ソードアート・オンライン~人生逆転ゲーム~ (NEOマロ)
しおりを挟む

アインクラッド編 FILE1 息苦しい世界と自由な仮想世界

これを見て下さった方は是非、評価・お気に入り登録をして下さい。

今の所毎日更新しています。途中で投げ出すつもりも無いので、是非見てください。


立木ナレーション(以下、立木ナレ)「解き放たれたい……この息苦しい世界から!!」





弭間「全く、ここはホント、何時も何も変わらねぇ……」

俺、小田桐弭間(おだぎりはずま)は東京都台東区日本堤(にほんづつみ)にある、自宅のアパートを前にして思わずそう呟いていた。

立木ナレ「弭間が住む、この界隈一帯は通称『山谷(さんや)』と呼ばれていた。大阪のあいりん地区、神奈川の寿町と並ぶ日本の三大ドヤ街の一角として知られており、住人のおよそ3人~4人に一人が生活保護受給者。商店街や公園には大勢の大抵は無職のホームレスや浮浪者達が当たり前のようにテントや段ボールハウスにブルーシートを敷いて占拠している有様。そして他は概ね、地元の日雇いの仕事でどうにか生計を立てている日雇い労働者。ともかく、そんな正規の仕事に就いてない者たちが集う街、それが山谷!!」

2022年11月6日、日曜日。
俺は今日から正式サービスが開始されるMMORPGをサービス開始時刻に間に合うように帰宅した。
アパートの二階に上がって『小田桐』と手書きの表札が張られている部屋に入る。部屋の中に入ると、いつも通りの光景がそこにはあった。

親父「お~、帰ってきたか。お前がお楽しみにしてた最新のネットゲームが今日からサービス開始だとか言ってたな~」

今、そう言ったのは俺の父親の小田桐時生(おだぎりときお)。テレビの前で既に30年以上も前のスーパーファミコンのゲームを煙草を加えながらやっている俺のこの父親は生まれてこの方定職に就いたことなど一度も無く、麻雀で生計を立てている、雀ゴロもどきだった。

祖父「けっ!どの馬も似たり寄ったりか!こんなんでどの馬に賭ければ勝てるとか予想のしようがねぇだろうがよ全く!キタサンブラックが現役だった頃はもっと勝ててたってのによぉ!」

競馬のレースの情報が掛かれた新聞を見て、ひとりで今、勝手に毒づいたのは俺の祖父の小田桐恭史郎(おだぎりきょうしろう)。既に俺が生まれる前から生活保護に頼りきりの生活で、毎月受け取る保護費を、こうして、酒、煙草、賭け事、そして月に一度の楽しみと称しているデルヘル嬢に費やす日々を送り続けている。

立木ナレ「そして、この小田桐弭間自身も似たような者である。小学校を卒業して以来、一日たりとも学校には通っておらず。やってる事と言えば、週に3回前後、気が向いた時に日雇いの仕事をする程度。本来14歳である弭間が仕事をする事は法的に許される事ではないのだが、この山谷の日雇いの仕事は雇用者側も年齢確認と身分確認が極めて適当なので、弭間に限らず年齢を誤魔化して仕事をしている少年がザラにいたりするのだった!!そしてこの小田桐家は、父も祖父もバツイチであり、家に女は一人もおらず、1ルーム10.5畳のアパートに祖父、父、息子の三世代、男三人暮らしと言う誰もが羨まない共同生活を送っていた!!」

俺「今からフルダイブするけど、勝手に電源切ったりするなよ」

俺は親父と爺さんに軽くそう言っておく。そして、フルダイブ前にタバコを一本だけ吸っておく。

時生「お前、それ今日で4本目とかじゃないだろうな?」

俺「まだ2本目だっての」

この親父は爺さん共々、子供の教育や躾になんかまるで興味0なのだが、酒やタバコについては、20歳になるまでは、タバコは1日3本まで、酒は一日1本(350ml)までと制約を付けてくるのだった。
なんでも、それ以上やると、警察に臭いで嗅ぎ付けられて面倒だとか何とか言っていた気がするが今はそんな事はどうでも良い。
何故なら俺は今から、『ソードアート・オンライン』通称SAOの世界に、このナーヴキアを使ってフルダイブするのだから。

立木ナレ「ナーヴギアとは、今から半年前の2022年5月に発売された、完全なる仮想現実(バーチャルリアリティ)を実現したと言える機械であった。しかし、その構造は、前時代の据え置き型マシンとは根本的に異なる。ナーヴギアのインターフェイスは一つだけ、頭から顔までを完全に覆う、流線型のヘッドギア。その内側には無数の信号素子が埋め込まれ、それらが発生させる多重電界によってギアはユーザーの脳そのものと直接接続する。ユーザーは、己の目や耳ではなく、脳の視覚野や聴覚野にダイレクトに与えられる情報を見、聞くのだ。更に、触覚や味覚嗅覚を加えた、いわゆる五感を全てのナーヴギアはアクセスできるのである。ヘッドギアを装着し顎下で固定アームをロックして、開始コマンドである『リンク・スタート』の一言を唱えた瞬間、あらゆるノイズは遠ざかり視界は暗闇に包まれる。その中央から広がる虹色のリングをくぐれば、そこはもうすべてがデジタルデータで構成された別世界である。そのナーヴギアを開発した大手電子機器メーカーは、ナーヴギアによる仮想空間への接続を完全(フル)ダイブと称したのだった!!」

このナーヴギアのおかげで、俺は従来とは全く異なるゲームを期待していたわけだが、肝心なソフトはどうもぱっとしないものが続いた。良くてレーシングゲームやFPSや格ゲー程度だった。
が、そんな中、世界初のVRMMORPGゲームとして発表されたのがこの『ソードアート・オンライン』と言うわけだった。
それらの情報が段階的に発表されるたびに、俺を含むゲーマーたちの熱狂は大いに高まっていった。
僅か1000人に限定して募集されたベータテストプレイヤー、つまりベータテスターの枠には十万人ほどが応募したらしく、俺も僅かな望みをかけて応募したのだったが、俺のツキは100人に1人の枠を掴むほどでは無く、あっさりと落選した。
ベータテスターにはその後の正式版の優先購入権が与えられるので何としても手にしたかったのだった。
そして、二か月間のテスト期間中、俺はどこかでソードアート・オンラインのベータ版を満喫している連中をひたすら羨む日々を送っていた。
少しでも気を紛らわしたくて、ベータテスターが掲載している、ブログでベータ版の情報を収集したりして見たが、猶更不公平感と、鬱憤が溜まるばかりだった。
そして、いよいよ訪れた正式版ソードアート・オンラインの発売日。しかし、初期出荷数は1万本とこれまた限られており、またしても買い逃してしまうのではないかと不安と苛立ちを感じていたのだったが。
俺はこうして正式版SAOを購入し、今まさにサービス開始の時間を待ち侘びていたわけだった。
サービス開始時刻の13時まであと少し時間があるので、俺は弁当屋で買ってきた200円の安い弁当を手っ取り早く食べ終える。食べ終えた頃には丁度、13時数分前であった。もうすぐSAOの世界にフルダイブできると考えると、隣の部屋から聞こえる騒ぎ声など全く気にもならなかった。

恭史郎「ったく、隣の倉崎の野郎またバカ騒ぎしやがってやかましい!」

その一方で爺さんが部屋の窓を開けて顔を出す。だが、俺は既にナーヴギアを装着して、その詳しい様子は見えなかった。

恭史郎「倉崎ぃ!ゲラゲラと馬鹿笑いしやがって喧しいんだよ!童貞拗らせておかしくなってるんなら精神科かソープに行きやがれってんだ馬鹿野郎が!」

倉崎「うっせー爺!テメェこそ税金食い虫の生ポ爺なんだから、国の為にさっさとくたばりやがれってんだ!」

恭史郎「テメェこそ、生ポの爺の家に上がり込んで居候してる寄生虫だろうがああん!な~にが認知症の老人の世話係だ!テメェこそ生命保険に入ってから死にやがれ!!」

倉崎「言いやがったな爺!裏サイトの書き込みでテメェの名前と生活保護の使い道全部バラしちまうぞ!謝るなら今の内だぜぇ!どうすんだよああん!?」

爺さんが隣人の男とどうでも良い喧嘩を始めているうちに、時刻は13時調度になった。

俺「リンク・スタート」

その言葉を発した瞬間、外の五月蠅い口喧嘩は瞬く間に聞こえなくなり、俺の意識は仮想空間に取り込まれていったのだった。既にキャラクターの設定は済ませてあるのですぐにゲームが始められる。



そして、目を開けるとそこは、さっきまで俺がいた自宅アパートの一室ではなく、このソートアート・オンラインの世界の始まりの地『はじまりの街』に立っていた。俺が間違いなく、SAOにログインしたと言う事だ、そしてこのゲームにログインしている間の俺は小田桐弭間ではなく、オズマと言うキャラクターネームのSAOプレイヤーだ。

俺「まずは武器屋に向かうとするか」

ゲーム開始時点の金、このSAOの世界ではコルと呼ぶが、この金だけである程度の武器が買える故の内容が、俺の見たベータテスターのブログに書かれていたのを思い出して、俺はこのはじまりの街の中にある武器屋を探してマップを見ながら移動する。
そんな俺のすぐ横を、まるで迷いの無い走りで突っ走る男のプレイヤーがいた。サービス開始からわずか数分であの迷いの無い動きは間違いなくベータテスターだったんだろう、俺がそう思っていた時だった。

「おーい、そこの兄ちゃ~ん!」

大きな声で、俺の目の前を横切ったプレイヤーを呼び止める声が聞こえてきた。声を掛けられたプレイヤーが足を止めると、すぐに頭にバンダナを付けたプレイヤーが走って追いかけてきた。

「その迷いの無い走り、アンタベータテスト経験者だろ?」

やはり、このプレイヤーも俺と同じように、ベータテスターであることに気が付いたようだった。

「ま、まぁ……」

声を掛けられたプレイヤーが肯定する。

「俺、今日が初めてでさ、序盤のコツ、レクチャーしてくれよ。」

バンダナのプレイヤーに序盤のレクチャーを頼まれたベータテスターは困惑しつつも、『頼むよ』と懇願され、自身のキャラクターネームである『クライン』を名乗るとベータテスターの方も自分の名前『キリト』を名乗って二人は共に行動をし始める。

俺「俺も早く武器揃えて狩り行くか」


それから数時間が経過していた。俺ははじまりの街の辺り一帯で次々と出現するイノシシのような姿をしたレベル1のモンスター、『フレンジーボア』を倒しまくっていた。

俺「食らえっ!」

掛け声と同時に、左足で地面を蹴ると同時に、じゅぎゅーん!と心地良い効果音が鳴り響き、剣の刃が炎の色の軌道を宙に描く。片手剣用の基本技が突進してくるブレンジ―ボアの頭を捉えて命中して、残りのHPを一気に削った。

俺「お、今のでレベルが上がったか」

おそらく、俺にだけ聞こえたのだろう効果音の次の瞬間。俺のレベルが1から2に上がっているのを、視界の左上に常に表示されている自身のHPケージの横の数字で分かる。
ここまでやってみて、だいたいソードスキルの勝手も分かって来た。このSAOでは魔法の概念が殆ど無く、弓矢などの遠距離用の武器も基本的に存在しないため、大抵は接近戦がメインになる。
俺がさっきブレンジ―ボアを仕留めたソードスキルは魔法が存在しないSAOに設定された最大の攻撃システムになる。システムアシストと言うのが攻撃軌道を補正をしてくれるようで、通常の攻撃を大幅に上回る破壊力と攻撃速度を得ることが出来る。しかし、所定の硬直時間と使用間隔が存在ので、むやみやたらと連発すれば良いと言うわけでもないようだ。

俺「この調子で、どんどん狩って、経験値と金を稼ぐとするか」

VRMMORPGの戦闘のコツをつかむのにも序盤の雑魚的との戦闘は持って来いなので、俺は更に次々と現れるイノシシ達を倒し続けた。

そして、気が付けば時刻はそろそろ5時30分になろうとしていた。何度か敵のイノシシの攻撃を受けて既に俺のHPケージが半分近くまで減っていたので、俺は倒したイノシシの一匹がドロップしたポーションをアイテムストレージから選択して使用する。一旦、はじまりの街に戻って宿屋で回復する手もあったが、今から戻って回復するまでの時間が惜しいと感じていたからだ。
ポーションを使用して少し時間経つとHPが回復する。

俺「この調子でもうひと頑張りしてみるか、今日は徹夜決定だな。」

等と俺はこの時独り言でそう言っていたが。俺にとってのアインクラッド―――ソードアート・オンラインの世界が徹夜どころで済まない事になる等とはこの時は思ってなかった。

「あれ、ログアウトボタンってどこだよ?」

少し離れたところで休憩していたプレイヤーがそんな事を言っているのが聞こえた。
俺はそんなわけないだろうと、心の中で思いながら、自分のウィンドウの左上、トップメニューに戻る為のボタンを叩く。
確か、ログアウトボタンは大抵は一番下の方にあるはずなので、俺はその一番下に指を滑らせて―――――指どころか全身の動きを止めた。
無かった。
確かにログアウトボタンがどこにも見当たらなかったのだった。
サービス初日故に発生したバグなのかもしれない、どっちにしろ今頃はGM(ゲームマスター)コールが殺到してる頃だろうな。

俺「ま、どっちみち徹夜するつもりだから良いさ」

きっとその頃には運営もどうにかしてくれるはず、そう前向きに考えて俺はまた狩りの続きをしようとした時だった。




立木ナレ「この瞬間を持って、このソードアート・オンラインの世界のあり様は、大きく様変わりしたのだった!!」

目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

FILE2 オリジナルキャラクター紹介(アインクラッド編)

この記事はオリジナルの登場キャラクターの解説であります。
初期の時点ではオズマとレイナと立木ナレーションだけですがオリジナルキャラクターの更なる登場によって追記されていく可能性もあります。


※ メインキャラクター

オズマ(Ozuma) / 小田桐(おだぎり)弭間(はずま)
声 石川○人
年齢:14歳(SAO初期)
身長:165㎝
体重:48㎏
2008年9月9日生まれ。東京都台東区日本堤在住。
鋭い切れ長の目を持った、灰色の長髪で比較的、男前のイケメンと言える容姿。山谷生まれの山谷育ちで、父子家庭。父と祖父を含めた3人暮らし。
学校には小学校卒業以来一切通っておらず、その当時からPCを使ったMMORPGのRMTや空き缶拾いで小遣い稼ぎをしており、小学校卒業後は気が向いた日に地元の日雇いの労働で金銭を稼ぐ程度の日々。
大雑把でワンパターンなプレイスタイルながらもゲームの実力はずば抜けており、特に空間認識能力や動体視力に優れている。その反面、私生活においては怠惰、自堕落、グータラな遊び人で未成年でありながらゲーム以外の趣味は飲酒、喫煙、博奕、そして女遊び。

SAOでの装備は右手に片手剣。左手は盾の代わりにソードブレイカーを装備するスタイルで防具は主に軽装の革防具。


レイナ(Reina)
声 上坂○みれ
身長:156㎝
体重:45㎏
オズマがアインクラッドの第一層にて出会うNPCヘルパーの少女。薄いピンク色のセミロングヘアと黄色い瞳で外見年齢は14~15歳程度。
オズマをマスターとして登録、認識し、レベルは常にオズマと同じ。
装備は勿論、セクシャルハラスメントコードのON、OFFの切り替えもオズマに委ねられている。一般のNPCには無い、高度なAIを有しており、柔軟な会話の受け答えが可能で学習能力もある。その一方で感情表現には乏しい。
SAOの世界の存在ゆえ、基本的なゲームシステムには精通しており、大雑把で細かい事を気にしないオズマが見落としている事を指摘したり、満足に学校に行っていないが故にオズマが知らない学業関係の知識や社会常識にも詳しい。

SAOでの装備は武器を両手剣、防具を軽金属の鎧。


立木ナレーション
声 立木文○
この物語におけるナレーションを務める謎の声。通称『立木ナレ』
無学なオズマが気が付いていない事、見落としている事を読者にしてくれたり、物語の状況を第三者目線でシビアに、そして不安や興奮を煽るかのように解説する声。
特に特記が無ければ、本作は基本的にオズマの視点で進むのだが、オズマがいない場面などでは、この立木ナレの解説で物語が進む。

元ネタはアニメ版カイジのナレーション。




以下追記


ガチャモン
声 - 雨宮○二子
身長:165㎝
体重:80㎏
年齢:永遠の5歳
モックの相棒で体色は右半分が緑色、左半分が灰色で丸い頭、半開きで眠そうな垂れ眼。口元からは前歯が2本飛び出している。自己紹介の決まり文句は「ガチャガチャモンモン、ガチャモンで~す」。
陽気で人懐っこい振る舞いをしつつも、品性下劣でプレイヤー達の死を嘲笑い、時に残忍なエクストラゲームでプレイヤー同士の殺し合いや争いを誘発して、自らはそれを見て楽しみ、悪趣味なコメントを飛ばし、非難や罵倒を受けても詭弁を並べてまともに聞こうとはしない。


モック
声 - 松田重○
身長:185㎝
体重:110㎏
年齢:永遠の5歳
ガチャモンの相棒で体は毛むくじゃらで体色は右半分が赤色、左半分が灰色で球状の目が飛び出ている。黒目部分は眼球の中に黒い玉が入っている。
性格はのんびり屋で慎重派、「○○であります」「○○ですぞ~」と言った口調で話すが、ガチャモン同様やはり品性下劣で彼と共にプレイヤーの不幸を他人事のように見て楽しみ、皮肉めいた言動を平然と口にする。


ユッチ(yucchi )
声:山○大輝
年齢:13歳(SAO初期)
身長:150㎝
体重:42㎏
第二層でオズマと出会った鍛冶屋による強化詐欺の被害に遭った少年プレイヤー。
黒髪のマッシュルームヘアーで丸顔、男子にしては白い肌の持ち主。
典型的な思春期男子と言った性格で噂や風潮を鵜呑みにしやすく、集団の意見に流され易い。
気弱な性格で泣き易いが、格好を付けたがりでもあり、特にアスナの前で良い所を見せたいばかりに危険なフロアボス戦にも挑もうとしている。
自分の世話をしてくれたオズマに対しては盲目的に慕っているが、ビーターとして悪評で知られているキリトに対してはアスナと一緒にいる事もあり、嫉妬心と敵意を抱いている。

SAOでの武器はダガーで、防具は軽装の革防具。


デクスター(Dexter)
声:増田俊○
年齢:20歳(SAO初期)
身長:177㎝
体重:68㎏
第五層でオズマ達がクエストを遂行中に出会った凄腕の刀使いの青年。
目付きが悪く、引き締まった身体つきで、金髪のオールバック。
見た目のせいで近寄りがたい雰囲気だが、性格は冷静沈着。
慎重な行動を重視している為、フロアボス戦への参加を敢えてしばらくの間見送っていたが、オズマ達と一時的に行動を共にしている最中にキリト・アスナからの接触で第5層フロアボス戦に参戦する事になる。

SAOでの武器は刀で、防具は軽金属のアーマー。


カルロス(Carlos)
声:ラン○ベリー・アーサー
年齢:15歳(SAO初期)
身長:168㎝
体重:56㎏
最前線が40層付近までゲーム攻略が進んだ頃に攻略組に加わった曲刀使いのプレイヤー。
明るい青髪の爽やかな風貌で、見た目通り人当たりが良く、目上の人間に対しては礼儀正しく振舞う。
女性プレイヤーのジュリアとコンビを組んでおり、攻略組ではどこのギルドにも属しない数少ないプレイヤーの一人。
落ち着きのある冷静な性格で、好戦的で攻撃的なジュリアを嗜める役回りが多い。

SAOでの武器は曲刀で、防具は軽金属の鎧。


ジュリア(Julia)
声:鈴木絵○
年齢:15歳(SAO初期)
身長:159㎝
体重:48㎏
カルロスとコンビを組む両手斧使いの女性プレイヤー。
燃えるような赤いポニーテールの長髪でキツイ目つきで、見た目通りカルロスとは対照的に人当たりはきつめ。
好戦的かつ攻撃的な性格で、実力は本物だが、猪突猛進な行動で足元をすくわれたりする事も少なくないが、カルロスに対しての信頼は高い。

SAOでの武器は両手斧で、防具は重金属の鎧。


ディンゴ(Dingo) / 石田 淳平(いしだ じゅんぺい)
声 蒼〇翔太
年齢:14歳(SAO初期)
身長:154㎝(SAO初期)
体重:44㎏(SAO初期)
マネー・サバイバルゲームの参加者でメガネを掛けた小柄な少年。オズマとはサバイバルゲームより以前から面識があり、攻略組のオズマを尊敬していた。
リアルではオズマと同い年で、SAO開始当時の時点で中学2年生の14歳。勉強も運動も落ちこぼれで、趣味としているゲームもお世辞にも上手いとは言えず、学校では周囲からのび太と言うあだ名を付けられて冷笑や侮蔑の対象になっていた。4歳下で難病で療養生活を送る弟の淳太がおり、自身が小学校時代に自分のせいで弟までもが苛められていた事を悔やんでおり、せめて賞金を手にして弟を救う事を望んでたが、ほかの参加者たちが次々と脱落=死んでいく光景を目の当たりにして、戦意を喪失してしまい、オズマに自分の金の延べ棒を渡し、弟を救う事を託した後、オズマの目の前で落下してきたブロックによって死亡した。


ミリー(Milly )
声 南條〇乃
年齢:12歳(SAO初期)
身長:145㎝(SAO初期)
体重:37㎏(SAO初期)
「ラフィン・コフィン」のメンバーで、メンバー最年少の少女。グロテスクなウサギのマスクを被り、斧で首を斬る事を好む事から、「首狩りのミリー」の呼び名を持つ。現実では[残酷ゲーム]を好み、傷害事件を起こした過去を持つ。イケメンの男性を殺すのが好きと公言しており、オズマに強い執着を見せる。
元々殺人行為に憧れを抱いていたこともあって早々にPOHに感化されて、「ラフコフ」に入り、「ラフコフ」結成以前の時期からオズマに目を付けていた。「ラフコフ」討伐戦では聖竜連合のアックスの首を刈り取り、対面したオズマに襲い掛かかり交戦するが敢え無く敗北し、ゲーム終了まで投獄される。



これから先もこの記事はオリジナルキャラの更なる登場によって追記する可能性があります。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

FILE3 はじまりのデスゲーム

突然、リンゴーン、リンゴーンという、鐘のような音、もしくは何かの警告音のような音が鳴り響き、俺は音の方を振り向いた。

俺「一体なんだってんだ……?」

と、俺が呟いた瞬間、俺の身体は鮮やかな青い光の柱に包まれた。この現象は以前にプレイしてきたVRゲームでも似たような経験がある。おそらく『転移(テレポート)』だろう。もっとも、転移する為のアイテムなど使って無いので、運営側の強制移動だろうが、アナウンスも無しにやるのは妙だ。
そして、ほんの一瞬、視界が暗闇に包まれると、次の瞬間にはそこはもう、夕暮れの草原ではなかった。
広大な石畳。周囲を囲む街路樹、そして中世の街並み。正面には巨大な宮殿。

俺「はじまりの街の中央広場に飛ばされたんだな」

そう言いながら周囲を見渡すと、俺以外にも大勢のプレイヤーが集まっており、程度の差はあれ、皆困惑している事から、ほかのプレイヤーも強制移動させられたことが伺える。
ざっと見てその数は1万人近くいる。
数秒間、人々は押し黙り、きょろきょろと周囲を見渡していた。
やがて、ざわざわ……と言う声がそこらじゅうで発生して、その声は一気に上がっていく。
『どうなってるの?』『これでログアウトできるのか?』『早くしてくれよ』等と言う言葉が聞こえてくる。
ざわめきが徐々に苛立ちの声に変っていき、『ふざけんな』『GM(ゲームマスター)でてこい』だとかの喚き声が発生し始めた。
俺としてはこのまま徹夜で狩りを中心にプレイし続ける予定だったので、いきなり勝手に強制転移させられたこと自体が不満であったが。
不意に、それらの声を押しのけて、誰かが叫んだ。

「あっ……上を見ろ!!」

俺は反射的に視線を上に向けた。そして、そこに異様な物を見た。

立木ナレ「それは、百メートル上空、第二層の底を、真紅の市松模様が染め上げていく光景であった。さらに、それは二つの英文が交互にパターン表示されたもの。真っ赤なフォトンで綴られた単語は、【Warning】そして【System Announcement】と読めるのだが」

俺「なんて読むんだ……あれ?」

立木ナレ「オズマは読めなかった!!しかし、それも無理のない話。小学校卒業以来、全く学校に通っていなかったオズマにとってローマ字程度ならわかるが、本格的な英文など一切合切読めるはずがなかったのだった!!」

訳の分からない英単語が交互に表示されたが、俺には全く読めるわけがなかった。しかし、それがなんらかの運営のアナウンスの始まりであることは予想が付いた。
しかし、続いた現象は、俺のそんな予想を完全に裏切るものだった。

立木ナレ「空を埋め尽くす真紅のパターンの中央部分が、まるで巨大な血液の雫のようにどろりと垂れ下がった。高い粘土を感じさせる動いでゆっくりとしたたるが、落下する事は無く、赤い一滴は突如空中でその形を変えた。出現したのは、身長20メートルはあろうかという、真紅のフード付きローブをまとった巨大な人の姿だった!!だが、地上から見上げて深く引き下げられたフードの中を見てみると、そこには顔がない」

俺「あれがGM(ゲームマスター)か?なにもあそこまでデカくする事ないだろうに」

周囲の無数のプレイヤーたちも『あれ、GM?』『何で顔ないの?』とか言う、ささやきがあちこちから沸き起こる。
そんな声を抑えるかのように、不意に巨大なローブの右袖が動いた。
ひらりと広げられた袖口から、純白の手袋が覗いた。しかし、袖と手袋もまた明確に切り離されて、肉体は見えなかった。
1万人のプレイヤーたちの頭上で、顔のない何者かは、良く通る男の声で、遥かな高みから宣言する。

???「プレイヤーの諸君、私の世界へようこそ」

意味不明だった。私の世界だとか言ってる当たり、やっぱりあの赤いローブが運営サイドのゲームマスターだとは思う。
困惑するプレイヤーたちに構わず、何者かの言葉はさらに続く。

茅場「私の名前は茅場晶彦(かやばあきひこ)。今やこの世界をコントロールできる唯一の人間だ」

立木ナレ「茅場晶彦とは、数年前まで数多ある弱小のゲーム開発会社の一つに過ぎなかったアーガスが最大手になるほどにまで成長した原動力となった、若き天才ゲームデザイナーにして量子物理学者である。そして彼は、このSAOの開発ディレクターであると同時に、ナーヴギアその物の基礎設計者でもあったのだった!しかし、オズマは――――」

俺「……誰だっけ?」

立木ナレ「茅場晶彦の事すら、分かっていないのであった!!」

なんとなく、聞き覚えのあるような名前だったが、それがいったい何者かまでは思い出せなかった。確か、ソードアート・オンラインの開発スタッフの中にそんな名前を聞いたような覚えがあるが、そんな事にまるで興味のない俺の記憶には残されていないようだった。
近くの他のプレイヤーが「あの茅場だって!?」「あの天才ゲームデザイナーだよな?」等と言う話が聞こえてきたが、それでも俺には今ひとつピンとこなかった。

茅場「プレイヤー諸君は、既にメインメニューからログアウトボタンが消滅している事に気付いていると思う。しかしゲームの不具合ではない。繰り返す。これは不具合ではなく、『ソードアート・オンライン』本来の仕様である」

俺「これが、本来の仕様だって……」

茅場が堂々と言ってのけたその言葉に、俺は絞り出したような声でそう発していた。そして、滑らかな低音のアナウンスは続く。

茅場「諸君は今後、この城の頂を極めるまで、ゲームから自動的にログアウトすることはできない」

奴の言う、この城がなんなのかは俺は瞬時に、まさかと思い、寒気を感じていた。

茅場「……また、外部の人間による、ナーヴギアの停止あるいは解除もあり得ない。もしそれが試みられた場合―――」

わずかな間。
一万人が息を詰めた、途方もなく重苦しい静寂の中、その言葉はゆっくりと発せられた。

茅場「―――ナーヴギアの信号素子が発する高出力マイクロウェーブが、諸君の脳を破壊し、生命活動を停止させる」

信号素子だとか、高出力マイクロウェーブだとかが、なんなのかは知らないが、つまりだ、要するに、外部の人間が俺たちが被っているナーヴギアを勝手に止めたり、無理に外そうとしたら――――

俺「死ぬって事か?」

俺がそう呟いた時には、集団のあちこちがさざめいていた。だが、叫んだり暴れたりする者はいない。あまりにも突拍子の無い事を言われて、理解が追い付いていないか、理解しようとしていないかだろう。
と言うか、そもそもナーヴギアに人間の脳を破壊するなんて、そんな危険な機能が存在したのか?
もし、本当にそんな危険極まりない機能があるなら、そもそも商品化などされるわけがないはずだと思うが。

立木ナレ「これも、オズマの知るところではないが、ナーヴギアは、ヘルメット内部に埋め込まれた無数の信号素子から微弱な電磁波を発生させ、脳細胞その物を疑似的に感覚信号を与える。まさに、最先端のテクノロジーの賜物と言えるが、原理的にはそれと全く同じ家電製品が、既に40年も前から日本の家庭では使われている。それはすなわち――――電子レンジ!!そう、十分な出力さえあれば、ナーヴギアは、プレイヤーたちの脳細胞中の水分を高速振動させ、摩擦熱によって蒸し焼きにする事が可能である。そして―――ギアの重さの3割はバッテリセル、すなわち、このナーヴギアには可能なのである、人間の脳を蒸し焼きにしてプレイヤーを死に至らしめる事が!!」

ナーヴギアの内部構造など知る由の無い俺が幾ら考えても、詳しい事など分かるはずも無かった。しかし、上空の茅場のアナウンスは続く。

茅場「より具体的には、十分間の外部電源切断、二時間のネットワーク回線切断、ナーヴギア本体のロック解除または分解または破壊の試み――――以上のいずれかの条件によって脳破壊ジークエンスが実行される。この条件は、既に外部世界では当局およびマスコミを通して告知されている。ちなみに現時点で、プレイヤーの家族友人等が警告を無視してナーヴギアの強制除装を試みた例が少なからずあり、その結果」

けたたましく響く金属音の声は、そこで一呼吸入れ。

茅場「―――残念ながら、既に二百十三名のプレイヤーが、アインクラッド及び現実世界からも永久退場している」

どっかで、誰かの悲鳴が上がった。しかし、周囲のプレイヤーの大半は信じられない、または信じないと言うかのように、放心していたり、薄ら笑いを浮かべていた。
俺自身も、この後すぐに『実はドッキリでした~』なんて質の悪い悪戯であることを明かして、なんていう展開になる事を心のどこかで期待していたかもしれない。
だが、既に、二百十三人のプレイヤーが死んだ――――その言葉が頭の中で何度も聞こえてくる気がする。

茅場「諸君が、向こう側に置いてきた肉体の心配をする必要はない。現在、あらゆるテレビ、ラジオ、ネットメディアがこの状況を、多数の死者が出ている事を含め、繰り返し報道している。諸君のナーヴギアが強引に除装される危険は既に低くなっていると言ってよかろう。今後、諸君の現実の身体は、ナーヴギアを装着したまま二時間の回線切断猶予時間の内に病院その他の施設へと搬送され、厳重な介護態勢のもとに置かれるはずだ。諸君には、安心して……ゲーム攻略に励んでほしい」

あっさりと、簡単に茅場は言ってのけた。いよいよ、これが冗談ではない、茅場は本当に俺たちをこのゲームの世界に閉じ込めて、クリアするまでゲーム世界の囚人にするつもりなんだと思わざるを得なくなる。
そして、茅場の、抑制の無い薄い声が、穏やかに告げた。

茅場「しかし、充分に留意してもらいたい。諸君にとって、『ソードアート・オンライン』はすでにただのゲームではない。もう一つの現実と言うべき存在だ。……今後、ゲームに置いて、あらゆる蘇生手段は機能しない。ヒットポイントがゼロになった瞬間、諸君のアバターは永久に消滅し、同時に―――諸君らの脳は、ナーヴギアによって破壊される」

俺「…………」

何も声は出なかった。俺の視界の左上には細い横線が青く輝いている。視線を合わせると、その上に残りのHPと最大HPが数値化されて表示される。
この世界でのヒットポイントは命の残量。
それが0になれば、俺たちは死ぬらしい、脳を破壊されて死に至ると茅場が言った。

茅場「諸君がこのゲームから解放される条件は、たった一つ。先に述べた通り、アインクラッド最上部、第百層まで辿り着き、そこに待つ最終ボスを倒してゲームをクリアすればよい。その瞬間、生き残ったプレイヤー全員が安全にログアウトされることを保証しよう」

1万人のプレイヤーが沈黙した。

俺「この城の頂きを極めるまでってそういう事かよ……」

俺はようやく、茅場がさっき言った言葉の意味に気が付いた。この城と言うのはアインクラッドの事だったのだ。
だが、2カ月間のベータテストでは1000人が参加して、わずか6層までのフロアまでしかクリアされなかったと聞いている。今は1万人がログインしているのだが、その1万人で100層をクリアするのにどのくらいの時間が経つと言うのだろうか。
俺はほんの、5時間か6時間くらい前には自室のアパートでフルダイブ前にタバコで一服して、スーファミをやっている40歳過ぎの父親の姿と、隣人とどうでもいい口喧嘩を繰り広げる見慣れた光景を日常の出来事として眺めていたが、あれが二度と戻ってこないのかもしれないのか?

茅場「それでは、最後に諸君にとってこの世界が唯一の現実であると言う証拠を見せよう。諸君のアイテムストレージに、私からのプレゼントが用意してある。確認してくれたまえ」

その言葉を聞くと同時に、俺を含めた全プレイヤーはメインメニューからアイテム欄のタブを叩いてアイテムストレージを確認すると、一番上のリストにあった。
アイテム名は『手鏡』。
これが一体何なんだと思いながらも、俺はその名前をタップして、オブジェクト化のボタンを選択すると、瞬く間に効果音と同時に小さな四角い鏡が出現した。
その鏡を手に取って覗き込むが、何も起こらない。俺が作り上げたアバターの顔だけだった。

――――が、当然俺の周囲が光に飲み込まれた。その光はほんの数秒で消えて、元のままの風景が現れたと思ったが。俺は周囲を見渡してその異変にすぐに気が付いた。
ついさっきまでと比べて、プレイヤーたちの容姿が明らかに変わっているのだった。
もう一度手鏡を覗き込んでみると、そこに映ったのは、現実のままの俺の本来の素顔だった。
改めて再び周囲を見渡してみると、男女比が明らかに変化していた。性別を偽っていたプレイヤー、すなわち『ネカマ』と言う奴が結構いたようで、見た感じ、男女比は8:2くらいにまで変化していた。
俺は睨み付けるように今度は、上空に視線を向けると、茅場はご丁寧に解説を続けてくれる。

茅場「諸君は今、なぜ、と思っているだろう。なぜ私は――SAO及びナーヴギア開発者の茅場晶彦はこんな事をしたのか?これは大規模なテロなのか?あるいは身代金目的の誘拐事件なのか?と―――私の目的は、そのどちらでもない。それどころか、今の私は、すでに一切の目的も、理由も持たない。なぜなら……この状況こそが、私にとっての最終的な目的だからだ。この世界を創り出し、観賞するためにのみ私はナーヴギアを、SAOを造った、そして今、全ては達成せしめられた」

短い間に続いて、無機質さを取り戻した茅場の声が響いた。

茅場「……以上で『ソードアート・オンライン』正式サービスのチュートリアルを終了する。プレイヤーの諸君の健闘を祈る」

最後の一言を告げて、あっさりと消えていった。
そして、NPCの楽団が演奏する市街地のBGMが近づいてきて、ゲーム本来の姿を取り戻していた。
しかし、すぐにプレイヤー達の声があちこちから湧き上がる。

「嘘だろ…なんだとこれ、嘘だろ!」

「ふざけるなよ!出せ!ここから出せよ!」

「こんなの困る!このあと約束があるのよ!」

「嫌ああ!返して!帰してよおおお!」

立木ナレ「悲鳴。怒号。絶叫。罵声。懇願。そして咆哮!わずか数十分でプレイヤー達は囚人と化したのであった!プレイヤー達は頭を抱えて蹲る者、両手を突き上げ、抱き合う者、あるいは罵り合う者。しかし、そんな中でオズマは冷静さを取り戻し、次にどうするべきかを考えていた」

俺「騒いでる場合かよ……」

俺は騒ぎ、喚き続けるプレイヤー達に毒づいていた。MMORPGは往々にしてプレイヤー同士のリソースの取り合いになり易い。金、アイテム、経験値の源となる狩りの対象のモンスター達。
少なくともはじまりの街の周辺フィールドは真っ先に狩り尽くされて枯渇するだろう、そうなれば、その辺り周辺で再びモンスターが出現するようになるまで時間が掛かり、また他の場所を探す事になる。
俺はマップを確認して、早々に移動を決める。
が、ここで気を付けなければならないのはベータテスターたちの存在だ。奴らは2カ月間のベータテストで少なくとも6層までは既に経験済み、だから安全かつ効率的な狩場やクエストの発生場所や条件を既に熟知している者が多い。
俺もベータテスターのブログを見て、多少の前情報はあるが、そんなのは実際にベータテストを経験した者たちからしてみれば雀の涙程度の情報量に過ぎないだろう。
故に、いち早く行動を開始しないとベータテスターたちに出し抜かれる事になってしまう。出来れば、安全のために何人か連れて行きたいとは思うのだが、それは期待できそうになかった。

「もう冗談は止せ!いつまでこんなのが続くんだ!?」

「そんな……ま、まさ数学の宿題があるのに……」

「だ、誰か何とかしろよ!アイツをもう一度呼んで何とかさせろよ!!」

俺「つくづく救えねぇ奴ら……」

こいつらを連れて、まともなパーティーが組めるとは到底思えない。落ち着くまで待っている余裕も無いと判断した俺は、危険を承知で一人ではじまりの街を出て、小さな山岳地帯にある集落を目指す事にする。

俺「負けたら死ぬ……負けたら何も残らない!!」

立木ナレ「負ければ死!それがこのデスゲームと化したSAOの掟。しかし、それは何もこのデスゲームSAOに限った話ではない。現実の世界においても、負け続ける者達の人生は大抵は悲惨。オズマが生まれ育って14年間を過ごした山谷地区には、社会の荒波、競争社会に敗れ去った者達がひしめく街。オズマは嫌と言うほど見てきた、負け続けた者達の末路を!!――ある者は家族も仕事も失い、失意のうちに無一文同然で山谷に流れ着いた者。人生の再起をギャンブルに託した結果、多額の借金を背負って破産した者。そして長期のホームレス生活の末に、結核を患い息絶えた者、他にも冬場に路上で泥酔の末に凍死した者等々……とにかくオズマは見続けてきたのだ、負け続けて来た者たちの末路を!そして知っている、負け続けることの意味を!」

目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

FILE4 NPC少女からのクエスト



立木ナレ「茅場晶彦の手によって、デスゲームと化した『ソードアート・オンライン』ゲームの囚人と化した1万人のプレイヤー達は突如として己の身に降りかかった、圧倒的な理不尽に悲観する者、激情する者、現実逃避する者などなど、少なくとも、デスゲーム開始宣言当初は多くの者達がはじまりの街で意味も無く、ただひたすら、パニックに狂い、酔いしれていた!そんな中、冷静さを失わなかったプレイヤーの一人、オズマこと、小田桐弭間は、ベータテスター達に出し抜かれることを警戒し、いち早くはじまりの街を旅立ち、小さな山脈地帯の集落を目指して行ったのだった!!そして、恐怖と絶望に満ちたデスゲーム開始から6日が経過した土曜日の事であった」

俺「さて、(コル)も結構溜まって来たな。そろそろ武器の強化も本格的に始める頃合いかもな」

俺は集落の周辺に出現する、モンスター扱いのNPCの野盗を倒して、手持ちの金が着実に増えている事を実感していた。
流石にこの辺り一帯のモンスター達ははじまりの街の周辺に登場するイノシシ達とは一味違い、来たばかりの当初は極力一人で複数を相手にするのを避けるべく。『隠蔽(ハイディング)』のスキルを駆使して、敵から身を隠しつつ、一体だけで行動している敵を確実に仕留めるやり方を取っていたが、6日間である程度レベルが上がった今では、一度に複数体を相手にする事も充分可能だった。

俺「そろそろ、いったん宿で飯食って休むか~」

昼時になったのを確認して、俺は一旦集落の中に入り、集落から歩いて数分程度の宿屋を目指す。このゲームの世界では、別に食事の必要は本来は無く、餓死なんて概念はないのだが、どういうわけか空腹感は感じるので、定期的に食事をとらないといずれ耐え難い、空腹感と言うか、最悪は常に餓死寸前の気分になるのではないかと思って俺は食事はひとまず最低限は取っていた。
何はともあれ、何時ものように宿でNPCの店員に食事を注文すると、物の一分も掛からずに持って来てくれる。

俺「別にこれなら、店員とかいなくても、いきなり飯が出てくるとかでも良い気もするがな」

まぁ、それはおそらく雰囲気づくりって奴なんだろう。茅場でいう所の、この世界が俺たちの取っ手の唯一の現実であることを実感させるための……と、俺たちをゲームの中に閉じ込めた、マッドサイエンティストの事を思い出しても気が滅入るだけなので、気持ちを切り替えて、もう一度狩りに出ようとして、席を立った時だった。
その見慣れない少女はいつの間にか俺のすぐ後ろのテーブル席に座っていた。

俺「何時の間にこんな奴が?」

取りあえずNPCである事は確かであった。薄いピンク色の髪の毛をセミロングにして、黄色い瞳をした、美少女と呼べるNPCだった。
NPCとは言え、こんな容姿であれば否応でもそれなりに目立ちそうなのに、この集落に来てから一度達とも見覚えが無い。
そして、そのNPCの頭の上には!マークがあるので、それはクエストNPCだと言う事だ。

俺「ちょっといいか?」

ひとまず、そんな感じで声を掛けてみると。NPCは無表情のまま俺の方に目を向けてゆっくりと、小さな声で喋りだす。

NPC「……私に、装備を持って来てくれれば、貴方の力になれるかもしれない」

それは、装備の強化とかでもしてくれるのだろうかと勝手に思っていると、目の前にメッセージウィンドウが表示される。ウィンドウにはこのように表記されていた。

クエストを受けますか?
『「グレートソード」と「スティールメイル」を各一個届ける事』

俺「やっぱり、クエストNPCだったのか」

もしかしたら、曜日や時間帯に応じて限定的に出現するクエストNPCだったのかもしれない。どんな報酬が貰えるかは分からないが、少なくともスティールメイルの方ははじまりの街にあるNPCの防具店で売っていたのを俺は覚えていた。

俺「問題はグレートソードって方だよな、どこにも売ってなかったぞ」

グレートソードは両手持ちの両手剣のようだが、はじまりの街のNPCの店にあった武器店で見た両手剣にグレートソードは無かったはずだ。とは言え、このクエストもここで逃せば、誰かに、主にベータテスターなどに先を越されて当分俺が受けられなくなってしまうので、取りあえず俺は『受ける』を選択しておいた。

NPC「……私はここで待ってるから、揃えたら持って来て」

俺「出来れば付いてきてくれると助かるんだけどな……」

なんて事をNPC相手に言っても仕方ないので、俺は駆け足で宿屋を出て、ほぼ一週間ぶりとなるはじまりの街に戻る事にしたのだった。
集落から出てすぐに出現するモンスター扱いのNPCの野盗をソードスキルの『デーモンファング』で瞬殺する。
このソードスキルは剣を振る事で衝撃波を発生させるソードスキルだった。熟練度がまだ低いので、衝撃波の飛距離はせいぜい1メートルにすら満たないが、ほぼ近接戦闘メインのこのSAOでは、数少ない遠距離用のソードスキルだ。


6日前に進んだ道を、そのままひたすら引き返すように走り続けて、俺はようやくはじまりの街に戻って来た。

俺「やっぱり、イノシシ共が殆ど出てこなかったな……」

当然と言うべきか、はじまりの街周辺は徹底的に狩り尽くされ続けているようで、はじまりの街の辺り一帯には、ひとまず街の近くで地道にレベル上げと金稼ぎに勤しむプレイヤー達が何人もいた。奴らが獲物を取り合う形になって、枯渇したのだろう。
ともかく、俺は街に入って、真っ先にNPCの防具店に向かった。
相変わらず街の中に残っているプレイヤーは未だに多いようだが、その多くが未だにこの現実を受け入れ切ってないのか、虚ろな表情をしていたり、地べたに座り込んで呆けていたりする者も珍しくなかった。

俺「あった、スティールメイルだな」

防具店でお目当ての品をあっさりと発見して購入した俺。今の手持ちの(コル)からして見れば、何の問題にもならない出費だった。

俺「さて、問題はグレートソードだが、誰か持ってる奴が売ってくれるなんて都合の良い事になってくれればいいのにな……」

はじまりの街のNPC店で売っていないとすれば他の街に売っているのか、もしくはモンスターを倒した際にドロップできるのか、いずれにせよ第一層のNPCからのクエストだから、第一層で入手する手段があるのだとは思う。

俺「やっぱり情報が欲しいな……」

俺は忌々しさを感じながら、そう口にしていた。きっとベータテスター達ならその辺りの事も大抵は把握しているのかもしれない。俺が見たベータテスターのブログにはそこまでの細かい事までは書かれていない。
どうにかして入手方法を発見しなければならないがどうする……と、俺が防具屋のすぐ隣の道具屋に視線を向けると、妙な薄い本があった。その本にはこう書かれている。

俺「『大丈夫、アルゴの攻略本だよ。』ってファミ通のパロディか?」

元ネタはともかく、この本はアルゴと言う元ベータテスターのプレイヤーが、自分がベータテスターであることを公言した後に、ここに置いて、無料配布しているようだった。
殊勝なベータテスターもほんの少しはいるもんだなと俺は思いながら、俺はこの攻略本に期待し、一冊手に取って早速見てみると。その本にはロアボスの情報からおススメの食い物だとか、確かに色々な情報が書かれているようだった。そして、俺が求めている両手剣の情報も見つかった。

俺「やっぱり、売ってないんだな第一層には」

攻略本の情報によると、両手剣グレートソードは第一層においてはモンスターからドロップする以外に入手する手段がないらしい。
そして、そのモンスターは今の所俺が行った事のない『ホルンカ』と言う村の周辺に出現するモンスターがたまにドロップすると言う。

俺「問題は、そのホルンカの村一帯がどうなってるかだよな……」

ホルンカは比較的、はじまりの街から近い村なので、一部のプレイヤー達が既にそこに拠点を移して狩場にしていたとしたら、既に狩り尽くされてグレートソードをドロップするモンスター事態が中々出現しないかもしれない。

「あ~あ、露店に期待してたが、流石にまだ結晶アイテムは少ないか~」
「仕方ないだろ、結晶アイテムは希少品なんだからよ」

その言葉を聞いた俺はすぐにその二人のプレイヤーに露店の事やその場所を聞いてみた。すると、2人は言うには、このはじまりの街では茅場のデスゲーム開始宣言から数日後辺りから、一部のプレイヤー達が商売の為に露店が開けるエリアで商売をしていると言う。
俺は話を聞かせてくれたプレイヤー達に礼を言ってから、教えてもらった露店エリアに向かった。
すると、そこには確かに数人程度のプレイヤーが露店を開いてアイテム等の売買をやっていた。

俺「おお、なんか泥棒市を思い出すな……」

俺は自分の地元、山谷で毎朝、早朝の時間にやっている露店、通称『泥棒市』を思い浮かべていた。
今思えば、俺がナーヴギアを買ったのも泥棒市だった。露店を開いているおっさんが定価の半額と言う格安で売っているのを見て、あの日、俺はなけなしの金を叩いて買ったんだったな。
あり得ない安さと、状態の良さから、どこかから盗んできた物だって事はすぐに分かったが、それを承知の上で俺はあの日、ナーヴギアを買ったんだった。そして、今に至るわけだが……過去の事はともかく、この露店でグレートソードを売っている商人がいないか確認しなくてはならない。

俺「誰か、両手剣のグレートソードを売ってる人いないか?ホルンカって言う村の周辺のモンスターがたまにドロップするらしいだが」

露店を開いている商人たちに聞こえるくらいの声で、聞いてみると、商人たちは一斉にこちらを振り向いたが、すぐに皆、「悪いけど、無いね」「他を当ってくれ」「前まではあったんだけどね~」と言われてしまった。
さて、どうしたもんかと考え込んでいた時にそれは、女の商人の声だった。

女商人「そう言えば、アタシの知り合いの槍使いのプレイヤーが確かドロップして、売り手を探してたと思うわ」

それは、俺にとって願ったりの話だった。そう言ってきた、女商人のプレイヤーは茶髪で顔に少しそばかすがある、俺と同年代と思わしきプレイヤーだった。

俺「そいつに連絡とれるか?」

女商人「ええ、フレンド登録してるから、今からメッセージ送るわね」

女商人はウィンドメニューを開いて、フレンドリストからプレイヤーの名前を選択してメッセージウィンドウを開いていた。
俺はまだ誰ともフレンド登録していないが、この女商人は既にこの6日間で結構な数のプレイヤーとフレンド登録をしているようだ、商人ゆえかもしれないが。

女商人「返事が来たわよ」

俺「なんて言ってる?」

女商人「今はなんかパーティーメンバーと他の街で狩りに行ってるからすぐには勝手に抜けられないから、夜になったら来れるって言ってるわ」

俺「夜か……結構待つ事になるが、売ってくれるって言うなら待つよ」

女商人「はい、了解。それと値段はこれだけね」

と言って、女商人が俺に自分のメッセージウィンドウを見せてくる、そこには相手の槍使いだと言うプレイヤーが要求している売値が書かれていた。

俺「武器屋で売ってる両手剣の倍以上の値段だぞ……」

女商人「それはま~、仕方ないわよね。第一層じゃドロップする以外で手に入らない武器だし、アタシへの仲介手数料も含まれてますからね」

女商人は歯を見せて、ニヤッと笑って見せた。

俺「ちゃっかりとしてやがるな商人さんは」

女商人「子供の頃からお店を経営したいって思ってたくらいなんだから、これくらいは当然よ、それでどうするの?」

仕方ないので、俺はその金を払う事を約束して、槍使いが持っているグレートソードを買う事にした。
槍使いがグレートソードを持って来てくれるのは夜になるが、それまでどうするか、はじまりの街の一帯はモンスターが枯渇していてまともに狩りが出来そうにないしな。

女商人「アンタさ、今暇ある?」

女商人がいきなり、不躾にそんな事を聞いてくる。まぁ、確かに何をしようかと考えていたところだった。

俺「暇だったらどうなるんだ?」

女商人「ちょっとね、バイトでも頼もうかと思ってたのよ、アンタ、中々腕が立ちそうじゃないのよ。それに、ちゃんと報酬は弾むわよ」

女商人は得意気な表情で言いながら、アイテムストレージからアイテムを選択してそれをオブジェクト化した。
そのアイテムは八面柱型の宝石のような形をしていて、その姿を見て俺は思わず―――

俺「まさか、『結晶アイテム』か?」

女商人「せいか~い。これは売り物じゃないけどね、アタシのバイトを受けてくれるって言うのなら報酬としてあげるわよ」

結晶アイテムの内容を俺は調べてみる。この結晶アイテムは『記録結晶』と言い、使用回数に制限はあるが音声の録音、再生が出来るようだった。
今一つ、使いどころがあるかどうか分からないが、その場合は誰かに売って金に換えると言う手段もある。

俺「バイトの内容を教えてくれ。大方、モンスターを退治してドロップするアイテムとか、そんなところだろ?」

女商人「あら、よく分かったわね」

それは、この女商人がさっき、俺に対して腕が立ちそうだとか言った事でだいたい察しが付いていた。
自分のレベルでは危険の大きいフィールドで出現するモンスターがドロップするアイテムを求めていると言う事だ。

女商人「このリストに書かれてる、ドロップアイテムを手に入れてきて頂戴。アンタならなんとかなるでしょ?」

そう言いながら、リストを俺に手渡す。どのモンスターを倒せばドロップできるかは、さっきのアルトと言うベータテスターの攻略本に書かれているだろう。

俺「なんとかなる、じゃなくって、何とかして見せるさ」

リズベット「頼むわよ、それとアタシはリズベットよ。今度ともごひいきにね」

俺「俺はオズマだよ」

俺とリズベットは、連絡を取り合う為にフレンド登録をして、俺はリストに掛かれたドロップアイテムを入手するために、再びはじまりの街から出発したのだった。

目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

FILE5 最悪のマスコットキャラクター



夜の10時を過ぎていた。露店をやっていたプレイヤーのリズベットにグレートソードの仕入れを頼み、そのリズベットからモンスタードロップアイテムの収集を頼まれた俺は、アルゴと言う、ベータテスターが作った攻略本を頼りに、ドロップアイテムを集め続けていた。
そして、リズベットの言っていた通り、その日の夜の6時を過ぎた頃に、リズベットからメッセージが届き、『グレートソードを仕入れたので取りに来て欲しい』と連絡を受けた。
その時の俺はまだ、リズベットから頼まれたドロップアイテムを一つだけ手に入れてなかったので、『ドロップアイテムをあと一つ手に入れてからそっちに戻る』と返した。
そして、リズベットから指定した宿屋で俺は頼まれていたドロップアイテムとグレートソードの代金を渡し。
リズベットからはグレートソードとバイトの報酬である結晶アイテムの『記録結晶』を受け取って別れた。

俺「結局、今日は一日中あちこち走り回ったな……」

後は山脈地帯の集落に現れたクエストNPCにグレートソードとスティールメイルを渡すだけだったが、今日ははじまりの街で休んでから、明日届ける事にした。
そして、宿屋で部屋を取って布団に入ったところで。
俺がこの一週間堪え続けてきた我慢がいよいよ爆発しそうになっているのを感じた。それは――――

俺「タバコ吸いてぇ……酒飲みてぇ……」

この一週間、俺が一切我慢していたタバコと酒だった。現実世界では父親から制限されているとはいえ、毎日タバコは3本まで、酒も1本(350ml)までやっていたのだが、このSAOの世界にとらわれてからは一切口にしてない。
一応、手に入らないわけではない。このSAOの世界にも嗜好品として道具屋や雑貨屋などでタバコや酒は購入可能なのは確かだ。
だが、俺は耐えた。HPが0になれば死と言うこのデスゲームが始まってまだ一週間足らず。
生存率を高めるためにこれからのアイテム代や装備代など、色々と蓄えが必要になるので俺は少なくとも、第一層が攻略されるまでは飲酒も喫煙も断つことを決めていた。賭け事の類にも今の所は手を出していない。

立木ナレ「そもそも本来、未成年であるオズマが普段から飲酒、喫煙の習慣があること自体間違っているのだが、教育や躾とは無縁の家庭に育ったオズマにとってそんな当たり前は無意味であった!!そして、オズマにはもう一つ、耐え続けている欲求があった。それは――――」

俺「そろそろ女も抱きたいな……」

立木ナレ「性欲であった!!オズマは現実の世界においては性欲を満たす事にそれ程困ってはいなかった。もともと顔立ち自体は男前のイケメンの部類なので、オズマは普段から、自分と年齢の近い、それも貞操観念の薄い、いわゆる簡単にやらせてくれる少女達を何人かキープして性的な関係を築いていた!!」

俺「けど、ここじゃ、それもどうにも上手く行きそうにないな……」

俺は思わず口に出して言っていた。このSAOの世界においては男女の比率がまず違う。はじまりの街で、手鏡の効果でアバターがリアルの容姿になった時に周囲を見渡した限りだと。だいたい、男が8割近くで、女は精々2割そこそこってところだった。

俺「あの中にいったい何人くらいいるんだよ、俺と同年代で簡単にやらせてくれるような女が……」

無論、年が近くて簡単にやらせてくれるならだれでも良いわけじゃない。相手のルックスにも少なくとも平均以上であることは俺は望んでいる。
今日、グレートソードの取り寄せやバイトの件で取引してフレンド登録したリズベットも同年代で容姿もそれなりだったが、話した限り、どうにも俺が今まで関係を持ってきた尻軽な女たちとは違うだろうし。

俺「ったく、こんな禁欲生活が何時まで続くんだろうな……」

立木ナレ「オズマ、終わりの見えぬ禁欲生活への不安を抱えたまま就寝!!」


………

……



次の日の朝、つまり丁度SAOの世界に閉じ込められてから一週間目の日曜日だった。俺は目を覚ますとメッセージが届いている事に気が付いた。
フレンド登録をしているのはリズベットだけなので、最初はリズベットだけかと思ったら、送り主は不明でメッセージの内容はこうだった。

『突然だけど、お知らせ~^v^ 今日の9時から皆とのご挨拶もかねて全プレイヤーをゲストエリアに案内しちゃいま~す( ^)o(^ ) 時間になったら強制ワープするからそのつもりでよろしくね~』

俺「……なんだよ、これ?」

訳の分からぬ送り主不明のメッセージに不安を感じながらも俺は宿の食堂で軽い朝食を注文する。
早速食べようとすると俺に1人のプレイヤーが声を掛けてきた。

リズベット「ハムサンドとゆで卵だなんて、質素な食生活してるわねアンタ」

俺「俺が何を食おうが勝手だろ。朝から訳の分からないメッセージ送り付けられて迷惑してるんだよ」

リズベットだった。当人からは別にリズでも良いと言われているから、そろそろその呼び方でも良いかと思っていた俺にリズは

リズ「ああ、アンタもあのメッセージ貰ったのね、なんだったのあれ?」

俺「そっか、全プレイヤーをゲストエリアに呼ぶとか言ってたから、やっぱりあのメッセージは全プレイヤーに届いてたんだな」

リズ「ホント、分けわかんないわよ。こっちの都合とかもお構いなしにいきなり9時に呼び出しとかって――――」

俺はしばらくリズの愚痴に付き合った。
食事を終えてからしばらくは適当にはじまりの街をぶらぶらとして、あっと言う間に朝の9時になった時だった。

俺「!?」

周囲が一瞬で真っ白な光に包まれると、俺の視界は真っ暗になり、気が付くと、周囲には他の大勢のプレイヤー共々、まるで子供の部屋をイメージしたようなだたっぴろい場所にいた。
メッセージに予め予告されていたとはいえ、皆この異常事態に困惑しているのが伺える。
喧騒が絶えない中、俺たちを呼び出したと思わしき者の達の黒い二人分のシルエットがステージの上に突如出現する。
プレイヤー達の視線を集める中、黒いシルエットの二人は一瞬にしてその姿を現す。

ガチャモン「ど~も~、皆初めまして~、ガチャガチャモンモン、ガチャモンで~す」

モック「私、ガチャモンの相棒のモックですぞ~、どうか皆さん、お見知りおきお願いしますぞ~」

俺「…………」

誰もが呆気に取られていた。
姿を現したのはガチャモンと名乗る右半分が緑色、左半分が灰色で丸い頭、半開きで眠そうな垂れ眼。口元からは前歯が2本飛び出した、まるで着ぐるみのようなアバターだった、そしてもう一体の方はモックと名乗り、体は毛むくじゃらで右半分が赤色、左半分が灰色で球状の目が飛び出ていて、黒目部分は眼球の中に黒い玉と言った感じの、やはり着ぐるみのようなアバターだった。
二人とも手にマイクを握っており、まるで司会者気取りのような感じだった。

俺「こんな連中が俺らを呼び出したのかよ……」

まるで訳が分からなかった。場違いに緊張感のない、二人の着ぐるみの出現にプレイヤー達が呆然としている中でそいつらは一方的に話を始める。

ガチャモン「あれあれ~?もしかして皆緊張しちゃってるのかな?憧れのアイドルを前にして何を話したら良いのか分からなくなっちゃってるドルオタみたいだよ~」

モック「仕方ありませんですな~、人間とは往々にして自分とは違うものを恐れる生き物ですからな~」

などと、まるで場違いな会話を繰り返すガチャモンとモック。
すると、ようやく一人のプレイヤーが半ば、怒鳴り付けるような声を発する。

「お、お前ら!お前ら一体何なんだ!?あの茅場って奴の仲間なのか!?」

その言葉を機に、多くのプレイヤー達が次々とガチャモンとモックに対して質問攻めが始まる。

「何時になったらここから出してくれるのよ!もう一週間も経ってるじゃない!」

「現実世界にある俺たちの身体はどうなってるんだ!?ちゃんと無事なんだろうな!!」

「政府や警察は何してる!俺たちはこれからどうなるんだ!?」

ガチャモン&モック「…………」

絶え間なく続く質問に対してガチャモンもモックもさっきまで勝手にしゃべっていたのとは打って変わって黙り込む。
そんな態度が余計に、喚き散らしている連中の怒りに火を注ぎ、怒号に変わる。

「何とか言えよおい!!こんな事してどうなるか分かってんのか!?」

「アンタたちは何者なのよ!?アタシ達と同じフルダイブしてる人間なら、何とかしなさいよ!」

「ふざけんな畜生!もう一週間も大学を休んでるんだぞ俺は!!このままだと留年しちまうよ!!」

一人、2人と騒ぎ始めると、それは瞬く間に伝染する。プレイヤー達の罵声、怒号、奇声が絶える事無く、ガチャモンとモックに集中砲火する。

ガチャモン「Fuck you……」

俺「は?」

何かの英語なのだろうが、その意味は俺には理解できない。いや、それよりも、ガチャモンは表情も声も全く変化していないにも関わらず、今の台詞には妙な威圧感と言うか、得体の知れなさを感じ、すぐにそれは明確になった。

ガチャモン「ぶち殺すぞ……ゴミめら!!」

ガチャモンのその一言を前に、プレイヤー達が一斉に沈黙した。さっきまで喚き散らしていた者達が、たったその一言によって黙らされたのだった。
だが、それも無理もない気がする。相変わらず表情に変化はないが、今の奴の言葉は明らかに俺たちに対する脅し、威圧、殺意すら感じられたからだ。
呆気なく押し黙らされたプレイヤー達に対して、ガチャモンの話は続く。

ガチャモン「さっきから聞いてれば、「茅場の仲間なのか」だとか「何時になったら出られるのか」だとか「現実世界の肉体はどうなってる」だとか、そんな話がしたいと言うのなら幾らでもしてやる、だが―――その話を僕がしてやったとして、それが嘘か誠か、それを確かめる術はお前らにはない!!」

誰も何も言えない。さっきまでのおちゃらけた様子から一転して、圧倒的な迫力と威圧感のガチャモンに誰もが何も言い返せずに黙り込んだままだった。

ガチャモン「そんな事も理解せず、理解しようともせず、何時までも悲観し、嘆き、現実逃避に等しい戯言ばかり言ってやがるからお前たちは……このアインクラッドの最下層を這って這って、這い続けてるんだろうが!!」

ガチャモンは俺たちに対して怒鳴り散らすように言い放った。奴の言っている事は詭弁、暴論だと分かっているのにもかかわらず、誰もが言い返せない。

ガチャモン「お前たちが今成すべきことは勝つ事、そう勝つことだ。勝って、このソードアート・オンラインを第百層までクリアして、生還する事だ!!お前たちは勝たなければゴミだ!!」

モック「ちょっ……あ、あのガチャモ~ン」

と、そこでモックが狼狽え気味にガチャモンに声を掛ける。

モック「私たち、この世界では癒し要員的なマスコットキャラクターですから、きゃ、キャラに気を付けなくては~……」

ガチャモン「…………あ!!」

まるで急に何か思いだしたかのように、ガチャモンはいきなりすっきょんとんな声をあげたのだった。

ガチャモン「いや~、僕としたことがうっかり。もうすっかり自分のキャラを忘れちゃってたよ~」

モック「ダメじゃないですかガチャモ~ン。おかげで皆さんすっかり怖がっちゃってるじゃないですか~」

今頃になって、おちゃらけたやり取りに戻るガチャモンとモックだったが、さっきまでの威圧的かつ脅威的な態度を見せられた直後で誰も今更、奴らをマスコットキャラなどと認識できるはずも無かった。

ガチャモン「うう~、ごめんね皆~。このソードアート・オンラインの事は嫌いになっても、僕の事は嫌いにならないでね~」

まるで一昔前のアイドルが引退した時に言ったような言葉を言うが(元ネタと逆だが)、相変わらずプレイヤー達は沈黙したままだった。

モック「大丈夫ですぞガチャモン!私は貴方の事が大好きでありますぞ~!当然、皆も貴方の事が好きなんです!だから元気出してくださいガチャモ~ン!!」

ガチャモン「あ、ありがとうモック!ありがとう皆~!」

俺たちの目の前で熱い?抱擁を交わす、ガチャモンとモック。一体俺たちはさっきから何を見せられているんだろうかと、ウンザリしてきた頃だった。

「いい加減にしやがれ!!」

と、恐怖を堪えたような叫び声と同時に、ガチャモンに向けて石が投げつけられた。今のは『投擲』スキルって奴だろう。

ガチャモン「痛いな~、今、石を投げつけた悪い子は誰なの~?」

「俺だよ!お前らいい加減にしやがれ!」

ガチャモンに対して、怒りを露にしてハンマーを持って前に出たのは大柄な男のプレイヤーだった。

ガチャモン「コラ―――!!人に向かって石を投げちゃいけないって教わったでしょうが!社会経験をちゃんと積んだのか君は!?」

モック「ま~、このソードアート・オンラインの世界は10代とか20代とかの若者が大多数ですからね~、社会経験に関しては不足している事は確かですな~」

「黙れ黙れ黙れ――――――!!殺す!よく分からねぇがテメェらが茅場の仲間だって言うなら、この場でぶち殺す!!」

激昂するプレイヤーはハンマーを振り上げたままガチャモンとモックに向かって突進する。

モック「殺すですって、あんなこと言っちゃってますけど、どうしますかガチャモン?」

ガチャモン「嫌いじゃないよ、血気盛んな若者は僕は嫌いじゃないよ。だけど、僕達に対して攻撃しちゃったプレイヤーには、残念だけどルールに乗っ取って罰ゲームが必要だね~」

またしても、俺たちはガチャモンから背筋が凍るような威圧感を感じた。プレイヤーの中の誰かがハンマー使いに対して『おい、よせ!』と叫んだが、ハンマー使いは聞き入れず、ガチャモンをハンマーで殴り付けようとした瞬間だった。

ガチャモン「はい、いってらしゃ~い」

俺たちの目の前でハンマー使いのプレイヤーは消えた。一体どこに行ってしまったのだろうと思っていると、今度は上空に巨大なモニターが出現した。
モニターに映し出されている映像にはさっき飛ばされたハンマー使いが映っており、突然の事に当然慌てている様子だった。

モック「はい、皆さん注目して下さい!さっき消された彼が今いるばしょは、なんとなんと、第90層のフロアボスの部屋ですぞ~」

なんだと!?第90層のフロアボスの部屋?俺たちが今いる第一層よりもはるか上に登場するフロアボスの部屋にたったの一人で放り込まれてしまったらアイツは……

ガチャモン「そしてあれが、90層のフロアボスの『ブレイドルーラー』だよ~」

ハンマー使いの前に現れたのは巨大な剣を左右の手にそれぞれ一本ずつ装備した機械とも馬とも見える巨大なモンスターだった。

モック「さぁ!レベル1のプレイヤーのギッシュさんVS90層ボスモンスターのブレイドルーラーの対決です!果たして勝つのは一体どちらか―――――」

ギッシュ「うわぁ――――――!!」

言うまでもなく、ブレイドルーラーの剣の一振りで、呆気なくハンマー使いのプレイヤーは瞬殺されたのだった。

モック「あ、あらま~……あ、あっという間でしたな~」

当然だ、レベル1のプレイヤーが一人で90層のフロアボスとどう戦ったって負けるに決まっている。

少女「ひ、酷いです……」

俺の傍にいた12歳程度の年少の少女のプレイヤーが目から涙を零して、震えている。他のプレイヤー達も多くが、無残な仕打ちに慄いてるようだった。

ガチャモン「と言うわけだからさ、つまらない死に方をしたくなかったら……僕たちを倒そうなんて思わない方が良いよ~」

またしても、プレイヤー達の間に背筋が凍るような恐怖感が場を支配した。俺たちはどうやってもコイツに勝てない?下手に手を出したりしたら、あのハンマー使いのような目に遭う。

ガチャモン「それじゃ、最後に僕からのプレゼントで~す。アイテムストレージを確認してみてね~」

と、言われて俺たちは一斉にアイテムストレージを確認すると、一番上に『ガチャパット』と言うアイテムが追加されており、オブジェクト化されると、それはそのまんま単なるタブレットだったが、裏面はガチャモンの腹立たしい絵柄一色だった。

ガチャモン「これからは、僕からのメッセージはガチャパットを通して送られるからね、それと時々面白い動画とかも配信しちゃうから、皆楽しみにしててね、それじゃまったね~」

と、場違いに明るい挨拶をしてから、ガチャモンは俺たちの目の前で消えた。

モック「いやはや、皆さんへのプレゼントまでガチャパットなんて名前とは~、私なんだかガチャモンのバーター見たいですな~、西村さんとか、たかしさんとか、コンビの目立たない方は何時も辛いですな~。それでは皆さんは元の場所に戻ってもらいますね、私の事もよろしくお願いしますね~」

モックがそう言った瞬間、目の前を白い光が包み、数秒後には俺たちは、奴らのエリアに飛ばされる前にいた、はじまりの街の一角に戻っていた。
周りを見渡すと他のプレイヤー達も元居た場所に戻されていたようで、当たりを皆でキョロキョロとしていたのだった。

立木ナレ「自らをマスコットキャラと名乗るガチャモンとモックの出現によってプレイヤー達は改めて自覚させられる。ここが死のゲームの舞台であったことを!!」



今回登場した、ガチャモンとモックの元ネタは言うまでもなく、子供向け番組のあのキャラクターです・・・・・・


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

FILE6 オズマVSレイナ

立木ナレ「デスゲーム、ソードアート・オンラインが開始された、丁度一週間後の朝。プレイヤー達の前に現れたのはガチャモンとモックと名乗る、自称SAOのマスコットキャラクター達だった。その着ぐるみのようなアバターと普段のコミカルな態度とは裏腹に、彼らは自分たちに攻撃を加えたプレイヤーに対して容赦の無い制裁を科し、死に至らしめたのだった!」

俺「じっとしてても仕方ねぇか」

俺とて、あの訳の分からぬ出来事を体験したばかりで、完全に平静を取り戻してるわけじゃないが、昨日NPCから受けたクエストに必要な『グレートソード』と『スティールメイル』は揃ったので、すぐにはじまりの街を出発して山脈地帯の集落に戻ったのだった。
道中、出現するMOB(モンスター)を倒しながらも、俺はさっさとクエストを達成させたく、隠蔽(バイティング)のスキルで避けられる戦闘は極力避けながら走り続けて、集落に戻った。
集落の宿屋に入ると、昨日クエストを受けた、セミロングの薄いピンク色の髪で、黄色い瞳が目を惹く少女のNPCは昨日と全く同じ位置に座っていた。

俺「ほら、ご所望の装備だぞ」

そう話し掛けながら俺はグレートソードとスティールメイルをオブジェクト化させて、渡す。
すると、それまで貧しい田舎娘を思わせる服装をしていたそのNPCにスティールメイルが装着されて、細いその腕で両手剣を持ち上げる。

NPC「……それじゃあ、私の挑戦を受けてくれるかしら?貴方が勝ったら、私は貴方に仕えるわ」

俺「何だって?」

と、目の前にテキストウィンドウが表示される。

『NPCヘルパーの『Reina』とのバトルに勝てば、『Reina』のマスターになる事が出来ます。YESを選択すればバトルフィールドに転移し、バトル開始となります。一度バトルが始まった場合、中断は不可能です。NOを選択すればクエストは破棄されます』

俺「NPCヘルパーだって?」

ベータテストのときには聞いたことのない言葉だった。事実アルゴが作った攻略本にもそんな事は書かれていない。
だが、確か製品版では一定の条件を満たす事でNPCのキャラクターを仲間にしてパーティーやギルドに咥える事が出来ると聞いたことがある。
この目の前の少女のNPCがそうなんだろう。もしそうだとしたら、ここで仲間にすれば俺にとってSAO最初の仲間になり貴重な戦力になる……だが、問題もある。

俺「一度バトルを始めたら、中断不可能か」

HPが0になれば現実世界で死を迎えるこのデスゲームで、一度始めたバトルを中断できないと言う事は、勝てばこの目の前のNPCを仲間にできるが、負ければ絶対に死ぬ、かなりリスキーな勝負になる。
だが、ここでこいつを逃したら、他のプレイヤーに取られてしまうだろう。

Reina「…………」

相変わらず、無表情で無言のまま、整った顔立ちで静止している。

俺「負ければ死ぬが、勝てばこの先の生存率を大幅に高められるはずだよな」

何よりNPCヘルパー故、プレイヤーのパーティーメンバーのように意見が対立したり裏切られたりのリスクが無いと言うのは最大の利点と言える。
ここまで考えて俺は覚悟を決める。

俺「じゃ、案内してもらうとしますか。バトルフィールドとやらに」

YESを選択した途端、視界が一瞬真っ暗になり、数秒後にはまるで中世のコロシアムのような場所に俺は立っていた。
そして、目の前には両手剣を構えて、スティールメイルに身を包んだNPC。

目の前にカウントダウンの数字が表示される。

5……4……3……2……1……GO!

俺「行くぞ!」

俺はバトル開始と同時に一気に踏み込んで、剣をまっすぐ相手に突く。大振りの両手剣は片手剣に比べてリーチも攻撃力も高いが、大振りなので隙が出来やすいので俺は速攻で一撃を決めようとする。

NPC「!?」

狙い通り、唐突な初撃は相手にとっても想定外だったようで避ける事も防御する事も出来ずに、肩に俺の片手剣を突き刺されていた。
が、ただの突きではHPを大きく削る事は出来ない、相手のNPCもすぐに後ろに飛ぶように後退して両手剣を構えると同時に。

俺「―――!!」

刀身を当てる前進から三連続の突き、これはソードスキルだ!!やはり相手もNPCとは言え、プレイヤーと同じように武器を持って戦うタイプ故にソードスキルを使えるようだ。
怒涛の三連続の突きに対して一発目は何とか態勢を大きく崩して回避できたが、二発目と三発目はそうはいかずに、連続でダメージを受ける。
片手剣よりも攻撃力の高い両手剣の突きを連続で食らった事でHPは一気に半分ほどまで削られてしまった。

俺「ったく……随分と優秀なAIでも持ってるみたいだな……普通の格闘ゲームだとしたら最初からCPUレベルMAXだな」

冗談でも、皮肉でもなく本当に目の前のNPCは強かった。ステータスが云々以前にバトル開始早々に俺の不意打ちに近い速攻の初撃を食らいつつも、動じる事無く、すぐに態勢を立て直して一気にソードスキルを躊躇なく発動して反撃に転じるその戦術は、そこんじょそこらのプレイヤーじゃそうそう真似出来るもんじゃない。

俺「だが、ソードスキル発動後は一瞬硬直するのもそっちも同じなんだな!」

動きが一時的に止まっているNPCに対して俺はこのチャンスを逃すまいと今度はこっちからソードスキルを発動させてもらう事にする。

俺「これでどんだけ削れるだろうな!?」

ソードスキルの『ソードレイン』は連続の突きを放つ技だ。一撃の威力こそソードスキルにしては低いが、全てヒットすればその総合ダメージは大振りの大技にも勝る。だが、途中で相手の硬直が解除されたようで、すぐに守りを固められて、未だに相手のNPCのHPは辛うじて半分を割り込んだ程度だった。

俺とNPCは互いに相手を見据えたまま、その場から動かない。どう攻め込むべきか、相手も図りかねているんだろう。
俺もむやみやたらなソードスキルで倒せる相手だとは思っていない。だが、俺にとって戦略的に策を練って戦うよりも、分かりやすく単調な戦い方、ようするにごり押しの方が遥かに向いているわけで……なのでやる事はすぐに決まった。

NPC「!?」

その場から軽い助走と同時にジャンプして、斬りかかる。だが、一瞬相手のNPCも焦ったかのような素振りを見せるが、すぐに避け切れる攻撃と判断して後ろにジャンプして後退する。
俺の攻撃は避けられたが、この程度の距離であれば当たると期待して俺はソードスキルの『デーモンファング』を発動する。
俺の片手剣から衝撃波が発生して少し離れたところまで放たれる。相変わらず飛距離は1メートルにも満たないが、どうにか衝撃波が後ろに後退したNPCに直撃する。

俺「くそ……ギリギリ残ったか」

だが、威力は高くないので、直撃してもHPを削り切れずに相手のNPCのHPケージはレッドゾーンになりつつも、僅かに残ってしまった。
そして、ソードスキル発動後の硬直の俺に向かって即座に今度は向こうが地を蹴って、こちらに飛び込んでくると同時にソードスキルが発動する!

俺「ぐっ!!」

硬直の解除が僅かに間に合わず、交差斬りを食らってしまい、俺のHPもレッドゾーンの手前位まで減少する。
俺は即座に反撃に転じようとしたが、交差斬りを食らった勢いで、大きく突き飛ばされてしまい、相手の硬直を逃してしまう事になった。

俺「や、やべぇぞ!!」

俺が起き上がる前に、硬直が解除された相手のNPCが今度は向こうが地を蹴って、高くジャンプして斬りかかって来る。
あれをまともに食らえばお終いだ!俺は左手の盾代わりに装備しているソードブレイカーを構えて、ギリギリで両手剣の斬撃を止めていた。

俺「さ、流石に両手剣に耐えるのはキツイか……?」

ソードブレイカーの耐久地がグングンと減っていくのが分かる。ソードブレイカーは盾に比べて軽く、いざと言うときのサブ武器として扱う事も出来るのだが、防御性能そのものは盾に比べて劣る。

俺「はぁっ!!」

NPC「……!?」

渾身の力で両手剣を受け続ける左手のソードブレイカーを払いのけて、NPCが両手で持っていた両手剣も振り落とされる。
すると、俺のソードブレイカーは流石に耐久地が限界になったようで、ガラスのように砕け散って消えた。当然予備のソードブレイカーを装備し直す余裕は無い。
相手のNPCが両手剣を落とした僅かなチャンスを逃すわけにはいかない!!俺は丸腰状態のNPCに向かって、両手剣を拾う前に斬りかかるのだった。

俺「やったか……」

相手のNPCのHPが0になった瞬間。目の前にテキストウィンドウが出現して、俺の勝利を伝えてくれた。
一応、この戦いでも経験値は獲得できるようだった。
すると、すぐに俺とNPCのHPがその場で全回復する。

NPC「……貴方が勝ったから、私は貴方をマスター登録するわね」

俺「ああ、ソードブレイカー一本ぶっ壊したが、これで俺に手を貸してもらえるわけだな?」

NPCは無言のまま首を縦に振ると。目の前のテキストウィンドウには、
『NPCヘルパーの「Reina」のマスターになりました』と表示される。早速だがコイツに聞く事は色々と聞かなくちゃならない事があるが、俺が真っ先に聞くことは決まっている。

俺「名前を教えてくれないか?」

NPC「……戦う前と、ついさっきも私の名前なら表示されたはずだけど?」

俺「英語が読めないんだよ俺は」

NPC「……そう」

相変わらず無表情であったが、俺の無知さに呆れてないだろうか?

レイナ「……私の名前はレイナよ」

俺「レイナね、ああ、ローマ字読みで良かったんだな……NPCヘルパーってのは具体的にどんなのなんだ?少なくともベータ版にはなかったんだよな?」

レイナは首を小さく縦に振ってから説明を始める。

レイナ「……そうよ、製品版で実装されたのが私達NPCヘルパーよ。NPCヘルパーは今のように、クエストを達成してくれたプレイヤーと1対1の勝負して、プレイヤーが勝てば、そのプレイヤーと行動を共にして、戦闘などの行為をサポートするわ。無論、マスターが命令すれば別行動も出来るし、やれる範囲内で戦闘以外の事でも力を貸すわ」

成程、ようするに扱いとしてはプレイヤーに限りなく近いが、マスターの言う事を聞いてくれる有難い存在なわけだ。

俺「ステータスを確認させて貰って良いか?」

レイナ「私のステータスなら、マスターである貴方なら自由に確認できるし、装備の変更も貴方が決められるわ」

俺「お、本当だな」

レイナをターゲティングすると、確かに『ステータス確認』の項目が俺の目に表示されるので見てみる。
装備は俺がさっきクエストで渡したグレートソードとスティールメイルでレベルは俺と同じだが、スキルスロットには何も登録されておらず、能力値の振り分けもされてない状態だった。

レイナ「……私にどんなスキルを覚えさせるか、能力値の振り分けも貴方次第よ、両手剣使いが気に食わないなら他の武器を持たせることもできる」

俺「まぁ、それはおいおい決めるとするか。んでもって、お前ってNPCにしちゃ、随分と柔軟な会話が出来るんだな」

普通のNPCはプログラムに組み込まれた行動や言動しか出来ないので、プレイヤー側がゲームに全く関係の無い、私的な会話をしてきたとしても基本は無反応か、話のかみ合わない返事をするくらいだと言うのに。

レイナ「……私にはAIが組み込まれてるわ」

俺「だろうな」

それも飛びっきり高性能なAIが組み込まれてるに違いない。あの天才、もといマッドサイエンティストの茅場ならこれくらいはやってのけても不思議じゃないがな。
などと、考えながらレイナのステータスを見ているうちにある事に気が付く。

俺「あ、レベルは俺と同じになってるけど、経験値が表示されてないぞ、獲得経験値も次のレベルアップに必要な経験値も、書かれてないみたいだな」

レイナ「……NPCヘルパーのレベルはマスターと同一になるわ。貴方のレベルが上がれば、私のレベルも上がる」

他にもまだまだ聞きたいことがある、俺は今度はさっきレイナが言った事から薄々思っていたことを聞いてみる事にする。

俺「お前はさっき俺の質問、…NPCヘルパーってのは具体定期にどんなのなんだ?に対して、私達NPCヘルパーって言い方をしたよな?」

レイナはまた、首を小さく縦に振る。

俺「私達って事は、お前以外にもNPCヘルパーはいるって事なんだな?」

レイナ「……そうよ」

レイナは俺の考えを肯定して認める。

レイナ「……私以外に後何人、どこにどんなのがいるかまでは私にも分からないけど。プレイヤー一人に付き、NPCヘルパーは1人までだから、他のNPCヘルパーのマスターになりたくなったら、私との契約を破棄しなくちゃいけないわ。その場合、契約を破棄された私は消えるけど」

レイナは相変わらず表情を全く変える事無く、淡々とそう言った。

俺「お前もHPが0になったら消えるんだな」

レイナ「……ええ、それとマスターである貴方が死んだ場合にも私は消えるわ」

あらかた聞きたいことは聞いたが、俺には最後のあと一つ……どうにか聞きたいことがあった。
意を決して俺はそれを聞く!

俺「んで……その~、戦闘以外の事でも言われた事は出来る限りやってくれるって言ってたが~」

レイナ「……出来る限りはやるわ」

俺はレイナの端正な整った顔を見据えながら踏み込んでみる。

俺「ハラスメント防止コードって知ってるよな?お前にも設定されてるのか?」

レイナ「……ハラスメント防止コードは、プレイヤーによるハラスメント行為を防止するためのシステムで異性のプレイヤーやNPCに不適切な接触行為を一定時間繰り返すと警告と共に電気ショックめいた反発力が生まれ、それでもやめない場合は第1層の「はじまりの街」黒鉄宮にある牢獄エリアに強制転移させられるわ。一応、私にも設定されて今はONにされてるけど、それも貴方次第でOFFにする事は可能だわ」

俺が知らない事まで、レイナは詳しく詳細に説明する。が、レイナは今確かに行った!俺が次第でレイナのハラスメント防止コードをOFFに出来てしまうと……

俺「俺がその、お前の防止コードをOFFにしたうえで、お前に……色々しても怒らないか?」

レイナ「……別に構わない。貴方が私の身体を触っても、私に性行為をしてきても、私は別に一切構わないわ」

俺「本当か!?」

レイナ「……本当よ」

俺は嬉しさの余り思わず、声を出して確認した。それでもレイナは相変わらず、抑揚のない声で肯定した。
これで、一週間も耐えてきた、欲望の一つを俺はようやく解消する事が出来ると思うと、夜になるのが急に待ち遠しくなってきたな。

レイナ「……それと、これは私のマスターになったプレイヤーにのみ与えられるアイテム『ダークスカイ・コート』よ。防具として装備できるわ」

高揚する気持ちを抑えて、俺は取りあえず落ち着いて、レイナから渡された防具『ダークスカイ・コート』を装備すると、一瞬にして灰色のコートが俺の身を包んだ。

レイナ「……じゃあ、質問が終わったなら、元の宿屋に転移するわね」

俺「ああ、今日は朝から意味の分からん連中の出現でウンザリしてたが、お前に会ったのはSAO始まって以来の最高の出会いだったな」

レイナ「……そう」

立木ナレ「こうしてオズマ!NPCプレイヤーのレイナを仲間にする事に成功した!戦闘面で貢献してもらえることが有難いのは言うまでもないが、オズマにとって最大の旨味は、美少女と言い切れる容姿のレイナのその肢体を思うがままにする事が出来ると言う事実だった!そしてその夜、オズマ、NPCヘルパーの少女で溜まりに溜まった欲望を発散!!」

目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

FILE7 オリジナルキャラクター紹介+SAO事件から一週間後の現実世界

ガチャモン
声 - 雨宮○二子
身長:165㎝
体重:80㎏
年齢:永遠の5歳
モックの相棒で体色は右半分が緑色、左半分が灰色で丸い頭、半開きで眠そうな垂れ眼。口元からは前歯が2本飛び出している。自己紹介の決まり文句は「ガチャガチャモンモン、ガチャモンで~す」。
陽気で人懐っこい振る舞いをしつつも、品性下劣でプレイヤー達の死を嘲笑い、時に残忍なエクストラゲームでプレイヤー同士の殺し合いや争いを誘発して、自らはそれを見て楽しみ、悪趣味なコメントを飛ばし、非難や罵倒を受けても詭弁を並べてまともに聞こうとはしない。


モック
声 - 松田重○
身長:185㎝
体重:110㎏
年齢:永遠の5歳
ガチャモンの相棒で体は毛むくじゃらで体色は右半分が赤色、左半分が灰色で球状の目が飛び出ている。黒目部分は眼球の中に黒い玉が入っている。
性格はのんびり屋で慎重派、「○○であります」「○○ですぞ~」と言った口調で話すが、ガチャモン同様やはり品性下劣で彼と共にプレイヤーの不幸を他人事のように見て楽しみ、皮肉めいた言動を平然と口にする。


………

……



立木ナレ「オズマがNPCヘルパーの少女、レイナのマスターとなり、内心では夜の相手をさせる事に舞い上がっていた頃、現実世界ではSAOプレイヤー1万人がログアウト出来なくなる事件から一週間が経過した今尚も、連日連夜の報道合戦が続いていた!TVも、ラジオも、新聞も、ネットも、ありとあらゆるメディアが壮絶なSAO事件の報道合戦に明け暮れ、そしてついに、SAO事件の被害者家族に対する取材が過熱し始めていた!!」

記者「これからお送りしますVTRは我々が取材したSAO事件の被害者遺族……あ、失礼しました!被害者家族のインタビューに対する返事です。なお、プライバシー保護のために名前と顔は伏せさせていただきますのでご理解のほどをよろしくお願いします」


被害者の妹(中学生)
『あんなのが……ナーブギアなんかがあるからお兄ちゃんが!!なんで茅場って言う人はお兄ちゃんをこんな目に遭わせるの!?お兄ちゃんを返してよ!!』



被害者の妻(飲食店経営)
『結婚して、お店も初めて、これからだって言う時なのにまさか私の夫がこんな事になるなんて……だけど泣いていられません、夫が帰ってくるまで私がお店を守らなくちゃいけないんですから』



被害者の母(大学教授)
『冗談じゃありませんよ、娘は受験を控えてるって言うのに、おかしなゲームのせいで人生を棒に振るかもしれないなんて……運営会社のアーガスはどうしてくれるつもりなんでしょうね』



被害者の祖父(生活保護受給者)
『ああん?俺の許可なしにカメラ向けるんじゃねぇよ馬鹿垂れ!俺に取材したかったら先払いで謝礼出しやがれってんだボケが!マスコミの取材受けたら、謝礼貰えるのなんて当たり前だろうが、あーん!!』



記者「……はい、少々お見苦しい部分もございましたが、我々が取材に成功した被害者家族のインタビューでした」



今回紹介したオリジナルキャラクターはFILE2にも追記します。

そして皆さんは誰がどの人物の家族か分かりますか?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

FILE8 強請る者と強請られる者

立木ナレ「デスゲーム、ソードアート・オンラインが始まってから既に一カ月近くが経とうとしていた。未だにプレイヤー達は第一層すらクリアする事は出来ず、死者の数は日を追う毎に増え続けて、既にこの僅か一カ月で、1万人のSAOプレイヤーの内の2000人近くがその命をこの世界で散らしていたのだった!!」

「ま、待ってくれよ!幾らなんでもそこまで持ってくなんて酷くないか!?」
「そうだよ!これだけ溜めるのにどれだけ苦労したか分からないのかよ!!」

ここは迷宮区最寄りの街『トールバーナ』のNPCが経営するレストランの片隅。俺とレイナは向かいの席に座っている二人のプレイヤーにそんな事を言われていた。

俺「あんまりデカい声出すなよ。こんなところでこの会話を不特定多数の連中に知られて困るのは、どっちかと言うとあんた達の方だろ?」

「うぅ……」

俺が指を指して、そう注意すると二人とも歯を食いしばりながら押し黙った。そして、絞り出したような小さな声で、二人は懇願してくる。

「お、お願いだよ……俺たちがベータテスターだって事はばらさないでくれよ、頼むから」

「アンタだって知ってるだろ?周囲の他のプレイヤーにベータテスターだって確定されることがいかに危険か?」

俺「そりゃ、嫌でも知ってるさ。あんた達ベータテスターは、9割を占める一般プレイヤー達にとって一カ月間で死んだ2千人の責任があると思われてるんだからな」

レイナ「……ばれたら、貴方達の命が危ない」

そう、俺とレイナの目の前にいるこの二人のプレイヤーはどちらもベータテスターなのだ。俺は自分のスキル『隠蔽(ハイディング)』で、こいつ等に身を潜めて近づき奴らの会話を盗み聞ぎする。他にも俺は『聞き耳(ストレイニング)』も駆使して、従来では利き難い宿屋の部屋の中の声などを聞くことができる。
そして、奴らがベータテスターであることを決定づける証拠になる会話を、リズベットからバイト代としてもらった『記録結晶』を使って録音。そのベータテスターであると言う証拠を当人たちに突き付けて、金やアイテムを要求する一種の強請りを始めていた。

俺「だから、どんなアイテムも金だって命には代えられないだろ?それにここで金とアイテムをあらかた吐き出したとしても、あんた達がベータテスト時代に養った知識までは奪えない、今まで通りその知識を生かしてまた金やアイテムは溜めればいい。俺もそこまでは干渉しないさ」

「……ほ、本当に要求された金とアイテムを渡せばもう、俺たちに関わらないのか?」

俺「ああ、記録結晶に録音したあんた達がベータテスターだって証拠になる会話もここで消してやるさ」

二人のベータテスターは憎たらしそうな表情で俺とレイナを睨むが、結局、ベータテスターであることを晒されることを恐れて、持っている金の9割と、アイテムストレージにあるアイテムの中から俺が要求したアイテムを全て献上する事に同意して、俺もその見返りに記録結晶に録音された会話をちゃんと二人の目の前で消してやることにした。
二人のベータテスターはそれを確認したら、即座に立ち上がってこちらを睨み付けてから去って行った。

俺「最初はこの記録結晶なんて何に使えば良いんだと思ったが、我ながら上手い使い方を思いついたぜ、『隠蔽』や『聞き耳』のスキルを使って奴らがベータテスターだって証拠になる会話を録音してそれで強請れるんだからな」

レイナ「……ベータテスター達からは憎まれる稼ぎ方ね」

レイナは相変わらず仲間になってからも、無表情のままこんな感じに一言二言の言葉を口にする程度だった。

俺「プレイヤー全体の9割を占める一般プレイヤーに憎まれるのは流石にやばいが、1割しかいないベータテスターに憎まれるくらい別に大した事は無いだろ。そもそも憎まれてるのは奴らベータテスターの方なんだ」

事実、ベータテスターの連中はこの一カ月、ベータテスター時代の経験や知識を生かして、安全な狩場や割の良いクエストを率先して独占して、自己強化や金儲けに邁進していたのは確かだ。

俺「あいつらだって後ろめたいからベータテスターだって知られるのを恐れてるんだ。仮に俺がベータテスター達を強請ってる事が誰かに知られたとしても、むしろ非難されるのはそれを告発したベータテスターの方さ」

そう言いながら俺は立ち上がる、今日も迷宮区の中で狩りをする為だ、レイナがNPCヘルパーとして俺とパーティーを組み、一緒に戦闘をしてくれるおかげで、以前に比べて戦闘での危険性は大分下がったおかげでもある。

俺「んじゃ、今日も狩れるだけ狩るぞ、ついでに出来たらベータテスターの割り出しもな」

レイナ「……分かった」

今の所ベータテスター達の殆どは、さっきの連中のようにベータテスター同士の少数パーティーでつるんでいるか、ソロプレイをしているかのどちらかだ。一般のプレイヤーと組みながらだと、ベータテスター時代の知識や経験を隠しながらになってしまい、そうなると必然的にベータテスター時代の知識も経験も宝の持ち腐れになってしまうからだ。

………

……



レベル6も亜人型モンスター、『ルインコボルト・トルーパー』達の群れを俺たちは倒していた。
奴らが振り回す手斧はリーチは長くないが一撃の威力は高めなので避けられるうちは確実に避けた方が良い。
レイナは手斧よりも大幅にリーチに優れる両手剣の長所を生かし、コボルトが接近してきたところを、ソードスキル『裂破衝(れっぱしょう)』による、交差斬りで返り討ちにする。
レイナがソードスキル発動後の硬直によって動けなくなったところに他のコボルトが接近してくるので俺はそいつらを通常の攻撃でダメージを与えて足止めする。この場合仕留めきれずとも、取りあえずレイナが攻撃を受けないようにすればいいのだ。
そこに更にもう一体のコボルトまでやってくるので、そいつには俺のソードスキルの『ヘルソード』をお見舞いする、これはその場で一回転ジャンプと同時に目の前の敵を頭上から斬りつける威力重視のソードスキルだ。
そして、弱った二体のコボルトを相手に今度はレイナが『ストームソード』を発動、風をまとったような回転斬りは攻撃範囲が非常に広く、二体のコボルトをまとめて一掃する事に成功した。

俺「やっぱり、2人になると今までできなかった戦い方も出来るよな。ソードスキル後のお互いの硬直のカバーとかはまさにパーティープレイって感じだ」

レイナ「……オズマ、武器の耐久値に気を付けて」

言われて見てみると、確かに俺がメインで使っている片手剣の『フェザーブレード+5』の耐久値は残り30パーセント程になっていた。派手にソードスキルを使っていたせいか耐久値の減りも早いようだった。

立木ナレ「ちなみに、このSAOに於ける武器強化システムは、比較的単純。強化パラメーターとして『鋭さ(Sharpness)』『速さ(Quickness)』『正確さ(Accuracy)』『重さ(Heaviness)』『丈夫さ(Durability)』の五種類があり、NPCやプレイヤーの鍛冶職人に依頼する事で任意の性能強化を試みる事が出来る、また強化率が高ければ高い程、成功率が下がり、今オズマが使っているフェザーブレード+5は(3S2Q)の状態だった」

取りあえず、俺とレイナはもうしばらく狩りを続けて、コボルトの出現頻度が落ち着いたのを頃合いに一旦、トールバーナの街に戻る事にする。

レイナ「……オズマ、他のプレイヤーを発見したわ」

俺「そりゃいるだろ、迷宮区なんだから他にもボス攻略目指してる奴とかな」

俺はレイナが仲間になったその日に空きっぱなしのスキルスロットにいくつかのスキルを習得させておいた。
その内の一つが『索敵(サーチング)』スキルでプレイヤーやモンスターなどを識別することができ、熟練度次第で《隠蔽》スキルを使用しているプレイヤーなどを見破ることも出来る。
レイナはその索敵スキルを使って、プレイヤーを発見したようだが、ここで他のプレイヤーなんて別に珍しくもなんともないのだが。

レイナ「……ソロプレイヤーだわ」

俺「ソロだと?」

ソロプレイヤーだと聞いて、俺はレイナが見ている方に目を向ける。こんな迷宮区にソロで来ている奴がいるとすれば、そいつはベータテスターである可能性が高い。だとしたら残りの使用回数が2回の記録結晶を使った強請のターゲットになりうるので無視はできない。

レイナ「……けど、ベータテスターじゃないと思う」

俺「え、なんでだ?」

レイナはあっさりとそのソロプレイヤーがベータ―ではないと言い切った。

レイナ「……あのレイピア使い、剣さばき自体は速い……だけど、さっきからオーバーキルが多すぎるのよ」

オーバーキルはモンスターの残りHP残量に対して、与えるダメージが過剰と言う意味だ。

レイナ「……一度目のリニア―でもう殆ど瀕死だった相手に態々ソードスキルを叩き込むなんて無駄な事を何度もやってる。HPケージがレッドゾーンにまで減ってるのなら、ボス相手とかじゃない限り通常の軽い攻撃で十分なのに」

俺「それは、確かにベータテスターにしちゃ素人すぎる戦い方だな。と言うかそもそもMMORPGの経験もロクに無い奴にも思えるぞ」

オーバーキルによってシステム的なデメリットや不具合が発生するわけじゃないが、ハッキリ言って非効率だ。ソードスキルは集中力を使うし、連発してればメンタル的な消耗する。

俺「どっちにしろベータテスターじゃないんなら強請のターゲットにはなり得ない、俺たちは俺たちで街に戻って休憩して武器修理だな」

レイナ「……分かった」

立木ナレ「こうして、オズマとレイナはこの日の狩りを切り上げて、迷宮区付近の街のトールバーナに戻った。今現在、この街を拠点にしているプレイヤーの多くは、生き残っている8千人余りのプレイヤー達の中でも最上級レベルのプレイヤー達、HPが0になる事=死を意味するデスゲームにおいて、率先してゲームクリアを目指す者たちであった!!」

アルゴ「おお~、オー君にレーたんか。今まで迷宮区で狩りしてたのかナ~」

俺「情報屋さんなら、聞くまでもなく分かってるだろうが」

街に入ってから、最初に馴れ馴れしい、語尾に特徴的な鼻音が被る甲高い声で話しかけてきたのは情報屋の通称『鼠のアルゴ』だった。
メーキャップアイテムを使っているらしく、動物の髭を模した三本線が描き込まれている。
このSAOで千人のベータテスターの一人だが、その中では珍しく、自分がベータテスターであることを早々に公言して、攻略本まで配布した殊勝な奴でもある。

アルゴ「ま~、こんなところにまで来る連中なんテ、大抵はゲームクリアの為なら危険も顧みなイ、生粋の命知らずな奴だらけだからナ」

俺「そう言うお前もな、こうやって俺と話してる間にも金になる話を探ってやがるんだよな?」

なにせ、聞いた話じゃ5分話すと100コル分のネタを抜かれるなんて言われてる奴だ。

アルゴ「おっと、残念だけどおねーさんはこれから他の男と会わなくちゃならないんでネ。残念だけどオー君とはここまでなんだナ」

俺「誰がおねーさんだよ」

年齢不詳のアルゴだが、俺やレイナに対してはやたらとおねーさんを自称してくる。

アルゴ「オー君とだいたい同年代位の男の子にお呼ばれしちゃっててネ」

「誤解されるような言い方は止せよ、呼んだのはそっちだろ」

と、そこにアルゴが会う相手らしい、確かに俺と同年代と思わしき黒髪の男が現れた。背は俺よりも明らかに低く、160㎝あるかどうかも疑わしい小柄で、中世的な顔立ちをしていた。

アルゴ「にひひ、キー坊。ちゃんとおねーさんとの待ち合わせの時間を守ったナ、偉いぞ~」

キー坊「褒めてくれるならその分、情報料を安くしてもらいたいもんだな」

キー坊などと呼ばれたその少年は苦笑しながらそう言い返した。

アルゴ「と、言うわけだからオー君にレーたん。おねーさんはこれからこの、キー坊とお茶しに行くから、興味本位で付いてきちゃダメだからナ」

俺「別に好きなように付き合えばいいさ、この世界なら親の目だとか、世間の目だとか面倒しがらみなんざ気にする必要はない。現実世界じゃ出来ない事を思う存分やったって、誰も何も文句は言わねぇさ」

俺が冗談でそう言うと、キー坊と呼ばれている男は少し動揺した表情で、

キー坊「待て待て、変な誤解するなよ。アルゴとは情報の交換とか商談の話とかをするだけだからな」

と、どこまで本気だか知らないが誤解を解こうとしていた。

アルゴ「ほんじゃ、近くの宿屋で良いナ。エスコートはしっかりと頼むぞキー坊」

キー坊「そのキー坊って何とかならないのかよ?」

奴もアルゴに妙なあだ名を付けられてしまい、困惑してるようだった。

キー坊「普通にキリトって呼べばいいだろ」

アルゴ「細かいこと言うナ。キー坊なんてお姉さんから見れば、キー坊で充分なんだからな」

俺「……キリトだと?」

レイナ「……オズマ?」

俺はその名前を覚えていた、あれはSAOがデスゲームだと知る前。と言うか、サービス開始直後だった、確か俺のすぐ近くで悪趣味なバンダナを付けた『クライン』と名乗る男にレクチャーを頼まれて引き受けたベータテスターの男だ。
あの時とはまるで見た目が違うが、確かクラインとの会話でそいつが名乗った名前がキリト……つまり、アイツはベータテスターだ!!

俺「レイナ、獲物(ベータテスター)を見つけた。索敵スキルを頼む」

レイナ「……分かった」

立木ナレ「オズマ、思わぬところで、思わぬ形で、思わぬ偶然でSAO初日で名前だけを知ったベータテスター、キリトを見つける。果たしてオズマはキリトを捕らえられるか!!」

目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

FILE9 オズマ、義賊を自称する!

立木ナレ「強請り!オズマは自身の『隠蔽』スキルと『聞き耳』スキル、そしてレイナの『索敵』スキルと、更にリズベットから貰った記録結晶を使った会話録音でベータテスターと目を付けた者達から、その証拠となる会話を録音、当事者たちに突き付けて強請る事によって、金やアイテムを得ていた!!そんなオズマとレイナの前に現れたのは、オズマと同年代と思わしき少年キリト。オズマはSAOがデスゲームであることを知る前にその名前を聞いていた、そして、そのキリトがベータテスターである事を覚えていたのだった!!」

キリトとアルゴは俺たちと別れて宿屋の一室に入ったようだった。商談とか情報の交換だとか言っていたから極力人に聞かれないようにしているんだろう。

レイナ「……二人はあの部屋にいる。あの部屋だけが、人影が二人分だけ見えるから、あの部屋でほぼ間違いないわ」

レイナは索敵スキルを使って、キリトとアルゴがいると思わしき部屋を指さす。

俺「それじゃ、今度は俺の『聞き耳』スキルと、この記録結晶を使う番だな。お前は少し離れたところで待ってろよ」

レイナ「……分かった」

レイナは軽く頷きながら、そう言った。ひとまず、俺とレイナもいったん宿屋に入る。レイナが教えてくれた部屋に近づくと『聞き耳(ストレイニング)』を使って、キリトとアルゴの会話を聞きながら、記録結晶での記録を開始する。このアイテムは使用者が聞いている音声や声をそのまま録音するアイテムだから、俺が聞き耳スキルで聞いた会話も記録できる。
問題は俺の聞き耳スキルがまだ熟練度があまり高くないので、部屋の中から聞こえる会話がノイズ交じりである事だが、これくらいならまぁ、録音するに支障は無いだろう。

キリト「それで、今日もこいつを買い取りたいって言うのか?」

アルゴ「ああ、キー坊の『アニールブレード+6』を今度は34,000コルで買うってヨ」

どうやら、キリトの武器である片手剣の売買の話をしてるようだ。確か、アニールブレードはクエストで手に入る、重い、攻撃力重視の片手剣だったはずだ。それを+6まで鍛えたのなら、確かに高値で取引できるだろう。
にしても、アルゴの言い方、まるで自分が欲しいわけじゃなくて、誰かに買い取りを頼まれているかのような言い方だな。

キリト「俺の武器に高い値を付けてくれるのはありがたいけどさ、やっぱりその値段でも売れないからそう伝えておいてくれ」

アルゴ「ま~、オレッチもキー坊がそう言うのはなんとなく分かってたけどナ。キー坊が嫌だって言うなら、そう伝えておくよ」

あっさりと商談は破談に終わったようだった。まぁ、アルゴは誰かの代わりで買い取ろうとしていただけなので、その分、NOと言われれば簡単に引き下がるんだろうな。

キリト「それじゃ、今度はこっちから相談だ。ここ数日俺は迷宮区を探索してるが、ボス部屋が見つからない」

アルゴ「ま~、迷宮区は複雑だからナ。そうそう簡単には見つからなくても無理ないダロ」

それは俺も同じだ、俺とレイナも何日も狩りをしつつ、迷宮区の探索もしているが、未だにボス部屋らしき部屋は見つかっていない。

キリト「アルゴ、分かってるんだろ。お互いにさ」

アルゴ「にゃはは、キー坊の言いたいことは分かるんだナ、違うって言いたいんダロ?」

キリト「ああ、微妙に違ってるんだよ、迷宮区の内容が……そして、ボス部屋の場所も変わってるんだ、ベータ版の時と」

俺は心の中でやったぜ!とガッツボーズをしながら叫んだ。今確かにキリトの口からハッキリとその言葉が出た、『迷宮区の内容、ボス部屋の場所がベータ版の時と微妙に違っている』この言葉はキリトがベータテスターであることを証明できる決定的な証拠になる。
一体あのキリトからはどれだけの金とアイテムと取れるだろうか?少なくとも奴の持っているアニールブレード+6は俺が武器として使っても使えるし、売ったら売ったで高値で売れる事が期待できる。
ひとまずさっきまで記録結晶で聞いていた会話を保存する。これでこの記録結晶の残りの使用回数は後1回となった。
後はキリトに声を掛けて、この記録結晶で録音した会話を聞かせて、強請るだけだ。俺はそのままキリトとアルゴの部屋の前からいったん立ち去ろうとした時だった。

キリト「ある程度は予想してたけどな、俺以外のベータテスターでも見つけられない……誰だそこにいるの!?」

アルゴ「ん?誰かいるのカ?」

っち!どうやら索敵スキルでも使って、俺が部屋の前にいる事に気が付いたみたいだな。だが、一歩遅い、既に証拠は掴んでるんだ。俺はレイナを手招きすると、レイナは無言のままこちらに駆け寄って来る。

キリト「俺に用なのか、アルゴに用なのかは知らないが、話があるなら入って来いよ」

俺「じゃ、早速今度は俺からの商談だ」

宿屋の中にいる連中にわざと聞こえるように言いながら、俺は部屋の中に入る。

キリト「お前ら、さっきあるアルゴと一緒にいた二人か……」

アルゴ「おお~、オー君にレーたんだったのかヨ。おねーさんとキー坊が何してるのか気になって盗み聞きしてたな~」

警戒心を見せているキリトと、相変わらず飄々とした態度のアルゴ。

俺「まぁ、お二人の話の内容が気になったのは確かだよ。ベータテスター同士で何の話をするのか、一般プレイヤーからして見たら興味津々なんでね」

キリト「俺がベータテスターだって言いたいのか?」

レイナ「……これを聞いて」

流石にキリトもあっさりと動揺したりしてボロを出すようなことはしない、ごまかせる可能性がある限りは誤魔化し切るようなので、こちらもはっきりとした証拠を見せる。さっき記録結晶で録音したキリトとアルゴの会話の内容だ。

『ああ、微妙に違ってるんだよ、迷宮区の内容が……そして、ボス部屋の場所も変わってるんだ、ベータ版の時と』

俺「どうだ?これでもまだ自分がベータテスターじゃないって言い張れるか?」

アルゴ「あちゃ~、やられちゃったねキー坊。まさかオー君が聞き耳スキルと記録結晶を使ってベータテスターの証拠を取るなんてネ~」

アルゴ自身もベータテスターだが、アルゴはデスゲーム開始早々に自信がベータテスターであることを公言しているので、この手で強請られる事は無いので、楽しそうな振舞でいられるが、キリトの方はそうは言ってられまい。

キリト「どうして、俺がベータテスターだって分かった?」

当然、そんな事を聞かれるのは分かってた。これくらいは答えておいても何の問題も無さそうだな。

俺「このSAOの正式サービスが始まったばかりの時に、クラインって悪趣味なバンダナのプレイヤーにレクチャー頼まれただろ?クラインはアンタの迷いの無い動きからベータテスターだって事を見抜いて、アンタもそれを認めた、そしてあんたはその後、お互いに名前を名乗って自己紹介してたが、俺もあの時その場にいたんだよ」

キリト「あの時の事か……」

俺「覚えてるんだな」

最も、そのクラインと思わしきプレイヤーは傍にいないので、大方デスゲームが始まって早々に置いてきたか、後々何かしらの理由で別れたのかは知らないが、現状キリトはソロプレイヤーであることは確かだ。

俺「取りあえずアイテムストレージと手持ちの所持金を見せてもらって良いか?」

キリト「見せて貰って良いか?じゃなくって、見せろって言えば良いだろ、どうせ見せないとその録音した内容をばらして回る気なんだからなアンタは」

そう言いながらキリトはアイテムストレージと所為コルを見せてくる。

俺「お、こりゃ期待以上だな」

アルゴ「おねーさんもビックリだよ~。キー坊ったら結構溜め込んでたんダナ~」

昨日のベータテスターのコンビよりも単独での所持金は大幅に上回っており、アイテムストレージに入っているアイテムの中にもドロップや迷宮区の宝箱からしか手に入らないようなアイテムが幾つもある。
これは期待を超える獲物を見つけたみたいだな。

キリト「で、アンタは幾ら寄こせって言うつもりなんだ?」

ポーカーフェイスなのか、冷静に振舞おうと努めているのかは知らないが、キリトは、この前の二人組のベータテスターの時のように狼狽えたり、喚いたりはしなかった。

俺「取りあえず、(コル)は9割でアイテムはストレージ内でアンタにとって必要最低限以外の物すべて……それと」

俺がキリトの腰の鞘に入っているアニールブレードに視線を移すと、キリトの方が先に。

キリト「剣まで取り上げるって言う気か?そいつはかなり容赦ないカツアゲだな」

と、少々皮肉気味に言ってくるので俺も言い返す。

俺「カツアゲとか、人聞きの悪いこと言うなよ。俺がやってるのは一種の義賊って奴さ」

キリト「義賊だって?」

俺「そうさ、ルパンとか鼠男って聞いたことあるだろ?アイツらみたいなもんだよ」

アルゴ「コラコラ~、おねーさんは確かに鼠みたいな髭してるけど、おねーさんは立派な女の子だぞ~」

アルゴからの冗談は取りあえずスルーしておこう。絡むと話が進まなくなりそうだからな。

俺「アイツってやってること自体は犯罪なのに、民衆からはまるで英雄扱い。それは何でかって言うと、当然、盗みのターゲットが金持ち連中、それも傲慢な金持ち連中だからさ」

キリト「…………」

俺「義賊に狙われるのは、困窮してる庶民を顧みず、見下し、時にはその不幸を嘲笑ってるようなそんな外道な奴らだから、財産を根こそぎ奪われるような目に遭わされても誰からも同情されない、むしろ、盗んだ側の義賊たちを『よくやったと』称賛するんだ」

そう言ってから、俺はキリトを指さす。

俺「この場合、俺が義賊。そして、アルゴみたいな例外はともかくとして、お前達みたいなベータ―達が傲慢な金持ち連中って構図なんだ。俺がこうしてベータ―達を脅して金やアイテムを捲き上げてる事が知られたって、9割方の一般プレイヤー達は『自業自得だ』『ざまぁみろベーター共』『俺たちを見捨てた報いだ』って言うんじゃないか?」

キリト「まぁ、俺もこの一カ月、自己強化に勤しんでたのは否定はしないさ。それに、お前みたいな事をしてくる奴がいつか現れるかもしれないとも思ってたしな」

そこで俺は、いよいよキリトに対して、金とアイテムを支払うか、それとも記録結晶の内容を他のプレイヤー達にばらされるか、その二択のどちらかを選ぶのだと聞こうとした時だった。
そいつらが現れたのは―――

ガチャモン「50Gと『どうのつるぎ』だけでハーゴンが倒せるか―――!!」

モック「が、ガチャモン!?いきなり出て来て、何を言ってるんですか~?」

デスゲーム開始から一週間後に現れた自称SAOのマスコットキャラクター達が唐突に俺たちの目の前に現れた。

ガチャモン「えっとね、実の父親である国王から、端金と安武器で大神官ハーゴンの討伐を命じられた、ローレシアの王子の心の声を代弁したかったんだよね」

もしかしてDQⅡの事だろうか?また、随分と古いゲームのネタを引っ張ってきやがるな……

アルゴ「あ~、確かにあれは無茶ブリもいいところダナ~。王様なんだから息子の旅立ちにはもっと持たせてやって欲しいもんだヨ」

何故かアルゴが話に乗っかっていた!?

アルゴ「だけど、本当に大変だったのはどんなダンジョンよりも復活の呪文の長さだったヨナ。Ⅰの時とは桁違いだったからナ」

一体こいつは本当に何歳なんだろうか……

ガチャモン「ホントホント!Ⅲにセーブ機能が初めて実装されたときは、あまりにも画期的なもんだったから僕は、目から鱗だったな~」

モック「いや~、確かにセーブ機能の実装はありがたかったですが、私としてはデータが消失したときのあのBGMが未だにトラウマですな~」

やばい、話が脱線しまくってるぞ。さっきまで俺に強請られていたキリトも引き攣ったような表情になっている。
レイナは相変わらずの無表情だったが。

アルゴ「Ⅲの発売日は社会現象だったよナ。学校や会社を休んで発売日当日に買いに並ぶ客達でごった返してて―――」

そこまでアルゴが言いかけた時だった。

キリト「もう、DQの話はいいだろ」

流石にキリトが話を止めた。と言うか、キリトが止めなかったら数秒後には俺が止めてただろうが。

アルゴ「おおっと、ついつい懐かしい話に盛り上がっちまったヨ。んで、お前ら何しに来たんだヨ?」

ガチャモン「ああ、本題を忘れるところだったよ。少し前にね、とあるプレイヤーのパーティーがね、迷宮区の最上階の階段を発見したんだってさ~」

ガチャモンからもたらされた情報に俺もキリトもアルゴの一斉に耳を傾ける。

モック「ですが、流石にいきなりそのまま最上階を探索して更にボス戦と言うわけにはいかなかったようですな~」

当然だ、フロアボスはレイドパーティーを組んで戦う事を前提とした強さなんだ。通常の6人が限度のパーティーで挑んだらあっという間に全滅する。

ガチャモン「と、ゆ~わけで、今日の午後4時にボス攻略会議がありま~す。興味のある人達はどうぞこぞってご参加くださいね~」

と、言うだけ言ってガチャモンは去って行った。

モック「ああ~、待ってくださいよガチャモ~ン」

そしてモックもいなくなった。

唐突に現れて、いきなりDQⅡの話で勝手に盛り上がり(アルゴもだが)、申し訳程度にボス攻略会議の事を告げて去って行った自称マスコットキャラ達に俺たちはただ、呆然としていた。

レイナ「……で、キリトの返事は?」

が、一番冷静だったレイナが話の続きを始めてくれる。

キリト「そうだな……」

鋭い目つきで俺とレイナを見据えてからキリトは言った。

キリト「その話の返事なんだが、ボス戦が終わるまで待ってもらえないか?」

俺「そうだな、それくらいなら構わないさ」

と言うか、さっきのガチャモンの話を聞いた瞬間に、俺もそのタイミングが良いと思っていた。
フロアボスに止めを刺すとLA(ラストアタック)ボーナスが貰える。通常の雑魚モンスターの数十体分の金と経験値は勿論だが、一番の報酬はドロップするレアアイテムだ。それも通常のレアアイテムと違って各フロアボス一体に付き一つだけ。すなわちゲーム中に一つだけの代物だ。
もしキリトがLAを決めてくれれば、後々キリトが手に入れたレアアイテムは俺の物になるのだから。

アルゴ「やれやれ、なんか殺伐としてきたナ~、だけどおねーさんとしては、こういう雰囲気も面白いかもしれないナ~」

レイナ「…………」

立木ナレ「こうして、この話は第一層フロアボス戦が終わるまで保留となった。オズマは自らを義賊と称して、キリトの持つ金とアイテムを四肢淡々と狙い続ける。果たしてオズマ、キリトの持つ金とアイテムを得られるのか!!」

目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

FILE10 第一層ボス攻略会議



立木ナレ「オズマがキリトに対してベータテスターであることをネタにした強請を行った日の午後の4時。この日、この時間に、第一層ボス攻略会議が行われようとしていた!!」

俺「何人いるんだこれ?」

レイナ「……全員で46人」

俺「随分と少ないもんだな」

ボス攻略会議が行われるトールバーナの噴水広場に集ったプレイヤーの総数は俺が期待していたよりも少なかった。
SAOでは一パーティーに付き最大6人、それを八つ束ねて、合計四十八人の連結(レイド)パーティーが作れるのだが、その定員に二人足りない有様だった。これじゃあまるで、受ければ誰でも100%合格確定の、定員割れしてる三流大学の入試試験みたいだな。

俺「初めて見る顔も結構多いよな」

レイナ「……顔見知りもいる」

俺「ああ、何人かな」

その顔見知りの中には、つい最近俺が強請ったベータテスターのコンビやキリトもいる、高い塀にはアルゴが腰かけて眺めているが、奴はおそらくボス攻略には参加しないんだろう。さらに言えば圧倒的に男が大多数、と言うかレイナ以外は全員が男と言っていい位だ。フードや鎧で顔が隠れて選別が判別できない者は別として。
と、そこで状況が動いた。パン、パン、パンと手を叩く音と共に、良く通る叫び声が広場に流れた。

「はーい!それじゃ、五分遅れたけどそろそろ始めさせてもらいます!みんな、もうちょっと前に……そこ、三歩こっち来ようか!」

堂々と喋る声の主は、長身で各所に金属防具を整えた片手剣士だった。広場中央にある噴水の縁に、助走なしで飛び乗った。

レイナ「……彼、筋力も敏捷(びんしょう)力も高い」

俺「レイドパーティーのリーダーを務めるって言うなら、あれくらいの強さは無くちゃならないからな」

実際、あの高さをあの重装備でジャンプしたのだから、筋力と敏捷力の高さは確かと言いえるだろう。
振り向いた片手剣使いを見て、四十数人の一部が小さくざわめいた。それは多分、こんな奴がなんでVRMMOをやってるんだって思ったんだろう。そう思いたくなるくらいのイケメンだった。
ついでに、顔の両側にウェーブしながら流れる長髪は鮮やかな青に染められている。一層では髪染めアイテムは店売りしてないとアルゴの攻略本には書いてあったことを考えると、モンスターからドロップしたか、他のプレイヤーがドロップしたのを買ったんだろう。
もしこの場に女のプレイヤーが何人もいたら、さぞ黄色い歓声が上がってただろうな。

ディアベル「今日は、俺の呼びかけに応じてくれてありがとう!知っている人もいるともうけど、改めて自己紹介しとくな!俺はディアベル、職業は気持ち的にナイトやってます!」

噴水近くの一団がどっと沸き、口笛や拍手に混じって「ほんとは勇者って言いてーんだろ!」とか言う声が飛んだ。

レイナ「……SAOにシステム的な職業(クラス)は存在しない」

俺「場を盛り上げるために言ってるだけだって、実際に結構場の空気が和んできてるだろ?」

レイナ「……そうなの?」

レイナにはこういう事は理解できないようだった。AIを持っているとはいえ、人間独特の空気を読むとかはNPCには理解不能なんだろうか。
とは言え、ディアベルの装備は胸と肩、腕と脛をブロンズ系の防具で覆って、左腰には大振りの直剣、背中にカイトシールドと、確かにナイトっぽい装備と言えるかもしれない。

ディアベル「さて、こうして最前線で活動してる、言わばトッププレイヤーの皆に集まってもらった理由は、もう言わずもがなだと思うけど……」

演説を再開したディアベルは右手を振り上げ、街並みの彼方にうっすらとそびえる巨塔―――第一層迷宮区を指し示しながら続けた。

ディアベル「……今日、俺達のパーティーが、あの塔の最上階へ続く階段を発見した。つまり、明日か、遅くとも明後日には、ついに辿り着くって事だ。第一層の……ボス部屋に!」

プレイヤー達がざわめく。ガチャモンが言っていた、ボス部屋を発見したパーティーと言うのはディアベルたちだったのか。

ディアベル「一ヶ月。ここまで、一ヶ月もかかったけど……それでも、俺達は、示さなきゃならない。ボスを倒し、第二層に到達して、このデスゲームそのものをいつかきっとクリアできるんだってことを、はじまりの街で待っている皆に伝えなきゃならない。それが、今この場所にいる俺達トッププレイヤーの義務なんだ!そうだろ、みんな!」

再び喝采。今度は、ディアベルの仲間以外の者たちも手を叩いている。こうもあっさりと今までばらばらだった最前線組がまとまりつつあるのは、やはりリーダー的な手腕があるからなんだろうと思った時だった。

「ちょお待ってんか、ナイトはん」

そんな低い声が流れた。前方の人垣が二つに割れると、中央に立っているのは、小柄だがガッチリした体格の男……それよりもサボテンのような頭が否応でも目に付く男だった。
サボテン頭の男は、ディアベルの美声とは真逆の濁声で唸った。

「そんまえに、こいつだけは言わせてもらわんと、仲間ごっこはでけへんな」

そんな無粋な乱入者に対してもディアベルは表情を変えなかった。まぁ、簡単に不機嫌や、怒りを面に出すようじゃリーダーに向いてるとは言えないが。

ディアベル「こいつっていうのは何かな?まあ何にせよ、意見は大歓迎さ。でも、発言するなら一応名乗ってもらいたいな」

キバオウ「……フン、ワイはキバオウってもんや」

そんなキャラネームを名乗ったキバオウは鋭く光る両目で広場のプレイヤーを睥睨した。
そして、ドスの利いた声で言った。

キバオウ「こん中に、5人か10人、ワビぃ入れなあかん奴らがおるはずや」

ディアベル「詫び?誰にだい?」

きっと、ディアベルも薄々キバオウが言いたいことが分かっていつつも敢えて聞いているんだろう。
実際に俺も奴が言う、詫びを淹れなくちゃならない連中が誰かは分かった。

キバオウ「はっ、決まっとるやろ。今までに死んでいった2千人に、や。奴らが何もかんも独り占めしたから、一ヶ月で二千人も死んでしもたんや!せやろが!!」

途端、ざわめきが収まった。やっぱりキバオウが言う事は俺の、と言うかこの場にいる誰もがすでに分かっていた。
実際に今この場にいる、キバオウが言っている当事者たちは内心で動揺してる事だろう。

ディアベル「キバオウさん。君の言う奴らとはつまり……元ベータテスターの人達のことかな?」

腕組をしたディアベルが、今までで最も厳しい表情を浮かべて確認した。

キバオウ「決まっとるやろ。ベータ上がり共は、こんクソゲームが始まったその日にダッシュではじまりの街から消えよった。右も左も判らん九千何百人のビギナーを見捨てて、な。奴らはウマい狩場やらボロいクエストを独り占めして、自分らだけポンポン強うなって、その後もずーっと知らんぷりや。こん中にもちょっとはおるはずやで、ベータ上がりっちゅうことを隠して、ボス攻略の仲間に入れてもらお考えてる小狡い奴らが。そいつらに土下座させて、溜め込んだ金やアイテムをこん作戦の為に軒並み吐き出してもらわな。パーティーメンバーとして命は預けられんし、預かれんとワイはそう言うとるんや!」

キバオウはようするに一ヶ月で死んだ2千人の責任は全てベータテスターにあると思ってるようだ。それは流石に極論だとは思うが、キバオウの言う事にも一理はある。
実際にアルゴなどの一部のベータテスター以外はデスゲームが始まって以降はキバオウが言ってるような行動に徹しているし、俺が知りうる限りでもこの中にベータテスターは3人はいる。

立木ナレ「ちなみに、これはオズマが知らない事だが、実はこの一ヶ月で死んだ二千人の内の三百人は実はベータテスターであることを情報屋のアルゴは調べ上げていた。その数字が正しければ割合に直すと、新規プレイヤーの死亡率は約18%。対して、元テスターの死亡率は40%近くになるのだった。なぜ、知識と経験で優位なベータテスターの死亡率が一般プレイヤーの倍以上なのか、それはベータ版と正式版との差異であった!!ベータテスター時代の経験を頼りにしていたベータテスターの多くは正式版との違いに思わぬ痛手を被った結果、慎重な行動をしている一般プレイヤーの死亡率を大きく上回る結果になってしまったのだった!!そして、ベータテスター糾弾の場になりつつあるボス攻略会議の場に招かれざる客が現れる!!」

ガチャモン「キバオウのバカ!!」

キバオウ「ああん!?いきなりなんや自分!?」

現れたのはSAOのマスコットキャラを自称するガチャモンとモック。ガチャモンに唐突にバカ呼ばわりされてキバオウは眉間に皺を寄せて怒鳴り返していた。

ガチャモン「何よ、いくじなし!二千人のプレイヤーが死んだのをベータテスターのせいにして!キバオウのあまえんぼ!恐がり!いくじなし!どうしてできないのよ!そんなことじゃ一生サボテン頭よ!それでもいいの?」

キバオウ「いきなり現れてなんやと!?てか、自分なら知っとるんちゃうんか!?」

モック「お、落ち着いてくださいキバオウさん!が、ガチャモンさっきハイジの51話を見て……ああ、ガチャモンはフランダースもハイジもラスカルも最終回とその一話前しか見てないんですけどね、取りあえずそれを見てすっかりハマっちゃいましてな~、今のは自分の足で立つことを諦めようとしている友人に対して言った言葉でしてな~」

キバオウ「じゃかましいわ!毛むくじゃらは黙っとれ!!」

モック「ええ―――――!?わ、私だけなんで―――――!?」

まぁ、良く言ってくれたと心の中で称賛するとしよう。あのまま喋られ続けると、何が何やらわからなくなる。

キバオウ「てか自分ら!自分等なら知っとるんやろ!?どこのどいつがベータテスターか!おどれら、あの茅場っちゅう変人の仲間やからな!!」

反ベータテスター思考に完全に凝り固まっているキバオウはガチャモンとモックに対しても遠慮なく問い詰めていた、流石に攻撃を加えるようなことはしないだろうが。
なにせ、それをやったらえげつない手段で殺されてしまうのだから。

ガチャモン「ふふふ……」

表情を一切変化させないまま、ガチャモンは不敵に笑い始める。

ガチャモン「ベータテスターが誰かだって?それが知りたければ40億コルを……耳を揃えて持って来い!!」

そんな金を持っている奴がいるわけなかった。

キバオウ「アホか!んな金あるかいな!つーか、耳がない連中が耳を揃えてとか言うなやボケが!!」

モック「のわぁ――――!!い、今のは耳を持たない我々に対する身体的差別発言ですぞ――――――!!」

キバオウの鋭いツッコミに対してモックがバタバタとしながら狼狽える。脱線しまくるボス攻略会議、そこに一石を投じたのはやはりディアベルであった。

ディアベル「用がないなら消えてくれ。俺達はボス攻略に向けての重要な会議中なんだ」

ガチャモンとモックに対しても、恐れを感じさせる事無く、毅然とした態度でディアベルはそう言ったのだった。

ガチャモン「はいは~い、お金を払えない人たちに用は無いよ~だ」

モック「貴方!さっきの発言はいずれ然るべきところで訴えさせてもらいますからね!」

と、言い残してからガチャモンとモックは同時に消えたのだった。しかし、ボス攻略の会議はいつの間にかキバオウやらガチャモンやらモックやらの出現によってベータテスター達に対する糾弾の場になっている事には変わりは無かった。

「発言いいか?」

その時、張りのあるバリトン声が響き渡った。人垣の左端辺りから巨大なシルエットが姿を見せる。
デカかった、身長は190くらいだろうか。背中に吊っている両手用の斧が軽そうに見える。
そして、その風貌は頭を完全なスキンヘッド状態で肌は茶色く、明らかに日本人離れした黒人のような大男だった。

エギル「俺の名前はエギルだ。キバオウさん。あんたの言いたいことはつまり、元ベータテスターが面倒を見なかったからビギナーがたくさん死んだ、その責任を取って謝罪、賠償しろ、と言う事だな?」

キバオウ「そ……そうや!アイツらが見捨てへんかったら、死なずに済んだ二千人や!しかもただの二千ちゃうで、ほとんど全部が、他のMMOじゃトップ張ってたベテランやったんやぞ!あほテスター連中が、ちゃんと情報やらアイテムやら金やら分け合うとったら、今頃ここにはこの十倍の人数が……ちゃう、今頃は二層やら三層まで突破できとったに違いないんや!!」

キバオウはそう叫ぶが、当然そう喚いたところでテスター達が名乗り出るわけがない、そんな事をしたところで自分の首を絞める行為以外の何物でもないからな。
てか、そんな事をされたら俺が奴らを強請れなくなる。

エギル「あんたはそう言うが、キバオウさん。金やアイテムはともかく、情報はあったと思うぞ」

エギルは大型のポーチから、簡易な本アイテムを取り出す。それは俺も持っているアルゴの攻略本だった。

エギル「このガイドブック、あんただって貰っただろう。ホルンカやメダイの道具屋で無料配布しているんだからな」

ちなみに、数分前までアルゴがすわっていたはずの場所にはいつの間にか誰もいなくなっていた。

キバオウ「―――貰たで。それが何や」

キバオウの刺々しい声に対してエギルは攻略本をポーチに戻して言った。

エギル「このガイドは、俺が新しい村や町に着くと、必ず道具屋に置いてあった。あんたもそうだったろ。情報が早すぎる、とは思わなかったのかい」

キバオウ「せやから、早かったら何やっちゅんや!」

エギル「こいつに載っているモンスターやマップのデータを情報屋に提供したのは、元ベータテスター達以外にはあり得ないって事だ」

俺「確かに、説得力のある説明だよな」

レイナ「……多分、ベータテスターであることを名乗るのは嫌だけど、アルゴを介して情報を提供してた人が少なからずいる」

レイナの言う通りだろう。アルゴの他にも少数ながらも情報提供をしたベータテスターがいたと言うわけだ、そいつらは今更ベータ―であることを明かすのは身の危険故に躊躇したが、初っ端からベータ―であることを明かしているアルゴを通じて微力ながら協力していたわけだ。
一方でエギルと名乗る斧使いの態度は相変わらず至極堂々としており、言っている事も真っ当で、キバオウも噛みつく隙を見いだせないようだった。
最も、エギル以外の誰かが同じことを言えば、『そんな事を言うお前もベーターちゃうんか!?』とか言いそうだが。

ディアベル「キバオウさん、君の言う事も理解はできるよ、俺だって右も左も解らないフィールドを、何度も死にそうになりながらここまで辿り着いたわけだからさ。」

それは俺もそうだ、特にレイナの会う前のソロで活動してた時は結構ヒヤッとする場面が何度かあった。
最も、一番やばかったのは言うまでも無くそのレイナと戦った時だが……

ディアベル「エギルさんの言う通り、今は前を見るべき時だろ?元ベータテスターだって……いや、元テスターだからこそ、その戦力はボス攻略のために必要な物なんだ。彼らを排除して、結果攻略が失敗したら、何の意味も無いじゃないか」

ディアベルも実に爽やかな弁舌だった。多くの観衆達が深く頷いている。エギルとディアベルの冷静な諭しによって、場の雰囲気は落ち着き始めていた。

ディアベル「みんな、それぞれに思う所はあるだろうけど、今だけはこの第一層を突破するために力を合わせて欲しい。どうしても元テスターとは一緒に戦えない、って人は、残念だけど抜けてくれて構わないよ。ボス戦では、チームワークが何より大事だからさ」

キバオウ「……ええわ、ここはあんさんに従うといたる。でもな、ボス戦が終わったら、キッチリ白黒つけさせてもらうで」

完全に納得したわけではないだろうが、キバオウも渋々と言った感じで身を引いたようだった。


立木ナレ「こうして会議は最終的に、ディアベルの前向きな掛け声と、それに応じる参加者たちの盛大な雄叫びで締めくくられた。果たして彼らは第一層のボス攻略を無事に終えられるのか!!」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

FILE11 ディアベルからの依頼

立木ナレ「実務的な議論は一切行われない会議だったが、プレイヤー達の指揮を上げる効果は申し分なく。第一層迷宮区二十階はかつてないスピードでマッピングされた。会議の翌日、十二月三日土曜日の午後にはついに最初のパーティー(ディアベル以下6人の)がフロア最大の巨大な二枚扉を発見したのだった!!」

ボス部屋を発見したディアベル達は部屋の扉を開けて、ボスの顔を拝んだらしい。そしてその日の夕方に再び、トールばーなの噴水広場で開かれた会議で、ディアベルは誇らしげに報告した。
ボスは身の丈二メートルに達する巨大なコボルド。名前は『イルファング・ザ・コボルドロード』武器は曲刀カテゴリ。取り巻きに、金属鎧を着込み斧槍(ハルバード)をたずさえた『ルインコボルド・センチネル』が三匹だと言う事が、NPC露天商で無料配布されたアルゴの攻略本に書かれていた。
だが、本を閉じた裏表紙には、これまでのアルゴの攻略本には存在しなかった一文が、赤い文字で並んでいた。

情報はSAOベータテスト時のものです。現行版では変更されている可能性があります

俺「ようするに、参考にする程度で鵜呑みにし過ぎるなって事か……」

レイナ「……だけど、この攻略本が、面倒で危険な偵察戦を省かせてくれるのも確か」

それはごもっともなレイナの発言。読み終えた四十数人は、どう反応すべきかをリーダーに預けるかのように、昨日と同じく噴水の縁に立ったディアベルを見やった。
ディアベルは、数十秒ほど、何かを考えるように顔を伏せていたが、やがてさっと姿勢を正すと張りのある声で叫んだ。

ディアベル「みんな、今は、この情報に感謝しよう!」

また、上手く言葉を選んでるよな。聞く限りだと、元ベータ―と仲良くしようともとれる発言で、キバオウあたりが何か言いだしそうな気がしたが、今回は大人しく座っているだけだった。

ディアベル「出所はともかく、このガイドのお陰で、二、三日はかかるはずだった偵察戦を省略できるんだ。正直、すっげー有難いってオレは思ってる。だって、一番死人が出る可能性があるのが偵察戦だからな。」

ディアベルの言う通りだ、偵察戦ではボスが実際にどんな戦い方をしてくるのかを図る為にこちら側は守りに徹するパターンが多いが、それでも初見故に対処の仕方が分からず、犠牲者を出す展開になりかねない。

ディアベル「……こいつが正しければ、ボスの数値的なステータスは、そこまでヤバイ感じじゃない。もしSAOが普通のMMOなら、みんなの平均レベルが3……いや5低くても倒せたと思う。だから、きっちり戦術(タク)を練って、回復薬(ポット)いっぱい持って挑めば、死人なしで倒すのも不可能じゃない。や、悪い、違うな。絶対に死人ゼロにする。それは、俺が騎士の誇りに賭けて約束する!」

ハッキリと言い切ったディアベルに対して盛大な拍手が沸き上がる。

俺「そう言えば、まだギルドは出来てないけど、あれっていつごろから作れるんだ?」

レイナ「……ギルドは、3層に行けば作れるわ」

俺「って事は、その暁には大規模な攻略ギルドでも作るんだろうな」

そこに俺が入るかどうかは分からないが、ディアベルなら大勢の支持者の元にギルドを上手くまとめ上げるだろう。

ディアベル「それじゃ、早速だけど、これから実際の攻略作戦会議を始めたいと思う!何はともあれ、レイドの形を作らないと役割分担も出来ないからね。みんな、まずは仲間や近くにいる人と、パーティーを組んでみてくれ!」

それは、少しまずかった。ワンパーティー6人でここにいるのが46人。つまり4人アマルパーティーが一つできる事になる。
取りあえず、レイナとは組むから一人ぼっちになる事は無いが、ディアベルの指示から僅か1分余りで七個の6人パーティーが完成した。
多分、元から何人かで組んでいた連中同士で、そのままパーティーを組んだのだろう。

レイナ「……あの二人と組むしかないみたい」

そう言いながらレイナが指さした方にいるのは、キリトと、その横にフーデットケープを深く被って顔が見えないプレイヤーだった。
向こうも俺たちが二人だけである事に気が付いたようで、俺たちは特にお互いに合図する事無く、接触する。
フーデットケープのプレイヤーはともかく、キリトはベータテスターで俺が今強請のターゲットにしている相手なのだが、この際は贅沢は言っていられない。

俺「こっちから申請するぞ」

キリト「どうぞ」

キリトもそこで、駄々を捏ねたり反発したりする事は無かった。隣のフーデットケープのプレイヤーも頷いた。
視界に表示されている相手のカラー・カーソルに触れるとパーティーの参加申請を出した。
キリトとフーデットゲープがOKを押すと、視界左側に、やや小さい、レイナの下に二つ目と三つ目のHPケージが出現した。
その下に表示される短いアルファベットの名前を見てみる。三番目に表記されている『Kirito』はキリトだとわかる。一番下の『Asuna』はローマ字読みだとアスナになるわけだが、これで正しいのだろうか……?

レイナ「……アスナよ」

俺「ああ、合ってたのか」

レイナが気を利かせて教えてくれた。ローマ字読みで助かったと思う反面、どうしてどいつもこいつも自分のキャラネームにアルファベットを使うんだと言いたくなる。そんなに横文字を使うのがカッコいいとか洒落てるとでも感じるのか?
ディアベルは各パーティーの役割分担をテキパキと決めて、最後に4人だけの俺たちのパーティーの前に来て爽やかに言った。

ディアベル「君たちは、取り巻きコボルトの潰し残しが出ないように、E隊のサポートをお願いして良いかな」

ようするに、ボス戦の邪魔にならないように後方で大人しくしてて、と言う事で良いのか?
するとアスナが非友好的な反応を仕掛けたのをキリトが片手で制して、作り笑いを見せて行った。

キリト「了解。重要な役目だな、任せておいてくれ」

俺「コボルトの潰し残しが多いと後々面倒だもんな」

ディアベル「ああ、頼んだよ」

そう言って、ディアベルは噴水の方に戻っていった。直後にアスナが、

アスナ「……どこが重要な役目よ。ボスに一回も攻撃できないまま終わっちゃうじゃない」

キリト「し、仕方ないだろ、4人しかいないんだから。スイッチでPOTローテするにも6人パーティーに比べて時間が足りないんだ」

不満を漏らすアスナをキリトが説得していた。と言うか、名前からして何となく気が付いてたが、アスナはレイナ以外で数少ない女メンバーのようだった。

アスナ「……スイッチ?ポット……?」

俺「それ知らずにここまで来たのかよ……」

このレイピア使いのアスナはもしかしたらSAO以外のMMORPGもろくにやった事が無いようだった。

レイナ「……スイッチって言うのは」

キリト「後で俺が説明する。この場で立ち話じゃとても終わらないから」

レイナが律義に説明しようとしたが、キリトがそれは後でやってくれるようだった。そして午後五時半、昨日と同じく「頑張ろうぜ!」「オー!」のシメで解散となり、集団はばらえて酒場やレストランへと飲み込まれていった。
俺とレイナもキリト達とパーティーを組んだとはいえ、常に一緒に行動する必要など無いので、どこかレストランにでも行こうと思っていた矢先だった。

ディアベル「オズマ君にレイナさん、少し聞いて欲しい事があるんだ」

ディアベルが俺とレイナに声を掛けてきた。

俺「え、まだ何か用があった?てか、それならキリトとアスナも呼ぶけど」

ディアベル「いや、君たちだけで構わないよ」

てっきり俺達4人パーティーに何か言いたいことがあるのかと思ったが、キリトとアスナを省いた俺とレイナの二人に何か用があるみたいだった。
取りあえず、食事をしながらと言う事でディアベルの驕りで近くのレストランに入る事にした。

ディアベル「食べながらで良いから俺の話を聞いてくれ」

俺「ああ、ちゃんと聞いてるから話してくれ」

俺はディアベルの驕りのビーフシチューを食いながらそう言う。NPCヘルパーのレイナは食べる必要はないらしいが、ご厚意に甘えて、フランスパンを無表情のままもぐもぐと食べていた。

ディアベル「実は、俺は情報屋に結構なお金を払って、今回のボス戦のメンバーの中から一人のベータテスターの事を知ったんだ」

俺「アルゴがベータテスターの事を教えてくれたのか?」

ディアベル「必死に頼んだら、かなり高額であったけど何とかね」

妙だな、俺も一度アルゴから手っ取り早くベータテスターの情報を、多少値が張っても買って、それで後で奴らを強請ってやろうと考えていたのだが、アルゴからの返事は『誰がベータテスターとかの情報は売らない』の一点張りだったのに。
とにかく、今は話を聞こう。

ディアベル「それで、そのベータテスターは君のパーティーにいるキリト君なんだ」

俺「へぇ~、アイツがね」

とっくに俺も知っている事だったが、俺は初めて知った風な態度で振舞う。

レイナ「…………」

レイナも無言を通して知らない振りをしていた。

ディアベル「そして、彼はベータテスト時代に何度もフロアボスのLAB(ラストアタックボーナス)を掻っ攫ったプレイヤーでもあるみたいだ」

俺「そいつは、他のプレイヤーに取っちゃ面白くない話だろうな」

レイナ「……なにが面白くないの?」

レイナには人間のゲーマーのそう言う心情は理解できないようで、フランスパンをほおばりながら、小首を傾げて聞いてくる。

俺「フロアボスは48人のレイドパーティーで挑んでるんだ。その48人の中でLAボーナスを決められるのはたったの一人だけなんだぞ。ベータテストでは確か第6層まで、つまりフロアボスとは6回戦ったわけだが、その内の一度だけならまだ運の良い奴で済まされる」

ディアベル「だが、その内の2回……3回もLAボーナスを取ってしまえば、周囲のプレイヤー達からの妬みは勿論、意図的にLAボーナスを横取りしていると疑われても仕方がない」

と、ディアベルは付け加える。レイナは納得したのかしてないのか、小さく首をコクっと縦に振るだけだった。

俺「けど、ディアベルさんはキリトが周りから嫉まれたり疎まれたりする事を心配してるってわけじゃないんだよな?」

ディアベルは、数秒の間を置いた後、少々悲しそうな表情を浮かべながら『そうだ』と肯定した。

ディアベル「俺はねオズマ君。これから先、攻略集団のリーダーとして役目を果たし続けるためには、リーダーたる強さを維持し続ける事も重要だと思うんだ」

俺「つまり、リーダーである自分がLAボーナスを獲得して、フロアボスがドロップするレアアイテムをゲットしなくちゃって事か」

ディアベル「ああ、狡猾な奴だと思われるかもしれないが、綺麗事だけじゃ、皆をまとめていけないからね」

確かに、したたかなやり方だとは思うが、それは必要な事でもあるのは確かだ。リーダーに必要なのは集団をまとめる能力なんだろうが、かといって個人の実力が劣っていてはリーダーとしての威厳が薄れるからな。

レイナ「……もしかして、私達。正確にはキリトを取り巻きのモンスターの討伐に回したのも、LAボーナスを取られないため?」

俺「ああ、あの役割分けはそう言う意図もあったんだな」

レイナに指摘されたディアベルは、これも素直に認めた。

ディアベル「他にも彼がメインの武器として使ってる『アニールブレード+6』を仲介人を通じて買い取ろうとしてみたよ」

俺「奴のとっておきの武器を買い取って、奴の攻撃力を落とせばLAボーナスを横取りされる可能性も下がるって事か」

それは、確か俺がキリトとアルゴの宿屋での会話を『聞き耳』スキルで盗み聞きしていた時もそんな話があったな。あの時のキリトはその話を断ってたが。

ディアベル「今日、4万コルで買い取ろうと交渉したけど、それでも彼には断られてしまったよ」

俺「また随分と奮発しようとしたな」

アニールブレードの相場は今はだいたい1万5千コル程度で、+6にまで強化するのに必要な素材は精々2万コルあれば十分なので、それを更に上回る金額を払ってでもキリトのLAボーナスの横取りを警戒してると言う事だ。
などと、話しながら色々と考えているうちに、俺はディアベルに奢ってもらったビーフシチューを完食し終えていた。
ディアベルからはお代わりはいらないか?と、聞かれたが、もう十分だからと断っておいた。

ディアベル「オズマ君にレイナさん。俺が君たちにこうして声を掛けたのは君たちがキリト君と同じパーティーになった事もあるが、それと同時に君達は何と言うか、あまりキリト君と仲が良い様に思えなかったからなんだ」

鋭い眼差し、で俺の目をじっと見ながら言ったディアベルのその言葉は概ね当たっていた。険悪とまではいかないが、俺はキリトがベータテスターである証拠を握り、それをネタに強請をやっている最中なんだから。
そして、キリトがLAボーナスを決めたら、レアアイテムも頂戴しようと考えているところなんだから。

俺「ま、確かに特に会話も無いし、あぶれ者同士で組んだだけで、好きなタイプでもないしな」

俺がそう答えると、ディアベルは一瞬だけ、笑みを見せてから話を続ける。

ディアベル「なら、そんな君達にやってもらいたい事がある」

俺「奴がLAボーナスを万が一、決めようとしたらそれを阻止しろって事?」

ディアベル「察しが良くて助かるよ。手段は問わない、いざこざになったとしても俺が必ずその場を静めて見せる」

ディアベルのリーダーシップとカリスマ性なら、恐らく俺とキリトが揉めたとしても、それは充分可能だろう。

ディアベル「無論、タダでとは言わないさ。上手くやってくれたら報酬としてキリト君からアニールブレードを買う為に使うはずだった4万コルを君に支払う、それと」

ディアベルはアイテムストレージを開くと、その中から一つのアイテムを選択して俺たちに見せてくる。

ディアベル「これもプレゼントする、中々手に入らないレアアイテムだ。曜日限定のクエストの報酬として手に入れたんだ」

ディアベルが提示したのは『武器強化奥義書』と言うアイテムだった。これを使って武器を強化すれば、その武器の強化は100%成功する。つまり、俺の使っている『フェザーブレード+5』は確実に+6になると言うわけだ。
武器強化は強化すればするほど成功率が低くなり、一般的にNPCの鍛冶屋よりもプレイヤーの鍛冶屋の方が成功率が高いのだが、現時点ではプレイヤーの鍛冶屋は少ないため、俺はこれ以上の強化は運否天賦になり過ぎると思って、躊躇していた。下手をしたら強化率が下がってしまうかもしれないのだから。
しかし、この『武器強化奥義書』を使えばそんな心配は無用だ。このアイテムは一つの武器に付き一度しか使用できないが、当然俺の『フェザーブレード+5』は一度も使ってないので問題はない。

俺「分かったよディアベルさん。必ずやって見せるとまでは約束できないけど、やれるだけの事はやって見せるからアンタもLAボーナスを逃さないようにしてくれ。レイナもそれで良いな?」

レイナ「……オズマがやるなら、わたしもやる」

ディアベル「ありがとう二人とも!こんな頼みを聞いてくれて感謝する!」

こうしてディアベルとの交渉は成立した。仮にディアベルの頼みを果たせず、キリトがLAボーナスを決めたとしても、その時は奴が手に入れたレアドロップアイテムを強請で頂けるし。
ディアベルがLAボーナスを決めた場合は、ディアベルから4万コルと貴重な『武器強化奥義書』が貰える。
どっちがLAボーナスを決めても俺にとっては美味しい話になったわけだな。

立木ナレ「オズマ、ディアベルと裏で結託!キリトのLAボーナス獲得を阻止する為に協力する約束をする。仮にそれが上手く行かなくとも、その場合は当初の予定通りキリトが手に入れたレアドロップアイテムを強請で手に入れる。オズマ、まさに万全の布陣!!」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

FILE12 第一層フロアボス戦


立木ナレ「第一層ボス攻略会議でオズマとレイナはキリトアスナを含む4人のパーティーを組む事となった!ボス戦のリーダーを務めるディアベルからキリトのLAボーナス獲得を阻止するように依頼されたオズマ。キリトがLAボーナスを決めれば彼が手に入れるレアドロップアイテムを強請で取り、ディアベルがLAボーナスを決めれば、ディアベルからの報酬、まさにどちらに転んでもオズマが得をする布陣が完成したのだった!!」

2022年、12月4日、日曜日、午前10時。
このデスゲームが開始されていよいよ一ヶ月が経過した。

俺とレイナはキリト、アスナ組と合わせた4人だけのオマケパーティーだが、俺には俺でリーダーから直々に重要な役目を担っている。

キバオウ「おい」

そこに、キバオウがキリトの後ろから不躾に声を掛けて来て、キリトが振り返る。なぜか、キリトはキバオウの顔を見た途端に唖然としていた。

キバオウ「ええか、今日はずっと後ろに引っ込んどれよ。ジブンらは、わいのパーティーのサポ役なんやからな」

キリト「…………」

キリトは特に何も言い返すことなく、聞き返す事も無く無言だった。俺に時みたいに皮肉や減らず口を叩く程度の事はすると思ってた俺には意外に感じた。

キバオウ「大人しく、わいらが狩り漏らした雑魚コボルドの相手だけしとれや」

ついでに唾を地面に吐き捨てて、キバオウは身を翻して仲間のE隊の方に戻っていった。キリトはキバオウの背中をぼんやりと見つめている。

アスナ「……何、あれ」

アスナは自分が言われたわけでもないのに、妙に威圧感のある視線をキバオウの背中に向けていた。

キリト「さ、さあ……。ソロプレイヤーは調子に乗んなってことかな……」

俺「だとしたら俺たちは巻き添えだな。今までだってレイナと組んで来たってのに」

と、俺は言うが、俺は何となくキリトとキバオウの間に何かあったんじゃないかと思った。

アスナ「ずっとって、貴方達ってこのゲームが始まる前からお付き合いしてるの?」

急にアスナが俺とレイナの事に付いて食いついてくる。フードに覆われた表情はやけに興味深そうに見える。

レイナ「…………」

レイナは答えようとしない、どういう風に説明するかはマスターの俺次第って事か。

俺「ゲームが始まってから組むようになったんだよ。丁度一週間、あのガチャモンだとかモックだとかいう連中が現れた日にな」

アスナ「ああ……あの忌々しい着ぐるみ達ね」

ここは嘘を吐く必要は無いので、本当の事を答えると、アスナはガチャモンとモックの名を聞いて表情が険しくなり、吐き捨てるように言った。

俺「お互いにソロ同士だったから、戦力強化のために組んだんだよ。二人いるだけでもそれなりにスイッチとかは出来るようになるしな、それと別に付き合ってるわけじゃない」

レイナがベータ版時代には存在しなかったNPCヘルパーであることは省略してそう言っておく。
傍から見れば、レイナは他の一般プレイヤーとなんら変わらないし、単に説明が面倒だったからだが。

アスナ「そうなの?美男美女だったから、てっきり付き合ってるんだと思ったわ」

それを言い出したら俺だってアスナが女だと初めて知った時は実はカップルなんじゃないかと思ったが。
アスナのキリトに対する、ややキツそうな接し方を見るとどうにもそれは違うようだった。
すると、今度はアスナはレイナの方に目を向けて話し掛けてくる。

アスナ「レイナちゃんよね?貴方、このオズマ君に何か変な事されてないの?」

俺「おい、いきなり何を聞いてんだよ?」

アスナが想像していそうな変な事は毎晩やっているだけに探られるのは好ましくない。俺が制止しようとしてもアスナはまるで『私はレイナに聞いてるんだ』と、言わんばかりに鋭い視線を俺に向ける。
ここはレイナに上手く否定してもらうしかない。

レイナ「……別に私が困るようなことはされてない」

まぁ、それもそうだ。アスナが想像をしているような事を(あるいはそれ以上の事)俺はレイナに対して毎晩のようにやっているが、別にレイナはそれを嫌がりも困りもしていない。
レイナ本人にそう言われればアスナも引き下がるしかないようで『ふ~ん』と返事をしながら意外そうに俺の方に視線を一瞥する。
まるで、俺が何もしていない(と思わされてる)のが意外だと言わんばかりだった。
そんなどうでも良い俺の考えは、堰き止められた。
丁度、レイの噴水の前に立っていたディアベルが声を張り上げる。

ディアベル「みんな、いきなりだけど――――ありがとう!たった今、全パーティー四十四人が、一人も欠かさずに集まった!!」

途端、うおおっという歓声が広場を揺らす。次いで、滝のような拍手。俺もそれに混じって一緒に拍手を送っておく。
周囲を笑顔で見渡してから、ディアベルは右こぶしを突き出し、更に叫んだ。

ディアベル「今だから言うけど、オレ、実は一人でも欠けたら今日は作戦を中止しようって思ってた!でも……そんな心配、みんなへの侮辱だったな!オレ、すげー嬉しいよ……こんな、最高のレイドが組めて……。まぁ、人数は上限にちょっと足りないけどさ!」

笑う者、口笛を鳴らす者、同じように右手を突き出す者。
本当にディアベルは周囲を惹き付けて、まとめ上げるのに長けた、生粋のリーダー気質だった。
だが、中にはキリトのように未だに何か浮かない顔をしている者もいれば、B隊のリーダーのエギル以下数名のように、厳しい表情で腕を組んでいる奴らもいた。

ディアベル「みんな……もう、俺から言う事はたった一つだ!勝とうぜ!!」

立木ナレ「そして、ディアベルをリーダーとした44人のメンバーは一つとなり、ボス討伐の為に迷宮区に向かった。デスゲームが始まって既に一ヶ月、今日こそは、今日こそは第一層を突破して他のプレイヤー達に生還の希望を与えられると信じ……突入!!」

………

……



午前11時、迷宮区到着。午後十二時半、最上階踏破。
ひとまずは、ここまで死人は出ていない。と言うかこんなところで死人が出るようだったらボス戦で死人を出さずに突破など夢のまた夢だろう。

俺「あればボスが分ぞりがえってる部屋なんだな」

巨大な二枚扉を、集団の後方から見据えながら俺はそう言った。

俺「コボルドって、他のRPGだと、単なる雑魚モンスターなのに、このSAOだと武器を扱える亜人族ってだけで割と厄介だな」

レイナ「……このSAOでは武器を持ったモンスターはソードスキルを使うから?」

俺「そうなんだよ、ソードスキルはスピードも威力も通常攻撃より遥かに上だからな。んでもって、命中補正がある『剣技』は無防備状態でクリティカル食らうとHPケージがあっという間に削られる」

そこまで言ってから俺はレイナにかなり真面目な話を始める。

俺「取り巻きのコボルド共のボールアックスを俺がソードスキルで跳ね上げたら、すぐにスイッチで飛び込めよ」

レイナ「……分かった」

レイナはいつも通り、俺の言う事に従う。そして、前方では、ディアベルが、七つのパーティーを綺麗に並ばせ終えたところだった。
流石にこんなところで、噴水広場の時みたいに『勝とうぜ!』とかは言わなかった。人型モンスターはシャウトにも反応してくるからな。
代わりにディアベルは、銀の長剣を高々と掲げると、大きく一度頷く。他のレイドメンバーも同じようにそれぞれの武器をかざして頷いた。
ディアベルが大扉の中央に当てて―――

ディアベル「行くぞ!」

一言だけ叫び、押し開けた。そして、俺は初めて入るフロアボスの部屋を見て、やたら広いもんだと感じた。
奥に向かって延びる長方形の空間で、左右の幅は20メートルくらいと言ったところで、扉から奥の壁までは100メートルくらいありそうだった。

俺「これだと、いざやばくなった時に、扉から離れてると逃げ損ねるとかもありうるな……」

レイナ「……もしオズマがそうなったら、私が敵を抑えるからその間に逃げて」

俺「俺が死んだらお前も死ぬもんな……」

このゲームには瞬間的なテレポートが出来る『転移結晶』があるらしいが、この第一層においては入手手段はないらしい。
そもそも、結晶自体が途方もなく高価で、そうそう軽々しく使える代物でもない。
そんな事を考えていると、暗闇のボス部屋の左右の壁の松明が燃え上がった。松明が部屋を明るく照らすと、部屋の最奥部の巨大な玉座に座る何者かのシルエット。
ディアベルの合図と同時に、44人のボス攻略部隊は、一気に大部屋に雪崩込んだ。
と言っても、俺達4人はキバオウ率いるE隊のオマケだが。
俺とレイナがディアベルからキリトがLAボーナスを掻っ攫うのを阻止するよう言われている事は当事者を除いて誰も知らない。

「グルルラアアアアア!!」

ボスモンスターの『イルファング・ザ・コボルドロード』の外見は青灰色の毛皮を羽織り、二メートルを軽く超える巨体だった。
右手に骨で作ったような斧、左手にバックラーを持ち、腰の後ろには長い湾刀(タルワール)を差していた。

コボルドロードはA隊リーダーに向けて力任せに斧を叩きつけた。ヒーターシールドがそれを受け止め、強烈な衝撃音が広間に響き渡る。
そして、左右の壁の高いところにいくつか開いた穴から、三匹の重装備モンスターが飛び出してくる。

レイナ「……取り巻きの『ルインコボルド・センチネル』よ」

俺「あれが俺たちの遊び相手か」

早速キバオウ率いるE隊と、それを支援するG隊が三匹に飛び掛かり、タゲを取る。俺とレイナも至近距離までに迫ったセンチネルに向かって飛び掛かる。
『イルファング』のHPケージは四段。三段目までは右手の尾のと左手の盾を武器に使うが、四段目に突入すると、腰のタルワールを抜いて、そこから攻撃パターンが変わるとアルゴの攻略本には書かれていた。

俺「貰いっ!」

E隊とG隊が狩り零した『センチネル』を倒しつつ、俺はキリトの様子も確認する。今の所は役割分担通り、狩り零しのセンチネルの撃破に勤めているようだ。
このまま順調に進めば、LAボーナスはディアベルのになる、俺はそう思いながら戦い続けた。
すぐ手前から斧を持って正面から斬りかかって来るセンチネルをソードスキルの『デーモンファング』の衝撃波で至近距離に来られる前に攻撃する。

俺「スイッチ!」

レイナ「……了解」

ソードスキル発動後で一時的に硬直した俺に変わり、レイナが前に出て、即座に弱ったセンチネルに攻撃を加えて止めを刺した。
そのとき、イルファングコボルドの最初のHPケージが消えた。最前列でディアベルが「二本目!」と叫び、壁の穴から追加のセンチネルたちがゾロゾロと飛び出てくる。

俺「オマケ部隊のはずだったのに、休んでる暇もないってか?」

すぐに手近の一体に接近して、速攻で斬り付けて、更にソードスキルの『ヘルソード』をお見舞いする。

俺「スイッチ!」

レイナ「……了解」

さっきとほぼ同様に、弱ったセンチネルをレイナが反撃の隙を与える間もなく倒した。

キリト「少しばかし、戦い方が粗削りじゃないか?」

俺「この戦い方が俺にとっては最適なんだよ!」

確かに、キリトに指摘された通り、自分から見ても俺の戦い方は、SAOに限らず、大抵のゲームではで粗削り、ゴリ押し、ワンパターンな傾向がある。
だが、俺にとっては戦略的な戦い方とか、状況に応じてやり方を変えるだとかよりも、こっちの方が上手く行くことの方が圧倒的に多い。
何時だったか忘れたが、俺のその戦い方をスポーツ選手に例えると、運動神経や体力は圧倒的にずば抜けているが、技術や戦略が未熟なタイプだと言われた事があったが、俺は今のやり方を変えようと思った事など一度も無かった。

立木ナレ「そして、コボルトの王とその衛兵VS44人のプレイヤーの戦いは続いた。ディアベルのC隊が一本目のHPケージを、D隊が二本目のケージを削り、現在F隊とG隊がメイン火力となって三本目を半減させていた!」

レイナがソードスキルの『ストームソード』で自信を取り囲んでいた二体のセンチネルを一気に振り払った。
そして、俺がその内の一体の急所である喉元に剣を突き刺して止めを刺し。もう一体が起き上がってレイナに再び襲い掛かる事にはレイナも硬直から解除されて即座に守りに入る事が出来る。
取り巻きとは言え、ルインコボルト・センチネルはこの場所でしかわかないレアモンスター故にボスほどじゃないにしろ、経験値、金、アイテムを落とすので、これはこれで中々美味しい仕事と言えなくは無かった。

俺「って、アイツら何を話してるんだ?」

いつの間にか、少し離れたところで、キバオウとキリトが何か話しているようだったが。戦いが忙しいので上手く聞き取れないし、この状況下で『聞き耳』スキルを使っている余裕もない。
だが、なんとなくだがベータテスターを露骨に嫌っているキバオウのキリトに対する態度からして見て、奴もキリトがベータテスターであることを何かしらの手段で知った事は伺えた。
と、そんな事を考えている間にもボスの四段HPケージがついに最後の一本に突入した。F・G隊が後退して、代わりに全回復を終えたC隊がボスに向かって突進していくところだった。

「ウグルゥオオオオオオオオオオ―――――!!」

イルファングの雄叫びがボス部屋の中に響き渡った。同時に、壁の穴から更にルインコボルド・センチネルが飛び出てくる。
そこでキリトはキバオウとの話を終えたようで俺たちの側に戻って来ていた。

アスナ「…………何を話してたの?」

キリト「いや……。まずは敵を倒そう」

アスナ「…………ええ」

そのやり取りで、アスナもキリトがベータテスターであることはまだ知らされてないんだろう。
ともかくセンチネルを倒す為に俺とレイナは何時でもスイッチできるようにする。
レイナがソードスキルの『ストロングファング』を発動し、前方に強烈な衝撃波を叩きつけて目の前のセンチネルを弱らせて、即座に俺が前に出て斬り付けて、更に『デーモンファング』で止めを刺す。

俺「いよいよ、ボスの本気の始まりか……」

レイナ「……無敵モーションが終わったわ」

既にディアベルがボスにタゲを取ってボスの初撃を捌こうとしていた。イルファングが吠えて、湾曲した右手の……

俺「あれ、なんか違わなくないか?」

レイナ「……私も、事前情報と違うと思う」

それは、攻略本に書いてあったのとは少し違う武器に見えた。タルワールにしては細い気がした。

キリト「だ、だめだ、下がれ!全力で後ろに跳べ―――――――!!」

突如、キリトが今まで発した事のない大声で絶叫した。最初はここにきてLAボーナスを狙おうとしたのかと疑ったが、その疑念はイルファングが始動させたソードスキルを目の当たりにしてかき消された。
イルファングが垂直に飛ぶと、空中で体を捻り、武器に威力を溜める。落下と同時に、蓄積されたパワーが解放される。

レイナ「……!!刀専用ソードスキルの『施車(ツムジグルマ)』」

俺「刀だって!?」

そうか、ベータ版の時と、最後に使う武器が変わってたのか!そして、キリトはその違和感に気が付いて大声を出したのだったようだが、手遅れだった。
C隊の全員がほぼ同値のダメージを食らったのは確かだった。そして、6人は床に倒れて、その頭の上には開店する黄色い光が取り巻いていた。
あれは確か、一時的な行動不能状態『スタン』だ。

俺「よりにもよってディアベルまで……」

その場にいる全員が、それまでの楽勝ムードから一転しての窮地に固まってしまっていた。

キリト「追撃が……」

前線の方でエギル達が援護に動こうとしていたが間に合わなかった。イルファングは両手の刀、もとい野太刀を床すれすれの軌道から高く切り上げるソードスキルを使った。
狙われたのは正面で倒れていたディアベルだった。
上、下の連撃。さらに溜めからの突き。三連続攻撃をお見舞いされていた。

俺「……クリティカルヒット」

その衝撃音から俺はそう察した。ディアベルは20メートルほど吹き飛ばされて、センチネルの相手をしていた俺たちの側に落下した。

レイナ「……オズマ、休んでる暇はない」

俺「分かってる!!」

あっという間にHPケージを失っていくディアベルを助けている間もなく、俺達もセンチネルの相手に勤しむことになる。
このゲームでは通常回復アイテムのポーションは使ってから実際に回復するのに時間が掛かる。
だから、今からポーションを飲ませたところで間に合わないのは明白だった。
そして、俺のすぐ後ろで、ディアベルがキリトに看取られながら消えていくのを俺は一瞬だけ垣間見たのだった。

目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

FILE13 決着、コボルド王

立木ナレ「順調に事が運んでいくと思われた第一層フロアボス『イルファング・ザ・コボルドロード』との戦い。リーダーのディアベルの指揮のもと、44人のプレイヤーは順調にボスを追い詰め、あと一歩までボスを追い詰めた!しかし、ベータ―時代の情報とは異なるボスの行動パターンによって致命的な意表を突かれ、その犠牲となったのは何とリーダーのディアベルであった!!」

うわあああ、なんて叫び声か悲鳴とかがボス部屋を満たした。
レイドメンバーの殆どが、武器を縋るように握りしめ、目を見開いていたが、誰も動こうとしない。
リーダーの死と言う、不測の事態に動揺がレイドメンバーを覆いつくしていた。

俺「このまま戦い続けて大丈夫なのか……!!」

俺自身、ここはボス部屋から一旦引くか、もしくは戦闘を続行すべきかを図りかねていた。ベータ―時代と事前情報が異なっていた結果ディアベルが死んだ。この調子だとこの先戦い続ければさらに犠牲者が増える可能性も有る。
だが、イルファングの手前にいる前線の連中は逃げ切れずに、奴の長距離範囲技の餌食になってしまいかねない。

キバオウ「…………何で……何でや……。ディアベルはん、リーダーのあんたが、なんで最初に……」

それは、ベータ―時代の情報との違いと、ディアベルがLAボーナスを狙ったのがアダになってしまった事態だったが、そんな事を悠長に説明している場合じゃない。

レイナ「……オズマ、またきっと『センチネル』が出てくる」

俺「……分かってる、全員が撤退の意見にまとまらない内は戦闘続行だ」

レイナはこんな状況下でも自分の、死んだディアベルから任されたセンチネルを倒す任務を続けようとしていた。
コイツはきっと、俺が止めろと言うまでは、戦う事を止めないだろう。

キリト「へたってる場合か!E隊のリーダーのアンタが腑抜けてたら、仲間が死ぬぞ!いいか、センチネルはまだ追加で沸く可能性が……いや、きっと湧く。そいつらの処理はあんたがするんだ!」

キリトが、項垂れるキバオウの左肩を掴み、無理やり引っ張り上げて、そう言い放った。

キバオウ「……なら、ジブンはどうするんねん。一人とっととにげようちゅんか!?」

キリト「そんな訳あるか。決まってるだろ……ボスのLAを取りに行くんだよ」

俺「……いいぞ、それで良いんだ」

キリトの言葉を聞いて、俺は小さな声でそう言った。ディアベルが死んだ以上、ディアベルがLAボーナスを決めれば4万コルと『武器強化奥義書』を貰える依頼は失敗に終わった。
ならば、ここは当初の予定通りキリトにLAボーナスを取らせて、後で強請りでキリトがドロップしたレアドロップアイテムを頂くしかない。
ベータ―時代に散々フロアボスのLAボーナスを掻っ攫った奴ならそれが出来る可能性が高い。

レイナ「……オズマ、キリト達が行ったわ」

俺「分かってる、俺がLAを決めるか……奴にLAを取らせる援護をするか」

レイナ「……了解」

キリトとアスナは俺たちに先んじて、広間の奥に向かって走り出していた。今の所ディアベルに続く戦死者は出てないようだが、前衛部隊の連中の平均HPは既に半分を下回っていた。
その時、アスナが激しくはためくフードつきケープを邪魔そうに掴み一気に身体から引き剥がし、その素顔を初めて晒していた。
レイナにも負けず劣らずの美貌に、こんな状況下にも関わらず目を奪われて、沈黙していた。

キリト「全員、出口方向に十歩下がれ!ボスを囲まなければ、範囲攻撃は来ない!」

俺「HP半分以下になってる連中は特に急げ!下がったら即ポーション飲んで、回復が住むまでは絶対に前に出るな!!」

ようやく、最前線のプレイヤー達が俺たちの左右を、一斉に後方へと動く。それを追う様に、ボスも体の向きを変え、俺達と正対する。

俺「レイナ、キリトとアスナはあいつらでコンビで上手くやるだろうから、俺たちは俺達でうまく連携だ、手順はセンチネルの時と同じで大丈夫だろう」

レイナ「……分かった」

キリトとアスナが既にボスとの戦いを開始している、俺もすぐにそこに入り、連続突きソードスキルの『レインソード』を発動する。
全ての突きがイルファングに刺さるが、即座に野太刀を視認不可能な速度で振り払う。それは、発動を見てからでは対処が間に合わない速さだった。

キリト「う……おおっ!!」

俺「ぐぅ……!!」

キリトとイルファングは互いの剣技を相殺させて二メートル以上もノックバックしていた。
おかれで俺はソードスキルの硬直中に攻撃される事なく、生まれたボスの隙をアスナとレイナが完全に捉えた。

アスナ「セアアッ!!」

レイナ「…………」

アスナの気勢に乗せて放たれた『リニアー』はコボルド王の右腹を撃ち抜いた。更に、即座にレイナの『ブレードフューリー』による、三連続突きが更にコボルド王のHPを減らす。

キリト「……次、来るぞ!」

俺「ああ、倒すまでは気が抜けないんだ!」

俺もキリトも既に硬直から回復している。キリトはベータ時代にイルファングとも戦ったんだろうが、ベータ時代との違いを配慮したうえでの戦い方を模索しているようだが、ベーターじゃない上に、そもそもワンパターンでゴリ押しな戦い方を基本としている俺にそんな事は関係ない。

俺「こーなったら攻撃あるのみだ」

イルファングの繰り出す長大な刃に注意を払いつつ、俺は当てられる限りの斬撃をお見舞いしてからソードスキルを発動する。今度は『ヘルソード』での強烈な一撃を与える。

キリト「しまっ……!!」

俺「どうし……!?」

イルファングの刃と攻撃を相殺し合っていたキリトだったが、発動しかけた垂直斬りソードスキルの『バーチカル』をキャンセルしようとした矢先に、イルファングの刃が半円を描いて動き、真下に回った。そして、キリトの動きがピタリと止まっていた。
あれは麻痺したみたいだな。

アスナ「あっ……!!」

真下から跳ね上がって来た野太刀が、キリトを正面から捉えていた。俺は俺でソードスキル発動後の硬直ですぐには動けない。そこにアスナがコボルド王に突っ込んだ。
そして、ディアベルの命を奪った三連撃技がアスナを襲おうとした時だった。

エギル「ぬ……おおおっ!!」

俺「エギル……」

太刀がアスナを襲う寸前にエギルが武器の両手斧を使ったソードスキル『ワールウインド』で野太刀の初激を辛うじて止めていた。

エギル「あんたがPOT飲み終えるまで、俺たちが支える。ダメージディーラーにいつまでもタンクやられちゃ、立場が無いからな」

キリト「……すまん、頼む」

エギルだけでなく、エギルの仲間であるB隊とダメージが少なかった者たちが回復を終えて戻って来たみたいだった。

俺「俺とレイナはまだHPに余裕があるからこのままやってやるさ」

レイナ「……ええ」

キリト「ボスを後ろまで囲むと全包囲攻撃が来るぞ!技の軌道は俺が言うから、正面の奴が受けてくれ!無理にソードスキルで相殺しなくても、盾や武器でキッチリ守れば大ダメージは食わない!」

エギル「おう!!」

エギル達はキリトに指示された通り、イチかバチかの相殺には挑まずに、縦や大型武器でガードに徹していた。
タンク型ビルドのプレイヤーたちなので、元からHPや防御力は高いが、それでもボスのソードスキルをダメージ0に抑えることなど不可能だ。

俺「もうちょい持ち堪えて!!」

エギル「ああ、今の内にアンタらが奴のHPを削るんだ!!」

レイナ「…………」

エギル達がタンク役として奴らの攻撃を受けてくれているので、後から再び突っ込んだ俺とレイナはすぐに攻撃される事なく、交互にソードスキルを打ち込むことが出来る。
俺が勢に任せた斬撃からの『ヘルソード』の直後に間髪入れずにレイナが突きからの『ブレードフューリ―』でさらに追撃する。順調にイルファングのHPは減り続けている。

そして今度は、俺たちの間をアスナが軽やかな動きで舞う。決してボスの正面と背後には回らず、それでいてイルファングが少しでも硬直すると、その隙を逃さずに渾身の『リニアー』を叩き込んでいた。

レイナ「……ボスのアスナに対するヘイトが上がるわ」

エギル「任せろ!俺たちが『威嚇(ハウル)』とかでヘイトスキルをタゲを取ってやる!!」

俺「ったく、危うい連携が続くな……どれか一つでも破綻したら瞬間崩壊だ!!」

そんな危うい戦いが3分ほど続いた。やがてついにボスのHPが残り三割以下になって、最後のケージが赤く染まった。
その瞬間に壁役の一人が気の緩みからか、足をもつれさせてよろめいた。立ち止まったのはイルファングの真後ろ。

キリト「速く動け!!」

俺「ダメだ、奴が取り囲まれた状態だと察知しやがった!!」

キリトが反射的に叫んだが、僅かに間に合わなかった。イルファングは高く垂直ジャンプしてその軌道上で全包囲攻撃の『施車』を再び発動する。

キリト「う……ぉぉああッ!!」

俺「なに!?」

そこにキリトがHPが回復し終えてないにもかかわらず、壁際から飛び出していた。

キリト「届……けぇ―――――!!」

キリトのアニールブレードが空中に長いアーチを描きながら走り、『施車』の発動寸前のイルファングの左腰を捕らえていた。

俺「こいつも食らっとけ!」

それだけでは不安定だと判断した俺は、即座に続けてソードスキルの『ドラゴンスゥワーム』で三連撃追撃を食らわせる。このソードスキルは習得したばかりで、慣れるまでは雑魚のモンスター相手以外には使うのを控えていたが、少しでもボスのHPを削りたい今、俺は敢えてこのソードスキルを使ってみたのだった。
コボルド王はぐらりと巨体を傾けさせ、床に叩きつけられた。

レイナ「……人型モンスター特有のバッドステータスの『転倒(タンブル)』状態ね」

俺「おし!今なら囲めるぞ!全力で総攻撃だ!」

エギル「お……オオオオオ!!」

エギル達は、これまでガードに専念させられた鬱憤を晴らすかのように叫んでいた。倒れたコボルド王を取り囲んで、次々とソードスキルを発動させる。コボルド王のHPケージがどんどんと削られていく。

レイナ「……オズマ、回復は?」

俺「ああ、そろそろそうしたいところだった」

攻撃は今はエギル達に任せて、俺とレイナはすぐにポーションを飲む。やはりすぐに効果は表れないが、今の内に飲まないと、万が一エギルらの攻撃でHPを削り切れなかった時がヤバイ。
そして、硬直から解放されたエギル達が次のスキルの予備動作に入った時だった、コボルド王は立ち上がるべく状態を起こす。

俺「流石に間に合わなかったか……!!」

キリト「アスナ、最後の『リニアー』一緒に頼む!」

アスナ「了解!!」

が、キリトとアスナはすぐに次に行動に映る。どういうわけかキリトの片頬だけで笑っているように見えた。
僅かに赤い輝きを残しているボスのHPケージ、エギル等はディレイを課せられて動けない。
ボスは転倒中に攻撃されてスタンもノックバックもせずに、垂直ジャンプのモーションに入る。

俺「させるか!」

後僅かのHPを削り切るべく、俺は敵にそのまま一気に飛び込んで『レインソード』の連続突きを食らわせる。
更にレイナが敵の反撃を許すまいと、『ブレードヒューリ』を続けて放つ。
そこに、キリトとアスナがエギル達の隙間を抜けて、まずアスナが先にリニアーをボスの左脇に打ち込んだ。
そしてその直後、青い光芒をまとったキリトの剣が、コボルド王の右肩口から腹までを切り裂いた。

俺「やったのか……?」

俺がそう呟いた直後に、コボルド王の両手が緩み、野太刀が床に転がった。その直後にアインクラッド第一層のフロアボス『イルファング・ザ・コボルドロード』の身体はガラス片となり四散した。
おそらく、今頃キリトの視界にはラストアタックボーナスを知らせるメッセージが表示されてるんだろうな。
何はともあれ、俺たちは勝った、ディアベルと言うリーダーを失いながらも初めて、フロアボスを撃破したのだった。

立木ナレ「ついに決着!初のフロアボス戦勝利!デスゲーム開始から実に一ヶ月!!既に2000人近い犠牲者を出してしまうと言う圧倒的な絶望の中で掴んだ、大いなる希望!第一層フロアボスの撃破!!44人のプレイヤー達は成し遂げた、この戦いで命を落としたディアベルの敵討ちを!!」

目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

FILE14 憎しみの象徴『ビーター』生誕


立木ナレ「第一層フロアボス『イルファング・ザ・コボルドロード』との戦いはレイドパーティーのリーダーであるディアベルを失いつつも、どうにかそれ以上の戦死者を出すことなく撃破された。そして、LAボーナスを決めたのはキリトであった!!」

俺「センチネル達も消えたみたいだな」

レイナ「……ボスモンスターが倒されると、取り巻きの雑魚モンスターも消えるのはRPGではよくある事」

残ったセンチネル達もそれなりに経験値と金を落としてくれるので、少し惜しい気もしたが。あの激戦の後なのでもう一分一秒でも休みたい衝動がそれに勝っていたので、良しとするか。
それにしても、ボス戦はようやく終わったって言うのに、皆して静かなもんだな。

レイナ「……皆どうしたの?」

俺「戦い疲れて放心状態とかだろ。もしくは、これで本当に終わったのかどうか……終わったと分かってても実感が無いかだな」

レイナ「……人間の心理は分からない事が多いわ。このメッセージを見れば、ボス戦が終わった事は明白」

レイナの言う通り、俺の目の前にも獲得経験値、分配されたコルの額が表示されている。同じものを見たその場の全員が、ようやく顔に表情を取り戻した。
わっと歓声が弾ける。嵐のような騒ぎの中、床から立ち上がって近づいてくるのは、エギルだった。

エギル「……見事な指揮だったぞ。そしてそれ以上に見事な剣技だった。コングラチュレーション、この勝利はあんたのもの……いや、あんた達のものだな」

エギルは口を閉じるとニッと太い笑みを浮かべて巨大な拳を固めて突き出してくる。俺は取りあえず同じように拳を突き出してからひと言。

俺「コングラチュレーションってなんだ……?」

エギル「あ、ああ……それはだな」

レイナ「……congratulations……日本語に訳すと『おめでとう』と言う意味の英語よ」

苦笑しているエギルが説明しようとする前にレイナが淡々とした口調で俺にも分かるように教えてくれた。
近くでその様子を見ていたアスナとキリトが俺の無知を面白がっているのかどうかわからないが、妙な苦笑いを浮かべていた時だった。

「――――なんでだよ!!」

突然、そんな叫び声が弾けた。まるで泣き叫んでいるかのような響きに、広間の歓声が一瞬で静まり返った。
叫び声の主は軽鎧姿のシミター使いだった。

俺「アイツ、ディアベルの……C隊のメンバーだったか?」

レイナ「……彼はリンドよ」

リンド「なんで、ディアベルさんを見殺しにしたんだ!!」

やっぱり、当初からディアベルの仲間だった一人だ。奴の背後にも、残りのメンバー4人のうちの何人かが泣いていた。
そして、俺はその言葉がキリトに向けられたものだと察したが、キリトはその言葉の意味が解らないようで。

キリト「見殺し……?」

と、呟いた。

リンド「そうだろ!!だって……だってアンタは、ボスの使う技を知ってたじゃないか!!あんたが最初からあの情報を伝えれれば、ディアベルさんは死なずに済んだんだ!!」

その叫びを聞いたほかの者達もざわめきだし、徐々に疑問がキリトに向けられていく。キリトがボスの使う技を知っていたのは当然、キリトがベータテスターであるからだった。
俺とレイナ以外にもキバオウも恐らくキリトがベータテスターであることに気が付いているはずなので、キバオウがそれを暴露するかと思いきや、キバオウは口を引き結んだまま立ち尽くしているだけだった。

「オレ……オレ知ってる!!こいつは、元ベータテスターだ!!だから、ボスの攻撃パターンとか旨いクエとか狩場とか、全部知ってるんだ!!知ってて隠してるんだ!!」

そう叫んだのはキバオウが指揮していたE隊のメンバーの一人だった。その言葉を聞いても、ディアベルのC隊のメンバーは特に驚きの顔を見せる事は無かった。
初見のはずの刀スキルをキリトが見切った時点で、おおよその確信はあったのかもしれない。

俺「つーか、不味いなこれは……」

レイナ「……オズマの計画が失敗するかもしれないわ」

そうだ、このままキリトがベータテスターであることがはっきりと確定して広まれば、キリトに対してベータテスターであると言う証拠をネタにキリトを強請る計画が完全に破綻する。そうなれば、キリトがさっきドロップしたであろうLAボーナスのレアドロップアイテムどころか、奴がもともと持っていた金もアイテムも武器も何一つ取れなくなってしまう。
既にベータテスターであると知れ渡った奴に対してそんな強請りなど最早、何の意味も無いからだ。

「でもさ、昨日配布された攻略本に、ボスの攻撃パターンはベータ時代の情報だって書いてあったろ?彼が本当に元テスターなら、むしろ知識はあの攻略本と同じじゃないのか?」

エギルと一緒にタンク役を務めていたメイス使いが上手く冷静な発言でそう言った。

「そ、それは……」

押し黙ったE隊のメンバーの代わりに、シミター使いが憎悪溢れる一言を口にした。

リンド「あの攻略本が嘘だったんだ。アルゴって情報屋が嘘を売りつけたんだ。あいつだって元ベータテスターなんだから、タダで本当の事なんか教えるわけなかったんだ」

俺「ったく、余計な憶測をわざわざ口に出しやがって……」

俺の方からこの場でキリトをフォローしてやろうとも思ったが、それをやってからだと後でキリトを強請っても、仮にキリトが開き直って『どうぞ、好きに言ってくれ』等と言い出したとしても、この場でキリトを庇った後にやっぱりキリトはベータテスターだったと言う証拠を持ちだすのは矛盾が起きる。なぜならその証拠となる記録結晶の音声はボス戦の前である事も確定できる会話の内容だからだ。
つまり、俺がすでにこの時点でキリトがベータテスターである事を知りながらキリトを庇った事が露点してしまう。
こうなったらキリト自身が奴らを納得させる、あるいは論破できる言い訳や嘘を吐いてこの場を切り抜けてもらうしかない。
俺はキリトに対して何とかしろと念じるようにし視線を向ける。

エギル「おい、お前……」

アスナ「あなたね……」

今まで我慢していたエギルとアスナが同時に口を開いた時だった、キリトは二人を、両手の微妙な動いで制した。
そして、一歩前に出ると、いとしてふてぶてしい表情を作りだすと。

キリト「元ベータテスター、だって?……俺を、あんな素人連中と一緒にしないでもらいたいな」

リンド「な……なんだと……?」

って、こいつはいきなり何を言い出すんだ!?そんな俺の思いなどお構いなしにキリトは見下し切ったような表情のまま話を再開する。

キリト「いいか、よく思い出せよ。SAOのCBT(クローズドベータテスト)はとんでもない倍率の抽選だったんだぜ。受かった千人の内、本物のMMOゲーマーが何人いたと思う。ほとんどはレベリングのやり方も知らない初心者だったよ。今のアンタらの方がまだマシさ」

侮蔑極まりないキリトの言葉に四十数人のプレイヤー達が一斉に黙り込む。

キリト「でも、俺はあんな奴らとは違う。俺はベータテスト中に、他の誰も到達できなかった層まで登った。ボスの刀スキルを知っていたのは、ずっと上の層で刀を使うMObと散々戦ったからだ。他にもいろいろ知ってるぜ、アルゴなんて問題にならないくらいにな」

リンド「……なんだよ、、それ……そんなの……ベータテスターどころじゃねぇじゃんか……もうチートだろ、チーターだろそんなの!」

周囲から、そうだ、チーターだ、ベータ―のチーターだ、と言う声が幾つも湧き上がる。それらはやがて混じり合い、『ビーター』と言う奇妙な単語が出来上がっていた。

キリト「『ビーター』いい呼び方だなそれ。そうだ、俺はビーターだ。これからは、元テスター如きと一緒にしないでくれ」

俺「まさか……アイツ!!」

今になって自分から穢れ役を担って、他のベータテスター達への敵意が向けられるのを極力抑えようなんて思ってるんだ!
今の今まで自分で認めるほどに利己的な行動で一カ月間を過ごしてきた奴が何故今更?
が、キリトのこの行動によって俺の、キリトを強請る計画は完全に破綻してしまった。
ディアベルの依頼報酬どころか、キリトから取れるはずだった金やアイテムも取り逃してしまったんだ……そしてそのキリトは、俺の見ている前で今まで装備していた河コートの代わりに、さっきボスからドロップしたのだろう、漆黒のロングコートへと変化した。
そのロングコートは色こそ、俺がレイナからもらった灰色の『ダークスカイ・コート』
と違うが、形状は良く似ていた。

キリト「二層の転移門は、俺が有効化(アクティベート)しといてやる。この上の出口から主街区まで少しフィールドを歩くから、ついてくるなら初見のMOBに殺される覚悟をしとけよ」

歩き出そうとするキリトを、エギルとアスナがじっと見ている。奴らも既にキリトの意図に気が付いている様子だった。キリトは二人に少し笑みを見せると今度は俺とレイナの方に視線を向けて、

キリト「あの記録結晶に録音した内容は好きにしてくれて構わない。一回分無駄に使わせて悪かったな」

とだけ言って、大またで歩みを進め、第二層に繋がる扉を押し開けたのだった。そして、第一層でLAボーナスを決めた張本人であるキリトが去った直後だった。
狙ったようなタイミングで奴らが現れたのは。

ガチャモン「ガチャガチャモンモン、ガチャモンで~す」

モック「いや~、皆さんお疲れ様ですぞ~」

さっきまでの緊迫した雰囲気をぶち壊すような軽いテンションで現れたのはガチャモンとモックだった。

キバオウ「あっ、自分ら……!!」

アスナ「何なのよ一体……」

キバオウが何か言いたそうに、一瞬声をあげて、アスナが心底軽蔑するような視線を二人に向ける。

ガチャモン「いや~、めでたいよ。今日はとってもめでたいよね~」

モック「そうですな~、今日は記念すべき日ですな~」

こいつらが素直に俺たちが第一層のボスを倒したのを称えに来たとは到底思えない。そして案の定、俺の予想は的中した。

ガチャモン「そう、今日、2022年12月4日はついに……エヴァのアスカの21歳の誕生日でした――――――!!ハッピーバースデ~♪」

やはり全く関係のない祝い事だった。

モック「ええ――――――!?あ、アスカさんの21歳の誕生日って……まぁ、言われて見れば確かにそうですがガチャモン。それって今、祝う事ですか?」

ガチャモン「あったぼーよ!!」

何故、江戸っ子口調なんだ?

ガチャモン「毎年12月4日は誕生祝をやる、これってアスカファンなら常識中の常識じゃん、現にはじまりの街でもささやかにアスカの誕生祝してるプレイヤーがいるみたいだしね」

エギル「それが本当だってなら、前向きなのか、現実逃避なのかどっちなんだろうな……」

ガチャモン「ま、僕はどっちかと言えば、綾波ファンだけどね~」

モック「どええ――――!?あ、アスカさんの誕生日おめでとうとか言いながら、貴方、綾波ファンだったんですかガチャモーン!?」

どっちでも良いがな。ところが、ガチャモンはいきなり俺の方に視線を向けると、まるで同意を求めるように話し掛けてくる。

ガチャモン「まぁ、僕自身は綾波ファンだけどさ、オズマ君なら今日はアスカの誕生日だって覚えてたよね?」

俺「何故俺に同意を求める……」

今日はそれどころじゃなかったし、そもそもアスカの誕生日とか一々覚えてないと言おうとした矢先。

エギル「おいおい、コイツはどう考えたって綾波派だろ。そうだよなオズマ?」

なぜかエギルが俺を綾波ファンだと断定して言い切った!?その大男の視線の先には、このわけのわからぬやり取りを無表情で見守るレイナに向けられている気がする。

キバオウ「せや!こんな無口な娘連れまわしとる男やで!綾波かアスカのどっちかやとしたら綾波しかあり得へんわ!!」

何とキバオウまでもが俺を綾波ファンだと言い出し始めていた……と言うか、一部始終をポカンと見ていた連中も『やっぱり、綾波派なんだな』とか『だから、あんな無口な女の子を連れまわしてやがるのか』とか『俺は例え殺されてもアスカだ!!』等と言うどうでも良い話でざわめき始めていた。

俺「さっきまでベータ―だとかビーターだとか騒いでたのは何だったんだ……」

アスナ「もうどうでも良いわよ!!綾波とかアスカとかエヴァとか何の話か分からないけど、そんなくだらない話にこれ以上付き合う義理はこっちにはないわ!!」

ここにきて、やはりと言うかエヴァの事など全く知らないらしいアスナが痺れを切らして声を張り上げる。
さっきまでざわめいていた連中も一斉に沈黙してしまった。

エギル「そもそもお前ら、何もそんな話をする為だけに俺たちの前に現れたわけじゃないよな?」

ガチャモン「ふふふ、そうだね。明日になればいずれ全プレイヤーが目の当たりにする事だけど、この場にいるボス攻略戦を勝ち抜いた君達には、フライングでお知らせしてあげるよ。」

モック「二人ほど足りないようでありますけどな~」

その二人と言うのは、死んだディアベルと、先に第二層に向かったキリトに違いない。

ガチャモン「発表します!明日の朝の9時に僕は……生き残っている全SAOプレイヤーに奇跡を見せちゃいます!!」

俺「……は?」

アスナ「奇跡ですって?」

レイナ「…………」

立木ナレ「ガチャモンのその一言によって、いきなり、こいつはまた何を言い出すんだろうと言う疑問と、何か良からぬ事を始めるのではないかと言う不安がこの場にいるオズマ達の脳裏を過った。彼らが真っ先に思い出したのはガチャモンとモックが初めてプレイヤー達の前に姿を現した日。更に厳密に言えば、ガチャモンに攻撃を加えてハンマー使いのプレイヤーが90層のフロアボスと単独で戦わされて死ぬと言うおぞましい場面だった!!」

キバオウ「ま、待たんか!奇跡ってなんやねん!ジブンら、またロクでもない事しでかす気やないやろうな!?」

アスナ「冗談じゃないわ!またあんなことをして、誰かを理不尽に死なせるつもりだって言うの!?」

キバオウとアスナが憤慨してガチャモンとモックを問い詰めるが、ガチャモンとモックは相変わらず表情を全く変化させる事は無く。

モック「ま~、そんなに慌てないで下さいな~、いずれ明日になれば分かりますぞ~」

ガチャモン「そうそう、明日を楽しみに待っててね……もしくは、怯えながら待っててね」

ガチャモンの最後の一言でアスナとキバオウは背筋が凍ったのか、表情が一気に強張った。

ガチャモン「と言うわけで、僕たちはこれで失敬しま~す。バイバイキーン!!」

モック「あ、また違うキャラになっちゃってますよ!ガチャモンったらもぉ~」

そして、俺たちに不吉な事を言い残したガチャモンとモックは消え去ったのだった。10秒程の沈黙の後、最初に口を開いたのはキバオウだった。

キバオウ「な、なんなんやアイツら……今度は一体、何をしでかそうって魂胆や!?」

俺「奴らの考える事は分からないが、連中に攻撃すると、罰ゲームとかでえげつない手段で殺されるのは確かだから、取りあえずその一線は守るしかないだろ」

他にも後付けで何かルールを加えてくる可能性も有るが、これは確かなので守らざるを得ない。
すると、アスナが第二層の扉に向かって歩き出す。

エギル「ん、アンタ付いてくのか?」

アスナ「いいえ、彼に言いたいことがあるから少し行って来るだけです。言いたいことを言い終えたらすぐに戻ります」

エギル「そうか、なら俺の伝言も伝えておいてくれ、『二層のボス攻略も一緒にやろう』ってな」

エギルがアスナに伝言を頼むと、キバオウも苦々しそうな表情をしながらも。

キバオウ「ワイからも一言あったわ、『今日は助けてもろたけど、ジブンのことはやっぱり認められん。わいは、わいのやり方でクリアを目指す』これだけや」

アスナ「ええ、伝えておくわね……オズマ君、貴方は彼に何か言いたい事はある?あるなら一緒に伝えるけど?」

アスナが俺がキリトに対して言いたいことがあるのを見抜いているかのように態々そんな事を言ってくる、どうせならここで面倒ごとを少し頼むのも良いかもしれないな。

オズマ「『これ以上出し抜かれるほど、俺は間抜けじゃない』で良い」

アスナは俺の言った事の意味を分かりかねている様子だったが。すぐに『分かった』と返事をして、そのまま第二層への扉を潜ったのだった。
そして、緊張の糸が解れたかのようにボス部屋に残っていた連中はぞろぞろと部屋から出ていく。
キリトが転移門をアクティブゲートしたら、はじまりの街から第二層にワープする気なんだろう。
そして、それまでじっと事の成り行きを黙って見ていたレイナがようやく口を開く。

レイナ「……私たちはどうする?」

俺「一服したらこのまま第二層に行くぞ」

レイナ「……分かった」

俺はアイテムストレージを開いて、嗜好品リストからビールと煙草をオブジェクト化する。この一ヶ月、ずっと一本も吸わず、一本も飲まなかった酒と煙草。
第一層のボスを倒した自分への褒美だと思って、俺は一カ月ぶりに禁酒、禁煙を解禁したのだった。


立木ナレ「こうして、第一層フロアボスは倒され、デスゲーム開始から実に一ヶ月にして第二層への道が拓かれた!しかし、オズマは取り損ねてしまった、ディアベルの死とキリトの予想外の行動によって得られる予定だった(コル)もレアアイテムも取り損ねてしまった!!」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

FILE15 SAO初の鍛冶屋


立木ナレ「自ら憎まれ役を買って出たキリトは『ビーター』の蔑称を得た。そして、それによってオズマの、キリトを強請る計画は破綻!オズマはキリトに対して対抗心を抱いたまま、レイナと共に第二層へと歩みを進めるのであった!!」

第二層に突入した初日は、初見のモンスターとの戦いの連続だったが、一カ月間もの間、第一層で過剰にレベルを上げたおかげで、俺とレイナにとっての脅威と呼べるモンスターは皆無だった。
取りあえず、一層では手に入り難かった強化素材が第二層ではある程度入手しやすくなり。集めた素材で俺とレイナは第二層の主街区のNPC鍛冶屋で俺のメイン武器の『フェザーブレード+5』を+6に、レイナの『グレートソード+5』も+6に強化してもらった。
強化が終わる頃には夜遅くになっていたので、俺とレイナは宿屋で部屋を取り、宿屋の中にある狭い風呂場の中で……

俺「明日、ガチャモンとモックが言ってやがった、奇跡とやらが起きるんだよな」

第一層のボスを倒した後に現れた奴らが言っていた奇跡とやらが何なのかについて話していた。
無論、風呂に入っているので、お互いに装備は完全解除、すなわち全裸の状態なのだが、誰かが見てるわけでもないし、誰かが入って来る事も無いので、気にする事は無い!!

レイナ「……奴らが、言った事が本当なら、何かが起こるはず」

レイナは俺の背中を洗いながら、そう答えた。ほぼ毎晩、こんな事をしているが、レイナは全く恥じらう様子を見せた事は無く、淡々と俺の要求に答え続けてくれている。

立木ナレ「そして、第一層のフロアボス討伐の翌日の朝を迎えた!ボス戦に参加したメンバーたちを通じて、既に一般のプレイヤー達にもこの日、ガチャモンとモックが再び現れる事は知れ渡っており、プレイヤー達は不安に満ちた朝を迎えたのだった。そして……来るべき朝の9時が来た!!」

9時ちょうどを迎えたと同時に、俺が持っているガチャパットが勝手にオブジェクト化された。
レイナの方も、ガチャモンとモックが現れた時には、ただのNPCで俺をマスター登録しておらず、ガチャパットを貰っていなかったはずのレイナの目の前にオブジェクト化された。

俺「他の連中も同じみたいだな」

レイナ「……奴らが強制的にオブジェクト化したみたいね」

宿の外に出てみるが、やはり他のプレイヤー達も自分の意思とは関係なく、ガチャパットが手元にオブジェクト化されたらしく、全員が仕方なくガチャパットに目を向けていた。
そして、俺たちが持っているガチャパットにその動画の再生が始まった。

ガチャモン「そ~れ~!!」

モック「おお~、ナイスな滑りですぞガチャモ~ン!!」

それは、ガチャモンがどこでやっているのか知らないが、雪山をスキーで滑走して、それをモックが一人で応援している光景だった

ガチャモン「まだまだ~、ここでジャンピング決めるよ、とぉりゃ――――――!!」

モック「凄いですよガチャモン!こ、これはひょっとして……金メダル狙えるんじゃないですかガチャモン!!皆さんも、そう思いますよね!?ね、ね!?」

一斉に、辺り一帯でガチャモンとモックに対する罵声、激昂、不平不満の声が響き渡った瞬間だった。

俺「散々、不安にさせておいて、なんだこれ……?」

モック「え~、というわけで。これからはプレイヤーの皆さん方が、フロアボスを倒すたびに、そのお祝いとして、翌日の朝の9時に、ガチャモンのチャレンジシリーズ動画を流したいと思いますぞ~。そして、一度公開されたチャレンジシリーズ動画は何時でもガチャパットで再生可能ですので、何十回でも、何百回でも、何千回でも見てくださいですぞ~!!」

全くありがたくない祝いだった。間違いなく、俺がこの動画をもう一度再生する日は来ない事だろう。

俺「さて、今日も第二層の探索と狩りに行くとするか」

レイナ「……分かった」

昨日は取りあえず、主街区のウルバスから南東に三キロ程度離れた古村の『マロメ』までは見に行っていた。
今日は他の村や町も目指して、もしかしたら珍しいアイテムや武器が手に入るかもしれないという期待を持って狩りをした。
そして、俺たちはマロメより更に西の平地での狩りを続けた結果、モンスターから片手剣の『ウエイトソード』をドロップした。

俺「攻撃力も速さも、俺が今使ってる『フェザーブレード+6』より下だな、たぶんこりゃ、これを+6にしたところでフェザーブレードより実践じゃ使えそうにないな」

レイナ「……この武器のメリットは他にある」

レイナの言う通り、この『ウエイトソード』は基本性能自体は初期装備の『スモールソード』と大差ない性能なのだが。特殊効果付きの武器であり、メッセージウィンドウにはこう記されている。

【ソードスキルの熟練度の上昇率をアップさせる】

つまり、この武器を装備してソードスキルを使っていると、他の武器でソードスキルを使っているのに比べて、熟練度が比較的早いペースで上昇していくと言う事だろう。
流石にボス戦などで使うには、戦力不足な武器だが、ある程度強化すれば、この辺り一帯の雑魚モンスターと戦う分には問題なさそうなので、俺とレイナはその夜、ウルバスに戻ってからNPCの鍛冶屋に強化を頼もうと考えていた矢先だった。

俺「あれ……あの鍛冶屋ってプレイヤーだよな?」

レイナ「……そうね」

ウルバスの広場で鍛冶屋をやっているのは、地味な茶色の革エプロンを装備した小柄な男性プレイヤーだった。
広場の一角に灰色の絨毯(じゅうたん)を広げて、その上に椅子や鉄床(アンピル)、陳列棚を所狭しと並べていた。

俺「あれ、あそこって露店が出来るエリアじゃないはずだよな?」

レイナ「……あの絨毯は『ペンダース・カーペット』よ」

俺「ああ、確か路上で広げると、そこで簡易的なプレイヤーショップが出来るアイテムだったな」

俺はレイナの説明で、アルゴの攻略本にそんなアイテムが記載されているのを思い出した。

俺「と言うか、NPC以外の鍛冶屋なんて、もしかしたらアイツが初めてかもしれないな」

レイナ「……彼にウエイトソードの強化を頼むの?」

俺「NPCの鍛冶屋よりも、プレイヤーの鍛冶屋の方が強化成功率が高いんだろ?」

それは、俺が見た、ベータテスターのブログにもそんなようなことが書かれていたことを覚えている。

レイナ「……関連スキルの熟練度が相応に上がっている必要があるけど、一般的に同レベルなら確かにNPCよりもプレイヤーの鍛冶屋の方が成功率は上」

俺「じゃ、決まりだな」

NPCの鍛冶屋は基本的に24時間営業で、決まった場所に店を出し続けてくれるが。プレイヤーの鍛冶屋だとそうはいかないので、頼むなら奴があそこにいるうちでなくてはならない。

俺「こいつの強化を頼みたいんだが」

俺はレイナを伴って、オブジェクト化した『ウエイトソード』を鍛冶屋に見せる。

鍛冶屋「『ウエイトソード』ですね」

鍛冶職をやるだけあって、俺がオブジェクト化した状態の剣を見せるだけで、その剣の名前を即座に言い当てていた。
これでこの鍛冶屋が相応の知識やスキルを持っている事はおおよその保証が出来ると言えるだろう。

鍛冶屋「どこまで強化しますか?」

俺「取りあえず+4を目標に、素材はこれで大丈夫だよな?」

俺は今日、倒したモンスター達から取った強化素材を鍛冶屋に見せる。改めてその鍛冶屋を見てみると、小柄な上に見た目もかなり若く、俺と同年代位だと感じられた。

鍛冶屋「畏まりました、では武器と素材をお預かりして、強化を行いますね」

鍛冶屋は手にハンマーを持って、槌音を高々と発生させる。カァン!カァン!とリズミカルな金属音が広場に響き渡る。
俺が見込んだ通り、ウエイトソードは+1→+2→+3と、一度も失敗する事無く順調に連続で強化を成功させ続けていった。

俺「良いぞ、そのままもう一回頼んだぜ」

鍛冶屋「はい、お任せください」

強化素材も充分渡してある、成功率は85%だ。失敗すると+3になったウエイトソードが+2になってしまう……或いは、+4のまま使用した強化素材が失われる……或いは、+の数値の内容(プロパティ)が入れ替わるのいずれかになるが。
この成功率なら概ねその心配はいらないし、仮に失敗したとしても、+3→+4にまで強化できる素材の入手はそこまで難しくない。
+5以上に強化となると、ただその辺の雑魚敵から倒して手に入る素材だけでは足りないが。
そんな、俺の思考は次の瞬間に目の当たりにした光景で一瞬にして吹き飛んだのだった。

俺「……は?」

レイナ「……消えたわね」

これから+3から+4になるはずだった、ウエイトソードが剣先から柄に至るまで、かんぷなきまでに砕けて消えたのだった。
強化を頼んだ俺も、強化を行った張本人の鍛冶屋も、傍観していたレイナも、しばらく反応できなかった。(レイナの場合は普段通りでもあるが)
取りあえず、強化に失敗したと言う事は間違いないが、それで何故消える!?強化失敗ペナルティにこんな事があるなんて聞いたことないぞ!!

俺「どういう事だ……これは……?」

俺が怒気の籠った声でそう言いながら、鋭い眼光を作って、鍛冶屋に目を向けると、鍛冶屋は手に持っていた投げ出すと、弾かれた様に立ち上がり、俺たちに向き直って必死に頭を下げまくる。

鍛冶屋「す……すみません! すみません! 手数料は全額お返ししますので……本当にすみません……!」

悲鳴のような謝罪をこれでもかと言うほどに、繰り返す鍛冶屋だが、そんな謝罪を受けたところで問題は何も解決しない。

俺「手数料の返還は勿論だが……なぜ、武器強化の失敗で武器そのものが消えるんだ……?」

俺は鍛冶屋に問い詰めながら、レイナに目配せをすると。レイナは首を小さく縦に振って、万が一、鍛冶屋がこの場で逃げ出さないように、左手で小柄な鍛冶屋の方をガッシリト掴む。筋力ステータスを重点的に強化しているレイアに掴まれれば、非戦闘職の鍛冶屋ではまず逃げられないだろう。

鍛冶屋は頭をぺこぺこと下げるのは、取りあえずは止めたが、視線を下に下げたまま細い声で説明する。

鍛冶屋「も、もしかしたら……極低確率で、武器消滅のペナルティがあるのかもしれません……実際に消えてしまったわけですから」

俺「……本当かよ?」

まぁ、実際に消えてしまったのは確かであり、そう言われると俺としても否定の材料はない。

鍛冶屋「あの……本当に、なんとお詫びしていいのか……。出来れば同じ武器をお返ししたかったのですが、『ウエイトソード』は在庫がありませんでして……せめて……ランクは下がってしまいますが『ブロードソード』をお持ちになりますか?」

ブロードソードはウエイトソードのような熟練度が上がるような特殊効果など一切ない。第二層のNPCの武器屋で購入する事が出来る武器だった。
ウエイトソードに比べて釣り合う代物では到底ないのだが、従来のNPCの鍛冶屋ではそもそもどれだけ失敗したとしても、こんな保証は無いし、依頼する側も失敗のリスクは承知の上で頼むので、失敗したからと言って一概に鍛冶屋を責める理由にはならない。
事実、この鍛冶屋の看板には現在のスキル値での成功率がしっかりと記載されてるわけだからな。

俺「それじゃ……このブロードソードと手数料を受け取るから、それで手打ちにするよ。レイナももう離してやれ」

鍛冶屋「本当に……すみません……」

俺は運が悪かったと考えて、手数料と『ブロードソード』を受け取って、その場を後にする事にした。
レイナも鍛冶屋の方を掴んでいた手を放して、鍛冶屋を解放したのだった。

俺「取りあえず、このブロードソードは適当な値段で売るか」

レイナ「……あのウエイトソードを失ったのがそんなに惜しかったの?」

レイナは俺の表情を見て、珍しくレイナの方から質問してくる。

俺「まぁ、あれでソードスキルの『ドラゴンスゥワーム』と『ビーストハウル』とか、後それ以外にも幾つかのソードスキルの熟練度を高めておきたかったんだ」

レイナ「……なぜ?」

俺「俺が見たベータテスターのブログによると幾つかのソードスキル……俺が知る限り今言ったソードスキルの熟練度をある程度高めると『体術』スキルを習得できるらしい」

レイナ「……体術スキルは武器なしの徒手格闘で攻撃するためのスキルね」

本当なら、何かしらのクエストとかで習得できるならそちらで済ませておきたいのだが、今の所、体術スキルをクエストで習得できると言う情報は出回ってないので、俺は速く体術スキルを習得する為に必要なソードスキルの熟練度を高める為にも、『ウエイトソード』は好都合だったわけだが、失ってしまった以上、地道に高めるしかあるまい。
そんな感じで、第一層の二日目は折角手に入れたウエイトソードを失ってしまうと言う不運に見舞われたが、気を取り直して、宿屋に戻って食事と風呂と酒と煙草を満喫したのだった。

立木ナレ「ところがその数日後、オズマとレイナは再び目撃する事になるのだった。同じ鍛冶屋による、武器強化の大失敗を!!」

目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

FILE16 製造武器を求めるダガー使い


立木ナレ「第二層にて、オズマとレイナはソードスキルの熟練度上昇率を早める効果を持った片手剣『ウエイトソード』をモンスターからドロップした。第二層の主街区にて、SAO初と思われる、プレイヤーの鍛冶屋に強化を依頼し+3までは順調に強化成功を果たした。しかし!これは、夢か?それとも幻想か?はたまたドッキリなのか!?なんと+3になったウエイトソードを更に強化した結果、強化失敗したばかりか、ウエイトソードそのものが消滅してしまうと言う全体未聞の事態に見舞われた!!結局、オズマは鍛冶屋から手数料の返還と第二層のNPC武器屋で販売されているブロードソードを献上してもらう事で手打ちとしたのだった……」

プレイヤーの鍛冶屋にウエイトソードをものの見事にぶっ壊されてから数日が経過した2022年の12月8日の木曜日、既にデスゲームが始まってから32日が経っていた。
俺とレイナはウエイトソードぶっ壊され事件の後も相変わらず二人で、狩りをしたり、第二層を探索したり、クエストを受けたりする日々を送っていた。

「ふ……ふざっ、ふざけんなよ!!」

行く手で半ば裏返った絶叫が響き渡り、俺とレイナは足を止めた。

俺「いきなりデカい声出しやがって、そっちがふざけるなって話だよ……」

レイナ「……聞いたことがある声だと思う」

俺「お前、そんな声とかまでよく覚えてるな~」

レイナの記憶力に感心しつつ、いきなり何事かと思い、俺は絶叫が聞こえた通りの先のやや大きめの広場に寄ってみる。

「も、戻せ!!元に戻せよ!!+4だったんだぞ!そ、そこまで戻せよっ!!」

またしても絶叫。プレイヤー同士のトラブルだろうが、ここは《犯罪防止コード圏内》で第二層の主街区のウルバスの中心部近くなので、お互いのプレイヤーに実害が及ぶ可能性はないだろう。

「どっど、どうしてくれんだよ!!プロパティむちゃくちゃ下がってるじゃねーかよ!!」

顔を真っ赤にして喚き続けている男の顔に俺は見覚えがあった。

俺「アイツって、最前線のプレイヤーじゃないか?」

レイナ「……ボス攻略には参加してなかったけど、最前線プレイヤーなのは確か」

奴のレベルの高さは全身の金属防具と多くな角が三本のヘルメットからもわかる。そして奴が右手で握りしめている剣はキリトも使っている『アニールブレード』だった。
「なんだよ四連続大失敗って!プラスゼロになるとか有り得ねーだろ、これならNPCにやらせたほうがマシじゃねーか!責任取れよクソ鍛冶屋!!」

俺「プレイヤーの鍛冶屋だって?」

俺は、プレイヤーの鍛冶屋と聞いて、数日前に俺が強化を依頼した『ウエイトソード』をぶっ壊してくれた小柄で俺と年の近い鍛冶屋を思い出していた。
まさかと思い、俺は怒鳴り散らされている鍛冶屋のプレイヤーの顔をよく見てみると、その顔は案の定、数日前に俺が強化を依頼したあの鍛冶屋だった。

レイナ「……オズマが強化を頼んだ『ウエイトソード』を壊した鍛冶屋」

俺「アイツ……また大ポカしでかしちまったのかよ」

レイナ「……彼の話から推測する限り、+4まで強化済みだった『アニールブレード』の強化に4回連続失敗……それも失敗時のペナルティが全て強化率マイナス1で、最終的に+0になってしまったみたい」

俺「あの鍛冶屋、よっぽど質の悪い貧乏神に憑りつかれてるか、もしくは実はポンコツかのどっちかだな」

今更ながら、SAO初のプレイヤーの鍛冶屋に安易に強化を依頼した自分の判断を咎めてやりたいと俺は今更ながら思っていた。

レイナ「……きっと、初めに一度失敗して、熱くなった結果、更にもう一度、それを繰り返した結果だと思うわ」

俺「ギャンブルでもありがちだよな、負けた時の損失を取り返す為に更に勝負に出て、結果損し続けるってな」

レイナ「……まるで、自己体験談みたい」

レイナが珍しくジト目で、俺の目をジーっと見つめてくる。俺は観念したという合図を込めて両手を広げて答える。

俺「まぁ、実際に俺も経験あるからな。幼馴染の実家が経営してるノミ屋の競馬とか競輪とか競艇とかで散々な……」

レイナ「……未成年者は公共のギャンブルは禁止されてるはず」

俺「だから非合法のギャンブル場なんだよ。お前、ノミ屋ってのは知らないんだな?」

レイナは小さく頷いた。細かい知識がやたら多い割に、意外と知らない事もあるらしいな。

立木ナレ「日本に於ける公営競技などを利用して私設の投票所を開設している者のこと、或いは業者の事である!店の中にはありとあらゆる公営ギャンブルをリアルタイム中継で見られるテレビが数台設置されており、客はテレビ越しにその店で賭け事を行うシステムである。当然これは違法!ノミ行為は立派な憲法違反なのである!!」

俺「まぁ、キレたくなるのも多少は分かるかもな、あのアニールブレード、もうあれじゃ使い物にならないだろ」

レイナ「……+4の状態から更に4回強化したって言うなら、既にエンド品ね」

これはSAOにおける厄介な武器強化システム『強化試行上限数』が関わっているからだ。このゲームでは強化可能な装備には全て、『強化試行上限数』が設定されていて、それは強化可能上限数じゃなくて、何回なら強化を試せるって言う意味だ。例えば、初期装備の『スモールソード』であれば試行上限は僅か1回きりで、これは一度強化を試して失敗すると、その剣はもう絶対に+1に出来ない事になる。
あのアニールブレードは試行回数が確か8回だったと思うので、強化成功に4回と強化失敗に4回で、この時点でもう強化は出来なくなってしまったわけなので、これから猶アニールブレードはずっと+0になってしまったわけだ。
と、そこで未だに喚き続けている男の声が途切れた、奴の仲間二人が駆けつけてなんとか宥めているみたいだった。

「……ほら、大丈夫だってリュフィオール。また今日からアニブレのクエ手伝ってやるから」

「一週間頑張りゃ取れるんだからさ、今度こそ+8にしようぜ」

仲間たちに宥められて、強化失敗の被害者のリュフィオールはようやく落ち着きを取り戻したようだった。
そこで、今まで黙り込んでいたあのポンコツ鍛冶屋がようやく声を掛けた。

鍛冶屋「あの……ほんとに、すいませんでした。次は、ほ、ほんとに、頑張りますんで……あ、もう、ウチに依頼するのはお嫌かもですけど……」

全く持ってその通りだ、数日前の俺のウエイトソードの一件と今回のリュフィオールのアニールブレードの一件で俺はこの鍛冶屋には絶対に二度と強化を頼んではいけないと心底思っていた。

リュフィオール「……アンタのせいじゃねーよ。色々と言いまくって、悪かったな」

鍛冶屋「いえ……それも、僕の仕事の内ですから。あの、こんな事じゃお詫びにならないとは思うんですが……その、ウチの不手際で+0エンドしちゃったアニールブレードを、もしよろしければ8000コルで買い取らせてもらえないかと……」

ざわ……と周囲の野次馬たちがどよめく。

俺「俺の時もそうだったが、失敗したときの保証は気前良いよなアイツ」

レイナ「……強化試行回数0の状態のアニールブレードの相場が今は……推定16000コル」

レイナの推定のアニールブレードが16000コルなのに対して8000コルは相場の半額だが、試行回数を使い切ったエンド品を8000で買い取ってくれるのは破格の買取価格だ。他で売ったら恐らく4000コルにすらならないだろう。
そして、リュフィオールはそれに応じてゆっくりと頷いた。
そんな一連の騒動が終幕し、三人組も、野次馬たちも広場から消えて行った。

レイナ「……あ、キリトとアスナ」

俺「あ……どこだよ」

レイナ「……あそこ」

第一層フロアボスであぶれ者同士のパーティーを組んだ奴らの名前をレイナが口にして、俺はレイナが指さす方に目を向けると、そこには確かに、円形広場の反対側のベンチに並んで腰を下ろしているキリトとアスナが確かにいた。
キリトは目立つのを避ける為かビーターの象徴となりつつある、第一層でドロップした『コートオブミッドナイト』を着けておらず、アスナもナンパ対策の為か相変わらずプーケットで顔を隠した状態だった。

俺「アイツらもなんだかんだでコンビ組んだままなんだな……あ」

などと、キリトとアスナを眺めていた矢先、フレンドから1件のメッセージが届いたことを確認した。
俺のフレンドリストに入っているのは、第一層で商人をしていたリズベット、情報屋のアルゴ、後はレイナとその他数人程度のプレイヤーなので、メッセージの送り主が誰なのかはすぐに分かった。

俺「リズの奴からだな」

リズはリズベットの略称だった。第一層でレイナのクエストを受けるのに必要なグレートソードを取り寄せてくれて、バイトで記録結晶をくれたりと、それなりに助け合った関係だ。

レイナ「……私の知らない人ね」

俺「あの頃はまだお前はいなかったからな、だけどそいつのおかげでお前が今持ってるグレートソードが手に入ったんだぞ」

レイナ「……そう」

取りあえず、リズのメッセージを確認してみる。

【アンタ、『ベンダーズ・カーペット』持ってない?手に入れたらアタシに売りなさいよ、高値で買ってあげるから】

どうやら、リズもあらゆる場所で行商が出来るアイテムの存在を知ったようだった。はじまりの街では行商が出来るエリアがあるにはあるが、狭いゆえに場所の取り合いになりそうだしな。
取りあえず俺は【手に入ったら、連絡する】と返信しておいた。
そして、俺とレイナは今日も狩りをしながら何かクエストが無いかを探して第二層を探索する。

………

……



第二層の主街区のウルバスの南口から先に進んだ『トールス』と言う城下町の辺り一帯で俺達は昆虫モンスター達を狩っていた。

俺「この蜂、『ウインドワプス』だっけ?空を飛ぶモンスターはSAOじゃ厄介だよな」

飛び道具による攻撃手段が限られているSAOでは飛んでいる敵に攻撃するのは一苦労だった。
俺の遠距離攻撃用のソードスキルの『デーモンファング』の衝撃波は未だに1メートル以下の飛距離なので、結構近づいてくるまで当たらないし、そもそもデーモンファングの衝撃波は地を這うような軌道なので空中の相手に攻撃するのには向いていない。

レイナ「……けど、防御力やHPは低いみたいだから、接近してきたところを大威力のソードスキルを当てれば一撃で仕留められるわ」

レイナはそう言いながら、言った事を示すように、接近してきた『ウインドワプス』に対して交差斬りのソードスキルの『裂破衝』を使うと、レイナが言った通り、うるさい羽音を立てて飛んでいた蜂は二発目の斬撃でHPを全損して四散した。

俺「投擲スキルで攻撃するってのもあるが、あれはダメージが少なすぎるし、一発使うたびにナイフとかを消耗するからな」

実質、現状では『投擲スキル』は補助武器的な扱いの域を出ていなかった。なので俺は結局、レイナの言った通り、奴らの脆さを突く形で、攻撃の為に接近してきたところを大威力のソードスキルの『ビーストハウル』で一撃で倒した。習得して間もないソードスキルで、獣のような形の闘気を叩きつける技だった。

「た、助けて!た、助けてください!!」

俺「お~、蜂に追われてるみたいだな」

いきなり、俺に助けを求めるのは誰かと思ったら、それは見ず知らずのプレイヤーだった。
小柄な少年プレイヤーで、30㎝程度の軽さ重視の武器であるダガーを持っているのだが、二体の『ウインドワプス』に追われて為す術が無いのか、背を向けて逃げ続けているばかりだった。

レイナ「……こっちに来るわ」

俺「仕方ねぇな……」

「ひぃ――――!!」

そしてよりにもよって、俺たちの手前で転んでくれたのだった。当然、ウィンドワプスは俺とレイナも敵と見なして、攻撃を仕掛けてくる。

「わ―――――!!こ、殺される―――!!」

俺「死にゃしないっての、少し静かにしてな」

毒針を突き立てての攻撃を仕掛けてくる。あれをまともに食らうと毒を浴びて、一定時間ごとにHPが減少する危険な攻撃だが、針自体は短いので、リーチは俺のフェザーブレード+6に圧倒的に劣る。
俺は接近してきた蜂に突きで攻撃して、3連撃ソードスキルの『ドラゴンスゥワーム』で残りのHPを一気に削り切る。
レイナも威力とリーチで圧倒的に勝る両手剣を振り下ろして、攻撃される前に攻撃して、更にソードスキルの『ブレードフューリー』の三連続突きで倒したのだった。

俺「ほら、もう大丈夫だろ?」

「あ、あ、ありがとうございます……」

そいつはぼーっとしながらも、礼を言って立ち上がる。

レイナ「……一人で、こんなところで危険だと思わないの?」

レイナの言う通り、大した手練れとは言い難い、このダガー使いが単独で飛行能力を持った蜂たちがうようよするこんなところで危険なのは言うまでも無かった。

「いや~、危険なのは分ってたんっすけど……コイツをどうしても採掘したくって、無茶してきちゃったっすよ~」

ダガー使いが苦笑いをしながら、オブジェクト化して俺たちに見せてきたのは、『火炎石』と言う素材アイテムだった。
少なくとも、俺が知らない素材アイテムだ。

俺「こいつがそんなに欲しかったのか?」

「ええ、僕が持ってるのは第二層の店売りの『スチールダガー』なんですけど、コイツにこの『火炎石』を使えば、NPCの武器屋店では売ってない製造武器の『ストロングダガー』が出来上がるんですよ!!」

俺「ああ、製造武器か……確かに店売りの武器より何かと高性能だからな」

実際、俺が今使っているフェザーブレードも第一層の店売りの武器に様々な素材アイテムを使って作り出したいわゆる、製造武器だった。

「これで、ようやくストロングダガーが手に入るんです!そうしたら僕も、もしかしたら第二層ではボス戦に参加できるかもしれないじゃないですか!!」

ダガー使いは無邪気に、ついでに言うと浮かれたような笑顔でそんな事を言った。

俺「取りあえず、武器製造するにも一旦はウルバスに戻った方が良いんじゃないか?」

こいつの実力だと、無事にウルバスに戻れるか分かったもんじゃない。実際にこいつも、そう言われて自身が無いのか、分かりやすく落ち込んで、ガックリと肩を落としていた。

俺「俺達もウルバスに戻るから、付いてきたかったら好きにしていいぞ、レイナもそれで良いか?」

レイナ「……構わない」

「ほ、本当ですか……!?あ、ありがとうございます!!」

ダガー使いは地獄に仏を見つけたと言わんばかりに目から涙を零して例の言葉を尽くした。

ユッチ「是非、よろしくお願いします!僕はユッチって言います!!」

俺「俺はオズマだ、短い付き合いだろうがよろしくな」

レイナ「……レイナよ」

ユッチ「オズマさんにレイナさんっすね!いや~、本当にお世話になりますよ~」

やたらと、落ち込んだり、喜んだりと、感情の変動に忙しいダガー使いのユッチを連れて、俺たちは再びウルバスを目指すのだった

目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

FILE17 鍛冶屋に対する疑念


立木ナレ「オズマとレイナは鉢型モンスターの『ウインドワプス』を狩っていた最中に、小柄な少年プレイヤーのユッチと出会った。そして、ウインドワプスに襲われていたユッチを成り行きで助けたオズマとレイナだった。聞けば、ユッチは自身が使っている『スチールダガー』を製造武器にするために素材を集めていたと言う。そして、そして、成り行きでオズマとレイナは主街区のウルバスまでユッチを連れて行くことになったのであった、何もかも成り行きで!!」

ユッチを連れたまま、俺とレイナは主街区のウルバスに戻って来た。解放されて数日の第二層の主街区は日が暮れて居る頃合いでも、大勢の人達で賑わっている。
今までずっと第一層のはじまりの街で籠っていたプレイヤーも新しい場所に興味を持って、転移門を使って、ここにワープしてきたのだろう。

ユッチ「いや~、お二人のおかげで無事にウルバスに戻れたっす!お二人って強いんすね~」

俺「俺らのおかげも何も、ウルバスに戻る俺らにお前が勝手に付いてきただけだからな」

レイナ「…………」

レイナよりも背の低い少年プレイヤーのユッチは無邪気に白い歯を見せながら、笑う。第二層を一人でうろついていた当たり、レベルは低くないんだろうけど、それでもこいつの実力を考えると危険と言わざるを得ないな。

ユッチ「二人ってあれですよね?第一層のフロアボス戦で大活躍した人たちですよね!?」

俺「大活躍したかどうかは知らんが、ボス戦に参加したのは確かだな」

ユッチ「やっぱりそうだ!!」

ユッチは両手を握りこぶしにしてなぜかガッツポーズで大声でそう言った。こいつにとってボス戦に参加したプレイヤーに会えたことはそんなに嬉しいの事なのか?

ユッチ「そっちのレイナさんの噂は第一層にまでも結構広まってますよ」

レイナ「…………」

俺「どんな噂だ?」

自分の噂に全く興味なさそうなレイナの代わりに俺がどんな噂化をとりあえず聞いてみる。
ユッチは待ってましたと言わんばかりに、にんまりと笑みを作って答える。

ユッチ「危険なフロアボスと戦った猛者たちの中に二人だけ、可憐な美少女プレイヤーがいるって噂ですよ」

俺「ま、男だらけのフロアボス戦のメンバーの中で女が二人だけだと、否応でも目立つよな」

ついでに、ユッチが言う噂の、可憐な美少女と言う表現も存外的を射ているのも事実だろうし。

ユッチ「フェンサー使いのアスナさんと大剣使いのレイナさん!!既に結構なファンが出来つつあるんすよこれが!にしてもオズマさんも隅に置けないっすよ~、美少女大剣使いのレイナさんといつも二人一緒だなんて~、何時からなんですか?何時からお二人って付き合ってるんですか?」

俺「あのな……」

こりゃ色々と面倒な奴みたいだぞ。俺が通ってた小学校にもいたっけな?仲の良い男女を見る度に、やたら人の色恋沙汰とか関係を勘ぐって、野次馬根性の如く勢いで聞き込んでくる奴って。

レイナ「……どうして、そんな事に興味あるの?」

ユッチ「だってだって~、気になるじゃないですか~。アスナさんと双璧を為す美少女トッププレイヤーのレイナさんとの馴れ初めなんて~」

レイナ「……理解できない」

詳しく説明するのも、ごまかす方法を考えるのも面倒に感じた俺は、言ってやることにした。

俺「あのな……こいつはNPCヘルパーなんだよ」

レイナがNPCヘルパーだと言う事実を。

ユッチ「え……?え~っと……」

予想通りだが、ユッチは一瞬、呆気に取られてボーっとした、間抜けっつらになった。そして、間抜けつらのまま、何とか話を再開する。

ユッチ「NPCヘルパーって確か……正式版で実装されることが事前に告知されてたあの、特定のプレイヤーをマスター登録して、マスター登録したプレイヤーの為に戦ったりしてくれるあのNPCヘルパー?……れ、レイナさんが?」

レイナ「……そうよ」

俺が先に本当の事をユッチに言ったので、レイナもすんなりと認めた。そもそも俺はレイナがNPCヘルパーであることを積極的に隠しているわけじゃない。知られると、何処で会ったとか、他にNPCヘルパーは知らないのかとか、色々と聞かれて面倒だし、何よりほかの連中は十中八九レイナを普通のプレイヤーとして見るから、一々訂正しないだけに過ぎないのだから。
今回の場合、レイナがNPCヘルパーだと教えてやった方がまだ面倒が少なさそうだから言う事にした。

ユッチ「ま、マジっすか……?あ、アスナさんと双璧を為す美少女トッププレイヤーのレ、レイナさんがNPCって……それはそれで色々と驚いたっすよ……」

俺「けど、これで俺とレイナが一緒に行動してる事にも納得しただろ?」

ユッチ「あ、はい。オズマさんがレイナさんのマスターだからなんっすね」

さて、話は脱線したが、今度は俺もこいつに聞こうと思ってた事があった。

俺「お前こそ、レベルこそ低くないだろうが、第二層のあんな場所を一人でウロウロできるほどの強さじゃないだろうに。そうまでして製造武器を作る為の素材が欲しかったのか?」

レイナ「……他のプレイヤーから買う事だって出来る」

レイナの言う通り、無理して自分型取りに行かずとも、他のプレイヤーが手に入れた素材を買う方法がある、と言うかリスクを回避するならそちらの方が良いのだ。
すると、ユッチは少し悲しそうな表情になり、答える。

ユッチ「どうしても僕……強力な製造武器を作って、それで次はフロアボスとの戦いで活躍したいんっすよ!だけど、僕には一緒に第二層まで行ってくれる仲間もいないし、高価な素材アイテムを買おうにも金欠ですし……」

俺「それで、無茶を承知で一人であんなところで採掘してたんだな」

ユッチ「はい、オズマさんとレイナさんが助けに来てくれなかったら本当に危なかったっすよ」

俺たちが助けに来たと言うよりも、アイツがウインドワプスを連れてこっちに来ただけだ。

ユッチ「けど、こうしてスチールダガーを製造武器にするための素材は手に入ったし、オズマさんたちのおかげでウルバスにも戻れましたから、後は製造を依頼するだけっす!これで『ストロングダガー』を製造すれば……僕にもボス戦で活躍するチャンスがくるかもしれないっす!!」

俺「だったら、こんなところで俺等と話し込んでないで、早くNPCの鍛冶屋とかにでも頼んで、製造してもらって来いよ」

ユッチ「はい、オズマさんもレイナさんも今日は本当に助かりましたっす!そうだ、折角だからフレンド登録良いっすか?お二人みたいな強い人達と知り合いになれて、今感激してるっすから!!」

それくらいは俺としても特に断る理由は無かったのでユッチとのフレンド登録に応じる事にした。レイナもフレンド登録は出来るので、この場でユッチとフレンド登録を済ませたのだった。
そして、ユッチは製造武器の『ストロングダガー』を作る為にNPCの鍛冶屋がいる場所に向かって行ったのだった。
俺たちが見えなくなるまで手を振り続けて、曲がり角で豪快に転んだが、奴はそれでも立ち上がってからも俺たちに手を振っていた。

レイナ「……私たちはどうする?」

俺「露店でも見てこようぜ、俺たちが手に入れた者中で売れる物は売って、欲しい物があったら買ってくとするか」

ウルバスの露店エリアには『ペンターズ・カーペッド』を持ってないプレイヤー達が時間を決めて、露店をやってる状態だった。
俺が今日の狩りで手に入れたアイテムや素材の中で売ってもよさそうなものを露店をやっている連中に見せると、何人かの買い手が見つかり、それなりの金になった。
そして、次は露店で売っているアイテムの中でめぼしい物が無いか見てみると、俺の目を引いたのは黒ずんだバンデット・アーマーだった。

俺「随分と立派な防具みたいだな」

レイナ「……重装備だけど、防御力が高い上に、麻痺や毒状態になる確率を大幅に下げる特殊能力(アビリティ)付き」

この露店で売っている装備品の中で間違いなく、一番人気のありそうな鎧だったが、その値段を確認してみて俺はこの露天商も分かってやがると思った。

俺「36,000Gって随分と高値を付けて売ってるんだな」

露天商「そりゃそうさ、ただ防御が高いだけならいざ知らず、麻痺や毒への耐性が付いてるんだからね。これから先、きっとこの手の状態異常を引き起こしてくるモンスターは幾らでもいるんだから重宝するに違いないよ。コイツを宝箱から運よくゲットしたウチのパーティーのメンバーは自分で使う事よりも売って、仲間たちの為に還元する事を選んでくれたんだから、俺も値下げは出来ねぇよ」

レイナ「……それに、この露店では他にこの鎧以上の防具は売ってないから、値下げ競争になる事も無い」

この鎧は是非とも欲しいものだが、この防具一つの為に36,000Gもポンと出すのには俺もなかなか気が進まなかった。
と言うのも、俺が第一層でレイナと戦って勝った際に貰った『ダークスカイ・コート』だって軽装ではあるが、申し分のない性能なのであるから。流石に防御力ではこの目の前のバンデット・アーマーに劣るし、麻痺や毒に対する耐性も無いのだが、こちらは軽装である分、敏捷性を殆ど落とさない上に武器の攻撃力と速さをある程度上昇させてくれる特殊能力(アビリティ)があるので、このバンデット・アーマーとは相互互換といった関係だ。

「そのバンデット・アーマー俺に売ってくれないか?」

俺「は?」

俺がいつまでも悩んでいると、俺の後ろから現れた、立派なバンネットを被り、キリトと同じアニールブレードを装備した恰幅の良い男が購入を申し出てきた。コイツはこの鎧の値段を聞いてないんじゃないのかと思っていたが、俺のそんな予想は呆気なく外れる。

露天商「全く強化してない状態で36,000Gだけど良いのかい?」

「ああ、その値段で買わせてもらうよ」

露天商「はい、まいどあり~」

あっさりと商談は成立して、突然現れた片手剣使いは36,000Gをすんなりと支払って、バンデット・アーマーを購入すると、何食わぬ顔で去って行った。

俺「また、随分と景気の良い客がいたもんだな……」

レイナ「……先に買えばよかったと思ってる?」

俺「いや、今の所、防具は『ダークスカイ・コート』で充分だからな。無理にあのバンデット・アーマーを買う必要も無かったんだから別に良いさ」

結局、特に何も買う事無く、俺たちは露店を見終えた後、適当なところで食事をしようとレストランに足を運ぼうとした時だった。

ユッチ「う……うぅ……ひっく、えっぐ」

俺・レイナ「…………」

レストランの片隅で、体育座りをしながらメソメソと泣いているユッチを発見してしまった。

俺「さて、何を食うとするかな?」

見なかったことにしようとして、そんな独り言をつぶやきながら、店の扉に手を触れた瞬間だった。

ユッチ「ううわあぁぁぁぁぁん!!ううわあぁぁぁぁん!!」

ハッキリと大声で号泣し始めるユッチだった。俺は面倒だと思いつつも、溜息を付いてから、ユッチに近づく。

俺「声かけて欲しいなら、大泣きしてないで、そっちから来いよ。泣いて意思表示って赤ちゃんかお前は……」

ユッチ「あ、オズマさんにレイナさん!!」

レイナ「……今、気が付いたわけじゃないでしょう」

俺「取りあえず、店に入るぞ。話位は聞いてやるからな」

ユッチ「はい……す、すみません……」

三人で座れる席に座って、適当に注文をして、料理を食べながら俺たちはユッチから話を聞くことにした。

俺「お前、『ストロングダガー』を作りに行ったんだよな?あれはどうなったんだ?」

ユッチ「は、はい……素材は充分揃ってたので、それは問題なく成功しました」

ユッチは未だに目から涙をポロポロと零しながら、注文したチリドックを食べていた。

俺「だったら、喜ぶところだろそこは、感激して泣いてるってわけじゃないよな?」

レイナ「……その後に、何かが起きた?」

レイナの言う通り、『ストロングダガー』の製造には成功したが、その後に何かしら問題が起こったとみて間違いないだろう。
そして、その事に付いての事情を聞いた俺は、その後、何かきな臭い物を強烈に感じる事になったのだった。

ユッチ「そ、それが……その後、すぐに鍛冶屋に強化してもらったんですけど、そしたら、そしたら……強化失敗のペナルティで僕の製造したばっかりの『ストロングダガー』が消えちゃったんですよ―――――――!!」

俺「強化失敗で武器が消失だって……!?」

立木ナレ「オズマの脳裏を過ったのは、いうまでも無く、プレイヤー鍛冶屋だった。数日前に自分の『ウエイトソード』の強化を+3までは連続で成功しておきながら、次の強化で失敗して消失させ、更にその後は他のプレイヤーのアニールブレード+4を連続失敗で+0のエンド品にしてしまった致命的に不運とも、あるいはポンコツとも言える小柄なプレイヤー鍛冶屋。オズマの中で鍛冶屋に対する強烈な疑念が膨れ上がる!!」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

FILE18 詐欺のカラクリ


立木ナレ「レストランで食事をしようとしていたオズマとレイナは、店の前で号泣している
ユッチを見つけてしまった!仕方なく事情を聞くことにしたオズマとレイナ。そして、ユッチの口から語られたのはなんと、製造したばかりのストロングダガーを鍛冶屋に強化を依頼した結果、強化の段階で焼失してしまったと言う知らせだった!!オズマの中に疑念が浮かび上がる、鍛冶屋への疑念が!!」

俺のウエイトソードを+3まで強化して、さらなる強化を頼んだ結果、強化失敗のペナルティと称して焼失させてしまった鍛冶屋と昨日、アニールブレード+4の強化を依頼した結果、4連続大失敗で+0のエンド品にしてしまった鍛冶屋は同じ奴だった。
そして今、目の前でメソメソと泣いているユッチは鍛冶屋に製造したばかりの『ストロングダガー』の強化を依頼した結果、そのストロングダガーが強化失敗によって消えてしまったと言っている。

俺「お前、強化を依頼したその鍛冶屋って……プレイヤーの鍛冶屋じゃないか?」

ユッチ「あ、はい……そうです」

ユッチは涙を何とか拭いて抑えつつ、肯定する。

ユッチ「最初はNPCの鍛冶屋に依頼するつもりだったんすけど、近くにプレイヤーの鍛冶屋がいたんですよ。プレイヤーの鍛冶屋の方が成功確率が一般的に考えて高いから、依頼したっす」

俺「どんな風に頼んだんだ?」

ユッチ「えっと……今ある強化素材で+5まで強化したいって頼みましたっす」

レイナ「……もしかして、+4までは順調だったけど、+5への依頼での強化で失敗したの?」

ユッチ「そ、そうです!その通りなんっすよ!!」

やっぱりか……俺のウエイトソードの時と全く同じ状態だ。事前に+○○まで強化したいと言ってきたプレイヤーに対してはその依頼された数値の一歩手前までは順調に強化して、目標の数値への強化で失敗を装って消失させている。

俺「その鍛冶屋って、小柄で若い奴じゃなかったか?」

俺が聞くと、ユッチは『なんでそこまで分かるんだ?と、言わんばかりに驚愕の表情を浮かべて声をあげる』

ユッチ「そ、そうっすよ!ああ……流石に僕よりは背は高いっすけど、オズマさんよりは小さいはずっす!で、でも……な、なんでそこまで?」

俺「それでお前、強化失敗の保証で代わりの武器とか渡されなかったか?後は手数料を返還してもらったりとか」

ユッチ「は、はい!代わりに第二層で店売りされてる『ストレートダガー』を貰って、手数料を返してもらえたっす!!NPC鍛冶屋だったら、そんな保証なんて全然ないから、その時はせめてプレイヤーの鍛冶屋に頼んでまだマシだったって思ったんすけど……」

俺「そこんところまで一緒かよ……!!」

俺はあの鍛冶屋……もとい詐欺師にまんまとしてやられたと思わざるを得なかった。無論、明確な証拠をつかんだわけじゃないが、ここまで、こんな事が続いていたらもうただの偶然で済まされはしない!!

俺「しかしどうやってだ……どうやってあんな現象を引き起こしてる……?そして、預けた武器はどこに……」

立木ナレ「その刹那、オズマの中にある閃きが稲妻の如く勢いで振り下りる。その閃きはオズマの中に渦巻いていた疑念を確信へと変える!!」

俺「鍛冶屋から貰った武器はまだ装備してないんだよな?」

ユッチ「え、ええ……折角のストロングダガーを消されちゃったショックで呆けてましたから、装備する事まで気が回らなかったっす……」

レイナ「……呆けてたんじゃなくて、泣いてたわよ」

そんな事はどうでも良い。とにかくこれで第一段階はクリアだ。肝心なのは次だ!

俺「鍛冶屋に強化依頼をして、失敗したのは何時頃か覚えてるか?」

ユッチ「え、えっとぉ~……」

突然の俺の質問の意図を察せないのだろう、ユッチは狼狽えつつも考えて何とか思い出そうとしていた。

ユッチ「確かですけど……レストランの前でオズマさんとレイナさんと会ったのが……強化失敗から10分そこそこでしたから~」

俺「なら、まだ間に合うぞ」

ユッチ「ま、間に合うって……?」

レイナ「……どういう事?」

ユッチだけでなくレイナもまだ気が付いてないようだ。だが、説明するよりも実際に見せてやった方が早い。

俺「今から俺の言う事を全て黙って実行しろ。そうすればお前のストロングダガーを取り戻せる」

ユッチ「え、マジっすか!?」

俺「ああ、だから言われた通りにするんだぞ」

ユッチ「は、はい!!」

最初に俺の言う通りにやるように言い聞かせて俺は早速ユッチに指示を出す。

俺「ウインドウを出して可視モードだ」

ユッチ「は、はいっ!!」

ストロングダガーを取り戻せるかもしれないと言う期待で興奮しているのか、指先が覚束ない様子だが、取りあえずウインドウを出して可視モードにしていた。
俺はすぐにユッチの隣に回り込み、可視化されたメインメニューをしっかりと見ておく。
ユッチが先言った通り、武器はまだ装備してない状態のようだった。

俺「次、ストレージ・タブに移動だ」

ユッチ「はいっ!」

俺「出来たら次はセッティングボタン、サーチボタン、マニュピレート・ストレージボタンを押せ」

俺の立て続けの指示にユッチは慌てふためきつつも、メニューの階層をどんどんと移動していく。
そこで、俺はついに目的のボタンを発見する。

俺「そこだ、『コンプリートリィ・オール・アイテム・オブジェクタイズ』それで良いはずだ」

ユッチ「な、なんかようわからないけど分かったっす!!」

ユッチが俺に言われるがままにボタンを押すと、ユッチのアイテムストレージに並んでいた文字列が全て消え去った。
そしてその直後、ガタゴトと音を立てて、俺たちが座っているイスの足元にオブジェクト化されてドッサリと積み重なっていた。

ユッチ「あ、あの~……こ、これでぼ、僕のストロングダガーが戻って来るって言うのは~……」

俺「とにかく探せ、絶対にあるはずだ」

レイナ「……分かった」

俺たちはレストランの椅子の下に散らかりまくったユッチのアイテムを片っ端から探りまくった。
幸い、他の客はあまりいなかったが、その少ない客達は何事かとこちらに目を向けてくるがそんな事はどうでも良い。

レイナ「……もしかして、これ?」

レイナがその右手に掴んだダガーは店売りされているダガーに比べて、大きな刃で、その刃は鋭い輝きを放っているように見えていた。

ユッチ「ああ―――――――――!!そ、それっすよそれ!ぼ、僕のだ!僕の『ストロングダガー』じゃないっすか!ちゃんと+4のままっす!」

レイナ「……けど、どうして?」

俺「それについては、俺ができる範囲内で説明するから取りあえず今はオブジェクト化した状態のアイテムを全部ストレージに戻してからだな」

立木ナレ「オズマの閃きによってユッチの手元に戻ってきた『ストロングダガー』そして、数分後、ひとまず落ち着いたユッチはアイテムをストレージに戻して、話を再開する事にした」

俺「もう、分かってると思うが、あの鍛冶屋は詐欺師だ。俺たちの武器の強化失敗を装って、すり替えるなり、なんなりして上手い事くすねてやがったんだよ」

ユッチ「あ、あの野郎!!失敗して申し訳なかったとかなんだとか言って、謝り倒してたくせに、腹の底じゃ上手くしてやったとか思ってやがったのかよ!!」

自分が詐欺師に危うく製造武器のストロングダガーを騙し取られそうになった事を知ったユッチは憤慨して鍛冶屋への怒りを露にしていた。
対照的にレイナは普段と何ら変わらぬ様子で冷静に俺に聞く。

レイナ「……けど、消滅したはずの『ストロングダガー』がどうしてユッチのアイテムストレージの中に入ってたの?」

俺「そうだな、説明するよりも見る方が早いだろ」

俺は自分の腰の鞘に収まっているフェザーブレード+6を足元に適当に投げて落とすと、数秒後にウインドウの右てセルに表示されるアイコンが薄くグレートアウトする。

俺「これで装備武器が落下(ドロップ)状態だ。戦闘中に手を滑らしたり、モンスターとの戦いで武器落とし(デイスアーム)属性の攻撃を食らうと発生する事があるだろ?」

レイナ「……第一層の真ん中近辺に出てくる『スワイプコボルド・ドラッパー』がそうだったわね」

ユッチ「あ、確か……攻略本にもすぐに拾うなって警告書きされてたっすよね?」

だが、実際にやられると焦って、ついやってしまった結果死んだ奴が大勢いたらしい。

俺「取りあえず、このドロップ状態のまま放っておくと、『放置(リープ)状態』になって、耐久度が減少していくわけだが……レイナ、俺の剣を拾ってくれ」

レイナ「……ええ」

レイナは自身のグレートソードを腰のアタッチメントポイントに固定した状態で、左手で俺の剣に手を掴んで軽々と持ち上げる。

レイナ「……これでいいの?」

俺「ああ、見てみろよ」

ユッチ「ああ!名前が消えてるっすよ!」

メニュー・ウインドウをつつくと、さっきまでフェザーブレードの名前が薄く表示されていた右手セルは、レイナが剣を拾った時点で完全な空欄状態になっていた。

俺「そうだ、戦闘中じゃなくっても、仲間とかその辺のプレイヤーに装備中の武器を渡したりする事もあったりするが、とにかく、落とした武器を拾われたり、誰かに直接渡したりすると、武器セルは空欄になるんだよ。鍛冶屋に武器を預ける時もそうだ」

レイナ「……そうだったのね、それを利用した詐欺だったのね」

レイナは俺の説明をここまで聞いて、これがシステムを悪用した明確な詐欺である事を確信して納得したようだった。

ユッチ「はぁ……分かったような、分からないような」

レイナ「……重要なのは、今みたいにセルが空っぽで、なにも装備してないように見えても、フェザーブレードの装備者情報がクリアされていない事ね」

未だに理解しきれていない、ユッチに、レイナが俺の代わりに説明し始める。

レイナ「……この装備権は通常のアイテムの所有権に比べて強く保護されているの、仮に私が装備していない武器をストレージから出して、貴方に手渡すと、その所有権は300秒、つまり5分でクリアされて、次に誰かのストレージに入ればその瞬間にその人の物になるわ」

俺「へぇ~、300秒ってところまでは俺も知らなかったな」

やっぱり、レイナはこのゲームのNPCヘルパーなだけあって、ゲームの基礎システムに関しては俺よりも詳しいようだった。

レイナ「……けど、装備中のアイテムの権利持続時間の場合はそれが3600秒、つまり1時間経たないとクリアされないわ」

レイナがそこまで説明するとユッチもようやくこのカラクリが理解出来てきたようで、はっとした表情になる。

ユッチ「あっ!まさか、鍛冶屋の奴は強化失敗した武器が無くなったように見せかけて……装備してた武器の所有権が消える1時間経過するのを待ってたって事っすか!?」

俺「そう言う事だ」

レイナ「……だけど、まだわからない事があるわ」

俺「鍛冶屋に預けた武器が、俺達やユッチが見てる前で砕けて消えた事だな?」

レイナは『……ええ』と返事をしながら小さく頷いた。

俺「そっちについては俺もまだ解明出来ちゃいないが、少なくともこれで奴が武器の所有権の放棄とクリアのシステムを悪用して、強化失敗を装って盗んでたって事はほぼ確定だな」

と、俺がそこまで説明した時だった。ユッチが眉間に皺を、こめかみにも皺を寄せた状態で立ち上がる。

ユッチ「そっちのカラクリもすぐに分かるっすよ!!奴に直接白状させればいいだけなんっすから!!」

俺「おいおい、一体どうしようってんだ?」

ユッチ「決まってますよ!野郎が盗んだ気でいやがる、このストロングダガーを見せつけて、詐欺の事を洗いざらい白状させてやるっす!!」

短絡的過ぎる……頭に血が上ってて、色々な考えが及ばない状態になっている事もあるだろうが、それにしたって流石にこのままこいつを行かせるわけにはいかない。

俺「今からお前が迂闊に奴に接触してどうする。奴は今頃お前を警戒するようになってるはずだぞ」

レイナ「……鍛冶屋はユッチと私たちの繋がりを知らないから、ユッチ自身が詐欺に気が付いたと考えて、貴方と会わないように警戒している可能性が高いわ」

ユッチ「で、でも……」

俺「それにな、奴にこのストロングダガーを見せつけて、詐欺の手段とかを洗いざらい白状させて、それで後はどうなる?せいぜい、口止め料とかを何万コルか徴収して終わりだろ」

ユッチ「そうっすよ!コイツをネタに奴を脅してやりましょう!目には目をっす!」

レイナ「……あの詐欺は、そうそう長くは続かない」

ユッチ「え?」

レイナがバッサリと言い切って、ユッチは目を大きく見開いて、口を大きく開けて閉口する。

俺「ああ、実際に俺がこうして、トリックの一部に気が付いたんだ、この先被害者が増えれば、いずれ悪評は広がって、奴が何かしらの詐欺をしてるって言う共通の認識が広まる、そうすれば奴は終わりだ。その時に奴が開き直って、実は先に詐欺に気が付いたプレイヤーに脅されて口止め料を取られたなんて暴露された日にはお前だってタダじゃ済まないだろ?」

ユッチ「う、た、確かにそれはやばいかもっす……」

ユッチは、ようやく自分がやろうとしている行動の浅はかさに気が付いたようだった。だが、本当に問題なのはそれだけじゃない。

俺「つーか、お前一人に口止め料を払ったところで、奴にとっちゃ蚊に刺された程度の損失にしか過ぎないんだよ。今までに詐欺で盗んだ武器を売り払って得た金と、更にこの先の詐欺で手に入れた武器を売って得る金に比べればな!」

説明していて俺は鍛冶屋を騙った詐欺師に対する苛立ちで語尾がついつい強くなってしまっていた。

俺「詐欺師野郎からしてしてみれば、『この程度の口止め料で住むなら安いもんだ』で済む程度なんだよ。そんな世間ずれした、のらりくらりとしたやり口で許していいわけないだろ」

ユッチ「た、確かにそうですけど……ど、どうしたら……」

それについては、俺の中に既にある計画が浮かびつつあった。

俺「俺やお前以外にも被害者はいるはずだ、特に被害に遭ってるのは恐らく最前線クラスのプレイヤー、フロアボス戦に参加した奴らの強力な武器が取られてる可能性がある、どうせ奴の詐欺を暴露するなら、なるべく大勢の前で、被害者とその関係者を中心にした大勢のプレイヤー達の前で露点させて、奴にとって取り返しのつかない、破滅的な大打撃を……それこそこの先借金地獄に陥るような状態になる位の損害をお見舞いしてやるんだよ!!」

立木ナレ「オズマ、鍛冶屋を騙る詐欺師への圧倒的な制裁を計画する!オズマが考える詐欺師破滅制裁計画……本格始動!!」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

FILE19 フィールドボス・ブルバス戦

立木ナレ「オズマは鍛冶屋の正体が詐欺師であることを見抜いた。鍛冶屋改め詐欺師に致命的、破滅的な大打撃を与える為のオズマの計画が始動!そして、そんな出来事があった次の日の朝!!」

アインクラッド各層の圏外フィールドには、『フィールドボス』と呼ばれる要所要所に配置され、迷宮区に至る為の関門的役割を担っている。
フィールドボスの生息圏は、必ず絶壁や急流その他の通行不能エリアに挟まれているので、ボスを倒さねば等に辿り着く事は出来ない。

リンド「もうすぐ始まるぞ!気を引き締めろよ!!」

レイドパーティーのリーダー格の一角のリンドが声を張り上げる。ディアベルに相当心酔していたリンドは顔をディアベルと同じ青に染めて、鎧も銀色に変えると言う徹底振りだった。

キバオウ「気合入れるのはええけど、張り詰め過ぎて空回りとか笑えんで……」

そんなリンドを見て、キバオウがやや呆れ気味に小さな声で毒づいていた。こちらもこちらでもう一人のリーダー格と言った感じだった。
俺達はフィールドボスの『ブルバス・バウ』との戦いを迎えていた。名前の由来とかは知らないが、丸く盛り上がった額で重突進攻撃を得意とする巨大牛との事だった。
レイドのメンバーは全部で18人。リンドのパーティーが6人、キバオウのパーティーが6人、そして俺とレイナとユッチの三人に加えて、新顔のメンバーが三人だった。

ユッチ「あの……この人数で大丈夫なんっすか?第一層のフロアボスの時は46人だったんっすよね?」

ボス戦は初めてだと言うユッチが震えたような声で俺の隣でそう聞いてくる。

俺「全然問題ない、てか本来なら一パーティーでも十分な位だ。フロアボスほどの脅威じゃないからな」

レイナ「……けど、攻略部隊を役割分担で再編成されてないのが懸念事項」

俺「そりゃそうだが……俺としてはそれでも全然かまわないぜ、役割分担とか立ち位置とか面倒なのを決めて戦うのよりも、各々が自分の好きな様にやるのが一番やりやすいからな。俺達だってリンドからもキバオウからもある程度は好きに行動してくれて構わないって約束は取り付け済みだしな」

レイナの言う懸念事項とはリンド隊もキバオウ隊も普段のパーティーの役割分担のままで、ボス戦様に再編成をしていない事なんだろう。
それは確かに、戦略とか効率とかを考えるのなら、レイドを組む際に改めて各人の役割設定を見直す必要はあるんだろうな。

ユッチ「なんて言いますか~、あのリンドさんって人とキバオウさんって人は馬が合わなさそうっすよね?」

俺「ディアベルが居た頃はまとまってたんだがな……」

俺が今は亡きリーダーの事を思い出して、そんな事を口にした矢先。メンバーの前衛部隊がボスの反応圏に踏み込んだ。
ボスは凄まじい雄たけびを上げて、鼻面から白い湯気を噴き出して、猛突進してくる。

リンド・キバオウ「重戦士、威嚇(ハウル)!」

ユッチ「え、ええ――――――!?両方でタゲ取っちゃうんすか!?」

各パーティーのタンク役が同時にモンスターのヘイトを上昇させて自分に引き付けようとした結果、ブルバスは二人の盾戦士のどちらに突っ込むべきか少々迷い気味の様子だった。

レイナ「……リンド隊の方に向かうわ」

ハウルを使ったプレイヤーと、その隣にもう一人盾持ちが並び、2人で低く身構える。大音響と同時に巨大牛と戦士二人が激突した。二人は10メートルくらい押し込まれたがどうにか踏みとどまって牛の頭を押し返していた。

リンド「よし、突撃!」

俺「俺らもそろそろ攻めるとしようぜ、二人とも好きなように攻撃しな!」

レイナ「……分かった」

ユッチ「は、はいぃ!!」

リンド隊の4人に続いて俺達もブルバスに次々とソードスキルをお見舞いする。一方でキバオウ隊は少し離れた場所で停止したまま攻撃に参加する様子はなかった。

ユッチ「あれ?あの人達、いったい何をしてるんっすか?」

レイナ「……タンク役が前に出てる、たぶんクールタイム終了次第、またハウルを使うわ」

俺「はは……レイドを組んではいるが、もはやMObの取り合いだな」

俺は思わず苦笑してしまったが、これはこれで面白いと感じていた。そもそも、俺は本来、パーティーを組むにしても、役割分担とか事前の計画とか、そんな面倒なやり方はやり難くいとしか思わないし、一人一人が自分のやりやすいよう、好きなように戦うのが丁度良いと思っている。それはこのSAOがデスゲームと化した状態でも変わらなかった。

ユッチ「じゃあ、あっちの待機組の3人は一体……?」

俺「アイツらは……あ」

レイナ「……どうかしたの?」

俺「アイツ、昨日露店にいた奴だろ」

レイナ「……もしかして、太ってる片手剣士?」

そうだ、三人組の中の一人の尖ったバシネットを被ったあの片手剣士は昨日、露天商でバカに高いバンデットアーマーを買った奴だ。実際に今まさに、そのアーマーを着込んでいる。
レベルは俺達よりはもとより、キバオウ隊、リンド隊程ではないのかもしれないが、装備品に隊は間違いなく俺達よりも金が掛かっていると言い切れるだろう。
新顔の奴らが、フィールドボス戦に加われたのも、装備さまさまって所か。

ブルバス「ブルルォモオオオオ!!」

突然、ブルバスが強烈な雄叫びを轟かせた、その理由は明白。青のリンド隊と緑のキバオウ隊が、盆地の真ん中で一塊になってジタバタしてたからだ。

ユッチ「あちゃ~、ボスのタゲをどっちのパーティーがとってるのか解かんなくなっちゃったんっすね~」

レイナ「……重装備の戦士は転落(タンブル)からの回復に時間が掛かるわ」

俺「しゃーない、助けられる範囲で助けるか」

レイナ「……分かったわ」

その時、戦いを見ていた連中の中から『タッカーはダッシュ回避しろ!』などと言う叫び声が聞こえた気がするが、それと同時にキバオウとリンドが右手を振り、軽装戦士達が左右に散ろうとした。

俺「って、間に合わねぇか!」

ブルバスがようやく起き上がった縦戦士の隙間を塗り抜けると、その先の剣士二人を角で攻撃しようとしてくる。

俺「レイナ!」

レイナ「……ええ」

が、それは阻止された。レイナが横からソードスキルの『ストロングファング』で強烈な衝撃波を叩きつけた。
衝撃波をまともに食らったブルバスは仰け反り、隙が生まれる。

俺「ほら、今の内に起きろ!」

と、叫びながら俺もソードスキルの『ビーストハウル』で剣から発生する獅子の形を闘気をブルバスにぶつけてやる。
すると今度はブルバスが転倒(タンブル)した。

軽装戦士「す、済まない……助かったよ!!」

ユッチ「そーそ!オズマさんとレイナさんに感謝っすよ!」

俺「お前はえばってないで今の内に攻撃しとけ」

ユッチ「はいぃ!!」

残りのHPに余裕のある者たちは一斉にタンブル中のブルバスに一斉攻撃を叩き込み、HPが少なくなっていた者達は、POT回復に移行する。
同時にキバオウが戦場の後方を見やると右手の剣をぐるりと振り回す。
転倒していたブルバスが起き上がると同時に、後方待機していた3人組が前に出てきたのだった。

俺「そろそろ、止めだな」



立木ナレ「そして、アインクラッド第二層唯一のフィールドボス、『ブルバス・バウ』がその巨体を四散させたのは、戦闘開始から20分以上が経過した頃だった!!」



ブルバスの討伐に成功した俺達は、補給とメンテの為に一度マロメの村に引き返していた。
ちなみに、リンドとキバオウはどちらが先に南エリアに入るかでまたしても軽く揉めていた。

ユッチ「あ~あ、あの二人ったらまた喧嘩しちゃってますよ。そんなに先に二層南部フィールドに先に入るのが名誉とかになるんっすかね~?」

ユッチがその喧嘩を離れたところから眺めてそう言った。

俺「さてな、けどその権利なら俺達にだってあるはずだぜ。ちゃんと貢献はしたはずだからな」

レイナ「……もう先着が先に行ってると思う」

俺・ユッチ「は?」

が、レイナがさり気なく口にした言葉に俺もユッチも一斉にレイナに視線を向ける。

レイナ「……私たちが補給の為にマロメの村に引き返すときに、ブルバス戦を見ていた人たちの中から、キリトとアスナは岩山を降りてたわ」

俺「アイツら……キバオウとリンドが出直して戻ってくるのを待ってられなくなったんだな」

今思えば、あの時、見物人たちの中から『タッカーはダッシュ回避しろ!』とか叫んだのはキリトだった気がする。あの時は気にしなかったが。

ユッチ「き、キリトって、あのキリトの野郎っすか!?」

キリトの名前を聞いた途端に、ユッチが無駄にデカい声で顔を近づけてくる。

俺「お前の言うあのキリトが何なのか知らないが、多分、黒ずくめのキリトで間違いないと思うぞ」

ユッチ「あ、あのやろ~!!ビーターの分際で抜け駆けしやがって~!!」

表情と物言いからして敵意に満ちた様子だった。キリトがビーターを名乗ってから、奴の名前と悪評は大分広まってるからな。ユッチもキリトに敵意を抱く一人ってわけだ。

ユッチ「許せないっすよ!情報を独占してる上に……」

レイナ「……まだ他に何かあるの?」

ユッチ「ええ!あんな野郎が……アスナさんを独占してるなんてあり得ないっすよ!!」

ユッチは、目に涙を溜めこんで、喉から声を吐き出すように言い切った。

俺「……は?」

ユッチ「アスナさんと言えば、レイナさんと並ぶ美少女トッププレイヤーの一人なんっすよ!オズマさんがレイナさんを独占するのはNPCヘルパーとマスターの関係だから良いとしても、なんでベータ―のアイツが!生身の美少女のアスナさんを独占してるんすか!?こんなバカな話あり得ないっす!!」

そうか、コイツも早速アスナのファンになってる奴の一人ってわけなんだな。そんなに憧れてるなら、ボス戦が終わった後にでも話し掛ければいいだろうに。

ユッチ「ま、まさかアスナさんはキリトの野郎に何か弱みを!?だ、だったら助けないと!」

俺「奴らがつるんでる理由は知らんが、今は詐欺師野郎を破滅させるのが先決だ」

その為には、フロアボス戦をまずは済ませるべきだな。フロアボス戦では大勢のトッププレイヤー達が集まる。きっとその中に入るはずだ、俺やユッチと同じように武器を騙し取られた者たちが……

ガチャモン「見えます……見えます……」

モック「み、見えるですって!?何が見えるって言うんですかガチャモン!?」

ユッチ「うわぁぁ!!」

いきなり、俺達の目の前に現れたのは、占い師風の恰好をしたガチャモンとなぜか背広を着た状態のモックだった。

レイナ「……オズマ、これからどうするの?」

俺「俺達もそろそろ南部のフィールドに行くぞ。もしかしたら、まだ手に入れた事のないアイテムとかがあるかもしれないからな」

モタモタしているとキリト達に先に宝箱をあらかた取られかねないので、こうして待っている時間が惜しい。

モック「ちょっ!ちょっと皆さん!そんなこと言ってる場合ですか!?が、ガチャモンがな、何か凄い未来を予言しようとしてるんですぞ―――!!」

ユッチ「な、なんだよす、凄い未来って!?」

俺「こんな奴らに一々付き合ってどうすんだよ」

モックの言う事に反応するユッチを注意するが、どうにも気になって仕方がないようだった。

ガチャモン「見えるよ……僕には見えるよ……キリト君とアスナさんの未来が……!」

ユッチ「き、キリトとアスナさんの未来?」

いかにも、ユッチが無視できなさそうな話題を持ち掛けるガチャモンだが、俺は奴らの未来とか別に全く興味なかった。

ガチャモン「あ、ああ……!あ、あの二人……そ、そんな、な、なんて大胆なの!?」

ユッチ「だ、大胆って!?」

モック「い、いけませんぞガチャモ―ン!そ、それ以上先の事を口にするのは……ね、年齢制限的にアウトですぞ―――!!」

ガチャモン「あ、アスナさんが……き、キリト君にこ、こんな事されちゃうなんて……しかもアスナさんが嫌がってないとはね……」

ユッチ「い、嫌だぁ―――!!嘘だ嘘だ嘘だ!!そ、そんな未来あってたまるか!そんな絶望的な未来……有り得ないんだ―――――!!」

モック「あらま~、ユッチさんってば、そんなに信じたくないような事だったんですかね~?耳を塞いだところでガチャモンの占いの結果は変わりませんぞ~」

ガチャモンの占いを真に受けて、泣き喚くユッチを諭そうとするモック、いい加減に見てられねぇなこりゃ……

俺「レイナ、そいつ引っ張っていくぞ」

レイナ「……分かったわ」

何時までもこんな事をしていてもキリがないので、レイナにユッチの腕を掴ませて、そのまま引っ張って無理やり連れて行くことにする。

ユッチ「なんで……なんでアスナさんがぁ~……」

俺「迷宮区に入ったら泣き止めよ、あんまりデカい鳴き声出され続けると、モンスター達に聞かれて一斉に集まってくるかもしれないからな」

立木ナレ「ガチャモンの適当な占いはユッチに対して精神的に致命的なダメージを与えた。しかし、そんな事はどうでも良い!!歩みを止めるわけにはいかないのだ!!」

目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

FILE20 ボス戦前の作戦会議


第二層フロアボス戦の攻略会議の際に、とあるプレイヤーが俺達に接触してきた。

「オズマだったよな?少し話があるんだ」

攻略会議直前に、俺に声を掛けてきたのはリンド隊のメンバーのタンク役のプレイヤーの男だった。

俺「話って?」

「君達、3人になったみたいだな」

俺「ああ、こいつの事ね」

そいつが言っているのは、俺とレイナの後ろにいるユッチの事だった。レベル的にはボス戦に参加するメンバーの中では一歩劣ってはいるが、強力な製造武器であるストロングダガーを見せた結果、俺やレイナが責任をもってフォローすることを条件にボス戦の参加を認められたのだった。

「実は、俺達のパーティーも今は色々とあって3人だけなんだ」

俺「ああ、言われて見れば、第一層の時のお仲間の何人かが見えないな」

すると、その男は少し眉をひそめて、どう説明すべきかと悩んだそぶりを見せてから話を続ける。

「三人のうちの二人は、どうしても明日のボス戦当日中に済ませておきたい曜日限定のクエストがあるから参加出来なくなったんだ」

俺「なるほどね、その日を逃すと、一週間待ちになっちまうもんな」

「ボス戦の為にクエストを諦めるか、それとも先々の事を考えてクエストを優先するか、色々と話し合った結果さ、リンドも最終的にそれで納得してくれたからね」

レイナ「……後の一人は、どうしたの?」

レイナの言う通り、元々6人のパーティーだったので、2人抜けてもまだ4人のはずだが、こいつは最初に色々とあって3人だけだと言っていた。

「実は……こっちが複雑でね、もう一人の仲間は、プレイヤーの鍛冶屋にメインで使ってた武器の強化を依頼したら、失敗したらしくて……+0のエンド品になってしまって、代わりの予備の武器ではボス戦は不安だからと言って辞退してしまったんだ」

俺「おい……それって」

ユッチ「そ、それ!僕たちも……僕たちもやられたんっすよ!!」

俺が先を言う前に、ユッチが血相を変えて、話に割り込んでくる。だが、こいつが思っている通り、それは十中八九、俺の『ウエイトソード』を強化失敗を装って盗み、ユッチの『ストロングダガー』も奪おうとした詐欺師と同じとみて間違いないだろう。

「やられた?君達も……それにやられたって言うのはどういう意味だ?」

どうやら、この男はまだ、仲間が詐欺にあったとは思っていないみたいで、ユッチの言った事の意味を理解しかねているようだった。

レイナ「……話を進める前に、貴方の名前を教えて」

シヴァタ「ああ、済まないね。俺はシヴァタだよ。君たちはオズマとレイナさんと……そっちの子は?」

ユッチ「ユッチっす!」

取りあえず、シヴァタと色々と話し合う必要が出て来たみたいだった。

俺「あのさ、仲間だけじゃなくって、シヴァタさんもメインの武器を強化しようとして、失敗して消えたんじゃないの?それ、第一層のボス戦で使ってた『スタウトブランド』よりも二グレード下の既製品のブロードソードだし」

シヴァタ「な、なんで、これを見ただけでそこまで?一体、どう言う事なんだ?」

動揺するシヴァタに俺は自分のウエイトソードを強化してもらおうとした結果、最終的に強化失敗ペナルティと称して、消滅してしまった事。そして、ユッチのストロングダガーも一度は同じやり口で消えてしまったが、詐欺のトリックの一部、武器所有権のシステムを利用したトリックである事を見破って、ユッチのストロングダガーは取り戻せたことをシヴァタに説明したのだった。

シヴァタ「くそ……なんて事だ!俺も仲間も……まんまと育てた強力な武器を取られたって事か……」

シヴァタはユッチの時のように、露骨に取り乱したり、怒りを露にするような事まではしなかったが、悔しそうに歯を食いしばっていた。

レイナ「……きっと、他にも被害に遭った人が大勢いる。特にトッププレイヤー達を中心に」

俺「だからさシヴァタさん。ボス戦が終わったら取りあえず、被害者たちを集めて詐欺師を問い詰めに行こうと思ってるんだ、聞いた話じゃ、まだ第二層の町や村で鍛冶屋をやってるって聞いたからな」

より多くの被害者、更にはその関係者であるプレイヤー達にこの事実を知らせて、その上で詐欺師を問い詰めて、ぐうの音も出ないほどに追い詰めてやれば、奴の詐欺はもう破綻する。
当然、奴の詐欺によって被った損害は弁償してもらわねばならない。既に金がないと言うのなら、それこそ長期間借金地獄に陥らせてでも弁償させ続けなければならない。
ほんの何人かが奴のトリックを見破ったと言って問い詰めても、端金同然の口止め料でやり過ごされてしまいかねないが、被害者たちの殆どを総動員すれば、もう奴は言い逃れもやり過ごしも出来なくなる。

シヴァタ「分かった、きっとリンド隊にも同じような被害に遭った奴らがいるはずだから、後で声を掛けてみる。取られた武器が戻って来る保証はないが、せめて弁償位はさせないと気が済まない!!」

俺「ああ、よろしくな」

レイナ「……ところで、最初にオズマに声を掛けた目的は何?」

ああ、そう言えば、向こうから用があって声を掛けてきたんだったな。シヴァタもその辺りは失念していたようで、照れくさそうにしながら本題に入る。

シヴァタ「どうせなら、今回はお互いに足りない分の3人を君のパーティーと俺達のパーティーを合併させて6人にならないか?リンドもそれくらいなら、特に文句を言う事もあるまいさ」

俺「ああ、それなら一向に構わない。お前らもそれでいいか?」

レイナ「……オズマが良いなら、それで良い」

ユッチ「ぼ、僕も!オズマさんがそうするって言うなら従うっす!」

こうして、俺達とシヴァタたちの3人同士のパーティーはフロアボス戦当日は合併して6人パーティーを組むことになった。


立木ナレ「そして、2022年12月14日、水曜日。第一層フロアボスが倒されてから10日目、そしてこのデスゲームが開始されてから38日目となっていた。オズマ達、前線組のプレイヤー達は筋骨隆々の牛男達がひしめく広大な迷宮区タワーを突破し、ついに第二層フロアボスの待ち受ける広間まで到達していた!!ボス攻略に挑むレイドの人数はシステムの上限である48人に近い47人。レイドの詳細は、リンドが指揮する青グループが3パーティー18人で、今回オズマ達はリンド隊の主要メンバーの一人で、3人パーティーとなっているシヴァタのパーティーに入っている。そして、同数の18人なのが緑グループでキバオウ率いる面々達。更に、エギル率いる4人組、キリトとアスナの二人、更に、今回ボス戦初参加となる、通称『レジェンド・ブレイブス』を名乗る5人組の重装備のプレイヤー達を加えた総勢47人であった!!」

リンド「それじゃ、時間になったのでレイドの編成を始めたいと思う!いちおう自己紹介しておくと、俺は今回のリーダーに選ばれたリンドだ、みんな、よろしく!」

キバオウ「選ばれたゆうてもコイントスやけどな」

この茶々に半分の者達が笑、半分が不快そうな顔をした。リンドも隣のキバオウを睨み付けたが、挑発に乗らずに続ける。

リンド「こうして、第二層開通からたった10日でボス部屋に辿り着けたのも、トッププレイヤー達であるみんなの頑張りのおかげだ!その力を俺に預けてくれれば、絶対にボスを倒せる!みんな、今日中に第三層まで行こうぜ!」

リンドが右こぶしを突き上げると、今度はいっせいに「オー!」と叫ぶ。

俺「アイツ、第一層のボス戦の直後は真っ先に泣きそうな顔でキリトを糾弾した奴だったのに、今はなんか、いかにもディアベルみたいなリーダーって感じだな」

俺がリンドに対して抱いているイメージはどちらかと言うと、直情的で感情を表に出しやすい、言ってしまえばリーダーに不向きなタイプな感じだった。
すると、俺の後ろにいたシヴァタが複雑そうな目でリンドを見ながら、

シヴァタ「彼なりに、ディアベルさんみたいなリーダーになろうとしてるんだよ。君が思ってるように本来は頭に血が上りやすいタイプなんだろうけど、リーダーとして振舞う為にそう言うのを抑えてね」

俺「そっか、まぁ、リーダーになった後でもあのまんまの振舞だったら流石に話にならないからな」

誤魔化しでも、リーダーらしく振舞おうとしてる分だけまだマシと言えるのだろう。

リンド「よし、じゃあ、レイドを組もう!8パーティーの内、A・B・C隊が俺達の『ドラゴンナイツ』、でC隊は分け合って今回はオズマさん達3人との合併隊として、D・E・F隊をキバオウさんの『解放隊』、G隊が今回から参加してくれるオルランドさんの『ブレイブス』、そしてH隊が……」

リンドはそこで、集団の最後方にいたエギル達を見た、と言うよりも、キリトを見たのかもしれない。一瞬だけ爽やかな笑顔が消えたが、すぐに視線を逸らした。

リンド「……残りの人達だ。役割分担は、AからFの六パーティーがボス攻撃、GとHには取り巻きMOBを……」

オルランド「ちょっと待ってくれないか」

リンドの説明中に声をあげたのは、初参加の『レジェンド・ブレイブス』のリーダーのオルランドだった。

オルランド「我々は、ボスと戦う為にここにいるんだ。ローテーションならともかく、最後まで取り巻きの相手だけしていろという指示には納得できない」

太い声が、迷宮区の壁に反響しながら消えると、青と緑のプレイヤー達がざわめき始めていた。

「あいつら何様だ」

「新参の癖に」

ユッチ「あのやろ~、ちょっと装備が豪華だからって良い気になってやがりますよ!!」

そして、ユッチも不機嫌そうにそう言った。

俺「だが、確かにあいつらって、レベル自体はこの面々の中じゃ平均よりも低めらしいが、装備は妙に豪勢だよな」

レイナ「……この中で、見た目が変化するほど装備が強化されてるのは、彼らだけ」

そうだ、だから他のプレイヤー達も囁く程度で、それ以上の事は言わないのかもしれない。
試行回数の上限近くまで強化された武器や防具は、深みのある輝きを放つようになる。
現状で俺を含めた殆どのプレイヤーにとって、外見が変わるほど強化できるのは武器とせいぜい盾くらいのものだが、ブレイブスはどんな手を使ったのかは知らないが、かなりの潤沢な資金があるらしく。5人そろってレア装備で身を固めて、それを徹底的に強化されていた。

リンド「……解った。なら、オルランドさんたちのG隊にもボス攻撃に加わってもらおう」

リンドが少し硬い声でそう言った。流石に、あの装備で身を固めた5人をここで手放したくないが故に、仕方なく認めたと言った感じだろう。

リンド「事前情報では、ボスの取り巻きは一匹だけで再湧出(リポップ)はしない。H隊だけに任せても問題ないか?」

リンドはそう言うが、流石にこれはH隊のエギル達も黙ってはいないだろう。
そして、予想通りH隊のリーダーのエギルが軽く左手を動かして制した。

エギル「一匹と言うが、雑魚ではなく中ボスクラスのモンスターだと事前情報にはかいてあったはずだ。その上、今回も一匹だけと言う確証はない。ワンパーティーでは荷が重いな」

ユッチ「え?て言うか、事前情報ってなんなんっすか?」

レイナ「……昨日タランの村で配布されてた『アルゴの攻略本・二層ボス編』の事」

俺「て言うか、お前もそれなら受け取っただろ?」

俺とレイナが指摘すると、ユッチは思い出したように「あ~」っと言ってから、苦笑いを浮かべて。

ユッチ「そ、そうでしたよね……後で読もうと思ってたんっすけど、すっかり忘れちゃってたっすよ~」

と、へらへらと笑いながらそう言った。

シヴァタ「なぁ……本当にこの少年は大丈夫なのか?」

俺「足手まといになったら即刻俺が責任もって、ボス部屋から追い出す」

シヴァタがユッチの事を心配し始めたように、俺もこいつを本当にボス戦に参加させて大丈夫なのか今更ながら不安になってきていた……

俺「と言うか、この攻略本に書かれてる情報も、基本はベータテスター時代の情報だからな、今回はどうなってるやら……」

リンド「もちろん、第一層の過ちを繰り返すつもりはない」

そのリンドの言葉は、俺に対して言ったのではなく、エギルの意見に対しての言葉だった。

リンド「初回の挑戦で、事前情報と異なるパターンが確認できたならその時点で一度退却、戦略を練り直す。取り巻きがワンパーティーでは対処しきれないようなら、もう一隊回そう。それでいいか?」

エギル「了解した」

続けてボスの攻撃パターンの説明と、各隊ごとの動きの最終確認が行われ、予定時刻である午後二時まで後二分となった。

リンド「それじゃ、少し早いけど……」

キバオウ「ちょお待ってんか!」

そこで、今まで以外にも大人しく黙っていたキバオウが割り込んできた。

キバオウ「さっきからリンドはんは、例の攻略本に頼り切りや。ゆうたら悪いけど、あれ書いてんのはボス部屋に入ったこともない情報屋やろ?ほんまにそれで充分言えるんか?」

キバオウの懸念ももっともだが、今それをここで確かめる術もないだろうに。案の定、リンドは不機嫌そうに口を曲げる。

リンド「充分とは言わないけど、ないものねだりをしても仕方ないだろ? それとも何かい、キバオウさんが事前に1人でボスの偵察をしてきてくれるとでも?」

今度は解放達たちが唸るが、当のキバオウは不敵に笑って答えた。

キバオウ「だからや、わいが言いたいんは、この場所に少なくとも一人、自分の眼ぇでボスを見た奴がおるちゅうこっちゃ。ならそいつに話を聞かん手はないわ、そうやろ?」

俺「ああ、確かにそれも一理あるな」

レイナ「……キリトの事ね」

実際にキリトはまるで隠れるようにアスナの後ろに移動するが、キバオウは逃さずに右手をキリトに向ける。そしてアスナはあっさりとステップで数十人分の視線を回避した。

キバオウ「どうや、黒ビーターはん!ボス攻略に当たって、なんぞ一言喋ってくれへんか!」

ユッチ「ま、待てよ!キバオウさん、あんた何考えてるんっすか!?」

キリトが何かを言う前にユッチが異議ありと言わんばかりに声を荒げる。

ユッチ「コイツはベータテスター時代の知識を独占して、自分本位な事ばっかりしてやがるビーター野郎じゃないっすか!こんな奴の意見を求めるなんて馬鹿げてる!オズマさんからも何か言ってやってくださいよ!」

ユッチがキリトに対する敵意、あるいは嫉妬心を剥き出しにして喚きだしたので、俺は何か言ってやる前に、こいつを宥める事にする。
と言うか、キバオウがユッチを鬱陶しそうにしており、俺に対してコイツをどうにかしろと言わんばかりの視線を送ってきているしな。

俺「取りあえず、言わせるだけ言わせてやれよ。コイツだって、ここで似非情報を流して俺達を混乱させて、死人を出すような事態を招くことが、後に自分がどうなる事か位分かってるはずだろう、そうだよな黒ビーターさん?」

ユッチ「うぅ……」

ユッチは未だに不服そうだが、何とかそこで大人しくなった。キリトは俺とキバオウを交互に見渡して、何か考えている様子だったが、レイド全員の顔が見えるであろう場所まで前に出てくる。

キリト「最初に行っておくけど、俺だってベータテストのときのボスしか知らない。だから、今回のボスは何かが……へたすれば、何もかもが変わってる事だってあり得る」

キリトが話し始めると、ざわめいていたプレイヤー達は徐々に静かになり、誰も口を挟まない。

キリト「でも、少なくとも迷宮区に沸く雑魚トーラスの攻撃パターンはベータと一緒だった。だから、ボスも奴らが使う技の延長線上にあるソードスキルで攻撃してくるのは間違いないと思う。さっき確認した通り、基本は『モーションを見たら回避』だけど、大事なのは一発目を食らってしまった時の対処だ。デバフを二重掛けされるのだけは絶対に避けてくれ。ベータの時は、スタンが麻痺になったプレイヤーは……」

キリトはそこまで言ってから先の言葉を言いよどんだ。ま、十中八九『ほぼ確実に死んだ』と言おうとしたんだろうな。

キリト「……ともかく、落ち着いてよくハンマーを見れば、二発目は絶対に避けられる。それさえ気を付けてれば、この陣容なら死者ゼロで倒せるボスだ」

レイナ「……攻略本に書かれてた以上の事は言えないのね」

キリト「わ、悪い……」

レイナに痛いところを付かれたキリトは冷や汗をかきながら一方後ろに下がった。

俺「仕方ないだろ、下手なこと言って、それが間違いだったらこいつは今以上に嫌われ者になっちまうからな」

キリト「はは……今より嫌われるってどんな風になるんだろうな?」

そこで、リンドが強く手をバンっと叩いた。

リンド「よし、いいなみんな、二発目は絶対回避!それじゃ、そろそろ始めよう!第二層ボス、倒すぞ!!」

立木ナレ「遂に始まる第二層フロアボス戦!未だに一つにならぬ攻略プレイヤー達の心、そして、ボス攻略後にオズマが考えている詐欺師を締め上げる計画!第一層でキリトが掻っ攫ったLAボーナスに執着する者達!ありとあらゆる思惑が交錯する第二層フロアボス戦……開始!!」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

FILE21 第二層ボス、バラン将軍&ナト大佐

立木ナレ「モンスターの、プレイヤーに対する攻撃は主に二つの系統に大別される。一つは、HPを減らす、『直接的攻撃』。そしてもう一つは、喰らってもHPは減らないが、時ととしてより大きな危険を招く『間接的攻撃』、すなわち阻害効果(デバフ)だ。このデスゲームにおいても、一層の迷宮区に生息するコボルド族はボスを含めてデバフ攻撃を殆ど行わなかった。それ故に、二層迷宮区に出現する牛男、トーラス族が、プレイヤー達が初めて対面する本格的デバフ使いなのであった!!」

キリト「全力攻撃一本!」

キリトが雄叫びを上げるフロアボスモンスターに対して攻撃の指示を出す。それぞれの武器に設定されている最大威力のソードスキルを繰り出す。

俺「H隊の連中、取り巻きの相手だってのに上手く連携取れてるな」

レイナ「……彼の指示は的確」

と、キリト達が相手にしているのはあくまで取り巻きの全身真っ青の牛男『ナト・ザ・カーネルトーラス』、通称ナト大佐の方だった。シヴァタのD隊に入っている俺達は『バラン・ザ・ジェネラルトーラス』、通称バラン将軍の攻撃を行っている。
バラン将軍はナト大佐の二倍の背丈で第一層のボスだったコボルド王の2メートルを超える、5メートル級の巨体だった。
バラン将軍が振り上げる黄金ハンマーが黄色いスパークを発生させる。リンドの回避命令に従い、(タンク)部隊も攻撃(アタッカー)部隊も一斉にバックダッシュする。直後―――

「ヴゥオオオオオオヴァアアアアア―――――ッ!!」

俺「あれって、バラン将軍のユニーク技だったか?」

レイナ「そう、『ナミング・デトネーション』よ」

ボスが床面を叩くと、そのインパクト大の衝撃が発生する。それを追う様にスパークの渦が広がる。

ユッチ「ひぃぃ――!!部下のスキルよりも倍広い範囲攻撃っすよ―――――!!」

俺「喚いてないで、ちゃんと逃げろ!」

俺はスパークの渦に巻き込まれそうになったユッチの首根っこを引っ張って、どうにか回避させることに成功した。

シヴァタ「くそ……プレモーション自体は分かりやすいのに、やはり範囲が広いせいで避け損ねる者がどうしても出てくるな……」

シヴァタが苦々しそうに言った。実際に今ので、安全圏に退避し損ねた二人が足を黄色のスパークに飲まれてしまっていた。その二人は間もなく行動不能(スタン)状態となる。

レイナ「……あれは3秒程度経てば回復するけど、それまでは完全に無防備ね」

俺「雑魚相手の狩りなら3秒程度動けなくてもそこまで深刻じゃないが、フロアボス目の前にして3秒動けないってのは死活問題だな」

一秒、二秒……三秒がカウントされるその直前。硬直する一人の右手から片手用ショートスピアが滑り落ちて、床面で乾いた音を鳴らした。

俺「ファブルか!スタン中でもたまに発生するんだよな……」

直後にスタンが解け掛け、そのプレイヤー、リンド隊の一人はしゃがんで槍を拾おうとした。

シヴァタ「待て、二発目が!」

俺「間に合わない!」

今度は二連続の『デトネーション』。先ほどと全く同じ位置に炸裂したハンマーから黄色い稲妻が発生して、さっき槍を拾ったばかりのリンド隊メンバーをまたしてもスタンさせた。

ユッチ「ひ、ひぃ~……ま、またスタンするっすよ~」

レイナ「……いえ、今度はスタンじゃないわ」

レイナの言う通り、奴を包み込むエフェクトはさっきまでの良い炉ではなく薄い緑だった。

俺「そうか、あれが麻痺状態なんだな」

シヴァタ「事前情報によるよ、麻痺はスタンよりも深刻かつ強力で、デバフを立て続けに食らうと二回目は麻痺になるそうだ……」

俺「どれくらいで回復するんだっけ?」

レイナ「……最も弱い麻痺でも10分……600秒くらいかかるわ」

俺「クソ……ボス戦でそんなに止まってたらまず死ぬだろ!」

こうなってしまっては自力ではどうしようもないので、仲間がアイテムを使って回復するしかあるまい。
浄化クリスタルがあれば、それで即刻治せるんだろうが、現時点では手に入らないらしい。なのでPOTを使う事になる。

シヴァタ「麻痺してる者たちはきっと、ポーチ類から便を出して飲む動作すら一苦労だろう」

と言うか、事前にすぐに武器を拾ったりしないで、二発目が来るか来ないかボスのハンマーを確認しろと事前に決めてたはずだが、焦ってその辺りの判断を誤った結果だ。

シヴァタ「俺たちが比較的近い、麻痺してる連中を助けよう」

俺「ああ、目の前で死なれちゃ目覚めが悪くなるしな」

早速、麻痺しているスピア使いがバラン将軍にタゲられていた。俺とシヴァタで攻撃が来る前に、ボスの前から引きずり出してそのまま後方に移動させる。

シヴァタ「ほら、治療POTを飲むんだ」

俺「危なかったな、今度はああなっても慌てて武器を拾うなよ」

シヴァタがスグに治療POTを飲ませるが、実際に回復するまでには少々の時間を要する。スピア使いも自分の失態を恥じているのか、申し訳なさそうに、首を小さく縦に振る。

ユッチ「ひ、ひぃ―――――――!!お、オズマさんや、やばいっす!」

俺「一体、何喚いて……マジかよ」

ユッチが喚きながら指を指す方を見て俺は、思わず目を大きく見開いた。
壁際には、既に8人ほどのプレイヤーが麻痺になり、不自由な腕で、ポーションを飲んだり、麻痺が消えるのを待っている有様だった。

レイナ「……あれ以上麻痺した人が増えたら、一時撤退も難しくなるわ」

俺「それが問題だな……」

シヴァタ「ああ、ボスとの戦闘ゾーンから出口までの距離を考えると最悪……ボスの追い打ちを浴びて、スタンして、そのまま死亡なんて事にすらなりかねないぞ……」

俺「ざっと見た感じだと、リンド隊もキバオウ隊も8割がたがバランス型で他もスピード型なんだよな……」

そう言う俺も、パワーとスピードを重視させているバランス寄りのパワー&スピードタイプで、パワーに特化しているわけではないので一度に1人を運ぶのが精一杯だろう。さっきはシヴァタと二人だったから一人をスムーズに運べたが、一人だけではこうはいかない。
だが、レイナは違う、両手剣を使うレイナは、必然的に筋力ステータスを最も重点的に高めているので、その体格に似合わずに重い物を持ち上げる事も出来る。

俺「レイナ、お前一人であそこにいる連中の内の一人を運べるよな?」

レイナ「……それなら問題ない」

俺「んで、俺とシヴァタの二人でもう一人を運ぶ、シヴァタの仲間二人で更にもう一人運ぶとして……」

そこまで言って、俺はユッチの方に目を向ける。ユッチは本能的に嫌な予感を感じたのか、全身をビクッと震えさせるが、ここは否応でもやらせるしかない。

俺「その間、俺たちがスムーズに救出活動が出来るように、ユッチ、お前がボスのヘイトを集めて引きつけろ」

ユッチ「僕が囮っすか!?」

俺「この6人の中で一番、筋力ステータスが低いのはお前だからな、運び役には向いてないなら、囮役を任せるしかない」

ユッチ「そんな~……」

泣きそうな顔をして鼻水まで垂らす体たらくっぷりだが、モタモタしていたら死人が出る。強引だが、選択の余地など与えずにやらせるしかない。

俺「レイナ、そのハナタレをボスの前まで運んでくれ。そして、C隊全員で救助活動だ」

レイナ「……分かった」

ユッチ「嫌だぁぁぁぁ!!」

泣き喚くユッチの首根っこをレイナが掴んで、その持ち前の筋力ステータスでズルズルと引っ張りボスの近くまで運び、バラン将軍の前に放り投げた。
すると、バラン将軍はご丁寧に、いきなり目の前に転がって来たユッチにタゲを取ってくれる。

シヴァタ「よし、今の内にC隊でまずは3人救助だ!」

パーティーリーダーのシヴァタの合図で俺達はバラン将軍がユッチに目を向けている最中に麻痺した連中の救助に向かう。
レイナは筋力ステータスが高いので、単独で一人を運び、俺はシヴァタと二人で一人を、他の二人で一人を素早く運ぶ事になる。

シヴァタ「もう大丈夫だ、安全地帯に移動したらすぐに治療POTを飲ませてやるさ」

シヴァタが麻痺で体の自由が利かないリンド隊の仲間を運びながらそう励ます。他二人もリンド隊の仲間を救助し、レイナはキバオウ隊の刀使いを救助する。

ユッチ「止めて――――!!お願いだからハンマーを一旦地面に置いてくださぁ―――い!!」

その間にユッチがバラン将軍の攻撃から逃げ惑いっぱなしだが、時間稼ぎはしてくれている。

俺「ユッチ、『デトネーション』が来るぞ、一旦お前もダッシュで退避しろ!」

ユッチ「はいぃ―――――――!!」

バラン将軍の構えを一瞬見て、俺はユッチにそう指示を出す。予想通りバラン将軍は再び二連続攻撃のソードスキル『デトネーション』を発動するが、辛うじて俊敏性を生かしたダッシュでユッチは回避に成功していた。

シヴァタ「なんとか……3人助け出せたな」

俺「ああ、だがまだ麻痺ってる奴が3人も嫌がる」

ユッチが一旦退避した事で、再びバラン将軍のタゲは麻痺している連中に向けられる。早く次の行動に移さらないと、奴らの命はない。
危険度は高いが、もう一度ユッチに囮をやらせて、さっきと同じやり方で救助するかと俺が考えていた時だった。

レイナ「……オズマ、キリトが」

俺「あ?アイツ、何してる?」

レイナが指さす方を見ると、エギル達と一緒にナト大佐の相手をしているはずのキリトがリンドやキバオウたちの側で何かを話していた。
何の話をしているのか分からないが、話は割とすぐに終わったようで、キバオウが先に自分の持ち場に戻ると、キリトもH隊の方に戻っていく。

リンド「よし、E隊、後退用意!G隊前進用意!次のディレイで交換するゾ!」

リンドの指揮が再開し、キバオウのE隊の後退が始まり、G隊、つまりオルランド率いる『レジェンド・ブレイブス』が前進し始める。

シヴァタ「リンド、俺達はまだ余裕がある、援護に行かせてくれ!」

シヴァタがリンドにそう提案すると、リンドは数秒ほど考えた後、大きな声で「頼んだ!」と叫んだ。

シヴァタ「よし、皆、聞いての通りだ、麻痺者の救助及び、E隊の後退の援護を開始する!今度はオズマとレイナさんはバラン将軍を足止めしてくれ、残りのメンバーで麻痺者の救助だ!」

俺「了解、レイナも良いな?」

レイナ「……問題ない」

ユッチ「あ、良かった……もう、囮じゃないんだ」

ユッチを救助側に回したのはさっきのユッチの有様を見てシヴァタが気を遣ってくれたのだろう。
ひとまず俺とレイナはソードスキルの発動が何時でもできるようにモーションに入る。
バラン将軍のハンマー攻撃は大振りで隙が大きく、こちらから先にダメージを与えやすい。
まずはレイナのソードスキルの『ディストラクション』が決まる、地面に剣を叩きつけるような攻撃をバラン将軍に直撃させる。

レイナ「……スイッチ」

俺「任せろ!」

レイナの硬直後はすぐに俺のソードスキルの『ヘルソード』が発動する。こちらも地面に剣を叩きつけるような攻撃でバラン将軍は連続のソードスキルを食らいノックバックし、最後のHOケージがついに黄色い表示になった。

俺「よし、麻痺者が減ったみたいだぞ」

レイナ「……少し気になる事がある」

俺「は?」

ソードスキルの硬直から解けてすぐにいったん後退する俺とレイナだが、いきなりレイナが妙な事を言い出した。

レイナ「……第一層のボスが(ロード)だったのに、二層が将軍(ジェネラル)だなんて、格下げになってるから」

俺「いや、そんなの大した意味はないだろ……」

と、俺がその先を言う前に、突然、ごごぉん!という轟音がボス部屋に響き渡った。音が聞こえたのはコロシアム中央からだった。
そこに見えるのは確かに何もない、ただ牛のレリーフが施された青黒い石材が同心円状に敷き詰められているだけだが……

ユッチ「う、動いてるっすよ!!」

確かに、三重の円を描く敷石が、スピードを変えながら反時計回りにスライドしていた。石たちは床面からゆっくりせり上がり、三段のステージを作り出す。

俺「おいおい、止めてくれよ……」

俺は思わずそうぼやいた。このエフェクトは巨大なオブジェクトが涌出する前兆だ。そして、俺のその嫌な予感を裏切る事は無く、そいつは頭に王冠を被っており、地響きのような雄叫びを上げた。牛男の周囲に雷が落ちる。

ユッチ「で、出たぁ――――――!!」

俺「いかにも、真のボスのお出ましって感じだな……」

それを証明するように、天井に接するほどの場所に六段のHPバーが出現していた。その下部にはボスの名前だろう英語の文字列が並ぶ。

レイナ「……アステリオス・ザ・トーラスキング」

はい、こんな時でも訳してくれて本当に助かるぞレイナ……じゃなくって、やっぱり第二層でもベータ時代との違いがあったわけだ。



次回から更新時刻を19:00にしてみたいと思います。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

FILE22 第二層 真のフロアボス、トーラス王

立木ナレ「第二層フロアボス戦は熾烈を極めた!バラン将軍が得意とする阻害攻撃(デバフ)のスタン、及び麻痺状態によって動けなくなるものが続出!だが、そんな中でも懸命な共同戦線で麻痺状態になったメンバーを救出しつつ、どうにか、バラン将軍の最後のHPケージを黄色状態にまで削った!しかし、そこで現れたのは新たなる敵……否!この第二層の真のフロアボスの『アステリオス・ザ・トーラスキング』であった!!」

俺「さ~て、どうしたもんかね~これは?」

レイナ「……よりにもよって、コロシアムの中心に出現するなんて」

全く持ってその通りだ、レイドの本隊は部屋の最奥部で戦っていると言うわけで、逃げようにも、出口に向かうにはアステリオスの攻撃権を突破しなくてはならない。

俺「出口の近くでナト大佐と戦ってるH隊の連中ならともかく、他はそうはいかないだろうな……」

H隊のエギル達もその事が分かっているようで、自分達だけなら逃げられるにもかかわらず、逃げるのを躊躇っている様子だった。

キリト「―――全員、全力攻撃!!」

H隊はキリトの合図と同時に、残りのHPを後僅かに残しているナト大佐との戦いに挑んでいた。
さっさとナト大佐を倒してこっちの援護を頼むぞ……こっちはバラン将軍を倒さなくちゃならないのは当然だが、更にアステリオスまで相手にしなくちゃならないんだ。

シヴァタ「……せめて、無茶な逃走で王と将軍の挟み撃ちだけは回避しないとな……」

俺「あと、麻痺してる連中がタゲられても不味い、そうなる前に、奴のヘイトをこっちに向けるぞ!」

ユッチ「ええ~、まだやるんっすか~?」

俺「退避命令が出ない限りは、仕方ないだろ」

正直、ここまで当初の予定との狂いが出ると、何時ボス部屋からの撤退命令が出てもおかしくないが、今の所それは全く出ていないので、リンドもキバオウもまだ戦うと言う事だろう。

俺「レイナ、援護頼むぞ」

レイナ「……分かったわ」

麻痺している連中がタゲられる前に俺とレイナは再びバラン将軍に挑む。アステリオス王の反応圏がどの程度かはまだ分からないが、ほぼ勘頼みで、なるべく奴から距離を取った状態で、右側から迂回して本隊の戦場に入り込む。

俺「ほぉっら!」

飛び込み斬りからの、ソードスキルの『レインソード』で連続突きを浴びせる。一撃のダメージこそ低いが、至近距離で巨体のバラン将軍には全てヒットするので、総ダメージ自体は大きいはずだ。
俺の目論見通り、バラン将軍は僅かに仰け反り、そこをレイナが逃さずにソードスキルの『ブレードフューリ』の三連続突きを見舞う。

俺「流石にこれだけじゃ、削り切れないか……」

そして、バラン将軍の攻撃が今度は俺達を襲う、ソードスキルの硬直解除と同時にバックダッシュで回避出来るかどうかで、この先の展開が変わる。間に合ってくれと俺が願っていた矢先だった。

キリト「お……らああッ!!」

いつの間にかナト大佐を倒していたキリト達が、本体を突破してやって来て、キリトは片手剣ソードスキルの突進技『ソニックリープ』を食らわせていた。
それによってバラン将軍は体を大きく後退させた。
そして、そこで更にH隊の連中が一斉にキリト達を折って来て、全力の追撃を叩き込み、即座に離れる頃には本隊のメンバーも突進し、将軍を袋叩きにする。

ユッチ「やった―――!バラン将軍撃破っすよ―――!!」

誰が止めを刺したのかは分からないが、それでバラン将軍の巨体が膨張し、吹き飛んでいた。
が、喜んでいる場合じゃないのは言うまでも無かった。漆黒のトーラス王が状態を反らせ、大胸筋を膨らませている。

レイナ「……遠隔攻撃、ブレスのモーションよ」

俺「冗談じゃねぇ!盾の代わりにソードブレイカー使ってる俺じゃ防げねぇ!」

が、その軌道上、トーラス王が狙いを定めている先にいるのはアスナだった。

キリト「アスナ、右へ跳べ!」

キリトがダッシュしながら叫んでいた。アスナは背後からのブレス攻撃に即座に気が付いたようで、振り返る事なく、キリトに言われた通り床を蹴ろうとする。

ピシャアアァン!!

乾いた衝撃音は、まさに雷鳴だった。俺がそれに気が付いた時には、周辺にいる20人のプレイヤー共々、白い閃光に包まれていた。俺もレイナもキリともアスナも含めた20人が……

俺「やりやがったな……!」

俺のHPもレイナのHPも2割ほど減少すると同時に、緑色のデバフアイコン、つまり麻痺状態になった事が知らされた。おかげで、俺も、キリトもアスナも、その他大勢の10人以上の者達がその場からまともに動けなくなる。

俺「POTで治療を……」

と、言いながら、自由になかなか動かない首を回して後ろを見ると、後方で呆然としていたユッチが床に尻を付いてガタガタと震えていた。そうか、アイツは離れたところにいたから巻き込まれずに済んだのか。
だが、ユッチに限らず、雷ブレスに巻き込まれなかった連中は、ゆっくりと移動するボスを遠巻きにしているが、どう動くべきか判断が出来てないようだった。

俺「リンドに……キバオウもかよ……」

レイドリーダーを務めるリンドと、サブリーダー的な立場であるキバオウすらも麻痺し、それどころか、追うから最も近い場所で倒れていた。
二人とも何か指示を出そうとしているんだろうが、麻痺のせいで呻き声を出すのが精いっぱいのようだった。

レイナ「……早く、治療POTを飲んで」

俺の後ろでどうにか麻痺は免れていたレイナはポーチから取り出した治療POTを俺に飲ませようとしていた。
こんな時に、自分もやばいという状況下でもNPCヘルパーとして俺を守る事を最優先しているんだな。
レイナは俺を庇う様にトーラス王に背を向けて、自分の身を盾にするようにしていた。ここで、レイナが飲ませようとしている治療POTを飲んだとしても実際に回復するのに時間が掛かる。
それまでにトーラス王が俺達への攻撃を後回しにしてくれる保証など無い……と言うか、今まさにトーラス王がハンマーを振り降ろそうとしている……

俺「あ?」

甲高い金属音がコロシアムに鳴り響いた気がした、その音と同時に巨大なトーラス王がぐらりと状態を揺らしたのだった。
今のは『投擲』スキルか?ボスの弱点の王冠を狙ったように見えたが、床に落下せずに、後方に跳ね戻った気がした。

レイナ「……オズマ、もうすぐ麻痺から回復するわ」

レイナは俺に治療POTを飲ませる事を優先して、それに気が付いていないようだった。体の痺れが抜けていくのを感じる、レイナに支えられながら立ち上がり、取りあえず一旦退避する。

俺「ああ、救助がきたか」

見てみると、キリトもアスナも他にも麻痺で動けないプレイヤー達をエギルとその仲間三人が一人につき一人ずつ運んで退避させていた。
そして、出口に近づくと、右手に妙な武器を持った、迫りくるボスを見上げる小柄なプレイヤーに気が付いた。

俺「って、アイツ!!」

レイナ「……なぜ彼が?」

そいつは、俺やユッチ、それにシヴァタなど、大勢にプレイヤー達の武器を強化詐欺でだまし取った張本人である鍛冶屋……もとい詐欺師だった。
恰好は以前とはかなり変わっているが、間違いなく奴だった。実際にレイドメンバーの多くが『なぜ鍛冶屋がボス攻略に』と驚いてる様子だった。そして俺は、奴の右手に握られている武器を見て更に困惑する。

俺「あれってチャクラムか?あれは確か……」

レイナ「……チャクラムは『投擲』スキルと『体術』スキルの両方をスキルスロットに入れてなければ使用出来ないはず」

そうだ、投擲スキルはともかく、あの詐欺師がどうやって体術スキルを習得したんだ?俺だってまだ体術スキルを獲得するのに必要な各ソードスキルの熟練度に達していない。
まさか、俺のウエイトソードを使ってこの数日間の間に練習した……もしくはまさか……

俺「まさか『体術』スキルそのものを習得できるクエストがあったのか?」

実際に考えてみると、そっちの方が現実的だ。だけど、この第二層の一体どこで、そんなクエストがあったんだ?それ以前にあの詐欺師がいったいなぜ、態々詐欺の被害者が大勢いるであろう、フロアボスの部屋までのこのこと現れたんだ?
俺の頭の中で様々な疑問が交差する中、詐欺師は一瞬、沈痛な表情を浮かべたように見えたが、すぐに毅然と叫んだ。

詐欺師「僕がギリギリまでボスを惹き付けます!その間に、体勢を立て直してください」

ユッチ「あ、あの詐欺師野郎!!いきなりのこのこと出てきやがった上に、何を偉そうに命令してやがるんだ!!」

自分のストロングダガーを騙し取ろうとした詐欺師の登場にユッチが早速怒りを露に奴に近づこうとする。

シヴァタ「待つんだ!確かにアイツがいきなり出てきたことに関しては疑問が尽きないが、今はこの態勢を立て直すことが先決なのは確かだ」

ユッチ「で、でも!」

同じ、詐欺の被害者であってもシヴァタは冷静に今の状況をどうにかする事を優先して、ユッチを窘める。

俺「シヴァタの言う通りだ、アイツを締め上げるのはボスを倒してからでも出来る、その前にボス戦で働かせるだけ働かせるんだ」

取りあえず、奴にブレス攻撃のタイミングを伝えなければならないが、それを伝える前に、トーラス王が、再び上体を反らせつつ空気を吸い込む。

「避けろ!」

レイドメンバーの誰かがそう叫んだ。しかし詐欺師はそれよりも一瞬早く、俊敏に左に飛んで、直後に僕の口から放たれた純白の稲妻を見事に回避した。

レイナ「……あの詐欺師、ブレスの回避タイミングを知ってるみたい」

俺「どこぞのどいつが事前に教えたみたいだな」

そして、その張本人と思わしき、見覚えのある情報屋がなぜかこの場に姿を現した。

アルゴ「ブレスを吐く直前、ボスの眼が光るンダ」

俺「ベータ時代に存在しなかったボスの情報まで手に入れてやがったのか……」

アルゴ「ま、それは後で色々とおねーさんと二人っきりの時にナ」

俺「それよりも聞きたいことは山ほどあるが……今はそれどころじゃないな」

特に体術スキルを獲得できるクエストの情報はあるなら教えてもらいたいところだった。

アルゴ「よう、トンガリ頭。久しぶりだナ」

アルゴは何故か陽気な顔でキバオウに声を掛けるが、キバオウの方はそちらも何故だかバツの悪そうな顔をしていた。

アルゴ「撤退するなら、早くするんだナ。だがこのまま戦うなら、ボスの情報を売るゾ。代金は―――特別に、タダにしといてヤル」

リンドとキバオウは一度は麻痺をして、死の恐怖を実感しつつもものの数秒で戦闘継続の判断を下した。

俺「気に食わないが、詐欺師が二分以上もタゲを取ってたおかげでレイド全員が麻痺から回復してるみたいだな」

シヴァタ「HPの回復もほぼ万端だ、ボスの攻撃パターンの情報もあるなら、……いける!」

シヴァタがそう力強く言って間もなく、リンドが指示を出す。

リンド「よし……攻撃、始めるぞ!A隊D隊、前進!」

重装甲の壁部隊がトーラス王に向かって突っ込んでいく。そして、そのあと少しして、詐欺師が投げたチャクラムがハンマーを振りかぶろうとしていたトーラス王の冠に命中し、甲高い金属音が鳴り響き、ボスが上体を仰け反らせる。

ユッチ「くっそ!あの詐欺師野郎……散々僕らを騙して儲けた分際で恰好付けやがって……!!」

俺「だから、アイツを半殺しにするならボスを倒してからだ、俺達も行くぞ」

レイナ「……分かった」

シヴァタ「よし、ボスを倒そう!」


立木ナレ「無数のライフエフェクトが途切れることなく炸裂する最前線にオズマ達は飛び込んだ。この大詰めに来て特に目立っているのはG隊のレジェンド・ブレイブスだった。
バラン将軍と同様、トーラス王も広範囲スキルの『ナミング・デトネーション』を操るが、オルランド達5人はナミングを至近距離で食らっていながらもスタンしないのであった。そしてそれは言うまでも無く、彼らが揃って高い阻害抵抗値(デバブレジスト)を持っているからであった!だが、オズマはまだ気が付いていない……オルランド達5人がこのレア防具一式をここまで強化出来た理由の最大の一端が憎き詐欺師にある事に!!」


俺達を含むレイド部隊の攻撃でトーラス王の六段HPバーのラスト一本が赤く表示された。

リンド「E隊、後退準備!H隊、全身準備!」

リンドが指示を出す。奴は第一層でのボス戦の直後にキリトを糾弾した張本人ながら、ローテーション通りながら、出番を与える当たり、リーダーとしての自覚はあるみたいだった。

俺「来やがったな、アイツら……」

第一層のボス戦ではキリトにLAボーナスを取られている、と言うか奴はきっと、ナト大佐やバラン将軍からもLAボーナスを取っているだろう。
だったらもう……充分だよなビーターさん?
早速キリトとアスナが単発ソードスキルを一発ずつヒットさせる。ボスが怒りの声と共に繰り出す薙ぎ払い攻撃を、スイッチで前に出たエギル達がガードしていた。

「ヴォロロヴァラアア――――ッ!!」

トーラス王が雄叫びを上げて大量の空気を吸い込み始めた。すると、やはりと言うか、キリトはここでもLAボーナスと狙おうとしている!

キリト「アスナ、今だッ!」

キリトとアスナが同時に踏み込んだ、ここで後れを取るわけにはいかない……!

俺「レイナ、俺を投げ飛ばせ」

レイナ「……分かった!」

レイナは躊躇する事無く、持ち前の筋力ステータスを存分に発揮して俺をトーラス王に向かって投げ飛ばした。

キリト・アスナ「――――!?」

俺「貰った!」

トーラス王がブレスを吐きだすまで既に1秒未満、俺は飛び上がりながら空中回転斬りの片手剣ソードスキル『スピンドライブ』を発動。
レイナに投げ飛ばされた状態のまま更に地面に着地と同時に中を縦方向に回転しながらトーラス王の弱点である王冠を斬り飛ばした。
王冠は粉々に砕けて、次いでトーラス王の巨体もコロシアムに広がるほどの規模で爆散した。

立木ナレ「オズマ、最後の最後に型破りな手段でついに……フロアボスのLAボーナスを獲得!第一層での雪辱を晴らすことに成功した!そして、次にやるべきは第二層フロアボス戦に唐突に現れた詐欺師への制裁、当初から目論んでいた詐欺師を圧倒的、そして壊滅的に追い込む為にも!!」

目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

FILE23 詐欺師への制裁

立木ナレ「第二層、真のフロアボスの『アステリオス・ザ・トーラスキング』との戦いはハンマー攻撃による麻痺状態で窮地を極めた!が、そんな窮地に現れた人物はオズマのウエイトソードを始め、数多くのプレイヤーから強化詐欺で武器を盗んだ詐欺師であった!詐欺師のチャクラムを使った援護によって体勢を立て直し、オズマはトーラス王にとどめのソードスキル『スピンドライブ』を食らわせ、見事にLAボーナスを獲得した!だが、これで終わるわけにはいかない……」

ユッチ「オズマさんカッケェ――――――!!LAボーナスおめでとうっす!!」

トーラス王にとどめを刺し、その場で座り込んでいる俺の元にユッチがバカ丸出しではしゃぎながら走って来ていた。

レイナ「……オズマ、お疲れ様」

俺「ああ、お前も上手くやってくれたな」

あそこでレイナが俺を躊躇なくトーラス王の前に放り投げてくれなかったら、今回もLAボーナスはキリトに掻っ攫われていた所だった。
かなりの型破りなコンビプレーだったが、最終的に成功したので良しとしよう。

俺「いや、まだこれで終わりってわけにはいかねぇよな」

ユッチ「あ、そうだ!詐欺師野郎っすね!」

俺は今回のボス戦に颯爽と現れて、まるでヒーローを気取るかのように活躍した詐欺師がレイド本体の向こうで立ち尽くして、まだ逃げていない事を確かめて、勝利に沸き立つレイド本体にいるシヴァタに近づく。
シヴァタも俺が来るのにすぐ気が付いて、こちらに目を向ける。

俺「シヴァタさん、今、この場に奴がいるのは正直、予想外だが、急いで他の詐欺被害者をなるべく集めるんだ」

シヴァタ「それなら既に何人か当てがある、こっちのリンド隊の彼と、キバオウ隊の彼も、あの鍛冶屋に武器強化を頼んだら、武器を失ったそうだ」

シヴァタの横にいるのは、同じ青服のリンド隊のメンバーと、キバオウ隊のプレイヤーだった。
その二人は既に詐欺師の方に険しい視線を向けており、詐欺の被害に遭った事があからさまに分かる。

俺「んじゃ、まずはそのメンツと俺達で奴を問い詰めようぜ」

シヴァタ「ああ、キッリチと責任を取らせよう。二人とも、それで良いな?」

リンド隊のプレイヤーとキバオウ隊にプレイヤーは今すぐにでも詐欺師に怒鳴り散らしたいのだろうが、そこは何とか抑えてシヴァタに従う事で同意した。

俺「んじゃ、洗いざらい吐かせるとするか、お前らも来い」

ユッチ「勿論っす!俺も後ちょっとで『ストロングダガー』を取られるところだったんだから同じ被害者っす!」

レイナ「……私が逃がさない」

詐欺師はキリトやアスナと合流して何か話をしているようだった。どういうことか分からないが、キリトとアスナは詐欺師と知り合いらしいが、今は俺たちが奴と話さなくてはならない。

シヴァタ「アンタ……何日か前まで、ウルバスやタランで営業してた鍛冶屋だよな」

詐欺師「……はい」

シヴァタ「なんでいきなり戦闘職に転向したんだ?しかも、そんなレア武器まで手に入れて……それ、ドロップオンリーだろ?鍛冶屋でそんなに儲かったのか?」

まずはカマをかけてみるシヴァタ。既にシヴァタには俺が気が付いた詐欺の手口もあらかた話している。
ここで奴が何か下手な嘘や誤魔化しをしたところで、すぐにばれる。
そしていつしか、勝利に沸いていた他のレイドメンバーも、リンドもキバオウも沈黙して事御成り行きを見守っている。

俺「どうなんだ?答えられない理由でもあるか?」

俺がそう威圧すると、詐欺師はチャクラムを床に置くと、両膝を突く。さらに手も床に押し当て、深く頭を垂れて、土下座のポーズになった。

詐欺師「……僕が、シヴァタさんと、オズマさんとそちらのお二人の剣を、強化直前にエンド品にすり替えて騙し取りました」

ユッチ「それだけじゃねぇだろ!僕の……僕のストロングダガーも騙し取ろうとしたじゃねぇか!!」


立木ナレ「ユッチがそう叫ぶと、コロシアムは一気に緊迫した空気に満ち溢れた!!SAOプレイヤーに与えられた仮想体(アバター)は、現実の容姿を驚くほど再現しているが、感情表現に関してはやや過剰気味に現れやすい傾向がある。特に、喜怒哀楽の表情変化が現れやすく、オーバー気味なのであった!!故に、詐欺師の自白を聞いたにもかかわらず、眉間に皺を寄せた程度のシヴァタの自制心はかなりの物と言えよう、彼の左右に立つ、2人の強化詐欺被害者のプレイヤーとオズマの横に立つユッチの方は最早爆発寸前であった!!」

シヴァタ「……騙し取った武器って、まだ持ってるのか?」

詐欺師は床に手を付いたまま、頭を左右に振る。

詐欺師「いえ……。もう、お金に替えてしまいました……」

まぁ、だいたいそんな事だろうとは思っていた。シヴァタもその答えを予測していたらしく、短く「そうか」とだけ言ってから。

シヴァタ「なら、金での弁償ならできるか?」

今度はすぐには答えなかった、この期に及んで何か逃げ道を模索していやがるのか?だとしたら、こいつの達の悪さは俺の想像をはるかに上回っていると言わざると言いようがない。
それから更にじっと俺達の視線に晒された詐欺師は、額を床のタイルに擦りつけながら答えた。

詐欺師「いえ……弁償も、もうできません。お金は全部、高級レストランの飲み食いとか、高級宿屋とかで残らず遣ってしまいました」

それを聞いた瞬間、俺は自分の表情が自分でも滅多に見せないであろうな程に怒りを露にしているであろうことを実感した。
こういう連中がはっきり言って一番性質が悪い!人畜無害そうな顔して、裏で姑息なやり口で大して裕福でもない奴らからナケナシの金や物を盗む輩が!!

リンド隊「お前……お前、お前ェェ!!」

ついに、シヴァタの右に立つリンド隊のメンバーが忍耐の限界を超えたようで、拳を振りかざし、右足のブーツで何度も床を踏みつける。

リンド隊「お前、解ってるのか!!オレが……オレたちが、大事に育てた剣壊されて、どんだけ苦しい思いしたか!!なのに……オレの剣売った金で、美味いもん食っただぁ!?高い部屋に寝泊まりしただぁ!?あげくに、残りの金でレア武器買って、ボス戦に割り込んで、ヒーロー気取りかよ!!」

続けて左側のキバオウ隊メンバーも裏返った声で叫んだ。

キバオウ隊「オレだって、剣無くなって、もう前線で戦えないって思ったんだぞ!そしたら、仲間がカンパしてくれて、強化素材集めも手伝ってくれて……お前は、俺達だけじゃない、あいつらも……攻略プレイヤーも全員裏切ったんだ!!」

更に、今度は案の定、ユッチも声を荒げて叫ぶ。

ユッチ「テメェ!!僕のストロングダガーの強化に失敗を装って消した時に、『申し訳ありません!申し訳ありません!』って平謝りしまくったよな!?あれは嘘だったのかよ!?あの場をやり過ごす為の嘘だったのかよ!?んで、テメェのアイテムストレージから盗み取ったと思ってたストロングダガーが無かったときはどんな気分だった!?言い当ててやろうか?「クソ!折角盗んだのに何で消えてるんだよ!」とか思ってたんだろうが!!」

三人の絶叫を契機に、後方で事の成り行きを見守っていたプレイヤー達が一度に激発した。

―――裏切り者!!

―――自分が何をしたのか解ってるのか!!

―――お前のせいで攻略が遅れたんだぞ!!

―――今更謝ったって、何にもならんぇんだよ!!

口々に叫ぶ数十人の声が合わさり、轟音となって部屋を震わせた。圧倒的巨大な怒りを受けて詐欺師の背中が縮こまる。

俺「よし、これだ……この展開こそが詐欺師を追い詰めるのに必須の状況だったんだ!」

レイナ「……心情的に周囲を味方に付ければ、甘い妥協案とかを切り出させなくする事が出来るわね」


立木ナレ「そう、これがオズマの狙っていた状況であった!心情的に周囲を味方につける事によって、詐欺師を完全に無縁孤立化させて、最大限の壊滅的な打撃を与える筋書き!そしてフロアボス戦ともなれば、トッププレイヤー達が多く集まる……それはすなわち、詐欺被害者がより多く集まりやすいと言う事、故にここにいる者達の圧倒的大多数が詐欺師を糾弾する側となった!!」


詐欺師がフロアボスの部屋にいるプレイヤー達から一斉に罵倒を浴びる中、今回のフロアボス戦のリーダーを務めていたリンドが右手を上げながら進み出た。
俺達も取りあえず、進み出てきたリンドに場所を譲ると、ひとまず広間を満たす怒りの声はある程度収まっていった。

リンド「まず、名前を教えてくれるか」

ネズハ「…………ネズハ、です」

ここでようやく俺は詐欺師の名前を知る事となった。リンドは三度頷くと、咳払いをしてから低い声で言う。

リンド「そうか。ネズハ、お前のカーソルはグリーンのままだが、だからこそ、お前の罪は重い。システムに規定された犯罪でオレンジになったなら、カルマ回復クエストでグリーンに戻る事も出来るが、お前の罪はどんなクエストでも雪げない。その上、弁償もできないと言うなら……他の方法で、償ってもらうしかない」

さて、リンドはどんな裁定を出すのか、少なくとも奴にはなんとしてでも、被害者たちの損失を補償させなくてはならない。それこそ借金という形で奴が常に極貧になったとしても支払わせなくてはならない。

リンド「お前がシヴァタたちから奪ったのは、剣だけじゃない。彼らがその剣に注ぎ込んだ長い、長い時間もだ。だからお前は……」

そうか、リンドはネズハに今後のゲーム攻略での貢献と、収入で定期的に弁済させることを要求する気だ。
前任のリーダーだったディアベルもきっと同じような裁定を下すだろうし、ひとまずは俺もその辺りが妥協だと思っていた矢先だった。

ガチャモン「フェイフェイ……君が地獄に逝ってから、もう28年になるんだね……僕たちは今も元気にやってるから、地獄の底から見守っててね」

モック「ちょっとガチャモン!それを言うなら天国でしょうが!フェイフェイは地獄に落ちるような事なんて多分……やってないと思いますぞ~」

いきなり、喪服姿のガチャモンとモックがしんみりとした様子で現れて、リンドの話を遮った。

ユッチ「な、なんだよお前ら!今大事な話の最中なのに邪魔するなよ!!」

ガチャモン「しっ!静かに!Shut up!今は大事なフェイフェイの28回忌なんだから黙ってて!!」

ユッチ「ひぃっ!」

いきなり現れたガチャモンにユッチは食って掛かるが、逆に大声で言い返されて怖気づいていた。
てか、フェイフェイってなんだ?

リンド隊「うっせー!フェイフェイなんて知るかよ!」

今度は詐欺の被害者であったリンド隊の男がガチャモンに怒鳴り付けていた。

ガチャモン「あ~あ、これだから90年代生まれと00年代生まれは嫌なんだよね~、上野動物園のパンダ=シャンシャンのイメージで凝り固まってるんだからさ~」

ガチャモンが詰まらなさそうな物言いで怒り狂うリンド隊の男を更にイラつかせていた。
確か、俺が小学校の3年生くらいの時に上野動物園でブサイクなパンダの赤ん坊が生まれたとか言ってたな……それがシャンシャンだったか?

モック「ガチャモ~ン。なんだか皆さん物騒な雰囲気ですぞ~、このまま放っておいて大丈夫なんですかね~?」

ガチャモン「別に良いっしょ」

モック「軽っ!軽すぎやしませんかガチャモン!?」

モックの懸念をあっさりと流すガチャモンにモックが思わず狼狽えていた。そしてフロアのプレイヤー達は無意味なガチャモンとモックのやり取りをイラついた様子で傍観している。

ガチャモン「あのね、このソードアート・オンラインの世界の人間……住人は彼らを始めとした1万人のプレイヤー達だけなんだよね……あ、もう2千人くらいは死んじゃったから正確には8千人だったね~」

ワザと間違えたのかと、言いたくなるようなガチャモンの言い回しにプレイヤー達の目付きは険しくなる一方だが、ガチャモンはお構いなしに軽快なテンションで話を続ける。

ガチャモン「つまり、この世界の秩序、掟、法はすべて生き残っているプレイヤーの皆が各々の価値観や話し合いで決まりま~す……だからね」


立木ナレ「唐突に、ガチャモンの言葉に妙な重み、冷たさ、薄ら寒さが重なったかのようにプレイヤー達に襲い掛かった!!」


ガチャモン「これから先、今この瞬間に何が起こったとしても、それは皆の決めた法や掟によって決まった事ってわけだね。なにせ、現実世界の人達はこの世界で起きてる事なんて、今から起きようとしてる事なんて誰も見てるわけないんだから……現実世界の人達の価値観とか目とか関係ないっしょ?」

それはまるで、現実世界の連中が見てないんだから、気にせずに好きなようにしてしまえと言っているような気がしなくも無かった。
俺はここにきて、これから本当にどうなるんだろと、今更ながら意味不明な不安を感じ始めていた。

ガチャモン「では、後の事は皆にお任せして、僕たちは明日のガチャモンチャレンジの準備をしてきま~す!」

モック「というわけで、明日の朝9時のガチャモンのチャレンジシリーズをお楽しみにして下さい出すぞ~」

それだけ言い残して、ガチャモンとモックは同時に消え去った。ほんの十数秒ほどの沈黙がフロアボスの部屋を包み込んだ後、リンドが咳払いをして話を再開する。

リンド「……とにかくだ、ネズハ、お前は長い、長い時間を奪った事になる、だからお前は……」

「違う……そいつが奪ったのは時間だけじゃない!」

今度は別の声がリンドの台詞を遮った。走り出てきたのは、緑服のキバオウ隊のメンバーだった。

「オレ……オレ知ってる!そいつに武器を騙し取られたプレイヤーは、他にもたくさんいるんだ!そんで、その中の一人が、店売りの安物で狩りに出て、今までは倒せてたMObに殺されちまったんだ!!」

一瞬、大広間が静まり返った直後、シヴァタの隣の青メンバーが震えた声で呟く。

「……し……死人が出たんなら……こいつもう、詐欺師じゃねぇだろ……ピッ……ピッ……」

「そうだ!!こいつは、人殺しだ!PKなんだ!!」

青メンバーが言おうとして言えなかった言葉を、緑メンバーが指を突き出しながら叫んだ。


立木ナレ「PKとはネットゲーム用語で『プレイヤーキル』もしくは『プレイヤーキラー』と呼ぶ!文字通り、人が人を殺す行為である、従来のMMORPGであれば、PKは一種のローカルプレイに過ぎないが、ゲーム内の死=現実での死となったSAOではPKはもはや、本物の人殺しそのものなのであった!」


「土下座くれーで、PKが許されるわけねぇぜ!どんだけ謝ったって、いくら金積んだって、死んだ奴はもう帰ってこねーんだ!どーすんだよ!お前、どーやって責任取るんだよ!言ってみろよぉ!」

キバオウ隊のダガー使いがネズハに更に叫び続ける。というか、こいつは確か第一層のフロアボス戦の時にキリトを『元ベータテスターだ!』と叫んだ奴だな。

俺「って、また妙な方向に事が運びやがるぞ……」

レイナ「……このままだとネズハから賠償が出来なくなるかも」

そう、この流れは、俺が考えていた、望んでいた詐欺師に対する制裁とは全く異なる制裁が下されかねない状況になりつつあった。

ネズハ「……皆さんの、どんな裁きにも、従います」

あろう事か、ネズハまでもがそんな事を言い出してしまった。再び沈黙の後、大勢のレイド本体のメンバーがネズハに詰め寄る、そして……

「なら、責任取れよ」

その責任の意味がどういう意味を持つのかを当人が説明する前に、大音響が部屋いっぱいに一斉に広がった。

「そうだ、責任取れ!」

「死んだ奴にちゃんと謝ってこい!」

「PKならPKらしく追われ!」

ここまではまだ良かった、詐欺師のネズハが、これくらい言われるのは当たり前の事だったが、問題はその先の言葉だった。

「命で償えよ詐欺師!」

「死んでケジメ付けろPK野郎!」

「殺せ!クソ詐欺師を殺せ!!」

もはや詐欺師に対する怒りだけでなく、終わりの見えぬこのデスゲームに対する怒りもまとめて詐欺師にぶちまけているんじゃないかと思えるくらいのボルテージと化していた。

俺「そうじゃないだろ……今そいつを殺したって、俺らが被った分の損害の補償は出来ないだろうが……」

レイナ「……もう、彼らに聞く耳なんてないわ」

そう、怒りに火の付いた連中は今にもネズハを私刑と言う形で断罪してしまいかねなかった。

ユッチ「覚悟しやがれ!今更泣き喚いたって誰も助けてなんてやらねぇんだからな!!」

普段気弱でボス戦で泣き喚いていたユッチも、集団のトラの威を借りるような形で過激な言動を繰り返していた。
リンドにもキバオウにも最早、この状況を収める手立てはないようだった。
このまま、この場でネズハを処刑したら奴から損害を補償させる機会も手段も完全に失われる事はこいつらも分かっているはずだと言うのに、もはや頭に血が上って肝心な損害の補償という目的を見失ってなっちまっていた。

レイナ「……オズマ、あれ」

俺「あいつら……」

怒涛の罵声の中、動き出したのはオルランド率いる『レジェンド・ブレイブス』の5人だった。
蹲るネズハに近づくと、ただならぬ気配を感じたのかネズハを取り囲んでいた連中が場所を譲った。
そして、オルランドが右手の剣の『アニールブレード』を一気に引き抜いた。

俺「アイツがネズハを裁くつもりか?」

レイナ「……軽装のネズハのHPを全損させるなら、三回くらい突き刺せば十分だわ」

いつの間にか、あれだけ五月蠅かった怒声は完全に静まり返っていた、誰もが目を見開き、固唾をのんで、決定的瞬間を待った。

オルランド「……ごめんな。……ほんとにごめんな。ネズオ」

俺「は?」

オルランドが言っている意味を俺が理解する前に、オルランドと、その仲間の4人は一斉に剣を床に置くと、ネズハを真ん中に挟む形で横一列となり、床に跪いた。
そして……

オルランド「ネズオ……ネズハは、オレ達の仲間です。ネズハに強化詐欺をやらせていたのは、オレ達です」

オルランドの毅然とした声から発せられた言葉は、俺が全く思い至らなかった真実だった。

目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

FILE24 オリジナルキャラクター紹介+詐欺事件の後

今回紹介したオリジナルキャラはFILE2にも掲載します。


ユッチ(yucchi )
声:山○大輝
年齢:13歳(SAO初期)
身長:150㎝
体重:42㎏
第二層でオズマと出会った鍛冶屋による強化詐欺の被害に遭った少年プレイヤー。
黒髪のマッシュルームヘアーで丸顔、男子にしては白い肌の持ち主。
典型的な思春期男子と言った性格で噂や風潮を鵜呑みにしやすく、集団の意見に流され易い。
気弱な性格で泣き易いが、格好を付けたがりでもあり、特にアスナの前で良い所を見せたいばかりに危険なフロアボス戦にも挑もうとしている。
自分の世話をしてくれたオズマに対しては盲目的に慕っているが、ビーターとして悪評で知られているキリトに対してはアスナと一緒にいる事もあり、嫉妬心と敵意を抱いている。

SAOでの武器はダガーで、防具は軽装の革防具。


デクスター(Dexter)
声:増田俊○
年齢:20歳(SAO初期)
身長:177㎝
体重:68㎏
第五層でオズマ達がクエストを遂行中に出会った凄腕の刀使いの青年。
目付きが悪く、引き締まった身体つきで、金髪のオールバック。
見た目のせいで近寄りがたい雰囲気だが、性格は冷静沈着。
慎重な行動を重視している為、フロアボス戦への参加を敢えてしばらくの間見送っていたが、オズマ達と一時的に行動を共にしている最中にキリト・アスナからの接触で第5層フロアボス戦に参戦する事になる。

SAOでの武器は刀で、防具は軽金属のアーマー。





レイナ「……オズマ、ウエイトソード+3はもう無かったけど、それに匹敵する価値のお金は回収出来そうよ」

俺「そっか……」

フロアボスの部屋から出て、第三層に続く道で座り込んで酒を飲んでいた俺にレイナがそう告げる。

フロアボスの部屋では突発的な話し合いがまだ続ていた。流石にヒートアップしていた連中も6人を殺すのは躊躇ったようで、更に、オルランド達が詐欺の共犯である事を自白した事によって、俺やシヴァタ達への弁償が可能になったんだ。
全てを白状したオルランドは、剣と兜、全身の重鎧を解除して床に並べた。他の4人もそれに続き、コロシアムの床上には、総額幾ら位になるのか見当もつかないハイレベルの強化装備の山が並んだ。
その全アイテムを換金すれば詐欺の被害額以上の(奴らが自力で稼いだ分がある為)金になるので、それで被害に遭ったプレイヤー達への迷惑料を足して賠償すると言った。

レイナ「……あのダガー使いに、死んだプレイヤーの名前を確認したけど、口籠りながら『噂で聞いただけだから名前は知らない』って」

俺「どこまで本当なのか怪しいもんだなそいつの言った事も」

レイナ「……死亡者の一件は情報屋に依頼して追跡調査する事で詐欺強化事件は決着が付きそうよ」

俺「そっか……まったく第一層の一ヶ月よりも面倒な10日間だったな……」

適当に答えて、第三層のアクティブゲートの為に歩き出そうとすると、後ろからレイナが珍しく少し大きめのボリュームの声で。

レイナ「……オズマは強化詐欺の手段の一部を見抜いて、シヴァタや被害者たちを焚きつけた、ネズハを追い詰めて保障させようとした、オズマの貢献は少なくないと思う」

俺「だが俺は、肝心な……致命的な見落としをしてた」

俺はネズハが一個人の詐欺師であると、いつの間にか決めつけていた。奴に協力者、あるいは詐欺を指示している者の可能性に気が付かずに、6人いた詐欺集団の内の一人だけを裁いて終わりにしてしまう所だったんだ。

俺「キリトの奴は、ネズハが詐欺をやってた事どころか、オルランド達とネズハの繋がりにも気が付いてたみたいだしな」

レイナ「……ええ、キリトにさっき確認してみたら、全部話してくれたわ。ネズハに体術スキルのクエストの事を教えたのもキリトだった、キリトも3日間くらいかけて習得したみたい」

まさか既に体術スキルを習得できるクエストが既にあったとはな……とは言え、習得するのに何日間も掛かるとは、クエストが完了するか、放棄するまでそこから離れられないとなると、地道にソードスキルの熟練度を高めて習得するのとどちらがマシか見当が付かないな。

レイナ「……オズマは今回、真のフロアボスのトーラス王のLAボーナスを取った、オズマは負けてないと思う」

俺「別にキリトと競ってるつもりなんて……ないと思う」

自分でそう言って、あの時の俺はどう考えてもキリトへの対抗心からLAボーナスを狙っていたのは明らかだった。
こんなデスゲームと化したSAOでも、ゲームだけは負けたくないと言う一種のプライドや維持が俺を突き動かしたんだとしたら、つくづくゲームの時だけ本気になる男だな俺は、リアルの世界での私生活なんてグータラそのものだったって言うのに。

レイナ「……第三層のアクティブゲートをするんなら、行きましょう。」

俺「そうだな、休憩はもう充分だ」

と、気を取り直して先に進もうとした時だった。何度も聞いたことのある『オズマさぁ~ん!』なんて声が聞こえてしまった。耳を塞ぎたくなるのを我慢して後ろを振り返ると案の定、へらへらと笑いながら走り寄ってきたのはユッチだった。

ユッチ「オズマさん!第三層に行くんっすよね!?僕もお供するっすよ!」

俺「もう強化詐欺の一件は片付いたんだから、付いてくる必要ないだろ?」

ユッチ「そんなこと言わないで下さいっすよ~、オズマさんとレイナさんには恩が出来ちゃったっすから、是非とも僕に恩返しさせてくださいっす!」

別にこいつに恩返しなんて全く期待してないのだが……そこで、俺はユッチが背中に妙なデカい絨毯を背負ってるのに気が付いた。

俺「お前、何背負ってるんだ?」

ユッチ「ああ、オブジェクト化したままだったっすね。これは第二層の宝箱をあちこち開けてたら手に入ったんっすよ『ペンダーズ・カーペット』っすよ」

それは、ネズハも強化詐欺の為に使っていたあらゆる場所で露店が出来るアイテムだった。
それを見た俺は、リズベットがこのアイテムを欲しがっているメッセージを送ってきたことを思い出した。

俺「お前、恩があるって言うなら、それを俺の知り合いに売っても良いか?」

ユッチ「ええ、僕は使う予定ないっすからオズマさんの知り合いになら全然おっけっす!」

これで、第三層へのアクティブゲートが完了した後の用事が一つで来たってわけだ。俺は取りあえずリズベットに『ペンダーズ・カーペット』が手に入った事をメッセージで知らせたのだった。

レイナ「……じゃあ、行きましょう」

立木ナレ「強化詐欺の一件は終わった。しかし、オズマにとっては最後の最後に予想だにしなかった真実が明らかになり、詰めが甘かったことを、何よりキリトの方が詐欺事件の詳細の真実により近く迫っていたことを痛感する結果となった!!」

目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

FILE25 第5層に現れた刀使い

立木ナレ「第二層フロアボス攻略後は、攻略スピードはそれまでに比べて格段に上昇した。第三層は一週間、第四層は6日間というハイペースで攻略は進んだ。そして、2022年12月28日、最前線は第五層となった。そして、その日の朝の9時も、もはや恒例となったそれは始まった……」

曲名:くっちゃうぞ
 歌:ガチャモン

くっちゃうぞ くっちゃうぞ

いたずらするこは くっちゃうぞ

バターたっぷり ぬりつけて

おさとうパラパラ ふりかけて

おおきなおおきな くちあけて

たべるこどのこ どのこにしようか

ジャンケンポンよ

かったらたべろ まけたらにげろ

くっちゃうぞ くっちゃうぞ

おなべでゆでて くっちゃうぞ

あたまのほうから なげこんで

まだかなグラグラ グッツグツ

おいしいスープの できあがり

たべるこどのこ どのこにしようか

ジャンケンポンよ

かったらたべろ まけたらにげろ

くっちゃうぞ くっちゃうぞ

ねむってるまに くっちゃうぞ

おもちゃだいじに しないこは

こわれたじどうしゃ きしゃかいじゅう

しかえしやってくる ゆめのなか

たべるこどのこ どのこにしようか

ジャンケンポンよ

かったらたべろ まけたらにげろ

ジャンケンポンよ

かったらたべろ まけたらにげろ

立木ナレ「ガチャパットを通じて、全てのプレイヤーにガチャモンの歌が流された……」

ガチャモン「ふぅ~、47年前の歌だけど、歌ってみるとやっぱり名曲って感じだよね~」

モック「どうでしたか皆さん?第4層攻略記念のガチャモンのチャレンジシリーズでしたぞ~」

ガチャモン「この歌はね、僕が1975年に一般公募から募集した歌詞を歌ってみた歌なんだけどね、あんまりにも保護者からのクレームが凄くって一週間で放送中止になっちゃったんだよね~」

俺「そりゃ、お前らの元ネタのキャラの事だろうが……」

ガチャパットに映るガチャモンとモックのやり取りを見て、俺はそう言った。だが、ガチャモンとモックのバカなコントじみたやり取りは続く。

モック「いや~、最近皆さんの攻略ペースが速くなってるもんですから、ガチャモンのチャレンジシリーズも大忙しですな~」

ガチャモン「ホントホント、年末らしく大忙しって感じだね~」

その直後、ガチャパットを見ていたプレイヤー達から一斉にガチャモンとモックに対して、罵声が飛び散った。

「誰も楽しみにしてねぇよ!」

「忙しいならやめろ!」

「さっさと私達を出しなさいよ!!」

が、次の二人の言葉は、プレイヤー達の怒りを静めたわけではないが、ガチャモンとモックに対する罵声や怒鳴り声は静まり返った。

ガチャモン「ここいらで、君達との親睦を深める意味でもね、今日の夜の8時に全プレイヤーの皆をまた、ゲストルームにご案内しちゃうことが決定しました~」

俺「あそこだな……」

立木ナレ「オズマを含む、全プレイヤー達の脳裏を過ったのはデスゲーム開始から一週間後の事だった、あの日がガチャモンとモックが初めてプレイヤー達の前に現れた日。正確には、あの日にガチャモンとモックによってプレイヤー達は奴らの部屋に強制ワープさせられたのだった。」

モック「例の如く、時間になりましたら強制ワープしますぞ~、その事をしっかり覚えておいてください出すぞ~」

それだけ言い残して、ガチャパットのガチャモンチャレンジシリーズの動画は終わった。

俺「アイツら、今度は何をする気だ……」

レイナ「……ゲストルームって私がオズマをマスター登録する前の事ね?」

俺「ああ、あの後お前にグレートソードとスティールメイルを渡して、お前と勝負して、クエスト達成になったわけだな」

なので、レイナはまだガチャモンとモックのゲストルームには来たことがない。そして、レイナにあの時渡したグレートソードとスティールメイルは第四層でバスタードソードとコメットメイルになっていた。
そして俺が第一層から使っていたフェザーソードもスラッシュブレードに代えていた。

俺「取りあえず、第五層のクエストとやらをやって見るとするか」

この第五層は『遺跡の層』。森が極端に少ない。そして、俺たちが少し前にNPCから受けたクエストって言うのは、遺跡にあるエリアで『ロックスネークの化石』という採取アイテムを3つ手に入れる事だった。

レイナ「……きっと、採掘エリアにはモンスターが常に湧出(ポップ)し続けると思う」

俺「つまり、このクエストは二人以上じゃないとクリアできない事を前提としてるんだろうな」

最低でも一人が採掘役に回るとして、採掘役をモンスターの攻撃から守る役が最低でも一人は必要になる。なぜなら採掘の動作をしている最中に、敵の攻撃を受けると、どんなに微量なダメージでも採掘が止められてしまうからだ。

レイナ「……アルゴの攻略本の情報通りなら、その場所には麻痺の阻害効果(デバフ)を使ってくる幽霊モンスターもいるみたいね」

俺「麻痺は第二層の牛共でうんざりする程味わったからな……」

二人同時に麻痺する事態だけは何としても回避しなくてはならない。採掘役が麻痺しようと、護衛役が麻痺しようと、片方が麻痺した時点で即座に作業を中断して、治療POTを惜しみなく使って麻痺を回復させないと二人同時に麻痺になってモンスター共にやられ放題なんて事態になりかねない。
と、そんな考え事をしていた時だった、ガチャモンとモックほどではないが、めんどくさい奴が現れたのは。

ユッチ「あ~、オズマさんとレイナさんもう5層に来てたんっすね~」

手を振りながら、へらへら笑顔で駆け寄ってくるのは第二層で出会って以降、妙に俺に懐いて一緒に行動したがっているユッチだった。

ユッチ「お、オズマさんとレイナさん、クエストやるんっすよね?だったら、僕にも是非とも協力させてくださいっす!」

俺「クエストに参加するのは構わないんだけどな。お前、あの話まだ諦めてないだろ?」

ユッチ「当然っす!オズマさんがいるなら絶対に上手くやれるはずっす!」

ユッチがここ最近、俺に対してやたら推し進めてくる話は俺にとっても後々考えなくてはならない一見だけに完全に無視できる話でもないのだった。

レイナ「……ギルド、そこまでしてオズマと立ち上げたいの?」

ユッチ「当然っす!オズマさんがいるギルドが僕のいる場所になるんっす!」

第三層以降、ギルドをシステム的に正式に結成できるようになった。真っ先に結成されたのはリンド率いるDKB(ドラゴンナイツブリゲート)とキバオウ率いるALS(アインクラッド解放隊)の二大攻略ギルドだった。
リンドとキバオウはお互いに方針が異なる故に攻略ギルドがこうして二分したわけだが。ギルドが正式に結成できるようになって、それまでつるんでいた集団が次々とギルドとして立ち上げられる状態が続いていた。

俺「そりゃ、俺もこの先攻略集団にいる以上、ギルドに入るなり立ち上げるなりは必要かなとは思ってるぜ」

何時までもソロだったりグループに所属していないと、攻略ギルドの中で発言力や地位で不利を被ってしまう可能性が高いと俺は考えているからだ。

ユッチ「でしょ~、オズマさんが率いるギルドならきっとDKBやALSに並ぶ、もしくはそれ以上の巨大攻略ギルドになるっすよ!」

ユッチはそう言うが、俺としてはギルドを立ち上げるにしてもあまり大人数の第ギルドになるのは気が進まなかった。
現実(リアル)でもあるが、デカい企業とかグループってのは上の命令が下に行き届かずに制御し難かったり、組織内で派閥争いになったりと面倒が多い、だから俺としては既に大規模化しつつあるDKBやALSに入る事は今一つ気が進まなかった。

俺「取りあえず、先にクエストだ、採掘役はお前に任せるぞユッチ」

ユッチ「任せてくださいっす!ストロングダガー作る為に採掘しまくった僕の粘り強さを見てくださいっす!」

レイナ「……私とオズマで護衛するから、『ロックスネークの化石』を3つ手に入れる事よ」

取りあえず、俺とレイナはユッチを含めた3人で『ロックスネークの化石』を採掘できる遺跡の中へと足を踏み入れた。

ユッチ「な、なんか……薄気味悪いモンスターがうようよし、してるっすよ……ほ、本当にこんなところで採掘するんっすか……?」

俺「最初から分かってた事だろうが、俺とレイナで守り切ってやるから、採掘は任せたぞ」

最初は意気揚々としていたユッチだったが、実際に幽霊モンスター達が蔓延る遺跡の中に入ると、如何にもホラーが苦手と言わんばかりの怯えようだった。

レイナ「……ユッチ、早く採掘して」

ユッチ「わ、分かりました……」

ユッチはびくびくと幽霊に怯えながらも、採掘作業を開始する。ここでユッチが『ロックスネークの化石』を3つ採取するまで俺とレイナは邪魔しに次々と湧出(ポップ)する幽霊モンスター達を倒し続ける事になる。
早速、3体ほど現れたのは、少女のような人影のアストラル系モンスターだった。HPケージの下には固有名『Mournful Wraith』と表示されているのだが、当然俺に読めるわけが無かった……

レイナ「……モーンフル・レイスよ」

俺「いつもありがとな……」

万能英訳力のレイナに即座に読み方を教えてもらい、早速採掘を始めたユッチをわざと狙って襲ってくるモーンフル・レイスを撃退する。
このダンジョンの適正レベルは12ほどだが、俺もレイナも既に17レベルになっているので。雑魚のMobであれば多数が相手でも特に問題はない。

俺「新ソードスキル試してみるか!」

俺が一体目の亡霊に対して使ったソードスキルは第一層の頃から使っている、衝撃波を飛ばすSAOでは数少ない遠距離攻撃ソードスキル『デーモンファング』の派生スキル『ツインデーモンファング』だった。『デーモンファング』の熟練度をある程度高めると習得できるソードスキルで、通常のデーモンファングの衝撃波を二連続で放つ事が出来る上に、このソードスキルはデーモンファングの発動直後であれば、デーモンファングのソードスキルの硬直をキャンセルして即座に『ツインデーモンファング』を発動できるので、そうする事によって実質の三連続の衝撃波攻撃が出来るわけだ。最もその場合でもやはり『ツインデーモンファング』発動後はその硬直を避ける事は出来ないが。
レイナが言うにはこのソードスキルの連携を『スキルコネクト』と言うらしい。

ユッチ「おお~、オズマさんのデーモンファングの三連続スゲェっす!」

俺「お前は見てないでちゃんと採掘に専念してろ」

と、俺がユッチを注意している間にも、今度はレイナが全包囲攻撃ソードスキルの『ストームソード』で二体のモンスターを弱らせる。

レイナ「……スイッチ」

俺「ああ」

今度は俺が即座に一番手前の弱った亡霊モンスターにデーモンファングで止めを刺し、更に少し離れた所にいる、亡霊モンスターにスキルコネクトでツインデーモンファングをお見舞いして連続で撃墜する。

ユッチ「おお!出たっすよ!」

俺「『ロックスネークの化石』か?」

が、俺の期待は呆気なく裏切られた、ユッチが満面の笑みを浮かべて俺に見せつけているのは、銀色の砂鉄だった。

俺「……それがどうした?」

ユッチ「これは『シルバーサンド』っすよ!僕の『ストロングダガー』を『ストロングダガー改』に更に製造強化するのに必須の素材っす!」

俺「それはお前にとって嬉しい収穫なんだろうが、今は『ロックスネークの化石』を3個採取しろ……」

ユッチ「イエッサー!」

レイナ「……結構時間が掛かりそうね」

レイナの言う通り、ユッチがロックスネークの化石を3つ採集したのは、それから1時間以上が経過してからだった。その間にも何に使えるのかよく分からない物を大量に採取して、その間俺とレイナはポップし続けるアストラル系モンスター達をひたすら倒し続けた。

ユッチ「これで、クエスト達成条件は満たしたから、クエストNPCの所に持ってくだけっすね」

俺「よし、一旦主街区に戻るとするか」

レイナ「……この辺りには麻痺にしてくるモンスターの他にも、プレイヤーが落とした武器やアイテムを拾って逃げるモンスターもいるみたいだから気を付けて」

俺「一度取られた武器はそのモンスターを倒せば取り戻せるが、他のプレイヤーに倒されて先に拾われると、その時点で所有権がそいつに移るからそこが厄介だな」

言ってて第二層でこのシステムを悪用した詐欺師のネズハを思い出した。奴を……正確には『レジェンド・ブレイブス』完全に許したわけじゃない俺としては、今でもあの連中の人畜無害そうな顔を思い出すと少しイライラしてくる。

ユッチ「あ、痛っ!」

レイナ「……敷石トラップよ!」

ユッチが天井から落ちてくる敷石でダメージを受けたようだった。HPの減少は微量だが、持っていたストロングダガーを床に落としていた。

ユッチ「もぉ~……ここって視界が悪いから天井が良く見えないっすね~」

俺「良いから拾えよ、さっきレイナが言ってた落とした武器やアイテムを拾うモンスターが近くにいたら……っているぞ!」

ユッチ「え?」

まるで俺たちが武器やアイテムを落とすのを待っていましたと言わんばかりに、現れたのは50センチほどの青い肌をした人型のモンスターだった。

「キキッ」

黄色い目でこちらを一瞬見た直後、小馬鹿にするような声で笑うと、ユッチが落としたストロングダガーを拾ってあっという間に走り出した。

ユッチ「ああ――――!!ぼ、僕の……僕のストロングダガーがぁ……」

俺「泣いてないで追いかけるぞ!」

レイナ「……逃がしたら取り戻せなくなるかもしれない」

俺の視界には『Sky Shrewman』という固有のカーソル名が表示されていた。

レイナ「……スライ・シュルーマンよ。悪賢いトガリネズミ人間って言う意味だわ」

俺「成程な、確かに鼠っぽい見た目してやがるな」

レイナの索敵スキルのおかげでどうにか見逃すことなく、俺達はシュルーマンを追跡し続ける。
俺とレイナの後ろではユッチが泣き喚きながら必死に後を追って来る。

レイナ「……シュルーマンが逃げる先にプレイヤーがいるわ」

俺「なんだと?」

第五層が開通してまだ初日、既にこんなところまで来ているのは恐らく最前線のプレイヤーだとは思うが、ところが、曲がり角を曲がって俺たちが姿を目の当たりにしたプレイヤーは見覚えのない、長身で金髪のオールバックの髪形の、刀を構えたプレイヤーだった。

「……ふんッ!」

俺「あれは、コボルトロードと同じ?」

そうだ、あれは刀ソードスキルの『旋車』だ。跳躍からの縦斬りは正確な精度で素早く動くネズミを逃がすことなく、一撃でHPを全損させた。
そして、消滅したネズミがいた場所には奴がユッチから奪った『ストロングダガー』が残る。

ユッチ「あ、あの~……」

ユッチはそのストロングダガーは自分の物だから拾わないでくれと言いたいんだろうが、並々ならぬ強者と言った感じの刀使いの男の気迫に押されて、ハッキリと口に出して言えない様子だった。
実際、あの小さなネズミモンスターに対してソードスキルを一撃で確実に当てた技量は相当な腕前であると言える。少なくともこの刀使いはボス攻略で今まで見なかったはずだが……

「…………拾わないのか?」

ユッチ「え、ええ?」

「そこのお前のだろ?早く拾わないとまたさっきと同じネズミが現れて取られるかもしれないぞ」

ユッチ「あ、そうだった!」

刀使いに警告されて、ユッチはようやく床に落ちたストロングダガーを拾ったのだった。

立木ナレ「オズマ達の前に現れた、凄腕の刀使いのプレイヤーの青年。今の今までボス攻略では全く姿を現さなかったにも拘らず、最前線クラスの実力を誇っていると言っても過言ではないその男は一体!?」

目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

FILE26 新たなる出会いとガチャモン&モックの招集

立木ナレ「『ロックスネークの化石』を3つ採取するクエストを終えたオズマ達だったが、そこでユッチのストロングダガーがスライ・シュルーマンによって奪われてしまい、取り戻すべく追いかけた先にいたのは、刀使いの青年プレイヤー。その刀使いは素早いシュルーマンを瞬殺したのだった」

ユッチ「あ、ありがとうっす!僕のストロングダガー取り戻してくれて有難いっすよ~」

一見すると、ただならぬ気配を感じさせる刀使いの男だったが、ユッチのストロングダガーを取り返す事に協力してくれたので確かに助かったのは確かだ。

「妙な泣き喚く声が聞こえたから、何かと思って寄ってみたら、成り行きでこうなっただけだ」

特に礼を求める事も無く、すんなりとそう言ってのけた。そうか、ユッチがシュルーマンを追っている最中に泣き喚いてたので、その声を聞きつけて来たってわけか。

ユッチ「な、泣き声?そ、そんな、泣き声のモンスターなんていたっすかね……?まさか、姿の見えないモンスター!?」

俺「お前だよ!……まぁ、こいつが世話になったし助かったよ」

「だから、成り行きでそうなっただけだ」

やはり、その刀使いのプレイヤーはぶっきらぼうな表情でそっけなくそう言った。

レイナ「……泣き声を聞きつけて、来たのは分かるけど、この遺跡に来たって事は、貴方も探索やクエストで来てるの?」

「ああ、クエストだ」

珍しく、レイナが自分から出会ったばかりにプレイヤーに率先して声を掛けて、質問していた。

「まぁな、採取クエストで『魔封波(まふうば)の壺』ってアイテムを2個手に入れなくちゃならなかったんだが、採取中は常に近くでアストラル系のモンスターが涌出(ポップ)するらしくてな、どうやってもソロじゃクリアできなくて途方に暮れてた所さ」

初めて、俺達の前で自嘲気味であったが、笑みを浮かべた気がした。確かに、俺たちが請け負った『ロックスネークの化石』を3つ採取するクエストも、ユッチが採取をしている最中は次々と出現するアストラル系モンスター達が積極的にユッチを狙ってたからな。
ソロの場合クエスト達成の為に自力で採取するにしても、採取を妨害してくるモンスター達から身を守ってくれる援護役がいないので、一人だけな時と、二人いる時でクエスト難易度ははね上がると言えるだろう。

ユッチ「あ、それなら大丈夫っすよ!」

ユッチがいきなり遺跡内で響き渡る声で嬉しそうに叫んだ。そして、二つの小さな壺をオブジェクト化させていた。

「お、それは……」

俺「もしかして、そっちの刀使いさんが狙ってた『魔封波(まふうば)の壺』ってそれか?」

ユッチ「その通りっす!助けてもらったお礼に、この人にこの壺を渡してもいいっすよね!?」

俺「ああ、そうしよう」

別に俺達は特に必要ではないので、ユッチのストロングダガーを取り返してくれた礼として渡す分には特に俺としても異論は無かった。

ユッチ「と言うわけだから、どうぞっす」

「助かるぜ、助けた甲斐があったってもんだ」

刀使いは不敵な笑みを浮かべて、ユッチから壺を受け取った。そして、俺達は刀使いを含めた四人で主街区に戻り、レストラン兼宿屋の『ブリンク&ブリンク』で食事をする事になった。
刀使いのプレイヤーは『デクスター』と名乗った。

ユッチ「デクさんって、凄腕なのに、今の所ボス攻略には参加してないんっすよね?どうしてなんっすか?」

食事の最中に、早くも馴れ馴れしくデクスターを『デクさん』等と妙な呼び方をするユッチだが、デクスターは特に気にしてはいないようだった。
それにユッチの質問した事は、俺も気になっていた事だった。実力的には最前線プレイヤー達の中でも上位と言い切れるレベルの腕前なのは確かなのだ。

デクスター「簡単さ、俺は単に臆病なんだ」

レイナ「……臆病?そんな一面は今の所私には皆目見当付かない」

自身を皮肉気味に臆病と称したデクスター、レイナはその意味を理解しかねているようで、首を小さく傾げる?

俺「臆病って言うか、慎重派なんじゃないか?」

デクスター「良い様に言えばそうなるのかもな」

やはり、デクスターは今まで、慎重に最前線プレイヤー達のボス攻略の展開を見極めたうえで、今後の自身の行動を考えていたようだった。

ユッチ「いやいや、デクさんの腕前ならボス戦で活躍間違いなしっすよ!実際にボス戦に参加してる僕たちが保証するっす!」

デクスター「ま、俺も第一層で犠牲者が出なかったら、今頃フロアボス戦に参加してたかもな」

俺「ディアベルの事、やっぱり知ってるんだな」

デクスター「ああ、情報屋のアルゴから色々と仕入れてるんでな」

デクスターは第一層のボス戦でベータテスト時代とは異なる行動パターンで命を落とす事になったディアベルの事をアルゴから聞いて、ボス戦への参加を今まで見送っていたわけだ。

デクスター「俺が聞いた情報によると、第二層は麻痺者の続出で苦戦を強いられたが、幸いにも犠牲者は0で第三層と第四層に至っては、余裕をもって犠牲者0だと聞いた」

俺「ああ、第三層のフロアボスの『ネリウス・ジ・イビルトレント』は広範囲の毒のバットステータス攻撃の使い手だったが、事前にその情報があったから解毒用ポーションを大量に持ってたからな。 」

レイナ「……第四層の『ウィスゲー・ザ・ヒッポカンプ』はボス部屋を水没させる特殊スキルで一時はレイドを苦戦させたけど、『外から誰かが扉を開ければ水が排出され、特殊能力が無力化される』事が発覚したのと、途中から助っ人に入ったNPCが強かったおかげで、こちらも余裕でクリアとなったわ 」

デクスター「なるほどな……参考になる話をありがとな」

と、デクスターは言いながら、その視線は右上に何度も向けられている気がする。右上には常に全プレイヤーの視界には現在時刻が表示されてると言う事はつまり。

俺「時間を気にしてるのか?」

デクスター「ああ、もうすぐ20時だからな」

ユッチ「え、20時って確か……あ、そうだった!」

そうだ、今朝のガチャモンのチャレンジシリーズで奴らは言った『今日の夜の8時に俺達をゲストルームに案内する』と確かに言った。

レイナ「……現在19時57分、後3分を切ったわ」

ユッチ「ひぃぃ!ま、またアイツらのあの、場所に連れてかれるんっすか!?今度は一体何をやろうってっすかアイツら!?」

俺「そんなのアイツら以外知るわけないだろ」

今更ながら、後僅かで奴らのゲストルームに強制ワープさせられる時間だと気が付いたユッチは急に恐怖に駆られたのか狼狽え始めていた。

デクスター「今の所ハッキリしてるのは、奴らに攻撃をすると、容赦なく殺されるって事くらいだな」

俺「ああ、今の俺らのレベルじゃ第90層のフロアボスなんてレイドを組んだって勝ち目0だからな」

他には一体どんな、えげつのない処刑があるのか知らないが、そうならないためには決して奴らに対して手を出さない事だ。

ユッチ「ああ~、何とか欠席する事って出来ないんっすかね~……」

レイナ「後、30秒」

ユッチ「嫌だぁ―――――!!」

俺「覚悟を決めろ」

立木ナレ「そして、ついに20時となった!この瞬間を持って全プレイヤーは一瞬にしてその地点から強制ワープが発動。次に瞬間には全員がガチャモンとモックのゲストルームへと召集されていたのだった。実にデスゲーム開始から一週間後の時以来のガチャモンとモックのゲストルーム招集にプレイヤー達は皆、緊迫した様子を隠しきる事などできなかった!」

ユッチ「ああ~、ま、またここに来ちゃった……」

俺「俺達、割と最前列にいるみたいだな」

どうやら、近くに一緒にいたプレイヤーはほぼ同じ場所に集められるようで、同じレストランにいたレイナとデクスターは勿論。別の席で食事をしていたプレイヤー達も割と俺達の近くにいた。

キバオウ「どこや!どこにおるんや!?ワイら呼び出しといてジブンらはどこにおるんや!用があらへんのやったら、さっさと帰せや!」

少し離れた場所から、キバオウだと丸わかりの喋り方の声がこちらまで聞こえてきた。キバオウだけでなく、多くのプレイヤー達の中から不平不満の声があがる。
俺達をここに呼び出した張本人であるガチャモンとモックがどこにもいないのだから無理もないだろう。

「今度は一体何なんだよ!?」

「こっちはクエストの真っ最中だったんだぞ!!」

「さっさと出てきなさいよ!!」

すると、ステージの上に奴らはようやく現れた。ガチャモンとモック、そして……

ユッチ「な、なんっすかあのガキ?」

俺「NPCだろどうぜ」

更に今回は10歳程度と思わしき、少年を連れての登場だった。一体これから何が始まるんだと言う不安と、いい加減に速く終わらせろと言う怒りがプレイヤー達の中で渦巻いているようだった。

モック「お終いだ!お終いだー!」

ガチャモン「祈らぬのか?」

今度は何の設定か知らないが、妙な芝居染みたやり取りが俺達の目の前で始まった。

モック「何にっ? ……何にすがれば良いのです!?」

ガチャモン「知るか。すがるものなど、始めから何もないのだ。そうさな……虎の子を見つけたくば、虎の巣に入るしかなかろう」

少年「やだ。行かないで……ガチャモン!僕を一人にしないでよー!」

ようやく、謎の少年が初めて喋ったが、既にプレイヤー達の集団の中から『ふざけんな!』とか『おい、これ何時まで続くんだよ!』とか『意味の分かんない事してんじゃないわよ!』等と言う不満や怒りの声が上がりつつあったが、奴らの意味の分からない小芝居はさらに続く。

ガチャモン「生きておれば、また会えようぞ」

少年「じゃあさ、せめて……忘れないでっ!僕のこと!!」

モック「ガチャモンは善も悪も全て道連れにして飛び出った。我々は生きるしかあるまい、混沌の世界で」

それから、しばらくの間、ゲストルームを静寂が包んだ。奴らは丸でやり切ったと言わんばかりの、清々しい雰囲気を醸し出していた。

モック「あ~……あんまり受けてないみたいですな~」

ガチャモン「え?もしかして、元ネタ知らない人ばっかり?」

今の小芝居に何か元ネタがあったらしいが、俺を含めて、いったい何の元ネタなのか知らないものが圧倒的大多数のようで、プレイヤーの集団から『知るか!』、『分けわかんねぇよ!』、『興味ないわよ!』などと反発が沸き上がっていた。

少年「ほら見ろよ!だから俺は付き合いたくなかったんだよ!俺までバカみたいじゃねぇか!」

ガチャモンとモックの芝居に付き合ったNPCと思わしき少年は、さっきまでとは打って変わって生意気で辛辣な態度を剥き出しにしていた。

少年「ていうか、ギャラ!ギャラくれよギャラ!金だよ金!その為に来たんだぞ!」

ガチャモン「はいはい、全くも~、今時の子供は皆して金の亡者なんだから嫌だね~、昭和の頃は皆、純真無垢だったのにな~」

ガチャモンは金が入ってるらしい封筒を少年に渡した。

ガチャモン「ほーら!約束の金だよ!5万コル入ってるからさ、それ持ってさっさと消えちまえ――――!!」

少年「いえーい!これで賭けに勝てば一気に30万コルになるぜ!今度こそ勝つぞ―――!!」

見た目に不釣り合いなギャンブル依存症染みた言動を残して、少年NPCは消えて行った。

ガチャモン「さてと、ウザいガキがいなくなったおかげでやっと、プレイヤーの皆と楽しい時間の始まりだね~」

モック「いやいや、ウザいガキって……貴方が自分で雇ったんじゃないですか~」

ガチャモン「ガチャモンの変顔シリーズで~す!」

モック「え?ええ!?何なんですかいきなり!?いったいどういう事なんですかガチャモーン!?」

どういう事だとか、説明してもらいたいのはむしろ俺達の方だよ。しかし、ガチャモンはそんなプレイヤー達の不満などお構いなしに勝手に進める。

ガチャモン「始めるよ~」

そう言うと、ガチャモンがいきなり俺達の前から消えた。数秒間の間を置いて、何処かでガチャモンが変顔の状態で姿を現したらしく。

ガチャモン「ばぁ――――――!!」

「のおわぁ!?」

「だ、大丈夫かクライン!?」

特定のプレイヤーの目の前にいきなり変顔のまま出現して、そのプレイヤーを驚かせていた。

ガチャモン「わーいわーい、だいせいこ~!」

モック「おお~、やりましたなガチャモ~ン」

俺「く、下らねぇ……」

ユッチ「何なんだよ……」

誰もがあまりにもくだらないガチャモンの遊びに呆然としていた。それからもガチャモンは二人目の男性プレイヤー、三人目の男性プレイヤーにも同じことを仕掛けて、それぞれ少しだけ驚かせていた。

ガチャモン「良いね良いね~、皆揃いも揃ってナイスリアクションで楽しいね~」

「いい加減にしろよ!何がしたいんだ!」

「付き合ってられるか!」

「早く帰らせろ!」

当然、プレイヤー達の間から瞬く間に怒りと不満の怒号がゲストルーム一帯に響き渡る。

ガチャモン「はいはい、あと一回だけ、あと一回だけで終わるから、皆怒らないで落ち着いてね~」

モック「さて、最後にガチャモンの変顔を間近で見る事が出来るのは一体誰なんでしょうか!?ではガチャモン、どうぞ―――!!」

ガチャモン「は~い」

再びガチャモンが消える。早く終わらせてくれと俺は心の中で愚痴り続けていた。けど、これで本当に最後なら、あと一回で終わってこのわけのわからないやり取りから解放されるって事だ。

ガチャモン「ばぁ――――!」

「きゃ―――っ!!」

どうやら最後は女性のプレイヤーの目の前で変顔をやったようだった。

ユッチ「やれやれ、これでようやく帰れるっすね~」

ドン!っと言う音が聞こえたのは、ユッチが怠そうな表情でそんな事を言った直後だった。
その音が何の音なのか、最初はまるで分らなかったが、音が聞こえた方ではプレイヤー達が青褪めた表情になっており、ガチャモンがなぜか床に尻もちをついた状態となっていた。

俺「何が起きたんだ?」

デクスター「様子が変だぞ……」

嫌な予感がした、何故なら……おそらくガチャモンに目の前で変顔を去れたであろう女性プレイヤーが両手を前に突き出した状態で、その場にいる者達の中で最も青ざめた表情で、過呼吸美味の荒い息遣いをしていたからだった。

俺「まさか、突き飛ばしちまったのか?」

レイナ「……だとしたら、ガチャモンに攻撃したと見なされる」

立木ナレ「オズマ達の脳裏に、ガチャモンに石を投げつけた結果、第90層のフロアボス部屋に転移させられて瞬殺されたハンマー使いのプレイヤーの末路と悲鳴が過ったのだった!!」

目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

FILE27 新宿END

立木ナレ「ガチャモンとモックによって再びゲストルームに召集されたプレイヤー達。訳の分からぬ小芝居を披露されて苛立ちまくるプレイヤー達!更に今度は何を思ったのかプレイヤーの目の前で変顔!!しばらく下らないやり方が続くと思われた矢先……ガチャモンに目の前で変顔をされた女性プレイヤーが両手でガチャモンを突き飛ばしたのだった!!」

ガチャモン「いたた……突き飛ばされちゃったよ~」

「あ……ち、違う……」

ガチャモンはいつもと全く変わらない様子だったが、ガチャモンを突き飛ばした女性のプレイヤーはガタガタと身を震わせていた、第90層のフロアボスと一対一で戦わされて死んだ、ハンマー使いの事を思い出しているのかもしれない。

モック「あ、貴方……た、大変な事をしてしまいましたな~」

「だから……違うのよ!!」

モックがわざとらしく、慄いたような様子で女性プレイヤーの行動を咎める。だが、女性プレイヤーも当然ワザとではなく、ガチャモンに驚いて衝動的にやってしまったのは言うまでも無かった。

「おいおい、今のはどう見たって事故だろ事故!そうだよなぁ?」

「そうよ!だいたいそっちの緑色の着ぐるみがバカな事するのがいけないのよね!」

「今のは無効だ無効!」

周囲のプレイヤー達が事故だとか、無効だとか言って、ガチャモンを突き飛ばしたプレイヤーを庇おうとする。
ガチャモンは周囲の注目を浴びている中でゆっくりと立ち上がり、自分を突き飛ばした女性プレイヤーの方を向く。

ガチャモン「確かに、今のは本人にとっても不測の事態、いわゆる事故ってやつだね?」

「そ、そうなの!だって、貴方が私を急に驚かすんだから!」

ガチャモン「黙れよ」

「ひぃっ!」

一度は、理解を示したかに思えたガチャモンだったが、突き飛ばした側の女性プレイヤーが震えたような声で抗議すると、ガチャモンがドスの利いた声で脅す。

ガチャモン「そうだね~、例えば今のやり取りを現実世界の日常で例えるとさ、今のは階段の近くでクラスのムードメーカー的な悪戯っ子がさ、誰かをちょっと驚かしたとするじゃん?」

ガチャモンの例え話をプレイヤー達は沈黙の中聞かされるが、女性プレイヤーはもう、これから数分後に自分がどうなるのかと想像しているのか、床にへたり込んで、震えながら目から涙を零していた。

ガチャモン「そしたら、驚かされた方が弾みで相手を突き飛ばして階段から突き落として大怪我させちゃったって感じだけどさ~……その場合、突き飛ばした側は『自分は驚かされたからやっただけで何も悪くない!』って言っただけで済むと思う?」

モック「残念ながら~……怪我をさせてしまった時点で、一定の処罰は避けられませんぞ~」

最もらしく、正論っぽく言っているが、奴らの言っている事は詭弁としかいようがない。

ガチャモン「と言うわけで……罰ゲームはじまりぃ~!!」

「止めてぇ――――――――!!」

断末魔のような、女性プレイヤーの悲鳴がゲストルーム一帯に木霊したが、それは唐突に消えた。
叫んでいた女性プレイヤーがどこかにワープさせられて消えたからだ。

デクスター「上を見ろ!」

ユッチ「あ、あれって?」

上を見上げると、以前の時と同じように巨大なモニターがいつの間にか出現しており、映像が始まるが、映し出されている映像は以前のようなフロアボスの部屋とは明らかに違った。
数多くの超高層ビルが立ち並び、おおよそソードアート・オンラインの世界観に全く似つかわしくない、現実世界の大都会のような風景だった。

デクスター「まさか、新宿なのか?」

俺「え、新宿だと?」

デクスターがいきなり言った、東京都の23区の一つである新宿と言う言葉に俺だけでなくユッチや周辺のプレイヤー達も驚いたようにそちらに目を向ける。

レイナ「…………」

唯一、元々このゲームの存在であるNPCヘルパーであるレイナだけはモニターの映像に注視し続けていた。

アスナ「あ、あれって靖国通りの歌舞伎町の交差点だわ!」

次に声を上げたのは、姿は見えないが声からしてアスナだった。確かにアスナの言う通り、新宿には歌舞伎町もあった気がする。
と言う事はやはり、今映像に映し出されているのは現実世界の東京の新宿なんじゃないかと、誰もが思った次の瞬間だった。

ユッチ「な、なんだ一体!?なんか出てきたっすよ!!」

新宿の空が急に眩く輝いたかと思うと、そこから巨大な赤色のドラゴンのような生き物が大きな翼を羽ばたかせて、飛びながら現れた。

俺「どうやら、今モニターに映ってるのも、仮想世界か……」

レイナ「……貴方達が知ってる東京の新宿をVR技術で再現しただけね」

現実世界にあんな赤いドラゴンが現れるわけないので、一見すると新宿に見えるモニターの映像も仮想世界に過ぎないのだが……

モック「はいはい!赤いドラゴンの首の上に映像をアップさせますぞ~」

モックがそう言って、モニターに映し出されている映像が飛び続ける赤いドラゴンの首の上に接近すると、そこに乗っていたのはワープさせられた女性プレイヤーだった。

「助けてぇ―――――!!誰かぁ――――――!!」

唐突に巨大なドラゴンの首の上に乗せられて、空を飛び回らされている女性プレイヤーは悲鳴をあげながら助けを求めるが、当然最早手の施しようが無かった。

ガチャモン「さ~大変だ~!いきなり平穏な新宿の空の上に赤いドラゴン出現!こりゃ一体どうなっちゃうのかな~?」

おちゃらけた態度でガチャモンが言った。

モック「あ、あれを見てください皆さん!」

モックがそう言うと、モニターの映像が大きく動き、ドラゴンに向かって飛んでくる戦闘機の一群を映し出していた。
そして、数秒後には再びドラゴンに映像が切り替わった。

「お願い!助けて!私を助けてぇ――――――!!」

女性プレイヤーも戦闘機の存在に気が付いて、必死に助けを求める。女性プレイヤーはその戦闘機が自分を助けに来たのだと思い込んでいるのだろう。
だが、モニター越しからその映像を見ている俺達には、その戦闘機すら更なる脅威に感じてならなかった。
そして、それは次の瞬間に現実のものとなる……

ユッチ「うわっ!ミサイルだ――――!!」

戦闘機がミサイルを発射した途端に、ゲストルームからプレイヤー達の悲鳴が一気に響き渡る。発射されたミサイルが向かう先には当然、赤いドラゴンと、その上に乗る女性プレイヤーだった。

「助け……」

ジュッゴォォォォォ!!

実際にどこまでリアルさを再現しているのか知らないが、その音はミサイルが赤いドラゴンに直撃した爆音なのは確かだった。
ドラゴンはその雄大さとは裏腹に呆気なくミサイルの一発で無残な姿になって落下していった。

「こちらスカーフェイス。目標に命中。正体は依然不明。霞ヶ関方面に落下したもよう」

立木ナレ「そんな無線機を通したような男性の声。そして、ゲストルームは異様なほどに静まり返っていた。薄ら寒さを感じながら、そんな光景を見ていた。そして、再びモニターの映像が切り替わると、今度は東京タワーが映し出された」

ユッチ「ひ、ひぃぃ!!」

デクスター「…………」

東京タワーにはさっきまで女性プレイヤーを乗せて飛んでいたドラゴンの遺体が突き刺さっているが、肝心な女性プレイヤーは影も形も残っていなかった。

ガチャモン&モック「本当に、本当にありがとうございました」

と、ガチャモンとモックが声を揃えて言ったと同時に、モニターには大きな文字でこう表記されていた。


新宿END


ガチャモン「さてと、気が付けば今日でDL6号事件から既に丁度21年が経ちました……」

モック「いやいや!アンタ何をいきなり全然違うゲームの話をし始めてるんですかガチャモ~ン!!」

俺たちの頭上の上のモニターには大きな文字で『新宿END』と表記され続けていた。誰もがその文字を硬直したかのような様子でじっと、強張った表情で、或いは凍り付いた表情で固まって見ていた。

ガチャモン「おやおや~?どうしちゃったのかな皆?もしかして久方ぶりに見る懐かしき現実世界の光景を目の当たりにしてホームシックになっちゃったとか?」

モック「あの~、解っているとは思いますが、さっきの新宿の光景は、アインクラッドと同じでして、ナーヴギアによって見せられている仮想世界の一部でしてな~……」

誰も奴らの言う事を聞こうとはしていなかった。たった今、俺たちが見ている前で一人の女性プレイヤーがまるで出来の悪い面白動画でも撮らされてるんじゃないかと思えるような、そんな殺され方をして死んだのだった。

ガチャモン「じゃ、そろそろお別れのお時間が来ちゃったからさ、そろそろ皆を元居た場所に戻しちゃうね」

モック「皆さん、2022年も残すところ僅かとなりました~、新年をすっきりとした気分で迎えられるようにやり残したことがあったら早めに済ませてしまう事をお勧めしますですぞ~」

奴らがそう言い終えた後、俺の視界は一瞬白い光に包まれて見えなくなり、次の瞬間には元居た場所。
宿屋兼レストランである『ブリンク&ブリンク』の店の席に戻っていた。同じテーブルの席にはレイナもユッチもデクスターも元の位置で座った状態に戻っていた。

デクスター「全員……戻ってるみたいだな」

俺「ああ、最初に奴らのゲストルームから戻された時と一緒だな、何もかも、転移された時と同じ状態に戻ってる」

時間は奴らの所にいた分だけ進んでいるが、それ以外は完全に転移された瞬間の時と何一つ変わらない配置で戻されているようだった。

ユッチ「うへ……アンナの見せられた直後じゃ、食欲も失せるっすよ……」

レイナ「……けど、返品は不可」

ユッチに限らず、他のテーブルの客達も食欲が失せたのか、料理を残したまま席を立ち去って行った。
気が付くとレストランで残された客達は俺達だけになっていた。俺達は多少の気を紛らわす目的もあったんだろうが、なんとなく今後の事に付いて話し始めていた。

ユッチ「あの~、デクさんは明日以降は予定ってあるっすか?」

デクスター「今日のクエスト以外にも、いくつかやろうと思っているクエストがあったが……いずれもソロだと苦しいかもしれん」

デクスターの懸念は間違ってないだろう。この層の採取クエストはどうにも、採取中にモンスターが大量に湧出(ポップ)して、妨害してくる手法が多く、それ故にソロでは難易度は極めて高くなると言える。

ユッチ「だったら、せめてこの層のクエストは僕たちと組んでみませんか?オズマさんとレイナさんも別に良いっすよね?」

ユッチはクエストをこなすために、デクスターと協力する事を提案してきた、俺としては特に反対する理由はなく、俺自身も他にも目星の付いているクエストがいくつかあった、この主街区に来た時点で何人か頭に上に!マークが付いたクエストNPCを何人も見ているしな。

デクスター「良いのか?また手を貸してもらって?」

俺「お互い様だよ、今日だって俺達はアンタにコイツがネズミに取られた『ストロングダガー』を取り返してくれたし、その礼に俺達はアンタが受けたクエストに必要な『魔封派の壺』をくれてやった。要するにお互いの為に持ちつ持たれつの関係をもうしばらく続けようぜって事だ」

デクスターもそれで納得したのか、口元を少し不適そうに歪めて『よろしくな』と答えて了承した。
この展開にユッチは気を良くしたのか更に話を始める。

ユッチ「デクさんも、いっその事第5層でフロアボス戦デビューしちゃいましょうよ!デクさんの腕前なら十分やれますって!レイドパーティーなら僕らと一緒のパーティーに入ったままで大丈夫っすよ!」

デクスター「フロアボスか……俺としても今から参戦して、パーティーにあぶれないか心配してたんだが……」

俺「そっちも構わないぜ、二大ギルドのリーダーたちもあんたの実力で参戦を反対する事はまずないだろうからな」

デクスター「ま、その時はよろしく頼む」

どうやら、この話もデクスターは前向きに考えてくれそうだった。そこに今度はレイナがようやく話に加わって来る。

レイナ「……オズマってリンドやキバオウともフレンド登録してたわね?」

俺「ああ、二大攻略ギルドのトップの二人だからな、いつでも連絡できるに越した事は無い」

他にも第二層を機にシヴァタや、その他数人の最前線のプレイヤーともフレンド登録をしてある状態だった。

レイナ「……なら、何時でもこの事での相談は出来るわね」

俺「ああ、向こうからフロアボス戦の事が決まり次第、相談してみるとするか」

立木ナレ「ガチャモンとモックによるおぞましい処刑が行われたその夜は更けていった……オズマ達は新たなる協力者デクスター加えて、第5層のクエストに挑むのであった!」



前回のガチャモンとモックの登場シーンのやり取りと今回の新宿ENDには元ネタがあります。

皆さんは気が付きましたかな?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

FILE28 緊急招集!抜け駆け阻止作戦


立木ナレ「オズマ達が凄腕の刀使いデクスターと出会ってから数日間、4人は第五層のクエストを可能な限り達成し続けると同時に仮にも挑み続けていた。そして迎えた2022年12月31日の大晦日の日の早朝の事だった!」

デクスター「にしてもあのレイナがNPCヘルパーだったとはな、正式サービスの開始前に告知はされてたが、本当にいたとはな……宿屋の部屋でオズマと二人きりで当たり前のように入って言った時はてっきり付き合ってるのかと思ったが……」

ユッチ「レイナさんはオズマさんをマスター登録してるっすからね。レイナさんは眠くはならないみたいなんっすけど、彼女曰くマスターを守るのが自分の役目だそうっすよ、NPCとは言え、あんな可愛い女の子に守られるオズマさん羨ましいっす!!」

立木ナレ「先にレストランで朝食を食べていたユッチとデクスターの二人、オズマとレイナは少ししたら来ると聞かされていたのだった。しかし、2人は思ってもいなかった!オズマがレイナに対して自分の言う事を聞いてくれるのを良い事に夜な夜なと、その肢体を貪るように味わっている事に!そしてあろう事か、この日は朝からレイナにその欲望をぶつけていると言う事など知る由も無かった!!」

………

……



ユッチ「いや~、楽しみっすよね今日の大晦日の年越しパーティー!」

ユッチは昨日からその話をすでに何度もしていた。なんでもALSとDKBの比較的穏健なメンバー同士が企画したらしく、新年を共に迎えようと言う親睦目的のパーティーらしいが、ALSとDKB以外のメンバーの参加も容認されているらしい。

俺「ま、こんな世界でも年越しくらいはらしく過ごしたいのは俺も同じだよ、この世界や年越しの番組も見れないし、年末ジャンボもないから、プレイヤー同士でそう言うのを楽しもうって奴がいても不思議じゃないな」

デクスター「ま、俺も近々ボス攻略に参戦するなら、DKBやALSとやらに挨拶くらいはしておくのもありか」

なんて、他愛のない会話をしながら俺達はマナナレナ村の東の森で狩りをしていた。

レイナ「……ところで、第5層のフロアボスの情報はまだなのかしら?」

俺「ああ、アルゴが色々と調べまわってるらしいが、今回は苦戦してるらしいぞ」

非戦闘職であるアルゴがほぼソロの状態で迷宮区を探るのは色々と苦労が多い事だろう。それが元ベータテスターであるが故の後ろめたさから来てるのかと一時は考えた事もあるのだが、奴の普段の振舞を見てると実際の所はどうだかわからない。

デクスター「出たぞ、中ボスだ!」

俺「今ので丁度30体倒したみたいだな」

俺たちがここで猿型モンスターの『スローイングモンキー』を倒し続けていたのはクエストNPCからの依頼で猿型モンスター達のボスの『ジャンボ・ザ・モンキー』の討伐を頼まれたからだった。
出現条件はこのエリアでスローイングモンキーを30体討伐する事が条件だったのでひたすら倒して、ついに俺達は中ボスと顔合わせする事となったのだった。

レイナ「……私たちのステータスなら4人で全く問題ないわ」

デクスター「さて、奴はどんな戦い方をしてくるんだろうな……」

ジャンボ・ザ・モンキーはその巨体に似合わずに移動速度が速い、しかし派手な連続攻撃技である百裂拳の後は披露したかのようにしばらく動きが鈍くなるので、俺達はそこを狙ってまとめてソードスキルを叩き込むと言うパターンを繰り返した。
俺が獅子の形をした闘気をぶつける「ビーストハウル」を、レイナも続けて「ビーストハウル」を叩き込む。このソードスキルは片手剣でも両手剣使いでも習得が出来る共通のソードスキルだった。
更にユッチが『レイディアント・アーク』為の後にアッパーの如く高い飛ぶ様に切り込むソードスキルを発動する。

デクスター「これで止めだ」

最後にデクスターの刀スキルの月を描くような斬撃のソードスキル『月閃光(げっせんこう)』でジャンボ・ザ・モンキーのHPケージは底を尽き四散した。

ユッチ「楽勝っすよね本当に!」

思った以上にあっさりと勝利してユッチは飛び跳ねて舞い上がっていた・

レイナ「……後はクエスト達成を報告すれば報酬アイテムが貰えるはず」

俺「ああ、それじゃ早速……あ、エギルからメッセージ来たみたいだな」

視線の右上に俺は他プレイヤーから1件のメッセージが届いている事を知らせるマークが表示されたのに気が付いた。

デクスター「知り合いか?」

俺「フロアボス戦の度に一緒に戦ってるプレイヤーだよ。フレンド登録自体は第一層のフロアボス戦の後にしておいたが、実際にメッセージが届くのは初めてだな」

『時間があったらマナナレナ村から少し離れた森の空き地に集まってくれbyアスナ……だってよ、なんか重要な相談らしいから俺も仲間と一緒にすぐに向かうが、お前らはどうする?』

俺「は、アスナからの伝言だと?」

ユッチ「ええ!?あ、アスナさんですって!?」

アスナの名前を聞いた途端にユッチが食いつくように目を大きく見開いて迫って来た。

デクスター「アスナか、その名前なら俺も聞いてるぞ、なんでも、レイナ以外で唯一の最前線の女性プレイヤーだってな」

流石は有名人だ、ボス戦に加わってなかったデクスターにも名前くらいは知られているようだな。

ユッチ「そりゃもう僕が知る限りじゃ、このSAO世界じゃレイナさんと並んで超レア中のレア中のレア過ぎる美少女プレイヤーっすからね!」

俺「他の女プレイヤーの前で言わない方が良いぞ今のは」

確かに、言えてる事でもあるが、多くの大多数の一般の女性プレイヤー達からの反感を買う事は間違いなさそうだからな。

レイナ「……どんな内容なの?」

俺「エギルからの伝言によるとだ、大事な相談があるから中立的な立場のプレイヤーをマナナレナ村から少し離れた森の空き地に集めたいんだそうだ」

ユッチ「すぐ近くじゃないっすか、早く行きましょうよ!」

俺「良いのかよ、そんな簡単に決めちまって?」

ユッチ「アスナさんからの頼み事っすよ!断ったら失礼じゃないっすか~」

ユッチはアスナからの相談と聞いて、居ても立っても居られない様子で浮かれまくっていた。

デクスター「信頼できる連中を集めてるって事は、大人数でするような話ではないのかもしれないな」

俺「ああ、それでいてマナナレナ村じゃくて、少し離れた森の空き地を指定するって事は、あんまり部外者には聞かれたくない話をするのかもしれないしな」

レイナ「……どうするのオズマ?」

俺「もう少し事情を聞く」

今度は俺の方からエギルにメッセージを送る。

『なぜアスナが俺達まで呼び出すんだ?』

すぐにエギルから返信が来た。

『アスナの話によるとALSが第5層のフロアボスがドロップするアイテム目当てで抜け駆けを考えてるらしい』

確か、今日はALSとDKBで共同の年越しパーティーのはずだ。ALSがそのパーティーの最中にこっそりと抜け出して自分達だけで第五層のフロアボス戦に挑むと言う事か?第五層のフロアボスがドロップするアイテムにそこまでの価値があると言う事か?
俺が考えていると、エギルから追加でメッセージが届いた。

『これはあくまでベータ版での出来事だが、第五層のフロアボスがドロップするアイテムは「ギルドフラッグ」と言って、そいつを突っ立ててると、半径15メートル以内にいるギルドメンバー全員の全ステータスを上昇のバフがかかるそうだ』

俺「マジなのか……?」

ユッチ「お、オズマさん?」

レイナ「……どうしたの?」

俺はエギルから贈られたメッセージをレイナ達にも見せる。特に最後のギルドフラッグに関するメッセージ内容を見せると、レイナは相変わらず無表情のままだったが、ユッチは『どえぇ――――!!』等と言う漫画見たいな驚き方で大声を上げて、デクスターも平静を装っているように見えて、若干表情が強張っているように変化しているのが目に見えていた。

レイナ「……これが本当で、もしALSがそのギルドフラッグを手に入れたら、両ギルド間の均衡が大きく崩れるわね」

デクスター「最悪、DKBがALSにメンバーを吸収されて消滅もありうるか……」

ユッチ「クッソ~、ALSの奴ら!親睦の為の年越しパーティーを開くとか何とか言って、せこい事考えやがって!!」

俺「とにかく、アスナやエギル達がいるはずだ、直接会って話すぞ」

そして、アスナがこの情報を届けたと言うのなら、話し合いの場には当然キリトも出てくるだろう。


立木ナレ「オズマ達は急いで、マナナレナ村から少し離れた森の空き地に移動した。そこには今回の計画の為に召集されたと思わしき10人のプレイヤーが先に辿り着いていた。ボス戦で何度も共に戦っているエギル達4人組。DKBの主力メンバーであるシヴァタとハフナー、そしてALSのメンバーと思わしき、全身を鎧に身を包んだプレイヤーと、この中では最年長とみられる30代の男性プレイヤー、そして情報屋のアルゴと召集した張本人であるアスナの軽10人にオズマ達4人が加わった!!」

ユッチ「アスナさ~ん!僕、アスナさんの為にも頑張ります!一緒にALSの過激派連中の計画をぶっ潰しちまいましょうね!」

早速ユッチが、憧れのアスナの前に駆け寄って、一方的に話し掛けていた。

アスナ「え、ええ……頑張りましょうね……」

アスナは苦笑いをしながらも、差し出されたユッチの手を握って握手する。ユッチのその時の表情ときたら、歪みきってこれからの作戦に参加して大丈夫なのかと疑いたくなる有様だった。

アスナ「けど、本当に良かったわ。オズマ君たちも来てくれるなんて」

俺「あの情報が本当なら、ALSの過激派連中に抜け駆けされたら、これからの攻略に色々と支障が出そうだからな」

「すみません、私達も彼らを止めるには力不足で……」

俺の言った事を気にしたのか、ALSの年長プレイヤーが申し訳なさそうに頭を下げる。

俺「いや、ここに来たって事はアンタも過激派連中の抜け駆けを止めたいって事だろ?だったらこの作戦中は仲間って事で良いさ」

オコタン「ありがとうございます。私はALSでリクルート班の班長をしておりますオコタンと言います」

と言う事は、この人はALSの為にメンバー募集を主に担当しているって事だろう。

ユッチ「ではアスナさん、早速始めましょうよ!僕にできる事なら何だってやりますから!」

アスナ「ええ、そうしたいんだけど……詳しい話は、あと二人来るまで待ってもらえないかしら?」

ユッチ「え、まだ誰か来るんですか?」

その内の一人は既に分かり切っている。

俺「少なくとも、キリトは来るんだよな?」

アスナ「ええ、キリト君にはネズハさんを呼びに行ってもらってるから」

俺「へぇ、キリト以外のもう一人はアイツだったのか」

ネズハ……第二層で詐欺事件を起こした『レジェンド・ブレイブス』の実行犯的存在だ。そして、キリトとネズハの名前を聞いた途端にユッチが案の定。

ユッチ「ええ――――――!?き、キリトの野郎どころか、あの詐欺師野郎まで参加するなんてどういう事っすかアスナさん!?」

ユッチはキリトの事は元々、ベータテスターである事やアスナがらみで嫌っており、ネズハに対しても詐欺の一件で未だに許しきれてないようであの二人との共同の作戦と言う事で動揺が大きいのだろう。

エギル「ま、それは全員が揃ってからの話し合いでいいだろ?ユッチだったよな?お前も、キリトはともかく、アスナの頼みなら断りたくないから来たんじゃないのか?」

ユッチ「う……まぁ、キリトはともかくアスナさんが言うなら」

エギルが上手くキリトの為じゃなくてアスナの為と言う事を引き合いにしてユッチを鎮めさせた。
アスナはユッチの相手で深く溜息を付き、アルゴは楽しそうにその様子を見て「にゃははっ!」と笑っていた。

デクスター「と言う事は全部で16人集まるのか……初のボス戦は訳ありになりそうだな」

エギル「お、オズマ組の新顔か?」

デクスターはここにいる殆どの連中と初対面なんだろう、俺がとりあえず紹介しようとするとデクスターの前にアルゴが近寄って来る。

アルゴ「おやおや、デクス兄さん。オー君達と組んでたって本当だったんだナ」

デクスター「第五層のクエスト達成の為に、お互い持ちつもたれずって形だ」

ああ、デクスターはそう言えばアルゴと情報のやり取りをしてるとか言ってたから顔見知りだったんだな。

アルゴ「それとデク兄さん。アンタが探してたコペルって子だけどさ、やっぱりもう……」

デクスター「そうか、調べてくれて助かったぜアルゴ」

どうやら、アルゴに以前の知り合いの捜索も頼んでいたようだったが、この様子からするとデクスターの知り合いだったコペルとやらはもうどこかで死んだようだ。デクスターとはどの程度の付き合いかは知らないが、デクスターの表情は変わらず、その死を悲しんでるのか、それとも少し感傷浸る程度なのかは分からなかった。

レイナ「……キリトとネズハが来たわ」

索敵スキルを高めているレイナが、真っ先に残りの二人であるキリトとネズハが来たことに気が付く。

ユッチ「アイツら~……」

俺「突っかかるような事は言うなよ」

立木ナレ「こうして16人のメンバーによる、ALS過激派の抜け駆けを阻止する為の作戦が始まろうとしていた!!」

目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

FILE29 抜け駆け阻止作戦メンバー集結

立木ナレ「ALSが第五層のフロアボスのドロップする『ギルドフラッグ』を狙い、抜け駆けを目論んでいる事が判明した!オズマ達はキリトの呼びかけで、中立の立場のトッププレイヤー同士で集まる事になったのだった!!」

俺「ようやくお出ましか、俺達を招集した張本人が」

最後に現れたのはキリトとネズハだった。ネズハはすぐにアスナの方に何か話があるのかアスナの方に向かった。
ユッチは相変わらずキリトに対してもネズハに対しても不信感が根強いようで、訝しむように睨んでいた。
無論、俺もキリトやネズハを完全に信用しきっているわけではないが。
キリトは俺達四人とALS、DKBの各二人の方に歩み寄って来た。

キリト「遅くなって……」

ハフナー「おい、ブラッキーさんよ」

キリトは『悪かった』とか『すまない』とか言おうといたんだろうが、言い切る前にDKBのサブリーダーのハフナーが口を挟んで、キリトのコートの襟首を掴んだ。
そして、いかつい顔をキリトに近づけて、どすの利いた声で囁く。

ハフナー「お前、今回の件に一個でもウソがあったらぶっとばすからな」

この世界でぶっ飛ばすのは容易ではない。圏内では犯罪防止コードに阻まれるし、圏外では殴った途端にカーソナルがオレンジカレーになってしまう。

ユッチ「ははっ!アンタ止めた方が良いっすよ~、相手がキリトの野郎だろうと、ここで殴っちゃったらオレンジになって色々と面倒っすよ~」

そんな事はハフナーも分かり切ってる事だと言うのに、ユッチはゲラゲラと笑いながら指摘した。
ハフナーは鋭い眼光でユッチを睨み付けようとしたが、シヴァタが苦笑しながらハフナーの肩を掴んで、後ろに引き戻した。

シヴァタ「ハフ、今回はむしろオレ達サイドから出たネタだ。キリトが提供したのはギルドフラッグの話だけで、それが嘘だとは思えない。そんな嘘を吐いても、こいつには何のメリットも無いからな」

ハフナー「……まあ、それはそうかもだけどよ。けど、ならどうしてこいつがこんなヤバイ作戦を計画するんだよ?ALSがそのフラッグとやらをゲットするのを防いでくれる理由がこいつにあるのか?」

ユッチ「そーだそーだ!そのところどうなんだよキリト、アンタ!?」

キリト「ちょっと待った」

今度はキリトが右手を持ち上げ、会話に割り込んだ。

キリト「言っとくけど、この作戦は、ALSギルドフラッグ入手を妨害する事だけが目的じゃないぞ。ドロップしたフラッグは、DKBにも渡すわけないはいかない。どっちか一方が入手したら、もう一方のギルドは崩壊しちゃうかもしれないからな」

その大前提は、俺達だけでなく、ハフナーも事前にシヴァタから聞かされていたようだった。

俺「と言うか、ハフナーさんやシヴァタはこの作戦に参加しても大丈夫なのか?もしアンタらとしちゃ、DKBが手に入れるに越した事は無いだろ?」

するとハフナーは、唸り声で答えた。

ハフナー「そりゃオレだって不本意だけど、攻略が第一だからな……。このクソゲーをクリアするには、DKBもALSも、両方必要なんだ。ギルドとリンドさんを裏切る事になっても、下の層で解放されるのを待ってる何千人を裏切るわけにはいかねー。あんたらもそう思ったからここに来たんだろ」

俺「サブリーダーだけあって柔軟に考えてるんだな」

そして、最後の一言はおそらく、ALSメンバーである二人に向けられたものだろう。

オコタン「まあ、そう言う事です。ALSの抜け駆け攻略作戦は、一部の強硬派が幹部たちの不安を煽りまくった結果の、暴走みたいなもんだ。キバオウさんもそれは理解してるけど、ギルドが割れるのを防ぐ為に、作戦を承認せざるを得なかった。しかし、仮にギルドフラッグを入手できても、それでDKBとのただでさえ危うい関係が完全に崩れたら何の意味も無い」

そしてキリトはオコタンと自己紹介をしあって握手をする。オコタンはボス戦で何度か顔を合わせているが、名前を教えるのは初めてだろう。
そして、オコタンの隣にいる、全身フルプレメイサーのプレイヤーはリーテンと言うらしい。
そして、キリトとは完全に初対面となるデクスターもキリトと挨拶を交わす。

デクスター「ほぉ、お前さんがブラッキーだとかビーターだとか言われてるキリトなんだな」

キリト「ああ、アンタはオズマ達の新しい仲間のデクスターさんだよな?俺に対して良い印象はないと思うけど、今回の作戦だけは協力してもらいたいんだ」

デクスター「初のフロアボス戦がこんな形になるとは思わなかったが、確かに事情が事情だからな。これも持ちつもたれずって奴さ」

デクスターはユッチと違ってキリトの悪名だけで露骨に嫌悪したり不信感を抱くことなく、それほどわだかまりを感じさせない接し方で挨拶を済ませた。

ハフナー「ブラッキーさんよ、俺とオコさんはきっちりと動機を説明したぜ。あんたも、どうしてこの作戦を主導してるのか……動き出す前に、まずはそこをみんなに話してくれよ」

キリト「ええー?」

俺「ええーじゃないだろ。それくらいは確かに話してやってもいいだろうに、そりゃ面倒かもしれないがな」

こちら側が動機を説明した以上、キリトの方も何故この作戦を主導するのかの説明くらいは話すべきだろう。
いつの間にか、アスナやアルゴ、ネズハ、そしてエギル達4人も近くに集まり、キリトの答えを待つ態勢を取った。
キリトは咳払いをしてから口を開いた。

キリト「それは、俺もハフナーさんやオコタンさんと……いや、多分ここに集まってくれたみんなと同じだよ。最前線で戦い続けているALSとDKBは、攻略集団の両輪だ。ちゃんと車輪でつながってないと集団は前に進めないし、どっちかが欠けたら、その場から動けなくなる。その事態を防ぐには、ALSより先にボスを倒してしまうしかない……そう思ったから、みんなに、協力を要請したんだ」

俺「まあ、筋は通ってるかもな……」

しかし、キリトがここまで攻略集団全体の事を考えて行動に移していたのは意外だった。キリトが完全に利己的なビーターと言う見方は少し変えた方が良いのかもしれないな。と言っても、第一層で会えて憎まれ役を演じた時点で、俺は心のどこかでキリトは意外と周囲の事を考えてるのかもしれないとは思っていたが。

レイナ「……本当に、それで全てなのね?」

キリト「え……あ、ああ、そうだけど?」

レイナが珍しく自分からキリトに確認するように尋ねる。キリトもレイナの方からそんな事を聞かれたのが意外だったのか、少し動揺気味の様子だった。

レイナ「……そう、分かったわ」

ひとまず全員、キリトの言葉に納得したようで、ハフナーも難しい顔をしつつも頷いて一歩下がった。
その時、全身フルプレメイサーのリーテンがメタリックな声で声を出す。

リーテン「あの、キリトさん。前から聞いてみたいと思ってたんですが……そんなに攻略集団の事を考えてくれてるのに、どうしてギルドに入らないんですか?キリトさんほどの人なら、どっちのギルドでもすぐにパーティーリーダーくらいにはなれると思うんですが……」

それを聞いた、一同にざわめいた空気が流れる。もしかしてこのリーテンはALSの中では新参者で、キリトの悪名や、ビーターの俗称、その辺りの事情を知らないが故の質問かも知れなかった。
キリトは答えに一瞬困ったような素振りを見せながらも、リーテンの方に顔を向けて答える。

キリト「それはだな、リンドとキバオウが、俺とアスナが別々じゃないとギルドに入れないとか言ってるからだ」

俺「…………」

何故こいつは、そんな誤解を招きそうな説明をしてしまうんだろうな。案の定、一同が再びざわ……っとなる。

アスナ「い、いきなり何言い出すのよ!」

と、アスナが顔を赤くして喚くもんだから、余計に誤解に拍車が掛かる事になる。大方、キリトとアスナが別々じゃないとギルドに入れないと言われたのは、攻略集団の中でも最上位の実力の二人が同時に片方のギルドに入ると両ギルド間の力の均衡が崩れるからそう言ったんだろうが、今更俺がそれを説明する義理などサラサラない。

リーテン「さすがです……感動しました!」

とリーテンが普通に誤解して叫び、エギルが『がはっはっはっ』アルゴが『ニャッハッハ』と大声で笑った。

ユッチ「な、なんだよそれ!?まるでリンドさんとキバオウさんまでアスナさんを巡ってキリトと争ってるみたいじゃないか!なんで僕がそこで蚊帳の外なんだよ!!」

デクスター「いや……そこでお前が介入する余地なんて無いよな?」

結局、キリトは訂正できぬままだった。アルゴが集めてくれたポーションを分配して、前準備を済ませる頃には時刻は丁度午後三時となった。

デクスター「ALSの主力連中が主街区に戻ると見せかけて、迷宮区タワーを目指すのは何時ごろなんだ?」

オコタン「午後の6時頃のはずです」

俺「なら、今から出発だから、俺達の方が3時間分優位だな」

レイナ「……偵察を含めてもボス戦で3時間以上も掛かる可能性はないから、時間的には問題ないと思う」

立木ナレ「そして、道案内は既に偵察を一度しているアルゴが担当、集団の最後尾にはキリトとアスナが陣取り、その様子をユッチが忌々しそうに後ろを向きながら睨み続ける構図となった!!」

俺「んで、これがこのメンツのレベルと陣容だな」

1.オズマ、レベル18、片手直剣、革防具、左手ソードブレイカー
2.キリト、レベル18、片手直剣、革防具
3.レイナ、レベル18、両手剣、軽金属防具
4.アスナ、レベル17、細剣、軽金属防具
5.デクスター、レベル17、刀、軽金属防具
6.エギル、レベル16、両手斧、軽金属防具
7.ハフナー、レベル16、両手剣、重金属防具
8.ユッチ、レベル15、ダガー、革防具
9.シヴァタ、レベル15、片手直剣、重金属防具、盾あり
10.オコタン、レベル15、両手斧槍、軽金属防具
11.ウルフギャング(エギル組)、レベル15、両手剣、革防具
12.ローバッカ(エギル組)、レベル15、両手斧、軽金属防具
13.ナイジャン(エギル組)、レベル14、両手槌、重金属防具
14.リーテン、レベル12、ロングメイス、重金属防具、盾あり
15.ネズハ、レベル12、チャクラム、軽金属防具
16.アルゴ、レベル不明、クロー、革防具

レイナ「……全体的にDPS(ダメージディーラー)が多いわね」

俺「ああ、タンク役になれそうなのはシヴァタさんとリーテンくらいだな」

デクスター「オコタンとネズハとアルゴとユッチはCC(クラウドコントローラー)ってところか」

ユッチ「え?クラウドコントローラーってなんっすか?」

どうやら、専門用語に関して微妙に無知な部分があるらしいユッチだった。数少ないクラウドコントローラーのユッチ自身がそれを知らないと後々困るかもしれないので俺から説明しておく。

俺「モンスターの群れをコントロールする役の事だよ。他のゲームだと魔法使い系統の役目だが、SAOじゃ魔法が無いからな、デバフのあるソードスキルでモンスターを足止めしたり弱体化させる役だな」

ユッチ「あ、言われて見れば僕のダガーのソードスキルにもデバフ付きは多いっすね」

だが、問題なのは僅か16人でどのようなパーティー編成をするかだ。キリトが最後尾で色々と考えてるんだろうが、48人のレイドに比べて組み合わせはかなり限られるので大方苦戦してるだろう。
ましてや普段はソロプレイヤー故にそんな采配をする機会なんて無かったのだから。
すると、そのキリトが俺達を追い越して、先頭のアルゴに並んで話し掛けていた。

ユッチ「チャンス!今なら僕がアスナさんに話し掛けられる!」

レイナ「……アスナならもう、リーテンと何か話してる」

ユッチ「ええ―――!?何時の間にあの新参者がアスナさんと仲良しに!?」

リーテンは全身をフルプレメイサーで覆われている為に表情は伺えないが、アスナはまるで気の許せる友人と話しているかのように、親しそうだった。

デクスター「美人の周りには味方も敵も関係なく人が集まりやすいのは現実も仮想も案外同じなのかもな」

ユッチ「ちくしょう……ちくしょう……」

俺「ボス戦前からまた泣くなよ……」

そして、目的地に到着したのは午後三時四十五分だった。

アルゴ「おつかれサマー、とりあえずフィールドの移動はここで終わりだヨー」

アルゴの声に、一同がやれやれと足を止めた。

ユッチ「うわっ!凄い光景っすね……」

エギル「ああ、あの北側の石壁、だいたい高さ20メートルってとこだな」

俺「アルゴが途中で話してた内容によると、この先の巨大迷路は侵入者を防ぐ為に築かれたって設定らしいな」

だから、まずはこれをどうにかして切り抜けなくてはならない。

キリト「えーっと……どこから入るんだ?」

キリトがライム水を飲んでいるアルゴに尋ねると、アルゴは不敵に笑みを浮かべて、巨大なカギを取り出した。

キリト「おお……それ、ボスクエでゲットしたのか?」

アルゴ「そーゆーこと」

アルゴは何かを探す素振りを見せてから、隙間にある鍵を突っ込んで回した。「おおー」という、分かりやすく驚いた声が一同から漏れた。
ゴゴゴゴ……と石壁が震えて、いくつかのブロックが奥に引っ込んだ。

ユッチ「え、これで終わりかよ!?」

俺「隠し扉とかは無いのか?」

アルゴ「ないヨ、そんなモン」

アルゴは鍵を仕舞うと、ブロックが引っ込んで出来た窪みに右手を掛けるとひょいっと三メートルほどよじ登った。

レイナ「……互い違いに引っ込んだブロックの並びが、てっぺんまで続いてて、まるでハシゴみたいになってるわ」

エギル「お……おいおい、まさかそこを登るのか?」

エギルの慌て声に、アルゴは壁に片手片足をひっかけた状態で振り向いて、にんまりと笑った。

アルゴ「オヤ、フロントランナー一のタフガイさんは、高いトコが苦手なのカナ?」

エギル「そ、そういうわけじゃねーけど……これ、落ちたらただじゃ済まねぇだろ」

ユッチ「そうだよ!落下ダメージとか半端ないよこれ!」

エギルやユッチの懸念は確かだった。SAOのダメージソースの中でも特に危険なのは落下ダメージだ。
見てみればアスナも何かしら落下ダメージの経験があるのか、微かに身体を震わせていた。

レイナ「……石壁の高さは20メートル。地面は砂利交じりの裸地、てっぺん近くから落下したらHPの低い人はそれだけで即死の危険があるわ」

俺「キリト、命綱を用意した方が良くないか?」

キリト「ああ、アルゴ命綱を……」

とキリトが言い切る前にアルゴが上から片目をつぶって。

アルゴ「しょーがないナ、特別サービスだゾ」

ウインドを開くと同時に巨大な物体を次々とオブジェクト化させた。地面に音を立てて落下したのは、ハウジング関連のショップで売っている大型クッションだった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

FILE30 第五層迷宮区タワー

立木ナレ「落ちれば大ダメージ確実の高さ20メートルの石壁を登るに当たり、アルゴは落下ダメージ軽減の為に、大型クッションをオブジェクト化させた。」

アルゴはハシゴの真下にドッサリとクッションを積み上げると、その上に背中から落下した。
愉快な音が響くが確かにダメージを受けた様子はなかった。

アルゴ「オイラは最後にこのクッションを回収するカラ、先頭はキー坊に譲ってやる」

キリト「え……お、俺?まあ、いいけど」

キリトはアスナに視線を向けると、アスナから何かを伝えられているようだった。ひとまずキリトが最初に20メートルの登り切ると。まだ地上にいる俺達に呼びかける。

キリト「特に難しくないぞ、落ち着いて登れば大丈夫だ!」

俺「じゃ、さっさと登らせてもらうとするか」

ハフナー「いや、次は俺が行くぜ!」

俺「んじゃ、お先にどうぞ」

気合満タンのハフナーを皮切りに、アスナとアルゴ以外の連中が上り終えるまで10分以上かかった。
アルゴが用意してくれたクッションのおかげで精神的に楽になったからか、落ちるものは1人もいなかった。

ユッチ「な~んだ、全然余裕じゃないっすか~」

無事に登り終えて、全員で軽いハイタッチを交わしてから、同時に北へと向き直る。

ウルフギャング「……確かに、この迷路を真面目にクリアすんのは大事じゃなぁ……」

エギルの仲間の両手剣使いのウルフギャングが呟いた。

デクスター「ああ、半径500メートルってところか、地図があったとしても簡単に突破出来るもんじゃないな」

シヴァタ「ALSは、ここをぶっつけ本番で、しかも夜に攻略するつもりなのか?」

デクスターがウルフギャングの懸念に同意して、シヴァタが驚きと呆れを含んだ表情で、オコタンに尋ねた。

オコタン「お恥ずかしいですが、そのようで……。ただ、元ベータテスターから、謎解きギミックの情報は得ているようです。スケジュール表では、一時間で突破する予定になってました」

俺「へぇ、ALSにベータテスターの協力者がいたのか、そいつは心強いよな」

レイナ「……ギルドフラックの情報もその元テスターからなのね」

オコタンは苦笑を含ませながら頷く。オコタンの話しぶりではそのテスターは協力者であるのは確かだが、ギルドの正式なメンバーではないと言った様子だった。

立木ナレ「そして、一同は石壁上の通路を一列になって移動し、迷宮区タワーとの接合部に設けられた小さな望楼で、再び小休止を取る事にした。この先は最高難易度のダンジョンである、故に準備を整えなくてはならない!!」

アスナ「みなさん、よかったらどうぞ」

アスナがストレージから取り出したのは、巨大なロールケーキだった。

ユッチ「アスナさんの手作りっすか!?むっちゃ感激っす!!」

アスナ「あ、そうじゃなくってマナナレナ村の隠れ喫茶店の名物スイーツなの」

そんなのがあったとは知らなったな。と言うか俺も含めてほとんどのプレイヤーが初見のようだった。
ユッチはアスナの手作りではなくとも、アスナからの差し入れと言うだけで無茶苦茶嬉しそうに味わう様に食べ始めて、エギル達とハフナーとデクスターが『うめっ!うんめっ!』と唸りながら手づかみでガツガツ食いだす。
壁際に並んでいるリーテンとシヴァタは妙に仲睦まじくフォークを動かして、オコタンはいつの間にかネズハと仲良くなったらしく談笑中だった。

アスナ「はい、オズマ君とレイナちゃんも」

俺「ああ、貰うぜ」

レイナ「……私も貰って良いの?」

アスナ「当たり前じゃない、それともレイナちゃんは甘いのは好きじゃないかしら?」

アスナが少し心配そうに聞く。アスナはレイナがNPCヘルパーだと言う事をまだ知らないので、自分と同年代の女子だと思い込んでるんだろうな。

レイナ「……食べ物の好き嫌いはないわ。辛い物も甘い物も苦い物も普通に同じように食べられるから」

アスナ「へぇ~、辛いのはともかく、苦い物も平気なんて凄いわね」

レイナ「……別に、なんともない」

一応レイナにも味覚はあるんだろうが、そもそも食事の必要はないので、レイナは特に自分から何か好き好んで食事をする事は無い。
アスナは一通り人数分を配り終えると、最後にキリトの方にケーキを渡しに行った。

レイナ「……皆、凄く楽しそうに食べてる」

レイナがロールケーキを豪快に食っている、エギル達や感極まった様子で食べているユッチを見て、どことなく不思議そうにそう呟いた。

俺「まぁ、このケーキが上手いのは確かだな。アスナが言うにはマナナレナ村の隠れ喫茶店の名物スイーツだったな。後で一度行ってみるのも良いかもな」

レイナ「……理解不能」

俺「なにがだ?」

レイナ「……フロアボス戦に挑むにあたって、安定した精神状態を保つ事が重要なのはわかるけど、どうしてロールケーキを食べると皆、緊張が解れてあんな風に談笑したりする余裕までできるのか、理解不能。このロールケーキにそんなデバフ効果はないはずなのに」

俺「システム的なデバフ効果とかの問題じゃないだろ」

高度なAIを持ってはいるが、NPCヘルパーで人間的な思考や感情を今一つ理解していなさそうなレイナには、こいつらがアスナから差し入れされたロールケーキで緊張感が解れたり、楽しそうに談笑するようになっているのが理解し難いのだろう。

俺「なんて言うか、単なる気休めなのかもしれないな……有難い差し入れなのは確かだが、お前の言う通り、ロールケーキを食って、メンタルが向上するデバフなんて無いのも確かなんだ」

レイナ「……それって、麻薬や覚せい剤を使って一時的に精神を高揚させたり、正常な感覚を麻痺させるのと同じ?」

俺「いや……そんな物騒なのとは違うと思うが」

が、そう言えるのは俺も所詮は人間で、人間的な価値観や思考の物差しで言っているからそう言えるに過ぎないのかもしれない。
論理的な思考のAIからしてみれば、普通の食事や嗜好品で気分を紛らわす行為の延長線上にあるのがアルコールやニコチンを摂取してのストレスの発散、更にその延長線上に違法薬物を使って精神を高揚させる行為があるのかもしれない。

キリト「……それじゃいんな、いちおう編成を考えたから聞いてくれ」

全員がケーキを食べ終えたところで、キリトの元に皆が集まり、案を発表する。

キリト「A隊が、ハフナー、シヴァタ、オコタン、ローバッカ、ナイジャン、リーテン。B隊が俺、アスナ、エギル、ウルフギャング、ネズハ、C隊はオズマ、レイナ、ユッチ、デクスターかな」

キリトは俺達4人だけは普段通りのメンバーで組ませるつもりのようだった。と言うか、他の連中にとっても予想していた編成とは違ったようで、一瞬ざわついた空気をシヴァタの声が引き締める。

シヴァタ「……つまり、A隊にタンク、B隊にアタッカーを集めたわけか?」

キリト「そんな感じだ。C隊のオズマ達は遊撃隊ってところだ、あんた達はその方がやり易いし、実力を発揮できると思うしな」

シヴァタ「セオリーとは違うな。均等に割り振らなかったのは何故だ?」

キリト「そうするには少しだけタンクが足りないんだ。盾持ちがシヴァタとリーテンだけだから、2人を違うパーティーにすると、POTローテが間に合わないかもしれない。それならいsっそ、DEFの高い奴をワンパーティーに集めて、そこにタゲを集中させた方がHPを管理しやすいと思う。もちろん、タンク部隊の負担は重くなるけど……」

シヴァタ「それはいいんだが、しかし、タンクを固めると広範囲の同時攻撃には対処しきれないぞ。そこは問題ないのか?」

キリト「あくまでベータの時の話だけど、五層のゴーレムボスは、ブレスとかのエリア攻撃はしない。基本は両手のパンチと両足のストンブ、しかもタイミングは左右別々だ、だから、ヘイト管理さえきっちりできれば、ワンパーティーで防御し続ける事は可能だと思う、」

シヴァタ「なるほどな……」

キリトはシヴァタから視線を外して更に説明を続ける。

キリト「もちろん、最初に俺がボスをじっくり偵察して、想定外の攻撃パターンが無いか確かめる。自洗が始まってからも、ボスのHPケージが変わるタイミングでは必ずボス部屋の外に退避できる態勢を取って、道の攻撃パターンに備える。たった三パーティーでのボス戦だけど、勝算は充分にあるし、一人の犠牲者も出すつもりはない。シヴァタとリーテンが企画してくれたカウントダウン・パーティーを成功させるためにも、そして2023年を希望のある年にする為にも、みんな……力を合わせよう!」

どこまで台本通りなのか分からないキリトの演説だった。

エギル「うおっしゃあ!やったろうぜ!!」

と、エギルがこぶしを突き上げて叫ぶと、全員の「おう!」と言う声が重なった。

立木ナレ「2022年12月31日、午後4時15分。急増のフロアボス攻略部隊は迷宮区タワーへと足を踏み入れたのだった!!」

………

……



「「スイ―――ッチ!!」」

小型ゴーレム(2メートルくらい)の三連続パンチ攻撃を、二つに並んだ鋼鉄の盾で防御したシヴァタとリーテンが、重なった声で叫んだ。
パンチの衝撃を利用して後方にジャンプする二人の真ん中を、ハフナーが両手剣を振りかぶりながら突進し、デクスターが刀を構えて後に続く。
両手剣単発上段切りソードスキル『カスケード』が、小型ゴーレムの額を直撃して、刀踏み込みソードスキル『琲扇』の追撃が加わり、ゴーレムを四散させた。

ユッチ「すっげぇ!二人とも攻撃力は申し分ないっすね!」

それを見ていたユッチがはしゃぎながら感心してそう言った。俺はそんなユッチに向けえ声を掛ける。

俺「今のは当てた場所も良かったんだ、ゴーレムの弱点を的確に付いたからな」

ユッチ「あ、それってもしかして……額の紋章みたいなのっすか?」

俺「そうだ」

ゴーレム族は全員共通して額の紋章を弱点としているらしい、フロアボスにもあるらしく、いかにしてそこを狙うかが重要だ。

俺「さっきのゴーレムはまだ小型だから狙えたが、デカいフロアボスだと攻撃が届かないかもな……」

レイナ「……たぶん、敵の攻撃やスキルの動作で頭を地上に近づけた時が狙い時、それと……」

レイナはキリトと何か話している元詐欺師で今はチャクラム使いのネズハに目を向ける。

俺「奴のチャクラムなら、身長が高いボスにも届くから、奴が重要になりそうだな」

レイナ「……きっとそうね」

俺とレイナがそう言うとユッチが露骨に嫌そうな表情を浮かべていた。未だに元詐欺師であるネズハに対して割り切れない感情が根付いているからだろうな。

ハフナー「いくぞー」
戦後処理が終わったようでパーティーリーダーのハフナーが声を掛ける。キリトはB隊のリーダーとして返事をして、俺もC隊のリーダーなので返事をして、移動を再開する。

それからレイドのリーダーでもあるキリトの提案でA隊が防御とデバフに専念したり、左右と後方からB隊が攻撃と言う作戦を試したりしたが、少し調子に乗りヘイトを溜め過ぎて、ボスの狙いがB隊に移ってしまうシーンが何度かあった。

デクスター「俺達C隊も遊撃隊とは言え、A隊とB隊の状況次第では臨機応変に援護したり、タンクを手伝ったりしたりも必要になるかもな」

俺「そう言うのは面倒でやり難いことこの上ないが、少数パーティーだから仕方ないってのもあるんだよな」

と、俺とデクスターが話していると、途中からダンジョンの雰囲気が妙に変わりつつあるのに気が付いた。

ウルフギャング「なんじゃこりゃ?古代文字って奴じゃろうが?」

左右の壁にはウルフギャングが言ったように、古代文字が刻み込まれ、巨大な柱も四角いゴーレムの頭を積み重ねた彫刻に、床と天井は磨き上げられた黒大理石に。

ユッチ「なんか、通路の装飾が派手に増えてきたっすね……ボス部屋が近そうっすよ」

レイナ「……時刻は午後7時を過ぎたわ」

俺達がダンジョンに入ってから既に三時間が経過してるのか。階段を登った回数は正確には覚えてないが、そろそろボス部屋に辿り着いてもおかしくないだろう。

エギル「やれやれ、やっとこボス部屋か。さすがに迷宮区を一気に突破すんのは楽じゃねぇな」

キリト「いやいや、五層、六層辺りはまだまだ部屋の数も少ないし、構造も単純なんだぜ。十層の迷宮区なんかアホみたくでかくて複雑で、ベータの時は三日かけてもボス部屋にすら辿り着けなかったよ」

ウルフギャング「うっほえぇ……」

ユッチ「気……気が滅入る」

キリトのベータ時代の経験を聞かされて、ウルフが呻き、ユッチも青ざめた表情を浮かべていた。

ウルフギャング「んだば、攻略はそこでギブアップじゃったんか?」

キリト「ギブアップっつーかタイムアップだな。くっそ強いヘビサムライと戦ってる時にベータテスト終了のアナウンスが流れて、はじまりの街まで強制転移」

俺「ヘビサムライ……想像も付かないな」

ウルフギャング「おい、なんじゃいそのヘビサムライってのは。ワシ、蛇超苦手なんじゃよ」

本気で嫌そうな顔をするマッチョマンを見てアスナが微かに笑ったように見えた。茶髪ロングヘア―で顎髭も茶色で、まさにウルフな大男が蛇を嫌がる姿は中々にシュールだった。

ハフナー「おい、あれを見ろ!」

前方を歩くA隊のハフナーの声が聞こえた。連られて前を見てみると、そこに広がっていたのは道路の幅いっぱいに広がっている大階段だった。

レイナ「……天井に大穴が開いてる」

俺「その先に階段が続てるみたいだな」

そして、モンスターの気配はなかった、試しに俺はベータテスター達を脅すと気に散々使った『聞き耳』スキルを使ってみるが、やはりモンスターの鳴き声や物音は聞こえなかった。

キリト「気を付けて進んでくれ!」

キリトが前に呼びかけると、ハフナーの声で応答があった。前方はA隊に任せて、左右と後方を警戒しながら歩き続けて数十秒。
大階段の手前で立ち止まっていたA隊にキリトのB隊と、俺のC隊が追い付いた。

キリト「……横に隙間は無いな……オズマ『聞き耳』スキルでなんか聞こえないか?」

俺「いや……相変わらず物音も、鳴き声も聞こえない、モンスターはいないと判断していいぞ」

ハフナー「つまり、ここを登るしかないって事だな。ちなみに座標は、タワーの大体中央だ」

キリト「う~ん……上がった先にまた通路と扉があるのか、それともいきなりボス部屋なのか……」

シヴァタ「ベータの時は違ったのか?」

後ろからシヴァタがキリトに問いかけると、キリトは振り返って答える。

キリト「ああ。前は普通に扉があって、それを開けたらゴーレムボスの部屋だった。」

俺「だが、ここの構造もそもそもベータ時代とほとんど変わってるんだよな?」

キリト「ああ、だから会談への変更に大きな意味は無いのかもだけど……」

そこに、いつの間にか進み出てきたアルゴが、左手に持ったカンテラを掲げながら言った。

アルゴ「ま、覗いてみるしかないダロ」

キリト「そ、そうだな……んじゃ、いきなりボス部屋だった時の事を想定して、予定通りまず俺一人で偵察してくるよ」

キリトがそんな事を言い出すと、アルゴが珍しく真剣な声を出した。

アルゴ「待った、ここは俺っちに任せてクレ」

キリト「え……?」

俺「なんか、気になる事でもあるのか?」

アルゴ「ああ、この階段が気になるんダ」

レイナ「……もしかして、段が床からせりあがって入り口をふさぐトラップの可能性?」

レイナがその可能性を予想して聞くと、アルゴは真剣な表情のまま首を縦に振る。

俺「確かに、もしそうだったとしても、アルゴなら完全に締まる前に脱出できるかもな」

アルゴ「そういうこっタ」

立木ナレ「迷宮区タワーに潜り込んで既に3時間以上、ボス部屋は恐らく目の前だと思われるが、一同は不可解な階段の前に言い知れぬ不安を感じていた、果たしてどうなるオズマ達!?」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

FILE31 第五層フロアボス戦! ベータ時代と違う!?

立木ナレ「迷宮区のタワーの終着点付近と思わしき場所まで辿り着いた一同だったが、アルゴが気になる階段を発見した。アルゴは自らのAGIの速さであれば、罠だとしても、脱出可能であると言い、自らが先に偵察に行くことを申し出た、しかし……」

キリト「なら、二人で行こう。これは譲れないぞ」

アルゴ「エ~?」

キリトがなぜか頑なに自分も行くと言い出した。

キリト「そんな顔してもダメ!アルゴ程じゃないけどオレだってスピード型なんだからな、階段も動きそうだったらすぐに脱出するくらいのことは出来るよ」

アルゴ「ちぇ、しょーがないナ……」

口を突き出しながらもアルゴは承諾した。ちなみに、俺もステータス的にはキリトと似たり寄ったりでスピードは高い方なのだが、偵察にそう何人も出向いても仕方ないのでここは大人しくシヴァタ達と一緒に階段を見張る事にする。

アスナ「気を付けてね」

キリト「ああ、大丈夫。すぐ戻る」

アルゴが先に行くと、キリトとアスナが小声でそう囁き合った。本当に、ハッキリと聞き取れないほどの小さな声だったはずだ。

ユッチ「ぼ、僕も……アスナさんに心配されたいっすよ……」

アスナ「ええ!聞こえてたの!?」

ユッチが二人の会話を俺以上に正確に聞いていたようで、キリトを露骨に羨ましがってそう呟く。

俺「お前の耳は、アスナの声だけハッキリと聞き取れるように出来てるのかよ……」

エギル「いや、なんか囁き合ってるのは気が付いたが、俺は全然何を言ってるのか分からなかったぞ……」

それが普通だ、よっぽど聞き取ろうと耳を澄ませるか、意図的に『聞き耳』スキルを発動してるかじゃない限り、今の会話は聞き取れないだろう。

アスナ「えっと……ユッチ君もこれから危険だと思うから気を付けてね……」

アスナはユッチに対して多少は気を遣ったのか、引き攣った笑顔で、顔から汗をかきながら、ユッチにそんな言葉を投げかけた。
アスナもユッチが見るからに自分よりも年下だと分かっているから、多少優しく接してやってるんだろうな。

ユッチ「ありがとうございますアスナさん!アスナさんに心配してもらえて光栄っす!何かあったら僕を頼ってくださいっす!!」

そして、アスナにそんな事を言われた位でユッチは生き返ったような勢いで、目を輝かせてアスナに敬礼していた。

レイナ「……理解不能、なぜユッチはアスナに心配されると急激に士気が向上するのか……私には分からないわ」

俺「んな事一々分からなくていいんだよ、俺にも、と言うかここにいる連中の殆ども理解不能なんだからな」

レイナ「……なら、良い」

デクスター「それはそうと、アイツら、2人だけで大分、上の方に行ったみたいだが、本当に大丈夫か?」

そこで、デクスターがキリトとアルゴの事を心配したようで、そう言いだす。デクスターはまだキリトが本気で戦う事や、アルゴのAGIの速さを目の前で見た事ないので、心配になるのも無理はないだろう。

ネズハ「大丈夫ですよ、キリトさんの強さなら何かあっても切り抜けられるはずですから!!なにせ、攻略組プレイヤーの中でもトップクラスの実力の片手剣使いですよ!」

色々あったらしく、ネズハは妙にキリトの事を慕って、その実力を称賛しているようだった。
が、キリトに対して嫉妬心丸出しのユッチがネズハの言った事に対して聞き捨てならないと言わんばかりに鋭い目つきを向ける。

ユッチ「は―――!?何言ってんだよお前!攻略組でトップクラスの実力の片手剣使いって言ったらオズマさんの方だろ!確かにキリトも凄いんだろうけど、オズマさんに敵うかっての!!」

こいつはこいつで、まるでキリトに対抗するかのように、俺を推してくる。迷惑ではないが、正直有難いとも思わない。

ネズハ「で、でも……・確かにオズマさんも凄いですけど……実際にキリトさんの戦いを目の前で見るとやっぱりその……僕はキリトさんが一番の片手剣使いかと……」

デクスター「だそうだぞオズマ」

別に元詐欺師がどっちが強い、どっちが弱いとかの評価なんて一々気にしてても仕方がない。
はっきりと『どっちでも良い』と俺が言おうとした時だった。

レイナ「……実際にオズマとキリトが初撃決着モードのデュエルで対決した場合……オズマの勝率が54%、キリトの勝率が46%でオズマが若干有利と推測できるわ」

こんな話に全く無関心なんじゃないかと思っていたレイナが、いきなりデュエルすれば俺が勝つ(僅差だが)等と言い出した。
すると今度はアスナが若干ムキになったかのようにレイナの方を見て口を尖らせる。

アスナ「な、なによその具体的な%数字の勝率?何を根拠にオズマ君の方が少し有利だって言うのかきちんとした説明がない限りは納得しないし認めないわよ!!」

ユッチ「ええ――――!?あ、アスナさんはキリト派っすか!?」

アスナがキリトの勝率を多少低めに推測された事に対して露骨に食ってかかり、その様子を見てユッチがまたしても嘆き始める。

ハフナー「そうだな……キリトもオズマも片手剣使いだが、習得してるソードスキルは結構違うから、差別化は出来るんだよな」

エギル「左手にソードブレイカーを持ってるオズマが若干優位かもしれねぇとは思ったが、キリトだって何も考え無しで左手に盾やソードブレイカーを持たないわけじゃねぇだろうからな」

リーテン「えっと……私からして見たらキリトさんもオズマさんも凄すぎるからどっちが強いとか分からないです……」

何時の間にやら、オズマの方が強いだとか、キリトの方が強いだとか、そんな、今話さなくてもいいような話で騒ぎ始めていた。
特にレイナが俺の方が強いと頑なに主張し、それに対抗してアスナはキリトの強さを力説し、二大派閥の代表同士のような構図になっていた。

俺「ったく、当事者の俺とキリトを蚊帳の外にして何時までこんな話を続けて……」

キリト「アルゴ――――ッ!!」

突如、上からキリトの絶叫がここまで響き渡り、俺達の会話はピタリと止んで、上の方に一斉に視線が向けられた。

ネズハ「ど、どうなってるんですか一体!?」

アスナ「キリト君があんな大きな声出すなんて、アルゴさんにきっと何かあったんだわ!!」

デクスター「あの様子からして相当なやばい状況になったか……予想してない事態に発展したか……」

一体上で何が起きているんだと思っていた矢先だった。

アルゴ「キー坊、来るナッ!!」

今度は、アルゴのこれまで聞いたことの内容な鋭い叫び声だった。

俺「どうやら、キリトがアルゴを助けようとして、アルゴがそれを止めようとしたって感じだな」

レイナ「……いずれにしよ、アルゴが危険な状態に置かれた事は確定」

事実、アルゴのHPバーは徐々に減っているのが確認できる。別パーティーでも簡略版のHPケージは見えるので、否応でも分かるのだった。

ウルフギャング「もう、じっとしれられんぜよ!何人かで様子を見に行ったほうが良いんじゃないんか!?」

ハフナー「ああ、何かあってからじゃ遅いからな、俺が様子を見てくる!」

アスナ「私も行きます!」

ハフナーが先頭で階段を登りだすと、アスナも一目散に駆け出す。すると今度はそれに続いてウルフギャング、シヴァタとリーテンとオコタンも続いて追いかけ始める。

俺「ったく、じっとしてる時間はもうおしまいだな」

ユッチ「オズマさんも行くんっすか!?」

俺「ここにいても何も分からないままだからな、お前らはどうするんだ?」

レイナ「……オズマが行くなら私も行くわ」

デクスター「俺も行く、もうここで待ってる意味も無いかもしれないからな」

レイナやデクスターも行くことを示すと、ユッチも渋々と言った感じで行くことに同意する。

エギル「そっちも全員行くんだな、俺らも全員一致で行くことにしたぜ!」

俺「おし、急いで登るぞ!」

残った者達も、一気に階段を駆け上がる。大階段を駆け上がると、行く手の暗闇が近づいてくる。やがて階段は通路の天井に潜り込み、しばらくそのまま続いた。

俺「どうやら、俺達がさっきまでいたフロアと、上のフロアを隔ててる床面が異様に分厚いって事だな」

デクスター「と言うか、急に冷気を感じて来たぞ」

間違いない、これはボス部屋の空気だ。

レイナ「……オズマ、一つの懸念に気が付いた」

俺「懸念だって?」

そんな時に、レイナが相変わらず変化のない表情で、そんな事を言ってくる。

俺「ボス戦に関係のある事か?」

レイナ「……と言うよりも、その先の事で」

ハフナー「―――おいっ、大丈夫か!?」

レイナが話し終える前に、一番先頭のハフナーがキリト達を発見したようで、階段の上の広間に向かって叫んでいた。
しかし、ボスらしきモンスターの姿は見当たらなかった。

シヴァタ「なんだ、まだボスは出てないのか―――」

キリト「回避!回避――――!!」

シヴァタの拍子抜けしたような声をキリトの大ボリュームの絶叫が遮った。

俺「あ、青床か!?」

そこで俺は初めて、足元に青い光のサークルがある事に気が付いた。他の連中もキリトの言った事の意味をどこまで理解したか分からないが、コンマ三秒後には咄嗟の反応速度で大きく飛び退いた。しかし、狭い範囲に14人がバラバラに跳んだために、A隊のシヴァタとローバッカが交錯してバランスを崩してその場に倒れ込んだ。
そして、ラインを踏んでいた者達の中にはそのローバッカも含まれていて、二人が倒れたその真下には巨大な目玉のようなターゲットサークルが出現していた。

ユッチ「げぇ!な、なんだこれ―――!?」

ユッチの叫び声とほぼ同時に、ゴゴゴン!と立て続けに轟音が響き渡った。床からは日本の巨大な腕が突き出して、天井からは二本の巨足が降り注いだ。

シヴァタ「ぬああ!?」

ローバッカ「うおおっ!」

左手がシヴァタとローバッカを二人まとめて掴んで、空中に運び去った。

デクスター「二人のHPが減ってるぞ!」

デクスターの言う通り、レイドを組んでいるがパーティーが違うので二人のHPバーは簡略版だが、視界の端で小さな横棒がじわじわと減少しているのが分かる。
リーテンとハフナーが早速武器を取り、腕を攻撃しようとしているが、その周囲では空振りした右腕と、二本の足が床と天井に戻っていた。

俺「おいおい、これもベータの時と同じなわけないよな?」

アルゴ「全然違う!モンスターの見た目も攻撃パターンも何もかもが違ってるんダ!」

ベータテスターのアルゴが珍しく焦り気味の様子でそう叫んだ。

今優先すべき行動は腕に掴まれた二人を救出する事だが、この狭い場所で全員がソードスキルを乱発すると、同士討ちになりかねない。

キリト「腕に、パラレル!!」

キリトの指示に真っ先に反応したのは、まるで待っていたと言わんばかりのアスナだった。深い踏み込みから、ソードスキル『パラレル・スティング』を発動させる。超高速の二連突きが黒い腕にヒットした。

すると二人を掴んでいた拳が開いて、シヴァタとローバッカを解放して十メートルの高さから落下したが、リーテンとハフナーとデクスターの三人がかりで受け止めるが、4人のHPが僅かに減少した。

俺「すぐに続くぞ!」

俺はアスナが攻撃を加えて、シヴァタとローバッカを解放した腕に向けて、瞬時に踏み込みからソードスキル『スピンドライブ』で空中で大車輪のように回転しながらの斬撃をお見舞いした。
しかし、緊迫状態はまだ続く、腕と足はすぐに引っ込み、階段のすぐそばのネズハとユッチの足許と、近くにいるオコタンとナイジャンの上空に新たなターゲットサークルが出現しつつあった。

アルゴ「もう退避は無理ダ!」

キリトの隣のアルゴが叫んだ。確かに、床のラインは、外周部が最も隙間が大きく、階段に近づくほど密になっていた。

レイナ「……全員がラインを踏まずに階段を下りるのは、不可能」

キリト「―――みんな、最寄りの壁際まで走れ!!」

一斉にキリトの指示を受けて全員がダッシュする。直後、階段の側のサークルから手が突き出し、その近くを二つの足が激しく踏みつける。

キリト「壁まで行ったら、床のラインを踏まないように止まるんだ!!」

俺達は走りながら足許を見る。ラインは未だに不規則に変動中で、回避は不可能だった。ラインの動きが徐々に速度を落とし、視認できるようになり、更に減速……

キリト「ここだ!!ラインを避けて止まれ!!」

キリトの三度目の絶叫、僅かなタイムラグの後に俺たちは一斉に止まった。

俺「ターゲットサークルは出ない……よな」

ネズハ「あっ……」

俺が確認するように言った直後に、ネズハの細い声が聞こえた。片足立ち状態で両手をぐるぐる動かしながらバランスを取ろうとしていた。

デクスター「何してるんだアイツ?すぐ近くに結構デカい隙間があるのに」

デクスターの言う通りだ、ネズハはさっきから宙に浮いている右足をそこに降ろしかねているように見える。

キリト「もうちょっとがんばれ!」

キリトが声を掛けて、慎重にラインの隙間を踏みながらネズハに近づいた。ネズハはキリトの伸ばした左手を伸ばし、しっかりと掴んで支えられた。

キリト「だいじょうぶ、そこに足を降ろせ……真下でいい、そう、OK」

ネズハ「す、すみません……」

ようやくネズハが体を安定させた。ひとまず16人全員がラインを避けて停止して、インターバルを作る事が出来ていた。

レイナ「……彼もしかして」

キリト「ダメージを受けたやつは、POTを飲みながら聞いてくれ!どうやらさっきの腕と足が、このフロアのボスみたいだ!床に青いラインがあるだろ!それを踏むと、床と天井のラインがランダムに動き始めて、踏んだ奴の足許か頭上にターゲットサークルが出る!ラインの動きが止まると、床からは腕が生えて掴み攻撃、天井からは足が生えて踏みつけ攻撃をしてくるんだ!」

エギル「……ってことはぁこうやって線を跨いで止まってる間は、腕も足も攻撃してこねーのかぁ―――!?」

エギルが怒鳴り声でキリトに聞き返していた。キリトとはかなり離れているが、その怒鳴り声はフロア全体にまで響き渡ったようだった。

キリト「そういうことだ!崔ぢ亜で、腕が二本、足が二本、同時に攻撃してくる!腕に掴まれると10メートルくらい持ち上げられて、HPと防具の隊きゅどに同時にダメージを受ける!けど、片手武器の二連撃クラスのソードスキルを命中させると、掴まれた奴を解放できる!」

ならば、俺の場合は『ソードレイン』や『スピンドライブ』、『ドラゴンスゥワーム』当たりで掴まれた奴を解放できそうだ。

キリト「足の方は、まだ踏まれて二から攻撃力は分からないけど、多分腕よりもダメージはでかいと思う!あと、二層のバラン将軍みたいに、踏んだところから衝撃波が広がるから、それに足を取られるところ転ぶ危険があるぞ!」

俺達は一斉に頷いていた。

キリト「えーっと、以上!!」

立木ナレ「キリトがそう叫ぶと、広間に虚をつかれたような沈黙が広がった、ベータ時代とは大幅に異なると言う、第五層のフロアボス。僅か16人のレイドパーティーはこの危機をどう切り抜ける!?」

目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

FILE32 窮地!ボスの正体!

キリトの説明が終わると、数秒経ってから、アスナが声を上げる。

アスナ「じゃあ、このままこうしてても、ボスは攻撃してこないし、こっちも攻撃できないの?」

キリト「そう……だと思う。不幸中の幸いと言うか、フルレイドだったら絶対に全員がライン踏まないで静止なんかできないと思うけど、この人数だからなんとか……」

何か迷っているのか、そこまで言ってからキリトは考え込んで黙り込んだ。

デクスター「どうした?なにか気が付いたか?」

キリトは答えない。と言うか、答える前に事態が変わったのだった。階段の真上、天井中央部のラインだけが勝手に動き始めた。かといってこちらは何もできず、全員が息を呑んで見上げていると―――
ごん、ごごんびっくりと重低音を轟かせ、天井が複雑な形に出っ張り始めた。

ユッチ「な、なんていいますか~……昔の3Dゲームみたいな~、ごつごつした感じの見た目になって来てるっすよ……」

俺「顔だけで3メートルくらいになりやがったな」

そして、青白い光輪が生まれ、額の中央に複雑な怪奇な紋章が浮き出した。巨大な頭の上部に、六段のHPバーが表示された。
一本目が微妙に短いのは、俺やアスナが腕にヒットさせたソードスキルによるダメージの影響だろう。
そして、第五層フロアボスの固有名が表示される。

【Fuscus the Vacant Colossus】

俺「全然読めねぇ……」

レイナ「……フスクス・ザ・ヴェイカントコロッサスよ」

俺「へぇ~、意味は分からんが、フロアボスっぽい名前だな」

ハフナー「ていうかオズマ、アンタ今までそうやってずっと、そのレイナさんに英名を訳してもらってきたのかよ……」

俺「小卒なもんでな、ローマ字以外は全くダメなんだよ」

ハフナーが呆れ気味にこっちを見ているが、今は俺の英語力の低さなんてどうでも良い。

アルゴ「やっぱりモンスターそのものがベータの時と違うんダ」

俺「今までのフロアボスもベータ時代とある程度の違いはあったようだが、ここにきて、全面的に変わり果ててるとはな」

おそらく、最初からベータ版と正式版では全く違うフロアボスとして設計されていたんだろう。
そして、フロアボスの額の青い紋章が、不吉なほど鮮やかな赤に変色した。

ユッチ「ゆ、揺れてるっす!」

俺「これは、単なる雄叫びだ!」

迷宮区全体を震わせるほどの重低音の雄叫びで、レイドメンバーの殆どが大成小なりよろめいていた。

デクスター「全員、床のラインを踏まないようにしろ!」

レイナ「……皆のHPバーの下に防御力低下のデバフアイコンが表示されたわ」

更にそれまで静止していた蒼い線が一斉に動き出した。

俺「あの雄叫びを聞くと、デバフをもらうらしいな……」

ユッチ「防御も回避も出来ないデバフ効果なんてずるいっすよ――――――!!」

全く持って脅威的過ぎる……そこで、金縛りから解放された様にキリトが大声をで叫ぶ。

キリト「散開してラインの動きをしっかり見るんだ!極力避けて、もし踏んじゃったら床と天井を両方見て、サークルが出たら大きく回避!余裕があれば出てきた手足に攻撃!」

俺達が一斉に応答すると、キリトは近くのネズハに対して何かを言っているようだった。

俺「とにかく、誰かがラインを踏まないと、攻撃のチャンスも来ないだろ!」

キリト「解ってる!俺がわざとラインを踏むから、ソードスキルで攻撃の準備を!」

アルゴ「おいサ!」

アスナ「解った!」

アルトとアスナが返事をした。

レイナ「……キリトはタンク主体のA隊、アタッカー主体のB隊の編成をしたけど、ベータ時代と何もかもが違うフロアボスがこのまま変則攻撃をして来たら、フォーメーションは逆効果になるわね」

俺「そこは、俺たち遊撃隊が上手くやるべきだろ。多分キリトも、何か不測の事態や予想してたのと違った時の為に、俺達だけタンクとかアタッカーとかに分けないで、敢えて遊撃隊のままにしたんだ」

自分で言っていて、奴が俺達に対してそれ相応の信頼を置いていたことに少しばかし驚いた。初対面のデクスターはともかく、第一層でキリトにベータテスターであることをネタに強請を仕掛けてきた俺とレイナ、そしてビーターである事や、アスナと一緒にいる事で露骨に敵意を向けているユッチ。
俺達のメンツは決してキリトと穏やかな関係とは言い難い間からだと言うのに。

キリト「行くぞ!」

床を回るラインが速度を大きく落としたところで、キリトが叫びながら右足で意図的に一本の線を踏んだ。
すると、一斉に他のラインが反応して、キリトの足許にターゲットサークルが出現する。それが固定した瞬間に、キリトは思い切り飛び退る。
黒い腕がキリトのすぐそばを通り過ぎて、それを、四方向からキリト、アスナ、アルゴ、デクスターが取り囲んだ。
キリトは縦二連撃『バーチカル・アーク』を発動し、アスナは再び『パラレル・スティング』をデクスターは『月閃光(げっせんこう)』を、更にアルゴの技名は分からないが、右手のクローの三連撃攻撃を発動した。

ユッチ「なんか……皆地味なソードスキルっすね」

俺「仕方ないだろ、あの狭さで四人で取り囲んでド派手な攻撃範囲のソードスキルを使ってたら同士討ちしかねないからな」

レイナ「……けど、確実に一本目のHPバーが減ってるわ」

俺「にしても、さっき食らった防御低下デバフはまだ消えそうにないな……」

消滅が近づくとアイコンが点滅するのだが、それすらないと言う事は長いデバフ時間のようだった。

シヴァタ「あ!また雄叫びが来るかもしれないぞ!」

シヴァタがそう叫んだのは、ボスの顔が口を大きく開けようとしているところだからだろう。実際に額の紋章も赤くなっている。
だが、さっきと違うデバフの可能性も有る。

ユッチ「もうデバフは沢山だ―――――!!」

だが、ユッチが叫んでいると、ボスが雄叫びを上げる前に、ネズハのチャクラムがボスの額に直撃していた。

ユッチ「あ……助かった?」

俺「一応、紋章が青に戻ったな」

巨大な顔は怯んだように口と目を閉じながら少しだけ天井に引っ込んだ。

俺「額が弱点なのは、ベータ時代と同じなんだよな?」

キリト「ああ、ボスの何もかもが変更されたと思ったけど、そこだけは変わってなかったみたいだ」

デクスター「そいつは不幸中の幸いだ、デバフボイスをキャンセルできるだけでも相当楽だからな、でかしたぞネズハ!」

ネズハ「きょ、恐縮です……」

デクスターがネズハの功績に対してそう言うと、キリトも親指を立てた左手を突き出していた。
直後にラインが停止。今度は床ではなく天井にターゲットサークルが現れたが、やる事は同じだった。
ゴーレムの足を回避したら、3~4人でタイミングを合わせてソードスキルで攻撃で良いだろう。

ハフナー「要領は解った!次は俺達も攻撃してみる!」

エギル「こっちもやるぜ!」

オコタン「我々もやってみます!」

ユッチ「ぼ、僕らだってやる!」

大広間を見てみると、階段の北側にハフナーとシヴァタとリーテン、東側にエギルとウルフギャング、南側にオコタンとローバッカとナイジャン、そして中央付近に俺、レイナ、ユッチのグループが出来ていた。

キリト「任せた!!ぶちかましてやれ!!」

それからは、停止する瞬間にわざとラインを踏んで、襲ってくる腕や足を回避してソードスキルを叩きこむ。ボス顔のデバフボイスは、ネズハのチャクラムがキャンセルする。俺達はこのパターンを繰り返し、三度目辺りからは危なげなくこなせるようになった。
ボスのHPバーは順調に一本目、二本目、三本目と消滅していった。残りのHPバーが半分を過ぎて四本目に突入しても今の所ボスの行動パターンに変化はなかった。
そして俺も、このままならいけると考えて既に何度目かの『レインソード』を発動させた時だった。

ネズハ「キリトさん!壁を!!」

ネズハの驚愕を孕んだ叫び声が聞こえたのだった。俺も何事かと壁を振り向くと、これまでは黒無地だった壁に、床と天井から青いラインが伸びていた。
双方が次々と接合して隙間を埋めていく。

キリト「……A隊、B隊、C隊の順に階段から待避!」

キリトがそう指示をした。全員がボス部屋から離脱し、ボスのアグロ状態が解除されると今まで削ったHPも急激に回復されるが、初見の深追いは危険だ、キリトは自分が一人残って新たなパターンを見極めるつもりなのだろう。

ハフナー「だが……!」

そう叫びかけたハフナーのマントを無言でシヴァタが引っ張り、無念そうにハフナーは頷いて中央の階段に走っていった。

ユッチ「い、良いのかよ……せっかくここまで順調だったのに」

俺「急激に行動パターンが変化したら対応しにくいだろ?今はキリトの指揮が正しいんだ!」

ユッチも納得しかねていたが、俺がそう言うと渋々納得して階段に走る。俺達は誰もが今まで通り、ボス部屋には脱出口が必ずあると思い込んでいたんだ。

デクスター「おい……デカい顔が消えてないか?」

ユッチ「あ、あれ!?ど、どうなってんだ一体!?」

アスナ「……キリト君!」

アスナの鋭い叫び声をあげながら天井を指さすと、キリトもそれに気が付いたようだった。
そう、出現以降ずっとそこに張り付いていたはずの巨大な顔がいつの間にか消えていたのだった。

俺「残り3本のHPバーはまだ残ってるから倒せたわけじゃない、床にも天井にも、壁のラインもまだ動き回ってるんだぞ……」

一体顔はどこに行ったんだ?妙な違和感を感じながらあたりを見渡してた時だった、下り階段が急激に形を変えて、巨大な口となってシヴァタに迫っていた!

リーテン「シバ、だめっ!!」

リーテンの悲鳴が聞こえた。瞬時にリーテンの方に目を向けるとそこには床の中央、確かに数秒前まで階段があったはずの場所に盛り上がるボスの顔と巨大な口に腰のあたりを加えこまれたシヴァタの姿が飛び込んできた。

ユッチ「な、なんなんだこれ!?なんで!?てか、下り階段はどこ行ったんすか!?」

俺「階段が口になりやがったんだよ!!」

ハフナー「やっぱりそう言う事かよ!」

俺とハフナーはキリトの方に向かってそう叫びながら、ボスの口からシヴァタを引っ張り出す為にボスの口を何とか押し開こうとする。
そうだ、唯一の脱出口であった下り階段がボスの口に変化してしまった事で、もう誰もこの広間から出られなくなったのだった。
今の所シヴァタのHPは減っていないが、鎧の耐久値は減少し続けており、鎧が破壊されたらその瞬間に致命的なダメージを追う事は間違いなかった。

シヴァタ「ちっきしょ、またかよ……」

序盤に掴み攻撃も食らってるシヴァタが両手でボスの口を押し開こうとしながら毒づく。俺とハフナーとリーテンでそれにきょうりょくしているが、巨大なあぎとが緩む気配が全くない。
顔の反対側ではエギルの両手斧とレイナの両手剣で何度も弱点の額を攻撃しているが、天井に張り付いていた時はネズハのチャクラムで簡単に怯んだ時とは違って、平然と跳ね返していた。
その攻撃に数名が加わろうとするが、それをレイナが制した。

レイナ「……ダメ、腕や足と一緒でソードスキル以外は効果がないかもしれないけど、これ以上派手に攻撃するとシヴァタを巻き込むわ」

キリト「くそっ……顔だの腕だのが生えて来たり消えたり、このボスはづなってるんだ……!」

アスナ「フスクス・ザ・ヴェイカントコロッサス……そう言う意味だったのね」

ユッチ「え?どういう事っすかアスナさん?」

キリトが絞り出したようにそう言うと、アスナが名前から何かを理解したようにそう呟いた。
そもそもアルファベットの綴りの読み方すらレイナに呼んでもらっている俺には到底不可能な事だ。

アスナ「ヴェイカントは『虚ろな』、コロッサスは『巨象』。虚ろな巨象……それはたぶん、この大広間の事よ。部屋そのものが、五層のフロアボスなんだわ」

レイナ「……私たちはこの大広間に着た瞬間から、ボスの内部に閉じ込められたも同然だったのね」

キリト「…………!!」

俺「空間全てがボスの身体なら、腕を出そうが、足を出そうが、階段を口にしようが何でもありって事かよ」

キリト「いくら魔法のゴーレムだからって、こんなの――――」

シヴァタ「ダメだ、外れない!」

キリトの呻き声にシヴァタの叫びが重なった。

ハフナー「諦めるな、シヴァタ!」

俺「そうだ、まだ鎧だって壊れちゃいないんだ!」

リーテン「シバ、今助けるから!!」

俺達は三人で助けながら励ますが、隣のリーテンの声が恐怖に響いているように感じた。

シヴァタ「もう無理だ……そろそろ鎧が壊れる!リっちゃん、口から手を離せ!!」

シヴァタの、覚悟を決めたような叫びにリーテンが激しくかぶりを振る。

リーテン「いやだ!!絶対……絶対助ける!!」

シバとかリっちゃんとか、妙な愛称で呼び合ってる二人の関係を今は気にしている場合じゃない。
今はまだシヴァタのHPはフル状態に近いのだから、余裕があるうちに多少強硬な手段を使ってでもどうにかすべきだろう。

キリト「エギル!レイナ!ソードスキルで、額の紋章を攻撃するんだ!」

キリトも似たようなことを考えたようでエギルとレイナに指示を飛ばすが.

エギル「駄目だ……こいつ、紋章がねぇんだ!!」

レイナ「……少なくとも、階段が口に変化したときには紋章が消えていたわ!」

キリト「な……」

ユッチ「ええ――――――!?じゃ、ど、どうすりゃいいんだよぉ――――!?」

ユッチの絶望的な悲鳴が大広間に響き渡った。既にこいつは狂乱状態の一歩手前だが、ここでシヴァタが死んだら、他のメンバーまで恐慌状態と化して、ボスの攻撃の餌食になりかねない上に階段が消えているから脱出も出来ない。

立木ナレ「まさに万事休す!打つ手なし!脱出不可!そして死に迫るシヴァタ!!果たして第五層フロアボスに挑んだメンバーはここで朽ち果てるのか!?」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

FILE33 決着!フスクス戦!

立木ナレ「第五層フロアボスの正体はその迷宮区そのものであった!唯一の脱出口であった下り階段はボスの口と化して、シヴァタの命を刻一刻と奪おうとしていた。誰もが絶望にとらわれ、終わりの時を待つのみと思われた、その刹那!!」

リーテン「シバを……殺させて、たまるかあぁぁぁ―――ッ!!」

雄叫びをあげながら、リーテンが予想外の行動を取った。リーテンはフスクスの四角い顎に飛び乗ると、シヴァタを咥え込む口の中に躊躇なく入り込んだ。

デクスター「やばい、シヴァタの鎧が!」

シヴァタのアイアンメイルが、青い欠片と化して砕け散った。そしてゴーレムの無数の歯がそのままシヴァタの胴体に食い込んだが、飛び込んだリーテンのスチールブレードに激突し、強烈な衝撃音と大量の火花を生みながら停止した。

シヴァタ「な……リっちゃん、どうして……!!」

リーテン「だって私、タンクだから!守るのが仕事だから……!!」

リーテンは、両手でフスクスの口を押し開こうとしながら答えた。ここで俺はこんな状況下で初めて、ALSの新米タンクのリーテンが女性プレイヤーだったことに気が付いた。
俺はそのリーテンの姿を見たからかどうか分からないが、自分のアイテムストレージから、この迷宮区に来る途中でドロップした耐久値に特化したランス『シルバーメタリックランス』をオブジェクト化させる。

俺「こいつも、使え!!」

ユッチ「ああ、オズマさんそれって!?」

ゴーレムの口の中にランスを縦に向けて放り込み、閉じようとするゴーレムの口を阻む役割を果たさせる。

シヴァタ「オ、オズマ……それって今の所、この迷宮区でドロップする以外で手に入らないレア武器だろ!?」

シヴァタがバカな事は止めろと言った様子でそう言うが俺はその言葉を一蹴する。

俺「それがどうした!こんなのは幾らでも手に入れようと思えば手に入るし、そもそも俺は槍使いじゃない!これを売って得る金を逃すより、ここでアンタって言う戦力を失う方が遥かに痛手なんだよ!!」

シヴァタ「……す、済まない」

リーテン「オズマさん、ありがとうございます!!」

僅かながらシヴァタの命を繋ぐ時間が出来たところで、キリトも考えがまとまったようで俺達から離れた所から叫んだ。

キリト「みんな、なんとかしてラインを避けてくれ!無理そうだったら、ボスの顔に登れ!」

俺たちは一斉にキリトの方を向いて頷いていた。装備重量の重い、ハフナー、ナイジャン、オコタンがボスの両頬と額によじ登り、エギル、ウルフギャング、ローバッカ、デクスター、ユッチは散開して床に集中する。

キリト「アスナ、アルゴ、オズマ、レイナ、それにネズハ!ラインを踏んで、腕と足を出してくれ!そのどこかに、弱点の紋章があるはずだ!見つけたら、それを全員で攻撃!」

アスナ「了解!」

アルゴ「わかっタ!」

俺「ああ!」

レイナ「……了解」

ネズハ「やってみます!」

俺達はほぼ同時に応答した。ラインが連動スピードを落とし、足の下を通過するたびに、一瞬反応する様子が見て取れる。

俺「来やがったな……!」

レイナ「…………」

俺とレイナの目の前にフスクスの腕が通り過ぎたが、紋章を見る事は出来なかった。フスクスの左腕は今度はキリトの目の前に伸び上がる。

ネズハ「――――ありましたあああッ!!」

ネズハが裏返ったような声で絶叫していた。壁の近くに陣取っていたネズハは左足の膝裏辺りを差していた。

俺「って、あいつ、紋章探すのに必死でショックウェーブを避けられなかったのか!」

ネズハは床に倒れ込んだまま、未だに立ち上がれないようだった。攻撃を終えた足が、ごごごと震えながら上昇し始める。

キリト「逃がすかッ……!」

俺「まだ、スピンドライブなら届く!」

キリトが猛然とダッシュしながら剣を構え、俺はその少し前を走りながら回転ジャンプ斬りソードスキルの『スピンドライブ』を発動しようと……

アルゴ「頭を下げろ、キー坊、オー君!!」

アルゴのそんな叫び声が真後ろから聞こえて、俺もキリトも反射的に上体を丸めた。直後、背中に強い衝撃が走った。

俺「あ、アイツ、俺とキリトを踏み台にしたんだな……」

顔を上げると、キリトと俺を踏み台にして高々とジャンプしたアルゴが一瞬だけ見えた。AGI全振りが為せる技だろう。
アルゴはジャンプが頂点に達した瞬間、右手のクローのソードスキルを発動させる。

レイナ「……あれは、クロー系突進技『アキュート・ヴォールト』よ」

俺「鼠のニック―ネームには似つかわしく無い名前の猛撃だな……」

天井に戻ろうとした左足の膝裏を深々とアルゴのクローが抉った。床に生えたフスクスの顔が、口を思い切り開いて叫んでいる。音の圧力に押されたかのように、シヴァタとリーテンの身体が舞い上がり、並んで落下した。

ユッチ「やった!二人とも無事っすよ!!」

デクスター「リーテンのアーマーは壊れてないようだな……あれなら鍛冶屋で修正できるだろう」

二人を吐き出したフスクスの顔が、口を開いたまま床に沈み込み消えた。後には元のままの下り階段が残された。

ハフナー「シヴァ!命拾い出来たじゃねぇかこのやろー!」

感極まったハフナーがシヴァタに飛び掛かり、抱きかかえるようにして助け起こした。リーテンにはオコタンが手を貸して立ち上がらせる。

俺「なんとか……最悪の事態は回避できたな」

レイナ「……けど、ボス戦はまだ終わってないわ」

俺「ああ、フスクスの笑い声が聞こえてきやがる……」

ヴォッ、ヴォッ、ヴォッ、と異様な笑い声はフロアにいる全員に聞こえているようだった。弱点の紋章は額に戻ったようだが、また何時消えるか分からない。

キリト「――みんな!喜ぶのはもうちょっと先だ!変化したパターンも分かったから、しばらく戦闘を続けてみよう!ただ、シヴァタは階段で下に降りて、HPを回復してくれ!」

シヴァタのアイアンメイルは砕けてしまったので、その判断は賢明だろう。だが、シヴァタは大声でキリトに言い返す。

シヴァタ「悪いけどその命令だけは拒否させてもらう!ボスを倒すまで、もう絶対にあの階段は下りん!!」

キリト「でも、鎧が……」

シヴァタ「予備位用意してる!まだまだ戦えるさ!」

シャツだけになっていたシヴァタの身体を新たな重装鎧が包む。

デクスター「それで、しばらくは戦えそうだな」

シヴァタ「ああ、さっきのよりは強化度合いは落ちてるが、タンクの役目は果たせる自信ならある」

キリト「……解った、でも無理はするなよ!」

キリトの言葉にシヴァタはポーションを飲みながらサムズアップで応じた。そして、床のラインが再び動き始める。

俺「もうしばらく、きつい戦いが続きそうだな……!」

キリト「だが、必ず勝てる!誰も死なせないで勝つんだ!」

それからの戦闘は、パターン安定とは言えるほどではないが、重傷者を出す事なく推移した。
30分近く掛けて、フスクスのHPバーは四本目、五本目が削られ、戦闘開始から一時間が経つ午後八時五分、ついに最後の六本目に突入した。

フスクス「―――ヴォオオオオオオ!!」

俺「両眼のリングの色が変わったぞ!」

キリト「またパターンが変わるぞ!POTが足りない奴は申告してくれ!」

ハフナー「ちっと危ねぇ!」

ウルフギャング「ワシもじゃ!」

ユッチ「僕も!僕もだよ!」

ハフナーとウルフギャングとユッチが叫ぶと、キリトはストレージから回復ポーションをオブジェクト化させて三人に渡した。
そして、その間にも青いラインが大広間全体に広がりながら、今までと違うパターンで動き出していた。
床の階段を中心にラインが縮小し、外周部へと戻っていく。無数の先端は壁に達するとそのまま垂直に這い上がり、天井中央の顔へ集まる。

ハフナー「今まで散々苦しめてくれやがったな……!倍返しと行こうぜ皆!!」

ハフナーの意気込みを合図に16人は一斉に身構えた。ラインが四本の太い束に寄り集まり、その先端にターゲットサークルが出現する。

俺「って、こっちか!」

ユッチ「うわぁっ!」

真下にいた俺とユッチは素早く待避するが、サークルから出現した腕と足の動きは遅かった。フスクスの手足は今回は膝やひじが現れても、そのまま輪移出し続けて、肩や腰までもが露になる。

フスクス「ヴォオオオアアアア!!」

デクスター「ついに、全身のお披露目か!!あんまりいいスタイルとは思えないがな!!」

デクスターの皮肉通り、雄叫びと共に、フスクスは初めて人型のゴーレムとして天井から分離した。

キリト「後退―――!!」

俺達はキリトが叫ぶよりも先に、全員でフロア南側にダッシュする。

ユッチ「うわっ!ボスが床に着地したっす!」

俺「振り返らずに走れ!」

キリト「ボスが人型になれば、最初の作戦通りに戦えるぞ!A隊がブロック、B隊とC隊はアタック、ヘイト管理を最優先!」

ハフナー「わ……解った!」

A隊リーダーのハフナーが先に答えて、パーティーメンバーに集合を掛ける。

俺「俺達C隊はボスに回り込むぞ、ソードスキルをいつでもぶつけられるようにするんだ」

レイナ「……解った」

ユッチ&デクスター「「了解!!」」

キリトやアスナ、エギル達も左右に回り込み、ボスの正面に重装部隊、背後に軽装部隊が陣取って、それぞれの武器を振りかざす。

キリト「ラスト一本、全力で削るぞ!」

一同「「「おう!!」」」

俺達の応答と同時にボスが右足を前に踏み出した。即座にA隊のメインタンクのシヴァタとリーテンが前に出て左手の盾を高く掲げる。

ユッチ「え?盾が銀色に光って、凄い鐘みたいな音出してるっすよ!」

俺「あれは盾装備のスキルを高めると使える『スレットフル・ロアー』って挑発技だな、ボスのタイプ次第だと効果が無かったりするらしいが、奴にはちゃんと利いてるみたいだぞ」

フスクスは怒声を響かせながら移動スピードを上げて二人に接近する。あの挑発技は盾の代わりにソードブレイカーを持っている俺には使えない技だからこういう時に頼りになる。
そして、フスクスの攻撃を二人は耐えきり、攻撃を終えて一瞬動きの止まったフスクスの右腕にハフナーが両手剣二連撃技『カタラクト』をユッチが素早い四連撃のダガースキル『ファッドエッジ』を命中させた。

俺「んじゃ、俺達も攻めるとするか!」

レイナ「……任せて」

レイナが早速ボスの左腕を目掛けてジャンプからの切り上げ対空斬りのソードスキル「ソアリングスラッシュ」で斬りかかった。左腕はやや高い位置だったが、高いジャンプから発動するソードスキルなので何とか攻撃が届く。そして、レイナの技後硬直と同時に今度が俺が踏み込みと同時に垂直回転斬りソードスキルの『スピンドライブ』で追撃をお見舞いする。
左腕の方ではキリトとアスナが、右足の方ではエギルとウルフギャングがソードスキルを次々と発動してダメージを与え続けていた。
離れた場所ではネズハが壁際からチャクラムを構えて弱点攻撃に備えて、アルゴは俊敏に走り回りながら、A隊周辺にポーションを置いていく。
そして、俺達が攻撃している左腕に、デクスターの刀ソードスキルの『緋扇』による踏み込みながらのサン連撃が決まった。

デクスター「これがボス戦って奴か!正直、殆どのボス戦がさっきみたいな硬直状態の連続だったら気が滅入ってた所だったぜ!」

俺「安心しな、これから先、その刀を存分に振るえて、休む間もないボス戦が次々と待ってるだろうさ!」

予想外のフロアボス戦デビューとなったデクスターだったが、既に戦いを楽しむ余裕すら感じさせる生き生きとした様子だった。

俺「もうちょっと、左腕を当てやすくするから、次は俺に任せてくれ!」

レイナ「……分かったわ」

俺はアルゴが俺やキリトをジャンプ台替わりに使って高くジャンプしてからのソードスキルを使った事を思い出す。

俺「デクスター、少しそこで屈んでくれ」

デクスター「こうか!?」

迷わず言われた通りに屈んでくれたデクスター、おかげですぐに決められそうだな。

俺「ああ、上出来だ!」

デクスター「うおッ!?」

俺はデクスターの背中を踏み台にして高くジャンプする、AGI特化のアルゴ程ではないが、この位置からなら狙い通りの攻撃が出来る。

俺「左腕を地に付けてろ!」

フスクスの左上目掛けて俺は上の位置から獅子の形の闘気をぶつけるソードスキル『ビーストハウル』を叩き込んだ。すると狙い通り、強烈な獅子の闘気によって左腕は勢いよく地上に叩きつけられた。

俺「スイッチ……ていうか、左腕攻撃し放題だぞ!」

デクスター「おう!貰った!」

アルゴ「ああ――――オレッチの真似したなオー君!」

キリト「真似でもパクリでも、今のは上等だぜ!」

レイナ「…………今なら左腕を狙えば一気にHPを減らせるわ」

その後も怒涛のソードスキルの嵐でついにHPバーは最後の一本が赤くなった。

シヴァタ「キリトにオズマ!!どっちでも良いからLAはくれてやる、最後は派手に決めてくれ!」

キリト「解った!遠慮なく貰っとくぜ!!」

俺「俺も簡単に譲るわけないだろ!」

俺もキリトももう技の出し惜しみは一切なしだった。俺とキリトは競う様に全力で走った。
が、キリトは外周沿いのダッシュからそのまま湾曲する壁に移り走り続けていた。

俺「やっべ……遅れちまうかも」

俺も急いでキリトと同じようにダッシュから外周沿いの湾曲する壁を走ってみるが、すぐにこれ以上登れないと判断してジャンプする。フスクスの巨大な顔が既に俺とキリトに迫っていた。ボスに近いのはキリトの方だが俺には遠距離攻撃のソードスキルがある。

俺「悪いが、貰うぜ!」

遠距離攻撃ソードスキルの『デーモンファング』更に続けて、派生技である二連撃の『ツインデーモンファング』に繋げる事によって、合計三連撃の衝撃波がフスクスを襲った。

フスクス「ヴォアアア!!」

が、凄まじい咆哮を轟かせるフスクスのHPバーは後微かに残ってしまっていた。当然、それをキリトが逃すはずがなく、キリトも叫んだ。

キリト「これで……終わりだあああ―――ッ!!」

それは、俺も見た事のない四連撃技のソードスキルだった。長剣がヘリコプターの二重反転ローダーの如く高速回転し、フスクスの額の赤い紋章を四本刻み込んだ。

俺「クッソ……LAを取らせる手助けになっちまったな……」

が、言うほど悔しくはなかった。全てのラインから、閃光を立ち上らせて、第五層フロアボスの『フスクス・ザ・ヴェイカントコロッサス』は爆散したのだった。

立木ナレ「一時間を軽く超す長期戦の末に、ついに第五層フロアボス撃破!!彼らは成し遂げた!わずか16人、急ごしらえのレイドパーティーでフロアボス撃破を成し遂げたのであった!!」





目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

FILE34 残された問題、フラッグは誰の手に?

立木ナレ「一時間以上の死闘の末に、ついに16人の急ごしらえのレイドパーティーは一人の犠牲者も出すことなく、第五層フロアボス戦を制した!これまでのボスたちと比べてもひときわ派手なエフェクトを残して消滅したフロアボスの『フスクス・ザ・ヴェイカントコロッサス』しばらくは誰も言葉を発しようとはしなかった……」

ユッチ「だ、大丈夫かな……?また、新しいボスが出てきたりしないかな……?」

俺「いや、今度こそ終わりだ、見ろよあれを」

俺が指さす方に一同が目を向けると、天井の真ん中から新たなオブジェクトが出現し、それは石で出来た螺旋階段となった。

シヴァタ「……終わった」

その一言がきっかけとなり、急造レイドパーティーは、一気に歓声を爆発させた。

ユッチ「勝った!スゲェ!僕たち勝ったっすよ!たった16人の急ごしらえのメンツでフロアボスを倒したっす!」

エギル「取りあえず、congratulation。どいつもこいつも、良い戦いしてたよな」

エギルがこの場で沸き立つ面々に対して、全員に見えるようにサムズアップをすると、シヴァタやハフナー、デクスターなど何人かがそれに応じるようにサムズアップで返していた。
少し離れた所では、床に剣を突き立ててゆっくりと多と上がっているキリトにアスナが手を伸ばしていた。

俺「ユッチは……見てないな」

アイツがこれを見ると、また悔しがって騒ぎそうなのでここは見て見ぬふりをしておく、ユッチは他の連中と一緒にこの勝利に人一倍浮かれてはしゃいでいる。
キリト達の方にはアルゴとネズハも近づいて、握手を交わし合っており。ネズハが無邪気な笑顔でキリトに対して『新しいパーティーを組んではどうか?』と提案して、キリトが首をぶるぶると横に振って否定していた。
そして、そんな様子を少し離れてたところで見ていた俺とレイナに近づく。
そして、少し不器用な、そんな感じの苦笑いを浮かべながら声を掛けてくる。

キリト「お疲れさん、オズマの最後の『デーモンファング』の三連撃衝撃波、目の前で見せられた時はLAは取られたんじゃないかと思ったぜ」

俺「ま、結果的にお前のLAを決める為の手助けになっちまったがな、こんなんならお前のソードスキルの後にしとくべきだったかな」

俺が少し視線をそらしてそう言うと、何故か後ろのアスナやネズハがくすくすと笑い、アルゴはお決まりの『にゃははっ』笑を見せていた。
妙に話題を反らしたくなった俺は、ボス戦の直前にレイナが言おうとしていたことを思い出して、レイナに話しかける。

俺「ところでレイナ」

レイナ「……なに?」

俺「ボス戦の直前に、なんか懸念事項があるとか言ってたよな?あれって結局聞きそびれたけど、なんだったんだ?」

既にボスを倒した後に今更聞いても意味は無いのだが、俺は取りあえずレイナに確認の為に聞いてみた。

レイナ「……それは、もう遅いんだけど」

俺「ああ、やっぱりボス戦の事なんだから、倒す前に聞かないと意味なかったか」

まぁ、ボス戦の最中はそれどころじゃなかったし、結果的に聞くまでも無く倒せたのだからまぁ良いんだろう。

キリト「何を懸念してたのか知らないけど、もうボスは倒したんだから、問題はないんじゃないか?」

キリトも同じように考えており、特に大して気にする事なくレイナに聞くが、レイナは無表情のまま続ける。

レイナ「……それが、ボスを倒した後の事なの」

キリト「え……?」

そのレイナの一言を聞いて、キリトは少し驚きの声を上げて、アスナとアルゴも少し気にしだした様子でレイナの方に目を向ける。

俺「ボスを倒した後の事ってどう言う事だ?」

レイナ「……問題のアイテム、ギルドフラックなんだけど、誰がドロップしたかを、どうやって確認するの?」

俺「…………」

キリト「…………」

どうやら、俺もキリともその事を完全に見落としていたようだった。SAOの基本ルールとして、ボスを含むモンスターがドロップするアイテムは、先頭に参加したプレイヤーのストレージに直接出現し、それを他のプレイヤーが、例えパーティーメンバーと言えど知る事は出来ない。

俺「つまり、今からキリトがフラッグをドロップしたのは誰かって聞いたとしても、仮に誰も手を挙げなかった場合は……」

キリト「ああ、正式サービスでは五層ボスはフラッグをドロップしない設定になったか、実は誰かがフラッグを隠匿してるか、見分ける術がないんだ……」

俺「最悪、全員のアイテムストレージを可視化させて確認なんて、強引な手段もあるんだがな」

だが、それはかなり強硬な手段だ。おいそれとそんな事は例えギルドのリーダーとかでも出来る事じゃない。

アスナ「え?だ、大丈夫よね?少なくともアタシはドロップしてないけど……」

キリト「そうか、一応聞くけど、皆はどうだ?」

キリトは俺とレイナとアルゴとネズハにも小声で質問する。無論俺のアイテムストレージにも入っておらず、俺を含めた4人も同時に首を横に振った。

レイナ「……なら、向こうの誰かになるわね」

アルゴ「しまっタ、オイラとしたことが……」

アスナもアルゴも顔をしかめて、僅かながら焦りの様子を見せるが、ネズハはすぐに微笑を浮かべて、小声ではっきりと言う。

ネズハ「大丈夫ですよ、心を一つにして戦った仲間ですもん。ちゃんと申告してくれますよ」

キリト「……ああ、そうだな……」

キリトが未だに勝利に沸き立つ者たちの方に近づくと、シヴァタが「おい、やったな!」と右手を持ち上げて、キリトは何とか自然な笑顔を浮かべて、ハイタッチをしていた。
そして、その場に他のメンバーたちも集まって来る。

ユッチ「いや~、一時はどうにかなるかと思ったけど、無事に勝てて良かったっす~、オズマさんが凄いのは当然っすけど、キリトの野郎もそれなりにやるんっすね!」

俺「ああ、お前も今回は頑張ったな」

ユッチは俺の方に駆け寄って、自然にハイタッチを交わす、この様子だとフラッグを誰がドロップしたかについての問題にはまだ気が付いてないようだ。

キリト「……まずはおつかれさま……そしてありがとう。というか偵察がいきなり本番になっちゃったけど、間違いなくこれまでで最強のボス相手に、全員、最高の戦いをしてくれたと思う」

ハフナー「俺がこんなこと言っちゃうのは立場的にマズいけど……ギミック満載のあのボスを死人ゼロで倒せたのは、16人の少数精鋭パーティーだったから、ってのもあるかもな。フルレイド48人だったら、全員が床のラインを避け続けるのは無理だった気がする」

そこでハフナーは自分の言葉から何かに気が付いたように、ALSのオコタンに目を向ける。

オコタン「いえいえいえ、まったくの偶然だと思いますよ。それに、私もオフレコでお願いしてますけどALSの主力三パーティーじゃ死亡者ゼロの攻略は難しかったと思います。うちはメンバーにビルドの指示とかはしないので、しんどいわりに経験値効率の悪いピュアタンクが古参にはいないんですよ。リーテンをスカウト出来て、ようやくタンク事情が改善されると……それこそベア、いえクマのように活躍してくれると思っていた所です」

リーテン「ちょっとオコさん、クマは酷いですよ」

リーテンが年頃の娘っぽい感じでオコたんに抗議すると、オコたんは焦ったような笑みを浮かべて、シヴァタやハフナー、デクスターとエギル達も声を出して笑った。

俺「って、あの人、ベアって言いかけて、なんでクマって訂正したんだろうな?」

レイナ「……英語のベアーは日本語で熊を意味するのよ」

俺「あ、英語で言いかけたのを日本語に直したのか」

そんな言い間違いをするのも珍しいなと俺は思っているが、今からもっとそれどころじゃない話をしなくちゃならないが。
話が一段落したところで、シヴァタがウィンドウを出し、一瞥してからキリトを見た。

シヴァタ「もう八時半か、そろそろALSの主力が追い付いてくるかもしれない時間だな。キリトここからどうやって戻るかは考えているのか?」

キリト「あ……ああ、うん。迷宮区を降りてくとALSと鉢合わせするかもしれないから、その階段を上って六層の主街区まで行って、そこの転移門でカルルインに戻ろうと思う。せっかくボスを倒したんだし、やっぱり誰よりも早く六層を見たいだろ?」

キリトも流行りフラッグの事を考えていたようで、シヴァタの問いに対して慌てたように答えていた。

ハフナー「そりゃそうだな!オレ、わくわくしてきたぞ!」

デクスター「おいおい、お茶目な事言うじゃねぇかよハフさん!」

ハフナーのハイテンションぶりに再び笑いが広がるが、キリトがすぐに右手を挙げてそれを遮る。

キリト「さっきシヴァタが言った通り、あまり時間がない。急いで六層に上がりたいところだけど、その前にひとつ、大事な事を済ませなきゃならない」

ユッチ「え?まだ他になんかあったっけ?」

俺「良いから、ちょっと並ぶぞ」

キリトの声と表情にユッチ以外は何かを感じたようで、真剣さが戻る。全員が前方に戻ると、キリトはレイドパーティーの面々を順番に見つめて言った。

キリト「―――この作戦そのものの目的……ギルドフラッグがフスクスからドロップした人は、いま申告してほしい」

ユッチ「あ~、そう言えばそれが目的だったか。結局あれって誰がドロップしたんすか?」

エギル「おお、そういえばそうだったな。すっかり忘れてたぜ」

エギルはスキンヘッドを軽く撫でて、自分は違うと両手を広げる、ユッチもこの反応からしてドロップしてないと言う事らしい。
エギルの仲間たちも肩をすくめたり小さく被りを振ったりし、デクスターも一言「俺はドロップしてないようだ」と言った。
ALSとDKBの二人も同じような反応だ。そして、アスナやレイナ達も口をつぐんだまま。

ウルフギャング「当然、キリトとオズマも違うんじゃよな?」

俺「少し前にストレージを見てみたが、違ったみたいだ」

キリト「ああ……俺にもドロップしなかった」

ウルフギャング「ってことは、正式サービスの五層ボスは、そのフラッグとやらを持ってなかったっちゅう話かい?」

ウルフが呆れたように長い髭をしごくと、それ以上に顔中毛むくじゃらのローバッカが万歳するように両手を上げる。

ローバッカ「なんつう人騒がせな話ったい!オイたちの苦労は何じゃった……と……」

その言葉が途中で途切れたのは、ローバッカ自身も気が付いたからだろう。同じようにハフナーたちも表情が消える。
この場の誰かが、実際にはドロップしたギルドフラッグを申請です、ストレージに隠匿している可能性を。

立木ナレ「疑心!……そして勘繰り!フロアボス戦の最中は心を一つにして戦っていたはずのレイドパーティーの間に猜疑心を宿した眼で互いを見やる様子がそこにはあった!これは事前にドロップしたフラッグの確認方法を決めておかなかったが故に起きたある意味必然!起こるべくして起きた事態であった!!」

俺「んじゃ、第五層からはギルドフラッグをドロップしなかったって事で良いのか?」

俺がそう小さな声で言いながら、キリトの方に視線を向けるが、キリトは考え事をしているようで無言だった。
キリトも分かってるんだろうな、ここで今俺が言ったような結論を出して、六層に向かうのは容易いが、それは問題の先送りでしかない事を。
とは言え、誰がギルドフラックをドロップしたか目星を付けられない以上、確かめようがないのも事実だ。

キリト「まず、最初に、皆に謝る。ボスを倒した後の、フラッグがドロップしたらどうするか、しなかったらそれをどうやって確認するか、そういう大事な事を後回しにしてしまったのは俺のミスだ。そのせいで、いまこうして、みんなにお互いを疑わせてしまっている……」

キリトは体を起こすと、今度は15人の顔をしっかりと見つめた。

キリト「……ただ、ALSとDKBがフラッグを巡って争うような事にはなってほしくない……これからも両ギルドが協力して最前線の攻略を続けて欲しい、そうねがったからこそ、みんなはこのレイドパーティーに参加してくれたはずだ。それはボスと戦う前も、そして勝利した今も変わらない……俺はそう信じる」

キリトの言葉を聞いて、ユッチが少し気まずそうに視線を下に向けていた。こいつがこの作戦に参加したのは、アスナの頼みである事と言うのが一番強い理由なので、今のキリトの言った事を聞いて、多少なりとも罪悪感とやらが湧いたのかもしれないな。

と、そこに……俺達の中の誰一人として歓迎しない連中が現れたのは次の瞬間だった。

ガチャモン「ガチャガチャモンモン、ガチャモンで~す。取りあえず、第五層フロアボス撃破を祝して……ってあれあれ?どうして皆そんな気まずそうな顔しちゃってるのかな~?まるで、一度は信じあった仲間同士の間で何か決定的な亀裂が生じちゃったって感じだね~?」

モック「いやはや、大晦日の夜にフロアボス戦とは、皆さん精が出ますな~……っておわぁ!たったの16人でフロアボスとやりあうって……一体全体何がどーなっちゃってるんですかな一体!?」

ユッチ「うわっ!で、出やがった―――!!」

リーテン「きゃっ!!」

アルゴ「ああ、そう言えばフロアボスを倒すたびに出てくるとか言ってたナ」

ハフナー「て、テメェら、何の用だよ一体!?」

立木ナレ「気まずい空気の中に突如として現れたガチャモンとモックに対して各々の反応を示すレイドパーティーの面々。果たして彼らの登場によって一体これから何が起こると言うのか!?次回、ギルドフラックを隠蔽していた犯人が明らかとなる!?」

目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

FILE35 ガチャモンとモックの誘惑!

立木ナレ「第五層フロアボスを撃破したものの、レイドメンバーの誰かがドロップしたと思われるギルドフラッグを持っている事を名乗り出る者はいなかった。レイドメンバーたちの間に気まずい空気が流れる中、まるで彼らを煽りに来たかのように現れたのはガチャモンとモックだった!!」

ガチャモン「あらら、ALSのメンバーの人達がこぞってこの迷宮区に潜ってるから先回りして驚かせちゃおうと思ったら……まさか君たちがいるとはね~」

モック「あ、ひょっとしてあれですか?貴方達もALSの人達を驚かせようと思ってこうして、先回りしてきたんですかな~?」

ガチャモン「いいねいいね~、大晦日らしく、盛大なドッキリを仕掛けるのも悪くないよね~」

ガチャモンとモックはいつも通り、おちゃらけた態度で俺達を茶化すが、奴らの言った事で重要な事があった。

エギル「やっぱり、ALSの奴らはもう迷宮区に入って来てるみたいだな」

俺「さっきキリトも言ってたが、このまま迷宮区を下ってくと奴らと鉢合わせちまうから、この後はやっぱり第六層の主街区に向かって転移門をアクティブゲートして、第五層に戻るって手順が順当だな」

アスナ「そうね、アタシはキリト君やオズマ君達みたいに、どちらのギルドにも所属してない人達ならともかく、オコタンさん、リーテンさん、それにシヴァタさんやハフナーさんはこんなところを見られちゃったらギルド内での立場が悪くなるわよね」

俺達は、当然ワザとだが、ガチャモンとモックを無視して話を進めてやった。

モック「あ、あれれ~?ガチャモンどうしましょ~、この人たちったら、露骨に私たちの事を無視しちゃってますですぞ~、これは所謂、シカトと言う苛めじゃないですかね~?」

ガチャモン「ま~ま、そう言わないでおこうよモック。この人たちはさ、今はギルドフラッグの件でそれどころじゃないから仕方ないんだよ」

どうやら、やはりこいつらも第五層のフスクスがドロップするギルドフラックの事は知っているようだった。

ユッチ「そうだ!お前らの相手なんてしてる場合じゃないんだよ!引っ込んでろ着ぐるみ共!!」

ガチャモン「はいはい、分かる分かるよその焦り、肝心なギルドフラッグが正式版ではドロップしないって仕様になったんなら、それで済む話だけどさ~、ベータ版通り第五層のフロアボス『フスクス・ザ・ヴェイカントコロッサス』がギルドフラッグをドロップするままなら、何としてもこの場で誰がドロップしたかを確かめなくっちゃだしね、そうだよねキリトく~ん」

ガチャモンはキリトに対して何かを見透かすような態度で、左手でサムズアップをしながら、左目を閉じてウィンクをして見せた。

キリト「……そこまで知ってるんなら俺達に聞く事なんてないだろ?何も態々、直接ここに来るまでも無く俺達が何をしてるか調べる方法なんて幾らでもあるんじゃないのかお前たちには?」

キリトがガチャモンに対して敵意を感じさせるような鋭い視線を向けながら、キリトなりに低い声を出してそう威圧する。
だが、ガチャモンもモックも全くそれに対して何かしらの反応を見せる様子はなく、2人は俺達を一瞥してから話を続ける。

モック「え~、それではガチャモン、発表しちゃってください出すぞ~」

ガチャモン「よしきた~!発表します!正式版ソードアート・オンラインにおいても、第五層のフロアボスの『フスクス・ザ・ヴェイカントコロッサス』はギルドフラックをドロップしま~す!」

キリト「――――!!」

ガチャモンの口から明確に、フロアボスがギルドフラックをドロップする事を明言された俺達は一瞬同時に険しい表情を浮かべる。

ガチャモン「言うまでも無く、僕たちは知ってるよ~、ギルドフラックをドロップしておきながら、それを未だに名乗り出ない裏切り者が誰かをね~」

ネズハ「う、嘘だ!そんな事を言って!僕たちを仲間割れさせるのが目的なんでしょ!!」

からかう様に俺達を煽るガチャモンに対してネズハが恐怖心や動揺を押し殺したような声と表情でガチャモンに反抗する。

モック「ぐふふ、私たちを嘘つき呼ばわりだなんて心外ですな~、なんなら私たちの手で、今からギルドフラックをドロップした人のアイテムストレージを強制表示させて、皆さんにハッキリさせちゃってもよろしいんですぞ~」

ユッチ「え……そんな事出来るのか?」

モックが俺達に持ち掛けた、誰がギルドフラックを持っているかを確認させると言う提案に対して、ユッチが真っ先に乗りかけていた。
直接口には出さないが、ユッチ以外にもその提案を聞いて、渡りに船と言わんばかりにガチャモンの方を振り向く者が何人かいた。
確かに、現状システム的に既に誰がギルドフラックをドロップしたのかを確認する術が、一人一人のアイテムストレージを強制的に確認させる以外に手段がない以上、奴らの申し出は簡単に誰がギルドフラッグをドロップしたかを確かめるのにうってつけだった。

キリト「必要ない」

が、キリトはその申し出を何の迷いも無く、ハッキリと拒否の言葉で断った。

ユッチ「え?え?で、でも他に確かめる方法なんて……」

ガチャモン「本当に良いのかな~?ここでそんなこと言っちゃってさ、後になってやっぱりあの時に僕たちに頼ってれば良かった~なんて事態にならないと言い切れるかな~?」

ユッチが狼狽えながら、キリトの明確な却下に対して異を申し立て。ガチャモンはキリトを唆すように、不快で揺さぶるような言動を投げかける。
が、キリトは鋭い目つきでガチャモンとモックを睨み、再度同じ言葉を口にする。

キリト「必要ないと言ったんだ。それに、ここでお前たちの権限を借りて、無理やり誰がギルドフラックを持っているかを暴いたとしても、俺はそっちの方が後で絶対に後悔する、それは確かに言い切れるはずなんだ」

毅然とした態度でガチャモンとモックに対してそう言い切るキリト、そしてそれにこたえるようにアスナも声を上げる。

アスナ「私も、キリト君に賛成よ。貴方達はギルドフラックを隠匿してる行為に対して裏切りなんて言ったけど、それを言い出したらここで、この場にいる人たちを信用せずに、貴方達なんかの手を借りたら、それこそ皆に対する裏切りじゃない!」

ユッチ「そーだそーだ!アスナさんの言う通りだ!誰がお前らの助けなんて借りるかよ!」

そして、アスナに追従するように、さっきまでガチャモンとモックの手を借りる事に乗ろうとしていたユッチもあっさりと反旗を翻した。

モック「あ~れま~、親切心で申し出たつもりだったんですが、どうやらいらないお世話のようですな~」

ガチャモン「ま、断るなら断るでそれでもいいと思うよ。」

ガチャモンとモックの方もそれ以上にしつこく食い下がる事は無く、あっさりと引き下がった。

ガチャモン「さてと、そろそろ大晦日の日には恒例の笑っちゃいかんでシリーズが始まる時間だった!忘れないうちにテレビの前に戻りま~す」

モック「え?え?紅白はどうするんですか?ちょっとガチャモン!紅白は見ないんですか~?」

ガチャモン「それじゃあね皆、裏切り者が誰かはさておいて、処遇は皆の総意にお任せしちゃうよ、煮るなり焼くなり殺すなり……裏切り者が誰か次第では、煮ても焼いても不味いかもしれないけどね~」

そんなリアルの世界でのテレビの話をしながら、ガチャモンとモックは消えていった。
二人が消えてから数秒ほどの沈黙の後、最初に口を開いたのはウルフギャングだった。

ウルフギャング「あ~あ、大晦日の特番の話なんかしおって、ワシャ、毎年笑っちゃいかんでシリーズの方を楽しみにしっちょるから思い出さんようにしとったんじゃよ」

ハフナー「お、ウルフさんも見てるんだ?俺もそれこそガキの頃から毎年見てるんだよな、あれって俺らが生まれる前から放送してるんだよな~?」

ハフナーもその話に乗って、ささやかな談笑で和むが、かと言って残された問題をこのままスルーするわけにはいかない。
キリトもその会話を聞いて少しばかりの苦笑を浮かべた後、改めて直立不動の姿勢で、腰を折り曲げて頭を低く下げた。

キリト「……ギルドフラッグが誰にドロップしたのかを、システム的に確認する方法はもうない。だから、どうか、頼む。俺に渡してくれとは言わない……取り扱いを、この場の全員の意思に委ねて欲しい。攻略集団の為に……下の層で待っているプレイヤー達の為に……そして、何時か誰かが、このデスゲームをクリアする日の為に」

俺「……そこまで、するか」

キリトが真剣に頭を下げている時間は長く感じた、第一層で俺は、こいつを始めてみた時、ベータテスターである事や、デスゲーム開始前の仲間を連れていなかった事から、強請っても別に悪いなんて思わないで済む、その他大勢の利己的なテスター連中と同じと言う認識で見ていた。
だが、今、こうして攻略集団の為に急造のレイドパーティーを集めてボス戦に挑み、そしてこの場にいる連中をなおも信じ続けて、ガチャモンとモックの誘惑を跳ね除けて、頭を下げ続けるキリトに対して俺は少なくとも、かつてのようなベータテスターである事ゆえの偏見や不審は著しく薄れつつあった。

オコタン「顔を上げてください、キリトさん」

キリトに近づいて、落ち着いた声でそう声を掛けたのはALSの一員でレイドパーティーの最年長じゃであるオコタンだった。
キリトはオコタンが伸ばした右手を取り、体を起こす。そして今度はオコタンが両手両足を伸ばしてから深々と頭を下げる。

オコタン「……キリトさん、そして皆さん、本当にすみませんでした。ドロップしたギルドフラッグを申告しなかったのは私です」

ユッチ「はぁ~!?あん……んぐ……」

ユッチが即座に何かしら、オコタンに対して文句を言いそうになったので、俺はすかさずユッチの口を後ろから左手で塞いだ。
そして、後方からくぐもった声が響いた。

リーテン「オコさん……どうして……!?」

リーテンは一歩前に踏み出ると、アーメットのバイザーを跳ね上げ、エフェクトの消えた、本来の声で続ける。

リーテン「あんなに言ってたじゃないですか……攻略集団は力を合わせなきゃならない、二つのギルドで張り合ってる場合じゃない、って。なのに……どうして!」

眼に涙を溜めたリーテンが口を閉じると、オコタンは振り向き、ギルドメンバーに向けてもう一度頭を下げた。

オコタン「すまない、リーテン。君の信頼を裏切るようなことをしてしまって」

レイナ「……取りあえず、話を続ける前にギルドフラッグをオブジェクト化して見せてくれるかしら?」

オコタン「そうですね」

レイナに諭されるように言われたオコタンは、再びキリトに向き直ってからウインドウを開き、フォルダの奥に隠してあっただろうギルドフラッグをオブジェクト化する。

デクスター「……こいつがギルドフラックか」

それはオコタンが背中に装備しているハルバートよりも更に長く、全長は三メートルくらいの長槍に見えたが、上部には純白の三角旗が付けられていた。

「おお……」

後方で誰かが嘆声を漏らした。

俺「こりゃ、見るからに大した代物って感じだな……」

ユッチ「――――!!」

未だに俺に口を押えられているユッチは息苦しくなったのか、声にならないような呻き声をあげながら、手をばたばたと降り始めた。

俺「もう、騒いだり喚いたりしないって約束するか?」

必死に首を縦に振るので俺は取りあえずユッチを解放してやった。

ユッチ「ハァ……ハァ……ひ、酷いじゃないっすかお、オズマさん……」

息を切らしながらそう言いつつも、その視線はオブジェクト化されたギルドフラッグに釘付けになっていた。

オコタン「キリトさんは、最初から私一人を見ていましたね。どうして、分かったのか、教えて貰って良いですか?」

キリト「あ……はい。ええと……オコタンさん、ここに来る前は、かなりヘビーなFPSプレイヤーでもあったんじゃないですか?」

オコタン「ええ……一時期はMMOよりもそっちに嵌ってましたよ」

FPSゲームなら俺も結構やった事がある、特にSAOが発売される前には、銃で次々と現れるクリーチャーや兵士を倒してスコアを稼ぐだけの単純なゲームではあったがフルダイブのFPSをやった経験もある。

キリト「俺はちょっとかじった程度ですけど……FPSのチーム戦に、CTF……キャプチャー・ザ・フラッグってモードがありますよね。両チームが、一本の旗を奪い合って戦う奴」

オコタン「はい……」

そのキリトの説明を聞いて、俺はなんとなく分かって来た、キリトがどうしてオコタンがフラッグをドロップした張本人だと目星を付けた理由を。

キリト「あのモードで、旗を運んでいるプレイヤーの事を、日本だと旗持ちとか言いますが、英語だとフラッグ・キャリアーやフラッグ・ベアラー、或いは略してベアラーって呼びます」

俺「そうか……さっきのリーテンに対して『リーテンが、それこそベア、いや熊のように活躍してくれる』って言ったのは、熊を英語で言ったんじゃなくて、ベアラーって言いかけたのか?」

ちなみに、俺はついさっきまでレイナに言われるまで熊が英語でベアーだと言う事も知らなかったが……

キリト「そうなんだ、これからは、リーテンさんが旗持ちとして活躍してくれる……自分のストレージにフラッグがドロップしていなければ、そんな発言は絶対に出てこない。そう思ったんです」

レイナ「……推理なのか、こじ付けなのか、かなり曖昧なところに目を付けてかれに目星を付けたのね……結果的に当たってたわけだけど」

オコタンは一度、二度と首を縦に振る動かした。

オコタン「そうでしたか……。やっぱり、慣れない事はするもんじゃないですね」

そして、苦い笑みを浮かべて続ける。

オコタン「……こんなことを言える立場じゃないですが……キリトさんも、リーテンも、そして皆さんも……これだけは信じて欲しいんです。私は決して最初から、ギルドフラッグをネコババするつもりでこのレイドに参加したわけじゃない。ALS上層部と通じていると言う事も無いです。最初は、本当に、両ギルドの対立をなんとか防ぎたいと……それだけを願っていたんですでも……」

ここでオコタンが魔が差したとか言ったら、俺は少しばかしイラついたかも知れなかったが、オコタンが言ったのはそんなありきたりの言い訳ではなかった。

オコタン「……このフラッグが……正式名称『フラッグ・オブ・ヴァラー』が私にドロップし、しかも誰もそれに気づいてないし、隠そうと思えばこのまま隠せると気が付いた瞬間、思ってしまったんです。ギルドフラッグを交渉材料に使えば、二つのギルドを統合できるんじゃないか、と……」

その言葉を聞き、ハフナーはかすかに鎧を鳴らしたが、何も言わず、シヴァタとリーテンもお互いを一瞬見合ったが沈黙を保ち、デクスターとエギル達も何か思う所があったのかもしれないが、黙って首を小さく縦に振るだけだった。

オコタン「でも、そんなわけはありませんよね。ギルドフラッグがALS側から出てきたら、今日この場で私がネコババした事は、ハフナーさんたちにも解ってしまう。そんな状態で、まともに交渉なんか成り立つはずがない……。―――バカな夢を見ました。私の愚かな行いを、改めて、皆さんに謝罪します」

フラッグを捧げ持ったまま、オコタンはもう一度深く頭を下げた。その姿をじっと見ていたハフナーが両拳を握りしめて叫んだ。

ハフナー「―――確かに、あんたはバカな事をやった!下手したら、二つのギルドが戦争になってたかもしれないくらいのな!でも……その夢はバカじゃねぇ!!」

今度は、少し音量を落として語り続けた。

ハフナー「オレも、さっき戦闘中にちっとだけ夢を見たよ。俺やシヴァタ、あんたやリーテンさんが、初めてのパーティーでもあんなに息を合わせて戦えるなら、いつまでもいがみ合ってる意味はねぇのかも……二つのギルドメンバーをまぜまぜにして、理想的なパーティー組をしたほうがいいのかもってな。俺はその夢を捨てちまう気はねぇ。ギルド統合とまでは、まだ言えねーけど……いつかは、もしかしたら、って思うのはやめねーよ。だから……オレは、アンタを許す!」

やや唐突に宣言すると、ハフナーは他のメンバーたちをも渡した。

ハフナー「オコさんをどうしても許せねぇ、なんかのペナルティを与えるべきだって思う奴、いたら手ぇ挙げてくれ!」

その呼びかけを聞いたデクスターが、不敵に含み笑いを浮かべる。

デクスター「いや、流石に手を上げる奴が現れるとは思えねぇな。特に、アンタの演説を聞いた後じゃ猶更……ナ」

エギルも両手を広げて苦笑する。

エギル「そうだぜハフさん、そんないい方されて手ぇ挙げる奴なんかいるわけねーだろ」

エギルの仲間たちもうんうんと頷き、アスナやアルゴ、ネズハも軽く笑みを浮かべ、ユッチもそんな周囲の空気に流されるような形ではあったが、納得した様子を見せて、レイナは相変わらず無表情で「……皆がそれで良いなら、私も何も文句はないわ」と言っただけだった。
そして、ずっと頭を下げ続けていたオコタンが、大きく背中をわなわなさせる。

オコタン「……ありがとう、ございます」

立木ナレ「こうして、ギルドフラッグを巡るひと悶着は一応の方が付いた。一時は疑心暗鬼に陥り、ガチャモンとモックの誘惑に心を惑わされかけたメンバーであったが、彼らは打ち勝ったのだった!!」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

FILE36 新年!そして新ギルド結成へ!+現実世界のオズマの祖父と父

デクスター「や~れやれっと、ようやく第五層に戻ってこれたな~」

ユッチ「フロアボス戦の後の次の層までのアクティブゲートも意外と大変なんっすよ。初見のMObに足をすくわれたりって事もありうるっすからね~」

第五層のフロアボスを倒した後、ギルドフラッグをオコタンが隠蔽した事で、一時は緊張感漂う事態に陥ったが、最終的にキリトがレイドメンバーを信じる事を選んだ事もあり、オコタンは自ら名乗り出て、穏便に済んだ。
取りあえず、ギルドフラッグは満場一致で(ユッチは最初は俺に預けようと言ったりしたが)キリトに預ける事にした。
そのキリトはこれからフロアボスの部屋にやって来るであろうALSの主力メンターに対して、自分が急造のレイドパーティーを組んで既にボスを倒したことを説明する為に残った。本来はキリト一人で残るはずだったが、階段を上がっている最中にアスナだけは戻っていった。
当人は、オコタンから聞かされたキャラクターネームの由来の話が面白かったから、キリトにも聞かせるなどと言っていたが、その本当の目的はキリト一人だけにALSの連中と話し合わせるのを躊躇い、自分だけでも味方になるつもりだったのだろう。
何はともあれ俺達は、第六層のアクティブゲートを済ませた後は、当初の予定通り転移門を使って第五層の主街区に戻ってきたわけだった。

デクスター「それにしても、戦闘中に範囲内のすべてのギルメンに対して全能力上昇のバフ効果が得られるギルドフラックか……フロアボスがドロップするアイテムは原則、その一つだけって言うだけあって、とんでもない代物みてーだな」

俺「確かにフロアボスがドロップするアイテムは総じて強力だが、今回のギルドフラッグは特に別格だな」

もし、ディアベルが生きていて攻略集団のギルドが一つに統一された状態であれば、すんなりと片付く程度の問題だったのだろうが、今はディアベルの死によって、意見の分かれるキバオウ率いるALSとリンド率いるDKBと二つのギルドに分かれているが故に、ギルドフラッグを巡る騒動に発展してると言わざるを得ない。

ユッチ「ところでオズマさんって第二層でLA決めた時に、フロアボスのアイテムをドロップしたんっすよね?あれって結局何だったんっすか?」

レイナ「……そう言えば、私も聞いてなかったわ」

俺も、今の今に至るまで、自分で折角ドロップした、記念すべき最初のフロアボスのドロップアイテムを誰にも見せていない事を思い出した。

デクスター「お前が普段から防具で装備してるその灰色のコート『ダークスカイ・コート』は、フロアボスからドロップしたのとは違うんだっよな?」

俺「そうだ、こいつはレイナに勝ってマスターになったから貰えたレアアイテムなんだよ」

一応、これも一つしか手に入らない貴重なレアアイテムなので希少価値自体はフロアボスのドロップアイテムに匹敵するのは確かだ。

ユッチ「オズマさ~ん。そろそろオズマさんが第二層でドロップしたアイテム見せて下さいよ~」

この話をした途端にユッチはすっかり俺が第二層の真のフロアボスの『トーラス王』からドロップしたアイテムの話で興味津々になっていた。
まぁ、別に隠すつもりなど無いし、ここでこいつ等には見せておいてやっても構わないだろう。

俺「こいつだよ」

俺はアイテムストレージの中から、第二層でトーラス王からドロップしたレアアイテムを見せる。
それは、青白い光輝く石のようなアイテム。

ユッチ「え?トーラス王からドロップしたレアアイテムって結晶アイテムだったんっすか?」

俺「ああ、確かにこれは結晶アイテムだよ」

フロアボスからドロップした一つしか存在しないレアアイテムが結晶アイテムだと知ったユッチは少し拍子抜けしたと言った表情だった。
確かに結晶アイテムはレアアイテムだが、消耗品でもあるので、フロアボスからドロップした一つしかないレアアイテムとしては物足りないと感じるのも無理はないだろう。

レイナ「……肝心な効果はどうなの?少なくとも、手元にあると言う事は、今の所はこれを使う事態に陥ってないのね」

俺「ああ、確かに一度使ったら無くなる消耗品の結晶アイテムだが、フロアボスからのドロップアイテムに相応しい効果だぜ、よく読んでみろよ」

俺に言われてユッチとデクスターとレイナは可視化されたアイテムの効果メッセージを読み始める。
そして、その効果を呼んでいるうちに真っ先にユッチが驚愕の表情を浮かべる。

デクスター「確かに、このアイテムはこのデスゲームじゃ、いざって時の命を繋ぐピースになるな……」

デクスターの命を繋ぐピースと言う表現は的を射ているだろう。この結晶アイテム、正式名称『レスキュー・ライフクリスタル』は『所有者のHPケージが0になった時に初めて自動で発動し、HPケージの最大値の10%を回復させる』と表記されていた。

レイナ「……このソードアート・オンラインが普通のゲームのままだったら、いざって言うときに役に立つ程度のアイテムに過ぎないけど」

俺「HPが0になったら本当に死ぬデスゲームになった今のこのSAOじゃ、まさに一度きりだが、死を回避してくれる命のピースってわけだ」

かと言って、一度なら死んでも復活できるからとタカをくくって、死ぬこと前提のプレイングをやるつもりもない。いざと言うとき、本当にどうあっても死を回避できないって時にこいつが無かったら本当に俺は死ぬしかなくなるんだ。


立木ナレ「そして、数時間が経過した!アインクラッド第五層主街区カルルインの街並みは、千人を超えるプレイヤー達のコールで揺れていた!」


『ごーお、よーん、さーん、にーい、いーち……』

街の真ん中の転移門広場から、ゼロ!!の音と共に、暗い空に花火が咲いた瞬間だった。
この瞬間、俺達はアインクラッドの中で2023年1月1日を迎えた。

ユッチ「それで、新年を記念して!折角こうして僕達四人、良い感じのパーティーなんですからさ、そろそろ本格的に始めましょうよ。新ギルド!!」

俺「ああ、やっぱりその話はまだ諦めてなかったんだな」

ユッチ「当然っすよ!ALSやDKBに負けない攻略ギルドになるっすよ!」

まぁ、いい加減にそろそろどのギルドにも属しないフリーのプレイヤーなんて立場だと、攻略会議の場とかでの発言力が低く、自分達の意見を通せないなんて事も多そうなので、確かにギルドを作る事はそろそろ前向きに考えようと思っていた矢先だった。

レイナ「……どうするオズマ?」

俺「つーか、ユッチはこの四人とか言ったけど、そもそもデクスターはまだなんとも」

と言いながらデクスターの方に視線を向けた瞬間、デクスターは平然とした表情で言った。

デクスター「良いじゃねぇか、この四人から始める新ギルド。俺としても今からALSやDKBに入っても大ギルドの新参者で、立場も低いのは御免だから渡りに船だと思ってたところだ」

俺「……マジか?」

デクスター「マジだ」

ユッチ「おっしゃ―――!やったっすよオズマさん!これで僕たちも晴れてギルド結成っすね!ギルド名考えて、他のメンバー集めしたりと、新年早々にやる事一杯でワクワクするっすね~」

ギルド結成に浮かれて、騒ぎはしゃぐユッチと、それを苦笑しながら見ているデクスターに、無表情のままのレイナ、そして一歩引いたところで、まるで新年のコント番組でも見てるかのような感覚で眺めている俺。

俺「このメンツで、マジでギルド結成……か、どんなギルドになるんだろ~な」


立木ナレ「一方その頃、現実世界の2022年12月31日の事だった!とある東京都台東区の病院の病室に1人の中年男と、一人の老人が訪れていた」

時生(ときお)「とうとう、眠り呆けたまま、大晦日になっちまったな……オズマの奴」

恭史郎(きょうしろう)「最初の一ヶ月で2000人も死んじまったんだろうが。まだ生きてる分、こいつはまだマシってもんじゃねぇか!」

立木ナレ「彼らは小田切時生と小田切恭史郎。オズマこと、小田桐弭間(はずま)の父と祖父であった。親子揃って定職に就かぬ男二人は、平日の真昼間にもちょくちょく、オズマの病室を訪れる事がある為、病院の看護師や医者たちからは、『孫や息子が大変な時に、自分達はいい歳して遊び呆けているダメ人間達』と陰口をたたかれる事も少なくなかったのである!」

時生「ま、こいつならそうそう簡単にゲームの世界でくたばったりしねぇよ、なんせ、俺よりもずっとゲームの才能があるはずなんだからよ、俺と違ってコイツなら、マジでプロゲーマーって奴になる事だってあり得るって思ってるくらいだからな俺は」

時生はナーヴギアを頭にかぶったまま、眠り続ける息子を見て、少し羨むような様子でそう言った。

恭史郎「へっ!女々しい息子だぜ!まだ、自分もプロゲーマーになりたかったとか思ってやがんのか!?おめーが10代20代の頃とは時代が違うんだ!何時までも未練たらしいこと考えてんじゃねぇっつーの!」

時生「へいへい、どうせ俺は同年代のプロゲーマーだった梅原みたいにはなれねーよ。本当なら雀ゴロじゃなくって、梅原みてーなプロゲーマーになりたかったなんて思うだけ無駄だって事くらいわかってるっつーの」

立木ナレ「狭い病室内で、声量を考えずに、そんな会話を繰り広げる親子に対して年配の看護師が不謹慎だと遠回しに伝えるように咳払いをするが、そんなのはこの親子には何の意味も無く、話はさらに続く」

恭史郎「しかしあれじゃねぇか!よりにもよって弭間の隣のベットで同じように機械被って寝てるのが、デカいマッチョの黒人の兄ちゃんとはな、もし起きたら、真っ先に目覚めと同時にこの兄ちゃんと顔合わせとは、目覚めの悪いこったな!」

時生「それも、この二人が両方とも生きたままゲームをクリアすればの話だがな、しかしこの黒人の兄さんもさぞ焦ってるだろうよ。聞いた話じゃ、結婚したばっかりで、奥さんとカフェを開いてこれからだって時だったらしいぜ」

恭史郎「確か、御徒町(おかちまち)のダイシーカフェだったか?今は嫁が切り盛りしてるって話だが、ゲームの中のこの兄ちゃんは、店の事とか嫁の事とかで気が気じゃねぇだろうな~」

立木ナレ「オズマこと、小田桐弭間とエギルことアンドリュー・ギルバート・ミルズ。SAOの世界に閉じ込められ、現実世界の病室で眠り続ける二人はこの時丁度、同じ場所で同じフロアボス戦を間近に控えていた頃であった……」

目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

FILE37 第12層 結成されたギルドと新たなる処刑?


立木ナレ「第五層フロアボスの討伐から既に一カ月以上が経過していた!デスゲーム、ソードアート・オンラインは続いていた!この日、現在の最前線である第12層が解放された次の日の朝の9時の事だった。恒例のそれは始まった……」

ガチャモン「いっくよ~!せいやー!」

モック「きゃ~、ガチャモンカッコいいですぞ~!」

今回のガチャモンのチャレンジシリーズは流鏑馬(やぶさめ)だった。ガチャモンは戦国武将のような格好をして、馬に乗って弓矢を構えると、走り出した馬に乗ったまま、的に向けて弓矢を向ける。

ガチャモン「いっけ―――――!!」

モック「あ……痛ったぁ――――――!!」

ガチャモンが放った弓矢は的から大きく外れて、モックの頭を射抜いていた。頭を弓矢で刺されたモックは、表情は相変わらず変わっていないが、大声で騒いでいた。

モック「ガチャモ――ン!!な、なんてことするんですか貴方ぁ――――――!!」

ガチャモン「ふぅ~、一仕事終えたら、なんかお腹空いちゃった~。と言うわけで、今回のガチャモンチャレンジシリーズはこれにて終わり、僕は牛丼でも食べに行ってくるから、皆またね~」

立木ナレ「何はともあれ、最前線は現在第12層となった!オズマ達は第5層攻略後の数日後にオズマをマスターとしたギルドを結成していた!!」

ユッチ「いや~、メンバーもこれで10人になりましたし、ギルドっぽくなりましたっすね~」

俺「取りあえず、メンバーはこれで充分だろ。あんまり増えすぎると管理したり、舵取りが難しくなったり面倒だからな」

これはギルドを結成する前から決めていた事だった。ユッチはどうせならDKBやALSに並ぶ大規模な攻略ギルドにしてみたいなんてことを言っていたが。
実際に奴らのギルドの舵取りに苦戦している様子を見ていると、やはりギルドの規模が大きくなりすぎると、色々と面倒でややこしそうなので、ギルドメンバーは10人を限度にしておこうと言う事になった。
ギルドを結成したと言っても、別に常にメンバー全員で共に行動しているわけじゃない。ギルドホームもまだ購入していないし、取りあえず、何か目的があったら、ギルメン同士で手を組んだり、お互いに必要なアイテムを交換したりと言った感じだった。
そして今も立ち上げメンバーの一人であるデクスターは数人のメンバーを引き連れて、狩り兼素材アイテムを得るためにパーティーを組んでフィールドに出ていた。

レイナ「……折角第12層が解放されたんだから、私達もクエストや狩りに行くべきじゃないの?」

俺「分かってるよ、新しい武器やアイテムを手に入れる事も出来るかもしれないからな。無論レベルアップもしておきたいし、そろそろ出かけるとするか」

ユッチ「良いっすね良いっすね~、僕たちのギルド『MBT』は大ギルドじゃなくっても、トップギルドでは居続けたいっすからね~」

ユッチが今言ったギルド名MBTは正式名称である、『未来は僕らの手の中に』を、ローマ字にして、三文字に省略した略称だ。
ギルド名に関しては他にも色々と案が出てきたのだが、最終的に俺が何となく、漏らした昔のアニメの主題歌だった、『未来は僕らの手の中に』と言う言葉がその場にいたユッチやデクスターにも受けたらしく、それがそのまま採用になった。

俺「んじゃ、早速この主街区から近い湖があるエリアに行ってみるか」

レイナ「……もうベータ時代の前情報は無いから、その辺りは忘れないで」

俺「ああ、そうだな」

ベータ時代では第10層まで進み、この正式版においてはベータ時代で攻略済みだった第10層までは、到達して早々に事前情報が掛かれたアルゴの攻略本が早期に販売されたが。第11層以降はベータテスターも一般プレイヤーも、全てのプレイヤーが初見なので、最前線に関する情報は今のプレイヤー達が地道に一から集めて共有しなくてはならなくなっていた。

レイナ「……昨日、湖を見てきたプレイヤー達の話によると、あそこのモンスターは残りのHPが少なくなると湖に逃げてしまう特性があるけど、経験値やお金(コル)事態は比較的多く貰えるらしいわね」

俺「そうか、なら一体ずつ確実に、逃がさないように倒すとするか。弱った敵をそのままにしないで、一体ずつを集中狙いだな」

レイナ「……分かったわ」

立木ナレ「そしてその日、オズマ達は数時間かけて、湖のモンスター達を相手に狩りを行った。レイナが事前に聞いていた情報通り、湖のモンスター達はHPが少なくなると湖に逃げようとする特性があり、それによって数匹程度のモンスターを逃してしまう事もあったが。一体一体の経験値、(コル)は高めだったので、比較的効率のいい経験値稼ぎ、金稼ぎとなった!!」

その日の夜は俺、レイナ、ユッチの三人でパーティーを組んだままで第十二層の主街区の大きなレストランで飯を食っていた。
今までの層の数多くのレストランや、食堂と比較しても、このレストランはメニューが豊富で、座席の数もかなり多い事もあって、今も数多くのプレイヤー達が訪れていた。

俺「デクスターの方から連絡きたぞ」

レイナ「……何かあったの?」

俺はフレンドリストからデクスターから送信されたメッセージを確認して可視化して、レイナとユッチにも見えるようにした。

『転移結晶を一つ手に入れた。どうするか考えはあるか?』

ユッチ「おお、転移結晶とは、貴重なアイテムをゲットしたみたいっすねデクスターさん!」

レイナ「……最近になって、手に入れたって話をよく聞くようになったけど、私たちのギルドからもドロップする人が出て来たわね」

ユッチがはしゃいで喜ぶのも無理はないだろう。結晶アイテムの中でも転移結晶を欲しがるプレイヤーは幾らでもいる。転移結晶は使用者を任意の町へ瞬間移動させる効果があり、危機の際に戦場から緊急離脱できるこの結晶アイテムは、瞬時にHPを回復する事が出来る、回復結晶と並んで、最前線のプレイヤー達の間でも重宝されつつあった。

俺「ま、ドロップしたアイテムの処遇に関して、とやかく言いたくないしな」

俺はデクスターへのメッセージの返信は。

『ドロップした奴に使わせてやればいい、危ない時に使うのもいいし、欲しがってる奴らに高値で売るのも構わない』

と送っておいた。

レイナ「……相変わらず放任主義なのね」

俺「確かにシステム上は俺がギルドのリーダーだけど、だからと言ってそれで強権奮ってリーダー面吹かせたり、他の連中に対して何から何まで指示出したりとか、性に合わないっての」

俺が言うと、ユッチがヘラヘラとした笑みを見せて言う。

ユッチ「まったまた~、いざって時にはオズマさんが色々とスバっと決めたりまとめてくれたりするんっすよね?僕知ってるんっすよ~、オズマさんは普段は適当な感じでほったらかしみたいなこと言ってて、いざって時には頼りになる人だって事くらい」

買い被り過ぎだ……と、こいつに言ったところで、またへらへら笑いながら『まったまた~』とか言い出すだけなので止めておこうと思った時だった。
俺の目の前で俺のガチャパットが、と言うかその場にいるレイナ、ユッチ、その他大勢のレストランの客達の自前のガチャパットが一斉に強制的にオブジェクト化されて、目の前で宙に浮いた状態となった。

ユッチ「うわっ!?な、なんっすか一体!?なんでいきなり……」

ユッチやその辺の客達がいきなりの事に「いきなりなんだ」とか「なんかのバクか?」などと騒ぎ始めるが、これはバクではない。

俺「……こいつが勝手にオブジェクト化されたって事はだ、どうせ奴らの方から一方的に何かを見せるなり伝えに来たって事だろ」

レイナ「……そうね、ガチャパットを触れば、何か映像で向こう側からのメッセージがあるはずだわ」

俺とレイナが真っ先に宙に浮いた状態の自分のガチャパットを手に取ると、即座にガチャパットにガチャモンとモックが画面いっぱいに狭苦しそうに映っている映像が表示された。
と言うか、未だにガチャパットを手に取らず、宙に浮かせたままのユッチのガチャパットにも俺達と同じように映像が勝手に映し出されていた。

ガチャモン「ちょっとちょっと~、狭いよモック~!君最近、太ったんじゃないの~?横幅取り過ぎだから注意してね~」

モック「酷いじゃないですかガチャモ~ン!今日のチャレンジシリーズの流鏑馬もそうでしたけど、アンタ最近私に対して冷たすぎやしませんかね~?」

そして、カメラが後方に下がったのかようやく二人の前進が映し出されるくらいにはなった。
が、そのガチャモンとモックの間には、何があったのか一人の槍を装備した男性プレイヤーが手錠を付けられて、足に鉄球を付けられた状態で身動きを封じされて床に這いつくばっていたのだった。

「きゃあ―――――!!」

ユッチ「って、今度は一体何しやがってるんだよアイツら!?」

唐突に痛々しいプレイヤーの姿を見たレストランの客達の中から悲鳴や、怒りの声が沸き上がっていた。
ガチャモンとモックはそれを知ってか知らずか、いつも通りの、底の読めないような振舞で話を続ける。

ガチャモン「さてと、いきなりショッキングなのを見ちゃった人の中には思わずゲロしちゃった人もいるかもしれないけどさ、彼が何でこんな事になったのか説明が必要だよね?」

モック「え~、何故この人がこんな事になってしまったのかを、今から問題のシーンをお見せしますので、しっかりとよ~くご覧になってくださいませですぞ~」

ガチャモン「それじゃ、問題のシーンを再生しま~す!」

ガチャモンがノリノリの様子でそう言うと、ガチャパットの映像が一瞬真っ暗になり、そしてすぐに新しい映像に切り替わった。
その映像を目の当たりにした俺達は、想像をはるかに超えた衝撃を受ける事になるのだった。

ガチャモン「モック、今日は一発やっただけじゃ済まさないからね」

モック「嫌ですぞ……が、ガチャモンってば、最近有り余っちゃってるんですから私はもうヘトヘトなんですぞ~……」

ダブルベットの上でガチャモンとモックは一糸纏わぬ姿(普段からそうだが)で横になり、ガチャモンの言葉を聞いたモックが、顔を赤く染めて(元々体の半分が真っ赤だが)いた。

ガチャモン「さ~て、今日は僕の新しいテクで昇天しちゃう位にはイカせちゃうからさ、楽しみにしてなモック」

モック「ああ……そ、そんな事を始める前に聞かされちゃったらわ、私……胸がドッキドキしちゃいますじゃないですか~……」

と、そこで急に映像は途切れて再び真っ暗になった。何が何なのかまるで分らぬまま、数秒後には再びガチャモンとモックが拘束されたプレイヤーを挟んで移った状態の映像に戻った。

ガチャモン「ああ、間違えちゃった!ごめんごめん皆ごめんね~。僕としたことが、本来お見せする予定だった問題のシーンと間違えて、全然関係ない映像を流しちゃったよ~」

モック「も~、ガチャモンったらしっかりしてくださいですぞ~、あれじゃ、何が問題なのか皆さっぱり分からないじゃないですか~」

ユッチ「いやいや!何なんだよ今のシーンは!?むしろあれを見せられたこと自体が問題だよ!」

俺は流石に声に出してツッコム気にはなれなかったが、俺も内心では今のを見せられた直後で、更に一体どんな問題のシーンがあるんだと一言言ってやりたい気分だった。

モック「はい、それでは今度こそ、問題のシーンを再生しますので、しーっかりと見てくださいですぞ~」

再び画面が切り替わった。そこでは6人のプレイヤー達の前に、ガチャモンとモックが現れた様子が映し出されて、その6人の中の一人が、今拘束されている槍使いのプレイヤーだった。
映像の中ではガチャモンとモックが相変わらず人を茶化したり、くだらない馬鹿馬鹿しいやり取りを見せつけてプレイヤー達を苛立たせていた。
あまり本気で相手にせず、適当にやり過ごすのが無難なのは今となっては全プレイヤーにとっての共通の認識のはずなのだが、その槍使いのプレイヤーは連中に対してよほど腹が立ったのか、あるいはもともと手が出やすい短気な性格だったのだろうか。

槍使い「いい加減にそろてめーら!ふざけた事ばっかりしやがって!さっさと消えろってんだ!」

モック「アウチ!って、なんでわざわざ私を――――!?」

あろう事が、怒りに身を任せてモックに槍を投げつけてしまっていた。奴らに攻撃を加える事とどうなるのか、すでに何度も見せつけられているにもかかわらず。
そして、問題のシーンはそこで終わったようで再び元の映像に切り替わる。

ガチャモン「と言うわけで、僕たちへの攻撃行為は言うまでも無く今まで通り死の罰ゲームで~す!」

モック「全くも~、既に二人も実証済みだって言うのに、やったらどうなるか分かり切ってる事をどうしてやっちゃうんでしょうかね人間ってのはね~?」

立木ナレ「つまりこいつらは、自分達に愚かにも手を出したプレイヤーをガチャパットを通じての公開処刑を行うのかと誰もが思った!だが、次の瞬間、ガチャモンとモックは予想だにしない提案を発表するのであった!!」

ガチャモン「と、言いたいんだけどね、この人ったら罰ゲームの寸前まで『死にたくない!』とか『俺が悪かった』とか『助けてくれ』とかとかさ、もうお決まりの命乞いの言葉漬けなんだよね、そんな彼を見て僕たちは、チャンスを与えてみる事にしました~」

モック「おお~、ガチャモンもたまには慈悲深い事を考えるんですな~。そのささやかな優しさの少しでも、この私に向けてもらえると嬉しんですけどね~」

ガチャモン「では彼を助けるチャンスを……全プレイヤーの投票で決定したいと思いま~す!!」

ユッチ「え?僕たちの投票だって?」

俺「また、ロクでもない事を考えやがったかもしれないなこいつら……」

立木ナレ「突如として始まった、一人のプレイヤーの命の行方は、全プレイヤー参加の投票によって委ねられる事となった!一体、ガチャモンとモックが提案する生き残りのチャンスの投票とは一体!?」

目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

FILE38 悪魔の囁く投票!!金は命より重い


立木ナレ「第12層が解放された翌日の夜の事だった。一人の名も知らぬプレイヤーがガチャモンとモックのモックの方に攻撃をしてしまったが為に、ガチャパットを通じて全プレイヤーの前で公開処刑されようとしていた!しかし、ガチャモンは必死に命乞いをするプレイヤーを見てなんと、生還のチャンスを与えたのだった!そして、プレイヤーの生死を分ける方法は、全プレイヤー達の投票によって決められる事となった!!」

ガチャモンの発表を聞いた、レストランにいるプレイヤー達は全員、ガチャパットに釘付けになっていた。
おそらく、この場にいる者達に限らす、今この時は殆どのプレイヤーがこのガチャパットを見ている事だろう。

ガチャモン「では、投票のルールを説明するね。モックに攻撃を加えたこの罪深きプレイヤーの生死は、君たちプレイヤーの投票によって決定しちゃうんだよ」

モック「あ、ちなみに、このプレイヤーの名前は『モクスド』と言いますですぞ~、興味のある人だけは覚えておいてあげてくださいですぞ~」

ガチャモン「そうそう、モクスド君の生死を分ける投票だね。これからガチャパットにモクスド君を助けるか助けないか『YES』か『NO』で投票できるようになりま~す。投票は一度きりで、一度投票したら取り消す事は不可能だからね」

モック「助けたい人は『YES』を、助けたくない人は『NO』をタッチするだけですぞ~」

ユッチ「な、なんだ、それなら余裕で助けられるっすね……」

ここまでの説明を聞く限りでは、確かにYESをタッチするだけで助けられるのだから大した事は無い。
だが、プレイヤー達を翻弄し、残忍な死なせ方をするガチャモンとモックがこの程度で済ませるわけがない。
そして、そんな俺の予想はあっさりと的中する。

ガチャモン「全プレイヤーの投票の結果、YESが95%以上だった場合は晴れてモクスド君は生還でき、95%未満だった場合は当初の予定通り公開処刑決定で~す」

モック「そして、ここからが重大な発表となるですぞ~」


立木ナレ「その刹那、全プレイヤー達の心に、悪魔が囁くのだった!!人間の欲望を煽る悪魔の囁きが!!」


ガチャモン「とってもお得で君たちにとって悪い事なんてな~んにもない、発表で~す!なんと……投票の結果に関わらず、NOを選んだ人には10万(コル)を差し上げちゃいま~す!!」

モック「おお―――――――!!NOを選ぶだけで10万コル!?そ、それはなんとも魅力的な大盤振る舞いじゃないですかガチャモ~ン!!」

ユッチ「じゅ、十万コル……」

これは要するに、殆どのプレイヤーにとって、縁もゆかりもないプレイヤーの為にYESを選択して救うか、見捨てる事を承知でNOを選んで10万コルを得るかの、究極の二択だ。
殆ど関係のない他人の為に己の利を蹴ってでも救うか、目の前の明確で簡単に手に入る利を得るために見捨てるかの二択……

ガチャモン「さ~て、それでは投票を開始したいと思います!今から30分以内に全プレイヤーの皆さんは投票を済ませちゃってね~、ちなみに、誰がどちらに投票したかについては、一切非公開だからさ……お金が欲しい人はNOを選んじゃってもバレないから安心してね」

ガチャモンはまるで金の為にNOを選んでしまえと言わんばかりの台詞を残してから、ガチャパットの画面は切り替わり『YES』と『NO』が表示された画面が表示された。

俺「…………」

ユッチ「ど、どうしましょうお、オズマさん……」

ここでYESを選んだとしても、全体のYESの投票率が95%以上でなければ、モクスドを救う事は出来ない。そしてNOを選んだ場合は、最終的な投票結果に関わらずNOを推した時点で確実に10万コルを得る事が出来る。

俺「そもそも、ガチャモンやモックに対して攻撃した時点で処刑されるなんて事はとっくに分かり切ってるはずの事なのに、キレた勢いで攻撃しちまうなんて愚の骨頂って奴だよな……」

レイナ「……オズマ?」

俺が話を始めると、レイナもユッチも俺の話を聞き入る態勢になっていた。それを確認した俺は更に話を進める。

俺「ぶっちゃけ、どっちに投票しようが当人の勝手さ、一人一人に自由な投票権が与えられてる上に、それぞれ自分がどちらに投票したかなんて情報は非公開なんだからな」

ユッチ「じゃ、じゃあ……し、仕方ないから……」

俺は自分のガチャパットをレイナとユッチにハッキリと見えるようにすると、その場で片方を即に選択する。

俺「そもそも本来なら、攻撃した時点で問答無用で公開処刑のはずだったんだ、だったら10万コルなんて金も本来なら手に入らないはずだったんだから、別にもらえなくたって当たり前だよな」

ユッチ「あ、ええ―――!!?」

俺がYESをハッキリと見えるようにあっさりと選択すると、ユッチがまるで勿体ないと言わんばかりの様子で絶叫していた。
おかげで否応なくレストランにいるプレイヤー達からある程度の視線を集めてしまう結果となった。

レイナ「……全く見ず知らずの、関係の全くないプレイヤーの為にあっさりと10万コルを得るチャンスを捨てられるのね」

俺「そりゃ俺から見たって10万コルはデカい金だよ、そこは間違いないさ」

10万コルなんて大金は最前線のプレイヤーですらキープしているプレイヤーはそう多くないだろう。
実際に10万コルなんて大金があれば強化済みの第一線級のレア武器を容易に買う事が出来るし、それでお釣りがたっぷりと来るくらいだ。
だが、俺はたった今、そんな大金を得るチャンスを蹴って、YESを選択したのだった。

俺「だが、その為に見ず知らずでバカな事を仕出かした奴だとしても……指先一本で救えるなら迷わずに救うさ、少なくとも俺はな……」

レイナ「……そう、けど私はオズマがそうしたなら、同じにするわ」

レイナはそう言って、俺とユッチに対してガチャパットが見えるようにしながらYESをタッチしたのだった。

ユッチ「そ、そうっすよね!金の為に見殺しなんてクソったれの金の亡者のやる事ですからね!決めました、僕もYESにするっす!」

と、言いながらユッチはガチャパットをタッチしていた。これで、この場にいる俺たち三人は既に全員投票済みになったので、投票のし直しは出来なくなった。
その場にいるほかのプレイヤー達も最初はどうするべきか、悩んで中々投票する様子が無かったが、時間が経つにつれタイムリミットの30分が迫って来ると、それぞれ意を決して、ガチャパットをタッチして、投票を済ませていった。

ユッチ「皆、どっちに投票してるんでしょうね……?」

俺「他の連中がどっちに投票してようが、投票済みならもう確認する術なんてねぇよ……他の奴の投票に口出しする気も無いしな」

立木ナレ「そして、ついにタイムリミットの30分が経過した!!」

ガチャモン「は~い、時間切れで~す!投票率はなんとほぼ100%!!」

モック「おお~、これは凄い!近年の日本の選挙ではまずあり得ない投票率ですな~!!」

ガチャパットの映像が再びガチャモンとモックに切り替わった。いつの間にかガチャモンとモックは選挙カーに乗って、背広を着て、まるで政治家の選挙のような光景となっていた。

ガチャモン「それでは……発表します!!投票の結果はこうなりましたぁ―――!!」

YES 89%
NO  11%

モック「え~、YESが89%ですので。残念ながら公開処刑決定になりましたですぞ――――!!」

ユッチ「そ、そんな!なんでだよ!なんでだよ!!」

公開処刑の決定を明確にさせたその投票結果を見た瞬間にユッチは理不尽に対して不満をぶちまけるかのように『なんでだよ!』を繰り返した。
ユッチだけでなく他のプレイヤー達の中からも、喚いたり、大声を出したりする者がいた。
そして、そんなプレイヤー達の感情の高ぶりを楽しむかのようにガチャパットに映っているガチャモンは楽しげに飛び跳ねる。

ガチャモン「は~い、投票の結果はもう覆せません!!YESに投票した89%の皆、残念でした~!そして、NOに選択した11%の皆はおめでと~!!たった今10万コルをマネーストレージに追加したからね~」

楽しげにそう解説するガチャモンの足許では手足を拘束されて口を封じられているプレイヤーのモクスドが絶望的な事実を思い知り、青ざめた表情で声にならない絶叫を上げていた。

モック「いや~、まさに今回の投票は己の欲望との戦いでしたな~……まさに金は命よりも重いでした!!」

ガチャモン「それでは、モクスド君の公開処刑を開始しちゃいま~す。はじまりはじまり~♪」

立木ナレ「再びガチャパットの映像が一瞬、暗転したかと思うと、次に映し出された映像には、縦長の透明ケースの中に閉じ込められたモクスドがいた!!」

モクスド「出せ!なんだよこれ!?出せよ!出せってばぁ――――!!」

俺「どうなるんだ一体……」

縦長の透明のケースは横幅自体は人一人が入れる程度の広さしかないが、高さは4メートル近くの高さの為、上が開きっぱなしの状態でも自力で這い上がって脱出する事は不可能のようだった。

チャリン……と、小さな音と同時に、ケースの中に落ちてきたのは数枚の金貨だった。ケースの中のモクスドは何故この中に金貨が?と言った様子で訳の分からぬまま、しゃがんで拾った次の瞬間……ジャラララ!!と、豪快な音を共に大量の金貨がモクスドを閉じ込めている透明ケースの中に真上から、一気に雪崩込んできていた。

モクスド「き、金貨が!金貨がこんなに!?」

自分が今、閉じ込められている最中でありながら、突然目の前に真上から大量の金貨が雪崩込むという異常事態にモクスドは思わず目を輝かせて金貨を魅入っていたが、それこそが公開処刑の前触れだった。
絶え間なく真上から金貨がジャラジャラと音を立てて雪崩込んでくると、気が付く頃にはモクスドの身体の下半身は透明ケースを埋め尽くさんばかりの勢いの金貨によって宇持った状態と化していた。

モクスド「あ、あれ?う、動けない……動けないぞ!?」

ここにきて、ようやく自分が大量の金貨によって身動きが取れない状態である事に気が付いたようだった。
そして、今もなお、モクスドを閉じ込めている透明ケースには大量の金貨が上から次から次へと放り込まれ続けている。

モクスド「や、止めろ!止めてくれ!もう金貨はいらない!これ以上はいらないからやめろ―――――!!」

下半身を埋めていた金貨はやがて胸板まで達し……それからも尚も金貨は更に透明のケースを埋め尽くしやがては……

モクスド「た、助けて……」

完全にモクスドを埋め尽くしても尚、金貨は透明のケースの中にぎっしりと溢れんばかりになるまで雪崩込み続けたのだった。
そしてそこに、ようやく今までその事態を見ていただけのガチャモンとモックが動き出して、透明ケースを金槌でドカドカと叩き続けると、ケースにひびが入り、やがてケースはバラバラになって壊れた。

ガチャモン「うおわぁ――――!す、すっごい!凄い!凄いお金だよモック―――――――!!」

モック「分かってますぞガチャモ~ン!まさに10万コルとか20万コルどころでは済まない大量の金貨だらけですな~!!」

そして、ケースが破壊された事によって金貨が辺り一帯に散らばり、その金貨の中から出てきたのは……

ユッチ「ひぃっ!!し、死んでる!!」

レイナ「…………」

丁度HPケージが0になったモクスドで、発見された瞬間にその身は青いポリゴン状の欠片となって砕け散ったのだった。
そして、ガチャパットにはこう表記された。

『金は命より重い』

立木ナレ「公開処刑が終わると、画面は切り替わり再びガチャモンとモックの二人のドアップの映像が映し出された」

ガチャモン「は~い、皆、公開処刑を決める投票タイムお疲れさまでした~」

モック「いやはや、95%以上の人がYESを選択すれば彼はこうならずに済んだんですのに89%止まりとは……やっぱりお金の魅惑には勝てなかった人が多かったようですな~」

ガチャモン「それじゃ、YESに投票しちゃった人は今頃後悔してる人続出中だと思うけど、これはあくまで君たちが選んだ結果の末の事だからさ、人を恨まず人のせいにせず……自己責任って事でよろしく!!」

とガチャモンが言って、ガチャパットの映像は終わったのだった。先程まで賑やかに食事を楽しむプレイヤー達の会話で賑わっていたレストランは薄気味悪い沈黙に包まれていた。

レイナ「……結局、処刑されちゃったわね」

俺「ああ、だけどだからってやっぱりNOにしてれば良かったとか今更思ってても遅いがな」

ユッチ「な、なんで……いったいどこのどいつがNOに投票しやがって……」

俺「幾らでもいるだろ、割とその辺にな」

他の客達は引き攣ったような表情を浮かべながら、お互いを凝視するように見合っていた。それも無理もない、NOに投票したのは11%だと言うのなら、この場にいる30人ほどの客達の中にも3人前後の割合でいるのだ、金欲しさにNOを選択して一人のプレイヤーの命を見捨てた者たちが……
そして、次の瞬間だった、薄気味悪い店の中の沈黙を一人のプレイヤーが破ったのは。

「俺……俺、見たぞ!こ、こいつ、こいつがNOに投票する瞬間をハッキリと見たんだ!!」

いきなり、店の中でそんな事を叫びながら、一人のプレイヤーを指さした男は、見覚えのある男だった。

俺「アイツって……ALSの奴だよな?」

レイナ「……確か、ジョーって呼ばれてたわ」

そうだ、奴は第一層のフロアボス戦の直後にキリトをベータ―呼ばわりしてひと悶着お越し、第二層でもネズハの詐欺によって死人が出たと騒ぎ喚き、それ以降も何かあるたびに、話を誇張して大騒ぎして喚いている攻略プレイヤー屈指の問題男だった。
そして、そんな騒ぎまくっている男が指さしている相手はDKBのプレイヤーでボス戦で何度か見覚えのあるプレイヤーだった。

DKB「はぁ……!?ち、違う!何言ってんだテメェ!!いきなり分けわからねぇことほざいてんじゃねぇぞ!!」

ジョー「と、恍けるな!俺は……ちゃんと見てたぞ!お前はNOに投票したんだ!お、お前の……お前のマネーストレージにはあるんだろ!アイツを見殺しにして、それで貰った10万コルがあるはずなんだ!」

DKB「バカ言ってんじゃねぇ!確かに俺は10万コル以上溜め込んでるけどな!そ、それは……モンスター倒したり、クエスト沢山こなしたりして必死に今まで溜めた金なんだよ!!」

気のせいかジョーに対して怒鳴り返しているDKBプレイヤーの表情が追い詰められているような、そんな感じの強張った顔に見えて来ていた……
やがてレストランの中はプレイヤー同士がお互いに疑いの視線をさらに強めて睨み合う緊迫した空気になって来ていた。

ユッチ「あ、あのDKBの奴……ま、マジで金欲しさに、NOに投票しやがったのかよ……」

俺「店を出るぞ」

レイナ「……分かった」

ユッチ「え……?え、ええ?お、オズマさん!?」

俺は疑惑の目を向けられているDKBプレイヤーに対して、同じようにまるで奴が既にNOに投票した人物だと決めつけているような目付きのユッチに向けてそう言って、すぐに店を出る。
あのままあの場にいたら俺達まで誰がNOに投票しただとか、そんな無意味な魔女狩りのような水掛け論に巻き込まれかねないので、そうなる前にさっさと店から離れる事にしたのだった。

レイナ「……お店の外でも、結構大騒ぎしてるみたいね」

俺「今日はもう宿屋で部屋を取って休んだ方が良いかもしれないな……ったく、アイツらの狙いはこれだったのかもな……」

レストランの外に出ても、プレイヤー達はさっきの投票で困惑したり、人を疑いの目で睨み合っている者たちが多く、ほとぼりが冷めるまでには時間が掛かりそうだった。



今回の命懸けの投票は、感想投稿者のwhite2さんの意見を参考にしました。

white2さんありがとうございます^v^


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

FILE39 アルゴからの依頼、迫るPK集団!


立木ナレ「人間の欲望を試す悪魔の投票から二日が経過した。投票結果により、モックに攻撃を加えたプレイヤーの救済は為される事は無く、公開処刑となり、見捨てた11%のプレイヤーは10万コルと言う大金を得た!そして、この投票はプレイヤー達の間で相互不信を生み出す要因となったのだった!!」

今日はユッチとデクスターは数人のギルドメンバーを引き連れて、週に一度しか発生しない、第十層のクエストをやりに行っていた。
そして、俺達の元に1人のプレイヤーが訪れていた。

アルゴ「っつーわけで、オレッちの護衛をしてほしんだヨ、オー君」

俺「なるほどな、非戦闘職のお前にとって、最前線層でモンスターがウヨウヨしてるフィールドで、モンスターを倒さなくちゃ進めない場所に進むにはやっぱり、腕の立つ護衛が要るもんな」

俺とレイナの元に訪れた依頼人は情報屋のアルゴだった。アルゴは現在の最前線であるこの第十二層でモンスターの|湧出(ポップ)率が高い場所に連れて行ってくれとの事だった。
目的の場所に行くには、どうしても倒さなくてはならないモンスターがいるらしく、非戦闘職のアルゴ一人では流石に無理があるとの事だった。

アルゴ「モンスター達から逃げるだけでいける場所ならオレッちだけでもなんとかなるんだけどナ~、そこのフィールドには目的地の手前のエリアに辿り着くと、モンスター群れが出て来て、そいつらを倒さないと先に進めない仕様になってる事が分かったんだヨ」

レイナ「……護衛は、私とオズマだけで充分なの?」

アルゴ「ああ、オー君とレーたんの二人が来てくれるなら、全然問題なく通れるはずダ。依頼を引き受けてくれたら、役に立つ情報をおしえてあげるからサ」

俺「俺達にとって役に立つ情報なんだよナ?」

俺が少し、わざと疑わしい者を見るような目付きでアルゴを見ると、アルゴは口元を少し歪ませて笑みを見せる。

アルゴ「実質、スキルスロットを一つ増やせるアイテムなんてどうだ?」

俺「聞かせて貰おうか?」

アルゴ「にゃははっ!乗って来たねオー君」

アルゴの話はこうだった、その実質スキルスロットを一つ増やせるアイテムと言うのは『カレス・オーの水晶瓶』と言うらしい。
そして、そのアイテムはスキルスロット設定週の各種スキルの熟練度を保存する事が出来るとの事だった。

俺「成程、確かにそれは、スキルスロットが一つ増えてるに近い状態だな」

レイナ「……本来、スキルスロットから一旦、外されたスキルは熟練度がリセットされる」

レイナが今言った通り、限られたスキルスロットにセットされているスキルは使い続ければ熟練度が徐々に高くなっていくが、一旦スキルスロットから外してしまうと、その熟練度はキープされず、0の状態に戻ってしまうのだが、そのアイテムがあれば熟練度をリセットされる事なく、途中まで高めた状態を維持したままに出来ると言う事だ。

俺「お前の護衛を熟したら、そいつを手に入れる方法を教えてくれるんだな?」

アルゴ「そういうことダナ。悪い話じゃないだロ?」

立木ナレ「こうして、オズマとレイナはアルゴの護衛を引き受けた。アルゴが目指す場所に近づくにつれてモンスターの湧出(リポップ)率は高くなり、確かにこれを全て交わし続けるのはAGI特化のアルゴでも簡単ではないとオズマは理解した。そして、いよいよ目的の場所に辿り着くと、それまで以上の数のモンスターが次々と現れる!」

アルゴ「オー君助けて遅レ~」

俺「それくらいは自分でどうにかなるだろうが……」

アルゴを狙っていた、大蜘蛛モンスターの《バグズ・スパイダー》に俺は体術スキルの飛燕連脚(ひえんれんきゃく)による、連続回し蹴りからの、スキルコネクトで片手剣ソードスキルの『ヘルソード』で剣を地面に叩きつける攻撃で撃破した。
すぐにもう一体のバグズ・スパイダーが今度は硬直直後の俺に狙いを定めて襲ってくる。

俺「レイナ、スイッチ!」

レイナ「……ええ」

俺が攻撃される前に、レイナが両手剣でスパイダーを突き攻撃を加えて、ソードスキルの『ビーストハウル』でスパイダーを軽くスタンさせていた。
そして、硬直が終了した俺が今度はソードスキルの『ドラゴンスゥワーム』の三連続の斬撃攻撃で止めを刺した。

アルゴ「おお~、流石はフロントランナーの中でも腕自慢のイケメン片手剣使いと美少女両手剣使いのコンビネーションだ、オレッちは楽チンだヨ~」

俺「ったく、依頼人と依頼主の関係じゃなかったら、色々と文句を言ってやりたいところなんだがな……」

レイナ「……『カレス・オーの水晶瓶』を手に入れる為ね」

「にゃははっ」とお決まりの笑いをしながら、もはや殆ど見ているだけの状態のアルゴを横目に俺達はモンスターを倒し続けた。
そして、次々と出現する大蜘蛛や羽音が五月蠅いトンボ型モンスターを倒し続ける事30分近くが経過した。

アルゴ「お疲れお二人さん、おかげで先に進めるゾ~」

俺「結構色んな素材アイテムとか、初めて見るアイテムとかをドロップしたな……」

レイナ「……けど、高値で売れそうなアイテムは無いわね」

まぁ、雑魚モンスターを倒しまくるだけでそうそう確実にレアアイテムや武器をドロップできるわけじゃないからな。
今回の依頼の目的はあくまでアルゴが教えてくれる『カレス・オーの水晶瓶』の入手方法だからな。

アルゴ「んじゃ、先に進もうゼ、それとここを出るまで絶対にパーティーを解散しちゃダメだゾ。バフが消えちまうからな」

俺「ああ、言われて見ればさっきまで見なかったバフが付いてるな、俺たち全員に」

レイナ「……このバフの効果が付いてるうちは、この先に出入りできるけど、バフを獲得する際に組んでいたパーティーを解散するか24時間経過で消滅すると書いてあるわ」

俺「うっかり、気を抜いてパーティーを解散しちまったら、またここを出入りする時にさっきの繰り返しって事か」

アルゴ「そう言う事だナ」

そして、俺達はアルゴが目指している場所に辿り着いた。そしてその先で俺達が見つけたのは、一つの宝箱だった。

アルゴ「あったあった、これが欲しかったんだよナ」

そう言いながらアルゴが宝箱を早速開けると、中から出てきたのは羽の付いたシューズだった。

レイナ「……それは?」

アルゴ「これは『ウィンドシューズ』だ。今、オレッちが、付けている足装備よりも更にAGIの性能に特化してるから更にスピードに磨きが掛かるんダ」

アルゴはそれを手に入れると、早速その『ウィンドシューズ』を装備していた。後はアルゴを街に戻るまで守りながら連れて行けば依頼達成だ。
パーティーを組んだまま俺達は、さっきモンスター達の群れを戦った場所を通り抜ける。まだバフが付いたままなので、モンスターの群れは出現せずに素通りできた。

アルゴ「二人ともありがとうナ、これで今までよりも仕事がしやすくなりそうダ」

俺「お前の情報屋としての仕事の恩恵が俺らに回って来るんなら、報酬の件は別としても受けて良かったな」

レイナ「……誰か来るわ」

そこで、レイナが得意の索敵スキルで他のプレイヤーの察知を知らせてきた。俺も一応索敵スキルは習得しているが、先に習得したレイナに比べて熟練度は低いので、こういう時はレイナの方が先に気が付きやすい。

俺「何人だ?」

レイナ「……3人よ」

アルゴ「ここに来る目的があるとしたら、多分オレッちと同じで、このシューズが目的だと考えられるけど……」

少女「せいか~い、アタシ達もその『ウィンドシューズ』が欲しくって来ちゃいました~」

俺「あいつらか……?」

それは異様な風貌の三人組だった。今アルゴの言った事に返事をしたのは、かなり小柄で俺よりも数歳程年下で少女と思わしき声だった。
しかし、その顔はウサギのマスクを被って覆い隠されていた。ウサギのマスクと言っても、ファンシーなぬいぐるみのようなマスクではなく、目の部分が血で染まったかのように赤一色のグロテスクなウサギのマスクを被っていた。
共に行動している二人の男もそれぞれ深く被ったフードや仮面で顔を見えないようにしていた。

少女「けどね~、この先を通るには、いっぱい出てくるモンスターを全部倒さなくっちゃいけないでしょ、それってめんどくさいからさ~……アタシ達の代わりに『ウィンドシューズ』を手に入れてくれちゃった人から貰っちゃうことにしました~」

と、楽しげに言いながら、大きな(デスサイズ)を掲げる。グロいウサギマスクの奥の表情はさぞ愉快そうに笑っているんだろうな。
そして、隣の二人の男達もそれぞれ、曲刀とダガーを構える。

俺「そうか、レアアイテムのシューズを手に入れた奴から奪おうって最初から企んでたってわけか、それは手間のかかる事してるんだな」

アルゴ「オー君、こいつらタダの強盗目的のプレイヤーじゃないゾ」

アルゴが珍しく、真剣味のある声でそう言った。確かに、単にレアアイテムの一つを手に入れる為に他のプレイヤーがこの場所を訪れるのを待っているなど効率が悪すぎる。こいつらの目的は単なる強盗じゃない。

俺「こいつ等って、やっぱり例の噂のPK集団か?」

アルゴ「そうだと思うゾ。オレッちの情報でもまだ新しいけど、グロいウサギマスクの娘が所属してるって話を聞いたからナ、多分コイツだ」

PK集団の情報は、最初は根も葉もない単なる噂の域を出ていなかった。だが、日が経つにつれて、その被害は明らかにただモンスターによるものでは済まないようなケースが増えて来て、ついには数日前に最前線のプレイヤーまでもが被害に遭ったと言う明確な目撃情報が寄せられのだ。
このデスゲームであるSAOで最前線プレイヤーを殺すと言う事はクリアまでの日がさらに遠のくことに繋がる事など分かり切っているはずなのになぜ、こんな事をするのか分からないが、目的はどうあれ遭遇してしまった以上、何事も無く済まされそうにはないのは確かだった。

俺「アルゴ、まだお前の護衛依頼は続いてる。お前は下がってろ」

レイナ「……私達で何とか二人とも撃退する」

アルゴ「悪いな二人とも、オレッちにはこいつらの相手はちとヤバそうだから任せたゾ!」

無理もない事だ、最前線の層に来るプレイヤーの多くは攻略集団、あるいはそれに近いミドルゾーンのプレイヤーたちなのだが、そんなプレイヤー達を狙って最前線でPKを狙っていると言う事はこの連中もそれ相応に腕に自信があると言う根拠になる。
非戦闘職であるアルゴは特化したAGIで逃げる事は得意だが、直接戦う事は得意ではない。

曲刀使い「全員あの世行きだぁ――――!!」

曲刀使いが最初に荒々しい声をあげながら俺を狙ってソードスキルを発動する。『レイジング・チョッパー』と呼ばれるそのソードスキルは、一歩踏み込んでからの三連撃を放ち、そのまま高速で突進しながらの突きを繰り出す技だ。

俺「させるか!」

俺は左手のソードブレイカーで曲刀の三連撃攻撃を抑える。ガッシリとソードブレイカーで曲刀を絡めて、そのまま右手の片手直剣で斬り付ける。

ダガー使い「やらせるかぁ!」

俺「うおっと!」

すぐにダガー使いが俺の攻撃を阻止する為に、斬りかかって来たので、俺は攻撃を止めてすぐに後ろに飛び退いた。
そして、入れ替わりにレイナが両手剣を大きく振り被り、ソードスキルの『ファイトブレイド』で剣を水平に構えてから突進し、連続斬りを浴びせていた。

ダガー使い「うぐわぁ!!」

モロに両手剣のソードスキルの連続斬りを食らったダガー使いのHPは瞬く間にイエローゾーンにまで減少した。

少女「も~、だらしないな!!アタシが殺す!殺してやるんだ!!」

男達に勝るとも劣らぬ、苛烈な殺意を露にし、レイナに対してソードスキルを発動する。そのソードスキルは俺の『デーモンファング』に似た、SAOでは数少ない遠距離攻撃の衝撃波を飛ばす攻撃だった。

俺「ならこっちも」

俺はその衝撃波に向けて『デーモンファング』を発動し、衝撃波で衝撃波をぶつけて攻撃を相殺した。

ダガー使い「んなろ!」

俺「うおっ!」

今度はダガー使いがすかさず飛び込んで俺に対して、ダガーで突きをしてきた、硬直の解除が僅かに間に合わず、攻撃を受けてしまったが、深く刺さる事は無かったので大きなダメージにはならず、すぐに硬直解除と同時に俺は『ビーストハウル』を叩き込み、ダガー使いをその場で地面に叩きつけた。

ダガー使い「ぎゃっ!!」

曲刀使い「つ、つええ……」

俺「いやいや、オタクらも結構やる方だぜ」

とは言え、ダガー使いのHPはレッドゾーン寸前まで減少して、俺の足許で倒れ込みまさに完全に詰んだ状態だった。
それを分かっているから曲刀使いも、大鎌使いの娘も、一旦攻撃の手を止めて様子見をしているんだ。

レイナ「…………」

レイナもその様子を見て、一旦攻撃の手を止めていた。俺がどんな判断を下すのか待っているのだろう。

アルゴ「オー君、そいつらをどうするんダ?」

俺「こいつらの特徴や情報は好きにお前が使ってくれ、何なら注意喚起を広めるのもありだしな」

特に俺たちがこの場所で襲われた事は直ぐにでも報告すべきことだろう。

俺「後一撃で死ぬんだ、もうこれ以上戦っても……無駄死にするって分かるよな?」

ダガー使い「…………」

無言で俺を見上げるダガー使い、俺はそいつに向かって『今すぐに仲間と一緒にどっかに行け』と言おうとした時だった。

ダガー使い「喰らえぇ―――!!」

俺「ったく、諦めの悪いこった……」

尚も攻撃を繰り返すダガー使いの攻撃を俺がソードブレイカーで抑えようとした時だった。

ダガー使い「がっ!?」

俺「お、おい!?」

少女「ありゃま」

ダガーの刃が俺に迫る前にレイナが左手でダガー使いの右足をしっかりと掴み、その動きを完全に抑えていた。

レイナ「……マスターに対する殺意ある行動と見なし、即座に排除する」

アルゴ「れ、レーたん!?」

レイナは小さな声で妙な機械の音声のような言葉を口にした直後、持ち前の筋力ステータスを最大限に発揮し、ダガー使いを垂直に空高く投げ飛ばしていた。

ダガー使い「うわわぁ―――――!!」

そして、地上に落下してきたダガー使いに対してレイナは俺達が止める間もなく、ソードスキル『サイクロンソード』による切り上げで、ダガー使いのHPを0にしてしまった。

ダガー使い「あ……ぐあ……!」

地上に落下する寸前にダガー使いの体は青い破片と化し消滅したのだった……



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

FILE40 レイナのPK・・・そして大学時代の茅場の話


立木ナレ「オズマとレイナはアルゴからの依頼を引き受けて、『ウインドシューズ』を手に入れる為の護衛を引き受けていた。オズマとレイナは無事にアルゴを守り切り、アルゴはウインドシューズを獲得。そして、アルゴを主街区に送り届ける矢先に、オズマ達は噂になっていたPK集団の一員と思わしき3人組の襲われた!!オズマ達はアルゴを守りながらPK集団を撃退、オズマはPK集団を殺すことはせず、自分の前から立ち去らせようとしたのだったが、ダガー使いはオズマに刃を向けたが、そんなダガー使いに対してレイナは、オズマが止める間もなく、容赦なくソードスキルを浴びせてPKしてしまったのだった!!」

レイナ「……排除完了」

アルゴ「レ、レーたん……」

俺達の目の前で、レイナは躊躇なく、残りのHPがレッドゾーン寸前だったPK集団のダガー使いに容赦の無いソードスキルを浴びせて、そのHPを0にしてしまった。
相手のPK集団のプレイヤー達のカーソルはオレンジなので、レイナが攻撃してもカーソルの色はグリーンのままだった。

曲刀使い「や、や、やりやがった!!こ……こ、この女……や、やりやがったぞ!こ、殺しやがったぞ!!」

レイナ「……先にPKを仕掛けてきたのは貴方達の方よ」

さっきまで威勢の良かった曲刀使いはガタガタと震えて、レイナに怯え切っていた。一方で、大鎌(デスサイズ)使いの小娘はむしろ楽しげに笑い始めた。

少女「きゃははっ!!すごいすご~い!!今までアタシたちが襲ってきた連中はみ~んな、どんだけ追い詰められても逃げるか命乞いするばっかりだったのに、まさかアタシ達の方がPKされちゃうなんてビックリしちゃった~」

俺「お前ら……笑ってる場合かよ」

レイナは既に曲刀使いと大鎌使いの小娘に対しても、攻撃を続行しようとしていた。と言うかこれは俺自身も迂闊だった。
NPCヘルパーのレイナは原則マスターである俺を守る事を最優先している、それ故にさっきのダガー使いが俺に悪あがき同然の攻撃を加えた際には、例えそいつが虫の息の状態だろうと、躊躇なく殺してしまうんだ。
戦う前に俺の方からレイナに対して、絶対に殺すなと厳命しておくべきだったんだ。

曲刀使い「や、止めろ!く、来るんじゃねぇ!」

俺「死にたくなかったらさっさと逃げろ!急げ!!」

曲刀使い「ひぃ――――――!!」

俺が怒鳴り付けるようにそう言い放つと、曲刀使いはジタバタと慌てふためきながら逃げ出した。
残ったのは大鎌使いの小娘だけだった。小娘はグロいウサギマスクを被った顔を俺の方に向けてくる。

小娘「おにーさんは優しいんだね、自分達を殺そうとしたアタシ達の命の心配してくれるなんてさ、そんなに優しくされたら好きになっちゃいそう」

俺「もう助けてやらねーぞ」

小娘「は~い、今日は引き下がるね。また会えると良いね、て言うかまた会いに来るからね~!!」

最後までおちゃらけた、ふざけたような事を言いながら大鎌使いの小娘は去って行った。

レイナ「……まだ追えば間に合う」

俺「止めろ、追うな」

レイナ「……分かったわ」

ようやく、戦いは終わった。だが、今の戦いでレイナは1人のプレイヤーをPKしてしまったのも確かだ。

レイナ「……ここに留まってると、さっきの連中が仲間を連れて戻ってくるかもしれないから移動しましょう」

が、そのレイナ本人はついさっき自分が人一人をPK……殺害したとは思えないほどに普段と何ら変わらぬ冷静さ、落ち着き払った平静さだった。

俺「……何で殺したんだ?」

何の意味があるのか自分でも分からないが、俺はレイナに対してそんな事を聞いていた。

レイナ「……彼がオズマを殺そうとしたからだけど」

それは、予想通りの答えだった。淡々とあっさりと答えたレイナに対して俺はこのデスゲームが始まってから初めて、感情的になりそうな精神を堪えながら、落ち着きを何とか保ちながらレイナに言う。

俺「あんなのPKするまでも無く無力化できたはずだろ……アイツの攻撃だってたかが知れてる。と言うかそれ以前に、このゲームの世界でのPK行為は本当の意味での殺人行為なんだぞ……!」

レイナ「……どうして殺したらダメなの?」

レイナはまるで俺の言っている事が本当に、理解しきれないと言うか、純粋な質問をするような感じでそんな事を聞いてきた。

俺「お前……そんなの当然だろうが……たとえ相手が強盗だろうが悪党だろうがPKしてるような奴らだろうが、殺していい理由にならないだろ!」

思わず俺は最後の語尾を荒げたような声で言ってしまった。まるで、全く話が通じない、根本的な価値観とか、住んでいる世界がまるで違う相手と話しているような感覚だった。

レイナ「……理解不能。自分の身の危険となる相手を……自分の身を優先する為にPKする行為の、殺す事の何がダメなのか……理解不能」

俺「だからな……」

アルゴ「オー君、とりあえず話はここまでにして一度、主街区に戻るゾ。さっきレーたんが言ってたけど、本当にさっきの連中が仲間を連れて戻って来るかもしれないゾ」

さっきまで俺とレイナの会話を複雑そうな表情で見ていたアルゴがそこで割り込むようにそう言ってきた。
確かにレイナの懸念が現実になる可能性も低くはない、今ここでレイナに何を言っても理解するとは思えないのでここはアルゴの言う通りにすべきだろう。

俺「ああ、そうだったな」

立木ナレ「こうして、オズマ達はアルゴを護衛したまま主街区に戻った。そしてオズマはアルゴから約束通り、『カレス・オーの水晶瓶』の入手方法を教えてもらったのだった」

アルゴ「じゃ、またなお二人さん。PK集団の事でなんか分かったら連絡するゼ」

俺「ああ、また何時襲われるか分かったもんじゃないからな」

レイナ「…………」

アルゴは俺とレイナを交互に見渡してから、珍しく少々気まずそうな表情を浮かべてから言う。

アルゴ「悪かったナ、オレッちがこんな事を頼んだばっかりにレーたんにあんなことさせちまっタ……」

俺「お前が謝る事じゃないだろ、あそこで襲われるなんて完全な想定外だったんだ」

レイナ「……一切、問題はないわ」

レイナはまるで、アルゴの依頼を受けた事で自分がPKした事など構わないと言った様子でそう言った。
今更そんなレイナに対して、なんか言ったところで無意味なので、仕方がない。

アルゴ「オー君は、このデスゲームの世界でも絶対に誰も殺すつもりはないのカ?」

俺「当たり前だろ、これが単なる普通のゲームだったら、場合によっちゃPKしても仕方ないか位で済むけど、このソードアート・オンラインではそうはいかないだろ」

なにせ、この世界で他のプレイヤーをPKする事は、現実世界の人間を殺す事なのだから。
自分に敵意や殺意を向けているからと言って、そう易々と正当防衛を名目に殺していいはずがない。

アルゴ「そっか……今回の埋め合わせはいつかさせてもらう。もしかしたらオー君に一番相応しい情報が何時かオレッちの元に入るかもしれないからナ」

俺「ま、少し期待してるぞ」

立木ナレ「そして、オズマ達はアルゴと別れた。一時はオズマはレイナに対して気まずさを感じたものの、結局はオズマはその夜もレイナに対して、その肢体を味わい尽くしていたのだった!!まさに止まらぬ欲望!!抗うことの出来ぬ思春期の少年の欲望だった!!……そして一方その頃、現実世界の東京都台東区日本堤のアパートにて」

恭史郎「いい加減にしやがれ倉崎(くらさき)!ボケた言い掛かりも良い所だ!だ~れがテメーの安物のタブレットなんか盗むかってんだ!あんなもん売ったところでロクな金になりゃしねぇ!」

倉崎「良いから黙って調べさせろくそ爺!俺に嫌がらせで盗みする奴がいたとしたらテメーが一番疑わしいに決まってるだろうがああん!?」

時生「おーおー、今日もやってんな~。あんまりうっせーと、他の部屋の連中まで騒ぎ出すから長引かせるんじゃねーぞ~」

立木ナレ「オズマこと小田切弭間(おだぎりはずま)の父である時生(ときお)と、祖父の恭史郎(きょうしろう)は相変わらず平日の真昼間から暇を持て余していた!時生は適当にテレビを眺めながら真昼間から酒をチビチビと飲みながらタバコを吹かし、恭史郎は隣人である倉崎と言う男と相変わらずバカな口論を繰り広げていた!

NK(ニュースキャスター)「ここで、ソードアート・オンライン事件に関する続報です」

時生「おめーら、少し黙っててくれ」

立木ナレ「時生が何となく見ていたニュース番組のキャスターが息子も捕らわれているソードアート・オンラインに関する事件の報道を始めると、時生は二人にそう言い放ち、恭史郎と倉崎もお互いに気に食わなさそうな表情で睨み合いながらも一旦静まった」

NK「ソードアート・オンライン事件から既に3カ月以上が経過した今日、茅場晶彦容疑者の足取りは依然として不明ですが、警察は事件以来連絡が取れなくなっている茅場容疑者の大学時代の後輩の女性と、茅場容疑者の研究に度々協力していたとされる通信制高校生の少年を事件の重要参考人と見なし手配する事を発表しました」

倉崎「ははっ!ついに茅場の野郎も年貢の納め時ってか?ま、ポリ公が必死こいたところであの野郎が易々と捕まるとはおもえねーがな!」

立木ナレ「倉崎はニュースを見て、ゲラゲラと楽しげに馬鹿笑いをする」

時生「そー言えばおめ~って、大学時代は茅場の同級生だとかだったか?奴が隠れそうな場所とかに心当たりねーのかよ?」

倉崎「はんっ!野郎が逃げ隠れする場所なんか知るかっつーの!確かに俺は奴と大学時代の同級生だったが、奴の事は虫唾が走る位に嫌いだったんだよ!」

立木ナレ「そう、この見るからに不潔で品性下劣な倉崎と言う男は実は大学時代は茅場晶彦の同級生、すなわち東都工業大学の学生なのであった!しかし、4年生位に入試試験の際に替え玉受験をしていたことが発覚!退学になった挙句、実家からの両親からも勘当されてこの山谷に流れ着いた男だった!!」

倉崎「そもそも俺が東都大になんて所に入ったのは親が入れ入れってうっせーから入ってやっただけだっての!大学に通ってたのだって後輩の須郷(すごう)って奴がそいつはも~、苛め甲斐のある奴でよ~、万年茅場の次席のナンバー2で、その事で弄ってやるとそりゃもう……悔しそうな顔で俺の事睨んでくるわけよ!アイツは傑作だったぜ!!」

立木ナレ「倉崎にとって大学時代に後輩をいびり倒していた記憶は数少ない楽しい思い出なのか、実に愉快そうに楽しげに笑いながら語ったのであった!!」

恭史郎「ったく、つくづく下種な思考してやがるなテメーは!」

時生「そのよ、茅場の大学時代の後輩の女って奴も知ってるのか?」

倉崎「おう、多分そいつは神代凛子(こうじろりんこ)だぜ。野郎は神代と付き合ってやがったからな!そしておもしれーことによぉ~、須郷ちゃんも実は神代の事が大好きだったんだよ!全く隠してるつもりだったかもしれねーがバレバレだってーの!ぎゃははははっ!思い出したら笑えて来たぜ!!」

時生「よ~するに、大天才の先輩にナンバー1の座も意中の女も取られちまった挙句に、オメェみてーな底意地の悪い先輩にコケにされる散々な大学時代だったんだなその須郷って奴は」

倉崎「うっせー!毎日毎日ゼミで面白くもねー講義聞かされてウンザリだったんだから後輩の一人くらい虐める楽しみがなくちゃやってられねーっての!!」

立木ナレ「現実世界では今日も連日、ソードアート・オンラインに関する事件の報道は続いていた!!そして毎日のように犠牲者の発表が為されていたのだった!!」

目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

FILE41 不殺のソードスキルの噂


立木ナレ「デスゲーム、ソードアート・オンライン!!ゲーム攻略の最前線は第20層まで進んでいた!そしてこの日、オズマが結成したギルドMBT(未来は僕らの手の中に)に1人の訪問客が訪れるのだった!!」

ミリオン「リーダー、お客さんよ」

俺「客?」

そう言って俺を呼び出したのはギルドの女性メンバーで、商人クラスのミリオンだった。彼女は主に迷宮区やフィールドで行商をして金を稼ぎ、その一部をギルドの資金に収めて貢献してくれている。

ミリオン「そ、リーダーも知ってる人」

ミリオンは常に眠たそうな目を浮かべながら、そのお客さんを案内する。その小柄な体格、顔に三本の描いたような髭、そして……

アルゴ「にゃははっ!なんだかんだでギルドのリーダーやってるんだナオー君。すっかり様になってるゾ」

俺「んな事くらい、情報屋じゃなくたってある程度は調べられるだろうな」

訪れたのは情報屋のアルゴだった。コイツが自分から俺達の方に来るときは何かしら、耳よりの情報を売りに来たって事が大概だ。

ミリオン「そんじゃ、アタシは今日も商売に行ってくるわね~」

ユッチ「あ、今日行く場所ってさ、レアダガーをドロップするかもしれないモンスターが出てくるところだろ?もし運よくドロップ出来たら、態々高い金払って買う必要も無くなるから、一緒に行くっす」

ミリオン「は~い、どうぞお好きに~」

入れ替わりにミリオンはユッチとその他数名のギルドメンバーを引き連れて行商に出て行った。
未だに俺達は特に決まったギルドホームを持っているわけではないので、常に全員固まって行動してるわけではなく、目的が一致した者同士で一緒に狩りをしに行ったりクエストをしに行くパターンが多かった。

アルゴ「オー君さ、前にオレッちの護衛したときにさ言ったよナ?あれって今も変わってないカ?」

それは第十二層で俺とレイナがアルゴの護衛をしていた時にPK集団に襲われた時の事を言っているのだろう。
あの時、レイナは悪あがきを続けて俺に襲い掛かるPK集団のダガー使いを躊躇なく殺し、そんなレイナに対して俺が言った言葉『強盗だろうと悪党だろうとPK集団だろうと殺していい理由にはならない』だった。

俺「考えは今も変わってない、俺は相手だどんな連中であれPKはしない。最も、其の考えややり方を誰かに押し付けるつもりもないけどな」

アルゴ「そっか……オー君はやっぱりそう言うんだナ……」

PK集団による被害の報告は未だに時折攻略集団や俺達のギルドにも届いていた。最前線クラスのプレイヤーであれば自力で撃退する事も難しくないのだが、SAOプレイヤーの大多数を占める中層のプレイヤー達にとっては自力で倒すのは困難なようで、目を付けられたらそのまま為す術なく殺されてしまう事が多いらしい。
そんなPK集団の被害が続く内に攻略集団の一部のプレイヤー達の中から、こんな事を言い出す奴が現れ始めていた『人殺しを楽しんでるような連中に襲われたら、返り討ちにして殺しても仕方ない』だとか『むしろ、奴らを殺して中層のプレイヤー達の被害が減るのならそれに越した事は無い』なんて意見が。

俺「現状、PK集団に対する、襲われたら返り討ちで殺せって意見に対しては賛否両論ってところだな」

アルゴ「そーだナ、生かしたまま捕まえて第一層の地下牢にぶち込めれればそれに越したことはないんだろうけどサ、それもそんな簡単じゃないからナ」

俺とアルゴがそんな話をしていると、近くで会話を聞きながらガチャパットを見ていたデクスターが口を出してくる。

デクスター「連中、積極的に他のプレイヤーを襲ってくるだけあってそれなりにレベルは高いし、対人戦を想定した戦い方を心得てるようだな」

俺「ああ、攻略集団でも最近は、PK集団に襲われた時の為にデュエルで対人戦の練習をもっとするべきだって意見も出てる」

実際、俺もギルド内で実力が近いレイナやデクスターと時々だが、初激決着モードのデュエルで対人戦の練習をするようになっていた。
モンスターを想定した戦い方と、同じプレイヤーを想定した戦い方では勝手が違う事が多いからだ。
一般のモンスターに対しては有効的な戦い方も、プレイヤー相手に対しては通用しにくかったなんて事も多く、それを見誤った結果、PK集団によって命を奪われた最前線のプレイヤーもいたくらいだ。

アルゴ「ちょっと話が逸れたから戻させてもらうゾ。オー君みたいにさ、これから先も絶対に殺さないなんて言ってるフロントランナーは意外と少ないんダ。実はキー坊とアーたんにもこの話は少しだけ持ち掛けたんだけどナ」

アルゴの言っているキー坊はキリトで、アーたんはアスナの事だった。アイツらは今でも相変わらずどこのギルドにも所属せずに二人でコンビを組み、フロアボス戦の時になると主にエギルが率いている大男組の連中のパーティーに入って戦うと言った感じだった。

デクスター「キリトは、お前から持ち掛けられた話を断ったのか?」

アルゴ「そうだな、キー坊はこれから先、本気で殺しにかかって来る連中に対して、絶対に自分は殺さないなんて保証はないって言ってナ、この話は殺さない覚悟が俺よりも強い奴にしてやってくれって言ったんダ」

アルゴのその話を聞いて、俺は思わず苦笑してしまった。

俺「アイツがね、自分の身を守るためとはいえ、返り討ちでPKしちまうなんて想像も付かないんだがな」

デクスター「で、アルゴ。お前が持ってきた情報ってのは一体……?」

アルゴは少し、口元を歪ませて俺に顔を近づけてから言った。

アルゴ「それはナ……絶対に相手を殺せない、他のソードスキルや攻撃でPKをしたらその瞬間に失われる、特殊ソードスキルの情報サ」

俺「詳しく聞こうか」

アルゴ「そのソードスキルは使い手のメインの武器によって攻撃パターンや効果は変わりこそすれど、二つの共通点を持ったソードスキルなんだ」

アルゴは右手で中指と人差し指を立ててそう言った。

デクスター「どんなソードスキルだ?」

アルゴ「一つ目は、そのソードスキルはHPがレッド―ゾーンの相手に対してはモンスターだろうとプレイヤーであろうとダメージを与えられず、そのソードスキルでHPっゾーンがイエローからレッドになったらその時点でHPの減少が止まるんだ」

それで、相手を絶対に殺せないソードスキルと言うわけか。

アルゴ「そしてもう一つは、そのソードスキルの持ち主が一度でもPK行為をしてしまった瞬間にそのソードスキルは失われて、二度と習得する事が出来なくなるんダ」

デクスター「PKした瞬間に消えるソードスキルだと?そんなソードスキルがあるのか……いや、だからクエストとかでしか習得できない特殊スキルと言うわけか」

俺「そのソードスキルって、明らかにこのソードアート・オンラインがデスゲーム化する事を前提で設定されたソードスキルだろうな」

このゲームがデスゲームではない、ただの普通のゲームであればPKをする機会などそうそう珍しくも無かっただろう。
単にフィールドで他のプレイヤーともめ事の末に争いに発展した末のPK行為、他にもデュエルでどちらかのHPが0になるまで続く完全決着ルールのデュエルなどなど。とにかくそんなPKした瞬間に失われて、二度と習得できなくなるようなソードスキルは、通常のPK有りのMMORPGじゃ、保ち続けるのは困難を極めるのだから。

アルゴ「こんな感じで厄介なデメリットが二つもあるソードスキルだけど、その分恐らく、基本性能自体は申し分ないんじゃないかって推測が経ってるんだ」

俺「確かに、そんなデメリットだけのソードスキルじゃ流石に誰も興味を示さないだろうからな」

アルゴ「オー君にはこの前の一件で埋め合わせをしたいと思ってたからな、金は取らねぇヨ。そのソードスキルを習得できる場所まで直接案内もするサ。もちろん、オー君がこのソードスキルを取る気があるんならだけどナ」

アルゴは前にレイナがPKした事に付いて、自分が依頼をしてきたことも一因していると今も思っているようだった。
ともかく、俺は二言返事でこう答えた。

俺「案内頼むぞアルゴ」

アルゴ「全く……迷いなく言いきるなオー君は」

アルゴはにゃははっといつもの笑いを見せながらそう言った。

デクスター「俺はそのソードスキルを保ち続ける自信はないが、どんなのか目の前で見てみたい、俺も同行させてもらうぞ」

俺「んじゃ、もうすぐレイナが買い出しから戻ってきたら出発で良いな?」

立木ナレ「そして、買い出しから戻ってレイナにオズマはアルゴから持ち掛けられた話を手短に説明した。レイナはいつも通り表情を変える事無く『分かった』と、一言だけそう言って。オズマ、レイナ、デクスター、アルゴの四人で、特殊ソードスキルを習得する事が出来ると言う第18層の迷宮区に向かったのだった」

第十八層の迷宮区は既にクリア済みとだけあって、現れるモンスター達は俺達の敵ではなかった。
非戦闘職のアルゴでも特に苦戦する事は無く、現れるモンスター達を難なく撃破していた。

デクスター「しっかし、攻略済みの迷宮区で隠し扉が見つかるとは、昔のゲームとかでもよくあるよな。一度クリアしたゲームを改めてもう一度やって見ると、見落とした隠し場所を発見とかって」

デクスターは最後の骸骨騎士モンスターを刀ソードスキルの月閃虚崩(げっせんこほう)で切り刻みながらそう言った。

レイナ「……発見したのは、攻略集団の後にここに来たミドルプレイヤーたちなの?」

アルゴ「そうダ、だけどミドルプレイヤー達が隠し扉を見つけた場所は攻略集団も探したはずの場所だから、きっとフロアボスを倒した後に出現するとかって言う仕様なんだろうナ」

俺「んで、その中に入ると風来坊侍のNPCと一対一のイベントバトルが発生して、それに勝つと特殊ソードスキルを獲得できるって事か?」

俺がアルゴに聞くと、アルゴは首を横に振って否定する。

アルゴ「ところが、そうじゃないんだナ。最初にその隠し扉を発見したミドルプレイヤーパーティーの一人は実際にNPCの侍と戦って勝ったけどナ。手に入れたのは経験値と金と結晶アイテムが一個だけだったんダ」

俺「一対一でボスと戦って勝った割には、微妙なご褒美だな……」

アルゴ「そして、その次に戦ったプレイヤーもやっぱり買ったけど、手に入れたのは同じように経験値と金と結晶アイテム、一人目と違うのは、一人目が手に入れた結晶アイテムが回復結晶だったのに対して、2人目は解毒結晶だったんだヨ」

レイナ「……たぶん、手に入る結晶アイテムは毎回ランダムで変わる」

だとしたら、狙い目は回復結晶や転移結晶のような、特に高価で取引される結晶アイテムの方だろう。
逆に価値が低いのは俺が第一層でリズベットからバイト代としてもらった録音結晶や再生や写真撮影を可能とする記憶結晶とかの攻略と関係のない結晶アイテムだ。

アルゴ「でだ、昨日挑戦してきたプレイヤーで今までと違う事が初めて起きたんダ」

デクスター「何が起きたんだ?」

アルゴ「そいつは、NPCの侍のHPをレッドゾーンまで削ったのは良いが、自分も結構ヤバいところまで追いつめられて、それからしばらくは相手の攻撃回避とPOTでの回復を続けてたみたいなんダ」

俺「そんなにヤバい状態なら、安全マージン取ってすぐに逃げるのが得策だと思うんだが、無理してでも戦おうって奴は意外と少なくないからな」

デクスター「超絶強力なレア武器が手に入るならまだしも、手に入るのが金と経験値と結晶アイテムだけじゃ、その気持ちは理解できないがな」

大方、熱くなって危険を顧みずに戦い、長期戦に持ち込むことになったと言う事だろう。

アルゴ「でだ、相手のNPCの侍のHPがレッドゾーンのままの状態が1分くらい続いたところで急に戦闘が中断になってイベントが発生したらしいゾ」

俺「一分間もその状態を保ってたのか……そりゃ中々気が付かないよな」

アルゴ「ああ、当人も回復を済ませてこれから止めを刺そうって思ってた時の事だったからさぞ驚いたみたいだナ。んで、相手のNPCの侍から特殊ソードスキルを貰ったってわけだナ」

相手に敢えて止めを刺さずに生かしておく状況を続けることによって貰えるソードスキルだからこそ、相手に止めを刺せず、PKを一度でもすると消えてしまうソードスキルか。
やっぱり茅場晶彦は最初からデスゲームになる事を前提でそのソードスキルを考えたんだろうな。

アルゴ「ついたぞ、ここにあるんだヨ。動かないで少し待つんダ」

アルゴに言われた場所に立ち、そこで10秒ほど経っていると、薄っすらとその扉は姿を現した。

デクスター「おお、確かに隠し扉だな。俺達も攻略の時にこの辺で少し休憩していたが、その時はこんな事は無かったはずだ」

俺「この中に、例の特殊ソードスキルを授けてくれるお侍のNPCがいるってわけだな」

レイナ「……私と戦った時と同じで1対1なのね」

俺「ああ、んでもって倒さないで一分間くらいHPをレッドゾーンの状態で生かし続けるとは、中々難易度高そうだな」

立木ナレ「そしてオズマ、特殊ソードスキルを得るべく、扉を開けるのだった!」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

FILE42 殺さずの誓い『不殺蓮千撃』

立木ナレ「オズマは、アルゴから決して相手に止めを刺す事が出来ず、PKをした瞬間に失われる特殊ソードスキルの情報をもたらされていた。以前PK集団に襲われた際に決して殺しをしないと語っていたオズマは、そのソードスキルの獲得を目指して第18層の迷宮区の隠し扉へと入ったのだった!!」

アルゴ「ほら、アイツだヨ」

扉を開けて中に入ると、そこはフロアボスのボス部屋を思わせるような空間だった。部屋の中央には円形の広いステージが用意されており、その中央にはアルゴが言っていたように風来坊侍と言った身なりのNPCが立っていた。

俺「奴とは一対一で戦うんだろ?お前らはここで待ってろ」

デクスター「少しでもヤバいと思ったら逃げろよ」

レイナ「…………」

俺は1人で円形のステージの上に上がり、侍のNPCに接近した。ボロボロの衣服を身に纏い、刀を背中に構えた長身の男のNPCに接近すると、そいつは話しかけてきた。

NPC「拙者の挑戦を受ける意思のあるのは其方(ソナタ)か……?」

と言われた直後、目の前にメッセージウインドウが表示された。ウインドウにはこう表記されていた。

【Wandering the samuraiとのデュエルを受けますか?円形のステージから降りた場合は危険と見なします】

俺はYESを選択しようとして、その前に一度後ろのレイナの方を振り返った。

俺「レイナ、少し来てくれ」

レイナ「……?」

アルゴ「ほえ?どうしたんだオー君?」

デクスター「レイナがステージの上にいたんじゃ、デュエル出来ないだろう……」

レイナは不思議そうにしつつも、黙って俺に言われた通り目の前に来た。

レイナ「……どうかしたの?」

俺「いや……何度も何度もお前に頼んでる事なんだが」

そう、戦いが始まってからでは聞いている余裕は無いだろうから、俺は事前にレイナに今までに何度もしてきた質問をしなくてはならない。

俺「これ、ボスの名前だろうけど、なんて読むんだ?samuraiは侍だって事は解るんだがな……」

立木ナレ「そう、オズマは基本的に英語はまるで分らないのである!故に英語表記の初見のモンスターなどと戦うときはこうしてレイナに事前に名前を聞き続けていた!!」

アルゴ「あ……そう言えば、オー君ってレーたんに読めない英語は任せっきりだったんだっけナ?」

デクスター「アイツ、自称『小卒』とか言ってたけど、こういう所見ると、真実味が帯びてくるんだよな……」

アルゴとデクスターはこれからデュエルと言うときに、英語表記の相手の名前をレイナに一々訳してもらおうとする俺に呆れ気味だったが、レイナはいつも通り表情一つ変える事無く答えてくれる。

レイナ「……『ワァンダァリィング ザ サムライ』よ、日本語に直訳すると……放浪する侍って意味になるわね」

俺「へ~、侍はやっぱり英語に訳しても侍なんだな。んじゃ、そろそろ本当に始めるから、下がってていいぞ」

レイナ「……分かった」

レイナは再びステージの上から降りた、改めて俺はウインドウメッセージを見てYESを選択する。

放浪侍「いざ……参る!」

俺「慌てるなよ、デュエルはカウントダウンが0になってからだ」

カウントダウンの数字は10……9……8……と刻々と進んでいく。だが、俺はこの侍を倒すのではない、HPをレッドゾーンの状態にしてそのまま一分ほど戦闘状態を維持しなくてはならない。

俺「殺さずに生かすってのはやっぱり難しいよな……」

と、俺が言った直後にカウントが0になりデュエルが始まった!放浪侍はその場で高くジャンプすると、真上から叩き斬るような斬撃を放つ。

デクスター「刀ソードスキル『飯綱(いづな)落とし』か!」

そう、デクスターも以前習得した刀ソードスキルなのでそれは俺も見た事がある。クリティカルヒット率が非常に高いソードスキルで下手をするとHPがある程度状態でも一気に0にされる事がある。

俺「受け止める!」

俺はそれに対して垂直縦回転斬りソードスキルの『スピンドライブ』で迎え撃った。俺の片手直剣と放浪侍の刀が激突し、激しい押し合いになった末に威力を相殺し合い、どちらも地面に仰け反る形になった。

アルゴ「おお~、あのお侍さんやるかもナ」

レイナ「……大丈夫、オズマの強さならまず負けない」

レイナの言う通り、俺はこいつ相手なら負ける事はまずないと自信があった。そもそも第十八層の隠しボスなので21層の最前線で戦っている俺にとってはさほど苦戦するような相手でもない。
俺は少し前に習得したスキル『疾走』を使う。戦闘中に使用する事で熟練度の高さに応じて敏捷性が高くなるスキルだ。
まだそれほど高いわけじゃないが、それでも素の敏捷性よりは早くなり、少し離れた場所の放浪侍に急接近する。

デクスター「奴の攻撃が来るぞ!」

俺「分かってるって!」

ソードスキルじゃない通常の大振りの斬撃だった。俺はその惨劇を左手のソードブレイカーで受け止める。

アルゴ「おお~、ナイスガードだナ」

だが、盾に比べて防御性能は高くないので長くは防げない。俺は迷わず右手の片手剣で四連続の突きを放つソードスキル『ソードレイン』を発動する。
ソードブレイカーで刀を止められていた放浪侍に4発の突きが刺さる、更にそこからソードレインの派生ソードスキルの『ソードレイン アルファ』を発動した。ソードレインの熟練度を高めると習得する事が出来る六連突きの後に斬り上げを放つソードスキルで、『ソードレイン』からのスキルコネクトで連携して発動する事が出来るので合わせて最高で11連続突きものヒット数を誇る事になる。

デクスター「なんっつ~、連続突きの嵐なんだ……」

アルゴ「おお~、お侍さんのHPがもうイエローゾーンになったナ。流石はオー君だ」

レイナ「…………」

が、当然その後は硬直状態になる。僅かに一瞬行動出来ない俺に放浪侍は、比較的早く態勢を立て直すと、発動の速いソードスキルの『一閃(いっせん)』を俺に食らわせた。
流石にこれは避ける事も防ぐ事も出来ずにまともに食らって俺は少し後方にノックバックした。
だが、HPはまだグリーンゾーンだ、ここから俺が一気に反撃するがHPをレッドゾーンにとどめるのが少し難しい。
再び放浪侍は硬直が解けると同時に刀を構えてこちらに走り迫って来る。

俺「さぁ、どうくる気だ?」

デクスター「!?とんだぞ!」

助走をつけた高いジャンプで再び俺の頭上からソードスキル『飯綱(いづな)落とし』を発動してきた。だが俺はさっきみたいに『スピンドライブ』で相殺するつもりなど無い。
俺はある程度、後方に軽くバックステップで距離を取る。

デクスター「な、何してんだオズマ?」

アルゴ「き、斬られるぞ―――!!」

俺「平気だ、この距離なら……」

放浪侍のソードスキルは俺にすぐ目の前で刀を縦に振り降ろしたが、俺にはギリギリでかすりそうでかすらない状態で当たる事は無かった。

俺「これで隙だらけだな!!」

そして俺の目の前で硬直した放浪侍に俺は獅子の形の闘気をぶつけるソードスキル『ビーストハウル』を叩き込み、放浪侍を大きくノックバックさせた。

デクスター「ま、マジか……あの距離ならギリギリで当たらずに済むと確信しての行動だったのかよ」

アルゴ「いや~、おねーさんには絶対にあんな真似は出来ないナ~……」

レイナ「……オズマの空間認識能力が為せる技ね」

俺「よし、何とかレッドになったな」

ノックバックした侍が立ち上がると、そのHPケージは何とかレッドゾーンの状態でとどまっていた。
それを確認した俺は直ぐに放浪侍から距離を取ると、そこで隠蔽(ハイト)スキルを発動して、身を隠す。

俺「これで、どれだけ時間が稼げるだろうな……」

普段であれば、戦闘を回避したり、モンスターから身を隠すのにはうってつけのこのスキルなのだが、今は最初から一対一の戦いゆえに、既に戦闘中の状態でどれだけの効果があるかあまり期待は出来なかった。
放浪侍は最初の少しの間は、俺を見失ったかのように辺りをぐるぐると見渡していたいたが、円形のステージの上にいると言う事には変わりはない。やがて俺がハイドしているところまで近づくと、嗅ぎ付けたようにソードスキルを発動しようとする。

俺「流石にもう限界か!」

アルゴ「オー君、後30秒を切ったゾ!」

疾走スキルで侍のソードスキルの連続斬りを何とか避けると同時にアルゴがそう叫んだ。残り30秒の間、奴の今のレッド―ゾーンのHPを維持し続けるには一撃すら攻撃をする事は出来ない。
覚悟を決めた俺は放浪侍と対峙して、再び奴が攻撃をしてくるであろうことを承知で身構える。

デクスター「オズマ、くるぞ!」

当然、デクスターの言う通り、放浪侍は今度は旋風を発動する、このソードスキルは第一層のフロアボスのコボルド王も使ってきた、何度も対峙してきたソードスキルだった。

俺「さぁ来いよ……!」

ソードブレイカーで敢えて刀ソードスキルの攻撃を受け止めた、長く受け止め続けていると、ソードブレイカーの耐久値が減り続けるが、片手剣で反撃するわけにもいかないので俺はソードブレイカーで刀を払い除けた直後にすぐにバックステップで後退する。

デクスター「後10秒!」

俺「よし、後は逃げまくって見せるか!」

俺は再び斬りかかって来る放浪侍から背を向けてとにかく走って逃げた。そうそう長く逃げ切れるとは思わないが、刀使いの攻撃を可能な限り避けて逃げ切った、そしてラスト数秒程度のところで放浪侍が放ったソードスキル『一閃(いっせん)』に対して俺は軽くバックステップで後退すると、またしてもうまく決まり、ギリギリで避ける事に成功した。

アルゴ「おお~、相変わらず見てる方がヒヤッとする避け方するな……」

レイナ「……けど、一分経ったわ」

俺「これで……良いのか?」

すぐには油断せずに俺は放浪侍から距離を取るが、しばらく待っても奴は一切攻撃をしてこなかった。
こっちから近づいてみようかと俺が足を踏み出した矢先だった、

放浪侍「我を殺さぬと言うのか……?」

掠れた様な声でNPCの侍がそう言った直後に目の前にメッセージウィンドウが表示された。

『戦闘を終了しますか?』

俺「どうやら、イベント発生したみたいだな」

俺はYESを選択すると、イベント続行のようで放浪侍はその場で座り込むと話を続ける。

放浪侍「その心意気……見物だ、この技をどこまで使いこなせるか……試させてもらう」

俺「お、ウインドメッセージにソードスキルの詳細が表示されてるぞ」

俺が目の前で見えているメッセージの存在を伝えると、アルゴ達もステージの上に上がって早速それを見に来た。

デクスター「これが、例の特殊ソードスキルか」

レイナ「……『不殺連千撃(ふさつれっせんげき)』ね……」

アルゴ「成程な、片手直剣の場合はこうなるのカ……」

アルゴから事前に説明された通り、そのソードスキルには二つの制約が表記されていた。
一つ目はこのソードスキルではHPがレッドゾーンの相手にはダメージを与えられず、このソードスキルでダメージを与えた場合でもイエローからレッドになった場合はその時点でHPの減少が止まる。
二つ目は一度でもPKをした場合はこのソードスキルは消滅し、同じソードスキルを二度と習得出来ないと。

俺「だが、その分効果はかなりの代物なのも確かだな」

デクスター「ああ、熟練度0の状態で最高三連撃で、熟練度を高めればさらに攻撃回数は増える、そして……」

レイナ「……一撃毎に、一定確率で麻痺状態にする阻害効果(デバフ)付き」

確かに、それは二つの制約を抱えているに相応しい効果だった。と言うかその制約が無かったらこのソードスキルはまさにチート級のゲームバランスを崩しかねない代物だっただろう。

俺「まさに殺さずの誓いのソードスキルだな」

このソードスキルを使い続けるには、確かにこの決して殺してはならないと言う意味だろう。
俺はそれを知ったうえでこのソードスキルをこの場で得る事を選択した。

放浪侍「誓いを守り続けるも、破棄するも、ソナタの自由だ……」

NPCの放浪侍はそう言い残すと、薄っすらと体が半透明になり、やがて目の前から完全に消滅したのだった。
そして俺の片手剣の習得ソードスキルの一覧には確かに『不殺蓮千撃』が加わっていた。

アルゴ「オー君やったナ!」

デクスター「殺さずの誓いのソードスキル習得、おめでとうよ!」

アルゴとデクスターがそうささやかな祝福の言葉を俺に送る。

俺「ああ、お前らもここまで付き合ってくれて助かったぜ。このソードスキル、手に入れたからには簡単には失わないように使いこなさないとな」

レイナ「……大丈夫」

レイナが自発的に、俺の目を見ながらそう言った。

レイナ「……オズマが殺す必要なんて無いから」

俺「そっか……だけどお前も出来る事なら、極力殺すなよな」

レイナ「…………」

レイナの返事は無かった。レイナが俺に対して、俺が殺す必要が無いと言ったのはおそらく、その時は自分が殺すと言いたかったからなのかもしれない。
最も俺は自分の代わりにレイナが殺せばいいと思ってなどいない、出なくっちゃこのソードスキルを手に入れた意味が無くなるんだ……

立木ナレ「オズマ、激闘の末に殺さずの誓いのソードスキル『不殺蓮千撃』を習得!果たしてオズマはこの先、誰も殺さずにこのソードスキルを使い続ける事が出来るのか!?」

目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

FILE43 第二十層ボス攻略会議


立木ナレ「オズマが特殊ソードスキルの『不殺蓮千撃(ふさつれっせんげき)』を習得してから二日後の午後4時の事だった。この日は第二十層のフロアボス戦の攻略会議が行われていた!!」

リンド「――――聞いての通り、第二十層のフロアボス『sister the Gorgon』……通称ゴーゴン三姉妹の偵察戦で起きた詳細だ」

DKBのリーダーのリンドが苦々しそうに偵察戦で起きた詳細を伝えた。普段はリンドの横にいるDKBのサブリーダーであるハフナーの姿はそこにはなかった。
それは、DKBとALSのメンバーの約20人ほどで行われたフロアボスの偵察戦で起きたトラブルに起因する。
偵察隊がフロアボスの部屋で見たのは、ギリシャ神話とか言うのに出てくるらしい、三姉妹の女怪物を沸騰させる三体のフロアボスだったそうだ。
長女のステンノ、次女のエウリュアレ、三女のメデューサの三体が第二十層のフロアボスだったようだ。

リンド「それでは、今回の偵察戦で……ボスたちの特殊スキルによって石化した者たちを君達にも間近で見てもらおうと思う」

リンドが硬い表情のままそう言うと、数人のDKBとALSのメンバーがボス攻略に参加する面々がさっきからずっと不思議そうに何度も見ている緑色のシートを剥ぎ取った。
シートの中から現れたのは4人のプレイヤー達だったが、その姿は全身、衣服から装備まで完全に灰色の石と化して、ピクリとも動かなかった。

ユッチ「ひ、ひぃっ!ま、マジで……マジで石になってるっす!!」

アスナ「これが……ゴーゴン三姉妹の特殊スキルを受けた人たちの姿なの……!」

俺の後ろでユッチが悲鳴を上げて驚き、すこし離れた所でアスナが右手で口を押えながら、動揺を抑えながらそう言った。

リンド「見ての通りだ、第二十層フロアボスのゴーゴン三姉妹は目から発する石化の特殊スキルを使ってくるんだ。そして、その時に一定の距離内でその光を見たプレイヤーはこの通り石化してしまい、ありとあらゆるアイテムや結晶を使っても石化は解除されない」

リンドが悔しそうな表情で石化しているプレイヤー達に視線を向ける、その先にはDKBのサブリーダーで、第五層のALSの強硬派たちの抜け駆け作戦を阻止する為に共にフロアボス戦で共闘したハフナーの姿があった。

エギル「こいつら……マジで石になっちまってやがったのかよ……」

そしてハフナーの横にはALSのメンバー二人、更にDKBのメンバーで偵察戦のタンク役として協力していた盾持ちの剣士も石化した状態となっていた。

デクスター「石化した連中は、どうやったら元に戻るのか分かってないのか?」

リンド「それについてだが、他プレイヤーの詳細を一時的にチェックする事が出来るこの結晶アイテムの『ピーキングクリスタル』で石化したハフナーを調べてみた結果、石化のデバフが付いてる事が分かった、そしてそのデバフには『石化させたモンスターを撃破する事で解除される』と明記されていたんだ……」

キリト「では、ゴーゴン三姉妹を倒さない限り、彼らはずっと石化したままなんだな……」

偵察隊の話によると、ゴーゴンの石化の光で4人のプレイヤーが石化したところで、これ以上石化したプレイヤーが増えると、撤退する事すら出来なくなると判断して、偵察隊のリーダーは即刻石化したプレイヤー達を連れてどうにか撤退したらしい。
石化した状態のプレイヤーは一切何も出来なくなるのだが、石化させてきたモンスターと戦闘中の状態である事には変わりなく、放っておくと無抵抗のまま攻撃を受け続けてやられてしまうので当然の判断だろう。

俺「石化についてはベータテスト時代には実際にはやってくるモンスターは出てこなかったんだよな?」

キリト「ああ……と言うか、初めてなんじゃないか?数ある阻害効果(デバフ)の中でも石化を実際にさせてくるモンスターは?」

レイナ「……恐らく、石化以上に危険なデバフは存在しないと思うわ」

レイナの言う通り、転倒(スタン)や麻痺なら、一定時間行動が不可能でも、時間経過での自然回復の他に、アイテムで回復する事も出来るので、パーティープレイでは充分どうにかできるのだが、この石化状態に関しては、石化をさせてきたモンスターを倒す以外に元に戻れる手段がないと言う極めて厄介なデバフだ。

リンド「フロアボスの本戦においても、石化した者が増えれば増えるほど、いざと言うときにボス部屋からの撤退が困難になるので、48人中6人が石化したらボス部屋から、石化した人たちを連れて即刻撤退と言う方針で行きたいが異論はあるか?」

リンドがそう言うと、少し間を置いてからALSのリーダーのキバオウが手を上げてから前に出る。

キバオウ「その、目から出る光を一定の距離内で見ると石化してまう特殊スキルの事やけどな、そのゴーゴン三姉妹が石化させるスキルを使ってくるタイミングはパターンとかなんかヒントとかあらへんのかい?目が光ってからじゃ遅いんやろ?」

キバオウの言った事に付いては、俺もその辺りは何かヒントがあればと思っていた。実際に目が光る前に石化させる特殊スキルを使ってくるタイミングで何かわかれば、それだけで石化する危険性を減らす事が出来る。

リンド「そうだな……偵察戦に参加した人たちの中で、何か気が付いた者はいないか?」

リンドがこの場にいる者達の中の偵察戦に参加したメンバーに向けてそう言った。偵察戦に参加した20人中4人は石化しており、残りの16人は一応全員この場に集まっていた。
偵察戦に参加したメンバーは何かを思い出そうとして、首を傾げたり、下を俯いていたりする中、一人のスピアを携えたALSの男性プレイヤーが手を上げる。

リンド「何か気が付いたことがあったのか?」

スピア使い「いや……気が付いたと言うか、何となくそんな気がしたって言うくらいなんだが……」

スピア使いは確信の無い事を口にするのを躊躇っているのか、言いよどむような感じで、言うべきか止めるべきか迷っている様子だった。
そんな細剣使いの心情をリンドも察したのかリンドは真剣な表情で諭すような口調で話す。

リンド「頼む、教えてくれ。無論確信が無いから、正しいか間違っているか分からないとは思うが、それでも今はヒントが一つでも欲しいんだ」

リンドがそう言うと、ALSのリーダーであるキバオウもスピア使いの肩に手を置く。

キバオウ「シンケンシュペック、お前の見たかもしれんのが数少ないヒントなんや。何もそれで上手くいかへんかったからって、ワイもお前を責めたりはせーへんし、誰にも責めさせへんで、言ってくれんか?」

なんて長いキャラネームなんだと、俺はどうでも良い事を思っていた。ともかくリーダーであるキバオウにそう言われたジンケンシュペック(以下シュペック)は意を決したようで自分が、何となく気が付いたヒントを口にする。

シュペック「三姉妹の誰かが目から光を発する時に、いやその少し前に……ほかの二人が口を大きく開けているのを見た気がするんだ。そして、その直後に残りの一人が目から光を発したように思えた……」

リンド「なるほど……それが正しければ、ゴーゴン三姉妹の中で二人が口を大きく開けたら、残りの一人がその直後にスキルを使うから、その前に目を閉じる、目を抑えるとかして視界を塞げば、石化しないで済むかもな」

アスナ「発言良いですか?」

リンド「ん?何かなアスナさん?」

アスナは、何か気になる事があるかのようで、手を挙げて発言を求める。

アスナ「確かに今、ジンケンシュペックさんが言ったのはヒントになると思うわ。だけどそれはゴーゴン三姉妹が三人揃ってる時の場合であって、一人が倒されて残り二人になったり、2人倒されてあと一人になったらどうなるか分からないわ、特に問題なのは残り一人になってからです」

アスナの言う通り、残りのゴーゴンが2体であれば、その場合はまだ2体のうちどちらかが口を大きく開けた瞬間がもう一体が石化スキルを使うタイミングだという仮説がまだ立てられるが、残り一体になってしまった場合は少なくとも同じような確かめ方は出来なくなるのは確実だ。

ユッチ「さっすがアスナさん!鋭い指摘っす!そこんところはやっぱり重要っすよね~!」

アスナの指摘をここぞとばかりに称賛するユッチだが、真面目なボス攻略会議の場で誰もそれに対して特に反応する者はいなかった。
そして、アスナの指摘に対してリンドは少し考えた後、『それならば』と前置きしてから言った。

リンド「もう一度、偵察戦をするという手もあるかもしれない。そこで今度はその偵察戦で試しに一体倒してから、その後の同行を確かめると言うのは皆、どう思う?」

デクスター「いや……それでまた石化する奴が続出したら、その分だけ本戦での戦力が減少するから、それはあまり同意できない」

俺「ああ、アスナの言ってる不安要素は皆も薄々思ってるだろうけど、そこはぶっつけ本番で試して、要所要所でその時の状況に応じて判断するしかないんじゃないか?」

リンド「やはり……そうだな」

リンドも概ね、そう言う意見が出る事は予想していたようで、俺やデクスターの言った事を受け入れた。
そして懸念を口にしたアスナ自身もそれで仕方あるまいと思ったのか、特に口を挟む事は無かった。

リンド「では、他に話す事は無いなら、今日はここで解散にしたいと思う。何としても明日のボス戦でハフナーを……石化した4人を助け出そう!」

石化した四人を助け出すと言う言葉にその場に集まっている者たちが一斉に頷き、決意を新たにした時だった。
決して俺達の仲間にはなり得ないそいつが現れた。

モック「やりましょう皆さん!明日のフロアボス戦でゴーゴン三姉妹を倒し、是非とも石化している人達を助けましょうですぞ―――――!!」

唐突に、何故かモックが一人で現れて、勝手に仲間を気取ってゴーゴン三姉妹討伐を決意していた。

アスナ「って、なんで貴方まで!?私たちの敵の癖に何のつもりよ!?」

キバオウ「てか、なんでジブン一人だけなんや!?ジブンの相棒のガチャモンだけが出てくるっちゅうならまだ分かるが、オマケの自分だけ出てくるってどーゆー風の吹き回しやねん!!」

アスナから敵と断じられ、キバオウからガチャモンのオマケ呼ばわりされたモックは俺達に背中を向けて、ワザとらしくいじけた様な態度を取る。

モック「あ~、はいはい。ど~せ私は不人気キャラですよね~、主役はガチャモンで私はガチャモンのバーター……永遠の二番手……マリオブラザーズで言えば緑の帽子の弟さんの方だって分かってるつもりですよ~だ」

エギル「用がねーなら、態々俺達の前に姿を現したりしねーだろお前は?んで、相棒の方はどうしちまったんだ?」

エギルがめんどくさそうにスキンヘッド頭を掻きながらガチャモンに聞くと、モックは待ってましたと言わんばかりに俺達の方を振り向く。

モック「よくぞ聞いてくださいましたですぞ!ガチャモンは……じ、実はこうなってるんですぞ……」

とモックが言うと、モックの目の前にガチャモンが転移で出現したのだが……そのガチャモンは俺達が予想だにしていなかった姿と化していた。

エギル「って、どうなってるんだこりゃ!?」

レイナ「……石化してる」

それは、ハフナーたちと同じように、石化してピクリとも動かなくなったガチャモンの姿だった。

モック「うぅ……聞いてくださいよ皆さん。実はつい先日の事なんですがね、ピクニック気分でガチャモンと私はフロアボスの部屋に入ってみて、ゴーゴン三姉妹と顔合わせしたんですよ~、そしたらいきなりゴーゴン三姉妹が目をピカっとさせちゃいましてな~、そんで近くにいたガチャモンが気が付いたら石になってちゃって……私もう大慌てでガチャモンと一緒にフロアボスの部屋から出てきたんですぞ―――!!」

モックからガチャモンが石化してしまった事情を聞いた俺は思わずこう口にした。

俺「二人とも石化しちまえばよかったのにな……」

アスナ「ホント、貴方だけでも忌々しい存在だって思わざるを得ないわね」

俺に続きアスナもモックに対して辛辣な言葉をお見舞いしていた!

レイナ「……けど、どのみちゴーゴン三姉妹を倒したらガチャモンも元に戻ってしまうわ」

キリト「そもそも、お前らなら石化くらいどうにでも出来るんじゃないのか?システムへの干渉権があるんだろ?だったらそれで石化くらいどうにでも出来るだろう」

キリトが凄むようにモックに詰め寄ると、モックは妙に苦し紛れのような言い訳をするかのようにモドモドした口調で言った。

モック「い、いやですね~……た、確かにわ、私たちはこのゲームのマスコットキャラとしてですな、システムへの干渉する権限が無いわけではないんですが~……まぁその、なんでもしたい放題出来るわけではないと言いますか~……あんまり派手に使い難いと言いますか~……と、とにかく!明日のフロアボス戦は頑張りましょう!そして、ガチャモン達を元に戻してあげましょうですぞ――――――!!」

まるで、キリトに聞かれたくない事でも聞かれたかのようにモックは無理やり気合を入れて、俺達を鼓舞しようとしていた。

キバオウ「待たんか!質問に答えてへんやろ!ジブンらいったい何が出来て、何が出来へんのや!?」

モック「では皆さん、また明日フロアボス戦で頑張りましょ―――――!!」

キバオウの質問に答えず、モックは無理やりそうまとめて、ガチャモンと一緒に消えたのだった。

立木ナレ「こうして、第二十層ボス攻略会議は、ガチャモンが石化していると言う訳の分からぬ展開を知らされつつも終了した。果たして石化したプレイヤー達の運命はいかに!?」

目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

FILE44 ALSからの紹介+進歩ゼロの父と祖父

立木ナレ「第二十層のフロアボスはゴーゴン三姉妹であることが偵察戦によって明らかとなったが、偵察戦の最中にDKBのサブリーダーであるハフナーを始め4人のプレイヤーが席化した状態で戻ってくる事となった!そして、何故かガチャモンまでもが石化してしまい、モックは悲しみの涙を流す事となった!!果たして、ゴーゴン三姉妹を倒し、石化した者たちは元に戻る事が出来るのだろうか!?」

第二十層の迷宮区に入る直前で、今回のボス攻略に参加する48人のレイドパーティーはこの場で事前にそれぞれのパーティーを組む事になった。

ユッチ「あ~あ、アスナさんは今日もキリトの奴と一緒にアニキ軍団と組むのか~……僕たちと組んでくれないかな~?」

俺「第二層以降は、だいたいあの二人はエギル達のパーティーに入ってるって感じだな」

ユッチがアニキ軍団と呼んだのはエギル率いる四人組の大男のプレイヤーたちの事だった。そしてキリトとアスナは普段からどこのギルドにも属さず二人コンビで行動している為、アニキ軍団と組めば丁度6人になるからフロアボス戦では毎回組んでいた。

レイナ「……エギル達は常に4人で、彼らは二人で行動してるから、アスナと組む機械は基本的にないわ」

ユッチ「あ、そ、そっか……そうっすよね」

レイナに改めて、自分がアスナと組む事が困難であると知り、消沈したように溜息を付ていた。

デクスター「まさかお前……今回はあいつ等とパーティーを組みたいとか言う気か?」

ユッチ「い、いや!べ、別にそう言うわけじゃ~無くってですね~……」

デクスターに疑いの目で見られたユッチは、図星であると言わんばかりに動揺を露にして狼狽えていた。

俺達のギルドMBT(未来は僕らの手の中に)はメンバーの数自体は総勢で10人だが、その中で積極的にフロアボス戦に参加しているのは、立ち上げメンバーである俺、レイナ、ユッチ、デクスターの4人だけだ。
残りのメンバーは女商人のミリオンを始め、主に偵察戦に参加している者達や、最前線の一歩手前で攻略済みの層の再調査や調べ尽くしていない場所の探索をしている。
そして、俺、レイナ、ユッチ、デクスターの四人だけでは6人パーティーに足りないので、普段はフロアボス戦の時にはDKBやALSからあぶれた者達と組んだり、キリトやアスナと組んだことも何度かあった。

キバオウ「ジブンら、今日も4人なんやろ?」

どちらかから声が掛かるかもなと、今日も思っていたら、早速ALSのリーダーのキバオウが声を掛けてきた。

俺「ああ、DKBからも声は掛かってないし、キリトやアスナは今日もエギル組と組んでるからな」

キバオウ「ほんなら話は早いわ、ウチの期待の……と言い切れるかどうかはまだ分からへんが、ルーキーをジブンらのパーティーに入れ立ってくれへんか?」

デクスター「ほぉ、また新しい即戦力になりそうなのをゲットしたのか、よくそんな奴が今までフリーでいたもんだな」

デクスターが少し感心した様子でそう言うと、キバオウは少しバツが悪そうな表情で左手をサボテン頭に当ててから言う。

キバオウ「フリーやったっちゅうんは確かなんやが……そのルーキーな、前のギルドで仲間と喧嘩別れしたらしくての……」

俺「成程、そこでフリーになってた所をアンタらが勧誘したってわけか」

喧嘩別れしてギルドから抜けたと言う奴なら、一癖ありそうなやつかもしれないなと思っていた時だった。

「いらねー事言うなよキバオウさん!つーか、アタシのフロアボスのデビュー戦が何でギルドの仲間じゃなくって、こんな連中なわけ!?」

それは女の声だったが、強気な、男勝りな口調で俺達を指さしながらギルドリーダーであるキバオウに対して不満を無遠慮に口にしていた。

キバオウ「んな事ゆーてもしゃーないっちゅーねん!ウチからは今回も3パーティーの参戦が決まっとるんが、その枠はいつもの連携が出来るメンツで埋まっとるんやかい、あぶれてもーた自分は他のパーティーに入るしかあらへんやろうが!!」

新人(ルーキー)であるにもかかわらず、ギルドリーダーのキバオウに対して不満をぶつけるその少女に対して、キバオウは理由を喚き散らすように口にして言い返す。
改めてみると、本当の小柄で、ユッチと同い年位と思わしき少女のプレイヤーだった。そんな幼い外見に反して、あからさまに不機嫌そうな目付きで俺達に視線を向ける。

キバオウ「あー、こいつがジブンらのパーティーに入れたってほしい、ルーキーのセイラや」

ユッチ「うっへぇ~、見た目はそこそこ可愛いけど、なんっすかこのじゃじゃ馬娘!?こんなのと組むんならアスナさんと組みたいっすよ~」

セイラ「はっ!?」

ユッチがセイラの事をアスナと比較して卑下して不満を口にすると、セイラは鋭い眼光を光らせて、ユッチを睨み付ける。
そして、前に出るとユッチを指さして声を荒げる。

セイラ「テメー、MBTのユッチだろ!?」

ユッチ「そ、そうだけどなんだよ……」

高圧的な態度のセイラに対してユッチはあからさまに威圧され、後ろずさりしていた。

セイラ「聞いてんだよ!オズマとかレイナとかデクスターの力借りて何とか戦えてる見たいだけどさ、ヤバくなるたびに泣き喚いたり、ビービーと騒いだりしてるヘタレのユッチってのが攻略集団にいやがるってとっくに知ってんだよ!」

ユッチ「ぼ、僕がへ、ヘタレ!?な、な、なにい、言ってんだお、お前!ぼ、僕が何時な、泣き喚いたり、騒いだりし、したってんだよ!?」

デクスター「いや、割とよく泣き喚いたり、騒いでるぞお前……」

ユッチ「そんなぁ!?」

セイラ「はっははっ!オメー、涙目になってやがるじゃん!やっぱヘタレだ!」

俺「キバオウさん、この口の悪い娘を俺達のパーティーに入れるのは良いが、それだけだとまだあと一人空きがあるんだが」

と言うか、こいつだけ入られても、俺の言う事を素直に聞くかどうか大いに怪しい。せめてコイツを宥められる奴を付けてくれれば助かる。

キバオウ「お目付け役の事なら心配せーへんでええで」

キバオウは俺の願っている事を察してくれたようで、親指を左に向けて指すと、その先にいた、顔見知りの男性プレイヤーが穏やかな表情を浮かべながらやってきた。
と言うか、その男は第五層のフロアボス戦で少数パーティーを組んだメンツの一人だった。
無論、その事を口にする事は出来ないが、それ以外でも顔を合わせた事はある。

オコタン「オズマさん、私もよろしいでしょうか?」

俺「あ、オコタンさんかもしかしてお目付け役ってこの人か?」

キバオウ「せや、そもそもセイラを勧誘したんも、このオコタンはんやからな」

オコタン「ええ、一人で攻略済みの迷宮区に潜っているのを見つけて、もしかしたら腕の立つ子なんじゃないかと思って声を掛けてみたんです」

リーテンと言い、このセイラと言い、この30過ぎのALSのリクルーターはどうしてこうもSAOの世界では数少ない10代の年頃の小娘のプレイヤーを、それも最前線クラスのプレイヤーを次々とスカウト出来てしまうんだろうか?
リアルの世界では年頃の娘を勧誘するビジネスでもやっていたのか?人のよさそうな顔して?

セイラ「このおっさんが君ならALSでもやってけるとか言うから入ってやったのにさ~、なんでアタシが炙れるんだよ!意味わかんねーし!」

そりゃ、お前が新人なのに、それだけ傍若無人に振舞ってるからだろうと俺は心の中で言っておいた。

デクスター「オコさんがお目付け役に入ってくれるなら良いんじゃないかオズマ?」

俺「そうだな、信用できる人がいるならな」

ギルドフラッグを隠蔽していた一件は別として、俺も第五層で共闘したメンバーに対しては一定の信頼は置いているつもりなので、俺はオコタンが一緒にパーティーに入る事でセイラを預かる事を了承した。

キバオウ「ほんなら、よろしく頼むわ。オコハンもよー見とったてくれや」

オコタン「はい、責任をもって見ておきますね」

キバオウは俺達はオコタンにセイラを任せて、自分のパーティーの元に戻って行った。

セイラ「どいつもこいつもガキ扱いすんな!」

そして、俺の方を振り向いて、と言うか睨み付けてから俺に対しても言う。

セイラ「アンタがMBTのリーダーなんだろ?」

俺「ああ、んでもって今回のこのパーティーのリーダーでもあるな」

セイラ「言っとくけど、アタシはアンタの指図を受ける気はないんだからな!仕方なくアンタらのパーティーに入ってるだけなんだから好きにさせてもらうよ!」

オコタン「おいおいセイラ……せっかく入れてもらってるのになんだその言い方は?」

俺に対してあくまで自分は個人で戦うと宣言するセイラをオコタンが俺に対して申し訳なさそうな表情を向けながら宥める。

俺「ま、それでも良いと思うぜ、俺達だって普段は遊撃隊みたいなもんだから、向こうから何か頼まれない限りは自分たちの判断でやりたいようにやってる事が多いからな」

レイナ「……取りあえず、これで6人のパーティーが決まった」

ユッチ「あ~あ……こいつとアスナさんを何とかして取り換えっこ出来ないかな~……」

セイラ「はぁ!?アタシよりも、あのレイピア使いの女が良いってのかよ!?」

ユッチ「な、なんでもありません!?」

デクスター「早速、上下関係が見事に出来上がったみたいだな……」

立木ナレ「こうして、オズマ達4人はALSのルーキーの少女のセイラと、お目付け役のオコタンを加えた6人のパーティーを組む事になった!血気盛んで人の指図を全く受けそうにないこの少女を加えたオズマは多少の不安は感じつつも、他のレイドパーティーに続いて迷宮区に入り込むのであった!!」

………

……



立木ナレ「一方その頃、現実世界の東京都山谷地区では!!」

時生「親父、帰ったぞ」

恭史郎「雀ゴロ息子が久々に金になる事してきやがったか!おめーが金持ってくるなんて年に数え程度だよな全く!」

立木ナレ「オズマこと、小田桐弭間(おだぎりはずま)の父の時生は賭け麻雀で生計を立てる雀ゴロモドキである、その日は久々に賭け麻雀の仕事があり、時生は通称『21世紀に降り立ったアカギ』などと称されるその実力で圧倒的勝利を収め、見事に僅か一日で30万円もの金を得ていた!」

恭史郎「けっ!どうせなら一ヶ月に何回でも同じような仕事がありゃー良いってのにな!」

時生「そうそうこんな話が転がってるかっての、いよいよマジで賭け麻雀の依頼が来なくなったらその時は俺も、不服だが日雇いの仕事でもやるっきゃねーがな」

立木ナレ「そう、賭け麻雀などと言う非合法な仕事の依頼など幾らでもあるわけがない!今日のような一日で何十万も貰える仕事はたまにある程度であり、結局、時生の年収は精々200万円強と、その辺りのフリーターとさほど変わりない稼ぎでしかなかった!!しかし、これでも生活保護受給者である父の恭史郎や、息子で週に3回前後で日雇いの仕事をしているだけの弭間よりは稼いでる……一応は小田桐家の一番の稼ぎ頭なのであった!!」

恭史郎「つーか、明日デリヘル予約したから、時間になったらテメー家明けやがれよ」

時生「月に一度までにしてるんだろーな?後になって酒買う金がねーだ、タバコ買う金がねーだ、博奕やる金がねーだとか言って騒ぐんじゃねーぞ」

立木ナレ「オズマがゲームの世界に閉じ込められ、現実世界では病院の病室で眠り続けている今この瞬間も、父と祖父は何一つ、全く変わりない進歩ゼロの生活を送り続けていたのだった!!






目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

FILE45 ゴーゴン三姉妹との戦い


立木ナレ「第二十層のフロアボス、ゴーゴン三姉妹を倒すべく、48人のレイドパーティーは迷宮区のボス部屋を目指していた。そして道中目立ったトラブルや犠牲も無く、一同はボス部屋の前に辿り着いていた!!」

迷宮区の前に辿り着き、今回のレイドパーティーリーダーのリンドがメンバーたちの方を向いた状態で、ボス戦前の最終確認をする。

リンド「もう一度確認しよう、A隊、B隊、C隊は三姉妹の長女のステノーを攻撃。C隊、E隊、F隊は次女のエウリュアレを攻撃、G隊、H隊は三女のメデューサを攻撃とする」

俺達はG隊なので、三姉妹の三女を攻撃する事になる。俺達のG隊とエギル率いるG隊だけ2パーティーなので、少々火力不足になるかもしれないが、ここの戦力は他のパーティーに勝るはずだ。

リンド「ただ、知っての通りゴーゴン三姉妹は目からはする光で石化をさせてくる。状況によっては戦闘中に変更する事も有り得るのでそのつもりでいてくれ、何か質問や意見があるなら、今の内に言ってくれ」

リンドはレイドパーティーから何か質問や意見が出ないか、周囲を感じさせるような表情で一瞥する。
しかし、これ以上何か言える事は誰にも無かったようで誰もこの場で何も発言する者はいなかった。
リンドもそれを確認して、心底安心したように「ふぅ」っと軽いため息を付いていた。が、すぐに引き締まった表情に変わる。

リンド「では、さっきの編成で攻撃を、そして48人中6人が石化したら石化した人たちを連れて撤退だ、以上を基本にすること以上だ!!」

そして、リンドを先頭にレイドパーティーは一斉に扉の奥のボス部屋に入る。真っ暗な部屋だったが、中に入って少しすると、部屋の屋上の松明が一斉に火を灯して、ボス部屋を明るくする。

ユッチ「へ~、天井は結構低い見たいっすね~って……あ、あれ?」

俺「どうやら、既にお待ちかねのようだったな」

俺達の前には大量の蛇を髪の毛の代わりに頭に纏い、下半身も巨大な蛇のような身体の三姉妹が不敵に笑みを浮かべながら既に並んでいた。
三姉妹の長女ステノーはボス部屋の中央に、次女のエウリュアレはボス部屋の東側に、そして俺達が倒す三女のメデューサは西側に陣取っていた。

三姉妹「「「きぃあぁああああ――――!!」」」

リンド「怯むな!作戦通りに戦うんだ!目の前の敵が両手を上げたら、その隊のリーダーは合図をするんだ。合図が無い隊の者達が戦っているゴーゴンが石化の光を放つ可能性があるから、即座に目を閉じるように!!」

リンドの指示を受けて俺のG隊とエギル達とキリト&アスナのH隊は三女メデューサとの戦闘を開始する。

キリト「じゃあ、メデューサが両手を上げたら、他の姉妹と戦ってる隊に知らせる役はエギルで良いか?」

エギル「おう、声のデカさなら自信あるから任せろ!」

アスナ「お願いしますエギルさん」

デクスター「打って付けだな」

攻撃を仕掛ける前に、キリト達はあらかじめ誰が石化の光を放つ予兆かもしれない、動作の知らせをする役目を確認した矢先だった。

セイラ「てぃやぁ――――!!」

オコタン「せ、セイラ!先走るんじゃない!」

そんな話し合いなど知るかと言わんばかりに、早速セイラが声を荒げながら獲物である細剣を手に持ち、単独でメデューサに襲い掛かっていた。

俺「ったく、こりゃ扱いに困るかもしれないな……G隊、俺達も続くぞ!」

レイナ「……了解」

エギル「H隊も掛かれぇ―――――!!」

俺達は先に攻撃しに行ったセイラを追う形でメデューサに一斉に接近して攻撃を仕掛ける。
俺達がメデューサに近づく頃には既にセイラが2連撃のソードスキルを浴びせた直後だった。
当然、ソードスキル発動後の硬直になるセイラにメデューサが何もしないわけがない。

アスナ「間に合って……!!」

同じ細剣扱いで女性プレイヤーのアスナが細剣のソードスキル『スティンガー』を発動する。
ダッシュで間合いを詰めて、突きの一撃をメデューサに食らわせ、どうにかセイラの硬直解除までフォローする事が出来た。

オコタン「す、すいませんアスナさん!」

俺「ったく、危うい急ごしらえのスイッチだったな……」

お目付け役のオコタンが仲間を助けてくれたアスナに礼を言うが、セイラは硬直が解けると同時に再び即座にメデューサに攻撃を仕掛ける。

俺「いつ、あの石化をやってきやがるか分からない、攻撃できるうちに攻撃だ!!」

キリト「分かってる、奴は接近してきた相手に頭を使った蛇で攻撃してくるから、それにも気を付けろ!」

まずはデクスターが刀ソードスキルの緋扇の三連撃を食らわせる。そしてキリトが、アスナが、エギルが次々とソードスキルを繰り出す。
俺も習得したばかりのソードスキルを早速使う。PKすれば失う、そして止めを刺す事が出来ないソードスキル『不殺蓮千撃』だ。
熟練度がほとんど上がっていない現時点でも最大で三連撃の斬撃を相手に食らわせる事ができ、一撃一撃が連続攻撃のソードスキルとしては高い威力を誇り、一撃毎に一定確率で麻痺させるデバフ効果がある。

俺「麻痺……するか?」

ここで麻痺してくれれば、後がだいぶ楽になる。期待を込めて三連撃をメデューサに食らわせるが、ボスだけあって麻痺などのデバフに対してそれなりの耐性があるようで、メデューサは麻痺していなかった。

俺「スイッチ!」

レイナ「……任せて」

なので、レイナがスグに俺を助けるようにソードスキルの『ボイドブレード』による斬撃による真空波の連続攻撃をメデューサに食らわせていた。

キリト「オズマ……お前、今のソードスキルってアルゴの情報でもあった殺さないソードスキルの……?」

俺「ああ、そう言えばお前もアルゴからこのソードスキルの話持ち掛けられたけど、断ったんだっけな?」

だが、俺が使ったソードスキルが『不殺蓮千撃』である事は一目で気が付いたようだった。

俺「流石に、ボス相手だと簡単には麻痺しないか……」

アスナ「見て、メデューサの頭の蛇が!」

デクスター「攻略会議の時に言ってた、攻撃方法だぞ!」

あれは確か、頭の蛇たちを辺り一帯に巻き散らして、周辺に散った蛇たちは近くのプレイヤーを狙って飛び掛かって来ると聞いた。

エギル「くそ!HPは普通の攻撃でも一撃で倒せるくらい低いが、ちっこくてすばしっこくて攻撃が中々当たらねぇ!!」

エギルが声を荒げて言ったように、蛇たちは大抵の攻撃で一撃で倒せてしまうほどに脆いが、小さい上に素早いので攻撃が当てにくいのが厄介だ。

ユッチ「あ~もう!こいつらむっちゃ鬱陶しいっすよ~!」

セイラ「そんな奴ら知るかぁ―――!!」

俺達が蛇たちの始末をしている最中でもセイラはお構いなしにメデューサへの攻撃を続けていた。

オコタン「セイラ、この蛇たちを放っておくと、攻撃を受け続けるんだぞ!」

セイラ「だったらその前に先にこの蛇女をぶっ殺す!!」

が、そんな矢先に長女と戦っているメンバー達と次女と戦っているメンバー達の方から大きな声が飛び交う。

「こちら対ステノー部隊!ステノーが両手を挙げたぞ―――!」

「エウリュアレだ!両手を上げてるぞ!」

三姉妹の内の長女と次女が両手を挙げている、それはつまり―――

キリト「全員、目を閉じるんだ!目からの光を見るな!!」

そうだ、俺達が今戦ってるメデューサが石化のスキルを使ってくると言う事だ。俺達は一斉にキリトの言ったように、目を隠したり、目を閉じたりしてメデューサの石化のスキルに備えるのだったが……

ユッチ「え、皆して何を……」

は?ユッチ……まさかコイツ、散々事前に言っていたことを忘れたのか!?と言うか、言葉が途中で途切れたと言う事はまさか?
俺はゆっくりと、目を開けてユッチの声がした方を見てみたが、そこには俺の予想通りの光景が露になった。

アスナ「え、ユッチ君!?」

俺「始まって早々にこれかよ……」

ポカンと口を開けたまま、石化した状態と化したユッチの姿がそこにはあった。リンドが最初に決めた6人石化したら撤退する計画の内、早くも一人目の石化はまさかの俺達のギルドのユッチになってしまった……

セイラ「んだよ!やっぱり使えねーヘタレ泣き虫じゃねーか!」

セイラは呆気なく石化したユッチを罵倒しながら、足元の蛇たちを無視して再びメデューサを攻撃する。

キリト「皆、蛇が辺りに散らばってる時は蛇に攻撃する人と、メデューサに攻撃する人で分担しよう!」

オコタン「分かりました、私は蛇を優先的に攻撃します!」

アスナ「私も蛇が散らばってる時は蛇を倒すわ!」

デクスター「俺も蛇を引き受ける!」

ウルフギャング「ワシは蛇は苦手じゃけ、メデューサを倒す!」

キリトの提案でオコタンとアスナとデクスターは蛇への攻撃を優先し、残りのメンバーはこれまで通りメデューサへの攻撃を続けることにした。
セイラは相変わらず猪突猛進で好き放題にソードスキルを単独でぶつけるやり方を続けていた。
キリトはアスナが蛇を担当している間、エギルと入れ替わりでソードスキルを交互に発動、俺は今まで通りレイナと組んでの攻撃でメデューサの二本あるHPケージの内の一つを削り切る事に成功した。

エギル「残り半分だ!今のペースでいけば問題なくいけるぞ!」

デクスター「よし、こっちの蛇共も始末したぞ!」

蛇を始末したデクスター達もメデューサの攻撃に加われば、更に早くメデューサの残りのHPを0に出来るはずだ。
無論、再びあたりに蛇を散らばらせてくる可能性も高いので、それまでに極力弱らせておきたい。

レイナ「……両手を挙げたわ」

エギル「お、おい!メデューサが両手を挙げた!聞こえてるか――――!?」

つまり、長女か次女のどちらかが石化させるために目から光を放つと言う事だ!エギルが事前の打ち合わせ通り、フロアボスの部屋全体に聞こえるような、大きなバリトン声でそれを知らせる。

「こちら対ステノー部隊!こっちもステノーが両手を挙げたぞ!」

続いてステノーと戦っている方からも大きな声で合図が来た。つまり次に石化させて来るのは次女のエウリュアレと言う事だ。

俺「向こうの事は向こうに任せて、俺達はメデューサを倒すぞ!」

キリト「ああ、当然だ!」

俺達はG隊とH隊の2パーティーなので他のパーティーに比べて総火力が劣りがちに思えたが、個々の火力の高さに加えて、メンバーの殆どがダメージディーラーだったので、実際には他のパーティーに全く劣っていないようだった。
その分、守りは各自自己責任と言う形になってしまうのだが。

セイラ「死ねぇ――――――!!」

物騒な事を言いながら、未だに二本目のHPバーがマックスに近いメデューサが死ぬわけがないのに、セイラはそう言いながら、切り払いから3連続の突きソードスキルの『カドラプル・ペイン』でメデューサにダメージを与えるが、三発目の突きを当てる直前にそれは止められた。

セイラ「んなっ!?んだよこれ!?」

デクスター「まずい、捕まってるぞ!」

メデューサが頭の蛇たちを使ってセイラの細剣を握る腕を|雁字搦(がんじがら)めにして、止めてしまったのだった。
その間にもセイラのHPバーは確実に減り続けていた。

キリト「蛇を切るんだ!」

そう言いながらキリトは片手剣ソードスキルの『ホリゾンタル・スクエア』の4連撃攻撃でセイラの腕を掴んでいる蛇に高速回転のごとく斬り付けるが、それでも蛇たちは完全に斬り切れずに未だにセイラの腕を掴んで、HPを削り続けていた。

キリト「アスナ、スイッチ!」

アスナ「はあぁ――――!!」

流石は息の合ったコンビプレーだ、未だに蛇を切り離せないと判断してすぐにアスナはキリトの指示がある前にソードスキルを使って、セイラを掴む蛇を今度こそ完全に切り離して、セイラを解放する事に成功していた。

セイラ「クッソ!舐めやがって、あの蛇女ぁ!!」

オコタン「す、すいません皆さん……助けていただいたと言うのに」

礼を言う事も無く、激昂してメデューサに襲い掛かるセイラ、お目付け役のオコタンが申し訳なさそうにキリトとアスナに頭を下げていた。

キリト「オコさん、今はメデューサを倒す事を先にしましょう!」

オコタン「はい!もうこれ以上誰も石化させたくありません!」

全く持ってその通りだ、早い所このフロアボス戦を終わらせて、ユッチの奴も元に戻してやらないといけないからな!

ウルフギャング「げ―――!!また蛇を巻き散らしてきたったい!」

蛇嫌いのウルフギャングが辺り一帯に再び巻き散らされた蛇たちを見て、嫌そうにそう言った。

アスナ「蛇を担当するのはさっきと同じで良いわねキリト君?」

キリト「ああ、頼んだぞアスナ、デクスターさんにオコさん!」

オコタン「はい!」

デクスター「任せろ!」

蛇を再び3人に任せて、残った俺達はメデューサへの攻撃に専念する。キリトはエギルと交互にソードスキルを、残りのアニキ軍団の3人はそれぞれ順番でローテーションで、俺とレイナも交互に、そして……

セイラ「おらぁ―――!!」

相変わらずセイラは単独でソードスキルを使ってメデューサの残りのHPバーを確実に減らし続ける。
そして、アスナ達が蛇を始末し終える事には、最後のHPバーもレッドゾーンになっていた。

セイラ「今度こそ死ねぇ――――――!!」

キリト「おい、気を付けろ!」

再び猪突猛進気味にソードスキルを発動し、キリトに注意を促されるセイラだったが案の定、またしても細剣伍握る腕を頭の蛇によって雁字搦めにされてしまっていた。

セイラ「くっそ!またかよこの!」

俺「こうなったら、蛇を切り落とすよりも倒しちまった方が早いな!いくぞレイナ!」

レイナ「……分かった」

俺は頭の蛇を使ってセイラの腕を捕らえているメデューサ本体に向かって4連撃のソードスキル『ドラゴンスゥワーム』を食らわせて、更にスキルコネクトで体術スキルの閃打(せんだ)で追加ダメージを与えておく。
そして、俺の硬直の直後にレイナが俺も良く使う片手剣でも両手剣でも習得できるソードスキル『ビーストハウル』を叩き込み、ついにメデューサのHPを完全に0にしたのだった。

立木ナレ「オズマ達、ユッチの石化やセイラの失態などに見舞われるも、各グループの中で人数に劣るメンバーでありながらも最初に三姉妹の一人を撃破に成功!果たして、残りのふたりはどうなるのか!?」

目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

FILE46 ゴーゴン三姉妹融合!


立木ナレ「オズマ達は三姉妹の三女メデューサの担当を任された。キリトやアスナにエギル達のグループと共同で激戦を繰り広げ、途中でユッチが石化し、ALSから預かっていたルーキーの少女のセイラが二度も敵の蛇の頭に腕を捕まると言う事態に見舞われるものの、オズマ達は少数メンバーながら、他のグループに先駆けて、メデューサを撃破したのだった!!」

メデューサ「あぐぎゃぁぁぁぁぁ!!」

レイナ「……排除、完了」

レイナの『ビーストハウル』のソードスキルが止めとなり、ゴーゴン三姉妹の三女、メデューサは大きな、絶叫を上げて力尽き、その場で倒れたのだった。

エギル「congratulation!相変わらずオズマとのコンビネーションは大したもんだな!」

セイラ「っけ!良い所をもってきやがって……!」

LA(ラストアタック)ボーナスを決めたレイナに対してエギルがお決まりのサムズアップしながらの賞賛の言葉を贈るが、人一倍活躍しようとしていたセイラはあまり面白くなさそうなご様子だった。

俺「とにかく、まだ他の部隊は長女のステノーと、次女のエウリュアレと戦ってるから、ここからはG隊とH隊、それぞれ各ゴーゴンの姉二人と戦うって事で良いな?」

キリト「いや、待て!」

俺「……どうした?」

俺が次の行動パターンを提案するが、キリトがまるで何か違和感に気が付いたようで、そう叫んだ。

キリト「メデューサを倒したけど、お前の仲間が石化したままだぞ」

俺「あ、ああ、確かにまだ戻らないな」

キリトの言う通り、メデューサによって石化したユッチは、メデューサが倒されたにもかかわらず、石化から解除されなかった。
そして、俺も気になる事に一つ気が付く。

レイナ「……メデューサは確かに倒れたのに、まだ消えないわね」

エギル「そう言えばそうだな……なんだこの妙な感じ?」

レイナの言う通り、普通は倒したらそのまま消えるだけのモンスターの亡骸がその場に残ったまま一向に消える様子が無かった。

ステノー「きぃぁぁぁ!!」

エウリュアレ「ひぃあぁぁぁ!!」

キバオウ「な、なんやなんや!?何を叫びだしとるんや!?」

いきなり同時に、耳につんざくような声を上げる長女のステノーと次女のエウリュアレに、ほろあボスの部屋の中にいたプレイヤーの大半が思わずビクッとした。
次女のエウリュアレと戦っていたキバオウも訳が分からないと言わんばかりに動揺していた。

俺「って、姉たちがこっちに来やがるぞ!」

声をあげながら三姉妹のメデューサの姉二人がこちらに地を這いながら急接近してくる。まるで倒れた妹に惹かれるようにやって来た。

セイラ「だったらアタシの獲物にしてやる!」

セイラはまたしても真っ先に独断で手を出していた。細剣を使った、踏み込みからの突き攻撃をステノーに食らわせる。
が、ステノーはダメージは受けながらも、全く攻撃を受けたモーションが無く、そのままステノーとエウリュアレは倒れた妹に寄り添う。

セイラ「クッソ!HPは減ってるのになんでだよ!?なんで、うんともすんとも言わねぇんだよ!?」

セイラは攻撃を加え続けるが、二人の姉たちは相変わらず攻撃を受けてもノーモーションだった。
これから何が起こるのかと思い、俺達だけでなく、さっきまでステノー、エウリュアレと戦っていた者達も全員固唾を飲んで見据える。

セイラ「んなろ!少しは反応しやが……んなっ!?」

オコタン「セイラ、一旦引くんだ!」

セイラ「クッソ!」

オコタンは珍しく大きな声を出して、走ってセイラに接近すると、そのままセイラの小さな手を掴んで無理やり引き下がらせていた。

アスナ「一体、どうなるっていうの……?」

俺達の見ている前で、三姉妹の身体は無数の小さな蛇と化して分裂し、そして一か所に一斉に集まって、再び群がり始めていた。

キリト「ま、まさか……融合(ゆうごう)なの……か?」

俺「融合って……倒したはずのメデューサも含めてのボス同士の融合かよ!」

レイナ「……実際に、そうなるみたい」

そして、本当に一度無数の蛇と化して分裂した三姉妹は一か所に集まり、そのまま大柄な屈強な二本の腕を持ちながらも、腰から下までが巨大はコブラを思わせるような、太長い胴体となり、黄色い目が鋭い眼光を放つ。

リンド「ま、不味い!目を閉じろぉ―――――!!」

その場にいたプレイヤー達が融合して一体の蛇女と化した、ゴーゴンが俺達を石化にするために目から光を放ったと気が付き、目を閉じたり伏せたりするが、いきなりの事なので全員が間に合う事は無かった。

オコタン「セイラ、見てはいけない!!」

セイラ「え……!?」

オコタンとセイラの声が聞こえたが、俺は既に両手で顔を覆い隠していたので、何が起きているのかは見る事は出来なかった。
そして、少ししてから、俺を含む大勢のプレイヤー達はそっと目を開けて、周囲の状況を確認する。

キリト「み、皆……無事か?」

アスナ「私は大丈夫よ、何とか間に合ったわ……」

俺「俺もまだ石になっちゃいない、お互いしぶといもんだな」

レイナ「……異常はないわ」

俺達G隊とH隊は一人一人の無事を確認し合う。デクスターも石化は免れたようで、ゴーゴンを睨みながら「無事だ」と言って返事をする。
そして、エギル達4人組もどうにか無事であるようだった。
残るはALSから参加している二人だが……

俺「おい、セイラ?」

セイラ「な、なに……してやがんだよ……!?」

俺「無事らしい……よな?」

セイラの声を聞き、俺達はセイラの無事を確認したが、そのセイラの目の前ではオコタンがセイラの目の前で、自分の身体を壁にしてゴーゴンの目の光からセイラを遮断した体制のままピクリとも動かなくなったオコタンだった。

アスナ「オコタンさん……セイラさんを庇ったのね」

俺「お目付け役がこうなっちまうとはな……」

これで俺達G隊とH隊からユッチに続いて二人目の石化犠牲者が出てしまった。

シヴァタ「り……りっちゃん!?クソ!クッソォ―――!!」

今度はDKBのシヴァタがすぐそばでALSのタンク役で、恐らく付き合ってるんであろうリーテンの石化した姿を見て、悔しさに満ちた声を上げていた。

キリト「今ので、一気に4人が石化したみたいだ……」

俺「最初にメデューサに石化させられたユッチを含めれば5人か、最初に決めてた6人石化したら即撤退まであと一人になったな……」

レイナ「……予想外の展開に、対処しきれない者が何人もいたのね」

エギル「つーか、これからどうやって奴が石化の光を目から出すかを見分けりゃいいんだ……」

エギルの言った、懸念はまさに重大だ。今までは他の二体が両手を上げれば、残りの一体が石化させる特殊スキルを使うと言う事前情報が当たり、それでユッチ以外は誰も石化せずに済んだのだった。

キリト「まさか、ゴーゴン三姉妹の内の一人を倒したら、ゴーゴン三姉妹が融合して一体のゴーゴンになるとはな……」

俺「偵察戦では、一体もゴーゴン三姉妹を倒してなかったから、気が付かなかったな……」

三姉妹だった頃に比べると一回り巨体となったゴーゴンの3本のHPケージの上には『
fusion sisters the Gorgon』と、真のフロアボスの名前が表示されていた。

俺「なぁ、レイナ……」

レイナ「ボス名『フュージョン シスターズ ザ ゴーゴン』よ。融合姉妹ゴーゴンと訳せるわ」

デクスター「てか、今はボスの名前とかどうでも良いぜ……これからどうやって石化させて来る光を出すタイミングを計れば良いんだよ……」

レイドのリーダーであるリンドはこの事態でどんな指揮を下すかにもよる、見ればリンドはキバオウと何かを話しているようだった。

アスナ「あれ……?ゴーゴんの目が緑になってるわ?」

キリト「あ、ああ……けど、それがどうしたって言うんだ?」

アスナがいきなり、ゴーゴんの目の色の事を口にして、俺も確かにそれは変だと感じた。

俺「なぁ、確か融合した直後……石化させる光を使う直前のゴーゴンの目の色は……」

レイナ「……黄色だった」

アスナ「そうよ、そうだったわ!」

俺やアスナだけでなく、レイナも気が付いていたようだった、ゴーゴンの目の色の変化に。
もしかしたら、今度はこの目の色の変化が石化の光を放つ合図として判断できるかもしれない。

キリト「俺は、ゴーゴンの目の色が変わった事は気が付かなかったけど、それは確かに重要なヒントだぞ!」

デクスター「分かった、俺がリンドやキバオウにこのことを伝えてくる!お前たちはその間にゴーゴンを!」

早速デクスターが、話しあっているリンドとキバオウの元に走って行った。きっとこの情報を見聞きしたリンドはこれからの方針をレイド全体に指揮するだろう。
んで、その間に俺達は少しでもゴーゴンを弱らせるなり、抑えるなりしなくちゃならない。

セイラ「……お、オコタンのおっさん……な、なんでアタシをか、庇って……」

俺「ほら、後悔するならあとにして、今はしっかり戦うんだ!」

俺はゴーゴンの近くで未だに呆けて、石化したオコタンの前で動揺したままのセイラの頭を軽く叩いてそう言った。

セイラ「け、けど!」

アスナ「彼の言う通りよ、オコタンさんに本当に悪いって思ってるんなら、彼に守ってもらった分、彼の分まで戦って!そして、ゴーゴンを倒して石化した人たちを元に戻すのよ!」

セイラ「……クッソ!」

アスナにも叱責されてセイラは悔しそうに歯を食いしばるが、少しは戦意を取り戻したようだった。
既にエギル達とキリトがゴーゴンを足止めする為に攻撃に入っている。おそらく誰かが常にゴーゴンの目に注視しながらの戦いだろう。
そこで、デクスターがリンドに話を伝え終えたようで、リンドがレイドメンバーに対してボス部屋全体に伝わるように声を張り士気を下す。

リンド「皆、聞いてくれ!ゴーゴンの目の色の変化だ!今はゴーゴンの目の色は緑色だが、さっきの石化させる光を発する時は黄色に変色する可能性が高い!戦闘中は極力ゴーゴンの目に気を付けてくれ!目の色が黄色に変わった事に気が付いたら、それを即座に全員に伝えつつ、光を浴びないようにしてくれ!」

目の色の変化による、石化のデバフスキル発動の情報がレイド全員に伝わった事で、再びゴーゴンへの攻撃が始まる。
HPに余裕のある物は前に出て攻撃に加わり、イエローゾーンにはなった物は即座に撤退して回復するのは、今までのフロアボス戦と同様の鉄則パターンだった。

キリト「ゴーゴンに攻撃する時は、奴の頭の蛇に気を付けろ!今度は一度に複数のプレイヤーの手足を掴もうとしてくるぞ!捕まったら他の誰かが手足を掴む蛇を切らないと、自由になれない!」

俺「成程な、さっきメデューサがレイナに二回やったあれを、一度に複数人相手に使ってきやがるのか……」

事実、俺の目の前でもエギルは両手斧を振り落とそうとする両腕を掴まれており、仲間のウルフギャングも足を掴まれて自由に動けぬまま、HPを削られ続けていた。
どちらから先に助けるべきか……

セイラ「てえぃ!」

が、俺が行動する前にセイラがエギルの両腕を掴む蛇たちに向かって二連続斬りのソードスキルを使って、自らゴーゴンを前に硬直するのもためらわず、エギルを助けていた。

エギル「お、お前……」

俺「レイナ、スイッチだ!」

レイナ「……了解!」

ソードスキル発動後の硬直のセイラに対してゴーゴンが巨大な尾を使って殴りつけようとしてくるので、直前にレイナが俺の指示で両手剣を振り回し、それを防いだ。

俺「へぇ、アイツが人をフォローする為に動くとはな……」

アスナ「あの子、少しはパーティーで連携することの重要さが分かったのかしら……?」

キリト「さっき、アスナがズバッと叱ってやったのが聞いたのかもな」

アスナ「べ、別に叱ったつもりなんてないわよ!戦いの真っ最中だからしっかりしなさいって言っただけ!」

こんな状態でもお二人はいつものキリトとアスナって感じだった。この二人ならこの先もずっとコンビを組んでれば、割と安泰なんじゃないかと俺は場違いな事を思っていた。
そんな俺に対してキリトは直ぐに俺の方を向いて真剣な眼差しで言った。

キリト「オズマ、お前の敵を殺せない、あの不殺のソードスキルをもう一度……いや、何度でもゴーゴンに食らわせてやってくれないか?」

俺「もしかして、麻痺狙いか?」

俺が持っているHPがレッドゾーンの相手にはダメージを与えられないが故に殺す事の出来ぬソードスキルが持つ麻痺のデバフ効果を知ったキリトは、これが戦況を変えると踏んだのか、俺にそう頼む。

俺「さっきも一度使ったけど、やっぱりボス相手だと流石に簡単には麻痺しないし、麻痺させたとしてもその辺の雑魚のモンスターに比べて、すぐに回復すると思うぞ」

と言うか、これはフロアボス戦以前にすでにフィールドボスに対しても使ってみて既に検証して実証済みの事だった。

レイナ「……それでも、麻痺させればその間は決して石化させられる心配もない」

キリト「そうだ、格段に勝率の向上に繋がると俺は思う。特に、俺達を石化させて来るような危険な奴の動きを一時的でも抑えられるのはこの上なく有難いんだ!!」

俺「……ま、物は試しか」

俺はキリトの申し出に乗ってやる事にする。ゴーゴンの一本目のHPバーは未だにイエローゾーンになる手前だった。
つまり今なら、麻痺させることが出来ずとも、この『不殺蓮千撃(ふさつれっせんげき)』で3連撃のダメージを存分に食らわせる事は出来るはずだ。


立木ナレ「オズマ、キリトの提案で再びゴーゴンに『不殺蓮千撃』を使う事を決意にする!果たして、ゴーゴンに石化させられることなく、討伐なるか!?」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

FILE47 決着!第二十層フロアボス、ゴーゴン!


立木ナレ「三姉妹が融合し一体のゴーゴンとなった!融合したゴーゴンは、不意に目から光を発してレイドメンバーの内の4人を石化し、最初に石化したユッチを含めて既に5人が石化状態となった!しかし、ゴーゴンの目の色が緑から黄色になった時が石化させる光を目から放つタイミングと見込み、戦闘続行となった!」

ゴーゴン「きぃやぁ―――!!」

ゴーゴンのHPバーの一本目が0になるとゴーゴンは喧しい声で叫ぶと、周囲に4体の太長い大蛇が出現した。

俺「アイツ、HPバーが一本失うたびに、取り巻きの大蛇を召喚しやがるのか……!」

デクスター「って事は、あと一回また、この大蛇たちを召喚しやがるかもしれないな……」

そうだ、融合したゴーゴンのHPバーは全部で三本でそのうちの一本が失われたところだ、デクスターの言う通り、後一度、大蛇たちを召喚してくる可能性が高い。

リンド「B隊とE隊は取り巻きの大蛇たちを攻撃!残りは可能な限りゴーゴンを狙え!!」

一度に4体も現れた大蛇たちに対して、リンドは即座にB隊とE隊のメンバーに対して取り巻きの大蛇撃退を指示する。
B隊はダメージディーラー達のパーティーでE隊はタンクのパーティーなのでバランスを考えての采配だろう。

エギル「俺等はゴーゴンだ!腕や足を掴まれないように気を付けて行くぜ!」

俺「ああ、そしてゴーゴンと戦ってる俺らが目の色の変化に注意するぞ!」

レイナ「……了解」

B隊とE隊の連中が大蛇たちを引き付けて戦ってくれてるので、俺達はゴーゴンへの攻撃に専念が出来る。
キリトがソードスキルの『ソニックリープ』で突進斬りの一撃を食らわせた、キリトが少し前に言っていたな。
チャンスがあったら可能な限り奴に『不殺蓮千撃(ふさつれっせんげき)』を当ててくれと、ボス相手でも麻痺する可能性は無い事は無いからだと。

俺「三発の攻撃で麻痺すれば良いがな!」

俺はキリトが『ソニックリープ』で僅かにゴーゴンを怯ませた瞬間に、不殺蓮千撃のソードスキルを発動する。
熟練度の低い今の時点では最高で3連撃だ。一撃目、二撃目、三撃目と、連続で斬撃を食らわせる。
連続攻撃のソードスキルにしてはやはり一撃のダメージが大きい。しかし、期待通りとまではいかなかった。

俺「レイナ、スイッチだ!」

レイナ「……分かったわ」

三連撃全てを当てても、ゴーゴンが麻痺しなかったのを確認した俺は、すぐにレイナにスイッチをさせる。
レイナは両手剣のソードスキルの『マーニカルファング』で両手剣を地面に叩きつけて、地を這う衝撃波をその場で発生させてゴーゴンにダメージを与えた。

デクスター「今度は俺だ!」

そして、デクスターが他のゴーゴン攻撃部隊のメンバー達と共にソードスキルを一斉に浴びせようとした時だった。

デクスター「黄色だ!全員目を隠せ!!」

俺「来たか!」

デクスターがゴーゴンから目を左腕で隠しながら、他のレイドパーティーたちに対して一斉に大声で伝える。
俺達は石化を防ぐ為に一斉に瞬時に目を閉じる。
俺達はまだいいが、大蛇と戦っていた連中は目を閉じた状態で大蛇たちからも離れなくてはならないので態勢を立て直すのが大変だろう。
そして、何時までも目を隠していると、スキルを発動し終えたゴーゴンや、取り巻きの大蛇たちがスグに襲ってくるので俺達は数秒後を見計らって目を開ける。

俺「無事だな……」

デクスター「おしっ!攻撃を続けるぞ!」

「「「おぉ―――――!!」」」

デクスターの指示が早かった事も有り、そして目の色が黄色になったら石化スキルを使うと言う推測も当たっていたようで、今度は誰ひとりとして石化する事無く、やり過ごすことに成功していた。
デクスターと数人の攻撃部隊は無防備になっていたゴーゴンを取り囲んで一気にソードスキルを次々と浴びせていた。

セイラ「アタシも!いっけぇ―――――!!」

レイナも、オコタンが自分の代わりに石化してしまった事や、アスナに叱責された事で勝手な暴走行為は鳴りを潜めて、連結(レイド)パーティーの連携に加わる形でソードスキルを発動していた。

立木ナレ「そして、レイドパーティーは見事な連携、役割分担を熟しゴーゴンのHPを着実に減らし続けた!4体の取り巻きの大蛇を全滅させることには、再びゴーゴンのHPバーが更に一本全損し、最後の一本となったと同時に4体の大蛇たちを再度召喚するが、それも今まで通りのやり方で見事に対処しきっていた!そして、その間に更にゴーゴンは1度、石化させる目の光を放っていたが、レイドパーティーは誰一人として新たな石化の被害者を生み出す事は無かった!!」

キリト「良いぞ、ゴーゴンの最後のHPバーがイエローになったぞ!」

デクスター「ああ、だが俺の方もゴーゴンに手足を掴まれてHPがイエローになっちまったから、回復が済むまで任せるぜ!」

俺「こっちは回復が終わった!また攻撃に加わる!」

俺もさっきまでゴーゴンの尾を振り回した攻撃で減少したHPを回復する為にPOTを飲み、今から再び攻撃に戻るところだった。

レイナ「……私が隙を作るわ」

俺「ああ、頼むぞ!」

レイナはゴーゴンに接近すると、ゴーゴンをスタンさせるのを狙ってビーストハウルを発動しようとする―――が、その直前に素早くゴーゴンの頭の蛇がレイナに襲い掛かるのを俺は見た。

俺「おい!避けろ!」

レイナ「――――!!?」

俺がそう叫ぶが、流石にレイナも反応が間に合わなかった、両手剣を握るレイナの細い両腕に蛇が絡みつき、レイナのビーストハウルは発動出来ずに不発となった。
俺はゴーゴンに『不殺蓮千撃』を食らわせるつもりだったが、予定を変更してレイナの腕を雁字搦めにしている蛇たちを切り落とそうとした時だった。

セイラ「アタシが……斬るっ!!」

俺「お、お前……」

俺のやろうとしていた事を察していたのかどうかまでは分からないが、俺の代わりにソードスキルの『アヴォーヴ』を発動した、細剣ながらパワー重視の一撃でレイナの両腕を雁字搦めにしていた蛇を一撃で斬り落として、レイナの解放する。

レイナ「……助かったわ」

レイナはセイラにそう言って即座に今度こそ、ゴーゴンにビーストハウルを直撃させた。
獅子の闘気を思いっきり食らったゴーゴンはその場で転倒(タンブル)状態となった。
転倒(タンブル)はほんの一時的な行動不能になっているにすぎないが、そんな一時のスキさえ作ってくれれば充分だ!

俺「食らっとけ……!」

このボス戦で三度目となる『不殺蓮千撃』のソードスキルを俺はゴーゴンに食らわせた。
一撃目の斬り、二撃目の斬り、そして……三撃目の斬撃によるダメージがゴーゴンに浴びせられた時だった。
突如として、ゴーゴンの身体がビリビリと震えて、小さな電気を放ったのはまさにその時だった。

俺「ゴーゴンが麻痺したぞ!」

それを見て俺はゴーゴンを麻痺させることに成功したと確信して、声を上げてそう言った。

エギル「ゴーゴンが麻痺したぞ!攻撃できる奴は攻撃しろぉ―――――!!」

更にエギルがご自慢のバリトン声でフロアボスのどこにでも聞こえる大きな声で知らせる。
その大声は誰一人として聞き漏らすことなく、ゴーゴンが麻痺していると知った連中が一斉にやってきて、隙だらけのゴーゴンに怒涛のソードスキルの嵐が叩き込まれる。

デクスター「そのソードスキル……直接殺す事は出来なくたって、こんな風に使う事も出来るんだな……」

俺「麻痺させることが出来ただけで充分だってのにな」

イエローゾーンだったゴーゴンのHPバーが急激に減少していき、あっと言う間にレッドゾーンになる。
この段階ではもはや不殺蓮千撃ではダメージを与えられなくなるのだが、ここまで来たらそれは最早関係ない。

俺「そろそろ、麻痺が終わる事だ、それまでに終わらせてやる!」

レイナ「……了解」

未だにゴーゴンに対して次々と浴びせられてるソードスキルの連続攻撃、そして俺もその中に加わる。
まずはレイナが両手剣スキルの『サイクロンソード』でゴーゴンを切り上げる。奇しくもこのソードスキルはレイナがPK集団のダガー使いをPKした時に使用したソードスキルだった。

俺「けど、今度はPKじゃなくて、モンスター相手だから遠慮なんていらねぇさ!」

切り上げられたゴーゴンの麻痺が終わる直前、俺は少し離れた距離から衝撃波を放つソードスキルの『デーモンファング』を一発、更にデーモンファングの二連発ソードスキルで、『デーモンファング』から連携できる『ツインデーモンファング』を食らわせる。
計三連撃の衝撃波がゴーゴンを襲い、三撃目の衝撃波によってゴーゴンのHPはついに底を尽きるのだった。

キリト「やった……のか?」

俺「やってやったぞ……」

レイナ「……排除完了」

ゴーゴンの身体は砂のようにザラザラと崩れ落ちて消えていき、俺の目の前には『ラストアタックボーナス』の表示がされていた。
そして、その瞬間。改めてフロアボスが倒された事を証明するかのように、この場で石化していた者達の身体がまばゆい光を放ち始めていた。

デクスター「うっ!ユッチも光ってやがる!」

俺「こいつが、こんな風に輝くなんてもう二度とない機会だろうな……」

そして、それを当人が見る事が出来ないのが何とも皮肉な事だ。石化した者たちはまばゆい光を放ち終えた時には、その姿はすっかり元の姿に戻っていた。

ユッチ「……ま、眩し……!?って……え?あ、あれ?あ、あの~……ぼ、ボスは?」

当たりをキョロキョロと見渡して、まるで時間が飛んだかのような感覚にでも陥っているかのようにユッチは今の状況がまるで掴めてない様子だった。

レイナ「……今、終わった」

ユッチ「え、ええ!?お、終わっちゃったんっすか!?」

キリト「もしかして、石化してた間の記憶が無いのか?」

キリトに石化していたと言われて、ユッチはまるで今初めて気が付いたように、驚いたような、すっきょんとんな声を上げる。

ユッチ「ぼ、僕が石化してたぁ!?い、何時だよ!?ぼ、僕が石化してたなんて……う、嘘っすよねオズマさん?」

俺「残念ながらお前は、今回のボス戦で真っ先に石化させられたんだよ。メデューサの目の光を浴びてそりゃもう、カッチカチで全く動かない石像になってたんだよ」

俺に言われて、ユッチは現実味を帯びてきたのか、青ざめた表情で無理やり引き攣ったような苦笑を浮かべていた。
そして、俺達から少し離れた場所では石化から解放された仲間達を見て、歓喜に沸く声が上がっていた。

シヴァタ「リっちゃん……!よ、良かった……本当にフロアボスを倒せば元に戻った……元に戻ってくれてよかった~」

リーテン「あ、アタシ……石化してたんだね……」

タンク役を果たそうとして、石化してしまったリーテンの復活をALSのメンバー達以上にDKB幹部のシヴァタが人目をはばからずに喜んでいた。
そして、こっちでも―――

セイラ「あのさ……オコさんさ……その」

オコタン「セイラ、それに皆さんも、良くご無事でいてくれました……良かったです!本当に良かった……」

セイラ「ええ!?」

セイラはオコタンが自分を守って石化した事を謝ろうとしていたが、なかなか言い出せずにいたのだったが、オコタンはその事に関してセイラを全く責める事無く、全員が生きていたことを確認するや否や安心して、その場で安どの表情を浮かべて座り込み、セイラは予想外の反応に拍子抜けしたような驚きの声を上げていた。

キリト「お疲れさん、最後に麻痺させてくれたおかげで、終盤は防戦一方だったな」

俺「ボス相手に何ドアのソードスキルを食らわせれば麻痺するか分からなかったが。今回は三回発動して、三回目の三連撃目だったから……精々9分の1で麻痺すると考えて良いって事かな……」

キリト「ボスによって耐性の強い奴、弱い奴で結構差があるから何とも言えないけど、参考程度にはなるんじゃないか?」

俺「止めを刺せない分、麻痺させられなかったら、すぐにボスに反撃される可能性も高いから用心もしなくっちゃならないがな……」

リンド「皆、朗報だ!」

そこに、レイドパーティーのリーダーのリンドがボス部屋の中央に移動して、当人も嬉しそうな表情でそう叫び、続ける。

リンド「DKBのメンバーから今、メッセージが届いた!偵察戦で石化させられたハフナー達四人も無事に戻ったそうだ!」

その知らせを聞いて、予想通りとは言え、ボス部屋では再び歓喜の声が沸き上がった。

アスナ「良かった……皆、元に戻ってくれて本当に良かった……」

エギル「ああ、ボスを倒しても石化が治らないなんてしようだったら流石に酷だったからな」

が、そんな感激ムードをぶち壊しにしたのは、ユッチ達と同じように石化から解放された者であった。

ガチャモン「いやっほぉ~!ガチャガチャモンモン、ガチャモンで~す!」

アスナ「―――――!?」

モック「皆さんやりましたですな~!おかげさまでガチャモンも無事復活しましたですぞ―――――――!!」

立木ナレ「ゴーゴンを倒したことで石化した者たちは皆、復活した。しかし、その中にはモックの相棒のガチャモンも例外なく元に戻っていたのであった!!」

目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

FILE48 ドロップアイテム品評


立木ナレ「第二十層フロアボスのゴーゴン三姉妹の撃破に成功し、石化させられていた者達は全て元に戻り、レイドメンバー達は仲間たちの復活に歓喜に沸いていた……しかし!そんんな彼らの前に水を差すかのように現れたのは、同じく石化から解放されたガチャモンだった!!」

俺「そう言えば……コイツも石化してたんだったな……」

デクスター「ほかの連中はともかく、こいつまで戻っちまうとはな……」

元に戻った状態でモックと共に現れたガチャモンの姿を見て、それまで歓喜に沸いていたレイドパーティーの面々は皆、少なくとも、それを歓迎するような様子はなかった。

モック「ガチャモンも良かったですな~、皆さんがゴーゴン三姉妹を倒してくれたおかげで、無事に元の姿に戻る事が出来て何よりですぞ~」

ガチャモン「嬉しいね~、皆が僕を助けるために戦ってくれてたなんて~。皆して普段から僕の事を嫌ってるみたいな事ばっかり言ってるけどさ、あれってもしかして愛情の裏返し?」

モック「いやいやガチャモン!これはもしかしたらあれですぞ、ツンデレって奴かもしれませんぞ~」

当然、こいつ等だって俺達がガチャモンを助けるために戦っていたわけじゃないと、分かり切っているにもかかわらず、心にもない事を嬉々として言い、この場にいる者達からの苛立ちを煽っていた。

キバオウ「ケッ!ジブンまで元に戻ってもうたんかいな!おどれだけそのままずっと石になっとれば有難かったんやけどな、どっかに飾っといたってもええんやで?」

キバオウがガチャモンに対して嫌味染みた挑発をすると、ガチャモンはキバオウの方を振り向いて言い返す。

ガチャモン「くすす、そういう君こそ、ず~っと石になっちゃえば、珍しいサボテン頭の石像として観光客を呼び寄せるのに貢献できたかもしれないのにね~」

キバオウ「なんやとコラァ!これはサボテン頭ちゃうわ!!」

そして、ガチャモンに言い返されて、すぐに噛みつくように声を荒げていた。

ガチャモン「何はともあれこれでまた、皆と一緒にソードアート・オンラインの世界を楽しむ事が出来そうだね。それに……もうすぐ記念すべき日が来るからね」


立木ナレ「瞬間、誰もがガチャモンに対してどういうわけか言い知れぬ、恐ろしい気迫を感じるのだった!それは何の根拠も無い、訳の分からぬ恐怖感だが、確かにこのフロアボス内にいる誰もが感じ取ることになったのだった!!」


キリト「記念すべき日だって……?いったい何を言ってるんだ?」

ガチャモン「あははっ!それはその日が来たら分かる事だから、今は楽しみに待ってれば良いの良いの!」

モック「さ~て、我々は宴の準備で大忙しですぞ~!それでは皆さん!お疲れさまでしたぁ―――――!!」

ガチャモンとモックは不吉な予感を感じさせる一言を残して去って行った。一体奴らは今度は何を仕掛けてくるんだろうかと、不安に感じるものが多い中、レイドパーティーであったリンドはその表情からして自身も不安を隠しきれていない様子だったが、リーダーとしてボス戦後の方針を指揮する。

リンド「とにかく皆、これから第二十一層への主街区の転移門をアクティブゲートしに行くグループと第二十層の主街区に戻るグループに一旦別れよう。特にアクティブゲートしに行く人達は初見のモンスター達に十分気を付けて挑むように!!」

こうして、レイドパーティーは一旦その場で解散となった。俺達MBT(未来は僕たちの手の中に)のメンバー4人はそのままアクティブゲートに向かう事にしたが、同じパーティーで組んだセイラとオコタンは主街区に戻る事になった。

去り際にセイラは強気に振舞って『今回はヘマしちまったけど、今度のボス戦ではその分野下ってやるから楽しみにしてろ』と言い残し、オコタンは『またいつか一緒のパティ―を組む事になったらその時はよろしくお願いします』と挨拶をして去って行った。
ユッチはずっと石化していたので、何が起きていたのか全く分からず仕舞いで、だた一人会話についていけない様子だったが……

デクスター「それよっか、今回は大収穫だな、なにせLAボーナスを決めた二人がオズマとレイナ、どっちも俺らのギルドのメンバーだったんだからな」

ユッチ「え、ええ―――!?そ、そりゃ凄いじゃないっすか!!って、ボスって確か三姉妹の三人でしたよね?なんでLA決めたのが二人だけなんっすか?」

レイナ「……ユッチが石化した後、私がゴーゴンを倒したら、三姉妹が融合して一体のボスになって、それをオズマが倒した」

ユッチ「は、はぁ……ボスが融合したんっすか」

どんな状況か想像しがたいようで、ユッチはレイナの簡略的な説明を聞いて、分かった素振りを見せるだけだった。

デクスター「とにかくドロップアイテムを確認してみろよ。どんなお宝をゲットしたんだ?」

ユッチ「あ~あ、これでこの4人の中でフロアボス戦で未だにLAボーナスを決めた事が無いのは僕だけになっちゃったっす……」

レイナ「……私のはこれ」

劣等感を感じて項垂れるユッチに構わず、レイナはドロップしたアイテムをオブジェクト化させてその効果が表示されているテキストを可視化せて俺達に見せる。

俺「マジックアクセサリーか?」

オブジェクト化されたアイテムは首飾りのようなデザインだったが、カテゴリーとしては装備する事で効果がそのアイテムの効果が得られる『マジックアクセサリー』の分類だった。
マジックアクセサリーは他の武器や防具のように単に攻撃力とか防御力を上げるわけではなく、その一つ一つによって、装備する事によって得られる効果が千差万別に異なる。無論、普通の武器や防具のように単純にステータスを上げるだけの物もあれば、阻害効果(デバフ)に対する耐性を強化させたり、装備する事によって特殊なスキルを得る事が出来る物もある。

レイナ「……このマジックアクセサリーの名称は『蛇牙の首飾り』よ……」

デクスター「確かに、良く見てみるとこの首飾りって、なんかの生き物の牙で作ったように見えるな……」

ゴーゴン三姉妹からドロップした首飾りだから蛇の牙を使っているってところか。まぁ、デザインはともかく、重要なのはどんな効果があるかだ。

俺「何々……『装備者は毒状態にならず、全ての攻撃に毒のデバフ効果を付加する』か……」

これまた如何にも蛇の牙で作られた首飾りと言った感じだった。毒に対して完全な耐性を得る上に、装備者の攻撃に毒の阻害効果(デバフ)が付くのも、毒蛇の牙をイメージしてると言ったところだろうな。

ユッチ「それで、オズマさんは何をドロップしたんっすか?」

俺「ああ、俺がドロップしたのはな……」

アイテムストレージから新規に獲得したアイテムを一番上に表記する設定にすると、早速俺が初めて見るアイテムが見つかったが、それを見た俺は思わず「は?」と口に出して言ってしまった。

レイナ「……どうかしたの?」

俺「フライパンだ……金ぴかの」

俺が獲得したドロップアイテムをオブジェクト化すると、黄金に輝く神々しい……しかし、どこからどう見てもフライパンとなった。

デクスター「…………」

ユッチ「…………」

レイナ「…………」

俺達は、無駄に神々しく輝くフライパンを目の当たりにして黙り込むしかなかった。10秒ほどの沈黙を破ったのは、取り繕ったような笑顔になったユッチだった。

ユッチ「こ、これって実はその……ものすっごく強力な武器とかじゃないっすか!?普通のRPGゲームとかでもよくあるじゃないっすか、見た目は阿保みたいなデザインでも、武器としての性能は申し分なかったり!」

デクスター「あ、ああ……たまねぎ剣士のオニオンソードとかそうだな!名前や見た目に似合わず、驚異的な武器だったりな!」

俺「お前らなりに、盛り下がりまくりのテンションを上げてくれようとしてるのかもしれないが、残念ながらこいつは武器じゃない」

俺はホップアップメニューからヘルプを選択して、黄金のフライパン。正式名称『鉄人のゴールデンフライパン』の説明文を表示させる。
そして、その説明文をレイナ達に読み聞かせる。

俺「『このアイテムを個人用のアイテムストレージに入れている限り、所有者の料理スキルは従来の数値に常に1.3倍の状態となる』だってよ」

ユッチ「へ、へぇ~……」

レイナ「……料理スキルを上げる事だけに関しては、破格の効果のアイテムね」

そう、レイナが今言った通り、このアイテムはただ、個人用のアイテムストレージにこうして入れているだけで、料理スキルのステータスが常に1.3倍の状態になると言う。まさに料理ステータスを高めようとしている者にとっては喉から手が出るほど欲しくなる破格のアイテムと言わざるを得ない、しかし!!

俺「料理スキルを持ってない、これから取る予定のない俺に取っちゃ、宝の持ち腐れも良い所だな、物好きな料理好きな奴を見つけたら、さっさと売っちまうか……」

と、俺が早々にこのアイテムを売ってしまおうと口にして、デクスターは無言で首を縦に振り。ユッチも小さな声で「そうっすね」と口にした時だった。

レイナ「……待って」

俺「ん?」

珍しく、レイナが俺が言った事に意見をしてきたのだった。

レイナ「……売るにしても、今はまだそんなに料理ステータスを極めようとしてるプレイヤーがいないから、売るのはもっと後が良いと思う」

俺「あ、ああ、確かに今はまだ、戦闘スキル以外のスキルを伸ばす余裕のあるやつもそうそう多くないからな」

さらに言えば、戦闘スキル以外で優先されやすいのは、戦闘への貢献に繋がり易い鍛冶スキルや商人系のスキルの方であり、料理スキルとか裁縫スキルなどは戦闘外スキルの中でも、より趣味的な扱われ方なので、第二十層が攻略されたばかりの現時点ではまだ、率先して料理スキルを上げようとしている者はそう多くないだろうし、いたとしても、この段階で趣味同然のスキルを率先してあげてるような奴から金を多くとれるとは思えなかった。

俺「そうだな、取りあえずこのフライパンはしばらくは保留って事にしておくか……」

レイナ「……そうした方が良い、と思う」

俺はレイナの提案を受け入れて、自分ではおそらく生かす事は無いであろう『鉄人の黄金フライパン』をしばらくは自分で保管しておくことに決めた。
気のせいか、オブジェクト化された黄金のフライパンをレイナは妙にじっと見ていた気がしたが、俺は特に気にする事は無かった。

………

……



立木ナレ「一方その頃、現実世界ではナーブギアとソードアート・オンラインを製造、販売した企業、アーガスに対するバッシングと責任追及が連日連夜続いていた!!」

NK(ニュースキャスター)「と言うわけで、アーガスの経営陣側は未だにSAO事件の被害者に対する補償責任を明確にしておらず、被害者家族のアーガスに対する怒りは収まる様子はありません」

立木ナレ「東京都山谷地区、オズマこと、小田桐弭間の実家であるアパートの一室でもオズマの父の時生と、祖父の恭史郎はテレビでニュースを見ていた」

恭史郎「なぁ、弭間の病院の入院費用とかは今の所は国が代替わりでどうにかなってるんだよな?」

時生「ったりめ~だろうが。俺と親父の低収入で3カ月以上も入院してるアイツの入院費なんて払えるわけがねーよ」

恭史郎「それでな、俺等ってよ。SAO事件を引き起こしやがったアーガスとか言う会社に対して、慰謝料とか損害賠償とかってどれくらい取れそうだよ?」

時生「損害賠償は取りあえず、入院費とかだろ?それは代わりに支払ってる国に持ってかれちまうから俺らの手元に来るのは期待できねぇ……んでもって慰謝料の方だがよ」

恭史郎「おう、取れる物は取っておかねぇとな」

時生「アーガスは莫大な賠償金……ようするに被害者に対する補償だけで、とんでもない負債になって、近いうちに自然消滅するだろうから、それ以上の請求は難しいとか何とか言われてるみてーだな」

恭史郎「なにぃ!?慰謝料がとれねーだぁ!?俺の孫がもう何カ月も意識不明状態にされてそれで取れるのが保証金だけだって!?んなバカな話があってたまるかってんだ!弭間は日雇いの仕事で毎月とりあえず10万くらいは稼いでやがったってのに、その辺りはどうしてくれるってんだあーん!!」

時生「だからよ、その事でアーガスに対する被害者家族からの不平不満や責任追及で大騒ぎしててマスコミが飛びついてるってわけよ。俺らもカメラが回ってるところで、感情的になって泣き喚いてる姿の一つでも見せたら、あっと言う間にカメラとマイクに取り囲まれちまうだろうな」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

FILE49 デビュー50周年!?緊急ログアウトスイッチの誘惑


立木ナレ「時は西暦2023年4月2日。デスゲームと化したソードアート・オンラインが始まってから既に半年近い月日が経過していた!!二日前の3月31日には、ALSを中心に多大な数の犠牲者を出しながらも第二十五層が攻略され、現在の最前線は第二十六層となっていた今日の昼過ぎの午後1時、その日その時間にプレイヤー達はガチャパットを通じてガチャモンとモックから事前に全プレイヤーをゲストルームに召集する事を予告していた。そしてその時刻が訪れと同時に、SAOの全プレイヤーたちは一斉にガチャモンとモックが待ち構えるゲストルームへと強制転移させられた!!」

ユッチ「あ~あ、また久しぶりにここに来ちゃいましたね……」

デクスター「前日のガチャモンのチャレンジの時にも伝えられてただろ。何をやるつもりか知らねぇが、落ち着いていこうぜ」

既に何度目かとなるガチャモンとモックによる全プレイヤーのゲストルームへの強制招集。だが、何度呼ばれてもこの場所に来る度にロクでもない発表があったり、誰かが公開処刑されたりと、こんな事ばかりだった。

レイナ「……出たわ」

ユッチ「で、出やがったっす!!」

立木ナレ「不安を感じる者、怒りに身を震えさせる者、恐怖で慄き続ける者、そんな様々な模様を見せるプレイヤー達の前に、ガチャモンとモックが転移によって現れた!!」

ガチャモン「モックゥ―――――!!おめでと~!!僕は今日ほど生きていて良かったと思った日は無かったよぉ~!!」

モック「ガチャモンこそおめでとうですぞ―――!!いや~、本当に遂に我々ここまできちゃいましたな~!!」

ステージの上で感動?の抱擁を交わし、お互いにおめでとうを言い合うガチャモンとモックだったが。
当然俺達には奴らが何を祝っているかなど分かるわけが無いし、そもそも奴らを祝うつもりなど無い。

俺「何時もの事ながら、毎度毎度アイツらだけでテンション上げて盛り上がってやがるな……」

そして、それを見せられるプレイヤー達の何人かが苛立ちを感じ、奴らに不平不満の声を上げるのも、この場所では毎度おなじみの恒例の光景となっていた。

「何がしてぇんだよ!!」

「用が無いなら帰せ!!」

「気持ち悪いの見せないでよ!!」

そんな、プレイヤー達の罵倒を浴びながら、ガチャモンとモックは軽く溜息を付きながら振り向いた。

ガチャモン「あ~あ、やだねやだね~。折角のおめでたい日だって言うのに、顔真っ赤っかにしちゃって、大声出しちゃってさ~、折角の記念日が台無しになっちゃうよ~」

モック「ま~ま~、ガチャモ~ン。そう言わないであげときましょうですぞ。何せ今日はとってもめでたい日なんですからな~」

ユッチ「え……?き、記念日ってなんでしたっけ?今日ってなんかあったっすか?」

俺「どうせそれも、なんなのかはすぐにアイツらが勝手に話すだろうさ」

ガチャモン達の言っている記念日が何なのかを理解しきれずに困惑するユッチは俺に態々聞いている。
俺も今日が何の日かは知らないが、少なくともプレイヤーにとって歓迎できるような事が起きる日ではないのは確かな気がしていた。

ガチャモン「あのね、今日の日付は西暦2023年の4月2日だって言うのは、ここにいるみんなが知っている事だよね~?」

それはそうだ、プレイヤーの視界の片隅には、一人一人で一は表示位置の微調整は可能で、場合によっては見えなくする事も出来るのだが、基本的に常に現在の日付と時刻が表示されているのだから。

ガチャモン「と言うわけで発表します。この僕、ガチャモンと~……」

モック「この私、モックは何と~……」

ガチャモンとモックは二人で同時に両手を高く広げて、首を上にあげて、その状態で二人同時に発表した。

ガチャモン&モック「「本日をもってデビューから丁度、50周年を迎えましたぁ――――――――!!」」

俺「…………」

レイナ「…………」

ユッチ「…………」

デクスター「…………」

全く持って、信用ならない大袈裟な発表に誰もが口を閉じて、或いは閉口して、黙り込んでいた。
そんな俺達に構う事なく、ガチャモンとモックは嬉々として話を続ける。

ガチャモン「いやぁ~、早いもんだね~。僕たちが世にデビューしたのが1973年の4月2日。それからもう既に50年も経っちゃったんだね~」

モック「1973年……あの頃は色々とありましたな~。チャンピオンだった大場選手が若くして現役世界王者のまま夭逝されてしまったり~。アースがゴキブリホイホイを始めて発売したり~」

ガチャモン「他にも他にも、コナミが設立されたのも1973年だったね~。他にも振替休日が初めて導入されたりしたし、はだしのゲンの連載が始まったりもしたし~、巨人が初のV9を達成したし」

モック「あ~、後あれですぞ。今やすっかりお馴染みのコンビニのセブンもこの年だったですな~」

おそらく、この場にいる殆どの物が生まれる前である1973年当時の話に盛り上がり、2人で勝手に懐かしがるガチャモンとモックの二人。
と言うか奴らはデビューから50周年だとか言っているが、そもそもそれは奴らの元ネタになったキャラクター達の方だろう。

「それがなんだってんだ―――!!」

「俺達には関係ねーよ!!」

「そもそもあんた達はパチモンでしょう!!」

当然、奴らが言う目出度い50周年などを素直に祝うプレイヤーなど誰もおらず、ガチャモンとモックに対する罵詈雑言(ばりぞうごん)があちらこちらから飛び交う状態と化していた。

モック「あ~らららららら~……皆さんこのおめでたい日に、なんだかご機嫌斜めのご様子ですな~」

ガチャモン「ま~ま、そんなに気にする事は無いよモック。みんなの不機嫌なんてほんの一時の事なんだからさ」

なんだ一体?ガチャモンのあの嬉しそうな物言いとさっき言った言葉の意味は?そんな俺の不安交じりの疑問は直ぐにガチャモンの言葉によって掻き消される。

ガチャモン「え~、僕たちのデビュー50周年を記念して、誰もが参加できるスペシャルゲームを開催しちゃいま~す!!」

モック「おおっと、そうでしたそうでした!題してそのスペシャルゲームのタイトルはこちら―――――!!」

そして、ガチャモンとモックの真上に大きな文字で表示された。

ハチャメチャパニックネズミ狩りゲーム!!

ガチャモン「はい拍手~!!」

モック「え~、ルールを発表します。現在の最前線である第二十六層に5匹のネズミモンスターの『ライトスター・マウス』を放ちますので、プレイヤーの皆さんは是非、迷宮区内で逃げ惑うマウスを倒しちゃってくださいですぞ~」

んな事を言われても、まともに参加意欲を示すプレイヤーなど誰もいなかった。そもそも最前線である第二十六層の迷宮区となると、中堅層以下のプレイヤー達にとっては安全マージンの取れない危険な場所であるのだから、迂闊に入る事は無い。

ガチャモン「そしてそして~、5体のマウスの内、一体だけ、僕たちが苦労に苦労を重ねて用意した特別なドロップアイテムを持ってま~す。それはこれだよ~」

一斉に俺達の目の前にガチャモンが言っていた、5体のマウスの内の一体がドロップするアイテムが表示される。
そしてその瞬間、今までロクにガチャモンとモックの話を聞いていなかったプレイヤー達も、ガチャモンとモックに罵詈雑言を浴びせていたプレイヤー達もそのアイテムの詳細を見て我が目を疑い、ウインドウに釘付けとなった。

ユッチ「え……ええ!?き、緊急……ろ、ログアウト……す、スイッチ!?」

レイナ「…………」

デクスター「ログアウトできるアイテムだと……!?」

俺達の目の前に表示されたウインドウに表示されているアイテムは片手でモテる程度の小さなリモコンで、赤いボタンが一個付けているだけの簡素な見た目のアイテムだった。
しかし、そのアイテムの名称は『緊急ログアウトスイッチ』で、その効果はこう書かれている。『オブジェクト化された状態の、このアイテムのボタンを5秒間推し続ける事で180秒後に強制的にログアウトが実行される』そう、すなわちこのアイテムは、正規のログアウトボタンが失われたこのSAO世界において、唯一、ゲームクリア以外でログアウトできる手段と言うわけだ。

「ほ、ほんとうかよ……?本当に、このアイテムをドロップすれば、ログアウトできるのか!?」

「け、けど、第二十六層って言ったら最前線だろ?危険すぎるよそんな場所……」

「これを……これを手に入れれば、現実世界に帰れるの……?だったら多少危険でも!」


立木ナレ「このデスゲームから脱出し、現実世界へ帰還できる!!突如としてそんな夢のようなアイテムを入手するチャンスがプレイヤー達に訪れて、多くの者達の心は激しく揺れ動く!!」


モック「おほほっ、やっぱり皆さん、いい加減に半年近くもソードアート・オンラインをぶっ通しでやってて、飽きちゃってるみたいですな~。ログアウトできると聞いて、興味津々のご様子のようですな~」

楽しげにそう言うモックに対して、誰も声を荒げる者はいなかった。それほどまでに目の前で表示されている『緊急ログアウトスイッチ』に誰もが釘付けになってしまっていたようだった。

ガチャモン「ただし、制限時間はこのゲストルームを出てから24時間だよ~。二十六層の迷宮区に放たれた『ライトスター・マウス』は24時間経過で全員自然消滅しちゃうから。それまでに誰もログアウトスイッチを手に入れられなければ、残念ながらだ~れも、このデスゲームから出られないままだからね~」

モック「24時間のタイマーはガチャパットを使う事で何時でも確認可能ですぞ~。皆さん、本気でこのデスゲームから一時も早く脱出したいと思っている方は~……」

ガチャモン「手段は問いません。ありとあらゆる手を使って、緊急ログアウトスイッチを持ったライトスター・マウスを倒して手に入れなくっちゃだね」

俺「……こいつはまた、大騒ぎになるようなことを仕出かしてくれたな」

レイナ「……丸一日、攻略どころじゃなくなるわ」

最前線である第二十六層の迷宮区に攻略集団だけでなく、中間層のプレイヤー達まで一斉に押し寄せて入ってきてしまっては、それこそ攻略に支障をきたす可能性は高い。
複数人の見ている前でライトスター・マウスが出現すれば獲物の取り合いになる危険性は当然ある。
ガチャモンとモックもまるでそうなることを期待して、デビュー50周年記念を名目にこんなゲームを仕掛けてきやがったんだ。

ガチャモン「え~、もうすぐ午後の1時30分を迎えま~す。その時間になると同時に君達を元の場所に転移させるから、その瞬間にデビュー50周年記念企画。『ハチャメチャパニックネズミ狩りゲーム』の始まり始まり~だからね!」

モック「ガチャモンも言ってましたが~、手に入れる手段は一切問いませんぞ~、と言うかそもそも、どんな手を使おうと、最終的にこのゲームからログアウトしちゃえば、後はこのゲームに残された人達には裁かれる心配などありませんですからな~」

ここにきて、ガチャモンもモックも徹底的にプレイヤー同士の争いになる事を露骨に期待していると言わんばかりに、唆すような言葉を口々に発し続けていた。

ガチャモン「は~い、それでは、午後の1時30分になりますので、皆を元の場所に転移と同時に『ハチャメチャパニックネズミ狩りゲーム』の、始まり始まり~」

ガチャモンがそう、楽しそうに声高々に宣言すると同時に、俺の視界は一瞬にして真っ白な光に覆われる。
それもその場限りの一瞬で、次の瞬間には俺は元居た場所である二十六層の主街区の武器屋の前でレイナ、ユッチ、デクスター、その他数人のギルドメンバー達と共に戻されていた。

ユッチ「と、とにかくどうしましょ―――」

ユッチの声は掻き消された。

「渡さねぇ!緊急ログアウトスイッチは誰にも渡すか――――!!」

「邪魔しないで!私はどうしても帰らなくちゃならないんだから!!」

「やってやる……現実世界に帰る為なら、なんだってやってやらぁ――!!」

この日は第二十六層が解放された翌日とだけあって、主街区には多くのプレイヤーが観光などで訪れていただけあり、目の前で多くのログアウトスイッチ目的のプレイヤー達が迷宮区を目指して怒声や罵声をぶつけ合いながら無我夢中で目指して走りだしていた。
ここは安全圏内だから、HPが減る事は無いが、そこから出たら一体どうなる事やら……

デクスター「俺等に奴らを止める権利はないとはいえ、奴ら大丈夫なんだろうな?」

俺「大丈夫じゃないだろ、多分、今騒ぎながら走って言った連中の大多数は二十六層の迷宮区じゃ安全マージン取れてない奴らばっかりだろ」

安全マージンの基準はその層+10レベルだから、第二十六層の迷宮区での安全マージンは36レベルになる。
俺やレイナは既にこのレベルは超えているが、現状では中間層プレイヤー達にとって36レベルなんてのはまだまだ遠い話の事なのだ。

レイナ「……理解不能。自らの実力では明らかに力量不足と分かっているのに、無謀を承知で最前線の迷宮区に飛び込むのか……理解不能」

立木ナレ「こうして、ガチャモンとモックはデビュー50周年などと称した、悪魔の囁く、ログアウトスイッチを掛けたゲームを開始した!!」



ガチャモンとモックの本家は実際に1973年4月2日に、例の番組放送開始と同時にデビューしているので、デスゲーム中に50周年を迎えています。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

FILE50 ユッチ遭難!翻弄される者達


立木ナレ「ガチャモンとモックは自らのデビュー50周年などと嘯いて、『ハチャメチャパニックネズミ狩りゲーム』の開催を宣言した!5体の鼠モンスター『ライトスター・マウス』を最前線である第二十六層の迷宮区に放し、プレイヤー達はそのすばしっこく逃げまくる鼠を討伐し、その5体の鼠の内の一体がドロップするのは、この通常の手段ではログアウト不可能である死のゲームから脱出する事が出来る特別なアイテム『緊急ログアウトスイッチ』であった!!」

レイナ「……結局、今日の迷宮区の攻略は有耶無耶になったわね」

俺「仕方ないだろ、今の第二十六層の迷宮区は攻略どころじゃなくなってるからな」

ガチャモンとモックが緊急ログアウトスイッチをドロップする5体の鼠モンスターを放った事により、それを求める大多数のプレイヤー達が死に物狂いで迷宮区に雪崩込んでいる状態で、まともに探索できる状態ではなかった。
一歩中に踏み入れれば、誰もがお互いにログアウトスイッチを狙っていると疑い合っている状態で、下手をしたらプレイヤー同士での争いになりかねない。
なので俺はギルドの商人メンバーのミリオンを連れて、第二十六層の石垣で出来た洞窟エリア内で素材アイテムを採取しながら、狩りをしていた。
ミリオンは商人クラスなので、素材アイテムなどの鑑定が出来るが、最前線のモンスター達と戦うには戦力的に心許ないので、普段はギルドメンバーの誰かの護衛を受けながらであった。

ミリオン「リーダー、この辺の素材アイテムで『ウッドズエイプの頭蓋骨』ってのがあったんだけどさ、これは強化素材として仕えて、特に+10以上の強化の成功率を上げるのに使えそうよ」

俺「ほぉ、そいつは使えそうだな。俺達から離れない程度の距離でなるべくそれを率先して採取してくれ」

ミリオン「りょうか~い」

いつも眠たそうな目付きのまま、破棄の余り無さそうな返事をして、ミリオンは俺達の近くで採取を再開する。
この距離でなら、近くでモンスターが数体湧出(ポップ)しても、俺とレイナの二人で充分守り切る事が出来る。

俺「つーか、お前はログアウトスイッチに興味ないのか?」

俺は何となく、ミリオンに対して緊急ログアウトスイッチを全く欲しがる様子を見せない事が気になり、興味が無いのかを聞いてみる。
ガチャモンとモックのゲストルームから元の場所に転移されて戻った直後は、ユッチは俺に対して何度もしつこく、『ログアウトスイッチを無視して本当に良いんっすか?』と聞いてきた。
だが、たった一つしか手に入らないログアウトできるアイテムの為に他のプレイヤー達と争い合いになり、その結果後々、その際に起こしたトラブルが尾ひれを突いて支障をきたす可能性の方が高いと、レイナやデクスターから指摘された事も有り、俺は早々に緊急ログアウトスイッチを手に入れる事を諦めていた。

ミリオン「ん~、手元にあのアイテムがあったらそりゃ使ってるわね~。それだけで、このヤバい世界から逃げられるんだから、てか、そう言うリーダーはどうなの?」

俺「ああ、俺はこんなんでも一応、ギルドのリーダーだからな。勝手にギルドほったらかして、自分だけこの世界からおさらばってわけにもいかないからな」

俺は目の前に出現したウッドズエイプと言う名の猿モンスターをソードスキルの『ドラゴンスゥワーム』で斬り倒しながら、そう答えた。
そもそも、たった一つしかない緊急ログアウトスイッチを手にいられる可能性はかなり低いのだから、最初から俺はあまり乗り気じゃなかったと言うのもあるが。

ミリオン「ふ~ん、少しはリーダーっぽい所もあるんだね~。まぁアタシも、あんまりにも目標のアイテムが手に入る確率が低すぎて、その目標を追う気になれなくなっちゃってるって感じかな~?レイナはどうなの?」

レイナ「……私も興味ない」

ミリオンは採取アイテムを鑑定しながら、俺と同じようにモンスターを狩っているレイナにも聞くが、NPCヘルパーであるレイナはそもそもこのゲームの世界の存在なのでログアウトなど出来ない。
俺が手に入れたいと言えば、手に入れるまで付き合ってくれるんだろうが、俺が興味を示さない限りはレイナもログアウトスイッチを手に入れようとは欠片も思わないと言う事だ。

立木ナレ「そして、オズマとレイナとミリオンの三人は二時間程度の時間をかけて、洞窟内で狩りと採取を続けて、主街区へと戻った。ミリオンは手に入れた素材アイテムの内、他の商人やプレイヤーなどに売れそうな物を売る為にオズマ達と一旦その場で離れるのだった。そして、オズマとレイナはその日は二人で同じ宿屋で一晩を明かす事になったのだったが……」

「……ズマ……オズマ……」

宿屋のベットで熟睡していたはずの俺は、耳元で囁くような、俺の名前を呼ぶ声が聞こえたのに反応して、目を覚ましつつあった。

俺「ってなんだってこんな時間に……」

時刻は既に夜の1時30分を過ぎていた。俺が眠りに付いてから1時間ほど経過した頃なのだったが、そんな俺の名前を呼びながら、身体を揺さぶっていたのはレイナだった。

レイナ「……聞いて、オズマ」

俺「どうしたってんだ一体?」

NPCヘルパーであるレイナは眠る必要が無いので、何時も俺が眠っている傍で、待機し続けているのだが。
真夜中にレイナの方から起こすなんて事は初めてだった。

レイナ「……ユッチからメールが来た」

俺「アイツが、こんな時間にお前にメール?」

レイナ「……助けて欲しいと言ってるわ」

俺「なんだそりゃ?」

また何か、妙な事に関わってるんじゃないかと俺はめんどくさそうに考えていたが、レイナから見せられた、ユッチからのメールを見て、事態は思ったよりは重大であると俺は思わされる。

『オズマさんに伝えてくださいっす!二十六層の迷宮区に1人で入っちゃって……それで辺り一帯が思った以上に強いモンスターがいっぱいで迂闊に動けなくなっちゃったっす!!』

俺「アイツ……やっぱり緊急ログアウトスイッチに釣られちまったな……」

レイナ「……だから、皆が寝てるこの時間帯に迷宮区に一人で入ったと思う」

俺「ああ、俺らに内緒でこっそり手に入れて、そしたらログアウトしちまおうとか思ってたのかもな」

25層のフロアボス戦でALSの壊滅に直結する死者を出すあの戦いを見てから、ユッチはこのソードアート・オンラインが今更ながら死のゲームであると痛感させられたようで、何度も早く出たい、出たいとぼやいていた。
そしてそんな矢先に、ログアウトできるアイテムが手に入るチャンスが巡って来て、いても経ってもいられずに一人で迷宮区に入って行ったと言う事か。

レイナ「……どうするのオズマ?」

俺「面倒だが、行くしかねーよな……」

俺もレイナもユッチとはフレンド登録はしているので、フレンド追跡機能でユッチがどこにいるかを確認する事は出来る。
更にレイナのスキルの索敵スキルも利用すれば、迷宮区内にいるユッチを探し出す事もそう難しくはないだろう。

レイナ「……オズマが行くなら私も行く」

俺「んじゃ、真夜中の迷宮区探索といきますか」

立木ナレ「オズマとレイナは第二十六層の迷宮区へと入って行った。深夜の時間であれば、迷宮区内に潜っているプレイヤーは殆どいない。だが、この日は第二十六層の迷宮区内には、深夜の時間にも関わらず眠気を堪えて迷宮区内を散策するプレイヤー達が数多くいたのだった!!」

俺「やっぱり、寝る間を惜しんでも、緊急ログアウトスイッチ狙いの奴らが多いんだな」

レイナ「……多分これでも、昼間の時間帯の時よりは少ないと思う」

無論、全員が不眠不休で活動しているわけではなく、モンスターが出現しないエリアで休憩しているプレイヤーも多くいるが、いつ何時、例の『ライトスター・マウス』が現れるか分からないためか、体を休めつつも寝ないように周囲い目を光らせている者が多い。
中には索敵スキルや聞き耳スキルを使い続けている者もいるだろう。最も、ここに潜っている連中の大半は第二十六層の安全マージン。すなわち36レベル以上に大きく劣っている者達なんだろうが。

俺「ユッチの奴も、モンスターが出ない場所で泣きべそ掻きながら、座り込んでるんだよな?」

レイナ「……彼からのメールでは、その場所から殆ど動いてないみたい」

俺「なら、良いがな」

一応、俺もユッチに対して、迎えに行くまで絶対にそこから離れるなとメールを送っておいた。
フレンド追跡機能で確認する限りでも、それはちゃんと守っているようだった。

レイナ「……右斜め90度にモンスターが出てきたわ、数は3体で何れも、剣を装備してる類人猿モンスター」

俺「この迷宮区には、ソードスキル使って来る猿がわんさか出てきやがるな」

第一層のコボルドもそうだったが、このSAOでは武器を持ったモンスターはプレイヤーのようにソードスキルを使って来る手合いが多いため、それだけで要注意すべき敵となり得る。
がら空きのガードの状態やソードスキル発動直後の硬直時に相手のソードスキルを食らえば、一気にHPを削られてしまいかねない。
そして、目の前の剣を持った三体の猿モンスターの『With a sword ape』。レイナ曰、日本語に直訳して剣を持つ猿達の一体が早速ソードスキルを発動し、俺に向かって、突進しながらの高速突きを放ってくる。

俺「おっとぉ!甘い甘い!」

それをソードブレイカーで一時的に止めて、ソードスキルを使ってきた猿に俺は不殺蓮千撃を使う。
熟練度の向上で4連撃まで攻撃可能になったこのソードスキルではHPがレッドゾーンにまで減るとHPが減少しなくなってしまうが、一撃一撃に一定確率で麻痺にさせる阻害効果(デバフ)がある。
案の定、3発目の攻撃で猿は麻痺して動かなくなっていた。

俺「レイナ、スイッチ!」

レイナ「……了解」

他の二体の猿達もソードスキルで攻撃を仕掛けてくるが、レイナはそれよりも先に範囲攻撃のソードスキルの『マーニカルファング』で麻痺している猿に止めを刺しつつ、残りの二体の猿にもダメージを与える。
そして、その後も俺とレイナは殆どダメージを受ける事無く残りの二体の猿を撃破した。

俺「……余裕だな」

レイナ「……けど、安全マージンを取れてないプレイヤー達にとっては今の三体のウィッツ・ア・ソード・エイプ達ですらかなりの強敵になる」

俺「連中だって実力を弁えてないわけじゃないだろ。大半は可能な限り逃げ隠れして例の鼠だけを探してるんだろうな」

出なければ、ログアウトスイッチを手に入れる為に危険を冒した結果、そのままこの中で命を落とすなんて言う本末転倒な結果になりかねない。
最も、既にこの中でログアウトスイッチに目が眩んで、命を落とした者もいるのかもしれないが。
そんな、事を考えながらフレンド追跡機能でユッチが待機している場所に俺達は辿り着き。
モンスターが出現しない範囲の場所で蹲って、ボーっとしていたユッチを発見した。

俺「ったく、世話が焼けるな」

ユッチ「……あ、オズマさんにレイナさん!?」

ユッチは、だいぶ離れた所から聞こえた俺の声に瞬時に反応して、立ち上がり全速力でこっちに駆け寄ってきた。

ユッチ「信じてたっす!オズマさんとレイナさんなら助けに来てくれるって僕はずっと信じてたっすよ!!」

俺「おかげで深夜の真っ只中に迷宮区で迷子探しになったがな、取りあえず無事ならそれで良い」

ユッチ「すいませんオズマさん!ろ、ログアウトスイッチを手に入れればその……高値で売れると思ってつい!」

等とユッチは言うが、実際には自分自身がこの詩のゲームからログアウト出来る事を期待して一人でこんな時間帯にこっそりと迷宮区に入ったのは丸わかりだったが、それを今ここで指摘する必要も無いか。

レイナ「……自分でログアウトする為じゃないの?」

が、レイナはユッチの本心をあっさりと見抜き、あっさりとその事を本人に対して問い詰めていた。

ユッチ「そ、そんな冗談キツイっすよレイナさん……ぎ、ギルドに入ってる状態で、そんな皆に隠れてこそこそと一人勝手に逃げ出す真似なんて…・・いくら何でもあり得ないっすよ~」

そしてコイツも、尽く隠し事が下手ですぐに顔に出る奴だった。特に嘘や隠し事を見抜かれたりすると、すぐにそれが態度に現れる。

レイナ「……どうするオズマ?」

俺「どうするも何も、ユッチを見つけたら、このまま迷宮区を出るだけだ。こんなところでこのまま鼠探し仕様だなんて言うわけないだろう」

レイナ「……分かった」

ユッチ「そ、そうっすよね……ログアウトスイッチなんて、探さないっすよね……」

立木ナレ「こうして、オズマとレイナは迷宮区で遭難したユッチを発見、保護して、そのまま迷宮区の外を目指すのだった。だが、未だにログアウトスイッチに対する未練を隠し切れないユッチであった!!」



次回は原作でも登場した月夜の黒猫団のメンバーの誰かが登場予定です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

FILE51 道化!浅ましく争う者たち!

立木ナレ「救出!!オズマとレイナは、緊急ログアウトスイッチを欲しさに一人で深夜の第二十六層迷宮区に潜った挙句に自力で出られなくなっていたユッチを迎えに行き発見した。後はオズマ達は迷宮区から出るだけである」

俺「幸いなのは、お前がそこまで奥深くまで迷宮区に潜れなかった事だな」

レイナ「……あまり奥深くで遭難されてたら、迎えに行くのも大変だった」

ユッチ「は、はは……流石に一人じゃ、なかなか奥まではいけないもんでしたっすから……」

出口に向かって俺達は着実に向かっているが、その道中にも、俺達は幾人ものプレイヤー達とすれ違っていた。
いずれも緊急ログアウトスイッチ目当ての連中なのは明らかだった。本来迷宮区は安全の為にパーティーを組んで入り込む者が殆どなのだが、ログアウトスイッチ目当ての連中は近くにいる奴に横取りされるのを恐れているからか、その殆どが単独行動だった。
そして一人でいる分、迷宮区内での戦闘は更に過酷になるのだが。

レイナ「……オズマ、近くにプレイヤーがいる」

索敵スキルを使っているレイナが、プレイヤーの存在を察知して俺に伝えるが、それは別に不思議な事ではない。

俺「そりゃいるだろ、緊急ログアウトスイッチ目当ての奴らがその辺にわんさかいるんだからな」

レイナ「……そのプレイヤーは単独行動で、二体の『ウィッツ・ア・ソード・エイプ』に防戦一方を強いられてるわ」

ようするに、このままだとその単独で迷宮区に潜ってるそのプレイヤーは、その二体の剣を持った猿に殺さねかねないと言う事か。
まともな安全マージンを取れてない奴が最前線の迷宮区に単独で潜れば、死のリスクは確実に付きまとうのは解り切っている事で、それは自己責任だ。

俺「ちょっと寄り道になるが、猿をに引き倒して経験値稼ぎするか」

レイナ「……分かったわ、こっちよ」

ユッチ「ああ、ぼ、僕も行くっす!」

索敵スキルを使っているレイナについていき、俺達は真っ直ぐ二体の剣使いの猿達に襲われているプレイヤーを発見した。

「も、もう……イヤァ……こ、来ないで、止めて……!!」

俺「そんなに怖がるなら、最初から一人で来るなっての……」

そのプレイヤーは俺と同年代か少し年上程度の黒髪ショートヘアーで槍使いの少女だった。
俺とレイナがすんなりと3体倒した猿達に対して、かなり苦戦しているようで、HPバーは既にイエローゾーンまで減少していた。

俺「レイナ、片方をぶっ飛ばせ」

レイナ「……了解」

レイナは槍使いに剣を振り下ろそうとしていた猿に対してソードスキルの『ビーストハウル』を放ち、獅子の形をした闘気をぶつけて転倒(タンプル)させて吹き飛ばしていた。

「え……?な、なに?」

俺「通りすがりの者だ!」

いきなり現れた俺達に呆気に取られる槍使いの少女だった。そして今度は俺がもう一体の猿剣士に疾走スキルで素早く接近しつつの斬り込み攻撃を加える。
そしてそこから更にソードスキルの『レインソード』の連続突き、更に連携して『レインソードアルファ』で更なる連続突きを食らわせて、猿剣士を一体撃破し、猿剣士は甲高い声で鳴きながら、その身はポリゴン化し、分散して消滅した。

レイナ「……止めを刺すわ」

そして、レイナは自らのビーストハウルで転倒させた猿剣士に対して、立ち上がった直後に大振りの叩き斬りの連続攻撃で猿剣士を撃破した。

ユッチ「おお~、流石はオズマさんにレイナさんっす!ソードスキルを使って来る厄介な猿剣士も形無しっすね!」

そして、俺とレイナの戦いを少し離れた所から、見ていただけのユッチは、さっきまで凹み気味だったのから一転して、はしゃいでいた

「あ、え……その、あ、ありがとうございます!!」

槍使いの少女は自分が俺達に助けられたことを理解して、立ち上がりながら頭を深々と下げて礼を言う。
その頭上のカーソルからして、こいつはどこかのギルドに所属しているプレイヤーであることが分かった。

俺「アンタ、最前線から結構離れてるプレイヤーだよな?どうして、一人でこんなところに……って、そんなの決まってるか」

「ご、ごめんなさい……わ、私、どうしても、ログアウトできるアイテムが欲しくて欲しくて……」

責めたつもりはないのだが、その槍使いは、申し訳なさそうな表情で涙目になりながら項垂れていた。

ユッチ「つーか、おねーさん名前は?」

サチ「あ、私は……サチって言います」

サチと名乗った槍使いのプレイヤーはよほど、その危機に直面したことが堪えていたのか、足を震えさせながら名前を名乗った。
取りあえず俺たち三人も全員、名前を名乗る事にする。

俺「俺達は、このまま迷宮区からまっすぐと出るが、アンタはどうする?もう出たいって思うんならついてきても構わないし、どうしても緊急ログアウトスイッチが欲しいってんなら、止めはしないけど?」

サチ「そ、それは……」

サチはどうするか迷い、困惑気味の表情で言い淀んでいた。

サチ「私、凄く怖かった……このゲームがデスゲームになってから……毎日毎日、圏外エリアに出るたびに……今日死ぬんじゃないかって、考えると怖くなって……」

レイナ「……圏外エリアから一歩も出ないプレイヤーも中にはいる……けど、貴方はそうしてない」

レイナの言う通り、死のリスクを徹底的に恐れて、圏外から一歩も出る事無く、モンスターと殆ど戦っていないため未だにレベルが一桁のプレイヤーは意外といるもんだ。
だが、目の前のサチは装備自体は決して最下層の物ではないし、レベルも少なくとも10より下ではないはずだ。

サチ「私……高校の同じコンピューター部の人達と一緒に……このゲームでギルド組んでて、私だけめ、迷惑かけたくなくって……」

俺「ああ、仲間たちが圏外で金稼ぎしたり、攻略組を目指して戦ってるのに、自分だけ逃げるのは気が引けるから付き合ってるとかか」

サチ「そう……かも」

サチは自分でもその辺りはハッキリと分かってないような言い方だった。

サチ「だから、たった一人だけでもログアウトできるって聞いて……危険だと分かっててもいても経ってもいられなくって!このチャンスを逃したらこの先後悔し続けて、毎日毎日怖い思いして……そして、そして、最終的に私は……このゲームの世界で死ぬんじゃないかと考えたら、ギルドの皆が寝静まった時間になって私、一人で迷宮区の入口の前に立ってて……」

俺「そうかい……」

レイナ「…………」

立木ナレ「それは、誰もが逃れることの出来ぬ死への恐怖!例え己の感覚を麻痺させて、恐怖を誤魔化す事が出来たとしても、いざ死を前に直面すれば、それは魔物!死を実感させる魔物と化すのだった!!」

サチ「だけど……全然ダメだった。私なんて、この迷宮区のモンスターの一体もロクに倒せなくて、逃げる事すら満足に出来ず仕舞いで……」

沈むようにサチの声が小さくなっていった。僅かな可能性に欠けて、危険やリスクを承知で半ば、薄っすらとした意識のまま迷宮区に来たのは良いが、実際に入ってみたら中のmob達に手も足も出なく、鼠探しどころじゃなかったと言うわけのようだった。

レイナ「……ねぇ、オズマ」

俺「どうした?」

レイナが何かに気が付いたようで、小さな声で俺を呼びながら、西方向に向けて指を指して言った。

レイナ「……ライトスター・マウスだわ」

ユッチ「ええ――――!?」

サチ「えっ!?」

その名前を聞いて、俺よりもユッチやサチが過敏に反応していた。レイナが指さす方には、例の緊急ログアウトスイッチをドロップするとされているモンスターである。
体長が40センチほどの小さな鼠モンスターが、つぶらな瞳でこちらをじっと見ていたのだった。

俺「アイツが、5体放たれたとか言うログアウトスイッチを持ってるかもしれないモンスターか」

ユッチ「みぃつけたぁぁぁぁぁぁ!!」

俺「って、おい!?」

さっきまで大人しく俺達に付いてきていただけのユッチが、迷宮区内に響き渡るような大声をあげながら、マウスに急接近し、ダガーのソードスキルを発動していた。

マウス「キキッ!」

が、マウスはユッチの単調なソードスキルを軽々と避けると、壁際に移動していた。事前に聞いていたが、やはり積極的に攻撃はしてこないが、身軽で素早いモンスターのようだと俺が思っていた時だった。

サチ「お、お願いします!倒して!あのマウスを倒して!」

俺「は、はぁ?」

今度はサチが急に俺の腕にしがみ付いて、俺にマウスを倒すように懇願してくる。

サチ「お願いします!お願いします!何でも言う事聞くから!何でもするからお願い!あのマウスを倒してください!」

ユッチ「ま、待てよ!オズマさんに何、頼み込んでるんだよ!?オズマさんは僕のギルドのリーダーなんだよ!!」

立木ナレ「まさにプライド無き、究極の懇願!!力無き者達ゆえに力を持った者たちに全力で懇願する者達であった!!」

「おい、向こうが騒がしいぞ!」

「まさか……マウスがいるのか!?」

こっちでの騒ぎ声を、聞きつけた他のプレイヤー達の声が、俺の聞き耳スキルを使うまでも無く響き渡って来ていた。
この迷宮区内は今、大勢のプレイヤー達が深夜にもかかわらず潜っているのですぐに駆けつけてくるだろう。

サチ「お願い!倒して!あのマウスを早く倒して!」

レイナ「……オズマに触らないで」

流石にレイナが俺にしがみ付いていたサチを力づくで引き離していた。それでも尚もサチは『何でもする、何でも聞く』を繰り返して俺に懇願し続けていた。

俺「一匹だけだぞ……」

俺はある程度距離の離れているライトスター・マウスに向けて遠距離ソードスキルの『デーモンファング』を発動する。
衝撃波が少し離れた距離にいたマウスを襲い、更に続けて連携で『ツインデーモンファング』で衝撃波の二連撃を発動して、マウスの残りのHPを0にした。

俺「すばしっこいけど、体力は無かったんだな」

ユッチ「や、やった……マウスを倒したっすよオズマさん!」

サチ「ろ、ログアウトスイッチは……?」

するとそこに丁度、この場所での騒ぎ声……特にさっきのユッチの声を聴いた数人のプレイヤー達が駆けつけてきた。
そして、俺がマウスを丁度今倒したと察すると、皆俺の方に目を向けてくる。
そして、一斉に必死の形相で、さっきのサチと同じような目で懇願し始める。

「売ってくれ!俺の持ってる全てのアイテムとコルをアンタに渡すからそれでログアウトスイッチを売ってくれ!!」

「僕の方が……僕の方がアイテムや金や装備は持ってるんだ!僕に売ってくれ!!」

するとユッチとサチもこの機を逃さんと言わんばかりに再び目の色を変えて、必死の形相で会話に割り込む。

ユッチ「引っ込んでろよクズ共がぁ!!どうせお前らの装備とかコルなんてたかが知れてるだろ!そ、それに僕は……このオズマさんとは長い付き合いなんだよ!僕の方がオズマさんにログアウトスイッチを売ってもらえる資格はあるはずに決まってるんだよ!!」

サチ「お願いオズマ!後で何しても良いから!何でも聞くよ!だから、助けて!私にログアウトスイッチを売って!!」

立木ナレ「まさに己の魂を売り払い、オズマに頼み込む者たち!!そして、そんな浅ましい者達の中から更に突拍子の無い事を言い出す者が現れる!!」

「百万円払う!!」

等と一人の男が言い出し、一斉にその男に皆の視線が向けられていた。

「俺にログアウトスイッチをくれたら……現実世界のアンタに100万円払うよ!だから、俺に売ってくれ!」

などと、ゲーム世界の金でなく、現実で100万円を払うなどと言う突拍子もない取引を俺に持ち掛けてきやがった。
すると、それに触発されたかのように今度は他の者が言い出す。

「そんなんだったら僕だって払う!200万円だ!金目の物を売ればなんとか……何とか払えるはずだから売ってくれ頼む!!」

ユッチ「お、オズマさん駄目っす!こいつ等なんて信用ならないっすよ!」

んな事はユッチに言われるまでも無く分かっている。ここではい、分かりましたなどと言うほど俺も単純ではない。

ユッチ「500万円払うっす!」

俺「……あ?」

今度はユッチまでもが、このわけのわからぬリアルマネーオークションの話に便乗して、あろう事か絶対に払えるわけのない額を払うなどと言い始めていた。

「お前こそふざけんな!お前みたいなガキがそんな大金払えるわけないだろ!」

「良くも俺の事を信用ならないなんて言えたよな!」

真っ先に他の二人の男達がユッチを激しく糾弾するが、ユッチは負けじと睨み返して声を荒げる。

ユッチ「うるせぇ―――っ!!黙れよクズ共!!ぼ、僕に500万円払えなくたって……親が払う!僕がログアウトスイッチでログアウトしたら親にオズマさんにお世話になった事を説明して親に500万円用意してもらうんだよ!!そうさ……僕に払えなくたって親なら500万円くらい払えるはずさ!」

「だ、だったらオレだって親が払う!500万円どころか600万……700万とかだって払えるはずだ!それくらいは何とか用意させる!」

「ざけんな!俺の親ならもっと払えるぞ!多分、家とか車とか売ればもっと余裕で払える!だから……だから俺に売ってくれぇ!!」

サチ「ま、待って……そんなの払える保証なんてないよ……ねぇ、オズマ……こんな人たちの言う事なんて聞かないで私に売って……本当に何でも聞くから……何されてもい良いからお願い……」

俺「黙ってこれを見ろ……!」

俺は一言、そう言ってから自分のアイテムウインドウを可視化し、この場にいる全員に見える状態にする。
そして、アイテムの表示順を『新規』すなわち、獲得した順番に上から表記される設定にして俺に懇願しまくっている連中に見せつけた。

ユッチ「え……?あ、あれ?ろ、ログアウトスイッチは……どこっすか?」

ユッチや他の連中が幾ら見渡しても、そんなのが見つかるわけが無かった。

サチ「ない……無い?ろ、ログアウトスイッチが……無い?」

俺「ああ、そもそもガチャモン達が迷宮区に放った『ライトスター・マウス』は5体だ。つまり確率は5分の1。俺が倒したので何体目か分からないが、少なくともさっきのはログアウトスイッチを持っていた個体じゃなかったわけってだけの事だよ」

この場の者達に、無駄な争いであることを俺はこうしてはっきりと伝えておいた。すると、さっきまで俺に懇願していた男が途端に怒りの籠った目付きで俺を睨み付けて何かを言おうとするが、レイナの鋭い目つきで睨まれて即刻縮こまっていた。

レイナ「……そもそもオズマは最初からドロップしたなんて一言も言ってないわ」

男「…………」

ユッチ「そ、そうっすよね……」

サチ「…………」

さっきまでのデットヒートが一気に沈静化して、重苦しい空気がその場を包んでいた。

俺「もうすぐ迷宮区から出られるから、付いてきたい奴だけ勝手に付いてきてくれ、まだログアウトスイッチを諦められない奴は好きなだけここに残れば良いさ」

立木ナレ「結局、ユッチもサチもオズマとレイナに同行して迷宮区を出る事となった。オズマが見たのは、たった一つしかないログアウトできるアイテムを巡って醜い姿を包み隠さず露にし、争い、奪い合い、貶め合うプレイヤー達の姿であった!!」

目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

FILE52 結束する者達‥‥ギルドは1人の為に!

立木ナレ「オズマとレイナがユッチやサチ、その他数名の緊急ログアウトスイッチ目当てのプレイヤー達を救出して一夜が明けた!!ログアウトスイッチを巡り、浅ましい争いを繰り広げたプレイヤー達であったが、ライトスター・マウスを一体撃破したオズマは結局、緊急ログアウトスイッチをドロップしておらず、オズマはこのデスゲームから解放されるアイテムを巡り争うプレイヤー達の醜さを目の当たりにしただけであった……」

あれから一夜が明けた、朝の8時になると同時にガチャパットからメッセージと同時にガチャモンとモックの映像が流れていた。

ガチャモン「皆~、朝の8時だよ~。昨日の夜はちゃんと眠れた?それとも、ログアウトスイッチが気になって仕方なくって、寝てる場合じゃなかったとかかな~?」

モック「ほほほっ!夜更かしはお身体に良くはありませんですぞ~。何やら、真夜中にこっそりと迷宮区に入って、仲間たちにバレないようにログアウトしようなんて考えてた不届き者も大勢いるようですからな~」

俺「アイツらも、迷宮区にいやがるのか……」

ガチャモンとモックが映っている映像は明らかに第二十六層の迷宮区の中からだった。ちなみに、今日はユッチは昨日の事でかなり疲れたのか今もぐっすりと眠っているようだった。

ガチャモン「さてと、緊急ログアウトスイッチを掛けたスペシャルゲーム『ハチャメチャパニックネズミ狩りゲーム!!』も残り5時間と30分程度になり、既に三体のライトスター・マウスが撃破されたけど、未だに緊急ログアウトスイッチはドロップされていませ~ん」

ガチャパットに移るガチャモンとモックは楽しげにそう説明した。

俺「つまり、あと2体残ってるはずのライトスター・マウスのどちらかが『緊急ログアウトスイッチ』を持っているはずなんだな」

レイナ「……けど、肝心のログアウトスイッチをドロップするのはもしかしたら、最後に撃破された一体になるように設定されてる仕様かも知れないわ」

俺「それは、奴らがやりそうなやり口だな……」

5体の鼠の内の一体がランダムでログアウトスイッチをドロップすると言っていたが、実際には最後に撃破された一体がドロップすると言うレイナの憶測は充分ありうる話だ。現に既に5体中の3体が倒されて残り2体までになっているのに誰もログアウトスイッチをドロップしていないのだから。

俺「今日の1時30分にはログアウトスイッチを取り合うゲームは終わるから、それまでは迷宮区での探索はお預けだな」

レイナ「……分かった」

立木ナレ「こうして数時間が経過した!誰もがログアウトスイッチをドロップ出来ぬままついに、制限時間である24時間まで残り1時間程度までに迫った頃だった!!」

俺「最後の最後まで、諦める様子がないみたいだな連中は」

俺はガチャパットで第二十六層の様子を見ながら、そう言った。このログアウトスイッチを巡るネズミ狩りゲームが始まってから、ガチャパットでゲームの舞台である第二十六層の迷宮区の様子は常時様々な場所を映し出されていた。
ガチャモンが言うには、迷宮区に潜ってない人も死に物狂いで争う人たちの騒動を見て楽しめるようにとの配慮らしい。
その為か、このガチャパットに流されている映像は第二十六層の迷宮区に入っている最中に見る事は出来ない設定だった。

モック「はいは~い!クライマックスを迎えた『ハチャメチャパニックネズミ狩りゲーム!!』現場リポートのモックですぞ~」

俺「今度は何だってんだ……?」

いきなりモックがマイクを握った状態で、第二十六層のどこかでどアップで映し出されていた。

ガチャモン「ちょっとちょっとモック~!君は永遠の二番手なんだからあんまりしゃしゃりでないでよね~!」

そして、隣にはやはりガチャモンもモックと同じようにマイクを持って立っており、モックに対して小言を口にする。

ガチャモン「そしてお知らせだよ!ついについに……残るライトスター・マウスは後一体になりました~!」

モック「なんとぉ――――!?そ、それはつまり!最後の一体、次の一体を倒せば確実にそのマウスが緊急ログアウトスイッチをドロップすると言う事ではありませんか―――!!」

ガチャモンとモックが白々しく、残りのライトスター・マウスが一体で、次の一体を倒せば確実にログアウトスイッチがドロップできると発表する。

レイナ「……やっぱり、思った通りの展開になったわ」

俺「最初っから、最後の一体がドロップするように設定してたって事だろうな」

そんな奴らの思惑に感づいて、白けているのは俺はレイナだけではないだろう。

ガチャモン「はいここで、比較的最後のマウスに近いとあるプレイヤー達に注目してみましょ~」

ガチャモンがそう言うと、画面が切り替わり、5人組で行動するプレイヤー達を映し出していた。
その5人組は男3人と女2人で、年齢は概ね上は20歳過ぎで、下は10代後半程度であった。
と言うか、珍しいものだな。

俺「こいつらログアウトスイッチ目当てなのに、集団行動してるのか」

レイナ「……珍しい」

ログアウトスイッチが一つしかない以上、それを巡って取り合う事になりかねないので、ログアウトスイッチ目当てで迷宮区に潜っている連中の殆どは単独行動をしていた。
少なくとも、俺とレイナがユッチを探しに入った時は、こいつ等みたいに5人も集まって行動している奴らなんていなかった。
この集団行動でこいつらはいざ、ログアウトスイッチを手に入れたとしても、どうやって誰が使うかを決めるつもりなんだ?
そんな俺の疑問をある程度解消するかのように、ガチャモンは画面に映る5人組のプレイヤーたちの事を解説し始める。

ガチャモン「え~、彼らは5人組の小規模ギルドの『チーム・エスポワール』って言ってね。5人ともソードアート・オンライン以前からのネットゲーム仲間の仲良しグループでした」

それ自体は珍しくない、新しいゲームを始めて早々に以前のゲームで組んでた者や、リアルで交流のあった者同士ですぐに新ギルドを結成するなんて事はどんなMMORPGでも有り得る事だ。

ガチャモン「そんな5人組のチーム・エスポワールの皆さんだけど、この中でログアウトスイッチを手に入れた場合に使うのは既に決定済みで、こちらの彼が使う事になってま~す」

画面は5人組の中の一人で、曲刀と盾を装備した10代後半と思わしき男性プレイヤーを映し出した。

ガチャモン「彼のキャラネームはコージ君。彼はリアルでは中々複雑な家庭環境に育ちました」

ガチャモンは目から涙が出てるわけでもないのに、ハンカチを取り出して涙をぬぐうような仕草を見せる。

モック「え~、調べによりますとこの彼、コージ君ですが。父親は幼い頃に亡くなり、彼の母親が女手一つで、病院事務の仕事を毎日して、コージ君と幼い弟と妹さんを育てて来たようですな~」

ガチャモン「そんな母親に助ける為にコージ君は中学卒業後、普通の高校に進学するのを断念して、週一で通信制高校に通う傍ら、様々なアルバイトを掛け持ちして、家計を助けてきました。全ては苦労を一身に背負ってきた母親を助ける為、そして弟と妹を守る為に彼は損な道を選びました……」

俺は妙な気がしてきた。いくら何でもプレイヤーのリアルに関する事をここまで話すなんて、今まで幾らこいつ等でもこんな事は無かったはずだ、しかも不特定多数のプレイヤーが見ているガチャパットを通じて話すなんて、まるで俺達にこの事を知らせたうえで何かが起こる様を見せつけたいと……

モック「そしてそして~、そんなコージ君の複雑な事情はチーム・エスポワールの皆さんも知っており~、彼らは話し合いの結果、『せめてコージだけでもいち早く現実世界に帰そう』と言う結論に達し、こうして迷宮区に潜っているわけでして、コージ君もそんな自分の事を思ってくれる仲間たちにとてもとても感謝していましたんですぞ~」

ガチャモン「まさに、美しき友情って奴かな?良いね良いね~、僕は大好きだよ、美しき友情。その友情が美しければ美しい程……そしてその傷が堅ければ固い程……穢れや綻びが始まった時が……おっと!ここで動きがありました!」

ガチャモンが最後の言葉を言い切る前にガチャパットの映像はギルドメンバー達の目の前に突如として現れた一体のモンスターを映し出していた。

コージ「あ、あれ……あの鼠は!?」

リーダー「間違いない、ライトスター・マウスだ!」

両手剣使いのギルドリーダーが叫んだ通り、それは俺やレイナも目撃したライトスター・マウスだった。
つまり、あれが最後の一体、緊急ログアウトスイッチをドロップするマウスだ。

ダガー少女「ど、どうしようリーダー?」

ダガーを装備した高校生くらいのプレイヤーが唐突に訪れたチャンスにオロオロとしながらリーダーに聞いていた。

リーダー「残り時間から考えてこれがラストチャンスだから絶対に逃すな、だけどあんまり長引かせると他のプレイヤーが来て取り合いになるかもしれないから注意するんだ!」

槍使い「大丈夫だコージ!アイツ倒して、お袋さんや弟や妹が待ってる現実(リアル)に帰るんだろ?俺達が絶対にお前を帰す!」

コージ「あ、ありがとうダックス!それに皆も!」

ダックスと呼ばれた槍使いの青年プレイヤーがコージに対して何とも頼もしい言葉を投げかけると、ギルドのメンバー達は改めて志を一つにしたように互いに頷き合っていた。

リーダー「ナミネ、投擲スキルだ!」

ナミネ「は、はい!」

ナミネと呼ばれた、ダガー使いの少女はリーダーの指示で投擲用ナイフをマウスに向かって投げつけていたが、マウスはすばしっこく小さいため攻撃は外れていた。
しかし、リーダーはそれを最初から予測していたようで、動揺する事無くすぐに次の指示を出す。

リーダー「モミジ、回り込んでソードスキル『パワー・ストライク』だ!」

モミジ「任せて!」

モミジと呼ばれたメイス使いの女性プレイヤーがソードスキルを発動し、メイスを足元に強く叩きつけて、衝撃波を引き起こして、丁度その先に逃げようとしていたマウスが巻き込まれてダメージを受けていた。

リーダー「今だぞコージ!このチャンスを逃すな!」

コージ「う、うおぉぉぉ!!」

家族の為に緊急ログアウトスイッチを使うつもりの曲刀使いのコージは目の前のチャンスを逃すまいとソードスキルを発動していた。
狙いを定めたマウスを追尾するような突進付きがついに、ライトスター・マウスに止めを刺して、マウスの身体はポリゴン化して飛散したのだった。

俺「これで、このゲームも終わったのか?」

ガチャパット越しにそんなギルドメンバー達の様子を見ていた俺はそう呟いていた。気が付けば周囲の俺とレイナ以外のプレイヤー達も全員ガチャパットでその様子をじっと見ている状態と化していた。

コージ「や、やった……や、やったのか……僕は?」

リーダー「と、とにかく、アイテム欄から探すんだ!あれは確かオブジェクト化した状態で5秒間スイッチを押し続けて初めて発動するアイテムだったはずだ」

コージ「わ、分かった!」

リーダーに促されて、マウスに止めを刺したコージは急いでその場でアイテムストレージを確認していた。
いよいよ本当にもうすぐ、自分だけではあるがログアウトできるかもしれないと言う気分で恐らく冷静さを保つのは容易ではないだろうが、コージはせわしなく指を動かして、そしてアイテムストレージからとあるアイテムをオブジェクト化させていた。
そのアイテムは昨日、ゲストルームで俺達が少しだけガチャモン達に見せられた例の緊急ログアウトスイッチそのものだった!

コージ「あ、あった!こ、これだよ!これだ……」

ダックス「っしゃ――――!やったじゃねーかコージ!」

目から涙を零しながら、このゲームからのログアウトを実現させてくれる唯一のアイテム、『緊急ログアウトスイッチ』を手にとって、仲間たちに見せると、槍使いの仲間が肩をパンパンと叩いて真っ先に喜んでいた。

リーダー「おお……そ、それで、5秒間押し続ければログアウト……で、出来るんだな……」

ナミネ「やったねコージ!これで……お母さんや弟や妹が待ってる現実に帰れるよ!」

モミジ「コージ、現実に帰ったら心配かけた分、しっかりと母さんを助けるのよ!」

コージ「あ、ありがとう皆……みんな本当にありがとう……!!」

そして、コージがログアウトスイッチを手に入れたと言う事は、彼一人の身がログアウトするので、他のメンバーとはゲームクリアまでの別れになると言う事だ。
コージもその事を重々分かっているので、自分の為に危険を承知で手伝ってくれたギルドの仲間達に対して涙を流しながら感謝を露わにしていた。

立木ナレ「ガチャパットを通じて、この光景を見ているプレイヤー達はこの時は、彼らを見て熱い信頼、美しい友情、固い絆、まさに圧倒的な結束力を持った、素晴らしいギルドだとオズマを含めた誰もが思ったのだった!!」

目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

FILE53 ついに決定する、デスゲームから脱する者!

立木ナレ「ガチャモンとモックが開催した『ハチャメチャパニックネズミ狩りゲーム』はいよいよ残り時間が僅かに迫っていた!そして、生き残った最後のライトスター・マウスを狩ったのはギルド『チーム・エスポワール』の5人組であった!!」

俺達がガチャパットで見ている最中に、ギルド『チーム・エスポワール』のメンバーのコージが最後の一体だったライトスター・マウスを倒していた。
ギルドメンバーの総意でログアウトスイッチを使う事が決まっているコージはオブジェクト化された緊急ログアウトスイッチを見て、ギルドメンバー達に感謝しまくっていた。

コージ「み、皆……あ、ありがとう!本当にありがとう!僕の為に皆して……これで、帰れるんだ……母さんや弟や妹が待っている世界に!!」

モミジ「泣くんじゃないよ、泣くんじゃなくってそのアイテムのスイッチを5秒間押し続けなくちゃログアウト出来ないんでしょ?」

ナミネ「そうだよコージ。私達なら大丈夫、絶対に皆で生き残って、いつか現実世界のコージに会いに行くからね」

ダックス「とにかくおめ~は、さっさと家族の所に帰って親孝行しろって~の!!」

ギルドのメンバーはもうすぐ一人、このゲームの世界から現実世界に帰る事になる仲間たちに別れの言葉を掛けていた。
奴らはこの半年間をこの死のゲームの世界で共に戦い抜いた仲間達。更に言えば、このゲーム以前のネットゲーム仲間である連中だ。
恐らくこのSAOの中にある数多のギルドの中でも、その信頼関係や結束力は高いのだろう。

コージ「皆、また……必ず会おう!待ってるからな!僕はここで先にログアウトするけど、必ず待ってる!皆必ず生きて帰って来てくれ!!」

コージも仲間たちに必ずいつか会おうと告げて、ログアウトスイッチのボタンに手を伸ばそうとした時だった。

リーダー「す、少し待ってくれコージ……」

コージ「え?」

いきなり、ギルドのリーダーである両手剣使いがコージを呼び止めていた。すると、リーダーは薄気味の悪い、顔を震えさせながら、薄気味悪い笑みを浮かべながらコージに近づく。

リーダー「じ、実はさ……お、俺も……俺もさ、リ、リアルの方でしゅ、就職したってのは……前にお前らにも話したよな?」

コージ「う、うん。長い間無職で親に色々と言われてたから、職安で色々な会社の面接に行って、やっと採用されたって……」

いきなりリーダーは現実世界の話をし始めていた。その様子はさっきまでのギルドメンバー達を的確に率いていた者と同一人物ながら、今はなんだか頼りなさそうな男に見えてならなかった。

リーダー「だ、だけどよ、お、俺まだ……仮採用の試用期間中だったんだよ……つまりまだ、正式に採用されてない、非正社員の状態だから……あ、あんまりな、長く休み続けてるとまたク、クビになっちまって!今度こそ親から実家から追い出されちまうかもしれねぇ!!」

そう叫ぶと、リーダーはコージの両肩を掴んでいた。リーダーの豹変ぶりにコージは唖然としており、全く動かなかった。

リーダー「だ、だ、だから……頼むよ!一生の願いだ!そ、その緊急ログアウトスイッチを……俺にくれ!!」

コージ「え、そ、そんな……」

そしてついに、リーダーはコージに使わせると約束していたはずの緊急ログアウトスイッチを自分にくれと言ったのだった。
当然、ついさっきまで自分が使うと言う話で、今まさにログアウトスイッチを使おうとしていたコージは困惑する。

モミジ「リーダー……冗談よしてよね……」

ナミネ「そ、そーだよ……ログアウトスイッチはコージの為に手に入れるってリーダーも言ってたじゃん」

ダックス「わ、わりぃ冗談だよなリーダー?リーダーがこの土壇場になってそんな掌返すわけがねぇ……」

リーダーの思わぬ掌返しの言動にメンバー達は悲しみと失望感を漂わせる表情で、リーダーを止めようと説得の言葉を掛けるがリーダーは止まらなかった。

リーダー「良いから……それを俺に寄こせぇ!!お、俺はこのギルドの……リーダーなんだぞ!!オメェらのアイテムは俺の物なんだよ!!」

そう言ってリーダーはコージの首を絞めつけて来ていた。首を絞めつけられたコージはその場でログアウトスイッチを床に落としていた。
リーダーの明確な暴行にその場にいたギルドメンバー達だけでなく、それをガチャパットを通じて見ていた俺や、他のプレイヤー達も驚きを隠せてないようで辺り一帯からざわめきの声があがっていた。

コージ「や、やめ!止めてくれリーダー!こ、これは、これは渡せないんだ!」

リーダー「ざっけんな!!俺に取っちゃ人生が掛かった就職なんだよ!ここで、譲れる分けねぇんだ!!」

コージ「は、放せ……放せ……放せって言ってるんだぁ――――――!!」

次の瞬間、コージは自分の首を絞めつけているリーダーに向かって、片手に持っていた曲刀を頭部に叩き込んでいた。

俺「って、そいつのHPイエローなのに……!!」

レイナ「……しかも、頭部への攻撃はダメージが大きい」

そうだ、このソードアート・オンラインでは頭部や心臓への攻撃を食らうとより多くのダメージを受けると言う、現実世界を再現したような仕様になっている。
ギルドメンバー達のHPは自分たちのレベルにとっては強敵である最前線のモンスター達と何度も戦ったせいで全員HPがイエロー―ゾーンだった。
それはリーダーとて変わりはなく、イエローゾーンだったリーダーのHPは頭部に強烈なメイスの一撃を食らい、一気に減少して底を尽きてしまった。

リーダー「ぐあ……こ、コージ……て、テメェ……!!」

リーダーは飛散する直前までコージに対して憎悪の籠った目付きで睨み付けていた。その場でコージがリーダーを殺す瞬間を目の当たりにしていたギルドメンバー達も、そしてそれをガチャパットで見ている俺達も、その光景を無言で、ピクリとも動かずに見ていた。

コージ「あ……ち、ちが、違う……そ、そんな、べ、別にぼ、僕はそんな……」

コージは自らが取り返しのつかない事をしてしまった事に気が付き、恐怖に憑りつかれた様に震えて、覚束ない口で何かを言おうと二人の女性プレイヤー達の方を振り向くが、コージを見る目はいずれも、特に10代の少女と思わしきナミネの方は仲間を殺した、恐ろしいPKプレイヤーに慄く目付きに変化していた。

コージ「ま、待ってくれよ……!い、今のはり、リーダーの方が先に!!」

ダックス「コージ、テメェェェェ!!」

すると今度は、ダックスが怒りに満ちた表情で怒声をあげながら、コージに掴みかかっていた。

ダックス「何で殺した!なんでリーダーを殺したんだよ、ええ!?リーダーはちょっと……ちょっと正気を失ってただけだったんだ!すぐにまたいつものリーダーに戻ったかもしれねぇんだ!なのになんで……なんで殺しやがったんだぁ――――!!」

ガスッっと鈍い音がガチャパットを通じて聞こえてきた。その音はダックスがコージに対して素手で殴り付ける音だった。

ダックスの男は、二度目、三度目と音を立ててコージを殴り続ける。

モミジ「あ、アンタ……もう止めなって!コージだって残りのHPがやばいんだから!!」

それまで比較的落ち着いた言動を取っていたモミジは必死の形相でコージを殴るダックスを止めようとその右手を掴むが、すぐにダックスは自分を止めようとするモミジを怒りの籠った形相で睨み付ける。

ダックス「うるせ―――!こいつはリーダーを殺しやがったんだ!邪魔するんじゃねぇよ!!」

モミジ「ああっ!?」

ダックスは強引に手を振り払い、モミジをそのままの勢いで振り飛ばしていた。

ナミネ「あ、ああ!?」

ダックス「あ……?」

立木ナレ「これは……偶然か!?それとも何者かがもたらした不幸なのか!?なんと、モミジが降り飛ばされた先には巨大な岩石のオブジェクトがあり、モミジはそれに直撃!!しかも頭部から勢いよく吹き飛ばされていた!!更に、モミジのHPはイエローゾーンであったが既にレッドに近い状態にまで減った状態であった!その状態で岩石に頭部から激突したモミジはHPを完全に切らし、その身をポリゴン化させて四散して消えたのだった!!」

ダックス「う、嘘だろ……?な、なんで……なんで、モミジ……死んでるんだよ?お、俺は別に……こ、殺す気なんて無かったんだぞ」

まるで、さっきまでのコージと同じだった。誰に対して話しているわけでもなく、言い訳をしなくては精神の均衡を保てないから、ひたすら本位でなかったと言い続けているように思えてならなかった。

ダックス「そ、そもそも俺はわ、悪くねぇ……悪いのは、悪いのは……コージ」

コージ「ああぁぁ――――!!」

ダックス「ぐがっ!?」

コージは自分に責任をなすり付けようとしたダックスを、絶叫をあげながら突き飛ばしていた。
そして床に尻もちをついたダックスに向かって明確にソードスキル『レイジング・チョッパー』で三連撃斬りを浴びせていた。

ダックス「うわぁ――――!!」

そして、他のギルドメンバー達同様、残りHPが少なくなっていたダックスもそのソードスキルをまともに食らった事でHPを切らし、そのアバターを四散させて消えて行ったのだった。

コージ「はぁ……はぁ……」

息を切らしながらコージは地面に落とした緊急ログアウトスイッチに向かってフラフラと歩きだしていた。
その目には既に生気は感じられず、本能的にアイテムを拾おうとしているに過ぎないかのようだった。

コージ「どいつも……こいつも……ぼ、僕が現実(リアル)に帰るのを邪魔し、しやがって……最初っから……これはぼ、僕が使うはずだったんだ……そ、それを好き勝手に……」

死んでいったギルドメンバー達に対して、少し前までの感謝の言葉などまるで全て嘘であったかのように非難の言葉を口にしながらコージはログアウトスイッチを拾った。

コージ「い、今帰るよ……早く帰って……母さんを助けて」

コージがスイッチを押し、カチッという音を鳴らしてから、1秒も経つ前に、コージはスイッチから指を放す事になった。

コージ「ぐあっ……!!が、ぐあ……!?」

ナミネ「私だって……」

背後から首をナミネのダガーで刺されて、まるで自分の身に何が起こったのか、コージは未だに状況を理解しかねている様子だった。
そして、仲間の首をダガーで貫いている少女は目なら涙を流しながら声を荒げた。

ナミネ「私だって、一日でも早くこんな世界から出たいよ!!本当は私がそのアイテムを使いたかったのに!!コージばっかり同情されて!コージだけがこの世界から出られるなんて!そんなの……そんなの認めない!!」

首にダガーを差し込んだまま、ソードスキルを発動させれば、イエローゾーンで、既にHPバーが残り25%ほどになっていたコージのHPは一気に減少して、今まで死んでいった仲間たちと同様の末路を迎える。

コージ「な、なんで……なんで……?」

その言葉を残して、呆気なく消えたコージ。手に持っていたログアウトスイッチは床に落ちるが、コージはスイッチを押した状態を5秒間維持していなかったので、使われず仕舞いだった。

立木ナレ「わずか数分!!『チーム・エスポワール』のメンバー達が緊急ログアウトスイッチを手に入れて、歓喜に沸き、コージが現実世界へ帰還する事を祝う言葉を送り、コージが仲間たちに感謝の言葉を述べ、そこから仲間同士での殺し合いに発展して、最終的にナミネ以外のメンバーが命を散らすまで、僅か数分足らずの出来事であった!!僅か数分足らずで、熱い友情!絶対的な信頼!固い絆で結ばれていたはずのギルドの仲間達は殺し合い、一人を除いてその命を散らしたのだった!!」

俺「ガチャモンとモックが望んでた結果になったって感じだな……」

レイナ「……そもそも、『チーム・エスポワール』のメンバーが信頼し合えていたのはあくまで、平穏な日常化、普通のゲームの中での出来事の事よ、その関係がデスゲームの中でも保たれる保証なんて無いわ」

レイナの言い方は突き放すような、冷たさを感じさせるような物言いだったが俺もその言葉を否定する事は出来なかった。
もしかしたら、あのリーダーに限らず、迷宮区でマウスを探している最中に、更に言えばその前から、コージ以外の4人は他の仲間達を出し抜いて、自分が緊急ログアウトスイッチを使う事を考えていたんじゃないかとすら、思えてきてしまう。
そんな事を考えているうちに、緊急ログアウトスイッチを拾ったナミネはもはやだれにも邪魔される事なく、スイッチを5秒間押し続けた。

『ログアウトスイッチが起動しました。プレイヤー名『ナミネ』を180秒後にログアウトさせます』

ログアウトスイッチからそんな機械の音声ではっきりと、ナミネをログアウトさせると告げられると、ナミネの頭上に赤い数字が180と表記されると、179……178とカウントダウンが始まっていた。
そしてそれを確認したナミネは狂ったように笑い声をあげる。

ナミネ「きゃっはははははははははははははっ!!やったやったぁ――――――――!!私やったわ!帰れる!これで帰れる!いぃやったぁぁぁ――――――――!!」

立木ナレ「こうして、緊急ログアウトスイッチを巡るゲームは1人のダガー使いの少女がログアウトする事が決定する結果となった!!そしてやはり現れる!!この状況を常に監視していた、デビューから50周年と嘯いていた二人がナミネの前に姿を見せるのだった!!」



次回で緊急ログアウトスイッチを巡る騒動は終わる予定です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

FILE54 唯一人での生還!待ち受ける悪意の罠!


立木ナレ「緊急ログアウトスイッチを手に入れたギルド『チーム・エスポワール』の面々は、使えばこのデスゲームから解放されると言うチャンスに惑わされ、仲間同士での殺し合いへと発展した!そして、それはガチャパットを通して多くのプレイヤー達が恐慌しながら目の当たりにしていたのだった!そして最後に一人生き残ったメンバーのダガー使いの少女、ナミネは仲間達の命と引き換えに手に入れたログアウトスイッチを押し、180秒後に強制ログアウトする事が決定したのだった!!」

ナミネ「ああ……これで帰れる!現実に帰れるのね!助かった!生き残った!私助かるんだわぁ――――――!!」

俺「無茶苦茶嬉しそうにしてるのな」

レイナ「……もう、ギルドの事なんてどうでも良いみたいな感じね」

号泣しながら喜び、狂ったように飛び跳ねるその姿は、仲間たちの死によって精神の均衡が崩れたともとれるが、現実世界への期間が決定した事による、心の底からの圧倒的な喜びとも取れる。
そして、一人歓喜に湧き上がるナミネの前に、奴らは姿を現した。

ガチャモン「お~め~で~とぉ~!!ナミネさんおめでとぉ~!!ギルメンの屍を見事踏み越えて、ログアウトする事が出来るのはギルド『チーム・エスポワール』のナミネさんに決定しました~!!」

モック「いや~、まだ26層のこの時点でソードアート・オンラインの世界から解放されるナミネさんはまさに選ばれし者ですな~。ナミネさん、今のお気持ちを、この映像を見ている皆さんにお伝えください!」

モックは手に持っていたマイクをナミネに向けるが、当人はマイクどころか、ガチャモンとモックが目の前に現れた事にも全く関心を抱かずに舞い上がり続けていた。

ナミネ「帰ったらまずはどうしようかな~?あ、当然この半年間で見逃してたアニメは全部見なくっちゃね!他にもこっちの世界じゃ出来なかった事が一杯あったから、全部やっちゃわないとね~」

現実世界に戻った後の事を考えるそのダガー使いの目はハイライトが完全に消えた様な、虚ろな目に見えてならなかった。

ナミネ「ギルドの皆の事は取りあえず、強いモンスター達に遭遇して皆、運悪く死んじゃったって事にしておけば良いよね、どうせ現実世界の人達はこのゲームの世界で起きてる事なんて知りっこないんだから~」

モック「あ、あの~……な、何か一言を~……ダメですなこりゃ、我々の事なんて全く眼中にないようですぞ~」

ガチャモン「ま、舞い上がるのも無理はないよね、後2分もしない内に現実世界に帰れるんだから、楽しみで楽しみで仕方ないよね~」

そんな、ナミネを見て、微笑ましい物でも見るかのような言葉を口にするガチャモンからは、何か別の、更に恐ろしい悪意が感じられた。

ガチャモン「いや~、それにしても今回の僕たちのデビュー50周年を記念した『ハチャメチャパニックネズミ狩りゲーム』は大成功だったよねモック~」

モック「ええ、もう素晴らしい結果でしたぞ。なにせ……再生回数が留まる事を知りませんでしたからな~」

立木ナレ「モックが漏らした言葉『再生回数』を聞いた瞬間、その光景を見ていた全てのプレイヤーに悪寒が走った!!脳裏に浮かぶのは、この24時間の出来事がガチャパットを通じて、第二十六層に入ってる者以外の全プレイヤーが自由に第二十六層の中での、緊急ログアウトスイッチを巡る騒動を見る事が出来ていた事、そして……自分たち以外にもこの様子を見ていたものがいるかもしれないと言う恐ろしい可能性!!

俺「再生回数って……まさか!?」

瞬時に俺の頭の中で、ガチャモンとモックの悪意の正体が何なのかが鮮明にハッキリと浮かび上がった。
そして、モックが漏らした言葉を目の前で聞いたナミネもさっきまでの狂ったような舞い上がりから一転して、青褪めた表情でガチャモンとモックの方に顔を向ける。

ナミネ「さ、再生……か、回数って……な、何のことな……の?」

ガチャモン「あ~あ、モックったらおっちょこちょいなんだから全くも~」

モック「オーマイガー!私としたことが、うっかり八兵衛でした!!」

そのふざけたやり取りからは、まるでこの瞬間を待っていたと言わんばかりの二人の悪意が感じられる。
そして、ガチャモンは軽い口調で真実を口にする。

ガチャモン「ぶっちゃけちゃうとね。この24時間、『ハチャメチャパニックネズミ狩りゲーム』の光景はガチャパットを通じてプレイヤーの皆に配信されると同時に……なんと!現実世界の某動画サイトにも絶賛生配信中で~す!!」

モック「現実(リアル)の皆さん見てますか~?そしてプレイヤーの皆さ~ん。現実世界で待っている家族や友人たちが貴方達の様子を見ていたかもしれませんですぞ~!!」

俺「まさか……マジで迷宮区内でのやり取りを現実世界の動画サイトに配信してやがったのか……?」

だとしたら俺とレイナがユッチを助けに行き、その帰りに数人のプレイヤー達から緊急ログアウトスイッチを売ってくれと懇願されまくった光景も、現実世界の連中が見ていた可能性がある。
だが、それは別に何の問題も無い、本当に問題なのは迷宮区内で、緊急ログアウトスイッチを巡って醜い争いを繰り広げた者……そう、仲間を殺して今、数十秒後にログアウトしようとしているナミネだった!

ナミネ「い、いや……いや…」

ナミネも自分が置かれている状況、自分がコージを殺した瞬間がゲーム内のプレイヤーどころか、現実世界の不特定多数の者達に見られていたと言う事、そして自分が人を殺した事を知っている者たちが大勢いる現実世界にこれから帰還しようとしている事を理解し、再び狂ったように喚きだす。

ナミネ「嫌ぁぁぁぁぁぁぁ!!き、聞いてない!!私こんなの聞いてない!!現実世界に生配信なんて聞いてない!!」

ガチャモン「そりゃ言ってないよ、何せこれは、ログアウト者が決定した後に発表される最後の最後のスペシャルなサプライズだからね」

全く悪びれる様子を見せる事無く、ガチャモンはサプライズと言う言葉だけで片付けたのだった。

モック「さて、いよいよナミネさんのログアウトまで10秒前です!ナミネさん、約半年間に及ぶソードアート・オンラインお疲れさまでした~!」

ガチャモン「これからは、現実世界での人生を存分に謳歌してね、と言うわけで彼女の生還を祝ってかんぱ~い!」

ナミネ「やめてぇ――――――――――――!!」

ナミネの叫び声は、当人が一瞬にして消滅して止まったのだった。それは間違いなく、ナミネがこのゲームからログアウトしたと言う事実。
既に二千数百人の犠牲者を出しているこのデスゲームから初めて生還者が出た瞬間でもあった。

俺「けど、アイツ。これからどうなるんだろうな……?」

レイナ「……少なくとも、SAOに囚われる前の生活を取り戻すのは絶望的」

………

……



立木ナレ「丁度その頃、現実世界の東京都山谷のオズマこと、小田桐弭間(おだぎりはずま)がクラスアパートの部屋の中での事だった!」

ガチャモン「と言うわけで、ご視聴ありがとうございました~、現実世界でこの配信を見てる皆、ほんの24時間だけとは言え、ソードアート・オンラインの世界を見る事が出来た気分はどうだったかな~?」

時生「…………」

恭史郎「…………けっ」

立木ナレ「オズマの父の時生と祖父の恭史郎は、SAOの様子が生配信されていると言う情報を聞き、自宅のノートPCでその様子を見続けていたのだった!」

モック「それでは、これにて生配信を終了しますぞ~。しか~し!生配信が終わっても、プレイヤー達の戦いはこれからだ!!」

立木ナレ「モックの言葉を最後に配信は完全に途切れたのだった」

恭史郎「なんでぇ、弭間の奴、ゲームの世界に半年も閉じ込められてやがるから様子を見て見りゃあの野郎、随分と良い娘を連れてやがるじゃね~か!どうせあの引っかけた娘と毎晩よろしくやってやがるんだろうよ!」

立木ナレ「恭史郎は孫息子が迷宮区内に入った時に、常に一緒に連れて行動していたレイナを見て、そう愚痴るように言ったのだった。
無論、レイナがNPCヘルパーである事など、配信を見ていた現実世界の者たちが知るわけがないのだった。」

時生「女連れだったのはともかく……アイツが帰って来るのはもうしばらくは後になりそうだな」

立木ナレ「時生は、もしかしたら、万が一の可能性で息子が緊急ログアウトスイッチで戻ってくるのかもしれないと僅かながら思っていたが、その息子はログアウトスイッチを巡る争いに関わる事を避けて、自分がスイッチをドロップしたと思い込み、必死に懇願してくるプレイヤー達に対して呆れる様子を見せただけにとどまったのであった。そしてそんな時だった、つけっぱなしにしていたテレビから緊急速報のニュースが流れたのは!!」

NK(ニュースキャスター)「緊急速報です。たった今、埼玉県さいたま市の病院で、先程まで某動画サイトで配信されていた動画でログアウトしたとされるSAO事件の被害者の坂下美波(さかしたみなみ)さん16歳が、被害者たちの中で初めて意識を取り戻したことが確認されました。しかし、坂下さんは意識を取り戻した直後からパニック状態を起こしており、精神病院への輸送が必要と思われます」

立木ナレ「唯一人、死のゲームから解放された少女を待ち受ける未来は誰にも分からない!そしてそれは残された他のSAOプレイヤー達も同様の事!彼らが生還する日は何時になるのか、そもそも彼らは生きて生還する事が出来るのかどうかも、それを知る者は誰もいないのである!!」

目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

FILE55 変わりゆく攻略組、そして生還者の末路!

立木ナレ「第二十六層の緊急ログアウトスイッチを巡る騒動から更に時は流れた。攻略集団の面々は第二十九層のフロアボスと対峙していた、レイドパーティーはさして苦戦する事は無く、順調にフロアボスを追い詰めていき、そして!!」

アスナ「はあぁぁ――――!!」

アスナの細剣ソードスキル『オーバーラジェーション』による10連撃の突刺がフロアボスのHPケージを完全に削り尽くしていた。
ボスの巨体が四散しそ、その姿を散らすと、ボス部屋一体に歓喜の声が、更に言えばアスナを褒め称える声が沸き上がっていた。

レイナ「……今回はLA(ラストアタック)ボーナスを取り損ねたわね」

俺「第五層のキリトの時と同じだよ。俺のソードスキルをギリギリで耐えやがったボスを別の奴のソードスキルでLAされるパターンだな」

デクスター「ま、28層では俺がLAを貰ったしな。特定のギルドやプレイヤーばっかりがLAを独占してると攻略集団の中で亀裂が生じたりしかねないから、丁度いいだろ?」

そんな話をしている俺達の元にアスナが近づいて声を掛けてきた。

アスナ「MBT(未来は僕らの手の中に)の皆さん、お疲れ様でした、貴方達の戦いは今回のボス戦のパーティーの中でも突出した活躍だったわ」

俺達にそう声を掛けたアスナの姿は、以前までのケープを着用した姿ではなく、赤と白で彩られた軽装の鎧の姿だった。
そして、このフロアボスの中には、アスナと似たような格好をしたプレイヤーが何人もいる。

俺「いやいや、副団長さんの最後の活躍には及ばないって、10連撃のソードスキルなんてこの中でも使える連中なんてアンタ位なんじゃないの?」

アスナ「その呼び方、なんかまだ慣れないのよね……」

俺がアスナを副団長と呼ぶと、アスナは少し憂いを感じさせるような表情で周囲にはあまり聞こえないような声で漏らした。

デクスター「だが、今のアンタには立場ってのがあるんだろ?攻略集団のトップに立つかもしれないんだから、相応の振舞ってのも必要になって来るだろう?」

アスナ「ええ、私も自分から望んで決めた事だから、やるからには徹底的にやるつもりよデクスターさん」

レイナ「……攻略集団もだいぶ変化したわね」

俺「ホントだな、やっぱりあそこがターニングポイントだったんだな」

俺とレイナの言った事にデクスターは口を閉じたまま、軽く頷き、アスナはその時の事を思い出したのか、悲しげな表情を浮かべて下を俯いていた。
攻略集団に変化が訪れたのは第二十五層だった。二十四層の時とは桁外れの強さを見せつけたフロアボスの前に攻略集団はかつてない規模の被害者を出す惨事となってしまった。
特に最大の被害を被ったのはキバオウ率いるALSで、主力メンバーの大半を失ったALSは攻略集団から脱落し、最前線から姿を消す事になってしまった。
そして、その頃から新興ギルドとして勢力を伸ばしつつあるのはアスナが副団長として所属する血盟騎士団……通称『KoB』だった。KOBはギルドリーダー、ギルドメンバーからは団長と呼ばれている男、ヒースクリフと言う男が見込みのあるプレイヤーたち一人一人に声を掛けて結成したギルドで、第二十五層のフロアボス戦の直前にアスナもヒースクリフにスカウトされて加入していた。
そして、それは同時にそれまでアスナがコンビを組んでいたキリトとのコンビを解消する事にもなった。
そして、アスナとのコンビを解消して完全なソロプレイヤーとなったキリトは、緊急ログアウト騒動の数日後の第二十六層のフロアボス戦での活躍を最後に、最前線で姿を見せなくなっていたのだった。
それまで、最もフロアボスのLAボーナスを掻っ攫っていた黒の剣士キリトが突然最前線から姿を消した事を俺を含めた多くのプレイヤーが不思議がっていたが、キリトは元々どこのギルドにも属していないソロプレイヤーだったので率先してその詳細を調べようとする者はおらず、特に気にかけている者と言えば、キリトとコンビを組んでいたアスナ位だった。

レイナ「……キリトとは連絡を取ってないのね」

アスナ「え?」

俺もデクスターもアスナに対しては話題にする事をなんとなく避けていたキリトの話をレイナは躊躇なくアスナ本人に問いかけていた。
唐突にキリトの事を聞かれたアスナはビクッと一瞬その身を震わせつつも、頭の中で何と返すのかを考えるような素振りを見せてから。

アスナ「え、ええ、フレンド登録もしてなかったから……メッセージとかは……」

レイナ「……フレンド登録をしてなくても、相手のキャラクタネーム『Kirito』を正確に入力すればメッセージの送信は出来る事は知ってるはずよ、相手がブロックをしていた場合はメッセージは届かないけど、キリトが貴方をブロックする可能性は考えられない」

アスナ「…………」

レイナも気が付いた上で言ってるんだろう。アスナがキリトにメッセージを送らないのは、半年ほどの期間を共に過ごした奴とのコンビを解消して、新興ギルドのKoBに入り、攻略集団の中でも高い地位を得つつあることを後ろめたく思っている事に。

俺「少なくとも、キリトの奴が最前線に来なくなったのと、アスナとのコンビを解消したことが関係しているとは思えないがな、そもそも奴は元々ソロだったんだ」

キリトならば、完全なソロプレイヤーになったとしても最前線に居続ける限りボス戦にも参戦し続けてもおかしくないだろう。
奴が最前線から急に姿を消したのは何か別にやる事が出来たからと考えるのが妥当だろう。

アスナ「あ、そう言えば、ユッチ君も最近はボス戦に参加してないけど、あの子はどうかしたの?」

キリトの話題を変えるように、アスナは普段は特に興味を向けないユッチの話をし始めていた。

レイナ「……ユッチは25層でALSを中心に多数の犠牲者が出る光景を目の当たりにして臆し、フロアボス本戦からは離れたわ」

アスナ「あ……そうなの、でも、仕方ないわよね」

デクスター「ああ~、レイナよ。あんまりアイツがビビッてフロアボス戦から離れたとか言ってやるな、あいつ自身は誤魔化してるつもりだからよ」

そう、レイナが言った通り俺達のギルドメンバーのユッチが第二十五層を最後にフロアボス戦に参加していないのは、ALSを中心に数多の死者が出る光景を目の当たりにしたことにより、奴は改めてこのゲームが命を懸けたデスゲームである事、そして何よりも、フロアボス戦こそが命を懸けた戦いの象徴であることを今更ながら実感し、恐れ戦いた結果、フロアボスの本戦には参加せずに、偵察戦や迷宮区のマッピングなどでの参加に留まるようになった。
最も、ユッチ自身は自分にとって相応しい場面で活躍するなどと誤魔化して、恐れからフロアボスの本戦から離れたことを認めようとはしないが、ギルドメンバー達からは完全に気付かれていた。
かと言って、それを咎めたり笑ったりする者はギルド内では皆無だ。生きるか死ぬかの戦いに命を惜しんで参加を拒否する権利など誰にだってあるのだから。

「随分と楽しそうに話しているね、私も話に入れてくれないだろうか?」

そこに、真紅のローブに身を包んだ、俺と同じ鉄灰色の髪でそれを後ろで括った、20代半~後半の男が穏やかな口調で話し掛けてきた。

アスナ「団長?すみません……すっかり話し込んじゃいまして」

アスナに団長と呼ばれたこの男こそ、新興ギルドにして、新戦力としての期待が高いKoB(血盟騎士団)のギルドリーダーを務めるヒースクリフであった。

ヒースクリフ「いや、他のギルドの人達と友好的な付き合いも必要だよアスナ君。それに彼らは、このゲームの最初期から攻略集団に属している古参のギルドのメンバーだからね」

ヒースクリフは、どこまで純粋なのか、どこまで作り笑顔なのか分からない笑みを浮かべて俺達の方に顔を向ける。

ヒースクリフ「MBTのリーダーのオズマ君と、主力メンバーのレイナ君、デクスターさんだね。ボス攻略の場以外で君達と話すのは初めてかな?」

俺「多分ね、あんまりおもしろい話じゃないと思うけど、そんなに興味を引くような話でもあったか?」

ヒースクリフ「話の内容はどうであれ、私は君と言う存在そのものに興味を引かれてるのさ」

レイナ「……どういう事?」

俺の代わりにレイナがヒースクリフを見据えて聞き返す。

ヒースクリフ「現時点で攻略集団の中ではオズマ君のみが使用している特殊ソードスキル『不殺蓮千撃(ふさつれっせんげき)』。破格のスペックの代わりに、いかなる相手に対しても止めを刺す事が出来ず、そして一度でもPKしてしまえば、その瞬間に失われて、二度と習得できなくなる……それはまさにこのデスゲームに置いて、殺さずの誓いのソードスキルと呼ぶべきだろう。これから何が起こるか分からない上に、PK集団の存在も脅威となっているこの世界で、この最前線に立ち続けながらも、そのソードスキルを保ち続ける剣士と聞けば、否応でも興味を抱いてしまうさ」

俺「俺が勝手にやってるだけの事だよ。そりゃ、バカにして来たり、否定する奴は幾らでもいるだろうさ。『人殺し相手に情けなんて掛けてどうする!?』とか『そうそう何度もやばい連中に襲われてたら、あんなソードスキルいずれ無くすに決まってる』とかな……けど、俺は殺さない。どんな悪人やヤバい奴が相手でも、どんな状況下でも絶対に俺は殺さない、それだけの事だ」

それの言葉を聞いたヒースクリフは少しの間俺の目を見据えていた。この男は俺のそんな発言を聞いて何を思っているのかはまるで想像が付かなかった。
呆れているのか、感心しているのか、それとも何とも思っても無いのかもしれないが。

ヒースクリフ「そうか、今の言葉を聞いてますます君に興味が湧いてきたよオズマ君」

今度は、本心から俺の事を楽しんでいるかのようにヒースクリフは笑みを見せた。

ヒースクリフ「もし本当に君がそのソードスキルを維持したまま、このデスゲームをクリアした時、君は最後まで殺さずの誓いを守り切ったと初めて言えるわけだが、そんな日が訪れるか否か、楽しみになって来たよ」

俺「俺も少し楽しみだよ、今は新興ギルドのリーダーってところの騎士団長さんがこれから先、このギルドを攻略集団の中でどれほど重要な、このソードアート・オンラインの世界でどれほどの存在感の放つギルドに育て上げるのかをさ」

実際本当に、俺はこの血盟騎士団がこの先どこまで存在感のあるギルドになるのか楽しみなのは確かだった。
何せアスナが、絶大な信頼を寄せて、半年間共に過ごしていたキリトとのコンビを解消してまで入ったギルドだ。
今のままで済むわけがないだろう。そして、ヒースクリフは軽く手を振り背を向けてから言った。

ヒースクリフ「ご期待に沿えるように努力するつもりさ、ではまた会おう」

アスナ「あ、団長私も行きます!」

早速次の30層の主街区へのアクティブゲートに向かったヒースクリフ、そしてアスナもそれを追い、俺達に軽く挨拶をしてから行ったのだった。

………

……



立木ナレ「そしてその頃、同日同時刻、現実世界にてSAO事件に関するニュースが流されていた!!」

NK(ニュースキャスター)「SAO事件に関する速報です。今年、4月3日に意識を取り戻したSAO事件の被害者の坂下美波(さかしたみなみ)さん16歳が、入院先の埼玉県さいたま市の病院にて殺害されました」

倉崎「うおっ!?SAO事件で面白い事が起きてるじゃねーか!!」

立木ナレ「そんなニュースをテレビで聞いているのは、小田桐家の隣人の男、倉崎。彼は4月2日~3日に掛けて動画サイトで生配信されていたSAO内部の出来事である緊急ログアウトスイッチを巡る騒動をリアルタイムで見続けていた、無職の暇人であった!!」

NK「逮捕されたのは、岐阜県大垣市に住む病院事務員の宮城佳代(みやぎかよ)容疑者44歳です。調べによりますと宮城容疑者は坂下さんが意識を取り戻した当日の直前の時間帯に亡くなったSAO事件の被害者、宮城浩司郎(みやぎこうじろう)さん17歳の母親で、生配信されていたゲーム内の様子を見て、犯行に及んだと思われています」

倉崎「ひゃっははっ!やっぱり殺されちまったかあの小娘!ま、あの生配信見てた連中から叩かれまくってたしな、とっくに社会的には死んじまっても同然だから大して変われねーか!!」

そんなSAO事件の生還者と被害者遺族による痛ましい事件のニュースを見て、品性下劣な倉崎はゲラゲラと楽しげに笑いながら眺めていたのだった。



次回の話では久しぶりにリズベットを出そうと思ってます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

FILE56 リズベットからの依頼

立木ナレ「2023年6月13日。デスゲーム、ソードアート・オンラインの攻略は第三十層を最前線としていた!そしてこの日、オズマの元に顔見知りのプレイヤーが尋ねてきたのだった!」

ミリオン「リーダー、お客さん連れて来たわよ~」

その日の昼過ぎ頃、俺はその日は朝からレイナ、ユッチと共に第三十層の迷宮区で狩りをしながらのマッピングをし、ある程度進めてから一旦主街区に戻り、そこで食事をしていた時だった。
ギルドの商人クラスの女性メンバーのミリオンが、相変わらず眠たそうな目でそう言いながら、俺の知っている『お客さん』を連れてきたのは。

リズベット「相変わらずお決まりのメンツと一緒にいるわねよねアンタ。取りあえずお食事中に失礼するわよ~」

俺「お客さんね、むしろ客相手の商売してるのはお前の方だろ」

人見知りのしなさそうな、馴れ馴れしい口調でぶっきらぼうに声を掛けてきたのは俺が第一層の時点でグレートソードを手に入れる為に手を貸してくれた女性プレイヤーのリズベット、通称リズだった。
当時は露店で商人をしていたリズベットだったが今では鍛冶をやっており、今は『ペンダース・カーペット』を使い、簡易的なプレイヤーショップを開いているようだった。

ミリオン「そんじゃ、アタシは今から買い出しに行くからじゃ~ね」

リズベット「ありがとねミリオン。後はアタシが上手く話しつけるから大丈夫よ~」

ミリオンは今日もギルドメンバー達が集めた素材アイテムや使わないドロップアイテムなどの転売の為に行商に向かって行った。
リズベットは俺とレイナとユッチが使っているテーブルの余っているイスを使って早速座り込む。

リズベット「私もお腹空いたから適当に注文するわね、なんにしよっかしらね~」

俺「奢るつもりはないからな」

レイナ「……用があって来たんじゃないの?」

リズベット「あ~、はいはい!食べ終えたらちゃんと説明するからそう急かさないでくれる?」

俺とレイナをあしらい、リズベットはメニューを眺めて最終的にパスタ料理を注文していた。
そして、リズベットが食べ終えるのを待ち続ける事、十数分が経過した。

リズベット「あ~、美味しかった!こっちの世界じゃ炭水化物とかカロリーとかまったく気にしないで好きなように食べられるのが最高よね~。リアルじゃどうしても気になっちゃって、食べたいのに食べれないジレンマにいっつも悩んでたのよね~」

ユッチ「面倒なこと気にしてるんっすね~。別に容姿が必要な事してるわけじゃないんっすよね?だったら食いたいもん我慢して、スタイル維持したところで大したメリットなんて無いじゃないっすか~」

ユッチが呆れ笑いをしながら言うと、リズはユッチを睨み付けて近づき、減らず口を叩いた口を両手で引っ張った。

ユッチ「いっててっ!な、なんなんっすか一体!?」

リズベット「ダメ!テンでダメ!アンタって乙女心全然わかってないわね!まぁ……お子ちゃまだから仕方ないけど、この際だから言っておくけど、モデルだとかアイドルだとかに限らずに、乙女は容姿を磨くことに関しては努力を可能な限り惜しまない物なのよ!運動や食事制限でスタイルを磨いて、メイクや髪を整えて、顔を磨いて、そしてファッションに気を遣って見栄えも磨く!そう言うのを怠ってると、いずれ自分が女であることの自覚も無くして、でっぷり太って、品も無くて、服装もグタグタの服ばっかり来てて、恥じらいも色気も無いおばちゃんになっちゃうんだから!」

まるで身近にそんな知り合いがいるかのように具体的な例を挙げて、リズはユッチに説教をした。

リズベット「レイナもこの連中にたまには言ってやりなさいよね、女は、特に年頃の乙女は自分を磨くのに日々努力してるって分かりやすく!」

レイナ「……理解不能。私はどれも経験が無い」

リズベットはレイナに同意を求めたが、NPCヘルパーのレイナはそもそも現実世界には存在しないので、リズベットの言う年頃の乙女の心得や努力など知るわけが無く、バッサリと一蹴した。

リズベット「ええ――――!?あ、あんた、それだけ綺麗でかわいい顔して、身体も括れてて、意識してないってわけ!?本当に……?アタシの学校にもいるのよね、スタイル抜群で顔もむっちゃ綺麗な顔してて、『アタシ普段何にもしてないですよ~』とか涼しい顔して言う奴!アンタももしかしてそっちの類の女!?」

俺「飯も食い終わったんだから、そろそろお前が俺達を訪ねてきた理由を聞かせてくれ」

ユッチ「ていうか、訪ねてきた張本人が話題ズラシまくってるじゃないっすか……」

リズベットはレイナに色々と根掘り葉掘り聞きだしたがっていたようだが、ここは大人しく引き下がり、話を始める。

リズベット「話は簡単よ、第二十七層の迷宮区に行きたいから、護衛してほしいのよね」

今の最前線が第三十層なので、二十七層は僅か三層下に過ぎない場所だった。鍛冶職のリズは中堅層プレイヤーとしては実力はあるようだが、無論、攻略集団には明らかに及ばない、それで最前線に近い第二十七層の迷宮区に入りたいと言うからには、何かしら重要な理由があるのだろう。

ユッチ「なんで、第二十七層の迷宮区に用があるんっすか~?」

俺が聞く前にユッチが聞く。まぁ、俺達を護衛に連れて行きたいと言っているので、それくらいを聞く分には問題ないはずだ。
リズも特に隠す事も無くあっさりと答えてくれた、その答えは。

リズベット「二十七層で鍛冶スキルを鍛えるのに役に立つアイテムが見つかったって情報が入ったのよ」

俺「そりゃ、鍛冶職やってるお前としちゃ無視できない話だよな」

しかし、最前線付近の迷宮区となると、戦闘はどうしても二の次になりがちな鍛冶職プレイヤーは、誰かの護衛が無ければ、迷宮区内のモンスターを相手にしながらお目当てのアイテムを探すのは至難だろう。

レイナ「……どうするオズマ?」

俺「まぁ、報酬次第とか言えない」

ここでタダで引き受けると、リズは気を良くして『また今度もよろしく~』とか言って、何度もタダ働きを要求してくるようになってしまいかねないので、取りあえずその一線を守っておきたい。
だが、リズも流石に報酬を要求される事くらいは想定していたようで、アイテムストレージを開き、一つのアイテムを俺達の前でオブジェクト化させた。

ユッチ「あれ?なんか見た事があるような気がするっす」

俺「これって確か……」

ユッチは初めて見るようだが、それは俺も前に見た事のあるアイテムだった。初めて見たのは第一層、そうだ、今は亡きディアベルからキリトが第一層フロアボス戦でLAボーナスを取るのを阻止するように依頼を持ち掛けてきた時に報酬として提示してきたアイテムだった。

レイナ「……『武器強化奥義書』」

リズベット「そ、必要最低限の素材だけあれば、装備の強化成功率をどんな鍛冶職人に頼んでも100%に出来ちゃう、あんた達トッププレイヤーなら何枚あっても困らない、喉から手が出るほど欲しいアイテムよね?」

俺「まさか、鍛冶職のお前がこれを手に入れてたとはな……」

第一層でディアベルが俺への報酬として提示したアイテムなので、第一層の頃から入手自体は可能であるが、普通のNPCショップでは到底売っているようなアイテムではなく、一部のレアモンスターやボスモンスターがドロップする事がある、結晶アイテムを超える希少品なので需要は高く、プレイヤー同士での売買価格は高騰傾向にあるアイテムの一つだった。

リズベット「で、受けてくれるのかしら?これでダメだって言うんなら、この話は他の腕利きで気前のいい人にお願いするしかないわね~」

武器強化奥義書を見せた途端に優位に立ったと言わんばかりにリズベットは得意気にそう言った。
だが、確かに俺にとっても、実際にいくらでもあっても困らない、手に入るチャンスがあるなら手に入れておきたいアイテムであることには変わりはない。
素子て俺もレイナもユッチも今の所それは一つも持っていなかった。

俺「分かった、それ一枚で第二十七層の迷宮区で、お前がお目当てのアイテムを手に入れるまでの護衛を引き受けよう」

リズベット「そうこなくっちゃ~。アタシは何時でも準備良いからね」

立木ナレ「そして、オズマが護衛を引き受ければレイナも当然のごとく同行する事になる。そしてユッチも、既に攻略済みの迷宮区ではあるのだが、未踏破のエリアがあり、そこを探索できるかもしれないので同行する事になったのであった!!」

………

……



俺とレイナにとって、そこで出現するモンスター達は特に恐れるに足らないモンスター達で、大したダメージを受ける事無く撃破し続けていた。
最前線のフロアボス戦から身を引いたユッチでも十分対処しきれている。
だが、この第二十七層の迷宮区で問題になるのはモンスター達ではなかった。

リズベット「流石やるわね~、アタシ一人だったらもうどうにもならなかったけど、あんた達がいるだけで全然楽勝じゃな~い」

俺「そこの床、踏むと頭上から石が降って来るぞ」

リズベット「うひゃぁ!!ま、またトラップ!?」

俺に注意されてリズベットは慌ててトラップの床を踏もうとする直前だった左足を大きく上げてトラップを回避していた。

ユッチ「気を付けてくださいっすよ~。これはまだ回避しやすいから問題ないっすけど、中には罠解除スキルを使わないとどうにもならない場所もあるっすからね~」

俺「そう言う点じゃ、罠解除スキルを持ってるお前を連れてきたのは正解だったな」

ユッチは俺やレイナもリズベットも習得していない罠解除スキルを習得しているので、よっぽど高度な罠でない限りは、そのスキルを使って危険な罠を解除して安全に進む事が出来る。
特にトレジャーボックスの罠は実際に開けてみない限りは罠かどうかの判断が付き難く、もしかしら中にはかなりのお宝が入っているかもしれないと言う誘惑もあり、多くのプレイヤーが手痛いしっぺ返しを食らう危険性を秘めている。

レイア「……けど、どんなスキルをもってしても対処の仕様がない最悪の罠がある」

リズベット「え、何よそれって?」

最前線にはめったに出ないリズベットは、最近になってトッププレイヤー達の間で脅威として知られている罠の話はまだ耳にしていないようだった。
初見で引っかかると致命的な罠なので俺は、勿体ぶらずにさっさと言う事にする。攻略が進み、リズも今自分が手を出す範囲内よりも上の層に行くようになれば、いずれは遭遇する可能性が高い罠だからな。

俺「結晶無効化エリアだよ。その名前通り、そのエリアじゃありとあらゆるクリスタルは使えなくなるんだ」

それを聞いてリズベットが本気で強張ったような表情を見せる。

リズベット「え……そ、それじゃあ、転移結晶とかで緊急脱出も出来ないって事?それは、かなりヤバいわよね。特に残りのHPが少ない時に大勢のモンスターに襲われたりしたら……」

俺「HPを即座に回復する場合も、回復結晶を使わなくちゃならないが、当然回復結晶も使えない。POTは普通に使えるが、こっちは飲んでから回復するのに時間が掛かるから、飲んでも回復する前にモンスターの群れに止めを刺されるなんて事も有り得るんだ」

ユッチ「最前線のトッププレイヤー達ならそれでも、腕ずくで何とか打破できるかもしれないっすけど、実力が足りないプレイヤーが逸れに嵌ったら、どうしようもないっすよね~」

他人事のような軽い口調でユッチはそう言った。

リズベット「で、でも……こんな最前線付近に中堅層以下のプレイヤーだけで来てたりなんて……流石にないんじゃないの?私だって現にあんた達に護衛を任せてるから来られてるんだし」

俺「まぁ、流石にそうだとは思うがな……」

とは言え中には焦りや慢心などで、自分の実力に見合わない高レベルの迷宮区や狩場に手を出して死の危機に直面したと言う話も珍しくはない。

レイナ「……特に危険なのは、中間層以下のプレイヤー達の集団に一人のハイレベルのプレイヤーがいきなり加わる事で、それまで下層の狩場でコルや経験値稼ぎをしていたプレイヤー達が、より上層の狩場での効率の良い稼ぎを実感してしまうパターン」

リズベット「そんな事あり得るのかしら?ハイレベルのプレイヤーが今更、中間層以下のプレイヤー達のギルドやらパーティーやらに入ったところでメリットがあるとは思えないわよ」

リズベットが言った通り、ハイレベルプレイヤーが自分よりも遥かに下のレベルのプレイヤーの集団に入ったところで、そいつらに合わせていれば、今までに比べて効率の劣る狩りを強いられることになってしまうなど、デメリットの方が多いのだ。

俺「そうだな……何らかの事情で最前線から追放されたり、或いは離れざるを得なくなった奴らが、今度は下層のプレイヤー達のギルドやパーティーに入るってケースならあり得るんだよな……」

特に第二十五層で最前線から離れたALS(アインクラッド解放軍)が後者に当たる。壊滅的な打撃を受けたとはいえ、リーダーのキバオウを始め、ハイレベルの実力を持った生き残りが数人以上は残っていたことは確かだ、下層に降りた奴らが、自分よりも遥かにレベルの低いプレイヤー達をギルドに引き入れれば、そんな事が起こり得るかもしれないが、流石にそこは今もギルドリーダーのはずのキバオウが気を付ける事だろう。

ユッチ「あ、隠し扉っす」

俺「何?」

ユッチが壁に手を当てると、その扉は大きな音を立てて開き、扉の先にはトレジャーボックスが一個だけ放置されていたのだった。

レイナ「……前に来た時は、こんなのは無かった」

リズベット「もしかしたらあの中にアタシが狙ってるアイテムがあるの?だったらお手柄じゃないユッチ~」

立木ナレ「果たして、オズマ達が発見したトレジャーボックスの中にはリズベットが求めるアイテムが入っているのか?」



お気づきの方もいるかもしれませんが、この第二十七層は月夜の黒猫団が壊滅した層です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

FILE57 二重のトラップ!命を落とす者と生き残った者!

立木ナレ「リズベットが久々にオズマを訪ねて来ていた、彼女は既に攻略済みではあるが、最前線に近い第二十七層の迷宮区内で鍛冶スキルを上げやすくするアイテムが手に入ると言う情報を掴み、二十七層の迷宮区での護衛をオズマ達に依頼!報酬として『武器強化奥義書』を提示し、オズマはそれでリズベットの護衛を引き受けたのであった。そして、オズマ、レイナ、ユッチ、リズベットの4人は迷宮区内の隠し扉からトレジャーボックスを発見した!」

リズベット「隠し扉の中にある宝箱だなんて、これってやっぱりアタシが狙ってる鍛冶スキルを上げやすくするアイテムだったりして!そうでなくても、なんだかレアアイテムが入ってそうよ!」

ユッチ「ま、そいつは中を開けてみれば分かるんじゃないっすか?リズさんのお目当てのアイテムじゃなかったら、中身は僕らが貰ますからね~」

リズとユッチが隠し扉の向こうの部屋にある、宝箱に近づきその中を開けようとする。だが、この第二十七層はトラップ多発地帯だ、俺とレイナは以前にもこの迷宮区に来たことはあったが、この場所にこんな隠し扉は無かったはずだ。

俺「待て、その前にあの宝箱に罠解除スキルを試すんだ」

ユッチ「あ……そ、そうっすね、分かりましたっす」

リズとユッチが宝箱を開ける前に俺はユッチに罠解除スキルをやらせる、ユッチは俺の指示に驚きつつも納得して、早速罠解除スキルを試していた。

リズベット「これも何かの罠だって思うわけ?態々隠し扉の中にある宝箱なのよ」

俺「だとしてもだ」

リズベットはこの中にアイテムがあると疑っていないようで、少し勘繰り過ぎだと言った感じで俺を見てきた。

俺「まぁ、一々疑ってたら確かにキリが無いのは確かだが、このトラップ多発地帯の第二十七層では、流石に俺でも用心に越した事は無いと思うぞ」

リズベット「ゴリ押しで進めがちなアンタにしちゃ、珍しく慎重な意見なのね」

レイナ「……オズマがゴリ押しなのは、主に戦闘の時」

レイナが微妙なフォローを入れた時だった。ユッチの動揺気味の大声がこちらまで聞こえてきたのは。

ユッチ「お、オズマさん!これもトラップっす!しかも、アラームトラップっすよ!!」

リズベット「え、本当にこれってトラップだったの!?」

やはりこの宝箱はトラップだったが、しかもアラームトラップとは厄介なのを仕掛けてやがるもんだ。

レイナ「……隠し扉を開けて、目の前に宝箱があれば人間の心理としては、警戒心が緩みがちなるわ、そしてそれが罠だとしても中身が気になり、開けてしまう」

俺「その人間心理ってのを見越した上での罠なのかもな。これを開ければその瞬間にモンスターがわんさかと出てきやがる」

リズベット「じゃあ……迂闊に手を出すべきじゃないわね」

俺達だけならモンスターが大量に出てくる罠も、無理やり倒して突破すると言う手段も無くはないが、リズベットの護衛をしなくてはならない以上、態々危険に晒す様な事は出来ない。

ガチャモン「開けないの?開けないの?こんなところに宝箱だよ?折角のお宝なのに開けなくっても良いの~?」

モック「開けるっきゃないですぞ!だ~ってお宝の臭いがプンプンとするじゃないでありますか~」

唐突に現れたのはガチャモンとモック、あからさまに俺達がこの宝箱を開けるのを楽しみにして、開けるように急かしてくる。

リズベット「決めたわ、絶対にこの宝箱は開けちゃダメよね」

俺「だろ。分かったらこんなところからはさっさと行っちまおうぜ」

ガチャモンとモックの露骨な唆しでリズもこの場は手を出さない事で完全に決めたようだった。
たまにはこいつらも役に立つ事も有るんだな珍しいが。

レイナ「……じゃあ、行きましょう」

ユッチ「そうっすね」

全員、宝箱の事は忘れてさっさとここから出ようとする。

ガチャモン「って、なんだよなんだよ!皆してつれない反応だな~、折角この宝箱を開けた瞬間にモンスターの群れに囲まれて慌てふためく君達を見て楽しみたかったのに!!」

リズベット「何よ、やっぱり罠だったんじゃない!相変わらず悪趣味な連中ね!!」

ガチャモンは開き直って罠であることを認めて、俺達が罠にかかる事を楽しもうとしていた事まで吐いていた。

モック「あ~あ、ガチャモンってば言っちゃいましたですな~。まぁ、彼らはほぼほぼ自力で見抜いてたから特に問題ありませんがね~」

ガチャモン「ついでにゲロっちゃうとね、このエリアは何と!さっき君たちが噂してた結晶無効化エリアなんだよね~」

ユッチ「でぇぇ!?モンスターが大量に出てくるアラームトラップに加えて、結晶アイテムまで使えない場所なんて二重の極悪トラップじゃないか!!」

楽しそうにガチャモンは恐ろしい事実を口にし、ユッチはそれを聞いて慄いていた。確かに俺が見た、第二十七層のトラップの中でも知る限りは一番極悪な罠だ。大量のモンスターが湧き出る部屋の中に閉じ込められる上に結晶アイテムを使っての緊急脱出も出来ないとなると、命懸けでモンスターの群れを相手にするしかなくなるのだから。

ガチャモン「君たちがモンスターだらけの部屋に飛び込められて、どうするか見て見たかったんだけど、全くとんだ骨折り損のくたびれもうけだったよ~」

ガチャモンは理不尽な不満を漏らし続ける、それに対してリズベットが苛立ったのか『うるさいわね!』と怒鳴り散らしたが、ガチャモンは構わずにその先の言葉を口にする。

ガチャモン「あ~あ、昨日この隠し部屋に入った5人組はそりゃ~もうすんなりと罠にかかってくれたのにな~」

リズベット「え?昨日もこの部屋に来た人達がいたって言うの!?」

モック「いやはや、あの方達は迂闊でしたな~、攻略集団でもないっていうのに、こんな所にまで顔出しちゃった上に、この隠し扉に気が付いてすんなりと入って来ちゃって、挙句の果てにメンバーの罠解除スキルが低いばっかりに罠を見抜けないでてんやわんやでしたからな~」

ガチャモン「うんうん、思い出しただけで心が躍るよね~。モンスターだらけの部屋に飛び込められて、すぐに転移結晶で脱出しようとしたけどそれすらも出来なくって、訳が分からない内にやられ放題だったね皆~」

ガチャモンとモックは楽しげにその時の話で沸き上がるが、その話を聞く限りで俺達が真っ先に気になるのは罠にかかったプレイヤー達がどうなったかだった。
ガチャモンとモックはそんな俺達の考えなどお見通しと言わんばかりに、得意気な日様子で話を進める。

ガチャモン「では、黙祷しましょう。この部屋を訪れて、哀れな顛末を遂げた4人の魂が安らかに天に召されますように……」

モック「天にましますわれらの父よ、願わくは御名の尊まれんことを、御国の来たらんことを、御旨の天に行わるる如く地にも行われんことを。われらの日用の糧を、今日(こんにち)われらに与え給え。われらが人に赦す如く、われらの罪を赦し給え。われらを試みに引き給わざれ、われらを悪より救い給え。アーメン。」

ガチャモンとモックは両手を合わせて、目を閉じて、心にも思ってない、追悼の言葉を口にしてお祈りをしていた。

ガチャモン「さてと、よっちゃんイカでもでも食べに行こうかモック」

モック「良いですな~、あれは何十年も変わる事のない、古き良き、伝統の駄菓子ですからな~」

黙祷を止めた途端に、全く関係のない話をけろっとした様子で始めていた。

リズベット「ちょっ!あんた達何なのよ!?さっきまでは珍しく殊勝な事してたと思ったら、終わった途端に何時もの空気読めないパチモンキャラに戻ってるじゃない!」

ガチャモン「またそうやって僕たちをパチモンとか呼ぶんだから……この世界では僕たちの本家なんて存在しないんだから、僕たちがもうオリジナル、本家って事で良いんじゃないの~?」

俺「生き残った一人はどうなったんだ?」

ガチャモン「え?」

不毛な会話を続けるガチャモンとリズベットの話を、俺は死んだ4人とは別の、生き残った一人についての話で打ち切る。

モック「い、生き残ったひ、一人ですと~?」

俺「いるんだろ、生き残った奴が一人」

ユッチ「オズマさん、それってどう言う事っすか?」

ユッチはガチャモンとモックの話をしっかりと聞いてなかったか、或いは忘れたのかで、気が付いてない様子だった。

俺「こいつは最初にこう言ったはずだ」

俺はガチャモンを指さして、その着ぐるみの姿故に変わる事のない表情を見据えて言う。

俺「お前は『昨日この隠し部屋に入った5人組』って最初に言ったが、黙祷する時は『哀れな顛末を遂げた4人の魂』って言ったよな?」

ガチャモン「あ!?」

モック「あ、あ、あ、あれはですなその……ガチャモンもその~……人の子と言いますか、恐竜の子ですからな~、間違いの一つや二つはあったりなかったり~」

レイナ「……多分、その一人だけは、死んだ他の4人と何か決定的な違いがあった可能性が高い」

リズベット「そう……なの?その一人だけ、HPや防御が高いタンクだったとかかしら?」

俺「いや、確かにタンクは死亡率が低いビルドだが、タンクだけになったら結局、大勢のモンスター達に対して満足に攻撃が行き届かなくなって、長期戦にはなるだろうが最終的にやられてる可能性が高いと思うぞ」

ユッチ「じゃ、じゃあ……そ、その生き残った奴だけ単純にレベルが高かったって事っすかね?」

ユッチの言った通りだろう。おそらく、中間層のギルドかパーティーの中にハイレベルのプレイヤーが一人加わったんだ。
護衛役として雇われて一時的か、正規のメンバーとして加わっていたかは分からないが、ともかく一人だけハイレベルだったが故に生き残れたと考えられるだろう。

レイナ「……けど、第二十七層を経験済みのトッププレイヤーだったなら、これが罠だって気が付いて、他の仲間達を止める事は充分可能だったはず」

俺「そうだよな、なのにそいつは罠に手を出そうとしてる仲間達をどう言うわけか止めなかった、或いは止められなかったんだ……」

結局、これ以上は何を考えたところで、詳しい事までは分からなかった。一体どんな5人組がここに訪れて、何故唯一生き残った唯一のハイレベルプレイヤーは罠であることを見抜けなかった、もしくは止めなかったのか、そして、生き残ったその一人が今どこで何をしているかなど俺達が分かる由も無かった。

ガチャモン「いやはや、推測だけで色々と勘づくなんて……君のように勘のいいガキは嫌いだよ」

モック「ダッカ―ですか!?貴方まさか娘と愛犬を合成獣(キメラ)にしちゃったんですかガチャモ~ン!?」

意味不明なコントをしながら、ガチャモンとモックは同時にその場から姿を消したのだった。

リズベット「結局、ここも外れだったって事なの?アタシの鍛冶スキルを上げるためのアイテムはどこにあるのよ~」

リズベットがくたびれたように床に座り込んでため息を付いていた。

俺「そのアイテムの事で他に何か情報無いのか?第二十七層で手に入るってこと以外に何か?」

リズベット「って言われても、私も噂に聞いたってだけだから……やっぱり情報屋にお金払ってでもちゃんとした詳しい内容を聞くべきだったかしらね~?」

ユッチ「ケチケチしてるから手に入れたい物も手に入らないんじゃないっすか~」

ユッチが愚痴を漏らすと、リズベットが後ろからユッチを羽交い絞めにしていた。気のせいかユッチは口では『勘弁してくださいっす!』とか言ってる割には、大して抵抗せずにむしろ楽しんでいるように見えていた。

レイナ「……情報なら、彼女に聞けば良いわ」

俺「それってアルゴだよな?だとすると、迷宮区を出てアルゴに会いに行かなくちゃならなくなるが」

レイナ「……そこにいる」

そう言いながらレイナは部屋の片隅の壁際を指さす。まさかと思い、俺も索敵するを使ってレイナが指さす方を見てみると、確かに隠匿(ハイド)スキルで身を隠している人影が見えてきた。

アルゴ「にゃははっ!見つかっちゃったな~、オレッちの隠匿をこんな風に見破れるのはキー坊とかレーたんとかくらいだナ~」

隠匿を解除して、おきまりの『にゃはは』笑いをしながら姿を見せたのは、髭のようなペイントが特徴の情報屋の鼠のアルゴだった。

ユッチ「ええ!?お、お前、何時からそこにいたんだよ!?」

アルゴ「ああ~、オー君達がガチャモンと話してるのを聞いてな、その頃にこっそり隠匿スキルで隠れながら入ってみたんだヨ」

リズベット「全然気が付かなかったわ……流石はSAOトップの情報屋は凄いわね……」




第二十七層迷宮区のリズベットの依頼はもう少し続きます


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

FILE58 鍛冶スキルアップアイテムの正体


立木ナレ「既に攻略済みの第二十七層でリズベットが求める鍛冶スキルを向上させやすくするアイテムを手に入れる為にリズベットの護衛をしながら迷宮区を探索するオズマ一行!そんな最中、ユッチが隠し扉を発見し、扉の先に遭ったのはトレジャーボックスであったが、それはアラームトラップと結晶無効化エリアと言う二重の極悪トラップ部屋であることが判明!!ガチャモンとモックの話によると、オズマ達が訪れる前日に4人の犠牲者を出したとの事であったが、結局リズベットが求めているアイテムは見つからず仕舞い。一旦情報整理の為にアルゴを訪ねようと言う意見が出ていた矢先、アルゴは隠蔽(ハイディング)スキルを使って一連のやり取りを見ていたのだった!!」

リズベット「まぁ、聞いてたんなら話が早いじゃな~い。この迷宮区にあるのよね、鍛冶スキルを上げやすくするが?」

これからアルゴに聞こうとしていた事が、まさかアルゴの方が俺達の目の前に現れた事で、迷宮区を出る手間が省けてリズベットは早速アルゴに声を掛けるが、アルゴは含み笑いを浮かべてお決まりのにゃはは笑いをする。

アルゴ「鍛冶職人さ~ん。オレッちが商売で情報屋をやってるのは知ってるだロ~?」

ようするに、アルゴはその事に関して詳しい情報が欲しければ、対価を寄こせと言っているのだ。
リズベットもそれを察したようで、表情を引き攣らせながらも耳を傾ける。そしてアルゴはリズベットの耳に口を近づけてヒソヒソと何かを囁いていた。

ユッチ「な、なんっすか一体?お、女同士の秘密の話ってなんつ~か、超気になるっすねオズマさん!?」

俺「俺に同意を求めるな。情報の報酬云々の話だろ、それは俺には関係ないから聞き出す必要もないだろ」

そして、リズベットにアルゴの耳打ちが終わると、リズベットは腕を組んで長考し始めていた、どんな報酬を吹っ掛けられたが知らないが、悩むと言う事はあっさりと両省は出来ないが、断わるのもどこか惜しいと考えていると言う事かもしれない。

アルゴ「悪い話じゃないよナ~?鍛冶職人さんにとっちゃ、喉から手が出るほど欲しいアイテムなんだよナ~?」

リズベット「わ、分かったわ、その条件で引き受けるから、情報を教えて」

どうやら、交渉が成立したようだった。余裕の笑みを浮かべているアルゴと、悩んだ末の決断だったのか、少々気難しそうなリズベットの表情が対比的だった。

アルゴ「オレッちも直接見たわけじゃないんだけどな、この迷宮区で聞き耳スキルを使うと、どっかから『カタカタ』って物音が聞こえる事があるんだヨ」

俺「そうだったのか……?」

俺は聞き耳スキルを習得しているが、前にこの迷宮区に来た時は使う一度しか機会が無かったので気が付かなかったな。

アルゴ「だから、丁度聞き耳スキルを習得してるオー君が迷宮区でこまめに聞き耳スキルを使ってみて、『カタカタ』した物音が聞こえたら、その音のする方に向かって進みな、そこで手に入れられる可能性が高いはずだからナ」

そう言い残すとアルゴは他に何か用があるのか、そそくさと一人で去って行ったのだった。

俺「そんじゃ、早速聞き耳スキルを使ってみるぞ」

聞き耳スキルを発動すると、普段は聞き取れないほどの遠くの音や、建物などの部屋の中での話し声などが聞こえるようになる。
圏内では人の話を盗み聞ぎして情報収集などに利用出来、フィールドではモンスターや他プレイヤーの接近などを察するのに使う事が出来る。

レイナ「……どう?」

俺「いや、足音が聞こえるが、これは多分さっき走ってったアルゴだろうな。アルゴが言ってた『カタカタ』って言う物音はここからじゃ聞こえないな。」

レイナ「……それじゃあ、他の場所に移動してからまた聞き耳スキルね」

リズベット「それじゃ頼んだわよ!今度こそ、何としてでもアタシの鍛冶スキルを高める為のアイテムゲットの為に!」

立木ナレ「そして、それからオズマ達は迷宮区内を移動し、ある程度移動したら聞き耳スキルを繰り返した。二度目、三度目と試してみるが、オズマの聞き耳スキルは未だにアルゴが言っていた『カタカタ』とした物音を聞き取るに至っていない、そして四度目を試すべく別の場所への移動を開始していた時だった!!」

ユッチ「それじゃ、また試してみてくださいっす」

俺「ああ、今度はさっきまでの場所からだいぶ離れてるからな」

リズベット「頼むわよ……」

レイナ「…………」

俺は再び聞き耳スキルを発動する。遠くにいる場所のモンスターの鳴き声などが聞こえてくるようになるが、今はそれは関係ない。
話し声は聞こえてこないので、少なくとも近くに他のプレイヤー達はいないようだった。
10秒……20秒……そして30秒ほど聞き耳スキルを使い続けていた時だった。

カタカタッっと確かに俺はそんな物音を聞き取った。そして、サラに聞き耳スキルを使い続けていると、その元音は断続的に聞こえ続けていた。

俺「聞こえたぞ、こっちだ!」

リズベット「やったじゃない!アタシの鍛冶スキル強化アイテム待ってなさいよぉ―――!!」

俺が物音が聞こえた方に走り出すと、リズベットが真っ先に続き、レイナが無言で、ユッチがアタフタとしながら付いてくる。
走っている最中に他のモンスター達と遭遇するがそれを俺達は片っ端から無視しまくるか、あるいは邪魔になりそうなのは一撃だけ攻撃して、退けてからそのまま突破して、物音が聞こえた方に向かって走り続けた。
そして、俺は確かに物音の発信源であった場所に到着した。

俺「ここのはずだが……」

リズベット「え、ここって事はもしかして……あれかしら?」

この場所に辿り着いて、俺達は全員一斉にその一点に目を向けた。俺達が目を向けた場所に設置されていたのは隠し扉の奥の部屋に遭った宝箱と全く同じ見た目の宝箱だった。
単純に考えると、この宝箱の中にリズベットが求めるアイテムがあると考えられるが、さっきの物音の正体がそれだと分からない。
アイテムをドロップするレアモンスターであれば、取りあえずそいつを倒してドロップする事を期待すれば良いのだが。

レイナ「……これも罠かもしれない」

ユッチ「はい、僕にお任せっすね~」

ユッチが得意気な様子で早速罠解除をしようと宝箱に近づく。俺達はこの時、誰もがこの宝箱は中にレアアイテムが入っているかもしれないが、それと同時に罠でもあると考えていた。
だから、その宝箱がまさか自発的に動くなどとは思っていなかった。

俺「ユッチ、離れろ!!」

ユッチ「え……ええ――――!?」

その宝箱は勝手にその中を開けると、その中からは鋭い牙、長い舌、そして鋭く光る眼光が現れた。
俺はそれを見た瞬間にそれが宝箱に姿を似せたモンスターである事に気が付き、声を上げるが、ユッチは驚きの余りすぐに行動が出来ずに、宝箱のモンスターに思いっきり首を噛みつかれるのだった。

ユッチ「うわぎゃ――――!?」

リズベット「な、なによあれ!?も、もしかしてミミックって奴!?」

レイナ「……そうみたいね」

宝箱はカタカタと音を立てながら、ユッチの首をガッシリと噛みつき続けていた。あのカタカタとした音はこいつがこの場で揺さぶって動く音だったんだ。

ユッチ「お、お助け下さいっす!こいつ何とかしてくださいっす―――!!」

俺「面倒な事になりやがったな……」

レアモンスターとは言え、このミミックの強さはその辺りの雑魚モンスターとそう大差は無く、幾らでも簡単に倒せる相手であることに変わりはないのだが、今このミミックに攻撃するのには不都合があった。

レイナ「……ユッチにもダメージを与える事になる」

俺「全くだ、頭にガッシリと噛みついてやがるからな」

ユッチの頭に噛みついているミミックに迂闊に攻撃を加えると、ユッチの頭にもダメージを与えてしまいかねない状態だった。
かと言って放っておいても頭に噛みつかれているユッチのHPバーは徐々に減少し続けている。

リズベット「ど、どうするの?このままだといずれあの子のHP0になっちゃうわよ……」

俺「仕方ない、今ならまだ大丈夫だろう」

リズベット「え?アンタ……何をする気なの?」

俺は片手直剣に獅子の形の闘気を込める、ソードスキル『ビーストハウル』の構えだ。それを見たリズは俺が何をするのかを一部想像して、表情が引き攣っていた。

俺「ユッチ、少し我慢しろ!まだ何とか大丈夫なはずだ!」

ユッチ「え?え?が、我慢ってなんっすか!?オズマさん、大丈夫ってどう言う言う事っすか!?」

リズベット「あ、あ、あ、アンタま、まさか――――!?」

レイナ「……静かにして、これが最善だから」

そう、今ならまだ大丈夫なんだ。ユッチのHPはまだグリーンゾーンで最大値の5分の1程度しか削られてない、こいつもそれなりに上位レベルのプレイヤーなんだ。
これだけHPが残った状態なら、ビーストハウルをまともに一発くらい食らっても充分耐えられるだろう。

ユッチ「どっへぇ―――――!?」

顔面に俺のビーストハウルをまともに食らったユッチは、そのまま軽くノックバックして床に倒れていた。
奴のHPバーはイエローゾーンに入ったが、俺の予想通り十分生き残っている。
そして、ミミックもユッチ諸共ビーストハウルを食らい、ユッチの頭から離れて吹き飛んでいた。

俺「よし、顔がスッキリしたろ?」

ユッチ「お、オズマさん……あんま無茶苦茶しないで下さいっすよ~……」

レイナ「……貴方を助ける為よ」

半泣き状態で立ち上がろうとするユッチの手をレイナが掴み、その場で立ち上がらせていた。

リズベット「まぁ、助かったには助かったわね……と、ともかく後はアイツをやっつけるだけよ!」

レイナ「……すぐに倒すわ」

ユッチを立ち上がらせると、レイナはビーストハウルで吹き飛んだミミックに対してとどめのソードスキルを放つ。
ソードスキル『シャイニングイーグル』は武器で地面を抉る事でその場で大きな衝撃波を起こすソードスキルで、衝撃波が発生してる最中は常にその場でダメージ判定が発生する。

リズベット「やるわねあの子……」

レイナ「……撃破完了」

宝箱の姿をしたモンスターが奇声をあげながら、その身を飛散させるのを確認して、レイナは小さな声でそう呟いた。

俺「どうだ、なんかアイテムはドロップしたか?」

レイナ「……多分これ」

レイナはそう言いながらアイテムストレージからドロップしたばかりのアイテムをオブジェクト化させる。
そのアイテムは赤い色の帯の形をしたアイテムだった。

リズベット「これが、鍛冶スキルを上げやすくするアイテムなの?」

レイナ「……名称は『鍛冶職人のタスキ』。マジックアクセサリーアイテムで、装備者はアイテムの製造、修理、強化による鍛冶スキルの上昇値がアップするけど……装備中は鍛冶スキルの熟練度が20%減少するわ」

その効果を聞いたリズは少し考えてから、言う。

リズベット「ええっと、要するにそれを装備した状態で鍛冶スキルを使って装備の製造とか修理や強化をすると普通の状態に比べて鍛冶スキルがアップするけど、装備してる間は装備してない状態の時に比べて鍛冶スキルが下がっちゃうのね、だとするとお客さんの武器や防具を扱うときには使えないわね……」

俺「流石に客が持ってきた装備で鍛冶スキルアップの練習なんて出来ないか」

リズベット「当然よ、これで鍛冶スキルを鍛えるのは、アタシがその辺でドロップしたり、格安の値段で仕入れたりした武器や防具を鍛冶スキルをアップさせるために強化する時にでも使えば良いわね」

取りあえず、リズはこのアイテムの使い道を見出して、当初の約束通り、レイナがドロップした『鍛冶職人のタスキ』を『武器強化奥義書』と交換する形で、依頼は成立となった。

………

……



リズベット「お疲れ様、おかげでお目当てのこのタスキをゲットできたし、今日は助かったわ」

俺達はリズが迷宮区から出るまで護衛を続けた。迷宮区から出るとリズは早速手に入れたタスキを嬉しそうに握りながら俺達に礼を言う。

俺「そっちもお疲れさん、鍛冶スキルが今よりももっと高くなってマスタースミスにでもなったら、俺の武器でも作ってもらうとするかな」

冗談半分で言ってみると、リズは自信ありげにニヤッと笑みを見せて親指を立てる。

リズベット「まっかせなさ~い!いずれアンタが腰抜かすくらいのとっておきの武器でもつくってあげるから、それまで楽しみに待ってなさいよね!」

立木ナレ「こうして、オズマ達はリズベットの依頼を達成したのであった!」

目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

FILE59 歌エンチャンターの話

立木ナレ「2023年10月15日。デスゲームと化したソードアート・オンラインが始まってから既に一年近くが経過していた!!現在最前線は第40層!これまではあまりにも絶望的であったゲームクリア、そして全プレイヤーの現実世界への解放と言う最終目標が、おぼろげながらにも見えてきたところであった!!そして、オズマがリーダーを務めるギルド、MBT(未来は僕らの手の中に)も、攻略組の一角として活動し続けていた……活動し続けていたのだったのだが……」

俺「昼間っから飲む酒って美味く感じるよな~、現実(リアル)じゃ、親父から酒は一日に缶ビールなら一本までとか言われてたけど、こっちじゃそんなこと言われずに好きなように飲めるから、それに関してはこのデスゲームも一概に悪い事ばっかりじゃねーよな~」

立木ナレ「オズマ豪遊!!まだ未成年の15歳!平日の真昼間!にも拘らず……SAOの世界で自由気ままにビールを飲み、湯気が出続けるほどに温かい焼き鳥を摘まみとして食う!まさに豪遊!!」

レイナ「……オズマ、今日は迷宮区の探索もクエストも狩りもやらないのね?」

第40層の宿屋で買い込んで持ち込んだ酒と摘まみで豪遊していた俺を見ながらレイナが、無表情のままそう俺に聞いた。
だが、今日の俺は見ての通り朝からこんな調子だ、ぶっちゃけこういう日はゲームの世界と言えど全くやる気が起きない。一日中堕落しきっているのが幸福の極みなのだ。

俺「別に……幾ら攻略組の一員だからと言っても、そう毎日毎日忙しく攻略最優先に勤しまなくっちゃならないなんて決まりはないだろ?たまにはこうやって、グータラで堕落しまくりたい時だってあるんだ。」

と言うか、リアルでは基本的に怠惰で自堕落でグータラに過ごす事を優先してきた俺なんだ。
この世界に来てからはここが自分の好きなゲームであると言う事もあってか、攻略の為に日々、ギルドのリーダーとしても色々と奮闘してるつもりだったが。
やはり、毎日毎日、そう言うわけにはいかないので、俺は気が向かないときはこうして丸一日、攻略の事は忘れて、だらけ切った日々を謳歌する日を設けている。

レイナ「……アスナが、今の貴方の姿を見たら厳しい言葉で怒りそうね」

俺「ああ、想像つくな。『他の攻略組の皆が頑張ってるのに貴方は何様なの!?』って感じで切れられそうだ」

アスナは今となっては、攻略組の主力として名を馳せるほどまでになったギルド、血盟騎士団(けつめいきしだん)の副団長だ。その肩書と容姿故にこのSAOでは知らぬ者はいない、カリスマ的な有名人と化していた。
そして、攻略組の誰よりもゲームクリアの為に攻略以外の全てを不要な物と断じ、ひたすら最前線を戦い続ける様は『狂戦士』だとか『攻略の鬼』なんて異名で呼ばれるようになっていた。

俺「ま、実際に戦ってるところ見たら、あの恐ろしさときたら鬼って表現でも甘いかもな」

レイナ「……それでも、ギルド内外から圧倒的な人望があるのは確か」

俺「純粋に慕ってる奴もいれば、妙なストーカー染みた奴もいるらしいぞ」

レイナ「……そして、キリトもすっかり雰囲気が変わったわね」

俺「ああ、元々コミュ障気味な奴だったが、最前線に戻ってから更に取っつきにくい感じになってやがるな」

俺は既に三本目のビールを手に取って、喉に押し込むように飲みながらそう答えた。今年の4月ごろに突如としてボス戦に参加しなくなったキリトが再び戻ってきたのは、2カ月ほどが経過した6月になってからだった。
以前に比べて人を寄せ付けない雰囲気があると言うか……自分から誰かと距離を意図的に取っているような振る舞いがあり、フロアボス攻略戦ではまるで、死ぬのなんて怖くないとでも言わんばかりにボスの目の前でソードスキルを乱発するその姿はアスナ以上の『狂戦士』と言っても過言ではないくらいだった。

俺「二カ月の間に何があったんだろうなホントに……ま、今の俺には関係のない事だが」

レイナ「……今頃はきっと、血盟騎士団が迷宮区の攻略をしているはずね、もしかしたらキリトもいるかも」

俺「そりゃ良い、攻略組の中でもトップクラスのギルドの血盟騎士団がアスナを筆頭に攻略しに行ってくれてるなら、俺みたいなグータラの出る幕なんて無くて結構だ」

立木ナレ「そして、オズマの豪遊は夜まで続いた!!日が暮れる事にはオズマは宿屋のベットの下の床で爆睡!攻略組のトッププレイヤーにあるまじき醜態!そして、オズマをマスターとしているNPCヘルパーのレイナにベットに入れさせてもらい、惰眠を貪るのだった!!」

………

……



俺「あれ……俺いつの間にか寝てたのか?」

自分が何時頃眠りに付いたのか俺はよく覚えていなかった。既に酔いからは冷めた状態で、窓のカーテンをめくると、外は完全に夜の闇に覆われていた。

レイナ「……起きたのね」

相変わらずレイナは俺が寝ている間もずっと俺の前で見張り続けていた。すっかり今晩はレイナを抱き損ねてしまった。
既に深夜の時間だが、たっぷり熟睡したから既に全然眠くなくなっていた、今からでもレイナをこの場で抱こうかと思ったが、その前に妙に喉が渇いていたので水でも飲もうかと思ったが、俺は第39層で一度飲んだかなり美味い聖水を思い出して、無償に飲みたくなっていた。

俺「ちょっと第三十九層で売ってたあの聖水を買って来る」

レイナ「……なら、私も行くわ」

一層下の第三十九層の主街区『ノルフレト』で聖水を買いに行くだけなのだから別に一人でも問題ないが、レイナはそこは頑なに俺を守るのがNPCヘルパーである自分の役目だと言い張るので、俺はレイナが付いてくるのを断る事は無くそのまま自然な形で連れて行くことになった。
第三十九層は最近になって血盟騎士団が本部を移した場所でもあった。既に深夜の1時を過ぎているのに街の中には実際にアスナと同じ血盟騎士団のコスチュームをしているプレイヤーと何度かすれ違っていた。

俺「お前も飲むか?」

レイナ「……別に良い」

食事の必要のないレイナはあっさりと断った。しかし、そんなレイナにも少し前に変わった事を言い出していたのを俺は今でもよく覚えている。

俺「そう言えば、やっぱり次にスキルスロットが増えたら料理スキルを取るんだっけな?」

レイナ「……オズマが反対しないなら、そのつもりよ。それに、私が料理スキルを取れば、オズマが20層でドロップした『鉄人のゴールデンフライパン』が活かせるし。」

レイナは前に料理スキルを活かして、で小さな料理店を開いていたプレイヤーを見て俺にこんな提案をしてきた『……料理スキルを習得して言い?』その言葉は俺にとってかなり意外だった。
今まではレイナのスキルの選択は基本的に俺に任せられていたのだが、初めてレイナの方から自ら自分の習得スキルに関して希望を出したんだ。
俺は少々驚きつつも、そろそろスキルスロットにも余裕が出来ており、一つくらい趣味スキルを取らせても構わないだろうと思い、レイナの料理スキルの習得を認めていた。

俺「けど、なんで急に趣味スキルの料理スキルを取ろうなんて思ったんだ?」

今になって俺は、その時に聞きそびれた、料理スキルを取ろうと思った理由をレイナに聞いてみる。
レイナは何時もよりも長く無言で間を置いてから返事をする。

レイナ「……戦闘外でも、マスターのオズマをサポートするのが、NPCヘルパーの私の役目だと思ったから」

俺「戦闘外でも俺をサポートする?」

レイナ「……オズマ、前に言ってた。お酒の摘みがもっと色々あったら良いって」

俺「ああ、よく覚えてたな」

レイナ「…………」

それはもう一ヶ月くらい前に言ってたような気がする言葉だった。NPCショップに売っている、酒の摘みになりそうな嗜好品の料理アイテムなどが割と種類に乏しく、料理スキルを持っているプレイヤーに