が

見えるよ。

 もしかして…。雫、昨日の話、したのかね。やっぱり。

 雫の方を見ると、満足気だった。

 昨日の話で、更に押すとか。雫!恐ろしい子!

「ほのか。そんなにお兄様を連れ回すのもどうかと思うわよ?」

 そこでラスボスマイシスターが登場。

 若干の冷気が漏れてるよ?妹よ。

 普段なら、ここで腰砕け状態の筈なんだけど…。

「深雪!私!昨日裸見られちゃったんだよ!乙女の裸だよ!?このご時世にだよ!?

やっぱり、責任取って貰わないと!借りを返すと思って!深雪もそう思うよね!?」

 冷気もなんのそのズイズイ深雪に詰め寄る。

 ほのかの態度に驚いたのか、深雪の冷気が弱まる。

 珍しくマイシスターが勢いに押されてますな。

 そして、遂に…。

 そうたった一歩、だが一歩深雪の足は後退した。

 その隙に、ほのかが達也の腕を掴んで爆走した。

 速い…。

 他の面々が呆然とする程の速度だった。

 達也、引き摺られてたよ。身体強化、覚えたのかな?

 エリカですら茶化す暇がない程だよ。

 

「うん。恋は戦争」

 

 雫の呟きが矢鱈大きく聞こえた。

 

 

 

 

 

 




 達也の精神問題。
 というと別の話に聞こえてしまいますが、本当に
 戻らないの?と私は思っています。
 それを深景にいわせたかったというだけの回。

 そして、幹比古と美月は、この頃から接近します。

 あと二話位、短編書く予定です。

 気長にお待ち頂ければ幸いです。


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恐怖!巻き込まれる呪い!

 随分と長い時間が掛かりました。折れてません。
 今回、メインで指摘されたことを踏まえて書いて
 みました。

 それではお願いします。






               1

 

 本日の私は、楽しいバカンスを送る為に頑張った仕事の成果を届けようとして

いた。まあ、いってみれば納品だね。納品までが仕事ってね。

 なんていっても、向こうに東京まで来てもらっているんだから、納品というの

は微妙かな。

 私は待ち合わせの喫茶店に入ると、客は席に着いていた。

 相手も私が来たのに気付いた様で、軽く手を振っている。

「こっち!こっち!」

 ポニーテールが可愛い女性で、武術家らしくアクティブな恰好をしていた。

 この人は、願立流という流派の剣士で、私が九字光虎をを名乗ってからのお得

意様である。

 願立流というと実際にある流派だけど、こっちの世界では某・有名作品で、

なんたら大戦小説版に出てきた妖魔を狩る人達である。実際の流派とは関係ない。

 何せ、アニメみたいな魔法必殺技あるんだから。

「ごめんね。色々注文付けちゃって」

 今回の注文は長刀だった。断っておくと私の打った刀に問題はない。

 色々と試している人だから、偶に蟲で不死身になった人が持っている武器みたい

なのを注文してきたりと、なかなか面白い仕事をくれる人なんだよね。

「いえ。仕事ですし。まだまだ女の刀鍛冶なんて嫌って人多いですから、仕事が

あるのは有難いですよ」

 本音だよ。彼女は不快そうに眉を寄せている。

「嫌よね。女の剣士っていうのも現場に出ると、あからさまに嫌味いう奴が、

まだいるもの。時代遅れったらありゃしないわ。貴女だって腕がいいのに、勿体

ないことするわ」

 男社会の文化が根強く残っている職業は、存在している。

 私の職とか。女が打った刀なんて使えないとか、驚愕なことをいってくる奴が、

この世界にもいるんだよね。まあ、同じくらいに認めてくれる人もいるけど。

 彼女も妖魔退治に邁進する職だから、思うところは多いようだ。前世に比べれば

マシだから、私は気にしないけどね。稼げてるし。

 私は気を取り直して刀を渡す。

「こちらで確認できるところはやりましたけど、使用前に確かめて下さい。何か

あれば対処しますから」

 流石にここで試して貰う訳にはいかないからね。どっか場所借りられればいい

んだけど、どこも微妙でね。

「分かってるわ。それじゃ!」

 雑談の継続もせずに、彼女は席を立った。まあ、いつものことだ。

 彼女は忙しいしね。

 因みにお金は、動作に問題がないと確認できた段階で、入金という仕組みを

とっている。

 私も仕事が一段落したことだし、フラフラウィンドウショッピングでもと思い、

立ち上がったところで、なんか美人さんと目が合った。ただそれだけだけど。

 周りの男共も大注目だよ。

 

 でも、周りの男の目は、どうにも欲望丸出しの視線でないのが気になった。

 

 

               2

 

 刀を渡し終えた私は、宣言通りにウィンドウショッピングをしながら、フラ

フラしていると、おかしなことに気付く。

 何やら黒服の怪しい人達がウロウロしている。

 うん。怪しいよ。源田さんに通報する?

 悩んでいると、女の子が辺りを気にしながら、早足で歩いているのがみえた。

 それは喫茶店で目が合った美人さんだった。

 黒服達の動き方からすると、女の子がターゲットかな?

 うん。怪しい黒服と女の子、どっちに付くといわれれば、有名な怪盗三世も

女の子に付くね。

 面倒だから関わらないけどね。通報はしておこう。感謝はいらねぇ。飛行石さ。

 なんて馬鹿なことを考えていた罰でも当たったのか、先程の美人さんが急接近

してきたかと思えば、私を真正面から見据えた。

「貴女。それ、使える?」

 美人さんは、いきなりそんなことをいってきた。

 そりゃ、使えるでしょ。

 何をいってるのかねと思いながら、通信端末を見ると見事に通信状況に問題が

発生し、不通状態になっていた。

「あ~。使えないみたいですね…」

 美人さんは、険しい表情で私の通信端末を睨む。

 そんな顔しても復旧はしないよ。

 美人さんが止まったと見た黒服達が、一斉に包囲しつつ網を絞ってくる。

「っ!こっち!」

「は?」

 美人さんは、私の腕を掴むと建物の間の裏路地へ走っていく。

 ちょっと待て!なんで私の腕を引っ張る!?私、何も関係ないんですけど!?

 暫く、追手を撒く為に路地をランダムに曲がり、どんどん胡散臭い雰囲気の場

所へと入り込んでいく。

 追手が付いてこないのを確認し、美人さんは私に顔を向けた。

「巻き込んでごめんなさい」

 美人さんは、申し訳なさそうに謝ってくれたが、24時間のおっさんかアンタ。

 すっっごく迷惑ですわ。

「今朝から付け回されているみたいで…」

 いや、事情なんて聞いてないから。

 そして、決定的な言葉が飛び出した。

 

「私はリン=リチャードソン。大学生よ」

 これは…四葉の呪いか?転生者の呪いか?

 

 

               3

 

 朧気ながら覚えている。確か、短編か何かでちょっと出てきた子だ。

 そして、無頭竜の時期トップ(ただし、お飾りの可能性大)だ。

 私は二重の意味で後悔した。

 ぶっちゃけ私は、無頭竜など地上から消えればいいと思っている。

 更にいうなら、ぶっちゃけ怪しかろうが黒服に引き渡したい。

 そもそも確かこれ、森崎君が唯一といっていい魅せ場じゃないの?

 あの男、何やってんの?

 魔法を不発して、モノリスコードで潰されて、ここでも登場なしって。

 そりゃ、二枚目から三枚目に変えられるわ。これからは不発弾森崎と呼ぼう。

 これからは暴発に注意しないとね。

 某エッタちゃんみたいに銃口を覗き込むのかもしれない。

 うん?ということは、爆弾岩な宿六と仲間だったか!?今、気付いたわ。

「あの、大丈夫?」

 美人さんことリンが、返事をせずに考え込んでいる私を心配そうに見ている。

「ああ~。なんでもないです」

 全くもって迷惑な。これは絶対、知られたら口封じのパターンじゃないの!?

 これはサッサと送り届けて、さよならするしかないな。

 そして、逃げる。

「それよりも誰か頼れる人はいないんですか?」

 危険な情報は流石にいわないだろうけど、変なことを口走られたら更なる

面倒が発生する。

 だから、慎重に質問した。

「駅まで出れば、迎えが来ることになってるわ」

「それじゃ、そこまで行きましょう。すぐに行きましょう」

「訳アリなんだけど、付き合ってくれるの?」

 先に巻き込んだの貴女でしょうが!

 その気遣い、もっと早く発揮して欲しかったよ!

「この国には、袖振り合うも他生の縁って言葉がありまして…」

 奇しくも不発弾と同じことを、引き攣った顔でいうことになった。

「まあ…それは知ってるけど、危険よ?」

 だから!いうの遅いんですよ!!

「ああ!!もう!!ハッキリいいますけどね!もう巻き込まれてるんです!

サッサと終わらせたいんです!!OK!?」

「O、OK…」

 私の剣幕に怯み気味にリンが返事する。

 思わずいっちゃったけど、当人の素性に突っ込まなければ、まあいいでしょ。

「確かに、軽率なことをしてしまったわね。ごめんなさい。じゃあ、駅までお願

いするわ」

 リンが今気づいたとばかりに、そんなことをいった。

 

 無頭竜。アンタら人選ミスったんじゃないの?まあ、滅んでいいけどね。

 

 

               4

 

 道々、リンは言い訳がましく魔法のお守りがあるから、注目を引かない筈なん

だとか、ブツブツいっていたが黙殺した。

「もしかして…貴女、魔法師?」

 何やらブツブツいっていたが、結論が出たらしい。

「そうですが何か?」

 アッサリと認めた私を見て、リンの表情が暗くなる。

「そう。道理でお守りが効かないと思ったわ。今、付き纏ってる連中にも効いて

なかったみたいだし」

 何やら魔法師に対して、思うところがあるようだけど、関係はない。

 あの黒服に確保されようと、自分が無事なら別にいい。

 サッサと駅で引き渡して、終わりにしよう。

 なんなら、壬生パパにチクっとけばいいだろう。

 だが、次の一言で私は余計なことをいわざるを得なかった。

「魔法師って、やっぱり特別で怖いわね」

「貴女達の方が怖いですよ」

「え?」

 冷ややかな声になったのは、致し方がない。

 それ程にふざけた発言だったんだから。

「魔法師は確かに力を持っていますよ。怖いと思うのも当然なんでしょうね。

 でもね。()()()()()()()()()()()()()()使()()()()()()()()()()()()()()()

 魔法師への悪感情を煽っているのもね」

 私も前世では魔法なんて使えなかったんだから、そうしたくなるのは理解はする。

 だが、納得できるかは別問題だ。

 しかも、無頭竜は、その非魔法師の命令でソーサリーブースターなんて物を、同

じ魔法師が製造していたのだ。

 そんな連中の次期トップに、特別で怖いなんていわれたくない。

 やっぱり、引き渡してから壬生パパに通報だ。

 まあ、代わりなんて幾らでもいるだろうけど。

 そんなことを思いながらも話を続ける。

「魔法師の都市伝説、多いですよね?」

「都市伝説かは、分からないけど…」

 私が気分を害していると流石に分かっているのか、リンは気まずそうにいった。

 魔法師の都市伝説は、かなり酷い。

 曰く魔法師の秘密結社があり、非魔法師に対して人体実験や生贄に捧げている

などが一番有名だ。

 特番で如何にも魔法に詳しくなさそうな奴が作った番組を観て、達也達と唖然と

したものだ。

 錬金系の魔法で貨幣経済を破壊するだのもある。

 しかも、できないなどといわれているが、実は…みたいなのを、一般の非魔法師

の方々で信じている人がなんと多いことか。

「どこかで聞いた話ですが、都市伝説には有名になる要素が幾つかあるそうですね。

 その一つが、差別ですよ」

 都市伝説が有名になる要素を盛り込んで、誰かが意図的に悪意を持って噂をバラ

撒いているのは確実といっていい。

「…そんな」

「魔法師なんていっても、人間なんですよ。殆どの魔法師は大したことはできませ

ん。だからこそ、魔法師の間でも実践レベルの魔法が使えると勘違いする奴がいる

のは事実ですよ。でも、そんなの非魔法師の数に比べれば、ほんの一握りの存在

です。非魔法師の軍の方が、数も一定の威力を維持する戦いも得意で、強力なんで

すよ。権力だって非魔法師が握っていますしね。魔法師がいる軍でさえ、魔法師の

部隊の責任者の上に、非魔法師の上官が必ずいるんですよ?どっちが怖いですか?」

 戦略級魔法師なんて化物もいるが、あれも有形無形の行動制限が設けれている。

 うちの弟でいえば、サードアイがないと精密な照準ができない為に、迂闊に使え

ない。

 まあ、達也なら自作しそうだが、そんなものを造ろうとすれば、金の流れで足が

付く。なんせ、お偉方は達也のことを一方的に知っているんだから。

 おかしな真似をすれば、即座に殺される。魔法師を殺す術など、幾らでもあるん

だからね。

「……」

 リンが黙り込んでしまった。

 リンにしてみれば、ただの妬みとかそういった感情で軽くいった積もりだろうが、

魔法師としては、あまり愉快な感想じゃない。

「ごめんなさい。不用意な発言だったわ」

 そうそう。アンタは都市伝説を地でいく組織の人間にあるんだから、発言には気

を付けて置いてほしいね。

「こちらこそ余計なことをいいました。行きましょう」

 サッサと別れて、壬生パパにチクろう。

 私が一思いに殲滅するよりキツイだろうから。

 

 私は先頭に立って歩き出した。

 

 

               5

 

 結局は、駅に行くのは中止になった。

 先方の都合が悪くなったとかいっていたが、明らかに尾行を考慮した結果でしょ。

 何気なく背後を私の眼で確認すると、付かず離れずの距離をキープしながら

追ってくる。

 監視カメラでもリアルタイムで観てるのだろう。

 九校戦の時のお仕置きで使ったリアルタイムハッキングは、安易に使えない。

 あれをやったのが、私だと宣伝することになるかもしれない。

 何しろリアルタイムで監視しているなら、私の顔はバッチリ見られている。

 観た人間全員の記憶を消すなんて真似は、流石にやる訳にはいかない。

 ただでさえ、独立魔装大隊からは疑われているのだ。

 天狗経由で壬生パパに伝わっていれば、落ち目の無頭竜を始末するより面倒になる。

 うんざりする。

 私は不景気な顔で先頭を歩いた。後のリンがどんな顔で歩いているのかは、確認

してない。

 そんな時、背後でメールの着信音がした。私は若干、歩く速度を落として後を伺う。

「レインボーブリッジの真下に船をつけるから、そこでって」

 リンが緊張した声で、そういった。

 真下って橋から飛び降りろって意味じゃない。

 多分、公園っていうか広場のことだよね?ハリウッド映画やれって話じゃないよ

ね?その時は、一人で飛び降りて貰うけどね。

「じゃ、そこまで行きましょう」

 私は、再び足を速めて答えた。

 私は眼で追手を確認すると、リンにお守りとやらを仕舞わせた。

 逆に周りの目があった方が、強硬手段を取り辛くなるだろうから。

 そうなると表通りより、今の時間は公園経由の方が人が多い。

 という訳で、公園を散策する振りで歩いていたんだけど平和にいかなかった。

 別口によって。

「よぉ!俺達と遊ばない?当然、後にいる美人にいってるんだぜ?芋臭ぇ眼鏡女は、

どっかいっていいからよ!」

 公園の道に突如現れた(知ってたけど)世紀末救世主伝説のヒャッハー!劣化版

みたいなお友達が、大挙して道を塞いだ。

 うん。別に相手して貰いたい訳ではない。

 リンを連れて行って面倒を引き受けてくれるのも歓迎だ。

 だがしかし…。

 私は無言で十手を取り出し、無造作に失礼な男の顔面を打ち据えた。男が悲鳴と

共に鼻血を噴き出して倒れた。

 自分で自覚していることでも、他人にいわれると腹立つことってない?

「ふ、船橋君!?」

「テ、テメェ!よくも船橋…ぐへっ!」

 遅い。バカを同じく顔面打ちしてやる。

 動揺するヒャッハー!劣化版達の膝、肩、肘を流れるような動きで打ち据えていく。

 このくらい魔法抜きでも余裕ですよ。

 あっという間に有象無象が床に転がる。

 気付けば、全員が痛みを訴えて転がっていた。

「ふっ。詰まらぬものを殴ってしまった…」

「……」

 私はふっ!と十手に息を吹きかけ、クルクル回して十手を仕舞った。

 

 リンの冷たい視線を感じたが、私は気にしない。

 

 

               6

 

 雑魚キャラらしく瞬殺されたヒャッハー!達を残し、私達は先を急いだ。

 リンは漸く黙ることを覚えたようで助かる。私も特に話したいことはない。

 だが、それは長いこと続かなかった。

「ねえ。貴女って魔法師なのよね?」

 なんだ。その今更な発言。

「そうですけど?」

 私は先を急いでいたので、振り返りもせずにいった。

「さっきいったわよね?人間だって。でも、力を振るうのが、実は好きなんじゃな

いの?常人には持ち得ない力を振るいたくて仕様がないんじゃないの?」

 このアホの子どうしたらいいだろうか。

「やっぱり、自分達のことを特別だと思ってるんじゃないの?」

 私は一つ溜息を吐く。

 どうも、この犯罪組織の時期トップ様は、ヒャッハー!一党をボコったのが、

お気に召さなかったらしい。

 もう、頭カチ割って去っていいだろうか。

「一ついっておくと、さっき私は魔法は一切使ってない。更に、目的地が既に目と

鼻の先だというのにどうすんの?逃げるの?逃げたら連中はお友達を呼んで追って

くるだろうけど、そこんとこ理解してるのかな?」

「……」

「暴力反対は大いに賛成。でもね、それを避けると余計な揉め事を呼ぶことだって

あるんだよ」

「……」

 ああ、こりゃ納得してないな。

「力を振るうのが好きなんじゃないかって?貴女達は嫌いな訳?」

「え?」

 虚を突かれたと言った感じで、リンが戸惑った顔をする。

「人間の歴史なんて、新たな力やら手に入れた力を振るうことの連続だよね?そこ

に魔法師の出番って、そんなにあったっけ?」

「っ!」

 そう、魔法師は表舞台に姿を現すのは稀といっていい。

 寧ろ、力を振るっているのは非魔法師達の方だ。

 歴史は、非魔法師達の闘争の歴史といっても過言じゃない。

 大学生なら、それくらい承知しておいて貰いたいね。

「結局は魔法師だろうが、非魔法師だろうが()()ってことでしょ」

 リンが魔法師が闘争が好みだと思うなら、非魔法師だって同じだと歴史が証明し

ている訳だから、結論は両方人間ってことでいいでしょうが。

 下らない区別しないで貰いたいね。

「同じ人間…私も差別主義者と変わらないってことか…」

 理解頂けて幸いですわ。

 魔法師がヤバいって、武器持ってる非魔法師だってヤバいでしょうが。

 実力によって程度が違うなんて同じことだ。

 なら別けるなって話だ。

 顔を歪めて、リンが考え込んでいるが、新たな厄介事は既にやってきていた。

 

 精神干渉系の魔法が発動したよ。

 

 

               7

 

 私はワザとキョロキョロしていると、得意気に宇宙人を管理するエージェントみ

たいな奴等が現れた。

 雑魚と見て安心して現れたな。単純だね。

「我々は情報管理局の者だ」

 内閣府情報管理局の身分証を提示して、エージェントは静かな口調でいった。

「これ、魔法ですか?」

 ワザと挙動不審な演技を追加してやると、向こうは一瞬だが侮るような視線を私

に向けた。

「ええ。ミズ・リチャードソンの身の安全の為の処置と考えて下さい。彼女の身柄

は我々が引き受けます。あとは任せて頂きたい」

「ええ。いいですよ!」

「っ!?」

 エージェントの言葉に、アッサリと了承した私にリンが私の服を思いっ切り掴む。

 背後からふざけんなオーラが漂うが、当方では一切関知しない。健闘を祈る。

「話の分かる方で安心しましたよ。では、ミズ・リチャードソン。こちらへ」

「私は行きません」

 うん。それでは、あとはお若い方々でどうぞ。私を盾にするな。

「我儘をいわれても困りますな。おい」

 エージェントが同僚に一声掛けると、リンを私から引き剥がした。

「それじゃ、私はこれで」

「ご協力感謝します」

 私は去ろうと背を向けた瞬間、横に飛び退いた。

 それと同時に麻酔針が私がいた空間を通過する。

 私は、ゆっくりとエージェント達を振り返り溜息を吐いた。

「やっぱりね。大人しく帰してくれるなら、見て見ぬふりをしたのに」

「っ!?」

 エージェントが、袖に仕込んだ麻酔銃を構えたまま目を見開いていた。

 何驚いてるかな。

 リアルタイムに監視カメラをチェックするのは、アンタ等の専売特許じゃないん

だよ。

 監視カメラがここら一帯で録画に切り替わった段階で、諦めムードでしたわ。

「まあ、真面なやり方じゃないし、素直に帰してくれないんじゃないかと警戒した

のが当たりか」

 どう見ても、これは拉致だ。

 政府の正式な組織だろうが、まだ何もしていないリンを拘束するのは違法だ。

 まあ、次期無頭竜のトップを自分達の手駒にできれば、最高だからね。

 変に目撃者を残すのは危険だろう。

 人一人が騒いでも大したことにならないと思うかもしれないが、面白い話なら拡散

し広まったりする。侮るなかれだ。

 情報強化の銃弾じゃなく、麻酔針ということは記憶操作して忘れさせるってとこか。

 まあ、良心的な処置だ。相手が私じゃなければね。

「手荒なことをする積もりはなかったんだがな…」

「十分手荒だよ。私にしてみたらね」

 人の頭勝手に弄るのが、手荒じゃないって?アホか。

 エージェント達が、戦闘態勢に入るのが分かる。

 私も十手を再び取り出すと、無言でサイオンを流した。

 十手があっという間に魔力刃の付いた剣へと変わる。エージェント達が、私達を

包囲すべく行動した瞬間、私は手近に移動した一人に向けて、鋭い踏み込みをする。

「っ!!」

 所謂、無拍子。

 相手からしたら突然、私が目の前に現れたように感じただろう。

 だが、これは魔法ではない。

 立派な武術の技術だ。逆に新鮮に映るかな。

 頭部に剣が振り下ろされる。

 鈍い音と共にエージェントの一人が崩れ落ちる。

 一応、殺さない。斬るのではなく殴る為の刃だ。

 まあ、峰打ちみたいなもんだよ。

 連携を補おうと他の連中が動くが、上手くカバーさせる積もりは毛頭ない。

 カバーに動いた一人を流れるように下から斬り上げる。

 倒れるのを確認することなく、魔法の照準を外す為に動き続け、拳銃で撃たれない

為に相対する相手を盾として斬る。

 一瞬の躊躇を狙い又斬る。一対多は散々やった。

 今は息をするように、これらのことができる。

 最早、団体の利は失われてエージェントの動きは、精彩を欠いていた。

 個人の技量は大したことないな。

 私は容赦なく全員を昏倒させた。

「……」

 戦闘が終わり、振り返るとリンが呆然としていた。

 使用した魔法は剣を作成したのみ。

 どこまでリンが理解して呆然としていたか知らないが、あまり見る機会がない戦い

なのは事実だろう。

「船が来たみたいですよ」

「え?」

 丁度いいタイミングで、クルーザーが一隻接岸したので、教えてやった。

 これまた怪しい黒服がゾロゾロ出てきて、リンに礼をした。 

「有難う。ここまでで大丈夫だから。それと貴女の名前を…」

 

 リンが振り返った時には、私は離脱を完遂していたのだ。

 

 

               8

 

 リン視点

 

 私がこの国に来たのは、心の整理としかいいようがない。

 別にこの国に恨みは、特にない。

 父親が死んだ原因となった国であったとしても。父とは名ばかりで関係は薄い

ものだった。

 孫公明。

 犯罪組織のトップだった男。それが私の父だった。

 母は、その男の情婦だった。小さい時には分からなかったけど、今は流石に理解

している。

 その男が急に死んだ。

 それだけなら、大した感慨もなく知らせを受けただけで済んだだろうが、事態は

思わぬ方向へ進んだ。後継者として私が指名されたのだ。

 勿論、傀儡のお飾りだ。

 拒否をするには、私は汚い金で育ち過ぎていた。

 母の賛成もあり、今までの金銭の恩やら伝手の使用で断る権利は私にはなかった。

 だが、大人しくいいなりになるのも癪に障る。

 そこで父を破滅させた日本を、この眼で見るという無茶な要求をした。

 そこで何か私の中で、なんらかの感情が湧き上がるのではと期待した。

 だが、なんの感情も湧いてこなかった。

 さて、日本に来た意味はほぼなかったがどうするか。

 そんなことを考えながら歩いていた時、私は尾行者の存在に気付いた。

 何者かが私を監視していると。

 喫茶店に入って様子を見た限り間違いない。

 気に入らないが、私を巻き込んだ人達に連絡をしようとしたが、通信端末が使えない

ようになっていた。

 それで焦ったのが失敗だった。

 女の子を巻き込んでしまったのだ。その子は相当不満そうだった。

 それで済んでいるのが異常なことだと最初気付かなかった。

 その子は暴力を全く厭わなかった。

 だから、かなり頭に血が上った私は、かなり酷いことをいった。

 それで逆に私の内面を見せ付けられた。

 

 魔法師への偏見。

 

 確かに、私は魔法師にあまりいい印象はなかった。

 それでも自分は冷静に評価できていると思い込んでいた。

 思い返してみれば、父が魔法師であり、犯罪組織の人間だった関係で、私は意識的に

魔法師を避けていた。

 だから聞く評価が偏るのは当然のことだったのだ。

 気付かずに毒されていたのだ。

 あの子の言葉は、それを浮き彫りにした。

 不愉快に感じただろうに、なんだかんだいってキチンと送ってくれたことに驚いた。

 私を売ろうとしていたけど、結果は無事だったのだから何もいうまい。

 私もあの子から見たら、いけ好かない人間だったろうし。

 お礼をいおうとしたけど、その前に彼女は逃げるように去っていた。

 私は呆然とその背を見送り、思わず笑ってしまった。

「追いますか?」

 そう組織の人間が私に訊いてきたけど、私の答えはNOだ。

 これ以上、あの子の嫌そうな顔をさせるのは悪い。

 私は、男達に囲まれてクルーザーに乗り込むと、一人の老人が出迎えた。

 私の教育係であり元組織の重鎮だ。

「メイリン様。ご無事で何よりでございました」

 笑顔もなく、老人は感情の籠らぬ声でそういった。

「ええ、なんとか」

 実際、私が助かったのは情報管理局のやり口のお陰で、あの子の意志ではない。

 あのまま情報管理局が、あの子を見送っていたなら、私は今頃どうなっていたか

分からない。だからこその答えだ。

「お一人で出歩かれることが、どういうことか。お分かりになられたかと思います。

 以後、このようなことのないよう、お気を付けください」

「私に指図するのですか?」

「いえ。諫言です。これも私の務めですので、ご容赦下さい」

 老人のいいようにムッとしていい返したが、アッサリと受け流されてしまった。

 まだまだ小娘では、この老人の表情筋を動かすことはできないようだ。

「先程の小娘といい、日本政府といい無礼ですな。相応の報復をせねば軽く見られ

ましょう」

「不要です」

「しかし…」

 私は老人が何かいう前に遮るように口を開く。

「確かに無礼でしょう。日本政府は。ですが、あの子は私が巻き込んでしまったこ

とで迷惑を掛けてしまった。報復はお門違いでしょう。日本に関しては私の迂闊な

行動をしたことと相殺ということにして置きます。よき勉強になりましたから。

 それでも今後は日本には干渉せずに活動します。関わり合いになって愉快な相手

でもありません。この決定に不服なら、私をカリフォルニアに送り返せばよいで

しょう」

 私は一気にそれだけいった。

 あの子は関わって欲しくなさそうだし、これで詫びになるでしょう。

 あの子の暮らしもこれで脅かされることはない筈だ。おそらくは。

「全て、お心のままに」

 老人は深く礼をして、顔を確認することはできなかった。

 

 非魔法師の私が魔法師を管理する。

 奇しくも彼女が怖いといったものに私はなる。

 

 

               9

 

 サッサとトンズラして、監視カメラのほんの一瞬のカメラの映像の切れ目を利用

して、空間凍結を掛ける。

 監視カメラは、情報管理局が定時連絡をしない時点で解除されているだろうから、

こっからは気にしないといけない。

 サイオンセンサーに引っ掛かるようなヘマはしない。

 凍り付いた空間を、悠々と歩いて見晴らしのよい場所へと向かう。

 そして一体型のCADをクルーザーに向ける。

 あとは空間凍結を解除し、魔法を放つ。

 それでお仕舞い。

「……チッ!」

 私は、凍結を解除することなく舌打ちするとCADを下した。

 リンは、まだ何もしていない。

 私の知る限り、リンがこちらに被害を与えた記述は原作にない。

 私は、ただ空間凍結を解除すると、センサーを掻い潜りその場から立ち去った。

 これから、この選択を後悔する時がくるかもしれないが今は考えたくない。

 宣言通り壬生パパにチクっといたが、リン達がどうなったか知らないし、調べて

ない。

 

 ただ、無頭竜のトップが変わったという話は、噂として聞こえてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 今までの方が読み易いでしょうか?
 そうだったら次回から戻します。
(少しできる限り修正しました)
 次回で短編は取り敢えず終了する予定です。
 選挙ですね。これはやらねば。

 次回も時間が掛かるかと思いますが、お付き合い
 頂ければ幸いです。






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会長選挙は厄災の元

 すみません。調整前に誤って投稿してしまいました。
 時間が掛かりましたが、まだ折れていませんよ。

 では、お願いします。


 


               1

 

 その騒動が起きたのは、良いことと悪いことが起きてプラスマイナスゼロの

夏休みが終わった後のだった。

 

 私は雑用という名のパシリをやる為に生徒会室に向かっていた。

 そして、扉を開けるとすぐに碇ゲンドウポーズを取った閣下が見えた。

 思わず回れ右したくなった。

「深景さん。緊急事態よ」

 パシリの私にはどうしようもないと思うけど。

「使徒でも来襲したんですか?」

 だとすれば、私は変態中学生(病室での一件での評価)ではないので出撃は

できない。

「伝説に語られる存在が現れたという程ではありませんが、正真正銘の緊急事

態です」

 市原さんは、私のネタが分からなかったのかサラッと流し補足するように

いった。

「実はね…。あーちゃんが………生徒会長選に出ないっていっているの」

 なんだ。そんなことか。

 そういえば、原作でもゴネてたな。

 でも、今回オタを釣り上げる餌は色々ある買収は楽な仕事だろう。

「それなら説得すればいいのでは?」

「ことはそう単純な話ではなくなってしまったのよ…」

 相変わらず碇ゲンドウポーズを崩さずに閣下が宣う。

 そして、厳かにデスクの上に書類を三枚並べた。

「見ていいんですか?」

 私の問いに閣下は無言で頷いた。ああ、そう。

 正直、見たいとは思わないが状況把握は必要だろう。

 私は緩慢な動作で三枚を回収して素早く視線を走らせた。

 

 なんだこりゃ。

 

 それが書類を見た私の正直な感想だった。

 書類には、こう書かれていた。

 

 生徒会選挙の選挙の在り方について

 

 内容は選挙とは名ばかりの現状は出来レースであり、公平な選挙とは程遠い。

 今回、立候補者がいない以上、自由な選挙を取り戻すいい機会ではないか。

 そんな内容が、ツラツラと紙一枚丸々書いてあった。

 要約すれば二行も要らない。

 三枚別人が示し合せたかのように、ほぼ同じ内容だった。

 確か、原作でこんな展開はなかった筈だ。とすれば…呪いか。

 

「カンゾー…もとい服部さんはどうなんです?」

 一応、念のためカンゾー君の選択を訊いてみる。

「ハンゾー君はね。部活連の次期会頭に推されてるのよ。本人もそれを了承し

てる」

 閣下が眉間に皺を寄せて苦悩に満ちた声でいった。ですよね。

 部活連の会頭候補を生徒会で無理に強奪は、今までいい関係にあった部活連

との間に罅を入れかねない。閣下でもそりゃできないよね。

「ああ、深景さんには分からないわよね。この状況」

 いや、既に思い出してますけどもね。

 難しい表情で書類を読んだ私を見て、何が悪いのかが分からないのだろうと

思ったようだ。

 でも、原作ではこの段階よりもっと前に話題になっていたから、選挙なんて

すっかり忘れていたよ。そういえば、あったよね。

「当校の生徒会長は大きな権限を有しています。卒業後も評価されます。四年

前に、この書類のような提案が生徒会内であり、実行したことがありますが、

重傷者が二桁を叩き出した段階で当時の生徒会は強引に収束を図り鎮圧しまし

た」

 え?鎮圧したの?更に怪我人増えたんじゃないの?それ。

「それ以来ね、選挙はタブーなのよ。順当にいけばあーちゃんが首席で生徒会

役員だから彼女を指名して終わりなんだけど…」

 ゲンドウポーズのまま溜息を吐く閣下。

「しかも、この三人が問題です」

 市原さんが深刻な声でいった。ああ、そうだね。

 

 慶滋康臣 一科生 二年。

 川路秋生 一科生 二年。

 那由多花咲里 一科生 二年。

 

 各々実力はあれど、九校戦や論文コンペに色々と問題が有り過ぎて出れない

猛者で、風紀委員がマークしているヤバい人達である。

 生徒会長目指せるだけの情報収集能力と厄介な能力を備えている訳だ。

 生徒会役員から漏れたとは考え辛いから、何かしらの手段を持っているんだ

ろう。

 よくもまあ、こんな人等野放しにしてるよね。

 マークするだけでいいのかね。

「恐らく間もなく生徒会の次期会長の指名が困難である状況を暴露し、公平な

選挙に強引に持ち込む算段ではないかと。厄介なことに川路君は七草会長のや

り方には批判的ですし、慶滋君も自身の研究を邪魔された逆恨みをしています。

 天然の那由多さんはどう動くか予想が立てられません」

 わー、素晴らしい。

「まずは、簡単に動けないように十文字君に圧力を掛けて貰ってるけど…」

 閣下の言葉が終わるより前に通信端末が鳴る。

 嫌な予感がしますよ、これは。

 閣下も同じ予感を抱いているのか、顔を顰めて通信端末に手を伸ばした。

「はい。七草です。……分かりました…」

 閣下は天を仰いて通信を切った。

「どうしました?」

 市原さんが閣下に鋭く問う。

「一歩遅かったみたい。今、千代田さんと川路君が衝突寸前みたい…」

 

 こうして、平和は長続きしない。

 

 

               2

 

 何故か私までドナドナと連行されて現場に向かう。

 パシリの仕事の範疇外だよ、全く。

 到着すると既に場はアツアツだった。

「俺は別に生徒会長選の活動をしている訳じゃない。公平に選挙をやろうと呼

び掛けているだけだ。何が問題だ?」

「だから!届け出もなしに演説されても困るっていってるのよ!生徒会の承認

がいるのよ!手続きくらい踏んでよっていってるの!」

 キャノン先輩と目付きの悪いスポーツ小僧みたいな奴が揉めていた。

「あの男子生徒が川路君ですよ」

 市原さんがコソッと私に教えてくれた。

 達也が何人か要注意人物がいるってことで教えて貰ってたけど、顔を見るの

は初めてだよ。甲子園でも目指してるといい。

「川路君。届け出を出してくれれば許可は出しますよ。私は独裁者ではありま

せんから」

 私と市原さんが話している間に、閣下が火中の栗を拾いにいっていた。

 それにしてもぬりかべに圧力云々のお言葉の後だと怪しい発言ですわ。

「会長!」

 気まずそうにキャノン先輩が声を上げる。

 本当なら閣下の手を煩わせる積りじゃなかったんだろうな。

 川路さんが不敵な笑みを浮かべて、キャノン先輩を押し退けるように閣下の

前に立つ。

「そうでしたか。では、私の意見も汲んで貰えるのですかね?」

「検討しますよ」

「ハッ!どこぞの政治家のようですね!」

 よくも七草家の令嬢にあんな態度取れるな。馬鹿なのか大物なのか。

 その大馬鹿(合体させた)が私をチラッと見ると鼻で嗤った。

 ああ、そういう人でもあるのね。

「今に至るも次の会長が指名されない理由は、中条が拒否したからだそうです

ね?」

「あら、よくご存じね。どこから聞いたのかしら」

「風の噂というヤツですよ」

 大した風もあったもんだよね。なんか二人で腹黒く笑っているし。

 だが、それをブチ壊す空気の読めない大声が聞こえて二人の黒い笑みが消え

た。

 

「皆さん!本来の高校生活とはもっと自由に活動が許されていい筈ではありま

せんか!それにも関わらず!現生徒会は我々の活動を妨害する始末です!こん

な生徒会で本当にいいんですか!?」

 

 何やらオタク臭がする男子が、これまたオタク臭の強い面々を引き連れて演

説をブチかましていた。

 因みにあのオタクが慶滋康臣先輩らしい。嘘かホントか慶滋保胤の子孫なん

だとか。

「ちっ!あのオタク野郎!」

 大馬鹿が舌打ちして悪態を吐く。

 そりゃ、見事に囮に使われればそうなるよね。

 

「生徒会は次の会長を擁立できずにいます!今こそ!本来の生徒会選挙を取り

戻そうじゃありませんか!」

 

 本来ならば失笑ものの言い分だ。

 だって活動妨害って、達也の話だと怪しい呪術を実用レベルに引き上げる研

究をしていたらしいし。

 なのに、誰もそれに突っ込むことなく聞いている。

 それどころか、駆け付けてきた別の風紀委員も止める気配がない。

 不審に思って観てみると、足元に陣が形成されていた。

 

 おいおい。

 よく観てみると恐らくアレは見る人間が信じている生徒が見えるようになっ

てるよ。

 効果範囲はそれ程じゃないみたいだけど、これアウトじゃないの?

 

「あら?これ、いけないんじゃないかしら?」

 

 気が抜けるような声と同時に陣が消える。

 

 陣が機能を失い効果が切れると、風紀委員達が取り押さえるべく動き出した。

 同じ一科生にいいようにしてやられて頭にきたのか結構乱暴だ。

「那由多家の十八番の反唱だね」

 後からゆっくりと重役出勤をかました我が家族のお出ましだった。

 いうまでもなく、解説したのは達也だ。

「全く、魔法式が見える訳でもないのに、よくサッと妨害の魔法式を組めるも

んだね」

 これが私。

 そう、反唱はどのような魔法が使われたかをサイオンから演算して、発動よ

り早くジャミングできる魔法式を組んで放つ魔法だ。ある意味、観える私達よ

り凄い。

 その代わり負担が大きいし、演算容量の確保に四苦八苦しているらしいけど。

 もしかして、その所為で天然なのかも…なんて。

「完全に逆のベクトルで相殺する訳じゃないから不可能じゃないけど、凄いの

はその通りだね」

 深雪は私達の話をニコニコと聞いているだけだ。

 修羅場が展開された現場で似つかわしくない態度のような…。

「こんの!野郎共!!俺を揃って囮に使いやがって!!」

 大馬鹿が、いつの間にか取り出した銃剣型のCADを持って銃剣突撃を敢行

していた。

「あっ!待ちなさい!」

 閣下が辛うじて制止の声を上げるも当然無視して走り出す。自己加速か。

 九校戦に選ばれても本来おかしくない実力が、今無駄に発揮された。

 素行面で選ばれないだけらしいから、速い速い。

 突然に起きた事態に閣下もキャノン先輩も対応が遅れ、銃剣突撃を許してし

まった。

「部長に続け!!」

「「「おう!!」」」

 取巻きも続けて突撃。

 咄嗟に閣下達が、魔法を使い乱戦を回避したお陰で実現したバカげた事態と

いえる。

「お姉さまに何するの!?野蛮な男共を排除するわよ!!」

「「「はい!!」」」

 これもいつの間にか現れた女生徒集団が、当の本人である那由多さんを追い

越し突撃。

 那由多さんは、リアルお姉さまなんだそうで()()()()()()から熱狂的な支持が

あるんだそうだ。噂によるとガチらしい。

「あらあら、元気一杯ね」

 当の那由多さんは、頬い手を当てて苦笑い。いや、止めろよ。

 私?友達や知り合いが巻き込まれてないんだからいいんじゃない?

 この人の問題は、大体熱狂的妹達の暴走で周囲に被害を撒き散らすからだそ

うです。

 そして、慶滋さんを挟んで両陣が激突する。

「バ、バカ!よせ!!」

 慶滋陣営もこれでは応戦を避けられず、三つ巴で乱戦が起こった。

 これは、実力で鎮圧した以前の生徒会正しいわ。

「止めなさい!!」

 閣下の声すら既に届かない様子に、私は閣下の肩にポンと叩いた。

「何!?」

「暫くすれば落ち着きますよ。そっとしておきましょう」

「できる訳ないでしょ!?リンちゃん!!あーちゃんを連れてきて!!梓弓の

使用を許可します!!」

 

 そして、引き摺られるようにして現場に現れたオタは、梓弓で戦乱を収めた

のだった。

 

 いや、三勢力が疲弊した瞬間に風紀委員で潰せばいいんじゃないの?

 被害の弁償は当然奴等持ちですがね。

 

 

 

               3

 

 どうにか諸々の問題を片付けて私達は帰宅することになった。

 連中の怪我は大したことなく済んだ。チッ!

 そんな中、私達を待っていてくれたいつもの面子は有難い。

 という訳で喫茶店アイネブリーゼで感謝の気持ちを現金で表す私達。

 あんまりよくない付き合い方のような気もしないでもないけど、いい子達だ

から変な勘違いはしないでしょ。

「へぇ。道理で校内が騒がしかった訳よね」

 エリカがカフェオレを啜りながらいった。

 帰宅が遅れた理由を説明できる範囲でした感想がこれです。

 戦乱!状態だったのに。

「それにしても、中条ってあのちっこい先輩だろ?なんか頼りねぇな」

 これはレオ君。直球な意見だね。

「でも実力はピカイチ」

 雫がボソッといったけど、頼りないのは否定しないんだ。

「本人やりたくないっていってるんでしょ?だったら深雪がやったら?」

 最早、オタが立候補していないことは、あの三人のお陰で知れ渡っているよ

うだ。

「無茶なこといわないで。私じゃまだ務まらないわ」

 深雪が困ったようにいった。

「でもさ、そうなったら達也君は勿論、深景も補佐するだろうし問題ないん

じゃない?」

 エリカもサラッと私を巻き込んでいた。除外しろ、私は。

「七草会長は、役員の条件から一科生のみを除外する積もりのようですしね!」

 美月が嬉しそうにエリカの意見に賛成してくる。

「そうだね!いっそ達也君か深景がなったら?」

 それはないわ。

 これには深雪は大賛成のようで、もう一票入れるとはしゃいでいるし、ほの

かまで対抗するように一票入れると騒いでいた。

 ほのかが入れるのは達也の方だけどね。

 まあでも、そんなこと関係なくさ。これ、フラグなんじゃないの?

 

 達也と私は確かに頭痛を感じた。

 

 

 

               4

 

 あれから一週間程経った頃のことだ。

 朝、登校してくると学校内は緊張感に包まれていた。

「これは、あの三人の影響かな?」

「だろうね。本来なら今日が公示日だったのに、その前から騒ぎ出して生徒会

が出馬する人間を用意していないことが公になってしまったからね」

「会長のお話ですと、例年は生徒会の役員がそのまま繰り上がって終わりの選

挙だそうですし。どうなるか分からない選挙になるとなると、上級生の先輩方

も未経験でしょうから…」

 どうやら過去の戦国時代ばりの選挙の話を聞いたんだろう。

 深雪が微妙な表情で感想をいった。

 達也と私は早くも始まっている騒ぎを思い出し、げんなりとした。

 司波一家でそんなことを話しながら校門を潜った。

 

「おはよう。二人共」

 幹比古君が朝の挨拶をしてくれる。

 私と達也もそれに応える。

「…あのさ。変なこと訊くけど」

「じゃあ、却下で」

「……」

 幹比古君の思い切って訊いてみたみたいな空気を一刀両断する私。

 冗談だよ!アミーゴ!

「姉さんの冗談だ、幹比古。で?なんだ?」

 達也が憐れと思ったのかフォローを入れる。

「ああ…うん。二人が生徒会選挙に立候補するって本当?」

 はぁ?何、そのガセネタ。

「どういうことだ?」

 絶句する私の代わりに達也が口を開いた。

 特に怖いオーラを発した訳でもないのに幹比古君が怯む。

「いや、そういう噂が流れてて…」

 もしや、アミーゴ。お前まさか!!

「いや!僕じゃないよ!?実習の時に廿楽先生に訊かれたんだ。司波姉弟も選

挙に出るのかいって」

 ああ。あの研究馬鹿教師か。

「何故そんなデマが流れているんだ?」

「やっぱりデマなんだ」

 思った通りだみたいな顔で幹比古君が頷く。なら訊くなよ。

「立候補したところで俺や姉さんに票は集まらない。先生方の間で何故そんな

デマが流れたんだ?」

 幹比古君の返答は知らない、だ。まあ、そうだよね。

「いや、そんなことねぇんじゃねぇか?先輩とかも噂してっけど好意的だぜ?」

 レオ君もこの話題に参戦してきた。

 レオ君的には褒めてるんだろうけどね。嬉しくありません。

 そこからエリカや美月も噂を聞いたと話題に乗っかってきた。

 だが、重要なのは美月の証言です。

 

「カウンセリングの時に、そんなことを聞いた気がしますよ?」

 合法ロリ巨乳ギルティ。

 

 

 

               5

 

 その後、達也に合法ロリ巨乳を締め上げて貰って事情が明らかになりました。

 どうやら私達姉弟の活躍が、先生の間で話題になっていたというのが理由ら

しい。

 質が悪いことに誰も真偽を確認に来ないで噂だけしてるってこと。

 こっちから出ないよ!っていうのもなんだしね…。自意識過剰みたいでしょ?

 でも、常識で判断しようか?

 そんなことを考えていると、閣下が堂々と二科生の教室に踏み込んできた。

 辺りが騒めく。

 皆、遂に!とか本当だったんだ!?とか言い合っている。

 断言しよう!違うと!

「深景さん、達也君!ちょっと時間あるかな?大丈夫!生徒会の用事ってこと

で手続きしておくから!」

 拒否権ないんですよね?分かります。

 閣下は私達の返答すら聞かずに、私達の机で素早く手続きを済ませた。

 

 連行先はいわずと知れた生徒会室だった。

 

 

 

               6

 

 私は遂に来たか、という気分だった。

 どういう展開かは大体思い出している。

 思い出していなくても用件が察しがつく。

「授業を休ませてしまって申し訳ありません。しかし、猶予があまりないもの

で」

 市原さんが厳粛な声でまず口火を切る。

 私と達也も気にしてないとアピールする。それしかないし。

「よかったわ!」

 一方閣下はワザとらしいったらない。

「実はね!選挙のことなんだけど…」

「深雪には、まだ早いです」

「ダメです」

 私達は同時に否定の言葉を先んじて放った。

 二人からの砲火に閣下の顔が引き攣る。

「いえね。ちゃんと補佐は付けるし、一年生で生徒会長っていうのも…」

「深雪にはまだ成長が必要ですよ。まあ、私達が世話を焼き過ぎてるのもあり

ますけど、せめて魔法を暴走させることがなくなるまではダメですね」

 生徒会は今の閣下でさえヤジが飛ぶ。深雪ならばネタは私と達也だろう。そ

の時に生徒全員氷の彫刻になるなんて洒落で笑えない。

「中学の頃に生徒会長を経験しなかったんですか?」

 市原さんが若干意外そうに訊いてくる。

「俺が止めました。今より深雪は自分をコントロールできていませんでしたか

ら」

 達也の言葉に閣下達が黙る。

「それにしても困ったわね。明日には公示だから。立候補者なしは不味いのよ」

 まあ、分かるけどもね。

 達也も実際にあの乱闘騒ぎを見ているから、微妙な表情になる。

「だからお願い!!深雪さんを出させて!!二人から見てまだダメでも、地位

が人を育てることだってあるじゃない!?」

「いや、普通にオタ…中条先輩を説得すればいいんじゃないですか」

 あまりの必死ぶりに思わず呆れた声が出てしまった。

「あーちゃんは、あの騒ぎで益々及び腰になっちゃってね!生徒会室にも近付

かない有様で説得どころじゃないのよ!」

 いつも強引な癖になんでそこでヘタレるの。オタに甘過ぎない?

 でも、カリオストロ城の最終決戦みたいな乱闘はオタには怖いか。

「なんだったら、私があの三人を暫く休ませるか…」

 新聞紙被って明日の予告をやってやるかな。

「それだけは止めて!!こっちの不正が疑われるどころか、確定するから!!」

 おっと、声に出ていたようだ。最後に一つ。

「バレないようにやりますけど?」

「ダメに決まってるでしょ!!」

 隣の達也から呆れた視線を向けられているが、半ば本気だったりする。

 風邪をひかせるくらいの呪いなら、今の状態でも余裕ですけどね。

「兎に角、説得すればいいんですよね?なら、俺に任せて貰えますか?勿論、

穏便にやりますよ」

 穏便にの部分で私を見るマイブラザー。お姉さん悲しいよ。

「本当にできるの?」

 達也が力強く頷く。

「やっぱりいざという時に頼りになるわね!達也君は!」

 おいおい。

 

 まあ、説得材料はあるけど、トラブルにはどう対処するの?

 

 

               7

 

 生徒会室に来ない小動物系オタを捕獲すべく私と達也は動き出した。

 上級生でブルームのいる教室に私達は躊躇なく踏み込んでいく。

 閣下のことをとやかくいえない。

 達也の貫禄と私の怪しいオーラで誰も声を掛けてこない。

 オタを守ろうと動いた上級生に笑顔を向けるだけで、何故か怯んで声が上が

らない。

 話が分かる人達で助かるなぁ。

「中条先輩」

 ロックオンされているオタは、逃げることもできずに私達を迎えることと

なった。

「少しだけ時間を頂けますか?」

 勿論、拒否権は認めていない。にっこり。

 逃がさんぞ。

「な、なんですか…」

 怯えた声でオタがそれだけは口にした。

「少し相談したいことがあるってだけですよ~」

 私のスマイルゼロ円を受けて、顔が引き攣るオタ。

「あ、あの私、今日は…」

「少し相談したいことがあるってだけですよ~」

「あの…」

「少し相談したいことがあるってだけですよ~」

「分かりました…」

 私の笑顔の魅力の勝利とでもいおうか、オタは諦めたように承知してくれた。

 

 被疑者が連行されるように連れ出したのだった。後悔はしていない。

 

 

 

               8

 

 カフェの片隅で邪魔にならないように陣取り説得開始です。

「単刀直入に用件をいいます。生徒会選挙に立候補して下さい」

 達也は文字通りド直球で用件を告げた。

 予想はしていただろうにオタがビクッと反応する。

「私には…そんな大役務まりません」

 泣きそうな顔でいうオタ。

「それでも貴女しかいないんですよ。服部先輩は部活連の新会頭ですし。それ

に歴代最高の生徒会長になって下さいっていってる訳じゃないんですよ、私達

は」

 オタが恐る恐る私の顔を見る。

「上に立つ人には二種類あるって聞いたことがあります。一つは単純に凄い人。

今の七草先輩みたいな人ですね。もう一つは、足りないところを助けて上げた

くなる人です。 私は先輩は後者の人だと思っています。別にいいじゃないで

すか。失敗したって。周りが支えてくれれば乗り切れますよ。自分を信じられ

ないなら、支えてくれる人を信じてみたらどうです?」

 これは本当に思うことだ。

 セリフ自体は慣れ親しんだ趣味の産物だが、このオタは原作でもキチンと生

徒会長を務めていた。能力的にも悲観するものではない。

 オタは何やらポカンとした顔で私を見ていた。

 ついでに達也も意外そうに私を見ている。

「何?」

「いや、深景さんがそんなこというのが意外で…」

 オタが思わずといった感じでポロっと本音を漏らす。

 説得する時くらいふざけずにやるよ、失礼な。多分…きっと。

「それじゃあ、深景さんも支えてくれるんですか?」

 私の顔が若干引き攣ったのはご愛敬といったところだ。

「まあ、お茶なら淹れられますよ」

 オタがクスッと笑うが、すぐに表情が曇る。

「でも、なりたい人が多いですよね…」

 例の乱闘三集団は、実質選挙から弾かれたと見ていい。

 あれだけ派手にやったんだから、そりゃそうだよね。

 問題は腹いせに何かやる懸念だろう。

 それに閣下の二科生の制限解除に反対する勢力。

「それに関しては暫く姉がガードしますよ」

 おおい!!初耳なんですけど!?

「それに生徒会長になった時に、俺達から就任祝いを差し上げようかと思って

います」

 遂に切り札を切るのか。

「実はFLTには伝手がありまして、モニターとしてCADが安く手に入るん

ですよ。今度、発売される飛行デバイス。一機お譲りし…」

「やります!!なります!!深景さんが護衛してくれるなら安心ですし!!」

 堕ちんの早過ぎるでしょ。

 

 やっぱり、オタクの原動力はグッズだと再確認した。 

 

 

 

               9

 

 三集団自滅により、九月に入っても選挙戦に熱はない。

 生徒会が時期生徒会長を擁立した以上、外野に勝ち目はないからね。

 殺気を放つ閣下と無言の圧力のぬりかべ。

 完全に喧嘩を売る方が馬鹿ですよ。

 それでも懲りずにやる奴は原作と違っているだろうと思って警戒していたが、

予想に反して穏やかな日々を送っていた。

 オタのガードはただいるだけ状態だけど、それはいい。楽だし。

 そして、放課後にはオタと共に生徒会室へ。

()()()()()あーちゃん一人だからね。信任投票前の立会演説では盛り上がる

と思うわよ」

 全く残念そうにしていない閣下が、にこやかにそういった。

 あれだけおかしな真似するなよ?な?みたいな空気を醸成しておいてよくい

うな。

 オタはといえば、念仏を唱える僧侶の如く演説原稿を読経していた。

 悟りでも開く気か。

 因みにオタには祝いの品は渡し済みだ。

 オタクは興味の対象に対しては三倍の誠実さを発揮するのだ。嘘だけど。

「それ以上に盛り上がるのは生徒総会になるのでは?」

「まあ、真由美がかねてからやり遂げたかったことだからな」

 達也と今まで黙っていた渡辺お姉さまがいった。

「私の最後の仕事としてやり切る積もりよ」

 閣下は微笑みながらも力強い眼で宣言する。

「生徒会選挙の暴走がありましたし、今回も何かあるのではないのですか?」

 深雪が懸念を表明するが、お姉さまが笑って否定する。

「いや、ないだろう。いくらあの三人といえど、この女と十文字を正面切って

敵に回す程無謀じゃないだろう」

 散々圧力掛けて、大人しくなったからね。

 でも、これまで何かしらあったからな…。油断は禁物なんだよね。

「まあ、気を付けるべきだと思いますよ?あの三人をはじめ生徒会長の座を諦

めた人は多いでしょうけど、せめて一矢報いる気でいる人もいるんじゃないで

すか?」

「急にどうしたんだ?」

 お姉さまよ。なんですか?その変な物でも食べたのか?みたいな口調。

「水面下で会長の提案を潰すべく、活動してるのは知ってますよね?」

 逆にいえば、正面からでなければ喧嘩は売れるからね。

 閣下もぬりかべも基本はルールを守る人だからね。

「何か掴んでいるのか?」

 お姉さまが真剣な表情で私に訊く。

「いえ。ただ平和に終了することは期待してませんね。今までの流れからいっ

て」

 私の言葉に全員が苦虫を嚙み潰したような顔で黙り込んだ。

 

 嫌な予想程、世の中は的中するように出来てるからね。

 

 

 

               10

 

「司波!」

 教室に戻ろうとした私達を渡辺お姉さまが呼び止めてきた。

 お姉さまは私達姉弟が一緒の時は苗字で呼ぶ。余談ですけどね。

「少し頼みたいことがあるんだが、風紀委員の本部まで来てくれないか?」

 おおう!私は既にオタの警護があるんだが?

 まあ、こっちは達也と深雪に任せますよ。

 付いてきますけどね。

 

 達也の教育を受けた風紀委員本部はキレイになっていた。

 まあ、汚い時の本部は見てないけども。

「君達のことだから、用件は察しがついているだろうな」

 勿論ですとも!厄介事ですよね?

「相談したいのは真由美のことだ。実力的に襲われたとしても返り討ちにでき

るとは思うが、万が一がある」

「二科生の制限の解除、ですね?」

 お姉さまの言葉に達也がすぐさま答える。

「ああ。深景君のいうように何かしらやってくるのではと警戒しているんだ」

「まあ、十分有り得ることでしょうね」

「アイツのことだ。こっちの護衛なんて笑って断るだろう。だから、君等で真

由美を警護してやってくれないか?」

 案の定というヤツである。

 影分身を使えば可能だけど、そんなこと学校でやろうとはまだ思えない。

 ここはやっぱり達也達に活躍して貰うしかないな。

 だが、私が口を開いて達也達に押し付ける前に深雪が口を開いた。

「兄ならば問題ありません。お任せ下さい」

 流石はマイシスター。私の手が塞がっていると理解しているか。

「そうだな。深景君は中条のガードをしているしな。達也君に任せるのが妥当

だな」

 お姉さまが納得して頷く。

 だが、私はこう思う。

 お姉さまがガードすればいいんじゃない?って。

 達也も同じ思いなのか、ニヤニヤとお姉さまを見ていた。

 ならば、私はジト目で見てやろう。

「いや!私もやることがあるんだ!」

 お姉さまはキッチリ視線の意味を理解しごにょごにょと言い訳していた。

 

 素直にデレよう。

 

 私は武士の情けとしてそれはいわないでやった。

 

 

               11

 

 私達は次の日から別々に警護をすることになった。

 オタの方は平和だけど、閣下を警護している達也や深雪は大変だったらしい。

 ファンクラブの嫉妬が。

「撃たれることはないと分かっていても気分のいいものじゃない」

 これは達也の感想だ。深雪がキレなくてよかった。

 後になってお姉さまに報告したそうだけど、お姉さまも失念していたらしい。

 一番近くで見ていた人だろうに。

 私?イレギュラーもあるし黙ってたよ?

 

 私はといえば、貴重な一人の時間を過ごすべく例のエアポケットに向かう。

 覚えてない?ベンチがあるけど誰も来ないあそこだよ。

 だが、そこには意外な先客がいた。

「ああ。深景さん。こんにちわ!」

 閣下である。

「どうも。もうすぐ選挙とか総会とかで忙しいんじゃないですか?」

「少しくらい息抜きしないと息が詰まるもの」

 私の質問に閣下が苦笑いで答える。

 正論ですな。それでは私は遠慮させていただきましょうか。

 頭を下げて回れ右しようとしたが、その前に制止の声が掛かる。

「少し話さない?」

 ベンチの空いたスペースをポンポン笑顔で叩く。

 私に話題は提供できないが、聞き役に徹することくらいはできるだろう。

 周囲にファンの気配はない。

 こんなところを見られた日には、今度は私がCADを向けられる。

「私ね。七草に生まれなかったら、どういう人間だったんだろうってよく考え

るの。生徒会長になったのだって、七草の家に生まれたからって部分が多分に

あるしね」

 いきなりヘビィな話だった。

 私は黙って聞いていた。

「恵まれた環境に感謝はあるし、それに見合った成果を上げるのは義務だと

思ってる。でも、偶に息が詰まるとね、一人になりたくなるの。魔法科高校に

入って、ここを見付けてかなり楽だったわ。周りの子を撒いてやれば気軽に一

人になれて、誰もここに来ないから。でも、それももうすぐお仕舞い。これか

らは家の仕事が多く私にも回ってくる。生徒会長を降りられるのは嬉しいけ

ど…。なんか複雑な気分よ」

 今までは生徒会を理由にある程度免除されていた仕事が、そのまま閣下に圧

し掛かってくる。それに七草の長女が一人になれる時間はそうはないだろう。

「勘違いしないでね。生徒会の仕事は楽しかったわ。気苦労もあったけど、主

に今年の春からね」

 そりゃ、申し訳ない。私達の所為じゃないけどね!

 閣下は普通の高校生活を送ってみたかったんだろう。

 だから、一般生徒に戻れるのは嬉しい。

 でも、家の仕事でそれは叶わない。

 今は私にもその気持ちが分かる。

 私は特典を貰って転生した時は、非日常とそこで活躍する自分にワクワクし

ていた。

 だが、蓋を開けてみれば力だけあっても中身が凡人では、有効活用などでき

ないと嫌という程味わった。選択も誤った。

 日常は愛すべきものだったと思い知った。

「嫌ね!暗い顔しないでよ!らしくないんじゃない?」

 冗談っぽく私に腕を絡ませて肩に頭が預けられる。

 いや、それ彼氏にでも…。いや、()()()()()()

「こういうこともやってみたかったかな?だから、ちょっと付き合ってね?」

 そういうの、了承した後でやって貰えません?

 確か、閣下にはもう婚約者がいる。

 原作ではどうなったか記憶にないけど、婚約者がいる以上彼氏など許されな

い。

 結局、かなりの時間そのままでいることになった。

 

 変な噂流されるような場所でないのは幸いだね、これ。

 

 

 

               12

 

 そして、やってきました生徒会長選挙&生徒総会の日。

 私が明日の予告を敢行しなかったお陰で、あの三人と取巻きがいるのは確認

済み。

「それでは頼んだぞ」

 お姉さまの号令で一斉に風紀委員が警備の配置に就く。

 それはいいんだよ。風紀委員なんだから。でもね…。

「行こう。姉さん」

 達也に促されたが、納得いかないんですけど?

 何故私が風紀委員と一緒に会場警備なんですかね?人いるでしょうが!

 こんなことになったのは、閣下とオタの要請によるものだった。

「深景さんはガードしてくれるんですよね?」

「あーちゃんのついででいいから、私もよろしくね!」

 …要らないと思いますけどね。私は。

 

 今現在は閣下が二科生に対する制限解除について演説していた。

 生徒総会は現生徒会長最後のお仕事みたいなものだが、本来は前座の筈のも

の。

 だけど、メインよりブルーム(笑)の皆様が熱いこと熱いこと。

 主に視線が。

 一部自分に正直な方々が閣下の胸に視線を集中させていらっしゃる。

 そんなところから声は漏れていないよ。まあ、放って置くけどね。

「以上の理由を以って、役員選任資格の撤廃を提案致します」

 閣下が話し終えると、深雪がマイクを握る。

「質問のある方がいらしたら、挙手して下さい。質問者は学年と氏名を述べて

からお願いします」

 本来なら女房役の市原さんがやるのだが、今回は深雪がその役割を担った。

 もう世代交代は始まっているという訳だ。

 その実、論文コンペに向けて忙しいという側面があるけども。

 そして、目付きの悪い大馬鹿が手を挙げる。

 流石に一団を率いていただけあって、他より圧が違う。

 深雪が、指定してもいないのに勝手に立ち上がって名乗り喋り出しおった。

「会長が挙げた理由に疑問がありますね。ここは魔法科高校だ。普通の高校な

らいざ知らず、魔法科高校において魔法の実力が重視されるのは当然というも

のでしょう。会長は差別意識を助長したようなことを仰っていたが、これは差

別ではなく区別です。二科生に風紀委員や生徒会役員が務まるとは思いません

が?」

 閣下はルール違反をされたにも拘らず、微笑みを浮かべたままだ。

 深雪は早速の展開に眉を顰めている。

「川路先輩…」

 深雪が苦言を呈そうと口を開きかけたが、閣下に止められた。

「今回はお答えしましょう。ただし、次はありませんよ、川路君」

「いいでしょう」

 どこまでも偉そうな男だな。こいつこそ命知らずと呼ばれる存在だろうね。

「二科生は確かに一科生に比べ、実技では劣ると判断される生徒であるのは事

実です。しかし、それはあくまで授業での話です。現に二科生にも拘わらず、

九校戦で好成績を収めた生徒がいたのは流石にご存じでしょう?一科生で出場

できなかった生徒が全員彼等と同じ成果を出せると断言できますか?」

 これは命知らずの大馬鹿に当て擦りしてますな。

 大馬鹿もムッとして黙り込む。

 二科生全員にチャンスがあるだけで、実力がなければ二科生だろうが一科生

だろうが使わない。閣下はそういっているのだ。

「現に彼等の活躍に触発されて、二科生も奮起している生徒が増えています。

 反して一科生はどうでしょうか?胡坐をかいていませんか?違うというなら

ば、文句が出ない結果を出せばよいだけの話です」

 これは更に二科生で頑張る生徒が増えるかもね。

 まあ、一科生もやってやろうじゃないか!って感じになってるけど。

「それは司波達也や司波深景という特定生徒の為の方便ではないのですか?」

 おっと。これはよくない発言だ。会場がどよめく。

「会長は、その二人をやけに気に入っているようですね?ただ単にお気に入り

を引き上げる為の提案ならば、却下されるべきだ!」

 原作でも似た発言した奴がいたような気がするが、こっちではこいつがいっ

たか。

「引き上げるも何も次代の生徒会人事は私の関与できる話ではありません。私

は院政を敷く趣味はありませんしね」

 大馬鹿の攻撃を閣下は余裕でいなした。

「はっ!次の生徒会長も貴女と同じということでしょう!何せ、同じく司波深

景を連れ歩いていたではないですか!」

「彼女が一緒だった経緯は、ただ単に彼女が近接戦闘に長けていたという理由

のみです。一科生を含めても、です。故にその質問の答えはNOです」

「渡辺先輩よりも、とでも?流石にないでしょう!現にそこの司波深景はミ

ラージで大した成績を上げてない!優勝したのも二位になったのも一科生の新

入生でしょう!認めたらどうです!?所詮はただの依怙贔屓だと!!」

 うわっ!やべぇ地雷踏み抜いたわ!

 殺気と冷気が会場を覆い尽くす。

 見る人が見れば、私が二人を勝たせる為に動いていたのは分かっただろう。

 だが、見ていなかった人の意見なんてこんなものだ。

 事情を知っている身内がいわれれば…。

「仰りたいことはそれだけですか」

 凄い静かな声で深雪がそういった。

 風紀委員さえも身動きができない。

「直接試合を見た訳でもないのに、よくもそんな侮辱を!」

 いや、達也止めなさいよ!

 達也は、冷ややかに大馬鹿を見ているだけで深雪を止めに入らない。

 物凄いプレッシャーに大馬鹿硬直ですね。

「あら、失礼しました。不適切な発言でした。しかし、新人戦の成績について

は、もう一度調べ直してはいかがでしょうか?他と比べて低い順位ではないと

納得頂けると思いますよ」

 謝罪の言葉が聞こえたのに、相変わらず責め立てられているような気がする

のは、気の所為でしょうか?

「質問は以上ですか?」

 深雪の口調は質問はもうないだろうな?と副音声が聞こえる。

「……」

 最後の抵抗なのか、大馬鹿は黙って着席した。

 慶滋巻き込まれ野郎も深雪のプレッシャーに負けて、手を引っ込めている。

 ヘタレめ。

 那由多天然さんは頬に手を当てて、あらあらといっていそうな感じだ。

 取巻きも巻き込まれ野郎同様、沈黙。

 これで立ち向かう勇者は存在せず、電子投票を開始の流れになり閣下の最後

の仕事は可決した。

 

 そして、ラストを飾るのはオタの演説。

 あの読経が役に立つ時がきたね。

 まあ、当選確実だけどね。

 そしてあちこちから応援の声が上がる。

 何気にオタは人気が高い。

 その声援に推された訳でもないだろうけど、淀みなくハッキリした口調で話

す。

 問題は最後の言葉が放たれた後に起こった。

「本日の決定を尊重し、生徒会役員は一科二科を問わず優秀な人材を登用する

つもりです」

 これだ。

 ここで黙ったと思われた巻き込まれ野郎が手を挙げた。

 質問OKっていってないのにね。

 そして、名乗りもせずに声を上げる。

 さては、閣下よりグレードが下がるから攻め時だとでも思ったな。

「優秀な人材とは誰を指しているのか、是非教えて頂きたい。当然、貴女の中

には誰を選ぶか大方のところ決まっているのでしょう?生徒会長すらもう決

まったも同然なんですからね」

 最後にチクッと嫌味をいうのも忘れない。

「そこの野暮なメガネとか、そこの威圧的な二科生じゃないの?」

 呆れるくらい低俗な野次が追従するように放たれる。

 見れば、喋ってるのあの天然の取巻き連中だよ。

 それに乗っかった反対派の連中が口々に野次を飛ばし出す。

 更に怒ったオタの支持派が反対派を卑怯者呼ばわりして過熱。

 現生徒会が落ち着くよう声を上げるが、興奮状態の生徒の耳には届いてい

ない。

 私は溜息を吐いた。

 確かに幼稚だよね、これ。

 うん?大馬鹿が目配せしてるぞ?

 目配せを受けた生徒が頷くと、何人か立ち上がる。

 会場の熱気に紛れているが、確かに闘気が漏れる。

 成程ね。乱闘に持ち込んで事態収拾しようって、どうしようもない案か。

 それでアンタの株は上がらない。バレてるから。やらせないけどね。

 私は立ち上がった連中と大馬鹿をを睨み付けた。

 覇気を籠めて。

 途端に連中の周りにいた生徒まで黙り込み、動けなくなった。

 これ、滅多に使わないから加減が難しいんだよね。

 気絶させる訳にもいかないからさ。

 中身凡人の私が使える理由はチートだからで納得している。

 そして、遂にあの人がキレた。

 

「静まりなさい!!」

 

 私のズルチートと違い、本物が炸裂する。

 深雪がマジギレしていた。

 サイオン光と吹雪が吹き荒れる。

 これを見て、喧嘩ができる大物はここには存在していない。

 止めようとCADに手を伸ばす残りの現生徒会の方々と風紀委員を、私は手

で制止する。

 それと同時に達也が、深雪の前に立ち肩に手を置いた途端に深雪の力を抑え

込む。

 そのイケない光景と力に生徒全員が呆然と立ち尽くすのみ。

 争いどころじゃないからね。

 でも、そろそろ正気に戻って貰おうかな。

 私は大きく手を打つ。

 パチン!という音が会場に響き渡る。

 その音に現生徒会の方々が正気に戻り、声を上げ始める。

 それからは大人しいものだった。

 粛々と投票が行われ、整然と総会&選挙は終わった。

 

 オタが当選したのはいうまでもない。

 

 

 

               13

 

 だが、これで綺麗に終われる程甘くはなかった。

 主に身内が。

「何故、女王陛下とか女王様とかスノークイーンなどという表記で私にカウン

トされているのですか!?」

 深雪が投票結果にお冠である。

「まあ、気にしないでいいと思いますよ?無効票ですし…」

 市原さんが慰めたが、深雪の怒りは治まらない。

 投票結果はオタが信任される形だが、あの時に発したオーラに押される形で

深雪に投票する生徒が続出したのだ。

 それだけなら笑って済ませたのだが、問題は深雪の名前の後に付いた尊称に

あった。

 いずれも女王様系。それに深雪がキレたのだ。

「それにしても惜しかった()()()

 お姉さまが場を和ませる為と話を逸らす為に、揶揄うようにいった。

「「……」」

 何故二人なのかって?

 達也にも票が入り、更に何故か若干数私にも票が入ったからだ。

 達也は150票程、私には18票程入った。

 達也は兎も角、私は全然惜しくないよ。

「投票用紙を貸して下さい!書いた生徒を突き止めます!」

 だが、深雪はブレなかった。

「そんな無茶な」

 その場に引き継ぎで来ていた閣下が、呻くようにいった。

「まあまあ、深雪。選挙は匿名が基本だよ」

「それでは泣き寝入りしろというのですか!」

 深雪が私の胸に飛び込んでくる。

「大丈夫大丈夫。深雪は女王様じゃないよ。私の可愛い妹だから」

「お姉さま!」

 達也も深雪にそっと寄り添う。

 美しい光景に見えるだろう。

 だけど、私は自分の吐いた臭いセリフに目が死んだ魚になっていたと思う。

 だからさ。みんなそんな嫌そうな顔しないで貰えるかな?

 

 今回は勝利したといっていいなんて思ってました。

 でも、生徒会室の扉を開けたら居たんです。

 

「深景さん!チャース!!」

「「「チャース!!」」」

 

 大馬鹿とその手下が。

 

 私に投票したのはお前等の仕業か?

 よし!殺そう!!

 

 心の中で私はどこぞの中華娘のように叫んだ。 

 

 

 

 

 

 




 深景、舎弟を得る(要らない)
 最後に真由美さんの心の内でも入れようと思いましたが、
 止めました。
 
 書きたいシーンは書けたのでよかったと思っておこうと
 思います。

 那由多さんは、取巻きの起こしたことを見ているだけで
 何も関心を抱いていないので無関心です。それでも自分
 を慕ってくれる人がいうので、抗議文を無感情に書いた
 ような人です。どっかで活躍させる予定はない…。

 次回からは横浜騒乱編へ突入します。
 時間は掛かると思いますが気長にお待ち頂ければ幸いで
 す。

 来訪者編がアニメ化か、楽しみですよね。




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横浜騒乱編1

 先に出来上がったので投稿します。
 時間掛かってるのは変わりませんが…。
 それでは、お願いします。



 


               1

 

 大馬鹿をシバキ倒して、私に平穏が訪れた!

 なんて思ってから少し日数が経っていた。

 もうすぐ戦争の時間です、もとい…論文コンペの時期です。

 いやぁ、今から鬱だなホント。

 迫りくる災いに身体だけじゃなく目からも汗が出る。

 今の私は自室で中華街を洗い直していた。

 無頭竜を調べた時も実はついでに調べてたんだけど、見付からないんだよ。

 あの長髪ナルシスト野郎(アニメ版の動きやらに由来する風評被害)。

 まあ、無頭竜ですら所在を掴ませないように頑張ってたんだから、奴が見

付からないのは必然といえるかもね。

 でも、諦めません。勝つまでは。

 決意を新たにネットにダイブしようとした時に通信機が鳴った。

 誰からだ?

 通信相手の情報を表示すると、知り合いからだった。

「もしもし?久しぶりだね?打ち上げたロケットは何発目?」

『フフ~フ!いきなりだね。順調とだけいっておこう』

 特にお互い名乗り合わない。知り合いだし。

『そっちは順調かな?違ったらこっちに…』

「合流しない」

『残念!』

「こっちも多少難航してるけど、進んでるよ。でも、そっちには朗報でしょ?」

『そうだね。()()()()()()()()()()()()()()()!先に完成させないと』

 相手の不敵な笑みが見えるようだよ。

『今日は親切な友人としての忠告だよ。華僑に気を付けた方がいい』

 華僑ね。今探してるんだけどね。そっちかイレギュラーか。

「華僑なんて全世界にいるんじゃない?」

 知っていながら、すっとぼける私。

 向こうも半ば承知してることだろう。

『私がいうんだよ?それは悪い華僑だよ』

「物凄く悪いんだろうね、それは」

『そういうこと。フフ~フ』

 それだけいって挨拶もなしに通信は切れた。

 いつもこんなものだし、私も用事が済んだらサッサと切る。

 そこら中の警察や治安組織にマークされてるからね。あの子は。

 用事が済んだら、切るに限る。

 

 それが今回の厄災の狼煙だった。

 

 

 

               2

 

 :源田視点

 

 咥え煙草で港を疾走するってのは乙でもなんでもない。

 まして、追う奴がいるともなれば余計だ。

 今、俺達は横浜港から不法入国してくる外国人を追跡中だ。

 自己加速で疾走中だ。それも野郎とだ。乙な訳がねぇわな。

「あのぉ、源田さん。一応俺にも立場ってもんがあってですね」

 横をピッタリと付いてくるのは千葉の御曹司だ。

 仕事は最低限にやってるから文句は…多少あるな。

「なんですかね」

「今追跡中!咥え煙草止めて貰えるますかね!」

 咥え煙草してようがしてまいが速度に変化はねぇよ。気にするな。

「この前、カメラの前で大欠伸してたの撮られたでしょうが!!」

 こんなとこにマスコミがいるわけねぇじゃねぇか。

「最近のマスコミは節操がないんですよ!某ジーザスとか!」

 ああ。あの野郎か。

 確か、アイツと繋がりがあったな。

 本人はすっとぼけてやがったがな。

「別に構わねぇよ。仕事は真面目にやってるんだからな」

「稲垣君!代わってくれ!」

 仕方ねぇだろうが、稲垣の奴は別方向から攻めてるんだからよ。

 なんで階級が上の筈の千葉が俺に対して敬語かといえば、単純だ。

 剣術の稽古でボコボコにしてやったからだ。

 当人、弟に才能で負けてるからな。それに腐らずやる影の努力家だ。

 だから、協力してやったんだが、お気に召さなかったようでな。

 俺に対しては腰が引けるようになった。

「ん?警部殿!スピード上げるぞ?」

 そろそろ終着らしいや。

 連中がスピードを上げて、こっちを振り切りにきやがった。

 俺は笑うと咥えた煙草を携帯灰皿に捨てた。

「いや、…そうですね」

 諦めたように千葉もスピードを跳ね上げた。

 

 まあ、船は使うわな。ここは港だ。

「源田さん!警部!」

 千葉の想い人・稲垣が別方向から現れる。

 別の方向に向かった外国人を追跡していた筈だが、どうやら終着は同じだっ

たらしいな。

「稲垣。船を止めてくれ」

「いいんですか?自分だと壊してしまいますが?」

「このままハンカチ片手に見送る訳にゃいかねぇだろう」

 千葉が顔を顰める。

「俺に責任きそうだな…」

 ボソッと本音いいやがったな。

「責任は俺が取るよ。やってくれ」

「了解!警部なら出てこないセリフですね」

「一言余計だよ、稲垣君」

 ニヤッと笑うと稲垣は、リボルバーを構えて船尾を狙撃すると爆炎が上がる。

「いくぞ!」

「いや、俺が上司なんですが…」

 文句をいいつつも俺と一緒に千葉が跳躍する。

 連中の船に乗り移ると同時に強襲する為だ。

 千葉が刀を抜き、俺は妹弟子の造ってくれた三段警棒を伸ばす。

 船員が驚いて、蜘蛛の子散らすように逃げる。

 まずは千葉が甲板を切り裂き、俺がそれを突き破るように突入した。

 甲板の破片と共に着地すると、後から千葉が減速してゆっくりと着地した。

 俺はある物を見て舌打ちする。

「逃げられた、ですね」

 千葉も俺と同じく海面に続く穴を見て溜息を吐いた。

「取り敢えず、残った船員をしょっ引くぞ」

「何も話さないでしょうし、行く先なんて分かり切ってますがね」

 

 全くその通りだ。クソッ!。

 

 

 

               3

 

 :周視点

 

 懐中時計を取り出し、時間を確認する。

 私を他人が見たら不審に思うでしょう。

 何しろ井戸の前でジッと立っているんですからね。

 私達の息が掛かった飲食店の裏にある井戸だからこそできることですね。

 井戸が内側から崩れ出す。

 フム。時間通りですか。流石は…といったところでしょうか?

 そうこうするうちに中から人がゾロゾロと姿を現しましたね。

 姿を現した人間に対して恭しく礼をする。

「まずはお着替えを。その後に寛いで頂き、朝食をお持ちしましょう」

 指揮官が路傍の石ころでも見る目で私を見ているのが分かりますが、どうで

もいいのはお互い様ですか。

「周先生、ご協力感謝致します」

「いえいえ。陳閣下はお元気ですか?」

 指揮官である陳が一瞬嫌な顔をする。

 今は国家公認の武器商人になっているんでしたか。

 おっと、貿易商でしたか。

 どうも軍人に誇りを持っている彼には閣下の決断は気に入らないようですね。

 彼は私の言葉に返事もせずに歩き出す。

 

 立ち去っていく気配を感じながら、私は笑みを抑えれなかった。

 

 

 

               4

 

 私は極悪華僑を探して日夜戦っているが、日常は私とは関係なく訪れる。

 生徒会でのお食事会というある意味パワハラ染みたイベントはなくなり、私

と深雪は大変有り難く思っている。

 偶に私も召集されてたからね。実は。

 やっぱり気楽に食べられる方がいいからね。

 A組とE組では昼休みに入る時間が微妙にズレることがあるから、先に来た

方が席を確保することになる。

 そして、今日は私達E組が席を確保していた。

「すみません!遅れちゃって!」

 A組の面々が姿を現したが、ほのかが米つきバッタと化していた。

 達也が宥め、私達が気にしないでいいといっても恐縮した感じだった。

 予め遅れるって聞いてたから気にしないでいいのに。

 深雪も私と達也に丁寧にお詫びの言葉をいう。

 目立つから、そろそろ着席しようか?

 

 着席したA組の面子だが、ほのかは達也の隣に陣取っていた。

 勿論、深雪は逆サイドを確保している。

 私は因みに達也の正面です。

 ほのかは、あのポロリ以来ガンガンいこうぜ!状態でアグレッシブだ。

 本気でジャイアントキリングが見えてきたかもしれない。

 まぼろし~ってならないように願いたい。

 いかん年齢が…。

 そんなほのかだけど、生徒会役員に選出された。

 深雪が副会長でほのかが会計だ。他の面々は原作でチェックしてね。

 要らないか。

 その関係で慣れない書類仕事で時間を食ったという訳だ。

 達也の方もほのか達の愚痴に触発されたのか、頭痛を感じているようだった。

 本来なら、達也を副会長に据える気だったオタだが、キャノン先輩のダメさ

で今年中は風紀委員に居残りとなったのだ。

 君はまだいいよ。私は茶坊主居残りだよ!?意味不明だって。

 それはそうと、港で捕物があったみたいだし、原作通りなら大亜連合が遊び

に来てるな。

 ままならなさに、キャッキャする桃色の空気を振りまく正面から目を背け、

コッソリと溜息を吐いた。

 

 顔を上げると深雪と達也に心配されてしまった。

 気が抜けませんね。

 

 

 

               5

 

 放課後、私が雑用という名の茶坊主をしていると生徒会室の扉が開いた。

「深景さん、いる?」

 扉を開けて覗き込んできたのは、閣下だった。

「あーちゃん。ちょっと深景さん借りるけど、いいかしら?」

「あ!はい!大丈夫です」

 オタ会長、私の意見は訊かないんですか?訊かないですね?

 閣下、いやもう違うか。

 お嬢様が私の腕にしがみ付くとサッサと外へ連れ出して行った。

 ほのか、生暖かい視線を向けるんじゃない。

 

「それでどういった用件です?」

 何やら定番と化したエアポケットベンチで並んで座った私は開口一番に質問

した。

「うん。実はもう達也君には深雪さん経由で依頼済みなんだけど、深景さんに

も論文コンペを手伝って欲しいのよ。勿論、お手伝いでよ?流石に定員がある

から」

 余裕があってもお断りしたいわ。

 今、長髪ナルシストを探すので忙しいんだよ!こう見えて!

「いや、ご協力できることはないような…」

「深景さんには、五十里君の模型造りを手伝って貰いたいのよ。深景さんも手

先は器用でしょ?」

 おかっぱと?

「いやいや、キャ、千代田先輩が荒ぶるじゃないですか。嫌ですよ」

 ここはキッパリと断りたい。

 あの先輩は、おかっぱが絡むと更に面倒臭くなる。

 主に嫉妬。重い。途轍もなく。

 よくあんなにラブラブ(死語)になれるもんだよ。類は旦那を呼んだのか?

「ちょっと本来のチームメイトである平河さんが体調を崩してて参加できない

のよ。三人目の選考で揉めた所為で時間が厳しいのよ。この通り!協力して!」

 お嬢様は拝み倒す気でいるようだ。

 いや、だからさ、キャノン先輩と揉めたくないんだって。

 女の嫉妬は厄介極まりないんだから!

 なおも嫌がる私にお嬢様が目を潤ませながら接近してくる。近い!

 顔が引き攣る。

 演技がお上手なことで。

 ここで振り払おうものなら、絶対悲劇のヒロイン宜しく思わせぶりな態度で

周囲に私が悪人であると思わせるよね、これ。

「根回しと取り成しはして下さいよ…」

 私は重い溜息を吐くと、それだけ辛うじて口にした。

「ありがとう!深景さん!」

 思いっ切り首に抱き着くお嬢様。

 礼はもう聞いたから、離してくれません?

 

 矢鱈、長い抱き着きに思わず白目になったのはいうまでもない。

 そのうち刺されるかも…。

 

 

               6

 

 そして、漸く開放された私は達也達と放課後に喫茶店にいた。

「えっ!?達也、論文コンペの代表に選ばれたの!?」

 幹比古君が驚きの声を上げる。

 そりゃ、論文も提出してない一年、しかも二科生が選ばれりゃ驚くよね。

「ああ」

 達也がなんの感慨もない声で肯定する。

「アッサリし過ぎ」

 エリカが呆れて肩を大袈裟に竦めた。

「達也にしてみりゃ、選ばれて当然ってもんだろ」

 レオ君が笑っていう。レオ君じゃなきゃ嫌味だと思うよね、このセリフ。

 選ばれた当人より興奮している幹比古君が、どれだけ凄いことかを力説して

いたが、すぐにトーンダウンする。

「でも、確か日があんまりなかったんじゃ…」

「あと九日だな」

 ここでも達也に動揺はない。さす弟。

「それ、間に合うんですか!?」

「大丈夫。俺は手伝い程度に入っただけだ。執筆自体は夏休み前から進めてい

たから」

 ほのかの悲鳴みたいな声に、達也は宥めるように穏やかに答えた。

 実は日程がヤバかったりして。何しろ私が応援に駆り出されるくらいだし?

「それでも急ですよね?」

 美月が可愛く首を傾げながらいった。

「本来のメンバーの一人が体調を崩したらしい」

「それはお気の毒ですが、急過ぎるのではありませんか?お兄様ならば、その

役割を熟せるとはいえ…」

 達也の簡潔な説明に、深雪は納得できなさそうに眉を顰めた。

「市原先輩の選んだテーマが俺の分からない分野だったら、流石に断ったよ」

 達也は若干苦笑い気味にそう答えたが、深雪の反応は芳しくない。

 もう勘弁してやりなよ。

 少しくらい一緒にいる時間が削れても、それ以外は結構一緒にいるんだし。

「どんなテーマなんだ?」

 レオ君は興味を惹かれたのか、勢い込んで訊いてきた。

 他の面子も興味があるのか達也の答えを待っている。

「重力制御魔法式熱核融合炉の技術的問題点と解決策について、だな」

「悪い。サッパリ分からなねぇわ…」

 達也のサラリとした答えに、レオ君は目が点になっていた。

「加重系魔法の三大難問に挑むのかい!?」

 現代魔法も学んでいる幹比古君は、驚愕といっていいくらい眼を剥いている。

 レオ君を除いて、友人達はしきりと感心していた。

 

 ぶっちゃけ、私にも興味がない内容だ。

 だけど、弟の夢だ。応援したい気持ちは存在する。

 

 

 

               7

 

 家に帰った私達は、家の車庫に嫌なものが停まっているのを発見した。

 ヒスママの車である。

 私達の表情が必然芳しくないものに変わる。

 玄関開けると、それは現れた。

「相変わらず仲がいいのね」

 若干皮肉交じりにヒスママこと継母・小百合が現れた。

 どうする?

 攻撃する。逃げる。防御する。道具を使う。作戦。

「こちらにいらっしゃるとは珍しいですね」

 達也の冷たい視線が炸裂。ヒスママはダメージを受けた!

「まあ、仕事が忙しいもの。顔を出せないのは仕方ないわ」

 ヒスママの攻撃。私達には効かなかった。

「すぐに夕飯の支度をしますね!お姉様とお兄様は何が食べたいですか?」

 深雪の無視が炸裂した。ヒスママのストレス値が上がった!

 私と達也は特にリクエストなし。

 深雪は相変わらずヒスママを無視して、自分の部屋へと向かった。

 

「で?どんな話です?」

 私は話の内容が想像できる為に、素っ気なく尋ねた。

 今現在、私達はお互いテーブルを挟んで対峙している。

 深雪が自室へ行っているので、私と達也が応対する。

「貴女になんの関係もない話よ。貴女も着替えてきたら?」

 このヒスママ、私が四葉内での地位がないことを知っているから、対応が達

也以上にぞんざいだったりする。

「申し訳ありませんが、用件をいって貰えますか?深雪が戻る前に済ませたい

ので」

 達也が不快さを隠そうともせずにいうと、ヒスママも畏れより怒りが勝った

のかムッとした顔をした。

「相変わらず、貴女達は私のことが気に入らないのね」

 大人の仮面をかなぐり捨ててヒスママは、そう吐き捨てるようにいった。

 そりゃ、会う度にギャーギャーいわれりゃ好かないよ。

 正確にいえば部外者なのに、研究室に出入りしてる身だけども。

 私が悪いって?貢献してるからいいんだよ。アフロもそういってるし。

 コラボなんてよくあることだよ。

 今更でもあるしさ。

「深雪はそうですね。理由は語るまでもないでしょう」

「貴方はどうなの?」

「そういう感情とは縁がありません。そうできていますので」

 達也が淡々と答えるのを、私は眉を寄せて聞いていた。

 それに気付いた達也が軽く私の方を見たが、何もいわなかった。

 因みに、私は嫌いだ。

 母親も嫌いだったし、宿六も親らしい要素は欠片も存在しなかった。

 所詮は政略結婚だ。やることやって終了は自明の理だろう。

 あの母の実験動物を見るような目は、今も記憶にこびり付いている。

 宿六の無関心も。

 そんな宿六の恋人なんざ、好きになる要素はない。

「話すだけ無駄という訳ね。いいわ。本題に入りましょう。貴方に研究室を手

伝って欲しいのよ。高校を中退してね」

「俺はガーディアンが本来の仕事です。深雪が一高生である以上、俺も一高生

でなくてはなりません。そういう訳ですのでお断りします」

 オブラートなしの本題に拒否。

「自分程の優秀なガーディアンが、天下の四葉に存在しないとでも?」

 皮肉をいうヒスママ。

 だが、その程度で達也が感情を動かすことはない。

「深雪の護衛という点に限れば、いませんね」

 案の定、サラリと達也に対応されてしまった。どっちが年上なんだろう?

「貴方のような優秀なスタッフに片手間で働かれてもね」

「それでも今期の会社の利益に貢献した筈です。飛行デバイスの発注は今後も

増えていくでしょう。今段階で、前期利益の20%になっている筈ですが?」

 攻め手を変えたヒスママだが、ぐうの音もでない返しに悔しそうに顔を歪め

た。ホント、どっちが年上だ?

 飛行デバイスに関しては、達也は術式などを公開しているがシルバーの信頼

性は大きい。

 FLTのデバイスを求める国は多い。

 少なくとも自国で安定したものができるまでは。

「それじゃ…せめてこのサンプルの解析は優先してやって頂戴」

 おお!出たな!今回の目玉!

 ヒスママは、バックから宝石箱を取り出し慎重に蓋を開ける。

 紅い勾玉が姿を現した。

「…瓊勾玉系統の聖遺物ですね」

 所謂オーパーツです。レリックなんて呼ばれます。以上。

「どこで出土したものですか?」

 達也が鋭く問い掛ける。

「さあね」

「成程、国防軍絡みですか」

 FLTも武器商人染みてます、ありがとうございます。

「解析と仰いましたが、まさか複製しろなどといいださないでしょうね?」

 ヒスママは痛いとこ突かれた!みたいに顔を顰めた。

 達也が眉間に皺を寄せて溜息を吐く。

「現代技術で合成困難であるからレリックなのですが?」

「クライアントからの強い要請である以上、断れないわ」

 まあ、御上に逆らえないのは分からなくないけどねぇ。

「何故、そんな無茶な要求が?」

 いいたくないけど、いわない訳にいかないとばかりにのっそりと口が開く。

「瓊勾玉には魔法式を保存する機能があるそうよ」

 達也が私に視線を向ける。

「まあ、そうだね。どっちかといえば、ソーサリーブースターみたいなもんだ

と思えばいいよ」

 達也の片眉が器用に跳ね上がる。

「適当なことをいわないでくれない?」

 険のある声でピシャリと注意してくるヒスママ。

「では、適当でないことを聞かせて頂けますか?」

「軍が動くに十分な確度の観測結果が得られています」

「成程、軍は無視できないでしょうね」

 達也が重々しい声で頷く。

「しかし、火中の栗を拾う必要があるとは思えませんが?」

「既に賽は投げられているわ」

「文字通りの博打ですね」

 達也が厳しい声で非難する。

「十分勝算はあるわ!貴方の異能を駆使すれば!」

 他人の金で博打を打つって、使い方違うか?

 私はそんなことを思った。

 達也はあからさまなものいいに苦笑いしている。

「姉さんの古式の知識は必要になると思いますが?それに俺の魔法でも複製で

きるか分かりませんよ。どうしてもというなら、第三課へ回して下さい」

 ヒスママが歯軋りせんばかりに歯を食いしばっている。

 また手柄がどうの考えているんだろう。

「なんならここでサンプルをお預かりしますが?」

 達也の言葉にヒスママがキレた。

 テーブルを叩くと宝石箱を持ち去ろうとした。

 その瞬間、私はヒスママの手から宝石箱を救出していた。

「なんの積もり!?」

 親切にしてやった積もりなんだけど?

「持って帰るのは止めた方がいいですよ?外国人の不法入国のニュースはご存

知ですよね?脳味噌をぶちまけたいのなら止めませんけど」

 迂闊に聖遺物なんて持ち歩くなよ。

 原作読んでた時も思ったけど、そりゃ捕捉されるわ。

 何故、ここに向かうまでに襲わなかったのかと疑問すら感じるよ。

 別に欲しいなら襲っちゃえばよかったのに。

 なんか理由語られてたっけ?

「っ!?」

 ヒスママが真っ青になってビクつく。

「姉さんは、この情報が既に漏れていると考えているのかい?」

「さあ?だけど、最悪を想定して動くのは基本でしょう」

 それに日本は諜報能力は昔から当てにできないんだよね。

 国内なら、どこぞの生臭坊主とか天狗さんとかいるけど、彼等も国際舞台

ではね。

「確かにね…」

 ヒスママは馬鹿にされたと思ったのか、今度は顔を真っ赤にして宝石箱を

ひったくると大股で去って行った。

 

 あ~あ。もうちょっと優しくいってやるべきだった?

 

 

 

 

               8

 

 ヒスママがキレて車に乗り込んだところで、私も腰を上げる。

「姉さん。俺が行こうか?」

「いや、いいよ。私が怒らせたんだしさ」

「お姉様?お兄様?」

 私が何をしようとしているのか、瞬時に理解した達也との会話が理解でき

なかったようで、着替えて入ってきた深雪が不思議そうに声を上げた。

 軽く事情を説明してやると、深雪は憤慨した様子だった。

「お姉様の手を煩わせるなんて…」

 私は怒っている深雪の頭を撫でて宥めてやる。

「まあ、念の為だよ」

 達也に後を頼み、ライダースーツを手早く着込むとガルムに飛び乗る。

 さて、行きますか。

 ガルムは即座にスピードに乗ると、猛然とヒスママの車を追跡し始めた。

 すぐにヒスママの車を追跡する車も発見する。

 警戒心ってものがないのか、あのヒステリー。

 ヒスママの車のあまりの無警戒振りに呆れたよ、私は。

 見事に不審車両に小突かれたヒスママの車は、大事故を起こす前に急停止

して止まる。今時技術の成果だね。

 そして、不審車両からワラワラ出てくる不審者御一行様。

 うん。悪役だね。

 デストロイ。

 私はCADをホルスターから引き抜くと、無造作に構えて引き金を引いた。

 魔法だから反動がないのが有難い。

 ループキャストされた遠当てが立て続けに発動し、ギャグみたいに不審者

が吹き飛ばされた。

 相手も拳銃をぶっ放してくるが、私の華麗なる操縦テクニックで銃弾を回

避すると、そのまま轢き飛ばしてやる。

 テロリストに情けは無用だ。

 私は走っているガルムから飛び降りると、静かに着地してヒスママの車に

駆け寄る。

 エアバックに埋もれて気を失っているだけのようだ。

 言わんこっちゃない。

 その瞬間、私の眉間にチリチリしたものが走り、反射的に身を屈める。

 眉間があった部分を銃弾が通過し壁を穿つ。

 おお怖っ!

 即座にガルムが走り込んでくる。

 エレアが制御しているから、不審者を轢き逃げして回っていたのだが、私

の危機に中断したようだ。

 私はガルムを楯にする。

 本当にヒスママの脳味噌をぶちまける訳にいかないので、車を楯にするの

は止めて置く。

 その事で車の中にいたであろう魔法師が、ご同輩を魔法で回収していく。

 狙撃手を片付けないと出られないから、あっちは無視するしかない。

 迂闊に強い魔法は使えないし、空間凍結で片付けると証拠隠滅して貰う際

に響子さんに不審がられる。今更だって?そっとしておけ。

『で?どうするの?達也だったら一発で片付けて問題ないけど、貴女は不味

いでしょう?』

 エレアがホログラムと共に訊いてくる。

「こんなこともあろうかと、刀をバイクに載せてあるんだよ」

 私はガルムから刀を取り出すと、鞘から引き抜く。

 紅い刀身が美しく、更に刻印が刻まれた刃が姿を現す。

 そして、サイオンをゆっくりと流し、刻印を起動させた。

 刻印から炎が揺らめく。

「☲(離)」

 とある古い漫画を参考にした一撃で消えろ。

 トリガーワードと共に炎が光り輝く。

 放つのは一瞬。

 相手の場所なんてもう把握済みだ。

 射線に身体を晒したが、相手に私を撃つことはできなかった。

 その前に骨まで焼き尽くされたのだから。

 それにしても威力を収束させるのに苦労するな。

 古い漫画だと、あまりに威力が強過ぎて自分までダメージ受けてたからね、

この技(モドキであるが)。

 

 その後、私は気絶したヒスママをビンタで起こしてレリックを回収した。

 ビビッてたから容易に回収できたよ。

 

 

 

               9

 

 ヒスママをある程度安全と思われる地点まで送り届ける。

 顔色が悪かったけど、取り乱してはいなかった。

 礼をいわないところも平常運転だ。

 大丈夫でしょ、アレ。

 それから家に帰って天狗様へ連絡を取る。

『それにしても都心ではないとはいえ、ライフルをぶっ放すとはな』

「魔法のアシストなしでやってましたし、手練れですね」

 天狗様の報告は達也と一緒に行う。

『ともあれ街路カメラの方は処理を始めている』

「ありがとうございます。少佐」

 私の代わりに達也が礼をいう。

『光学スコープのみで、千メートル級の狙撃をやるスナイパーは簡単には手

配できないからな。それだけで犯人が特定できるかもしれないな』

「宜しくお願いします」

 それからすぐに車が発見されたと天狗様に報告が入り、私達にそう教えて

くれた。

 達也か私が調べれば、何か手掛かりでも掴めるかもしれないが、お行儀よ

く私達は黙っていた。

『それと、バイクとあの武器に関しては報告書を提出して置いてくれ』

 天狗様が通信を切る前にぶち込んでくれた。

 あれ?ガルムもタチコマがいる以上問題ないだろうし、刀も普段使いして

るのと大して変わらないんだけどな?

 頭の上に?マークを浮かべている私に達也は生暖かい視線を向けてきた。

 

 いや、その視線止めなさい。

 

 

 

               10

 

 それから深雪のエプロンの披露があったり、達也が年頃の男の子には決し

て吐けないセリフを炸裂させるという些事があったが、本題はこっち。

「姉さん。このレリックには魔法式保存の機能があるのかい?」

 深雪が驚いて私と達也を見比べる。

「うん。ただ扱いは難しいと思うよ」

 達也が無言で続きを促す。

 勾玉は装飾品の側面の他に祭事に使用する。

 つまり祈りを捧げるのに使う訳だ。

 祈りは原初の魔法だ。

 祈りから勾玉が大雑把な魔法式を構築・保存することで祭事を行い易くす

る。繰り返すことにより術式は洗練され、機能をより確実に発揮させるため

のものとなる。

 問題は上書きも容易だという点だ。

 より強く構築された魔法式を上書きしてしまう為に、折角の効果が台無し

になってしまうことがある。長年蓄積したものが、早々消えるとは思えない

が可能性がある以上、注意すべきだからね。

 より強い感情を刻むという点で、無頭竜のソーサリーブースターに似てい

るので、さっき例に挙げたのだ。

 それらのことを説明してやる。

「成程、テロなどに利用される恐れがあるな」

 余程、管理と魔法師の身辺調査を徹底しないと危なくて使えない。

 ここで事情がよく呑み込めていない深雪に今までの経緯を説明すると、や

はり軍の無茶振りに顔を顰めていた。

「まあ、現物は押収してきたから、ゆっくりと調べればいいよ」

「姉さんにも意見を訊くと思うけど…」

「出来る範囲で協力するよ、勿論」

 達也がシステムを解き明かせば、欠点も克服できるかもしれない。

 原作で達也が夢をどうしたのか、ついぞ確認できなかったけど、この弟なら

どうにかするだろう。

「お兄様なら、きっと成し遂げられます」

 

 深雪の言葉は、預言みたいに聞こえた。

 

 

 

 




 深景がどうしてあの人と付き合っているのか、少しだけ
 出しました。
 天狗さんに関しては、有益な情報を吐き出してくれれば
 いいという感じで、諦めが入っています。

 次回は、これ以上に時間が掛かると思われますので、気
 長にお付き合い頂ければ幸いです。






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横浜騒乱編2

 なんとか一月中に投稿できました…。
 それではお願いします。



 


               1

 

 ヒスママをビンタしてからまだそれ程日にちが経っていない夜のこと。

 私は電子戦をやっていた。

 達也と一緒に。

「おバカさん」

 私の呟きに達也が私をチラリと見たが、何もいわなかった。

 敵が攻性防壁に引っ掛かったのだ。

 今頃は電子機器が使用できなくなっているだろう。

 探査ウイルスというお土産付きで。

「さて、場所はっと…」

「意外と遠くはないね。行ってみるかい?」

 表示された場所を見て、達也が訊いてくる。

 確かにガルムで行けば、そう遠くない。

「内部のカメラ映像来たから、それから決めよう」

 いつまでも留まる程、馬鹿な集団じゃないだろうからね。

 電子戦を仕掛けてきたのが運の尽きよ。

 映像が来たので見てみると、映ったが一瞬でブラックアウトした。

「流石にすぐに拠点を捨てたか。今頃はきっと確保した逃走ルートで行方を晦ませているだろうね」

 達也も期待はしていなかったみたいだ。

 ただ、こっちも位置が分かれば追える。

 周辺の監視カメラ映像を勝手に取得する。

「あんまり派手にやると、藤林少尉が怒るよ?」

 達也が窘めるようにいってきたが、その顔は苦言を呈しているとは思えないくらい穏やかだ。

 怒るのは知ってるけど、誤魔化すし尻尾を掴ませるようなことしないし。

 この時代、なんの痕跡も残さずに監視カメラを掻い潜るなどできはしない。

 一部の例外を除けば。

 おっと、改竄の形跡発見!

 ドンドン糸を手繰り寄せていく。

 猛烈な勢いでキーボードが叩かれる。

 今はノッテいるよ!

 なんて調子に乗っていると、痕跡が中華街で途切れた。

 思わず舌打ちする。

 見事に痕跡を消している。

 ここからの足取りが辿れない。

 まあ、あのナルシストが関与しているだろうから、仕様がないか。

 初めから関わっているのは知ってた訳だし、当然の帰結かな。

 不自然なくらい見事な痕跡の消え方だね。

 直接中華街訪問も視野に入れるしかないかな。

「姉さんにも掴ませない…か」

 私は拘りなく頷いた。

 もう慣れたよ、この展開。

「まあ、次はこうはいかないけどね」

 

 取り敢えず小物感満載の捨て台詞を吐いておく私。

 

 

               2

 

 達也が合法ロリ巨乳から情報をぶっこ抜いてきた。

 やっぱり、CADメーカーが狙われているという。

 アフロも大変だねぇ。 

 あそこも私のお節介で特別製の攻性防壁が張り巡らせてあるから、簡単に貫けないけどね。

 これに懲りてくれれば、まあよし。

 だが、もっと遊びたいならお付き合いしますよ?

 直接伺いますよ?おもちゃは充実していますので。

 関係ない人間まで巻き込みそうだから最終手段ですけどね。

 あとは 横浜・横須賀からの不法入国も増えているのだとか。

 しかも捕まっていないとか、源田刑事お疲れ様です。

 こうしてみると、みんな知り合いが関わってるな。

 彼等の犠牲になった休暇の冥福を祈ろう。

 いや、アフロは要らない人か。仕事こそ我が人生みたいなアフロだし。

 合法ロリ巨乳からは、データの扱いに注意するようにいわれたそうな。

 

 という訳で、おかっぱ先輩に我が家に遊びに来た連中の話を作業中にしてみる。

 勿論、電子的に遊びに来た連中のことだ。

 断じてライフルを持った連中の方はいっていない。

 因みに、今は絶賛模型製作中です。

 何故か間にキャノンが挟まってます。

 卑猥な意味ではない。現実の人間がいるんだよね。

 なんか威嚇してんだけど、取り成ししてっていったよね、私。

 ダメじゃん。意味ないじゃない。

「それで被害は無かったのかい?」

 取り敢えずキャノンは見なかったことにしよう。

 婚約者が指を絡ませて落ち着かせてるし。

 イチャイチャするなら別室に移動しましょうかね。

 思わず汚い言葉が出そうになるわ。

「ええ。全く」

 それどころか、相手の機材全滅させてやりましたよ。一拠点のだけど。

「それよりも五十里先輩も一応は用心しといた方がいいと思いますよ?」

「それは…クラッカーの狙いはコンペのデータってことかな?」

 おかっぱ先輩は、中性的なお顔の眉を寄せて囁くようにいった。

 いや、お宅は大丈夫だと思うんだけどね。

 連中の狙いは一応知ってるし。

 一応、注意しておくに越したことないから。

「どうも魔法理論辺りを重点的に攻めてたみたいなので…」

「僕に心当たりはないかな。でも市原先輩にもいっておいた方がいいかな」

 ですね。

 内心でおかっぱ先輩に同意しておく。

 話が一段落したのを見計らったように達也とお姉様が入室してきた。

「姉さん。どうだい?」

「深景君。久しぶりだね」

 達也は私の調子を尋ね、お姉様は私とおかっぱ先輩の間に挟まったキャノンを苦笑いで見ながらいった。

 そこから話題はキャノン先輩の豪快なお片付けの話に移行したが、関係ないので割愛する。

「では、そろそろ本題に入ろう」

 達也に視線で促され、お姉様がお片付けの話に終止符を打つ。

「論文コンペの警護についての相談なんだ」

 ああ。そんなのあったっけ。

 警護・警備は会場ではなく、学校内や会場までの道程の話であると説明される。

 場合によっては、下校ルートも含む。

 貴重なデータも使用する為に、産業スパイもハッスルするらしい。

「例えば、ホームサーバーをクラックするなどもですか?」

 達也が若干眼を鋭くしてお姉様に訊く。

「いや、精々がチンピラが小遣い稼ぎで置き引きやひったくりをする程度だ」

 お姉様も何故そんなことを訊くのかといった感じで、目付きが鋭くなる。

 一応、お姉様にもウチに電子的に遊びに来た連中の話をしてやる。

「聞いたことがない事例だが、時期的に無関係と断じる訳にもいかないな」

 お姉様が考え込んで暫し沈黙したが、すぐに顔を上げる。

「もし、それがコンペ絡みだとすれば、余計にコンペの関係者全員に警護を付けるべきだな。問題は君等二人の警護だが…」

 おかっぱ先輩のガードは当然キャノン先輩。

 メイン執筆者である市原さんにはカンゾウ君と兄貴が付くそうだ。

 だけど、私等二人にとなると人材がいないようだ。

「「要りませんよ」」

 奇しくも達也とハモってしまった。

「だろうな」

 お姉様は分かっていたようだ。

 なら、奮闘を祈るでいいような?

「ところで渡辺先輩。何故メインで動いているんです?」

 達也が疑問を呈するが、当然だろう。

 何しろ次代に風紀委員は代替わりしているんだから。

 引退した三年生が出てくるのは、おかしな感じだよね。

「何故って…」

 お姉様がきまり悪そうに沈黙する。

 そのことで理解する。

 

 ああ。この人も市原さんに借りがある人なんだなって。

 

 

 

               3

 

 模型の材料やら諸々が足りなくなったので私と達也、それにおかっぱ・キャノンペアと買い出しに行くことになった。

 だが、達也でさえ隣の熱々なお二人に辟易させられていた。

「わざわざ先輩に来ていただかなくとも…」

 だからこそ、達也のこのセリフが出たんだと確信している。

「いや、流石に協力して貰ってるのに任せきりはね…」

 おかっぱ先輩の常識的思考には頭が下がるが、私等が息苦しい。

 胸焼けがする。

 カップルの所為で店への到着が遅れたが、空気を読んで文句はいわない。

 私と達也は必要なものをサッサと購入し、カップルに断り外で待つ。

 そして、同時に気付く。下手くそな監視に。

 そちらを必要以上に見ないように、何気なく様子を窺うといたよ。

 ことあるごとに因縁を達也につけていた平河妹が。

 ウンザリする。

 やっぱり行動に出たか。

 顔を歪めないように注意していると、漸くカップルが出てきた。

「お待たせ…って、どうかしたの?」

 おかっぱ先輩が私達の様子がおかしいのに気付いたようだ。

 鋭いね。

 達也は別に隠すことなく、サラッと答えた。

「いえ、監視されているので、どうしようかと」

 そして、チラッと平河妹がいる方に視線を遣る。

 慌てて隠れる平河妹。

 嫌がらせ程度の囮要員なのかもしれないが、あのナルシスト何を考えてアレを引き込んだのかな?

 囮にしてもお粗末なような気がするんだけど?

「監視!?スパイ!!」

 瞬間的に沸騰するキャノン先輩。

 人の話も聞かずに即走り出す。

 あっという間に平河妹の背に迫る。

 あっちは普通に走ってるだけだからね。当然だわ。

 そして、平河妹は手に持っていたカプセルをポイっと投げた。

 流石に意図を察したキャノン先輩は目を庇うが、一瞬早く強烈な閃光が辺りを照らす。

 私も達也も無事だ。

 意外なのはおかっぱ先輩も間に合っていることだね。

 少し間に合わず片目をやられたキャノン先輩が魔法を遣おうとしたのを、達也が術式解体(グラムデモリッション)で止める。

「何すんのよ!?」

 やられてキレ気味のキャノン先輩が達也に怒鳴る。

 私はといえば、おかっぱ先輩の腕を掴んでいた。

「司波さん?」

 意図が分からず困惑するおかっぱ先輩。

 そうこうしているうちに平河妹が平和的にスクーターに飛び乗り走り出した。

「逃げられちゃったじゃないの!」

 キャノン先輩が私達に怒る。

 気持ちは分かるんだけどね。

 でもね…。

「訊きますけど、なんの容疑で捕まえるんです?」

「え?」

 キャノン先輩が呆けたような顔になる。

 おかっぱ先輩は理解したようだね。

「彼女がやっていたのは、こっちを見ていただけです。ストーカーとして捕まえるにしても材料が不足しているかと」

 私の言葉にあ!って感じで固まるキャノン先輩。

 最後に閃光による目潰しをやったはやったけど、あれだけ猛然と殺気立った魔法師が迫ってきたら怖いだろう。

 怒られる程度で済んだ可能性すらある。

 失明するような威力じゃないし、護身用で売っているものだろう。

 それにあの子は尾行してたって訳じゃない。

 多分、私達が行く場所に当たりを付けて張っていただけだろう。

 尾行なんてされたら私達が即気付くからね。

 大丈夫か風紀委員長。

「それに顔は丸出しで、スクーターはナンバーを隠してすらいない相手です。簡単にボロを出すでしょう」

 達也が冷静に説明するのを、おかっぱ先輩は頷きつつ聞いていた。

「もしかして…先走っちゃった?」

 気まずそうにキャノン先輩がいう。

 まあね。再度いうけど気持ちは分かるよ?

「ドンマイです!」

「五月蠅いわよ!」

 キャノン先輩が真っ赤になって騒いだ。

 

 まあ、捕まえるのは決定的なことやった後でいいよ。誰かも知ってるし。

 

 

 

               4

 

 :陳視点

 

 溜息が出る。

 今はある車の車内が映されているが、周の若造から紹介された現地協力者が笑っていた。 

 何故、あんなお粗末な結果を出しながら笑っているのか理解できん。

「あの小娘、このまま使っていてよいものか…」

「車を用意したのは周大人です。我々には辿り着きません」

 私の言葉に参謀の一人が答える。

 周か。アレも信用ならない男だ。

 こちらが注意して置けばよい話だが。

「例のレリックは?」

「現在は所在不明です」

 簡潔に参謀が答える。

 まあ、まだ始まったばかりだ。

 じっくりと攻めればよい。

「司波小百合周辺の監視を怠るな。先日確保を邪魔した人物の情報は?」

 司波小百合が出入りした先は、調べてある。

 問題は貴重なスナイパーを始末してくれた相手だ。

「夫の連れ子でした。邪魔をした人物は長女の司波深景。三人姉弟で他住んでいるのは長男・達也、次女・深雪です。三名は第一高校一年であり件の現地協力者の報復対象です」

 連れ子のご機嫌伺いというだけではなさそうだな。

 ただの連れ子ではないのは明白だからな。

 何しろ、その司波深景とやらはうちの連中を片付けている。

 不確定要素として警戒すべきだな。

 となれば、使えない現地協力者も正体を探る足掛かりくらいにはなるかもしれん。

「第一高校を活動対象に追加。小娘への支援を強化しろ。機密情報の漏洩が一番の報復となると教えてやれ。それと小娘用に武器を準備してやれ」

 そして、最後に後ろに控える信頼できる戦力に目を向けた。

「呂上尉」

「是」

「現地で指揮を執れ。任務に支障がある者がいれば排除しろ」

「是」

 

 呂上尉はすぐさま部屋を出ていった。

 

 

 

               5

 

 達也が論文コンペの作業から、我等が1Eの教室に帰還する。

「早かったね!」

 エリカが真っ先に声を上げる。

「なんの話をしてたんだ?」

 エリカやレオ君、幹比古君に美月、それに私が固まって話していたのを見て達也が訊いてきた。

 まあ、一番は美月が不安そうにしていたのが一番の理由だろうけどね。

「美月が視線感じるんだって」

 エリカが簡潔に状況を説明する。

「今朝からなんだか、嫌な視線を感じて…物凄く気味の悪い視線で…」

「ストーカーか?」

 達也が常識的な意見を述べるが、本人もそれが正解だと思っていないのは分かる。

 私に視線向けてるし。

「今朝から矢鱈と式神を差し向けてくるんだよ。執拗に。多分、それを感じ取ってるんだと思うよ」

 私が正解をいってやる。

 美月にもそういったけど、正体見たり枯れ尾花って訳にはいかない。

 人間が絡んでれば余計怖いよね。

「普通なら防御術式に弾かれれば、諦めるんだけどね」

 幹比古君が心配そうに美月を見ながらいった。

「幹比古君の話じゃ、外国の式神じゃないかってさ」

 私も補足して説明する。

 大陸の方の術式だから、原作通りに大亜連合の連中だろう。

 式神が手酷くやられれば、術者にも影響あるのに何度もアタックさせるとか流石はブラック国家。

「それは他国のスパイということか?」

 達也が私を見ながら幹比古君に訊く。

「時期的にそれが濃厚だね。でも、ここまでやるなんて聞いたことないよ」

「全く、やりたい放題やられてるわね。警察は何やってんのかしら」

 幹比古君の言葉に、エリカが不機嫌そうに吐き捨てる。

 

 貴女のお兄さんは知らないけど、源田さんは頑張ってると思うよ。

 

 

 

               6

 

 :源田視点

 

 鼻がむず痒いな。

 聞き込みは思うようにいかない。

「目撃者はいるんでしょうけどねぇ」

 隣の千葉がやる気なさげに頭をポリポリ掻いていやがる。

 だが、こちらをチラッと窺う。

 コイツのいいたいことは分かっている。

「違法捜査はしねぇぞ?」

「ちょっと話を聞きに行くだけですよ。何も証拠として採用しようっていうんじゃありませんって」

 確かに行き詰ってるからな。

 俺も多少強引なことをすることがあるし、一線を引いてるなら見ぬ振りをするか。

「喫茶店で一服しましょう」

 千葉が愛想笑いをしていった。

 その喫茶店が曲者なんだろうが。

 

 到着したのは喫茶店・ロッテルバルトだ。

 横浜の山手にある洒落た店で、とてもあらゆる分野の情報を握っている人間のいる場所には思えない。

 そこも曲者なんだがな。

 コーヒーは旨いものを出す。

 安月給には優しくない値段だ。

 諦めて入るとするか。

 千葉が運転する車から降りて店内に入ると、客が一人座っていた。

 その客が問題だ。

 千葉と二人でカウンター席に陣取り、マスターが視線を向けた瞬間に注文する。

「ブレンド二つ」

 千葉が俺の分も勝手に注文する。

 千葉は顔を正面に戻そうとしているが、先に来ていた客が気になるようだ。

 地味な化粧と地味なスーツ姿だが、見目の良さとスタイルの良さを隠しきれていない。

 千葉はそれを目敏く見抜いたんだろうが、俺にいわせれば見事に釣られているとしかいいようがない。

 そりゃ、いい女は見たくなるもんだが、あれは堅気じゃない。

 俺はチラチラと女を気にする千葉の首を掴んで正面を向かせる。

 大袈裟に痛がる千葉に遂に女の口から小さい笑いが漏れる。

「すいません。源田刑事に比べて千葉の御曹司は女に不慣れなんですか?」

 それ見ろ。

 千葉の顔から一瞬表情が消える。

 次男は有名だが長男であるコイツの知名度は低い。

 隠している訳ではないが、ちょっと調べたくらいではコイツの顔を知ることはない。

 つまり、この女は魔法関係の人間ということだ。

 犯罪者絡みの女の臭いはしないからな。

「失礼しました。私は藤林響子と申します」

 

 ホラな。堅気じゃないだろうが。

 

 

 

               7

 

 私と達也は、深雪とお馴染みのメンバーで帰ることになった。

 私達が駆り出されてから結構久しぶりだ。

「達也さん!論文コンペの準備はどうですか?」

 積極的に動いているほのかが、知っているであろう情報をわざわざ訊いている。

 達也があとは調整等の作業が残っていると答えている。

「ふうん。大変だね。確か美月のところも模型作り手伝ってるんでしょ?」

 横で達也の話を聞いていたエリカが、二人の邪魔をしないように美月に話を振った。

「私は本当にお手伝い。五十里先輩や深景さんがどんどん設計図通りに作っちゃうから、二年の先輩も大変そうだよ」

「模型作りは五十里先輩や姉さんに任せきりだからな。自然と二年が主力になるんだろう」

 美月の答えに達也が追加情報を放り込んでくる。

 私も頑張っているんですよ。

「ん?じゃあ、達也は何してんだ?」

 レオ君が、あれ?って感じで訊いてきた。

 具体的に何をしているって、そういえばいったことなかったっけ?

「俺はデモ用の術式調整だな」

「普通は逆だよね?」

 達也の返答に雫が鋭いツッコミを入れる。

 だが、これが順当で間違いない。現実は非情なのだよ。

「物作りに関しては五十里先輩の方が断然上だと思うが?」

「まあ、啓先輩はそっちが合ってるかもね」

 雫はそこを問題にしたんじゃないだろうに。

 達也のズレた返答にエリカが苦笑いでフォローを入れた。

 無理にフォローしなくてもいいんだよ、エリカ。

 

「寄っていくか?」

 達也がよく利用する喫茶店・アイネブリーゼの前で提案する。

 理由は分かっている。

「いいね!」

「そうだな。これからはもっと忙しくなるだろうし、いいじゃねぇか?」

「うん。ゆっくりお茶を飲んでいこう」

 エリカ、レオ君に幹比古君といった事情を理解している組が賛成して店内へ入っていく。

 

 客はそこそこ入っていて、私達のいつも利用している席は埋まっていたのでカウンターを占拠する。

 達也の周りが花々しい。

 誤字ではない。まさにそんな感じで女子が固まっている。

 私を含んでいるがね。

「いらっしゃい。モテるね、達也君」

 この喫茶店のマスターがニヤニヤしながら揶揄う。

 哀れマスター、この後達也の髭弄りで女子からも攻撃を食らい、凹んでいた。

 

「へぇ。達也君、論文コンペに出るんだ。一年生だろ?凄いな!」

 マスターが分が悪いと悟り、話題を変えた結果、またコンペの話になった。

「今年は横浜だっただろ?実は僕の実家も横浜なんだ。しかも実家も喫茶店なんだ。ロッテルバルトって店。会場は国際会議場だろ?その近くにあるんだ」

 コーヒーを淹れながら淀みなく喋るが、手抜きはない。

 この人は、魔法科高校の近くにある喫茶店の店主なだけあって魔法の情報を常に仕入れている。

 親と違って情報を扱っているって訳じゃないみたいだけど。

「近くというとどの辺りなんですか?」

 美月が差し出されたコーヒーを受け取りながら訊く。

「山手の丘の真ん中辺りだね!是非コーヒーの味を比べてみてよ!」

 結構自信ありですか?多分、行かないと思うけどね。

「マスター。商売上手」

 雫が礼によって感情が大して混じらぬ声でいった。

 

 マスターがドヤ顔で笑ったのを見て、私達も笑ってしまった。

 

 

 

               8

 

 コーヒーをまったりと楽しんでいると、エリカが徐に立ち上がる。

「さてと、ちょっとお花摘みに行ってくるね!」

「エリカちゃん!そういうのは大声でいっちゃダメだよ!」

 エリカの便所発言に、美月が顔を真っ赤にして注意した。

 確かに洒落た表現すりゃいいってもんじゃないかもね。

 用件は別だと知っているけれども。

 エリカはカラカラと笑うと姿を消した。

「おっと!電話だわ」

 レオ君が、わざとらしく胸ポケットに手を当てて立ち上がり同じく姿を消す。

「幹比古。何やってるんだ?」

 達也が突然お習字を始めた幹比古君に声を掛ける。

「ちょっと忘れないようにメモッとこうと思って…」

 もう集中しているのか、幹比古君の返事は御座なりだった。

 いや、メモってそれ無理がないかな?

 一番酷い理由だよ、君。

「あまり派手にやると見付かるぞ」

 達也も強いて止めはせずに、残ったコーヒーを味わっていた。

 さて、私も席を立つか。

「姉さん?」

「うん。ちょっと座り過ぎて最近硬くなっちゃってね。ストレッチしてくる」

「え?ここで?」

 ほのかが変な人を見る目で見られてしまった。

 うん。適当な理由って、難しいわよね…。

 達也と深雪は苦笑いで見送ってくれた。

 別にいいんだ…。

 背中に哀愁を漂わせて姿を消す。

 

「オジサン!私とイイことして遊ばない?」

 エリカがあからさまに怪しいことをいい放った。

 誤解されるようにわざといったよね?

 私達を尾行してた東方不敗風のナイスミドルは、若干動揺したようだ。

 いわれたナイスミドルは、何を考えているのかあからさまに怪しいコート姿だ。

 住宅街を帰宅サラリーマンが歩くには早いし、あからさまに浮いている。

 そして何故かテイクアウトのコーヒーカップを握りしめている。

 飲みながら、尾行してたのかね。

 どうして某・ポンコツ少佐とか、こっちの奴って下手な偽装するのかね。

「何をいっているのかね。もっと自分を大切にしなさい!」

 一瞬、エリカの揶揄いに動揺したナイスミドルだが、エリカの漏れ出た闘気に意識を反応し意識を切り替えている。

「うん?何か誤解してるのかな?イイことっていっただけなのに」

 エリカは、あざとく小首を傾げていった。

「大人を揶揄うんじゃない」

 さっと憤慨する大人を装い逃げようとするナイスミドル。

 背を向けると、そこにはガタイのいい男の子が一人。

「まあ、そう慌てんなよ。訊きたいこともあるしよ」

 レオ君が脳筋CADを打ち鳴らして引き留める。

 後ろを窺えばエリカも警棒を既に引き抜いている。

 溜息を吐くナイスミドル。

 そりゃ、溜息も吐きたくなる状況だよね。

 そして絶叫。

「助けてくれ!!強盗だぁ!!」

 シーン。

「うわっ!情けな…」

「いやいや、そこは判断の早さを褒めとこうぜ」

 情け容赦ないエリカの言葉に、流石に憐れになったのかレオ君がフォローしてやる。

「オッサン。悪いけどよ。助けを呼んでも誰も来ないぜ?」

 レオ君、それ悪役のセリフだよ。

「まあ、来させないんだけどね。結界でここ等を覆ってるから、私達を倒さないと出られないよ?」

 ナイスミドルは今更ながらに状況を理解したようで、渋面でコーヒーを路上にポイ捨てした。

 マナーの悪いナイスミドルだ。

 それから拳を構える。

「へぇ。武器ぐらい出すと思ってたぜ」

「最初から出すとは限らないのよ!」

 レオ君の勘違いを厳しく正すエリカ。

 いつもなら怒るレオ君だが、今回ばかりは表情を引き締める。

 その表情を見て、ナイスミドルは不意を打てなくなったことを悟り舌打ちした。

 そんなことで諦める筈もなく。

 物凄いスピードでレオ君に狙いを定めて襲い掛かる。

 魔法の気配は一切ないことに一瞬だけ驚くレオ君だが、こちらも素早く迎撃に入る。

 だが、経験値の差は如何ともし難く善戦したものの、レオ君はアッパーカットを食らい壁に打ち付けられた。

 その間、エリカも何もしなかった訳じゃない。

 レオ君の援護に入っていたが、あちらもレオ君の拳を捌きつつエリカにスローイングダガーを投擲し接近を許さなかった。

 そして、満を持してエリカを相手取ろうとした時に復活したレオ君のタックルを食らい、憐れナイスミドル、高校生に取り押さえれたのであった。

 

「痛ってぇな。コイツ、機械仕掛けって感じでもないし、ケミカル強化か?」

 レオ君が顎に手を当てて顔を顰めつついった。

 エリカは呆れた顔で、それをいったレオ君を見ている。

「アンタにいわれたくないと思うわよ。そこのオジサンもね」

 普通なら、あの拳を顎に食らったら死ぬと思う。

 そうじゃくても脳震盪は避けられない。

 それ以前に首の骨が逝くよね。

 それを痛いで済んでるんだからレオ君も普通じゃない。

「そりゃ、俺も自分の遺伝子が完璧に天然だっていい張る気はないけどよ」

 レオ君の拘束を解こうと試みたナイスミドルを、レオ君が頭を地面に叩き付けることで大人しくさせる。

「ま、待て!私は元々敵対する気はなかった!話すから、落ち着きなさい!」

 ナイスミドルが東方不敗らしからぬ情けない態度をとる。

「よくいうぜ。アンタの攻撃、俺達じゃなきゃ死んでたぜ?」

「いきなり武器を持ち出したのは、君等が先だろう。私は身を守るだけの積もりだったさ。相手の力量に合わせてね」

 レオ君の言葉に、ナイスミドルが皮肉交じりにいった。

「そりゃ、こっちも同じだよ」

「敵じゃないっていうなら、手早く話してくれない?結界を長々と維持する訳にもいかないから」

 レオ君の不貞腐れたような態度を気にする様子もなく、エリカが話を促す。

「まずは名前からいこう。私はジロー・マーシャルだ。詳しい身分はいえないが、どの組織にも所属していないとだけいっておこう」

「私達の自己紹介は不要よね?」

「ああ。勿論だ」

「非合法工作員ってことよね?」

 エリカの問いにナイスミドルは沈黙するが、それが答えだ。

「私の仕事は、魔法科高校の生徒から東側へ魔法技術が渡るのを防ぎ、万が一渡ってしまった場合はそれに対処することだ」

 エリカの言葉を無視してナイスミドルは、淡々を目的を話す。

「アンタのクライアントは、うちの国ってわけじゃないんだろ?なんでそんなことすんだよ?」

 レオ君の疑問に、ナイスミドルは重い溜息を吐いた。

「この国はまだ平和ボケが治らないのか…。いや、学生にそれを求めるのは酷か?世界の軍事バランスを保つには、日本の情報が東側に漏れたのでは意味がないと思わないかね?」

 エリカはジッと聞いているが、レオ君は思い至らなかったのか気まずそうに視線を逸らした。

「今や世界中で魔法関連技術のスパイが暗躍しているのだよ。そして、君等の学校もターゲットになっているという訳だ」

「ご高説どうも。油断してなんかいないし、やられる積もりもないわよ。現にアンタの尾行だって気付いたでしょ?」

「それは、私が防ぐ立場だからだ。敵ではないからね」

 話に気を取られていたのか、レオ君の拘束は少し緩んでいたようだ。

 それを突いてレオ君自分の上から突き飛ばすと、素早く立ち上がった。

 その手に魔法のように拳銃を握り締めて。

「「っ!?」」

「これが証拠だ」

 拳銃を向けつつ、そんなことをいうナイスミドル。

「単に拳銃を使うと証拠が残るからでしょうが」

 エリカが吐き捨てるようにいった。

「それも勿論あるがね。必要なことは話した。結界を解いて貰おうか?」

 いくら魔法師でも至近距離で銃弾の速度より速く動くのは困難だ。 

 それくらい二人も、いや三人とも承知している。

「ミキ…」

 エリカが囁くようにいうと、結界は空間に解けるように消えていった。

 結界が解除された事を確認するとナイスミドルは、徐々に後退する。

「最後に一つ。お仲間に学校内だからといって気を抜くなと伝えて置いてくれたまえ」

 いうと同時に懐から金属の筒を取り出し、叩き付けた。

 白い煙幕が噴き出し、ナイスミドルは姿を消した。

 

 さて、私の出番です。

 

 

 

               9

 

 :ジロー視点

 

 確かに甘く見ていたことは否定できない。

 それでも一時とはいえ捕らえられたのは、私の評判に係わる。

 自分自身から出た錆だ。甘んじて受けなければならない。

「勘づかれた。交代要員を送ってくれ…っ!」

 今の今まで全力で走って離脱していたが、その脚が止まる。

 決して安全圏に入ったからではない。

 その逆だ。

 危機察知能力が低くては、この業界はやっていけない。

 いつの間にか通信も途絶している。

 冷汗が背を伝う。

 全神経を集中し、索敵するが見付からない。

 周囲にも異常は見当たらない。

 だが、視線を正面に戻した瞬間に驚愕した。

 一人の青年が気配もなく立っていたからだ。

 いつの間に!?

 その立っている青年には見覚えがあった。

 とびきり危険な人物として。

「人喰い虎…呂剛虎」

 逃げなければならない。

 理性はそう告げていたが、動くことができない。

 自らを叱咤し、素早く拳銃を引き抜くと狙いを定めようとしたが、それより早く何かが起きた。

「「っ!?」」

 私と人喰い虎が驚愕する。

 私の腕を潰そうと伸びた手は、どこからか出てきた刃に止められていたのだ。

「君は!?」

 何やら珍妙な仮面を付けた女性が、刃を手に立っていたのだ。

 服装で誤魔化しているが、おそらく先程まで相手をしていた監視対象と変わらない年の頃だ。

「走れ」

 私が何かいう前に、彼女が短く命ずる。

 私は弾かれたように駆け出した。

 瞬間、背後で嵐が吹き荒れた。

 

 どれ程走っただろうか。

 流石に息切れし、立ち止まる。

「お疲れさん」

「っ!?」

 今日はどれ程驚かされる日なんだ。

 先程、人喰い虎と戦っていた筈の人物が、私の目の前に立っていた。

「君は…何者だ?」

 私はいつでも拳銃を取り出せるように身構える。

 彼女が仮面の奥で苦笑いしたような気配を感じる。

「命の恩人に随分ないい草だね?」

「タダより怖いものはないというからね」

「何ね、簡単なことだよ。情報が欲しいってだけ。当然中華街の情報も握っているでしょ?それが欲しい」

「ふむ。私の一存で話せるような内容ならいいがね」

 私は慎重に離脱の機会を窺う。

「周公瑾。ふざけた名前だけど一応本名だ。居場所か分かれば最高だね」

 周…。あの辺りに巣食う怪人だ。

 大亜連合と繋がりながら、他にもパイプを持っている男だが証拠を掴ませない不気味な男だ。

「我々が訊きたいくらいだよ。あの怪人のことは。神出鬼没な男でね。ただ…」

 少しだけ情報をくれてやろうとした瞬間。

「伏せろ!」

 

 その声を最後に私の意識はなくなった。

 

 

 

               10

 

 折角、影分身に虎ちゃんの相手を頼んで、華麗に離脱して貰って囮までして貰ってここにいるのに、ここで本体の私に危機到来。

 情報を楽して手に入れようとか思ってたのにさ。

 何かが光ったと同時に私の本能が危機を知らせる。

 この感覚を疑ったことはない。

 ナイスミドルに手を伸ばすが、間に合わなかった。

 大したスピードだよ、全く!

 ナイスミドルの頭が爆ぜる。

 弾丸と思しき物が威力を弱めることなく私に向かってくる。

 防げたのは、まさに今までの鍛錬の賜物だ。

 チートに驕り高ぶっていた頃の小さい私なら一緒に仲良く頭を失くしていた。

 刀で弾丸を弾いた感があるが、それが軌道を変えて襲い掛かってくる。

 それを限界まで強化した身体で弾丸を今度こそ破壊する。

 神速と呼べる程の剣で漸く追い付ける。

 澄んだ音と共に弾丸が砕ける。

 弾丸の正体は、コインのようだ。

 ゲームセンターか何かで使われるような。

 こんなもので?

 素早く建物に身を隠し、眼で索敵を開始する。

 ビルの屋上にその人物が立っているように見えるが、あれはデコイだ。

 舌打ちしたくなる。

 当人は既に引き際がよく離脱した後のようだ。

 建物の陰から出ると、頭がなくなったナイスミドルを見下ろす。

 人員を大分使って調べている筈だから、聞いておこうと思ったんだけど。

 東方不敗風な顔の癖に、これじゃ東方全敗だ。

 なんて、今回は大失敗した私のいえた義理じゃない。

 

 私は仕様がなく天狗さんに連絡することにした。

 

 

 

               11

 

 :周視点

 

 私は隠れ家で寛いでいると、人が扉から滑り込んできた。

「ご苦労様です。結局フォローして頂いたようで、助かりましたよ」

 その人物に声を掛ける。

「別に構わないさ。仕事だからな」

 愛想のない声と顔でその人物はいった。

「監視していたのか?」

「まさか!心配すらしていませんでしたよ。素直ではない感謝がきたから分かっただけです」

 陳閣下が不機嫌そうに礼をいっていたが、こっちの手札を探っていたようだ。

 何やら他とは違う者が、周囲を嗅ぎまわっている様子だったので協力していると示す為に彼を配置した。

 案の定、私の周りを嗅ぎまわっている者は、普通ではないようだ。

 何しろ虎をあしらい、彼の狙撃すら防いでみせた。

 彼がその人物を殺すとなれば、切り札を切った上で周辺の被害を度外視しないと難しいでしょうね。

 これは明確な脅威だ。この私でも。

「まあ別にいいが。金は?」

「いつも通りに」

 私はいつも通りに声を掛ける。

「どうですか?私達の下で働きませんか?日本に、十師族に義理もないでしょう?」

 彼はフリーランスであって、私の手駒ではない。

 将来的に欲しい手駒ではありますがね。

「エクストラ…でしたか?君の能力は大したものですよ。それを評価しないとはどうかしていますよ、この国は」

「これは俺が磨いたもので家の魔法じゃない。魔法とすら呼べない。向こうに義理もないが、それはアンタも一緒だ。断る」

 そういうといつも通りに出ていった。

「それは残念ですね。またお願いしますよ?刃霧要君」

 私はそういいながらも、既に敵のことを考えていた。

「それに司波深景ですか…。さて、どうしたものか」

 口元に自然と笑みが浮かぶ。

 

 彼女を、どう利用するかを。

 

 

 

 

 

 

 




 モチベーション低下と忙しさで進みが更に遅くなっています。
 ここらで何かカンフル剤になるようなもの探さないとなと
 思います。
 
 刃霧君、カッコイイ敵キャラだったなと思います。
 彼は死紋十字斑を使わずとも、ある程度弾をコントロールできます。
 魔法科の世界の彼なので。
 原作より強いです。深景だからこその弾丸の破壊です。
 これからどう係わっていくか見て頂けたらと思います。

 因みに、深景の付けていた仮面は黒(ヘイ)の仮面です。
 趣味です。はい。
 
 更に投稿が不安定になるかと思いますが、気長にお待ち頂ければと
 思います。


 


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横浜騒乱編3

 書く時間が中々取れずに、余計遅くなっております。
 これからも遅くとも書いていく積もりです。
 それでは、お願いします。



 


               1

 

 :源田視点

 

 千葉の野郎は、すっかり女にのぼせ上って本来の用件を忘れてやがる。

 藤林のお嬢さんは、千葉と話しながらもこっちに目を配ってやがる。

 マスターに用件を代わりに切り出そうとすると、途端に話を振ってきやがる。

 機先を制するを話術でやってやがるぜ。

 こりゃ、警部殿を引っ叩いて正気に戻すしかないか?

 さて、職人と名高い情報屋が、このお嬢さんに大人しく従うとは思えねぇが…。

 このお嬢さんがいなけりゃ、情報は聞けそうではある。

 だが、もう向こうのペースに引き込まれてやがる。

 俺はコーヒーを味わいながら、ジッとマスターと藤林のお嬢さんを観察していた。

 その時、藤林のお嬢さんのハンドバックから着信音が鳴った。

 そっちにだけ目を向けるのではなく、全体を見つつ注目する。

 藤林のお嬢さんは、ハンドバックから情報端末を取り出すとメッセージに軽く目を落とした。

 すぐに俺や千葉に笑顔を向ける。

「すみません。少し席を外させて下さい」

「勿論、結構ですよ」

 藤林のお嬢さんは、笑顔のまま通信端末を持って外へ出て行った。

 それを千葉がのぼせ上った目で追っていやがる。

 俺は、無言で警部殿の頭を引っ叩いた。

「痛たぁ!」

 不満気にこっちを睨んでくるが、俺も逆に睨み返してやると奴はそそくさと視線を逸らした。

「行くぞ、警部殿」

「あの…、俺、上司なんですけど…」

「なら、それらしくしろ。そうなったら態度はいくらでも改めてやるよ」

 千葉が苦虫を嚙み潰したような顔で呻いた。

「情報まだ聞いてないですよ?」

「あのお嬢さんに先乗りされた状態じゃ、いいように使われるのがオチだ。出直すか、こっちで捜査するしかないってこった」

 千葉も分かってはいたのか、気落ちしたような顔をした。

 本当に懲りろよ。

 

 俺達が金を払って、外に出ると藤林のお嬢さんはまだ話中だった。

 お嬢さんが通信端末を耳から離すと、声を掛けて来た。

「あら、もう出られるんですか?」

「ああ」

「すいません。職務がありますので」

 俺は素っ気なく頷き、千葉の奴は全く懲りずに名残惜しそうに言った。

「それでは、残念ですがまたお会いしましょう」

「それは是非!」

 お嬢さんの言葉に千葉が大袈裟に敬礼していった。

 俺は蹴飛ばすように千葉の背を押す。

 千葉はムッとした顔をしたが、大人しく歩き出した。

 それを見届け、俺はお嬢さんの耳元で囁いた。

「警察舐めんなよ」

 圧を籠めていう。

「勿論ですわ」

 お嬢さんは、並みの犯罪者なら縮み上がるような圧をものともせずに笑顔で答えた。

 俺は、それに応えずに千葉を追った。

 

 全く、ただでさえ難航してるってのに、面倒な横槍入れてこなきゃいいんだがな。

 

 

 

               2

 

 :響子視点

 

 外に出ると、喫茶店の中を窺いながら通信に出る。

 内容は、吉田家の元神童の尻拭い。

「古式魔法でも、痕跡は残るんだけど…。まあ、元神童も自分の殻を破りつつあるってところみたいだけど」

 監視システムの記録を消しておく。

 餌になって貰っている訳だから、これくらい報酬のうちにも入らないけど、愚痴はいいたくなるわ。

 そう、達也君達が標的になっていることや、レリックの複製を会社から押し付けられてレリック本体も預かったことも把握しているのに、私達は敢えて放置しているのだ。

 内心でそんなことを考えていると、刑事二人が出て来た。

 噂通り源田刑事は、容易に使われるような警察官じゃなさそうね。

「警察舐めんなよ」

 千葉の御曹司を急かして先に行かせてから、私の耳元でそういった。

 流石は、剣の腕前ならば千葉の麒麟児にも勝るといわれるだけあって、気迫が凄いし、それを私以外に一切悟らせないのが凄い。

 私でなければ、冷汗の一つも搔いていたかもしれないわね。

 凄腕の巣窟のような独立魔装大隊に居れば受け流すことは可能になる。

「勿論ですわ」

 私は笑顔で返事を返した。

 それに特に反応を示すことなく、源田刑事は振り返らずに千葉の御曹司の後を追っていった。

私は、それを見送ると止めてあった車に乗り込み、データを改竄していく。

 一段落ついて一息吐く。

「舐めた積もりはないけれど、こちらの都合通りには動いてくれなさそうね」

 独り言を呟く。

 千葉警部だけなら、どうにかなりそうだけど、お目付け役がおいそれと許しはしないだろう。

 やはり、達也君達に頑張って貰うしかなさそうね。

それにしても、深景さんにも追撃を許さない相手がいるなんてね。

 余程能力の高い魔法師なのか、それとも達也君のようなピーキーな力の持ち主なのかね。

 餌が頑張ってくれる以上、釣り上げる私達は上手くやらないといけないわね。

 

 私は、支払いを済ませると原隊に復帰した。

 

 

 

 

               3

 

 :幹比古視点

 

 非合法工作員を逃がしてしまった次の日、エリカの機嫌はあまりよくない。

 二人をカバーする為に深景さんが、非合法工作員を追ったところ駄目だったらしい。

 戻った彼女は、首尾を訊かれて不敵な笑みを浮かべて、こういった。

「ふっ!コテンコテン!ぴゅーと飛んできてパァン!!ってなもんよ!!」

 意味が全く分からないけど、ようは失敗したってことらしい。

 エリカにとって、カバーとか気分のいいものじゃないだろうし、しかも失敗となると機嫌も悪くなるだろう。

 機嫌は悪くなるだろうけど、それでも珍しいと思う。

 エリカは気分屋だけど、気持ちを次の日にはリセットできる筈なのに珍しい。

 拘りなく昨日仲良くしてた子と、いきなり疎遠になったりするくらい切り替えが早いのに。

「エリカ、もしかして昨日のこと気にしている?」

 深雪さんも気になったのか、エリカにズバリ尋ねた。

 僕には真似できない。

 そんなことをすれば、鋭い目付きで睨まれそうだし。

「何?ミキ」

 エリカが突然僕をジト目で睨む。

「ぼ、僕の名前は幹比古だ。別に何もいってないだろ?」

 エリカは疑わしそうに、深雪さんに視線を戻す。

 凄い勘だな…。

「ああ、ごめんごめん。気にはしてないっていえば嘘になるけど、気になっていることはあるってとこ」

 深雪さんは、エリカのいわんとするところが分かったのか、表情を曇らせた。

「学校の中だからって気を抜くなっていったわ」

「つまり、また校内に…」

 表情を曇らせた深雪さんの肩に達也が励ますように触れた。

「俺もああいう事態は御免被りたいがな」

「でも、残念ながら、そうならない可能性が高いからねぇ」

 達也が励ましている横で、深景さんが溜息交じりに呟くようにいった。

「直接殴り掛かってくるようなら楽なんだけどよ。このまま受け身ってのも不利って感じだな」

 レオが困った顔でぼボヤいた。

 事実、そのことにばかりを気に掛けている訳にはいかないからね。

「アッサリとしてやられる積もりはないさ。それに怪し気な情報に振り回されもしない」

 達也が笑みを浮かべていい切った。

 流石の自信だね。

「でも、警戒は怠らない方がいいだろうね」

「ああ、勿論だ」

 達也の頼もしい返事に僕は頷いたけど、深景さんやエリカ、レオが何か考え込んでいるのが気になった。

 

 だが、結局三人が何を考えていたのか話す機会は、その日にはなかった。

 

 

 

               4

 

 結局、本格的に外でデモ機の試験を行う日から、私もデータのセキュリティ面で参加させられることになった。

 本当は模型造ってお役御免の筈だったんだけどね。

 因みに、天狗さん達には、東方全敗の死やそれをやった奴の手掛かりになりそうなことは報告した。

 そこら中にあるカメラは、案の定仕事をしてなかったらしく今のところ暗殺犯は不明のようだ。

 電子の魔女さんが今も頑張ってくれている最中である。

 達也達は頑張って作業している中、私はデモ機のデータを守るために…座っている!

 だって、攻性防壁は張り巡らせてあるし、やることっていったら直接有線して痛い目に遭うのを防ぐ程度しかない。

「達也く~ん!深景!!」

 エリカが大声で存在を主張した。

 男衆は他人のフリ、美月だけは友人として真っ赤になりながらもエリカを止めているが、残念ながら美月ではエリカを止められない。

 更に自己主張をする結果となった。

「お前、空気読めるか?今、大声上げていい場面じゃねぇぞ」

 護衛の一人として見兼ねた桐原兄貴が、呆れた声で声を掛けてるね。

「あっ!さーやも見学?」

 兄貴を華麗に無視して、その彼女に声を掛けるエリカ。

 兄貴は、苦虫を嚙み潰したような顔で拳を握り締める。

 気持ちは分かるよ、兄貴。

 彼女さんは、友人と彼氏の板挟みになって困っていた。

 ここは私が。

「エリカは見学?」

「美月の付き添い」

 私の質問にエリカが端的に答えた。

 すかさず深雪が近付いてくる。

「エリカ、こっちよ」

 深雪がエリカ達を纏めて回収していった。

 深雪がこっちに笑顔でお任せ下さいとばかりに頷いて見せた。

 よくできた妹を持ってお姉さん幸せだよ。

 これ以上のトラブルを嫌ったのか、兄貴と紗耶香先輩が付いていく。

 そこで深雪が色々と教えている。

 興味を実験の方へ向けることに成功したようだ。

 その間に市原さんとおかっぱ先輩が、頷き合う。

 達也が私が居なくなったタイミングで、デモ機のモニター前に座る。

 私もそちらに駆け寄ると、市原さんがデモ機のCADにサイオンを流し込む。

 複雑な魔法式が発動し、電球のお化けみたいなものに明かりが灯る。

 その瞬間、大歓声が上がり大盛り上がり。

 うん。まあ、凄いことだよ。

 私はテンションだだ下がりだけどね。

 無線式のパスワードブレイカーを、暗い笑みで弄ってる奴を見掛けたからね。

 ああ、やっぱりやるのかコイツ。

 でも、止めとかないと怪我するよ。

 無線式の対策もしてるからね、バッチリと。

 特殊な装置を自作してたりして。

 そして、心の中の警告は無駄に終わる。

 奴の持っていたバスワードブレイカーが、ボン!という音を立てて壊れたからだ。

 周りが一斉に奴こと平河妹に視線を向ける。

 特に怪我をした様子はないが、バスワードブレイカーは放り出していた。

 逸早くその存在に気付いた紗耶香先輩が駆け寄ると、奴も慌てて駆け出した。

「待ちなさい!」

 エリカと兄貴が遅れて追い掛ける。

「姉さん」

 達也が声を掛けてくる。

「私の防壁は、あんな玩具で破られないから大丈夫だよ」

「それは分かっているし、信頼してるよ。姉さんは大丈夫?」

 私は意味が分からず達也を見返す。

「今までにないくらい嫌そうな顔をしてたからね」

 ああ、そういうことね。

 

 そりゃそうだよ。これからアレに粘着されると思うと嫌になるよ。

 

 

 

               5

 

 結果を言えば、あれだけの戦力を投入されて平河妹が抵抗できる訳もなく御用と相成ったようだ。

その時、頭を強打して気絶してしまったらしい。ざまぁ。

 暫く異常がないか確認する為に、グラップラー保健医がいる保健室に転がされているらしい。

 事情聴取は意識の回復を待たなければならない。

 それでエリカとレオ君は、サッサと帰って来たらしい。

 当然、キャノン先輩から有難いお言葉を頂戴したみたいだけど、二人は気にした様子はない。

 戻ってきて丁寧に説明してくれるのは、有難いんだけどね。

 私は特に奴のことなんて知りたくもないんだけどさ。

 

 正直にいうと、私は平河妹が嫌いである。

 

 

 

               6

 

 そして、こっちはこっちで問題が発生したりする。

 使い捨て工作員(笑)2号の登場である。

 エリカとの口喧嘩で疲れたキャノン先輩が向こうから慌ててやって来る。

 戻ってもエリカ(ついでにレオ君)が居て揉めてれば、そりゃ慌てる。

「ちょっと!司波君!どういう状況なの!?」

 訊き易いとはいえ、作業中の達也に訊くのはどうなのかな?

 私は、達也の横でウイルスチェックをしてたりする。

 まあ、大丈夫だけど一応ね。

 深雪は眉を顰めて、キャノン先輩を見るに止まっている。

「エリカとレオがウロウロしているのが、関本先輩にはお気に召さないようですよ」

 達也は切りのいいところで手を止め、キャノン先輩の問いに答えた。

 それでキャノン先輩は周りを見る余裕ができたのか、少し冷静さを取り戻したように見えた。

 代わりに嫌そうな顔になったけど。

 何しろギャアギャアいってウザがられているのは、あの三秒で描けそうな顔の使い捨て工作員2号の方だし。

「関本さん…。どうしたんですか?」

 声でウンザリしてるのがバレバレだった。

 しかし、ヒートアップしている工作員2号は気付く様子もない。

「千代田か。大したことじゃない。護衛の邪魔だから、あまりウロつくなと注意していただけだ」

 キャノン先輩は、それを聞いて重い溜息を吐いた。

「一年は、これからの為に見学した方がいいでしょう。護衛に邪魔なら私達が注意します。関本先輩は護衛ではないんですから波風立てるのは困ります」

 工作員2号がキッと眦を上げるが、口を開く前にキャノン先輩はエリカとレオ君に向き直る。

「貴女達も帰ってくれない?これ以上揉めないうちに」

 かなりストレートにいったな。

 だが、エリカはそれを鼻で嗤った。

 おお、キャノン先輩怒ってる怒ってる。

 我慢してるけど。

「それじゃ、深景、深雪、達也君。先に帰るね」

「俺も帰るわ」

 エリカがアッサリと背を向けて去って行くのを、レオ君が続く。

 エリカの背を睨み付けていたキャノン先輩だが、通信端末が着信音が鳴るとそれに出る。

 少し話すと、まだ居残っている工作員2号を置き去りにして引き返していった。

 工作員2号は、無視されてムッとした様子だったが何もいわなかった。

「花音!待って!」

 作業中だった筈のおかっぱ先輩が職務放棄して、婚約者の後を追う。

 え?これ私が代わる流れ?

 市原さんと達也から視線を感じる。

 

 ですよね。

 

 

 

               7

 

 私は溜息交じりに、おかっぱ先輩が放置したモニターに覗き込もうとした工作員2号を押し退けて座った。

「おい!」

 先輩ではあるが工作員だし、いいでしょ。そんなに怒んなくて。

「関本君。千葉さん達のことを邪魔といっておきながら、関係者でもない貴方がデータを覗くのはどうかと思いますが?」

 語外にお前の方が邪魔だと、市原さんが容赦なく突っ込む。

「それに、こういうテーマは関本君は興味ないのでは?」

「応用技術に興味がないなどといった覚えはない」

 そこから二人が議論を戦わせ始めた。

 もう何度もやってるなと分かる平行線っぷりだ。

 火花が散っているのが幻視される程に、考え方が違う。

 達也は作業の手を止めずに、それを聞いているのが分かる。

 分かるよ。マイブラザー。

 厄介事にならなきゃいいな~とか思ってるでしょ?

 

 残念ながら、君の予感は当たる。

 

 

 

               8

 

 :レオ視点

 

 揉め事でダチに迷惑掛けるのも気が引けるし、帰ることにした。

 前をエリカの奴が歩いているが、追い付いて一緒に帰ろうなどという気はない。

 向こうもそんな事を考えてないだろうな。

 この女は、そういうのを基本嫌うだろうからな。

 いつも達也達と一緒にいることが多いが、俺にはそう思えた。

 この女の心の壁みたいなもんを感じてはいたんだ。

 だから、突然振り返ったのには少しびっくりした。

「レオ。アンタ、今日これから予定ある?」

 このセリフで倍ビックリだ。

 デートの誘いだなんて勘違いする余地はないぜ。

 その眼は、刃のように鋭いからな。

 そんな冗談いったら殺されかねない。

「特にないぜ」

 俺も正直に答える。

「だったら、付き合いなさいよ」

 そういうとサッサと歩き出した。

 俺も気を引き締めると、後を追って歩き出した。

 来るべき時が来たってヤツか。

 漠然としたもんだが、その時俺はそんなことを思った。

 

 二人乗りの車内は、落ち着かないったらない。

 目的地は未だに分からない。

 会話なんてねぇ。予想はしてたけどな。

 いくらそういう対象ではないといっても、二人きりは意識するし居心地が悪いぜ。

 腕を組んで、なるべくエリカの方を見ないようにしていると、これまた突然アイツが喋り出した。

「簡単過ぎると思わない?」

「何がだよ?」

 声が変に上擦ってないか気が気じゃない。

「スパイがいるって聞いた次の日に、お粗末な手段を使う手下が捕まったのよ?」

「お粗末ね」

 取り押さえるのに気を遣ったぜ?

「データを密かに抜こうっていうのに、ハッキングツール剥き出しでアッサリ発見されたのよ?お粗末もいいところじゃない」

「そりゃ素人だからな」

「だからこそ、陽動じゃないかってことよ」

 体よく使われたってことか。あるかもな。っていうか、それが妥当か。

「要は本命を炙り出す手伝いをしろってことか?」

「アンタに繊細な作業を期待する訳ないでしょ?」

 おい。腹立つ奴だな。苦手分野だけどよ。

「アタシにしてもアンタにしてもそんなの柄じゃないでしょ。そんなの深景と達也君がやるでしょ」

 これだけ冷静に()()()向いてないといわれれば、反論し辛い。

 エリカ自身を除きやがったら戦争だったけどよ。

「もっと相応しいやり方があるでしょ」

「用心棒を買って出る…か?」

「防御じゃなくて、やるのはカウンター攻撃だけどね」

 エリカの眼が、物騒に輝く。

「おお怖っ、達也達を囮にしようってのかよ」

「あの二人なら、殺しても死なないでしょ?」

 確かに、そうかもしれないな。

 二人共、二科生なのに一科生の連中すら相手にしてない。

 まあ、それだけ超然として見えるんだよな。

「確かにな」

 俺も思わず頷く話だったぜ。

「深景にアンタも同意したっていえそうでよかったわ」

「おいコラ!」

 そこは巻き込むなよ!

 エリカが笑う。爆笑とでもいうのかね。

 思わず釣られて笑ったよ、俺も。

 これまた唐突にエリカは笑みを引っ込める。

 ホント、猫みたいにコロコロ感情が変化しやがる。

「で、ここからが本題というか問題。足りないものがあるのよ」

 語外にアンタにという言葉がハッキリと聞こえる。

「どういうもんだ?」

 俺は素直に訊いた。

 足りないところが思い浮かばないんじゃない。

 多過ぎて、どこか分からない。

「レオ、アンタの歩兵としての潜在能力は一級品よ。ウチの学校全体見回してもアンタ以上の素材は中々いないわ」

 ここまでコイツが褒めるのに驚いて、喜ぶどころじゃねぇな。

「で?素質だの素材だのいうってことは、現在に問題が有るってとこか」

「ええ。アンタには決め手、必殺技とでもいえば分かり易い?それがない」

 確かに…そんな技術はないな。

「オメエはどうなんだ?」

「あるわ。専用のホウキがいるけどね。使えば相手を殺すことができる秘剣がね」

「俺は確かに殺す前提の技術自体がねぇな」

 俺は素直に認めた。否定しても仕様がないしな。

「それを身につける覚悟がある?今度の相手は確実にその覚悟がいる連中よ。別に私達がやらなきゃいけない訳じゃない。それこそ深景や達也君が片付けるでしょうね。でも本気で関わるなら相手を殺す覚悟が、技が必要になる。どう?」

「愚問だぜ」

 もとより避けて通れると思ってなかったしな。

 心のどこかで、いつかくるって思ってた。

 漠然と考えていたものに答えが出たような気がした。

目的地に着いたのか車を降りて、歩き出す。

 海が近いのか、潮の香がする。

「だったら教えてあげる。秘剣・薄羽蜻蛉をね」

 エリカは、俺に向けてそう宣言した。

 

 上等じゃねぇか。やってやるよ。

 

 

 

 

               9

 

 エリカとレオ君が先に帰った代わりって訳じゃないけど、平河妹の事情聴取を終えたキャノン・おかっぱ夫婦が一緒に帰路についている。

 あの通信は、平河妹が意識を取り戻したという報告だったらしい。

 律儀に奴の動機やら、ある程度の事情聴取の内容を語ってくれた。

 平河妹は、ふざけた主張をやっぱりしていたらしい。

 やっぱりというかなんというか奴は私と達也を恨んでいるらしい。

 達也は、ミラージでなんとかできたのにしなかったこと、私はこれ見よがしに助けたのが気に入らないとかいったらしい。

 つまり姉の面子を潰したって訳だ。

 やっぱり達也も恨まれたようだ。

 私も恨まれるとは思ってたけど、だったらどうしろというんだろうか?

 恨まれるだろうって予想はしてたけどね。

 実際に聞けば納得しかねるわ。

「そういった動機ですか」

 達也はアッサリとした感想を述べた。

「ちょっと待ってください!それ、逆恨みじゃないですか!」

「寧ろ八つ当たり?」

 ほのかが達也絡みの為に思いっ切り怒っていた。

 雫の方は、奴の理屈が理解ができないのか不思議そうに首を傾げてる。

「お姉さんが大好きで、八つ当たりせずにはいられなかったんだろうね…」

 幹比古君の言葉に、美月が分かると言わんばかりに頷いた。

 納得してるお二人さんには悪いが私は別の意見だ。

「それはどうかな?」

「「えっ?」」

 私の言葉が自分でも思った以上に冷たかった所為か、幹比古君や美月が驚きの声を上げる。

「私だったら、平河先輩の名は出さないよ。勘繰る奴は、平河先輩の関与も疑うだろうしね。平河先輩の名前なんて出したら迷惑掛かるでしょうが」

「でも、お姉さんの為に何かしたかったってだけじゃ…」

 私の言葉に美月が弱々しく反論する。

「だったら、自分自身が私達を気に入らないからやったっていえばいいんだよ。それにね。あの姉妹がそこまで仲良かったとは思えないけど?」

「どういうことよ?」

 思わずといった感じで、キャノン先輩が口を挿む。

「一方は九校戦のエンジニアに抜擢される一科生のエリート。もう一方は二科生の落ちこぼれ。親がどっちに期待するかなんて自明の理でしょ?」

 この言葉には、期せずして幹比古君にも痛かったのか顔を顰めた。

「それなら、アンタ達だって同じだけど仲いいじゃない」

 キャノン先輩が思った通りのツッコミを入れる。

「私達だって最初から仲が良かった訳じゃありませんよ。切っ掛けがなければ今もバラバラだった筈ですよ」

「「「「「「えぇ!?」」」」」」

 意外な事実だった所為か、私達姉弟以外驚愕する。

 深雪と達也は苦い顔をしている。

 深雪は、私のことが嫌いで視界に入るなと暴言を吐く可愛げのない奴だったし、達也と私は口を利かなかった。

 ()()の存在がなければ、私は遠の昔にあんな呪われた家、二人を残して脱走していただろう。

 話が脱線したが、平河妹が姉と仲が良好じゃなかったと考える理由がもう一つある。

 それは姉の平河先輩だ。

 平河先輩は、今回のアホ行動(ナルシストの影響があったにしてもギルティ)をとった妹に対し、対話ではなくハッキングという手段で達也に証拠を渡していた筈だ。

 ここは印象に残っているので、よく覚えているから間違いない。

 それにそんなに自慢の姉なら、本人が自慢しまくっていた筈なのに、どこからもそんな話は漏れ聞こえてこない。

 女子のネットワークを舐めたらいかんぜよ。

 こんな仲良し姉妹いるか?

 それに何より全てを他人の所為にする根性が気に食わない。

「どうやらその平河のことは、放って置いてよさそうですね」

 驚愕から立ち直らない面々に対し、達也が話題を逸らすようにそういった。

 そのことで二年夫婦は強制再起動したようだ。

「あのね…。狙われてるの貴方達なんだけど?」

 気を取り直してキャノン先輩がいった。

「そうですね。俺と姉さんが巻き込んでしまったようですね。迷惑はお掛けしないよう細心の注意を払いますので」

「セキュリティに関しては、ウィザード級のハッカーでもない限り破られませんよ」

 私達の安心していいよ宣言も、おっかぱ先輩の胸には響かなかったようで顔を顰めていた。

「でも、エスカレートする可能性も否定できない以上、動機が平河先輩なら平河先輩経由で止めるようにいって貰えばいいんじゃないかな?」

 向こうも、そんな話振られても困るでしょ。

 人の話聞いてました?あの姉妹そんな仲良くないって、間違いない。

「姉さんの話じゃありませんが、平河先輩を巻き込むのは止めましょう。進路が絡む時期にこれ以上悩みの種を増やす必要もないでしょう」

「へえ…うん、そうね」

 キャノン先輩が、失礼な感想を漏らそうとしたのを敏感に感じたのか、深雪が実にいい笑顔を向ける。

 キャノン先輩は、失言を寸前に言葉を飲み込んだようだ。

 賢明な判断だね。

 深雪が、ドス黒いオーラを纏いニッコリと微笑んでいるのを見ればビビって当然だろう。

 達也は苦笑いだ。

「まあ、面倒になりそうだと考えたのは確かですよ」

 そして、達也は苦笑いを引っ込めた。

「それに、周りをウロウロしているのは、平河だけではありませんよ」

 達也の言葉に反応したように、サイオンの波紋が広がる。

 微かなものだが、おかっぱ先輩や幹比古君は気付いたようだ。

「ホントに護衛いらないの?」

 キャノン先輩が頭痛を堪えるようにいった。

「こっちはプロです。失礼ながら七草先輩くらいじゃないとどうにもなりませんよ」

 キャノン・おかっぱ両先輩が渋面で黙り込んだ。

 そりゃ、御当人に御出馬して貰う訳にいかないし、あの人クラスなんて、この学校にいやしない。

 ぎゃふんですね。おっと年齢が…。

 

 それから会話は弾まなかった。私達の所為じゃないぞ。

 

 

 

 

               10

 

 :美月視点

 

 帰る時に深景さんが話してくれたことは驚かされた。

 それに深景さんは凄く怒ってた。

 別に私や吉田君に怒ってる訳じゃないのは分かってるけど、なんとなく話を聞いて貰いたくてエリカちゃんに通信を送る。

 呼び出し音が鳴り、暫くするとエリカちゃんは出た。

 エリカちゃんは帰ればお稽古で忙しいみたいで、滅多に出てくれない。

 だから、出なくても仕様がないと思っていたけど、意外に早く出てくれて通信した側なのにビックリしてしまいました。

『どうしたの?』

「あっ!御免ね!疲れてるのに」

『いいよ。何かあった?』

 私は問われるままに、帰りにあった遣り取りを詳細に語った。

 エリカちゃんは黙って最後まで聞いてくれた。

『そりゃ、深景も怒って当然でしょ』

「……」

『達也君の身体は夏休み見たでしょ?あれは普通じゃないよ。当然、深景の実力もね。ああなるには当然あった子供としての時間を全て犠牲にしないと駄目だよ。それなのに頭ごなしに、お前に力があるんだから助けるのは当たり前、なんていわれたら気分悪いでしょ。私でもキレるよ」

 達也君も深景さんも確かに色々できる。

 正直、あんまり器用な方じゃない私は羨ましく思っていたけど、エリカちゃんの言葉は物凄い量の努力の話だった。

『資質だけじゃ、実力は磨かれないよ。どう使うかは二人の自由よ』

 心のどこかで、二人が妬まれるのは当たり前だって思ってしまっていました。

 エリカちゃんの言葉を聞いて、私は恥ずかしくなってしまい。

 お礼をいって、しどろもどろで通信を切った。

 

 私も二人のお友達だもの。もっと努力して変わっていかないと駄目だね。

 

 

 

 

 

 




 この話は、私が思っていたことを深景が代弁したような形です。
 人物視点の書き方忘れてたことに気付き、一部修正しました。
 大した違いなんてないんですが…。
 深景が何故ココと友人なのかとか、何を作ろうとしているのか想像しながら読んで頂ければと思います。
 次回もいつになるか不明ですが、お付き合い頂ければ幸いです。



 


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横浜騒乱編4

 やっと書き終わりました。
 相変わらず時間が掛かってますが、更に時間がズレ込んでおります。
 それではお願いします。


 


               1

 

 :周視点

 

 とある料亭に私は足を運んでいた。

 面倒と思わないでもありませんがね。

 襖を開けると、そこには存在感のあり過ぎる二人が座って、こちらをジロリと睨み付けるように見た。

「申し訳ありません。お待たせしまして」

 私は、それに一切反応する事なく微笑んだ。

 実際、可愛いものですしね。顔を除いては。

「いえ。我々も今来たところです」

 素っ気なくもう片方の陳閣下が答えた。

 私の知り人も陳閣下なので紛らわしいですね。

 まあ、この場には一人しか居ないのでよしとしますか。

 それにしても、武器商人をしている方は、にこやかに対応してくれていたんですがね。尤も目が笑っていませんが。

 こっちは始終仏頂面ですね。

 答えが返ってくるだけマシですかね。

 もう一人など、口を開く気配もありませんしね。喋りたい訳でも、声が聞きたい訳でもありませんがね。

 陳閣下が、早速話を切り出す。

「周先生。例の少女は失敗したようですが」

「ご懸念は理解していますよ」

 私は神妙に頷いて見せた。

「情報の漏洩を気になさっておられるのでしょう?ご安心を、こちらの情報は元々与えていませんので放って置いて大丈夫でしょう」

 私の言葉に陳閣下が胡散臭そうにジロリと睨む。

「それでよく納得して協力出来るものですな」

 陳閣下が猜疑心の籠った視線を向けてくるが、私は真実を言っている。

「あの年頃は、色々言い聞かせるよりも話を聞いてやる方が有効なのですよ。面倒な時期ではありますが、誘導するのには簡単なのです」

「ほぅ。そんなものですか。周先生がそう仰るなら大丈夫なのでしょう。ただし、万が一が起こらないようにして頂きたい」

「勿論です。近いうちに様子を見てきましょう」

 私は二人からの探るような視線を無視して微笑むと、呼び鈴を振り料理を運ばせる。

「ここの料理もなかなかのものですよ」

 私は微笑みながら、そう言った。

 

 二人の視線が和らぐ事も、私の笑みが崩れることも最後までなかった。

 

 

 

               2

 

 お粗末な逮捕劇から翌日の昼休み。

 私達は食堂にいた。

 相変わらずの深雪が歩くと人が左右に分かれて道を開けるモーセ現象があったりはしたが、まあ、いつものことだ。

 いつもと違うことがあるとすれば…

「そういえば、エリカと西城君は、まだ教室ですか?」

 ほのかがなんの意図もなく、呟くように達也に訊いた。

 まあ、私達いつでも昼休み一緒って訳じゃないからね。

 居なくても、特に珍しいってことはない。ここ最近は特に私と達也が忙しいし。

「特に連絡はきてないけど、このまま休みだよ、あの二人は」

 達也もなんの気なしに答える。

 学校には連絡してるだろうけど、私達にはなんの連絡もない。

 な~にやってんでしょうね?(白々しい)

 ほのかの目が乙女の輝きを宿す。

「二人で、ですか?」

「ああ、二人揃って、ね」

 達也が意味有り気に不敵に笑う。

「意外って…感じじゃない、かな?」

 雫も無表情系女子ではあるが、その目は好奇心に満ちていた。

 九校戦で、それなりに付き合ったから私にも分かるよ。

 美月は真っ赤になって狼狽えており、深雪はそれを呆れた目で苦笑いを湛えて見ていた。

 そこが美月クォリティだからね。ツッコんだらいかんのよ。

「そ、そんな素振り…なかったけど?」

 美月の狼狽え振りが伝染したのか、幹比古君も顔を赤らめてボソボソとコメントする。

「昨日、二人で帰っていたしな…」

 達也が悪い笑みを貼り付けて呟く。

 深雪は苦笑いするだけで、何もいわない。

「本当はどうして休んだんでしょうね?」

 美月と幹比古君の狼狽振りに満足したのか、ほのかがアッサリと本題に戻す。

 ほのかもそれを分かってて、喜ぶあたり女の子だねぇ。

「そうだね。あの二人が病気ってことはないだろうし」

 雫が無自覚に二人をディスった。

 二人だって病気ぐらいするでしょ。病気なんて無縁でしょ?みたいな発言止めて上げなさい。

「それはいい過ぎだが、確かに昨日二人が体調を崩している様子はなかったな」

 達也が流石に若干憐れに思ったのか、少しフォローした後真面目な発言をする。

 幹比古君も賛成とばかりに頷いていた。

「勿論、ただの偶然ってこともあるだろうけど…」

「偶然じゃない可能性もあるよね?」

 ほのかと雫が話題をまた戻してきた。

 美月と幹比古君が敏感に反応し、顔を赤くする。

 息ピッタリじゃない。そのまま付き合ったら?爆発しろ。

「でも、偶然じゃないようなことが起こる余地が、あの二人にあるかな?」

「それこそ可能性はあるんじゃない?」

 ほのかと雫が楽しそうに他人を肴に盛り上がっている。

 美月も雫の意見に同意するように頷いていた。

「でも二人で何をやっているのかしら?」

 遂に深雪まで悪乗りし出した。

 お二人が茹蛸になりそうですよ。爆発しろ。

「二人共、何を想像してるの?」

 深雪が意地の悪い問いをする。

 二人はやはりしどろもどろに別に…といった反応。

 何考えてたか、モロバレです。いいんだよ。年頃なんだから。爆発しろ。

「まあ、想像に過ぎないが、案外レオがエリカにしごかれてるんじゃないか?」

 達也は、美月達がイジリ倒されているのが憐れになったのか、苦笑いで正解をいった。

「ありそうですね!お兄様」

 深雪がアッサリと達也に乗っかり賛同した。

 そこからは別の話題に緩やかに移行していった。

 

 まあ、あの二人が付き合うとしたら、甘々な恋人同士には、まずならないだろうね。

 案外あのまま悪態を吐きつつ一緒にいるような気がする。

 

 そして、レオ君はエリカにしごかれた上に、エリカの裸体をもう少しで見るところまでいったそうな。

 何故、知ってるのかって?

 通信で盛大にエリカが喚いていたからだよ。

 

 レオ君、惜しかった…いやご愁傷様です。

 

 

 

               3

 

 土曜日。

 それは惰眠を貪れる日。ではない。

 朝から生臭坊主の寺に私達家族(家族に宿六夫婦は含みません(注))は赴いていた。

 勿論、説法を聞く為ではない。訓練の為だ。

 発端は生臭坊主こと八雲先生が、射撃訓練場をリニューアルしたから遊びに来ない(意訳)?といったことだった。

 それで折角だからと達也が家族を引き連れて来たという訳だ。

 まずは深雪から。

 可愛らしい悲鳴と気合の声が漏れるが、結果は微妙な感じだ。

 得意分野じゃないから仕様がないんだけどね。

 なんか動き回って髪が乱れていたので、私が手櫛で直してやる。

「ありがとうございます、お姉様」

 若干顔を赤らめて礼をいう深雪を見てると、感慨深いもんだね。

 昔の話しをしたから、そんなことを考えちゃうよ。

「お姉様?」

「いや、なんでもないよ」

 考えごとをしてた所為で深雪に怪訝な顔で見られてしまった。

「じゃあ、次は私かな?」

「そうだね。先に試して」

 追及を逃れるように達也に声を掛けて、自分のCADを取り出し開始地点へ立つ。

 レディ・ゴー!

 私は敢えて動き回りながら標的を撃ち抜いていく。

 勿論、足を止めたまま殲滅することも可能だけど、それは流石に達也達にも見せられない。

 八雲先生もいるしね。

 軽い運動だと思えばいい。

 適当に標的を一つ二つ見逃し、惜しくもパーフェクトならずといった形に持っていく。

 そして、フィニッシュ。

「流石お姉様です!息一つ乱しませんね!」

 まあ、刀振り回す戦闘スタイルだからね、普段は。これくらいじゃビクともしませんよ。

「もう少しでパーフェクトだったのに惜しいねぇ」

 八雲先生の目が怪しく光っている。

 見抜かれてそうだけど、別に直接見られなければいい。

 見られてもどうとでもなるけど。

「しかし、あの意識の隙間を突くような意地の悪いアルゴリズムは誰が組んだんです?」

 達也が八雲先生に尋ねる。

「風間君に貰ったけど、誰が組んだかまではねぇ?」

 すっ呆けたことをいう八雲先生に、達也が溜息を吐く。

「真田さんですね」

 モロバレですね。あの人くらいだろう。

 深雪も眉を寄せている。機嫌が宜しくなさそうだ。

 恥を掻かされたと怒っているのかもしれない。

 達也の目の前でだったし。

 達也はそれを察したのか、深雪の頭をそっと撫でる。

「それじゃ、二人の仇は俺が討とう」

「頑張って下さい!」

 達也が流石の貫禄で開始地点に立つ。

 立ったままそのまま動く気配がない。

 シルバーホーンも前に構えたままだ。

 開始の合図と共に標的が現れる。

 それを達也は視線すら動かさずに引き金を引き続ける。

 それだけで、次々と標的が打ち落とされていく。同時に幾つもの標的を照準できるからこその芸当だ。

 一つのミスもなく当然のようにパーフェクト。

 深雪が大喜びで達也を褒め称える。当然、私も流石だね!みたな感じで乗っかった。

 

 二人が独特な空気を発して、余計なことを口走ろうとしたけど私が止めたよ。

 この二人の秘密なんだからさ。不用意なことをいうのは止そうよ。

 

 

 

               4

 

 射撃訓練場から出て、八雲先生の庫裏へと案内された。

 これは忠告があるね。

「君達も色々とやることがあるだろうから、手短にいこう」

 単刀直入、結構ですね。

「珍しい物を手に入れたみたいだね?」

「預かった物ですか」

 達也がアッサリと応じる。

 八雲先生は分かってていってるんだろうから、惚けても無駄だろうしね。

「できる限り早く返すべきだろうね。それが無理ならキチンと保管できる場所へ移した方がいい」

 達也が他人には分からないレベルで強張る。

「狙われているのは、やはりあっちの方でしたか」

 達也は八雲先生の方へ完全に身体を向けると、礼儀正しく礼をしてからそういった。

 まあ、学会誌にも取り上げられるとはいえ、学生の研究成果に他国のスパイが本腰入れるなんて考えられないもんね。

 もっと研究費用とか費やしてる研究狙う方がいいでしょ。

「かなりの手練れだよ」

 八雲先生が目を更に細めていった。

「何者なのか…は訊いても無駄でしょうね」

 達也のセリフに、八雲先生が笑う。

 肯定ですね。分かります。

「助言はしておこうか。方位を見失わないように気を付けるんだよ」

「方位?」

 深雪が呟くが、八雲先生はそれに何も答えず微笑んだままだった。

「ここからは流石にね…高いよ?」

 笑みの質が変わる。

 ここからは報酬を貰うってことね。

「先生」

 私はダメ元で声を掛ける。

「うん?何かな?」

「魔法を使う狙撃手に心当たりはありませんか?凄腕の」

 私は追尾弾を相手に立ち回ったことを話した。

 八雲先生は、笑みを引っ込めて頭をポリポリと掻いた。

「ああ、それね。最近、活躍してるみたいだけどね。正体はまだ掴めてない。残念だけどね」

 うん?これは本当っぽいな。

「立て続けに暗殺を熟しているから、僕等も気にはしていたんだ。だから、近いうちに分かると思うけど…」

「高いんですね?」

「勿論」

 私と八雲先生は、同時にはっはっはと笑った。

 

 ケチ臭いな。まあ、自分で調べるよ。いつも通りに伝手も頼って。

 

 

 

               5

 

 まあ、あれから幹比古君がコンペ会場の警備隊に志願してぬりかべに襲われたり、美月が幹比古君に揉まれたりしたが特に何もなく時は過ぎていった。

 え?意味が分からない?気にする必要ないよ。知らなくても問題ないし。

 

 私達はというと、バイクを走らせていた。

 達也のバイクには後ろに深雪がしがみ付いている。

 その後ろを私がマイバイクで追う。

 実は、FLTに向かっている最中です。

 目的は、ヒスママが持ち込んだ(私が押収した)ブツを八雲先生の忠告に従って返す為だ。

 私はチョロチョロ移動させるのは反対だったんだけど、達也が安全第一にいきたいっていうものだからね。仕方がなくてね。

 そして、返却先はヒスママのところではなく、アフロのところだったりする。

 因みに、ヒスママにはいっていない。面倒だから。

 本来であるなら休憩などしなくてもラボまで向かうのだが、達也は早朝からオープンしている全国展開してる喫茶店へと入った。

 私も当然入ったよ。

 まあ、用件は分かっているんだけれども。

 席に着くと、コーヒーのみを人数分注文する。

「尾行が付いている。姉さんは気付いているだろ?」

 達也は唇を殆ど動かさずいった。

 勿論です。どこか適当なとこで墜落して貰おうと考えていました。

「車ですか?それともバイクですか?」

 それらしいものに気付かなかった深雪は、平静を保った振りをしつつ俯き加減で尋ねた。

「鴉だ」

 達也が簡潔に答えた。

 向かいの建物にジッとこちらを窺う怪しい鴉の姿が見える。そっちは見ないけど。

 怪し過ぎんだよ、飛び方といい、止まった姿といい。ワザとかね。

「使い魔ですか?」

「九校戦の時のものとは質は落ちるけど、化成体だよ」

 そういやあったね。今は何もかもが懐かしい。

「姉さん。どこの国のものか判別できるかい?」

「多分、大陸系だね。そこまでくると大亜連合の可能性大」

 達也の問いに、私はアッサリと答えた。

 癖があちらのものだから、原作知識関係なくほぼ当たりだと思うよ。

「それでは、今回の相手は…」

 深雪は、過去の記憶が呼び覚まされたのか、険しい顔付きになった。

 それは達也もだけど。

「一応、報告して置こう。それとは別に、このままラボまで連れて行きたくない」

 達也がチラッと深雪に目配せする。

 私がやる訳にもいかないしね。

「お任せ下さい」

 深雪は、出されたコーヒーを両手で掴み口元を隠しつつ、冷たい声音で請け負った。

 達也が無言で深雪に手を差し出すと、若干顔を赤らめて深雪がコーヒーカップをソーサーに置くと達也の手を取った。

 

 そして、化成体は無へと返った。

 

 

 

               6

 

 結局あれから何事もなくラボに到着。

 アフロよ!私は勝手にお邪魔している!

 開発第三課のラボは、いつもならある出迎えはなく大変忙しそうだった。

 どうやらハッキングらしい。

 アフロが冷静に指示を飛ばしている。

 ここのセリュリティも私が弄ったんで、早々破られやしないよ。

 ウィルスを送り込んだり、それを囮に侵入を試みたりとなんでもやっている。

 ただし、本当に突破してやろうって気がない。

 私は、勝手で申し訳ないが、オペレーターの一人と席を代わって貰う。

 勝手は今に始まったことじゃないけどね。

 猛烈な勢いでコンソールを操る。

「こりゃ、御曹司に御前来てたんですかい」

「それは後にしましょう、牛山さん。手を止めては駄目だ。モニター続行!」

 挨拶しようとするアフロを止めて、達也が鋭い声を上げる。

 チラッと私の方を見るのも忘れない。

 まあ、前回拠点をサッサと捨てられたから、今回も駄目だと思うけど探査ウイルス送り込みますかね。

 と、見せ掛けてハッキング。

 気付かれたけど、できる限り情報をぶん取ってこよう。

「姉さん、どう?」

「今、できる限りデータをぶっこ抜いてるとこ」

 ラボの面々の顔が引き攣るのが分かる。

 コラ!君達、引かないように。

 おっと、強制的に回線切断。しかも物理。

 まあ、いいか。ゴミみたいな情報しかないだろうけど、手ぶらじゃないし。

「目的は何だと思う?」

 達也の問いに、アフロも真剣な表情で私の回答を待っている。

 アフロにしてみれば、よく分からない攻撃だもんね。

「あの化成体と関係があるんじゃないかな?偶然の一致というにはね」

「化成体ってどういうこってす!?」

 私の話に危ない単語が飛び出し、アフロの声が思わず大きくなる。

 達也と深雪が、掻い摘んで先程の出来事を教えてやるとアフロは唸り声を上げて黙り込んだ。

「ま、総合的に考えて持ってきたヤツに興味があるんでしょ。持ち帰るのが無難かな」

 ラボにカチコミされても困る。

 どこまで当てになるか分からないからね、ここの警備員。

 

 まあ、持ち帰りましたよ。

 

 

 

               7

 

 :陳視点

 

「拠点の放棄は?」

「滞りなく済んでいます。抜かれたデータも当然大したものではありません」

 そこから読み取れる情報で、こちらの居場所を特定されるようなものではないという報告に密かに胸を撫でおろす。

 あまりハッキングで手を出さない方が利巧だと認めなければなるまい。

 あちらには、電子戦においては達人がいるようだ。

 やはり、現地工作員を使い捨てていく方がいいだろう。

「これからどう出ると思う」

 副官であり、有能な将である呂剛虎に問うてみると、彼はただ一言不明であると告げてきた。

 彼は武人であり文官ではない。この手の問いに武骨な答えが返ってくることは分かっていたが、自分の考えを纏める為に問うたようなものであったから気にしない。

「まあ、逆に攻められたのは気に食わんが、それはよかろう」

 こっちの人的損害がないのなら挽回は可能だ。

 本国からは資金を無駄遣いしたと嫌味をいわれる可能性はあるが。

「不穏なことが起こる場所に、貴重な品を置くのには躊躇するだろう」

「論理的に考えれば、その通りでしょう」

 呂の返答は簡潔だった。

 彼は万夫不当の武人ではあるが、猪武者ではない。

「そうだな。なかなか腕が立つようではあるが学生だからな。持ったままであることに不安を感じるかもしれない。その時は改めてラボから情報を奪うまでのことだ」

 呂が無言で肯定する。

「出て貰うことになるだろう」

「お任せを」

 即座に頼もしい返事が返されることに、内心笑みを浮かべる。

 その前に…。

「周が、例の小娘に面会に行くようだ。消しておけ」

 誰をとはいわない。呂には分かるだろうからだ。

「是」

 呂は短くそういった。

 このような漢に些事をやらせるのは気が引けるが、この漢を出すのが最適解なのだから仕様がない。

 

 何か別のことで、報いることにする。

 

 

 

               8

 

 案の定、FLTでぶっこ抜いたデータはゴミで使えなかった。

 拠点も既に証拠隠滅済みで放棄された後だった。腹立つわ。

 そして、予想通りに平河姉から妹の情報を達也が得た。

 当然の如くハッキングだ。やっぱり、あの姉妹仲が悪いだろう。妹を庇うような発言もなかったそうだし。

 

 そんな些事があったが、作業は進めないといけない。勿論、コンペの作業ね。

 その日は雨が降っていた。屋外でお化け電球を使った作業は出来ない。

 屋内でやるのも無理じゃないが、他にもやることがあるから、そっちをやろうってことになった。

 私は達也の作業を少しばかり肩代わりすることになり、ロボット研究部に赴いた。

 前世でのロボットではなく、もっと本格的なやつだよ。

「お帰りなさいませ」

 メイドロボことピクシーがお出迎えしてくれた。

 声とかまだロボットだけど、それと継ぎ目とかなければまんま人間と変わらない。

 凄い技術だ。既製品だけど、ロボット研究部が自前で違法改…カスタムしたそうだ。

「一年E組・司波深景」

 警備もやってるから、登録がないと排除される。摘まみ出されるだけだけど。

 僅かなタイムラグがあった後に、深々と頭を下げる。

「只今、コーヒーをお持ちします」

「どうも」

 反射的に返事してしまったが、それにピクシーは反応せず給湯室へ向かった。

 こういう融通の利かなさがロボットだよね。

「サスペンドモードで待機」

 コーヒーがくれば、ピクシーにやって貰うことは特にないからね。

 ピクシーは、命令を受諾すると所定の椅子に腰かけた。

 それを見届けると、私は作業を開始した。

 既に達也が組んだ魔法式の動作試験だ。

 それくらいなら、私でも協力できるからね。達也には次の作業に手を出して貰っている。

 無言でチェック作業を継続する。

 単調な作業の所為か、眠気が襲ってきた。

 いかんな。コーヒーを一口…ってそんな訳あるかい!

 催眠ガスだね。あの落書きみたいな顔の使い捨て工作員2号の仕業だね。分かります。

 自身の魔法特性でガスのみを遮断し、自分の周りのガスを無力化、ガスの影響を浄化して無力化した。

 バレなきゃいいんですよ。使ったって。

「空調システムに異常発生しました。マスクをお使いください」

 一向に動かない私にピクシーがガスマスクを差し出す。 

 趣味人だな、ロボット研究部。今の時代には有り得ないくらい古さだよ。機能は問題ないんだろうけどさ。

 持ってきて貰って悪いけど、要らないんだよ。

「角膜への汚染が発生する可能性があります。外へ誘導します」

 手を差し出して貰って悪いけど、要らないんだよ。

「換気システム強制起動。私は大丈夫だから、救助の為の入室は許可して。貴女は待機しといてね」

「かしこまりました」

 即座に換気され、ガスが室内から抜けていく。

 ピクシーが椅子に戻ったのを確認し、私はドッキリ作戦を実行することにする。

 机に突っ伏して落書き工作員を待つ。

 そして、ターゲットが接近してくる。

 ピクシーが、落書き工作員をガン見しているのが分かるが、見送っているので放置。

「司波?」

 CADで人をツンツン突いてくる。

 往年のギャグ漫画に出てくる汚物じゃないんだから、そう人を突くもんじゃない。

「眠っているのか?」

 残念、狸寝入りだわ。

 眠っていると誤認した落書き工作員は、まんまとハッキングツールという証拠物件を取り出し、接続しようとする。

 CADは片手で保持したままだけど構わないよね?怖い助っ人が到着したし。

 はい、お疲れ様です。

「関本先輩、そこで何をしてるんです?」

 そこにタイミングよくキャノン先輩の声が掛かり、落書き工作員はハッキングツールを握り締めたまま振り返ってしまう。

「どうしてここに!?」

 パニックだとしても、自供といってもいいレベルで失言してるね。

 それでもキャノン先輩は、まだ先輩扱いしていた。

「警報を受信したからですよ。関本先輩は、何故ここへ?手に持っている物はなんですか?」

「俺も警報を、受け取ったから手助けに来たんだ。風紀委員だしな。これは端末だ。データが失われないようにバックアップをとってやろうと思っただけだ…」

 いやぁ~、苦しい言い訳ですわ。

 明らかに普通の通信端末じゃないし、警報は風紀委員にはいかずに警護を担当している生徒にいくんだよね。

 頑張ったけど残念。

「ハッキングツールを端末といい張る積りですか?で?警報を受信したんでしたか?どうやって?」

「い、いや!ち、近くに…」

「誰もいないですよね?もう、いいんじゃないですか?関本勲。CADを床に置いて」

「じょ、冗談はよせ!俺は助けに来たんだぞ!」

 往生際が悪いな。

 そんなことを思っていると、キャノン先輩も同じ気持ちなのか、私の方を見た。

「あの司波君のお姉さんだものね。証拠もおさえてあるんでしょ?」

 何故か、嫌そうにキャノン先輩が私に声を掛ける。

 私が貴女に何をしたというのか。

「ま、まさか!」

「ええ。起きてますよ」

 私はムックリと上体を上げて、落書き工作員を見た。

「警報は手動で届いたんですよ。警報は切られてたみたいですね。おまけにガスまで流したみたいですけど無駄でしたね。この姉弟がこのくらいでダウンする訳ないじゃありませんか」

 酷いいわれようだな。

「証拠は記録してありますよ。投降した方がいいと思いますよ?」

 落書き工作員はワナワナと震えていたが、突然私に飛び掛かって来た。

 なので、遠慮なく迎撃した。

「ただパンチ」

 気合もへったくれもない声と共に右の拳を唸らせる。

 顔面に拳がめり込む。

 喜べ、今のお前の顔は3秒じゃ描けない。

 手からハッキングツールとCADが落ちた。

 魔法に頼らなかったのは評価するけど、相手の力量を見誤ったのは頂けない。

 キャノン先輩にピクシーが記録した映像を引き渡してやったのに、ジト目で睨まれた。解せん。

 かくして落書き工作員は、キャノン先輩に引き摺られて退場した。

 

 キャノン先輩の、やっぱりコイツもダメだわ的な目が気になり涙した。

 

 

 

               9

 

 何やらお姉様が彼氏と病院デートをして、虎に襲われたらしい(平河妹の入院している病院に見舞いという名の尋問をしに行った)。

 ベッタリと七草さんが張り付いているから理由を訊いたら、そんな答えが返ってきた。

 流石に虎とはいわなかったが、危ない奴に襲われたっていってたし、時期的にあの残念な虎のことだろう。

 お前は虎になるのだ…。

 私も影分身で相手したけど、タイガーな仮面のレスラーの方が強そうだ。

 いくらなんでも冗談だけどね。

 それにしても平河妹め、生き残りやがったか。

 そういえば、平河姉が妹から強奪したデータは、達也が電子の魔女さんに引き渡した。

 私がやってもよかったんだけど、2度も補足できないというケチが付いているからね。

 原作パワーに任せてみることにした。天狗さん達にも花を持たせないといけないだろうしね。

 因みに、電子の魔女さんは、本物の魔女として男を誑し込んでいるところだったようだ。

 源田さんが知ったら怒りそうだよね。間違いなくキレる。

 まあ、私の所属は独立魔装大隊だから、いう訳にいかないけどね。

 

 そんなこんなでエリカとレオ君が復帰した頃には、表向き事件は鎮静化していたりして。

「まあ、犯人は捕まったから取り敢えず安心だろう」

 達也が無情にもそんなことをいったが、幹比古君は納得していない表情だね。

「バックが不明じゃない。これで終わりとは思えないわよ」

「まあ、そうだな。まだ騙されてる連中もいるかもしれないしな」

 折角の習得技術の出番がないのが納得できないエリカとレオ君が、真剣な表情でそれぞれコメントする。

 確かにまだ終わってないけどね。

「やっぱ、本人に訊いてみたいよな」

 レオ君が不満気にいった。

「偶にはいいこというじゃない。締め上げましょう」

 エリカが物騒なことを宣う。

「でも、エリカちゃん…。関本先輩は…」

「分かってるわよ。特殊鑑別所にぶち込まれてて、簡単に面会できないっていうんでしょ?」

 美月がいい難そうにいったが、エリカは不機嫌そうに理解していると告げる。

「大丈夫よ。話を聞く手段なんて幾らでもあるんだから」

 エリカがまるで犯罪者のようなコメントをする。

 いやいや、アンタ一応は警察官とか国防軍とかに強い家柄でしょうが。

 一番いっちゃいかんヤツでしょ。

「いや、普通に手続きすればいいんじゃないのか?」

 達也が冷静にツッコミを入れる。

 エリカが不満そうに黙り込んだ。

 レオ君も今の発言には、かなり引いていたから安堵の表情を見せた。

 幹比古君やら美月があからさまにホッと息を吐いていた。

 

 まあ、今のエリカだと本気でやりかねなかったからね。

 

 

 

               10

 

「ダメ」

 風紀委員長であるキャノン先輩に私と達也で、落書き工作員の面会を許可して貰おうと出向いたんだけど、返答がにべもない先の返答だった。

 エリカとレオ君が乗り込むよりマシだろうと思ったが、やっぱりダメか。

 どうやら、私も達也同様にトラブルホイホイだと認定されたようだ。

「理由を…」

「ダメなものはダメ」

 達也のセリフも遮って拒否するキャノン先輩に、流石の達也も困り顔だった。

「門前払いでは納得できないのですが」

 シャー!とでも威嚇しているキャノン先輩に、どうにか達也がそれだけは伝えた。

「あのね!自覚がないようだからいってあげる!貴方達はトラブルメイカーなのよ!この忙しい時に何を好き好んで自ら厄介事を増やす必要があるのよ!ここは行かせないがベストなの!」

 あまりのどストレートの発言に私も達也も絶句する。

 え?そこまでいうか。

 だが、そこに救世主は降臨した。

 扉が開き、二人の人間が入って来た。

 お嬢様とお姉様である。

「流石に、いい過ぎだぞ。達也君達も、それこそ好き好んでトラブルに巻き込まれている訳じゃないんだからな」

「「……」」

 苦笑いでフォローした積もりのお姉様を無言で見る私と達也。

「ま、まあ、私達も同行するから許可して貰えないかしら?あーちゃん…いえ、生徒会長にも私から許可は取る積もりだし」

 引き攣り気味のお嬢様が、慌てて話を進める。

 サッサと話を打ち切らないと私達が、何をするか不安になったんだろう。

 本格的に私等の評価を問い質したくなったぞ。しないけど。

「まあ、七草さんと摩利さんが、そういうなら…」

 明らかに嫌々承諾してくれた。

 心配しないでいいよ。キッチリ片付けてくるから!冗談だけども!

「そういう訳だ。流石にエリカ達を連れてはいけないから、その積もりでいてくれ」

 まあ、4人でも多いくらいだものね。

 

 そんなことで人生初の鑑別所へと向かうことになった。

 

 

 

 

               11

 

 :陳視点

 

 傷を負って帰還した呂に不覚にも驚きを顔に出してしまった。

 失敗に終わったことは既に知っていたものの、この漢がこれ程の傷を負うとは思わなかったのだ。

 イレギュラーな事態が起きようとも対処できる人選だったが、私の予想を超えていたようだ。

 まさか妖刀鬼が出てくるとはな。

 呂は、再襲撃を望んだが却下した。

 再襲撃の際に呂を襲ったイレギュラーが現れれば、下手をすれば討ち取られる事まで有り得る。

 妖刀鬼には相応のダメージを与えたようだから出てこないだろうが、これであちらは警戒するだろう。

 優先順位は高くない案件だ。無用なリスクをこれ以上負う必要もあるまい。

 この案件でハッキリと分かったことは、やはりあの優男は信用できないということだ。

 流石に妖刀鬼がいたのは偶然だろうが、周の優男が呂を助けたのは偶然ではない。

 おそらくは奴が動いたからこそ、妖刀鬼に気付かれて失敗したのだ。

 これは指揮官である私のミスだ。

 あの優男に介入のチャンスがある状態で、呂を送り出してしまったのだから。

 故に呂に責任を問う気はない。

 それよりも、目下の問題に対処しなければならない。不甲斐ないことだがな。

「我々の協力者であった関本勲が当局の手に落ちた。収容先は八王子特殊鑑別所だ。こちらを優先して始末しろ」

「是」

 病院と違い、特殊鑑別所は魔法師を収容する。よって警備は病院の比ではない。

 そして、今回はあの小娘と違い、関本はこちらと繋がりがあった。

 対処しない訳にはいかない。

 困難な状況での任務となる。それにも拘らず、呂の顔に一切の表情はなかった。

 ただ淡々と拝命したのみ。

 

 今度は、こちらで足を引っ張るようなことがないようにせねばなるまい。

 

 

 

 




 病院での戦闘やエリカがレオを鍛えるシーンは原作通りなので省略しております。これで上巻はあと少しのところまできました。
 しかし、後半は苦手分野がてんこ盛り。
 頑張ります。

 それでは次回もかなり時間が掛かると思いますが、お付き合い頂ければ幸いです。





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横浜騒乱編5

 なかなか書く時間が取れず、少し少な目です。
 それではお願いします。





               1

 

 人生初の鑑別所へと到着したよ。落書き工作員と感動の再開ですよ。ワクワク…しないね、実際は。

 論文コンペは、原作通り迷惑掛けないように作業してますよ。勿論ね。

 エリカ達や深雪も来たがったけど、キャノン先輩はギリギリの人数しかOK貰ってなかったんだよね。これ以上余計なトラブルを起こして堪るかという気持ちを、ひしひしと感じます。

 まあ、深雪が来れなかったのは、仕事が忙しかったってものあるけど。

 だがしかし!無駄な努力だ。原作通りだと、トラブルは起きる。その為の準備もしてきた。

 鑑別所は、碌なチェックもせずに私達を入れた。勿論、十師族の偉大なるお名前パワーが絡んでます。

 それでもCADの持ち込みくらいチェックした方がいいんじゃないかと思うけど、こっちには好都合だ。用意が無駄にならない。

 職員の首が、これからのことで飛ばないといいんだけどね。

 落書き工作員…いや、元工作員か。そいつは、監視装置が矢鱈と付いたホテルの部屋みたいな場所にいた。

 マジックミラーのようなもので部屋は丸見えで、監視カメラでトイレや風呂まで監視されている。同情はしないけどね。

 因みに話すのは、お姉様ただ一人です。落書きには倒せないので問題なしと、我々の意見は一致しているので安心して見ていられる。

 そして、青コーナー!渡辺摩利の登場です。赤コーナー!関本勲~!!どの程度持つのか楽しみですね。

 問題は、この後に訪れるので私は適当に眺めるだけだ。

『何しに来た?尋問ならプロから受けてる。そっちから訊けばいいだろう』

 まだ取り調べってレベルのものは受けてないでしょ?随分と盛ったもんだね。

 本格的なのは、これからだけど待っていられなかったから来たんだよね。

『悪いが心配事は早めに対処したい質でね。待ち切れないんだ。今、聞かせて貰う』

『いくらお前でも、ここでは魔法は使えないぞ』

 自分のセリフをいった瞬間に、ハッと気付いたように息を止めようするが遅い。

 お姉様の香りが落書きに侵入していた。ちょっと肺に入った程度では済まないだろうね。もうトランス状態みたいになってるよ。

『すぐに済むさ』

 お姉様は、悪い顔で質問を開始した。

 

 いやはや、怖いですね。

 

 

 

               2

 

「匂いを使った意識操作…ですか」

 達也が一目で看破する。

 まあ、ブランシュの時に既に原作では言及さえてたものが、ここで使われたってことだね。

「二人共、見るのは初めてだったかしら?」

 七草お嬢様が、意外そうに私達を見るが、こんな現場見る機会はそうそうないよ。私の場合だと、精神干渉魔法かそれに類するチート使うし(違法)。

「てっきり、風紀委員で見せてたとばかり…」

「大っぴらに使われたら、こっちが反応に困りますよ」

「まあ、そうよね」

 お嬢様が苦笑いして、達也の言葉に同意した。

 そして、落書きの自供(違法行為によるもの)が佳境に入る。勿論、私達は駄弁りながらでもお姉様の活躍を見逃してはいなかったよ?勿論、私もだよ?

 デモ機のデータを奪った後は、乙女の私物を漁る気だったらしい。達也のも機を見て漁る気だったみたいだね。寧ろ、私はおまけみたいなもんらしい。おまけで乙女の私物を漁るな落書き(注:未遂です)。

 そこにレリックの手掛かり、又はその物ズバリがあるんじゃないかと思ったそうな。あるか!

「達也君、そんな物持ってるの?」

「まさか」

 お嬢様の疑惑の眼差しを、達也が名演技で切り返す。

 尚も追及しようとするお嬢様に、達也はキッパリと否定していった。

「賢者の石絡みでレリックを調べていたのと、ウチはFLTに少し伝手がありますからね。余計疑われたのでしょう」

 淡々と真実を述べている風で達也が淀みなく説明していく。

 確かにオタに飛行デバイス上げてるから、それを言い訳にしてもいいよね。

 納得した訳じゃないだろうけど、お嬢様に追及する時間はなかった。

 

 だって、虎さんが遊びに来たんだから。

 

 

 

               3

 

 八王子鑑別所の非常警報が鳴り響いている。

 お姉様は、ボケっとしている落書きをベットに転がして外に出る。

 私達と廊下で落ち合う。

「侵入者のようですね」

「強引なことするねぇ」

「落ち着き過ぎじゃないかしら?」

 私達姉弟の感想に、お嬢様が呆れたようにいった。そっちも余裕そうですよ?

「こんな命知らずなことをやってのける奴だ。サッサと退散するのが正解だろうな」

 お姉様が冷静にいう。

 ここは魔法師とか魔法師の卵とか、普通じゃない連中を収容する特殊鑑別所だから、警備体制は厳重だ。一国のエース級の魔法師でもない限り、突入しようなとど考えないんだよ。

 まさにそのエースが来てる訳だけどね。

「屋上から侵入し、今は東階段の三階に到達ってとこですか」

 達也が手元の端末を操作しつつ告げる。

 お嬢様が、お得意のマルチスコープで答え合わせをしている。

「流石ね。侵入者は四人、ハイパワーライフルで武装しているみたい。階段の踊り場で警備員が交戦中ね」

「廊下は隔壁を下ろしているようですが…してやられたようですね」

 達也が廊下の先にいる物騒な人物を睨む。

 お姉様が彼氏がやられた恨みからか、険しい顔で姿を現した虎を睨み付けている。

「何?」

 二人の警戒マックス状態に戸惑うお嬢様。いやいや、あれは警戒するでしょ。

 通路には虎さんが立っていた。

「呂剛虎…」

 お姉様の呟く声が、矢鱈と大きく響いた。お嬢様は、それでも意味不明なご様子。

 虎さんは、こちらにゆっくりと近付いてくる。

「この場は逃げるべきなんですが…」

 達也が前に出ようとするのを、お姉様が私怨で止める。

「二人は真由美のガードを。アイツは私がやる」

「摩利、気を付けて」

「只者じゃないのは、分かっている」

 無謀なことを宣言するお姉さまに、止めないお嬢様。

 達也がチラッと私に視線を寄越すけど、私は軽く肩を竦めた。

 あちらもお姉様をターゲットロックオンしてるし。

 

 まあ、ヤバくなったら選手交代ってことで。

 

 

 

               4

 

 お姉様がスカートを自分でめくり上げるという破廉恥行為をして、得物を取り出す。

 当然、虎さんはノーリアクション。達也もいわずもがな。ここにいる男性陣は普通じゃないね。

 仕様がないので、私と達也はお嬢様のガードとして庇うように立つ。

 そして、お嬢様が先制攻撃でドライアイスの弾丸を造り出し掃射する。

 虎さんサイオンの鎧に護られ無傷。お姉様へと突進する。

 お姉様とお嬢様の連携攻撃が続くも、悉く防がれ逆撃を食らう。勿論、お嬢様は私達がガードしてるから大丈夫だけど、お姉様の方は防戦一方になっている。

 原作では、ドウジ斬りを決めて退けていたけど、いくら既に魔法戦技で一流の領域にあるといっても、超一流相手では分が悪い。

 本来は超一流同士の戦いに割って入れる方がおかしいレベルだからね。それこそ、私みたいなズルチートか達也みたいなイレギュラーが相手をすべきだよ。

 怪我をしているなんてハンディは、ものともせずに虎さんの猛攻が続く。要所でお嬢様の攻撃が入っているから無事なだけだ。

 そりゃ、一国のエース魔法師が学生にやられるなんて流石にないだろうから仕様がない結果だ。ドンマイお姉様。

 私は、達也に視線を向けて合図を送る。達也は少し眉間に皺を寄せたけど、渋々頷いた。

 済まんね。ガードは頼むよ?

 お姉様が強力な一撃で態勢を崩すのを見逃さず、虎さんが止めを刺そうと拳を繰り出す。最早、ドライアイス弾など無視で突き込まれる。

 威力的に脅威じゃないと悟られたね。

 その瞬間、私はお姉様の襟首を掴んで後ろに倒す。拳は宙を打つに留まった。

「お…渡辺先輩。選手交代で」

「深景君!?」

「深景さん!?」

 私は袖に仕込んだ刀の柄を取り出す。お姉様のようなセクシーな真似は止めたよ。

 因みにこれは、幽遊白書の桑原が戸愚呂兄との戦いに用いたスペシャルソード(柄のみであるけれども)である。

 サイオンの刃がグンと伸びる。

 影分身で一度遊んだ相手だ。縛りプレイでもなんとかなるでしょ。油断はしませんよ?

 私に対して虎さんも只者ではないと気付いたようで、改めて構えを取る。

 先に動いたのは虎さん。虎さんらしくしなやか動きで素早く間合いを詰めてくる。

 小手調べなしの掌底や拳打が流れるように襲い来る。拳に気を取られると鋭い蹴りが放たれるのは明らかだ。

 そんな隙は作らないけどもね。

 私は懐に入り込ませず、刀で拳や掌底を叩き落とし逸らしいなす。

 相手も刀が壁に当たるように、こちらを誘導してくる。露骨ではないところが上手い。僅かでも物を斬れば速度が落ちる。超一流の相手であれば致命的な隙を生むことになる。

 だが、甘いな。

「っ!」

 刀が壁を斬るより早く、刃が縮み虎さんへ向けて刀が一切の勢いを落とさずに襲い掛かる。

 サイオンの刃なんだから、勿論こんな芸当も可能だ。だけど、まさか虎さんもこんな芸当が学生に可能だとは思っていなかったようだ。

 慌てて腕で刀をガードする。サイオンが虹色の火花を散らす。あちらが力を籠めて押し返そうとする。

 私は力勝負に持ち込まれる前に、フッと力を抜くようにして刀を弾かれる勢いを利用して刀を引き戻し、トラさんへと鋭い踏み込みで迫る。 

 だけど、あちらも然る者で、そこを狙って空いた手が狙い澄ました一撃を放つ。

 私は、その拳を柄頭で叩き刃を起こし振り下ろすが、拳を打たれた時点で既に後退に入っていた為に刃を伸ばしてもギリギリで躱されてしまった。

 お互いにそのまま距離を取る。

 

 良かったよ。援護しようとか考えてないようで。味方が。

 

 

 

               5

 

 :真由美視点

 

 摩利が防戦一方になっていた相手に、深景さんが互角に戦っていた。

 その間、私も摩利も援護しようとした。

 CADに手を伸ばした私の手を達也君が掴んだ。

「駄目です」

「「達也君!?」」

 思わず摩利とハモってしまった。

「下手に手を出すと姉さんを巻き込み兼ねません」

 達也君が険しい表情で戦いを見ていた。

 物凄いスピードで動き回っているのに、互いに壁や床に傷一つ付けていない。少し広い通路とはいえ、とんでもない技量。自分の全ての技を相手を倒すことに集中させているんだわ。

 隙を窺おうにも確かに撃つタイミングが掴めない程に、目まぐるしい攻防が繰り広げられていた。

「私では、まだ力不足ということか…」

 摩利が無念さを滲ませた声でいった。聞いて辛いけれど、現実は受け入れなければならない。お互いに。

「渡辺先輩の魔法戦技は一流だと、誰もが認めるところです。だからこそ、七草先輩も前衛を先輩にした。しかし、二流と一流に高い壁があるように、一流と超一流にも高い壁が存在しています。渡辺先輩は、実戦と研鑽でそこに至れると思いますが、今はまだ届かなかったというだけですよ」

 珍しく達也君が、摩利を気遣うような声音でいった。深雪さんに聞かれたら、只では済まないようなことを考えちゃったわ。

 摩利は、気を取り直したように目の前の戦いに集中した。私も、ここから何か学べることを見付けないとね。

 戦闘は激しさを増すばかりで、付いていけない。

 互いに既にわざと隙を見せるなどしているが、互いに容易に踏み込んだりしない。千日手に陥るかと思われたけど、呂剛虎が身体に纏ったサイオンの鎧を解いた。

「「っ!?」」

 私と摩利が驚いた。

 だけど、対峙している深景さんと見守る達也君は警戒を強めたようだ。

 確かに、ここで鎧を解除は何かあると見るべきね。

 そう考えた瞬間、呂剛虎の拳にサイオンが集中した。拳自体は硬化魔法のようなもので金属のような硬さを持ち、拳に覆われたサイオンはどんな魔法防御も無効化する。十三束君の技にも似てるけど、それよりも当然のように高度。

 アレを真面に受けたら身体が砕ける。鎧を捨てて、攻撃に全力を傾けたの?

「鎧を捨てて、より身軽に動けるようにしたのか。まさか呂剛虎がここまでのレベルとは…」

 達也君の軽い驚きに、私も慌てて観察し直すと、身体に一切の無駄なくまさに芸術的といえるレベルで強化が成されている。自身の身体能力を完全に生かし、かつそれを越えられる強化。ただ無駄に全身を魔法強化しがちだが、それだと上手く動けない。重要なのはバランス。それを選択できる魔法師は少ない。今ならば攻撃できそうではあるけど、それをやれば一瞬で私や摩利は無残な死を遂げるだろうことが容易に想像できる。

 深景さんも応えるように、サイオンの刀を構える。当たり前のように深景さんも同じ状態だった。

 でも、それ以上に凄い集中力。まるで、彼女自身が一本の刃のように研ぎ澄まされていて、近寄るだけで斬れてしまいそうだ。

 そんな姿に私は不謹慎にも美を見出す。

 そして…。

「秘剣」

 深景さんの鋭く冷たい声が凛と響く。背筋がゾクゾクした。

 呂剛虎も呼気が鋭く、まるで本物の獣のようにしなやかな筋肉が盛り上がる。表情も獰猛な笑みが浮かんでいる。この男は今、確実に目の前の戦いを楽しんでいた。

 同じレベルで身体能力が強化できるのであれば、女である深景さんが不利だ。基礎的な肉体の強さは、男の方が上なのだから。

「達也君!」

 思わず小声で縋るような声を上げてしまった。助けてほしくて。

「大丈夫です。刀を握って本気になった姉さんに勝てる者などいません」

 達也君が力強く断言した。

 私はホッとするより、非難するより浮かんだ感情は、ドロッとした感情だった。

 達也君は、私の知らない彼女を知っている。それ故に揺らがない。絶対の信頼を持っている。

 達也君にここまで信頼されることに羨ましさはある。でも、圧倒的に私の中を支配したのは黒い感情だった。

 嫉妬。

 これには、私自身が内心で戸惑った。こんな時に何をって。

 先に動いたのは呂剛虎。サイオンで眩く光る右の拳を矢のように引き絞る。だが、そのモーションに騙されてはいけない。おそらく呂剛虎は、瞬時にアレをどこからでも出せる。そんな根拠のない確信が私の中にあった。

 それは達也君や摩利、勿論対峙する深景さんも分かっているだろう。

 そして、呂剛虎が消えた。そう表現するしかない程、視界から消えた。動きのキレもさっきまでと比べものにならない。

 同時に深景さんの刀も消えた。

 気付けば、両者は交錯していた。

 呂剛虎が、腹から血を流していた。深景さんは制服の上着が大きく破れているのみ。

 呂剛虎がゆっくりと前のめりに倒れた。

 勝った!!

 暫くして、彼女はゆっくりとサイオンの刃を消して、大きく息を吐いた。

 私は気が付けば動いていた。

 駆け寄って彼女の無事を確かめる。

「怪我は!?」

「…いや、ありませんけど」

 深景さんは、いつものとぼけた感じに戻っていた。

 面倒事が嫌いだけど、頼んだら仕方ないなぁというような顔で付き合ってくれる。女性であるが故に、男性とは違う行き届いた気遣いでエスコートしてくれたりする。かと思えば、危ない時にヒーローみたいに助けてくれる。今、みたいな姿もカッコイイ。

 普段の上体に戻ってホッとしたような、残念なような。ちょっと複雑な気持ち。 

 私も本格的に不味いところまで足を踏み入れてしまった。そんな気がしたが考えないことにした。

 

 今はまだ。

 

 

 

               6

 

 :摩利視点

 

 前回、呂剛虎と戦った時にはシュウの手助けができた。それは、シュウが隙を作れるだけの実力があったからこそだった。シュウが一緒にいて護って上げられないと無念そうだったが、私は大丈夫だと思った。

 ところがどうだ。シュウのいうことが正しかった。私は、自分の実力を正しく把握していなかった。

 ドウジ斬りが何故か使えることや、魔法戦技は学生で負けなしだったことで、知らず知らずのうちに慢心していた。

 最後の一撃。多分、真由美には見えなかっただろう。だが、私には見えた。いや、太刀筋は見えなかったけど、何が起こったのかは分かった。

 あの瞬間、深景君の刀は三本あった。全く同時に三つの別方向からの斬撃が呂剛虎を襲ったんだ。呂剛虎は二つまでは避けて見せたが、最後の払いに反応できずに倒れた。

 シュウとの戦いの際は見せなかった手札を晒したのは、そうしなければ勝てない相手であると悟ったからだろう。

 シュウの時は、最悪撤退しても構わないという状況だった故に小手調べに終始したのだと、今だから分かる。それはシュウもだろう。あの時、時間が稼げれば、それで良かったんだから。

 実際、平河千秋は何も重要なことは知らなかった。あちらからすれば、念のために消して置きたかったという程度なのだろう。だが、今回の関本は多少奴等の目的なども把握していた。今回、消して置かなければならない任務だったといえる。

 しかし、それよりも深景君の技のとんでもなさが私の中では問題だ。あれはドウジ斬りに酷似していた。いや、私の方が紛い物か。

 技のみで魔法の領域に到達していた。信じられない。確かに無意識に発動させることができるESPはある。でも、魔法的兆候は存在する。魔法を剣で使う千刃流とも勿論違う。あり得ない技前。

「達也君は、知っていたのか。深景君がこんな技を持っていたと」

「詳しくは知りません。しかし、姉さんなら驚く程のことではありませんよ」

 この男は、身内の評価となると恥ずかしげもなくべた褒めするな…。

 軽く胸焼けを起こしてから、話を振る相手を間違えたことを悟った。

 エリカのことは苦手ではあるが、もっと道場に顔を出す必要があるな。

 

 私は、もっと強くならねばと決意を新たにした。

 

 

 

               7

 

 その連絡は、論文コンペの二日前というギリギリのタイミングできた。

 私は達也とディスプレイを見て、報告を聞いていた。

『スパイの実働部隊は、ほぼ拘束を完了しています』

 響子さんが、お仕事モードで淡々と話すのを黙って聞き流す。

 報告を終えると、響子さんが苦笑いしていう。

『深景さん達の情報が役に立ったわ。残念ながら隊長の陳祥山や、深景さんのいっていた人物の尻尾だとか、深景さんを襲った魔法師とかは逃がしちゃったんだけど、副官の呂剛虎は捕らえられたから満足してるわ』

 響子さんが私を見ながら苦笑いしている。聞き流してるのバレテーラ。でも、その逃がした魚が大問題だから、全然解決してないって知っているからね。雑魚が捕まったなんて、どうでもいいんだよね。虎さんは兎も角として。

 私は悪びれもせずに、いやいやと謙遜する。

 達也が生暖かい目で私を見る。

 原作通り、奴等は他の企業にもちょっかいを掛けていたらしく潰せて良かったってことらしい。

「それで、レリックの情報はどこから漏れていたんですか?」

 達也が私と響子さんの遣り取りに焦れたのか、話を本筋に戻してくる。

『軍の経理データが漏洩して、そこから辿られたみたい。恥ずかしい話、今回被害に遭った企業にバレたら不味いわよ』

 響子さん渋面ですね。いくら電子の魔女さんでも、もう手遅れの漏洩をどうにかできないよね。全面的に隠蔽する方向でいくんだろう。私も呟くような外道な真似はしないよ。

『拘束した連中を締め上げれば、あの街の尻尾も深景さんのいう華僑の尻尾も掴めるかもしれないのが救いね』

 どうも響子さんの顔色は、最近冴えない気がするんだけど、気の所為でしょうか?チラッと達也を見ると情報を吟味しているのか、こっちに目線を寄越さない。

『まあ、論文コンペの応援には行くから。頑張ってね、二人共』

 まあ、私や達也の企画じゃないから頑張るのは先輩方だけども。

 結局戦争回避できなかったよ…。チート持ってても無力なもんだよ、随分前から分かってたことだけども。

 でも!最低でも周公瑾はぶっ殺すぞ!絶対だ!フリじゃないぞ!

 

 私は、そう決意を新たにするのだった。

 

 

 

 

               8

 

 :陳視点

 

 夜の中華街。とても真面な店とは言い難い外見の店の奥に座り、周の若造を待っていた。

 あの若造は、呂上尉が捕らえられた辺りから居所をコロコロと変えていた。こちらが把握に困難な程に。

 ようやく連絡が取れて呼び出したところ、ここを指定された。

 もうすぐ約束の刻限という時に、厨房から若造が姿を現した。

「お待たせ致しました閣下。最近、こちらを嗅ぎ回っている輩がいるようでして油断ならぬのです」

 笑みを湛えて私の対面に座る。

「周先生。本件では随分とお世話になっております」

 私は、若造のこちらを疑うような発言を無視していった。もしかすれば、こちらの捕まった連中が何か漏らした可能性もなくはないが、そんなことはどうでもいい。

「陳閣下にそのように仰って頂ければ、こちらも報われる思いです」

 無視されたことなどなかったかのように笑みを崩さず、若造が答えた。

 殊勝な返事だが、本心は知れたものではない。

「お陰で作戦も第二段階へと進むこととなりました」

「おお!遂に」

 私の言葉に大仰に若造が感激の声を上げた。

「しかしながら、問題もありましてな」

「それは一体?」

「武運拙く副官が敵に捕らえられてしまいました」

「存じております。呂先生がまさか…」

 私は殊勝な振りを、若造はこちらに協力的な振りをしつつ相手を窺う。互いに相手の本心は窺い知れない。

「あの漢は我が国にまだまだ必要な武人」

 若造が一転して笑みを消し、真剣な表情で頷く。流石に不用意な発言はしてくれんな。

「周先生のお力をお借りしたく」

 仕方なく頼みを口にすると、真剣な顔で重々しく若造が頷く。

「同胞の危機を見過ごすことなど、どうしてできましょうか。喜んで協力させて頂きましょう」

 一々わざとらしく大仰な反応だ。

「丁度、呂先生の移送先と日時に関する情報を得たところでした。これも天の采配というものでしょう」

 私は鼻で嗤いたくなるのを押さえて、まさにとだけ答えた。

 こちらでも掴めなかった情報を、どうやって掴んだのか気になるところだが、どうせ答えないだろう。

 驚きを顔に出さないようにするのに苦労させられた。

「ルートも既に。その代わり…」

「分かっております。中華街には被害が及ばぬよう可能な限り手配致しましょう」

「ご配慮に感謝致します」

 最後までお互いに仮面を被ったまま別れることとなった。

 

 このままにはしない。あの若造も、司波とかいう姉弟も。

 

 

 

 

 




 前回、呂剛虎と深景の影分身が戦った時、魔法有りの状態で余裕モードでした。
 今回は、魔法最小限の縛りプレイ。
 呂剛虎は、十三束君ではないので、まだ上がある状態ですが使う前にやられました。戦闘回、ホント鬼門だと改めて思います。手抜きした結果ではないんですが…。
 原作でも、ちょっとと思ったので、渡辺お姉様には負けて貰いました。
 呂剛虎ってエース級ですしね…。

 何分、書く時間が取れない日々が続いている為、投稿はいつになるか分かりません。懲りずに付き合って頂ければ幸いです。





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横浜騒乱編6

 色々とあって、遅くなりました。すいません。忘れられてると思いますが、お願いします。




               1

 

 さて、辛くも虎さんを退けた私達(お姉様が辛かった)。これで事件は終わった!訳がないじゃない。

 あのナルシストや撃ち逃げした奴、おまけで陳とかいうゴリラも残ってるのに終われる訳がない。知ってた。

 あれから事態に進展はない。そうだと思ってた。だがしかし!周…以下略。

 コンペの準備の方は、順調で私達担当分は終わったんだけどね。この調子で全部終わってくれれば良かったのに。もうコンペ明日だから準備は終わってなかったらヤバいけどね。

 あとコンペで残っているは、リハくらいなもんだ。それも午後だし、課題(学校のやつ)でもやっつけとくかって感じが今現在という訳だよ。

 心中で延々と愚痴を垂れ流しつつ課題をやっていた私と達也にエリカが話し掛けてきた。

「ねぇ!明日何時に会場入りするの?」

 来る積もりですよね?バレバレだから素直に訊いてくれていいんだよ。

 達也の方は訝し気にエリカと無関心を装っているレオ君をチラッとだけ見る。

「八時に現地集合、九時に始まって三十分はセレモニー。そこから持ち時間三十分でいよいよコンペ開始だな」

 達也が要約した内容をアッサリと教える。調べれば簡単に分かる事だし、隠す意味もない。

「うちの出番は?」

「一校は最後から二番目。つまり午後三時だな」

「へえ。結構待たされるね。その時間に合わせて会場入りしないの?」

 根掘り葉掘り訊いてくるエリカに、達也の顔が諦めの境地に達しているのが分かった。まあ、達也もエリカが何かしたがっていてコンペに来る積りなのは分かっただろうけど、達也にも諦めさせる方法が見付からなかったんだろうね。申し訳ないけど回避法が私にも分からん。

「メインで発表をする市原先輩は、午後から来る。だけど、俺や姉さん、五十里先輩は見張り兼トラブル処理で早く会場入りしないといけないんだ」

「現地集合ってことね…。デモ機はどうすんの?」

「生徒会で運送業者を手配してる。勿論、服部先輩達の護衛付きでな」

 エリカは、それを聞いて首を傾げた。

「服部先輩って市原先輩の護衛じゃなかった?」

「当日は、七草先輩と渡辺先輩が付いてくるそうだ。ただ応援に来るって感じの質問じゃないが、どうした?」

 達也もズバッと斬り込むことにしたようで、どストレートに訊いた。私には真似できませんわ。

 エリカもここまでズバッと訊かれると、答え辛いのか目を泳がせてる。

 だが、ここで無関心のフリを続けていた(バレバレ)レオ君が堪り兼ねて声を上げた。

「あのよ!俺達にもなんかやらせてくんねぇか」

 エリカもレオ君がどストレートに頼んだことで溜息を吐いていた。

「別に構わないが、どうしたんだ?」

 達也が分かり切ったことを訊く。達也よ。なんとなく分かるよ、目がちょっと死んでいるのが。

「いや、テメェ勝手なのは承知だけどよ!あれだけ苦労して短時間鬼特訓したってのに、出番全くなしは悲しいだろうが!」

「そうよ!学校まで休んで、コイツしごいて、とんでもないネタで勝手に弄り回されたってのに報われないなんて、私が可哀想でしょうが!」

 清々しい程の正直なお言葉を叫ぶお二人。仲が良過ぎでしょ。

「なんというか…。二人共、もう付き合っちゃえばいいんじゃないかな?」

「「冗談じゃない(わ)!!」」

 私の言葉にやっぱりハモる二人。

 因みに食堂で二人の付き合ってるネタは、雑談でご本人にもいってたりする。何気に私も揶揄った一人です。通信でね。

「まあまあ、これで終わりな訳がないから出番はあるよ」

「え?解決したんじゃないの」

 エリカがビックリしたようにいった。幹比古君もビックリして身を乗り出している。

 エリカも一般に公開されてない情報を当たり前みたいに知ってるね。幹比古君、アンタはどっから知ったのっていいたい。

「捕まったのは大物だけど、大物単独で動いてる訳ないでしょう?」

 達也も苦い顔を見て納得するお二人プラス一。

「このまま終わってくれればベストだ。だが、何もないという確信もない。それに論文コンペが狙われるのは毎年のことらしいからな」

「それじゃあ、僕も何か手伝うよ」

 達也の言葉に、幹比古君がすかさず手伝いを申し出る。当然のようにエリカやレオ君も参戦表明していた。

「うん、ありがとう」

 苦笑いしている達也の代わりに、私が礼をいう。

 でも、ほのか達は来ない方がいいと思うけど、みんなセットだからなぁ。

 因みに何気なくを装ってほのか達にはいってみたが、勘繰られただけでミッション達成ならずだったことを明記して置く。

 

 まあ、当たり前だよね。詳しいこと説明できないんだから。

 

 

               2

 

 全くどうにもならずに戦争…もといコンペ当日。

 事態が全く前進しないまま徒労に終わり、無事に会場に着いたんだけどね。せめてそのくらい平和にと思ってたんだけど、忘れてたわ。これ。

 ちょっと険悪な雰囲気が漂っとるとです。エリカとキャノン先輩が睨み合っとります。何故、エリカがいるのかって?愚問だよアミーゴ。因みレオ君もいるからね。空気と化しているけど!はっはっは。

「お姉様、そろそろ声を掛けた方が…」

 いやいや深雪よ。達也じゃなく私が掛けるのかい?それで止まるか?これ。

 達也はといえば、現実逃避しているのか遠い目をして立ち尽くしていた。姉として動くべきときのようだ。ジーザス。

 致し方なく火中の栗を拾うべく進み出る。

「おはようございます」

 フランクに笑顔で近付いた私を、キャノン先輩が敵の増援でも現れたかのような顔で睨む。戦術的撤退を実行したくなるが我慢する。

「おはよ!深景!」

 エリカが良い笑顔で私に挨拶してくる。キャノン先輩がイラッとしてるのが分かります。すいませんね。

 ここは婚約者の出番では?とおかっぱ先輩を見るも、苦笑いが返ってくるだけ。頼りにならん人だね!

()()()()()()にいい聞かせてくれない?邪魔だって」

 貴女のお友達をやけに意味深に強調するキャノン先輩。もしかして、私の差し金だとでも思ってるの?違うから。

 その言葉にエリカもイラッとしたのが分かったが、ここは精神的な大人であるところのこの私が抑えるべきところだ。

「分かりました。それでは()()()()私に任せて貰えるんですね?」

 大人であるところの私は自分が責任を持つ旨を伝えると、キャノン先輩がおかっぱ先輩をチラ見する。自分で決めなさい、そこは。微かに頷いて見せるおかっぱ先輩。

 渋い顔でキャノン先輩は了承してくれた。

 いっとくと、本来はそっちで処理する案件だからね?

 

 私はエリカとレオ君を引き連れて、上級生夫婦に聞こえない位置まで離れる。

「話聞くよ?」

 私は可能な限り穏やかな声で促した。黙ってたいならそれでいい。

 二人はきまり悪そうに視線を逸らすけど、私はただ待つ。

 暫く無言だったが、エリカがキャノン先輩に対する不満を漏らしたことで堰を切ったように話し出した。私はただ聞くに徹した。

 ようは、キャノン先輩のやり方といいように不満があったらしい。レオ君は喧嘩こそしなかったものの同じく不満だったようだ。

 まあ、エリカはそれだけじゃなそうだけど、まあいい。いずれ本人がいう気があればいうでしょう。

「護衛とかってガチガチにやらなくて大丈夫だよ。普通に応援してくれれば」

 何かいおうとしたエリカを押し留めて続きを口にする。

「どうせ何かあれば、大騒ぎになってどうでもよくなるから、その時は協力したって何もいわれないって」

 二人がニヤッと笑う。若干引くレオ君。それにエリカ。まるで越後屋、お主も悪よのぅみたいな顔だけど、一般論だから。

 二人に挨拶して別れると、今度は上級生夫婦が近寄って来た。

「何いったの?」

 おっと!代わりに対応した後輩に対して随分ないい様なことで。

「ここのところ危ないことが多かったから気合入っちゃったみたいで、すいません。普通に応援してくれればいいよっていったら分かってくれましたよ?何か問題ですか?」

 嘘はいってないよ?私は深々と心を籠めて頭を下げる。社会に出てマナー講習など受けると、頭を下げている相手に追い打ちはし辛いなどと教わる。実際はどうかといえば、必ずしもそうじゃない。だから耐える。

「……」

 疑り深い目付きでキャノン先輩が二人をジッと見るけど、二人は視線を合わせず明後日の方向を向いている。目が合わないと分かったキャノン先輩が私を睨むが、私は平然と受け流す。

 やがて、キャノン先輩が重い溜息を吐いた。勝利。

 

 キャノン先輩は、旦那さんの目配せの所為か礼をいって素直に去って行った。

 

 

 

               3

 

 色々とイベントがあったが、どうにか控室に入った私達は新たな客人を迎えることとなりました。

「深雪さんはお久しぶりね。二人にはよく会うけど」

 深雪は他意のない笑顔でご無沙汰しておりますと行儀よく挨拶した。

 私と達也は苦笑いしかない。後半は明らかに色々と仕事を振った嫌味だろうからね。いや申し訳ない。嘘だけど。

「藤林さんは、一校の控室に来てよかったんですか?」

 一応の盗聴対策をする達也。勿論、この部屋はクリーニング済みだ。まあ、流石に盗聴器も盗撮カメラも仕込まれてなかったのを確認しただけだけど。何事も裏技は存在する。

「今の私は防衛省技術本部兵器開発本部所属の技術士官として訪れているから。それに二校の控室にもお邪魔するわよ?ちゃんとね」

 響子さんは、お茶目にウインクしていった。気遣いが台無し感が凄いわ。

「古式魔法師としての藤林さんとしても…ですね?」

 達也が私の方を見る。

「そういうこと。だから、二人は藤林少尉でも藤林さんでも、藤林お姉様でもいいわよ?」

「それでは遠慮なく。それで藤林お姉様、そろそろ…」

「御免なさい。冗談よ」

 深雪の黒いオーラに素早く撤退する少尉殿。賢明ですよ。

「いいニュースと悪いニュース、それとおまけでろくでもないニュースがあるけど、どっちから聞きたい?」

「斬新な選択肢ですね。悪いニュースからろくでもないの、いいニュースの順でお願いします」

 私は悪い話から聞くタイプです。達也と深雪からは任せるサインがきたし、私の趣味ですよ。それに大体予想できる内容だしね。

「セオリー通りね、深景さん。私はそういうの好きよ」

「私もそうなんですよ。そろそろ真面目にいきません?」

 私達も大してやることないけど、長々話している訳にもいかない。

 響子さんは、コホンと一つ咳払いする。

「例の件、やっぱり終わらなさそうなのよ」

 うん。知ってた。親玉クラスが残ってるしね。響子さん調べでも、まだ妙な痕跡を残しているそうだ。

「一応、私の方で保険は掛けてるけど、怖い刑事さんが同伴しててね」

 ああ、分かります。源田さんですね。そして、エリカのお兄さん一号が保険ね。原作ではいないからね、源田さん。響子さんにいいとこ見せようと気張って来たんだろうに、憐れエリカお兄さん一号。おまけが漏れなく付いて来た訳だ。

「それで、ろくでもないニュースだけど、深景さんの怪しい情報源から浮かび上がった華僑だけど、只者じゃなさそう。これ見てくれる?やっと少しだけ映像確保できた程度だけど…」

 私達はいわれて響子さんのタブレットを覗き込むと、あのナルシスト野郎が映っていた。だが、ナルシスト野郎は、カメラに向かって明らかに笑みを浮かべて立ち去って行った。

 ああ、これは気付かれてますな。

「これ以降、カメラに記録されていないし改竄の後もなくてね。あの辺りだと街路カメラも当てにならないから、消息不明よ。申し訳ないけど、直近に危機があるかもしれない状況だと、これ以上は人手を割けないから」

 まあ、あの野郎だと気付かれると探し出すのは、難しいかもしれないねぇ。響子さんの立場だと、気付かれるわ、これ以上注力できないわで、ろくでもない話って訳ね。ネタ元は私の情報のみだし。それにしても怪しいって…。いや、ジーザス御子柴、ココ・ヘクマティアル…。うん、弁護できないくらいに確かに怪しいわ。響子さんからの投了宣言にも等しいお言葉。だが、諦めたら、そこで試合終了だ!私はやるよ、その前に戦争だけどさ!

「次はお待ちかねのいいニュースよ」

 私が余程、顔を顰めていたのか響子さんが気遣うようにいった。

「ムーバルスーツが完成したわ。夜にはこっちに持ってくるって真田大尉が満面の笑みでいってわ。それと、深景さんの意見は採用されたみたいよ?」

 ホッとするよ。そりゃ、響子さんは着ないからいいかもしれないけど、あの身体の線がハッキリ出るわ、着替える場所が男女同じだわって環境は何とかして欲しかったんだよ。何よりダサい(注:個人主観です)。他人事なら、オタクの一人としてニヤニヤと鑑賞したかもだけど、こっちは着用して戦わないといけないんだよ。そりゃ、捩じ込むよ。因みにこっちのムーバルスーツは、インナーの上から装着可能だし、ちょっと鎧っぽい装甲が追加されて特撮ダークヒーローっぽくなりました。趣味ですが何か?勿論、軽くて丈夫な素材で動き易いですとも。抜かりはない。

「もう完成ですか…。流石ですね。しかし、急がなくてもいいのでは?」

 達也が冷静に意見する。ところがこれが正解なんだよね。いえないけどさ。

「明日にデモがあってね。持って来ないといけないのよ。尤もそれを捩じ込んだのは真田大尉なんだけどね。ほら、基幹部品までそっちに頼り切りになっちゃったじゃない?せめて完成ぐらいはって頑張ったみたいよ。これで面目を保てるってホッとしてたわ」

 響子さんが苦笑いしていった。

「こっちは完成させられなかった訳ですからね。逆に有難いんですよ」

 達也が気遣いではなく本気でそういった。FLTにパワーアーマー系のノウハウは流石になかったからね。天眼で漁ればどうにかなったかもだけど、真田さんも趣味人だから参加したがってたんだよね。だから噛ませて差し上げた次第です。どっから聞いて来たのか不明ですよ。

「それは大尉に直接言って上げて?喜ぶと思うから」

 そうして響子さんは語るべき内容を話し終えると、不穏な資料を残して二校の控室へと去って行った。合法ロリ巨乳を後ろに貼り付かせたまま。

 

 響子さん、気付いててそのままにしてるよ。憐れな人が多いな、最近。 

 

 

 

               4

 

 私と達也はデモ機の監視業務に当たっていた。本当は、先にあのバッカプル夫婦がやる筈だったんだけど、旦那さんの方が気になる発表があるとかで順番を入れ替えたんだよね。まあ、別に私達はいいんだけれども。

 それが終わってバカップル夫婦と交代した私達は、深雪と合流して客席へと向かう。原作でも他校の発表とか殆ど紹介されなかったし、どういう風にやっているか地味に楽しみだ。重要だからもう一度いうけど、バカップル夫婦みたいに気になる発表はないから、交代しても全然構わなかったからね。

 そして、ここで懐かしい再会が!って夏に会ってるから、そんなでもないけどね。

 いわずもがな一条将輝君である。相変わらず残念若様。そしてイケメンだな。ついでに隣にはうちの学校の十三束ショタ鋼君がいる。強そうな名前とは裏腹にショタ系な顔の御仁で、容姿と違って実力は名前負けしておらず、地味に強かったりする。今回は二人共、会場警備スタッフとして、ぬりかべの手下として働いている。しかし、残念若様は凄いな。横のショタ鋼が霞んでるよ。少女漫画だったら絶対に背景に花背負ってるよ。非モテの私には眩しい。容姿に関しては、深雪を見てるからポッとなったりしないけどね。ショタ鋼は、まあドンマイ。

「深景さん!」

 爽やかな笑顔で挨拶されてトキメキが全くなしとは、我ながらどうかと思うけど、精神年齢ウン十代の私だから仕様がない。

 私も笑顔で頭を下げて置く。

 何やら私の家族達からほんの少し黒いオーラが出たように思うけど、きっと気の所為だろう。間違いない。

 残念若様は笑顔で私の前まで来る。

「お久しぶりです。後夜祭のダンス以来ですね」

「ええ。そうですね。お元気そうで何よりです。一条さんは、警備ですよね?」

 達也は兎も角、深雪をまるっと無視して私に話し掛けた残念若様にショタ鋼がマジかコイツ!?みたいな顔で見ている。よし、表に出ろ。冗談だよ、よく分かるよその気持ち。

「はい。しっかりお守りしますから、ご安心下さい」

「それでしたら警備に戻られたらいかがですか?一条さん」

「これは失礼しました。挨拶を失念していました。お名前はなんと仰るんでしたっけ?」

「嫌ですわ。もうボケていらっしゃるのですか?」

 深雪が私との間に割って入るようにいった言葉でバトルが始まったよ。またしても展開されるインフェルノ。だから、止めなさいって。

 達也。止めなさい。騒ぎになる前に。ショタ鋼の顔面が最早エイミィに見せられないレベルで崩れているから!達也は考え事でもしているのか、二人を見ていない。

 大方、残念若様が居た方が安心だとか考えてるんでしょうが。

 これは私が止めないといけないか。

「一条さんがいらっしゃるのでしたら、安心です。宜しくお願いしますね?」

 残念若様が深雪を避けるように横にずれて私の前に立つと、深雪の眼がスッと細くなった。怖い。

「勿論です」

 残念若様が原作の深雪に対するように、気合が入り過ぎている。私に対して。袖繕っただけで何故こんなに懐かれたんだろうか?ホントに謎だ。

「十三束君。苦労するだろうけど頑張って下さいね」

 深雪が最後にショタ鋼に声を掛けたが、ショタ鋼はカクカクと人形のように頷くのみだった。深雪の今の笑みは凄い迫力だからね。分かるよ。

 深雪の当て擦りに、残念若様が更にヒートアップしかけたが、止めて仕事に戻らせた。

 

 気合の籠った残念若様の背中を見て、原作深雪程煽ってないんだけどなぁと心配になった。

 

 

 

               5

 

 色々と気苦労があった後、エリカ達と会場で合流したんだけどさ(何故かレオ君は除く)。何やら見覚えのある渋い御方の姿が見える。チャラい見た目のお兄さんの隣に。源田さん、ヤッホー。

 源田さんは、こっちに気付いて軽く手を挙げて挨拶してくれた。

「何?深景ってバカ兄貴の隣にいる人と知り合い?」

 エリカが源田さんについて訊いてくるけど、気付いてたのに千葉兄の存在を黙殺してたのね。千葉兄は気にしてないみたいだけど。無視されても懲りずに手をヒラヒラ振ってるし。

「まあ、同門…というか同じ先生に付いてる?から」

 微妙ないい回しなるのも、剣の師匠が紛らわしい苗字でそれを気にしてるからだよ。前にいったっけ?

「ああ!そうなんだ!いいな…私も紹介してくんないかな」

 エリカは将来武者修行の旅に出たいという生まれる時代を間違えた?いや、ある意味合ってるのかな?女の子だからね。時代が時代なら大人しく嫁に行けっていわれるし、合ってるんだと思う。そんな訳で、現代の剣聖とはお近づきになりたいところでしょ。紹介くらいはしてもいいけど、教えて貰えるかはエリカ次第かな。

 幹比古君もエリカが千葉兄をガン無視していることをスルーしている。他家の因縁に巻き込まれたくないだろうしね。

 横では、達也が深雪にショタ鋼のことを訊いていた。二人でショタ鋼のレンジ・ゼロのことを話したりしていた。

 話を変えるようにエリカが達也と深雪の会話に割って入る。

「何話してんの?」

 だが、それは微妙に失敗だったりする。

「そういえばレオはどうしたんだ?」

 達也があまり愉快な質問ではないことを訊いたから。途端に不機嫌になるエリカ。そして、目を細めて低い声で宣言する。

「この際だからいっておくけど、私はアイツを鍛えただけで、付き合ってる訳でもないしコンビでもないの。お分かり?」

「そういう意図があった訳じゃないんだか…」

 エリカの迫力に苦笑いしつつ達也がいった。深雪でさえ苦笑いしているから、大した迫力だったといえる。

 でも、お似合いだと思うし、絶対そうなると確信する次第であります。

 そんなことを考えた瞬間に、エリカが私を睨み付けた。怖い。

「どうしたの?」

「いや、なんか不愉快な事を考えたような気がしたから」

 声が震えないように注意しながらいったけど、エリカの勘が怖い。

 それから探るように見られたけど、素知らぬ振りを通した。

 

 因みに、合法ロリ巨乳は響子さんにガッツリと釘を刺されて怒っていたそうな。

 

 

 

               6

 

 市原さんが到着したのは、五校の発表中のこと。お嬢様とお姉様もおまけに付いて来た。

「来ちゃった」

 私の前でお嬢様がそんなことをいっているが、私はどう反応すればいいんだろうか?いらっしゃい!と前髪でも撫でるべきだろうか。いかん、年齢が。

「予定より早くいらっしゃったのは何かあったということですか?」

 反応に困っている私を見兼ねたのか、達也がお嬢様に話し掛ける。

 なお、深雪は完全に知らん顔でいる。薄情な妹だよ。嘘だけど。

「予定より早く尋問が終わったからね」

 お嬢様に任せていると埒が明かないと思ったのか、お姉様が代わりに答えた。

「尋問ですか。それで新たな事実は判明したしたんですか?」

「ああ、関本はマインドコントロールを受けていたようだ」

 達也の顔が真剣なものに変わる。予想より本格的な工作だったからだろうね。

「メンタルチェックはブランシュの一件以来、定期的に受けるよう義務付けられている筈ですか?」

「定期的といってもひと月に一度だ。付け入る隙などあるということだろう」

「凄腕なのか、薬物なのかが気になりますね」

 お姉様は、投げやりに肩を竦めた。分からないということですね。

「もしかしたら本物の邪眼かもしれないわね」

 ここでシリアスに復帰したお嬢様が口を挿む。

 因みに、ここでいう邪眼は良い夢を見られる方のものではない。

「まあ、彼は元々国家が魔法師を管理することに不満を漏らしていたから、邪眼でいいように使われた可能性はあるわね」

「厄介な可能性が持ち上がりましたね。前回は安い手品でしたが、今回こそは本物かもしれないとは」

「そうね。だからこそ、注意してね。ハンゾー君達には、もういってあるけど厳重に注意して」

 お嬢様はそう締め括ったけど、どうして私の方を見ていたのかな。まあ、何かあるのは確定している訳だけどね!

 結局は、その場その場で全力を尽くすという名の行き当たりばったりでやるしかないってこと…。いつも通りでしょ、それ。

 

 そして、後に分かるが(白々しい)、やっぱり虎さんは檻から解き放たれていたそうな。

 

 

 

               7

 

 大詰めとなると、私は観客席で応援となる。達也は正式にメンバーだけど、私は協力しただけだしね。観客席から見守らせてもらうよ。因みに、レオ君はもう合流してエリカ達と座っていた。他の面々も一応、警戒はしてるけど、やっぱりゾロゾロと兵隊が雪崩れ込んでくるのかね。

 私は自分の端末を眺めて溜息を吐く。実は、虎さんが逃げ出さないように匿名でタレコミしたんだけど、どうやら意味をなさなかったみたい。逃げられたよ。きっとハッスルしてるよ。あの虎さん。お姉様じゃなくて私にくるよ、これ。

『もう兵の配置は済まされてると見るべきね。定期連絡を偽装してるみたいだけど、もう警戒してた市内の警察やら、海上保安庁やらが消息不明になってる』

 そんなメッセージがポンと表示される。一応、エレアに調べて貰ってたんだけど、案の定な結果か。タチコマは一応、魔装大隊の備品だからね。あんまり好きに使い過ぎると、こっちの情報も筒抜けになっちゃうからさ。今回はエレアにおねがいしてたんだよね。

 そして、エレアが送ってくれたデータに目を通す。ああ、表向き異常なし的な雰囲気を装ってるのね。それで騙されちゃってるんですね。なんで、日本ってセキュリティ弱いんだろうね。

 通信端末を見ながら顔を顰める。無駄に犠牲を出したような気になる。いや、そうなのか?いや、考えないようにしよう。精神衛生上宜しくない。

「お姉様、どうかなさいましたか?」

 深雪が心配そうに声を掛けてくる。どうやら心配させてしまったみたいだ。私は軽く頭を撫でてやる。

「知り合いから、メッセージがきただけだから心配しなくていいよ」

 嘘だけど。戦争準備されてるけど、雪崩れ込まれることがほぼ確定してるけど。

 ラッキースケベ幹比古君と美月の眼で監視もしてるけど、二人の監視じゃ物理的に突入してくる兵士は引っ掛からないみたいだしな。

 これは、諦めていつも通りにやるしかないかぁ。ちくしょう!

「ごめん。ちょっとは席外すよ」

 私は立ち上がり、エリカ達から見えないところまで行くと、通信端末を弄る。

 ぬりかべの端末にタレコミを入れて置く。お嬢様も注意するようにいったみたいだけど一応ね。どこまで匿名のタレコミを悪戯と判断せずに取り合ってくれるか分からないし、効果は不明だけど何もしないよりはマシでしょう。

 

 ソースが悪戯メール染みたものじゃ、あんまり期待できないかなぁ。

 

 

 

               8

 

 :十文字視点

 

 七草と渡辺からの情報は既に共有されている。それに向けて方針も変更済み。防弾チョッキも着用させている。だが、共有されていないことが一つあった。

『敵集団が既に入り込んでいる。注意されたし』

 送り主不明のメッセージ。十文字家の人間に悪戯を仕掛ける度胸のあるものなど、そうはいない。それを分かって送られたものか、それとも理解できない愚か者の仕業か。どちらにせよ。現場の空気を感じ取るに不穏なものがある。本当にせよ嘘にせよ。

 それ故に、その感覚が正しいか、より現場に近い人間に確認する必要があるだろう。そう考えた俺は、服部や桐原に問い掛ける。

「二人共、現在のところまでで違和感を感じる点はあるか?」

 服部と桐原は互いを見てから、桐原が先に話せというような仕草をした。やはり、二人共感じていたか。

 服部は確信がない所為か、いつもの歯切れの良さが鳴りを潜めていたが口を開いた。

「…横浜だからといっても、外国人の数が多いように思いました」

 ふむ。現地を下見した服部の視点という訳だ。

 コンペは一般の人間は見学できない。関係者のみだ。会場周辺には魔法を愛好する変わり者でも近付いてこれない。加えて観光するにも、街中には警戒中の警官や魔法師協会の魔法師がうろつき、正直楽しみは半減する。観光するには不向きな時期だ。それに不穏な情報の数々を思えば、関連を疑いたくなる。

 俺は今度は桐原へと視線を向ける。

「外国人の件は、それ程気にしてはいませんでしたが…。どうも会場周辺より街中が妙に殺気立っているように感じました」

 服部も頷いていた。

「ふむ。やはりそうか…」

「十文字先輩もそう感じていましたか」

 頷いた俺に、服部が表情を険しくする。どうも、良い予感がせん。

 俺は勢いよく立ち上がると、通信機のマイクを取り上げて全隊に通達する。

「一校の十文字だ。これより厳戒態勢に移行する。全隊へ通達する。すぐに戦闘になることも想定せよ」

 俺は、通信機のマイクを下すと、二人を見た。

「服部、桐原。少し席を外す。警備を担当している魔法師の責任者にも話を通してくる」

 二人は無言で頷いた。この二人ならば問題あるまい。

 俺の頭の中ではあのメッセージが強く自己主張していた。

 

『敵集団が既に入り込んでいる。注意されたし』

 

 

               9

 

 一校の発表が始まった。

 どうやらグラップラー保険医が平河妹も原作通り連れてきているようで、少しイラッとする。

 警備の体制は、どうやらぬりかべが私のメッセージかお嬢様の情報を信じたのか、キチンと対応してくれているようだ。

 会場周辺の入り口には、すぐに展開できるバリケードが設置され警備体制は大幅に強化されていた。元々防弾チョッキは最初から装着していたが、今は外に特殊な盾と特殊コーティングの強化ガラスまで設置されていた。

 こっちは成果を出すと良いんだけどね。

 美月やラッキースケベ幹比古君も、警戒を緩めず発表を見るという器用なことをしている。かくいう私もそうだけど。

 市原さんの発表も佳境となる。私も協力した機器は存分に役割を果たしているようだ。達也も付いててトラブルなんて起こりようもないけどね。

 そして、市原さんの力強い言葉で発表は締め括られる。内容はって?そりゃ、アナタ原作チェックして。私は監視業務が忙しいです。

 次の三校が発表準備に入り、一校は素早く撤収作業を行う。

 皮肉なことに原作通りのタイミングで異変は起こった。

 

 残念若様が不審者を発見し、相手は誤魔化すことを早々に諦めて反撃に出たのだ。

 

 

 

               10

 

 :将輝視点

 

『一校の十文字だ。これより厳戒態勢に移行する。全隊へ通達する。すぐに戦闘になることも想定せよ』

 通信機の向こうから十文字さんの威厳のある声が響く。

 俺は、その頃一校の十三束と共に会場内から外の巡回に交代したところだった。

 不穏な注意だ。十文字さんは冗談をいう人ではないだろうから、何かしらの情報と根拠があるのだろう。そういえば市内を移動している際に矢鱈と殺気立っている印象を覚えていた。だが、中華街などの不穏な一団が身を潜める場所も多い街故に、一応注意して置こう程度にしか思わなかった。

 俺は心拍を若干上昇させる。

 隣の十三束は、緊張した表情をしている。大体の魔法師は実戦経験がないので仕様がないだろう。

 会場内には彼女がいる。絶対に通さない。それにジョージも学生の発表の場であっても気合十分といった感じで、今回の発表に取り組んでいた。九校戦では一校の司波に好き放題やられたのが、相当悔しかったようだ。かくいう俺もスッキリしている訳ではないから応援している。

 それにはまず今のパートナーである十三束の緊張を解してやることが先決だろう。十三束の肩を軽く叩いてやる。

「力み過ぎるな。ゆっくりと深呼吸しろ」

 軽く肩を叩いてやるとビクッと反応していたが、俺の言葉に素直に深呼吸している。俺は内心その素直さに苦笑いする。ジョージだったら馬鹿にするなと怒る場面だな。だが、意見を聞き入れる余裕があるのはいい。

 少し緊張が残る十三束と会場周辺をゆっくりと歩き始めると、ある光景が目に入った。

 外国人、東洋系の観光客がカメラを手に歩きながら話していた。一見楽しそうに会場をこれ見よがしに指差している。一見すると魔法フリークが、関係者以外非公開の会場だけでも近くで見ようと訪れたといった体だが、俺の眼は誤魔化せない。

 俺が立ち止まったのを、十三束が怪訝そうに振り返っている。そして、俺と同じものを見たが、特に何かに気付いた様子はない。こればかりは学生では気づき難いか。

 その観光客は、鍛え方が軍人のそれだ。服越しでも分かる。家柄の関係でそういう人間との交流がかなりあるからだ。アスリートの鍛え方と異なる相手を殺す為の筋肉の付き方をしている。それに撮影機材を入れているにしては大きいバッグ。決定的な一定の歩幅。退役軍人という可能性は低いだろうが、決めつけはできない。俺は十三束を促し、その観光客へと近付いていく。勿論、通信機で本部に連絡を入れつつだ。

「こちら一条。外周フェンス外に不審者を発見。これより声掛けを実施する」

 それを聞いて十三束の表情が一瞬強張る。あちらから、見えていないといいけどな。

『応援を送る。無理はするな』

 十文字さんが席を外しているのか、一校の服部さんが通信を返してくる。俺は短く了解と答える。すぐに応援が左右から二組、五校と八校の制服を着たグループと警備を担当する魔法師二人組が近付いてきた。もう正式な警備に話を通したようだ。流石十文字さんだな、行動が早い。

 観光客は、こちらを見て戸惑うような様子を見せていた。だが、身体の力は程よく抜けており、すぐに次の動作に移れるようにしているのが見て取れた。

 俺は近付いてくる味方に目配せする。二組共にこちらの意図を汲み取り、援護の体制を取ってくれる。俺達は何気ない表情で不審者に近付いていく。

 先に取り繕うのを止めたのは、あちらだった。

 大きいバッグは瞬く間にバラバラになり、対魔法師用のハイパワーライフルが姿を現し、射撃体勢から躊躇なく発砲した。よく訓練されている。俺でなければ当たったかもしれない。

 その弾丸は、アッサリと俺の障壁の前に弾かれる。十三束が素早く障壁から抜け出しフェンスを蹴って着地する。素早い動きに不審者の集団の反応が遅れる。一人があっという間に掌底を食らって横に並んでいたお仲間諸共吹き飛ぶ。

「餓鬼がぁ!」

 ハイパワーライフルが十三束に向く前に、俺の魔法で残りの連中が吹き飛んだ。

 十三束がこちらを見て頷く。

 背後では警備を担当する魔法師が通信を入れている。当然、もう一組の学生警備組もだ。

 だが、その頃には知らせるまでもなく方々から銃声が響いていた。いくら察知されたとはいえ、思い切りが良過ぎる気がする。

「本部。これらの攻撃は囮の可能性がある。注意してくれ」

『了解した。入口の封鎖に加わって侵入者の排除に加わってくれ』

 すぐさま本部から返答が返ってくる。悪くない。状況は兎も角な。

「行こう」

 俺は十三束に声を掛けて、一番近い出入口に向けて走り出した。

 

 更なる攻勢があれば、学校の生徒は撤退させないといけない。勿論、彼女も。

 

 

 

               11

 

 :源田視点

 

 どうも最近、警部殿がソワソワしてると思ったら、案の定藤林のご令嬢が絡んでいやがった。しかも、勝手に会場まで見回りをすると約束したときた。呆れてものがいえん。いいように使われるなと忠告したが無駄だったか。

 放って置いても勝手に行くのが目に見えたいたから、俺も付いて行くことにした。少しはマシだろう。

「警部殿。気付いてるか?」

「あの…全然敬意が籠ってないんですけど…」

「これは失礼。で?」

 重い溜息を千葉警部殿が吐く。それはこっちの溜息だ。

「会場が既に物々しいですね。学生も魔法協会の魔法師の方も」

「ちょいと事情を訊いた方がいいな」

 俺は、通信端末を使って街を巡回している稲垣に連絡を取る。ワンコールもないうちに奴が通信に出た。嫌な予感がしやがる。

「何かあったか?」

『管制ビルに自爆車両が突っ込み爆発炎上中、各地で武装勢力が動き出しています。今、自分達で対処していますが、応援を要請中です。そちらも無事では済まなそうですよ』

 俺は思わず舌打ちする。やっぱり、禄でもないな。警官が二人うろついたくらいじゃ、どうにもならん。

 その時、藤林のお嬢さんが真剣な表情で近付いてきた。

「そちらも情報がきたようですね」

「お陰さんでな。こんな非常事態じゃ、どこまで踏ん張れるか怪しいところだぜ。そっちは万全に準備しているんだろうな?」

「現在、駐屯地から部隊が向かっています」

「それまで勤勉なお巡りさんが身体を張るしかないって訳だ。泣けるね」

「源田さん。今は」

 藤林のお嬢さんに思わず嫌味をいっていると、千葉が行動を促してくる。心中で舌打ちする。今はコイツが正しい。

「藤林さん。我々は現場へ向かわなければなりません」

「私はここへ残ります」

 千葉が真面目に敬礼して走り出すのを、俺は後から追い掛けた。

 

 まさか想定より斜め上がくるとはな。最早、戦争だぜ。

 

 

 

               12

 

 

 警戒していた面々が、外の攻撃に反応する。

 外で微かな戦闘音がしているが、もう爆発音と衝撃がきていて不審に感じている生徒がチラホラといる。

 警備とテロリスト御一行様が激突したみたいだね。しかし囮ですよ、それ。だって、上空に光学迷彩&遮音のステルスヘリがホバリングしてるからね。魔法万歳ってとこな兵器だよ。

 丁度、達也とショタジョージが話しているタイミングでだ。やっぱり原作通りか。嫌になってくるよね。結局はこれだもの。

 達也が気付いているのは当たり前。もうドンパチ始まっていることまで視えているだろう。ショタジョージも怪訝な顔をしている。

 そして、こっちに向かってるテロリスト諸兄は、当たり前みたいに光学迷彩使ってるけど、私の所為なのかね。いや、違うよね。だって、ほのかだって魔法で同じようなことしてたし!光学迷彩は…タチコマに搭載してるし、ムーバルスーツにも採用されたわ。で、でも、私が最初に開発した訳じゃないし!違う!うん。そうだ。

 おっと、余計なことを考えているうちに降下してきたし、あっという間に侵入されてますがね。外は、気付いている人もいるみたいだけど、襲撃で足止め食らってるか。こっちでなんとかしろってことね。不甲斐ないとは思わないよ。私はフッと溜息を吐いて立ち上がった。

 それを見て、達也が険しい表情でこちらを見てくるが、任せるように合図を送る。渋々と達也は、こちらに来るのを中止する。私ならただ斬るだけだから、達也より目立たない。

「お姉様」

 深雪が険しい顔で声を掛けてくるのを、笑顔で宥める。

「エリカ、レオ君。遺憾ながら出番」

 エリカが不敵な笑みを浮かべて同じく立ち上がる。既にラッキースケベ幹比古君から襲撃の件は伝わっている模様。レオ君も同様な顔で立ち上がる。

 私の視界に偶々三校の応援席に四十九院沓子が居るのが見えた。まあ、彼女も応援に駆け付けていても可笑しくはないね。うん、彼女にも働いて貰おう。立ち上がった時に、こっちに気付いたようで、手をヒラヒラ振って見せた。あっちも何か厄介が起こったと気付いているだろうに余裕だね。でもナイスタイミング。私は手でパタパタと扇いで見せた。それで私の造った古式の術具の事だと察したようで、取り出して見せてくれる。持ってて良かったよ。

 音もなく扉が少し開き、すぐに締まる。だが、その短時間で侵入を果たしていた。奇襲ご苦労様です。

「スリーマンセル!スリーセット!左右中央!」

 光学迷彩を纏った兵士が一瞬止まる。学生連中も達也達以外はギョッとした目で私を見るが、知ったことじゃない。

「沓子!朝霧!」

 四十九院家は水のエレメントの家系で、光学迷彩とは相性がいい。

 因みに朝霧とは、まさに朝霧のような霧を発生させて姿を隠すと同時に、相手を自分の土俵へと引きずり込む魔法だ。どの魔法をセレクトするにしてもゲームでいうバフが掛かると思えばいい。私はそれを入れてくれと頼まれたから知っている。

「うむ!よく分からんが心得た!」

 うん。我ながら、よくぶっつけ本番で頼んだよね。光学迷彩で来ると分かってれば予め頼んでたんだけど、そんなの無理だからさ。乗ってくれて良かったよ。

 次の瞬間、沓子を中心に霧が立ち込める。完全に互いの姿が見えなくなるが、その中で不自然に光る人型が見える。濃霧にならないように調整してくれてるみたいで、余計に助かるわ。多分、光学迷彩の人影が見えたことで糸を察してくれたんだろう。

 じゃ、お疲れ!

 私は心の中でそう告げて霧の中を走り、中央に走り込んでいた男三人を仕込んでいたスペシャルソードで叩き斬る。流石に反応はされたが、避け切れずに血煙を上げて倒れた。

 左右の通路を走ろうとした兵士達も制圧されたようだ。

 沓子の傍には例の九校戦で深雪達と戦った一色さんと十七夜さんがいた。彼女達が素早く倒したようだ。結構意外だけど、尚武の気風な三校だけあるのかな?男連中なにやってんの?それ以前に警備は?あっ!今動き出した。

 エリカは見事に一太刀で二人斬り倒しており、レオ君はエリカの修行の成果はどこやったといいたくなる力業で殴り倒したようだった。

 霧が消え、連携した人間と警備を担当する生徒以外が悲鳴を上げてパニックになる。

「お姉様」

 いつの間にか近付いてきた深雪が私に手を翳す。

 気付いてみれば、少し返り血を浴びていた。深雪がそれを魔法で消した。

 さて、なんか私とかエリカ達とか沓子達が恐怖の目で見られてるみたいだから、そろそろ落ち着いて貰おうかと、CADオタを見ると、既に梓弓を放っていた。オタの魔法が空中で波紋のように広がり、生徒達が落ち着きを取り戻した。

 CADオタの手は若干震えていた。まあ、仕様がない。ゆっくりと説得する時間もなかったのに、即座に対応してくれたことを感謝すべきなんだろう。短時間で使わせたお嬢様に。その証拠に傍にお嬢様の姿があり、私と目が合うとウインクしていた。連携が見事に決まったね。打合せ一切なしだけど。お嬢様がCADオタに何事か告げると、ゆっくりと壇上へと向かう。ショタジョージが壇上で固まっていたが、漸く再起動を果たしてお嬢様に場を譲る。 

「皆さん。一校の七草です。現在、武装勢力がこの会場を襲撃してきています。いえ、この会場だけではありません。この街が既に侵略者の攻撃を受けている状況です」

 おそらく独自の情報網で最新の情報が入って来たであろうお嬢様が、言葉の爆弾をぶっこんできた。まあ、外は本物が飛び交ってますがね。

 感知系の魔法を使う生徒は、早速状況の確認をしているのが見て取れる。梓弓の効果でパニックは避けるだけじゃなく、冷静な行動ができている。

 外の警備は、事前リークが機能しているようで他の侵入を許していない。あっ!ヘリが落ちた。ぬりかべ流石。それから御代わりは今のところなさそう。この分だと早目に会場周辺は排除できそうな感じだ。

「目的はおそらくここに保管されている魔法技術であると推測されます。すぐにこの場を離れる必要があるでしょう。一番不味いのは、ここに残り続けることです。ここから地下道を通ってシェルターへ向かうか、他の脱出法を取るのか。早い決断をお勧め致します」

 お嬢様がそう締め括る。

 私は深雪を連れて、達也の方へと歩き出した。エリカ達が私達を追ってゾロゾロと動き出す。

「姉さん、どうする?」

 達也がお嬢様が喋ろうとしたのを遮るようにいった。お嬢様は、達也を頬を膨らませて睨み付けていた。あざと過ぎて逆に凄いわ、その反応。でも、不満はあっても口を挿まないのは、訊きたいことは同じなんだろう。

「脱出ルートは警備担当の人達の活躍で開いてるからいいとして、状況確認しときたいかな。現在の戦況によっては方針も変えないといけないし」

「じゃあ、VIP会議室を遣おう」

 今まで黙っていた雫が発言する。そういえば、雫はお父さん経由でパスワードとかも知ってるんだったけ。それでいいのか雫父。って今はいいか。

「それじゃあ、私達はデモ機のデータを処分してるわ。後で合流しましょう」

「一校の方はどうするんです?」

 私の質問に、お嬢様が笑みを浮かべた。

「今の生徒会長はあーちゃん…中条さんよ。彼女に任せるわ。それはもういったから、何度もいったりしたら小姑みたいで鬱陶しいでしょ?」

 との答えだった。

 視線をCADオタへ向けると、小動物みたいにプルプルしてるけど一応は纏めてる…か?まあ、大丈夫としておこう。

「分かりました。一応いって置きますが、終わったら応援に行きます。でもそちらが先に終われば、先に避難して結構です。いいですね?」

「分かったわ」

 そして、私達はお嬢様と別れる。

 チラリと他校に目を向けると、既に高校別に集まり動き出していた。三校の方もショタジョージが纏め役を引き受けているようだ。フリーズの汚名返上したね。上級生も居る筈だが何もいうまい。

「地下シェルターへ向かいます?」

 一色さんの質問に、ショタジョージが一瞬考え込んでから首を横に振る。

「地上を行こう。将輝達とも合流する必要があるしね」

 おお!流石参謀。達也と同じ回答を素早く弾き出したようだ。

「姉さん?」

「いや、なんでもないよ。行こうか」

 私達は、他行が固まって行動しようとする中、別に足早にVIP会議室へと急いだ。

 

 ところが、私は大事なことをすっかりと忘れていた。

 

 

 

               13

 

 途轍もない銃弾の嵐に曝されております。結果、我々は柱の陰で釘付けにされています。

 何故かって?はっはっは!シェルターへの通路が外へ繋がってたから、達也もショタジョージも地上から行こうって結論出したんだよね?なら、向こうからこっち来るのも有りじゃありませんか!警備陣、そっちは押さえてなかったんだね。責められんけどね!原作描写からも、もっと遅いと勝手に思ってたよ!考えてみれば、周辺からのアプローチに失敗したら他のアプローチを試すに決まっているんだよ。迂闊だったわ。CADオタ達とか他校の学生とか大丈夫かね。もう、シェルターへ地下使って行くのは厳しいよ。とか考え事してる場合じゃないか。

「相手は対魔法師用の高速弾を使用している」

 達也は流石なもので、こんな状況にも眉一つ動かさない。

 うん。凄い貫通力と弾速だよね。ありゃ、普通なら魔法使う前に死ぬわ。

 レオ君が自信満々に柱の陰から出ようとして、達也に強引に引き戻されていた。

「アホ」

「うるせぇな!」

 エリカに蔑まれて、レオ君ちょっとガチギレ。

「はいはい。そこまでね」

 私が宥めてやると、二人共漫画かアニメで見るようなリアクションでフンッ!とお互い顔を背けた。やっぱり気が合うと思うんだよ、この二人。

 だが、いい加減真面目に事態を打開せねばなるまい。

 よし!深雪と達也の出番だ!

「姉さん」

 なんだい?マイブラザー。どうして、私に手を差し出してるのかな?意味が分からないよ?ここは銃弾凍らせた方がいいでしょう。私なんにもできないよ?嘘だけど。

「姉さんの魔法特性を、いい加減キチンと把握するのに丁度いい機会だと思うんだ。バスで使ってた効果だけじゃないんだろ?」

「……」

 まあ、完璧に誤魔化せてるとは思ってなかったけど、この状況でやるの?まあ、雑魚相手だからね。丁度いいっちゃ丁度いいのかもしれないけど、こっちは丁度よくない。スプラッタはなるべく避けたかったんだけどね。

 私は盛大な溜息を吐いた。まだ、真価は隠して置きたい。一部はあの美魔女にバレてるから、そこまではいいかな。覚悟を決めて私は達也の手を取った。

 深雪を除く全員が頭の上に疑問符を浮かべているのが分かる。

「精度は期待しないでよ?」

「敵なんだから、遠慮は要らないよ」

 そらそうだ。

 私の頭に映像が流れ込んでくるように全ての敵が視認できている。

 そして、私は()()()()()を発動してやる。

 私の魔法特性は切断。本来は見えるものを切り裂く力だが、それの発展として目に見えない概念レベルのものまで切断できるのだ。最初に説明した時はなんか別のこといったって?気にしないで。

 一斉に敵から悲鳴が上がる。ワザと狙いを甘くしているので、銃だけでなく腕ごと切断された奴が結構いるだろう。

 痛みにのたうち回るような馬鹿はいないが、嵐のような弾幕は止み突撃の隙が生じる。

 事情を把握している達也は躊躇なく柱の陰から飛び出して、敵を片付けていく。レオ君もエリカも疑問を捻じ伏せて敵を斬り倒し、殴り倒していく。だからレオ君、修行の成果はどうした?

 そして、ラッキースケベ幹比古君も呪符を使い敵を吹き飛ばした。

 敵集団の残党は、這う這うの体で逃げ出した。追撃は控えた。

 戦闘は終わった。アッサリと。

 私は一つ溜息を吐くと、非戦闘系の友人達を振り返った。流石に深雪以外は死体を見て顔を蒼くしている。死体の状況は酷いの一言だけど、レオ君が何気に一番綺麗に敵を倒している。因みに、一番気遣いないのがエリカだったりする。血の海だよ。

 まあ、かくいう私のやったこともスプラッタなことなんだけれども。怯えさせちゃったかな。こんな魔法特性だからね。他の使い方もできなくはないけど、血生臭いことが主だからね。

「悪いけど、今は頑張って」

 私の言葉に非戦闘系の友人は、なんとか頷く。震えているのは見なかったことにした。

「済まない。刺激が強かったな」

 達也が戻って来て気遣いを示す。ほのかの血色が少しだけよくなったのは流石だね。

「姉さんも済まない。強引だったけど、確かめて置きたかったんだ。こういう事態になった以上は」

 達也の言葉には昏さが混じっていた。おそらくは沖縄の出来事が頭を過っているんだと思う。

 私は気にしないでといわんばかりに、手をヒラヒラ振った。

「兎に角、VIP会議室に急ごう」

 達也に促され、ゾロゾロとみんなが動き出す。

 

 これからが本番だ。周公瑾始末してないけど。

 

 

 

 

 




 色々な意味で書けなくて、ここまで空いてしまいました。
 少し速足でいこうと思って、他のキャラ視点は少な目です。
 ホント、次いつになるか分かりませんが、呆れずに付き合って頂ければ幸いです。




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横浜騒乱編7

 随分お久しぶりです。漸く七転八倒して最新話です。
 それではお願いします。


 


               1

 

 少々派手に血が飛び散ってスプラッタなテロリスト掃討を行い、VIP会議室へ移動している途中のこと。

「それにしても、エリカは面白い物を持ってきているな。鞄に入らないだろう?」

 移動しながら達也がエリカの得物について言及した。達也にしてみれば、本当に気になっていたことを訊いただけだろうけど、未だに顔色が優れない非戦闘系の友人達の気が少しは紛れるかもしれないなぁ、と友人たちを見守る。

 エリカもちょっとやり過ぎたと思ったのか、少し大袈裟に得物を掲げて笑って見せた。私に次いでエリカのやり方が刺激的だったからね。勿論、マイブラザーもだけどね。

「うん。このままじゃ入らないけど、こうすると!」

 エリカはまるで手品でもやるみたいに勿体ぶった手付きで、柄尻のスイッチを弄る。するとあっという間に短い棍棒みたいなものに変形した。

 達也がそれを見て感嘆の声を上げる。本気で感心しているね、こりゃ。そのうち、このギミックも何かに取り入れそうだね。

「凄いでしょ?来年に警察に納入する形状記憶棍刀」

 非戦闘系の友人達も感心したみたいで、目を丸くして棍刀を見ていた。気が紛れたみたいで結構です。

 それで思い出したけど、千葉家ってこういうのも造ってるんだったっけ。

 エリカの家がココと同業だったとはね。

 そんな下らないことを考えている間に、VIP会議室に到着した。

 達也が雫に目を向けると、雫は承知したとばかりに前に出て暗証キーを入力していくと、アッサリと扉が開いた。

 いや、役に立ってるからさ、突っ込むべきじゃないと分かってるんだけどさ。かなり重要な情報を娘が勝手に見れる状況にして置くって、どうなのよ。いいんだけれども。

 そして、アクセスコードを入力すれば、本来学生程度が知ることが許されない情報が表示された。

 海岸線だけじゃなく、所々にゲリラ戦が繰り広げられているみたいだね。人員も本格的に投入されている。

 大規模な陽動と、本命の海岸からの上陸部隊。まあ、臨機応変にそこら辺は変わるんだろうけどさ。

「酷でぇ…」

「何よ、これ…」

 レオ君とエリカが思わずといった感じで声を上げる。もう以下略。

「どうなさいますか?」

 深雪が冷静に問い掛けてくる。ホント、どうしようかね。

 少なくとも、CADオタ達は地下通路が使えないから地上から移動するしかないけど、この状況なら原作より敵とのエンカウント率が高い。

「船…もなんだか安全とは言えなさそうね」

 エリカが目を細めて戦況を示したモニターを見詰めて呟くように言った。

 達也も無言でエリカに同意する。

「状況は見ての通り悪い。だが、すぐにでも動く必要がある。国防軍も事態を把握して動き出しているだろうが、到着までこっちが持たないからな。海もエリカの言うように危険が伴うし、何より乗れるか怪しい。加えて交通機関も動いていない」

「となるとシェルター…になるのかな」

 雫が珍しく眉間に若干の皺を寄せて、窺うように達也を見た。頼りになる人物の意見を仰ごうというのは合ってる。

「地下通路は敵と迎撃の魔法師で芋洗いだぜ?」

 レオ君も腕組みしつつ意見を述べる。済まんかった、原因の一端は私です。どっちにしろ使えないんだけれどもね。

「ああ。だから上から行く」

 達也は簡潔に結論を口にする。

 方針が決まったことで非戦闘系の友人達は、ある意味ホッとしているようだね。動かずにジッとしてるって辛い時があるからね。

 だがしかし、ちょっと待ってね。

 私は敢えて達也が承知している事項を口にした。このままだと、私空気だし。嘘だけど。

「お嬢…七草先輩達はデモ機のデータ処分し終えてるかな?でも、他の学校のまで手が回ってないかもだし」

 私は、達也の方を見ながら他校のデータも物理的に処分してこうぜ、と提案する。達也は自分でも言おうとしていたことだからか、考えることなく同意した。

「そうだね。敵の目的に、入っているかもしれないしね」

 ラッキースケベ幹比古君が、気付いていなかったとばかりに悔しそういった。完璧主義の気がある彼には忸怩たるものがあったんだろうけどさ、気にせんでいいのに。

 だが、ここで意外な人物が声を掛けて来た。

「お前達もまだ避難していないのか?」

 いや、接近には気付いていたから意外でもないんだけどね。本当は。

 

 そこにいたのは、ぬりかべと助さん格さんよろしく控えているカンゾウ君と沢木のお兄さんだった。

 

 

 

               2

 

 うん。なんというか、辰巳の親分と違って沢木さんは体操のお兄さんって感じだよね。

 暑苦しいぬりかべから目を逸らし現実逃避する私。ってそんなことしてる場合じゃないんだけどね。

 三人共、完全武装って感じのボディアーマー着用だった。見たところ怪我はなそうだね。

 それにしても、何故アンタがVIP会議室に?っていうのも可笑しくないか。この人、正真正銘のVIPだったわ。

「十文字先輩!」

 ラッキースケベ幹比古君が直立で姿勢を正す。うん。訓練で随分と可愛がられたんだな。勿論、薔薇的な意味でなく、物理的に。

 達也が、そんな幹比古君を横目にしっかりと答える。

「今は七草先輩達がデモ機を処分している最中です。我々は想像以上の事態が進行中の為、情報を収集してから動く為に彼女の伝手でここへ。ついでに他校のデモ機やデータの処分も手伝おうかと。十文字先輩も情報を収集しに?」

 立て板に水な説明にぬりかべもニッコリですよ。実際は強面のままだったけどね。

 ぬりかべはといえば、重々しく頷くといつも以上に圧のある声でいった。

「まあな。丁度よかったかもしれん」

 既に情報を表示したモニターに御老公一行…もといぬりかべ一行は視線を向けて顔を強張らせる。ただし、一名は顔色が変わらないものとする。

 暫く重い沈黙の後に何事もなかったようにぬりかべが口を開いた。情報を整理していたんだろうとわかっていても、この圧よ。

「シェルターへの地下通路からの敵は退けたとはいえ、中条達に使わせる訳にはいかなかったのでな。護衛を付けて地上から行かせる積もりだったのだ。悪いがお前達も参加して貰う」

 ああ。そう変化しますか…。確かに敵があれだけ湧けば、遭遇戦を予測するのは容易だからね。あとどれだけいるかも分からないのに、オタ達を突撃させられないよね。それに他校も方針が随分異なるみたいだし、協力してって訳にもいかない様子。

「他校は、足を用意しているからな。幾つかの学校で固まって戦力を集中して一点突破する積りの様だからな。こちらに手を貸せとはいえん。あっちも大変だからな」

 そういえば、三校はバスで来てたっけ。沓子は大丈夫かね。まあ、若様とかショタジョージとか一色さんとか居るから大丈夫か。

 問題は近い一校の方針。地上ルートでシェルターを目指すとなると、戦闘不可避なのは当然のことで奇襲で撃たれでもしたら大変。魔法師も人間です。撃たれれば死にます。最悪の場合は、達也か私が治すしかないけど、それは最終手段。

 多分、どうにかはなる…筈。

 だってねぇ。真田さんが玩具を持って近くまで来てる筈だしね。

 

 それからなら魔装大隊から護衛だしてくれるよ…きっと。

 

 

 

               3

 

 ぬりかべが出て来たので、丁度いいやとばかりにお嬢様達が撤退しているかチェックしに行くことにしたんだけど…。

 それが…まだ居たのです…。

「あら、深景さん!」

 お嬢様が笑顔で出迎えてくれましたよ。流石の達也も若干呆れ気味です。

「で?何やってるんです?」

「何って…デモ機のデータを処分してるのよ?」

 私の質問に簡潔に答えてくれるお嬢様だが、ここは一校のデモ機が置いてある所じゃない。そんな何いってんの?みたいなリアクションされても困るわ。デモ機の処分に向かうとはいっていたけど、他校もついでにやっちゃおうぜ☆は、この非常時に止めて欲しかった。私と達也で物理的に破壊で良かったんだよ。衆人環視の中やるようなことでもなしに。しかも、原作組の殆どが居残りしてんじゃないの。

「じゃあ…私達も手伝おうか?」

「そうだね」

 私の提案に達也が素っ気なく頷いた。折角、簡単に済まそうと思っていたのに、衆人環視の中じゃ達也の魔法が使えない。私は…切断でいいんだけどね。

「そうね。予想以上に時間を食ってるしね」

 お嬢様が唇に指を当てて、考えながらいった。それ、素でやってます?あざといと思いますよ。可愛いと様になるよね。

「十文字君。皆をもう出発させて。こっちはまだ時間が掛かるから、待ってもらう訳にはいかないわ」

「護衛の手が足りないのだがな。確かにここも放置はできんか…」

 ぬりかべが腕を組んで唸っている。その姿は、もはやオッサン。しかも、重役クラスの圧を持つ。

 ここで私も助け船を出す。

「護衛に付いていなくても戦える人間はいるでしょう。どうせ、一科生が大勢を占めてるんですから、普段威張っている実力を発揮して貰えばいいのでは?」

 その言葉に友人の一科生も困り顔。いや、魔法特性や向き不向きがあるのは知ってるけど、選り好みできる状況じゃないでしょうに。命が懸かってる以上、頑張って生き残りましょう。無い袖は振れないんだからさ。戦えなくても補助くらいはできるでしょ。

「流石に、それはちょっと…」

「いや、ない袖は振れないだろう。なんとかそれで乗り切るしかあるまい」

 おかっぱ夫先輩が苦言を呈するが、それをとんでもない圧を放つぬりかべが意外にも支持してくれた。

「大丈夫なの?」

「それ以上の良案がなければ、これ以上話し合ったとしてもただ時間を浪費するばかりだ。殿として俺が周りの敵を片付けつつシェルターまで行く」

 心配そうな声を上げてますが、居残ってる貴女も私と同じようなもんだから。オタ達の護衛をしてないという点に関してだけどね。そしてナイスフォローだ、ぬりかべ。

「まあ、心配なら次の行動にサッサと移りましょう」

 私の提案に全員が頷く。一部渋々な態度なのはご愛敬というところでしょうか?

 

 それぞれに行動を開始して、時間を早回し。

 いや、サッサと片付けただけだしね。特に語ることはないよ。

「早かったわね」

 打ち合わせた集合場所である会議室に到着した早々にキャノン先輩から疑惑の眼差しが向けられる。心外な。

 きちんと処理してきたとも、達也が魔法で。私が物理的に。

 因みに既にオタ達は行動を開始しており、カンゾー君と沢木のお兄さんを筆頭に地上ルートで駅シェルターへ向かっている。ここには桐原の兄貴や紗耶香先輩も含まれている。

 ぬりかべは、宣言通りに殿兼囮として戦っているようで、外で断続的に爆発音が響いております。

「首尾は?」

「全て片付けてきましたよ」

 お嬢様の問いに私は簡潔に答えたけど、キャノン先輩は半眼で睨んでくる。何故でしょうか?

「どうやって?」

 キャノン先輩は睨み付けたまま、私に問い質すようにいったけど、私は良い笑顔で口に指を当てて見せた。

「花音。魔法師に術式のことについて尋ねるのはマナー違反だよ」

 夫たるおかっぱ先輩が窘めるようにいった為、キャノン先輩は口を噤んだ。まあ、引き下がってくれるなら別にいいんだけどね。

 そこでお姉様が無駄話は終わったと判断したのか、険しい顔で前に進み出て集まった皆を見回し重々しく口を開いた。

「さて、これからの我々の方針を考えよう」

 お姉様が宣言すると、今度はお嬢様がモニターの状況を指し示しながら説明を始める。

「現在、湾内に侵入した敵艦は2隻。東京湾にも敵艦が確認されているようで、横須賀から海軍が動いて敵艦への対処と救出船の手配、護衛を行うみたい。本格的な動員は、まだまだこれからみたいだけど。上陸部隊とゲリラがどの程度いるか正確な数は不明だけど、こちらの予想を大きく上回るでしょうね」

 地上の惨状を示すモニターをみつつ、お嬢様が溜息を吐いた。だが、すぐに気を取り直して説明を再開する。

「海岸付近は敵の勢力圏と考えて動いた方がいいわね。交通機関は当然の如く麻痺」

「彼等の目的は、侵略…という訳ではなさそうですが…」

 おかっぱ先輩がお嬢様に遠回しに目的を尋ねる。

 まあ、こっちは原作を外してないでしょ。

「推測だけど…侵略にしては規模がお粗末だし、メインは情報なり貴重な品の奪取ってところじゃないかしら。となると、横浜にしかないものの可能性が大きいわね。正確には京都にもあるけど」

「魔法協会支部…ですか」

 お嬢様の言葉でキャノン先輩が正解をいい当てる。

「そう、正確には魔法協会支部内にあるメインデータバンクでしょうね。重要データは横浜と京都で一括管理しているから」

「まあ、侵略者の目的の推察もいいが、我々の行動をいい加減決めて動かないとな」

 どこまでも真面目に考察を進めようとするお嬢様とおかっぱ先輩を制して、お姉様が声を上げる。

 お嬢様が苦笑いでお姉様に謝った。おかっぱ先輩も顔を赤くして頭を下げた。

「船の方は案の定湾内の敵艦の攻撃で足が止まっているようですね。元々キャパ的に私達は乗れそうにありませんけど」

 市原さんが冷静かつ淡々と現状を告げる。

 原作だと救助船を攻撃してないんだよね。描写されてないだけかな?大亜連合にとって日本国民なんて殺してもなんとも思わない相手だろうに。目的に集中していたから、余計なことはしなかっただけなのかな?

「地上からシェルターへ向かったあーちゃん達は、どうにかハンゾー君達が頑張ってくれてるお陰で順調みたいね」

 お嬢様が通信端末片手にオタ達の現状を教えてくれる。

 それを受けて、全て今段階で決断すべきと感じたのかお姉様が再び口を開く。

「状況としては聞いての通りだ。シェルターがあとどの程度の収容が可能か未知数だが、現実的な選択としてはシェルターへ後追いするべきと考えるが、どう思う?」

「賛成です」

 お姉様の結論にすぐにキャノン先輩が肯定の声を上げるが、誰からも否定的な反応は返ってこなかった。

 まあ、船には確実に間に合わないし、原作と違って脱出に危険がかなり伴いそうだしね。取り敢えず民間人逃がそうっていう姿勢は立派だけど、これって戦力の逐次投入の典型なんじゃ…。

 だが、若干一名程空気が読めていない子がいた。マイブラザーである。いや、私は理由判ってるんだけどね。他の子からしたらさ、何もない壁ジッと見て固まってたらポカンとなるでしょう。しかし!私はお姉ちゃんです!フォローしようではないか!

 私は素早く達也の肩に手を置く。達也はこっちを一瞥しただけで、すぐに視線を戻す。だが、こっちの要求には的確に答えてくれた。

 私にも見えるぜ、硬化魔法を使って突っ込もうとするトラックと…ミサイルが飛んできますがな。大変なことですよ、これは!それが六発ほど飛んできます。原作にそんなもん突っ込んでこなかったでしょうが!

「達也!ミサイルの方を!私はトラックをやる!」

 達也は答える代わりに、シルバーホーンを空から突っ込んで来ようとするミサイルを照準する。

 私はトラックに切断を使用する。

 何やらお嬢様が何かいっているが、今は返事する余裕はない。

 食らえ!何もやらせない鮮やかな魔法を!

 トラックに関係するエネルギーを切断すると、冗談みたいにトラックが停止して動かなくなった。運転手であるやさぐれたポパイみたいな人が必死にアクセルを踏んでいる姿が見えるが、無駄な努力だ。動かないと悟ったのか、すぐに諦めてトラックに積載した爆発物を遠隔点火しようとするが、そっちも爆発のエネルギーを切断させて頂きまーす。おお、焦ってる焦ってる。じゃあの。私は止めにやさぐれポパイに向けて切断を放った。うん、終了だね。

 達也の方も遠にミサイルを分解していた。

 そして、原作通りに見られちゃった私達。マルチスコープで一部始終を見られちゃってましたね。

 因みに外では、敵さんに危険兵力と判断されたお陰で、御代わりのミサイルが飛び交っております。それに伴いぬりかべが奮戦しております。そして、ぬりかべ何故戻った?お嬢様、そっちも気にしてやってね。

「達也君…今のは?それに深景さん、今の魔法はどういうこと?」

 やっぱり私達に話がいきますよね。

 達也、舌打ちは止めなさい。聞こえないと思うけども。

 それにもう大丈夫そうだし?

「説明は詳しくはできませんが、その理由はもうすぐ判明すると思いますので」

「どういうこと?」

 私の説明にお嬢様が少し険しい顔で問い質すようにいったけど、こういうことです。

「お待たせ」

 扉から響子さんがやたらとセクシィな軍服姿で現れ、軽く挨拶してきた。この人が着れば、なんでもセクシィになるだけか。

 流石に面識があったのか、お嬢様が驚いてる。

「響子さん!?」

「お久しぶりね、真由美さん!」

 

 響子さんは、ホント軍人とは思えない笑顔で答えた。

 

 

 

               4

 

 :十文字視点

 

 敵の眼をできる限り引き付ける。適した仕事だ。

 粗方潰したが、散発的な攻撃がまだ仕掛けられている。それを丁寧に潰していく。ファランクス本来の使用法で。

 そろそろ中条達の後を追うとしよう。

 敵影が見えず感じられなくなった為、移動しようとしたまさにその時、ミサイルが飛んでくる。咄嗟に防御しようとしたが、それより早く魔法の気配を感じて足を止めた。未知の魔法によりミサイルが一瞬にして消失した。

 好奇心を優先するなど、この現状において愚かな行いだ。それが分かっていても足は勝手にそちらに向いていた。これも何が起きたか確かめる為と自分を偽ってだ。まあ、服部や桐原達が付いているのだ。少し遅れても問題はないだろう。

 高速移動で走り抜け、その場に到着する。ミサイルは粉塵ゴミと化していた。こんな魔法の使い手に心当たりがない。そこに更にミサイルが飛来する。目標に着弾しなかった為だろう。当然のことながら敵の偽装戦闘艦から放たれている。

 条件反射で多重防壁を構築し防ごうとするが、こちらにとって幸運なことにミサイルは横合いからの攻撃により対処された。魔法で全てのミサイルを受け止めていたら、こちらの負担は大きかっただろう。

「スーパーソニックランチャーか…」

 衝撃波の発生源に目を遣ると、軍用車両から上半身を出したままの軍人がミサイルランチャーに似たものを担いて、こちらに向かってきた。傍で車を停止させると、軍人はソニックランチャーを軍用車両の中に置くと、車両から飛び降りて目の前で敬礼する。一見すると軍人に見えない程、穏やかな笑みを浮かべた人物だった。人を食ったような笑みであるのが透けて見えるものではあったが。

「101の方ですか」

 ソニックランチャーなどという最新鋭の装備を持つ部隊の心当たりを思わず口にしていた。

 軍人が笑顔を浮かべたままであったが、目を細めた。気配が若干変化している。迂闊な発言だったか。

「国防陸軍第101旅団独立魔装大隊大尉・真田繁留であります。我らのことをご存知とは流石は十文字家ご当主」

 若干不覚にも反応してしまった。しかも、それを相手に悟られただろう。自分もまだまだということか。素早く気持ちを切り替える。

「失礼。お互い言葉の選択には気を付けなければなりませんな」

「こちらこそ失礼しました」

 こちらが頭を軽く下げると、鋭い気配が消え元の穏やかだが人を食ったような笑みに戻った。服部達が居なくて助かった。このような無様を後輩に晒さずに済んだな。

「恐れ入りますが、十文字家次期当主殿、同道願えますか?」

 ここらの敵は片付けただろうが、中条達を追わなければならず、ほんの僅かだが返答が遅れた。

「ああ。護衛や侵略者への対処は既に手配済みです。ご安心ください」

 こちらの状況は遠に把握済みという訳か。噂に違わず優秀な部隊らしい。

 真田大尉が視線を外すと、その先には蜘蛛のような小型戦車が並んでいた。

「君達は、彼女に指示して貰った方がいいかな」

『そうですねぇ。他の人達、僕達の扱い雑過ぎますし』

 真ん中にある戦車が喋った。特に珍しいものではないが、必要な機能なのだろうか?それどころか他の戦車も喧しく一斉に部隊員への不満を漏らし始めた。こんな色物まで配備しているのか。

「こらこら、次期当主殿が困惑しているじゃないか。取り敢えず指示があるまで、邪魔が入らないようにしててくれよ」

『『『『『『りょ~かい!』』』』』』

 それだけいい残して四方に散っていった。

「それでは参りましょうか」

 真田大尉は、何事もなかったかのように笑顔で歩き出した。

 最後まで、どこに何の目的で案内されるのか説明されなかったが、無駄話ではないだろう。

 それに後輩達の護衛の手配も済んでいるなら、問題もないだろう。

 

 珍しく自分の好奇心が刺激され、言い訳染みたことを考えて黙って付いて行った。

 

 

 

               5

 

 勿論、響子さんオンリーな訳もなく、後ろから偉そうな天狗が登場した。

「特尉、情報統制は一時的に解除されています」

 響子さんが厳かに告げたた為に、私達は困惑したような小芝居を止めて敬礼した。

 そこでタイミングよくぬりかべが登場。原作通りって感じだ。

 ぬりかべを含めた全員が何やってんの?って感じの顔で私達を見る。ただし、深雪は除くけどね。事情知ってる身内だしさ。

 済まんな皆、普段は普通の学生、だがその実態は!非常勤軍人である!因みに特別技能保持者に与えられる特別な階級なのだよ、特尉っていうのは。

 私達が敬礼したことを確認して、天狗さんがぬりかべに視線を向ける。

「国防陸軍少佐・風間玄信です。所属に関しては口にできませんのでご容赦下さい」

 ああ、ぬりかべは知ってるから、他の子に喋んなってことね。

「師族会議十文字家代表代理・十文字克人です」

 ぬりかべは空気を読んで、自己紹介の身に留める。

 天狗さんは、軽く一礼して私達とぬりかべが見える向きに変える。

「藤林。現在の状況を説明して差し上げろ」

「はい。我が軍は現在、保土ヶ谷駐留部隊が侵攻軍と交戦中、鶴見・藤沢から各一個大隊が当地に急行中。横須賀から海軍が救出船及び護衛。海上戦力に対処すべく本格的な動員を掛けているとのことです。魔法協会関東支部も独自に義勇軍を結成し、自衛行動に入っています」

「ご苦労」

 天狗さんは、響子さんに一言いうと、私と達也に鋭い視線を向ける。

「さて、特尉。現下の特殊な状況に鑑み、別任務で保土ヶ谷に出動中だった我が隊も防衛に加わるよう、命令が下った。国防軍特務規則に基づき、貴官等にも出動を命じる」

「ちょっと待って下さ…」

「国防軍は皆さんに対し、特尉の地位について守秘義務を要求する。本件は国家機密保護法に基づく措置であると理解されたい」

 お嬢様が何やらいい掛けたが、天狗さんが人睨み&厳しい口調で遮ることによって黙らせる。流石の貫禄にお嬢様も黙らざるを得なかったようだね。いわずもがな他の面子も何もいえずに黙り込む。

「特尉。君達が設計したムーバルスーツをトレーラーに準備してある。行こう」

 ぬりかべを連れて来た真田さんが、良い笑顔で私達を出口へと促す。さては、早く自慢したいんだな?あれから変な変更してないだろうな?真っ裸じゃないと装着できないように戻してたら斬るぞ?

 達也が真田さんの催促を受けて、友人達に向き直る。

「済まない。聞いての通りだ。皆は一緒に避難してくれ」

「特尉。皆さんには私と私の隊が同行します」

「少尉。ありがとうございます」

 達也の言葉に、響子さんが気遣いで皆を護ってくれるといってくれた。まあ、確か原作でも同行してくれてるから大丈夫…かな?

 それとは別に、私は確認しときたいことがあった。

「ありがとうございます。それとタチコマは、どうしてます?」

「今は、周辺を警戒させています。ウチだとアレを使いたがる隊員が少ないですから」 

 そう、タチコマは魔装大隊では不評なのだ。あのふざけたような性格だからかね。そういや原作の方の少佐もあの子達の扱いに頭を悩ませている回があったな。それに近い理由かな。労働の概念がないからね、あの子達。

「じゃあ、タチコマ達もオ…生徒会長達の護衛に加えて貰えますか」

「分かりました。手配して置きます」

 響子さんがアッサリと了承してくれる。設計した人間としては悲しいね。人間相手には滅茶苦茶強いんだけどね、タチコマ。

「では、少尉。お願い致します」

 達也が私の用件が済んだとみて、一言だけいうと出口に向かって歩き出した。

 

「お待ち下さい。お兄様」

 

 その時、深雪が思い詰めたような表情で達也を呼び止める。ああ、あれだね。

 深雪が、ゆっくりと達也に歩み寄る。

 達也も用件を察したのか、騎士のように跪く。

 深雪が、少し躊躇うように動きを止めて、眼を閉じてその時を待つ達也を見詰める。

 待ってあげたいんだけどね。

「深雪、戦況が差し迫ってる」

 私の口から出た厳しい言葉に、深雪の肩がビクッと震える。

 達也の頬に触れずに、ただ真っ直ぐに達也の額にキスをする。想いは完全に消し去れるものではない。でも、いずれそうなればいい。だって、どんな理屈を捏ね回そうと二人は兄妹なんだから。

 達也が主人公覚醒イベントで本来の力を取り戻す。

 周りの友人達はポカンとして、その様を見ていた。致し方ない。

 でも、演出がカッコイイな。スーパーサイヤ人みたいで。一瞬そう見えるだけだけど。

「御存分に」

 深雪が優雅な仕草で貴族みたいな礼をする。

 それを見て、達也は微かに微笑む。

 

「征ってくる」

 

 私もカッコイイ覚醒イベントやりたいもんだけど、それは流石にね。だけど、今回は演出が必要だ。

「深雪。これを預かってて」

「「っ!!?」」

 達也と深雪の顔が強張る。やっぱりそう予想してたよね。私は神妙な顔を崩さず、心中でほくそ笑んだ。甲斐がある。

 私が手渡したものは、眼鏡だ。

「姉さん!」

「お姉様!」

「大丈夫。あの時より成長してるから」

 嘘はいってないよ、嘘は。

 それにアレを使うと、デメリットまで激しいから後遺症に悩ませられるのも事実だ。こればっかりはどうにもならない。二人の心配もある意味当然といえる。

 そして、成長しているのも事実だ。自分の特典を過信していた、あの頃とは比べ物にならないくらい成長した。今度は、きっと大丈夫だ。()()()()()()()()()()()()()

 友人一同が、頭に?マークを浮かべていそうな顔をして、こっちを見ているが二人にそれを説明するゆとりは存在してないね。

 私は、深雪の頭を撫でてやると、微笑む。

「征ってくる」

 ちょっと達也を真似ていってみたが、深雪のウケも友人一同もノーリアクション。すべったか。

「はい。ご武運を」

 深雪は、祈るように言葉を掛けてくれた。

 私はそれに手を振って応える。

 ちょっとすべったけど、まあ、こんなこともあるさ。

 

 そう自分を慰めて、達也に続いて部屋を出て行った。

 

 

 

               6

 

 :中条視点

 

 続々と他の学校がバスで出て行くなか、私達は徒歩でシェルターへと向かうことになりました。

 どうして、こんなことにとか、何がどうなってるのとか、色々な言葉が浮かぶけど、今は私が生徒会長。真由美さんに後を託されたからには、私が真実は頼りない存在であっても胸を張っていなければならない。少なくとも無事に普通の学生生活に戻るまでは。

 いつ銃弾が飛んでくるかも分からない状況で、歩く皆の顔も強張っている。

 それでも散発的に仕掛けられるゲリラと思しき敵は、服部君をはじめ護衛担当の一科生がなんなく撃退している。他の一科生も防御を担当したり、援護したりと活躍している。特筆すべきは、二科生である壬生さんの存在。彼女は魔法が不得意にも拘わらず、そんなものは関係ないといわんばかりに二本の小太刀で敵を斬り伏せ、投げては敵を無力化していた。それを苦々しい顔で見ていた桐原君の顔は印象に残りました。彼は最後まで彼女の参戦に反対していました。気持ちが分かるとはいいません。でも、なんとなくくらいは分かるのです。御免なさい。戦力は少しでも欲しい時なんです。私も彼女の参戦に賛成した身です。綺麗事だけでは前に進めない。そんな事態を自分が味わうとは思いもよりませんでした。

 服部君が魔法で蹴散らし、沢木君が舞うような体術で敵を無力化し、十三束君が小さいからを流れるように動かし、銃弾を躱しつつ接敵し敵を仕留めていきます。桐原君も大昔の時代劇フィルムの主役みたいに敵を斬り伏せています。

 勿論、私や他の一科生もサポートに徹して邪魔をしないように気を配ります。でも、消耗がいつもより激しい。当然のことなんでしょうけど、これは早いところシェルターへ行かないといけません。

 そんな時、建物の陰から銃口が覗いているのを、偶々私が見てしまいました。声を上げる間もなく銃口から火が吹く様が幻視されました。対魔法師の高速弾です。視認する間もなく誰かが引き裂かれたでしょう。幸い護衛の一科生も気付いていましたが、どうも間に合いそうにありません。

 眼をぎゅっと瞑った私でしたが、それはアッサリと防がれました。魔法の障壁によって。えっ?と声を上げる前に迷彩服の大人達が私達を援護する位置に付き。手にした銃で敵を撃ち倒していきます。

「国防軍!!」

 服部君の声で漸く私も何が起きたのか把握しました。

 素早く国防軍の一人が私の傍まで、周辺を警戒しつつ寄ってきます。

「遅れて済まない。シェルターまで誘導する」

「は、はい!」

 思わず私は安堵した。これで助かる確率が飛躍的に上がる。

「助けて頂いたのは感謝するが、どこの所属…」

 服部君が再び口を開くが、それに答える前に黒い影が複数着地した。

 国防軍の軍人さん以外、思わず一瞬身構えてしまった。

 そして、着地した影は、陽気な声で言った。

『さ~ん上!!』

 軍人さんが揃って渋い表情を浮かべて、それを見ていました。味方…のようですね。

 それは小型の多脚戦車でした。それも思考型。こんなの開発されていたんですね!新しい物が大好きな私は思わず目を輝かせてしまいます。

「こ、これは…」

『タチコマです。僕達が来たからにはもう安心ですよ!』

 服部君の呆然とした声に、多脚戦車は気取った口調で答えました。

 三本の指?の一本を立てて振る姿は、どことなくユーモラスなんですが、大丈夫なんでしょうか?この子達。

 

 軍人さんの顔が渋面に磨きがかかっていたのが印象的でした。

 

 

 

               7

 

 :真由美視点

 

 外に出て、シェルターへ向かおうとしたけど、響子さんが残念そうな顔で近付いてきた。

 また、トラブル発生かしら?少し身構えてしまったけど、内容は大した話ではなかった。響子さんには悪いけど。

 曰く、全員が車に乗れない。

 元々徒歩で向かう予定だったから、別にいい。寧ろ、護衛が付いてくれる分、有難いくらいだ。

 響子さんが私に話し掛けたのは、私が顔見知りだったからだと思う。決して、十文字君の年齢詐欺みたいな圧の所為じゃない…多分。

 避難先の確認をされたけど、一応十文字君に確認を取る。

「予定通り、シェルターでいいわよね?」

「そうだな。それが現実的だろう」

 即答で返事が返ってきた。こういうところは本当に頼もしい。だけど、気になるのは彼がらしくないくらいに考え込んでいる点だ。その答えはすぐに知れることになったけど。

 護衛態勢について響子さんから説明された後、早速行動しようとした時だった。

「藤林少尉殿」

 ただ一人動かなかった彼が、響子さんを呼び止めた。

「なんでしょうか」

 響子さんも何か感じるものがあったのか、反応が早かった。

「勝手ながら、車を一台貸して頂けないでしょうか」

 その一言で彼が何を考えているのか、私にも分かった。彼は一高生と私達の安全が担保されたと考えて、次に自らが責任を果たすべき場所へ行こうとしているのだ。

 だが、車は二台しか使えず、私達全員が乗れないというのは、輸送すべき武器弾薬を含んで私達を車で運べないといった意味。それは十文字君も理解しているから勝手ながらっていったんだ。

「何処へ行かれるのですか?」

 響子さんも分かっていて訊いている。部下に彼の返答を聞かせる為に訊いているのだと分かる。

 一瞬、私も行くべきかと考えた。父は、そんな役割は望んでいないだろうから、余計にその考えが頭に浮かんだ。何処かで戦っているであろう彼女のことも、少し頭に浮かんだのは否定しない。

「魔法協会支部です。私は代理ではありますが、師族会議の一員です。魔法協会の職員達も義勇軍を結成して抵抗しているのでしょう?ならば、私は責任を果たさなければならない」

 十文字君の年齢に全くあっていない覚悟が、言葉として紡がれる。若造の言葉とは信じられないくらいに重々しく決然とした声に、軍人達も反論の声を上げない。見たことがないくらいに歴戦の雰囲気を漂わせた軍人達も彼を侮れない。

 その段階で私は馬鹿な考えを引っ込めた。父の反発で彼の覚悟を穢してはいけない。

「分かりました」

 響子さんは、アッサリと了承した。彼女は始めから許可する気だったんだろうから当然かもしれないけど。

 響子さんは了承しただけでなく、自分の隊から護衛を二人付けた。これには流石の十文字君も困惑顔だった。年相応な顔に私も少し笑ってしまった。直後に凄く圧のある視線を向けられたけど、素知らぬ顔で明後日の方向を見て誤魔化した。

 彼は、溜息を吐くと二人の護衛と共に走り去った。だけど、彼の最後の視線に皆を頼むというものも含まれていたことには気付いていた。

 任せて。ちゃんと全員で帰るから。

 私は、走り去る彼を見ずに心の中で応える。

「それでは行きましょう。時間を無駄にはできませんから」

 響子さんは颯爽と歩き出した。

 

 皆無事だと良いんだけど。

 

 

 

               8

 

 :将輝視点

 

 警備隊が解散され、各校で避難・撤退を行うことになった。まあ、固まって大所帯で移動すれば目を引くから、学校単位でやるしかないだろうが、これでも数がまだ多い。だが、これ以上、実戦経験のない魔法師のみを当てにして行動させるのは危険だ。

 だからこそ、俺の口から思わず愚痴が零れる。

 もう辺りは戦場だ。対魔法師の高速弾が飛び交い、爆発が断続的に発生している。ゲリラの仕業だろう。

「なんだって、こんな離れた場所に…」

「そういう場所の造りなんだから仕様がないでしょ!」

「若、口より手を動かして下さい」

 俺の思わず漏れた愚痴に、即座にジョージと奈津が優しさの欠片もない言葉が飛ぶ。

 俺だって理解はしている。だが、いわずにいられないことだってあるだろう?

 別の学校の連中や、近いが故に徒歩になっている一校の連中は大丈夫だろうか。一校には十文字さんや七草さんがいるからまだいいが、他の学校はどうなっているやらだ。他人の心配をしている場合じゃないが、俺の頭に一人の女性が浮かぶ。傍にいない自分が心配しても仕様がないことも承知しているが、どうしても考えてしまう。

 ゲリラを蹴散らしながら、バスへと慎重かつ迅速に向かう。今のところ強敵はいない為に問題はないが、そろそろ集中するべきだろう。

 バスの無事も祈らないといけないな。などと考えたのが悪かったのか、バスが見えてきたまさにその時、ロケット砲が冗談みたいなタイミングで飛んできて、バスの近くに着弾する。爆発。

 不幸中の幸いというべきか、着弾が後部付近だった為、運転手は無事だった。だが、バスのタイヤが無事でいられなかったようだ。

 思わず舌打ちしたくなるのを我慢して、飛び出していく。バスを護らなければならない。それには、これが最善だ。奈津もすぐに追い掛けてくれる。彼女の魔法で飛んできたロケット砲は、悉く爆発する。奈津の魔法だ。

 対象の内部を破壊することに特化した魔法師。魔法の精密照準。座標設定を得意とする。所謂、古式の寸勁を現代魔法として確立した家だ。奈津の場合は衝撃波を内部に設定してミサイルを内側から破裂させている。

 ジョージは、阿吽の呼吸で俺と奈津から離れ、他の生徒や教員に今後の行動を進言しに行った。

 俺と奈津は、敵の只中へ飛び込んでいく。

 俺も奈津も敵を蹂躙していく。彼女は、俺の初陣に付き合い従軍した実戦経験のある魔法師だ。背中を任せるに不足はない。

 問題は、やる気のある同級生や先輩だな。もう位置取りを開始して攻撃を始めそうな勢いだ。今は数が少ないが増えてきたら厄介だ。

 

 ジョージ達がバスのタイヤを交換するまで、俺達で敵を釘付けにする。

 

 

 

               9

 

 :真夜視点

 

 アンティークを模した受話器を置く。

 やはりといえばやはりという通信だった。達也さんと深景さんを使うという国防軍からの要請でした。勿論、答えは是。国防も我々十師族の役目ですものね。風間少佐からも通信があった。義理堅くて結構なこと。

 思わず、笑みが口元に浮かんでしまう。

「軍からですか?」

 近くに控えている執事である葉山さんが口を開いた。いつもは影のように気配を感じさせない人だけど、訊ねてくるなんて余程気になったのね。

「ええ。今の進行中の事態解決の為、とね」

「宜しかったのですか?達也殿は兎も角、深景殿まで駆り出して万が一がありますと…」

 私は思わず声を出して笑いそうになって、慌てて口元を押さえた。そうそう、葉山さんは知らないんだったわね。いえ、葉山さんだけじゃなく、軍でさえ自分が何を使っているのか理解していない。もしかしたら、私でさえも本当の意味で、あの子を理解していない可能性もあるわね。

「心配は要らないわ。葉山さんが危惧するような事態にはならないわ」

「達也殿も深雪様の護りを最優先である以上、万全ではないのではありませんか?」

 達也さんの誓約は葉山さんも知っている。それに深雪さんには劣るとはいえ、深景さんにも達也さんの護りは及んでいる。とはいえ、深雪さんが最優先であるのは変わらない。だからこそ、葉山さんは恐れている。深景さんが戦死でもしようものなら、最悪の暴走を達也さんがするのではないかと。深雪さんもそれを止めないのではと。

 でも、前提が間違っているのよね。

「そうね。そろそろ葉山さんにも話しておこうかしら」

 葉山さんは、もう長いことウチに仕えているし、仕事に関しては信用できる人ですしね。

 葉山さんも無言で話の続きを待つ。

「深景さんが沖縄で暴れたという話は流石に聞いているでしょ?」

「はい。比喩でなく斬り捨てた人間の血で沖縄が紅く染まったとか」

「ええ。これを軍は、あの子の魔法と剣腕とみた。それも間違いじゃないわ。でも、もっと大きな要因があるのよ。かの天狗といわれる程の魔法師でも勘違いしているのだから仕様がないけど」

 私は、あの時の光景を思い出して笑みを深くする。

 血に染まった大地に、大量の死を前に哄笑する紅い少女。

 この世の終わりのような風景。夢のような美しい風景。

「あの子はね。四葉が目指す魔法の到達点にいるのよ」

 私は決定的な言葉を発する。

 葉山さんは、表情こそ変えなかったものの驚愕したことは伝わった。彼にしてみれば、考えられない程の失態と考えているでしょうね。

「父ですら、死神の刃(グリムリーパー)がやっとだった。それが四葉の最高到達点だった」

 達也さんの魔法に関しては、姉さんの答えであって四葉の答えではない。寧ろ深雪さんの魔法の方が四葉の答えに近いくらいでしょう。

「でも、あの子は生まれながらに到達したのよ。死神の領域にね。神にしか見通せない世界へよ?勿論、欠点はあるけど、それは改善していけばいい話だもの」

 このことに関しては、気付ける人間の方が稀だ。何しろ、現象的に見れば魔法との併用でやったとしか見えない。達也さんでさえ、見通せないもののようで正体がハッキリしないようですしね。間近で見たにも拘らずね。

 私も映像が残っていなければ、気付かなかった。姉さんには、この点では感謝しなければね。地獄というものを覗き込んだ私だからこそ気付けるものもあるのだと、あの時悟ったものよ。父の魔法研究を間近で見ていたのが他ならぬ私であったのも関係しているでしょうけど。

 だから、あの子が実戦はやるのは大歓迎。やむを得ない事態となれば、あの子は絶対に手札を切る。

 さあ、見せて頂戴。貴女がどれだけの存在なのかを。

 今度は、私が映像を手配したから特等席で観戦しないと。

「まあ、ゆっくりと見物しましょう。もしかしたら、葉山さんにも異常さが理解できるかもしれないわよ?」

 私の言葉に葉山さんが黙って軽く頭を下げる程度の礼をする。

「ああ、そうそう。達也さんは大亜連合で摩醯首羅なんて呼ばれているそうだけど、深景さんがなんて呼ばれてるか知っているかしら?」

「いいえ。把握しておりません」

 まあ、そこまで重要な情報ではないですものね。でも、知ると笑ってしまう。

「あの子はね…」

 

 私は、ある神の名を口にした。

 

 

 

               10

 

 独立魔装大隊の大型装甲トレーラーに真田さんに先導されて到着する。

 中に乗り込むと、ムーバルスーツが並んでいる。う~ん。趣味の世界ですな。全くもってクソッタレな事態だけど、少しテンション上がるわ。

「どうかな?特尉。要望はクリアしてると自負しているけど」

 真田さんが鼻の穴を膨らませて自慢げにいった。

 うん。凄い凄い。

「流石ですね。脱帽です」

 達也が素直な賞賛を送ると、更に嬉しそうに何度も一人頷いている。こういう時のこの人は、実に子供っぽい。私もタチコマ再現した時は喜んだもんだよ。他の連中には不評だったけど。

 私と達也は、インナー姿になるとムーバルスーツの横に設置してあるスイッチを押すと装甲部が開いた。背中をくっ付けるように立つと、システムがオートで装着してくれる。

 装甲以外の場所が布のようなもので覆われ、サイズが調整される。これで装着完了だ。

 うん。カッコイイじゃないですか!特撮ヒーローっぽくて!(異論は認める)

 私は腰に刀を二本装着し、達也はシルバーホーンを二丁腰のホルスターへセットした。

「問題ないようだね」

 装着後の私達を見て、真田さんが満足気に大きく一つ頷いた。

「ええ。注文通り…それ以上ですね!」

 私はニッコリですよ。

 真田さんは、失礼にも苦笑い気味。

「防弾、耐熱、防刃、緩衝、対BC兵器、それにパワーアシストも完璧だ。深景君に提供して貰った装甲で防御も底上げされているしね。当然、飛行ユニットもベルトに仕込んである。緩衝機構を組み合わせて射撃時の反動相殺で空中での射撃も問題ない」

「お見事です。想像以上の装備に仕上がったようですね」

 真田さんが良い笑顔で解説を締め括ると、達也が手放しで褒める。いや、私が褒めると苦笑いで達也が褒めると笑顔ってどういうことですか、貴方。

 まだ、続けそうな真田さんに天狗さんが口を開く。

「真田。そろそろいいだろう」

 天狗さんが圧を強めて、達也と真田さんの無限褒めループを断ち切る。

 そんな圧を受けたのに、笑顔で平然と頷く真田さん。メンタル強いですよね、貴方。

「早速だが、大黒特尉は柳の部隊と合流。白崎特尉はゲリラの掃討へ参加せよ。

「柳大尉の位置はバイザーに表示されるようになっているよ。ゲリラの掃討を行っている部隊の位置も同様だ」

 天狗さんの言葉の後に、真田さんがすかさず情報を追加する。

「「了解」」

 私達は揃って敬礼すると、二人揃ってトレーラーの外へ出た。

「姉さん。何かあれば必ず交信してくれ」

「分かったよ。ありがとね。でも、大丈夫」

 私は先にベルトバックルを叩き、飛行ユニットを起動させ、空へと飛び上がる。達也も一瞬遅れて空へ上がってくる。

「それじゃ、また!」

「分かった。気を付けて」

 達也の気遣いが伝わってくる。

 自らに課した誓約を一部解除してやる。

 私は達也から十分に距離が離れたタイミングで心中でキーワードを呟く。

 

 インストール…。

 

 その瞬間、久しぶりの凶悪な衝動が私を突き動かそうとするのを、精神力を総動員して抑え込むと、腰の刀を二本とも引き抜く。

 唐突だが、私の天眼もなんでも有りではない。制限が存在している。凄まじいまでのチートは、大体情報を読み出しても、そう簡単に使用できないようになっている。有り体にいえば文字化けしていて再現する為には、研究と実験が不可欠なのだ。にも拘らず、今使っている力は私の魔法特性と相性がいい所為か、何故か使用することができた。これこそ文字化け案件だろうと思うんだけどね。これと同じ作品に出てくる他のチートは揃って文字化けだったのにさ。

 沖縄の時は、私はいざとなればなんでもできると思っていた。そう願ったんだから当然だ。再現しようとした魔法は、ホイホイできたのから、余計想勘違いしてしまった。でも、今は違う。

 インストールが完了する。

 私の眼が世界中の、いや、世界の死を映し出す。

 

 さあ、始めようか?

 

 

 




 次回、深景が何と呼ばれているか明かします。中にはうん?と思う方もいるかもですが、変えずにいこうと思います。

 深景が沖縄で、どのチートを使ったかは、察しの良い方はお気付きかもしれませんが、次回です。

 深景の天眼の誓約の詳細も次回くらいですね。

 それでは、次回もお付き合い頂ければ幸いです。




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横浜騒乱編8

 気付けば一年以上更新していないという暴挙。
 少しずつは書いていたんですけど…。
 覚えている人がいるか…?

 それでも付き合ってくださる方は、お願いします。

 


               1

 

 さて、お仕事を開始しないとね。

 私は達也と別れ、一人ゲリラという名のゴミを片付ける。そして、ゴミはあっという間に見付かった。ゲリラ戦とはいえ軍事行動を取っている訳だから、完全にランダムに動いている訳じゃない。敵の身になって考えれば、ある程度はね。

 私は、両手で握った刀を構えて急降下する。ゴミが五つに粗大ゴミ一つ。アームスーツという名の粗大ゴミの周りに、兵士という名のゴミが周辺警戒している。当然、急降下してきた私に気付き、粗大ゴミやゴミが銃を構えて発砲しようとする。

 私は獰猛な笑みを自分が浮かべているのを自覚する。

 銃弾のシャワーが浴びせられるけど、この程度の弾幕ならば切断を使用するまでもない。悉く刀で斬り落としつつ、高速で接敵する。まずは粗大ゴミをこの世から消す。紅い線から点が浮かび上がる。非常に楽しくなってきた。今頃になって止められないと察したアームスーツが腕を振り回すも、そんな巨体での大振りが当たる訳もないでしょうが。こちとら魔改造ムーバルスーツだよ?点を刀で一突きすると、搭乗員していたゴミごと粗大ゴミがこの世から消える。良きかな。その衝撃的な光景を見ても銃撃してくる努力は認めよう。そして、お掃除続行。舞うようにゴミの間を高速で飛び回り、紅い線をなぞるように斬る。まるで物みたいに破壊されてゴミが生ゴミと化して転がる。一丁あがり。

 私は次のゴミを探し…おっとっと。いかんいかん。るーしーさいもく、るーしーさいもく。あれ?違ったな。まあ、落ち着こうじゃないか。魔眼さんに影響され過ぎてる。クールダウンだ。これじゃ、格好つけたのが恥ずかしくなってしまう。

 沖縄の時みたいに、()()()()()なんて事は今はない。自己修復もキチンと仕上げてるし、今の私には正気を保つ為のアンカーが沢山いるからね。まあ、自己修復に関してはアレだけど…。

 深呼吸を一つして、改めて周囲を索敵。ネットは広大だわって感じだね。何故なら、紅い死の線が人間を浮かび上がらせてるから。人と物とじゃ、線の出来方が違うから分かり易い。あとは敵の判別だけど、これもある程度判別可能。敵と味方じゃ、お国が違うから同じ軍事行動でも異なる点はあるからね。お?会敵して戦ってる味方がいるな。応援に入ろう。結構いるし。

 私はそう判断すると、即座に飛行魔法を発動させ高速飛行する。

 紅い線が、そこら中に這い回っている街並みを、あっという間に飛んで行く。

 多脚戦車が二両と随伴している兵士が、ウチのダークヒーロー系ムーバルスーツを着た味方が交戦中だった。高性能なムーバルスーツでも、多脚戦車相手だと装甲がなかなか貫けない模様。それにしても、さっきのアームスーツといい、多脚戦車といいどうなってんの?原作のあのショボい直立戦車どこいったの?私の所為じゃないよね?タチコマ造ったからって、まさかそんな。まあ、そんなの後回しだよね。そんじゃまあ、行きますか。深景、行っきま~す!

 新手に気付いた敵の御一行様は、こちらにも銃弾のシャワーを浴びせてくるけど、その銃弾は不自然に床に転がった。多脚戦車の主砲までも同じだった。ちょっと主砲の弾が落ちた場所が宜しくなかったようで、敵の一人に直撃したけど敵だから良かろう。私は先程と同じに速度を緩めずに、敵の間を泳ぐように刀を振るう。ちょっとした足場を造り、空中でも鋭い踏み込みが使える。だから、斬り易い。紅い線をなぞるように斬る斬る斬る。私の通り過ぎた後には人であったものの残骸しか残らなかった。勿論多脚戦車もスクラップになっていた。高速で動く敵に砲塔なんて回して当たるかっていうの。

「白崎特尉。応援に参りました」

 残骸を背に味方に敬礼すると、味方がビクッと反応した。おい、今武器向けようとしたな?もしかしたら、この人達は沖縄にいたのかもしれない。偶に遭遇するけど、大抵恐怖が隠せてないんだよね。

 私は特にそれに反応する事なく、淡々と告げた。

「ゲリラ掃討任務を続行いたします」

 ビビってる奴等が再起動するのを待つのも面倒だった為、サッサと背を向けて飛び去る。

 

 プロの軍人相手にまで、心のケアなんて気にしていられない。こっちの方が必死だわ。

 

 

               2

 

 中条視点:

 

 私達は、出来る限り迅速に移動する事を心掛けた。ただでさえ、護衛の軍人さんや服部君達の負担が大きい。一刻も早くシェルターへ辿り着きたかった。

 コミカルな感じから少し不安のあったタチコマちゃん達も結論から言えば、物凄く活躍してくれて頼もしかった。でも、国防軍の人達の評価はイマイチみたいです。応援に来た変わったスーツを装着した軍人さん達は、すぐに変身ヒーローみたいな仮面で顔を隠してしまって表情は読み取れないけど、タチコマちゃん達にあまりいい感情を抱いていないのが、なんとなく分かった。高速弾を弾く装甲で盾になってくれるし、素早く敵を服部君達と連携して倒してくれるしで、本当に頼りになっているのに。市街地という事もあって周りには兵隊が隠れる場所が多くて、こっちは人数が多くて隠れられないから、丸見えの状態で警戒しつつ進まないといけない。タチコマちゃん達の索敵能力のお陰で大分楽が出来た。

 そして、地上からのシェルターへの入口が間近という時に敵の兵隊が現れてしまった。タチコマちゃん達より遥かに大きな戦車。随伴兵の射撃が始まり、タチコマちゃんが素早く私達の盾となって銃弾を弾き、軍人さん達が大型のライフルを構えて多脚戦車を狙う。

 多脚戦車の砲がこちらを機敏な動きで捉える。軍人さんは、そうはさせないとばかりに砲をライフルで狙おうとするけど、随伴兵がそれを邪魔してくる。すかさず服部君達が素早く多脚戦車に砲を撃たせまいと動いた。

 この場合は、どうすべき?援護?伏せる?邪魔になる訳にはいかないから、迷ってしまった。下手に物陰に隠れてゲリラに見付かって人質になったりしたら不味い。

 私の迷いなんて関係なく、事態は動く。

 桐原君の気合の籠った声と一撃、壬生さんの投剣が多脚戦車の砲を逸らす。

 でも、発砲は防げない。砲弾が発射される。建物に向かって。次の瞬間に砲弾が建物を破壊して、大きな瓦礫が壁のように私達の上に降り注いだ。

「皆さん!伏せて下さい!」

 廿楽先生が、両腕を高く翳したと思ったら瓦礫がアーチ状に停止する。ポリヒドラ・ハンドル。高度で分析力が求められる魔法。

「いいですよ!早く移動を!長くは持ちません!」

「皆さん!行きますよ!」

 私は先頭に立って進む。少しもたついた私の失敗を取り返す。落ち込んでいる暇はありません。

 だけど、後ろを窺った時に一部が遅れていた。

 安宿先生が誰かと揉めている。よく見れば、この前問題を起こした子・平河さんの妹だった。

 確か、見学に連れてきてたんでしたっけ。

 ああ、足が竦んでしまったようですね。無理もありません。私は、服部君に声を掛けて安宿先生の応援に向かおうとして、止まりました。安宿先生が強硬手段で抱えるつもりみたいですが、更にそこに手が伸びる。十三束君の手だ。

「何してるの!?立って!」

 安宿先生の手がそっと離される。それとは反対に平河さんは反射的に振り払おうとしてますけど、絶妙な力加減なのか痛がる様子もなく手を振り解かれる事もなかった。

「急いで!」

 平河さんが引っ張られるような格好で、こちらに追い付いてくる。

 いや、安宿先生。そんな羨ましそうに見てないで下さい。

 そして、私の向いた足の行き場がありません。

「中条!何をやってる!」

 服部君の声と共に、私の手が掴まれる。それは彼の手でした。なんと言うか…私、助けに行こうとしたんですが、逆に邪魔になっていたって…。少し悲しいです。

 瓦礫を次々と生徒が潜り抜けていく。だけど、最後に平河さん達が潜り抜けようとした時、廿楽先生の魔法の効果が弱まり、瓦礫が動き出した。

 咄嗟に動こうとしたけど、その前に青い影が走った。

『いいですよ!通って下さい!魔法使ってる人も限界ですよね?』

「ああ、済まないね。それじゃ、私も少しづつ」

 廿楽先生が冷汗塗れの顔で、辛うじて笑顔で答えた。滑り込むようには少し下がった瓦礫をタチコマちゃんが支える。

『流石に、これ、あんまり持たないんで早くお願いします』

 タチコマちゃんが悲壮感の全くない声でいうと、後ろから十三束君に手を引かれた平河さんが姿を現す。結構なスピードが出てましたね。

 廿楽先生が脱出を始めた。

「どうして、助けてくれたの?」

 恥ずかしさからか平河さんがそんな事をいった。

 だけど、口?を開いたのはタチコマちゃんが先でした。

『壊れたいの?でも、人間って完全に壊れたダメなんじゃありませんでしたっけ?僕達は構造解析されちゃうの別に嫌じゃありま…どうなんだろうな?』

「「……」」

 平河さんと十三束君がなんともいえない表情で黙り込んじゃいました。

「はっ!早くシェルターへ!」

 私は逸早く我に返って、生徒会長らしいことをいいました。

 まあ、結局は服部君に遅いっていわれちゃいましたけど。

 

 ええ、分かってます。アームスーツに対処してる人達に悪いってことは。すいません…。

 

 

               3

 

 真由美視点:

 

 私達も地下のシェルター入口へと到着した頃には、辺りの惨状は酷いものだった。多脚戦車の残骸と敵ゲリラの死体が酷い惨状で転がっていた。入口となる広場は、多脚戦車の攻撃により建物が半壊し瓦礫が散乱し、更に激しい戦闘があったのか入口は破壊され入れないようになっていた。護衛の軍人がいた筈だけど、辺りには見当たらない。一緒に避難したのか、それとも…。惨い遺体を見て吐き気を催すこともできずに呆然とする。

「多脚戦車まで持ち出しているなんて…」

 響子さんが敵戦力が予想外だった所為か、苦い表情で思わずといった感じで呟く。辺りを見る限り激しい戦闘があったようだし、気持ちは理解できる。それとこんな物を持ち込まれたことにも苦いものを感じる。

 そして、巨大な何かが広場に姿を現した。

「アームスーツ!?」

 人型の兵器が2基接近してくる。この損害を知り応援に駆け付けたことは、容易に想像できる。シェルターへ攻撃を仕掛けるだろうことも。そこに居合わせた私達に対しても。何せ、仲間の仇候補だもの。

「この!」

 千代田さんが我に返り怒りの籠った声で2基の人型兵器・アームスーツ?を睨み付け、魔法を遣おうとする。

 それに私達は慌てた。彼女は、九校戦のバスでのことがある。彼女の得意な魔法を遣うのではと危惧してしまった。流石にあれから成長しているから失礼だとは思うけど。

「花音!地雷源は!」

 五十里君も私達と同じ危惧をしたようで声を上げる。ここで地雷源なんて遣ったら、シェルターがどうなるか容易に想像できる。

「そんなの遣う訳ないでしょ!」

 やっぱり成長してるわね。でも、まだまだよ。

 彼女が魔法を行使する前に、私と深雪さんの魔法が発動し、アームスーツを氷漬けにした直後に私の弾丸が蜂の巣にした。

「真由美さんも深雪さんも流石ね。手助けもできなかったわ」

 響子さんは苦笑いでそういったけど、ある程度合わせたとはいえ、深雪さんの圧倒的な魔法のスピードを見せ付けられて私こそ苦笑いだったんだけど。

 深雪さんの方は微かに笑みを浮かべて、少し頭を下げて礼をいってた。様になるわねぇ。

「……シェルターへ行った先輩達は無事の様です。シェルターの内部も目立った損壊は見られません」

 吉田君が精霊魔法を駆使して、シェルターを探ったみたいね。取り敢えず、全員無事でよかったわ。

「吉田家の方がいうのですから、間違いないでしょうね。ウチから出した護衛は居ますか?」

 そう、小さい思考戦車が護衛するっていっていたわよね?

「いえ、少なくともシェルターにはいないですね」

「どこに行ったのかしら?」

「それは置いておいて、どうします?」

 思考戦車のことで頭を悩ませている響子さんを、千葉さんが思考を切るように鋭い声音の発言をする。でも、流石というべきか、響子さんは全く動じることなく千葉さんに視線を向ける。

「アームスーツまで出てきたとなれば、事態は急を要します。野毛山の陣内へ避難した方が良いでしょう」

「しかし、敵の攻撃目標になる恐れがあるのでは?」

 響子さんの言葉に、将来は国防軍入りを考えている摩利らしい疑問を口にした。でもね。

「摩利、今侵攻してきている敵は、戦闘員・非戦闘員なんて区別してないわ。寧ろ、軍と別行動をとる方が危険よ」

「では、七草先輩は野毛山に避難すべきと?」

 摩利に心酔している千代田さんが、少し不満そうにしているのを横目に五十里君が私の意志を確認してくる。

 それも悪くはない。私達だけなら。

「逃げ遅れた人達の為に、輸送ヘリを手配するわ」

 私は、入口の潰れたシェルターの入り口前で、途方に暮れている人達を見ていった。しかも、徐々にその数は増えていた。この人達を護りつつ野毛山へ入るのは、手が足りない。護り切ることができない。

 千代田さんがハッとしたように、視線を集まった人達へと向けて、恥じるように下を向いた。

「まずは残骸を片付けてヘリの発着場を確保しないと。摩利、みんなを連れて響子さんと行って」

「お前が一人で残るというのか?」

 一見冷静に反論してるけど、これは怒っているわね、摩利。でもね、十文字君程じゃないけど、私も十師族。務めは果たさないといけない。それに全員を無事に率いて避難させられるのは、摩利ほど適任はいない。

「これも十師族の義務よ。私達は十師族の名の下で、様々な便宜を享受してる。貴族みたいにね。だからこそ、こういう時には力を尽くさないとね」

 私は最後だけ摩利を宥めるように、口調を緩めていった。

 摩利は、私の決意とみんなを頼みたいという願いに気付き、黙り込んじゃったわね。

「それなら、僕も残らないといけませんね」

 五十里君が、ここで突然そんなことをいい出した。ああ、私の理論だと、そうなっちゃうわよね…。

「十師族程ではないにしろ、僕も百家として政府から便宜を受けている身ですから」

「私も百家なんだから当然、啓と一緒に残りますよ!」

 五十里君の言葉にすかさず千代田さんが乗る。

 いや、そうなっちゃうのは分かるけど、戦力を削れないでしょう?

「となると、一応千葉家の私も居残りってことね」

 千葉さんが面白そうに二人の言葉に乗っかる。頭が痛いわね。

「私も残ります。お姉様やお兄様が戦っておられるのに、一人逃げ出すことなどできません」

「殆どのダチが残るっていってるのに、俺だけ避難ってのは、どうにも格好がつかねぇし、残らせて貰いますよ」

「当然、私も残ります!絶対にです!」

 深雪さんの反論も許さないような声音に、ちょっと嫌な汗でちゃったわ。それに更に乗っかる形で西城君、光井さんまでもが残ることを表明する。

「会社のヘリを手配するように、私も父に連絡します」

 北山さんの断固たる言葉に、摩利が笑みを浮かべてリンちゃんを見る。

「私達だけ避難するという訳にはいかないな、これは」

「そうですね。真由美さんを一人で放り出すのも不安でしたし、丁度いいですね」

 ここまで何も意見をいわなかったリンちゃんが、微かな笑みを口元に浮かべていった。いや、普通に酷くない?

 私は内心を吐露するように重い溜息を吐いた。

「全く、みんな馬鹿ねぇ」

 言葉まで漏らしてしまった。十文字君だったら、ポーカーフェイスを保ったんだろうけど、私には無理。

 仕方がないから、私は響子さんを見る。

「お聞きの通りのことになりました。すいません。折角の厚意を…」

 私は頭を深く下げて謝罪した。

 響子さんの方は、面白がっているみたいで、残るっていったメンバーを意味深な視線を向けてる。その視線を私と深雪さん以外のメンバーが明後日の方へ視線を逸らして目を合わせようとしない。

「頼もしいご友人達ですね。それでは部下を護衛として残していきますので…」

「いや、要らんよ」

 響子さんが一転して真面目な顔で話し出した言葉を遮るように、後から現れた男性が割り込んでくる。

「和兄貴?」

 千葉さんが少し嫌そうな顔で声を上げる。どうも声を掛けてきた人の後にいる男性が千葉さんのお兄さんみたいね。

「源田刑事」

 響子さんが声を掛けてきた男性と知り合いみたいだけど、仲がいい訳じゃなさそうね。少し響子さんが警戒しているように感じた。

「軍は軍の仕事を、我々は我々の仕事をする。市民の安全を守るのは、我々警察の仕事ですよ。なんで、そっちは宜しく頼むぜ?」

「分かりました。では、ここはお任せ致します」

 響子さんは源田刑事?の言葉に素直に従い、部下を引き連れて去って行った。最後に私に申し訳なさそうな顔をしてたけど、刑事さんのいうことは尤もだから文句はない。それに残ると決めたのは私達なんだから。

 源田刑事の後にいた千葉さんのお兄さんは、去って行く響子さんを見てホゥっと見惚れていた。

「いやぁ、良い女だねぇ」

 千葉さんのお兄さんの思わずといった感じで漏れた言葉に、源田刑事が無言で拳骨を千葉さんのお兄さんの頭に落とした。結構、凄い音したわよ。痛そう。

 そして、千葉さんは、ざまあみろといわんばかりにニヤニヤと悶絶するお兄さんを眺めていた。

 

 結構、危険な状況なんだけど、緊迫感ないわね。

 

 

 

               4

 

 私は、ちょっと敵を探して無に帰して、味方にビビられるを繰り返しておりました。だって、天狗さんにそう命じられたしさ。うん、今のところ心の方は大丈夫?

 ビビられまくってる私は、どこかの部隊に随伴して転戦という訳にもいかないから、飛んで危険に陥ってたり、健気にも私に雑多な物理兵器だとか魔法とか飛ばしてくる敵さんを無に帰すしかない訳。

 うん?適当に飛んでたら、シェルターの入り口まで来てたみたいだね。だって、オタ達がいるもの。うちの軍とタチコマが頑張って、みんなをシェルターに押し込んだみたいだね。地下通路の入り口付近に陣取っていたテロリストもカンゾウ君達に制圧されて入口を他の避難者と一緒に入口を再度封印したみたいだし、こっちは大丈夫そうかな。となると友軍を優先しないとね。

 あの敵の多脚戦車を倒そうとしてるみたいだけど、苦労してるみたいだね。タチコマのチェーンガンのロックを解除してやればいいのに。上手く当たれば、それなりに効くよ?

 全く仕様がないなぁ。今助けに行くぞ!

 心の中でカーティスの人みたいに気合を入れると、急降下して多脚戦車に突っ込んで行く。

 多脚戦車の弱点。それは、真上に砲塔が向かない。機銃も同様。搭乗者が取り外して、どこぞの空賊の親玉みたいなことすれば話は別だけど。殆ど歩兵を始末をしている状態では、多脚戦車は私の攻撃を防ぐことはできない。

 紅い線をなぞるように斬ると、多脚戦車があっさりと切断される。搭乗者ごと。

 切断された多脚戦車が崩れると同時に、私は着地を決める。

「…援護、感謝する」

 オタ達を護っていた軍人の指揮官と思しき人物が、私から距離を取りつつ礼を述べる。礼をいう距離じゃないでしょ、それ。

 私は大人な対応で敬礼で応える。

『特尉!任務遂行しましたぁ~』

 タチコマ達がわらわらと寄って来る。機械の方が味方っぽいな?思わず眼から汗がでそうになるよ。嘘だけど。

 空からホバリング音が聞こえてくる。戦闘ヘリまででてるの?この国、武器持ち込み放題過ぎないかな?原作でも、ここまで持ち込まれてなかったよ?寧ろ私が引っ掻き回したせいでありませんように。

 私は溜息を吐くと、タチコマ達に視線を向ける。当然の如くに見える紅い線。落ち着こう。暫く深呼吸を繰り返す。

「タチコマ達は連れて行きますが、構いませんか?」

 私は精神を落ち着けて、指揮官に確認を取る。まあ、半ば貰ってくんで宜しくって感じだったけど。

「ああ、貴官が運用すればいい」

 はい、許可出ました。私は御座なりに敬礼してタチコマ達に向き直る。

「それじゃ、あのヘリ墜とそうか」

『了解しました!』

 タチコマ達がヤンヤと騒ぎ出す。君等壊れる可能性高いっていうのにテンション高いね。

「いい?常にワイヤーで移動し続けること!地上を走ってると空対地ミサイルにロックオンされるからね」

 トリガーハッピーの人か、世紀末な戦闘狂並みにテンション高く了解するタチコマ達。

 うん、まっいいか。私もいることだし。

 タチコマ達が一斉にワイヤーで蜘蛛のアメコミヒーローな動きで空中に飛び出して行く。ヘリと同様の高度まで達すると、ガトリングを射撃。貫通しないまでも装甲に凹みができる。どうせ、元に戻る形状記憶合金的なもんだろうけど、注意は引ける。これこそが私が求めていた彼等の仕事。

 私は飛行魔法で素早く接近を試みる。流石に気付かれてヘリのガトリングが火を噴く。だけど、小回りが利くのはこっち。ガトリングを掻い潜り、今度は私が囮を務める。ヘリは私とタチコマどちらを脅威と見るか。まあ、私の方か。派手に動き回り目を引く。ヘリが巧みにワイヤーアクションで攻撃するタチコマを牽制しつつ、私にガトリングの砲口を向けて射撃してくる。けど、そんな攻撃には当たらない。高速飛行で線の途中に浮かび上がる点を刀で穿つ。ヘリが消え、搭乗者が落下していく。搭乗者はパラシュートを持っていたみたいだけど、高度が足りないんじゃない?あっ!そんなこと心配する必要なかったか。タチコマにとどめ刺されてるよ。

 地上へと一旦降りた私は、同じく降りてきたタチコマ達を迎える。

「ご苦労様。なんかみんなタチコマ使いたがらないみたいだし、私と行動、かな?」

『『『『『『ほ~い』』』』』』

 タチコマ達が戦闘時と一転してユルい感じの返事に戻っている。いや、テンション違わない?これで終わり感出さないでくれる?

 それにオタ達もシェルターで安全確保が済んでるみたいだし、タチコマ連れて行っても問題なさそうだね。

 地下のシェルターを見ていた私の眼に、学校の知人達の赤い線が飛び込んでくる。少し切れ込みをいれたくなる。そんな誘惑に駆られる。思わず手が動きそうになる。

『あの~』

 だが、間の抜けた声が私の耳に飛び込んできたために、手が止まった。タチコマの一機がアームをフリフリして私に声を掛けてきたんだ。

『さっきのヘリなんですけど、僕らのチェーンガン使えばもう少し楽に勝てたんじゃないですか?』

「……」

 うん。忘れたわけじゃないよ。ちょっと悪乗りしてヘルシング的な弾頭が少し特殊なの搭載だったことだって覚えてる。説明以上。

 

 衝動は少し遠のいた。その隙にサッサと離れた方がいい。

 

 

 

               5

 

 将輝視点:

 

 ジョージ達がバスのタイヤのパンクを修理する間、敵を釘付けにする仕事は全うしている。だが、予想外が一つ。いや、予想されたことか…。

 それは、味方のこと。バスを守る為に戦う選択をしたのは、流石は尚武の三校と思ったが、実戦経験というと自分と奈津くらいしか経験者がいなかった。ジョージも訓練に参加しているから大丈夫だ。だが、ほかの生徒は実戦に耐えられなかった。嘔吐する人間が殆どで、戦闘不能者が続出した。確かにウチの爆裂や奈津の寸勁は、人間に使用すれば惨たらしいでは済まない死に様になる。これは予想しておくべきだった。

「一条!もう少しグロい方法じゃないやり方ないのか!」

 先輩の一人が、何を馬鹿なといいたくなる発言をしたが、俺は視線も向けなかった。戦場に集中するためだ。奈津に至っては返事すらしていない。指揮は俺の領分になるからだ。

「先輩。下がっていて下さい。バスの防御を頼みます」

 だからこそ、俺は敵だけでなく味方にも目配りする必要がある。俺が敵を屠る度に味方の戦意が低下していくのが分かった。ただ邪険に邪魔扱いするのは不味い。本音をいえば、そんな覚悟で戦場にしゃしゃり出ようとするなといいたいが、そんな真似をすれば決定的な戦意喪失に繋がりかねない。先輩達の顔を立ててやらなければならない。これ以上、邪魔されないために。

 

 俺は顔色一つ変えずに敵を粉砕していった。周りの視線を完全に無視して。

 

 

               6

 

 真由美視点:

 

「ざまぁ!」

 千葉さんが実のお兄さんに向かって嘲る。まあ、困った親族がいるっていうのには共感しないでもないけれども。

 流石に千葉さんのお兄さんがムッとしたようで、口喧嘩になっている。流石に状況を見てやってほしいのだけど。

「あの、それで寿和さんは何故ここに?」

 いつまでも状況が動かないのに焦れたのか、吉田君が果敢にも火中の栗を拾いにいった。

「勿論、愛する妹を助けるためさ!」

 ようやく本題に入ってくれた吉田君に千葉さんのお兄さんが件の愛する妹を無視して吉田君に満面の笑みで答えた。

「どのツラ下げてそんなセリフいってんのよ」

「こらこら、ツラなんて下品表現はよしなさい」

「はっ!今更なお言葉ね、お兄様?」

 千葉さんの逆鱗に触れた言葉だったのか、先程までとは違って底冷えするような冷たい声でいった。

 お兄さんが若干怯んだ顔をしたが、すぐに気を取り直して溜息を吐いた。

「助けに来たのは本当だ」

「女の尻を追い掛けて来たのも事実だけどな」

 お兄さんの言葉にすぐさま同僚の刑事さん?が、台無しにする言葉を発したものだから、千葉さんの目が更に冷気を帯びる。

 お兄さんが大きく咳払いして、同僚の刑事さんを睨む。

「仕方ないな。助けに来た証拠を見せてやろう」

 お兄さんは背負っていた二つの刀袋のうち一つを千葉さんに渡す。千葉さんはそれが何か既に分かっているようで、目を見開く。その目は驚きと喜びに満ちていた。

「分かったようだな?こんなこともあろうかとってやつだ」

「実際、ことが起こった時に慌てて本家に届けさせたんだけどな」

「源田さん!」

 色々と台無しにされて、我慢の限界だったのかお兄さんが噛み付く。

 それでも千葉さんは、そんな遣り取りを無視して刀袋を奪い取る。

 その刀袋は、見るからに千葉さん位の長さはあろうかという大太刀が収められているだろうもの。

「大蛇丸…よく持ってこれたわね」

「この緊急事態だぞ?山津波は、ウチで使えるのはお前だけだ。これはお前の刀だ。そうだろ?」

 感動に打ち震えている?っていう感じの千葉さん。千葉さんの言葉は、おうちの複雑さがよく分かるわね。

 微笑ましそうに千葉さんの様子を見守るお兄さん。

「お前は、やっぱり千葉の娘だよ。お前や修次がどう思おうが、親父が何を考えていようがな」

「今回はお礼をいっとくわ」

 千葉さんは、サッとお兄さんに背を向けて歩き出してしまう。照れ隠しね。

 お兄さんも苦笑いして、その背を見ていた。

 

 同僚の刑事さんだけは、一連の遣り取りに興味を示さなず、遠くの空を睨んでいた。

 

 

 

               7

 

 摩利視点:

 

「で?何か分かった?」

 アームスーツに搭乗していた兵士二人は無事だった。あれだけ派手に攻撃したにも関わらず、軽い凍傷くらいで済んでいる。真由美と深雪君の絶技故だろうが、味方ながら恐ろしい腕だ。

 ならば、せめて尋問くらいはと買って出たが、兵士は一言も口を開かない。香水も使ってみたが期待した効果は得られなかった。もう片方の兵士も源田刑事が尋問していたが、ダンマリを決め込んでいた。

「さっぱりだ。流石に何も話さないな。こんなことならもっと強い香水を準備して置いたんだが…」

「おいおい、お嬢さん。その用途は訊かないがね。我々に配慮して貰えると嬉しいね」

 私の危ないボヤキに、源田刑事が捕虜から目を離さないまま釘を刺してくる。

 真由美も少し目が泳いでいる。今回の関本の尋問の条件を絡めて慰めてくれようとしたんだろうが、源田刑事の言葉に口を噤んだんだろう。

 私としては、このまま拷問に移行したいが、この刑事は目こぼししそうにないな。

 私の危ない考えを察したのか、真由美が心配そうにこちらを見ている。分かってるさ。

「…少し頭を冷やしてくる」

 張り詰めているものを吐き出すように溜息を吐いてから、私は捕虜から離れた。捕虜は色々な方法で監視されているんだから、離れて大丈夫だろう。

 その場を離れようとして、私は足を止めることになった。

 源田刑事が突然三段警棒を伸ばして振り抜いたからだ。

「さっきから何やら飛び回ってると思ってたが、ようやくちょっかい出す気になったかい」

 私は地面に何かが落とされた煙を上げて消えたのを目撃した。何かの魔法、古式魔法の類か。それを叩き落としたのか、この男。

 源田刑事の言葉に応えるように、軍服姿の男がゆたっりとした足取りでやって来ると、不敵な笑みを浮かべた。

『ほぅ。俺の造り出した獣が見えるのか。姿を見せないタイプだったんだがな』

『ウチの剣の師匠は、勤勉でね。見えざるものを斬るってもんから邪剣みたいなもんの仕組みまで研究して、破れるように精進してるお人でな。精霊の類に近いか?』

 流暢な言語能力を披露する源田刑事に吃驚させられる。寿和さんも何をいっているかわかっていないようなのに。

『いい眼だ、といいたいところだが、違うな。解説はしてやらん。ただ死ね』

 その言葉を合図に軍服に分厚いコートを纏った男の影から黒い獣が次々と湧き出すように現れる。ゲリラ連中とは明らかに異なる。

「気を付けろ!見えない奴もいるぞ!」

 源田刑事の鋭い声が響く。次の瞬間には空中に青白い炎が上がり、何かの断末魔が辺りに響く。

「見えない方は任せて下さい!専門家の端くれですから」

 吉田が呪符を構えて柴田を庇うように前に出る。ならば、我々の動きは決まったな。

 真由美と深雪君の魔法が湧き出るように現れる獣を撃ち抜き、凍らせていく。だが、一向に減る気配はない。術者に焦りもない。

 寿和さんが、二人の魔法に目がいっている間に音もなく距離を詰めていた。術者が緩慢な動きで寿和さんを見た時には、既に間合いに入り込まれていた。気合一閃で寿和さんの刀・雷丸が閃光の様に振り下ろされる。

 術者は避けるそぶりも見せずに真っ二つになったが、術者が生み出した獣が止まらない。真っ二つになった身体から次々と獣が飛び出してくる。どうなってる!?術者が他にいるのか?そんな疑問が私の他にも抱いているのが分かる。

 真っ二つになった遺体が起き上がり身体が再生するように、一つに戻った。戻った術者は笑みさえ浮かべていた。

「どうなってやがる?」

 源田刑事の冷静な声が酷く響いた。

「この人…人じゃありません」

 柴田が震える声で、絞り出すように告げる。確かに、人間じゃないだろうな。だとすると、九校戦に引き続きパラサイトが現れたのか。いやに縁がある。有難くない縁だが。

『お前さん。バケモンになったのかい?』

『失礼なことをいうな。より高次元な存在へと進化したのだ。あんな連中と一緒にされたくないな』

『まあ、どっちでもいいがね』

 どちらも化物であることには変わりがないと、語外に源田刑事が匂わせたが、向こうは意にも介さない。

『では、そろそろ片付けるとしよう』

 再び影から獣達が溢れるように出てくる。倒した数もそれなりの筈だが全くもって減った様子がない。寧ろどんどん湧き出てくる。軍服の男が腕を振ると、一斉に獣が襲い掛かってくる。

 真由美や深雪君の魔法がすかさず繰り出されるが、先程と違い俊敏に避け、更に猫のように魔法の弾幕をすり抜けていく。西城が雄叫びと共に二人を護るように飛び出す。エリカも影のように西城と共に走る。

「この!」

 花音が地雷源を使うが、数匹の足止めをしたのみで、獣が流れる川のように地雷原を避けて襲い掛かる。

 西城が薄羽蜻蛉を展開する。エリカが教えたのか…。西城の粗削りだが、力強い斬撃が獣を斬り裂くが数が多い。西城の腕や足に獣が噛み付くも、西城は意にも介さずに剣を振るい、噛み付いた獣を振り解く。エリカが西城の陰から飛び出すように大蛇丸を振るう。見事な連携を披露した。

 だが、侵攻の勢いが一向に緩まない。刑事二人と西城・エリカそして私と前衛が豊富にも関わらず退けるどころか、ジリジリと後退を余儀なくされていた。

 そして、遂に五十里が捕まった。五十里は花音や真由美達距離を置いて攻撃していた後衛と前衛を繋ぐ中盤を支えていたが、激しい攻勢に前衛が抜かれだした。花音も五十里を護っていたが、対応の限界がきた。五十里の脇腹に狼のような姿の黒い獣の牙が食い込む。

「啓!」

 花音の悲鳴のような声と五十里の苦悶の声が響く。五十里へと完全に注意が逸れた。獣はそれを見逃さなかった。

「馬鹿花音!今は…」

 私は勿論、他の面々も助けが間に合わない。獣が花音に一斉に飛び掛かった。花音の顔に恐怖が浮かぶ。五十里を護れずに死ぬ恐怖に。

「お兄様!」

 深雪君の声がやけにハッキリと聞こえたと思ったら、目の前から獣が文字通り煙のように消えた。なんだこれは!?深雪君の視線の先を無意識に追ってしまう。そこには、黒い軽鎧を組み合わせたスーツを着用した人物が見覚えのあるデバイスを握り締めて浮いていた。

 

 まさか、達也君か。 

 

 

 

 

               8

 

 達也視点:

 

 俺は常に深雪と繋がっている。深雪の危機には早々に気付いていたが、流石に瞬間移動はできない。もどかしい気持ちを抑えつつ、攻撃を加えてくるゲリラを始末し全力で向かう。

 見えた。敵を確認。これは…厄介な。

「お兄様!」

 深雪の声と同時に、敵の分身体ともいうべきケダモノを片端から消滅させていく。全力で深雪に降り掛かる火の粉を払う。

 俺はゆっくりと降り立ち、深雪を護るついでに全員を庇う位置に立つ。精霊眼(エレメンタルサイト)で敵の正体は分かっている。俺でも殺せなくはないが、()()()()()()()。今目の前にいる敵を殺すには、獣を含めた術者を一度に殺さなければならない。そして、当然の如くに数体安全圏内に置いてある。ある意味、不死といえるかもしれない。切り札となる魔法を遣いさえすれば理論上殺せるが、アレには軍の許可がいる。それ以前に被害範囲が流石に許容範囲を大きく超える。軍も許可を出さないだろう。自前で使用する術がない訳ではないが、今すぐは無理だし繰り返しになるが被害が大き過ぎる。内心で歯噛みしていると、深雪から声が掛かった。

「お兄様。アレの正体は分かりますか?どれ程攻撃しても、効果がありません」

 正体は察せられる。実際にこの眼で見ることになるとは思わなかったが。

「我が国風にいえば、天狗ということになるだろうな」

「天狗だと?」

 俺の言葉に、刑事の一人が胡散臭いことを聞いたと言わんばかりの声を上げた。深雪の眼が鋭く光る。深雪をこれ以上不快にさせる訳にはいかない。今は味方なのだから、戦力を削るのは望ましくない。

「一般的には仏僧の堕落した姿とされているが、修験道とでも結び付いたのか我が国では、天狗は堕ちた仙人だといわれている。そして、仙術には禁呪法も幾つか存在していると聞いた。その末路がアレだ」

 それを教えてくれたのは、姉さんだ。風間大佐の異名を聞いた姉さんが、忍術使いなのに天狗とは、これ如何にといっていたのが印象的だった。

 実際見てみれば、ただの化物になっただけだな。俺もよく化物呼ばわりされるが、コレよりマシだろう。

『末路とは馬鹿にされたものだな』

「日本語が分かるなら、最初から喋れ。面倒だ」

 理解しているのに、分からないないフリをしていたようだ。 

『下賤な言葉など使わんよ。そろそろいいかな。摩醯首羅(マヘーシュバラ)。貴様を葬り、私こそが完成された存在であると証明してくれる』

 俺は返答しなかった。随分と鬱屈したものを抱えているようだが、俺には関係ない。やることをやるだけだ。返事の代わりにシルバーホーンを構える。

 姉さんには、そっと力を貸してくれるよう頼んだ。こちらが頼ってくれといった手前断腸の思いだが、被害を抑えるためには最善手だ。

 奴は待っていたように、影から獣が溢れ出し、こちらに牙を剥き走り出した。さながら黒い川だ。だが、俺の眼は、奴の攻撃を捕捉できる。姿を消せるタイプも混じっているようだが、問題ない。問題は、この的の数は本気で対処する必要があるという点だ。それでも足りていないが、俺に焦りの感情は今は浮かんでこない。護るべき深雪が傍にいる以上、手出しはさせない。それが例え外法使いの天狗であったとしてもだ。

 嫌らしい笑みを浮かべて獣を嗾けてくるが、俺は淡々と処理を実行する。深雪の援護もあり、どうにか凌ぎ切るしかない。そう、凌ぐだ。

 他の面々も援護に加わる。だが、勢いは衰えることがない。

 だが、その気力勝負は唐突に終わりを告げる。刃が銀光の光の尾を引いて獣を突き刺さったことで。

 

 最強にして最悪の切り札が到着した証だった。

 

 

 

 

               9

 

 私はタチコマ達を引き連れ、索敵をしていた。私は空からでタチコマはアメコミヒーローごっこをしながらって違いはあったけど。

 その時、非常に珍しく達也のSOSを感じた。

 よし、お姉ちゃんが今行くぞ。敵は全てぶっ殺して…いや、助けに行くよ!

 飛行魔法で高速飛行。

『ああ~!待ってください~』

 うん?何か聞こえたような?そして、何かを忘れたような?まあ、こういうのは思い出そうとすると思い出せないもの。次行ってみよう。

 そして、SOSの理由はすぐに判明した。

 おやおや、良い実験台がいるじゃありませんか。まだ試してなかったんだよ。仙人殺すの。まあ、あれは外法に手を出した紛い物みたいだけど、敵だし達也達に手を出す不届き者だし始末するのになんの躊躇いもない。

 手始めに、右手の刀を弟に手を出そうとしてるワンコロが視界に入った瞬間に投擲。紅い線上に浮かぶ点に吸い込まれるように突き刺さると消えた。

 敵さんがビックリしてるよ。そりゃそうだよね。あの紛い物の術式でも、獣全て一度に殺し尽くさないと死なないようにできてたのに、()()()()()()()()()()

「姉さん。済まない」

 達也の珍しいといっては悪いけど、申し訳なさそうな様子に私は達也の隣に行き、頭を軽く撫でてやる。

「勘弁してくれ」

 いきなり素で返すなや。紅い線斬りたくなるわ。

『貴様、何をした』

「交番行って聞いてごらんなさいな」

 私は、味方への挨拶を抜きにして、実験台へと答えを返した。地面に突き刺さった刀を回収して構える。

 何やら、後ろの人達がポカン状態だが、致し方ない。悪いけど、実験の方が今は優先だ。

「さて、実験に付き合って貰おうかな」

 実験台は不快気に顔を歪めたけど、何もいわなかった。無言で獣に指示を下す。私を殺せと。

 いや、しかしこの実験台、ネロの劣化版に見えるのは気のせいでしょうか?まあ、殺すけど。

 だけど、残念。全部見えてるんだよね。お前が、どこに自分の命たる獣を数体隠している場所も。お前と繋がってるんだから、一目瞭然だ。姿を隠していようが、存在する以上紅い線が教えてくれる。点が壊してくれる。

 私は二刀を手に襲い来る獣を斬り殺す。一斉に飛び掛かってくる獣達が雲霞の如く攻め寄せる。私は僅かにスペースをこじ開けて身体を滑り込ませ、獣の紅い線を縦横無尽に斬り裂き殺す。数が多いお陰で黒い塊で一つに見えてくる。どれも元は同じ命。増やそうが無意味どころか、こちらは削りたい放題。どこを斬ってもよし。ちょっと努力して刀を速く振る必要があるのが面倒だが、普段の素振りに比べれば大したものじゃない。無理矢理殺しまくってこじ開けた隙間に滑り込んでくると予想していた獣の顎が目の前に飛び込んでくるが、私は踏み込みと共に脚に力を籠めて蹴り上げる。爪先が点を抉る。獣が上に跳ね上がられると同時に消滅。思わず笑みが浮かぶ。脚を上げて踏み込みが遅れると判断したのか、獣が襲い掛かってくるのを蹴り上げた脚を引き戻すと同時に踏み込みとする。二刀を振るう。徐々に醜い獣の包囲が薄くなっていく。ダメだね。もっと強いの造らなくっちゃ。そんなに弱いといくらだって斬り殺せるよ。血の臭いすらしない。ただこの世から消えるのみ。一方的に殺戮していく。血が出ないのは、後ろの子達のメンタル的に有難い。漸く後ろから最初に討ち漏らした獣が襲い掛かるが、無駄だ。ノールックで刀を振るい、身体を足捌きで回転するように運ぶ。銀閃が籠の目の前後左右上に走り悉く沈黙。

 徐々に手持ちが減り甘くなった攻撃を余裕で避けつつ、刀を迷いなく速度を落とすことなく振るう。いや、速度は上がっていっている。力を使えば遣うほどに、鋭さも増していく。それに反比例するように、自己修復術式の効きが悪くなっている。自力での精神の踏ん張りも駆使して耐える。繋ぎ止めるアンカー頼り。大切な人達を殺人の快楽で忘れないようにする。

 まだ、どこか余裕を残している実験台の顔が気に入らない。死なないとまだ思ってる?そろそろ面倒なとこにいる奴を始末しとこうか。

 おんや?攻勢が緩んできたけど、どうしたのかな?とか思ったら、実験台がビビったように後退りした。顔には出さないようにしてもビビりは隠せなかったのね。まあ、こんな詰まんない禁呪に手を出すくらいだから、ビビりに決まってるけど。

『後退!?この私がか!?』 

 思わず笑ってしまった。だってさ、ネロの劣化版だと思ったら台詞も同じような感じのこといったんだよ?笑うでしょ。

 これは、例の台詞をいうチャンス到来ということでいいのでしょうか?これはいよいよテンション上がって参りましたよ。

 本当は、サッサと実験だけして終わらせようとしたけど、予定変更。君のお笑いセンスに免じて付き合って差し上げましょう。

 眼で命というパスを辿っていく。あとは千里眼でその獣を捕捉。実験台の保険に通じている紅い線に向けて刀を突き刺す。パスを断ち切り、切断の魔法で消える前に演出として殺す。安全な場所にいる獣がバラバラになるのを眺め、千里眼を切る。

『なんなんだ!?貴様は!』

 いやいや、そこは大物感保っておかないと。ネロを目指すんだ!無理か。これだから劣化版は。

 

 でも、これは一度いってみたかった台詞をいうチャンスくるんじゃない? 

 

 

 

 

 

               10

 

 大亜連合軍人視点:

 

 上層部に、自分の存在がいかに優れているか知らしめる。それこそが今回の侵攻作戦に参加した理由だった。無駄に時間の掛かる修行などしていたら、師のようにあっという間に爺になってしまう。より強力な存在へと至る道があるのだから、そうすべきだ。だというのに、上層部は私を認めなかった。いや、認める振りをした。体よく実験体として試験するつもりなのは明白だった。使えるようならば、正式に認めてもいいと。ふざけるな。これは私のように才がある者が辿り着く領域だ。凡俗が努力で辿り着くものではない。私はそれを、この戦場で証明しなければならない。

 ならないのだ。だというのに、なんなのだ、この光景は。私の傑作というべき命を別けた獣が成す術もなく殺されていく。殺される訳がないのだ。私の別けた命が一つでも残っていれば、再生する。そのように造り上げた。

 そんな非現実的な光景を見ている私の頭には、ある話が過っていた。摩醯首羅(マヘーシュバラ)以上に猛威を振るい大亜連合軍を殺したという化物についてだ。たった一人に大亜連合兵士・兵器が次々と斬り捨てられた。それを聞いた時、腕が立つのだろうが私の敵ではあるまいと思った。随分と大層な女神の名で呼ばれるその化け物も、自分に掛かれば他愛のないものだろうと。

 だが、それが目の前にいる、これがそうだとすれば?

 悍ましい音と共に私の目の前にいた筈の獣達が二つに分けれて地面に倒れ、死んでいく。無限の獣達が、不死の化け物達が為す術もなく殺されていく。私の命が削られていく。ただの剣腕ではない。それでは、私の不滅の命が削り取られる訳がない。なんなのだ、これは。しかも安全圏に置いていた獣まで、どういう訳か殺さてしまった。これで、私の命は、この目の前の怪物に晒されてしまった。そう感じた瞬間だった。

 

 ザリッ。

 

 何かの音が私の耳を打った。なんの音なのか暫くは分からなかった。だが、発生源は自分の足元であり、自分の足だった。

「後退!?この私がか!?」

 更に苛立つことに、目の前の存在がマスク越しに嘲笑するように笑ったのが感じられた。頭に血が上る。

『なんなんだ!?貴様は!』

 我ながらみっともない声が自分の口から洩れる。怒りに支配されているにも拘らず上擦った声。それだからこそか。

 奴はゆっくりとした足取りで近付いてくる。全く私を恐れる様子もなく。その眼はまるで実験動物を観察しているかのようだった。

 目の眩むほどの怒りが湧き上がってくる。

 

 殺す。

 

 私の全てを持って殺す。一斉に攻撃しても、どうせ斬られて命を削られる。一気に片を付けるのだ。圧倒的な力で潰すのだ。

 自分の身体が巨大に、かつ強力になっていくのが感じられる。万能感に満たされていく。どうしてもっと早くにこうしなかったのか。自分が獣に堕ちようと構いはしない。この怪物を殺せるならば。

 

「死ねぇぇぇ!!」

 

 裂帛の気合と共に磨き抜いた体術と魔法は、獣に完全に堕ちようとしている私に味方した。獣の本能と人の技の融合。光の如き速さで奴の貧弱な身体を砕くべく、踏み込みから拳を流れるように力を開放する。

 奴の心臓を捉え、拳が貫く。手応えがまるでないが、そんなものだろう。何しろこの威力だ。当たれば小娘程度、風船を割るようなものだ。

 笑い声が思わず、漏れそうになった時、自分の身体が傾いだ。そして、そのまま踏ん張ることもできずに、無様に横に倒れた。脚が切断され、いつの間にか奴が剣を振り抜いた形で私の斜め後方に居たのだ。当然の如くに失った脚が再生することもない。

「何故ダ!?永遠ノ命を!私ハ形は違エド手にシた筈ダ!!何故、私ノ命が失ワれてイク!?」

 混乱の極みの私を嘲笑うように、ゆっくりと奴は振り返り、これ見よがしにゆっくりと剣を構え直した。

 そして、楽しくて仕方がないといった風に奴は口を開いた。

 

「お前が本当に永遠の命をてにしていようが、不死を獲得していようが関係ない。私が殺すのは、お前という存在そのものだ。存在しているなら神様だって殺してやる!」

 

 哄笑と共に狂気と殺気が叩き付けられる。

 獣と化そうとしている私の本能が恐怖の悲鳴を上げている。

 私の口からは自然と意味の分からない叫び声が迸る。残る脚に力を籠めて立ち上がり、拳を振り上げる。それは恐怖に駆られた行動に過ぎなかった。

 仮面越しでも奴が薄ら笑いを浮かべているのが、何故か確信できる。

 殺す。殺さねばならない。

 私の拳にまるで奴は反応しない。その油断が死を招く。私はそのまま拳を先程よりも早く繰り出す。奴が少し動くだけで躱す。貰った。

 私の拳が通過すると同時に腕から奴の横顔を食い破ろうと目に見えない獣が顔を出す。牙が奴の顔に食い込もうという時に私の獣が、なんの前触れもなくバラバラになった。腕の一部が崩れ落ちる。

 何が起こったのか分からない。だが、混乱することは許されない。が、僅かな隙を見逃す敵ではなかった。

 

 気付いた時には既に遅かった。奴の剣が胸にスルリと滑り込んできた。

 

 その瞬間、死を感じた。本来ならば、胸を刺されようが死ぬ筈のない私が。これは死だと。無常と呼ばれる死神を迎え入れた時が、このような心持ちなのだろうか?

「貴様が私の死か?」

 奴が仮面の奥でニヤリと嗤うのを感じた。

 身体からあれだけあった力が抜けていく。身体に罅が走る。

 死をあれだけ恐れていたのに、心は穏やかだった。

 最高神でさえ、勝利の舞踏を踊り狂うかの女神を止めるために、身を挺して大地を護るしかなかったという殺戮の女神。

 名付けた奴は上手いことをいうものだ。これは、誰に止められない。摩醯首羅(マヘーシュバラ)であったとしても、いや、だからこそか…。

 私は、その女神の名を口にする。

迦利(カーリー)…」

 

 身体が、意識が消え去るのを感じた。

 

 

 

 

               11

 

 いやぁ、最後の反応良かったよ。劣化版。最初からそれをやればよかったのにさ。

 思わず、笑い声が出ちゃうよ!

 うん?何やらドン引きされているような?周りの目が、どこかで見たことのあるような感じになってるけど。

 うん。現実逃避終了。

 まあ、結構自分の行動を思い返してみてもビビる要素しかないから、これは当然か。

「そんな眼で見ないでください」

 深雪が、私を庇うように立ち、結構結構オコな声を上げた。うんうん、いい子に育ったものよ。でも、いいんだよ。そこまで期待するのは酷だからさ。

「啓!しっかりして!」

 そこにキャノン先輩の悲痛の声が、深雪の言葉をぶった切る。

 そちらを見ると、おかっぱ君が血塗れになっていた。おお。おかっぱ君やられてしまうとは情けない。

深雪も流石に死にそうなおかっぱ君を放置して怒り続けることができずに、達也に縋るような視線を送る。

 私も達也の肩を叩いた。それだけで伝わる。達也が無言で頷いた。ほら、伝わった。達也が無言でシルバーホーンを構える。しかし、すぐさま再成を使う様子がない。深雪が怪訝な表情で達也を見守っている。私はその原因を自前の眼で探る。

「何する気!?」

 キャノン先輩がおかっぱ君にとどめを刺す気かと語気を荒げる。

 達也が私の方に視線を遣る。いいたいことは分かる。原因が私にも分かったから。でも、再成でイケるよね?私だと過激な手段しかなくなるんだよ。霊光波動拳のアレは今のおかっぱ君には耐えられんだろうし、もう一つも過激だよ?やるの?あっそう。じゃあやるよ。

 私は視線だけで達也と会話して、刀をおかっぱ君の傷に切っ先を向ける。

「ちょっと!!」

 キャノン先輩のリアクションは無視して、おかっぱ君に残留している蟲毒を()()。どうやらあの実験台は、蟲毒まで用意していたみたいで、おかっぱっ君はその餌食になったようだね。達也の再成なら、蟲毒が付く前のエイドスを上書きしちゃえばいいのにね。そしたら、面倒が減るのに。そして、キャノン先輩他大勢の悲鳴を無視して刀で刺し貫いた。

「啓!!いやぁぁーーー!!!」

 私は静かに刀を引き抜く。その不自然さに全員がさっきまで上げていた喚き声を忘れた。だって、血が出てないんだから当然だよね。

「蟲毒だけ殺しといた。あとは頼むよ」

「分かった。ありがとう、姉さん」

 達也は素早くこれ以上騒がれる前にシルバーホーンの引き金を引く。一瞬にしておかっぱ君が傷を負う前の状態に戻ったことに驚愕した。だから、私のステップ要らないよね。いや、意図は理解するよ?私も救う力になれるのを見せることで、私に対する恐れを和らげようとしてくれてたって。う~ん。逆効果じゃない?考えても仕方ないか。結論が出たところで、私は次に行く。周公瑾をぶっ殺すというお仕事が途中だ。

「お姉さま!」

 重要案件を済ませようと飛び立とうとした私を深雪が呼び止める。深雪の苦渋の声に、私は振り返った。とても辛そうな顔をしていた。私の手を煩わせたとでも思っているんでしょう。私は静かに頭を撫でてやった。私もドンマイの意味を籠めて優しくしないと。ちょっと震えてしまっているのは、ご愛敬ってことで?紅い線を傷付けないように撫でるって何気に気を遣うからさ。

 自己修復術式は直死の魔眼の副作用…?に効果が弱い。時間を掛ければ元通りになるとはいえ、そうなった記憶は残る訳だから精神的にもクルものがあるし。出来れば使いたくない手段だけど、必要とあれば使っていかないとね。何度もいうけど、私も成長しているから大丈夫。

 達也の魔法に驚いて、私から注意が逸れているうちに、サッサと退散しないと。

 達也より一足先に空中に飛び上がる。

『特尉!酷いですよ!置いてって!』

 いつの間にかタチコマ到着してたんだ。そういえば、置いて行ってたわ。今思い出した。

 私はタチコマ達に後で天然オイルを奢るからと詫びを入れ、飛行速度を上げた。

 

 速度を上げる寸前に何か聞こえた気がしたけど、急いでるからパス。

 

 

 

               12

 

 美月視点:

 

 会長…いえ、七草先輩が深景さんに何か声を掛けようと呼んだみたいだけど、聞こえなかったのか深景さんは行ってしまった。多脚戦車を連れて。

「柴田さん…大丈夫?」

 吉田君が心配して声を掛けてくれる。心配されても仕方がない。私の顔は真っ青だっただろうから。

 本来、友達にこんな感情を持つのは良くないというのは分かってても止められない。私はあの眼を観てしまった。正確にいえば眼に繋がる深淵を。どうして彼女はあんな恐ろしい力を使って戻ってこれるんだろう。正気と狂気を行ったり来たりしながら、均衡を保っているみたいだった。いっそ狂って殺人鬼になってしまった方が楽なんじゃないかとすら思ってしまう。私なら耐えられない。

 深雪さんは、達也さんは、私がそんなことを考えていることが分かったら怒るだろう。あんなになってまで、みんなの為に戦っているから。だからせめて、深景さんが戻った時は、いつも通りに接するように頑張ることくらい。正直自信は持てないけど。今は涙も流すことあ許されない。だって、泣きたいのは、そんなお姉さんを見送らなければならない二人だろうから。

 

 私は、湧き上がってくる感情を隠すためにできる限り俯いていた。

 

 

 

               13

 

 真夜視点:

 

 私は最高のショーにため息を漏らす。

 多脚戦車のカメラを利用しての観戦は私にとって最高のものだった。

 我ながら恍惚とした溜息を洩らしたものね。葉山さんの方へチラリと視線を向けると、彼にしては珍しいことにこちらの視線に気付くことなく、モニターを凝視していた。この様子では何が起きたか、彼でも確認できなかったのでしょう。無理もないですけど。だけど、異常事態が起きたことだけは分かる。だから、視線を逸らせない。理解できないことは恐ろしいですものね。

 私自身もう一度、この目であの子の力を確認できて満足。あの眼は四葉に、いや私が欲しい。目を抉り取って得られるなら、深雪さんや達也さんに恨まれようともやるでしょうね。でも、もう一度我が目で確認したけど、恐らくは私が得ることは叶わない。あれは、現代魔法やら古式魔法などという枠のものではない。習得も術式の複写も不可能でしょう。ならば、あの眼を後世に継がせることが重要ね。深景さんの夫はある意味深雪さん以上に慎重に選ばないと駄目。そして、その子を私が養育して私の駒にする。その力を私のために使うことが幸せだと思わせる。なんて素晴らしいんでしょう。今から楽しみだわ。

 思わず忍び笑いが漏れそうになるのを、手で抑える。

 迦利(カーリー)

 その異名で呼ばれる姪が愛おしい。

 

 そろそろ、まだ固まっている葉山さんを正気に戻さないと。

 

 

 

 

 




 天狗の設定は、とある作品からの引用でしたが、ソースが見つかりませんでしたね。
 某・永遠の五歳の番組で改めて、そんな情報見つからず焦りましたが、この世界はそういう設定ということでお願いします。

 次はカバネリか…。
 次話は…時間がどれだけ掛かろうとも書く所存。
 苦手な戦闘、何度書き直したことか…。

 次回もお付き合い頂ければ幸いです。



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