私は“樋口一葉” (紅ヶ霞 夢涯)
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一章
第1話 私は……


 

「はぁ、はぁ、はぁ……、くそが!!」

 

 明かりのない夜道を駆ける一人の男。

 

 彼は悪態を吐きながら必死に足を動かしていた。

 

(何故だ!何故こんな目に遭わなければならない!!こんな筈ではなかった!こんな……)

 

 彼は、裏社会ではそこそこ名の通った人物で、とある密輸業社のトップだった。

 

 だが彼は自分がそこそこであることが我慢ならず、ある組織(・・・・)に手を出してしまったのだ。

 

 確かにその組織(・・・・)を利用し、無事に利益を上げることができたのなら、男は裏社会において一躍有名人となっただろう。

 

 

 しかし彼は間違えた。

 

 

 その組織(・・・・)にだけは手を出してはならなかった。

 

 

 男がいる地は横浜。

 

 手を出してしまった組織はポートマフィア。

 

 港湾都市横浜を縄張りとする、凶悪極まりない組織である。

 

 

 

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ…行き止まりだと?」

 

 息を整えながら足を止めた男は、気づけば人の気配など微塵もない何処かの路地裏、しかも袋小路にいた。

 

 なぜ袋小路なんかに辿り着いたことを疑問に思わなかったわけではないが、そんなことよりもと、男は助けを求めるために懐から携帯を取り出して、馴染みの番号に電話を掛け始めた。

 

 

 ーーーしかし、繋がらない。

 

 

「何で出ない!早くしろ!」

 

 焦っているのか、男は意味もなく手に持つ携帯に向けて怒鳴りつける。

 

 だが携帯から聞こえるのは延々と続く発信音だけで、やはり繋がることはない。

 

「くそ!!」

 

 苛立ちを隠そうともせず携帯を放り捨てる。

 

(考えろ、考えろ。これからどうする?どうすればいい?奴らから、ポートマフィアから逃げるにはどうすれば……)

 

 不気味な静けさの中に靴音が響く。

 

「ひっ」

 

 振り返って視界に入るのはポートマフィアの構成員なのだろう、黒いスーツを身に纏った一人の女性。

 

「対象を発見しました。処理しますので、後些末の部隊を送って下さい」

 

 女性は片手に無骨な拳銃を握り、耳に当てていた携帯を懐に仕舞った。

 

「待て!待ってくれ!もうお前たちには手を出さない!!頼むから見逃してくれ!何だったら金を払っても構わない!!」

 

 男の必死な懇願に女性が耳を傾けることはない。

 

 無慈悲なまでに女性は引き金を引いた。

 

 夜の横浜に乾いた銃声が上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一度仕舞い込んだ携帯を再び手にして、私は上司に連絡をしていた。

 

「……芥川先輩ですか?対象の処理、終わりました」

 

『そうか。広津をそこに向かわせた。後は広津に任せてある。お前は早々にその場から離れろ』

 

 上司の名は、芥川龍之介。

 

 この世界(・・・・)において、最も重要な人物の一人だ。

 

「分かりました」

 

 ピッ

 

 電話を切るとほぼ同時に、黒いコートにストールを巻き、片眼鏡を掛けた初老の男性、先ほど芥川先輩が言っていた広津柳浪さんが姿を見せた。

 

「随分早いですね、広津さん」

 

「急ぐような案件でもないが、無駄に時間を使うようなことでもないのでね」

 

 煙草を吸いながらそう言った広津さんは、僅かに遅れて到着した部下に次々と指示を出す。

 

「それでは私はこれで。お先に失礼します」

 

「む、そうかね。ならば彼女(・・)を連れて帰ってくれないか?押し付けるようで、すまないが」

 

「別に構いません。嫌というわけでもないので」

 

 今度こそ、そこを後にする。

 

 広津さんが言う彼女(・・)は、考えるまでもなく泉鏡花のことだろう。

 

 彼女もまた強力な異能の持ち主ではあるのだが、それの制御が上手くできていない。

 

 故に色々とやってどうにか使えるようにしたらしいのだが、まぁ異能者でもない私に理解できるようなことではない。

 

 

 

 

 

 そういえば私の自己紹介をしていなかった。

 

 ーーー今の私は樋口一葉。

 

 どういう理由(わけ)かこの世界ーーー文豪ストレイドッグスの世界の登場人物である、樋口一葉に憑依した者だ。

 



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第2話 至福の時間


 ちょっと一言。

 ………泉鏡花って可愛いですよね?


 

 喧しい目覚ましの音で目を覚ました。

 

「……んっ」

 

 耳元で五月蝿い音を立てる時計を止める。

 

 突然だが、私が自宅として使っている住居には一人の同居人がいる。

 

 隣で穏やかな寝顔で静かに寝ている彼女、泉鏡花がその同居人だ。

 

(毎回思うけど、アニメではこういう描写ーーー樋口一葉(わたし)と鏡花ちゃんの同棲ーーーなんてなかったよね?漫画の方は違うのかなぁ?いや別にいいんだけどね。得しかしてないし)

 

 目を覚ましそうにない彼女の長い髪を起こさないよう優しく撫でる。

 

(この感触がたまりませんなぁ、ふへへっ)

 

 一通り満足したので、洗面所にて顔を洗った私は鏡に映る自分の姿を眺める。

 

 原作の樋口一葉は、「睡蓮の花の如く儚く可憐」と評されるほどに容姿端麗だ。

 

 ただ私は原作の彼女とは違い、彼女、というか私の持つ綺麗な金髪をかなり長く伸ばしている。

 

 原作的には短くした方がいいのだろうが、まぁ、うん。やっぱり金髪で長髪っていうのは一種のステータスだと思うのです。

 

 どこで使えるのかも分からないが、やはり髪を切るつもりにはなれない。

 

「……………おはよう、樋口」

 

「おはようございます、鏡花」

 

 ぼんやりとした様子で、目をゴシゴシとこすりながら挨拶をする鏡花の顔を濡らしたタオルで拭いてやる。

 

(いや寝起きの鏡花ちゃんヤバい可愛すぎでしょ。何これめっちゃいい匂いするんですけど。はっ!なるほど天使はここに居たか)

 

 そんな内心を表情に出すことなく、しかし少しだけ笑みを浮かべる。

 

 使ったタオルを洗濯機に放り投げて朝食を作るためキッチンに向かった。

 

 料理が得意というわけではなかったが、鏡花ちゃんにカップ麺とか食べさせたくないので、どうにか料理ができるようになったのだ。

 

(あれ?確か原作の鏡花ちゃんって料理出来てた、よね?……台所で一生懸命料理する鏡花ちゃん……いい)

 

 しかし料理ができるとはいえ、やはり子供の鏡花ちゃんに包丁は持たせなくない。

 

 まぁ、もう鏡花ちゃんは包丁以上に重たい刃物を握ってしまったのだから、私の我が儘でしかないのだけれど。

 

「着替え終わったらテーブルを片付けておいて下さい。その間に、………そうですね。私は湯豆腐と卵焼きでも作っています」

 

 湯豆腐、と聞いた瞬間に鏡花ちゃんの顔が無表情のまま、しかし目だけは嬉しそうに輝かせる。

 

 ………あっ、ヤバい。鼻血出そうになった。

 

 エプロンを掛けて冷蔵庫を覗く。

 

 鏡花ちゃんは湯豆腐、というより豆腐が好きなので、彼女の分は2つ作ることにしよう。その程度の出費、彼女のためならば痛くも痒くもない。

 

 しっかし惜しむらくは私が和服に慣れていないことだろう。

 

 もう少し和服についての知識があれば、鏡花ちゃんの着替えを手伝うことだって出来たのに。

 

 一つため息を吐いて調理に取りかかった。

 

 

 

 

 

<side泉鏡花>

 

 私の名前は泉鏡花。

 

 私がマフィアに拾われて、今までで35人もの人を殺した。

 

 ーーーもう一人だって殺したくない。

 

 その想いは消えない。

 

 けど私の異能『夜叉白雪』は、人を殺す、ただそのために在ると言っても過言ではないほどの殺人に特化した異能。

 

 それに加え私が身につけているのは暗殺者としての技術ばかり。

 

 異能を御する術も、他の生き方も、私は何も知らない。

 

 テーブルの上に乱雑に置かれている書類を片付けながら、そんなことを考える。

 

 諦め、なのだろうか。よく分からない。

 

 けど一つだけ、たった一つだけ良かったと思えることは、マフィアの世界でこの人と会えたこと。

 

「鏡花、もうすぐで出来上がるので器を出してもらえますか」

 

 樋口一葉。

 

 私がマフィアに入って以来、何度も行動を共にし、かなりの時間を一緒に過ごしてきた。

 

 仕事(・・)をしているときの樋口は苦手だけれど、それ以外のときの樋口はそんなことない。例えば今みたいに料理をしているときの樋口は、マフィアと言われても信じられないほど優しい雰囲気を纏っている。

 

「分かった」

 

 端的に返事をして体を動かす。

 

 纏めた書類を棚に置き、キッチンにある食器棚から湯豆腐用の深めの皿と小皿を取り出して台所にいる樋口に渡した。

 

<sideout>

 

 

 

 

 

 

 鏡花ちゃんが用意してくれた皿に、盛り付けが終わったときだった。

 

 ーーーーーーピンポーン

 

 来客を告げるインターホンが鳴らされた。

 

「樋口、誰か来た」

 

(ちっこんな時間に誰よ。これから鏡花ちゃんに湯豆腐とかあーんしてあげる至高の、そして至福の時間が始まるっていうのに。あーあー、きっと凄い空気読めないような人に違いないだろうなー)

 

「みたいですね。テーブルに並べてくれますか?」

 

 そんな面倒な客は追い払うに限る。

 

 エプロンを外して玄関に向かう。

 

 これで私と鏡花ちゃんの時間を邪魔した奴が新聞勧誘とかだったら有り得ないくらいの罵詈雑言をくれてやる。

  

 我ながら妙な意気込みをして玄関の扉を開けた。

 

「はい、一体どちら様、で……」

 

 

 ーーーーーーそのまま固まった。

 

 

「ゴホッ。仕事だ、樋口」

 

 口元を片手で抑え咳を交えながらそう言った黒外套(・・・)の青年。

 

 芥川龍之介。

 

 そこにいたのは樋口一葉の、つまりは私の上司だった。

 

 

 

 

 

 ………………………………………………は?何で?

 





 中身が別人ならきっとこんなこともありますよね?


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第3話 これってまさか…

 
 予め申し上げます。

 芥川先輩はあまり喋りません。


 

 来たのが空気読めない人物だろうという私の予想は、まぁ、当たったといえなくもないだろう。うん。

 

 まさかそれが芥川先輩だとは思わなかったが。

 

「………一先ず上がって下さい。玄関先では目立ちます」

 

 失礼だが実際、この現代日本で芥川先輩のような黒外套は目立つ。仮にも裏社会の人間なのだから、もう少し地味な格好をして、目立たないようにしてもらいたい。

 

「では中で話す」

 

 ゴホッ、ゴホッ。

 

 再び先輩が咳込みながらも、我が物顔で私の家に入ったのを見て、先輩に付いている尾行や監視の類がないかを確認してドアを閉める。

 

 まぁ先輩を尾行なんてした人がいたなら、きっと今ごろ八つ裂きになっていることだろう。南無。

 鍵を閉めて部屋の中に戻ると、鏡花ちゃんがパタパタと駆け寄ってくる。そして私の腰辺りにぎゅっとしがみついた。

 

 

(芥川先輩グッジョブ!!急に訪ねてきた無礼者!とかいきなり何事か!とか思ったけど、こんな可愛い鏡花ちゃん見たことない。これで帳消しにしてあげます!)

 

 鏡花ちゃんの小動物のような可愛いらしい行動に庇護欲が刺激され、再び鼻血が出そうになるのをぐっと堪える。

 

「芥川先輩、すみませんが少し仕事の話は待ってもらえますか?私も鏡花も朝食がまだなんです」

 

 頼んではみるが了承されるとは微塵も思わない。先輩が部下に対して優しくなるのは大分あと、原作において誘拐された後のことだ。

 

(こう頼んでも芥川先輩のことだからなぁ~。後にしろ!とか言うんだよ。てか仕事の話なら電話でいいじゃん。何のための携帯だっての。文明機器を活用しやがれコノヤロー)

 

「構わぬ。耳を傾けていればそれでよい」

 

 ………………あの冷酷非情な芥川龍之介が一体どういう風の吹き回しだろうか。

 

 疑問に思わないでもないがこれで鏡花ちゃんに美味しい朝ご飯を食べさせてあげられるので、深くは聞かない。

 

 芥川先輩の手前、鏡花ちゃんにあーんしてあげられないのは残念だが、それはまた今度にしよう。

 

「……先に食べる」

 

 鏡花ちゃんは先輩が「構わぬ」と言った直後には自分の椅子に座って、湯豆腐に手をつけていた。

 

 ……そんなに湯豆腐食べたかったか鏡花ちゃん。

 

 私も鏡花ちゃんと一緒に食べたいものだが、部下の自宅までその足で出向いた上司にお茶の一つも出さなければ失礼だろう。

 

 と、いうわけで。

 

 奥から椅子を一つ持ってきて先輩に座ってもらい、私と鏡花ちゃん。そして先輩と食卓を囲む。

 

 私と鏡花ちゃんの前には、私が作り鏡花ちゃんが用意した朝食が。先輩の前には熱めのお茶と、本来なら鏡花ちゃんの分である湯豆腐と白米を入れた茶碗を一つずつ置いた。

 

 時間帯的に不思議ではないが、朝ご飯くらい食べてから来なさいよこの先輩は。

 

 おかげで鏡花ちゃんの湯豆腐と私の卵焼きが先輩の分になってしまった。

 

「で、先輩。昨日の今日で仕事って何かあったんですか?また先日のような馬鹿でも……」

 

 私はまたポートマフィアの取引などに手を出した人でもいたのかと聞いた。

 

 しかし先輩の返答は予想外のもの。

 

「いや、さる海外組織からの依頼。そして首領(ボス)からの指示だ」

 

「海外組織、ですか」

 

「そうだ」

 

 私と芥川先輩が話している中、既に朝食を食べ終わった鏡花ちゃんは、いそいそと食器を流しに運んでいた。

 

(いや待って海外組織?それってもしかして……)

 

 嫌な予感を感じている私に構わず、先輩は今回の仕事の内容を明かす。

 

「今回の任は人虎(・・)の捕縛。貴様は今これより人虎の行方を探れ」

 

 人虎。

 

 昨今、横浜を騒がせているらしい人喰い虎。今回の仕事はそれの捕縛。

 

 それはつまり原作が始まるということだった。

 



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第4話 原作に向けて、行動開始です


 時系列的には人虎である中島敦が探偵社に雇われた辺りで、そのつもりで書いてます。


 

 私と先輩の分の食器を鏡花ちゃんに片付けてもらい、それらを鏡花ちゃんに洗ってもらうことにする。

 

 ただ彼女は身長が足りないので足場を用意し、着物の袖をまくり上げて食器を洗い出した。

 

(鏡花ちゃんの肌綺麗すぎでしょう!今までろくにお肌の手入れなんてしてない筈なのにあんな綺麗なら……鏡花ちゃんが自分の肌を手入れし始めたら、一体全体どれくらい可愛くなってしまうの!?ぐへ、へへへ……)

 

「先輩、私は今から人虎の行方を調べますけど、それに使える時間はどれほどありますか?」

 

 仕事部屋から持ってきたノートパソコンを起動させる。

 

 させたところで、ふと思った。

 

(あれ?これって樋口一葉(わたし)の仕事?こういうのは普通それ担当の人がいると思うんだけど……。私がやる必要ある?)

 

 今更気付いたところで遅かった。

 

 芥川先輩の部下とはいえ、所詮はポートマフィアの一構成員でしかない私は、やれと言われればやるしかないのだ。

 

「手早く済ませよ。人虎の居場所を特定してそれで終わるわけではない」

 

「では30分ほどいただきます」

 

 なら短時間で終わらせて自分の有能さをアピールしよう。

 

(これまでもそうだったけど、私が原作にいる彼女(・・)だからって未来が保証されてるわけじゃないし。いつ不要だ無能だとか言われて殺されたとしても、全然おかしくないんだよね~)

 

 そしてそれを回避するには!

 

 上司の前でいい仕事してアピールする!これしかない!

 

 実際ミスしたことがないとは言えないが、今もこうして生きているのだから、効果がないわけではない筈だ。

 

 しかし流石にたった30分でできるとは到底思えないのだろう。

 

 先輩は疑わしそうな表情を浮かべている。

 

 この無駄に広い横浜でたった一人の人物を30分だけで見つける。

 

 うん。普通はそんなこと絶対に無理だ。無理ったら無理だ。

 

 だが私は、ほとんど原作を知らないとはいえ、それでも本来(・・)の樋口一葉が知り得ないことを知っている。

 

 これからやることを例えるなら、数学の問題の答えを見てから数式を作り上げるようなものだ。容易いことこの上ない。

 

 システムを起こしてキーボードを叩く。

 

 横浜中の監視カメラなどへのハッキング。人虎ーーー中島敦ーーーがいたという孤児院の情報と、そこから追い出された後の彼の行動、そして市内で虎を見たという目撃情報をネットの海から探し出す。

 

 それと平行して先輩に渡すための資料作りも行う。

 

 だが。

 

「やはり一筋縄にはいきませんね」

 

 とはいえ探っているのは異能者の情報。

 

 当然異能特務課による何かしらの妨害があるのだろう。さっきから当たり障りのない情報ばかりを拾っている。

 

(あぁもうっ!面倒くさい!私が「人虎は探偵社にいます」って言うのは簡単なのにその理由が集まらない。根拠のない情報なんて価値ないしこのままダラダラとしても意味ないし………よし!)

 

 タンッとエンターキーを押し、一時的に自動でコンピューターを動かす。

 

 その間に私は仕事部屋に行き、あるデータ(・・・・・)を入れてあるUSBを手にパソコンの前まで戻る。

 

 そこで壁際に立っている芥川先輩を視界に入れると、先ほどまでは持っていなかった紙の束を食い入るように見ていた。

 

 ………………先輩が持っているのは部屋の片隅に置いてあるコピー機から次々に出される、たった今調べた横浜中から集めた情報をオートで吐き出しただけのものなのだが。

 

(しまった~~っっ!!パソコンとコピー機の連動切るの忘れてた!多分先輩は中途半端に人虎について書かれてたのを見たんだな!それでそっちを手に取ってしまった、と

 

「あの、ですね。先輩?それは今調べ上げただけのものなので……。これから纏める方を見てくれたら……」

 

(あ、ダメだこれ。聞いてない)

 

 人の話を無視する先輩を放置して、持ってきたUSBをパソコンに差し込みそこに保存しているデータを使用する。

 

 ピッ、ピッ、ピッ、ピッ、ピッ

 

 数瞬あとには画面に浮かぶcompleteの文字。

 

(よっしゃ!!)

 

 内心ガッツポーズを取る。

 

 目的を達したことにより、多数開いていた画面が自動的に閉じていき、最後に一つのウィンドウが残る。

 

 それの内容をチェックしてからコピー機にデータを伝送した。

 

 コピー機から出た紙を取って先輩に渡しに行く。

 

「芥川先輩、終わりました。人虎についての報告書です。現在人虎が身を置いているのは武装探偵社だと思われます」

 

「何?」

 

 紙束を私に押し付けて、先輩は私が差し出した計二枚の報告書を手にした瞬間、驚愕の表情を浮かべた。

 

(……え?私何かした?)

 





 次回は別視点で書こうと思っているので、かなり間があくと思われます。



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第5話 僕(やつがれ)の部下


 別視点って難しいですね。








 

 (やつがれ)の名は芥川龍之介。

 

 ポートマフィアにおいて首領(ボス)直属の遊撃隊隊長を任されている。

 

 僕は今、部下の一人である樋口一葉に人虎について調べさせていた。

 

 ガーッ、ガーッ、ガーッ

 

 無機質な音を立ててコピー機が吐き出す紙を纏めて手に取る。

 

「これは……」

 

 そこに書かれている内容に思わず呟いていた。

 

 人虎の被害が起こった場所と、人虎と思われる中島敦という齢十八の男。

 

 見やすいように拡大された横浜の地図に、人虎とその小僧の動きが示されていた。

 

 最初の人喰い虎の被害が起こったのはとある孤児院。そして後間もなく中島敦はその孤児院から追い出される。

 

 その後も、まるで人虎が小僧を追っているかの如く、悉く小僧がいる場所で人虎による被害が起きている。

 

 人虎による被害とこの小僧の行動が奇妙なほどに合致していた。

 

(これが人虎と見て間違いない、か)

 

 素直に驚嘆する。

 

 僕は彼女、部下である樋口に何もヒントになるようなことは言っていない。だというのに樋口は「30分ほどいただきます」と言った。そのときは何を馬鹿なと思ったが、樋口がパソコンを起動させてから、まだ20分程度しか経っていない。

 

 さらに時計の長針がいくつか進んだ。

 

「芥川先輩、終わりました。人虎についての報告書です。現在人虎が身を置いているのは武装探偵社だと思われます」

 

「何?」

 

 耳を疑う。

 

 確かに今僕が見ているのは報告書とは言い難い、ただ人虎と中島敦という人虎と考えられる男の行動が合致してあるという事実が羅列されたものではあるが内容はそれ以上。

 

(それだけでも信じ難いというのにこの女は……)

 

「寄越せ」

 

 見ていた紙束を樋口に押し付け、たった二枚に纏められた報告書に目を通す。

 

 驚愕に顔が歪んだ。

 

『人虎・中島敦

 

 虎に変化する異能力者であり、一連の人虎による被害は全て異能が制御できていないが故のものと思われる。

 

 孤児院を追い出されて以降、明確な拠点を持たず横浜中を浮浪しながら、異能による被害を起こす。

 

 先日から、対象は横浜のさるビルに出入りしていること、そこに拠を構える武装探偵社に通っていることが確認されている』

 

 その下には人虎の顔写真と、探偵社員の大まかな情報が書かれていた。

 

 壁に掛けられた時計を見る。

 

 樋口の宣言より僅かに早かった。

 

「追って指示を出す。いつでも動けるよう準備をしておけ」

 

「分かりました」

 

 資料を手に部屋から出て、歩を進めながら樋口を主軸とした作戦を考える。

 

(一先ず樋口を使うか。樋口に偽の依頼を出させ人虎を誘い出す)

 

 それだけで上手くいくとは思わないが、まぁ樋口ならば問題ないだろう。

 

 ……樋口ならば問題ない(・・・・・・・・・)

 

「僕は一体いつから樋口にこれほど信を置くようになったのだったか……」

 

 一つ苦笑を浮かべその場を後にする。

 

 美味いの一言を、相も変わらず言えてないと思いながら。

 





 すまない。

 別視点にした瞬間、鏡花ちゃんの可愛さが書けない。


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第6話 原作開始のその前に

 評価バーと言いましたか?あれに色が、しかも黄色が付いてて驚きました。

 有り難う御座います。




(な~にが「追って指示を出す」だ。格好つけやがってあの先輩は。だったら最初から携帯で済ませっての)

 

 何だか先輩が来たときと同じような憤りを感じながら、パソコンを抱えて仕事部屋に入る。

 

 しかし彼は本当に何をしに来たのだろう?

 

 先輩が(うち)に来てしたことなんて。

 

 ①仕事を持ってきた。

 

 ②一緒に朝ご飯を食べた。

 

 ③仕事の内容を話した。

 

 ④私が調べた情報を持って帰った。

 

 これくらいだ。

 

 ……まさかとは思うけど、仕事ついでにご飯を食べに来ただけだったりする?

 

 ただ朝ご飯を食べるために、仕事と口実を作って一人の部下の所まで足を運んで、それを部下に悟らせることなく満足して帰る。

 

(ん~~。それはそれであり、かな?)

 

 有り得ないことだけど。

 

『オーナーは随分とあの人間に肩入れしているのね』

 

 どこか小馬鹿にしたような声と共にブオンと音を立て、机に置いたパソコンの薄暗い画面に女性の姿が浮かび上がる。

 

 悪役じみた整った顔。燃えるようなオレンジ色の長い髪をなびかせ、髪と同色の瞳。

 

 身に纏っているのは服などではなく機械であり、彼女の姿はサイボーグのそれだった。

 

 ()はメトーデ。

 

 BEATLESSという創作世界において、最強の性能を誇る機械だ。

 

 メトーデを生み出したのは若気の至りというか、言ってしまえば黒歴史以外の何ものでもない。が、その知能、性能は本物だ。BEATLESS(オリジナル)のメトーデに勝るとも劣らないと自負している。

 

 ……彼女自身の身体(からだ)がないのは考え物だが。

 

「肩入れって…。それはそうでしょう。彼は私の上司ですよ?」

 

『上司?ふふっ。本当にそれだけなの?』

 

 メトーデは機械、というかAI《エーアイ》なのだが、話し掛けたときの反応や言動は人間と大差ない。

 

「そんなことより例のアレ(・・)は?」

 

『実戦に使用可能よ』

 

「さすがですね」

 

 アレ(・・)とは、BEATLESSでメトーデが使用するデバイス、Liberated Flameのこと。

 

「なら人喰い虎、中島敦に対して使います。用意しておいて下さい」

 

 画面上のメトーデは返事もせずに静かに姿を消した。

 

「樋口」

 

 それと同時にドアを僅かに開けた鏡花ちゃんが顔を覗かせる。

 

(可っっっ愛い~~~!ドアの隙間から顔を覗かせるなんて鏡花ちゃん貴女は天才か!いや天使だ!!これはまた愛らしい!あと芥川先輩が帰ったからかな?表情が少し緩い!!改めてグッジョブ先輩!)

 

「どうしました、鏡花」

 

「やることない」

 

「……………なるほど」

 

 つまりは暇ですか鏡花ちゃん。

 

 鏡花ちゃんも私も、昨日の今日で仕事は入っていない。

 

 私は連絡が入り次第、原作通りなら武装探偵社に行くことになるのだろうが、少なくともそれまでやることなどない。

 

「……よし。寝ましょう」

 

 こういうときは寝るに限る。

 

 鏡花ちゃんの手を握って仕事部屋から寝室に移動した。

 

(やばっ。鏡花ちゃんの手ぇ柔らかっ!その上すべすべしてて気持ちいいんですけど)

 

「寝るの?」

 

 鏡花ちゃんは可愛らしく小首を傾げる。

 

 もうそれだけでご飯三杯いけそうだった。

 

「鏡花、覚えていたらいいですよ。やることがない、またはやれることがないというのは、自分が何をすればいいのか分からない状態です。そんなときは目を閉じるなり深呼吸するなりして、一度落ち着くことが重要です」

 

 まぁさすがに眠る必要はありませんが。

 

 最後にそう付け加えて横になる。

 

(………まぁ嘘八百だけど別にいいよね)

 

 当然私と手を繋いでいた鏡花ちゃんも一緒の布団に横になった。

 

「………………」

 

 鏡花ちゃんは何を思ってか、無言で私の胸元まで近寄ってくる。

 

「………………」

 

 私も黙って彼女を抱き寄せ、優しく髪を撫でてやる。

 

 少しの間そうしていると、鏡花ちゃんは穏やかに寝息を立て始めた。

 

 鏡花ちゃんは可愛い。それはもはや言うまでもないことで、できることならいつまでもこうして一緒に暮らしていたい。

 

(けどな~。鏡花ちゃんのためを思うなら原作通りにした方がいいんだよね、きっと。それに鏡花ちゃんを変な方向で溺愛してる幹部とかもいるし)

 

 幹部の方はどうでもいい。

 

 そんなことより鏡花ちゃんは、致命的なまでにマフィアに向いてない。それは原作だけでなく、今までの鏡花ちゃんを見て思ったことだ。

 

 しかし彼女の異能は芥川先輩と同じく殺戮向き。

 

 誰か、あるいは何かを守るために使うこともできなくはないのだろうが、少なくともマフィアに居る限りは無理。

 

(……けど武装探偵社には奴が居る)

 

 中島敦。文豪ストレイドッグスにおける主人公。

 

 そして敦が主人公なら、鏡花ちゃんは間違いなくヒロインだ。むしろ鏡花ちゃん以外にヒロインはいない。

 

(つまりは将来的に敦と鏡花ちゃんがイチャイチャすることになるんだよね?それは気に入らない。大いに気に入らないけど、それでも鏡花ちゃんは救われる)

 

 私は私の感情を優先するよりも、鏡花ちゃんを助けたい。そう思っている。

 

 だってこんなにいい娘が救われないなんて、そんなの嘘だろう。

 

 ーーーうん。決めた。

 

(鏡花ちゃんは原作通りに武装探偵社に。荒事に巻き込まれるのは変わらないだろうけど、マフィアよりマシだよ)

 

 だが万が一にも、原作以外で鏡花ちゃんを泣かすようなことを武装探偵社がしたなら。

 

(……………殺す)

 

 原作なんてほとんど知らないけど。

 




 なぜメトーデかと言うと、BEATLESSの中で見た目からして悪役っぽいからです。

 


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第7話 原作開始のその前に 弐


 何故かランキングにこの作品があって驚きました。

 お気に入り登録して下さった方、評価を付けて下さった方、誠に有り難う御座います。

 


 

 私は昨日、鏡花ちゃんと添い寝という夢のような時間を過ごした。

 

 だがその後は特に何もなく、とはいかずに一つだけ。

 

 芥川先輩から連絡があったのだ。

  

 

 

 

 

 

『樋口、人虎についてだ』

 

 電話先から聞こえる芥川先輩の声と咳。

 

『貴様は明日、探偵社に赴き偽りの依頼をしろ。そして人虎を誘い出せ』

 

 やっぱ私が行くのは確定ですか。

 

 そしてやはりというべきか、芥川先輩の言う「偽りの依頼」の内容は原作通りのものだった。

 

「了解しました。ところで先輩、誘い出すとは何処にですか?」

 

『今探している』

 

 What?

 

 間髪を容れずに先輩はそんなことを(のたま)った。

 

『樋口。探偵社の周辺に使えそうな所はないか?人通りから外れた袋小路が好ましい』

 

「……少し待って下さい」

 

(だからぁ~、そういうのは私の仕事じゃないっての。お願いだから余所に頼んでくれないかなぁ、本当に)

 

 そう思いつつも携帯は通話状態のまま、いつものパソコンを起動する。

 

 とりあえず探偵社があるビルを地図上に示した。

 

 少し考えて、そこを中心に半径500メートルの範囲にある路地裏かつ袋小路をピックアップする。

 

 ……………意外と多かった。

 

(ざっと探しただけでも五、六十はあるよ……。流石は“魔都”横浜、といったところかなぁ)

 

 しかしこの程度の無茶ぶりに応えられない私ではない!!

 

(あ、こことか丁度良いかも)

 

 あっという間、というと語弊があるが、それでもあまり時間を掛けずにそこを見つけた。

 

 探偵社からそこそこ離れている所を拡大、ついでにそこの写真を添付して先輩の携帯に向けそのデータを送った。

 

「芥川先輩、こことかどうですか?」

 

『待て、今確認する』

 

 少しの間、カタカタと携帯をつつく音がした。

 

『なるほど、悪くない』

 

 芥川先輩が満足げな声でそう言ったのが聞こえてほっとした。

 

「それでは明日、ここに人虎を……」

 

『あぁ、それで良い』

 

「分かりました」

 

 ピッ

 

 

 

 

 

 

 みたいなことがあったのだ。

 

(本当に昨日は何しに来たのやら。仕事の話ならこうして携帯でできるじゃん。全く)

 

 本当に謎である。

 

「樋口、今日は仕事?」

 

(可愛い可愛い可愛いよ鏡花ちゃん!!ご飯を口の中でもぐもぐと頬張ってるのヤバい!いやぁ、眼福眼福)

 

「ん?まぁ、そうですね」

 

 朝食を口に運びながら鏡花ちゃんに言う。

 

「そう」

 

 ちらりと時計を見る。

 

 時間的にもそろそろ動いた方が良いだろう。

 

「そういうわけですから、家のことは任せます。昼ご飯と夜ご飯は、カレーを冷蔵庫に入れてあるので、適当な時間に食べて下さい」

 

「分かった」

 

 食器の片付けも鏡花ちゃんに頼み、仕事部屋にて装備を確認する。

 

 まずマシンガンと拳銃が一つずつ。これらは私が愛用しているものだ。仕事のときはいつも持ち歩いている。

 

(よし、問題なし。後は……)

 

 机の上に並べた機械類に目を向ける。

 

 そこにあるのはBEATLESSのメトーデのデバイス、LIBERATED FLAMEだ。

 

 これは体の各部に搭載するタイプなので、本来のメトーデのボディが必要になる。

 

(だけどそれが用意できたら苦労しないんだよね。まぁ、代わりにそれ用の機械を作ったからいいのだけど)

 

 内心ちょっとドヤ顔である。

 

 とりあえず両手と両腕に装着できるやつ。これはスーツの袖で隠せる両腕のデバイスを装着する。両手の機械はカバンに放り込んだ。

 

 流石に両手を機械で覆ってしまうと目立つ。

 

 そして履くようにして両脚にデバイスを装着した。

 

「さて、こんなものですか」

 

 一通り体を動かして基本動作に問題はないことを確かめる。

 

 これなら実戦にも使えそうだ。

 

 カバンをマシンガンと拳銃、あと両手に付けるデバイス等を入れたカバンを肩に掛け、玄関で両脚のデバイスを隠すために膝丈まであるブーツを履いた。

 

 扉を開けようとした、そのときだった。

 

「……樋口」

 

「鏡花?」

 

「えっと……その……」

 

 何を言おうとしているのか、言葉を詰まらせる鏡花ちゃん。あぁ、可愛い。

 

(可愛いけど、どうしたのかな?仕事のときは避けられてると思ってたんだけど……)

 

 やがて鏡花ちゃんは、少しだけ笑顔を浮かべて言った。

 

「行ってらっしゃい」

 

 

「……行って来ます」

 

 扉を開けて外に出た。

 

(それじゃあ、原作開始としますかね)

 





 原作開始したいのですけど、一回アニメを見直してからですね。




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第8話 原作開始


 誤字報告してくれた方、有り難う御座います。

 



 

 横浜市内のとあるビル。

 

 武装探偵社が拠を構えるそこに私は来ていた。

 

(まさか本当に私が武装探偵社(ここ)に来ることになるなんて。先輩もう少しマシな人選してくれないかな~。いやホントマジで。何でこんな異能力者がいるって分かってる所に異能力者じゃない私が来なきゃ行けないんだよ)

 

 原作を始めると意気込んだが、それとこれとは話が別だ。普通に考えて万が一のために異能力者を選んで欲しい。

 

 いや、仕事ならやるけどさ。

 

 そして探偵社の応接室。そこにあるソファーに座る私の前には、武装探偵社の面々がいる。

 

「ええっと。調査のご依頼と伺っておりますが……、一体どのようなご用件でしょうか」

 

 谷崎潤一郎。

 

 彼の見た目は完全に軟派男のそれだが、実際には温厚で気のいい青年だ。常に実の妹、谷崎ナオミの尻に敷かれているのは………ご愛嬌ということで。

 

 次の瞬間、私の手は包帯まみれの手に握られた。

 

「ーーー美しい」

 

 太宰治。

 

 常日頃から自殺について真剣に考えているという自殺マニア。

 

 過去、ポートマフィアにおいて最年少幹部だった人物だ。

 

「睡蓮の花の如く儚く、そして可憐なお嬢さんだ。どうか私と心中していただけ」

 

「ふんっ!!」

 

 そして気合いと共に彼を殴り飛ばした眼鏡の男性。

 

 国木田独歩。

 

 現実を行く理想主義者にして、理想を追う現実主義者。

 

 探偵社一といっても過言ではないほど生真面目で、冷徹な性格をしている(らしい)。

 

「あー。お騒がせしました、気になさらずに」

 

 彼はスタスタと歩き、太宰さんを連れてボイラー室のような部屋に入る。

 

「今のは忘れて、続けて下さい」

 

 バタンとドアが閉まる。

 

 ドア越しに聞こえる悲鳴を聞こえないふりして残った彼ら、谷崎兄妹と中島敦に話し掛ける。

 

「それで依頼のお話なのですが」

 

「あっ、はい」

 

 やはり太宰さんの悲鳴と国木田さんの怒号が響く状況のせいか、彼らは少し面白い顔をしていた。

 

「実は我が社のビルディングの裏手に、最近良からぬ(やから)(たむろ)しているようなのです」

 

 私がペラペラと語る依頼とは名ばかりの設定でしかないものに、彼らは真面目な顔になる。

 

「良からぬ輩、とは」

 

「ボロを纏った連中のようです。中には聞き慣れない、異国の言葉を話す者もいるとか」

 

「そいつはーーー」

 

 ギィ、と扉を開けて国木田さんが戻ってきた。

 

「密輸業者の類だろう」

 

 閉まる扉の隙間から、焦点の合っていない太宰さんが見えたような気がした。

 

「軍警がいくら取り締まってもフナムシのように湧いてくる。港湾都市の宿業だな」

 

 どうやら後半は私に対する言葉のようだ。

 

「ええ。無法者だという証拠さえあれば軍警に掛け合えます。ですから…」

  

「現場を張って証拠を掴め、か。小僧」

 

「え?」

 

 まさか自分に話が振られるとは思っていなかったのだろう。敦は呆けた声を出す。

 

「お前が行け」

 

「ええっ!?」

 

 そして絶叫する。

 

「ただ見張るだけの簡単な仕事だ。それに密輸業者は、大抵逃げ足だけが取り得の無害な連中だ。お前の初仕事には丁度いい」

 

(いくら無害だからって新人にやらせちゃダメなやつだと思うけどなぁ~。荒事に発展したらどうすんのさ。しかもマジで初仕事か。どんだけ人手不足なんだよこの会社)

 

「でも……」

 

「谷崎、一緒に行ってやれ」

 

「兄様が行くなら、ナオミもついて行きますわーー!!!」

 

 谷崎兄に後ろから抱きつく谷崎妹。

 

(うんうん。やっぱり鏡花ちゃんには劣るけど可愛いね~妹のナオミちゃん。生で「お兄さま」とか言う人とか初めて見たけど、いい。萌えですわ~)

 

 何かこう、「兄様」の響きというのだろうか。そういうのが特にいい。

 

 目端に国木田さんが敦に一枚の写真を渡しているのが見えた。多分、芥川先輩の写真を敦に渡しているんだろう。

 

(確か今頃の先輩は、何処ぞに爆弾置いてるんだっけか?ちゃんと私の方に来てくれるのかねぇ?)

 

 まぁ。来れないなら来れないで、別に構わないのだけど。

 

 腕のデバイスを服の上から撫でながらそう思った。

 

 





 分かっていだけども、原作が進むと鏡花ちゃんが書けない。

 辛い


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第9話 ヨコハマギャングスタアパラダヰス?

 
 全然思いつかなくて、サブタイはアニメの方から流用しました。

 今回雑かもしれません。

 
 


 

 私の後ろを能天気に笑いながらついてくる谷崎兄妹と中島敦。

 

 まぁ彼らの中では張り込みするだけの簡単な仕事なので、緊張感がないのも仕方ないか。

 

 ……肩越しにナオミちゃんが潤一郎さんの耳に息を吹きかけてたように見えたが気のせいだ、多分。

 

「着きました。こちらです」

 

 私が来たのは、先日選んだ監視カメラも何もない袋小路。

 

 そこは高い建物に囲まれ、昼間だというのにどこか薄気味悪い雰囲気があった。

  

 声を掛けた私を追い越して彼らは奥へと進んでいく。

 

 

「何か、気味悪いですね」

 

「うーん。本当にここなんですか。えっと…」

 

「樋口です」

 

「樋口さん。密輸業者は臆病な連中です。だから必ず逃げ道を用意します」

 

 彼、潤一郎さんは後ろの袋小路を()し、次に私の方に、正確には私の後ろの道に指を向ける。

 

「ここ、袋小路ですよね。敵方がそっちから来たら逃げ場がない」

 

「その通りです」

 

 全くもって潤一郎くんの言う通りだ。

 

 カバンを落とし襟元を緩める。長い髪を背中で一括りにしてサングラスを掛ける。

 

 その際手袋のようにして、両手にデバイスを付けた。

 

「失礼とは存じ上げますが、嵌めさせていただきました。私の目的はあなた方です」

 

 携帯を取り出し先輩に掛ける。

 

「芥川先輩」

 

「「芥川!?」」

 

 谷崎潤一郎だけでなく敦も先輩の名に反応した。

 

 やはり国木田さんの入れ知恵か。

 

「予定通り捕らえました」

 

『上々。……五分で向かう』

 

 通話を切る。

 

「こいつ!」

 

「ポートマフィア!」

 

 片手にマシンガンを持って容赦なく引き金を引いた。

 

 原作の樋口一葉なら、両手に一つずつマシンガンを持っていたのだが、私はそんな危なっかしいことしないししたくない。

 

 ……できたら格好いいとは思うけど。

 

 数秒後、私は引き金から指を離した。

 

 私の視界には兄である潤一郎さんを庇って、背中が血塗れとなった彼の妹、ナオミちゃんが映る。

 

「……兄、様………。大、丈、夫です…か……」

 

「ナオミ!!?」

 

 倒れ込む妹を慌てて抱きかかえる潤一郎さん。

 

 気が動転しているのだろう。

 

 彼は敦が両手と腰を地べたについているのにも気づかず、あれこれと傷を塞げる何かを要求している。

 

(この状況で、戦闘向きの異能の持ち主の中島敦は腰を抜かして、そうでなくとも異能力を自在に操れる潤一郎さんはナオミちゃんが傷を負っただけでこの様。まさか探偵社員でもない一般人の筈のナオミちゃんの方がいい動きをするなんて……)

 

 最善の行動をしたのは間違いなく彼女、谷崎ナオミだ。

 

 ただ兄を守りたい一心の行動だったのかもしれないが、彼女が潤一郎さんを庇わなければその時点で彼らは詰んだ。

 

 中島敦は未だ自身の異能力を自分の意志で使えないし、一般人でしかない谷崎ナオミは言うまでもなく足手纏いでしかない。

 

 マガジンを取り替え、敦の方に顔を向ける潤一郎さんの頭に銃口を当てた。

 

「貴方が戦闘要員でないことは調査済みです。健気な姫君の後を追っていただきましょうか」

 

「ーーーーーーあ゛ぁ゛。チンピラ如きが!」

 

 常に温厚な彼からは想像できない、怒りに染まった声。

 

 それと同時に緑色の光が溢れた。

 



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第10話 潤一郎さん意外と怖い

 当たり前ですが、今回も鏡花ちゃん出せれてないです。

 辛い。とても辛いです。
 
 速く話を進めなければ………


 異能力!?

 

 潤一郎さんから溢れる光を見て後ろに下がった。

 

「よくもナオミを傷つけたね!?」

 

 彼はナオミちゃんを横に抱いて立ち上がり、憤怒の表情で私を見る。

 

 そして己の異能力の名を叫ぶ。

 

「異能力!ーーー『細雪』!!」

 

 一見季節はずれの雪が降り出しただけで、他には何の変化もない。

 

 だからこそ彼の異能力は恐ろしい。

 

「……敦君、奥に下がっているんだ」

 

「へ…」

 

「こいつは僕が、ーーーーーー殺す!!」

 

 その言葉に嘘は無かった。

 

 彼は本当に、本気で私を殺そうとしている。

 

「っ!」

 

 再び潤一郎さんに銃口を向けて引き金を引いた。

 

 しかし直撃する筈の銃弾は全てすり抜けた(・・・・・)

 

「僕の『細雪』は、雪の降る空間全てをスクリーンに変える。僕の姿の上に背後の風景を上書きした。もうお前に僕の姿は見えない!!」

 

(これほど暗殺向けの異能なんて中々見ないね。いいなぁ~。マフィア(うち)に一人くらい欲しいよ)

 

 焦りはない。

 

 姿が見えない。なるほど、確かに凄まじい異能だ。こと暗殺において、潤一郎さんの右に出る人はそういないだろう。その点では鏡花ちゃんよりも上だ。

 

(まぁ、それだけ(・・・・)なんだけどね)

 

 姿が見えずとも実体がなくなるわけではない。撃てば弾は当たる。

 

 とはいえ、原作のようにマシンガンを振り回すわけにもいかない。

 

(そんなことして敦に当たったりして、芥川先輩に怒られたくないしね)

 

 奥にいる敦に弾が当たらないように気を使いつつ、マシンガンから銃弾を吐き出させる。

 

 しかし。

 

「ーーー大外れ」

 

「かはっ!?」

 

 背後から首を絞められ、持ち上げられた。

 

「死んで、しまえ……!」

 

 思わずマシンガンを離し、首に手を添えてしまう。

 

 しかし反射的な行動をしたのはそこまで。

 

(本気で殺しにきたね、潤一郎さん。本当にナオミちゃんが大事なんだ)

 

 それはどうでもいい。

 

 両手を掲げデバイスを起動する。

 

「貴方、が……。死ね!」

 

 起動した瞬間に体の各部に設置しておいた機械から、視認できないほど小さく細かい粒子が、潤一郎さんに向けて放出されるのがサングラスに映る。

 

 そしてーーーーーー。

 

「ぐあぁぁあ゛あ゛!!?」

 

 潤一郎さんの腕を炎が包んだ。

 

 首から彼の両手が放されたので、これ幸いと潤一郎さんから離れる。

 

(首、痛いなぁ。潤一郎さん容赦なさすぎ。まぁLiberated Flameに問題はないってことが分かったし、よしとしますか……ってあれ?)

 

 気づけばいつの間にやら視界の端に映っていた、見覚えのありすぎる黒外套(・・・)

 

「ーーー死を畏れよ。殺しを畏れよ。死を望むもの、等しく死に望まるるが故に」

  

 芥川先輩は私の隣まで来て立ち止まり、恐怖に顔を染めている敦に朗々とした声を上げる。

 

「お初にお目にかかる。(やつがれ)は芥川。そこな小娘と同じポートマフィアの者、ゴホッ、ゴホッ」

 

(本人を目の前にして「小娘」呼ばわりとか、ホント失礼な上司だなこの人)

 

 立ち上がって先輩に体を向ける。

 

「あの先輩、ここは私が……ちょ、先輩!?」

 

 原作ならビンタされるところ、急にぐいっと引き寄せられ耳元で囁かれる。

 

(貴様の異能、後ほど詳しく聞かせて貰う)

 

(あっ……、はい)

 

 なるほど。確かに私のLiberated Flameは、一見しただけだと異能力に見える。

 

 まぁ仮にもレッドボックス(メトーデ)を模したのだ。異能力に見えるくらいじゃないと話にならない。

 

 私が納得していると先輩は一歩前に出た。

 

「下がっていろ。人虎は生け捕りとの命だ」

 

「人虎は生け捕り?アンタ達は一体…」

 

 まだ地面に手足をついたままだが、どうやら敦は喋れるくらいには落ち着いたようだ。

 

「元より僕の目的は貴様一人なのだ、人虎。そこに転がるお仲間は、言わば貴様の巻き添え」

 

「僕のせいで、皆が…」

 

「然り。それが貴様の業だ、人虎。貴様は生きているだけで周囲の人間を損なう」

 

(何かやけに饒舌だなぁ、今日の先輩。良いことでもあったのかな?)

 

 私だけシリアスな空気から浮いているようだが、そんなことは気にしない。

 

「僕の業…」

 

「異能力、ーーー『羅生門』」

 

 先輩の黒外套が翻り、一つの黒刃となって敦から僅かに離れた地面を抉った。

 

「勿論、今のはわざと外した。だが、僕の『羅生門』は悪食。あらゆるものを喰らう。生け捕りが目的だが抵抗するならば、次はお前の足を奪う」

 

 再び敦は恐怖で動きが止まる。

 

「敦、君……。逃げろ、敦君」

 

 敦に逃げろと言う潤一郎さんと、その隣で必死に息をするナオミちゃん。

 

 二人ともまだ息があった。

 

 それを見た敦の顔色が変わり、雄叫びを上げながら先輩向けて駆け出した。

 

「玉砕か。つまらぬ!」

 

「っ!」

 

 敦は先輩の足元向けて飛び込み、そのまま地面に落ちていたあるもの(・・・・)を拾い上げた。

 

 私のマシンガンだった。

 

 敦は照準を先輩に合わせ引き金を引く。

 

(ふぅん。少しはやるみたいだね。先輩の『羅生門』を避けた動きも悪くなかったし……)

 

 チラリと彼の手元を見る。

 

(反動で銃身が跳ね上がるのをしっかり抑えてる。頭に血が上って暴走したかと思ったけど、意外と冷静)

 

 ま、マシンガン程度で私の先輩がやられるわけがないのだが。

 

 先輩は自分の背後に回った敦に振り向くこともしない。言ってしまえば棒立ちだ。

 

 だというのに、弾は一つたりとも先輩の体に届いていない(・・・・・・)

 

 ーーー空間断絶

 

 それが先輩を銃弾から守ったものの正体。

 

 己に向けられるあらゆる攻撃と己の間にある空間そのもの(・・・・・・)を『羅生門』で喰らう(・・・)ことで、自身を守る。

 

 それは防御という点において一つの頂点だろう。

 

「ーーーそして僕、約束は守る」

 

 言った直後に、先輩の『羅生門』が敦の右足を切り落とした。

 

 路地裏に響く敦の声。

 

 彼は切り落とされた右足を抱えてうずくまる。

 

 当然のことだが、彼の出血は止まらない。

 

「出血死されても面倒ですね。先輩、少し失礼します」

 

 軽く右手を掲げLiberated Flameを使い、敦の傷口を焼き塞ぐ。

 

「やはり、火を扱う異能か」

 

「まぁ、そんなものだと思ってくれて構いません」

 

 説明するのも面倒なので一先ず肯定しておく。詳しい説明は後でいいだろう。

 

 ドンッ

 

 突如響いた音に先輩も私もバッと顔を上げた。

 

 そこには両手足で壁に張り付く敦の姿が。

 

 ーーーーーーーーーーーー否

 

 人虎(・・)の姿があった。

 

 




 


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第11話 虎

 10話ですが、サブタイ詐欺もいいところですね。申し訳ありません。




 傷口から右足が再生し、青い光を伴って彼は白い虎となる。

 

「右足が再生した!?」

 

(虎ってそうだっけ?)

 

「そうでなくては!」

 

 先輩は好戦的な笑みを浮かべて虎を見上げる。

 

 虎は壁を力強く蹴り先輩に襲いかかる。

 

「先輩任せます!」

 

「下がっていろ樋口!」

 

 ほぼ同時に私たちは叫んで、私はそこから飛び退き先輩は虎に『羅生門』を展開する。

 

「何っ」

 

 しかし虎は黒刃を踏みつけ(・・・・)先輩を前足で殴った。

 

「先輩!?」

 

(私今任せますって言ったよね!?何で初撃で壁に打ちつけられてんのさ勘弁して!てか先輩の体ってだいぶ弱いよね?大丈夫なの!?)

 

 虎から目を逸らさず拳銃を取り出し、弾がなくなるまで撃った。

 

 しかし。

 

(くそ、弾が通らない。ホント異能力っていうのは理不尽が過ぎる!)

 

 役に立たない拳銃を投げ捨て、全身に装着しているデバイスを起動させるため、サングラスに映る彼女を見る。

 

(メトーデ!!)

 

『分かっているわよ』

 

 Liberated Flameは、メトーデ(AI)が使うことを前提にして作られたものだ。

 

 そんなもの、いくら私が作った当人であるとはいえ、人間()が満足に扱うことができるわけない。

 

 故にデバイスを使うときは、彼女にデバイスの演算を担当させることにしている。

 

 ゴオッと音を上げ、両手のデバイスから虎に向けて炎が走り直撃した。

 

 ついでとばかりに全身のデバイスを起動させ、駆動音が上がると同時に赤い輝線を残しながら駆けた。

 

「ーーーせいっ!!」

 

 そして気合いを込めつつ、過剰に加速させた鉄の拳で虎を殴った。

 

 グオォォォ

 

(効いた!?)

 

『いえーーーダメみたいね』

 

 僅かに呻く虎を見て、もしかしたら効いたのではないか?と思ったのだが、そう上手くはいかないようだ。

 

 よく見ると火傷一つ負ってないし、しかも手の部分のデバイスに傷がある。

 

「馬鹿者下がれ!!」

 

 先輩の声にハッとして咄嗟に下がろうとするが、当然虎の動きの方が速い。

 

 虎は地面を蹴り飛びかかってきた。

 

 ヤバい。この距離なのだ。どう足掻いても確実に一撃は入る。

 

「『羅生門』、顎《あぎと》!!」

 

 だがそんなことはなく、先輩の黒刃が牙のようにして虎を両断したことで私は助かった。

 

「生け捕りの筈が…」

 

 先輩は口元を抑えてそう言った。

 

 しかし先輩が両断した筈の虎の姿は、まるで雪のように(・・・・・)消える。

 

 そして私はそれに見覚えがあった。

 

 潤一郎さんの異能力、『細雪』による虚像だ。

 

「…何?」

 

「先輩後ろです!」

 

 私の言葉に先輩は振り返り、己の視界に白い虎を入れ黒外套を翻す。

 

「『羅生門』、叢《むらくも》!」

 

 黒く大きな手と虎が交錯する、その瞬間だった。

 

「はぁ~~~い、そこまで~」

 

 虎と『羅生門』の間にその人はいた。

 

 



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第12話 やっぱ来たか太宰さん

 日間ランキングの六位でした!12000UAを突破!そして評価バーが真っ赤に染まりました!

 改めまして、感想を書いて下さった方々、評価を付けて下さった方々。そしてこの作品を読んで下さる方々、誠に有り難う御座います!

 今後も『私は“樋口一葉』をよろしくお願いいたします。




 その人(・・・)が虎と黒刃に触れた瞬間、虎は人の姿に変わって、黒刃は黒外套へと戻った。

 

「なっ……」

 

 その人を見て、先輩は絶句し動きを止めた。

 

 太宰治。能力名『人間失格』。

 

 「触れた凡百(あらゆる)異能力を無効化する」という異能の持ち主。

 

「貴方は探偵社の……。何故ここに」

 

「美人さんの行動は気になっちゃう(たち)でね。こっそり聞かせてもらった」

 

 そう言って彼は私たちに機械を見せる。

 

 それを見て私はスーツのポケットに入れられていた盗聴器を取り出した。

 

「なるほど、あの時に」

 

(いや、まぁ知ってたけどね。しかし本当に手癖が悪いな、太宰さん。私の手を握って国木田さんに殴られるまでの間によくやるものだよ)

 

 ただ、何というか。最初から見抜かれていたというのは少々気にいらない。

 

「ほらほら、起きなさいよ敦くーん。3人もおぶって帰るのヤダよ?私」

 

 意識がない敦をペチペチと叩く彼はどこまでも自然体だ。

 

 芥川先輩も心なしか肩の力を抜いているように見える。

 

「生きて帰れるとでも思っているんですか?」

 

「止めろ、樋口。お前では勝てぬ」

 

 私はLiberated Flameを起動させようとしたが、どこか笑いを孕んだ先輩の声に止められた。

 

「芥川先輩。でも」

 

 それはポートマフィアとしては不正解だ。

 

 彼の実力、特にその頭脳はこの世界で群を抜いている。

 

 かつてポートマフィアの幹部であったほどに。

 

 私たちマフィアの首領(ボス)が脅威を感じていたほどに。

 

 それを考えると彼は今ここで消すべきだ。

 

(ま、いいか。ここで殺した方が面倒だし)

 

 主に原作的な面で。

 

 それに本気で首領が太宰さんを殺そうとするなら、それなりの前準備をするだろう。

 

 どちらにしても私には関係のない話だ。

 

「太宰さん。今回は引きましょう。しかし、人虎の身柄は必ず(やつがれ)ら、ポートマフィアがいただく」

 

「……何で?」

 

「簡単なこと。その人虎には、闇市で懸賞金が掛かっている。賞金の額は七十億」

 

「それは随分と、景気のいい話だねぇ?」

 

「探偵社には、いずれまた伺います。ポートマフィアは、必ずその七十億を奪う」

 

「では、武装探偵社と戦争かい」

 

 太宰さんは立ち上がり、真っ直ぐに芥川先輩を見る。

 

「やってみたまえよ。やれるものなら」

 

 そろそろ口を挟んだ方がいいかな?黙ったままというのも不自然だし。

 

「民間企業如きがよくもほざいた。我々ポートマフィアは、この横浜の暗部そのもの。ポートマフィア(私たち)に逆らって、生き残れた人なんていない」

 

 このとき太宰さんを三下っぽく睨むのも忘れない。

 

「知ってるよ、それくらい」

 

 どうでも良さげに太宰さんはそう言う。

 

(実際どうでもいいんだろうね。少し前までマフィアの幹部だった人なんだから)

 

「然り。他の誰よりも、貴方はそれを承知している。元、ポートマフィアの太宰さん」

 

 そう言う先輩に、太宰さんは不敵に微笑んだ。

 




 樋口さんの台詞、長いので少し端折りました。樋口ファンの人、すみません。


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第13話 説明回です

 今回は芥川先輩にデバイスのことを説明します。しかし、少し中途半端に終わるかもしれません。

 


「で、先輩。この後はどうするんですか?」

 

 横浜の市内を、路地裏の近くに用意しておいた車で走る。

 

 当然車を運転しているのは私で、先輩は助手席に座っている。

 

 ひょっとして先輩は車の運転ができない人?

 

(やつがれ)は『また伺う』と言った。近いうちに、早ければ明日にでも黒蜥蜴を向かわせる」

 

(原作だと意気揚々と殴り込みした広津さんたちが、探偵社の皆さんにフルボッコされた話だよね。ご愁傷様です)

 

「それで樋口。お前は何処に向かっている?」

 

「………すぐに着きます」

 

 そう言ってから五分後。私は行きつけのデパートの地下にある駐車場に車を止めた。

 

「ここは?」

 

「私の行きつけのデパートです。いつもここで生活品を買い揃えていますが、まぁそんなことはどうでもいいでしょう」

 

 マフィアの私が行きつけという時点で、このデパートが真っ当な店ではないのはお察しだが、そんなことを言うためにここへ来たわけじゃないし、先輩も他に聞きたいことがある筈。

 

 車のエンジンを切り、シートベルトも外して、楽な姿勢で先輩に体を向けた。

 

 すると先輩は何を警戒しているのか、これ見よがしに黒外套を蠢かした。

 

「では、樋口。先刻見せたお前の異能について聞かせて貰おう」

 

 ま、そりゃそこからだろう。

  

 私は先輩にメトーデのことも、デバイスLiberated Flameのことも話してない。その上、先ほど「異能のようなもの」だと言ってしまったので、この勘違いは必然だ。

 

「火を扱う異能だというのは理解した。しかし貴様はいつ異能を発現した?如何にして異能を制御する術を身に付けた?全て嘘偽りなく答えよ」

 

「異能ではありません」

 

「何?」

 

「私のこれは、異能ではありません」

 

 私は端的に事実を告げた。

 

 

 

 

 

 

<side芥川龍之介>

 

「異能ではない、だと?」

 

「はい」

 

 そう言う樋口に嘘を吐いている気配はない。

 

 だが、異能でないとすれば何なのか。

 

 そう思ったとき、樋口がおもむろに手袋のようにはめていたものを外して、僕に突き出してきた。不思議に思いながらもそれを受け取る。

 

 受け取った瞬間それを危うく落としかけた。

 

 見た目からは想像できないほどの重量があったのだ。

 

「これは…………?」

 

「Liberated Flameという科学兵器です」

 

 樋口は着ているスーツを脱ぎ、ズボンの裾を上げた。そして履いている膝丈まであるブーツから足を出した。樋口はその下にあるものを僕に見せた。

 

 樋口の両腕と両脚は、先ほど手渡されたものと同じ素材の機械で覆われている。スーツ越しだと分からなかったが、よく見れば体の各部に不自然な膨らみがあった。

 

「Liberated Flameは、観測が極めて難しい粒子を散布させ、それを媒介にして狙った位置に莫大なエネルギーを伝達させることができます」

 

「……あくまでも異能でなく科学だというか」

 

 僕が疑うように言えば、樋口は腕を伸ばしてカーナビの画面に触れた。

 

 直後、あまりにも緻密な設計図が表示された。

 

 ………正直に言って、僕にはとても理解できるものではなかった。

 

「つまり樋口。貴様は異能に準ずる力を手に入れた、ということだな?」

 

「最低限ですけどね。肝心の威力に難ありです。こんなもの異能力なんてとても言えません」

 これは改良必須ですね。

 

 などと言いながら、樋口は機械で覆われた自身の腕を撫でた。

 

「………一体何を目指しているのだ」

 

 思わず吐いた溜め息とともに呆れた声が出て、そして脱力した。

 

「……まぁ、いい」 

 

 樋口とて人。嘘も隠し事もあるのだろう。

 

 本来、そのような者を信じることなどできるわけがないのだが。

 

 

 

 樋口を疑うというのも、何故かできそうになかった。

 

 



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第14話 好奇心


 感想の方で、鏡花ちゃんの番外編を書くとか言いましたが、普通に無理でした。

 と、いうわけで鏡花ちゃん側の話。

 




 

 樋口が仕事に行ってかなりの時間が経つ。

 

 既に朝食は食べ終わり食器も洗った。そして昼時までは時間がある。

 

 いつもならこれから昼寝をする彼女だが……。

 

 彼女の姿は樋口の仕事部屋にあった。

 

「これが、樋口の部屋……?」

 

 目に入れても痛くないほどに鏡花を可愛がり、そして可能な限り全力で彼女を甘やかす樋口だが、彼女は自分の仕事部屋に入ることだけは許可しなかった。

 

 何故なら、そこにあるのは樋口の切り札なのだから。

 

「何?これ?」

 

 窓一つない薄暗い部屋の中で、壁際に置かれた天井まである演算機器が青白い光を放っている。

 

 部屋の中に一つだけある机も何故か壁際にあり、その上には樋口がいつも使うノートパソコンがあった。後付けなのか複数の画面があり、さらに少し離れたところにあるテレビとコードで繋がっていた。

 

 そして部屋の入り口付近に並べられているそれら(・・・)を、鏡花は両膝を床についてじっくりと見る。

 

「武器と……機械?でもこれ……」

 

 刃渡りが1メートルを超える刃の付いた巨大な銃のような武器、否、もはや兵器とも呼ぶべきもの。

 

 薄い緑色のドレスのようなもの。硬そうな外殻と生地の裏側には、歯のような部分がある。

 

 大きなミシンのように見える機械。それには歯車ともハンドルともとれるものが付いている。

 

 黒い棺桶のような機械。この部屋にある4つの機械の中で、最も存在感と重厚感が感じられた。

 

 鏡花は知らないことだが、レイシア級と呼ばれるhIE(インターフェース)たちのデバイスがそこにあった。

 

 そのどれもが樋口ほどの大きさがある。

 

「人に使えそうにない……」

 

 それは異能力者でありながら、暗殺者として刃物などを扱う鏡花にはよく分かることだった。

 

 

 

 

 

 

<side泉鏡花>

 

(何だったんだろう?あれ……)

 

 ごろんと布団に寝転がった。

 

 武器のような機械だとは分かったけど、そんなことはあれを見れば誰でも分かる。

 

 ただ、その全ての用途が不明。

 

 いろいろと試してはみたが、持ち上げることすらできなかった。

 

(……もう、寝よう)

 

 そもそも私は考えることが苦手。

 

 あれが何なのか気にならないではないけど、樋口が私に隠そうとするほどなのだ。多分、私が知ってはいけないものなのだろう。

 

 けど。

 

「………………………むぅ」

 

 どうしてか分からないけど、樋口に隠し事されているというのが、何だか気にいらなかった。

 

<sideout>

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして私はその様子をパソコンで眺めていた。

 

「……………………ヤバい」

 

 何がヤバいかって?言うまでもなく鏡花ちゃんの可愛さ。

 

 私の仕事部屋の扉をそーっと開けて、おそるおそるといった方に足を踏み入れた鏡花ちゃん。彼女一度、部屋中を見回してから部屋の中へ入る。

 

 鏡花ちゃんは近未来的に整えた部屋を、不思議そうな表情を浮かべて眺めていた。

 

(グッジョブ私!思いつきで家を鏡花ちゃんに任せてみたけど、こんないいものが見れるなんて!!)

 

 いやもうホントごちそうさまです。

 

 少しの間、部屋をうろうろとしていた鏡花ちゃんだが、部屋の出入り口付近に置いているデバイスに近づいた。

 

(もうっ鏡花ちゃんてば行儀良く両膝を折っちゃって!何か、こう。鏡花ちゃんの一挙一動に可愛さが溢れていて………とにかくたまらん!!)

 

 それにデバイスを持ち上げようとしていたのもヤバかった。

 

 鏡花ちゃんは暗殺者で確かに刃物を使ったりもするが、基本的に異能『夜叉白雪』で標的を殺すので、別に筋力があるわけではない。

 

(なのに必死になってね。顔を真っ赤にして腕をプルプルと震わせていた鏡花ちゃんが可愛すぎ!)

 

 勿論それらの鏡花ちゃんの行動は全て静止画、あるいは動画で保存していた。

 

『良かったの?部屋に入れて。あれらは隠すべきものでしょう?』

 

「釣り合いは取れているので問題ありません」

 

 メトーデは彼女なりに考えた発言なのだろうが、鏡花ちゃんの可愛いところが見れるならばなんら問題はない。しかし所詮は機械であるメトーデには、鏡花ちゃんの可愛さが分からないのだろう。

 

 まぁそれはそれとして、そろそろ車に戻った方がいいかな?

 

 芥川先輩は車にいるままなので、あまり待たせるのも悪い。

 

 今日の晩ご飯はカレーの予定だが、何か一品加えるのもいいかな~なんて思いながら、ぎっしり詰まった買い物袋を片手に車に戻った。

 

 



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第15話 


 何とか日付変更前に書けました!

 今月最後の投稿です。


 

 ガチャ、と家の扉を開ける。

 

 そのとき玄関に鏡花ちゃんの靴、というか下駄がないのに気づいて、思わずため息を吐いた。

 

「またですか」

 

「また、とは?」

 

 途中で降ろそうとして失敗し、結局家まで来た先輩の声は無視。靴を脱いでデバイスはそのままに家に上がる。先輩は勝手に上がり込んだ。

 

 鏡花ちゃんの姿は案の定ない。

 

「鏡花は、どうした?」

 

 当然それが気になったのだろう。尋ねる先輩に、私は無言で机の上に置かれていた手紙を渡した。

 

 それは達筆な文字で埋められていて、最後にある人の名前が書かれていた。

 

 ーーー尾崎紅葉。

 

(無断で連れて行くのを止めて欲しいとは言ったけどさ~。一言あったら連れて行ってもいいってわけじゃないんですけど)

 

 たぶん今頃鏡花ちゃんは、原作で少しだけ出てきた座敷牢のような所にいるのだろう。

 

 鏡花ちゃんには申し訳ないが、異能の制御ができないのでは仕方のない措置だと思う。

 

 それはそれとして、息抜きくらいは必要だろうと思い同棲してたりするわけだが。

 

「……………」

 

「……………」

 

「……………これから夕飯ですが、一緒にどうですか?」

 

「いただこう」

 

 さいで。

 

 スーツの上着をハンガーに掛けエプロンを着る。

 

 鏡花ちゃんがいないのだから、カレーは十分に余っていることだろう。

 

 冷蔵庫から鍋を取り出し、コンロの上に置いて温め始める。すぐに焦げるようなことはないので、しばらく放置。今日デパートで買った食材の中から、豚肉を一枚用意する。

 

 で、これを揚げる。今夜はカツカレーだ。

 

 

 

 

 

 

 

<side芥川龍之介>

 

「お待たせしました」

 

 机の上に並べられる二人分のカレー。それには食べやすいよう切り分けられた、揚げられた肉が乗っている。

 

 加えて言えば、普通のカレーより赤い……気がする。

 

 樋口はギリギリまで氷水の入った水差しから、二つのコップに水を入れた。

 

「いただきます」

 

「……いただきます」

 

 控えめな声でそう言ってスプーンでカレーを口の中に放り込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 美味かった。

 

 しかしそれと同じ程、あるいはそれ以上に辛かった。

 

 まだヒリヒリと痛む口にコップを運ぶ。ひんやりとした水が、喉を通る感覚が心地いい。

 

 何とはなしに樋口を視界に収める。

 

 仕事のときとは違い、どこか樋口の纏う雰囲気は柔らかい。それこそマフィアではないと思えるほど。

 

 そしてその姿もいつものスーツ姿ではなかった。

 

 すでに風呂に入ったため、今の樋口は寝巻き姿。それもまるで貴族が使うかのようなネグリジェ。しっとり濡れた金髪がうなじに張りついている。樋口はそれを鬱陶しそうに握っているタオルで拭う。

 

 そのタオルを肩に掛けて、樋口は(やつがれ)の向かいに座った。

 

「……なぁ、樋」

 

 話しかけようとして遮るように何かを放り渡された。

 

 反射的に掴み取ったのは、鈍く光る銀色の鍵。

 

「それ、ここの合い鍵。貰っておいて下さい」

 

「ーーー良いのか?」

 

「良いんです。それより早く戻った方が良くないですか?いつまでもここにいるわけにもいかないでしょう?」

 

「………そう、だな。邪魔をした」

 

 鍵を外套のポケットに入れて立ち上がる。

 

「見送ります」

 

「いや、構わぬ。お前はもう休め」

 

「そうですか。では先輩」

 

「何だ?」

 

 玄関に続く通路で一度振り返る。

 

 樋口は仕事のときは決して浮かべぬ、花のような、と形容するに相応しい笑みを浮かべて言った。

 

「今日はお疲れ様でした。また来て下さい」

 

「………邪魔をしたな」

 

 扉を閉めて鍵を掛けた。

 

 それからしばらくの間、先ほど目にした樋口の顔が頭から離れなかった。

 



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第16話 黒蜥蜴死す!!(嘘)

 GWもあっという間でした。

 


 翌日。

 

 私は食後のコーヒーを片手に、パソコンとメトーデを使って横浜の情報を集めていた。

 

 特にこの頃何かと騒がしい裏市場について。

 

(うーん。どうも最近裏市場の価格が荒れてるなぁ~。原因は……個人による臓器の密売、か。バカだなこいつ)

 

 一人の男性の顔写真を拡大する。

 

 そこそこ年配のタクシードライバー。

 

 彼は上手く横浜の監視カメラを逃れていたようだが、私は横浜中に独自にカメラを多数設置している。その中のいくつかに、旅行客や観光客を連れ去っているのがばっちりと映っていた。

 

 そう遠くないうちに消されること間違いナシ。

 

 リリリッ リリリッ

 

 そのとき家に備え付けの電話が鳴り響いた。

 

 ちなみにだが、この電話に掛かってきた番号は全て、逆探知してから表示されるように設定してある。

 

 しかし表示されたのは非通知。つまりは何処ぞの公衆電話から掛かってきたということだ。

 

 一体誰からだろうと、不思議に思いながらも受話器を手に取る。

 

「どなたですか?」

 

『……僕だ』

 

 僅かな沈黙の後に彼、中島敦はそう言った。

 

「人虎?」

 

 少し驚いたがすぐに納得した。

 

(探偵社に渡した名刺でも見たな?)

 

 そうでもなければ、彼が私に連絡をとるなんて無理だ。

 

「前回はお仲間に助けられたようですが、次はそうはいきませんよ」

 

『………僕は探偵社を辞める。辞めて一人で逃げる。捕まえてみろ!』

 

 彼が言いたいことはすぐに分かった。

 

 つまるところ、彼は探偵社を巻き込みたくないのだ。

 

「なるほど。だから探偵社には手を出すな、と」

 

 返答はなく、敦からの電話はすぐに切れた。

 

(現実を知らないねぇ、彼は。今更一人で逃げても、探偵社が巻き込まれるのは変わらない、意味がないというのに。全く考えの甘いこと甘いこと)

 

 そういえば、今の彼は一文無しだったと思うのだが、どうやって公衆電話を使ったのだろうか?探偵社から無断で借りたのかな?

 

 いや私には関係ないことだが、少し気になって。

 

「広津さんに連絡ですね」

 

 さて、と。原作通り彼らに動いてもらうとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

『集合した』

 

「ご苦労様です」

 

 今回集まってもらったのは黒蜥蜴の百人長、広津柳浪。十人長、立原道造。同じく十人長の銀。以上の三名を主体とした実働部隊。

 

『それで?我々三人掛かりで潰す目標とは?』

 

「目標は、武装探偵社の事務所です」

 

『探偵社?人虎ではなく、か?』

 

 分かっているだろうにそんなことを言ってくる。未だ能力を自在に扱えない敦なんかに、黒蜥蜴の隊長を三人も集めるわけがない。過剰戦力にもほどがある。

 

「前回は、探偵社の手助けが原因で失敗しました。同じ(てつ)は踏みません。まずは護衛たる探偵社を殲滅します」

 

『…皆殺しで、いいのか?』

 

「構いません」

 

『……フッ。了解した』

 

 ブツ ツー ツー ツー

 

 広津さんの笑い声を残して、電話は切れた。

 

(え、何?今広津さんちょっと笑ったよね?何で?フツーに怖いんですけど)

 

 唐突に笑うのは止めてくれませんかねー。

 

 受話器を置いて力を抜いた。

 

「はあぁぁ~~~~~~」

 

 そして思い出すのは昨日のこと。

 

(先輩が家に来てご飯食べるのにもう慣れたなぁ~)

 

 慣れた出来事ではあるが、やはり先輩のことはよく分からない。わざわざ私の家で食べるよりも、他のマフィア系列の店で食べた方が良いもの食べれると思うのだが。先輩みたいにマフィアの中でも立場のある人は、そういう店を利用すればいいと思うのだが。

 

 しかし。

 

(ーーー変わった、よね?私も先輩も)

 

 あれはポートマフィアと敵対していたある組織が所有するビルに、先輩が一人で正面から攻めたときのこと。

 

 

 ーーーーーーお前の助けなどいらぬ!!

 

 

 ここにはいない。だけど横浜の何処かに必ずいる人の姿を求めて、それこそ獣のように戦っていた先輩の言葉に「あぁ、この人本気で言ってるんだな」と思ったのをよく覚えている。

 

 それが今ではわざわざ私と一緒に食事をする仲なのだから、世の中何が起こるか分かったものじゃない。

 

「先輩、また来てくれますかね……」

 

 というか家の合い鍵まで渡したのだから、手間でも何でも来てくれないと凹むぞ。

 

『オーナー』

 

「ん?」

 

 そのときメトーデが、探偵社周辺の監視カメラの映像をリアルタイムで映し出した。そこに映るものを、目を疑いながらも拡大する。

 

 そこには探偵社の窓から、まるで漫画のように放り出される広津さんたち黒蜥蜴の皆さんが。

 

「………えぇーー」

 

 思わずとんでもない声でそう言ってしまった。

 

 いや仮にも特殊部隊にも匹敵する実力のマフィアの黒蜥蜴が、一民間企業会社………武装探偵社をそう言っていいのかは分からないが………に負けるってどうよ?

 

 いくら知っていたこととははいえこれはない。

 

「……メトーデ、回収の部隊を要請」

 

『もうやったわよ』

 

 それから数分と経たずに、マフィアの部隊が広津さんたちを回収していった。

 

(しかし大分ひどくやられたな~~。今度お見舞いに行こう)

 

 どうせ先輩はそんなことしないだろうし、私が顔を見るくらいのことはしないと。

 

『オーナー、貴女今日は暇でしょう?LIBERTED FLAMEの調整をするわよ』

 

「はいはい」

 

 威力に難があったLIBERTED FLAME。それを前回使用したときは、試作品(・・・)を試しに使っただけだ。

 

 これから作るのは、デバイスの応用によって身体能力を強化することもできる本当のLIBERTED FLAME。

 

(とはいえ、後は私が少し手を加えるだけなんだろうけどね?いやぁ、ホントうちのAI()は優秀で助かる)

 

 少しといっても次の仕事までに仕上がるかは不安だが、まぁどうにかなるだろう。

 

 私はデバイスを置いている部屋に入った。

 




 感想で、原作で同棲している妹がどうこうということを聞きました。

 が、すみません。アニメと小説でしか文ストを知らない私には、何のことだかさっぱりです。

 今後もアニメ沿いで話を進めようと思います。


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第17話 探偵社の情報屋


 少しマフィア側から外れて武装探偵社側に。そして“蒼の使徒”に入ってみます。

 今回は皆さんご存知の何でも知ってるあの人が出てます。

 「何でもは知らないわよ。知っていることだけ」

 もうお分かりですよね?



 

 探偵社にポートマフィアからの襲撃があった数日後。そして昨今横浜を騒がしている失踪事件を調査している今日この頃。

 

 俺、国木田独歩は新入りの社員である中島敦を連れて、横浜にある一つのデパートを訪れていた。

 

「えっと…国木田さん。ここデパートですよね?一体何しに……」

 

 デパート内を歩きながら敦が尋ねる。

 

「このデパートには情報屋に会いにきた」

 

「情報屋、ですか?」

 

「そうだ。その情報屋は、探偵社とはそれなりの付き合いがある。お前もこのデパートと今から会う奴のことは覚えておけ。今後、世話にならんとも限らん」

 

 フードコートの一角で立ち止まる。俺はそこに一人で座っている女性に声を掛けた。

 

「久し振りだな。ーーー羽川翼(・・・)

 

 

 

 

 

 

 

<side中島敦>

 

 国木田さんが羽川翼と呼んだその人はどこかの学生なのか、ピンク色の制服と黒のスカートを身につけていた。眼鏡を掛けていて、黒い綺麗な髪は三つ編みにしてある。

 

 その人のことなんて何も知らないけど、多分『委員長』とか呼ばれているんだろうなぁと思った。

 

「お久しぶりですね、国木田さん。とりあえず座って下さい」

 

 その人は自分の向かい側の空いている席を示す。

 

 国木田さんが座ったので、慌てて僕も隣の席に座った。

 

「そっちは新人さん?」

 

「あぁ。まぁ、お前なら知っているだろうがな。小僧挨拶しろ」

 

 言われて頭を下げた。

 

「あ、はい。初めまして。武装探偵社の中島敦です」

 

「これはご丁寧に。聞いていたと思うけど、私は情報屋の羽川翼。いつも探偵社の皆さんには懇意にしてもらっています」

 

 彼女は柔らかな微笑みを浮かべて軽く会釈した。

 

「横浜のことで分からんことがあったらこいつに聞け。何でも知っているからな」

 

「何でもは知らないわよ。知っていることだけ」

 

 国木田さんの言葉に羽川さんは軽く言葉を返した。

 

 つまり知ってさえいれば何にでも答えられるのだろうか。

 

 肯定されてもどう反応すればいいのか分からないので、あまり深く聞くつもりはないけど。

 

「それで、国木田さんはどうして来たのかなぁ?わざわざ新人の敦君を私に会わせに来ただけ、なーんて。そんなわけがないよね」

 何かしら聞きたいことがあるんでしょ?

 

 首を僅かに傾けて笑みを浮かべそう言う彼女は、なるほど確かに、何でも知っていそうな気がする。

 

「相変わらずだな。……で、羽川」

 

 いつもの手帳とペンを取り出して、いよいよ本題という風に国木田さんは言った。

 

「昨今この横浜を騒がしている失踪事件は知っているな?それに関係があることを教えろ。いつも通り、お前の主観で構わん」

  

(羽川さんの、主観?)

 

 情報屋がどんなものか詳しく知らないけど、依頼の内容によって情報屋が売るものは変わると思う。

 

(それが主観でいいってことは、探偵社から信頼されているんだな)

 

 羽川さんは無言で何かを要求するように手を伸ばした。

 

 それを見た国木田さんは、「ちっ」と舌打ちをして、財布から一万円札を五枚取り出して羽川さんに渡した。

 

(いや五万!?そんなにするのか情報料って!)

 

 しかし“魔都”横浜の情報を扱うのなら、そんなものなのかもしれない。

 

 彼女は唐突に、何の脈絡もなく話し出した。

 

「最近裏の市場の価格が崩れててね、誰かが後ろ盾もなしにたくさんの臓器を売り出したんだ。これ失踪した人たちの臓器だと思うよ?証拠はないけど。あと新しく横浜に入ってきた裏組織が一つあるから気に留めておくこと。多分臓器とか武器とか、その辺りの密売が目的じゃないかなぁ。ま、横浜だとそんな珍しいことじゃないけどね。あぁそれと、もしかしたらマフィアだって動くかもしれないから気をつけてね」

 

 一気に告げられた情報に驚愕した。

 

 失踪した人たちの臓器が売り出されてる!?いや待てしかも新しい非合法組織が横浜に!?それどころかマフィアが動くかもだって!?

 

 何で彼女はそんなこと知っているんだ?そんなこと探偵社でも一朝一夕で調べられるようなことじゃないぞ。

 

 僕は狼狽えまくっていたが、しかし隣の国木田さんに動揺した様子は一切なく、冷静に今羽川さんが言った内容を手帳に書き込んでいる。

 

「分かった。いつも悪いな」

 

「こちらこそ。社長さんにもよろしくね」

 

「今度また、機会があれば社長もここを訪れるだろう。そのときに自分で言え。行くぞ、小僧」

 

「あぁ、はい」

 

 こんなのでいいのか?と思いながらもガタッと立ち上がった。

 

「あっ、敦君ちょっと待って」

 

「え、何ですか?」

 

 僕は声を掛けられ立ち止まったが、国木田さんは先に行ってしまった。このままだと置いて行かれるかもしれない。

 

 少し急かすように顔を向けると、羽川さんは目を閉じてゆっくりと口を開く。

 

 

「『ーーー生きるがいい。必ず誰かが、誰でもないお前を待っている』」

 

 

「っ!」

 

 

 その言葉は、『生きる(・・・)』という行為を重く感じていた僕には、とても大きな衝撃となるものだった。

 

「これはある人からの受け売りなんだけどね?割と良い言葉でしょう」

 

「……な、なんで」

 

 何と言えば分からずに、僕はただそう言うことしかできなかった。そんな僕に彼女は微笑む。

 

「何だか今の敦君に言った方がいいかなって気がしてね。………参考になったらいいんだけど」

 

「……いえ、大変参考になります。それでは羽川さん、いずれまた」

 

 行儀良く座っている羽川さんに頭を下げ、僕は急いで国木田さんを追った。

 

 探偵社に戻る途中に、国木田さんから話しかけられた。

 

「羽川から何かアドバイスでも貰ったか?」

 

「はい。アドバイスかどうかは分かりませんけど、一応」

 

「そうか。……どう思った?」

 

 どうとは羽川さんのことだろう。

 

「何だか、良い人ですね。羽川さん」

 

「当然だ。何せあいつは探偵社にスカウトされたこともあるからな。それも社長が直々に、だ」

 

 あの社長から直接スカウトされるほどの人なのか、羽川さんは。

 

「え、そうなんですか?」

 

 でもそれが本当なら、何で彼女は探偵社に入社していないのだろう?横浜で情報屋なんて危なそうなことをするより、探偵社で働く方がいい筈だ。

 

 そんな疑問が顔に出ていたのか国木田さんは続けた。

 

「そのとき羽川は一つ条件を付けてきてな」

 

「条件、ですか。それはどんな?」

 

 少し間をおいて国木田さんは言った。

 

「『羽川翼を調べる(・・・・・・・)こと』。彼女は探偵社にそれを要求、いや違うな。依頼してきた。その報酬として自分が探偵社に入ることを約束した」

 

「??」

 

 それはどういうことなのか?探偵社を試すにしては回りくどい気がする。正直わけが分からない。

 

「ま、お前も暇があったら羽川について纏めた資料を見ておけ」

 

「はぁ……分かりました」

 

 このとき僕は彼女が探偵社に入ったらいいな、なんて。

 

 漠然とそう思っていた。

 





 台詞の一つ。Fateのカルナから引用してみました。
 


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第18話 情報屋(裏)

 
 えーと。前回に羽川翼を出したら、感想を幾つも書いていただけました。有り難う御座います。

 しかし私が考えたオチは、恐らく最低もいいところです。所詮私は文才なき素人であると痛感いたしました。

 もう一度申し上げますが、オチが最低です。それでもよろしければ、どうかお読み下されば幸いです。




「………ふぅ」

 

 フードコートで買ったアイスティーを飲み干し一息吐く。

 

 制服のボタンをいくつか外し胸元から襟まで緩めた。

 

(あれが主人公、中島敦かぁ~。改めて生で見たけど………うん。やっぱり悪くない)

 

 中性的な顔立ちで、イケメンというよりは美形。女装なんてさせたら、案外似合うのかもしれない。

 

 ーーーしかし我ながらよくバレないものだと思う。

 

『いつも言っているけど、この小遣い稼ぎはもう止めたら?探偵社相手に情報屋なんて正気じゃないわ』

 

 眼鏡に映るメトーデ(・・・・)がやれやれという風に肩をすくめる。

 

 いや彼女の言い分も分かるが少し待って欲しい。

 

 組合(ギルド)ではないけれどやはり社会の裏側にいる身としては、社会の表でも活動できるように一つくらい表の顔があった方が便利なのだ。

 

 ……表の顔どころか別の顔となっているのだが、そこは気にしない。

 

 窓ガラスに映る自分の姿を眺める。

 

 長く伸ばした金髪は、黒く染めて三つ編みに。カラコンで瞳の色も黒に誤魔化し、眼鏡の形をしたデバイスを掛けている。

 

 そして着ているのはいつものスーツではなく、ピンクの派手な制服。それを着ても下品な感じがまるでしないのだから不思議だ。

 

『貴女がマフィアだとバレたらどうするの?樋口(・・)

 

「いや別に?バレたらバレたでそのときだし」

 

 もう分かっているだろうけどネタばらし。

 

 私、樋口一葉は時々、情報屋の羽川翼として探偵社の皆さんと会っているのです。

 

 メトーデを作ったのと同じく、羽川翼の格好をしているのも黒歴史だー、と言ってしまいたいのだが、これにはちゃんとした理由がある。が、それはまた今度の機会にしよう。

 

 何はともあれ。この格好をしているときの私は、横浜の情報屋“羽川翼”として行動している。

 

 主に探偵社へと情報を売っているからか、“羽川翼”の名はその筋ではかなり有名。聞いた話だが、内務省の異能特務科にも羽川翼()の名は届いているらしい。とはいっても私は特務科の人物と会ったことはないが。

 

 ……できるなら会いたくないものだが。

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま」

 

 マフィア御用達の病院で、広津さんたちのお見舞いをしてから帰ってきた。

 

 その際に「探偵社はどうでしたか?」と聞いてみたら、十人長の立原君は露骨に嫌な顔をして、百人長の広津さんも、どこかばつが悪そうな表情をしていた。

 

 一応は彼らの上司である私に説明する義務があると思うが、私は彼らに何かを強いるつもりはない。

 

 彼らが従うのは、芥川先輩と首領(ボス)だけだ。例え上司であろうと、そこに私は含まれない。彼らにとって私は、芥川先輩のおまけのようなものでしかないのだろう。

 

 結局、そこは原作と変わらないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

<side広津柳浪>

 

 黒蜥蜴の上司である彼女、樋口君がこの病院から出てほどなくして我々は退院した。

 

 元々探偵社の襲撃に負った傷は、それほど深いものではなく、病院にいたのも念のためでしかない。

 

「ったく……。ひどい目に遭った」

 

「……まぁ。そう言うな」

 

 隣を歩く十人長、立原道増にそう言った。

 

 探偵社に返り討ちに遭ったのは事実だが、それは我々の実力が彼らより低く、尚且つその実力の差を見極めることができなかったからだろう。

 

 それはともかくとして。

 

(やはり彼女は自己評価が低いようだ)

 

 前々からそうなのだが。彼女は私たちの上司でありながら、私たちに何かを強制するということをしない。

 

 我々に命令できるのは、あるいは命令するのは、自分ではないというように。

 

 恐らく、それができるのは黒蜥蜴の隊長の芥川君か首領だけだと考えているからだろう。

 

 そしてそれは正しい。

 

 首領は当然として、私たちが芥川君に従うのは、彼と彼の異能力に対する畏怖と憧憬があるからだ。

 

 だが、樋口君にはそれがない。

 

 しかし。それでも。

 

「それでも君は我々の上司だ」

 

 どこか寂しさを漂わせていた彼女を、私は脳裏に描いてそう言った。

 




 
 文字数が足らなかったので、少し広津さん視点を加えました。

 羽川翼については、アニメでいう一期が終わってからにしようと考えています。

 それまでは、これまで同様にアニメ沿いでやっていきます。


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第19話 拉致と依頼

 
 相も変わらずサブタイはテキトーです。

*18話で矛盾しているという点をご指摘がありましたので、その一部を改めました。矛盾していたのにもまるで気づかず、誠に申し訳ありませんでした。




 

 今日も今日とて羽川翼の格好で横浜をフラフラと歩く。ここ最近はいつもそうしている。

 

 何故かと言えば。

 

(だって私にも鏡花ちゃんにも関係のない話だし。その上こんな面倒くさい事件に巻き込まれたくないもん)

 

 原作通りに探偵社の面子で解決すればいい。私には関係ない。

 

 ただし、いつもと同じように過ごせば、先輩に巻き込まれることは想像に難くない。

 

 ので、休暇を買った。

 

 幸いというか何というか。私はデバイスを開発できる程度には金持ちなので、そういうことができる。

 

(昨日の内に失踪事件の犯人は自首して、爆破予告が探偵社に送りつけられた……か)

 

 たった今メトーデが拾ってきた情報を見たが、原作通りで何よりである。

 

 何とはなしに、メトーデ経由で横浜の情報を視界に出させた。

 

 当然だが一番に表示されるのは、国木田さんたち探偵社のこと。まぁ依頼とはいえ、幾人もの死亡者を出してしまったのだ。しばらくはバッシングが続くだろう。

 

『オーナー少し止まりなさい』

 

 唐突にメトーデが現れ、そう言った。不思議に思ったが、自然を(よそお)って立ち止まる。

 

(何かあった?)

 

 服屋の窓の側に置かれているマネキンに着せられた女性物の服を眺める。

 

 メトーデによって、眼鏡のグラスに当たる部分のディスプレイに、私に近づいてくる人の情報が映し出された。

 

 げっ、と思った瞬間に声を掛けられる。

 

「あーーっ!!やぁっと見つけましたよ、羽川さん」

 

「………賢治君」

 

 いつも通りの、どこかのんびりとした表情の中に僅かな焦りを滲ませている彼、武装探偵社の一人である宮沢賢治はそう言った。

 

「何かーーー」

 

「ちょっとすみません、ね」

 

「え?」

 

 何か用?と聞こうとして遮られた。

 

 麻袋を頭から被せられ視界が覆われる。さらにその上からロープか何かでぐるぐる巻きにされた。それからぐいっと持ち上げられて、荷物のように肩に担がれる。

 

「少し急ぎますから」

 

 そこから先のことはあまり覚えてない。 

 

 

 

 

 

 

 

<side国木田独歩>

 

 探偵社屋のソファーに座る羽川翼は、怒っているという風ではない。が、それが逆に怖い。どう考えても此方に非があるのだから、いっそ怒鳴るくらいはしてほしい。

 

 端的に言って、非常に気まずいのだ。

 

 その彼女の向かいには福沢諭吉、探偵社の社長が座っている。

 

「賢治、お前一体どうやって羽川をここまで連れて来た」

 

「国木田さん。それ聞きます?僕は賢治君が麻袋と縄を持って行った時点で、凄く嫌な予感がしてましたよ」

 

 俺と小僧こと敦は呆れを交えて賢治を見るが、賢治はニコニコと笑いながら言った。

 

「いやぁ~~。田舎でも牛さんが逃げることとかはよくあることなので。だから逃げる前に確保しました」

 いやぁ~、無事に連れてこれて良かったです。

 

 そう言う彼にやはり悪意はない。田舎育ちとはいえ、純粋過ぎるだろう。

 

 

 

 

 

「先ずは、我が社員の非礼を詫びよう」

 

 先に口を開いたのは社長だ。社長は閉じていた瞼を開け、羽川翼を視界に入れる。

 

「いえ、構いません。私も其方の事情は把握しているつもりなので。賢治君が慌てるのも仕方がないと思います」

 

 礼儀正しく羽川は応える。

 

「………貴殿のこと。既に探偵社が置かれている状況はご存じだと思う」

 

 羽川は否定しない。無言を以て肯定し、続きを促すように首を振る。

 

「ーーー恥を忍んで申し上げる。どうか我々と共に、この街を守ってほしい」

 この通りだ。

 

 

 社長は羽川に向けて、深々と頭を下げた。

 




 
 思うのですけど。敦ならまだしも社長にバレてないとは思えないのですよねぇ。

 今後どうしましょう?



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第20話 承諾

 

(面倒なことになっちゃったなぁ~)

 

 社長さんーーー福沢さんが頭を下げたからか、国木田さん達も私に向かって頭を下げている。

 

 まさか“蒼の使徒”の事件に、私がこんな形で巻き込まれるとは思っていなかった。が、しかし、探偵社(ここ)は鏡花ちゃんが、近い将来に働くことになるであろう職場だ。一度どんな感じか体験してみたいとは思っていたので、渡りに舟ではないが、都合がいい。

 

(ーーーでもあの二人とは会いたくないね)

 

 二人の内一人は言わずもがな、元・ポートマフィアの幹部であった太宰さん。彼とは一度、探偵社屋で樋口一葉として直接顔を合わせているので、バレても不思議じゃない。むしろバレないわけがない。

 

 そしてもう一人は、この武装探偵社を探偵社たらしめる人、江戸川乱歩さん。異能力としか思えない頭脳の持ち主なのである。彼は見るだけで凡百(あらゆる)ことを看破する。彼と直接会ったなら間違いなくバレるだろう。

 

(いや、多分私のことを人から聞くだけでも十分推理できるかな?何せ初対面でその人が目的地で死ぬことを断定したくらいだし。……て、いうか)

 

 未だに頭を下げたままの社長さんをじっと見る。

 

(まずこの人にバレてないとは思えないのだよねぇ?はたして本当にバレてないのか。あるいは変装だと気づいた上で言わないだけなのか)

 

 恐らくは後者だが、いや、今はそんなことよりも、この状況で断るというのが難しい。

 

 いくら横浜中の人命が掛かっていようが、これは武装探偵社の問題だ。それに私を巻き込むのが、不本意なことなのは予想できる。社長さんはそういう人なのだ。

 

(その社長さんがわざわざ羽川翼(わたし)に助力を乞う、てことは……)

 

 何か探偵社だけでは対処ができない事態が起きた。それくらいしか考えられない。

 

 それが何なのかは分からないが、私の脳裏に浮かぶのは、私にとっては最悪ともいえる可能性。

 

 原作からの乖離。あるいは私以外の前世を持つ存在の出現。

 

 前者ならまだいい。私みたいな存在がいる時点で、もはや原作とは別の世界だと私は思っている。しかし自惚れではないが、私はある程度のことならどうとでもできる。マフィアをそれなりにやっているのは伊達ではない。

 

 しかし後者だと、私でも探偵社でも対応できない可能性がある。私はなかったが、俗に言う神様転生をしている人なら、所謂特典なるものを所持しているかもしれない。

 

 “蒼の使徒”事件に巻き込まれない為の休暇だというのに本当に面倒だ。

 

「ーーー皆さん、顔を上げて下さい」

 

(だけどここで断るとかえって不自然だし。それに私以外に転生した人がいるなら会ってみたい)

 

「横浜に名を馳せる武装探偵社。その長である貴方が私にそこまでするなんて、思いもしませんでした」

 

 言って視線を彼らから外し、窓ガラスの向こうを眺める。

 

「ーーー横浜中の人命が掛かっている。そのことをちょっと良く分かってなかったみたいです」

 

 これは嘘じゃない。何せ私はマフィアなのだ。同じマフィアの仲間(具体的には芥川先輩や広津さんとか)や、探偵社の人達ならともかく、その他の人となると微妙なところ。

 

 視線を戻して少しだけ苦笑した。

 

「今回の件で、私は武装探偵社(あなた方)への協力を惜しみません。微力ながらお力添え致します」

 

「……(かたじけな)い」

 





 今後BEATLESSから誰か出すか、それとも物語シリーズから誰か出すか、全く別のところから出すか、めちゃくちゃ悩んでます。


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第21話 もうそろそろ終盤ですかね?

 
 誰だよ週一投稿で頑張るとか言っときながら三週間以上?空けた奴……。

 すみません、私です。あっやめて下さい、石を投げないで下さい。

 えーと、ですね?色々考えてはいたのですけど、なかなか思うようにいかなかったのです。

 前回の話で色々と期待をしてくれた方がいらっしゃれば、いや、誠に申し訳ありませんが、今回はこんな感じです。

 文才なき我が身をお許し下さい。

 それでは皆さん。

 K(鏡花ちゃん)!M(マジ)!T(天使)!!



 

 遠くに見える汽車が橋を通っている途中、2か3車両目の扉付近で爆発が起きたのが見えた。

 

 そしてそこから2つの人影が海に落ちていった。言うまでもなく鏡花ちゃんと敦である。

 

 適当なカフェに入って窓からその光景を眺める。

 

 ん?“蒼の使徒”はどうなったかって?

 

 

 ーーー思い出したら苛々してきた。

 

 

(何なのさ~全く!探偵社で解決できない事態が起きたわけでも、特典持ちの転生者がいたわけでもなかったよ!!)

 

 どうやら羽川翼()は、あくまで念のために呼ばれたらしい。面倒なことこの上ない。

 

 特にやれることもなかったので、幾つか適当に助言をして、後はこれまた原作通りに終わって貰った。

 

 いやだって……ねぇ?どれだけ容姿や口調を誤魔化そうが、結局私はマフィアの樋口一葉で。そんな私が特に用事もなく探偵社(敵地)に入り浸るというのは、まぁ……何だ。あまりよろしくないのです。

 

 だったら最初から行かなければいい、と言われればそれまでだ。が、それはそれ。私が鏡花ちゃんの保護者(仮)として、娘(仮)が将来働く職場をちゃんと見ておかないと。

 

(お?無事に海から上がったみたいだね、鏡花ちゃん)

 あとついでに敦。

 

 パソコンに映し出されたリアルタイムの映像を眺める。

 

 鏡花ちゃんと一緒に陸に上がった彼は、異能の覚醒やら何やらで体力が尽きたのか気絶した。

 

 別にそれはいい。鏡花ちゃんの『夜叉白雪』と戦い、さらに土壇場での異能の覚醒を経験したのだ。そういうこともあるだろう。気絶したってしょうがないだろう。

 

 けど、しかしだ。

 

 ーーー何故にそこで鏡花ちゃんの膝に頭を乗せる?

 

 それに鏡花ちゃんもそんな男の頭を乗せる必要なんかないよ!!さっさと地面に下ろしてしまいなさい。

 

(ていうか敦はそこ私と変われ!!!羨まけしからん!)

 

 そんなことより、海から上がった直後のため当然のことだが、鏡花ちゃんは今ずぶ濡れだ。

 

 赤い着物としっとりと濡れた髪が肌に張り付き、下着とかが透けたりしてるわけじゃない。ないけど、いつもとは違った魅力を感じる。

 

 ぶっちゃけエロい。

 

 ちなみに今回の私に与えられた任務だが、鏡花ちゃんと(人虎)の動向を常に把握すること。

 

 そのために用意したのは、BEATLESSで登場したアイテムの一つ、超高性能のドローンだ。

 

 私が用事したこれは、BEATLESSでレイシア級hIE5号機であるレイシアが設計し、3号機のサトゥルヌス(マリアージュ)が生み出して、1号機である紅霞が最期に使用したもの。

 

 それは筒型のドローンで、高性能のカメラと光学迷彩(ステルス)機能が搭載されている。加えて駆動音などが一切なく、今の技術を数世代はかっ飛ばしていることは間違いない。

 

 ……まぁ、うん。レイシア級hIEのデバイスを全て作っているのに、こんなこと言うのは今更だな。

 

 用意したドローンの数は全部で5つ。その内1つで鏡花ちゃんと敦を少し離れた距離から監視し、残りの4つは至近距離から鏡花ちゃんを観察できるように設定する。

 

 というわけで、準備は万全だ。

 

(それじゃあ、鏡花ちゃん。人生初のデートを楽しんでね)

 

 私はそれを記録するから。

 



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第22話 私はストーカーではないですよ?保護者です

 アニメを散々見てからの投稿。

 やはり鏡花ちゃんは素晴らしい。




 まさかまさか、あの鏡花ちゃんが自分から誰かの手を握る日が来るなんて!!

 

 私は今、とてつもない感動を感じているのです!

 

 定期的に先輩へ画像を送りながら、リアルタイムで鏡花ちゃんを見る。

 

 甚だ不本意だが、今回は敦を褒めてやろう。これが敦以外の探偵社員であったなら、鏡花ちゃんは即刻軍警にでも突き出されている。そして鏡花ちゃんの初デートなんてなかっただろう。

 

 だから私はとても嬉しい。あんな鏡花ちゃんを見ることができて。もう死んでもいいかも。

 

 鏡花ちゃんはゲーセンで敦と一緒にUFOキャッチャーで取った、兎のぬいぐるみをとても大事そうに抱えている。

 

 ………やっぱり美少女とぬいぐるみって最強の組み合わせだよね?異論反論などは一切認めません。

 

 それからクレープを食べたりもしていた。敦がそれで自分の財布の中身に絶望していたが、鏡花ちゃんの為だ。甘んじて受け入れなさい。

 

 つーか、湯豆腐以外をあんなに目を輝かせて食べる鏡花ちゃんなんて、私は初めて見たね。うん、可愛い。

 

 よく世のカップルがする、あーんなどはしてなかったけど、それでも鏡花ちゃんは楽しそうだった。

 

 現在彼女たちは観覧車に乗っている。敦は座っていて、鏡花ちゃんは窓に片手を触れて外を眺めている。

 

(レディーファーストという言葉を知らないの敦は?デートで女の子を立たせたままとか、マジ有り得ないんですけど)

 

 流石に監視用のドローンを中に入れると、何かの拍子にバレるかもしれないので、それらは二人が乗ってるゴンドラの周囲に浮かせている。

 

 敦が何か言ったのか、鏡花ちゃんは頬を若干だが紅く染めて、顔を地味に伏せていた。何それ可愛い。

 

 

「……芥川先輩。そろそろです」

 

 叶うならばもう少し、ほんっとう~にもう少しだけ彼女と敦のデートを見ていたいが、残念なことにそうはいかない。

 

『そうか。……お前もそこから早々に離れておけ』

 

「了解しました」

 

 通話を切って立ち上がった。

  

 ノートパソコンをバッグに入れて、代わりに先ほどまでの映像を、サングラス型のデバイスに映し出す。

 

 さっきまではかなり近い距離にドローンを配置していたが、これからすぐに荒事になるので、一つを残してそれ以外は回収する。

 

 通りから外れ、いつものバッグとは別に持ってきておいた専用のアタッシュケースを開けば、そこへ自動でドローンが収納された。

 

 こんな風にしたのは私だけど、うん。やっぱり便利です。

 

 車に乗り込んでアタッシュケースを助手席に置く。掛けているサングラス(デバイス)を外し、運転席に座った。残したドローンからの映像は、車のモニターに送られるように設定した。

 

 さて、とりあえずは港にでも向かおうか。このまま帰ってもいいのだけど、流石にそれは忍びない気がする。

 

「………………頑張れ、鏡花」

 

 私は何となくそう呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

<side泉鏡花>

 

 ふと、いつか樋口が言ってたことを思い出した。

 

 

「覚えていたらいいですよ。

 

 やることがない、またはやれることがないというのは、自分が何をすればいいのか分からない状態です。

 

 そんなときは目を閉じるなり深呼吸するなりして、一度落ち着くことが重要です」

 

 まぁさすがに眠る必要はありませんが。

 

 

 あの人は冗談のようにそう言ってた。

 

(目を閉じて……深呼吸……)

 

 深く息を吸って、ゆっくりと吐いた。

 

 ーーー正直なところ、これが本当に私のしたいことなのかは、分からない。勢いに任せただけの愚考なのかもしれない。

 

(でも、きっとこれでいい……だって)

 

 

 私がこうしたいと、彼を助けたいと。私はそう思ったのだから。

 

 

「……外の世界に触れて心が動いたか?鏡花」 

 

「……その人を離して」

 

 黒衣の青年の言葉に私はそう言って、真っ直ぐに銃口を向けた。

 









 完璧に余談ではあるのだが。
 
 その鏡花の様子をカメラ越しに眺めていたある人物は、普段の彼女とは違った凛々しいその表情に、思わず鼻血と涙を流したらしい。
 
 そして
 
(カッコいい鏡花ちゃんも素晴らしい)
 
 などと、思ったそうな。


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第23話 敦強すぎ笑えない


 前回の鏡花ちゃん、もしかしなくても少々雑でした。申し訳ない。

 可愛い以外にもっと彼女を称える言葉を使えれば……

 ん?そんなことは今更、ですか。誠に申し訳ない。


 

 ちょいと敦強すぎじゃね?

 

 ドローンのカメラを通して見ている光景に、そう思わずにはいられない。

 

 敦は先輩に『羅生門』で両腕を拘束されたものの、彼は一度両腕の虎化を解いて拘束から抜け出した。

 

 そして今度は両手足を虎化させ先輩に近寄る。そして『羅生門』の空間断絶による防御など関係ないとばかりに、その上からとにかく虎の拳で連打した。

 

(確かに先輩の防御、空間断絶は効果時間が短いから、敦の狙いは正しいのだけど……)

 

 だからって普通は近づくかぁ?芥川先輩は中近距離戦闘がスペシャリストだぞ。正気じゃないね。

 

 そんなことを思っている間に先輩は、『羅生門』を上手く使い宙に浮かび、そこから黒刃を飛来させる。

 

 敦はそれを避けるが先輩に誘導されて、船の一角で起きた爆発に巻き込まれた。

 

 それで終わったかと思いきや、敦は爆風によって芥川先輩のところまで浮かび上がった瓦礫に乗り、背後を取った。

 

 そして雄叫びを上げて、先輩の顔を力一杯に殴った。あれは痛いよ、きっと。先輩の体って弱いし。

 

 ていうか、だ。信じられないことに、敦はなんとあの芥川先輩と互角以上に渡り合っているんだよね(今更)。

 

 成長期なんてレベルじゃないぞ、おい。あれでつい何時間か前に、自分の異能力を扱えるようになったばかりとか何さ。もはや詐欺だな、詐欺。

 

 まぁ、うん。そして原作通りに先輩は負ける。

 

 いや別に先輩が弱いだとか、敦が強いだとかじゃなくて。強いて言うなれば敦が、今の勢いで先輩を押しているといったところかな?

 

 無論のこと先輩が万全ならば、敦程度に負けるなど有り得ない。しかし芥川先輩は敦に対してーーー正確には彼を認めた太宰さんに対してだがーーー強い執着を抱えている。

 

 つまり一言で言えば、今の芥川先輩は冷静でない。いくらでも足のすくいようがあるのだ。

 

 だから負ける。

 

 とはいえそんな風に思ってる私だが、何も原作同様に先輩に大怪我して欲しいとは思ってない。

 

 なので先輩が敦に殴り飛ばされた後、海に叩きつけられる前に助けるつもりではある。

 

 

 ………とはいえ上手く助けれるかね?不安です。

 

 

 

 

 

 

 

<side芥川龍之介>

 

 

 ーーー誰かに生きる価値があるか無いかを、お前が決めるな!!

 

 

 人虎が(やつがれ)へ向けて投げた言葉が、ふと頭をよぎった。

 

 人虎とそれから彼の人ーーー僕の師である太宰さんーーーを思い浮かべ海に落ちる。

 

 

 痛みで朦朧とした意識の中、自分が何を考えているのかも分からず手を伸ばし、意識が無くなるその直前に。

 

 

 どこか見慣れた人影が僕の視界に映った。

 

 

 そんな気がした。

 





 戦闘描写が我ながら酷い。

 悲しいかな。どう足掻いてもこんな感じなのです。



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第24話 

 三連休ですが、とても暑いですね。

 暑さにうなだれながらも投稿です。




 どうにかこうにか、海に落ちる前に先輩を拾い上げれた私だが、ちょっと先輩の容態がガチでヤバそう。

 

 原作のように、海に叩きつけられてないだけマシなんだろうけど、それでも虎の拳で殴られた先輩は重傷だ。急いで病院に運ばないとマズいぞ、これは。

 

 ーーーーーーまさかLiberated Flame(完全版)の初お披露目が、先輩の救助になるとは思ってなかった。

 

 前まで使っていたメトーデのデバイス、Liberated Flameは、その機能の一部しか再現できなかった劣化品だ。

 

 一応身体能力の強化もできなくはないが、人類未踏産物(レッドボックス)であるメトーデのそれには、やはり劣る。

 

 しかしそれも今までの話。

 

 私が今使っているLiberated FlameはBEATLESSのメトーデの動き、つまりは人の認識を超えた速度での動きを可能とする。

 

 だけどいくら完成したLiberated Flameでも、海の上を走るなんてのは、不可能とはいかずとも難しい。

 

 なので今回はメトーデのデバイスに、追加装備としてフライボードを両脚に装着した。

 

※フライボードとは

 簡単に言えば、水圧を利用して空を飛ぶ機械のこと。

 

 でもってこのフライボードも、人類未到産物の技術をフルに利用して作ったので、水上でもメトーデ並みの動きができる。

 

 一言で纏めよう。とにかく速いのだ。

 

 ん?そんなもの人間()が耐えられるのかって?

 

 当然対策くらいしてますとも。

 

 具体的には継続的な薬物投与と、某型月に登場する代行者(外道神父)に匹敵する鍛錬を積んだ。

 

(といっても別に、ボディビルダーみたいになりたいとか思ってないし。女性らしい身体を保ちつつ、メトーデの動きに耐えられる身体を作るのには、まぁ……あれだ。大分苦労いたしましたとも)

 

 無駄な努力とか言わないで欲しい。女性としては死活問題なのです。

 

 そんなことを考えている間に、もう陸まで着きそうだ。

 

 少しだけ考えて、このまま病院まで直行することにした。車を使うよりも、Liberated Flameを使う私が走った方が速い。

 

(メトーデ、車を病院まで移動させて下さい。それと病院までの最短ルートを表示。監視カメラのハッキングも併せて行って下さい)

 

 とはいえカメラ等に映るわけにもいかないので、その辺の対応はメトーデに丸投げする。

 

『注文の多いオーナーね』

 

(できないんですか?)

 

『はっ、馬鹿にしないでくれる?』

 私を誰だと、何だと思っているの?

 

 挑発気味に私が言えば、何故か鼻で笑われた。理不尽だ。

 

「ならさっさとやりなさい」

 

『任せなさい』

 

 私は更に速度を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 そして先輩を病院に叩き込んだ数日後。

 

「やぁ、よく来てくれたね。樋口君」

 

 人虎を捕獲する任務に失敗し、さらに先輩がまだ意識を取り戻していないことから、芥川先輩の部下である私はマフィアの首領(ボス)ーーー森鴎外さんの元を訪れていた。

 



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第25話 私に向かない?職業

 タグにオリジナル展開だとかキャラ崩壊だとかを追加した方がいいのでしょうか?

 さてと。これからアニメの一期を終わらせに参ります。




「とりあえず掛けるといい。立ったままだと疲れるだろう?」

 

「では遠慮なく」

  

 鴎外さんにそう言われたので、私は夕食を前に座っているポートマフィアを束ねる首領(ボス)ーーー森鴎外さんーーーの対面にある豪華な椅子に座った。 

 

 無駄に座り心地がいいんだよね、ここの椅子。

 

「ねーねー樋口」

 

 腰を掛けてすぐに、鴎外さんが溺愛する少女ともいえない年の幼女に名前を呼ばれた。

 

 視線を自分の足元に向ければ、そこにはフリルを施した、赤いゴスロリ衣装を纏った幼女(天使)の姿がある。

 

 その幼女、エリちゃんは両手を広げて何かを要求するように私を見ていた。

 

 彼女の意図を察して、抱きかかえて膝の上に乗っけてあげた。

 

 普通ならポートマフィアの一構成員に過ぎない筈の私が、鴎外さんが溺愛しているエリちゃんにこんなことをすれば、問答無用で殺される。というか、椅子に座った時点で殺されてもおかしくない。

 

 だが鴎外さんはそうしない。私はそのことを知っている。

 

 何せ私と鴎外さんの仲(・・・・・・・・)なのだから。

 

 エリちゃんは私の膝の上で満足そうな雰囲気を出して、画用紙にクレヨンで絵を描き始めた。

 

(髪の毛サラサラしてるなぁ~~エリちゃんは。それにイイ匂いもする……)

 

 鏡花ちゃんほどではない。が、やはり可愛いものは可愛い。可愛いは正義だ。

 

 鴎外さんこの娘を私に下さいと、そんな戯れ言を本気で言いそうになる。

 

「………そろそろ良いかね?」

 

首領(ボス)。その前に一つだけ、よろしいでしょうか?」

 

 会話を切り出そうとした鴎外さんにしかし私がそう言えば、彼は珍しいとばかりに顔を歪めた。

 

「構わないよ。言ってみたまえ」

 

「では、遠慮なく」

 

 すぅっと息を吸って、にこやかに笑っている鴎外さんと目を合わせた。

 

 

 

 

 

 

 

「何でエリちゃんの服の色が赤なんですか。ゴスロリといえば黒でしょう?金髪・幼女・黒ゴス、これが完璧な組み合わせなのです。絶対に黒い方がエリちゃんに似合うに決まってます。なのに何で赤いゴスロリなんですか、何を考えてるんですか馬鹿なんですか?」

 

「うん、少し落ち着こうか樋口君」

 

 ……?気のせいだろうか?鴎外さんの笑みを湛えている顔が心なしか引きつっているような………?

 

 ま、気のせいでしょ。多分。

 

 

 

 

 

 

 

<side森鴎外>

 

 ーーー間違いなくそんな話をする雰囲気ではなかった。

 

 私はエリちゃんを膝の上に乗せている彼女、芥川君の部下である樋口一葉君を見ながらそう思った。

 

 樋口君は今、私の対面の椅子に座っていて、マフィアに似つかわしくない柔和な笑みを浮かべ、そしてエリちゃんの髪を撫でている。

 

 羨ましいなぁ。僕がそんなことをしようとしても、エリちゃんに嫌がられるのに。

 

 エリちゃん曰わく、リンタロウは必死すぎて嫌とのこと。悲しいかな。

 

 それはともかくとして。本来マフィアの一構成員でしかない筈の樋口君がそのようなことをすれば、例え殺されたとしても文句は言えない。

 

 しかし私はそれをしない。彼女を失えば、マフィアにとって大きな損失となる。

 

 

 ポートマフィアの次期幹部(・・・・)、その候補(・・)である樋口一葉に、僕はそんなことを絶対にしない。

 

 

 …………………………いやでも流石にもういいだろう。

 

 まだエリちゃんを愛でる樋口君を見て、私は口を開いた。

 



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第26話 私に向かない?職業 弐

 7/22(日)午後9時45分ほどに、誤字修正しました。

 誤字報告に感謝いたします。



「ーーー派手に壊されたものだねえ。任務失敗の代償というわけだ」

 

 鴎外さんが芥川先輩の容態を纏めて最後にそう言ったので、私はエリスちゃんを抱えたままだが真面目な表情をした。

 

 客観的に見れば、シュールな光景だと思う。

 

「申し訳ありません」

 

 一言謝罪はしたが上辺だけのもの。

 

 だってこの任務が失敗することは分かってたもんね。それに変に介入して、成功させる気もなかったし。

 

「このまま意識が戻らないかもしれないね」

 

 私が黙っているのをどう受け取ったのか、鴎外さんがそんなことを言った。

 

「気を落とすことはない。君たちはよく頑張ったよ。確かに探偵社の襲撃に失敗し、人虎の捕獲を誤り輸送船を沈めたけど………」

 

「ちょっと首領(ボス)。貴方は人を慰めるつもりがあるんですか?」

 

 思わず突っ込んでしまったが、しかし仕方ないだろう。(けな)すか慰めるかどっちかにしろやコノヤロー。

 

「まぁ、最後まで聞き給え。頑張ったからいいじゃないか?頑張りが大事、結果は二の次だ。そうだろう?」

 

 同意を求めるように、鴎外さんは私に視線を向けるが、生憎と私はそれに賛同しかねる。

 

 だって、ねぇ?いや別に、一般的な人はそうかもしれないけれども。

 

「………マフィアがそれじゃ駄目でしょう。結果が二の次でいいなら、樋口一葉(わたし)はこんなに苦労してないですよ」

 

「たまには肩の力を抜いたらどうだい、私はそう言っているんだよ。何せ君は芥川君と似ているところがあるからね」

 

 ………鴎外さんはそう言うけども、あの芥川先輩と私が似ている?いや、それはないだろう。

 

「そうそう。作戦中に芥川君が潰した組織の残党が、手勢を集めているそうだ。芥川君への復讐だろう」

 

 ついでのように言われたそれを聞いて、視線を鴎外さんからエリスちゃんが描いている絵に移した。彼女は芥川先輩を模した絵の首の部分に、赤い×を描いていた。止めなさい、縁起でもない。

 

「いいかね樋口君。マフィアの本質は、暴力を貨幣とした経済行為体だ。何を求めても、誰を殺してもいい。だが暴力を返されることは負債だよ?」

 

「負債、ですか……。しかし芥川先輩はこれまでの任務で、多大な成果を上げています」

 

 無論私もそれなりに。そして今後もそうだろう。

 

「確かに芥川君は優秀だ。彼の暴力性は組織でも抜きん出ている」

 

 そして原作でも有名なあの台詞を、鴎外さんは私に向けて言った。

 

「ーーーでは、君は?樋口君。君は自分がこの仕事に向いていると、そう思ったことはあるかい?」

 

 

 

 

 

 

 

 あ?

 

 

 

 

 

 

 

「………今更じゃないですか?」

  

「………うん、言ってみただけだよ。だからそんな怖い顔をしないでおくれ」

 




 いやぁ~、話がまるで進んでいないですね。

 このままだとこの流れの話だけで、大分掛かるかもしれませんな。


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第27話 私に向かない?職業 参

 サブタイの漢数字の3ってこれですかね?不安やなぁ。もし間違ってても気にしないで下さいな。



 何で私がマフィアの次期幹部候補であることを隠しているかというと、色々と理由はあるけど一番はやっぱり、原作からの乖離を起こさないため。

 

 既に手遅れなのかもしれないが。

 

 原作ではたかが一構成員な樋口一葉(わたし)だが、人類未到産物(レッドボックス)の技術の一部を鴎外さんに渡したり、時々マフィアの情報部で働いたりしてたら、いつの間にやらこうなってた。何でさ。

 

 で、これは原作的に非常にマズいと思ったので、私は鴎外さんに直談判してそのことを隠して貰っている。

 

「それで、実際のところどうなのかな?君は君自身がマフィアに向いていると、そう思うのかい?」

 

「………さぁ、どうなんでしょう」

 

 鴎外さんの言葉に曖昧な笑みを浮かべる。

 

 樋口一葉(・・・・)はマフィアに向いていない。しかし、多分()はそうではないのだ。原作以上の大出世をしているのがいい証拠。

 

 とはいえ芥川先輩のように、マフィアしかできないのかと言われれば、答えは否だ。

 

 “羽川翼”としての顔があるし、“羽川翼”として武装探偵社との繋がりもある。堅気の人間でないことはもう気づかれているのだろうけど、そんなに悪い扱いを受けることはないと思う。

 

 お金もそれなりどころじゃないくらい持ってるし、その気になれば何処へだって高飛びできる。

 

 

 ぶっちゃけ私は、マフィア以外でも十分やっていけるのだ。

 

 

「いい機会だから言っておくとね。私は正直なところ、君がどうしてマフィアに居るのか不思議なのだよ。良ければ教えて貰いたいね」

 

 答えを期待するように鴎外さんは私をじっと見る。エリちゃんも空気を読んでいるのか、いつもより大人しい。

 

「そうですね………」

 

 私がマフィアを続けている理由、か。それはきっと。

 

「ーーーやりたいこと、ありますから」

 

 少しだけ笑ってそう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 鴎外さんと話をした後、私は原作のようにトイレで用を足し手を洗っている。

 

(エリちゃん可愛かったなぁ~。こう、正統派なお嬢様って感じがいい)

 

 あれで衣装が黒であったならば、私的には文句無し。今度は私が服を持って行ってあげよう。うん、それがいい。

 

 手を拭くためのハンカチを水道水でこれでもかと濡らす。

 

 ところで。

 

(……居ますよね)

 

『えぇ、居るわね』

 

 メガネ型のデバイスでもなく、いつものサングラスでもない。今回は私が付けているコンタクトレンズに映るメトーデ。

 

 コンタクトあるならいつもそれにしろよ、とか言わないで欲しい。これ意外と付けるのが難しいし、面倒くさいのだ。しかし掛けるタイプのデバイスはその辺が大変楽なので、とっても重宝している。

 

「きゃっ!」

 

(って危なっ!!?)

 

 何かいきなり銀ちゃんにナイフを首に当てられそうになったので、たった今濡らしたばかりのハンカチで思いっきり手を叩いてやった。

 

 知ってる人は知ってるだろうけど、こうして濡らした布はかなり重い。そんでもって、それで上手い具合に人は叩くと結構痛いのだ。

 

 かの外道神父ほどではないが、近接戦はそれなりに私の領分。これくらいなら、Liberated Flameなしでもできる。

 

(つーか銀ちゃんの声ってやっぱり可愛いよね?コンプレックスかもだけどもう少し女の子らしくすればいいのに。勿体ないなぁ。)

 

 それで、だ。

 

「これはリハーサルか何かですか?黒蜥蜴」

 

「………銀の野郎は、やれ潜入だ暗殺だっつー陰気な仕事が多くてな。上の勅命で身内の首を掻っ切ることもしょっちゅうだ。……本番は驚く暇もない、筈なんだけどなぁ」

 

 やけに具体的に言ったのは、まだ子供っぽさの残る顔をしている黒蜥蜴の十人長、立原君。

 

(何で呆れたような表情してるのさ)

 納得いかん。

 

「つまりは首領(ボス)が私を始末する、と」

 

「今はない。だが、明日は分からん」

 

「私を笑いにでも来ましたか?」

 

 ハンカチを流しで絞りながら広津さんを見ると、彼はいつになく怖い表情をしていた。

 

「私が貴女の立場なら、暗殺者が枕元に来る前に、身の振り方を考え直す。首領直轄の遊撃隊である芥川君と貴女は、我々武闘派を動かす権限がある。ーーー言わば上司だ」

 

「だが我々を(かしず)かせるのは権限ではない。芥川君の持つ力への畏怖と憧憬だ。樋口君。芥川君が動けぬ今、貴女に我々に“従いたい”と思わせる“何か”があるか?」

 



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第28話 私に向かない?職業 肆

 何か早起きしちゃったので投稿。眠いのです。



 黒蜥蜴(変態)の皆さんが女子トイレに押しかけて来るという暴挙に出た後、私は適当な花束を用意して先輩が居る病院に来ていた。

 

 呼吸器を付けて全身に包帯を巻かれた先輩は、見ていて痛々しい。

 

(てか広津さんはもっと簡単に言えばどうなのかなぁ?)

 

 要するに彼(彼ら)は、「お前は俺たちより弱いので従いたくない」って言いたいのだろう。

 

(子供かよ黒蜥蜴(お前ら)

 

 そう思う私は悪くない、きっと。

 

 ま、彼らは私が次期幹部候補だと知らないので、仕方ないか。

 

(いや待てよ?知ってもあんまり態度変わらないかもね)

 

 広津さんたち黒蜥蜴の面々が先輩に従うのは、芥川先輩を崇拝しているからだ。次期幹部候補だからって、その対象が私になるとはとても思えない。

 

 持参した花瓶に花束を入れながらそんなことを考える。

 

 念のためではないが、花束に小型カメラを仕込んでメトーデと繋いだ。これで先輩に何かあれば、すぐに私に伝わるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま」

 

 帰宅と同時に少し寂しさを感じた。

 

 ちょっと前までは鏡花ちゃんが「お帰りなさい」と言ってくれたものだが、彼女はもうここにはいないのだ。

 

 むしろ今まで居てくれたことが驚くべきことであり、感謝するべきことなのだろう。

 

 スーツを脱いで寝間着代わりのネグリジェに着替えてベッドに入った。

 

 しかし眠れない。どうしてか胸騒ぎを覚えていた。

 

 どことなく嫌な予感のしたそのとき。

 

『オーナー、緊急事態よ』

 

「えっ……?」

 

 いつものメトーデらしくない、静かだがどこか焦りが感じられる声だった。

 

「一体何ですか………?」

 

『とりあえず、これを見なさい』

 

 メトーデは壁際にあるテレビを起動して、先輩の病室に置いてきた小型カメラの映像を流す。

 

 それにちょっとした違和感を覚え、すぐにその正体に気づいた。

 

(リアルタイムじゃなくて録画映像?何で?)

 確かに録画機能も付けはしたけど。

 

 そしてそこに映っているのは、特殊な装備で全身を覆った複数の人物。

 

「先輩が潰した組織の残党か、もしくはそれが雇った連中ですか……」

 

 えっと、確か。かる、カルマ何たら?いやカルマドラム何たら?だっけか。まぁ、何でもいいけど。

 

 しかしそれは原作(予想)通りだ。芥川先輩が居る場所にしては警備がずぼら過ぎかもだけど、メトーデが慌てる要素は今のところない。

 

『それだけじゃないわよ』

 

「?それはどう…………」

 

 言葉が出なかった。

 

 そこに映るモノを信じたくなかった。

 

 童女の楽しそうな、あるいは嬉しそうな笑い声が響く。薄く光っている緑色の髪が、そして真っ白なドレスが、彼女の笑い声と共に翻る。

 

 鼓動が不自然に跳ね上がった。胸を両手で抑えていた。

 

 まさか今更、私以外(・・・)が出てくるなんて。

 

 どうしてこのタイミングなのか。

 

 一体何を狙っているというのか。

 

 そもそも何故この世界に居るのか。

 

 

 

 

 

 

 

 レイシア級humanoid Interface Elements Type-002 スノウドロップ。

 




 ついに出ました。樋口(の中身)以外の文スト世界における異常、あるいは異物。

 どのように樋口一葉は対処するのでしょうね?

 それではまた。


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第29話 私に向かない?職業 伍

 どうにかこうにか投稿です。しかし小説のストックも無くなり、さらにはFGOのイベントも始まり。もうホント大変です。
 
 ガチャ?大爆死でござる。



(て、落ち着け私。こんなことで動揺するなんて、私らしくもない)

 

 スノウドロップが居たことに思わず動揺してしまったが、元々私以外の誰かや何かが文豪ストレイドッグス(この世界)にいるという可能性は考えていた。

 

 そしてもしそんな存在が居るのであれば、恐らく原作のどこかで絡んでくるだろうとも。

 

 今まで都合良く現れなかっただけで、その確証なんてどこにもなかった。なのに私は今まで現れなかったことから、当たり前のようにその可能性を考えなかった。

 

 だから狼狽えたし動揺もした。

 

 

 ーーーーーーだけど、それだけだ。

 

 

 考えていなかった?想定外の事態が起きた?

 

 

 だからどうした。

 

 

 そんなものはマフィアの樋口一葉(わたし)にとっては慣れたものだ。

 

 

「メトーデ、黒蜥蜴に召集を」

 

『………貴女は何をするの、オーナー?』

 

「分かるでしょう?」

 

 机の上に置いていた携帯電話を手にとって、滅多に掛けることのない人へと電話を掛けた。

 

 スノウドロップがいる以上ちょっと申し訳ないとは思うが、広津さんたち黒蜥蜴だけでは戦力不足気味だ。

 

 故に私はさらなる戦力を用意するため、あるいはして貰うために、その人へと電話を掛けた。

 

 そして数回の呼び出し音の後にその人は電話に出てくれた。

 

先刻(さっき)ぶりだね樋口君。それで一体何かな?』

 

「………首領(ボス)

 

 まぁもったいぶったところで、この場面で鴎外さん以外の選択肢なんてないんだけどね?

 

 

 

 

 

<side森鴎外>

 

 芥川君が攫われたという報告が私のところに来て、彼女から僕に直接電話が掛かってきたのは僅か数分後のことだった。

 

「君が私に掛けてくるなんて、珍しいじゃないか樋口君。何か急ぎの用かな?」

 

『分かってますよね、首領?芥川先輩のことですが、少し首領に頼みたい事があります』

 

「頼み事、ねぇ………しかしだよ樋口君。今回の件は、ポートマフィアとして動くわけにはいかない。それは分かっているだろう?」

 

 彼女の頼み事は芥川君を奪還するための作戦の指揮を取ってくれ。十中八九そういう類のものだと予想している。だが組織を挙げて反撃などすれば、大規模な抗争に発展しかねない。組織の長として、僕はそんな選択をしない。

 

(しかしそれが分からない彼女ではない筈だ)

 

 であれば、分かった上での頼みなのか。だとすれば、樋口君の評価を若干下方修正する必要がある。

 

『分かってます。奪還作戦の指揮をして貰いたいわけではありません』

 

 そう言うと樋口君は、あまりにも予想外な頼み事をしてきた。

 

 

『幹部の中原中也を応援に寄越して下さい』

 お願いします。

 

 

 彼女はそう言うと、一方的なまでに電話を切った。

 

「……一体どういうことなのだろうね」

 

 言葉にしてみたところで分かるものじゃない。

 

 しかし彼女のことだ。もしかしたら私よりも何が起きているのか、詳しく知っているのかもしれない。本来ならマフィアの首領である私以上に、情報を得られるわけがないのだが、樋口君に限っては「ない」と言い切れない。

 

 一体何を知っているのか。そして何が起きているのか。

 

 カルマドラムチプトの残党だけだと考えていたが、何かしら不確定な要素でも起きているのだろうか?

 

「まぁ、そうだね……」

 

 しかし部下の我が儘を聞くというのも、偶には悪くないだろう。

 




 というわけで、まさかの幹部が参戦(かも)です!


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第30話 私に向かない?職業 陸


 昨日アキバに行ってきました。
 
 ただでさえ暑いのに熱気が凄まじいですね、アキバ。

 また行きたいものです。


 


 

 一応鴎外さんに頼んではみたけど、実際に中也さんが応援に来てくれるとは思ってない私です。

 

(だってスノウドロップのこと何も説明しなかったからねっ!)

 

 つまりそういうこと。

 

 本当に応援が欲しいのならば、しっかりと説明するべきなんだろうけど……うん、無理だ。

 

 だって、ねぇ?この世界に本来ならいない筈のスノウドロップ(彼女)のことなんて、一体どうやって説明しろと?無理、絶対無理。

 

 中也さんに関しては、そうだね。来てくれたらラッキーくらいに考えておこう。

 

「姐さん、正気かよ。止めとけって」

 

 ちなみに私が今いるのは原作でも出てきたであろう、マフィアが所有している武器庫の一つ。

 

 そこにはメトーデ、もとい私の召集に応えたいつもの三人(広津さん・立原君・銀ちゃん)がいた。

 

 愛用の銃器と同じタイプのものを武器庫から取り出していたら、広津さんも立原君も私を止めようと言葉を掛けてくれる。

 

 銀ちゃんは元々あまり喋りません。

 

「芥川の兄貴を攫ったのは、カルマドラムチプトの残党が雇った国外の傭兵だ!数が揃ってる上、重火器でこれでもかってくらい武装してやがる」

 

 立原君の言葉をBGM代わりにしながら、いつも愛用しているのと同じタイプのマシンガンと拳銃を取る。ついでに小型手榴弾も幾つか貰っていくことにした。

 

 確か原作の樋口一葉が、突入のときに使ってた…………気がする。うん、多分使ってた。

 

 そして立原君の横を通ろうとしたとき、彼は私の腕を力強く握った。

 

(いや痛いんだけど)

 

 意外と力あるのね立原君って。

 

「直に首領(ボス)から奪還作戦の指示が来る!!だからそれまで待っ」

 

「指示なんて来ませんよ」

 

 立原君の言葉を遮って私は静かに口を開き、掴まれた腕を彼の手から引き抜いた。

 

「芥川先輩個人(・・)を襲った密輸屋に対して組織(・・)として反撃などすれば、それはあらゆる組織を交えた大規模抗争の発生に繋がりかねません。それを避けるため、上層部(うえ)は構成員個人の(いさか)いとして捨て置くでしょう」

 

 まぁそれが分からないような人が、黒蜥蜴の十人長の立場にいるわけがない。彼も分かってて言ってるのだろう。

 

「芥川先輩は切り捨てられたんです」

 

 ていうか、いくらでも代えがきく下級の構成員ならともかくとして、芥川先輩くらいの人を見捨てるとか、ねぇ?知ってはいたけど信じられない。いくら鴎外さんがマフィア(組織)のトップだからって、少しは融通してくれてもいいと思う。

 

 まぁ融通してくれるなら、きっと中也さんを寄越してくれるだろう。

 

「だが、アンタ一人如きで何ができるってんだ!?」

 

「分かりません。何もできないかもしれません」

 

「だった「それでも!」ら…」

 

「それでも………何もしないなんて、できませんよ」

 

 愛想なんて欠片もない芥川先輩だけど、それでも長い間一緒に仕事してきた仲だ。

 

 原作どうのこうの関係なく、私は先輩を助けたいのだ。

 

 もう制止の声は聞こえなかった。

 





 これでも駆け足気味に書いてるつもりなんですけどね。まるで話が進んでないです。ごめんなさい。

 次回からサブタイ変えようと思います。


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第31話 接触

 気づけば30話を超えました。

 アクセス、感想、誤字脱字の報告、いつも有り難う御座います。

 それでは九月初の投稿です。



『あれで良かったの、オーナー。連れてきた方が良かったんじゃない?』

 

 移動を車ですると音とかでカルマドラムチプトに気づかれる可能性もあるので、私は原作と同じように倉庫街に続く道を走っていた。

 

 正直ダルい。とはいえ原作と違い、Liberated Flameを使っているので、かなり楽している。

 

「何がですか?」

 

『黒蜥蜴よ。分かってるでしょう?』

 

 まぁ黒蜥蜴の中でも特にあの三人のことだろう。

 

 そういえば最近ーーー鏡花ちゃんがいなくなってからーーーメトーデと話すことが多い気がする。

 

 いや別に話し相手がいないとかじゃあなくてね?単純に他の人と話す機会があまりないだけであって………。

 

 はい、世間でいうボッチですね。

 

「………別に。足手まといなので」

 

『心配してる?』

 

 メトーデはどこか私をからかうような調子で、そう言ってきた。

 

 しかし心配、か。

 

 原作が始まって以来、何かと不遇な目に遭っている黒蜥蜴だが、その実力は非常に高い。メンバーの一人一人が、特殊部隊に相当する戦闘技術を持っている。

 

 そんな彼らを心配するような出来事など、そう滅多に起こることはないのだが、今回だけは話が別だ。

 

 何せ原作にない展開が起きている(スノウドロップがいる)のだから。

 

 あれ一つに警戒し過ぎなのかもしれないけど、今まではなかったイレギュラーだ。これぐらいで丁度だろう。

 

「何を馬鹿な………」

 

 ただスノウドロップの警戒はしていても、彼らの心配はしていない。

 

(だってそんな必要ないくらいに強いし)

 

 特に百人長で、しかも異能力者である広津柳浪さんだ。何だよ指で触れたら問答無用で対象を弾く異能力とか、十分に反則過ぎるだろう。

 

 みたいなことをメトーデに愚痴ってるうちに、カルマドラムチプトがいる倉庫に着いた。

 

「ここですか」

 

『そうみたいね』

 

 他の倉庫と違って、中に何人もの気配がある。

 

 武装を確認してみた。

 

 先ほど武器庫から取ってきた、いつも使っているのと同じタイプのマシンガンと拳銃。

 

 同じく武器庫にあった小型手榴弾が幾つか。

 

 そしてLiberated Flame。

 

「じゃ、やりますか」

 

 手榴弾のピンを抜き、扉の隙間から倉庫の中に放り込む。

 

 爆発とほぼ同時にマシンガンの引き金を軽く引きながら、倉庫の中へ駆け込んだ。

 

 駆け込んだ勢いのまま二、三人を撃ち殺したその瞬間。

 

『オーナー避けなさい!』

 

「っ!!」

 

 メトーデの警告に従ってその場を飛び退こうとしたが、前後左右と上から射出された網に体を捕らえられた。足を踏み出すことも出来ず、網にもつれてその場に倒れ込む。

 

 いや網?

 

「ごめんね?残念だけど貴女の好きにさせるわけにいかないの」

 

 上から聞こえた声を追って視線を動かせば、重ねて積まれたコンテナの上に居た。彼女の淡緑の長い髪と同じ色の瞳が薄暗い倉庫の中で輝いている。

 

 レイシア級hIEスノウドロップ。

 

 BEATLESSのhIEの中で唯一所有者(オーナー)を持たず、単独行動が可能な機体。

 

 “進化の委託先(アウトソース)としての道具”である。

 

 

「貴女が来るのは知ってたから、待ち構えさせて貰ったわ。じゃあ早速で悪いけど」

 死んでね?

 

 スノウドロップの声に従って、全身を特殊な装備で整えた傭兵たちが銃を構える。

 

 そして一斉に火を噴いた。

 



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第32話 上司と部下

 昨日何か面白いのないかなぁ~と日間ランキングを見てみると、私の作品が18位にありました!有り難う御座います!!

 


 ーーーーーー否。

 

 傭兵たちが手に持つ銃器から、弾が吐き出されることはなかった。

 

 倉庫の出入り口の方から私の頭上を弾丸が通り、私を取り囲んでいた数人の傭兵を貫いた。

 

「え?」

 

 体を動かして後ろを見る。

 

 そこには武装を整えた黒蜥蜴がいた。

 

 何で?

 

 原作で黒蜥蜴がここに駆けつけるのは、樋口一葉が芥川先輩を助けるために、がむしゃらに動いたからだ。

 

 確かに私だって先輩を助けようと動いたけれど、がむしゃらにと自分で胸を張れるほどじゃない。

 

 私は樋口一葉(彼女)のように涙を流してない。

 

 それほどまでに必死じゃない。

 

「知らねえ顔は全員殺せ!!」

 

 だというのに彼らはここにいて、立原君はかなり好戦的な表情を浮かべ力強くそう吠えている。

 

 立原君の号令に従って、黒蜥蜴の構成員は敵に向けて銃弾を撃つ。

 

 銀ちゃんは縦横無尽に倉庫内を駆け回って手当たり次第に傭兵たちをナイフで斬り伏せ、立原君も銀ちゃんと同じように、十人長に相応しい活躍ぶりだ。

 

 そして百人長である広津さんは私の前に立ち、まるで私を守るかのように動いている。

 

貴方たち(黒蜥蜴)が、どうして……?」

 

 自然とそんな言葉が出た。

 

「貴女は我々の上司だ」

 

 ほとんど独り言でしかなかったそれに、広津さんは肩ごしに私へ向けて言った。

 

「上司の危機とあっては、動かぬわけにもいくまい」

 

 まるでそれが当たり前だという風に。

 

「……全く。そんな理由で動いたんですか」

 全然マフィアらしくないですね。

 

 少しだけ可笑しく思って、笑う。

 

「不満かね?」

 

「まさか」

 

 

「貴方たちは最高の部下ですよ」

 

 

 Liberated Flame、起動。

 

 絡みついた網を炎で焼いて立ち上がる。

 

「流石にこの距離だと熱いですね」

 

「………この状況で“異能”に目覚める、か」

 

 私が操る炎を見て、どこか嬉しそうにフッと口元を緩める広津さん。

 

 まぁ、確かにLiberated Flame(コレ)は一見だと異能力にしか思えないけど。それくらいのものだと自負してるけど。

 

 それでもこんな都合良く“異能”が発現するとか、普通に考えればあり得ないだろうに。

 

 この状況で、案外広津さんは冷静じゃないのかもしれない。

 

 しかし今ここには“異能”ならざる人智を超える力を知っているスノウドロップがいる。

 

 視線を広津さんから重なったコンテナの上にいる彼女に移してみれば、薄く輝く緑の瞳を真っ直ぐ私に向けていた。

 

 そして口を開く。

 

「Liberated Flame……。レイシア級hIEのType-004、メトーデのデバイス。それを持ってるってことは、貴女は私と同じなの?だとしたら随分と大胆な真似をしたのね」

 

 そう言う彼女はどことなく嬉しそうだ。

 

「何を訳のわかんねぇこと言ってやがる!!」

 

 依然として棒立ちのスノウドロップに、立原君が走りながら拳銃を撃つ。

 

 間違いなく直撃コースだ。

 

 キンッ

 

「は?」

 

 しかし間違いなく直撃したものの、響いたのは金属同士を打ち合わせたような甲高い音。

 

 スノウドロップは防御する素振りすらしなかった。

 

「ねぇ、貴女。確か、樋口一葉だったよね?貴女は私と同郷(・・)でしょう?色々と話したいことがお互いあると思うの」

 

 スノウドロップは平然と私に話しかけてくる。

 

 まぁ私にとっても初めて出会った同郷(・・)(多分)だ。色々と聞きたいことがあるのは間違いない。

 

 ………間違いない、のだが。

 

「そうね。こんな状況じゃなかったら、それも良かったかもしれないわね」

 

 意識して口調をメトーデのものに近づける。

 

「でしょう?だから「でもね」………何」

 

「少しは考えてから喋りなさい、クソガキ。貴女は私の敵なのよ」

 

「………貴女はあんな人を助けるつもり?」

 

「当然でしょう」

 

 胸を張る。それだけは私の気持ちだと、原作など関係はないと断言する。

 

 芥川先輩はマフィアの中でも指折りで実力者だけど、無愛想で残酷な上に冷酷。しかも部下とのコミュニケーションをほとんどしない。

 

 そんな上司としてどうなのかという人で、不満は多々あるけれど。

 

 それでも。

 

「芥川先輩は私の、私たちの上司よ」

 返して貰うわ。

 

 再びLiberated Flameを起動する。

 

 スーツ越しに朱いラインが浮かび上がった。

 




 


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第33話 想定外

 Liberated Flameを起動した私は、広津さんに芥川先輩を任せることにする。

 

「広津さんは黒蜥蜴を連れて、芥川先輩の奪還を」

 

「それは構わないが……君はどうするのかね?」

 

 広津さんの前に進み出て、スノウドロップと視線を合わせた。

 

「少しアレの相手を、ね」

 

 広津さんにそう告げて彼女目掛けて駆け出し、いや飛んだ(・・・)

 

 次の瞬間には顔を驚愕に染めるスノウドロップの姿が、私の視界に広がる。

 

「速い!?」

 

 そう言いながら身を翻し、少しでも私から離れようとするスノウドロップだが。

 

「遅い」

 

 彼女の右手首を掴んで、片脚で胴体を蹴り飛ばす。それもLiberated Flameで上げた、人間離れした身体能力で。ベキバキッと嫌な音を残して、スノウドロップは倉庫の入り口まで吹き飛んだ。

 

(あれ絶対受け身できてないよね?スッゴく痛そう)

 

 とはいえ、敵に容赦なんてしないが。

 

 それに痛そうというも、彼女が人間だった場合なのだけど。

 

 手に残ったスノウドロップの右手(肘から先)を見る。

 

 断面からは何本もの引きちぎれたコードと、何かよく分からん液体がポタポタと落ちている。筋肉も血管も骨もない。

 

 間違いなく機械のそれだ。

 

「速いのね」

 

「そういうアナタは思ったより弱いのね」

 

「うん。でも今度はこっちの番」

 

「させると思う?」

 

 明確な構えなんてものはせず、しかしいつでも動けるよう脚部に力を込める。

 

 すると何を思ったのかスノウドロップは、残った左手をまるで指揮棒のように振った。

 

 一瞬だけ彼女の全身が輝き、胸部と肩周りのデバイスが一際強く輝く。

 

 スノウドロップが何をしたのかを把握するのは、私よりもメトーデの方が速かった。

 

『オーナー死体を!速くっ!!』

 

 しかしメトーデの反応が異常なまでに速くとも、私がそれに反応するのは少しばかり遅かった。

 

「広津さん!」

 

 スノウドロップだけに注意を向けていたせいで、芥川先輩を連れ出す彼にそう言うことしかできなかった。

 

 死体が動く(・・・・・)というあり得ない事態に。

 

(カルマドラムチプトと傭兵の死体が……全部動いてる!?一体どうして。いやそんなことよりも数が多い。引き金に指を掛けてるから銃は使える?だとしたら、流石にこの数はマズい。急いで止めないと)

 

 しかし止めるにしてもどうすれば……。スノウドロップを破壊すれば止まるのだろうか?否、そんな確証はどこにもない。それよりも芥川先輩や広津さん達を守った方がいい?

 

 一体何をすればいいのか、どうするのが正しいのか分からず、頭の中でグルグルと思考だけが巡る。

 

 不気味に動く死体が、芥川先輩と広津さん達黒蜥蜴に銃口を向けた。その瞬間に芥川先輩の周囲にいる黒蜥蜴の前に移動して、Liberated Flameの炎で銃弾を防ごうとデバイスを起動する。

 

 

 そうしようとした次の瞬間に、死体は全て潰れた(・・・)

 

 

 僅かな沈黙が倉庫に流れ、直後に若い男性の声がそれを破る。

 

首領(ボス)の指示で来てみれば、何が起きてんだよ。死体を動かすとかどんな異能力だ?」

 

 小柄な青年だ。紳士的な黒が基調の服装で、黒いコートを羽織っている。オレンジ色の髪の上に洒落た帽子を乗せていた。

 

 彼は指をスノウドロップに向ける。

 

「で、手前が敵だな?そこの緑の奴」

 

 ポートマフィアが誇る五大幹部、其の一人。

 

 中原中也がそこに居た。

 

 

 

 

 

 

 ………タイミング図ってたわけじゃないよね、この人。

 




 実は中原中也の展開は、今皆さんから頂いた感想を読ませて貰っているときに、唐突に閃いたものなのです。

 今後も感想や誤字報告して頂けると、大変嬉しいです。


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第34話 虎。そして終わり

 1ヶ月も空けてしまい、ホント申し訳ありません。そして我ながらかなり出来がひどいと思います。重ねてお詫びします。

 それでは、どうぞです。



 

 何故か倉庫の壁を破って現れたのは、ポートマフィアの最大戦力の一人であろう中也さん。

 

 それを見た黒服の構成員たちが「あれって幹部の…」だの「どうしてここに?」だのざわつく。

 

 いいから早く先輩を外に連れてけや。

 

「うわ、ホントに来た………」

 

 中也さんに視線を向けて思わず呟いてしまった。それが聞こえたのか、彼にギロリと睨まれる。

 

「色々と言いてえこともあるが、一先ずは置いとく。後で説明しろ」

 

 そう言う中也さんへの対応を広津さんに丸投げし、私は彼の異能によって潰れた死体に近づいた。

 

 

 死体には花が咲いていた。彩り鮮やかな花びらが、まるで蛆虫のように集っていた。

 

 

 一瞬の驚愕の後、納得する。

 

 なるほど。スノウドロップのデバイスであれば、あるいはこういうことも可能ではあるかもしれない。

 

「へぇ?スノウドロップも、なかなか面白いことするじゃない」

 

 さしずめ、人間をhIEの代わりにしたってところか。

 

 スノウドロップを見れば彼女は自分を守らせるためか、周囲に死体を並べている。その全てが一度潰れたものだが、無理やり花で人の形を保たせていた。

 

 幹部の中也さん相手には、焼け石に水ほどの効果もないだろうに。無駄なことをする。

 

 そう思い中也さんの隣に移動した。

 

「中也さん。どうしたんですか?あれくらいの相手なんて、敵じゃないですよね?」

 

 スノウドロップに直接的な戦闘能力がないことは、彼ならば分かっている筈だ。

 

 しかし彼の顔は険しい。

 

 まるでスノウドロップではない、何かを警戒しているような………。

 

 唐突にスノウドロップから視線を外し、彼はに私たちに指示を出す。

 

「今すぐ芥川を連れて此処から離れろ!全員だ!!」

 

「いや急に何、を………」

 

 ようやく私も気づいた。

 

 ()の気配がすぐ側にある。

 

「中也さん、一体何が!?」

 

「いいから速くしろ!来るぞ!!」

 

 彼がそう言った直後に、倉庫内を炎が埋めた。

 

(メトーデ風を使います!)

 

『補助くらいはしなさいよ、オーナー』

 

 メトーデが言い終わってすぐに、私の視界に数式が山ほど現れる。

 

 これはLiberated Flameを使うのに必要な演算式。それをメトーデ(AI)と変わらぬ速度で彼女と共に解いて、Liberated Flameの機能を使用する。

 

 私はBEATLESSでメトーデ、いや超高度AIのヒギンズがしたように、デバイスの能力を応用して風を起こした。

 

 その風で自身と広津さんたちを覆って、突如として現れた炎から守る。

 

 中也さん?自分で何とかしてるからいいや。

 

「初めて試したけど、案外上手くやれるものね」

 

 ぶっつけ本番なんて二度としたくないが。

 

 一言呟いて、炎の原因に視線を送った。

 

 

 

 

 

 

 

 そこにいたのは一匹の虎だった。

 

 

 文豪ストレイドッグスで虎といえば、中島敦に他ならない。が、あの巨大な虎は彼ではない。彼は炎を扱うなどできはしない。

 

 では何か?

 

 見間違いだと思いたい。しかし間違いなくあの虎に私は、私だけは見覚えがあった。

 

 あの赤い虎は。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーあれは羽川翼(わたし)だ。

 

 

「速く倉庫から出ろ!急げ!!」

 

 私たちの方を見もせずそう言ったに中也さんは、瞬時に虎へと駆け寄りその巨体へと蹴りを放った。

 

 虎の喉元に蹴りが突き刺さる。さらに突き刺した片脚を軸にして、回し蹴りで虎を吹き飛ばした。

 

 ここまで僅か数秒である。流石は幹部といったところ。

 

 何が何だか分からないけど、あれは中也さんに任せていいか。

 

 私はスノウドロップを見た。彼女は何が起きているか判断できないのか、跡形もなく燃え尽きた死体に何の反応もせずに立っている。

 

「またね?」

 

 私にだけ視線を向けて手を振った。

 

「お断りよ」

 

 そう言ってスノウドロップにLiberated Flameの炎を叩きつける。

 

 しかし予想していたのか、彼女は危なげなくそれを躱した。それから人間離れした脚力で、あっという間にここからいなくなる。

 

『追わないの?オーナーならまだ追いつけるわ』

 

 メトーデの言う通り、今なら追いつけるだろう。

 

 しかし私を除いた全員が既に倉庫の外に出ているので、それをするのは流石にこう………………何か気まずい。

 

「次に会ったときが貴女の最後よ」

 

 吐き捨てるようにそう言った。

 

 倉庫の中にも外にも、既に虎の気配はない。どうやら中也さんが追い払ったらしい。

 

 倉庫の外に出て、芥川先輩を中心にして固まっている広津さんたちの所に足を運ぶ。それから道を空けて貰い、右手のデバイスを外して先輩に近寄った。

 

 彼の顔を覗き込んだら、普通に目を覚ましている。

 

「樋口、か……?」

 

「はい、先輩」

 

 そりゃあ、まぁ。さすがにあれだけ騒がしくしたら起きるか。

 

 私が彼の手を遠慮がちに握りしめると、意外なことに芥川先輩は握り返してきた。

 

 思わず視線を合わせる。

 

「……世話をかけるな」

 

 顔を背けながらもそう言う先輩に、どう返答すればいいか分からない。

 

 そんな思いの外子供っぽい先輩の様子に、少し見惚れた。

 

(この人もこんな顔するんだ)

 

「仕事ですから」

 

 結局こう応えて、笑った。

 

 スノウドロップのことやあの虎のこと。そしてこれから襲い来るであろう組合(ギルド)のこと。

 

 考えるべきことは山ほどある。

 

 けれどき今はきっとこれでいい。

 

 

 当たり前みたいにこの人の手を握れていれば。

 




 
 一先ずこれでアニメの一期を完結といたします。

※ロクでなし魔術講師と禁忌教典でも書き始めてみました。よろしければそちらもお願いします。


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幕間
一話


 此方の作品ではお久しぶりです。アニメ三期が始まったので続きを書きます。待ってくれている人がいるなら嬉しく思います。
※久々すぎてキャラ崩壊あるかもしれないです今後


 ーーー異能力。

 

 それは常識では到底考えられない、そんな現象を引き起こす常人ならざる特殊な力。

 

 大抵の場合、人が異能(それ)に目覚めるときには何かしらの契機があるという。

 

 

 で、あるならば。

 

 

 異能力が目覚めるまでの経緯、そしてその結果に得られる異能力が分かっているのであれば、望む異能()を手に入れられるのではないか?

 

 かつて私はそう考えーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー“■■の■”を手に入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

<side中島敦>

 

 探偵社きっての名コンビである太宰さんと国木田さん。まだ社員としては新人の域を出ない僕と、つい先日に探偵社員になった鏡花ちゃん。そして社長の五人が乗っている車は、国木田さんの運転で走っていた。

 

「まだ、着かないか」

 

「まだですね社長。まぁ、あと一時間もすれば着きますよ」

 

「そうか」

 

 社長は太宰さんの言葉にそう呟くと目を閉じて腕を組んだ。

 

 僕らが向かっている場所は以前会った情報屋の女性、羽川翼さんの生まれ故郷だという所。

 

 何故そうしているかというと、先日このメンバーで行われた会議が関係している。

 

 

 

 

 

 

 

 鏡花ちゃんが探偵社の社員になって、組合(ギルド)という海外の異能組織から襲撃があった日の翌日。

 

 次の日には羽川さんの故郷に赴くメンバーが探偵社の会議室に集まっていた。それを見回して社長は口を開く。

 

「つい先日、組合なる組織から社員への攻撃があったことは承知しているな」

 

 社長がそう言った瞬間に、僕と鏡花ちゃんに集まる視線に無言で頷いた。

 

 ルーシーという名の、組合の構成員である少女から襲撃を受けたのは記憶に新しい。

 

「組合は強い。ポートマフィアと同等か、場合によってはそれ以上の脅威となるだろう」

 

 社長の言葉に太宰が声を上げた。

 

「それは分かりますが、社長。だからといって、戦力増加を兼ねた新しい社員のスカウトというのは些か無理がありませんか?そもそも当てはあるんですか?」

 

 太宰さんの言う通り、僕や鏡花ちゃんが立て続けに入社したから実感はあまりないけれど………本来なら探偵社に新しい社員が入るなんてことは相当稀な筈だ。

 

 しかし国木田さんは静かに言う。

 

「いや、当てならあるぞ太宰。それに小僧、何を呆けた面をしている。お前は一度会っているだろう」

 

 国木田さんに言われて当てというものにようやく思い至る。

 

「もしかして、羽川さんですか?」

 

 脳裏に浮かんだのは、長い黒の髪を三つ編みにして眼鏡を掛けた制服姿の女性。

 

 羽川翼。横浜にある一つのデパートのフードコートで顔を合わせた情報屋。

 

「そうだ」

 

 そう言ったのは社長だ。

 

「今まで先延ばしにしていた彼女からの依頼ーーー『羽川翼の調査』を終わらせる。明日に私を含めたこの場にいる全員で、彼女の故郷に赴く。総員、準備を怠らぬように」

 

 そして場所は変わり探偵社の職務室で、自分の椅子に腰掛けた太宰さんは、国木田さんに話しかけていた。

 

「羽川翼、ねぇ……私は会ったことないけれど、噂くらいは聞いてるよ。何でも、横浜随一の情報屋らしいじゃあないか」

 

 だよね、国木田君?と言われた国木田さんは、手帳を開いて「あぁ」と端的に返事をする。

 

「ねえ、羽川翼って?」

 

「あー、そうだよね」

 

 その時鏡花ちゃんに尋ねられ、当然のことだが鏡花ちゃんあの人のことを知らないことに気づく。

 

「僕もあまり知らないんだけど」

 

 そう前置きしてから、羽川さんについて纏められた資料を鏡花ちゃんに渡した。その一枚目にある彼女の写真を指差す。

 

「この人が羽川翼さん。彼女と探偵社はそれなりに付き合いがあって、僕らがここに来る前に社長からスカウトを受けたこともあるらしいよ。断ったみたいだけど………鏡花ちゃん?」

 

「………ううん。何でもない」

 

 そう言って首を振る鏡花ちゃんはしかし、羽川さんの写真を見て何か驚いているように見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 で、今に至る。

 

「社長、着きます」

 

「そうか」

 

 国木田さんの言葉に何とはなしに車内から窓越しに外を見た。

 

 来たのは新潟県上越市の一部、直江津という地域。山間部にあって喧騒からは縁遠く、横浜と比べると田舎の雰囲気が漂っている。

 

「ふぅん……ここが羽川翼の生まれ育った街、ねぇ」

 

 太宰さんは窓に頬杖をしながら呟いた。

 

 




 探偵社はしばらく出てきません。次回からはマフィア側の視点です。


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二話

 今後しばらくマフィア側……樋口側の話です。自分でも無駄に長く書いているなぁと思うのですがご容赦下さい
※マフィアの首領、森鴎外の一人称を間違えていたことをお詫び申し上げます


 あれから、芥川先輩がカルマドラムチプトの残党に攫われてから数日が経った。たったそれだけの間に、なんと先輩は負った傷のほとんどを癒やした。

 

(いやオカシイ)

 

 あれだけの傷は普通、こんな短期間で治らないだろう。人間の身体はそんな風にできてない。

 

「樋口、まだ任務はないか」

 

「ありません。病み上がりなんですから、大人しくして下さい」

 

 ない、というより他に回している。リハビリついでに軽いものなら先輩に伝えても良かったけど、これから先は組合(ギルド)との抗争がある。

 

 ので、少なくとも完治するまでは大人しくして貰うつもりだ。

 

 しかし何を思ってか、先輩は私の家に入り浸っている。まぁ前に合い鍵を渡したことだし、気にするようなことでもない。

 

 朝食の片付けをしている途中、ピリリと私の携帯が鳴った。ポケットから取り出して画面を開く。

 

 首領(ボス)、鴎外さんからだ。

 

「はい、首領」

 

『やぁ樋口君。何、先日の件で臨時の幹部会を開くから、君にも出席して貰おうと思ってね。ところで芥川君が何処にいるか知らないかい?」

 

 ………組合のことがあるから、臨時の幹部会が開かれるのは分かる。けどそれに私が呼ばれるということはだ。

 

(スノウドロップか虎、もしかしたらその両方について?)

 

 あれは幹部の一人である中也さんも介入したほどの出来事だったのだ。鴎外さんに情報が届いていないなどあり得ない。

 

「先輩なら私と一緒にいます。代わりますか?」

 

『いや、それには及ばない。でも丁度良かったよ。彼も連れて来てくれ給え。芥川君にも君の事を説明したいからね』

 

「いいんですか?」

 

 何て言ったって元より首領である鴎外さんの決定に異議を申し立てても仕方ない。この状況にまでなって、隠し続けた方が組織にとって不利益になるとでも思ったんだろう。

 

 それはそれとして。

 

「分かりました。ちなみに幹部会はいつからですか?」

 

『ん?今からだが』

 

 ブチッ

 

 通話を切り携帯の画面を閉じた。

 

「首領からか?」

 

「えぇ、はい。芥川先輩と私は幹部会に出席せよとのことです」

 

 こんな言い方じゃなかったけど内容は合ってる。

 

 私がスーツに着替えたりと準備をしている間、先輩にはゆったりと茶を飲んで待ってもらう。

 

 ………着の身着のままでいいからって呑気だな。

 

 

 

 

 

 

 

<side芥川龍之介>

 

 首領との通話を終えてすぐに、いつものスーツに着替えるため私室に入った樋口に扉越しに話しかけた。

 

「お前は首領と連絡を取れるのか?」

 

「え?はい。そんなに頻度があるわけではありませんが」

 

 返ってきた言葉に「そうか」と呟く。

 

 マフィアの構成員は数多くいれど、その中で首領と連絡が出来る者など一握りしかいない。通常、首領が何者かに用がある場合は、専用の連絡員から一方的に指示を伝えられるか呼び出しを受ける。

 

 首領と電話一つで話が出来るなど、幹部くらいのものだろう。

 

(だが“ない”とも言い切れん)

 

 思えば首領に認められるだけの腕はあったとしても可笑しくない。

 

 樋口は僕の部下だ。そうなった当初こそ特に何も思いはしなかったが、今ではポートマフィアの古参である広津柳浪よりも信を置いている。

 

 任務で使用する物資や武器、そして移動手段の準備。黒蜥蜴への伝達と警察に対する情報攪乱。任務後の逃走経路の確保に加え周辺カメラのハッキング。その他諸々。

 

 …………………思えば樋口に任せてきた事柄は多岐に渡る。改めて考えてみれば、よほどのことでない限り任務がある際は真っ先に樋口に連絡をしていた。

 

 頼って、いたのだろうか?

 

「以前の僕ならこのようなこと、考えることもしなかっただろう」

 

 小声で呟く。

 

 ただあの人の背中を、太宰さんの姿だけを求めていた。今とてそれは変わらない。心の根底には常に彼の人が居る。

 

 ーーーしかし

 

「先輩お待たせしました…………先輩?何か考え事ですか?」

 

「いや、そういうわけではない。それより準備は出来たのか」

 

「はい」

 

 少しばかり周りを気にする程度に余裕ができたのも事実。

 

「では行くぞ」

 

 僕自身が信を置くと言っている、一人の部下のことくらいは知ろうとそう思ったのだ。

 




 本当に久し振り過ぎて書くのが難しい……それにしても芥川先輩丸くなり過ぎでは?と書いてて思いました


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三話

 こっちの方ではお久しぶりです。いや本当に久しぶり過ぎてもはや笑うしかない。アニメ三期を放送してる内に投稿しようと思ってたのですが、アニメの三期やってたのいつだよいい加減にしろと自分に言いたい。


 私と先輩が臨時の幹部会が開かれているビルディングに着いたのは、鴎外さんから連絡があった約三十分後だった。

 

「樋口」

 

 静かに上へ向かうエレベーターの中で、芥川先輩に話しかけられた。

 

「何でしょうか?」

 

「それは何だ?」

 

 先輩が指差したのは、私が手に持つアタッシュケース。中身は別に危険物というわけではな………いや良く考えたら危険物の部類なのかもしれない。

 

「恐らく首領の前で説明することになりますので……その時に」

 

「そうか」

 

 黙った先輩から視線を外し、持ってきたアタッシュケースを握り直す。動きを止めたエレベーターから降りて、薄暗く長い廊下を歩いた。

 

 そして両開きの扉の前で足を止める。私が身嗜みを軽く整え終えると、芥川先輩が扉を叩く。

 

「首領、芥川です。入ります」

 

 

「ーーーーーー入り給え」

 

 

 部屋の中にいたのは三人の人物。

 

 黒い帽子を被り同色のコートを肩に羽織る。成人男性にしてはやや小型なその人は五大幹部の一人、中原中也。異能力ーーーーーーーーーーーーーーー『汚れつちまつた悲しみに』。

 

 そして彼の向かいに座っている豪華な和服に身を包んだ女性。側には閉じた唐傘を置いてあり、上品な仕草で口元を隠す。

 

 中也さんと同じく五大幹部の一人、尾崎紅葉。異能力ーーーーーーーーーーーーーーー『金色夜叉』。

 

(さっきから凄い殺気が……)

 

 こう、ヒシヒシといった感覚がして仕方ない。この部屋に入った瞬間から、彼女はまるで仇でも見るかのように私を睨んでいる。

 

 ……心当たりは正直ある。多分、いや間違いなく鏡花ちゃんのことだろうけども、まぁ一先ずは置いておくとしよう。

 

「よく来てくれたね、二人共」

 

 そして最奥にて微笑を浮かべる、黒を基調とし赤い意匠のコートを着込み、白い手袋をした指を組み合わせ優雅に佇む男性。

 

 ポートマフィアを束ねる首領ーーー森鴎外。異能力ーーーーーーーーーーーーーーー『ヰタ・セクスアリス』。

 

 私と先輩は鴎外さんに促され、近くにある椅子に腰掛けた。すると彼は芥川先輩ではなく私を指差し口を開く。

 

「さて、話を始める前に。芥川君はともかく何故樋口君がこの場にいるのか、まずそれを説明しないといけないね」

 

「先日こいつが見せた炎………異能についてではないのですか?」

 

「ふむ、それもあるが……とりあえず彼女の立場をはっきりさせておこうか」

 

 中也さんの発言にそう言って再び優雅な動作で指を組んだ鴎外さんは、僅かに口角を釣り上げたような気がした。

 

「樋口一葉はポートマフィアの次期幹部候補。私個人としては、すぐにでも相応の地位を与えたいと思っているのだよ」

 

 それを聞いた芥川先輩は少なからず驚いているようだった。




 今後アンケートやりたいと思います。内容は今後の主人公の立ち位置をどうするか?みたいな感じです。


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四話

 アンケート出しました。良ければご協力お願います。


 そもそも前提として、私と芥川先輩や中也さん達では、一口に功績と言ってもその方向性がまるで違う。

 

 彼らは基本的に積み重ねた死体の数と、組織に出した利益で今の立場に存在している。だがそれと比べると、私が人を殺してきた数は決して多くない。

 

 そんな私が幹部候補であるのは、情報面・技術面で………自分で言うのも何だが、エキスパートだから。その点で私はマフィア内で鴎外さんから、全く有り難いことに高い評価を得ている。

 

 人類未踏産物(レッドボックス)の技術の一部を鴎外さんに渡したり、時にマフィアの情報部で働いたりもした。というか情報部で働いていた時には、そこの指揮を取らされたこともある。

 

(いやまぁ、それは置いくとして)

 

 一番分かりやすい私の功績はやはりコレだろう。

 

 鴎外さんが壁に映し出した映像に視線を移す。

 

 宇宙(そら)に浮かび地球の軌道上を廻る人工衛星。銘を『黒闇天』。レイシア級hIEのデバイスを生み出す過程の技術を詰め込んだ、紛れもなく私の集大成の一つだと言える。

 

 凡百(あらゆる)レーダーから察知されないステルス機能と光学迷彩。さらには国が使うレベルのスーパーコンピューター複数台分を搭載した代物。

 

 主な用途はポートマフィアが抱える情報の防衛や独自の通信手段の確立で、必要になれば地上にある凡百電子機器を介しての情報収集なども可能だ。

 

(というか、マフィアの抱えてる情報の量がちょっとおかしいと思うんだよね)

 

 マフィアが保護する企業や商店、麻薬売買等の取引相手、闇カジノの開催場所、武器や金の保管位置、構成員の情報などなど。いざ数え出したら切りがない。

 

 情報部に勤めていた時期にあまりの忙しさから、「やってられるか!」と『黒闇天』の設計図を首領に叩きつけた出来事がもはや懐かしい。

 

 最終的に『黒闇天』を操作する端末を渡したときは珍しく声を上げて笑っていたなぁ。そんなに嬉しかったのだろうか?

 

 にしても、さっきから突き刺さる視線が痛い。けど芥川先輩はあまり興味がないのか、何というか凄い退屈そうにしている。

 

首領(ボス)。樋口が情報戦に特化している、故に貴方から幹部候補という扱いを受けるのは理解した。話を進めては如何か」

 

「ふむ、そうだね。樋口君を呼んだのは少しばかり聞きたいことがあったからだ。そしてそれをこの場にいる全員で共有するためでもある」

 

 先輩の言葉にそう言って鴎外さんは一度喋るのを止めたかと思うと、すぐに私に視線を合わせて再び口を開いた。

 

「スノウドロップという緑色の少女について、君が知っていることを教えて貰おうか」

 

(やっぱり、そのことは聞かれますか)



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五話

 もう4月も終わりますね。


 

「スノウドロップという緑色の少女について、君が知っていることを教えて貰おうか」

 

 沈黙することは許さないと言わんばかりに、鋭い眼光を放ち鴎外さんはそう言った。鴎外さんの瞳を真っ直ぐに見つめ返し、私は「勿論」と頷く。

 

「間近にてスノウドロップを視認した中原幹部は気づいたことでしょうが、アレは異能力者でもなければ人間ですらありません」

 

「そんなの見れば誰でも分かる。千切れた腕からは血も流れてねぇし、そもそも目がカメラか何かだった………ありゃロボットか?」

 

 ………中原さんは誰でも分かると言うけども、黒蜥蜴の十人隊長の立原君は分からなかったみたいです。広津さんはそうでもなかったのかな?

 

「端的に言えばその通りです。そしてスノウドロップ本体には戦闘力がほぼないのですが、所持しているデバイスの機能が非常に厄介なものになります」

 

 彼女のデバイスであるEmerald Harmonyの詳細を言う前に、戦闘力はないにしても並のマフィア構成員を上回る身体能力があるであろうことは言っておいた。

 

「そのEmerald Harmonyという、スノウドロップのデバイスを説明するに当たって、ご覧いただきたい物を持って参りました」

 

 アタッシュケースをテーブルの上に置く。視線だけでケースを開く許可を鴎外さんに求め、頷かれたのでゆっくりと開けた。

 

 ケースの中身は緑色に輝く薄いドレス。硬質さを感じさせる外殻と生地の裏側には、歯のような部分が存在している。

 

「「「「………………………………………………」」」」

 

 それを見た鴎外さんは思わずといった風に頭を抑え、芥川先輩にたった一言だけ言葉を放った。

 

「芥川君、それを破壊し給え」

 

「御意」

 

 芥川先輩は短く了承の意を示して、黒外套を複数の黒刃に変化させケースに向けた。そしてどこか責めるような目付きで私を睨む。

 

「樋口、お前が何を考えこれを持ち入れたか分からぬが………首領の命だ。この怪しげな機械は破壊する」

 

「は?………は!?」

 

 Emerald Harmonyを壊す!!?そんなの冗談じゃない!

 

「待って下さい首領!芥川先輩も『羅生門』を展開するの止めて下さい!え?いやまさか本気で壊すつもりじゃ………?ちょっとホントに止めて下さい!!?それ一つ造るのにどれだけの手間と金銭を費やしたことかって、あっ!駄目です!!ちゃんと説明もするのでお願いですから止めて下さい!!!」

 

 ………………………………………どうにか即座の破壊は免れることができました。

 



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六話

 
 4月26日の日間ランキングで14位でした!ありがとうございます!!
 …………かなり前の話ですね。



 

〈side森鴎外〉

 

「なるほど。つまり樋口君の言い分としては、これはあくまでもスノウドロップのデバイスを、君が再現したものだと………そう言いたい訳だね?」

 

「………………………………はい」

 

 これ樋口君が拗ねたと、そう考えた方がいいのかな。

 

 芥川君との距離を先ほどまでよりも空けているし、それでいてアタッシュケースへすぐに手を伸ばせれる位置にいる。珍しく芥川君も戸惑っている様子だ。

 

「問答無用で壊そうとした私も私だが………その機械の危険性は少なからず理解しているのだから、当然と言って然るべき反応だろう?そもそも私か芥川君に、何か一言あった方が良かったんじゃないかな?」

 

「今度エリちゃんに首領が私の物を壊そうとしたって言いつけますから」

 

「すまない、私が悪かったよ。ここはお互いに穏便に済ませようじゃないか」

 

 一瞬で手の平を返す。エリちゃんは樋口君を気に入っているし、樋口君もエリちゃんを可愛がっている。エリちゃんは恐らく樋口君の味方をするだろう。幹部の二人と芥川君からの視線が厳しくなった気がするが、気のせいというものだろう。

 

「………では実際に、Emerald Harmonyを使いつつ説明していきます」

 

 彼女が用意したのは一台のパソコン。それはマフィアのサイバー担当の者達がセキュリティを組んだものであるらしい。

 

「スノウドロップはデバイスで花弁の形をした端末を生み出し、それを付着させた機械類を支配下に置きます。また、この歯のような部分で機械を砕き、直接それに含まれた情報を取得します」

 

「それで?死体を操ることは可能なのかな?」

 

「神経に直接埋め込めば、あるいは。ただ指で摘めば潰れるような代物なので、そう簡単に生きた人間には埋め込めないでしょう」

 

 樋口君はそう言うと花弁の一つを摘み上げて、挟んだ指で潰してみせた。そしてまた一つの花弁を持ち上げ、電源も付いていないパソコンに落とした。

 

「ほぅ」

 

 すると瞬く間にパソコンの画面に明かりが付き、そしてあっという間にパスワードを解除。保存されていたらしいデータを次々と抜き取り、最終的には初期化までしてしまった。最後に微かに火花を散らしてショートする。

 

「一度スノウドロップに支配されれば、もう二度と戻ることはありません。ですが万が一にも取り付かれた場合は、すぐに叩き落とすか燃やせば最悪の事態は避けられるかと」

 

「そんなことで良いのかい?」

 

「所詮この花弁は、樹脂を膨らませたものでしかありませんから」

 

 しかしそれでは、根本的な解決にはならない。

 

「ご心配なく。スノウドロップのデバイスを無力化する手段は、既に用意してあります」

 

 そう思った直後に、樋口君はそう言った。

 




 そろそろ幕間を終わらせてアニメでいうところの二期に入りたい。


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七話

 
 少し視点を変えて探偵社側。これからは視点がコロコロ変わるかも(字数稼ぎのためか)。



 

〈side中島敦〉

 

「国木田と太宰は街で聞き込みを行え。その間に私達は羽川翼がかつて住んでいた住居に行く」

 

「分かりました」

 

 国木田さんはそう言うと太宰さんを連れて行った。そして社長は僕と鏡花ちゃんに「行くぞ」と言って歩き出す。

 

「社長、羽川さんの今の拠点は横浜ですよね?いくら彼女の故郷でも、実家とかが残っていると思えないんですが」

 

 探偵社がこれまでに調べたところによれば、羽川さんには親類縁者はいないらしい。幼い頃に両親を失ってからは、誰に頼ることもなく情報屋として生計を立てていたようだ。

 

「詳細は分からんが、彼女が希望して残してあるそうだ。そしてそうである以上、何かしら意味もあるだろう」

 

 僕と鏡花ちゃんの前を歩く社長の足には迷いがない。それは羽川翼ならそうすると確信、あるいは信頼しているからだろうか。 

 

(それにしても………鏡花ちゃんはどうしたんだろう?)

 

 さっきから羽川さんの写真をじぃっと眺めては首を傾げるを繰り返している。気になりはしたけど、それを聞くよりも先に目的の場所に着いた。

 

 かなり大きい家だった。広い庭もある一軒家で、誰も住んではいないが手入れは定期的にされているのが見て分かる。

 

 しかしそれでも不気味な印象があった。

 

「何だか、嫌な雰囲気がありますね」

 

「………入るぞ」

 

「「はい」」

 

 

〈sideout〉

 

 

 

 

 

〈side国木田独歩〉

 

「それにしても良かったのかい、国木田君。敦君たちに隠したままで」

 

「………何のことだ」

 

「いや敦君に羽川翼の調査録を渡す時にね、君はその内から何枚か抜き取ってたじゃない?社長が何も言わなかったから、私も特に指摘はしなかったけど」

 この現状で社員に隠し事は、流石に良くないと思うよ。

 

「ーーーあぁ、そうだな」

 

 太宰の言う通りだ。羽川翼を本格的に探偵社に迎え入れる為に行動している今、彼女に関する事柄は共有すべきだ。

 

 だが。

 

「だが、敦も鏡花もまだまだ子供だ」

 

 だからこれは、俺の我が侭でしかない。悲惨という言葉では足りない羽川の境遇を、あの二人に伝えないままで調査を終わらせたい。

 

「横浜という土地で武装探偵社に所属している以上、人の心の闇とでも言えるものに触れることもあるだろう」

 だがそれは、少なくともあの時でなくても良かった筈だ。

 

「いつもの理想かな?」

 

「違うわ、馬鹿者。言った通り我が侭でしかなく、理想などとは程遠い。しかし必要となれば社長が自ら言うだろうし、そもそも羽川の実家まで見て違和感の一つも感じないのであれば、探偵としての腕を鍛えねばならん」

 

 そう言うと俺の発言に何か違和感を覚えたのか、太宰が首を傾げてこう言った。

 

「あれ、国木田君は彼女の自宅を見たことがあるの?確か探偵社がこうして直江津町に来るのは、初めてのことだったと思うけど」

 

(…………………………………………………………あ)

 

 口を滑らせてしまったようだ。

 

「………もしかしてだけど国木田君、いやまさかとは思うけどね国木田君」

 

「何だ太宰何か言いたいことでもあるのかあるなら言ってみろ」

 

「君、羽川翼から情報を買ったりしてないだろうね?」

 

 ーーーいやちょっと待って下さい国木田さん。確かに私それ禁止してませんけどえっ?本気ですか?まぁ江戸川さんの異能力を借りないこと以外は特にでも、うーん………今回だけですよ?

 

「………………………決してその内容を他言しない。そういう条件で、買った」

 

 それも一つではない。

 

「うわぁ」

 

 止めろ。そんな目で俺を見るな太宰。

 



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八話

 
 親類縁者に回させた10連ガチャで、伊吹童子を見事に引き当てた!肌の色を見て「ナニコレ………」とか言ってたけど、まぁ非オタだし仕方ない。けどマジで感謝しとります。



 

 つい先程まで首領と幹部二人と先輩に囲まれていて、いざスノウドロップ対策を語ろうとしていた私は今、大急ぎで自宅へと舞い戻っていた。

 

 その理由は、突如メトーデから送られた一枚の画像とたった一言。

 

『探偵社が直江津町に向かっている』

 

 思わず説明も途中で放り出してしまったのだが、行き先を言っただけである程度は察してくれたのか首領は特に責めるようなことはしなかった。有り難い。今度エリちゃんにドレスを多く用意するとしよう。

 

(それは置いといて、今は急がないと)

 

 メトーデ曰く、探偵社は既に直江津町に到着しているらしい。ただでさえあの虎が次に出てくるなら、羽川翼の故郷である直江津町の可能性が非常に高いというのに………そこへ情報屋としての関わりがある探偵社が訪れたりしたら、ほぼ確定で虎は姿を見せる………と思う。

 

 実際に、情報屋として誰か(主に探偵社)と会うときに使用していたデパートは、もう虎によって燃やされていることだし。

 

「どうして彼らは、このタイミングで直江津町に」

 

『そんなの分かりきってることでしょう?』

 

「………組合は本当に、余計なことしかしませんね」

 

 つい先日に探偵社が、組合から襲撃されたのは知っている。何ならマフィア(うち)の施設も幾つかやられた。だから彼らが戦力増強を兼ねて新しい人材………今回の場合は羽川翼を求めて動くのは分かる。

 

(だからって別に今じゃなくても………前みたいに拉致られた方がまだ)

 

 って、いやいや。拉致されるのがマシな筈がない。普通に羽川翼に依頼を出すだけでもいいのに。

 

 それはさておき、今回は羽川翼として行く必要があるのでデバイスは使えない。だけど、なるべく早く直江津町には行きたい。

 

「ーーーでも、それで」

 

 直江津町に行って、それから虎と対峙したとして………その後は一体どうすればいいのだろう?

 

「考えても仕方ない、よね」

 

 スーツを脱ぎ捨てて下着だけの姿になる。結んでいた髪を解くと、髪の色が金から白へと変わっていく。最低限の着換えなどを入れただけのリュックを背負い、窓を開けてそこから外へと飛び出した。

 

 

 

        にゃあ  

 

 

 

 

 

〈side中島敦〉

 

 その家の中には、羽川さんが過去に使用していたと思われる教科書や制服があった。服の類は丁寧に置かれているし、使われていたであろう布団や食器も確認できた。

 

 ぐるりと一周してからもう一度見て回る。さらに念の為にともう一度。家の中を一周する度に社長から怒気が溢れ出す。

 

「敦、鏡花。気づいたか」

 

 社長からの静かな問い掛け。それに間髪入れずに僕らは答える。

 

「この家には、羽川さんの部屋がないです」

 

「ここに羽川翼の居場所はなかった」

 

「そうだ」

 ーーーここは彼女にとって生活を送る場でこそあれど、断じて居場所などではなかった。

 

 そう言って強く拳を握る社長から視線を外す。

 

(僕も同じだ)

 

 住んでいた孤児院に居場所はなかった。理不尽な暴力に晒された。誰が助けてくれることもなかった。

 

 生まれた場所や育った場所が、その人にとっての居場所であるとは限らない。

 

「ッ!………下がれ!!」

 

「ぐえっ!?」

 

 社長の言葉に迅速に従った鏡花ちゃんによって、首根っこを掴まれたまま勢いよく後ろへと飛んだ。

 

 直後に凄まじい熱気が辺りを覆う。思わず目を瞑り、両手で顔を庇った。

 

(何だ、これ)

 

 目を開けると、炎が駆け巡っていた。そして羽織りの内側に持っていた刀を構える社長の前には、一匹の赤い虎がいる。

 

「敦、鏡花と共に周辺住民を避難させろッ!そして国木田と太宰を呼び、付近を警戒し不審な輩が居れば抑えるのだ!!この虎は異能力による産物………近くに異能力者がいる可能性もある」

 

「わ、分かりました!」

 

 鏡花ちゃんを抱えて、両脚を異能力で変化させる。その強靭な脚力を以て、僕は一気に外へと飛び出した

 



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九話

 
 マジでもう今年が終わりそうですね。しばらく毎日投稿が出来たらいいなぁ。



 

〈side中島敦〉

 

 鏡花ちゃんと付近の住民を避難させて間もなく、連絡を入れてそう時間も経たずに国木田さんと太宰さんと合流できた。

 

「小僧、何があった!?」

 

「異能力者の襲撃です!今は羽川さんの家で、社長が異能力で生み出された赤い虎と戦っています!!僕たちは見つけれませんでしたが、もしかしたら付近に異能力者がいるかもしれません!!」

 

「!?太宰、お前は今すぐに社長の応援に「その必要はないみたいだよ」何?」

 

「だってほら、炎が消えている」

 

 太宰さんの言う通り、いつの間にか炎は消えていた。

 

「社長が撃退したか、それとも襲撃犯が目的を果たしたか………とにかく社長と合流しよう。特に被害を受けた方もいないようだしね」

 

「………そうだな。しかし異能力者の襲撃となると、やはり組合かポートマフィアか?」

 

 

「どっでもにゃいぞ」

 

 

 頭上から降った誰かの言葉に、思わず顔を上げた。そして高い電柱の上で猫のように座る彼女ーーー羽川翼の姿に、一瞬だけ目を見開く。

 

 かつて会ったときは三つ編みに結んでいた髪は解かれていて、その髪の色もどういうわけか真っ白になっている。何故か服を着ていなくて、身につけているのは黒い下着のみ。

 

 だがそれよりも目を引くものがあった。

 

「………猫?」

 

 鏡花ちゃんが呟く。

 

 そう。羽川さんには猫の耳と尻尾が生えていた。

 

「全く、このクソ忙しい時期に………お前らはこんにゃ場所でにゃにしてるのやら。まさか組合(ギルド)やポートマフィアと事を構えたままの現状で、俺のご主人を引き入れるつもりかにゃ?」

 

「………お前は何だ?ご主人とは誰のことを言っている?」

 

 国木田さんが手帳を構えながら尋ねる。太宰さんも険しい表情を崩さないので、僕もいつでも動けるようにしておく。

 

「にゃははははッ!!それは自分の頭で考えろ探偵!まぁ、俺はご主人からの頼み事を片付けるだけにゃっと」

 

 そう言ったかと思えば、彼女はそれこそ猫のようなしなやかな動きで地面に飛び降りた。そして人間のように二本の足で立ち、僕らとの距離を詰め始める。

 

「頼み事だと?」

 

「あぁーーーお前らの排除にゃ」

 

 言い終える頃には国木田さんの後ろにいた。咄嗟に「国木田さん!」と呼び掛けるが、それに国木田さんが反応するよりも早くに、指先で軽く国木田さんに触れた。

 

 それだけで国木田さんが倒れ、いつの間にか鏡花ちゃんも倒れていた。

 

 本能的に手足と眼を異能力で虎に変化してその場から飛び退いた直後、羽川さん?がさっきまで立っていた場所に現れる。

 

「はあああああああああああ!!!!」

 

 拳を力強く握り殴り掛かる。常人が相手であれば掠るだけでも重傷を負わせる威力のそれは、涼しい顔でしかも片手で受け止められる。

 

(まさか国木田さんがやられるなんて!それに鏡花ちゃんはいつやられた!?太宰さんに仕掛けてないのは、太宰さんの異能力を知っているからなのか?とにかく僕がどう、にか………しない、と)

 

 目の前の彼女が笑みを浮かべていると思っ途端、不自然に訪れた倦怠感に呑まれて僕は気を失った。

 



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十話


 ちょっと強引に話を進めますね。



 

〈太宰治〉

 

「さて、残るはお前だけだにゃ」

 

 目の前の羽川翼、否ーーー猫は舌なめずりをして、私を見る。縦に割れたその瞳孔からは、ヒトらしい感情は読み取れない。

 

「まぁまぁ美しいお嬢さん。私の異能力を知らないのかい?」

 

 異能力、『人間失格』。異能力を無効化する、唯一無二の異能力。

 

 見る限り彼女の異能力が発動する条件は、対象に素手で触れること。であるならば、私にとっては脅威を感じる相手ではない。

 

「まぁ、知っていようがいまいがどちら、でも………」

 

 無言で髪に隠れた背中のバッグから取り出された麻袋とロープを見て言葉を止めた。

 

「グハッ!!?」

 

 気づいたら視界を覆われ、そして担がれどこかに運ばれていた。そして数秒後には雑に地面に転がされる。

 

「痛タタっ。ちょっと乱暴すぎやしないかな?」

 

「ふむ、その声は太宰か」

 

「えっ、社長?」

 

 まさかこんな形で社長と合流することになるとは思ってなかったので、少し狼狽える。

 

(何故、社長が私の近くにいる?まさかこの人も捕らえられたのか?)

 

 いや、その可能性は低い。何せ様々な暴力や異能力が蔓延る横浜を守る組織の一つの長。何なら異能力者とも張り合える実力を持つ猛者だ。

 

「動くな。すぐに外す」

 

 キンッと音がしたと思ったら、ロープも麻袋も斬れていた。社長とは別に気配があるのを感じながら立ち上がると、社長の隣には一人の女性の姿があった。

 

「君は………」

 

〈sideout〉

 

 

 

 

 

 ーーー時は少し遡る。

 

 

 

 

 

〈side福沢諭吉〉

 

 場所は羽川殿が育った家。対峙するは何者かの異能力であろう赤き虎。付近に怪しい気配はないことから、この虎が敦のように異能力者が変化したものか、あるいは遠隔で操作できる類のものか。炎に関する異能力なのは見れば分かる。

 

 何にせよ刀一本で戦うには苦しい相手だがやるしかない。

 

 抜刀した刀を生物にとっての急所、眼球に向け横薙に振るう。そして左側に回り込みながら首を斬ろうと刀を振るった。

 

「何っ!?」

 

 ーーー刃が届いていない。先ほど抵抗も少なく切り裂いた筈の眼球には、よく見れば傷の一つも入っていない。

 

「しかも、これはっ!?」

 

 刀を握る両手が熱い。まるで本当に炎で直に炙られているような感覚を覚える。無論、その程度で刀を手放すようなことはしないが。

 

 後ろに飛び退き前足の攻撃を避ける。

 

(敦を残すべきだったか………?いや、それよりも。直接刀を当てても無意味だというのなら)

 

 懐から万年筆を取り出しそのまま投擲。必殺の威力を秘める凶器となったそれは、しかし虎に届くことはない。

 

「駄目か」

 

 さて、どうするものかと考えたその刹那。何かがとてつもないスピードで窓を突き破り、燃え盛る家の中に入ってきた。

 

 もしや新手かと身構えるが、その必要はなかった。

 

「何故、ここに貴殿が」

 



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十一話

 

 ゴウゴウと燃えている懐かしの我が家?に窓から飛び込んだ。

 

 だって明らかに虎はいるだろうしね?もしかしたら探偵社の誰かもいるかもしれないし、だとしたら彼らとの接触もできる。けど。

 

(思ってたより熱い)

 

 ポートマフィア歴がそれなりにあるとはいえ、特別な装備もなしに、というか裸で火事真っ只中の建物に突っ込むのは初めてだ。。今度同じようなことがあるときは、間違っても裸で突入するのは止めよう。

 

「何故、ここに貴殿が」

 

 両手の掌に火傷を負いながらも刀を握る社長さんを背中に庇い、私は虎と向き合った。

 

「下がって。ここのは全部燃やすんでしょうけど、それとこの人には関係なんてない筈でしょう」

 

『………………………………………』

 

 沈黙を残して、霞と消えるように虎の姿がなくなった。しかし炎はそのままなので、どうやら本当にこの家は焼き払うつもりらしい。だとすれば次はどこが狙われるか。

 

(それを考えるのは後でいっか)

 

「すみません。少し失礼します」

 

 無理に刀を手放させると掌がどうなるか分かったもんじゃないので、そのまま横抱きにして外へ飛び出した。途中で見かけた彼らの車の近くで降ろした。

 

「羽川殿、か?しかしその容貌は一体………それに、先ほどの虎を知っておられる様子だったが」

 

「ごめんなさい。詳しいことは言えないんですけど、福沢さんに頼みたいことがあるんです。………聞いてくれますか?」

 

「………私はたった今、貴殿に助けられた身。私にできることであるならば、貴殿の頼みを聞き入れよう」

 

「なら」

 

 いつの間にやら刀を鞘に収めた彼と向き合い告げる。

 

「今この時を以て私、羽川翼は武装探偵への依頼を破棄します。すぐにこの直江津町から去って下さい」

 

 勿論、私から言い出したことだしキャンセル料とかは払うことも伝える。これでサクッと「はい、分かりました」で終わると嬉しかったのだが、そう都合よい返事はなく福沢さんは思案するかのように黙ってしまう。

 

「国木田さん達を連れて来ます。どうか、それまでには決めて下さいね?」

 

 そして一塊に集まっていたところを、これ幸いと猫(ブラック羽川)を演じながら接触、もとい襲撃した。

 

 太宰さん以外を気絶させて太宰さんはいつぞや私が賢治君にやられたように、麻袋を被せてロープで縛ってから雑に運ぶ。そして敦君も同じようにして運び、鏡花ちゃんは体に負担を掛けないように気をつける。

 

(何だか久しぶりに鏡花ちゃん見るけど相変わらず綺麗だなぁ〜。まつ毛整ってるし肌荒れとかもないしでも体は細いな?ちゃんとご飯を食べてるのかね?)

 

 流石に鏡花ちゃんの状況を知るためだけに、探偵社に盗聴やら盗撮やら仕掛ける度胸はない。中島敦の部屋に仕掛けても本人にはバレないだろうが、多分鏡花ちゃんに気づかれる。

 

 途中で麻袋から抜け出していた太宰さんに顔を見られたようだが、まぁ特に問題はない。

 

(さて。ラストに国木田さん、と)

 

 俯向け倒れた国木田さんの首元に手を伸ばす。そして彼の襟元に触れた瞬間だった。

 

「にゃ?」

 

 鉄線が、私の右腕に巻き付く。

 

「………呆れるくらい、タフにゃ奴だにゃあ。大人しく寝とけば良いものを」

 

「生憎、とな………俺の手帳に、『本日依頼失敗』、の、文字はない」

 

 常人なら指先一つ動かせないどころか、気絶する程度に体力を奪った筈の国木田さんは、しかし鉄線銃を握りしめて立ち上がっていた。

 



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十二話

 
 生存報告も兼ねてシレッと投稿。お久しぶりです。
 あとついでに、アンケートもやります。


 

〈side国木田独歩〉

 

(太宰に触れなかったのだから、俺たち側の異能力を把握しているのは間違いない。しかし太宰はどこに連れて行かれた?警告とは、一体何のことだ?)

 

 予め『鉄線銃』と書いてあった手帳の頁を破り、袖の中で変化させる。それだけだというのに、今にも目の前が真っ暗になりそうになる。

 

 やはり触れた対象の体力を奪う異能力か。しかも身体能力が異常に高い。厄介過ぎる。せめて小僧………敦がいれば、まだやりようはあった。

 

 いつの間にか敦と鏡花もいなくなっていた数秒後、俺のすぐ傍にあの気配が現れた。焦る気持ちを抑え、さらに近づいてくるまで待つ。そして俺の首元に伸ばした腕に向けて、鉄線銃の引き金を引いた。

 

「………タフにゃ奴だにゃー。大人しく寝とけば良いものを」

 

「生憎、とな………俺の手帳に、『本日依頼失敗』の文字は、ない」

 

 崩れ落ちそうな体を壁を使って支える。

 

 普段ならここから拘束にでも動くのだが、それを出来る体力も手段もない。

 

 可能なのは口を動かすだけだ。

 

「警告だと、言ったな?一体何に対する、警告なのか………聞かせて貰おう」

 

「そんにゃこと聞くために、お前はわざわざ立つのか?まぁ気ににゃるなら、お前に言ってやる」

 

 腕に巻き付いた鉄線をそのままに猫は言う。

 

「ここに現れた虎とのケジメは俺とご主人でつける。お前ら探偵社は黙ってこの街から出て行け」

 

 虎。それは恐らく社長を襲撃したというものと同一だろう。だがそれと羽川にどんな関係がある?そしてケジメとは何だ?まだ彼女の過去で知らないことがあるのか、それとも知らない間に何かあったのかさえ分からない。

 

「断る」

 

 ぐるぐると巡る思考とは裏腹に、どうしてか否定の言葉は当たり前ののように出てきた。

 

「………俺の警告を聞くなら、それで終わる話にゃ。どうして断る?」

 

「俺は………俺たちは彼女から、正式に依頼をされた。お前が、羽川とどんな関係にあるかは………知らんが、彼女本人から言われない限り、手を引くことは………ない」

 

 忌々しそうに顔を歪めて猫は口を開く。

 

「それがご主人ーーー羽川翼の意志でもか?」

 

「当然だ。だからーーー」

 

 手の中の鉄線銃を握り直し俺は猫、否。()()()へ向けて言葉を吐き出した。

 

「羽川、言いたいことがあるなら、自分で言え。今喋っているのがお前、なのか………それとも自我を持つお前の異能力か、知らん。お前がこの町から、俺たちを追い出そうとする理由も、情けないことだが………まるで、分からん」

 

「………………………………………」

 

「だが、理由があるんだろう?」

 

 沈黙しているのは羽川かそれとも猫か。それすら分からないままに喋り続ける。

 

「ならちゃんと説明くらい、しろ。こんな物理的な説得など、らしくないにも程がある。それも出来ない程、武装探偵社は、信用ならないか?」

 

 しばらくの間、沈黙だけが俺たちの間に流れる。これで猫、あるいは羽川の気が変わらなければ、はっきり言って俺にやれることはない。

 

「酷いなぁ、国木田さんは」

 

 だが、やがて。縦に割れた瞳に悲しげな光が浮かぶ。

 

「納得させられるだけ理由があったら、私はこんなことしてないのに」

 

 今話しているのは羽川翼だと確信した瞬間に、思わず膝から崩れ落ちた。

 



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十三話

 



「警告に従わないなら、殺すことだって出来たんですよ?」

 

「いや、そんなことはしないだろう。そもそも気絶させたことも不本意だろう?」

 

「………そんなことは」

 

「どうだかな。さっき敦らを気絶させたのも、本当は不本意なのではないか?」

 

(せ、盛大に勘違いをしてらっしゃる)

 

 殺せないのは間違いないが、それは原作があるから。だから殺さないだけであって、今回みたいに実力行使で排除するくらいはいつでもできる。

 

 まぁ、あまり手荒な真似をしたくないのは事実だけども。それくらいの情はある。特に、鏡花ちゃんには。

 

「それで………どうしてこんな真似をした?俺は見ていないが、社長が遭遇したという赤い虎とやらに関係があるのか?」

 

 そう言う国木田さんには奪った体力を少しだけ返してある。全快させることもできなくはないが、それはそれで何か体に悪そうなので止めた。

 

「………どうして、今この町に来たんですか?」

 

 国木田さんの問いには答えず、私から質問を投げかける。

 

組合(ギルド)のことは、お前のことだから知っているな?」

 

「はい」

 

「なら、分かるだろう。探偵社は、お前を必要としている」

 

「いつもみたいに、依頼を出せば良かったじゃないですか」

 

「組合の長は言ってしまえば成金だ。お前が情報屋という立場である以上、金額次第ではお前が組合に抱え込まれる可能性もある」

 

 ………なるほど。一理あるとしか言えない。

 

 確かに情報屋の羽川翼は、どの組織に所属している訳でもない。ので、そうなる可能性は十分にある。お得意様が探偵社なだけであって、今までもその他の組織に情報を渡したこともあるし。

 

 それは探偵社も承知してる筈だが、今回は流石によろしくないということだろう。

 

 ………それでも。

 

「でも、やっぱり依頼を破棄させて下さい。もう、社長さんには伝えましたから」

 

「………そうか」

 

 至極残念そうに国木田さんはそう言うと、眼鏡を掛け直して手帳をポケットに仕舞い込む。

 

「お前がそこまで言うなら、俺からは何も言わん。いや、正直に言えば探偵社に入社して欲しいが………社長の判断に従うまでだ」

 

 それにしてもこの人は、私が猫ではなく羽川翼として接し始めてから、何というか油断?は違うな。気を抜いているような、そんな感じがするのは気のせいだろうか?それだけ信用されてるのだとしても、些か不用心が過ぎるだろうに。

 

「だがな、羽川。何かあるならば俺たちをーーー探偵社を頼れ。お前の能力が高いのは知っているが、だからといって全てを抱える必要はない。それを例えお前自身が望まなくても、お前の助けになりたい奴はいる」

 それに子供が大人を頼るのは当たり前だ。

 

「国木田さん………ありがとうございます」

 

 彼なりに、羽川翼を気遣ってくれてることは分かる。が、それはそれとして、私の内心を占めるのは「さっさと横浜帰って組合対策しろ」である。

 

「でも、ごめんなさい」

 

 だから私はまだ何か言おうとする国木田さんを、問答無用と言わんばかりに気絶させた。

 

「………さようなら」

 

 どんな結末を迎えるにしろ、きっと羽川翼は今日でいなくなる。

 

 そんな予感があったから、私は最後に別れの言葉を口にした。

 



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