【完結】鈴木さんに惚れました (あんころもっちもち)
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第1章《惹かれ合う二人》
01.意外な素顔


初投稿です!
※リアルでの生活はオリジナル要素多め


今日も一日が始まった。

 

「お、おはようございます」

 

「おはようございます」

 

私は 挨拶をして、彼の左側のデスクに腰掛けた。優しく笑いかけながら返事をしてくれた彼の声を聞いただけで、私の心臓がドクンと跳ねたのを感じる。

カッコイイなぁ

 

『鈴木 悟』さん。

優しそうな顔立ちに、スラッとした体型、ぴょんぴょんと はねた寝癖が可愛らしい 私より3つ年下の男の子だ。

 

立派な成人男性に男の子だなんて、失礼だろうが 口に出さなきゃ問題ないでしょ。

 

このブラックな会社に務めてる社員なだけあって、顔色悪いけど・・・

あーでも、それは鈴木さんだけじゃないね。私を含め、ここの社員の殆どか顔色悪い。

 

だけど、鈴木さんは、最近は本当に元気がない・・・気がする。いや、タダの挨拶をするだけの職場の人間に何がわかるんだって話だけどさ。

 

でも、好きな人の事はつい目で追っちゃうんだから、仕方ないじゃないか。

 

 

彼の容姿は、悪くいえば、ひ弱そうな決してモテるタイプではない。

 

今の時代、女性から支持を集める男性といえば、ズバリ!「守れる力のある人」だ。

権力でも金でも 男らしさという面でも、世知辛いこの世界で生き抜くためには強い男性が求められる。

 

私だって、そりゃ ・・・守ってくれるなら守って欲しいよ?

 

《俺に付いてこい、お前を守ってやる》

 

って、鈴木さんに言われたい。

キャーーー 妄想したら顔がっ、顔が、熱くなってきた。

 

ガタンッ

 

「いっ、」

 

痛っい!?

 

赤くなった顔を両手で覆おうとしたら、右肘がデスクに思いっきりぶつかった。

ジーンってする、地味に痛い・・・

 

 

「加藤さん、大丈夫ですか??」

 

 

右側を見れば、鈴木さんが心配そうにコチラを見てくる。

見られてるよ!?くっそ、くっそ恥ずかしいー!!

 

「だ、大丈夫ですので ・・・すみません」

 

「顔も赤いようですし、体調大丈夫ですか?・・・無理しないでくださいね」

 

「は、はい」

 

緊張して小声になってしまう自分が恨ましい。いつもは挨拶しか出来ない鈴木さんとお喋り出来てるのに、シッカリしろよ!?

 

 

「加藤ちゃん〜、風邪か??」

 

 

後ろから声をかけられ、身体が 緊張でビクンとした。

振り向けば、私の後ろで ニヤッと気味悪い笑みを浮かべた部長が立っている。

 

「い、いえ 風邪じゃないので・・・」

 

「そうか〜? どっちにしろ今は忙しいからさ 休ませてあげられないんだけどさ。辛くなったら何時でも俺の部屋に来ていいからねぇ」

 

忙しいのは「今」だけじゃないだろ!

ってか、お前の部屋なんか絶対に行くもんか!!

 

「・・・は、い」

 

俯いてやり過ごそうとすれば、私の肩をスルスルと撫でて部長は、立ち去った。

 

キッ持ち悪!!!

 

怒りで身体がふるふると震えてくる。

 

 

アイツはこの会社でも有名なセクハラジジイだ。難アリの私にですら この変態臭いボディタッチだ。

これが可愛い女の子になるともう悲惨。目を付けては、触る触る。あわよくば食べてしまおうとするらしい。

 

へ・ん・た・い!!!バーカ!ハゲ!くそやろお!!

 

 

心の中で罵倒を浴びせつつ、私は仕事に戻った。せっかくの鈴木さんとの幸せタイムが終わってしまった。

次に話せるのは 仕事終わりの「お疲れさま」までお預けだ。

 

もう、ちゃっちゃと仕事終わらせよ。

 

私は意識を仕事モードに切り替えて黙々と作業を始めた。

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 

「お疲れさまです、お先に失礼しますね」

 

「お、お疲れさまです」

 

結局、昼過ぎにセクハラ部長が 更なる仕事を押し付けてきたせいで まだ仕事が終わらぬ。 うえぇ

 

いつもは私より遅く帰る、鈴木さんが先に終わってしまったようだ。

あぁ、癒しの声だなぁ。ふふふっ

 

やる気充電できた、残りの仕事も一気にやるぞ〜!

 

 

「まだ終わりませんか?」

 

「ははぇ?」

 

え?話し掛けてくるとは思ってなかったので変な声が出た。

 

「この、ファイルで・・・」

 

「あぁ、コレですね さっさと終わらせちゃいましょうか」

 

そう言って鈴木さんは自分の席に座り直し、私の仕事に手をつけ始めた。私は 突然の事で戸惑いながらも、なんとか声を出した。

 

「あ、の、大丈夫ですから、その・・・」

 

「いえ、あー、あの、朝 申し訳無いことしたので」

 

「え?」

 

朝?なんかあったっけ??

 

「僕が風邪か?なんて聞いたせいで、部長に・・・」

 

「ぁ、あの気にしないで、ください。すす鈴木さんのせいじゃ ないです!から」

 

えーー!!あれを気にしてくれてたのか?!鈴木さん何一つ悪くないでしょ、悪いのはあのハゲ部長だから!?

 

「ハゲ部長・・・?」

 

「あ、え、声に」

 

「出てましたね」

 

あぁああーーー!!

終わった、終わった、オワタ!!

私の恋 オワタ!

 

タダでさえ滑舌悪くてキョドりまくりの気持ち悪さ満点女なのに、中身がこんな残念仕様だってバレた!!!

 

 

「アハハ、加藤さんでも そう思うんですね」

 

「あ、」

 

「すみません、いつも加藤さんは 大人しくしてるので 部長の事を怖がっているのかと思ってて・・・他の女性達は、部長のセクハラに対して反論したりするのにそれもしないから、怖くて震えてるのかと」

 

どちらかと言えば、怒りで震えてたんだけどね!

 

「・・・すみません、笑っちゃって不謹慎でしたね。」

 

しゅんと落ち込む鈴木さんに思わず、声が出た。

 

「いえ、す、鈴木さんの 笑ってるところ見れてラッキーでした」

 

「え」

 

「あ、」

 

何言ってるんだ、私はーーーー?!

 

「あの、そ、の、最近は、元気なさそう、だったので、」

 

「あ、あぁ、そうですね・・・」

 

地雷踏んだ〜!?

鈴木さんがファイルを手に取ったまま固まってしまった。

 

そうだよね、

 

元気ない=嫌な事があった

 

んだもんね?!普通に考えれば分かるでしょうに、私のアホんたれ!!

 

 

「す、すみ、ません!!!」

 

「あ、いえ、いえ、そんな大した事ではないんですよ。一緒に遊んでた仲間と中々 会えなくて寂しい・・・というか」

 

「あ、遊んでた・・・?」

 

「『ユグドラシル』って知りませんか?VRMMORPGの」

 

聞いたことがあるかも?

一時期スゴく流行ったんだっけ。

 

私はこのキョドり癖があるから、誰かと一緒にゲームをやるのが苦手で 手を出さなかったんだけど。

 

「む むかしに、流行りました、よね?」

 

「あのゲームにハマってましてね、そこで一緒にプレイしていた なか、あー友達は ゲームにINしなくなってしまって。」

 

「そう、なんですね」

 

「すみません、変な話をちゃいましたね。・・・残りの仕事、ささっと終わらせちゃいましょう」

 

「は、はい!」

 

 

鈴木さんのおかげでものの30分で残りの仕事も片付いて帰ることが出来た。

 

でも、あの時の・・・

鈴木さんの悲しそうな顔が 脳裏にこびり付いて離れそうになかった。



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02.『ユグドラシル』

すっかり暗くなった道を、とぼとぼと歩いて自宅へと向かった。

頭の中をグルグルと鈴木さんの言葉が 流れては消えていく。

 

「友達がINしなくなってしまって・・・」

 

ゲーム仲間というやつなのだろうか・・・。一緒にプレイ出来なくなれば寂しいのも当たり前だろうに、だから元気なかったんだね。

 

自宅の玄関のドアに手をかけてふと、思い付いた。

 

ゲーム仲間・・・それって、私でも良いのかな?

 

INしなくなったって事は、一緒にプレイする人は居なくなったのか、少なくなったということだと思う。

それならさ、私が「遊んで〜」って行っても 歓迎してくれるんじゃないかな??

 

 

そしたら、すっ鈴木さんと一緒にゲームで、デートなんて事も・・・!!?

 

 

思い立ったら、即行動に移していた。

着替えもせず、急いでパソコンを起動させ『ユグドラシル』を探した。ゲームの世界観やら説明をバーーっと読み進めていく。

 

ん??

 

※『ユグドラシル』は、2月28日をもちましてサービス終了させて頂きます。

 

 

は?もう終わっちゃうの??

これは、あと、約3ヶ月しか時間が残されてないってこと?

 

そこで手が止まってしまった。

 

せっかくのチャンスだったのになぁ。

まぁ、よくよく考えてみれば、どうやって「一緒に遊んで」なんて言えばいいの?!

今日、初めて挨拶以外の会話をした仲なのに、そんな図々しい事言えない。言えない。

考えたら恥ずかしさのあまり、顔が熱くなってきた。

 

「いえないよね〜」

 

私の恋愛はいつもそうだった。

大して可愛くない顔立ちで、更に小さい頃に火傷してしまった為左頬には決して小さくはない傷跡が残ってる。

どちらかと言えばポチャっとした身体。上手く喋れなくて、自信がなくてウジウジしてたら いつの間にか丸く曲がっていってしまった背中。

 

ブスでどうしようもない私にも優しくしてくれる人は一定数いる。それも、下心抜きにして 心からの善意で接してくれる人。

私は昔からこのタイプに弱かった、優しくされると癒されていつの間にか好きになる。

それで、何も行動出来ないまま、失恋してることが多い。

 

鈴木さんも私に優しかった。

いつも笑って挨拶をしてくれるし、何より、私の事を「気持ち悪いオバケ」といった同僚から守ってくれたことが1回だけあった。

「そんな言い方ないんじゃないですか?」って、、それだけだった、それだけでどれだけ心が救われたか。

 

いつの間にか、鈴木さんを目で追うようになっていた。

気が付けば、恋に落ちていた。

 

「はぁ〜」

 

なんとなく、コレで終わりにはしたくなくて 『ユグドラシル』をダウンロードする事にした。

 

パソコンから離れて、服を着替える。

もう少しだけ、鈴木さんに近づきたかった。

 

彼の好きな世界を私も体感してみたかった。

鈴木さんに言うかどうかは別にして・・・ちょっとプレイして見ようかな? かなり自由度の高いゲームだと言うことは、さっき調べた時に分かった。自分のキャラクターデザインも細かい所までいじる事が出来るようだし、『理想の自分』でも作成してみようかな。

 

 

美人で、顔にキズもない綺麗な女性。

身体もせっかくだから、理想の・・・男の人ってナイスバディな女の人が好きなんだよね、それじゃ、鈴木さんも・・・??

 

いやいやいやいや、分かんないよ、聞いたことないし!

ってか、鈴木さんがナイスバディな女の子好きだったら私なんかOUTだからね!?

あぁ、自分で考えてて悲しくなってきた。

 

うー確か、人間以外の種族も選べるんだよね。なら、いっその事 実はスゴい化け物だけど美人な感じにしちゃう??

 

ダウンロードに時間もかかることだし、明日、仕事から帰ってきたらキャラ作成しちゃおう!

 

 

思えば、ゲームするのなんて久しぶりだ。

 

 

「うふふふっ」

 

 

鈴木さんに近づけると思ったらちょっとだけ嬉しくなって、傍目から見たら、もの凄く気持ち悪いだろう笑顔を浮かべたまま、私は眠りに落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




※『ユグドラシル』終了日は分からなかったので、捏造ですよ!


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03.幽霊

☆鈴木悟 視点

 

 

「おはようございます」

 

「お、おはようございます」

 

 

今日もこの挨拶から仕事が始まる。

 

この会社で務めだして、もう7年目に差し掛かる。

加藤さんと隣の席に移動になってからは 2年がたった。

 

彼女は、仕事を進めるスピードがとにかく速い。そういう意味では仕事が出来る女性だと思う。

だけど、その反面、新しい事を覚えるのが遅い。

だから結果的に、「単純で誰でも出来るけど、誰もやりたがらない仕事」をやらされている。所謂、雑用係だ。

 

仕事の出来る女性は煙たがれることが多い。学歴のない人間は特に。

だけど、彼女の場合は 皆に重宝されている。雑用係で、自尊心の傷付けられない便利な子扱いなんだろうけど・・・。

 

あと、彼女は、人と話すのが苦手らしい。

挨拶をする時ですら、緊張するのか挙動不審になっている様な気がする。左頬にある傷を気にしてか、長い黒髪で顔の半分を隠しているので あだ名は『幽霊』。

 

もし、加藤さんに白いワンピースを着せて 顔を青白くさせ、ガリガリしたら、まさしくあの定番の『幽霊』の姿だとは思う。

 

 

加藤さんは猫背だけど、意外と胸が大きいらしい・・・と、トイレに行った時に他の社員が話していたのを聞いたことがある。

 

ホントかどうかは知らない。

 

そんな、マジマジと女性の胸なんか見えないから!!

ペロロンチーノさんだったら 気にせず確認出来るのかなぁ〜、あの人はそういった度胸はありそうだし。

 

「はぁ」

 

 

かつての仲間を思い出して、思わずため息をついてしまった。『ユグドラシル』のサービス終了が告知されてから気持ちが沈んだままだ。

 

段々とプレイヤーの数が減少しているのは知っていた。それでも、考えないようにしていたんだ。・・・終わりが来る日のことを

 

毎日ログインしては ギルドの運営費を稼ぐ日々。

さぞかし滑稽だろう。馬鹿なヤツだと笑う自分もいる。でも、捨てられなかった。あの場所は俺の・・・

 

 

「もう終わったのかぁ流石、加藤ちゃんだねぇ〜」

 

「い、いえ」

 

「なら、コレもお願いしてもいいかなぁ?」

 

「ぁあ、いつ、まで、でしょ、うか?」

 

「んー明後日まででいいよ。ヨロシクね」

 

「は、い」

 

 

隣をみれば部長が加藤さんに仕事を押し付けているところだった。

部長はいつも去り際に、加藤さんの身体を触っていく。

頭や肩、腰周りまで。男の自分から見ても気持ち悪い触り方だ。

 

でも、俺には何もしてあげられない・・・。

 

 

 

 

先日の事を思い出す、

仕事終わりに加藤さんと話した時のこと。

元気がないと言われて、つい、ユグドラシルの事を話してしまった。大の大人が「仲間が来なくて寂しい」なんて恥ずかしい。

 

口に出した時はしまったと思ったけれど、加藤さんは 馬鹿にする訳でもなく、ただ 悲しそうにしていた。

誰にも打ち明けるつもりのなかったこの感情を、真剣に受け止めてもらえただけで、なんだか少しだけ楽になった・・・気がした。

 

 

 

 

 

〜♪

 

お昼の時間を知らせるチャイムがなった

 

 

椅子の上でぐぐぐーっと伸びをして、足元に置いてあったカバンから昼ごはんを取り出した。エネルギーを補充する事に要点を置いた味気ないご飯。

 

 

「ぁ、あの」

 

隣からか細い声が聞こえて、そちらを向けば 顔を俯かせた加藤さんが、コチラを見ていた。

 

 

「どうかしましたか??」

 

「あの、その、わ、わたし」

 

 

いつも以上に挙動不審になりながら一生懸命に話しかけてくる彼女の様子が 子どもが勇気を振り絞って話しているように見えて失礼ながらも微笑ましく感じた。

 

 

「ゆ『ユグドラシル』を、はじめたん、です、けど」

 

「え?」

 

『ユグドラシル』を?

 

「その、「ルシファー」のクエスト、で、つまづいて、しまって」

 

「ルシファー」って、かなり序盤に出てくる人間種しか入れない街のキャラクターの事だろうか?

たしかアレは・・・

 

「単独だとダメなんですよね。パーティーを組んででしか入れない、何ていうダンジョンだったっけな・・・」

 

「ゆ、雪のはい」

 

「あぁ、雪の廃鉱山!」

 

懐かしいなぁ〜初心者用のダンジョンだったから お世話になったのはかなり昔の事だったしなぁ

 

「そ、の雪の廃鉱山にある 雪草を、15ほん、取らないと、行け、なくて」

 

「なら、一緒に行きましょうか??」

 

 

ポロリと口から出た言葉だった。

 

アインズ・ウール・ゴウンの仲間たちと同じような・・・とはいかないけど。リアルでの知り合いである彼女とゲームを楽しめたら、終わりを迎えるだけだった『ユグドラシル』にも新しい楽しみを見い出せる気がしたんだ。

 

「い!良いの、ですか?」

 

期待に満ちた目でコチラを見てくる彼女に、もちろんですよ。と返事をしたら、彼女は本当に嬉しそうに笑った。

 

「うふふふ」

 

 

俺は彼女の初めて見せたその表情に、一瞬、心を奪われた。

 

 

ーーー幽霊も笑うと普通に可愛いんだな

 




ちらほらと現れる捏造ポイント


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04.大きないっぽ!

「よっっっしゃーーーーー!!!!」

 

自宅へとダッシュで帰宅した私は嬉しさのあまり、勢い良く手に持っていたカバンをベットへ投げてクルクルとその場で、まわった。

 

「う〜ふふふふふ」

 

鈴木さんとゲーム出来る!!!

こ、これは鈴木さんとデート出来るって事で良いのかな?イイよね?!

 

「ん〜ふひゃ、ふふふっ」

 

にやけ顔が止められない。気持ち悪い顔してるな〜なんて頭の端では考えながらもこの感情を表現せずにはいられなかった。

 

あの時、勇気出して良かった!!ホント、良かったぁ〜!

 

 

ゲームを始めた当初は、鈴木さんを誘う考えはなかった・・・度胸がなくて、はなから諦めていたともいうけど。

 

元々ゲームは一人プレイ派だったので、一人で鈴木さんの大好きな世界を楽しもうと思っていたのだ。

 

”パーティーを組まないと進められない”なんてクエストにぶち当たるまでは。

 

もうすぐサービス終了を迎える『ユグドラシル』にて、「これからゲームを始めよう!」なんて人は殆どおらず、初心者用ダンジョンの雪の廃鉱山は見事に過疎ってた。

 

それでもゼロじゃないのだから、野良パーティーを組むことが出来たとは思う。私がこんなにもキョドらなければね。

 

ネットでの顔も名前も知らない相手。もっと気楽に話しかければいい・・・とは自分でも思う。

でも、相手がこのキャラクター越しに実在するのだと、人間だと、思うだけで無理だった。

 

 

仕方ないので、他に進められそうなクエストをやったり、草原で雑魚モンスターをちまちま叩いたり・・・そんな事をしていた。

「これをチャンスだと思って、鈴木さんにお願いしてみる?」とはスグに思い至ったものの、鈴木さんからしてみたら何のメリットないもんなぁ〜。と考えると尻込みしてしまう。

 

 

 

でも、そんなふうにウジウジしていた私の背中を押す人物が現れた。

・・・本人はそんなつもりなんてミジンコ程にも考えてなかったんだろうけど。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

 

きゃいきゃいと笑い合う声がコチラに向かって来るのが分かって、トイレの個室から出ようとドアに触れようとしていた手を思わず引っ込めた。

 

昼休憩も終わりがけのこの時間は、いつも、食事を終えた女性が歯磨きやらメイク直しをしにトイレの手洗い場、鏡前を独占する。

 

内心あちゃーと思いながらも、どうしようか迷っていると、

 

 

「本当に、ありえないから。もうマジで無理」

 

「仕事だし仕方ないじゃん。慣れるしかないよ」

 

耳に入ってきた不穏な会話に思わず身を縮こませた。

 

誰の事を言っているのかなんて分からないにも関わらず、「もしかして、自分の事なんじゃ・・・」との考えが、頭をいっぱいにさせていた。

 

 

「いくら仕事が出来るからって、調子に乗りすぎだからねッ、何度ぶん殴ろうと思ったことか・・・」

 

「まぁ、気持ちは良く分かるけどね」

 

 

きゅっと心臓が締め付けられる。

 

 

「私はキャバ嬢になった訳じゃないっての!!」

 

「まぁまぁ」

 

 

ん?キャバ嬢?

 

 

「尻ぐいって揉まれたんだよ! 悪寒が止まらないわ、パンツが尻に食い込んで気持ち悪いわ」

 

 

あぁ〜、セクハラ部長の話か。緊張で強ばっていた身体が、すっと緩んだ。

この会社に入社してから 遠巻きにされたり からかわれたり は、あったものの イジメにあった事は無い。

 

大丈夫、だい・・・

 

 

「まぁ、そういうプレイだと思えば、アリなんじゃないの??」

 

 

「え"」

 

 

え?

 

大丈夫そうじゃない発言が飛び出した事にびっくりした。・・・が、野次馬精神で彼女達の会話に耳を傾けた。

 

 

「部長さ、仕事出来て将来性があるし、ギャンブルもしないし、お酒もダメ。実家もお金持ちで 玉の輿間違いなしッ・・・・・・まぁ、女癖が悪いのさえ目を瞑れば、優良物件なのよ」

 

「欠点が致命的過ぎて私は無理だけど」

 

「セクハラも割り切れば楽しめるというか・・・」

 

 

その声からは、どう考えても喜色が読み取れて、私は 空いた口が塞がらないままに、「世界は広いんだなぁ〜」とポカーンとしてた。

 

 

「・・・アンタ、だから部長のセクハラに笑顔で応対出来てたの。嫌な顔しないで凄いな〜なんて思ってた、私の感動を返して欲しい」

 

「まぁまぁ」

 

「はぁ〜。私は、旦那にするなら 変態野郎じゃなくて、優しくて 気遣いの出来る男がいいわ」

 

「2課の鈴木さんみたいな?」

 

「そうそう!」

 

 

突然出てきたその名前に、心臓がドキリとした。

 

 

「男の人って大雑把なのが多いじゃん?それでイライラしてる時にさり気なく優しくフォローしてくれたんだぁ」

 

「鈴木さんフォロー上手いよね〜」

 

 

うわぁ〜、、、、

 

私の好きな人が 褒められるのは嬉しい。

でも、私より可愛いであろう彼女達に取られちゃうんじゃないかと思うと どうしようも無く 不安にさせる。

 

 

「あ、もうすぐ休憩終わっちゃう」

 

「うひゃ、マジだ。」

 

 

カチャカチャと化粧道具を片付ける物音が聞こえて、彼女達は出ていった。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

昨日のトイレでの出来事もあって、私は人生で初めてかもしれない 大胆なアプローチを仕掛けたのだ!

これでも私にとっては、ものすっっごぐ 頑張ったんだよ!?

 

 

 

はッ!

 

そんな事よりも早く『ユグドラシル』にログインしなきゃ。

 

私はこれから来るであろう、幸せな時間に想いを馳せ、心を踊らせていた。

 

 




女の子達
「あれで、お金持ちか、イメケンだったら狙ったのにねぇ」
「残念ねぇ〜」


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05.初めてのパーティー

私の選んだアバターは、人間種の女性だ。デフォルトのキャラクターから髪や肌、目元をいじっただけ・・・あと、体型もいじった。

デフォルトでも十分スタイルは良かったけど、どうせならと ボンキュッボンに、しちゃいました。

 

「あ、はは」

 

理想の自分といった感じに仕上がったアバターを見て、乾いた笑い声がでた。

これが私の全力だもの、これ以上は無理だわ。

 

 

ハッキリ言おう!

私はキャラクターメイキングを必要とするゲームをやったことが無い。

 

ゲームといえば、一人で進められるRPGや、恋愛ゲームとか・・・

 

だから、キャラクターメイキングってどんなものなのか なんとなーくでしか知らなかったし、自由度が高いと言われる『ユグドラシル』でも、まさかこんなにも細かく作り込めるなんて想像以上だった。

 

自由度が高過ぎて、メイキング初心者には難しい。

 

あとね、種族。

びっくりするぐらい多いから、どうしようか迷った。攻略サイトで確認してみたら、なんでも初期設定では出てこない種族もあるらしい・・・。

どういう事?って思ったけど、アイテムを使用したり、クエストをクリアする事で種族変更が可能な場合があるんだそう。

 

さらに、初期設定が人間種だと そういった種族変更の幅も広いらしいので、取り敢えず人間種にした。

 

どの種族が有利だとか、全然分からないし。職業も未定だしね。おいおい決めてこうかなぁと。・・・と言っても、もうすぐ『ユグドラシル』サービス終了するから時間に余裕はないんだけれども。

 

 

 

 

わからない尽くしのちょー初心者な私は今、雪の廃鉱山の前でボーっと鈴木さんを待っています。

 

20時待ち合わせだったのだけど、この高ぶった気持ちを抑えきれずに・・・現在、19時です。

1時間前に来ちゃった、テヘッ

 

うおっ、自分で言ってて寒気がした。歳を考えろよ自分、おぉーこわこわ

 

 

さすがに早く着すぎた、とは思うけど 万が一・・・億が一 があるしね?あるよね?

 

 

でもまぁ、鈴木さん・・・ゲーム内ではモモンガというHNらしいので、モモンガさんか。彼が来るまで暇なので、攻略サイトやら何やらを見て時間潰し。

 

『ユグドラシル』はそれなりに長い間愛されていただけあって、攻略情報も膨大な量がある。

これで、すべてが公開されている訳では無いって言うんだから末恐ろしいものがあるよね。

ハマっちゃったら、廃プレイヤーまっしぐらだなぁ〜。

 

 

「お待たせしました、ミケさん・・・えっと、加藤さんですよね?」

 

声をかけられ、確認してみれば、モモンガさんがいた。・・・骸骨だ

そっかぁ、鈴木さんはアンデットにしたのか〜

骸骨で身につけている装備も私の物とは比べられないくらいレアな装備だ・・・と思う。

見た目が、なんかこうレア感?あるなって。カッコ良くて、こう威圧されるようなデザインだしね。

 

ちょっと怖いけど、普段の鈴木さんを知ってる私から見れば、何だか可愛らしく見えるんだから不思議だ。

 

 

「そ、そうです!よろしく、お願い、します」

 

「こちらこそよろしくお願いします」

 

 

ピコンッ

 

《「モモンガ」からパーティー申請がされました。パーティーに加入しますか?『YES』『NO』》

 

もちろん、い、YESで。

 

 

 

 

 

 

ーーーーー

☆鈴木悟視点

 

 

ストレートロングの黒髪に、ペリドットのような黄緑色の瞳。

白に金色の刺繍がはいった落ち着いた雰囲気のあるワンピースに、真っ黒でシンプルなスタッフを装備した 加藤さんこと、ミケさんがいた。

 

軽く挨拶をしてから、すぐにパーティー申請をした。

ミケさんのこのキャラクターデザイン、どこかで見た事あるなぁ・・・と考え、すぐに思い至った。

 

あ、アルベドに似てるんだ。

 

細かい造形や瞳の色は違うけれど、なんというか配色がアルベドっぽい。

 

ナザリックの守護者統括、アルベド。

玉座の間に配置されたこのNPCは、タブラさんが作成したキャラクターだったな。

 

そういえば、玉座の間にも ここの所ずっと行ってないや

 

 

「あ、あの 変でしたか??」

 

「へ?」

 

 

不安そうな声で話しかけてくる彼女に、何のことやらと首を傾げた。

 

 

「わたし、その、キャラクターを作ったの初めて、で・・・。カッコいい女性を作ったつもり、だったんですけど、その、」

 

「あ、いえいえ とても"素敵"だと思いますよ。僕の知ってるNPCに似てたので びっくりしただけです」

 

「え!あ、そ、そ、そ、そうなんですね」

 

いつも以上に挙動不審になったミケさんに思わず笑い声が漏れそうになったのを、ぐっと堪えて話を続けた。

 

「僕の所属するギルドの拠点NPCなんですけど・・・」

 

「ギルド、ですか?」

 

「アインズ・ウール・ゴウンってギルドなんですけど、聞いたことないですか?」

 

「す、すみません・・・ギルドまでは、まだ、その、よく分からなくて」

 

「あぁ、いえ・・・」

 

 

ある意味、有名なギルドだったし、つい知ってるものだと思って話してしまった。

よく考えてみたら、最近始めたばかりの人が知ってるわけないよな・・・。

 

 

「あの、そろそろ雪の廃鉱山に、行きませんか?えっと、余裕が、ある時で良いので、もっモモンガさんの話をき、聞かせてくださひッ」

 

あ、噛んだ

 

「え、え、とギルドのこととか・・・その、色々と・・・知りたいで、す」

 

噛んだ恥ずかしさからなのか、段々と声が小さくなっていくミケさん。

会社ではオドオドしている事が多いし、必要最低限の事以外の会話を聞いたことがなかったから、勝手に人見知りするタイプだと思っていたけれど。

上手く話せないだけで、ちゃんと向き合えば話をしてくれる・・・意外と、好奇心旺盛な人なのかもしれない。

 

 

「ハハッ そうですね。僕のギルドは個性的なメンバーが多かったですし、全部話そうと思うとかなり長くなりますよ?」

 

「ど、どんと来い!・・・です」

 

 

 

 



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06.鈴木さんの宝箱

誤字脱字報告の機能、とても便利ですね!
報告して下さった方々、本当にありがとうございます。


あれからの私の生活は、今までのものとガラッと変わった。

 

仕事で鈴木さんと時間が合えば、ユグドラシルの話をして、帰宅してからも毎日・・・とまではいかないけれど、2.3日に1度は一緒にパーティーを組んで『ユグドラシル』を楽しんだ。

 

好きじゃない仕事も鈴木さんとお話出来るかもと思うだけで、いつも以上に楽しみになった。

もう、挨拶だけで満足出来ていた あの頃には戻れそうにない。

 

 

それに・・・誰かと一緒にゲームをするのがこんなにも楽しいものだなんて知らなかった。

 

私のレベルに合わせて狩りに付き合ってくれる鈴木さんは本当に優しい。

 

ゲームをプレイしながらも、私はキュンキュンしっぱなしだった。相手は骸骨なのに鈴木さんだと思うだけで五割増しで輝いて見える不思議である。

 

 

相手をイライラさせる事に定評のあるキョドり方をする私だが、意外と鈴木さんとの会話が止まったりすることは一回もなかった。

 

それは、鈴木さんは私がモジモジしながら話すのをじっと待っていてくれるというのもある・・・マジで優しすぎる、本当にヤバい、惚れないわけがない。

 

あと、鈴木さんの話してくれる"ギルド"の話がおもしろい上に、尽きることない程 多くの話のネタを持っていたというのも大きい。

 

 

ギルド『アインズ・ウール・ゴウン』

 

異業種のみでメンバー構成された このギルドは「DQNギルド」として有名だった。

悪のロールプレイに拘ったギルドだったそうで、調べてみれば、情報が出るわ出るわ。

 

ワールドアイテムとかいうなんか凄いのをたくさん所持している、だとか

拠点へ攻めてきた1500人の討伐隊を撃退した、だとか・・・

他にも、プレイヤーキルをたくさんしてた、鉱山を占拠しゲーム内に とある金属が出回らなくした、とまぁ、話題多い伝説のギルドだったらしい。

 

あの鈴木さんが、そんなDQNギルド所属なのも驚きだったけど、さらにギルド長だっていうんだから もう本当にビックリした。

 

でも、そのギャップが良い!!!

 

表では、可愛い笑顔をうかべる優男なのに、裏では骸骨でちょいワル系だったなんて!

私のツボをぐいぐい押してくる。もう痛いぐらいに好きになってしまっていた。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

「ふふふっ アインズ・ウール・ゴウンの、話を、き、聞いていると、なんだかっ厨二心を、くすぐられますね」

 

「そうですか?」

 

次々と襲いかかってくるサーベルウルフを危なげなく処理しながら、今日も二人、話に花を咲かせていた。

 

 

「はい、あ、悪に拘るところ、とか・・・ナザリック地下大墳墓や拠点NPCの凝ってるところとか。あの、も、モモンガさんも、NPCは作ったの、ですか?」

 

「ええ、作りましたよ」

 

「み!見たいです!!」

 

「え、あ、でも、まぁ当時はカッコいいと思っていたのですが、今となっては、こう、恥かしいといいますか・・・」

 

「も、モモンガさんの、作ったNPCですから、カッコいいに、決まっていますよ」

 

「いや、ホントに・・・」

 

「それに、あの、モモンガさんの く、黒歴史を覗いてみたい、というか」

 

「わぁ、それ面白がってますよね!タチ悪いですよ〜」

 

「うふふっ」

 

「でも、いつかミケさんをナザリック地下大墳墓にご招待したいと思っていますよ」

 

「え!あ、いいんですか?・・・わ、わたしは、人間種ですし」

 

 

本音をいえば、めちゃくちゃ行きたい。

 

モモンガさんから話に聞く度に、私の中で、アインズ・ウール・ゴウンや、ナザリック地下墳墓への憧れは、強くなっていた。

 

モモンガさんにとって、アインズ・ウール・ゴウンは宝箱のようだった。

 

だって、話をしてくれる時のモモンガさんは、まるで子どもが自分の宝物を、目をキラキラさせながら自慢しているかのようだったから。

 

好きな人の宝箱の中に触れてみたいと思うのは、当然の感情だよね??私この想いが重過ぎるなんてことないよね?

あぁ、不安になってきた・・・今更ながら、がっつき過ぎのような気がする。気おつけなければ!

 

 

「そうですねぇ〜うちのギルドはみんなカルマ値がマイナスに振り切れてるメンバーばかりですし、ミケさんみたいな人間種が立ち入ったら・・・」

 

「た、立ち入ったら・・・?」

 

「ズタズタのギッタンギタンにされて、恐怖公の部屋に放り込まれるかもしれませんね」

 

「きょ恐怖公?」

 

「ゴキブリの王様ですよ、ものすごくリアルなので女性には不人気でしたね」

 

「わ、私もゴキブリは、に、苦手です。さすが、ナザリック、怖いですね・・・」

 

「なので、やられてしまわないようLv100になったらご招待しましょう」

 

「ぅえ!?あと、に、2ヶ月で、残り70あげるのは、ちょっと、厳しいです・・・あ!でも、頑張って、レベ上げすれば、なんとか・・・」

 

「ハハッ、冗談ですって。そんなに焦らなくても大丈夫ですよ」

 

「あ、う、からかった、んですか?」

 

「さっきの仕返しです」

 

「うぅ、ぜ、絶対、いつか連れていって、くださいよ?」

 

「ええ」

 

「あ!こ、攻撃されるのも、嫌です」

 

「ハハ、大丈夫ですよ」

 

「きょ、恐怖公は・・・遠目から、なら、見てみたいかも、です」

 

「リアルなゴキブリですが、ちっちゃい王冠かぶってて可愛いですよ」

 

「そ、それは、凄く気になりま、すね!!」

 

 

 

鈴木さんと『ユグドラシル』を初めて約1ヶ月。私は幸せな気持ちでいっぱいだった。

例え、この恋心を伝える事が出来なくても、この関係がずっと続けばそれで満足だった。

 



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07.恋する乙女は中々しぶとい

今日も一日長かったお仕事が終わった。

鈴木さんは営業をする為に外に出て行ってしまっていた為、朝の挨拶以外話すことが出来なかった。ちょっと・・・いや、かなり寂しかった。

 

って、私は鈴木さんの恋人か!!?

 

いい歳した大人が こんな事でウジウジして、恥ずかしい・・・。

 

 

鞄を持って、会社の廊下をとぼとぼと歩く。この時間帯に帰る社員は多く、多くの人とすれ違った。

休憩室の前を通り過ぎようとした時に、ふと彼の声が耳に入って、思わず足を止めてしまった。

 

「え?そんな関係じゃないですよ」

 

どこか戸惑ったような鈴木さんの声。あぁ、帰ってきてたんだ!

 

「おつかれさまです」と挨拶をしようと一本足を踏み出そうとして、そこでやっと、他にも人がいることに気が付いた。

 

「だよな?いや〜あの加藤とお前が”付き合ってるんじゃないか”って社内じゃ結構なウワサになってるぞ」

 

「え"!なんで・・・」

 

「なんでって、そりゃ、今まで全然話さなかった加藤がお前と仲良く話してる姿をアレだけ見せつければなぁ〜。・・・お前も満更じゃなさそうだし?」

 

「いや、いやいやいや、ホント違いますから。加藤さんにも迷惑かかるのでやめてください」

 

「ふーん、で、ぶっちゃけどうなんだ?」

 

「どう・・・とは?」

 

「好きなのかってことだよ」

 

「あー、・・・・・・・・・全然、意識したことなかったですね。」

 

「そうだよな!さすがに鈴木でも、加藤には手を出さないと思ってたぜ」

 

「え?」

 

「だってそうだろ?髪で顔を半分隠して、喋り方もオドオドしてるし、なんというか不気味な奴だよな〜」

 

 

「ーーッ!」

 

それ以上、聞けなかった。

思わず口から漏れそうになっ声を無理やり押し込めて、その場にいることができず、来た道を戻って 別ルートから会社から出た。

 

『不気味な奴だよな』

 

頭から離れなくて、感情が今にも涙になって溢れだしてしまいそうで 深呼吸を繰り返し 必死に落ち着けようとした。

 

そんな事をしているうちに自宅へ辿り着いていた。

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

私が顔を隠しているのは、火傷のあとがあるからだ。

幼い頃、真夜中にやってきた強盗は両親の命を奪い、去り際に家を放火をした。

 

ただ泣くことしか出来なかった私に、血で赤く染まった母親が覆いかぶさるようにして、炎から私を守ってくれていた・・・らしい。

 

というのも、近所のおじさんが助けに来てくれた時、私は煙を吸って意識を失っていたので、これはあとから聞いた話だ。

 

私が覚えているのは、鼻をつく焦げ臭さと、息も絶え絶えな母の「大丈夫よ、大丈夫、大丈夫」と、か細く繰り返す声だけ。

 

 

目を覚ました時には、顔には痛みがあり、グルグルと包帯で巻かれていた。

喉も焼けてしまったようで かすれたような声になっていた。

 

喉に関しては、段々と治っていったものの 顔の火傷は消えなかった。

 

 

 

なにも、珍しい話じゃない。

治安の悪化している中で、こういった犯罪もそれなりの数存在していた。

 

親を失う子も多く、殆どの子が孤児院に入る中、私は 火事から助けてくれた近所のおじさんに引き取ってもらえた。

 

おじさんは、私の事を娘のように育ててくれたし、そのまま学校にも通わせてもらったのだから、かなり恵まれている方だと思う。

 

 

 

だから、これは甘えだ。

 

みんなから、不気味がられていることも知っていた。

相手をイライラさせることもしょっちゅうだし、幽霊だなんて言われてるのも知ってる。

 

この醜い傷を見せるよりも、不気味がられることを選んだのは私。

上手く喋れなくてイライラさせてしまっているのも私の至らなさ。

人に嫌われるのが怖くて、社内でも黙りを決め込んでたのも悪かったのかもしれない・・・

 

 

ぽたぽたと涙が頬を伝った。

 

「・・・バカ、みたい」

 

恋をして、上手くいってると舞い上がって バカみたいだ。

私のこれまでの行動は、本当に鈴木さんに迷惑じゃなかったの?

 

『意識したことなかったですね』

 

鈴木さんのあの言葉に現実を突きつけられたような気がした。

 

 

私は”恋愛対象”としての土俵にも立ててなかったんだ。

 

 

涙で視界が歪み、堪えきれなくなりそうになったその時 私を呼ぶコール音が響き渡った。

 

ピピピピ

 

携帯の着信音だ。画面に表示された名前にふっと気持ちが緩んだ。

私を育ててくれたおじさんからの電話だったのだ。

ふぅ、と、息を吐き出し 呼吸を整えてから電話に出た。

 

 

「も、しもし?」

 

「おう!さゆり、元気だったか?」

 

何年経っても変わらない大きな声で話すおじさんに、思わず笑みが零れた。

 

「元気、だよ」

 

「ちーとも連絡よこさねぇで、心配してたんだからな」

 

「ご、ごめん、なさい」

 

「・・・さゆり?何かあったか」

 

急に声を低めて話すおじさんに、びっくりした。どうやら、おじさんには、なんでもお見通しらしい。

 

「あ、あのね、」

 

「おう」

 

「・・・・・・・・・髪を、し、縛って、顔を出すのって、どう思う?」

 

「ん?」

 

「ほら、私には、や、火傷のあとが・・・」

 

「あー!!まだ気にしとったんか!そんな気にすることじゃねえさ。もう火傷のあとも薄ーくなっとるやろ? それに、ほら、顔を隠すと陰険に見えるからに、ちゃんと見せて背筋伸ばしな!」

 

「うぐぅ・・・ほ、本当に、大丈夫なん、だよね?」

 

「大丈夫、大丈夫!可愛い顔見せて男の一人でも捕まえてこいや」

 

ガハハと豪快に笑うおじさんに、私はすぅと息を吸って宣言した。

 

「上手く、いかなかったら、おじさんの事、 の、呪うからね!!」

 

「え、さゆり、お前男がッーー」

 

私は、おじさんからの返事を待たずにプチッと通話を切った。

 

 

 

鈴木さんは、私が初めてここまで仲良くなれた異性で。大好きな人で。だから、手放したくなんかなくて・・・

 

優しい鈴木さんのことだ、私と付き合ってるんじゃないかってウワサを気にして、距離を置く可能もある。

それは困る!鈴木さん抜きの生活なんて私には考えられない、絶対に嫌だ!

 

 

なら、どうするか。

 

私がイメチェンして、心身共に変わることが出来て、ほかの人ともそれなりに話せるようになれば、そんなウワサ吹き飛ぶ!!・・・はずだ。たぶん。きっと。

 

と、とにかく、何もしない内に終わってたなんてダメだからね。気合いだ自分!頑張れ自分!

 

 

 

「えいえい、おー!!」

 

 

 

私は力いっぱい両手を頭上に振り上げた。




人の話を立ち聞きするのが上手という残念な感じの主人公でした。
ちなみに、名前は加藤 さゆりです。


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08.失う恐怖

今回は短めです


☆セバス視点

 

 

創造主であるたっち・みー様が御隠れになってどれだけの時が流れたでしょうか。

私が創造された当初は、敬愛する至高の41人と、ナザリック地下大墳墓を守護する為に創造された仲間達に囲まれ 幸せな毎日でした。

・・・こんなにも恐ろしく静かな日々が訪れることがあろうとは夢にも思っていなかったのです。

 

寂しくないといえば嘘になるでしょう。

少しでも気を緩めてしまえば、苦痛に顔を歪めてしまいそうでした。

 

置いていかないでください

側にお仕えさせてください

どうか、どうか、私を捨てないでください・・・

 

何度も何度も繰り返し願い続けるこの叫びは、1度も届くことはありませんでした。何が悪かったのでしょうか。

 

どうしたら、どうすれば、戻ってきてくださるのでしょうか?

 

至高のお方の考えを私如きが理解出来るはずもないのですが、いつまでも思考の海に沈んでいってしまう。

 

最後にたっち・みー様とお会いした時、寂しそうにしながら「もうここに来ることも・・・ないだろうな」と笑いかけて下さいました。

そんな、たっち・みー様に、矮小なる我が身では声を出す事すら出来ませんでした。

 

指先一つ動かすことが出来ないNPCである私と、プレイヤーである至高のお方には、越えることの出来ない大きな見えない壁が存在しているようで、ただ、ただ祈ることしが出来ない己の不甲斐なさを呪いました。

 

 

まるでパズルのピースがひとつひとつと、こぼれ落ちるように・・・お至高のお方々がお隠れになる度、ナザリック地下大墳墓は過去の栄光など忘れてしまったかのように ひっそりと影を潜めていきました。

 

慈悲深きギルドマスターであるモモンガ様が残ってくださっているお陰で、アインズ・ウール・ゴウン。そして、それに連なる 私たちNPCは存在を許されていました。

 

それが私たち残された心の支えであると同時に、何も出来ない私は足を引っ張る事しか出来ないのだと痛感し、締め付けられる思いでした。

 

お一人で自室と外を行ったり来たりしていることが多かったモモンガ様。

その大いなる存在を感じる事は出来ても、お顔を拝見することは殆どなくなってしまっていました。

 

 

 

 

それが、以前までの話。

 

 

ここ最近、モモンガ様は ナザリック地下大墳墓内を転々と飛び回ることが多くなっていました。

メイド達からの報告もあり、どうやらモモンガ様はら仕掛けられたトラップや配置されたNPCを確認しているようだ、との結論に至ったのはつい先日のことでした。

 

 

なぜそのようなことを・・・?

 

防衛力の確認?まさか、このナザリック地下大墳墓を攻め落とそうとする勢力が・・・!?

 

例え、再びプレイヤー1500人の軍勢が襲いかかろうとも、このナザリック地下大墳墓をこの命に替えてでも守りきる自信はあります。

ただ、至高のお方々がお隠れになった今、我々にも多大な被害が出るでしょうが・・・。

 

アインズ・ウール・ゴウンを。

何より モモンガ様を危険に晒すわけにはいかない。これ以上、失う訳にはいかないのです。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「あれ?あぁ、いたいた」

 

モモンガ様の声が耳に届いた。

段々と近づいてきていたのは気配で分かっていましたが、わざわざ、目の前まで歩いてきて下さった事実に、私をはじめ、隣で並び立っていた戦闘メイド「プレアデス」達にも緊張と歓喜が入り交じった感情が身を焦がすように駆け抜けるのが分かりました。

 

「ええっと、セバス・チャン。あれ?カルマ値300、極善だ。思ったより高い・・・あー、『製作者:たっち・みー』か。なら、そうなるかな」

 

モモンガ様は私の前に立つと、私のステータスやたっち・みー様にそうあれと与えられた設定をご覧なっているようでした。

 

「え、設定はこんなに短かったっけ?たっちさんらしいといえばらしいけど・・・」

 

困惑気味なモモンガ様に、身が凍りついたかのような衝撃が走りました。

 

たっち・みー様が与えてくださった設定に、何一つ不満や不安などありませんでした。他の守護者と比べて非常に短い・・・とは思ったものの、それだけだったのです。

 

しかし、その設定がモモンガ様の気分を害してしまったのならば・・・

 

私は、創造主のたっち・みー様に置いてかれてしまいました。

たっち・みー様がそう望まれているのならば・・・私の感情など関係ないのです。

たっち・みー様のご意思なのですから。だから・・・あぁ、だから、それも受け入れなければならないのでしょう。

 

私の心の支えはまだ、ここに残って下さっている。

だから、私はまだ踏ん張れていました。

 

だが、モモンガ様にまで・・・至高の41人全ての方々から 置いてかれてしまったら、捨てられてしまったのなら。私は・・・

 

 

「よし。加藤さんに説明するのに、これだけ分かれば十分かな〜」

 

 

どこか喜色を含むモモンガ様のその一言で、私は引きこもっていた思考の海から、急に現実に引き戻されました。

 

 

 

 

・・・カトウサンとは、誰のことでしょうか??

 

 

 




→『モモンガは主要なNPCの設定や能力を確認した!』
→『アルベドの設定にドン引きしつつ加藤さんへのいい話のネタになると思い、放置した!』

セバス視点は、書くのが難しいですね。


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09.変わった彼女

☆鈴木悟視点

 

加藤さんと『ユグドラシル』をプレイするようになって、あっという間に1ヶ月が過ぎた。

加藤さんと、かつての仲間たちと行った狩場へ向かい、『アインズ・ウール・ゴウン』での思い出話を語っていたのだが、”悪”に拘ったギルドというのが加藤さんのツボに入ったらしく・・・もう、物凄く食い付きがよかった。

 

興味津々に話をせがむ加藤さんに、気が付けば 俺は、ナザリック地下大墳墓のギミック、配置されたNPCの細かな設定の話までした。

 

自分の好きなものに興味を持ってもらえて嬉しかった。

純粋に「すごい、すごい」と、はしゃぐ加藤さんに気分も良くなって、より知ってもらおうと 時間を見つけては、ナザリック内を再度確認しに行ったりもした。

 

そうやって、この1ヶ月。

自分の口から「過去の栄光」を語ることで、いつの間にか『ユグドラシル』が終わってしまう現実に・・・ギルド、アインズ・ウール・ゴウンが消えてしまう、その事実に、ちゃんと向き合う事が出来るようになっていた。

 

 

楽しかった、本当に楽しかったんだ。

 

 

『ユグドラシル』が終われば、もうナザリック地下大墳墓へ行くことも出来なくなってしまうだろう。

 

 

 

・・・でも、こうして今、俺が加藤さんに語っているように。

俺の中には、ちゃんとアインズ・ウール・ゴウンは仲間達と共に存在しているんだ。

 

勿論、今でも引退していったギルドメンバーに戻ってきて欲しいという想いはある。

最後ぐらい一緒にナザリック地下大墳墓で過ごしたい。昔のように皆で・・・と願ってしまう。

 

その事を考えていると、何故か いつも、加藤さんの顔が脳裏をちらついていた。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

「お、おはようございます」

 

「ん?あぁ、おはようございます」

 

朝、職場に入ってきた加藤さんは、不安げに目を泳がせながらも、近くにいる社員に挨拶をしていた。

顔の半分を覆っていた黒髪は、後ろで一纏めにされていた。

その為 、はっきりと加藤さんの顔にある火傷のあとが見えていたが、正直、以前の幽霊のような髪型より 全然マシだった。

 

加藤さんの変化への驚きに周囲がザワついた。

それは、顔の傷への同情や 顔を上げた加藤さんへの評価など、様々あるようだったが、顔がちゃんと見えようになった分、威圧感が消えた加藤さんは、概ね周囲には好印象を与えているようだった。

 

 

 

「お、おはようございます」

 

「おはよ〜ございますぅ。あれ、加藤さん 今日はポニーテールなんですねぇ」

 

加藤さんの変化に真っ先に突っ込んだのは今年入ってきた若い女性社員だった。

面白そうに笑う女性社員に、加藤さんは緊張したような面持ちで返答をしていた。

 

「あ、あの、はい。・・・へ、変でしょうか??」

 

「ううん!スッキリしてていいと思いますぅ〜。あ、ん〜と、これあげる!」

 

「ふぁ、え、あ、あの」

 

女性社員は手に持った紺色の布で出来た髪飾りを加藤さんの纏めてある髪に、ささっと付けてしまった。

 

「よし!かっわいい〜!これね、元彼からもらったシュシュだけど もう使わないしぃ〜落ち着いた色合いだから加藤さんでも似合うよぉ!」

 

「あ、あの、ありがとう、ございます」

 

「いーえ」

 

俺は 元彼からもらったアクセサリーをサラッと押し付けた女性社員にゾッとした。・・・オンナって怖いな。

そこで、ふと、自分が ずっと加藤さんを目で追っていたことに気が付いて、さっと視線を手元に落とした。

 

 

こんなに見つめてしまっては、まるで・・・、まるで?

 

そんな事を考えていたら、なぜか 昨日の先輩との会話を思い出してしまった。

 

『お前、加藤と付き合ってるのか?』

『好きなのかってことだよ』

『髪で顔を半分隠して、喋り方もオドオドしてるし、なんというか不気味な奴だよな〜』

 

そこまで鮮明に蘇ってきて思わず苛立ち、顔を歪めてしまう。

 

そうだ、昨日もその言葉にイラついて思わず反論したら、『お前、マジかよ!青春かッ』と、先輩に大笑いされたんだった。

 

何が青春なんだか、意味がわからない。

 

 

 

 

「おはよう、ご、ございます!!」

 

自分の席にまで辿り着いた加藤さんは、何故かいつも以上に 力の入った様子で、俺に挨拶をしてきた。

 

「おはようございます。髪型変えたんですね、イメチェンですか?」

 

「は、はい、」

 

「とても似合ってると思いますよ」

 

「あ!ありがとうございます!」

 

頬をほんのり赤く染めて笑う加藤さんを見て、思わず笑みが零れた。

 

ずっと今まで隠していた火傷のあとが残る顔を、思い切って出したのだから 相当な勇気が必要だったのだろう。

顔の傷というのは 誰だって気にしてしまうものだ。女性なら特に。

 

職場の皆からも好印象で、安堵したに違いない。現に、とても嬉しそうだ。

 

「し、視界が、広いと、仕事しやすい、ですね」

 

「ハハッそりゃそうですよ。今まで片目で仕事をしていたものですからね」

 

「へ、えへへ。そうです、よね」

 

 

そんな嬉しそうな加藤さんを見て、何故か俺まで とても嬉しくなった。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

髪型を変えたのがキッカケになったのか、加藤さんは 少しずつ、変わっていき、周囲もそれに適応していった。

 

今まで挨拶と必要最低限の仕事の話しかしなかったのが、挨拶がてら女性陣に

「か、髪飾り、可愛いですね」

「今日は、さ、寒いですね」

など、声を話しかけるようになっていき、声をかけられた彼女達も最初はソワソワしていたものの、そんな加藤さんを受け入れていた。

 

少しずつ輪が広がっていき、今では以前のような『幽霊』というあだ名も、耳に入ることはなくなった。

この部署では、加藤さんが変わったことに対して、バカにしたり蔑んだりといった反応をする人は一人もいなかったのだ。

 

 

これは前々から思っていたことだけど、俺が所属する2課は、対立を好まない 温厚な人間が多いと思う。

 

イジメも差別もない。

 

これは人から聞いた話だが、そういった事を”あの”部長が嫌いで 不穏分子は出来るだけ遠くの部署に移動、というか 押し付けていたから・・・らしい。

 

理由は簡単、「仕事の邪魔」との事。

 

お前のセクハラは問題ないのかよ。と、突っ込む人はいなかったのだろうか?

 

俺もそういった事は嫌いだったので、まぁ、このことに関しては部長に感謝している。

 

 

加藤さんは誤解されやすい人なだけで、話せば 好奇心旺盛で面白く、優しい人だと分かる。

だからだろうか、最近では、俺以外の男性とも雑談を話すようになった。加藤さんの周りに人が増えるほど 会社で俺と話す機会は減っていった。

 

 

 

 

それが、少しだけ・・・・・・寂しかった。

 

 




実は平和な職場なのでした。



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10.指輪 ☆

変化した私に周りも上手く対応してくれた。

バカにされるのではないか、避けられるのではないかと、あれだけ怖がっていたのに、まるで拍子抜けした気分だった。

 

・・・もしかして、大丈夫なのかも?

 

ちょっとだけ自信を取り戻した私は、次なるステップに進んだ。

そう、名付けて《おしゃべりしようぜ!作戦》である。

 

挨拶をする時に、ちょっとだけ声をかける。最初は相手も戸惑っていたものの、私の「仲良くなりたい」という気持ちに気付いてくれたようで、段々と普通に話しかけてくれるようになった。

 

未だに、職場のみんなには、どこか一線を引かれているものの 以前は一線どころか分厚い壁があったようなものなのだ。

 

私の交友関係は広く浅く、徐々に広がっていき、心配していた鈴木さんの反応も悪くなくて以前と変わりなかった。

私を避けたりする兆しはないので、私はとても満足していた。

 

 

そうこうしている内に、『ユグドラシル』では、ミケのレベルが76にまであがっていた。

種族は相変わらず人間種のまま、華やかな攻撃手段に引かれて、魔法職に手を出している。

派手な演出が好きで、派手な魔法ならどんなものも習得した。

 

まぁ、モモンガさんには全然及ばないけれどね。と、いうか パーティーを組んでいるモモンガさんが魔法職で後衛なのだから、私は前衛の戦士職とかにすればバランスが良かったのに、以前の私は「鈴木さんと一緒ッ〜」って完全に浮かれてた。

 

まぁ、私たちは、くっそ強い敵を倒しに行くわけでもなく、まったりとレベル上げつつの雑談が主なので、今のところ特に困ったりはしていない。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

私は、モモンガさんとの約束がない日でも 『ユグドラシル』にログインしていた。

アインズ・ウール・ゴウンの話についていけるように、『ユグドラシル』についての知識を貯めたり、昔に比べたら叩き売りされている装備、主にレジェンドアイテムを買い漁ったりしている。

ゴッズアイテムも欲しいけれど、値下げされているはずのソレも私の所持金では手が出せそうになかったので、諦めている。

たった1つのゴッズアイテムより、多くのレジェンドアイテムの方が魅力的だ。

 

装備はどれだけ いっぱい持っていても困ることは無かった。モモンガさんと狩りに行く時は、デートに行く乙女のような面持ちで 装備を選んで 毎回姿を変えていたからだ。

 

いい歳して何が乙女だというツッコミは無視すべし。可愛い装備が沢山ありすぎるのが悪いんだから仕方ないね!

 

 

今日も街をぶらぶらしながら、販売されているアイテムを物色していたら、1つのアクセサリーに目が止まった。

 

小さい黒の蜘蛛の背中に、三角形にカットされたダイヤモンド(ビーナスアローカットというらしい)が乗っている指輪だった。

 

蜘蛛の足が指に巻き付くようにリングの形になっていて、ちょっと不気味な印象を与えるアイテムだ。

 

不気味な見た目というのもあるが、私が惹かれたのはその性能。

 

 

【血塗られた蜘蛛王の嘆き】

『その蜘蛛は愛する人を決して逃しはしない。即死耐性35%アップ。全ての無効化スキルを無効。』

 

 

・・・無効化スキルを無効にする

うーん、あ、それって 欠陥品じゃん!!

 

でも、この文言が良く気になった。

愛する人を逃しはしないかぁ・・・買っちゃお!

 

 

衝動買いのようにして購入したアイテムを眺めていると、何故か不思議な魅力を感じた。

 

モモンガさんに似合いそうだし、プレゼントしちゃおうかな・・・

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

次の日、私はモモンガさんと狩りに来ていた。

ちまちまと敵を叩きながら、時折、覚えたばかりの第7位階魔法<チェイン・ドラゴン・ライトニング/連鎖する龍雷>をぶっぱなしていた。

 

ピカピカ光って綺麗〜

 

 

「へぇ、【血塗られた蜘蛛王の嘆き】ですか。初めて聞きました」

 

昨日手に入れた指輪の話をしたら、モモンガさんが興味深げに返事をした。

モモンガさんの興味を引けて良かったと内心ウキウキしつつ、私は会話を続けた。

 

「も、モモンガさんの、知らないアクセサリー、だった、んですね。えへへ、ちょっとだけ、勝てた、気分です」

 

「僕も長年プレイしてますが『ユグドラシル』は 情報量が多すぎますしね。・・・あ、でも多分、対になっているアクセサリーなら知ってますよ」

 

「対、ですか?」

 

「ええ、確か【穢れた蜘蛛妃の絶望】だったかな?指輪ですね。名前的にもっぽくないですか」

 

「た、確かに!どんな、アクセサリーなんで、すか?」

 

「えっと、毒耐性上がるんだだったかな? 使えないな、と思って すぐにしまい込んでしまいましたね。・・・ナザリックに置いてあるので、今から持ってきましょうか?」

 

「え!あ、いいんですか??」

 

「ちょうど、ここも狩りつくしたみたいで、リスポーンまで時間がありますし 休憩しましょう」

 

「あ、なら、さっきの街で待って、ます」

「分かりました。すぐに戻りますね!」

 

 

この指輪と対になってるかもしれない指輪なんて、すごく気になるから、モモンガさんが持ってきてくれると言ってくれて、申し訳なさ半分、嬉しさ半分。

 

それから少しして戻ってきたモモンガさんの手にしていた指輪は、【血塗られた蜘蛛王の嘆き】同じデザインで、違いといえば蜘蛛が紫色になっているところだろうか。

 

 

【穢れた蜘蛛妃の痛み】

『その蜘蛛は愛する人を決して忘れない。毒耐性35%アップ。全ての無効化スキルを無効。』

 

 

「や、やっぱり、対になって、いるっぽい、ですね」

 

「ですね。”無効化スキルを無効にする”というのが なんとも、使えないんですよね」

 

「で、でも、縛りプレイとか、に、いいかも、です」

 

「状態異常の対策が出来ないのは、大変そうですけどね」

 

「モ、モモンガさんは強いから、ちょうど、良いかもです。・・・それに、」

 

「それに?」

 

「お似合い、ですよ?悪趣味な、感じが、ま、魔王っぽくて」

 

「んーそうですかねぇ」

 

「そう、です!あ、あの!こっちの方が合うと、思うので、これあげます!」

 

私は、黒い蜘蛛の【血塗られた蜘蛛王の嘆き】をモモンガさんに手渡した。不自然な流れになってしまったかもしれないけれど、受け取ってもらえたから良しとしよう。

 

「おお、なら コッチの指輪はミケさんにあげますね」

 

「うぇ?!」

 

予想外の返しに思わず変な声が出てしまった。

鈴木さんが差し出した、紫の蜘蛛の指輪【穢れた蜘蛛妃の痛み】を、私は戸惑いながらも受けとった。

 

「い、いいのですか?」

 

「ええ、お揃いで悪趣味な指輪付けちゃいますか」

 

「お、」

 

お、お、お、お揃いの指輪〜!!

 

モモンガさーん!!意味分って言ってるの?ねぇ?!

意識したら顔に熱がグアっと集まったのが自分でも分かった。

 

ここが『ユグドラシル』で良かった、リアルだったら動揺しているのが丸わかりで、更に恥ずかしくなる所だった。

 

「ミケさんも強くなってきましたし、たまには縛りプレイも良いかもしれませんね」

 

私の動揺なんて 気が付いていないのかのように、ケロッとした様子で話す、モモンガさん。

こんなにワタワタしてるのが私だけなんて、ますます恥ずかしくなってしまったのだった。




オリジナルアイテム登場

→みたま様から加藤さんを頂きました!

【挿絵表示】

可愛い!しかし、絵にしてみると より分かる幽霊感(笑

ありがとうございました!!


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11.理想の場所

☆ブルー・プラネット視点

 

その話を聞いたのは偶然だった。

辺境の荒れた大地から 実家に帰ってきたのがつい先日。その帰宅途中で若い男二人の話し声が耳に入った。

 

「今月末で『ユグドラシル』が終わっちまうらしいぜ」

 

「うわぁマジか。まぁ長いことやってたからなぁ・・・」

 

 

『ユグドラシル』か・・・

俺が引退してから、アインズ・ウール・ゴウンはどうなったのだろうか。

辺境の土地へ行く事が決まってから、ログインする事が出来なくなるので、あの時、俺は引退を決意したのだ。

 

正直、丁度いい機会だと思った。

前からログインする回数が減っていたし、俺の理想は、もう完成していたので、『ユグドラシル』を満足してしまっていたのだ。

 

だが、その『ユグドラシル』も終わりを迎える。俺の仲間達と作り上げたあの景色も二度と見ることは出来なくなるのだ・・・

 

 

そう思ったら、居ても立ってもいられなくなった。

もう一度、もう一度だけ その目に焼き付けておきたい。

 

長いアップロードを経て、俺は、数年ぶりに『ユグドラシル』の世界に飛び込んだ。

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

ナザリック地下大墳墓、第6階層。

久しぶりに訪れたそこには、素晴らしい自然が広がっていた。青々とした木々、透き通るような空。一際目立つ巨大樹が目に入って、あんなのもあったなと笑がこぼれた。

 

・・・こんな自然をリアルで味わいたかったな

 

荒廃していく世界で、かつての様な自然を復活させる事は、もはや絶望的だ。

 

このドルイドの力がリアルに持ち込めたら、あっという間に自然を復活させられるのに。

そうだな、このナザリック地下大墳墓をリアルに持っていけたら・・・

 

そこまで考えて バカらしくなった。

 

この場所は、ただのゲームのデータに過ぎないのだ。

ありえない、ありえないのだし、よく考えてみればここは 悪名高きあのアインズ・ウール・ゴウンだ。

人間種を蹂躙し、悪の支配者になろうとするかもな。あ、そうしたら、モモンガさんが魔王になるのか?

 

穏やかな声で笑うモモンガさんを思い出して、あの人ほど”魔王”が似合わない人もいないと苦笑いした。

 

 

「ブルー・プラネットさん じゃないですか!?」

 

ぼーっとしていたせいで、ギルドメンバーがログインした事に気が付かなかった。

声の主・・・モモンガさんは小走りにコチラへ近寄ってきた。

 

「お久しぶりですね!」

 

「お久しぶり、モモンガさん。『ユグドラシル』がサービス終了すると聞きいて 、引退した身でありながら最後に戻ってきちゃったよ」

 

「いえ、いえ!会えて嬉しいです!!もう実家に帰られたのですか??」

 

「一時帰宅だけどね、また明後日には転勤さ」

 

「そう、なんですね」

 

「あぁ、でも もう無くなっているかもしれないと思っていたから・・・こうやってもう一度この景色を見れて本当に良かった」

 

「かなり気合い入れて作ってましたもんね」

 

「ハハッそうだな・・・俺の理想だった」

 

 

静かな沈黙が流れた。もう消えてしまうんだと思うと心苦しい。

 

 

「そういえば、他のギルメンは誰が残ってるんだ?」

 

「あ、いえ もう・・・・・・」

 

言葉に詰まったモモンガさんに、目を見開いた。まさか、まさかモモンガさん1人だけなのか・・・?

 

「あー僕も最近、仲良くなった方とパーティー組んで遊んでいるので」

 

場の空気を気にしてなのか、モモンガさんは声のトーンを上げて 楽しそうに話した。

俺はその気遣いに感謝しつつ、便乗しようと思い、つい

 

「へぇ〜!彼女でも出来たのか」

 

と、聞いてしまった。

 

 

「へ?か、加藤さんとはそんな関係じゃないですよ!!?」

 

 

あれ?相手は女の人なのか。

・・・というか、この反応は

 

 

「じゃあ、どんな関係なんだ?」

 

「会社の同僚です。僕が『ユグドラシル』の話をしたら、興味があったのか彼女も始めて・・・せっかくなので、一緒にパーティー組んでレベ上げとか手伝ってるだけですよ」

 

モモンガさんの話を聞いてから『ユグドラシル』を始めたとか”脈アリ”じゃないのか?

そうじゃなきゃ、全盛期を過ぎた『ユグドラシル』を始めようとか思わないと思うんだが。

 

「ふーん」

 

「ちょ、ホントですからね!?」

 

「それで、加藤さん?には ちゃんとナザリック地下大墳墓を、この第6階層を紹介してあげたのか?」

 

「え?」

 

「いや、こんなに頑張った場所なんだ。もうすぐ終わってしまうのだし、モモンガさんの彼女さんに自慢して欲しくてな」

 

「か、か、彼女とかじゃないですって!!」

 

モモンガさんの反応が面白くで、柄にもなく、からかいすぎてしまったようだ。モモンガさんが、かなり動揺してしまっている。

 

「そ、それに人間種ですし・・・僕一人の判断で、ここに入れるのもどうかなと迷ってまして。レベル100になったら招待するとか言って先延ばしにしちゃってるんですけど」

 

「そんなの気にしなくていいのに。なんならアインズ・ウール・ゴウンに入れてあげたらどうだ?『ユグドラシル』の最後にその加藤さんにとっても、いい思い出になるだろう」

 

「いや、そういう訳には・・・」

 

「まあ、決めるのはモモンガさんだ。だけどな、モジモジしている内に 他の誰かに取られちゃうかもしれないぞ?」

 

「いや、そんな関係じゃないんですって!」

 

「ハハッ、すまんすまん」

 

 

あのモモンガさんにも春がきたのか〜。

 

最後にこうやってギルドメンバーと話せて本当に楽しかった。

”加藤さん”が居なかったら、ここでモモンガさんと話してても申し訳なさで居たたまれなくて こんなふうに話せなかっただろう。

 

 

見たことない彼女に感謝しつつ、俺は『ユグドラシル』に、アインズ・ウール・ゴウンに・・・そして、俺の理想郷に 別れを告げた。




※<自然をこよなく愛する、ごつい男らしい>という情報から私なりに読み取ったブルー・プラネットさんでお送りしました。


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12.リアルでのデート?

「え?いい、んですか?」

 

その日、職場の女性社員から手渡されたのは2枚のチケット。それは、今週末に上映される映画のチケットだった。

そもそも、映画館で映画を見るのは富裕層の娯楽として有名だ。なんてったって、チケットはとても高価なのだ。私なんか1回も行ったことがない。

 

そんな物を貰ってしまって良いのだろうか・・・?

 

「彼氏と行くつもりだったんだけど、ちょっと行けなくなっちゃってぇ」

 

困ったように首を傾げる彼女は、女の私から見ても可愛いなと思っちゃうほど魅力的だった。

・・・これ、私がやったら鈴木さんに可愛いって思ってもらえるかな?

と、考えシミュレーションしてみた結果、自身の気持ち悪さに身悶えした。ムリムリムリ、絶対ムリだ。

 

「この日は、社内のメンテナンスがあるから、みんな休みのはずだし。鈴木さん誘って、行ってきたらどうですかぁ〜?」

 

「うぇ?!」

 

「アハハ、何その反応ぉ〜!加藤さん、まじウケる」

 

いや、いやいや、ウケないからね!

なんでそこで鈴木さんが出てくるのさ?!すっごいビックリして変な声が出ちゃったじゃん。

 

「加藤さんと鈴木さんって、付き合ってるんでしょ〜?」

 

「ち、ちがいますよ?!」

 

 

あぁああ!!!!

 

あのウワサ消えてなかったよ!?むしろ悪化してる!!!

 

「え〜??あ、そういうことかぁ!加藤さんも真面目ですねぇ」

 

「あ、あの・・・?」

 

「はい〜大丈夫ですよぉ!分かりましたから」

 

え、だ、大丈夫かな?なんか勘違いしてる気がするんだけど・・・

 

「彼氏が落ち着いたら、映画見に行こうかなって思ってるから、感想教えてねぇ」

 

「あ、彼氏さん、何かあったん、ですか?」

 

「それがね〜強盗が入っちゃって!」

 

「え!?」

 

「彼は外出中だったから、無事だけどぉ。かなり、荒らされちゃったんだって〜」

 

「あ、それは、怖いですね」

 

「ホントだよねぇ!犯人捕まってないらしいしぃ」

 

強盗・・・と聞いて、死んだ両親の事を思い出した。鉢合わせていたらと思うとゾッとしてしまう。

 

「お互い気をつけましょ〜乙女の一人暮らしは危険ですからぁ」

 

「そ、そうですね」

 

本当に怖い身近な話なのに・・・

この時私は、映画のチケットを握りしめながら、「もういい歳の大人だけど、乙女で良いのだろうか?」なんてどうでもいい事を考えていたのだった。

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

映画のチケットを貰ってから二日過ぎた。鈴木さんには、何度も何度も誘おうとしたけれど 上手く言葉が出なかった。

 

自分のヘタレ具合が本当に情けない・・・

 

早く言わなきゃ・・・と思うものの、「もう予定が入ってるんじゃないか」「さすがに男女二人で映画なんて嫌がるんじゃないか」と、まぁ考え込んでしまって 勇気が出なかった。

 

チケットを閉まっているデスクの引き出しを何度も触っては、ため息をこぼしていた。

 

「加藤さん?体調が悪いんですか?」

 

「え、」

 

ふと、隣を見れば 心配そうに鈴木さんがこちらを伺っていた。ちょっとだけ距離が縮まって、思わずドキリとしてしまう。

 

「いや、最近 ボーッとしてたり・・・ほら、今も顔が赤いですし。無理は禁物ですよ」

 

「あ、いえ、違う、んです!元気、いっぱいです、から」

 

「そうですか?悩み事なら聞きますよ。・・・あー、僕で良ければですけど」

 

 

これはチャンスなんじゃないのか??上手く映画の事を話してしまえば・・・!

 

 

「あ、えっと・・・あの、コ、コレをもらったんです」

 

 

ぜんっぜん、言葉が出てこなーーい!!

 

それでも何とか伝えようと引き出しから、2枚ある映画のチケットを取り出して鈴木さんに手渡した。

 

 

「ん?映画・・・ですか??」

 

「行けなく、なってしまったから・・・その、感想を教えて、欲しいって、頼まれて」

 

「へぇ。あ、これ・・・確か、死に別れたカップルが、別の世界で生まれ変わって結ばれる話でしたっけ?」

 

「あ、知ってるの、ですか?」

 

「ちょっとCMが目に入っただけなので、少しだけですよ。”別の世界”というのが自然豊かな世界で、その再現度が素晴らしいとかなんとか・・・」

 

「興味、あ、あります、か?」

 

「まぁ、映画館で見るのは格別らしいですからね。『ユグドラシル』のようなVRMMOとは比べ物にならないって聞いたことありますし・・・」

 

「い、い、い、いきましゅか!!」

 

「え」

 

あぁああああああーー!!

死ねる!今なら恥ずかしさだけで死ねるぅ!!

 

「えっと、・・・行ってもいいんですか?」

 

「は、はい!」

 

「なら、一緒に行きましょう」

 

「は、い!」

 

 

込み上げてくる恥ずかしさに、涙目になりながらも、俯いてやり過ごした。

噛んでるの分かっててスルーしてくれる鈴木さんやっぱりカッコいい!

 

 

「なら、待ち合わせに必要ですし、連絡先を教えて貰ってもいいですか?」

 

「あ、は、はい!」

 

 

私は、緊張で震える手を必死に押し殺しながら、メモ帳に携帯の電話番号を書き込んで手渡した。

 

 

「映画、楽しみですね」

 

「そ!そう、ですね!」

 

 

柔らかく笑う鈴木さんの笑顔が眩しかった。

結局、その日は一日中 私の胸の鼓動は高まりっぱなしで いつも以上に挙動不審になりながらも 何とか1日を終えたのだった。




女性社員
「あれで、付き合ってないとかウソでしょ!社内恋愛は、よく思わない人もいるっていうし〜。内緒にしてるのかなぁ?」



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13.今が幸せだから

☆鈴木悟視点

 

加藤さんが誘ってくれた映画館はアーコロジーの中にあった。

 

俺と加藤さんは外で待ち合わせしてから一緒に映画館へ向かい、今、やっとアーコロジー内へ入ってきた所だ。

 

入場手続きにはかなりの時間を取られると覚悟してきたのだが、加藤さんのおかげですんなり入ることが出来た。

 

加藤さんいわく、「育ての親のコネ」だそうだ。

 

育ての親?血の繋がった親じゃないという事だろうか・・・

仲良くなって数ヶ月の間柄だけど、実は加藤さんの事はよく知らない。

彼女は、あまり自身の事を話したがらないというのもあるけれど、俺自身も家族の事とかは話さないから余計かもしれない。

 

まぁ、同じ会社で働く同士 これからも時間はたっぷりある。少しずつ、距離を縮められたらいい・・・そう、思っていた。

 

 

 

アーコロジーの中は外とは比べ物にならないぐらい快適だった。

 

息苦しくないし、空気は澄んでいて視界が広い。

 

隣を歩く加藤さんをチラッと横目で見れば、不安げに周りをキョロキョロと気にしながらちょこちょこ歩く彼女と目が合った。

 

加藤さんに突き刺さる人の目。

隣で歩く俺にだって分かるほど隠しもしないその視線にイラつく。すれ違う人達はコソコソと話しながら、遠慮なくコチラを見てきた。

 

 

「酷い傷跡ねぇ」

「コレだから外は怖いんだ」

「女の子なのに可哀想に」

「え、何アレ、気持ち悪ッ」

 

 

同情的なものから、悪意あるものまで・・・。俺たちの姿は 綺麗なものを着てきたとはいえ、富裕層の目の肥えた奴らには スグに外から来た人間だと分かるらしい。

 

昨日の電話越しでは、あれほど楽しみにしていた加藤さんの 悲しそうに俯く、その姿は見てられなくて。

早く笑ってほしい。そう思ったら、衝動的に行動を起こしてしまっていた。

 

パッと手に取った加藤さんの手に力を込める。大丈夫、大丈夫、そばにいるから、だから前を向いてほしい。

 

「・・・大丈夫ですよ」

 

「あ!あ、あの」

 

「映画が楽しみですね」

 

「そ、うですね。・・・ありがとう、ございます」

 

 

気恥しさからか、か細く聞こえた感謝の言葉は、それでも とても嬉しそうだった。

 

・・・良かった、何とか元気づけられたみたいだ

 

 

 

もう俺には、胸でくすぶるこの感情が何なのか分かっていた。

たぶん、きっと、加藤さんも俺と同じ想いをコチラへ向けていてくれる事も・・・

 

今になって、”手を繋いでいるという事実”に、顔が熱くなってきた。

 

いや、これは、かなり、めちゃくちゃ、ヤバいな!!

 

 

 

 

『前方にカップル発見!』

 

『グハハハハッ リア充爆発しろやぁ!!』

 

昔、『ユグドラシル』でPKしていた時のペロロンチーノさんと ウルベルトさんの姿が脳裏に蘇って、思わずむせ返った。

 

「ゴホッゴホッ」

 

「あ、だ、大丈夫、ですか?」

 

「ええ、すみません。ちょっと昔のことを思い出しちゃって」

 

「む、昔、ですか?」

 

「ギルドメンバーの事を・・・」

 

「そ、そうなん、ですか?良ければ、聞かせ、てほしいです!!」

 

 

目をキラキラさせて俺を見上げてきた加藤さんが、いつも以上に可愛く見えてドキドキしてしまう。

 

俺にはこれ以上、加藤さんの顔を見ることが出来なくて、前を向いた。この気持ちを誤魔化すように、多少早口になりながらも彼らとの思い出話をしながら、足を進めていく。

 

 

目的の映画館はスグそこだ。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「いや〜面白かったですね」

 

「そう、ですね!か、感動しちゃい、ました」

 

 

初めて映画館で見た映画は、本当に凄いクオリティだった。まるで自分がその場に居合わせているかのようなリアル感。特に自然の再現度は思わず興奮するほどだった。

 

加藤さんはどちらかと言うとストーリーに感動したようで、エンディングでは涙を零していた。涙を俺に見られて恥ずかしがっていたので、可愛くて ちょっとからかってしまったけれど。

 

 

「ストーリーも良かったですけど、やっぱりクオリティが高いですね。まるで目の前にあるかのようなリアル感!『ユグドラシル』とは大違いですねぇ」

 

俺は『ユグドラシル』以降に配信されたゲームには、ひとつも手を出していなかった。

だけど、こんなにも違うのなら まぁ、今回の映画ほど・・・とは行かなくても、クオリティの高いゲームに流れてしまうのは仕方ないとさえ思えた。

 

 

「時代の流れなのか・・・『ユグドラシル』がサービス終了するのも必然だったのかもしれませんね」

 

「今月末でした、もんね。な、なんだか、あっという間、でした」

 

「ええ・・・あ、加藤さん そろそろ100レベルになりますし、来週中にでも ナザリックにご招待しますよ」

 

「あ!やった、嬉しい、です!!」

 

「約束でしたからね。それに、早くしないと終わっちゃいますから」

 

ブルー・プラネットさんにも『自慢して欲しい』って言われたし、第6階層以外にも見せたいところは沢山ある。なくなってしまう前に 加藤さんにも知っていてほしい。

そんな事を考えていたら、寂しくなってきてしまって、つい 乾いた笑みになってしまったのが、加藤さんにはバレてしまったらしく、彼女は俺に向き直って真剣な面持ちで話し始めた。

 

「あ、あの! !また、つ、作りましょう!」

 

「え、」

 

「『ユグドラシル』じゃ、なくても、ほ、他のゲーム 世界でも!!アインズ・ウール・ゴウンを作って、こ、今度こそ、世界征服しちゃい、ましょう!!ナザリックも、拠点NPC達も ふっ復活させて 悪のそ、組織 になっちゃいましょう!!」

 

勢いよく話す加藤さんに気圧されながらも 俺は・・・彼女となら、それもいいかもしれないと思った。

仲間たちとの思い出も 胸に抱いたまま 新しいステップへ進めると思ったんだ。

 

「フフッ アハハ、そうですね。また作りましょう 」

 

「あの、その、そ、その時は、私も仲間に・・・入れて、欲しいです」

 

「ええ、勿論ですよ!なんだか楽しみになってきましたね」

 

「えへへ、良かった、です」

 

 

可愛らしく笑う加藤さんに触れようとして・・・いや、いやいや、何やってるんだと 自粛した。

 

慌てるな、慌てなくていいはずだ。

時間をかけてゆっくり 距離を縮めていけばいいんだから。

 

 

 

 

 

 

 

俺はバカだ。

 

ずっと続く時間なんてない。

一大ブームとなった『ユグドラシル』も時間の流れには逆らえなかったのに。

何事にも”始まりには終わりがある”その事をちゃんと理解していなかった。

 

この時 勇気を出していれば・・・そうすれば、よかったのに。

 



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14.運命の日

今日は念願の ナザリック地下大墳墓へ突撃する日だ!

 

「おつかれさまです。それじゃ、また夜に、いつもの街で待ってますから」

 

「お、おつかれ、さまです!わかり、ました。楽しみに、してますね」

 

 

仕事を終え、鈴木さんと挨拶をかわしてから帰宅した。

それは、もう 鼻歌交じりに最速力で移動した。

 

あの、アインズ・ウール・ゴウンの拠点であるナザリック地下大墳墓へ行くことが出来るんだ!

 

スグにでもログインしたくて、家に入って そのまま中へ駆け込んだ。いつもならちゃんとするはずの玄関の戸締りも忘れて。

 

 

いつもの椅子に座り、パソコンを起動させ、もはや 慣れ親しんだコンソールを取り付けた。『ユグドラシル』を起動させてログイン画面に入ったところで 不自然な影が背後をかすった気がして、パッと後ろをふり返った。

 

 

機具を取り付けているせいで ハッキリとは分からなかったものの、そこに”誰か”がいる事。そして、それが私に対して良くないものである事が、直感で分かって、恐怖より先に声が出た。

 

 

「だ、誰?!」

 

 

「ーーチッ」

 

 

こちらに影が迫ってくるのが分かって、咄嗟にテーブルに置いてあったペン立てを手に取り、影に向かって思いっきり投げつけた。

 

「いッッーー、テメェ!!」

 

一瞬怯んだ影が 更にこちらへ迫ってきた。

あぁ、ログイン画面邪魔!めっちゃ邪魔!何も見えないから!!

 

椅子に押し倒される衝撃に、首に刺さってたプラグが無理に引っ張られ軋みをあげた。

 

それから碌な抵抗も出来ないまま、お腹に突き刺さる何かに痛みと恐怖が駆け巡る。

 

 

 

嫌、いやいやいやいや!!!!!!

 

 

 

ナザリックに行けるのに!

鈴木さんとも上手くいけるかも なんて思ってたのに!!!

 

お腹から引き抜かれ、もう1度振り上げられた何かを手で掴んだ。・・・これ、ナイフだ。両手で包み込めないほど大きいナイフ。

 

ハッと、影が 動きを止めたその一瞬に、昔”お兄ちゃん”から教えて貰った護身術を使って、ナイフを取り上げ、反射的に影に向かって突き刺した・・・が、上手く急所は外したらしく 影がよろめきはするものの 倒れることは無い。

 

「くそ、くそったれ!」

 

反撃された痛みに耐えきれなくなったのか、驚いたのか、影は バタバタと部屋を駆け出して そのまま姿を消した。

 

 

 

『何かあった時のために必要だからな』

 

へへへ、お兄ちゃん。上手くいったよ

 

小さい頃、友だちの出来なかった私に たった一人だけ付き合って遊んでくれたお兄ちゃん。何年も会っていない彼に、私はニヤッと笑った。

 

 

 

あぁ、でも。

残ったのは 血だらけな私だけ。

 

無我夢中でナイフを取ったからか、両手の感覚がない。

危険が去ったと思ったら、アドレナリンが切れたようで、身体が痛みに悲鳴をあげてた。苦しさの余り、動けない。

そうしている内に身体に力が入らなくなっていく・・・

 

 

行きたかった、ナザリックにいけるはずだったんだ。

 

生きたかった、鈴木さんと もっともっと一緒に・・・

 

 

 

「・・・す、すずき・・さ・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

☆鈴木悟視点

 

 

加藤さんが、昨日 『ユグドラシル』にログインしてこなかった。

あんなに楽しみにしていたナザリックへ行く日に限って どうしたんだろうか?

彼女と遊ぶようになってから、こんな事は初めてで俺はずっと待ち続けた。

 

待ち合わせ時間から 1時間、2時間と時間が経って 何かあったんじゃないかと思い、電話をかけてみるものの・・・出ない。

 

どうしようもない不安で、胃がヒリヒリしてきた。

 

 

え、嫌われたのか?

いや、でも、職場では普通だったしな。

 

どちらにしろ、加藤さんの自宅は知らないし、何もすることが出来ないまま 朝を迎えてしまった。

 

 

 

 

あれから結局、不安で一睡もできず仕事へ向かい、加藤さんの姿を探した。

 

だが、就業時間になっても加藤さんは 現れない。

もしかして、本当に何かあったんじゃ・・・

 

 

就業のベルがなったその時、社長が部署内に入ってきた。

一気にその場がザワついた。滅多なことでは 社長は現場に来ることは無いからだ。

 

「何か重大なミスをやらかしたのか?」

「え〜仕事がこれ以上増えるのはホント無理」

 

ガヤガヤする皆に、部長が声を上げた。

 

「静かにしなさい。そのまま席につきながらで良い」

 

あんな真剣な顔で話す部長は初めて見た。

そして、どこか悲しげな面持ちで皆を見渡した社長は 静かに・・・衝撃の事実を告げた。

 

 

 

 

「加藤 さゆりさんが、昨夜 自宅にて強盗に襲われ亡くなった。」

 

 

 

 

ガタンッ

 

俺は、思わずその場に立ち上がってしまった。心臓が痛いほどバクバクと鳴っている。これ以上、何も聞きたくなくて、それでも社長から目が離せなかった。

 

社長はコチラを見たものの、そのまま話を続けた。

 

 

「我社のあるこの地区にも、皆が住んでいる地区にも犯罪が絶えない。貧民街にほど近いこの場所で生きるなら 仕方ないことだ。・・・各自、防犯意識をしっかり持つように。それと、彼女が請け負っていた仕事は協力して処理するように。以上だ」

 

 

話し終えるとそのまま退出した。

 

ガヤガヤと周りが騒がしくなっていくが、そのどれもが遠くで聞こえているようだった。

 

「鈴木さん、大丈夫ですかぁ?」

 

すぐ側でした声の方を見れば、加藤さんと仲良くしていた女性社員が心配そうにコチラを伺っていた。

 

「加藤さんの事は その、お気の毒でしたけどぉ。鈴木さんも無理しないで・・・」

 

「か、加藤さんが」

 

死んだ?

あの加藤さんが・・・?

 

 

 

 

 

「ーッ!、す、鈴木さん!!しっかり!!」

 

昨日の徹夜が響いたのか、心配で碌に飯を食べてこなかったのが悪かったのか。

 

俺はそのまま意識を失った。

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

目が覚めたのは 昼過ぎになってからだった。

入社してから保健室のお世話になるのはこれが初めてで、起きた当初は何処にいるのかと混乱したが、タイミングよく入ってきた部長から、もう一度説明された。

 

加藤さんが亡くなった事を

 

呆然としている俺の手に1枚の紙を握らせ、部長は言った。

 

「今日、そこで 加藤さんのお通夜があるそうだ。・・・お前は行ってこい」

 

「あ、」

 

「あと、お前 もう帰れ。仕事の邪魔だ」

 

足元に置いてあったらしい俺のカバンを押し付けて、部長は立ち去った。ドア越しに部長がなにか喋ったのが聞こえた気がしたが、どこか遠い出来事のようで。

 

俺は何も言えずに・・・結局、どこか頭がフワフワとしながら帰宅した。

 

 




部長「加藤が死んだか。鈴木とも上手くいってたのになぁ〜。はぁ、クソ!・・・・・・おっぱいぐらい揉んどきゃ良かったぜ」


まさかの急展開で読者を置いていくスタイル



※活動報告にて、タイトルについてのアンケートを実施しております!沢山の方の意見を聞きたいのでコメントしてくれると嬉しいです|ω・)

アンケートの結果を見ながら、2章開始と同時にタイトル変更致しますのでよろしくお願いしますね!


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15.現実は残酷だ

☆たっち・みー視点

 

加藤さゆりが死んだと聞いたのは、まだ肌寒い二月末の事だった。

最初に通報を受けた時、同姓同名の別人だと思いたかったが・・・現実は残酷だ。

 

無理を言って向かった現場には、玄関まで続く血痕の跡があり、それを追って室内に入ると 血だらけの部屋があった。

そこには、まだ”遺体”があった。

 

「ナイフで腹部を一突きか。被害者は激しく抵抗して・・・はぁ、これは 酷いな」

 

一緒に現場へ来た同僚の声を聞きながら、俺は震える自身を叱咤し、なんとか足を進めた。コンソールを付けたままの遺体は顔が見れなかったから、彼女でない事を確認しなければいけない。

 

そのまま、コンソールに触れようとして 後から 肩を思いっきり掴まれた。

 

「お、おい!加藤!!現場を荒らすな、新人じゃねぇんだから、しっかりし・・・・・・お前、大丈夫か」

 

「あ、あぁ、すまん」

 

「この被害者は、知り合いか?」

 

「・・・・・・俺は触らない方がいいかもな。すまんが、コンソールを外してもらえるか?」

 

俺は1歩下がって、同僚に頼んだ。

震えが止まらない・・・ここにきて やっと自分が冷静でないことが、理解出来た。

 

同僚の手が 被害者のコンソールへ伸びて、現れた素顔は、顔半分を覆う火傷の跡がある見慣れた女性のものだった。

 

「さ、さゆり・・・」

 

俺の反応から、身内だと分かったのだろう。その場に居合わせた者達から哀れみの視線が向けられるのを感じた。

 

「くそ、マジかよ・・・加藤、お前は外れろ。分かるな?」

 

「・・・・・・さゆりは、俺の妹で・・・家族だったんだ」

 

身内は捜査に加われない。様々な理由があるが、一番は冷静な判断が出来なくなるからだ。・・・今の俺のように。

 

「不利な状況下で、必死に 犯人へ反撃したんだな。激しく争った形跡と、外へ続く血痕の跡・・・犯人は小さくない傷を負っているはずだ。」

 

そう言ってから、同僚は俺の肩を強く叩いた。

 

「さすがお前の妹だな。これなら逮捕まであっという間だろうさ。・・・とにかく、俺達に任せろ。な?」

 

「・・・頼む」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

さゆりの葬式は身内だけで、ひっそりと行われた。

貧民層出身の人間は こうした式を行うことすら出来ないらしいが さゆりの場合は特殊だ。

 

さゆりの育ての親である俺の叔父は、富裕層出身で 若い時は出世し成功を収めたものの 富裕層の人間に嫌気がさして 貧民街へ移り住んだ変わり者だった。

 

そんな叔父と俺は趣味が合うこともあり 交流があったのだが、そこで さゆりと出会った。

血の繋がりはないものの、俺は さゆりを妹のように思っていたし、さゆりも俺の事を『お兄ちゃん』と呼んでくれていた。

 

彼女は、火傷を顔や喉に負っていたこともあり、見た目を気にして 内気な性格をしていたが、その反面 豪快な性格の叔父の性質を ちゃっかり受け継いでおり、身内には はっちゃけた所を見せる・・・まぁ、楽しい奴だった。

 

 

棺の前で泣く叔父に どんな風に声をかければ良いのか分からず、俺は部屋の隅で遺影を見ていた。

 

 

 

さゆり、お前 死ぬには 早過ぎるだろ・・・どうしてなんだ

 

 

 

 

 

 

暫くそうしていると、この閑散とした部屋に見覚えのある男が1人、入ってきた。

こちらが見えていないようで、棺の前にいる叔父の元へ進み出ていった。

 

「お前は・・・」

 

「加藤さんと・・・同じ職場で務めていました。鈴木と申します。・・・この度は、お悔やみ申し上げます」

 

「あぁ、お前が 例の・・・とにかくお香をあげてやってくれや」

 

「失礼します」

 

 

誰だという疑問は、その声を聞いて確信した。

ここ何年も聞いていなかった アインズ・ウール・ゴウンのギルド長、モモンガさんだ。

 

まさか、モモンガさんと さゆりが同じ会社勤めだったとは・・・

 

俺が、声をかけようと立ち上がった所で叔父の口が開いた。

 

「・・・ありがとな」

 

「いえ、加藤さんには とてもお世話になったので・・・・・・どうしても、会いたかったですし。」

 

「いや、それもだがな。お前だろ?さゆりとデートしたって男は」

 

「え?・・・デートですか」

 

「映画見に行ったそうじゃないか。あんなにあの子が 嬉しそうだったのは 初めて見たよ。・・・この子も女の子なんだと思ったもんさ」

 

「・・・加藤さんは、デートだと思ってくれていたんですね」

 

「お前は違うのか?」

 

「いえ、そうならいいな。とは 思っていました。・・・すみません、ここに来たら なんとかなると思ったんですけど。なんだか 信じられなくて」

 

「・・・なぁ、鈴木さんや。俺は あんたみたいな人間が、さゆりの そばに居てくれて良かったと思ってるよ」

 

 

 

それから無言で俯くモモンガさんに俺は声をかけた。

 

「モモンガさん?」

 

「え、あ、たっちさん」

 

ゆっくりと振り返ったモモンガさんの顔は青白く、目も生気を宿していないかのように虚ろだった。

以前のモモンガさんを知っているからこそ、その異常さに思わず言葉を失う。

 

・・・これは、これは、ダメな奴だ

 

 

仕事柄、たくさんの人を見てきた。

 

その中には、”大切な者を失う人”も多く含まれているのだが、モモンガさんのこの姿は 危険だと、今までの経験が警報を鳴らしていた。

 

その目は 現実を見ることが出来ていない。すべてを拒絶して 崩壊していく人の姿だ。

 

 

「なんだ、お前ら知り合いか?」

 

「あぁ、彼は友人だよ。叔父さん、ちょっと彼と外に出てくるから」

 

「分かった」

 

 

モモンガさんは俺に連れられるまま 外へ出た。ふらふら歩く姿はいつ倒れてもおかしくないとさえ思える。

 

「モモンガさん。お久しぶりですね」

 

「・・・ここで会うとは思ってませんでした。加藤さんとは どういった関係ですか?」

 

俺は、ぼーっとコチラを見るモモンガさんをベンチへ腰掛けさせて 自身も隣へ座った。

 

「親戚ですよ、さゆりとは兄妹のような仲でした。」

 

「そうでしたか・・・」

 

「モモンガさんは、さゆりとは会社の同僚との事でしたが?」

 

「それもですけど、加藤さんとは一緒に『ユグドラシル』をやってまして それで 仲良くなったのですが・・・」

 

そうか、さゆりも あのゲームをやっていたのか。

 

モモンガさんはそのまま、言葉に詰まり黙ってしまった。

今にも壊れてしまいそうな、消えてしまいそうな モモンガさんが怖くて、俺は無理やりモモンガさんの手を取り 両手でしっかりと握りしめた。

 

モモンガさんまで遠くへ行ってしまわないように、祈りを込めながら

 

 

「モモンガさん。さゆりを殺した犯人は必ず捕まえます!!奴を刑務所へぶち込んだら連絡します。だから、だから、必ず待っていて下さい!」

 

「は、い・・・お願いします」

 

 

 

 

 

 

あれから数日後、3月頭に犯人は逮捕された。

 

今回の強盗殺人事件は、さゆりの反撃した刺し傷が大いに活躍し、スピード解決へと繋がった。

 

犯人が入れられた刑務所は厳しいと有名な場所だ。そこへ入れられた者は、奴隷のように働かされ捨てられる。

 

・・・仇は取った、

そう思うのに 俺の心が晴れることはなかった。

 

 

 

 

 

 

犯人を捕まえて、すぐにモモンガさんへ連絡を入れたが 俺が彼の声を聞くことはもう出来なかった。




たっち・みーの名前を作品の都合上『加藤』にしてあります。


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16.そして世界が終わる

☆鈴木悟視点

 

加藤さんがいない。

 

あの日から 何処にいても彼女の姿を探してしまう。

職場でも、『ユグドラシル』でも、彼女がいるんじゃないかと似てるものを目に入れてハッと顔を上げては、見間違いだと肩を落とす。

 

『ユグドラシル』が終わってしまう、アインズ・ウール・ゴウンが消えてしまう事への悲しさ、虚しさを加藤さんが埋めてくれた。

 

加藤さんとなら、全てが終わってしまった この先も楽しみにできた。

 

加藤さんとなら、俺は・・・おれは、

 

 

 

 

 

 

 

今日は『ユグドラシル』最終日だ。

 

二週間ほど前に ギルドメンバーへ呼びかけていたこともあり、ほんの数人ではあったが 言葉を交わすことが出来た。あんなに待ち望んだ再会も どこか遠いところで見ているような感覚だった。

 

俺がこんな調子だったからだろうか?

 

 

「モモンガさん、大丈夫ですか?」

 

今日会った全てのギルドメンバー・・・社畜で俺より過酷な環境にいるはずのヘロヘロさんにまで、酷く心配されてしまった。

 

笑って誤魔化してみたものの・・・結局、上手く誤魔化せてなかったのだろう。

明日、朝が早いと言っていたヘロヘロさんが、心配して残ってくれようとしていたが 大丈夫だと押し切って帰した。

 

 

 

一際、存在感のある杖スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンが目に入った。

 

『へぇ〜 さすがギルド武器、す、凄そう、ですね!いつか 見てみたい、です』

 

これ以上何も失いたくないと思ったからだろうか・・・。

意味などないのに、俺は ギルドの心臓といえるスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを掴み取った。

 

 

 

頭を過ぎるのは、加藤さんとの思い出ばかりだ。

 

 

『せ、戦闘メイドですか!つ、強い女の子 カッコいい、ですね!』

 

・・・加藤さんは強い女性キャラの話が好きだったな。

ズラッとならぶ戦闘メイド、プレアデスと執事セバス・チャンが整然と佇んでいた。

 

セバスを見た時に・・・泣き出しそうな顔で俺の手を握りしめていた たっちさんの顔がチラついた。

 

『モモンガさん。さゆりを殺した犯人は必ず捕まえます!!奴を刑務所へぶち込んだら連絡します。だから、だから、必ず待っていて下さい!』

 

 

 

 

 

「・・・付き従え」

 

決められた指示通りに付いてくる NPCを連れて、足はフラフラと それでも 確実に 玉座の間へと向かっていた。

 

 

 

玉座の傍らには、美しい女性が佇んでいた。

黒髪に金の瞳、腰から生えた黒い翼。階層守護者統括アルベド。

 

あぁ、やっぱり似ている。

 

初めて『ユグドラシル』であった時、アバター越しにでも、加藤さんが緊張してるのが分かったっけ。

 

『そ、そうです!よろしく、お願い、します』

 

 

目を閉じれば今でも鮮明に思い出せる 彼女の声。彼女の姿。彼女の・・・

俺は付き従っていたNPCを待機させてから、玉座に腰掛けて深くため息を付いた。

 

 

『ぎゃ、ギャップ萌え、ですか!すごく、すごく!理解、出来ます!!』

 

確かアルベドの設定は・・・と、思い出した所で俺は、込み上げてくる不快感を隠しきれなかった。

 

「タブラさん、・・・もういいですよね」

 

俺はスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを使い、アルベドの設定を消そうと 手を動かした。

アルベドが、あの日の加藤さんに見えて、あの最後の一文が許せなくなったのだ。

 

 

 

『えへへ、れ、レベル、上がりました!』

 

『異業種、の為の”悪”の、ギルド!カッコいいです、よね』

 

『・・・す、鈴木さん!ご ご飯一緒に、どう、ですか?』

 

『ほ、他のゲーム 世界でも!!アインズ・ウール・ゴウンを作って、こ、今度こそ、世界征服しちゃい、ましょう!!ナザリックも、拠点NPC達も ふっ復活させて 悪のそ、組織 になっちゃいましょう!!』

 

 

 

 

あ、

 

 

アルベドを見ながらぼーっとしていた為、気が付けば ぎっしり書かれていた設定が半分以上、消えてしまっていた。

 

 

「あ、あぁああああ!!!!?、あぁ〜、何やってんだ俺」

 

 

 

中途半端な文章をなんとか修正したものの・・・・・・アルベドの設定をしっかり覚えているわけではない。

 

これ以上の復元は無理だった。

 

 

 

「あ”ーークソ!!、はぁ・・・タブラさん、本当にごめんなさい」

 

 

ため息を吐きながら項垂れた。

最近は、まともに食事も喉を通らず、眠れなかったせいだろうか?頭がボーッとする。だからってアルベドの設定を消していい理由にはならないんだけどな、あぁ、本当にごめんなさい、タブラさん。

 

ふと、加藤さんから貰った黒い蜘蛛の指輪が白い骨の指に付けられているのに視界に入った。

付けていると何だか・・・彼女がそばにいるような気がして、外せなかったのだ。この指輪も、『ユグドラシル』が終われば消えてしまうのに、自身の情けなさに呆れる。

 

 

 

 

『ユグドラシル』を終わらせる時間が迫ってくるのが見えた。

 

 

【23:58:09】

 

終わる、終わってしまう・・・

 

ギルドメンバーと過ごしたアインズ・ウール・ゴウンも

 

俺の青春を過ごした 『ユグドラシル』も

 

加藤さんとの思い出も・・・

 

 

【23:59:00】

 

 

涙が頬をつたったのが分かった。・・・泣いているのか、俺は

 

 

【23:59:15】

 

 

あぁ、そうか、俺は加藤さんの事が、こんなにも

 

 

「・・・好きなのか」

 

 

言葉にしてしまえば、もう感情を留めることは出来なかった。

 

「好き、だったんだ」

 

溢れだす涙に反するように、ふつふつと 煮え滾るような怒りが込み上げてくる。

 

 

「な、んで、死んでしまったんだ・・・なんで、なんで!俺から奪うんだ!!!仲間もギルドも・・・愛した人でさえ!!」

 

 

耐えきれず、ドンッと腕を振り下ろした。生身の腕がじんじんと鈍い痛みを伝えてくるが、そんな事どうでもよかった。

 

家族も仲間も思い出も・・・愛した女性も 居なくなった。

ここには誰もいない、もう、俺は一人だ

 

 

「俺を 置いて行かないで、くれ・・・・・・うあああ、ぁぁあ!!!!」

 

 

 

【00:00:00】

 

 

 

激しく泣き崩れるモモンガに、NPC達は目を奪われていた。

誰もが 激しく動揺し、涙し、動けずにいた。

 

 

 

 

だからだろうか、モモンガの指にはめられた指輪。

その黒い蜘蛛の背中に乗ったダイヤが妖しく光ったのに、誰も気が付くことはなかった。

 

 

 

 

 




【血塗られた蜘蛛王の嘆き】
『その蜘蛛は愛する人を決して逃しはしない。即死耐性35%アップ。全ての無効化スキルを無効。』

第1章【惹かれ合う二人】完!


次回から転移後の第2章へ入ります


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第2章《捨てられない過去》
17.私の家族


第2章始まります〜


突然だが、どうやら私は生まれ変わったらしい。

 

綺麗な金髪に、くりっとした青い瞳の女の子。それが今の私だ。

私にそっくり、いや、私がそっくりなのか、とにかく似ている温厚なお母さんと、こげ茶の髪に深い青の瞳の快活なお父さんと、金髪に青緑の瞳をもつお婆ちゃんとの4人暮らしだ。

 

村長だったおじいちゃんは、私が産まれてすぐに亡くなったらしい。今はお父さんが村長をしている。

 

お父さんは 頭は良いが、運動神経が絶望的に悪い。だけど、村をまとめ上げる力(リーダーシップのことかな?)は、ある・・・らしい、とはお婆ちゃんから聞いた。

 

 

私の住むこの村は 川沿いに作られた20世帯ほどしか住んでいない こじんまりとした開拓村だ。

 

 

豊かな大地と青々とした空。

 

私が生きている この世界は、”前回”の荒廃した世界とは比べ物にならない程、何もかもが違った。

 

映像の中でしか見るのことが叶わなかった自然に、囲まれた電気も水道もない原始的な生活。危険もそれなりにあるが、それは前世でも同じだ。だいたい、私は強盗に襲われて死んだしね!

 

くそ!あの野郎め!

 

今となっては玄関の鍵をかけ忘れた自分も悪かったと割り切れているものの 、コチラに産まれたばかりの頃は、混乱やら 怒りやら 悲しさやらで 泣きじゃくる毎日。

 

本当に両親には迷惑をかけました。

私が1歳になる頃には、お母さんなんか ストレスで げっそり痩せちゃって・・・本当に申し訳なかった。

 

 

何故か前世の記憶を持って生まれてきてしまって、大変だったけれど 記憶を失わなくて良かったと思ってる。

 

大切な人達の事も、大好きだった鈴木さんの事もずっと胸に抱いて生きていけるもの。

 

 

あぁ、ナザリック地下大墳墓へ行ってみたかったなぁ。

鈴木さんには申し訳ないことしちゃった。・・・・・・私が死んで悲しんでくれたのかな。もし、少しだけでも私の事を想って泣いてくれたら・・・なんて想像しても どうしようも無いのに、何度も考えてしまう。

 

あのクソ野郎、強盗は捕まったのかな?

お兄ちゃんならきっと、捕まえてくれたよね・・・

ちゃんと手傷も追わせたし、私にしては頑張ったと思うんだ。

 

 

・・・・・・後悔はめちゃくちゃしている。

 

でも こればっかりは仕方ないと思うんだ。私みたいに理不尽に殺された人なんて、みんなこんな感じなんじゃないかな?

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

開拓村といえば、ド田舎だし、大変そうなイメージがあるかもしれない。だけど、実際に住んでみた私の感想もしては”快適”の二文字に尽きる。

 

太陽が昇る時間に起きて、田畑を耕したり、木を切り倒したり と、各々仕事をして夕方には終了。太陽が沈んだら就寝だ。

もちろん、雨の日はおやすみである。

 

 

超絶ホワイト!!

「割りとホワイトに近いブラック会社」って言われてた前世の私が務めていた会社も真っ青になるぐらいには ホワイトな職場?だ。

 

 

これで、「金がない」だの「生活が厳しい」だの言ってる大人を見た時は、思わず、ビンタをしてしまった。

パチン可愛い音が鳴っただけだったし、場所も足だったのもあって痛くなかったみたいで、私がビンタした大人から笑われたけどね!

 

いや、彼らは何にも悪くないよ?

 

私なんか まだまだ子どもで働いてないし、何も言う資格もないけどさ。

 

朝5時から18時まで働いてた前世の私がね、黙ってられなかったんだよ!

さらに残業なんてしょっちゅうある。早残業(仕事前の朝にする残業)なんか くっそ めんどくさかったァ。

 

 

お前ら、恵まれてるんだからな!!

 

 

・・・とは、言うものの どうしたものやら

 

お金が無さそうなのは 見れば分かる。ボロの服きてるし。家も台風が来たら吹き飛びそうだな〜って思ってた。

 

だけど、食う物に困る程じゃない。

 

お金を稼ぐ方法か・・・

自然とは無縁の場所で生きていた前世の記憶はこういう時にこそ活躍してほしいのに、役立たないなぁ。

 

ぶっちゃけ、事務仕事で鍛えられた計算能力ぐらいしか取り柄ない。

 

う〜ん。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

上手い金策はないかと悩んでいる内に、私は3歳になり なんと家族が増えました。

 

しわくちゃな顔をした小さい生命。お父さん譲りの こげ茶の髪にタレ目っぽい青の瞳。可愛い女の子だ。

 

前世含めて、妹が出来るのは初めてだったので 本当に嬉しかった。

 

 

「気持ち良さそうに寝ておるの」

 

「かわいいね〜」

 

「うふふ、そうね。ツアレも赤ちゃんの頃はこんな風だったのよ」

 

「さわりたい!」

 

「どうぞ、優しくナデナデしてあげてね」

 

 

お母さんの腕の中で すやすや眠る妹に、優しく触るとぷにっと柔らかい感触がした。おぉ〜

 

「この子の名前は決めたのかい?」

 

「あーまだなんだよなぁ。エリアスとか?リーノとかどうだ?」

 

「うーん、どれもしっくりこないのよねぇ・・・ツアレは何か思い付かないかしら?」

 

「うーんと、うーー」

 

鈴木さんの顔がチラついて首を振った。流石に妹に好きな人の名前は無理だって!?

でも、私のネーミングセンスなんて皆無だしなぁ・・・

知ってる名前で女の子っぽいのは、

 

 

「ユリ、シャルティア、マーレ、アインズ?は、おんなのこっぽくないかぁ」

 

「お、アイン!とかどうだ?可愛いじゃないか」

 

「いい響きじゃの」

 

「ふふ、ならこの子の名前はアインロマーニャ・ベイロンね」

 

 

おお、まさかのあの悪名高いギルドが由来の命名になってしまうとは。私が全面的に悪いんだけどね!

 

 

「ツアレもお姉ちゃんだな。ちゃんと妹を守るんだぞ」

 

お父さんが私を抱き上げて笑いかけてきた。大きな身体に抱きしめられて、私は 堪らなく嬉しくて満面の笑みで返事をした。

 

「うん!」

 

前世では失ってしまった家族。

優しい両親とお婆ちゃん、そして可愛い妹。これが今の私の大切な家族だ。

 

絶対 失いたくないから。

この私、ツアレニーニャ・ベイロンがちゃんと・・・

 

 

 

「ぜったい、まもるよ!たいせつにする!!」

 

 

 




※ニニャの本名は公表されてないはず・・・

これって、タグは『転生』?『憑依』?
『成り代わり』タグ作って付けとけば良いのかな・・・??

☆沢山のコメントありがとうございました!
タイトルは(仮)を外し『鈴木さんに惚れました』にする事にしました
詳しくは活動報告にて報告しますね!

これからもよろしくお願いします!!


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18.夢見る子ども

妹が産まれて あっという間に3年経った。成長したアインは活発的でヤンチャな所もあるけれど、可愛くて心優しい女の子に成長していた。

まぁ、私がただの親バカならぬ姉バカな可能性は否定出来ない。

 

なにせ、村のみんなからは「ツアレは本当にアインの事が好きなんだね〜」ってしょっちゅう言われる。・・・妹の自慢話してばかりな私が悪いのかもしれないけれどさ。

 

前世含めると私の精神年齢は両親を余裕で上回るので、私の中で 妹のアインは”妹”というよりも”娘”のようなものだ。

ちなみに、両親ともに現在27歳。私はというと今は6歳だから 前世の年齢足して・・・って、やめやめ。これ以上オバサン臭くなったらどうするんだ!

只でさえ、お隣の悪ガキに「お前は俺のおかんかよ!」と、突っ込まれ 大人達からも「大人っぽいというか、ババアみたいなやつだな」と笑われたのだ。

せっかく可愛い女の子に転生したんだから、そんな可愛げが無い女は嫌だ。そう、前世で『幽霊』と呼ばれていた私は学習したのである。

 

 

アインといると、つい、”前世の私に娘がいたら”と想像してしまう。そこにはいつも、隣に鈴木さんがいた。

鈴木さんに対する未練や後悔も未だに消化しきれずにいるから当たり前だね。それに、やっぱり・・・まだ好きだもの。

 

わたしが死ななければ有り得たかもしれない未来。”もし・・・なれば”なんてバカらしいとは思うけれど、悲しきかな、考えずにはいられないのだ。

 

今世の家族や村の人達は、いい人ばかりだけど やっぱり隠し事をしている後ろめたさから 距離を感じるし、恋愛感情なんてもっての外だ。

 

 

今世は結婚出来ないかもなぁ・・・。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

妹が3歳になった頃。

 

その日、日が傾きはじめても なかなか家に帰ろうとしないアインに私は、ちょっとしたイタズラ心から「こわーいスライムに食べられちゃうよ」って言ったんだ。

アインが怖がって「早く家に帰る!」と言うのを期待していたのだけど・・・アインから予想外の返答が来た。

 

 

「スライム??そんなの、こわくないもん!」

 

「スライムでもね、こわーいモンスターもいるのよ。エルダー・ブラック・ウーズとかね!」

 

「えるだー?」

 

「古き漆黒の粘体っていってね、取り込まれると強力な酸でドロドロに溶かされちゃうの。こわーいスライムはアインみたいな無垢で可愛い子が好きなんだよ」

 

「きゃー!」

 

笑顔で笑うアインに私は呆気に取られてしまった。怖い話なのに、なんで喜ぶのさアインさんや。

 

 

この世界にエルダー・ブラック・ウーズがいるかなんて知らないけどね!

スライムはいるんだし、どこかに居るのかも?まぁ、普通に村娘として生活する分には会うことなんてないからいいよね。

 

「ツアレは物知りねぇ、誰から聞いたの?」

 

いつの間にか迎えに来てきたのか、私の後ろに立っていたお母さんに、今の話を聞かれていたらしい。

前世の記憶なんて言えないし。うーんと、首を横にしてから私は答えた。

 

「夢に出てきたの!」

 

「スライムが?」

 

「他にもいっぱいいたよ!ゾンビやスケルトン、吸血鬼でしょ。あとは、・・・オーバーロードとか」

 

「すごーい!」

 

「オーバーロードは初めて聞いたわ。どんなモンスターなのかしら?」

 

お母さんはニコニコしながら私に聞いてきた。たぶん、「想像力豊かな子だわぁ」なんて思ってるんだろう。

 

「スケルトンが魔法使えて強くなったやつ!」

 

「それって、エルダーリッチじゃなくて?」

 

「もっと強いのよ」

 

「へぇ、すごいのね」

 

「つよーい!おーばーろーど!!」

 

そうそう、鈴木さんは強いんだからね。何度も言うようだけど、この世界にオーバーロードがいるのかは知らぬ!

・・・が、私は6歳の夢見る子ども。どんな事を言っても「子どもの言うことだから」で終わるので、ノープロブレムなのだ。

 

「ほかにはー?」

 

「お母さんも聞きたいわ」

 

「うーんとね・・・」

 

 

あれから帰って、聞かれるがまま お父さんやお婆ちゃんにも話した。「そうか、ツアレはすごいな」なんて笑って聞いてくれたので 、調子に乗って『ユグドラシル』のこと以外の前世の世界について色々と話した。

 

もちろん、前世の記憶がある事は内緒のまま、夢で見た事にしている。変なやつだと 思われて嫌われたくはないからね!

 

 

 

それから毎日、私の家族 特に妹のアインは、私に”お話”を強請るのが日課になっていた。

 

「おねいちゃん!あのお話して〜」

 

「いいよ、なんの話にしようかなぁ」

 

「あのね、あいんずおーごうるの話」

 

「アインズ・ウール・ゴウンね」

 

「うん!」

 

「なら、今日は すっごく強いメイドのお話しようかな」

 

「メイドさん?」

 

「その名も、戦闘メイドプレアデス!っていうの、彼女たちはね」

 

「おお、今日はメイドか。お父さんも聞きたいな」

 

「はぁーい!じゃあ、はじめるね」

 

 

妹を除いた家族の中で、私は”お話を考えるのが上手な子”扱いになった。

妹は、夢の中の話と言ったにも関わらず、何故か本当のお話だと思っている節があるみたいだけど、成長すればいつか分かってくれるよね?

 

 

 

前世の記憶だということは出来ない。

でも、例え作り話だと思われていたとしても、こうして前世の私の大切は思い出話を聞いてもらえるだけで 何だかとても、私は嬉しかった。

 

 

 

 



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19.不思議な子

☆ツアレの父親視点

 

 

俺達の愛しの娘は、ちょっと・・・いや、だいぶ変わった娘だった。

 

生まれたばかりの頃は、本当に よく泣いた。普通、赤ん坊の泣く理由なんて「お腹減った」「ウンチした」「眠たい」「抱っこして」このどれかだ。

 

だが、ツアレニーニャは違った。乳をあげようとしても嫌がる、眠りも浅いようで 飛び起きてはいきなり泣き出す、抱っこしても泣き止まない。

乳を飲まないからか ウンチも少なく、身体もなかなか成長しなかった。

 

産婆の婆さんから、「この子は長くはないかもしれぬ」と言われた時は 疲労で痩せてしまった妻はぶっ倒れた。

 

この時が、我が家の修羅場だった。

 

 

俺はこのままでは妻が持たないと思い、すぐに妻を娘から引き離し 村人の中から何人か乳母を雇って俺の母を含めた大人数で交代勤務してもらった。この娘の世話を1人でやれば妻のように潰れてしまうだろうと思ったからだ。

 

妻の反対は凄まじかったが、家長命令で無理やり通した。それでも、毎日少しだけでも会いに行きたいという妻の願いは叶えた。

全く会いに行けないのも辛いだろう。何より、妻の体調を考えての処置なのだ。ストレスで悪化しても困る。

 

 

こんな事を言ったら、妻から怒られてしまうだろうから口にはしなかったが、当時の俺には娘よりも、妻の方が大切だったのだ。

 

まぁ、“男の方が親の自覚を持つのが遅い”とは良く聞くし、俺もそうだった。

娘がお腹の中で徐々に大きくなっていき、活発に動いているのを身体で感じ、苦労をかけ痛みに耐えて出産した妻に対して、そばに居ることしか出来なかった男の俺と差がついても仕方がないだろう?

 

 

娘の世話を数人がかりでやるようになった生後6ヶ月頃から、ツアレは徐々に落ち着くようになっていった。

それ自体は良かったのだが、自分の手を離れてから落ち着き出した娘に 今度は妻が不安がった。

 

「私、母親には向かないのかしら」

 

彼女ほど、真摯に娘に向き合える母親など中々いないだろう。

俺は妻が母親に向いていないとは微塵も思っていなかったし、結果的にツアレだって、そうだったようだ。

 

妻の体調が回復してきた頃を見計らって、大丈夫だろうと妻の元へツアレを戻した。乳母を雇うお金も厳しくなってきたから・・・という情けない理由もあるが。

 

妻の元へ帰ってきたツアレは、以前の様子からは考えられないほど、お利口になった。

グズらず、我儘もしない とてもいい子で、俺は とても安心したし、家族にも笑顔で甘えて来るようにもなって、ツアレの事が どうしようもなく可愛く思えてくるようになった。

 

・・・ただ、時折 突然泣き出すこともあった。母は、「感情が上手く表現出来ない不器用な子」と気にしていないようだったが 俺と妻は心配で堪らなかった。

 

 

それがしっかりと治まったのが、ツアレが3歳の時。妹のアインロマーニャが生まれてからだ。

 

ツアレはアインの事をものすごく可愛がり、アインもそんなツアレに懐いているようだった。

 

 

そんなある日の事だ。ツアレが『夢の中の話』をするようになった。

それは幼いツアレが知るはずのないモンスターや更に上位のバケモノの知識からちょっとした豆知識まで様々だった。

 

子どもの妄想・・・で片付けられたらよかったのだが、生憎、下位のモンスターや魔法の知識に関しては俺達の知っているものと一致している。

 

なんだか嫌な予感がして、ツアレの言う“夢の中のお話”は出来るだけ信じる事にしていた。

 

それが功を奏したのは、それから数年後の事だった。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

その年は例年を遥かに超える雨水量だった。何日も何週間も振り続ける雨に作物も尽くやられ、税金も納められるだろうか、飢えずに住むのだろうかと 不安に駆られていた日々だった。

 

それだけ雨が降ったのだ、村のすぐ隣を流れる川が氾濫したのも必然だったのだろうが、川に近かった民家2軒と田畑のいくつかが流される大事件が起きた。

 

 

流され消えていった家と田畑を見た時、俺の心臓はバクバクと早鐘を打ち、冷や汗が止まらなかった。

 

 

実は、村と川の間には元々森が存在していたのだ。

 

だが、開拓をするには森を切り開かなければならず、なら生活に必要な水を組み上げる川との道路を確保し、あわよくば 川へ向かって民家を建てていこうと計画していた。

 

そして、耳にしてしまったツアレの“森を失うリスク”についての話。

 

『森ってね、とっても凄いんだって〜!だから、森がなくなるとね大変なんだよ』

 

『どう大変になるのかな?』

 

『うーんとね、川から水が溢れ出した時に ドバーって村まで来ちゃったりするよ!・・・たぶん?』

 

 

物凄くふわっとした説明だったが、大変なら考慮した方がいいかもしれないと、途中まで切り倒していた川沿いの森をやめ、反対側を開拓するようにしたのだ。

 

 

そして、今回のことが起きた。

 

 

川から溢れた泥水は恐ろしい勢いで木々を突っ切り、村まで到達。少なくない被害を出していったのだ。

 

・・・もし、森という壁が完全に取り払われていたらどうなっていたのか?

 

比較的、川に近い我が家も流されていた可能性は大いにあるだろう。

 

 

氾濫から落ち着き出した頃、近隣の村の話を聞くことが出来た。

どうやら何処の村でもそれなりの被害を出したらしく、川と近い村、特に森などの壁がない村ほど 被害は比べ物にならない程大きかった。

 

 

俺の予想は当たった訳だ。

 

 

もし、ツアレの話を聞かなかったら?

もし、その話を子供の戯言だと聞き流していたら?

 

 

 

俺は、俺と俺の家族は生きていなかったのかもしれない。

 

 

 

何故、幼いツアレが知るはずのない知識を知っているのか。『夢』が関わっているのだろうが、知識以外のことはツアレ自身、多くを語ろうとはしなかった。

俺は不思議な気分だった。ツアレはいい子だし、家族にも優しく 何より命の恩人だ・・・だが、何か秘密があるのだろうな。

 

 

「ツアレはツアレですもの。可愛い娘に変わりありませんし、気にしなくていいと思うわ」

 

 

結局、妻のこの一言で 俺は考えるのをやめた。

 

そうだな、ツアレがどんな子であろうと俺達の、俺の、可愛い娘なのだから。




ツアレ「テレビ番組「ホントは、スッゴイ森の力」で、そんなような事いってたの」



☆ツアレの両親とお婆ちゃんの死亡ルート回避。

本来のルート
→ツアレは妹以外の家族を失い、村は半数以上を失い存続不可として解散となる。


もちろん、捏造なのであしからず。


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20.ターニングポイント

「はーい!質問!」

 

「なぁに?」

 

澄み切った青空の下、横柄に座り込みながらも ピッと挙手をする この村では悪ガキと名高い男の子ブレインに私は返事をした。

 

「これって必要か?」

 

「勉強会のことを言っているのなら必要よ」

 

「こんな事するよりも家の手伝いした方がいいと思うぜ〜」

 

「家の手伝いどころか、剣を振り回してばかりいる悪ガキに言われたくはないけどね」

 

「うるせー」

 

「これは皆の将来の為でもあるのよ。7日に一回だけの授業だけど、ちゃんとした意味があるの」

 

村の片隅に集められた子供たち、総数11人。5歳から12歳と幅が広い子供たちは、私の授業を受けるために集まっていた。

 

とは言っても、まだまだお子様なので 集中出来るはずもなく。私は遊びながらのお勉強方法を試し、なんとか成果を出していた。

 

昔から子ども達の勉強会で実施している文字の読み書きに加え、最近は“ちょっとした事件”もあり、簡単な計算も教えている。

 

私のおじいちゃんが始めた勉強会は、30年以上経った今では、すっかり村人達に受け入れられており、ここに居る子供たちは皆、ブレインの反論に首を傾げていた。

 

「ツアレの授業は楽しいからイイじゃん」

 

「そーそー!家の手伝いとかめんどくさいもん」

 

「お前ら、うるせーぞ!」

 

「そんなこと言って、ブレインはお姉ちゃんの事がっ」

 

「あーあーあー!!うるせーよ!!」

 

ブレインが、何か言おうとしたアインに飛びかかりゴロゴロと転がった。子どもは元気だなぁ〜。

 

 

そうそう、私と歳の近いブレインは 私が“先生”なのが気に入らないらしく、毎回何かしらの文句を付けてくる。

 

授業以外でも「うるせぇババア」だの「ばーか、ブース!」だの言ってきて、どうも めちゃくちゃ嫌われているみたいなのだ。

 

・・・ババアは、まぁ、精神年齢ヤバいので仕方がないかもしれないけど。ブスではないハズだけどなぁ〜。

まぁ、人の好みは人によって違うもの、寛大に受け入れよう。

 

うん。でもね、授業の邪魔するのは止めろ!

 

「もう授業始めるから、静かにしなさい!!」

 

 

注意したものの、ガヤガヤと騒がしい子どもたちに、どうしたものかと小さく唸った。

 

それもこれも、考えナシの過去の自分のせいなんだけど・・・!

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

“ちょっとした事件”というのは、村にいつもやってくる行商人が、体調を崩したとか何とかで、今回は違う行商人が初めて村にやって来た時の事だった。

 

行商人の太っちょな身体を揺らしたその男と、村長であるお父さんが取り引きしている会話が耳に入った私は、思わず口を挟んでしまった。

 

「それ、おかしいと思うよ?」

 

「お嬢ちゃん、大切なお話してるんだ。子どもは口を出してはいけないよ」

 

間髪入れずにそう発言した太っちょ は、私を遠ざけようとしたが、お父さんは違った。

 

「どういうことだい?」

 

「あのね、計算が合わないの」

 

月に一度しか来ない行商人から買い入れる服や調味料などは 小さい村といえど、80人程が住んでいるので、それなりの数になる。

 

なのだが・・・ちょっと計算が合わない。

 

その事を地面に絵を描きながら何とか伝えると行商人の太っちょは あからさまに顔を歪めた。

 

「うむ、確かに少し計算が合わないようですな」

 

「そのようですね、こちらの不手際です。申し訳ございません」

 

「いえ、良いのですよ。こうして分かったのですから」

 

お父さんによると、今回やってきた行商人の太っちょは、お小遣い稼ぎに 多く取ろうとしたのだろうとの事だった。

それでも、私にとって 太っちょが取ろうとした 銀貨2枚は大金だったし、防げて嬉しかった。

 

「ところで、ツアレは計算が得意なのか?」

 

「あ、」

 

 

し、しまったぁー!!

普通に披露しちゃったけれど、計算なんて教えてもらってないし おかしいよね?!

 

どう誤魔化そうかと、ワタワタし始めた私をどう思ったのか、お父さんはぎゅっと抱き上げた。

 

 

「んーなら、ツアレにはお勉強会の先生をしてもらおうかなぁ」

 

「あ、え?先生を?私が??」

 

「頭良いしさ、読み書きももう覚えただろう??」

 

「うん」

 

「それじゃ、よろしくな!先生」

 

「わかった!」

 

 

お父さんは、何か勘づいているみたいだったけれど、優しく笑いかけて抱きしめる手に力を込めてくれた。

それだけでどれだけ、私を愛してくれているのが分かった。

 

・・・何故だか前世の私を育ててくれたおじさんを思い出して、私はお父さんにぎゅっとしがみついた。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

先生を始めて一年が経過した。

 

ブレインは相変わらず 突っかかってくるけど、子どもたちには、足し算 引き算 までは全員に教える事に成功した。幼い子は両手を使っての計算だったけど、中々凄いと思う。大きい子の中には、かけ算、割り算を習得した頭の良い子までいて、かなり上出来といえるだろう。

 

 

あと、予想外だったのが、家族に話していた前世の・・・特に、アインズ・ウール・ゴウンの話は“良くできたお話”として、村の子どもたち皆に広まってしまった。

 

原因はアインだ。

魔法に憧れるアインは、例え異形種だとしても超絶かっこいい魔法使いであるモモンガさんや、他のギルドメンバーの話が大好きで 皆に広めてしまった。

 

娯楽の少ない田舎では、そういった“作り話”も立派な娯楽だ。

 

多くの子どもたちが、六英雄になりきり アインズ・ウール・ゴウンと戦う遊びをしていた。

最初はアインズ・ウール・ゴウンを“倒す”遊びだったのを「最強なんだから!そんなに弱くないの!!」って、私が止めさせた。・・・今振り返ると、ちょっと恥ずかしい。

 

 

アインは、その中でも最強の魔法職 ウルベルトがお気に入りで、一時期は一日に何度も成りきって遊んでいた。

 

 

「くらえ〜!《グランドカタストロフ/大災厄》!!ふはははは!!」

 

 

・・・ちょっと、やっちまった感はある。立派な厨二病の出来上がりだった。

 

カッコいいんだもん、仕方ないね!

 

発動していたらば、この村は何百回と滅んでいただろうけど、もちろん 発動はしてない。前世のゲームで使われていた魔法が発動するなんて事、万が一にも有り得ないから 大丈夫、大丈夫〜。

 

 

 

 

 

そんな私の 楽しくて穏やかな日々は、突然村に“領主”が来たことで終わりを迎えるのだった。

 

 

 




※悪ガキ ブレインはブレイン・アングラウスです。
明確な年齢が明かされていなかった事や 農民の子として生まれた という話から ご都合主義よろしく 登場してもらいました。

この物語でのブレインは、原作開始時21歳になる予定。
将来老け顔になるんだよ、きっと!


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21.蜘蛛の呪い

村の中心できらびやかな服装に身を包んだ凄く偉そうな中年男性に、お父さんが頭をぺこぺこさせながら挨拶をしていた。

 

 

「領主様?なんでこんな田舎にわざわざ来たんだろう」

 

「さぁ、なんだろうな?」

 

 

私の独り言にいつの間にか隣にいたブレインが反応した。

領主様の不敬を買うといけないとの事で、幼い子供たちは自宅待機させている。もちろん、妹のアインもお婆ちゃんと家にいる。

なので、ここに居る子どもは、ある程度物分りのある大きい子ばかりだ。

 

 

「このような村に何の御用でしたでしょうか?」

 

「あぁ、ここに愛らしい娘がおると聞いてな」

 

「・・・娘ですか」

 

 

領主はキョロキョロと辺りを見渡すと、私と目が合った瞬間にピタリと止まった。私は領主のニヤッと笑う下卑た顔に背筋が凍り、冷や汗がダラダラと流れるのを感じた。

 

 

「おぉ!おぉ!これは良いな」

 

 

早足で近づいてくる領主と私の間にブレインがサッと入った。私を守るように背に隠してくれた彼に安堵しつつも、中身はいい大人であるはずの自分が情けなくなった。

 

 

「なんだ貴様、そこをどけ」

 

「いやだ」

 

「なにをーッ」

 

 

領主が顔を真っ赤にさせながら怒り、腰に下げていた剣に手をかけた。ヤバいと思うのに、突然の恐怖で動くことが出来ない。

 

 

「お、お待ちください!!領主様!!」

 

 

お父さんが私たちの元へ駆け込み、ブレインの頭を鷲掴みにして 一緒に頭を下げた。

 

「申し訳ございません!!急な事で戸惑っていたのです、どうか許してもらえませんか」

 

「ふん!」

 

領主は剣にかけていた手を戻し、ブレインの腹に思いっきり蹴りを入れた。大人が容赦なく子どもに放ったその蹴りで、ブレインは吹き飛ばされてしまった。

 

「ぶ、ブレイン!!」

 

「まぁ、良い。私は慈悲深いのでな。これで許してやろう」

 

思わずブレインの元へ駆け寄ろうとした私の腕を、痛いほど強い力で領主が掴んだ。

 

「この娘は私が貰い受ける。可愛い娘だ、妾にしてやろうぞ。さぁ、来い」

 

「いっいや」

 

「お待ちください!!この娘は、この娘だけは、ご容赦頂けないでしょうか」

 

 

必死の形相でお父さんが、領主に縋り付くが それも護衛によって離されてしまった。

 

 

「なんだ、貴様も私に逆らうのか」

 

 

領主がお父さんに向き直り剣を抜いた。スっと輝く刀身に目を奪われたのも一瞬、一気に振り下ろされ、赤い赤い血が吹き出した。

 

まるでスローモーションにかかっているかのようだった、血を吹き出しながら崩れ落ちるお父さんが私の視界いっぱいに広がった。

 

 

 

斬られたのだ。

 

お父さんが、お父さんが、私を守ろうとしたせいで・・・

 

 

小さな悲鳴、息を呑む音、その場がシンっと静まり返った。

 

満足気な領主に手を引かれて、私は恐怖に縛られ もう抵抗することが出来なかった。

地面に倒れたお父さんに村人が走りより手当をしようとバタバタしているのを 馬車に入れられる寸前まで じっと見つめ続けた。

 

 

 

 

 

行商人の太っちょが 申し訳なさそうに眉をしかめているのが、視界の隅で見えた。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

丸一日をかけ昼過ぎ頃に、領都につき 領主一行は屋敷に到着した。

その間、私の頭は家族の事・・・お父さんの事でいっぱいだった。

 

お父さん大丈夫かな、死んでなんかないよね・・・お願い、お願い……

 

 

ボーッとする私を屋敷の人間は哀れみの眼差しで迎え入れた。領主は初老の女性メイドに私を預けると、スタスタとどこかへ行ってしまった。

 

「こちらへ来なさい」

 

メイドの後ろ姿を追い、歩いていく。これからどうなるのか私には察しがついていた。

 

領主は“妾”と言っていた。

側室みたいなものだとは思うけれど、あの調子だと 私が初めてではない。・・・何人、何十人といるんだろうな。

 

 

というか、妾??

ふっざけんな!私はまだ11歳だぞ!!この間、やっと初潮が来たばかりのおチビちゃんなのに・・・ロリコンめ!!

 

急な事で戸惑っていた心が、段々と領主に対する怒りでフツフツと煮えたぎってきた。

 

お前からしたら“幼い女の子”かもしれないが、コチラからすれば めっちゃくちゃ年の離れたジジイなんだよ!私じゃなかったら泣き出してて取り乱しても可笑しくないぞ。

 

あんの、くそ野郎め!!絶対許さん!!

 

 

「まずは身を整えましょう。」

 

 

連れられた部屋はお風呂だった。スタンバイしていた他のメイド達に、あっという間に服を脱がされ、わしゃわしゃと洗われた。せっかくの人生初風呂も全く楽しめない。

 

お風呂から出るとオイルをこれでもかと塗られ、髪も綺麗にされて 可愛らしいネグリジェを着せられた。

 

あっという間に 太陽は沈み、外は暗くなっている。軽い軽食を出され 何とかそれを食べ終えた頃、再びあの初老のメイドがやってきた。

 

 

「これから、ゴルドロス様の寝室へご案内します。・・・貴方は 全てをゴルドロス様に委ねなさい」

 

 

え?寝室??

今日来たばかりなんだよ、あのクソ領主!

早速、お父さんを斬ったアイツに抱かれろと?ふざけるな!!!

 

 

同情めいた視線をこちらへ向けたメイドに 連れられて、領主ゴルドロスの寝室までやってきた。

 

その間、私の頭の中は「どうやって領主を殺すか」という一点のみで何も見えていなかった。

 

殺せば、私の出身である故郷の村も只では済まないという考えさえ 出てこない程に怒りでワナワナと震えていたのだ。

 

俯き震える私を見て、メイドは本来、案内だけ済ませればいいものを、私を入室していく所まで誘導し、見送った。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

震えて入ってきた私を見たゴルドロスは、欲望に駆られたままニヤッと笑うと、手馴れた様子で私を抱き寄せ、ベッドへ押し倒した。

 

 

「大丈夫だ、私に任せなさい。君もすぐに 気持ち良くしてやろう」

 

 

私に馬乗りになったまま身体を引き寄せ スルスルと触り出した手の感触に悪寒が走った。

 

 

 

気持ち悪い!!!

 

こんな、こんな奴に お父さんはッ私はッ!!!!!!!

 

血溜まりを作って倒れ込むお父さんの姿が脳裏を過ぎって、怒りの余り、視界が真っ赤に染まった気がした。

 

 

「・・・死ね」

 

 

私の口から漏れた言葉にゴルドロスはピタッと止まった。

ゴルドロスが何か反論しようとしたその瞬間、私の身体に鈍い痛みが走った。それはゴルドロスも同じだったようで、痛みに呻いている。

 

 

「き、貴様、なにをーッ」

 

 

痛みを訴える自身の晒された体を見れば、胸から腰にかけて白い肌に、まるで蜘蛛の巣のような黒い模様がサーッと広がっていた。

 

 

「うぅ」

 

 

呻き声をあげたゴルドロスは、白いモヤに囚われているようで、もがき苦しんでいた。

 

こんなに誰かが憎くなったのは、この世界に来て初めての事だった。ゴルドロスをじっと睨みながら、一歩一歩と足を進める。

 

 

「なんで、お父さんを斬った?」

 

「だ、だれ・・・か」

 

 

ゴルドロスは、助けを呼ぼうと 声を貼りあげようとしたようだが、白いモヤによって遮られてしまったようだ。

白いモヤがグルグルと巻き付き まるで、蜘蛛の糸に巻き取られているかのように身動きが出来なくなっていく・・・その姿は蜘蛛に捕食される前のエサの様だった。

 

 

 

 

 

「死ねよ、お前なんか死んでしまえ」

 

 

 




太っちょ「ちょっと、あの娘を懲らしめるつもりだけだったのに。・・・こんな事になるとは思わなかったんだ」

※原作では13歳の時に貴族の妾になったツアレですが、2年早い11歳で妾に・・・どんまい。原作開始の約9年前の出来事になります。


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22.不気味な少女

本日はちょっと長め。



領主の寝室に入ってからの記憶が無い。

 

朝、部屋に入ってきたメイドに起こされた時、私は領主の寝室の床に寝ていた。

 

クソ領主はというと、あとちょっとでも動いたら落ちてしまいそうなほど、ベッドの隅でうつ伏せになって寝ていた。

まるで倒れた時にたまたまベッドがそこにあったかのような不自然な感じがしたものの、私は 混乱していて、それどころでは無かった。

 

 

・・・ なんで、私だけ床?え?妾は床で充分ってかバカ野郎

 

 

というか、全身が痛い

体を確認すれば、胸から腹にかけて 蜘蛛の巣のような痣?が出来ていた。痣にしては鮮明なそれは、まるでタトゥーのようだ。

 

「ひぃ」

 

突然の異変に呆然としている私の身体を一緒に見ていたメイドが小さく悲鳴をあげ 後ずさって行った。

 

「なんだ!その痣は?!」

 

怒鳴り声がベッドの方から響いた。いつの間にか起きていた領主が目を見開きこちらを見ていた。

 

「クソッ頭が痛い、お前、何をした?」

 

「・・・わかりません」

 

「お前、なんだその目は!!」

 

は?何のこと??

 

「気持ち悪い!!おい コイツを連れ出せ!不愉快だ」

 

「は、はい!」

 

私はメイドに連れられて寝室を退出し、古着だろうか シンプルなドレスを着せられた。

 

 

何がなんだか訳が分からない。本当に身体中がズキズキと痛く、疲労感が半端ない。

これは 処女喪失したからなのか、

身体に出来た痣が原因なのか、

はたまた床で寝ていたからなのか・・・

 

前世で 私はその、そういう男女の関係を経験したことがない。

昔、「初めては痛いらしい」とは聞いた事があるので、つまり・・・そういうこと??

 

 

あぁああああ!!!

あんな奴とヤっちまったのか私は?!

 

衝撃の余り、記憶が飛んだとか?いや、ならこの痣はなんなんだろう??

 

 

1人でワタワタとしている私を置いて、屋敷の中は段々と慌ただしくなっていった。

 

 

 

ーーーーーーーーーー

☆レエブン侯視点

 

 

 

ゴルドロスのヤツに呼ばれ、朝一でここまでやって来たというのに、奴は全然現れない。この屋敷の執事に通された客間で、私は苛立ちながらも、出された紅茶に口を付けた。

 

ゴルドロス・デブリ・ニアホ・ボッタニアは典型的な貴族派の貴族だ。

下卑た笑いを顔に貼り付け女のケツを追い回すのが趣味のような男だが、権力だけは持っており、多くの奴隷を管理していて その関係では貴族の中で強い立場にいる人間だ。

 

ハッキリ言おう、私は この男の事は嫌いだ。

 

私と奴は根本的な所から合わないのだろう。話していると、つい殴りたくなる衝動に襲われる不思議な魅力を持った男だ。・・・これを“魅力”と言っていいのかどうかは、いささか疑問ではあるが。

 

 

暫くすると ドアの向こう、屋敷の玄関口だろうか?騒ぎ合う声の中にゴルドロスの声が聞こえた。

私をこんなにも待たせて何様のつもりなんだか・・・ 私はため息と共に席を立った。

 

「ど、どうされましたか?」

 

「外が騒がしいようですからな。ゴルドロス殿も居られるようですしね」

 

 

オロオロと止めようとするメイドをかわして、部屋を出てスタスタと騒ぎの方へ向かっていく。

 

少しして辿り着いた玄関口では、やはり、ゴルドロスと奴の子飼いである奴隷商人の男が、俯いたままの金髪の娘を中心にいい争いをしており、その周りでメイドや執事が緊張した面持ちでそんな2人の様子を眺めていた。

 

 

「こんなの、商品になりませんよ」

 

「見た目だけなら それなりに可愛い娘だろう?こんなクズ金にしかならぬ訳がないだろうが」

 

「しかし、瞳の色といい 身体の痣といい、不気味がられますので、相場での販売では、買い手も中々付きませんよ」

 

終わりそうない会話にウンザリしながらも、私は笑顔の仮面を貼り付け 口を開いた。

 

 

「ゴルドロス殿、何かありましたかな?」

 

 

バッとこちらを振り返ったゴルドロスは途端に顔を青くさせ慌てだした。・・・こいつ、私の事を忘れてたな

 

「こ、これはレエブン侯。お待たせしてしまい、申し訳ございません。すぐに向かいますので」

 

「いえ、お気になさらず。ところで、そこの娘が何かありましたかな?」

 

 

私の発言に反応して 今まで俯いていた金髪の女が顔を上げた。

年の頃は10を過ぎた頃だろか、幼い顔立ちをしている。ただ、目を惹くのはその“紫色”の瞳。影が入ったようなその瞳は まるで人外のような不気味さを醸し出していた。

 

 

「ほぅ、不思議な娘ですな」

 

「ここに来た時はそうでもなかったのですがね。朝起きたらこの様になっておりましてな。しかも身体に気持ち悪い痣も出来ており 手元に置いておきたくないので、売るところだったのです」

 

 

正直どうでもいい話だったが、不可解な痣と瞳を持つ少女は 強い存在感を放っており、私は彼女から目が離せなくなった。

 

「名は?」

 

ゴルドロスに押し出され、その女は コチラをじっと見つめたまま口を開いた。

 

「・・・ツアレニーニャ・ベイロンと申します。」

 

「そうか。・・・ゴルドロス殿、この娘 私が貰い受けても?」

 

「え、よろしいので?」

 

「ええ、相場通りの金額をお支払いしましょう」

 

 

ゴルドロスはニヤッと笑うと 私の申し入れを快諾した。相変わらず、その笑顔が殴りたくなる程 苛立たしかったが、何とか飲み込んだ。

 

 

ただの直感ではあるが、強い存在感を放つこの娘は、この先 私が王国を手に入れるのに一役買ってくれるだろう。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

購入した娘、ツアレニーニャは アレだけの異質さを放ちながらも、戦闘経験が全くといっていいほどなかった。

仕方が無いので、試しに 私の子飼いの冒険者に預け、戦闘指導をしてもらったところ 驚く程メキメキと実力を上げていった。

 

 

「実力はあるのに実践はして来なかったような・・・言っててワシも意味が分からないですが、ツアレはそんな感じですな」

 

 

そんな冒険者の報告を聞き、私はその不可解な話の内容に、自身の眉間にシワがよるのがわかった。

 

「そんな事はありえるのか?」

 

「・・・ありえないでしょうな。普通ならば」

 

「彼女は普通ではないと」

 

「ええ、・・・聞きましたぞ、ツアレの前の“所有者”であるゴルドロス様が亡くなられたとか」

 

ツアレニーニャを引き取って三日後、ゴルドロスは死んだ。

寝室で全身を隙間なく何か細い糸のような物できつく締め付けられての絞殺。その不可解な死に方に、奴は呪われているだの 悪魔か何かの仕業だの、様々な噂が流れた。

奴が死んだことで、ゴルドロスの弟が家を継ぐことになり、その新しい当主は、ゴルドロスが今までやってきた悪行に加えて 今回の不穏な噂で、落ちてしまった家のイメージを払拭させようと奮闘しているようだ。

 

「タレントか?」

 

「タレント持ちの可能性が高いでしょうな。ただ、どういったタレントなのか見当もつきませんなぁ」

 

「噂通りならば、呪い?いや、それだと戦闘に関しては関係なくなるな。うーむ」

 

「まぁ、どっちにしろ、ツアレは戦闘には向きませんが」

 

「筋は良いのだろう?」

 

「そうですが、ツアレは血がダメなようで。血を見ると震えて戦えなくなるようなのです」

 

「ふーむ」

 

当初の思惑と外れてしまったな。血がダメとは厄介な事だが・・・

 

「なので、ツアレには諜報活動をさせてみてはどうかと」

 

「確かに平凡な容姿をしているが、目が特徴的すぎて使えぬだろう?」

 

「それが、ツアレは魔法もいけるようなのです。なんと、この短期間でもう 第1位階を習得しましたぞ」

 

「は?たった1週間でか」

 

「ええ。ワシは魔法に詳しくはないので よく知らんのですが、魔法には幻覚を見せるものがあるそうですし、ツアレが習得できれば 使えるかと思いますな」

 

「・・・そうだな」

 

 

魔法適性があったとは、いい拾い物をしたかもしれん。

 

 

 

その後、ツアレニーニャが魔法を習得し 諜報部隊として働くようになるのは 私の元に来てから僅か1年後の事だった。

 

 

それから数年後に、愛らしい我が息子が生まれ、私の大いなる野望もすっかり消え失せることになるのだが、それはまた 別の話だ。




※冒険者の爺さんは、元オリハルコン冒険者とは別人です
※奴隷制度廃止前です。


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23.君を守りたかった

箸休めにブレインのお話
誤字報告ありがとうございました!


☆ブレイン視点

 

 

あの時、俺は何もすることが出来なかった。

 

領主に蹴り飛ばされ、震えるツアレを助け出そうとすぐに身を起こした時には 全てが遅すぎた。

あの領主が剣を振り下ろし、無抵抗なまま村長が斬られるのを ただ、呆然と見ている事しか出来なかったのだ。

 

初めてだったんだ、人が斬られるのを見るのは・・・。

 

 

正気に戻った時には、ツアレは領主に連れ去られていた。村長の周りに大人達が集って、手当をしようと走り回っている。

 

「くそ、血が止まらねぇぞ!」

 

「もっと布を持ってきて!!早く!」

 

 

・・・あいつを、ツアレを取り戻さなくちゃ

 

村長の事は大人に任せればいい。怖がるツアレの表情を思い出して 動き出そうと息を大きく吸い込んだ。打ち所が悪かったのか痛む身体を無理やり立ち上がらせた時に、悲鳴のようなアインの叫び声が聞こえた。

 

「お、お父さん!!」

 

「アイン、待って」

 

母親の制止を振り切り 父親である村長の所まで走り寄ろうとするアインが俺の隣を通り過ぎようとしたのを、俺はその肩を思いっきり掴んで止めた。

 

「ぶ、ブレイン!?はなして!!」

 

「お前が行ったところで 大人達の邪魔になるだけだ」

 

「うぅっ」

 

頭では理解しているのだろう。アインは幼い割に利口な奴だ。唇を噛み締めて気持ちを落ち着かせているようだったので、俺はアインから手を離した。

 

「何があったの」

 

「・・・領主がツアレを連れ去った。村長は引き留めようとして、斬られた」

 

「お姉ちゃんが、なんで・・・!!」

 

驚愕に目を見開き、激しい怒りに震えるアインに背を向けて 俺は歩き出した。

 

許さない、許すはずが無い。絶対にツアレを取り戻すんだ。

 

「まって、ブレイン!!私も行く!」

 

慌てたように付いてこようとするアインに顔だけを向け、答えた。

 

「ガキは帰ってろ。邪魔だ」

 

「でも!」

 

「じゃあ聞くが、お前に何ができる?剣も握った事の無いタダのガキであるお前が!!!」

 

理不尽な現実に対する憎悪、何も出来なかった己に対する怒り その全てを八つ当たりをする様にアインに怒鳴り散らしてしまったが、この感情は収まることがなかった。

 

「足でまといなんだよ。戦う力もないガキは帰って寝てろ」

 

俺の怒りは、村長に気を取られ慌てふためく周りの音にかき消された。ただ一人、まともに受け止めてしまったアインだけが絶句し、固まってしまっている。

 

 

チクリと心が痛んだが、気付かないふりをした。

 

 

俺はそのまま足早に、生まれ育った村を去った。手にしたのは親父の剣と、食料に僅かな金銭だけだ。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

アインにあれだけガキだと罵ったが、俺も大して変わらなかったようだ。

 

子供の足では領主一行に追いつくことが出来ず、また、ツアレがいるであろう領主の屋敷までの道のりは長く過酷だった。

 

チラホラと現れるモンスターと戦い、時には隠れてやり過ごした。食料もすぐに底をつき、食料調達しながらの旅。

 

弱音を吐いてしまいそうな自身の心を叱咤しながら足を進める。なんとしてもツアレを、取り戻したかった。

 

 

ツアレニーニャは村の中でも存在感のある奴だった。

 

子供の割にはババアみたいな事を言ってくる変わり者で、あいんずうーるごうん とかいうギルドや ココじゃない世界の話・・・まるで英雄談に出て来そうな話を作っては自慢気に話して聞かせる。

面倒見がよく 頭も良い為、村の子どもたちからは慕われ 大人からは頼りにされていた。

 

そんなツアレの事を俺は、少なからず想っていた。これが親愛なのか恋愛なのかは分からないままだったが、そんなのは些細な問題だ。

 

 

あの時、領主がツアレに向かってきた時。ツアレは、震える手で俺の背中の服をぎゅっと握ってきた。ツアレは俺に助けを求めていたんだ。

 

なのに、俺は・・・

 

 

 

 

 

情けない事に、街まであと半日の所で力尽き行き倒れていた俺を 通りすがりの冒険者パーティーが拾ってくれた。

 

何故ここで行き倒れていたのか、俺は聞かれるがまま素直に話した。領主の事、村長の事、そして、連れ去られたツアレの事。

 

 

「あーまた、あのクソ領主の悪い癖がでたな」

 

「1人でここまで来るなんてすげぇな、坊主!」

 

「バッカじゃないのかい?ろくな準備もせずに飛び出して、ここまで来れたのも運が良かっただけ、とんだど阿呆だよ」

 

 

好き勝手騒ぐ冒険者に苛立ちながらも、必死に耐えた。今は少しでも情報が欲しいのだ。

 

 

「坊主、その嬢ちゃんを取り戻したいなら タイミングが良かったかもな。1週間程前に、あのバカ領主が死んだってもんで、奴に囲われていた娘達は解放されたって聞いたぞ」

 

「ほ、本当か!!」

 

「おうとも。まぁ詳しくは街に行ってから確認してみればいいさ」

 

 

良かった、屋敷に殴り込みに行くことまで考えていたが、それもなく確実に取り戻せる。ツアレを取り戻して村に帰れば、アインも安心してくれるだろう。

 

そうして、何とか街にたどり着いた時には ツアレが連れ去られてから 2週間近くが経過していた。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

「どういうことだ・・・」

 

解放された娘達を確認して回ったが、どこにもツアレはいなかった。領主屋敷の使用人たちに問い詰めてみるものの、全員が「そんな娘は知らない」の一点張り。中には恐怖に顔を引き攣らせ、泣き出す者もいた。どちらにしろ、ツアレに関する情報が何も得られない。

 

あと少しで手が届くと思っていた所で この仕打ちに、苛立ちと不安が募っていく。

 

持ってきた金も、助けてくれた冒険者へお礼として渡す羽目になり、もう パンの一つも買えやしない。空腹で纏まらない思考の中で、ツアレを助け村へ連れ帰ることだけがグルグルとまわっていた。

 

 

「ツアレすまねぇ・・・アイ、ン」

 

 

初めて村を飛び出しここまで さ迷った少年は、疲労で限界を迎え冒険者ギルドの前で、力尽き 倒れるのだった。

 




冒険者「おい、またあの坊主倒れてるぞ」「マジかよ」


※領主の死因は 表向き 箝口令が出ている+あの子に関わると呪い殺されるのでは?=「そんな娘は知らない!」


このあとすぐに まとめを更新予定


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《登場人物》

ごちゃごちゃして来たので整頓の為に、これまでのまとめ
あ、面倒なら読まなくても大丈夫です!


・加藤 さゆり

長い黒髪で顔の半分を覆った女性。

幼い頃に火傷を負い、コンプレックスを抱いている。その容姿から 何度も迫害され対人恐怖症になっていた。

しかし、その様子からは想像出来ないほど、性格は 豪快で 積極的、思いっきりの良さがある。

『ユグドラシル』では人間種の魔法職でLv100。

 

職場の同僚である鈴木悟に恋をして、あと少しという所で命を落とす。

 

 

 

・ツアレニーニャ・ベイロン(加藤さゆり)

加藤さゆりが転生した金髪碧眼の女の子。

可愛い女の子に転生した事でコンプレックスが消え、前世での内なる性格がオープンになっていた。

領主に妾として連れ去られた後、レエブン侯に買われて何故か諜報部隊へと配属されてしまい、裏社会へ足を踏み入れる。トラウマにより血が苦手。領主を呪い殺しているが当時の記憶はない。

 

本人は気が付いていないが、指輪【穢れた蜘蛛妃の痛み】を体内に吸収してた状態で転生してしまっている。

 

ちなみに、原作では13歳の時に貴族に妾として連れ攫われ、そこで6年間「玩具」とされた挙句、貴族が飽きた後は娼館に売り飛ばされ棄てられる際にセバスに助けられた女性。

 

 

 

・モモンガ(鈴木悟)

落ち込んでいた所を加藤に救われたものの、加藤が死んだ事でドン底に叩き落とされた。精神面がかなり病んでしまっている。

指輪【血塗られた蜘蛛王の嘆き】を装備した状態で転移した。

 

指輪は効果を発揮し、対となる指輪を持つ鈴木の“愛する人”を 将来的にモモンガ(鈴木)と運命が混ざり合う人間へ転生させた。

・・・が、まさかのツアレニーニャをチョイス

 

 

 

ーーーーーーーーーー

【穢れた蜘蛛妃の痛み】

『その蜘蛛は愛する人を決して忘れない。毒耐性35%アップ。全ての無効化スキルを無効。』

 

 

【血塗られた蜘蛛王の嘆き】

『その蜘蛛は愛する人を決して逃しはしない。即死耐性35%アップ。全ての無効化スキルを無効。』

ーーーーーーーーーー

 

 

・アインロマーニャ・ベイロン

ツアレの妹。原作でのニニャ。

魔法職に強い憧れを持つ少女。姉であるツアレを連れ去り 父親を斬った領主を深く憎んでいる。

 

 

・ブレイン・アングラウス

天より与えられたとしか思えない程優れた剣の才を持つ少年。モンスターを倒す実力はあるものの、急ぐ気持ちに押されて、ろくな準備もせずに出た初めて遠出で 空腹と疲労により倒れてしまう。

 

 

 

※原作との相違点

・アインズ・ウール・ゴウンの噂が地味に広がっている

・ツアレの家族が健在

・ツアレの娼館行き回避

 




次回、やっと モモンガ様登場!


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24.愚かな配下

☆アルベド視点

 

今日は珍しく、至高の41人の懐かしい気配が現れたり消えたりしていたが、今はお1人しか感じられない。

恐ろしく静かな玉座の間。そこへ向かってくる愛しいお方の気配を感じ、歓喜で全身が震えた。

 

 

あぁ、モモンガ様がいらっしゃるわ!!

 

栄光なる至高の41人の中の1人。私達を見捨てなかった慈悲深くお優しいお方。その愛おしいその姿を一刻でも早く捉えたい欲求に駆られる。

 

久方ぶりに開かれた重厚感のある玉座の間の扉。その先にいたのは、モモンガ様と 付き従うセバスチャンとプレアデスの面々。

 

 

・・・その、モモンガ様の漂わせる異様な雰囲気に一瞬呑まれそうになった。

 

 

まるで魂が抜けてしまったかのように覇気がなく、失意に落ちたご様子に、何があったのかと戸惑いながらも モモンガ様をその様な状態にした者を 何者であろうと殺してやろうと 怒りがこみ上げた。

モモンガ様は、フラフラとした足取りで玉座へ腰掛けると、私を愛おしそうに見て下さった・・・いえ、違うわ。

 

私に“誰か”を重ねて見ているようだった。

 

その“誰か”に猛烈な嫉妬が込み上げてくるが、その感情も次の瞬間には、綺麗に消え失せてしまっていた。

 

 

モモンガ様が消してしまわれたのだ。私のタブラ様が そうあれ と与えて下さったモノを。突然の事で戸惑い、急に嘘のように消え失せた感情に焦った。

 

私は、至高の41人を愛し崇拝していたが、それと同時に そんな私達を捨てた至高のお方々を激しく憎んでいた。

残って下さったモモンガ様だけに全てを捧げていこうとすら思っていたのだ。

 

そんな、激しく煮え滾るようなこの感情が全て消えてしまった。

 

 

「好きなのか」

 

 

私のそんな戸惑いも、モモンガ様の口から漏れたその言葉に 全ての思考が吹っ飛び、心臓を鷲掴みにされた。

 

 

「好き、だったんだ」

 

 

私達に向けてではない、誰に告げるでもないその悲しげな告白に、胸が深く締め付けられる。

 

 

「な、んで、死んでしまったんだ・・・なんで、なんで!俺から奪うんだ!!!仲間もギルドも・・・愛した人でさえ!!」

 

 

 

・・・し、死んだ、死んだ??

 

 

 

「俺を 置いて行かないで、くれ・・・・・・うあああ、ぁぁあ!!!!」

 

 

激しく吐き出されたモモンガ様の叫びにその場にいる全員が硬直し、動揺した。

 

私は 敬愛するモモンガ様が苦しみ嘆いているのだと 遅ばせながら理解し、己の不甲斐なさに涙で視界が歪んだ。

 

 

泣かないで下さい、私が ずっとお側にいますから

 

 

心では思うのに身体が付いてこず、言葉として出す事もままならない。上手く状況が飲み込めず 心臓が早鐘を打ち、喉は乾き、嫌な汗が流れる。

私は突然の出来事の連続に対応出来ず 動けずにいた。

 

 

 

最初に動いたのは 意外にもプレアデスの1人、ルプスレギナだった。

 

「死んだってどういうことっすか・・・」

 

本人の意志とは関係なく、思わず零れたであろう その言葉にモモンガ様は ハッとお顔を上げた。

 

 

「しゃ、しゃべった?」

 

「あ、え、はい」

 

 

しどろもどろになりながらも 答えるルプスレギナに苛立ち 私は思わず睨みつけてしまった。

 

 

「は?あ、あれ?コンソールが開かない・・・GMコールも、は?ど、どうなってるんだ?!」

 

「モモンガ様?」

 

「え?あ、アルベドなのか??」

 

「はい、ナザリック地下大墳墓 階層守護者アルベドでございます」

 

「え、動いてる?・・・・・・あぁ、そういうことか」

 

 

モモンガ様は慌てていたご様子から一変、玉座に腰を下ろし、深いため息をされました。

 

 

「モモンガ様?」

 

「は、はは。こんなモノまで見えてしまうなんて、末期かもしれないな」

 

「も、モモンガ様??どうなさいましたか?」

 

 

モモンガ様の赤く揺らめく眼差しが、ゆっくりと伏せられていく。そして、ルプスレギナへと向き直るとゆっくりと語って下さった。

 

 

「ルプスレギナ、死んだのは俺を救ってくれた人だった。悲しんでばかりいた俺を加藤さんは助けてくれた・・・。だが、彼女は死んでしまった。本当ならお前達にも会わせるつもりだったんだけどな・・・間に合わなかった。」

 

 

私は理解してしまった、せざるをえなかった。モモンガ様は“カトウサン”という女性を心から愛しているのだと。

 

 

「ごめんな・・・『ユグドラシル』も終わり ここも消える。アインズ・ウール・ゴウンもナザリック地下大墳墓で存在していたお前達も消えてしまうっ・・・全部、消えてしまうんだ。ごめんな、本当にごめん」

 

 

声を震わせながら懺悔するように謝り続けるモモンガ様を誰が攻められようか。ナザリック地下大墳墓が、自分が、消えてしまう・・・そんな事よりもモモンガ様が苦しむ姿を見ている事の方が辛くて。

私は不敬を承知でモモンガ様を包み込むように抱き着いた。

 

 

「あ、アルベド?」

 

「モモンガ様、このような不敬をお許しください。・・・我らはこの世界の危機も知らず、モモンガ様をお助けするどころか 足を引っ張る 愚かで無力な存在でした。このような許されない失態を犯した私ですが、どうか どうか、挽回の機会をお与え下さいませんか?必ずや モモンガ様をお守り致します」

 

 

己の命に、いや、ナザリックに住まう全ての者達の命に替えてでも、守らなければ・・・!万が一にもこの御方を失う訳には行かないのだ。モモンガ様を抱きしめる腕に思わず力が入ってしまう。

モモンガ様のスキル《ネガティブ・タッチ/負の接触》によってチリチリと皮膚が痛むが、思いの外 心地よく感じ、緩みそうになる表情を無理やり引き締めた。

 

 

「・・・もう少しだけ、このままでいてくれるか」

 

「はい、喜んで」

 

 

私は歓喜で身が震えた。この腕の中にモモンガ様がいらっしゃるのだ、興奮のあまり腰から生えた漆黒の翼がバサバサと動いてしまう。

 

 

もう死んでしまった愛しい人を忘れられない主人を慰める部下。

部下は主人を慕っているが故に、死しても尚、主人を苦しめる恋敵の事を呪わずには居られなかった。しかし、お側にいるのは私。主人の部下であるこの私なのだ。部下は主人のお心を頂戴すべく様々なアプローチを仕掛けるが、全てが失敗に終わる。更に追い打ちをかけるように、死んだ筈の恋敵が現れて・・・そうね、そう。

しかし、恋敵は愚かにも別の男を作っていたのよ。そこで失望した主人を部下が慰めて、そのまま・・・

 

くぅーーー!!!!!絶望の先の幸せ!なんて堪らないのかしら!!あぁ、最ッッ高のシチュエーションだわ!!!!

 

 

 

 

「アルベド様、モモンガ様のご様子が・・・」

 

 

セバスの言葉で急に現実に戻された。コホンと一つ咳払いをしてから静かに腕の中におられるモモンガ様へと視線を向け、アンデッドではありえない不自然さに首を傾げた。

 

 

「モモンガ様?・・・まさか、眠っていらっしゃるの??」

 

 

 




モモンガ「夢か、幻覚か?あぁ、いい匂いだなぁ・・・なんだか眠たくなってきた・・・zzz」



今作アルベドの設定
※オーバーロード大百科を参考に抜粋しました。

ーーーーーーーーーー

彼女はナザリック地下大墳墓守護者統括という最高位たる地位につく悪魔であり、艶やかで長い漆黒の髪と黄金の瞳を持つ傾国の美女である。

己の地位に誇りをもっているために、侵入者に対しては自信と威厳によって、はるかな上位者として対峙する。
例え、どれほど賢く勇敢な敵で、強者と認めていようと決して同格としては相手にしない。
それだけの地位を与えられているということを知っているためだ。

彼女の持つ能力も守護者統括の地位に相応しいだけのものであり、智謀、戦闘能力において格段に優れている。
ただしながら、各方面に置いていては若干他の存在に劣る点もないわけではない。

例えばデミウルゴスの智謀やシャルティアの戦闘能力などであるが、ナザリック内の管理、ひいては内政に関しては誰にも負けたりはしない。
その他、女性的な作業―特に主婦業一般に関しても優れた能力を持つ。
暇なときは編み物や掃除など、女性的な作業に従事している姿が時折見受けられる。

そのためなのかは不明であるが、綺麗好きであり、適当な片づけ方を見ていると綺麗に片したいという欲望に駆られるようだ。
特に本棚の並びに関しては一家言あるらしい。

しかしながら、他人は他人と見做している部分もあるので他者に掃除を強制することは滅多にない。
とはいっても、自分のコレクショングッズなどはため込む癖もあり、そういった場合はかなり乱雑な整頓となっている。
そのために本当に綺麗好きなのかは疑問の余地がある。

恐らくはそういう演技―女性として完璧に思われるような―をしているのではないだろうか?
確証はないし、怖くて聞くこともできないが。

何時も優しげな微笑みを絶やさず、穏やかな話し方の淑女然とした彼女は天使や女神と言っても信じそうな者は非常に多い。
実際、そういった雰囲気や容姿を持つのだから、勘違いしても可笑しくはないだろう。
実際、そ“の姿も彼女の一面であり 間違ってはいない。”

以下 モモンガによって消去されている

ちなみに、本来はこれの倍以上の量がありました。
“”内はモモンガが何とか修正した部分

もし、アルベドが 設定魔である創造主、タブラの性格を引き継いだら、こうなるのかな・・・??


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25.動き出すNPC達

☆アルベド視点

 

アンデッドであるモモンガ様が寝ているなど、睡眠無効ではなかったのではないのか?もしや、睡眠無効を無力化するアイテムを使用している・・・?

 

 

「ナーベラル、貴方 鑑定は使えたかしら?モモンガ様が 睡眠無効を無力化させるアイテムを装備していないか確認して頂戴」

 

「勝手に御身を探るなど・・・不敬になるのではないでしょうか?」

 

「先程、モモンガ様が仰られていた言葉を忘れたの?今は非常事態よ、構わないわ」

 

ナーベラルが神妙に頷き、モモンガ様の装備を確認していくのを横目に、どうするのが最善か考えを巡らせた。

 

「モモンガ様は、『ユグドラシル』が消滅すると仰られていたわ。ここも消えるだろうと・・・」

 

ぐぅ、情報が足りなさ過ぎる。

 

改めて己の無能さに苛立ちが隠せない。『ユグドラシル』が 世界が終わるのならば、何かしらもう異常が起きててもおかしくは無い。ここは・・・

 

「アルベド様、一先ずは現状を確認するのが最善かと」

 

「ええ、そうね。セバス、プレアデスを連れナザリックの外部に異常がないか確認してきなさい。ナザリック内部については それぞれの担当の者に異常がないか確認させた後、階層守護者は緊急招集を行います。」

 

 

そこで鑑定の終わったらしいナーベラルが声を上げた。

 

 

「アルベド様、原因が分かりました。この指輪です。『その蜘蛛は愛する人を決して逃しはしない。即死耐性35%アップ。全ての無効化スキルを無効。』と出ました。」

 

 

ナーベラルが指し示した先には不気味に輝く蜘蛛の指輪を視界に入れてから、一瞬逡巡し、外そうと手を伸ばした時、セバスから制止がかかった。

 

「アルベド様、お待ちくださいませ。」

 

「何かしら」

 

「指輪とは、リアルの世界で恋人同士が贈り合うものだと聞いたことがございます。モモンガ様の想い人である“カトウサン”からの贈り物かもしれませんので、勝手に外すのは止めた方がよいかと。それに・・・モモンガ様は随分とお疲れのご様子。睡眠を充分にとれば、精神的な疲れを癒すこともありましょう」

 

セバスの話が本当なら、不利益しか及ばさない指輪をわざわざ付けていらっしゃるのも、モモンガ様が カトウサンを愛してるが故なんでしょうね・・・

 

カトウサンがどのような方なのか分からないけれど、モモンガ様の支えであった事は変えられない事実に少なからず嫉妬を覚えてしまう。

 

 

「それもそうね。モモンガ様は このまま 私が責任を持って、モモンガ様の自室へとお送りしますわ。それと、・・・モモンガ様が“このような状態”である事は無意味に広めぬよう、決して口にしないようにしなさい。」

 

「かしこまりました。お願いします」

 

 

セバスとプレアデスは礼をするとその場から退出した。

 

さぁ、私も動かなければ

 

「んぅ〜 失礼致します、モモンガ様」

 

私はモモンガ様に触れられる歓喜に震えながらも 慎重に未だに静かに眠るモモンガ様をそっと抱き上げ、モモンガ様の私室へとお連れしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

 

既にメッセージにてナザリック内部の異常は無かったと報告を受けている。外部の方からは、異常が報告されており、皆への報告の為にもセバスには戻ってくるよう指示を出していた。

 

再び、玉座の間へ戻った時には 一部を除く階層守護者達が既に揃っていた。

突然の事に戸惑いながらも集まった皆の視線を受け、私は表情をキュッと引き締めた。

 

 

「アルベド、遅かったですね。“緊急招集”との事でしたが、それほどの事が起こっているとでも?」

 

 

ナザリック第7階層「溶岩」の守護を任された階層守護者であるデミウルゴスが 私に鋭い視線を向けてきた。

私が独断で階層守護者を集めた事に 疑惑を持っているようね。

 

その視線を真っ直ぐに受け止め、私は これから皆が衝撃を受けるであろう事を口にした。

 

 

「先程、モモンガ様がこちらに来られました。その時に告げられたのです。『ユグドラシル』が消滅するに伴い アインズ・ウール・ゴウン、そしてこのナザリック地下大墳墓も消え失せると」

 

 

驚きで目を見開き、戸惑う階層守護者達。

 

「そ、そんなぁ?!」

 

「消える?!ナザリックが??!」

 

「ど、どういうことでありんすか?!!」

 

声を張りたげたのは、ナザリック第6階層「ジャングル」の守護者、マーレ・ベロ・フィオーレとアウラ・ベラ・フィオーラ。そして、ナザリック第1~3階層「墳墓」の守護を任された階層守護者、シャルティア・ブラッドフォールン。

 

取り乱して情けないと思いつつも、自分もそうであったと思い出し 悪態をつくのは止めた。

 

 

「モモンガ様ガ、イラッシャラナイ、ヨウダ、ガ?」

 

顎をガチガチさせながら話す 巨大な昆虫 コキュートスは、ナザリック第5階層「氷河」の守護を任された階層守護者だ。

 

「モモンガ様は、・・・今はお休みになられているわ」

 

先程より増した鋭い視線を向けてくるデミウルゴスが威圧するように声をあげた。

 

「何か・・・モモンガ様の身に起こったのですね?しっかりと説明して下さい アルベド。」

 

デミウルゴスのこの視線は苦手だ。私は何とか、ため息を飲み込んで、慎重に言葉を選びながら発言した。

 

「モモンガ様は ご自身で付けられた指輪の効果により今は眠っていらっしゃるわ。精神的にだいぶ疲れているご様子でしたので このまま休んでもらうつもりよ」

 

 

その時、玉座の間が静かに開いた。入室してきたセバスは この場にいる者達を確認した後、ハッキリとした口調で告げた。

 

 

 

「ご報告します。ナザリック地下大墳墓の外が 沼地ではなく、“草原”になっていました。」



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26.混乱

☆モモンガ視点

 

 

NPC達に気持ちを伝えたら加藤さん似の美女に優しく抱きしめられた夢を見た。

 

あぁ、いい感触だったな

 

自身の手を動かせば、サラサラとした手触り。俺は布団の中に包まれているようだった。

 

昨日はいつの間にベッドへ入ったんだか・・・

それにしても、家のベッドは こんなにも気持ち良かったか?

 

布団からモゾモゾと這い出て、天井を見れば細かな装飾が施されており、知らない場所だった。

 

 

「ん?」

 

 

起き上がって部屋の中を見渡せば、ありえない、見覚えのある場所が広がっていた。

 

 

「ナザリックの・・・自室?」

 

 

ベッドから降りようとして そこで初めて自身の“白い手”が目に入った。

恐る恐る確認していけば、白骨化した身体に体内には赤い玉が埋め込まれており よく知ったキャラクターとはいえ 余りのリアルさに悪寒が走った。

 

 

「は、は・・・?」

 

 

何度確認してもそこにあるのは白い骨。感触からこれが己の身体だと認識し、恐怖で叫ばずにはいられなかった。

 

 

「ぎゃあああーー??!!!!!!」

 

 

突然の悲鳴に驚いたのか、部屋のドアを開けて 和装っぽいメイド服を着た少女が駆け込んできた。

 

 

「モモンガ様ぁ!?大丈夫ですかぁ?!」

 

 

駆け込んできたメイドの顔にはギチギチと激しく動く顔のパーツである“虫”達。あまりにも迫力のあるその姿に 俺は、勿論・・・大丈夫な訳がなかった。

 

 

「ぎぃゃあああ!!!!!!!」

 

「きゃぁーーーー!!!???」

 

 

オーバーロードの絶叫に思わずメイド、エントマも悲鳴をあげてしまい、衝撃の余り 顔のパーツが崩れて行き、その姿に更に俺が絶叫をあげてしまう。何も考えられなくなる程 混乱していた。

 

そこへ最初に駆け込んできたのは、お団子頭に眼鏡をかけたメイドだった。

 

「モモンガ様!!」

 

「あ、あ、」

 

「エントマ、しっかりしなさい!」

 

「す、すみません〜」

 

「モモンガ様、大変申し訳ございませんでした!!」

 

「あの、ユリだっけ?」

 

「はい、ユリ・アルファでございます。」

 

「あ、あ、あ、俺・・・死んでる??」

 

「え、え?生きておられますよ?もしや、どこか悪うございましたか??!!」

 

 

混乱しながらも心配そうにこちらを伺うユリの言葉に もう一度 身体を確認してみれば、変わらない骨の姿。手を動かし顔を触ってみてもツルッとした骨の感触。どう考えても白骨死体のそれだった。

 

 

「あぁああ?!!!ほね、骨っ!!死んでるんじゃないか!?」

 

「も、モモンガ様?大丈夫です。どうか落ち着いてくださいませ」

 

「落ち着いていられるかぁーーー!!!」

 

 

突然 白骨化した身体に恐怖でパニック状態になっていると、バタバタと駆け込んできた者達がいた。

 

 

「モモンガ様!大丈夫ですか!!」

 

 

長い黒髪を振り乱し入ってきたアルベドと緊張した面持ちのセバスだった。

 

 

「え、あ、アルベドとセバス??」

 

「はい、アルベドでございます。大丈夫でしょうか??」

 

「あ、あぁ、はい。え?」

 

「モモンガ様ぁ!」

 

 

バザッと抱きついてきた絶世の美女に思わずドキマギしてしまう心臓が激しく波打っているようにすら感じた。・・・いや、心臓ないけども。

 

 

「あ、アルベド??」

 

「モモンガ様!大丈夫、大丈夫でございます。このアルベドが、如何なる時もお側におります」

 

「あ、ありがとう」

 

「私、セバスチャンを含め、ナザリック地下大墳墓の者達全てがモモンガ様へ絶対の忠義を尽くしておりますゆえ、どうかご安心下さいませ モモンガ様。」

 

「・・・ありが、とう、セバス」

 

 

心の底から心配そうに、そして今にも泣き出しそうな表情の皆を見て、段々と気持ちが落ち着いてきた。

 

 

「・・・なにが起きているんだ?」

 

「ゴホン、モモンガ様、現在把握している事を全て説明させていただきます」

 

セバスの咳でパッと 俺から離れたアルベドは背筋を伸ばし、さっきまでとは切り替えたように話し出したのだった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

「ナザリックが・・・転移?」

 

「はい、その線が濃厚かと思われます」

 

 

アルベドの説明を聞きながら、俺は何度も叫びそうになるのを食いしばって耐えた。

 

 

まず、この状況からしておかしいのだ。

 

なぜ、NPC達が動いている?

もはや、生きているとしか思えない。極めつけはエントマだ、現実ではありえないリアル過ぎる虫の動きに表情。・・・あぁ、さっきは叫んでしまったな、女の子の顔を見て叫ぶとか失礼過ぎるだろ俺!後で謝りに行こう。

 

あとは、俺の今の姿。この姿は「モモンガ」そのものだ。

突然 自身の体が 白骨化していたから本当にビビった。これは慣れるまでかなりの時間がかかりそうだ。

 

 

 

「モモンガ様は、『ユグドラシル』が終わると仰られていました。何らかの力が働き、このナザリック地下大墳墓だけ こちらの世界に転移したのだと思われます。魔法やスキルの使用については 問題なく使用可能です。転移によるナザリック地下大墳墓の異常は見られませんでした。・・・転移の原因については、判明しておりません。申し訳ございません」

 

「あ、いや、大丈夫だよ。」

 

「では、ナザリック外部の様子について私から説明させていただきます」

 

 

アルベドに引き続き、セバスが説明しようと前に出て一礼をした。

 

ダメだ、いろんなことを考えてしまって 全く思考が動かない。

転移した?どこに??コレが現実だとして、俺は何で“モモンガ”になってるんだ?!何が何だか訳がわからない・・・

 

 

「ナザリックの外は草原が広がっており、確認できた生物もレベルが低く、脅威になりそうな者は発見出来ておりません。ここから1番近い村は人間種のモノです」

 

「人間種の村?」

 

「はい、レベルは10以下と低く 文化レベルもかなり低いようです」

 

「うーん」

 

10レベル以下の奴らが生きていけるような環境なのか?いや、誰かの保護下にあると考えるのが自然・・・?

とにかく情報が足りない。あぁ、考える時間が欲しい!!

 

 

「モモンガ様、村を監視させていたルプスレギナから入った報告によりますと、現在、その村が人間種の武装した集団に襲われているとの事です」

 

「・・・は?」

 

「目的は不明との事ですが、女子供まで皆殺しにしているようです」

 

 

“皆殺し”?女子供まで皆殺しだと?

 

 

 

俺は、加藤さんから貰った蜘蛛の指輪をぎゅっと握りしめた。




モモンガ様、いっぱいいっぱい過ぎて支配者ロールすら出来ない状態に・・・。


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27.カルネ村

☆モモンガ視点

 

 

ナザリック地下大墳墓から近い場所にあるという人間種の村。そこに俺が到着した時には、まるで“地獄絵図”のような風景が広がっていた。

 

「た、だすけでくれぇ」

 

「痛えぇ〜あぁああ!!」

 

鎧を着た兵士のような人間達は一人残らず倒れており、苦痛に呻いているか 死んでいるかのどちらかだった。辺り一面に血が広がっており、村の広場、中央で村人らしき人間が身を寄せ合い震え上がっていた。

 

 

「モモンガ様!最初に殺された4人を除いて、村人はみんな保護したっす!そこに、まとめておきましたっすよ!」

 

 

三つ編みにしたふた房の赤毛を跳ねさせ、実に爽やかな笑顔で出迎えてくれたルプスレギナ・ベータ。メイド服のスリットから出た片足で兵士を踏みつけ、踏まれた血だらけの兵士は、既に ぴくりともしていない。

 

 

「おぉう・・・ご苦労さま」

 

 

俺は目の前の光景に、戸惑っていた。

 

セバスから“女子供まで皆殺しにしている”と聞いて、どうしようもなくイラついた。加藤さんの顔がチラついて、彼女の様に 誰かが理不尽に殺されるのが許せなかったんだ。

村を監視していたルプスレギナに村人を守るように命令し、自分も急いでここまで来た。

 

今にして思えば、敵がルプスレギナよりも強かったら 危なかったんじゃないかとか、そもそも、村人側が悪かったのかもしれないとか、色々と反省しなければならないな・・・と、思考に没頭したくなるぐらいには目の前の光景が、酷かった。

 

いや、グロ過ぎて気持ちが悪い、人間を殺させる命令を出した罪悪感が・・・なんて事は全くない。

自分はこんなにも、薄情な奴だったか?人間としてどうなんだ。

 

 

助けた村人達の方を見れば、涙を流し 顔を引きつらせて、震えている者ばかりだった。これじゃ、助けたこっちが悪者みたいじゃないか。まぁ、これだけの惨状を見せられつけられれば、怖くて当たり前だよな。

 

 

「あ、あ、アンデッド」

 

「あぁ、もう、おしまいだぁ」

 

「アンデッド??」

 

首を傾げていると、後から俺に付いてきたアルベドが満足気にしていた。

 

「下賎な人間共には、モモンガ様の美しいお姿は刺激が強すぎたのですわ」

 

 

俺かぁーー!!!!

 

あまりにも自然と身体に馴染んでいたから、すっかり忘れていたけれど、今の俺、オーバーロードだった。アンデッドだった!そりゃ、怖いよな!

 

なんとか誤解を解かないと・・・

 

 

「安心してくれないか。俺たちは、お前達には危害を加えないから」

 

「あ、あ、ぁあ」

 

あぁ、完全に怯えちゃって会話にならない。全面的に俺が悪かったけどさ。どうしたらいいんだよ?!!

 

 

「モモンガ様〜!」

 

森の方から声がして、そちらへ振り返れば 小さなダークエルフの2人が、人間の女の子を担ぎ上げて走ってきていた。

 

 

「えーと、アウラとマーレだっけ?」

 

「ナザリック第6階層守護者、アウラ・ベラ・フィオーラです!」

 

「同じく、ナザリック第6階層守護者、マーレ・ベロ・フィオーレで、です」

 

「あ、あぁ。よろしくな」

 

 

そうだ、ぶくぶく茶釜さんが作成したNPCだったか。あれ?なんでここに居るんだ??

 

 

「森の中に村人が、一匹居たので連れてきました!」

 

「お、おう。ありがとな」

 

 

ドサッとその場に降ろされた少女は、ガクガクと震え、何だか見ているこっちが申し訳なくなってくる。

 

 

「エンリ!!」

 

 

村人達の中から父親らしき男性が声をあげた。村人達の方へ行って欲しかったが、少女は腰が抜けたようで動けそうになかった。仕方がないなと、軽い気持ちで 俺は少女を抱き上げた。

 

 

「お、お姫様抱っこ?!」

 

「も、モモンガ様!!そんなモノを抱き上げるなどー!!」

 

 

何故か慌てだすアウラとマーレ。そして鋭い眼光で少女を睨み付けてくるアルベド。

 

え、あ!少女とはいえ、女性を いきなり抱き上げたら失礼だったか。

 

 

「す、すまないな。あちらに運ぶだけだから・・・あ」

 

 

少女は、俺の腕の中で白目を剥きながら 失禁していた。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

「大変申し訳ございませんでした!!!」

 

俺は、村長の自宅で 村長夫婦と少女の父親から 額を地面に擦り付ける勢いで土下座されていた。

 

 

「いえ、こちらこそ配慮が足りなかったので。お気になさらず」

 

 

こちら側は俺と、ナザリックから呼び寄せたセバスの2人だ。

少女が失禁をした事でアルベド、アウラ、マーレ、ルプスレギナが、村人達を皆殺しにしそうな勢いで激怒したので、強制的にナザリックに帰ってもらったのだ。

あんな殺気を向けられたら、あの様になってしまっても仕方がないだろうし、何より、せっかく助けたのに 殺されてしまったら本末転倒である。

 

 

アルベド達の代わりにカルマ値が極善だったセバスを筆頭に数名、コチラに来てもらったのだ。

最初は俺一人で良いかと思っていたのだが、NPC達皆に全力で止められ、その場に居合わせたセバスの案でカルマ値が善よりの者達を選んだ。

 

いやー、“カルマ値”が関わってくるとはなぁ。よく考えたら、そうなんだろうけど 全く思い浮かばなかった。

 

・・・俺、カルマ値 極悪だけど 普通に対応出来るのに。やっぱり設定の影響だろうか??

 

 

「どうか、どうか命だけは助けていただけないでしょうか?」

 

村長がガタガタと震えながらも必死の面持ちで訴えてきた。なんだか虐めてる気分になってくる。

 

「ええ、コチラとしては 助けに来ただけだから」

 

「た、助けに??」

 

「アンデッドが言っても信じられないかもしれないが・・・」

 

「いえ、いえ!!本当にありがとうございました!!」

 

 

再び土下座した村長達にため息を吐きつつも 俺は部屋に置かれた椅子を指さして声をかけた。

 

 

「色々と聞きたいこともある。とりあえず座ってくれないか?」




嫉妬マスク「・・・」


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28.異世界

☆モモンガ視点

 

俺達が助けたこの村、カルネ村の村長から聞いた話は聞いたことのない事ばかりだった。

まず、バハルス帝国、リ・エスティーゼ王国、スレイン法国といった周辺諸国。バハルス帝国とリ・エスティーゼ王国は、定期的に小競り合いをしているらしい。

次に、金銭について。当然だが、ユグドラシル金貨ではなく、銅貨、銀貨、金貨、白金貨と、違う貨幣が使われていた。

 

次に、冒険者について。冒険者ギルドに所属する者達で、彼らの中には魔法使いも居たらしい。

 

 

「その魔法使いが、どのような魔法を使うか知っているか??」

 

「いえ、そこまでは・・・」

 

 

怖々とした様子でも、村長はしっかりと答えてくれた。知らないことが多すぎる。聞けば聞くほど、本当にここが“異世界”なんだと実感させられた。しかし、“異世界”に何故、ユグドラシルでの姿で、ナザリック地下大墳墓ごとコチラに来てしまったのか・・・。

 

考え込んでいると後ろで控えていたセバスが発言した。

 

「モモンガ様、よろしいですか?」

 

「あぁ」

 

「村長、強者について何かご存知ありませんか?」

 

「強者・・・ですか??」

 

「過去、現在、どのような話でも構いません」

 

 

あぁ、なる程。ココが現実である以上、脅威となる者達は知っていなければいけないな!流石セバスだ。

 

 

「えっと、王国戦士長ですね。王国最強と言われております。あとは・・・伝説で良ければ、13英雄ですね」

 

「13英雄?」

 

「200年程前の魔神との戦いで活躍した者達の事です。詳しくは知らないのですが、中には死者を使役した者もいるとか・・・」

 

「死者か。魔人とは?」

 

「世界に災いをもたらす者達としか・・・すみません」

 

「いや、大丈夫だ」

 

 

死者ならオーバーロードである俺だって使役可能だ。いや、可能なのか?後で試してみるか・・・。

それにしても、この世界に転移してきたのが俺達だけだとは限らない。プレイヤーならそれなりに強者であるだろうしな。王国戦士長や13英雄か、詳しく調べてみた方がいいかも知れない。

 

 

プレイヤーか・・・。他のプレイヤーや、ギルメンが俺達の様にこの世界へ来ている可能性がある。それに加藤さんも・・・いや、彼女は死んでしまったんだ。それはないだろうな。

ふと、手元で光る蜘蛛の指輪に視線を向けた。加藤さんから貰った最初で最後の贈り物は、相変わらずそこにあった。

 

「加藤さん・・・」

 

小さく口から漏れ出た彼女の名前。セバスがピクリと反応した様な気がしたが、確認する前に部屋の奥へ行っていた村長の奥さんが湯呑みを持って、俺とセバスへ差し出してきた。どこか戸惑っているような仕草で口を開いた。

 

 

「あ、あの、良ければお飲み物を どうぞ」

 

「あぁ、ありがとう」

 

 

緑がかった飲み物、これはお茶だろうか?口につけて、苦味がありながらも暖かい飲み物に心が落ち着いた気がした。

何故かギョッとした様子で俺をガン見してくる村長達。不思議に思いながらも俺は口を開いた。

 

 

「・・・何か?」

 

「い、いえいえ!なんでもございません!!」

 

 

深々と頭を下げる村長達。いい加減慣れてくれないものかとため息を吐きつつも話を続けた。

 

 

「ところで、アインズ・ウール・ゴウンという言葉に聞き覚えはないか??」

 

「すみません、」

 

「いや、いいんだ」

 

 

そっか。みんなが来ているなら、ギルドについて知っててもおかしくないと思ったのだが・・・仕方がないな。

 

 

 

《モモンガ様、いきなりのご連絡申し訳ございませんが、ご報告したいことがございます》

 

「うぇ!?」

 

いきなり頭に響いた男性の声に ビックリして変な声が出てしまった。これは、もしかしてメッセージか?使用可能なのか?!あ、いや、よく考えたら、ここに来る前にセバスが使ってたな。

 

《この声は・・・》

 

《デミウルゴスでございます。そちらの村に向かって人間の兵士らしき者達が移動中です。よろしければ殲滅致しますが、いかがなさいますか?》

 

デミウルゴスって階層守護者のデミウルゴスか!?

何でそこにいるんだ?というか、いきなり殲滅とかしなくていいから!!お前もアルベド達と一緒かよ?!

 

《殲滅しなくていいから!どんな奴等か分かるか??》

 

《全員が馬に乗ってますね。騎士のようではありますが、装備がバラバラです。数にして14。強さとしては、先頭を走る者は少し腕が立つようですが、残りはゴミ以下だと思われます》

 

《ご、ゴミ以下か・・・こちらで対応するから、そのままにして置いてくれ。連絡ありがとう》

 

 

うーん、どうしたものかなぁ。

弱いのなら脅威ではないだろうが、なんの為にここへ来たのかが問題だ。この村を襲っていた兵士達の味方か敵か・・・。

情報が少ない中では、なるべく敵対する者達は減らしたい。どうやって交渉しようか。

俺が黙っていたからか、村長が不安げにこちらを伺っていた。

 

 

「あ、あの、いかがされましたか?」

 

「いや、大したことじゃない。武装した集団がコチラへ向かっていると部下から報告があってな」

 

「え、そ、そんな!!!?」

 

 

村長は、ガタンと椅子から立ち上がり 顔を真っ青にさせていた。

あーー、さっきの襲撃者の事もあって怖がっているのか。これは、俺の配慮が足りなかったな。

 

 

「心配するな。せっかく助けたお前達を見殺しになどしない」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

 

俺の言葉に安心したようで 村長達は、再び深々と頭を下げたのだった。




村長達「アンデッドもお茶飲むんだ・・・」


勝手に動き回るNPC達。
そして、なかなか進まないストーリー(ノД`)


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29.忠誠

 

☆モモンガ視点

 

村長宅を出た頃には村は、ある程度片付けられていた。

兵士の死体も1箇所にまとめられ、辛うじて生きている者も縛られた状態で、死体の隣に置かれている。見張りとしてシズ・デルタが待機していた。

 

こちらに気づいて走り寄ってきた村人が、恐る恐る口を開いた。

 

「そ、村長。葬儀の準備が整いました」

 

「そうか」

 

チラッとコチラを伺う村長に、なるべく和やかな雰囲気を意識して返事をした。

 

「どうぞ、こちらを気にする必要はない」

 

「ありがとうございます」

 

ぺこりとお辞儀をして去っていく村長を見送って俺はシズの元へ歩き出した。

 

「はぁ、これからどうしたものかなぁ」

 

「モモンガ様は、この村の人間を守るおつもりですか?」

 

俺の独り言に、隣を歩いていたセバスが反応した。助けた その後は考えてなかったのが正直な所だが、せっかく守ったものを壊されるのも気に入らない。

 

「もし、よろしければ、ナザリックの支配下に置いてはいかがでしょうか?」

 

「支配下か」

 

「はい、情報収集の為の足掛かりにもなるでしょう」

 

確かに情報収集という面ではいい案かもしれない。

だが、それはこの村を管理している王国に喧嘩を売るようなものだし、何より・・・

 

「他のナザリックの者達が納得しないだろう?人間を嫌悪する者が多いからな」

 

「あくまでも“支配”です。仲良くなれと言われれば、苦労する者もいるかもしれませんが。モモンガ様のご命令ならばナザリックの下僕一同、絶対の忠義をもって従います」

 

真っ直ぐ力強い瞳からは、セバスが心の底から忠義を誓っているのが分かった。その強い意志に、俺は思わず顔を背けてしまった。

 

「俺は、・・・お前達の忠義に応えられるほど凄い奴じゃないよ。もし、そんなに凄い人物だったなら こんな醜態は晒していなかっただろう」

 

 

俺がそんなに凄い人物だったら、ギルドのみんなだって離れていかなかった。加藤さんだって・・・

 

 

「モモンガ様」

 

 

普段より強く発せられたセバスの声に、身体がびくんと跳ねた。ゆっくりと振り返ると、セバスがこちらを心配そうにしながらも強い視線を向けてきていた。

 

「モモンガ様、我等を信用して下さいませんか?」

 

「え」

 

「至高のお方々がお隠れになっていく中、モモンガ様は ずっと残って下さいました。如何なる時であろうとも、我等は 慈悲深きモモンガ様のお傍らにおります。」

 

「あれは、・・・俺 自身の為だったんだよ。最後までアインズ・ウール・ゴウンを、お前達を手放せなかった」

 

「モモンガ様に必要とされた。それだけでどれだけ救われたか・・・モモンガ様、このセバス・チャン、貴方様へ絶対の忠誠を誓います。」

 

その場に膝まづいて忠誠を誓うセバスの姿を見て、言葉に詰まった。胸から こみ上げてくるこの熱くて暖かい感情は、一体何なのだろうか?震えそうになる声を何とか押さえ込み、言葉を紡いだ。

 

「ありがとう、セバス。これからも俺に付いてきてくれ」

 

「御意に」

 

ナザリックのNPC達、皆がどう思っているのか分からない。それでも、これだけ想われているのなら・・・。俺はもっと彼らを信じてみてもいいかと思った。

 

無様を晒しても、“鈴木悟”としての一面を見せてしまっても、きっとついてきてくれると思ったから。

 

 

「帰ったら、皆とも顔を合わせないとな。転移してから1度も会っていない者達も多い」

 

「はい。下僕一同、喜びましょう」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

「――私は、リ・エスティーゼ王国、王国戦士長ガゼフ。この近隣を荒らしまわっている帝国の騎士達を退治するために王の御命を受け、村々を回っているものである」

 

 

王国戦士長らしき男性からは、肩書きに負けない程の勇ましさを感じた。

 

俺は、プレアデスのユリとセバス、そして村長が、王国戦士長御一行と対面しているのを民家の中からひっそりと眺めていた。

 

最初は俺も対応に出ようとしていたのだが、「彼らと友好的に接するのであれば」とユリに止められたのだ。

ついつい、自分がアンデッドだと忘れてしまう。“モモンガ”の様なラスボスみたいなモンスターが現れたら攻撃されても怒れないからな。俺だって怖いし。

 

シズは兵士・・・村長曰く、帝国の者達じゃないかとの事だが。奴ら生きている者全てをナザリックへ連れていってもらった。貴重な情報源になるだろう。

 

丁度 生きている兵士をナザリックへ連れて行く時に、村人達へ俺達が異形種だということを秘密にする事、セバス達の村を助けた話と口裏を合わせる事を告げたら、青い顔をしてコクコクと壊れた人形の様に頷いていた。

・・・そんなに怖がらなくてもいいと思うけど。

 

セバスからこの村の護衛(という名の監視)を在中させると説明された時は、喜んでいた者が多かったというのに。

 

顔か?やっぱり顔なのか??

 

 

 

俺が考え込んでいる間に、セバス達は上手く話をもっていけたようで、王国戦士長とも和やかに話をしていた。

これで上手く行きそうだな。優秀な部下で本当に良かった。何とかやり過ごしたら、俺はナザリックに帰って それから・・・

 

 

《モモンガ様、デミウルゴスでございます。お知らせしたいことがございます》

 

 

気を緩めた時、突然入ってきた連絡に、内心バクバクしながらも、俺はなんとか答える事が出来た。

 

 

《おぉ、どうした??》

 

《現在、武装したマジックキャスターの様な集団が、村を包囲しようと近づいてしております。》

 

《マジか》

 

 

一難去ってまた一難だな。




村人「もし、告げ口したら 俺達もアイツらみたいに連れてかれる」ガクブル((゚Д゚;))


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30.転移の真相

 

☆デミウルゴス視点

 

『 ユグドラシル』の消滅。アインズ・ウール・ゴウン、このナザリック地下大墳墓の消滅。

そして・・・愛する人を失ったモモンガ様の“現状”を、アルベドから聞かされた時の絶望感は耐え切れないものだった。

 

私達は愚かにも 何一つ気付くことなく朽ちる所だったのだ。

 

「私達は、甘え過ぎていたのたもしれませんね」

 

「甘え・・・でありんすか」

 

シャルティアが 戸惑いながらも返事をしてきた。自分自身への怒りや恐怖を押し殺しながら何とか言葉を紡いだ。

 

「“至高のお方々のご命令だけを聞いていれば良いあの方々に間違いなどないのだから”・・・私達は、私は、そうやって依存してました」

 

「至高ノ41人ガ望ゾマレル姿コソ、我等ノ、アルベキ姿ダ」

 

コキュートスのその言葉は、今までの愚かな自身を表している様で 思わず声を荒らげてしまった。

 

 

 

「その結果が、このザマですか!!!!」

 

 

 

シンと静まり返る玉座の間。ハッとコキュートスを見れば、驚きに目を見開き 固まってしまっていた。

あぁ、八つ当たりをしている場合ではないのに・・・。友に すまないと謝れば、大丈夫だと返事をしてくれた。私は深呼吸してから言葉を続けた。

 

 

「・・・近頃は、お隠れになったと思われていた方々が ナザリックを訪れていましたね」

 

「えーと、やまいこ様、ぬーぼー様、音改様、ガーネット様、ブルー・プラネット様と、ぶくぶく茶釜様、スーラータン様、ぷにっと萌え様」

 

「そして、ヘロヘロ様。もしかして 転移と何か関係が?」

 

 

アウラとマーレの返事に頷きながら、私は この“予測”に対して、バクバクする心臓を押さえ込み、必死に冷静を装った。

 

 

「関係は大いにあるでしょうね。何故、ユグドラシルと共に消滅する筈だったナザリック地下大墳墓が、この地にやってきたのか」

 

「そんな、まさか・・・」

 

「モモンガ様を除く、至高の41人。あのお方々なら ナザリックを転移させることも可能でしょう」

 

「ど、どうゆうことでありんすか?!ペロロンチーノ様は!?ナザリック内には誰もおりんせんでした!!」

 

 

狼狽えるシャルティアを横目に、必死に考えを巡らせていた脳は、最悪な予測を打ち出した。

 

 

「ユグドラシルと共に消滅した・・・」

 

呟きのような私の声に、反応したのはマーレだった。怒気を含んだ、まるで悲鳴のような大声をあげた。

 

 

「うっ嘘だぁ!!!!!!!」

 

 

涙で目元を潤ませ、震える手に ねじくれた黒い木の杖を握りしめ、私を睨みつけてくる。

 

 

「そんなっそんな事ありえない!!!!ぶくぶく茶釜様が死んだなんて、そんな訳ない!!!」

 

 

親愛するお方の非常事態に誰だって冷静に対応出来るわけがない。・・・こんな事を口走ってしまうとは私も相当まいっている様だ。

 

いよいよ攻撃を放とうとしたマーレを止めたのは、コキュートスだった。

 

 

「待テ、マーレ。デミウルゴス ノ話ハ、アクデモ可能性ノ話ダ」

 

 

私も頭を下げ、マーレへと謝罪をした。

 

 

「申し訳ない、私もかなり混乱していたようです。至高のお方々には“リアル”の世界もあるのですから、そちらへ行ったのかもしれません。」

 

 

マーレは、ごめんなさいと謝ったあと ボロボロと泣き出してしまった。泣き声だけが響く中で、シャルティアの消え入りそうな声は、よく響いた。

 

 

「なんで、一緒にいてくれないんでありんすか」

 

 

それは、ナザリックに住まう者 皆の心の内のようで胸が軋むように痛んだ。

勿論、至高のお方々が ナザリックに来る事を拒んだ可能性はある。・・・しかし、

 

「“来られなかった”のではないでしょうか?もしや、コチラへ来られるプレイヤーはお1人だけなのかも・・・」

 

私の言葉にアルベド、セバスが 続けて発言した。

 

「そうね、少なくとも モモンガ様はギルドメンバーと一緒には居られない事を嘆いていらっしゃったわ。」

 

「モモンガ様を救う為、至高のお方々が モモンガ様に何かしら嘘をついている可能性があります。モモンガ様はお優しい方ですから自分一人だけ助かるのを良しとはされないでしょう」

 

 

もし、この予測が正しければ。私達は、至高のお方々から モモンガ様を託されたのだ。・・・だが しかし、モモンガ様が あんなにも追い詰められるほどに 、余りにも現実は無情過ぎた。

 

 

「そんな、そんなのって・・・」

 

 

アウラの声が口から漏れた。モモンガ様にとって、仲間を犠牲に得た新転地など苦痛でしかないだろう。

 

それに・・・“あの”モモンガ様が、そこまで愛されたという女性も只者ではない筈。そんなお方が亡くなったというのも、もしかしなくても 異変に気が付けなかった我らの不甲斐なさ故か。

 

 

 

静まり返った場を仕切るようにアルベドが手を叩いた。いつまでも立ち止まっている訳にはいかないのだ。私もアルベドの言葉に便乗した。

 

「とにかく今は、やるべき事があるはずよ。安全の確保、周辺の情報収集」

 

「あとは、モモンガ様のお心のケアですね。・・・心の内を打ち明けられたのが、アルベド、セバスそして、プレアデスですか。モモンガ様が落ち着くまでは貴方達にお任せした方がいいかもしれませんね」

 

「ええ、そうね。セバス、外に脅威となりそうな者はいなかったのよね」

 

「はい、半径5km以内にはいませんでした」

 

 

セバスの返答にアルベドが頷いて、指示を出した。

 

 

「そう、プレアデスは半数ナザリックへ戻しましょう。シャルティアだけを残して 他の階層守護者は 情報収集へ行って頂戴。」

 

「ふぇ!?な、何でわたしだけ留守番なんでありんすか!」

 

 

理解が追いついていないのか 何処か不満そうなシャルティアにアルベドがため息をつきながら説明した。

 

「脅威になるものがいないのであって、“侵入者”がいない訳では無いのよ、シャルティア。貴方が直接相手しなければならないほどの者はいないだろうけれど、責任者として残って頂戴。」

 

「うぅ、わかりんした・・・」

 

 

指示を受け、その場を去っていく皆を見送りながら 私はセバスを見据えた。

 

 

「セバス、モモンガ様は“例の指輪”の効果で弱体化しています。・・・頼みましたよ」

 

「ええ、もちろんですよ デミウルゴス。」

 

 

気に入らない奴だが、そういう所の信用はしているんだ。しっかりと頼みましたよ。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

「どういうこと、ですか・・・セバス」

 

 

村から離れた草原で、監視対象であるマジックキャスターの集団に対峙するのは 兵士らしき集団と、セバスだった。

 

 

・・・本当に人間に対して 無駄な慈悲をかけたがる奴だ。

 

 

貴様はモモンガ様と共にいるのではなかったのかと 舌打ちをしつつ 、私はモモンガ様へ現状の報告を行うのだった。




デミウルゴス「転移したのは至高の41人のおかげだ!!」
ギルメン「え?」


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31.お食事モモンガ様

☆モモンガ視点

 

ユリを村に置いて、セバスは王国戦士長と マジックキャスターの集団、法国の者達の元へと向かった。

 

一応雇われて、という形にしたらしい。これで この世界の金も手に入るし、“王国戦士長”という大きなコネも出来た。

何処かイキイキとしているセバスの姿を見て、たっちさんの作ったNPCだから面影があるのかな と、思ってしまう。

 

 

先程、アルベドからの連絡で 村を襲っていた兵士を尋問した結果、彼らは法国の者だと分かった。

つまり・・・、帝国の兵士に偽装して村を襲い、王国戦士長を誘き出して始末する作戦だったらしい。

 

呆れるのは、この作戦に仲間であるはずの王国貴族も一枚噛んでいるという事。王国戦士長が死んだら、王国は戦力を大幅に削られる事になるだろう。そうなれば、王国は帝国に吸収され貴族共の居場所も無くなるというのに・・・。

 

王国貴族は、バカなのか?

 

 

法国のマジックキャスター共は、セバスに任せる事にした。殺しても良し、生かしても良し。

王国戦士長と友好的に接すると決めた以上、生かしておいた所で ナザリックへ連れ帰ることは不可能だ。もしかしたら証拠として 死体も王国戦士長が連れていく可能性があるしな。

 

 

あちらは、セバスに任せるとして、今のところ 気になる情報は2つ。

 

一つ目は法国について。

詳しい情報は得られなかったものの、我々が一番警戒すべき国家だと思われた。人間以外の他種族に排他的かつ攻撃的だという時点で、もはやアウトだろう。ナザリックは異形種しかいないしな。

 

六大神と呼ばれる神を信仰しており、「神人」と呼ばれる強者がいるというのが気になる所だ。どれ程の脅威となりうるのか?六大神とは何なのか。

 

 

二つ目は、蜘蛛女について。

あらゆる組織に侵入し、情報を盗み出す女で王国の人間だという所まで掴めているそうだ。人間離れした身のこなしと、蜘蛛の糸を操る事から 法国はその女が異形種であり、危険だと判断したらしい。

王国戦士長を殺した後、次のターゲットが蜘蛛女だったとの事だった。

 

諜報に優れた者か・・・こちらも警戒するに越したことはないだろう。

 

 

 

《デミウルゴス、戦況はどうだ?》

 

《たった今、敵を殲滅した模様です。王国側は 負傷者がいるようですが、死亡した者はおりません。》

 

《そうか、セバスが付いているのだからまぁ、そうなるよな。デミウルゴス、頃合を見計らってナザリックへ帰還してくれ。俺も帰る》

 

《かしこまりました》

 

 

 

デミウルゴスとのメッセージを終え、小屋を出た。青々とした草木を目に焼き付けてから空を見上げる、薄らと赤みがかり出した美しい空に手を伸ばした。

 

「・・・綺麗、だな」

 

まるで、加藤さんと見に行った映画のワンシーンのようだ。あの映画では、引き裂かれた2人は、大自然の中で再開する。見た目が変わっても愛し合った2人にはお互いが分かったんだ。

 

 

このシーンで、加藤さんは感動して泣いたんだっけ

 

 

女性はケモ耳少女に、男性は金髪碧眼の王子様に転生していた。最後には2人は結婚してハッピーエンドだ。

 

俺は今の自身の姿を見て乾いた笑みがこぼれた。

 

 

「はは、こんな骸骨じゃカッコつかないな」

 

 

俺が連れて行くのは、輝かしい王城ではない。アンデッドや悪魔がひしめく、魔王城だ。

 

 

『『ユグドラシル』じゃ、なくても、ほ、他のゲーム 世界でも!!アインズ・ウール・ゴウンを作って、こ、今度こそ、世界征服しちゃい、ましょう!!ナザリックも、拠点NPC達も ふっ復活させて 悪のそ、組織 になっちゃいましょう!! 』

 

 

脳裏に蘇る加藤さんの姿に 思わず笑ってしまった。

 

そう・・・だった。加藤さん、悪の組織好きですもんね。世界征服ぐらいしちゃいますか。

そしたら、そこの王様になったら きっとまた貴女に会えますか?

 

 

「あはははっ、そうだな。もっと、堂々としなくちゃ。こんなアインズ・ウール・ゴウンは、らしくないからな」

 

 

ナザリックへ向かうゲートを出し、黒い渦の中へ足を入れた。

ユグドラシルでの楽しかった日々を思い出しながら、これから起きるであろう覇業に笑みが深まった。

 

ウルベルトさんは悔しがるだろうな。たっちさんは、怒るだろうか?いや、支配の仕方によるだろうな。他のみんなは案外、ノリノリで参加しそうだ。

 

 

アインズ・ウール・ゴウンの名を広めてやろう!!

天国に居るだろう加藤さんの耳にも届くぐらいに。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

ナザリックに着いた俺を待ち受けていたのは、豪華な食事の数々だった。初めて感じた その、強烈に美味しそうな香りに、お腹がギュルギュルと鳴った。

 

なった??

 

自身のお腹を見れば、そこにあるのは ワールドアイテムである赤い宝玉。

 

ワールドアイテムから音が・・・??

いや、いやいやいや。違うだろう

 

 

料理の前で立ち止まって、考え込んでいた俺に、アルベドが声をかけた。

 

「モモンガ様、起きられてから何も口にされていないでしょう?コック達が腕によりをかけて調理した品々ですわ。どうぞ、おかけ下さいませ」

 

「おぉ、そうだな。とにかく頂くとするか」

 

椅子に腰掛け、目の前の肉の塊をフォークに刺し 口に放り込んだ。

 

「んん?!!う、うまい!!?」

 

今までリアルで、食べてきた食事がもう食べられなくなる程に美味い!!信じられない程良質な食感と旨味。無意識に次から次へと料理に手を伸ばしてしまう。

 

もぐもぐと料理を半分程食べた所で、ハッと我に返った。周りを見渡せば、何故か感無量といった様子のコック数名と、微笑ましいものを見る様な視線を向けるアルベドがいた。

 

「モモンガ様、ソースがお口についておりますわ」

 

「す、すまない」

 

アルベドに自然な動作で口元を拭かれ、恥ずかしさの余り硬直してしまった。礼儀もへったくれもない食べ方をしていたのをガッツリ見られてしまった。

 

「そう急がずとも、まだお食事はございますわ。さぁ、どうぞ」

 

「う、うむ。ありが、とう」

 

恥ずかしくても、身体は正直なもので 料理に手が伸びてしまう。

 

口に入れようとしたところで、コーンのようなモノがポロッと落ちてしまった。

 

「あ、」

 

それは俺の“肋骨”の上に乗った。

 

ん?んん?!

 

俺、骸骨だよな。なんで食べられているんだ・・・?食べた物何処に行った?!

 

「あ、アルベド」

 

「はい、何でしょうか?」

 

「俺、アンデッドだよな」

 

「ええ。美しいオーバーロードでございますわ」

 

「お、おう。あのな、何で食事しているんだろうか?」

 

「え」

 

「え?」

 

 

俺は混乱したまま、ポカンとしているアルベドと、暫し見つめあったのだった。




ストックが切れてしまった!
明日 投稿出来なかったらごめんなさい


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32.呪われたアイテム

こ、更新できた!!


☆モモンガ視点

 

「その・・・指輪の効果かと」

 

おずおすと、俺の指輪を示しながら口にしたアルベドの言葉に ハッとした。

ユグドラシルの最終日、終わるその時まで装備していた指輪の事をすっかり失念していたのだ。

 

「あぁ、そうか。この指輪か」

 

「その指輪は、モモンガ様の想い人からの贈り物ですか?」

 

「そうだな・・・」

 

「あの、無礼を承知でお願い申し上げたい事がございます」

 

「何だ?」

 

「その指輪『 全ての無効化スキルを無効』という効果は、今の非常事態において とても危険だと愚考致しました。・・・どうか、外しては貰えませんか?」

 

 

確かに この指輪の効果は危険だ。『全ての無効化スキルを無効 』の効果範囲が分からない。

 

アンデッドの基本特殊能力の中での無効化するものは・・・

『クリティカルヒット無効』『精神作用無効 』『飲食不要』『毒・病気・睡眠・麻痺・即死無効』『酸素不要』『能力値ダメージ無効』『エナジードレイン無効』だ。

 

スキルでは・・・

『 上位物理無効化Ⅲ(だいたいレベル60以下の物理攻撃は全て無効化できる) 』

『 上位魔法無効化Ⅲ(一定以下の魔法攻撃は全て無効化できる) 』

『 冷気・酸・電気攻撃無効化 』

 

ぐらいだろうか??

 

 

これ、全てが無くなるとなるとかなり不味い気がする。プレイヤークラスの敵と戦闘になった時、ほぼ100%負けるだろう。ここは、外した方がいいのか?いや、加藤さんの贈り物だしな・・・

 

俺が悩んでいるのを見たからか、アルベドが言葉を続けた。

 

 

「モモンガ様、紐に通して首からぶら下げたりするのは 難しいでしょうか??」

 

「あぁ、なる程!その手があったな」

 

 

手放したくないが、装備し続けるのは不味い。首からぶら下げるだけなら“装備した”事にはならないだろう。

 

 

 

指にはめた蜘蛛の指輪を引き抜こうと、ぐっと何度か力を入れて、違和感に気付き、冷や汗が流れた。

 

 

「・・・・・・抜けない」

 

「え」

 

「ど、ど、どうしよう。指輪が抜けない」

 

「も、モモンガ様!失礼します」

 

 

アルベドが俺の指に手を当てて力を込めて引っ張った。

 

 

「い、痛い痛い!!??」

 

「も、申し上げございません・・・くそ、抜けないなんて なんという執念なの」

 

 

アルベドは、可愛らしい見た目をしていても、バリバリの前衛職。はぁ〜力強いな。

 

それにしても困った。呪いのアイテムだったのか?ユグドラシルにいた時は、取り外し可能だったんだけどな・・・

 

 

「そうだわ!ペストーニャを呼んで解呪させましょう」

 

「あぁ、そうだな。俺も解呪出来そうなアイテムを探してみるよ」

 

 

バタバタと走り去るアルベドを見送って、俺はコック達に食事の礼を言った後、アイテムを探す為 自室へ転移した。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

色々と試してみた結果・・・やはり無理だった。

 

解呪の魔法もアイテムも、どれだけ試してもダメ。蜘蛛の指輪は、うんとも動かなかった。

 

「これだけ試して駄目だと、後はこれしかないが・・・」

 

 

超位魔法《ウィッシュ・アポン・ア・スター/星に願いを》これを消費経験値ゼロで叶えることが出来る“シューティングスター/流れ星の指輪”。

 

消費した経験値に応じて願いを叶える魔法だ。ユグドラシル時代は選択肢が幾つか提示されその中から選ぶという形式だったが、この世界ではどうなっているんだろうか。

しかし、上手く行ったとしても、これを使ってしまえば 指輪がどうなるか分からない。最悪、消滅してしまう可能性だってある・・・どれだけ危険な指輪だとしても、消えてしまうのは嫌だった。

 

 

「これは、使えないな」

 

 

“願いを叶える”か・・・。

それは、加藤さんを呼び戻すことも可能なのだろうか。いや、だが、異世界で死んだ加藤さんを呼び出したとして、果たしてそれは本当に“加藤さん”なのか?

俺の頭の中の加藤さんを 復元するだけではないのか。・・・それは彼女を侮辱している事になるのだろうな。この世界では、どうなのか分からないが、異世界での死者を蘇らせるなど、出来っこないのかもしれない。

 

 

「モモンガ様、いかがなさいますか?」

 

どこか悔しそうにしているアルベドを 見てから俺は首を振った。

 

「もう、諦めるよ。・・・加藤さんとの思い出の指輪だしな。お前達には迷惑をかけるとは思うが」

 

「そんな事ありませんわ。モモンガ様にお仕え出来る事こそ私達の喜びです」

 

「ありがとな、アルベド」

 

「モモンガ様のお食事 睡眠 お風呂そして、夜のお供まで・・・ぐふっぐふふふふ」

 

「あ、アルベド??」

 

 

ニヤニヤと残念さ剥き出しで笑うアルベドに、後に控えていたペストーニャがドン引きしていた。俺も これは怖ええよ。

 

 

「よ、夜のお供はちょっと・・・」

 

後ずさりながら お断りの言葉を告げると、アルベドが目の色を変えてズズズッとこちらへ近寄ってきた。

 

「モモンガ様、む、無効化の効果があるという事は アンデッドでも性欲があるという事ではございませんか?」

 

「あのだな、そういった事を女の子が口にしちゃダメだと思いマス」

 

「お、女の子だなんて!モモンガ様、これはとっても重要なじゅーーような事ですのよ?お世継ぎを残す為にも」

 

「いや、アルベド?ちょっ、ちょっと、待ってくれ〜〜!!いやあ"ぁーーー!??」

 

 

アルベドに押し倒され 襲われてシマイマシタ。

怖い、女の人って怖い。ペストーニャが助けてくれたものの、かなりひん剥かれてしまった。何か大事なものを失った気がする。

 

結論から言えば、俺の息子は居なかった。骸骨だからね、仕方ないね。サヨナラ息子よ、一度も使ってあげられなくてゴメン。

 

但し、性欲は健在だった。絶世の美女に襲われて、もう 息がハァハァしてしまうぐらいには、めちゃくちゃ興奮した。犬の顔面をしたペストーニャが入ってきて冷静になれなかったら、本当にヤバかった。

 

 

だが しかし、俺の息子は・・・ぐすん。

 

 

 

 

 

 

 




蜘蛛の指輪「簡単に逃げられると思うなよ、小僧!」(ドヤ顔)


※モモンガ様、『 精神安定化 』が無効になっているのには気付いておりませぬ。元人間だと中々気付けないと思うんだ


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33.ニアミス

今回 何故か長くなってしまったよ


☆モモンガ視点

 

 

 

玉座の間にて、俺は階層守護者達と対面していた。アウラ、マーレ、セバス、アルベドの他に 転移してから初めて会う デミウルゴス、シャルティア、コキュートスの計7人だ。

一部来ていない者達もいるが、今度俺から出向くとしよう。だが、宝物殿にいる俺の作ったNPCパンドラズ・アクター・・・彼に会うのが怖い。

 

俺の理想を詰め込んだ “黒歴史”が意志を持って動き出すのだ。どうなっているのやら・・・怖い、怖すぎる。だが、パンドラズ・アクターの設定では かなり切れ者になっていた筈だ。戦力にはなるだろうから、閉じ込めておくのは勿体無い。どうしたものかな・・・。

 

 

「あぁ、我が君。わたしが唯一支配できぬ愛しの君」

 

香水の匂いを漂わせながら こちらへ歩いてくるシャルティアを見て、これがペロロンチーノさんの理想の嫁かぁ〜なんてぼんやりと考えてしまう。

幼女で偽乳だったか?かなりヤバい性癖のオンパレードだった気がするが。

 

 

「それ以上、モモンガ様に近寄らないで頂けるかしら?シャルティア」

 

「な、なによ!!んん、ごほん。モモンガ様のお側に置かれて居るからって もう“そのつもり”でありんすか。随分とお花畑な脳味噌でありんすねぇ、アルベド。」

 

「もう!モモンガ様の御前だというのに二人共はっちゃけ過ぎだよ」

 

 

会って早々、喧嘩し始めたアルベドとシャルティアを仲裁しようとアウラが入って行くも、上手くいかず。その周りをマーレはオロオロしている。が、少し離れたところでは、デミウルゴスとセバスが静かな喧嘩を始めていた。

 

 

「あれは一体どういったつもりだったのですか、セバス。貴方は人間に肩入れし過ぎているようだ」

 

「いえ、王国戦士長と友好的になっていた方が利があると判断したまで。決して過度な肩入れをしていた訳ではありませんよ」

 

 

アルベド達の喧嘩が可愛く見えるほど、バチバチと火花を散らすような2人の後ろでは、コキュートスが白い冷気をプシュープシューとさせている。・・・あれは戸惑っているのか?怒っているのか?虫の感情表現は読み取りづらいな。

 

とうとうアルベドとシャルティアが取っ組み合いを始め、アウラがポンッと弾き出されてしまった。俺の前で尻餅をつくと、「バカどもめぇ」と、唸り声をあげて参戦していってしまった。

 

 

・・・懐かしいなぁ。

 

 

ギルドの全盛期の頃は、毎日が賑やかだった。個性的なメンバーが多かったから、みんな喧嘩しながらわいわいやってたっけ。

今、喧嘩をしているNPC達も お互いを本気で嫌悪している訳では無さそうだ。まるで、兄弟喧嘩のような そんな雰囲気に、彼らが 愛おしくて 思わず笑ってしまう。

 

未だに、オロオロとした様子のマーレが おずおずと謝ってきたが、俺は片手をあげて制した。

 

 

「も、モモンガ様、その、申し訳ございません!」

 

「くっくく、いや、いいんだマーレ。お前達のやり取りを見ているのは楽しい」

 

「た、楽しいですか?」

 

「あぁ、やはりナザリックはこう賑やかでなくてはな」

 

 

とは言うものの、このままでは埒が明かない。俺はかつての仲間達に そうしたように、NPC達をこちらへ注目させる為に、手を叩いた。

 

皆が、ピタッと固まり 姿勢を正して謝ってくるのを制してから、ゆっくりと彼らを見渡した。

 

 

「皆を集めたのは他でもない、この非常事態についてや、今後の話をする為だ。・・・だが、その前に謝罪をしなければな。肝心な時に取り乱し お前達を不安にさせた。すまない」

 

「お、おやめ下さいモモンガ様!そんな、私達こそお力になれず本当に申し訳ございませんでした」

 

 

アルベドを筆頭に他の階層守護者達も、謝ってくる。どこか悔しそうに、悲しそうに。そして、俺を心配するように伺っているようだった。

 

 

「ありがとう、不甲斐ない支配者だが これからも付いてきてくれるだろうか?」

 

 

「敬愛すべき、至高のお方。モモンガ様に絶対の忠誠を誓います。如何なることが起ころうとも、我ら一同、モモンガ様に一生を捧げ どこまでもついて行きます」

 

 

アルベドの言葉に合わせるように忠誠を誓う守護者達の忠誠心の高さにビビったものの、付いてきてくれる、その強い意志を感じて、自然と笑みがこぼれた。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

カルネ村を支配下に入れてから しばらく経った。

 

城塞都市エ・ランテル。

ナザリックから一番近くて大きな都市であるその地へ俺達はやって来ていた。

 

酒を飲み交わし騒いでいた者達が寛ぐその場所は、俺達が入ってきた途端に静まり返る。ドキドキする心臓を飲み込みながら、「堂々と前を向け」と何度も自分に暗示をかけながら足を進める。

 

 

「宿だな?相部屋で1日5銅貨だ」

 

ぶっきらぼうにそう告げた宿屋の主人が 顔をあげこちらを見て固まった。うん。やっぱり目立ち過ぎると思うんだよな、この集団。

 

漆黒の全身鎧に身を固めた“モモン”こと この俺モモンガと、後に控えるのは冒険者風の “ナーベ”ことナーベラルと、“ユーリ”ことユリ・アルファ。そして、エンジ色のシンプルなワンピースに身を包み、顔には怪し気な仮面、嫉妬マスクをつけた“シャル”ことシャルティアだった。

 

 

「四人部屋が良いのだが?」

 

「あ、あぁ・・・7 銅貨だ」

 

 

金を払い、主人に指定された場所へ向かおうとすると、何かに足を引っ掛けてしまった。俺に足をぶつけられた酔っ払った男が下卑た笑い声をあげながら 俺達の前に立ちはだかった。

 

あちゃー、このメンバーじゃなければ このハプニングを楽しめる余裕もあっただろうに。

お前ら、こんな怪しい集団に なんで絡んできたんだよォォ!!???

 

 

「いってーなぁ、どうしてくれるんだ おい?・・・こりゃーそっちの女に介抱してもらうしかねぇなぁ」

 

 

ナーベとユーリを見てニヤニヤとする男に、シャルが楽しそうに笑った。

 

「ふふっ面白い奴でありんすねぇ〜そんなに私が気になるんでありんすか?」

 

「いや。ガキはそそられねぇ」

 

「あ"ぁ"?」

 

即答で断られたシャルが何故かキレ出した。勘弁してくれよ、マジで。

 

「シャル、相手にしてやるな」

 

「あ、ええ、分かりんした」

 

一歩下がったシャルティアに安心したのも束の間。男の連れらしい男性に 触られそうになったナーベラルが ブチ切れていた。

 

「触るな、ゴミムシ」

 

「連れねぇお嬢ちゃんだなぁ」

 

拒否されてもめげない男は 今度は肩を抱こうとし、ユリに止められていた。

 

「それ以上はやめて頂けませんか?」

 

ギチギチと男の腕を抑え込むユリに男は驚きに固まってしまった。どうやって切り抜けようかとグルグルと考えるものの、いい案が思い付かない。とりあえず、皆を落ち着けなければ・・・!

 

「ユーリ、そこまでにしといてやれ」

 

「はい、モモンさん」

 

ユリから解放されて、腕をさする男を一瞥して このまま去ろうと足を進めた。・・・のが、気に入らなかったのか後から 怒鳴り声が聞こえた。

 

「調子乗ってんじゃねぇぞ、てめぇ!!」

 

ターゲットを俺に定めたようで、男が殴りかかってきた。避けようとしたが その前にシャルティアが 男と俺の間に身を滑り込ませ、手に持っていた扇子で男を“殴りつけた”。

 

 

「あら?力加減が難しいでありんすね」

 

 

クルクルと飛んでいく男。

スゲー、扇子で人って飛べるんだな〜なんて、現実逃避をしていたからか。男が着地したのは壁際の席にいた女性達のテーブルの上だった。

 

ガシャンと机や皿の砕ける音と、冒険者風の女性の叫び声。段々と大きくなっていく騒ぎに 無いはずの胃がぎりぎりし始めた。

 

 

「あぎゃあああーー!!!ちょっとちょっと、アンタ何すんのよ!?」

 

「ま、待って 待ってくださいぃ!!」

 

 

こちらへブチ切れながら近寄ろうとしてきた赤髪の女を、もう一人同席していた茶髪の女が後から抱きしめるようにして止めに入っていた。

 

 

「離しなさいよ!!私があのポーションを手に入れる為にどれだけ頑張ったか アンタに話したばっかりでしょう!!!」

 

「そ、そうだけど、アレはダメ!ダメだって!!どう見たって危ないヤツらですぅ」

 

 

口論しながらもコチラへやって来ようとする赤髪の女にため息をつきつつ、金貨を2枚取り出して投げつけた。

 

 

「申し訳ないことをしたな。これで勘弁してくれ」

 

「お、おぉ。・・・分かったよ」

 

 

金貨2枚を大事そうにしまい込みながら 引き下がる赤髪の女に 納得してもらえたようで安堵した。

 

後ろで茶髪の女がペコりとコチラへ頭を下げたのを 視界に収めてから、俺は宿屋の奥へ向かうべく 体を反転させた。

 

 

一瞬、彼女が観察するような鋭い目線を向けてきた事に俺が気付くことはなかった。




蜘蛛の指輪’s「見つけたァーー!!」


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34.来訪者

☆セバス視点

 

『アインズ・ウール・ゴウンを世界に知らしめ、この美しい世を手に入れるのだ』

 

宣言されたモモンガ様は、皆の目には威厳ある支配者のように映ったでしょう。・・・ですが、私には 強い決意と歓喜の中で 必死に“誰か”を渇望しておられるように見えました。

 

 

『ナザリック地下大墳墓』を守り抜く事。

 

美しい世界のままを手に入れたい、その為、なるべく穏便に支配下に置きたい事。

 

そして、誰一人欠けぬよう細心の注意を払って行動する事。

 

 

それがモモンガ様の出された方針でした。辛い思いをされてから そう時間も経っていない今、前を向いて歩み出そうとしている その強さに私は激しく惹かれました。

 

やはり モモンガ様は、至高のお方の中のトップ、ギルド長なだけはある 支配者に相応しいお方だ。

 

 

そうして、モモンガ様は 一通り告げられた後、感動に身を震わせている我らを一瞥してから、気まずそうに言葉を続けられました。

 

 

「・・・それでだな。俺は冒険者になろうと思うのだが」

 

 

一瞬の間の後、その場で跪いていた守護者達が一気に顔をあげ 口々に意見を言い出しました。

 

 

「ならば、お供が必要ですわね。私がお供いたしますわ!」

 

「黙りなさい、大口ゴリラ!!私の方がきっとモモンガ様のお役に立ってみせるでありんす。ねぇモモンガ様?」

 

「ちょっと ちょっと、冒険者って事は人間種の中で活動するって事よ?あんた達なんかやっていける訳ないじゃない 」

 

「ぼ、僕とお姉ちゃんなら、上手く人間達に 馴染めると思う」

 

 

アルベド、シャルティア、アウラとマーレは お供の座を争い出し、その後ではデミウルゴスとコキュートスが冷静に 意見を交わしていた。

 

 

「冒険者トハ、危険ハ、ナイノダロウカ?」

 

「・・・うむ。穏便に支配下に加える為の布石という事ですね。危険があるなら我々が 前もって徹底的に排除すればいいのですよ。人間達からの知名度、信頼度を上げていけば、あるいは」

 

 

モモンガ様自ら危険に身を晒して活動するという事について反対する者は誰一人おりません。我らがお守りするのは、モモンガ様のお身体だけでなく、お心もなのですから。

 

壮絶な戦いの後、階層守護者からはシャルティア様がお供することが決まり、プレアデスからは ナーベラルが選ばれました。

モモンガ様の人選に異議を申すつもりはありませんが・・・どうしようもなく不安でしたので ユリ・アルファを推薦した所、彼女もお供に加えて頂けました。

 

ユリが上手く舵を切ってくれる事を願うばかりです。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

モモンガ様御一行が冒険者として活動し始めた次の日。

 

私は、カルネ村を任されたシズとルプスレギナの様子を見に 足を運んだものの、前途多難な様子に、ため息をつきたくなるのをなんとか飲み込んだ。

物静かなシズは 上手く村人とコミュニケーションが取れず、ぎこちない。そういった意味では期待出来るルプスレギナは、笑顔で村人達に接しているものの、初対面での印象が悪過ぎて 怖がられているようだ。あの子は怖がっている村人を楽しんでいる節があるようですが。

 

 

「あ、セバス様!」

 

 

私の姿を見て 喜色を浮かべながら走り寄ってくる村人達。王国戦士長と共に村を守ったことで村人の信頼は私に傾いてしまっているようだった。

 

「村長殿、何か問題はありませんでしたかな?」

 

「ええ、シズ様がゴブリン達と率先して村の防衛を進めていって下さって、本当になんとお礼をいったらいいか」

 

 

“ゴブリン達”とは、モモンガ様がエンリという少女にお詫びとして渡されたアイテムから召喚された者達の事だ。

 

そういえば、ゴブリン達はエンリを主とし、コチラを警戒している様だったので、不幸なすれ違いが起こる前に 締め上げといた・・・と、シズから報告がありましたな。

 

 

「全てはモモンガ様のご好意です。この村が アインズ・ウール・ゴウンの下にいる限り 安全ですよ」

 

「いやあ〜、モモンガ様はアンデッドですし 本当に怖かったのですが、お優しい方で安心致しました。セバス様もいらっしゃいますから 心強いですな」

 

 

アインズ・ウール・ゴウンは異形種が集まるギルド。人間を良く思わない者や食料とする者達が多く存在している。

 

全ての人間と仲良くして欲しいなどとは思ってはいませんが、それでも。ナザリックの者達、そしてモモンガ様に人間の良さを少しでも分かってもらえたら・・・などと考えるのは不敬になるのでしょうか。

 

 

村の出入口が何やら騒がしくなってきた。どうやら、この村をナザリックの支配下に入れてから初めての来客のようです。

村長と共に騒ぎの元へと向かえば、ゴブリン達を警戒する冒険者パーティーらしき一団と エンリと話し込む少年の姿が見えた。シズとルプスレギナは ゴブリン達の後ろで彼等を監視している。

 

 

「あぁ、ンフィーレア君か」

 

「お知り合いですか?」

 

「ええ、彼は薬師でして、たまにトブの大森林に棲息する薬草を取りに来るのですよ」

 

「ほぉ、あちらは冒険者ですかな?」

 

「シルバー級 冒険者チーム、漆黒の剣ですね。彼らは何回かこの村に来たことがありますが、気さくで礼儀正しい人達ですよ。・・・あれ、今日は一人多いな」

 

 

村長の視線の先を追うと、青い髪の青年の姿が見えた。小柄なマジックキャスターの後ろに控えており、“彼女”以外の 漆黒の剣のメンバーとも、距離感があるように見受けられた。

 

彼は ゴブリン達を一瞥した後、シズとルプスレギナを見て目を見張り 私に視線を向けて 一瞬固まり、嬉しそうに口を歪めた。

 

 

「へぇ、こんな辺境の村に。まさかの掘り出し物だぜ」

 

「ちょっと、勝手な事しないでよ!」

 

「ア、ニニャは黙ってな」

 

「ちょ、ちょっと ブレインさん!勝手な事しないで下さい」

 

 

マジックキャスターの少女や、リーダーらしき男の静止を振り切り、コチラへ歩み寄るブレインと呼ばれた男は 好戦的な笑みを浮かべたまま 言い放った。

 

 

「なぁ、お前 腕が立つんだろう??俺と一戦してくれねぇか」

 

 

 

 

 

 




お供が決まった直後→
ユリ「セバス様!!ありがとうございますぅ!!!」

冒険者開始→
ユリ「あぁー!!ナーベ 睨まない!暴言吐かない!!シャ シャル様ぁ〜お待ちください!!!」
モモンガ「oh......」


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35.“空想の物語”

☆ニニャ(アイン)視点

 

僕は、白髪のまるで執事の様な出で立ちをした男性に 戦いを挑んでいった幼馴染の後ろ姿を呆れと怒りの混じった感情で見守っていた。

 

お姉ちゃんを追いかけて村を出て行ったブレインを見送ってから会っていなかったので、実に9年振りの再会だ。僕自身がかなり変わってしまったので ブレインにも変化があったのかと思いきや、現在進行形で相変わらずの脳筋っぷりを発揮している。

 

世間では、『王国戦士長と互角の強さを持つ男』等と もてはやされるが、実際は後先考えない 剣しか取り柄のない ただのバカだ。

 

エ・ランテルで 再会したブレインは 僕の“現状”を知るなり、「俺も連れていけ」と半ば無理矢理同行してきた。

 

 

急なブレインの登場に、パーティーメンバーのルクルットとダインは苦笑いしながらも受け入れてくれた。ペテルは 「あのブレインさんですか!?」って興奮してたなぁ〜。

 

 

今は そのブレインを止めようと必死になっているけれど。

 

 

「ブレインさん、この方はカルネ村の恩人なんですよ!?失礼な事したらダメですって」

 

「大丈夫、殺しはしない」

 

「それ、大丈夫じゃないやつですー!!!」

 

 

僕の後ろからルクルットとダインが、呆れたようにブレインを見ていた。

 

 

「なんというか・・・初対面でいきなり「一戦してくれねぇか」って、ブレインはぶっ飛んでるなぁ〜」

 

「さすが、ニニャの幼馴染であるな」

 

「え、それどういう意味?」

 

「心に手を当てて考えな」

 

 

ニヤッとキザったらしく笑うルクルットに 意味が分からずとも 馬鹿にされてるのが伝わってイラッとした。

 

 

「手合わせ程度ならよろしいですよ」

 

「おぉ。そう来なくっちゃな」

 

「ええ!?・・・大丈夫ですか?彼、強いですよ」

 

「私も強いですから、心配無用ですよ」

 

 

ペテルの問いに、穏やかに返答したその男性は 確かに只者ではなさそうなオーラを放っていた。

 

 

そうして、僕達は カルネ村に到着して早々、ブレインのワガママに付き合わされることになったのだった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

「いやぁ、凄い戦いだったな〜」

 

「上には上がいるのである」

 

 

村長のご好意で、空き家を借りることが出来た僕達は、そこでそれぞれ寛いでいた。数少ないベットには包帯でグルグル巻にされたブレインが横になっており、どこか呆然とした様子だった。ポーションなんて勿体なくて使ってない。ブレイン曰く、寝てれば治るらしいし。

 

そんなブレインを気にかけて ペテルが僕に 声をかけてきた。

 

 

「ブレインさん、大丈夫か?」

 

「気にしなくていいよ。いい経験になったでしょ」

 

 

セバスと名乗った老人にコテンパンにされ、更に その後、メイドっぽい可愛らしい赤毛の女の子にも ボロ負けして、ブレインのプライドは、ボロ雑巾の如く ズタズタに引き裂かれたようだった。

 

 

「でも、こんな所で 砕けてるようじゃ、姉さんが見つかっても 渡さないけどね」

 

「バッカ!!そんなんじゃねぇって 何回言えば分かるんだよ」

 

 

僕の言葉に反応して勢いよく起き上がったブレインは 傷口に障ったようで 呻いていた。

その様子を見たルクルットが楽しそうに口を挟んできた。

 

 

「姉さんって“例の”姉さんか?ブレインの初恋?」

 

「うん、そんなところ」

 

「うっせ!違うって言ってるだろ!」

 

「ハハハ、照れているのである」

 

 

みんなが笑い、ブレインが居心地が悪いのか 呻いきながらも必死に反論していた。

 

この調子なら、もう 大丈夫かな。

 

 

「それにしても、あのセバスさん?だっけ。ニニャが話してくれたお話の中の人みたいでビックリしたよ」

 

 

ペテルの発言に、ルクルットが「お前、バカか!」と反論していたようだったが 、僕もそれは思っていた事なのですぐさま話に乗った。

 

 

「だよね!!セバスさんは、執事のセバス・チャンに名前もイメージもそっくりでビックリしたんだ。それに、あのメイドっぽい2人組もすっっごく、 ルプスレギナ・ベータとシズ・デルタっぽかった!!あぁ〜あの人達の知り合いに、ウルベルトっていないかなぁ〜《グランドカタストロフ/大災厄》!!ってやって欲しい。それか、姉さんイチオシのモモンガでもイイよ!めっちゃくちゃカッコいい骸骨らしいから、会ってみたい!ひと目でもいいから視界に入れたい!!! 」

 

 

「コイツ、変わんねぇなぁ。お前らも大変だろ」

 

「ニニャの話は楽しいから問題ないのである」

 

「話し始めると止まらねぇんだよな」

 

「あぁ、なんか すまん」

 

 

ブレイン、ルクルットに呆れられ、ペテルは 何故か皆に謝っていた。ダインだけがニコニコと話を聞いていてくれている。流石、ダインだね!

 

更に話し始めようとした僕の口をブレインが塞いだ。

 

「ん、ん"ん?」

 

「シッ、・・・何かいる」

 

ブレインのその言葉に、全員が突然の事に驚きながらもスグに切り替え 武器を手に取った。ピリピリとする空気の中で トントントンとドアをノックする音が響いた。

念の為、ルクルットがドア横に張り付き 外を確認してから「安全」だとサインを出した。

 

ふうっと息を吐き出して、緊張を解く。その中で一人、ブレインだけが武器を手にしたまま ドアへ手をかけ 一気に開けた。

 

そこに立っていたのは“あの”セバスさんだった。

 

 

「何の用だ」

 

「夜更けに失礼します。大変面白そうなお話をされているようでしたので、良ければ私にも聞かせていただけませんか?」

 

 

笑顔を貼り付けながらも、僕を見つめてくる その目は決して笑ってなどいなくて・・・背筋に冷たい汗が流れた。

僕は まるで、姉さんの話してくれたあの物語の中に吸い込まれてしまったような感覚に 思わず身震いしてしまったのだった。




屋根裏に潜んでいたシズ、ニニャの話に思わず反応してしまい、ブレインに怪しまれた。
シズ「セバス様!!ヤツらに 正体バレてる!!」



ブレイン、アインが男装をし 男しかいないパーティーで冒険者をしてると知る→パーティーメンバーを見定める為、今回のみ同行した。
ブレイン『やる事危ねぇんだよ!?女ってバレてるし、コイツらじゃなかったら 喰われてたぞ』


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36.ツアレニーニャ・ベイロン

☆モモンガ視点

 

 

「それは 本当か!!?」

 

 

冒険者モモンとしての活動を終え、宿屋からナザリックに帰還。最近の楽しみである夕食を食べていた所へ やって来たセバスが報告した内容に、思わず立ち上がってしまった。

 

ガシャンと食器が揺れ コップが倒れた。

片付けてくれたメイドを視界の片隅で捉えながらも、いつもなら出てくる感謝の言葉すら口に出来ないほど動揺していた。

 

一緒に食事をしていたデミウルゴスが、一息ついてから冷静に提案してきた。

 

 

「彼ら、特にニニャといいましたか。彼女は即刻 捕らえますか? アインズ・ウール・ゴウンについて 何処までの情報が漏れているのか確認しなければいけませんし、我等の手の内を知られているのは危険です」

 

確かにその通りだ。だが・・・

 

「セバスやプレアデスの情報を知るものはプレイヤーの中でも極わずかの筈だ。我がアインズ・ウール・ゴウンのギルドメンバーか、それに親しい者達」

 

「つまり、味方の可能性が高いということですか?」

 

 

セバスの問いに頷く事で返事をした。ギルドメンバーの誰かがこの世界に来ている??何度も考えていた、望んでいた、可能性。突然 現実味を帯びてきたそれに 嬉しくて 笑みが出てきてしまいそうにになるのを何とか押し込んだ。

 

それにしてもなんで、ナザリックの情報を漏らしたんだ?

まぁ、なんか伝説の存在みたいな扱いになっている辺り、悪い気はしないけど。ニニャって子は ウルベルトさんの大ファンらしいと聞いて デミウルゴスも満更じゃなさそうだ。

 

いや、とにかく この話を広めた人物を突き止めないとな。

 

 

「セバス、ナザリックの話を広めたのは誰か分かるか?」

 

「ニニャの姉、ツアレニーニャ・ベイロンだとの事です。幼い頃から非常に大人びた女性だった様で、頭も良く “誰も教えていないのに”計算が出来たそうです」

 

「姉、か」

 

「もしや、その方は 転生したのではないでしょうか?ユグドラシルの消滅という非常事態の中、我々がこの世界に転移して逃れたように。転生する事で生き延びた・・・ 」

 

 

デミウルゴスの考察にそれもそうかと納得した。俺達が転移してきた原因が分からないからこそ、転生という形でやって来てしまっていても 不思議はない気がしてくる。

 

どちらにしろ、その女性がアインズ・ウール・ゴウンにとって、身近なプレイヤーである可能性大だ。

敵対されることもないだろう。同じ境遇に落とされた者同士で助け合えるかもしれないし、何とかして接触したい。

 

 

「そのツアレニーニャは、何処にいる?」

 

「それが、行方不明だそうです。」

 

「行方不明だと?」

 

「はい。今から9年前に 貴族の妾として無理矢理連れていかれ、その後 何処かに売られた所までしか手掛かりが掴めず。ニニャと 幼馴染であるブレイン・アングラウスの2名が現在も探しているそうです。」

 

「9年前か、・・・時間が空いてしまっているな」

 

 

9年前ならユグドラシル自体はプレイ出来るが、セバス達どころか ナザリック地下大墳墓さえ無かったぞ?・・・いや いや、時間のズレが生じているのか。13英雄は200年前の人物らしいし、彼らが プレイヤーである線は濃厚になってきたな。

 

「当時のツアレニーニャは11歳で、戦闘能力も皆無だったそうです。」

 

「はぁ!?11歳!!?」

 

 

ニニャの年齢を聞いていなかったから、妾と聞いて勝手に18歳ぐらいかと思っていたが11歳って、ガチのロリコンじゃねぇか。しかも手を出してるあたり、悪質だ。「Yesロリータ、Noタッチ」と言っていたペロロンチーノさんが マトモに見えてくる。

 

 

「11歳で戦闘能力がなし。売られた先は不明ですか・・・。これはかなり不味いかも知れませんね」

 

 

デミウルゴスの発言に背筋が凍った。そうだ、この世界は 俺が生活していた“リアル”よりも過酷な世界だ。ツアレニーニャが死んでいる可能性もあるのか、クソッ。

 

 

「セバス、その冒険者達 特にニニャとブレインだったか。彼らに専属の護衛を付けろ。本人達にバレないようにな。彼らはツアレニーニャの親しい者達のようだ、出来るだけ仲良くしてやってくれ。」

 

「はっ」

 

「至急 ツアレニーニャの行方を探さねばな。はぁ、アルベドを解放するか」

 

「あの・・・アルベド様は?」

 

 

俺の言葉に反応したセバスが、ここに居ないアルベドに対して不思議そうにしながらも 質問してきた。どう伝えたものか・・・。正直に話をするしかないものの、こんな話をセバスにするのは 恥ずかし過ぎて 上手く言葉が出ない。

 

 

「あぁ、アルベドはな。その、余りにも積極的過ぎて 俺の理性がヤバかったというか、そのだな・・・」

 

「アルベドは おイタが過ぎましたので、モモンガ様直々にロープで縛り付けて 執務室に放置してあります・・・まぁ、彼女にとってはご褒美なのでしょうが 」

 

「え」

 

 

俺の話を上手く繋げてくれたデミウルゴスに感謝したのもつかの間、最後の発言に 思考が停止した。いくらアルベドでも流石に そんな残念な子じゃないと思うけど・・・たぶん。

 

 

「成程。では、アルベド様をコチラへお連れしてまいりましょうか?」

 

「あぁ、・・・頼む」

 

 

セバスは 納得したような面持ちで部屋を出ていった。

 

セバスにまで、残念な子認定されているのか、アルベドは・・・自業自得というかなんというか。

 

 



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37.襲撃

☆モモンガ視点

 

『どうやって世界を支配するか』

 

階層守護者達を集めた会議では 様々な意見が出された。その中で俺が想定外だったのは、“下僕たちの忠誠心の高さ”だ。彼らの「働きたい」という意欲が 物凄く高かったのだ。

 

しかし、俺だって ナザリックをブラック企業にするつもりは無い。色々と説得をしようとしたものの、逆に力説されてしまった。

デミウルゴス曰く、「存在価値を見い出せる行為こそ我等の幸せ」だそうだ。

そういわれると、そんな気がしてくる。下僕として作成された彼等と、ごく普通な人間だった俺では根本的な価値観が違うのかもしれない。

現に、仕事を与えた所 みんな嬉々として取り組んでくれている。“社長”ポジションの俺としては 仕事を押し付けているようで 罪悪感が拭えないけどな。

 

でも・・・みんなでワイワイしながら方針を決めていくのが 楽しくて、彼等の望みをかなり叶えた形になった。俺一人で考えていたら もっと慎重にことを進めていたかもしれない。

 

とにかくも、シャルティアと、プレアデスの ユリとナーベラルは俺と共に冒険者として活動。

シズとルプスレギナはカルネ村の管理。ソリュシャンは王国で諜報活動。エントマは帝国で情報収集をしている恐怖公のアシスタントをしている。

セバスは、そんなプレアデス達のサポート係だ。

 

アウラとマーレは、部下達を引き連れてトブの大森林を含むナザリックの周辺を担当。既に、森の賢王とかいうハムスターとナーガのリュラリュースとかいう奴を支配下に加えたらしい。トロールのボスは加減を誤って殺してしまったとか。まぁ、森を支配していた2体を生きたまま確保出来たのだ。上出来だろう。

 

コキュートスは、最近発見したリザードマンの集落を担当している。どのように支配下に加えるかは、コキュートスに任せた。この前、一緒に食事をした時には、弱いが心意気を気に入った奴がいるとか楽しそうに話していたな。様子を見に行ったデミウルゴスから 上手く行きそうだと報告を受けているし、問題はないだろう。

 

その デミウルゴスは、ソリュシャンと協力して王国の支配者層に働きかけているそうだ。スムーズにアインズ・ウール・ゴウンの支配下に加えるべく行動してくれているが・・・想定以上に貴族共が腐っていた為、何か策を打つ必要があると報告があった。うぬぬ、いっその事 不安分子は全て消すか?

 

アルベドは、守護者統括としての仕事やナザリックの管理を担当。実力者達が出払ってしまっている為、その穴埋めに奔走している。

そして、今回 更に“ツアレニーニャの捜索”という仕事が加わってキャパオーバー気味だ。

 

 

・・・人手が足りない。

解決方法は分かっている。ヤツを呼び出すしかないのだが、はぁ、背に腹はかえられぬか。

 

 

彼の元へ出向こうと思い、よしっと立ち上がって、ふと、気が付いてしまった。

宝物殿のトラップに猛毒の霧がある、毒耐性がないと3歩で死ぬレベルの猛毒だったな。・・・危ない危ない、ギルド長がナザリックのトラップで死ぬとかシャレにならないからな。

 

 

いざ、メッセージを使おうと、彼、俺の作ったNPCパンドラズ・アクターをイメージして・・・繋がった!

 

 

《パンドラズ・アクターか?》

 

《おぉ!!これはこれはモモンガ様ッお久しぶりです》

 

《おぉ、ひ、久しぶりだな》

 

 

ヤバい、パンドラズ・アクターがオーバーリアクションで話しているのが、メッセージ越しからでも伝わってくる。

 

 

《実はだな、お前に頼みたい仕事があるのだが。いや その前に皆と顔合わせするべきか・・・ とりあえず、こちらへ来てくれるか?》

 

《んん〜!Wenn es meines Gottes Wille(我が神のお望みとあらば)》

 

《ぐふっ!!》

 

せ、精神的ダメージがヤバい。何なんだ この心臓をゴリゴリ削られていくような破壊力は。

 

 

《モモンガ様?》

 

《そりゃあ、お前は 俺が 最高にカッコイイと思って作ったNPCだよ。その大袈裟な話し方も ドイツ語もめちゃくちゃカッコイイもんな。でも、でもさ、コレはないだろう!!!ぐううぅ〜刺激が強すぎて恥ずかしい、恥ずかし過ぎて死ねるッ》

 

《我が創造主にそこまで感激してもらえるとはッ!!身に余る光栄です!しかーし、モモンガ様が死んでしまっては一大事ですからね、今後は控えるとしましょう。》

 

《おおう、た、頼む》

 

 

恥ずかし過ぎて早口で何か色々と口走ってしまった気がするが、本人が控えてくれるそうなので良しとしよう。

その後、やって来たパンドラズ・アクターからは 何か生暖かい視線を感じたが、これ以上は恥ずか死ぬのでスルーして置いた。

 

なんだか、息子に黒歴史を見られた親の気持ちになった気分だった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

ニニャ達に護衛を付けて2日後。冒険者モモン一行は、依頼達成の報告をする為にギルドへ来ていた。冒険者として活動を始めてから 数日しか経っていないものの、冒険者達の間では いろんな意味で有名なパーティーへとなっていた。

 

冒険者ギルドに入ると突き刺さる視線の数々・・・美女だらけのパーティーに対する嫉妬、強さを知った者達からは 畏怖と尊敬。残り極わずかの者達からの警戒。

注目を集めた事だし、そろそろ次のステップへ移ってもいい頃合だが・・・。

 

 

その時 突然、頭に響いたセバスからのメッセージに未だに馴れず、ちょっとビックリしながらも返答した。

 

 

《モモンガ様、報告がございます》

 

《セバスか、どうした?》

 

《護衛を付けたニニャ一行ですが、薬師ンフィーレア自宅“バレアレ薬品店”店内にて現在 襲撃を受けております。ブレインが襲撃者の女と交戦中。保護対象が襲撃者のマジックキャスターに殺されそうでしたので、護衛任務についていたエイトエッジ・アサシン一体が交戦中です》

 

《分かった、スグに向かう》

 

 

あちゃー エイトエッジ・アサシン出ちゃったか。守る為とはいえ明らかな異形種が表に出たら誤魔化しが効かないぞ。

とにかく急がなくては

 

「用事を思い出した。これで失礼します」

 

丁度、報酬を貰った所だったので 受付嬢に早口になりながらも 言葉を告げて 背を向けた。

 

 

「あ、え!モモンさん!!」

 

 

驚いた様子の受付嬢が声を上げていたが、今は構っている時間はない。突然走り出した俺に驚きながらもユリ達が急いで追いかけてきた。

 

 

 

どうか、間に合ってくれ!!!

 

 




パンドラズ・アクター「モモンガ様も、照れ屋さんですねッ!」


エイトエッジ・アサシン。三体で護衛任務中。一体で対処可能との判断から 残りの2体は隠れております。


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38.高鳴る心

ころころ視点変更してゴメンナサイ
書きたいシーンをって思うと、どうしても・・・ね。



 

☆ニニャ(アイン)視点

 

 

バレアレ薬品店へ到着した僕達を待ち受けていたのは、狂気じみた女だった。

 

ンフィーレア君に「君を攫いに来た」と堂々と宣言した女の目は、力を持った者のソレだった。こちらを見下し まるで玩具で遊ぶかのような残忍で楽しそうに歪んでいる。・・・貴族共と同じ狂気じみた笑顔に、怒りと恐怖で 思わず 手に持ったスタッフに力が篭った。

 

 

ンフィーレア君を守ろうと 僕らが前に出た時には、ブレインは女に飛び掛っていた。

 

ブレインの振り下ろした剣と、それを受け止めた女の短剣が重なり、嫌な音をたてている。

 

 

「へぇー、なかなかやるじゃん」

 

「チッ おい!お前らはガキを連れて外に出ろ。コイツは俺の獲物だ」

 

 

ブレインが僕達へ声を上げた。この女はそんなにも強いって事なのか?ペテルも危機感を感じたようで声を張り上げた。

 

「ブレインさん!」

 

「お前らがいると邪魔なんだよ!さっさと行け!!」

 

「ブレイン?ブレイン・アングラウスじゃん!あは、ラッキー!!カジッちゃん 私、コイツとヤってるから、後よろしく〜」

 

 

楽しそうに笑う女の言葉に、嫌な汗が流れた。その時、後から聞こえた音に すぐさま身構えると、僕らが入ってきたドアから青白い顔をした不気味な男が入ってきた。

 

 

「はぁ。貴様という奴は、ンフィーレアを捕獲するのが目的だというのに」

 

 

威圧されるような不気味な雰囲気に呑まれそうになる心を叱咤しつつ、何とか心を奮い立せようとしたものの、ルクルットの発言に、心臓が鷲掴みにされ 恐怖で震えそうになった。

 

「クソッ、ニニャ 俺達で奴の隙を作る。その間にンフィーレア君を連れて逃げろ」

 

「で、でも!」

 

 

ペテルもダインもルクルットの意見に賛同するようにアイコンタクトを取ってくる。ここでみんなを見捨てたら、僕はッ

 

 

「ンフィーレア以外は要らないのでな、《アシッド・ジャベリン/酸の投げ槍》」

 

「ーッ! 《シールド・ウォール/盾壁》」

 

 

女からカジッちゃんと呼ばれた男からの突然の攻撃に何とか防御したものの、反応が遅れ、盾となってくれたダインの酸を浴びた腕の鎧が溶けて 肉が溶ける嫌な匂いがした。呻きながらよろめくダインに駆け寄り、急いで《ミドル・キュアウーンズ/中傷治癒》をかけた。

 

その間に、ルクルットとペテルが男へ向かって攻撃を仕掛けに行った。同時に踏み出された攻撃は見事なコンビネーションだったが・・・男がニヤリと笑った。

 

 

「鬱陶しい。《アンデッド・フレイム/死者の炎》」

 

 

あれは、生命を奪う死の黒炎が全身を包む 防御魔法!?

 

 

「ペテル、ルクルット!!逃げて!!」

 

 

声を張り上げたが既に遅く、黒炎が周囲に巻き起こった。2人を巻き込もうとしたその瞬間ーー2人が“何か”に弾き飛ばされた。

 

「ぐっ」

 

「な、なんだ」

 

突然現れた2人を弾き飛ばした者は、黒炎を前にして僕達を守るように身構えていた。そこに立っていたのは異形・・・複数ある腕と、どこか“虫”を思わせる顔立ちに、思わず息を飲み込んでしまう。

 

ペテルが突然の事に、悲鳴のような声を上げた。

 

「モンスター!!??」

 

「味方だ」

 

静かに低く答えた 彼は、目にも捉えきれない速さで黒炎を消した。驚愕した様子の男が 不利を悟ったのか、青白い顔色を更に悪くさせながら怒鳴った。

 

 

「糞がッ クレマンティーヌ!!撤退する!ンフィーレアを捕獲しろ」

 

「ええ〜これからなのにぃ」

 

「早くしろッ!」

 

「ちぇっ」

 

 

ブレインと激しい打ち合いをしていた女が 舌打ち混じりにブレインを蹴り飛ばし、壁際にいたンフィーレア君目掛けて突撃して来た。1番近かった僕が、ンフィーレア君を守ろうと前に出たものの、魔法詠唱する時間なんてなくて、スタッフで防御するのが精一杯だった。

ニヤリと笑った女から振り下ろされる短剣が迫ってきたその時ーー

 

 

「させるかぁ!!!」

 

 

怒鳴り声共に ブレインの投げた剣が女目掛けて飛んでいき、女が舌打ちをしながら弾き返した。

 

尚も僕に攻撃を仕掛けようとした女が ピタリと止まった。女の正面から見ていた筈の僕ですら “女の背後に立っていた異形”の彼に気が付いたのは女と同じタイミングだった。

 

「チッ、」

 

女は武器を下げ、急加速をすると 僕の脇を通り抜けてンフィーレア君を抱き上げ、ドア前にいた男の隣まで移動していた。ンフィーレア君は気を失っているようで 微動だにしない。

 

 

「な、!?」

 

 

僕は女のあまりにも早い動きに、全く反応出来なかった。呆然とする僕らを尻目に女はヒラヒラと手を振った。

 

 

「ばいばーい、今度会った時に殺り合おうねぇ。ブレインと・・・そこのバケモノも」

 

「《インヴィジビリティ/透明化》」

 

 

女の言葉に被せるように男が魔法を詠唱し、姿が掻き消えた。

ペテルの悔しそうな声が響いた。

 

「ンフィーレア君が!!あぁクソ」

 

それぞれが 体制を立て直し お互いを見合ったのも束の間、未だにそこにいる異形を警戒するように距離を取った。

駆け寄ってきたブレインが僕をダインの方へ退かし、警戒するように声を上げたが、異形の彼は淡々として答えた。

 

 

「お前、何なんだ?」

 

「ここで待て」

 

「は?」

 

 

言われた意味が分からず、戸惑っていると、時間を置かずに 戦闘によりボロボロになったドアが、ギギギと音を立てながら開き、新たな来訪者を知らせた。

 

漆黒のフルプレートに身を包んだ男と、妖しげな仮面を付けた銀髪の少女が 入ってきた。

 

 

「問題は?」

 

「ンフィーレアを連れ逃げられました。追尾はしております」

 

 

漆黒の鎧の男に対して、異形の彼は まるで上位者を敬うように跪き 返答した。

若干、取り乱したようなルクルットが 漆黒の鎧の男に 武器を突きつけた。

 

 

「な、なんなんだよ お前」

 

「何なんだとはな?ん〜お前らは我らについて随分と詳しいようだが」

 

 

呑気な様子で話す鎧の男に 呆気にとられながらも、訳がわからず 首を傾げた。

誰も心当たりがないと 確認すると、ブレインが警戒するように口を開いた。

 

 

「アンタみたいな奴と知り合いなら忘れそうに無いと思うが?・・・何者なんだ」

 

 

鎧の男が意味深に左手をあげた瞬間、漆黒の鎧は消え 豪華な黒いローブを身に纏った厳つい顔つきの骸骨が現れた。

隣に控えていた少女は仮面を外し、深紅の瞳をした美しい顔を顕にさせた。

 

 

「ギルド、アインズ・ウール・ゴウン。その支配者であるモモンガだ」

 

 

ずっしりと重みのあるその声に、恐怖に混じって心が浮き立つのを感じた。皆も同じ事を考えたらしく、呆然と立ち尽くしていた、ペテルとルクルットの声が聞こえた。

 

 

「・・・マジ、かよ」

 

「こんな事が・・・」

 

 

声すら出ない様子のダインを含む 皆が動けない中で、状況を飲み込めたらしいブレインが 剣を突き付けた。

 

 

「異形種のみで構成される“悪のギルド”の親玉が何の用だ。敵か?味方か?」

 

「無礼者、至高の御方に武器を向けるなど 愚かにも程があるでありんすえ」

 

「シャルティア、そう言うな。我らを恐れるなというのは酷だろう」

 

 

シャルティアって言った 疑惑が確かな確信に変わっていく・・・

 

僕は“憧れた世界の一部”を目の前に堪える事が出来なかった。

 

 

「きゅ吸血鬼のシャルティア・ブラッドフォールン?あの、創造主が理想を詰め込みすぎて、性癖がかなりヤバい事になってしまっているっていう可憐で美しい吸血鬼姫?」

 

「人間風情が、私を呼び捨てにするなと言いたい所ではありんすが、今回だけは許してあげる。次からは様をつけなんしね」

 

「は、はい!!!・・・あ、あの モモンガ・・・様はオーバーロードの?」

 

「あ、あぁ」

 

 

ああ!やっぱり、やっぱり実在したんだ!!僕の名前の由来だって、幼い頃から聴かされて 憧れ続けたあのギルドが!!

 

 

「ああー!!!ホンモノ本物だ!!強くて 優しくてカッコイイアンデッドだって お姉ちゃん言ってたんだ!ーん"んん」

 

 

歓喜に全身が震えて、思わず あのアンデッド、モモンガ様に詰め寄ろうとした所で、後から強い力で口を抑えられ 引き戻された。この大きな手はダインだ。

 

 

「も、申し訳ない。ニニャはアインズ・ウール・ゴウンの大ファンで、決して悪気があった訳ではないのである故に・・・」

 

「良い、気にするな。端的にいえば、我々はお前達の味方だ。」

 

「・・・味方?」

 

 

ペテルが訝しげに聞き返した所で、店舗側の出入口から、眼鏡をかけた女性と ポニーテールの女性が入ってきた。眼鏡をかけた女性が口を開いた。

 

 

「モモンガ様、リィジー・バレアレという老婆が 入ってこようとしたので 捕らえましたが いかがなさいますか?」

 

「リィジー?」

 

「この店の店主で、ンフィーレアの祖母だそうです」

 

「あぁ、成程、まぁ良い。連れてこい。」

 

「はっ」

 

 

一礼をして出て行く彼女達を見送ってから、モモンガ様が 口を開いた。

 

 

「はぁ、とにかくだ。まずはンフィーレアの救出といこうか」

 

 

急な事に付いて行けていない頭とは裏腹に、心はバクバクと高鳴り続けていた。

 



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39.私の日常

レエブン侯は 国家を乗っ取ろうとするぐらいには野心家だった。

そんな人に仕えることになった私は、何故か諜報部隊に入る事になり、また当然の如く、危険な橋を渡ることが多くなった。

 

レエブン侯は、私に戦闘能力があれば もっと色々やらせたかったようだけど、それも出来ないので、情報収集が主な仕事となっていた。

 

 

私は“血”がダメなのだ。

 

 

ゴルドロスがお父さんを斬った時のあの光景が焼き付いて、体が震えてしまう。

 

血を出さないような殺し方というのも、冒険者の爺様に教えて貰ったけれど、最終手段にして、何かあれば逃げるように心掛けていた。

 

 

 

レエブン侯の元へ来てから初めて知ったのだが、この世界の魔法は『ユグドラシル』で使われていた魔法そのまんまだった。

 

本当にビックリしたよ!だって、私が村でアインに教えた魔法も実現可能かもしれないということだ。

 

 

この世界では、第3位階まで使えたら、一丁前の熟練魔法詠唱者。第4位階が使えれば天才。第5位階は個人の限界と言われている。

 

私がアインに教えた魔法、第7位階以上の使用に関しては神話レベルなので、問題ないと・・・信じたい。

アインは普通の女の子だったし、神話レベルの魔法を知っていたところで何もないと思うけど、大丈夫かなぁ。

 

 

 

そうそう、なんと、私には 魔法の才能があるらしい。

第1位階もすんなり覚えて、現在は第5位階まで使える。だけど、最初から第5位階が使えたわけじゃない。

 

この蜘蛛の巣のような痣が広がる度に、使える魔法・・・いや、レベルが上がっているようなのだ。『ユグドラシル』でのアバターミケの成長過程と酷似しているのである。

 

何がキーとなって痣が広がるのか分かってはいない。

 

1度目は、領主ゴルドロスに強い殺意を向けた時。結果、ゴルドロスは死んだ。

 

2度目は、八本指に捕まりそうになった時。指先から蜘蛛の糸のような物が出て 何とか助かった。

 

3度目は、アダマンタイト級冒険者、蒼の薔薇のイビルアイの正体に気が付いた事がバレた時、殺されそうになって必死に抵抗したみたいだけど、・・・正直 何があったのか あまり覚えていない。最後には和解したから結果良ければ全て良しだよね。

 

4度目は、法国の陽光聖典を探っていたのがバレた時。糸を大量に指先から噴出して天使達をグルグル巻きにするというよく分からない技が出た。「貴様、モンスターか!」って言われて「人間だよ!!」ってキレながら返事をしたのは 忘れたい思い出だ。

良く考えたら、人間は指先から糸出ないもんね。・・・私って何なんだろう??

 

私のこの予想が正しければ、現在40レベルぐらいだと思う。

 

だけど、何故か ミケが使えたはずの 回復系統は全く使えない。訳が分からないことだらけだ。

この蜘蛛みたいな体質のせいなのかな?

 

おかげで、私は「蜘蛛女」なんて呼ばれているらしい。

「蝙蝠」と貴族達から呼ばれているレエブン候からは、お似合いだと笑われた。“ツアレニーニャ”の見た目は愛らしい女の子だと言うのに・・・ぐぬぬ。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーー

 

 

ついこの間、休暇をもらって 実家へ帰ってきた。私は、仕事柄 恨みを買いやすいので 男に変装して旅人としての帰宅だった。

その為、家族にもツアレだと打ち明けられなかったが、久しぶりに両親とお婆ちゃんに会えて嬉しかった。

 

そう、お父さんが生きていたのだ。

 

斬られて重症を負ったものの、寝たきりになりながらも命だけは助かり、その後 妹のアインが習得した回復魔法やポーションを駆使して日常生活をおくれるほどには回復したのだとか。

 

 

「そのアインも 姉を探すと言って村を出ていってしまった。あの時 ツアレを守れていれば・・・と、未だに後悔が絶えないよ」

 

 

か細くつぶやくお父さんにお母さんが寄り添った。そんな両親を見て 声をかけたくても、口からは何も出てこなかった。お父さんの背中はこんなにも小さかっただろうか・・・。

私は何とか感情を飲み込んで 旅人として 話し続けた。

 

 

「旅のついでになりますが、僕もツアレニーニャさんを探してみます。きっと大丈夫、彼女は生きていますよ」

 

「すまないね、旅人の君には関係ない事だろうに・・・ありがとう」

 

 

村を出る時になって、お婆ちゃんが杖をつきながら 村の出入口まで送りに来てくれた。昔と“変わらない笑顔”を向けてくるお婆ちゃんに 仕事へ戻りたくなくなってしまう。

 

でも、ここに居ることは出来ないんだ。

 

今、王国は腐っている。

いつ落ちてもおかしくない程に腐りきったこの国を変えようと奔走するレエブン候に賛同し、私は最後まで付いていこうと決めたんだ。

 

 

「気をつけてお行き、これ お昼に食べなさいな」

 

「ありがとうございます。助かります」

 

 

私はお婆ちゃんと別れの挨拶をして、村を出た。お婆ちゃんが持たせてくれたお昼ご飯は ツアレの好物だった、お婆ちゃん特製 色んな木の実を練りこんだパンだった。

 

 

懐かしい味に、涙が零れてしまった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

懐かしいパンを食べて 決意を固めた私に 出された命令は《城塞都市エ・ランテルにて、邪神教団が活動しているのではないかと 思われる為、その確認と目的の調査》だった。

 

これは、アレだ。また ラナー姫絡みだなぁ。

 

ラナー姫は レエブン候の配下に“情報収集に優れた者”がいることを見抜き、依頼だったり その優れた頭脳を貸してくれたりしている。

黄金と呼ばれるお姫様で、上手く猫被っているが、アレはかなりヤバいタイプのヤンデレだ。ラナー姫絡みの仕事は裏がありそうで気が進まないけど・・・仕方ないか。

 

 

しかしながら そんな憂鬱な気分も、冒険者の女として変装しての情報収集を行っている時に遭遇した、不思議なパーティーに出会ってから全て吹っ飛ぶ事になったのだった。

 




お婆ちゃん「どんな姿になってでもいいんじゃよ、またいらっしゃいな。」


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40.絶体絶命

苦労しながらも何とか 調査した邪教教団の正体、ズーラーノーン幹部、カジット・デイル・バダンテールとかいうハゲの目的を掴み、レエブン候に報告する為に 目を離した隙の出来事だった。

墓地から溢れ出そうとしてくる大量のアンデッドを目の前にして、想定以上の速さで起こったソレに舌打ちしつつ、奴らの本拠地へ急いだ。

 

この魔法儀式を止める為には、核となる人物を止める必要がある。

ゆらゆらと歩み寄ってくるスケルトンを食い止めようと必死に戦っている者達、例の冒険者パーティーのメンバー ユーリも拳を振るっていたが、その圧倒的な戦闘を尻目に素早く墓地の奥へと足を進めた。

 

 

そこでは、既に戦っている者達がいた。

 

カジットと対峙しているナーベ・・・何故かメイド姿になってるけれど。その横でクレマンティーヌを扇子1つでいなしているシャル。そして、その後ろで構えているモモンだ。

 

彼らは ほんの数日前にエ・ランテルへやって来た冒険者で、その異質さから周りから浮いている印象を受けた。なんだか、“場違い感”がある。「貴族の道楽だろう」という声もあったが、もっと違う何かのようだと感じていたけれど・・・

この場にいる時点で、訳アリは確定。しかも王国にとって特大の爆弾になる予感・・・レエブン候に報告した方がいいかもしれない。

 

それにしても、どうも彼らには親近感を感じてしまう。モモンの声が大好きな鈴木さんと似ていたからなのか。シャルの仮面もどこかで見たような気がするし。

 

 

 

 

クレマンティーヌの絶叫が響いた。

 

 

「舐めるんじゃねぇーーーー!!!!!」

 

「ふぁーあ、アレだけの大口叩いておったから期待しておりんしたのに。ここまで弱いと遊びにもなりんせん」

 

「黙れ黙れダマれぇ!!!!」

 

 

シャルの一方的な戦闘の横では、カジットが絶望を顔に貼り付け、よろめき膝を付いた。

 

 

「そんな、そんなバカなことが・・・スケリトルドラゴンがッ一瞬で」

 

「イモムシ風情が威張り散らすからこうなるのよ。地に這いつくばって慈悲を請うべきだったのに、ね!」

 

 

ナーベがカジットの頭を踏みつけ砕いた。バキッと嫌な音を立てて 頭を粉砕されたカジットの血が地面に広がり 背筋が凍った。

強い、強過ぎる・・・クレマンティーヌだって私と互角かそれ以上だと思っていたのに まるで赤子を相手にしているような余裕。・・・彼らは危険だ。

 

血を見たことで震え始めた身体を何とか押さえつけ、細心の注意を払いながら足を進めた。建物の裏手に回り込んでから、事前に準備しておいた場所からコソッと中へ侵入。

 

目から血を流しながら 全裸で立ち尽している少年を発見し、頭に付けられているものを見て動揺した。

 

あのクレマンティーヌが元漆黒聖典だった事は知っていたが、まさか、叡者の額冠を盗んできていたとは思いもしなかったのだ。

 

叡者の額冠とは、着用者を超高位の魔法を引き出すマジックアイテムへと変える、強大な力を持ったマジックアイテムだ。

 

これのせいで、こんなに早く行動を起こしたのか。

 

 

素早く近寄ってから少年の頭に付けられていた叡者の額冠を破壊。残骸を回収してからその場を去った。

 

あの少年は たぶん 「あらゆるマジックアイテムの使用が可能」というタレント持ちのンフィーレアだと思う。

いくら怪しいパーティーとはいえ、ンフィーレアは有名な少年だ。冒険者をしている以上、倒れている彼を見つけても無下にはしないはず・・・。

 

手にした叡者の額冠を見ながら、思わず舌打ちをしてしまった。

法国の秘宝である叡者の額冠が、王国にあると表に出た場合、法国からどんな いちゃもんを付けられるか分からない。例え、法国の人間が持ち込んだ物だとしても死人に口はないのだ。

あの冒険者パーティーを相手にしてクレマンティーヌが無事に切り抜けられる訳がない。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

この非常事態をいち早く届けるべきだと判断し、先程出したレエブン候への暗号化された報告文よりも早く着くことになるとは思いつつも、王都へ向けて馬に跨って駆け出した。

 

 

道中で盗賊に襲われている馬車を見かけてしまい、時間を短縮したかったのもあり、サクッと盗賊共を糸で絞殺。馬車に乗っていた商人らしき者達の無事を確認してから、スグにその場を去った。

 

 

この判断が間違いだった。

 

 

 

走り出してから少しして、目の前に 金髪の男性が立ちはだかった。いきなり現れた男性に驚きながら止まると、“つい先程見た顔”にそっくりな顔立ちに、誰か思い当たり冷や汗が流れた。

 

その男、漆黒聖典第五席次“一人師団”クアイエッセ・ハゼイア・クインティアが、こちらを睨みながらもにこやかに話しかけてきた。

 

 

「やぁ、お嬢さん。こんな夜更けに急いでどちらへ行かれるのですか?」

 

「・・・あたいは 見ての通り、冒険者なんでね。どこへ行こうとアンタには関係ないだろう?」

 

 

冒険者らしく、粗暴な雰囲気の女性を演出してみたが 誤魔化されはしなかったらしい。

クインティアは妹のクレマンティーヌとそっくりな顔の、表情一つ変えることなく話を続けた。

 

 

「へぇ、冒険者ねぇ、下手な嘘は止しませんか。先程の戦い見させてもらいましたよ。蜘蛛女」

 

「・・・」

 

「黙りですか。まぁ、ここで会ったのも何かの縁ですし・・・死んでもらいましょうーー出ろ! ギガントバジリスク!」

 

 

 

ヤバいヤバいヤバいヤバい!!

 

 

何故か命を狙われてるんだけど?!

いや、心当たりならある。陽光聖典を探ってた時に思いっきり敵対していたからね。

でも、だからって 一人師団と戦うことになるなんて!しかも、ギガントバジリスクはダメな奴だ。

10m以上もある巨体を揺らめかせながら 歩み寄ってくるギガントバジリスクに嫌な汗が流れた。ミスリルに匹敵する鱗を持ち、体液は即死級の猛毒になる。さらに危険なのが「石化の視線」。その瞳に見つめられた者は対策が無ければそのまま肉体が石になってしまう。

 

対する私はレベルこそ勝っているものの、石化の対策もなし。回復魔法も使えないポンコツなのだ。

 

手加減なんてしてたらマジで死んでしまう。

 

私は 全力で指先から糸を大量に噴出させ、ギガントバジリスクの目を覆うと同時に魔法を放った。

 

 

 

「《ドラゴン・ライトニング/龍雷》!!!私はこんな所で死ねないんだよォ!!!」

 

 

 

生きなくちゃ!!

今度こそ、生き延びなくちゃいけないんだ!!!




死を撒く剣団「うぎゃあ!!?」


なお、ブレインと漆黒の剣はユリとは違う場所にて、スケルトン達を食い止めていた模様・・・


さて、スケルトンパラダイスが終わった所ですし、第2章完とさせて頂きます。次回から最終章。


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最終章《王と妃へ 蜘蛛の祝福を》
41.リ・エスティーゼ王国


最終章スタート!


☆王城、ラナー王女の部屋にて

 

 

清楚で可憐な美女。黄金の二つ名で知られている王国第3王女ラナー・ティエール・シャルドロン・ライル・ヴァイセルフは、自室にて“親友”であるラキュース率いる蒼の薔薇とティータイムを楽しんでいた。

 

いつものようにラキュース達から情報を聞き出した後、話が一区切りついた所で、心底 楽しそうにしながらラナーが口を開いた。

 

 

「ねぇ、アインズ・ウール・ゴウンって知ってる?最近、民の間で噂になっているらしいのだけど」

 

「あぁ、この間 耳にしたな。悪い人間を懲らしめる 悪のヒーローだとか」

 

「なんだそりゃあ、何で“悪”のヒーローなんだよ」

 

 

ラキュースの返答に、ガガーランが訝しんだ。“悪”と“ヒーロー”という対局するはずの2つが重なり合っている不自然さに、混乱しているようだった。

 

そんな仲間を無視して、ティアとティナが 淡々と言葉を紡いだ。

 

 

「私は、大昔に実在した国家だと聞いた」

 

「人間と異形種が共存していた国らしい」

 

「はっ、下らないな。共存など夢のまた夢さ。」

 

 

悪のヒーローだの、異形種と共存していた国家だの下らない与太話だと一刀両断するのは 長い時を生きるイビルアイだ。そんな話は最近になるまで一度も聞いたことがなかった為、大方、現状に絶望した民が作り上げた妄想だろうと 決めつけていた。

 

ラナーが 子供のようなニコニコとした表情で身を乗り出した。

 

 

「そ・れ・が、実在するらしいんですよ!」

 

 

「「「はぁ??」」」

 

 

目を見開き驚く一同を見て、満足気に笑いかけたラナーは、立ち上がって国家周辺の地図を持ってくると、ある場所を指さした。

 

 

「この辺りですね。アインズ・ウール・ゴウンの城があるらしいと、情報がありました」

 

「ここは、ただの草原だった筈だけど?」

 

「はぁ、どうせ例の諜報員絡みの情報だろう」

 

 

ラキュースの質問に、答えたのはイビルアイだった。例の諜報員・・・蜘蛛女には自分も手を焼かされた あの出来事は記憶に新しい。追い詰めたと思ったら、突然 瞬間的に爆発的な力を発揮し、コチラが死にそうになったのは苦い思い出だ。

 

 

「ふふふ、会ってみたいですよね!本当に噂通りの人達なら、王国のこの現状も打破出来るかも知れませんし」

 

「異形種を甘く見るな。奴らと分かり合う事など不可能だ」

 

「そうですねぇ。でも、だとしたら、もっと危険だと思いませんか?」

 

 

能天気に笑うラナーへ忠告したイビルアイだったが、そのラナーの発言に言葉に詰まった。蜘蛛女がもたらす情報は正確だ。彼女からの情報ならば、与太話と切って捨てるのは早計過ぎるのではないのか?

 

イビルアイと同じような考えに思い至ったティアとティナ、そしてガガーランが発言した。

 

 

「本当に実在する場合、放置しておくのは 危険。ヤバい」

 

「危険、王国ヤバい」

 

「異形種なら生き残りがいるだろうしな」

 

「出来れば友好的になっておきたいのです。今の王国を危険に晒すものが増えるのは望ましくありませんから」

 

 

ラナーの考えは尤もだと皆が頷いた。王国にはこれ以上、爆弾を抱える余裕はないのだ。手が付けられないどころの話ではなくなってしまう。

 

 

「なら、私達が 様子を見てこよう。」

 

「よろしいのですか、ラキュース。危ない橋を渡る事になりますよ」

 

「寧ろ、私達ぐらいしか対処出来ないだろうな」

 

「確かに。流石 鬼ボス」

 

「危険に飛び込んじゃうお転婆娘。我らが鬼リーダー」

 

 

ラキュースの決断にティアとティナが いつものように茶化しを入れたものの、パーティーメンバーの誰も反対しないところを見て、皆の意思を確認すると、ラナーは真剣そうな顔を貼り付けた。

 

 

「私からの依頼とさせていただきますわ。報酬もしっかり払わせて頂きます。・・・決して、敵対しないように。危険だと判断した場合、即座に撤退して下さいね」

 

 

話も終わり、準備ができ次第 明日にでも出発すると言って出て行った蒼の薔薇を見送ったラナーは、誰もいないはずの自室に向かって 声をかけた。

 

 

「これで、よろしかったですか?」

 

「ええ、充分ですよ」

 

 

返事をしたのはピシッとしたスーツを着こなした悪魔、デミウルゴスだった。いつの間にか部屋の中央に立った彼の 満足気な顔を確認してから、ラナーは細心の注意を払って礼をとった。

 

 

「貴方が 話の分かる方で助かりましたわ。アインズ・ウール・ゴウンの王、かの御方の寛大なお心に感謝致します」

 

「至高のお方は、お優しい方ですから。“敵対しない限り”無下には致しませんよ」

 

「ええ、分かっておりますわ」

 

「計画が上手くいった折には、貴方の大切なペットとの快適な生活も、我々が保証しましょう。」

 

「ありがとうございます。私に出来ることでしたら、誠心誠意協力致しますわ」

 

 

掻き消えた悪魔を見送った後、ラナーは歪んだ笑顔で 笑い出した。

 

 

「ふふっ、うふふふ。あぁクライム、私達の理想の家はもうすぐそこよ」

 

 

国を悪魔に売ることすら厭わなかった 愚かな王女は、これから訪れる幸せな日々へ思いを馳せるのだった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

☆王都の路地裏にて

 

 

八本指、奴隷部門の長を務める男 コッコドールは中々上手くいかない現状に苛立ちを隠せないでいた。

ラナーの打ち出した政策により ここ数年は仕事がしづらくなった。貴族共を上手く抱きこめば良いのだが、馬鹿な奴らばかりではない為、ここら辺でそれも打ち止めだ。

 

決定打が欲しい。より根深く広く蔓延るためにも 更なる決定打が・・・。

 

 

王国で唯一となってしまった娼館へ向かう道すがら、夜という事もあり 真っ暗闇の路地裏を、護衛の為の部下を引き連れて歩きながら 考え込んでいると、壁にもたれ掛かるように、冒険者らしき女が座り込んでいた。

 

 

「あん?やぁーねぇ。随分と汚らしいのが落ちてるじゃない」

 

 

その女の、切り裂かれボロボロになった服からは血が滲み出ており、息も絶え絶えの様子だった。

 

リンチもレイプも王国の闇ではよくある日常だ。コッコドールは、経験上 レイプされた女は打撲が多いことを知っていた為、切り傷が目立つこの女はリンチかと目星をつけて 女へと歩み寄った。

 

どうせ、馬鹿な冒険者が 誰かの尻尾でも踏んだのでしょうね

 

コッコドールは、内心に抱えたままの苛立ちを、ぶつける様に女を蹴り上げた。

 

 

「う"ぅ」

 

 

鈍い打撃音が響き、呻き声をあげながら転がった女は仰向けになった所で止まった。そして、前を大きく引き裂かれた服からは、その素肌が露わになった。そこに刻み込まれている“模様”に、コッコドールは 思わず歓喜の悲鳴じみた声を上げた。

 

 

「あら!あら、あら、あら。アンタもしかして」

 

 

慌てて駆け寄り、生きている事を確認すると 女を連れ帰るように部下へ命じた。その命令を不思議がった部下が声を上げた。

 

 

「そんな奴、どうするんです?商品にもなりゃしねぇですぜ?」

 

「ふふふ、有効な切り札になるわ。上手くいけば、あの “蝙蝠”を手に入れることが出来るかもしれないわね」

 

 

さっきまであんなに機嫌が悪かったのに、急に上機嫌になったコッコドールに首を傾げながらも、部下は女を担ぎ上げた。毒にでもかかっているのか、今にも死にそうな女の為にコッコドールがポーションを部下に渡した。

 

 

「ポーションをかけておきなさい。死んでもらっても困るからねぇ」

 

「え、下位で良いんですかい。娼館行きならもうちょい回復させてやらなきゃ 客は付きませんぜ?」

 

「コイツ、蜘蛛女には煮え湯を飲まされたからねぇ、将来的には娼館にぶち込む予定だけど、今は潰れてもらっても困るのよ」

 

「げ、蜘蛛女?コレが?!」

 

「そうよ。だから油断しないようにしなさい」

 

 

驚愕に目を見開く部下を面白そうに 眺めながら、コッコドールは言葉を続けた。

 

 

「あぁ、そうだわ。そいつが起きたら伝えてくれる?「ツアレニーニャ・ベイロン。お前の故郷を潰されたくなければ 大人しくしてろ」ってね」

 




ソリュシャン「とっても 頑張りましたわ」(ドヤ顔)
←アインズ・ウール・ゴウンの噂を改変し広めた張本人


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42.定例会議

☆モモンガ視点

 

 

ナザリック大墳墓地下9階層の一室にて、主なメンバーを集めて会議が行われようとしていた。前回、途中で飲み物を頼んだからか、今回は最初からティーセットが用意されており 摘んで食べられるような可愛らしいお菓子が並んでいた。

 

 

これじゃあ、まるで女子会だな

 

 

だが、まぁ。これもアリかもしれない。皆が自分の成果を報告し、方針を決めるこの会議は俺の楽しみの一つでもあった。

 

定例会議は俺の提案で始まった。俺の元へ報告は上がってきていたものの、やっぱり 俺の凡人脳じゃパンク気味だった。「みんなで方針を決めたい」とアルベドに伝えたら、喜んで計画してくれたのだ。

 

全盛期のアインズ・ウール・ゴウンを、皆の創造主だった仲間たちの事を思い出させてくれる この瞬間が堪らず、会議中は笑っている事が多かったからなのか。

 

最初は、どこか堅苦しかったこの会議も リラックスした雰囲気に変わりつつあった。

 

お菓子が出されているということもあり、いつも司会をしてくれているアルベドと変わって、今回はユリ・アルファに進行役をお願いした。

ちなみに、俺を挟むようにアルベドとシャルティアが紅茶を楽しみながらもお互いを牽制しあっている。ちょっと、2人とも距離が近いような気がするんだが・・・俺はツッコミを入れればいいのか?無視でいいのか?助けを求めて、デミウルゴスに視線を向ければ、ニッコリと微笑まれた。

 

え、助けてくれないの

 

 

 

「これより 第3回ナザリック定例会議を始めます。では、コキュートス様 ご報告をお願いします」

 

 

ユリの言葉に反応したコキュートスがゆっくりと立ち上がり、プシューと冷気を吐いた。

 

 

「ウム。リザードマン達は完全ニ支配下ヘ加エル事ガ出来マシタ。各部族長ニハ 、リザードマン カラ裏切リ者ガ出タ場合、裏切リ者ノ リザードマン ガ所属スル部族ト、各部族長一家ヲ皆殺シ二スルト伝エテアリマス」

 

 

上手くいったようで良かった。弱い種族とはいえ、裏切りはやめて欲しいからな。それぐらいの脅しは必要だろう。コキュートスが席に座るのと引き換えに、アウラとマーレが立ち上がった。

 

 

「次は私達ね。トブの大森林 中央付近にて、ドライアードを発見。「世界を滅ぼすことのできる化け物」がいるとの事で確認してみた所、Lv.80~Lv.85の植物系モンスターのようでした!」

 

「こ、攻撃してきた為、近くにいたコキュートスさんと共に3人で応戦して倒しました。これでト、トブの大森林全域が、アインズ・ウール・ゴウンの支配下に入りました。」

 

「コキュートス、アウラ、マーレ。3人とも良くやったな。強者に対して慢心せず3人で対処出来たことも含め、素晴らしい働きだった」

 

 

おお、これで一区切りついたな。力を誇示すれば上手くいく奴らは楽でいいや。それに比べて人間種は、下手に抑え込むと暴発するからなぁ。

 

アウラとマーレ、そしてコキュートスまでもが俺に褒められたと嬉しそうにしていて、なんだか和んでしまった。

 

続いてユリに指名された恐怖公が、見た目に反して綺麗なお辞儀をすると 口を開いた。

 

 

「帝国全域に、部下を配置し終わりました。帝国の情報に関してはコチラへほぼ筒抜けといっても過言ではないでしょう」

 

「そうか、ご苦労だったな。そうだな・・・」

 

「モモンガ様!よろしいでしょうか」

 

「お、おう。なんだパンドラズ・アクター」

 

「ツアレニーニャ・ベイロンの捜索に恐怖公のご協力をお願いしたいのですがよろしいでしょうか?流石の私でも、人手が足りないのですッ!恐怖公の助力があれば 心強いのですが・・・」

 

「我輩は構いません。確かに捜索という事でしたら我輩の部下は適任でしょう」

 

「そうか。では、そのようにしてくれ」

 

 

王国にもゴキブリが蔓延するのかぁ。恐怖公の情報収集力とパンドラズ・アクターの頭脳があれば、ツアレニーニャも早く見つかるかもしれない。

 

話が一区切りついたところで、デミウルゴスが立ち上がり報告を始めた。

 

 

「王国でのアインズ・ウール・ゴウンの噂話は順調に広がっております。そして、第2王子ザナック・ヴァルレオン・イガナ・ライル・ヴァイセルフと、第3王女ラナー・ティエール・シャルドロン・ライル・ヴァイセルフはこちらへ取り込み済みです。王国をアインズ・ウール・ゴウンの支配下へ置く為の布石は徐々に整ってきております」

 

 

アルベドが紅茶から口を離してから真っ直ぐにデミウルゴスを見つめた。

 

 

「他の王族は どうしたのかしら」

 

「国王への働きかけは第2王子ザナックへ任せております。第1王子は八本指との関係があり、使い物にならないと判断しました。勿論、第2王子と第3王女には見張りを付けております」

 

「そうか。民衆の反応はどうだ?」

 

「半信半疑な者が多いですね。若者、特に幼い子供には受け入れられているようです。やはり、国王や貴族に対する不信感が強い事が影響しているものと思われます」

 

「うむ」

 

 

思ったよりも、アインズ・ウール・ゴウンの噂が友好的に受け入れられているようで驚いた。正直、もっと難航すると思っていたのだ。

 

 

「モモンガ様、“漆黒のモモン”そして、私“仮面のシャル”が活動しておりんす、冒険者パーティー漆黒も先日の一件でアダマンタイト級になりんした。この辺で国盗りをしてもいいと思うでありんすが・・・?」

 

「いや、冒険者モモンは現れてからまだ日も浅い。まだ時期尚早だろうな」

 

 

提案してきたシャルティアに、否定を述べれば 彼女は心底 残念そうに呟いた。

 

 

「そうでありんすか。あぁ、思いっきり暴れられると楽しみだったのに、お預けでありんすねぇ」

 

「貴方は“只の冒険者シャル”なのだから、暴れられる立場にはいないわよ。残念だったわねぇ〜、シャルティア。私は、アインズ・ウール・ゴウン側として モモンガ様のお隣で参加するけれど」

 

「な、な、モモンガ様のお隣なんてー!」

 

「当たり前でしょう?私はモモンガ様の忠実な部下、守護者統括アルベドですもの。そのうち肩書きが増える事もあるかもしれないけどね」

 

「そ、そんな!!モモンガ様のお隣は私のもので あ・り・ん・す!!」

 

 

ガタンッと音を立てながら アルベドとシャルティアが同時に立ち上がり キャイキャイやり出した。・・・間に挟まれた俺は ものすごく居た堪れないのだが。

今度こそ、助けてくれ とデミウルゴスを見れば 、騒ぎ出す2人に対して溜息をつきながらも 助け舟を出してくれた。

 

 

「ゴホン。・・・そういえば、先日の一件。覗き見をしていたものがいたらしいとお聞きしたのですが、どうなりましたか?」

 

 

デミウルゴスの発言にピタッと止まったアルベドが乱れた髪をササッと直してから返答し、俺もそれに補足を付け加えた。

 

 

「追跡したエイトエッジ・アサシンからの報告では、蜘蛛の糸を操るマジックキャスターだったそうよ。おそらく “蜘蛛女”だと思われるわ。蜘蛛女は王都へ向かう途中に ビーストテイマーの男と戦闘。その隙に取られた叡者の額冠は回収済みよ、砕かれていたけれどね。」

 

「ビーストテイマーの男は、クレマンティーヌの血縁者の可能性が高い。法国の人間だと思われる」

 

「血縁者・・・ですか?」

 

「あぁ、クレマンティーヌと瓜二つだったらしいからな。」

 

 

マーレがどこか不安げに発言した。

 

「あの・・・蜘蛛女に見られたって、大丈夫だったんですか」

 

「ナーベラルのメイド服が見られた程度だ。冒険者モモンとアインズ・ウール・ゴウンの関係性に気が付いた頃には、王国は 既に我らの手中だろうしな」

 

「あぁ、叡者の額冠。もっったいないですね〜砕いてしまうとは」

 

 

パンドラズ・アクターが悔しそうに身体をうねらせている。お前の気持ちは 物凄く分かるが、女性陣がドン引きしているから止めてくれ・・・うぅ、無いはずの胃が痛い。

 

 




なお、コキュートスさん その場に居合わせたリザードマン数名をカタストロフ戦に連れていき、心をボキボキに折った模様。



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43.侵入者と王

☆イビルアイ視点

 

ラナー王女に指定された場所に行ってみれば、本当に“何か”があった。青々とした草原の中にポツンと立つソレは まるで生者を拒む様な異様な雰囲気を放っていた。

 

とても城には見えないその建造物に警戒しながら向かって行くと、建物内へ続く出入り口を発見。敵が居ないことを確認してから 侵入しようと足を踏み出したその時、突然 見知らぬ女の声が掛かった。

 

 

「こんにちは、お客人。ここに何用で来たのか聞いてもよろしいかしら」

 

 

それは純白のドレスに身を包みんだ美しい女だった。だが、その頭には捻れた角、腰からは漆黒の翼を生えており、威圧感を放っていた。その悪魔は いつの間にか前方に立っていたようで こちらを見つめてくる。

 

 

「あ、悪魔?!」

 

 

ラキュースの悲鳴じみた声に、その悪魔は うんざりとした様子で答えた。

 

 

「そんなに警戒しないでくれるかしら?私達に敵対しない限り 殺しはしないわ」

 

 

私に確認するように視線を向けてくるガガーランに 震えそうになる声を押し殺して答えた。

 

 

「どちらにしろ、私ではコイツに勝てない・・・」

 

「ねぇ。あなた達、何用でこのナザリック地下大墳墓へ来たのか さっさと教えてくれない?」

 

 

悪魔の問に、なんとか持ち直したラキュースが1歩 前へ出て答えた。

 

 

「私の名はラキュース。アダマンタイト級 冒険者 蒼の薔薇パーティーのリーダーだ。ココに“アインズ・ウール・ゴウン ”の城があるとの情報を受け、確認の為 王都からやって来た。」

 

「私はこのナザリック地下大墳墓の階層守護者統括アルベド。そうね、この場所はアインズ・ウール・ゴウンの城で合っているわ。」

 

「墳墓?」

 

 

同じように名乗り返したその女・・・アルベドは 何処ぞの王族のような雰囲気を纏っていた。

しかし、“そのナザリック地下大墳墓”という答えには首を傾げざる負えなかった。・・・『墳墓』とは、墓の事ではなかっただろうか?

 

 

「ええ。素晴らしい場所でしょう」

 

「そう・・・だな」

 

 

確かに『墓』ならば素晴らしいと思うが、『城』としてはどうなのだろうか・・・。同じ思いだったのか、ラキュースが言葉に詰まりながらも、返答をすると、満足気にアルベドは頷いてから 口を開いた。

 

 

「我が王がお会いになるそうよ。案内するわ」

 

 

それだけ告げると 背を向けて歩き出して行ってしまった。私達がラキュースの元へ集まると、ラキュースが口を開いた。

 

「どうする?」

 

「行くしかねぇだろ」

 

「敵対しない限り問題ないはず」

 

「そう、大丈夫だと言っていた」

 

 

ラキュースの問に答えるガガーランと、ティア、ティナ。しかし、私はどうも嵌められているような嫌な予感がした。

 

 

「信用出来るわけないだろう」

 

「だが、行くしかないだろうな。“実在”してしまったのだから、王とやらにも会わなくては」

 

 

私としては、私一人で乗り込むことも提案したのだが あの悪魔の反感を買う行動は辞めるべきだと ラキュースに説得され、蒼の薔薇の全員で向かうことにしたのだった。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

連れてこられた玉座の間。

天上からは幾つもの旗がぶら下がっており、落ち着いた色合いながらも とんでもなく高価な作りをしているのであろう威圧感のある場所だった。

脇には全身鎧を着た横柄な兵士と美しいメイドが控えている。アルベドが玉座の下で反転し、コチラを見据えた。その豪華な玉座にはローブを着たアンデッドが鎮座していた。

 

 

「歓迎するぞ。蒼の薔薇の皆さん」

 

「・・・アンデッド」

 

 

私はにこやかに話しかけてきたソレを前にして 意味が分からず固まってしまった。エルダーリッチよりも高位であろうアンデッド、奴らは生者を憎むものではなかったのか?

私達など捻り潰せるであろう王を前にして、ラキュースが貴族の礼をとった。

 

 

「あ、貴方が アインズ・ウール・ゴウンの王ですか?」

 

「ん?あぁ、そうだな。ここナザリック地下大墳墓は、私が統べている」

 

 

そうハッキリと答えた王に、私は一歩進み出てずっと感じていた疑問を口にした。

 

 

「この場所は草原だった筈だ」

 

「なんと説明すれば良いか・・・。全てを語るには少々長話になるが、付き合ってくれるか?」

 

「ええ」

 

 

ラキュースの頷きを見届けると、王は静かに語り出した。

 

 

『アインズ・ウール・ゴウン』という名の強大な国家があった。その国の元では人間と異形種が共存し合いながら幸せに暮らしていた。

ところが 原因不明の大災害により、世界は消滅。守れたのはナザリック地下大墳墓のみ。転移の衝撃で 人間種の仲間は死に絶えてしまった。

 

 

「多くの仲間を失った。だが、我らは生きている。この地で暮らしていこうと考えていた所だ」

 

 

全てを話し終えた王は 何処か寂しそうに見受けられた。ラキュースが呟くように小さな声を出したが、王には聞こえていたようだった。

 

 

「その話が本当だとすると・・・噂話はどこから??」

 

「ん?噂話?」

 

 

今まで静かにしていた ティアとティナが 王を見上げ口を開いた。

 

 

「アインズ・ウール・ゴウンは、人間種と異形種が共存していた国家。悪のヒーロー」

 

「そんな噂が王国中で囁かれている」

 

 

2人の説明を聞いたアルベドが 目を見開き 王を振り返って 歓喜の声を上げた。

 

 

「モモンガ様!これは、もしや我々と同じように この世界へ逃れてきた者がいるのかもしれませんわ」

 

「おぉ、そうか!!仲間たちがこの地に・・・蒼の薔薇の皆さん。是非詳しく聞かせてくれないか?大切な仲間の手掛かりなのだ」

 

「すみません。噂の出どころまでは分かりかねます」

 

「そうか・・・無理を言ってすまなかったな」

 

 

ラキュースの返答を聞いて、あからさまに肩を落とす王にアルベドが寄り添っていた。ギルドではなく国が転移してくるなど聞いたことがないが・・・これは聞かねばならないだろう。

 

 

「貴殿は・・・プレイヤーなのか?」

 

「プレイヤー?」

 

「この地には100年周期でプレイヤーと呼ばれる強者がやって来るのだ。もしや、あなた方がそうなのではないかと」

 

「・・・・・・プレイヤーというのは知らないな」

 

 

プレイヤーではないのか。では、彼らの世界にあった国家の1つと考えた方が自然か・・・?いや、プレイヤーを知らないのはおかしい。では、また違った世界から来た者達か。

 

 

「そうか。一つ質問させてくれないか?」

 

「なんだ?」

 

「人間種と異形種が共存していたと言っていたが・・・そんなことは可能なのか」

 

 

これはアインズ・ウール・ゴウンの話を聞いてから、ずっと考えていた事だ。王の返答は、ある意味で予想通りのものだった。

 

 

「端的に言えば可能だ。・・・だが、お前達 人間は「明日から肉を食うな」と言われて全員が厳守する事が可能か?」

 

「無理だな」

 

 

即答したガガーランに、王は当然だろうと頷いた。

 

 

「そうだろうとも。異形種だってそうだ。人間が食料の者だっている。だからな、我らが行ったのは “住み分け”だ。」

 

「閉じ込める・・・という事ですか」

 

「強者はそうだな。一定の区画への立ち入りを禁じた。あぁ、心配するな。人間は弱いからな 人間が出入りする分には規制はない」

 

「自己責任」

 

「そうだ。まぁ、喰われることが分かっていて出て行くものなど 極わずかだったがな」

 

 

ラキュース、ティアの言葉に反応しながら 説明した王に 納得しつつも、私は当然の疑問を口にした。

 

「異形種からの反発はなかったのか?残虐な者達が許容するとは思えない」

 

「そこはまぁ、力でねじ伏せた。我らは強いからな」

 

 

そこまでの力を持つ者達だということか・・・ここにいるもので全てという訳では無いのだろう。しかし、そこまでの強者ならば、なぜそんな面倒臭い真似をするのだろうか。

 

 

「そんな事をする理由を聞いても良いか?」

 

「私が元人間だから・・・では納得しないか」

 

「人間だった頃の記憶が」

 

「あるな。あの頃の私は、愛する者一人守れぬ 弱く愚かな男だったよ」

 

 

 

酷く悲しそうに俯く王の言葉に、私は彼らの言っている事がウソだとはとても思えなかった。

 

 

 




支配者ロールならぬ王様ロール!
アインズ・ウール・ゴウンの歴史は事実をまぜ合わせてデミウルゴスが考えました。


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44.絶望の淵 ☆

ガチャガチャとなる両手両足に付けられた鎖が、牢屋の中に響いた。

 

私が八本指に捕まってどれだけの時間が流れたのか、今が昼なのか夜なのかすら分からない。

 

コッコドールの奴は私の身体の痣が見たかったようで、私は服を着せられていない。私が“諜報員”だということもあり警戒してのことなんだろう。

なので 私は現在、全裸という女の子にあるまじき恰好なのだ。・・・あのクソ変態オカマめ

 

 

心の中で悪態をつくものの、身体は動かない。ギガントバジリスクの体液を浴びてしまい、毒にかかっているのだ。本来なら死んでいたであろう毒も、何故か命を奪うまでには至っていなかった。身体の痣が広がっているのを見るに きっと、またよく分からない力が働いているのだろう。

 

 

目覚めてから何度も“尋問”を受けてきた。奴らは レエブン侯の弱みを知ろうと必死になっているようだ。あの人が 王国の・・・というか息子の為にどれだけ必死に手を回し、危ない橋を渡ってきたか ずっと側で見てきた。そんな私があの人を裏切ることは無い。

どんな屈辱も苦痛も必死の思いで耐えられた。

 

コッコドールは私がツアレニーニャ・ベイロンだと知っていたようで、村を滅ぼすと脅しをかけてきたが それすら 歯を食いしばりながらも何とか無視をした。

 

私がこの世界に入るにあたって、私が“村娘ツアレニーニャ・ベイロン”だと知る者には口封じをしてきた。と言っても、「蜘蛛の呪いにかかる」「呪い殺される」とか脅しただけだけどね。レエブン侯には殺した方がいいと助言を受けていたが、そこまではしたくなかったのだ。・・・八本指の情報網を甘く見ていた結果なのだろう。

 

本音を言えば、村を助けに行きたかった。私のミスで皆を危険に晒すなんて胸が引き裂かれるように辛かった。

 

 

だけど・・・きっと、きっと レエブン侯が何とかしてくれると信じている。

 

 

 

腫れ上がった瞼のせいで視界が悪い。暗い牢屋の隅で 僅かに動く小さなものが目に入った。

 

 

「ご、きぶ、り?」

 

 

黒いその虫は、まるで私の声に反応したかのようにピタリと止まると私を見つめているようだった。

 

 

『リアルなゴキブリですが、ちっちゃい王冠かぶってて可愛いですよ』

 

ふと、前世で聞いた鈴木さんの話を思い出し、想像してみて 思わず笑ってしまった。

 

 

「ふ、ふふ。確か、に、ゴキブリに 王冠のせ、たら、可愛い、かも、しれない・・・見て、みたかった、なぁ。恐怖公」

 

 

カサカサカサッと近寄ってきた そのゴキブリは、横たえる私の顔の真ん前まで来ると 前足を二本天へ上げて ユラユラと踊り出した。

 

 

「ふふ、なぁに それ。恐怖公、の知り合い、な、の?」

 

 

更に激しさを増すゴキブリの奇妙なダンスに この世界のゴキブリは 変なダンスをするんだなと、ぼんやりとする頭で考えていた。

 

 

「恐怖公、に 伝えて くれる?鈴木、さん・・・モモンガ、さん に、「あの日 約束を 破って、ごめんなさい」って、伝えて、欲しいって」

 

 

カツンカツンと牢屋の外から奴らが歩いてくる音が聞こえた。

あぁ、また あの地獄が始まるのか。

 

 

「貴方は に、げて」

 

 

不思議なゴキブリは、ササッと壁を登り、天井に空いた穴から外へ出ていった。それを見送ってから私は 入ってきた彼らを睨みつけるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

☆ニニャ(アイン)視点

 

 

モモンガ様に姉さんの捜索を協力すると言ってもらえて、僕はもうすぐ姉さんも見つかるのだと疑ってもいなかった。

だって、あのアインズ・ウール・ゴウンが助けてくれるのだ。こんなに心強いことは無いだろう。

 

 

僕らは現在、パンドラズ・アクター様と一緒に僕の故郷の村へ足を進めていた。

パンドラズ・アクター様は、輝かしい全身鎧を身に纏った“たっち・みー様”の姿を模しているので、僕らの中でかなり目立っていた。

 

 

「この先に、ニニャさんとブレインさんの村があるのですね」

 

「そうです!何も無い小さな村ですが、穏やかな場所ですよ」

 

「それにしても、女の一人旅なんてよく村長が許可したな」

 

「う"ぅ、それは・・・その」

 

「家出したであるか?」

 

 

ブレインの質問にどう返そうか迷っていると、ダインが核心を突いてきて 項垂れた。

 

僕が女だということは 漆黒の剣の皆にバレてしまった・・・というか、バレていたらしいと最近知った。

パンドラズ・アクター様にハッキリと「お嬢さん」と言われ、必死に否定していたらブレインから「いや、お前 女だってコイツらに バレてるからな」と突っ込まれたのだ。

 

 

「そういえば、俺たちと初めてあった時、ガラの悪い男に絡まれてたよな」

 

「あぁ、ルクルットとダインが助けてきたんだったな。全く、危ない事するよなニニャは。」

 

 

ルクルットの発言に呆れたようにペテルが答えた。あの時は、村を飛び出したばかりで、姉さんを見つけようと必死だった事もあり 周りが見えてなくて 本当に危なかった。

 

ルクルットが笑いながらペテルの肩を叩いた。

 

 

「本当にだぜ。ペテルなんか 女だって気付かずにお前の湯浴みに突撃しようとしたりして 必死に止めたんだからな」

 

「なっ!あれは仕方なーーヒッ」

 

 

ペテルの視線の先を追うと、ブレインが殺気を込めて睨み付けていた。何やってるんだと溜息をついた所で、パンドラズ・アクター様が声を上げた。

 

 

「あぁ、見えてきましたね!・・・先客がいるようですが。ちょっと、先に行きます」

 

「ま、待ってください〜」

 

 

僕の目では まだまだ見えないのだが、パンドラズ・アクター様には村が見えたらしい。急いで追いかけると、徐々に聞こえてくる怒号と・・・戦闘音。

 

 

「チッ 先に行くぞ」

 

 

ブレインがスピードをあげ走り抜けて行った。

僕は嫌な想像を必死に振り払いながらも 辿り着いた先では、盗賊らしき男達と戦っている見知らぬ冒険者パーティーがいた。

 

 

「助太刀します!!」

 

 

ペテルが叫び、僕らが盗賊に攻撃を仕掛けると 既に戦っていた冒険者パーティーの一人が声を上げた。

 

 

「頼む!! 村の中に奴らがッ!!フルプレートと青髪の兄ちゃんが入って行ったが そっちを助けてやってくれ!!」

 

 

 





【挿絵表示】

→餓食狐蟲王様からツアレとモモンガ様を頂きました!
カッコイイ!!
よく見ると、モモンガ様がちゃんと蜘蛛の指輪つけてる♪*゚

本当にありがとうございました〜!!


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45.告白

区切りのいいところまで突っ込んだら、いつもの倍のボリュームになってしまった・・・


☆ニニャ(アイン)視点

 

 

ルクルットとダインを冒険者達の援護に残し、僕とペテルは 駆け抜けて行った。昔と変わっていない懐かしい村の中へ入って行くと、既に何人かの盗賊が倒れていた。その中には薄絹を身に纏った踊り子のような出で立ちの女もいた。

 

僕は 倒れた女の隣に立つ、切り傷だらけのブレインに《ミドル・キュアウーンズ/中傷治癒》をかけながら 周りを見渡した。

 

 

「この人も盗賊??パンドラズ・アクター様は?」

 

「盗賊じゃねぇ。コイツら、八本指の手下だ。あの方は逃げた奴追いかけて行った」

 

「八本指?!」

 

 

ブレインの返答にペテルが声を上げた。僕も何で 王国の犯罪組織が、こんな田舎の村に襲撃をかけに来たのか意味が分からず 言葉に詰まった。

 

 

「ツアレニーニャ・ベイロンですよ」

 

 

突然 聞こえた声の方へ顔を向けると、パンドラズ・アクター様が、赤髪の金色の刺繍の入った派手な服を着た男を引き摺りながら コチラへ歩み寄って来る所だった。

 

 

「彼女は “蜘蛛女”として活動していたようですが、八本指に捕まったそうです。それで、故郷であるこの村を襲撃し 村人の頭部を 彼女に見せつけ、心を折る計画だったようですよ」

 

「なっ!!?」

 

 

姉さんが 蜘蛛女??八本指に捕まったって、拷問とか受けているんじゃ・・・!?

 

最悪な予想が脳裏を過ぎ、頭から冷水をぶっかけられたような寒気に襲われた。

 

 

「私は、モモンガ様に至急報告へ行きますので、これで失礼します」

 

 

パンドラズ・アクター様は大げさに礼をとると、パッと掻き消えるように居なくなってしまった。

 

 

「大丈夫か!!」

 

 

ルクルットが駆け寄ってきた。ルクルットの後をダインが追いかけて来ている。2人とも大した怪我もなく、無事な様だ。

傷が癒えたブレインが身体の具合いを確かめながら 口を開いた。

 

 

「奴らは全て倒した。俺はすぐに王都へ行く。ツアレを助け出さないとな」

 

「僕も行く!!」

 

「相手は八本指だ。守ってはやれねぇぞ?」

 

 

確かめるように確認してくるブレインに 僕は ハッキリとした口調で答えた。

 

 

「もう 僕は“戦う力もないガキ”じゃないからね」

 

 

9年前のあの日の僕とは違うのだ。ブレインは何処か苦い顔をしながら頷いてくれた。

漆黒の剣のみんながそれぞれ顔を見合わせて 意思を確認すると、ペテルが僕に声をかけた。

 

 

「俺たちも付いてくぞ。ここまで来たんだ最後まで付き合うよ」

 

「当たり前だな」

 

「うむ」

 

 

ルクルットとダインも賛同してくれた。漆黒の剣の皆が付いてきてくれるのは心強かった。僕の自慢のパーティーである彼らと一緒なら、上手く連携だって取れるだろう。

 

 

「待て待て、お前ら“ツアレ”って言ったか?」

 

 

いつの間にかここまで来ていたらしい、村の入口で戦っていた冒険者パーティーの内の一人が声を掛けてきた。

 

「はい、ツアレは僕の姉さんですから」

 

「そうか・・・彼女は 今日にでも救出作戦が決行される予定だ。腕が立つんだろ?間に合うか分からねぇが、行くなら協力してやってくれ」

 

 

僕の返答に、少しだけ考え込んだ後、その冒険者は真剣な顔でこちらを見据えてきた。

 

 

「お前は?」

 

「俺はレエブン侯の配下、元オリハルコン級冒険者フランセーンだ。場所は王都唯一の娼館。他のメンバーがいるハズだ。これを持っていけ」

 

 

ブレインの質問に返答したフランセーンさんは、そう言ってネックレスをこちらへ投げて渡してきた。感謝の言葉を述べてから、急いで王都へ向かおうとしたその時、遠くから懐かしい怒鳴り声が聞こえた。

 

 

「アインロマーニャ!!!」

 

 

村を飛び出した頃より 老けてしまったお父さんと、後を追いかけるようにお母さんがこちらへ走り寄ってきていた。

 

 

「お、お父さん!?待って、姉さんが見つかったんだ。早く助けにーー」

 

「あっちに、村の馬がある。そいつらを使いなさい」

 

「え」

 

 

予想外の答えに戸惑っていると、お母さんが、僕を強く抱き締めてきた。お母さんの身体は僅かに震えていた。

 

 

「絶対に帰ってきなさい。待ってるからね」

 

「うん」

 

 

僕の後ろではお父さんが、ブレインに真剣な声色で話しかけていた。

 

 

「ブレイン君。・・・頼んだよ」

 

「はい」

 

 

村のみんなに見送られながら 僕らは馬に飛び乗って、王都へ駆け出した。正直、今から全力で王都へ向かっても 救出作戦に間に合うか分からない。

 

でも、それでも、じっとしていることなんて出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

 

☆モモンガ視点

 

 

定例会議で決定した 王国を支配下に置く為の計画はこうだ。

 

まず、アインズ・ウール・ゴウンの噂を王国国民に流し、異形種と人間種の共存の道を想像させる。

その後、知名度の高い冒険者にナザリック地下大墳墓を発見させ、好感を持たせた上で 王国国民に アインズ・ウール・ゴウンが現実に存在するのだと認識させる。

我らの架空の仲間が、地下犯罪組織“八本指”に捕えられたとし、八本指を攻撃。王国の邪魔な貴族諸共、国民の前で断罪。

“タイミング良く”現れた王族に 我らの正当性と、「仲間を傷付けたこのような奴らを野放しにしていた王国は許さぬ」と王である俺が訴える。

王族は 俺達に謝罪。我々はアインズ・ウール・ゴウンの支配下に加わるので民を殺さないでほしいと慈悲を乞い、それを受け入れる。

 

勿論、王族は既にこちら側だ。反抗的なものはちょっとの間だけ“黙っていてもらう”ことになる。

 

冒険者モモン一行は、不安がるであろう民衆の味方に立ち 彼らの精神状態を安定させる役回りだ。

 

 

 

俺は、ギルドマスターだったのに、いつの間にか王になってるんだが・・・とかツッコミを入れたい。だが、ここがギルドではなく国と名乗る以上 仕方ないのだと受け入れるしかないのだろう。

 

つい先程やって来た冒険者パーティー“蒼の薔薇”にも王として対応したしな・・・。大丈夫だったか?ちゃんと王様っぽかっただろうか??

いきなりプレイヤーの事を聞かれて 「知らない」と答えてしまったけれど、焦ってたのバレてないよな?!

 

 

執務机で腕を組み悶々としていると、執務室のドアがノックされた。

 

 

「モモンガ様、パンドラズ・アクターでございます。ツアレニーニャの件で至急お伝えしたい事があります。恐怖公もおります」

 

「入ってくれ」

 

 

許可を出すと、パンドラズ・アクターと恐怖公が 珍しく何処か余裕が無い様子で入ってきた。

 

最初に口を開いたのはパンドラズ・アクターだった。

 

 

「ツアレニーニャ・ベイロンが見つかりました。彼女は蜘蛛女として、王国貴族レエブン侯の配下として諜報活動を行っておりました」

 

「おぉ、良かった。生きているんだな!!」

 

「それが・・・」

 

 

かなり言いにくそうにしながらも、恐怖公が言葉を続けた。

 

 

「ツアレニーニャは、八本指に捕まり 拷問を受けておりました」

 

「何だと!!!!」

 

 

思いっきり立ち上がったせいで、椅子がガタンと倒れる音が響いた。仲間かもしれない者が拷問を受けているなど とても許容出来ない。フツフツと沸いてくる怒りに体が熱くなった。

 

俺の隣に控えていたアルベドが 口を開いた。

 

 

「モモンガ様、至急助けに行くべきかと」

 

「ああ、クソ共め!!徹底的に潰さないと気が済まない!!!計画を前倒しし、奴らを潰し、王国を奪いに行くぞ」

 

 

早速 動こうとした俺たちへ向かって、恐怖公が 衝撃の事実を告げた。

 

 

「我輩の配下が、そのツアレニーニャから、モモンガ様へ伝言を受けております」

 

「・・・伝言だと?」

 

「はい。「あの日約束を破って、ごめんなさい」と。それと、モモンガ様の事を“スズキサン”と言ったそうです」

 

「は?・・・・・・まさ、か」

 

 

思い出すのは、優しく笑う彼女の笑顔。

俺を救ってくれた、こんな俺を好いてくれていたであろう彼女・・・ナザリック地下大墳墓へ行きたいと願い、連れて行くと約束した日に亡くなった。

 

 

 

「加藤さん、なのか?」

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

 

外が騒がしいような気がする。全身の痛みが鈍い鈍痛のようになってきており、毒でフワフワする頭では聴覚すら怪しい。

 

ガチャンと牢屋の扉が開く音がした。また奴らが来たのかと視線をあげると、そこに居たのは 泣きそうな顔をしたロックマイヤーさんだった。

 

 

「ツアレッ!大丈夫か!!」

 

「ロック、マイアーさん」

 

「これを飲め」

 

 

私は口に運ばれたポーションを何とか飲み込んだ。ロックマイヤーさんの後から現れたヨーランさんが治癒魔法を使ってくれたようで、呼吸するのが幾分か楽になった。

ヨーランさんが私に上着を被せ、抱き上げてくれた。

 

 

「毒か。早く帰って本格的な治療しないとな」

 

「あ、りが、とう」

 

 

何とか紡いだ感謝の言葉が届いたのか、ヨーランさんの私を支える手に力が篭ったのが分かった。

 

ロックマイヤーさんを先導に無事に建物から脱出する事が出来た。久しぶりに浴びる外の空気に 心から感謝した。

走り出そうとしたロックマイヤーさんが突然 立ち止まり叫んだ。

 

 

「あ、アンデッド!?」

 

 

その言葉に反応して、視線の先を追うと、配下を引き連れた“懐かしいオーバーロード”の姿があり、私は衝撃の余り 言葉を失い 目を見開いてしまった。

 

 

「モモンガ様、彼女がツアレニーニャ・ベイロンでございます。彼らはレエブン侯の配下の元冒険者パーティーで、彼女の味方です」

 

 

オーバーロードの隣に立つ輝かしい全身鎧を着た男の発言に、疑惑が確信へと変わっていく。

 

 

「モモン、ガ?あぁ・・・」

 

 

ユラユラと揺れる視界では、確かにあの“モモンガさん”が立っていた。ユグドラシルを一緒にプレイして、いつも私に優しい声色で色々教えてくれた あのアバター そのものだ。

 

 

「クソッ 何で王都のド真ん中に!!」

 

 

顔色を悪くし悪態をつきながらも武器を構えるロックマイヤーさんとヨーランさんに、私は上手く出ない声を震わせて必死に訴えた。

 

 

「待っ、て!彼は だい、じょうぶ」

 

 

私の言葉に驚愕したように固まる彼らを無視して、“モモンガ様”と呼ばれた彼が、ゆっくりと歩み寄り私にその白い骨の手を 恐る恐る伸ばしてきた。ヨーランさんに抱き上げられたままの私は、まだ上手く動かせない震える手を伸ばし、彼の手を掴んだ。

 

 

「うっ」

 

 

その瞬間、彼から一瞬 光が放たれ、余りの輝きに 私は思わず目を閉じてしまった。光が収まったのを感じ ゆっくりと目を開けると そこには、人間の姿をした1人の男性が・・・予想した通りの彼がいた。

 

 

「あぁ、鈴木、さんだ」

 

「か、加藤さん、なのか?」

 

「はい、わたし、転生した みた、い 」

 

 

震える声で、前世の私の名を呼んだ鈴木さんは、私の答えを聞くなり 衝撃で固まって動けないヨーランさんから私を 奪い取るように抱き締めると 力強く、そして優しく抱きしめてくれた。

 

 

「ごめんなさい、わた、し 死んじゃって・・・」

 

「いいや、俺がっ俺が悪かったんだ!あの日、加藤さんが中々INしなかったから、何かあったのかと分かったのに!!何も、何もしなくって」

 

 

鈴木さんは涙を流しながら 私に何度も何度も謝ってきた。その確かな温もりに安心しながら、私は転生してから ずっと伝えたくて後悔していた言葉を口にした。

 

 

「鈴木さん、あの、ね・・・私、ずっと ずっと 言いた、かった の」

 

「加藤さん?」

 

 

私の顔を覗き込むように 見つめてくれる鈴木さんの、涙で濡れた頬にそっと手を添えた。何度も夢に見た シチュエーションに、私は夢の中にいるような感覚がしていた。

 

この夢が覚めてしまう前に、前世で言葉に出来なかった想いを・・・

 

 

 

「ご、めんね。わたし、鈴木さんの事が、ずっと 好き、だった」

 

 

 

目を見開いて驚く鈴木さんの顔が何だか可笑しくて、自然と笑みがこぼれた。包み込まれるような大きな安心感を感じた途端、ずっと毒にかかっていた疲労からか 私の意識は急速に閉じ始めた。

 

 

 

「加藤さん?加藤さん!!!!」

 

 

 

何度も懐かしい名前を叫ぶ鈴木さんの声を聞きながら、私は 安らかな眠りに落ちたのだった。

 

 




※六腕のエドストレームとマルムヴィストは蜘蛛女に恨みがあり今回の作戦に参加。今作では死体として登場した。
※レエブン侯の配下、元オリハルコン級冒険者フランセーンは 信頼のおける冒険者パーティーを雇い、村へ向かっていた。事後処理の為 村に留まりニニャ達を送り出している。


【穢れた蜘蛛妃の痛み】
『その蜘蛛は愛する人を決して忘れない。毒耐性35%アップ。全ての無効化スキルを無効。』

※恋愛フィルターかかった加藤さんの記憶なので、鈴木さんは実物より5割増にイケメンになっております


以上、入り切らなかった裏情報でした〜!!


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46.激怒

☆アルベド視点

 

 

裸に上着一枚かけられた憐れな姿。既に治療を受けたのか、酷い外傷はないものの 毒にかかっているようで顔色が悪くやつれている女、ツアレニーニャ・ベイロン。

周りの人間共が我らに恐れをなしている中、彼女だけは モモンガ様を視界に入れた瞬間 懐かしさと歓喜に震えた声を出し、モモンガ様へ手を伸ばしていた。

 

 

そのツアレニーニャとモモンガ様が触れた瞬間、モモンガ様から激しい光が放たれ 1人の人間が現れた。私達には、その人間がモモンガ様だと感覚で分かり 驚愕したのもつかの間、モモンガ様が激しい感情を抱いたまま、泣きながらツアレニーニャを抱き締め、そんなモモンガ様に答えるように、ツアレニーニャは、私の知らないモモンガ様の名を呼んだ。

抱き合う2人の姿に、私はハッキリと モモンガ様が愛しておられるのは彼女だけなのだと 見せ付けられたようだった。

 

 

意外にも、私はその姿を見ても嫉妬はしなかった。

転移してからのモモンガ様の苦悩をお側でずっと見ていたからなのか・・・・・・相思相愛のご様子を目の当たりにして、当然の結果だと納得している自分がいるのだ。

 

 

 

意識を失ったツアレニーニャに モモンガ様が必死に呼び掛けておいででした。パンドラズ・アクターがモモンガ様に さっと上位治癒薬を手渡した。

 

 

「モモンガ様、コチラを彼女に」

 

「あ、あぁ!!」

 

 

急いで受け取ったモモンガ様は、ツアレニーニャに上位治癒薬を振りかけました。私は、モモンガ様に抱かれたツアレニーニャの顔を覗き込み そっと声をかけました。

 

「・・・眠っておられるようですわ」

 

 

モモンガ様が、ツアレニーニャを隣に控えるパンドラズ・アクターに慎重に預けるとモモンガ様の体がまた、一瞬 輝き、今度は元のオーバーロードのお姿へとなっておりました。

 

 

「・・・許さない」

 

 

小さく、ハッキリと告げられた言葉には強い感情が込められていて・・・私にはそれが鋭利な刃のように感じた。近くにいた人間共が 恐怖で座り込み、失神していくのが視界の端に映った。

 

 

「許さない、許すものかッ 加藤さんを、こんな、こんな 目に合わせやがってぇ"!!!!!!」

 

 

モモンガ様の叫び声と共に、周囲に放たれる威圧感に息が詰まり 身体が震えた。激しい怒りに恐怖を抱きつつも、私の耳には確かにモモンガ様の御心が壊れゆく音が聞こえた。

 

 

 

「くっクズがぁあああ!!!!!ぶっ殺す!!!ぜんぶ、全部、ぶち殺してやる!!!!!!!」

 

 

 

剥き出しの憎悪を周囲に叩きつけ 叫ぶ激しい怒りの声が響き渡った。

バキバキと嫌な音を立てて、モモンガ様が壊れていく・・・その様子に私は激しい恐怖と失うかもしれない不安に襲われた。

 

やっと、やっと最近は心から笑って下さるようになったのだ。眠りについてから魘されることも無くなってきたところだったのだ!!

それなのにッ!モモンガ様に対して、こんな、こんな仕打ちなんて!!!

 

 

「も、モモンガ様!!!!」

 

 

震える声を何とか振り絞り叫んだ。

 

私は、この世界に転移してきたあの日。モモンガ様の“叫び声”を聞いて、二度とこんな事にはさせないと胸に刻んだのだ。例え、如何なることをしようとも、敬愛するモモンガ様をお救いすると誓ったのよ!!!

 

 

「モモンガ様ッ!!どうか どうか お待ち下さいませ。私を殺してでも構いません!!どうか どうか!!」

 

「アル、ベド」

 

 

震える身体を叱咤し、モモンガ様へ思いっきり抱き着くと、モモンガ様が混乱したように声をかけられました。

私は 祈りをこめながら、ゆっくりと力強くモモンガ様に語りかけました。

 

 

「モモンガ様、モモンガ様の愛するお方は、今では“王国の人間”でございます。彼女が目覚めた時、モモンガ様が王国を滅ぼしていたらッ どんな反応をするでしょうか!!」

 

「あ、」

 

 

空気が抜けたような声が微かに聞こえた。顔を上げてモモンガ様のご様子を伺えば、王国を失ったツアレニーニャの姿を想像されたのか 顔色が悪くなっていっているようだった。

 

 

「王国などどうなってもいい。ですが、感情のままに破壊してしまったことで、モモンガ様がお辛い思いをするのは見過ごせませんでした。不敬を働き、本当に申し訳ございません」

 

 

ゆるゆると、モモンガ様から放たれていた威圧感が消えていった。私がモモンガ様から離れ、その場で跪いていると、モモンガ様がお言葉をかけて下さいました。

 

 

「そうだ、そうだったな・・・アルベド、顔を上げてくれ」

 

 

モモンガ様の そのお顔からは激しい感情は落ち着き、何処かホッとしたような雰囲気を纏っておいででした。

 

 

「お前の言う通りだった、ありがとう」

 

 

モモンガ様が、不敬を働いた私に対して余りにもお優しい言葉をかけて下さいました。

 

私が感動に打ちひしがれていると、後からデミウルゴスの気配を感じた。

 

 

「モモンガ様、準備完了致しました。八本指の関係者並びに貴族共を集め終わっております」

 

 

デミウルゴスはいつも通りの綺麗なお辞儀をして、モモンガ様に報告したのだった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

☆レエブン侯視点

 

我々は特大の爆弾を踏み抜いてしまったのかもしれない。

 

 

突如 現れた異形種達は、王国の人間を次々に捕らえると、この場所へ連れてきていた。ある者は脅しをかけて、ある者は手足を折られて・・・その方法は様々だったが、集められた顔ぶれを見て 私にはある仮説が浮かんだ。

 

怪我を負って引き摺られてきた者達は、八本指の手の者達や 八本指と裏で繋がっていた者達。そして、私のように“無事”に連れてこられた者達は 貴族であり、尚且つ八本指と繋がっていない者達だ。

 

 

この異形種達は八本指に激しい怒りを抱いているのか・・・?

 

 

クソッ 王国を食い散らかす害虫共め。とんでもない奴を叩き起したな。

 

呻き声や苦痛に歪む声が響くこの地獄のような光景を見ながら どうやって生き残ろうかと必死に思考を巡らせていた、その時だった。

 

 

 

ドンッ

 

 

 

心臓へ強い衝撃と共に伝わってくるのは、“激しい怒り”。誰かが、何者かが 激怒している・・・誰に?考えるまでもなく、ここに居る我々に対してだろう。

 

 

その激しい感情は 少しして収まったものの、身体の芯から震えてしまって 恐怖心が込み上げてくる。

 

周りの人間達もガタガタと震え、中には気絶している者もいるようだった。対する異形種達は 我々に向けていた視線を更に鋭くさせ、今にも襲い掛かって来そうな勢いだ。

愛する妻と息子を領都に置いてきて正解だったと安堵しながらも、段々と悪くなっていく状況に、ここからどうやって抜け出すかとそればかり考えていた。

 

 

暫くして、地べたに座らされた私と配下達の元へ、ツアレの救出作戦を任せていた筈のボリス達が 気を失っているロックマイヤーとヨーランを背負いながら、赤い悪魔に連れられてやって来た。

 

彼らは私の顔を見た後、安堵の色を浮かべた。この非常事態にかなり参っているのだろう。合流したのを見届けると、後に立つ悪魔が口を開いた。

 

 

「エリアス・ブラント・デイル・レエブン。至高のお方が愛した女性を助けに行こうとしたのは評価します。しかし、そもそも貴方が彼女に対して、こんな危険な事をさせなければ起こらなかった悲劇なのです」

 

 

至高のお方?愛した女性を助けるというのは・・・まさかツアレの事なのか?

激しく回っていた思考は、悪魔の次の一言で全てが吹き飛んだ。

 

 

「全ては王が判断する事です。しかし・・・楽に死ねると思わない事ですね」

 

「ヒッ」

 

スっと細められた悪魔の視線に 私は歯がガチガチと震え、情けない声が出た。

 

死にたくない、死にたくない、愛する息子や妻を残して死ぬなど!!!

 

 

背を向けて去っていく悪魔を見送りながら恐怖で震えそうになる心を何とか奮い立たせ、必死に考えを巡らせるのだった。

 

 

 




※ボリス達・・・囮役として八本指の注意を引き付けていた救出作戦班。
※ロックマイヤー達が治療する前のツアレをモモンガ様が見たら、アルベドの制止なんてぶっ飛ばして 全て 皆殺しになってたと思われる。魔王誕生(テッテレー






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47.断罪の瞬間

☆ナザリック第9階層にて

 

 

私が再び目を開けると、そこは見知らぬ場所だった。フカフカのベッドの上で寝かされていたようだ。レエブン侯の屋敷でも見たことが無い 豪華で落ち着いた雰囲気の室内だった。

 

 

「お加減はいかがですか、お嬢さん」

 

 

声がした方を見れば、全身鎧を身に纏った男がベッドの脇に立ち、私の様子を伺っているようだった。

 

 

「貴方は・・・」

 

「この姿では分かりませんね。私はパンドラズ・アクター以後お見知りおきを」

 

 

自己紹介をしながら、姿を変えたパンドラズ・アクターは、鈴木さんから聞いた通りの姿をしていた。黄色の軍服にのっぺりとした顔。

 

 

「あぁ、鈴木さんの作ったNPC・・・あ!!鈴木さ、モモンガさんは?!ココは何処?私は一体どうなって」

 

 

“何故ここに居るのか”とその答えに行き着いた時、私はいても立ってもいられず ベッドから身を起こした。治癒されているのか身体の痛みは 全く感じず、身体を確認すると肌触りの良い上質な服が着せられていた。戸惑う私を見て、パンドラズ・アクターが声をかけてきた。

 

 

「落ち着いて下さい、ツアレ様。貴方が気を失ってからまだ そう時間もたっておりませんよ」

 

「も、モモンガさんは!!?」

 

「我が創造主は、王国を落すべく行動しておられます。安心してください、貴方様をこんな目に合わせた奴らには 必ず報復します」

 

「私を モモンガさんの所へ連れて行って!!お願いします!!!」

 

 

朦朧としていた記憶では、あの出来事が夢だったような気がして怖くなった。何より・・・今すぐ会いに行かなくちゃいけないような。そんな気がしたのだ。

 

 

「Natürlich will ich!!このパンドラズ・アクターにお任せを」

 

 

必死に頼み込んだら、パンドラズ・アクターは何処か喜色を含んだ様子で大袈裟な手振りを付け了承してくれたのだった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

☆モモンガ視点

 

 

加藤さんを傷付けられた怒りに胸の内が激しく煮えたぎっていた俺に、アルベドが泣きながら必死に呼び掛けてくれた。

 

彼女が止めてくれなければ、怒りに身を任せて王都に超位魔法をぶち込み、加藤さんを傷付けた奴らを周り諸共破壊し尽くしていただろう。

 

破壊尽くされた都市を見たら、加藤さんはどんな反応をしただろうか・・・例え、元に戻せたとしても “死”を見るのか見ないのかは 精神状態を大きく変える。彼女を悲しませるのも、失望されるのも、拒絶されるのも、俺には耐えられなかっただろう。

 

 

だからといって、コイツらを許す訳がないのだがな。

 

 

 

王都の最奥、ロ・レンテ城。

その城を囲んでいた城壁は 下僕たちによって破壊され、確保された空間には多くの人間が集められていた。

 

その人間共が見つめる視線の先には、階層守護者達によって設置された豪華な壇上があり、そこに俺は立ち、人間共を見下ろす形となっていた。俺の周りには、アルベドを筆頭に階層守護者が固め 誰もが冷徹なまでに冷たい視線を人間共へぶつけていた。

 

 

「我々はアインズ・ウール・ゴウン。私はその王である」

 

 

ハッキリと思いの外 低く発せられた俺の声は、この広く大勢の者がひしめく場であったにも関わらず、よく響き渡った。

 

 

「犯罪組織、八本指。貴様らは我が仲間を侮辱し、拷問にかけた。これは耐え難い屈辱である!!」

 

 

目下の人間共は 皆が恐怖に震え、絶望を顔に貼り付けていた。そんな姿を見ても俺の怒りが僅かにでも収まることは無かった。

 

 

「このような犯罪組織を野放しにしてきた お前達 貴族も同罪だ。聞けば、八本指に苦しめられている国民達を見て見ぬふりをし続けていたらしいではないか!もはや、上に立つ者としての資格は貴様らには無い!!このような腐った国家を見過ごすことなど、私には出来ぬ。我々、アインズ・ウール・ゴウンは貴様らを断罪する!!!!」

 

 

静まり返っていたその場は、俺が言い終わった次の瞬間 人間共の嘆きと叫び声に埋め尽くされた。

 

 

「お待ちください、アインズ・ウール・ゴウンの王よ」

 

 

王国戦士長 ガゼフ・ストロノーフを先頭に兵士達に守られながらやって来た王国を治める王、ランポッサ三世は馬から降りると 俺を見上げてから覚悟を決めたように俯き、言葉を紡いだ。

 

 

「貴方様の仰る通り、大切なお方を傷付けた八本指を野放しにしてきたのは、我らの不徳の致すところ。貴方様に全面降伏いたします。誠に申し訳ございませんでした」

 

 

ランポッサ三世の謝罪に どよめきが起こった。顔を蒼白にさせた貴族達が声を張り上げ、反論を始めた。

 

「な、何をおっしゃるのですか!!」

 

「このような化け物共に、王国の王たるものが頭を下げるなど恥を知れ!」

 

ランポッサ三世が貴族共を黙らせようとしていたが 無視され続け、段々と顔色を悪くさせていった。父に加勢したザナック王子の働きかけも虚しく王族派と貴族派で口論になりだし、大きくなっていった怒鳴り声がまるで伝染するように辺り一面に響き出した。

 

 

・・・本当に愚かな奴らだ

 

 

事前に話が通っていたとはいえ、被害を抑えるべく降伏を決断したランポッサ三世の判断は正しいだろう。それを批判するばかりか 俺達と戦おうとする者まで現れた。勝てる訳がないだろうに。

隣に控えていたアルベドが声のトーンを落としながら俺に問いかけてきた。

 

 

「ゴミムシ共を黙らせますか?」

 

「そうだな・・・いや、まて」

 

 

アルベドに同意しようとしたが、その前に興味深い人物が前に出てきた。彼女、ラナー姫は護衛の青年を1人だけ引き連れ 俺に向かって跪いた。

 

 

「偉大なるアインズ・ウール・ゴウンの王よ、このような無様を晒す無礼をお許しください。私が彼らを黙らせます・・・どうかお力添えを下さいませ」

 

 

ラナー姫は俺を見た後、デミウルゴスに視線を向け また俺に視線を戻した。ラナー姫はこのような事態を想定していたのか?デミウルゴスを見れば、頷き返されたので 俺は許可を出した。

 

 

「良かろう。デミウルゴス、協力してやれ」

 

「御意に」

 

 

デミウルゴスはスキル「支配の呪言」を使うと騒いでいた貴族共を黙らせた。やられた奴らは突然の事で戸惑っていたようだが、俺としても聞くに耐えない発言のオンパレードを聞かずにすんでほっとした。静かになった場には ラナー姫の声はよく響き渡った。

 

 

「皆さん、この御方は“あの”アインズ・ウール・ゴウンです。彼らの噂を聞いた方も多いでしょう。人間と異形種が共存している国家、悪を許さず脅威から立ち向かえるだけの力を持った国です。情けない事に我が国は腐りきった果実 そのものでした。民は苦しみ、疲弊する一方・・・もう、国としても限界でしょう」

 

 

あぁ、成程。コレは貴族達に向けた言葉ではなく 王国国民へ向けた演説だ。

 

 

「かの王は無意味な殺しをしないとお聞きしました」

 

 

そう言って視線を向けてきたラナー姫に 俺はハッキリと答えた。

 

 

「我らの下では全てが平等。民になるのであれば 殺しは勿論、虐げることもない。今より、暮らしも豊かになるであろうな」

 

「偉大なる王に感謝致します。さぁ、我ら王族も、そして貴族も引き下がるべきですわ。我らの愛する民の安全は保証されたのですから」

 

 

ラナー姫は言い終わると、綺麗に一礼し下がっていった。俺はデミウルゴスにスキルの解除をさせてから、呆然とした様子のハ本指とそれに関わり合いを持つ貴族達へ視線を向けた。

 

 

「さて、貴様らの罪は理解出来たか?八本指の者達はコチラで引き取らせてもらおう。八本指に協力していた貴族共も含めてな」

 

 

俺の言葉に顔を蒼白にさせた者達が抵抗しようと声を上げた。

そうだ、そうやって 国民を蔑ろにし 無様を晒す姿をお前達が見せれば、この光景を見ている“王国国民”はどう思うだろうな?

 

自分達の支配者へ怒り、異形種であるハズの俺達へ期待する。・・・急にことを進めたから何処まで上手くいくか分からないが。本来なら、蒼の薔薇が持ち帰った報告と共に 王国中にアインズ・ウール・ゴウンの噂を浸透させてからの計画だったのだから、不安定な部分があっても致し方ないだろう。

 

まぁ上手くいけば、帝国 そして法国を手に入れる為の良い布石にもなるからな。うまく踊ってくれよ、クズ共。

 




王国の国民達はどっから見てるの?
→ナザリックの配下達総出で 主な集落に巨大モニターを設置。そこから生中継されております。

巨大モニターどっからきたんだべ?
→ナザリックにそれぐらいあるさ!HAHAHA

※クリスタルモニターって事にしといて下さい


※あと、2話で完結予定!!


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48.蜘蛛の祝福

パンドラズ・アクターに連れてこられた王都は、私の記憶の中の王都とは一変していた。王都周辺は逃げ出す者がいないようナザリックの配下で固められており、誰も脱出出来ない。空には巨大なモニターが浮かんでいて、すれ違う人々は皆、空を見上げ モニターを見ているようだった。

 

そこでは地面に座らされた人間達が 怒鳴り声をあげており、玉座の上で立ち尽くす者達が冷めた目で見下していた。・・・その中央には鈴木さんがいた。まるで本物の“死の支配者”、魔王のようになってしまっている彼からは冷たい雰囲気が漂っていた。

 

私の周囲にいた人たちからは、恐怖、戸惑い、八本指や貴族に対する怒り、・・・そして、意外にも アインズ・ウール・ゴウンに対する期待の声で溢れていた。

 

「どうなっちゃうの?」

 

「あんな恐ろしい奴らなんて信じられる訳がないだろう?!」

 

「クソ貴族共め」

 

「悪いヤツをやっつけちゃえー!!」

 

人類の敵であるはずの“異形種”にそれだけ期待する程、国民の疲労は限界だったんだ。

 

 

《これ以上、失望させてくれるな。貴族共、お前らの答えはそれで終わりか?》

 

 

いつもとは違う、初めて聞いた鈴木さんの低く恐ろしい声にハッと顔を上げてモニターを確認すると、レエブン侯が玉座の前まで進み出てくる所だった。

レエブン侯を見つめる鈴木さんが 恐ろしく怖く見えて、私は急いで駆け出した。

 

 

「ツアレ様。モモンガ様の元へお送りしますよ、しっかり掴まってください」

 

「は、はいーーーー!!??」

 

 

さっと抱き上げてくれたパンドラズ・アクターは瞬時に物凄いスピードで駆け抜けて行った。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

☆モモンガ視点

 

 

レエブン侯、加藤さんを配下に入れ諜報活動をしていた男が 俺にしてきた内容は嘆願だった。

 

 

「私は・・・私は、貴族としての責務を果たせませんでした。王のお好きな様にして下さって構いません。しかし、どうか 家族だけはお許し頂けないでしょうか」

 

「お前の家族も貴族ではないのか?私は女子供だからといって区別はしない」

 

「私の妻と息子は、確かに貴族としての恩恵を受けてきました。しかし、民を虐げたりはせず 領民とも友好な関係を築いております。息子は民を支えられるようになるのだと勉学に励んでおり 優秀でございます。きっと、王のお力になれることでしょう」

 

 

自分の命を投げだしてでも、家族を守るか・・・それが 父としての情なのか、貴族として血を残したいが為なのか。

 

 

「アインズ・ウール・ゴウンの配下に加わるのだ。貴族などという無駄な者はいらぬ。どれだけ必死に“血”を守ろうとしても 貴族ではなくな・・・」

 

「す、鈴木さん!!!」

 

突然 ここに居るはずのない加藤さんの声が響き、バードマン、懐かしいペロロンチーノさんの姿を纏ったパンドラズ・アクターに抱えられた加藤さんが、“空から”降りてきた。

 

彼女は すっかり回復したらしく、俺に向かって走り寄ってきた。その後で、パンドラズ・アクターが一礼していた。

心做しか、ドヤ顔しているように見える・・・そうだな、空からやってくるんだから カッコイイ登場の仕方だと思うよ。だからその顔やめろ。階層守護者達が呆れた視線を向けていて、創造主の俺としてはいたたまれないんだよ!

 

 

俺の前まで走ってきた加藤さんは、勢いをそのままに俺に飛びついてきた。俺は彼女を抱きとめると そのままぎゅっと 包み込んだ。一瞬、周囲が光ったような気がしたが、それもすぐに収まった。

 

 

「こんな所まで 来ちゃったんですか?」

 

「だって、あれは夢なのかと思って・・・私、ずっと会いたかった、ですから」

 

「それは俺もですよ・・・もう、絶対に どこにも行かないでください」

 

「あり、がとう」

 

 

加藤さんの頬に伝った涙を拭いながら その顔を見つめた。髪も目も顔の作りだって変わってしまっているが、ツアレニーニャとなった彼女からは俺との強い繋がりを感じることが出来た。

 

 

「ツアレ?」

 

 

レエブン侯のか細い声を聞いたのか、加藤さんが1度レエブン侯を見た後、俺に向き直った。

 

 

「レエブン侯・・・鈴木さん、彼は私の恩人なんです。助けて下さいませんか?」

 

「恩人?だけど、アイツのせいで加藤さんが危険な目に・・・」

 

「私、娼館に売られる所だったんです」

 

「娼館・・・」

 

「でも、その前にレエブン侯が買い取ってくれて、1人の人間として大切にしてくれました。それに 諜報活動をしているのも、王国を守る為に影ながら奔走するレエブン侯を助けたいと思ったからなんですよ」

 

 

もっともっと早くこの世界にやって来ていれば、早く加藤さんを見つけ出していれば・・・後悔がどんどん押し寄せてくる。だが、加藤さんはこうして生き残っていて それがレエブン侯の働きによるものならば。

 

 

「レエブン侯、お前は自分の命はいらぬから家族を助けてくれといったな」

 

「はっ」

 

「家族が助かればお前は満足かもしれない。だが、残された者達はどうなのだ?お前の妻も息子も悲しむのではないのか」

 

「それは・・・」

 

「私は 昔、愛する者を失った。今はこうして再び巡り会うことが出来たが、あの時の絶望は計り知れないものだった」

 

 

全てが終わったと思った。絶望し、何に対しても希望を見い出せず 苦しんだ。あの苦しみは・・・もう二度とごめんだ。

 

 

「生きて帰れ。愛する者が待っているだろう」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

 

震え声を出しながら、地に額を擦りつけんばかりに頭を下げたレエブン侯に 俺は言葉を続けた。

 

 

「だが、尻拭いはしてもらうぞ。“残った”王族と 残しておくべき者達を選別しろ。害があるものを残すな・・・次は無いぞ」

 

「はっ、かしこまりました」

 

 

下がっていくレエブン侯を見送りながら加藤さんが俺にしか聞こえないぐらい小さな声で呟いた。

 

 

「ありがとう」

 

「好きな人の頼み事ですからね、当たり前ですよ」

 

「す、す、す、スキナヒト」

 

 

本心を打ち明ければ、顔を真っ赤にさせて俯く加藤さんが可愛くて、俺は 加藤さんが、離れてしまわないように 彼女の腰を抱き寄せると声を張り上げ、世界に宣言した。

 

 

「ここに、リ・エスティーゼ王国は 我がアインズ・ウール・ゴウンの支配下へ下ったことを宣言する!!我らの民は全てが平等に支配される。民を害するものは 如何なるものであろうと断じて許さん。アインズ・ウール・ゴウンに栄光あれ!!!」

 

 

言い終わった瞬間、激しい光が周囲を照らし 収まった時には 俺達は“大群衆”の歓声を浴びていた。

 

 

「王よ、王よ、我らが王よ!!!」

 

「王様〜王妃様〜!万歳!!」

 

 

半透明になった 様々な種族の者達が 王都を埋め尽くさんばかりに溢れ 誰もが歓声をあげ続けており、何処からともなく美しい花びらが舞い落ちてきた。

突然の事に呆然としながら加藤さんの方を見れば、彼女も呆然とした様子で俺を見つめてきた。その加藤さんは、美しいドレスを身に纏い、頭にはティアラを乗せ、まさに王妃そのものの姿だった。

 

 

「加藤さん、綺麗ですね」

 

「ふふっ鈴木さんもカッコイイです。まるで王様みたい」

 

 

照れながら言った加藤さんのその姿が堪らず、加藤さんを引き寄せて 彼女に そっと触れるだけのキスをした。

 

 

「あ、き、き、キス??!!こ、こんな所で!!」

 

「勝手に居なくなった罰ですよ。素直に受け入れて下さい、俺の事が好きなんでしょう?」

 

 

俺は更に沸き立つ歓声を聞きながら、全身を赤く染めながら恥ずかしがる可愛らしい加藤さんを見つめるのだった。

 




 
【穢れた蜘蛛妃の痛み】【血塗られた蜘蛛王の嘆き】
・それぞれが 720時間(約1ヶ月)以上 指輪を装備し続けている事
・上記を満たした上でお互いの身体に10分以上触れている事

以上の条件を満たすと、王と王妃の姿を纏い、空から花びらが舞い散る中 国民達に祝福されるモーションが出現する ネタアイテム。(同性でも可)

指輪の消滅を条件に 人間種に限り、異形種“アラクネ”へ変更する事が出来る。

ユグドラシルで発現していた場合、街を埋め尽くさんばかりの邪魔くさい民衆が現れる為 話題になる事間違いナシだったが、指輪の性能がクソ過ぎて、長時間装備し続ける者などおらず、誰も気が付くことが無かった。


ちなみに、転生時に指輪がツアレニーニャの体内に取り込まれていることにより モモンガの指輪が外れなくなるなど 指輪の効果に関しては歪みが発生しており、この指輪の効果がどこまで歪んでいるのかは 不明である。



ーーーー
リア充END!次回最終回!!


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最終話.新たな時代の始まり

☆ニニャ(アイン)視点

 

 

馬を走らせ、なんとか王都へ辿り着いたものの、その異様な雰囲気に戸惑った。王都は異形種達に監視されるように見張られており、彼らは 王都に入って来ようとした僕達にも近寄ってきたが、何処からともなく現れた“異形種の彼”のお陰で、無事に通された。

バレアレ薬品店で僕らを助けてくれた彼が教えてくれた内容によれば、この異形種達もナザリックの者達なので心配はいらないらしい。

 

 

なにか、とんでもない事が起こっているのか??

 

 

不安を感じながらも、王都内に入ると 僕らの想像を絶する光景が広がっていた。

 

半透明の・・・まるで幽霊のような者達が道を埋め尽くさんばかりに溢れており、誰もが喜びを顔に貼り付けていた。

獣人、エルフ、ドワーフ、リザードマン、それに種族が分からないが 羽が生えていたり 昆虫やスライムの様な姿をしていたりする者達・・・そして、人間。その誰もが仲良く笑い合い 喜びあっているのだ。

 

「王様!王妃様!万歳!!!」

 

「おめでたや、おめでたやぁ〜」

 

そんな半透明の者達から逃れるように、道脇には王都住民が 立ち尽くしており誰もが 呆然としながらその光景を眺めていた。

 

ルクルットが驚愕に目を見開き、呟いた声を聞きながら、僕は考えていた事が 口から出ていた。

 

 

「な、なんだこれ」

 

「幽霊・・・?」

 

 

ブレインが幽霊達の合間を縫うように足を進めながら 僕の手を取った。

 

「おい、離れるんじゃねぇぞ」

 

「う、うん」

 

ブレインを先頭に進んでいくものの、幽霊達は減る様子もなく、むしろ 奥へ行くにつれ増えていっているようだった。

 

僕らを見向きもしない彼らにそっと手を伸ばして、冷たい空気に触れたような感触に背筋が震えた。

 

 

「触れない・・・?」

 

「お、おお、どうなってるんだ」

 

 

ペテルの悲鳴じみた声が聞こえた。得体の知れない彼らが怖いのだろう。

だけど、僕にはこの幽霊達が 新しい時代の訪れを告げているように感じた。

 

 

「あれは、なんであるか??」

 

 

突然、大きい声を出したダインが空を指さした。そちらに視線をあげると、巨大な風景が映し出されていた。

王城を背景に豪華な壇上の上には 二人の男女が見つめあっており、その周囲を異形種達・・・あれは、階層守護者だろうか?その彼らが控えていた。

 

その女性に 既視感を感じて、よく良く見てみれば アレは忘れもしない大好きな姉の顔だった。

 

 

「姉さん!!??」

 

「あの人なのか?!」

 

「た、多分・・・」

 

 

ペテルの問いに 自信なく返答した。姉さんには 9年間会っていなかったのだ。だけど、きっと、あの顔は・・・

 

 

「王城前か。とにかく行くぞ」

 

 

同じ事を思ったのか、ブレインが声を上げ 向おうとしたーーその時だった。

あんなにひしめき合っていた幽霊達が 突如として 掻き消えた。

 

「消えた?」

 

「何がどうなって・・・」

 

ルクルットとペテルが 驚きの声を上げたものの、幽霊達がいなくなった事で 王城まで 向かいやすくなったのだ。僕らはそのまま全力で走り出した。

 

王城前には あの風景と同じだった。壇上の下に座らされている人達の大半は黒い空間の中へ連れてかれている最中であり 未だ座らされている人達も顔に恐怖を貼り付けていた。

 

 

「お、お姉ちゃん!!!」

 

 

目の前に来て確信した。壇上の上から降りてきていた女性は やっぱり姉さんだった。先程のようなドレスではなく、白のシンプルなワンピースを着た姉さんは 僕を見るなり 固まってしまった。

 

 

「まさか・・・アイン?」

 

「そうだよ、ずっと探してたんだ」

 

 

震える声を押し殺しながら 壇上の下に座らされている人達の中を突っ切り ゆっくり近付いていくと 姉さんが 走り寄ってきて、僕に思いっきり抱きついた。

 

 

「アイン!!アインッ!あぁ、こんなにも大きくなって〜。可愛くなったわねぇ」

 

 

昔と同じように頭を撫でながら 笑いかけてくれる姉さんの姿を見て 僕は涙が止まらなかった。

 

ブレインが呆れたように、それでも嬉しそうにしていた。

 

 

「全く 変わんねぇな、ツアレ」

 

「あぁ!ブレイン!!すっかり男前になったのね。昔はあんなに悪ガキだったのに」

 

「お前は俺のオカンかよ」

 

 

姉さんは自身よりも身長が高いブレインの頭をわしゃわしゃと撫でながら、笑った。

 

 

僕らの横では、ペテルがルクルット、ダインと共に壇上から降りてきたモモンガ様に頭を下げていた。

 

 

「モモンガ様、ニニャのお姉さんを助けて頂き、ありがとうございます!」

 

「いや、礼を言うのは俺の方だ。彼女は俺の探し続けていた人だからな」

 

 

にこやかにしながら、話したモモンガ様の言葉に僕は首を傾げた。

 

 

「え?お姉ちゃん、どういうこと??」

 

「アイン、ブレインも 黙っててごめんね。私、実は前世の記憶があるの。前世での記憶を夢の中の出来事として 皆に話していたのよ」

 

 

・・・なんとなく、分かっていた事だ。姉さんの夢のお話は実在していたし、幼かった筈の姉さんは、余りにも大人びていたから。

 

 

「ニニャ、いや アインだったか?君のお姉さんは 俺の愛した人なんだ」

 

「え、え」

 

 

愛した人?姉さんが??前世でって・・・そういう事??

突然の事に混乱する僕に、モモンガ様が 喜色を帯びた声で宣言した。

 

 

「加藤さ、ツアレニーニャさんは 我が国の王妃に迎えるから、よろしくな義妹」

 

 

「えええええーーーーー!!!!!!」

 

 

顔を真っ赤にしながら照れている姉さんと そんな姉さんを見て 嬉しそうにしているモモンガ様を 視界に捉えながらも、僕は絶叫したのだった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

《アインズ・ウール・ゴウン》

 

突如、異世界からやって来た 人間種と異形種が共存する国家。その国に住まう者は平等に支配され、“害”にならない限り、安全は保証される。

 

他者を虐げるものは 決して許されず、元王国戦士長ガゼフ・フトロノーフやセバスチャンといった実力者達で構成された“警察”という組織に捕まるだろう。その中でも大罪だと判断されたものは 何処かへ連れていかれてしまうのだ。

 

支配下に下ったリ・エスティーゼ王国の貴族、王族は資格を剥奪され、宣言通り皆が平等に平民として支配された。

ザナック、レエブンといった一部の者達は“役人”としての仕事を与えられたそうだ。

 

リ・エスティーゼ王国を支配下に入れた後も、アインズ・ウール・ゴウンの勢いは止まらず、帝国、竜王国、エルフやドワーフといった国々まで支配下に収めていった。

かの王の逆鱗に触れ 滅ぼされた国があったが、その恐ろしさを目の当たりにした国々からすれば、反発など愚の骨頂であったのだろう。

 

 

アインズ・ウール・ゴウンの王である死の支配者(オーバーロード)は 元人間であり、王妃は元王国国民の女性である事からも分かるようにアインズ・ウール・ゴウンは特殊な例であり、人間種に寛大な支配者がいる為に異形種との共存が実現されたのだと思われる。

 

なお、王と王妃は仲睦まじく、度々 商店街などで お忍びで出かけられている姿が目撃されているようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

〜END〜

 

 

 




完結です!
沢山のコメントや評価ありがとうございました...♪*゚

自分の妄想がちゃんと形に出来て 本当に嬉しかったです!
これも、皆さんのおかげです!ありがとうございました☆彡.。


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