GATE 大日本帝国 彼の地にて、斯く戦えり (人斬り抜刀斎)
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第1章接触編
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正式名『大日本帝国』

公用語:日本語

国の標準語:五箇条の御誓文

憲法:大日本帝国憲法

国旗:日章旗

国花:桜、菊

国章:十六一重表菊

政治体制:議院内閣制

国歌:君が代は

帝都:東京

 

政府

国家元首:第124代昭和天皇

 

内閣総理大臣:東條英機

 

備考

大東亜戦争、アメリカを始めとする連合国軍との戦いで有利な条件で早期講和を果たした。

また、女性にも選挙権を有し女性の社会進出も始まっている。また、農地改革によって農村を疲弊から救済、独占禁止法が制定され財閥による資本の独占が禁止され中小企業や新興の企業が活気を見せる。戦後は東西冷戦では西側陣営として共産主義圏の東側との最前線としての役割を果たしている。

千島列島・樺太から台湾までが日本の領土。

戦後間も無く憲法改正が行われ『内閣』や『内閣総理大臣』の規定が明記され軍の最高指揮官は天皇とし、天皇の指揮を実行し責任を負うのは内閣総理大臣である。

 

日本の面積:675.114㎢

 

人口:1億2521万9683人

 

通貨日本円

天皇陛下

大日本帝国の国家元首であり軍の統帥権を持ち現人神。軍民共に天皇を崇拝している。家や学校などに御真影が飾ってある。

 

軍事

陸軍と海軍

軍旗:旭日旗

常備員約125万8500人

予備役約50万人

憲法に徴兵令は定められているが殆ど実施しておらずほぼ志願制であり、良心的兵役拒否も出来る。

そして大本営は陸軍と海軍の最高司令部であり陸軍省と海軍省の頂点に存在する。

 

大日本帝国陸軍

大日本帝国最大規模人員を有し多数の歩兵力、機甲戦力

航空兵力、砲兵力を保有している。

常備員約75万人

 

銃器

三八式歩兵銃、九二式重機関銃、九六式軽機関銃、九九式軽機関銃、四四式騎兵銃、九九式小銃、九七式狙撃銃、四式自動小銃、十年式信号銃、八九式重擲弾筒、二式擲弾器、一〇〇式火焔放射器、stg44、24式重機関銃、MG34機関銃、MG42機関銃、ブルーノVz37重機関銃、ブルーノZB26軽機関銃、ブローニングwz1928、スオミKP/-31、MP40、ワルサーP38、FN ブローニング・ハイパワー、ラドムVIS wz1935、パンツァーシュレック、パンツァーファウスト、フリーガーファウスト、ワルサーカンプピストル、ブローニングM2重機関銃

 

光学兵器

ZG1229 Vampire、九七式狙撃眼鏡、九九式狙撃眼鏡、九九式爆撃照準器、九三式百五十糎探照灯、九四式対空双眼鏡、九六式写真標定機、九六式測遠機、九八式砲隊鏡、九七式十五糎双眼鏡、九八式十二糎双眼鏡、一〇〇式射撃照準器、三式射撃照準器、九九式爆撃照準器、四式自動爆撃照準器、金属探知機、完全自動操縦装置、無電発信装置、近接信管、時限信管、大遅動信管、慣性航法装置、砲安定化装置、ら号装置、す号装置、熱源探知自動照準装置、電波妨害装置、近接防御兵器、ロケット誘導装置

 

化学兵器と化学防護具

ホスゲン、マスタードガス、ルイサイト、クロロアセトフェノン、臭化ベンジル、ジフェニルシアノアルシン、シアン化水素、三塩化ヒ素、九五式防毒面、九八式特一号防毒面、九八式特二号防毒面、九九式防毒面、九〇式防毒衣、九六式軽防毒具、九六式全防毒具

 

パラシュート

一式落下傘

 

通信機&無線機&レーダー

モールス符号、九七式印字機、九七式欧文印字機、コロッサス暗号解読機、携帯式無線機、SCR-536、九二式箱型電話機、ヘッドフォンとマイク、ウルツブルクレーダー、フライヤレーダー、エールストリング敵味方識別装置、手動指令照準線一致

 

刀剣類

九五式軍刀、九八式軍刀、三式軍刀、三十年式銃剣、二式銃剣

 

爆弾

九七式手榴弾、九九式手榴弾、M24柄付手榴弾、八九式榴弾、手投火焔瓶、梱包爆薬、クレイモア地雷、No.73手榴弾、No.74粘着手榴弾、ホーキンス手榴弾、九三式戦車地雷、三式地雷、吸着地雷、焼夷弾、気化燃料弾、徹甲弾、白リン弾、榴弾、発煙弾、閃光弾、照明弾、曳光弾、榴散弾、装弾筒付徹甲弾、高速徹甲弾、採光弾、ベトン弾、成形炸薬弾、反跳爆弾、フリッツX、V1飛行爆弾、V2ロケット、5インチ FFAR、Mk.4 FFAR、HVAR、ティニー・ティム、Hs 117、Hs 293、Hs 297、Hs 298、R4M、SC1000、SD2、ルールシュタールX-4、ヴァッサーファル、ライントホター、ラインボーテ、グランドスラム、原子爆弾

 

航空機関砲

エリコン KA20mm機関砲、八九式旋回機関銃、一式十二・七粍固定機関砲、二式二十粍固定機関砲、MG15機関銃、MG17機関銃、MK 108 機関砲、MG 151 機関砲、MG81機関銃、「イ」式七.七粍機関銃、「イ」式十二.七粍機関銃

 

車載機関銃

MG34機関銃、MG42機関銃、ブローニング M2

 

戦車砲

56口径8.8cm KwK36L/56、71口径8.8cm KwK43L/71、71口径8.8cm Pak43/2L/71、71口径88mm Pak43/3、55口径128mm Pak44/55、70口径75mm KwK42L/70、43口径75mm Pak40、48口径7.5 Pak39L/48、48口径75mm StuK40L/48、24口径75mmkwk37、42口径5cm KwK38、60口径5cm KwK39、46.5口径3.7cm kwk36、2cm kwk30、3.7cm Flak43/1、2cm Flakvierling38、

 

火砲

8.8cm Flak18/36/37、8.8cm Pak43、8.8cm PaK43/41、7.5cm GebG36、7.5cm IG37、7.5cm Pak41、7.5cm Pak40、一式機動四十七粍砲、九七式自動砲、九四式軽迫撃砲、九九式小迫撃砲、二式十二糎迫撃砲、九六式中迫撃砲、九七式曲射歩兵砲、8cm sGrW 34、2cm Flak30、2cm Flak38、2cmFlakveling38、三八式野砲、九〇式野砲、九五式野砲、三八式十二糎榴弾砲、九一式十糎榴弾砲、九六式十五糎榴弾砲、九六式二十四糎榴弾砲、三八式十五糎榴弾砲、九八式臼砲、四式二〇糎噴進砲、八九式高射機関砲、八八式7.5cm野戦高射砲、十四年式10cm高射砲、九九式八糎高射砲、三式12cm高射砲、四式七糎半高射砲、十一年式7.5cm野戦高射砲、五式十五糎高射砲、三一式山砲、四一式山砲、四一式騎砲、九四式山砲、九九式十糎山砲、三八式十糎加農砲、十四年式十糎加農砲、九二式十糎加農砲、八九式十五糎加農砲、九六式十五糎加農砲、M1 4.5インチ砲、M59 155mmカノン砲、ボ式四十粍高射機関砲、ボ式山砲、M101 105mm榴弾砲、M114 155mm榴弾砲、ラ式十五糎榴弾砲、30cm NbW 42、ネーベルヴェルファー、ヴルフラーメン40、7.5cm軽無反動砲40

 

戦車

Ⅵ号戦車ティーガーⅡ、Ⅵ号戦車ティーガーⅠ、Ⅴ号戦車パンター、Ⅳ号戦車、Ⅲ号戦車、M24チャーフィー軽戦車、M18 ヘルキャット、エレファント重駆逐戦車、ヤークトティーガー、ヤークトパンター、Ⅳ号駆逐戦車、38式軽駆逐戦車ヘッツァー、Ⅲ号突撃砲、フンメル自走砲、ナースホルン、M40 155mm自走カノン砲、ヴィルベルヴィント、オストヴィント

 

軍用車両

九五式小型乗用車、キューベルワーゲンTyp82、ジープ、フォードGPA、GMC CCKW 、DUKW、九四式六輪自動貨車、九三式装甲自動車、パンツァーヴェルファー、Sd Kfz179 、Sd Kfz222、Sd Kfz223、Sd Kfz231、Sd Kfz232、Sd Kfz251、Sd Kfz254、Sd Kfz234、Sd Kfz247、Sd Kfz7、九八式装甲運搬車、M25戦車運搬車、ユニバーサルキャリア、ボルクヴァルトⅣ、ケッテンクラート、メイラーワーゲン、九八式四屯牽引車、九七式側車付自動二輪車、九五式力作車、装甲工作車、重地雷処理車、装甲作業機、九七式炊事自動車、九四式甲号撤車、三六式輜重車、三九式輜重車、トヨタ AA型乗用車

 

装甲

ツィンメリット・コーティング、シュルツェン、空間装甲

 

鉄道車両

K2形蒸気機関車、E形蒸気機関車、400形蒸気機関車、九一式広軌牽引車、九八式鉄道牽引車、一〇〇式鉄道牽引車、九五式装甲軌道車、九五式鉄道工作車、九一式軽貨車、九七式軽貨車

 

航空機

中島四式戦闘機「疾風」

中島三式戦闘機「飛燕」

中島二式単座戦闘機「鍾馗」

中島一式戦闘機「隼」

二式複座戦闘機「屠龍」

四式重爆撃機「飛龍」

九七式重爆撃機

九七式輸送機

一式貨物輸送機

一式輸送機

四式特殊輸送機

一〇〇式輸送機

一〇〇式司令部偵察機「新司偵」

九九式高等練習機

九八式直接協同偵察機

九七式司令部偵察機

九九式双発軽爆撃機

ユンカースJu87

九九式襲撃機

フォッケ・アハゲリス「Fa223」

「S-51J」

B-17「フライングフォートレス」

B-29「スーパーフォートレス」

 

船舶

揚陸艦「神州丸」「摩耶山丸」「玉津丸」「吉備津丸」「摂津丸」「日向丸」「高津丸」「あきつ丸」「にぎつ丸」「熊野丸」「ときつ丸」

 

護衛空母「山汐丸」「千種丸」「瑞雲丸」

 

三式潜航輸送挺「まるゆ」

 

上陸用舟艇「大発動艇」「機動艇」「LCM」「LCI」「LCVP」「LCT」LCVP」「LVT」

 

大日本帝国海軍

世界三大海軍の一つ世界最強の海軍を保有し艦隊には、優れた駆逐艦、そして世界最強と言えた強力の巡洋艦を保有。さらに日本海軍の空母戦力は世界最大で戦術的にも最も進んでいる。 そして海軍陸戦隊

と空挺部隊を保有している。

常備員約45万人

 

聯合艦隊

戦艦「大和」「武蔵」「信濃」「紀伊」「長門」「陸奥」「金剛」「比叡」「榛名」「霧島」「扶桑」「山城」「伊勢」「日向」

 

航空母艦「赤城」「加賀」「飛龍」「蒼龍」「瑞鶴」「翔鶴」「雲龍」「天城」「葛城」「笠置」「阿蘇」「生駒」「大鳳」「土佐」

 

軽空母「鳳翔」「祥鳳」「瑞鳳」「龍驤」「千歳」「千代田」「龍鳳」「飛鷹」「隼鷹」

 

護衛空母「大鷹」「雲鷹」「沖鷹」「神鷹」「海鷹」

 

重巡洋艦「高雄」「愛宕」「摩耶」「鳥海」「妙高」「那智」「足柄」「羽黒」「最上」「三隈」「鈴谷」「熊野」「古鷹」「加古」「青葉」「衣笠」「利根」「筑摩 」「伊吹」「鞍馬」

 

軽巡洋艦「阿賀野」「能代」「矢矧」「酒匂」「長良」「五十鈴」「名取」「由良」「阿武隈」「鬼怒」「球磨」「多摩」「北上」「大井」「木曽」「天龍」「龍田」「川内」「神通川」「那珂」「加茂」「木津」「名寄」「夕張」「大淀」「仁淀」

 

練習巡洋艦「香取」「鹿島」「香椎」「橿原」

 

駆逐艦「睦月」「如月」「弥生」「卯月」「皐月」「水無月」「文月」「長月」「菊月」「三日月」「望月」「夕月」「吹雪」「白雪」「初雪」「深雪」「叢雲」「東雲」「薄雲」「白雲」「磯波」「浦波」「綾波」「敷波」「朝霧」「夕霧」「天霧」「狭霧」「朧」「曙」「漣」「潮」「暁」「響」「雷」「電」「峯風」「澤風」「沖風」「灘風」「矢風」「羽風」「汐風」「秋風」「夕風」「太刀風」「帆風」「野風」「波風」「沼風」「神風」「朝風」「春風」「松風」「旗風」「追風」「疾風」「朝凪」「夕凪」「初春」「子日」「若葉」「初霜」「有明」「夕暮」「白露」「時雨」「村雨」「夕立」「春雨」「五月雨」「海風」「山風」「江風」「涼風」「朝潮」「大潮」「満潮」「荒潮」「朝雲」「山雲」「夏雲」「峯雲」「霞」「霰」「陽炎」「不知火」「黒潮」「親潮」「早潮」「夏潮」「初風」「雪風」「天津風」「時津風」「浦風」「磯風」「浜風」「谷風」「野分」「嵐」「萩風」「舞風」「晴風」「秋雲」「夕雲」「巻雲」「風雲」「長波」「巻波」「高波」「大波」「清波」「玉波」「涼波」「藤波」「早波」「浜波」「沖波」「岸波」「朝霜」「早霜」「秋霜」「清霜」「妙風」「清風」「村風」「里風」「山霧」「海霧」「谷霧」「川霧」「山雨」「秋雨」「夏雨」「早雨」「高潮」「秋潮」「春潮」「若潮」「島風」「秋月」「照月」「涼月」「初月」「新月」「若月」「霜月」「冬月」「春月」「宵月」「夏月」「満月」「花月」「清月」「大月」「葉月」「山月」「裏月」「青雲」「紅雲」「春雲」「天雲」「八重雲」「冬雲」「雪雲」「沖津風」「霜風」「大風」「東風」「西風」「南風」「北風」「早風」「夏風」「冬風」「初夏」「初秋」「早春」

 

護衛駆逐艦「松」「竹」「梅」「桃」「桑」「桐」「杉」「槇」「樅」「樫」「榧」「楢」「桜」「柳」「椿」「檜」「楓」「欅」「八重桜」「矢竹」「葛」「柿」「樺」「桂」「若桜」「橘」「蔦」「萩」「菫」「楠」「初桜」「楡」「梨」「椎」「榎」「雄竹」「初梅」

 

海防艦「占守」「国後」「八丈」「石垣」「択捉」「松輪」「佐渡」「隠岐」「六連」「壱岐」「対馬」「若宮」「平戸」「福江」「天草」「満珠」「干珠」「笠戸」「御蔵」「三宅」「淡路」「能美」「倉橋」「屋代」「千振」「草垣」「日振」「大東」「昭南」「久米」「生名」「四阪」「崎戸」「目斗」「波太」「大津」「友知」「鵜来」「沖縄」「奄美」「粟国」「新南」「屋久」「竹生」「神津」「保高」「伊唐」「生野」「稲木」「羽節」「男鹿」「金輪」「宇久」「高根」「久賀」「志賀」「伊王」「蔚美」「室津」「八十島」「五百島」

 

砲艦「安宅」「橋立」「宇治」「興津」「勢多」「保津」「比良」「堅田」「熱海」「二見」「伏見」「隅田」

 

敷設艦「燕」「鴎」「夏島」「那沙美」「猿島」「測天」「白神」「巨済」「成生」「浮島」「平島」「澎湖」「石崎」「鷹島」「済洲」「新井埼」「由利島」「怒和島」「前島」「諸島」「綱代」「神島」「粟島」

 

哨戒艇「灘風」「菊」「葵」「萩」「薄」「蔦」「藤」「菱」「蓬」「蓼」「夕顔」

 

水雷艇「鴻」「鵯」「隼」「鵲」「雉」「雁」「鷺」「鳩」「千鳥」「真鶴」「友鶴」「初雁」

 

掃海艇「一号」「二号」「三号」「四号」「五号」「六号」「七号」「八号」「九号」「十号」「十一号」「十二号」「十三号」「十四号」「十五号」「十六号」「十七号」「十八号」「十九号」「二十号」「二十一号」「二十二号」

 

水上機母艦「瑞穂」「日進」「秋津洲」「千早」

 

潜水母艦「大鯨」「迅鯨」「長鯨」「韓崎」

 

潜水艦「伊152」「伊153」「伊154」「伊155」「伊158」「伊156」「伊157」「伊159」「伊60」「伊63」「伊61」「伊162」「伊164」「伊165」「伊166」「伊67」「伊168」「伊169」「伊70」「伊171」「伊172」「伊73」「伊174」「伊175」「伊176」「伊177」「伊178」「伊179」「伊180」「伊181」「伊182」「伊183」「伊184」「伊185」「伊1」「伊2」「伊3」「伊4」「伊5」「伊6」「伊7」「伊8」「伊9」「伊10」「伊11」「伊12」「伊13」「伊14」「伊15」「伊17」「伊19」「伊21」「伊23」「伊25」「伊26」「伊27」「伊28」「伊29」「伊30」「伊31」「伊32」「伊33」「伊34」「伊35」「伊36」「伊37」「伊38」「伊39」「伊16」「伊18」「伊20」「伊22」「伊24」「伊46」「伊47」「伊48」「伊40」「伊41」「伊42」「伊43」「伊44」「伊45」「伊52」「伊53」「伊55」「伊54」「伊56」「伊58」「伊77」「伊81」「伊121」「伊122」「伊123」「伊124」「伊361」「伊362」「伊363」「伊364」「伊365」「伊366」「伊367」「伊368」「伊369」「伊370」「伊371」「伊372」「伊373」「伊374」「伊201」「伊202」「伊203」「伊204」「伊205」「伊206」「伊207」「伊208」「伊351」「伊352」「伊400」「伊401」「伊402」「伊404」「伊405」「伊501」「伊502」「伊503」「伊504」「伊505」「伊506」「伊507」「呂500」「呂501」「U-3008」

 

輸送艦「第一号型輸送艦」「第百一号型輸送艦」

 

特務艦

給糧艦「間宮」「伊良湖」「鞍埼」

給油艦「速吸」「神威」

工作艦「明石」「三原」「桃取」「朝日」

砕氷船「宗谷」

給兵艦「樫野」

環境調査艦「プエブロ」

技術調査艦「リバティー」

コンフォート級病院船

LSM(R)-188級ロケット中型揚陸艦

 

主砲&副砲

12cm単装砲、Mk39 5インチ砲、12.7cm連装砲、12.7cm単装高角砲、10cm連装高角砲、14cm単装砲、14cm連装砲、15.2cm単装砲、15cm連装副砲、15.2cm連装砲、15.5cm三連装砲、20.3cm(2号)連装砲、35.6cm連装砲、41cm連装砲、46cm三連装砲

 

光学機器&通信機

九一式高射装置、九四式高射装置、15cm二重測距儀、33号対水上電探、21号対空電探、32号対水上電探、14号対空電探、42号対空電探、磁気探知機、モールス符号、零式水中聴音機、四式水中探信儀、近接信管、時限信管、大遅動信管、ゼータクト、電波妨害装置、自動装填装置、ソノブイ、九六式150cm探照灯、潜水艦搭載電探、逆探知(E27)、水防式望遠鏡、砲安定装置、三式換字機、ロケット誘導装置

 

魚雷発射管&爆雷発射機&ロケット発射機

九四式爆雷発射機、三式爆雷発射器、61cm四連装魚雷発管、61cm三連装魚雷発管、61cm五連装魚雷発射管、MK.36 4連装ロケット発射機、MK.30 6連装ロケット発射機、12cm30連装噴進砲、試作15cm9連装対潜噴進砲、Wurfgerat 42、四式20cm噴進砲、二式12cm迫撃砲改

 

対空機関砲

九六式二十五粍高角機銃、八九式十二糎七高角砲、十式十二糎高角砲、九八式十糎連装高角砲、九八式八糎高角砲、短十二糎砲、短二十糎砲、三年式八糎高角砲、2cm 四連装Flak38、ボフォース40mm四連装機関砲、エリコンFF20mm機関砲

 

航空機関砲

九九式二〇ミリ機銃、九七式七粍七固定機銃、MG 151 機関砲、Mk 108機関砲、MG17機関銃、MG15機関銃、MG81機関銃、八九式旋回機関銃

 

主砲弾

九一式徹甲弾、零式弾、一式弾、三式弾

 

ロケット弾

5インチ FFAR、HVAR、ティニー・ティム、四式ロケット焼霰弾

 

魚雷&爆雷&機雷

九三式酸素魚雷、九五式酸素魚雷、G7魚雷、Mk.32短魚雷、九五式爆雷、二式爆雷、九六式機雷

 

装甲

対魚雷バルジ、増設バルジ、プリエーゼ式水中防御隔壁

 

航空機

零式艦上戦闘機 通称"ゼロ戦"

艦上戦闘機「烈風」

局地戦闘機「紫電改」

局地戦闘機「雷電」

二式水上戦闘機

夜間戦闘機「月光」

特殊攻撃機「橘花」

特殊攻撃機「晴嵐」

九七式艦上攻撃機

艦上攻撃機「天山」

艦上攻撃機「流星」

九九式艦上爆撃機

艦上爆撃機「彗星」

一式陸上攻撃機

陸上攻撃機「連山」

陸上爆撃機「銀河」

四式特殊輸送機

九七式飛行艇

二式大艇「晴空」

艦上偵察機「彩雲」

三式指揮連絡機

陸上哨戒機「東海」

零式水上偵察機

零式小型水上機

水上偵察機「瑞雲」

零式観測機

零式輸送機

九三式中間練習機

カ号観測機

フォッケ・アハゲリス「Fa223」

「S-51J」

 

女子通信隊

16歳から40歳の未婚者や未亡人の女性が対象として作られた組織。

人員約5000人

主に軍政分野の事務、電話交換手、タイピスト、看護師、物資を輸送するトラックの運転手、通信兵、軍楽隊、儀仗兵、防空任務等を行う。

 

警察組織

刑事警察

国内の治安維持と犯罪を取り締まる。

 

特別高等警察(通称特高)

日本の秘密警察。主に公共の安全と秩序の維持を目的とした組織で他国のスパイ、無政府主義者、共産主義者、原理主義者、反社会的思想の人物、過激な宗教団体、同僚の警察官、一般政党、一般市民、中央省庁、軍隊、大手メディアの監視と情報収集を行い、天皇と皇室に批判的な人物の監視や摘発をし又一般人に扮して諜報活動を行う。任務のためには暴行・盗聴・盗撮・脅迫・拷問も日常茶飯になっている。

 

皇宮警察

所謂親衛隊である。天皇陛下及び皇后陛下、皇太子殿下その他皇族の護衛をするボディーガード集団それが護衛組織である皇宮警察。彼らは、皇室に対する忠誠心が非常に高く又天皇陛下の前で武器を持つ事を許される唯一の組織。陛下が『撃て』と命じれば、誰でも無条件で発砲する。

 

総数約27万人

 



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歴史

日本と世界の歩み

1868年1月27日 戊辰戦争が勃発

1868年3月14日 五箇条のご誓文が発布される。

1868年3月15日 江戸無血開城。

1869年6月17日 全国の藩の土地と人民を朝廷に返還する。版籍奉還が行われる。

1869年6月27日 戊辰戦争終結。江戸幕府完全解体。

1869年8月6日 戊辰戦争での官軍戦没者を弔うため靖國神社の前身である東京招魂社が創建される。

1869年10月18日 日欧州修好通商航海条約が締結。

1869年11月17日 スエズ運河が開通。

1870年6月11日 庚午事変。

1870年7月19日 普仏戦争が勃発。

1871年7月14日 藩を廃止して地方統治を中央管下の府と県に一元化する。廃藩置県が行われる。

1871年9月13日 日清修好条規が締結。

1871年11月12日 岩倉使節団がアメリカやヨーロッパを視察する。

1872年8月30日 マリア・ルス号事件。

1872年9月5日 学制発布。

1872年10月14日 新橋から横浜までの鉄道が開通する。

1872年11月4日 富岡製糸場操業開始。

1873年1月10日 徴兵制が導入。

1873年5月1日 ウィーン万国博覧会が開催される。

1873年7月28日 地租改正法公布。

1873年10月 明治六年の政変で西郷隆盛、板垣退助、大隈重信などが下野する。

1874年2月1日 明治政府に対する士族の反乱の一つ佐賀の乱が勃発。

1874年5月6日台湾出兵。

1875年5月7日樺太・千島交換条約が締結される。

1875年9月20日 朝鮮半島の江華島で日本と朝鮮が武力衝突する。所謂江華島事件。

1876年1月11日 廃刀令公布。

1876年2月26日 日朝修好条規が締結。

1876年5月10日 フィラデルフィア万国博覧会が開催される。

1876年10月24日 神風連の乱。

1876年10月27日 秋月の乱。

1876年10月28日 萩の乱。

1877年2月20日 日本最後の内戦 西南戦争が勃発。

1877年4月24日 露土戦争が勃発。

1877年9月24日 西南戦争終結。西郷隆盛自害。

1878年3月3日 サン・ステファノ条約が締結される。

1878年5月14日 紀尾井坂の変 大久保利通暗殺。

1878年5月20日 パリ万国博覧会が開催される。

1878年6月13日 サン・ステファノ条約の修正ベルリン条約が締結される。

1880年12月16日 第一次ボーア戦争が勃発。

1881年10月 明治十四年の政変で伊藤博文が大隈重信を追放する。

1882年4月6日 自由党党首板垣退助が岐阜で暴漢に襲撃される。所謂岐阜事件。

1882年5月22日 米朝修好通商条約が締結。

1882年7月23日 朝鮮の首府漢城府で起きた閔氐政権と日本に対する大規模な朝鮮兵士の反乱。所謂壬午軍乱。

1883年8月 清仏戦争が勃発。

1884年11月15日 ベルリン会議が開催される。

1884年12月4日 朝鮮で独立党によるクーデターが勃発。所謂甲申政変。

1885年4月18日 甲申政変で緊張状態にあった日清両国の緊張緩和の為天津条約が締結された。

1885年6月9日 天津条約が締結。清仏戦争が終結。

1885年12月22日 内閣制度を制定する。

1886年6月5日 ジュネーブ条約に調印。

1886年8月13日 長崎に来航した清国北洋艦隊水兵が暴動を起こし駆けつけた警察官と乱闘になった事件。所謂長崎事件。

1886年10月24日 イギリスの貨物船ノルマントン号が紀州沖で沈没し船長が日本人を見殺しにした疑いで責任を問われた。世に言うノルマントン号事件。

1889年2月11日大日本帝国憲法が発布される。

1889年5月6日 パリ万国博覧会が開催される。

1890年9月16日 オスマン帝国の軍艦エルトゥールル号が和歌山県沖で座礁沈没500名以上が犠牲になった事件。

1890年11月29日 帝国議会が開設。

1891年5月11日 日本を訪問中のロシア皇太子が警備にあたっていた警察官に斬りつけられる。所謂大津事件。

1893年5月1日 シカゴ万国博覧会が開催される。

1894年3月29日 朝鮮で起きた農民達の内乱が起こる。所謂甲午農民戦争。

1894年7月16日 日英修好航海条約が締結される。

1894年7月25日 日清戦争勃発。

1894年10月15日 フランス陸軍参謀本部勤務のユダヤ人の大尉アルフレド・ドレフュスがスパイ容疑で逮捕される。所謂ドレフュス事件。

1894年11月22日日米通商航海条約が締結される。

1895年6月 第一次エチオピア戦争が勃発。

1895年4月17日 日清戦争終結。下関条約で台湾を統治する。

1895年4月23日 フランス・ドイツ・ロシアの三国が日本に対し遼東半島を清国に返還する様勧告。所謂三国干渉。

1896年7月21日 日清通商航海条約が締結される。

1898年2月15日 アメリカ海軍の軍艦メイン号が原因不明の爆発を起こし沈没米西戦争の発端となった。メイン号爆破事件。

1898年4月25日 アメリカとスペインの戦争 米西戦争が勃発。

1898年8月6日 清の西太后が甥の光緒帝から権力を奪う。戊戌の政変が勃発。

1898年12月10日 パリ条約が締結される。

1899年2月4日 アメリカとフィリピンの戦争。米比戦争が勃発する。

1899年10月11日 第二次ボーア戦争が勃発。

1900年4月14日 フランス パリで国際展覧会が行われた。

1900年6月20日 義和団の乱が勃発。

1901年2月5日 官営八幡製鉄所操業開始。

1901年9月7日 義和団の乱の事後処理の北京議定書が調印される。

1902年1月30日 日本とイギリスが同盟を結ぶ。世に言う日英同盟。

1902年5月31日 フェリーニハング条約が締結される。

1903年11月3日 コロンビアから独立を宣言してパナマ共和国が建国。

1903年11月18日 パナマ運河条約締結。

1903年12月17日 ライト兄弟によって有人動力飛行を成功させる。

1904年2月8日 日露戦争が勃発。

1904年2月23日 日本と韓国の間で締結された日韓議定書。

1904年4月30日 セントルイス万国博覧会が開催される。

1904年6月15日 玄界灘を航行中の輸送船「常陸丸」がロシアウラジオストク艦隊に撃沈される。世に言う常陸丸事件

1904年8月22日 第一次日韓協約が締結される。

1904年11月17日 第二次日韓協約が締結され韓国は日本の保護国になった。

1905年1月22日 ロシア帝国の首都サンクトペテルブルクで行われた労働者による皇宮への平和的な請願行進に対し、政府当局の軍が発砲多数の死傷者を出す。世に言う血の日曜日事件。

1905年1月29日 血の日曜日事件をきっかけに革命が勃発する。第一次ロシア革命。

1905年3月31日 ドイツ皇帝ヴィルヘルム2世がモロッコ北端の港湾都市タンジールを訪問しフランスを牽制する。世に言う第一次モロッコ事件。

1905年9月5日 日露戦争終結。ポーツマス条約で満州の租借権と樺太全島を統治する。

1905年9月5日 ポーツマス条約に反対する国民集会が開かれ暴動が起こる。所謂日比谷焼打事件。

1906年4月18日 アメリカ合衆国サンフランシスコで大規模な大地震が発生。

1907年6月10日 日仏協約が締結される。

1907年7月24日 第三次日韓協約が締結される。韓国の軍隊は解散され司法権・警察権の委任が定められた。

1907年7月30日 日露協約が締結される。

1907年12月16日 グレート・ホワイト・フリート。

1909年3月31日 オスマン帝国イスタンブールで体制に不満を持つ学生達がクーデターを起こす。

1909年10月26日 伊藤博文が中国東北部満州のハルビン駅で暗殺される。

1910年8月29日 韓国を併合する。

1910年11月20日 民主化を求める民衆によって起きたメキシコ革命。

1911年7月1日 第二次モロッコ事件が勃発する。

1911年9月29日 オスマン帝国とイタリアの戦いが始まる。伊土戦争が勃発。

1911年10月10日 清の武昌で兵士が反乱を起こす。所謂武昌起義。

1911年11月6日 ハーグ陸戦協定に調印。

1911年11月19日 白瀬南極探検隊が南極を目指し出港する。

1911年12月29日 モンゴルが独立を宣言。

1912年2月12日 辛亥革命が勃発する。アジア初の共和制国家中華民国が樹立される。

1912年4月14日 イギリス ホワイトスターライン汽船会社の豪華客船タイタニック号が氷山に激突し沈没 乗員乗客合わせて1513名もの死者を出す。

1912年7月30日 元号が明治から大正に改元。

1912年10月8日 第一次バルカン戦争が勃発する。

1913年2月11日 大正政変が勃発。第一次護憲運動により第三次桂内閣が崩壊する。

1913年6月29日 第二次バルカン戦争が勃発する。

1914年1月23日 ドイツ帝国の企業シーメンス社が日本海軍高官に賄賂。世に言うシーメンス事件。

1914年6月28日 サラエボでオーストリア皇太子が暗殺される。所謂サラエボ事件。

1914年7月28日 ヨーロッパで第一次世界大戦が勃発する。

1914年8月23日 日本が第一次世界大戦に参戦。

1915年1月18日 対華二十一ヶ条要求。

1915年2月20日 サンフランシスコ万国博覧会が開催される。

1915年5月7日 イギリスの客船ルシタニア号がドイツ軍の潜水艦「U-20」の攻撃を受けて撃沈乗員乗客合わせて1198名が死亡しアメリカが参戦するきっかけになった。

1916年5月16日 イギリス、フランス、ロシアの間で結ばれたオスマン帝国領の分割を約した秘密協定。所謂サイクス・ピコ協定。

1916年11月21日 イギリスの汽船会社ホワイトスターライン社のブリタニック号がケア海峡でドイツ軍の機雷に触雷ケア島沖合で座礁。乗員乗客合わせて21人が死亡。

1916年12月30日 ニコライ2世に取り入って悪行の限りを尽くした怪僧ラスプーチンが暗殺される。

1917年3月8日首都ペトログラードの女性が食糧難に抗議、軍の逃亡者や労働者も参加所謂2月革命。民衆は三百年続いたロマノフ王朝を打倒。臨時政府が開かれる。

1917年4月6日 アメリカがヨーロッパ戦線に参戦する。

1917年11月2日 石井ランシング協定が締結せれる。

1917年11月7日 レーニン率いるボルシェビキが十月革命を起こし、臨時政府を倒す。

1918年1月8日 アメリカ大統領ウィルソンがアメリカ連邦議会での演説のかで発表した十四か条の平和原則。

1918年1月27日 白衛軍と赤衛軍による内戦 フィンランド内戦が勃発。

1918年3月3日 ソビエト革命政府はドイツに全面降伏する。ブレスト=リトフスク条約が締結される。

1918年5月16日 日支共同防敵軍事協定が締結される。

1918年6月1日 徳島県板東俘虜収容所でドイツ軍捕虜達によて日本で初めてのベートーヴェン作曲「第九」が演奏される。

1918年7月22日 米騒動が起きる。

1918年8月2日 連合国軍がシベリアに出兵する。

1918年11月3日 キール軍港の水兵が反乱。所謂ドイツ革命。

1918年11月3日 オーストリア・ハンガリー帝国降伏。イタリアとの間でヴィラ・ジャスティ休戦協定が締結。

1918年11月9日 ドイツ皇帝ヴィルヘルム2世退位。

1918年11月11日 ドイツ帝国が降伏し、休戦協定を締結する。

1918年12月1日 アイスランド王国成立。

1919年1月18日 パリ講和会議が開催される。

1919年1月21日 アイルランド独立戦争が勃発。

1919年2月14日 ポーランド=ソビエト戦争が勃発。

1919年3月1日 日本統治下の朝鮮で日本からの朝鮮独立運動が起こる。世に言う三・一運動。

1919年3月22日 イワノフカ事件が起こる。

1919年5月4日 パリ講和会議に不満を抱く中国の学生がデモ行進をする。所謂五四運動。

1919年6月28日 ヴェルサイユ条約が結ばれてる。

1919年7月19日 満州寛城子で日本人暴行事件に端を発した日中両軍が衝突する。所謂寛城子事件。

1919年8月11日 ヴァイマル憲法制定。

1920年1月16日 アメリカ連邦議会が禁酒法が施行する。

1920年1月10日 国際連盟が発足する。

1920年3月12日 ソビエト連邦のパルチザンと日本陸軍が交戦。世に言う尼港事件。

1920年3月13日 ルール蜂起。

1920年6月22日 ポーランド孤児375名を日本が保護する。

1920年7月14日 安直戦争が勃発。

1921年11月11日 ワシントン海軍軍縮条約。

1921年11月4日 原敬暗殺事件。

1922年2月6日 九カ国条約が締結される。

1922年4月16日 イタリアのラパッロでブレスト=リトフスク条約と第一次世界大戦に基づく領土及び金銭に関する主張を互いに放棄した上でドイツとソビエトとの間で結ばれたラパッロ条約。

1922年6月28日 アイルランド内戦が勃発。

1922年10月25日 シベリアから撤退。

1922年10月27日 イタリア ムッソリーニ率いるファシスト党が首都ローマに向けてデモ行進を開始し政権獲得をする。所謂ローマ進軍。

1922年11月17日 オスマン帝国が崩壊。

1922年4月28日 第一次奉直戦争が勃発。

1922年12月30日世界初の社会主義国『ソビエト社会主義共和国連邦』が建国される。

1923年9月1日 南関東を中心に大地震が発生 関東大震災である。

1923年10月29日 トルコ共和国が建国される。

1923年11月8日ナチス党が武装蜂起を起こす。所謂ミュンヘン一揆。

1924年1月21日 ロシア革命を成し遂げたレーニンが世を去った。

1924年1月31日 ソビエト連邦憲法が成立。

1924年6月11日 普通選挙法施行。

1924年7月1日 アメリカで差別的な排日移民法が制定。

1924年9月15日 第二次奉直戦争が勃発。

1924年10月23日 直隷派軍閥の馮玉祥によって中華民国の首都北京で起こされたクーデター。北京政変。

1925年1月20日 日ソ基本条約が締結される。

1925年6月17日 ジュネーヴ議定書に調印する。

1925年12月1日 ロカルノ条約が締結される。

1926年3月20日 中華民国の広州で軍艦中山艦の回航をきっかけに黄埔軍官学校長蒋介石が中国共産党員らを弾圧する。中山艦事件。

1926年11月12日 戦艦三笠が記念艦として保存され「記念艦三笠」と呼ばれる。

1926年12月25日 大正天皇崩御。摂政皇太子裕仁親王が践祚する。昭和と改元。

1927年3月24日 蒋介石率いる国民革命軍の第2軍と程潜を指揮官とする第6軍が南京を占領し外国領事館や外国人居留民を襲撃する。世に言う南京事件。

1927年4月3日 国民革命軍の一部の無秩序な軍隊と暴民が日本租界に侵入して領事館員や居留民に暴行を加える。世に言う漢口事件。

1927年4月12日 上海クーデターが勃発。

1927年5月20日 チャールズリンドバーグがニューヨークからパリ単独無着陸飛行を成功する。

1927年6月20日 ジュネーブ海軍軍縮会議。

1928年第一次五カ年計画が始まる。

1928年5月3日 国民革命軍が山東省済南で日本人を襲撃しその後日本軍が国民革命軍を撃退する。世に言う済南事件。

1928年6月3日 蒋介石率いる国民革命軍が北京政府を打倒し中国を統一する。

1928年6月4日 関東軍が奉天軍閥派の張作霖の乗った列車を爆破する。所謂張作霖爆殺事件。

1928年8月27日 不戦条約を締結する。

1929年10月24日 世界恐慌発生。

1930年1月21日 ロンドン海軍軍縮会議が開催。

1930年3月12日 マハトマガンディーと支持者がイギリス植民地政府による塩の専売に反対し、製塩の為にアフマダーバードからダーンディー海岸までを抗議行進する。所謂塩の行進。

1930年11月14日 濱口雄幸襲撃事件。

1931年3月20日 三月事件。

1931年6月8日 御茶ノ水橋完成。

1931年7月2日 万宝山事件。

1931年7月3日 朝鮮排華事件。

1931年8月25日 羽田飛行場が開港。

1931年9月15日 イギリス海軍大西洋艦隊の水兵が給与削減に抗議しストライキを起こす。世に言うインヴァーゴードン反乱。

1931年9月18日 陸軍の派遣部隊である関東軍が自ら南満州鉄道を爆破し、これを中国の仕業として軍事行動を開始。世に言う満州事変。

1931年10月17日 錦旗革命事件。

1932年1月25日 ソ連・ポーランド不可侵条約を締結する。

1932年1月28日 第一次上海事変が勃発。

1932年2月27日 ドイツの国会議事堂が炎上する。所謂ドイツ国会議事堂放火事件。

1932年3月1日 満州国が建国される。

1932年5月15日 海軍の青年将校達が犬養毅を暗殺。世に言う五・一五事件。

1933年1月30日 アドルフ・ヒトラーが首相に任命。ナチス政権の誕生。

1933年3月4日 第32代米大統領 フランクリン・ルーズベルトが就任。

1933年3月24日 全権委任法成立。

1933年3月27日 日本が国際連盟から脱退する。

1933年5月27日 シカゴ万国博覧会が開催される。

1933年5月31日 日本と中国国民党の間で塘沽協定が締結される。

1933年9月23日 アウトバーン起工式。

1933年10月21日 ドイツ国際連盟を脱退。

1934年4月21日 渋谷駅前に「忠犬ハチ公像」が設置される。

1934年5月26日 シカゴ万国博覧会が開催される。

1934年6月30日 国家社会主義ドイツ労働者党が突撃隊(SA)のメンバーを粛清。所謂長いナイフの夜事件。

1934年8月3日 ヒトラー総統になる。

1935年5月16日 ドイツはヴェルサイユ条約を破棄し、再軍備を宣言する。

1935年8月12日 皇道派青年将校に共感する相沢三郎陸軍中佐が統制派の永田鉄山軍務局長を斬殺する。世に言う相沢事件。

1935年9月15日 ナチス党大会。ニュルンベルク法が制定。

1935年10月3日 第二次エチオピア戦争が勃発。

1935年12月9日 第二次ロンドン海軍軍縮会議。

1936年2月26日 陸軍の青年将校達が下士官兵を率いてクーデター未遂事件を起こす。世に言う 二・二六事件。

1936年3月7日 ドイツ軍がラインラントに進駐する。

1936年7月17日スペイン内戦が勃発。

1936年8月1日 ベルリンオリンピック開催。

1936年8月19日 第一次モスクワ裁判が開かれる。

1936年11月25日 日独防共協定を締結。

1937年1月23日 第二次モスクワ裁判が開かれる。

1937年4月3日 満州国皇帝溥儀の弟溥傑と日本の公爵家の娘嵯峨浩の国際結婚。

1937年5月6日 アメリカ合衆国ニュージャージー州マンチェスター・タウンシップにあるレイクハースト 海軍飛行場で発生した、ドイツの硬式飛行船ヒンデンブルク号が爆発炎上する。世に言うヒンデンブルク号爆発事故。

1937年7月7日 北京郊外の盧溝橋で夜間演習中の日本軍と中国軍が衝突し日中戦争が勃発。

1937年8月9日第二次上海事変のきっかけ大山事件が勃発。

1937年8月13日第二次上海事変が勃発。

1937年11月6日日独伊防共協定が締結。

1937年12月11日 イタリア国際連盟を脱退する。

1937年12月13日 日本軍が中国の首都南京に無血入城を果たす。その際、南京市民は日章旗を振って日本軍を歓迎した。

1938年3月2日 第三次モスクワ裁判が開かれる。

1938年3月14日 ドイツが隣国オーストリアを併合する。

1938年6月9日 日本軍の進撃阻止の為 中国国民党が黄河の堤防を爆破、数十万人の住民が犠牲になった。黄河決壊事件。

1938年9月29日 ミュンヘン会談。チェコスロバキアを割譲する。

1938年11月9日 ドイツで反ユダヤ主義の暴動が起こる。所謂水晶の夜。

1938年12月18日 重慶爆撃。

1939年4月1日 スペイン内戦終結。

1939年4月1日 国家総動員法が制定。

1939年4月7日 アルバニア戦争が勃発。

1939年5月11日 満州国とモンゴルとの国境付近で日本軍派遣部隊である関東軍とソ連軍が衝突しノモンハン事件が勃発。

1939年5月22日 ドイツとイタリアの友情と同盟に関する条約。所謂鋼鉄協約。

1939年8月23日 独ソ不可侵条約を締結。

1939年8月31日 ドイツとポーランド国境付近のグライヴィッツ市のラジオ局が襲撃されたポーランド人の仕業に見せかけたナチス親衛隊の自作自演の事件。世に言うグライヴィッツ事件。

1939年9月1日 ドイツ軍がポーランドに侵攻し第二次世界大戦が始まった。

1939年9月3日 イギリス、フランスがドイツに対して宣戦布告。

1939年9月17日 ソ連軍がポーランドに侵攻する。

1939年9月28日 ドイツ・ソビエト境界友好条約が締結される。

1939年11月23日 フェロー諸島沖海戦。

1939年11月30日 ソ連軍がフィンランドに侵攻し冬戦争が勃発。

1939年12月13日 ラプラタ沖海戦。

1940年1月21日 イギリス海軍の軽巡洋艦「リヴァプール」が日本の貨客船「浅間丸」を臨検。世に言う浅間丸事件。

1940年2月16日 ノルウェー領海でイギリスとドイツが軍事衝突。アルトマルク号事件。

1940年4月9日 ヴェーザー演習作戦発動。ノルウェーとデンマークを占領する。

1940年5月10日 ドイツ軍がフランスに侵攻。

1940年6月4日 ダンケルクの戦い。連合軍ヨーロッパから撤退。

1940年6月10日 イタリア参戦。

1940年6月22日 ナチスドイツとフランスとの間で独仏休戦協定が締結される。

1940年7月3日 フランス領アルジェリア メルセルケビール軍港に停泊したていたフランス海軍の艦隊に対してイギリス海軍の艦隊が砲撃する。メルセルケビール海戦が勃発。多数の死傷者を出したフランスは反英感情が高まった。

1940年7月10日 バトル・オブ・ブリテンが勃発。

1940年8月21日 レフ・トロツキーがソ連のスパイ ラモン・メルカデルに殺害される。

1940年8月24日ドイツ空軍ロンドンを誤爆。

1940年8月26日イギリス空軍ベルリンに報復爆撃。

1940年8月31日 杉原千畝副領事、ナチスドイツの迫害よりポーランドなどから逃れてきたユダヤ人に大量のビザを発給する。

1940年9月 北アフリカ戦線でロンメル将軍率いるドイツアフリカ軍団とモントゴメリー将軍率いるイギリス軍との戦闘が勃発。

1940年9月23日 ダカール沖海戦。

1940年9月24日129機の爆撃機がベルリンを空襲。

1940年9月26日小規模なベルリン空襲。

1940年9月27日 日独伊三国軍事同盟が締結。

1940年10月28日 ギリシャ・イタリア戦争。

1940年10月30日 日独伊三国兵器輸出貿易協定が締結される。

1940年10月31日 バトル・オブ・ブリテン終了。

1940年11月10日紀元2600年記念式典が行われる。

1940年11月11日 タラント空襲。

1940年11月23日 タイ・フランス領インドシナ紛争が勃発。

1941年1月4日中国国民党と共産党が武力衝突。所謂皖南事変。

1941年3月10日 治安維持法が制定。

1941年4月6日 ドイツ軍がユーゴスラビアに侵攻。

1941年4月16日 日ソ中立条約を締結。ノモンハンの日本軍捕虜を送還する。

1941年5月24日 デンマーク海峡海戦が勃発。イギリス海軍の巡洋戦艦「フッド」が轟沈しドイツ海軍の戦艦「ビスマルク」が小破し、母港のハンブルクに帰還する。

1941年6月22日 ヒトラーはパルバロッサ作戦を開始し、ソ連に対し宣戦布告。

1941年6月26日 ソ連とフィンランドが再び武力衝突。所謂継続戦争の勃発。

1941年7月24日 アメリカは在米日本資産の凍結を決定、イギリスもこれに続いて日英通商条約の破棄を言明する。

1941年7月28日 南部仏印進駐。帝国陸海軍は、資源確保のため遂にフランス領インドシナに進軍する。

1941年8月1日 アメリカはその報復として、日本への鉄、石油等の重要資源輸出全面禁止を打ち出す。

1941年8月12日 大西洋憲章に調印。

1941年9月8日 レニングラード包囲戦。

1941年10月2日 モスクワの戦い。

1941年10月18日 対米強硬策を打ち出す東條英機を首相とする東條内閣を成立する。東條英機はハルノートへの明快にして断固たる回答をしました。その回答とは『ハルノートが要求する日本帝国の中国からの撤兵は米、英、蘭のアジア全域からの撤収を確認してから行うものとし、もしこの要求が入れられない場合日本帝国は全アジア解放の為、米、英、蘭三国に対し開戦する。加えて回答期限は日本時間12月8日午前0時まで』と明記されていた。

1941年12月7日 日本は米国に最後通知を送りつけた。『我が帝国は数世紀に渡る世界各地の非白人民族の悲惨な現状を大いに憂い我等日本民族の総力を挙げてここに決起するものであります』この事実上の宣戦布告と言うべきニュースは衝撃を持って全米のみならず世界を駆け巡った。

1941年12月8日 日本海軍の航空隊がハワイ真珠湾のアメリカ太平洋艦隊を攻撃。真珠湾攻撃である。同じ頃陸軍はマレー半島に上陸し、イギリスの植民地香港を攻撃する。

1941年12月10日 マレー沖でイギリスのZ艦隊、戦艦「プリンスオブウェールズ」と巡洋戦艦「レパルス」を撃沈

1942年1月3日 日本海軍潜水空母艦隊がアメリカパナマ運河を破壊。

1942年1月7日 ドイツ軍 モスクワの戦いに勝利。モスクワを占領。

1942年1月27日 エンドウ沖海戦が勃発。

1942年2月4日 ジャワ沖海戦が勃発。

1942年2月5日 日中休戦協定が締結され日本軍と中国国民党軍と和睦し日本軍は大陸から撤退する。

1942年2月7日シンガポールの戦いが勃発。

1942年2月20日 バリ島沖海戦が勃発。

1942年2月27日 日本軍のジャワ攻略部隊をアメリカ、イギリス、オランダ、オーストラリアの四国の戦力を結集し、ABDA艦隊が迎え撃った海戦。スラバヤ沖海戦に日本軍の完勝し、フィリピンを占領。

1942年3月2日 駆逐艦「雷」の艦長工藤俊作少佐が漂流しているイギリス兵422名を救助。

1942年4月5日 日本海軍空母機動部隊とイギリス海軍空母機動部隊が衝突した インド洋海戦が勃発。この海戦でイギリス海軍が誇る巡洋艦「ドーセットシャー」と「コーンウォール」と空母「ハーミズ」を撃沈する。

1942年4月18日 米海軍の初の東京空襲が行われた。

1942年5月4日 珊瑚海海戦が行われ、米軍機の攻撃で空母「祥鳳」が損傷を受けるも「祥鳳」は、珊瑚海を突破し、また一方で主力部隊が空母「レキシントン」を撃沈する。

1942年5月28日 パプアニューギニアのモレスビー港に侵攻し、ABDA艦隊司令部を壊滅する。モレスビーの占領によって豪州と他の連合諸国が分断される。

1942年6月4日 国家保安本部ハイドリヒ長官襲撃されるも未遂に終わる。

1942年6月6日 ミッドウェー侵攻に向けて、水上の艦隊が所定の位置にする一方帝国海軍の潜水艦隊が隠密行動を開始し、ミッドウェー近海で米空母「ホーネット」を撃沈する。

1942年6月15日 史上空前の大艦隊がミッドウェーに侵攻する。作戦は成功し、ミッドウェー島を占領する。これによってアメリカは日本の領域内に侵入する術を失った。この海戦で米空母「ヨークタウン」「エンタープライズ」を撃沈。日本軍も空母「赤城」と空母「加賀」が損傷を受ける。

1942年6月25日 ドイツ軍がレニングラードから撤退する。

1942年6月28日 スターリングラード攻防戦。

1942年6月30日 日本軍アリューシャン全島を占領する。

1942年7月14日 ドーバー海峡海戦が勃発。イギリス海軍の戦艦「クィーンエリザベス」と戦艦「ロドニー」 ドイツ海軍の戦艦「ビスマルク」と「ティルピツ」が海戦。戦艦「クィーンエリザベス」沈没「ロドニー」小破 戦艦「ビスマルク」小破 戦艦「ティルピツ」中破

1942年7月27日 日本海軍がアメリカダッチハーバー海軍基地を攻撃する。

1942年8月7日 ミッドウェーを失い深刻な打撃を受けた米国はガダルカナル強襲に掛かった。予測を違えることなく連合軍はガダルカナル島上陸に失敗。三川軍一中将率いる第八艦隊がサボ島沖で米上陸船団と護衛艦隊を発見し、これを攻撃する。

1942年8月26日 ソロモン諸島沖で米海軍と遭遇し、ソロモン沖海戦が勃発する。これによって米空母「ワスプ」を撃沈し、米軍が太平洋で運用できる空母がなくなった。

1942年10月22日 太平洋中部における米軍の重要拠点はもはやフィジー島を残すのみとなり、これを占領し太平洋における米軍の拠点はハワイを残すのみとなった。それ以外の島、基地、飛行場は大日本帝国の手に落ちた。

1943年2月2日 ドイツ軍スターリングラードの戦いに敗北。スターリングラードから撤退。

1943年2月15日同盟国ドイツとの情報、技術、機材などの交換作戦が実行されドイツの最新鋭の兵器などの設計図と日本の揚陸艦と酸素魚雷と飛龍型空母の設計図の交換が行われ帝国海軍の潜水艦伊52がアフリカ東部沖でドイツ海軍の潜水艦U530と接触。

1943年2月22日 オーストラリアが連合国陣営から離脱し中立国となる。

1943年3月9日 日本軍の爆撃機隊がテネシー州オークリッジの原子爆弾研究所を攻撃する。

1943年3月27日 アッツ島沖海戦が勃発。アメリカ軍日本軍輸送船団を阻止。

1943年4月18日 連合艦隊司令長官山本五十六がブーゲンビル島上空で撃墜されるも奇跡的に生還を果たす。

1943年5月16日 ハワイ侵攻作戦が開始され、多大な犠牲を払いながらハワイ外縁の島々を占領し、残るはオワフ島を残すだけとなった。

1943年5月30日 真珠湾上陸作戦が開始された。真珠湾こそこの戦いの始まりであり、終焉であった。まさに"皇国の興廃はこの一線にあり"。ハワイが陥落し、かつての敵地もこれにより大日本帝国の一部になり、これによってルーズベルト大統領は交渉の席に着く事を決断する。

1943年7月4日クルスクの戦い。

1943年8月15日 サンフランシスコ湾の戦艦「大和」艦上にて、連合国軍最高司令官ダグラス・マッカーサーが休戦協定に調印。

1943年8月27日 ドイツ軍 クルスクの戦いに敗北。東部戦線から一挙に後退。

1943年8月30日 連合軍イタリアシチリア島に上陸。

1943年9月2日サンフランシスコ講和条約が締結されこれによって大東亜戦争は終結し日本が占領していた島々をアメリカに返還する。東南アジアの独立を容認し、日米通商条約と国交が復活する。

1943年9月17日 日本は日独伊同盟の破棄を発表する。

1943年10月22日 セット=イル沖海戦。

1944年10月16日 ドイツ軍ハリコフから撤退。

1944年1月17日 イタリア降伏。ムッソリーニ政権崩壊。

1944年1月18日 ドイツ軍 大軍で押し寄せて来たソ連軍の反撃に遭いモスクワから撤退。

1944年1月28日 ムソッリーニ救出作戦グラン・サッソ襲撃が行われ武装親衛隊オットー・スコルツェニーSS中佐率いる降下兵によりムソッリーニが救出される。

1944年1月30日 ムッソリーニを首班とするイタリア社会共和国をイタリア北部で成立させる。

1944年3月12日連合国軍がフランスノルマンディーに上陸する。

1944年6月15日アメリカ軍とイギリス軍がフランス パリに入場し、パリが解放される。

1944年7月10日イタリア社会共和国がイタリアを統一する。

1944年7月25日 アルザスロレーヌ地方を中心にドイツとアメリカ、イギリスが休戦協定を締結する。

1944年9月9日 ポーランドで第二次ブレスト=リトフスク条約が締結され休戦し首都ワルシャワを独ソ二カ国で分割する。

1944年11月8日 ドイツはソ連、アメリカ、イギリス三カ国と停戦協定に調印し第二次世界大戦は終結した。ヨーロッパ各地の収容所のユダヤ人がアメリカとイギリス双方に引き渡されドイツ軍捕虜の引き渡しが行われた。

1945年3月5日 国民党と共産党が和睦し北京を首都とする『中華人民共和国』と南京を首都とする『中華民国』の建国を宣言する。

1945年3月29日 日中国交正常化と平和条約締結。

1945年4月24日 国際連合が発足する。(日本、アメリカ、イギリス、ソ連、フランスを常任理事国とする)

1945年5月17日 アメリカを中心とする資本主義陣営とソ連を中心とする共産主義陣営の冷戦の始まりである。

1945年7月25日 異世界へと繋がる門が東京銀座にて開いた。



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登場人物

登場人物も全員日本軍に置き換えました。


登場人物

 

日本軍第三偵察隊

伊丹耀司

所属:大日本帝国陸軍

階級:中尉

大日本帝国陸軍の軍人でありながら、年季の入ったオタクでもある。第三偵察隊の隊長で、モットーは『食う寝る遊ぶ、その間のほんのちょっとの人生』周りから『怠け者』又は『陸軍の異端児』と呼ばれてる。なんとなく受けた陸軍士官学校に合格する。万年少尉と馬鹿にされてきたが銀座事件をきっかけに陸軍中尉に昇進した。特地の第3偵察隊の隊長を任される。探索中に、特地の住人「テュカ」「レレイ」「ロゥリィ」らと出会い、信頼関係を築いていく。特地でも強大とされる「炎龍」を討伐した際にロゥリィと眷属の契約を交わしたことで、ある程度の負傷を肩代わりしてもらえるようになり、これを利用して遠距離での意思疎通をはかることもできるようになった。

 

栗林新之助

所属:大日本帝国陸軍

階級:軍曹

白兵戦が得意の兵士で格闘勲章持ちであり、船坂とはライバル関係。かなりの戦闘狂。妹が居てちょっとシスコンが入っている。その格闘戦能力は極めて高く、イタリカ防衛戦で超人的な戦闘能力を持つロゥリィと船坂と即興でトリオを合わせる、伊丹の命令でゾルザルを皇帝や大勢の護衛の前で半殺しの目に合わせる、特地の怪異生物とナイフ一本で互角に渡り合うなど、作中でも武勇伝を積み重ねている

 

富田章

所属:大日本帝国陸軍

階級:軍曹

個性的な第三偵察隊の中でも良識人。装甲擲弾兵や空挺部隊にも所属して居たことがある。個性豊かな第3偵察隊面々の中では一般的な良識と規範を持つ軍人。物語を通じて、伊丹の実質的な右腕として活躍する。ボーゼスのような女性が好みのタイプで、来日時に護衛に付いたことで互いに意識し合って後に交際に発展、結婚まで意識するようになる。

 

倉田武雄

所属:大日本帝国陸軍

階級:伍長

装甲車での運転技術が高く伊丹と何かと気が合う。女好きで可愛いものには目がない。伊丹のことは軍人としても非常に尊敬している。帝都に開店したPXの支店で、出入りの商人を通じた情報収集を行い、子供たちへの贈り物を用意して相手の気を引いていた。また、皇族(ゾルザル)のお忍びパーティーの噂を聞きつけ、パーティーの厨房に古田を送り込むよう話を付けるなど、機転が利く。薔薇騎士団によってイタリカに連れ戻された伊丹を奪還する際に、フォルマル家の猫耳亜人メイドのペルシアと出会い一目惚れ。その後はイタリカでの任務を率先して引き受けながら交際を重ねていく。

 

古田 均

所属:大日本帝国陸軍

階級:兵長

料理が得意な兵士。元板前で世界恐慌で板前を辞め軍に入隊し店を出す為のお金を稼いでいる。料理人としてみんなに自分の料理を食べて喜んで欲しいという料理人としてのプライドがある。帝国での潜入活動中、彼が日本兵とは知らないゾルザルに気に入られて皇太子付きの料理人として雇われることになり、その立場を利用して諜報活動を行う[注 6]。そこで巡り合ったテューレと心を通わせるも、その想いはテューレのあまりに重すぎる宿命のために叶うことはなかった。

 

桑原惣一郎

所属:大日本帝国陸軍

階級:曹長

第三偵察隊の中で年長者でみんなから「おやっさん」と父親の様に慕われている。周りの兵士から鬼軍曹と恐れられているが、説明を求めるレレイに相貌を崩したり、炎龍と遭遇した際にギャグを言うなど、まるっきりの堅物ではない。さらに、外見は子供であるロゥリィが酒をあおっているのを見とがめた際に、齢961歳の彼女から散々「坊や」扱いされてへこんだこともある。

 

黒川真琴

所属:大日本帝国陸軍

階級:軍曹

軍医で第三偵察隊の中では唯一医療知識がある。かなりの長身かつ美男子でよくモテる。隊長である伊丹を時々軽蔑したり毒舌を吐く。味は注射。銀座事件の際は大量に発生した怪我人の治療に忙殺されていた経験を持つ。伊丹や栗林からは「クロ」「クロちゃん」と呼ばれることもある。

真面目で気配りができるが、目の前で困っている人を助けたい衝動はあってもその先の展望がないため、理想が先行しがちな(悪く言うと無責任な)提案をしては伊丹に却下されている。当初は反対される理由を理解できずに伊丹に反発していたが、自身の提案した内容が実際に行われてテュカの自我が崩壊した様を見てからは慎重になった。その後、つまらない冗談のせいで病院に強制収容された伊丹の監視役として異動となり、第3偵察隊メンバーとしては最初に日本に帰還する。

 

仁科哲也

所属:大日本帝国陸軍

階級:伍長

第三偵察隊のNo.3で伊丹や桑原を補佐する立場で、書類関係の仕事で伊丹の手伝いをする。この時代では珍しい妻と共働きをしていが妻の尻に敷かれている。

 

笹川隼人

所属:大日本帝国陸軍

階級:兵長

写真撮影が趣味で特地で色々な写真を撮る。倉田とは気が合う下士官。ただし陸軍省からは、参考人招致以降、特地の人々に対する関心が高まり、テレビ局、ラジオ局、新聞社などの要求、圧力を躱すための材料として重宝されており、笹川の撮った写真が「特地の女の子特集」として週刊誌などで紹介されている。

 

勝本 航

所属:大日本帝国陸軍

階級:伍長

関西出身の下士官。少し軽薄で軽い性格の持ち主だが、その気さくさで街の子供たちに慕われている。銃器の扱いが得意。

 

戸津大輔

所属:大日本帝国陸軍

階級:上等兵

財テクが得意な為特地で経済顧問をする。

 

東 大樹

所属:大日本帝国陸軍

階級:上等兵

士官になる事を目標として猛勉強をしている。

 

日本軍第一偵察隊

 

大場 栄

所属:大日本帝国陸軍

階級:大尉

連合軍から「フォックス」と呼ばれた男

 

 

大日本帝国陸海軍

 

今村 均

所属:大日本帝国陸軍

階級:大将

日本軍特地派遣軍総司令官。旧仙台藩士族出身。今村は、部下に無謀な命令は一切くださず、現地住民を戦火に巻き込まず、食料の徴発も自重した。敵捕虜すら丁重に扱い、日本兵と同じ治療を受けさせた上にタバコやビールなどを支給した。今村は、部下を愛し、現地住民を愛した。また部下の将兵や現地住民も今村を慕い尊敬した。

 

栗林忠道

所属:大日本帝国陸軍

階級:中将

日本軍特地派遣軍参謀総長

 

狭間浩一郎

所属:大日本帝国陸軍

階級:中将

日本軍特地派遣軍参謀長で東京帝国大学の哲学科出身ながらも兵卒から昇進して来た叩き上げの軍人と言う異色の存在だが、たたき上げゆえに話の解る人物でもある。

 

柳田 明

所属:大日本帝国陸軍

階級:中尉

特地方面軍の参謀を務める日本軍人。陸軍幼年学校・陸軍士官学校を首席で卒業した軍刀組でエリート意識が高い軍人。将来的には陸軍大学校へと入学し天保銭組なる為に猛勉強をしている。エリートで鼻につく様な態度をとる事も多く、特地に眠る膨大な資源に目を付けている。特地の資源を得る為に伊丹に炎龍退治を叩き付けるなど、日本軍側では珍しい嫌われ役。運任せで成り上がった伊丹を心底嫌っている。ただし炎龍退治に向かうと伊丹が決めた瞬間に必要なものを用意する手立てを進めたり、命令違反の炎龍退治後に伊丹が不利すぎな状況にならないよう配慮したりと、自分の意向をそわせようとする相手に貧乏くじを引かせない様にしているので、単なる嫌味な奴ではない。事務畑であるため決して戦闘能力は高くはないが、デリラに狙われた紀子を救おうとして高度な体術を持つデリラに命懸けで食い下がり、相討ちに持ち込む。その際に大怪我を負うが、デリラの介護のもと回復。その後は人生の全てを柳田に捧げると誓ったデリラとコンビを組み、イタリカにおいて諜報指揮官として活躍する。

 

健軍俊也

所属:大日本帝国陸軍

階級:大佐

陸軍航空隊第四戦闘航空団の団長。盗賊の襲撃をうけているイタリカ救援に赴いた際は、戦闘機や爆撃隊を連れて、盗賊を殲滅すると共にピニャに対して日本軍の圧倒的な火力を見せつけた。 ゾルザルによるクーデター後の帝都に行われた日本の要人および監獄に囚われていた帝国要人を救出する作戦時、皇宮に幽閉されているピニャを救出すると走りだしたボーゼスを追おうとするヴィフィータの特地語での伝言を直感的に理解し、彼女たちが戻ってくるまで待っていた事で同年代よりも上の年齢の男性に興味をもつヴィフィータに慕われ、娘と言っても良い程年齢の離れた女性と付き合う事になった。

 

 

加茂直樹

所属:大日本帝国陸軍

階級:大佐

第1戦車連隊の指揮官。伊丹からの支援要請の際に第1連隊の出撃を具申したが、スピード重視との狭間の判断により出撃は第4戦闘航空団となり、副長の柘植中佐と共に歯噛みする。その後、資源調査の名目で炎龍討伐に出た伊丹たちを救援するべく、エルベ藩王国王・デュランの要請という形で出撃。炎龍はすでに倒されていたが、代わりに新生龍二匹を討伐した。

 

神子田瑛

所属:大日本帝国海軍

階級:中佐

海軍航空隊 零戦を操るパイロット。操縦時間1000時間を超える凄腕の敏腕パイロットで日米開戦での撃墜数は約40機。

 

久里浜純

所属:大日本帝国海軍

階級:中佐

海軍航空隊 零戦を操るパイロット。いつでも冷静に物事を観察しており、熱くなりやすい神子田のブレーキ役割を持つ。日米開戦での撃墜数は32機。

 

檜垣 統

所属:大日本帝国陸軍

階級:少佐

伊丹の直属の上官で伊丹に頭を悩ませつつも、彼に対して若干の劣等感を感じている。こんな立場のため今作有数の苦労人である。

 

 

大日本帝国政府

東條英機

所属:大日本帝国陸軍兼ね衆議議員

階級:大将

現内閣総理大臣兼ね現役の陸軍軍人。

 

菅原浩治

大日本帝国の外務省の官僚で特地の大使。礼儀正しく冷静に見えるが時間にルーズな相手には内心毒を吐いたり舌打ちをする。ピニャが帝都に戻った後は、自ら特地に渡って特地語を習得。キケロや講和派の有力貴族に対して”四季があって森と水が綺麗な”日本の特産品(真珠・反物・漆器等々)を武器に裏交渉を重ねた。がその過程で有力貴族のカーゼル侯爵に近づく為に真珠のネックレスを贈ったシェリー・ノール・テュエリに付きまとわれる事になる。

帝都が地震に見舞われた際にゾルザルに連れられていた拉致被害者の紀子の存在を知ると、伊丹らがゾルザルを打擲する事を黙認したり、ゾルザルのクーデターにより戒厳令下となった帝都で吉田茂らと翡翠宮に幽閉同然の扱いをうけていた際、自分に助けを求めたシェリーが捕えられそうになったところで「俺の嫁」宣言する等、熱血漢なところがある好人物だが、シェリーを嫁にする事で外務省の仲間達からは出世は終わったと思われている。

 

吉田茂

菅原浩治の上司で先の大戦で全権大使を務めた。今は東條内閣の副総理兼外務副大臣を担っている。外務省の菅原と共に帝国との和平および賠償の交渉を担当し、帝国に赴いた際はゾルザルのクーデターに巻き込まれた。 日本に戻った後に、帝国正統政府と交渉を再開するが、シェリーにやりこめられてしまう。

 

特地側

テュカ・ルナ・マルソー

精霊種エルフ(ハイエルフ)の娘。金髪碧眼で見た目は10代だが年齢165歳。弓と月琴が得意。エルフの中でもひときわ美しいハイエルフの少女。バイセクシュアルを公言しているが、男は伊丹以外には興味なし。炎龍が焼き払ったエルフの村の唯一の生き残りで、伊丹ら日本兵に救助されたが、村を焼かれた際、炎龍に父親を殺された影響によりパーソナリティ障害となり、伊丹を父親だと思い込むようになる。その後、伊丹と共に炎龍を倒したことで障害を克服するが、伊丹への想いを隠すため父親と呼ぶことはやめなかった。

 

レレイ・ラ・レレーナ

コダ村に住むカトー老師のもとで魔法を学ぶ15歳の少女。ルルド部族出身。

幼いながらも知性が光る魔法使いの少女。好奇心が旺盛。魔法使い「カトー老師」のもとで魔法を学んでいたが、炎龍から逃げるため難民となっていた際に伊丹たちと出会う。その旺盛な知識欲により、またたく間に日本語をマスターし、特地と日本間の通訳などもこなした。また魔法知識と科学知識とを応用した画期的な魔法をあみだし、戦闘の際には幾度となくその力を発揮した。

 

 

ロゥリィ・マーキュリー

死と断罪の神・エムロイに仕える亜神で、人の肉体を持ったまま神としての力を得た存在。見た目は12歳から13歳だが年齢961歳。漆黒の髪に赤い瞳を持つ少女。戦闘力は極めて高く、不老不死の体を持つ。虫は苦手。死と断罪の神エムロイに仕える亜神で、「エムロイの使徒」とも呼ばれ恐れられているが、伊丹ら仲間たちには好意を抱いており、伊丹と大場と眷属契約を交わしたのも身を案じてのことである。亜神であるがゆえに人間とは違った価値観を持っており、エムロイの信条の下、魂を捧げるために盗賊の殺戮を行い、戦闘の際には喜々として敵の命を奪う。

 

 

ヤオ・ハー・デュッシ

シュワルツの森に住む、ダークエルフ。外見は30代前後の肉感的な美女。年齢315歳。ダークエルフ。手負いの炎龍に居住地を奪われ、炎龍退治を日本軍に頼みに来た。極めて極めて運が悪い。アルヌスにやってきた頃は、冥府神ハーディの信徒として「ヤオ・ハー・デュッシ」を名のっていたが、休眠期の炎龍を起こした張本人がハーディの使徒ジゼルで、ダークエルフが炎龍の犠牲になった事をハーディがなんとも思っていない事を知ると、ハーディ自身に三下り半をつきつけて棄教し、ロゥリィの最初の信徒となる栄誉を得て「ヤオ・ロゥ・デュッシ」に改名した。

 

 

ピニャ・コ・ラーダ

第10位の皇位継承権を持つ、帝国の第三皇女の赤髪の美女。薔薇騎士団の団長。日本に攻めて来たモルトの5番目の子。年齢19歳。少々気位の高い所があったが、徐々に和らぎ腐女子に目覚める。イタリカの防衛戦において大日本帝国軍の実力を目の当たりにし、いち早く和平を望むようになる。日本軍と関わる中、その中心人物だった伊丹を軍人として信頼していく。伊丹とつながりを持った事で、和平交渉を仲介する重要な役目を果たす事になる。伊丹を、その婚約者「梨沙」とのパイプ役として利用し、「特殊な芸術作品」と呼ぶ薄い本を入手していたりもする。

 

 

薔薇騎士団

この騎士団はピニャ・コ・ラーダが貴族の子弟をまとめたものであり、現在では軍人とならなかった女子が主たるメンバーである。

 

ハミルトン・ウノ・ロー

17歳。侍従武官・准騎士。仲が良好な婚約者がおり、性的には騎士団の中で一番進んでいた(逸物が何なのかを知っていた)が、騎士団側近はみんな相手がおり、ピニャ本人が例外。イタリカにおいて日本軍との交渉をまとめた手腕(実際はハミルトンの手腕は関係なく、日本軍の要求が特地の感覚からすると異常なまでに軽微なものだった)をピニャに評価され、ピニャの秘書として働くようになる。ピニャに対する忠誠はボーゼスに負けず劣らずで、ゾルザルのクーデターによりピニャが幽閉されて主戦派元老院議員の槍玉に挙げられた際も、1人で元老院を相手に舌戦を行った。

優秀な秘書ではあるが、いささか思い込みが過ぎるきらいがあり、また物事を実行する際にも度を越した根回しで暴走するところがある。

 

ボーゼス・コ・パレスティー

パレスティー侯爵家の次女。18歳。黄薔薇隊隊長→団長代行。正式な騎士団結成前は第一部隊隊長。金髪縦巻きロールの髪型が特徴のお嬢様然とした女性。

ピニャに対して忠誠は篤いが、正しいと思えばそのピニャにも反論し、イタリカでピニャが孤軍であるとすれば、部隊を置いて行っても駆けつけようとする熱血嬢。

イタリカ防衛戦へ薔薇騎士団本隊とともに駆けつける途中、イタリカ防衛を果たしてアルヌスに帰還する途中の第3偵察隊と第1偵察隊を発見し、パナシュとともにこれを臨検。日本軍とピニャの間で結ばれた協定のことを知る由もなく、伊丹らがアルヌスへ帰ると知ると伊丹を捕らえて暴行を加え、イタリカへ連行し、顛末を知ったピニャを激怒させる。さらにその件の隠蔽のためにピニャから伊丹を懐柔するよう命じられるが、歓談して盛り上がっている面々には気付かれず、無視されたと伊丹に平手打ちを放ち爪でひっかく。その後、大日本帝国政府との仲介交渉のためにお忍びで来日したピニャのお供をした際に、護衛として同伴した富田を異性として意識するようになり、交際へと発展。

騎士団が翡翠宮(帝国の迎賓館)に滞在中の日本の交渉使節団を護衛する任務において、帝権擁護委員部(と無理矢理連れてこられた帝都駐留部隊)との戦闘になってしまった。帝都を脱出する際に、皇宮に軟禁状態のピニャを助けようと単騎敵地に乗り込もうとした。

 

パナシュ・フレ・カルギー

カルギー男爵家令嬢。19歳。白薔薇隊隊長。正式な騎士団結成前は第二部隊隊長。

見た目が男装の麗人。イタリカでピニャが孤軍であるとボーゼスが暴走気味に単騎で駆けようとするのを抑えていたが、実はスピード狂の気があり倉田のジープに便乗してはしゃいだり、「飛行機は速く飛ぶ」と聞いて、航空隊に零戦に乗せてくれるよう頼んでいた。

アルヌスへの語学研修の際、ピニャからは伊丹を籠絡するよう命じられていたが、アルヌスに潜入したディアボと関係を持つ。ピニャの義姉(兄の配偶者)になれることを密かに喜んでいたが、ディアボにはピニャの補佐をして欲しいと願っていた。

 

ヴィフィータ・エ・カティ

18歳。正式な騎士団結成前は親衛隊隊長。父親は侯爵だが、庶子と少々複雑な立場。男勝りで情に厚く、地位・家格の上下など気にせずハミルトンと共にピニャの家(皇城)に最初に泊まり、それを簡単に口にしてしまうなど処世術などとは縁がない性格。体力バカで地味な訓練や座学を嫌う実践派。特殊な芸術に興味が無いため、パナシュの後任の白薔薇隊隊長になった。

とある騒動で遠慮もなく自分を肩に担ぐ健軍に漢を感じてしまい、一方的に惚れてしまう。親子と言っても差支えない年齢差ながらもともと同年代の男性に興味がなかった事もあって、日本と帝国の和平締結の式典中に告白。健軍もその気になり、交際に至る。

 

 

モルト・ソル・アウグスタス

帝国の皇帝。好戦的で、権力欲の強い野心家。

領土拡大を狙い「アルヌスの丘」に開いた「ゲート(門)」を越え日本に出兵し、銀座事件を引き起こす。日本軍なやよる反撃を受け一方的な敗北をしたにもかかわらず、争いをやめるつもりはなかった。日本の軍事力や日本兵の戦闘力を垣間見たことで、徐々に争う気も失せていき、最終的には第3皇女である「ピニャ」を皇太女とする。

 

 

ゾルザル・エル・カエサル

帝国の第一皇子。傲慢で幼稚な性格で、奴隷に冷酷な仕打ちをするサディストの面を合わせ持つ。日本との主戦論者で、日本人女性「紀子」を奴隷にしていた事が発覚した際には、伊丹の命を受けた日本軍兵士の部下「栗林」と「船坂」に半殺しにされ、手酷い屈辱を受ける。亜人族の一種、ヴァーリアバニーの元女王「テューレ」を奴隷としているが、実際は復讐を企てる彼女の操り人形となっている。次代の皇帝の座を狙い、父が手綱を取りやすい暗愚な皇子を演じて(本人は演じているつもりで)いたが、モルトが日本との戦争を避ける形に路線変更したことに納得できず、クーデターを実行。講和派を投獄・処刑し元老院を掌握する。本人は何者にも媚びる事のない「強い帝国」を望んでいたが、非常時を言い訳に司法を蔑ろにし、強権を用いた指導を行う。身の安全が保障され精神が安定さえしていれば時間を惜しんで仕事に取り組もうという姿勢もあったが、基本的に己が理想とする方針に追随するように官僚達に強要しているだけなため、基本的には只の恐怖政治における暗愚な専制君主として君臨した。

投獄していた講和派を圧倒的寡兵で救出され帝都をほぼ制圧されかけたことで自分の命はいつでも簡単に奪われかねない状態だと自覚。伊丹とレレイの脅迫で帝都そのものが自分の命を狙っていると被害妄想を繰り広げ、遷都の名目で逃亡する。帝都から離れても狙撃の恐怖に怯え続ける日々となり、敵に勝利して精神の安定を図らざる得ない状況に追い込まれてしまう。

 

テューレ

ヴォーリアバニーで、もとはヴォーリアバニーの国の女王。

国を滅ぼさない代償としてゾルザルの奴隷となるが、彼女の知らぬ所で約束は反故にされて国は滅亡し、部族は離散。そのためデリラなど同族の仲間からは国を売った裏切り者と言われ、命を狙われている。その事実を知ってからは言葉巧みにゾルザルを操り、自身をエサに従わせた密偵による裏工作を行い、帝国のみならずヒト種に対しての復讐を目論んでいる。

自分の目の前で自分と似た境遇の紀子が日本軍に救出されたことに嫉妬し、帝国や大日本帝国を含めて人間を恨み、全員を不幸にしようと画策し、ゾルザルを利用して帝国を陥れるも、何も満たされる事のない虚しさを得てしまい、虚無感を覚える。その最中に出会った古田に惹かれる。



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銀座事件

1945年 7月25日 十二時五十分 帝都東京 銀座六丁目交差点

対米戦講和記念日から約2年戦争の記憶も大分薄れつつある。2年前の1943年8月15日 大日本帝国とアメリカ合衆国との戦いは、講和と言う形で終止符が打たれ幕を閉じた。関東大震災後の復興で、史実では計画縮小を余儀なくされた後藤新平案に基づいた復興計画が実現され、史実では44mに縮小された昭和通りも計画通り108mに道幅が拡大された。そんな昭和通りの隣に位置する銀座通りで、その日銀座通りに突如西洋風の門が通りを塞ぐ様に出現したのである。市民は不思議に思い近付こうとする政府により接近禁止令を出され警察が辺りを囲っている。映画のセットか、いたずらか。誰もがそう思っていたそして門が開き警官が中を覗く、

 

「どうだ ?何か見えないか!」

 

「いいえ何も見えません。」

 

と中を覗いていた警官が報告する。するとその時

 

「うわぁーなんだお前達は!!!」

 

「どうした!大丈夫か?」

 

「何があった、、ぐはぁ。」

 

「うわぁに、、逃げろ」

 

門の向こうからローマの兵士を伺わせる軍勢と伝説上の生物ドラゴンやゴブリンやオーク門の中から現れ市民に無差別攻撃を開始したのである。軍勢は剣や槍や弓矢などで攻撃仕掛けて来た。世界大戦下でも殆ど戦火に晒されなかった帝都東京は混乱状態に陥ったのだ。警備に当たっていた警官や特別警備隊は、国民を守りながら突如門から現れた軍勢と交戦した。警官隊は、超々ジュラルミン製のライオットシールドを盾にして携帯していたラドムVIS wz1935、S&W M10 4インチ、Kar98k、ウィンチェスターM1912、MP41などで応戦する。ライオットシールドに防弾性は無いが、幸いにも敵軍に銃器は持っていなかった為、剣や槍などによる斬撃投擲武器による攻撃は防いでいた。だが、オークやトロルなどの大型亜人の棍棒による一振りでは、ライオットシールドもひしゃげてしまう事もあり、装甲車類も無く、数による暴力、竜騎士による空からの攻撃に警官隊だけではとても抑えられず苦戦を強いられていた。

彼らは残忍にも殺した市民や警官の死体を山積みにして見たこともない漆黒の旗を突き立てた。

 

「蛮族どもよ!よく聞くがいい我が帝国は皇帝モルト・ソル・アウグスタスの名においてこの地の征服と領有を宣言する!!」

 

この事実上の日本に対する宣戦布告だった。明らかなる侵略行為だった。

 

一方で陸軍少尉伊丹耀司は銀座近くに来ていた。そんな彼はある光景を目撃した銀座方面が慌ただしくなっていたのを目にした。伊丹は駅前の案内地図を見て天皇の住まい皇居に目をつけた。

 

「ここだ!!」

 

伊丹は近くを巡回中の警察官に呼びかける。

 

「お巡りさーん 宮城だ!!宮城へ避難誘導してくれ!」

 

と伊丹は警察官に指示する。首都のど真ん中からの攻撃に対応が追いつかず、警察機構が各個撃破される形で壊滅。

時にこの事態に時の内閣総理大臣東條英機は即座に戒厳令を敷いて軍の出動決定し、近衛師団が緊急出動する。軍の出動命令は出せたが官庁街に押し寄せた軍勢に逃げ遅れた多くの官僚が殺害され指揮系統が混乱する。一方皇居付近では東京駅を降りた伊丹は、避難民を逃がすために皇居の二重橋前の近衛師団や皇宮警察の詰所で近衛師団や皇宮警察官らに宮殿内への避難を要請していた。

 

「避難民を宮城内に入れろだと!!」

 

「そうだ!宮城は元江戸城だった場所だ!今ここに居る避難民を賊軍から守るために宮城に立て籠もるしかない!民間人を半蔵門から西へ脱出させるんだ!」

 

「いくらなんでも一介の少尉殿の要請では通りません!それに自分の一存でそのようなことは決められません!第一に 宮城に無闇に人を入れるなど・・・」

 

渋る皇宮警察官に伊丹は踵を揃え気をつけの姿勢を取って叫んだ。

 

「恐れ多くも!天皇陛下が御座す宮城の御前で帝国臣民が賊徒に無残に殺される様を陛下に御見せする気か!?」

 

この一言で皇宮警察は口を閉ざした。彼らは何も言えなかった。そんな彼らの詰所の電話がかかった。

 

「警部補これをっ!!」

 

と皇宮警察官の一人が受話器を渡す。

 

「はい?陛・・・・!ハッ 了解したでありますっ!!」

 

そして受話器を置いて伊丹と皇宮警察官に向き直る。

 

「陛下は臣民の安全を守る為に宮城への避難を命じられた!すぐに正門を開けよ!」

 

天皇陛下の許可が降ったことにより近衛師団や皇宮警察は、正門を開けて避難民を中へ誘導する。

 

「来たぞ!!」

 

「急いで!半蔵門へ!!」

 

二重橋を抜け宮殿に入った避難民は東御苑へ誘導され本丸御殿跡の広場に集められた。皇居にて敵から死守する構えだった。伊丹は特別警備隊や近衛師団に指示を出していた。

 

「奴らは二重橋に集中している増援を桜田門から・・・」

 

「特別警備隊も到着!朝霞からも陸軍の援軍が向かっています!!」

 

通称「宮城前攻防戦」が発生する。

民間人を追う形で宮城を取り囲んだ軍勢は二重橋前を筆頭に一部迂回して大手門、 平川門と三箇所から攻め込むが江戸城の城として堅牢さと銃火器を前に損害が積もる。

その後近衛歩兵第一連隊と日本陸軍はドイツから購入したティーガーとパンターを先頭に続いてやって来た九四式六輪自動貨車から降りてきた陸軍歩兵隊と装甲擲弾兵師団 彼らは機関銃と手榴弾で行く手を阻む者を全て薙ぎ倒しながら突撃して来た。海軍から海軍陸戦隊に横須賀・厚木・館山・木更津・百里原航空隊基地の海軍航空隊も出動した。 海軍主力戦闘機零式艦上戦闘機を投入、陸軍航空隊の調布飛行場の近衛飛行隊から主力戦闘機四式戦闘機疾風を出撃させる。 海軍の戦艦長門を始めとする艦隊が出動し、浜離宮周辺から海軍陸戦隊が次々と上陸して銀座に急行する。 戦争終結から間もない日本にとって再び戦争の火種が起こった。戦闘機隊は銀座上空を飛ぶワイバーンを20mmと7.7mm、12.7mm機銃で駆逐していき次に地上部隊の掃討していく。ティーガーの88mm砲とパンターの75mm砲が帝国軍の兵士達を吹き飛ばして行きながら、帝国軍兵士を踏み潰していく。

 

「砲撃始めェッ!」

 

そして、現場に到着した砲兵隊が7.5cm pak40で砲撃を始めて帝国軍を蹴散らしていく。残った帝国軍に機銃掃射で帝国軍兵士は、バタバタと薙ぎ倒され血の雨が降る。

 

「隊長!敵の陣形が崩れました!!」

 

「よし、総員着剣!!」

 

日本軍の連隊長の言葉と共に日本兵は、三八式歩兵銃と四式自動小銃やstg44に銃剣を着剣して行く(ドイツの兵器会社シュマイザーからstg44を購入し日本でライセンス生産を開始し日本軍の主力銃の一つ)

 

「突撃!!」

 

突撃の合図と共に突撃ラッパが響き渡った。

 

「うぁぁー」

 

「殺せー」

 

「天皇陛下万歳!」

 

「大日本帝国万歳!!」

 

日本兵の決死の万歳突撃が行われ帝国軍兵士は死を恐れず真直ぐに向かってくる日本兵に怯えた。帝国軍は銃剣に突き刺され悲鳴そして絶叫が辺りをこだました。降伏する者は捕虜として捕えられたが、抵抗する者は容赦無く攻撃され討ち取られた。しかし、感情的になった一部の士官、下士官、兵士達が降伏したと分かっても攻撃を加えて皆殺しにする事態も起きた。勿論、感情的になった士官、下士官、兵士達は軍の規律と統制を維持する為、事件後軍法会議に掛けられた。

 

 

それから暫くして日本軍は漸く門を占領し、銀座を奪還した。そして事件はなんとか治まりこの事件は後に『銀座事件』又は『銀座事変』や『銀座大虐殺』などと呼ばれた。この戦いで、一般市民約12万人が犠牲になり、日本人の心にしこりを残す事件となった。この事件、7割が帝国軍による殺戮又は日本軍と帝国軍の戦いの巻き添い。3割が日本軍の砲爆撃による死亡だった。帝国軍による殺戮と陵辱は、その規模と方法に於いて単なる非戦闘員殺害の範疇を超えたジェノサイドであった。また、オークやトロルといった大型の亜人がハンマー片手に暴れた為に、建造物への損害もあった。更に、退路を絶たれた帝国軍の一部が各地の建物に立て篭もった事もあり、被害が加速した。

銀座周辺の戦闘では、有名な銀座和光の一部が損壊で済んだが、老舗百貨店松坂屋など他の百貨店は半壊或いは全壊した所もあった。また、築地本願寺や歌舞伎座など歴史的な文化遺産の木造建築が完全に破壊され、所蔵されていた歴史的価値のある貴重な文化財にも被害が及んだ。

この他、宮城前の戦闘では日比谷公園が一部荒らされ、外国からの来賓者宿泊施設として準備されている帝国ホテルや歓待施設として起用していた帝国劇場も損壊し、外苑内にあった楠木正成像も全壊させられた。この他にも、丸の内庁舎、毎日・朝日新聞社東京本社、第一生命館、日本劇場、日比谷映画劇場、ニユートーキヨー本店ビルも甚大な被害を被った。

そして、インフラ面でも被害が大きかった。

有楽町駅や東京駅の山手線や東京都電や日本初の地下鉄である東京地下鉄道銀座線や銀座駅を中心に被害を受けた。

 

 

日本政府はこの事態を沈静化しようとしたが既に諸外国に事件の事が知れ渡った。数日後の新聞の見出しには、

 

『帝都東京銀座が奇襲攻撃!?』

 

『平和と繁栄が踏み躙られる!死傷者12万人!!』

 

『正体不明の敵は帝国を名乗る異世界の軍!?』

 

これにより日本全土が悲しみと怒りに震えた『暴帝膺懲』と言うスローガンが叫ばれた。『暴戻帝国ヲ膺懲ス』の略で『残虐な帝国を懲らしめよ』という意味になる。

一方、二重橋の避難民を救助した伊丹耀司は二級金鵄勲章を受章軍人としては大変な栄誉だった。数日後そこに旭日章が加えられる事になり陸軍中尉に昇進した。伊丹は大本営に呼ばれ天皇陛下本人から旭日章を授与された。帝国政府は国民の政府への批判を晒そうと伊丹をプロパガンダとして利用した。

 

銀座事件から一週間が経ち時の内閣総理大臣東條英機は帝国議会から記者会見を開いた。(外国人記者も含め)テレビやラジオから東條英機は国民に発した。

 

「1945年7月25日は屈辱の日として記憶に残るでしょう。大日本帝国は奇襲攻撃を受けたのです。当然の事であるがこの土地は地図にも載ってはいない。門の向こうに何があるのか、どうなっているのかも一切謎に包まれています。だがそこに我が国のこれまで未確認であった土地と住民が居るとすると、そう、ならば強弁と呼ばれるのを覚悟すれば特別地域は日本国内と考えてもいいだろう。今回の事件では、多くの犯人を捕虜にした。これは我が大日本帝国に対する宣戦布告である事は明確である。よって「門」を破壊しても何も解決しない。それは「門」がまた日本国内の何処かに現れるかもしれないからだ。その為向こう側に存在する勢力を交渉のテーブルに力ずくでも着かせなければならない。相手を知る為にも「門」の向こうへ足を踏み入る必要がある。危険、そして交戦の可能性もあろうともだっ!!従って大日本帝国政府は特別地域を略して『特地』として、特地の調査と銀座事件の首謀者の逮捕と補償の獲得の強制執行のため軍の派遣を決定したッ!!どれほど長く掛かろうとこの計画的な侵略に打ち勝つのです。日本民族が全力で戦えば絶対的な勝利は確実でありましょう!」

 

そう言うと大量のカメラのフラッシュが光る。大東亜戦争の後、東條英機は二つの問題を抱えていました。巨大な軍隊の使い道がなくなった事とそして国の経済が疲弊してしまった事です。そんな中、舞い込んできたのが特地と言う新開拓地なのだ。

 

事件からしばらく経った後、銀座の門には今村大将の指揮する第16軍が集結した。

編成

歩兵人数5万5千人

 

火砲200門

 

戦車約250両

 

装甲兵員輸送車、装甲車200台

 

航空戦力150機

 

全軍が集結し終わり、軍の出兵式が行われた。門のすぐそばでは銀座事件で犠牲になった人々の慰霊碑が建てられており、遺族と思われる人々が多く訪れていた。また、拡声器やラジオから大本営発表が流れる。

 

『山川草木 転荒涼 十里風腥し 新戦場 征馬前まず 人語らず 金州城外 斜陽に立つ。天皇陛下は異世界に対する宣戦を布告致します。朕が陸海軍将兵は全力を振るって交戦に従事し朕が百官有司は冷静職務を奉公し朕が仲之は各々のその本文を尽くし億兆一新国家の総力を挙げて聖戦の目的を達するに至る。興亜安定に関する帝国積年の努力は悉く水泡にきし帝国の存立又正に期待に新せり帝国は今や自存自衛の為截然たって一切の障害を破砕するの儚きなり皇祖皇宗の神霊神にあり 朕はなし優秀の忠誠ゆうぐに陳褘し祖宗の偉業を邂逅し速やかに禍根を芟除して興亜は永遠の平和を確立しもって帝国の光栄を保全せん事を記す』

 

この詩は、日露戦争時に陸軍大将乃木希典が読んだ詩だ。日本軍特地派遣部隊は出陣する。国民は、日章旗を振って歓喜の声を上げながら自分達の夫や息子を見送る。

 

一方この事は海外にも知れ渡った。対戦を交えたアメリカ合衆国政府からは『『門』の調査に協力を惜しまない』と言いヨーロッパ各国からも同じような声明が来た。特に日本と軍事同盟を結んでいたドイツとイタリアは門の調査などを申し出て門の利益を手に入れようと企てている。一方のソビエト社会主義共和国連邦は門と言う超自然現象の産物の存在は、国際的に国連で管理や国連軍派遣を検討すべきだと、主張する。

 

派遣軍は門を潜って異世界に突入した。門周辺には帝国軍が警戒していたが先鋒隊をティーガー戦車とパンター戦車部隊の機甲部隊にして突入。帝国軍は見知らぬ兵器に混乱し、混乱する帝国軍に向けてティーガーは88mm戦車砲を発射。着弾した榴弾は兵士を殺傷させた。機動力があるパンター戦車は戦場を駆け回って帝国軍を混乱に陥れる。そこへ歩兵を主力にした二個連隊が門周辺を守備をして迫ってくる帝国軍に対して射撃を開始した。

小銃は主力を三八式歩兵銃とMP40短機関銃である。6.5mm弾と9mm弾は帝国軍兵士の鎧を突き破って命を刈り取っていく。門からは続々と増援の部隊が到着して門周辺にいた帝国軍を完全に一掃するのであった。この戦闘で帝国軍は全兵力の六割を喪失する被害を受けるのであった。

 

 

戦闘後、派遣軍はアルヌスに仮の施設を設置した。

 

「簡単な城なようなのを作れば門もそう簡単には奪還されないだろう」

 

「ですがどのような城を作るのですか? 流石に大阪城等の城を作るのは……」

 

「西洋の城を作ればいい。日本にも西洋の城があるだろう?」

 

「……成る程、五稜郭ですか」

 

派遣軍参謀長の栗林忠道中将がそう呟く。五稜郭の単語に他の参謀もあっとぽんと手を打った。

 

「五稜郭をモチーフにした砦を作る。そしてこの砦を守るように三重の防衛線を構築するのだッ!!」

 

そして戦闘から翌日には工兵隊や海軍設営隊に防御陣地の構築が始まり、大日本帝国の本格的な特地への進出が始まるのであった。

 



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アルヌス攻防戦

「あえて言上いたしますが 大失態でありましたな 帝国軍総戦力の6割を喪失!!この未曾有の大損害をどう補うのか?陛下のお考えを承りとう存じます」

 

元老院議員であり、貴族の一人でもあるカーゼル侯爵は、議事堂中央に立って玉座の皇帝モルト・ソル・アウグスタスに向けて歯に衣着せぬ言葉を突き付けた。

元老院議員は議場内であれば、至尊の座を占める者に対してもそれをする事が許されていたし、またそれをする事が求められていると確信していたからでもある。薄闇の広間。そこは厳粛である事を旨に、華美な飾り付けを廃し静謐と重圧を感じさせる石造りの議事堂だった。円形の壁面にそって並べられたひな壇に、厳しい顔付きの男達が座って、中央をぐるりと囲んでいる。

数にして凡そ三百人。帝国の支配者階級の代表たる、元老院議員であった。この国において元老院議員になるには、いくつかのルートが存在する。その一つが権門の家に生まれる事。何処の国であっても、貴族とは稀少な存在であるが、この巨大な帝国の首都では石を投げれば貴族に当たると言われているほど数が多いのだ。従って、ただ貴族の一人として生まれただけでは、名誉たる元老院議員の席を得ることは叶わない。貴族の中の貴族と言われる程の名門、権門の一員でなければ、元老院議員とはなれないのである。では、権門でもなく名門でもない家に生まれた貴族は、永遠に名誉ある地位を占める事は出来ないかと言うと、そうでもないのである。その方法として開かれている道が大臣職或いは軍において将軍職以上の位職を経験する事があった。

国家の煩雑且つ膨大な行政を司るには官僚の存在が不可欠である。権門ではないが貴族の一族として生まれ、才能に恵まれた者が立身を志したのなら、軍人が官僚の道を選ぶと言う方法が存在した。軍や官僚において問われるのは実務能力である。名だかり貴族の三男坊ですあっても、才能と勤務意欲、そして幸運さえあればこの道を進む事も可能なのである。

大臣職は、宰相、内務、財務、農務、外務、宮内の六職ある。軍人となるか官僚となる道を選び、大臣か将軍の職を経験した者は、その職を退いた後に自動的に元老院議員たる地位が与えられる。因みに将軍職については、出身階級が平民であっても就く事が出来る。と言うのも士官になると騎士階級に叙せられ、位階を進めるにつれ貴族に名を連ねる事も可能だからである。

カーゼル侯爵は、男爵と言う貴族としてはあまり高いとは言えない位階の家に生まれた。そこからキャリアを積み、大臣職を経て元老院議員たる席を得たのである。そうした努力型の元老院議員は、自らの地位と責任を重く受け止める傾向にある。要するに張り切り過ぎてしまうのである。得てしてそう言う種類の人間は周囲から煙たがられるもので、そして煙たがられれば煙たがられる程、より鋭く攻撃的な舌鋒になってしまうのだ。

 

「異境の住民を数人だかり攫って来て、軟弱で戦う気概もない怯懦な民族が住んでいると判断したのは、明らかに間違いでした」

 

もっと長い時間を掛けて偵察し、可能ならばまず外交交渉をもって臨み、与し易い相手かどう調べ上げるべきだった、と畳み掛けた。

確かに現在の状況は最悪である。帝国の保有していた総戦力のおよそ六割を、今回の遠征で失ってしまったのだ。この回復は不可能でないにしても容易ではなく、膨大な経費と時間を必要とするだろう。

当面は、残りの四割で帝国の覇権を維持していかなくてはならない。だが、どうやって?

モルト皇帝は即位以来三十年、武断主義の政治を行って来た。周囲を取り囲む諸外国や、国内の諸侯・諸部族との軋轢、諍いを武力による威嚇とその行使によって解決して、帝国による平和と安寧を押し付けて来た。その圧倒的な軍事力を前にしていかなる国も恭順の意を示すより他なく、あえて刃向かった者は全て滅んでいった。諸侯の帝国に対する反感がどれ程強かろうと、圧倒的な武威によって傲慢かつ傍若無人に振る舞う事が許されて来たのである。

だが、覇権の支柱たる圧倒的な軍事力の過半を失った今、これまで隠忍自重を続けて来た外国や諸侯・諸部族がどう動くか?帝国におけるリベラルの代表格となったカーゼル侯爵は、法服たるトューガの裾をはためかせるように手を振り、声を張り上げて問いかけた。

 

「陛下!皇帝陛下はこの国をどの様に導くおつもりか!?」

 

カーゼル侯爵が、その様に演説を結んで席に着くと、皇帝の重圧さを感じさせるゆっくりとした所作で、玉座の身体を僅かに傾けた。その視線は揺らぐ事なく、自らを指弾した論客へと真っ直ぐに向いた。

 

「・・・ガーゼル侯爵、卿の心中は察するものである。此度の損害によって帝国が有していた軍事的な優位が一時的にせよ失せている事も確かなのだから。外国諸候が一斉に反旗を翻すのではと恐怖に夜も眠れぬだろう?痛ましい事事である。だが・・・・危険な度に我等は一つとなり切り抜けて来たではないか?」

 

皇帝の揶揄う様な物言いに、厳粛な議場の空気がくぐもった嘲笑で揺れた。

 

「元老院議員達よ、二百五十年前のアクテク戦いを思い出してもらいたい。全軍崩壊の報を受けた我らの偉大なる先祖達が、どの様に振る舞ったか?勇気と誇りを失い、敗北と同義の講和へと傾く元老院達を叱咤する、女達の言葉がどの様な物であったか?『失った五万六万がどうしたと言うのか?その程度の数、これで幾らでも産んでみせる』と言ってスカートをまくって見せた女傑達の逸話は、敢えて言うまでもないだろう?この程度の危機は、帝国開闢以来の歴史を紐解けば度々あった事である。我が帝国は、歴代の皇帝、元老院、そして国民がその都度、心を一つにして難事に立ち向かい、更なる発展を成し遂げて来たのである」

 

皇帝の言葉は、この国の歴史であった。元老院に集う者にとっては、改めて聞かされるまでもなく誰もが弁えている事であった。

 

「戦争に百戦百勝はないよって此度の責任は問わぬ。敗北の度に将帥に責任を負わせていては、指揮を執る者がいなくなってしまう。まさか敵が門前まで現れるまで裁判ごっこに明け暮れる者はおらぬな?」

 

議員達は、皇帝の問いかけに対して首を横に振って見せた。

誰の責任を問わないとなれば、皇帝の責任を問う事を出来ない。カーゼルは、皇帝が巧みに責任を回避した事に気付いて舌打ちをした。ここであえて追及を重ねれば、小心者と罵倒された上に、裁判ごっこをしようとしていると言われかねない雰囲気になっていたのだ。更に皇帝は続けた。

此度の遠征では熟練の兵士を集め、歴戦の魔導士を揃え、オークもゴブリンも特に凶暴な個体を選別した。十分な補給を整え、訓練を施し、それを優秀な将帥に指揮させた。これ以上はないと陣容と言えよう。

将帥が将帥たる責務、百人隊長が百人隊長たる責務、そして兵が兵たる責務を果たす様努力した筈だ。にも関わらず七日である。『門』を開いて僅か七日ばかり。敵の本格的な反撃が始まってから数えるならば、二日で我が軍は壊滅してしまったのだ。将兵の殆どが死亡するか捕虜となったようだ。ようだ、と推測する事しか出来ないのも生きて戻れた者が極めて少ないからである。今や『門』は敵に奪われてしまった。『門』を閉じようにも、『門』のあるアルヌスの丘は敵によって完全に制圧されて、今では近付く事も出来ないでいる。

これを取り戻そうと、数千の騎兵を突撃させた。だが、アルヌスの丘は人馬の死体が覆い尽くし、その麓には比喩でなく血の海が出来てしまった。

 

「だが敵の反撃からわずか二日!我が遠征軍は壊滅し「門」も奪われてしまった!敵の武器の凄さがわかるか?パパパ!遠くでこんな音がすると我が兵士がなぎ倒されるのだ!あんなすごい魔法、儂は見た事ないわい!」

 

魔導士であるゴダセン議員が敵と接触した時の様子を興奮気味に語った。彼と彼の率いた部隊は、枯れ葉を掃くようになぎ倒され、丘の中腹までも登る事が出来なかった。ふと気付いた時には静寂が辺りを押し包み、動く者は己を除いてどこにもいない。見渡す限りの大地を人馬の躯が覆っていたと述懐した。

皇帝は瞑目して語る。

 

「既に敵はこちら側に侵入して来ている。今は門の周りに屯して城塞を築いている様だが、いずれは本格的な侵攻が始まるだろう。我らは、アルヌス丘の異界の敵と、周辺諸国の双方に対峙していかなければならない」

 

「戦いあるのみ!!」

 

禿頭の老騎士ポダワン伯爵は、立ち上がると皇帝に一礼して、主戦論をもって応じた。

 

「窮している時こそ、積極果敢な攻勢が唯一の打開策じゃ。帝国全土に散らばっている全軍をかき集め、逆らう逆賊や属国共を攻め滅ぼしてしまえ!そして、その勢いを持ってアルヌスにいる異界の敵をうち破る!その上で、また門の向こう側に攻め込むのじゃ!」

 

議員達は、あまりに乱暴な意見に「それが出来れば苦労はない」と、首を振り肩をすくめつつヤジの声を投げた。全戦力をかき集めれば、各方面の治安や防衛が疎かになってしまう。皆口々に、罵声を放ちあって、議場は騒然となった。

ポダワンは、逆賊共は皆殺しにすれば良い。皆殺しにして、女子供は奴隷にしてしまえばよい。街を廃墟にし、人っ子一人としていない荒野に変えてしまえば、もうそこから敵対する者が現れる心配などする必要もなくなる・・・・・などと、過激すぎる意見で返していた。非現実的な事の様だが、歴史的に見れば帝国にはその前科がある。

帝国がまだ現在よりも小さく、四方の全てが敵であった頃、敵国をひとつずつ攻略しては住民全てを奴隷とし、街を破壊し、森は焼き払い農地には塩をまいて不毛の荒野とし、周囲を完全な空白地帯とする事で安全を確保したのである。

 

「それが出来たとしても一体全体どうやってアルヌスの敵を倒す?力づくではゴダセン議員の二の舞を演じる事になろうな?」

 

議場の片隅から飛んで来た声に対して、ポダワン伯は苦虫を噛み潰した様な表情をしながらも、苦しげに応じる。

 

「う〜そうじゃな・・・・兵が足りぬなら属国の兵を根こそぎかき集めればよい。四の五の言わせず全部かき集めれるのじゃ。さすれば数だけなら十万にはなるじゃろて。弱兵とは言え矢玉除けにはなる。その連中を盾にして、遮二無二、丘に向かって攻め上がればよいのじゃよ!」

 

「連中が素直に従うものか!!」

 

「そもそもどんな名目で兵を供出させる?素直に軍過半を失いましたから、兵を出して下さいとでも頼むのか?そんな事をしたら、逆に侮られるぞ」

 

カーゼル侯は、空論を振り翳して話を纏まりのつかない方向へと引っ張って行こうとするポダワン伯と言う存在を苦々しく思った。

タカ派と鳩派双方からの聞くに耐えない言葉の応酬が始まり、議場は掴み合いに陥ちかねない雰囲気が漂い出した。

 

「ではどうしろと言うのか!?」

 

「ひっこめ戦馬鹿!」

 

「なにを!!」

 

議員達は冷静さを失って乱闘寸前にまでヒートアップする。時間だけが虚しく過ぎ去って行く。僅かに理性を残す者もこのままではいけないと思うものの、絶糾する会議を纏める事が出来ないでいた。

そんな中で、皇帝モルトが立ち上がる。発言しようとする皇帝を見て、罵り合う議員達も口を噤んで静かになっていた。

 

「いささか乱暴であったが、ポダワン伯の言葉は示唆に富んでおった」

 

それを受けたポダワンは、皇帝に恭しく一礼した。

皇帝の威厳を前にして議員達は冷静さを取り戻して行く。皇帝が次に何を言うのか聞こうとし始めているのだ。

 

「さて、どの様にするべきかだ。このまま事態が悪化するのを黙って見ているのか?それも一つの方法である。だが、余はこのままファルマール大陸が侵略されるのを放っては置けぬ。ならば戦うしかあるまい。ポダワンの進言を採用し、属国や周辺諸国の兵を集めるのが良いだろう。各国に使節団を派遣し援軍を求めるのだ!!我々が連合諸王国軍(コドゥ・リノ・グワバン)を結成しアルヌスの丘を奪い返すのだ!」

 

「連合諸王国軍?」

 

皇帝の言に元老院議員は、ざわめいた。

今から二百年程前に東方の騎馬民族からなる大帝国の侵略に対抗する為、大陸諸王国が連合してこれと戦った事があった。それまで相争っていた国々が集うのに、『異民族の侵攻に対して仲間内で争っている場合じゃない』と言う心理が働いたのである。不倶戴天の敵として争っていた筈の列国の王達が、騎士達が、馬を並べて互いに助け合い異民族へと向かって行く姿は、今では英雄物語の一節として語られている。

 

「それならば、確かに名分にはなるぞ」

 

「いや、しかしそれはあまりにも・・・・・」

 

そう。そもそも『門』を開いて攻め込んだのはこちらではなかったか?皇帝の言葉はその主客を転倒させていた。こちらから攻め込んでおいて、『異世界からの侵略から大陸を守るため』と称して各国に援軍を要請するとは、厚顔無恥にも程があるのではないか。・・・・・それを敢えて口にする者はいなかったが。

とは言え、『帝国だけでなくファマールト大陸全土が狙われている』と檄を飛ばせば、各国は援軍を寄越すだろう。要するに、事実が如何であるかではなく、如何伝えるかと言う事だ。

 

「へ、陛下 アルヌスの丘が人馬の躯で埋まりましょうぞ?」

 

カーゼル侯の問いに、皇帝モルトは嘯く様に告げる。

 

「余は必勝を祈願しておる。だが、戦に絶対はない。故に、連合諸王国軍が壊滅する様な事もあり得るやも知らぬ。そうなったら、悲しい事だな。そうなれば帝国は旧来通りに諸国に指導し、これを束ねて、侵略者に立ち向かう事になろう」

 

周辺各国が等しく戦力を失えば、相対的に帝国の優位は変わらないと言う事である。

 

「これが今回の事態における余の対応策である。これで良いかなカーゼル侯?」

 

皇帝は決断を下した。

カーゼルは連合諸王国村の将兵の運命を思って、呆然とした面持ちとなった。

周囲は、そんなカーゼルら鳩派を残し、皇帝に向かい深々と頭を下げると、粛々と各国への使節を選ぶ作業へと移ったのである。

 

その夜 アルヌスでは、連合諸王国軍が続々とアルヌスに迫っていた。そして日本軍は照明弾を打ち上げる。

 

「敵見ゆ」

 

「地面が三分に敵が七分 地面が三分に敵が七分だ!!」

 

「戦闘配置!戦闘配置!!」

 

「またか くそ!三度目だぜ 今度は夜襲か!」

 

「全く休む暇も無い」

 

「つべこべ言うな!急げ急げ急げ!!」

 

と日本兵達は配置につき小銃や機関銃や対空砲や戦車などを構える。連合諸王国軍は屍を踏み越えて行く。

 

「慌てるなよ・・・」

 

「まだ撃つなぁ・・・引き寄せろ」

 

そして攻撃開始の合図の照明弾が打ち上がる。

 

「撃てぇ!!」

 

攻撃命令が出て一斉に射撃を開始する。そして夜が明けるとそこは死体の山で築かれていた。

 

そして一夜明けて、

 

「しっかし 銀座と併せて十二万か・・・」

 

「多いな」

 

「はい、ちょっとした地方都市一個分の人口が丸々失われたってことですね」

 

「普通の国なら兵力が底をついているくらいだ」

 

「どんな国か知りませんけど、末期症状でしょうね」

 

と伊丹と大場が話し合っている。

 

「伊丹耀司 中尉(33)自他共に認める"怠け者" 趣味に生きるために仕事してるとぬかしとるが・・・やめかけた 第1装甲擲弾兵師団中隊長訓練を年末休暇やらんぞと言ったらなぜかやり通しちゃうし・・・」

 

「・・・は?調査ですか?檜垣少佐 それがいいかもしれませんねぇ」

 

「それがいいかもじゃない!君が行くんだ!!」

 

「・・・まさか一人で行けと?」

 

「そんなこと言うわけないだろう とりあえず深部情報偵察隊を六個編成する 君の任務はその内の一個の指揮だ。可能ならば今後の活動に協力が得られるよう住民と友好的な関係を結んできたまえ」

 

「はぁ・・・ま そういうことなら」

 

「よろしい!伊丹耀司中尉 第三偵察隊の指揮を命ずる!」

 

 

 

一方ウラ・ビアンカ(帝国皇城)

 

皇帝モルトの皇城には、毎日数百人の諸侯・貴族が参勤する。

元老院議員、貴族や廷臣が集い、諸行事に参加すると共に政治を雑事であるかのように行なっていた。会議では優雅に踊り、美食に耽り、賭け事や恋愛遊戯といった遊興を楽しみつつ、議場で少しばかり話し合う・・・・・と言う感じである。軍を派遣するかどうかを、貴族達が狐狩りの獲物の数で決めると言う事もあった。だが、ここ暫く続いた敗戦は宮廷の諸侯、貴族達が消沈させるには充分な出来事であった。煌びやかな芸術品は色褪せて見え、華やかな音楽も空虚に聞こえる。栄耀栄華を誇るモルト皇帝の御代を支えるものは、強大な軍事力と莫大な財力。この両輪こそが帝国を大陸の覇権国家たらしめていることは小児であっても理解している。それが、今では片輪が失われてしまった。

宮廷を彩った武官や貴族達も出征していっただけに、仲間うちの犠牲者も少なくない。未亡人が量産されて、貴族達は文字通り連日行われている葬儀に出席しなければならなかった。

皇帝は喪に服して行事を控え、宮廷も閑散とした日が続いた。

 

「皇帝陛下、連合諸王国軍の損害は死者 行方不明合わせ六万。負傷し再び軍役に就く事のできぬ者との併せてますと、損害は十万に達する見込みです。敗残の兵は統率を失いちりぢりになって故郷への帰途についたようです」

 

この数には、オークやゴブリン、トロルといった怪異達は含まれていない。亜人の中でも知能に劣る怪異達は軍馬と同じ扱いをされているのだ。内務相のマルクス伯爵の報告に、皇帝は気怠そうに身を揺すった。

 

「・・・・ふむ 予想通りじゃな。わずかばかりの損害に怯えておった元老院議員も、これで安堵する事だろう」

 

「しかし陛下『門』より現れ出でた敵の動向が気になりますが」

 

「そなたもいささか神経質じゃなマルクス内務相」

 

「は・・・生来のもの故・・・陛下の様な度量は持つに至る事は出来ませんでした」

 

「よかろう ならば股肱の臣を安堵させてやるとしよう。アルヌスより帝都に至る町・村を焼き払い、井戸には毒を投げ入れ、食料・家畜を運び出せ。さされば如何なる軍とて立ち往生し、付け入る隙は現れぬであろう」

 

皇帝は続けた。

敵が動き出したのなら、アルヌスより帝都に至る全ての街と村落を焼き払い、井戸や水源に毒を投げ入れ、食糧は麦の一粒に至るまで全て運び出すよう命ぜよ。さすれば如何なる軍といえども補給が続かず焦土の中で立ち往生する。そうなれば、どれ程強大な兵力を有していようと、優れた魔道を有していようと、付け入る隙は現れるだろう、と。現地調達出来なくなれば食糧は本国から運ぶしか無く、長距離の食糧輸送は馬匹も用いたとしても重い負荷だ。これによって敵の作戦能力は、帝都に近付けば近付く程低下する事になる。それに対して帝国軍は、帝都に近付けば近付く程有利になる。各地に拠点を構築し、敵に出血を強いていけば、敵は勢いを失い自然に立ち枯れる。それがこの世界における軍学上の常識であった。

敵を長駆させ、疲れた所を撃つという、どこの世界においても至極一般的で分かりやすい戦略であるが故に、効果的でもある。しかし、自国を焦土とする事の影響は深刻かつ甚大であり回復は容易ではない。

人民の生活を全く考慮しない非情さ故に、確実に民心を離反させる。守ってもらえなかった。それどころか食べ物も、飲み水も奪われたという恨みは、永久に受け継がれていく事になるだろう。そうした影響を考えれば、容易にそれをする訳にはいかないのが政治である筈だった。しかし・・・・

 

「・・・焦土作戦ですか。税収の低下しそうですな」

 

マルクス伯は、ちょっと差し障りがある程度の言い方で、民衆の被害を囁くだけだった。皇帝も

 

「致し方あるまい園遊会をいくつかとりやめ離宮の建設を延期すればよかろう」

 

と応じるのみ。強大な帝国において、民衆の被害や民心などその程度のものなのである。

 

「カーゼル候あたりがうるさいかと存じますが・・・」

 

「なぜ余がガーゼル侯にまで気を配らねばならぬのか?」

 

「は・・・恐れ多きことながら 陛下罷免のための非常事態勧告を発動させようとする動きが見られます」

 

元老院最終勧告は帝国の最高意思決定とされている。これが元老院によって宣言されれば、いかに皇帝であろうと罷免される。歴史的にも元老院最終勧告によって地位を追われた皇帝は少なくない。

 

「ふむ・・・おもしろい。元老院にはしばし好きにやらせておけ、そのような企てに同調しなそうな者共を一網打尽にする良い機会かも知れぬ。枢密院に"よきにはからえ"とな」

 

「はっ・・・」

 

(この辺りで元老院も整理せねばな)

 

マルクス伯は一瞬驚いたが、ただちに恭しく一礼した。

元老院の最終勧告に対抗する皇帝側の武器が国家反逆罪である。こうして枢密院に証拠固めという名の証拠ねつ造が命じられた。

 

「元老院議員として与えられた恩恵を、権利と勘違いしている者が多い。いささか鬱陶しいのでこの辺りで整理せねばな」

 

皇帝はそう呟くとマルクス伯の退出を命じようとしていた。

恭しく頭を下げるマルクス伯。だが、静謐な空気を破って凛と響き渡る鈴を鳴らした様な声が、宮廷の広間に鳴り響いた。

 

「陛下!!」

 

つかつかと皇帝の前に進み出たのは、皇女すなわち皇帝の娘の一人であった。

片膝をついてこれ以上はないという程見事な礼儀を示した娘は、炎の様な朱色の髪と白磁の肌を、白絹の衣装で包んでいる。

 

「ピニャ・コ・ラーダ どうしたのか?」

 

「陛下は我が国が危機的状況にある今何をなされているのか?耄碌なされたか!?」

 

優美な顔から、棘のある辛辣なセリフが出てくる。モルトはここにも恩恵と権利を勘違いしている者がいる事に気づいて微苦笑した。皇女の舌鋒が鋭いのはいつもの事である。

 

「で、殿下!いったいなにを、陛下の宸襟を騒がせるのでしょうか?」

 

皇帝の三女、ピニャ・コ・ラーダは、腰掛けて微笑んでさえいれば、比類のない芸術品とも言われるほどの容姿を持っている。だが、好きに喋らせると気弱な男ならその場で卒倒しかねないほど辛辣なセリフを吐くので国中にその名を知られていた。

 

「無論、アルヌスの丘をを占領する賊徒共の事です!アルヌスの丘は、まだ敵の手中にあると聞きました。陛下のその様な安穏な様子を拝見するに、連合諸王国軍がどうなったか未だご存知ないと思わざる得ない。マルクス、そなた陛下にありのままを申し上げたか?」

 

「も、もちろんですとも皇女殿下!連合諸王国軍は多大な犠牲こそ払いましたが、敵はファマールト大陸侵攻を見事防ぎきったのです。身命を省みない勇猛果敢な諸王国軍の猛攻によって、物心共に損害を受けた敵は恐れおののき強固な要害を築いて、冬眠した地熊のごとく籠もろうとしております。その様な敵など、我らにとって脅威ともなりません」

 

マルクス伯の説明に、ピニャは「フン」とそっぽを向き言い放った。

 

「妾も子供ではない故、物はいい様と言う言葉を知っておる。知っておるが、言うに事欠いて、全滅で大敗北の大失敗を、成功だの勝利だのと言い換える術までは知らなんだぞ」

 

「これは、事実でございます」

 

「こうして事実は犠牲になり、歴史書は嘘で塗り固められていくと言う訳か?」

 

「その様に仰られても、私にはお答えのしようもなく」

 

「この佞臣め!聖地あるわれらがアルヌスの丘は連中に押さえられたままではないか?何が防衛に成功したか?真実は、累々たる屍で丘を埋め尽くしただけであろう」

 

「確かに損害は出ましたな・・・・・」

 

「ならば、この後どうする?」

 

マルクス伯爵は、とぼけた様に兵の徴募から始まって、訓練と編成に至るまでの一連の作業を説明した。軍に関わる物なら誰でも知る、新兵の徴募と訓練、編成の過程を告げられてピニャは舌打ちした。

 

「丘を奪還するため軍の再建を急ぎー」

 

「今から始めて何年かかると思っておるのだ!その間にアルヌスの敵が何もせずじっとしていると?」

 

「皇女殿下。その様な事は私めも存じております。しかし、現に兵を失った上には、地道でも徴兵を進め、訓練を施し、軍を再建するしか手はありません。兵を失った事では諸国も同じ。もう一度、連合諸王国軍を集めるにしても、軍の再建にかかる時間は国力に比例いたします。諸国の軍再建は我が国より遅くなっても、早くなる事はありますまい」

 

この言い様には、ピニャも鼻白む。

 

「その様な悠長な事では、敵の侵攻を防ぐ事は出来ぬっ!」

 

皇帝はため息と共に、手をわずかに上げて二人の舌戦を止めた。彼の察するところピニャには騒動屋の傾向がある。責任を負う事のない者がよくする物言いで、批判ばかりで建設的な意見は何もないのだ。例え言ったとしても、夢物語みたいで伝統と格式を重んじる者なら到底首を縦に振らないことばかり。それでいて何かあれば、さあ困ったどうするどうすると責め立て実務者を『じゃあ、どうすればいいだ!』と叫くまで追い込んでしまうのである。

今回の事態からすれば、マルクス伯の言う様に地道に軍を再建するしかないのである。そのために時間を稼ぐ事が、政治であり外交であると言える。皇帝としてはその為の連合諸王国軍の招集であり、その壊滅をもって目論見は成功したのだ。いささか辟易としてきた皇帝は、娘に向かって話しかけた。

 

「ピニャよ、もうよい。なるほど、そなたがその様に言うのであれば悠長にかまえてはおれん 。余としても心の配らなければならぬ」

 

「はい、皇帝陛下」

 

「しかし、アルヌスの丘に屯する敵共について、我らはあまりにもよく知らぬ。丁度よいそなたの『騎士団』あれと共に丘に屯する敵を見て来てくれぬか?」

 

「妾がですか?」

 

「そうだ。帝国軍は今再建中でな、今は偵察兵にも事欠く有様じゃ。国内各所に配した兵を引き抜く訳にもいかぬ。新規に徴募してもマルクス伯の申した通り、実際に使える様になるまで時間がかかる。今、一体以上の練度を有し、それでいて手が空いているのは思いを巡らしてみればそなたの『騎士団』くらいであった。そなたのしていることが兵隊ごっこでなければ・・・な よいか?」

 

皇帝の試す様な視線に正対して、ピニャは唇をぎゅと閉じた。アルヌスの丘へと旅程は、騎馬で片道十日だ。そこは危険な前線、万を超える軍が全滅してしまった地。そんな所へ、自分と自分の騎士団だけで赴けと言うのだ。

しかも、華々しい会戦と違って、地道な偵察行。日頃から兵隊ごっこと揶揄されてきた騎士団にとって、任務が与えられる事は光栄と思わなければならないだろうが、内容が不満である。

更に言うのならば、彼女の騎士達は実戦経験が皆無であった。自分や自分の部下達は、危険な任務をやり遂げられるだろうか?皇帝の視線は『嫌なら口を挟むな』と告げていた。

 

「どうだ。この命を受けるか?」

 

ピニャは、ギリッと歯噛みしていたが、思い立った様に顔を上げた。そして・・・・

 

「・・・・確かに承りました」

 

とピシャリと言い放つと、皇帝に対して儀礼にのっとって礼をとった。

 

「うむ 成果を期待してあるぞ」

 

「では、行って参ります。父上」

 

そしてピニャは、玉座に背を向けた。

 



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テュカとコダ村

連合諸王国軍との戦闘が終わり日本軍は特地での調査を本格的に開始する。その調査を任されたのが第三偵察隊隊長の伊丹中尉と第一偵察隊隊長の大場大尉だった。

 

「それじゃあ、出発しよう伊丹中尉」

 

「はい大場大尉」

 

伊丹と大場が乗る車両は九五式小型乗用車とキューベルワーゲンTyp82と九四式六輪自動貨車と九三式装甲自動車とSd Kfz250だった。中にはドイツ製やアメリカ製の車両も混ざっている。

 

「よし 、全員乗ったな 全員乗りました大尉」

 

全員乗ったのを確認し大場に合図する。

 

「了解」

 

と大場が言うと出発する。第三偵察隊に続き第一偵察隊を出発する。

 

「そーらが蒼いねぁ さーすが異世界」

 

日本には見られない大陸の大空に伊丹が呟く。周りを見渡せば電柱と電線も通っておらず前から後ろまでずっと空と地だった。

 

「こんなの北海道や樺太にもありますよ。俺はもっとファンタジーな光景想像してたのにこれまで通ってきた村人間ばっかばし中世のヨーロッパそっくり」

 

倉田が運転しながら突っ込んだ。

 

「ま 異世界ってだけでファンタジーだろ?」

 

「なんか ガッカリです」

 

「おい 倉田 この先に小川で右折して川沿いに進め しばらく行ったら森が見えてくる そこがコダ村の村長が言ってた森だ」

 

「了解 おやっさん」

 

目的地のコダ村と言う村に着いた最初は得体の知れない日本兵を村人は警戒したが銀座事件で捉えた捕虜から特地語を学んだ為ある程度は理解できた。

 

「伊丹中尉 意見具申します 森の手前で一旦野営しましょう」

 

「うん 賛成」

 

「あれー中尉 一気に乗り込まないですか?」

 

「今 森に入ったら夜になっちゃうでしょ?何がいるかわかんないのよ?村があるのならそこの人威圧して どーすんの俺たち国民に愛される軍隊だよ?俺たちの任務は現地の人と交流して情報収集すること ハーツ&マインドでしょ?」

 

「ハァ」

 

「えーと サヴァール ハル ウグルゥー?」

 

「棒読みですねぇ 陸軍諜報部に通った方がよくないですか?」

「うるせぇ!」

 

と伊丹は倉田の頭にゲンコツを食らわす。すると前方の森から煙が上がっているそこは伊丹達が向かう筈だった森だ。

 

「燃えてるねぇ」

 

「燃えてますねぇ 大自然の脅威?」

 

「山火事でしょうか?」

 

「といより怪獣映画だろ?」

 

「?」

 

「ありゃりゃ!」

 

「伊丹中尉 どうしますか?」

 

「あの 炎龍さぁ 何もない森を焼き討ちする習性あると思う?」

 

「炎龍の習性に関心がおありでしたら 中尉自身が見に行かれては?」

 

「栗林くん 俺一人じゃ 怖いからさぁ ついて来てくれる?」

 

「お断りします」

 

「・・・あ そう じゃ 適当な所に隠れて様子見ようか 炎龍いなくなったら森に入ってみよ 第一偵察隊にも伝えてくれ」

 

暫くして、第三偵察隊と第一偵察隊が集落に到着する頃には日もある程度治まり、灰色の雲を覆っていた。

 

「これで 生存者がいたら奇跡だよ」

 

「まだ地面が温かい・・・」

 

集落の現状を見て桑原と倉田が呟く。そしてそこら中には村人の焼死体があっちらこっらに転がっていた。

 

「中尉 これて・・」

 

「倉田 言うなよ うへ・・・吐きそう・・・」

「これは 酷いな有様だな」

 

「はい」

 

「小野田少尉は、横井 堀内 水木を連れて南を捜索 残りは俺と来い」

 

「仁科伍長 勝元戸津を連れて東側をまわってくれ 倉田 栗林 俺たちは西側を探すぞ」

 

「探すって 何を?」

 

「う〜ん 生存者?」

 

そこへ第一偵察隊員の尾藤軍曹と第三偵察隊員の栗林軍曹がやって来て報告をする。

 

「報告します。ここの民家があったであろう集落から約30軒確認でき焼死体は約二十数名確認出来ました。しかし建物の数と遺体の人数を照らし合わせても合わないんです」

 

「中には建物の下敷きになった遺体もありました」

 

「建物1軒に3人として大体の人数は100人て所かそれが全滅だと?」

 

「それにしても火龍でしょ、やっぱり装甲が硬いすかねぇ」

 

「だろうなぁ」

 

倉田の指摘に伊丹が答える。

伊丹は既に空になった水筒を口まで動かす。が、当然水が喉を通る事もなく、水筒を元の位置に戻して溜息を吐く

 

「この世界の炎龍は集落を襲う事もあると報告しておかなければな」

 

「俺らの部隊は軽装備だから火龍の鱗を貫くのは無理でしょう」

「参ったなぁ」

 

と腕を組みながら考え。伊丹は空になった水筒の水を補充する為、井戸に桶を投げ込んだ。だが、水の音は全くせず、代わりにコーンと言う音が響いた。

 

「ん?」

 

「今の"コーン"って。何でしょう?」

 

伊丹が井戸の中を覗き混んで見ると、

 

「おい、井戸の中に誰かいるぞ」

 

「おい 大丈夫か!?目を開けろ!仁科 おやっさんに連絡!生存者一名発見 黒川軍曹と数名 応援よこせって 栗林 毛布あるか?肌が氷みたいだ」

 

救出されたエルフは微かな意識を保っていた。

 

お・・・お父さ・・・ん・・・

 

時を遡り数分前

気持ち良さそうにソファーの上で昼寝しているテュカ。

 

「テュカ 起きなさい」

 

「んん・・・なぁに?お父さん どうしたの?」

 

と外から不審な音がしたので窓の外を見て見ると炎龍が目に入った。

 

「あれは・・・炎龍!?」

 

そしてテュカの父は引き出しから装備一式を取り出す。テュカはそれに察しそばに置いて合った自分の弓と矢に手を掛けようとしたが

 

「やめなさい 君は逃げるんだ 君に万が一のことがあったら私はお母さんに叱られてしまうよ」

 

「私も戦うわ 炎龍が相手じゃどこに逃げてもいっしょよ それに手勢は一人でも多い方がいいでしょ?」

 

そして炎龍は口から炎を吐き村を焼き払っていく。そして逃げ惑うエルフ達。

 

「あああっ あっ」

 

「ぎゃああ」

 

炎に焼かれるエルフ達や勇敢にも弓と矢で炎龍に立ち向かうエルフ達だったが炎龍の硬い鱗が矢を弾き返し再び襲いかかってきた。

 

「テュカ!ここにいては危ない!外へ出よう!」

 

「テュカー」

 

テュカ名前を呼んで炎龍から逃げる少女。

 

「ユノ!!」

 

テュカは慌てて矢を構えるも少女は上半身を炎龍に喰われ絶命した。

 

「ユ・・・ユノが・・・ユノが・・・」

 

「だめだ テュカ!!」

 

テュカの父は矢を構え呪文を唱え矢を放つその矢は炎龍の左目に刺さり炎龍は絶叫を上げる。

 

「目だ!目を狙え!!」

 

「うわぁっ」

 

「テュカ!逃げなさい!!」

 

炎龍の前に立ち尽くす父は持っていた剣で炎龍の口を刺しテュカを抱える。

 

「ここに隠れているんだ いいね!」

 

父はテュカを井戸の中に放り込む。テュカの眼に映る最後の父の笑顔。それから時が経ち辺りが静かになった。

 

やぁ テュカ 無事だったかい?

 

 

「・・・お父さん 助けて・・・」

 

長く冷水に浸かっていて体が体温が下がっていた。

 

「このまま・・・死んじゃうのかな・・・」

 

そんな時聞いた事のない言葉が聞こえてきた。

 

「?」

 

ふと上を見上げるとバケツが頭に直撃した。

 

そして現在に戻る。

 

「中尉 エルフじゃ無いですか?西洋の本で読んだ事があります」

 

「人命救助だ!急げ!」

 

「兎に角、濡れた服を服を脱がせて」

 

「ごめんよ、切るよ」

 

取り敢えず彼女を九四式六輪自動貨車に乗せ黒川軍曹にエルフを治療を行った。

 

「大尉、隊長。」

 

10分後、治療を終えた黒川軍曹が伊丹と大場に近づいた。

 

「それで、エルフの方は?」

 

「助かるのか?」

 

「はい、体温が回復して来ています。命の危機は脱しました」

 

「そっか」

 

「よかった」

 

二人はそれを聞いて安堵する。

 

「それで、これからどうしましょう?」

 

「集落が全滅した訳だし、ほっとくわけにもいかないし・・。まぁ保護という事で連れて帰ろましょう。大尉」

 

「そうだなぁ」

 

第三偵察隊と第一偵察隊は帰還途中もう一度コダ村を訪れた。

そしてコダ村の村人達に火龍の事を話すと、コダ村の村長が顔色を変え、その他の村に伝える事を話す。

 

「なんと!全滅してしまったのか!?」

 

「あ〜と 私たち 森に行く 大きな鳥いた 森 村 焼けた」

 

と伊丹は片言の特地語で炎龍の絵を見せた。

 

「こっ これは古代龍じゃ!しかも炎龍じゃよ!」

 

「ドラゴン 火 出す 人 たくさん焼けた」

 

「人ではなくエルフであろうあそこはエルフの村じゃて」

 

「よく知らせてくれた 感謝するぞ!おい!村中にふれてまわるのじゃ隣の村にも使いを出せ!」

 

と村長は伊丹に感謝する。そして伊丹は救出したエルフの事も話す。

 

「えっと 一人 女の子を助けた」

 

「ほう・・・痛ましいことじゃ この娘一人残して全滅してしまったのじゃな」

 

「この子 村で保護・・・」

 

「習慣が違うでなエルフの村に頼め それに儂らは逃げねばならん」

 

「村 捨てる?」

 

「そうじゃ エルフや人の味を覚えた炎龍はまた村や町を襲って来るのじゃよ」

 

そんな話をしている間に村人達は荷車に荷物を載せる。

 

「大場大尉 彼らを放って置く訳には・・」

 

「仕方がない。無駄かも知らないが一応司令本部に救援を呼ぼう」

 

伊丹達は無駄かもしれないが一応援軍を呼ぶ。

 

そして

 

「隊長!やりましたアルヌス司令部から援軍を派遣したと電文が」

 

「何!本当かよっしゃ」

 

暫くして援軍が到着した。

 

「援軍が来たぞ」

 

「有難い、しかも六号戦車ティーガーじゃないか」

 

やって来たのはタイガーとして知られる六号戦車だった。タイガーはどの兵器よりも遠くまで砲撃が出来又厚い装甲のお陰で攻撃も通さない世界最強の戦車だ。

 

「頼りにしてるぞ」

 

するとティーガーのキューポラから戦車長の渡辺定信少尉が顔を出した。

 

「任してください隊長方 然りお守りします」

 

そんな遣り取りを余所に村人達はやって来たティーガー戦車に目を丸くして眺めていた。

 

「よし 村人達避難準備は完了した様です!」

 

「了解した!よし全員準備が完了次第出発する!」

 

そして準備が終わって

 

「よし終わったなそれじゃあ出発だ」

 

 

第三偵察隊と第一偵察隊は車列を作って行き最後尾はティーガーが走って行くのだ。コダ村の外れではガトー老師とその弟子レレイ・ラ・レレーナが馬車に荷物を載せ運んでいた。

 

「お師匠 これ以上積み込むのは無理」

 

「レレイ どうにもならんか?」

 

「コアムの実とロクデ梨の種は置いて行くのが合理的」

 

「ん〜まいったのぅ」

 

「だいたい炎龍の活動期は五十年先だったはずじゃ それがなんで今ごろ・・・」

 

「お師匠準備できた。早く乗ってほしい」

 

「あ?」

 

「///儂はお前なんぞに乗っかるような少女趣味ではないわい!どうせ乗るならお前の姉みたいなボン キュ ボーンの・・・///」

 

「・・・・」

 

「わぷっ」 パン

 

呆れたレレイはカトー老師に魔法をかける。

 

「これ!やめんか!魔法は神聖なものじゃ!乱用するものではないのじゃぞ!」

 

「わかったわかったそう急かすな ホントに冗談が通じん娘じゃのう」

 

「冗談は 性的なものの場合互いの人間関係を破壊する怖れもある大人ならわきまえていて当然」

 

「・・・疲れる 歳はとりたくないのう・・・」ハアァー

 

「大丈夫 師匠はゴキブリよりしぶとい」

 

「・・・無礼なこと言う弟子じゃのう」

 

「これはお師匠から受けた教育の成果」

 

するとピシッという音がした。荷車の車輪が地面に埋まってしまった。

 

「・・・・」

 

「・・・どうやら重すぎたようじゃ」

 

「かまわず積めと言ったのはお師匠」

 

「し 心配するでない我らは魔導師じゃ!"ただ人"の如く行く必要はない!」

 

「『・・・魔法は神聖なものじゃ』『乱用するものではないのじゃぞ』」

 

「・・・・あーー 。す すまんかった」

 

「いい 師匠がそういう人だとわかってる」

 

そして暫くして二人は他の避難民と合流する。

 

「賢い娘よ 誰も彼もお前には愚かに見えるじゃろうなぁ」

 

「命のためには一刻も早く炎龍から逃げなくてはならない。けど持てるだけの生活物資を持って行きたいのは人として当然」

 

「人として当然ということは結局愚かしいということじゃろ?」

 

「・・・」

 

そうしていると列が渋滞を起こしていた。

 

「どうしたのじゃ?」

 

「これはカトー先生レレイも今回は大変なことになって、この先で荷の積みすぎで車輪を折った馬車が道をふさいじまってーー」

 

「避難の支援も仕事の内だろ!」

 

「伊丹中尉、お前は村長から救援要請を引き出してくれ!」

 

「分かりました。大尉」

 

(聞いたことのない言葉。茶色の服ー)

 

「戸津上等兵と水木二等兵は後続に事故を知らせて迂回させろ!」

 

「し、しかし自分達特地語は〜」

 

「身振り手振りでどうにかしろ!」

 

(帝国軍ではないどこかの兵士?)

 

「黒川軍曹は負傷者がいないか確認してくれ」

 

「了解」

 

(鎧も着ていない私の知らない・・・帝国や諸侯軍以外の軍事組織ー)

 

「師匠 様子を見てくる」

 

と言って事故現場に向かう。事故現場では荷車が倒れて女の子は瀕死の状態だった。とレレイは事故現場にやって来た。

 

「君!危ないからー」

 

レレイは怪我人した女の子の方にやって来た。

 

(この子の状態が一番危険ー)

 

「レレイ!カトー先生は?」

 

「村長 師匠は後ろの馬車」

 

「大場大尉、伊丹中尉 脳震盪か骨折の恐れも・・・」

 

「それは参ったなぁ!?」

 

「どうしよ?」

 

その時突然馬が暴れ出した。

 

「キャア!」

 

「レレイ!」

 

「危ない!!」

 

パーァン

 

と桑原が三八式歩兵銃で馬を射殺した。

 

「レレイ大丈夫か!?」

 

「この人たちが私を助けた・・・?」



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使徒ロゥリィ

アルヌスへ向かった大軍勢が一夜にして消えたー在郷の貴族や騎士も根こそぎ軍務についた結果民衆にもたらされたのは盗賊の跳梁だけー

 

「コダ村か 炎龍が出たって逃げ出してのは羊の群れだな」

 

渓谷の下に十数人の着崩れた男達が焚き火を囲んで話していた。

 

「手が足りねぇんじゃ?」

 

「人集めるんだよ 大仕事ができるぜ 村や街を襲おう」

 

「領主追い出すのも夢じゃねぇぜ どうです?お頭」

 

男達の話している焚き火の横には馬車とそれに乗っていた商人は首を掻っ切られて死んでいた。

 

「盗賊の頭から領主様か 悪くねぇな」

 

自分が領主になり、豪華なご馳走と幾多の女性たちに囲まれた姿を想像したが、そんな夢は直ぐに闇へと変わった。

 

「あ?(え!?あれ・・・俺・・・か?)」

 

いきなり自分達の頭が死んだ事に他の手下の男達は動揺した。そんな中、渓谷に幼い少女の笑い声が響いた。声だけ聞くと怪奇現象であった。

 

「クスクスクスクスクス おじサマ方ぁ 今宵は生命をもってのご喜捨どうもありがとぉ 主神にかわってお礼を申し上げますわぁ」

 

盗賊達は岩の上の人影に目を向ける。そこには、全身漆黒の服に身を包み、鉄の塊の様に思わせるハルバート、そして目は血の様に赤く細い腕でハルバートを振り回す一人の少女の姿があった。

 

「神があなた達を大層気に入られてぇ お召しになるっておっしゃられてるのぉ」

 

その間にも彼女を見た盗賊達は徐々に引いていた。

彼女が一歩進むたびに一人また一人と盗賊達がハルバートで上半身と下半身に切り裂かれる。そんな中、白い月明かりが少女の姿を照ら

す。

 

「なっ なんでぇてめぇは!?」

 

少女はクスリと笑いながら口を開いた。

 

「私はロゥリィ・マーキュリー 暗黒の神エムロイの使徒」

 

彼女の正体を知った盗賊達は恐怖のあまりその場で立ち尽くした。

 

「・・・間違いねぇエムロイ神殿の神官服だ・・・」

 

「じ 十二使徒の一人、死神ロゥリィ・・・!」

 

「逃げろぉ!」

 

「あら」

 

盗賊達はロゥリィの正体が判明し恐れ慄いて逃げ出す。

「だめよぉ逃げちゃあ」

 

「いっ」

 

ロゥリィは自分の何倍もの重さもあるハルバートを軽々と手に持って飛んだ。すれ違いざまに盗賊達の体を次々と真っ二つに切り裂きつける。

 

「神はおっしゃられたわぁ」

 

「ひっ あわっ」

 

「う 人は必ず死ぬってぇ だ・か・ら 決して逃げることはできないのよぉ」

 

最後の一人となった盗賊も、振り下ろされたハルバートによって全身が砂煙と轟音と共に消え去った。そして一人生き残って逃げる盗賊の一人。

 

「なっなんで エムロイ神殿の神官が・・・こんな所に・・・っ」

 

バチャン

 

「うわっ」

 

男は泥沼に転がる。

 

「くそおぉおおっ なんだ俺がこんな目に・・・」

 

「あらぁ あなたも他のオジサマ達とぉ 殺したり楽しんだり イイ思いしたでしょお?」

 

と背後から忍び寄る黒い影男はロゥリィに引き摺られていた。

 

「うっ いっ おっ俺はまだやって・・・ねぇ ぐへっ いでっ 俺はまだ・・・新米だ・・・から」

 

「ふぅ〜ん」

 

そしてロゥリィは男を放り投げる。

 

「うあっ あうっ」

 

そして近くには盗賊達によって犯され殺された女の死体があった。

 

「みんなもヤったんだから最期にヤっとけばぁ?私が頼んであげる どっちが好みぃ?あら 困ったわもう召されてしまったようね ごめんなさい 間に合わなくて でもぉ せっかくだからぁ ヤっとけばぁ?」

 

男は必死に慈悲を乞う。

 

「助けてくれ!俺がヤったわけじゃないんだ!本当だ!まだ一人も殺してねぇよ!盗賊に入ったのも生きるためしかたなく・・・家が貧乏でー」

 

「・・・醜い」ハァー

 

ロゥリィは男の言い訳に溜息を漏らす。

 

「主神は善悪にかかわらず人を殺すことが罪だと言ってるんじゃないわぁ あらゆる人の性を認め生きるための職を尊ぶのよぉ たとえそれが盗賊だとしても」

 

"盗賊なら盗賊として 兵士なら兵士として 命のやりとりをする覚悟を持って堂々とその道を誇ればいい ならば私は使徒として 彼を愛したかもしれない"

 

「改心する!真面目に働く だから命だけはー」

 

「見苦しい・・・殺すのがいやなら物乞いにでもなればよかったんだわぁ・・・男として存在価値なし・・・あの三人のお墓掘ってあげなさぁい」

 

「掘るって・・・道具がー」

 

「母親から頂いた 両手があるでしょう?」

 

とロゥリィのキツイ一言で男は必死で土を掘る。

 

「いてぇ・・・手が・・・」

 

「ほらぁ手が止まってるぅ」

 

「ヒッハッハッ」

 

そして男は三人分の墓を建てる。

 

「こ これでいいか?」

 

男はロゥリィの方を見るとロゥリィは懺悔していたそして懺悔し終わるとハルバードを手に持つ。

 

「え・・・っ ちょっ 言われたことやった・・・やりましたよっ 助けて・・・やめろおぉおっ」

 

男の命乞えも聞かずハルバードを振り下ろす。

 

夜が明けてコダ村の人々を護送して三日が経っていた。その日救出したエルフが目を覚ました。

 

「黒川軍曹 どうだ?女の子の様子は?」

 

「伊丹中尉・・・血圧は安定していますし意識も回復しつつあります。今もうっすらと開眼しています」

 

「はー しかしまいったなー遅々として進まない避難民の列 次から次へと湧き起こる問題。増えていく一方の傷病者と落伍者 おまけにこの前の雨で道路状況も最悪。逃避行ってのはなかなか消耗するもんだねぇ」フー

 

伊丹は後方に続く馬車の列を見て溜息を吐く。避難民は皆疲れと暑さで参っていた。

 

「メリザ!いくぞっ それ!」

 

「ハイヤッ」

と手綱を引く。

 

「こんな所で動けなくなったらのたれ死にだよ 誰か助けておくれ!」

 

助けを求めるが誰も助けに来ない。

 

(神様なんて在るだけで誰も救われない・・・誰か助けて!誰か・・・誰かー)

 

とその時

 

「はまっているだけだ押すぞ!」

 

と後ろから日本兵達が荷車を押す。

 

「根性見せてみろ!」1 2 3!」

 

「「「「そー りゃっ」」」」

 

と荷車がぬかるんだ道から抜け出した。

 

「よーし 次は馬車だ」

 

「あ あのあんた達ー」

 

日本兵は笑いながら行ってしまた。

 

「・・・誰だいあの人らは?」

 

「さぁ どこの兵隊だろうね」

 

「ホラ 炎龍出たって村に伝えに来た連中さ 異国の人らしいが人が良すぎやせんかね」

 

そんな矢先一両の荷車が脱落していた。

 

「だめです隊長 車輪が折れてます」

 

「んー 仕方ないねぇ村長呼んできて」

 

そして村長がやって来た。

 

「村長・・・」

 

村長から言われたことに男は驚く。

 

「そんな・・・っ 荷と財産を捨てるなんてっこれからどうやって暮らせと!?」

 

「ここにとどっまても死を待つだけじゃ 命あっての物種じゃないか 背負える分だけでも持って逃げるんじゃ」

 

「・・・く・・・わかりました・・・これでいいんじゃろ?」

 

「すみません」

 

伊丹は荷車の処分を命じ一〇〇式火炎放射器で荷車を燃やす。

 

「伊丹中尉・・・どうして火をかけさせたんですか?」

 

「荷車を前に全然動こうとしないんだもの それしかないでしょ」

 

「車輌の増援を頼むわけにはいかないのですか?」

 

「黒川くん 一応ここはエネミーラインの後ろ側なのよね。そりゃ力ずくで突破できなくもないよ?けど大部隊が自軍の勢力圏内で動いたら敵さんも動かざるをえないでしょ?偶発的な衝突 無計画な戦線拡大 戦力の逐次投入 瞬く間に拡大する戦禍と住民の被害 考えるだけでぞっとするってさ」

 

「そう 言われたんですね」

 

「だから 俺達が手を借す。それぐらいしかできないんだよ」

 

第三、第一偵察隊はティーガーⅠを先頭にしてゆっくり進む。

 

「しっかし もうちょい速く移動できないスかねぇ・・・こんな遅く走らせるの機甲科練習生の訓練以来スよ」

 

倉田はチラリとバックミラーをみる。そこには子供、妊婦、負傷者を乗せていた。

 

「しょうがないでしょ 徒歩に荷馬車みんな疲れきってるし」

 

「そうスけど・・・」

 

そんな時伊丹が双眼鏡で前方を見る。

 

「中尉 前方カラスっスかね?妙に飛び交ってますよ」

 

「そうねぇ・・・んん!?」

 

そうしていると

 

「前方に誰かいる」

 

「え!?」

 

そこには頭から爪先まで全身黒一色の少女だった。格好はどこかヨーロッパ風の人形の様で側には外見には似合わない大き目の斧を携えている。

 

「ちょっと何をしているのか聞いてみよう」

 

車から降り黒服の少女に特地語で話しを掛けてみた。

 

「ねぇ、貴方たちは何処からいらして、どちらへ行かれるのかしらぁ?」

 

「えーと・・なんて言った?」

 

「いや、分かりません」

 

「見た目は子供の様ですが・・」

 

困惑する伊丹達を他所に、子供や大人一斉に少女の周りに群がり崇める様に歓声した。

 

「神官様だ!!」

 

「何処から来たのぉ?」

 

「コダ村からです!」

 

「村を皆から逃げ出しまして・・」

 

「炎龍が出て来て、ここまで来ました」

 

「嫌々連れて行かれるって訳じゃ無いのねぇ?」

 

どうやら彼女は宗教の教祖てきな存在なのかもしれないと思った。そんな彼女が今度はこちらに顔を向け、興味津々で伊丹や大場達や装甲車を見つめる。

 

「それにしても・・・随分変わった格好ねぇ」

 

「でも色々助けてくれるんだ!優しいし、悪い人達じゃないよ!」

 

「これどうやって動いてるのぉ?」

 

「分かんない、僕が知りたいくらいだよ。でも乗り心地は荷車よりずっと良いよ!」

 

「へぇ〜、乗り心地が良いのぉ?私も感じてみたいわぁ、これの乗り心地。・・ちょっと詰めてぇ〜」

 

「おいおい!待て待て!機関銃に触るなって!!」

 

「狭いよ、お姉ちゃん」

 

「わぁ!何持ち込もうとしてんの!?」

 

そしてどう言う訳か伊丹の膝の上に少女が座る。

ちょっと教育上よろしくないが仕方ないと割り切って出発する。

 

「それにしても暑いですね!隊長」

 

「文句言うなよ」

 

つい先日まで雨が降っていたのだ、そのお陰で道はぬかるんでいる。

時々馬車がぬかるみにはまってしまう。

時折第三偵察隊と第一偵察隊が引いたり押したりしている。

 

それから数時間後

何事もなく平穏に避難民を護送していたが猛烈な太陽の光が避難民達を大いに苦しめていた。

 

「おかーちゃん のど渇いたよー」

 

(ああ・・・息子だけでも・・・あの茶色の服の連中に・・・)

 

その時頭上に大きな影が実現したそれは炎龍だった。炎龍は避難民に襲い掛かる。必死に逃げ惑う避難民。

 

「中尉!炎龍出現!!隊列後方が襲われてます!」

 

「くそっ こんな開けた所で・・・!」

 

『伊丹中尉!!応戦しよう。我々の持っている全ての武器で戦うぞ』

 

第一偵察隊の大場大尉から無線が入る。

 

「分かりました!全員戦闘準備」

 

伊丹の命令に第三偵察隊の隊員がstg44を構え装甲車は銃身を向ける。

 

「攻撃開始だ!!」

 

第三偵察隊と第一偵察隊はドラゴンに攻撃を開始する。避難民は慌てて逃げるがドラゴンに捕食されて行く。急いで伊丹達も反撃をするが小銃や機関銃ではドラゴンの厚い鱗にダメージを与えられなかった。

 

「全く効いていない」

 

「マズイなぁ」

 

もはや絶望的だった。

 

「伊丹中尉!目を狙ってください!どんな頑強な奴でも目は弱い筈です!!」

 

「分かった!全員目を狙え!」

 

伊丹の命令に第三偵察隊の隊員はstg 44をドラゴンの目に向け大場の第一偵察隊の隊員もstg 44とMG42と九七式重機関銃ドラゴンの目に向け撃つ。

 

そして援軍に駆けつけていたティーガー戦車でも砲塔を旋回させていた。

 

「戦車長!榴弾の装填完了です!」

 

「よーし!」

 

伊丹と大場達の一斉射撃とロゥリィのハルバートでドラゴンの足下を突き刺され縺れかかる。

 

「撃ってぇ!」

 

ティーガーの88mm砲がドラゴンの腕の付け根に命中し鱗の皮が剥がれる痛みに堪え兼ねたドラゴンは一目散に退散して行った。

 

「終わったのか?」

 

「あぁ、終わったんだ」

 

その後、ドラゴンを撃退する際犠牲になった村人達の墓を作って犠牲者に対する追悼の意を表明し黙祷をする。

 

「伊丹中尉、大場大尉。村長から聞いた話では生存者の大半は近隣の身内のところに行くか何処かの街か村に避難するそうです」

 

と隊長方に報告する。

 

「そう言う事になると後は子供に老人に怪我人だけか」

 

「後は他の理由で残ったのが数名程合わせて二十五人です。」

 

「どうしましょう。大尉」

 

「取り敢えず、村長に話を聞いてみよう」

 

と村長の所に行く。

 

「へ?神に委ねる?」

 

「薄情に思うかも知らんが儂らも自分の世話で精一杯なんじゃ理解してくれ救ってくれたことには感謝しとる」

 

「・・・・」

 

その後避難民と別れて見送った。

 

「・・・・ あの茶色の人らお人好しすぎやしませんか?見返りもなんもいらないって?」

 

「ま あんな腕の立つ連中貴族や領主がほっとかんさ。なにせ炎龍と互角に戦ったんだぞ」

 

見送り届け段々と見えなくなったところで、

 

「さて・・・と」

 

「そうだな」

 

伊丹と大場は避難民の方を見る。皆何か悲しげな表情で見ていた。それはまるで捨て犬のような目をしていた。

 

「ま いっか」

 

「そうするしかないか」

 

「だぁ〜いじょ〜ぶ ま〜かせて!」

 

それを聞いて皆笑顔になった。

 

「全員乗車!アルヌスに帰投する!」

 

「乗り切れない奴は戦車の上にでも乗れ!」

 

アルヌスに帰投する。

沢山乗れる九四式自動貨車やSd Kfz251でも隊員と避難民合わせても足りないので残りの者はティーガーの車体の上に乗ってもらう事にした。そのような形で司令部に帰還する。

 



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避難民

アルヌスに帰投した第三偵察隊と第一偵察隊。伊丹は上官である檜垣少佐に報告しに行く。

 

「避難民の護衛をするとは、聞いていたが誰が連れて来ていいと言った」

 

「あれ?連れて来ちゃ不味かったですか檜垣少佐?」

 

「・・・・・・」

 

と伊丹の返事に檜垣少佐は額に手を当てる。

 

「しかし檜垣少佐これはいい機会かも知れません」

 

「何?」

 

伊丹は追い打ちをかける。

 

「今我々はここの人達の事を良く分かりませんでしたので避難民を受け入れる名目で保護すればここでの情報が得られるかもしれません」

 

「それは分かっている。ちょっと待っていろ今村司令官と栗林参謀長と狭間参謀長に報告してくる」

 

檜垣少佐はやれやれと言った感じで行く。数十分後に檜垣少佐が戻って来た。

 

「そんな訳で人道的観点から避難民の保護を許可する。伊丹中尉は避難民の保護及び観察を行うように」

 

檜垣少佐は伊丹に新たな命令を下す。

 

「それから第一偵察隊の大場大尉とは今後共に行動するように」

 

「(要は面倒な事は丸投げって事か)分かりました」

 

と敬礼し退室する。退室時に伊丹は煙草を吸っていたある人物に呼び止められる。同じ中尉の階級章に参謀飾緒を付けた柳田明だった。

 

「よう、伊丹」

 

「何?」

 

「定期連絡を欠かさなかったお前が炎龍退治の後の連絡不良。お人好しのお前の事だ、避難民を放って置けないなんて言われると思ったんだろう」

 

と柳田は不敵な笑みを浮かべる。

 

「まぁ、異世界だし機械の故障や通信障害もあるでしょう」

 

「ふん 韜晦しやがって 参謀の身にもなってみろ」

 

「いずれ精神的にお返ししますよ」

 

「大いに足りないな。ちょっと場所を変えようか。」

 

と柳田は伊丹を兵舎の裏に連れて行く。

 

「いいか伊丹。この世界・・・特地は宝の山だ」

 

そう言い再び煙草に火をつける。

 

「政府に大本営はこの特地の正体を知りたがっているんだ。汚れ一つ無い手付かずの自然に、日本経済をひっくり返すかも知れない膨大な地下資源に、文明格差は中世と現代、そんな世界と繋がる門が日本に開いた。 米国、ソ連、英国に独国などの列強国を再び敵に回す価値がこの特地にあるかも知れないんだ」

 

「柳田さん、アンタが愛国者だってのは分かった。俺も軍人だから全力は尽くすつもりだ。しかしピン来ないな相手は子供や老人に怪我人だぞ?」

 

「知っている人間を探し出して情報を聞き出せば得られるだろう?伊丹、お前には、近々自由に行動する事が許可されるだろう。だが、目的を覚えておけよ」

 

「仕事を俺に任すのかい、柳田さんもセコイね」

 

「そういう事だ。今まで怠けた分は働くんだな」

 

そう言い柳田は兵舎を去る。

 

「さて、今は避難民の飯と寝床の準備をしないとな」

 

一方同じ頃ある街の酒場で酔っ払った者達が笑いながら酒を酌み交わし、場を盛り上げる楽器の音色が響き渡る。

とある一角に炎龍から命からがら生還したコダ村のメリザの話で持ちきりだった。

 

「炎龍が撃退された!?」

 

「嘘だろ!?」

 

「そんなの絶対無理だ!」

 

「魔導師やエルフだって古代龍を倒すなんて不可能だ!本当に炎龍だったのか?新生龍や翼龍の間違いだったんじゃないか?」

 

「本当に炎龍だよ、この目で見たんだ!」

 

「それにあの炎龍相手にコダ村は四分の一の犠牲で済んだんだぜ」

「いったい誰が!?」

 

その様な噂話を聞き耳立てて聞いている四人組が居た。ピニャを始めとする帝国隠密偵察隊のメンバーだ。

 

「茶色の服を着た正体不明のヒト種の傭兵団・・騎士ノーマ、どう思われます?」

 

正体不明の傭兵団について聞いてきた茶髪の女騎士 ハミルトン・ウノ・ローの質問にウンザリした表情で返す ノーマ・コ・イグルー。

 

(なんで侍従武官の俺がこんな安酒場でまずい酒を・・・)

 

「ハミルトン これだけ多くの避難民が言うのだから嘘ではなかろう だが炎龍というのはいささか信じがたいな」

 

「私は信じてもいいような気になっています」

 

彼等はアルヌスの丘に陣を構える異世界の軍の情報を探るべく、道中にある酒場に寄り道をしていた。ノーマは炎龍を追い払った傭兵団の話がどうにも信じ難かった。疑問に思っている四人に噂を流した張本人のメラザがやって来た。

 

「ホントだよ騎士さんたち。炎龍だったよあいつはこの目で見たんだ間違いないよ」

 

「ハッハッハ 私はだまされないぞ女給」

 

「ム」

 

「まぁまぁ、私は信じるから。良かったらその斑服の人達の事、詳しく聞かせてくれない?」

 

ハミルトンが金貨を見せびらかし、メリザは素早く金貨を取った。いかにも単純と言ったところだ。

 

「ありがとよ、若い騎士さん。じゃ とっときのを披露するよ」

 

メリザが咳払いをすると、周りが静まり返った。

 

「コホン、コダ村から逃げる私達を助けてくれたのは、茶色の服を着た人達が二十四人と大きな鉄の像を操る人」

 

「コダ村から逃げる時に助けてくれた茶色の人は炎龍が来た時に魔法の杖を取り出して、呪文を唱え始めたんだ。『ウテェー』ってとんでもない音して攻撃したけど効きゃしない、その時後ろからアレがいたんだよ」

 

「アレって?」

 

「次は鉄の象の話かね。鉄の象は凄く大きくて、身体中は黄土色で中から人が出て来たんだよ。あの像が炎龍に向けて鼻を向けたと思ったら、その鼻から火が出てとんでもない音が出て炎龍の左腕が吹き飛んだんだ!」

 

「凄い人達の様です。如何でしょう、ピニャ殿下」

 

「妾は鉄の象に興味がある。女、その鉄の象の姿見た目をもう少し詳しく教えて欲しい」

 

「いいよ。鉄の象は身体の所々がデコボコして、動き出すともの凄い唸りを上げるんだ。最初は少し怖いと思ったけど、特に何もして来ないし、茶色の人達が飼い慣らしている様だったよ」

 

「そうか、詳しく教えてくれて感謝する。」

 

ピニャは杯の中の酒を飲み干し、考えを振り払う。

 

 

 



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世界の思惑

海外では門の出現に様々な反応がある。

-----アメリカ合衆国-----

アメリカ合衆国首都ワシントン ホワイトハウス大統領執務室

 

「対日戦争が終わったのは、良いが日本と講和して経済めちゃくちゃだ。失業率6%を超えてるのだ。国内生産や中国に市場を構えるだけじゃ足りないんだ」

 

「それは、分かって居ります。Mr. president」

 

「門は恐らく我々の新たなフロンティアだ!あの向こうにどれほどの可能性が詰まっているか君も想像したまえ。手付かずの貴重な鉱石や燃料資源、経済的優位性に汚染の無い大自然。更には異世界生物の遺伝子情報などなど・・・・だが、日本軍は何をしてるんだ?『門』の周りに亀の子みたいに立て篭って、これ程の物を前にしているのに?」

 

とフランクリン・ルーズベルト大統領が補佐官に言う。

 

「日本軍は過去から学んだのです。ルーズベルト大統領、戦力不足のため要地を押さえる戦略しか選択出来ません。情勢の見極めに時間を掛けてかけているのでしょう」

 

「東條らしいな」

 

「ですが日本は講和条約締結後に同盟締結し日本は今や我々の同盟国です。門から得られる利益は我々にもあるはずです」

 

「少なからずな。だがそれだけでは不足なのだよ。どうだろう?もっと積極的に関与すべきか?例えば陸軍や海兵隊の派遣とかは?」

 

「Mr.president、残念ながら我が国は現在問題のヨーロッパでの支援で手一杯です。戦力的にも予算的にも、もう余力がありません。深入りは禁物かと・・・どうでしょう?武器弾薬類の支援のみに限られては?」

 

今やアメリカはナチスドイツよりも東に位置するソ連を警戒していた。戦争終結後今や両国は冷戦期に突入していた。

 

「そうだな、直ぐにハル国務長官に連絡を取るんだ、日本に接触を測るんだ。大儲けできるチャンスだ」

 

「はい、只今」

 

「肩入れし過ぎて我々にも火の粉が降りかかるのは避けたい。火中の栗はJAPに拾わせて我々は悠然と行こうではないか」

 

以後、アメリカは徐々に日本に接近して来た。

 

----ドイツ第三帝国-----

 

「門は日本の物にしてはならん!!日本は直ちに門に関して広く開放すべきである!!」

 

ドイツベルリンの総統官邸ではドイツ第三帝国総統兼ね国家社会主義ドイツ労働者党首アドルフ・ヒトラーがそう叫ぶ。

 

「何故だ!?何故 日本の東條は、余の呼び掛けに応じて我が第三帝国を異世界に加入させない?見返りに新技術を提供しようと言っておるのにそれでも不満だと言うのか?」

 

「独日伊の三国同盟無き今 我々への呼び掛けに答える意味が無いのかと思われます」

 

「何としても日本と共同して門の利益をドイツの物にするのだ!!異世界は宝庫だ、何故我がドイツに現れなかったのか・・それにあのギンザの門、あの技術を我が物にすれば門を自由に任意の場所に展開し、何処でも軍を送れる様になり、日本との距離問題、力関係の全てが解決する!!何が何でもあの門の技術を手に入れるのだ、さも無いと日本との格差がまた広がってしまう!!」

 

「ですが、MainFührer日本には我がドイツは先の大戦で日本に大量の技術支援をしたのでその見返り切り札にしてはどうでしょう」

 

とヒトラーに外務大臣リペントロップが提案する。

 

「うん、それで行こう。日本が漁夫の利をするのは余が認めん!」

 

とヒトラーが日本に警戒する。

 

----イギリス----

 

「門の利益を手に入れば、我が大英帝国は世界の頂点に帰り咲けるのだ」

 

とイギリス首相のウィンストン・チャーチルが言う。

 

「ドイツとの戦争で多額の戦費を費やしたお陰で赤字だ。」

 

「門の利益を手に入れ今度こそドイツを叩き潰してやる」

 

とイギリスも日本に接近をしようとする。

 

----ソビエト連邦----

 

「ヤポンスキーの門は我らソビエト連邦が管理してやろうじゃないか」

 

モスクワのクレムリン宮殿で共産党書記長ヨシフ・スターリンが共産党幹部達にそう言う。幹部達はそれは叶わないと思った、何故なら日本がおいそれと門を譲るわけがなくそれにアメリカと西ヨーロッパが許すはずがないのだ。

 

「門か、厄介な物になりそうだ・・」

 

「はい、もしあの門から膨大な量の資源が発見されたら、我々の存在も危うくなります」

 

「そうだな・・・アメリカも西ヨーロッパも、あの特地の資源を狙っているだろうからな。今のヤポンスキーは地球一個分の資源を持ったも同じ・・」

 

「一層の事、ヤポンスキーに国家政治保安部(GPU)を送り込み、あの門を破壊しましょう!そうすれば・・・」

 

「あの門がどの様な物質で作られているのか分からないのか?それに門の周辺は隔離されていて、近づく事さえ容易では無い。そもそも門の向こう側にはまだ日本軍が大勢いる。それなのに門を破壊して仕舞えば、特地に大勢いの日本兵が取り残され、それが我々の行った事と知れば同盟国のアメリカが黙っていないだろう。そうなって仕舞えば元も子もない」

 

「確かにそうですが・・」

 

「同志スターリン。我々はヤポンスキーとはソ日中立条約を結んでいます。駐日大使を通してヤポンスキーに接触を測りましょう」

 

とフルシチョフが言う。

 

「それは分かってる。それならば友好的に接しようじゃないか。何せヤポンスキーとは中立条約を結んでいるからな」

 

とスターリンが言い日本との接触を開始するのであった。




president(大統領)
MainFührer(総統閣下)


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イタリカニ出撃ス

日本軍特地派遣部隊は基地の敷地内にコダ村の避難民への仮設住宅を建設している。完成まではテント生活を強いられる。生活に必要な物は日本軍の物資で賄ている。

日本軍はアメリカから提供してもらったブルドーザーなどの重機で地面を掘り、切り倒した木の根元を取る。レレイはその様子を観察していた。

 

「これでやっと荷を全部降ろせるわい。儂はもう寝る」

 

「こんなすごいの見過ごしてたって知ったら お父さんがっかりするわね。後で教えてあげなきゃ」

 

(賢者として理解不能なことを放っとくわけにはいかない・・・)

 

とレレイが何処かに行こうとすると

 

「危ないぞ!離れてろ!!」

 

と作業中の工兵に怒鳴られた。そして次にレレイが注目したのは九七式炊事自動車だった。

 

(あっちは・・・移動できるカマド?)

 

そこでは古田が大根の皮むきをしていた。

 

「(出店資金のために入隊したけどここでも包丁をふるうことになるとはね)ん?」

『uma-seu seru?』

 

「あ?ああ 大根だよ 大根」

 

「だ・い・こ・ん?」

 

「そうそう 大根」

 

「だ・い・こ・ん・・・」

 

(彼らのことを学ぶには 彼らの言語を学ぶのが先決・・・)

 

と考えるレレイ。

次に住居建設に行うに当たってやるのはは保護した避難民の住民登録だった。

 

「儂はカトー・エル・アルテスタン。こっちは弟子の・・・」

 

「レレイ・ラ・レレーナ」

 

「私はロゥリィ・マーキュリー。暗黒の神、エムロイの使徒」

 

「私はコアンの森、ホドリューの娘、テュカ・ルナ・マルソー」

 

「老人三人、負傷者三人、後は子供十九人です」

 

「で、子供の内は三人は大人って?」

 

「はい、特地では15歳で成人だそうです」

 

黒川軍曹の隣でレレイが片手で自身の年齢を伝える。

 

「テュカは165歳」

 

「ババアだな」

 

「じゃあもう一人は?」

 

「あの神官の少女らしいです」

 

その発言に伊丹は驚くどう見たって12、3歳位にしか見えないからだ。

 

「え!?まだ15にも見えないけど・・本当に?」

 

「子供違う。年上、年上の年上、もっと年上」

 

「一体何歳か聞いてくれる?」

 

「恐くて聞けない・・」

 

(何歳だよ?)

 

その夜、コダ村の避難民は今後の生活について話し合っていた。

 

「彼らには何から何まで世話になってしまった。こんな立派な家まで建ててもらって・・・じゃが生活費はどうにか自分達で何とかしたい

。でも年寄りと怪我人と子供ばかりじゃなぁ・・さて・・・」

 

「丘の兵隊に身売りするしか無いかも・・」

 

テュカや他の女性たちが顔を赤らめる中、レレイがある提案を出した。

 

「彼らに仕事があるか聞いてみれば」

 

「そうじゃな、見たところ丘の周りは翼龍の死骸が転がっておる。竜の鱗は貴重じゃあれをどうにか・・・」

 

翌日、レレイとカトー老師は伊丹に翼龍の鱗をもらえないか聞いてみた。

 

「なんと!好きに取っていいとな!?レレイ!?」

 

「そう言っている」

 

日本軍は龍の死骸処分に頭を悩ませていた。研究用として、二、三枚取った後は射撃訓練や戦利品としてしか使わないので、それで良いなら持って行ってもらっても構わなかった。カトー達は龍の鱗を剥がし血や泥を洗い流す。

翼龍の鱗は高価格で取引され鱗1枚につき銀貨30〜70枚で取引されるレレイによれば銀貨1枚で約5日は生活出来るらしい。

 

「これ一枚でデナリ銀貨 三十枚から最高七十枚になるの?」

 

「そう 銀貨一枚で五日は暮らせる」

 

「フゥン じゃあ私たちぃ 大金持ちぃ?」

 

と鱗をジーと見つめる。

 

「鱗二百枚爪三本 換金するのはちゃんとした大店に任せたい」

 

「まだ 鱗はいくらでもあるからのぉ おお そうじゃ テッサリア街道の先にあるイタリカに旧い友の店がある。ニホン兵たちに運んでもらおう」

 

その後カトー老師の旧友がイタリカで店をやっているらしいからそこで換金して貰えば良いと言う事になり、そこで選ばれたのが伊丹と大場達の隊だった。

第三偵察隊と第一偵察隊は戦力を増強していた。九四式自動貨車とSd Kfz250にMG08重機関銃一丁、M2重機関銃一丁、機関銃MG42一丁、九九式軽機関銃三丁、パンツァーシュレク五丁に強化された。

そして、アルヌスの丘には飛行場が建設され滑走路や格納庫も建設され飛行場の長さは約2kmだった。日本軍は完成した飛行場から九七式司令部偵察機を飛ばす。そして約200kmの地点にイタリカと思われる街を発見したのである。今村司令官は航空写真を基にイタリカまでの地図を作らせる。

 

「それじゃ行こうか伊丹中尉」

 

「はい 大場大尉」

 

と大場が言い兵士達は各人自分の車に乗る。

 

「よし 準備はいいか」

 

「大丈夫です」

 

そして準備が出来た第三偵察隊と第一偵察隊は仮設住宅に向かう。仮設住宅に到着すると採取した翼龍の鱗が入った袋をSd k fz251に載せる。

 

「これ ふたつね」

 

「はい わかりました」

 

(ニホン兵達がいれば街まで安全)

 

「ん?何?」

 

「別に・・・」

 

「ねぇ レレイ そのリュドーって人の店があるイタリカって遠いの?」

 

「少しテッサリア街道を西ロマリア山麓」

 

テュカとレレイとロゥリィの三人も第三偵察隊と第一偵察隊に同行する。ロゥリィは伊丹の乗用車に乗り、テュカとレレイは大場の乗用車に乗せアルヌスを出発し、伊丹達はイタリカに向かった。

 

 

一方とある修道院では、そこにはピニャと左目に眼帯をし左手足を失った男がいる。

 

「・・・デュラン陛下・・・」

 

「・・・ピニャ殿下か なんじゃ・・・?わざわざ帝都から は・・・敗軍の将を笑いに来たのか・・・?」

 

「滅相もない!しかし・・・エルベ藩王たるあなたがたった一人でなぜこのような所に」

 

「生き残った家臣は国に帰した・・・」

 

「いったい・・・アルヌスでいったいなにが・・・」

 

「なにも聞いておらぬのか?連合諸王国軍十万の兵がどうなったか・・・」

 

時を遡ること数日前 連合諸王国軍十万がアルヌスの丘に侵攻している時。

 

「連合諸王国軍か・・・」

 

「さって デュラン殿 どのように攻めますかな」

 

「リィグゥ公」

 

「アルヌスに先発した 帝国軍によると異世界の兵は穴や溝を掘ってこもっている様子。それほどの軍をもってすれば"鎧袖一触"戦いにもなりますまい」

 

「そうですな・・・(そのような敵 帝国軍なら簡単に打ち破れるだろう・・・では なぜモルト皇帝は連合諸王国軍など呼集したのだーー)リィグゥ公 戦いに油断は禁物ですぞ」

 

「ハハ 貴公も歳に似合わず神経が細かい 敵はせいぜい一万 二十一カ国 三十万を号する我らが合流すれば自ずと勝敗は決しましょうぞ」

 

連合諸王国軍はアルヌスの丘近くまでやって来ていた。

 

「報告!前衛のアルグナ王国軍 モゥドワル王国軍 続いてリィグゥ公国軍 アルヌスへの前進を開始!」

 

「うむ 帝国軍と合流できたか?」

 

「それが帝国軍の姿が一兵も見えません!」

 

「なに!?」

 

そして前衛の軍も帝国軍がいない事に不審に思った。

 

「帝国軍はどこだ!?後衛も残しておらんのか!?まさかすでに敗退ーー」

 

と言いかけた矢先に爆発が起こった。

 

「陛下!敵の魔法攻撃ですぞっ」

 

「こんな魔法 見たことないわ!敵の姿も見えておらんぞ!全隊 亀甲隊形 亀甲隊形ー!!」

 

盾を上に飾すも無謀だった。

 

「うわぁ」

 

「うう・・・」

 

辺りを見渡せば敵陣に近づくことすら叶わずバタバタとなぎ倒される兵達。

 

「これは戦ではない!こんなものが こんなものが戦であってたまるか!」

 

リィグゥ公はそう叫んだその瞬間そこに砲弾が飛んで来て吹き飛ばされた。

 

「なっ 何事だ!?アルヌスが噴火したのか!?」

 

悲鳴そして絶叫辺り一面夥しい数の死傷者で埋め尽くさらていた。体がバラバラになった者もいらば上半身が切断された死体もあった。そうそれはまるで日本が経験した大国ロシアとの戦い日露戦争の旅順総攻撃のようだった。

 

そして現在

 

「・・・ちょうどこのパエリアの米のように・・・兵の死体が土砂に混ざっておった・・・」

 

それを聞いてピニャの眼球は開きぱなしだった。

 

「り・・・両国の王は・・?なんということだ・・・」

 

「三度目の総攻撃で・・・丘の中腹まで我が軍は進んだのだが・・・鉄の荊に阻まれーー降ってきた光の雨に吹き飛ばされてしまった・・・連合諸王国軍は壊滅した・・・生き残りは皆 逃げた・・・」

 

「陛下・・・帝都へ 医者の手配を致します 我らの下でお体をーー」

 

「姫には悪いが帝国の世話にはならぬ もう儂も長くはもつまい 姫 帝国軍は我らより先に敗れておったのだろう?それを承知で皇帝は連合諸王国軍を招集したのだ。いつ帝国に牙を向けるかも知れない我らの始末を・・・敵に押しつけたのだ」

 

それを聞いてピニャは顔を下に向けた。

 

「帝国軍が敗れたのは存じておりました。ですが どのような敵が待ち受けているかも知らせていないとはーー」

 

「姫・・・連合諸王国軍は大陸を守るため死力を尽くして戦った。だが敵は背後にいた・・・帝国軍こそ我らの敵だったのだ」

 

「陛下!せめてお教えください 敵はどのような者達であったか!後の戦いのためにーー」

 

「教えてやらぬ 知りたくば姫自らアルヌスへ行くがよい」

 

そう言われピニャは眼光を鋭くする。

 

「そうは参りません 陛下が何も言わず冥府へ渡られたのなら 妾は兵を率いエルベ藩王国を焦土といたしましょうぞ」

「なんと・・・皇帝が皇帝なら娘も娘か・・・やるがよかろう冥府で我が一族と共にそなたらが来たとき嗤ってやりますぞ」

 

そう言われピニャは立ち上がりデュランに背を向け

 

「帝国は・・・負けません」

 

「陛下」

 

「強者の自由がまかり通るのは仕方のないことだ。だが よいか姫・・・アルヌスの敵は神の如き脅威の軍隊 帝国よりさらに強いぞ!帝国自ら呼び込んだ敵に帝国は敗れるであろう!その時になって後悔するがよいわ!!」

 

「陛下 お気を鎮めて・・・」

 

息を切らしたデュランをよそにピニャは立ち去る。

 

「ノーマ ハミルトン 行くぞ!」

 

「ハ!?・・・ハッ」

 

修道院を出たピニャ片手に力を込めて怒りを抑えていた。

 

「姫様・・・『我に続け』とか言って駆け出さないでくださいよ」

 

「ハミルトン・・・妾はそこまで馬鹿ではないぞ!」

 

「しかし・・・」

 

(駆け出すとしてもそれは帝都へだ。しかしハミルトンは妾の心の内をよく読む・・・)

 

とピニャはハミルトンの胸に手を添えるハミルトンは突然の事に動揺する。

 

「ひっ姫なにを!?」

 

「いや 前から本当はお前 男じゃないのかと思っていてなゆるせ」

 

といわれハミルトンは唖然とする。

 

「ともかく アルヌスへは行かねばな グレイこの先は?」

 

「アルヌスの手前にイタリカの街がありますな」

 

「イタリカか フォルマル伯爵領だったな」

 

「あ〜姫?アルヌスまでこの人数で?危険では・・・」

 

「はっきり言って危険だ ハミルトン守ってくれよ」

 

一方イタリカに向かっている伊丹達

 

「今走っているのがテッサリア街道で・・ここがイタリカか」

 

「そしてここがアッピア街道ロマ川デュマ山脈(すごく正確な地図・・・一体どうやって描いているのだろう?この装置で向かっている方向が分かるの?)」

 

レレイの説明を受けながら、桑原は航空写真で作った地図に情報を書き込んでいく。レレイは桑原の膝の上にあるコンパスを観察する。その視線に気づいた桑原はコンパスの事について教える。

 

「隊長、前方に煙を確認しました」

 

「やだなぁ、この道、あの煙がある所に続いてない?どう思う?」

 

「あれは煙」

 

「煙が上がっている理由は分かる?」

 

「畑焼く煙では無い、季節が違う人のした何か・・鍵?でも大き過ぎる」

 

「あの辺りがイタリカの筈ですが・・・」

 

「鍵じゃなくて火事ね」

 

『全車に告ぐ、周囲警戒せよ。慎重に行くぞ』

 

と第一偵察隊の大場大尉から無線が入った。

 

『了解』

 

ある程度の距離まで近づいた伊丹達は双眼鏡で煙の出ている場所を見る。

そこには衝撃的な光景が目に入った。目的地であるイタリカの街が、謎の武装勢力に攻撃されていた。城壁では老若男女問わずに命懸けで街を守ろうと戦っていた。

 

「うわー、戦闘状態だよ」

 

「この中に交易しに行くんですか?正気の沙汰じゃありませんよ」

 

そんな時盗賊達が撤退を開始した。撤退する盗賊達を見て安堵する街の人々。

 

『どうやら、奴等は引き返したようだな』

 

「このまま見捨てて帰る訳には行きません。お願いします、大尉。・・危険ですが、行きましょう」

 

と言う。第三偵察隊と第一偵察隊は慎重にイタリカに向かう。

 



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イタリカ攻防戦

ここはイタリカフォルマル伯爵の領地でテサッリア街道とアッピア街道の交差点に発展した交易の都市である。ここに日本軍に惨敗した連合諸王国軍の残党が盗賊に成り、街を襲撃して来たのだ。現在のフォルマル伯爵家の当主はまだ11歳の幼いミュイである。イタリカの民兵達は数百人の盗賊を相手に必死に籠城戦をするも民兵は皆疲れ切っている、このままではイタリカが陥落するのも時間の問題だ。

 

「ノーマ ハミルトン!無事か!?」

 

「生きてま〜す」

 

ハミルトンは息を荒くしながら答え、ノーマは腕を上げ声が出せない程疲弊していた。仲間が無事なのを確認しているピニャに白髪の大柄の騎士、グレイが近づく。

 

「姫様、小官の心配はしてもらえんのですか?」

 

「グレイ 貴様が無事なのはわかりきってる」

 

「姫様ぁ なんで私達こんな所で盗賊を相手にしてるんですか?」

 

「仕方ないだろう。異世界の軍がイタリカに侵略を企んでると思ったんだから!イタリカが襲われてるって噂を聞いて駆けつけてみればまさか連合諸王国軍の敗残兵崩れの盗賊団だとは・・・お前たち休むのは後だ!盗賊どもはまた来るぞ!三日持ちこたえれば妾の騎士団が到着する!死体を片付け柵を補強しろ!急げ急げ急げ!」

 

ピニャの命令に兵士達は作業を開始する。

 

「グレイ、門の調子はどうだ?」

 

「だめですなぁ、いっそのこと材木で塞いで敵が来たら火でもかけますか」

 

「皆さーん食事を用意して参りましたよー」

 

とフォルマル家のメイド達が食事を持ってきた。

 

「ノーマ!そっちも交代で食事と休息を取らせろ!敵影はないな?」

 

「はい!今のところ」

 

「グレイ 妾は館で食事を摂ってくる後は頼むぞ」

 

「ハッ」

 

周りに指示を出し、ピニャは疲れた体を癒すため一度館に向かった。

 

「お帰りなさいませ 皇女殿下」

 

と館に着くとメイド長と執事が出迎えた。ピニャは館に入ってソファーに腰を下ろす。

 

「すまぬがなにか食べ物を」

 

「かしこまりました」

 

「皇女殿下。連中とは話し合いでどうにかできないでしょうか?」

 

「簡単だ。門を開け放てばよい」

 

「ではー」

 

「その代わり全てを失うぞ。女は陵辱され、男は殺される。妾も五十人百人とは正気を保つ自信は無い。ミュイ伯爵令嬢はどうかな?」

 

その言葉にミュイ伯爵令嬢は最悪の事態を想像する。

 

「ミ ミュイ様はまだ十一歳ですぞっ」

 

「ひっ・・・」

 

「ならば戦うしかあるまい?」

 

「おまたせしました」

 

「うむ」

 

そんな時、メイド長のカイネが食事を運んで来た。

 

「・・・物足りんな」

 

「いけません。疲労の強いときに味の濃い物は胃にもたれます」

 

「お前、攻囲戦の経験があるのか?」

 

「三十年ほど前 今は帝国領になっておりますロサの街で」

 

「・・・そうか では客間で休ませてもらう。火急の伝令はそのまま通せ・・・もし妾が起きなかったらなんとする?」

 

「水をぶっかけて叩き起こして差し上げますとも」

 

メイド長の言葉に安心したピニャは客間のベッドに横になった。

 

「ふう・・・正規兵は少数、民兵は勇敢な者から死んでいく士気は最低・・・こんなものが妾の初陣だと・・」

 

ピニャは眠りにつく。そしてある夢を見る。自身の生い立ちだった。

 

"皇帝モルトの五番目の子であるピニャ・コ・ラーダは側室の子であるが皇位継承権十位を持つ。やんちゃで周りを困らせていた彼女が「騎士団ごっこ」を始めたのは十二歳の頃。女優だけの歌劇を見たのがきっかけといわれる。帝都郊外の使用していない建物で貴族の子女を集めた彼女の軍隊ごっこは子供の教育にもいいと回を重ねるごとに親たちには好評になり、数年後には「訓練」は二〜三ヶ月に及ぶようになった。あげくに正規軍教官による本物の軍事教練。騎士団では自立 規律心 敬愛 愛護 連帯感が育まれ 義理の兄弟姉妹関係を結ぶ儀式もあって独自の気風さえ確立されていた。ピニャ十六歳 薔薇の咲く頃 男性団員が卒業そのまま軍人への道を進んでいく中、彼女の女性団員を主とする薔薇騎士団を設立した。周囲からは儀仗兵のような存在と思われていたがピニャはあくまで実戦を希求その騎士団が現在イタリカへ向かっていたー"

 

バシャッ

 

メイド長に水をぶっかけられ飛び起きた。

 

「なっ何事か!敵か!!」

 

「果たして敵か味方か。ともかく東門にてご自分の目でご覧下さい。」

 

「なに?」

 

ピニャは濡れた髪を急いでタオルで拭き、鎧を身に付けて東門に向かう。

東門に辿り着いてみると、兵士達が身構えていた。ピニャは直ぐに城壁の下を見る。

 

「あれはなんだ?木甲車かあれはだが鉄製だ!中に居るのは茶色の服を着ている 持っているのは武器・・・なのか?」

 

「他に敵は見えません!何者だ!姿を見せろ!!」

 

とノーマが叫び、兵士はボーガンを構える。

 

一方の伊丹側からの視点

 

「何者だ!!姿を見せろ!」

 

と城壁の兵達はボーガンを構える。

 

「大歓迎だねぇ」

 

「どう見ても戦闘かなにかあった後ですよ?熱湯とかかけられるのは勘弁してほいしよ」

 

「熱湯?やだなぁ 火傷してまで生き残るなんて最悪だぜ?お呼びでないみたいだから他の街にしない?とりこみ中のようだし巻き込まれたら君達と危ないし安全安心路線で」

 

「却下 入り口は他にもある ここがだめなら他にまわればいい イタミ達は待っていてほしい私が話をつける」

 

「え!?君が?」

 

その時無線からテュカの声が聞こえてきた。

 

『ちょっと待ってレレイ!なんでこの街にこだわるの?私達を助けてくれるこの人達を私達の都合で巻き込んでいいの?』

 

「だからこそ行く 私達は敵でないと伝える恩を受けているイタミ達の評判を落とさないために」

 

『・・・わかった わたしも行く ちょっと待って矢除けの加護を・・・』

 

「イタミ達は待ってて」

 

レレイとロゥリィとテュカの3人が行くらしい。

 

『俺も行く 女三人に任せちゃ男の恥だ』

 

と無線で大場も同行すると言う。

 

(いたいけな美少女に任せて 大人として男として帝国軍人としていいのか!?)

 

「・・・こりゃ 行かないわけにはいかんでしょ 大場大尉 俺も行きます。 おやっさん 後は頼んだよ」

 

と伊丹を乗用車から降りる。

 

「誰か 出てきたぞーーっ」

 

「魔導師・・・あの杖 リンドン派の正魔導師だ それに金髪碧眼のエルフなんだ あの服は?」

 

とピニャは降りてきた 魔導師レレイと白いワンピースを着たテュカに目をやる。

 

「男をたぶらかすつもりか?しかし精霊魔法はやっかいだな 油断している 今のうちに弩銃でーー!」

 

そして三人目の人物に驚嘆した。

 

「あ・・・あれは・・・ロゥリィ マーキュリー」

 

「あれが噂の死神ロゥリィですか?」

 

「ああ 以前 国の祭祀で見たことがある」

 

「ここのミュイ様と変わりませんな」

 

「あれで齢九百を超える化物だぞ!使徒に魔導師にエルフ・・・なんなんだこの組み合わせは・・・本当に敵ならばーー」

 

「エムロイの使徒が盗賊なんぞに加わりますかな?」

 

「あの方達ならやりかねんのだ」

 

「ハ?」

 

「亜神たる使徒を含め 神という存在はヒトには理解できんのだ どんなえらい神官であろうともな 神の行いはただの気まぐれと言う者さえある 結局の所 人々は神官どもがいう信仰という詐欺にひっかかっておるのかもしれん」

 

「し 小官は何も聞いてませんでした」

 

(どうする ピニャ 決断しろ!時間はないぞっ)

 

選択を迫られるピニャを他所に民兵達は緊張と恐怖で震えている。

 

(どうすればいい?街のすべてが 妾の決断にかかっている ロゥリィ達は盗賊に与しているのかーー否 それならばすでに街は陥ちているはずだ 妾にはもう士気を上げる術がない このままでは 盗賊に負ける!彼女達が何用で来たかは知らぬがこうなったら入城を拒むか)

 

「姫!?」

 

ピニャは扉のつっかえ棒を取り

 

「よく来てくれた!!」

 

と勢いよく扉を開けた。

 

 

強引に仲間にするまでだ!!

 

伊丹の顔面を直撃した為気絶してしまった。

ロゥリィとテュカとレレイは冷めた目でピニャを見つめた。 

 

「大丈夫か?中尉」

 

と大場が気絶した伊丹に駆け寄る。

 

「もしかして妾が?」

 

ピニャの言葉にロゥリィ達は頷く。

 

「ダメだ、完全に気絶してる」

 

「そこのお嬢さん。一応アンタが原因なんだしちょいと手を貸してくれ」

 

と大場は言葉にピニャは頷き、伊丹を運んで場内に入る。

 

「お 重い この服どうやって脱がすの?」

 

「たく 世話焼かさんじゃねぇよ」

 

「あわわわ」

 

「なんだ なんだ」

 

「大丈夫 気絶しただけ」

 

テュカは注意力のないピニャを怒鳴りながら伊丹の水筒の水を伊丹に掛ける。

 

「あなた どういうつもり!?扉の前に人がいるかもと思わないの?ドワーフだって気をつけるわ!あんなことしてっ ゴブリン以下よ!!」

 

「・・・(城内にはいれてしまった)」

 

「んん・・・」

 

伊丹は朦朧と意識を取り戻し目が覚めた。

 

「わっ」

 

「あらぁ 気づいたようねぇ」

 

「大丈夫?」

 

「頭は大丈夫か?」

 

「はい で 誰が 今 どうなってるか説明してくれるの?」

 

と伊丹が言って全員ピニャの方を見る。

 

「妾・・・?」



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イタリカ攻防戦2

南門で伊丹中尉率いるの第三偵察隊と大場大尉率いる第一偵察隊が陣地を構築していた。

 

「・・・来てるね」

 

「はい 斥候ですね」

 

「後方に本隊もいます」

 

「数は・・・凡そ五 六百ってところですか」

 

「狙いはこの南門かな?」 

 

「そうですねぇ」

 

「イタリカは人口五千を超えるそうです。包囲するには敵の兵力が少なすぎます。最低でも一個旅団は必要です」

 

「川に面した 北門を除くとしても東西南どこか一ヶ所に戦力を集中させるはずです」

 

「攻撃箇所を決められる敵が有利ですね」

 

「それにこの陣地は・・・」

 

「おやっさんもそう思う?」

 

「やっぱり城門が突破されることを前提にしているよねぇ」

 

「城壁と柵の二段構えで敵に出血を強いて時間を稼ぐったところですか?我々は「火消し役」として後方にいる方が・・・」

 

「う〜ん けどねぇ、一応 あの帝国のお姫様がここの指揮官でしょ?俺達も「茶色の人」って有名になっちゃったみたいだし後ろにいちゃ士気に関わるよ」

 

そう言って後ろを見るとイタリカの住民が手を振って日本兵達を歓迎していた。

 

「しかし いかにも手薄です 一度突破された南門に少人数の我々をはりつけるということは・・・」

 

「ああ わかってるよ おやっさん 俺達は囮だ」

 

「お前達もそう思うか?おそらく手薄に見える 南門に敵を誘い込んで奥の二次防衛線を決戦場にするって戦法だろう。あの姫様は」

 

「はい」

 

「と言っても敵が乗ってくれるかな?」

 

「まぁ 姫様の騎士団がこっちに向かってるそうだし おやっさん 本部に支援要請だすから手伝って」

 

「よし 仁科と勝元と横井と尾上は土嚢作り 可燃物は兎に角すべて運び出せ 栗林と船坂は全員に暗視装置を配れ」

 

伊丹と大場がそれぞれ指示を出す。

 

「あれが炎龍を撃退したっていう『茶色の人』たちかい?たった二十四人だぞ」

 

「そんだけ強いってことだろ?」

 

「おまけに魔導師とエルフの精霊使い エムロイの使徒様ときたもんだ!」

 

「危なくなったら「鉄の逸物」で助けてくれるさ」

 

「もう少しの辛抱だな」

 

「おい 茶色の人だ!」

 

「すみません 篝火や燃える物を片付けてください」

 

「もう夜になるのに明かりはいらないのかね」

 

「はい 大丈夫ですから」

 

日本軍とイタリカ市民は城壁に砂袋を積み重ねて機関銃を配置する。伊丹達が銃の準備をしている時に横からロゥリィが来た。

 

「ねぇイタミィ」

 

「んー?」

 

「どうして 敵のはずの帝国の姫様助けるのぉ?」

 

「街の人を守るためさ」

 

「本気で言ってるの?」

 

「そう言うことになっている筈だけど?」

 

伊丹は日章旗の手拭いを九八式鉄帽に巻こうとする。

 

「兜かして」

 

「お、スマン」

 

伊丹は鉄帽を外しロゥリィに巻いてもらう。

 

「理由が気になるか?(こっちの言葉がすんなり耳に入りだしたアゴ打ったせいか?)」

 

「エムロイ戦いの神、人を殺める事は否定しないわぁ。それだけ動機が重要なの偽りや欺きは魂を汚す事になるのよぉ」

 

ロゥリィはそう言って両手で伊丹の頭に鉄帽を載せる。

 

「ここの住民を守るため これは嘘じゃない。だけどもう一つ理由がある。大日本帝国軍とケンカするより仲良くした方がいいとあの姫様にわかってもらうためさ」

 

「気に入った 気に入ったわぁそれ!」

 

「恐怖!!全身を貫く恐怖をあのお姫様の魂魄に刻み込む!!」

 

ロゥリィはスカートを掴んで優雅に振舞いながら頭を下げる。

 

「そういうことなら ぜひ協力したいわぁ 私も久々に狂えそうで楽しみぃ♬」

 

そう言いロゥリィは微笑む。

 

 

深夜

辺り一面真っ暗で普通ならイタリカ市民はとっくに寝静まっている時間帯だったが、夜襲攻撃に備えていた。東門にて、遠くの方から矢が飛んで来た門番をしていた兵士の胸に刺さった。

 

「敵襲ッ!!」

 

東門にて指揮を担っていたノーマが叫ぶ。

 

「ピニャ殿下に伝令!東門に敵襲だ!!弓兵!!」

 

ノーマはピニャに伝令を向かわせる。一方伊丹達は、

 

「大尉!」

 

「隊長 始まりました東門です!」

 

「今の時刻〇三〇〇 夜襲には絶好の時間だな」

 

「盗賊とはいえ元は正規兵だそうですし」

 

「東門からの援軍要請は?」

 

「まだなにも」

 

その頃東門では、盗賊達が門を破ろうとしていた。

 

「押えろ!!」

 

「くそ!生意気な!盗賊如きが城市を陥とそうなどと!」

 

「こっちの矢が当たってない?」

 

「精霊使いか!?」

 

鳥人間の精霊使いが矢を放ってくる。そして盗賊達がなだれ込んでくる。

 

一方アルヌスの基地では陸軍航空隊と海軍航空隊が出撃準備に取り掛かっていた。

 

「第三偵察隊と第一偵察隊がいる イタリカ代表 ピニャ・コ・ラーダ氏より援軍要請が入った!我が陸軍第四航空隊四〇一中隊と海軍航空隊はこれを受け治安回復のため全力をもって出撃する!!目標は「盗賊団」およそ六百! 過日 陣地を攻撃した「敵武装勢力」の指揮系統を外れた便衣兵と思われる!現在 市は大規模な攻撃を受けつつある すでに被害は甚大 我々が征かねばイタリカ市は陥落するだろう!第四戦闘航空団の初陣だ 気合入れていけ!! 搭乗!!」

 

「「「「おう!!」」」」

 

陸軍航空隊と海軍航空隊の搭乗員達は自分の愛機に乗り込む。

 

「では、司令官 行って参ります」

 

「ん、健軍大佐 気をつけてな」

 

「加茂、柘植、留守番頼んだぜ」

 

「ぐうう〜」

 

「今村司令官!次は我々 第一連隊をっ」

 

(・・・よっぽどたまってるんだろうなぁ・・・編成上出せるのは空中機動できる第四しかないのにどうしたんだ。こいつらは・・・)

 

と自分は留守番で健軍大佐だけ出撃に不満の加茂大佐と柘植中佐に今村司令官は頭を抱える。

 

「指揮官機より全機出撃!!」

 

そして戦闘機と爆撃機が離陸していく。その光景を避難民達が見守る。

 

一方イタリカ

ピニャは南門ではなく東門から敵が攻めてきたことに驚いていた。

 

「東門だと!!南門ではないのか!?」

 

伝令からの報告にピニャは慌てる。そして南門を守備している伊丹達は、

 

「なんでぇ?なんで なんでぇ?こっちに攻めて来るんじゃなかったのぉ!!んっ あっ くうっ なんでぇこっちにぃ 来ないの・・・おっ ああん!」

 

「おいおいどうした?大丈夫か?」

 

と伊丹がロゥリィに近寄ろうとするとレレイとテュカが止める。

 

「なんで近寄っちゃだめなんだ?」

 

「彼女は使徒だから」

 

「は?使徒?」

 

「戦場から離れているからあれで済んでいる もし彼女が戦場の真中にいたら・・・」

 

「あっ はぁああっ」

 

とロゥリィはハルバードを振り回している。

 

「敵とみなした者を衝動的に殺戮する そうしないわけにはいかなくなる それを止めるのは誰にもーー彼女自身にも不可能」

 

それを聞いて伊丹は顔を青ざめる。その頃東門では容赦のない激しい死闘が繰り広げられていた。

 

「味方が脆すぎる・・・士気があがっていたはずなのに・・・敵は"元"正規兵とはいえ作戦もなにもないただの力押しではないか。ノーマはどうした?」

 

「先程まで城門のうえに姿は見えましたがー」

 

(現実と頭で考えることは違う・・・か くそ・・・)

 

「向こうまで待機だ」

 

「第三 ケントゥリアス こっちだ!」

 

「畜生!柵の向こうには味方が集まっているのになぜ援護しない!?」

 

「俺達は時間稼ぎの捨て駒なんだよ!」

 

「茶色の人は!?茶色の人達はどうした!?」

 

悲鳴そして絶叫東門は夥しい数の死傷者で溢れ変えていた。そして東門は盗賊団に制圧され盗賊団は奇声を上げる。東門が制圧され盗賊団は死体を引きずって入城してきた。

 

「奴ら死体を・・・」

 

「ありゃあ ペテロんとこのヨメさんじゃ」

 

「あんた!」

 

「テリウス!なんてことだ・・・」

 

そんな市民達に盗賊達は殺した市民の死体を市民に放り投げる。

 

「わぁっ」

 

「きゃああ」

 

「畜生!」

 

「いやあああ」

 

「やめろぉ!」

 

盗賊達の外道さに声を上げる市民達を盗賊達は嘲笑う。

 

「仇を打ちたくば そこから出てこい!」

 

「臆病者め!」

 

「市井の輩が我らに楯突くからこうなるのだ!」

 

「お いい女」

 

「生きてるときにヤっときたかったなぁ」

 

「アッ アデリア!」

 

「抑えろ!」

 

「ニコラ!」

 

「てめぇら!」

 

「柵から出てはいかん!」

 

「汚い手で彼女にさわるな!」

 

「おめーの女か」

 

「いい体してるじゃねーか」

 

「ホラ 返してやるぜ」

 

「畜生ども!!」

 

「ニコラ!」

 

「おおおお!」

 

「もう我慢ならねぇ!」

 

「柵から出てはいかん!」

 

「この野郎!」

 

「だんなを返せぇ!」

 

自分の身内達を惨殺された市民達は復讐に燃えて柵を出て攻め込んだ。これを切っ掛けに市民と盗賊の乱闘が始まった。

 

一方の伊丹はこの事態にいち早く察知し東門に向かっていた。

 

「東門が見えて来ました」

 

第三偵察隊の倉田伍長が叫ぶ。

 

日本軍が到着した事で民兵たちは活気を取り戻す。

 

「茶色の服の人達だ!」

 

「敵さんは?」

 

「あそこです」

 

と指を指された場所を見る。既に東門は陥落寸前だった。

 

「全員戦闘配置に付け!」

 

古田と勝本は24式重機関銃を構えて、木谷と横井はMG42機関銃を構えて、富田が九九式軽機関銃を構える。大場は腰から軍刀を抜き

 

「撃ってえぇー」

 

大場の命令と共に機関銃が火を吹いた。

東門に攻めて来た盗賊達が機関銃の銃弾を浴びて次々と薙ぎ倒されていく。

そして白兵戦に備えstg44に銃剣を装着した兵士達もトリガーを引く(大場はワルサーP38、堀内は小銃も持っているが主力は一〇〇式火焔放射器)そしてイタリカの民兵を討ち取ろうとしていた盗賊達は銃弾の前に次々と命を落としていた。

 

 



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終結

伊丹達は東門で盗賊達を掃討していく。

 

「避難を!」

 

伊丹がそう叫び、東門で生き残っている民兵達は急いで柵の中に入る、盗賊達は追っていくが日本軍の脅威的な機関銃の前に次々と命を落としていた。

 

「堀内!」

 

「了解!喰らえ盗賊ども」

 

と堀内は一〇〇式火焔放射器で盗賊達を火炙りにして行く。

 

「うわぁー熱い!!」

 

「消してくれ!!」

 

「な、何だ!炎の魔法か!」

 

一〇〇式火焔放射器で焼かれていく盗賊達の死体は黒く焼け焦げている。

 

「全員、手榴弾の安全ピンを抜け!」

 

「「「了解!!」」」

 

兵士全員が盗賊達にM24柄付手榴弾を投げる。地面に転がった手榴弾は数秒してから爆発してその破片が盗賊達を殺傷する。

 

「な、何だッ!?今度は爆発の魔法かッ!?」

 

「目が、目が〜〜ッ!!」

 

「あー!お、俺の腕ガァー!」

 

「続けざまに投げろォ〜!」

 

M24柄付手榴弾の効果を見た大場大尉はそう叫び、皆がM24柄付手榴弾を投擲して次々と爆風で盗賊達を吹き飛ばす。しかし盗賊達は倒しても倒しても次から次へと押し寄せて来る。そんな時にロゥリィが

 

「もう駄目ぇー!!」

 

とハルバートを構え盗賊に突撃して行く。

 

「あの馬鹿!」

 

更には船坂と栗林がstg44を構えて突っ込んで行く。

 

「栗林、どっちが多く敵を仕留められるか勝負だ」

 

「望むところだ。船坂」

 

と二人は敵に突撃する。

 

「仕方ない! 突撃前へ!」

 

ロゥリィと突撃して行った栗林と船坂を援護するために機関銃を残して全員攻撃に挑む。

 

一方同じ頃、イタリカに向かってアルヌスの飛行場から出撃した陸軍航空隊と海軍航空隊が到着しようとしていた。100機近い大編隊を組んでいる、編成は陸軍航空隊、四式「疾風」20機、九九式襲撃機30機、Ju87cスツーカ改10機、海軍航空隊、零式艦上戦闘機二一型15機、五二型13機、九九式艦上爆撃機27機が大空を埋め尽くす。

 

「健軍大佐あと五分!すでにイタリカ東門内で戦闘が始まっている模様です。東側から接近門外の目標から掃討します」

 

「用賀中佐任せる」

 

『あと二分!目標視認!』

 

「全機に告ぐ、城壁の敵への攻撃を開始せよ」

 

陸軍一〇〇式司令部偵察機に乗り込んでいる健軍大佐は無線で各機に攻撃命令を出す。

 

一方東門内では盗賊や民兵入り混じっての乱戦になっていた。そしてそこにロゥリィが乱入して来た。

 

命令を受けまず爆撃機隊が急降下を開始し東門の城門付近にいた盗賊達に九九式艦上爆撃機とJu87cスツーカ改と九九式襲撃機は二五〇㎏爆弾を投下し盗賊達を吹き飛ばし続いて直援の戦闘機隊ゼロ戦と疾風が20mmと7.7mm機銃で敵を掃討して行く。幾度となく続く爆撃と機銃掃射を浴びせる。

 

『城門に命中 爆撃全機よくやった 帰ったらビールおごってやる』

 

『戦闘機隊 指揮官機より全機攻撃開始!!』

 

地上では盗賊達が爆撃機と戦闘機の餌食になっていた。

 

「なんだ あれは!?」

 

「人が乗っているのか!?」

 

「わぁっ」

 

航空隊は手を緩める事なく攻撃を続行する。

 

『タイガーよりパンサー 西側より攻撃進入せよ』

 

『了解 パンサー突入する!』

 

『続いて レオパード南から進入せよ』

 

「城門の中は狙うな!味方に当たるぞ」

 

地上から日本陸海軍の攻撃を見て唖然とするピニャ。

 

"なんだこれは すべてが叩き壊されてゆく 何者も抗うことのできない圧倒的な力 禍々しい凶暴な力 誇りも名誉も一瞬にして否定するーーこれは・・・女神の嘲笑ーー"

 

勝てないと思った盗賊達は逃亡を図る。

 

「にっ 逃げろぉ!」

 

「化物だぁっ」

 

だが日本軍は盗賊達を逃さなかった。

 

「追いつかれるっ」

 

「くっ 来るなぁっ」

 

逃走する盗賊達を爆撃機隊が機銃掃射で掃討して行く。

 

『スツーカ 2号機より指揮官機 城外の敵騎兵と歩兵約百 東に後退しつつあり』

「スツーカ 指揮官機よりパンサー1、3 レオパード2、3 後退する敵集団を攻撃せよ」

 

日本軍はトドメを指しにかかる。

 

ロゥリィと栗林と船坂の三人が猛烈な白兵戦を繰り広げていた。そうしている間に三人に追ってた伊丹達が三人の援護にまわる。

 

「まさか白兵戦をすることになるとは思いませんでした!」

 

「まぁこれも戦闘の一環だ」

 

そう言いながら伊丹は盗賊を銃剣で斬りつけた後突き刺すし相手を片づけ、大場は軍刀と拳銃で盗賊を斬殺又は射殺する。

 

「敵は怯んでいるぞ!隊伍を組め押し返すんだ!」

 

「あれを見ろ!」

 

「茶色の人とエムロイの使徒だ!」

 

「助けに来てくれたぞ!」

 

そんな時九九式艦上爆撃機と九九式襲撃機とJu87cスツーカ改が急降下でこっちに向かって来た。しかもそこはロゥリィが戦っている場所だった。

こっちに向かって来たのを見って退却する前に白兵戦をしているロゥリィの腰をガシッと掴んで逃げる。

 

「ちょ、ちょっと!」

 

「あれはマズイ!」

 

一方の栗林と船坂は爆撃機隊を見るや否や一目散に逃げた。そして全員が後方の柵まで逃げ切ると爆撃機隊は抱えていた250kg爆弾を投下する。

 

「みんな伏せろ!!」

 

と伊丹が叫び兵士達や民兵が伏せる。盗賊達の群れは爆撃と機関銃掃射で全てが終わった。

 

一方のピニャ達は伊丹達の戦闘に呆然とした。側にいるグレイから話を掛けられるまで呆然とした。

 

「・・・何なんだ今の戦闘は・・・」

 

「・・・・」

 

暫くピニャの口からは何もでなかった。

 

「ですがこれでイタリカの戦闘は終わりました。」

 

「そうであろう。しかし問題はこの後だ」

 

彼らが一体何を要求してくるのか?

 

「どうしたものか・・・」

 

全てが終わった後にあったのは、大量の盗賊達の死体とその捕虜だった。

 

「健軍大佐 敵集団の残党は敗走した模様です。現在は生存者の模索救護を実施中」

 

「うむ」

 

その時 イタリカの住民がやってきた。

 

「あんたら いったい・・・どこの軍隊かね?」

 

「我々は大日本帝国軍です」

 

「ダイニッポンテイコクグン?」

 

その後伊丹は逃げる時にロゥリィの胸を掴んでしまい殴られた。その時、イタリカに悲痛な叫びが響いた。

 

 

 

 

 



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調印式

イタリカの攻防戦が終わった同じ頃、本当ならイタリカでの戦闘に参加する筈だったピニャの薔薇騎士団が全力で向かっていた。先陣を切って馬を走らせる薔薇騎士団の団長ボーゼス・コ・パレスティー。その後ろに続く白薔薇騎士団の団長パナシュ・フレ・カルギー。

 

「ボーゼス!急ぎすぎだ!!後続が追い付いていないぞ!!」

 

「いいえ、まだ遅いわ!!ピニャ姫様が私達を待っておられるのよ!!それに今は少しでも早くイタリカに到着する必要があるわ!!数は足りなくても戦い方はあるわ!!・・・パナシュ・・・私達、間に合うかしら?」

 

「・・・姫様ならきっと保たせるさ・・」

 

一方

戦闘が終わったイタリカの周りの野原に攻撃機隊が着陸する。周りは日本兵達が降伏した盗賊達を監視したり、負傷者の手当てに追われている。イタリカでの戦闘終結後 伊丹達はフォルマル伯爵の屋敷で調印式での交渉に取り掛かっていた。

 

(なんだこの惨めさは勝利の高揚感もない・・・当然だな勝利したのは使徒ロゥリィとーー敵であるはずのニホン軍。鋼鉄の飛竜、大地を焼く強大な魔導あの力が牙を剥けば帝国の穀倉地帯たるイタリカは陥ち妾とミュイ公女は虜囚の辱めを受ける。だが民は単純だニホン軍を歓喜の声で迎えるだろう。彼らが開城を迫れば妾は取りすがり慈悲をーー妾が敵に慈悲を乞うだと!?帝国の皇女たる妾が!?ああ 今なら どんな屈辱的な要求にも屈してしまうかもー)

 

通訳としてレレイが居合わせ高級左官の健軍俊也大佐の言葉を和訳する。

 

「此度はイタリカ支援に感謝し、その対価の交渉を行いたい。第二の使節の往来の無事と諸経費については慣例通りとする。第三のアルヌス共同生活組織の貿易特権についても問題ない。ただし捕虜の権利はこちら側にあると心得て頂きたい!」

 

ハミルトンの言葉をレレイが和訳し健軍大佐はこれに同意する。

 

「我々としては情報収集の為に三〜五人確保できればいい ただ こちらの習慣に干渉する気はないがせめて人道的に捕虜を扱ってほしい」

 

「ジンドウテキ?」

 

初めて聞く言葉に首を傾げるハミルトンにレレイが説明する。

 

「・・・友人 知人に対するように無碍に扱わない・・・こと」

 

「友人や知人が村人や街を襲い、略奪などするものか!」

 

「よかろう。努めて過酷に扱わないようにしよう。此度の勝利はそなたたらの貢献著しいものがあるからな(とは、言うものの・・・この男は何者だ?)」

 

イタミと同じ格好だが明らかに格が違う

 

「そうとってもらっていい」

 

「ああ ピニャ様。お心戻られましたか 心配いたしました」

 

「すまない ハミルトンどうなってる?」

 

「ーでは 今一度条件の確認を」

 

日本軍が提示して来た条件内容。

 

1。大日本帝国軍は、此度の戦いで得た捕虜から、任意で三〜五名を選んで連れ帰るものとする。なお、帝国が所有する捕虜は人道的配慮として虐待・殺害等の非人道的行為を行わない事を約束する。

 

2。フォルマル伯爵家ならび帝国皇女ピニャ・コ・ラーダは、大日本帝国から皇帝ならびに元老院に対する使節を仲介し、その滞在と往来における無事を保障する役務を負う。なお、フォルマルト伯爵家は日本の使節団の宿泊場所と滞在費等を無条件で提供する。

 

3。大日本帝国軍の後見するアルヌス協同生活組合は今後フォルマル伯爵領内とイタリカ市内で行う交易において関税、売上、金銭の両替等に負荷される各種の租税一切を免除される。

 

4。大日本帝国軍は可及的速やかにフォルマル伯爵領を退去するものとする。ただし小規模の部隊、及びアルヌス協同生活組合については、今後も領内往来の自由を保障する。

 

5。両国どちらかにおいて、重大と認識される事案が発生した場合は極力対話による非武力行使による解決を行う。解決が困難である、或いは相手国が武力によって応じた場合は協定を違えたものとする。

 

6。現当主であるミュイは11歳であり、大日本帝国の法律に基づいて義務教育を受ける年齢であるため、フォルマル伯爵家の教師と大日本帝国より派遣される教師と共に15歳まで教育を受ける義務がある。

 

7。大日本帝国は、イタリカ及びフォルマル伯爵領の治安維持及びイタリカの復興に対して協力する。

 

8。大日本帝国軍及び日本人に関するイタリカ及びフォルマル伯爵領内での事件が発生した場合は、日本の法律が適応される。

 

9。大日本帝国と帝国の講和交渉の終了するまでの境界線としてデュマ山脈からロマリア山地を軍事境界線と定め半径5km以内を非武装地帯とする。両国は、本協定の失効までこれを厳守し 互いに軍の越境させること並びに占領地を拡大しない。

 

10。大日本帝国とフォルマルト伯爵家で結ばれたこの条約は双方の協議で修正及び追加する事が出来る。

 

11。この協定発効後は、1年間は有効であり双方異存申し立て無き時は、協定は自動的に更新され有効期間は1年間延長されるものとし、又この協力を違えた場合、本協定は直ちに失効されるものとする。

 

 

とピニャは我が目を疑いながら何度も条文を読み返した。彼女からすれば、帝国にとっては、かなりの好条件であるからだ。

 

「・・・なに?(なんだこれは?勝者の権利をほとんど求めていないこんなものでいいというのかニホン軍は?どんな手を使ったか知らんが敗者みたいな我々にとって これほどの好条件をまとめるとは ハミルトン・ウノ・ロー 意外と使えるな・・・)」

 

 

捕虜の権利は3名までであるし、ジンドウテキである条件は付けられたが、ほとんどの権利は帝国側にある。

皇帝に対する仲介は煩雑だし、無条件での滞在費や宿泊費の出費は確かに痛いが、必要経費の範囲とも言える。

占領下であるアルヌスは諦めざるを得ない。 だが、何よりもそれ以外の帝国領にダイニホンテイコクの軍が進出することも、今後支配下に置かれないことが確約された。 それを考えれば、これで済めば儲けものと言えよう。 なにを勘違いしたのかピニャは内心でハミルトンを評価する。そして何事も問題なく事が運んだ。ピニャはハミルトンの交渉能力に驚きながら、協定にサインした。ピニャ、ミュイ、そして最後に健軍大佐の順番で羊皮紙に署名をする。そして伊丹のさっきロゥリィに殴られて右目に青タンができていた。

 

(どうしたんだあの二人は?)

 

「殿下」

 

「うむ・・・なんともカクカクした字だな・・・」

 

と初めて見る漢字。調印式は終わり協約書が発効する。協約が直ぐに発効される事になり健軍大佐の第四戦闘機団は戦闘機と爆撃機のエンジンを始動させる。健軍大佐がアルヌスに帰投する頃伊丹達はアルヌスに同伴する捕虜を決めていたところだった。

 

「んー あのコとあのコ あのコにーーあの頭に羽の生えてる面白いコ」

 

「・・・隊長 女の子だけ選んでません?」

 

「んなことないってー」

 

「彼女たちの今後のこと考えるとわかりますけど・・・」

 

「じゃあ 男も一人そいつで」

 

黒川軍曹がそう言って伊丹は捕虜に新たに男を追加する事にした。そして五人の捕虜は健軍大佐が寄越した九七式輸送機に乗せる。全員が乗ったことを確認すると次々と離陸して行く。イタリカの住民達は帰投して行く第四戦闘航空団に手を振りながら見送る。

 

一方鱗を換金しに来たレレイ達はカトー老師の旧友の店にいた。

 

「こちらがシンク金貨二百枚、デナリ銀貨四千枚については千枚は現金で 最近はこの情勢で貨幣不足でして 残り三千のうちニ千は為替で・・・」

 

「わかったリュドーさん、では千枚分割り引く代わりに仕事を依頼したい」

 

「どのような?」

 

「各地の市場の相場情報の収集、できる限りの多品目を詳細に広範囲で」

 

「情報を買うと?」

 

「そう」

 

「銀貨千枚で?」

 

「そう」

 

「・・・わかりました。賢者カトーの愛弟子様の頼みだ 引き受けましょう、調査結果はどちらに?」

 

「アルヌスの丘の南の森、アルヌス協同生活組合宛で」

 

そしてしばらくして第三偵察隊と第一偵察隊はイタリカを後にする。

 

「んじゃ ぐるっと回ってアルヌスに帰りましょ。なんだ寝ちゃったのか」

 

「無理もないですよ、徹夜でしたし」

 

「俺もな、こっちはほとんど寝てねぇんだから」

 

そしてしばらくしてアルヌスへと向かっている道中倉田がブレーキを掛けた。それに続くように後方の車両もストップする。

 

「おい、倉田一体どうした?」

 

『伊丹中尉どうした何があった』

 

「前方に煙を確認!」

 

倉田の報告に伊丹はまた嫌そうな顔を浮かべる。

 

「まったくまた煙って、ん?あれ煙ってより土煙じゃないか?」

 

「待ってください・・あ!見えました!」

 

倉田は双眼鏡で土煙が立ち込める方を見ると、

 

「なんか、女の騎士達がこっちに向かって来ます。」

 

「何!?ちょっと見せてみろ」

 

倉田の報告に伊丹も双眼鏡で見る。

 

「目標確認、女の騎士が多数です!」

 

そう言いながら無線機を取り

 

『こちら第三偵察隊長の伊丹、接近してくるのは恐らくあのお姫さんの近衛騎士団かもしれない。各車警戒態勢を維持しつつ待機せよ。但し発砲は厳となせ。協約違反に成りかねない』

 

『『了解』』

 

そう言っている間に騎士団は車両の車列に近づいて来た。先頭に立つ金髪縦ロールと男装の麗人は明らかに敵意剥き出しだった。そして金髪の女騎士は九三式小型乗用車から降りた富田に顔を向け

 

「お前達何処から来た?」

 

「えっと・・我々はその・・イタリカから帰る」

 

「何処へ?」

 

「アッアルヌス・・ヌルゥ」

 

富田が特地語でそう言うと騎士団全員が一斉に槍を構え、剣を抜き、金髪の女騎士は富田の胸倉を掴み上げる。

 

「アルヌスの丘だと!貴様ら異世界の敵か!」

 

其処に武器を置いた伊丹が近づく。

 

「えーと・・部下が何か失礼を致しましたか?」

 

そんな伊丹の首筋に剣を突きつける。

 

「降伏なさい!!」

 

「あー落ち着いてこちらの話、聞いてくれます?」

 

「聞く耳持たぬ!」

 

「話せばわかりますから、話せばわかってもらえますから。ね?」

 

「くどい!」

 

伊丹は何とか話し合いで解決しようとしたがパナシュは聞く耳持たない様だ。

 

「ええい!お黙りない!!」

 

更にボーゼスが伊丹の左頬に平手打ちをする。

 

「総員警戒態勢!」

 

と大場が大声を出す。そして兵士達は銃を向ける。

 

「ダメです!大場大尉 こっちから先に手を出しては、俺の事は良いですから逃げて下さい」

 

「しかし中尉それではお前が」

 

「自分は平気です!良いですから逃げて下さい!!」

 

「クソ、退却だ」

 

と大場がいい兵士達は自分の車に乗り遠ざかっていく。伊丹は両手を上にあげて降伏する。

 

 

 



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激震

「何!?第三偵察隊の伊丹中尉が拐われただと?」

 

アルヌス飛行場に戻った健軍大佐が部下からそう聞いた。

 

「どう言う事だ?」

 

健軍大佐は調印した協約を向こうから破った事に不審に思った。

 

「いえ、その・・・第三偵察隊と第一偵察隊の報告によれば、主犯格はピニャ殿下直属の近衛騎士団のようです。その騎士団はイタリカに向かっていたらしいのですが・・」

 

「調印しているのを知らなくて当然かぁ」

 

健軍大佐は無駄に血を流さずに済みそうで内心安堵する。

 

「ですがもし伊丹中尉が戦死してたら・・」

 

「恐らくイタリカに侵攻せざるを得ないだろうな」

 

一方その頃イタリカのフォルマル伯爵の館では薔薇騎士団の団長ボーゼス・コ・パレスティーと第二部隊長のパナシュ・フレ・カルギーがピニャに敵指揮官を捕らえたと報告を行なっていた。

 

「なんてことをしてくれたのだ!!」

 

とピニャはそう怒鳴りワインが注がれていた杯をボーゼスに投げつけた。杯がボーゼスの額に当たり額に傷が出来血が流れる。

 

「・・え?」

 

ボーゼスは突然の事に理解が出来なかったようでその場に座り込む。

 

「ひっ姫様!!我々が何をしたと言うのですか!?敵の指揮官を捕虜にしたのですよ!」

 

とパナシュはボーゼスの顔に着いたワインと血を拭きながら尋ねる。ピニャは頭を抱え壁の方をチラッと見る。其処にはボロボロの伊丹の姿があり完全に気を失っている。

 

「結んだその日に協定破り しかもよりによって・・・」

 

「イタミ殿!!イタミ殿!!」

 

ハミルトンが必死で呼びかけるも返事がない。そもそもこの世界では敵である捕虜の人権など保障されないのだ。

 

「メイド長 頼む」

 

「かしこまりました」

 

ピニャはメイド長に伊丹を看病を頼む。

 

「貴様らぁ〜イタミ殿に何をした?」

 

ピニャは仁王立ちしていた。

 

「い、いつもと同じごく当たり前に・・・」

 

「いたぶりながら連行してきたわけか・・・」

 

「なんて事を なんて事を・・・いいか貴様ら、連中は盗賊ですら丁重に扱えと言い出すのだ。しかも協定で妾が往来の自由を認めていたのだぞ!」

 

「そ そんな・・・」

 

「協定なんて私たちが知るわけがー」

 

「(帝国の常套手段ー協定破りを口実にニホン軍が戦端を開けば滅ぶのは・・・)彼の部下はどうした?」

 

「逃げおおせました。指揮官を置いて・・・もしや協定を守るために?」

 

「そうだ!貴様らどうせ臆病者と嗤っていたのだろう!」

 

「あー、姫様?」

 

「なんだ、グレイ」

 

「此度は幸い死人は出ておりませぬ。小官が思いますに策など弄されるより素直に謝罪なされましたら?」

 

「謝罪?妾が敵に頭を下げろと?弱みを見せろと言うのか!?」

 

「では戦いますか?ニホン軍と死神ロゥリィ・マーキュリー相手に」

 

グレイにそう言われて食い下がるピニャ。

 

「小官はごめん被りますな ま どうなるかはイタミ殿の御機嫌次第なんでしょうが・・・」

 

グレイは、日本軍とロゥリィと戦うなんてまっぱらごめんと言う。グレイがそう言うと、ピニャ達はポカンとしてしまう。

 

 



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アルヌスヘ

第三偵察隊と第一偵察隊は伊丹が捕まった後、取り敢えずイタリカの城壁外に来ていた。

 

「隊長 今ごろ死んだりして、あんなにひどい目に遭っていたからなぁ・・あ、でも男ならあんな美女に殺されて本望だったりして」

 

「(本気で言ってるのか?この白兵戦チビは・・)多分大丈夫だろ」

 

「そうそう、あの人はちょっとやそこらじゃ死なないって、何たって殺そうにも殺さないから」

 

その言葉に富田が倉田の頭を叩く。

 

「いてっ」

 

「縁起でも無い事言うな!あれでも隊長ー第1装甲擲弾兵師団所属だったんだぞ」

 

それを聞いて栗林が手に持っていた双眼鏡を落とす。

 

「・・・誰が?」

 

「だから伊丹中尉」

 

「冗談だろう 富田くん」

 

「いやいやホントだから」

 

「うそぉ〜ありえない〜勘弁してくれよ〜」

 

そう言いながらゴロゴロする栗林をよそにレレイが口を開く。

 

「イタミが第1装甲擲弾兵師団所属じゃいけない?」

 

「んー柄じゃないんだよなぁー」

 

だが栗林は頭を抱える。栗林からは全く想像がつかなかった。

大場大尉が第1装甲師団とはどう言うものか説明する。

 

装甲擲弾兵師団は帝国陸軍がドイツ国防陸軍を模範として設立した部隊だ。第1装甲擲弾兵師団「奇兵隊」第2装甲擲弾兵師団「抜刀隊」第3装甲擲弾兵師団「髑髏隊」第4装甲擲弾兵師団「黒龍隊」第5装甲擲弾兵「海援隊」第6装甲擲弾兵師団「赤報隊」第7装甲擲弾兵師団「彰義隊」第8装甲擲弾兵師団「報国隊」第9装甲擲弾兵師団「白虎隊」が存在する。日本では地域ごとに部隊を組むのが普通でした。例えば第1師団は東京で作られ第7師団は旭川で生まれました。陸軍内の若者が募ったそれらの師団は怖いもの知らずの精鋭だった。特に第1装甲擲弾兵師団「奇兵隊」は、戦闘意欲が桁外れに高く新型兵器や近代戦術に修築し向こう見ずで至る所を突破して行き敵に立ち向かって行く存在として連合軍から恐れられた。

 

そう聞いてクスと笑うレレイ。

 

スライム並の精神でいつも木陰で昼寝ばかりしているイタミが 精強な戦士?

 

そしてテュカとロゥリィは爆笑する。

 

「さてと・・・そろそろ行くか?」

 

「そうですね。おやっさんここ頼みます」

 

「おう」

 

この伊丹救出作戦に、大場、船坂、富田、栗林、倉田、古田、ロゥリィ、レレイ、テュカの9人で実行することにした。

 

「また徹夜かぁ 最近あまり寝てないなぁ」

 

(・・・の割には活発じゃねぇか)

 

夜でほとんど視界が効かない中気付かれないように歩く。門のそばまでやって来るとロゥリィ、レレイ、テュカが門に入って行く。

 

「あーくそ!」

 

「帝国の騎士団か なんか知らんが威張りくさって!宿舎はどこだとか馬は丁重に世話しろとか。盗賊と戦ってもねぇくせによ。夕方から誰何のしすぎでいやんなったぜ 休めましねぇ」

 

「しっ 上の帝国兵に聞こえるぜ?」

 

「かまうかよ あれ?」

 

「使徒様たちだ まだ近くにおられたのかな」

 

レレイたちは城壁まで来た。

 

「城壁の上にいるのは帝国兵だと言っていた」

 

「じゃあちょっと待ってて」

 

テュカは、事前に大場から帝国兵を眠らせる様に言われていて、帝国兵を確認し、眠りの精を呼び出し帝国兵達を眠らせる。帝国兵達が眠た事を確認すると手を振って合図をする。茂みに隠れていた六人がゆっくりと出て来る。何とか怪しまれずに入る事が出来た。

 

「所で、大尉。隊長が何処にいるのか分かっているんですか?」

 

「まぁ、敵なら捕虜として牢屋に入れ拷問する所だろうがあのお姫さんが自分の首を絞める様な事はしないだろう屋敷の何処かで介護を受けているだろう」

 

「よし、まずはそこを目指しましょう」

 

 

その頃伊丹は、

 

「・・・いっ いてて・・・どこだここ・・・?布団・・・!?」

 

「お目覚めになられましたか?ご主人様」

 

と目を覚ますと目の前にメイドの姿があった。

 

「これは・・・夢か?」

 

「?」

 

「あ・・・そうか ここは?」

 

「フォルマル伯爵のお屋敷です」

 

(イタリカか・・・そういや騎士団に連行されたんだった。この様子だとあの姫様は協定を破るつもりはないようだな)

 

「水もらえない?(じゃあしばらく様子見るか)」

 

「かしこまりました」

 

その時伊丹は一人のメイドに注目した。

 

「どうされました?」

 

「(頭に羽の生えたコもいたし異世界だしな)いやなんでもないー状況 街の様子や俺の扱いについては?」

 

「ニャ?」

 

「ただ今夜半過ぎでございます イタミ様。街は寝静まり平穏をとり戻しつつあります。治安回復のため騎士団が夕刻より領内各地に出発しました。イタミ様は賓客として礼遇するよう仰せつかっております。それと 無礼を働きました騎士団の部隊長にピニャ様は烈火のごとく怒られ、黄バラ隊隊長のボーゼス様がおケガをー」

 

(あの金髪女か)

 

「イタミ様。このたびはイタリカをお救いくださりまことにありがとうございました」

 

メイド一同礼をする。

 

「ど どうも・・・」

 

「この街をお救いくださったのはイタミ様達であることは皆承知しております。そのイタミ様にこの仕打ち。制裁にこの街を攻め滅ぼすというのであれば我ら一同力を貸す所存 ただただ当家のミュイ様には矛先を向けぬよう 伏してお願い申し上げます」

 

「し 心配しなくていいですよそんなことしませんって」

 

(フォルマル家にとって帝国なんて関係ない ここの連中の忠誠心はミュイにあるんだな・・・)

 

そしてイタミはメイド達に身の回りの世話をしてもらった。

 

「あ どうも・・・」

 

「この四名がイタミ様の専属です。なんでもお申しつけください モーム、アウレア、マミーナ、ペルシアでございます」

 

「「「「ご主人様 よろしくおねがいします」」」」

 

(な なんでも?)

 

外では

 

(二階に明かりが)

 

(あそこが怪しいなぁ)

 

(裏口は避けてここから入ろう)

 

と栗林、大場、倉田がそう思った。

 

バ キ

 

と銃剣を窓の間に差し込んだ。

 

ピクン

 

とマミーナが耳を立てた。

 

「どうしました マミーナ」

 

「階下にて何者かが窓より侵入しようとしているようです」

 

「おそらくイタミ様の手の者でしょう案内を」

 

「他の者でしたら」

 

「いつも通りですペルシア」

 

「かしこまりました」

 

と二人は部屋を出ていった。

 

「あの二人はー」

 

「マミーナはヴォーリアバニー、ペルシアはキャットピープルでございます。こちらのアウレアはメデュサ モームはヒトです。」

 

「そういえば頭や手足に羽のある捕虜が・・・」 

 

「その者はセイレーンでございましょう」

 

「はぁ この国では多種族が一緒に働くのは普通のことですか?」

 

「いいえ、滅多にございません。先代様は大変開明的な方で種族間の摩擦は貧困にあると信じておりました。だからヒト以外の者も積極的に雇い入れておられたのです。・・・まぁ『ご趣味』でもありましたので・・・」

 

「あぁ、やっぱそっち系の人間ですか」

 

「イタミさま、センダイさまニにたニオイスル」

 

と言ってアウレアの髪の蛇が伊丹に近寄るがモームに止められる。

 

「めっ」

 

「アイタ!」

 

「ご主人様への失礼は許しませんよ!」

 

「イタミ様、メデュサは吸精種あの髪で人の「精気」を吸い取ります。十分躾をしておりますがご注意を」

 

「はぁ」

 

そんな状態の最中大場達がペルシアとマミーナの二人に案内されながら部屋に入って来た。

 

「隊長」

 

「あ、生きてる」

 

「心配してたのにピンピンしているじゃないかこのすっとこどっこいが」

 

「ご心配をおかけしました 大尉」

 

「無事だったようねぇ」

 

「まぁ!聖下御自ら!?」

 

メイド長は、ロゥリィを見ると満面の笑みを浮かべてロゥリィの前で跪いて手の甲に口付けをする。

 

(エムロイって死と断罪と戦いの神って言ってたよな・・・・その信徒って)

 

「たーいちょ、一人だけいい思いしてずるいっスよ」

 

「あとで紹介してやろう」

 

など、一人だけ亜人のメイドに囲まれてお世話されている伊丹に倉田が、羨ましいがる。

 

 

 

一方ピニャは大場達が伊丹の部屋に来ているとは知らずに執務室の机で書類を纏めていた。

 

"協定違反はなかったことにできないか?襲撃とイタミへの「ジンドウテキ」ではない扱い。アルヌスに報告される前にイタミの部下を捉えるか口を封じることがてきるか?"

 

"不可能"

 

「炎龍すら撃退する連中を手勢でどうやって倒す?あやつらわざと妾を苦しめるためにイタミを残していったのか?そもそもこの二人が・・・・くそっ」

 

とピニャは、羊皮紙にこんな事態を引き起こした元凶であるボーゼスとパナシュのピカソみたいな似顔絵を描いたかと思えばイラついて紙をクシャクシャに丸めて捨てた。

 

「(ニホン軍に謝罪するのが一番かもしれない だがつけ入る隙を与えてしまう。あやつらは圧倒的な武力を見せつけて妾に帝国との交渉仲介を求めてきた)あの戦闘力と破壊力を知らない帝国の外交官僚がいつもと同じように恫喝し居丈高に交渉の場でふるまえばー結果は火を見るより明らかだ。ニホン軍の力はまだ妾しか知らない・・・そうだ父上に報告書を」

 

と羊皮紙にニホン軍の事を書こうとしたが

 

(こんな報告書誰が信じる!?妾ですら信じられぬのに!!)

 

頭を抱えるピニャは、

 

「イタミさえ口をつぐんでくれればーそうだ・・・!当の二人にイタミを籠絡させて、ボーゼスはパレスティー侯爵の次女、パナシュは格下のカルギー男爵家だがあの二人に迫られて堕ちない男はいない!」

 

そう考えたピニャは鈴を鳴らしメイドを呼ぶ。

 

(イタミ程度の男には惜しいが帝国の命運がかかった重大な任務と命じれば・・・)

 

と紅茶を飲みながらそう思っていると丁度いいタイミングでメイドが来た。

 

「お呼びでございましょうか?」

 

「ボーゼスとパナシュを呼んでくれ」

 

「かしこまりました」

 

 

一方伊丹達日本兵とメイド達が楽しく会話をしていた。

 

「ペルシアさん、こいつは部下の倉田だ。よろしく」

 

「じっ、自分は倉田武雄伍長であります!!21歳の独身です!よろしくお願いします」

 

「はい、よろしくですにゃ(可笑しなヒト・・・男の視線と言えば欲情と怯えだけだったのに・・・こんなの初めて)」

 

倉田は初めて見る猫耳の女性のペルシアと話し、

 

「昨日のお二人の盗賊との鮮やかな立ち回り凄かったです 」思わず見惚れてしまいました。」

 

「「いや〜そんな事ないですよ」」

 

栗林と船坂あの戦いでマミーナから称賛されてれる。その他にもレレイはアウネラの蛇に興味津々だ。テュカはモームにテュカの着ているモダンガールの着ている白いワンピースの事を尋ねられている。ロゥリィはエムロイを崇拝するメイド長に笑顔で迫られている。

 

「なんだか和んじゃってるな」

 

「急いで脱出する必要はなさそうですな」

 

「おい、笹川 お前写真が趣味だったよな、偵察用のカメラ持ってないか」

 

「持っていますが・・記念撮影でもするんですか?」

 

「ああ、良い機会だ。記念に残しておこう」

 

伊丹はみんなに記念撮影をする事を伝える、どう言う訳か全員伊丹の寝ているベッドを中心に集まった。笹川伍長が取り出したのはアメリカ製のスーパーコダック620で世界初の自動撮影が可能になったカメラだ。カメラに三脚を立て自動撮影に切り換え写真を撮った。撮った後は交流会の再開された。

 

 

その頃、屋敷の暗い廊下を歩く一人の女性が居た。その女性は、ボーゼスだった。彼女の今の格好は体が透けて見えるネグリジェの姿だった。

 

(貴族の家に生まれた娘として、この手の嗜みは心得ている。だが・・・・だが、自分が嬲り倒した男に身を捧げよと命じられるなんて・・・・)

 

と彼女の目から大粒の涙が溢れて出したが、直ぐに気持ちを切り替えドアノブに手を掛ける。

 

(これもピニャ様と帝国のため・・・・)

 

そして彼女が扉を開けて中に入ると、中の光景は日本軍とメイド達の談笑する光景だった。

 

(わが身をもって罪をぬぐう雑巾になる。そんな覚悟を決めて来たというのになんだこれは?・・・・無視だと、パレスティー侯爵家の次女たる私を、いい度胸だ。私は雑巾にすらならないというのだな。このイタミという男はーーー)

 

と突然伊丹に襲い掛かりバチンと言う音が響き渡る。交流も束の間文化交流をしている最中に伊丹をタコ殴りにした金髪の女騎士ボーゼスが娼婦の様な格好で伊丹の部屋に入って来て顔を真っ赤にして伊丹に平手打ちを食らわした。突然の事に栗林と船坂は彼女取り押さえた。その間に他の兵士達も銃を構える。伊丹等はピニャのいる大広間に向かった。

 

大広間では今にも気絶しそうな表情を浮かべるピニャがいる。ピニャは恐る恐る口を開いて問い掛けた。

 

「・・・で?その顔の傷はどうした?」

 

伊丹の顔はボーゼスに引っ叩かれた赤く腫れた痕があった。沈黙の流れになったがボーゼスが弱々と小さな声で

 

「・・わ・・わたくしが・・やりました」

 

その言葉にピニャの頭に激しい頭痛が走り頭を抱える。

 

「この始末、どうしてくれよう・・・・」

 

ピニャが必死で頭を悩ませていると第一偵察隊の隊長大場大尉がレレイを通して伝える。

 

「自分達は伊丹中尉を連れて帰らせてもらう」

 

「そっちの方はそっちで勝手に決めてもいい・・と」

 

とレレイが通訳する。

 

「それは困る!も もう朝だ朝食を用意しよう!それに和解の意を込めて騎士達と歓談の場を・・」

 

と必死で彼らを引き留めようとするが富田が申し訳なさそうな態度をしながら説明をする。

 

「申し訳ないですが 伊丹隊長と大場大尉は帝国議会に呼び出しを受けて、今日にはアルヌスに帰還しなければなりません」

 

「イタミとオオバは元老院に報告を求められている。それ故に今日には急ぎ戻らなければならない」

 

その言葉にピニャは驚愕する。

 

「(げ、元老院だと!?こんな小部隊の隊長二人が、エリートキャリアだったのか!?二人の報告一つでニホン軍が動く!!このまま行かせてはならない!!)では 妾もアルヌスへ同行させてもらう!!此度の協定違反、ケングン団長か上位の指揮官に正式に謝罪しておきたい。よろしいか?イタミ殿、オオバ殿」

 

「え!?えーと・・・指定時間まで時間があまり無いですし車内も狭いので、殿下とあと一人か二人程でしたら・・」

 

「仕方がない」ハァー

 

伊丹達はいきなりの事に驚くが、同行を許可する。

 

「了解、感謝する。メイド長、妾の従兵を呼んでくれまいか?」

 

「隊長、いんですか?」

 

「姫様が従者なしでは断ると思ったのになー」

 

「ハミルトン、妾の代行と代官の選任を任せる。パナシュとボーゼスは治安維持を頼む。アルヌスへは妾一人で行く」

 

ピニャは自分一人で行くと宣言してハミルトンとボーゼスに後を任せるのだった。

 

「おっ、お待ちください!!殿下を一人で敵地に行かせる訳には行きません」

 

「私達も同行を!」

 

「・・・・・わかった、ボーゼス!自らの失態を挽回せよ」

 

「ハッ」

 

ピニャは冷静に考えて、ボーゼスを同行させる事にした。ボーゼスを共にして維持管理と代官選任はハミルトンに治安維持はパナシュに任せるのであった。

身支度が終わり、朝日が昇った頃、二人は不安を抱きながら自動貨車に乗り込んだ。

 

「隊長 檜垣少佐からです 『受け入れ心得た丁重に案内せよ』」

 

「了解、到着予定時間伝えといて」

 

「出発!」

 

と日本軍は多くの民衆に見送られてイタリカを後にした。

 

(この身は鷲獅子の口に飛び込むことになろうとも 協定違反を口実にニホン軍が動き出す事態は阻止せねば・・・)

 

 



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帰還

ピニャとボーゼスは九四式六輪自動貨車に乗って日本軍が拠点とするアルヌスの丘に向かっていた。そして第三偵察隊と第一偵察隊は砂利で整備された道路へと入る。いよいよ此処から大日本帝国軍の占領地だ。

 

「殿下!アルヌスです!!」

 

「もうか?聖地とはいえただの丘だったはずのだが・・・」

 

「麓を掘り返していますよ」

 

そして日本軍の演習が見えてきた。最初に見えてきたのは兵士達の一糸乱れない行進だった。

 

「右 左 右 左 右 左 もっと足を上げろ!腕を真っ直ぐ伸ばせ!」

 

上空では陸軍の隼と海軍の零戦が飛行訓練をしている。次に見えて来たのは鋼鉄の怪物、戦車だ。日本陸軍の飼い慣らしている約十両程の大型の六号戦車ティーガーとより小型の五号戦車パンターが独特のエンジンの轟音をあげて走っているのが見てる。ティーガーの強力な88mm砲とパンターの長く発射速度の速い75mm砲が目に入る。最後に日本兵が実際に小銃を持って市街地での戦闘を想定とした訓練をしている。

 

「あれは・・・家の骨組みか?」

 

「盾もないのに亀甲隊形?あれでは弓の的ですよ」

 

これは、先の日中戦争での中国大陸での戦闘を教訓にしている。ピニャとボーゼスは日本兵達が何をしているのか理解出来なかった。

 

「あの杖・・・イタミらのと同じ物のようだがニホン軍の兵は皆魔導師なのか?」

 

「もしかしたらニホン軍には希少な魔導師を大量に養成する方法が・・・」

 

ピニャとボーゼスがそう話しているとレレイが

 

「違う。あれは魔導では無い、『ジュウ』或いは『ショウジュウ』と呼ばれる武器。」

 

「武器!?」

 

「原理は炸裂の魔法を封じられた筒で鉛の塊を弾き飛ばしている」

 

「武器であるなら作る事が出来る・・とするとすべての兵に持たせる事も・・」

 

「そう、彼らニホン軍はそれを成し、『ジュウ』による戦い方を工夫し、今に至っている」

 

レレイは、翼龍の死骸を漁っていた時に翼龍に撃ち込まれていた弾丸や日本兵の戦い方を見て、独自の考えで銃の原理に行き着いた。それを聞いたピニャとボーゼスはこの事実に目を瞑りたくなるような心境だった。もしそれが本当なら、全ての兵が装備出来る。そうなれば、戦略や戦術も変わって行き剣や弓で戦う時代が終わる。

 

「そう だから 帝国軍は負け連合諸王国軍も敗退した」

 

レレイは最初から帝国軍が叶うはずがないと断言する。ピニャはチラリと傍にあった38式歩兵銃をみる。

 

「(武器であるなら妾達にも使えるはず)戦況を一歩的にしないためにも「ジュウ」を手に入らねば・・・」

 

「それは 無意味」

 

「なに!?」

 

レレイはティーガーⅠ戦車を指差した。

 

「加茂大佐 ティーガーⅠ特地仕様です 過去の戦訓をもとに整備しました」

「よく 予算がおりたな。」

 

「まぁ・・・盟邦ドイツから提供された戦車にアメリカの砲安定装置に山内博士の熱源自動照準装置に赤外線照射探知機を加えたそうです」

 

とティーガー戦車を見てピニャとボーゼスは唖然とする。

 

「『ショウジュウ』の『ショウ』は小さいと意味する言葉。ならば対義の『大きいジュウ』がある」

 

「あれが火を噴くと・・・?」

 

「コダ村の連中が言っていた『鉄の逸物』と同じなのか・・・?鉄の飛竜、鉄の象あんな物を作る職人などドワーフ匠精にもいない!あれはまさしく異世界の怪物だ。何故こんな連中が攻めて来たんだ?」

 

そんなピニャの言葉にレレイは、

 

「帝国は、グリフォンの尾を踏んだ」

 

「帝国が危機に瀕しているのに、その言い草はなんですか!!」

 

とレレイの言葉に怒るボーゼス。

 

「私は流浪の民、ルルド一族。帝国とは関係ない」

 

「はーい、私はエルフです」

 

「フッ」

 

(帝国は国を支配すれど・・人の心までは支配できず・・・か)

 

いかに帝国が力強大でも人々を支配しても心までは支配できなかった結果がこれである。

 

 



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門の向こうへ

ピニャ達は、ようやくアルヌスの丘の頂上付近に着くと四方八方を深い堀に囲まれその奥には報復兵器 V1飛行爆弾「桜花」とV2ロケット「鳳凰」発射施設があり、その中央に建設された北海道函館にある五稜郭の様な建築物の傍に特地派遣軍総司令部の看板が立てられ更に日章旗と旭日旗の旗が掲げられていた。

 

「着きましたよー」

 

「イ イタミ殿!わ 妾と二人きりで話はできまいか?」

 

「あ〜スミマセン まだ用事がありますので・・・あの士官が案内してくれますから」

 

と言って伊丹は乗用車に乗る。

 

(ちょっと面かせやとしか聞こえんぜ)

 

「殿下?」

 

「説得の機会を逃した・・・」

 

ピニャとボーゼスは士官に応接室に案内された。

 

「これは・・・蟲甲か?」

 

「だとすれば 名高い匠の手による物かと」

 

「門はどこだ?」

 

「あのドームの中では・・・」

 

と外を見ていると今村司令官がやって来た。

 

「お待たせしました」

 

(この地味な服の男がニホン軍を率いる長か・・・?)

 

今村司令官が挨拶をしてそれをレレイがピニャに向き直り通訳する。

 

「レレイさん 帰ってすぐすまない」

 

「大丈夫」

 

双方はテーブルを挟んで向かい合った。

 

「こちらはニホン軍のイマムラ将軍。こちらが帝国皇女ピニャ・コ・ラーダと騎士ボーゼス ニホン語の尊称は・・・」

 

「殿下でいい思う こちらの言葉では?」

 

「女性には『francea』が適切」

 

「どうぞ おかけ下さい 殿下 ボーゼスさん 殿下自ら 突然のおこしとはどういう用件で!?」

 

「・・・実は協定に関して我が方に不始末があり そのお詫びにとまかりこしました」

 

「報告は伺っております。帝国との仲介をしてくださる 殿下を煩わすようでしたら 協定の扱いを考え直す必要もありますかね」

 

考え直す!?

 

「いや それはー」

 

協定が守られねばイタリカに侵攻するということか!?

 

とピニャは内心焦っていた。そんな時

 

「ー伊丹と大場大尉から聞きましたよ そちらのご婦人に手ひどくあしらわれたとか」

 

と柳田が憎たらしい笑いで水を差す。ピニャとボーゼス双方が焦り出す。

ああ 結局知られてしまった・・・

 

「あのアザとひっかき傷 笑っちゃいましたよ どう見ても痴話ゲンカだ」

 

やはりイタリカにいる間に口を封じるべきであった・・・

 

ピニャとボーゼスは下を向いてブルブル震えていた。

 

「柳田中尉」

 

「あっと失敬 自己紹介をしてませんでしたね。自分は柳田と申します。以後お見知りおきを」

 

(名を覚えておけだと?)

 

(イマムラ将軍よりえらそうですよ)

 

一方

アルヌス基地に着いた第三偵察隊と第一偵察隊は戦闘で余った銃弾を弾薬庫に返納し、銃の手入れをし武器庫に収め、車両にこびりついた泥を落としてから夕食になった。

 

兵舎の食堂

「なんとか晩飯間に合ったー」

 

「二日徹夜はきついわー」

 

「武器弾薬の返納と車輌の洗浄とかで結局昼抜きやったもんな 栗林と船坂二人の突撃銃 廃銃やってさ銃身曲がっとったって」

 

「白兵戦で栗林と船坂すごかったんでしょ」

 

「あぁ でもあれだけの白兵戦を繰り広げたのに二人共傷ひとつ付いて無いぞ」

 

「本当、どうなったんだかあいつら」

 

「ところで隊長と大尉殿は?」

 

「あぁ、報告書に追われているよ」

 

「明日 俺と栗林と船坂と堀内も柳田中尉に呼ばれてる」

 

「隊長達が国家と大本営行きかー似合わねー」

 

伊丹と大場は記者会見などがあるのでそれらの指示を受ける。伊丹はイタリカでの戦闘報告書をまとめていた。戦闘後に残った弾薬を返納して、銃を整備して武器庫に収め、案の定廃銃となった栗林の小銃に関する始末書等の処理、

車両の整備を行い、さらには報告書を書いて提出し、参考人招致とその後の行動についての指示を受けているうちに、すっかり日は暮れてしまった。

 

「つかれた〜ねむ〜 国会行きの説明なげ〜よ。さ〜て飯食って寝るぞーって食堂閉まってるし、ん?」

 

と伊丹は机に置いて合った手紙を見つける。

 

「誰だ?」

 

と裏を見てみると差出人が葵 梨沙と書かれていた。手紙の内容を見ている。

 

『前略 伊丹耀司殿 お変わり無いと思います。私も丈夫で変わらない生活を送っております。そちらの世界での生活はどうでしょう?こちらの世界の季節は冬です。帝都では、異世界での帝国陸海軍の連戦戦勝に世論は慌ただしくなっております。これからも戦闘が激しくなって行くと思います。それではくれぐれもお身体を大切にしてできるだけ長生きしてください。 昭和二十年十二月二十五日 葵 梨沙』

 

と手紙と一緒にお守りが入っていた。

 

「梨沙・・・」

 

と伊丹は手紙を読んで差出人の名前を呟く。そして伊丹は筆を取って手紙を書く。

 

『1945年12月月27日 親愛なる梨沙。俺たちは、31日から快進撃を続けている。勝機ありと踏んだ俺は、敢えて指令に背いたのだ。帝国軍は慌てふためいて退却している。俺たちの損失は皆無だ。多大な戦利品が望めるだろう。嬉しさのあまり眠れそうもない。昭和二十年十二月月二十七日伊丹耀司』

 

と返事の手紙を書く。

 

「そういや あっちはもう冬かー とりあえず飯 飯!」

 

と伊丹は机に置いて置いた戦闘糧食のおにぎりを摂った。

 

すると戸を叩く音が聞こえた。

 

「ど、どちら様?」

 

其処にはレレイがたたずんでいた。

 

「なんだ レレイか どうしたこんな時間に ああ 会談の通訳やってたのか」

 

「イタミ キャンプまで送って・・・疲れた」

 

聞くとレレイは今まで翻訳作業と通訳をしていて、ようやく解放されたという。

杖を投げ出すと女の子座りでしゃがみ込んでしまった。 もう動けないのだろう。

 

「イタリカからずっと通訳頼みっぱなしだったからなぁよく我慢したよ 飯は?」

 

と尋ねると首を横に降る。レレイの住むキャンプは、軍事上の防諜・被害拡散防止の関係上、日本軍陣地から一定の距離を離れた場所にあり、車が必要だ。

しかも軍隊は戦う巨大官僚組織なため、車一つ動かすだけでも書類が要る。

そのため、伊丹は空き部屋のベットにレレイの寝床をしつらえることとした。

 

「あーーもう車出すのもなんだしここで寝ていったらどうだ?応接室か談話室で・・・あれ?」

 

「クーー」

 

「・・・やっぱまともなベッドに寝かせた方がいいよな」

 

そう言って伊丹はレレイ抱え難民キャンプまで運んだ。

 

「まだ 空き部屋があって助かったぜ」

 

と伊丹はベッドにシーツと毛布を敷いてレレイを寝かせる。

 

「よっと」

 

レレイを寝かせ伊丹はふと思った。

 

(15歳って言ってたけどまるで人形みたいだ・・・こんな気持ちで人形いじってんのかな・・・女って?)

 

なんて事を考える。

 

ハッ

 

(違う!俺の歳ならこのくらいの娘いる奴もいるしっ このコ 歳の割に体つきが幼いんだよ 極端なのも二人いるけど)

 

と伊丹は見た目は幼いけど年上のテュカとロゥリィを思い浮かべる。

 

(いかんいかん こんな所誰かに見られたら 特に倉田ーー)

 

えーー 中尉 幼い幼女が好きなんですかー

 

「俺だってなぁ はっきり言って 胸はあった方がいいしくびれてるとこはくびれてるコが好きなんだ!(その意味じゃこのコは守備範囲外・・・そうだ 守備範囲外だからな・・・早く 自分の部屋に戻らないとーー)」

 

と伊丹は余りの眠気にフラついていた。

 

「(徹夜で戦闘して・・・捕まっていたぶられて・・・女中さんたちと朝までお茶会・・・)ぜんぜん 休めて・・・ねぇ・・・」

 

そして伊丹は眠気に負け熟睡してしまった。翌朝、レレイを枕に寝ている伊丹が発見され、憲兵にしょっ引かれそうになる騒動が起きたのはまた別の話である。

 

 

そして翌日、組合の事務所で

 

「門の向こうに行くの!?」

 

「そうだ、こっちの世界には『ヒト』以外の種族が住んでいることを伝える為だ。レレイも一緒に連れて行く」

 

「確かに門の向かってニホンの街なんだよね。楽しみー」

 

自分を救ってくれた日本軍の故郷がどんなところかワクワクしている。そんな時レレイがやって来た。

 

「あ レレイ おはよー、きのうは 帰って来なかったけどどうしたの?」

 

「・・・泊めてもらった」

 

の一言。

 

「ちょっとぉ わたしはぁ?」

 

ロゥリィにいわれ一同苦笑いをする。

 

「どこの少女連れて来たと言われそうだし」

 

「亜神と言っても外見は人間と同じだしねー」

 

「『奇跡』を見せればいいんでしよぉ」

 

「そらはやめろ」

 

「あーもう!そんなおもしろいことにわたしぃを仲間はずれにするつもりぃ?」

 

倉田は無線機を取り伊丹に連絡を入れた。

 

「あ 隊長 ロゥリィが・・・ーえっ?いいですか?ハルバートどうするんですか?」

 

「来ていいって」

 

「♫」

 

と言われてご機嫌になるロゥリィ。

 

門の前

そこでは、伊丹と大場が一足先に待っていた。二人の服装はいつもの九八式軍衣ではなく 昭五式軍衣袴で身に纏い四五式軍帽を被り腰に九五式軍刀とホルスターを吊るし下げていた。

 

「おそい〜」

 

「暑い」

 

「ここの人間は時間に無頓着なのかなー」

 

それから暫くして栗林達がやって来た。栗林達も四五式軍帽と昭五式軍衣袴を着用していた。

 

「お前たち おせーぞー」

 

「すみません 支度に時間かかりまして」

 

「なんで厚着がいるのぉ?」

 

とテュカの服装は大正時代の女学生服だった。ハイヒールロングブーツに海老茶の袴に矢絣模様の振り袖に頭に赤いリボンを付けていた。レレイとロゥリィは変わらず。

 

「・・・・」

 

「ねぇ これはずちゃダメェ?」

 

帆布で巻かれたハルバートを見せながらロゥリィが文句を言う。

 

「ダメダメ。向こうには色々と決まりがあるんだ!そんな刃物剥き出しのまんまじゃ捕まるから。寧ろ置いていって欲しいくらいだ!」

 

「神意の徴を置いて行ける訳ないでしょぉ?」

 

「なら我慢しろ!」

 

栗林がそう言ってロゥリィを説得する。

 

「おーし そろったな そろそろ行くぞぉ」

 

するとそこへ一台のトヨタ・AA型乗用車が来た。運転席で運転をしていたのは柳田中尉だった。

 

「悪い 悪い、遅くなった」

 

柳田は運転席から降り後部座席のドアを開けある珍客が乗っていた。

 

「どうぞ ピニャ・コ・ラーダ殿下並びにボーゼス・コ・パレスティー伯爵公女閣下の御二方がお忍びで同行される事になった。よろしくな」

 

「おい柳田。聞いてないぞ」

 

「あ?そうか?大本営の方には客人の追加の報告はしといた。それと伊豆の方にも連絡済みだ。二泊三日の臨時休暇だしっかり楽しんでこいよ」

 

「あのな、このお姫様達に俺がどんな目にあったと思っている」

 

「ああ?誤解だろ?笑って水に流せよ」

 

伊丹が文句を言うが水に流せと柳田は笑いながら言う。

 

「イタミ殿、よろしく頼む」

 

「笑えねぇって」

 

「いちいち気にするな、殿下には帝国との仲介をしてもらうしな。その為には、我が国のことも学んでおきたいという要望も当然だろ?」

 

「なんで俺らと一緒なんだよ」

 

「しょうがないだろ。通訳できる人材がまだすくないんだよ」

 

そう言って柳田は、懐から一枚の茶封筒を取り出す。

 

「今村大将からだ。娘っ子達の慰労に使えたさ」

 

柳田は伊丹に一通の茶封筒を渡しその場を去った。伊丹は封筒の中を見てみると百円札三枚と五十銭玉五枚が入っていた、どうやら宿泊費のようだ。

 

伊丹達御一行は門の前まで行く。

 

「殿下・・・」

 

「・・・うむ(この門の向こうが ニホンー)」

 

とこれから敵国の異世界の地に赴くピニャの表情が引き締まる。



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記者会見

暗く長いトンネルの中を進み続けやっと光が見えて来た。そして彼女達の目に飛び込んで来た光景は、摩天楼だった。ピニャとボーゼスはトンネルの先の世界に唖然とした。先まで居たアルヌスの丘は大自然が多くなる丘から門をくぐった先の摩天楼に驚嘆した。

 

『帝歴六八七年霧月五日、敵国ニホンの帝都トーキョーリサ殿宅で記す。世界を境たる『門』をくぐるとそこは、摩天楼だった。かつてこの地を踏み締めた将兵は何を思ったのだろうか?妾は今、この巨大な建物の谷間にあって自らの矮小さを味わっている。これほどの建造物群を造り上がった国家と戦争をしている帝国の将来を憂えている』

 

と後にピニャが自らの手記にそう書き記した。巨大な建物と言えば帝都の皇城や元老院議事堂、あとは軍事用の城塞しか知らないピニャたちにとって、銀座の街並みでも十分であった。 銀座は世界有数の大都市だ、中世レベルの人間にとって銀座の街並みは十分過ぎるほどの摩天楼だった。ピニャやボーゼスだけでは無く、レレイやテュカやロゥリィも目を丸くして呆然としている。

 

「中世からいきなり二十世紀に来たのと同じだからなー、ま、大人しくなっていーか」

 

今の銀座の門には軍が駐留して常に見張っていた。既にこっちの世界は真冬の真っ只中だった。ピニャらが立ち尽くしている一方で伊丹は、検問所で外へ出る手続を行う。 そして書類記入をしようとしていた時、

 

「伊丹中尉?情報本部から参りました駒門です。皆さんの案内役を仰せつかりました」

 

と自己紹介する黒服の謎の男。その男を見て伊丹と大場は気づいた。

 

「おたく・・・・特高(特別高等警察)だろ?」

 

「やはり、バレましたか」

 

「アンタの周りから漂っている雰囲気が他の人間と何か違ってるんだよな。生憎、帝国軍人が全員が馬鹿みたいになれる職場なら情報漏れなんかしないでしょ」

 

「クックックッ流石ですね。こちらでもアンタ達の事を調べさせてもらいました。伊丹耀司、尋常小学校を卒業、高等小学校卒業後16歳で陸軍士官学校を平凡な成績で入学し、卒業後は士官候補から陸軍少尉に任官。勤務成績は不可にならない程に可。業を煮やした上官によって第1装甲擲弾兵師団に放り込まれ、その後中国の南京に赴任する。」

 

「よくもまぁそこまで調べたものだ」

 

「その後は太平洋戦域に移動し万年少尉の筈が・・銀座事件では功績が認められて二つの勲章を授与され陸軍中尉に昇格。同期からは『帝国軍人の恥さらし』『怠け者』『面汚し』・・よろしくない評価だねぇ・・クックックッ」

 

「大場栄、愛知県実業教員養成所を卒業し、20で陸軍第18歩兵連隊に配属になる。その後、予備陸軍歩兵少尉に任官。その後歩兵第18連隊の中隊長に任命され、太平洋戦域のサイパンで陸軍大尉に昇格する。」

 

「よくもまぁそこまで調べたな」

 

まぁ真実だから何も言わない。その後駒門は他の特高と何処かに行った。

伊丹達は用意されたバスにのり伊丹達は帝国議会に向かう。途中に大衆食堂で昼食をとりテュカらに参考人として相応しい服装にするために百貨店に行き背広のスーツを購入した。

 

伊丹達一行は帝国議会の敷地内に入っていく。

 

『ここがニホンの元老院・・・』

 

「じゃ、富田あとよろしくー」

 

「わかりました」

 

と伊丹大場は、ロゥリィ、テュカ、レレイを連れてバスを降りて帝国議会へと向かう。

 

『妾達も降りるのではないのか?』

 

『別の会合場所に向かいます。一応、殿下は、日本に来ていない事になっておりますので」

 

そう富田がいいピニャ達は帝国ホテルの応接室に向かいそこでピニャ達を出迎えたのが外務副大臣兼副首相吉田茂と大使の菅原浩治だった。

 

「ようこそいらっしゃいましたピニャ殿下、ボーゼス閣下。首相補佐官吉田茂と申します。こちらは外務省の菅原浩治君」

 

「菅原です。富田さんと栗林さんには通訳をお願いします。では、こちらに」

 

これより帝国と大日本帝国との初の外交が始まった。これはピニャ達の外交という名の戦争と言ってもいい交渉次第で国の存続か、はたまた亡国の道を歩むか二つに一つの選択だ。

 

(外交は、言葉による戦争だ。妾の一言で帝国の命運が左右される。だが、ここには講和のために来たのではない。交渉当事者となりうる帝国側の重要人物を提案するためだ。ニホン側の交渉団の数人宿泊場所の手配費用の支払い方法の取り決め、帝国側の交渉当事者への贈賄の額も確認する。さらには、要人の相互訪問とニホン語を習得させる人材の派遣を要請・・・あくまで仲介役に徹するのだ)

 

しかしピニャは日本と講話をしに来たのでは無くあくまで仲介役として来日したのだ。この外交では銀座事件で捕虜となった帝国軍兵士の身柄引き渡しが話された。

 

「では、最後に先の事件での捕虜とその扱いですが、現在我が国日本の各地にある捕虜収容所に収容しておりまして」

 

(きた・・・身代金の話だな)

 

「総収容者数は約六千人」

 

(ろ・・六千人!そ、そんなに・・・!?)

 

「捕虜の中には外見が人間に見えない人たちもいます。階級の高い軍人も多いようでその扱いに正直苦慮しています。我が国としてはそちらの求める形で捕虜を引き渡したいと思います。」

 

日本はジュネーヴ条約に従って帝国軍兵士の武装解除をして日本各地にある捕虜収容所に送った。あまりにも捕虜の人数が多かったので国内にある収容所では収容しきれなかったので一度閉鎖された収容所を使う事にした。捕虜の中にはそれなりに位の高い人間もおり、横暴な態度をとっては所長や看守達を苦しめたり、収容所の運営費が膨大な為日本としては早く引き取って欲しいのだ。

 

(身代金が一体いくらになるのか想像すら出来ん)

 

『殿下!お気を確かにっ』

 

ピニャは思わず手を頭に添える。

 

『み、身代金はいかほどに・・・?』

 

「身代金?あぁ、御安心下さい殿下。昔ならいざ知らず、現在我が国には身代金の習慣や奴隷制度も御座いません。ですが、今回は金銭以外の『何らかの譲歩』を期待しております。」

 

「殿下の為にもこの名簿の中で指名なさる若干名なら即時引き渡しが可能です。」

 

菅原がそう言い名簿をピニャの前に差し出す。

 

(この情報があれば子弟を出征させている元老院議員や貴族との仲介がやり易くなるな)

 

『あの、今回は無理かも知れませんが一度彼らに会うのをお許しいただけますか?あと、その名簿の写しも必要になります』

 

『ボーゼス?』

 

『ピニャ様、差し出がましい事を申し訳ありません。実はわたくしの親友の夫君がこちらに出征しておりまして・・」

 

「・・そうか」

 

「分かりました。次にお越しの際に手配しましょう。名簿も後に翻訳した物をお渡しします。」

 

「ピニャ殿下、帝国との交渉の仲介役どうかよろしくお願いします」

 

一応ながらこうして帝国と大日本帝国の第一回会議は終了する。

 

一方伊丹と大場は帝国議会にて各国の記者達やムービーカメラまでも招いての記者会見をしていた。

 

「あれがエルフか」

 

「cutie」

 

「beautiful」

 

記者達は伝説の種族エルフのテュカを見て口々に驚きの声を上げる。

 

「それではこれより記者会見を行います。まず此方の三人は勿論特地から来られました。勿論強制的に連れて来たのではありませんあくまで任意で来られました。」

 

大尉と中尉の階級章を付けた士官が記者達に説明する。

 

「質問のある人は?」

 

その言葉に多数の記者が手を挙げる。

 

「はいどうぞ」

 

「ドイツから来ましたドイツ新聞社アルベルトです。ご紹介にありましたテュカ・ルナ・マルソーさんですがその耳は作り物ではないですよね?よければ動かさせて欲しいのですが」

 

「・・こう?触ってみます?」

 

「「「オオー」」」

 

アルベルトの質問を大場がドイツ語を翻訳しレレイに伝えレレイがテュカに翻訳する。それを聞いたテュカは髪の毛を掻き分け耳を動かすと記者達はまたもや驚きの連続だった。

 

「アメリカのニューヨークタイムズのロバートです。レレイさんは魔法を使えるとご紹介で言っているのですが」

 

そう言ってレレイは用意された盥の水をボール状にして持ち上げ記者達を驚かせる。

 

「東京日報の真藤利一です。ロゥリィ・マーキュリーさんが肉体を持つ神・・亜神であるとの事ですが」

 

真藤は本当かどうかわからないので戸惑う。そこでレレイが補足する。

 

「私達は門の向こうでは『ヒト種』と呼ばれる種族で寿命が六十から七十前後で住民の多くはヒト種である。テュカは不老長寿のエルフで、その中でも希少な妖精種で寿命は一般のエルフより遥かに長く永遠に近いと言える。ロゥリィはヒトではなく亜神の肉体を持つ神である。元はヒトで昇神した時の年齢で固定されている。通常一千年程で肉体を捨て霊体の使徒へ、そして真の神となる。従って寿命という概念が無いのである」

 

「「「・・・・・」」」

 

レレイの補足に記者達は口を魚みたいにパクパクさせて唖然とする。

 

「そ、それでしたら・・非常に申し上げ難いですが三人の年齢は?」

 

「九百六十一歳よぉ」

 

「百六十五歳」

 

「・・十五歳」

 

「「「・・・・・」」」

 

またも沈黙する記者達だった。この事は全世界の新聞にトップを飾ったのだった。

 



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アルヌスに帰還

国会での記者会見を終えた伊丹達は地下鉄の駅にいた。

 

「はーい 乗るよー」

 

「これに乗るのぉ?」

 

「どうした 早く乗れよ」

 

「しょうがないだろ 伊丹 三人は地下鉄と言う物を知らないんだ」

 

「まぁ それはそうですけど お いたいた お前ら ごくろーさん」

 

「急に四ツ谷から地下鉄に乗れって言われてあわてましたよ」

 

そんな富田をよそにボーゼスが富田の腕に抱きついていた。その光景を伊丹と大場が不敵な笑みを浮かべる。

 

「な なんですか?」

 

「はいはい おめっとさん」

 

「お似合いだぜ」

 

「ハ!?それより丸の内線が地下走りだしたら怯え始めまして カタコルーベに連れて行くのか地の奥の魔窟へ連れて行くのかって」

 

(まぁ 日本も初めは地下に電車が走るなんて想像もしなかったからなぁ)

 

「(特地じゃ 地面の下を走る乗り物なんてないしなぁ)ん?」

 

と伊丹がロゥリィの方を見る伊丹の腕に抱きついていた。そして扉が閉まると

 

「ひっ」

 

「ど どうした?ロゥリィもこれだめか?」

 

「じ・・・地面の・・・地面の下はハーディの領域なのよぉ」

 

「ハーディ?別の神様か?」

 

「あいつやばいのぉ二百年前にもお嫁に来いってぇ しつこくってしつこくってしつこくってしつこくってしつこくって」

 

「それでなんで俺に?」

 

「ハーディよけよぉ あいつ男が嫌いだからぁ こうしてたら近寄って来ないかもしらないでしょぉ」

 

「人間には好かれないけど人外には好かれるとは変わった男だなぁ」

 

「「「「うん うん」」」」

 

「そんな事言わないでくださいよぉ あとお前らも頷くな!?」

 

と大場の一言に皆が頷き反論する伊丹。

 

「まもなく 霞ヶ関に到着いたします。降りの際はお忘れ物のないようにお気をつけください」

 

と見回りに来た車掌の止まる駅名を言って電車は霞ヶ関に停車する。その後伊丹達一行はとある木造平屋に来ていた。

 

「おーい 梨沙いるか?」

 

と伊丹が女性の名前を呼ぶ。

 

「はーい?あ 耀司 戻ってたんだね。どうしたんの?こんな夜中に?」

 

と出て来たのは 眼鏡を掛けた割烹着姿の女性だった。

 

「悪いんだけど梨沙 今夜ここに泊めてくれない?」

 

「それは構いませんよ。今日は父も母も家を空けてるので さぁ上がってください」

 

と家に上がらせてもらう。

 

「誰?」

 

とテュカが梨沙が何者か聞いて来た。伊丹は言いにくそうにすんで大場が代わりに言う。

 

「聞いてないのか?」

 

「大尉」

 

「隠したってしょうがねぇーだろ。伊丹の幼馴染で許婚だ」

 

と大場が言うとそれを聞いて全員が目を見開いて驚いた。

 

「「「「許婚!?」」」」

 

「中尉 嫁さんもらうですか!そんなの聞いてませんよ」

 

「なんで教えてくれなかったんですか」

 

「言いそびれた」

 

そしてその後皆が寝静まった後梨沙に伊丹達がなぜここに来たのか説明した。梨沙はカストリ雑誌に投稿する自作小説(ポルノ)を書きながら聞いていた。

 

「ーーというわけ」

 

「そう でも何でそんな危ない話に私を巻き込むの?」

 

「そうですよ隊長 許婚を危険に晒すのはー」

 

「まぁ そうなんだけど俺たちがここに居るなんて誰も思わないだろう。さぁ 寝よ寝よ」

 

「明日の予定は?」

 

「買い物と温泉 宿なんか飛び込みでなんとかなるよ じゃ 富田四時に起こして」

 

「はぁ」

 

そして伊丹は就寝した。そして翌日伊丹の許婚の梨沙も同行して浅草見物や浅草花やしきや上野動物園に行ったりし買い物ため百貨店に向かい服などを買い物をした。その後は箱根温泉旅館に向かった。箱根の温泉旅館『山海楼閣』に向かっていた。この宿は軍の幹部達が好んで良く利用している宿で全室貸切状態でそこが目的地の宿泊場所だった。そして伊丹達は温泉に浸かっていた。

 

「うっわー 」

 

「すっごーい!」

 

「すごいでしょー」

 

「このような画期的な浴場がこの世にあるとは」

 

「殿下 ここは異世界です」

 

と日本の浴場に魅了されるピニャ達に胸を張る梨沙。

 

「泉が全部 お湯になったみたーい」

 

「こんな大量のお湯に入るのは初めて」

 

ロゥリィは温泉の湯に手を入れ満面の笑みを浮かべると梨沙が止める。

 

「ちょっと待ちなさい!!」

 

「おおっ!?」

 

「お湯に浸かるのは体 洗ってから!」

 

「お・・・?」

 

と梨沙に無理矢理と洗い場まで引っ張られていたロゥリィ。

 

「湯船に入る前に体を洗うのはこちらも同じか」

 

「はずかしながら浮かれてしまいましたわ」

 

そして洗い場で梨沙に頭を洗ってもらっていたロゥリィが

 

「どうかしたの?ロゥリィ?」

 

「視線を感じる」

 

「え!?覗き!?」

 

「ノゾキ?」

 

「覗きのこと 私はあまり気にしなかった村の井戸端で水浴びしてても素通りされたし」

 

「そ そうか・・・覗きと言えば騎士団軍営の浴場を思い出すな 覗こうとする我らと防ごうとする彼らとの攻防戦ー」

 

「殿方が互いに友誼を確認しあう姿はそれは美しいものでしたね・・・」

 

と完全に立場逆転する発言するピニャとボーゼスをよそに洗い終えたロゥリィは湯船に浸かろうとしていた。するとーー

 

バシャン

 

「テュカァ〜」

 

「ロゥリィ 入らないの?」

 

「こらぁ テュカ泳がないの!」

 

そして全員が湯船に浸かっていると

 

「ねぇー伊丹から聞いたんだけどボーゼスさん富田さんとはどうなんですか?」

 

「え!?」

 

「ほぅ トミタ殿と?そらは聞き捨てならんな」

 

「き・・・騎士団では男女の交際は禁止されてますし・・・家柄とか身分とか・・・」

 

「同性はいいのに異性はだめなの!?」

 

「ボーゼス 無粋なことを言うでない さぁ!白状するがよい!」

 

「おっ おやめください・・・お姉サマ!」

 

とピニャが突然ボーゼスの胸を揉みだした。

 

「男色なうえに同性愛者・・・なんていう騎士団」

 

「師弟関係の姉妹縁だぞ!勘違いするな?」

 

「あっあ そこはダメぇ!トッ トミタ殿のことは・・・憎からず思っております」

 

それを聞いて一同はニヤリと笑う。

 

「あ それよりぃ リサ!イタミとは今どうなのぉ?許婚ってどういうこと!?」

 

「んーーうちの親と耀司の親が親しかったからその勢いで約束しちゃたんだよ。でも私は古い因習に囚われるの正直嫌だったの自由恋愛がしたかたの でも耀司の信念だけは曲げない人柄を見て段々とどうしようかなって迷ってるのよ」

 

「ふぅん・・・(複雑な心境なのねぇ)」

 

そして風呂から上がった皆は部屋で食事や酒を交わした。

 

そして翌日旅館を出た伊丹達は銀座に戻り復帰する準備をしそしてロゥリィ達と銀座事件で犠牲となった人達を祀る慰霊碑に献花をしてアルヌスヘと帰還する。臨時休暇の期限が切れ再び勤務に復帰し、伊丹達はアルヌスに戻って来た。すると柳田が出迎えに来た。

 

「よう 休暇は楽しめたか?」

 

「これが 楽しめたように見えるのか?」

 

「ぜってぇ 年末三日に取り直す」

 

「三偵と一偵は?」

 

「イタリカで任務中だ。司令官が報告を待っているぜ」

 

「げっ 三人を食堂に連れてってくれ後で行くから」

 

「ピニャ殿下とボーゼス閣下はこちらへ」

 

伊丹達が休暇を取っている間案の定難民の数が増えていた既に一万人に達しようとしていた。これは最早一つの街に匹敵する程だった。アルヌスの周辺には日本軍と現地交流の場としてコダ村から避難して来た避難民達が店を作っていた。今村大将や参謀達は現地民との交流を許可したのだ。最初は小さな店から始まった店だがイタリカから定期的に商人がやって来てこの世界の物と日本の物を交換したりして日本の特産品を貴族らに売って利益を上げっている。政府もこの世界の外貨獲得の為特地に渡る希望者を募り大量の商品がアルヌスに送られ避難民と共に店を開いている。特に良く売れたのが日本刀に日本酒に煙草だった。しかし急速な発展による慢性的な人手不足となる。そこにイタリカや出稼ぎにやって来た亜人やメイド達がやって来て、彼女達を一目見ようと足繁く通う帝国陸海軍将兵など。大規模な街に栄え一つの街が出来上がった。名前もアルヌスの丘からいつのまにかアルヌス村へと呼ばれる様になった。街は栄えたが犯罪が悪質化し、日本軍は避難民自ら希望者を募り自警団を創設し、憲兵隊も目を光らせている。そして伊丹はジープでロゥリィ達を仮設住宅に送る。

 

「ニホンっておもしろい所だったわぁ」

 

「興味深かった また行きたい特に本屋」

 

「買い物 楽しかったねー」

 

そして仮設住宅に送り届けた伊丹は帰還する。

 

「んじゃ また明日 おつかれさん」

 

テュカは真っ先に仮設住宅の中に入る。

 

「ただいまぁ!」

 

「門の向こうすごかったよ!お土産もーあれ?お父さん?」

 

「もう!目を離すとすぐどこか行っちゃうんだから」

 

といもしない人物に呆れる。

 

一方のピニャとボーゼス

深く深刻な表情だった。

 

(門の向こうとこちらすべてにおいて格差がありすぎる。イタリカとアルヌスで見た物はその一端でしかなかった)

 

"このまま戦争を継続すれば帝国は必ず敗北するーいや滅亡する"

 

「・・・殿下」

 

「・・・うむ」

 

「明朝出立し帝都へ向かう講和の交渉を準備せねばな」

 

「ボーゼス・・・妾はこの戦争を終わらせる」

 

 




原作では伊丹達の宿泊の旅館に外国の特殊部隊が襲撃して来ますがこの日本は銀座事件で外国人に対する入国の規制が厳しい事にしました。更に原作では梨沙と離婚していますがあの時代に離縁するのはあんまりありませんので親同士が決めた許婚にしました。

カストリ雑誌
戦争終結後に、出版の自由化が進みそれを機に多数のエロやグロテスクな作品物まで大衆向け多数発行されたの娯楽雑誌。


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第2章炎龍編
外交


帝国 覇権国家たる帝国に国名はない。列国中の王として君臨する唯一無二の存在 その帝国が「門」の向こうの大日本帝国と開戦して五ヶ月になろうとしていたーアルヌスで壊滅的な損害を受けた帝国軍は未だ再編の途上にあった。 帝都でも緊急の募兵が行われていたが征服戦争が常態化していた帝都では日常のこととして受け止められていた。

 

一方 講和への決意を固めた皇女ピニャ・コ・ラーダは大日本帝国から帰還した翌朝早々にアルヌスを出発。彼女には外務省から派遣された菅原浩治と護衛の日本兵が同行。菅原はピニャとともに帝都において元老院議員との水面下の交渉を開始した。

 

此処は帝都皇宮サデラの丘にピニャ・コ・ラーダの館では

 

(ああ・・糸杉の香りが心地よい・・・)

 

「ピニャ殿下。寝室でお休みにならなかったのですか?帝都に戻られてからこうもご多忙にされてはお体にさわりますよ」

 

「講和交渉に向けての根まわしや後見役になったフォルマル家の財務報告・・・体がいくつあっても足りんわ」

 

「朝食の前に沐浴をなさっては?」

 

「すまん そうする」

 

ピニャは沐浴に浸かりながら本日の予定を確認する。

 

「本日の予定はキケロ卿との午餐、デュシー伯爵家で晩餐パーティー、その間にシャンディーとの面会を入れています。白薔薇騎士団隊長の後見人事について意見があるそうです」

 

「んん?シャンディーはパナシュと姉妹の契りを交わした仲だろ?後任隊長は彼女で決まったんじゃないのか?」

 

「パナシュと一緒にアルヌスに行きたいと申しております・・」

 

「それは後にしよう、今はスガワラ殿を午餐に連れて行かなければならん」

 

「捕虜の返還希望名簿の草案にはお目を通されましたか?」

 

とハミルトンに言われ

 

「これか・・あっと 第一陣は十四名?十五名じゃなかったか?」

 

「残りの一名はキケロ卿用です。卿の甥御が捕虜名簿に記載されていました。スガワラ殿との引き合わせがうまく行ければ名簿に名を載せます、本当に大丈夫ですか?」

 

「大丈夫じゃないって言ったら代わってくれやるか?」

 

「無理ですね」

 

と即答するもピニャとハミルトンは顔を合わせあ笑った。

 

その頃菅原は、

 

「遅いな十時になるぞ・・」

 

と腕時計を見ながら呟く。

 

「おはようスガワラ殿。相変わらず早いな」

 

「おはようございます。ピニャ殿下。今日もお美しい。(あんたが遅いんだよ)」

 

と菅原は、その言葉を呑み込み。職業的な笑みを浮かべながらピニャの美しさを賞賛する言葉を添える。

 

「キケロ卿邸で午餐、その次はデュシー家で晩餐・・・胃袋が全く足りない・・」

 

「それでしたら、我が国にいい胃薬があるので取り寄せましょうか?」

 

「本当か?なら是非頼む」

 

会話が弾みながらも二人は朝食を食べ終えキケロ卿邸で午餐に出席する。キケロ卿邸は明治時代に建てられた鹿鳴館のようであった。ベランダには大きなテーブルが置かれ、その両サイドには帝国の貴族達が食事をしながら楽しそうに会話をする。テーブルに置かれた数え切れない程の豪華な料理の数々まるで中国の満漢全席のようだった。山羊を丸ごと焼いたものとか、魚と野菜を鍋に溢れるほど詰め込んで煮込んだスープとか、鳥、魚、獣肉、野菜がふんだんに使われていた。果物は、氷雪山脈から取ってきた雪で冷やされて美味しそうだ。しかし、種類と量が凄い。朝食を摂ったばかりの菅原にはかなりキツイメニューだった。

 

「なるほどこれは胃にくるな」

 

「スガワラ殿、彼がキケロ卿だ。キケロ・ラー・マルトゥス、帝国開闢以降の名門の流れをくむマルトゥス家の一族だ。元老院に広く顔が利く重鎮でもある。妾が彼を選んだ理由としては、彼が主戦派の中でも話せる御仁だからだ」

 

主戦派は日本軍に徹底抗戦する典型的な交戦派である。対する講和派日本に和平交渉をする反戦派である。今回の戦争について彼が与するのは、主戦論・皇帝派である。つまり『現在非常事態である。従って皇帝陛下の大権下に、帝国の総力を集結して可及的速やかに軍事力を再建すべし。そして、アルヌスを占領する蛮族を武力をもって追い出すべし』と言う意見の持ち主である。これに相対するのが講和論・元老院派である。こちらは『今回の無謀な戦争は皇帝の指導下で始まったのだから、皇帝の権力を弱めて元老院の集団指導の下、軍事力を再建する。また、アルヌスを占領する敵に対しては、『門』の向こうにお引き取り願うにしても、軍事力とは別の選択肢、例えば講和などの方法も探るべきだ」とする意見だ。そのキケロを交渉の相手として選んだのは、彼が主戦論者の中では比較的話が通じるタイプだと見られたからである。

 

「キケロ卿、こちらニホン帝国の外交特使のスガワラ殿だ」

 

「初めまして(特使ではないのだけど・・・)」

 

「ニホン帝国・・・はて、失礼ながら初めて聞く名だ。どの様な国なのかね?」

 

「はい、我が帝国は四季があって森や水がきれいで四方を海に囲まれた海洋国家です。」

 

その言葉にキケロ卿の夫人があからさまに馬鹿にする様な目線を送

る。文明の遅れた蛮地からの使者がどんな国かと問われ、森や水の美しい国と答えるようでは、他には何もありませんと言ってるようなものだった。

 

「ほう」

 

(やれやれキケロ卿 注意めされよ、既に彼の術中にはまっておりますぞ)

 

「我が帝国の産物を持参しました。ご笑納ください」

 

次に菅原は日本から持って来た特産品をテーブルの上に並びる。

 

(所詮自然だけが取り柄の田舎者・・・)

 

と内心バカにしているキケロ卿は日本の産物に目に入れると目を見開いた。

和紙、反物、漆器類、扇子、煙管、木綿の生地、真珠のネックレス、日本刀など日本伝統の特産品を掲示した。その中でもキケロ卿が興味を示したのが日本刀だった。

 

「これは・・・」

 

日本刀の美しさと鋭い切れ味に度肝を抜かれ、周りの貴族達は煙管を加えて煙をもくもく吸って吐いたり、扇子を手に取ってみたり、生地を触り心地をみたりしている。

 

(帝国にはない謙遜から入ると言う彼の手法は鮮やかなものだ・・・異世界のこれらの品々も貴族だからこそ素晴らしさを理解できる)

 

「いや失礼したスガワラ殿 あの剣といいこれ程の逸品を作るニホン帝国とはどこにあるのかな?」

 

「我が帝国は『門』の向こうにございます、残念ながら現在は帝国と戦争状態にありますが」

 

その言葉にキケロ卿の顔が一気に青ざめた。すくに別室に連れ込み詳しい話を聞くことになった。

 

「ピニャ殿下!これはいったいどういう事ですか!?これは売国に等しい行為ですぞ!スガワラ殿 貴殿もこのままで済むと思わんことだ!!数ヶ月もすれば再編成された新生帝国軍十万が再び『門』を超えて貴国を滅ぼしてくれようぞ!!その時は殿下もご責任をー」

 

「キケロ卿 どうかこれをー」

 

と言って一枚の紙を手渡す。

 

「出征した甥の名ではないか!なぜ貴殿がー まさか生きておるのか!?」

 

「まぁっ」

 

「奥様!誰か!」

 

「ピニャ殿下に仲介の労を担って頂く代わりに殿下からご要望のあった数名の返還を無条件で行います。」

 

「身代金も無しに無条件で!?」

 

「はい 強いて言えば、殿下のお骨折りがその代わりとなりましょう」

 

(殿下の交渉次第で捕虜の返還条約が左右される 交渉の邪魔をすれば甥の命も・・・)

 

「妾は今宵、デュシー家令嬢の誕生パーティーに良き知らせを持って出席する。卿も如何かな?」

 

「デュシー候の御令嬢とは面識は御座いませんが・・(まさかデュシー家にも捕虜となっている者が居るのか!?此処で断って仕舞えば甥は帰還は更に絶望的なものに)是非ともその良き知らせが届く場に、私も御相席させて頂きます。殿下」

 

この後も日本は主戦派の議員に工作活動を仕掛けていく。

 

-----とある荒野-----

そこに一人の女性が立っていた。

 

「アルヌス・・・彼処に茶色の人が・・・」

 

 



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酒場

日本軍がアルヌスの丘に基地をかまえて後、イタリカの戦いを境に周辺は平穏になった。その間に軍幹部はピニャの要請で難民キャンプで語学研修を開始した。研修生はピニャ直属の薔薇騎士団のメンバーに従者、日本から外務省と陸軍省と海軍省の官僚や日本軍士官。講師はカトー・エル・アルテスタン老師ととその弟子レレイと現地語を理解している隊員が担当になった。

当初は、彼女達はピニャが夢見心地の表情で熱く語った、摩天楼や芸術で溢れた都市での研修を希望していた。だが、その国の言葉を片言も話せないのに海外留学が無謀である様に、いきなり東京で受け容れるのも乱暴な話である。

ましてや警備にはじまる諸々の事情もある。そこで日常会話くらいはこなせるよう、日本政府はアルヌスの難民キャンプでの教育を施すことにしたのである。こうすれば日本側も受け入れの準備にも時間をかける事が出来る。

だが、いくら露営の訓練も受けているとはいえ騎士団に属するような高貴な女性たちにとっては、狭い部屋に相部屋というのもストレスの大きいことだ。それを正面からぶつけられる従事者のストレスはもっと大きいということで、インフラの充実がとても強く叫ばれたのである。それに加え、外務省の官僚も難民が仮説で暮らしていて自分達がテント暮らしなんてまっぴらゴメンだと言い出した。そこで臨時の予算が組まれ、仮設住宅よりはちょっとマシな造りの建物が並べられることになった。

さらに井戸を掘って浄水設備を置き、排水路を敷設し、浄化槽等の下水を完備し、これらを動かすための大型ディーゼル発電機を設備した発電所を設置した。こうした小ぶりながらも、日本的な生活ができる環境が整えられた。

難民キャンプでは、日本軍が堕とした翼龍の鱗を換金し収入源としたため幹部は食料や生活必需品などの物資の配給を停止する。

収入源を確保したまでは良かったのだが翼龍の鱗をイタリカまで換金しに行くまでの道の距離が問題だった。日本軍に頼もうにも手続きが面倒なのが難問だった。そこで日本と現地人の間で結束したアルヌス共同生活組合は一つの解決策がアルヌスの村にも換金所を作る事だった。また日本製品と特地の原産品の取り引きが行われ日本が特地での外貨を獲得し日本円の価値が高まり一時期一銭玉の不足すると言う事態も起きた。日本軍陣地の下にある小さな街アルヌス村そこにあるとある1軒の酒場兼食堂があった。

 

「いらっしゃーい」

 

「フゥ!ねぇちゃん!エール!」

 

「エールなんてのはここにはないよ!ビールならあるけどね!」

 

この酒場の看板娘のデリラが言う。

 

「ビール?」

 

「此処でしかない飲めねぇ代物だ 強くはねぇがうまいぞ おめぇさんも組合の面接か何かか?」

 

「あぁ、死神ロゥリィを目にした時は冷汗が出たけど、何とか本部とイタリカの間の隊商護衛の仕事にありつけたぜ」

 

「ほい、ビールお待ちどぉさん」

 

とテーブルに置いてある酒樽から並々注がれたビールが来た。

 

「そりゃ良かったな、今組合には隊商が八つあるんだ。一緒になった時は宜しくな」

 

「おう、こっちこそな」

 

二人はビールのジョッキを交わした。

 

「っかー!冷えててうめぇ!」

 

「だろ?所で前は何してたんだ?」

 

「此処に攻め入った時はれっきとした兵隊だったんだよ、負けた後盗賊にならないか、って誘われたんだけど俺は故郷に帰ったんだ。その後イタリカを襲った連中は、貧乏くじ引いて死神当てちまった様だな、行かなくて良かったぜ。聞くだけ野暮か、人間真面目に仕事するに限るな、へっへっへ」

 

「なんだいなんだい?大の男がコソコソ内緒話かい?」

 

デリラが原産の魚を使った寿司を持って来た、すると近くの客がデリラの尻を揉んだ。すると次の瞬間痴漢した客はデリラの回し蹴りを食らって吹っ飛んでいた。

 

「一昨日来やがれ!あたいのケツはアンタみたいな三下が触れるほど安くは無いんだよ!!」

 

そんな時伊丹と大場に黒川に桑原に堀内にロゥリィの六人が来店した。

 

「おう、やってるかい」

 

「あら、イタミとオオバの旦那!いらっしゃい」

 

二人は此処では『旦那』と呼ばれ慕われている。当の二人は悪い気がしてない。

 

「イタミとオオバの旦那!奥の貴賓席が空いてますぜ」

 

「いいよ、料理長」

 

「俺たちはこの席で構わない」

 

「ドーラ、ビール六つねぇ」

 

しばらく待つとドーラがビール六つを運んで来た。

 

「ハァイ、お待ちどぉさま」

 

「んで、黒川、話して何だ?」

 

「はい、テュカのことなんですが、症状が悪くなってきてるんです、このまま放って置くと危険です」

 

その時酒場の近くでテュカがやって来た。どうも人探しをしている様だ。

 

「テュカぁ 人探しぃ?もしかして男〜?」

 

「へぇ隅に置けないねぇ」

 

「違う違う!ちょっとね・・・」

 

そう言うとテュカは去って行った。

 

「ああして毎日この時分にここに居るはずのない人を探してるんです。どうするつもりですか?」

 

「・・・・」

 

(こんな女の子がビールかっくらってるってこの前指摘した(された)とき・・・)

 

(『坊や』扱いしすぎたかしら?)

 

「・・・でも黒川むりやり現実をわからせる必要あるかしらぁ?逃げちゃいけないのぉ?」

 

「いけないに決まってる、人は現実を受け止めて『明日』を生きている、恐らくテュカの父はドラゴンで死んでるだろう・・・現実と妄想の間で死者を思い描き永遠に近い『今』を消費するのは寂しすぎるだろ」

 

「それはそうだけどぉ・・・」

 

だが正しさだけでは人は救えないとロゥリィは分かっている。九百六十年も生きて来て数々の出会いと別れがあったのだ。

 

「じゃあ黒川、俺達が寄って集ってテュカに現実を見させてみたとしよう。テュカはそれを全て受け止め認めると思うか?いよいよ『あっち』に行ってしまうかもしれないぞ?」

 

「ドーラ、おかわりねぇ」

 

「『心』の内が分かる程お前はテュカを知っているのか?俺達はテュカの心に寄り添い続けられる立場では無いんだ。現実を突きつけた次の日に撤退命令が出たらどうする?」

 

「ではこのままにしておけと」

 

「あぁそうだ、悪い事は言わない。最後まで責任持て無いなら何もするんじゃない。余計拗らせるだけだ」

 

「分かりました!では明日の準備がありますので自分は先に失礼します!」

 

「あ、では自分は軍曹を送って行きます、金は置いときますね」

 

そう言うと黒川は不機嫌そうにしてその場を後にし、桑原も後をついて行く。

 

「さて、俺達もそろそろ兵舎に戻る事にする中尉、行くぞ堀内」

 

「了解」

 

「それでは、大尉」

 

大場も堀内も酒場を出て兵舎に戻って行った。

 

「飲みなさいよぉ、おバカさん。それにしても、あんな冷たい言い方する必要は無かったんじゃ無いのぉ?」

 

「生憎、俺は誰にでも優しくできる程、懐は深く広く無いんだ」

 

「うそつきい」

 

「なにが?」

 

「別にぃ(わざと冷たくしたくせに)」

 

「その懐の定員は一人にしときなさい」

 

「どうしてだ?」

 

「女にモテるからよぉ」

 

「は?逆じゃないか?」

 

「例えばぁ女から見て誰にでも優しくする男ってぇ誰にでも股を開く女みたいに見られるわよぉ。逆に優しくしてもらえるのが一人だけなら、その座が欲しいって思うのが女なのよぉ」

 

「へぇ・・・ロゥリィは優しいな、死と断罪の神とかエムロイの使徒死神ロゥリィだとか呼ばれてる癖に」

 

「あらぁー、それは誤解よぉ。死を司ると言うのは生を司ると言う事でもあるのよぉ。死とは正しく生の終焉・・・最良の死を迎えるには最良の尊い人生を送らないといけないのよぉ」

 

「最良の人生ねぇ・・・」

 

「そうよぉ・・ドーラ!おかわりぃ!」

 

「おいおい、その辺にしとけよ。酔いつぶれても知らんぞ」

 

「やあょ優しくしてぇ」

 

「まったく・・取り敢えずロゥリィは寝床までは運んでやりますかな」

 

と言った感じに弾んでいると、

 

「おい!店主!なんだここは!!ガキに酒を飲ますのか!?」

 

その声に周りの客達が一斉に声の主を見た。その人物は黒いマントを羽織り耳の長いエルフだった。客達は全員が顔に青筋が浮かんでいる。一方でこの一声である人物の作戦がパァーになった。それは、ロゥリィだった。

ロゥリィは酒で酔いつぶれたフリをし、伊丹を自室に連れ込んでそのままベッドに行き刺激的な夜を過ごす。

 

(・・・なぁんてことになるのを狙ってたのにいいペースだヨウジを酔わせてたのにぃ なのになのにぃ・・・このロゥリィ・マーキュリーを・・・ガキ扱い)

 

(何考えてんだあいつ!)

 

(死神ロゥリィにむかってガキって)

 

(血の雨が降るぞ!)

 

(見ねぇ顔だが自分がケンカ売った相手が使徒の亜神って知る前に死ぬな)

 

「ダークエルフ三百歳前後、男好きしそうな身体を見せ付けちゃってぇ・・あなたはだぁれ?何故此処に?」

 

「我が名はヤオ・ハー・デュッシ、シュワルツの森のデュッシ氏族でデハンの娘、こちらに『茶色の人』がおられると聞いて用件ありて参った次第」

 

「お願い助けて!!この男もう飲めませんと言ってるのに俺の酒が飲めないのかってしつこいです!」

 

「・・・え?あぁぁ!?!?俺が!?」

 

気づくと周りの客達が机を持って離れてる。

 

「やはりな貴様幼い少女を酔い潰して卑劣な行為に及ぶつもりだったな」

 

「ああっ私を手篭めにして、散々遊んでボロくずみたいに私をぉ・・・」

 

「もう大丈夫だ、怖かったであろう、獣欲に塗れた不埒者め断じて許さん」

 

そう言うと腰に吊るしている剣を抜く。

 

「えぇ!?」

 

「直ぐに貴様をぶっ殺してやる!!幼女よ安心するが良い」

 

「逃げるが勝ち!料理長ツケで頼む!」

 

そう言って伊丹は逃げた。

 

「はや!」

 

「さ〜すかイタミのだんないい逃げっぷり」

 

「・・・・よし悪は去った。もう大丈夫ーん?」

 

見るとロゥリィも居なくなっていた。

 

「なんだ礼儀知らずなガキだな 年格好からするとエムロイ神殿の巫女見習いみたいだが・・・」

 

店の客は何事もなかった様に皆が酒を飲み交わす。

 

「ちょっとあんた冷やかし?それとも飯食うの?」

 

「うむ もとからそのつもりだった」

 

するとヤオは黄土色の軍服を着た日本兵に目が移る。

 

(さっきの男も同じ服を着ていたが・・・)

 

「お客さん何にする?」

 

「ああ 適当に焼き物をあと酒があれば頼む」

 

「デリラ この姐さんにビールだ」

 

デリラはジョッキにビールを入れる。

 

「よう おめぇさんよ。茶色の人を訪ねて来たってぇ?」

 

「訳ありだにゃ?話してみ?」

 

「あ ああ。此の身がここまで来たのは茶色の人達の力を借りるためだ。諸君らは彼らがどこにおられるか知っているか?」

 

(なるほどなそれでロゥリィはあんな芝居を)

 

(ガキ扱いした仕返しか)

 

(ご愁傷様)

 

(あんたはその茶色の人ーーイタミの旦那に剣抜いたんだよ)

 

「・・・もしかすると、無理かもしれんなぁ」

 

「そうだにゃあ」

 

「なぜだ?茶色の人は高潔な者たちと聞いている。ならば困った者を見捨てることなどー」

 

「はい、お待ち!」

 

とデリラがビールとつまみをもって来た。

 

「うむ・・これがビールか?ん うまい!」

 

「とりあえず、話は食ってからでもいいんじゃない?」

 

「無論、ただでとは言わん」

 

と大きな袋を取り出した。その中身は人の顔サイズのダイヤモンドだった。

 

「金剛石の原石だ。これでも足りぬと言うのなら我が身を捧げることも厭わぬ すでに親類縁者とも別離はすませた」

 

すると周りの客たちが一斉に寄って来た。

 

「人の頭大の金剛石!?爵位が領地付きで買えるぜ!」

 

「俺が!」

 

「ダークエルフ謹製のハーディの護符だけでもすげぇ価値だ!しかも自分の体まで!」

 

「俺でどうだ?」

 

と次々に名乗り出るが

 

「残念ながらそなたらでは力不足だ」

 

「いったい頼み事ってのはなんなんだ?」

 

「手負いの炎龍退治だ」

 

 

ーー回想ーー

数ヶ月前 シュワルツの森ー 突然の炎龍襲来我々は村を捨て周辺の渓谷や山に逃げた だが炎龍は隠れ穴も見つけ出し仲間を食らってゆく我々も食わねばならぬ我々の狩り場は即ち炎龍の狩り場ー広まる飢え呪詛の声のやまぬ日々魔法の剣と神銀の鏃で戦いを挑んだ者も炎龍の巣に無数の剣に拡がる 剣を一本増やしただけー冥王ハーディ信仰が憧れとなり変わり絶望の微笑と虚無が我が部族を捕らえてゆく・・・そんな中だったー

 

「あきらめるな!炎龍の目に突き立った矢!神業のエルフがいた証拠だ!あのちぎれた腕を見ろ!誰かがやったんだ!」

 

「噂ではヒトの村を救った『茶色の人』が『鉄の象』を操って吹き飛ばしたと・・・」

 

「茶色の人!?」

 

『茶色の人こそ我らの最後の希望』

 

「ヤオ・ハー・デュッシよ」

 

「そなたの剣の腕と知性精霊使いの力なによりその生真面目さにこの任を託す」

 

「滅びの運命から我らを救うため茶色の人にご助勢を願うのじゃ」

 

「ハッーしかしなぜ女の此の身が?トゥドゥルムの方が力もありましょう」

 

それを聞いて長老たちは顔を引きずる。

 

「それはーそなたが女だからじゃ。この意味がわかるな?覚悟はできているか?」

 

「もちろんです」

 

「本当か?本当にか?」

 

「はい」

 

「ひどいブ男かも知らんぞ」

 

「あの・・・此の身が使者でいいんですよね?炎龍の首が此の身の代価なら本懐です」

 

そう言ってヤオは洞窟を出て行く。

 

「・・・しかしヤオの運、特に男運のなさは有名じゃぞ?」

 

「親友に彼氏を寝奪られるは、別の男と結婚前夜に死に別れ言い寄った男は事故死・・・」

 

「言うな、もうあの者に託すしかないのじゃ・・・」

 

と、ヤオの男運の悪さに心配する長老達だが、ヤオを信じるしかなかった。そして、現在へと戻る。

 

「炎龍退治・・・」

 

「どうだ?できるか?」

 

「無理無理 命がいくつあっても足りねぇ」

 

「神や使徒ならともかくよ」

 

「ち 茶色の人が引き受けてくれるといいな・・・」

 

(((((しっかし・・・))))

 

全員一同店にいる日本兵を見る。

 

「何のはなしだ?」

 

「さぁ 特地語は片言しかまだわかんね」

 

(((((とことん運のねぇ奴・・・)))))



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依頼

翌日帝国陸海軍航空隊は訓練に励んでいた。この時神子田中佐と久里浜中佐が操縦訓練を行おうとしていた。

 

「領空侵犯機も民間機もいねぇ 俺らだけの空だぜ 久里浜!迷子だけはかんべんだけどな」

 

「俺を誰だと思ってんだ神子田」

 

と二人は零戦に乗る。零戦はエンジンのうねりを上げる。そんな時零戦の大馬力のエンジン音に森で就寝していたヤオが目を覚ます。

 

「ここはー(・・・ああ宿がなかったから野宿したんだ ここにもエルフがいるそうだがいい森だ風の精霊もー)」

 

と内心呟いていた時上空を4機の零戦が通過していく。

 

「どぉだぁ ついて来れるか西元ぉ!」

 

「後ろにつかれた!右に旋回!こなくそ!」

 

「オラ!ケツ奪ったぞぉ」

 

「まだまだぁ!端原目離すな!」

 

ヤオはそんな零戦の空中戦を目にしていた。

 

「緑色の飛竜・・・ーいや」

 

人が!人が乗っている!!噂は本当だったー

 

「彼らならたやすく炎龍を倒せるに違いない!」

 

その頃基地では

 

「日本の伝統工芸の数々に現代の利器ーって日本酒もかよ!一本くらいがめてもわからんよな」

 

「やめてくださいよ 柳田中尉 おれたちの武器弾薬なんですから」

 

「自分達で飲んでんじゃないのか?」

 

「こっちの金は活動資金か」

 

「ええ 柳田中尉に協同組合から買い上げてもらった物です。抱かせ食わせ飲ます 金を使ってでも不平不満分子をこちらに取り込む 基本ですよ」

 

「発展途上国の役人には効くだろうな」

 

「賄賂と恫喝が外交の基本と思ってますからね。ソ連なんて典型的ですよバルト三国や中央ヨーロッパにすぐ武力をちらつかす。一度でいいからやれるもんならやってみなと言ってみたいですよ」

 

「ここで言えばいいじゃん?」

 

「そうもいきませんよ まだ二十世紀とは言え 我々はもう帝国主義じゃないんです。特地の政体は維持していく方針の可能性もありますし禍根は残せません。今は講和派を増やすのが第一です」

 

そう言っていると一式陸上攻撃機がやって来た。日本兵達は伝統工芸品を一式陸上攻撃機に載せていく。

 

「んじゃ伊丹 大尉 後は任ましたぞ!」

 

「おう 任されて!」

 

「任された!」

 

と言っていると一式陸上攻撃機は離陸して行く。

 

「イタリカで一度給油してから帝都近郊の山中に降ります。そこから徒歩で一日半です。皆さんまさか革靴じゃないですよね?」

 

「あそこは湿気が多いので革靴じゃ厳しいですよ」

 

「大丈夫ですよ 伊丹さん 大場さん ほとんどが東南アジアのジャングルで経験済みです」

 

そう言って自分の靴を見せる。そして一式陸上攻撃機はヤオの頭上を通過した行く。

 

鉄の逸物

 

鉄の飛竜

 

鉄の鳳

 

「ここまで来ると 茶色の人はなんでもありだな」

 

と言ってアルヌスへ向けて走る。

 

「(茶色の人 茶色の人ー確か茶色の服を着ていたと・・・茶色のー)あ そういえばきのうのあの不埒者も店の中にいた者も茶色の服を着ていた・・・もしや茶色の人とは・・・」

 

そう考えていると訓練中の日本兵が目に入った。

 

 

あの服を着た者達か!?

 

『そっそなた達!茶色の人であろう?此の身の話を聞いてくれないか?我が名はヤオ・ハー・デュッシ シュワルツの森よりまかりこした。数ヶ月前 炎龍が突然現れー部族は滅びの道を・・・我が一族に救いの手を差し伸べて欲しい 切に頼む!』

 

と日本兵に頼むがここに居る日本兵達は特地語が全然理解出来なかったのだった。特地語は理解出来ないが話せる日本兵がいた。

 

『こんにちは ごきげんいかが?』

 

と呆気にとられた。その後ヤオはアルヌス村の建物の片隅で思い老けていた。

 

(困った 半日かけて同じ服の者に声をかけてみたが結局 言葉が通じないのが基本であって よくても片言しか通じないのがわかっただけ こんなことをしている間にも同胞は炎龍に・・・)

 

そんな時

 

「ダークエルフのお姉さぁん 茶色の人探してるって?俺が案内してあげようか?」

 

「居場所を知っているのか!?」

 

「ああ こっちだついてきな」

 

とチャラ男に森に連れていかれた。

 

キン⭐️

 

「ひいいいっ」ピョンピョン

 

と金的をやられたチャラ男は逃げっていた。

 

「やれやれ・・・商売女とでも思ったのか?礼儀をわきまえてくれれば誘いに乗らんでもないのに 財布落としたぞ」

 

アルヌスの市場では人々の行き来が盛んだった。

 

「いよぉねぇちゃん 俺達ゃ帝都帰りでしばらく休みだ 暇なら俺らと遊ばねぇか?その旅装束だとしばらくご無沙汰だろ?」

 

「ふむ そなたのモノで満足できるかな?」

 

「帝都の商売女も見て見ぬふりしてくれたのにーっ」

 

ヤオの何気ない一言で男は泣きながら去っていた。周りの人も冷ややかな目で見ていた。

 

「・・・すまん」

 

そんな時ヤオは箱に入っている布に目を止めた。

 

「ほう この光沢・・・美しい布地だな」

 

「そうだろう?「さてん」という異国の布だ そうだ」

 

「だからーここじゃ小売はしてないんですよ 帝都やイタリカの支店でー」

 

「ログナンとデアビスの支店にも行ったが在庫なしだ 頼むよお得意先の貴族に言いつかってるんだよ 『某家のより素晴らしいドレスを我が娘に!できなければーわかっておるな?』ーてな いいか?今 帝都の社交界はアルヌスのせいで大変なことになってんだ!」

 

 

突然ごく一部の婦人達が纏いだした絢爛豪華なドレスや飾り物 肌つやのよくなる化粧品や胸の大きくなる下着

貴族の婦人方の競争心や虚栄心はすごいもんだ。

 

「帝都の服飾業界はパニックさ」

 

とあるお針子が白状させられ その情報はあっという間に業界に広まった

すべての出所がアルヌスを指している!

 

アルヌスの服屋では着物、大正時代の女学生服や女中の服、明治時代に流行ったコルセットで締めるドレス、Yシャツ、ワンピース、布生地などが売られていた。

 

「王家の色・・・貝紫の生地がこんなに・・・」

 

「この服の手触り!!」

 

"店のあった異国の図絵でドレスの型自体変わっちまった"

その本には明治時代のドレスを着た女性の写真や大正時代の女学生や女中の写真などが記載されていた。

 

「なにこの絵」

 

「魔法で人間が閉じこめられたの?」

 

「この変革に乗り遅れたらおしまいだ な?助けると思って!」

 

「でもなぁ・・・」

 

「ふむ ならばこうすればどうだ?この商人から保証金をもらい帝都の支店まで品物を運んでもらう 保証金の預り証と引き換えに支店で品物を引き取るのだ」

「なるほどそれなら品が届かなくても損しませんな」

 

「そのまま私が荷を買い取ってもいいので?」

 

「さすがダークエルフ」

 

「奸智に長けてますな」

 

(常識ではないのか・・・?)

 

ヤオは二人に提案して去っていく。その後ヤオは服や雑貨などを売っている店に足を運ぶ。

 

(きのうは夜でわからなかったがこんなでかい店 見たことがない)

 

と思い中に入っていく。

 

「いらっしゃいませー」

 

中に入ると色々揃ったいる。

 

「(すごい 品揃えだな)!」

 

あの者達言葉が通じる!?

 

「これもいかが?エムロイのお守りにゃ」

 

「じゃあそれもー」

 

「ありがとうございましたー」

 

(違う 店員が茶色の人の言葉を話しているのか)

 

「いらっしゃいませー にゃんだきのうの・・・茶色の人は見つかった?」

 

「そ そなた今 あの者らの言葉を・・・」

 

「ああ 「ニホン」語?「赤本」があるにゃ」

 

『ニホン語日常会話』アルヌス協同生活組合編集 カトー・エル・アルテスタン監修 部内での教育目的以外の使用を禁ず用済み後は要焼却。

 

「これは・・・買えるのか?」

 

「組合の従業員か語学研修生に支給されるにゃ だいいちこんな立派な本私達の給料じゃ買えにゃいし」

 

「そこを伏して頼む そなたもきのう此の身の話を聞いたであろう?茶色の人に言葉が通じず困り果てているのだ」

 

とヤオは机に手をついて頭を下げる。

 

「頼まれても無理にゃあ(ここで下手してクビにでもなったら仕送りでもってる実家や一族がまた離散なんてことに なにより亜人の私達を受け入れてくれたフォルマル家の顔に泥を塗りたくない 経費は天引きされないし休んでも給料がもらえるし・・・こんな楽園みたいな職場紹介してくれたんだから・・・)ごめんにゃ 今 上司もいないから・・・」

 

「時間がないのだ 頼む!」

 

「メイアさーん 巡回や なんか困ったりしとらんか?」

 

と憲兵の腕章を付けた日本兵が入って来た。

 

「あ はい だいじょうぶ」

 

「そら えかった」

 

「ん?こちらのエルフ 届出のあった女じゃないか?」

 

「あ?誘ってきたのに股間けられてカツアゲにあったって与太話のか?見た目は二十代後半 褐色肌に銀髪 エルフの耳 マントに革鎧のすこぶるべっぴん」

 

「どうする?」

 

「駐屯地と街は憲兵隊の管轄やしょうがないやろ 犯罪がホンマやったらフォルマルはんとこに引き渡しゃええし 他の日本人の被害者がおったら東京地裁や」

「あー あなた 話 ちょっと 聞かせて 欲しい」

 

言葉の通じるニホン人!?

 

とヤオは感激した。遂に言葉の通じる日本兵に会えたのだ。

 

「いいとも!いいとも!」

 

「ぜったいなにか勘違いしてるにゃあ・・・」

 

一方アルヌス郊外の森

そこではレレイが魔法の練習をしていた。

 

「う〜む 見事じゃレレイ言葉もない 汝が展開した「理」を語るがよい」

 

「我々リンドン派の魔導師は戦闘魔法の大家と恐れられている しかし その実「法理」によって「虚理」を展開し「現理」たる自然現象を応用しているだけ このように 物質が静止しているという「現理」に干渉して」

 

レレイは小石を浮かせ木に小石をぶつける。

 

"だがこれも多くの石弓を揃えれば同じことができてしまう 戦闘の規模が大きくなり展開も早くなった戦場では「起動式」を立てるのに時間のかかる戦闘魔法は重要度が低下した"

 

「さらには「門」の向こうのニホン軍が持ちこんだ機械」

 

"「銃」や「砲」の出現 「虚理」より「現理」そのままの方が効率的 いずれは技術に魔法が追いこされることになるのはわかっていたがそれがニホン軍が現れたことで突然起きてしまった"

 

「「門」の向こうでは「現理」の探究がはるかに深く広く行われている ならば「門」の向こうの「現理」を魔法に使えないか?例えば「炎」についての研究ーー」

 

"これを用いて爆轟を試みた 「虚理」を用いて空中から焼素と然素を引きはがし"

 

「力場を封じて適度な密度に集める そして「虚理」から一気に解放すると・・・」

 

レレイが指パッチンをすると光の球が破裂した。

 

「我々はこの爆轟と密閉した容器が熱されて起きる破裂を取り違えていた 「門」の向こうには火薬という物がある それが今出した光球にあたる」

 

レレイがまた指パッチンをし光球が破裂した。

 

「だがこれによる爆轟は 音と光と一瞬の熱だけ効率も悪い・・・」

 

「・・・うむ 理に適っておる 今まで手の届かなかった爆轟という現象を操れるようになったのだ 異界の研究に示唆を受けたとはいえ これは博士号に値する功績ーーーん?お客のようじゃ」

 

そう言うと憲兵の腕章を付けた日本兵が現れた。

 

日本軍司令所に憲兵隊に同行することになった人物がいる。

銀髪のロングヘアに褐色肌のダークエルフのヤオ・ハー・デュッシだった。

旅をしながら日本軍の噂を聞き付け遥々やって来た彼女は日本軍にとある依頼を頼む為にアルヌスへとやって来た。今ヤオは、憲兵に取り調べを受けていた。そこで総司令官今村大将と参謀総長栗林中将と参謀長の狭間中将が対談をする。応接室のソファーに腰掛け今村大将との話を始める。

 

「お待たせしました」

 

「此方は大日本帝国軍の今村将軍と栗林将軍に狭間将軍です」

 

「此の身はヤオ・ハー・デュッシ。シュワルツの森より遣わされたダークエルフです」

 

「話は伺っております。我々に何やら依頼したい事があるとか?」

 

「は・・はい」

 

ヤオは、腰につけていた袋を取り出した。その中身は、何百カラットのダイヤモンドで、売れば何百万いや何千万になるのか計り知れない。

巨大なダイヤに将官達は目を奪われるが直ぐ様姿勢を整え直し詳しく話を聞いた。

 

「今より数ヶ月前・・此の身の故郷であるシュワルツの森に片手を失った手負いの炎龍が現れております」

 

「片腕を失った炎龍」

 

「奴は我が集落を焼き払い、幾多もの同胞を殺めた・・・炎龍を討つべく武器を手に立ち向かった者も・・誰一人として帰ってくることはなく・・」

 

「片腕を失った炎龍は、恐らく第三偵察隊の伊丹中尉と第一偵察隊の大場大尉が撃退した炎龍で間違い無いでしょう」

 

「えぇ。間違いないでしょう。それで、我々に依頼したい事とは?」

 

「お願いです・・・どうか将軍達の軍勢を此の身の故郷に・・・炎龍を倒す助力をお願いします」

 

「・・・つまり、貴女の故郷が炎龍によって滅びようとしているので助けて欲しいと?」

 

「その通りです」

 

栗林中将がそう尋ねる。どうやらそうらしい。ヤオが故郷のシュワルツが炎龍に襲われ始めたのが2ヶ月位前の事で手の打ちようがないと絶望感に打ちひしがれていた矢先にある噂話を耳にしたその炎龍に手傷を負わしたのが日本軍であると掴んだ。

 

「我々も炎龍の退治は検討しています」

 

「そ、それでは」

 

「だが場所が悪いのです」

 

総司令官今村大将が地図を指差した。

 

「貴女の故郷のシュワルツの森ですが、其処は帝国との国境を超えたエルベ藩王国なんです。軍が国境を越える意味は語らずともお分かりになりますな?」

「そ、それは・・・」

 

今村大将の指摘にヤオは言葉が出ない。

 

「た、大軍でなくても良いのです。茶色の人・・・数十人程だと聞き及んでいます。その人数なら軍勢とは言えないはず・・・」

 

「滅相も無い・・・そんな人数で危険な炎龍と相対させるなど部下を無駄死に追いやるも同然。自分にはその様な命令を下す事は出来ません」

 

此処にいる兵士達に家族がいる。妻子も居れば親兄弟だっているのだだから只の一人の兵も無駄に死なせる訳にはいかないのだ。

 

「クフゥ・・」

 

ヤオは、下を向きながら涙を零した。

将官達には、重々しい空気が漂う。

 

「遠路遥々おいで下さったのに・・・申し訳ない」

 

と参謀長の狭間中将が言う。

それから暫くして対談が終了したが余りにも後味の悪かった。雨が降る中九三式小型乗用車でアルヌスの村に向かうヤオと付き添うレレイ。何を思ったのか運転を任された参謀の柳田明中尉が独り言の様に口を開く。

 

「俺達の世界の軍隊ってのは偽政者が動かす暴力措置だ。個人が独断で動かしちゃいかんものだ。・・だが・・伊丹、大場大尉ならやるかもな。あいつらが大切な物を救う為なら・・・」

 

「イタミ、オオバならやるかもしれないと」

 

「イタミ・・・オオバ・・・」

 

柳田中尉の言葉をレレイが通訳する。ヤオがその二人の名前を呟く。

 

 

 



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園遊会

帝都 皇宮のあるサデラの丘、白亜宮殿と神殿が建ち並んでいる。

その中でも豪華絢爛な館の中では、金髪で筋骨の男と白銀の髪で兎耳がシルエットの女が交わしていた。男は女の首を絞め、女はもがき苦しみの声を上げる。

 

「あっ ぐっうっ あっ ひぐっ ぐがっ あっあっ でっ殿下・・・お許し・・・をっ」

 

「んん〜?ヴォーリアバニーの族長がその程度か?どうした?もっといい声で啼かんか!啼け!!」

 

男の名はゾルザル・エル・カエサル。帝国第一皇子で、ピニャとは腹違いの兄である。彼女は、ヴォーリアバニー国の女王 テューレ。長時間、凌辱され、力尽きたテューレはベッドに横たわる。

 

「ハァッ」

 

「フン 物足りんな忘れたのか?お前の同胞の運命はお前自身の献身にかかっているんだぞ?」

 

「あん お許しを・・・殿下・・・お慈悲を・・・」

 

「もういい!失せろ!!」

 

ゾルザルは、使い果たしたゴミを捨てる様に追い払い、メイド達を呼び出し着替えを始める。

ゾルザルは、三年前にヴォーリアバニーの民族を襲撃し、残虐な殺戮の限りを尽くして来た。テューレは一族の命助ける事を条件に自らを犠牲にする事を選んだ。だが、ゾルザルは一方的に条件を破棄し、一族皆を皆殺しにした。その真実をテューレは知らなかった。着替えが済むと、マルクス伯が部屋に入って来た。

 

「・・・いいかげん飽きたな あの兎女にも」

 

「ゾルザル・エル・カエサル殿下。いけませんな、皇太子とあろうお方が汚らわしいヴォーリアバニーなどと・・・」

 

「マルクス伯か 俺は開明的な男だから種族で差別などせんのだ。ハッハッハッ!」

 

「し、しかしもし孕んだりしますと・・・」

 

「そりゃいい、俺の子が奴等の王か。と言っても奴等の国など疾っくの疾うに滅んでいるのだがな。テューレの奴、そんな事も知らずに慈悲を乞うていたよ。おっと テューレの耳はできいからな、聞こえたらまずいまずい」

 

(・・・残酷なお方だ)

 

"三年前 一族を救うために身を捧げたテューレは国が滅んだことを知らない。その族長自身は国を売った裏切り者として生き残りに命を狙われているという"

 

(この方が皇帝になったときを考えるとゾッとする)

 

「ところで何の用だ。マルクス内務相覗きか?なんならテューレの奴譲ってもいいぞ?」

 

「め、滅相も無い 実は・・・元老院議員の一部に不穏な動きが・・・」

 

「・・・・フン、どうせディアボだろ?皇位継承順位をゆがめようと・・・」

 

「いえ殿下、弟君ではありません。アルヌスの門の向こうから来た敵の使節が議員達の買収工作を進めているそうなのです。講和交渉を有利に進める為に、今この瞬間にも皇帝庭園にて・・・」

 

それを聞いて、ゾルザルの顔が険しくなった。

 

「なんだと?」

 

「最近になり門の向こうで捕虜になっている者が相当いる事が明らかになりました。議員達はそれらの身柄と引き換えに譲歩を迫られているに違いありません」

 

「なんて卑怯な・・・肉親の情を付けいるとは・・・蛮族らしいやり方だ・・・分かった、俺が自ら出向いて使節と議員共に忠告しておいてやろう。俺の馬を用意しろ!・・・ところでマルクス伯 なぜ俺に伝えたのだ?父上ではなく」

 

「皇帝陛下の耳に入ると事が大きくなると思い・・・元老院との対立は帝国にとっては良い事ではありません。次代の皇帝陛下にとりましても・・・」

 

「そうだな、ディアボを利する事に成りかねんしな。よし!行くぞ!」

 

そう言ってゾルザルは数人の側近達を連れ、庭園に向かった。マルクス伯はそれを眺めながら

 

「馬鹿がせいぜい派手にかき回して来い」

 

一方帝都郊外、皇室庭園

此処では現在、ピニャと大日本帝国の大使菅原浩治による捕虜として捕らわれた者の家族や講和派貴族達の家族を招いた園遊会が開催されている。

会場では第三偵察隊と第一偵察隊の古田が海軍陸戦隊の人達から教わった海軍カレーと板前で培った寿司を振る舞い、栗林と船坂と富田は女性でも出来る護身術を伝授し、桑原と水木と池部は日本のお菓子を子供達に振る舞う、その他の隊員はサッカーやテニスなど男女問わず来賓者達を楽しませた。

そして古田と横井の作った海軍カレーは大好評だった。海軍カレーにも色々ある横須賀海軍カレーや呉海軍カレーや舞鶴海軍カレーや佐世保海軍カレーなどあるが今回古田が出したのは横須賀海軍カレーだ。

更に子供達にはキャラメルや飴玉やグリコやチョコレートやラムネにコーラやアイスキャンデーが人気があった。

 

「ピニャ殿下」

 

「おお ドゥエン殿久しいな御壮健か?」

 

「はい 此度は家族共々 このような素晴らしい催しにお招きいただき皆 喜んでおります」

 

「それはよかった ドゥエン殿この催しを考えたスガワラ殿だ」

 

「菅原です お見知りおきを」

 

「こちらはマーレ家の三男ドゥエン殿。先日お渡しした リストに兄上の名がある後ろの御仁はー」

 

と話しそのあとピニャと菅原は庭園を散策する。

 

「議員や伯爵、伯爵の一家一族を一堂に招待する催しとは、雅量な心をお持ちであるな、スガワラ殿」

 

「ピニャ殿下 私がこの園遊会を考えたと言っても実質フォルマル家のメイド長に任せきりですし・・・殿下が要請したので?」

 

「いや、伯爵家から協力の申し出があったのだ。イタリカは今景気がいいアルヌスとの交易でな」

 

「しかし・・・あの家からメイドにしてはヒト種ばかりですね。イタリカに行って初めてここは異世界だと実感したのですが」

 

「・・・帝都ではな」

 

(なるほど・・・そういえば帝都の貴族の家ではヒトばかりだった)

 

「スガワラ殿 あのニホン人は?」

 

とピニャが指差す方向に料理をする古田の姿があった。

 

「伊丹さんの部下で古田と言います。元一流料亭の料理人だとか」

 

「どうりで帝都にはないあじだ しかしイタミ殿の部下は・・・よい人材が揃っているな 彼らが来る前までここにいた者達は無骨でまじめすぎる感があったが」

 

「それが普通です。伊丹さんの隊は・・・やはり隊長の性格のせいですかね」

「なるほどな この催しには適任か しかし 今日は家族ぐるみでよかった 楽ができる。騎士団などの社交の場で接待役なぞしたら男女の介添えで食事する暇もないからな」

 

「わかります」

 

その時、後ろから少女が走って来た。

 

「スガワラ様!従姉妹が真珠の首飾りを見せびらかすのです。わたくし くやしくって くやしくって!」

 

少女は菅原に抱きつき、顔をジッと見続ける。両親が慌てて駆けつけて少女を引き離す。

 

「シェリー!おやめなさい!」

 

「ピニャ殿下 スガワラ様 娘の無礼をお許しぐさい」

 

「テュエリ家の者だ 元老院の重鎮ガーゼル侯爵の類縁にあたる」

 

「ガーゼル候の?」

 

菅原は戻ろうとしている少女と両親を呼び止めた。

 

「まあまあ そんなに叱らないでください シェリー様、御両親を困らせてはいけません。いい子にしていたらきっといい贈り物が届くと思いますよ?」

 

その優しい言葉にシェリーは菅原に惚れた。

 

「口説くのが上手いな、あの娘の表情を見たか?貴殿に惚れていたぞ?」

 

「ピニャ殿下、御冗談を。ガーゼル侯爵との繋がりは是非にと思いましたね」

 

「成る程な、まぁ許せ。ところで、イタミ殿とオオバ殿はどこだ?」

 

「あちらです」

 

(イタミヨウジ・・・か あのような目に遭わせたのに何も言わないし仕返しもしない 妾はやや避けられているようだが・・・イタミの性格に救わられた思いだ 妾への復讐なぞリサ殿との連絡役をやめるだけで充分 「芸術」への糧道が断たれれば我が身の精神的破滅ーーイタミの好意を繋ぎ止めるためなら手段は選ばん!そのための対イタミ突撃隊員も研修生の中に待機させている これも「芸術」振興のため!)

 

「殿下?」

 

そして先では立入禁止の草原の場所では伊丹の第三偵察隊と大場の第一偵察隊の2名が講和派の議員に明治38年採用の有坂三八式歩兵銃を構えさせ数m先の壺目掛け6.5mm弾を撃ち込む。

 

バァーン

 

と銃声が響き弾丸は見事に壺を粉々にした。射撃を体験しているキケロ卿はこの威力に言葉を失った。続いて恐ろしく強力で『ヒトラーの電動ノコギリ』と恐れられた機関銃MG42だった。7.92mmモーゼル弾の機関銃の射撃が行われた。

 

ドゥロロロロー

 

毎分1200発の発射速度に議員達は思わず耳を塞いだ。そして標的の並べられていた壺は全て粉々になった。

 

(これが'ジュウ"の威力だ、キケロ卿)

 

「如何でしょう。これが三八式歩兵銃と機関銃MG42の威力となります」

 

「こ・・・これはどうやって作る?売ってくれまいか?」

 

「え〜と・・作ってる所も売っている所も見た事が無いので分かりかねます」

 

「あ〜作ってるところ見たことないのでわかりかねます 買ったこともないのでーー」

 

「・・・・」

 

「えー皆様次にに88mm砲をご覧下さい」

 

そう言い少し離れた場所にドイツ軍の88mm砲が設置され議員達はそれを見る。

 

「なんだ あの筒は?」

 

「危ないので近付かないでください 向こうの斜面に注目ー」

 

「距離200。榴弾装填」

 

「距離200。榴弾装填完了」

 

「撃ってえぇー」

 

砲兵隊の88mm砲より発射された榴弾は200m離れた場所に着弾し大きく爆発する。

 

「!?」

 

「弾着」

 

「初段命中!」

 

弓兵の射程距離外からでも攻撃出来る88mm砲に驚愕する議員達。そして砲兵隊は続け様に砲撃する。

 

「ひ!?」

 

「わっ」

 

けたたましい爆発音が辺りに響く。

 

「こ これは どのくらいまで届くのだ・・・?」

 

「えーとこちらの単位で三リーグくらいですかねぇ」

 

「三リーグ!?」

 

「は はるかかなただ」

 

「魔法も届かん」

 

「戦場がすっぽり収まってしまうぞ」

 

「もう一つ・・・ジュウという武器 貴殿らはいかほどの数揃えておるのだ?」

 

「軍記につきお答えできませんが兵士一人一人持っていると考えてください」

 

と大場が議員らに言う。それを聞いて議員達は青ざめる。

 

一人一つ・・・戦えば負けるーーいや 滅びる

 

「デュシー候」

 

「うむ・・・これ以上のニホン軍との戦いが続けば我等は敗れる」

 

これ以上の日本軍との戦闘は無謀だと判断したデュシー候の様子を伺いに来た菅原が歩み寄る。

 

「スガワラ殿 ニホンはなぜ講和を求めるのか?戦えば勝てるとわかっているのに」

 

「なぜならば 我が帝国が求めているのは平和だからです」

 

と菅原は言う。

 

「平和・・・か・・・耳心地の実に良い言葉だ・・だが・・勝って与えられる平和は非常に美味で負けて与えられる平和は実に不味い。同じ平和だと言うのに真逆の意味が含まれている」

 

「これまで儂等は勝って与えられる平和しか知らなかった。ニホン軍に帝都が蹂躙される前に講和交渉が必要だろう。其方の和平にどの様な条件を出すつもりか?」

 

「我が帝国が求める条講和条件はーー1つ目帝国は戦争犯罪の責任を認めて謝罪し、責任者を処罰する事。2つ目は帝国は賠償金として五億スワニもしくは相当の地下資源採掘権を支払う事。3つ目はアルヌスを中心とする半径100リークを大日本帝国軍に割譲し、その外側10リークを非武装地帯とする。そして4つ目は通商条約の締結・・・これらの4つが我が帝国が掲示する条件となります」

 

「五億スワニ!?」

 

「無茶な!?世界中の金を集めてもそんな額にはならんぞ!」

 

「ス・・・スガワラ殿・・・最早それは帝国の死刑判決と何も変わらないではないか。そんな面倒な事をせずともさっさと妾達を殺せばよかろ?」

 

五億スワニの賠償金に議員達は唖然となる。一方のピニャは改めて大日本帝国と帝国の差が圧倒している事に倒れてしまった。

 

「妾は化物を連れて来てしまったのか?ス スガワラ殿 それは・・・帝国への死刑宣告と変わらねではないか そんな手間をかけずともさっさと妾達を殺せばよかろ?」

 

「五億スワニは衝撃すぎましたか。単純に金貨を我が帝国の相場に当てはめただけなんですが・・・それでも年間予算を少し超える程度なんですよ」

 

「・・・・っ」

 

「五億スワニもの額がたった一国の年間予算と同じだと?」

 

「ニホンとはそれほどの大国なのか・・・」

 

 

"スワニ金貨は特地世界で最も価値がある貨幣 金の含有率は六十グラム 主に貯蓄に使われる。商取引に使われる機軸通貨はシンク金貨で大きさは五十銭ほど通常五シンク=一スワニとなる。一般に流通しているデナリ銀貨 兵士の給料として使われるソルダ銀貨 他にそれより質の劣る各種銀貨銅貨がある。現在市場の一部ではアルヌスの戦いで戦死した兵士が所持金ごと埋葬されたため貨幣不足が起きている"

 

「(この上 帝国が金を集めようとすれば特地経済は破綻する。そしてそれだけの金を一度日本へ持ち帰れば同じく世界経済が破綻する。だから五億スワニなど支払われても困る。賠償額が『決まってない』とは言えないから戦後の前例を参考に決めただけなんだよな)えー 皆さん 落ち着いてください つまりですね・・・」

 

日本にとっては賠償金は囮だった。此れは聯合艦隊司令長官山本五十六の発案で賠償金を支払うのが普通だが日本にとって重要なのは資源だった。資源に乏しく輸入に頼っている日本とってこれが重要だった。更に先の大戦で戦費や関東大震災でのアメリカからの復興公債を返すのにも必要なのだ。

 

「・・・要は賠償金に関しては応交渉ということか?」

 

「そうです」

 

(負けた国なんぞ属国化や君主を追放 死刑にして民は奴隷化するのが当たり前だが・・・)

 

(賠償金をどうにかできれば軽い条件だ)

 

「賠償金額に関しては双方が納得するものにせねばな」

 

「では正式な講和会議の日程を取り決めましょう」

 

「捕虜の帰還についても考えなければな」

 

講和会議への円滑に進んでいる中で、伊丹と大場は気絶し何やら魘されているピニャを起こす。

 

「殿下、大丈夫ですか?魘されてましたけど?」

 

「イタミ殿・・・妾はもうダメかも知れぬ・・・だから後生だ・・・あの時の事は本当に済まなかった・・・許してたもれ・・」

 

「あの時?・・・あぁ、イタリカでの事か。大丈夫ですよ、アレくらいじゃ人間は死にませんよ。それに帝国軍人はそれくらいで腹を立てません」

 

「いやもうダメだ・・・お願いだ、許してくれ・・・」

 

ピニャは完全に壊れていた。

「・・・・分かりました、許します。だから気をしっかりと持って・・・」

 

「ホントか!許してくれるのか!」

 

と満面の笑みを浮かべながら伊丹に抱き着く。

 

「これで漸く肩の荷が全ておりた!有り難い・・・本当に有り難い!」

 

「ちょ、ちょっとくっつき過ぎです」

 

伊丹は苦笑いを浮かべると無線が入って来た。それは帝都方面を監視していた監視兵からだった。

 

『こっちら監視塔より隊長方』

 

「こちら第三偵察隊の伊丹、どうした?」

 

『はい、帝都方面より招待状のない騎馬の集団が八騎が接近中。招待客では無さそうですが、盗賊や野盗にも見えません。こちらで対処しますか?』

 

「わかった、しばし待て。殿下、こちらに八騎の騎馬隊が接近して来ています。何か心当たりがありませんか?」

 

「はて・・・?それがどうした?」

 

(特殊作戦群に対応させるのが手っ取り早いけど もし帝国軍か 政府関係者だったら後々やばいしーー)

 

しかしピニャは何も知らないらしく、???と言った感じだった。このまま騎馬隊を追い返す手もあるがもしも帝国の政府機関の人間や軍の上層部だった場合講和交渉そのものが水の泡となってしまう。伊丹は無線機に向かって命令を出す。

 

「園遊会場にて緊急事態発生。議員達を離脱させろ、装甲車を射撃場に寄越してくれ。監視兵はそのまま監視を続行せよ。殿下、議員の皆さんを離脱させます。園遊会はそのまま続行していてください、良いですね」

 

「分かった」

 

「菅原大使、身元不明の騎馬隊が接近中との事です。安全を考慮して議員の皆さんを離脱させます。」

 

「分かりました、皆さん、緊急事態が発生しました。こちらへお集まりください!」

 

「大場大尉殿。身元不明の騎馬隊八騎が此方に接近中との連絡が入りました。急ぎ離脱の準備に取り掛かります」

 

「分かった」

 

議員達を集め、乗用車や自動貨車に乗せその場を離脱を開始する。

 

「皆さんを帝都の南東門の近くまでお送りします!その間ご堪能下さい!」

 

「南東門だと?」

 

「治安の悪い悪所の入口だ。そこなら人目につかないし、普段帝国兵は近づかん」

 

議員達が全員乗ったのを確認すると、倉田伍長と横井伍長はアクセルを踏み込み乗用車と自動貨車は南東門に向かう。それから園遊会会場にやって来たのはピニャの腹違いの兄ゾルザル・エル・カエサルだった。ゾルザルの騎兵隊が到着した。

 

「此処では今、何をしているのだ?」

 

「ピニャ殿下とスガワラ閣下の共催の園遊会で御座います。見ての通り家族ぐるみの集まりで御座いまして、皇子様もお呼ばれに参られたのでは?」

 

「ピニャの?いや俺は・・・」

 

「でしたら皇子様方も是非お楽しみください」

 

ゾルザルはメイド長に勧められるがままゾルザルの兵士達も目の前のテーブルに置かれている海軍カレーに手を伸ばす。スプーンを取り一口口に運ぶ。ゾルザルはその美味さに目を見開く。

 

(辛い・・・だが美味い!今まで食べた事の無い食感!おかしいな?マルクスから聞いた話と違うぞ?)

 

そんなゾルザルにピニャが声を掛けて来た。

 

「兄様、何か御用でございましょう」

 

「何だピニャ、俺が来て迷惑そうだな」

 

「とんでもない、兄様を拒む者など御座いません。兄様は昔からこういう崔しには無関心でしたので・・・あ、兄様に是非食べて頂きたいものが御座います。此方です。」

 

「何だ此れは?見た限り、固めた米と生魚が載っているだけだな・・・不味そうだ」

 

「これはスシと言います。この料理にはショウユと言う珍しいソースが合いますよ」

 

と言われて寿司を口の中に運んだ。

 

「ピニャ・・・この料理を作った料理人は何処で見つけた?・・・今宮廷に招いて父上にも召し上がって貰いたいな!!」

 

ゾルザルは寿司を気に入ったらしくピニャは安堵する。

 

「料理人についてはちょっとした縁がありまして・・・でもその様な事、宮廷料理人が許しますまい」

 

「なーに、何処か貴族の館に行幸と言うことでいけるだろ?」

 

「それについては後々に考えましょう。それで兄様、今日はどうして此処に?」

 

「あ?マルクスに行ってみろと言われた。」

 

「マルクス伯が?なんと言って?」

 

「・・・あぁ!気にするな!俺の間違いだった!騎士団団長のお前が謀議の中心な訳ないしな!」

 

そう言った後ゾルザルとその側近達の兵士は帰って行き、議員達とその家族も帰っていった。残ったのはピニャと菅原と日本兵だけだった。

 

「メイド長 お腹すきましたー」

 

「ゾルザル殿下が余分も持ち帰りなさりましたから・・・」

 

その頃ピニャと菅原はガーデニングでティータイムをしていた。

 

「・・・これはマルクス伯からの警告だろうな」

 

「威力偵察とは考えられませんか?」

 

「兄上に偵察などという高向なことは無理だ。これが謀議らしい謀議なら兄様は議員達を蹴散らして連行しただろう そして売国奴と罵り元老院派の声を封じたはずだ。だが議員が会合するのは違法ではない 興奮が冷めれば逆に兄上が元老院から批判されるはずだ兄上の評判は芳しくないからな もしゾルザル兄が排斥され元老院派のディアボ兄の勢力が強くなれば・・・皇帝と主戦派ーマルクス伯も困るだろう」

 

「いずれにせよ 我々の動きはマルクス伯に知られていた・・・我々の動きを頓挫させるには体制派による反体制派の暗殺や要人 知識人 マスコミ関係者の粛清などが考えられますがー」

 

「粛清?・・・まさか兄上をけしかけて国家反逆罪の適用を狙ったか?」

 

「主戦者の感情を沸騰させ一気呵成に和平派をつぶすつもりで・・・殿下はマルクス伯がこのまま粛清を強行すると?」

 

「いや 無理だな反逆罪の陪審は元老院議員だ。誰もが冷静な今証拠もない罪状で有罪にできないだろう」

 

「しかし マルクス伯はすぐ次の手を打ってくるでしょう。至急 カーゼル候との会談を」

 

「そうだな 講和会議開始の承認を元老院に求めねば キケロ卿に頼むとしよう・・・ああ 妾はただの仲介役のはずだったのに・・・」

 

一方帝都宮殿では、皇帝モルトと宰相のマルクスが玉座で話をしていた。

 

「ゾルザルはわざわざ餌を漁って来ただけか あやつらしい まぁよいまだ機会はある」

 

「ですが元老院で講和会議の開始が承認されますといささか不都合が・・・」

「余は会議そのものを否定してはおらぬ だが一ビタの金も一ロムロの土地も譲るつまりはない。会議なぞ踊らせておけばよい 話が進まなくなれば敵の方から交渉を打ち切って来よう。伯も好きにやればよい いずれにせよ帝国の敗北なぞ許されまいぞ」

 

「ハッ 一命に懸けましても」

 

 



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悪所

アルヌス村のとある喫茶店

ボーゼスはある一枚の白黒写真を眺めていた。それは軍服姿で敬礼する軍人富田章軍曹の写真だった。

 

「ボーゼス様 何を御覧になっているのです?」

 

「あっ」

 

「トミタの肖像画?」

 

「スイッセス 返しなさい!」

 

「今 帝都に行ってるのでしたわね」

 

「ボーゼスは『門』の向こうでトミタに惚れてきたのよ」

 

「まぁ!」

 

「森の中で逢引なんかしちゃってーー」

 

「パッ パナシュ!」

 

そんな会話を聞き耳しているテュカに子供が話し掛ける。

 

「テュカねーちゃん 大工の棟梁が森で呼んでるよ」

 

「わかった ありがとう」

 

テュカは言われた通り森に来た。その途中に人影が現れた。

 

「テュカ殿」

 

「ヤオ・ハー・ディッシ・・・何か用?大工の棟梁に呼ばれてるんだけど」

 

「・・・そなた 父上を探しているそうだが・・・本当に見つかると考えているのか?」

 

「・・・え?」

 

と言われテュカの思考が停止する。

 

その頃特地派遣隊は講和交渉開始を受けて帝都での拠点確保に動き出した。まずはアルヌス生協PXの帝都支店内 そして居酒屋二階など数ヶ所 中でも日本軍の活動の中心となったのが『悪所』事務所である。

帝都南東門界隈

帝都の中で一番低い場所にあるこの地区は貧民街となっていた 通称『悪所』

種族 民族 獣人の坩堝 暴力と犯罪が日常の悪所に帝都の一般市民は誰も近付かない 日本軍の活動は悪所の顔役達ーーゴンゾーリ家 メデュサ家 パラマウンテ家 ベッサーラ家の関心を引くことになった。

 

「あの新参者・・・完全に儂達を無視しておる」

 

「金をバラまくくせにこっちには上納金を一ビタも寄こさん」

 

「目障りな連中だぜ」

 

「奴らのアジトにゃ金がうなっいるそうだ。このベッサーラ様が悪所のしきたりの手ほどき料にいただいて来てやろうじゃねぇか」

 

その日の夜、日本軍の活動拠点の悪所街事務所をベッサーラの私兵が取り囲む。私兵の中には六肢属なども含まれている。

 

「金がある割には貧相な家だな。やれ!!」

 

ベッサーラの合図と共に一斉に矢が放たれそれらが事務所の窓に刺さっていく。それと同時に私兵達がドアの前まで来ると私兵の一人がドアを破ろうした、その時扉がゆっくりと開きその先には、M2重機関銃を構えた日本兵の姿が見えてた後、爆音が響き渡り六肢族の頭を吹き飛ばした。それと同時に建物の窓から次々と日本兵が現れ、銃口を私兵達に向け反撃の開始だった。兵士達が装備していたのは三八式歩兵銃やMP40短機関銃だった。

 

「攻撃開始!!」

 

悪所街事務所の所長の新田原陸軍少佐が攻撃開始の命令を出す。私兵達の身体を6.5mm弾と9mmパラベラム弾が貫き道端に私兵の屍の山が築かれていく。首謀者のベッサーラは一目散に逃げて行った。

 

「奴ら全員魔導師か・・・そうでなけりゃ使徒か化け物だ!!」

 

敵を一掃し辺り一面血の海になり血の匂いが充満している。

 

「撃ち方やめ!撃ち方やめ!」

 

「地元のマフィア組織ベッサーラ家の私兵達か。あの情報屋の齎した報告通りだったな。近隣の住民を安全な場所に避難させる方が大変だったなぁ」

 

「新田少佐殿車をお借りします」

 

「何をする気だ剣崎少尉」

 

「的射 槍田 忍野 装備を」

 

「ちょっとこの街の頭達に帝国陸軍からの挨拶をね」

 

「なるべく周りに迷惑のかからない方法でな」

 

「はい!」

 

と言い剣崎少尉は車でベッサーラの屋敷に向かった。日本軍はやるとなれば徹底的に叩き潰し降りかかる火の粉は払うだけだ。

逃げ帰って来たベッサーラは寝室で寝ている妻を起こす。

 

「おい!起きろ!!」

 

「なに〜?どこ行ってたのぉ?」

 

「悪所から逃げるんだ!!化物が仕返しに来る!」

 

仕返しに来た日本兵達はベッサーラの屋敷に爆薬を仕掛け爆破したのだ。

 

一方

自分の屋敷が爆破され日本軍から逃げているベッサーラ夫妻

 

「あんたぁ家が・・・」

 

「放っておけ!今ハーディのところに逝くよりましだ!」

 

そんな二人を武装した集団が現れ囲む。ベッサーラの私兵でも無ければ日本軍ですら無い、ベッサーラに怨みを持った悪所の住人達だった。この機にベッサーラに復讐をしに来たのだ。

 

「なんだてめぇら!俺様をベッサーラと知ってー」

 

武装集団は有無を言わさず襲いかかって来た。

 

翌日 ベッサーラ夫妻の遺体がゴミ捨て場で発見された。両者供全裸の状態で妻は陵辱の末殺されベッサーラは酷く痛めつけられ後に殺された。

 

「へっざまぁ見ろ ベッサーラは顔役の中でも最悪だったからな」

 

「ところであの茶色い服の連中 アジトの周りの家をちょっと借りるって結構な金出したってさ」

 

「本当か?そんなの聞いたことないぜ」

 

「ベッサーラにはきのどくだが あいつらに手を出さなくて正解だったな」

「奴の縄張りもタダで手に入ったしの」

 

「ニホン軍様々」

 

「競合相手じゃなくて商売相手と考えりゃいいんだよ」

 

「『情報』にあれだけ金を出すとはな。俺達はちょいと手駒を貴族の屋敷に忍びこますだけでいい稼ぎになる」

 

「言葉があんま通じねぇ奴もいるが通じねぇなりに礼儀正しいし筋も通す。他所者としての立場もわきまえとる」

 

「ここじゃ強い奴になびく奴は利口者で 逆らう奴は愚か者だ」

 

「ニホン軍と俺達の繁栄に!」

 

その頃帝都は第三偵察隊と第一偵察隊の隊員や陸軍中野学校の者達が情報収集に来ていた。未だ帝国の事をあまり知らない日本にとって帝国の情報は貴重な物だった。そして泥棒の類の連中は日本軍に媚を売る様に貴族を尾行し監視をし、ある時は、屋敷に侵入をして書簡類を盗んでその情報を日本軍に売っていた。しかし当初は娼婦等の女性達には不人気だった。娼婦達は日本兵に自分の身体を売り込んだが兵士達から『申し訳ないが任務中故』と断られたからだ。それもその筈、ここは異世界どんな性病があるのか分からない。無闇に娼婦と性行為をして、梅毒・淋病・クラミジア感染症などの有名な性病に犯される危険があるため。

 

「なんだい!ニホン軍の連中、金回りがいいんならあたし達を買ってくれてもいいのにさ!いくら色目使っても肩すくめるだけ!男のくせに」

 

「街に金が落ちて客が増えたのはいいけどそれだけじゃねー」

 

「強くて礼儀正しいまるでおとぎ話の騎士様だね。一度でいいからそんな男に抱かれたいにゃあ」

 

「無理無理、あんなインボ野郎」

 

「ミザリィ姐さんもう行くの?」

 

「ええ 仕事の前に"あれ"買いにね」

 

そんな時衛生隊の隊員等が事務所の一角で娼婦達にコンドームを銀貨一枚で売り、性病感染への予防を行いだしてから一転して変わり始めた。

 

「邪魔するよ グンイいるかい?」

 

「コンニチハ ミザリィさん 診療室にどうぞ」

 

とミザリィは診察室に入った行く。

 

「あれ買いに来たよ 切らしちまってね なんだ 今日はクロカワの番かい」

 

「はい」

 

「あんがとよ こんな便利な物があったとはねぇ 子ができちまったらあたしらは仕事になんないから」

 

(性感染症は確認されてないが用心に越したことはないな)

 

「いいかい?」

 

「あぁ」

 

とミザリィ煙管を吸う。

 

「クロカワは 煙草やめろって言わないんだねぇ 他のグンイはうるさいのに」

「けど 必要なんだろ?いや けど あなた達の仕事は素面ではやれないだろうが」

 

「けっ お高く止まってる 男は嫌いだよ」

 

「別にいいさ 俺は好かれたいと思ってないから」

 

と言って次の瞬間二人が揃ってアカンベェをする。

 

「プッ ガキかいあたしらは」

 

「似た者同士さ」

 

「さーて 稼ぎに行かないとね」

 

「・・・ミザリィさん アルヌスの噂を聞かなかったか?」

 

「アルヌス?ああ 天国みたいなところなんだろう?けど紹介状がいるって話じゃないか。それにあたしにゃ特に能があるわけでもないし 男に股ぐら開いてよがることくらいしかね」

 

「もし・・・コネがー(ーあっ)」

 

なに?黒川軍曹『コネがあるとしたらアルヌスに行くか』ってんなこと言ったの?お前何様のつもりだ?上官の俺に黙ってそんな事をしたのか? 彼女達は悪所で自分の力で生きてんだ それを善意であっても無理矢理変えささてお前最後まで責任持てるのか?

 

そうだな・・・今 彼女をアルヌスに送って職につけさせても夜になると街角にー

 

そう考えているうちにミザリィは診察室を後にした。

そんな夜、衛生隊の隊員だった黒川が事務所で夜勤をしていた。その時ドアを叩く音が聞こえた。黒川は机からワルサーP-38を取り出し倉田もstg44をかまえる。

 

「また マフィア?」

 

「ちょっと待って」

 

と黒川が扉を開けるとそこには見慣れた白い翼に見慣れた顔馴染みのミザリィと言う翼人の娼婦が他の娼婦を引き連れてやって来た。

 

「クロカワ 話があるの」

 

「入れ 早く!」

 

「鳥目にはありがたいねぇ」

 

「どうしたんだ?大勢でこんな夜中に」

 

「あたし達はあんたらが悪所でーーいや 帝都で何をしようとしているかうすうすだけど感づいていた。だけど 何も言わず聞かず見なかったで通してきた。それがこの街で長生きする秘訣だからね。けど そうも言ってられなくなったんだよ この娘はテュワル話を聞いてあたしらを助けて欲しいんだ」

 

ミザリィはそう言うと隣に居た少女を前に出す。

 

「お願いです助けて下さい!」

 

「・・・助けてって何から?ベッサーラみたいな奴ら?」

 

「違います何か寒気がして・・・」

 

「病気?」

 

「ううん ここから早く逃げ出したいの」

 

「??」

 

「ああっもうまどろっこしい!!」

 

話が進展しない事に焦ったミザリィが立ち上がり黒川達に訴える。

 

「あたしらを助けてくれたらこれからはあんた達を手伝ってやるって言ってんのさ!!」

 

「倉田伍長 桑原曹長と新田原少佐を」

 

「はい」

 

そして倉田が桑原と新田原を読んでどうやらことは急を要するようだと判断した新田原少佐はミザリィを椅子に座らせ話を聞いた。

 

「あたいの故郷には火山があって、噴火の前には地揺れがあるんです。仕事の合間にその時と同じ感じがして・・・怖い 逃げなきゃって気持ちがどんどん強くなってー」

 

「地揺れ?地震の事か?この世界にも地震があるのかな?」

 

「地面が動くわけないでしょ」

 

「そんナことになれバ世界ノオワリ」

 

「それがテュワルの話を聞いて・・・あたしらも同じ気分になってたから・・・街の男達は頼りにならないし だからここに来たんだ」

 

「地震をこの娘が予知しとるとでもいうのか・・・?」

 

倉田伍長によるとこの娘はハービィ祖先は鳥だという そういえばあの時も配属地の周りから鳥がいなくなった 関東

新田原は22年前の関東大震災を思い出した。建物が倒壊し10万人もの死者を出す大災害をー

 

「帝都各班とアルヌスに緊急連絡!まもなく地震が発生する恐れあり注意されたし!我々も帝都外に一時退避する!各自五分で装具をまとめ集合!」

 

「はい!」

 

一方アルヌスでは

 

「聖下!ロゥリィ聖下ぁ!」

 

「む〜〜」

 

とロゥリィがミューティに叩き起こされた。

 

「なぁにミューティ 盗人でも出たぁ?」

 

「ちっ違います聖下・・・早くここから逃げないと・・・逃げないといけないような気がするんですっ」

 

「!?」

 

すると警報器が鳴り響き 日本軍のハーフトラックがやって来て拡声器で避難を呼びかける。

 

『住民の皆さん 地震ー地揺れが発生する恐れがあります。直ちに火を消し速やかに野原へ避難してください』

 

そして帝都でも同じだった。住民は森林に避難していた。

 

「なんだと言うのだ 大地が揺れるわけなかろ?」

 

「日本じゃ 揺れるんです!足元気をつけて!」

 

その時足元が揺れ始めた。

 

 

その夜 帝都は地震に襲われたー

 

 

 

 

 



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皇宮へ

アルヌスでは住民の避難が行われていた。

 

「地揺れなんか 今まであったことぉないけどぉ?」

 

「火山が火を噴く前に起こると本で読んだかのぉ」

 

と自分たちの常識で話していた。

 

「総員待機完了しました。しかし本当に地震が起こりますかね?帝都とは何キロも・・・」

 

「ここは異世界だ 檜垣少佐 何が起こるか・・・おっ」

 

すると地が揺れ始めた。ゴゴゴゴゴゴッ

 

「ニャアア」

 

「この世の終わりだ!」

 

「落ちついて!すぐに収まります!」

 

「聖下ぁっ」

 

「ハーディの仕業じゃあないでしょうねぇ」

 

「キャアア」

 

「これが地揺れか!」

 

「司令官!」

 

「この様子だと震源地はひどいことになっとるな 帝都は大丈夫か?」

 

一方の帝都も地震が襲われていた。帝都の街並みやインフラ整備し直す必要はなかったが帝都の住民には心に深い傷を残した。更に発生した時刻は深夜だった為、帝都に住んでいた人は不意を突かれた事になる。

 

「本当に来たよ!」

 

「頭上に注意!」

 

「道の真ん中に!」

 

悪所の事務所にいた黒川達も避難していた。

 

「キャーキャー」

 

「あああっ」

 

「イャアア」

 

「あのっちょっと苦しいので・・・」

 

「テュワルさんにはぜひ我が帝国の気象庁に勤めてもらいたいねぇ」

 

「クロカワ〜」

 

(///ちょっといいかも///)

 

と住民達は日本兵に抱きついて大泣きする者が大勢いる。その頃伊丹達は、

 

「ワアアアッ」

 

「でっ 殿下ぁっ」

 

「うわわっ」

 

「神様!」

 

「本当に来ましたね」

 

「かなり揺れるな」

 

「震源地はどこですかね?初期微動が長かったからかなり遠そうですが」

 

「ここで震度三か四ってとこかな?」

 

「大したことないな」

 

と伊丹、大場、菅原の三人が全く微動だにしないことにピニャは目を見開く。

 

「落ち着いて!すぐ収まるから」

 

そうしている間に地震が収まっていく。

 

「ケガはないか?」

 

「は・・・ハッ」

 

「収まりましたね」

 

「アルヌスの方は大丈夫なのか?」

 

「悪所じゃ崩れた建物もあるかも 古田連絡取って」

 

伊丹と大場と菅原はそう話している。

 

「大丈夫てすか、ピニャ殿下」

 

「あ・・あぁ・・」

 

「悪所の方じゃ被害が出ているかも知れませんがこの辺り無事そうですね。この程度の揺れ日本じゃ日常茶飯事なんですよ。」

 

そんな事を話している。

 

「ま、また揺れるのか!?」

 

「えぇ 余震ーー揺り戻しですが 大きい地揺れの後には何回か起きるんですよ」

 

「こうしてはおれん!父上にお知らせしなければ!皇宮に参るぞ!!着換えを持て!!」

 

「あ 戻ります。ではお気をつけて。我々は悪所の拠点に戻りますので」

 

「い いっしょに来てくれぬのか・・・?」

 

「いや だって ねぇ・・・殿下の父上って皇帝陛下でしょ?一応、我々はまだ敵でありますから・・色々とマズいでしょ?」

 

ピニャ達は伊丹達とは仲良く接して来たが帝国と大日本帝国はまだ戦争状態にあり敵国の兵士を皇宮に招き入れるなど前代未聞の事。

 

「イ、イタミ殿・・お願いだ、妾の側に行って欲しい・・・」

 

と涙目で訴え掛けるピニャに仕方なく一緒に皇宮へと向かう事にした。

伊丹達は宮殿内部へと入って行った。外から見れば目立た損傷している箇所は無いが、内部に入ってみると壁には僅かなヒビが入っている。廊下の隅では地震の恐怖に怯えて神に祈りを捧げる者までいる。そんな彼らを見てピニャは落胆する。

 

「なんだこれは・・・此処まで入って見張りの誰何の1つもないとは・・近衛の質も落ちたものだ・・・当直の者を謁見の間に集めよ!」

 

階段を登り廊下を渡ると大きな扉が見える。

 

「此処にも近衛がおらん、普段ならあり得ない事だぞ?」

 

「あの殿下、此処は?」

 

「父上の寝室だ」

 

「え!?皇帝陛下の!?」

 

「あぁ、そうだ。だからマズいのだ・・・スガワラ殿、妾が父上に其方を紹介する。それまで口を開かないでくれまいか?」

 

「分かりました」

扉を開け中に入ると大きなベッドに座り込む皇帝モルトの姿があった。

 

「ほう?最初に来るのはディアかゾルザルかと思っておったが・・・まさかお前とはの・・・ピニャ」

 

「父上、身支度をお急ぎ下さい。謁見の間にお連れ致します」

 

身支度を整え、謁見の間の皇帝の椅子に座る。ピニャは近衛兵やメイド達に的確な命令を出す。

 

「狼狽えるな!大臣と帝都軍営の将軍達に伝令を出し参集を命じよ!武官は近衛兵を掌握し急ぎ皇宮の守りを固めるのだ!其方達は広間の片付けを!」

 

「ピニャよ、其方一皮むけたな」

 

「皮が剥ける様な怪我はしておりません!!」

 

「そ、そうじゃな、怪我はなさそうじゃ。時にピニャ、見慣れぬ者達を側に置いておるが、皆が集まるまでの間に紹介してくれぬかの?」

 

「かしこまりました。紹介します。ニホン帝国使節のスガワラ殿です」

 

菅原は姿勢を正し深々と礼をする。伊丹達もそれに合わせて敬礼する。

 

「ほう、ニホン帝国?そう言えば其方が仲介役をしておったな。何故このような時にお連れした?」

 

「それにつきましては申し訳ありません。されどこの者達は地揺れに精通しております。彼等の話では揺れ戻しがあると言っておられます」

 

「なんと!また揺れるのか!?・・・」

 

「助言を求めようと同道していただきました」

 

「うう、まぁ、よかろう。使節殿、歓迎申し上げる」

 

「ハッ、陛下におかれましてはご機嫌麗しく」

 

「天変地異の後に麗しい筈はないが、娘の成長を見る事が出来た。礼を言うぞ。戦ごっこをしているとばかり思っていたのだがな。時を所を変えて盛大な宴でもてなしたいが、今宵は事が事である為勘弁してもらいたい」

 

「はい、陛下。改めて我が帝国と帝国との交渉の場を頂きたく存じます」

 

「そう言えばニホン帝国にも王が・・・いやテンノウという皇帝がいるのであったな」

 

皇帝モルトが意外な事を聞いて来た。何故王・・・・天皇陛下を知っているのか?



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交渉決裂

「はい、確かに我が帝国には天皇陛下がおり、国家の元首であり、統治権の総攬者であり軍の統帥権を属して居ります」

 

「成る程、我が帝国と同じようなのであるか。考えてみれば『門』の向こうは異なる世界でありその世界にはその世界における君臨の有様があっても然るべきか。思えば、これまで対等の相手なぞ無かった。どの様に遇するべきか分からぬ。無礼などがあってもご容赦頂きたい」

 

「陛下、よくご存知で・・・」

 

と話していると扉が開かれ入って来た。

 

「父上!ご無事か!?」

 

廊下から大声を上げゾルザルが謁見の間に乱入して来た。ゾルザルの取り巻きも慌てて出て来たようだった。ゾルザルの手には鎖が握られ、首輪を付けたゾルザルの奴隷達が引きずられていた。

 

「おお!ご無事でしたかっ!ここから早く離れましょう!!」

 

その光景に絶句する伊丹達、菅原は正常心を保っているが内心では舌打ちをする。

 

「たった今主だった者に召集をかけた所です。待たねば宮廷が混乱に・・・」

 

「何を悠長な事を言っている!!また地揺れが起きるとノリコが言っておるのだ!」

 

(ノリコ?まるで日本名みたいだが・・・まさか!?)

 

「どけピニャ!父上をお連れする!」

 

「落ち着きなされ!何処にお連れしようと言うのですか!それにしても兄上、地揺れの事、よくご存知で・・・妾もついさっき聞き入ったと言うのに・・・」

 

「だからノリコに聞いたと言っておろう!」

 

「ノリコ?聞き慣れぬ名ですね?」

 

「こいつだ!黒髪の女だ『門』の向こうから攫って来た連中の生き残りだ」

 

それを聞いた瞬間から伊丹の中の何かが壊れた。

 

「このクソ野郎!ぶっ殺す!!」

 

伊丹は拳に力一杯に力を込めてゾルザルの左頬に拳を打ち込んだ。ゾルザルはそのまま吹き飛ばされた。

 

「貴様・・・殴ったな?皇子であるこの俺を殴ったな!!」

 

「この無礼者!!皇子殿下に手を上げるとは!!」

 

「一族郎党皆殺しの大罪であるぞ!!」

 

「生きてこの皇宮から出られると思うな!!」

 

ゾルザルの兵は剣や槍を構え、臨戦態勢に入り、大場と栗林はノリコと名乗る奴隷に近寄る。

 

「大丈夫ですか?我々は帝国陸軍だ、日本人ですね」

 

「は、はいッ!!助けに来てくれたんですか」

 

「はい、絶対に連れて帰って上げます。其れまで我々の側から離れないで下さい」

 

彼女は大粒の涙を流した。久しぶりに自分以外の日本人に会い安堵した更に其れが自国の軍隊である事に心の底から感謝した。

首に巻かれていた革の拘束具を銃剣で切って彼女を解放する。そして菅原はそっと彼女に自身の上着を着せる。

 

「もう大丈夫ですよ。・・・陛下!先程、皇子殿下が彼女を門の向こうから攫って来たとおしゃられたが一体これはどう言う事でしょうか!?そしてピニャ殿下、この事をご存知でしたか?」

 

「スガワラ殿?」

 

当のピニャ本人は話が全くついて来れていなかった。

 

「(・・・わからぬ?なぜ突然イタミ殿が兄上を殴ったのか。なぜスガワラ殿はこのような態度をとるのか・・・ジンドウテキ 彼らが非武装の者を助けようとするのはイタリカで見た。だが、だが、たった一人のニホン人のために講和への努力を無に帰そうというのか?)イタミ殿!皆も剣を収めよ!これは何かの手違いじゃ!此処は妾に免じてー」

 

「ピニャ、もう何もかも手遅れだ。」

 

「兄上・・」

 

「こいつらの国の運命はもう決まった!何処の蛮国か知らぬが・・・全てを壊し、全てを殺し、全てを奪い、全てを焼き払ってくれるわ・・・今更慈悲を乞うても無駄だ・・全ては貴様のせいだ!!自らの罪深さを思い苦しんで死ぬがよい!!」

 

そんなゾルザルの罵声を無視して伊丹は富田と栗林に命令を出し、大場も船坂と堀内に命令を出す。

 

「富田、栗林は彼女を護衛して此処から脱出する。」

 

「船坂、堀内に告ぐ雑兵どもを踏み殺せ」

 

「「各自の判断で撃ってよし」」

 

「「「「了解」」」」」

 

「菅原さん彼女を頼みます」

 

「栗林 船坂、銃をまた廃銃にするなよ」

 

栗林と船坂は三八式歩兵銃に三十年式銃剣を着剣しゾルザルの取り巻きに切り掛かる。生き残っている兵士達は栗林と船坂の二人に斬りかかろうとするも二人は難なく避け刺突する。取り巻きの返り血が二人に降り注がれるが、二人は気にせず斬りかかる。

 

「なっ・・・」

 

ゾルザルは言葉を失う。

 

「何をしておる!小僧二人にっ」

 

「お前達!?日頃の剣技自慢は口先だけか?」

 

と怒鳴りつける。

 

「おっと 皇子立たないでください。後で聞きたいことがありますので」

 

と伊丹はゾルザルにワルサーP38を向ける。ゾルザルはニヤリと笑い

 

「そのような小さな得物役に立つものか。素手でくびり殺してやるわ」

 

「試してみます?」

 

と二人が睨み合う。

 

「うかつに近付くな!隊伍を組め!」

 

「廻り込め!」

 

と兵士達は栗林と船坂を囲う。

 

「串刺しにしてやる!」

 

兵士達が襲いかかってくるが、

 

バァーン バァーン

 

と栗林と船坂は発泡した。

 

「胸甲をいとも易々と・・・」

 

「今のは魔法か?」

 

誰もが恐れおののいていた。

 

「次に死にたいのはだぁれですか?」

 

「死にたくない奴は武器を捨てろ!」

 

と次と武器を捨てる兵士達。

 

「なっ何をしておるか!剣を取れ!」

 

が兵士達は戸惑う。再び栗林と船坂が三八式歩兵銃を向ける。

 

「ひいっ」

 

「わあああっ」

 

兵士達は逃げ出した。ゾルザルは震えていた。

 

(これが火を噴けば俺も死ぬのか?時期皇帝たる俺が・・・!?り、理不尽だ!)

 

「さて、皇子殿下。あなたは先程あの女性を『門』からさらって来た『生き残り』とおっしゃった。それはつまり、他にもさらって来た人がいるということですね?」

 

「ふ・・・ふんッ!無礼で野蛮な蛮人に答える口など俺は持ち合わせてない!話が聞きたければ、頭を地に擦りつけながらさっきの非礼を詫びて礼儀正しく頼む事だな!」

 

「調子に乗るな!!」

 

「グハァ!!」

 

と大場大尉がゾルザルの腹に力一杯の蹴りを入れる。

 

「まぁ大尉殿、此処は冷静に」

 

と伊丹が大場を止める。

 

「あ、兄上。此処は一歩お引きになってー」

 

「黙れ!!お前がこやつらを連れ込んだせいでこんな事になったんだ!妾の子が要らぬ事をしおって!己の立場をわきまえろ!!」

 

「わ・・妾は・・帝国のことを思って・・・」

 

「もういい、このバカ皇子に何を言っても無駄だ、なぁ中尉」

 

「そうですね、あー、皇子。兄妹喧嘩も良いですが、我々の質問に答えてくれないと困りますよ。質問に答えて頂かないと・・・栗林軍曹、船坂軍曹、自分の口から喋りたくなる様に痛めつけてやれ。まだ殺すなよまだ聞きたい事があるから。」

 

「「了解、隊長♪」」

 

「こっ、小僧、何をする気だ!?まさか皇子たる俺に再び手を上げようなどと・・・・けっ、警護兵!こやつらを取り押さえよっ!」

 

栗林と船坂はニヤリと笑って手をバキバキと鳴らしながらゾルザルの前に立った。二人はゾルザルの腹にダブル腹パンを食らわせ、更にはダブルアッパーを食らわす。

 

「待て!やめよ!」

 

(あ、栗林と船坂が喜んで命令聞いたの初めてかも)

 

栗林と船坂のやり方にピニャと皇帝は目を背ける。栗林と船坂にボコボコに殴られたゾルザルは顔が腫れ上がり歯が何本も抜け落ち口や鼻から血を流していた。

 

「だ・・・誰か・・助けてぐべぇ!!」

 

栗林はゾルザルの左手を掴み、船坂は右手を掴み小指を握り、徐々に力を加えていく。

 

「た、頼む!指だけは勘弁してくr「バキッ」ぎゃあああ!ゆ、指があぁぁ!!」

 

そこでやっと大臣や将軍達が謁見の間に集合した。彼が見た光景は言葉では言い表せなかった。

 

「・・・・」

 

「ゾルザル殿下・・・!?」

 

「さてと・・・殿下、少しは喋りたくなりましたか?」

 

「・・・・」

 

「聞いてますか?」

 

ゾルザルは何も言わないいや言えなかった。口や鼻から血を流している。ゾルザルの襟首を掴んで引き寄せる。

 

「殿下を殺さないで!!」

 

テューレが伊丹に叫ぶが伊丹は其れを無視してゾルザルを問い詰める。

 

「殿下、もう一度だけ聞きます。あなたは、彼女の事を『生き残り』と呼びましたね?それはつまり、他にも攫って来た日本人がいると言う事ですね?」

 

「次、真面目に応えなかったらもう二秒と待たず問答無用で殺しますぞ」

 

そう言われて、その質問にゾルザルは首を縦に何度も振った。

 

「祐樹は!?祐樹はどうなったのです!?」

 

「その人と一緒に連れ去られたんですか?」

 

「はい、私の婚約者で彼と銀座を二人で歩いていたら突然後ろから捕まえて・・・気がついたら馬車に・・・私達の他にも何人か居ました」

 

「殿下、是非とも聞かせて頂きたい」

 

「男は・・奴隷市場に・・・流し・・た・・・他の・・連中は・・知らん・・」

 

力を振り絞ってそう答えたゾルザルは気絶した。

 

「殿下!」

 

そして菅原は皇帝に目を向け

 

「皇帝陛下、歓迎の宴を開いて下さるとのお話拉致された我が国民が帰って来てからに致しましょう。陛下の信ずる神は存じ上げませんが彼等が生きている事を御祈り下さい。ピニャ殿下、後ほど彼等の消息と返還について、聞かせて頂けるものと期待しております」

 

菅原はそう告げると伊丹と大場と視線を交わしてこの場を去る事にした。

 

「船坂は先導、堀内は後方支援にまわれ」

 

「栗林も先導、富田も後方を守れ。此処から撤退するぞ」

 

「待て貴様等!!近衛兵!!」

 

近衛兵達が伊丹達の退治路を塞ぎ隊列を組んで槍を構える。

 

「やめよ!!」

 

皇帝はこれ以上死体の山が築かれる前に止めた。

 

「これ以上この場が血で汚れるのはもう見とうない。皆の者、武器を下げよ。スガワラ殿、確かにそニホンの兵士達は強い、それは認めよう。だがそれだけでは戦には勝てぬぞ。貴国には大いなる弱点があるからだ」

 

「ほう、何でしょうか?・・・弱点とは?」

 

「民を愛しすぎる事よ、大いに煩わされる事になろう。義に過ぎる事よ、手に取る様にその動きが見え様。信に過ぎる事よ、大いに損をする事になろう。敵が強大で圧倒的ならば戦わなければよい。剣の切っ先は鋭く強くとも、柄は意外と脆いものだ。ならば鋭利な刃ではなくその柄を討てばよい。私の知る限り、高度な文明を誇りながらも国力を蕩尽し続けた結果、蛮族によって滅ぼされた国もある。貴国も心しておくがよい。」

 

「我が帝国は・・・その弱点を国是としております。ですが信義なくせば國は亡ぶ。そして我が国の帝国陸海軍はその国是を守るべく日々訓練を続けております。・・・いっその事またお試しになられますか?」

 

「なんの、そなた等に抗せる筈もなし。和平交渉を始めるがよかろう」

 

「陛下、我々も十分に弁えております。平和とは次の戦争の準備期間であることを我が帝国と我が世界は帝国を遥かに超える血塗られた歴史の上に成り立っております。和平交渉の最中に帝都を失う事を是非恐れて頂きたい」

 

「(成る程・・・交渉を引き延ばそうとしてもニホンの都合次第でいつでも帝都を陥せると言う事か)だが、それでも其処許らは交渉を拒否出来ぬ、違うか?」

 

「確かに、それが故に虚言に対する鉄槌は凄まじく恐ろしい物となるでしょう。それをご覚悟下さい、陛下」

 

「その言葉、我等を信じると受け止めよう。だが上手くいくとは思うな・・・」

 

そんな時再び地震が帝都を襲った。

 

「よし、行くぞ」

 

慌てる皇帝に目もくれずに伊丹達は引き上げ一行は皇宮を出た所で伊丹が叫んだ。

 

「ああーやっちまったぁっ」

 

菅原も頭を抱える。

 

「やってしまった・・・東郷大臣にどう報告しよう・・・」

 

二人は頭を悩ませた。

 

 



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報復

その後アルヌスの襲った地震が収まり、

 

『近郊の村数カ所で家家の倒壊あり、負傷者がいる模様。偵察班が確認中』

 

『銀座では揺れを感知せず『門』に損害なし』

 

被害状況や死傷者の収容や行方不明者の捜索などに追われている中、緊急の連絡が入った。

 

「今村司令官 帝都から緊急連絡です。新田原少佐です」

 

「新田原少佐、そっちは大事ないかね?そうかよかった彼女達に礼を頼む」

 

そんな時驚くべき情報が入った。

 

「なに!?皇宮で?わかった。直ちに輸送機を送る。追って連絡するのでそれまで待機だ」

 

「司令官 帝都で何か?」

 

「・・・第三偵察隊と第一偵察隊が帝都皇宮内で日本人拉致被害者を発見した。被害者の言によればまだ数名が帝国内に奴隷として抑留されているようだ」

 

「奴隷だと!?」

 

「『門』が出現する以前に拉致したのか!?」

 

「奴らが銀座に攻め込んだときじゃないか?」

 

と日本人が奴隷にされていたと聞いて参謀達は色々と議論が出た。

 

「今すぐにでも帝都を爆撃するべきだッ!!」

 

そう唱えるのが第251航空隊副長兼飛行長の小園安名中佐だった。

 

「いや、ここは人的損害を出さずに敵の政治的重要施設や軍事施設などを攻撃した方が良いだろう。第一まだ講和自体が破綻した訳では無い。下手に主戦派を勢い付かせる行動は慎むべきだ」

 

一方の健軍大佐は待ったをかける。

 

「小園中佐、貴官の気持ちも分かるが・・・」

 

「しかし、司令官!!」

 

「だが中佐、よく考えてくれ帝国内に日本人が抑留されているのだ。まだ帝都内にいる可能性もある」

 

「確証はあるのですか?」

 

「無い、だがゼロとは言えない」

 

帝都の爆撃で誘拐された日本人を巻き込む訳には行かず、更に現在進行形の講和交渉を水の泡にする訳にもいかない。

 

「では、目標の軍事施設は武器庫や物資の集積所にしましょう。これを叩けば帝国の戦争継続能力を大きく削ぐが出来ます」

 

「そうなると、政治的な重要施設となると・・・」

 

「皇宮には皇帝が住まいにしているので除外するとして、一体何処が最適でしょう」

 

「元老院はどうでしょう。彼処なら常に人がいる訳ではありませんし、帝国に対する通告になるでしょう」

 

議論は決まった。

 

「では、爆撃の攻撃目標は軍事施設、元老院の建物のみに絞る。爆撃の高度は三百で護衛には我が陸軍の隼と海軍の零戦を護衛に付ける」

 

「分かりました。戦闘機パイロットもベテランの精鋭を揃えます。」

 

と海軍航空隊司令官の市丸利之助少将がそう告げる。そうして議論の末に帝都爆撃が決定した。出撃の時刻は夜明けに決行する事になった。

 

「陸軍省の杉山大臣に繋いでくれ」

 

そして、今村は、帝都爆撃の許可を得る為陸軍大臣の杉山元に連絡を入れる。

 

「わかった。総理には私から伝えよう、直ちにやって構わん。おおいにやってよろしい」

 

直ぐに杉山は、首相公邸に向かい、東條英機に特地で起きた事を話した。

 

「・・・それは困った事になってしまたなぁ。もう決まっているのなら仕方ないが君に任せよう」

 

「わかりました。では、総理私は陸軍省に戻りますので」

 

と陸軍大臣杉山元はそう言って陸軍省へと戻っていた。

 

「(講和交渉が中断したと各国に知れたらまたぞろ外交圧力が強まってしまう・・・・私が総理大臣の間に特地問題は早々に片が付くと思っていたのに・・・・特地の情報を一部しか開示しない事で圧力をかわして来たが・・・)いっその事事今の状況をすべて開示してしまった方が良いだろうか?」

 

と東條の何気ない一言に各大臣たちは何言ってんだ?と言った顔をしていた。

 

「総理、例えそれが本音であったとしても安易に口にしないで下さい」

 

「わかっているさ・・・自分でも本気でないと」

 

と言われて東條も否定する。そして、アルヌスの飛行場では、

 

零戦5機、一式「隼」4機、四式「飛龍」6機、一式陸攻7機であり、爆弾搭載量は飛龍50kg爆弾15発に一式陸攻60kg爆弾12発が搭載されている。

 

そして、仮設テントでは、海軍航空隊と陸軍航空隊が合同で会議を開き神子田海軍中佐が説明する。

 

「陸軍参謀総長と海軍軍令部総長を通して今村大将から爆撃要請が来た。目標は此処だ!帝都帝国元老院及び集積所!!一般市民への被害を可能な限り回避する為と我々からの『警告』を伝えるため、日の出と同時に先遣隊の誘導でここを爆撃する飛行ルートは・・・・」

 

と一通り作戦の説明をする。

 

「航空隊異世界での初の実戦だ!!気合い入れていくぞ!」

 

と航空隊にとって異世界に来て初めての実戦という事でやる気に満ちていた。また、整備兵達は徹夜で機体の整備に追われていたがそれでも彼らの士気は高かった。

 

「帝都を踏み荒らしただけに飽き足らず日本人を奴隷にしていたなんて・・・許せねぇ」

 

「俺たちを敵に回したらどうなるか思い知らせてやる」

 

「奴等に目に物を見せてくれる」

 

「故障機なんぞ一機も出すんじゃないぞ!」

 

「「「「はい!!」」」

 

帝都爆撃やその理由を聞かされた整備兵達は中国戦線や太平洋戦線などを経験したエース級の敏腕の整備兵達を中心に機体の整備をしていたのである。そして、翌朝の日の出前に機体の整備が整た。午前6時に爆撃機や戦闘機パイロットが飛行場に集められた。飛行機にはエンジンが唸りを上げパイロット達は額に『必勝』と書かれた日の丸の鉢巻を巻き出陣の盃を交わした。

 

「司令官、攻撃機隊の発進準備が完了しました。いつでも発進出来ます。」

 

「うん、時間は」

 

「は、只今0558です」

 

「全機出撃せよっ!!目標帝国の帝都の軍事施設及び議事堂!!」

 

「全機出撃!!」

 

待機したいたパイロット達は自分の愛機に乗り込み整備兵が車止めを外す。

 

「発進!」

 

最初に護衛の戦闘機隊が滑走路から離陸していき次に爆撃機隊が離陸して行く。

 

「帽振れ!!」

 

出撃して行く飛行隊を見送る整備兵や陸軍兵士や海軍陸戦隊や司令官やその参謀達が帽子を振る。兵士達は攻撃機隊が水平線に見えなくなるまで帽子を振り続けた。

 

帝都ではいつも通りの朝を迎えていた。

 

「やっと夜明けだよ」

 

「クロカワ ケンザキ達はどこに行ったんだい?」

 

「ねぇクラタあれなんの音?」

 

「え?音?」

 

帝都上空

 

「隊長、もうすぐ帝都です」

 

「うん、爆撃態勢に入る」

 

攻撃機隊は一矢乱れる事なく編隊を組んで飛行する。

 

「見えてきました。帝都です!!」

 

「よし、集積所と議事堂を探せ。直衛の戦闘機隊には万が一敵の飛竜が上がって来ないよう高度五百で飛行する様に伝えろ。かっ飛ばすぞ!!」

 

「了解!」

 

副操縦士が無線で直衛隊に知らせる。直衛隊の隊長の加藤武夫中佐は無線で各機に飛竜に警戒せよと知らせる。

 

「これより爆撃進路に入る」

 

「ヨーソロ」

 

地震により帝都の街の建物が半壊していた。

 

「も、もう揺れんよな?」

 

「この世の終わりかと思ったわ・・・」

 

「なにかしらあの音」

 

市民の頭上を爆撃機と戦闘機が通過していく。爆撃機隊は高度を下げ爆弾ハッチを開く。

 

「目標元老院ッ!!」

 

「用意・・・・投下!!」

 

指揮官機から60kg爆弾が連続で落とされ、他の機も爆撃目標を攻撃する。爆弾は元老院に吸い込まれる様に命中し、元老院の屋根を吹き飛ばした。元老院は原形をとどめる事なく完全に破壊された。他にも主要な集積所の爆撃も敢行し同様に吹き飛ばした。

 

「隊長、全機爆撃完了しました。命中です!!」

 

「よし、直ちに基地に帰還する」

 

攻撃機隊は再び編隊を組んでアルヌスの飛行場に帰投していった。基地へと帰還した航空隊は総司令官の今村大将に報告する。

 

「神子田中佐ご苦労だった」

 

「先遣隊が撮影した地上からの映像と爆撃後偵察機が撮った写真も後で用意出来ます」

 

「さて・・・・帝国は我々の警告をどうとるかな?」

 

 

その頃破壊された元老院では議員達が集まり、この事態に頭を悩ませていた。皆が黙秘する中、一人の議員カーゼル侯爵は声を荒立たさせこの事態の説明を求めた。

 

「陛下にお尋ねしたい!!この末曽有の恥辱と損害に対し、どの様な対策を講じられるおつもりなのか!!敵の空飛ぶ鉄の飛竜は我が物顔で帝都の空を悠々と侵し、腹から黒い物体を落としいとも簡単にこの元老院議事堂や集積所を粉微塵にした!!我々がこの場に集っている時分になされていたら!!この力が無差別に帝都の街に振り下ろされていたらー!!今、帝都市民達が恐れて居る!!これは地揺れに続く神々の怒りなのでは無いかと!!皇帝陛下が神に背く行いをしたのでは無いかと!!」

 

カーゼル侯爵の発言に誰も反論する事が出来ずに居る。そしてカーゼルは続ける。

 

「事の始まりは開戦前、門の向こうの敵を知る為異境の民を数名攫い、尋問した事!!その後はその者達を奴隷として扱い、敵国の使者の前で無下に扱った!!これを知るや否や、敵国の使者は大層怒り、事もあろうに陛下の御前で皇子ゾルザルを打擲するに及んだ!!」

 

それを聞くと全員がゾルザルを方を向く。其処には愛用していた自慢の剣を杖代わりにしており、栗林と船坂の二人により散々ギタギタのボコボコに殴られた事で包帯姿のゾルザルが居た。

 

「打撲?」

 

「オークかトロルに殴られでもせんとああはならんぞ」

 

「ヒト種のとても小柄な男の兵士二人の仕業らしい」

 

「なんと!儂はてっきりエムロイの使徒がやったのかと」

 

「皇子!間違いありませんな!」

 

「・・・これは・・・地揺れで足をとられて階段から転げ落ちた・・・だけだ」

 

(時期皇帝候補の面子をつぶされたくないのだろうが奴隷の所有権の争いのためにそうまでして見栄を張るのか?くだらん見栄のせいで皇族に暴力をふるったという外交カードが使えんのだ)

 

ゾルザルの見栄張りに内心腹を立てる。

 

「敵国の使者は講和による平和交渉を大変望み、キケロ卿とも折衝を続けて居たと言う。私にも接触があり、近々会う予定でした。それなのに!何故彼等はここまで怒ったのか!?たかが奴隷女一人のために!すべてを無駄にする様な事をしてまで!!私には分かりません!!誰か教えて頂きたい!!」

 

「当元老院は、ピニャ・コ・ラーダ殿下を招致いたします!」

 

協議の結果から元老院はピニャを証人として呼んだ。大勢の議員達が何を話すのかを固唾を飲んで見ていた。

 

「妾が知っている事を此処で全て述べたいと・・・思う。・・・彼らと初めて出会ったのはイタリカにおいて・・・」

 

ピニャは全てを話した。この時、帝国の為政者達は初めてはっきりと自分達が何者と戦っているのかを知った。イタリカでの攻防戦、鉄の飛竜(零戦)、鉄の象(戦車)、銃と言う武器に日本軍兵士の事。更に門の向こうには帝国が足元にも及ばない圧倒的な技術力や工業力そして軍事力。小国でありながら大陸の一部や周辺の島々を支配下に置いている。門の向こうの世界情勢や歴史などを話す。

 

「敵は大日本帝国と言う国、妾は講和交渉の仲介人を引き受けていた」

 

するとピニャが数枚の羊皮紙を手にしていた。ピニャの元に次々と議員達が取り囲む。

 

「これはその折ニホン帝国より提供された我が軍の捕虜名簿だ」

 

それを聞いて先まで黙っていた議員達が慌ててピニャの元に再び取り囲み名簿を見る。其処には、十数名の人物の名が書かれていた。

 

「何ですと!何故それを早く見せて下さらん!」

 

「見ろ!ノーリス、お前の息子の名前があるぞ!」

 

「儂の息子が生きている!」

 

「ない・・・誰かマオロの名を見なんだか?」

 

「確かに彼等は生きているのですな!?殿下」

 

「生きている。・・・妾は見返りとしてその中より十数名の身請けを許された。講和交渉に関わる者の身内を優先している事を許されたい」

 

「殿下、それはおずるい!選から外れた者はどうなるのですか!?」

 

「息子が奴隷に身を落とすなぞー」

 

「ニホン帝国は奴隷はおらぬそうだ。身代金もいらぬという」

 

「奴隷が・・・いない?」

 

「農奴もか?鉱山で働いている者は?」

 

「よく生活出来ているな」

 

「だが身代金の代わりに交渉における何らかの譲歩を求められた」

 

「そ、それでは身代金と何ら変わりないではないか!」

 

「だが奴隷として売られんのはありがたい」

 

ピニャは空を見上げ

 

「妾は思うのだ、彼等を激怒させたのはこのことでははないか・・・と。皇帝陛下が看破されたように民を愛する気性故に彼らは自発的に捕虜を厚遇するのだろう。そなた者達が自国の民が目の前で奴隷として弄ばれているのを見たらーー子を奪われた翼獅子の様に怒り狂うであろう。そしてその結果が・・」

 

元老院の中心でピニャはそう言い議員達も自国の将来を憂える。

 

 



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望月紀子の帰還と柳田の提案

ゾルザルは最早原形をとどめていない元老院から自分の館に帰って来た。

 

「ゾルザル様」

 

「殿下!」

 

「早く寝所に!」

 

自分の館に着いた時にはすでに疲れ果て、部下に支えられる形で馬から降り身に纏っている鎧を脱ぎ捨てベッドに横たわる。

 

「う〜〜」

 

「殿下、お気をしっかり!」

 

「氷をもっと持って来い!」

 

そんな彼の姿を見てとある人物が口を開く、その人物はゾルザルの弟・ピニャの異母兄に当たる、帝国の第二皇子で元老院議員ディアボだ。

 

「兄様。おいたわしいもう無理なさいますな」

 

「・・・ディアボか」

 

「これで元老院は講和派が多勢を占めるでしょう。だがこのままでは無条件降伏も同じです。これを避けるためにも何らかの軍事的成果をあげねば」

 

「フン、小賢しい男だ」

 

「兄様こそ・・・」

 

「ディアボよ、これは自業自得よ。馬鹿を演じるのも骨が折れるわ。俺はお前の様に賢く生きていけない・・・父上はカティ義兄を責め殺した男だぞ」

 

「父上はまだ若かったのです」

 

「故に先代皇帝の遺児である義兄を恐れたの・・・かだがもう歳だ。お前、俺が馬鹿をやっている間に次期皇帝を狙って何やら動いていたようだが、皇帝が指名するのは俺だ」

 

自信満々に話すゾルザルの顔は笑っていた。ディアボには、全く意図が読めない様だ。

 

(この戦争を終わらせる為に皇帝は退位せねば成らぬだろう。だが父上は馬鹿に見えるこの俺を帝位に着けて、裏では実権を握り続けるつもりだ。)

 

「だからおまえは皇帝にはなれん」

 

「しかしそれでは父上亡き後兄上が帝国を?そんな無責任な!」

 

「お前・・俺が帝国を傾ける程無能な男に見えている様だな」

 

「テューレ!」

 

ゾルザルが大声でテューレを呼び、爽やかな笑顔で現れた。しかしその奥にはテューレのドス黒い悪意が隠されているとは知らず。

 

「はいっ殿下。捕らえてきたニホン人でノリコ以外に生きていた者は二人。その内の一人、マツイフユキは売却先の鉱山でまだ生きております。ですがノガミヒロキは同鉱山で死亡していたことが先程わかりました」

 

「生き残りをすぐ連れて参れ・・こうなるならノリコにもう少し優しくしとくんだったか?」

 

「いいえ殿下。ただの下賤な女が次期皇帝のお情けを受けられたのですから」

 

その会話を聞いてゾルザルの企みに感づいたディアボ。

 

(・・・・!奴隷なんぞ当たり前のこと・・・・・それを謝罪を込めてニホン人を探して来たことにすれば・・・ニホンをなだめ講和への功績に・・・そしてそれは帝位への近道ーーやられた!)

 

「敵は無人の講事堂を攻めるお人好しだ まともに戦って勝てぬならまともな戦いをせねばよい」

 

「あっ」ガッ

 

「ディアボ。お前もそろそろ誰につくか決めろ。俺か、皇帝か。ピニャは・・・ニホンと親し過ぎるか」

 

「殿下 お体に障ります」

 

「かまものか しばしこの痛みを忘れさせてくれ」

 

「殿下ったら・・・あっ・・・」

 

そう告げ、ゾルザルは眠り、ディアボは部屋を出て頭を抱える。

 

(・・・やはり兄様は大馬鹿者だ。馬鹿を演じている内に本当の大馬鹿者になってしまった)

 

一方その頃アルヌスでは、地震で崩れた建物の再建が行われていた。

 

「ウォ〜ル〜フ〜?」

 

ロゥリィがハルバードをウォルフに突き付けていた。

 

「倉庫にあったぁニホンからの荷が馬車一杯分消えてるそうよぉ?地揺れの後ぉあなたの隊に見張り頼んだはずよねぇ?」

 

「ス・・・スミマセん。ニホン軍に手伝い頼まれたり他の連中もバタバタしちまって・・・」

 

そんな時テュカが血相を変えて走って来た。

 

「ロゥリィ!父さん見なかった!?地揺れの後帰ってないの!もう!心配ばっかりかけて!」

 

「あ、テュカぁ」

 

テュカはまたどっかに行ってしまた。

 

「・・・ちょっとぉやばいわねぇ」

 

「聖下・・・俺も・・・やば・・・」

 

 

アルヌスの近くの上空を飛行する九七式輸送機はアルヌスの総司令部基地へと向かって飛行していた。

 

「帰れるんだ・・・・(お母さん達心配してるだろうな、裕樹・・・無事でいて・・・造りかけの門しかなかったのに・・・・)」

 

そう願いながら紀子は窓から見えたアルヌスの様変わりに驚いていた。そして、アルヌスの飛行場に九七式輸送機が着陸する。九七式輸送機の機体の扉が開き、一人の女性拉致被害者の望月紀子がゆっくりと降り立つ。

 

「すごい、ここだけ日本だ・・・」

 

「望月紀子さんですね?診察があるのでこちらに」

 

「望月さん」

 

紀子は黒川と一緒に出迎える軍医と従軍看護婦に連れられ野戦病院へと行き、伊丹達はそれを見送る。大場大尉達は報告書を纏める為に兵舎に戻った。残った日本兵達は積み荷の作業に追われていた。

 

「えっと・・特地の資料は全部中野行きだっけ?この資料は・・・鉱物、土壌、動植物のサンプルと資源分布推測地図。あとの資料は商工業に地理情報か」

 

「他の皆も真面目に調査してますね」

 

「うちも女子と食いもんについてなら負けないぞ」

 

そんな時、背後から

 

「よぉ伊丹、またやらかしたって?ほんっとお前は状況を面白くしてくれるぜ。今回は拉致被害者の救出って言う手柄まで持ってきて。罰したものか賞したものか」

 

と柳田がニヤニヤ笑いながらやって来た。そんな柳田に伊丹は嫌そうな顔をする。

 

「・・・状況は?」

 

「四対六で減俸・・・ところがだ、特地の情報を小出しに公開し始めた政府が支持率向上を狙って、この事を大々的に発表したがっている。更に明日から列強国を集めた外相会談で、政府は各国の武器等の支援と引き換えに特地に入れろって要求を突っぱねるらしい。」

 

「へぇ・・・珍しい」

 

そして門の方を見てみると新たに兵器が強化されていた。ドイツのIV号駆逐戦車やⅢ号突撃砲が配備され更に新たに兵士を1万1000人増員していた。また、レンドリース法によりアメリカから大量の水、食糧(穀類、乾燥野菜、缶詰肉スパム、牛乳、バター、青果物、ドライフルーツ)、薬品、弾薬、燃料などの備蓄品が届いた。そしてソ連も日本に大量の石油やニッケルや鉄鉱石を輸出していた。それは日本のフォルマート大陸攻略においては必要不可欠な物資でした。

 

「当たり前だろ。東京のど真ん中に他国の軍が居座るんだぞ?宣戦布告も同然だ。それも一つや二つなんてもんじゃない。門の向こうに米軍や独軍や英軍にソ連軍なんか入れてみろ、森林伐採や鉱物資源の採掘による環境破壊、地元住民の強制退去や工場の建設・・・多国間でのイザコザは確実に発生するだろうし、最悪の場合この特地で第三次世界大戦の勃発だぞ。それくらいお前でも想像できるだろ?と言うわけで今村司令官もその参謀もお前を罰したいんだが処罰出来ずに困りきっているところだ。暫く呼び出しは無いな」

 

「今村司令官!毎度迷惑を掛けてスンマセンでした」

 

と司令所でお辞儀をする伊丹。

 

「それともう一つ、拉致被害者の望月紀子の家族についてだが・・・銀座事件当時に、娘を探す為に銀座でビラを配っていたと言う情報もある。あの日もな」

 

「本当か」

 

「本人には まだ言うなよ 軍医と専門家が許可してからだ」

 

「全員 聞いたな」

 

「はい」

 

「了解」

 

「それと帝都で何があったか現場の声を直接聞きたい 晩に「街」で飲もう・・・まぁそんな顔すんな お前がいない間にこっちでも面白いことがあったんだよ じゃ一九〇〇に」

 

柳田中尉はそう言ってその場を去る。伊丹は仕方なく誘いに乗る事にした。

 

「おやっさん あとお願いします 栗林と黒川の荷物渡して来ます」

 

「わかりました」

 

伊丹は望月紀子が診察している野戦病院に行く事にした。

 

「さっき来たコの病室を・・・・あれ?看護師さんは?」

 

「交替ができて日本にだいぶ帰りましたよ」

 

野戦病院の中に入り伊丹は赤十字の従軍看護婦に彼女と付き添いの兵士達がどこに行ったのか尋ねる。

 

「戦闘を見越して三百床用意したベッドも使ってるのは今四つだけです。それも患者はこっちの人ばかり、親方に殴られた大工の弟子とか隊商の護衛のケガ人とか・・・あとは・・・四偵が修道院で保護して来た重傷者がいるんですけど、ここに攻めたどこかの王国の貴族か将校かもしれないって、本人は農民だって言ってますけどね」

 

「フーン」

 

看護婦によると現在ここでは、アルヌスで働いている大工の弟子や隊商の護衛が入院していると言う。そんな他愛ない話をして、伊丹は教えられた病室に向かった。

 

「(個室かよ、って空き部屋ばかりだしな)黒川、栗林荷物持って来たぞー」

 

病室の中では感染病にかかってないか調べる為に血液検査の為にに採血が行われていた。

 

「(どんだけ血を抜くんだよ)どう?望月さん」

 

「あ、はい、大分落ち着きました」

 

「それで黒川軍曹、望月さんの今後の予定は?」

 

「はい、検査結果が出ない限りなんとも言えませんが、一週間か二週間は暫く診察を受けて様子見ですね」

 

「だ、そうだ。ここに来れば帰って来た同然だから、ゆっくり安静にしなさい」

 

「はい、ありがとうございます。あの、家族に連絡したいのですが」

 

と紀子が家族に連絡したいと言うと伊丹は何とか誤魔化そうとする。

 

「ごめん!まだ民間の回線来てないんだ。菅原っていたでしょ、あっち方面からまず連絡するからちょっと待て」

 

「・・・そうですか」

 

と伊丹は誤魔化し紀子はちょっと残念そうにしながら次の診察の為に別室に向かった。そして、伊丹は眉間に皺を寄せながら栗林と黒川に

 

「黒川、栗林彼女の家族のことなんだが、実は銀座事件の日に・・・」

 

「やべぇー危うく電話掛けるところだった・・・」

 

「許可が出るまでこの話はタブーだぞ」

 

と紀子の家族が死んだ事は許可が出るまで禁止と二人に伝える。

 

「伊丹さん、本当にありがとうございました」

 

と紀子は伊丹に頭を下げてお礼を言う。その様子に伊丹の顔は少し微笑んでいた。

 

一方テュカはアルヌス村の近くにある森林で木を背にして座り込んでいる。そんなテュカの後ろから声を掛けられた。

 

「父上は見つかったか?テュカ殿」

 

「見付かるわけはないよな。もうこの世にはいないのだから」

 

「・・・っ、またそんなウソ・・・!何度も何度も!ヤオ・ハー・デュッシなんのつもり!?この前からしつこくつきまとって!」

 

「夢を覚ましてやろうと思ってな」

 

「炎龍に襲われた時のことを思い出せ。生き残りはそなた一人だというではないか。他の者は皆殺されたのだーーーそなたの父上も」

 

「ウソよ!」

 

「事実だ!」

 

「ウソ!」

 

「炎龍に喰い殺されたのだ!」

 

「違う!」

 

「いくら探してもどこにもいない!」

 

「それを認めて敵を討つのだ!そして茶色の人に敵討ちの助勢わたのむのだ」

 

ヤオがそう言って森へと消えていった。その後テュカを探しに来たウォルフとロゥリィがやって来た。

 

「あれ?もう一人いたと思ったけどな、聖下いましたぜー」

 

「・・・テュカ?」

 

その問いかけにテュカは答えず、只々じっとしているだけだった。

しばらくしてテュカが顔を上げるが彼女の目には何も写ってないように見えた。

 

「ねぇ、あのダークエルフお父さんが死んだって言うのよ。笑っちゃうわ馬鹿みたい」

 

「・・・テュカ、一緒に来てぇ、話したいことがあるのぉ」

 

夕刻になり任務を終えた第三偵察隊と第一偵察隊は、パルナを連れアルヌスの村に向かった。日が沈む頃には村では、人々が行き来している。第三偵察隊と第一偵察隊は柳田の居る食堂へとジープで向かう。道中では行き交う人々から伊丹や大場達を讃え歓迎の声が聞こえそれに気づいた柳田が顔を向ける。

 

「「「「柳田中尉!本日はご馳走になります」」」」

 

「お おいおい伊丹ぃ?」

 

「よっ!陸軍中尉殿、太っ腹だね!みんなー少し遠慮しろよー」

 

「悪いな 柳田?今日はご馳走になるぞ。デリラさん!ビールを24本お願いする!」

 

「あーい!」

 

皆が騒ぐ中伊丹と大場は帝都での出来事を柳田に話す。それを聞いて納得する表情をする柳田中尉。

 

「なるほどな お前が柄にもなくキレるのも無理ないな」

 

「目の前で自国民が虐待を受けていれば誰だって怒りを覚えるさ」

 

「でしょうなぁ。そう言えばお前達が留守の間に面白い奴が訪ねて来たぞ」

 

「俺達に?本国からか?」

 

「いや、特地からだ。ダークエルフの女性なんだけど、ある依頼をしに来た」

 

「依頼だと!?何の依頼だ?」

 

「炎龍退治です」

 

「ヘェ〜炎龍退治ねぇ〜・・・・って!無理言うな!あんな怪物を!」

 

「無理って事は無いんだがな・・・取り敢えずまぁ俺の話を聞けよ」

 

柳田は炎龍退治の依頼内容を二人に話す。依頼人はダークエルフの女性で、名はヤオ・ハー・デュッシ。炎龍が現れる場所がエルベ藩王国内にあるシュワルツの森で依頼料として何百カラットの大きさのダイヤ。しかし帝国陸軍が活動出来るのは帝国の領土内のみ。エルベ藩王国に炎龍討伐の為に軍を進めればそれは侵攻を意味する。エルベ藩王国の人間がそれを良しとしないしわざわざ敵を増やす事になるだけである。

 

「可哀想に・・・けど軍としては無理って事になったんだろう?」

 

「あぁ、でもその王国の地下には、どうやら石油があるらしい。そこで俺はこう考えた、『資源調査』を名目にしたらどうだ?調査の途中に炎龍に遭遇し、自己防衛の為に炎龍を退治しちゃた・・・って。それなら問題ないだろう?」

 

「いや、問題大有りだろ!!」

 

と伊丹はテーブルに拳を勢い良く叩きつけ、柳田を怒鳴りつける。それによって周囲の会話が止まる。

 

「隊長、どうしたですか?」

 

「・・柳田が、俺達だけで炎龍退治をして来いってよ」

 

『マジで!?』

 

その言葉に第三と第一偵察隊のメンバーは全員が息を飲んだ。

 

「柳田、お前、こいつらに死んで来いって言うのか?上の命令なら従う。俺や大尉はこいつらの命を預かっているんだ、ただの一人の兵も無駄に死なせる訳にはいかねぇ」

 

「柳田中尉、貴様は少し勝手が過ぎるじゃないか?貴様はあの炎龍と戦った事が無いからそんな事が言えるんだ。如何あっても俺達に行けと言うなら貴様も一緒に来い。あれを見れば誰だって恐ろしくなるさ」

 

滅多に怒る事のない伊丹が怒りを露わにし、大場は柳田の提案に呆れる。が柳田は引く事なく笑みを浮かべながら煙草を吸う。

 

「そうか、だが断言しよう。二人は絶対に行く、賭けてもいい。その時は一声掛けてくれ、形式は整えてやる。今夜は俺の奢りだ、謝罪の前渡しと思ってくれ」

 

「謝罪?」

 

「金髪エルフの所に行ってみな・・」

 

そう言うと柳田は領収書を片手にその場を去る。

 

一方帝都では

 

「ピニャ!」

 

「ディアボ兄?」

 

ピニャがディアボに呼び止められた。引っ張られて行った。

 

「ちょっと来てくれ!」

 

「兄様!?」

 

「殿下!」

ピニャは人影のない所に連れて来られた。

 

「父上と元老院は何を決めた?ゾルザルはどうなる?」

 

「ええ、決まりました。父上はゾルザル兄の立太子を決められ、帝位の継承が明らかになりました」

 

「くそっ、早まった真似を!」

 

とディアボは拳を壁に叩きつける。

 

「父上亡き後はディアボ兄がゾルザル兄を補佐するのでは?」

 

「俺が!?馬鹿を言うな!それならば俺が皇帝になってもかまわぬではないか!いいかピニャ馬鹿にも二種類ある、自分が馬鹿だと知っている賢い馬鹿と自分が賢いと思ってる本物の馬鹿だ。本物の馬鹿のゾルザルが俺に誰につくか決めろと言ってきた。奴は何を思ったか父上と張り合うつもりだ」

 

「ゾルザル兄らしからぬところが・・・これまねの兄様ならば増長してただ威張りちらすだけだったはず・・・」

 

「そうだろ!」

 

「ですが帝位継承は長子相続が習わしそうでなくては民草も納得しません。この国難の中序列を乱し兄弟が争えば我が帝国はどうなりましょう?」

 

「それはそうだが」

 

「ディアボ兄はゾルザル兄の背中しか見ておられませんが、ディアボ兄の背中を見ている者も大勢いるのですよ」

 

「む・・・」

 

そう言われてディアボは顎に手を当てて考えた。

 

(ゾルザルはピニャがニホン帝国に親しくしすぎると言った。ニホンはお人好しだともーーそれは利用しやすいということではないのか?ゾルザルの暴発で戦争が激化し、帝国内でもゾルザルとピニャが対立する状況が生まれゾルザルが優勢になったとしたら、戦争を終わらせるためピニャとニホン帝国が共闘することもありうる。父上はゾルザルを生贄にしてニホン帝国を帝国の同盟国にするつもりだ。圧倒的な軍事力を持つニホン帝国の後ろ盾で帝国は安泰、父上も皇位継承問題から解放される。そうなれば玉座に一番近いのはーーそれでは俺は一生帝位につけん)

 

「兄様?」

 

(そうだ!俺がニホン帝国に続く第四の勢力作ればいい『門』の向こうでニホン帝国に対抗できる勢力を見つけられたらー)

 

とディアボが考えているとピニャが冷ややかな目で見ていた。

 

「・・・あの兄様?悪い癖が出てますよ?」

「ん?」

 

「ゾルザル兄は考えなしで困りますがディアボ兄は考えに過ぎます」

 

「・・・しかし誰だ!ゾルザルを本当の大馬鹿に仕立てあげたのは!力があると思っているなら父上が亡くなるまで隠していればいいものをっ、いいか小知恵のまわるゾルザルは怖いぞ、ああいうのは周りを巻き込んで盛大に破滅する。問題はお前だ、少しはこれからのことも考えておけよ」

 

「ええ、考えております」

 

「そ そうか(やはりピニャも帝位をーー)」

 

「妾が目指すのは・・・」

 

芸術の擁護者!!

 

とある地下牢

そこではテューレが硬いベッドに横たわっていた。そしてある人物と話していた。

 

「・・・・」

 

「テューレ様、ボウロでございます」

 

「・・・なに?」

 

「アルヌスの手の者より報告でございます」

 

とベッドの下から報告書が手渡された。

 

「その辺に置いといて後で読むから」

 

「テューレ様、ゾルザルが皇太子となれば帝国もいよいよおしまいでございますな・・・」

 

「・・・・アレをおだてあげ増長させるのに苦労したのよ」

 

"貴方は偉大で力強く才能溢れる方貴方だけが真に正しい 凡人の言うことなどに耳を貸さず貴方が思う道を進めばよいのです。そんな貴方を皇帝は恐れています 貴方の義兄のように殺されかねません。無能を演じ時が来るのを待つのです・・・"

 

「今では世界が自分中心に廻っていると思い込んだ大馬鹿者。私の言う通り動いてくれるわ。なんとしても講和を潰す。戦争を続けさせる。私の復讐はようやく始まったばかりよ」

 

「それならば残りのニホン人奴隷を殺しまする。たかが一人二人のために怒り狂い攻めて来る敵ですから・・・」

 

「(たかが一人二人ーー私の時は誰も助けに来てくれなかったのに一族を救うため身を犠牲にした。ゾルザルにこの身を捧げた。なのに同胞から裏切り者と命を狙われる。誰も私を愛していない。それだけは絶対許せない)・・・甘いわねとっても甘いノリコあいつを殺しなさい」

 

「誰に殺させまする?」

 

そう問われテューレは笑った。

 

「ピニャがいいわ。ニホンと親しいピニャがノリコを殺したと知れば講和はもちろん決裂 ニホンは大軍で帝国に攻め込む」

 

"戦争はもっともっと大きくなり大陸を巻き込み果てしなく続く ヒト種同士が憎しみ合い殺し合い破壊し合う 大地はヒトの骸で覆われ 帝国も何もかも滅びるーー"

 

「父と母と弟そして一族の故郷を奪ったゾルザルも・・・私にとってそれが大いなる喜び・・・そうすればボウロお前の望みを叶えましょう」

 

「かしこまりました テューレ様お約束・・・なにとぞお忘れなく・・・」

 

こうして、テューレとボウロによる紀子暗殺計画が始まろうとしていた。

 



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悪夢の淵

宴会も終わり、伊丹と大場は柳田に言われって元難民キャンプ地現アルヌス協同組合住宅地のティカの部屋に向かっていた。テュカの部屋に到着し、扉をノックしようとした時、扉がゆっくり開かれた。

 

「入って」

 

何故かテュカの部屋からレレイが出て来た。伊丹と大場はレレイの言われるがままに部屋に入った。部屋の中にはベッドの上に座るテュカとロゥリィがいた。テュカの顔は暗く真っ青になっていたが、伊丹を見ると満面の笑みを浮かべ、テュカは伊丹に抱きつく。

 

「ほら!帰って来たじゃない!二人とも冗談が過ぎるわ!あの嘘つきダークエルフ!あんなのこの街から追い出してやるんだから!!」

 

「嘘つきダークエルフ?」

 

「俺達に炎龍退治を依頼して来た女だ」

 

「そうよ!あいつ、この前からしつこいの。茶色の人に助勢を頼んで敵討ちしろって。ニホン軍に断られたからってあんな嘘ついて・・・誰が信じるもんですか!」

 

「敵討ち?嘘?一体何を言って-----」

 

「あいつ・・・父さんが炎龍に食い殺されたって言うのよ・・・バカみたい、笑っちゃうわ。だって・・・こうして目の前にいるっていうのに・・・そうでしょ?『父さん』!」

 

恐れていた事態が起きた。テュカの心の支えだった嘘と言う名の柱が崩れた。それと同じくして伊丹にも異変が起きた。口から吐瀉物を吐き始めた。

 

「おい、伊丹中尉」

 

「ちょっと!レレイ!何しているのよ!父さんが死んじゃう!」

 

伊丹とテュカを落ち着かせようとレレイが睡魔魔法を使い、伊丹とテュカはゆっくり意識を失って倒れた。ぐっすり眠った二人をベッドの上に寝かせる。しばらく流れる静寂が続いたがそれに耐えかねてロゥリィが声上げる。

 

「ねぇ、オオバァ。イタミの事について、貴方は何か知っているでしょぉ?」

「あぁ」

 

「なら教えてぇ。この問題はもう、貴方達二人だけで解決出来る事ではないわぁ。」

 

「私もそれについては同意見。私達は少なからず、テュカの闇を知っている。だけどイタミの事については何も知らない。何故イタミがあのような事になったのか、私達にはそれを知る権利がある」

 

「まぁ良いだろう、お前達は・・・伊丹耀司の生き様を聞かなくてはならない義務なのかもな。・・だが伊丹中尉はこれから先もあの忌まわしい過去を話さないだろうし、知られたくもないだろう。それでも聞くか?」

 

「構わないわぁ」

 

ロゥリィは承諾し、レレイも頷き承諾する。大場大尉は壁にもたれ掛かり話し始める。大場は伊丹と親交があった為、彼も伊丹を過去を知る人物だ。

伊丹耀司の過去を・・・。

"始まりは18年前に遡る。当時中等学生だった、伊丹と母親は父親から酷い虐待を受けていた。父親は真っ当な職に就かず只々酒を飲んだり、賭博で負けた腹いせに二人に暴力を振るうろくでなしだった。そんな苦痛から解放されたかった母親はとうとう父親を刺し殺してしまった、この時は正当防衛が認められ裁判では罪に問われなかった。それから母親はずっと自分を責め続けた。親戚や知人達の救いも虚しく終わり伊丹は母親に現実を分からせようとした。『いい加減にしろよ!!父さんはアンタが殺したんだろ!!』その後伊丹達は叔父の家にしばらく預けられ苦労もしたそうだ。その間に母親は焼身自殺を図った。なんとか一命は取り留めたものの、これ以上は危険と判断され、病院に措置入院が決定し、それ以来母親と会っていない。その後伊丹は16歳で陸軍士官学校に入学し、日中戦争、大東亜戦争に参加し戦後も従軍している。"

そんな時に、伊丹が目を覚ました。

 

「うぅ・・・ここは?」

 

「ようやくお目覚めぇ?」

 

「中尉、水飲むか?」

 

「ありがとうございます。このベッドは?」

 

「テュカが父親用として用意していた物よぉ」

 

「事情を聞かせてくれないか?」

 

大場は伊丹に全てを話した。テュカの現状、伊丹の忌まわしい過去、こうなってしまた原因。

 

「あのダークエルフか」

 

「だがあの女一体どこでその事を知ったんだ?」

 

「それは此の身から話そう」

 

と部屋の扉が開き、噂をすれば今話っている人物が現れた。全員が武器を取り出しヤオに向ける。

ヤオは臆する事なく不敵な笑みを浮かべ部屋に入り鋭い眼光で見つめる。

 

「先日は失礼した、ロゥリィ聖下。そして茶色の人よ」

 

「何故テュカに余計な事を言った?」

 

「余計とは心外だな。私は事実を教えたまでだ」

 

「それでもだ、何故だ」

 

「決まっているだろう。悪意があったからだ」

 

「悪意だと?」

 

「そうだ、それ以外に何があると言う?御身ら二人は此処にいる三方の為なら多少の規則破りも厭わないと聞いた。それを利用しない手は無いだろう?あの丘の上には炎龍を倒す力がそれこそ幾らでもあると言うのに、此の身の同胞には手を差し伸べてくれぬ!」

 

ヤオの怒りと悲しみの訴えを伊丹達は黙って聞いている。

 

「だが頼みを拒絶した者共もイタミとオオバならやるかもなと言っていたそうだ」

 

「誰だよ、そんなこと言った奴」

 

「私がそう通訳した」

 

「だからーーーだから壊したのだ!」

 

伊丹は歯を食い縛り、大場は眉を潜め軍刀を抜くのを堪えている。そんな事を気にも溜めず話を続ける。

 

「愛する者・・大切な家族・・信頼できる仲間を奪ったのが天災ならば神を呪うしかない!だが炎龍は・・・仇は目の前にいる!それなのに手も足も出ない!ならばこの怒りと憎しみはどこに、何にぶつければいい!?」

 

ヤオの目から溢れんばかりの涙が流れる。

 

「復讐は自らの鎮魂のために必要な儀式だ!それを経て遺された者はようやく現実を、明日を見ることが出来る!此の身は御身らに捧げる!この場で八つ裂きにしようと罵り唾を吐こうとも構わない!だから・・・だからお願いだ!その娘のついででも構わない!此の身の同胞を救ってほしい・・・」

 

ヤオは悲痛な願いが部屋に響き渡る。

 

 

 



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決断の時

あれから、伊丹はテュカの父親役として、朝昼晩とテュカの面倒を見ながら生活した。伊丹は、出来る限りの父親役をえんじた。

 

「おとうさん♪」

 

だが、中々解決の糸口が見つからず時だけが過ぎて行った。

 

「伊丹隊長 テュカの父親役始めたって?」

 

「ああ 毎日 テュカの家から出勤してる」

 

「きのう街で二人見たけど テュカそんなにやばいの?」

 

「隊長が本当の父親に見えるくらい」

 

「現実逃避してるだけやんやべーよ隊長もテュカも」

 

と全員半分呆れ気味だった。そしてテュカの家ではテュカが朝食の用意をしていた。

 

「おとうさん 朝ごはん♪」

 

「わかったよ テュカ」

 

「今日はどうするの?」

 

「日本軍の仕事」

 

「随分働き者になったのねぇ」

 

「この街じゃみんな働いてるし テュカも組合の仕事してるだろ?」

 

「そうだけど・・・」

 

「明日からしばらく通訳で帝都に行くことになったから」

 

「えー!?なんで父さんが?」

 

そしてその瞬間テュカは激しい頭痛に襲われた。

 

「テュカ?」

 

「・・・お仕事なら仕方ないわ 早く帰って来てね」

 

そして朝食を食べ終えると伊丹は出勤した。悲しげな表情で見送るテュカ。

 

「(俺はテュカの父ホドリューを全く知らない。本人とのズレはすべてテュカが背負うことになってしまう)頭痛は日に日にひどくなっているやうだし・・・くそっ俺にどうしろって言うんだ」

 

 

"俺は美女の涙で立ち上がる戦士ってのが大嫌いだ。戦士の命を安売りしすぎる。それに命を無闇に捨てる気もない"

 

「(許婚以外の女の子の知り合いも増えたし この先いいこともなにか・・・)・・・まだいたのか」

 

と伊丹の前に現れたヤオ。

 

「いつまでも続かないぞ。終わりはすぐそこまで来ている」

 

 

『くそったれめ!!』

 

と伊丹は大声で叫びだした。そして夕刻伊丹はテュカの家に帰って来た。

 

「ただいまー」

 

「おかえりなさい!父さん晩ごはんなんにする?」

 

「んー今日は外に食いに行こうか たまには街のみんなと飯食うのも楽しいぞ?」

 

「父さんがそう言うなら・・・」

 

そして任務前日と言う事もあって第三と第一の兵士達と食事をしている。

テュカは一時黒川軍曹に任せ、伊丹はロゥリィの前で溜息を吐く。

 

「自分よりぃ年上のぉ子を持った気分はどぅお?」

 

「結構疲れるし、複雑な気分」

 

「だろうな」

 

「まぁ、最近は黒川に懐いているから良かったよ。黒川自身は自分に気があるかもって少し困ってたらしいが・・・あの様子なら安心して任せられる」

 

「だが、中尉何時迄もあのままとは限らないいつ又発作が起きるか?」

 

「えぇ、分かっています。テュカを助け出すのは今しかない」

 

「なら、テュカの父親の敵討ちと行くか?」

 

「ですがリスクが大きすぎます。賭けに出るに幅が悪い。これは博打では無い。今この賭けの代償は俺の命だけだ。それをテュカの命と一緒に-----」

 

伊丹の手の平には一銭玉が置かれていた。すると大場はその上に1ドル銀貨を置いた。

 

「俺も賭けよう」

 

「ダメです。大尉、俺は誰も犠牲にしたくありません!」

 

「だが、お前とテュカの二人だけで行かせれば、それこそ自殺行為だ。みすみす死にに行く様なもんだ」

 

「しかし!」

 

「伊丹 お前は何故自分で背追い込もうとするんだ?」

 

「ッ!?」

 

「そんなに俺たちが頼り無いか?」

 

「いえ!」

 

「だったら俺も連れて行けあの時は俺も現場に居合わせたんだ。次は必ず仕留めてやる」

 

「連れて行ったとしても、三人では勝ち目があるとは思えません」

 

「確かに倒せる確率は限りなく低いだろう、だが一人でも多くいた方が良いだろう」

 

「・・・」

 

「じゃあ、俺は用があるから」

 

と大場は席を外した。

 

 

その日の夜、伊丹はベンチに座りながら悩み老けていた。行くべきか、行かざるべきなのかと今だに悩んでいた。そんな事を考えていると不意にトスン、トスンと何かが近づいてくる音が聞こえた。音のする方に顔を向けると、そこには松葉杖をつき左眼を眼帯を掛けた老人の姿があった。そんな老人が伊丹の隣に立った。

 

「若者よ、そこを退くがよい」

 

「・・どうぞ」

 

「うむ、中々殊勝じゃの。ここは儂が毎晩使っておる。以後気をつけよ」

 

(誰だ?そう言えば別の隊の奴等が修道院で重傷を負った老人を見つけて保護して来たって話を聞いたな・・その爺さんか?)

 

「さて、若いの。何を迷ってこんなところで一人黄昏ておる?」

 

「・・爺さんには関係ないよ」

 

「ふむ、話したくないのならそれも良かろう。それにしてもこの義手と義足は本当に良く動くのぉ革と思えぬ部品もある。お主等の世界では手足をなくすと皆こんな高価な物を付けるのか?」

 

「えぇ、大抵は」

 

「医者の話では走れるようにもなると言ってあったが?」

 

「そう言うのは競技用の物を付ければ、生身の時よりは大抵は速く走れますよ」

 

「生身の時と同じ様に動けるのか?凄いのぉ・・なんじゃお主話せるではないか。その調子で大の男がこんな夜中に黄昏ておったのか、洗いざらい喋ってしまえ。ほれ!」

 

伊丹は頭の中で"やれやれ"と思いながら今までの事を全て話した。どうせ話したところで何も解決しないと思ったのだろう。

 

「成る程な・・・復讐を果たし区切りをつける、か。儂もそう思うぞ。敵が大手を振って歩いているなぞ聞いたら、儂なら腹わたが煮えくり返るわ。なぜ早急に敵を叩かんのだ?」

 

「敵が強すぎるんですよ」

 

「なんじゃ、戦う前から怖気付きおって」

 

「だって、炎龍なんですよ?」

 

「なんだと!?炎龍!?」

 

「えぇ、しかも出没しているのが南のエルベ藩王国領内で炎龍討伐用の大部隊を送れない状態なんです。自分等の部隊だけで行っても犠牲は避けられません」

 

「そうだな、強大な敵に対して戦力を逐次投入するなぞ愚策中の愚策だ。敵がなんたるかも知らせずに突撃を命じるような馬鹿はあやつ等だけで充分だ!」

 

(何だ?この爺さん、やけに軍事関連に詳しいけど本当に農民か?体の傷といい風格といい・・・元騎士って言われた方が納得いくぞ?)

 

「それで?そのエルフの娘と二人で行くつもりか?」

 

「いえ、別の隊の隊長も行くと言ってるんですけど」

 

「それでも三人だけでは心中も同然だぞ?」

 

「だから行くかどうか迷ってるんです」

 

それを聞くと老人は伊丹の肩に手を置き

 

「なぁ若いの。危険だと分かっていても退く事が許されぬ時もある。負けると承知していても前に進まなければならない時もある。男というものは時に馬鹿にならねばやってゆけぬのだ。そう思わないか?」

 

老人はそう言って去っていた。結局伊丹は決断できぬまま朝を迎えた。一式陸攻に第三と第一が乗り込み、捕虜返還の第一陣を連れた議員と軍人達が乗り込む。その光景を遠くからテュカが悲しげな表情で見ていた。彼女には必ず戻ってくると約束したが、それまでの間に状況が悪化する可能性もあった。そしてパイロットが離陸しようと動き出した。

 

ーーすぐに戻ってくるーー

 

ーーすぐとはいつだ?ーー

 

ーーその間テュカは一人だぞーー

 

ーー本当にこれでいいのか?ーー

 

ーー本当によかったか?ーー

 

ーーそんなの・・・ーー

 

 

ーー良くないに決まってるだろ!ーー

 

「すみませんおやっさん!!俺降ります!!」

 

「なんだと!?」

 

「後は頼みます!!」

 

「隊長!?」

 

「やれやれ小野田少尉、部隊の指揮はお前が取れ!!」

 

「大尉殿!!」

 

伊丹は桑原に一時隊の指揮権を託すと装備を機外に放り出してと伊丹と大場は飛び降りた。飛び降りた伊丹はテュカのもとに向かった。

 

「どうしたの?」

 

「帝都に行くのは、やめたよ」

 

「いいの?」

 

「お前の笑顔の方が大事だ。ずっと一緒にいるよ」

 

「な、何それ?実の娘を口説いてるの?・・バカッ」

 

「テュカ、一緒に行こう」

 

「どこに?」

 

「南の方だ。嫌か?」

 

「ううん!行く行く!」

 

「大場大尉も同行するけど」

 

「それでもいい!むしろ大歓迎!今から帰ってすぐ支度するね!」

 

そう言ってテュカは満面の笑みを浮かべながらアルヌス村に戻った。

そんな時柳田が怒りを露わにして来た。

 

「この大馬鹿野郎!馬鹿か?馬鹿なのか!?いや、馬鹿じゃなかったら今頃一式陸攻で空挺部隊の真似事なんかしないもんな!大尉殿も何故こんな事をするんですか!大尉とお前とあの娘三人だけで炎龍退治?他の隊員が見ている目の前で任務放棄?しかもパラシュート無しで空挺降下!?軍法会議もんだぞ!これだけの悪条件揃えてどうやって二人を派遣する条件を考えろって言うんだよ!」

 

「それを考えるのがあなたの役目でしょ?」

 

「それに、行く時は声を掛けろってと形式は整えてやるって言っただろ」

 

「はい、確かに言いましたが・・あ〜あ、もうダメだ。皇子暴行の事だってまだ保留だし、命令違反、逃亡、減給、降格処分、除隊処分かな。最悪の場合軍法会議にかけられ禁固刑或いは銃殺刑又は懲罰部隊送りで突撃、全滅・・今からでも遅くはない、任務に戻る方が身の為だぞ?」

 

「柳田さん、もう決めたんだ。俺はやるべき事を先送りにし続けた結果の後悔はウンザリする位して来たんだ。だから今は動く」

 

「・・・チッ、分かったよ。それで、何が必要なんだ?まさか丸腰とは行くまい」

 

「まずは足だな。車両と予備の燃料!パンツァーシュレック10丁、小銃と短機関銃それぞれ10丁、爆薬を一箱分」

 

「員数外の自動貨車なら誰も文句は言わんが・・」

 

「いや、ドイツ製のSd Kfz251で頼む」

 

「それから予備の弾薬が欲しい。あと無線機と三人分の水と食糧を一週間分」

 

「ヤオはいいのか?」

 

「あいつの事は知らん」

 

「そうそう、どうでもいいよ。あいつを連れてくならあんたも同伴願うぜ?」

 

「おや、ご機嫌麗しくないようですねぇ。で、本当に三人分で良いのか?」

 

「あぁ、他に誰がいる?」

 

「「え?」」

 

その瞬間、二人は突然何かに足を取られた。視界が一瞬にして空へ向けられ、その端に嘲笑うかのな柳田の憎たらしい笑みが目に入る。そして背中に衝撃が走り、それと同時に頭に何かが勢い良く突き立てられ、恐る恐る見てみると、それはロゥリィのハルバートだった。上の方に目をやるとロゥリィが仁王立ちになり、その横にレレイの姿もある。

 

「ちょっとぉ、水臭いじゃないぁい?いい加減巻き込んでもいい間柄でしょぉ?女を火遊びに誘いたいんならぁ、素直に一言言ってみせたよぉ」

 

「でも相手はあの炎龍だぜ?」

 

「すっごく楽しみ、ゾクゾクしちゃう❤️身体がまだある内にもっと感じたいのぉ❤️それともぉ、最初から死ぬつもりぃ?」

 

「いや・・」

 

「仕方がない中尉、彼女も連れて行こう。連れて行かなかったらもっと面倒だぞ」

 

「はぁ・・分かったよ。ロゥリィ、一緒に来てくれるか?」

 

「フフッ、高くつくわよぉ」

 

「借りとくよ、いつ返せるか分からないけど」

 

「それなら大丈夫よぉ。死後に魂を頂いて返してもらうからぁ、眷属になってもらうわぁ」

 

「お前は悪魔か!「ガブッ!」イデデデデ!イデー!」

 

ロゥリィは伊丹の右腕を掴むと、いきなり噛み付いた。噛まれたところから血が出る。それを舌で舐めとる。

 

「契約完了ぉ・・次はオオバねぇ」

 

「え!いや、俺は遠慮しとく!」

 

「何言ってんのぉ?ほら早くぅ!」

 

「分かったよー!ほらこれでいいだろ、「ガブッ!」カァーイッテェー!」

 

「これで二人とも私の眷属ねぇ。ヤナギダ、一人分追加ねぇ」

 

「いや、もう一人追加」

 

「レレイも!?」

 

「生還率を上げるには魔法が最も必要・・」

 

「まさか、レレイお前・・」

 

「怒って・・らっしゃる?」

 

二人の言葉に何も返さず只々ジッと見下ろすだけだ。余程置いて行かれたのを根に持っている様。

 

「・・・」

 

「柳田、五人分お願い」

 

伊丹は小声で頼んだ。

 

「此の身は命が続く限り、永久に御身らのもの。今ここで命を絶つと申すならばすぐにでも・・」

 

「こんな所で死なれたら困る。アンタには目的地までの道案内を頼むよ」

 

「畏まりました」

 

そんな時柳田がおもむろに口を開いた。

 

「伊丹・・お前、何様なんだよ・・俺はなぁ、士官学校を出て軍刀組の陸軍のエリートコースに乗っている。お前みたいに幸運と偶然でちゃっかり昇進したんじゃない。組織という枠組みの中で生き残りをかけて心身を削りながら今まで努力して来たんだ・・だから俺は!お前みたいな奴が大嫌いなんだ!正直言って心の底から見下してもいる!」

 

突然の事に伊丹達全員が目を見開く。いつもは何かを企んでいる不敵な笑いを浮かべる柳田が、今日に限っては鬼瓦みたいな怒りを浮かべる。

 

「何が片手間仕事の趣味優先だ!息抜きの合間の人生だっ!嗤わせるじゃねぇ!それが今じゃ俺と同じ階級だぁ!?ふざけるなぁ!!じゃあ今までの俺がやってきた苦労は何だったんだ!!えぇ!?俺たち裏方の努力でお前らは戦えてたんだぞ!それなのにお前は・・だからもっと苦労しろ!酷い目に遭えよ!部下の家族にお悔しみの手紙書く立場になってみろ!それでようやく俺の努力と釣り合うんじゃないのか!?違うか!?」

 

「・・・」

 

「なのに私事だから部下を巻き込みたくない?俺たちはその部下を得る為に努力してるんじゃねぇのか!?俺達帝国軍人が連れて行けるのは上がつけてくれたその部下だけだ!隊を離れちゃ個人では何も出来ない・・出来ちゃおかしいんだよ!なのに・・・どうしてお前には・・自分から付いて行くって奴が居るんだよ!」

 

柳田の悲痛の叫びが誰も答える事も出来ず答えられなかった。

 

「くそが!!」

 

「気は済んだか?柳田中尉?」

 

「まぁ・・・なんかごめん」

 

「うるせぇっ。ただの八つ当たりだ!」

 

そう言って去っていた。

 

 



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指令執行人

その後、伊丹達はテュカを迎えに行く為一度アルヌス村に向かう。村では炎龍退治を聞きつけた村の人々が伊丹達を見送ろうと街道に集まり、討伐成功と無事帰還できる事を祈ってくれ、柳田が用意してくれたSd Kfz251に乗り込むとエルベ藩王国へと向かった。その後ろをエルベ藩王国の国王デュランが見送っていた。

 

「若者が行ったか」

 

「デュランさん!また勝手に出歩いて!困ります!それに此処は、関係者以外立ち入り禁止ですよ!」

 

「ハハハッ!スマンスマン。リハビリじゃよ」

 

「さぁ、病室に戻りますよ」

 

「あぁ、だがその前に一つ頼み事がある。すまぬが、ここで一番地位のある者を呼んでくれぬか?儂の事で話がある」

 

一方、アルヌスの村で働いているメイド達が寝泊まりしている寮の一室の部屋でデリラが一枚の手紙を手に震えていた。

 

「な、なんで・・こんな命令が・・」

 

その手紙にはこう書かれていた『望月紀子暗殺命令』と書かれていて、事実上の暗殺指令だった。デリラは、紀子と言う名前は耳にした事があった。

皇宮で伊丹と大場達が帝都から救出した日本人だって事だけで知っているのは名前だけで顔は一切知らないのだ。

 

「こんな事したら・・・あたいだけでなくこの街の亜人全員が居られなくなる・・・こんなの絶対にミュイ様の命令じゃない・・ニホン人はイタリカの街を救ってくれたんだよ?どうして」

 

スパイとしての任務を遂行するか、はたまた命令を放棄するか、の二つに一つの苦渋の決断を迫られていた。すると外からSd Kfz251のエンジン音が聞こえ、外を見るとそこに伊丹達が居た。

 

「あっ!イタミとオオバの旦那!」

 

だが彼女の声はエンジン音で全く二人には聞こえず行ってしまた。

その日の夜、デリラは決心した。部屋の明かりを消し、祭壇に置かれた蝋燭に火を付け、特地における四大最高神を祀っていた。

 

「神よ、天と地を支える使徒よ。この身を供儀として祭祀の炎を焚べる。戦いの神、エムロイ。冥府の王、ハーディ。盟約の神、エルドート。復讐の神、パラパン。あらゆる恐れ、慈愛、迷いから我を守り給え。この身はこの時より敵たる者の命を奪う剣とならん。赤き血を受けてただ錆びゆく鋼となりしも、忠誠を誓いし我が魂は不滅不変なり」

 

デリラは愛刀の大型ククリにあたるヴォーリアソーズを掲げ神々に誓いを立てていた。

 

「(昔からヒトはヴォーリアバニーを残忍で激しやすく淫乱な種族だと年代記に記してきた。半分当たってる、あたいらの国があった大陸東北の平原じゃ毎日のように部族どうし狩ったり狩られたりしてたから、あたい達はたくさん子を産むけどなぜか男が滅多に生まれない。だからなのか家族や夫婦ってのがよくわからない?子供は部族の女みんなで育てるんだ。どうやって子を作るか?そりゃあ・・・気に入った雄なら種族は関係ない飽きて別れるまでつがいになるのさ、だから淫乱ってのは間違いだ・・・と思う。運のいい奴は一族の「男」とつがいになって純潔の子を産む女王となる子だ。そしてあのとき 王国を率いていたのが・・・テューレだ。テューレ・・・貴様を殺すまで、あたいは死なない(あのときあいつの裏切りで王国は滅んだ)」

 

ー三年前ー

 

(帝国の大軍が攻めてきた、いや奴隷狩りに来たんだ。あたい達は戦った帝国兵をいっぱい殺したけど、奴らは本物の軍隊、勝敗は見えていた。)

 

地面は無数のヴォーリアバニーと帝国兵の死体で溢れていた。

ヴォーリアバニー王国に攻めてくる帝国軍との一進一退の攻防が続いた。

 

「ひいっ」

 

「アガッ」

 

降り注がれる矢に絶命する者達の叫びがこだます。

 

「テューレ様」

 

「テューレ様はご無事か!?」

 

「テューレ様は?みんなにはげましのお言葉を・・・」

 

「うう」

 

「デリラ大変だよ!」

 

蛮族どもよ これを見よ!!

 

「あれは・・・テューレ様の戦衣!?」

 

デリラ達が見たのはテューレが身につけている戦闘服だった。

 

「貴様たちの王テューレは民を見捨てた!」

 

「我が兵を買収し己だけ逃げたのだ民には死ぬまで戦えと言いつつ!」

 

「なんだってぇ・・・」

 

「蛮族どもよ。降伏か死か、選ぶがよい!!」

 

降伏か 死か

 

「畜生!テューレ!裏切り者!!」

 

デリラは草原を走っていた。そしてデリラは帝国軍の残党狩りから逃げていた。

 

「デリラ!」

 

「グリーネ!?パルナ!」

 

「これからどうする?」

 

「奴隷なんかまっぴら、大陸の端まで逃げることになったって、テューレをぶっ殺すまであたいは死なないよ」

 

一族の恨みを晴らすまで!

 

その後デリラ達はあっちこっちを転々としていた。そんなある夜、パルナが自身の片耳を切り落とした。

 

「パルナ 何したんだい!?」

 

「死ぬまで逃げまわるなんてもう・・・いや。奴隷になった方がまし。悪所のどこかの一家で妾にでもなるわ あいつらヴォーリアバニーの身体喜んで買うはずよ。じゃあ元気でね」

 

そう言ってパルナは去っていた。残ったデリラとグリーネは体力的にも精神的にも廃人と化していた。そんな二人に

 

「あなた達 行くところはあるの?」

 

声の主はフォルマル家のメイド長カイネだった。

 

「ようこそイタリカへ!私がフォルマル家当主コルトだ。諸君らの境遇は聞き及んでいる。安心して我が領地を新たな故郷と思って暮らしてほしい」

 

(先代当主様は開明的な考えをいやぶっちゃけ亜人好きだったんだ。こうして貧しいながらも一族に安住の地ができた。あたいらは伯爵家のハウスメイドにもなれた。そして去年の夏戦争が始まった、『門』の向こうから来たニホン軍ーー初めて見る異世界のヒト)

 

「ねぇ聞いた?ペルシアがニホンの男に一目惚れされたって」

 

「え!?ホント?」

 

そんな時メイド長のカイネが部屋に来た。

 

「デリラ、ドーラ、メルティエ、シーヴァ。私の部屋に!」

 

カイネの部屋に来た四人。

 

「あなた達にはアルヌスに行ってもらいます。アルヌス協同生活組合から再び従業員派遣の要請が来ましてね。至急支度をしてください、明日出発します」

 

そう言われて部屋に戻ろうとすると

 

「デリラは残って」

 

「!?」

 

「デリラ、あなたには、もう一つ別の仕事をお願いします。・・・アルヌスとニホンの動向を探り 定期的に報告してください」

 

「よろしいのですか?」

 

「ニホン帝国は異世界 彼らについて何もわかりません。帝国とどう対するのかも、早急にニホン語を学び生の情報を集めるのです。フォルマル家とミュイ様のために」

 

「かしこまりました。フォルマル家のためなら喜んで(こうしてアルヌスに来て半年 今じゃあたいが給仕長!!)」

 

「一人部屋!綿の布団〜」

 

「夢みたい・・・」

 

 

その少し前柳田は檜垣少佐と斥候の今津大佐に伊丹達の資源探索偵察の書類に判を押しってもらい、司令室に向かった。資料を見る今村司令官と柳田中尉を中心に参謀総長の栗林中将、参謀長の狭間中将、健軍大佐、加茂大佐、一木大佐、中川大佐など各連隊長や師団長に航空隊の指揮官が取り囲む。

各連隊長や師団長は鋭い眼光で柳田を見つめる。とてつもないプレシャーに押し潰されそうだった。

 

「ふむ、柳田中尉。彼奴らは一体何を考えて居るんだ?」

 

「ほ、本省調令五の三〇四!『特地における戦略資源調査について』!これが伊丹中尉及び大場大尉の行動と根拠になります!」

 

柳田はあまりの緊張に直立不動で報告する。

 

「分かっている、だがそれは表向きの理由だろう?」

 

「表も裏もありません!伊丹中尉等は資源探査に向かっただけであります!」

 

「そうか。諸君等は、どうするかね?」

 

「自分は、軍人です。命令に従うだけです」

 

「司令官のお心のままに」

 

「自分も同じく」

 

「準備は出来ています」

 

「よろしい」

 

今村司令官は椅子から立ち上がると門の方に体を向け眺める。

 

「我が帝国はあの戦争で東アジアの国々の為に『請われて戦った』と言えるだろうか?これからはもうそんな事がない思っていた。だがそんな馬鹿な事をする者達が我々の中に居たようだ」

 

「馬鹿とは言え同じ大日本帝国国民あり、帝国軍人です。見殺しには出来ません」

 

「その通りだ諸君!あのバカ者達を死なせる訳にはいかん!加茂大佐!第一戦闘機隊と各連隊は待機を命じる!適切な戦力を投入し伊丹中尉等の探索支援の準備をせよ!あらゆる事態を想定して慎重に部隊を編成を行え!」

 

「はい!」

 

「市丸少将!海軍航空支援を要請する!特地甲種害等、不測の事態に備え用意してせよ!」

 

「了解です!」

 

柳田は目の前の光景に驚きを隠せなかった。まさかこうまであっさりと越境の為の部隊が編成されるとは思わなかった。次々と連隊長や師団長が部屋を出て行き、柳田と今村司令官と参謀だけが残った。

 

(こんなにあっさり越境出来るなら俺がヤオを焚きつけた意味が・・・)

 

「伊丹達が行動を起こさなかったら、あの方も名乗り出なかっただろう」

 

「柳田中尉、特地語は使えるな?その人物に会ってもらいたい。」

 

柳田は野戦病院のある病室に向かっていた。

 

「まさか エルベ藩王国の国王が入院してたとはね なんで今まで誰も気付かなかったんだよ」

 

柳田はエルベ藩王国の国王が入院している病室まで来てノックをする。

 

"ボーゼス嬢に確認したらスイッセス研修生と面識があるそうだ・・・彼女達はあれでも貴族だからな そこで彼の話を聞きこちらの要望を伝えてくれ"

 

「失礼します」

 

柳田が病室に入ると顔の至る所に傷があり左眼に眼帯をした男が食事をしていた。

 

「おお やっと来たか 待っておったぞ エルベでは王太子が政務をやっておるはずじゃが儂が生きておったと伝えても喜びはすまい黙殺しかねん」

 

と言われるも柳田は黙り。

 

「フン ここの飯は味が薄いし酒もつかん 今までガマンしとったが今宵からようやくまともな飯にしてもろうた。アルヌスの庶民はよい物を食っておるな」

 

「(なんだ 街の食堂の出前か)まぁ 下の街は我が帝国の影響下にありますからね ところで閣下エルベ藩王国では何か問題でも?」

 

「王太子はの日頃から儂を疎ましく思っておったのだ 儂が死んだと思って今ごろ清々しとるはずじゃ そこでな この手紙をクレムズン公とワット伯に送ってくれ この二人を通じて有力貴族をまとめ国を取り戻す」

 

「とんでもない!お家騒動に巻き込まれるのは願い下げです」

 

「ちょっとくらい助勢せい!」

 

「宗主国の帝国にご依頼されては?」

 

それを聞いてデュランは手にしていた酒瓶を握り割る。

 

「・・・帝国は、もう嫌じゃ」

 

「陛下に協力して我が帝国になんの利益がありますか?」

 

「炎龍退治のために越境を許可するーーでどうじゃ?」

 

とデュランは言うが柳田は物足りなそうな顔をする。

 

「陛下の首を塩漬けにして王子に送っても許可がいただけそうですね」

 

「・・・・なんとまぁ喰えん奴じゃ 他人のために炎龍退治に行くお人好しもおれば お前みたいな陰険な奴もおる どっちが本物のニホン人じゃ?ーーで何が欲しい?」

 

「地下資源の採掘権 税の免除 」

 

「金銀銅山は我が帝国の富の源泉じゃぞ」

 

「ではーー新規開発の金銀銅山は半分 それ以外で発見された地下資源はすべて」

 

「ちょっと待て、金銀銅以外に何かあるのか?」

 

「陛下が知る必要はありません。それともやはり塩を用意しましょうか?」

 

柳田は嫌味たらしい言いデュランは柳田を睨みつける。

 

「わかった わかった 貨幣に使う貴金属以外の地下資源一切でどうじゃ」

 

「免税特権をお忘れなく」

 

と二人が握手を交わす。

 

「抜け目のない奴め これで我が国とニホン帝国は同盟国じゃな」

 

「それについては後日担当の者が陛下をお伺いしますので」

 

「なんじゃそれは?アテにしてよいのか?」

 

「陛下が約束をお守りくださる限り心配無用です では我が軍が陛下のご帰還を護衛いたします 炎龍退治のついでに」

 

と柳田が言いデュランは複雑な心境だった。

 

一方その頃

野戦病院の外のベンチに紀子が座っていた。物思いに耽るその姿はどこか悲しそうだった。

 

「・・・私、変だ。あんなとこにいて帰ってきたら・・・変にならない方がおかしいわ・・・」

 

紀子は、そばに置いてあった新聞紙に目を向ける。紀子の拉致の事が大々的に取り上げられた。

 

『特地邦人ヲ拉致シ奴隷二!?』

 

『皇軍邦人女性一人ヲ救出セリ』

 

『帝国陸海軍報復トシテ帝都爆撃セリ』

 

『講和交渉決裂!愈々全面戦争カ!?』

 

と見出しにデカデカと書かれていた。

『悪虐非道な鬼畜帝国』『銀座事件を忘れるな』などを合言葉に日本国内では国民は怒り帝国に対し反感を抱き帝国を滅ぼそうとする声も上がり止まらない世論。新聞やマスコミも世論に風潮に乗るように反帝国のプロパガンダを流して国民に帝国への敵対心を煽った。また、拉致被害者の両親が銀座事件で死亡した事など新聞記者はその真実を知ろうと紀子の親戚の家に押し寄せた。今ここで帰れば混乱が生じる事は明らかだった。

 

「いっそ、死んじゃおっか・・・」

 

「そっか あんた死にたかったのよかったぁ」

 

「誰!?」

 

そんな紀子に何かが近づいてきた。

 

「アンタが、ノリコ?こっちの言葉わかる?あたいまだニホン語へただから」

 

誰からか声をかけられ体を向ける。物陰からデリラが現れ、月明かりがその姿現した。

 

「あんた死にたいんならいいよね。死にたくない奴殺す気が引けてたんだ」

 

「私を?」

 

「ちょっと訳ありでね」

 

「そう・・・私死んじゃうんだ」

 

「ゴメン、ホントゴメンよ。ちょっと痛いけどなるだけ痛くないようにするからさ」

 

「どっち?痛いのはやだなぁ」

 

「ええ?」

 

デリラはククリナイフを紀子を首に翳すが紀子の要望に戸惑う。

 

「困ったなぁ、痛くない刺し方なんて知らないし・・・死にたいって奴が狩る相手だとは思ってなかったし、参ったなぁ・・・」

 

デリラは今までに無い難問に頭を悩ませている。頭をポリポリと掻きむしりながら必死で考える。そんな光景を見て、紀子がクスッと笑った。

 

「今のなんだかテューレさんみたい」

 

その時、デリラの手が止まり、目を見開いた。紀子が口にした裏切り者の名前に腹の奥底から怒りが湧き出た。

 

「今、誰だってーー」

 

「えっ?」

 

テューレがこの帝都にいると聞いて、デリラは紀子に向かって走り出したその時、

 

「何をしているかあっ」

 

いきなり誰かに叫ばれデリラが武器を構えながら振り向く。

そこには、9mm口径のワルサーP38を構える柳田の姿があった。

今村司令官の命令で入院しているデュランの交渉を終えたばかりで、偶然鉢合わせになった。柳田は紀子に駆け寄る。

 

「望月さん、大丈夫ですか?」

 

「は、はい なんとか」

 

「ここは危険です。他にも刺客がいる可能性もあるので、安全な場所に避難をーー」

 

柳田に言われ紀子は取り敢えずどこか安全な場所に隠れる。

一方のデリラにとって見られたからには排除するしかない。

柳田の銃弾を回避して、デリラ剣を振り下ろして仕掛けるが柳田は素早く軍刀を抜き防ぎ、柳田の剣戟も回避し距離を取る。その時、騒ぎを聞きつけた憲兵隊が迫って来た。

これでは、紀子を暗殺する事不可能と判断する。

ならばデリラは柳田を排除する道を選んだ。

 

「アァァァァ!!」

 

「なっ!?」

 

絶望的になったデリラはナイフを構え突進して来た。柳田は銃を構える暇もなかった。その直後、腹部に激痛が走り、柳田の左脇腹にデリラのナイフが刺さっていた。

 

「く・・そったれがぁ!!」

 

柳田は痛みを堪え右手の拳に力一杯込めてデリラの頭部を殴り飛ばした。殴り飛ばされたデリラは柱に背中を打ち付け気を失ったそれと同時に柳田も壁にもたれ掛かり力なく座り込む。血が流れ意識が朦朧としていた。柳田は意識を失った。急いで駆けつけた憲兵隊や衛生隊に柳田とデリラは野戦病院に運ばられた。騒ぎを聞きつけた病室の病人達。

 

「急げ!応急処置したら野戦病院に搬送だ!」

 

「止血だ 止血!」

 

「何事じゃ?」

 

「輸血の準備は?」

 

「デリラさんの血液型が!」

 

「部屋に戻って」

 

「ウサギ耳のコか 同族のコのサンプル採ってなかった?」

 

と衛生兵達は急いで二人の輸血の準備にかかっていた。デリラは意識が朦朧とする中呟いていた。

 

「ごめん、ごめんよぉ、ヤナギダのダンナぁ・・・」

 

紀子は間一髪流れ日本兵に保護され、一部始終を目にしていた男は顔を真っ青にしていた。

 

「た 大変だぁ・・・」

 

男は大慌てで街に向かった。

 

「大変だあぁ」

 

街に駆け込んだ男は住民に事態を知らせる。

 

「たっ 大変だ!聖下は!?レレイ嬢ちゃんは?」

 

「ちょっと旅に出ちまった」

 

「へ?いつ!?」

 

「お前が親方にどつかれて入院した後」

 

「落ちつけよ 何かあったのか?騒がしいけど」

 

「デリラが・・・デリラがヤナギダを刺した!!」



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拷問

紀子暗殺未遂の翌日、アルヌス村では朝から不穏な空気が漂っている。ガストン料理長や一緒に働くメイド達に聞き込み調査が行われ、デリラの寝室からあの暗殺指令書が見つかった。そこには、フォルマル家の家紋の印が押されていた。フォルマル家の陰謀と判断した日本軍はイタリカに調査隊と憲兵隊を導入する。イタリカに着いて出入り口を封鎖する。事情聴取を第四戦闘機隊副団長の用賀中佐がまず、暗殺指令書をカイネに見せる。

 

「こ、これは・・はい、確かに当家の便箋に間違いございません。この手紙はいったいどちらで?」

 

「アルヌス組合員宿舎、デリラの部屋からです。失礼ですが彼女はフォルマル家のーー」

 

「・・・えぇ、当家の密偵でした。アルヌスとニホン帝国の動向を探る様にと・・・しかし!このこの街をお救い下さったニホン人の暗殺など自分の首を絞める様な事を当家が命じる筈がございません!第一に私共はそのノリコと言う人物について存じておりません」

 

「我々も重々承知しております。イタリカの現状を考えれば。ですがこの文書にはしっかりとフォルマル家の家紋の公印が押されている。何か心当たりは・・・」

 

カイネには、一人だけ心当たりがあった。公印を管理し、いつでも持ち出せる執事のバーソロミューだった。急ぎ地下室にバーソロミューとメイド数名を連れて取り調べと言うより拷問を行った。バーソロミューは椅子に縛り付けられペルシアに痛めつけられていた。

 

「・・し、知らない。便箋を横流しなどーーあうっ!」

 

「ミュア様の前で同じ事がもう一度言えるか?」

 

「バーソロミュー、本当の事を仰いなさい。もう調べはついているのですよ」

 

「何故私がやったと疑う!?誰よりも長くこのフォルマル家に仕えてきたこの私がやったと!?お館様の書斎には誰でも入れる!ピニャ閣下も滞在中にーー」

 

「ですが伯爵家の公印だけは執事である貴方が管理していましたね?」

 

その言葉にバーソロミューは青ざめ黙り込む、それを見たカイネは頷きそれを合図にペルシアが殴り掛かる。しかしそれでもバーソロミューは口を割ろうとしない。すると、痺れを切らしたアウレアがある提案を出す。

 

「一層の事、心読む」

 

「お待ちなさい、アウレア。貴女が『精』を吸って心を読んでも証拠にはなりません。彼の口から自白させないと意味が無いのです」

 

アウレアは不満気な顔をしながら引き下がったが、隣に居るデリラと同じウォーリアバニーのマミーナはどうにも我慢の限界の様だ。

 

「ペルシア変われ!私がやる!」

 

マミーナはバーソロミューを椅子ごと蹴り飛ばした。同胞が暗殺に手を染め、更にはイタリカを盗賊達の魔の手から救ってくれた日本軍の兵を手に掛けた。それを考えると腹わたが煮えくり返る思いだった。

 

「お前のせいでデリラがーー」

 

「お辞めなさい、マミーナ!我々は今、疑われているのですよ!殺してしまったら口封じとしか思われません!」

 

マミーナは舌打ちをするがメイド長であるカイネに逆らえず引き下がる。一部始終を見ていた用賀中佐が口を開く。

 

「メイド長、もう結構です。この男はしゃべらないでしょう。時間の無駄です」

 

「そんな・・・っ」

 

「中佐 もうよろしいですか?」

 

カイネにはそれがイタリカに死刑判決が下されたと受け取ったのであろう。だが日本軍にはイタリカを殲滅する事など最初から考えてない。だから拷問するだけ無駄というものだから此処は合理的な方法を使う。

 

「なんです ここ暗いですね」

 

「ライト持って来たらよかった」

 

「お!?彼女達の採血できます?」

 

「?」

 

「あー 中尉手早く頼む」

 

「すいません アルヌスでは見かけなかったコだったので・・・」

 

「バーソロミューさん、本当にこの文書に見覚えないんですね?」

 

「と、当然だ。勝手に便箋など使う訳がない」

 

「そうか、ではこれをよく見たまえ。この手紙にはシミの様なものが付いているのが分かるか?これは指紋と言ってな、触った者の指の痕だ。赤い丸で囲まれているのがデリラの指紋で、これ以外にあと二種類検出された。これで貴方の指紋と一致すれば言い逃れは出来ないぞ」

 

まさか指先の痕で犯人が特定されるとは思わず、彼は手を強く握りしめている。

 

「何故嫌がる?無実なら手を見せられる筈だぞ?・・やむ得ない。君達、手を抑えてくれ!!」

 

「や、やめろ!!私じゃない!私じゃない!!私じゃないんだ!!」

 

バーソロミューは必死で抗うが、マミーナとペルシアに押さえ付けられ抗う術が無い。指を朱肉で赤く染め、それを紙に押し付け両手指の指紋を取ると、直ぐに鑑識に回される。しばらくして鑑識の結果報告書が渡された。結果は、完全に一致した。

 

「残念です。バーソロミューさん、何故嘘を?」

 

用賀の問いに答えず、ひた隠しに"自分は無実だ"と訴える。決定的な証拠が出ているにも関わらず黙秘する。仕方なく用賀中佐は最終手段に出る事にした。用賀の隣に居る白衣を着た軍医に向かって頷いた。軍医は、自身のカバンから注射器と薬品の入った瓶を取り出した。瓶のラベルには『自白剤』と書かれていた。軍医は、バーソロミューの腕の静動脈に注射器の針を差し込む。

 

「バーソロミューさん、今貴方の血管に投与したのは『自白剤』と言う薬品です。これを打たれると自分の意思関係無く聞かれた質問に答えてしまうんです。さぁ、喋ってもらいましょうか?貴方の知って居る事すべてを。」

 

これによってバーソロミューの口から吐かれた証言を基に暗殺指令の首謀者の宿泊している宿にフォルマル家の兵達が乗り込むが既にもぬけの殻だった。

そしてバーソロミューの犯行動機が借金だった。それまでバーソロミューは、フォルマル家の財産を横領しその金を借金の返済にしていたのだが、盗賊達の襲撃後に、フォルマル家の財産の殆どが街の復興資金にあてられ返済が困難になってしまた。その事を首謀者に付け込まれてしまい犯行に及んだと言う。全てが明らかになった今彼は獄中で魂の抜かれた抜け殻と化していた。

斥候の今津大佐率いる日本兵達は悔しいと言わんばかりに顔を引きずっていた。

 

「何ともまぁ手際のええ奴や、見事に先手を打たれてしもうたわ」

 

「我々と帝国との講和を良しとしない集団が妨害しようとイタリカの執事とデリラを利用したのでしょう。阻止した柳田中尉のお陰ですな」

 

「俺らもちーとばかし油断しすぎたちゃう事や。今回の件『黒幕』は誰やと思う?」

 

「『望月紀子』の名前と容姿をよく知る立場の人間。そう考えるとゾルザルですか?」

 

「もしかしたらそう思わせる別の人間かもしれない」

 

「そう言えばイタリカ統治はピニャ殿下が代理でやっていたな。後で望月さんにゾルザルの人間関係を聞いてみます」

 

「その中で講和を好ましく思わないのは・・・やはりゾルザルに行き着くな」

 

「執事を捨て駒として利用したと言う事は、敵は奴の素行を知っていたと言う事になるな。イタリカかから帝都までの道のりは馬で12日から13日程・・・そうなると敵はまだこの結果を知らない筈です」

 

「ここは欺瞞報告を流して炙り出しましょうか?」

 

「いや、ここは敢えて正しい情報を流して泳がせておいて、糸を手操りましょう」

 

「確認の為、ゾルザルの周辺に我が軍のスパイを送り込みましょう。悪所のクラウレ・ハモンとその協力者には引き続き帝都皇宮内で諜報活動をしてもらいましょう」

 

「その彼女を送って来てくれたこれも使える。悪所から上がって来た帝国上流階級の極秘情報。こいつで何人か協力者になってくれる者を探しましょう」

 

「・・・デリラは、彼女はええ娘やった。食堂の華であり、皆に笑顔を与えてくれた。彼女を騙し、仲間を傷つけ、講和を台無しにしようとした奴にはキッチリと落とし前を付けて貰わんとな!敵には確かに地の利があるかも知れへん!だがこっちには相手を上回るスピードがある!!10日や!その間に敵を先んずるんや!ええな!!」

 

「「「はい!!」」」

 

ここから日本軍の反撃が開始されようとしていた。

 

 

 




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潜入工作

翌日、帝都に到着した第三偵察隊と第一偵察隊は帝都支店の定員になりすまし情報収集を行っていた。

 

「このブランデーって酒、美味いねぇ。ウチのお得意様の貴族に評判だよ。あるならあるだけ買いたいってさ」

 

「けど売り込むのなら宮廷でしょ?皇太子殿下にでも売れれば良いんだけどなぁ。あと、これお子さんにでもどうぞ」

 

「いつも済まんねぇ。ゾルザル殿下、かぁ・・・御用商人が固めてるからなぁ・・・」

 

「やっぱりダメかぁ・・」

 

「まぁ待てって。実はここだけの話、俺んとこみたいな小さな所にも商いの話が来るのはゾルザル殿下のお陰なんだよ」

 

「へぇ・・それは詳しく聞きたいな?」

 

「最近殿下とその顔見知りを集めてお忍びでやったんだよ。貴族の館を借り切って無礼講の宴会を、ね」

 

「じゃあ今日の注文は特別扱いって事で?」

 

「あぁ、頼むよ。ニホンの品は皆受けが良い。何でも儲けが出る」

 

「で、そのパーティーはいつ、どこで、誰が来るんだ?そうだ、コネでウチの知り合いの料理人を雇ってもらえますか?」

 

「料理人?」

 

「そう、よく言うだろ?美味い料理には素材の分かる料理人を、ってさ。味を覚えさせればこっちのもんよ」

 

「成る程、考えたもんだなぁ。分かった、引き受けよう!」

 

その次の日の夜、古田は雇われシェフとしてゾルザルが宴会を開いている貴族の館の厨房で働いていた。日本からわざわざ持ってきた調味料や食材、板前で培った腕前で作られる見たことのない料理の数々に、メイドやその他のシェフ達が驚く。

 

「フルタさん。このマ・ヌガ肉を使った香辛料のスープ、凄く評判が良いですよ。後で皆にも作り方教えてよ」

 

「良いですよ。その代わりに今日来ている客の事を教えてくれるか?味を客に合わせたいから」

 

「ん〜っとぉ・・確か今日は軍人さんが多い気がしたけど・・・」

 

「誰だか分からないか?」

 

「ん〜、じゃあちょっと聞いてみるね」

 

そう言ってメイドはマ・ヌガ肉の使った海軍カレーを持って厨房を後にした。そして暫くして、

 

「あのマ・ヌガ肉の香辛料スープを作ったのは誰だ!!」

 

と言う声が厨房に響いた。声の主はゾルザルだった。静まり返る厨房、次第に周りのシェフやメイド達の視線が古田に向けられ、その視線の先に古田がいた事に気付いたゾルザルが早足で近づいて来た。

 

「おぉ!いたな、お前か!」

 

(まずい、まさか潜入している事がバレたのか!?)

 

万が一に備えて腰に携行しているワルサーP38に手を伸ばす。するとゾルザルが古田の肩をバンバンと力強く叩くと、嬉しそうな笑顔を浮かべた。

 

「探したぞ!ん?お前、何処かで見たような・・・あっ!確かピニャの宴席の時でもスープを作ってただろう?」

 

「えっ!?あ、はいっ!」

 

「俺はあの時食ったアレが忘れられん!あんな美味いスープは初めてだ!今まで食べた事の無い味、香ばしい匂い、そして何より絶妙な辛さ!お前は料理の神か?そしてあのスシと呼ばれる料理もまた格別だ!生魚がこんなに美味いものだとは知らなかったぞ!」

 

「い、いえ。そんな大層な事は・・・」

 

「ふむ、腕前をひけらかさない所も気に入った。よし、明日から俺の宮殿専属の料理人として雇ってやる!仕事を申し付けるからな、いいな?」

 

「は、はい!よろこんで!!」

 

ゾルザルはそう言い残すと出来上がった料理を持って厨房を後にした。いつの間にかいた白銀の髪のヴォーリアバニーのテューレは古田をチラッと見ると、上機嫌な鼻歌を歌いながら帰った行くゾルザルの後をついて行った。

 

「・・・何だ、アレ?」

 

「知らなぁい、殿下のお気に入りの愛玩奴隷でしょ?ヴォーリアバニーの癖にいつも生意気な目しちゃって」

 

願っても無い情報源に近づいた事に、古田は頭の回転が追いつかなかった。

 

アルヌスを出て数日の事、道中雨に見舞われた。

 

「スコールか、下手に走ると水たまりにはまりそうだ」

 

「雨が止むのを待つしかないかぁ」

 

「はい、え〜と現在地はだいたい・・・PDG34 RE249.48・・・トングート、ヘブラエ、クレミナと来て 朝 メタバルを出たから・・・今 テリリア平原か。お前の来た道逆に進んだら森のある国境まで回り道ばっかだ」

 

「仕方ないだろう。茶色の人の噂を拾いながら来たんだ」

 

「段取りがなったねぇな」

 

「さーて コルロ山を迂回するか。グルバン川沿いに進むか・・・こう道が悪くちゃなぁ・・・」

 

(アルヌスを出てテュカの症状はひどくなる一方だ。父親だと思ってる男が車なんて物動かしてんだからな、このままだと本当に壊れちまう。急がないと・・・)

 

「ヤオ 炎龍が出るのはシュワルツの森でいいんだな?」

 

「森を含む南部全域と言った方がいい。そして今の奴の餌場は同胞の隠れ住むロルドム渓谷だ」

 

「・・・俺達の目的はテュカの敵討ちだ。お前の仲間を救うことじゃない」

 

「どっちにしたて同じだと思うがなぁ」

 

「だが奴の巣のありかを知っている者がいるぞ?」

 

「むむ・・・しゃあないロルドム渓谷に向かうか」

 

「それしかないかぁ」

 

「言っとくが渓谷では戦わないぞ。巣が火口とか洞窟ならそこでやる」

 

「確かに、空を飛べる炎龍相手じゃ地の利が悪いなぁ」

 

「わかった。囮がいるなら言ってくれ同胞に頼む」

 

「・・・なぁ、逃げることは考えなかったのか?」

 

「・・・ヒトにはできても、エルフには無理だ。エルフにはエルフにあった場所がある、住み慣れた森から離れることはできない。旅ならできるのにな」

 

(俺達が船で移動できても船に住めないのと一緒か?)

 

(それ、なんの自慢にもならねぇだろ)

 

とエルフの気高さに二人は内心はふぅーんと言った感じだった。

 

「けどいいのぉ?テュカはだましたって怒るわょ?」

 

「ここにいる全員共犯者」

 

「しょーがない いっしょに怒られてやりますかぁ」バシィ

 

「「いてっ」」

 

伊丹達は目的地のエルベ藩王国内にあるシュワルツの森に到着した。

 

「ここがシュワルツの森だ」

 

「森っつーか樹海だよ、渓谷はこの南か。迂回するしかねーなぁ」

 

「サイパン島を思い出すなぁ」

 

翌日 伊丹はロルドム渓谷に到着した。

 

「ここねぇ、ロルドム渓谷」

 

「空に気をつけろ、炎龍のナワバリだ」

 

「対空警戒を怠らるな」

 

「ここで待っててくれ、到着を知らせてくる」

 

ヤオはそう言い人一人くらいが丁度通れる細い道を下って行く。そんな時Sd Kfz251で寝ていたテュカが起きた。

 

「・・・くさぁい」

 

「よく眠れたか?」

 

「おう、やっと起きたか?」

 

「うん!とっても」

 

「ロルドム渓谷、ヤオの同族がいるところだ」

 

「ついたんだ やっとあのダークエルフ降ろせるわね」

 

テュカはそう言いながら谷の底を覗き込む。下の方では川が流れている。

 

「緑がほとんどない、何でこんなところわざわざ住んでいるの?」

 

「ん〜、さぁな・・・」

 

「奴等の考える事はよく分からん」

 

そんな時、ロゥリィはいち早く放たれた殺気に気づき後ろを振り向く。しかし既に伊丹達はダークエルフの戦士達に取り囲まれ矢を向けられていた。一番中央に立っている戦士が鋭い眼光で睨み叫んだ。

 

「動くな!お前達何者だ!」



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炎龍降臨

アルヌスでは、炎龍退治の為に多くの機甲旅団が編成されてい。加茂大佐率いる第一連隊250両の戦車と装甲兵員輸送車や装甲車からなる機械化歩兵に燃料補給車に火砲が集結していた。

 

『第一砲兵隊準備よし!』

 

『戦車第一小隊準備よろし!』

 

『歩兵第一中隊準備よーし!』

 

『工兵中隊準備できました!』

 

「加茂大佐第一戦車大隊進発準備完了!」

 

各員が準備万端だった。

 

『よろしい柘植中佐。第一前進目標デアビス近郊ロマ河渡河予定地点。第二前進目標テュベトのエルベ藩王国国境砦!特地害獣等に遭遇する恐れもある周辺警備を怠るな。第一戦車大隊前進よーい!!』

 

『前進!!前へ!!』

 

「おい!兵士達のやる気を起こさせる為にアレを掛けろ。」

 

「了解!!」

 

柘植中佐が部下に言い、装甲車に付けられているレコードをかける。

そして拡声器にある音楽が流れ始める。

"1, Od's sturmt oder schneit. ob die Sonne uns lacht

 

Der Tag gluhend heis, oder eiskalt die Nacht

 

Verstaubt sind die Gesichter, doch froh ist unser Sinn

 

Ja. unser Sinn

 

Es braust unser Panzer im Sturmwind dahin

 

Es braust unser Panzer im sturmwind dahin

 

2, Mit donnernden Motoren, geschwind wie der Blitz

 

Der Feinde entgegen im Panzer geschutzt

 

Voraus dun Kameraden. im Kampf steh'n wir allein

 

Ja. wir allein

 

So stosen wir tief in die feindlichen Reih'n

 

So stosen wir tief in die feindlichen Reih'n

 

3. Wenn vor uns ein feindlicher Heer erscheint

 

Wird Vollgas gegeben und ran an den Feind

 

Was gilt denn unser Leben fur uns'res Reiches Heer?

 

Ja, Reiches Heer

 

Fur Deutschland zu sterben ist unsre hochste Ehr'!

 

Fur Deutschland zu sterben ist unsre hochste Ehr'!

 

4. Mit Sperren und Minen Halt der Gegner uns auf

 

Wir lachen daruber und fahren nicht drauf

 

Und droh'n vor und Geschutze, Versteckt im gelben Sand

 

Ja,im gelben Sand

 

Wir suchen uns Wege, Die keiner sonst fand

 

Wir suchen uns Wege, Die keiner sonst fand

 

5. Und last uns im Stich einst das treulose Gluck

 

Und kehren wir nicht mehr zur Heimat zuruck

 

Trifft uns die Todeskugel, ruft uns das Schicksal ab

 

Ja,Schicksal ab

 

Dann wird unser Panzer ein ehernes Grab

 

Dann Wird unser Panzer ein ehernes Grab"

 

ドイツの名曲『Panzerlied』である。音楽に合わせて第一連隊が前進する。

 

「この 地を這う"鉄の甲獣"すべてをヒトが作り動かしておるのか・・・」

 

「司令官!第一連隊出撃します!」

 

「うん。バカ者達を無事連れ戻してくれ」

 

と今村司令官と加茂大佐が互いに敬礼する。

 

「デュラン陛下こちらへ」

 

「お前とこの飛行機やヘリ借りるぜ」

 

「ちゃんと返せよ」

 

丘の上ではガトー老師や村の人達が出撃していく連隊を見守っている。上空を通過する戦闘機隊と爆撃機隊。

 

「イタミとオオバのおじちゃんやレレイ姉ちゃん助けに行くの?」

 

「そのようじゃのう。それまで無事でおればよいが・・・」

 

一方 ロルドム渓谷

ヤオは谷の洞窟にいる長老達のところにいた。

 

「ヤオよ、よく戻った。お前を二カ月・・・多くの同胞を失った。我々ももはやこれまでと思っておったところだ。炎龍だけではない、我らが最後に頼ったこの谷の雨の度に水害に襲われる。もうどれだけ生き残っておるのか見当もつかん」

 

「してヤオよ。汝を送り出したわけを忘れてはおるまいな?」

 

「はい もちろんです。『茶色の人』を探し出し連れて参りました」

 

「おお!まことか!?」

 

「よくやった よくやった」

 

「どこにおられる『茶色の人』は?」

 

「お お待ちください。長老方 出迎えにあがる前に此の身の話を聞いてください」

 

「なんじゃ話とは?」

 

「・・・・此の身は 『茶色の人』に対し罪深いことをー」

 

ヤオはアルヌスでやった嫌がらせの数々を長老達に話す。

 

「なるほどのう 数々のアルヌスでの所業・・・自分を責めておるのか」

 

「ヤオよ 何故そのようなことをいちいち気に病んでおる?」

 

「知・慮 兼ね備える者ならば、危険に際し他人を見捨てることもあろう」

 

「え、だがあの」

 

「仁・情を兼ね備える者なら 知己のために自ら危険に踏み入り時に則を破る」

 

「『茶色の人』はテュカと申すエルフに炎龍のことを伏せておるのじゃな?」

 

「は?はい 炎龍の前で全てを打ち明けると申しておりました」

 

「ヤオよ 奸計大いに結構 不評を買おうとも手段を尽くすのが我らの美徳。よくやった、手柄を誇るがよい」

 

「し しかし此の身は人倫に反してー」

 

「手段を選ぶなと命じた。我らとて同じことをしたであろう、目的が手段を浄化せぬからと一人気に病むことはない」

 

「されど 償うべきは 此の身ー」

 

「どうやって?」

 

「ーお任せください」

 

と言うが長老の一人が溜息を吐いて

 

「御身のことだ。一命を懸けて とか考えておるのだろ?罪に罪を重ねてなんとする。一見贖罪に見えるが 楽になろうと逃げとるだけじゃ、本当の償いは長く険しく重い汝だけが被るものではない」

 

そう言われてヤオは滝のような汗を流す。

 

「さて 我らに何ができる?」

 

「炎龍討伐の助勢は当然のこと」

 

「『茶色の人』は軍を抜けてきたと申したな」

 

「炎龍に苦しめられておる国や部族は多い 共同で賞賛と感謝を贈れば軍の面子も立つであろう?」

 

「それがよかろう」

 

「早速使者を送り出すかの」

 

「もし軍が彼らを探しに来たときは?」

 

「出迎えてここまで手引きするが得策じゃ」

 

「さて そろそろ『茶色の人』を迎えに参ろうか ヤオ?」

「は はい!」

 

一方伊丹達は ダークエルフの男達に矢を向けられていた。

 

「この谷に何の用だ!」

 

そんな時、ダークエルフ達の上空から何かが来た。ダークエルフの一人が上空を見ると青ざめる。

 

「炎龍だ!!」

 

次の瞬間 ダークエルフの一人が炎龍に喰われた。

 




『パンツァーリート』(ドイツ語:Panzerlied)1933年に作られたドイツの行進曲である。


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炎龍退治1

ロルドム渓谷に突然炎龍が現れダークエルフの戦士一人を食らった。

 

「くそっ」

 

ダークエルフたちは即座に矢を放つ。一方のテュカは炎龍を見て恐怖に打ちのめされていた。

 

「ああ あ・・・あああ」

 

伊丹と大場はstg44で攻撃する。

 

「テュカ なにボサッとしているんだ!」

 

「テュカ逃げろ!」

 

ドタタタタタタ

 

そしてロゥリィはハルバードで炎龍に斬りかかる。

 

「ハッ」

 

ゴキャッ

 

炎龍はバランスを崩し倒れ込む。そして追撃を仕掛ける様にレレイが炸裂魔法を仕掛ける。

 

キュドン ンド

 

炎龍は翼を広げて飛翔し、口から炎を吐く。そんな中ロゥリィは炎の中を突っ切っていくが炎龍に弾き飛ばされる。

 

「やってくれるじゃなぁい」

 

そして反対側ではレレイが炸裂魔法を再び仕掛ける。そして大場は機関銃MG42で炎龍を攻撃する。

 

「くらぇ!」

 

ドゥロロロロー

 

その一方で涙を流しながら震えているテュカを伊丹が頭を両手を掴んで叫ぶ。

 

「よっく見ろテュカ あいつが炎龍だ!お前の村を焼き払い 父親を殺した炎龍だ!!」

 

「う うそよ。父さんは死んでない だってー」

 

「俺は父親じゃない赤の他人だ お前は俺の娘じゃない」

 

と伊丹から残酷な一言を告げられたテュカは号泣しだす。

 

「いやっ いやぁ!!」

 

「テュカ」

 

「じゃあ私の父さんはどこ!!」

 

テュカは炎龍の目に刺さっている矢を見る。

 

"あれは・・・父さんの矢"

 

「そうだ あいつは敵だ!父を奪われた怒りを込めて・・・奴を討て!!」

 

と伊丹はパンツァーシュレクに手を掛ける。一方ロゥリィは炎龍に再び斬りかかるが炎龍に弾かれる。

 

「空飛ばなきゃ仕留められるのにぃ」

 

伊丹はテュカにパンツァーシュレクを構えさせる。

 

「いいかテュカ目を開け!この穴の真ん中に奴を入れて引き金を引くんだっ」

 

「だめっ できない!」

 

「いいから撃てよ!!」

 

と引き金を引くが弾は炎龍から外れ岩山に当たった。

 

ズドオォォォォン

 

大きな爆発音が鳴り響いた。そして炎龍はそのまま飛び去っていた。

 

「もういやぁ なんでこんなことさせるの父さん!もういい!家に帰ろっ」

 

「テュカ・・・」

 

と伊丹に抱きつきながら泣くテュカを見て、伊丹は申し訳なさそうだった。

 

一方その頃援軍に向かっていた第一連隊は、街道を進んでいた。多くの行き交う人々は日本軍の連隊に目を見開いて見ていた。途中途中の川などは工兵隊が橋をかける。しかし道中で問題が多発する。

 

「回収急げ 渡河機材を優先しろ」

 

「パンクだ!」

 

「路肩に寄せて道を空けろ!」

 

他にも、家畜の道の横断や燃料補給で大幅に時間をロストした。

 

「こんな大部隊での長距離行軍 初めての隊が多いだろうなぁ」

 

『デアピスに先行する任せたぞ 柘植』

 

「はい!」

 

と上空を航空隊が先に行く。連隊はその途中大きな橋に差し掛かった。日本軍は重戦車でも乗れるくらいの大きな筏を作ってタグボートで押して河を渡る。

 

「偵察小隊は先行して南への街道に向かえ 柘植中佐架橋はやはりできんか?」

 

『意外と船が多くて無理です』

 

「デアビスの橋も使えたらよかったがなぁ」

 

『フォルマル伯とは別の貴族の領地だし車輌が街を通れん。領内通過が認められただけでよしとしませんと』

 

「最初 しぶっとったのに炎龍退治と聞いて即許可が出た よっぽど炎龍が怖れられとんだな。ともかく渡河を急げ 伊丹と大場と炎龍を捜索せんといかんし」

 

と輸送車を筏に載せて渡っていると、水中に黒い影が見えてきた。

 

「お でかい魚」

 

「いいなぁ 釣りしてぇなぁ」

 

とその瞬間川から手が出て何かが飛び上がった。

 

「えっ」

 

「わぁ!?」

 

「なんだ!?」

 

「待て!撃つな!!」

 

「どうした!?わっなんだこいつ!?」

 

と慌てふためく日本兵達。

 

「大隊長!河の中からー」

 

「敵襲か!?」

 

「お前達の変な船の音で魚が逃げた。今日の稼ぎがないどうしてくれる?・・・と言っているようです」

 

「まさかの河の中からの苦情」

 

「んだ」

 

「さすが異世界」

 

「参ったな この場合は迷惑料か?」

 

「デアビスの支店で借りますか?」

 

「河の民よ 数日で静かになる これで足りるか?」

 

すると、デュランが半魚人にダイヤの入った筒を渡す。半魚人達は了承のようだった。

 

「陛下 いいので?」

 

「なあに借りを少し返したまでじゃ」

 

一方ロルドム渓谷

 

「茶色の人」が炎龍を追い払った!

 

エムロイの使徒ロゥリィ・マーキュリーと戦闘魔術の大家リンドン派の魔術師も来てくれた。

 

身を潜めし同胞よ!今こそ炎龍を討ち森の生活を取り戻すのだ!!

 

「まだこれほども生き残っておったか・・・」

 

「いや これほどしか生き残っておらぬのか・・・」

 

と長老達は、生き残っている同胞を見て嘆く。

 

「日頃の『不運』で名をはせたヤオが幸運を運んできた・・・・と思いたいの」

 

「トドゥルムはどうした?」

 

「あいつはー喰われたお前が出発した翌日に」

 

「あいつまで?」

 

「そういえば知る顔がだいぶ減っている。此の身がアルヌスで右住左住している間にー」

 

とその時

 

「ヤオのバカぁ!」

 

「なんでもっと早く帰って来てくれなかったの!?そうすればメトサは・・・メトサは!あんたなんかっ」

 

「おい もういいだろ?」

 

「ヤオ・・・」

 

「あ・・・ひさしぶり・・・」

 

「実は俺も妻を亡くした」

 

「そうか・・・残念だ(此の身を捨てた男に抱かれるのを許すなんて まあ この男も悲しい身の上だから仕方がない・・・)すまない「茶色の人」達のお相手をしなければ・・・」

 

と言ってヤオは伊丹達のいるところに向かった。

 

(此の身は皆の賞賛に値しない身をもっての償いも的外れだというではどうすれば・・・)

 

見てみると伊丹はテュカ寝かしつけ、大場は軍刀や銃の手入れをしていた。

 

(・・・ああ 此の身は自分のことも勝手にできぬ身だったな・・・)

 

「まずったなぁ」

 

「どうされたイタミ殿」

 

「テュカのことさ今は泣き疲れて寝てるけど さっきまで俺がいくら違うって言ってもムキになって父さん父さんって・・・」

 

「此の身も婚約者を無くしたときは一月落ち込んだ 今も時折胸が痛む」

 

「いたのか婚約者」

 

「失礼だぞ 中尉」

 

「いてはおかしいか?」

 

「テュカは今まで現実を避けてきた だけど今日現実にぶちあたって耐え切れなくなってしまった。それで余計俺のことを父親だと言って逃げようとしてるんだ。ここで間違えたら取り返しがつかなくなるって 長老に言われてさ」

 

「仕方ないさぁ 大切な人を失って正気でいられる奴なんていやしない」

 

「そうですよね。まぁいいさ、いざとなったら引きずってでも連れて行っちゃおう」

 

「すでに此の身はイタミ殿とオオバ殿の物 なんなりとお命じを」

 

一方ロゥリィは、砥石でハルバードの刃を研いでいた。

 

「困っちゃったなぁ刃が立たないなんてぇ。動かなくなるまで殴るなんてぇダサいわぁ。あいつ相性悪すぎぃ。撲殺って趣味じゃあないのよねぇ スパッといくのがいいのに」

 

そうぼやいていると長老がやって来た。

 

「聖下 このような荒れ谷まで足を運んでいただき感謝いたします」

 

「別にぃ あなた達のために来たわけじゃあないしぃ」

 

「それは重々承知しております ささ どうぞ中に食事も用意しております」

 

「あたしぃがぁ 地面の下ダメなの知ってるでしょぉ?」

 

「・・・我が主神ハーディとの確執は言い伝え通りでありましたか」

 

「・・・・」

 

「お怒りはごもっとも ですが悪い話ではないかと・・・」

 

「どぉしてわたしぃがぁあんな奴のお嫁さんにならないといけないわけぇ?」

 

"あいつは肉の身を持った自分の手駒が欲しいだけ もういるくせに"

 

「そんなぁ つまらないことに残りの四十年を費やすのはぁ」

 

「イヤ」

 

「まぁ おかげで興味深い男たちに会えたわぁ そいつがどんな考え方をして死んでいくのかぁ看取ってやりたいくらいねぇ」

 

「ほう?」

 

と伊丹と大場を見る。

 

「でもぉ どうしてハーディは あんな大穴をアルヌスに開けたのかしらぁ?」

 

と言ってロゥリィは伊丹達の方に行った。

 

「・・・穴?アルヌスに?」

 

 

 

 

 

 



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炎龍退治2

伊丹はコーヒーを飲みながら思い悩んでいた。

 

(なんなりと・・・か 死んでこいとか言ったらこいつ本気で死にかねん目してたからなぁ)

 

なんて事を考えていると

 

「お邪魔かしらぁ?」

 

「なんだ ロゥリィか なにか話があるのか?あ そのコーヒー飲みかけ・・・」

 

「別にぃ」

 

と伊丹の飲みかけのコーヒーを飲みながらヤオを見てドヤ顔をするロゥリィ。

 

「?」

 

「なに?」

 

「なんにもぉ」

 

一方レレイは起動式の魔法の練習をして龍対策を模索していた。

 

(爆轟の魔法は動く相手に向いていない。一度起動式を起てたら向きを変えられないから。あの石くらいの物に爆轟を詰められれば・・・でも今はそれを探す時間はない)

 

「よっ、方法の特訓か?」

 

と突然大場がレレイに声をかけてきた。

 

「炎龍対策」

 

「そっか、レレイもこっち来たらどうだ。休める時に休んでおかないといざって時痞えるぞ」

 

コクン

 

と頷くレレイ。

 

「じゃ、待ってるからな」

 

(なんとかして炎龍の動きを止めないとイタミとオオバとロゥリィにー)

 

とイタミ達のいる方を見るとイタミとオオバがロゥリィに絡まれていた。それを見てレレイは目を細めた。

 

「コーヒー苦くないか?」

 

「ニホンじゃ大人はこーひーぶらっくなんでしょお?(にが〜)」

 

「おう、レレイ来たか」

 

「レレイなにしてんだ?座れよ。レレイもなにか相談か?」

 

「別に」

 

「?」

 

「やれやれ」

 

そんな時ダークエルフの人々が酒や料理を持ってやって来た。皆で焚き火を中心に円を描いて座る。

 

「茶色の人ーイタミ殿、オオバ殿 明日の朝は炎龍の巣を知る者と戦士達をお供させまする。荷物運びはお任せくだされ」

 

「忝ない」

 

「いやーすみません。巣の場所だけ教えてもらえばよかったんですがそこまで歩きで結構あるので・・・」

 

「炎龍退治と聞いてその場にいたい者がこれだけ集まったのです。ただ見てるだけでは納得しますまい。若い者にも語り継ぐべき自慢の種を残してやりませんと、皆に此度のことは特別なものになるじゃろうて」

 

「茶色の人よ 炎龍を討つ策はあるので?昼に炎龍に使ったという魔杖 あれが噂の『鉄の逸物』でしょう?」

 

「ああ パンツァーシュレックね いや あれはできればとどめにしか使いたくない。正面からやり合うつもりは全然ないから」

 

"炎龍がいない間に巣に忍び込んで爆薬100キロを仕掛ける。帰ってきたら吹っ飛ばす。まだ生きてたらパンツァーシュレックを撃ちまくってとどめ"

 

「以上。」

 

「何でお前はそう楽な道ばっか選ぶんだよ」

 

「『ばくやく』とはなんじゃ?」

 

「魔法の道具じゃろ」

 

「しかし炎龍の留守を狙うとは茶色の人も奸智に長けておられる」

 

「いや まぁ俺が面倒でやばいことしたくないだけで」

 

「だと 思った」

 

「若い連中に見習わせたいのう・・・」

 

「・・・・」

 

(若いって言ってもなぁ同世代くらいに見えるヤオだって三百十五だろ?あ それを言うならテュカとロゥリィだって・・・大場大尉は俺と歳そんな変わらないし うわ この中で俺より若いのレレイだけやん・・・)

 

なんて、デリカシーのない事を考えていた。

 

「そ それにしても同じ場所ばかり襲うのはなんで?ヤツは頭悪いのか?」

 

「そう言われましてもな」

 

「逃げるのに必死でそこまで考えられませんでした」

 

「炎龍には活動期と休眠期がある。その合間の期間はかなり長いだから餌を採り尽くしたとしても休眠期の間に新たな餌が増えるので問題にならなかった。今度の活動期は五十年先のはずだった」

 

「休眠期にはなにしてんだ?」

 

「熊みたいに冬眠でもしてるじゃないか?」

 

(確かに動物の冬眠と類似した状態になっているーと博物誌には記されている)

 

「食う寝るこれで遊ぶがあったら完璧だな。うらやましー」

 

レレイと大場が目を細めて見つめる。

 

「活動期に遊んでるわけじゃない。あらゆる動物は活動期に捕食 縄張り争い 巣作り そして・・・あ。」

 

と突然言葉が途切れる。

 

「・・・」

 

「そして・・・?」

 

「そして 繁殖 子育てをする」

 

ヒクッ

 

「行ってみたら巣が炎龍だらけってオチ?」

 

「悪夢だな」

 

「成長しきってない"新生龍"はそれほど脅威ではない」

 

 

古代龍>新生龍=成熟した亜龍>飛龍

 

すると伊丹が立ち上がり出す。

 

「梨沙に借りていた本返すの忘れてた ちょっと帰ってくる」

 

「まぁお前の気持ちは分かるが、物事を途中で放り出すっての俺は感心ねぇ」

 

「いやぁ だって」

 

「イッイタミ殿!!今更・・・っ」

 

と伊丹を止める大場とダークエルフ達。

 

「テュカはどうするのぉ?」

 

「龍が生む卵は一個か二個。古代龍の繁殖期は数百年に一度と言われている」

 

「・・・ホントに?」

 

「我らも炎龍一頭しか見ておりませぬ」

「ならいいけど 滅多にないことに当たっちゃうほど俺 不運じゃないはずだから」

 

そう言う伊丹の言葉に目を見開く皆。

 

「あれ?どうしたの?」

 

「いえ その あの・・・あはははは」

 

「阿呆が」

 

翌朝、伊丹と大場の前に8人のダークエルフの戦士が集められていた。

 

「イタミ殿 オオバ殿 此の身を含め九名がお供いたします。端からクロウ メイ バン」

 

「茶色の人よ」

 

「よろしく」

 

(昨日からやな予感してたがやっぱり皮の衣装か。絵面的にちょっとなぁ・・・)

 

(こいつらなんて格好してんだ・・・)

 

と内心思う伊丹と大場であった。

 

「フェンとノッコ」

 

「なんでも言ってくれ」

 

「一番若いのがコムだ」

 

「若いっていくつ?」

 

「よっ 百五十四」

 

「えー」

 

「ってことは人間の歳でいうと15歳か」

 

「よろしくお願いします」

 

「そしてセィミィとナユ」

 

「伊丹だ よろしく頼む」

 

「大場だ よろしく」

 

そう言って伊丹と大場は持って来た備蓄品を並べる。

 

「これが鉄の逸物か」

 

とパンツァーシュレックを指す。

 

「まぁ そうだな」

 

「これは魔杖ではなく武器と聞きましたが私達でも使えるので?」

 

「まぁ使い方さえ分かれば誰でも使える」

 

「ああ 後で使い方を教える」

 

伊丹と大場がパンツァーシュレックに弾を装填していると何やら騒がしい声が聞こえてきた。

「そんな太いの入れたら裂けちゃう」

 

「俺の物の方がすごいぜ?」

 

(おかしいな エルフってこんなに性に開けっぴろげなのか?まぁダークエルフは空想上にはそういう場合があるだろうけど)

 

(なにしてんだ彼奴ら・・・)

 

しばらくして、

 

「よし 集まってくれ。こいつはパンツァーシュレックって武器だ。炎龍の腕を吹き飛ばす威力がある」

 

それを聞いて皆『オオォー』と驚く。そして大場が手順を説明する。

 

「今から俺が手本を見せる。これは二人で操作するものだ、一人がこれに弾を込めもう一人が敵に向かって撃つ」

 

「クロウ構えてみて」

 

「わかりました」

 

とクロウがパンツァーシュレックを構える。

 

「こうですか?」

 

「そうそう そこの盾に覗き穴があるだろ。この覗き穴から炎龍を真ん中に入れるんだ。右手の握りの前のレバーが引き金だ。弩とかについてるだろ?」

 

「あれの先っぽが飛んでいくの?」

 

「そう」

 

「よし 全員も構えてみてくれ」

 

大場の号令で皆がパンツァーシュレックを構える。

 

「前が重いな」

 

「動く相手は狙いにくそうだ」

 

「いいか聞いてくれ。そいつは反動が強く撃つと後ろに押されるそうなると肩が脱臼するから気をつけろ」

 

と伊丹が警告する。

 

「こっちの箱とか紐とかは?」

 

「ああ 開けて適当に各自運んでくれ 爆薬と発破装置だ」

 

「ばくやく?はっぱ?」

 

「実はそいつが本命なんだ」

 

一方その頃、日本陸軍機甲旅団は平原を走行していた。

 

『こちらタイガー3報告のあった村落に入った』

 

「旅団本管了解 生存者を確認せよ」

 

『生存者なし 遺体数体確認。襲われたのはだいぶ前の模様』

 

「了解 遺体回収は後続が行う。対空警戒を厳とし前進せよ」

 

そして上空では戦闘機 爆撃機が前進していく。

 

『戦闘機隊より旅団長。帝国側国境砦は損壊無人の模様炎龍に襲われたようです』

 

回転翼機カ号観測機では

 

「デアビス領主に聞いた通りだ アルヌスの敗戦に加えて 炎龍に襲撃されて撤退したようですな」

 

「テュベトの領主は代わってなければワット伯のはずじゃ ワット伯は炎龍なぞ恐れんぞ」

 

『エルベ側の砦誰か見えます』

 

「大隊長了解 戦闘機隊 その場で待機合流すら」

 

と加茂大佐は、連絡のあった砦に向かう。

 

エルベ藩王国の宮殿

「ワット伯!なにかが帝国側より飛んできます」

 

「炎龍か!?」

 

「いえ 見たこともないー」

 

そう言いかけた時

 

『ワット伯!ワット伯はおるか?』

 

「こ この声は・・・」

 

ワット伯は聞き覚えのある声を聞いて急いで屋上に向かう。そしてそこで目にした光景は、回転翼機に乗ってメガホンで話をするデュランの姿だった。

 

『おう おったか 儂じゃデュランじゃひさしいの。ご苦労じゃったアルヌスから帰ってきたぞ』

 

「へ 陛下っご無事で・・・なぜ異世界の空飛ぶ輿にー」

 

『これから炎龍討伐じゃしばしここで休ませてもらうぞ』

 

「炎龍討伐!?」

 

「閣下あれを!」

 

部下が指を指した。するとそこから大量の戦車と歩兵に率いられた日本軍の機甲旅団だった。



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炎龍退治3

伊丹達は炎龍の巣がある山を登っていた。伊丹は眠っているテュカを担いでいた。ロゥリィとレレイとテュカはカモフラージュのために九八式軍衣を纏っていた。

 

(車で一日 歩きで二日 ずっと担いできたけど・・・軽いな・・・『お父さん 何か来るっ』あんまり怖がるからレレイに眠らせてもらって正解だった)

 

「くせぇよ なんで獣脂なんか・・・逆に見つかるんじゃねぇの?」

 

「だまれノッコ イタミ殿とオオバ殿の指示だ」

 

そして一行が山の中間地点まで来たところで

 

「止まれ クロウ この山に?」

 

「そうですテュベ山 テュベ山地の中で一番大きい火山です 以前 果物をいぶす硫黄を探しに来たとき・・・この先の中腹で洞窟を見つけました そこは岩棚に繋がっていて炎龍が寝ていたんです それであわてて逃げ出してきたんですよ」

 

「火口の様子は?」

 

「底は深すぎてわかりません 火口は切り立った崖で・・・」

 

「空気は?」

 

「ここより澄んでるくらいでしたよ」

 

「ねぇ 巣って洞窟の中ぁ?」

 

「いいえ 火口側にはり出した岩棚ですが洞窟を通らないと行けません」

 

「そぉなのぉ・・・」

 

「大丈夫 ロゥリィは外で見張っててくれ 予定通りいけば戦いにはならないはずだ」

 

「ホント そうなってくれれば楽なんだけどなぁ〜」

 

「炎龍が帰ってきたらぁ?」

 

「やり過ごしてくれ 俺達もすぐ隠れるから」

 

「出会った先から戦えばいいのに」

 

「いやぁ そんなこと言わないでくださいよー」

 

そして伊丹と大場はここで休息をとるここに決めた。

 

「ここで小休止 俺と大場大尉は中を見てくる」

 

「そういうことだ」

 

「お待ちください イタミ殿 オオバ殿」

 

「それは我らが」

 

「わかった 慎重にな」

 

「仕方ないか」

 

伊丹と大場と半数のダークエルフの戦士が洞窟の中を偵察する事になった。

 

「よし みんな 今の内になにか腹に入れといてくれ 交代で見張りを頼む」

 

「腹が減っては戦はできぬからな」

 

伊丹達は野戦配食を取ることにした。

 

「このくせぇ中で飯かよ」

 

「黙って食えよノッコ」

 

「おい あれ」

 

ロゥリィとレレイは鞄から缶詰を取り出す。

 

「レレイのは?」

 

「ステーキ」

 

「わたしもぉ」

 

ロゥリィとレレイが鞄から取り出したのはステーキの缶詰と野菜の缶詰と飯盒炊飯と米だった。レレイは飯盒炊飯に米を入れて炊く。

 

「それ食い物?」

 

「わっ」

 

「こうすると温められる」

 

そして二十分後ご飯が炊けた。

 

「すげぇ 魔法か?」

 

「ロゥリィ ゴハン多いから一つ食べて」

 

「いいわよぉ」

 

そしてロゥリィとレレイは缶切りで缶詰の蓋を開けて中のステーキ肉と野菜(豆、人参、ジャガイモ)を器に入れる。そして主食のご飯に惣菜のステーキと野菜の添え物の完成である。

 

「いただきまぁす」

 

伊丹と大場も食べる伊丹はテュカの方を見る。

 

「テュカにも食わせといてやりたいけど 起こすとまた大変だからなぁ」

 

「仕方ない」

 

「寝かしといてやれ」

 

そして見張りに行っていたダークエルフ二人が戻ってきた。

 

「どうだった?」

 

「異常ないか?」

 

「巣はクロウの言った通りだ 今 炎龍はいない」

 

「わかった 二人も飯にしてくれ」

 

「ご苦労さん」

 

そして暫くして野戦配食も済みいよいよ作戦決行の時だった。

 

「じゃ ロゥリィ 頼んだぞ」

 

「任せてぇ」

 

『聞こえるぅ?』

 

「感あり ああ 聞こえてる」

 

そして伊丹達は洞窟付近まで近づいてきた。

 

「よし 行こう」

 

伊丹の号令にみんな洞窟の中に入っていた。

 

「この先です」

 

「ちょっと見てくる 松明は一本だけ残して消しといて」

 

伊丹と大場は小銃をstg44を構えながら先に進んでいく。そして大きな広間に出た。

 

「ここが巣か・・・それ卵の殻?レレイ?」

 

「古い物ではないがもう巣立ちしたと思う」

 

そして足元には大量の剣があちらこちらと散乱していた。

 

「これ全部 炎龍にやられた連中の・・・」

 

「強者どもの成れの果てか」

 

「そう 遥か昔から炎龍に挑んだ者達の遺留物」

 

「すげぇ 全部売ったら大金持ちだ」

 

「これ魔法の剣だろ?」

 

「レレイ テュカを頼む あー宝探しは後にして荷物をこっちに」

 

「緊張感ってのがねぇーのか 彼奴ら」

 

伊丹と大場は持ってきた火薬量約250㎏を地中に埋め時限発火放置を繋げる。

 

「フゥ」

 

「ハァー」

 

「イタミ殿 オオバ殿できました」

 

「お ご苦労さん」

 

「よくやった」

 

「こんな物で炎龍が?」

 

「ああ 吹き飛ばせる」

 

「お前らは 黙って見てればいいんだ」

 

伊丹は携帯型無線機でロゥリィに連絡する。

 

「ロゥリィ 外の様子は?ロゥリィ 聞こえるか?まずったな 電波が岩で遮られてる?」

 

「繋がらないか?」

 

「はい みんな上空に注意 レレイ そっちからも呼んでみてくれないか?一気にやっちまおう・・・と」

 

伊丹は携帯型無線機の電源を切る。

 

(あぶねぇ あぶねぇ 無線つけたまま 雷管いじってたぜ 下手にスイッチ入れて火花出たらやばかった・・・)

 

一方見張り役のロゥリィは辺りを見回し炎龍が来ないか監視していた。すると飛行物体を見つけた。

 

「ヨウジィ 帰ってきたわよぉ」

 

と連絡を入れるが返事はない。

 

「・・・あれ?オオバ レレイ聞こえるぅ?」

がやはりだれも出ない。

 

そして伊丹達は火薬に散乱した剣を上に被せその上に土を被せる。

 

「うへっ 五時間もたってら よしできた」

 

とあらかた終了した伊丹は安堵するが周りを見ると全員の顔が真っ青になっていた。

 

「どうした?」

 

と伊丹も後ろを振り向くと底には仁王立ちした炎龍がいた。

 



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炎龍退治4

一方伊丹たちが炎龍に遭遇している頃日本軍機甲旅団はエルベ藩王国の城の手前で野営していた。城では日本軍機甲旅団は大隊長加茂大佐はデュラン達と一緒に作戦会議を開いていた。

 

「炎龍はシュワルツの森を餌場にしているらしく最近は姿を現わしておりません」

 

「ふむ 巣のありかはわからぬか?ワット伯」

 

「森に住まう ダークエルフなら知っているやもしれませんが」

 

「航空隊の哨戒に引っかかれば追跡して巣を見つけられるんだが」

 

「あいつらまた炎龍に突撃するんじゃないですか?」

 

数日前最新鋭のジェット戦闘機で飛行演習を行っていた航空隊は炎龍に遭遇し炎龍に挑んだのだが倒す事叶わず機体をボロボロにされたのだ。その頃日本兵が辺りを警備していると何処からか声が聞こえて来た。

 

"もし そこのお人 今からそちらに行きますからの"

 

「なんか 言った?」

 

「え?お前じゃないの?」

 

「俺も聞こえた!特地語だった。木原、探照灯照射!!」

 

ティーガー戦車のライトがライトアップされた。そしてライトの照らされた先に人影があった。

 

『ゆっくりこっちへ』

 

そこに居たのは数人のダークエルフだった。

 

「そなたらが イタミ殿とオオバ殿のいた軍勢か?」

 

そして時を同じくしてテュベ山では、ロゥリィは炎龍に気づかれない様に駆け降り岩の陰に身を隠す。

 

「やばい やばい・・・ヨウジィ 炎龍そっちに行ったわよぉ」

 

と無線機で伊丹に伝えるが

 

『サー』

 

「・・・・」

 

と無言だった。

 

「ねぇ!ヨウジィ!オオバ!レレイ!返事してよぉ!!もうっ」

 

と悪態をつきながら伊丹達の元へ行く。

 

(このままじゃあ みんな殺られちゃう)

 

しかしその途中ある異変が起こった。

 

「うそぉ・・・っ」

 

大きな鎌が振り下ろされる。

 

ガシャッ

 

そして伊丹達は、炎龍を前に全員固まっていた。炎龍は伊丹達を睨みつけ荒い鼻息をする。伊丹と大場は傍に置いてある小銃とパンツァーシュレックを見るが下手に動けなかった。そこで腰に携行していた9mm口径のワルサーP-38を抜き取ろうとする。

 

「う・・・」

 

そんな時ダークエルフの中では一番年下のコムが恐慌状態の最中でパンツァーシュレックを構えて撃ち放つ。

 

『わあああ』

 

伊丹達数人は退避してパンツァーシュレックの反動に起こる発射ガスの巻き添えを食わなかったが二人のダークエルフがパンツァーシュレックの反動の発射ガスの巻き添えを食った。パンツァーシュレックの砲弾は見事に炎龍に命中した。

 

「やった・・・」

 

喜ぶコムだったがその直後コムは炎龍の手によって引き裂かれ血と肉片が飛び散る。ヤオはパンツァーシュレックの反動の巻き添えを食らった二人の仲間を見た。

 

「ナユ?バン?!?」

 

二人はパンツァーシュレックの発射ガスによって焼け死んでいた。パンツァーシュレックをまともに食らった炎龍は更に怒った。そしてダークエルフのクロウとフェンがパンツァーシュレックを撃ち放つ二発共炎龍に命中するも炎龍ピンピンしていて更に怒りを買った。

 

「何をしているんだ!!」

 

「それじゃだめだ!炎龍の顔を狙え!!」

 

「イタミ殿 オオバ殿!御身達は中へ!!」

 

ヤオは壁の溝の中に隠れる様にと誘導しようとする。 その間もダークエルフ達の攻撃が続く。が全く効果が見られなかった。伊丹は、ヤオのパンツァーシュレックを取り大場も死んだダークエルフの使っていたパンツァーシュレックに弾を装填する。

 

「ひっ ひいっ なんで飛んで行かねぇんだよっ」

 

ノッコがパンツァーシュレックの引き金を引くも安全装置を解除してなかった為弾が発射されなかった。そしてノッコは炎龍に引き裂かれ血や肉片と共に散らばっていた刀剣類が彼方此方と飛んで来る。

 

「うあっ!!」

 

「うわぁ!!」

 

ドン パウッ

 

「どうだ!」

 

「メト、逃げろ!!」

 

と伊丹が叫ぶもメトは炎龍の尻尾に叩き潰され絶命した。

 

「畜生!!」

 

「くそたれぇー!!」

 

伊丹と大場はパンツァーシュレックを構えると炎龍が火炎放射攻撃を仕掛けて来た。

 

「きゃっ」

 

「うごっ」

 

炎龍の火炎放射の熱風で飛ばされたセイミィと伊丹ぶつかり態勢が崩れる。大場は近くの岩陰に隠れて難を逃れた。

 

「くそぉ」

 

「うう・・・」

 

「中尉逃げろ!」

 

「イタミ殿 危ない!」

 

「!?」

 

目を開けるとセイミィが伊丹の持っていたパンツァーシュレックを構えていた。

 

「ちょっ 馬鹿!待て!!」

 

と伊丹が叫ぶも聞いていなっかたセイミィはパンツァーシュレックを発射した。伊丹は何とか発射時のガス圧から逃れられた。セイミィの放った弾は炎龍の右足を貫通した。

 

グギャアアァァ

 

「やった!効いてるぞ!」

 

喜びも束の間怒った炎龍は、セイミィに喰らいかかった。

 

「いやっ あ あっ あっ がっ」

 

「セイミィ!」

 

その時 レレイに運ばれていたテュカが薄っすらと目を開いた。

 



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炎龍退治5

伊丹達が炎龍と激闘を演じている最中テュカが目を覚そうとしていた。

 

"・・・カ テュカ・・・起きなさい"

 

と聞き慣れた声がしてテュカが目を覚ます。

 

「・・・んん なぁに?父さん」

 

見てみるとそこはかつての自分の家の中だった。だが声の主はどこにもいなかった。

 

「父さん?・・・?」

 

だが周りを見渡しても自身の父親の姿はどこにもいなかった。すると扉の向こうが騒がしくなってきてテュカは扉を開けて外を見てみると村が燃えていたのだ。

 

「テュカー!」

 

声のする方を見てみると少女が炎龍に襲われそうになっている。

 

「ユノ!!」

 

尽かさずテュカは弓矢を放つも炎龍硬い鱗に弾かれる。炎龍の圧倒的な威圧感に押されるテュカ。

 

「ひっ」

 

"動けない・・・っ なんでこんな化物に戦いを挑もうなんて・・・"

 

その時ヤオはテュカを壁の隅に突き飛ばす。

 

「きゃっ」

 

「ここに隠れているんだ!」

 

その時のヤオの姿が自身の父親と重なって見てていた。

 

「父さん!」

 

そして全てを思い出した父はもうこの世にはいないのだと。

 

 

"あたしの身代わりで父さんがー あたしのせいだあたしのー"

 

と父親が死んだのは自分のせいだと自分を責めるテュカ。

 

「それは違う」

 

と突然レレイが否定する。

 

「あなたの父親を殺したのは炎龍 あなたではない」

 

「でも・・・っ」

 

「イタミは間違っている この先 悠々と時を生き続けるあなたにとって 心の病など些細なこと 十年 百年の月日が自己を責める心をきっと癒す だから 彼はあなたを救う必要などない 今そこにある問題をなんとかしなければと思うのは 命に限りのあるヒト種の発想 あなたは炎龍を斃せないと決めつけている だから 怒りを向けやすいものに向けた それは自分自身」

 

レレイの演説をよそに皆は炎龍に攻撃を仕掛け続けている。伊丹は爆風によって気絶し大場は炎龍に向かって手榴弾を放り投げ他のダークエルフはパンツァーシュレックで攻撃を続けている。

 

「鉄の逸物はもうないのか!?」

 

「う・・・ん」

 

「くらぇぇ!!」

 

「盗賊に肉親を殺されたら盗賊を恨むべき だけどヒトは盗賊の出る場所に行った者が悪いと言いたがる」

 

「だったら誰を呪ったらいいの!?自分自身を呪うしかないじゃない!!」

 

そんな中ヤオは炎龍の攻撃を避け炎龍の側頭部に向けてパンツァーシュレックを放つ。

 

バ ヒュン

 

ガキュッ

 

ヤオの放ったパンツァーシュレックは見事命中して炎龍は弱り始める。この時発生した爆風からレレイはテュカの前に立ち爆風からテュカを守った。

 

「レレイ!」

 

「やった!ひるんだ!いけるぞっ」

 

「・・・今 私達は 勝てるかどうかの分水嶺にいる あなたは私がアレを斃すのを 指をくわえてみていればいい」

 

 

"くそ 頭が・・・ どうなってんだ・・・"

 

「うっ・・・水・・・」

 

爆風で吹き飛ばされ頭を打ち付けられ意識が遠のく伊丹は横を向くとそこには炎龍に食いちぎられたセィミィの上半身と足元には下半身が転がっていた。

 

(セィミィ・・・?)

 

伊丹は開いていたセィミィの目を閉じセィミィの死を悼んだ。すると目の前で爆発が起きた。

 

ガキュッ

 

「あつっ」

 

爆発が起きた場所では、炎龍の角の一角が欠落した。

 

(どこからやられたか!?炎龍はどうなった?)

 

見てみると火炎放射を吐く炎龍に勇敢に立ち向かう大場とヤオが見え辺りには焼け焦げた死体の残骸が散らばっている。

 

(あっという間に・・・半分以上やられたのか セィミィは最後に俺を見て・・・)

 

伊丹はセィミィの頭に手を添え、

 

「行ってくるぜ」

 

と一言言って行った。



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炎龍退治6

中々炎龍の話が終わらなくて参っています。


炎龍の攻撃の中伊丹はダイナマイトプランジャーのある所まで匍匐前進をしながらかい潜っていた。

 

(てっぱち 飛ばされたのか 顎紐ボロかったし てっぱちごと首もっていかれなくてよかったのか悪かったのか・・・)

 

その頃レレイは炎龍に挑んで敗れた者たちの剣に呪文を掛け炎龍に目掛けて放つも炎龍の硬い鱗に弾かれる。

 

(・・・魔法で加速させたくらいではだめ 炎龍の鱗を貫く速度を剣に加えるにはどうすればー)

 

 

一方の伊丹は、ダイナマイトプランジャーの近くにまで来ていた。

 

「見てやがれ 吹っ飛ばしてやる」

 

ダイナマイトプランジャーの取手に手を掛けスイッチを入れるも起爆しなかった。伊丹は発破母線を辿ってみると母線が切れている事に気付く。

 

「くそ!!発破母線が切れたか!?」

 

「手榴弾も残りわずか。早々にケリをつけないとマジでやばいぜ」ハァハァ

 

自分の手にしている収束手榴弾が残り少ない事に少々焦り出す大場。

 

「炎龍の鱗を貫く鉄の逸物 ならば空の筒でも奴には・・・」

 

そう呟き炎龍に空のバンツァーシレックを向ける。すると炎龍は目を見開きかわそうとして壁に激突する。

 

「炎龍が・・・怖がってる・・・」

 

「クロウ 牽制を!」

 

その時 フェンが炎龍の火炎放射をまともに食らってしまた。

 

ゴ ッ

 

「うわぁ」

 

「フェン!」

 

だがフェンは火達磨になりながらも最後の力を振り絞ってパンツァーシュレックを炎龍に向けて撃ち込んだ。

 

ガキュッ

 

「馬鹿野郎!!」

 

伊丹は駆け出し途切れた母線を探して結び直そうとしていた。

 

"与えられた役割を果たせ。そうすれば仲間は死なせずに済む"

 

数多くの砲弾や収束手榴弾を食らって徐々に弱っていく炎龍を見つめながらレレイはある事を思い返していた。それは炎龍倒す為に地中に爆薬を仕掛けっていた時のことだった。

 

"こうして爆薬を上に剣を置いとけば爆発の威力で剣が炎龍を突き刺す"

 

(ーこれだ 剣に連環円錐をまとわせて・・・)

 

レレイは側に落ちっていた剣に魔法をかけ炎龍へと飛ばす。剣は次第に威力を増し炎龍に突き刺さる。剣が突き刺さり炎龍は絶叫を上げる。そんな炎龍を余所にレレイは黒い笑みを浮かべ炎龍に対し追撃を図る。

 

「・・・ふふっ」

 

レレイは洞窟中に埋もれている剣を全て上へと上げていく。

 

「おお!?なんだぁ?レレイ?」

 

「な、なんだこりゃぁー!?」

 

皆が驚いている頃全ての剣は上へと上がって刃の先が全て炎龍へと向けられていた。準備が整いレレイは手を振りかざし一斉に剣が雨の様に降り注がれる。

 

死ね くそったれのトカゲ野郎

 

「待て待て待て!!」

 

「って 殺す気かぁー!」

 

「・・・・」

 

皆は慌てて地面に伏せる。

 

「くっくっくっ」

 

レレイが指パッチンすると剣はスピードを上げまるでその光景はさながらミサイルの様であった。スピードを増した剣は炎龍に容赦なく突き刺さり針鼠のようにしていった。数多くの剣を食らった炎龍はうつ伏せ状態に倒れ、レレイも魔法を使い過ぎたせいか腰を下ろす。

 

「レレイ!」

 

「し、死ぬかと思った!!」

 

ヤオ達は炎龍が倒れこれは好機と言わんばかりに炎龍にトドメを刺しに行こうとしていた。

 

「やった!!」

 

「馬鹿よせ!」

 

「きゃっ」

 

だが伊丹はヤオの髪の毛を掴んで止める。確実に仕留めていないから無闇に炎龍に突っ込むのは危険だと悟っていたのだ。だがもう一人突っ込んで行ったクロウは落ちていた剣で炎龍の硬い鱗に対して斬ったり刺したりしていた。

 

「この野郎!この野郎!」

 

だがその時炎龍が顔をクロウに向け火炎放射を食らわす。

 

「うわぁっ」

 

「クロウ!イタミ殿 オオバ殿放してくれ!クロウがっ」

 

「馬鹿野郎お前も死ぬぞ!」

 

「諦めろ もう手遅れだ!」

 

そんな光景を見ていたテュカは恐怖に打ちのめされていた。

 

「あ・・・あああ・・・」

 

"あのときと同じだ 私もユノをーー馬鹿馬鹿馬鹿あたし馬鹿だったー"

 

目の前では伊丹がヤオの手を引っ張り大場はレレイを担いで炎龍から逃げていた。その光景を見たテュカの頭の中に何かが過った。

 

"父さん 死んじゃうー"

 

「teruymmun!hapuriy!!」

 

テュカが呪文を唱えると空気中から電気が発生した。やがてそれは大きな雷になった。

 

いっけえぇぇ!

 

その雷は炎龍へと降り注がれ地面に突き刺さった剣から剣に伝わり電撃力を増し剣から剣に伝わった電撃は地中に埋めた爆薬に発火し大きな花火を打ち上げた。だが余りに爆発の威力が強すぎて洞窟そのものが崩壊し始めたのである。

 

「逃げるぞ!!走れ走れ!」

 

「後ろを振り向くな前を見ろ!」

 

皆が必死に走りながらも落盤は伊丹達を追いかけるかの如く迫ってくる。そんな時テュカが逃げ遅れ奈落の底へと落ちていく。

 

「きゃあああ」

 

ガッ

 

「手を離すなよテュカ!」

 

がギリギリで伊丹がテュカの手を掴んだのだった。

 

「つかまれ!」

 

「手離すじゃないぞ!」

 

ヤオと大場の助けもありテュカは窮地を脱した。

 

"生きている まだ生きてる イタミもオオバもレレイもヤオもー 父さんの敵を討ったんだー"

 

テュカの顔にはもう迷いも悲しみも怒り何もなく真っ直ぐに輝いていた。

 

 



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竜人ジゼル

いやぁー やっと炎龍退治が終わったよー。


大爆発により黒煙や土煙が混じるテュベ山の一角では洞窟の落盤から命からがら走って逃げて来た伊丹達が息を切らしながら腰を下ろしていた。

 

「・・・みんな無事か?」

 

「た、助かった」

 

「生きている」

 

「なんとか・・・」

 

「損傷はたいしたことない」

 

「おそぉい〜 そうかよかった・・・」

 

と安堵する伊丹だったが直ぐにある人物がいない事に気づいた。

 

「ロゥリィ!?」

 

そう叫んで上にある岩場の方を見ると、そこでは身体中を鋭利な刃物で何度も引き裂かれた血塗れ姿で横たわっているロゥリィだった。

 

「ロゥリィ どうしたんだ!?」

 

「腕が切断されている!早く引っ付けるんだ!」

 

血相を変えた伊丹と大場はロゥリィに駆け寄り引き裂かれた手足をくっつけていく、手足は再生していくが重傷だった。

 

「普通の人間だったら、生きていられないぞ・・・」

 

「いったい なにがー」

 

「うっ・・・ん」

 

「お姉サマったらヒトなんかに心配されて随分と軟弱になったんではなくて?」

 

すると煙の中から声が聞こえ辺りを警戒するとそこには2匹の新龍を従える白い神官服を見に纏い青色の肌に銀髪の大鎌を担いだ龍人族の女性が現れた。

 

「お姉サマ いっしょに行きましょうか」

 

「・・・うるさい 誰が行くか」

 

皆は新たな水龍と大鎌を担いだ龍人に意表を突かれてい言葉が出なかった。

 

「お姉サマ 主上さんの奥サマになろうってお人が気安くヒトになんか肌を触れさせるなんて不調法が過ぎまっ」

 

ガッ

 

「あーちくしょーめ」

 

舌を噛んでイラつく龍人。

 

「そこのヒトのオス お姉サマに気安く触んなってんだよっ 主上さんの大事な人なんだぞ!」

 

「うるさい!!」

 

"わたしぃの主神はエムロイ 死と断罪と狂気そして戦いの神"

 

「あんな女の嫁にぃ だぁれがなるもんですか!」

 

とロゥリィは重傷を負っているにも関わらずハルバートを杖代わりにして立ち上がる。

 

「はぁ せっかく主上さんに見初められたのに・・・やっぱ動けなくしてでも連れてくしかねぇかなぁ」

 

それを聞いてロゥリィは歯を食いしばり子供みたいに駄々を捏ねて伊丹に泣きつく。

 

「あんた達がぁ勝手に決めただけでしょおっ もうイヤ!」

 

「・・・おい てめぇ主上さんの大事な人を寝取るつもりか?ケツに二つ目の割れ目作ってやっぞ」

 

と大鎌をちらつかせる龍人に伊丹は苦い顔になる。その時ロゥリィは微かに伊丹に聞こえる程度の声で話す。

 

「時間稼いでちょうだぁい まだ力が入らないからぁ」

 

それを聞いて更に苦い顔になる伊丹は取り敢えず在り来たりな質問をぶつけることにした。

 

「しっ質問!」

 

「あん?なんだよ?さっさと言いな」

 

「あ ども 失礼ですがあなたはどちら様で?あ、自分は大日本帝国陸軍特地派遣軍第三偵察隊隊長の伊丹耀司陸軍中尉で・・・」

 

と伊丹が自己紹介している途中に飛翔して品定めをするかのごとく伊丹を見回す。

 

「フゥ〜ン ご丁寧な自己紹介ありがとよ」

 

(竜というよりコウモリ見たいだなぁ)

 

「オレはジゼル、主上ハーディに仕える使徒さ」

 

(なんだろこの士官学校の新兵みたいな感じは)

 

「こいつは竜人の亜神でぇ、地上にいる一番若い使徒よぉ」

 

となにやらグダグダな感じになっていた。そして伊丹は更に質問を続け時間を稼ぐ。

 

「ハーディ・・・様はやはり神様で?そして女性?」

 

「そだよなんだあめぇ主上さんも知らねぇなんて ここの住民か?ああ 女の主上さんがロゥリィ姉サマを嫁にってとこか?本人の好きずきだろいちいち文句たれんなよ おっさん」

 

「おっ・・・俺はまだそんな歳じゃ無いのに」

 

とジゼルにおっさん呼ばわりされ凹む伊丹。

 

「まっ 本音言うとな オレにもよくわかんねぇだけど差別はよくねぇだろだから理解しようとはしえんだよ」

 

「わたしはぁ男がいいわぁ」

 

「・・・・・・・・・・オレだって 主上さんの想いが理解される日 来んのかなー」

 

遠く暁を見つめ深く考え込むジゼルに伊丹達は遠い目でジゼルを見つめ心の中で『多分 一生来ないと思うぞ』と呟く。

 

「ーで ロゥリィを連れていくために戦っていたと?」

 

「そうさ せっかく出会えたんだ主上さんの御意には従わねぇとな」

 

「ロゥリィを一人でここまで?」

 

「バカかお前ぇ やりあえばよくて互角なのに キレはねぇし勝手に傷は負うしナメられてんのかとムカついたがよ お前が繋がってたせいじゃねぇか」

 

と言われ負傷した所を見ると傷が塞がっていたのだ。

 

「眷属って本当だったのか なんでー」

 

「別にぃ いいじゃない」

 

「はぁ〜・・・」

 

ロゥリィの白々しさに伊丹はやれやれと言った感じだった。

 

「そうとわかれば手加減なしだぜ お姉サマ。オレが手塩にかけて世話したこの二頭と炎龍が組めば勝てる亜神はいねぇ そのためにわざわざ眠っていた炎龍を起こして水龍と番わせてよぉ」

 

その言葉を聞いてヤオが目を見開いた。そんなヤオを余所にジゼルとロゥリィは戦闘態勢に入る。

 

「さぁて そろそろ行くぜ」

 

「まとめてぇかかってきなさぁい」

 

「お待ちください!!」

 

そんな一触即発の中でヤオのその一言の掛け声がかかる。

 

 



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事後処理

結構長いです。


「お待ちください!!」

 

ロゥリィとジゼルが戦闘態勢に入るや否やヤオがその瞬間待ったをかける。

 

「猊下が・・・・炎龍を?なぜですか!?此の身らはハーディの信徒主神に仕えてきた同胞への代償がー炎龍という名の災厄とは!?」

 

「チッ 信徒ならよ主神さんのご意思に文句たれずに黙って従いな 信仰篤いってんなら主神さんの役に立つことを喜べよ それが死であってもな」

 

「・・・此の身だけであれば従いましょう ですが・・・一族同胞すべてに生贄になれとー炎龍の餌になれとは本当に主神ハーディのご意思だったのですか?」

「なんだそれ?炎龍のやつどこからエサ獲ってくるのかと思ったら あれ お前らだったのか 災難だったな」

 

とジゼルからの残酷な一言にヤオは崩れ落ち涙を流すやがて涙は真っ赤な血に変わり血涙になる。

 

「・・・さ 災難・・・?何度祈り泣き悲しみ何度問い救いを求め絶望したことか その度に主神を想い 希望を求め旅に出てーそれなのに・・・此の身の祈りに神々は応えてくれないばかりか 耳すら貸してくれなかったと!?」

 

とヤオの悲痛な訴えをジゼルはイラつきながら説明する。

 

「・・・あのなぁ金がほしい 出世したい くじに当たりますように豊作祈願に恋愛成就?きりがねぇ んな欲まみれのお祈りなんかに耳貸す神がどこにいんだよ おんぶにだっことすがることしか能のない信徒なんぞ 炎龍のエサになってろってんだ」

 

と人間の欲に呆れるように言い放つそれを聞いたヤオ片刃剣を抜きジゼルに斬りかかろうとする。迎え撃とうとするジゼルに伊丹はヤオを引き寄せジゼルの側面からロゥリィが斬りかかろうとするも二匹いる新龍の攻撃にあえなく未遂に終わり伊丹はホルスターからワルサーP-38を取り出し新龍に発泡する。そしてもう一匹の新龍は大場とレレイが応戦する。

 

「おいおい ヒトがオレに挑もうってか?なんだそれ?いい度胸じゃねぇか オレは無謀なやつ好きだぜ?」

 

(くそっ 逆に巻き込まれちまった・・・)

 

(あ〜あ やっちゃたよ 完全やっちゃたよ)

 

「当たり前じゃない これでも炎龍をぉ 斃した男よぉ」

 

「なんだと!?いや なんですって!?」

 

「そうよねぇ?」

 

「(俺は爆薬を仕掛けてはいずり回ってただけなんだけどなぁ この状況抜け出すにはハッタリかますしかねぇか・・・?軍部の偽情報で二重橋の英雄に祭り上げられるわ)俺ってこんなんばっか・・・」

 

実際に炎龍と戦っていたのは伊丹ではなくダークエルフと大場たちなので何もしてない自分がでかい顔をするのをいささか疑問に思ったりする。だがここはやるしかないと覚悟を決める。

 

「いや〜斃しちゃいましたよ?」

 

「なにぃ!?」

 

「火口を覗いてみればわかりますよ 巣ごと落ちていったから」

 

そう言われてジゼルは新龍の一匹を火口に行かせて確かめさせる。

 

「よくできましたぁ」

 

「よくもまぁ あんな白々しハッタリをかませるな」

 

「あはは・・・」

 

「へへ どうせ命からがら逃げてきたんだろ?お姉サマの加護があってもヒトにできるわけがねぇ おい おめぇ もう一度名を言え」

 

「イタミ イタミヨウジ ヨウジィとは眷属の契りを交わしたわぁ わたしはぁ炎龍すら斃す男を伴侶にするのよぉ」

 

とロゥリィが伊丹の代わりに伊丹の名を語り伊丹を自分の伴侶にするとぶっ飛んだ発言をかました。そして偵察に向かった新龍の一匹が戻ってきて炎龍がやられていたことを知らせる。

 

「うはっ マジかよ 炎龍をヒトが斃すとはな嬉しいねぇ 使徒になった甲斐があったぜ」

 

「ヨウジィとわたし相手にぃ 勝てるかしらぁ?」

 

(帰れ帰れ帰れ ハッタリに気付かずにさっさと逃げてくれ 神様・・・って目の前にいるしお祈りなんか知るかってさっき言ってたし・・・)

 

「へっ こうでなきゃな トワト!モゥト!親の敵討ちだ!行くぜ!!」

 

(やぶ蛇だったーっ)

 

そして先陣を切るロゥリィを抱き抱える。

 

「大尉!レレイを頼みます。 ヤオ テュカ!走れ!!」

 

「結局こうなるのかよ!」

 

先手必勝逃げるが勝ちと言わんばかりに伊丹はロゥリィを抱き抱え大場はレレイを担ぎで走り去る。取り残されたジゼルと新龍二匹は唖然としていた。

 

「・・・な・・・追え!!」

 

すぐさま新龍二匹が伊丹たちに追いつき口から火炎放射を放とうとしたその時

 

ドドッ ドン

 

新龍二匹が突然爆発した。それは炎龍討伐のために向かっていた日本軍戦闘機に搭載されているロケット弾だった。

 

『久里浜 野郎の大きさ小さくねぇか?おまけに二匹いるし』

 

『完全に別目標だが伊丹達が追われているのを我々が確認している』

 

「神子田は目標赤 西本は黒」

 

「了解」

 

向かってくる二匹の龍に戦闘機隊はロケット弾や機関銃を浴びせる。被弾した龍が地面に落下すると大きな爆発が起きた。

 

「なっなんだ!?」

 

同時テュベ山の付近では到着した日本軍の戦車、自走砲が待ち構えていた。

 

「ってーっ!!」

 

ティーガー、パンターなど強力な大砲を積んだ戦車が攻撃を開始する。

 

「伏せろ!」

 

凄まじ爆音と爆風が押し寄せてくる。

 

『戦闘機隊 伊丹中尉と大場大尉は確認できるか?』

 

『弾着地点より五百メートル下がった斜面に伏せてます』

 

「了解 目標からなかなか離れんからやきもきしたわ」

 

そんな日本軍の砲撃を周辺の住民が見物していた。

 

「なにをしとるんだ連中は」

 

「えー?」

 

「なにかの儀式かのぉ」

 

そんな爆発で燃え上がっているテュベ山を双眼鏡からデュランが覗いて笑っていた。

 

「おほほっ すさまじいのぉ!儂もよくぞ生きてあの中をくぐり抜けたもんじゃ」

 

「陛下にはご武運があるのでしょう」

 

「さぁ次はなんじゃ?」

 

「砲撃待て 爆撃機隊攻撃開始!!」

 

「了解 全機突撃せよ!」

 

爆撃機隊は攻撃地点に来ると急降下を開始し龍目掛けて正確に爆発を投下する。250kgや500kg爆弾合計1.5トンの爆弾を龍に浴びせ龍は火柱に包まれ煙が晴れた時点で龍は二匹とも全滅していた。

 

『目標撃破 撃ち方やめ!』

 

一方のジゼルは、爆発で巻き上げられた土煙に隠れて難を逃れた。

 

「こ これが イタミヨージの力だというのか!?」

 

すると何処からかジゼルを呼ぶ声が聞こえてきた。

 

「幽閉してあげるからぁ出てらっしゃあ〜い」

 

その言葉に恐怖を感じた。

 

「ゆ 幽閉・・・」

 

"陞神するまでバラバラにされ埋められたーあの禍神や捕らわれて獣に腹わたを喰われ続けたあの神みたいに?"

 

「じぃ〜ぜる〜どこかしらぁ〜」

 

ジゼルはひっそりと隠れながら逃げる事にした。

 

「そういやお姉サマも昔・・・それだけは勘弁だぜ・・・」

 

全てが終わって皆んな疲れ切っていた。テュベ山には増援軍が次々と到着し洞窟にあるダークエルフ達の遺体や炎龍の死骸の回収など事後処理をしていた。

 

「生きてるな俺たち・・・」

 

「そうね・・・」

 

「やっつけたな」

 

「・・・うん」

 

「・・・もう父さんって呼ぶなよ」

 

「いや」

 

「なんで?」

 

「言い慣れちゃったから」

 

「そか・・・」

 

そして後日アルヌス駐屯地では檜垣少佐から呼び出された伊丹と大場が来ていた。

 

「俺と大尉は・・・」

 

「二週間の謹慎ですか」

 

「それに加えて第一と第三偵察隊の隊長格を解く」

 

「はぁ」

 

「やはり」

 

「当然だな 部下を放り出して行っちまったんだから ここまでが人事処分だ。軍法会議にかけられんだけ有難いと思うだな」

 

そして檜垣少佐の話が終わると伊丹と大場は司令官室に呼び出された。

 

「気ぉつけーっ」

 

そして最高司令官今村均大将が伊丹と大場に勲章を送る。

 

「伊丹中尉並びに大場大尉」

 

「「はい」」

 

「旭日小綬章が陸軍省より届いておる日本人拉致被害者救出の功績を特に称えて授けるものである。次にエルベ藩王国国王デュラン陛下より帝国政府には感状伊丹中尉と大場大尉には炎龍退治の功績をたたえて勲章と卿の称号が授けられる」

 

「「・・・・」」

 

「お前たちこっちじゃ貴族様だな」

 

「シュワルツの森ダークエルフ族長会議からも感状と名誉族長の称号 それとダイヤだ」

 

「ヤオって娘の扱いもちゃんとしておくように。人身売買は我々の元の世界では犯罪にあたることだぞ」

 

「「はっはいっ」」

 

「それからドワーフのルベ村?そこから感状、レイパゾムにトルーテ村からも感状、デアビスからもだイタリカからは感状と晩餐会の招待状 炎龍が出た地域からはたいがいなにか来とるなどんどん持っていきなさい これで最後か ん?ベルナーゴ神殿?こんなのあったかな まぁいい」

 

伊丹と大場は数多くの感謝の記念品を持っていた。

 

「でだ そんなお前たちを処分したのでは通りが悪いので新任務を与える 伊丹中尉並びに大場大尉!特地資源状況調査担当を命ず 謹慎が解けたら早速就いてもらう 要は好きに動きまわって資源を探せってことだ。貴様ら向きだろ?」

 

「「はい 謹んで上番します」」

 

伊丹達の無事帰還果たした事を村人達も祝ってくれていた。伊丹達に月桂冠を送る。

 

「俺達に?」

 

「うん!えんりゅう やっつけたから」

 

「ありがとな」

 

「心配かけたな」

 

「おかえりおじちゃんたち!」

 

その後伊丹達は飲み屋で祝杯を挙げていた。

 

「で、デリラとヤナギダはぁ?」

 

「すまん 詳しいこと教えてくれなくて」

 

「まぁ、まだ公には出来ないんだろう」

 

「ふぅ〜ん」

 

「そうだ テュカ話って?」

 

「コホッ 父親をかたって無理やり炎龍退治に連れていったことを許すかわりに 罰を与えます」

 

「ば 罰ってなにを!?」

 

「母親に会うこと」

 

数日後 伊丹達は、車で伊丹の母親が療養している施設に向かっていた。

 

「久しぶりじゃないか お前の母親に会うのは?」

 

「まぁ」

 

「ヨウジィ これベルナーゴ神殿の招待状ねぇ ハーディの神殿よぉ」

 

「げぇっ」

 

「行くぅ?嫁にはなんないってぇ直に言ってやりたいしぃ これがあるからハーディの領域に堂々と入れるわぁ」

 

「ベルナーゴの手前に学都ロンデルがある 論文発表と導師号の申請をしたいので行くのなら同行したい」

 

「博士号飛びこして?」

 

「カトー老師に炎龍斃す弟子なぞさっさと一人立ちしろと言われた」

 

「じゃあ レレイが導師号もらうところ絶対見に行かなくちゃね」

 

「ロゥリィ聖下」

 

「ホントにいいのぉ?」

 

「なに?」

 

「ああ 名乗りを変えようと思う シュワルツの森部族デュッシ氏族 デハンの娘ヤオ・ハー・デュッシ改め ヤオ・ロゥ・デュッシ」

 

と自信満々に自身の新たな名前を名乗るヤオ。

 

「うわっ」

 

「え?驚くこと?」

 

「えっとね 例えば私の名前テュカ・ルナ・マルソー ルナは音楽の神ルナリューのこと 私はその信徒なわけ」

 

「へぇ じゃあ ロゥってのは・・・」

 

「まさか・・・」

 

「当然聖下のことだ」

 

「///・・・・///」

 

「亜神の間に直信徒持つなんて前代未聞よね?」

 

「・・・直接話ができる亜神の方々の方が信じるに値する」

 

「ロゥリィ 陞神したらなんの神様になるの?」

 

「そんなの選べるのか?」

 

「エムロイは死と断罪と狂気そして戦いの神 そのどれかを担うか まだ誰も担っていない事象や領域の守り神になる」

 

「死かな?」

 

「戦いではないか?」

 

「断罪が似合う」

 

「狂気もロゥリィっぽいよね」

 

「・・・・"愛"なんてだめかな・・・」

 

とあまりにも突拍子も無い発言に皆んな黙り込む。そして心の中では『もう それエムロイ関係なくねぇー』と呟く。それからしばらくして伊丹の母親が療養している施設に到着する。

 

「ついたぞ お前ら」

 

「ここにヨウジィの母親がいるのねぇ」

 

「・・・お義母さん」

 

と施設の入り口の前で立ち止まり中々入ろうとしない。

 

「お父さん?」

 

「わかってるわかっている(ケジメつけたいんだよな)」

 

「「「「さっさと行け!」」」

 

皆んなに怒鳴られながら伊丹は渋々と施設に入り母親と対面する。

 

「・・・耀司かい?」

 

「母さん・・・ひさしぶり元気だった?」




今回は調子がいいので早く進みます。


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第3章動乱編
新任務


新年明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。遂に新章突入です。


帝都南縁大城門 雨の降る深夜此処では日本軍の先発隊がダークエルフ達と共にやって来ていた。

 

「精霊魔法か・・・回転翼機の音も小さくできるって?」

 

「風の精霊に頼むんだ」

 

「こちら 先発隊 城門制圧 進入しろ」

 

『了解』

 

上空ではドイツ軍の開発した初のヘリ『Fa223』(の改良型で主に役割りは二つに分かれる一つは、ロケット弾を搭載した地上攻撃型回転翼機ともう一つは、兵士や車両を運搬する輸送型回転翼機に分かれる)が炎龍の頭部を運んでいる。目的は帝都の住民の前に炎龍の頭部を晒す事だったそれによって炎龍を斃した事を世に示す狙いもある。

 

『先発隊より悪所事務所 龍は舞い降りたくり返す 龍は舞い降りた』

 

 

この少し前ー アルヌス駐屯地では伊丹と大場が檜垣少佐から呼び出しを受けていた。

 

「特地の資源調査は了解しましたが鉱石とか詳しくはないですし まさか大尉と二人で行ってこいとはー」

 

「そんな専門的な調査を求めてるわけじゃない 聞き取りや既存の鉱山の調査でよろしい つい三週間前にお前たち自身がエルベ藩王国に行っているじゃないか 有力な地下資源の情報が得られたと聞いたぞ。謹慎中に忘れたのか?」

 

「あ ああ そ そうでした けど 大尉と二人で行ったわけじゃ・・・」

 

「俺じゃ不満かよ?」

 

「なら今回も現地協力員を雇用しろ ダイヤモンドと油田の発見で予算は増額されとる」

 

と檜垣少佐から渡された予算の資料を見てぶったまげる伊丹と大場。

 

「報償金がすごい額に・・・・」

 

「こりゃ驚いた」

 

「金をかければいいってもんじゃないがな おかげで他にも数斑調査に出すことになった」

 

「金目当ての現地の連中が当てになるんでしょうか・・・」

 

「現地人と親しくしとるのは貴様だけじゃないぞ伊丹中尉 それに貴様と大尉が助けたダークエルフの部族が出稼ぎに来ていて手を貸すそうだ。エルベ藩王国からも地理にくわしい者が派遣されてくる」

 

「しかし あの爺様が王様だったとは・・・」

 

「人は見かけによらないとはよく言ったもんだ」

 

と王としての品格や貴賓さが全く感じられないデュランがエルベ藩王国の国王だったことに伊丹と大場は意外性を感じる。

 

「というわけでいきなり後ろから襲われることはないはずだ 早速貴様と大場大尉にも任務にかかってもらう」

 

「「了解しました」」

 

「ああ 伊丹 大場 今 一偵と三偵が帰って来てるぞ」

 

「わかりました」

 

「あー そうですか・・・」

 

そして兵舎の前では第三偵察隊と第一偵察隊の兵士達が整列してその前に伊丹と大場が立っている。

 

「もう聞いてるかもしれないが俺と大尉は第三偵察隊と第一偵察隊の隊長の任を解かれた。以後はこの中で一番階級の高い小野田少尉の指揮で任務にあたってくれ」

 

「少尉 部隊の事を頼んだぞ!」

 

「はい 了解しました」

 

二つの隊を二人から任され小野田は背筋を伸ばし敬礼をする。

 

「隊長があっちにいる間は新田原少佐の指揮で動いていました」

 

「隊長がいなくても大丈夫でした」

 

と栗林と黒川の厳しい発言に伊丹は苦笑いを浮かべる。大場からは同情の眼差しをされる。

 

「ともかくこの前はすまなかった。個人的なことに巻き込みたくなかったんだ」

 

「俺は巻き込まれたけどな」

 

「うっ・・・まぁ、これから帝都での交渉が本格化してより任務の重要性も増す、偵察隊本来の仕事じゃないが最善を尽くしてくれ やばくなったら逃げろ。自決なんて早まるんじゃないぞ・・・以上だ」

 

そして全員が敬礼し解散の号令がかかる。

 

「解散!」

 

「小野田少尉 あいつらの事頼んます」

 

「任せてください」

 

そして伊丹は自分の隊の古田が見当たらない事に気付く。

 

「そういえば古田は?」

 

「そう言えやさっきからずっと見てないな」

 

「古田兵長ならゾルザルの料理人になりました」

 

「え!?あいつの?任務スよね?」

 

「どう言った経緯だよ」

 

「隊長達!水くさいっスよ言ってくれれば自分達も炎龍退治にー」

 

「馬鹿!任務じゃないのに連れていけるか!それに俺と大尉はもう隊長じゃないぞ」

 

「そういう事だ」

 

「隊長達は別の任務に就くんスか?」

 

「特地から僻地に左遷ではありませんか?」

 

「・・・黒川くんそれ柳田がもう使ってる」

 

「容赦ねぇな」

 

「資源調査 現地協力員と特地巡りすんのさ ほらあれ」

 

伊丹が指を指す方向では出稼ぎでやって来たダークエルフ達が九六式六輪自動貨車の運転練習をしていた。

 

「ああ それでダークエルフが運転練習してたのか」

 

「きのうロゥリィにひかれかけたぜ やっぱりあいつらも行くのか」

 

「ずーるーいっ 自分も連れてってくださいっ」

 

「悪いな倉田、士官しか就けないの」

 

「諦めろ」

 

「ええーっそんなぁ〜」

 

「んじゃ今夜は隊長達の送別会な割り勘でいい?」

 

「いいよー」

 

「え?俺たちも割り勘?」



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午餐会

皆さん初詣には、もう行きましたか?私はもう行きました。


帝都では、この日住民達は騒然となっていた。大城門に炎龍の頭部が据え付けられていたのだ。

 

「いったい誰が・・・?」

 

宮殿では、炎龍の頭部の事が報告されてた。

 

「炎龍の首が?馬鹿をもうすな 本当かどうか誰か遣って確かめさせろ」

 

大城門では、

 

「何百年も前から幾多の英雄が挑み敗れた。炎龍は天のもたらす災禍と同じじゃ」

 

「神以外にこんなことできる奴いるか?」

 

「もしかして・・・以前噂になった・・・・茶色の人がやったんじゃないか?」

 

「茶色の人?」

 

「炎龍を退けたという あの・・・?」

 

「茶色の人・・・」

 

「・・・・・」

 

そして皇宮にも炎龍の頭部の事が報告されてた。

 

「そうか 炎龍の首がのう」

 

「陛下はすでにご存知だったので?」

 

「何やら宮廷雀が昼からさえずっておったからの またぞろ凶報かと心構えしとったのだ」

 

「そうでしたか(陛下が凶報慣れするのも由々しきことだ)」

 

「炎龍が斃されたとは吉報だ。マルクス伯 名乗りを上げれば出自種族に関係なく充分な褒美を与えるつもりであるが名乗り出る者がおらんそうではないか」

 

「はい 本来でしたら首を掲げて功績を誇っておりますのに」

 

「解せぬ・・・な 穿ちすぎかの?民に知らしめただけかもしれん 伯よ 何者が炎龍を討ったか調べよ。さすれば意図もつかめてこよう」

 

「かしこまりました」

 

「ああ マルクス伯 すまぬがピニャを呼んでもらえぬか?」

 

「ピニャ殿下でございますか?ただ今午餐会でニホン帝国の使節を饗応中でございますが」

 

「おお そうであったな 虜囚になっておった者らの帰国を祝う今宵の宴席に余も臨席するのだった。その際に直接問うとしよう」

 

「どのようなことをお訊きになられるので?」

 

「うむ 以前受けたあの者の報告を思い出したのだ どこぞの村を襲った炎龍を退けたのが茶色の人だったとその時は、一笑に付したがもしやと思ってなピニャに確かめたいのだ」

 

「茶色の人・・・でございますか」

 

「この者についてよく知りたい 任せたぞ。炎龍の首も南苑宮へ持って参れ」

「かしこまりました 陛下」

 

伊丹と大場が謹慎中の前に特地入りした講和交渉使節団は、先の大戦の対米講和交渉から全権大使を任された吉田茂を団長とした官僚と日本軍士官二十数名。 同時に返還捕虜第一陣十五名がイタリカにおいて帝国側に引き渡された。帝国においては交戦国の使節であっても歓迎の式典を催し皇帝に謁見することが習わしとなっていたが大日本帝国側としては実利的にも心情的にも認めるわけにはいかず皇女ピニャの私的な催しに皇帝が赴くという形をとることとなった。

 

帝都南苑宮 此処では吉田茂と菅原浩治が礼装姿で式典に参加していた。

 

「吉田副大臣 こちらが元老院議員のキケロ卿です」

 

「ハジメマシテ ヨシダ閣下 しかし一介の外交官から副宰相に上り詰めるとは巧みな話術をお持ちで」

 

「いえいえ たまたま運が良かっただけですよ」

 

「だまされませんぞ スガワラ殿も貴国の方は謙遜にすぎる。交渉の席ではお手柔らかに願いますぞ」

 

その後吉田茂は頭を抱えらがらソファーに座る。

 

「・・・何か 不思議な気分だ」

 

「通信速度の差を考えると交渉の場を敵国の首都にせざるを得ませんでした。馬による伝達の速度を口実に時間稼ぎされる恐れが」

 

「・・・いや そうじゃなくてだなぁー」

 

吉田が頭を抱えている理由は式典に参加している女性たちのファッションだった。和服やワンピースをローマ時代風の衣装にしたような感じだ。

 

「男性の正装がトーガに似ていると聞いていたから女性も古代ローマ風と思っていたが・・・」

 

その時ピニャがやって来たがピニャの正装はまともだった。

 

「ヨシダ閣下 次の間の用意が整うまでしばしご歓談くだされ」

 

「ピニャ殿下はそうでもないのにどうしたか知ってる?」

 

「ど どうしてでしょうねぇ・・・」

 

時が経つにつれて式典は盛り上がりを見せていた。そんな中菅原はある聞き覚えのある声が聞こえて来た。

 

「スガワラ様!ごぶさたしておりました」

 

「シェ シェリーさん・・・」



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開始

「シェ シェリーさん・・・今夜はだめですよ」

 

「そう邪険にしないでくださいませ シェリーもあと四年もすればスガワラ殿に似つかわしい女になりましょう この機会にお国の副大臣閣下をどうぞ紹介してくださいな」

 

(まいったな・・・子守のつもりで調子に乗って 日本語と所作を教えたのが裏目に出た テュエリ家は講和派の重鎮カーゼル候の縁戚というだけの弱小貴族 あの当主政略結婚っていう娘の話を本気にしてこの場に送り込んでくるとはなかなか・・・いやー侮れないのはこの娘だったりして・・・!?しかしここでこの娘に出世の足を引っぱられるわけには・・・)

 

「スガワラ殿しばらくお会いできず シェリーはとっても寂しゅうございました。私のことなんてもう飽きてしまわれたのですね・・・」

 

「そういうわけでは・・・・公務が忙しくなったのですよ」

 

「まあ嬉しい!私とお付き合いはやっぱり『仕事』じゃなかったのですね!」

「いっいやなにを・・・」

 

「お母様が申しておりました。どんなに好意を抱いても殿方には最後の一線を守りなさいと 殿方はその線をこえると途端そっけなくなるそえです。スガワラ様もそうなんですね?」

 

そう言われて他の官僚たちを見るとなにを思ったのか冷たい視線で菅原を見ていた。皆は、菅原が年端もいかない少女を手篭めにしたのではないかと思っているのだろう。

 

「しーっしーっ こんなところでそんなこと口にしてはいけません!」

 

「あら じゃあ スガワラ様は一線をご存知なのですね?」

 

「だからここではだめだと!あなたのためを『思って』言ってるのですよ!」

 

「私のためを『想って』くださってとっても嬉しいですわ 後ほど二人きりになれるところでお教えくださいね 約束ですよ」

 

ますます皆から誤解されてしまた菅原は頭を抱える。

 

「そういうことで 未来の夫たる方がお仕えしている副宰相閣下にご挨拶したいのです」

 

「だめです。なにがそういうことですか」

 

「もれなくとっていいことがありますよ」

 

「は?」

 

「ご覧くださいませ。せっかくの交流の場なのに彼らは遠巻きに見ているだけ 敵同士とはいえお話もできずに講和がうまくいくでしょうか?私がきっかけを作ればあの方達も安心してお話しに参りますわ」

 

「別にいいんですよ。あとは皇帝陛下にお会いできれば」

 

「チッ チッ 甘いですわね スガワラ様 帝国にとってニホン帝国は優れた文物ととてつもない軍事力以外未知の国 私も特別で特別な特別の関係があるスガワラ様のことしか存じません。ですから まずはシェリーよりお始めください互いの理解が進めばスガワラ様のお仕事に必ずやお役に立ちますわ」

 

年端もいかない小娘に背中を押される形になり菅原は観念したのか承諾する。

 

「・・・わかりました。あなたの提案にも一理ありますし ですが あなたを受け入れたわけではないですからね」

 

「わかっています。わかっていますとも、スガワラ様の本心はちゃ〜と」

 

とシェリーが手を差し出し菅原はそれに応える形で手をとる。そして吉田茂の前まで来ると挨拶をする。

 

「副宰相閣下 お初にお目もじ致します。テュエリ家のシェリーと申します」

 

「ほぉ〜かわいいお嬢さん 真珠のネックレスがとっても似合いで、ご丁寧な日本語がお上手で」

 

「スガワラ様に色々よくしていただいたおかげですわ。この首飾りもスガワラ様がくださいました。今宵も二人きりで色々教えていただくお約束をいたしました」

 

またしても何か地雷を踏んでしまった。そして周りの官僚からは、また冷たい視線がかかり自分の上司である吉田茂からも、

 

「菅原君?」

 

「はっはいっ」

 

「問題になるようなことはしてないだろうね」

 

「もっも もちろんです!」

 

「頼みますよ」

 

だがこの行動は無駄ではなかった。シェリーの挨拶を皮切りに色々人々が集まって来た。

 

「スガワラ様 私にも閣下をご紹介してくださいませんか?」

 

 

一方盛り上がる式典とは裏腹に宮廷の廊下では、ゾルザルと彼の奴隷テューレがいた。ゾルザル・エル・カエサルにとって、皇太子となって最初の公務がこの式典への参列であるというのは皮肉なことかもしれない。

 

「ゾルザル様。何をそう苛立っておいでなのですか?」

 

テューレの問いにゾルザルは、歩く速度を緩めようとせず、激している感情そのままの粗暴な口調で答えた。

 

「いったいなんでこの俺がニホンの使節に会ってやらねばならぬのだ!」

 

「ご公務ですわ。殿下は皇太子におなりになられたのですから」

 

「くそ 忌々しいっ」

 

「もっ 申し訳ございません!」

 

ツルッ

 

「キャッ」

 

歩幅の狭いテューレが、ゾルザルに追い付くにはどうしても小走りにならざるをえない。その上、慣れない踵の高い靴を履いている。さらに二人が進む暗く長い廊下は床面が大理石で出来ているために滑りやすく、テューレは思わず足を滑らさせ小さな悲鳴を上げ、倒れそうになるテューレを立ち止まったゾルザルが丸太のような太い腕で素早く掴んで防いだ。

 

「しっかり歩かぬか馬鹿者め 別にお前を責めているわけではないぞ」

 

「しかし・・・妨害工作の失敗は私のー」

 

「何を言うお前は命令は伝えただけだ、密偵が役立たずだったのだ。命令伝達役に過ぎないお前にどんな責任がある?」

 

ゾルザルは皇太子になると、テューレの扱いを少しばかり変えた。彼女を連れ回すことが多くなったこともあり、鎖と首輪をはずし、それなりの衣装を着せるようになったのである。とはいえ、そのデザインは最近の貴族社会で流行りとなっているものの中でも、少しばかり特殊な部類に入った。布地面積は申し訳程度しかない上に、ボディラインは恥ずかしいまでに露わとなるピッタリしたもの。それを腰丈の上衣で申し訳程度に隠している。

ゾルザルはテューレが付いてこられるぐらいぐらいに歩調を落とすと声を潜めた。

 

「小細工は一時中止させておけ、今は軍部と主戦派の支持を集めるのが先決だ。それと主戦論派との繋がりも忘れるな。敗北主義者共が気を抜いた時に、一気に巻き返しを図るから、手足代わりになって働いてくれる者をそろえておかなくてはならん」

 

「は、はい」

 

「とはいえ忌々しいっ!くそっ 講和交渉を始めることだけは止めたかった!」

 

彼にとって戦争の終結とは、勝利かあるいは完全なる勝利かのいずれかであって、そのどちらでもない戦争終結は、自らが受け継ぐことになる帝国には相応しくないと考えていた。

 

「確かに、戦争は百戦百勝とは行かん。形勢が一時的に不利になることは、帝国の歴史の中でも何度もあったことだ。だがそれを克服してこそ帝国ではないか。しかもニホン軍はアルヌス周辺を占領するにとどまり、帝国内部に深く攻め込んで来てはいない。なぜ皆気づかん!?ニホン軍は我が帝国を攻めあぐねているからこそ講和を求めてきたのだ!」

 

それが分かれば、戦いようはいくらでもあることに気付いているはずなのだ。なのに講和の誘いに軽々に応じてしまうのは、敵を利するだけの行為だと言うのがゾルザルの主張である。

二人はやがて、式典へと続く大きな扉の前まで来ると扉の前で待っている自身の父モルトがいる。ゾルザルは皇帝に話しかけようとしたが

 

「父上!!」

 

「殿下、お声を低く」

 

式典侍従に声を少し低くするように求められる。この向こう側には式典の会場があり、いくら厚手の樫で扉が出来ているといっても、声が大き過ぎれば漏れ聞こえてしまうのだ。

 

「父上!戦は百戦百勝とはゆきません 一時の不利にもなりましょう。故に今講和交渉を早急に進めるべきではありませぬ!帝国はまだ戦える!今を克服してこそ帝国ではありませぬか!」

 

ゾルザルは声を潜めて、講和交渉には反対だと皇帝に戦争を継続させるべきと強く訴えるも皇帝は即答せずしばらく沈黙した後に語る。

 

「ゾルザル・・・戦は始める前にどのように幕を引くか考えておくものだ。予定通りいかぬなら傷を広げぬうちに終わらせねばならぬ 戦えなくなれば交渉すらできなくなるのだぞ」

 

その言葉にゾルザルにははらわたが煮えくりかえるほどだった。

 

「帝国の威厳はどうなるのです!?父上は臆病風に吹かれているのだ!!」

 

だが皇帝は微動だにしなかった。

 

「父上!!」

 

「殿下 中にお声が聞こえます。お気をお鎮めください」

 

「むっ ぐ・・・」

 

「今宵は捕虜のご帰還を祝う式典ですよ」

 

とゾルザルに言い聞かせ ゾルザルも落ち着きを取り戻す。今のゾルザルは皇太子である。たとえ意に沿わなくとも、捕虜の帰還を祝う式典を成功させなければならない立場にあった。自らの役目を放棄してこの式典をぶち壊しにしてしまうわけにはいかないのである。そして時鐘が鳴り響き入場の合図だ。

 

「帰還した皆様に皇太子としてねぎらいのお言葉をかけて差し上げませ」

 

「わかっておる」

 

『モルト皇帝陛下並びに皇太子ゾルザル殿下 皇女ピニャ殿下のご入来ー!』

 

侍従の声とともに、巨大な扉が大きく開き皇帝たちは中へと入っていく。その瞬間、まばゆいばかりの宴席の照明がテューレを包んだ。だが、それも一瞬のこと。重々しい扉の音とともに光が細く狭くなって、最後には完全に閉じられてしまった。静まり返った薄暗い廊下に頭を下げた姿で独り残されたテューレは、

 

「・・・ 単純な奴」

 

とボソリと呟く。そしてテューレは中庭の渡り廊下の方へと向かい、誰にともなく語りかけた、

 

 

「支度はできていて?」

 

するとどこからともなく、くぐもった答えが返ってきた。

 

「細工は流々 後は仕上げをご覧じろ でございまする。テューレ様」

 

「失態はもう許さないわよ。ボウロ ノリコの件は他人任せにするから失敗するのです」

 

「言い訳しようがございませぬ 此度はハリョの精鋭を呼び寄せました故。ウクシ、カクシ、コルメでございまする」

 

薄暗い廊下の暗がりに暗黒色の人影が三つ、浮かび上がった。

 

「では、始めなさい。何もかもおもしろくしてちょうだい」

 

顔を上げたテューレの顔は、邪悪な笑みによって覆われていた。



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暗転

『モルト皇帝陛下並びに皇太子ゾルザル殿下 皇女ピニャ殿下の御入来ー!!』

 

号令がかかって扉が開き各大臣や貴族や将軍達が敬礼又は拍手をする。

 

「先頭がモルト皇帝です。その後ろがゾルザル皇太子」

 

「彼が?」

 

「皆よく帰って来てくれた!!ヘルム子爵!壮健そうでなによりだ!少し痩せたか?」

 

「あ、ありがとうございます殿下」

 

「カラスタ侯爵公子!怪我はないな?」

 

「私のような敗軍の将にまでそのようなお言葉を・・・感激の極みです」

 

ゾルザルは帰還した捕虜達に無事を喜び声を掛ける。

 

「殿下そろそろお戻りくださらないと式次第が・・・」

 

ゾルザルの場の空気を読まない行動にモルトは呆れながら溜息を吐く。

 

「あれのことはもうよい。帰ってきた者を労うのはあの者に任せておく」

 

「何だ?」

 

「皇太子が謁見の順番を無視したようですね」

 

ゾルザルは、捕虜達を労いながら彼らを見て思った。

 

(ああ・・・この者達も俺と同じだ。俺と同じものを味わったのだ。屈辱と辛労の日々ーあの夜はあえて抵抗しなかったのだ無能を装い粛清を避けるためーだがそれも終わりだ。皇太子になった今 皇帝の傀儡になぞなってたまるか 散々嘲笑った連中を必ず見返してやる)

 

ギリッ

 

(なのに俺を、皇太子たる俺を皆が無視している)

 

ゾルザルは、歯切りを立て腹の奥底で野心に満ち溢れていた。

 

「これでようやく貴国との講和会議を始めることができる」

 

「はい 早く平和が実現することを願っております。陛下」

 

(外交特権もね これからはこそこそしないで済む。俺をにらんでる?

いや 皇帝を?)

 

菅原は、ゾルザルが何やらこっちの方を睨んでいることに気づく。

 

「ゾルザル殿下!」

 

式場の片隅ではゾルザルと元捕虜達を一つの輪の状態になり、元捕虜達は真剣な表情でゾルザルと向き合う。

 

「我ら虜囚の辱めを受けた身。おめおめ帰ってきたかと蔑みの目も覚悟しておりました。しかし 殿下の温かい労いのお言葉 心ー洗われました。なれど彼の地でなすすべなく倒れた兵をまだ捕らわれている多くの将師を思うと心休まりません。そしてギンザ戦役で」

 

時を銀座での戦闘に遡り、銀座では戦火に包まれていた。皇居周辺では夥しい死者の数まさに地獄絵図だった。鎮圧に向かう日本軍の兵や戦車や戦闘機、爆撃機が敵を殲滅している。向かってくるゴブリン部隊を小銃や機関銃で迎え撃つ日本兵。

 

「何発か!?当たってんのにっ」

 

6.5mm弾を受けても向かってくるゴブリン部隊に手を焼く日本兵達。又ある所では、突進してくる帝国軍の騎馬隊を迎える日本兵がいる。

 

『第Ⅳ軍団 我に続け!門まで血路を開くのだ!!』

 

此処では敵味方入り乱れての乱戦になっていた。日本軍は銃剣突撃で応戦する。

 

「叩け 叩け」

 

「門へ!!」

 

「だああ」

 

「このヤロー」

 

「ぐあっ」

 

「押さえ込め!」

 

「衛生兵!」

 

一方銀座の門の前では、勢いに乗る日本軍に帝国軍は撤退を開始していた。

 

『急げ!急げ!』

 

『負傷兵が先だ!』

 

『敵は目の前だぞ。奴隷や戦利品なんか捨て置け!!』

 

門の上空では敵の動きを観測するヘリが飛んでいた。

 

「う、撃っていいんですか!?」

 

だがヘリに気付いた帝国軍はヘリに向けてクロスボウや戦利品の金庫などを投げて落とそうとして来る。

 

「うおっ危ねぇ!高度を取れっ」

 

「賊徒集団は門より何処へ撤退しつつあり 観測機からの情報ではすでに一万人以上門に入ったと見られる」

 

そしてとある戦区では、銀座からほど近い場所に到着した日本軍中隊は、孤立した帝国軍部隊に遭遇した。帝国軍兵達は、弓矢を放ち一人の日本兵の腹部に命中した。

 

「助けろ!」

 

日本軍も攻撃を開始する。

 

『放て!』

 

帝国軍兵113名は抵抗を続けまるが矢を使い切る。

 

『待ってくれ!投降する!』

 

と白旗を掲げて降伏します。日本軍は捕らえた捕虜達を集める。

 

「並べ」

 

捕虜を取ったらジュネーブ条約に従って武装解除し捕虜収容所に送らなければなりません。

 

「ほら、歩け!」

 

日本兵は、捕虜を歩かせる。

 

「止まるな!」

 

だが日本兵達はその捕虜達を収容所に送らずに、

 

ダッダッダッダッダ

 

『うわぁぁ!』

 

『だあぁー!』

 

機関銃と小銃で射殺します。この事は後に生存者が告発しました。捕虜と成った帝国兵113名の内88名が射殺された。捕虜を虐殺した動機が敵への見せしめで有った可能性は少ないでしょう。日本兵達は、激しい戦闘で帝都を踏み荒らされた挙句多くの日本人を失った日本兵達が逆上して報復したのと多くの捕虜を取れば進軍の足手纏いに成りかねないからと、だったら殺してしまえと場当たり的な判断を下してしまったのだ。一部の日本軍部隊では、相手軍の兵士を捕虜に取らずに血の雨が降りました。

そして、ヘルム子爵の部隊も銀座の門に近い所を逃走していた。

 

『後続はついてきているか!?』

 

『だめです。我々だけです』

 

『悪所のような路地で散り散りに』

 

『くそっ門を奪われる前に我らも退くぞ!』

 

そして、ヘルムの目の前に放水車で待ち構える警視隊がいる。そしてヘルム達に向かって放水する。

 

ドバッ

 

『うわ』

 

『わああ』

 

『くっ くそぉ・・・』

 

放水で落馬したヘルム達を囲む警視隊。

 

『腰抜けの異世界人めっ剣を持って堂々と戦う者はいないーぶふっ』

 

隙をついたヘルムを警視隊が取り押さえる。

 

「気をつけろ!短剣も持ってるぞ!」

 

『畜生!』

 

『将軍!』

 

「三名確保ー!」

 

捕らえられた帝国軍の捕虜は約3万人は数台の警察の護送車に乗せられる。

 

『触るな!下賎な異世界人めっ』

 

「急げ!グズグズするんじゃない!」

 

「何をやっている!ほら走れ!」

 

日本兵に怒鳴るも怒鳴られながら護送車に乗せられる。

 

「!」

 

見るとそこには人間以外にゴブリンの生き残りも乗っていた。

 

「座れ!」

 

『ゴ、ゴブリンと同じ檻にだと!?子爵たる私を』

 

ヘルムはゴブリンと相席に腹を立てながらも東京から遠く離れた捕虜収容所に送られた。また、護送車に乗り切れなかった約2万数千人の捕虜達は徒歩での移動を強制され銀座の大通りを引き回し大衆の目に晒し者にして辱めを与えた。これは後に『敗者の行進』と呼ばれた。そしてその道中では、何千もの市民がバルコニーや大通りに集まり、

 

「人殺し!」

 

「この人でなし悪魔め!」

 

「俺の息子を返せ!!」

 

「天皇陛下と国民にお詫びしろ!!」

 

「息子の仇だ!」

 

「父ちゃんを返せ!」

 

「あの人の仇!」

 

「殺してやる!」

 

「死ね死ね死ね!」

 

銀座事件で被害にあった被害者やその遺族であろう人々、老若男女問わず大勢の人々は、憎悪に駆られて皆殺気立っていた。捕虜に対して罵声を浴びせたり、ある者は捕虜に唾を吐いたり石などを投げつける者も居た。国民の激しい憎しみが暴力へと変換され血走った目で捕虜達を痛めつけた。警備していた兵士や警官は止めるどころか逆に暴力に加わる事もあった。途中数百人が日本兵や国民からの虐待により死亡した。国民や日本兵の中には、帝国兵の遺体の一部を切断したり、狩猟の獲物と同じように扱い「戦争の記念品、土産」として持ち去る事があった。明らかに、生きていようが死んでいようが、初めて帝国兵と遭遇した時、戦死者の身体の一部をコレクションすることは軍部に懸念を抱かせる規模で行われ始めた。「土産」には金歯のほか、頭蓋骨や他の人体各部が採取されることもあった。収集された遺体の部位は、耳を切り取ってベルトにぶらさげる、歯でネックレスをつくる、竿に生首をたてる、戦車に頭蓋骨を取り付ける、といった具合に使用された。大量の帝国軍の戦死者の遺体は排尿や切断した男性器を口中に詰め込んだり、死体への射撃などで冒涜され、あるいは記念品として前述のような猟奇的行為が行われた。なおこれらの猟奇行為は、敵兵に対する怒りから行われた。そして歩けなくなったり、歩くのを拒否したりや逃亡を図った捕虜はその場で放置されたり銃殺され、更に徒歩移送中捕虜達の十分な食料は用意出来なかった。飢えと疲労が重なった捕虜達にとって、真夏の炎天下の行軍は一種の拷問であった。

捕虜達の隊列の後ろでは、『侵略者が残した汚れを洗い流す』という意味合いで、道路清掃用の散水車が続いていた。

捕虜達は、収容所に着くまでに飢え・疲労・虐待・処刑から約2000人以上が死亡した事から、後に『東京死の行進』とも呼ばれた。帝国軍捕虜が歩いた道は端々に餓死や処刑された兵士の骨が散乱していたことから、別名『白骨街道』と呼ばれた。日本軍がこうした行為に出たのも帝国軍の彼等にした仕打ちを考えればもっともな事だった。更に捕虜達が待ち受けていた収容所での生活も過酷なものだった。険しい山々に囲まれた東京西多摩にある強制収容所、最初に捕虜達は、

 

『偉大なる大元帥陛下と祖国を命懸けで死守しよう』

 

と書かれた正門を潜る。収容所の周りには電気の流れる鉄条網に囲まれ、ドーベルマンとジャーマンシェパードを連れ銃を持った完全武装の看守が24時間体制で監視し、脱走者は見つけ次第即射殺される。この収容所では、政治犯や共産主義者、抗日パルチザン、戦争捕虜なども収容されていた。夏は40℃の猛暑、冬は0℃を下回る極寒の地だった。まず裸電球が垂らす取調室では、

 

「お前の名前と出身地は?」

 

『お前の名前と出身地は?』

 

『・・・・・』

 

と取調官の質問を通訳が他の捕虜から学んだ流暢なファマルート語でそのまま伝えるも黙秘をする。

 

「お前達は、一体何者だ?何処から来た?何が目的だあの門は一体何だ?」

 

『お前達は、一体何者だ?何処から来た?何が目的だあの門は一体何だ?』

 

『フン、異世界人は礼儀と言うモノを知らんと見えるな貴様達異世界の蛮族に話す事などない。子爵であるこの私にこんな無礼な扱いをして許されると思っているのか!貴様達は、この世の覇者である帝国を敵に回したのだ!貴様等に、奴隷以上の価値はない!奴隷なら奴隷らしく、我等の命令に従え!主人たる我等に逆らうなど絶対に許さん!直ぐにでも帝国軍がやって来て貴様等を蹂躙するだろう。後悔してももう遅ッ!!』

 

バッン

 

「貴様国家権力を愚弄する気か!?」

 

「舐めた真似しやがってこのガキが!」

 

『ぐわぁっ!?』

 

漸く喋ったと思えば口を開けば罵声だった。通訳を聞いていた看守が痺れと怒りを切らしてヘルムを殴り倒しそれに続くようにヘルムの顔に飛んで来たのは看守の古びた革靴の底だった。警杖を持った二人の看守がヘルムに向かって振り下ろし殴りつける。

 

「貴様等の言う帝国は何処だ?言え!言え!」

 

バシン バシン バシン

 

「舐めんのもええ加減にせよ!」

 

「このゴミがぁ!!」

 

『ブホォ、ブホォ、ブホォ』

 

この取り調べでヘルムみたいなの自尊心の高い貴族は、歯を折られたり体の至る所にアザが出来る程看守等に殴る蹴るなどの暴力を振るわれ、気絶する程看守達から拷問や暴力を振るわれ気を失っても看守からバケツに入った水をかけられ無理矢理起これた。更にヘルムは尋問され一つ応えるごとに書面にサインをさせられた後、独房へと連れられた。そこでも、看守による暴力は治らなかった。

 

「起きろよ。子爵様よぉ飯の時間だ」

 

「おっと、おっと、ははははぁ悪いなぁ。うん?ちゃんと綺麗にしておけよ」

 

看守達は、わざとお粥を床にこぼしてヘルムの顔こぼした床に擦り付けて、看守達は笑いながら独房を出て行く。

 

(この私が蛮族共に・・・これが貴族にたいしてすることか!?)

 

看守達は、捕虜の違反を厳格に取り締まった。囚人達はこの収容所での規則を守らなければならない。

 

1.逃走の禁止

2.3人以上集まることの禁止

3.盗みの禁止

4. 看守に絶対服従しなければならない

5.外部の人間や怪しいものを見た時は即刻申告しなければならない

6.お互いを発見して異常な行動をした時は即刻申告しなければならない

7.自分に課された課題は超過達成しなければならない

8.作業以外で個人的に男女間で接触することはできない

9.自分の過ちを深く悔い改めなければならない

10.自分の罪を深く反省する者だけが再出発できる

11.収容所の法と規則を破った場合は即時銃殺する

 

この規則を破った捕虜達は違反の程度に応じて鞭打ち、懲罰房、減食などで罰せられた。配給される食事も朝は、とうもろこしのお粥と汁物又は500mlのコーヒーに似た苦い飲み物、昼は、900gのパンと3gのマーガリン、キャベツ・ジャガイモ・魚のスープか白菜と塩のスープ、夜は、白米、味噌汁、めざし数匹と沢庵二切れだけの侘しい食事(ごく稀に新年や紀元節や天皇陛下の誕生日にはそれを祝して囚人達全員にカレーやデザートなどが振る舞われる)で、これだけでは足りず収容者達はネズミ、蛇、イモリ、カエル、バッタなど目に付くものは捕まえて食べるなどして飢えをしのいでいた。十分な食事を与えない、傷病しても治療しない、一旦、制服を擦り切れたらならば、代替品が与えられることはなかった。残忍な警備員の中には、水の要求に対して、水の代わりに殴打したりライフル銃の端で叩いた者もいた。捕虜が使い物にならなかったり、肉体的に弱ったり、反抗的だったり脱走を企てた者は数日間尋問され囚人達の前で公開処刑が行われた。そんな事が毎日の様に行われ警備員の残忍さはヘルムをはじめ多くの貴族出身の騎士や兵にトラウマを与えた。そして、看守達の監視のもと捕虜達は橋の建設、要塞の建設、塹壕の掘削、果樹園、農業、貯蔵所、工房、工場、炭鉱の採掘、砂利場、材木置き場、石切場の採石、森林の伐採、核シェルターの建設などの肉体労働に使われた。また、収容所内では、ファマルート大陸には存在しなかったチフスやペストや天然痘や赤痢などの感染症に掛りウイルスに免疫がなかった兵士達が相次いで感染し約8000人が死亡するなどが起こった。警備員が捕虜を有刺鉄線で縛り、捕虜の鼻に水を詰めた上に、捕虜の側に立ち、有刺鉄線の上で足踏みするといった行為も含まれていた。あるいは、警備員が捕虜を親指で木に縛り付け、足が辛うじて地面に付くぐらいで、2日間ほど水または食料なしで放置したといった行為もあったという。2日間の拷問の末に、捕虜は処刑に先立って投獄され、その後、彼らの遺体は焼却されたとされる。

そして、異世界から来たと言う事もあり、兵士やゴブリン、オークなどが収容所に設置されていた実験室に連れて行かれそこで、731部隊の研究員による人体実験や治験、生体解剖、兵器実験が行われ約4000人が命を落とした。他にも約3000人が作業事故や飢えや過酷な収容所生活に耐えられずに命を落としたり、自ら命を絶とうと自殺する者も居た。生きて帝国に帰れたのはたった6000人に過ぎなかった。

 

その一方で、模範的な囚人には態度が悪い者、ルール違反をした者とは違い比較的いい待遇が与えられ過酷な肉体労働はなく比較的楽な作業や他の囚人よりも豪華な食事や個室が与えられた他、政治犯、抗日パルチザンなどの若く容姿の整った女性囚人を使った囚人専用のバラックの売春宿の利用を認められた。彼等は、囚人達をまとめる班長として反抗的な囚人が暴徒と化さない様抑え込む役目を担う。模範囚の中には、その特権を利用して今まで貴族に虐げられていた兵士達は仕返しと言わんばかりに木製の警棒で特に憎まれていた貴族をリンチする事があった。

また、内部通報の制度を敷き囚人の脱走や違反などを密告した囚人には、褒賞としてたばこ1箱と酒1瓶とパン500gやベーコン・ハム、売春宿の利用、楽な労働条件などがもらえた。そうしてなんとか食料を貰おうと画策する捕虜達は仲間を密告していった『仲間意識はギンザで死んだ』とある捕虜が後にこう述べた。日本軍は『教育勅語』を捕虜達に叩き込み復唱するなどの思想教育を行い、それに染まらない者は仲間内でリンチを受ける。戦闘中に生きて捕虜になるのは恥であると考えられていたために、日本軍は残忍な方法で収容所を運営して、多くの帝国軍捕虜が亡くなった。

 

「この身に受けた屈辱、奴隷の様な強制労働と死神の足音に耐える獄中の日々、このまま帝国が不利な講和を結ぶなぞ我らは耐えられません!殿下!雪辱を!」

 

「殿下!!」

 

「・・・わかっている。まだ戦は終わっておらぬ 貴公らの力量を示す機会はこの俺が必ず作ってやる。その時をしばし待つのだ」

 

「我らに雪辱の機会を!」

 

「殿下!」

 

「この命、殿下にお預けいたします」

 

(これだ。この視線こそ皇太子たる自分に向けられるべきもの、なのになのに・・・)

 

とゾルザルは、帰還兵達からの期待の眼差しを向けられゾルザルはその視線に快感を覚える。



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炎龍の首

「ピニャ姫 炎龍の首の話 もうお耳にされましたか?私はじかに見て参りました。なんとも恐ろしげな姿で」

 

「俺も見てきたがそうでもなかったな、あれなら俺にも狩れたな」

 

「今まで敗れた英雄達も不甲斐なかっただけでは?」

 

「その通りだ」

 

(いつもは妾の十レン以内に近づくこともないのに今日に限ってどうしたのだ?) ※1レン:1.6m

 

「本日は姫様におかれましては大層ご機嫌麗しく」

 

「うむ そうだな」

 

「いつにも増してお美しい・・・」

 

「姫様 その笑顔をこれからも我らにー」

 

周りの者達から煽てられ微笑むピニャ。

 

(ああ この気分 前にー そうだ園遊会の後だ。これは解放感ー今まで何か起こるたびに体調を崩していたがそれも今日で終わり。ここまで来れば講和交渉も立ち消えにはなるまい。父上の身に何か起きない限り・・・)

 

「おお」

 

「お美しい・・・」

 

再び煽てる周囲の者達にピニャは笑顔で話す。

 

「炎龍などたいしたことないとは、このピニャいたく感銘を覚えたぞ。そなた達のような者がいれば帝国も安泰だ」

 

「あ いえ・・・」

 

「惜しむくらいはその剛勇と才能が生かされていないことだな」

 

「それは・・・」

 

「軍はいつでも貴君らを百人隊長として迎えるぞ?」

 

と彼らを揺さぶるピニャ。

 

「我が家は代々官僚として奉職しておりますので・・・」

 

「なんだ 残念だな 皆が女を口説くときほど勇敢であれば 妾ももう少し卿らと親しくできるのに なぁ?シャンディー」

 

「はい 殿下。帝国軍は皆様の志願をいつでもお待ちしていますよ。万が一 捕虜になってもニホン帝国では奴隷に売られることもないそうですし」

 

「妾が責任を持って返還交渉を担うぞ。十年後くらいにな」

 

「あーあ 帰還した友人にまだ会っておりませんで・・・」

 

「わ 私も」

 

そしてピニャの周囲にいた者達はどこ吹く風の如く。

 

「フン 口から出る 言葉のなんと軽いことよ」

 

「姫様の毒舌久しぶりです。爽快でした」

 

「妾も久しぶりだ。炎龍の首が掲げられたのは本当か?」

 

「はい!朝に見てきましたからかつて炎龍を見たことのある年寄りも本物だと!」

 

「イタミ殿とオオバ殿・・・ついに成し遂げられたか・・・」

 

バ ク

 

とパイを頬張る。

 

「姫殿下 色々台無しですぅ」

 

///モグモグ///

 

「イタミ殿とオオバ殿・・・ついに成し遂げられたか・・・無事だとよいが」

 

と気を取り直すピニャに拍手で応えるシャンディー。

 

「あの方達ならきっと大丈夫です。アルヌスを発つまで私もあそこにいましたから」

 

「・・・あの報告書書いたのはお前か?」

 

「はい!」

 

「英雄物語の序章かと思ったぞ」

 

「よく書けていましたでしょう?」

 

「物語としてはな。テュカを男にしたのはやりすぎだ」

 

「え〜ダメだったですかぁ?すみませんですぅ 続報はパナシュ姉様からほどなく ワクテカですね!」

 

「ワクテカ?」

 

と聞き慣れない言葉にピニャは首を傾げる。

 

「はい 良いことを心待ちにしていると肌にもツヤが出てくるという意味の特殊なニホン語です。ああ イタミ様にオオバ様 どのように炎龍を斃されたの?」

 

と目を輝かせるシャンディーにピニャは目を丸くする。

 

(そういえばこの娘大の有名人好きだったな・・・)

 

「今なら姫殿下の命令がなくても 進んでこの身をイタミ様とオオバ様のどちらかに捧げてもー」

 

「あー あの命令は保留だ保留」

 

「え〜っ殺生なぁ〜 ひめでんかぁ〜」

 

「あれらに本気になるのはやめておけ 芸術のために」

 

「リサ様のためですかぁ?けどお二人はまだ結婚してませんし オオバ様も未だ未婚だと」

 

「経験不足ゆえ よくわからぬがまずいことだけはわかる。シャンディーが任務として割り切れぬなら イタミオオバ籠絡の任は解くしかいないな」

 

それを聞いてシャンディーは焦る。

 

「ア アルヌスに行っちゃダメだと!?」

 

「そうなるな」

 

「イヤです!すっごくイヤです!」

 

と駄々をこねるが抗う術がなく承諾する。

 

「わかりました我慢しますぅ」

 

「本当か?」

 

「なんとかします」

 

「さてと 妾も炎龍の首を見に行くか 大城門だったな」

 

と煎餅を食べるピニャ。また同じく決まらない。

 

「・・・姫様 また色々台無しです」

 

「む」ボリボリ モグモグ ごっくん

 

「この菓子は ニホンの物だぞ。食べねば損ではないか」

 

と皿にはケーキにチョコにビスケットなどが盛られている。

 

「それにお前だって」

 

「私はいいんです。出自が違うのですから 姫殿下はもう少し自分のご身分を考えてください。それを損ねるようなことしてはだめなんです」

 

シャンディーにそう言われて言い返せないピニャ。

 

「炎龍の首は陛下のご命令で運び出されました。通りはすごい人で一日中賑わってましたよ」

 

「で 今はどこに」

 

「ええっとぉ・・・あ あそこに」

 

とシャンディーが指差す方向にゴツい体の数十人が炎龍の首を台に乗せて神輿の様に担いでいる。

 

 




史実この時代の日本にワクテカなんて言葉は未だありませんが少し早めに若い人達に流行っているという設定です。どうぞそのところよろしくお願いします。


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皇帝死す

炎龍の首が会場に運ばれ人々の注目を集める。

 

「帝都の しかも正門で起きたことを誰も見ておらんかったとは、なんとも嘆かわしい」

 

「陛下のご不興ごもっとも存じますが・・・この帝都も今や百万の民が暮らし城門が閉じられなくなって二百年 昼夜問わず出入りがあります。深夜 しかも先夜は雨 兵も民も足下に気を配るので精一杯。門の衛兵らは朝 掲揚台を見たら首があったと 申しておりますが」

 

「ふむ・・・探索を続けよ。炎龍が出没していた地域の諸民族 諸侯らの動向も目を離してはならぬぞ」

 

そして炎龍の首が皇帝の前に置かれ皇帝モルトは首に手を触れ辺りを見回した後振り返る。

 

「皆の者見るがよい!長きにわたり民を苦しめてきた炎龍もついに今日骸をさらした!もう恐れる必要もない これを神々からの引き出物として受け取り 今日の佳き日を祝おうではないか!」

 

モルトがそう言うと人々が歓喜の声を上げる。

 

「陛下 これは何者がなしたことでしょう?」

 

「まことしやかな噂が流れているようだが・・・いずれ はっきりすれば皆に告げるとしよう」

 

すると娘のピニャがモルトの前に出る。

 

「陛下!」

 

「おおピニャ そなたに尋ねたいことがあったのだ」

 

「『茶色の人』のことですね?」

 

「うむ 先の報告を信じられず かたじけなく思うぞ」

 

「いえ 妾も半信半疑だったのですから」

 

「その後何か 新たにわかったか?」

 

「はい 炎龍討伐に赴いたのは イタミ・オオバ・ロゥリィ・レレイ・テュカ・ヤオの六名。その者の出発を見届けたこのシャンディー・ガフ・マレアにお尋ねください」

 

「ロゥリィ?」

 

「はっ はい エムロイの使徒ロゥリィ・マーキュリー聖下でございます」

 

「おお あの方がおれば討伐も・・・例によって気まぐれであろうか・・・しかし そうなるとこの栄光は神々のもの 茶色の人と噂される者とは無関係だな・・・」

 

「いえ イタミ・ヨウジ、オオバ・サカエ なる者が『茶色の人』その人でございます」

 

「・・・イタミ?オオバ?どこかでー」

 

するとピニャは気まずいながらも説明する。

 

「以前・・・陛下の御前にて兄様を打擲した・・・男の方たちです」

 

「・・・あの者達か・・・茶色の人とはやはり敵か・・・他の者は?」

 

「テュカは、ロドの森氏族のエルフ。ヤオと申す者は、シュワルツの森に住まうダークエルフでした」

 

「今度は異種族か・・・」

 

「最後にレレイ・ラ・レレーナ 賢者カトーの弟子 コダの住人でございます」

「おお!カトー老師の弟子とな?で その者はヒトか?」

 

「は はい ルルドの末裔ですがコダに定住をー」

 

それを聞いて皇帝モルトは手のひらを返したように喜ぶ。

 

「それはよい報せだ!我が臣民が炎龍討伐に加わっていたと聞いて余も安堵した!」

 

「ピニャよ そのレレイなる者必ずや帝都に招聘するのだ!しかと命じたぞ!」

 

「は はい」

 

「皆の者!炎龍を討ちたる者の名がわかったぞ。その勇者の名は大賢者カトーの弟子 レレイ・ラ・レレーナ!」

 

それを聞いて人々は又しても歓喜の声を上げる。

 

「あの賢者カトーの弟子が!」

 

「帝国の臣民が炎龍を討ち取ったとはすばらしい!」

 

「他国の者か異種族の者かと心配しておった」

 

「レレイ・ラ・レレーナとはどのような者なのだ?」

 

「名からすると女かしら」

 

「どこにおるのだ?」

 

人々がレレイを賞賛し褒め称える一方でそれを苦々しく思う人物がいる。ゾルザルだった。

 

「くそっ・・・くそっ・・・炎龍を斃したごときで なにをそこまで他人を褒め称える!!」

 

"なぜこの場にいない者を賞賛するのだ 帝国に栄光をもたらすのは 皇太子であり息子であるこの俺だー 許せん 許せん!許せん!!殺す ぶっ殺してやる モルトもレレイなる者も皆殺しにしてやる!!"

 

ゾルザルの中には嫉妬、憎悪、怒り、殺意が芽生え始めていた。

 

一方でとある一室

 

「レレイ・・・ね あれ・・・報告書だったんだ」

 

「ウクシらにはすでに伝えておりまする 万事抜かりなく・・・」

 

「よろしい 細工はうまくやったんでしょうね」

 

「我が手にお任せあれ ハリョの秘薬跡は残りませぬ」

 

「モルトも歳だし ここで退場してもらった方がおもしろくなるわ」

 

会場

 

「皆の者!祝おうではないか!!」

 

モルトが聖杯を掲げ皆も同じように掲げ口にする。しかしその瞬間突然モルトが倒れ 会場内に悲鳴が響く。




実際に皇帝は死んでいませんがタイトルとしてはこの方がゴロが良かったのでアニメでもそう言う題名がでるので、
例:遊戯王デュエルモンスターズの"城之内死す"とかあるので


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クーデター

「第一軍団 第Ⅹ Ⅺ XIII 他 帝都近傍で再編 新編中 軍団はすべて」

 

「そして 全竜騎兵大隊とテルタの長官も忠誠をー」

 

「近衛軍団はどうか?」

 

「軍団長は逃亡 先任の首席百人隊長が堅物で皇帝陛下の命令でなければ動かないとー 仕方なく次席に指導を替わらせました」

 

「先任は 確かボルホルだったな。優秀な男だが時局を見誤ったな、どこか辺境に飛ばすまで拘束しておけ」

 

ゾルザルが大広間にでると、そこには大多数の兵士が列をなしていた。

 

『皇太子 ゾルザル殿下万歳!!我ら皇帝陛下と変わらぬ忠誠を殿下に!!』

 

兵士達は、ゾルザルへの忠誠宣誓を行う。これにより皇帝不在の今ゾルザルを筆頭とする新政権が樹立される。

 

「近衛軍団は官庁街を制圧 第一軍団は帝都各城内を封鎖せよ!第ⅩからXV軍団 第Ⅵ Ⅶ IX騎兵軍団は指定の地区に展開せよ。全竜騎兵大隊は帝都周辺の哨戒を密にせよ。敵の鉄の飛竜の警戒にあたれ」

 

「大城門の閉鎖完了」

 

「官庁街制圧!」

 

「令旨の公布急げ!昼中に終わらせろ」

 

「新編中の軍団の装備を再編中の部隊にまわせ」

 

「帝都に展開する 軍団を優先するんだ」

 

会議室では、帝都の官庁街や大城門などの主要地域を兵士達が占拠したと言う報告などが入ってくる。

 

「殿下 マルクス伯が」

 

「殿下 殿下が皇太子府を開設すると聞き及びまして・・・皇帝陛下が任命した現閣僚を残したまま 同種の次期閣僚を任命されたとか」

 

「それがどうした?」

 

「こ これでは政務が混乱してしまいます。そもそも皇太子府の閣僚には法政上は何の権限もなくー」

 

「マルクス伯 次期皇帝たる 俺が任命したのだ。問題があるか?病に伏せた皇帝にもはや帝国を統べる力はない その皇帝が任命した閣僚と俺の次期閣僚。皆 どちらに従うかな?そうだ 老人達には休暇を与えよう 別荘なり領地なりに行くがよい」

 

「で 殿下・・・」

 

「マルクス伯 小言は聞き飽きた」

 

「し 失礼いたします」

 

そして マルクス伯は血相を変えて立ち去る。その物腰の陰からテューレが笑いながら見ていた。全てはテューレの思惑通りの結果となった。そしてゾルザルを筆頭とする皇太子府が作った新たな法令が帝都各所で読まれる。

 

「皇太子府令 帝都に住まうすべての者に告げる!御悩を得られた皇帝陛下に代わり 皇太子ゾルザル殿下が皇太子府を開設され帝国を統べる!本日公布された 戦時法令は次の通り!一つ すべての臣民は帝国軍の命令に従うべし 一つ 日没から日の出までの夜間外出を禁ずる 一つ許可なき集会 演説はこれを禁ずる 一つ許可なき者の帝都出入りを禁ずる 一つ・・・・ー以上 法令を犯した者は直ちに厳罰に・・・処する もの・・・なり・・・」

 

ドカ!!

 

「ひっ」

 

法令に不満を抱く住民達が兵士達に石を投げつける。そのほとんどが悪所に住まう異種族だった。

 

「ここに兵隊を入れようってか?」

 

「いい度胸だ!」

 

「降りてきやがれ!」

 

「バカヤロー!」

 

「こんな時だけ臣民扱いしやがって!」

 

流石の暴動に対処しきれない兵達は撤退を余儀なくされる。

 

「もっ 門を閉めろぉ!」

 

「後退!」

 

帝都の悪所に拠点を構えている日本軍も皇太子府の不穏な動きに目を光らせている。

 

「報告!ゼロス門が閉鎖されました。周辺の丘にも帝国軍が展開中です」

 

「悪所を包囲して封鎖する構えだな 交渉団一行の状況はどうか?」

 

「宿舎に指定された 翡翠宮は今のところ平穏です」

 

「警護は?」

 

「ピニャ殿下の薔薇騎士団があたっています」

 

「大丈夫なのか?」

 

「外交特権がありますから 何か問題が起こらない限りは大丈夫なのでは」

 

不安がる新田原少佐を余所に外では黒川軍曹と倉田伍長がミザリィを連れてきた。

 

「黒川軍曹 倉田伍長 戻りました。南東門も閉鎖され 衛兵も増員されています」

 

「門のあたりは騒然としている状況です」

 

「あ〜もー 食い物やら人やら入ってこなくなるよ 商売あがったりだね。私らを飢え死にさせる気かいゾルザルは あんたらがどうにかしないのかい?」

 

「だそうです」

 

「ミザリィさんにほうっておいてるわけではないと伝えてくれ 各員 指示があるまで情報収集にあたるように 岡本中尉 現状の続報を送ってくれ」

 

「了解しました」

 

「クーデターか・・・」

 



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晩餐会

一方 伊丹達はベルナーゴ神殿に向かうべく見晴らしいい草原地帯を走行中だった。参加者は、前回の炎龍退治と同じく伊丹、大場、ロゥリィ、テュカ、レレイ、ヤオの計六名。Sd Kfz11では、運転の仕方を覚えたレレイが運転して、ロゥリィは風に髪をなびかせ、ヤオは外の景色を眺め、テュカはリュートを弾きながら歌う、大場は孫子の兵法書を読み、そして伊丹は大場とはまた違う本を読んでいる。

 

「珍しい 二人が難しそうな本を読んでる」

 

「兵法書だよ」

 

「心外だな!そして大尉は、こんな時でも戦のことなんですね」

 

「読むか?面白れぇぞ」

 

「真っ平御免被ります。俺のこれは行動記録 帰ったらこの探査行のこと報告書にまとめないといけないからな 日誌だよ」

 

「日誌ねぇ 神官見習いの頃は書いてたけどぉ・・・ねぇ 読んでみてよ」

 

「本当に読んでいいのか?」

 

「え?・・・あ!クレティのことも書いてるのぉ?」

 

「そういえば あの迷宮で何があったか 詳しく聞いてない」

 

「んが読むぞ」

 

「読むなら読め」

 

「・・・・」

 

と伊丹達とは余所にヤオの目はどこか遠かった。二週間ほど前のアルヌス。

 

「あらぁ あなたも行くのぉ?」

 

「え?」

 

とロゥリィが疑問形にヤオに問う。

 

「此の身も聖下とベルナーゴに棄教を直接・・・ニ ニホンにもいっしょに行ったし・・・」

 

「あの時はぁわたしぃの信徒になると皆に伝えたいってぇ あなたがついて来たんでしょぉ」

 

「しかし 此の身はイタミ殿とオオバ殿の所有物 主の付き従うのが奴隷の義務だ!長老会に渡された」

 

と首につけている軍の認識票の様なペンダントを見せる。ペンダントの文面には、『ヤオ・ロゥ・デュッシ この者イタミ・ヨウジ卿並びにオオバ・サカエ卿の所有物 見つけた者はイタミ卿もしくはオオバ卿へ』と書かれていた。

 

「二人はぁ あなたは奴隷じゃないって言ってたわよぉ?」

 

と言われてヤオは俯きになる。

 

「ニホンには奴隷はいないそうだしぃ」

 

「そんな・・・」

 

「現に周りから見れば奴隷の身なのに・・・このまま放り出されたら 逃亡奴隷になってしまう!それにー」

 

融通がきかないヤオにロゥリィは呆れる。

 

「ならぁ 別にぃ いいけどぉ」

 

そう言ってロゥリィはSd Kfz11に向かう。

 

「準備できた?」

 

「そろそろ出発するぞ!」

 

「あれ?お前も来るの?」

 

「そうなのか?」

 

ビク

 

「う・・・」

 

完全に自分の事を所有物とは認識していない二人にヤオは更に俯きになる。

 

「色々 迷惑かけたから手伝いたいんだって」

 

テュカにそう言われて二人は頭を悩ますが承諾することにした。

 

「・・・俺の隊の定員一人欠けてるから なんでもやってもらうぞ」

 

「足引っ張るなよ」

 

「わ わかった」

 

『各員 整列!』

 

号令がかかり各隊の日本兵や協力員が乗車する。

 

(テュカ殿・・・)

 

「特地資源探査隊 各車前進よーい 前へ!」

 

合図がかかり各車前進していく。軍民問わず皆が探査隊を見送る。

 

「まずはどこに行くの?」

 

「イタリカ あ 晩餐会に出るぞ」

 

「え!!私達も?服は?」

 

「借りられるだろ?」

 

「俺たちは軍服だがな」

 

第101特地資源探査隊 探査行一日目 一四二〇イタリカ着 連絡任務を遂行 夕刻より招待されていた晩餐会に出席。 伊丹と大場は、上下共に昭五式軍衣袴に四五式軍帽で伊丹はトーガを着たテュカをエスコートし、大場は同じくトーガを着たレレイをエスコートする。ヤオは別の男にエスコートされ、ロゥリィはエムロイの使徒という事わけかいつもの黒い神官服を着ている。そして晩餐会が終わり伊丹と大場は浴場に入っていた。

 

「ペルシアさん マミーナさん 俺たちだけでできるからっ」

 

「マジで勘弁して下さいっ」

 

伊丹と大場はペルシアとマミーナに体を洗ってもらっていた。

 

「大切なお客様のお世話をするのが私達の役目です」

 

「クラタにはナイショにゃ」

 

(バレたら殺られる・・・)

 

「いや それ以前にお前 梨沙さんに絶対言えないだろ!」

 

「あっ!?」

 

しばらくしてロゥリィ達女性陣が浴場に入る。

 

「ねぇ 二人はぁ?」

 

「お先に入られました」

 

「だって テュカ レレイ 残念ねぇ」

 

「ロゥリィこそぉ」

 

「帝国の浴場は 昔混浴してたそう 廃れて残念」

 

とレレイが混浴がなくなって残念と言うがどうやら満更でもないようだ。ロゥリィ達は、意外そうな顔をする。

 

「何?」

 

「別にぃ〜」




そう言えば今では混浴なんて全然見ませんね。日本は江戸時代まで銭湯では、混浴だったそうですね。ちょっと羨ましいかも。日本を訪れたペリー提督も自身の本にそう書いていたそうです。


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伝染病

翌〇九三〇 イタリカ出発 ロマリア山地に向かう。

 

「山地抜けて ロー河渡ればすぐロンデルなのに」

 

「無理 峠は11で走れる道ではない」

 

「アルヌスの連中やペルシアさんから手紙預ったし 調査がてら歩いていってみるか」

 

イタリカ領ロマリア山地 ここには前フォルマル伯が受け入れた種族達の集落が点在する。その中の一つを訪問することに住民の協力で周辺を調査することができた。その後 ロマリア山地を迂回するためアッピア街道の支道を西進 クワンドナンで今年は過去になく西方砂漠からの風"シロッコ"が強いとの情報を得る。探査行六日目 水補給のためクレティに立ち寄る。

 

「無人か・・・?」

 

「人っ子一人いないなぁ?」

 

「いや気配はある 風のせいで寂れてみえるだけだ ロー河の東にこんなに砂は来ないはずだが・・・・お いた」

 

とフードを被った人が通りかかったがヤオを見るや近くの店に逃げ込んだ。

 

「・・・・?」

 

「何だ?あれ」

 

「???此の身を見て?あ 主殿 水を買えるか聞いてこよう クルマは店の前に停めていい」

 

ガチャ

 

と扉を開けると大量の砂が舞い込んでくる。

 

「キャッ」

 

「早く閉めなさぁい!」

 

そしてヤオは逃げ込んで行った店に入って行く。

 

「ヤオに行かせてよかったのぉ?」

 

「本人が行くと言ったんだからいいじゃない」

 

「あいつなりに役に立とうとしてんだろ」

 

「けどぉ あの格好のせいで街に寄るたびにからまれるしぃ」

 

「ブラウスとスカート着るようにさせただろ?」

 

「あれはあれで一部の男を欲情させてしまう」

 

(まぁ 男二人に女四人ってのが一番の原因だよなぁ)

 

「おい 何か?外が騒がしくないか?」

 

「ん?」

 

大場に言われて外の方を見てみると店の方から言い争う声が聞こえてくる。

 

「ほら!もうっ」

 

伊丹達は即座に下車して店の方にいく。

 

「!」

 

「キャッ」

 

「うわっぷ」

 

「うわぁ 大丈夫か レレイ!」

 

「だ 大丈夫・・・」

 

そして伊丹達は銃を構えて店に突入する。

 

「ヤオ!どうした!?」

 

「何があった!?」

 

中には数人の男達が苦虫を噛み潰したような顔をしてこちらを見ていた。

 

「また女を・・・しかも若い女だ・・・なぜ・・・連れてきた!!」

 

と何やら女四人を連れてきてはまずかったようだ。

 

「「伝染病!?」」

 

「女性だけが発病する!?」

 

「そうだ もう何人も・・・このブルの嫁さんもだ」

 

「クレア・・・なんで・・・あいつが・・・」

 

「こいつの嫁さんは 月琴の名人だった。ブルも腕のいい 月琴職人で・・・あれもこいつが作ったんだ」

 

「そんな中 あんたらはのこのことー」

 

「門を閉めてたら入らなかったわよ!」

 

「無駄だ 病気はこの街の周りの村でも流行っているんだ。領主らも戦に行ったまま帰ってこないし替わりも来ん あてのある奴はとうに逃げたし」

 

「レレイ?」

 

それを聞いて長居は無用と判断した二人は直ぐにでも四人が感染する前に街を出ようと思った。

 

「なっ・・・くそっ」

 

「なんてこった!」

 

「みんな 街を出るぞ!!」

 

「長居は無用だ!此処に居たらまずい!」

 

二人が街を出ようと言った時突然レレイが顔を赤くして倒れる。

 

カ ラン ゴトン

 

『レレイ!?』



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生ける屍

レレイが突然倒れた事により、皆が騒然となりこの店のベッドを借りてレレイを寝かす。

 

「第101 特地資源探査隊 総員六名事故一名 事故内訳は 熱発就寝か・・・」

 

そしてレレイが咥えている体温計の数値を見てみると

 

「四十三度三分 やばいな・・・」

 

「高いな こんな高熱早々出るもんじゃない」

 

"クレティ周辺では灼風熱という風土病が半年前から流行していると判明 街の医者によると若い女性のみが感染し感染率は五〇% 致死率七〇%(!) 原因は 街に吹きつけるシロッコに含まれる砂か何かしらい"

 

「あった 解熱剤」

 

「よし 飲ませよう」

 

と伊丹は、解熱剤の粉薬を取り出す。すると部屋の外に待機していたテュカ達が顔を覗かせる。

 

「父さ・・・」

 

「近寄っちゃだめだ!接触感染の恐れもある」

 

「それに 飛沫感染の恐れもある!感染したら元も子もない」

 

伊丹と大場は、テュカ達にレレイへの接近禁止を言いつつレレイに薬を飲ませる。

 

「レレイ 薬だぞ」

 

「苦いが我慢しろ」

 

レレイに薬と水を飲ませるが、

 

ゴホッ ゴホッ

 

と吐き出してしまう。

 

「病気がうつるかもって言っても・・・私達もクワンドナンからずっと風を浴びてるのよ!?」

 

業を煮やした伊丹は、水の入ったコップに粉薬を入れて混ぜ自身の口に含もうとしていたが大場がそれを察して辞めさせる。彼曰く、『お前 レレイを助けるためとは言えこれから嫁さんもらう身でそれをやっちゃちゃっとマズいだろ!?』と言う事でなんやかんやで代わりに大場が口移しで飲ませる事になった。その光景を見てテュカ達は顔を赤くする。

 

「うわっ」

 

コクン

 

「飲んでくれた これで少しは 楽になるぞ レレイ」

 

「かぁ〜 恥ずかしい ///」

 

その後皆それぞれ用意された部屋で就寝する事にした。

 

「あと・・・二回り半か・・・」

 

「Zzzzz・・・・」

そんな就寝している二人をヤオが不思議そうに見つめる。

 

"イタミ・ヨウジ オオバ・サカエ・・・・か 此の身の願いを聞いてくれなかったニホンジンの中で この男たちだけがー だがなぜだ あの時もそうだった 肉親でも恋人でもない 他人のためになぜこうも身体をはれるのか 此の身や彼女らに手を出すわけでもなくー"

 

"二人の好みぃ?"

 

あなたじゃないのは確かね"

 

"誘惑しても無駄"

 

"まさか男が・・・"

 

"ないないない 絵草紙見ればわかるわぁ"

 

"絵草紙・・・?"

 

「いったいどういう男なんだ・・・?」

 

翌日 再びレレイの熱を測ってみると『37.5℃』だった。

 

「熱が下がらないな」

 

「まぁ 前よりはマシになった方だろうなぁ」

 

「高熱が続くと体力を奪われてー」

 

「わかってるよ!抗生剤を試すか・・・?」

 

「だが 今此処には 抗生剤がないぞ!?アルヌスから取ってこないと」

 

そう言われて黙り込んだ伊丹は、

 

「いざとなったら レレイをアルヌスに連れて帰ります」

 

「導師号の審査は?それが目的でもあるんだろう?もう行けないと知れば悲しむぞ?恨まれたり 嫌われたり・・・」

 

「かまわない 生きてりゃその内 機嫌も直るだろ それを信じるからやばくなったら引きずってでも連れて帰る」

 

「それに、嫌われ役なんざぁ慣れっ子だし人に恨み買われるのも!?それに死んじまったら導師号なんて貰っても何の役にも立たない」

 

「・・・テュカ殿の時のようにか?」

 

「「ああ」」

 

"此の身もいつか主殿が許してくれると思うからついて来たんだ・・・"

 

「だからあの後 俺たちにも嫌なことさせたろ?あれで 貸し借りなしにしたんだよ」

 

するとレレイがベッドから体を起こしながら大場の袖を引っ張る。

 

「ん?レレイ気が付いたのか?」

 

「・・・こ この病を治すには・・・"ロクデ梨"が・・・必要」

「「ろくでなし!?」」

 

「薬樹の実だ」

 

「ああ 梨ね」

 

「なんか いやな名前だな」

 

「そう・・・その葉 果実に薬効あり 発熱 高熱が続くが呼吸器などに炎症が見られないことから この症状は懐抱熱の亜種と思われる・・・」

 

「雨の少ない この辺りには生えてなさそうだが・・・」

 

「あるとしたらレレイの住んでたコダ村の家か」

 

「カトー老師に取りに行ってもらって九七式輸送機で運んできてもらいたいが、この天候じゃ望めないな・・・」

 

「レレイ殿 他に効く薬はないのか?」

 

「・・・ない」ハッ ハッ

 

「主殿!熱が上がっている」

 

「薬が切れたか 待ってろよ レレイ」

 

「気をしっかり持て」

 

"翌朝 集まった住民から 近郊にある旧アルンヌ王国の薬種園跡"ファルムの迷宮"に ロクデ梨が自生している可能性があるとの情報を得る。しかし迷宮には怪異ーその特徴からミノタウルスとコカトリスが生息していると思われる"

 

「主殿?」

 

「もちろん行くさ 炎龍と比べたら大したことないんだろ?」

 

「たしかになぁ この前の炎龍の方がよっぽど強力で恐ろしい怪物だったよ」

 

「ちゃんと学習したみたいねぇ」

 

と三人とも互いに自信に満ち溢れていた。

 

「炎龍って言ったか?」

 

「え?エムロイの使徒様?」

 

「まさか」

 

と住民達は、三人の会話からもしやと感づき始めていた。

 

「あ そうだ そこの薬草勝手に採っていいの?念のため立ち合いに誰か来てくれないか?」

 

「一人か二人居ればいいんだが?」

 

と言うすると突然住民達が血相を変えて怯え始めた。

 

「だ だめだ 俺は行けねぇ あいつに・・・クレアに会っちまったら」

 

「ブル・・・」

 

「そうだった」

 

「お 俺も無理だ・・・」

 

と住民達が口々立ち合おうとせず拒絶する。

 

「どういうことだ 御身の奥方は亡くなったのではなかったのか?」

 

「なぁにぃ?はっきりしなさぁい 怪異の他にまだ何かいるのぉ?」

 

と聞くと住民の一人が怯えながら恐ろしい事を口にした。

 

「ー聖下 灼風熱で死んだ女は・・・生ける屍になってしまうんだ」

 

と言われ全員がそれを聞いて目を見開く。

 

「・・・え?もしかしてそれって・・・ゾンビ?」

 

「ウソだろ!?」



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荒野の迷宮

レレイの熱を治す特効薬であるロクデ梨を手に入れるべく伊丹達は、怪異の住まうファルムの迷宮に向かう。

 

「テュカ レレイを頼む 熱が上がったらこの薬を包み紙分飲ませてやってくれ」

「ヨ・・・父さん!待ってるから!」

 

「ま〜かせて!」

 

「ふ すっかり父親が染み付いたなお前」

 

"生ける屍ー 灼風熱で死んだはずの女性が墓から這い出し人を襲った。住民はパニックになりファルムの森にある迷宮に棺を運び込んだという。彼らの妻や娘が屍となってさまよっているのだ。いっしょに行けないと言うのも無理はない・・・"

 

「轍に沿って西へー 風上だな 轍が道になるほど棺を運んだということか・・・」

 

それからしばらくして伊丹達の乗るSd Kfz11は、ファルムの森に入り込む。

 

「周りは乾いた荒れ地なのに・・・」

 

「ここだけ 緑が生い茂っているとは!?」

 

「地下水脈でもあるのかしらぁ?」

 

「オアシス程度かと思ってた」

 

そんなこんな森の奥へ奥へと進むと茂みから一人の女性がよろつきながら道を横切ってきた。

 

「うわっち」

 

ギンッ

 

「どわぁ」

 

「みぎゃっ」

 

「うわっ」

 

伊丹が急ブレーキを掛けた事により三人は前かがみの姿勢になり前頭部をぶつける事になった。

 

「いったい何が・・・」

 

「何やってんだ!伊丹」

 

「おい!君・・・」

 

と前方を横切ろうとした彼女に注意しようとしたがよく見ると彼女の様子がおかしかった。

 

「あ やべ 当たったか・・・?・・・ってここ無人・・・じゃ」

 

「そうよぉ あれがぁ生きてるヒトの目かしらぁ?」

 

「・・・え?けど肌のつやとかが・・・」

 

「それに腐敗だってしていない?殆ど綺麗な状態だ」

 

「『屍化粧』という現象 あれに惑わされてぇ捕まったら・・・おしまいよぉ・・・主神エムロイ 世の理より離れし者の救済に力を貸し給え 平穏な冥福をぉ失いし魄が半死の業苦から解放されますように・・・」

 

『ハーディ!仕事がなってないわよぉ!!』

 

Sd Kfz11から下車したロゥリィは彼女の前に立ち祈りを捧げた後にハルバートで女性の屍を一刀両断にする。その光景を見ていた伊丹と大場は複雑そうな心境だった。

 

(イメージ通りのゾンビならともかく彼女達を撃てるのか?もしレレイがー)

(助かるためには彼女達を撃つしかないが、生前の姿のままの彼女達を

撃つのもやりずらいな)

 

「主殿 レレイ殿が待っている」

 

「あぁ」

 

(そうだった・・・)

 

と二人は本来の目的を思い出し専念する事にした。そして伊丹は11の車内から手袋とピンセットと試験管を取り出しサンプルの採取をしようとしていた。

 

「ロゥリィ やっぱり頭と背骨が弱点か?」

 

「そうよぉ よく知ってるわねぇ」

 

「門の向こうでは結構常識」

 

「ウソつけ 本で読んだだけだろう」

 

「まぁ そこは置いといて 標本の採取を・・・」

 

伊丹は手を合わせた後ピンセットで散らばった肉片を試験管に入れようとした時ロゥリィに止められる。

 

「・・・だめなのか?」

 

「うん だめ ヤオ頼めるぅ?」

 

「承知した」

 

ロゥリィに頼まれたヤオは、炎を魔法で散らばった肉片を火葬する。

 

「ヒトの魂魄は 死んだときにぃ 魂はハーディの下へ魄は土へ還る。魄だけ残ったのが生ける屍。身体の一部が生きている限り魄は救われないわぁ」

 

「この世界にアンデットー 生ける屍みたいなの他にもいるのか?」

 

「どこかのバカな魔導師が反魂魔法使ったときくらいよぉ。死者の魂はハーディがおさえているんだからぁ 死者を復活させるなんてぇ無理ぃ 世の理に反する行為を試みる輩はわたしぃ達がぁ処断するわぁ だからぁ 灼風熱の原因も気になるのぉ」

 

伊丹が森の奥へと進むとそこには、空の棺が山のように散乱していた。

 

「空だ さっきのはこれから出てきたんだな」

 

「奥にもかなり棺がある これは相当な数だな」

 

ヤオは、近くに生えている大きな木を見上げ手を当てる。

 

「細葉榕・・・この木の根はすごい量の水を吸い上げる」

 

「そのおかげて森が保っているんだな」

 

「主殿 上から様子を見てこようか」

 

「おう 頼む」

 

「気を付けろよ」

 

「わたしもぉ」

 

ヤオとロゥリィは、木のてっぺんまで登って森全体を見渡す。

 

「これは・・・」

 

「性悪ぅ」

 

そこから見えたのは、巨大な建物の中心を囲う迷路が見えた。



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荒野の迷宮2

伊丹は、手帳に迷路の全体図を書いていた。

 

「中心に見える建物から巨木が生えているようだ その周りに広場と建物が何ヶ所か」

 

「問題は外側の通路だ すべて曲線で作られた通路で見通しが利かない」

 

「幅もこれくらい」

 

「人一人分くらいか」

 

「せまいな 迷った末にゾンビか怪異にはち合わせか」

 

「わたしぃが先に露払いで行こうかぁ?壁伝いに行けそうだけどぉ?」

 

「迷宮で別行動も部隊全滅フラグだろ?よし こういうときはショートカットするに限る」

 

「だなぁ」

 

「「しょおとかっと?」」

 

ショートカット即ち近道をするという事だった。伊丹と大場は、壁にダイナマイトをセティングし導火線に火をつける。

 

「点火!」

 

バ ン

 

ダイナマイトが爆発して壁に穴を開けた。

 

「なにをするのかと思ったらぁ」

 

「てっとり早いだろ?迷宮も意味ないな わざわざ迷ってやる筋合いはないぜ」

「これならあっという間にさっきの広場に出るぜ」

 

「この音で生ける屍とかぁ寄ってこない?」

 

「そういえば中では一体も・・・入口に棺百個以上あったが・・・」

 

「一体何処に行ったんだ?怪異とも出くわさないし」

 

伊丹達は、迷路に入ってからゾンビに出くわさない事に疑問を持ち始める。

 

「でもぉ コカトリスの方はぁ ろくに飛べなないしぃ 木の上から見てもいなかったしぃ このまま生ける屍もぉ寄ってくる前に行けるかしらぁ?」

 

「そ そうだな ヤオ 広場への方向はあってるか?」

 

「す すまない 確認していなかった ちょっと見てこよう」

 

「あ おいヤオ」

 

ヤオは、近くあった木に登って方向を確認する。

 

「主殿!あと壁四枚で一つ目の広場だ」

 

「わかった 戻れ!」

 

そしてまた一枚と壁を爆破して穴を開けて行く。するとヤオを支えていた木の枝が折れてヤオが落下する。

 

「キャッ」

 

「ヤオ!?」

 

「大丈夫か!?」

 

「あ?行き止まり!?こっちと繋がってない!?」

 

「なら 別ルートを行くぞ!」

 

ヤオが落ちた場所は先伊丹達が居た場所のすぐ隣の所に落ちて居た。

 

「ヤオ!大丈夫か?」

 

「居るなら返事をしろ!」

 

「〜〜〜」

 

「どこにいるんだ!?」

 

「返事しろ!!」

 

(主殿が此の身をーー)

 

「返事しろ!ヤオ!」

 

するとヤオの前方方向から伊丹達の声につられてやってきたのか数体のゾンビ達が群がってきた。

 

「・・・でっ 出たぁ!!」

 

ヤオは、直ぐに片手剣を抜いて応戦するも数が多く押されて行った。

 

「くっ ひっ 来るなっ いや主殿!わっ 助けてぇぇっ」

 

すると隣の壁を越えてロゥリィが加勢して一気に形成した。

 

「せい!二人とも真横ぉ!!」

 

隣の壁に居た伊丹達は九七式手榴弾を隣の壁の向こうに投げる。

 

「手榴弾!」

 

「手榴弾だそ!」

 

バ ァン

 

手榴弾を食らってゾンビ達は消し炭になって行った。そして伊丹と大場は、冷めた目でヤオの方を見た。

 

「ヤオ ロクデ梨をちゃんと知ってるのはお前だけなんだ 頼むわ」

 

「お前に死なれちゃ元も子もない」

 

「ああ・・・すまない・・・主殿」

 

ケェーッカカカカ ケェーン

 

「・・・いるな コカトリス」

 

「だな」

 

「巣でもあるのかしらぁ威嚇してる」

 

「俺の知っているコカトリスだと 毒の息吐くんだよな」

 

「そうよぉ 草木を枯らし鳥も落ちるって言うわぁ」

 

「それなら・・・」

 

伊丹と大場は鞄から九五式防毒面を取り出して装着する。

 

「それってぇ においよけじゃあ?」

 

「本当は 毒ガスーー毒の霧よけなんだ」

 

「後は、酸素濃度の高い所で付けるやつだ」

 

「ロゥリィは奴の気を引いてくれ ヤオは矢で援護だ 俺と大尉で仕掛ける」

 

そしてロゥリィは、壁を伝ってコカトリスの気を引きつけ、伊丹達は、壁を爆破した後stg44用に取り付ける擲弾筒をコカトリスに向ける。

 

「ホラホラぁ よそ見しないのぉ!」

 

コカトリスは、切り掛かってくるロゥリィに毒の息を噴射する。

 

「キャア!」

 

「ロゥリィ!」

 

「大丈夫か!?」

 

タ アン タ アン ドバ ン

 

伊丹達も擲弾筒を発射して応戦する。

 

「ロゥリィ こっちだ!」

 

「真面に毒食らったぞ!」

 

「聖下!」

 

「ヤオ!背嚢に水筒がある!」

 

ドタタタタタタタ

 

「擲弾をあれだけ弾喰らってんのに・・・」

 

「タフな奴だぜ」

 

伊丹と大場はstg44に銃剣を装着して突撃する。

 

「うおお」ダ カカ

 

「うわぁ」ダ カカ

 

「おりゃあっ」 ズ ドッ

 

「せいやっ」ズ ドッ

腹と胸に銃剣を突き刺してもコカトリスはビクともしない。

 

「くそっ この!どうなってんだ こいつ!」

 

「不死身か!?」

 

「二人とも そこねぇ!」

 

「一足一刀左!!」

 

「!」

 

「ハッ」

 

目を毒の息にやられながらもロゥリィは目を瞑ったままコカトリスの首を一刀両断に切断する。



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荒野の迷宮3

いやぁ〜 総合評価300突破嬉しいねぇ
お気に入りも270にも達して


何とかコカトリスを斃す事ができ皆一息つく。

 

「巣の中に食べかけの屍がーー聖下?」

 

「こいつの血ぃ 生ける屍と同じ淡い紅色よ」

 

「まさかーー屍を食べて自らも?」

 

「成る程 こいつ あの屍達を食べて生き長らえていたのか」

 

「どうりで・・・」

 

「本当にここ 薬種園だったのかしらぁ?」

 

"広場の奥の建物は出荷場であったらしい しかしロクデ梨は発見できず"

 

「妙だ アルンヌ王国は 五百年前に滅んだと聞いた。それなのにあの中の薬棚の薬草は乾涸びていなかった」

 

「謎解きは後だ ヤオ!ロクデ梨を探さないと!」

 

「・・・主殿 焦っても仕方ないぞ」

 

「確かになぁ 急いては事を仕損じるって言うからな」

 

「・・・あるとしたらやっぱりあそこか 先に進むぞ」

 

"薬種園の中心へと続く通路に到着 ここから本来の敷地らしい だがそこには 罠がーー 左右に同じような『地雷源』が続き迂回は不可能 石橋を叩いて渡る式で突破を試みるも いやな予感が的中する 薬種園の造成者の方が一枚上手だったのだ"

 

カ キン

 

「・・・ヤオ?」

 

「どうした?」

 

「す すまない なにかーー踏んだ・・・」

 

伊丹と大場がヤオの足下の見る。

 

「踏み込んでも罠が作動しないということは圧力解放型か」

 

「典型的な仕掛けだな」

 

「いいか 左足を上げるなよ。右足は他の石に乗せていい 今からそっちに行くから」

 

「その場を動くな!」

 

伊丹と大場は、壁から伸びている木のツタを掴みながらヤオのいる所まで行く。

 

「・・・此の身は 不運の星の下に生きてきたが 最後に聖下や主殿と旅ができて幸運だった。同胞を炎龍からも救うことができたしーー」

 

「馬鹿言うなって 待ってろ」

 

「辞世の句なんか読むな!縁起でもない」

 

ガラ ラ

 

「おっと!」

 

「よーと!」

 

"なぜそこまで 此のみはテュカに ひどいことをしたのにーー"

 

「これを左足の代わりに置くんだ!」

 

と伊丹は、鞄から小袋をヤオに投げ渡す。その小袋の中身は、袋一杯の金貨だった。

 

「こんな大金・・・・返せないぞ!此の身にここまでの価値なんてーー」

 

「いいから!今は金より命だ!やら!」

 

とヤオは、その小袋を足下に置きゆっくりと足を退けた。

 

「よし こっちだ!」

 

と伊丹から差し出された腕を掴む。

 

「もう大丈夫だ 手を握ってるからな」

 

「・・・・」

 

「よし 戻ろう」

 

「ちょっと 待ってくれ主殿 やはりあんな大金を身代わりにするのは心苦しい ヒモをつけておいたから・・・」

 

「え?あっ 待て!」

 

「やめろ!なに考えてんだ」

 

「ヤオぉ 待ちなさぁい!!」

 

そして金貨の入った小袋に結び付けていた紐を引っ張って小袋が退いた瞬間、

 

ゴッ

 

足下の石が崩れ落ちた。壁のツタに捕まっていた伊丹と大場とヤオは、落下を免れたが通路のど真ん中に居たロゥリィは、真っ逆さまに落ちっていた。

 

『ヤオぉ!!あんた覚えてなさぁい!!』

 

「聖下ぁ!」

 

「ロゥリィー!!」

 

「落ちって行ったぞ!!」

 

伊丹達は、直ぐにツタにロープを結んで下に降りて行く。

 

「ロゥリィ どこだー!?」

 

「聖下ぁーっ」

 

「居たら返事をしろ!」

 

懐中電灯で暗闇を照らしながら探していると伊丹がある物を発見した。

 

「!」

 

それは、いつもロゥリィが頭に着けているカチューシャだった。それを見て三人とも目を見開く。

 

「・・・ヤオ 頼むから何かやる前に相談してくれ」

 

「そうやって後先考えない軽率な行動が身を滅ぼすんだ」

 

「・・・ご ごめんなさい・・・」うっ えぐっ

 

ヤオは、涙を流し謝る。

 

(あちゃー しまった・・・)

 

(やれやれだぜ・・・)

 

「・・・ヤオ ロゥリィは不死身の亜神だ 心配ないよ」

 

「・・・そ そうだろうか」 グ ス

 

「地下も苦手だしな 怪異に捕まるなんてことーー」

 

「おい!これを見ろ」

 

大場が示す道を見てみるとそこには、人間より一回り大きい足跡と血痕が残されていた。

 

「もし 動けない内に襲われたら・・・」

 

"まさかーー"

 

「街の連中がここにいると言っていたのはコカトリスと」

 

"ミノタウルスーー牛頭人身の怪異 人を喰らうと いうーー"

 

「急ぐぞ ロゥリィにもレレイにも時間がない」

 

そして伊丹達は、stg44に銃剣と暗視装置を装着し先を急ぐ。向かう途中にゾンビ達に遭遇に戦闘になるも小銃や手榴弾に銃剣で白兵戦に突入する。

 

「粗方片付いたな」

 

「これで彼女達の魄も解放されるだろう・・・なぁヤオ なんでその火精の魔法 初めから使わないんだ?」

 

「主殿は 燃え上がる屍に抱きつかれるのが好みか?」

 

「ああ なるほどな・・・」

 

「もう いいや」

 

「地図はまだ描いてるか?」

 

「ああ」

 

「ちょっと貸してくれ」

 

伊丹は、ヤオから書き写した地図を見ながら現在地を調べる。

 

「俺達が進んでるのはこのまっすぐな道か」

 

そしてしばらく直進して行く。

 

「天井か?何ヶ所か穴が空いていたぞ やっぱり上にもう一層あるんだな くそ!この地下迷宮でもなんでもないじゃねェか でっかい通路は落ちてきた奴を始末するミノタウルス用 こっちは人間が使う管理用」

 

「差し詰めここは、ミノタウルスが落ちてきた人間を処刑する処刑場って訳だ」

 

「こっちを進めばロクデ梨とロゥリィがいるはずの中心だ」

 

そして出てきたのは水が流れる部屋だった。

 

「ヤオ 遅いぞ」

 

「もうバテたか?」

 

「すまない 此の身のせいで 聖下がこんなことにならなければ 今ごろ地上から中心部に・・・此の身が不運なばかりにーー」

 

「〜〜いいかげん不運不運と卑屈になるなよ あと俺と大尉の顔色を窺うのもなしだぞ」

 

「そ そう言うなら早く奴隷としての此の身のありようを決めてくれ 此の身は何も期待されていないのか?主殿は此の身を必要としないと言うのか?」

 

「「ああ 奴隷はいらない」」

 

と二人に言われヤオの頭の中が真っ白になる。

 

「水を引きこんでいるのなら中心は流れの先か」

 

「近いなぁ」

 

と言い奥へと進む。

 

"此の身のことはなんとも思っていない この男達が急ぐのは聖下が喰われるのを恐れるからだ。だが亜神の肉体が復活するのも体の一部が残っていればこそ"

 

「なぁ 主殿」

 

「それもやめてくれ」

 

「名前で頼む」

 

「あ う イタミ殿 オオバ殿 ・・・亜神は 丸ごと喰われたらどうなるんだろうか ただ喰うだけだろうか ミノタウルスは男を嬲り女を姦したと聞く 今ごろ聖下もーー」

 

とヤオの爆弾発言にその場が静まる。

 

(ーーしまった なんてことを口にしてしまったんだ・・・)

 

と考えていると 二人が歩き出した。

 

「イタミ殿 オオバ殿 待ってくれ イタミ殿 オオバ殿!」

 

「ヤオ・・・お前はなんでついて来る?奴隷だからと言ってるが贖罪か?償いか?」

 

「罪滅ぼしのつもりか?」

 

「そ それはーー」

 

「いいかヤオ 炎龍のときみたいに仲間も支援もないんだ 奴隷制の哀れな犠牲者を連れていく気にはなれない」

 

「では 御身達はなぜーー」

 

「嬉しかったからだ」

 

「嬉しかった!?」

 

"レレイもロゥリィもあのときついて来てくれた そんな義務もないのに 俺達がどれだけ救われたと思う?その二人が今苦しんでいる なんとかしてやりたいそれだけで充分だ"

 

"なら・・・此の身は?此の身は・・・?"

 

「奴隷の身だからついてくると言うなら 命令だ ヤオ お前はもう自分のいるべき森へ帰れ」

 

「お前は 本来いるべき場所へ帰るべきだ」

 

そう言って二人は、ヤオを置いて先に進む。

 



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帰るべき場所

ヤオと決別した伊丹と大場は奥へ奥へと進んで行く。

 

「あれでいい奴隷根性だけでついて来る奴を連れて戦えるか 炎龍の時とは違うんだ」

 

「炎龍を斃した。今彼奴が俺らについて来る理由も義理もない」

「!」

 

そう話していると巨木が聳える大きな広場に出てきた。

 

(外から見えてたのは この樹か この広間といいこの雰囲気如何にも何かいますよって感じだな)

 

伊丹と大場は、互いにサインを出しながら中央の巨木まで進んで行く。すると二人は、巨木へと流れる水路である物を見つけた。

 

「服・・・?」

 

「なんでこんなところに?」

 

そして巨木の反対側の方を行ってみると其処には、女の死体を喰らう頭が牛で体が人間のミノタウルスの姿があった。

 

「ミノタウルス・・・」

 

「こいつが・・・」

 

そして見渡せば至る所に女物の服が散乱していてその中に見覚えのある服が混じっていたそれは、いつもロゥリィが着用している黒い神官服だった。

 

「あれは ロゥリィの・・・!?まさか もう・・・」

 

「うそだろ!?そんな・・・」

 

"亜神は丸ごと食われるとどうなるんだろうか"

 

とヤオが言っていた言葉を思い出す。二人は、目を細め銃口をミノタウルスに向けるが手が震えて発砲できなかった。

 

(いや!まだ 決まったわけじゃねぇ ただの黒い服かもーー)

 

(あの殺しても死なない女がこんな怪物に食われて死んじゃ割りにあわねぇだろ)

 

伊丹がロゥリィの物と思われる服を取ろうとした時ミノタウルスが二人の存在に気付き襲い掛かってきた。伊丹と大場は、即座に発砲するも効かずミノタウルスのパンチが襲い掛かってくるも何とか躱した。その後もミノタウルスの攻撃を何とか躱し続けるが、ところが伊丹が足を滑らしてしまた。

 

「あだっ」

 

「伊丹!」

 

ミノタウルスは、間髪入れずに伊丹に拳を振りかざそうとする。

 

「くっ レレイ ロゥリィ すまん・・・大尉 すいません後を任せます!」

 

絶対絶滅の伊丹が瞼を閉じて覚悟を決めたその時、

 

ドン

 

ミノタウルスの背中で爆発が起きた。その背後では、パンツァーファウストを構えたヤオの姿だった。

 

「イタミ殿!オオバ殿!こちらへ!」

 

二人は、必死でヤオのいる隣の部屋にダッシュする。何とかミノタウルスから逃げおうせた。

 

「大丈夫か イタミ殿 オオバ殿」

 

「何とかなぁ」

 

「ああ 助かった けど 何でお前 俺たちは帰れってーー」

 

「御身達のそばがーー 帰るべきところだと思ったからだ」

 

その言葉に二人は、意外そうな顔をし、ヤオは、赤面する。 そんな状況を余所にミノタウルスは、辺りにあるもの手当たり次第に体当たりをしていた。

 

「癇癪起こした子供みたいだ・・・イタミ殿?」

 

「どうした?伊丹」

 

二人が伊丹の方を向くと伊丹の手には、いつもロゥリィが身に纏っている黒い神官服だった。

 

「くそ・・・やっぱり間に合わなかった・・・ロゥリィは奴にもうーー」

「イタミ殿・・・」

 

「・・・・」

 

「聖下は不死身の亜神だ 喰われたとしてもーー」

 

「丸ごと喰われたらわからんと言っただろ?」

 

「そうだ!誰にもわからない!」

 

「喰われればどんな奴だってもうーー」

 

「だから 希望を持とう 聖下もきっとまだーーまずは 斃す術を探そう」

 

二人が絶望する中 ヤオの言葉を聞いて決意を固める。

 

「・・・そうだな お前の言う通り 奴を斃すのが先だ」

 

「やるしかないか」

 

 

 




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ロクデ梨

伊丹達は、部屋の中を見回しミノタウルスの斃すのに使える物が無いか探していた。

 

「まともにパンツァーファウスト 喰らってまだ動いてやがった」

 

「頑丈な奴だなぁ」

 

「この部屋の中に使えそうな物はないかな」

 

「あるのは薬草とあれは薬品かな?」

 

「毒はどうだ?イタミ殿 オオバ殿 ここは薬種園だ 毒草も栽培してたはず」

 

「どうやって食わせる?いぶして毒の煙吸わせるか?酸か爆発物にできる薬品でもあれば・・・」

 

「いや そもそも俺ら毒の調合なんか知らないし」

 

"悩む時間はないが実験室と思われる部屋の中を探し回った だが 見つかったのは意外な文書だった"

 

「不老不死?」

 

「そこに薬草や鉱物・・・丹を使った実験記録もあった」

 

「丹?」

 

「水銀のことだ 不老長寿の妙薬とされていたことがある」

 

「そういえば 水銀にはバクテリアを死滅させる効果があって 古代中国では不老不死の漢方薬として使われていたと聞いた事がある」

 

"昔から地位と名誉 そして財を成した権力者が次に望むのは不老不死 ここには亜神や長老長寿のエルフなど長命種が至るところにいるのだ。ヒトがあこがれ求めるのも無理はない ヤオの先祖もその秘密を探るために狙われたそうだ 表向きは薬種園 裏では不老不死の研究施設ーー"

 

「まさか 灼風熱の原因はその実験か?」

 

「流行が始まったのは半年前だろう?確かに薬草が干乾びてないのは実験のせいかもしれないが」

 

「だがここはずっと前に放棄されている 灼風熱は半年前に起きているんぞ?」

 

「隣も実験室か」

 

ガ コ

 

「あ」

 

ド ン ヒュカッ

 

「わっ」

 

とヤオが仕掛けを作動させ壁際から毒矢が飛んできたが伊丹が気を利かせてくれたおかげて難を逃れた。

 

"数々の罠が仕掛けられた部屋の捜索は困難を極めた だが 数部屋目でーー"

 

(う うう・・・イタミ殿の助け方がどんどんなげやりになっていく・・・)

 

「ヤオ!」

 

「はい!?」

 

「これを見てくれ!」

 

伊丹が手にしていたのは、数個実をつけた枝木だった。

 

「間違いない ロクデ梨だ!」

 

「よし!」

 

「やっと見つけたぞ!」

 

すぐさまロクデ梨を鞄いっぱいに詰めていく。

 

「これ以上時間を無駄にできない ヤオ こいつを持って先にクレティに戻れ 11の運転覚えているよな?」

 

「あ・・・ああ 忘れてないぞ だが 御身達はどうする?まさか 二人でーー」

 

「そうだ まだ擲弾と爆薬も残っている作戦も考えた うまくいけば一撃で奴を斃せるはずだ」

 

「だな 敵に背を向けちゃ士道不覚悟ってんだ」

 

「なら 此の身も!」

 

「だめだ 三人ともやられたら誰がレレイに届ける?」

 

「俺たち三人で掛かって斃せる保証はない だから誰かがロクデ梨をレレイに届けなきゃならない」

 

「ヤオ 頼む」

 

「・・・・嫌だ 言っただろう帰るべきところは御身達のそばだと 此の身は 御身達の奴隷でありたい」

 

「まだ言うか!」

 

「あのなあ 何度言えば・・・」

 

「頼むから 最後まで聞いてほしいーー此の身は色々やらかして引け目で一杯だ あの三人のような関係は御身達と結ばない だから代わりにそういう形で縁を紡ぎたいんだ」

 

"御身達の財産たる奴隷としてーー"

 

「どうかーーどうか受け入れてほしい」

 

「ーーって 返事に困るぞそれ」

 

「これは、返答しないとどこまでもついて来るな」

 

「ーーったく しょうがねえなあ」

 

と言われてヤオの目は輝いていた。

 

「よし いいか stg44の使い方教えるから 言う通りに動いてくれよ」



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ミノタウルス

早速のミノタウルスを斃すための作戦が開始された。

 

(背中の傷を痛がってる 奴はゾンビじゃないのか?)

 

(ゾンビとは、違って痛みは感じるみたいだな)

 

三人は、互いにハンドサインを出しながらミノタウルスに気づかれないように階段を登って二階に行く。

 

ド シ

 

(イ イタミ殿・・・)

 

(動くな・・・っ)

 

(騒ぐな!?)

 

三人は、ミノタウルスのいる方から反対側の方から静かに巨木に接近する。そして巨木の影に隠れると伊丹はヤオに擲弾筒を装着したstg 44を渡し大場と二人で巨木に登り次にヤオが登る。伊丹の指示でヤオはミノタウルスを見下ろせる場所に待機する。二人は更に上に登っていく。

 

(うまいものだ あれは相当鍛錬して痛い目にもあっているな)

 

"あの高さから巨大な枝を直撃させれば さすがのミノタウルスも屠れるだろう 気付かれたらこいつを放つ 弩と同じだ 引き金を引くだけでーー

 

「ん?」

 

引き金を引く前にどこかを回せと・・・"

 

(そうだ これだ・・・・あれ?回らない 手順が違うのか?どれだ?)

 

そうして弄っているとstg 44のマガジンが外れて落ち次に銃本体を落としてしまった。落ちた銃はそのままミノタウルスの頭に直撃して気付かれてしまった。

 

「あ イタミ殿!オオバ殿!」

 

怒ったミノタウルスは木に登って追いかけって来た。

 

『グルオッ』

 

「ふぬっ なんてことを なんてことを どこだイタミ殿!オオバ殿!」

 

ミノタウルスに追いかけられながらも何とかギリギリ躱しながら上に登って行く。だが、

 

ガ クッ

 

「ひっ くっ あ あああっ」

 

ヤオはミノタウルスに足を掴まれ絶対絶命のその時、

 

バンバンバンバンバンバン

 

『ゴァ!?』

 

突然銃声がしその上の枝から伊丹と大場が銃でミノタウルスの目の付近めがけて発砲したのだった。ミノタウルスは痛みで数メートルずり落ちる。

 

「今のうちだ!」

 

「ヤオ登れ!」

 

「イタミ殿!オオバ殿!」

 

ずり落ちたミノタウルスは再び登って襲い掛かって来た。

 

「何したんだ!?おこってっぞ」

 

「まったく!問題ばかり起こして!?」

 

「ジュウを落としてしまってーーあいつのド頭に当たったんだ」

 

「はあ!?」

 

「何だそりゃぁ!?」

 

「ハハハ そりゃいいや ザマミロだぜ」

 

「笑えねぇー」

 

「お 怒らないのか?あっ 危ない!」

 

『グモオッ』

 

「おわっち!やっちまったもんは仕方ないだろ?こっちだ」

 

「怒る気力も湧かないな」

 

そしててっぺん近くまで来てとうとうミノタウルスに追い詰められた。

 

「どうするんだ!後がないぞ!?」

 

「ヤオ こいつがプランBだ」

 

「行くぞ!」

 

「え!?」

 

と伊丹はヤオを抱き寄せ飛び降り大場も続いて飛び降りる。そして次の瞬間先まで居た場所が爆発する。

 

ド ドム

 

「こんな 高いところから飛び降りると思ったか?」

 

「先に言ってほしかった・・・」

 

「スリルがあっていいんじゃない?」

 

飛び降りた伊丹達は、爆発と同時に木のツタに捕まったのだ。だが爆破で吹っ飛んだ筈のミノタウルスもまたツタを掴んで登って来た。

 

『ウゴオオ』

 

「げっまじか!?」

 

「しぶとい奴め!」

 

"このままでは三人ともーー"

 

「イタミ殿 オオバ殿 今までのこと感謝する」

 

そう言ってヤオは、ミノタウルスが登っているツタに飛び移り片手剣でツタを切ろうとしている。

 

「ヤオ!バカ!やめろっ 逃げろヤオ!!」

 

「死ぬ気か!?」

 

ツタを切っているヤオは、ミノタウルスに捕まった。伊丹は、拳銃で応戦する。

 

「ヤオ!くそっ」

 

「くっ」

 

そうしている間にもヤオは、ミノタウルスに食われそうだった。その時 大場は、自身の軍刀を抜きミノタウルス目掛けて投げるそして軍刀はミノタウルスの目に刺さる隙が出来ヤオは口に咥えていた片手剣をミノタウルスの手に突き刺しミノタウルスの手から逃れる。

 

ガンガンガンガン

 

そして伊丹が拳銃でミノタウルスの掴んでいるツタを打ち抜きミノタウルスは落下して行き絶命した。

 

「ヤオ 頼む」

 

「承知した」

 

伊丹達は、食べられたロゥリィを救出するべくミノタウルスの腹を割いていく。

 

「ロゥリィ!」

 

「あ〜ん ありがとぉ〜」

 

無事ロゥリィを救出したがミノタウルスの腹の中に居たこともあり胃液や胃酸で身体中汚れて悪臭が漂っていたので水路で水浴びをする事にした。

 

「やっぱり やばかったのか?」

 

「別にぃ」

 

「じゃあ俺達が戦った意味って・・・」

 

「あったわよぉ 食べ物が出てくるのはぁ 口とどこぉ?」

 

「「「・・・・・あ。」」」

 

「そんなことになってたら精神的に死んでたわぁ だから三人には感謝してる」

 

折れた根の下から「病気の源」が発見されたーー

 

「イタミ殿 あれを!」

 

そこにあったのは、ミイラ化した女の遺体だった。

 

「なんだこれ・・・人・・・女?根がこいつに届いて病原菌かなにかを吸い上げて病気が拡がってた・・・?」

 

「実験に供された奴隷ではないか?」

 

「酷いものだ」

 

「ハーディがちゃんと仕事しなかったせいよぉ!さっさと燃やしちゃってぇ」

 

死体を焼却すると病気の発症はほどなく収まりーーロクデ梨のおかげでレレイ達病人も回復していった。その一週間後伊丹達は、学都ロンデルに向かって出発する。

 

 

 



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学都ロンデル

レイナーゲンの渡しで大陸随一の大河ローを渡河ーー

 

「ーーで今にいたる と」

 

「ロゥリィ・・・」

 

「言わないでぇっ ここ 三百年くらいで一番精神的にきつかったわぁ」

 

何か精神的ダメージを受けているロゥリィを慰める伊丹。すると無線が入ってくる。

 

『レオパードより特資101投下地点に接近待機せよ』

 

「来た来た 時間通りだ 指定座標に投下してくれ 101を視認受け取りはいらねえからみやげ頼むわ」

 

九七式輸送機が上空を通過すると物資の入った積荷が投下される。

 

「え!?」

 

「あんなところから!?壊れるぞ!」

 

「案ずるな」

 

空中投下を知らないテュカ達は驚きと荷物の心配をするが、途中でパラシュートが開きゆっくりと地面に接近する。

 

『101 司令部より伝達 ゾルザルによるクーデターが帝都で発生した 帝国軍の動きに注意せよ 詳細は荷物の中に』

 

「了解・・・(三偵と一偵の連中 今 帝都だよな・・・)」

 

「どうしたのぉ?」

 

「帝都で何か政変があったそうだ」

 

「フゥン ロンデルには関係ないと思うけどぉ?」

 

「へえ?」

 

「ついたらぁ 神官服直しに仕立屋行かなくちゃあ」

 

「エムロイの神殿行けばもらえるんじゃないの?」

 

「んー そうなんだけどぉ・・・・」

 

「レレイ あれが落ちていったところに向かってくれ」

 

「・・・了解」

 

とレレイは、空中投下された積み荷の方へ向かった。物資は水や食料に弾薬に燃料だった。

 

 

一方とある谷では、帝国軍の竜騎士と日本軍とアルヌスから募った義勇兵が交戦状態になっていた。

 

クアアア

 

タン タン

 

「あの茶色い服 ニホンの密偵に違いない 逃すか!」

 

「カナイ 止まるな!車まで戻ってパンツァーシュレックをーー」

 

するとダークエルフの一人が竜騎士に向き合って呪文を唱え辺り一面に霧が発生した。

 

「うわ!?霧・・・!?精霊魔法か!?まずいっ」

 

視界を奪われた翼竜はそのまま壁に激突して竜騎士は谷底に落ちっていた。

 

「ミカムラ中尉 谷から鞍のついた翼竜が出てきたけど何かあった?」

 

「帝国軍の翼竜に見つかった 全員無事だ今から戻る」

 

別働隊の日本軍は、エルベ藩王国で資源調査を開始していた。

 

「特資104はエルベ藩王国北部で"呪われた燃える沼"を調査中 102は南西部ペラナ山地で銀山を確認 103はデュマ山脈鉱山跡C2付近で帝国軍の翼竜と遭遇交戦 敵兵は転落死亡 偵察か伝令と思われる か 101伊丹は・・・補給受領後まもなくロンデル?」

 

「特地一有名な学問の街だとか」

 

「あいつが学問の街ねえ レレイの入れ知恵か?」

 

各隊の報告を聞いていた檜垣少佐は101の伊丹達が学問の街ロンデルに向かたと聞いて複雑そうな顔をする。

 

そして伊丹達は、溜息を吐きながら手帳に何かを書いていた。

 

「あ〜〜ぁあ はあぁぁぁ」ハァ

 

「おい 中尉先から何溜息ついたんだ」

 

「ちょっとぉ ヨウジィ なぁにさっきからぁ なにそれ?」

 

「買う予定だった物のリスト 減俸で懐具合がやばくなったから」

 

「ヤオの金剛石売ったんじゃなかったのぉ?」

 

「あれなぁ」

 

「売ったには売ったんだよなぁ」

 

「この前の休み中に銀座の宝石商へ持って行ったら」

 

"このような単一の巨大な物は"電波天文学"値で・・・・買い手がつくかどうか 各商社に照会しますが期待しないでください"

 

「だってさ」

 

「こ 細かく割ればーー」

 

「恐ろしくてできないって震えてた テュカー この沈んだ気分をあげてくれる曲 お願い」

 

「わかったわ 父さん」

 

「・・・そろそろ 父さんってゆーのやめない?」///

 

「い・・・嫌よ ヨウジ なんて呼べるわけないじゃない 精神的歯止めが・・・ゴニョゴニョ」

 

「歯止め?」

 

「なんでもなーい」

 

そう言ってテュカ月琴を弾きながら歌い始める。その歌声は、聞いていて心安らぐようだった。

 

「むっちゃうまいけどどのくらい弾いてんの?」

 

「んー百年くらい?」

 

「ひゃ!?」

 

「人間の年で十年か」

 

「・・・・やっぱ エルフって何げにすごくね?」

 

「そうねー」

 

「でも あたしくらいの歳までにみんな得意な楽器を持つものよ?」

 

「へえ」

 

「ふん」

 

とエルフならみんな得意と聞いて二人はヤオを見ると苦笑いをしていた。

 

「あ あはははは こ 此の身は葦笛を少々・・・人に披露できる腕前ではないが御身達が望むなら喜んで・・・今宵 余人を交えぬところでーー」

 

ゴ ス

 

『痛った!』

 

ヤオの足をロゥリィとテュカが思い切り踏んづけたのだ。

 

「お お役に立てないと立つ瀬がない・・・」

 

「そぉゆうことでぇ役に立とうと思わなくていい!」

 

「と 父さんはホドリュー父さんのシタールはとてもすばらしくてみんなで聞き惚れてたのよ」

 

「そうか テュカの師匠は父親なのか」

 

「違う?村の長老?師匠なんていなかったわ」

 

「じゃあ 誰に?」

 

「イ イタミ殿 此の身が説明しよう。エルフは芸事を特定の誰かに習ったりしない 音楽や武術 精霊魔法まで見よう見まねで身につけるのだ。その意味では師匠はいないと言えるし周り全てが師匠であるとも言える 無理して大樹に育てようと精霊の力を加えると歪な木になってしまうように 此の身達エルフは自然のまま調和の取れた伸び方を尊ぶんだ」

 

「へえ・・・(百年二百年練習してりゃ自然にうまくもなるか)」

 

「短命種は 師匠につき学ぶという仕組みを作った だからヒトはこの世界の支配者になれたんだ。此の身らの時間ならいくらでもあるという姿勢がヒトには鼻持ちならないらしいがな」

 

「そういう感覚 俺らにはわからんけど ベートーベンとかモーツァルトだったらなんて言うかなぁ」

 

「ねぇヨウジィ それってだぁれ?」

 

「俺らの世界の有名な作曲家何百年も前の」

 

そう言って伊丹は、運転中のレレイの方を見る。

 

「レレイ 疲れたろ かわろうか」

 

「不要」

 

「・・・・もしかして運転が楽しいとか?」

 

「とっても」

 

「・・・どの あたりが・・・?」

「地面の状況を素早く読み取って 車輪の摩擦 車体の進む力と慣性 それらを勘案して舵輪を操作する その結果が即座に現れるところ クルマの運転は知性と理性の表現 車体は知性の集合体この一体感は魔法に似ていてーー・・・快感」

 

「(無表情で言うセリフか・・・か?)そ そうですか・・・」

 

「すっかり馴染んでいるな」

 

「それに学都ロンデルはすぐそこ あの稜線を越えれば見える」

 

「ロンデルか 此の身は話にしか聞いたことがない」

 

「あ 見えた!」

 

見えてきたのは伊丹達のもう一つの目的地でレレイが行きたいと言っていた学都ロンデル。

 



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アルペジオ

結構長いです。


「ロンデルは 三千年前からある古い街 学問の神エルランとラーのニ柱がまだ亜神だったころにつくった私塾が礎になっている。それより今に至るまで数々の賢者と魔導師が集まる学問の街であり続けている。リンドン派のリンドンは『ロンデル発祥の』という意味」

 

「なるほど」

 

そしてロンデルの正門へと入って大通りに出る。そこでは、アルヌスや帝都並みに人々が賑わっていた。

 

「これで中央通りか」

 

「ここはいつもそう無計画で非合理的」

 

「こりゃスゲェや」

 

「この先の四つの辻を右に曲がると大きな宿がある 退屈なら先に行っていい」

 

「下手に歩いたら迷いそう あたしはやめとくわ」

 

「じゃあ わたしぃがわかるから先に行って宿とっとくわぁ ヤオ来なさぁい」

 

そう言ってロゥリィはヤオを連れて先に宿屋に行った。

 

「あいつここ来たことあるのかな」

 

「九百年以上生きてるんだからあるかもね 何か弾こうか?」

 

伊丹達は、テュカの歌を聞きながら宿屋まで行った。そして宿屋の前では先に行っていたロゥリィ達が待っていた。

 

「こっち こっちぃ 書海亭 ロンデルでは老舗の宿よぉ」

 

「聖下のお付きの方々ですね 扉つきの厩に案内いたします。変わった荷車ですね」

 

「俺達がロゥリィのお付き?」

 

「俺達一体いつのまにロゥリィの付き人になったんだ?」

 

「古い街の古い人間は威厳と肩書きにとても弱い」

 

そして宿屋の人の案内でSd Kfz11を厩に置く。

 

「エサなしでよろしいので?」

 

「はい」

 

「よっ ん?」

 

「うん?」

 

そして厩の扉を閉めるとロゥリィとレレイとテュカがそれぞれ扉に呪文を掛ける。

 

「うげ 聖下の呪詛に魔法と精霊魔法の多重掛け・・・扉に触れただけで確実に死ねる」

 

「「・・・・」」

 

その後呪文を掛け終え宿屋に入っていくと従業員総出で迎えて来た。

 

「いらっしゃいませロゥリィ聖下並びにお付きの方々 当"書海亭"主ハーマルでございます。聖下にお泊まりいただけるとは望外の幸せ 老舗を誇る当宿の自慢がまた一つ増えました 宿帳への記帳を・・・」

 

「ありがとぉ」

 

とペンを渡す妖精にお礼を言う。そして次にレレイが名前を書き込む。

 

「聖下はさすがに達筆でいらっしゃる。これにはクレシアの覇王 ソルモンのご署名も」

 

「懐かしい名ねぇ 神官見習いしてたころの王よぉ」

 

「はい ソルモン王は青春時代を当地で過ごされまして」

 

(俺ら眼中にないってか・・・)

 

(やれやれだぜ・・・)

 

「聖下 この度はどういったご用で当地に?ロンデルにはエムロイ神殿はございませんが・・・」

 

「わたしぃは付き添い この子のねぇ」

 

とロゥリィは、今日はレレイの資格習得のための付き添いと言う。

 

(プッカ族・・・)

 

「(ルルドの娘が賢者のローブ?)あ ああ 魔導のどなたかに御入門ですね」

 

「・・・・」

 

「ではお部屋にご案内させていただきます。当宿最高の部屋を用意いたしました」パンパン

 

当宿が手を叩いて従業員達は、一斉に駆け寄る。

 

「お荷物をお運びします」

 

「聖下 ハルバートをお持ちいたします」

 

「銀髪翠瞳って かわいいなぁ」

 

「俺 金髪のエルフ娘がいい」

 

「うわわわ ひいっ」

 

ド ゴッ

 

「こら!お客様に粗相のないようにしろっ」

 

重く一人で運べないため従業員三人がかりで運んで行く。

 

「・・・え!?」

 

「何で!?」

 

二人だけ除け者扱いされた伊丹と大場。

 

「あの・・・俺達は?」

 

「ああ下男さん あんたらの部屋は皆さんの向かいの部屋だ。物置だが近い方が御用の時は便利だろ?フェ 案内してやんな!」

 

すると妖精が二人の前に現れ付いて来いっと言っている。

 

「あ ありがと・・・・」

 

「何だ?この扱いの差は!?」

 

二人は案内されるがまま付いていた。そして当宿は宿帳に目を通す。

 

「レレイ・ラ・レレーナ・・・か(貴族の養女か 豪商の妾か ルルドの娘にしてはいい生地のローブだった なぜ エムロイの使徒が付き添いを?テュカ・ルナ・マルソー ヤオ・ロゥ・デュッシ なぜ仲の悪い種族のエルフがいっしょに?イタミヨウジ オオバサカエ・・・下男にあんな茶色い服着せて・・・みっともない)」

 

ドタワイ ドタワイ

 

「コラァ走るな!」

 

「ハーマルさん モルト銀貨!一人に一枚ずつ」

 

「ほう チップをそんなにはずむとは気前がいいな ほら!お客様だぞ!お前達仕事仕事!」パンパン

 

それから数分後

 

「やっぱりカリフォの橋が?お客様で引き返して来たのは五人目ですよ」

 

「まいったな 帝都へ急ぎの商用だったのに」

 

「噂では一部の行商人が帝都の物価を上げるために壊したとか」

 

「おい 聖下達だ」

 

その声を聞いて皆が階段を降りてくるロゥリィ達を見る。ロゥリィ とテュカとヤオは変わらない服装だが、レレイは白いローブに身を包み 伊丹と大場は、九八式軍衣袴から昭五式将校夏衣袴に身を包み腰のベルトには、軍刀とワルサーP-38を収めるホルスターを付けていた。

 

「出かけてきます 夕食はとってきますので」

 

「それじゃあ!」

 

「は はい(下男じゃなかったのか!?)・・・純白の導服に白い索縄・・・いや お見それしました そのお歳で導師号に挑まれるので?」

 

"導師号審査発表会" 此処は導師号に挑む博士や学徒の登竜門であり、居並ぶ老師達を前に行う発表は過酷を極める ヤジと底意地の悪い質問 嘲笑の嵐 多くの挑戦者がこのために失敗を犯す。不合格と見なされれば容赦なくインク壺や油が投げつけられる。これに耐えられずロンデルを去る者が後を絶たない"

 

「(こんな娘が耐えられるはずがない・・・どこの誰が!?)失礼ですが あなたの師はどなたで?」

 

「カトー カトー・エル・アルテスタン」

 

それを聞いてハーマルは目を見開く。

 

(老賢者カトー 魔導師の中の魔導師・・・昔 大貯水池の穴を一瞬で作るの見たぞ)

 

「これぇ 仕立て屋へ直しに出しといてぇ」

 

とロゥリィは、神官服を置いて出掛ける。そして丘の上から街を見渡す。

 

「あれが学会の行われる会堂 むかいが市議会堂 そしてここからがーー研究街区」

 

そこには、高さ15メートル級の大きな壁が聳え立ている。

 

「何で壁が・・・」

 

「入ればわかる」

 

中に入ると周りの人達がこっちを見てざわめく。

 

「導師号もらったら嫉妬の嵐ねぇ」

 

「覚悟してる」

 

伊丹や大場もあっちこっち見回す。何処と無く関心する。

 

「士官学校とは、また違った雰囲気だな」

 

「それは、そうだろこっちは軍事教育じゃないからな」

 

「偉い人達も講義してるの?」

 

「そう でも老師達の研究室だけは隔離されている」

 

「隔離?」

 

すると、

 

カ ッ ド バッ

 

と建物が光り出すと次の瞬間建物から大量の水が噴き出して行き交う人達の頭上に降り注いだ。

 

「あああ せっかく思いついた公式がぁあ」

 

「試料がああっ」

 

「わたしの論文!!いやぁ びしょびしょおっ」

 

「誰の研究室だぁっ」

 

これによって論文や試料などが水に流されたり破れたりした。伊丹達は、無事だったがヤオだけがずぶ濡れになりその光景を見て笑うロゥリィと目を丸くする伊丹と大場。

 

「そう 隔離。」

 

「壁はこのために?もしかしてカトー先生がコダ村にいたのも・・・」

 

「まさか・・・」

 

「・・・・アレぐらいになると色々危険だから」

 

(家が村から離れていたのもそういうことか・・・)

 

(ヤァベ あの人マジヤァベ)

 

その後伊丹達一行は、とある一軒家に訪れた。

 

コン コン

 

「借金取りなら無駄ですよ お金ないですから」

 

「レレイです」

 

するとドアが開き一人の老婆が出て来た。

 

「まぁ!まぁ まぁ まぁ!あなたなのリリイ」

 

「ちがう レレイ」

 

「そうそう だけどリリイの方がかわいいと思うわぁ いらっしゃいわざわざこんなところまで」なでりなでり

 

とこの家の住人と思われる老婆がレレイを撫でると家に招き入れる。

 

「さあさあ 皆さんもお入りになって その格好導師号に挑むの?早すぎないかしらカトーの奴 呆れちゃった?」

 

「これ」

 

とレレイは、カトー老師からの手紙を老婆に渡す。

 

「カトーから?ふむふむなるほど あらあらそうなのーーこれなら飛び級も当然ね アルペジオが焼き餅焼いちゃうわ」

 

「アルフェは?」

 

「相変わらずよ 今買い物行ってるわ あらいけないお客様を立ちっぱなしにしちゃって」

 

「あ お構いなく・・・」

 

「そんな お気を使っていただかなくても」

 

「いえいえ せっかく来てくださったのに あららら」

 

ドサ ドサ

 

と老婆は机の上に積み重ねてある本を落としてしまった。するとそこにかなりのスタイルの整った茶髪の女性が現れた。

 

「ああっ 何やってるんですか!あれほどいじらないでくださいってーーもう!地揺れの後せっかく片付けたのに ひぃ ふぅ みぃ ああっ ルチルがないっ」

 

「これじゃない?」

 

ガタン バサァ

 

「老師・・・邪魔ですので片付くまで外に行っててください」

 

「そ そうね マリナの店に行ってるわ リリイと積もる話もあるだろうし」

 

「リリイ?」

 

「ちがうレレイ」

 

「よくわかりました」

 

「博士号でどん詰まり男っ気もない 金欠でひーひー言ってる姉を差しおいて 導師号に挑んだりピアスして色気付いたり 金回りよさげにしてたりエムロイの神官やエルフとつるんでたりする 妹にっ たぁっぷりとこの世の条理を言い聞かせやろうと思ってますからっ」

 

と言われレレイは、表情には出していないが内心はかなり怯えてほんの僅かに冷や汗をかいていた。

 

(珍しいもの見た・・・)

 

(普段冷静なレレイが冷や汗をかくとは・・・)

 



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姉と妹と格差と

日が暮れ始め伊丹達一行は、老師に連れられ外食をする事になった。

 

「ねぇレレイ さっきの人」

 

「・・・・義理の姉」

 

「レレイの身内だったのか 親御さんは?」

 

「ルルドは流浪の民 父親は誰なのか聞いていない 母親はもうーー」

 

「レレイはね十前にカトーのところに来たのよ 十の年に弟子入りしたの」

 

「そうですか・・・」

 

「なかなか複雑な家系なんだなぁ」

 

それからしばらくしてミモザ老師の行きつけの店に着いた。

 

「いらっしゃいミモザさん 今日はずいぶんと大勢で新しいお弟子さんですか?」

 

「いいえみんなお客さん 見て見て 美人ばかりでしょう?」

 

「本当だ!今日は腕によりをかけなくちゃ」

 

「さあさあ席について この店は美人の女の子にはとったもおいしい料理を出すなよ」

 

「えーと 献立表は・・・」

 

「ここは店主にお任せなの」

 

「へぇ 珍しい店だな」

 

伊丹達は、料理が来るまで皆でテーブルを囲んで話し合っている。

 

「リ・・・じゃなくてレレイ 皆さんに紹介してくれる?」

 

「こちらはミモザ・ラ・メール 魔導師にして大賢者 このロンデルの長老の一人」

 

「よろしくね」

 

「カトー師匠の師姉弟 今は義姉のアルフェが弟子入りしている ミモザ老師は博物学に造詣が深い」

 

そして次が伊丹達の紹介に入る。

 

「そちらが ヤオ・ロゥ・デュッシ テュカ・ルナ・マルソー」

 

「エルフとダークエルフ お二方が仲良く旅してるなんてどういったいきさつで?」

 

「え いや・・・これはっ」

 

「話すと 長くなりそう なんですけど・・・」

 

(仲良しか・・・)

 

(そんな大層なもんじゃないだけどなぁ・・・)

 

「後で話してくださる?」

 

"色々あったけど今じゃ苦手意識に近いかなぁ"

 

「そしてーー」

 

「お久しぶりね ロゥリィ もしかして 宿題の答えを聞きに来たの?」

 

「・・・ミモザぁ あなた老けたわねぇ」

 

「うらやましいでしょう?もうすっかりおばあちゃんよ もう五十年も前になるかしら?ロゥリィとは一緒に旅したことがあるのよ」

 

「へぇ・・・」

 

「そう言った経緯が・・・」

 

"俺らの生まれる前にこの二人会ってるのかあ"

 

「じゃあレレイ そちらの方々は?」

 

「これは イタミヨウジ でこっちがオオバサカエ」

 

「よろしくお願いします 姓は伊丹 名は耀司です」

 

「お初に 姓は大場 名は栄です」

 

「ミモザ老師は博物学に造詣が深いとか よろしければお聞きしたいことがあるのですが」

 

「かまわないけどお食事の後でいいかしら?」

 

「あ ああ失礼しました レレイの学会が終わるまでロンデルを拠点に動きますのでお手すきの祈りに」

 

「そういうことです」

 

「・・・・見慣れない服だけど・・・お国はどちら?」

 

「・・・やっぱこれ目立つ?」

 

「いつものグンプクよりは地味よぉ」

 

「仕方ないだろ これが軍では正装なんだから」

 

「日本帝国です アルヌスの『門』の向こうから来ました」

 

「まぁ!本当!?『門』が開いて帝国が攻め込んだって話は聞いたけど 向こう側の話はちっとも伝わってこないんですもの レレイ達は行って来たの?どうだった?」

 

そう聞かれ一同は顔を合わせて笑いながら

 

「行って来たわよぉ 『門』の向こうの街 トーキョーの摩天楼!帝都の皇城が霞んじゃうわぁ」

 

「服とかもすごいの!歩いてる人 みんなおしゃれで きれいな生地の服がお店にいっぱい!そんなお店が街中にあるの!」

 

「あの書店・・・一年中いても読み切れないほどの本の量だった・・・ピニャの話ではあらゆる本が集められている図書館もあるそう しかも全ての人に無料で開放している ロンデルにも作るべき」

 

「ん?ここに図書館は・・・」

 

「学問の街なのに?」

 

「それがねぇ 大昔にはあったのよ でも燃えてしまったの ある時宗教戦争が起こってロンデルも巻き込まれてね その中の過激な一神教信者達が図書館に火を放ったからどれだけの知識が失われたかーーこの街がそれからも学問の街なのは蔵書を持つ老師達が大勢いるからそれを求めて学徒が集まって来るの長命種の方の蔵書はすごいのよ」

 

「なるほど・・・」

 

「けど本は高いでしょ?集めるとなると・・・」

 

「大丈夫 印刷すればよい ニホンでは個人でも本を印刷して市に出すことができる 最大の本の市 国立公文書館は壮観だった」

 

一方同じ頃レストランの外では、レレイの義理の姉アルペジオがレストランに着いたところだった。

 

(レレイの奴 ひさびさに来たと思ったら 何があったか知らないけどいきなり導師号って・・・)

 

「本が本当に安くなったら素敵ねぇ」

 

「きっとそうなる」

 

それを聞いてアルペジオは、目を見開き扉を勢いよく開けて入って来た。

 

『ダメよ!』バタン

 

そして仁王立ちしながらレレイ達のテーブルに近寄って来た。

 

「ちょっ ちょっとそれはダメ ダメよぜぇったいダメ!困る人だっているんだから!!四ヶ月!!毎日夜なべして写本した魔法大全!!今ならシンク金貨三枚で売れるのよっ それが値崩れしたらっ したら・・・食費がっ 家賃がぁっ」

 

「ごめんなさいねぇ この娘のやってる鉱物魔法ってお金かかるの 副業で写本やってるから・・・」

 

「ああ・・・」

 

「なるほどそれで生計を立ててた訳か」

 

「・・・大丈夫 いずれは の話」

 

「いずれ?も〜〜〜おどかさないでよぉ〜」ヘタァ

 

「アルフェの早合点はいつものこと」

 

レレイが店主から水の入ったコップを貰って戻ろうとするとレレイが座っていた席にいつのまにかアルフェが座っていたのだそれを見たレレイは腹を立てながらも別の椅子を持ってくる。

 

「ヴァレッタってところで活字印刷ってのが始まったって聞いたから ついに来ちゃったかと思っちゃった この商売も先が見えたなぁ・・・・どうしよ・・・」

 

「あの 写本をされてるんですか?」

 

「ええ 著名な賢者の稀覯本を」

 

「この娘の本は 装丁も疑ってるからお金持ちに人気あるの」

 

「へぇー 一冊一冊手書きで大変でしょう?俺の許嫁も描いてるんでわかりますよ」

 

「奥様も賢者で?」

 

「いや こいつの許嫁さんは、小説家でもありまぁ 絵草紙本を描いてるんだ 一部からは賢者って呼ばれてそうだがな」

 

「はぁ・・・あのー まだ結婚してないですか」

 

「まぁ お互いまだ 距離感や抵抗感があるんですよ」

 

「貴方もまだ結婚してないんですか?」

 

「まぁ 俺には相手が居ないからな」

 

それを聞いたアルフェはレレイ絡んでくる。

 

「誰?」

 

「イタミヨウジとオオバサカエ」

 

「何してる人?」

 

「『門』の向こうの国の軍人」

 

「帝国と戦争している軍人がなんでここに来るのよ」

 

「資源調査を命じられている」

 

「あ そうそう イタミさん オオバさん 鉱物のことならこの娘が専門よ アルフェ イタミさんとオオバさんに教えてあげて」

 

「あ 私でよろしければ」

 

そうしている間に料理が運ばれて来た。

 

「お待ちどうさまぁ 今日は張り切って作っちゃったよ!」

「あ ロゥリィ 忘れる前に宿題の答え あなたの問いは なぜこの世界にはこんなに多くの種族が住んでいるのか その答えはーーアルヌスの『門』よ ロゥリィと別れた後も答えを探すために世界中を巡ったわ 各地に残る古代遺跡の碑文や古文書を調べ一万年を超える遥かな昔からこの地に住むエルフをはじめ 様々な種族に伝わる創世記や伝承を聞いてまわったのそしてたどりついた結論が『門』よ。私達より先に住んでいた種族もすべて『門』が開いた時この世界にやって来た ヒトはその中で一番の新参者ーー帝国がアルヌスを聖地と呼ぶのも文字通り自分達がやって来た場所だから」

 

「その答えでいいのぉ?」

 

「ええ アルヌスにはこの世界の根源がある 噂では帝国はお抱えの魔導師を動員して本当の『門』を作っちゃったらしいわね」

 

「さすが ミモザねぇ」

 

「はぁ これで宿題の提出もすんだわ この年でやっと解放された気分」

 

「・・・なんで ロゥリィが宿題を出すんだ?」

 

「それはねぇ ヨウジィ 亜神は世界の庭木を守る庭師でもあるからよぉ 必要ならば伸びすぎた枝を刈り取るわぁ けどぉ 刈ってばかりじゃ樹は大きくならない だからぁ 見込みのある賢者に『宿題』を出すの」

 

(枝というのが知識や技術のことなら日本の諸々はいいのだろうか・・・)

 

「時にはよそから紛れ込んだ害虫を駆除する そうやってぇ世界の調和を守っているーー守っているのにぃ・・・ハーディのバカ者ぉ・・・」

 

「「?」」

 

「・・・その話 習ってない」

 

「だってこれは私の研究ですもの カトーは窮理が専門だから史学は基本しか修めてないし」 ※窮理:物理

 

「だから 言ったでしょう 老師一人にぶらさがってたら知識が偏るって 今からでもここに戻って体系的に勉強なさいよ」

 

「・・・けど カトー師匠のところにいなければ導師号に挑まなかった」

 

「それはそうだけどいいの?変な報告して」

 

「学会中ずっと南国鳥みたいな格好で過ごすハメになっても自信はある 見てほしい あっ」

 

カラカラーン

 

とレレイの鞄から金属のような物が転がり落ちた。

 

「・・・え?漏斗!?」

 

「何故に?」

 

「ノイマン効果を発揮するのに適した材質と形状 安く手に入り使い捨てできて武器には見えない 研究中の魔法に最適」

 

とミモザとアルフェは、レレイの持っていた記録書を見てみる。

 

「・・・安っぽい装丁・・・このペラペラの羊皮紙?って」

 

「ふんふん・・・」

 

(こ これはーー)

 

「すごいわレレイ これなら合格間違いなしよ 学問の進んだ異世界の知識を土台にして ちゃんと魔法体系に組み込んでるすばらしいわ」

 

「抜かれた・・・完全にレレイなんかに・・・」

 




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夕陽の決斗

完全にレレイに先を越されている事に焦るアルフェ。

 

「あ〜〜〜 今までやってきたことなんだったんだろ〜〜〜・・・もう学問やめて田舎で読み書き教えようかなぁ・・・」

 

「そんなことはない 鉱物魔法はお金と時間のかかる分野 私はたまたま異世界の知識に接することができただけ」

 

「そうよ お金!ねぇレレイあんた今余裕あるんでしょっ少し融通してよ!」ハッ

 

お金を工面する様に頼むアルフェの頼みにレレイは知らん顔。

 

「このグラーシュおいしい 冷める前に食べて」

 

「レレイ〜〜〜っ」

「鉱物魔法は錬金術と同じ 金貨を溶かす魔女の大釜 あればあるだけお金が消えていく だから誰も手を出さない」

 

完全にレレイは、助ける気は無くアルフェは泣き噦る。

 

「レレイのお義姉さんっておもしろーい」

 

「うむ ここまで親近感のあるヒトは初めてだ」

 

「アルフェは物心ついた時から研究三昧で色々せっぱ詰まってるのよ もう24だし」

 

「ミモザがあの年ぐらいの時はぁ 遊びまくったわよねぇ〜」

 

「ロゥリィ?」

 

「・・・・」

 

バン

 

するとアルフェが机を叩いて立ち上がり、

 

『もういい結婚するっ』

 

といきなり宣言した。そして再びレレイに絡み。

 

「イタミさんとオオバさんってどんな人?」

 

「ニホン帝国の軍の士官階級はオオバの方が上 二人ともエルベ藩王国より卿の称号 他にもシュワルツのダークエルフ名誉族長などを賜っている」

 

「き 卿!?」

 

「下級とはいえ貴族・・・」

 

「イタミ殿とオオバ殿には我が部族よりこのくらいの金剛石も贈らせてもらった ついでに此の身も所有資産だ」

 

「じっ 人頭大の金剛石!?」

 

"まさにお買い得物件!夢の研究環境・・・"

 

アルフェが伊丹達の方に振り向くと先まで自分が座っていた席にレレイが座っていた。

 

 

Before

ロゥリィ ヤオ テュカ

伊丹 ーーーーーーーーーーーーー席 ミモザ

アルフェ 大場 レレイ

 

after

 

ロゥリィ ヤオ テュカ

伊丹 ーーーーーーーーーーーーーー席 ミモザ

レレイ 大場 アルフェ

 

と言った感じになった。

 

「ちょっとレレイそこ私の席」

 

「元々 私の席だった それにイタミとオオバを狙っても無駄 もう 三日夜の儀と接吻を終えた仲」

 

それを聞いて唖然とするアルフェ。

 

「・・・だっ 誰と誰がーー」

 

「わたしと ヨウジ そしてサカエ」

 

「へ?」

 

「おろ?」

 

その言葉にカチンと来たアルフェは側にあったグラーシュをレレイの頭に被せる。グラーシュを掛けられたレレイは、アルフェを睨みつけまさに一触即発の状態だった。そしてレレイもアルフェの決闘は瞬く間に街中に広まった。

 

『ケンカだ!ケンカだ!魔導師同士のケンカだ!!しかも二人の女だ!片方はあのアルペジオ女史だってよー』

 

「え?」

 

「鉄のアルフェが?」

 

「相手は誰だ!?」

 

「ケンカだ!」

 

「レレイとかいう十四 五のヒトの女だ!」

 

「マリアの店の前だ!」

 

「おい 行こうぜ!」

 

「アルペ女史か見物だなっ」

 

「ちょっとお勘定!」

 

と噂を聞きつけた住人は、我先にとマリアの店に向かっていた。そしてそれを物陰から聞いている者も、

 

「聞きましたか グレイ騎士補」

 

「しかとこの耳に」

 

「では 我らも向かいますかな シャンディー殿」

 

一方決闘場では、レレイとアルフェの決闘を見ようと人々が殺到していた。

 

"どうしてこうなった・・・"

 

「一皿料理いかがかねー 安くしとくよー」

 

「賭け率 三対一で鉄のアルフェ有利!レレイに賭ける奴いないか?」

 

「トルティージャお肉たっぷりのトルティージャ〜」

 

「あの神官エムロイの使徒だって!?」

 

「あの子がレレイ?導服だろあれどうしたんだ?」

 

「アルペジオ女史にスープぶっかけられたってよ」

 

「なんで?」

 

「あの歳で導師になんて生意気だってキレたんだと」

 

「うそぉ アルペジオ女史がケンカふっかけたのぉ?」

 

「みっともねぇ 嫉妬かよー」

 

と嫉妬によって喧嘩を売ったのだと周りから批難される。

 

(どうとでも言えばいいわ こっちには姉としての立場と意地があるんだよ!あれは必要なことだったの!けど・・・すっきりしたわぁ・・・だいたいーーレレイが私の遥か先に行っちゃったのもーー)

 

と伊丹と大場の方を睨む。

 

((俺ら 何かしたかなぁ・・・))

 

そしてロゥリィが審判を務める。

 

「戦いの神エムロイの名においてぇ 使徒ロゥリィ・マーキュリーの許 次の条件を守ることぉ この決闘は不殺であることぉ 女故顔は傷つけないことぉ この二つを守る限り好きになさぁい これを破ったり負けを認めたりぃ 倒されて十数える間に戦う姿勢を取らなかった時はぁ その者の負けとするぅわかったぁ?ではぁ 第十三次ぃレレーナ家姉妹会戦ーー始めぇ!!」

 

試合開始の合図とともに魔法を発動する。最初に先陣を切ったのはアルフェだった。レレイは、アルフェの魔法を回避してお返しをするが弾かれる。そしてアルフェは、ローブからある物を取り出した。それは、輪っかに繋がた三個の宝玉のような物だった。

 

「!あれは・・・」

 

「何だ?」

 

「すごいでしょう?あれがアルフェの研究している鉱物を触媒にして魔法を現理展開させる 鉱物魔法よ」

 

「けど あれ相手に投げつける武器でしょう?さすがに姉妹ゲンカの域越えてますよ」

 

「うん いくらなんでも限度ってものがある」

 

「大丈夫よ 見てて」

 

アルフェの鉱物魔法の攻撃に結界を張って凌ぎきるレレイ。

 

「魔法を発動するには『現理』の支配するこの世界を『法理』で開豁しなくちゃいけないわ レレイのようにね 触媒を用いるとね 手っ取り早く『現理』に干渉できるの 触媒によって効果は色々よ アルフェはその法則性を見出そうと研究しているの」

 

「「は はぁ」」

 

どちらも一歩も引かない攻防が続いていく。攻めては守りに入るの繰り返しが続いた。

 

「ちょっと見ない間に腕上げたじゃない」

 

「白い導服は伊達じゃない」

 

「ほざいてろ!!そのメッキはがしてやるよ!」

 

レレイとアルフェの姉妹の決闘の様子は遠くなれている地区でもよく見えるほどの光景だった。

 

「そろそろしゃれにならんのでは・・・」

 

「大丈夫よぉ リンドン派で最初に習うのは防御魔法なの」

 

「いや そうじゃなくてーー」

 

「だから最後は力比べになるんだけど ふたりとも随分と腕を上げたわねぇ 特にレレイすごい成長よ」

 

「キャア」

 

「わっ」

 

「なんじゃあれは」

 

「あの光の輪初めて見るぞ」

 

一進一退の攻防の末に二人とも体力の限界に近づいていた。

 

「くっ(今のなに?氷柱の加速が私のより速かった 畜生・・・これが天賦の才ってやつ?)」

 

二人の決闘を観戦している野次馬達も皆驚いている。

 

「こんな決闘 大賢者カトーとミモザ老師のケンカ以来だ」

 

「鉄のアルフェが押されっぱなし」

 

「レレイって奴すごいな」

 

次第にアルフェがレレイに押されて劣勢に立たされていく。

 

「ぐっ・・・」

 

「・・・ロゥリィ?まだやらせるの?」

 

「ぎりぎりまでやらせるわぁ 二人ともやる気なくしてないんだものぉ 最後まで本気でやらせるのが筋よぉ それにぃ ここで止めたらわだかまりが残るしぃ 血の繋がらない姉妹のどちらかに負の感情が生まれればそれは偽りの関係 他人になっちゃうわぁ」

 

「いや けどさ なにかーー」

 

そんな不安がる伊丹を余所に人混みの中にボーガンを隠し持っている人物がレレイに狙いを定めようとしている。その時ボーガンを持っていた男の右腕を何者かにナイフで突き刺さした。

 

『ぐあああ』

 

「卑怯者め!覚悟!!」

 

と人混みから悲鳴が聞こえ伊丹と大場はホルスターからワルサーP-38を取り出し声のする方に向かう。

 

「なに!?」

 

「別口のケンカか?」

 

「道を開けて!」

 

「レレイこっちへ!」

 

二人が向かうと其処には右手を引き裂かれ胸をナイフで刺された男がいた。

「エムロイの使徒が不殺を宣言した決闘で」

 

「血が流れた・・・」

 

「衛士を呼んでこい!」

 

「下手人はどいつだ!」

 

「このロゥリィが仕切る決闘の場を汚したわけぇ 教えてくれるんでしょうねぇ グレイ・コ・アルド?」

 

「ハッ 聖下 こうして再びお目にかかることができ光栄です なれど 早急にこの場を離れることを進言いたします 刺客の一人を倒したとはいえ この場が安全とは限りません」

 

「ハ?刺客?」

 

刺客という言葉を聞いた伊丹達は驚く。

 

「聖下 シャンディー・ガフ・マレアでございます その者はこれでレレイ様を狙っておりました」

 

「な なんでレレイをーー」

 

「詳しくはこの場を離れてからーー」

 

「よし 中尉取り敢えずこの場を納めて切り上げよう」

 

「わかりました すぐ行こう さぁさぁ動いて動いて はーい 皆さん 決闘は終わりでーす 解散解散ーっ」

 

「どっちの勝ちだ?」

 

「皆さん 道を開けて 通るよ」

 

「はいはいどいてどいて すみませんねー ヤオ!宿の様子を見てきてくれ テュカも頼む」

 

「承知した!」

 

「仕方ないわね」

 

伊丹は、二人を宿に先に行かせて自分達は人通りの少ない道を通る。

 

「グリイさん?なんでレレイが狙われるの?あんなにいい娘なのに」

 

「グレイと申します それは・・・なんと申しましょうか・・・」

 

「二人は誰の命令で動いてる?」

 

「やっぱり皇女さん?」

 

「ーーはい レレイ様を帝都にお招きするよう仰せつかりました」

 

そして伊丹達は無事に宿に到着し先に行かせたテュカとヤオが待っていた。

 

「刺客!?レレイに?」

 

「左様です ロンデルにお迎えにあがる途中その情報を得て急ぎ参上しました」

 

「雇い主は?」

 

「それはまだ 迂闊に答えることは・・・」

 

「じゃあ理由は?」

 

「それなら話せるでしょ?」

 

「炎龍の首が帝都に掲げられてから レレイ殿の名声は帝都で知らぬ者がないほどです その方はそれを快く思わぬようでーー」

 

「首が帝都に?」

 

「ご存じなかったので?」

 

「あれは ダークエルフの部族が引き取っていったはず 炎龍が倒されたことを皆に知らせるとかで(政変のこと言い出さないけどまだ知らないのか?)」

 

「確かに効果はありました レレイ様の評判はこれ以上ないほど高まっております」

 

「それって・・・変じゃないか?なんでレレイだけが狙われる?テュカやヤオやロゥリィに俺や大尉もいるだろ?」

 

「それは レレイ様が外つ国や異種族ではなく 帝国臣民であるヒトだからです!」

 

「なるほど よそ者に炎龍を斃された事が知れ渡ればたちまち人々が困惑するからな」

 

そんな事を話していると風呂に入っていたレレイが上がってきた。

 

「わたしはルルドの一族 帝国の臣民なんかになったつもりはない」

 

「そんなこと民には関係ありません 誰も果たせなかったことを他ならぬあなたが成し遂げたのです 帝国に関係なく身内意識をくすぐられる者もおりましょう」

 

「ちょっと!それでなんでレレイが狙われるのよ?」

 

「今さらですがあなたはーー」

 

「わたしの義姉」

 

「なんと!先程のは姉妹ゲンカでありましたか」

 

「そんなことより炎龍の首って!?」

 

「あなたの妹君はここにおります皆様とともに炎龍を打ち果たすという功績をお立てになったのですぞ」

 

「は?なにバカなこと・・・・って 本当!?」

 

「どうも『さるお方』には気にくわないことだったようで『生きている英雄ほど厄介なものはない』『それがまつろわぬ民ならばなおさら』などと・・・」

 

「要はぁ・・・」

 

「嫉妬か・・・」

 

「くだらねぇ 嫉妬ほど醜いものはねぇ」

 

「刺客が何人放たれているか定かではありません されど 並大抵の腕ではないはず 我ら二人ではとうてい防ぎ切れますまい」

 

「わかってるよ 大事な身内を守るのを誰が嫌がる?」

 

「決まりだな 身内が殺されるかも知れないってのに黙っているはず無い」

 

「それでこそ 茶色の人 ともに刺客を返り討ちにいたしましょう」

 

「俺たちってそんなに好戦的にみえる?」

 

「まぁ まず中尉は見えないな」

 

そして深夜に伊丹達は、宿を出て行く。

 

「こんな夜中に御出発で?」

 

「ちょっとねー また来るから」

 

「世話になったな」

 

そして厩からSd Kfz11を出す。

 

「まさか 夜逃げとは・・・俺逃げるのは得意だから♪」

 

「威張ることか?」

 

「では ミモザ老師 学会の日に」

 

「また お会いしましょう」

 

「ええ レレイとアルフェをよろしくね」

 

伊丹と大場はミモザ老師と握手を交わしてロンデルをあとにする。

 

「あ〜ばよ〜ロンデル〜〜〜」

 

 



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軋み

結構長いです。多分今まで書いた中で一番長いです。


日本軍九七式司令部偵察機が帝都上空を飛行し航空写真を撮影している。

 

『帝都視認 』

 

『進路このまま撮影開始』

 

カシャ カシャ カシャ カシャ

 

何枚か写真を撮って九七式司令部偵察機は、基地へと離脱して行っ

た。

 

一方の帝都では、とある古い水路から悪所事務所に持っていく食料を栗林と黒川や悪所の娼婦達が運んでいた。

 

「あの穴は何だ?」

 

「使っていない地下水路に繋がってる むかぁ〜し 掘られたのを代々あたしらが受け継いでんのさ 出口は丘の反対側 ここは悪所の外へ仕事行く時使ってんだよ」

 

「これで最後 よっ」

 

水路で食料を積み上げ終えた栗林は、水路から出て蓋を閉じる。

 

「ミザリィ」

 

「取り分もらったかい?」

 

「うん」

 

「もらっちゃっていいのかい?」

 

「皆さんにはお世話になってるから困った時はお互い様だ」

 

食料を運びを手伝ってもらいながら事務所に向かっていると不意に声をかけられる。

 

「よぉ ミザリィ こんな昼日中につるんで仕事か?丘の上で兵隊でも相手にしてたのかい?」

 

「チッ」

 

「誰だ?」

 

「ゴンゾーリ家の若頭だよ ちょっと野暮用だよ あんたにゃ関係ない」

 

「その袋 もしかして食い物か?俺に言ってくれりゃいくらでもーー」

 

「ちょっと!」

 

「はい そこまで」

 

「あ?なんだこのガキ・・・」

 

「ベッサーラ 覚えてるか?」

 

そんなしつこく絡んでくる男に栗林が拳銃を突きつけながら割って入る。

 

「・・・・!」

 

「亜神クリバヤシ・・・」

 

「若頭っ」

 

「てめぇら ニホン軍がついてるからって いつまでも好き勝手できると思うなよ!」

 

と負け惜しみを言いながら去って行く。

 

「怒らせてよかったのか?」

 

「いーのいーの あれでも寝床じゃ素直でかわいい奴なんだよ」

 

一方アルヌスの日本軍司令部基地では、九七式司令部偵察機が撮ってきた航空写真を各指揮官や参謀と見って分析をしていた。

 

「帝都西 飛龍駐屯地 既舎が増設されています。東駐屯地も同様です」

 

「各門城外と皇城東の緑地に軍団の陣営 再編中の軍団と第1軍団 近衛騎兵を加えると 帝都守備隊は現在三万五千と推測されます」

 

「帝国北方のロー河河畔アルンハム 港に大型船が集結中 北岸の部隊をデュマ山脈方面に輸送するためと思われます」

 

「アルヌス周辺の状況はどうか?」

 

「クーデターから三日経ちましたが未だに平穏です デュマ山脈では資源探査班が飛龍との遭遇を報告しています 帝都イタリカ間のアッピア街道上の要塞では兵力増強が見られます」

 

「よろしい 巡回を今より密にし デュマ山脈の空からの監視を強化する ただし 帝国軍と遭遇しても自衛以外での戦闘は極力避けること」

 

「五百キロ以上ある 山脈のすべての山道を常時監視するのは厳しいな」

 

「試作の無人誘導偵察機があったらなあ」

 

「あれはまだテスト段階です 特地には持ち込めませんよ」

 

「帝国軍は ゲリラ戦術にも出てくるだろう 各師団は即応部隊の編成を急ぐように 吉田副大臣一行の状況は?」

 

「変化ありません 同行している江田島海軍中佐によりますと 今のところ帝国は外交協定を守っている模様 現在帝都の新田原少佐が情報収集に努めております」

 

一方帝都の悪所事務所では、情報収集と解析に努めている。

 

「了解送レ」

 

「あっ 倉田伍長 それ チョコレートじゃないか どこにあったんすか」

 

「背嚢の底に転がってた」

 

「おい 黒川達 帰ってきたぞ」

 

ガ チャ

 

 

「ただいま戻りました。物資の調達から帰りました」

 

「飯!飯!」

 

「糧食 来ましたーー」

 

だが兵士達は、持って来た食料にどんよりする。

 

「また干し肉と干しアプコかよ」

 

「贅沢言うつもりはないがせめて米か魚が食いたいぜ」

 

「パン小さくなったる」

 

「水気がねぇっ」

 

「四偵のいるPXに備蓄あるんじゃねえの?」

 

などと言ってきて苦労して手に入れて来た調達班の栗林がキレる。

 

「文句ある奴は食うな!」

 

「ひぃっ」

 

「今は、戦時なんだぞ!これだって手に入れるの大変なんだぞ!」

 

「スミマセン〜〜」

 

栗林に怒られ兵士達は我慢して食べる。

 

「栗林 これどこで調達してるんだ?店なんて開いてないだろ まさか・・・」

 

「古田兵長からです。ぶっちゃけ横流しです」

 

「なに!?」

 

「バレたらやばくないか?前任者 死刑だったんだろ?皇帝に毒盛った疑いで」

 

「大丈夫です ゾルザルのお気に入りですし 出入りの商人に頼んで分けてもらってるだけですから」

 

 

「おかげであたしらも助かってるよ」

 

ミザリィ達は、食料を持って二階の部屋に行く。

 

「飯だよー」

 

「あ どうも」

 

"この部屋の連中・・・他のニホン軍が忙しく働いてんのに 大抵部屋でゴロゴロしてるか姿を消してるか にらまれたら 体が痺れるような殺気をまとって帰ってくる時あるけど・・・"

 

「(いったい何者なんだろうね)ケンザキ エサだよ」

 

コン コン

 

とミザリィは、ノックをして隣の部屋に入ると其処には数人の斥候部隊がいて一際目立つのがベッドに横たわり本を読む剣崎少尉だった。

 

「飯が来たぜ」

 

「お ありがとよ」

 

「ケンザキ あんたの分」

 

「おっと」 グイ

 

「キャ!?」

 

バ サッ

 

と剣崎がミザリィの手を引っ張り込む。

 

「すまん 手がすべった」

 

「店開きしてる時にしておくれ///」

 

「禁止されてるからなーー」

 

「わかってるよ」

 

「事案発生や!」ガタン

 

「てめぇ剣崎 出雲少佐に報告するぞ」

 

「このやろーっ」

 

「いてて」ドタン

 

(フン・・・)

 

黒川と尾藤が食事を持って新田原少佐のもとに行った。新田原少佐は、今津大佐と連絡を取っていた。

 

『講和派の議員さんらは軟禁されてしもたんやな 帝都の様子はどうや?』

 

「クーデターから一週間経ちましたがまだ戒厳令下です。夜間外出禁止令が出され帝都への出入りが制限されたため 物資 特に食糧不足が目立ってきました。ここも同様で現地調達も困難になってきました 早めの補給をお願いします」

 

『なんでや まだ百五十食分はあるやないの?』

 

「翡翠宮の副大臣一行に多めに回しました。宮殿の現地職員にも渡しているようです」

 

『こーゆー時は金より飯か・・・わかった 輜重部隊の都合がつき次第送ったる。投下地点の確保よろしゅう 副大臣の状況はそっちでも把握しといてや 協定あるからって油断したらあかんで 馬鹿はな んな馬鹿なってことを平気でやるんや 常識捨てなあかんで』

 

「わ わかりました・・・今津大佐 何組かの講和派議員の家族が保護を求めているのですが」

 

『あかん!早まっちゃあかんで今の状況を維持することだけ考えてやあとは皇帝の健康状態それが情報見積もりの情報主要素や 命令は多いけど頼むわ新田原少佐』

 

「わかりました」

 

ガ チャッ

 

「皇帝の病状か 宮廷内にツテのある奴なんて・・・」

 

「少佐 三偵と一偵にいませんかね」

 

「はい そういうことでしたらピニャ殿下の側周りの方と個人的に親交を深めている富田軍曹が役に立ていると思います」

 

 

----宮廷----

そこでは、主戦論派の各大臣や軍人が参列しそしてピニャも参加していた。

 

『ゾルザル皇太子殿下御入来ーー!』

 

号令と共にゾルザルが入ってくるとピニャはゾルザルを呼び止める。

 

「兄上!なぜ ガーゼル候やキケロ卿を軟禁されたのか?さらには 新たな交渉代表が強硬派のウッディ伯やクレイトン男爵とは・・・兄上は講和を結ぶおつもりがあるのですか!?」

 

「・・・ピニャよ あの者らはニホンに買収された疑いがある 結果によっては罪に問わねばならん それまで謹慎させたにすぎん」

 

「ば 買収?その結果とやらはもちろん裁判で下されるのでしょうな?」

 

「今は戦時だ 軍陣中での利敵行為を罰するのに裁判なぞ不要 即断即決が勝利の要諦よ」

 

ゾルザルの強硬的な対応にピニャは唖然とする。

 

「皇帝が不豫の今 皇太子たる俺が取り仕切る 俺のやり方でなわかったか ピニャ」

 

"兄様は 軍陣だと強弁すれば好き勝手できると勘違いしている・・・"

 

「兄上・・・政事は占領政策ではないのですよ」

 

「うるさい 俺に説教するな 俺は皇帝のように寛容ではないぞ」

 

「ならば妾の首もはねますか?」

 

「馬鹿を言うなお前の他に誰がニホンとの間に立つ?俺は現状のままの講和ではいかんと言っとるのだ。ヘルム カラスタ ミュドラ!」

 

とゾルザルは、先の銀座事件で日本軍の捕虜になっていた三人を前に呼び出す。

 

「卿らに問う 帝国に勝利をもたらす腹案はないか?」

 

「皇太子殿下」

 

「うむ ヘルム申してみよ」

 

「ハッ 先の戦役を見ても戦列を並べまともに戦ってもニホン軍には勝てまさまい 。ならば 、戦の邪道に徹するのみ 怪異を掻き集めアルヌス周辺に放つのです 村々を襲わせ畑を焼き 殺し 姦し 焦土と化しましょう あくまで怪異どもの仕業 我らのあずかり知らぬこと我らは鎧を脱ぎ民の間に隠れ奴らの懐に入り込みます。ニホン軍には手を振ってやり背を見せたら矢を射るのです」

 

ヘルムのアルヌスを怪異に襲わせ混乱している最中に便衣兵に扮して日本軍を襲うと言う作戦は周りをざわめき出せた。それを聞いたピニャは腹を立てた。

 

「恥を知れヘルム!!貴様それでも帝国軍人か!!帝国の名誉はどうなる!?妾の騎士団創設に名を連ねた者の言動とは思えぬ!」

 

「ならば正々堂々と戦って負けますか?ピニャ殿下 名誉や誇りなぞ死んでしまえば意味がないくだらぬことです。負けてしまっては意味がないではないですか」

 

「き 騎士団でのそなたはどこへ行ってしまったのだ?」

 

「これが 私の本質です」

 

それを聞いて更に絶望するピニャ。

 

「ヘルム殿 いっそ兵に敵の装いをさせて街を襲うというのは?」

 

「その手もありますな 私とカラスタ殿はギンザで敵の姿をしかと見ている」

 

『それだ!』

 

と作戦案を聞いていたゾルザルが急に大声を出す。

 

「汚名はすべて敵に着せよ さすれば敵は疑心暗鬼に駆られ民はニホンを恨み敵視する ニホンは帝国と民の二つを敵にまわすのだ。その作戦直ちに始めるがよい」

 

「「「ハッ」」」

 

「兄上 やめてくだされ!帝国軍に臣民を殺させるのですか!?」

 

「うるさい もう下がれ俺は忙しいのだ。次!ルフルス次期法務官 先に指示した件はどうなっている?」

 

「ハッ オブリーチニナ特別法の草案は用意できております。法案が可決され次第講和派の一掃を始めます」

 

"まただ またこれだ・・・妾が積み上げる度に崩されてゆく・・・なぜこうなる・・・"

 

西宮ーーその後ピニャは次男のディアボのいる宮廷に向かった。中に入ると彼方此方と物が散らかっていた。

 

「なんだこれは!?兄様!ディアボ兄様!」

 

「うるさいぞ ピニャ 何の用だ?」

 

「ディアボ兄様 屋敷の者達はどうしたのです?それにその旅装はーー」

 

「側仕えの者らには暇を出した 金目の物は今までの褒美に取らせたが・・・見事に空になったなあ ピニャ お前も早く帝都を離れた方が身のためだぞ 奴は講和派を粛清したら自分に逆らう者を皆獄に繋ぐつもりだ。オプリーチニア特別法ーー」

 

「あの布告だけでも止めねば!兄様!妾といっしょにゾルザル兄ィにー」

 

「無理を言うな!あの馬鹿が今さら人の話を聞くと思うか?元老院も主戦論者の手にあるのだぞ!俺だって帝国の行く末を憂えている だから外っ国の力を借りるために帝都を出るのだ」

 

「外っ国!?そんなことをすればーー」

 

「すでにお前はニホン帝国の力を借りているじゃないか もういいだろ?メトメス行くぞ!」

 

「まっ待ってくだされ!後生ですから妾を 帝国を助けてくだされ!」

 

「あああ」

 

「ちょっ放せ!」

 

「殿下方ご冷静に・・・」

 

「メトメス どうにかしろ!放せって ピニャ!」

 

「嫌だ!妾を一人置いて行こうとする兄様の頼みなぞ聞かぬ!」

 

「だったらお前も逃げたらいいだろう!」

 

「父上を置いて行けますか!」

 

どうあってもピニャは、ディアボを離そうとせず渋るディアボは最終手段に出る事にした。

 

「・・・わかったよ」

 

「わかってくれましたか!」

 

「ただし条件がある あの炎龍退治の報告書・・・ダークエルフの女が一族を救うために茶色の人に我が身を差し出していたな」

 

「え?は はい・・・」

 

「同じことがお前にできるか?」

 

そう問われたピニャは、顔を赤くして正座する。

 

「言っておくが俺はしつこいぞ 男をしらぬお前に耐えられるか?」

 

「あ 兄様 妾達は血の繋がった兄妹なのだぞ?兄様の子を孕んだりしたらーー妾は 妾は・・・」

 

「ふん お前の帝国を思う心などその程度ということだ わかったか?もういいだろう脅かしてお前を試してみただけだ」

 

今のは冗談だと言うがピニャの耳には入っては来なかった。ピニャは去ろうとするディアボの袖を掴む。

 

「妾の・・・すべてを差し出せば・・・ゾルザル兄ィをともに止めてくれるのだな・・・こんな妹でよければ妾を抱いてくれ 兄様」

 

と冗談で言ったつもりがまさか本気で自分の身を差し出すとは思ってもみなかった。

 

「身を清め支度をしてくる しばし 待っていてほしい」

 

「ピニャ?おい待てって!」

 

「・・・ディアボ様どういたします?寝台をお使いなら整えますが」

 

「いらん!妹なんかとまぐわえるかっ 行くぞ!」

 

最初からその気がないディアボはさっさと逃げていた。そんなことを知らないピニャは風呂で身を清め美しいドレスやアクセサリーで身を固める。

 

"ゾルザル兄ィを止められるなら 妾はいくら堕ちようとーー"

 

「こんな時にどういうこと?まさか姫様にもとうとうーー」

 

「お相手はどこのどなたかしら」

 

「私が聞いたのはーー」

 

「供はいらぬ」

 

だがピニャがディアボの寝室に行った時には既にディアボは逃げた後だった。

 

『富と我が身を差し出すとするがるダークエルフの女を茶色の人は出発前に冷たくあしらっていた』

 

『だが今 膝の上で眠る端整な顔立ちのエルフの少年の頭をやさしくなでながら言うのだ』

 

「富やお前のために軍を抜けてまでここまで来たわけじゃないこいつを救うためだ」

 

「富が欲しい訳でも我が身欲しさでもないこいつを助けるためだ」

 

「俺は友のためならすべてを投げ打ち命を懸かる」

 

「俺は親愛なる友のため祖国のためには死ぬ事を恐れない」

 

『そう言うと茶色の人は眠るエルフを抱き上げた』

 

『そして決然と足を踏み出したのだ炎龍の待ち受ける魔の山テュベへとーー』

 

一人残されたピニャは寝室のベッドの上で泣いた。

 

「妾には 抱く価値もないというのか 兄様ーー」

 

 

 



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王として

夜間の帝都上空では海軍の一式陸攻が上空を飛行していた。 

 

『十一時上方に連山』

 

『帝都へ物資投下に向かう機だな山脈上に注意』

 

「特地に来たのはいいけどやってることはいつもと同じ・・・おっ」

 

後部座席に座っていた観測員が地上で微かな灯りを発見した。

 

「烽火確認 位置はっと・・・放棄された烽火台また使ってんだろ?」

 

「ああ陸軍サンが昼撮った写真みた」

 

「対空警戒網か 帝都についたら盛大な歓迎か?」

 

「それはない 資料で調べたら烽火の伝達速度は飛行機よりだいぶ遅いぞ」

 

同じ頃帝都上空を警戒活動中の竜騎士が上空を飛行していた。

 

「ミハエル 寝るんじゃねえぞ」

 

「寝てません!」

 

すると竜騎士が灯りを発見した。

 

「南下方に敵見ゆ!続け!!」

 

竜騎士達が近づくとそれは大型の飛行機だ。竜騎士が見つけたのは、大東亜戦争時アメリカ軍のB-17を接収し日本版に開発された重爆撃機『連山』だった。

 

「なんだあれは!?でかい・・・!古代龍並みだ」

 

「くそっ早い!あんな図体でっ」

 

「東の編隊が来た 挟み撃ちにするぞ!」

 

だが連山は急上昇をして竜騎士の追っ手から逃れる。

 

「翼竜なんかじゃ奴を止められん・・・」

 

一方の地上では帝都に潜伏している部隊が空中投下された補給物資を回収していた。

 

翌日、連山の事はゾルザルの元へと報告された。

 

「本日夜明け前 帝都へ侵入した敵『ヒコーキ』は 我が竜騎兵の迎撃により追い払いました。敵は古代龍級の大きさであったとのこと」

 

「烽火の報せが何時間も後に届いてはな・・・」

 

「は 帝都に敵が達する前に迎撃すべく 翼竜の一部をデュマ山脈方面の砦に配するよう指示いたします」

 

「うむ あのヒコーキとやらを一匹でも落とせば士気は大いに上がるだろう 任せたぞカラスタ公」

 

「ハッ」

 

カラスタ公は、退室し次にネイ法務官が商会からの贈答品の報告をする。

 

「ゾルザル殿下 各地の商会などから再び贈答の品が届いております。コルキ商会 テオネル商会 アンブレロ商会・・・」

 

「もうよい ネイ次期侍従長 その辺に積んでおけ 目録はテューレに渡せ」

 

「かしこまりたした」

 

「だめな連中ほど擦り寄って来ますわね」

 

「ああ 歴代皇帝の悪弊だ 俺は賄賂なぞ求めておらぬ 権力に金で擦り寄る商会なぞ俺の帝国にはいらん 目録に載せた商会どもは皆出入り禁止とするいいな?」

 

「はい」

 

「殿下 いささか性急ではございませんか?これほど刷新しますと宮廷内の混乱は拡まるばかりです」

 

「かまわん 混乱こそ俺の望みだ」

 

「混乱が望み・・・?」

 

「そうだ 俺は馬鹿を演じている間に官僚どもを観察してきた。そして一つの真理を得たのだ。連中は上から下まで自分達の慣習 面子 手続きに沿った政策しか実行に移さないのだ たとえ皇帝や元老院が改革を命じたとしても実行に移すのは官僚だ 実行に移す前に連中の考える『現実』に則して骨抜きにされてしまう。だがそれも官僚機構が健全に働いていればこそ 今のような状況ならば俺の命じたことを丸呑みせざるを得まい」

 

「と申しましても役人まで今のように混乱していましては成果も期待できませんが・・・」

 

「俺が求めているのは簡潔さと単純であることに他ならん それを整えるのが大臣らの仕事であろう?それもわからぬ者は混乱に溺れておればよいわ」

 

扉の向こうからルフルスのやって来たと報告が入る。

 

「ルフルス次期法務官が参りました」

 

「通せ」

 

「ゾルザル殿下 ご指示のあった オブリーチニナ特別法でございますがーー元老院はこのままでは可決できないと申しております。『帝権干犯』の定義が不明瞭で主戦派まで罰せられかねないと」

 

「なに?俺としては充分に簡潔にしたつもりだが・・・要はたまたま抵触した講和派を取り締まれればいいのだ 厳密にしすぎては反逆罪同様 空文になりかねん この際 令旨として発令されましては 命令ではだめだ議員どもの不安を煽りかねん ほとんどの者が派閥に関係なくニホンの品目当てに連中と接触しているからな」

 

「・・・殿下 単純に『陛下の政策を妨害する行為』と定義しましては?そうすれば議員の方々のほとんどは抵触いたしません こう言っては失礼ですが彼らは元老院で何もしていませんから」

 

「うむ それでは反対意見の一つも持てぬではないか?議員が議論を戦わせてこその元老院だ 理想の帝国とはそうあらねばーー」

 

「帝権干犯に関する定義を修正した法案の草稿はこちらに用意しましたが・・・」

 

「わかった そこに置いておけしばし考える 元老院には今度こそ可決しろと言っておけよ」

 

「かしこまりました」

 

するとゾルザルに気に入られゾルザルの元で料理人になった古田が料理を持って入って来た。

 

「昼食を持って参りました」

 

「お わかった入れ」

 

「失礼いたします」

 

「待っていたぞ フルタ」

 

「ルフルス法務官 ちょっとお待ちを 殿下 よろしいでしょうか?」

 

「ん?なんだ テューレ」

 

「ルフルス法務官は 多忙を極めておりますので私が連絡役を引き受けましょうか?そうすれば ここに法務官がわざわざ足を運ぶ手間もかかりません」

 

「そうしてくれるか?オブリーチニナの指導もあるしな ルフルス 報告はテューレを通せばいいぞ」

 

「では別室で打ち合わせをして参ります」

 

「いいのですか?言われたとおり持ってきましたが ゾルザル殿下がお目に通さないまま草稿を再動議にかけましても」

 

「いいのです。殿下の意に反する者はいずれすべて罰せられるのですから 法案が通りさえすればいいのです」

 

「殿下 食事はどうか食堂で召し上がってください このような場で簡単に済ませるなど王者たる者の品位に欠けます」

 

「俺は忙しいのだ ネイ そんなもの時と場所をわきまえておけばよい。フルタの作るものはどこで食ってもうまいぞ」

 

「ありがとうございます」

 

ゾルザルの我儘にネイは心底呆れ溜息を吐く。

 

「さて食うか お!?なんだこれは!?」

 

古田がゾルザルに出した料理は、アメリカにとって国民食とも言えるハンバーガーだった。

 

「円盤状に焼いた挽き肉と野菜などを小麦のパンに挟んだものでハンバーガーと呼ばれる料理です。そのままお手で持ってかぶりついて召し上がりください 仕事をしながらでも片手で食べられます」

 

「ふむ 聞いたことない料理だな」

 

と聞いたことない料理にゾルザルは、興味を示しながら口にする。

 

バ ク

 

「ん!うまい!肉は濃い味に酸味は・・・酢漬けの野菜か テューレも食えうまいぞ」

 

「あ はい いただきます」

 

「嘆かわしい・・・」

「どうだ フルタ そろそろ正式に宮廷料理人にならんか?今 ちょうど料理長の席が空いておる」

 

「ありがとうございます ですが自分には夢がーー」

 

「わかっておる わかっておる 自分の店を持ちたいんだったな 小さな夢と貶したらお前に怒鳴られたんだった」

 

「その節は失礼しました」

 

「いや よい正直小気味よかった 小身者にも誇りを持つ者がいるのだとな まあいい お前はお前の夢を叶えよ だがそれまで俺のそばで料理人に味を仕込むのだ。いいな?」

 

「はい 殿下」

 

「しかし フルタ 今日のお前は珍しく誤りを犯しておる。これだけじゃ足りんぞ?」

 

古田は、ハンバーガーを10個も作ったのにまだそれでも足りないと言って来たので内心『どんだけ食う気だよ』と思った。

 

「かしこまりました そろそろ残りが焼き上がるころです。一度に持って参りますと最後の方が冷めてしまいますので」

 

「フン 小賢しい奴め・・・俺が食っている間に持って来るんだ。そうだテューレ お前も行ってフルタの言う通りか確かめて来い」

 

「は はい」

 

「急ぎましょう テューレさん 殿下が食べ終わるまでにお代わりを持って来られるか競争のようですよ?」

 

そして古田とテューレは、急ぎ調理場に向かい残りのハンバーガーを取りに行った。

 

「・・・あなた 殿下が恐ろしくないの?よくあそこまで自分を通せるわね」

 

「そう言われても(料理のことは口を出されたくないだけでどうにかできてたら二代目とぶつかって料亭を飛び出すこともなかったし居場所がなくなって軍隊に入ることもなかったよ。本音を言えばゾルザルを怒らせでもしてさっさとこの任務を終わらせて三偵に戻りたい 何で気に入られちゃったのかなあ)」

 

「気を悪くしたらごめんなさい そんなあなたの夢が自分の店を持つことなんて?」

 

「テューレさんから見ればそうかも知れません でも自分にとっては店こそが自分の城であり国なんです」

 

「あなたは そのちっぽけな国の王様になりたいの?」

 

「ええ 料理を食べに来てくれるみんなが国民です」

 

「あなたの国の民草は幸せね いつもおいしい思いをさせてもらって けれど民草なんて気まぐれでわがまま よかれと思ってした結果が憎まれる原因になるかもしれないのよ?」

 

「だから努力するんです。そうしないとあっという間に潰れてしまいますから」

 

と古田の言葉にテューレは何かを感じた。

 

「どうしました?」

 

「あなたは 民に背かれるのは 王自身にその責任があると思う?」

 

「少なくともどちらかが一方的に悪いということはないと思いますけど・・・」

 

「・・・・そう あなたは 民に慕われる良い王になるでしょうね」

 

「そうなれるといいなあ さあ 急ぎましょう」

 

"なんて まっすぐな背中ーー"

 

宮廷執務室では、ゾルザルがハンバーガーを食らいながら書類に目を通していた。すると何かを探し始めた。

 

「どうされました?」

 

「いや 肝心のオブリーチニナ特別法案の修正草稿が・・・」

 

「ルフルス法務官が置いていくのを忘れたのでは?後ほど持って来るようテューレに申し伝えましょう」

 

「ああ そうだった テューレに任せたのだったな」

 

一方 ロンデル西方ランカストリア丘陵

 

「う〜ん これは・・・いささか小さいですな」

 

「ピッチピチ!」

 

とグレイは、ワイシャツを着ているのだがそれは伊丹達の様な体格に合わせて作られたものでガタイのいいグレイには、小さかった。そんな姿を見て笑うロゥリィやテュカそしてシャンディー。彼女もテュカから服を借りて女学生の姿だった。

 

「お お笑いにならないでやってください 聖下 我々はほとんど着替えも用意せず急ぎ帝都から来たんですから」

 

「そうだけどぉ ヨウジィ ぜったいわざとぉ グレイにその服貸したのよぉ」

「父さんならやりかねないわ 渡すときニヤニヤしてたもの」

 

「ま 着替えのない身としては助かりますが・・・しかし 考えましたな 宿もとらずに気まぐれに移動していれば刺客も追いつけますまい」

 

「けどぉ 乗り物が目立つからぁ 足跡は残るわぁ 学会があるからぁロンデルからそんなに離れられないしぃ」

 

とそんな事を話していると洞窟の方から動物の鳴き声が聞こえて来た。

 

キシャアアアアア

 

「なに!?」

 

「なにやら動物の声のようですな」

 

「廃鉱でしょ?アルペジオさん 前にも入ったことあるってーー」

 

とロゥリィ達が臨戦態勢に入ろうとしているころ、洞窟の中では、伊丹達が地を這うドラゴンに追われていた。

 

「あんなのいるって言ってましたっけ!?」

 

「去年来たときはいなかったの!!」

 

「そんな事よりも速く走れ!」

 

そうしているとアルペジオは、怪物の頭上に向けて鉱物魔法を発動する。それによって天井が崩れ落ち怪物は下敷きになった。

 

「今の内よ!」

 

「やべ!崩れるっ」

 

「速く行け下敷きになるぞ!」

 

そしてなんとか無事に外に逃げる事ができた。するとレレイがアルペジオを魔法を皮肉る。

 

「鉱道の中であんな魔法を使えば当然崩れる」

 

「くっ・・・私の魔法で足止めしたから無事出られたんでしょうが」

 

と二人は睨み合い火花を散らす。

 

「まあまあ 鉱物標本も確保できたし・・・」

 

すると崖の上から妙な音がして上の方をみると先の怪物が三匹が現れた。ロゥリィは斬りかかろうとしたが伊丹によって止められてしまう。

 

「にゃっ」

 

「みんな11に乗れ!」

 

みんなが11に乗りそのまま発進する。

 

「盛大に足跡を残してしまいましたな」

 

「さっさと次行く方向を決めよう」

 

「どうするんだ?中尉」

 

すると伊丹は分かれ道に差し掛かった所で車を止めてそこに地図を開き中心に棒を突き立てる。そして棒が倒れた方向にコンパスを合わせる。

 

「どらどら・・・方位三百二十六度 北北西か」

 

「・・・ねぇ 今ぁ 変な風吹かなかった?」

 

「?」

 

「吹いたか?」

 

「いいえ?」

 

「そうかあ?俺はいじってないぞ」

 

「そーお?」

 

「風で倒れたとしても別にいいんじゃないの?」

 

「んーけどぉ・・・いやな予感しかしないわぁ」

 

「んなこと言ってもなあ 招待状もらっちまってるし ロゥリィはハーディって神様に嫁行かない宣言するんだろ?ヤオも三行半突きつけるって」

 

「その通りだ」

 

「時期が悪いわぁ あいつのことだからぁ 刺客とかも一緒に招き寄せてそうだしぃ」

 

「此の身も聖下の考えに同意だ」

 

「あの・・・もう一度やってみては?」

 

「そうよ それがいいわ」

 

そういう事になり、もう一度棒倒しをする事にした。

 

「・・・も もう一度!」

 

棒を突き立ててみるとするとまた同じ方向に倒れた。伊丹の背後にいたロゥリィは、怒りのあまり木の棒を蹴り飛ばした。

 

「ハーディの奴ぅ!!」

 

するとロゥリィが蹴り飛ばした木の棒が風に乗って戻って伊丹の頭部に直撃した。

 

「いてっ」

 

そして木の棒はベルナーゴを指した。すると伊丹は、

 

「みんな!見方を変えるんだっ こいつが指しているのは北北西じゃなく南南東だ!!」

 

と伊丹の強引なやり方に皆感心する。しかし突然突風が吹き出した。

 

「わっぷ」

 

ゴ オ

 

そして突風が止んで再び地図を見てみると先まで南南東を指していた方の棒がベルナーゴを指していた。

 

「うげっ」

 

「・・・・」

 

これにはロゥリィも怒り心頭だった。目的地が決まりレレイ達は253に乗車し始めていた。

 

「決まりだな」

 

「行くしかないか ベルナーゴ・・・」

 

「チッ」

 

 

 



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冥王の神殿

目指す目的地がベルナーゴに決まり向かっていたがSd Kfz11の車内は重たい空気になっており誰も一言も言葉を発しようとしなかった。

 

「・・・人が増えてきたな」

 

「ベルナーゴへの巡礼路だし」

 

「ベルナーゴ巡礼こっちじゃ定番行事?」

 

「ええ イタミさん達も買った立派な巡礼案内書が出版されるくらい ベルナーゴは冥府の神ハーディを祀る神殿都市 死んだ人の魂が行くところが冥府 だから先祖や親しい人の冥福を祈る人達は 主神に関係なくベルナーゴ神殿に参拝するの」

 

「冥府ってぇとやっぱりあの世ってやつ?」

 

「ええ 地の奥底深くにあるそうよ 戦いに斃れたた者の魂は我が主神エムロイの下に召されるのよぉ」

 

「俺らの国にも戦没者の魂が迎えられるところあるぞ 靖國神社ってとこ」

 

「そうなのぉ行ってみたいわぁ」

 

「おう 今度連れってやるよ」

 

「一度主神のところとくらべてみたいわぁ」

 

(靖國と主神じゃ色々違う所があるだろうなあ)

 

そんな事を話しながらベルナーゴ巡礼路を順調に進んで行くがやはり自動車の無い世界では伊丹達の乗るSd Kfz11は目立つため行き交う人々から注目される。

 

「さすがに人の目につきますね 馬が引かない荷車だし」

 

「横の天幕下ろす?」

 

「この状況で襲撃はないと思いますが・・・」

 

「・・・ヤオ?さっきから何ブツブツ言ってんの?」

 

「・・・きっ棄教を告げる予行練習を・・・直接神に棄教を告げる信徒など此の身が初めてかも知れないからな」

 

「あいつはぁ信者のことなんて気にしてないわよぉ ジゼルの奴が言ってたでしょお?」

 

「そ それでもけじめはつけませんと 聖下」

 

「ロゥリィは気にする?」

 

「そりゃあ・・・唯一の信者がやることだしぃ」

 

「せっ 聖下・・・っ」

 

「はいはーい ベルナーゴにつくよー」

 

見えてきたのはベルナーゴの街への入り口の門だった。

 

「すごいな・・・・」

 

「ロンデルより古い街ですから」

 

中に入るとそれぞれ神秘的な建物があっちこっちに建てられており中でも一際目立つのがドーム状の形をした神殿だった。

 

「あれがベルナーゴ神殿か」

 

「宿とって車置いて歩くか アルペジオさん案内書におすすめの宿載ってます?」

 

「抜かりはないわ ベルナーゴって食べ物もおいしいそうよ」

 

「アルフェ 観光に来たわけじゃない・・・」

 

そして車を厩に止めて歩いて街の市場を散策しながらベルナーゴ神殿に向かっていた。街は何処も彼処も人々で賑わっていた。

 

「すごい歴史のある神殿だって言ってたから厳粛で堅苦しいところかと思ったら ここは浅草か巣鴨か・・・」

 

「こっちよぉ」

 

するとアルフェとシャンディーは鉱石や宝石のある店に立ち寄る。

 

「うわ ネモジムの原石が安いっ」

 

「あー これいいなぁ」

 

「安くしとくよ お嬢さん」

 

「なんで冥府の土産物に鉱石や宝石まで?」

 

「ああ それはですね。冥府のある地面の下はハーディの領域なんです だから鉱物も冥主の物ってわけで鉱山のある街はハーディを守護神にして採れた鉱石を貢納するんです。それが神殿の財源になり一部が土産物になるんですよ」

 

「フーン」

 

「そうなんだ」

 

「ちょっとぉー 何してるのぉ」

 

「あ すまん今行く」

 

「シャンディー殿」

 

「えー もうちょっと〜」

 

「レレイ お願い!十・・・二十デナリ貸してっ 必ず返すからっ」

 

とアルフェはレレイに頼んでお金を貸してくれるよう頼む。当のレレイはアルフェに二枚の金貨を渡す。

 

「え!?金貨・・・!?」

 

「別について来る必要はない 買い物がすんだら宿で待っていていい」

 

レレイにそう言われてアルフェは唖然とするが金貨を握りしめて立ち直る。

 

「・・・フッ あぶないあぶない 目先の石に惑わされてベルナーゴ神殿の奥深くを覗ける機会を逃すところだったわ」

 

その後神殿に向かうと入り口では神殿の参拝者たちによる長蛇の列が出来ていた。が伊丹一行は列に並ばずに入り口の方に向かった。

 

「何が研究の役に立つかわかんないしねぇ」

 

「並ばなくていいのか?」

 

「大丈夫よぉ 招待状持って来てるでしょぉ」

 

「あ そうだった こいつがあるんだ」

 

中に入ると白い神官服を着た使徒に無断で入った事で呼び止められる。

 

「ロゥリィ・マーキュリー聖下 使徒といえども主上様の許可なく神殿にはーー」

 

「これ見てくれるぅ?」

 

と伊丹はハーディから送られて来た招待状を見せると神殿の使徒達が一斉に跪く。

 

「お!?・・・ひかえおろ・・・」

 

ゴ ッ

 

と調子に乗っていたのでロゥリィと大場の鉄拳制裁を食らった。

 

「・・・・」

 

「調子に乗るな!」

 

「行くわよぉ 案内してちょうだぁい」

 

「こ こちらへどうぞ」

 

と奥の部屋へと案内された。すると広間では多くの信者達がハーディの居る地下への入り口に対して祈りを捧げている。そして伊丹達は、その地下への入り口に案内された。

 

「こちらです」

 

「・・・」

 

「大丈夫か ロゥリィ やっぱダメか?地面の下」

 

「ふっ 普段ならダメよぉ 他の神の領域を無断で侵すと色々ヤバイわぁ けど今回は大丈夫よぉ全然・・・ハーディ直々の招待状あるんだからぁ だいじょうぶなんだからぁ・・・」

 

「ロゥリィ 俺が先に行くわ」

 

と伊丹がロゥリィの先頭を行くロゥリィは伊丹の軍服の袖を掴み背中を見つめる。そして地下の通路に来ると奥には絢爛豪華な大きな扉があった。

 

「来訪者達よ 主上ハーディが降臨される それぞれの流儀で最上の敬意を示せ」

「へ!?いきなり!?」

 

「急だな!?」

 

そして大きな扉が開きロゥリィ、テュカ、レレイ、アルフェは跪き グレイ、シャンディーは右手を左胸に添え 伊丹と大場は頭を下げて敬礼をする。すると目の前に白銀の髪に赤眼の絶世の美女が現れた。その姿に伊丹と大場はその美しさに一瞬見惚れてしまった。

 

(この女がハーディか?想像していたのと違うな)

 

(こいつがハーディ本人?炎龍を使って多くの人に災厄をもたらした テュカやヤオにも なぜ親しみを感じる?・・・そういえばロゥリィが神は容姿を思いのままにできると言ってたな なんだ整形美人か)

 

そう心の中で呟くとハーディがロゥリィに近づいて何かを訴えるがロゥリィは知らん顔をする。

 

「?・・・ロゥリィなんて言ってるの?」

 

「『整形じゃない』って言ってるのよぉ」

 

「うげっ失礼しました・・・って 『心』読んでます?」

 

と伊丹が言うとハーディは、満面の笑みで返すどうやら肯定のようだ。

 

「マジか・・・迂闊なこと考えられねぇ・・・もうおそいか」

 

「人の心を読むとか ニュータイプかよ」

 

するとハーディが何かを言い出すと使徒達が一斉に顔を上げる。

 

「いったいなにを・・・」

 

「身体を使ってくれって自分を差し出してるのよぉ」

 

「・・・!神様を降ろすってやつか?」

 

「もうそれ身体乗っ取るって事じゃないか」

 

「主神をその身に迎え入れ 一体化することは最上の栄誉・・・ただぁ神なんて巨大な魂魄を降ろしたらぁ 大抵は精神を砕かれる けど神官として位を上げる好機でもあるわぁ 自らを保つことができれば・・・」

 

「自分も神様になれちゃう?」

 

「本人次第よぉ なれない例がほとんどだけどぉ」

 

「なんか神様になってもいいことなさそうだしなぁ」

 

「そう言えばぁ いいことなんてなぁにもないわねぇ けれどぉ信仰に生きる者にとっては何よりも価値は持つーー」

 

するとロゥリィはどれもお気に召さないハーディがある人物に注目したのに気づく、それはレレイだった。どうやらハーディはレレイがお気に召したようで近づいて行く。

 

『ハーディ 待ちなさい!!』

 

ロゥリィの言葉に耳を貸さず ハーディはレレイに近づき触れるとレレイに大きな衝撃が走り後ろへと吹き飛んだ。

 

「なんてことぉ・・・」

 

「うそぉ・・・」

 

『レレイ!』

 

「レレイ!?レレイ!!」

 

「レレイ しっかり!」

 

「ロゥリィ なんでレレイにーー」

 

「レレイは使徒でもなんでもないだろ!」

 

「キャ!?」

 

するもレレイに異変が起きた。突然レレイの髪の毛が腰の長さまで伸び何事もなかったかのように立ち上がる。

 

「・・・レレイ?」

 

「遠路はるばるよくおいでくださいました わたくしがハーディです」

 

 

 

 

 

 



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真相

ハーディがレレイに憑依した事に皆目を見開きながら驚く。

 

「さあ 参りましょう」

 

「へ?どこにーー」

 

「どこに行くんですか?」

 

「んー まずは食欲を満たすことにするわ」

 

「ま まだ 晩飯にはだいぶ早いですが・・・」

 

「つき合ってくれないと 後で酷いですわよ フフッ」

 

とレレイに憑依したハーディは、伊丹の腕に抱き着くが直ぐに振り払らわれてしまう。

 

「あら?」

 

(マジでレレイじゃない!あいつがあんな眼するわけないんだ!)

 

いつも無愛想のレレイがいつもと違って愛想がいいのが伊丹にとっては逆に怖いようだった。

 

「随分と冷たいのね この躰の娘がお嫌い?」

 

「そんなことはありませんがっ ハーディ様」

 

「ハーディ」

 

「は?」

 

「ロゥリィのことも呼び捨ててらしたでしょ?」

 

「え?いや あのーーハ ハーディ・・・さん」

 

「まあ・・・いいわ 今は ついていらっしゃい」

 

ハーディに連れられ伊丹達一行はとあるレストランで食事を取っていたが皆体系には似合わない食欲ぷりに苦い顔をする。

 

「・・・す 少しはレレイに気を使ったらどうなの・・・ですか!?」

 

「あ〜あ 神になんかなるもんじゃないわよねぇ 無限の時の流れの中で役割を果たすだけどんどん無感覚になっていくんですもの 感情すら忘れてしまいそう」

 

「だから食べると?」

 

「そうよ 精霊種たるあなたならわかるんじゃなくて?数千の齢を重ねたエルフの生の終焉を あらゆることに飽いて無感動になり 最後には我が身を大樹の苗床にしてしまうんでしょ?」

 

「・・・・」

 

「じゃあ 食欲を満たせばレレイを返してもらえるんですか!?」

 

「ええ でも色々楽しんだからね」

 

「そんな・・・」

 

「もちろん 望みがかなったら今すぐ返してあげる ロゥリィ わたくしの嫁になりなさい 一緒に溶け合って永遠を楽しみましょう」

 

「いぃやぁよぉ もう間に合ってるものぉ」プイッ

 

「こちらの殿方のこと?」

 

とハーディが伊丹を指すとロゥリィは黙り込む。

 

「そう構えないで欲しいわ この躰の娘が好きなんでしょう?」

 

 

するとロゥリィが伊丹に近寄ろうとするハーディにハルバートを突き付ける。

 

「いい加減にしないとぉ怒るわよぉ」

 

「亜神の分際で礼儀を知らない娘だこと」

 

「正神だろうと関係ないわぁこれこそ礼儀の問題よ さっさとレレイから出て行きなさぁい」

 

「いやよ 霊格の低い娘しかいなかったんだもの仕方ないじゃない 久々の肉の躰よ ちょっとくらい貸してよ」

 

「誰があんたなんかに・・・ヨウジィもレレイもぉわたしぃのものよぉ」

 

「まあ かわいい妬いてるの?」

 

「愛のない交わりで真の歓びは得られないわぁ」

 

「さすが愛の神を目指すだけあるわ やっぱりあなたがいいわ 二人で愛し合いましょ」

 

「・・・だからぁ やめいっ 何回断ればわかんのよぉっ 今回来てやったのもそれをはっきり言うためだからぁ」

 

「あら残念 じゃあ そこのエルフの娘はどう?女の子でもイけるクチなんでしょ?」

 

「ハーディ様はお断りです 好きになれないから」

 

「はっきり言ってくれるわね そっちのダークエルフはどお?」

 

「御身なら聞かずともわかるはずでは」

 

「いじわるねぇ 今の肉の躰を通してしか意思を受け取れないのよ」

 

「ならば改めてお断りします。本日参上したのも信徒たる位階を返上申し上げるため 以前なら答えも違っていたでしょうが・・・友人 一族を・・・炎龍の餌とされた今となっては どうして御身に 好意など」

 

「ヤオ抑えろ」

 

「冷静になれ」

 

「・・・はい」

 

「ふうん そういう関係?だったら相手するよう命令してよ」

 

「お断りします ハーディさん・・・あなたがヤオやテュカに嫌われる理由はわかっているはず」

 

「知らないなんて言わせないぞ」

 

「・・・ええ だからといってあやまったりしないけど」

 

「な なぜです!?」

 

「なぜ?不毛な問いね 飲めば飲むほど渇きの増す海水と同じ 苦しみはなくならない だったら素直にわたくしを憎みなさい わたくしの罪悪感を掻き立てるために理由フリなんてしなくていいわ」

 

「フ フリとおっしゃるのか!?我らの怒りや苦しみを!」

 

「ええそうよ なんとも感じないもの わたくしは常に確信犯なのだから」

 

「ひ 酷すぎる!」 ダ ン

 

「酷い?なにが?弱肉強食は世界の習い 何を食べるか決めたのは炎龍自身よ わたくしが皿にあなた達を盛ったわけじゃない だから かわいい炎龍が討たれたことに文句は言わないわ そもそも冥府の王はわたくしなのです。死者の幸福は約束します。彼らは現世からあの世へ移り住んだだけ あなたの両親も友人もかつての婚約者も冥府で幸せに暮らしてあかるのよ」

 

「・・・幸せ?幸せだと!?幸せは神が与えるものじゃない自ら掴み取るもの・・・勝手に決めつけるな!!」

 

とヤオは片手剣を抜きハーディに斬りかかろうとしたが伊丹と大場によて止められる。

 

「やめろヤオ!躰はレレイなんだぞ!」

 

「止めるなイタミ殿 オオバ殿 此の身はっ 此の身はーー」

 

「わかってるけどダメだ!!」

 

「ハーディを殺すと言うことはレレイも殺す事になるんだそ!!」

 

「ロゥリィもだ!見てないで止めろよ!!」

 

「ーーー」

 

「・・・はい」

 

ロゥリィに睨まれヤオはハーディへの怒りの衝動を抑える。

 

「ハーディ 魂はおもちゃじゃないのよぉ 人形みたいに扱うのはやめて」

 

「救い出したければエムロイの使徒らしく戦って勝ち取りなさい」

 

「・・・そろそろ本題に入りませんか ハーディ様」

 

「何時迄もこうしていても埒があかない」

 

「その方がよさそうね あなた達に行ってもらいたいところがあるの クナップヌイ 何が起きているか見て確かめて来てちょうだい」

 

「クナップヌイ?」

 

「ベルナーゴ北方の辺境ですな」

 

「なぜ俺達に?」

 

「この世界のーーいえ 『門』で繋がった二つの世界の行く末に関わることだから」

 

「俺達の世界にまで・・・?」

 

「どう言うことだ?」

 

「・・・宇宙開闢の瞬間を源泉とする 川のようなもの 時空の地平たる混沌へ流れていく多くの川・・・山や谷の間を蛇行し狭くなったり隣の川と合流するほど近付いたりする そこへ軽く力を加えるとーー二つの世界は接触する その時『門』が開くの しばらくすると二つの流れはまたそれぞれの目的地へ離れていく・・・アルヌスの『門』は二つの世界の接点 本来は不安定な小さな穴・・・そこへ帝国の魔導師は『門』が消えないよう魔法装置を作ってしまった。例えるなら石の桟橋に船を錨でがっちり繋いでしまったの」

 

「なるほど・・・」

 

「そういうことか」

 

「時の流れは止まらない 船は繋がれて動けない それでも船は行こうとする・・・どうやっても流れには逆らえない すると 船体と桟橋はどうなるかしら?みしみし・・・きしきし・・・めりめりっ 桟橋にも亀裂が入ってーー起きたでしょ 地揺れ」

 

「ハーディ あんたの狙いはなぁに?」

 

「この世界をより美しくより素晴らしくするためかしら?」

 

「引っかき回すためでしょお?」

 

「そうとも言うわね」

 

「その割にはぁ なんであんなところに穴を開けたのぉ?」

 

「単なる偶然よ」

 

(偶然ってだけであれだけの犠牲者が・・・!?帝国が自分より強大な存在を知ったことで硬直した古い体制は揺れ動いている)

 

「ヒトによるヒトのための国がヒトだけで支えられなくなった。これから様々な種族が台頭してくることでしょう 面白いことになるわ。わたくしは見てみたいのよ 人間がこれからどんな決断をし どんな行動をするのか それが果たされた今わたくしは冥王としての責任を果たすため もはや不要となったあの魔法装置を破壊するつもりでした。そのためにアルヌスを占領している異世界の軍隊を排除しないといけない ジゼルじゃ負けそうだしあなたは手を貸してくれないでしょ?だからーー炎龍を目覚めさせたの」

 

 

魔法装置や日本軍を排除するために炎龍を目覚めさせたと聞いてヤオ、テュカ、伊丹、大場は目を見開き言葉が出なかった。

 

「そんなことのために・・・!?言葉のわかる相手なら炎龍を使わずとも話し合えばーー」

 

「プッ あなたがそれを口にするの?アルヌスで散々駆けずり回ってどうだったかお忘れ?」

 

「うっ・・・」

 

「いずれにせよ あなた達に任せます。わたくしの邪魔をしたのだから責任を取りなさい。わたくしはもう黙って見ているだけにします。見て 考え 決断し行動しなさい クナップヌイにはジゼルを行かせてるから報告は不要です」

 

「・・・はあ わかりました。なんか釈然としないな」

 

「・・・本当にわかってる?」

 

「ヨウジィはぁいつもこんな顔ょ」

 

「おかしいわね ジゼルの話と何か違うわ 五十ユン四方を一撃で掘り返す力を持ったバーサークだって聞いてたのに」

 

「は!?俺が?」

 

「正反対よぉ ヨウジィはいつも逃げてばっかり」

 

「面倒なことを避けるのに長けている」

 

「痛いとか辛いことも嫌いよね」

 

「なんでそんな奴が帝国軍人になったか不思議だよ」

 

「ほっとけ!どうせ面倒くさがりの臆病者ですよ〜」

 

「ヨウジィはそのままでいいのよぉ」

 

「こんな奴に炎龍が落とされたっていうの!?」 ガタン

 

伊丹の正体が聞いていた話と正反対の人物だった事に驚き椅子から立ち上がる。

 

「俺一人でやったんじゃないスけど・・・」

 

「ヨウジィを本気にさせたかったらぁ よっぽど追い込まなきゃあ」

 

「・・・わかりました。では やる気が出るよう褒賞を出しましょう」

 

「褒賞?」

 

するとハーディは、レストランの向かいの建物に向かって容器を投げた。すると建物から鎧を纏った男が落ちて来た。すぐにグレイとシャンディーが見に行く。

 

「刺客のようですな」

 

「なんで追いついて来るの!?今日ついたところなのに・・・」

 

「あなた達を悩ませる問題の大部分を片付けてあげます。この娘を狙っている連中に夢のお告げをくだしました。軽率な連中はここに集まって来るでしょう」

 

「夢のお告げってやっぱりぃ あんたぁ・・・」

 

「まあそれでも助かります。これでだいぶ楽になりますから」

 

「あきれた まだ 逃げるの?」

 

「だめですか?」

 

「・・・信じられない あなたがいて人生の大事な真理を教示してないの?」

 

「ヨウジィには必要ないのよ」

 

「いいですか?『問題』は 逃げれば逃げるほど行く先々で待ち構えているものなのです。この先の試練は避けて通ることができないわよ。そろそろ覚悟を決めなさい この娘を学会に出席させるんでしょ?」

 

「・・・ええ わかってます」

 

「けど もしも もしもですよ。学会に出ずに逃げたらーーもう わかっているんでしょ?あなた達の敵はあきらめない 私のお告げに釣られなかった手練がどこまでも追って来る。そう 最後にはあなたの大切な人達のいるアルヌスへ」

 

「あー やっぱり?」

 

と伊丹は苦笑いをしながら参っていた。

 

その後伊丹達一行はベルナーゴを出発する。Sd Kfz11の中で元に戻ったレレイは、神が離れてもまだ伸びたままだったので切り落とした自身の髪の毛の束を見つめて物思いにふけっていた。時を遡りハーディがレレイの躰から出た頃。

 

"神官ならぬ身で神たるわたくしをその身に降ろした褒美として 聖術の使用を許します。その髪を触媒としなさい。ただし一度使うとその用途は定まってしまいます。よく 考えなさい あと・・・久しぶりにごちそうを食べたから ちょっっと食べすぎちゃったの 脂肪をある部位に集めることもできたけど 彼の好みと変わっちゃってもいやでしょ?だからやめておいてあげたから フフフ・・・"

 

そう言ってハーディは消えていた。そして現在、

 

「その髪見た時の神官達の物欲しげな顔覚えてる?髪先整えたときに出た小さな髪の毛残らずかき集めて 布に織り込んで神殿に祀るそうよ」

 

「レレイが壊れなくてよかったわぁ」

 

「何か体調変わったところないよな?この件どう報告するかな・・・」

 

「・・・大丈夫」

 

 

 

 



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別れの炎

1946年 1月下旬 帝都東京 外務省

そこでは、外務省の官僚が食事を取りながら手元の書類に目をどうしていた。参加者は、外務大臣『東郷茂徳』とその官僚などが集まっている。

 

「あー なんだっけな オプリチニン?」

 

「オープリーチニアです。大臣 現地語で『皇帝の主権及び権威を擁護回復するための委員会部』の略称です」

 

「ああ そうだったな ゾルザルは こいつを使って講和派を抑えるつもりか?現地の吉田達の安全は確保できているんだろうな?」

 

「はい 今のところは」

 

「問題はこの『帝権擁護委員会部』です。報告によりますとオプリーチニナ特別法では帝権干犯とは何かを委員部自身が主権的に判断できるとあります。『皇帝の主権と権威が脅かされている状況から回復が全てに優先される』これでは具体的証拠がなくとも強制捜査と逮捕が可能になります」

 

「文句どころか 不満を持つこともできないってことか。そんな連中に中立性なんかないな」

 

「はい 。構成員は強硬な主戦論者の青年貴族軍人を中心に四百人現在も増加中です。中心人員の数人は先日送還した銀座事件の捕虜と確認されています。『帝権擁護委員部』のやっていることは ソ連の『内部人民委員部』とほぼ同じです」

 

「大島駐独大使の報告にあったあいつらか」

 

「現地では『掃除夫』と呼ばれています。コバルトの兜と箒はコバルトのように裏切り者に噛みつき 国から掃き出してやるという意味だそうです」

 

「なるほどな・・・ゾルザルって奴はここまでやるか」

 

「クーデター後 日中は人の動きもありましたがオプリーチニナが発足してから帝民は連中を怖れて閉じこもっています」

 

「ひでえな 完全に恐怖政治じゃないか。飯の途中だっな さっさと食っちまおう」

 

「あ はい」

 

「今朝の特地対策会議で陸軍省と海軍省から上がってきたあの要請どう思う」

 

「異常事態に対する専門家調査団の派遣要請ですね」

 

「クナップヌイでしたっけ」

 

「異常も何も特地が銀座と繋がってること自体 すげえ異常だけどな」

 

「民間の専門家の特地への立ち入りは安全面を考慮して禁止していましたからね。クナップヌイ一帯は天候不良で空撮はできなかったそうです。わざわざ危険を冒して現地で調査する必要があるんでしょうか?陸軍省と海軍省はどこから情報を?」

 

「それがなあ 神様だとよ」

 

東郷から行成神様と言われて官僚達は黙り込む。

 

「・・・大臣?意味がよくわからないのですが・・・」

 

「資料にはなにもーー」

 

「会議の後で杉山さんと嶋田さんから聞いたんだ。俺だってあの亜神だとかいう九百歳超えの嬢ちゃん(?)見てなきゃ信じたかどうか しかも『神様』から聞いてきたってのがその嬢ちゃんもいる伊丹と大場の探査班なんだぜ?」

 

「あの伊丹耀司陸軍中尉と大場栄陸軍大尉ですか!?」

 

「それは無視できませんね・・・」

 

「だろ?」

 

コン コン コン ガチャ

 

「東郷大臣!お食事中失礼します。至急官邸にお越しください 特地から緊急報告がっ 帝都で講和派に対する一斉弾圧が始まりました!」

 

と部下から帝都で講和派が弾圧が開始されたと言う報を受けて東郷外務大臣は直様首相官邸に向かった。

 

「吉田代表団の滞在先に動きはまだないんだな」

 

「はい しかし現地では講和派議員や貴族の逮捕が続いています。もはや安全な場所はアルヌスか翡翠宮にしかーー」

 

「あ?何が言いたい?」

 

「こ 講和派の一部から匿ってくれとの再度の打診が・・・」

 

「だめだぞ!今肩入れしてみろ主戦論派を助長させるだけだ やはり講和派は売国奴だとな」

 

「ですが大臣 このまま見過ごせば・・・代表取材団のアルヌス入りも始まりますし」

 

「批判のための批判する連中なんかほっとけ 逮捕だけか?処刑は始まってないんだよな?」

 

「しかし時間の問題かとーー」

 

「ーーいいか 中途半端な手助けは相手の立場をかえって悪くすることもあるんだ。今捕まってる連中を助けるとなったら一気呵成に一人残らず助けなきゃいかん 置き去りになった人間のことを考えろ」

 

東郷の言葉に官僚達は複雑な顔をする。

 

「俺は助けるなって言ってるんじゃない 機を窺えと言っとるんだ」

 

そして東郷大臣は玄関に用意された車に乗って官邸に向かった。

 

「杉山陸軍大臣と嶋田海軍大臣に連絡を取ってくれ 救出作戦の準備を進めているか 確認を取るんだ」

 

「いっそのこと当初の計画通り帝都を占領してしまっては・・・」

 

「そうしたいのは山々だが今の日本にそんな余裕はない まだ特地は帝国に維持させる必要がある。安っぽい正義感で日本そのものを危うくするわけにはいかない」

 

「・・・わかりました」

 

「・・・くそっ なんてこった」

 

一方、帝都

帝都は今やゴーストタウンと化しかつての賑わいは無くなっていた。往来では人一人もおらず皆家に引きこもっていた。そしてここ講和派議員の一人キケロ卿の屋敷では講和派の議員が集まっていた。

 

「キケロ卿 ギンザ戦役から還ってきた甥御さんも『掃除夫』に・・・?」

 

「いや だが皇太子府におるそうだ。あやつもいい大人だ。自分の道は自分に選ばせたよ」

 

「うちは家族をセリアの領地に脱出させたが・・・」

 

「卿の夫人は残ったのか?」

 

「あれは梃子でも動かんよ」

 

「ところで・・・誰かガーゼル候の行方を知らぬか?」

 

「屋敷は掃除夫に踏み込まれたとは聞いたが特別法の布告前に一族と使用人を辺境の領地に逃がしたそうだ」

 

「ガーゼル候自身はまだ残っているらしい」

 

「元老院議員として耳をふさいで田舎に引きこもるわけにもいかんしな 儂も覚悟はできてる」

 

「あなた!あなた!」

 

「なんだい?落ち着きなさい」

 

「そっ そっ 掃除夫が来ましたよ」

 

とキケロ卿の夫人が掃除夫がやって来た事を告げるとキケロ卿達は来るべき時が来たと言った感じで覚悟していた。

 

「意外と遅かったですな」

 

「では諸君 出迎えようか」

 

オプリーチニナによる粛清は苛烈を極め 少しでも抵抗や逃亡の素振りを見せた者には 容赦なく刃が振るわれた。そしてテュエリ家の屋敷では、掃除夫の粛清から逃れて来たガーゼル候が匿っていた。

 

「ガーゼル様 もっとミールを召し上がりませ」

 

「いや シェリー 儂はもういいよ 君こそもっと食べなさい 伸び盛りなんだから」

 

「もちろんちゃんと食べてますわ。けど食べすぎるとお腹がぷよぷよしてきて・・・ただでさえ子供体型なのにスガワラ様に嫌わられてしまいます」

 

「おやおや もう食い気より色気かい?」

 

「まあ ひどい!乙女の恋心を貶めるのですか?」

 

「おっと失礼許してくれ」

 

「ダメです!罰としてきちんと食べていただきます」

 

「(この家の蓄えも少ないはずなのに・・・)こんなに食べられない 助けてくれ!いやあ 随分とよい子に育てたじゃないか」

 

「生意気なことでお恥ずかしい」

 

「いやいや 褒めるべきことだ 若さに似合わぬ見識の広さと謙虚さ この娘は明日の我が一族を支える柱になる」

 

「それがこんなことになろうとは・・・」

 

「明けぬ夜はない暴風もいずれ去ろう 食える時に食って耐える力を蓄えようじゃないか」

 

ガシャーン

 

「お館様大変です!掃除夫が踏み込んで参りましたっ」

 

ドン ドン ドン

 

「開けろ!ガーゼル候がここにいるのはわかっているぞ!!」

 

テュエリ夫妻は直ぐにガーゼル候の避難を開始する。

 

「侯爵閣下こちらへ!お前達は荷物をまとめるんだ」

 

「か かしこまりました」

 

ガーゼル候を避難させている頃、掃除夫は痺れを切らして強行突入に移り出た。それを迎え撃とうとテュエリ家の使用人が打って出る。

 

「汚らしいコバルト頭どもがっ 一歩も通さんぞ!」

 

「わあああっ」

 

「帝権を犯す不埒者めっ」

 

テュエリ夫妻はガーゼル候を逃がすために蔵の中にある地下通路への入り口にやって来た。

 

「蔵の中に地下水路への入口があります。モルア川へ通じていますのでそこから お逃げください」

 

「すまぬ!」

 

「シェリーわかるね 案内して差し上げるんだ」

 

「はい!お父様とお母様もお早く!」

 

「わかってるよ 母さんと荷物を持って後から行くから」

 

そう言って夫妻は愛娘をガーゼル候と共に地下水路に行かせる。

 

「ガーゼル様 こちらです」

 

その頃、掃除夫はテュエリ家の使用人を殺害しガーゼル候を探していた。

 

「ひっ」ガ スッ

 

「家の者も皆同罪だ!」

 

「ガーゼルを探せ!!」

 

残ったテュエリ夫妻は蔵の入口を塞ぎ甕に日本から贈られたアルコール度数の高い酒を入れていた。

 

「シェリーさえ 生きていればテュエリ家は残る」

 

「大丈夫ですよ あの子には心強い婿殿がついてますもの」

 

「男を見る目は確かだからな」

 

「父親の教育がよかったのですよ」

 

「いやいや お前譲りの器量だろ?お前は俺を選んだじゃないか それが男を見る目がある証拠だ」

 

「お館様 お逃げ・・・ぐふっ」ズッ ドサ

 

掃除夫が使用人を殺してテュエリ夫妻の前に現れた。

 

「こんなところにおられましたか テュエリ家の当主と奥方ですな」

 

「いかにも それでお客人諸君らは?」

 

「我らは、オプリーチニナキ あなた方には帝権干犯の疑いがある ご同行いただきたい」

 

「帝権干犯?はて?どういう意味かな?」

 

「疑いが晴れれば意味がわからぬともいいでしょう 即解散いたします。ただ 私的外交の罪ですでに有罪であるガーゼル候の行方は 何としてでも話していただきますよ ところでご令嬢はどちらに?ご令嬢にも私的外交の嫌疑がかかっておりますが 十二歳でしたかな 取り調べに耐えられますかねえ」

 

「・・・なにぶん 放蕩娘でね その手のことには慣れてるんだ 今もどこぞの男と桃色遊戯に耽っとるんだろう」

 

「まあ!あなた!それはちょっと言い過ぎではありません!?」

 

「フン!礼儀正しかろうと盗まれようと・・・娘が他人の男に奪われることは変わらんじゃないか」

 

「あーーもしもし」

 

「ま!やきもち?大人げないこと」

 

「夫婦喧嘩は バスーン監獄でごゆっくり おい!」

 

「ハッ」

 

「おやおや せっかちな客人だ」

 

「あら いけませんわ お客様にお飲み物もお出しせずに」

 

そして夫人は甕に入った酒を掃除夫に掛ける。

 

バ シャァ

 

「!?」

 

「なんだ!?酒を!?」

 

「あつっ」

 

「目が・・・っ」

 

「貴様ぁ!!」

 

「おい 待て!」

 

そして夫人は火の付いたローソクを投げ 酒を被った掃除夫達は火達磨になった。

 

『わ あ あ あ』 ボッ

 

「ひいい」

 

「わあああ」

 

「火を消せぇっ」

 

すると火達磨になった掃除夫達が暴れてそばに置いてあった甕が倒れ中に入っていた油が漏れ出す。

 

「油・・・!?」

 

「ああああ」

 

油が漏れた事によって火の勢いが増した。テュエリ夫妻は燃え盛る炎の中最後の美酒を味わっていた。

 

「スガワラからもらったこの酒 本当に強いなあ もったいないことしたかな シェリーの亭主になる男と酌み交わしたかった」

 

「わたくしは孫を抱きたかったですわ」

 

「あいつの花嫁姿が見られないのも残念だ・・・おいおい次々と未練が出てきてしまうな」

 

「フフッ わたくしと結婚できたことで満足なさいませ」

 

「そうだな・・・」

 

「人生の願いのほとんどはそれでかなった 残りの半分はこうしてーー」

 

とテュエリ夫妻は焼け落ちる屋敷の中共に寄り添うながら静かに最期の時を迎えた。

 

一方、地下水路で逃げたシェリーとガーゼル候は、コロッセオの近くのモルア川に出た。

 

「見張りも掃除夫もいませんわ」

 

「そうか よかった(あの二人 もしや・・・いや 気のせいかもしれん だがここでぐずぐず待っているわけにもーー)」

 

「お父様達 遅いですわね ちょっと見てきますわ」

 

「だめだ!」

 

と戻ろうとするシェリーの手を掴んで止めるガーゼル候。

 

「離してくださいまし!お父様とお母様は途中で難儀なさってるんです」

 

「戻っちゃいかん ここを早く離れるんだ!」

 

「イヤ!離して!!」

 

融通が利かないシェリーにガーゼル候はシェリーを抱き抱えて行く。

 

「降ろしてくださいませっ お父様達のところに戻るんですから!」

 

「これ!静かになさいっ」

 

その時わずかな隙間から自身の屋敷が燃えているのが見えた。

 

『い や あ あ お父様!お母様ぁ!!』

 

「こらっ あばれるでないっ おっと」

 

それでもなおガーゼルから離れて屋敷に向かおうとする。

 

「行っちゃいかん!!ご両親は君を助けるために犠牲になってくれたのだ。お二人の思いを無駄にするつもりか!?」

 

「そんなの嘘ですわ!お父様は後からすぐに行くと言ってましたもの!迎えに行かなくちゃ!」

 

「だめだと言っておろうっ」

 

「いやっ 離して!お父様とお母様のところに行くんです!」

 

『聞き分けなさい!!』 パ ン

 

とガーゼルはシェリーにビンタを食らわす。

 

「さあ 立ちなさい」

 

逃げる際もシェリーは泣き続け目が赤くなるまで泣いた。

 

「ううっうっ うええ・・・えぐっ うああ」

 

「泣くな!うっとうしい(こんな小娘一人救えん元老院議員が 国を救うことなどできるのか・・・)」

 



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逃走

帝都の街をひっそりと逃げるカーゼルとシェリー。シェリーの目は大粒の涙も出ず赤く腫れていた。

 

「ーーん?ここはさっきも通ったな・・・やれやれいい加減疲れたわい 帝都を脱出せねばならんのはわかっておるが・・・こあなると帝都は城壁に囲まれた檻だ。シェリー まだ歩けるかね?儂は腹が減ってさすがにきついぞ 君の言った通りちゃんと食べておくのだった」ハッハッハッ

 

と冗談かしこに言うがシェリーはまったくもって無反応でその目にはすでに光さえなかった。

 

「(・・・仕方あるまいあんな形で両親を亡くしてしまったのだ。歩いてくれるだけでもよしとせねば・・・)さて 日も暮れてきたし そろそろ隠れ家を見つけんとな・・・どうしたものかな」

 

「・・・まずは 食べ物を手に入れましょう」

 

とこの時初めてシェリーが口を聞いたのだった。カーゼルは驚き振り返った。

 

「わたくしも お腹が減りましたから」

 

「あ ああ あーだがなあ 店は開いておらんし 儂は財布を置いてきてしまっておる」

 

今の二人を文無しでどうするか考えているとシェリーにいい案が浮かんだ。

 

パン「では 市井の皆さんに頼んでみましょう」

 

一方、燃えたテュエリ家の屋敷を鎮火した掃除夫達は即座にカーゼルとシェリーやその他の死体を捜索していた。

 

「蔵から続いていた地下水道はモルア川へ通じていました。ガーゼルらはそこから逃げおおせたに違いありません」

 

「ただちに追跡をーー」

 

「火が出て半日の時が経っているのですよ?カーゼルらが待っているとでも?委員部長?君の拙劣な現場指導であたら優秀な委員達を失いました。しかも講和派の首魁まで取り逃がすとは・・・」

 

「ま まさか テュエリ家の者が火を放つとまではーー」

 

「連中が全員腰抜けだと?腐っても帝国議員なのですよ?誇り高い自死を選ぶ者もいるでしょう その意味ではテュエリ家の当主と細君は尊敬に値します。実に見事な最期でした。それに比べて君はどうですか?」

 

「し しかし法務官殿 私もすでに六十五家の捜索を指導し二百六十三人を拘引ーー」

 

「数の問題ではないのよ 重要人物の行方こそが大事なの ディアボ殿下は今いずこ?カーゼル侯爵は?見つからないのは誰かがゾルザル殿下に隠れて わざと怠けているからかしら?見ての通り 私の耳は物事がよぉく聞こえます。誰が怠けているか知っている人はちょっと囁いてくださるだけで充分ですからね」

 

テューレの言葉に総員冷や汗を流しながら互いを見つめている。

 

「な 怠けている者はいません 皆 責任感を持って鋭意捜索中です」

 

「そう?ならばその責任感とやらを示してくださる?目に見えるかたで、あなた達のことを殿下に報告しなくてはならないのは とても残念なことね」

 

「お お待ちください テューレ殿 委員部長!がっかりさせないでください!」

 

「は!?いや しかし 法務官殿ーー」

 

「よく考えて物を言ってください 自分にとって何が大切かをーー 君の決断 何如ですよ?」

 

「・・・・ーー!さ 妻子だけはーー」

 

「殿下は戦いの中で倒れた者を無下に扱う方ではありません」

 

カチャ

 

とルフルス法務官は委員部長に短剣を渡す。委員部長は、怯えながら短剣を自身の喉を刺して自決をする。

 

「ルフルス法務官 あなた達に課せられた責任はカーゼル侯爵を追うことです。違いますか?」

 

「い いえ違いませんっ た ただちにっ あなた達っ どうやって侯爵と娘を捜すのですか!?誰か提案しなさいっ 早く!」

 

と恐怖心にかられたルフルスは掃除夫に提案を出させる。

 

「賞金をかけて密告を奨励します」

 

「もう やっていますっ」

 

「では賞金をもっと高くーー」

 

「家族の者を見せしめにしましょう」

 

「すでに辺境の領地にいます。唯一の残っていた親族がテュエリ家だったのですよ!」

 

「他の一族も法の施行前に逃走しています。ならばその者らも追うべきです!」

 

「君の責任でやるのですね。いいでしょう 守備隊から一隊を割いて行きなさい」

 

「ハッ」

 

「さあ他にないのですか!?」

 

「帝都を虱潰しにーー」

 

「だから!具体的にっ」

 

「閣下地図をーー」

 

とルフルスの持っていた地図を広げる。

 

「地下水路はモルア川に繋がっていました モルア川の城壁水門は厳重に守られているので帝都外へは出られません。おそらく このプラム川沿いに逃走したと思われます。川岸から二リーグ以内の道を全部封鎖しその中の全ての家屋を捜索するのです」

 

「全て?どれだけ家があるかわかって言ってるのですか?」

 

「包囲網の一ヶ所を手薄にしておきます。捜索のフリをして騒ぎを起こすだけで隠れる場のないカーゼルらは必ず姿を現すでしょう」

 

「・・・獲物を燻り出すのですね」

 

「これなら守備隊の一部を動かすだけで済みます。夜明け近くになれば竜騎士も数小隊動員して追い込みます」

 

「なるほどわかりました。君の名は?」

 

「ハッ ギムレット・ジン・ライムです」

 

「よろしい 大変よろしい ギムレット君 今から君を委員部長に任命します。君の権限と責任においてその計画を実行しなさい」

 

「ありがとうございます!」

 

「し 失礼ですが法務官閣下 プロム川から二リーグですと・・・ニホン使節のいる翡翠宮も封鎖範囲にーー」

 

「気にする必要はありません。あそこはピニャ殿下の騎士団が警備しています。たとえ侯爵らが助けを求めたとしても引き渡しを要求すればいいだけでしょう?」

 

「騎士団が・・・女どもが素直に引き渡しますか?」

 

「渡さざるを得ないはずです。帝国の法律であるオプリーチニナ特別法に従わなければ それはーー帝国に対する反乱です」

 

ゴク・・「では騎士団を監視するため一隊を向かわせましょう」

 

「いいでしょう。では皆さん 仕事にかかってください!ゾルザル殿下が吉報をお待ちしていますよ!」

 

『ハッ』

 

そしてルフルスや掃除夫達が撤収する中、テューレは一人焼け焦げた屋敷の中に佇んだいた。

 

「ボウロ 近くにいて?」

 

「・・・はい なんでありましょうか?」

 

とテューレの呼び掛けに物陰からボウロが現れた。

 

「事態をおもしろくしたいわ」

 

「かしこまりました。逃げる獲物に追うコバルト 宴会に飛び込みテーブルをひっくり返す大騒動ともなれば さぞ愉快なことでしょう」フヒヒヒ

 

それを聞いてテューレは笑いながら立ち去って行った。

 

一方、カーゼルとシェリーは街で食べ物を恵んでくれる様にあっちこっち頼み込んでいた。

 

「食い物?こんな時に余裕あると思うか?」

 

「あるわけないでしょ 厄介事はごめんだよ!」

 

と食糧が配給制になってから前の様に食べ物に余裕がなくなって誰もがシェリー達に食べ物を恵んでくれなかった。

 

「やれやれ 十軒目もだめか このまで食料不足とは・・・」

 

「あの家はどうでしょう」

 

(急に元気になったのが逆に心配であるが・・・)

 

コン コン コン ギイ

 

「なんだい?」

 

「あ あの 食べ物を分けてもらえないでしょうか?少しでいいのです」

 

と頼み込むと男はシェリーの付けている真珠のネックレスを見て、

 

「いくら出す?」

 

と言いシェリーは首からネックレスを外して2個の真珠を差し出す。

 

「これでいかがでしょう?耳飾りにすれば奥様にきっと喜ばれますわ」

 

「だめだ それ全部なら分けてやるよ」

 

(一粒でも金貨一枚以上の価値があるが・・・)

 

「四つでも?」

 

「だめだめ」

 

「・・・全部差し上げてもかまいませんが 家庭内不和の原因になってしまいますよ?」

 

「はあ?」

 

「この首飾りは子供用です。大人の人が使うにはあと十個は真珠が必要ですわ けれどお宅の場合買い足すには相当のご無理をなさらないと・・・」

 

「う う〜ん そうだ 二つだけ残して売ればいい 生活費何年分にもなるぜ」

 

「甘いですわ あなたは女の欲目がわかっていません。奥方はきっとこう考えます。『あと十個あれば首飾りができて周りに自慢できる』あと十個 あと十個・・・目の色を変え人柄も変わってしまうかも・・・・そのためにお尻を叩かれるのはどなたですか?」

 

「う〜〜ん なら隠しておけばいいだろ?」

 

「まあ!もっと大変ですわ!ある日 隠しておいた真珠が机の上に『どこの誰に贈るつもりだったの?私には二つしかくれなかったのに!』」

 

「〜〜〜 声がでかいっ わかったわかった あんたの言う通りだ」

 

「ではこれで我慢なさいませ」

 

とシェリーは男に真珠を渡すが四個ではなく、五個男に渡した。

 

「え?五個?」

 

「一個はあなたのお小遣い 四個は奥様に 『今はこれだけしかないけれど いつか首にかけられるだけの真珠を贈ってやる』と おっしゃいませ」

 

「俺の稼ぎじゃ 難しいなあ・・・」

 

「現実味がないからこそいいんですわ。途方もない夢だからそんなに期待されずそれでいて奥様も心から喜ばれるのです」

 

「・・・お嬢ちゃん あんたいくつだ?商才あるぞ」

 

「十二歳になりました」

 

「・・・末恐ろしいな そんなだともらい手が見つからないぞ?」

 

「ご安心ください もうお相手は決まっています」

 

「その旦那がかわいそうになってくるぜ わかった ちょっと待ってな」

 

その後 男は家の中から食料の入った袋を持って来た。

 

「ほらよ」

 

「ありがとうございます!ーーあら ニホン語」

 

とシェリーが袋の中から取り出したのは日本語で『牛缶』と書かれた日本軍の戦闘糧食だった。

 

「ん ああ あんたそれ読めるのか?実は俺 翡翠宮で下男やっててな 賓客に頼んでそれ分けてもらってんだ。それがなけりゃ食い物の余裕なかったよ」

 

「ニ ニホンの皆様はご無事なのですか!?」

 

「無事もなにもあそこはピニャ殿下の騎士団が警備してるんだ。中にいる限り平和なもんだぜ 街中よりよっぽどな」

 

「そうでしたか・・・(スガワラ様ーー)」

 

「・・・嬢ちゃん 騎士団のお姫様達は どうも堅苦しいところがあってな 朝夕に当直交代式なんて儀式を仰々しくやってて その間 素人目に見ても警備がおろそかになっているんだ」

 

「ありがとうございます!あなたに神々のご加護がありますように」

 

とシェリーはお礼を言う。

 

「シェリー行こうか」

 

「はい!」

 

 

 



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空挺部隊、特地へ

昭和21年(1946年) 帝都東京 銀座ゲート前では、たくさんの装甲兵員輸送車がゲートをくぐって異世界のアルヌスの基地に集結していた。

 

「小隊整列 番号ぉ!」

 

「イチッ」

 

「ニッ」

 

「サンッ」

 

「シッ」

 

「ゴッ」

 

「ロッ」

 

「落下傘は格納庫に東門から航空隊地区へ」

 

「誘導どうしたー?」

 

「小隊ごとに兵舎へ移動!」

 

空挺部隊の部隊長が司令部にやって来てのを見て健軍大佐が出迎える。

 

「空挺師団長 お久しぶりです」

 

「世話になるぞ健軍」

 

「総監がお待ちです。こちらへ」

 

そして健軍大佐に案内され空挺師団長は司令室にやって来た。

 

「鯖江少将以下 特教大師団特地方面軍への着任を報告します」

 

※特教兵大師団:特地派遣教導兵科大隊師団の略称で下士官や兵の予備師団や日本中の訓練所から召集したベテランの指導員を寄せ集めて大急ぎで作った部隊である。

 

「よく来てくれた。待っていたぞ」

 

その後新たに加わった鯖江少将を加えた師団長、旅団長、大隊長、連隊長や参謀を集め会議が開かれた。

 

「早速だが帝都は予断を許さない状況だ。いつ救出作戦が発動してもいいよう待機をお願いしたい」

 

「了解です。特地方面軍単独で作戦を実施すると思っとりましたが 出動命令がきたときは驚きました」

 

「今回の作戦で重要なのは数ではなく速さだ。この要求を実現できる部隊を私は隊内に一つしか知らない」

 

「ーー光栄です。行けと言われれば我々はどこにでも行き やれと言われたら何でもする準備できています。だが行ったことも見たこともない相手と戦うからには不慮の事故もありうる。先に伝えた通り 現地に精通し 実戦を肌で知る者に現地指示を任せたい やってくれるね?」

 

と鯖江少将は健軍大佐を見て言う。当の健軍はゆっくり息を吸って満面の笑みを浮かべる。

 

「嬉しくて涙が出ます」

 

「・・・頼むぞ。ところで陸軍大臣と海軍大臣や国連と駐在武官の視察も予定通り行うとか 情報漏洩大丈夫てすか?」

 

「帝国へは心配無用だ。気付いても対応は間に合わんだろう 問題は同行している代表取材団の救出作戦への反応だ・・・」

一方ベルナーゴ神殿を出発した伊丹達一行は、学都ロンデルの宿に戻って来ていた。

 

「古から変わらぬ古都の夜景か・・・何度見てもいいもんだ」

 

「ーーそう とうきょうとは違う 優しい夜景ーー燭台で揺らめく頼りない炎 学徒達はその小さな光の下で本を紐解きペンを走らせる。小さな努力を積み重ね知識の炎で蒙昧の闇を切り開くためにーー」

 

と伊丹とレレイがロンデルの夜景を見ていい雰囲気になっていると

 

「なぁ〜にぃ 二人で雰囲気ぃ 作ってるのぉ〜?」

 

とロゥリィ、大場、テュカ、ヤオ、グレイ、シャンディーが居た。

 

「あはは スマンスマン なるべく死なさないようにな」

 

と伊丹は、stg44を構える。

 

「私が導師号をあきらめれば・・・」

 

「その話はもう済んだろ?ハーディの仕込みでベルナーゴに連中が引きつけられても元を断つまで刺客はやってくる。ならやっつけちまった方が学会まで時間は稼げるだろう?それに見ろよ 今の俺達に勝てる奴いると思うか?」

 

「フン 俺達を倒したきゃ一国の軍隊でも引き連れてくるんだな」

 

と皆自信に満ちた目をしていた。(シャンディーを除く)

 

「わ 私は 戦力外ですか!?騎士ですよっ 大人ですよっ ひどいですー」

 

「シャンディー殿 お静かに」

 

すると廊下の方で床の軋む音が聞こえて来た。

 

ヒタ ヒタ ヒタ

 

「本当に誰か 来ましたぞ」

 

「うし 勘が当たった。今日はなんかやな雰囲気がしてたんだよ」

 

「ハァ?そぉゆうことはもっと早く言っときなさいよぉ」

 

「スマン 確信持てたのさっき」

 

「そう言えば 中尉の予感って変な所で当たるんだよなぁ 不思議だ?」

 

そして皆は身を隠せるところに隠れて刺客達の襲撃を待ち伏せることにした。

 

「さっきも言ったように目と耳を塞いで顔を伏せておけよ 光で見ちゃだめだぞ!見ちゃだめだからな!!」

 

と閃光弾を投擲を予告する。

 

チャリーン コロコロコロコロコロコロ・・・

 

「・・・・」

 

「・・・すまぬ 此の身だ」

 

「・・・お客はおそらく四人」

 

「押すなよ」

 

「シッ」

 

すると扉にかけていた鍵が外され刺客が入り込んで来た。そして刺客達はそれぞれのベッドに行き所持していた短剣を抜き突き刺す。

 

ズン ザク ザク ザク ザク

 

「・・・やった」

 

「やったか!?」

 

「ああ やった!!」

 

「残念でした。ご苦労さん」

 

と突然声が聞こえて何かが転がって来た。

 

カラン

 

「へ?」

 

すると突然光が出た。伊丹が投げたのは閃光弾だった。そしてそこで、ロゥリィがハルバードで殴りつける。

 

「クリア!」

 

「目が 目がぁ〜〜」

 

「あんだけ見るなって言ったのに グレイさんどう?」

 

「大丈夫ですな 気絶しとるだけです」

 

「テュカ?ロゥリィ?」

 

「他の客が起きて来ちゃったわぁ」

 

「こっちは異常なし」

 

「伊丹殿 大場殿 この刺客どもやけに小柄ですぞ?」

 

「そう?どらどら・・・」

 

「うん?」

と伊丹が懐中電灯で刺客を見るとそれはまだ小さな子供だった。

 

「ーーん?こいつらどっかで見たような・・・」

 

「確かに見覚えがあるぞ こいつら」

 

「あらぁ この子たちぃ この宿にいるボーイだわぁ」

 

その後騒ぎを聞きつけた宿の当主ハーマルが血相を変えて伊丹達の部屋に駆け込んで来た。

 

「おっ おっ おっ おっ お前ら!!なんてことをしてくれたんだぁっ おしまいだ・・・ロゥリィ・マーキュリー聖下一行を襲うなんて・・・古の歴史を誇るこの書海亭も・・・おしまいだあ」

 

と当主は絶望に打ちのめされていた。

 

「・・・僕たち 騙されたんです。聖下たちは・・・偽者で詐欺師で人殺しの賞金首だって」

 

「偽者ぉ!?」

 

「此の身らが?」

 

「どこのどいつかしらぁ?そんな不敬なことを言い触らしてる輩はぁ?」

 

「とっとっ 十日くらい前に酒場で会った賞金稼ぎがっ 酒おごってくれて相談にも乗ってくれて・・・」

 

「手配書き見せてもらったし 賞金の前渡しで金貨ももらったしーー」

 

とボーイ達が明らかに胡散臭い持ちかけ話に乗った事を聞いた宿の当主は呆れる。

 

「お前ら・・・バカか・・・賞金の前渡しなんてあるわけないだろ それを間に受けて聖下を・・・?」

 

「・・・まだ 何もしてません その前に捕まってしまってーー」

 

とボーイは言うが既に短剣でダミーの伊丹達を滅多刺しにしてたのを忘れていた。

 

「何も・・・ねえ」

 

「どの口が言えんだか」

 

「何もできなかったのと何もしなかったとの間には 天と地ほどの開きがあるのよ」

 

「ご ごめんなさい」

 

「・・・この手口は噂に聞く笛吹男では・・・」

 

「笛吹男?」

 

「なんだそれ?」

 

「あるときはヒトの男 あるときはエルフ女 時には妖婆 誰もその正体を見たことがないという 凄腕の刺客斡旋人ーーこの笛吹男を倒さない限り刺客は延々と湧き出てきますぞ」

 

「どゆこと?」

 

「この者の特徴は自らは手を下さないこと ごく普通の民を刺客に仕立てあげるのです。狙う相手の近しい者に接触して その者の本質を見抜き言葉たくみにそそのかし心の闇を開かせて 殺人という禁忌の鍵を外してしまう」

 

「まさかそんなことが・・・」

 

「そうされた者が目の前におりますぞ」

 

「う・・・」

 

「おそらくこの者らも他の客を守るためとそそのかされたのでしょう 日頃主人に厳しくしつけられてきたはずですから」

 

そうグレイから言われボーイ達は頷き当主は目を見開いた。

 

「お前たち・・・そこまで宿のことを・・・ 聖下!皆様!こいつらを許してやってください!」

 

と当主はロゥリィに土下座をして許しを乞う。

 

「雇い主として私めが責任を取ります。ただ若いこいつらは放免にしてやってくださいませっ」

 

「ハーマルさん 待ってください 罰は僕らが受けます!」

 

「将来の夢はどうするんだ?これで終わりでいいのか?」

 

「けど書海亭の伝統はどうするんですか?」

 

「お前らが助かるなら宿のことなどどうでもいいっ」

 

「どうする?」

 

「どうするもこうするもなぁ?」

 

そしてロゥリィはハーマルの前に立て、

 

「許すわぁ ただしぃ何を間違ったのかしっかり教育することぉ」

 

とロゥリィは許す事にした。

 

「聖下の神託が下った!」

 

「許されたぞ」

 

(これでいいのか?)

 

「あっ ありがとうございますっ し しかし皆様をこのままお泊めするのも失礼な話です。すぐに知り合いの宿にお部屋を用意いたしますので 聖下様方にはそちらにお移りいただきーー」

 

「その必要はない 一度騙された者は警戒心を持つ この宿はもう安心 このまま泊まらせてほしい」

 

「か かしこまりました!出立の日まで誠心誠意お仕えさせていただきます。ホラ!お前らも頭を下げろっ 替えの布団を持って来い!」

 

「はーい!」

 

「皆様どうもすみません お騒がせしました」

 

「主人 災難でしたな」

 

「けしからんな笛吹男って奴」

 

とひとまずこの場は収まり皆どんよりする。

 

「・・・でもさ あのボーイさん ホントに大丈夫なのか?」

 

「大丈夫なわけぇないじゃない」

 

「グレイはああ言ったけど」

 

「殺人を禁忌とする心の鍵は簡単には外れない 戦う者は皆 相応の訓練の果てにその禁忌を外すことができるようになる」

 

(そうだよな・・・俺や大尉だって何年も訓練してきたからできたんだし 少し前まで実戦で米兵を殺してたからなぁ)

 

「おそらく笛吹男は その禁忌が外れやすい者を探し出す術に長けている」

 

「なるほど・・・そいつが狙うのは心の弱く隙を出しやすい奴か・・・」

 

「つまり・・・騙される人間は何度でも騙される。ボーイ達は数少ない該当者 笛吹男は彼らに必ず再接触する」

 

「もしかしてそれで許したのか!?ボーイら泳がせて監視するために?」

 

「あの子達かわいそうに」

 

「待ち伏せされたってぇ 気づいた笛吹男の顔見るの楽しみねぇ」

 

と言うロゥリィに伊丹と大場は複雑そうな表情になる。

 

「先に言ってくれたら俺らも話合わせるのに」

 

「あのくらい気付きなさぁい」

 

「監視するったってどうするんだ?俺ら全員顔バレしてるだろ?」

 

「戦力外がいるから大丈夫」

 

「?」

 

とレレイが指差す方を見てみるとそこにはシャンディーがいた。

 

「ああ〜〜まだ目がチカチカするぅ〜〜」

 

とそんなシャンディーを皆目を細くして見る。

 

「へ?な なんですか・・・?」

 

 

 



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帝都からの知らせ

真夜中のロンデルに馬飛脚が帝都から知らせを伝えにやって来た。

 

「帝都から馬飛脚が来たぞーっ」

 

「橋が直ったようだな」

 

そして夜が明け宿に宿泊していた伊丹達が目を覚ました。そして顔を洗い窓の外を見ていた。

 

「ロンデル・・・まだロンデルにいる・・・」

 

「何当たり前なこと言ってんだ?」

 

そしてある程度の身支度を整えると

 

ドン ドン

 

「おはようございます。イタミ卿!オオバ卿!お連れの皆様が食堂でお待ちですよ」

 

「あ はーい」

 

「わかった。今行く」

 

(ん?さっき卿って言ったか?)

 

そうして伊丹と大場は食堂に向かうとロビーで色々な人に声をかけられた。

 

「おはようございます。イタミ卿!オオバ卿!」

 

「これは、イタミ卿!オオバ卿!お日柄もよく」

 

(そういやエルベのヒゲ爺様に卿なんて称号もらったな あれ?ここ来てから誰かに教えたっけ?)

 

(今朝からここの連中の態度がガラリと変わったな?)

 

食堂に向かう途中長蛇の列が出来ていた。

 

「食堂並んでんな」

 

「しかしこの宿にこれだけの人数がいたとは気付かなかったな」

 

「あ あんたら!いや あなた様方はこっちこっち!」

 

「食堂の列じゃないの?」

 

「いいから!」

 

と宿の当主ハーマルに先に来ていたロゥリィ達の席に案内された。

 

「そこに座って!」

 

「あ おはよ」

 

「おはよう」

 

「おはよぉ」

 

「・・・・?」

 

「恥だ・・・一生の恥だ・・・」

 

「何かあった?」

 

「朝から元気ないな?」

 

とテュカは、方杖を突いて溜息を吐き ヤオは、うつ伏せで泣きじゃくっていた レレイは、いつもの様に無言でパンを食べっている。

 

「二人はぁ 何もなかったのぉ?」

 

「すごく丁重なあいさつされた」

 

「あからさまに手のひら返していたな」

 

「父さん達はまだマシ 私なんか妖精たちにもみくちゃにされちゃった」

 

「食堂に入るまでも大変だった。廊下の列の他にも宿の客以外の者が押し寄せてきている。外にも列がある」

 

「あの列ってもしかして・・・」

 

「私達にあいさつするのを待ってる列よ」

 

「宿の主人が仕切ってお目見え会をやると触れを出している」

 

「あいつらも相当暇だな」

 

「でも あのまま並んでいたらロゥリィ達とご対面か。おもしろいことになってたかも」

 

「おもしろくなどない」じぃっ

 

と面白がる伊丹にレレイは目を細め睨んでくる。

 

「帝都からの馬飛脚が来たせいだ・・・帝都に繋がる橋が壊れていたらしいのだが 橋が直って昨晩馬飛脚がついたそうだ。炎龍の首の件や此の身がアルヌスでしでかしたこと・・・全部 ロンデル中に拡まっている。しかも相当脚色されて・・・うう・・・穴があったら入りたい」

 

「ヤオはまだマシじゃない 私なんか男の子にされてるのよ!?家名を汚してごめんなさい ホドリューお父さん・・・」

 

「気に入らないわぁ わたしぃがぁ戦ってない炎龍戦でぇ活躍したなんてぇ 人の手柄を横取りしたみたいじゃなぁい」

 

「・・・なんで 俺達のことが帝都にゆがんで伝わってんだ?」

 

「情報源は誰だよ?」

 

昨晩遅くーー 酒場に飲みに行っていたシャンディーが酒の勢いでベラベラと喋ってしまたのである。

 

「ーーでね ここでイタミ卿とオオバ卿が橋の上で告白するの『俺は君のためなら死の谷だろうと炎の山だろうと征こう』」

 

「そこかっこいいよねえ」

 

「ね?そうでしょ?」

 

そして現在

 

「・・・ピニャよぉ」

 

「・・・ってことは あの女騎士団が情報の出所か」

 

「あいつらどんな伝え方したんだ?」

 

「悪質な歪曲もなされている」

 

「「悪質?」」

 

「炎龍にとどめを刺したのがぁ レレイになってるのぉ」

 

「・・・へえ そこまでやる?」

 

「うん?まぁ あながち間違いではないが・・・」

 

「行き詰まってるのよぉ 帝国もこの世も帝国と皇帝を頂点とする国と人間達の秩序と序列 ヒトを頂点とする種族間の関係 それが固まってもう随分経つわぁ 今よりいい明日を夢見るのは人の性 けれどぉ 何をしようにも八方塞がり 努力は無駄ぁ みんな自信をなくしてるわぁ」

 

「ハーディもそんなこと言ってたな」

 

「あいつの受け売りじゃないわよぉ 殺し 奪い 与え 栄達への道のりを示す。歴代の皇帝は戦争で壁を打ち破ろうとしてきた。けれどぉ それも限界 そんな時アルヌスの『門』が開いた。だからモルトは『門』を越えたのかも その結果はぁ ヨウジぃ達の知ってる通り」

 

そう言われて伊丹と大場は思い出す。銀座事件後『門』へと派遣した日の事を アルヌスの丘の門の前では撤退した帝国軍が門を越えてくるであろう日本軍の攻勢に備え門の前に荷車などでバリケードを作って待ち構えていた。そんな時門の向こうから履帯の音が聞こえそして出て来た日本軍のティーガー12両とパンター20両がバリケードを破って来た。帝国軍はすぐに投石器で攻撃するも石は前面の装甲に弾かれ被害は無かった。

 

ティーガーは、日本軍の究極の戦車だ。前部の装甲の厚さは凡そ100mmで正面からの攻撃はほぼ防ぐことが出来る。2000mの有効射程を誇る主砲の88mm砲はアルヌスの広大な草原地帯において最も強力な兵器と言えた。

パンターの主砲は、高速の75mm砲1000m以上離れた目標を撃破出来る。前面装甲の厚さは80mmだが傾斜装甲の為145mmに匹敵する。悪路でも時速30kmで走行出来アルヌスの様なぬかるんだ道にも負けなかった。

日本軍戦車隊は、ティーガーなど重戦車を先頭にⅣ号戦車などを左右に配して進む『パンツァーカイル』と言う楔形の隊形をとりながら砲撃していた。

 

「帝国は失敗しちゃった 逆に負けそうになってる。負け戦の時こそヒトは同族のレレイに熱狂する」

 

「・・・私はルルドのーー」

 

「無駄よぉ 自分の見たい 現実しか見ない連中は真実なんかどうでもいいんだからぁ」

 

そんな事を話していると食堂にグレイがやって来た。

 

「失礼 おおイタミ殿 オオバ殿 おはようございます」

 

「シャンディーどうしてた?」

 

「いやはや見張りの持ち場にいないと思ったら 終夜営業の居酒屋でくだをまいておりました」

 

「宿の連中に顔見られないように送り出したのわかってるのかなあ・・・」

 

「おはようございます 皆様!お揃いになられたようで」

 

「元凶がきたわ」

 

「元凶とは人聞きの悪い これも皆様をお守りするため」

 

「噂を拡まることが?」

 

「そうです!皆様のことを正しく伝えることで 虚言を弄る笛吹男の手口を封じるのです!ありがたいことに逆に当宿に同情が集まりまして これも寛大な聖下のお心のたまもの 宿を閉めずともすみそうです。いやはや真実とは最高の武器ですなあ」

 

「・・・うまくいくかな?」

 

「物は試しか?」

 

「いえ かえって始末に負えなくなりましたぞ イタミ殿 オオバ殿 橋が直ったならば別の刺客も現れるでしょう 派手になった分容易に人混みに紛れ込むことができる。ご主人 事前に相談して欲しかった」

 

「こ これは申し訳ございません・・・ところであなた様は?」 

 

「小官は帝国皇女ピニャ殿下付きの騎士補にて 殿下の命により帝都から皆様をお迎えに参った次第」

 

「こ 皇女殿下のお召しで!?」

 

「左様 今は成り行きで警護を務めております」

 

「おい!騎士様にお食事を!」パンパン

 

「や お構いなく」

 

「ではお香茶だけでも」

 

「かたじけない・・・時に主人 橋はすべて復旧したので?」

 

「少なくとも一番近いカリフォの橋は 他はもう少しかかると 馬飛脚はそこで足止めされてたのですよ」

 

「何者の仕業か わかったので?」

 

「もっぱら帝都での商売の独占を狙う行商ギルドの仕業ではと噂が・・・」

 

「なるほど・・・ところで主人 お目見えは一人ずつ部屋に通すようにしてもらえまいか」

 

「ーーはあ ああ なるほど心得ました!聖下 よろしいですね!」

 

とハーマルにロゥリィは、手を払うだけでOKと言う事らしい。

 

「皆様 お待たせ致しました!ただ今より聖下ご一行へのお目見え会を開催します!」

 

と言って外で待っていた野次馬達が拍手をしながら食堂に入って来た。一方の伊丹達は苦笑いで受け流していた。そして、その夜坂場では、書海亭のボーイ達が飲みに来ていた。

 

「「「「かんぱーい」」」」

 

「おー」

 

「・・・許された」

 

「断罪されなかったな」

 

「宿もつぶれん」

 

「こいつはエムロイの託宣だ・・・」

 

そんなボーイ達の様子をシャンディーは陰から監視している事を知らないボーイ達。

 

「お目見えも無事終わったし 明日もがんばるかあ」

 

「聖下すんげー機嫌悪そうだったけど・・・」

 

「バッカじゃない あんた達!」

 

と突然ボーイ達の前に現れた異種族の女がボーイ達に罵声を浴びせる。

 

「・・・誰?」

 

「知らん」

 

「あたしは ノッラ あんたたち騒動起こした書海亭の小僧でしょ?」

 

「そうだけど・・・」

 

「信っじらんない あれですんだと思ってんの?炎龍倒した英雄に刃向けたんだよ?」

 

「わかってるさ・・・だから口車にはもう乗らないって・・・」

 

「あんた達 やっぱ馬鹿で意気地なしね 口車に乗せられたから今度は乗らない?それで罪が帳消しになると思ってんの?それじゃ今も笛吹男って奴に踊らされてんのと同じじゃない」

 

「・・・じ じゃあ どうしろってんだよ」

 

「あきれた あんた達 奴を自分達で捕まえようって思わないの?」

 

と言われてボーイ達は驚く。

 

「いい?奴は他人を言いくるめて暗殺者にするんでしょ?だったら仕事がうまくいったかどこかで見てるはず きのうだってね」

 

それを聞いてボーイ達はゾッとした。

 

「そ そうか お客の中に紛れて・・・」

 

「何で気づかなかったんだ!」

 

「そういうこと だから 馬鹿だって言ってるでしょ・・・実はね あたしもあたしも笛吹男から焚きつけられたの英雄だっていい気になってる奴の鼻をくじいてやれって 乗せられたフリしてやったわ」

 

「・・・・!」

 

「ど どうする気なんだい?」

 

『学会でレレイさんを襲うの』

 

「ーーそれじゃ奴の狙い通りじゃないか!?」

 

「聖下に断罪されるよ!」

 

「落ちついてこれは演技よ。笛吹男がどこから見てるかわからないから一度しか言わないわよ。レレイさんに伝えておいて レレイさんには胴鎧を着てもらう あたしが刺すフリするからあんた達は周りを注意してて奴は必ずレレイさんの生死を確かめるはず・・・そこを捕まえるの!これであんた達の汚名は一気に返上よ」

 

「汚名・・・どうする?」ヒソヒソ

 

「死ぬまで俺らやらかしたこと蒸し返されるかも」ヒソヒソ

 

「そ それはいやだよ」ヒソヒソ

 

「よし やろう!」

 

「奴の顔ちゃんと覚えてる?」

 

「もちろん!」

 

「俺達で笛吹男を捕まえるんだ!」

 

それらのやり取りを陰から監視していたシャンディーはボーイ達のアホさ加減に呆れる。

 

「・・・(・・・ダメ ダメダメです。あのボーイ達・・・ぜんぜんこりてない あのノッラって女が笛吹男か奴の傀儡に決まってる。あれじゃ誰にも邪魔されず襲えるじゃない)

 

「じゃ 手配頼んだわよ」

 

「まかせて!」

 

(ああ やばい奴が出てく イタミ様とオオバ様に接触を確認したら戻れって言われたけど・・・あの女を追った方がイタミ様とオオバ様に褒められるハズ!)

 

そんな妄想を抱いているとノッラが店から出ていたのでシャンディーは酒代を置いて追いかけようとすると相席していた占い師に呼び止められる。

 

「ごめんない 用事思い出しちゃった」

 

「・・・お待ちなさい。あなたの大切な人が困難な状況に置かれてるという札が出ています。それを助けられるのはあなただけかもしれません・・・」

 

「ありがとう 急ぐから!」

 

シャンディーは急いで馬を出してノッラに気づかれない様に尾行して行く。そして先シャンディーに声をかけた占い師は囚われの姫を暗示とするタロットカードを見つめる。

 

 

 

 

 

 

 

 



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彼の許へ

ある朝帝都のとある隠れ家にて逃走中のガーゼル候とシェリーは、隠れ家に潜伏していた。

 

「侯爵様のご領地は遠いのですの?」

 

「遠い辺境じゃ 馬でも三十日はかかるのう」

 

とカーゼルとシェリーは、日本の非常食である海軍の乾パンやドロップに陸軍の金平糖などを食していた。

 

「そんなに遠くでは、とても路銀が続きませんわ・・・」

 

とシェリーの手には、既に真珠は3個しか残っていなかった。

 

「この部屋を借りるのにも使ってしまいましたし」

 

「食べ物も半分渡したしのぉ(先日道端で飯を食って人目を集めてしまい慌てて人家の戸を叩いたが、ここの家主は信用できる者だろうか・・・)」

 

とカーゼル侯はこの家の家主が信用に値するか疑っていたがその考えが的中する事態になる事をまだ知らなかった。丁度その頃帝都の通りでは、カーゼル侯爵とシェリーの石細工の首と賞金の告発が行われているところに家の家主が居合わせてしまっていた。

 

「この者らの居所を通報した者にはシンク金貨五十枚を報奨として与える。だが匿った者はこの者らと同罪!厳罰をもって処す!見た者はおらぬか?」

 

一方その事を知らないカーゼルとシェリーは、

 

「あのお掃除係のお役人達は 広げた綱を絞ってわたくし達を追い込んで参りますわ。ただし わかりやすい逃げ道を開けて」

 

「うむ 狩りと同じじゃな そこで儂らを待ちかまえておるじゃろう」

 

「侯爵様 亡命いたしましょう」

 

と突然のシェリーの亡命にカーゼルは言葉を失い目を見開く。

 

「だが・・・どこにかね?帝都すら出られない儂らに帝国国境は夢の彼方じゃぞ?」

 

「・・・いいえ 実は今 帝都の中に外国がございます」

 

「な なんじゃと?」

 

「翡翠宮 外交協定で守られた翡翠宮はいわば外国 帝国のいかなる者も手を出せませんわ」

 

「宮殿の下男が警備の隙を教えてくれたがニホン帝国の使節が快く迎え入れてくれると思うかね?」

 

「スガワラ様のお情けにお縋りいたします。わたくし達にはもうそれしかありません」

 

「スガワラ・・・ああ あの男か いいのかね?彼に迷惑をかけることになる。経歴どころか命さえ危うくなるかもしれないぞ?」

 

「わかっています・・・このシェリーが生涯をかけてお尽くしすることで罪滅ぼしをいたします」

 

「そこまで慕っておるのか・・・だが彼はいいとして周りはどうする?」

 

「わたくし これでも結構腹黒な娘なんです。スガワラ様にお近付きしたのもテュエリ家のため帝国とニホン帝国の間に立って おいしい思いができると思っておりました。でも でも・・・そのせいで・・・お父様とお母様がーー」

 

「違うぞ それは儂がーー」

 

「侯爵様 この腹黒娘は 今考えております。お父様とお母様の仇をどうやってとろうかと・・・」

 

「掃除夫の連中相手にか?」

 

「いいえ もっと大きなものにです。そのためにはさらに大きな力を引き入れないとーー」

 

「はた迷惑なことだ。儂ら・・・いや君にそんな権利があると?」

 

「いいえ けど仕方ありません ここで終わりたくないのですもの 両親の仇が討たれるのを見るまでは その後長生きして人生を楽しむつもりですから ぜったいこの場を切り抜けてみせますわ」

 

「・・・あやつらが捕らえるべきは君だったのかもしれんなあ」

 

「歴史で学びました。平和には戦ってつかみとる平和と征服して奪われ続ける平和がある。生き残るのは正しい者ではなく戦う意思のある者 周りの犠牲や自分の罪で手を汚すことを恐れない者ーーですからわたくし 進んでこの手を血で汚します」

 

「ーーわかった。その罪 儂も背負おう。シェリー あの時叩いてすまなかった」

「いいえ あれは致し方なかったことです。あれで覚悟を決めることができました。わたくしにはもう子供のように泣いている時間はないのだと ご心配おかけしましたがもう大丈夫ですわ」

 

(この娘に子供であることを許さなかったのは儂だ。ただでさえ子供らしさが欠ける利発な子だったが大人になることを急かしてしまった。しかも とてつもない存在に変貌しつつある。なんと痛ましいことだ)

 

この時カーゼルとシェリーは気付いていなかった。この時の会話は全て外にいたこの家の家主に聞かれていたのだった。

 

(やっぱり カーゼル侯だ。手配のかかってる二人じゃないか 金貨五十枚は俺の物だぜ)

 

だがこの男も気づいていなかった自身に忍び寄る魔の手に。

 

その夜外が騒がしくシェリーが目を覚ました。

 

「侯爵様 侯爵様」

 

「んん・・・どうしたね?」

 

「あの音が聞こえませんか?」

 

「音・・・?」

 

耳を澄ましてみると数人の足音やドラムを鳴らす音が聞こえる。

 

「街中で・・・灰色熊じゃあるまいし 西からか・・・」

 

「あの音 なにかドキドキしますわ」

 

「うむ 家主や隣家のこともある。この家を出るとしよう」

 

「北に逃げましょう まっすぐ翡翠宮へ」

 

「騎士団の交代式の時間に合わせたかったが・・・」

 

「致し方ありませんわ」

 

そう言ってカーゼルとシェリーはローブを纏い家を出て翡翠宮を目指す。そんな光景を見る謎の影はある部屋へと行くとそこにあったのは首を刃物で切られてベッドに寝かされている家主の死体と未だに謎の多いテューレの部下ボウロだった。

 

「さあ派手に踊ってくださいな これで色々と面白くなりまする」うひひひひ

 

 



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翡翠宮

狭隘な帝都の一角を占める森に建つ瀟洒な宮殿 それが帝国の迎賓館たる翡翠宮である。市民の立ち入ることの許されないこの森は自然に溢れ 帝都の中とは思えない景観を滞在する国賓一行に与えていた。現在 宮殿は、大日本帝国外交団の宿舎に割り当てられ 式典や園遊会に供される広大な前庭には警備にあたる薔薇騎士団の天幕が整然と並んでいた。そんな天幕で休息を取っていた薔薇騎士団の団長代行のボーゼスが何やら外から聞こえて来る騒音に気づいた。

 

「番兵 あの音はなにかしら?」

 

「ハッ 報告します。ボーゼス様 先刻より南西から東へ異常な騒音が移動中 音は大きくなりつつありこちらへ接近中の模様」

 

「ふぅん・・・わかりました。幹部全員を呼集 終了後は当直下士官に復命し任務に復帰」

 

「ハッ」

 

その後薔薇騎士団の幹部クラスが集められた。

 

「みんな夜半に申し訳ないけれど あの騒動が何か調べなさい」

 

「もう斥候を放ったぜ。ボーゼス騎士団長代行」

 

「助かるわ ヴィフィータ白薔薇騎士隊隊長。帝都中が不穏な情勢ですから暴動の恐れもあるし とりあえず当直は全員待機させてちょうだい。状況如何では全隊に非常呼集をかけます。そのつもりで、何か質問は?ありませんね では解散」

 

解散の号令がかかって騎士団全員が退室する中白薔薇騎士隊隊長ヴィフィータが残った。

 

「・・・なあ ボーゼス」

 

「なあに?」

 

「この中 やけに甘酸っぱい香りがするんだが・・・」

 

「そう?」

 

「ボ ボーゼス様は最近よく柑橘をお召し上がりになりますので・・・」

 

「なんだか無性に酸っぱい物が欲しくなっちゃって」

 

「ま まさかと思いますが・・・」

 

「どうしたの?」

 

「いえ その あの・・・」

 

そんな時ヴィフィータは、ニヤニヤしながら冗談かしこに言う。

 

「この子達はなあ お前が身ごもったんじゃないかって言ってんだ。んなことあるわけないのになあ」アハハハハ

 

「・・・そうかもしれないわね」

 

「ハハハハハ は!?」

 

ええええっ

 

「そんなに驚くことかしら?私とて乙女よ?別におかしくないでしょう?」

 

「いやいやいやいや そういう問題じゃないんだ」

 

「大変!まずはお湯を」

 

「お医者に診せないとっ」

 

「落ちつけっ」

 

「そうよ まだお腹も膨れてないのだから まだ 七〜八ヶ月先の話よ」

 

「いやいやいや そうじゃないって言ってるだろ。問題はお前が未婚だってことだ。もしかしてあれか?あの男か!?トミタとかいう馬の骨!」

 

「神々の一柱が臥所に忍んで参られたのでなかったら 身に覚えがあるのはあの方だけですわ」

 

「少しは慌てろーーっ 名門パレスティー家の娘としてそれでいいのか!?」

「いいの 一度は望まない相手に身を任せる覚悟を決めたわたくしが『この方』と心に決めた方の子を授かったのだから もし父上の不興を買うのならば家をも棄てる覚悟です」

 

「なっ おっ え!?」

 

「そうだわ 今のこのフワフワした感じ これが幸せというものかしら」

 

「す すてき・・・」

 

「おめでとうございます。ボーゼス様」

 

「報告しま・・・お お邪魔だったでしょうか?」

 

「いえ ごめんなさい 報告を聞きましょう」

 

「ハッ 斥候によりますと騒動は『掃除夫』が逃亡者を追い立てているためのもの 翡翠宮を包囲するように接近中とのことです」

 

「包囲?ニホン帝国使節への嫌がらせか?今晩の当番隊は?」

 

「私の隊です。お姉さま」

 

「ではニコラシカ ただちに黄薔薇隊全隊に非常呼集 臨戦態勢を整えて警戒配置 ヴィフィータの白薔薇隊はそのまま待機 多分 長丁場になるわ」

 

ボーゼスの命令の元各員に招集がかけられ臨戦態勢に入る。

 

ブオーー ブオーー

 

「黄薔薇隊非常呼集!第二種装備にて騎士団長天幕前に集合ー!!」

 

「非常呼集!非常呼集!」

 

黄薔薇隊はすぐさま甲冑を身に纏い武器を手に集合する。

 

「退役するまで楽できると思うなあっ 急げ急げ急げ!!」

 

「黄薔薇隊総員整列完了しました!」

 

「よろしい これより防衛陣を敷く下士官は集合!」

 

一方翡翠宮への正門の少し前の辺りで身を潜めるカーゼル侯とシェリーがいた。

 

「・・・正門も脇も警備厳重だのう・・・ピニャ殿下の騎士団は儀礼専用で兵も退役前の老兵と聞いとったが さっきのラッパは非常呼集の合図のようじゃったし・・・」

 

「・・・侯爵様 こうなったら堂々と名乗って正門から乗り込みましょう 宮殿に入れるかどうかはニホンの方々次第ですから」

 

「それもそうだな・・・君の言う通りにしよう」

 

そう決めたカーゼル侯は警備厳重の正門に堂々と姿を現した。

 

「誰か!?」

 

「帝国元老院議員 カーゼル・エル・ティベリウスである」

 

「カ カーゼル侯爵閣下・・・!?」

 

「うむ ニホン帝国の使節殿に急ぎ取り次いでもらいたい」

 

「し しかし閣下 翡翠宮は現在 皇帝陛下の勅命で立ち入りが制限されております」

 

「使節殿に重大な要件があって参ったのだが・・・」

 

「乗り物も供もなく お嬢様とお二人で?」

 

「あー うむ あの騒ぎであろう?」

 

「わかりました しばしお待ちを」

 

しばらくして許可が降りたのでカーゼルとシェリーは翡翠宮に向かう。

 

「ピニャ殿下は皇城におられるのか 今騎士団の指揮は?」

 

「ボーゼス・コ・パレスティー騎士長が代行を務めております」

 

「ほほう パレスティー家の娘御がのう」

 

そして見えてきた翡翠宮では騎士達が陣張り臨戦態勢を整えているのが見えてきた。

 

「翡翠宮・・・」

 

「こちらでお待ちください」

 

するとシェリーは日章旗と旭日旗が掲げられている宮殿に近づこうとしていた。

 

(この兵士さん達は帝国とニホン帝国の境を守っているのですね・・・その境はどこに・・・)

 

「お嬢さん そこから前に出てはいかんよ」

 

「キャッ!?」

 

「おっと びっくりさせてしまったかい?」

 

すると兵士が槍で芝生を指してシェリーに境界線を教える。

 

「そのあたりからが翡翠宮ニホン帝国とのみえない境界線だ」

 

「芝生が始まるところですね・・・」

 

「俺達の仕事は 許可のない者にこの線を越えさせないこと わかるね?」

 

「は・・・はい」

 

「シェリー!」

 

と天幕からカーゼルが出て来てシェリーを天幕に連れて行く。

 

「ご無事でなによりです。カーゼル閣下」

 

「儂はな・・・だが身を寄せていた家の者はだめだった。ようやくここにたどりついたのだよ。このまま眠ってしまいたいほどだ」

 

「ところで先に取り次ぎの件ですが・・・残念ながら『お会いする理由がないのでお断りする』との返答で」

 

「・・・にべもなし か」

 

「やはり亡命するおつもりだったのですか?」

 

「やはりということは 他にも来た者がおるのだな」

 

「はい 先方はそれをだいぶ警戒されています。我々としましては密かに城壁の外までお連れすることしか」

 

(それではだめ 私が来たこともちゃんと伝えたの?)

 

「そうか それで充分じゃよ」

 

(スガワラ様なら 違うお返事をーー)

 

「従卒 お二人に何か食べ物を」

 

「あ あの せめてスガワラ様にお会いできないでしょうか。わたくしが来たことをお伝えすれば・・・受け入れてくれるかもしれません・・・!」

 

「無茶言っちゃだめだ あいつが君を受け入れるわけでもあるのか?」

 

「ス・・・スガワラ様はーーいずれわたくしの夫になられるお方です」

 

「は?」

 

「で ですから・・・」

 

「あー 君いくつだ?」

 

「十二です!」

 

「さすが早婚すぎないか?」

 

「そ それは当人同士の気持ち次第ですわ!」

 

「帝国ならね。だけどアルヌスで読んだニホン帝国の法令では、女子は十五歳以上でなければ結婚できないそうよ」

 

「じゃあ 正式な結婚は 十五になってからすればよいだけです!!」

 

「わかったわかった スガワラを名指しで話してくればいいんだな」

 

「お願いできるかしら?」

 

「ああ」

 

と言ってヴィフィータは大日本帝国使節のいる宮殿に向かった。

 

一方大日本帝国の使節団は、

 

「きのうからあのドラの音でかくなってるな」

 

「奴らやりたい放題だ。粛清だよ粛清 交渉どころじゃないよ もう」

 

「政治屋の決断がいつも遅い上に手ぬるいんだよ せっかく我が軍がいるんだし今は帝国と戦争中だろ?爆撃するなり当初の計画通り帝都侵攻するなり・・・」

 

「お おい菅原・・・!」

 

と菅原は吉田茂の方に向き直り謝る形で頭を下げる。

 

「かまわないよ こんな状況だ。愚痴くらい」

 

「本省にもう一度連絡を取ってみてくれないか?」

 

「軽挙を控え待機せよ さっきといっしょだ。一人を助ければ二人 三人と際限がなくなりますからね。オプリーチニナを刺激するなということでしょう」

 

「菅原さん 名指しで伝令が来ましたよ」

 

「また?俺に?」

 

と入って来たのはヴィフィータだった。

 

「また亡命希望者ですか?」

 

「いや 先程の要件だ」

 

「それならばお断りしたはずですが 我が帝国政府の通達は変わりません」

 

「それはわかってる。だがな今回は 侯爵の同行者たっての望みだ」

 

「同行者・・・?」

 

『スガワラ様 シェリーでございます!』

 

と窓の向こうから聞き覚えのある声が聞こえて来て菅原は窓の外を見るとシェリーがこちらに向かって叫んでいた。

 

『スガワラ様 シェリーが参っております』

 

「俺が持ってきたのは彼女からの伝言だ」

 

『スガワラ様』

 

「シェリーの?」

 

「ふぅん?なるほどあのコを知ってるのか。彼女が言うにはあんたは未来の夫だとか?」

 

「まさか」

 

「だよな 俺にもあれくらいの頃経験がある。思い込みがつい暴走しちまうんだよな ちょっと優しくされただけで頭の中がお花畑になっちまう。俺なんか守ってもらったりするとダメだったな」

 

「ご ご理解いただき幸いです・・・」

 

「けどよ 貴兄にあの娘をそう思い込ませる言動がなかったと言えるか?あの娘はあんたのそんな優しさにすがってここまで来た。文字通り命がけでな どうだろう?ここは一つ 男としての甲斐性ってやつを見せてくれないか?それができないなら目をつむって耳を塞いでてくれ いずれどっか行く」

 

「どっか?どこかとはどこに?」

 

『スガワラ様!せめて せめてお声をお聞かせください!』

 

「さあな ああ そうだ。ご迷惑は承知しておりますが ぜひお情けを それがだめならお前なぞ知らぬと言ってくださいませ・・・だとよ」

 

「ホント・・・けなげだよねえ」

 

伝える事を伝えるとヴィフィータは退室していた。その間もシェリーは菅原を呼び続ける。

 

『スガワラ様 スガワラ様 お願いです。お顔をお見せください!』

 

(やめてくれ!俺は一介の外務省職員なんだ。くそっ どうする・・・)

 

その頃翡翠宮の正門では、

 

「伝令!ボーゼス様に報告しろ!急げっ」

 

正門に向かって掃除夫が隊列をなしてやって来たのだ。



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決断の夜明け

正門に掃除夫が来た事は、瞬く間に知らされた。

 

「掃除夫が?」

 

「ハッ 数にしておよそ百」

 

「・・・やって来るのが少し早すぎないかしら?」

 

「見張られていたのでしょう。怪しい人影を見たという報告もありましたし」

 

「仕方ないですわね・・・代表の方をここに」

 

「ハッ」

 

そんな中逃げて来たカーゼルは絶望感に打ちのめされていた。

 

「侯爵閣下・・・・残念です」

 

「ーーああ」

 

「彼らはいささか偏執的すぎますわ」

 

「奴らには奴らの事情があるのだろう。儂らが心配することではないがな・・・」

 

一方正門では掃除夫が入門して来た。警備に当たっている騎士団はこの掃除夫の軍勢を疑い深い目で見ていた。そしてオプリーチニナ委員長が天幕に入って来た。

 

「帝権擁護委員部 委員長ギムレット・ジン・ライムです。お見知りおきを カーゼル侯爵閣下お探ししましたぞ」

 

方杖を突いて何処吹く風の方なカーゼルの前にボーゼスが立ちはだかる。

 

「これはこれは」

 

「ーーフン 何を今さら」

 

「お手柄ですぞ。ボーゼス隊長代行。これでピニャ殿下へのゾルザル殿下の覚えもめでたくなることでしょう」

 

「ピニャ殿下の・・・?」

 

「おや ご存じない?いけませんな ピニャ殿下は今 大変微妙な立場におられるのですよ。そう あなたの振る舞い一つで 命に関わるほどにーーよくお考えいただきたい」

 

ボーゼスの緊張状態を嘲笑うかのように笑うギムレット委員長。

 

『スガワラ様 ひと目お姿を!』

 

「ところで 外でピイピイ鳴いているヒナ鳥は何ですかな?」

 

「こ ここにお会いしたい方がいるとか」

 

「なのに 無視されているとニホン人も薄情ですな おい!」

 

「ハッ」

 

「あれとて両親を殺めた連中に同情されたくなかろうて」

 

と皮肉った発言をするカーゼル侯爵にギムレットはこの場で私事に任せないこの状況を褒めて欲しいと言う。

 

「私らも多くの同志を失いました。その恨みをこの場で晴らさない自制心を褒めていただきたい。では閣下」

 

「ーー致し方あるまい」

 

丁度その頃ヴィフィータが宮殿から出て来た所掃除夫が目に入った。

 

「チッ 便所掃除野郎ども・・・」

 

『スガワ・・・ケホッ ケホッ ス・・・スガワラ様!シェリーはいつまでもお待ちしております!』

 

「おい行くぞ」

 

『スガワラ様ー!!』

 

この状況に何も出来ない日本使節団は全員憤りを感じていた。

 

「だめだぞ。菅原 耐えろ!」

 

「俺達が何のために来たか忘れるな!」

 

「つらいのはわかる知り合いだもんな だが軽はずみな行動ですべてを水泡に帰していいのか?」

 

「・・・くそっ なんで俺が・・・」

 

『スガワラ様せめて せめてひと言目の前で(あきらめろとーースガワラ様はわたくしのわがままに付き合ってくれていただけ だから だからこそ わたくしの想いがとどいているか。直に確かめたい それであきらめろと言われたのなら 素直に笑って『はい』と受け入れられるーー)シェリーはお声をかけていただくまで動きません!!』

 

「いい加減にしなさい!騎士団の諸君もよく見ておくといい。反逆の徒は齢に関係なく容赦はしません。家族の顔を無事見たいのであれば 我々に協力することです」

 

「キャッ」

 

「連れていきなさい」

 

「ハッ」

 

断固として動こうとせず掃除夫に引っ張られても芝生を握りしめて動こうとしなかった。

 

「ああっ やっ あっ あっ いやっ スガワラ様ぁ たすけてえっ」

 

その叫びに業を煮やした菅原は慌てて飛び出して行く。

 

「待て!菅原!!」

 

「あの・・・バカ」

 

これを見て吉田茂は独断の決断をした。

 

「みなさん どうあがいてもこの手は汚れるのだ。ならばせめて知人が救われる道を選びましょう。亡命者の受け入れを開始する」

 

「いやぁ」

 

「おとなしくしろ!」

 

「放して!」

 

「おいっ ボーゼス!」

 

掃除夫に連れて行かれるシェリーに騎士団はどうすることもできなかった、すると

 

『その汚い手を放せ!!』ハア ハア

 

と菅原が息を切らしながら掃除夫に叫んだ。

 

「これはこれは使節殿 なんの御用ですかな」

 

「その 薄汚い手を彼女から放せと言ってるんだ!コバルト頭ども!!」

 

「・・・口を挟まないでいただきたいニホン帝国の使節殿。同じ帝国として忠告させて貰う。これは我が帝国の問題だ」

 

「そうだ!敵国の人間が口を出すな!」

 

「無関係な人間の出る幕ではないっ」

 

「無関係じゃないぞ。その娘は 俺の関係者だ」

 

「だからさあ どういう関係か。はっきりしねえと説得力ねえんだよ。この場を収めるためにはよお」

 

とヴィフィータに言われ、菅原は大きく息を吸って叫んだ。

 

『その娘は俺の婚約者だ!十五になったら妻に迎える!!俺の嫁に汚い手で触るなっ 返してもらおう!!』

 

「関係者の許可が出たぜ!その娘 中に入れてよし!!」

 

と即座にシェリーを掃除夫から引き離す。

 

「うわっ」

 

「ほらっ 落とすなよ。色男!!」

 

と掃除夫から菅原へとシェリーが渡った。

 

「貴様ぁっ」

 

「貴様 許可なく境界線を越えたな?」

 

「え!?」

 

足元を見るとシェリーを奪い返そうとした掃除夫の一人が芝生に入っていた。

 

「境界線を越えた者は皇帝陛下の勅命に従い排除する!白薔薇隊戦列を敷けえ!!」

 

の号令により騎士団は掃除夫を取り囲み捕らえられていたカーゼル侯爵を奪還する。

 

「あっ」

 

「委員長 カーゼル侯がっ」

 

「貴様らぁ・・・」

 



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激突

騎士団と掃除夫が臨戦態勢を取りまさに一触即発の緊張状態だった。

 

「黄薔薇隊戦列を敷け!」

 

「カーゼル侯こちらへ」

 

「赤薔薇隊指揮天幕の守りにつけ!」

 

「第三 第四 百人隊横陣隊形!」

 

「せっかく いただいた真珠の首飾り ここに来るまでにみんな使ってしまいました」

 

「気にするな 俺がまた買ってやる」

 

とシェリーを抱き締める菅原。

 

「最高の舞台じゃねえか?」

 

「ええ」

 

「き 貴様らぁ 歯向かうつもりか!今すぐ陣形を解き罪人を渡せ!(ここで退いた

となれば消極的として密告され 前任者と同じ道を・・・)・・・騎士団は ゾルザル皇太子殿下の公布した法に逆らい 罪人と敵国の肩を持つというのだな?」

 

「ヘヘン 馬鹿にすんな 皇太子の法だって?皇太子の法が皇帝陛下の勅命より上だっていうのかい?てめぇらは 宮殿に入る許可をニホン帝国にもらってるのか?」

 

「我らはオプリーチニナ!罪人を捕らえるのにそんなもの必要ない!!」

 

「知ったことか 便所掃除でもしてろ!!」

 

「人の恋路を邪魔する奴はコバルトに食われちまえ!」

 

「おいおい 奴らもう食われとるわ」

 

と騎士団と睨み合う中最初に仕掛けたのは掃除夫だった。

 

「蹴散らせ!!罪人を捕らえろ!!」

 

「翡翠宮は 外交特権に守られたニホン帝国使節の館!帝権も及ばなぬ!!力ずくで押し入ろうとする者あらば皇帝陛下の名の下 このヴィフィータ・エ・カティが討つ!!抜刀っ 野郎ども花嫁を守れ!!突撃!!前へ!!」

 

と同時に双方は剣を抜き激突するそれはまるで猛牛のぶつかり合いのようだった。がしかしこの状況では数が物を言い掃除夫は徐々に押されていった。

 

「小娘と老いぼれどもなど恐るるに足らん 皇太子殿下が成果を待っておられるぞ!!」

 

だが数が少ない掃除夫とって腕の立つ騎士だった為騎士団も数人討ち取られていた、

 

「(俺が・・・シェリーを助けたせいで・・・)シェリー見ちゃだめだ」

 

「・・・いいえ わたくしは見ます。スガワラ様こそわたくしを見てくださいませ。シェリーの無事を喜んでくださいませ もし気に病まれるのでしたら軽蔑なされてもかまいません。わたくしはこうなることを承知で参ったのです。ーーだからわたくしはわたくしのためにーー死んでいってくださる方々から目を離すことはできません。どうぞ見させてください」

 

(東郷大臣待てて言ったのはーー誰かを助け守るには犠牲を覚悟しなければならないこともある ならば最小の犠牲で済む手段と時期を待てとーー)

 

「スガワラ様 後悔しておいでですか?」

 

「(犠牲を恐れるなら傍観するだけという選択もあった だがそうしたらシェリーが・・・敵の血かシェリーの血か どうあがこうとこの手は汚れる ならばこの先加害者として罪を背負っていくしかないのか・・・)いや 後悔はしない(東郷大臣の計算を台無しにしてしまったな・・・)真珠の首飾り買ってやれないかもなあ・・・」

 

「いつか買ってくださるというお志だけで シェリーは幸せです」

 

(この子はもう・・・以前のような笑顔を見せることはないかもしれない・・・)

 

そして騎士団と掃除夫との乱戦はいよいよ幕引きが訪れていた。委員長のギムレットが乱戦の中を駆け回りながら翡翠宮の正門に向かっていた。

 

「くそっ 反逆者ども!!皆殺しにしてやる!」

 

「逃がすな!弓兵!!」

 

騎士団は敗走する掃除夫を追撃していくが何十人かの掃除夫は撤退していた。

 

「退け!退けーっ」

 

後に残ったのは見るも無残な状況だった。翡翠宮の中庭の至る所に殺された何十人もの騎士団と掃除夫の兵士が野晒しにされていた。

 

一方の大日本帝国の使節も一部始終を固唾を飲んで見ていた。

 

「終わったようだな・・・いや 始まったのか・・・」

 

「吉田副大臣 騎士団が負傷者の収容を求めておりますが」

 

「・・・わかりました。弘畠中佐 空いている部屋に通してください 元々こちらの宮殿ですからね」

 

その後翡翠宮に先程の戦いで負傷した騎士団が運ばれてきた。一方の菅原はあっちこっちで野晒しになっている死傷者達を見つめていた。

 

「婿殿 シェリー・・・そろそろ参ろうか」

 

「カーゼル侯(婿・・・義父なら同行して当然ということか)・・・わかりました こちらへ」

 

と菅原はシェリーとカーゼル侯爵を翡翠宮の中に連れて行く。

 

一方帝都東京 首相官邸では、外務大臣東郷茂徳と陸軍大臣杉山元と海軍大臣嶋田繁太郎が使節団一行の救出許可を東條英機から貰おうとしていた。

 

「吉田副大臣らの救出作戦を許可していただきたい ただちに!」

 

「許可できんな」

 

「何故です?もう戦闘が始まってるんですぞ?しかも宮殿の目の前で、そんなところから吉田達を脱出させる方が大事です。違いますか?」

 

「だがな この救出作戦 一時的にせよ 帝都の一部を占領するのだろ?だったらなぜ帝都自体を陥さないのかと言われるよ?」

 

「だから ちゃんと国民に説明して・・・」

 

「わかっているよ 帝国を丸抱えする力は今の日本にない けど各国や記者が見てるんだよ?」

 

「それならなんで視察団なんか受け入れたんです」

 

「今さら言ってもしょうがないのだよ!」

 

「総理 この事態をどうするおつもりですか?」

 

「だから 視察団と記者が特地を出た後なら」

 

「一週間も放っておけと?」

 

「いいですか総理 宮殿警備の騎士団は六百あまり帝都に派遣されている陸海軍の将兵も数えるほど 対する帝国軍は四万人近く 突破されたら副大臣一行がどうなるか・・・吉田副大臣を見殺しにしたとあれば国民は黙っていませんよ総理?」

 

「そもそもこんなことになったのは東郷大臣の責任じゃないのか」

 

「現場の判断だ 吉田に委任したでしょう?」

 

「だったら現場になんとかさせろ!」

 

「いいんですか?東條大臣 これ以上現場を暴走させれば 現場の尻ぬぐいして暴走をおさえるのが我々の仕事です!」

 

「ならば 特地を日本の東部戦線にしていいのかね?」

 

「話を飛躍しすぎです。講和と賠償金 東條大臣あなた自身が立てた基本方針は今も変わっていないでしょう」

 

「たがね 記者は都合よく忘れてしまい 党内からも手ぬるいとの批判もある。その派閥に離反されれば選挙負けるぞ」

 

「責任から逃げてやるべきことをせず後悔するより選挙で負ける方がマシですよ」

 

「私もです」

 

「同じく」

 

「つまり・・・君らは私に総理をやめろと?・・・わかったよ許可しよう陛下には私から伝える。ただし責任は取ってもらうからな」

 

と東條英機は救出作戦を許可した。外務大臣東郷茂と陸軍大臣杉山と海軍大臣嶋田は退室し車で各省に戻っていく。

 

「すまないな 杉山さん 嶋田さんにとんだ貧乏くじ引かせてしまって」

 

「いいですよ 覚悟はもう済ませてます」

 

「気にしないでください」

 

「君 陸軍省に戻ったら直ぐに特地方面軍に連絡 総理と陛下の許可がおりた。ただちに作戦を開始せよ」

 

「ハッ」

 

 

一方ノッラを追っていたシャンデーは、

 

「パイランか・・・ロンデルからだいぶ離れちゃったなあ・・・(ノッラを追いかけてここまで来たけど 街の手前で見失っちゃた・・・)・・・何か食べよ」

 

とシャンデーは近くの居酒屋に入っていた。

 

(う もうお金が・・・)

 

「どうするね?」

 

袋の中には日本の貨幣しか無くなっていた。すると

 

「店主 これでこのお嬢さんに何か見繕ってやってください あとエールを二つ」

 

「え?あっ いえいえそんな!おかまいなく」

 

「構いませんよ 薔薇騎士団の騎士様」

 

「(!!ボーイさんの言っていた人相にそっくり・・・!)な なんで私が騎士団の者だと?(もしかしてこいつが笛吹き男・・・!?)」

 

「その装いと以前帝都の式典でお見かけを」

 

「て 帝都から来られたので?(やった!大手柄!)」

 

「やぼ用でね ああ そうそう!翡翠宮で騎士団と帝国軍の戦闘が始まったのはご存じで?」

 

「・・・え!?」

 

 

 



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総括の狂気

薔薇騎士団は馬に跨り掃除夫に追撃を図る。

 

「逃げる兵は追うな!狙うは掃除夫野郎だ!」

 

「逃げるな!進めェ!退く者は死あるのみ!!」

 

「戦え!戦わんかあ!」

 

「ギャッ」

 

掃除夫は敗走する兵を片端から排除して行くが敗走する兵は後を絶たない。この光景は帝都に潜伏している陸軍斥候部隊も見ていた。

 

「あー あー かわいそうに・・・奴ら頭に血がのぼっちまってる。最初の戦闘の後は近くの警備部隊を片端から逐次投入 これだと監獄周りの城壁もだいぶ手薄になってるな。アウレンス通りに四頭立ての馬車接近中 おえらいさんか?」

 

「こちら ポイント1 悪所事務所送レ」

 

「寄せ集めの小部隊でも波状攻撃されるときついぜ 作戦決行日まで騎士団が保ちゃいいが」

 

「貴様らそれでも栄えある帝国軍兵士か!隊列を組め ただちに再攻撃するぞ!!」

 

再攻撃を命じるとそこに一人の男が目に入って来た。

 

「こ これはルフルス時期法務官殿 お越しになられていたのですか。翡翠宮は今日中にーー」

 

ズッ

 

とギムレットの体を刃が貫いていた。

 

「な・・・ぜ・・・」

 

と己が粛清された理由も分からぬまま絶命した。

 

「彼は失敗した!失敗は許されないのです。これから皆さんにはひとりひとり自らを総括してもらいます。その中で任務態度がなっていなかった者の名を挙げなさい その者らを十分の一刑に処します」

 

そして掃除夫は一人の男の名を挙げた。その男は服を脱がされ数人に押さえつけられ"総括"と言う名の元に殴られた。この事はかつて1970年代に日本中を震撼させた連合赤軍の仲間同士で殴り合う総括という集団リンチが行われ約11人が死亡した。

 

「やめろっ やめてくれ!なあ・・・頼む・・・」

 

バキッ ガッ ゴッ ゴキ

 

「ぐあっ ぐ やめ・・・がっ・・・(なんで・・・なんでオプリーチニナに加わっちまったんだ。誰かが俺の名をつぶやいただけで殺される。後悔を悟られただけで殺される。この恐怖から逃れるにはーー考えることをやめ ただ任務を果たすのみーー)」

 

殴り終わる頃には男の顔は見るも無惨な姿だった。顔は腫れ上がり原形をとどめていなかった。

 

「何をしているの?ルフルス・ハー・ラインズ」

 

と馬車からテューレが現れた。

 

「テュ テューレ様!なぜここに!?」

 

「あんまり報告が遅いので 気になって見に来たのです。ゾルザル殿下のご期待がかかっているのですから がっかり させないでください」

 

「し しかしーー」

 

「ダメ 『しかし』はなしよ そういういけない言葉を口にしてはダメ あなたが口にしていいのは『はい』だけよ おわかり?」

 

「は・・・はいっ」

 

「けど不思議ね 女子供と年寄りの寄せ集めに 選ばれたあなたたちはなぜ負けてるの?あなたたちってもしかして・・・無能?わたくしは殿下のもとに帰らねばなりません ルフルス あなたはオプリーチニナ発足の功労者 わたくしはそう思っています」

 

「は はい」

 

「けど殿下がどう思うかは別の話 あなたに短剣を手渡すことになるかも・・・わたくし そんな役目したくありませんわ わかってくださる?」

 

「は はい」

 

「ですから多少の損害は仕方ない そうでしょ?」

 

「はいっ」

 

「殿下と一緒によい報せを待っていますわ 早く届けてくださいね」

 

「は・・・はい!」

 

「いいお返事・・・」

 

そう言ってテューレは馬車に乗って去って行った。

 

「法務官 いかがしますか?」

 

「う・・・ううううう」

 

「ほ・・・法務官!?」

 

「なにをしているのです?三万を超える帝国軍がいるではありませんか 手駒が足りないのなら早く呼び集めなさい」

 

ルフルスの状態はもう殆ど自暴自棄に近い状態だった。

 

 

潜伏している陸軍斥候部隊は掃除夫の行動を監視していた。

 

「動きが急に慌ただしくなった」

 

「発破かけられたな」

 

「さっきの馬車よっぽど重要人物が乗ってたのか?」

 

「死角に入って確認できなかったのが惜しいな」

 

 

そして悪所事務所では、黒川がミザリー達に問い合わす。

 

「馬車?」

 

「ああ 種類は問わない 今から伝える日時と場所に来てくれ」

 

「しかしねえ このご時勢に・・・」

 

「馬車もひと財産だしねえ」

 

「無論 ただとは言わないぜ」

 

とある屋敷では、日本軍が悪所の顔役ーーゴンゾーリ家 メデュサ家 パラマウンテ家と取引をしていた。

 

「金なら出す」

 

とテーブルの上には山の様な金貨が置かれた。

 

「個人的なつき合いはともかく なんで俺たちがニホン軍の手伝いを・・・」

 

「悪所の包囲が厳重になってあんたらも困ってるはずだ。ちょっと馬車を集めるだけで金が手に入る。そして自分たちはあんたたちが普段やってることには口を出さない」

 

「我々の邪魔さえしなければ」

 

「いい取引じゃないか?ーーとイズモ隊長は言っています」

 

と栗林が通訳して三家はやれやれと言った感じで承諾した。

 

「で どこに馬車を持ってきゃいいんだ?必要な数は?」

 

「ご協力感謝する」

 

そして悪所事務所では、兵士を集め上官たちが作戦を説明する。

 

「西門北にあるバスーン監獄 講和派議員が多数収容されている。空挺作戦開始前にこれを制圧し講和派議員を解放する。攻撃部隊は陸戦隊 第一 第三 第四偵察隊 議員たちは馬車で陸戦隊の制圧した西門を通り集結地点に移動 集結地点は空挺作戦の降下地点となる。彼らを回転翼機で脱出させ 参加部隊は陸路 回転翼機で輸送してきた車輌でアルヌスに向かう」

 

「一偵と三偵はPX事務所に移動 四偵に合流し配置につく 敵との接触は避けること移動経路はーー」

 

「こんな大事なときに伊丹隊長ら どうしてんのかな」

 

「確かレレイの用事でまだ ロンデルじゃねえの?」

 

 

一方、ロンデルに居る伊丹達一行は、学会の発表の準備の待ちをしていた。

 

「ロンデルの学会 正式にはロンデル学位認定審査会。元々は学徒が賢者の書庫に立ち入る資格があるか見るためのもの 賢者の蔵書を理解するには学徒にもある程度の学職が必要だから」

 

「図書館ないって言ってたもんなあ」

 

「ああ ずっと昔に焼かれたんだったな」

 

「そう 学位が上がるごとに多くの導師の書庫に入れるようになる。自ら塾を開いて門下を持ち 学会で研究成果を発表することもできる」

 

「レベルアップみたいなもんか」

 

「レベルには『学士』『修士』『博士』『導師』がある。まず学徒は 学士以上の者から基礎教育を受ける。推薦をもらって導師に師事し口頭試問に受かれば学士号をもらえる。晴れて『賢者』の仲間入り 他の学派の導師を加えた口頭試問に受かれば修士号がもらえる。そうすれば他の学派の教えも学ぶことができる」

 

「試験ばっかりぃ」

 

「わたしが今持っているのが修士号」

 

「その次が博士号ね」

 

「そう ちなみにアルフェはもう持ってる。博士号を持っていたらロンデルで制約なく学ぶことができる。あんなのでも多くの国では閣下と呼ばれる。ここでやめる人が多い」

 

「あんなの?」

 

「審査会で老師全員に論文を認められないといけないはずなのに・・・なぜ どうしてどうやってあのアルフェが・・・」

 

「レレイ殿?」

 

「で最後がレレイの受ける導師号なのねぇ」

 

「自ら書庫を構え多くの学徒を教えることになる。その権威は国の大臣より上をいくほど」

 

「なるほどねぇ」

 

「今日レレイが出る学会ってそんな権威あるんだな 宿の主人がビビるはずだわ」

 

「とんだ 優遇措置だな」

 

「あたしぃもぉ神官見習いのとき習い事しただけだからぁ 学位取るのってそんなに大変なのねぇ」

 

「わたしたちも無縁だし」

 

「しかし噂では聞いたことあるぞ。ロンデルの学会・・・導師号の審査は公開処刑吊るし上げだと・・・」

 

とヤオの爆弾発言に一同全員が静まり返る。

 

「ちょっヤオ!今それ言う!?」

 

「空気読めよ!」

 

「今日レレイが受けるのよ!」

 

「え!?あ!」

 

「やっちゃったわねぇ ヤオ〜」

 

「レ レレイ殿」

 

「大丈夫 覚悟はもうできている」

 

「しかしレレイはすごいよなあ 学位取って終わりじゃないんだろ?」

 

「それはイタミも同じ」

 

「俺も?」

 

「イタミはーー学士に相当する学位を持つ 賢者」

 



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賢者イタミ

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ありがとうございます。
どんどん評価や感想をよろしくお願います。


「イタミは ニホンで試験を受けて 賢者の資格を取っている」

 

「へ?」

 

「・・・うそ!?」

 

伊丹は数秒黙り込んだ後我に返った。

 

「え!?賢者!?俺が!?」

 

「訳語として学士を用いていいか悩んだが ニホンの学位修得制度を調べるとそう訳すしかなかった。十数年間の教育課程でシカンガッコウという学びの場。ここで学士と呼んでいい資格を取ることができる。ニホンではダイガクまで行く者も少なくない」

 

(士官学校は、普通の学校と違った特殊な学校なんだけどな・・・単位ギリだったし)

 

陸軍士官学校では、数カ国語に及ぶ外国語の修得 物理学 数学 国語 歴史 化学 地理 地質学 心理学 経済学 通信技術に加え武官教官による射撃 乗馬 体操 武術の実技指導など様々な技術を求められる。凡そ精神と肉体の極限を要求される訓練を易々とこなして行き、陸軍の兵士を率いる士官を育てる場所だった。ある意味難関校である陸軍士官学校に入学して卒業出来る事は東大や京大に入って卒業するぐらいエリートに等しい。

 

「へぇ〜 ニホンってすごい国なのねぇ 学士がいっぱい?」

 

「此の身は聖下が愛の神を目指されていると聞いたときくらい・・・驚いた」

 

「レレイがそう言うなら本当だろうけどすごっく違和感あるわ」

 

「偉大なる知母神ラーの言葉 勉学には物を知るだけの下達 理解する力を養う中達叡智を磨く上達がある」

 

「どういう意味?」

 

「本だけの知識で賢者気取りの者が多いという批判」

 

「・・・あれ?俺・・・バカにされてる?」

 

「バカになんてしてないわ父さん 意外だと思ってるだけ」

 

「フッ 意外性の男と呼んでくれ」

 

「おかげて父さんに学があるなんてちっとも思わなかった」

 

テュカの口に出た言葉に引っかかる伊丹にテュカは両手をぐうにして両頬においてぶりっ子のポーズを取る。

 

「おこっちゃイヤ♡ 本音がつい出ちゃっただけ!」

 

『な あ に い い?』

 

と怒った伊丹はテュカの両頬を引っ張るがテュカも伊丹の両頬を引っ張り返してくる。

 

「悪いこと言うのはこの口か?こいつめっ こいつっ」

 

「うきゃっ いらい いらいっ」

 

ガ ッ

 

「あがっ」

 

「くぬっ くぬっ くぬぬぬっ」

 

「いれれれれっ ひゅかっ やめへっ うぎゅううう」

 

「にゅう〜」

 

ギュウウウウウ

 

と互いの頬を引っ張り合っている姿を皆ジーッと見つめていた。

 

「いいなあ アレ・・・」

 

「ああいう反応が返ってくるのねぇ」

 

「ホント バカみたいだな」

 

「そろそろ テュカのタガがはずれかけている」

 

「誰か止めなさいよぉ」

 

「では 此の身が イタミ殿 もうやめられよ。御身の普段の言動に原因があるのではないか?学職があるのに無学のようにふるまっている。テュカはそう言っているのだ そうだろ?」

 

「余計なことを・・・」

 

「んなこと言ってもなあ 性に合わないんだよ 昔から軽い軽いって・・・」

 

するとロゥリィと伊丹と大場は扉の向こうから気配を感じ身構える。伊丹と大場はホルスターから拳銃を抜き取り構え、ロゥリィはハルバードを持って扉付近で待ち構え、レレイは杖を持って魔法の準備をし、テュカとヤオは精霊魔法の準備をする。そして扉が開かれ誰か入って来た。

 

「遅くなりもうした。シャンディー殿の行きそうなところ・・・」

 

と入った来たのはグレイだった。扉付近に居たロゥリィのハルバードはもう少しでグレイの首を吹っ飛ばすところだった。

 

「・・・戸を開く前に声をかけるべきでしたな」

 

「シャンディー殿が行方知れずになってはや四日・・・戦場での偵察行なら希望を捨てるには尚早ですが このままではピニャ殿下に申し訳なく・・・小官 もう一回りして参ります」

 

「わたしも行く・・・」

 

「レレイはここにいろ 自分がシャンディーに偵察を任せようと提案したんで気に病んでんだろうが 送り出したのは俺らだ」

 

「それにレレイ 自分が狙われている身だって事を忘れるな」

 

「そうですぞ レレイ殿。彼女を信用しているのなら待つべきです。一度与えた信用を中途で引きあげるのは騎士への侮辱となりますぞ」

 

とグレイは言うがレレイの表情はどこか申し訳なさそうだった。

 

「だいたいロンデルに来たのだってぇ 今日のためでしょお?」

 

「・・・学会は今回だけじゃない」

 

「笛吹男はどうするのぉ?このままだとぉ ずうっと狙われるのよぉ あいつの刺客はどんどん増えていくしぃ」

 

「シャンディー殿を心配なさってくださるのはわかっております。ですが作戦を一度始めたら完遂する覚悟でいていただきたい」

 

「そうよぉ 笛吹男を迎え撃つのが先ぃ」

 

「・・・・」

 

そんな時廊下からトタトタと足音が聞こえて来て一同は再び身構える。そして勢い良く部屋に入って来たのは今行方不明のシャンディーだった。

 

バ ン

 

「遅くまりましたあ!」

 

そしてシャンディーの姿を見て皆目を細めて見詰める。

 

「・・・あれ?」

 

シャンディーの姿は、身体中汚れ息切れ状態だった。

 

ハァ ハァ ハァ

 

「シャンディー!あなた 今までどこにーー」

 

「シャンディー殿 報告を」

 

行方知れずで心配掛けていたシャンディーをテュカは怒ろうとするもグレイは笑顔で迎える。

 

「あ はい ボーイに接触したノッラって女をパイランまで追跡するも・・・見失いました。あの ボーイさんたちから学会での仕込みの話は・・・」

 

「きたわよぉ」

 

「そうですか このノッラは・・・笛吹男の傀儡です」

 

「やっぱりぃ?」

 

「あー そいつが笛吹男本人なら手っ取り早かったんだけどなあ で 笛吹男から接触は?」

 

「ありました。パイランでボーイさんの情報と同じ風体の男が接触してきました。けど・・・疲れてて・・・居眠りしてる間にいなくなってました」

 

「散々心配させといて結局それ?」

 

「すみません・・・」

 

「いやはやお手柄ですぞシャンディー殿。片道二日の行程で単独で追跡 笛吹男の風体も確認したのですからな!」

 

「・・・ごめん言いすぎた。ご苦労様」

 

「いえいえ任務ですから騎士団で長距離斥候は一番だったんですよ」

 

「・・・その任務なんだけど ボーイが誰と接触するか・・・確認するだけでよかったんだけどな」

 

「わざわざ追跡しなくってもよかっただが」

 

そう言われてシャンディーは目を丸くして黙り込む。

 

「えー!?無駄手間?奴の顔ばっちり見てきたのにぃー」

 

「そこは感謝するけど連絡は欲しかったな」

 

「すみません・・・(褒められようと独断先行したのは内緒にしとこ)」

 

「んじゃ後は予定通り 準備いいな?」

 

「ええーっ わたし今帰ってきたばかりですよお へとへとでごはんも着替えもしてないのにい」

 

「そうだったな どうしよ・・・」

 

「そろそろ学会の始まる刻限だが・・・」

 

「シャンディー殿 戦場ならば何昼夜もの斥候の後即戦闘など珍しくもないこと ここは騎士としてのがんばりどころですぞ。そうですな イタミ殿 オオバ殿」

 

「ええ まあ」

 

「そうだな」

 

「すみません イタミ様 オオバ様 予定通り学会に行きましょう」

 

気持ちを切り替えやる気になったシャンディーに二人は口をノの字にして笑う。

 

「あ」

 

「おはようございます!いよいよですね!」

 

「打ち合わせ通りお願いします!」

 

「胴鎧 ちゃんと着てます?」

 

「僕たちも行って奴を見張ってますから!」

 

「がんばってくださーい!」

 

「・・・よし 俺たちも行くか」

 

入り口でボーイにたち応援されながら一同は学会へと向かう。

 

「なあ レレイ 前から気になってたんだけどものすごく慎重にやってる気がするんだよな アルヌスじゃ書物で色々調べてたんだろ?それをそのままこっちで発表してもかまわないのに・・・」

 

「・・・学徒としてカトー老師に入門して最初の教えは学問が人に与える影響だった」

 

------回想----

それはレレイがカトー老師に弟子入りして間もない頃。

 

「よいかレレイ 古き時代の農耕の神の神話 それが天文学の始まりじゃ人々は星の動きと季節とに関係があると気づいた。賢者たちは星々の運行を観測し 正確な暦を作ろうとしたんじゃ天文学の成立ーーじゃが二千五百年前重大な事実が明らかになる。パッソルの『球体大地説』ーーその説は発表されたとき人々は恐怖した。円盤状だと信じていた大地が球体!?それでは大地の端からあらゆるものが大地さえ滑り落ちてしまうではないか!ロンデルの会堂は怒る民衆に取り囲まれた。民衆は球体説が誤りだと認めさせようとした。彼の学説が世界を滅ぼすと思い込んでしまったんじゃ賢者たちは民衆を収めようと嘘をついた。嘘ではあるが事実でもあった要は詭弁じゃ大地は球体だがどこにも落ちない落ちるべき『下』こそこの大地なのだ。民衆にはその嘘が必要じゃった。自尊心を満足させる嘘 かように学問は民心に影響を与えるのじゃ」

 

----------

 

「その教えを聞いた夜 恐ろしくて震えた。意気揚々と大発見を発表したら 群衆に袋叩きに遭う夢を何度も見た。自らの発見や発明が人々に何をもたらすか 賢者は考えなければいけない。わたしの発表は魔法で爆発を作り出すもの魔法だから広まるのも限定的 けれどーー火薬は違う。本来なら火薬の製法を発表するべき だけどわたしはその効果を知った今 発表がもたらすものに恐怖している。ニホン軍は戦いに火薬を使う『門』が開いた今いずれ製法は伝わる。なのにわたしはーー」

 

そんなレレイに伊丹はレレイの頭に手をポンッと置く その表情はどこか嬉しそうだった。

 

「それでいいのよぉ だってぇ レレイにはいずれ宿題をやってもらいたいものぉ」

 

「(宿題?ミモザ老師みたいにか?)なあ ロゥリィ レレイがーー」

 

『なぁにぃ?』

 

と伊丹はロゥリィの表情にゾッとした。

 

「(ーー訊けない この問いは地雷だ。火薬の製法をレレイが発表したらどうなるか?いや 発表したらロゥリィはレレイをどうするか?亜神は庭を守る庭師 必要ならば伸びすぎた枝を刈り取るーー)ど 導師号取ったら もっと らしい格好させようか」

 

「それがいいかもぉ」クス クス

 

「別にいつものでかまわない」

 

「?」

 

会堂に着くと色々な人が集まり発表に来たもの居ればこれを機会に出店を開くものまでいた。と会堂の入り口に先に来ていたミモザとアルフェがいた。

 

「レレーイ!遅い!こっちこっち!」

 

とその掛け声に反応して周りの人が伊丹達一行の方を見る。

 

「どうもミモザ老師」

 

「ご無沙汰しております」

 

『あれが噂のレレイ・ラ・レレーナ』

 

『本当に若いな』

 

「ベルナーゴのお話 アルフェから聞いたわあ」

 

『鉄のアルフェの義妹だって?』

 

「レレイ有名人ね」

 

「そりゃそうよ。身の程知らずにもその年で導師号狙ってるんだから 話題にもなるわ」

 

(それだけじゃないんじゃ?)

 

(この前のド派手なケンカのせいでもあるんじゃ・・・)

 

「間に合ったのねえ」

 

「おかげて新調するはめになった」

 

「金持ちめっ」

 

「アルフェったらね そんなくせにレレイが炎龍を倒したって噂 色んなところで自慢してるのよ」

 

「ミモザ老師!黙っててくださいって言ったでしょ!!」

 

「あらあら そうだったかしら?それじゃあレレイのが間に合わなかったとき使わせようと自分用の導服徹夜で裾上げして持ってきてるのも言わない方がいい?」

 

「・・・・」

 

とミモザ老師の爆弾発言に顔を真っ赤にして固まり周りの人は苦笑いをする人もいればニヤニヤと笑う人も居た。

 

「あらあらあらつい口が・・・年取ると緩んじゃっていやねえ」

 

「老師!!年寄りぶってかわいく言ってもだめですよ!」

 

「この二人ぃ 見てて楽しいわぁ」

 

「確信犯じゃないですか!」

 

「ごめんなさぁい」

 

「ごめんなさぁい じゃないですよ!姉の威厳ってものがですねえっ」

 

「あらあらあら」

 

「なんじゃありゃ?ミモザか?」

 

「いつもの師弟漫才じゃろ」

 

ミモザとアルフェのやり取りに余計に人の注目度を集めて行った。

 

「イタミ殿 オオバ殿 人の目を集めすぎではないですか?」

 

「いや 刺客がいても逆にやりにくいはずだ」

 

「人を隠すなら人の中ってやつだな」

 

「・・・けど そろそろ受け付け行かんとやばくないか?」

 

そんな時ミモザとアルフェの間に優男風のエルフが割って入って来た。

 

「アルフェさん アルフェさん みんな見てますよ その辺で・・・」

 

「いいからあんたは黙ってて!!」

 

「あ はい・・・」

 

「テュカ エルフだぞ」

 

「なんで ロンデルで学徒なんか」

 

(誰?)

 

「随分大柄な優男が出て来たな」

 

「アルペジオさんの知り合い?」

 

「聞いてない」

 

 

「あ 皆様はじめまして 僕はフラット・エル・コーダ ここで研究賢者やってます」



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ロンデルの学会

「あなたがレレイさん?フラットです。感激だなあお会いできるなんて!お話はアルフェさんから色々聞いてます。その歳で導師号に挑むなんてすごいですね。僕が同じくらいのころは森で遊びまわってましたよ。それにさっき聞いた炎龍を倒したって噂!すごいです!街中の噂です。いや大陸中かも そしたら大英雄ですね!」

 

「・・・炎龍の噂には虚偽が含まれているので訂正する。炎龍と正面から戦ったのはここにいるイタミとオオバとーー斃れていったクロウ メト バン フェン ノッコ コム セィミィ ナユ そしてそこにいるヤオ とどめを刺したのはテュカ」

 

(レレイ殿・・・)

 

「あ あたしは最後まで突っ立ってただけで・・・」

 

「わたしは魔法でつついただけ」

 

(つついただけ・・・ね)

 

(あれがつついただけと言えるのだろうか?)

 

炎龍を倒した事を褒め称えるもレレイは自分一人の力ではなくみんなで倒したと言う。

 

「みなさん すごいですよ!テュカさんもヤオさんもエルフの仲間として花が高いです。僕なんてただの研究賢者だから・・・」

 

「研究賢者?」

 

「魔法を使わない賢者のこと」

 

「使わないんじゃなくて使えないんです。エルフだから精霊魔法になっちゃって 実験には向いてないんですよね」

 

「失礼ですがご専門は?」

 

「天文学を・・・」

 

「うわっ」

 

と天文学と言われ伊丹は驚く。

 

「天文学の発達史を彼に説明した。パッソルの『球体大地説』あたり・・・」

 

「なるほど・・・大丈夫ですよ。最近は袋叩きにされなくなったし すごい新説も出てますしね!モクリの『太陽中心説』!これならきっとみんなを納得させられます!」

 

(地動説か?)

 

「赤星 黄星 蒼星 白星の天球にある惑星ーーこの四星が『球体大地説』で説明できない動きをすることがあるんです。だけど『太陽中心説』なら説明できる。つまり僕達のいる大地も太陽を回る惑星なんですよ!」

 

「評判はどうなのぉ?」

 

「全然です。賢者の大半も・・・」

 

「そりゃそうよ 大地が動くっていうんならなんで月はついてくるの?」

 

「モクリは虚理で説明しようとしたんですが・・・研究賢者からは虚理でごまかすなと叩かれ 魔導師からは虚理は法理で作った陣内でしか発動しないと批判され・・・」

 

「ふぅん・・・」

 

「そういえばイタミさんとオオバさんは『門』の向こうから来たとか そちらではどんな説が」

 

「「え?」」

 

(空に有人ロケットを打ち上げて人類最初の有人宇宙飛行ーーとかウソ教えたら信じたりして)

 

「フラットその辺にしたら!」

 

「あ はい 後で教えてくださいね」

 

「パップルの写真見せてもいいのかなあ」

 

と伊丹達はフラットに案内され会堂の中へと入っていた。

 

「あんた今回どうするつもり?また 太陽中心説絡み?」

 

「まさか ただの観測報告だけで」

 

「それならいいけど・・・」

 

「びっくりするような現像が起きてるんですよ」

 

「矢が降り注ぐようなのじゃなきゃいいわ。せいぜいがんばりなさい・・・なんですか 老師?」

 

「なんでもなーい」

 

するとミモザ老師がレレイ達の方を向く。

 

「なに?」

 

「フラットはねえ アルフェにプロポーズしてるの♡」

 

『キヤーー!』

 

「そ その話は断りました!なんでもう男として見てないバカエルフと結婚なんかーー」

 

「という関係なのよ〜」

 

「ホントですよって 老師?聞けよおい!」

 

(はしゃいでいる中で一番若いのがミモザ老師という事実・・・)

 

(ミモザ老師外見に似合わず精神年齢16歳だな)

 

そんな女子トークを見て男である二人は苦笑いで眺めていた。

 

「一般報告の予定者は こちらで受付お願いしまーす」

 

「あ じゃあ僕行ってきます」

 

『博士号審査 導師号審査 受けられる方はこちらへ!』

 

レレイはみんなに見送られる中審査に向かって行った。そして伊丹と大場は会場内を見回っていた。

 

(白い導服はレレイの他に三人か・・・)

 

(どいつもこいつも怪しく見えてきやがる)

 

「アルフェ 控室のおじいちゃん達にあいさつしてくるわ」

 

「え?」

 

とミモザ老師は階段を登って控室に行った。残されたアルフェは伊丹の方をチラチラと見てくる。

 

「ーーアルフェさん?」

 

「あ はい!」

 

「認定審査に合格者の定員ってあるんです?」

 

「いいえ 年によってまちまちです」

 

「笛吹男の噂は?」

 

「街中でみんな話してますよ。舌先三寸で素人を刺客にしちゃうとか。賢者が引っかかるとは思いませんけど・・・」

 

「じゃあ 魔法では?」

 

「精神操作魔法?そんなすごい魔法実現したら一発で導師号ですよ」

 

「・・・なら 発表内容が被っちゃうことは?」

 

「たまに みんな発表会まで秘密にしてますし」

 

「なるほど・・・」

 

「では番号順に受付します。お並びくださーい」

 

そしてレレイは言われた通りに列をなして行くそんな中伊丹はレレイの事をチラチラと見る挙動不審の音に注目する。

 

「・・・もし 長年の研究を盗まれてその犯人が目の前で平然と発表しようとしている。アルフェさんならどうします?」

 

「必ず殺します。賢者にとって研究成果は命ですから」

 

そして伊丹はホルスターからワルサーP-38を抜き取り挙動不審の男に向ける。

 

「はいっ そこまで!!」

 

すると驚いた男の懐から小さな短剣が転がり落ちた。

 

「やめといた方がいいですよ?老い先短い人生こんなところで終わらせちゃもったいない」

 

「・・・・わっ 儂は悪くない!!儂の研究を盗んだこの小娘が悪いんだ!!こんな小娘が導師号審査に出せるような研究をしているわけがない 誰かの研究を盗んだに決まっとるんだ!」

 

「グレイさん あと頼みます。ヤオも行って」

 

伊丹に言われて男はグレイとヤオに連行されて行った。

 

「今の学会は腐っとるー!!」

 

「ま 例によって 奴にだまされたんだろうけど」

 

そしてこれから学会における発表が始まろうとしていた。

 

「みなさん 今年もロンデル学位認定審査会の日を迎えられました。対岸では『門』が開き帝国がまた戦を始めているようですが ペンは剣よりも強しと誰かが言ったとかでは始めましょう」

 

色々な魔導師が壇上で発表するが殆どの者が審査官にインクを投げつけなら挫折していた。

 

「やっぱり笛吹男にだまされてたんだ」

 

「これで何人目だよ」

 

「レレイ殿の研究には似ても似つかずで 導師号審査に落ち続けて切羽詰まってたそうだ」

 

「そこを付け込まれたと」

 

「人の弱いところを突いてくるとは」

 

「うむ まあ 未遂だったので罪には問われないそうだが ロンデルでやり直すのは難しいだろうな」

 

伊丹と大場がフラットの方を見ると何やら顔が真っ青だった。

 

「フラットさん」

 

「は はい?」

 

「ロンデルにエルフって他にいるんですか?」

 

「あ ああ 僕みたいに師に入門してるエルフはいませんよ。僕は変わり者ですからね。学位があった方が箔がつきますし」

 

「やっぱどこも肩書きが大事スねえ(レレイの顔色いつもより白い・・・レレイでも緊張すんだな)」

 

(あいつらインク投げて楽しんでるとはつくづく趣味が悪いなぁ)

 

(しかっし・・・ぜったい楽しんでるよな あれ)

 

「布についたら洗っても落ちんぞ」

 

「一個当てたぞい」

 

「負けんぞ」

 

と大抵の審査員はインクを投げて楽しんでいた。

 

「インクが危険物だったら・・・」

 

「大丈夫 老師方は投げない」

 

「わかった 頼むぜレレイ」

 

「・・・レレイさんはいいですね。自信があって 僕はもう緊張で気な・・・」

 

「あなたは発表だけなんだから気楽にやればいい」

 

「そうもいかないのが僕の性格なんで・・・」

 

「そんなことでは姉は陥せない もっとがんばって」

 

「あ はい・・・」

 

「次の発表の方どうぞにゃ」

 

フラットの番が来てフラットは壇上に向かう。

 

(前途多難だなあ・・・)

 

(大丈夫かよ?)

 

そしてフラットが壇上の上に立ちと

 

「また あいつか」

 

「前に世界の中心が太陽を回っとるとぶちあげたエルフじゃな」

 

「こりずに太陽中心説を今日もやるのか?」

 

周りが呆れる中フラットは発表を始める。

 

「えーみなさん 僕 フラット・エル・コーダは・・・世界が歪んでいることを発見しました」

 

それを聞いて周りが目を見開く。

 

「あんのバカ・・・」

 

「僕はしょうこりもなく太陽中心説を研究しています」

 

「やれやれ」

 

「そのための天体観測で最近惑星と恒星を間違えてしまいました」

 

「なんとまあ」

 

「なぜなら 白星の本来の位置に天孤星があったんです。北天の中心 北辰星を中心に動いていくはずの天孤星が月を追うごとに移動して白星の軌道と交差してしまったのです。では 惑星である白星はというと ここ ありえない位置です。異常が現れた周辺の星々を一ヶ月ほど観測すると南南西の方向に引き寄せられるように軌道が歪んでいました。過去に例のない現象です。しかも歪みは日々大きくなっています。何か良からぬ前触れかと思っていたら地揺れが起こりました。これらは関連していると考えています。しかし原因を僕はまだ説明できまさん。もしかしたらこの世界の成り立ちに関わることかもしれません。みなさんもぜひ夜空に目を向けてください。これで報告を終わります。では質問のある方・・・」

 

発表が終わると周りから拍手が響き渡る。

 

「やれやれ ただの観測報告か」

 

「インク壺 いつ投げつけようかと構えとったのに」

 

観測報告を終えたフラットが戻ってきた。

 

「・・・・」

 

「インクまみれにならないでよかったわね」

 

「よくがんばったわ フラット アルフェが見直したって」

 

「え!?」

 

「んなこと言ってないから!はい水!」

 

「ありがとうございます・・・」

 

「いよいよ レレイの番だ」

 

「これは期待出来そうだな」

 

「本日最後の導師号審査ーーレレイ・ラ・レレーナ!」

 

「ほう あの娘が」

 

「本当に若いな」

 

「カトーの弟子じゃそうな」

 

「どんな発表をするんじゃ?」

 

周りが好奇心な目を見る中伊丹達は刺客が襲ってこないか辺りを見回していた。

(どこだ どこから仕掛けてくる?)

 

伊丹は双眼鏡で辺りを見回していた。すると入口でローブをまとった人物を見つけた。

 

「あいつがノッラか この茶番レレイの発表が終わってからにすりゃいいのに レレイが英雄視されるのが気にくわないって動機なら 導師号取る前に暗殺に動くか」

 

「止めないのぉ?」

 

「ボーイの話だと奴は演壇の上まで来るはずだ。決定的な行動を起こす前に捕まえても 言い逃れされたら罪に問えないーー」

 

そんな時ノッラが大きく飛び上がり真っ直ぐ演壇にいるレレイに向かっていく。

 

「くそっ しまった!」

 



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襲撃

短剣を構えたノッラは演壇に立つレレイに向かって飛びかかる。

 

「もらった!」

 

絶体絶命の状況の中、突如ノッラに向かって多数の無機物や光が注がれていく。

 

『ギャン』

 

まともに食らって壇上に堕ちたノッラは身体中に火傷や傷跡が付いていた。その光景を見て周りの人々は困惑し唖然とする。

 

「あ・・・れ?」

 

「段取りと違ってない?」

 

「えらい こっちゃーっ」

 

「お医者 お医者」

 

「なんというか・・・コンサート会場にテロリストが入り込んだら 満席の観客が全員特殊部隊員だったって感じ?」

 

「何だ?その例え?」

 

「ひとまず控え室へ!」

 

「レレイ!」

 

「皆様しばしお待ちください」

 

「老師達待ちかまえてた?」

 

「ロンデル中で噂になってるって言ったじゃないですか。目の前で襲えばあの老師達が黙って見てるわけないです」

 

「もしかしてあれで手加減してる?」

 

「ノッラが襲って来たんですか!?」

 

「ああ フリじゃなく本気でな だが老師達が直前で防いでくれた」

 

「あれ見たら他の刺客がいても手を出さないだろうけど 一応みんな持ち場に戻ってくれ」

 

「・・・レレイさん」

 

するとシャンディーがレレイに近付き懐から短剣を取り出してレレイに向かって振り下ろす。

 

「え?」

 

キ インッ

 

硬い金属音が響き渡り伊丹達がレレイの方を見てシャンディーがレレイを襲っている事に驚き目を見開く。そして実行犯のシャンディーも伊丹達とは別に刃先が通らず欠けた事に驚く。

 

「・・・え!?どうして!?」

 

「シャンディー殿 何を!?」

 

「レレイ!」

 

駆け付けたグレイとヤオがシャンディーを取り押さえる。レレイは導服を捲り下に胴鎧を着ていた。

 

「胴鎧を着ておけと言われたから」

 

「え・・・ノッラは襲うフリするだけだから 鎧なんか着なくても・・・」

 

「そう思っていたのはボーイとシャンディー殿だけですぞ」

 

「まあ 半信半疑だったけどな」

 

「けどあの動きはやばかった。老師達が魔法で止めなきゃ今ごろ・・・」

 

「ニホンにもこんな格言がある。備えあれば憂いなし」

 

『ずるいです!』

 

「ずるいも何もドジだっただけじゃない」

 

「困るわぁ まだぁレレイをハーディのもとに行かせるわけにはぁ いかないのよぉ」

 

とロゥリィは暗い笑みを浮かべてシャンディーを脅す。

 

「あの〜発表するにゃ?」

 

「あ はい レレイ!発表やれる?」

 

「刺客に狙われるほどの注目人物の発表。会場中が聞きたがってるぜ?」

 

そう言われてレレイは何処と無く安堵していた。

 

「改めまして本日最後の導師号審査 レレイ・ラ・レレーナ!」

 

名前が呼ばれてレレイは演壇に立つ。

 

「わたし レレイ・ラ・レレーナは『門』の向こうの『現理』を応用して、魔導師でも手が出せなかった現象を制御し 新たな魔法を作り出した。その名は"爆轟魔法"。魔法で爆轟を起こすことに成功したーー」

 

 

円盤状の物体を上げ、そして呪文を唱えると物体は跡形もなく粉々になった。この光景を見た老師達は、目を丸くして驚いていた。

 

「このように力場で作った光円環を連続爆轟させることでより破壊力のある光弾を射出することができる。応用の一つとして浮揚させた物体の加速に使うこともできる」

 

(あれかあ・・・)

 

「この魔法で衰退を始めていた戦闘魔法が復権するかもしれない だけど 魔法による戦いは・・・今までより悲惨なものになるだろう。その上で他の分野への応用発展も望んでいる。魔法は一つの道具なのだから・・・以上で発表を終わる」

 

聞いていた老師達は唖然としていた。

 

「すばらしかったわレレイ」

 

「見てよ 老師達の顔 導師号間違いなしね」

 

誰もがレレイの導師号取得間違いなしと考えていたが齎された結果は、

 

「保留!?なんで?老師!?」

 

「それがねぇ・・・発表は申し分なかったのよ?けど ほら さっきの騒動導師になったら学徒を指導する立場になるし あの発表を聞いた学徒が押し寄せるわ。今のままで学徒が巻き込まれでもしたら・・・」

 

「なにそれ!レレイ自身のせいじゃないのにっ」

 

(機嫌悪そうだなぁ・・・)

 

(仕方がないかぁ)

 

見るとレレイの目は何処かと暗くなっていた。そしてその後レレイを襲おうとしたシャンディーの尋問が始まった。

 

「さて と シャンディー なぜ レレイを?」

 

「事と次第によっちゃ・・・」

 

シャンディーは俯きで黙り込んでいたが漸く喋り出した。

 

「・・・殿下を ピニャ殿下を助けるためよ!!」

 

「ピニャ殿下を助ける?姫殿下の身に何か?」

 

「ヤツが話したの 騎士団が反逆者をかくまったために翡翠宮で帝国軍と戦闘が始まった。そのせいで宮廷内での殿下の立場が危うくなってるそうよ。政変が起こってディアボ殿下すら逃げ出したって、ピニャ殿下が無事でいられたのはゾルザル殿下の妹君だからというだけ」

 

「それがどうしてレレイを狙うことに?」

 

「暗殺を命じたのがゾルザル殿下だからレレイさんの首を差し出せば ピニャ殿下の忠誠を示したことになるわ」

 

「あいつだったのか・・・」

 

「また あのバカ皇子かよ・・・」

 

「そんな風にだまされたのねぇ」

 

「ちがう!ちがう!私はだまされてないわ!」

 

「エルロンまで行って噂を確かめて来たもの!だとしたら・・・笛吹男の情報能力侮れませんな」

 

「とんだ裏切りだわ!」

 

「レレイがケガしたらタダじゃ置かなかったわよ」

 

「なんとでも言えばいいわ!グレイ騎士補命令よ!!レレイさんを討って!!」

 

「・・・と 言われましても この状況でどうしろと?」

 

周りを見ればみんな冷ややかな目でシャンディーを見ていた。

 

「ここは素直に ピニャ殿下をお救いくださいと頼むべきですな」

 

「近衛の守る皇城からどうやって!?」

 

「炎龍をも倒した茶色の人ーーイタミ殿とオオバ殿ならいかようにも」

 

「へ?俺ら?」

 

「ほぉ」

 

「刺客を封じるには大元を断つしかないかと ついでに姫殿下をお救い願えれば」

 

「信じられない 皇太子殿下を手にかけるの!?」

 

「小官は庶民上がりですからな」

 

「ん〜〜一応・・・資源調査って任務中なんだけど レレイはどうしたい?」

 

「ゾルザルに会いに行く 暗殺をやめろと直接言いたい」

 

「レレイらしいわぁ そう言われたゾル坊ちゃんの顔見物ねぇ」アハハ

 

「ちょっ レレイ!帝都やばいって今聞いたでしょ?」

 

「平気 ヨウジとサカエがいっしょだから」

 

レレイがこの時初めて二人の名前を呼んだ。

 

「んー よーし行ったるか 帝都に!」

 

「行くしかないだろ」

 

そして伊丹達一行は帝都に向かう事になった。アルフェはレレイを抱きしめてレレイとの別れを惜しんだ。

 

「さっさと片付けて戻ってきてよ。導師号が待ってんだしあんたは私のかわいい妹なんだからね。無茶もほどほどにするのよ」

 

「わかってる。アルフェもフラットにやさしくして 彼以外に救けてくれる人は現れない」

 

「余計なお世話よっ」

 

伊丹達も世話になたミモザ老師に挨拶をする。

 

「ミモザ老師お世話になりました」

 

「また縁があればお会いしましょう」

 

「カトーによろしくね。たまにはロンデルに来いって ロゥリィ またね」

 

「ええ またねぇ ミモザ」

 

と言ってロゥリィとミモザは互いに別れの握手を交わす。

 

「我らはひとまずイタリカへ向かいます。イタミ殿 オオバ殿お頼みしましたぞ」

 

「「了解」」

 

そしてここからはグレイとは別行動となって伊丹達はロンデルを出発する。

 

「まずは隠してる燃料と物資回収して、まさか盗られてないよな?」

 

「フン 誰が欲しがるんだよそれ」

 

「呪詛かけたしぃ 大丈夫でしょお?」

 

「・・・帝都に行ったことあるのはロゥリィだけ?」

 

「街に行ったのはイタリカが初めて」

 

「帝都にもニホン軍がいるのだろう?」

 

「ああ 拠点がある。悪所に」

 

「悪所?」

 

「いかがわしい街だと聞いているが」

 

「ふぅ〜ん ヨウジィ行ったことあるんだぁ」

 

「誤解するな!最重要拠点だぞぉ」

 

「本当ぉ?」

 

「イタミ運転替わって」

 

そんなドタバタな中伊丹達は帝都へと向かう。

 

 

 

 



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日本軍、動く

アルヌス近郊では、一台の荷車がアルヌスに向かっていた。

 

「だんな つきましたぜ」

 

「む・・・」

 

「あそこがアルヌスでさあ」

 

アルヌス特地方面軍司令部基地では、帝都偵察に向かった九十七式司令部偵察機が撮った航空写真を見ていた。

 

「本日1100 翡翠宮の空撮です。帝国軍は新たに大隊規模の部隊を投入。騎士団は突破を許していませんが損害も増加中です」

 

「各部隊の状況はどうか?」

 

「帝都の部隊は配置完了。特教兵大師団 第四戦闘航空団 第四〇一中隊 待機中です。海軍航空隊待機中 全部隊準備完了です」

 

「ーーよろしい 全部隊に達する。所定の行動命令を実行せよ」

 

そしてアルヌスの街を見渡す丘に一人の女性がいた。その人は以前に帝国に攫われ奴隷として過ごし伊丹達に救出された日本人望月紀子だった。

 

「(門の向こうがあんな調子じゃなぁ 悲劇の拉致被害者が漏れ伝わる情報と憶測で一転ーー皇軍とかと厚意で向こうが落ち着くまでいさせてもらってるけど)正直 新聞やラジオがPXにあるからいづらいし・・・」

 

そんなことを考えていると一台軽トラがやって来た。

 

「望月さーん」

 

「通訳?」

 

「はい 昨日から来ている報道陣が望月さんに特地語の通訳をお願いできないかと言ってきまして」

 

「・・・記者には会いたくないと伝えたはずですが 皇軍や役所の人にしゃべれる人いるでしょ?」

 

「それがですねえ 報道陣は中立の立場の人間に頼みたいと」

 

「カトー先生とこの子供達は?」

 

「通訳の仕事を子供にやらせるのも絵的にと・・・」

 

「じゃあ もう騎士団のお嬢に頼めばいいじゃない」

 

「とは言っても彼女達こっちじゃ高位の貴族なんですよ。昨日報道陣が騎士団の屯所に詰めかけたときーー」

 

『無礼者ぉっ』

 

「特地入り前に注意してたのに古村崎って記者が失礼な質問をしたらしくて、報道陣は騎士団に近づけなくなりました・・・」

 

それを聞いて紀子は呆れ返る。

 

「もう望月さんしかいないんですよ。なるべく海外の記者にあてるようにしますからお願いします!」

 

「・・・(突然銀座からさらわれて言葉も通じないわけわからない世界に放り込まれ死なないために必死で覚えたこっちの言葉)受けるのは直に依頼聞いてからですからね。通訳して記者が街の人に何されても私の責任じゃないですよ」

 

「ありがとうございます」

 

と紀子は一応受けると伝える。

 

その頃帝都翡翠宮では、日本軍斥候部隊が翡翠宮の中庭の様子を見ていた。そこには、夥しい数の死傷者の数翡翠宮は正に地獄絵図と化していた。

 

「ひでえな よく保ってるよあの騎士団」

 

「剣崎 作戦開始だと」

 

「やっとか」

 

と剣崎少尉率いる斥候部隊は密かにある場所へと向かっていた。

 

「ルフルス法務官殿!なぜ正面攻撃に固執するのか!?翡翠宮は広い守りの薄いところはいくらでもある。別働隊で側背を一挙に攻めれば 兵数の劣る騎士団の守りは容易く破れる。これ以上無意味な犠牲を避けるためにも指揮は我らにお任せいただきたい 法務官殿!」

 

「オプリーチニナ特別法により軍はオプリーチニナの指揮下にあります。いいですか大隊長、正面から反逆者を打ち破ることに意味があるのです。我らの絶対的な勝利を見て反徒は震え上がることでしょう!ただ前へ進めばいいのです。敵を突き破るまで」

 

翡翠宮では、騎士団と帝国軍の一進一退の攻防が繰り広げられていた。

 

「進めえっ 前進あるのみ!!止まるなっ 進め進め!!臆病者に待っているものはわかっているな!」

 

「見ろあれ第一軍団じゃないか?」

 

「栄えある古巣をこんなことに・・・掃除夫どもめ」

 

弓矢と礫が翡翠宮の中庭を飛び交って両軍とも死傷者を増やしていた。

 

「がっ」

 

「うぐ」

 

「帝国軍の栄えある兵士諸君!この先は勝利かさもなくば死あるのみ!退却は認めない!臆病者と裏切り者に情けはかけぬ!」

 

「進め進めえ!」

 

「これ以上進めねえよ」

 

「薔薇騎士団って軍団の古参の隠居所だろ?」

 

「畜生 なんで俺達が・・・」

 

「ひっ」

 

「わっ」

 

「新入り!」

 

「わあああ」

 

帝国軍の死傷者は増す一方だった。兵達は自分らが消耗品でしかない事に嫌気がさして逃走するものまで出始めた。

 

「無駄死にだ!やってられっか!」

 

「隊列に戻れえ!!」

 

「後退だ後退!」

 

「進めえ!敵前逃亡だぞっ 弓兵!あそこに活を入れろ!」

 

「祖国の名に懸けて一歩ですら退く者は抹殺する!退くな!戻れ!」

 

「逃亡兵は抹殺する!殺れ!」

 

そして弓隊は逃亡兵に向かって矢を放つ。

 

「うっ」

 

「馬鹿野郎味方だぞぉ!」

 

「逃げるなぁ 反逆者を討てえ!」

 

「臆病者は抹殺しろ!」

 

と逃亡兵は後方部隊から攻撃され行く。

 

「ぐあっ」

 

「掃除夫に殺されるくらいなら戦友に倒される方がましだっ 俺に続け!エムロイは我とともに!!」

 

どこにも逃げ場がない帝国軍兵は掃除夫より同じ帝国軍兵に討ち取られる方を選んだ。

「野郎ども来たぞっ 槍構え!!」

 

オオオオオオ

 

激戦は半日程続いたが両軍共陣地を拡大する事は出来なかった。結局お互い始めにいた地点まで引き下がったのである。戦場はどちらの手に渡らず翡翠宮の中庭には戦死者の死骸が散乱していた。翡翠宮の窓から見ている大日本帝国使節団は黙って見ているだけだった。

 

「静かだ・・・」

 

「奴らが新しい部隊引っ張って来るまでの間だけだよ」

 

シェリーや菅原もこの光景を見ていた。

 

「・・・いつまで続くんでしょうか」

 

「・・・」

 

『おおい誰か水汲み手伝ってくれーー』

 

「あ わたくしも・・・」

 

「シェリーさんはカーゼル侯のおそばにいてください 負傷者はどうですか?」

 

「やばい 持ってきた医薬品とっくに切れてるし」

 

菅原も井戸から水を汲んで運ぶバケツリレーに参加する。

 

「負傷者がまた一名死亡したと」

 

「まずいな・・・」

 

『はい はい わかりました今村大将』

 

「吉田外相?」

 

「皆 救出作戦が開始された。軽率な行動を控え待機するように」



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ジャーナリズム

『今回の特集は取材団の現地入り初めて銀座事件後初めて許可された特地情勢。只今特地との中継が繋がった模様です。』

 

『古村崎記者です。特地は新たなフロンティアか?我が大日本帝国にとっての東部戦線となってしまうのか?皇軍の行動が注目されています。特地でアルヌスと呼ばれている丘から古村崎がお伝えします。特地側に十数万人の犠牲者が出た皇軍の戦闘から半年以上、帝国と呼ばれる銀座事件の首謀者との交渉も行き詰まり賠償金を獲得するという目的もあやふやとなる中野党や帝国民から政府や帝国陸海軍への不満と批判が高まっています。要塞の様な皇軍駐屯地に見下ろされているアルヌスの街 完全武装の帝國陸海軍将兵や戦車が街中を行き交う光景を現地市民はどう思うのでしょうか?彼らの不安な日々は続きます。また 連絡係として駐在している帝国の武官に取材を試みましたが報道陣に刃物を向ける一幕もありました。この事態を防げなかった帝國陸海軍と外務省に対し我々は抗議ー』

 

『中継の途中ですが異世界の現地から中継です』

 

とカメラに向かって取材をする軍人嫌いの反戦反軍の古村崎哲郎がアルヌスを取材する。そして次に栗林軍曹の妹の栗林菜々美がアルヌスの街を取材し始める、

 

「あ はい!特地の栗林です!今 私はアルヌスの街に来ています!ご覧ください!架空のファンタジー世界の住人の様な人々が非番の帝國陸海軍将兵と談笑する場面があちこちで見られます!ここが異世界だと言うことを実感ーー」

 

すると菜々美の後ろから栗林の名前を聞いてウルフが寄ってきた。

 

「クリバヤシ?」

 

「え?」

 

「クリバヤシだって?」

 

「え?」

 

「今仕事でいねえはずだろ?」

 

「え!?」

 

「けど似た匂いがするぜ」

 

「え!?」

 

「本当だ身内かもな?」

 

それにつられて菜々美の周りにウルフ達が群がってきた。

 

「顔似ってけどでけえの付いてるぞ」

 

「なんで私の名前を!?なんなのー!?」

 

「双子?兄妹?」

 

「えー栗林さん特地でも人気ですね(笑)いったんスタジオに戻ります」

 

そんな菜々美に群がるウルフ達を遠くから面白くなさそうに顔を膨らませている女のウルフ達が居るのを彼らは知る由も無い。そしてその頃

 

「・・・・・・」

 

「ノリコ!始めるよ!」

 

「あ はーい」

 

日本軍の取材許可が下りているビアホールでは望月紀子が取材陣の通訳を任されていた。

 

「ニホン?まあ 今度門と繋がったとこは今までと桁が違うなと思ったよ。調味料やビールがすごいんだよ!ここに来る連中舌が肥えちゃってねえ」

 

「帝国から攻め込んで負けてんでしょ?ニホンって強いよね え?向こうにはもっと強い国あるの?」

 

「それ魔法の道具か?気持ち悪いなあっちいけよ!」

 

「ニホン軍すげえ奴らだと思うぜ?俺もある国の元兵士だけどよアルヌス戦役をよく生き残れたね。別になんとも思っちゃいねえよ?アルヌスにいたって捕まえに来るわけでもねえし」

 

「ニホン軍が来てから盗賊が鳴り潜めてのぉ なにより炎龍という災厄を倒してくれたんじゃ感謝しとる」

 

住人に聞いて出てくるのは日本軍への感謝の気持ちなど

 

「ニホンはいいヒトがいっぱいいるにゃ。ニホン軍は私達の恩人のフォルマル家を救ってくれたし アルヌスで仕事にもつけたし、あ ゆーきゅーきゅーかっておいしいものもあるし!亜人だからって帝国のヒトみたいに見下さないし・・・アルヌスは天国みたいなところにゃあ」

 

メイアはアルヌスに来て本当によかったと心の底から思っていた。余談であるが大日本帝国は日米開戦前ナチスドイツの公共事業のプロパガンダ映像を見て影響を受けた日本でも週休2日週40時間労働を全国の企業に求め今で言うワークシェアリングを開始したのである。また、戦後に労働関係及び労働者の地位の保護・向上の規整する労働三法『労働基準法』『労働組合法』『労働関係調整法』が大日本帝国憲法改正の際に規定された。

 

「次の質問だけど君達の種族キャットピープル 特有の特徴や風習はあるかな?例えばおっぱいがいっぱいあるとか尻尾を性交に使っちゃったり?」

 

『んなあ?』

 

シ ヤッ

 

と質問した取材人に怒ったメイアが思いっ切り顔を引っ掻かれた。

 

「尻尾をバカにするにゃっ 尻尾をバカにするのは一族をバカにするなと一緒にゃあ!」

 

顔を引っ掻かれた取材人は顔を抑えて退散していた。

 

「ノ ノリコそのまま訳さなくても・・・」

 

「訳しはするけど責任取らないって言いましたよね。彼女 日本語結構わかるから自分で質問したらよかったんです。それにさっきの卑猥ですよ」

 

すると上空を見上げると多数のヘリが飛行していた。

 

「ノリコ 次TKTVの番だいいかい?今日は厚木基地並みにヘリがうるさいけどいつもこんななのかい?」

 

「いいえこんなの初めて」

 

その通訳を終えた紀子は飛行場の見える丘で一服していると丘の脇では古村崎がアルヌスの街は見せかけの物でしかないと訴えていた。

 

「だからさあ ここは『ポチャムキン村』なの帝政ロシアの皇帝に見せるためだけに作られた村。要は我々に見せるためにヤラセ村なんだよ!皇軍に対する反応が良過ぎるのが証拠だ。この前まで殺し合いしてた相手同士だろ?」

 

「あのこちらにはこちらの事情や常識があるでしょうし、あの街自体の成り立ちを考えると変じゃないのでは?」

 

(栗林さんだっけ 栗林・・・あのときのーー妹?)

 

と紀子は皇宮で助けられた兄の栗林軍曹を思い出す。

 

「まだまだ甘いなあ君は」

 

「栗林さんの言う通りですよ」

 

すると端で聞いていた紀子が遂に口を挟んで来た。

 

「この街は戦闘後に生まれた難民キャンプから自然に発展したものです。戦争についてもこの世界じゃ日常でピンとこないはずですよそれに帝国議会で話題になったロゥリィって神様が守護してるそうですし」

 

「これはこれはご高説をどうも 元拉致被害者望月紀子さん。いいかい?帝國陸海軍の息のかかってないところじゃ正反対の答えが返ってくるはずだ。第一我々に行動の自由がないなんておかしいじゃないか?あの獣人間達も言いくるめられてるのかもしれん」

 

「そんなに死にたいんですか?野盗や怪物がうろうろしてますよ?ここじゃ人は地球以上に簡単に死ぬんです。」

 

「確か明日 各国の視察団が近隣の村に行くので同行取材が出来ますが・・・」

 

「皇軍が見せたいところだけだろるなんの価値もない」

 

「あなた達だってあなた達が見せたいところだけ切り取ってるじゃないですか。それも価値がないってことですよね?」

 

「俺はジャーナリストの使命を全うしている!」

 

「その割には先入観ありありに見えますけど?中立的に見たまま聞いたまま伝えるのが真実の報道では?」

 

『中立的なジャーナリズムなど存在しない!』

 

「呆れました。努力もしないんですか?自分の先入観も明示せずに?受け手は何を信頼すれば?」

 

「それは記者の責任じゃないな こっちも商売なんでね。流したからには受け手側に責任があるの」

 

「随分と無責任なんですね。だからーー偏見報道と叩かられ嘲笑のネタになってるのも平気なんですね」

 

挑発的な言葉に古村崎が腹を立てて突っかかって来た。

 

「なんだその言い草は?ああ?」

 

「古村崎さん」

 

「侮辱するつもりか?俺がちょっと記事にすりゃ・・・」

 

と言いかけたが紀子のまるでゴミを見るような目に古村崎が怖気づいたのを余所にスカした顔で

 

「とんでもありません。高名な古村崎さんが見向きもしない低俗の記者に今でさえおもちゃにされてるんです。この上古村崎さんに何を書かれるか考えると・・・今日は日本の記者について大変勉強になりました。ありとうございます」

 

「・・・そ そうだったな君は皇軍に助けられたんだった。皇軍贔屓になるのも無理はない。栗林君のお兄さんも皇軍将兵だっけ?それじゃあ中立的に物が見られなくなっても仕方ないか」

 

(ええー!?自分で中立的なジャーナリズムなんてないって・・・)

 

「アレ見なよ」

 

と古村崎の指差す方では日本軍の空挺部隊の兵士達が出撃を前にタバコをふかしたり寝そべったりしている。

 

「あのだらしなさを見てごらん我々国民の目がないとあの始末だ。皇軍なんてのは所詮ああ言う連中なんだよ」

 

「じゃ忙しいんで失礼するよ」

 

「記者が自分に都合のいいことばかり垂れ流すならそれを逆手に取ってやる。受け手に本当に必要な特地の情報は"私が流す"」

 

と決意を露わにする紀子であった。



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PX@アルヌス

この日アルヌスに世界各国の武官達(アメリカ軍、イギリス軍、アイルランド軍、フランス軍、ドイツ軍、イタリア軍、オランダ軍、ベルギー軍、スペイン軍、ギリシャ軍、ハンガリー軍、ルクセンブルク軍、フィンランド軍、デンマーク軍、ノルウェー軍、ルーマニア軍、ブルガリア軍、ソ連軍、カナダ軍、オーストラリア軍、ニュージーランド軍、インド軍、メキシコ軍、チリ軍、ペルー軍、アルゼンチン軍、ブラジル軍、南アフリカ軍、フィリピン軍、中国軍)が訪れていた。

 

「二棟の仮設住宅からこの街は始まったのか。昔から基地に隣接して兵隊相手の街ができることはあるがそれとは違うのかな?」

 

「なるほど避難民達が作った協同生活組合の商売が軌道に乗って 人が集まり自然発生的に街が建設されたと」

 

と武官達は仮設住宅をマジマジと見る。

 

「はい そうです。しかし我々が関与したのははじめのほんの少し きっかけだけであとは現地の人が自分達で」

 

「難民が自分達で・・・ここで自立できるほどの商売の糧でもあったのかね?」

 

「現地で賢者と呼ばられる人の助言もあったとか」

 

「大変よくできた自立支援プログラムですね。あとで詳細な資料をいただけるかな?」

 

「え?ええと・・・そのーー」

 

「なにかね?そんな物まで秘密なのか?」

 

「い いえそういうわけではっ 担当者に尋ねてみます(自立支援プログラム?そんなのあったっけ?伊丹中尉がちゃんとした計画なんかするわけないしーー伊丹中尉と一緒に行動している大場大尉は何もしてくれない)」

 

「ぜひ話を聞きたい姫路大尉 なんという方なんだ?」

 

「あの・・・そのぉ 今任務で不在なのですが い 伊丹中尉と大場大尉です」

 

と案内役の士官が言うと武官達は彼に詰め寄る。

 

「ルテナントイタミ!?」

 

「フォックスオオバ!?」

 

「二重橋の英雄の!?」

 

「え 英雄?伊丹中尉と大場大尉が?」

 

「何を言ってるんだい 銀座事件で多くの民間人を救ったのは彼だろ?それにフォックスはサイパンで我が軍を翻弄したじゃないか」

 

「ドラゴンを追い払って難民を救ったのも!」

 

「さらには敵国の首都に乗り込んで拉致被害者を救出したじゃないか。これを英雄と言わずなんと言うんだい?」

 

(あっれぇ?大場大尉が称賛されるのはわかるけど伊丹が?怠け者で給料泥棒で昼行灯って評判なのに・・・そういえばーー見かけるときはいつも女共に囲われていたし、巨大なダイヤもらったとか特地じゃ貴族様って噂が・・・??)

 

そんな事を考えながら次に案内する。

 

「日用品をちょっと持ち込むだけで街ができるとは 日本政府はこのビジネスチャンスをどう見てるのかな。アメリカがどう参入できるかだがやはり組合との合弁企業?」

 

「問題は『門』だよ幅十六ヤードおまけに銀座の中心 あの交通量じゃ鉄道やパイプラインの敷設もままならない」

 

「我がソビエト連邦は、特地を新たな移民先として日本政府に強く提案したい みなさんも賛同してくれるはずだ」

 

「ところで姫路大尉治安状況はどうなのか?駐屯地内はピリピリしていたし先ほどの飛行機群、大がかりな作戦でも進行中なのかね?」

 

「あーそれは私から、ここアルヌスと明日ご案内する村落周辺までは我々が掌握しております。その外では盗賊や帝国軍が確認されています。特に帝国内の政変後は動きが活発化しており情報では、帝国側はゲリラ戦術に転換したとか。パトロールとの小競り合いが発生しています。それで任務中の兵士がピリピリしてるんですよ」

 

「講和交渉中じゃなかったのか?」

 

「停戦協定を結んだわけじゃありませんから」

 

「このままだと帝国は無条件降伏に等しい」

 

「それでゲリラ戦術か」

 

そう言ってドイツ軍の武官が東部戦線での戦いを思い浮かべる。ソ連に侵攻したドイツ軍はソ連のゲリラ戦術に苦しめられて敗走して行った事を思い出して苦い顔になる。

 

「この紛争意外に長引くかもな」

 

「日本軍がこれに対処できるかお手並みを拝見だ」

 

「次は特地の物産を見学してもらいます。こちらは最近新築した組合の倉庫・・・・・では、組合のPXで三十分ほど自由行動とします」

 

「え?なに?」

 

そして倉庫の前では、ロゥリィの絵柄が入った旗を持ったアルヌスから志願者を募って結成された武装組織『アルヌス傭兵団』が隊列をなしていた。

 

『アルヌス傭兵団!敬礼ー!!』

 

と隊員は右手を心臓に添えて敬礼する。

 

「武官ドノ エッペイを!」

 

「そ それは光栄だ。では・・・」

 

「ちょっと待ちたまえ 日本と同盟国の我が国が先頭にーー」

 

「いやいやここは 本官が」

 

「おいおい」

 

「待て待てここは皆で並んで」

 

「自分が」

 

「階級順じゃないのか?」

 

「あのー 予定がだいぶ押してるのですが・・・」

 

と武官達が我先にと言い合っていた。するとそこに日本陸軍の階級章の付いていない軍服を着たデュランが現れた。

 

「ええい 買い物の時間がなくなるぞ。君来たまえ」

 

「「「「あ。」」」」

 

そしてデュランは隊員達に敬礼しながら歩いていく。それを見ていた武官達は複雑そうだった。その後武官達は、PXで買い物をする。

 

「特地の世界地図が売ってる!!」

 

とある武官が大声で叫ぶと他の武官達も駆け寄る。

 

「特地の地図だと!?」

 

「み 見せてくれ!」

 

「売り物なのか!?」

 

「本当だ・・・っ」

 

「日本政府はまだ非公式だぞ」

 

「値段は!?」

 

と値札を見てみるとその値段に仰天する。

 

「五千円!?」

 

この時代で五千円は高級車1台が買えるくらいの値段だ。つまりこの地図を買うと言う事は高級車1台買うのと同じなのだ。

 

「いや 待て羊皮紙に手書きしかも貴重な情報だ。特地の情勢を考えるとこれでも安いかもしれん 問題は誰が買うかだ・・・」

 

それを聞いてハッと我に帰る。

 

「だ 誰か金貸してくれっ」

 

「だめだっ 全然足りん他国の知り合いに頼め!」

 

「大尉っ なんでそれだけしか持ってないんだ!」

 

「無茶な・・・」

 

「小銭でもいい全部出せっ」

 

そのやり取りは店の外にまで響いていた。

 

「あれから族長はんから便りとか・・・なんよ騒ぎや?」

 

と外にいた今津大佐が中を見てみると

 

「ポケットに残ってないか?」

 

「もうないって!」

 

するとソ連軍の将校がつかさず小切手をだす。

 

「それをいただこうか」

 

「これなにかにゃ?」

 

「申し訳ありません支払いは現金でげ・ん・き・んでお願いします」

 

と言われてソ連軍は手に入れ損なった。そして地図は最終的にドイツの手に渡った。

 

「くそうナチか やはり」

 

「ドイツは先の大戦で略奪した物もありますからね」

 

「君らぼうっと見とったんか?インテリジェンスってもんをもっと・・・」

 

と今津大佐がある商品に目に入ると血相を変えて店から出て行った。

 

「今津大佐」

 

そしてある武官が今津大佐が先程見ていた商品を手に取る。

 

「こ これはドラゴンの鱗かね?い いくらかね?」

 

「五銭です」

 

「ごっーー」

 

すると先出て行った今津大佐が大きな袋を持って戻って来た。その中身は大量の一銭玉や五十銭玉などだった。因みにそのお金は今津が部下から徴収した物だった。

 

「全部 わいが買った!!みやげにするんさかい 全部包んでな・・・」

 

そして店の外ではローブに身を包んだディアボの姿があった。そしてディアボはアルヌス付近の森で笑いこけていた。

 

「ディアボ様?」

 

「いやなにたかが地図一枚にあれだけの大騒ぎだ。帝国の皇子にどれだけの値をつけるかと思ってな」

 

「で 殿下!?」

 

「メトメス 俺は今奴隷も同然なんだ。せいぜい俺を高値で買ってくれる者にこの運命をたくすしかない。メトメス・・・お前も服を脱がぬか?」

 

「は!?で 殿下 小生に男色の趣味はーー」

 

「バカ者 服を交換するのだ。今からお前が帝国皇子ディアボだ」

 

そして服を交換したディアボはひっそりとアルヌスの街を歩く。

 

「殿下 交渉相手は地図争奪戦に敗れた者を」

 

「なぜだ?」

 

「失敗した者は取り戻そうと財布の紐を緩めるからです」

 

「なるほど 慧眼だ」

 

「言葉は通じませんが・・・」

 

「なあに・・・最初の挨拶くらいはピニャの手下に手伝わせるさ」

 

とディアボはソ連に接触を図る事を目論んでいた。

 

そして飛行場では爆弾を2基搭載した零戦五二型4機が発進準備にかかっていた。

 

「ジークか 骨董品だなあ」

 

「まあ、この特地でも充分通用する機体だ」

 

「日本軍は物持ちがいい」

 

「ドイツから多大な影響を受けているからな」

 

すると零戦が格納庫から出てきた。

 

「四機・・・爆装か。向こうのは?」

 

と零戦の更に奥の方に大型の機体があった。一式陸攻だった。

 

「ベティー爆撃機 どうやってあの『門』を」

 

「どうやってあの『門』を」

 

「分解してこちらで組み立てました」

 

「『門』を通すより銀座の街中の方が大変だったろう」

 

「爆撃機が使える空港はここに一つしかない・・・帝都まで約六百キロ・・・あの機体なら往復にちょうどいいくらいだね」

 

 



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前夜

帝都翡翠宮の一室では、帝国軍や掃除夫の戦闘で負傷した者達が運ばれて来ていた。悲鳴そして絶叫響き渡る夥しい負傷兵の呻き声治療室の床は血の海と化していた。

 

「んんん うぐうう」

 

「しっかり押さえてろよ!」

 

「は はいっ」

 

「ううう」

 

「水くれえ・・・」

 

「母様ぁ」

 

「いたいよぉ」

 

「う〜」

 

「ああ・・・誰か・・・剣を・・・」

 

「おいっしっかりしろ!死ぬな!!」

 

と必死に蘇生措置を行うが医師が首を横に振って手遅れであると伝える。

 

「魔法がある世界だろ回復魔法とかないのかよ?」

 

「俺達のためにこんな女の子が戦って・・・」

 

「見てるだけしかできないなんて」

 

「もう 耐えられねえ犬頭ども今度来たら容赦しねえ」

 

と兵士の一人MP40を手に取り構える。

 

「おい待て比田落ちつけ!」

 

「戦っちゃいけないんスか?」

 

「止めろ止めろ」

 

「いつまで待ちゃいいんだよ!!」

 

日本兵達は何も出来ない事に憤りを感じていた。その頃翡翠宮の警備に当たっている薔薇騎士団は監視を行っていた。

 

「ヴィフィータ状況は?」

 

「皆 意気天を衝くばかり・・・と言いたいところだけどちっとまずいかな。無傷の兵は三分の一もいねえ さすがに第一軍団相手はきつかったな。おまけに物見の報告じゃ奴らまた増援呼んでる。負傷兵もちゃんとした医者に診せないとやばいぜ。ニホンの連中が手伝ってくれてるけどよ」

 

「そう・・・」

 

「おい ちょっと暗くないか?従卒 明かりをーー油とかはどこにしまってるんだ?なんだ ランプの油もロウソクももうないじゃねえか」

 

(ヴィフィータあなたが先走って戦端を開かなければ・・・こんなことにはーーこのせいで・・・このせいでピニャ殿下の身に何が起こるかーーこれも指示を徹底させなかった指揮官たる私の責任ね)

 

「何がまずいってよぉ 食料と飼葉が底つきそうってことなんだ。こんなことになるとは思ってなかったからなーー」

 

「・・・お水は足りていて?」

 

「ああ ここの井戸が使えるからな。それに食い物をニホンの連中が少し分けてくれたぜ これお前に」

 

とヴィフィータがボーゼスに梅干しの入った袋を渡す。

 

「ウメボシってやつだと スガワラにすっぱい物ないかって尋ねたらそれくれた」

 

「ふうん ん!?んふううう すっぱああいっ」

 

「そんなにか?向こうにま変なモノあんだなあ。うほっ こりゃすげえや お前ニホンに行ったんだろ?食べなかったのか?」

 

「これは食事に出ませんでしたわ。あなた さっきから向こう向こうって言うけれど 私達すっかりニホン側と同一視されてるでしょうね」

 

「そうだろな こうなるとあの見えない境界線を律儀に守ってたのがバカらしいな 俺達 なんだってこんなことやってんだ?」

 

「もちろん外交協定を陛下のご意志をそして帝国の名誉を守るためよ そうでしょ?」

 

「うん そうだよな ところで食い物だけどよ。傷ついて乗れない馬をつぶそうと思う」

 

「馬を!?騎士団にとって騎馬は戦友・・・それをわかって提案してるの?」

 

「ああ」

 

「・・・いいわ許可します。手をつけない者もいるでしょうね」

 

「そんなことは俺が考えるお前は気にするな。それよりこの後どうするんだ、策はあるのか?団長代行」

 

「ありますわ。ニホン側の了承がいるけれど・・・一行を連れて強行突破を図ってイタリカへ向かいます。イタリカには赤薔薇隊の主力と歩兵隊の過半がいます。合流して騎士団を建て直しましょう」

 

「イタリカね・・・すっかり騎士団の拠点になっちまったなあ」

 

「心配なのは皇城におわす。ピニャ様よ」

 

「まさか いくら奴らでも皇族方を害することなんて・・・」

 

「・・・直接手を出さなくても苦しめる方法はいくらでもあるわ」

 

「まさか皇女殿下だぞ?」

 

「いいえ最悪の事態を考えないと、だから脱出のときは殿下も一緒に」

 

「それはいいけどよ。あのでけえ皇城のどこにいるかわかってんのか?繋ぎをつけられゆのか?できたとしてもどうやって忍び込む?」

 

「・・・ハミルトンよ。ああっもう!ハミルトン!何をしてるのかしら手紙の一つも寄こさずにーー」

 

と苛立つボーゼスに緊急の伝令が入って来た。

 

『敵襲!!夜襲よ!敵襲!!敵襲ーー!!』

 

その日の夜 沈黙を破った帝国軍は再び攻撃を開始した。

 

「起きろ野郎ども!まだ寝るには早いとよ!!」

 

「ボーゼス」

 

「備えの配置に急いで!!(正念場ね・・・)」

 

そして再び同じ帝国軍同士の血で血を争う内乱状態に堕ちた。その頃帝都の皇城では、ピニャとハミルトンにゾルザル率いる主戦論者の審議が行われていた。

 

「殿下は元老院の立場もオプリーチニナ特別法も理解しておららる!ただ許容されておられないだけです!帝国のためにならぬとーー」

 

「騎士団との戦闘でどれだけの議員子弟が命を落としたかっ」

 

「帝権を脅かしておるのは騎士団ではないか!?」

 

「なにが外交特権だ!帝国にいる限り我らに従っていただこう」

 

「ニホン使節への外交特権は皇帝陛下がお与えになったものです。オプリーチニナでも越権できぬのでは?」

 

「なるほどそれももっともだ。ならば ニホン側へ正式に罪人の引き渡しを求めてはどうか?」

 

「それもそうだ外交儀礼にのっとって要求すればよい」

 

「騎士団も口を挟まない」

 

「報告によりますとニホン使節は罪人を亡命者として受け入れるとーー」

 

その報告を聞いて議員達がより一層炎上した。

 

「やはり講和派は敵と通じていたのだ!講和会議など無用!!」

 

「アルヌスに攻め込め!!」

 

「大反攻だ!!」

 

「騎士団なぞ解散してゴブリンどもと同じ戦列に入れてしまえ!」

 

「国賊め!」

 

「外交特権を廃止しろ!」

 

「売国奴!」

 

「騎士団は敵と通じておったのだ!」

 

と周りから罵詈雑言を浴びせられる。そんな中ウッディ伯爵が手を挙げ提案する。

 

「我らとしてもこれ以上無益な戦いは避けたい 殿下の命令とあらば騎士団も従うはず いかがですかなピニャ殿下」

 

「それもできませんウッディ伯爵閣下。翡翠宮の守りは皇帝陛下から騎士団に下された勅命でーー」

 

「ハミルトン殿そなたに聞いておるのではない。そもそも秘書官ごときが元老院議員に直言するとは如何に?」

 

「で 殿下ぁ・・・」

 

「もうよいハミルトン あやつらは妾に言うことをきかせたいだけだ。時間の無駄だ。諸君 好きにするがよい妾は気が滅入っているゆえこれにて失礼する」

 

「ーーなっ」

 

「なんだそれは!」

 

「元老院議員たる我らを愚弄するか!」

 

「皇族といえども許されぬことだ!」

 

ピニャの態度に元老院議員達は罵声を浴びせる。

 

「どんなことでも始めた動機は立派なものだった。初代皇帝の言葉だったな だが大抵後になってそんなつもりはなかったと皆言い訳するのだ。帝国が無茶苦茶になった後 諸君らがそう言わぬ保証はあるか?そもそも皇太子府で議事を開くこと自体 元老院がどれだけ成り下がっているかを表している」

 

「・・・・っ なんたる・・・暴言ーー」

 

そしてより一層元老院から反感を買ったピニャ。

 

「・・・ピニャ 言葉を慎め 俺としてはニホンとの講和を打ち切るつもりはない。この状況だ 使節には一旦帝都を退去していただこう もちろんニホン人のみでだこれでどうだ?」

 

ゾルザルがそう言うと議員子弟から拍手喝采が起きる。

 

「皇帝陛下の勅命にも外交特権にも障りませぬな」

 

「すばらしいお考えだ」

 

「ピニャ お前達は悪あがきしているにすぎん」

 

「・・・兄上の好きにすればいいのです。妾にはもうどうでもよいこと」

 

一方デュマ山脈南前方作戦拠点キサラヅ

 

そこでは、多くの攻撃型と輸送型の『Fa223』が集結していた。

 

「回転翼機の燃料補給あと五分で完了」

 

「『甲州街道』上の敵監視所制圧作戦開始されます」

 

「報告!翡翠宮で再び戦闘開始!」

 

「俺達が行くまで保ってくれよ・・・」

 

と健軍大佐は持ち堪えてくれる事を願う。そして補給の完了した『Fa223』が次々と飛び立って行く。陸では陸軍と海軍陸戦隊が街道に位置する監視所の制圧に掛かっている。

 

「ん?ゴブリンどこ行った?逃げたか?」

 

「黙れ」

 

すると男の背後から日本兵が銃剣で男の喉元を切り裂き黙らせる。後に続く兵士も監視所の中に入って監視員を制圧して行く。



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ミッドナイトトライド

デュマ山脈に位置する監視所

 

「西方から花の帝都に配置換えと思ったら、速攻でまた山の中だもんなぁ・・・ここでニホンの奴らを襲えったって狼煙より速く飛ぶ奴らをどうやって・・・ん?流星?」

 

ド ッ

 

と監視所が爆発を起こした。それは日本陸軍の対地攻撃戦闘ヘリ『Fa223』の発射したR4Mだった。R4Mによって監視所に居た監視員と翼竜が被害を受けた。

 

『富嶽1目標帝国軍監視所撃破』

 

『富嶽3目標帝国軍監視所撃破』

 

『キサラヅ指揮所『甲州街道』開通した送レ』

 

制圧した監視所には、数人の日本軍と捕らえられた監視員が居た。そしてその上空を兵員輸送を行なっている輸送型『Fa223』が数機飛んで居た。

 

『ゼロ1デュマ山脈通過目標地点に前進する』

 

そして目的地には、先に来て居たダークエルフがヘリの着陸地点に信号灯を設置していた。

 

「そろそろ時間よ」

 

「これ置いとくだけでいいんだよな」

 

「このランプ?光らないけどいいのかしら」

 

『信号灯確認!降下三分前!』

 

と兵員を乗せた輸送ヘリがやってきて乗員は陸地に着くと即座に降りた。

 

「ヤマメ一、一 目標地点確保受け入れ準備開始する 送レ」

 

「75迫こっちだ!」

 

降下した日本軍はすぐに塹壕を掘りそこに迫撃砲などを設置して行く。

 

「ご協力ありがとうございました。魔法の明かりは消してもらってもかまいませんので」

 

「あらソウ?」

 

『ヤマメ・イトウ目標地点着 周囲に敵影なし 前方作戦拠点設営開始 第四戦闘航空団前進準備完了』

 

『帝都の各部隊作戦目標へ前進配置につきます』

 

「バスーン監獄か」

 

『偵察によると守備は警備兵と看守あわせて三十〜四十人 講和派とその関係者約三百人が収容されています』

 

「救出後の彼らの輸送手段は確保できたのかね?」

 

「はい 現地の協力者が数は確保しています」

 

「翡翠宮の状況は?」

 

「断続的に戦闘継続中です。連隊規模の帝国軍と騎士団が交戦中 帝国軍の正面攻撃のみという指揮に助けられてますが苦しい状況です」

 

「ふむ・・・」

 

その頃帝都翡翠宮では、帝国軍がバリスタで攻撃を行っていた。

 

「第四百人隊!第五百人隊!次の決死隊はお前らだ!死んでも退くことは許さん!叛徒を撃滅せよ!」

 

「逃げるな!逃げても掃除夫に殺されるだけだぞ!」

 

「祖国防衛の同志たちよ此処にあるバリスタや弩は貴様らの支援の為ではない国家への裏切り者を罰するためだ!」

 

と掃除夫らは帝国兵に気合いを入れさせる。そしてバリスタの後方の森では騎士団が身を潜め弩でゴブリン目掛けて放つ矢はゴブリンの目に突き刺さり痛みでゴブリンの持っていた油の入った土器を落とし引火し誘爆を起こした。

 

「わぁああ」

 

「火を消せェ!」

 

ボッオォオォ

 

「・・・無茶しますわね」

 

「あのバリスタどうにかしねぇとよ。陣地全部が完全に射程に捉えられたら負けだぜ?」

 

「それはわかってますけど・・・」

 

「ニホンの連中の動きが慌ただしくなってる。夜明けに何かあるんじゃないか?」

 

「かもしれませんわね・・・」

 

翡翠宮は未だ騎士団が何とか持ち堪えているが翡翠宮の中にいる吉田茂使節団は最悪の事態を想定していた。

 

「副大臣 もしものときは我々が護衛してここを脱出 帝都内の我が部隊に合流します。よろしいですね」

 

「・・・はい よろしくお願いします」

 

その事はカーゼルとシェリーにも伝えられた。

 

「カーゼル閣下 シェリー ーーもしものときは翡翠宮を脱出します。そのつもりで」

 

「そこまで悪いのかね?戦況は?」

 

「芳しくはーー」

 

「大丈夫てすわ 騎士団の皆様は必ず私達を守ってくれます。皇帝陛下がそうご下命なさったのですから ニホンの皆様も理由があって宮殿にとどまっているのでしょう?ね?スガワラ様 それまで慌てず待っていましょう カーゼル様」

 

その一方バスーン監獄では、

 

「動きなし・・・小野田少尉 四偵と一偵も配置につきました。後は陸戦と斥候待ちです」

 

「わかった しかしありゃ監獄というより要塞だな」

 

そしてバスーン監獄内では、陸戦隊と斥候隊が監視員の排除に掛かっていた。

 

「排除」

 

「排除」

 

そして配置に付いたと言う信号を送る。

 

『我、配置についた』

 

そして日本軍は監獄内に入って行く。

 

「我、位置についた。待機中」

 

そしてアルヌスの飛行場では、戦闘機と輸送機が離陸の準備にかかっていた。

 

「今日はこんな夜中までやってんのなニホン軍 なんか聞いてるか?」

 

「いや・・・けど戦の前ってのはわかるぜ」

 

「航空隊位置についた」

 

「帝都全部隊配置完了」

 

「第四戦闘航空団 指揮所キサラヅより前進開始」

 

「降下地点の天候晴れ 雲量二 東の風 風速・・・」

 

「頼むぞ」

 

「装備点検!搭乗!!」

 

と陸軍と海軍の空挺部隊は九七式輸送機に乗り込んで行く。そして出撃準備を整えた戦闘機隊のパイロットが愛機に搭乗する。

 

「戦闘機隊 発進せよ」

 

「了解 離陸する」

 

「ご武運を」

 

「行ってきます!」

 

と零戦4機が滑走路から離陸して一路帝都に向かって飛行して行くその光景を整備兵や他の兵達は帽子を振って見送る。



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降下!降下!降下!

アルヌスの飛行場の滑走路では空挺部隊の搭乗する九七式輸送機が離陸の準備に入っていた。

 

「大隊長からだ」

 

「隊長から」

 

「訓示!諸君も聞いての通り空挺作戦の発動が命令された。銀座事件以来理不尽に虜囚となった同胞のみならず新たな平和への活路を見出さんとする現地要員の生命の如何はひとえに今作戦の成否にかかっている!帝国陸軍最精鋭と自他ともに認める空挺隊員たる諸君とともに作戦に臨むにあたり一扶の不安もない。細心にそして大胆に胸にウイングに恥じぬ働きを期待して訓示とする。時代を変える鷹となれ!!皇国の興廃此の一戦にあり各員犠牲を恐れず其の責を尽くせ!任務を遂行せよ」

 

そして五機の九七式輸送機が飛び立って行く。

 

『輸送機隊離陸完了。戦闘機隊帝都空域に接近』

 

 

その頃バスーン監獄近郊の上空では、帝国軍の竜騎士3騎が哨戒任務に当たっていた。

 

「空気が重い・・・夕方には雨になるかもしれん」

 

「(息苦しい・・・限界高度ギリギリだ)どうせなら早く降ってくれ」

 

「!竜兵長 西の空に妙な光が!敵影かもーー」

 

と竜騎士の一人が暗がりで微かな明かりを発見した。そこには東屯営が燃え盛っていた。

 

「竜騎兵東屯営が・・・!」

 

「馬鹿野郎!早く信号旗を落とせ!」

 

と言われて竜騎士は箱の中から信号旗を落として行く。

 

「こんな上から落として気付く奴いるのか?古代龍級の大きさの敵ヒコーキ堕とすには新生龍ぐらいーー」

 

と言い掛けた時突然2騎が日本軍が発射したR4Mが命中し爆発を起こして墜落して行った。

 

「竜兵長!」

 

と後ろを振り向いて見ると二つの黒い影が見えた。

 

(二頭・・・?大きさも違う・・・!?)

 

現れたのは大日本帝国海軍の主力戦闘機零式艦上戦闘機零戦五二型だった。

 

「あれは元老院を粉々にしたっていうーー鉄の飛竜!?」

 

竜騎士は体勢を立て直そうとしたが突然愛騎が暴れ出した。

 

「ハッ ハッヤッ どうした!?」

 

と翼竜の翼を見てみると翼に無数の傷があった。

 

「そんな・・・!翼竜の甲皮に傷が・・・!?」

 

驚いていると翼竜のすぐ横を通り過ぎって行く零戦を操縦する操縦士とすれ違う。

 

「一人・・・一人乗っていた!?竜槍をあそこに叩き込んでやる!」

 

だが軽量で機動力に優れた零戦にスピードと運動能力で敵うはずもなく見失った。

 

「どこに行ったーー」

 

零戦を必死で探すも見当たらずそして後ろを取った零戦は20mm機関銃で翼竜を葬り去る。

 

『三二〇敵ワイバーン撃墜 帝都上空敵影なし』

 

翼竜を排除した零戦はバスーン監獄に向かった。

 

「東から聞こえた大音響はなんだ!?報告しろ!」

 

その頃バスーン監獄では、斥候隊が爆撃を敢行する零戦に無線で連絡をし柔軟な作戦行動を取る。

 

「六八〇こちら斥候隊 目標補足」

 

『六八〇投下投下』

 

と零戦は50kg爆弾を投下する。爆弾は東屯営に命中し火柱に包まれた。その爆発はバスーン監獄からでも一望出来る程だった。

 

「なんだぁ?」

 

パ カン

 

「退避ー!退避ー!地面ギリギリを飛んで帝都から離れろーっ」

 

東屯営に居た帝国軍兵は逃げ出すもしかし日本軍は追い討ちをかけるかの如く更に爆弾を投下して行く。

 

「逃すかよ そらいけ!」

 

バスーン監獄の警備兵を日本軍の狙撃兵が仕留めて行く。

 

「竜騎兵屯営のあたりだ!」

 

「何が起きている!?」

 

「あっ また!」

監獄内でも潜入した日本軍が内部の敵を排除して行く。

 

「敵の攻撃ならここにいても掃除夫は文句言えねえだろ」

 

「翡翠宮に連れてかれた連中気の毒になあ」

 

すると背後から口を手で塞がれ銃剣で首元を切り裂かれる。

 

(え!?痛!力が・・・立て・・・ない なに・・・が・・・)

 

と何が起こったのかさえわからないまま息絶えた。日本軍は小銃と短機関銃で次々と敵を蹴散らす。

 

「こちらA班右塔制圧一名負傷」

 

『B班 左塔制圧!』

 

『こちらニ偵目標十字路確保配置についた』

 

「こちら陸戦 西門を制圧した降下誘導班待機中」

 

そして日本軍は監獄の入り口に到達そして小野田少尉は腕時計を見る。

 

「全班に達する攻撃開始十秒前 9 8 7 6 5ーー」

 

「朝っぱらからなんの騒ぎだ?」

 

「獄長!わかりません城外の外のようですが」

 

「屋上の見張りは何しとる寝ておるのか!?」

 

「後方よし」

 

「4 3 2 1」

 

そして監獄の入り口に向かって日本軍はパンツァーシュレックを打ち込む。またある所では監視所に手榴弾を投げ込み同時爆発が起こりそれと同時に日本軍が突撃して行き敵を制圧する。これは、第二次世界大戦の史上最大の市街戦『スターリングラード』の攻防戦で街の防衛を委ねられていた『ワシーリー・チュイコフ』ソ連軍元帥が部下に実践的な助言を与えた現代でも通用する教えだった。『まず、手榴弾をぶち込め!突入し軽機関銃で掃射しろ!奥へ進み再び手榴弾だ!次の部屋に入って軽機関銃でぶっ放し先へ進め!』チュイコフの教えは、現代では特殊部隊が突入する際のマニュアルとなっている。突入する際肝心なのは突然ドアから飛び込んで敵の意表を突く事なのだ。敵を圧倒したら部屋の四隅を確認して順序よく進めて行けば最後には建物を制圧した事になるのだ。

 

バ ン

 

「わああああ」

 

ダダンダダダッ

 

「排除!」

 

「排除!ルーム制圧!」

 

「仁科の班は左回り!残りは俺に続け!」

 

日本軍は敵を排除しながら徐々に講和派のいる牢屋に近づいて行く。

 

「おい!監獄から何も言ってこないのか!?」

 

「他の塔の連中何してんだ!」

 

ダダダッ

 

「魔法か!?」

 

「うっ」

 

「はっ 反対に回れ!」

 

ダダダッ

 

「ひいいいっ」

 

とある牢屋で

 

「なんの音だ?」

 

「この音は・・・前に聞いた覚えがあるぞ」

 

『こちら三偵守備兵降伏 バスーン監獄を制圧した。輸送隊の前進を要請する』

 

そして遂にバスーン監獄は日本軍の手に落ちた。そして攻撃し終えた零戦隊は空挺部隊を乗せた九七式輸送機と遭遇する。

 

「来たぞ空挺部隊だ」

 

『目標まで六分!』

 

空の神兵と呼ばれた大日本帝国陸軍精鋭の空挺部隊は着々と帝都に迫りつつあった。

 

 

 



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帝都上空敵影なし

帝都皇城

 

「ログナー公から没収した総資産は地所荘園と合わせましてーー」

 

「反逆した騎士団員の家の名簿はあるのか?」

 

ズシィィン ズズム ズム ズム

 

「・・・なんだ?」

 

「何事ですかな?」

 

「まさか地揺れ・・・?」

 

「カラスタ将軍」

 

警備兵が何かを見つけて報告する。

 

「ゾルザル殿下 テラスへご同行願えませんか?一大事でございまする」

 

ゾルザルはカラスタに言われテラスに出ていた。すると皇太子府から数km離れた場所から黒煙が立ち上っていた。

 

「城壁の外のようだが何が燃えておるのだ?」

 

「物見の報告では、東西の竜騎兵大隊の屯営が燃えていると」

 

「なに・・・!?」

 

ゴオオオオオ ゴオオオオオ

 

とけたたましい音が響いて来た。それは帝都に向かっていた日本軍の九七式輸送機だった。

 

「一番機ぃ いくぞおっ」

 

『お う!』

 

「いくぞ!」

 

『お う っ』

 

「降下よーい!立てぇ!環かけ!」

 

ガチャ ガチャ

 

「装具てんけーん!」

 

「1 2 3 4・・・」

 

「送レ!」

 

「よし!」

 

「よし」

 

「よしっ」

 

「よぉし!」

 

「位置につけ!」

 

『進路よし進路そのまま 用意用意用意』

 

すると降下合図のランプが赤から青に変わった。

 

『降下降下降下!!』

 

「降下ぁ!!」

 

空挺隊員は次々と輸送機から飛び降りる。

 

「はつ降下ぁ にぃ降下ぁ さん降下ぁ よん降下〜」

 

そして背負っているパラシュートを開く。

 

「反対扉機内よし お世話になりましたぁ!」

 

輸送機から空挺部隊約100人が降下した。その光景は皇太子府に居るゾルザル達も見ていた。

 

「なんだ・・・あれは・・・!?」

 

すると九七式輸送機が反転してゾルザル達の方に向かって来た。

 

「んん?」

 

ギ イ イ イ イ ド ツ オオオオオ

 

「うおっ」

 

「ひぃっ」

 

「で 殿下!あれは敵ですぞ!敵が空から降ってまいりました!!」

 

「バカな!ニホンは兵を空からバラまくのか!?」

 

「非常識だ!」

 

「敵は翼人からなる部隊を持っているかもしれませんぞ?」

 

「殿下!敵兵はあの凧のようなものにぶらさがって降りてきたのです!ただちに迎え撃つ支度を!」

 

「そ そうだな 天から降ってきたとはいえあの程度の数 たかが知れておる!数に任せて押し出せ!」

 

とゾルザルは迎え撃つ準備を命じる。

 

「報告!敵の一隊が西門を占拠!城外の敵を帝都内に迎え入れようとしております!」

 

それはゾルザルに追い打ちをかける報告だった。

 

「なん・・・だと?」

 

「なんという速さだ。まだ浮いている凧もある!」

 

「城門の守備隊は何をしていた!?敵はまっすぐ皇城を目指して来るぞ!!」

 

その瞬間ゾルザルはトラウマスイッチが入った。皇宮で栗林と船坂にフルボッコにされた苦い思い出を。

 

「ゾルザル殿下?」

 

「・・・ぜ ぜ 全戦力で皇城の守りを固めるのだ!!帝都の全部隊をサデラの城壁に集結させよ!!」

 

「か 各城門守備隊や悪所封鎖の部隊も集結させるとなるとかなりの時間が・・・」

 

「帝都の守りが疎かになります!」

 

「今さら外壁を守ってどうする?兵を呼び集めろ!急げ!!」

 

「ハ・・・ハ!伝令!」

 

ゾルザルが恐慌状態を余所に日本軍空挺部隊は着々と地上に着地して行く。

 

「十一中隊あっちだ!十二中隊こちらに集合ーっ点呼ーっ」

 

同じ頃、帝都カエサリウス橋では日本軍が制圧に掛かっていた。

 

ドコココタンタン

 

「撃ち方待て!こちらニ偵カエサリウス橋 敵が後退繰り返す敵が後退」

 

一方同じ頃日本軍は帝都西門の制圧にも掛かっていた。

 

ドコココタンタン

 

「こっちも後退している。警戒を怠るな!敵は増援を伴ってまた来るぞ!!」

 

皇城では、ゾルザルが焦りに狂っていた。

 

「遅い!遅すぎる!!兵の展開はまだか!?」

 

「近衛軍団が配置につきつつあります。各部隊も移動を開始しました」

 

「なんとのろまなことよ・・・」

 

「殿下 私どもも現場指導に出向いてまいります」

 

と側近達は退室し執務室にはゾルザルとテューレだけとなった。

 

(敵が来てしまう すぐそこまで来ている こんな手薄なところで敵が来るまで座っていていいのか!?)

 

ゾルザルはいつ日本軍が来るかわからない状況が彼から冷静さを奪っていく。

 

「殿下」

 

「テューレ・・・」

 

「もしかして ご自分だけお逃げになるおつもりですか?」

 

「な・・・にぃ?」

 

「殿下は今や帝国の要 お逃げになられては帝国そのものが立ちゆかなくなってしまいます。地位も誇りも捨ててしまえるならかまいませんけど 誇り高い殿下がそんな道を選ぶなんてわたくし思いたくありません」

 

「当たり前だ!」

 

「わたくしにも覚えがありますわ。随分と昔のこと・・・故郷の者達が敵と懸命に戦っているというのに剽悍なはずの味方の動きが随分と遅く見えたものです。自分は安全なところにいるのに・・・恐れ 不安に駆られ 部族のために自らを犠牲にと言い訳して自分だけ砦を抜け出してしまったのです」

 

「そ そうか そんなことがあったのか」

 

「はい 今頃みんなどうしてるかしら?ともかく帝国のすべてである殿下はみだりに動いてはなりません敵がやって来ようともここにいるべきなのです。自らがどうにかしようと考えるのは逃げるための方便 ろくな結果にはなりません」

「そんなことはわかっておる!」

 

バシッ

 

「キャッ」

 

「この俺に偉そうな口をきくな!奴隷風情がっ」

 

「・・・申し訳ございません。で 出すぎた真似をーー 殿下なら当然ご存知のことですものね。わたくしという愚かな前例がそばにいるのですから」

 

「(どうしたというのだ この女・・・)と ともかく上に立つ者はこれしきのことでーー」

 

すると窓の向こうから何かが無数に飛んで来たのが見えた。

 

「あれは なんだ・・・?」



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Feuer!Sperrfeuer!Los!

「あれは なんだ・・・?怪異の群れ・・・か!?」

 

やって来たのは日本軍の『Fa223』の軍団だった。日本軍は『Fa223』 の両サイドに搭載されているブローニングM2で地上の敵を制圧していく。

 

ドドドガガガガ

 

「こっちに来るぞ!」

 

「逃げるな!」

 

残る輸送型『Fa223』に載っている日本軍は、城壁に降下して敵を制圧していく。

 

「降下!いけー!いけー!」

 

城外に着陸した『Fa223』は兵や『キューベルワーゲン』に『Sd Kfz251』などを降ろす。

 

「四〇一中隊 空挺十二中隊と交代し降下地域と西門を確保 西門両隣の監視塔も制圧しました。春嵐改四機が車輌再搭載のため前方作戦拠点フジに帰投残りは待機中」

 

「うむ・・・帝都か」

 

帝都に降下した日本軍は帝都悪所に潜伏していた先発隊と合流する。

 

「ようこそ帝都へ 翡翠宮へ誘導します。こちらへ」

 

「よろしくお願いします」

 

と早速空挺部隊の隊員が先発隊から一枚の写真を渡される。

 

「斥候部隊の撮った写真です。夜通し散発的に戦闘中」

 

「・・・これは投石機ですか?」

 

「まずはこいつとトロルをつぶさないと」

 

「75迫を持ってきてます。これと擲弾で」

 

「ケンザキ?」

 

そんな中荷車を引いて来るミザリィがやって来た。その後バスーン監獄から講和派救出に向かっていた日本軍が講和派を連れてやって来た。

 

「はぁい早く乗って乗って」

 

「慌てず並んで前の人に続いてくださーい 馬車は皆さんが乗れるだけ用意してありまーす」

 

と救出した議員らは安堵していた。

 

「うっ・・・」

 

「君ぃ これは汚物運搬用ではないか?」

 

「前に入ったことあるここの牢屋よりマシですぜ 一応洗ってるぜ?今のあんたらにはお似合いだ」

 

「・・・・」

 

「致し方あるまい・・・」

 

と議員は贅沢言ってられず我慢する事にした。

 

「ほら旦那さん詰めて詰めて だから乗り口をデカ腹で塞ぐなって!なんでやせないのさっ」

 

「急いでー」

 

サ ワ

 

「あっ いやん!」

 

「コラッ そこ!そーゆーのは店開きしてるときにしな!用があるときはメルノ街に来るんだね!」

 

「・・・あら奥サマ?やですよ冗談ですって」ハハハ

 

「・・・・」

 

すると栗林がある人物に気付く、

 

「あ キケロさんの奥様!?お久しぶりです」

 

「まあまあクリバヤシ!あなた達だったのねありがとう」

 

とキケロ卿の妻が栗林に抱き付いてきた。

 

「いえいえ任務ですから ご主人は無事で?」

 

「あそこ 甥っ子がニホンから帰ってきて 今 皇太子府で働いてるでしょ?だから少しは融通してもらってマシだったんだけど 少し元気が余ってるみたい あとで締め直しとくわ」

 

「お手柔らかに・・・」

 

遊女に鼻の下を伸ばすキケロ卿を余所に婦人は荷車に乗る。

 

「あなた達がここへまで来ちゃうのって 帝国は戦争に負けちゃったの?」

「いいえ 我々は皆さんを助けに来ただけです。どこかにーー多分イタリカあたりに避難することになると思います」

 

「あら残念 ニホンじゃないのね行きたかったのに」

 

「来られる機会があったら色々ご案内します」

 

「ありがと楽しみにしてるわ」

 

といった話している間に議員ら全員馬車に搭乗した。

 

「搭乗完了」

 

「よし ではお願いします」

 

「出発しろ!」

 

出発してから間も無くあちらこちらから帝都住民に見られていた。

 

「こうも易々とニホン軍が帝都に・・・」

 

「軍団は外征か国境の守りが役目だからのぉ」

 

「質もこの戦でだいぶ落ちたと言いますしなあ」

 

先頭を走るキューベルワーゲンに乗る日本軍では、

 

「左に寄せろ 結構ガタが来てるのがあるな大丈夫か?」

 

「はい 予備も充分あるようです」

 

議員らを乗せている荷車がキイキイと音を立てるので心配する空挺指揮官は荷車を引く遊女を見る。

 

「・・・協力者かね?」

 

「そのようで」

 

「わかった状況は?」

 

「今のところ予定通りです。収容者は集結地点から前方作戦拠点フジへ春嵐改でピストン輸送 九七式輸送機に乗り換えて前方作戦拠点キサラヅにそこから車輌で避難所へ 避難所はイタリカを予定 空挺を含む部隊は作戦終了後車輌でフジまで移動」

 

「報告!空挺十一中隊翡翠宮に到達 攻撃を開始します。それ以外で敵の抵抗は一切ありません。なさすぎて気味の悪いくらいです」

 

『こちら三笠1 敵部隊は皇城に集結中』

 

「・・・・我々が皇城を狙うと思ったんでしょう」

 

「まずは守りを固めたわけか」

 

「団長 自分は翡翠宮に向かいます」

 

「わかった 私は集結地点で指揮を執ろう」

 

団長は車から降りて集結地点に向かった。

 

「お邪魔するよ」

 

「健軍 退きどきを見誤るなよ!」

 

ここから健軍大佐率いる自動車部隊は一路翡翠宮に向かう。

 

「よし 翡翠宮へ向かえ!」

 

その頃翡翠宮では、

 

「見たか?さっきの」

 

「空飛ぶ怪物か?西門の外に何かばらまいていったぞ」

 

「その前に聞こえた音はなんだったんだ?」

 

「しっ 掃除夫が見てるぞ」

 

「法務官殿 これ以上の正面攻撃は困難です。ただ損害が増えるだけです。さらに先程の敵軍と思われる動き 皇城を狙うものだとしたらいかがします?攻略を急ぐためにも直接宮殿側面から突入し反逆者を捕らえれば おのずと騎士団も抵抗を諦めるでありましょう」

 

「・・・・わかりました。許可します貴官の責任において実行なさい」

 

ワアアア

 

ガアン

 

「どうした!どうした!ええ?てめえら攻め手なのにやる気あんのか!?」

 

「伝令!」

 

「まずいですわね とうとう連中宮殿自体の包囲を始めましたわ」

 

「もう回せる兵の余裕はありませんぞ」

 

「夜明けに飛んでいったニホンのヒコーキとヘリコプター 確かに動きはありましたけど・・・このままではーー」

 

と万事休すの自体になって来た騎士団すると突然敵方の方に爆発が起きた。

 

ド ドッ ババン

 

それは日本軍の八九式重擲弾筒による攻撃だった。

 

「引け二十装薬0連続発射 撃て!」

 

トキン キン

 

ド ドン

 

「撃てぇ!」

 

次に敵の側面に居た三八式歩兵銃やMP40短機関銃を手にした歩兵による一斉射撃が行われた。

 

バ ン バ ン バ ン

 

タタタン

 

「来た!」

 

翡翠宮に居た菅原達も気付いた。

 

「こちらA班今からそちらに行く西館の裏に注意」

 

そして日本軍の別働隊は密かに翡翠宮に近づいて行った。

 

「攻囲軍を撃退できたら裏庭にヘリを呼び脱出します。荷物は最低限に残った物は我々がどうにかします」

 

「わかりました」

 

吉田と段取り話している頃中庭では、

 

『東側面から敵!東館裏から侵入!』

 

「了解 危険ですので窓に近づかないように!」

 

バ ン バ ン バ ン

 

タタタン

 

「援護しろ!手榴弾!」

 

と日本兵はM24柄付き手榴弾を投げる。

 

ババン

 

「わあっ」

 

 

バ ン バ ン バ ン

 

タタタン

 

「ウゴ ガア!」

 

「投石機トロル撃破」

 

「迫撃砲残弾確認 待機せよ 狙撃手黒服を狙え」

 

日本軍が加わった事により戦局は一気に逆転して行った。

 

「第四分隊 左から回り込め!」

 

帝国軍も負けじと応戦して大量の弓矢を射ってくる。

 

「放てぇ!」

 

ザ ア ア ドカカッ カン

 

日本軍は九八式鉄帽により頭を保護する事が出来るが、

 

ド ッ

 

「いってぇっ」

 

「衛生兵!衛生兵!」

 

「矢を抜くな 出血がひどくなるぞ!しっかりしろ!」

 

「中隊 二十メートル後退!矢の射程から出るんだ」

 

日本軍は負傷兵を抱えながら一時後退し、帝国軍は追い打ちをかけてくる。

 

「敵はひるんだぞ!」

 

「突撃ー!!突撃ー!!」

 

ウワアア

 

「なんてやつらだ 死体を踏み越えてきやがる!」

 

「白兵戦かよ!?」

 

「手榴弾!手榴弾!」

 

『中隊目標 第二小隊側面の敵戦列!擲弾を使え!迫撃砲目標弓兵撃て!』

 

日本兵は小銃に投擲器を装着或いは擲弾筒に持ち替え攻撃する。

 

タ タァンン

 

キ ンッ

 

バ バ バン ドッ

 

それでも帝国軍は勇敢にも向かって行く。

 

「あいつらすげぇな まだ向かってくる」

 

そんな中狙撃兵は木の上や茂みに隠れて九七式狙撃銃を構えて掃除夫に狙いを定めて撃つ。

 

ダァン バ カ

 

掃除夫がやられ指揮系統を失った帝国軍は混乱し隊列が乱れて行く。

 

「何事だ!?左翼が崩れたぞ?」

 

「貴様らぁ 戦列に戻れぇ!」

 

「戦え!!」

 

ヒュ バッ

 

「法務官殿 馬の陰にっ 左翼の百人隊長は各々の戦列を保てー!!」

 

「な なんなんですか!?これがニホンの魔法使いの力!?」

 

『こちら第四分隊位置についた敵はいないぞ?』

 

『敵の左翼に動揺が広がってるぞ』

 

『第二小隊 正面の次の敵戦列距離二五〇』

 

『第四小隊 右へ展開しろ』

 

『60迫 最終弾発射』

 

「勝機ーー」

 

『騎士隊騎乗!集合せよ!!』

 

「そう こなくっちゃ」

 

騎士団は直ぐに愛馬に騎乗し隊列を成す。

 

「薔薇騎士団 我に続け!!」

 

 

 




『Fa223』(日本名::春嵐)
全長:12.25m
全高:4.35m
主回転翼直径:12m
空虚重量:3.180kg
全備重量:3.860kg
有効搭載量:1.002kg
最大離陸重量:4.309〜4.434kg
最大速度:121km/h
航続距離:700km
最大高度:2.400m
上昇率:4m/s
武装:機首に九七式七粍七固定機銃1基、左右にブローニングM2が2基、R4M4発搭載。

春嵐改(輸送型ヘリ)車輌や兵員を輸送する為より大型になった。
外観(パイアセッキH-21)に酷似している。
全長:16m
全高:4.8m
速度:204km/h
高度:2880m
航続距離:426km
乗員:2名
搭載量:兵員20〜30名
武装:ブローニングM2重機関銃4基


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翡翠宮解放

連載一周年おめでとう!いやぁ 連載始めて今日で一年長かったなぁ。


「ヴィフィータ 行きますわよ!!」

 

「おう!!」

 

「ハッ」

 

薔薇騎士団は一度迂回し森林に突入して行った。

 

「牽制攻撃!敵左翼に射掛けろ!」

 

ガヒュ

 

「騎兵が来るぞ!防御陣形 防御陣ーーうっ」カッ

 

熾烈な白兵戦で両軍と大損害を被ったがそれでも怯むことなく進撃を続けた日本軍と薔薇騎士団はその後帝国軍の防衛ラインを広範囲に渡って突破した。

 

「中隊前進 各小隊援護射撃敵戦列左翼に射撃を集中せよ」

 

「迫撃砲残弾は?」

 

『残弾なし』

 

「了解 第四小隊擲弾で敵弓兵残余を射て!」

 

「前へ!」

 

ドコココココドココココ

 

「畜生!ど どうなってんだ!?」

 

すると敵戦列の側面から薔薇騎士団が突入して来た。

 

「蹴散らしなさい!!我らに勝利を!!」

 

側面を突かれ帝国軍は徐々に押されて行き逃げ出す者が続出していった。

 

「下がるなー!踏みとどまれっ」

 

「おい貴様 逃げるなっ 戦え!!」

 

「やってられっか負けだ負けっ こんなところで死にたくねえよっ」

 

「貴様ーー」

 

タァン バ カッ

 

『ボーゼス!!ボーゼス!!』

 

『薔薇騎士団万歳!!』

 

と騎士団は薔薇騎士団の参戦に歓喜の声を上げた。

 

「続け!!」

 

騎士団は帝国軍の反撃を退け敵の防衛ラインを突破して行きルフルス法務官のいる所まであと100mまで迫った。

 

「だっ 大隊長っ どうにかしなさいっ」

 

「本営護衛隊防衛陣形を組め予備騎兵を迎撃せよ!法務官殿にも剣をお渡ししろ」

 

「法務官殿どうぞ」

 

「法務官殿 背を見せ逃げる間はもうありませんぞ。全隊前へ!第一軍団の意地を娘子どもに見せてやれ」

 

第一軍団は全滅覚悟の最後の大反撃に打って出ようとしていた。

 

「マジか・・・二十世紀だぜ」

 

「ソ連かよ」

 

「バカ 異世界だろ」

 

日本軍が敵の陣形を見ている中薔薇騎士団は帝国軍と睨み合っている。

 

「チッ 本営には第一軍団かよ 重装騎兵まだいたのか ボーゼス!」

 

「わかってますわ!前へ!」

 

第一軍団の騎兵が迫って来る中側面から日本軍の機銃掃射で陣形が崩れたのを機に騎士団は突撃を敢行する。

 

「・・・・っ!?」

 

「今よ!突撃!!」

 

ボーゼスは第一軍団の陣形を突破しルフルス法務官に突撃しルフルスを斬殺する。ルフルスが死んだのを機に日本軍と騎士団は掃討戦に移行する。その頃健軍大佐達は、大通りを通って翡翠宮に向かっていた。

 

「戦闘音がやんだな」

 

『十一中隊より本部 正門確保』

 

『こちら第一三二連隊 敵の増援見えず』

 

「よし前進 敗残兵にはかまうな」

 

そして健軍大佐らは翡翠宮の正門に到着した。

 

「大佐殿!」

 

「よくやった 山谷状況は?」

 

「十一中隊負傷兵六 いずれも軽傷 現在 宮殿周辺の森を掃討中です」

 

「帝国軍が正面攻撃に固執したのが幸いしたな それでもあの猛攻を食い止めるとは 女性も何人かいたはずだが騎士団はよっぽど精鋭だったのか?」

 

「はあ・・・それがーー」

 

その後健軍大佐は翡翠宮の悲惨な惨状を見ながら騎士団のもとにやって来た。

 

(若いな・・・歩哨は俺より年上じゃないか?)

 

そして健軍大佐は翡翠宮の中にいる吉田茂使節団の元にやって来た。

 

「特地方面軍第四戦闘航空団指揮官健軍大佐です。吉田副大臣ご無事でなによりです。お迎えにあがりました」

 

「ご苦労様です。このような結果になって残念ですが・・・」

 

「裏庭にヘリを呼びます。脱出の準備を」

 

「わかりました」

 

吉田茂達使節団は裏庭に向かって行く。

 

「カーゼル侯爵ですね バスーン監獄から救出した皆様に合流していただきます。お連れのお子さんもご一緒にーー」

 

「わたくしはスガワラ様の関係者です」

 

と頑なに菅原から離れようとしないシェリー。

 

「た 大佐 これには色々事情がーー」

 

「かまわん今は聞く時間がない」

 

健軍大佐は呆れながら聞くのをやめて負傷兵が収容されている部屋に行く事にした。

 

「負傷者はこっちか」

 

「はい かなりの数です」

 

部屋に入ると健軍大佐の目に入って来たのは、包帯姿の女や老人の姿だった。中には体の一部が切断された者もいった。

 

「なんだ これは 老齢の兵士がいるのはまだいいベテラン揃いってことだからな だがまだ年端も行かない娘の方が多いのはどういうことだ!?アルヌスにも何人か来てたがーー何なんだ騎士団ってのは」

 

「それはもしかしてーー私達を遠回しに批判なさっておいでかしら?ケングン隊長 お久しぶりですわ」

 

「あー・・・ボーゼスさんだったかな アルヌスの食堂でお会いしたか。いや 批判しているつもりはない うちにも一応女性兵士はいるからな だが兵士より若い・・・いや幼い女性の負傷者は見るに忍びないー一人の男としてな だが 無事でよかった」

 

「こちらこそニホン軍の支援に感謝しますわ」

 

と健軍大佐とボーゼスが互いに握手を交わすと健軍大佐があることに気づいた。

 

(むっ 竹刀・・・いや剣ダコがーー食堂では何やら変な本ばかり見ていたが・・・)

 

『俺 ヴィフィータ よろしくな』

 

「ん?君とはアルヌスでーー会ったかな?」

 

とまだ特地語が理解出来ない健軍大佐はボーゼスから通訳してもらい。

 

「ヴィフィータはこう申しておりますわ。ケングン隊長にお目にかかれて光栄ですって」

 

「そうですか。こちらも光栄です。早速だがボーゼスさん。我々は副大臣一行と民間人を連れてこれより脱出します。あなた達騎士団はどうされますか?」

「・・・貴隊は このまま皇城に向かうのではないのか?」

 

「ええ 我々の任務はあくまで救出作戦ですから 今日のうちに撤収します。それに我が帝国政府は戦線不拡大の方針ですので」

 

「困ったわ・・・皇城を陥としてほしかったのに」ボソボソ

 

「いやいやいやいやそれはまずいってボーゼス それって帝都が占領されるってことだぜ?」ボソボソ

 

「ピニャ殿下のためなら私はかまいませんわ。それに・・・それに私達は帝国の敵になってしまったのよ。気づいてないの?ゾルザル殿下が帝国を治める限り私達の居場所はない。皇帝陛下のご命令があろうともニホンの使節が帰れば意味がなくなるの 私達 掃除夫に処刑されますわ」ボソボソ

 

「え・・・!?なんだよ!?俺はそんなつもりは・・・」ボソボソ

 

「つもりも何も外を見なさい あれでも逆らってないと言える?」ボソボソ

 

「けどよぉ おいっ」ボソボソ

 

「ケングン隊長脱出路はどうなっていますの?」

 

「西門までの経路は確保している」

 

「ーーでは お願いがあります。騎士団を帝都の外まで同道させてください」

 

「かまいませんが・・・それからは?」

 

「フォルマル伯爵領イタリカへ向かいます。それともう一つ おねだりを・・・ここにいる負傷者をお願いしたいのです。私達の力だけでは残していく他ありません。その後の扱いは容易に想像がつきますわ・・・亡骸は宮殿の者が家族の元に届けると請け負ってくれましたがーー」

 

「確かにそうだな 了解した。我々がアルヌスまで後送し治療しましょう」

 

健軍大佐は負傷者をアルヌスの野戦病院で治療する事を伝えて退室して行く。

 

「大佐 春嵐改に乗せ切れませんよ」

 

「重傷者だけだ。春嵐も動員してフジまでピストン輸送しろ。軽傷者は俺達と一緒に陸路だ。若い連中は文句言わんだろ」

 

「しかし・・・」

 

『オイ!こいつらを捕虜になんかしたりしねえよな!?ボーゼス訳してくれよ!』

 

『ハイハイ』

 

ボーゼスはヴィフィータの言った事をそのまま健軍大佐に伝える。

 

「当然だ。ここにいる皆さんは日本帝国臣民を守って戦い負傷されたんだ。それ相応の扱いはさせていただく帝国軍人は礼節を重んじる」

 

それを聞いてヴィフィータは安心したのか笑いながら健軍の背中を叩く。

 

『あんたイイ奴だな 安心したぜ』

 

「で ではボーゼスさん移動の準備を」

 

「わかりました。皆をお願いしますわ。ヴィフィータ後をよろしくね」

 

「後をって・・・なんで?」

 

番外編『伊丹と戦神再び』

 

その頃伊丹達一行はロー河を沿って帝都に向かっていた。

 

「・・・せまぁい 油くさぁい」

 

「しょうがないだろぉ 油ないと帝都にたどり着けないんだ」

 

「いい加減慣れてくれ」

 

「クルマも意外と不便だな」

 

「予定外の荷物もだいぶ増えたし」

 

「学会の総覧や最新論文は 必要な物」

 

「アルヌスのみんなにおみやげいるでしょ?」

 

「此の身は金を持ってないぞ」

 

「一番のぉ 大荷物ってぇ ヨウジィのよねぇ」

 

「うっ・・・」

 

「ハーディとかぁ ジゼルの像いるのぉ?」

 

「やめろーっ だ 大事な資料だぞぉ?」

 

「これがぁ?」

 

「どんな資料だよ」

 

「トレーラーひいてくるんだったなぁ」

 

「手紙出しといたからぁ大丈夫よぉ」

 

「手紙?」

 

「ヨウジィ わたしがぁエムロイの使徒だってことぉお忘れぇ?」

 

ロゥリィの言った手紙とは、その後意味が分かる。

 

伊丹達は途中である一団と出会っていた。

「メイアとペルシアさんの親父さん!?」

 

「そう言われると似てるな!」

 

「聖下の手紙が届いたんだ。イタリカに届ければいいんですな」

 

「組合がアルヌスに届けてくれるわぁ」

 

「ではイタミ殿 オオバ殿メイアをよろしく」

 

「は はい こちらこそよろしくお願いします」

 

「お お願いします」

 

「・・・どうやってこんなに早く届いたんだ?」

 

「神の御業ってやつよぉ」クス

 

一団に大荷物をイタリカに届けてもらった伊丹達はその後港町が一望出来る丘に来ていた。

 

「帝国軍の部隊移動か」

 

「もっと山側に裏街道がある」

 

「あのくらいぃ蹴散らすの簡単よぉ?」

 

「いや この辺りで騒ぎは起こしたくない」

 

「まぁ 後々面倒になるからな」

 

そうして伊丹達は裏街道を通って行く事にした。途中道が落石で途切れていた為立ち往生してしまい今日は此処で野宿する事にした。

 

「どうりで人がいないわけだ。地震で道が崩れてたのか。レレイの魔法でSd Kfz11は・・・無理かなぁ だいぶ落石動かしてもらったし 本街道に戻るしかないかーー」

 

考えるのをやめ伊丹は就寝に着いた。しばらくすると伊丹は自身の体に違和感を感じて目を覚ます。

 

「んん・・・?」

 

伊丹の目に入って来たのは自分の上に馬乗りになっているロゥリィの姿だった。

 

「ロ・・・ロゥリィ・・・?」

 

「帝都で戦やってるのぉ 忘れたぁ?どんどんキてるのよぉお」

 

「ま まだ戦闘続いてんの?」

 

「激しくなる一方よぉ 村にいた兵隊とやり合うかヨウジィとやり合うか どっちがぁいい?」

 

「どっちがいいって こういうのはダメだってーー」

 

息を荒くし火照ったロゥリィを前に伊丹は困惑したそしてその場限りの思い付きをした。

 

「そ そうだロゥリィ!待った待った!」

 

「なぁにぃ?むせーんも鳴ってないでしょお?」

 

「力を発揮できたらいいんだろ?いい考えがある!」

 

「・・・・?」

 

そして翌朝ロゥリィは重さ約8tもあるSd kfz11を並外れた怪力で持ち上げレレイの魔法で浮いた落石の石を足場にして渡っていた。

 

「・・・・」

 

「いいぞロゥリィ レレイ足場の石をもうちょい足して」

 

(伊丹の奴いつかロゥリィに殺されるな)

 

「ヨウジィ〜 覚えてなさぁい・・・」




これからもよろしくお願いします!どんどん評価や感想を寄せてください。


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翼竜は舞い降りた

翡翠宮の裏庭では日本軍が呼び寄せた『Fa223』通称"春嵐"と"春嵐改"がやって来て吉田使節団と負傷兵を収容して行く。

 

「副大臣」

 

吉田茂も春嵐改に乗って翡翠宮を脱出する。その一方で健軍大佐率いる第四戦闘航空団は、翡翠宮の戦闘で負傷した薔薇騎士団の騎士達を担いだり担架に乗せたりして春嵐の元まで運ぶ。

 

「いいか?」

 

「そっとな」

 

「急げ!」

 

負傷した騎士達を春嵐に乗せてアルヌスの野戦病院に輸送する。

 

「軍が残していった馬と馬車を集めさせています。イタリカへの移動には充分な数がありますわ」

 

「準備を急がせてニコラシカ。ニホン軍と一緒に出発してちょうだい」

 

「お前はどうすんだよボーゼス」

 

「ピニャ殿下をお迎えにあがるの "帝都"に残していくわけにはいかないわ」

 

ボーゼスの言葉に一瞬目を見開き固まる。そして、

 

『バ バカかっお前!』

 

と大声で叫びだすヴィフィータ。

 

「バカでもいいわ。わかってちょうだい」

 

「どこにいるか知ってんのか?」

 

「皇城に決まってるでしょ」

 

「あの広い皇城のどこにいるかだよ!救出なんか無理だって」

 

「それでも私には、殿下を置いて行くなんてできない」

 

「待てよ・・・っ じゃあ騎士団はどうすんだよっ 放り出すのか!?」

 

とヴィフィータが出発準備をする騎士団の隊員を指差して怒鳴る。ボーゼスは沈黙するが、

 

「この後のことを考えるためにも殿下をお迎えにあがるの。このままだと私達本当に立場がなくなるんですからね」

 

「ちょっ・・・おい!待てって」

 

「ケングン大佐!皆のことをよろしくお願いします!」

 

騎士団の皆を健軍大佐に託し自分は愛馬に乗りピニャの元へと行ってしまった。

 

「・・・・」

 

「よろしくってどこ行ったんだ彼女」

 

「なにやってんだよ」

 

「おい」

 

「あのバカ女!悪い!連れ戻してくるからちょっと待っててくれ!頼んだぜー!!」

 

「お おい!」

 

ヴィフィータも愛馬に乗ってボーゼスの後を追って行った。

 

「参ったな何て言ったんだ?」

 

「重傷者の挻送完了」

 

「よし 十一中隊移動用意隊列の護衛につけ、十二中隊と先発隊に通達使節団脱出完了翡翠宮からの撤収を開始する」

 

陸路の日本軍部隊は騎士団を護衛しつつ人目を避けて翡翠宮から脱出して行く。

 

一方その頃皇城では、机に置かれた作戦地図に日章旗が書かれた駒と帝国の紋章の駒がそれぞれ各所に置かれていた。

 

「敵兵はたったこれだけか?五百もいないぞ。物見の間違いではないか?」

 

「いや 空から降ってきた敵も考えてみればそれほど多くはなかった」

 

「敵の狙いは皇城ではなかったということか?」

 

「やはり目的は翡翠宮の使節救出だ」

 

「大げさな!ただ退去すればいいだろうに」

 

「そもそもなぜあそこで戦闘が始まったんだ?」

 

「バスーン監獄も襲撃しているところを見ると真の目的は講和派の救出かと」

 

「うむぅ・・・講和派の救出に来ただけだと・・・」

 

ゾルザルはイラつきながらもどこか腑に落ちないようだった。

 

「報告いたします!翡翠宮包囲の我が軍は敵の攻撃により大損害を受け混乱。オプリーチニナも大半が討死!ルフルス次期法務官殿も行方不明です」

 

「報告!敵はバスーン監獄の囚人を西門から脱出させている模様!」

 

「くそっ 謀りおったなニホン軍め・・・っ ただちに全軍を西門に向かわせよ!敵を囚人もろとも殲滅するのだ!!」

 

「お お待ちください殿下。現在守備隊は皇城に集結中です。ここで新たな命令を下すと大混乱が起こり敵をみすみす逃がしましょう」

 

「このまま敵を放っておけというのか?」

 

「それでは帝国軍の威信に関わります。ここは近衛騎兵を追撃に向かわせるのがよろしいかと」

 

「よし ただちに近衛騎兵軍団を出撃させよ!」

 

その頃帝都西門では、救出した講和派議員らを春嵐改に乗せるところだった。

 

ド ド ド ド ド

 

「あれに乗ればいいのか?」

 

と初めて見るヘリコプターに困惑しつつも春嵐改に乗って行く。

 

「キケロ卿 そこにおわすはキケロ卿か!?」

 

「おお!カーゼル侯爵 ご無事であられたか?」

 

「座ってください」

 

「翡翠宮に逃げ込んでなんとかな 捕まった者らはどうなった?」

 

「我らはバスーン監獄に収監されていたのですが、抵抗した者は掃除夫に・・・」

 

「やはりか 痛ましい・・・ーーとにかく一難は去った。問題は今後のことだが・・・今回の件で儂はニホンの真意を掴めたと思う。彼の国は我が帝国に世界の安定確保の役割を求めておるのだ。そのためにはーー」

 

そう話しているとヘリはゆっくりと上昇し始める。

 

ヒィ イ イ イ ド ド ド ド

 

「おおっ 浮いたぞ!」

 

ド ド ド ド ド

 

春嵐改はそのまま帝都を飛び去って行く。

 

「竜騎兵以外で帝都を空から見たのは我々が初めてでしょうな」

 

「うむ 必ずまたーー戻って来ましょうぞ」

 

キケロ卿とカーゼル侯爵は窓の外を見ながら誓いを胸に日本軍の管轄下であるイタリカに飛んで行く。

 

ド ド ド ド ド ド ド

 

「ねえ ミザリィあれどこ行くの?」

 

「今 帝都には食い物ないだろ?せっかく金もらって外に出れたんだ。こいつを元手に食い物仕入れて稼いでやんのさ♪シンノスケ達はアレに乗らないのか?」

 

「ああ 俺達はこれに乗って帰るから」

 

と栗林はキューベルワーゲンを指差す。

 

「どうせまたこっそり戻ってくるんだろ?そんなときは奢ってもらおうや じゃ行くよテュワル」

 

「あーい」

 

と栗林達は此処で脱出に力を貸してくれたミザリィ達との別れを告げる。

 

その頃 帝都の大通りでは、大急ぎで馬を走らせるボーゼスが居た。

 

ダカカッ ダカカッ

 

「ハッ ハァッ ハッ ハイヤッ(殿下・・・・!)」

 

そしてボーゼスが皇城の正門に辿り着くと監視塔にいた警備に当たって居た近衛騎兵らが一斉にボーゼス目掛けて弓矢を放つ。

 

「そこの騎兵止まれ!何者かぁ!」

 

カ カッ

 

「くっ」

 

矢を交わしたボーゼスは大声で名乗りをあげる。

 

「ピニャ・コ・ラーダ殿下隷下薔薇騎士団所属 団長代行ボーゼス・コ・バレンティー!ピニャ殿下にお目通り願いたい!」

 

それと同時に監視塔から近衛騎兵に混じって掃除夫が姿を現した。

 

「バレンティー家の・・・!?」

 

「騎士団の者が今さら何の用だ!あの者は反逆者だ」

 

「チッ 掃除夫・・・っ」

 

「矢を放て!」

 

「待ちなさい!私は敵ではない!」

 

ボーゼスは必死に潔白を訴えるが聞き入れられず、近衛騎兵の放った矢がボーゼスの肩に刺さりボーゼスは落馬する。

 

「衛兵!あの女を捕えらえろ!」

 

「あ・・・」

 

絶体絶命のボーゼスに一人の騎兵が乱入して来た。それはボーゼスを追い掛けって行ったヴィフィータだった。

 

「てめぇら寄るんじゃねえ!」

 

「うわっ」

 

ヴィフィータは、ボーゼスに近づく敵を蹴散らしながらボーゼスに手を差し出す。

 

「ボーゼス!!」

 

ヴィフィータはボーゼスの手を掴んで引き寄せ馬に乗せると迂回して皇城から離れて行く。

 

「止まれぇ」

 

「ヴィフィータお願い 皇城にっ」

 

「バカ野郎 このくそ女!無理って言っただろ!矢でトゲモグラにされちまうぞ!」

 

ヴィフィータは、ボーゼスを罵りながら後ろを振り向くと近衛騎兵の軍団が迫って来て居た。

 

「ハハッ!たった二人に出す数かよ!くそっ 重てえなぁ ボーゼスお前最近食いすぎだぞ」

 

「失礼ね!妊娠していると言ってもまだスタイルは変わってないわ。ご不満なら捨てていけばいいじゃない」

 

「バカ!んなことできるかよ(ちとマズいなニホンは待っててくれっかな・・・)」

 



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引き裂かれし翼竜

西門の近郊の丘では健軍大佐率いる第四戦闘航空団と1機の『Fa223』春嵐改が待機して居た。

 

「用賀中佐 なぜ我々だけ撤収しないんですか?大佐は何を待ってるんです?」

 

「俺に聞くなよ」ハァー

 

(・・・・特地語はほとんどわからんがあれは、確かに待っててくれとーー)

 

そうしていると見張り員が敵の大群に追われているヴィフィータを発見した。

 

「敵騎兵多数!西門より接近!」

 

「よし ここまでだ?搭乗!」

 

「やっとか」

 

「おいあれ!だれか追われてるんじゃないか!?」

 

「くそっ・・・・最悪だ!!第一小隊搭乗やめ!射撃用意!前方接近中の敵騎兵先頭集団!距離四百短連射!指令!女に当てるな!八九式機関銃前方敵騎兵の後方集団!連続射撃!」

 

「準備よし」

 

「射て!!」

 

ドコココココ ドコココココ

ダダダダン

 

日本兵は、三八式歩兵銃とMP40短機関銃とMG34に春嵐改に搭載されている八九式旋回機関銃をヴィフィータとボーゼスを避けながら敵に浴びせる。

 

「こっちだ!」

 

「続いて撃て!」

 

「交互に後退!」

 

「がんばれ!」

 

日本軍の所まであと少しという所で馬が倒れ二人は投げ出されたがどうにかギリギリで健軍大佐達にキャッチされた。

 

「ふっ」

 

「うおっ」

 

「搭乗!誰も残すなっ」

 

「来るぞ!」

 

敵は既に目の前まで接近して来ていた。日本軍は三八式歩兵銃に三十年式銃剣を装着する。ここからは、日本軍の最も得意とする白兵戦となった。三十年式銃剣、塹壕での白兵戦で大きな威力を発揮する敵を刺したら跳ねる相手にとっては致命的で斬れ味鋭くスッパと斬ればまだ傷の治りも早いがこの場合なかなか傷は治らないのだ。また、ルール無用の戦いでは武器以外の標準的な装備さえ凶器として使われたそれは塹壕用スコップ。スコップは銃剣より長くて重いから時として効果的な武器になった。敵軍の兵士が近づいて来たら突進して思い切り殴り付けるのだ、これで確実に片付く。しかしあまりに敵の数が多く徐々に押されて行った。

 

「いでっ」

 

「くそが!」

 

ガン ドタタタタタタ

 

『うわあああ』

 

「搭乗急げー!」

 

日本軍はヴィフィータとボーゼスを春嵐改に乗せるがその間も日本兵の負傷者が続出する。

 

「うがっ」

 

「全員乗ったか?」

 

「これで全員です!」

 

「よし!!行ってくれ!」

 

全員乗った事を確認すると春嵐改はすぐさま上昇して行くがその合間にヘリのプロペラが敵を切り刻み辺りに血肉を撒き散らす。

 

「うわあっ」

 

春嵐改は上昇して行くが何人かの敵兵が春嵐改にへばり付いていたが日本兵に撃ち落とされた。無事にヴィフィータとボーゼスを回収出来たが代償も高くついた何人かが重軽傷を負ったのだ。

 

「うぅ・・・」

 

「動脈が!頚動脈がやられてる!くそっ血が止まらないっ」

 

そんな中健軍大佐の膝の上にいるヴィフィータが健軍大佐に小突いて来た。

 

『あの その・・・もう降ろしてくれねえ・・・かな』

 

「おっと失礼 ケガしてるじゃないか衛生兵!手が空いたら二人を診てやってくれ」

 

『重かったろ?もしかして待っててくれたのか?通じなくてもいい俺に礼を言わせてくれよ』

 

全く言葉が通じず噛み合わずずっと沈黙していると、

 

『ピニャ殿下!』

 

ボーゼスが大声を出しながら窓の外を見ると館のベランダから空を見上げ微笑みながらこっちを見ているピニャが目に入った。

 

「お願い!ピニャ殿下を助けて!!」

 

ボーゼスは涙を流しながら助けを訴えるが

 

「残念だが今降りると帰れなくなる。どうすることもできない」

 

「ああ・・・殿下!ピニャ殿下ぁ ううっ ああ・・・」

 

どうすることもできずボーゼスは泣き崩れ、皆ボーゼスから目を背け鉄帽を深く被る中、春嵐改はそのまま夕陽の彼方へと飛び去って行った。



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輝くもの天より堕つ

大日本帝国 帝都東京 帝国議会

その日東條英機首相は記者団を集め記者会見を開いていた。

 

『えー 本日未明特別地域において我が国交交渉団の救出作戦を実施した。以前より『帝国』帝都において吉田茂外相兼内閣府副大臣を代表とする交渉団が銀座事件への謝罪賠償を求めるのと並行して講和交渉を進めてきたが『帝国』内の政変に伴い交渉団宿舎の現地警備員と帝国軍との武力衝突が発生 交渉団一行の安全が確保できない恐れから出たことから特地派遣軍と第一空挺師団による救出作戦を行い吉田副大臣以下交渉団全員を無事救出した。現在アルヌスの皇軍駐屯地に到着したと報告を受けたのであります』

 

その頃アルヌスでは吉田茂が記者団に寄られ質問攻めにあっていた。

 

「吉田副大臣!帝都の様子はどうでした!?」

 

「下がってください!」

 

「交渉は決裂ですか!?」

 

吉田茂は何も答えようとしなかった。そして春嵐改からは続々と負傷者が野戦病院に運ばれて行く。日本のニュースはこの救出作戦の成功や交渉団を命を懸けて守った騎士団の事を大々的に取り上げた。

 

「帝都在住の吉田茂内閣府副大臣の宿舎で帝国軍の強力な軍団が皇軍と騎士団により撃破され吉田交渉使節団は無事救出されました」

 

 

『えーのお 現地警備兵と帝国軍の武力衝突に多数の負傷者が出たため人道上の見地から帝国陸海軍が保護しアルヌス駐屯地で治療を行なっている』

 

そしてアルヌスいる日本軍や日本の記者団は吉田茂交渉団を救い出した日本軍と騎士団を褒め称え万歳三唱で迎えた。

 

「万歳!」

 

『万歳!』

 

「帝国陸海軍万歳!」

 

「騎士団よくやった!」

 

「皇軍・騎士団お手柄!」

 

東條

『今回の救出作戦で銀座事件以来初の戦死者が出た事は極めて遺憾ではあるが彼らは勇敢に戦ったその褒賞として二階級特進と靖国神社に合祀される。特地状勢を見極めた上で今後の行動指針を決定する所存である』

 

そしてアルヌスの飛行滑走路では、健軍大佐以下の人達が救出作戦で散っていた部下の遺体に敬礼をして見送っていた。そして春嵐改の中ではボーゼスが俯向きになり目を赤くしながら座っていた。

 

「ボーゼス病院で診てくれるってさ パナシュ達もいるそうだぜ。しかしなんもなかったアルヌスがこんなになってたとはなぁ」

 

とヴィフィータはアルヌスの変わりようを感心していた。そして翡翠宮の戦いから数日後デュマ山脈北方ラタティル。村の一角で男がパイプを吸っていると馬の蹄の音が聞こえてきた。

 

「こんな夜中に荷車かえ?」

 

と音のする方を見ると矢が飛んできて男の脳天に命中し絶命する。そしてそれを合図にケンタウロスを始めとする異種族が武器を手に雄叫びを上げて町に突撃して行く村人は殺され村は焼かれていった。翌朝とある街道を荷車を引いているかつてのコダ村の村長が通って行った。

 

「(炎龍が退治されたとなれば いつまでも友人の荘園に世話になっとるわけにいかんし 村長としてコダ村の様子を見に行かんと・・・)しかし『老魔法使いの弟子レレイとその仲間の炎龍討伐』の詩か。あのレレイがのぉ 村の皆は今どこでどうしとるのか・・・ん?なんじゃ・・・?」

 

街道を通っていると目の前に煙が見えてきた。その後村長が村に入ると無残な光景が広がったいた村人は殺され家は焼かれていた。

 

「盗賊の仕業か?・・・いや奴らは後の食いぶちを皆殺しになぞせん。この死にざまいったい誰がーー」

 

村長は更に奥へ奥へと進んで行くと他の村や街も同じような事が起きていた。

 

「ここもか・・・どうなっとるんじゃ 通る街や村がことごとく死に絶えとる・・・・」

 

キャーーッ

 

悲鳴が聞こえ村長は悲鳴がする方に行って見ると怪異が老若男女問わず村人を殺害やレイプに略奪などの行為をしていた。

 

(帝国のこんな真ん中に怪異の群れじゃと!?帝国軍はなにしとるんじゃ?おまけに怪異どもの甲冑 なぜあんな真新しいのを付けとるんじゃ?いかん このままでは見つかる!すぐに逃げねば・・・ええい動け!手綱を持ち上がろっ)

と何度も何度も自分に言い聞かせていると向こうから帝国軍の兵士が見えてきたその時村長は一瞬安心した。

 

「(帝国兵!)た・・・助けーー」

 

と村長は助けを呼ぼうとしたが村長の目には有り得ない光景が目に入った。なんと帝国軍の兵士が街を襲っている怪異と連んだいるのだ。

 

(なんてことじゃ!怪異どもを使って街や村を襲っとたのは・・・帝国軍・・・!!なぜじゃ!?なぜ帝国軍が帝国の民を・・・・)

 

村長が戸惑っていると二人の子供がやって来た。

 

「村長さん!村長さん助けて!」

 

「おお!?お前達はドラガンとこの!?」

 

「お お父さんとお母さんが!」

 

「しっ声が大きい!」

 

とやっていると怪異や帝国兵に気付かれてしまった。

 

「カラスタあれを見ろ。狩りの残りだ」

 

「我らの姿を見られたからには逃せませんぞ。ヘルム殿」

 

奴らに気づかれた村長は急いで子供らを荷車に乗せる。

 

「は 早く乗りなさい!」

 

村長は思い切り手綱を引いて馬を走らせ街から脱出を図る。

 

「ハッ ハッ ハッ ハッ ホラ!走れ!!」

 

すると後ろから妙な音が迫って来るのが聞こえて来た。

 

ザ ザ ザ ザ

 

ド ド ド

 

(なんじゃ!?何が迫ってきとる!?どんどん近づいてくる・・・)

 

「うぁ・・・」

 

「大丈夫だ!大丈夫だから泣くな!」

 

村長が後ろを振り返ると後ろからケンタウロスや黒狼などが追って来た。

 

「わ 儂はなこれでも若い頃は戦にも・・・行ったことあるんじゃ・・・なかなか強いんじゃぞ。床板をはがしてみろ前から三枚目じゃ」

 

と村長に言われて子供らは荷車の床板を剥がすと中から剣が出て来た。

 

「どうじゃあいつらをやっつけてやるぞ。戦いの神エムロイ様 儂なんぞどうでもいいからこの子達だけでも守り給え」

 

と村長は剣を持ってエムロイの誓いを立てる。そんな状況でも追っては迫り来る。

 

「そら!がんばるんじゃ 頼む!がんばってくれ!!」

 

だが村長の頑張りも虚しく荷車が丘を登った所で空中分解をしてしまい村長は投げ出されてしまった。それを好機と思った追っては雄叫びを上げて迫り来る。

 

「うう・・・大丈夫か?」

 

「そ 村長さん!」

 

「ひっ」

 

丘の上では追ってが手持ちの武器をチラつかせながらゆっくりと迫り来る。

 

「儂の後ろへ!エムロイ様 儂の馬がようがんばってくれました。看取ってやってくだされ 次は儂の番です。この老骨にも祝福を」

 

村長は子供らを後ろに庇い剣を構えて祈りを捧げ最後の覚悟を決めようとしていたその時、

 

「いいわよぉ 祝福してあげるぅ!」

 

 



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憎しみの記憶から

村長らが追われているちょっと少し前頃伊丹一行は、帝都を目指してアッピア街道を進んでいた。

 

「イタミ殿今どの辺だ?」

 

「アッピア街道過ぎて東へ進んでるから、え〜と・・・」

 

「もうすぐラタティルという地方」

 

「まだぁ帝都につかないのぉ?」

 

「帝国軍と鉢合わせしないよう脇道走ってからなあ って ロゥリィあんまりその辺ひっくり返すなよ」

 

「戦の場が近いのよぉ?ヨウジィはぁ何がどこにあるか覚えてるぅ?ヤオ足よけてぇ」

 

とロゥリィはヤオの足を退けさせ木箱からある物を取り出す。

 

「なぁにこれぇ?」

 

「指向性対人地雷 仕掛け罠だ。こうバアッと鉛玉が飛んで敵をなぎ倒せる優れもの」

 

「ふぅん」

 

「小さいのもどっかにあるぞ」

 

「この棒は?」

 

「照明弾 夜に打ち上げて周りを照らす」

 

「書海亭で使ったやつぅ?」

 

「あれは閃光弾その辺のポーチに・・・」

 

「色々あるのねぇこっちの赤十字がついてるのは・・・薬袋ぉ?包帯以外のは何かしらぁ」

 

そしてロゥリィが最初に手に取った箱を伊丹と大場に見せる。

 

「これはぁなぁに?」

 

箱には『STANDARDSKIN』と書かれておりそれを見た二人は目を見開き青筋を立てる。

 

「な なんでんなもん入ってんだぁ!?」

 

「おいおい!?」

 

と二人は大声で叫び出し周りは何だという感じだった。

 

「イタミ殿オオバ殿薬箱に入ってるんだから何かの薬ではないのか?」

 

「いや それは え〜と・・・」

 

「それはちょっと他より特殊だからなあ」

 

ロゥリィは箱の中からコンドームを手に取る。

 

「イタミ殿オオバ殿 御身らはこれの使い方をご存知のようだ。よければ教えてくれないか?」

 

ヤオもコンドームを手に取りニヤニヤしながら使い方を聞いてくる。

 

(ヤオのやつぅ 答えにくいってわかって聞いてんな)

 

(わざとらしい笑いが余計イラつくな)

 

(これはまずいっ コンドームの本来の用途なんか教えたりするとひじょーいかん話になってしまう)

 

(コンドームが避妊用具なんて言ったらロゥリィ達に何言われるか分かったもんじゃない)

 

二人は俯向きになり黙り込む。

 

((あれを使う時が?いつ?誰と?))

 

(やばいやばいそれだけは絶対に回避っ)

 

(よし此処は相手の機先を制して)

 

「・・・そ そいつは、小銃の先に被せて砂や水が入らないようにするんだ!水を入れて薬袋代わりにも使えるぞ」

 

(いや何だそれ!?無理があるだろ!?)

 

「じゃあなぜ薬箱に?」

 

「だ 誰かが入れ間違えたんだろどうりで見当たらないわけだ。あ は は は」

 

伊丹は何とか適当な事を言って誤魔化した。すると運転しているレレイが、

 

「十時の方向」

 

とその方向を見ると煙が立ち込めているのが見えた。

 

「火事・・・?確かあの辺には街がーー」

 

すると別の場所から砂煙が見えた。

 

「誰か追われてる・・・?盗賊か?」

 

「だったらマズいな」

 

するとロゥリィが待ってましたとばかりに向上した。

 

「戦いの祈り確かに受け取ったわぁ!!年寄りと子供ぉ・・・・助けるわよぉ!!」

 

砂煙の方へ行ってみると荷車を追って16匹の怪異がいた。

 

「盗賊なんかじゃないわ!ケンタウロス6黒妖犬10!」

 

「ケンタウロスか こんな南に?」

 

「ヤオ!弓使えるか?」

 

「ああ!もちろん」

 

「レレイあの丘だ。回り込んでやつらの死角から突入するぞ」

 

レレイは、言われた通りに街道から外れ丘に登った行く。そうしている間に荷車が既に追いつかれていた。

 

「ああっ レレイ急いで!!」

 

そう言われてレレイはアクセルを前一杯踏み込む。

 

「エムロイ様 この老骨にも祝福を・・・・っ」

 

『いいわよぉ 祝福してあげるぅ!』

 

最初にテュカとヤオが精霊魔法を発動しながら矢を放つそしてその矢は黒妖犬2匹の頭に命中した。そして他を押しのけながらロゥリィがハルバートでケンタウロス2匹を斬殺する。

 

『ロッロロロロロロゥリィイィイ』

 

とヤオが叫ぶとロゥリィが何故か白けた。

 

「聖下?」

 

「ヤオぉ!それ違うぅっ 違うからぁ!」

 

「なぜだ?戦意高掲に信じる戦神の御名を唱えるのは、信徒として当然と思うが」

 

「こっちの力がぁ抜けるのよぉ!」

 

すると伊丹はニヤと笑い大場はやれやれと言った感じで、

 

「「レレイ!」」

 

レレイはアクセル踏み込むスピードを上げ後の全員は各々の武器を構える。

 

「さん ハイ!」

 

『ロッロロロロロロゥリィイィイ!』

 

その後ケンタウロスや黒妖犬は伊丹らによって抹殺されていった。

 

「バ バケモノ・・・帝国の隊長に伝えねば・・・・」

 

タタタタタン

 

と生き残っていったケンタウロスを伊丹と大場が射殺し片付いた所で伊丹達は追われていた老人と子供のところに行った。

 

「あんたたちは・・・」

 

「あれ?おじさん確か・・・・」

 

「村長」

 

「レ レレイ!?あんたらは・・・村に来た兵隊さん・・・!?」

 

と偶然の再会だった。

 

「村長さん ケンタウロスに追っかけられるって なにがあったんですか?」

 

「ーーき 聞いてくだされ」

 

村長は自分の目で見た一連の事を伊丹らに話した。

 

"講和派の脱出で有名無実となった帝都封鎖。そして帝都市民を震撼させたオプリーチニナ騒動も終わりを告げた。一方 いち早く食料を運び込んだ悪所の住民達は特需で潤っていた。これを機に悪所を後にする者もーー"

 

「テュワルそろそろ行くよ」

 

「ブレイリーがね 今回稼いだお金で故郷の近くで畑買うからいっしょに来ないかって うんって言っちゃった」

 

「ま こんなとこ出れるんならさっさと出るに限るさ。わかって誘ってるんならありがたい話じゃないか。ま 苦労はするだろうけどさ・・・あ」

 

するとミザリィとテュワルは互いに別れを惜しみながら抱き合う。

 

「・・・ごめんなさいミザリィ姐さん」

 

「バカ 謝るところじゃないだろ。あんたはここを出て幸せになる めでたしめでたしだ」

 

「・・・うん」

 

「じゃ 元気でやんな」

 

そしてテュワルは悪所で世話になった皆に見送られながら悪所を去っていた。そんなミザリィも遠くからテュワルを見送っていた。

 

「よぉ ミザリィ ブレイリーのガキは俺の手下の中じゃ一番まともだから安心しな お前は出ていかないのか?稼いだんだろ?」

 

「これでも業の深い生き方してるんでね。出たってろくなことになりゃしないさ」

 

「だったら宝の持ち腐れだな 少しばかり俺に投資しろよ」

 

「は?冗談!」

 

とミザリィは呆れて立ち去るが男はしつこく付きまとってくる。

 

「待てよぉ なぁミザリィ」

 

「あんたもしつこい男だねぇ そんなだから女の子に嫌われるんでしょうが!(仕方ないこういう時は・・・)」

 

ミザリィは何か考えがあるのか取り敢えず路地裏まで行った。

 

「チッ くそっ ミザリィ!俺の話を聞け俺はーー」

 

「いたたたっ 放してよ!ここでこんなことしてタダで済むとーー」

 

「うるせぇ!ここの連中なんか怖かねえっゴンゾーリ一家はーー」

 

「・・・・!?」

 

と男が突然黙り込んで大人しくなったので気になって見てみると男の首元にロゥリィのハルバートが突きつけられていた。

 

「邪魔よぉ」

 

「エ エムロイの神官が、なんでここに・・・」

 

ガッ

 

「いてっ ミザリィ俺はあきらめねぇからな!」

 

「おととい来やがれってんだ!」フー

 

その後ろではロゥリィとSd kfz11に乗っている伊丹らや先助けた村長と子供が居た。

 

「あーあんた 確かクロカワの親分のーーイタミとオオバ?」

 

「よぉミザリィ 久しぶり」

 

「元気だったか?」

 

二人がミザリィと親しくしているのを見て女性陣は、

 

「へぇ〜 父さん達の知り合いなんだぁ」

 

「どぉゆぅふぅにぃ久しぶりなのかしらぁ?」

 

「・・・・・・・こういう遊びはダメ」

 

「女を買わずとも此の身がいるのに」

 

と軽蔑的な眼差しを二人に向けてくる。

 

「ちょっ待てよ!お 俺はそんなことしないぞおっ」

 

「違うから別にそんな関係じゃないから。そして、そんな目で見るな!」

 

「日本でだってそういう店行ったことないし・・・おおーいみなさぁん?」

 

「話を聞いてくれぇ」

 

と必死に弁解するも誰も聞き入れてくれなかった。

 

「あー これあれだわ。女遊びがバレた時のダンナ しーらないっと」

 

ミザリィも立ち去り残された二人は棒の様に立ち尽くしていた。

 

 

 

 



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愛シキモノタチヘ

この日ゾルザル政権からの発表が帝都に齎された。

 

『皇太子府発表 ニホン軍による帝都襲撃はゾルザル殿下率いる我が帝国軍によって撃退された!!だがいまだ戦時下だということを忘れてはならない!帝都臣民は怪しい風体 行動をする者を見つけたときはすみやかにーー』

 

その日の夜ゾルザルの館の寝室では、

 

「ひいいっ」

 

就寝していたゾルザルは悪夢に魘され目が覚めた。側では同衾していたテューレが居た。

 

「殿下・・・・?」

 

「さ 酒だ。酒をもて!」

 

そう言われてテューレは酒をゾルザルの元に持って来てゾルザルはガバガバと酒を飲み干す。

 

「ああ殿下おかわいそうに またあのときの夢をご覧になったんですね?」

 

「うう・・・テューレ・・・」

 

「殿下・・・」

 

テューレはゾルザルを癒す様に抱く。

 

そして翌日、日本軍の偵察機が帝国軍に襲われたデュマ山脈の村々や付近を哨戒活動をしその情報を総司令部に持ち帰る。

 

「帝国軍による焦土作戦の一部はデュマ山脈のこちら側にも拡大を見せています。偵察機が南下する難民を確認しました。おそらく難民はアルヌスを目指す可能性が高いです」

 

「イタリカには受け入れてもらえないか?」

 

「講和派の受け入れでまだ手一杯で・・・」

 

「被害地域を見ると我が方の救出作戦より前から展開を始めていたんだな」

「目撃者によると実施部隊はほとんど怪異か・・・・これ以上の南下を喰い止めるため早急な掃討作戦が必要だぞ」

 

「今村大将 杉山陸軍大臣からお電話です」

 

と今村大将は仲の親しい杉山元陸軍大臣からの電話を対応する。

 

「今村だ。あぁ・・・あぁ報告した通りだ。わかったありがとう」

 

そして受話器を戻す。

 

「今津大佐特資一班伊丹中尉と大場大尉の要望 了承されたよ」

 

その頃帝都悪所事務所では、今津大佐から無線で連絡が来ていた。

 

『というわけでコダ村村長の話はこちらでも確認した。あくどい手やが有効なのも確かや 不正規戦にかまってるとジリ貧まっしぐらやからなやけど ほっとくわけにもいかんので姫さんの救出が条件付きでOKなったんもその一環や ただしゾルザルをどうにかってのはなしや いくら戦争中とはいえ皇族の暗殺なんかしたら後がまずうてかなわんからな』

 

「しかし それだとレレイの安全が・・・」

 

『伊丹〜 少しは頭使え!その手の仕事する奴は依頼人が死んでも仕事するやろ?やめさせるには依頼人本人にやめさせなあかんねん』

 

「あ・・・そうでした」

 

『せやからゾルザルは生かしとく これが救出作戦許可するための条件や。その代わり"脅す時は徹底的に脅す"暗殺を頼むような輩は狙われる側になると案外腰抜けになるもんや。あとはロンデルみたいに噂を流すんや 炎龍倒した英雄レレイ・ラ・レレーナを暗殺者が狙っとると その依頼人はゾルザルやと付け加えてな』

 

とずる賢い笑みを浮かべながら作戦を伝える。その頃 皇城では、ゾルザルと主戦者議員が集まっていた。

 

「完全にしてやられた!」

 

「敵の力があれほど圧倒的だったとは・・・・」

 

「だが神ではない奴らにも弱みがあるはずだ」

 

「次こそは目にもの見せてくれようぞ」

 

と主戦者議員が口論していると

 

「殿下 侍医官アルケメニトゥスであります。こちらをご覧ください 先の戦いの戦死者の体の奥から見つかったものです」

 

とゾルザルの前に差し出されたのは日本軍が使用していた有坂6.5mm弾と9mm口径のパラベラム弾や空薬莢だった。ゾルザルは銃弾を手にとって見る。

 

「ふむ 鉛の鏃か・・・」

 

「ピニャ殿下の報告書の通り敵は魔法か何かによって この鏃を手持ちの石弓で放っているのです」

 

「原理などどうでもよい 問題はそれを我が軍の防具で防げんということだ!」

 

「盾を二枚重ねにしてみては」

 

「いや 三枚は必要だぞ」

 

「兵が持たぬ盾など作ってどうする?」

 

と様々な意見が飛び交い口論となったがここでゾルザルが口を開く。

 

「皆なぜ気付かぬのだ?俺でも気付いたことだぞ?盾が重いのなら持てる者に持たせればよいだけではないか」

 

ゾルザルがそう言った瞬間広間の扉が開くと大きな音が聞こえてくる。

 

ズシン ズシン ズシン ズシン ズシン

 

「その者らを戦列の最前線に並べるのだ。見るがよい」

 

そして扉から広間の中に入った来たのは重装甲の鎧に身を包み大きな木の棍棒をもった二匹のジャイアントオーガだった。議員らは圧倒された。

 

「どうだ。厚さ1クロ半の鉄板で仕立てさせ こいつらを戦列の最前線に加えるのだ」※1クロ半:約2センチ

 

「軍団の戦列に!?」

 

「こいつだけじゃないぞ。様々な怪異 恐獣を戦列に加える。そうせねば敵に対抗できぬ。すでに怪異を主とした軍勢が行動しておるではないか」

 

「し しかしあれは撹乱作戦であって・・・・軍団兵と怪異を同列に扱うとなると兵から反発がーー」

 

「ではどうする今のままでニホン軍に勝てるのか?」

 

「ですが・・・・っ」

 

「結局は兵のためになるから抑えてみせろ」

 

そう言われて誰も何も言えなくなった。

 

「かしこまりました殿下。我々はオプリーチニナが兵達に言って聞かせましょう」

 

「こうしてはいかがでしょう。オプリーチニナを帝国軍各隊に常駐させ殿下のお心をお伝えするのです。アブサン様は亡くなったルフルス様と違い有能な方 きっと殿下が満足なさる結果を出されらでしょう」

 

「おお さすがテューレ様」

 

とテューレはアブサンを煽てて上機嫌にするが待ったを掛ける者も居た。

 

「い いけません!指揮系統を二つに割るのはーー」

 

「なぜ?大本の命令は殿下が出すのですよ。貴殿らが何もしなければ問題は起きません」

 

(くそっ 我々を監視するためだろが)

 

(腰巾着め)

 

「この問題は済みましたよ。次はピニャ殿下と騎士団の処遇です。ピニャ殿下の叛意が疑われます」

 

「叛意だと?」

 

「そうです。翡翠宮での騎士団の振る舞い見過ごせません。騎士団の手引きなくしてあの襲撃は考えられませぬ」

 

「騎士団が敵とともに逃げ去ったのが何よりの証拠!」

 

「外患誘致の大罪 たとえ皇族であってもいえ皇族だからこそ許されん!」

 

「そうだそうだ!ウッディ伯の言うとおり!」

 

「ただちに召喚し喚問すべき!」

 

「この場に引き出せ!」

 

「そうだ!」

 

これを機に議員らは益々炎上して行く。だが兄であるゾルザルには信じがいことだった。

 

「む・・・しかしだな ピニャに限って・・・」

 

「帝都に一人残ったのも策略かも知れませんぞ」

 

「そうかも知れませんが・・・致し方あるまい 近衛長官!」

 

「ハッ」

 

「ピニャを連れてこい逆らうようなら手荒くしてもよい」

 

一方、伊丹らは、

 

「ホラホラぁどうしたのぉ〜?ホラぁ もっとしっかり引っぱりなさぁい おばかさぁ〜ん」

 

ピンッ

 

「いてっ」

 

伊丹は大きな荷物を幕で覆った荷車を引きながらロゥリィに鞭打ちをされていた。

 

「ひでぇ・・・馬とか手配できなかったのかよ。金で悪所の力持ちなケモノの人呼ぶとかさぁ」

 

とブツブツ言いながらも荷車を引いて行く。因みにレレイ達や他の日本兵らは伊丹の引く荷車の中に身を潜めていた。

 

「救出作戦に部外者なんて入れられるかよ」

 

「聖下がいるから逆に怪しまれてない気がするが」

「父さん一人でこんな大きな荷車引っぱってる方が怪しいわ」

 

「しかし 見るに耐えないな」

 

「え?これ魔法とかかけなくていいの?」

 

その間も伊丹は終始一貫ロゥリィに鞭で打たれ続けた。

 

「おしゃべりしないで腰に力いれなさぁい!ホラホラ 進め進めぇ!」

 

ピンッ パシッ

 

「ちょっ いたっ まじで痛いって(ロゥリィのやつなんでこんなにあたるんだ・・・?)」

 

そんなこんなで伊丹達一行は皇城の正門の到着した。

 

「ロ ロゥリィ・マーキュリー聖下!?」

 

「皇城に何かご用がおありで・・・!?」

 

「この娘にお聞きなさぁい」

 

とレレイが番兵の前に来ると、

 

「わたしはレレイ・ラ・レレーナ 皇帝陛下のお召しにより参上した」

 

「あ あなたが!?レレイ・ラ・レレーナ殿!?」

 

「衛兵長 衛兵長ーっ」

 

「し しばしお待ちを」

 

番兵は衛兵長にロゥリィとレレイが来た事を知らせる。

 

「レレイ?誰だ?炎龍の・・・!?ロゥリィ・マーキュリー聖下!?馬鹿者!それを先に言え!」

 

衛兵長は急ぎ足で来てロゥリィの前でお辞儀をする。

 

「ロゥリィ・マーキュリー聖下 レレイ・ラ・レレーナ殿 ご案内いたします。こちらへどうぞ」

 

衛兵に案内され中に入って行くと、

 

「おい そこの奴隷待て」

 

「な・・・なんでしょう?」

 

「あの聖下が乗られていた荷車だが・・・・城門の前に停め置くでない。中に入れろ」

 

「あ はいっーーって 一人で!?」

 

「どうした?一人で引いてきたんだろ?」

 

「はいっはい ただいま!」

 

そして伊丹は荷車の中にいる剣崎少尉に声を掛ける。

 

「おい 剣崎 運転してくれよ」

 

「バカ 音で怪しまれるだろ?」

 

「フッ しゃあねぇなぁ」

 

伊丹は仕方なくキューベルワーゲンを木の板で偽装した荷車を引っ張って行く。

 



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登場兵器

大日本帝国陸軍

 

小火器

 

三八式歩兵銃

全長:1.276mm(銃剣装着時:1.663mm)

重量:3.730g

使用弾薬:三八式実包

口径:6.5cm

装弾数:5発

有効射程:460m

備考:手動式の遊底を操作して一発ずつ撃つボルトアクションで装弾数は五発。20世紀初頭には既に誕生していた旧式ながら高い命中精度と信頼性を誇った。東南アジアなどの過酷な環境でも作動するほど頑丈で故障が少なくボルトを分解して手入れをするのが容易で、銃身が長いが低反動であり小柄な日本人の体格には合っていた。その為三八式歩兵銃は日本のボルトアクションライフルの完成形と言われ『世界水準の優秀な銃』と言われている。三八式歩兵銃は日本軍基本的な装備でトレードマークになっていた。

 

 

四式自動小銃

全長:1074mm

重量:5.4kg

使用弾薬:九九式普通実包

口径:7.7mm

装弾数:10発

有効射程:1200m

備考:陸軍で運用されている半自動小銃。大東亜戦争時にアメリカ軍のM1ガーランドを鹵獲したコピー品。陸軍では、半自動小銃に対する関心が薄く三八式が優先的に生産された為大東亜戦争には殆ど参加していない。現在では、アサルトライフルであるStg44と共に並行で生産されている。

 

 

 

MP40"通称シュマイザー"

全長:630mm/833mm

重量:4.025g

使用弾薬:9×19mmパラベラム弾

口径:9mm

装弾数:32発

有効射程:100m

備考:シュマイザー即ちMP40は大日本帝国軍の兵士達に好んでよく使われた。MP40は鋼板の他にプラスチックが使われていてコストも安く済んだ。従来のサブマシンガンのストックは木製だったのだがMP40は金属で作られていてしかも折りたたみ式になっていたから持ち運びが苦にならず操作が簡単で扱いやすいため、ドイツから供給を受けて帝国陸軍からも高く評価された。

 

StG44

全長: 940mm

重量:5.220g

使用弾薬:7.92×33mm弾

口径:7.92mm

装弾数:30発

有効射程:300m

備考:世界初のアサルトライフルでまだ製造が追いついていない状況で限られた部隊に支給されている。歩兵が使う銃として必要な要素を全て兼ね備えたライフルでフルオートとセミオートの切り替えが出来た。従来のライフルに比べてパワーは落ちるが拳銃より威力が有って弾倉に入る弾の数がグッと増え30発装填できた。1945年の春に日本国内で量産が始まり極めて実用性が高く眼を見張る活躍をしている。

 

ワルサーP38

全長:216mm

重量:945g

使用弾薬:9×19mmパラベラム弾

口径:9mm

装弾数:8発弾装(薬室1発)合わせて9発

有効射程:50m

備考:日中戦争中占領地域では拳銃を隠し持つ便衣兵が数多く潜んでいることが考えられその為各地に駐留している占領軍の司令官や兵站部の補給将校はいつ襲われるか分からず護身用に常に携帯できる拳銃を必要としていた。それまで採用していた14年式拳銃はパワー不足の為もっと威力のある拳銃を軍は求めていた。そこでドイツのワルサー社が開発したワルサーP38に目を付け14年式拳銃に代わって使われるようになった。弾倉に入る弾の数は8発それに加えて薬室にもう1発合わせて9発装填する事が出来、ダブルアクションの撃発機構が組み込まれており、遊底が弾倉から前方に銃弾を押し出してくれ、優れた性能を持つ銃として高い評価を受けた。

 

MG34汎用機関銃

全長:1.219mm

重量:12.100g

使用弾薬:7.92×57mmモーゼル弾

口径:7.92mm

装弾数:ベルト給弾式、ドラムマガジン式

有効射程:1000m

備考:日中戦争中、国民革命軍が使用していたのを鹵獲して、ドイツに無許可でコピー品が作られた。MG34は万能型だった。相手の棋戦に際して攻撃を仕掛ける際は軽機関銃としても活用できた。一人で運んで操作できた。激戦地では部隊を後方から援護する時絶大な力を発揮した。命中精度が非常に高く三脚を立てれば敵を確実に狙い撃てる優れものだった。

 

MG42汎用機関銃

全長:1.220mm

重量:11.600g

使用弾薬:7.92×57mmモーゼル弾

口径:7.92mm

装弾数:ベルト給弾式、ドラムマガジン式

有効射程:1000m

備考:MG42はMG34欠点を改良して開発された物だった。コストが安く激しい戦闘でも耐えられる銃が欲しいと言う日本陸軍の要請に応えたのがドイツの銃器メーカーシュタイヤーマンリヒャーのMG42だった。連合軍からは、『ヒトラーの電動ノコギリ』の異名で恐れられた。

 

MG08重機関銃又は24式重機関銃

全長:1.190mm

重量:62kg

使用弾薬:7.92×57モーゼル弾

口径:7.92mm

装弾数:250発

有効射程:2500m

備考:日露戦争でのロシア軍の機関銃の威力を思い知った日本陸軍はマキシマム機関銃の導入も視野に入れていた。そして、日中戦争の際国民革命軍が使っていた24式重機関銃を鹵獲し使用し、東京造兵廠でライセンス生産されている。また、ウォータージャケットを外した(ソ連のSG-43みたいな)空冷式に改めた重機関銃がある。

 

M2重機関銃

全長:1.645m

重量:58kg

使用弾薬:12.7×99NATO弾

口径:12.7mm

装弾数:ベルト給弾式(1帯100発)

有効射程:2000m

備考:アメリカブローニング社の大口径機関銃で航空機、艦船、戦闘車両に装備されている。

 

八九式重擲弾筒

全長:610mm

重量:4.7kg

口径:50mm

有効射程:120m

備考:個人用携帯式迫撃砲で現代のグレネードランチャーの先駆けとも言える。

 

パンツァーシュレック

全長:649mm

胴部直径:87.3mm

重量:3.3kg

初速:104m/sec

弾頭炸薬量:0667kg

推進薬重量:0.183kg

最大射程:201m

備考:対戦車ロケット擲弾発射機。パンツァーシュレックとは、ロケット対戦車筒と言う意味。アメリカのM1バズーカを手本にして作られた。初期のパンツァーシュレックは防盾が付いてなくガスマスクを装着していたが防盾がつけられてガスマスクが不要になった。

 

パンツァーファウスト

射程:30m

重量:5.1kg

装甲貫徹力:200m

備考:携帯式対戦車擲弾発射機。パンツァーファウストとは、戦車への拳と言う意味で強力な対戦車兵器の一つだ。有効射程は60m直径150mmの弾頭は装甲厚200mmの戦車の貫き内部で大爆発を引き起こす。

 

火砲

 

九七式曲射歩兵砲

口径:81.3mm

砲身長:1.269mm

重量:67kg

最大射程:2.850m

史実と同じ

 

三八式野砲

口径:75mm

銃身長:2.286m

重量:947kg

最大射程:8.350m

史実と同じ

 

機動九〇式野砲

口径:75mm

銃身長:2.883mm

重量:1.600kg

最大射程:14.000m

史実と同じ

 

機動九一式十糎榴弾砲

口径:105mm

銃身長:2090mm

重量:1.500kg

最大射程:10.800m

史実と同じ

 

八九式十五糎加農砲

口径:149.1mm

砲身長:5.963mm

重量:3.390kg

最大射程:18.100m

史実と同じ

 

九二式十糎加農砲

口径:105mm

砲身長:4.725mm

重量:1.172kg

最大射程:18.200m

史実と同じ

 

15cm ネーベルヴェルファー41型

口径:15cm

砲身長:1.300mm

重量:31.8kg

最大射程:6.900m

ナチス・ドイツが開発した多連装ロケット砲。

 

8.8cm Flak18

口径:88mm

銃身長:4.938mm

重量:7.407kg

最大射程:11.900m

ドイツ国防軍の88mm高射砲で9000m上空の重爆撃機で冴え撃ち落とせる。また、砲弾は近接信管が内蔵されているので近く飛行物体を容易く撃ち落とす。陸軍はこの高射砲を航空機だけではなくドイツ国防軍同様対戦車砲としても使用している。

 

ボフォース40mm機関砲

口径:40mm

重量:1.981kg

最大射程:7.160m

帝国陸海軍が使用している対空機関砲。戦争初期にフィリピンで降伏したアメリカ軍から接収し使用して今では帝国陸海軍の主力対空機関砲になって多くの艦艇に搭載されている。

 

車両

 

Ⅵ号戦車"ティーガーⅠ"(中期型)

全長:8.45m

車体長:6.316m

全幅:3.705m

全高:3m

重量:57t

速度:40km/h

主砲:56口径8.8cm KwK36L/56

副武装:MG34×2・12.7mm重機関銃M2×1

装甲:前面100mm

側面および後面80mm

上面および底面25mm

備考:対ソ連の戦車開発の研究のためドイツから1輌購入しライセンス生産に入っているがまだ100輌足らず。ティーガーⅠ型は戦車の枠を超越した最強の戦車だった。装甲板も厚く連合軍に破壊される可能性はゼロに近かった。だがティーガーは60t近い巨体の為ぬかるんだ泥道や日本の舗装されていない道に埋もれる可能性があったがキャタピラにグローサー(滑止金具)を取り付けた事により柔らかい地面でも走行が可能になりキャタピラの幅が10cm広くなりティーガーの重さを分散してくれた。さらにティーガーは1km進むのに6L近い燃料を消費する燃費の悪さも露呈されていた。製造整備が難しいなどの欠点もあった。

 

Ⅴ号戦車"パンターG型"

全長:8.66m

車体長:6.87m

全幅:3.27m

全高:2.85m

重量:44.8t

速度:45-55km/h

主砲:70口径75mm KwK42L/70

副武装:MG34×2・12.7mm重機関銃M2×1

装甲:砲塔前面110mm傾斜11°

側・後面45mm傾斜25°

車体長前面80mm傾斜55°

側面40mm傾斜40°

後面40mm傾斜40°

備考:対ソ連に備えてドイツからライセンス生産を取得。ティーガーよりもパンターは軽くバランスの取れた戦車だった。装甲もソ連のT-34に匹敵していた。パンターの設計はT-34の影響を受けていると言えた。ソ連の戦車の様に傾斜を付けた装甲は乗員の安全に配慮したものだった。パンターに装備された75mm砲はティーガーの88mm砲より強力なパワーを誇った。パンターは今でもT-34と共に第二次世界大戦中最強の戦車との呼び声が高い。また、ティーガーよりもコストは3分の1だった為大量生産が開始されて400両を越えようとしている。

 

Ⅳ号戦車H型

全長:7.02m

車体長:5.89m

全幅:2.88m

全高:2.68m

重量:25.0t

速度:38km/h

主砲:48口径75mm KwK40

副武装:MG34×2・12.7mm重機関銃M2×1

装甲:砲塔

前面:50mm駐退機前面80mm

側面・後面:30mm

上面:25mm

車体

前面:80mm 側面:30mm

後面:20mm 上面:16mm

備考:大東亜戦争では、日本軍機甲師団の主力戦車で対空戦車や駆逐戦車など派生型を含め2000以上生産された。

 

九四式六輪自動貨車

全長:5.4m

全幅:1.9m

全高:2.7m

重量:3.5t

速度:60km/h

 

sd kfz 6

全長:6.3m

全幅:2.2m

全高:2.48m

重量:8t

速度:50km/h

 

sd kfz 251

全長:5.80m

全幅:2.10m

全高:1.75m

重量:7.81t

装甲:6-14.5m

主武装:MG34またはMG42

速度:52.5km/h

 

航空機

 

中島一式戦闘機「隼」

全長:8.92m

全幅:10.837m

全高:3.085m

翼面積:22m

自重:1.975kg

最大速度:後期型:548km/h/6000m

実用上昇限度:10.500m

航続距離:3.000km

武装:機首12.7mm機関砲2門

爆装:翼下30〜250kg爆弾2発

 

九九式襲撃機

全長:9.21m

全幅:12.10m

主翼面積:24.20m

自重:1.873kg

最大速度:424m

実用上昇限度:8.270m

航続距離:1.060km

武装::翼内12.7mm機関砲×2、後方7.7mm旋回機関銃×1

爆装:最大200kg

 

九七式司令部偵察機

全長:8.70m

全幅:12.00m

全高:3.34m

主翼面積:20.36m

自重:1.592kg

最大速度:510km/h

実用上昇限度:11.900m

航続距離:2.400km

武装:7.7mm旋回機関銃

 

四式重爆撃機「飛龍」

全長:18.7m

全幅:22.5m

全高:5.6m

主翼面積:65.0m

自重:8.649kg

最大速度:537km/h

実用上昇限度:6000m

航続距離:3.800km

武装:二式20mm 機関砲×1・一式12.7mm機関砲×4

爆装:50kg爆弾×15・250kg爆弾×3・500kg爆弾×1・800kg爆弾×1、魚雷×1

 

九七式輸送機

全長:15.30m

全幅:19.92m

全高:4.15m

主翼面積:49.20m

自重:3.500kg

最大速度:365km/h

航続距離:1.270km

 

大日本帝国海軍

 

火砲

 

九六式二十五粍機銃

口径:25mm

銃身長:1.500mm

重量:2.828kg

最大射程:8.000m

 

八九式十二糎七高角砲

口径:127mm

重量:20.3

最大射程:14.622m

 

航空機

 

零式艦上戦闘機(ゼロ戦)

全長:12.0m

全幅:9.05m

全高:3.53m

主翼面積:22.44m

自重:1.754kg

最大速度:579km/h

実用上昇限度:1.2000m

航続距離:3.350km

武装:翼内20mm 機銃2丁、機首7.7mm機銃2丁又は、M2 12.7mm機関銃2丁

爆装:30kg爆弾又は60kg爆弾2発又はR4Mロケット弾8発

備考:大日本帝国海軍の主力戦闘機。世界最強の戦闘機と言われ太平洋上に敵なしと言われた。外見は五二型だが、機動性・航続距離は二一型と同等だが、エンジン出力と翼面積は二一型より上。史実の零戦より防弾装備が充実しており、重量を抑える為装甲はエンジン・コックピット・燃料タンクに施されている。

 

 

九九式艦上爆撃機

全長:10.185m

全幅:14.360m

全高:3.348m

主翼面積:34.970m

自重:2.390kg

最大速度:381.5km/h

実用上昇限度:8.070m

航続距離:1.472km

武装:機首固定7.7mm×2、後方旋回7.7mm×1、M2 12.7mm機関銃1丁

爆装:250kg×1、60kg×2

 

九七式艦上攻撃機

全長:10.3m

全幅:15.518m

全高:3.7m

主翼面積:37.7m

自重:2.200kg

最高速度:450km/h

実用上昇限度:7.640m

航続距離:1.021km

武装:九二式七粍七旋回機関銃×1又はM2 12.7mm機関銃1丁、800kg爆弾又は800kg魚雷×1

 

ユンカースJu87c"愛称シュトゥーカ"

全長:11.52m

全幅:13.82m

全高:3.84m

主翼面積:33.6m

自重:2.273kg

最大速度:410km/h

実用上昇限度:7.500m

航続距離:1.000km

武装:翼内MG17機銃2丁、後方MG151丁

爆装:500kg爆弾又は700kg爆弾

 

一式陸上攻撃機

全長:19.97m

全幅:24.88m

全高:4.506m

主翼面積:78.125m

自重:6.741kg

最大速度:453.7km/h

実用上昇限度:9.660m

航続距離:2.176km

武装:7.7mm旋回機銃4丁、20mm 機銃1丁

爆装:60kg爆弾12発、250kg爆弾4発、500kg又は800kg爆弾×1、800kg魚雷×1

 

 

 

 

 



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登場国家

地球側の国家・地域

『大日本帝国』

銀座に出現した『門』とそこから現れた帝国軍によって多数の市民が虐殺された『銀座事件』を期に帝国と戦争状態になり、特地に大日本帝国陸海軍を派遣する。また、特地から得られるであろう資源を目当てに、様々な国から圧力、干渉に手を焼くことになる。

 

『アメリカ合衆国』

大東亜戦争で日本による大敗や連邦政府の腐敗でルーズベルト大統領の支持率が低下し、支持率回復の為に特地権益の確保を狙っており、見返りを期待して物資を支援などを行う。

 

『ソビエト社会主義共和国連邦(ソ連)』

第二次世界大戦以降ソ連は、ポーランドなどを始め東ヨーロッパを手中に収めており、『門』の国際的管理と国連軍派遣を要求しているが、東郷茂徳外務大臣に断られる。

 

『ドイツ国(ドイツ第三帝国又ナチスドイツ』

第二次世界大戦で連合国軍から手痛い目にあわされて大人しくなっている。ヒトラー総統はドイツ復興の為に特地の権益を狙っている。日本による技術提供を切り札に干渉してくる。

 

『イギリス連邦』

アメリカに近い立場を取る。イギリスは特地権益確保の為かつての日英同盟を復活させようと考えている。

 

特地の国家・地域

『帝国』

特地の覇権国家。知られている限りの国家、部族を従属させる唯一の『帝国』であることから国名を持たない。『攻め込んだ国・部族と一旦協定を結び、直後に連絡の不備や時間差から起きた偶発的な問題を理由にして反故にする』という騙し打ち的な戦略が常套化している。侵略時に略奪と奴隷狩りを行った後は存在が判明している(または開発した)農地や鉱山を管理する程度で、その国や部族の『隠し財産』などは、情報を得られなかった場合、放置されていることが多い。

かつては共和制の小国だったが戦争で版図を広げ、その過程で一貫した政策を取れる帝政に移行した。中央集権制と封土制が併存し皇帝と元老院が統治している。軍事、風俗は中世ヨーロッパ似だが、歴史、政治体制はローマ帝国に似ている。ヒト種至上主義社会で亜人は差別されていた。

侵略戦争が常態化しており、安定しすぎているが故に行き詰まり、閉塞感を打破するためにろくな調査を行わないまま異世界(日本)に出兵した結果、総戦力の6割にあたる6万人もの兵力を失い、逆に『門』を超えて攻め込まれ存亡の危機に陥る

 

『帝都(ウラ・ビアンカ)』

帝国の首都。人口100万の城砦都市。特地の情報と物資の集積地であるため日本軍は密かに数カ所の活動拠点を置き、更に『悪所』と呼ばれるスラム街にも事務所を置いて情報収集をしていた(悪所のある南東門からの侵入は帝国に動きを察知されづらいという理由がある)。モルトが倒れた際、皇太子府を立てたゾルザルによって戒厳令が布かれ、物流が止まる事態が起こる。

 

『悪所街』

帝都南東門界隈に存在する貧民街。日本軍はここにも事務所を構えており、各種調査と並行して低料金での衛生活動を行い、住民や地元のマフィアとも情報などの取引を行っている。陸軍中野学校を始め、事務所に常駐する日本兵は任務中かつ性病感染を始めとした病気を有無を調査中でもあるため、街の娼婦たちの誘いに乗らず、当初は『金回りは良いのにケチくさい奴ら』とも見られていた。4人のマフィアの頭目が顔役として悪所街を仕切っており、当初はよそ者の日本軍のことを快く思っていなかったが、頭目の一人のベッサーラが返り討ちにあって以降は商売相手としてなびきながら接している。

 

『アルヌスの丘→大日本帝国アルヌス州又はアルヌス県』

特地側の『門』が存在する丘。丘とはいってもほぼ平坦。『門』を中心に日本軍が駐屯地を築いている。以前に『門』が開いた事があり、そのたびに様々な種族が入ってくる事があり、様々な種族が入ってくる事で特地は様々な種族が溢れた可能性が語られた。そのため、帝国を始め各種族にとっても『聖地』とも呼ばれているが実際には辺鄙な場所で、最寄りの街(アポルムやイタリカ)でも馬(馬車)で丸1日以上かかる。日本軍駐屯地後は様相が一変し、丘の上には門を中心に巨大な六芒星型の要塞が築かれ(北海道函館の五稜郭酷似)、その南側にアルヌス協同生活組合によって難民キャンプが商業街のような街に形成され日を追うごとに発展し、巨大な基地都市の様相を呈する事になった。政治体制は大日本帝国憲法下ではない為日本軍による事実上の軍事政権下に置かれている状況で司法・行政・立法の全てを日本軍が行う状態である。

 

『イタリカ』

フォルマル伯爵家の領府となっている都市。領内は大規模な穀倉地帯であり『帝国』にとっては重要な食料の供給地。先代の領主であるコルトが開明的な考えの持ち主で、本人の『趣味』もあって亜人達の庇護を掲げ領内に幾つかの亜人達の避難民の集落が作られているが、領内の住み分けはハッキリしており、アルヌスほどの自由度はない。亜人種に移住先として与える領地は、険しい山中などヒト種では居住が難しい不毛の土地ばかりだったが、ヒト種至上主義を掲げる帝国に属している以上、優遇しているように見せるのは危険だった事や、不毛の地という印象を利用して盗賊の襲撃を回避し、定住できるようにする為だったのではと思われる。その為、保護された亜人たちは全員がフォルマル伯爵家に並々ならぬ感謝と忠誠心を抱いている。

各集落では収入を確保するために出稼ぎを行っており、フォルマル伯爵家などに奉公に出ている。帝国内としては珍しい亜人のメイド・使用人がいるが、帝都などに派遣できる者はヒト種に限定される。逆に、亜人差別の無いアルヌスに派遣される者はほとんど亜人であり、アルヌスにおける雇用形態が特地では考えられないほど好待遇だったこともあり、フォルマル伯爵家に対する亜人たちの感謝と忠誠心が一層高まることとなった。

 

『エルベ藩王国』

帝国の南方に位置する国。諸王国連合の一角としてアルヌスに軍を派遣するが、日本軍との戦いで多大な被害を受け、多くの将兵を失う結果となった。資源が豊富な国で、原油が自然湧出している土地がある。また、特地では珍しい火山が存在している。ヤオ達ダークエルフの住まうシュワルツの森もこの国に位置し、炎龍討伐が検討された際、炎龍の巣に向かうには国境線を通過する必要があるため、部隊規模の派遣を行うネックとなっていた。

 

『学都ロンデル』

学問が盛んな都。学問の神エルランとラーに作られた。ロマリア山地を挟んで帝国中央とは隔てられているため、日本との戦争や内乱に巻き込まれることなく安定している。魔導師たちの研究街区では魔法の暴発や実験の失敗が起こり、危険なので一般街区からは『隔離』されている。学都都市であるが図書館が存在せず、学徒が集まる理由は高名な老師の収集した所蔵本目当てという物もある。

 

『ベルナーゴ神殿』

ハーディを祀る神殿。教団の本部であり、神殿を中心とした都市となっている。特地でも特に古い歴史を持つ街であり、ハーディが死後の世界を支配していることから、信仰する主神には関係なく一生に一度は巡礼に訪れる聖地となっており、巡礼者向けの案内書も出版されている。

 

『クナップヌイ』

帝国のある地域から北北東にある辺境域で、アポクリフと呼ばれる黒い霧が広まりつつある。特地側における『門』による悪影響の一つであり、アポクリフに覆われた一帯では草木や微生物などのあらゆる生命が死に絶えている。

養鳴教授はこの現象を、接近したり離れたりするお互いの世界の時間軸の波が離れようとしている時に『門』で時空間が接続されてしまったが故に離れることが出来ず、お互いの時空間に無理な負荷が掛かり、空間に歪みが生じているのではないかと推測している。




本編は、今度から毎月月末投稿になります。時々番外編とかを投稿します。


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flugel der Freiheit

1t近いキューベルワーゲンを引っ張って来た伊丹は、息を切らし疲れながらもロゥリィ達に合流した。

 

「聖下 レレイ様 こちらの控えの間にてお待ちください。むさ苦しい小部屋ですがどうぞご容赦を」

 

と案内されたのはシャンデリアやオブジェなど豪華絢爛に着飾った部屋だった。

 

(むさ苦しい小部屋・・・ね)

 

「モルトはどうしたのぉ?」

 

「陛下は御悩を得られましてただいまご療養中です。代わって皇太子殿下が執務が終わり次第ごあいさつにまかりこしますので・・・・」

 

「それは心配ねぇ見舞えるかしらぁ?」

 

「面会謝絶令が出ておりまして・・・・」

 

「ふぅん 本当によくないのねぇ快癒を祈ることにするわぁ」

 

「聖下のご祈祷をいただければ陛下のご回復も早まることでしょう。あのレレイ様 不躾ですがこちらにお名前をお記していただけないでしょうか」

 

レレイは言われた通り渡された羊皮紙に自身の名前を記入する。

 

(あ 面倒くさそう)

 

「ありがうございます。ところであちらの箱は?」

 

と伊丹が持っている縦40cm横60cmの長方形の箱に注目する。

 

「陛下への献上品」

 

「かしこまりました。お飲み物をご用意いたしますのでしばしお待ちを・・・・」

 

と伊丹らだけとなって3人は気を抜く。

 

「ねぇ ヨウジィ〜」

 

「ん?」

 

「クルマ重かったぁ?」

 

「当たり前だろロゥリィも山の街道でーー あ!それでさっきおもしろがってーー」

 

(にがい・・・)

 

「お返しよぉ〜」

 

そして伊丹は箱の蓋を開ける中からは九八式軍衣袴やMP40短機関銃や九五式軍刀などの装備一式が入っていた。

 

「こちら伊丹。皇太子府に入ったそっちはどうだ?」

 

と別動隊の剣崎少尉に無線で連絡を取る。一方の剣崎少尉らはモルト皇帝が眠る館に接近しつつあった。

 

「こちら剣崎。目標まで・・・あとーー三分ってところだ」

 

剣崎らは、見張りの目をかいくぐりながら接近して行く。

 

『位置に着いた。いつでもいいぞ』

 

「ア 五分後に陽動を始める」

 

ド カッ

 

五分後伊丹達のいる控えの間の扉が勢いよく開かれた。

 

「聖下・・・・?」

 

「な なにか・・・?」

 

番兵らが戸惑うのを余所にロゥリィは笑いながら意気揚々と、

 

「久しぶりに来たんだしぃちょっとぉ遊ばなぁい?」

 

その頃モルトの寝室では、ベッドに眠るモルトの側に位の高い老魔導師が見張っており、ハミルトンが床に落ちている羊皮紙を拾っていた。

 

「ーーむ」

 

「どうなされた老師サマルマン」

 

「術の気配・・・これは精霊魔法か」

 

(殿下ーーー・・・・)

 

すると、

 

「報告!報告ー!」

 

「何事か!」

 

「皇太子府にて、ロゥリィ・マーキュリー聖下が・・・ご乱しーーー・・・」

フラ フラ

 

と近衛騎兵がフラつきながら皇帝の寝室の前までやって来て倒れた。

 

「お おい!?どうしーー」

 

「う・・・う」

 

「うう・・・」

 

と次々と近衛騎兵は眠って行く。これは、テュカとヤオの精霊魔法によるものだった。

 

「寝所の中は結界があるみたい 魔法使いがいるかも」

 

と別動隊は二人の精霊魔法に感心しながら先を急ぐ。

 

「こ・・・これはーー」

 

「え!?なんでみんな寝てるの?」

 

「精霊使いが皇城に!?下がっておれっ」

 

「は はいっ」

 

「何者か知らぬが陛下のご寝所には一歩も入らせぬぞ!」

 

寝室から出て来た老師は警備兵が眠らされて精霊使いがいる事を直感し魔法を発動しようとしていたがその瞬間何かが飛んで来た。

 

ポーーーン カラカラ

 

「なんじゃ?」

 

するとパァンと強い光が放たれた。これは日本軍の閃光弾だった。それと同時に日本兵達はMP40で威嚇射撃をしながら突撃して来た。

 

「目くらましなぞ 小賢しいわぁっ」

 

ド バン

 

「あいたっ」

 

老師は足に銃弾を浴びて崩れ落ちる。

 

「ひいっ」

 

「ごめんなさいごめんなさい 私はただの秘書で・・・・」

 

「あれ?あなたピニャ殿下のーー」

 

「え?あ・・・テュカ・・・さん?」

 

一方、皇城の広間を覗くことのできる中庭の木の上では観測員と狙撃兵が中の様子を伺っていた。

 

「観測員より別動隊へ目標が広間に連れてこられた」

 

『了解』

 

『こっちも大広間に向かっている』

 

そしてその広間では、ピニャへの尋問が行われていた。

 

「ピニャ殿下。殿下は騎士団の行動を皇帝陛下の命だとおっしゃるがーー 帝都に敵を引き入れることも陛下のご命令であったと?」

 

「なに?妾の騎士団が?ーー言うに事欠いて裏切り者呼ばわりか 妾達も堕ちたものだ」

 

ピニャは蹲り体育座り状態なる。

 

「殿下 ご容赦ください」

 

近衛騎兵はゾルザルの命でピニャの髪を無理やり引っ張り顔を上げさせる。

 

グイ

 

「ではなぜ騎士団は、敵とともに帝都を去ったのでしょう?」

 

「わからぬか?こうなることがわかっていたからだ」

 

「公式の場で代表が抗弁なさればよかったのです。やましいことがあったからこそ逃げたのでしょう」

 

「その理に従えば妾も潔白だな?」

 

「残ったのはそう思わせる策でしょう!」

 

すると議員の一人がそう言うとピニャは突然高笑いをし始めた。

 

「逃げる者は裏切り者 逃げぬ者は策を抱いた裏切り者ということか」あはははは

 

「ここが公式な場だと?宴の席の間違いではないか?妾はその余興に引き出されたのであろう? フン・・・そなたたちに付き合うのも飽きた・・・言ったではないか"好きにしろ"とお忘れか?もう・・・つかれた・・・」

 

「なんという不遜な態度か。我らは殿下の疑惑を晴らすために問うておるのです。真剣にお答えくだされ」

 

「・・・いやだ」

 

とウッディ伯から言われたがピニャが突き出した返事はNO.だったため周りにいた議員から罵声を浴びせられた。

 

「それが答えだと!?疑惑が深まるだけだぞ!」

 

「なんという浅ましさ所詮小娘」

 

「やはり殿下は帝国を裏切っておられたのだ!」

 

「普段は勇ましいことを言っとるくせにいざとなればこれだ」

 

ピニャは議員から帝国の裏切り者の烙印を押されてしまい兄であるゾルザルは眉を顰めゾルザルの後ろでは、テューレが薄ら笑いを浮かべていた。

 

(いい気味だね誰にも庇ってもらえずののしられる気分はどう?皇女さん 私と同じ境遇に堕ちた気分は?誰も彼も不幸になれ苦しみ疑い罵倒し何もかも滅茶苦茶になってしまえ)

 

そして罵声を浴びせられ続けたピニャは耳を塞ぎ大声で叫んだ。

 

「聞きたくないっ言いたくないっ答えたくないっ もう嫌だ!!」

 

ガバッ ブチ ブチ

 

「で 殿下お顔をお上げください。お髪がーー」

 

「もう嫌だ嫌だ!どうせこの帝国もお終いだ!」

 

顔を床に伏せた帝国の崩壊を口にして益々議員からの反発を招いた。

 

「なんという暴言!」

 

「勝手に終わりにするな!」

 

「殿下は敗北主義者でいらっしゃるようだ」

 

「せっかく妾が必死でこの戦を終わらせようとしてきたのに ことごとく潰してきたのは、誰だ?お前達だ!この始末どうつけるのだ!?妾が敗北主義者なら皆は現実を見ない愚か者だ!そこにいるジャイアントオーガーに随分と立派な鎧を着せたようだがそんなものでニホン軍に勝てると思ったのか?彼の軍は炎龍の鱗を貫く鉄の逸物やそれを上回る武器も持っているのだぞ」

 

その一言で今まで沈黙していたたゾルザルがピニャの言葉に引っかかり食って掛かる。

 

「戯言を申すなピニャ!戦ってみなければわからぬではないか!」

 

「そのときにはすべて終わっていますぞ兄様。完全武装させたジャイアントオーガーをどうやって操る?帝国への忠誠などあるはずがない手なずけたと見えていつ牙を剥いてくるかわからぬ野獣をまさか戦列に加えるおつもりか?少しでも戦史を知る者なら重武装怪異がすたれていった理由を知っているはずだ。誰が考えたか知らぬが 相当なバカだな」

 

ビ キ

 

「だっ 黙れぇ!!ええいそこの衛兵!もうよいピニャを黙らせろ!!」

 

ゾルザルは自身が考えた案を侮辱された事に腹を立ててピニャの始末を衛兵に命じる。衛兵はゾルザルの命令とは言え皇族に手を掛ける事に恐れていたが恐る恐るだが手を出そうとする。すると、

 

ド バン

 

ガシャアア

 

突然広間の扉が開き警備していた衛兵二人が勢いよく外から飛んで来た。

 

「なっ・・・何事だ!?」

 



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狂気の幕開け

どうも皆さん人斬り抜刀斎で〜す。
お待たせしました。それでは、本編をどうぞ。


広間いる議員らが騒然とする中扉の向こうから現れたのが近衛兵に囲まれながらも近衛兵を蹴散らすロゥリィ、伊丹、レレイがそのに居た。

 

「ハァ〜イ ゾル坊っちゃぁ〜ん」

 

「ロゥリィ・マーキュリー・・・」

 

ロゥリィが現れ議員らが騒めく。

 

「ロゥリィ・マーキュリー!?」

 

「ご来訪なされていたか」

 

そしてロゥリィは広間は伊丹に任せて自分は外の近衛兵を相手にする。

 

「じゃ外はぁませてぇ」

 

「おう」

 

すると、議員らは伊丹の着ている軍服を見て更に騒めく。

 

「茶色の服・・・」

 

「あの男まさかー」

 

うわあああああっ

 

突然耳をつんざく様な叫び声がして議員らが振り返って声を主を見てみるとそれはゾルザルだった。

 

「お お前はー」

 

ゾルザルは、伊丹を見てビクついていた。当の伊丹は、陸軍式の敬礼をしてゾルザルに挨拶をした。

 

「お久しぶりです。ゾルザル殿下 またお会いできて光栄です」

 

すると、ピニャは待ってましたと言わんばかりに笑顔になった。

 

「イタミ殿!」

 

ゾルザルの後ろに隠れていたテューレは半分顔を出して見る。

 

(なんだい あの女 やっぱり敵と通じてたんじゃないか)

 

「・・・くっ くるなああっ 来るな来るなあっ 近寄るな!テューレ!助けてくれ!テューレ!」

 

ゾルザルが助けを求める中当のテューレは、陰でほくそ笑んでいた。

 

(あの男はゾルザルにとって悪夢そのものーーいくら外面が治ったとしても心の傷は消えない"最高だわ")

 

そして伊丹は、ゆっくりとゾルザルの元に歩み寄る。

 

「こ 近衛何をしている!そいつを止めろっオーガーを放て!その男を殺せ殺すんだ!!」

 

「男を包囲しろ!」

 

近衛は、伊丹を囲むとすぐに出入り口を閉めオーガーをハンマーや縄で引っ張って動かす。

 

ズンン

 

だが、オーガーは命令に従わず棍棒を振って暴れ出した。

 

『ウゴォ』

ド オ ッ

 

「わっ」

 

ゥオオオオー

 

「おおっ 装甲騎兵!?むせる!」

 

そして伊丹は、手にしていたMP40短機関銃を放つが厚さ約20mm の装甲に弾かれる。

 

ダラララララ パ カ カ カ ン

 

「やっぱ思ったほど上手くいかないか装甲はチハ並か。パンツァーファウストかパンツァーシュレックが欲しいぜ」

 

「イタミ殿逃げろ!」

 

ズシィン ズシィン

 

「ハハハ どうだ怖かろう!貴様らの飛び道具など効かぬぞ!怯えたまま叩きつぶされてしまえ!!」

 

「ロゥリィにも来てもらうんだったな」

 

すると、レレイが床に置いた漏斗に魔法をかけると漏斗は飛び上がりまるで噴進砲の様にオーガー目掛けて飛んで行った。

 

「ん!?」

 

「いけ!」

 

ヒュ ブウン クアン

 

『ガアッ』

 

オーガーは棍棒で飛び回る漏斗をはたき落とそうとする。

 

「わあっ」

 

「怪異使いオーガーを押さえろ!」

 

「鎖に繋げぇ!」

 

そんな時レレイが指パッチンをすると飛び回っていた漏斗は一斉にオーガーの装甲に張り付きそして2回目の指パッチンをした瞬間。

 

ド ドッ オ オ オ オッ

 

と漏斗は爆発したオーガー二匹を吹き飛ばしたそれはさながら吸着対戦車地雷の様だった。

 

「おわっ」

 

ゾルザルの頼みの綱だったジャイアントオーガーは二匹とも倒れた。そして伊丹とレレイはゾルザルの元に歩み寄る。

 

「き・・・き貴様っ 何の用だ!?」

 

「いえね 皇帝陛下に呼ばれたって娘がいましてね。あなたにも会いたいって言うもんで連れてきました」

 

「なに・・・?」

 

「私はレレイ。レレイ・ラ・レレーナ」

 

とレレイが名を名乗ると議員らが騒めく。

 

「炎龍を倒したというあの・・・!?」

 

「カトー老師の一番弟子か」

 

「ならばオーガーを一撃で倒したのもうなずける」

 

そしてレレイは、当の目的をゾルザルに伝える。

 

「ゾルザル殿下。あなたが雇った殺し屋に私を狙わせるのをやめさせてほしい」

 

それを聞いてピニャは、

 

「フッ 兄上らしいやり方だ。他人の栄光に嫉妬したか?」

 

「バ バカを言うな。俺は殺し屋なぞ雇ったりせんぞ!」

 

「どうだか?現に当人が抗議に来てるぞ」

 

「戯言をぬかすなこんな小娘の言葉などーー」

 

「炎龍退治の英雄の言葉 妾は信じたぞ。皆はどうかな?」

 

ピニャの問いに議員ら戸惑う。

 

「まさか・・・」

 

「いや しかし・・・」

 

そんな時伊丹は、テューレに声を掛ける。

 

「よっ 久しぶり」

 

「あっ・・・(まさか私もノリコと同じようにーー)」

 

「これ借りるねー」

 

と伊丹は、側の机に置いてあったグラスを取り中にワインを入れゾルザルに渡す。

 

「どうぞ」

 

「なんだ?」

 

「ちょっと腕伸ばしてくれます?」

 

「?」

 

ゾルザルは、言われるがままグラスを持って腕を伸ばす。そして伊丹は、無線で連絡を取る。

 

「じゃ 待機班頼むわ」

 

すると、

 

パ カン

 

ゾルザルの持っていたグラスが狙撃で撃ち抜かれた。それは、中庭の木の上に待機していた日本軍の狙撃兵だった。

 

「命中」

 

うおあっ

 

グラスが撃ち抜かれ周りは騒然となる。そしてレレイが、

 

「あなたがどこにいても 私達の手は届く。見えない目はいつもあなたを狙っている。殺し屋を引き揚げさせてほしい さもないとあなたの頭も"こうなる"」

 

と撃ち抜かれたグラスに例えながらゾルザルを脅す。

 




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前進準備

遅れて申し訳ございませんでした。ネタ切れでしばらく休載していました。久しぶりの投稿です。それでは本編どうぞ!


「殺し屋を引き上げさせてほしい。さもないとあなたの頭も"こうなる"」

とレレイはゾルザルに殺し屋に殺しの依頼を取り消さないと自分も狙撃兵に撃ち抜かれたグラスみたいになると告げる。

 

「ひいっ」

 

ゾルザルは妄想で自身の脳天を撃ち抜かれるのを想像し震え怯えた。頃合いを見た伊丹はその辺で辞めさせる。

 

「レレイ」

 

そして伊丹はゆっくりとピニャの元に行く。が城の衛兵が阻止しようとす。

 

「え 衛兵・・・」

 

「手を出すな。行かせてしまえ!」

 

がゾルザルが待ったを掛ける。

 

「イタミ殿・・・」

 

「ピニャ殿下 さあ立って」

 

伊丹はピニャに手を差し出しピニャは伊丹の手を取る。伊丹はピニャを連れ扉に行き大広間を出ようとする。廊下ではロゥリィが一人城の衛兵を相手に無双していた。

 

「ロゥリィずらかるぞ!」

 

「ええ〜もう?いいとろだったのにぃ」

 

ロゥリィは名残惜しいそうに言うが周りは血や臓物や兵士の死体で溢れていた。

 

「ひっ」

 

「来るぞっ」

 

「うわっ」

 

生き残っている衛兵は身構えるがロゥリィは今の城の衛兵の現状に呆れていた。

 

「それでもあなたたちぃ皇城の衛兵?昔と較べて情けなくなっちゃったわねぇ」

 

それだけ言うとロゥリィは高くジャンプして壁伝いを蹴りながら逃げて行く。

 

「あがっ」

 

「あっちだ!」

 

「追え!追え!」

 

衛兵は壁を蹴って逃げるロゥリィを追う。その一方伊丹は追手が直ぐに来ないように広間の入り口の扉の取っ手の部分の間に死んだ衛兵の剣を挟んで開かなくした。

 

ガシャン

 

「おい!何をしている」

 

「よし今だ」

 

向かって来た衛兵を見て伊丹がレレイに合図する。するとレレイは漏斗に爆轟魔法をかけ衛兵に飛ばし漏斗が爆発を起こす。

 

ヒュ ワン キュ ド ン

 

「わあっ」

 

その爆発に乗じて伊丹達は逃げて行く。

 

「追えーっ」

 

「ぐあっ」

 

伊丹達が外に出ると玄関前には伊丹が引っ張って来た荷車に偽装した軍用車両があり乗り込んで行く。

 

「レレイ運転しろ!殿下は後ろにっ」

 

--------------------

皇城の中では城の中を逃げ回っていたロゥリィが未だに衛兵と対峙していた。すると、

 

オ オ オ ド カッ

 

なんと偽装した荷車が皇城の中に突っ込んできたのだ。衛兵ら避けロゥリィは呆気に取られていた。そして荷車から身を乗り出した伊丹は素早くロゥリィを抱える。

 

「きゃんっ」

 

突然の事に身構える衛兵らに伊丹はMP40短機関銃で威嚇射撃をする。

 

 

ダララララララ

 

「はい!下がって下がって当たると死ぬほど痛いよ!」

 

ロゥリィが乗ったことを確認するとレレイはギアを入れアクセルをめっいっぱい踏み込み軍用車を走らせる。

 

「レレイ合流地点へ」

 

「イ イタミ殿どこへ行くのだ?」

 

「もう何人か拾ってイタリカに向かいます」

 

--------------------

一方 別働隊は眠り続けるモルト皇帝の他マルクス伯とハミルトンを連れ密かに脱失を図っていた。

「来た・・・!」

 

「よし 搬送用意」

 

伊丹達は別働隊を拾い上げる。

 

「父上!?」

 

「理由は後で!詰めてください」

 

「いいぞ全員乗った!」

 

全員乗ったことを確認すると直ぐ様出発し最初の城門に差し掛かる。

 

「なんだあれ」

 

「おい!停まれ!」

 

「お・・・」

 

ブ オン

 

伊丹らは番兵の警告を無視して突き進む。城門を出て一気に街の大通りを駆け走る。

 

「前!前!ぶつかるぅっ」

 

(うるさい)

 

すると剣崎少尉と大場大尉の目が鋭くなった。

 

「あれっ!?」

 

「お客さんのお出ましだ」

 

伊丹が後ろを向くと掃除夫の騎馬隊が追ってきた。

 

「あれが掃除夫か?不気味な連中だな」

 

剣崎がMP40を構えるが大場が止まる。

 

「やりますか?」

 

「いや待て。通行人が多すぎる流れ弾に当たる可能性がある」

 

するとレレイがチラチラ伊丹を見ながら

 

「いや待て、通行人が多すぎる。流れ弾に当たる可能性がある」

 

「(レレイなんか変なスイッチ入っちゃったよ。うしろがやばい)あ 安全運転で頼むぞ」

 

「了解」

 

「まったく 父上まで連れてきてしまうとは イタミ殿は妾を助けにきたのではなかったのか。妾はついでだったのだな そうに決まっておる」

 

「で 殿下もご了承されていたのかと・・・」

 

「いや 元々はピニャ殿下の救出することが任務の第一目標だったんですよ。皇帝陛下がむしろついでで、予定には無かったんですけど・・・」

 

「陛下がついでとは・・・嘆かわしい・・・」

 

『皇帝陛下と皇女殿下 それと講和派元老院議員これだけ揃えば "帝国正統政府"を名乗れる。これに刃向かう者は皇帝陛下及び帝政に背いた賊軍』

 

これで帝国正統政府と言う名の錦の御旗が揃ったのである。もしこれでゾルザル達が弓引く者ならゾルザルとゾルザル一派は帝国の敵"帝敵"の烙印を押され皇帝に背く賊軍になる。

 

「なるほど 逆賊の汚名をゾルザルに着せようというのだな・・・」

 

とそれは今まで眠りについていた皇帝モルトだった。

 

「へ 陛下!いつの間に・・・」

 

「こう揺さぶられては目も覚めてしまうわ」

 

「父上」

 

「怪しいわねぇ 本当にぃ病気かしらぁ?」

 

「父上!ゾルザル兄を止めてくだされ 父上のお言葉ならーー」

 

「今のゾルザルに余の言葉は届くまい。こうなってはもはや帝国の内乱は避けられぬ。ここはニホンの企てに応じるがよかろう。ピニャよ お前を皇太女に据えるとしよう。帝国正統政府を率い我らの行く末を定めてみよ」

 

"・・・妾が帝国を!?"

 

「いや・・・しかし・・・」

 

「急げ!追いつかれるぞ!」

 

ガッ

 

「キャ・・・」

 

ピニャは追いついてきた掃除夫に腕を掴まれ引っ張られたが直ぐ様伊丹がMP40で掃除夫を射殺する。

 

ダラララ

 

「それも帝都を逃げ出せたらの話だが その方イタミと申したな 炎龍を屠ったという茶色の人の手並み見せてみよ」

 

「はい!お任せあれ!(ん?なに従ってんだ オレ 俺は天皇陛下に仕える兵士なのに?)」

 

その後伊丹達が帝都を出て人気が無くなると軍用車に乗っている日本兵らは一斉にMP40短機関銃を掃除夫に向け構える。

 

「全員一斉射撃!蜂の巣にしてやれ!」

 

大場の号令と共に日本兵は文字通り銃弾を撒き散らす。

 

ドババババン ドババババン

 

そして騎馬隊の群れの中にロゥリィはハルバートを構えて斬り込む。

 

「ハアア!」

 

そしてテュカはお得意の弓矢で騎馬隊を仕留めて行き ヤオはパンツァーシュレックを構える。

 

「後ろ 頭下げろ!」

 

ドッ ヒュボッ バコン

 

「ヤオ!危ないじゃないのぉっ」

 

-------------------------

その頃伊丹達の合流地点では、数名の日本兵が待機していた。

 

「奴らしつこいなあれだけやられてもまだ追ってくる」

 

「そりゃ 皇帝と皇女が連れ去られてるし お 伊丹さん前方三叉路 右折よろしく」

 

「何かあんの?」

 

「へへへ 指向性散弾が仕掛けてあるですよ」

 

道沿いの茂みに隠してあるクレイモア地雷を指差す。伊丹達が合流地点に差し掛かると

 

「ロゥリィ!戻れ!!」

 

と大声叫び ロゥリィは掃除夫から馬を奪って伊丹達の方に向かう。

 

「死神ロゥリィが離れたぞ!」

 

「ひるむなっ」

 

「オプリーチニナの名にかけて皇帝陛下をお救いするんだ!!」

 

そして伊丹達がクレイモア地雷を過ぎ掃除夫らが差し掛かると日本兵が点火スイッチを押す。

 

「よ〜い 点火!」

 

ドッパァァァァ

 

そして掃除夫の左右から多数の鉛玉が飛んで行き掃除夫を蜂の巣にする。

 

「どうだ?」

 

煙が晴れた時掃除夫の騎馬隊は全滅していた。

 

「よし 片付いたぞ」

 

「これでひとまず安心ですね」

 

「これでいいですか。皇帝陛下」

 

「お見事 褒めてとらすぞ」

 

モルトからの褒め言葉に伊丹は苦笑いを浮かべていた。その後伊丹は無線で帝都悪所事務所に連絡を入れる。

 

『こちら伊丹、悪所事務所へ龍の親子は巣を飛び立った。繰り返す・・・』

 

 

 



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帝国の逆襲

帝都内部の大通りでは大行列が成されていたそれは、まるで江戸時代の日本の参勤交代の様な光景だった。帝都の住民は疑いの目でその行列を見ていた。

 

「『遷都』・・・か」

 

「まるで夜逃げだ」

 

「帝都はどうなるんだ?」

 

「皇帝陛下がいなくなったって本当なの?」

 

「ゾルザル殿下が炎龍退治の英雄を暗殺しようとしたって噂聞いたか?」

 

「十五の女の子に嫉妬・・・ねえ」

 

住民は不安とゾルザルの嫉妬による暗殺などを口々に話していた。そんな行列の中一際目立つ装甲車の様な馬車があったそれこそゾルザルの乗る馬車だった。馬車の中ではゾルザルは不安と恐怖に駆られていた。

 

「ゾルザル殿下何処へ行かれるのですか?」

 

「ここではないどこかだ」

 

「次の拠点を決めませんと・・・」

 

「取り敢えず街道を北東だ」

 

「しかし帝都を離れましては今後の統治にーー」

 

「うるさい!」

 

と助言してくる部下を一喝する。

 

「敵がこうもたやすく幾度も襲ってくる所に居られるか!敵の手が届かぬ・・・アルヌスから一リーグでも遠く離れるのだ!あの小娘は言った『見えざる眼』が狙っていると・・・この帝都の街そのものが俺の頭を射抜こうと狙っている・・・っ」

 

ゾルザルは周りからの視線に自ずと疑心暗鬼に駆られた。

 

『もっと幕を高く掲げろ!』

 

ゾルザルは恐怖心から馬車の周りに張っている幕を高く上げさせる。そしてゾルザルが帝都から逃げる様に出て行く様子は建物の陰から見張っていた日本軍の先発隊が見ていた。

 

「目標は何処だと思う?」

 

「帝都の北側にある大きな街と言えばテルタ ガルムドゥ レプタティ アイラテのいずれのどちらかだろう・・・海軍さんと古田兵長が知らせてくれるだろう」

 

その頃古田兵長は、荷車の荷台で寛ぎながらそのちょっと後ろを馬に乗っているテューレに話を掛けていた。

 

「テューレさん この後どうなっちゃうでしょうか?」

 

と話すも返事をしなかった。

 

「・・・テューレさん?」

 

と再び呼ばれてやっとテューレは我に帰った。

 

「あ なあに?フルタ」

 

「どうしたんですか?珍しくボーっとして 何か悩み事でも?ま ここにいるみんなにあるでしょうけど・・・『どうしよう どうしようと言うばかりで相談しない人には何もしてあげられない』って昔の人が言ったとか だから相談してみたら案外簡単に解決するかも」

 

「・・・相談 していいの?」

 

「聞くだけになりそうですけど自分で良ければ」

 

そう聞くとテューレは俯きになりながら涙を流しながら言った。

 

『・・・ねえ どうして誰も・・・手を差し伸べてくれないの?どうして誰も助けてくれないの?』

 

そう語るテューレに古田はその言葉の意味が掴めなかった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

それから十日後 フォルマル伯爵領イタリカ

この日この地において皇帝モルトと皇女ピニャと講和派議員による帝国正統政府の開府が宣言された。

 

『帝国、帝国正統政府宣言。ゾルザル独裁政府が祖国を裏切り軍国主義者と共謀して無謀な戦争を継続し全国民はひどい状況下にある。賊軍を排除してゾルザル政府の反動的支配を打倒しなければならない。この戦争を終結させ国内の臣民を解放しなければならない。帝国、帝国正統政府は、本日ファルマル伯爵領イタリカにて就任する』

 

直ちに急使が諸国や諸侯へと走り帝都奪還の為の派兵を要請 しかし 当初各国が派兵を渋った為兵力不足に窮した正統政府は亜人部隊へも兵の供出を求めた。爵位や議席など地位向上を約束してーー大日本帝国政府は銀座事件の捕虜を五千を返還 元捕虜を中核に編成された正統第一軍団は帝都へ向け進軍を開始した。

 

『お前達は妾に兄様と殺し合えと言うのか!!』

 

そんな泥沼化する戦闘にある日ピニャが馬に乗って飛び出して行った。無理もなかった自分の肉親を殺し合えと言われて" はい そうですか"と言えるはずもない。

 

「殿下ぁ!」

 

「何故皆 分かってくれぬ。妾はもう政治にも戦にも関わりたくないのだ」

 

そしてピニャがイタリカを飛び出した事は寝室で執務を行なっている皇帝モルトの耳にも入った。

 

「ピニャがイタリカを出たと?」

 

「恐らく行き先は・・・」

 

「あやつ そこまで思い詰めておったのか・・・今はよい いずれ自らの立場をわきまえることになるであろう」

 

「エルベ藩王国デュラン国王への新書 これで如何でありましょうか」

 

「ふむ」

 

「ニホン軍が兵を出してくれぬとは」

 

「そうもゆくまい講和はまだ結ばれておらぬ それにニホン軍は今 ゾルザルの放った怪異どもと戦っておるというではないか」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

帝国正統政府開府の数日前

アルヌス地方 コアンの森

森の街道を一台の商人の馬車がアルヌスの街に向かって歩いていた。

 

「旦那〜もっと南の道を行きましょうよ。この辺にも怪異の群れが出るって言うし ニホン軍も怪しい商隊引っくくるって話も・・・」

 

「心配するな通行証を持っとる。ホレ 怪異なんぞニホン軍が追っ払うわい」

 

そう話していると目の前に茶色い服と兜に身を包んだ日本兵らしき数人の兵士が道の真ん中に立っていたがその兵士達は何処から不自然だった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

デュマ山脈南麓ルアビゼル

スタンレービル近郊

此処では日本軍が押し寄せて来た難民を九六式六輪自動貨車に乗せていた。

 

『難民がデュマ山脈を越えて押し寄せています』

 

「徒歩の方はこっちに集まって下さい!」

 

『スタンレービル周辺の住民も避難を開始 移送先はアルヌス北演習場でいいですね』

 

そうした中六輪貨車の荷台で不審な動きをする者がいた。

 

「おい 何しとるんだ?あんた」

 

一緒に乗っていた男が話をかけるすると

 

ズードッン

 

と六輪貨車の荷台が爆発を起こしそれと同時に

 

「ゾルザル殿下万歳!」

 

と叫びながら男が短剣を握りしめて突入して来た。荷台に乗っていた住民は全員が死亡した。それはまるで日本軍の決死の突撃の様だった。又ある場所では、

 

「此方では水を配っていますので どうぞーー

 

ドスッ

 

あつっ」

 

一人の男が短剣で日本兵を刺したと同時に住民に紛れていた便衣兵が数人襲いかかって来た。

 

「この野郎!」

 

「衛生兵!衛生兵!」

 

「敵襲ーっ 便衣兵が紛れ込んでる!!」

 

日本兵が小銃を構えると便衣兵は住民を盾にして突っ込んで来た。

 

「奴ら難民を盾に!」

 

「くそ マジかよっ」

 

日本兵らは難民を盾にされて撃つのを躊躇う。

 

「鶴見中尉殿!如何なさいます!?」

 

「付け剣!!」

 

部下の月島軍曹が尋ねると鶴見中尉は着剣する様に命令する。そして日本兵は三八式歩兵銃に三十年式銃剣を装着する。

 

「一匹残らず駆除だ!この乱戦だ、ちょっとくらい巻き込むのは致し方ないが成るべく難民は狙わない様にするのだぞ」

 

「くたばれニホン人!」

 

ド ン

 

「三時方向の森より怪異集団!距離三百!」

 

「航空支援を要請しろ!」

 

日本軍は近づいて来る怪異に対し車載機関銃で応戦する。

 

『ゾルザル軍のゲリラ活動はルアビゼル全域に拡大中 住民 難民に紛れ込んでいる注意されたし』

 

又ある場所では、上空を日本陸軍の二式複座戦闘機「屠龍」が飛行していた。

 

「九時の方向で怪異の群れに襲撃されているのは難民でしょうか?」

 

「いや ありゃアルヌスPXの隊商だ!」

 

地上ではアルヌスPXに群がってくる怪異を護衛部隊が迎え撃っていた。

 

「戦う相手を間違えたなあゴブリンども!お前らとは格が違うんだよ!」

 

怪異達は次々と護衛部隊に討ち取られて戦意を喪失し逃走を図る。

 

「ざまあみろ」

 

「おい あれ見ろ!」

 

上空を見ると二式複座戦闘機「屠龍」が地上に群がっている怪異を機関銃で一掃して行く。

 

ドコココココ ドコココココ

 

「すげえ ちっこい炎龍みたいだ」

 

地上の護衛部隊と屠龍により怪異達は全滅させられた。

 

「ウォルフ さっさとアルヌスに帰ろうぜ」

 

「ああ ゴブリン以外のニオイもプンプンしやがる。そういや イタミの旦那たち帰ってきたかなぁ」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

アルヌス大日本帝国軍駐屯地

この時帰還した伊丹と大場は檜垣少佐に報告書を提出していた。

 

「檜垣少佐 ロンデルーベルナーゴ方面の資源探査報告書です」

 

「ん ご苦労 どうかね 少しは休めたか?」

 

「いえ あんまり」

 

「はぁはぁ 帝都から帰って数日は ここ三日ばかり報告書書いててろくに寝てませんが」

 

「アルヌスの街でレレイ君達とくつろいでるのを見かけたがね」

 

ドッキ

 

「まぁいい 君らには次の任務だ」

 

と檜垣少佐は二人にある資料を手渡す。

 

「クナップヌイの調査ですか?」

 

「忘れたのか?君らがベルナーゴからクナップヌイの異常を報告したんだろう」

 

「はい ハーディの言ったこと信じたんですか?」

 

「自分は あの女が信じるに値するとはとても」

 

「信じるも何も何度偵察機が行っても天候不良で地上が見えんのだ。直接人員を送り込むしかない。と言うわけで帝大他から来る調査員の護衛兼協力を一偵と三偵の一部と実施せよ。現地協力者の同行も許可する」

 

「「はい わかりました」」

 

と二人は檜垣少佐に敬礼する。

 

「イタリカから帝国正統政府の視察員も同行する。失礼のないようにな」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

アルヌスの街のとある酒場では、薔薇騎士団のパナシュと皇子ディアボが接触しパナシュは、ソ連版の小型無線機SCR-536を手渡していた。

 

「その箱でサレンと連絡が取れるのだな」

 

「はい、あのソレンです。ディアボ殿下」

 

「ディアボはこっちだ。私は従者のメトメスだ。忘れるな」

 

「はぁ」

 

とパナシュに今は自分が従者と身分を隠すように言い口を三日月の様にして笑った。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

同じ頃アルヌスに戻っていた。ロゥリィ達は酒場で浴びる様に酒を飲んでいた。

 

「やっぱりぃ ビール美味しいわぁ」

 

「久々に帰って来たもんね」

 

そうしている時ロゥリィ達の元に伊丹と大場がやって来た。

 

「二人共ぉ こっちよぉ」

 

「よ 揃ってるな」

 

「お前ら早速飲んでいるな」

 

二人が席に着いたところでいよいよ本題に入った。

 

「「「「クナップヌイ?」」」」

 

「未知の領域の調査だ」

 

「そ 調査 現地協力者も行っていいことになったからー」

 

と話していると四人がいつの間にか席を立っていた。

 

「あれ?」

 

「速っ」

 

「まだ数日先なんだけどな」

 

「気の早いことで」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

アルヌス総司令部では、総司令官今村大将が作戦内容を告げる。

 

「本日0500 敵遊撃部隊対象に関する掃討作戦『ツィタデレ』を発動する。掃討作戦はビアザビル及びラタティル方面において、活動中のゾルザル軍遊撃部隊並びに判明する敵拠点並びに補給拠点。第四戦闘航空団は空中機動 第二 第六戦闘航空団は地上をもってこれにあたるコアンーコダの線から前進せよ」

 

第四戦闘航空団の隊長健軍大佐も部下に作戦内容と訓示を告げる。

 

「任務は掃討だ。文字通り敵を掃いて討つ!少しでも残せば敵の活動は続いてしまう。敵便衣兵は難民 農民の姿で潜んでいる。敵と一般住民との見極めが絶対条件だ」

 

「住民と協力し敵をあぶり出せ!既に支那事変で経験しているから分かっているとは思うがあのような轍は踏まない様にな」

 

その頃敵がいると思われる拠点の上空を飛ぶのはユンカースJu87急降下爆撃機通称"スツーカ"だ

 

「こちら3番機 敵集結地を捕捉」

 

「1番機 目標確認 方位◯-二-◯より進入」

 

そしてスツーカは敵に向かって急降下を開始する。

 

「投下!」

 

4機のスツーカは空から敵をピンポイントで爆撃をして行き爆撃を食らった怪異達は肉片となって彼方此方に血や臓物が飛び散る。

 



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第4章総撃編
抵抗者


1946年2月26日午前7時30分

夜明け前の静寂を火砲が劈き100両を越す日本軍の戦車や装甲戦闘車両が帝国軍陣営に進撃を開始した。総司令官今村均大将がアルヌスに迫る帝国軍を食い止めにかかったのだ。今村大将の計画は2万5千から成る南方軍集団が南から進撃し同時に北方軍集団が北部から攻め込むと言うものだった。スタンレービンの街を南北で挟み撃ちにし何万と言う帝国軍兵士を包囲し時を見計らって一斉攻撃を仕掛け全滅させるのだ。

 

「くそ!騎馬じゃないケンタウロスだ」

 

「帝国兵は一人もいないぞ」

 

「怪異をいくら倒しても埒が明きませんよ」

 

「こいつらをけしかけてる敵本隊を撃破しないとな」

 

上空では、「S-51J」と「春嵐改」数機が兵士数十名と共に飛行している。

 

"まるで炎龍がふっかつしたみたいだ"

 

日本軍は村々にいる怪異を片っ端から掃討していく。ヘリの中には日本軍に同行している従軍記者も一緒にいてその風景を映像やカメラに収めていた。

 

「村々が燃えています。動くものは全く何も見えません一面田園風景は燃え盛る戦場と化しています!」

 

この状況をリポートしている記者は開戦を促す記者達とは違い独立したジャーナリストな上軍人嫌いの古村崎哲郎が取材をしている。

 

「同行する記者お前の妹だと思ってたんだけどなぁ」

 

「なんでかなぁ最近俺らってこんな任務ばかり 偵察班がする事じゃないだろ」

 

と同行する記者が栗林の妹でない事に不満を漏らすも栗林本人は任務に対する不満を漏らす。

 

「目標到達まで後三分前!準備はいいか?今度こそ奴等の本隊を見つけ出してぶっ潰すぞ!」

 

「「「「「オッス!」」」」

 

「いい返事だ。よし!弾込めっ降下用意!」

 

『1番機2番機目標進入』

 

『降下開始!』

 

「行くぞ野郎ども!行け行けー!」

 

戦闘航空団の空挺部隊が目標の村に近付くと搭乗していた日本兵らは一斉にヘリから降りていく。

 

『降下完了』

 

「おいっ ちょっと待て!今すぐ着陸しろっ」

 

『下の安全が確認出来たら着陸する』

 

「それじゃあ遅いんだよ。緊迫した画が撮れないだろがっ俺達を降ろせ!」

 

「なら、このまま飛び降りるか?」

 

「・・・・チッ仕方がねえなぁ。これだから兵隊は」

 

そんな時自分も乗り遅れまいと古村崎が自分達も降ろせと諭すが諦める事にした。

 

「富田よぉ。あの従軍記者な記事の所為で事故起こされたら敵わないぜ。頼むぜ」

 

「すまん」

 

古村崎の悪態に頭を悩ませる兵士に富田は謝罪する。そして日本兵達は村に突入するとそこにあったのは夥しい数のこの村の住人であろう人達の亡骸だった。

 

「死体だらけだ」

 

「才谷、お前の熱源探知装置で調べてくれ」

 

「熱源が多過ぎてダメです。死体もまだ熱を持ってて」

 

「死体が温かいのは殺されてからまだ時間が経ってないってことだろう。敵を警戒しろ慎重に前進!生存者の捜索も怠らな」

 

すると、無線機が鳴り始めた。

 

「なんだ!?」

 

『こちら3番機不審な馬車二輌封鎖線突破南に逃走』

 

『指揮官機より歩兵隊そちらに行くぞ臨検しろ』

 

「了解した」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

情報にあった不審な馬車を日本兵達は止めに掛かる。

 

ヒ ヒ イ イ ン

 

「全員!馬車から降りろ!手を頭の後ろに組んめ!」

 

「な、何事ですか?私らは旅の商人で・・・」

 

「なら 何故逃げたんだ?警告したのに止まらなかった」

 

「・・・そりゃ、こんな死体だらけの所で見知らぬ兵隊に会えば誰だって逃げますって なぁ?」

 

「全員通行証をだせ!身分証もだ」

 

「え?」

 

「この辺の商人ならフォルマル家の通行証を持っている筈だ?馬車の荷物も調べさせて貰うぞ」

 

そう言って日本兵らは荷車の積荷を調べる。

 

「その辺の家から取って来た様な品ばかりですねぇ」

 

「どうぞ 許可証です。戦争中でしょ?燃えてしまうより人に売る方がましじゃないてすか」

 

と渡された許可書を見る。

 

「グレゴルー・ベントン?」

 

「グレゴルー・ハー・ベントンです」

 

が身分証に載っている写真の人物と目の前の人物とは明らかに別人だった。更に通行証には僅かに血痕が付いていた。そして日本兵は確信したこの通行証は目の前の男の物ではなく元の持ち主を殺して奪ったのだと。

 

「こいつら全員偽物だ」

 

そう言うと日本兵は一斉に偽物の商人に銃を構える。

 

「あの・・・何か・・・・?」

 

「「「「ウ オ オ」」」」

 

正体を見破られて焦り出した偽物らは一斉に腰に隠し持っていた短剣を抜き日本兵に襲いかかって来た。

 

バ ア ン

 

ダダダダダ

 

日本軍は空かさず三八式歩兵銃とMP40短機関銃で偽物らを射殺する。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「福島死体は撮るな 背景にちょっと映ってればいいだよ」

 

「は、はい、すみません」

 

「そんなの撮ったってなあどうせ載せられないんだから」

 

するとけたたましい銃声が聞こえて来た。

 

「お前らこっちだ」

 

「あっちょっと!」

 

と古村崎は銃声がした方に走って行き同伴者も彼を追って行く。

 

『こちら歩兵第二中隊不審馬車は敵便衣兵に襲撃された為反撃し捕虜一名を捕縛』

 

「了解着陸地点まで連行しろ」

 

そして古村崎が銃声がした場所に着くと其処には日本兵が射殺したと思われる数人の死体が転がっていた。古村崎は驚き唖然とした。

 

「こ、これは、一体何が!?お前ら何してるんだ!?民間人を虐殺したのか!?」

 

「こいつらは帝国の便衣兵だ」

 

「分隊長 通行証の持ち主や村人を襲ったのはこいつらですよ」

 

と兵士の一人が便衣兵の所持品から血の付いた短剣を取り出した。

 

「剣に血痕が付いたままですし、見てくださいこれ帝国軍の紋章です」

 

短剣の柄頭には帝国の紋章である双頭の龍の刻印が刻まれていた。

 

「死体を撮れ顔もしっかりとな!皇軍と同じフレームに収まるんだ!!」

 

「よし、馬車の荷を検める(ニュースで説明全部使われんのか?)」

 

「皇軍と最前線で同行取材の古村崎です。帝国軍の便衣兵の男達が帝国陸軍兵と交戦した場面に遭遇しました。帝国陸軍兵が捕らえた捕虜と共に彼らの荷車を調べています」

 

そして荷車から出て来たのは

 

「これは・・・陸軍の軍衣を真似たものですね。帝国兵はこれを着て帝国陸軍兵を装い村を掠奪していたのでしょう」

 

「分隊長。馬車の下にこんな物が隠されていました!」

 

荷車を徹底的に調べると日本軍の服装を真似て作られた服と兜の他には小銃に見立てて作られたクロスボウや先端に短剣をくくりつけただけの木の棒などが出て来た。

 

「皇軍は荷車から帝国軍の盗品を押収しています。帝国の崩壊までは後一歩 帝国南部には日本兵が溢れています。帝国は最早壊滅状態です。帝国陸海軍は帝国軍の断頭に容赦ない攻撃を浴びせます。異世界人にかつてない戦争の恐怖を味合わせています。しかし、彼等を殺害する必要性はあったのでしょうか?皇軍の方針に・・・・我々はの目が・・・・」

 

「俺らは警察じゃないもんな。捕らえたってどうせイタリカ送りだ」

 

「自分らが襲われる立場になるって考えた事ないでしょ」

 

そんな中日本軍が荷車の中を調べているとロープで二重に縛られた箱が見つかった。

 

「開けろ!さっき動いた様な気がする」

 

「は、はい」

 

「いいかゆっくりだぞ」

 

中を確認すると其処には異種族の女の子が入っていた。

 

「名前は?」

 

「・・・クーシ」

 

「誰か!手拭いを持って来てくれ!」

 

日本軍はその女の子を保護する事にした。そして日本兵は首謀者を睨みつけながら言い放った。

 

「貴様らの根城が何処か洗いざらい吐いて貰うぞ。協定でイタリカのフォルマル家に引き渡す犯罪者としてな」

 

「・・・・っ」

 

「捕虜を連れて行け!」

 

捕虜は連行され顔が真っ青になっていた。そんな時ヘリから無線が入る。

 

『此方春嵐一番機 座標442035に黒妖犬多数 約五十以上だ。第二中隊のいる集落に西から接近中』

 

「食い付いたな敵の化物兵は遠くから操れるもんじゃない。こいつらが放たれた辺りに敵本隊があるはずだ。当該座標一帯に砲撃を要請。中隊は敵の突撃方向を避け左右からこれを叩く」

 

『黒妖犬多数が接近中!?』

 

「了解合流します」

 

「こくようけん?」

 

と『黒妖犬』と言う初めて耳にする単語に古村崎が首を傾げる。

 

「特地2種害獣 通称『黒妖犬』。虎並にみでかい犬の化物だ。そいつが大群で向かって来てる。こいつらはすばしこい上に群れで行動するから余計に危険だ。ヘリを呼んだのでそれに乗って避難を。富田軍曹 栗林軍曹は記者を戸津上等兵と東上等兵は俺と残りの二人につく」

 

「バカ野郎 そんなおいしい場面を逃すわけないだろう。福島 松崎!行くぞ!」

 

「おい待て何処に行くつもりだ!これから此処は戦場になるんだぞ!」

 

「これだから軍人は!どけよ。報道の最大限の便宜を図るのがお前ら軍人の義務だろ?」

 

「栗林軍曹!捕虜と押収品にこの子を頼む」

 

「はい」

 

「特地に入る時軍からの説明で契約書にサインしたのだろう?危険が及ぶ状況では我が軍の指示に従うとあった筈だ」

 

 

ズズム ズム ズム ズズム

 

ズシ ズシ ズシ

 

ドン ドン ドン

 

丘の向こうでは既に交戦が始まった。近付いてくるジャイアントオーガに向かって日本軍迫撃砲隊が応戦する。それを見た古村崎は、

 

「くそっ始まっちまったじゃないか!空からじゃいい映像と写真が撮れねぇと言ってるだろう!」

 

それでも強引に行こうとする古村崎に苛立った日本軍将校は、

 

「止まれ!」

 

バ ン

 

と拳銃を空に向かって撃ち威嚇射撃をする。

 

「我々の任務はあんたら記者の護衛だから付いていなきゃならない。その子も戦闘に巻き込む気か?」

 

そう言われて何も言い返せず黙り込む古村崎を余所に春嵐改が飛んで来た。

 

「あ、来た!」

 

「ならその子供だけヘリに乗せればいいこっちは取材を続けさせて貰う!お前らこっちだ!」

 

「ちょ、古村崎さん?」

 

結局古村崎はヘリには乗らず取材を続行する事にして戦地に近付いて行く。戦場の上空ではS-51JがR4Mと機関銃で黒妖犬に攻撃をし地上部隊も小銃や機関銃で応戦する。

 

「急げ急げ!次の砲撃が始まるぞ!」

 

「栗林軍曹、その子を連れてヘリに乗れ援護しろ」

 

「え?自分が!?」

 

「仁科伍長、受けてくれるか?」

 

ゴク

 

「あのどうなっても自分責任は取りませんよ。全ては自己責任で」

 

「伊丹隊長が言っただろ。俺達は国民に愛される正義の軍隊大日本帝国軍だよって 頼んだぞ」

 

そう言われて栗林は女の子を抱えてヘリに搭乗する。その頃古村崎は同伴者と数人の日本兵を連れて集落の家に身を潜める。

 

「この隙間から撮影だ。しっかり撮れよ」

 

「ヤバイですよ!真正面ですよ。ニオイで此処にいる事がバレますって」

 

「大丈夫だって。此処には死体があるから大丈夫だろ?」

 

と古村崎は死体を盾にする不謹慎な事を言っていると壁から大きな衝撃と音が響く。

 

ドシィン ドスン

 

「ヒイッ」

 

「黒妖犬だ。囲まれたぞ」

 

家の周りを黒妖犬数匹が取り囲んで突入を試みていた。上空ではヘリから機関銃や小銃で援護している。

 

ド ド ド ド ド

 

ダダダダダダダダダダ

 

「突っ立てないでバリケード作れよ兵隊さんよ!松崎も手伝え!でかい家具を下にかますんだ。ジャーナリスト魂を舐めるなよっ」

 

日本兵と古村崎は家の中にあった家具をこれでもかっと入口の前に置きバリケードを作る。すると仁科が鳥人の死体を見詰める。

 

(鳥人とヒトの恋人か この辺じゃ珍しいんじゃ?気の毒に・・・・)

 

しかしその倒れている鳥人の顔ををよく見ると驚愕した。

 

「お おい 富田軍曹・・・」

 

「何んすか?」

 

「これ・・・テュワルじゃないのか!?」

 




『S-51J』(日本名:雷隼)
•全長:12.5m
•全高:3.9m
•重量:2.184kg
•最高速度:145km/h
•航続距離:451km
•巡航高度:3.000m
•武装:エリコン社製20mm機関銃1基、R4Mロケット弾


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帝国の野獣

西暦1946年2月南部戦線大日本帝国軍は帝国軍に大規模な機甲部隊による攻撃を仕掛けた。科学技術力で大きな比肩を劣る帝国軍は日本軍の攻撃を必死で食い止めようとする。日本軍は日本の勢力圏の土地から帝国軍を完全に追い出す為に大規模な攻撃を仕掛けた。帝国南部では南方軍集団が襲い掛かる鉄の鎧を身に纏ったジャイアントオーガに攻撃を仕掛けて居た。

 

「デカブツに当たっているのに止まらねぇ!この距離じゃ7.92mmなんて豆鉄砲だ」

 

ドゥロロロロロー

 

とMG42やM2で応戦するも効かず。

 

「50口径残弾なし!」

 

『こちらも向かって来るぞ。パンツァーシュレックでオーガを狙え』

 

機関銃では効果が無いと判断して日本軍はパンツァーシュレックを構えてオーガに向けて発射する。何発かはオーガに命中するも鉄の鎧とオーガと屈強なボディで足止め程度にしかならず致命的とまではいかなかった。

 

「爆撃を要請する。第四〇三中隊敵進路は確保か?」

 

『三偵と記者が進路上の家の中に。従軍記者が指示を無視して取材に走った』

 

「了解した。帰ったら其奴ら叩き出してやる。三偵と従軍記者の脱出を急がせろ」

 

上空では爆撃機が来るまで春嵐改が機関銃で地上部隊の援護する。

 

「うおっ 回避!」

 

そして時にはオーガ春嵐改に向かって棍棒を投げて来るのを回避して行く。そんな日本軍とオーガの戦闘を家の中から見ていた古村崎は不敵な笑みを浮かべて居た。

 

「どうだ福島。こんな画大東亜戦争でも銀座でも撮った奴はいねぇぞ」

 

「そ そうですねスゴイっス!」

 

そんな彼等を余所に三偵の日本兵達は家の中に倒れているテュワルを見詰める。

 

「なんで悪所にいたテュワルがこんな所に!?東上等兵なんか聞いているか?」

 

「倉田伍長ならなにかーーあ。黒川軍曹が彼氏がどうのって言ってたような」

「じゃあ」

 

「そこに倒れてるのってーー」

 

兵士達はテュワルの隣で腹をナイフで刺されて死んでいるテュワルの恋人ならしき男を見ながら憐れんだ。

 

「おい!テュワル!テュワル!」

 

テュワルの頬をペチペチと叩いて呼び掛けると、

 

『コホッ』

 

微かに生きていた。

 

「息はあります。脈が大分弱いようですが」

 

「よかった」

 

『三偵っ仁科伍長何したんだ!爆撃が始まるぞさっさとそこからずらかれ!』

 

「りょ 了解」

 

爆撃が始まると知らされ仁科達三偵の兵士達は急いでここから離れる為ヘリに拾ってもらうことにした。

 

「こちら三偵、生存者を発見した負傷している。降下して収容してくれ。東上等兵 テュワルを頼む」

 

そうしていると又もや古村崎が難癖を付けてきた。

 

「ちょっと待てよ!今から外に出るってのか!?俺達を危険に晒しといてその鳥女を先に助けるのかよ!優先順位として日本国民の俺達が先じゃねぇの?ったくこれだから軍隊って奴は目的の為なら何だってやるだな」

 

と自分の勝手な行動して招いた事態を日本兵のせいにして自分は被害者面をする日本兵らは腹が立ち睨みつける。

 

「あんたが何処の軍隊の事を言ってるのかさっぱり理解出来ないが 俺達は皇軍だ。目的の為なら国民の命をも顧みないソ連軍や帝国軍と一緒にするな」

 

「だからどうした。俺達には危険を冒して記録した真実を報道する義務がある。どっちが大事かって言ってんだよ」

 

「無論人命だ。俺達帝国軍人は礼節と武士道を重んじている」

 

「・・・っ 何を偉そうに若造が・・・・」

 

ズン ズズ ウウン

 

「仁科伍長 天井に穴開けられます」

 

「わかったやってくれ。収容は負傷者 民間人 俺達の順だ」

 

その後春嵐改が仁科達がいる家の上空に到達すると穴が開けられた屋根に縄梯子を降ろす。

 

「この梁を外せば・・・」

 

「おいおいおい家全体が揺れてないか?」

 

そうしている時黒妖犬が壁をぶち破って頭を入れてきた。

 

バリン ガウッ

 

「わあっ」

 

日本兵はすかさずMP40短機関銃で黒妖犬に向け発砲する。

 

ドタタタタタタ

 

そして最初に東上等兵がテュワルを担いで縄梯子を登っていく。そして次に従軍記者の番になった。

 

「松崎 福島 お前らが先だ」

 

「古村崎さんは!?」

 

「俺は責任者として最後に決まってる。上からちゃんと撮れよーーん?」

 

すると外からドドドと音が聞こえて来た古村崎が音のする方を見た次の瞬間、

 

バ キ

 

とサイの様な一角を持った怪異が壁をぶち破って入って来たのだ。

 

「ど どうにかしろ兵隊さんよ!崩れるぞっ」

 

すかさず日本兵MP40短機関銃で応対する。そして次に穴の開いた壁に向かってゴブリンをはじめとした怪異が一挙に迫って来た。

 

ドタタタタタタ

 

「腹を狙え!」

 

「装填!」

 

又腰に携帯する拳銃ワルサーP38も絶大な威力を誇った。日本兵が怪異を相手にしている間に古村崎は縄梯子に掴まる。

 

「はっ 早く上げろぉっ いっ ひいっ」

 

「残りは仁科伍長以下二名 ロープで離脱する」

 

仁科達にはロープが降ろされそれを腰に巻いて引き上げてもらう。

 

「いいぞ!」

 

ロープで引き上げられる仁科達は数個の九七式手榴弾を怪異の頭上に投げ捨てる。そして手榴弾の爆発と共に春嵐改の頭上から応援要請を受けたユンカースJu87急降下爆撃機"スツーカ"3機がやって来て怪異の群れに向かって爆弾を投下し、S-51が搭載されているR4Mを爆撃から逃れたジャイアントオーガに向けて発射する。航空支援を受けた地上部隊は前進して行く。

 

「四〇三中隊前進 前へ!」

 

----------------------------------------------------------------------

その頃森の森林地帯には帝国軍の兵士達が身を隠していた。

 

「森の奥へ逃げよ!迂闊に散るでないぞ!」

 

その帝国軍の兵士達は行く先々の村から略奪した物を担いでいる者までいた。

 

「補助兵より格下の怪異使い頼みとは、情けない事だ」

 

「今日の戦いでこの方面の怪異の主力はほぼすり潰してしまいました。」

 

「ニホン軍の対応が早すぎる。ギンザではあれ程ではなかった。」

 

「大量の難民を押し付ける事は出来ましたが・・・」

 

そんな時

 

「仕方あるまい」

 

ヘルム子爵が一つの笛を吹き出した。

 

「! 此処で使ってしまうのですか!?」

 

「一つだけだ。我々がこの先生き残る為に少しでも敵の足止めをするのだ」

 

"毒は埋伏できた"

 

----------------------------------------------------------------------

その頃春嵐改の中では日本軍に救助されたクーシがピクンと何かに反応を示した。そんな事を誰も気付かず日本兵と従軍記者は助かったと言う安堵感に包まれていた。

 

「・・・どうだ?見たかよ」

 

「・・・わかったよ。軍隊は国民を守らない これは俺の信念だから譲るつもりはねぇ。だがお前らは確かにーー『皇軍』だ」

 

少しではあるが古村崎と日本軍の間で信頼が生まれた。そんな時古村崎の部下の福島が映写機で撮っている事に気付いた。

 

「いつまで撮ってんだよ福島。もう撮らなくていいんだよ・・・福島?」

 

と古村崎は言うが何やら様子がおかしい様だった。すると次の瞬間福島が突然吐血し倒れたのだ。

 

『福島!?』

 

見ると福島後ろでは背中を鋭い爪で一突されていた。

 

「がふっ ぶっ」 ビクン ビクン

 

「うわっ なんだこいつ!?」

 

福島を襲ったのはさっきまで大人しそうな少女だったのがいつの間にか凶暴な狼人間が其処に立っていたのだ。その姿を見た兵士や記者らは目を丸くして恐怖した。すると狼人間は側にいた古村崎のもう一人の部下松崎をヘリから突き落とした。

 

「どうした!?」

 

「うおっ なんだそいつ!?」

 

ガルルルルル

 

「あ あひ・・・」

 

狼人間はゆっくりと古村崎に近づいて行き襲い掛かろうとした所を間一髪のところで栗林軍曹が三十年式銃剣を構えて古村崎と狼人間の間に割って入る。

 

「栗林!?」

 

「軍曹!」

 

栗林軍曹の突然の行動に周りの兵士達は仰天した。

 

「あの餓鬼の正体がこんな化け物だったとはなぁ」

 

栗林軍曹はあの大人しそうな少女が化け物だったと知り興奮と緊張で息を荒げ汗をかていた。

 

 

 

 

 

 

 

 



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勝利への道

ヘリの中では、変身した獣の少女クーシと銃剣を構える栗林軍曹が1対1のタイマンを張っていた。栗林はクーシの攻撃を交わしたり銃剣で防いだりして回避する。

 

「栗林!」

 

「撃つな富田、銃は使うな。操縦席に当たるぞ!それに万が一燃料タンクにでも当たったらどうする!」

 

「くそっ」

 

「後ろに下がれ!」

 

「さ 下がれって言ってもなぁ」

 

栗林を援護しようと銃を構えるが上官に制止され後ろに後退しようとするもその先はヘリのハッチが開いた空だった。そして栗林はクーシを相手にしている内に身体の数カ所に切り傷を受けていた。すると栗林は腰に付けていた弾薬ポーチや水筒やスコップなどを付いた革製のベルトを外し身軽にする。すると身軽になった栗林は先とは見違える様に素早くなりクーシの脇腹を銃剣で刺突し斬り付ける。

 

「うはぁ」

 

だが、それと同時にクーシの肘打ちを食らって倒れ込む。すると、

 

『お お っ』

 

銃剣の付いた三八式歩兵銃を持った富田軍曹がクーシに向かって突撃して来た。

 

「栗林ー!起きろおっ」

 

富田はクーシに応戦しながら栗林に呼び掛ける。当の栗林は意識が朦朧としていた。

 

『天井を突き破られたら操縦系統をやられるっ』

 

『着陸出来る場所を探せ』

 

ガ ア ア

 

『おりゃぁー』

 

起き上がった栗林はクーシの後頭部目掛けて回し蹴りを食らわせそして追い討ちをかけるように脳天目掛けてかかと落としをお見舞いする。そして素早く銃剣を取り出し人間の急所の一つである右肘に銃剣を突き刺す。

 

ド ズ

 

『ギャアアアアー』

 

急所をやられた事で獣はドスの利いた声を上げてもがき始める。

 

「尺骨神経溝。そんな図体でしかも化け物でも効くんだなぁ」

 

「ガァウ」

 

「機長に伝えてくれ、合図で後退してアイツを放り出す!」

 

そう伝えると栗林は獣の下に滑り込み獣の腕を掴みそして、

 

『今だっ』

 

「捕まれ!」

 

と大声で叫び兵士達は捕まれそうなところにしがみ付くとヘリは一気に後退した。

 

「うわっわっ ああ カメラ・・・!」

 

「ぐううう」

 

機体が後退し傾いたと同時に栗林は獣を一本背負いで投げ飛ばそうとするが獣の体重と抵抗であえなく失敗になり二人ともハッチの所まで転がり落ち獣は栗林の上に跨がり馬乗りの状態になった。

 

ガ バァ

 

「ぐあああっ俺はお前みたいな醜女に接吻されたって嬉しくねぇよ!接吻したいなら別の男を探せええっ」

 

「栗林!」

 

「いっ やっ だああっ」

 

ゴ ッ

 

「ギャン」

 

そう叫んだ栗林は獣の顔面に頭突きを食らわせ獣が怯んだ隙をついて獣の背後に回り首根っこを思い切り締め上げる。

 

「いい加減・・・・落ちろおおっ」

 

ク ガ ア ア ア

 

ガ ン

 

と獣が暴れる余り二人とも天井に頭を打ち付けて倒れ込む栗林は打ち所が悪かったのか気を失った。

 

「栗林!」

 

ガ シ

 

富田は気絶した栗林の腕を掴む。

 

「機を水平に!早く!」

 

「手を離すなよっ」

 

「うおお」

 

気絶した栗林を引っ張り上げる。その時よく見るとハッチの扉にへばり付く獣がまだ居た。兵士達は三八式歩兵銃やMP40短機関銃を持ち獣の所に行く。

 

「あばよ」

 

パァン パァン パァン パァン

 

ダ ダ ダ ダ ダ ダ ダ

 

数発の銃弾を受けた獣は真っ逆さまに転落していった。

 

『敵排除敵排除』

 

『よし着陸する』

 

その後ヘリは味方の部隊に合流し負傷した栗林は治療を受けて富田と仁科と合流した。

 

「栗林大丈夫か!?」

 

「俺達が分かるか?」

 

「ここ・・・・どこ?」

 

「おいおい自分が誰だか分かっているか?」

 

「いででいたいっての!」

 

「悪い悪い けどやっぱすげぇよお前」

 

「どうだ俺の勇姿は?そうだ先助けてくれた礼にお前に俺の妹と付き合う権利をやろうか?」

 

「あー そりゃダメだ。俺ーーこの戦争が終わったら"ボーゼスと結婚するから"」

 

富田がそうした死亡フラグ立て一同全員が固まる。

 

「ちょっ富田それ!」

 

「やばいっスよ!」

 

「映画や小説で良くあるパターンだ!!戦場で恋人の話を持ち出した奴は、すぐ死ぬぞ!!」

 

「ーーあ。」

 

「伊丹隊長が禁じてただろーっ」

 

「なんでここで言うかなぁ」

 

「どどどどどーしょ〜」

 

「やばいやばい」

 

「大丈夫だってみんな気にしすぎ」

 

「だ ダメだろ!早く伊丹隊長に会わせないとっ」

 

「へ?なんでそこで隊長が出てくるんだ?」

 

「伊丹隊長ならあんな言葉なんかヘラヘラ嗤ってへし折ってくれそうだから。あーあ やっちゃったな〜 おい やっちゃったよ」

 



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東京協定

1946年 帝都東京 皇居で天皇陛下や各大臣や官僚や軍の参謀達を交えて御前会議が開かれていた。

 

「これより 御前会議を始める」

 

と天皇が言うと各大臣は天皇に一礼し着席する。議題となったのは降伏後の帝国の処置でした。

 

『帝国解体』

 

強硬派側の主張

「帝国に賠償を支払わせる為に領土・鉱山・油田を奪取するべきです。我が国は帝国の重工業及び生産財の80%を徴収します。いずれにせよ帝国を解体し孤立した弱小の小国の寄り合い所帯にしてしまわなくてはなりません」

 

一方の穏健派の主張

「我々は賠償と言う考え方には反対です。先の第1次世界大戦後ドイツに巨額の賠償を課した結果、先の世界大戦を引き起こした事を忘れてはいないからです。帝国に同じ事をすればドイツの二の舞になってしまう」

 

強硬派

「成る程、ヴェルサイユ条約は失敗だった。しかしあれは、各国が現金払いを要求したからだ。我々は、生産財や原料と言った現物を要求しているのだ」

 

穏健派

「そうかも知れん。だがしかしもし帝国と言う馬に馬車を引かせようと思ったら糧秣くらいは残しってやらなくちゃ空きっ腹じゃ馬は動きませんぞ」

 

強硬派

「いや 我々としちゃその馬がくるりと向きを変えてこっちを蹴ったりしないように監視してなくちゃならないんでね」

 

帝国が再び蘇るのを警戒する気持ちは穏健派の海軍とて同じだった。帝国は、降伏後約5年間日本が占領する事が決定された。

次に議論になったのはアルヌスの丘についてだった。

 

『アルヌス処分』

 

強硬派の主張

「我々にとってアルヌスは生死に関わる問題です。歴史を通じてアルヌスの丘の門を越えて日本を攻撃する為の通り道となったからです。我々は独立したアルヌスが誕生する事を望んでは居ますが それはあくまで日本を守る事に役立たせる為でなくちゃならない」

 

フォルマート領に位置するアルヌスの丘は人々にとって聖地であり先の銀座事件で帝国軍の攻勢の拠点でもあったからだ。一方の穏健派はアルヌス及びフォルマート領を日本陣営の一員として確保したいと考えていた。

 

穏健派の主張

「1945年に我が国はアルヌスを帝国軍の侵略から守る為に危険を冒して戦争に参加しました。我々にとってのアルヌスは物資的な利害ではなくて名誉の問題です」

 

既にアルヌスには日本軍に協力的な住民が沢山いた。結果この議題は天皇陛下の有無もあって戦後アルヌスで自由選挙を実施し国民自ら選ばせる事でまとまった。

 

裕仁親王

「朕は、アルヌスにいる1万人の市民の感情を大切にしなければなりません。私は、アルヌスの市民に対してアルヌスでの選挙が公明正大に行われる事を保証したいのです。どうかそれだけは約束してください」

 

そして穏健派の提案として『平和条約を締結するための外相会議の設置』『帝国占領統治政策の決定』『帝国の選挙を監視する行動』『帝国の休戦条約緩和と国際連合への加入』を挙げた。

一方の強硬派の提案として『帝国の軍備の解体』『賠償』『帝国領の日本による信託統治』『帝国の親日政権の国連による承認』

『帝国のゾルザル政権の問題』などを挙げた。特に問題になったのが賠償問題、ゾルザル政権の扱いを巡って陸軍と海軍が対立したが天皇陛下の仲裁もあって会議は決裂を免れ、占領下での帝国の議論に移た。

 

続いて討議されたのが帝国の占領政策であった。すでに日本による占領と、帝国軍の武装解除、戦犯処罰、現物による賠償が合意されていた。占領政策についても討議が行われていたこともあり、各占領地域に統一的な行政制度を敷くことで合意された。その後政治的・経済的な政策の原則が合意され、『東京協定』として明文化された。

 

帝国の占領政策

 

・帝国占領政策を統括する大日本管理理事員会を設置する。

 

政治的原則

 

・日本による占領統治の確認。

 

・旧帝国軍・オプリーチニナなどの武装解除。旧帝国軍は武装解除された後、各自の家庭に帰り平和・生産的に生活出来る機会を与える。

 

・人種、異種族、政治的・宗教的信条などを理由とした帝国時代の法令制度の廃止。

 

・戦争犯罪や帝国の戦争政策に関与した者の裁判と追放。国民を欺いて日本征服を乗り出す過ち犯させた勢力を永久に排除する。無責任な軍国主義が世界から駆逐されるまでは、平和と安全と正義の新秩序も現れ得ないからである。我々の意思はフォルマート人を民族として奴隷化し、フォルマート国民を滅亡させようとするものではないが、帝国における日本国民の虐殺を含む戦争犯罪は処罰されるべきである。

 

・帝国主義や軍国主義の影響の排除(反帝国化)。帝国が、無分別な打算により自国を滅亡の淵に追いやる軍国主義者の指導者を引き続き受けるか、それとも理性の道を歩むのかを選ぶ時が到来したのだ。

 

・憲法制定・国会開設の準備。

 

・民主的な政党の設立。

 

・政治構造の分権化。帝国の貿易と産業を再建。

 

・学制改革。

 

・通貨制度。

 

・裁判所の開設。

 

経済的原則

 

・戦争に使用される兵器・船舶等の製造禁止。

 

・過度な資本集中の解体。産業は農業と平和的産業を優先させる。

 

・鉄道・電信の整備。

 

・帝国は単一の経済単位として扱わなければならず、占領地域での政策はこれを前提としなければならない。

 

・大日本管理理事員会は帝国の経済政策、対外資産などの監視を行う。

 

・賠償の支払いは、国民生活を圧迫しないように行う。

 

帝国の賠償

 

・大日本帝国は、その占領地域から賠償を徴収する。大日本帝国の徴収からフォルマルト伯爵領への賠償は充当される。

 

・帝国の平時経済に不必要であると判定された工業設備・資材の10%は無償で、15%は物資との交換で日本に引き渡される。

 

・賠償徴収は2年以内に行わなければならない。

 

・大日本帝国は各占領地における資本の請求権を放棄する。

 

帝国海軍船舶

 

・帝国海軍が保有する船舶は、日本に引き渡される。

 

・帝国が保有する帆船は30隻を除いてすべて解体される。30隻は研究のために日本に引き渡される。

 

戦犯裁判の準備

 

・国際軍事裁判所憲章に基づいた裁判を執り行う。

 

・最初の被告リストは1946年9月までに公表する。

 

帝国正統政府の設立

 

・御前会議で基づき、大日本帝国は帝国正統政府が正当な帝国の政府であると認定する。

 

・大日本帝国は領域内にある帝国元老院資産を、帝国正統政府に引き渡す。

 

・帝国各地の帝国軍と商船は、帝国正統政府の元に復帰し、それを支えなくてはならない。

 

・できるだけ早く自由で公平な選挙が行われなければならない。

 

平和条約と国連機関

 

・日本は帝国の現在の状態は平和条約の締結によって終了されることが望ましいと考えている。

 

・帝国との国交は、平和条約締結交渉の中で、別個に検討される。

 

・国際連合への加盟には、国際連合憲章にある義務を尊重する必要がある。加盟申請に際しては国際連合安全保障理事会の勧告に基づき、国際連合総会において決定される。

 

占領地問題

 

・大日本帝国政府は、エルベ藩王国などによる日本軍占領作業を改善するため、国の占領当局が情報を日本に伝えていることを留意する。

 

・大日本帝国政府はエルベ藩王国などの占領は、停戦協定を受け入れた政府との合意を根拠とすることを確認する。

 

異世界人追放

 

・大日本帝国政府は日本にいる異世界人が本国に移送されなければならないことを認識する。

 

・大日本管理理事員会は占領された帝国の各領地が、どの程度受け入れ可能であるかを調査する。

 

エルベ藩王国の油田

 

・エルベ藩王国の油田問題については、日本が代表を出す委員会を設置して調査を行い、検討する。

 

イタリカ撤退

 

・大日本帝国軍はフォルマルト伯爵領に位置するイタリカから撤退するべきであるが、撤退に関する詳細は1946年9月の外相理事会で検討される。

 

帝都

 

・強硬派の提案を検討した結果、帝都は戦略的な重要性から、国際的な管理体制が行われるべきである。帝都の問題は東京で開催される各役所の大臣が行う会議によって検討される。

 

帝国貿易会議

 

・日本は帝国における内陸輸送委員会を開催する。

 

補遺

 

・帝国政府はこの会議の決定に基づき、帝国占領に関する指令を当局に伝達する。

 

・14条では会議の間、共通の軍事問題を検討するため、参謀本部による会議が行われる事が明記されている。

 

・付属議定書1ではフォルマート占領統治への日本代表の参加が定められた。

 

付属議定書2

 

付属議定書2では、穏健派の複数の提案が記載されている。これらの提案はおおむね了承されたが、正式な外交ルートを通じて解決されるべきであるとされた。

 

・賠償の負担と、占領による利益が日本国民に与えられるべきではない。

 

・占領地の財産を急いで収奪することは、結果として日本国民の損失につながる。効果的な大日本帝国への補償を実現させる占領政策を取るべきである。

 

・民間の補償要求は、賠償と同等に扱われるべきである。

 

など以上の事が記載されている。

 



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追跡

いや今年最後の投稿になります


1946年2月

大日本帝国と帝国の間の半年半に及ぶ激闘は頂点に達する。ゾルザル・エル・カエサルが死力を尽くして日本軍を叩き潰せと命じたのだ。しかしスタンレービン近郊での数時間の死闘の末帝国軍は撤退した。そして「S-51」が上空を飛行し帝国軍残党を捜索する。

 

「待機せよ目標を確認中」

 

『了解 急いでくれもうすぐ当たりだ』

 

上空を飛行するヘリをボーガンで射抜こうとする者も居た。

 

「この距離なら・・・」

 

「バカ!動くなっ」

 

だが矢の刃の光の反射により日本軍に見つかった。

 

「目標確認誘導する!1番機!〇九〇から進入せよ」

 

ウウウウウウウウ・・・・

 

目標に向かってスツーカ独特の「ジェリコのラッパ」の鳴らしながら急降下するJu87スツーカは胴体と左右の翼に搭載している陸用爆弾を投下する。

 

ズ ズ ズン

 

「こちら1番機爆撃完了これより帰投する」

 

「あーもっと爆撃してー」

 

爆心地跡では日本軍歩兵部隊が帝国軍残党狩りを行い、拡声器で降伏を促す。

 

『降伏しろ!手を上げて出て来い。今すぐに武器を捨てて投降しろ!そうすれば命の保証はする!帝国兵よ降伏せよ!祖国に戻れるぞ、これが諸君らの戦争か?日本の同士は諸君の苦しみを理解し諸君らを死に追いやるオプリーチニナより諸君の身を思っている。我々は諸君の敵ではない!諸君の敵は血に飢えたゾルザルと軍国主義の元老院議員の奴らだ』

 

「くそっ ニホン軍め ここは一旦山脈の向こうに退くべきか・・・」

 

その頃アルヌスの大日本帝国特地派遣軍総司令部では各方面部隊からの戦況の報告と整理が行われていた。

 

『第四戦闘航空団は敵仮称デュマ方面軍本隊を追撃中。モガデッシオ北で敵補助部隊を捕捉せり』

 

『第1師団スタンレービン到達 敵は街を放棄した模様。第7師団はソリドリア・リグレモリアーニ峠方面に前進中。敵の組織的抵抗は軽微』

 

「各隊から捕獲した怪異の送付先について問い合わせが、後方地域全域において怪異の小集団による襲撃・略奪が増加中です」

 

「捕虜はイタリカに送付でいいんだな」

 

「怪異に関しては如何でしたか・・・」

 

「使役者がいなくなって野生化したのか?逆に厄介だぞ」

 

「イタリカから進発した正統帝国軍の状態は?」

 

その頃日本陸軍九七式司令部偵察機がイタリカ領上空を飛行する。

 

「帝国軍の前進はイタリカ領東端のアッビア街道上で停滞中・・・と、次はイタリカだ」

 

 

"イタリカ 帝国正統政府仮皇城 城市の周りには皇帝の呼びかけに応じた諸国諸侯 亜人部隊の広大な野営地が築かれつつあった。"

 

そのイタリカに帝都から脱出した菅原大使ら一行を護衛する日本軍が入城して来た。

 

「おいニホン軍だ!」

 

「モルト皇帝の後ろ盾にニホンがいるのは本当だったのか」

 

そんな中イタリカの帝政仮皇城の城内を一人のメイドが走り回っていた。

 

「タイヘン!タイヘン!メイド長ー」

 

厨房ではメイド長が料理人達にあれこれと指示を出していた。

 

「そこ!焦げてますよっ 作り直し!そんな物お出ししたら他家の者に笑われます!アイギール!襟からカラーがはみ出てる!亜人を見慣れない方々も多いのです。まずは身嗜みから!」

 

「メイド長タイヘン!陛下からお呼びダシ!」

 

メデュサメイドのアウレアがカピカピに干からびたミイラを背負って厨房に入って来た。

 

「アウレア・・・また"ネズミ"ですか」

 

「ネズミ捕まエル精気吸いトル。アウレア お腹イッパイウレシイ!」

 

「少しは我慢なさい!場も弁えること!ここは厨房ですよっ」

 

「あうう」

 

「で、素性はわかりました?」

 

「この男もボウロにやとわれタ 手先。食べ物に毒入れようとシタ」

 

「やはりその男が間者の元締め・・・ところで陛下がお呼びでしたね。アウレア モームついてらっしゃい」

 

「あ はい!」

 

「急ぎますよ!」

 

とメイド長はスカートの裾の持ち上げて駆け足でモルトの元へと向かう。

 

「皇帝陛下 お召しにより参上致しました」

 

其処にはベッドの上にいるモルト皇帝と宰相マルクス伯と大日本帝国外務省大使菅原が居た。

 

「忙しい所すまぬな この者はニホンの外交官スガワラ殿だ。無理は承知だが・・・滞在先の手配を頼みたい」

 

とモルトからそう言われたメイド長が顔を引き攣らせた。

 

(借り上げた屋敷は議員や貴族方でもう満杯ですのに)

 

「陛下 お気遣いなく 知り合いの商人宅に宿舎は確保しております。倉庫の一角ですが」

 

それを聞いてメイド長はホッと胸をなでおろす。

 

「それは結構。メイド長手間を取らせた下がってよいぞ」

 

「フン、ニホン人も油断なりませぬな。我らでさえ宿に不自由しておるのに」

 

「これマルクス伯意地の悪いことを言うでない」

 

「陛下 このイタリカでは周りの中ニホン人と親しい者ばかり、そのような者達に囲まれていては・・・・」

 

「帝都から余らを連れ出したのもニホン人だ。このイタリカを救ったのもニホン人であったなメイド長?」

 

「その通りでございます。野盗に襲われたこの街を救って頂きました」

 

「ほうれみろ」

 

「それもこれもフォルマル家・・・そして恐れ多くも陛下に害なす薄汚いネズミどもを操る者がいるせいでございます。お若いミュイ様を当主にいただくフォルマル伯爵家では、ニホンと協力するしか道はなかったのです」

 

「・・・・で 影の戦いは?」

 

「陛下が参られてから排除した数は、五十ほどに・・・こうしている今もーー先ほどもこのアウレアが一匹排除致しました」

 

モルトはアウレアをジッと観察する。

 

(メデュサ・・・前当主のコルトは何故この者を家臣にして何をしていたのか?亜人好きという噂を耳にした記憶はあるが・・・・伝説に語られる吸精の快楽 前当主とどのような関係を?話によっては余の手元に・・・・)

 

「館内に入り込んだ間者の監視は続いております。頃合いを見て排除致します」

 

「・・・うむその者らもゾルザルの手の者か?」

 

「おそらく左様かと」

 

「・・・・陛下。アウレアは先代様から病気やケガで死ヌのがワカッテいるヒトに死ヌ怖サや痛ミを気持チ良サで消シテあげる仕事。オ オオセつかっていまシタ・・・」

 

「(気付かれておったか)そうか・・・では余がいずれ迎えるであろう時不安を感じたなら 手を借りる事もあろう」

 

「ハイ」

 

「今は征け 行って敵と戦うがよい」

 

その頃フォルマル伯爵家の屋敷の広間では盛大なパーティーが開かれていた。パーティーにはモルトの呼びかけに応じた諸国の王や貴族、武官、亜人達が参加していた。そして使用人の中には陸軍中野学校の諜報員も混じって監視をしていた。そんな時諜報員の一人が足を止めてスパイ道具の一つである小型無線機で気づかれないように仲間に伝える。

 

「招待客名簿に無い顔を見つけた。西の角に立っている執事風の男だ」

 

その言葉を小型無線機で聞いていた亜人メイドがその男に近づく。

 

「お代わりは如何ですか?」

 

「あ ありがとう ヴォーリアバニーがメイドなんて珍しいな」

 

「当家ではメイドの八割が亜人種です。失礼ながら貴方様はどちらのご家中でらっしゃいますか?」

 

「あ ああ 俺はニーガス。モントレー男爵家の家令をしている」

 

『ウソだな。モントレー家は中立から転じた新参で一昨日イタリカ入りしたが、そいつは同名の家令と顔が全く違う。確保』

 

と確保の命令が出る。

 

「ニーガス様 人目のつかない所でお話しなど伺えません?ヴォーリアバニーの習性はご存知でしょう?」

 

「え え?俺にかい?」

 

するとニーガスは下を見るとメイドが自分の胸部に小さなナイフを突き付ける。そしてニーガスを誰も居ない地下通路に連れて行き尋問する。

 

「ま 待ってくれ!俺は確かに密偵だがゾルザル派じゃない。君らと同じように敵の密偵を探っていたんだ」

 

「なら本当の名前と誰の配下か言えるでしょう?当家にはメデュサがおりますこの意味おわかり?」

 

その言葉に観念したのかニーガスは突然両手を頭の後ろに回し始める。

 

「黙ってても無駄ってわけかわかった言うよ。俺はノッラ マルクス伯爵様の配下なんだ」

 

「マルクス様の!?」

 

「あとな・・・

 

ブチ ブチ

 

女同士でやる趣味はねぇぜ!」

 

と皮を引っ剥がして姿を現れたのは笛吹き男の異名を持つノッラだった。

 

「ジヴォージョニー!?」

 

「待てぇ!」

 

「待てと言われて待つバカがいるかっての!」

 

そんな時メイドの投げたナイフがノッラの背中に何本か刺さった。

 

ド ドッ

 

「くっくそっ覚えてやがれ!」

 

庭に出たノッラは全力で林の中に逃げ込んで姿をくらます。

 

「チッ逃した。追うよ!城壁と街中に手配を!」

 

 

『待て 後はこちらに任せろ』

 

「うまくいったのか?」

 

「ああ 奴が何処に逃げても居場所はわかる。こっちは丸見えだ。傷の手当てにも仲間に接触するにも根城に戻るはずだ。奴を追えば芋づる式に奴らを追い詰められる」

 

日本軍は熱源探知機搭載のUAV即ち無人航空機を飛ばしノッラの後を追う。

 

「それじゃあ奴は任せるよ。ヤナギダ」

 

「ああ 奴らは俺が必ず潰してやる。デリラわかってるな?」

 

「ああ あたいはあんたの言うことなら何だってやるよ。ヤナギダの旦那」

 

 



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逃走

数日前、アルヌスで紀子を暗殺しようとし相打ちになったデリラと柳田中尉は互いに深い傷を負ったが無事に完治し、今は協力してノッラの追跡に取り掛かっていた。

 

『追い付けるな?デリラ』

 

「任せときなヤナギダの旦那」

 

デリラは、日本軍の軍服と軍帽で身を包みノッラの物であろう足跡を追跡する。

 

『奴の巣穴を見つけろ』

 

「わかってる。狩りは久々だね故郷にいた時以来だ」

 

デリラは、うさぎの如く機敏な動きでノッラを追跡して行く。その速さには日本兵も関心していた。

 

「速ええ〜」

 

「アルヌスの食堂にいた娘だよな」

 

その頃フォルマル伯爵領イタリカフォルマル伯爵家の屋敷では盛大なパーティーの中一人だけ鬱々とした顔をしていた。

 

「キケロ卿 酒の味が変わる訳ではあるまい?」

 

「ん?いや そうではないのだ、考えていたのだよ。我々の慣習に反して名家であるフォルマル家先代当主コルト殿が野蛮とされる亜人を・・・・失礼、何故雇って来たのか品性に欠けると思っていたのだ。だが此処に来て考えを改めねば成らぬのではとね」

 

「そうだな作法も気遣いもヒトと変わらぬ 何より耳がいい」

 

「だが慣れぬのだよ。違和感を拭えぬのだ」

 

「慣れの問題なら時間が解決する。街の周りを見ろ今や我が軍は亜人頼みだ。ゾルザルでさえジャイアントオーガまで戦列に加えたらしいぞ」

 

「わかっているわかっているよ。辛抱すれば良いだけだ。だがメイド達は辛抱してくれるか?」

 

「大丈夫、彼女達は君より辛抱強い。ほら、シェリー嬢も辛抱強く待ってくれているぞ」

 

「アルヌスで見聞きしたニホンの内情を話してくれてたんだ。聞こうではないか」

 

「そうであったな、近々ニホンの元老院選挙があるそうだね」

 

「はい、キケロ様。市民による選挙の結果によっては元老院議員が入れ替わって、そこから選ばれる宰相が変わるかも知れないのです。国の方針までガラリと変わってしまうかもしれません。ニホンが帝国をどうするのかも・・・・」

 

「なんて事だ。そんな事で国の政策まで一変するのか?何という時代遅れの制度、かつて我が帝国も共和制であったが執政官によって変わる対外政策即決制の弱さが国を翻弄してきた」

 

「だからこそ帝政が求められたのだ」

 

「第一人者による統治ですね」

 

「だが帝政も後継者選びと言う問題がある。我々は失敗した」

「そうだ。だから我々は此処にいる。その代償を支払う為に帝国を取り戻し正常な状態を取り戻さねばならんっ」

 

当時、多くの側室を持っていたモルトには約30人もの息子がいて、後継者争いは熾烈を極めていた。そして日本では、儒教の教えにより家督は、長男が継ぐ事になっている為、もし裕仁親王が崩御すれば息子である明仁親王皇太子殿下が次期天皇につくのだ。

 

「だがどうやって?ゾルザルは帝都を放棄したが実権を握ったままだ」

 

「何故国軍の将兵は彼奴に従っておる?もはや陛下に廃嫡された身だぞ」

 

「『掃除夫』が無理矢理従わせておるのだよ。奴等は反乱分子を粛清と言うなの処刑で一掃しておるのだ!!」

 

「戦って倒せばいい!軍務についておった方々もこの場に多い筈だ!!」

 

「戦場で決戦だ!ニホンが手を引かぬ内に戦いを挑むのだ!」

 

と反ゾルザル派の議員達は、ゾルザル率いる新生帝国に一矢報いる構えだった。

 

「外国の方々はお力を貸してくださらないのですか?こちらには皇帝陛下がおわしますのに?」

 

「要請は出しているが日和見を決め込んでいるのだ。我々が勝つ見込みが未だ見えんしな」

 

「属州の地方長官達もゾルザルに従っておるし」

 

「ずるいですわ。ゾルザル様が有利過ぎます」

 

「そうなのだが・・・・それでも諸外国が奴に与しないのは、ニホンとの戦いに巻き込まれるのを恐れているからだ」

 

(当然だな。昨年の戦役でモルト皇帝に騙された形で、連合諸王国軍はニホン軍が待ち受けるアルヌスに嗾けられたのだ。そう簡単には兵を出さぬだろう)

 

ガーゼル侯爵は、数ヶ月前のアルヌスでの連合諸王国軍と大日本帝国によるによる攻防戦の末に連合諸王国軍は敗れ大量の犠牲者を出した事を思い出す。

 

「ニホン次第なのだよ。シェリー君、何か我々が参考に出来る事を見聞きしなかったかね?」

 

「そうですね・・・・ニホンの民衆はゾルザル様の配下が街や村を襲って民を虐めている事に大変御立腹しておいでの様です」

 

「それはニホン軍の仕業だとゾルザルは言っているが?茶色の服の集団が住民を虐殺したと」

 

「はい 私も耳にしました。ですがアルヌスでは誰も信じていません。ゾルザル様の軍のやった事だと言う証言や物証があります」

 

「なんと言う事だ。皇太子ともあろうお方が己のした事を他人のせいに?」

 

「残念ながら真実だ」

 

「帝国の人間としてそんな卑劣な・・・」

 

議員らはゾルザル等が日本軍に成りすまして破壊、略奪などをしていた事に怒りを覚え呆れた。

 

「ゾルザルの配下となった将軍が出した策なのだ。ピニャ殿下がその場にいて耳にしたそうだ・・・・」

 

キケロ卿の言葉に皆は一瞬黙り込んでしまった。

 

「(あの男は本気でニホンに勝つつもりなのだ。だが、そこまでやって勝ってどうなる?欺かれた民が帝国に抱くのは疑問だけだ。それを封じるには恐怖による統治しかあり得ん。いずれにしろ帝国は荒廃してしまう)なんと言うことか」

 

キケロ卿はゾルザルが恐怖によって人々を支配して行く政策を推し進めて行くのだと見抜いた。

 

「キケロ様、そうなると私達の命運は皇太女殿下の双肩に掛かっておいでですね。ピニャ殿下は今どちらに?」

 

「あの方はな政にすっかり失望しまわれてな、イタリカを出て行ってしまわれたのだ」

 

「皇太女ともおろうお方が!?敵前逃亡ですわ。勿論お迎えに上がっておいでですよね?」

 

「いや、しばらくそっとしておけとの陛下の仰せでな。今頃は茶色の人とやらとご一緒の筈だ」

 

「茶色の人・・・ですか?」

 

 

その頃デリラはノッラの足跡と無人機からの情報を基にノッラを追っていた。そして追手から逃げ切ったノッラは森の中でメイドにやられた傷の手当てをしていた。

 

「チッ 切っ先が中に残ってる。だいぶ奥まで入っちまってるな」

 

すると、気配を察知したノッラは側に置いてある槍を手にし、気配のする方に槍を投げた。

 

「におうねぇ・・・淫乱バニーのやらしいにおいがさぁ!よく此処が分かったもんだね。メイドなんて生ぬるい事やってて・・・」

 

仕留めたかどうか確認する為に、洞窟から顔を出してみたが、そこにあったのは丸太に服を着せただけの身代わりだった。そして一瞬の隙を突いてデリラは上からノッラ目掛けて斬りかかろうとしたがギリギリの所で躱されノッラの尻尾だけを切り落とした。

 

「あいっ たっ・・・・てめぇイタリカのメイドじゃねぇな!?よくもあたいの尻尾を!」

 

デリラは構わずノッラに斬りかかる。

二人の剣は互いに弾き返し一進一退の攻防が繰り広げられていた。

ノッラは砂でデリラの目を潰しその隙にデリラを切りつけとどめを刺しにかかった。

 

「死ねや・・・・!?」

 

ノッラは、デリラの腹に短剣を突き刺したが手応えが全くなかった。よく見るとデリラの腹には小型無線機SCR-536が入ったポーチだった為、難を逃れた。

 

「畜生!なんだよずりぃぞっ」

 

部が悪いと思ったのか、ノッラ逃げ森を出た場所にある河原に逃げたが、デリラはノッラ追う。

 

「喰らいやがれ!」

 

とノッラはまたしても砂をデリラに掛けて目潰しをした。

 

「くそまた・・・!?どこ行った?あれ?つかない」

 

デリラはノッラが見失ったので連絡を取ろうとしたが無線機が付かなかった。無線機はさっきのノッラとの戦闘で破損してしまったのだった。

 

「ああ〜ん ヤナギダの旦那に叱られちまうよぉ〜」

 

デリラが目を開けた時にはノッラは完全に見失ってしまった。その後デリラはノッラが傷の手当てをしていた隠れ家に行き、手がかりがないかを探していた。すると、焚き火の跡の中に焼き残った紙切れを見つけた。

 

「タンスカ・・・・ニホン人・・・?」

 

とある場所では雨の中使徒であるジゼルが雨に打たれながら誰かを待っていた。

 

「腹・・・減った・・・あいつら来ねぇし、近くの村に飯貰いに行くかぁ・・・」

 

とひもじい思いをするジゼルの脳裏に話を掛けるハーディ。

 

『ジ〜ゼル〜 サボっちゃダメよ。彼等がどうするか見届けるのがあなたの役目、亜神としての義務を果たしなさい』

 

「あ そだ翼竜に獲物取って来させりゃ・・・」

 

『ダメ 食べなくたって死なないでしょ?』

 

「ひでぇよ主上様・・・ハラは減るのに」

 

『門の向こうの人達 あれを見てどうするのかしら、楽しみね』

 

「ほんとどうすんだろな」

 



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組織

皆さんどうも人斬り抜刀斎です。
今回は、登場する組織をご紹介しま〜す。


『日本軍特地派遣軍』

およそ4個師団相当で最大で8個の戦闘団が編成されている。実戦が想定される特地派遣軍は任期のある『兵卒』4年以上軍務している兵長のみとし、『下士官』以上の日本兵40000名を中心に編成された。兵員や諜報員は特地へ派遣される前に帝国語の速成教育("所謂"駅前留学)を受けるが、通訳を介さずに意思疎通できる語学レベルに達しているのは、特地住民との接触が多い偵察隊や憲兵隊程度に限られる。

 

『アルヌス協同生活組合』

伊丹たちが保護した旧コダ村の避難民たちが、自活のために設立した組織が前身。本来アルヌスには難民キャンプとしての役割はなかったが、伊丹が無断でアルヌスまで難民を連れて来たため、なし崩し的に難民キャンプ化した。アルヌスの戦場で遺棄された特地では大変な額の金になる貴重品(翼竜の鱗、蟲獣の甲殻など)を日本軍の許可を得て収集し、売買した資金で組織を大きくしていった結果、特地で最大規模かつ最初の総合商社のような企業的組織にまで発展した。取り扱う主要品目は、日本から輸入した特地にはそれまで存在しなかった便利な日用品(洋紙・筆記用具等の文房具品・服飾品・酒類・食料品など)や、日本兵向けの土産物(地図・民芸品など)。他にも日本の飲料や食料を売りにした食堂経営、警備・護衛任務の傭兵派遣、日本軍への生鮮食品の納入、日本への特地民芸品の輸出、レレイの発案による特地初の画期的なスーパーマーケットないしはショッピングモール形式の商業施設『PX』の開設、地方支店(帝都、イタリカ、ログナン、デアビスetc)営業を行うなど、後の行政特区アルヌスを支えるほどの膨大な利益をあげている。雇用形態は日本の方式に準拠しているため、特地側の感覚からすると『度を越したレベル』での好待遇となっている。従業員には帝国語と日本語を比較できる会話参考書が貸与される。各支店との往来を行う隊商を護衛するために雇われた傭兵たちは大半は裏の無い者だが、アルヌスを攻めた元・帝国兵や連合諸王国軍の生き残りも多い。そのような彼らも基本的な組合の雇用条件の良さから(ロゥリィに対する恐怖心もあって)真面目に勤務している。また、傭兵隊とは別にアルヌスの街内部の自警活動などで日本軍(憲兵隊)に協力する者も存在する。ミューティなどが『憲兵(MP)』の腕章を着けており、『日本軍から認められた戦士』として尊敬視されている。デリラのように密偵として入り込んでいる者もいるが、おおよその目的が『日本人の実態調査』という情報収集でもあり、事件になるようなことを起こさず普段の仕事をちゃんとしている限りは問題とされない。

 

『薔薇騎士団』

ピニャが団長を務める赤・白・黄色の薔薇を徽章とした三つの隊で構成される騎士団で、帝国貴族の子女が多く所属している。講和交渉に前後して団員の一部がニホン語を学ぶ研修生としてアルヌスに駐在した。当初『騎士団学校』として開設した際には男女問わず多くの子弟が集まり、訓練を重ねる過程で義理の兄弟姉妹の契りを結ぶなど、身分を超えた繋がりを持つ者もいる。男性団員の多くは成人すると共に卒業して正規軍に移り、残った団員で正式に『薔薇騎士団』として設立された。貴族子女を除く男性団員は貴族子女の団員護衛や歩兵部隊の統括などの騎士団の実務を受け持っているが、教官役も含めた多くがグレイのように『能力はあっても身分から出世の芽が出なかった』という老兵も多く、年寄りの隠居所扱いされるなど騎士団が『ごっこ遊び』と軽視されていた原因のひとつだが、古参の兵からの実地指導を受けた団員たちの能力は高い。貴族子女である彼女たちを相手にした情報収集を目的として、組合食堂には「女中と執事」と呼ばれるウェイトレスとウェイターとして会計監察課が常駐していたが、彼女たちの特殊な芸術であることに関しては『腐っていやがる』『報告書にどう書けば良いんだ?』と困惑していた。帝国ー大日本帝国間の交渉が始まると副大臣一行の宿泊する翡翠宮の警護に就くが、カーゼルとシェリーを出汁にして干渉してきたオプリーチニナとの戦闘に突入、正規軍を逐次投入してくるゴリ押しに多数の戦死者・負傷者がでるが、日本軍の援護もあってなんとかイタリカまで脱出する。

 

『連合諸王国軍(コドゥ・リノ・グワバン)』

エルベ藩王国、アルグナ王国、リィグゥ公国等、フォルマート大陸に存在する21カ国による総勢10万にも及ぶ連合軍。モルト皇帝の『異世界から侵攻してきた軍(日本軍)からフォルマート大陸を守る』という大義名分の元に召集され、帝国軍と合同でアルヌスを攻略するとされていたが、実際は、異世界侵攻に失敗によって帝国軍が大損害を受け、周辺諸国に対する軍事的優位が消失したことで反乱が起こるのを防ぐため、周辺国の軍事力を削ぐのが目的だった。そのため、諸王国軍には、帝国軍が『門』を使って異世界に侵攻したこと、それが原因で異世界の軍(日本軍)が攻めてきたこと、帝国軍がすでに敗れていたことは秘密にされ、さらに日本軍の圧倒的な戦闘力などの情報も伝えられていなかった。その結果、連合諸王国軍は日本軍に惨敗し、各国の王を含めた計6万もの戦死者を出して連合諸王国軍は見る影もなく壊滅した。概ねモルト皇帝の思惑通りとなったが、これが周辺国の帝国に対する信頼を失堕させることとなった。また、諸王国軍の生き残りの一部はあまりにも一方的な敗北に納得できず、自分たちに理解できる戦争を求めて半ば正気を失くした躁状態で夜盗化し、イタリカに侵攻するなどの事態を招くこととなった。

 

『帝権擁護委員部(オプリーチニナ)』

皇太子となったゾルザルが設置した組織。銀座事件で日本軍の捕虜となった貴族軍人から構成され、ロシア帝国にかつて実在した皇帝分割資産部と行動理念は同じ。帝権干犯(つまりゾルザルに不満を持つ)した人間を投獄、弾圧する。いわばソ連のNKVD("通称"内務人民委員)のような物。部員はコボルトを象った兜を被り、箒を携帯している(裏切り者にコボルトのように噛み付き、国から掃き出すという意思の象徴)ため、民衆からは『掃除夫』と卑称されている。ゾルザル派に参加した各地の軍にも配置され、督戦隊としての役割も果たした。戦争が拡大する中で帝権擁護委員は権限を拡大し、あらゆる方面に影響力を行使する様になった。又この部隊には、万が一が起きた時にゾルザルを守る部隊としての位置付けもあった。それは、帝国軍の裏切り行為だ。帝国軍の中には帝国軍人やゾルザルの考えに同調しない人間が少なからず存在したから裏切りやクーデターを阻止する役割を持っていた。

 

『リンドン派』

特地魔法学学派の一派。戦闘魔法を研究する学派。導師号所有者は、レレイの師であるカトーと、レレイのみ。リンドン派では最初に身を守る魔法を仕込まれるため、魔導師同士の戦いは相手の防御を打ち破った方の、ケンカや力比べの場合は複数展開している防御の『最後の一枚』を残して破るのが勝利条件となる。特地において、戦争で魔法を兵科として活用することは、かなり昔に廃れつつあった。これは特地における他の兵科の武器兵器類や用兵術が特地の文化水準で相応に進歩したからである。大掛かりな攻撃魔法を行う際には相応の発動準備時間が必要とされ、機動的な速応戦術に向かないため以降戦闘魔法はもっぱら一般兵科の攻撃補佐的な用途にしか使用されなくなった。これが日本軍が特地に来るまでの特地内での戦闘魔法に関する一般的な常識であったが、レレイによって科学技術的概念が魔法学にもたらされ、効果的な戦闘魔法として開花する。

 

『エムロイ教団神官』

神官服は、基本的に黒を基調とした服で年齢が若いほど服に着くフリルの数が多くなり、また、逆に歳をとるごとにフリルの数が減っていき老齢になると、フリルの無いすっきりした感じの服になる他、ハルバートを必ず携えている(大抵の神官は自身の体力に準じたサイズ・重量のハルバートで、ロゥリィほど巨大なモノを持っている者は少ない)。



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種族

どうも皆さん。令和に成って初めての投稿この作品もいよいよ100話目に突入しました。


『ヒト種』

特地側の人類。『門』を通じて特地に漂着した種族の中では一番新しい種族と言われており、一番勢力があり人口が多い種族。元は遥かな昔に『門』を通じて一国家ごと漂着した人々の末裔。平均寿命は60〜70年程度と地球人類と大差は無いが、魔法を使う魔導師が存在する。

 

『ルルド』

土地を持たない流浪のヒト種であり、帝国に服属しないいわゆる「まつろわぬ民」。大陸全体に分散して存在しているが、帝国内では近年、定住生活を余儀なくされている。レレイはこの部族の出身。数千人単位の大集団から家族単位の小集団まで存在。現在はヒト種だけではなく様々な亜人種族も加わっているが、大集団の場合は出産補助や子育てを部族全体でするという形態で行っており、土地を追われた者たちが参加する大きな理由ともなっている。ルルドの中でも古い氏族は銀髪翠瞳をもつヒト種。

 

『亜人』

ヒト種の主観で『ヒト種と交配可能』で、『ヒト種と交流可能な文化水準と知性』を持ち、『ヒト種の意匠を一部に持つ知的生物』の総称。

それぞれが種族特有の優れた能力を持つ部分(高い戦闘力や体力・生命力)を持ち、ヒト種の『魔法』に対して『精霊魔法』を使う種族も存在するが、ヒト種と違って部族単位の自給自足(狩猟や採集)によって生活しているためか種族それぞれの数は少ない。

種族によってヒト種との混血や、それを介した他種族との混血化も進んだ結果、リニエの様に『外見的にはヒト種と区別できない者』もいる。

普通に暮らしていたところをヒト種(特に帝国)などに奴隷として捕らえられる者も多く、こうした場合、耳など二ヶ所以上ある(そして身体機能的には問題のない)種族的特徴部分の片方を切り落とされていることが多い。オークやオーガ、ゴブリンもヒトの意匠を持つが、知性が乏しく凶暴であるため、亜人には含まれず、『怪異』(いわゆる化け物、モンスター)の範疇で認識されている。

 

『エルフ』

極めて長寿で美しい姿をした種族。門をくぐって特地に現れた最初の種族でもある。

精霊種エルフは、あまり他の種族との交流を持つことを好まず結界を張った森に村を造って住んでいる事が多く、テュカの父の様に積極的に他の種族との交流を持つことは珍しいとされている。なお、旅をすることはあっても住処である森へは帰還するという性質がある。実際、エルフの感覚からすると他の種族は頻繁に(ヒト種なら30-40年毎に)代替わりして方針が変わるため、付き合うのが煩わしいといった一面もある。コダ村とコアンの森のエルフたちも、互いの存在を認め合いながらもある程度距離を置いて互いに干渉しないようにしていた。また、自分たち精霊種エルフは他のエルフより優れているという優越意識を持っており、普通のエルフを森のエルフ、ダークエルフを土エルフと蔑んだ呼び方をしている。非常に長寿な種族で、成長はするが、不老であるため親子ともに容姿が若い。従って正確な寿命はエルフたち本人にもわからず、エルフが特地に来た頃の『長老』と呼ばれる地位のエルフが物語中にも存命であるため、一説には無限とも言われる。死因は病死か事故死がほとんどで、長寿に飽きた者が自らを森の苗床としてしまう例すらある。森の守護神と呼ばれている。とにかく寿命が長く、どのような技も技術も普通にやっていればいずれは完全に習得できるという感覚がある。そのためヒト種のように物事に執着したり一生懸命に練習するという習慣がなく、むしろ物事に執着することは良くない習慣であるという文化がある。実際、色々な技や技術に非常に長けているが、自らは『頑張って練習した』『努力して身につけた』という感覚がまったくない。そういった文化であるため、ヒト種に恋をし、ヒト種の習慣を理解しているテュカは一族の中でもかなり特殊であると思われている。

 

『ダークエルフ』

エルフ族の亜種。エルフと同じく森での生活を好む。褐色の肌をもつ。ヒト種の10倍以上の寿命がある。女性は細身のエルフに比べて肉感的な体型をしている。ボンデージファッションに似た民族衣装を纏う。未婚者は性的に奔放である。本作では炎龍の狩場となったシュワルツの森に暮らす部族が登場する。同部族が炎龍を撃退した伊丹の噂を聞きつけ助力を求めるためにヤオを派遣する。ハーディーを信仰していたが炎龍襲撃の原因と知って棄教する。炎龍編後に多くのダークエルフが現金を求めてアルヌスへ出稼ぎに来ており、日本軍に雇用された他のキャラクターも散見するようになる。

 

『ワーウルフ』

直立した狼のような姿をした亜人。身長は2m前後。極めて高い身体能力を持つ。ヘヴィメタルに似た曲に合わせて遠吠えをする音楽文化を持つ。作中ではアルヌス傭兵団に多く見られる。多くが傭兵業で身を立てており、出稼ぎにでている。ウォルフたち『ヴォルシャンツの森』出身の者も傭兵としての報酬の一部を上納金として里に送金する義務がある。

 

『ヴォーリアバニー(首狩り兎)』

ウサギに似た耳や尻尾を持つ亜人。男性は極めて稀で他種族と交わりで子孫を増やす。異種族と交わっても混血にはならず同族の子供が生まれる。同族同士から生まれた者を尊び、その中の女性のから女王を選ぶ。結婚の概念がなく恋人関係が終了すると別離する。恋人への貞操観念は強いが、異種族に交配相手を求めることから淫乱な種族であると誤解されがちである。戦闘力は高く戦的である。部族間闘争で互いに狩り合うなど種族としての結束力は弱い。ゾルザルの奴隷狩りには団結して抵抗したが敗北した。生き残ったのは奴隷として囚われ、逃れたものは流民となった。最後の女王テューレはゾルザルの奴隷となった。流民の一部がフォルマル伯爵領に流れ着き、先代伯爵の好意により土地を与えられて暮らしている。作中ではフォルマル伯爵家のメイドやアルヌス協同生活組合の売り子、または帝都悪所街の売春婦などに多く見られる。

 

『キャットピープル』

猫に似た亜人。高い跳躍能力や俊敏性を持つ。言葉の語尾に『にゃ』をつける。女性はその容姿からヒト種から性的欲求の対象として見られる事が多いため、ヒト種とは一つ距離を置くような態度をとる。だが、一旦好意が深まると人目のある場所でも好意の対象にまとわり付いて離れないという異性に対する独占欲が非常に強い。

 

『メデュサ』

ギリシャ神話のメデューサによく似た種族。蛇のような触手状の頭髪を使い人間の精気を吸い取ることで栄養を摂取し、その際には相手に例えようもないぐらい快楽を与え、その記憶すら読むことができる。首を切られても頭部のみで生存することができ、頭髪で移動する事も可能で、その際に他の人間の精気を吸収することで首から以下胴体・四肢を再生させることができる。その時、吸収した精気の量で身体的に成長してしまう場合がある。このような怪異に近い性質を持つ知的種族であるため、特地では非常に忌諱さら迫害された時代があり現在ではその数も非常に少なく、絶滅危惧種となっている。前迷の生態もあって首から下は付属品的な感覚があるのか、羞恥心の概念を持っておらず、アウレアも服を着るように指示されないと服を着ようとしない。



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いざ!クナップヌイへ

この日、伊丹達は、クナップヌイの調査に向かうため飛行場でヘリに乗りクナップヌイに向かうのだが、この日はあいにくの雨だった。

 

「こんな天気の日に出発なんてぇ、先が思いやられるわぁ」

 

「初めて空を飛ぶ日なのにねー」

 

「シュンランという仕掛けだな。飛んでいるのはよく見ていたが」

 

「・・・楽しみ」

 

「ハーディの奴ぅ、何を見せようというのぉ?」

 

そんな中、飛行場の倉庫の中では伊丹とピニャが居た。

 

「あの〜本気で俺たちと一緒に来るんですか?」

 

「無論だ。妾も冥王ハーディの下されたお告げが気になるからな」

 

「殿下自らわざわざ行かなくても」

 

「(それなら俺なんか行かせないよぁ・・・)ま 命令ですからね。星の並びに異変が出てますし、それがハーディが作ったって言う『門』と関係あるのなら・・無視する訳にもいかないでしょ」

 

「うむ、門や地揺れに関係あるのなら妾も確かめねばな」

 

「はぁ・・・」

 

「それに・・・"もう政は嫌だ"。帝国の為にした事を皆から責め苛まれるのは懲り懲りなのだ。イタリカに居たく無い・・・・」

 

自身が良かれと思って帝国為を思ってやった事が全てが無駄であり、先のゾルザル達主戦派の議員に罵詈雑言を浴びせられて完全に打ちのめされてしまったのだった。そして今後一切政治には、関わらないと決めたのだ。

 

「けど、殿下は皇太女に成られたのでしょ?皇太女である以上は皇帝陛下のそばに居なくていいんですか?」

 

「妾は受けたとは言って無いぞ。イタミ殿は・・・・妾が邪魔なのか?」

 

「え?そんな事は・・・」

 

と伊丹の歯切れの悪さに、突然ピニャは体育座りをしながら泣き噦る。

 

「やっぱり!妾はついででしかなかったのだ!道理で邪険にされる筈だ!」

 

「はぁ!?」

 

「兄様達から見捨てられた時、イタミ殿から差し伸べららた手・・・・救世主となる騎士が現れたのだ。リサ様の描く絵草絵の様に、あの瞬間、妾の全てを捧げ、いや、奪われたいと胸が高鳴った!はっきり言って萌えた!妾が男でなかったのが悔やまれる」

 

「おい、何勝手な想像してくれちゃってんの!もぉー何でも其方に持って行くんだなぁ、ピニャ殿下のブレなさだけは認めるよ」

 

後ろの方では、大場、ロゥリィ 、テュカ、レレイ、ヤオが遠い目で伊丹を見てヒソヒソと話していた。

 

「うわぁ 父さんって、将来そうなるのね・・・・」

 

「と言うか、あれがピニャ殿下の理想の図なんだなぁ。俺、ピニャ殿下の趣味は分かっていたつもりだったんだが改めて聴くとまさかこれ程とは・・・」

 

「そっとしといてやればぁ あの女はぁ色んな意味で手遅れみたいだしぃ」

 

みんなのヒソヒソ話を聞いて伊丹は焦りながら皆を静止させようとする。がピニャの暴走は止まらない。

 

「いや ホント!勘弁して下さいっ。俺 そう言う趣味ないのでっ」

 

「あの時、『ピニャ!来いっ』と叫んで下さった時、妾は、妾は・・・」

 

「ちょっ 俺 そんな事言ったっけ?ストップ ストーップ!」

 

「なのになのに、それなのに・・・・妾がついでだったと知った時の・・・・ガッカリ感、罵ろにされた感、没落感・・・・分かるか?」

 

「いや〜全然(皇帝の方がついでって言ったよなぁ)」

 

だが、そんな事を忘れてしまったかのようにピニャは不貞腐れながら両頬を餅みたいに膨らませていた。

 

「よいか想像してみよ、豪雨の中・・・泥の中跪き頭を垂れて泣き叫ぶ傷ついた妾」

 

だが、その時一瞬自身の手の指の爪が割れる想像をしてあまりに痛そうだったのでやめにした。

 

「爪が割れるのは無しにしよう」

 

「あ 実際じゃ無いんですね」

 

「寝台で泣きながら枕を叩きのめしはしたぞ」

 

伊丹は、今度は寝台でワァワァ泣きながら枕に当たり散らすピニャを想像する。

 

「どうだ?そなたに妾が与えられた苦しみ分かったであろう」

 

「・・・・で?次の場面は?」

 

「勿論 そなたが非を認めて妾の機嫌を取るために、剣を捧げて忠誠を誓う場面だ」

 

「非を認めろ・・・ですか?」

 

「そうだイタミ殿」

 

「剣って言ったて、今あるのは腰にある軍刀ぐらいだぞ?」

 

「それでいいだろう」

 

「あ〜そだ、積み込みの指揮を・・・」

 

「終わりましたよ、伊丹隊長」

 

一方で、ヘリではヘリに物資を積み込む作業が行われているのだが、

 

「まだ、積むんですか!?こんな重そうな鉄の塊が空に浮かぶなんて!信じられません!馬車で行くんじゃダメなんですか!?レレイさん イタミ卿に言ってください!のんびり クナップヌイまで行きましょうよぉ やめて!お願い許してっ 重くしないでーっ」

 

ギャァギャァ騒ぐハミルトンを無視しレレイは、春嵐改の操縦席に向かう。

 

「帝都より遠いなぁロンデルの手前で給油するしか無いなぁ」

 

「九七式輸送機が燃料を投下してくれるそうです。向こうの方は晴れているんですかねぇ」

 

「ん?」

 

ヘリの操縦席をじっーと見つめるレレイに、

 

「興味があるかい?」

 

「空を飛ぶ魔法への応用を考えている」

 

「そうなれば本物の魔女だねぇ、やっぱり飛ぶ時は箒に跨って?」

 

「ほうき?イヤ」

 

「・・・ですよねぇー。あんな細い棒に女の子が跨るのも・・・・」

 

何か変な空気になってしい全員が全員黙り込んでしまった。

 

「イタミ殿。何も言うてくれぬのか?」

 

「うっ・・・いや その・・・」

 

「さぁ さぁ さぁ」

 

『短間隔集まれ!』

 

号令がかかって兵士全員が直立不動の姿勢をし、伊丹と大場は、今村大将の前に出て敬礼をする。

 

「クナップヌイ調査隊、出発準備完了しました!」

 

「命令が有ればいつでも出発出来ます!」

 

「うむ ご苦労伊丹中尉 大場大尉。ピニャ殿下ご協力感謝致します。こちらは今回の調査に同行する。京都大学教授で生物学などを研究している漆畑教授に、帝国大学付属東京天文台の白位博士に、東京帝国大学の物理学の権威である養鳴教授、それと従軍記者の栗林さん」

 

各有名大学教授や従軍記者として同行する栗林の妹菜々美の姿があった。それぞれ順番に自己紹介をしていく。

 

「漆畑です」

 

「私は白位」

 

「養鳴だ」

 

「兄がいつもお世話になってます」

 

と一通り挨拶を済ませる。

 

「記者も同行するんですか?」

 

「儂らが直々に調査するのだ。記者が注目せんはずなかろう!」

 

「お邪魔しない様にしますから、専門家が特地に入るの初めてですし」

 

と菜々美は深々とお辞儀をする。そんな時養鳴と名乗る教授が今村に話し掛ける。

 

「ところで今村大将、なぜ儂の紹介が最後なのだ?儂は、 帝大講師であり、帝大教授であり、学習院出の華族・養鳴家男爵なのだぞ!」

 

《華族制度》明治2年に出来た日本の貴族階級制度で華族とは、天皇に仕えていた公家や幕府の大名などに与えられた貴族階級の事。この時の日本には、未だに華族制度が存在し、職業の自由はなく、恋愛も禁じられ結婚は同じ身分もしくは親が決めた相手としか結婚を許されない。そんな養鳴家は江戸時代に江戸幕府の大名として仕えていた家柄。そして養鳴教授は、家柄や才能第一主義なのだ。

 

「・・・これは飛んだ失礼を致しました私は士族出身ですので自分の身内ということで、色々と最後にさせて頂いております」

 

「何だ貴様士族出身者か?」

 

「私の祖父は仙台藩士でした」

 

《士族》とは、華族と同じく明治2年に出来た階級制度で主に、幕臣(幕府に仕える武士)や藩士(藩に仕える武士)の者や華族とされなかった者に与えられる身分階級である。今村の家は、戊辰戦争時に仙台藩参謀を担った名家なのだ。

 

「おおっそうかそうかうむうむ。身内扱いかならば仕方ないなあっはっは」

 

(何だかなぁ)

 

(今村閣下って士族だったの!?)

 

「うっそ」

 

「むっ むむむ・・・これに乗るのか!?華族であるこの私が、狭くてすし詰め状態のヘリにか!?」

 

と突然養鳴が今回乗るヘリに対して文句をつけてくる。そして漆畑はエルフであるヤオとテュカをまじまじと頭からつま先まで観察していた。

 

「ほうほうほうほうほうほう、なるほど 生態系の発達環境がこちら側と同じならば、知的生命体は人と同じかそれに近いのかもしれないなぁ・・・・・今村大将、この二人を実験体として貰えないかい?」

 

「それは出来ません。漆畑教授 その二人は現地協力者ですから」

 

更に白位は、特地での見たことの無い異世界の星空に興奮して雄叫びを上げていた。

 

「クナップヌイは晴れてるかなぁ、特地の夜空が楽しみだなぁ。むふっ むふふふ・・・撮るぞ 撮るぞ 撮るぞー!」

 

「閣下これが・・・その分野の一流の専門家達ですか?一流の専門家と言う触れ込みだそうですが、こう言っちゃなんですが、ただの変人じゃないですか?」

 

「あの方達は、見た感じはあれだが腕は確かだ・・・おそらく」

 

兵士達は、三人の奇行な行いに不安をおぼえた。

 

「報告では、この世界では星の配列にずれが生じたらそうだな」

 

「そのことなんですけどね、日本でも問い合わせが来てるんですよ」

 

「なんだと!?なぜ発表せんのだ?」

 

「まだ誤差の範囲だからですよ。常識では考えられないでしょう?けど誰かが話せばその噂はあっという間に知れ渡り世間の知るところになるからです。」

 

「つまり『門』の両側で同じ現象が起きていると?」

 

「可能性ですが、私は報告書を読んで『門』が原因ではないかと思ったんですよ」

 

「地震はどうなのだ?」

 

「有感無感含めて日本じゃ四六時中地震が起きてますからね」

 

「世界規模での数字に変化はないのか?」

 

そんな事をしているとヘリは徐々にゆっくりと上昇し地面から脚を離して行く。初めて空を飛ぶ乗り物に異世界の住人であるピニャやハミルトンには衝撃的だった。

 

ド ド ド ド バッ バッ バッ

 

「うわっ うわっ うわっ」

 

「・・・・・」

 

「ええい狼狽おって!なぜ皇軍はあんな小娘どもを乗せたのだ?」

 

「まあまあ 養鳴教授誰だって初めてはあるでしょう、あれでも帝国の要人だそうですよ。領内の通行手形みたいなもんです」

 

「むむ そうだな何事にも初体験は重要だ。致し方あるまい」

 

空を飛ぶ乗り物に初めて乗り騒ぐ異世界人に、養鳴は苛立ったが漆畑の説得でなんとか納得を得た。

 

「キャーッ」

 

「見苦しいぞハミルトン!」

 

とハミルトンに引っ付かれ戒めようとするピニャ。

 

「あの赤毛の女性が帝国のお姫様って本当ですか?」

 

「そうだな」

 

「帝国って戦争してる相手ですよね?こんなに仲良くしてていいんですか?」

 

「いろいろあったんだよ」

 

「そのいろいろあたりを詳しく!」

 

とマスメディアとしての魂が騒ぐのか菜々美がグイグイと迫って質問責めにしてくる。そして伊丹と大場は、何知らぬクナップヌイに気を引き締める。

 

「クナップヌイか。何が待ち受けているのやら・・・・」

 

「もう何が起ころうが驚かないぞ・・・」



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再会

どうもこの作品を始めてもう二年が経ちました。これからも頑張っていきますのでどうぞよろしくお願いします。


上空約8000mの荒れる雲の中を伊丹達一行を乗せたヘリはクナップヌイを目指して飛行していた。

 

「真っ白になちゃった」

 

「雲の中に中に入ったからね」

 

機内での揺れにガタガタと震えてピニャに抱き着くハミルトンと平常心を保とうとするピニャ。そして窓から差し込む光に目が絡み窓の外を見てみた。

 

「ハミルトン窓の外を見ろ!」

 

「な、なんですか?」

 

『わあああ』

 

窓の外には、雲の上を飛行し辺り一面が白い純白の雲の絨毯を思わせる様な神秘的な光景が広がっていた。

 

「て 天界ってこんな風景だったんですね殿下!」

 

「うむっ まさに神々の住まう世界だ!」

 

「全然違うんだけどお・・・・」

 

「イタミ殿!イタミ殿!イタミ殿降ろしてたもれ妾はあの白いフワフワの上を歩いてみたい!」

 

と子供なら誰もが一度は言ってみたであろう"雲の上を歩いてみたい"とロマンチストな事をピニャが言うが伊丹からしてみれば現実的ではない。

 

「は?いや あれ雲ですよ?海の水が太陽の熱で蒸発して出来た水の結晶謂わば実体の無い蒸気ですよ。万が一雲に足を踏み出せば1リーグ近く地上に真っ逆さまに転落して一巻の終わりですよ」

 

「や やってみねばわからぬだろう?」

 

「分かりますよ。確実に死にます自殺と一緒。どうしてもやるってなら止めはしません。自分の見えない所でお願いします」

 

「くっ・・・天界は我ら俗人など受け入れてくれぬのか・・・・」

 

「あれ!?そんな深刻な事?あ 別に罵倒しているわけじゃ無いんですよ?」

 

伊丹がピニャを泣かした事から皆から冷たい視線が浴びせられた。更には、

 

「おい 倉田伍長、隊長がピニャ殿下を泣かしたぞ」

 

「しかも自殺をほのめかしていましたよ」

 

「おおいっ」

 

「最低だな」

 

「ひっどぉい」

 

と周りの皆から軽蔑の眼差しとヒソヒソと非難する。

 

「殿下も皇族なら翼竜で飛んだ事くらいあるでしょ?」

 

「翼竜は雛の頃から育てた者しか操れぬ。第一危ないからと父上が乗せてもくれなんだわ」

 

「・・・・分かりましたよ。だったら今度陸軍空挺部隊の降下訓練にでも参加してみますか?」

 

「こうかくんれん?」

 

「空から傘で飛び降りる軍事訓練ですよ。通常は落下傘一個につき一人なんですがピニャ殿下は初心者ですから教官をつけて一緒に飛んで貰いますが」

 

「ほほう!それは興味深いな!」

 

「やる!やります!」

 

「空の散歩楽しみにしてあるぞイタミ卿!」

 

「ちょっとぉ」

 

「「ピニャ達だけぇ」」「だけ?」

 

とピニャだけ贔屓されて嫉妬したロゥリィ とテュカとレレイが自分達も連れて行けと訴える目で見てくる。三人の押しに負けた伊丹は、

 

「わかったよお前たち参加出来るよう頼んでおくよ」

 

『やったぁ!』

 

(空から落ちるだけのどこが楽しいのかねぇ空という奈落を前に泣き叫ぶあいつらの顔を楽しみにしておくわ俺はぜってぇーなんないけどな)

 

その後、ヘリは途中で燃料補給の為陸地に降り輸送機から投下された燃料を補給し再び高度を上げて飛び立っていく。そしてクナップヌイに近付くにつれて雲が低くなり視界が利き辛くなりヘリは厚い雲の中を飛行を余儀なくされる。

 

「イタミ殿窓の外がまた真っ白になったぞ」

 

「高度を下げてるんです。もうすぐクナップヌイですよ」

 

 

「雲底は何メートルなんだ?」

 

「高度計に気をつけろよ。海軍さんの作った地形図を信じるしか無い」

 

そしてヘリは濃い雲を抜けいく。

 

「うおっ」

 

そして雲の中を抜けると、そこはアメリカの西部劇に登場しそうなモニュメントバレーの様な峡谷が姿を現した。

 

「なんだあれ」

 

「え?なに?」

 

そして窓から峡谷を見ると一部谷の間に白い霧とは正反対の黒い霧が立ち込めていた。その光景はまるで全てをも吸い込むブラックホールの様だった。

 

「有毒ガスでなければいいが」

 

「そうですね」

 

教授らは見たことの無い怪しい靄を毒性の類ではないかと推測する。そして気になった伊丹は操縦席に行き機長に事情を聞き行った。

 

「どうしました?」

 

「あの黒い霧だ。念の為予定の峡谷じゃなくて台地の上に降ろすぜ」

 

「土浦大尉にお任せしますんで」

 

「あぁそれは助かる」

 

航空知識に疎い伊丹は何処か着陸出来る場所を機長に任せる事にした。

 

「あの上なんかはどうですか?」

 

「いや、この辺はだめだ計器がおかしい」

 

「計器が?」

 

「磁場の影響か何かか?計器の数値と見た目が微妙にずれてる」

 

そして、ヘリは丁度良さそうな台地に着陸すると、直ぐ様数人の日本兵が小銃や短機関銃を構えながら降りて来た。すると、辺りからバサッバサッと空気を叩く様な音が聞こえて来た。

 

「た 隊長ぉっ」

 

すると、周りにはハーディの使徒ジゼルとそれを従える多くの翼竜に囲まれていた。

 

「お姉サマお待ちしておりました」

 

多くの翼竜に取り囲まれ皆焦りながらも戦闘態勢に入る。

 

「なんでだぁぁー!?」

 

「あの竜人は誰だ?」

 

「あ 危ないので後ろに立たないで、あの方は冥王ハーディの使徒ジゼル猊下です」

 

「なんとあの方が・・・」

 

下りてきたジゼルが周りの奴にガン飛ばしているとその時、ジゼルは見覚えのある奴に目を止めた。それは他でもない伊丹だった。

 

「てってめぇっ こ この前は世話になったなぁ!!こ こ こ ここ ここで会ったが千年目」

 

「帰るわよぉ」

 

「あっ 待ってくださいお姉サマ!ここで帰られたら主上さんに叱られちまいますーっ」

 

「だったらぁその言葉遣いとぉ態度改なさぁい。神官として緩み過ぎなのよぉ」

 

ロゥリィ にそう言われて、周りからは可哀想な目で見られていた。

 

「おらてめぇらなぁに見たんだっ」

 

「ジ ゼ ルゥ?」

 

「はい、気をつけますですはい・・・・」

 

そしてジゼルは、指笛で数体の翼竜を台地に下ろさせて下りてきた数体の翼竜の顔にに手綱を付ける。

 

「山を下りなきゃなんねぇ・・・・ですので、こいつらに乗ってくれー・・・・ください」

 

「これに乗れと!?」

 

「ギャーギャー言ってないでさっさとそのケツー あ いや、そいつらには言い聞かせておりまするゆえお気軽にお乗りおそばせなされませ」

 

ジゼルは、翼竜に乗るのに躊躇する奴に掴みかかるもロゥリィ から睨まれて慣れない敬語で話す。そして翼竜に乗る二組のメンバーは、じゃんけんで決められ伊丹&ヤオ 大場&レレイ ロゥリィ &テュカ ピニャ&ハミルトンと教授と数人の兵士などと言った感じで決まった。

 

「ヨウジ殿しっかり掴まっておられよ」

 

「お おうこうか?」

 

「あっ 胸なぞがっつり掴まれてもいいのだぞ?」

 

「バカ!んな余裕あるかっ」

 

「余裕?」

 

そしてロゥリィ とテュカはと言うと、

 

「ああ〜あんなにくっついてぇ〜」

 

「うらやましぃ〜」

 

伊丹とのペアに成れなかったロゥリィ とテュカは悔しがりる。

 

「またレレイとペアか。まぁ取り敢えずよろしくな」

 

「・・・・・」コク

 

一方のレレイは黙って頷く表情は顔に出てないが満足そうだった。

 

「よーい 行け!」

 

合図と共に、ジゼルを先頭に翼竜達が次々と台地から飛び立って行く。

 

「お気をつけて〜」

 

「晩飯作って待ってますから夕飯までには帰って下さーい」

 

と留守番組は飛び立っていく翼竜に乗る伊丹達を見送る。

 

「ヤオでよかったぜロゥリィ 達にしがみつく訳にもいかんし」

 

「こ この 此の身が良いと仰るか!?」

 

「ヤオだから言うけどな、俺 こーいうのだめなんだ」

 

「炎龍を討った御身が翼竜ごときを?」

 

「いや、そうじゃないワイバーン自体に抵抗がある訳じゃないこんなの羽の生えたデッカいトカゲと思えば割り切れるよ。触ったりするのは役得と思っているよ実際。・・・・いいか秘密だぞこの際言うけどなぁあいつらには言うなよ?絶対秘密にしろよ!俺 実は高い所はだめなんだよ」

 

「シュンランは平気なのに?」

 

伊丹が高い場所が苦手だとそれを聞いてヤオ意外そうな顔をして聞いて来た。

 

「ああいうのは平気なんだ。けど、こういう話の通じない獣で空を飛ぶのはな」

 

「任されよ此の身は運気が上向いている。聖下からいただいた護符もあるしー」

 

と首に厭勝銭の真ん中の穴に糸を通した首飾りを示す。と同時にヤオは隣を飛行しているロゥリィ とテュカの翼竜を見てみると

 

「主神エムロイあの者の罪をお許しあれ。あの女はぁ自分の行いを理解出来ていないのですぅ・・・」

 

「鎮まれ鎮まれあたしの右手・・・」

 

と般若の様な顔をしたロゥリィ と今にも魔法をかけそうなテュカがものすごい剣幕でこっちを見ていてヤオは一瞬青ざめたじろいだ。

 

「ああっ右手が勝手にー」

 

とテュカはわざとらしく手が滑った感を出しながら風の魔法をヤオの首飾り目掛けて放ち放たれた魔法は刃物の如くヤオの首飾りの紐を斬り裂き糸が斬られた厭勝銭は谷底へと落ちっていった。

 

「護符がーっ」

 

「おおい!?」

 

「ああーっ!!」

 

「バカ!早く手綱を取れ!」

 

「離してくれヨウジ殿!」

 

「だめだ諦めろ!」

 

「いやだ!あれがないと運がっ呪詛がっ」

 

厭勝銭を取りに行こうともがくヤオを落ちない様にヤオを掴み両足で翼竜の首に絡めながら支える伊丹であった。

 

「あれがないと悪い事が起きる不幸になる」

 

「滑る 転ぶ 落ちる。たった今俺が不幸になってんだよぉおっ!!落ちるヤバい 落ちるヤバい」

 

その後何とか目的地の黒い霧の近くまで来たがその間伊丹は只でさえ高い所が苦手なのに厭勝銭を無くし気力をなくしたヤオをずっとつかんでいたのでもうへとへとだった。そして一行は目的の黒い霧を見て言葉が出なかった、

 

「これですお姉サマ」

 

「こ これは・・・」

 

辺りを見渡せば辺り一面黒い霧が立ち込め広野を闇が覆っていた。この様な光景を見て

 

「ひどい・・・」

 

の一言しか出ない。



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余剰次元

送れました。学校が休校になってからバイトに精を出してしまい投稿が遅れてしまいました。


伊丹達一行が今目にしたのは、辺り一面が黒い霧に覆われた荒野の光景だった。

 

「なんだこりゃ・・・」

 

「どういうこと・・・緑の葉まま枯れている・・・!?死んで・・・しまっているわ。黒い霧に触れた生きたし生きるもの精霊までも生の営みを止めている」

 

テュカが辺りを周り黒い霧の近くに生えている植物の葉を手に取ってみると葉は、枯れれば鮮やかな緑色が落ち褐色になる筈だがこの葉は植物としての緑色を保ったまま枯れていた。更には、近く落ちている虫さえも生前の姿形を留めて死んでいた。

 

「死んでる・・・・!?まるでまだ生きているみたい」

 

「腐敗菌まで死んでるって事か?」

 

「放射能ですかね?」

 

「やはり何らかの毒ガスの類ではないか?」

 

「テュカ!皆さんも下がってください」

 

すると、伊丹がテュカ達を後ろに下がらせて伊丹はガスマスクを被り線量計を持って黒い霧に近いて計測する。日本は、大東亜戦争末期に原子爆弾開発実験を推し進め朝鮮半島北部で実験に成功したがその際実験使った実験動物の牛や豚や更には爆心地から数百mの塹壕で身を潜めていた兵士達が放射能を含んだチリや黒い雨に打たれ兵士達は次々と全員が放射能に汚染されてしてしまったのだ。この時はまだ、放射能が齎す脅威に気付いていなかったが汚染された兵士達の症状の不安から放射能に少々敏感になっていたのだ。

 

「放射線量は自然値です」

 

その後も伊丹は、辺りを計測するが放射能は見受けられず自然値のままだった。

 

「あたいが主上さんに言われてここに来た時、こいつはあそこに頭出してる丘までしかなかったです。それが今ではここまで広がっちまった」

 

「もしかして・・・・"アポクリフ"」

 

「計測の結果陰性でしたが黒い霧には触れない様に・・・・アポクリフ?」

 

「・・・・数万 数千万 数億と言われる年月の果て神々が去り、人々もいなくなりぃ世界はゆっくりと虚無の霧に包まれてぇ原初の混沌に帰っていくと言われているわぁ。その虚無の霧の名が"アポクリフ"」ハアー

 

「まだロゥリィたちだっているじゃん」

 

「そうよぉだがらぁこんなものが現れるはずがないのよぉ。ずっとずっとずうーーーっと先のはずなのよぉ」

 

そして、専門家達は、

 

「漆畑君これをどう見る?」

 

「一見するとスモッグのようですが・・・・」

 

「待ちな下手に深く突っ込むとてめぇの指がなくなっちまうぜ?」

 

と漆畑教授がアポクリフに手を突っ込もうとするとジゼルが止め木の小枝をアポクリフの中に突っ込み小枝の葉を握り潰すと粉々に砕けたのだ。

 

「緑の葉が・・・・」

 

「麩菓子みたいに砕けただと・・・・うん、透明度は四〜五センチをというところか、ふむ」

 

すると、養鳴は持参してきたビーカーでアポクリフをすくい上げ様としたがすくい上げる事が出来なかった。

 

「むむっ、ビーカーの中に入り込むのにすくい上げる事が出来ない・・・・!?これは、気体でも液体でもなく・・・・物質とも言えん"影なのではないか・・・・?"」

 

と、養鳴が推測すると記者として菜々美が食い入る様にマイクを向けて聞いてくる。

 

「なんの影なんですか?」

 

「そうと決まった訳ではない。これは余剰次元からの影ではないかと言っとるんだ。似非科学に聞こえるだろう儂もそう思う」

 

「余剰次元?SFや架空小説みたいですね。けど、この霧みたいなのが影・・・・ですか?」

 

「三次元においては、影は平面 二次元と認識されるな」

 

「あ、はい」

 

「しかし立体的に三次元の影が存在するのなら、余剰次元の存在を示唆する事になるのだっ」

 

と説明するが誰一人として養鳴の唱える理論に理解出来ていなかった。

 

「な、なるほどぉ・・・・わかりません」

 

「ええいっ頭の悪い奴!あの説明で理解出来んのかっ、胸にばかり栄養を取られおって!」

 

「ひえええーごめんなさいごめんなさい」

 

と全く理解出来ていない(実際誰も理解出来ていないが)菜々美は養鳴から頭を何度もバシバシと叩かれバカだと罵倒された。

 

「まあまあ養鳴教授この娘は学生じゃないんだから、私もそんな理論初耳ですよ」

 

「そりゃそうだ。儂が今思いついた」

 

「え?どうしました?」

 

と今思いついたと胸を張って言い、皆は唖然となり呆れたが菜々美だけがこの状況が読めていない様だった。

 

『この程度のこと直感で理解せんかーいっ』

 

と菜々美は養鳴からまた怒鳴られ叩かれる羽目になってしまったのだった。

 

 

その後、伊丹は約束通り夕食までにヘリの元に戻り炊事係が作ってくれたカレーを食べていた。中でもジゼルは、カレーライスをたらふく平らげていた。

 

「うめぇ!うめぇぜこれ」

 

(こりゃまだ食いそうだな)

 

(身体の何処にあれだけの辛味入り汁掛け飯を入れる胃袋があるんだもう五杯目だぞ?積んできた食糧此奴に全部食われちまうんじゃ無いだろうな)

 

※辛味入り汁掛け飯→カレーライスの日本語読みの事で戦前・戦時中の日本や陸軍ではアメリカとイギリスと対立していた為英語での会話やアルファベット表記が全て日本語訳にしていたが、イギリス式の伝統にしていた日本海軍では開戦後もカレーライスと英訳が使われていた。

 

伊丹が、ヤオの方をチラッと見る。すると、目が合ったヤオは立ち上がる。

 

「猊下の分お代わりですね」

 

「へぇ〜目と目で通じるんだぁスゴ〜イ」

 

「ヨウジ殿とサカエ殿が何を求めているかここで感じるのだ」

 

「はいはいよかったわねー」

 

「『ヨウジ』殿ぉ?」

 

「『サカエ』殿?」

 

「ヨウジ殿とサカエ殿とともにいる時間もだいぶ長いそろそろ距離を詰めてもいい頃だ。うん、感じるぞ。今夜あたり夜伽の誘いがあるに違いない」

 

「バカ!んな事ないって、あり得ねぇよ!」

 

「ねぇよー、ってかこっち見んな!!」

 

「フフッ ヨウジ殿とサカエ殿の二人は照れているのだ」

 

と必死で否定する二人だがヤオは照れ隠しだと解釈されてしまった。

 

「今夜は見張りがいるわねぇ」

 

「そうね」

 

「了解した」

 

「・・・・・・」

 

とテュカ、ロゥリィ、レレイの三人は苦虫を潰した様な顔をしてヒソヒソと話していた。

 

「あー神様の使徒ってのも大変だねぇ」

 

「・・・・・お前のせいだ」

 

「俺のせい?」

 

「炎龍だよ。あの件で主上さんにお叱りの言葉を贈っちまった。罰としてお前が来るまで、ここで黒い霧を見張れってよぉ・・・・・言われました・・・」

 

「もしかして飯なし?」

 

「雲の上のお人が下の者の飯なんか心配するかっての、最初はこの辺で獲れる物食ってたさ。けどよ、あの霧が広まるとみんな死ぬか逃げちまった。亜人じゃなけりゃ餓死してたぜ」

 

とジゼルは伊丹達が来るまでの自身の苦労談を話した。

 

「あれ・・・・何やってん・・・・スか?」

 

「星の記録をとっているそうです」

 

「ふぅん」

 

ジゼルは、外で天体望遠鏡で星の観測をしている白位に目をやる。一方の養鳴・漆畑教授と助手役の菜々美は、そこから少し離れた所で飯盒炊飯の蓋に日本酒を注ぎながら今後の調査の事について話合っていた。

 

「さて養鳴さんどう調査を進めますかね」

 

「本格な調査隊を編成する必要があるんだろうが、『門』によってあれが出現したと示唆されるなら『門』をどうにかせんといかんという話になるな」

 

「『門』が原因なら閉じる事になるんですか?」

 

「結論を早急に決めつけるなバカモン!『門』という現象が理解不能だというところに、ここでも理解不能な現象が起きとるのがわかって、さらに詳細な調査が必要なことがはっきりしたのだ」

 

「ええ・・・・それなら今門を閉じる必要ないんじゃ・・・」

 

「それを決めるのは政治の領域だ。だが、科学的根拠がなくとも対処を決めることがあるだろう。いずれ起こすかもしれない天災の予知とかな。まさに今地震やら恒星のズレやらあのアポクリフやらの異常が起きとる。何らかの手は打たねばいかん、わかってからでは手遅れなこともあるのだ」

 

「調査せずに閉じる事になったら、それも大変な損害ですからな」

 

すると、養鳴教授は伊丹にクナップヌイ調査の予算が何処から出ているのかを聞く。

 

「今村大将の部下!この調査の予算はどこから出とる?」

 

「特地資源調査特別予算からだったかと」

 

「よしっ 残りを全部こっちに寄こせ!」

 

「は?いや自分の独断では・・・・」

 

「うるさいっなんとかせいっ 研究を進めて黒い霧が余剰次元からの『影』だと考えなれるなら暗黒なる物質に対する議論にも一石を投じられるのだぞっ」

 

「見た目まんま暗黒物質ですもんね。例えば空間に質量以外の何が原因で歪むなら、そこに物質の存在がなくとも重力に似た現象が発生しているはず」

 

と養鳴教授は、特地資源調査予算の予算を全部寄こせと無茶な事を言ってきたが、伊丹は自分一人で決められないと断るも何とかしろと急かすばかりだった。

 

「空間が歪む事が重要?」

 

「むむ?」

 

と初めて聞く理論にレレイが興味を示した様で、養鳴教授はニヤ笑いを浮かべる。

 

「うむ、こちらに来たまえ説明しよう。よいか?このシートを空間とみなす、見ての通り真っ平で歪みの無い状態だ」

 

「あ」

 

と養鳴教授は、兵士が携帯していた九七式手榴弾を手に取りそしてヘリの仮設シートを開きその上に手榴弾を置く。

 

「しかしここに質量のある物質が存在したとする。物体の質量によってシートがたわむこのへこみこそが引力なのだ」

 

「・・・・物が下に落ちる現象はこのたわみ・・・・傾斜によって起こる。ならば質量が存在すると必ず引力・・・・が発生する」

 

「うむこれが万有引力だ」

 

「万有引力・・・・」

 

すると、養鳴教授はズボンのポケットからビー玉を取り出した。

 

「ビー玉ですか」

 

「科学や実験と言うのは一種の遊び心から来ているんだ。だからいつも持ち歩いてるんだ」

 

「もうそんな年頃じゃないですよ教授」

 

養鳴教授は、ビー玉をコイントスの様に指で弾く。そしてビー玉は、手榴弾の重りで出来た歪みに吸い込まれる様に転がっていた。それを見てレレイは、自分なりの理論を問う。

 

「物の存在は空間を歪ませる。・・・・その質量と大きさによっては空間の穴が開いてしまう事もある」

 

「こりゃまた・・・・」

 

「君君 この娘連れて帰っていいかね?」

 

二人ともレレイの観察力に驚き漆畑教授はレレイをスカウトする。

 

「本人が良ければいいですよ。直ぐには無理でしょうけど、因みにそれでも学者先生でしかも魔道士です」

 

「それに、まだ年齢も15歳ですよ」

 

「なんと15で魔道士!?儂の研究室に来るがよかろう。科学と魔道は表裏一体と思っとるしな」

 

「あ ずるいですよ養鳴さん」

 

「どちらの研究室がこの娘に相応しいかだろう?」

 

と養鳴教授と漆畑教授の二人はレレイをヘッドハンティングしようとする。

 

「さて質量が無ければ歪みの無い平面であるが・・・」

 

すると、養鳴教授はシートの下のを摘み再びビー玉を転がす。ビー玉は歪みの周りを何周も回転しながら周り最後に摘んでいる中心に止まる。

 

「見ての通り重力を発生させる質量は無くとも重量に似た現象がここに発生したわけだ」

 

「でもあそこじゃ特に重力が変だとは・・・・」

 

「そりゃそうだ。ここには大質量たる大地があるからな、歪みもわずかで体感できるほどでは無い」

 

と長々とした養鳴教授の理論を聞いていた周りの反応は、

 

「空間の歪みスかぁ」

 

「シート一枚で空間がどうとかよじょー次元がどうとかって・・・・」

 

と周りの日本兵達や同伴していた記者も教授の説明にいまいちピンとこない様だった。

 

「ま、頭の悪いお前達に理解は無理だろうな ワハハッ」

 

としてやったりといった感じて高笑いをする養鳴教授。

 

「問題は余剰次元を認識する困難さだ。儂らは横、縦、前後の三次元三軸と過去から未来と時間軸に縛られておる。そのどれでもない別種の『方向』など想像出来ん。既在の軸は共通して任意の点Pから正負双方向に無限大の広がりを設定出来る。その三次元時空は一次元 二次元と言ったこれら異次元の下位次元を内包して時間軸を進んでおる。ならば、その上位次元も同様の性質を持つであろうな」

 

「そうその通り、それならば私に説明できる」

 

とレレイが言うと

 

『な、なんじゃとー!?』

 

とそれを聞いて養鳴教授は辺りに響く大声を出した。



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三次元

「な、なんだとー!?ち、ちょっと待ちたまえ!お嬢ちゃんは上位次元の要素を理解しとるのか?」

 

レレイが次元を理解出来ると言う事に声を荒げる養鳴。

 

「そもそも魔法とは、三次元の外側に働きかけて物事を成す方法。三次元の外側にはエテルが存在している」

 

「エテル?それってエーテルの事か?」

 

「そうとも呼ばれる」

 

「あぁ・・・もう分かった続けなさい」

 

と養鳴に言われレレイが自身の理論を続ける。

 

「この世界の外側にはエテル・セテル・ケテル・フェイテルなど様々な方向軸が存在している。厳密に言えば外側ではなく重なっているが我々には感知できない。重なっているので物を投げれば落ちる三次元でこんな事が出来る」

 

そう言うとレレイは魔法で紐を頭上に浮かべて円形の輪を描きながら説明する。

 

「三次元の『現象』を切り離し『虚理』の支配するセテルに働きかけている。シートの裏には摘むのと一緒重力に関わりなく物を浮かせるのが可能」

 

「すごい・・・」

 

「だ、だが、どうやって・・・・」

 

「三次元とセテルは重なっているから可能」

 

「重なっている向こう側にどうやって働きかけておる?」

 

そして、レレイは紐をアンフィニ(無限)のマークを描く。そして、周りは固唾を飲んで見ていた。

 

「ここに二つとも存在している。三次元は全ての方向軸に含まれている。別の存在ではないすべてがここにある」

 

「・・・・くっ、肝心なところが半分以上理解出来ん。この娘は特地の世界の知識に基づいて魔法と言う現象を起こしておる。第五そして第六の次元軸に何を選ぶか・・・・儂には判断出来ん!だが、常々『可能性』と言う軸があるのではと考えておるが・・・・・どうだ?」

 

「・・・・可能性とは?」

 

「む、そうだな。SF小説なんぞは並行世界即ちパラレルワールドと呼んどったが・・・・」

 

そんな時伊丹が手を上げる。

 

「はい!知っています!!俺達の生活している地球は一つだけど本当は一つじゃなく次元が一つズレた所にもう一つの地球やもう一人の自分が存在している

世界の事スね?」

 

と伊丹は自身が知るSF小説のパラレルワールドの理論物理学の定義を話す。並行世界通称"パラレルワールド"はとある世界から分岐し、それに並行して存在する別世界の事で、『異世界』や『魔界』や『四次元世界』と違い、パラレルワールドは、私達の宇宙と同一の次元を持つ。SFの世界のみならず、理論物理学の世界でもその存在について語られている。

 

「それはナゥルテルの認識。そこでは世界は紐の様な姿をしていると考えられている」

 

「弦理論?」

 

「むう・・・・まだ決めつけるのは危険だ」

 

「その紐と言うべき存在はナゥルテル上の世界では一本ではない。根源とも言える物から無数に分岐しながら広がって行き、それぞれに下位の次元が内包されている。二つの紐が接した瞬間に出来るのが『門』通常は一瞬開いて一瞬で消える」

 

すると、伊丹や大葉達がレレイの理論を聞いてある事に気づいた。

 

「ん?どっかで聞いたような?」

 

「お父さんあれって・・・・」

 

「ああ、ハーディが言った話だ」

 

それは、伊丹達がロンデルに訪れた際ハーディが言っていた事だった。

 

「むむっ」

 

すると、養鳴は紐を掴んで捻り束てドスの効いた声で叫んだ。

 

「つまり『門』が開き続ける状態とは、二つの世界を束ねていると言うことだな?」

 

「無理矢理『紐』が束ねられていると言う事は・・・・」

 

「世界が歪む・・・・・可能性があるとしても・・・・・」

 

すると、話の内容にイマイチついて来れてない菜々美が先程伊丹が言っていたパラレルワールドについて養鳴に尋ねる。

 

「あのぉ教授?い、伊丹さんが言ってたような違う世界って、本当にいくつも存在するんですか?」

 

「む?そうだな・・・・ある程度の差異は一般的な結果に収まっていくだろう。儂の考える『可能性』が集約されてしまうからだ。どうかな?」

 

「そこまでは理解していない」

 

「わからぬ事は罪では無いぞ。その存在こそ研究への意欲となるのだっ!!よいか?これは白位君の分野にもなるが、惑星間の公転軌道が決まっておるのも小惑星帯が形成されておるのも、各惑星が持つ重力で起こる必然なのだ。ならば!物事の可能性にも同じ様な働きがあるのではないか?可能性世界の差異とは集約される様な微妙な物ではなくはっきりした違いが現れるのでは・・・・"それが儂らの世界と特地の世界がそれぞれ存在しうる理由なのだ"!」

 

と養鳴は日本と特地の存在可能性世界についての己の理論を語る。

 

「結局SFなんじゃないか・・・」

 

「凡人は理解せんでもよい。しかしレレイと言ったな娘!やはり才能のある者こそ儂の研究室に来るべきだぞ」

 

「・・・・・・」

 

(留学した時の事でも考えてんのかな?)

 

とレレイの頭脳に感心する養鳴はまたも自分の所に来ないかと勧誘し、レレイは何やら考え込む。伊丹は、将来的にレレイが東京帝国大学や早稲田大学などの名門大学に留学しようとしているのではないかと思った。そして気分を良くした養鳴は目を爛々とさせる。

 

「よし!儂は今気分がいい。ここで起きとる事を説明してやろう」

 

「あ、はい」

 

「よいか?ここで起きとる空間の歪みを日常的に儂らは体験しておるのだ」

 

「ええ!?その辺に異次元への扉が開いちゃうとかですか?魔の海域"バミューダトライアングル"みたい?」

 

「ええいっ、混ぜっ返すな!オカルト話ではないっ。異次元空間など存在せん!我々が存在するには三次元時空が必要でありその中でのみ存在が許されておるに過ぎんっ」

 

「ひいい」バシン

 

と三次元と異次元を一緒にされて怒った養鳴は又しても菜々美は頭を引っ叩かれ怒鳴られると言うダブルパンチを喰らう。

 

「扉を潜れるとしてもその先は特地の様な違う可能性軸上の三次元空間になるのだっ」

 

「じゃあ、次元断層とかないんだ」

 

「空想世界の住人は同じく空想世界でしか存在出来ないって事・・・・か?」

 

気を取り直して養鳴が説明する。

 

「話を戻そう。例えばこの地面平に見えてその実地球と言う球体面上だな?あまりに巨大な為歪みを無視出来るにすぎん。メルカトル図法上の大圏コースとされる地図上の最短距離を見よ。見事に曲線で描かれておる。三次元の球面を無理矢理二次元の平面にした為に空間が歪んでしまったのだ」

 

「半日でどうやって確認出来たんですか?」

 

「うむ、カメラマン!あそこで何枚か撮って現像した写真を出せるか?」

 

「出せますよ?ちょっと待っててください」

 

「これでもない、これでもない。有ったこれだ!」

 

養鳴はカメラマンから何枚かある写真からお目当ての写真を見つける。それは、養鳴と漆畑が巻き尺で計測しているようだった。

 

「結局これが一番わかりやすかったよ」

 

「何スこれ」

 

「教えて下さいよ教授〜」

 

「何を測っておるんです?」

 

周りは何をしているのかさっぱりわからないと言った感じで、養鳴はレレイなら理解出来ると思い聞いてみた。

 

「わかるかなお嬢ちゃん」

 

「二点間の長さを測るなら計測索は直線であるべき。だけどこの絵では曲がっている」

 

「その通り。儂と漆畑君はピンと巻き尺を張ったつもりだ。正常であればこの直線が二点間の最短距離になるな?ところが見ての通りだ。何故曲がっているんだろうな」

 

地面を測った巻き尺が直線では無く曲線で曲っているのか今のところさっぱりわからないと言ったところだった。

 

 

 

その後、女性陣(菜々美を除く)は、仮設テントの中で寝る準備の為着替えていた。そしてレレイは、如何やらずっと養鳴の理論物理学に付き合わされていたのだろうかすっかり疲れ顔だった。レレイがテントの中に入ると上顎と下顎を左右に動かして歯をギシギシと音を立てながら怒っていた。

 

「くやしいぃっ!!ハーディの嗤い声がぁ聞こえてきそう〜。アポクリフが世界を覆い尽くす前にはぁ門を閉じなければならないわぁ。問題はぁ全ての人間がそう思わないことよぉ」

 

「そうね。門で食べているアルヌスの組合はみんな反対するわ」

 

とアポクリフが世界に広がらない様にするには、門を閉じなければならないだか、アルヌスに住む人達は日本軍の援助の元生活が成り立っていたので、門が閉じると言う事はそれらが一切途絶えてしまうので住民達から反発があるだろうと懸念を示している。

 

「だからぁ人間がどうするか見てみたいなんて言ったのよぉ、ハーディのやつぅ」

 

「あれを見れば普通どうにかせねばとなるだろう?」

 

「門を閉じても再度開く事は可能。説得は不可能ではない」

 

「ホント!」

 

「冥王から報酬としてこれを授かった。触媒として使えば世界を繋ぐ穴を開ける事が出来る」

 

とレレイは、自身の鞄からハーディがレレイに憑依した時に伸びその後切り落とした髪の束だった。

 

「ちょっとぉ待ちなさぁいそれ使ったらハーディの眷属になっちゃうわよぉ!?」

 

「何が問題?」

 

「うっ!み、身内がぁハーディの眷属と見做されるなんてぇ気分悪いじゃない・・・」

 

とハーディを嫌うロゥリィからして見ればレレイがハーディの眷属になるのは良しと出来ない。

 

「また、アポクリフが起きたりしない?」

 

「発生原因は門を開きっぱなしにしたせいと示唆されている。適宜開閉すれば歪みも蓄積されない」

 

「なら閉めちゃっても大丈夫なのね?」

 

「レレイあなたぁ!あなた死ぬまで門番やるつもりぃ?」

 

アポクリフが広がらない為には、門を一度閉じる必要があるそうする事で門に対する負担を減らしてから開門する。しかし、そうなれば開閉する為の門番が必要となるロゥリィはレレイが一生門番をする事を心配する。

 

「そのつもりは無いだけど問題がある。無数にある世界からニホンのある世界を見つける方法が・・・・・ない。それに門を閉じるとナゥルテルが荒れる。落ち着くまでどれだけ掛かるか分からない。さらに向こうとこちらで時間の流れの差がある」

 

「門が開く頃にはこっちが陞神しちゃってたりぃ」

 

「お父さんがお爺さんになったりするって事?やっぱりダメ!」

 

レレイにとっては、これは一か八かの賭けだった。成功すればアポクリフを抑える事が出来る。失敗すればアポクリフを抑えるどころか門が二度と開かないどころか消滅するかも知れないのだ。

 

「・・・・・主上様の言った通りだ。」

 

「何がぁ」

 

「主上様は人間が決められないと仰ってました。この世界の行く末と自分達の欲得がぶつかって結論が出せないだろうって、だからこそ神が災禍を持って結論を突きつけるのだ。お姉様!何をしなければならないかもう分かってらっしゃる筈です」

 

「く・・・」

 

とジゼルにそう言われてロゥリィは、苦虫を噛み潰したよう顔をする。

 

「二人のことは心配ない。門の再開を条件にすればニホン政府は彼ら二人くらい差し出す筈。その為には私だけが門の開閉を出来る事にしておきたい。此処に居るみんなも賛同してくれる筈・・・・くくくっ、うん?何?」

 

「な、何でもないわぁ」

 

レレイは、服の下に着ていた鱗の鎧がシャンディの襲撃の際に穴が空いたところを裁縫道具で縫い合わせその最中に裁縫針を見ながら不気味な笑いを浮かべ周りから不気味がられる。

 

「あのレレイ殿?今の話だとご自身が政争の具にされかねないか?ゾルザル兄に知られたら再び命を狙われてしまうだろう」

 

とピニャはレレイが権力者達に利用されるのではないか、はたまたゾルザルから再び命を狙われるのではないかと懸念する。

 

「仕方ないが秘密には出来ない。一旦門を閉じるには門を再開出来るのをニホンや組合が知っている事が条件」

 

「だが、帝国正統政府は間違いなく反対するぞ。父上・・・・皇帝陛下だけで無くかつての妾でも」

 

「どうして?」

 

レレイが、理由を尋ねるとピニャの側近ハミルトンがピニャの代わりに説明する。

 

「それはですね。正統政府にとってアルヌスのニホン軍が頼みの綱だからです。軍事力の空白が死命に関わります。我々にとってもあの粛清の嵐を体験した者達にも」

 

「帝国とニホンって戦争してたんじゃないのぉ?」

 

「状況が変わりました」

 

「じゃあ、いっその事ぉゾルザル倒しちゃうぅう?」

 

とロゥリィは、ハルバートを振りかざしてゾルザルを始末すると提案するが、ピニャはゾルザルを倒してもまた新たな敵が出るだけと言う。

 

「聖下が断罪なさっても父上がレレイ殿を狙うでしょう。ゾルザル兄様が居なくなればニホンは邪魔者。父上を倒しても成り代わった者がその立場ゆえ必ずレレイ殿を狙います」

 

「もうピニャが皇帝になっちゃたら?」

 

「妾は政はもう懲り懲りなのだ。女帝になったら妾がレレイ殿の抹殺令を出さねばならなくなる」

 

とティカがピニャが皇帝になればと冗談半分で言うが、ゾルザル達徹底抗戦派の抗争に巻き込まれたピニャは政治とは関わりたくも無く例え女帝に成れたとしても周りの意見からレレイの暗殺をしなければならないとうんざりした感じで言う。

 

 

 

「くやしいぃハーディの奴こうなる事分かっててぇ・・・・恩を仇で返してぇ」

 

「迷う必要はない」

 

「レレイ殿?今、御身の命に関わる事を話していたのだぞ?」

 

「大丈夫。あの二人が守ってくれる。約束したから『ヤバくなったら何とかしてやる』って」

 

「ははぁ、ロンデルで守って貰ったからでしょ」

 

とティカに茶化され顔を赤くするレレイ。

 

「やっぱり、お父さん達が自分達を放り出してニホンに帰っちゃうとか考えてないんだぁ」

 

「それはきっと私より大事な何が起こった時」

 

「でももしそうなったらレレイはどうするの?」

 

「黙って死ぬそれが愛する者ゆえ」

 

とレレイは、何か有れば自害すると語る。よっぽどの事でない限り言えない言葉だ。

 

「すごい信頼・・・・」

 

「レレイって重い女だったのね。カァー泣かせるね」

 

「重い?私が?」

 

と感心するヤオとレレイの気持ちの重さに驚くティカ。

 

「そういやさっきから何やってるのぉ?」

 

「穴を塞いでいる必要だから」

 

「穴?どこ?」

 

とロゥリィが鱗の鎧の補修しているレレイに何をしているのか覗こうとする。すると、突然ロゥリィがレレイの服を掴んで捲り上げた。

 

「な・・・・何?何?何?」

 

突然のことに赤面して動揺するレレイ。ロゥリィは、レレイの腹を突いたり摘んだりしてくる。

 

「少しぃ・・・・増えた?」

 

「え・・・・ええ!?」

 

「痩せなきゃ・・・・(あいつ人の体だからって好き勝手食べて・・・)」

 

その後のレレイはダイエットの為過度な食事制限や運動をして元の体型に戻そうと努力する。



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秘密

養鳴とレレイの三次元討論の後の自由時間ヘリで寝そべっていり大好きな読書をしている時倉田が話しかけて来た。

 

「隊長達は、どうするんですか?」

 

「何が?」

 

「どうした?」

 

「門を閉める事になったらですよ。俺、こっちに残ってもいいですかね?」

 

と倉田が突然門が閉じる事になったらこの世界に残ると言ったのだ。突然の事に伊丹と大場は、うまく飲み込めない様だ。

 

「んん!?倉田?何を突然言い出すんだ!!」

 

「いきなりどうしたんだ!?」

 

「いや、そのペルシアとですね。最近結構いい感じなんですよ」

 

「何だ何だ惚気話か?」

 

「お熱いですこと」

 

「規則違反だぞ・・・・って富田もいるんだよな」

 

「地道な努力の賜物なんだぜ」

 

と倉田はペルシアと仲良くなる為に必死で特地語を話せる様にして更には読み書きを出来るまでマスターしていたのだ。

 

「特地語覚えて手紙攻勢してたもんな、まぁほとんど空振りだったけどな」

 

「あと贈り物に結構な額注ぎ込んでいたし」

 

「そうそう、女の子の好きなもの色々と工夫して贈ったんだけど・・・」

 

と倉田は愛も変わらずペルシアに猛烈アタックし続け、更にはプレゼントまで贈っていたのだ。

 

『すごーい!きれーい!』

 

と倉田がペルシアに色んな物をプレゼントしたのだが、贈ったプレゼントで一番喜ばれたのが刃渡り数十センチのコンバットナイフの様な短剣だったのだ。

 

「一番喜んでくれたのが、俺の給料数ヶ月分叩いて注ぎ込んで打ってもらった剣鉈で・・・なんか複雑な気分で」

 

「けどさぁ、それだけのために軍を除隊して特地に残んのか?」

 

「辞めたくはないですよ。日本には未練はありますけど、ペルシアと二度と会えない方がもっと嫌です」

 

と倉田は日本とペルシアを天秤に掛けて故郷に帰れないより愛する人に会えない方が耐えられないと言う倉田に周りは、やれやれと言った感じで口元の頬を少し上げる。

 

「たく、一丁前にかっこいいこと言うじやねぇか!」

 

「お前も男らしくなってきたじゃないか」

 

「・・・相手を養うとして生活はどうするんだ?軍を除隊すれば恩給は出るだろうが雀の涙ぐらいだろ?まさかペルシアさんが女中として働いているからってヒモにでもなるんじゃないだろうな!」

 

「いやならないスよ!そうだ!ファルマル家に雇ってもらうってのはダメですかね?日本の知識を提供すれば・・・・軍事とか農業とか」

 

倉田は、軍を除隊したらファルマル家で使用人として働き日本の知識をこの世界で活かせないかと言うと、伊丹が待ったをかける。

 

「甘いな倉田『未来』の知識で内政や軍事が出来ると思ったら大間違いだぞ。その知識は大体は俺達の世界の技術水準に基づくものだ。おまけにこの世界は日本ほどじゃないが身分階級社会伍長なんてこっちじゃ二倍給兵並だ。日本人だからって将軍や執政官が簡単に謁見して話を聞いてくれると思うか?さらに現地には現地の歴史と伝統と習慣がある。お前も南方作戦で欧米の植民地だった東南アジアを見たはずだ。未整備の土地を、成果を出すのにどれだけの歳月と労力を掛けているか知ったか?農業だってな水路一つ掘るのだって地元民を時間掛けて納得させるんだ。維持の仕方も教えないと台無しだそれを全部非営利でやるんだぞ・・・・とまあ、俺だって一通りの事は考えたんだよコダ村の連中に任せろなんて言っちまったからな。んで、やっぱ門外漢の俺には無理ってなったんだ」

 

「けど、アルヌスの組合はうまく行きましたよね?」

 

「あれは経済観念が特地と一緒だったからだよ。いい品を仕入れ高く売ってただけだ特権があったけどな、こっちに残るのは止めはしない好きにしろ。ただな倉田、女との契約が終わりじゃない始まりだ。部族社会に入っていきなり三行半を突き付けられる可能性も考えておけ」

 

「何か隊長が言うと説得力が違うスね」

 

「放っとけ!」

 

すると、倉田はある事に気付いた。

 

「・・・・って、隊長達も特地に残るんじゃ!?」

 

「どうしてそうなる?」

 

「訳が分かんねえよ!倉田!」

 

「え?だって・・・・おの娘達どうするんスか?」

 

「あと皇女様も」

 

「あ〜まぁそれは考えないとなぁ」

 

「俺は心当たりがないなぁ」

 

「隊長方・・・・あれだけ相手を本気にさせておいて逃げる気ですか?」

 

と倉田に二人があの四人から本気で好きなのに隊長の性格からして逃げ出すんじゃないかと呆れていた。

 

「・・・無理?」

 

「無理だな」

 

「無理でしょ」

 

「けど俺何もしてねぇよ(あ!仕掛けた事はあったな)そもそも俺婚約者が居るし、俺の本性知ったらあいつらだって・・・・まだ知られてないと思ってます?」

 

「俺は、婚約者はいないがそう言うのは当分いいと思うぜ」

 

「これだからまったく・・・」

 

「いい加減さっさと玉砕したらどうですか」

 

「何か風当たり良くないなぁ」

 

「笹川ぁ・・・・それ酷くない?」

 

と隊長なのに部下からボロクソ言われる始末、だが女をその気にさせてしまったのは事実なのでどうすることも出来ないが。

 

「酷いのは隊長でしょ。例えばあの金髪エルフ?炎龍の件以来どう見ても隊長の事好きでしょ」

 

「テュカは俺を行方不明の親父と重ねて和んでいるだけだ」

 

「銀髪黒エルフは?」

 

「ヤオは俺と大尉に仕えるのがケジメのつもりなんだよ」

 

「インテリ魔法少女は?」

 

「レレイはウブだからな麻疹・・・いや吊り橋効果みたいなものだ」

 

「はいから娘は?」

 

「外見的に手を出しちゃやばいだろ、もうちょい見た目が年嵩だったらなぁ。兎も角あいつは変な生き物でも見る感じで俺に興味持っているだけだ」

 

と結論からして二人は四人の好意に全く持って気づいていない様だった。そこで、倉田は二人に鎌をかけてみることにした。

 

「成る程・・・・じゃあ隊長達はもし俺達があの娘達の内の誰かを口説いたら、どうします?」

 

「ここは、第四戦闘航空団に配属する様命じたらいいのか?」

 

「な、なんだよお前ら・・・・」

 

「審議中です」

 

と倉田達が輪を作ってしばらく審議し始める。

 

「隊長方素直になりましょうよ!二人共はっきりしない態度が一番の罪です」

 

「ここは一つ腹を括って全員と付き合う根性見せてください」

 

「ここの世界なら一夫多妻が許されているんですから。光源氏みたいですね」

 

とそんな事を話していると見張り役をしていた黒川がやって来た。如何やら見張り役の交代の時間の様だ。

 

「そろそろ交代の時間です」

 

「お!次俺らだ」

 

「何の話し合いを?」

 

「いや門の件でな。これから考える事が多くなりそうだなーって」

 

「そうですね。けど、隊長貴方は逃げると言う考えが許されると本気で思ってるんですか?」

 

と屈託の無い笑みの黒川から釘を刺される。黒川は、笑ってはいるがその目は何故か笑っていなく怖く感じる。

 

 

帝都より北東に百五十リーグ大河ローの河畔帝都第二の都市テルタ…ゾルザル派はこの地を帝都に替わる拠点とした。宮殿の執務室ではゾルザルは自分こそが正統な帝国の統治者であるとして、諸外国が帝国正統政府側に付かない様に手紙を送っていた。

 

「父、皇帝モルトは我が元で療養中である。イタリカに逃れたと言う噂を信じてはならぬ!全ては元老院講和派が結託して流した嘘である。我が廃嫡され代わりにピニャ・コ・ラーダが皇太女に立てられたと言う噂も根も葉もない噂に過ぎない。既に承知している事と思うが我こそが正統の皇太子であり帝国の統治は我にある。貴国との関係も揺るぎないと信じるものである」

 

とゾルザルの言った事を隣でで羊皮紙に書取りをするテューレ。

 

「うむ」

 

書き取った羊皮紙にゾルザルの署名をして封蝋する。

 

「直ちにエルベ藩王国国王デュランに届けよ!」

 

「ハッ」

 

とエルベ藩国王デュランの元に手紙を届ける様命じる。

 

「殿下、デュランは帝国とは距離を置こうとしております。果たして・・・・」

 

「イタリカに付きさえしなければ今はそれで良い。次は属州カルパ総督宛だ。・・・・そう総督共だ!彼奴ら約束した兵と怪異を未だ送って寄こさん日和見どもが!離反は起こさぬだろうなアブサン?」

 

「ご安心を各属州にはオープリーチニアを派遣済みです」

 

「・・・しかしまさか、イタリカがこれ程早く挙兵するとはな。ヘルム将軍の作戦は当初はニホン軍には有効だった。だが、帝都への前進しか頭に無いイタリカ軍は避難民を無視して進んでくる。おかげでデュマ山脈周辺の放棄されている大昔の砦に兵を張り付ける羽目になった。遊撃戦どころじゃない、拠点も設けるそばからニホン軍に破壊される。何処ぞで情報が漏れているのでは無いか・・・・?」

 

ゾルザルとって予想外な事が続くばかりだ。イタリカの反ゾルザル派・講和派の挙兵の早さ。そして先の戦いで帝国軍は敗退し、怪異は全滅し帝国軍兵士の戦死や投降が相次ぐ始末、更に帝権擁護委員の隊員の多くが戦死或いは日本軍の手に落ちていった。既に帝国全土で悪名を轟かせていた帝権擁護委員には日本軍側も容赦なく、問答無用で処刑した。ゾルザルは情報の漏洩を疑う。

 

「・・・テューレ、イタリカに密偵を入れる事は出来たのか?」

 

「申し訳ございません。どういう仕組みなのか手の者が屋敷に入ると見破られ策を仕掛ける間もなく次々と失っております」

 

「フン、ここまでダメだとかえってさっぱりするな。敵が一枚も二枚も上手と言う訳だ」

 

「しかしアブサン様と図って一矢報いる策を・・・・」

 

コン コン

 

「入れ!」

 

「失礼します」

 

と古田が料理の載った台車を押して執務室に入ってきた。

 

「おおっもう飯の時間か」

 

 

「ニホンからさらった生き残りを囮にすると言う話だったな」

 

「はい、タンスカに一個軍団を配置済みです」

 

「あそこを使うのか?成果を期待しておるぞ」

 

「ハッ」

 

「さて飯だ」

 

「最近は食が減っておりますがだいぶお疲れのようですね」

 

「わかるか?どうも眠りが浅くてな、お前は侍医どもより俺の体調を把握している。さて中身は何だ?」

 

とゾルザルが鍋の蓋を取って中を見る。鍋の中身は豪勢な料理ではなく、一見するとお粥の様な質素なものだった。

 

「何だこれは!?病人食か?」

 

「取り敢えずお試しください」

 

と古田に勧められてゾルザルはスプーンで掬い上げて口に運ぶ。

 

「む・・・この味は・・・・こんなブルス食ったことがないぞ!!」

 

「十分に煮込んだ蓄獣の骨髄に沸騰しないように煮詰めた蓄乳と麦を加えました。味付けは岩塩のみです」

 

と古田がゾルザルの体調に合った料理の解説をしてゾルザルは、古田の料理を褒める。

 

「さすがフルタだ」

 

「あ!まだ他の皆さんに・・・・」

 

「んぐ・・・・しまった!手を付けてしまったのもこんなうまい物を作るフルタのせいだ!よって、死刑!」

 

とゾルザルが古田を褒めるが、古田が他の者に分ける前にゾルザルが手を付けてしまいそれが出来なくなった。すると、ゾルザルが古田にいきなりの『死刑』宣告を受けた。

 

「面白くなかったか?冗談だ」

 

「き、肝が冷えました」

 

「フン、最近は冗談も気軽に言えぬ。俺の顔色に気付いたのもフルタだけだ。これも権力者ゆえの悩みか。フルタお前は今のままでいろ。この鍋の分は俺が貰う。食が細いなんて言わせん」

 

とゾルザルが冗談だと言うと古田を始め周り側近や将軍達は胸を撫で下ろした。その後古田は執務室を出て廊下を歩いているとテューレに呼び止められた。

 

「待って!」

 

「どうしましたテューレさん?」

 

「殿下がおかわりをと」

 

「あれを全部食べてですか?強がっている様にも見えましたが・・・・分かりました。まだ何か?」

 

「お鍋をひっくり返さないか心配なので、一緒に行きます」

 

「はぁ」

 

そんなこんなで結局ついて来ることになり古田は、テューレと一緒に調理室に向かう。

 

「何よ・・・」

 

「いえ別に」

 

古田はテューレからの視線を感じてテューレの方に振り返る。当のテューレは、古田が振り向くとそっぽを向く。

 

「・・・・ジロジロ見ないで!イヤラシイ」

 

とテューレの胸を庇いながら恥じらう仕草に古田は、赤くなりながらも否定する。

 

「別に見ていません」

 

「うそ」

 

「いえ見ていたのはテューレさんの方では?」

 

「バカ言わないで!なんであんたなんか!!」

 

「・・・そうですよね勘違いですね。失礼しましたお許しを」

 

「ダメよ」

 

「では、どうしろと?前みたいにお話をお聞きすれば・・・」

 

「あれは忘れなさい!!」

 

「そうでした!忘れますっ忘れました!!」

 

とあの時の帝都でのテューレが涙を流しながら話をした時の事を掘り返すと物凄い剣幕で詰め寄って来て『忘れろ』と言ってくきて、古田は、勢いに押されて忘れる言った。

 

(喋り過ぎたわ。帝都から移動中身の上から同族に狙われている事、小汚い自分の部屋からゾルザルのアレな愚痴まで打ち明けてしまった。こいつどうしてくれよう・・・・けど、黙って話聞いてくれるし、言いふらしてんじゃないかと折に触れ見張ってたけども・・・・)

 

その後、古田が調理室でゾルザルに出したお粥をまた作っていた。古田の背後で見ていたテューレが突然声をかけて来た。

 

「今度は貴方の話をしなさい。聞いてあげてもよくってよ」

 

「今ですか?」

 

「そ、そうよ!殿下が貴方の店に興味をお持ちなの!雇い入れる店員とかは考えているの?」

 

「そうですね・・・・やっぱり・・・・テューレさんみたいな人ですね」

 

「わ、わた、わたし!?」

 

と古田がもし自分の店を開くとしたらどんな従業員がいいかとテューレに聞かれて、古田はテューレみたいな従業員が欲しいと答えテューレが戸惑う。

 

「雰囲気的に地元の料理には地元の人が居てくれたらって、テューレさんなら仕事も出来るしあしらい方もうまいし」

 

「だ、だめよ!!私は殿下の愛玩奴隷なのよっ」

 

「ですよね、諦めるしかないか」

 

と自分は、ゾルザルの奴隷だと戸惑いながら拒否し古田も諦めるしか無いかという感じになった。が、するとテューレがそうやって簡単に諦める古田に一喝する。

 

「・・・・なんでそこで諦めるのよ。こ、この根性なし!どうせなら拐って逃げるくらいやってみせなさいよ!」

 

「いや、あの店の従業員の話ですよね?」

 

「自分の店は王国だって言ったじゃない!ならば女将は女王!女王と結婚するくらいの気迫はないの!?」

 

「ま、まぁ、僕が考えている小料理屋なら大抵夫婦でやっているなぁ」

 

「ふっ・・・」

 

「はいこれ」

 

「・・・こんな下世話な話殿下にはお話出来ないわね。所詮夢物語だわ」

 

「下世話って・・・」

 

そんな事を話し古田は、鍋を持ってテューレと共にゾルザルに料理を持っていくべく執務室に向かう。しばらく沈黙が流れる廊下を歩いているとテューレが話しかけて来た。

 

「・・・ねぇ、なにか貴方の弱み教えてよ」

 

「はい!?」

 

「安心出来ないのよ不安なの貴方は私のことを知っているのに私は貴方のことを知らない・・・・フルタの秘密を知ってれば私の秘密も守られているって信じられるのよ!」

 

「さ、最近妙に絡むなと思ったらそんな事で・・・・」

 

「貴方言ったじゃない!助けを欲しい時は助けてって言えばいいって!力になるって言ったじゃない!助けてよっ。この不安なんとかしてよ・・・・」

 

「そうですね・・・・実は僕スパイなんですよ」

 

と古田はテューレの耳元で自分がスパイである事を自ら打ち明けた。

 



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救出作戦

「実は僕・・・・間諜(スパイ)なんですよ」

 

と古田が自分がスパイと告白するとテューレは、目を見開きながら後退りする。

 

「う・・・・うそ・・・・」

 

「では先に行きますね」

 

そんなテューレを余所に古田は、料理の入った鍋を持ってゾルザルの執務室に向かう。一方のテューレは、面食らって立ち尽くし扉に寄り掛かっていると、ボロウが扉の向こうから話しかけて来る。

 

「驚きましたでござりますよ。あのフルタが・・・・?殿下にすら逆らってみせる男ですぞ、ましてや自ら間諜と名乗る間諜なぞおりませぬ。ニホン人奴隷の移送は済んでおりますが・・・・・如何致しますか?テューレ様」

 

「・・・・情報は漏れたかしら?」

 

「あの男が自ら申し出た通りならば・・・・」

 

「・・・・いいわ。それならば作戦はこのまま続行します」

 

「フルタが間諜ならば敵は来ない、罠と知りつつやって来る者はいないという事ですな・・・・?」

 

「それを確かめる為にも・・・・」

 

「やって来たのならばきっと討ち果たしましょう。なれど・・・・テューレ様にとってはフルタが間諜である方がよろしいのでは?」

 

とボロウが言うと、テューレは不敵な笑みを浮かべながら同意する。

 

「そうね・・・・ゾルザルお気に入りの料理人が密偵なんて最高に面白いわ。ボロウ、タンスカの罠は成功させなければなりません、捕虜も欲しいわ。失敗が続くと殿下のご不興を買ってしまいますからね」

 

「畏まりました。フルタが嘘つきである事を祈って朗報をお待ちあれ・・・・」

 

だが、二人は知らなかった。この会話が既に盗聴されていることに。古田は、テルタに着いて間もなく宮殿の至る所に気付かれない様に盗聴装置を設置して情報を味方に流していたのだ。日本では、戦前から情報戦の必要性を痛感し、敵対国に諜報員を送り込んだり日本にある大使館には盗聴装置を設置して各国の動向を探ったりしている。

 

 

そして、その日の夜古田は、今日掴んだ情報をイタリカにいる柳田に無線で伝える。

 

「おもしれぇ名前が出て来たな、ボロウってのは帝国の密偵組織の元締めと目されている奴だ」

 

『予感はしていましたがテューレさんがねえ』

 

「そいつとゾルザルの女が繋がっているのが分かっただけでもお手柄だよ」

 

「彼女は心からゾルザルに従っている様には見えませんが・・・・」

 

「そうかも知れんが今回は本気だ。待ち伏せされているって事だな。さて・・・・拉致被害者を見捨てる訳にはいかんし、然りとて一個軍団相手はきついな、おっと」

 

柳田は、机に積んである地図の山からタンスカの地図を取り出して広げる。

 

「タンスカか・・・・」

 

『作戦は中止になりますか?(ぶっちゎけスパイ認定されて脱出したいんだけど・・・昼のはそのつもりでバラしたのにな)』

 

「いやこれは逆に好機なんだ。お前はゾルザルの女の監視を続けろ。こっちはこっちでどうにかする。何かあったら連絡してくれ」

 

『・・・了解』

 

「敵の勢力圏外まで徒歩で脱出の予定だったよな・・・・行きはよいよい帰りは怖い」

 

古田との通信が終わると、柳田は黒電話の受話器を取りアルヌス基地の海軍航空部隊に連絡を入れる。

 

「海軍さんですか?陸軍参謀の柳田中尉です。イタリカの夜分遅くに済みません。大急ぎで追加の航空写真を・・・・はい、タンスカを頼みます。今度飲みに・・・・身体?ええ大丈夫良くなりました。では、よろしくお願いします」

 

海軍への電話を終えると次は陸軍の整備兵に電話を掛ける。

 

「柳田だ。ヘリを一機回してくれないか?確か整備直前のが、もうエンジン降ろした?困ったなぁ、暇なヘリはない?ないよなぁ」

 

柳田は、数ある書類から直ぐに出せそうなヘリを探していた。

 

「どっかの作戦に割り込ませるしかないかぁ・・・・?ん?何だこれ?現地にて任務終了まで待機後帰投?居るじゃねぇか暇なヘリ、クナップヌイ?」

 

机の下に落ちているクナップヌイの地図を取ろうとする。デリラから受けた傷は塞がったがまだ安静にして居なくてはならない為車椅子での生活を余儀なくされた。あの一件以来デリラは、柳田の介護を勤めている。

 

「クナップヌイ、クナップヌイ・・・・あれか、あ、くそ車椅子で手が届かねぇくっ・・・・」

 

「これかい?ヤナギダの旦那」

 

と手の届かない柳田の代わりに地図を拾ったのは、柳田に怪我を負わせた張本人であるデリラだった。

 

「何だ居たのか」

 

「何だっとは言い草だねぇ、声掛けてくりゃいいのになんでもするからさぁ」

 

「フン、調子のいい事を、俺をこんな身体にした奴に介護してもらおうとは思わんよ」

 

「ああん!ゴメン、ゴメンよ!そろそろ許しておくれよおっ」

 

「ああっ暑苦しいっ、いちいち抱きついて来るな!鬱陶しい」

 

痛い所を突かれてデリラは半泣き状態で柳田に抱き付き柳田にした事を謝るが、当の柳田は鬱陶しかった。

 

「・・・・寝床じゃしつこい癖にぃ」

 

「余計な事言うんじゃねぇよ!場・所・を弁えろと言ってるんだ!」

 

「ひゃんっ」

 

とデリラの頭に柳田はチョップを喰らわす。そして、柳田はデリラが拾った地図を広げてクナップヌイに待機しているヘリとタンスカとの距離を調べるとクナップヌイとタンスカとの距離はそう遠くなかった。

 

「ったく、なんだタンスカ帰り道にあるんじゃねぇか」

 

「タンスカってあたいが奴の巣で拾って来た?」

 

「そうだ」

 

「ねぇそろそろ褒めておくれよぉ、ノッラって奴と一生懸命戦って見つけられたんだよぉ。逃げられたけど」

 

とせがんでくるデリラに柳田は、冷たくあしらう。

 

「だめだ」

 

「ええ〜なんでぇ?」

 

「機密文書を敵がわざわざ残すわけないだろ、あの紙切れはわざと残されていたんだよ」

 

「ええ!?じゃあ罠だったの!?そんなぁゴメンよぉ〜」

 

とあノッラとの戦闘で手に入れた情報が罠だった事にデリラは泣いて謝るが、柳田は冷静だった。

 

「だがタンスカと囮の事は本物だ。罠と知って突っ込む事になる」

 

「だったらあたいも行かせてくれよ!敵をいっぱい狩ってやるからさ!」

 

デリラもタンスカに行く事を嘆願する。ヴァーリアバニーの狩人としての本能なのかデリラがやる気を出す。

 

「当然だ。お前には明朝アルヌスに行ってもらう」

 

「アルヌスに?」

 

「そうだ。タンスカまで歩いて行く気か?」

 

と柳田は黒電話の受話器を取りアルヌス基地に連絡をする。

 

「イタリカ事務所の柳田だ。今村大将に繋いでくれ」

 

と総司令官の今村均大将に繋がる。

 

「今村大将、柳田です。タンスカ救出作戦の件で・・・・」

 

こうしてタンスカの帝国による日本人拉致被害者救出作戦が着々と進められて行く。その後、夜明け前に柳田の要請でアルヌス飛行場から飛び立った九七式艦上偵察機がタンスカの城塞を撮影した。

 

 

 

 

ベルナーゴ北東のセス湖に流れ込むメッセ河河口城タンスカ。帝国はここにメッセ河セス湖一帯の水上交通を管制するため城塞を建設した。当時の最新鋭技術を結集して中洲の湿地帯に完成したタンスカ城塞は、落成式数日にして『沈没』しかけたが、急遽行われた応急工事で体裁だけは保たれていた。そして、このタンスカの長官ゴダセンの元に帝権擁護委員が訪れた。

 

「ゴダセン閣下、皇太子殿下よりの訓令です」

 

と帝権擁護委員の一人がゴダセンにゾルザルの訓令を渡す。

 

「うむ、君は?」

 

「閣下付きを拝命致しました。帝権擁護委員のダーレスです」

 

「この手紙には作戦の詳細は君に聞けとあるが?」

 

「はっ、今回の作戦にはニホン人奴隷を囮とし必ず助けに来るであろうニホン軍の影戦を担う者を捕縛或いは殲滅するものです」

 

「それは、知っておるだが儂は反対しておったぞ。虎の子の一個軍団が今必要なのはこんな辺境ではあるまい?」

 

とゴダセンは今回発令された作戦の内容に些か懸念を示した。

 

「存じ上げております。ですが、これは命令です。敵の実態を暴く為とご理解ください」

 

「影戦か?儂は好かんぞ」

 

「戦いには好き嫌いなど・・・・表の戦いを有利にする為の影戦です」

 

「わかっておるわかっておる。感想くらい言わせろ、そもそもお前達は敵を甘く見過ぎでおる」

 

「それも感想ですか?」

 

「勿論だ。別の何かに聞こえたかね?」

 

その後ゴダセンは、馬に運ばせて来た代車に乗せた檻の中を見ると一人の男性が入っていた。その男性はボロ切れの服を着てこの世界では珍しいボサボサの黒髪や髭に栄養失調により痩せこけた見すぼらしい男性が檻の中に入っていた。

 

「フン、疫病神を持ち込んでくれたもんだ。こいつを地下倉に運び込め!」

 

「閣下、奴隷を晒して置きませんと敵が来ないとも限りませんぞ」

 

「ならばこのまま中央広場に置いておけ!敵がちゃんと来てくれれば良いがな」

 

「そう願いますな、閣下の為にも。そう言えば閣下は緒戦でニホン軍と戦った事がお有りでしたね」

 

「うむ惨敗であった」

 

ゴダセンは、大日本帝国軍との戦闘を思い起こす。ゴダセンは、遠征軍の一員として銀座事件に参加した一人であったが、帝国陸海軍の圧倒的な武力の前に敗北し帝国軍敗退の報告を元老院に報告するもまともに取り合ってもらえず負傷を理由に議員を退いたのだ。

 

「しかし我らとて負けてはおりません。ヘルム将軍の作戦が軌道に乗り戦況は我が方に有利に成りつつあります。更に先日考案された新しい攻撃魔法を用いれば敵に大打撃を与え得るでしょう」

 

「爆轟魔法の事だな。ロンデルで発表されて注目されておるな。炎龍を倒した魔法でもあるし、だが使いこなせる様に成る者はそうおるまい」

 

とダーレスが言う日本軍に対抗する魔法とは、ロンデルの学会でレレイが発表した爆轟魔法だった。あの後、爆轟魔法の事はある程度認知されたが、その爆轟魔法を説いた魔導士がゾルザルが暗殺しようとしているレレイとまでは知られていない。

 

「もしや閣下もご挑戦を?」

 

「どうにも光輪を二つ以上作れなかった。爆轟を起こすには最低でも五つは必要なのだからな」

 

「五つ作れた暁には、閣下にはぜひ前線へご復帰頂きたい」

 

「願い下げだ。魔導士が戦う時代はとうに過ぎた。爆轟魔法を叩き付け合えば戦はこれまでとは違う恐ろしいものになるぞ」

 

ゴダセンも爆轟魔法に挑戦してみたが爆轟魔法を発動するには五つの光輪も必要だが、ゴダセンは二つが限界だった様で、更に爆轟魔法など今まで前例の無い魔法に苦戦しているのだ。ダーレスは、ゴダセンに爆轟魔法が成功したら戻って欲しいと嘆願するもゴダセンはそれを拒否する、魔導士が戦場を制する時代は終わったのだと日本軍との戦闘で思い知ったのだ。

 

「閣下、恐ろしくない戦などありません。ニホン軍の爆轟魔法に対抗するには我らも爆轟魔法の相い手を増やすしかありません」

 

「そうだったな・・・・」

 

そして、警備兵がやって来て日本人奴隷の檻の設置の完了を報告すると、ゴダセンは、全軍に警戒体制の命令を出す。

 

「閣下、檻の設置完了しました」

 

「よし!全軍に警戒態勢を取らせよ。河の巡回を強化せよ全ての水路を監視するのだ!!対空警戒も怠るな、敵は空からも舞い降りて来るぞ」

 

ゴダセンの命令の元、兵達は、河は小舟に乗った兵が空はワイバーンに乗る竜騎士で巡回すると、一人の兵がゴダセンに申し出る。

 

「ち、長官閣下宜しいでしょうか?」

 

「何だ?申せ」

 

「じ、地面の下も注意した方が宜しいでしょうか?」

 

「うむ十分あり得る。死にたくなければ空、地の底、水の中全てに気を配れ!」

 

と一人の兵が放った一言で警戒箇所が河、空、そして地中へと広がり河は小舟に乗った兵が、空はワイバーンに乗った竜騎士、そして地面に耳を当てて穴を掘る音を聴き取るなど幅が広がる。

 

「角中洲の監視哨へ増員完了」

 

「伏兵の各地点への配備完了しました」

 

あまり乗り気では無かったゴダセンの対応にダーレスは感心する。ゴダセンとて一介の軍人であり、軍人は命令には従うと思っている。

 

「嫌がっていた割に随分と積極的ですね」

 

「任務は任務、感想は感想だ。命令を受けた以上、成すべき事を成すまでだ」

 

とそう言いゴダセンは、任務と私情を分ける。ダーレスは、ゴダセンの発言に笑みを浮かべる。

 

「大変結構、ゾルザル殿下もお喜びになる事でしょう」

 

「成功すればの話だがな」

 

「はて、閣下は失敗するとお考えで?」

 

「さぁてな?作戦は成功するとの確信があって始められるのだ。だが、いざ実行すると失敗したりする。何故だと思うねダーレス委員」

 

「簡単な事です。敢闘精神に欠け勝利への意欲が足りぬからです」

 

とダーレスは、作戦が失敗するのは、兵士達にやる気が無いからだと根性論を言う。

 

「それは知らなかった意欲のせいか?」

 

「それ以外に何があると?」

 

「ふむ、作戦そのものとか巡り合わせだとか運だとか・・・・或いは作戦そのものだな」

 

そう言うゴダセンに、視線をゴダセンに向け疑義する。

 

「同じものが二度出て来ましたが?」

 

「そうか?」

 

「きっと聞き違いでしょう。でなければ、この作戦の裁下を下された皇太子殿下の批判に成りますからな」

 

「成る程、失敗の原因は常に現場にあると言う事か」

 

「はい、だからこそ現場を監督する為帝権擁護委員がいるのです」

 

と帝権権擁護委員は現場の軍を監督する言わば政治将校であり、失敗の原因はあくまでも現場で指揮する軍の指揮官にあるとするもので、その者は失敗の責任を取らされ粛清の対象とする考えだ。これは、ソ連の秘密警察NKVD(内務人民委員)と同じである。

 

そして、その日の夕刻拉致被害者救出の為輸送機に乗った日本兵達が輸送機から飛び降りパラシュートを開いてタンスカの地へと降り立っていく。



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作戦決行!!

日本軍が銀座事件で帝国軍に捕らえられた日本人拉致被害者救出作戦を着々と進めている一方でクナップヌイを調査しに行っていた伊丹達一行は、テュカ、レレイ、ロゥリィ、ヤオ、ジゼル、菜々美が滝壺で水浴びをしていた。

 

「そんな陰で浸かってないでこっちに来たら?」

 

「え、水着着て無いし良いですよぉ」

 

「ティカも着てないわよぉ。それよりぃ如何したらそんな発育が良くなるわけぇ」

 

「異世界の特殊な種族かも知れない。調査しないと」

 

『やーっ』

 

「大人しく調査されなさぁい」

 

「わっすっご〜い」

 

とエロ親父みたいにやって来るロゥリィ、テュカ、レレイ達に菜々美は抗いながらも自身の実った乳房をロゥリィ達に揉まれ、そんな様子を傍で見ているジゼルとヤオ。ジゼルは、金平糖を頬張りヤオはその隣で静かに水浴びをしている。

 

「・・・・こんな事していて良いのか?」

 

「最終日ですしイタミ殿とオオバ殿には許可を貰っています。ピニャ殿とハミルトン殿も昨日来られましたし」

 

「・・・・なぁ、炎龍の件まだ根に持ってるか・・・・?」

 

「・・・・起きてしまった事をやり直すことは出来ません。折り合いを付けて今を進んでいくだけです。棄教も済ませましたし」

 

「・・・は?鞍替えしたのかどの神さんに?」

 

「ロゥリィ聖下です」

 

「・・・・へ?」

 

とヤオが棄教して新たにロゥリィを信仰する信徒になったと言うと、ジゼルは目を見開いて唖然とした。

 

「此の身が第一の信徒であり唯一の信徒です」

 

「いや、ちょっと待てよ!何かおかしいだろお前!!お姉サマはまだ亜神だぞなのに信徒って・・・・」

 

「いけませんか?」

 

「そう言う事じゃないくて!あーホラ〜ッえっ・・・・」

 

そんなヤオにジゼルは亜神であるロゥリィの信徒である事に待ったを掛け疑問を投げ掛けようとするが如何説明しようか上手く言葉が喉元から出ない様だった。そんな中

 

「皆さーん!!帰りますので上がって下さい!!」

 

ハミルトンが水浴びをしているロゥリィ達に帰るから戻る様伝えに来た。

 

 

その後、ヘリの前では伊丹と大場の前で兵士達が整列をしてこれからの予定を皆に伝える。

 

「あー皆聞け!今日でクナップヌイ調査を終える訳だが、アルヌスに直帰する予定が変更になった!!」

 

「俺たち、急遽タンスカへ向かう事になった!!」

 

「儂等を乗せたまま寄り道するのか?余程大事な用であろうな?」

 

「タンスカですか何があるんですか?」

 

「作戦行動中の部隊を拾えってさ、拉致被害者の救出作戦が進行中だ」

 

とアルヌスに帰還する前にタンスカに向かい拉致被害者を救出する意向を皆に伝えるといきなりの事に皆動揺する。

 

「ええ!?マジですか!?」

 

「戦闘になりますよ!?旋回機関銃も噴進弾も無いんですよ!?」

 

「ロゥリィ達も居るし何とかなるんじゃない?」

 

「こいつらも結構戦力になる」

 

「あー・・・」

 

いきなりの任務に大した武装もない事に兵士達は不安を口にするが伊丹と大場がロゥリィ達がいるから大丈夫と言い、皆何となく納得する。

 

「聞いた?拉致被害者救出だって!大スクープ!ピューリッツァー賞間違いなしかも」

 

「拾う人数が多いのでテントは後日回収する。じゃあ皆出発準備をしてくれ」

 

『はい!』

 

大人数を乗せるため少しでもスペースと重量を抑える為必要の無いテントや野営具を下ろして行き、幸いにもここは人っ子一人いない事もあって後日回収する事にした。

 

「ピニャ殿下、ハミルトン様手伝って頂けますか?」

 

「分かった。妾達は、クロカワを手伝おう」

 

「怪我人の手当てですね」

 

黒川は、拉致被害者や負傷した兵達を手当てするための薬品の整理をしてピニャ達にも手伝ってもらう様頼む。そして、伊丹と大場は申し訳なさそうに養鳴達に話そうとすると

 

「と言う事で先生方には申し訳ないですが」

 

「何を言う?儂等も手伝うぞ!拉致被害者救出とあらば日本人として手を拱いて見とるだけなど出来るか!」

 

「いやいやいや、戦闘になるかも知れないので、先生方に手伝って頂かなくても・・・・」

 

「それに、先生方に何かあったらこっちの首も危ういので・・・」

 

「フハハ!!ここは一つ知的な戦い方を見せてやろうではないかっ」

 

((聞いちゃいねぇ・・・))

 

だが、養鳴達は伊丹と大場の言葉に耳をかさずついて来る気満々だった。日本人として、拉致被害者を助けたいと思う気持ちはわかるがそれで戦闘で養鳴達に何かあったら上からお怒りを受けるのは当然伊丹達なのだから。それから、各員が武器の手入れや積荷の整理などをしていると、レレイが漏斗を並べ始める。

 

「レレイちゃんそれ何に使うの?」

 

倉田が何をしているのか聞くとレレイが漏斗に魔法を掛け浮かせる。

 

「こう使う」

 

「うおおっ・・・」

 

「うわぁ・・・レレイちゃんやる気満々の上に危険度倍増!!」

 

「待て倉田!それ以上はいけないっ」

 

「おお!何度見ても驚きだ!」

 

レレイの魔法に伊丹は倉田を制止させ様とし、養鳴は感心する。一方で、ロゥリィは戦闘になるかも知れないとあってかウキウキしていた。

 

「ジゼルゥ戦闘よぉ。羨ましいでしょお?あなたもぉ戦いたい?」

 

「う・・・主上サンの仰せもあるんで見ているだけにしておくぜ・・・・しておきます」

 

本心では、ジゼル自身も戦いたいがハーディからの言いつけがあるため戦闘には参加せず見るだけだったが、その顔は物凄く引きつっていた。

 

「土浦機長搭乗完了いつでもどうぞ」

 

「わかった。収容地点に十分な場所で連絡が有るまでは待機だ。敵はかなりの大部隊らしいぞ。航空支援が欲しいな」

 

「そんな余裕在ったら俺達に行けなんって言って来ないよ、さっさと行ってパッと拾って帰りましょう」

 

「やれやれクナップヌイの調査も終えたばかりなのに上も人使いが荒いな」

 

その後、ヘリはそのまま離陸して行き、ヘリはジゼルの配下の翼竜に先導される様な形でタンスカへと向かって行った。

 

 

 

 

一方、タンスカでは日が暮れ帝国兵達が小舟に乗って松明を燈ながら河を巡回して廻っていた。

 

「もういいだろう魚か何かが飛び跳ねたんだよ」

 

「もうちょっと・・・・魚にしては音が大きかった」

 

「いい加減にしろよ。巡回おわんねぇぞ!またこの辺の鳴子に触ってみろ、古参兵に大目玉食らっちまう」

 

「わかったよ。行こう」

 

不審な音が気になりながらも帝国兵は、去っていた。帝国兵が去って行くと河の中から草を鉄帽や軍服に付けて偽装した日本兵が数名現れ、更に数m先の丘には狙撃兵が待機していた。

 

「目標確認中央広場 約300m」

 

「確認捉えた」

 

「出雲少佐居ました!中央広場の檻の中です!!」

 

そう言われて出雲は双眼鏡を覗いて中央広場にある檻の中に囚われている人物を見るが相手は後ろを向いて体育座りをしていて顔が見えなかった。

 

「くそっ、顔が見えない」

 

「如何します?」

 

「本人と確認出来たら予定通り強襲する」

 

「それじゃあ朝になっちゃいますよ」

 

「我々の任務は拉致被害者本人の確実な救出だ!偽者の囮を掴ませる訳にはいかん!」

 

檻の中の人物が拉致被害者本人と確認出来ない事で少々焦っていると、後ろから日本軍の軍服を着たデリラが話しかけて来た。

 

「隊長のダンナ、アイツを起こせばいいんだろう?あたいに任せておくれよ。ちょっと柵越えて小突いて来るからさ」

 

「待て待て待て」

 

「ダメだって!」

 

と勝手な行動を取ろうとするデリラを止める。

 

「俺達は待ち伏せされてるんだ!!分かってんのか?」

 

「ちったぁ、自分の安全にも気を配れよ。お前がヘマやってこの作戦がおじゃんになったらどうする!!」

 

「けどさ、それは承知の事だろ?朝までここに座っているのかい?」

 

「蛮勇は一回きりだデリラ。松居冬樹だとはっきり分かれば俺達は動く」

 

「だからさぁ、あたいが行けば良いだろ?」

 

「何か勘違いしてないか?俺の言う"俺達"にはお前も入っているんだがな」

 

「え・・・じゃあ、あたい・・・あんた達の仲間なのかい?」

 

「違ったか?」

 

と出雲がデリラも自分達の仲間に含まれていると言うと、デリラはまるで子供の様な屈託のない笑顔を見せる。

 

「わかった!ここから起こせば良いんだろ?」

 

そう言うとデリラは、持っていた弓矢の先端の鏃を抜き取り矢を射る構えをとる。

 

「こいつを当てれば目を覚ますさ」

 

「頭に当てるな、結構デカい音がする」

 

「分かったよ」

 

そして、デリラは矢を放った。放たれた矢は見事に檻の中の人物の右肩にあたり、突然の事に檻の中にいた人物は辺りをキョロキョロと見回した事によって顔を判別せる事が出来き、直ぐに出雲は持っていた拉致被害者の顔写真と照合する。

 

「やつれてはいるが松居冬樹本人だ!間違いない。良くやったぞデリラ」

 

出雲がデリラを褒めると満足したのかここで満面の笑顔をする。

 

「的射と小菅はここで援護、よし行くぞ!」

 

出雲隊は二手に分かれ、片方の狙撃部隊は丘で隊の援護射撃を行い、もう片方が救出斑に分かれ鳴子に触れない様に気を付けながら前進する。

 

 

 

「いいか見廻は厳重に!!僅かな兆しにも目を配れ!異音、ちょっとした異常、何でも良い。気になった事はその目で確かめ報告せよ!!いいな?」

 

「魚が跳ねた音もですか?」

 

「そうだ!こんな時に跳ねる様な魚は獲って食うつもりで探せ!!」

 

『ハッハッハッ』

 

「何がおかしい?」

 

と百人隊長が笑った兵士達を睨んで威圧する。兵士達は、先までの笑いを吹き飛んで顔が真っ青になった。すると、一人の兵士が手を挙げて意見を述べる。

 

「し、首席百人隊長殿!さっきの巡回中気になる事が・・・・」

 

「何だ?兵卒テリーはっきり言えっ」

 

「み、見て頂きたい物があります」

 

そう言って兵は隊長を水路に連れて鳴子を繋いだ杭を見せる。

 

「鳴子を繋いだ杭が如何した?」

 

「昨日見張っていた時は水に浸からない様張ったのですが・・・・」

 

とそう言われて杭に繋いでいる数本の鳴子のロープが一本水に沈んでいるのだ。

 

「一本だけ緩むのは不自然だな」

 

「あと先程の巡回中西側の水路で魚にしては大きな音がしました」

 

「何だと!?何故それを先に言わんっ!!」

 

「も、申し訳ありません」

 

「いや、よく気付いた兵卒テリー」

 

「直ちに当番隊を呼集!敵が侵入しているぞ!長官閣下に報せろっ、大至急だ!」

 

と百人隊長が部下に兵の招集とゴダセンを呼ぶ様命令する。一方、デリラに先導されながら日本兵達は水路に浸かりながらタンスカ要塞に迫っていた。そしてある程度近付いたところで、双眼鏡で辺りを見回すとタンスカ要塞では警備兵達が行ったり来たりと騒がしくなっていた。

 

「まずいな。その内舟も出て来るぞ」

 

「構うことありません。強襲しましょう」

 

「帰りの事も考えろ槍田。デリラ聞き耳を立ててくれ」

 

「あいよ」

 

そう言われてデリラは、自身の聴覚を活かして帝国兵達の会話を盗聴してほのまま聞こえた事を日本兵達に伝える。

 

『ボルホス隊長配置完了しました』

 

『よし!舟を出して捜索を始めろ』

 

『こんな夜更けに何の騒ぎだ?首席百人隊長』

 

『ハッ、敵の侵入を察知しました!!ゴタセン閣下』

 

そんな時、丁度ゴダセン長官がやって来た。

 

「閣下?砦の司令官か?」

 

と出雲は、ゴダセンがタンスカ要塞の司令官だと推測する。

 

『侵入を察知?確かか?』

 

『部下が鳴子の異常を報告して参りました』

 

『君は馬鹿か?これは釣りだよ。君は釣りはするかね?』

 

『私は近衛軍団首席百人隊長を務める軍人です。釣りと言う軟弱な遊戯など』

 

とボルホスは釣りを軟弱な遊戯と馬鹿にして釣り好きの日本兵から怒りを買ってしまった事は知る由もない。

 

「ああん?釣り好きの俺に喧嘩売ってんのか?言ってくれるじゃねぇか!」

 

 

そんな中、同じく釣り好きのゴダセンはそんなボルホスに釣りに対しての定義を話す。

 

『儂は擬似餌の釣りが大好きでな何十年もやっておる。素人は魚が餌を突いた途端竿を立ててしまう。そこがいかん!餌の周りに剥き身の釣り針を並べたら魚は寄り付かぬ』

 

『魚を獲るなら網をかけた方が早いと私は愚考しますが』

 

『・・・君は近衛軍団に居た頃から無粋だな』

 

『先祖代々軍人の家系ですので』

 

『兎も角一旦兵を下がらせよ!!敵が餌を喉深く呑み込んだところで竿を立てるのだ』

 

『分かりました』

 

ゴダセンはボルホスの価値観と考えの違いに呆れ直ぐに兵士を引き下げる様に命令する。ボルホスは、ゴダセンに言われた通りにやれやれと言った感じで兵士達を兵舎に戻る様命令した。

 

「隊舎に戻れって?」

 

「何だよ」

 

「あーくそ!はっきりしろよ」

 

などと、兵達は悪態を突く。そんな兵士達の雑音が混じり合いデリラは、自慢の聴覚を活かせなくなった。

 

「ごめんよ騒がしくてもう聞き取れないや」

 

「もういい助かった。如何したもんかな」

 

「ここは予定通りに行きましょう!二斑が陽動攻撃の間に一斑が救出、上手く行きますよ」

 

「・・・・(あの指揮官かなり優秀だ。このまま強襲すれば作戦は成功しても隊の半数は帰れないだろう。犠牲を前提とした作戦は指揮官の怠慢・・・・・)聞いてくれ嫌な事を思い出させるかも知れんが試したい手がある」

 

出雲は、タンスカ要塞の指揮をとっているボルホスに優秀と評する一方で、強襲を掛けて拉致被害者を救出する事は出来るが、その間に一体何人の部下が戻って来れなくなるかと言う懸念もあった。そんな中、出雲は何やら禁じ手の奥の手を使う様だった。



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人質

「人質を解放しろ。さもなくばこの男の安全は保証しない」

 

「隊長!」

 

「伊丹少尉!?何をするか!?」

 

と伊丹は三八式歩兵銃を隊長の頭に突きつけ人質の解放を要求する。周りの兵士達は度肝をぬかれた。

使い慣れた演習場、限られた時間兵士五十名の守る捕虜や人質の奪還作戦。どだい設定からして無理な演習だ。だが、伊丹は・・・・

 

「この男と人質を交換だ」

 

「おい、伊丹状況通り行動しろよ。ふざけてないで隊長を解放しろ。誰もそこまでやれとは言っていない」

 

「お前下手すれば反逆罪で軍法会議に掛けられるぞ!」

 

「そんな事言っていいのかな〜」

 

すると、伊丹は隊長の頭に手を置くと隊長の髪の毛を摘んで数本引っこ抜いた。あまりの突然の伊丹の行為に兵士達は大口を開けて驚いた。

 

「はい、少しだけ解放しましたよ」

 

と抜いた髪の毛を兵士の手の平に渡す。

 

「まだ足りない?欲張りだなぁ〜」

 

そう言うと伊丹は次々と隊長の髪の毛をむしり取っていく。

 

「や、やめ、やめろ伊丹!」

 

「もう、わかったから、人質を解放する!だからやめて差し上げろ!!」

 

この伊丹の行為に兵士達は怒るのを堪えて伊丹にされるがまま髪をむしられる隊長に耐え切れなくなり要求を受け入れる。勿論、統制官の判定は『有効』だった。

その後、訓練が終わり兵士達はミーティングを行い、隊長は伊丹と握手を交わす。

 

「伊丹少尉の柔軟で臨機応変な考えは軍の意識改革の見本となった。何をしてもよいし何をされてもおかしくないのだ。隊長として礼を述べさせてもらう」

 

「あ、ありがとうございます」

 

「その柔軟さをもっと生かせる様訓練に奮闘努力して欲しい。それと、これは私からの贈り物だ・・・・・伊丹!歯を食いしばれ!!」

 

とそう言うと隊長は突然鬼の形相となって伊丹に鉄拳制裁を食らわした。隊長の拳を食らった伊丹は吹っ飛び右頬が腫れ上がっていた。

 

 

 

 

出雲少佐はかつて伊丹が訓練時代にやった人質奪還の方法をデリラに説明する。

 

「・・・・と言う手だ。わかったか?」

 

「ああ、こっちが偉い人を人質にするんだね。それにしてもイタミの旦那らしいや」

 

「いやな・・・出来事だったな・・・」

 

とデリラは笑って言うがあの訓練を受けた兵士達にとっては嫌な思い出である。

 

「さてと・・・あそこには水門があるな・・・デリラ、見張りを始末して水門を開けられるか?」

 

「任せといて」

 

そう言ってデリラは沼地を渡って警備兵のいる柵の下まで行くと弓矢で警備兵を始末する。

 

「おい!寝るなよ」

 

他の警備兵倒れ込んだ警備兵にそう叫ぶと、次の瞬間デリラの放った矢が命中し絶命する。そうして、デリラは隠密に警備兵達を始末して行く。そして、デリラは水門を開けて沼地を渡って来る日本兵達を入れて行く。

 

そして、タンスカ城塞の寝室ではゴダセンが眠りにつこうとベッドに入ろうとしていた。

 

「やれやれ、ボルホスの頭の固さにも困ったものだ」

 

寝ようとしていたゴダセンは、何か気配がしたのかゆっくり目を開けると

 

「し〜」

 

そこには、ゴダセンの喉元にククリをチラつかせるデリラの姿があった。

 

 

 

 

「俺は、釣りが嫌いだっ!中でも疑似餌の釣りが大嫌いだ!!平気で出来る連中の気が知らん!食い物でない物で魚を騙しているのなぞ!魚が可哀想だと思わぬか!?」

 

(隊長、絶対釣り向いてない)

 

(前世、魚だったんじゃねぇの?)

 

百人隊長のボルホスは、釣りの事について卑怯だの、魚が可哀想だのと喚き散らす。

 

「敵は夜中に侵入して来たそうだな?」

 

「そうでありますっ」

 

「我々は敵が餌に食らい付くのを待っているそうだな?」

 

「そうでありますっ」

 

「ならば何故敵は来ない?夜が明けると闇に紛れる事も出来んぞ!敵は餌も食えぬ馬鹿な臆病者揃いなのか!?長官閣下もとんだ見当違いをなさったものだ!」

 

ボルホスは、日本軍が夜に襲撃してくると見て準備をしたのに日本軍が中々来ない事に痺れを切らしていた。すると、

 

「それは違うぞ百人隊長!敵は我々が考えるより遥かに狡猾だったのだ」

 

とゴダセンの声がしたのでボルホス達が声の方を振り向くとそこには、数人の日本兵に捕らえられたゴダセンの姿だった。

 

「長官閣下!?・・・・・貴様ら汚い!汚いぞ!」

 

「汚いとは?長官閣下を人質にしている事か?それとも、俺達の身なりの事か?それだったら沼地を這いずり回って来たからな不潔で申し訳ない。長官閣下の命が惜しければ我が帝国の国民を解放してもらおう、さもなくば長官閣下の命はない」

 

「ひっ、ボルホス!助けてくれっ」

 

「無駄な足掻きはやめ降伏しろ!!命だけは保証してやる」

 

ボルホスがそう言って手を翳すと警備兵達は、一斉に弓矢やクロスボウなどを構える。

 

「周囲には一個軍団が配置されている。ここから逃げても無駄だぞ」

 

(飛び道具が主兵装になっている。奴等も学んでいると言う事か・・・・いかん、場が緊迫しすぎだ伊丹の様に考えるんだ。真面目な奴を混乱させるおちゃらけおふざけ・・・・)

 

出雲は、辺りを見回して以前の様な剣や槍で戦う帝国兵ではなく、弓矢やクロスボウなどの飛び道具がスタイルとなっている事に推察し、不本意ながら伊丹の様な真似事をする事にした。

 

「・・・・困ったなぁ、それでは俺達の任務が果たせない偉い人に大目玉食らっちまう」

 

「果たさずとも諦めて降伏すればいい、さぁ決断しろ逃げ場はないぞ」

 

「しょうがないなぁ、長官を"少しだけ"返そうか」

 

と出雲が『少しだけ』と言う単語を強調して言い、

 

「す、少し!?」

 

「ねぇ、どの指がいい?」

 

「ゆ、指!?」

 

「言っただろう?"少しだけ"返すって」

 

「や、やめろ!ボルホス!助けてくれっ」

 

出雲達が言う『少しだけ』とは、ゴダセンの指を切り落として返すと言う事だった。ゴダセンは必死に助けを求めるが、

 

「ヴォーリアバニー!?・・・・長官堪えて下さい。敵の目論見に乗せられてはなりません!」

 

「我慢しろってさ、早く決めな」

 

「やめてくれっ、人質は返すっ、ボルホス!囮を解き放てっ!!ひっ、み、右はダメだっ!!せめて左の薬指にしてくれぇ、くあああああっ」

 

人質は解放すると言っているがデリラは聞かずそのままゴダセンの左手薬指を切り落とす。指を切り落とされゴダセンの断末魔が辺りに響き渡る。

 

「ホラ、少しだけ返すよ」

 

「な、なんて事を!?野蛮人の人でなしめっ」

 

「へへ〜ん野蛮人ですよ〜」

 

「一本じゃ足りんか?じゃ、もう少し返してやろう」

 

「あいよ、次は右の薬指そんで左の中指右の中指・・・耳は返さなくていいのかい?」

 

「ひっ」

 

そんな事を話し合ってデリラがククリをチラつかせて次に切断する指の部分などを言っていると、恐怖のあまりゴダセンが失神してしまったのだ。

 

「あらら」

 

「参ったな、荷物になっちまう」

 

「なら足切って軽くしちゃう?」

 

あまりの光景に帝国兵達は皆動揺する。

 

「閣下・・・・」

 

そんな時、帝国兵の一人が剣を抜き取り拉致された日本人男性が入れられている檻に近づいて行く。

 

「ボルホス隊長!ならばこちらもニホン人の指を・・・・」

 

「ひっ」

 

バ ン

 

「ああああっ」

 

剣を振りかざそうとしていた帝国兵の右肩が撃ち抜かれた。それは、タンスカ城塞から離れた丘に陣取る狙撃兵だった。

 

「テリー!?」

 

「魔法か!?」

 

「ニホン兵の武器が魔法を放ったんだ!」

 

兵の一人が肩を撃たれて負傷し周りの兵士達は混乱する。丘の上では狙撃兵がスコープを覗きながらボルトを操作して空薬莢を排出する。

 

「命中」

 

これを機に日本兵等は三八式歩兵銃やMP40短機関銃を構える。兵士達は、怯えて後退する。

 

「ボルホス隊長」

 

「ぐぐ・・・・これ以上長官閣下を傷つける訳にはいかん・・・・下がれ!こいつらを通すんだ」

 

ボルホスは、これ以上ゴダセンを傷付けさせる訳にはいかず檻の周りから兵士達を下げさせ日本兵達の道をつくる。日本兵達は、直様檻に近づき身元確認をする。

 

「松井冬樹氏だな?」

 

「・・・・はい。そ、そうです」

 

「よし、目標確保。松井氏を担架に」

 

出雲は、檻から松井冬樹を出そうとしていると、

 

「そこまでだニホン人ども!」

 

そこへ帝権擁護委員のダーレスがやって来た。

 

「ダーレス委員」

 

「首席百人隊長ここは、長官閣下の意を酌まねば」

 

「長官閣下の意?」

 

「わからぬかね?ゴダセン閣下は自らの命に構わず敵を倒し捕らえろと伝えられた」

 

「いえ、閣下は助けてくれと確かに・・・・」

 

「それは貴君の聞き間違いだ!長官の一族郎党の為にも作戦の失敗は許されん!!兵士達に告げる!敵を捕らえよ!」

 

ダーレスが命令をするが、誰一人としてダーレスの命令に従う者は居なかった。

 

「どうした!何故動かん!?」

 

「出来ません」

 

「・・・・貴官、粛清をお望みか?」

 

「帝権擁護委員殿(オプリーチニキ)我々は貴方の部下ではありません。ゴダセン閣下の部下なのです」

 

ダーレスは、粛清されたいのか、と脅しを掛けるがボルホスは自分達の上司はゴダセンであるからと命令を拒否する。

 

「だが、長官は今冷静な判断力を失っている!今現在の最高指揮権は私にある」

 

「軍団の指揮権序列では副長官がまだ着任していない現状最先任百人隊長たる私が最高指揮官なのです!」

 

ゴダセンが日本兵等に捕らえられているのを余所に二人は指揮権を巡って言い争いを始める。

 

「指揮権争い始めちまったぜこいつら」

 

「担架準備よし」

 

「よし、ずらかるぞ」

 

二人の言い争いを余所に出雲達は松井冬樹を連れてずらかろうとしていた。

 

「ちょ、ちょっと待てお前達!」

 

「いいから俺の命令に従え!」

 

「誰が逃げていいと言った!」

 

「お取り込み中なので帰らせてもらおうと思ったんだが」

 

「こっちの話をつけてから相手してやる!そこを動くな!」

 

ボルホスは話を付けるまで待てと言うがそんなの出雲達には知った事ではないし聞く義理もない。

 

「いや、失礼する長官閣下もやばそうだし」

 

「血が止まんないよ」

 

ゴダセンの切断した指からぽたぽたと血が垂れている。

 

「何故止血しない!」

 

「無茶言うない、あたいは狩る方が得意なんだ」

 

「・・・・わかった。城門までの安全は保証しよう。そこで長官を解放するこれでどうだ?」

 

これ以上傷を放置して置くと失血多量で死に至るのを恐れたボルホスは、ゴダセンの命を優先して城門まで手を出さない事を提示して来たが、そんな事帝権擁護委員が許すはずが無かった。

 

「ボルホス!貴様、血迷ったか!?敵と取引など許さんぞ!」

 

「委員殿は黙っていて下さい」

 

「くっ・・・」

 

すると、ダーレスは建物の陰に隠れている他の帝権擁護委員に合図を送ると物陰からクロスボウを構える。

 

「医者を呼べ!」

 

「ハッ」

 

「武器を下げよ!」

 

ボルホスがそう命令して兵士達は弓矢やクロスボウを下ろして後退した事で城門までの一本道が出来た。

 

「流石だな。矢張り危険な指揮官だった。デリラ、長官閣下を落とすなよ」

 

「あいよ」

 

出雲達は、警戒しながらもその道を渡って行く。だが、その時物陰に隠れていた帝権擁護委員がクロスボウの矢を二発放った。一本はデリラに向かっていたが気付いたデリラは弾き飛ばすが、もう一本の矢はゴダセンに命中した。

 

『ぐああああああぁ!!』

 

とゴダセンの断末魔が響く。



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四面楚歌

2021年今年初めての投稿になります。


「だ、誰だ!矢を射たのは!?」

 

「伏せろ!撃て撃て撃て!!」

 

何処からともなく矢が飛んで来てゴダセンの腕に命中してゴダセンの断末魔を皮切りに、日本兵達はうつ伏せに伏せて辺りに金切り声を上げるMP40シュマイザーの9mmパラベラム弾が飛び交う。

 

「あぐっ」

 

「ぎゃっ」

 

「うっ」

 

「射角を下げろっわあっ」

 

帝国兵達は、シュマイザーによってバタバタと薙ぎ倒されて行く。

 

「擲弾!」

 

更には、八九式重擲弾筒を使い密集している帝国兵達を吹き飛ばして行く。

 

「糞ッ、放て放て!」

 

帝国軍側も負けじと弓矢やクロスボーで応戦するが、タンスカ城外の丘に待機している狙撃兵達が九七式狙撃銃や九七式自動砲で援護する。

 

「前進!前へっ」

 

日本兵達は、煙に紛れて強行突破を図ろうとしていた。

 

「何だ!?煙幕!?」

 

「畜生!」

 

帝国兵達は、煙で視界が利かない中で弓矢を放つが、

 

「ぐぁっ」

 

「馬鹿野郎!射つなーっ」

 

放った矢が日本兵達を通り越して味方に命中すると言う同士討ちを起こした。

 

「下がれ!下がれ!闇雲に矢を放つな!味方に当たるぞっ!」

 

帝国兵は闇雲に矢を放ってはいたが、何発かは日本兵の肩や足に命中して負傷する兵士が何人か出始めた。

 

「あつっ」

 

「このままじゃダメだ!ここはあたいが!」

 

「あっ!おい!待て!」

 

すると、デリラが煙が立ち込む中を単独で突撃して行く。そして、煙の中から出て来たデリラは、人質のゴダセンを盾にして突っ込んで来たので辺りの兵士達は騒然とした。

 

「うおっ!?」

 

「ヴォーリアバニー!?」

 

「おのれ蛮族、閣下を盾に・・・・・おふっ」

 

デリラは、ゴダセンを隊長格の指揮官に向かって投げ飛ばすとククリ刀で指揮官の首を斬首する。デリラは、ククリ刀と三十年式銃剣で帝国兵達に斬り込んでいく。

 

「あの馬鹿兎!」

 

「デリラに続け!槍田先頭!」

 

出雲等は、短機関銃を撃ちまくりながらデリラの後を追った。その時、出雲は煙の中からすれ違い様にボルホスの目が合った時出雲は、ほくそ笑んだ。

 

「さっ下がれ!隊列を開けろ!奴らを通してしまえ!」

 

「戦え!!一歩も退くな!帝国兵ならその場で死ぬまで戦え!」

 

ボルホスは、日本兵達をそのまま通す様命令するが帝権擁護委員は、そのまま戦えの指示する。

 

「ボルホス!兵に退くなと命令しろ!」

 

「それは出来ん!ここでの戦闘は無意味だ!」

 

「貴様!敵を逃す気か!」

 

「違う!外の待ち伏せに奴らを追い込むのだ」

 

「敗北主義者め!ゾルザル殿下に報告するぞ」

 

とゾルザルに報告すると脅しを掛けるが、ボルホスは動じず、

 

「勝手にしろ!貴公のせいでエムロイもそっぽを向く!帝権擁護委員(オプリーチニキ)こそ帝国を敗北に導く反徒ではないか!」

 

「き、貴様・・・」

 

ボルホスは、帝国の敗因は帝権擁護委員だと名指しで言い、言われた帝権擁護委員は憤激した。そんな彼等のやり取りを遠くから見ていた出雲は、

 

「狙撃兵!コボルト頭が見えたら撃て!」

 

『了解』

 

無線でタンスカの城外の丘に待機している狙撃兵に帝権擁護委員を射殺する様指示する。狙撃兵は、九七式狙撃銃のスコープから帝権擁護委員の頭に狙いを定めると引き金を引いた。

 

 

 

「この場で粛清してやる!」

 

帝権擁護委員がボルホスに斬りかかろうと剣を振りかざしたその時、帝権擁護委員の脳天に風穴が開いて絶命した。ボルホスや周りの兵士達は、目の前の突然の出来事に唖然とした。そして、丘に待機している部隊が出雲達が橋を渡るのを援護するべくMG42や八九式重擲弾筒で出雲達を援護する。そして人質と救出部隊が橋を渡り終えると

 

「点火!」

 

と日本軍は敵が追って来れない様にタンスカの城門の橋に仕掛けた爆薬を点火して橋を爆破する。

 

「よし合流しよう。撤収だ!」

 

そして、日本軍は、拉致被害者を連れタンスカから去っていた。戦闘が終終わり日が登った後のタンスカには、血と火薬の匂い、そして煙と辺りに倒れる死傷者達だけが残っていた。

 

「ゴダセン閣下!」

 

「うう・・・」

 

ボルホスは、急いでゴダセンに駆け寄る。

 

「閣下!しっかりしてください。軍医こっちだ!」

 

ボルホスが、軍医を呼ぼうとした時、ボルホスはある事に気づいた。それは、切断された筈のゴダセンの指があったのだ。そして、切断された指は粘土で作られた偽物で暗く混乱状態だった為気付かなかった。

 

「指が・・・俺は・・・・ペテンに掛けられていたのか・・・・」

 

「隊長!敵は橋を破壊し北へ逃走!直ちに追跡を・・・」

 

「構わん、負傷者を収容して隊の再編を急げ!長官閣下を早く寝室にお運びしろ!待ち伏せ部隊に合図を出せ!ここからが作戦の本番だ。逃げ道など最初から無いのだ。奴等は、既に籠の中の鳥」

 

ボルホスは、直ちに合図のラッパで各地に待機している待ち伏せ部隊に知らせる。合図を聞いた兵士達は、一斉に出撃して行く。

その頃、出雲達は、高原の身を隠せそうな茂みに隠れて双眼鏡や狙撃スコープで辺りの様子を伺っていた。

 

「追撃は?」

 

「居ません!狼煙が上がっています」

 

「おかしいな。あの中に一個軍団も居た様に見えなかったが、あのラッパの合図は・・・・」

 

出雲は、不審に思った。敵は、自分達を追って来ないし、タンスカに居た兵士は精々数百人程度で、明らかに大隊規模である。残りの数万の兵は不明のままなのだ。

 

「痛ってぇ・・・」

 

「歩けそうか?」

 

「ゆっくり水筒の水を飲んで」

 

後ろでは、戦闘で負傷した兵士や拉致被害者の治療が行われている。

 

「よし予定通りA地点に向かう」

 

「隊長さんあれ」

 

出雲は、デリラが差した方角を双眼鏡で覗くと、大多数の帝国兵達が出雲達の向かう筈だった回収地点に向かっていた。

 

「先回りされた!敵部隊がA地点に向かっている。くそ待ち伏せか・・・回収地点をBに替えるようヘリに連絡しろ!警戒しつつ前進する。デリラ、先行しろ」

 

「あいよ」

 

そして、デリラが先頭に立って行き日本兵達は、デリラの後をついて行く。そして、しばらく進むと日本兵達が立ち止まる。

 

「気づかれたか?」

 

「馬鹿な半リーグはあるぞ」

 

と数m先の茂みで身を潜めている帝国兵達が不審に思った。ただ、彼等は知らなかった…日本軍側には優れた探知機があるのを、それが、デリラだ。デリラの優れた聴覚で敵を探り当てたのだ。その為、出雲は、デリラを先頭に立たせたのだ。すると、日本兵は、直様八九式重擲弾筒で隠れている帝国兵達に向かって攻撃する。

 

「わっ なんだ魔法か!?」

 

八九式榴弾の爆発で隠れていた兵士達が吹っ飛んで行く。そして、この攻撃をきっかけに隠れていた帝国兵等が剣を片手に突撃を開始した。

 

「馬鹿者どもが早まりおって!ええい、くそラッパ手合図を出せ!」

 

更には、ラッパの合図で他の部隊の兵士達も続々と出て来て突撃して来た。

 

「B地点に敵!」

 

「回収地点をCに変更する」

 

ここもダメと判断して、別の場所に移動する。出雲達は、敵の目を避ける為に林の中に入って移動した。暫くして、林の出口に出た第三の回収地点に着いたが、其処にも敵の部隊が居たのだ。日本兵達は、すぐさま銃撃する。

 

「くそ!ここにも敵だ!」

 

「そこら中敵だらけだよ!」

 

「ヘリ聞こえるか!C地点にも敵出現!回収地点をDに変更する!」

 

C地点にも敵が居ると合って更に、回収地点を変える。そんな状況下で、出雲達を回収するヘリは、着々と近づいていた。

 



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合流

各合流地点で帝国軍に抑えられている出雲たち救出部隊は、ヘリとの最後の合流地点に向かっていた。しかし出雲達の行く先々に帝国軍の待ち伏せにあっていた。

 

「装填!最後の給弾ベルトだ」

 

「こっちも撃ち止めだ。合流しよう」

 

出雲達は、帝国軍の騎馬隊の遭遇し排除に掛かっていた。だが、あまりに敵の数が多く弾薬が底をつきかけていた。

 

「斥候だけ残して騎兵を下げよ。随時狼煙を上げ敵の場所を報せろ!奴等の飛び道具のせいで軽騎兵すら弓の射程に近づけん」

 

「フーオク殿合図を」

 

フードを被った魔導士が魔法で合図の狼煙をあげる。

 

「ボルホス隊長!第一大隊から合図です!敵は西に向かっています」

 

「西か、山に向かってどこへ逃げようと言うのだ?報告にあった空飛ぶ船でも迎えに来るのか?」

 

「む、奴等の行く先にエムロイ教団の修道院跡がある」

 

「教団の内乱で使徒に断罪されたと言う。そこにも一隊配しております」

 

「地理に疎いなら分かりやすい目印を選ぶ筈」

 

ボルホスは、地図を見て日本兵達が次にどこに向かっているのか予想してエムロイの修道院跡と推測する。

 

 

一方、出雲達の回収に向かうヘリでは、

 

『進路をD地点に変更する。この調子だとここにも敵が居そうだ』

 

目的地に近づくにつれて周りの皆が緊張する者もいれば冷静な者、気楽な者が居るがその中でも特に際立っているのが一人だけいた。

 

「ん・・・んっんっんっああん・・・」

 

ロゥリィだった。ロゥリィは、指を咥えながら喘ぎ声を漏らしていた。

 

「大丈夫ですか?お姉様」

 

「ん・・・ふぅ早くぅ・・・」

 

とロゥリィはいつものエムロイの亜神としての定めというべき衝動にかられていた。

 

「こちら隼、こちら隼、目標のD地点まで後5分です!どうぞ!」

 

『こちら出雲、D地点まで後約2キロ程だ。それにしても『隼』だって?陸軍の一式戦の名前からとったのか?加藤隼戦闘隊みたいでなかなか縁起がいい名前じゃないか』

 

と交信符丁に隼の名前を冠したヘリに出雲は称賛する。そして、伊丹は無線機を取り

 

「出雲少佐。こちら伊丹、負傷者は居ますか?」

 

「よぉ伊丹少尉。まだ生きてたか?こっちは怪我してない奴の方が少ないくらいだ」

 

伊丹が、出雲に負傷者がいるか確認して、出雲は負傷者が多勢いる事を報告する。

 

「こんな事もあろうかと怪我人と治療大好きな美男軍医と美人の助手を連れて来てるんです!あってがってやらないと俺達が怪我人にされちまいます」

 

「ハハッ、そりゃいいな。白衣の天使に介抱されるのも」

 

「なら全員生きて帰って来てください!」

 

「あぁ、任せろ」

 

そして、伊丹は無線機を切って後部座席の方に振り向く。

 

「みんないいか!俺達の仕事は降着地点の確保だ!!救出部隊が着陸地点に乗り込んだらさっさとずらかる。あんまり離れるな、黒川怪我人だらけだそうだ、手当てたの・・・む・・・」

 

と伊丹は、黒川に出雲達救出部隊に怪我人が続出しているので、手当てを頼もうとしたところ黒川は、笑顔で伊丹を見ていたがその目は、笑っておらず黒いオーラが漂っている感じだ。

 

「誰が怪我人治療大好き軍医ですって?」

 

「ちゃんと美男って付けただろう!ってか聞こえてたのかあれ!?ダメか!?ダメなのか!?あ、それとも優男の方が良かったか?」

 

「そう言う問題じゃありません!そもそも怪我人好きってそれただの変人じゃないですか!!私は、そんな性癖はありません!」

 

「治療好きなのは、否定しないんだな・・・・・」

 

とツッコミを入れる。まぁ、そんなこんなで気を取り直した伊丹は、

 

「てことで、養鳴教授とピニャ様達は黒川の手伝いお願いします」

 

「うむ、任せたまえ」

 

「クロカワなら死人も生き返らせそうだな」

 

伊丹は、教授とピニャに黒川のアシストを頼むと、ロゥリィの方に目をやる。

 

「ロゥリィ」

 

「なぁにぃ?」

 

「出てもいいけど、すぐに戻るんだぞ!いいな」

 

「わかってるわよぉ」

 

と伊丹は、ロゥリィに戦っていいけど出雲達を救出したら直ぐに飛び去るから程々にと念押し、ロゥリィはやれやれといった感じで返事をする。

 

一方、出雲達は、合流地点である大きな崖にあるエムロイの修道院跡に向かっているとデリラが敵を探知した。

 

「隊長さん、前に敵が伏せている気配が!」

 

「今更変更出来ん!このまま突破するぞ!」

 

「そんな、無茶なぁっ」

 

「いい加減逃げ回るのにも飽きただろ?」

 

そして、帝国兵達は、弓矢やクロスボーを一斉に放つ。矢の雨が出雲達に降り注ぐ。出雲達は帝国兵から鹵獲したスクトゥムの盾の使いテストゥドと言われる盾を前方・上方に掲げる陣形で矢を防ぐ。

 

「やって見せてこそ我々皇軍だ!行くぞ!!」

 

そう言って出雲達は、MP40短機関銃を撃ちまくりながら敵陣に正面突破を試みる。

 

「撃ちまくれ!敵を着陸地点に近寄らせるな!」

 

合流地点にやって来たヘリからも搭載されている機関銃で地上の敵を一掃して出雲達を支援する。

 

「ケツを崖につける」

 

「旋回します!」

 

「わかった!」

 

そして、ヘリはゆっくりと降下して高度を下げて行く。帝国兵達が身構えている時、ヘリからロゥリィが飛び降りて行き愛用のハルバートで敵を一刀両断していく。その時のロゥリィの顔は、清々しく生き生きしていた。



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罪滅ぼし

色々と忙しくて投稿が遅れてしまいました。申し訳ありません。


ヘリから飛び降りたロゥリィは、愛用のハルバートで周りにいる兵士や怪異達を一刀両断していく。

 

「あれは・・・ロゥリィ・マーキュリー!?なぜ!?」

 

遠くから見ていたボルホスは、突然のエムロイの使徒のロゥリィの乱入に驚く。

 

「ロゥリィを援護だ!救出部隊はどこだ?どこにいる?」

 

「いた!二時の方向距離三百!」

 

「出るぞ!用意!!」

 

「進めぇ!!」

 

そして、ヘリが地面スレスレまで降下すると伊丹達は、ヘリから降りて短機関銃を乱射しながら突撃を敢行していく、ティカとヤオは、得意の弓矢で敵兵を仕留めて行く。帝国兵達も負けじとクロスボーや弓矢で応戦してくる。

 

「矢が来るぞ!気をつけろっ」

 

「行け!」

 

すると、レレイが漏斗に爆轟魔法をかけ降り掛かる矢の大群に向けて飛ばし空中で爆破して矢の大群を相殺する。

 

「倉田 笹川行くぞ!」

 

すると、伊丹は養鳴達がヘリから勝手に出て出雲達の下に向かっているのが目に入った。

 

「ちょっ教授付いてきちゃダメですって!!」

 

「何を言うかっ儂らも戦うと言ったろうが!」

 

そう養鳴教授が言い、敵の手前まで来ると敵に傘を向けて指し視界を遮ると、白位がカメラのフラッシュで敵の目を眩ます。

 

「うっ」

 

「目が、目がぁっ」

 

そして、トドメに漆畑が鞄からオイルライターと殺虫スプレーを取り出して、点火したライターにスプレーを噴射し殺虫剤にライターの火が引火して火炎放射の要領で敵兵を焼いて行く。

 

「そりゃっ運ぶぞ!」

 

「ほいさっ」

 

「え、誰?」

 

養鳴達に初めて会う出雲達は戸惑うが、養鳴達は、そんな事お構い無しに拉致被害者を乗せた担架を担いで行く。

 

「あっ救出された拉致被害者と帝国陸軍が見えました!!」

 

と菜々美は、戦闘が行われている状況下ヘリの外に出て取材を敢行する。その為、日本軍の流れ弾や帝国軍の流れ矢が飛んでくる事もある。

 

「キャッ」

 

「危ないから機内に入って!」

 

「おやっさん人数確認!」

 

伊丹達が援護している間に出雲達救出隊は、負傷兵を担ぎながらヘリに乗っていく。そして、レレイが爆轟魔法で漏斗を飛ばして辺り一面を吹き飛ばす。

 

「全員乗れ!ロゥリィ!」

 

伊丹は、それを見て伊丹は全員にヘリに搭乗する様指示、そして、爆発の中からロゥリィが現れヘリに向かって走って行く。

 

「搭乗完了!」

 

最後にロゥリィが、ヘリに乗り込むとヘリはゆっくりと上昇し始めようとしていた。

 

「あの回る羽に網を絡めるんだ!」

 

と帝国兵は、逃がさんとばかりにヘリ対策の為に用意して置いた、網を持ち出して来て、ヘリのローターに網を掛けようとしていた。

 

「くそ!逃げられるぞ!」

 

そんな時、対向の山の向こうから複数の翼竜がこっちに向かって飛んでくるのが見えて来た。

 

「ボルホス隊長あれを!竜騎兵です!」

 

「なに!?全隊デュマ方面に送った筈だぞ?どこの隊・・・」

 

その瞬間、飛んで来た翼竜の大群が上昇しようとしていたヘリに網を掛けようとしている帝国兵等に襲い掛かっていく。

 

「わあっ」

 

「ギャアアッ」

 

兵士達は、翼竜の鋭い牙や爪で八つ裂きにされていった。

 

「野生の翼竜!?」

 

「まるで誰かに操られている様だぞ!?」

 

「くっ・・・この屈辱忘れんぞ・・・」

 

ボルホスは、飛び去って行くヘリに向かってそう言い放った。

 

 

 

一方、無事飛び立ったヘリ機内の中では、

 

「・・・・ジゼルゥ?」

 

「け、眷属が勝手にエサ狩ってるだけスから・・・」

 

と目を逸らして口笛を吹いて誤魔化すジゼル。一方では、黒川は、負傷兵達の腕の静脈に点滴の針を刺して行く。

 

「はい次!はい次!」

 

「これは何をしてるのだ?クロカワ」

 

「点滴ラインを確保しているんです。ハミルトンさんは、そっちの奴の止血を!」

 

「はい!」

 

ピニャやハミルトンは、黒川の指示でガーゼや綺麗な布で圧迫止血を施して行く。

 

「よぉ伊丹、俺の下にいた時より随分と働き者になった様に見えるぜ?」

 

「出雲少佐お久しぶりです。今回は民間人と報道陣も連れて来てますからね。それに部下の前なんでねぇ〜かっこいいところ見てもらわないと」

 

「流石二重橋の英雄」

 

「やめてくださいよそれ」

 

「素直じゃ無いな伊丹は」

 

出雲もは、伊丹の肩を組んで称賛するが伊丹は謙遜する。そんな様子を周りは、笑顔で眺める。そんな時、

 

「イタミのダンナ久しぶり!」

 

「デリラ!?」

 

とデリラが、満面の笑みを浮かべながら伊丹に抱きついて来た。

 

「あたいを騙した奴らいっぱいやっつけてやったよ!」

 

「柳田中尉が特別な温情措置とかで其奴使えってな。裁判の後柳田中尉のところでやっかいになってたそうだ」

 

「あいつのとこに?デリラ身体はいいのか?」

 

「ダメ、腰から下が傷物になっちゃった。けど、ニホンのお医者が治してくれたんだよ。歩けるまでに一ヶ月掛かっちゃった。まだたまに痛むけど、店にいた時みたいに撫でてみるかい?」

 

とデリラがズボンを少し下ろして下着をチラつかせ誘ってくる。

 

「待て待て待て!!んな事してねーだろ!!」

 

とそんな事はしていないと全力で否定するが、後ろの方ではロゥリィ達がまた何やらヒソヒソと話していた。

 

「って一ヶ月で?すげぇな5、6発9mm食らったって。大した再生力だな」

 

「ヤナギダのダンナよりマシさ。あたいは・・・一生かけてダンナに償いをするんだ」

 

とあの死闘で今でも車椅子生活を送っている柳田への彼女なりの罪滅ぼしのつもりだった。そんなデリラを伊丹は、察してか何も言わずに黙って見つめた。そんな時、菜々美が担架で寝ている拉致被害者の松居にインタビューをする。

 

「お名前は言えますか?」

 

「・・・ま、松居冬樹・・・です」

 

「日本に帰ったら何を食べたいですか?」

 

とそう聞くと松居は、目を見開き、

 

「ぼ、僕は・・・・帰れるんですか?」

 

「あ、帰ったら・・・・」

 

「家に・・・日本に・・・・帰れるんですね?夢じゃ無いんですね?夢じゃ・・・」

 

松居は、生きて日本に帰れる事に嬉しさのあまり目から涙を流した。彼の心情を察した菜々美はマイクを片隅に置き

 

「・・・はい、帰れるんですよ。日本に・・・」

 

と菜々美は、松居の手を両手で優しく握りそう言う。

 



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第5章冥門編
働かざる者食うべからず


拉致被害者と救出した部隊を救出したヘリは、その後日本軍がアルヌス基地に帰投する為、駐留しているフォルマート領のイタリカに寄りそこで燃料補給をする。

 

「ありがとうイズモ隊長!イタミのダンナもオオバのダンナもまたね!」

 

「ああ、柳田によろしくな!」

 

ここでデリラとは別れる為、伊丹達は手を振って見送る。そして、給油を終えたヘリは数機の戦闘機による護衛を受けながらアルヌスへと飛び立った。

 

 

しばらく飛行しヘリは、アルヌスに到着する。そこには、星形要塞の日本軍の基地が見えて来た。

 

(アルヌスにこんなモン造りやがって・・・・)

 

ジゼルは、ヘリの窓から以前は何も無かったアルヌスが様変わりしている事に不快感を示す。アルヌスの飛行場では、政府や軍の高官達が待ち構えていた。

 

「よし降りるぞしゃんとしろ」

 

「た、隊長さん・・・あ、ありがとう。ありがとう・・・ございました」

 

とヘリから降ろされる途中松居は、助けてくれた出雲少佐に途切れ途切れながらもお礼を言い、出雲も微笑んで敬礼する。

 

「救出された拉致被害者を乗せたヘリコプターがアルヌスに到着しました。たくさんの帝國陸海軍が出迎えています。政府関係者と派遣軍隊長が労いの言葉を掛けています。周りの兵士からも『おかえりなさい』と言う温かい言葉と拍手が送られています。銀座側には、ご家族が駆けつけているとの事です。あ、こちらに手を振っています。彼の健康の回復と復帰を心から願っています」

 

菜々美は、救出された松居ヘリから降りた松居に手を振り返し取材を終える。伊丹と大場は、出迎えてくれた今村大将に敬礼し帰還した事を伝える。

 

「報告します!大場大尉以下クナップヌイ調査隊只今帰還しました」

 

「兵員、武器異常なし残置した装備は後日回収予定。調査の結果現地で異常気象黒い霧状の現象を確認。周囲に拡大しつつあり、詳細は後ほど文書で提出します」

 

「ご苦労だった伊丹中尉大場大尉。今日はゆっくり休め」

 

「「はっ」」

 

二人は、敬礼すると部下たちの方へと向かって行った。一方、日本軍と行動を共にした教授達は、異世界に来て新しい発見に大満足そうだった。

 

「皆さん、お疲れ様でした。成果はありましたか?黒い霧が発生とか」

 

「うむ、大発見だ。新たな知見を得たぞ!」

 

伊丹と大場は、部下達の所に来て部下達は敬礼して出迎える。

 

「隊長方お疲れ様です!」

 

「おう、お前等もな。装備運ぶの手伝ってやって・・・あれ?栗林は?」

 

「そう言えば姿が見えないな?」

 

と二人が栗林がいない事に気づく、すると重苦しそうに部下が話す。

 

「負傷して入院しています」

 

「マジ!?あの栗林が!?」

 

「何があったんだ!?」

 

「幼女の姿をした獣の怪異とヘリの中で格闘戦にやりまして」

 

「何それ!?スゲェ気になるんだけど!!そこんとこ詳しく!」

 

「後で写真見せるから!」

 

(栗林が負傷するって余程のゲテモノ級の怪物じゃ・・・ジャイアントオーガと素手でやり合ったとか)

 

(化け物と人外の対決・・・ちょっと見てみたかった気が・・・)

 

栗林が負傷して入院している事に伊丹達は、驚きファンタジー大好き倉田は、栗林の負傷より栗林と対峙した怪物に興味を抱いたようだった。

 

「街まで送るスよ」

 

「ありがとー」

 

ロゥリィ達は、ジープに乗って街まで送ってもらう事になった。すると、ピニャが

 

「イタミ殿!こうかくんれんの約束忘れるでないぞ」

 

「あーいつになるか分かりませんよ」

 

「構わぬ、妾は暫くアルヌスにおる。楽しみにしておるぞ」

 

(空挺隊に頭下げなきゃ行けないな)

 

と言ってピニャは、ハミルトンを連れて総司令部の方へと行ってしまった。伊丹は、空挺部隊に頭を下げなきゃいけない事にため息を吐いて総司令部の方に向かって行った。

 

そして、飛行場の周りに誰も居なくなりジゼル一人が取り残された。

 

「え?」

 

と呆然としながら立ち尽くしていた。

 

「誰?」

 

「青?」

 

「ロゥリィ達の知り合いじゃ?」

 

「けど置いていかれてるぜ」

 

と一人突っ立ているジゼルを作業員達がヒソヒソと話している中、

 

「・・・・南に見えた街に行くか・・・」

 

ここに居ても仕方がないと思ったジゼルは、翼を広げてアルヌスの街の方へと飛び立って行った。

 

「あーあ 長丁場の隊商に当たったちまった」

 

「当分アルヌスに帰れねぁな」

 

「ん?」

 

突如アルヌスの街に降り立ったジゼルは、街の住人達の注目を集めていた。

 

「だ・・・誰だあの竜人?ベルナーゴの神官・・・か?」

 

「北の戦場から逃げて来たんじゃね?」

 

「聖下帰って来たしどうにかするっしょ行こ行こ」

 

ジゼルは、街を見渡し

 

「へっ、何ないところに一年立たずにこんな街造っちまってよぉ」

 

と言っていると、ジゼルは匂いを嗅ぎながら家の煙突から漂う匂いに惹きつけられ

 

「よぉ、俺に飯食わしてくれるとこここ?」

 

とレストランの中へ入って行った。レストランでは、ジゼルは運ばれてくる料理を囲い込むように食べ暴飲暴食だった。

 

「っかーうめぇっ!!こいつおかわり!飯もどんどん持って来なっ」

 

「はーい」

 

ジゼルのテーブル席にはどんどん料理や酒が運ばれて三人前は、あろうかと言う量の料理を食べる姿に他のテーブル席の客からも注目を集めていた。

 

「あのねーちゃんよぉ食うなぁ誰よ?神官だよな?」

 

「ジゼル貌下らしいよ?」

 

「マジ?」

 

などと話している。

 

「ちゃんと勘定つけとけよー」

 

「あーい」

 

ガストンは、ウェイトレスにジゼルが食った飯代を会計票につけるように指示する。そんな中、

 

「こりゃ聖下お粗末さまで」

 

「ガストンごちそうさまー」

 

レストランにロゥリィが入って来た。それから暫くして、

 

「おー食った食った!ごっそさん。オレのねぐらどこ?」

 

と食べ終え満腹になったジゼルにレストランのウェイトレスはジゼルに紙を突きつけてきた。それは、今までジゼルが注文した分の料理や酒の値段が書かれた会計票だった。

 

「何だこれ?」

 

「あの・・・勘定書・・・」

 

とウェイトレスが言うとジゼルは、キレた。

 

「ハァ!?イタミの野郎に聞いてねぇの?」

 

「組合顧問のですね?お客様の事は何も承っておりませんが?」

 

「しゃあねぇなぁ、あの野郎砦で忙しそうだったし忘れてやがるな?まぁ、いいや待っててやるからイタミに聞いてみな」

 

「うちはどなた様も現金での支払いをお願いしているんですが・・・・分かりました。組合事務所に問い合わせてみます」

 

とガストンは、事務所に連絡をし暫くして伊丹がやって来たが、伊丹はジゼルの飯代は払わないと断る。

 

「え?何で俺が払うの?聞いてないよ?」

 

「じゃ、じゃあ、この街にハーディの祠とか信者の団体とかは?」

 

とジゼルがアルヌスの街にハーディの信者の団体は居ないから聞くが、レストランのシェフであるガストンとウェイトレスは、二人揃って首を横に振りジゼルの顔は真っ青になった。

 

「大体どうして俺が接待すると思ったの?しれっとヘリに乗ってたからロゥリィが連れてきたのかと」

 

「クナップヌイで飯食わせてくれたから・・・・あと主上さんの言いつけ」

 

「それに、今回特に活躍しなかったじゃん。働かざる者食うべからずだよ」

 

と言って、伊丹はため息をつく。

 

「き、今日はお布施と言うことで・・・」

 

「ダメです。うちはツケは効きません」

 

「なんでだよ!ロゥリィお姉さまタダ飯食ってたろっ差別じゃん!」

 

「そう申されましても聖下は街の運営組合代表の一人ですし、この街造ったの聖下達なんですよ」

 

「え!?(この街はロゥリィお姉様の領域だと!?・・・・こ、ここはもう食い逃げしか・・・・やるか・・・:やったとしてその後どうなる・・・?)」

 

ジゼルは、このまま無銭飲食しようと考えたがやった後のことを考えたが、

 

「なぁに騒いでいるのぉ?言っとくけどぉ。アルヌスで騒ぎを起こしたらぉただじゃすまないわよぉジゼルぅ?」

 

すると、ジゼルはガクガクと振り向きヤオの方に向きヤオにレストランの代金を払ってくれる様懇願する。

 

「・・・あ、お前ヤオだっけ?なぁ・・・元信者のよしみで・・・金貸してくれないか・・・?」

 

「無理です」

 

「そこをなんとか」

 

「貸そうにも此の身は金を持ってない」

 

「ハ?持ってない?」

 

「此の身はイタミ殿の所有物。今は聖下に施しを受ける身だ」

 

ヤオがダメだったので、レレイの方に向かって抱きつき懇願する。

 

「レレイ頼む!お前ハーディの眷属になったんだろ!?俺らもう身内だよな!?な!?」

 

「イヤ」

 

しかし、レレイも答えはNOとキッパリと断られた。

 

『そんなあああっ』

 

叫び声を上げ絶望するジゼルにレレイは、慈悲のつもりか提案を持ち掛ける。

 

「貸すならいい・・・・・」

 

貸してもいいとレレイが言ってジゼルは、一瞬救われた表情になるが

 

「ただし十一で」

 

一瞬で、地獄に突き落とされた。

 

(十日で一割の利息ってエグいな、サラ金よりタチ悪いじゃねぇか。まぁ、金融や債権の仕組みが整ってないこの世界じゃ仕方ないか)

 

「(請求書がベルナーゴに届いて送る間に利息が増えまっくちまう。亜神になってまで財務にねちねち苦情言われる上・・・主上さんまた叱られちまう)む・・・無理・・・こうなったら煮るなり焼くなり好きにしやがれ!!胸の肉十一ワント切り取りたきゃ取りやがれ!!」

 

とジゼルは、やけくそになり床に背をつき喚き散らす。そんな様子をロゥリィとレレイはジゼルの胸に向けられる視線は異常だった。

 

「胸の肉十一ワント?」

 

「高利貸しを罵倒する時の慣用句だ。借金をカタに命を差し出す商人の物語」

 

(ベニスの商人か)

 

「十一ワントもいらない。あと一・・・・いや二ワントあれば」

 

「ちょっ」

 

「レレイ肉体をツギハギする魔法知ってる?」

 

「いた」

 

と言いながらロゥリィとレレイは、ジゼルの胸を揉んだりつねったりする。

 

「それは、禁忌に触れる。二十年程前拐った娘と身体をすり替えた女魔導士はどこかの亜神に首を落とされた」

 

「あ、それぇあたし」

 

などロゥリィとレレイが話していると、テュカが

 

「ちょっと二人共!自前が一番でしょ!!お父さんの好み忘れたの?こんな下品なのダメだって」

 

「下品って・・・」

 

「じゃあどうするの?」

 

「もちろん、身体で返してもらうわ」

 

とティカは、ジゼルに金が無いなら身体で返せと言うとジゼルは、顔を赤くして戸惑う。

 

「ま、まさか・・・・オ、オレにその、あの・・・ミリッタの神官みたいに身で稼げって言うのか!?」

 

「ミリッタ?」

 

「豊穣と子宝の神だ。信者は生涯に一度は宮殿で娼婦の務め果たさなければならないのだ」

 

とヤオからミリッタについて説明され豊穣と子宝の神と聞いて伊丹は苦笑いする。

 

「ミリッタの信者は出産時の危険性がほぼ無くなる。務めも婚約者に客になってもらうと言う"裏技"がある」

 

「ムリムリムリ!オレ男知らねぇもん!無理!出来ませんっ!ごめんなさい勘弁して!だってオレガキの時神殿に入って、亜神になるまで三百年以上外に出てないんだぜ?」

 

「大丈夫よぉ。ティカってぇ両刀だからぁ」

 

とティカが両方いけるくちと聞いて、伊丹は頬を赤くしレストランのスタッフは黄色い声を上げてティカの方を見る。

 

「修道院出ならぁ免疫あるわよねぇ」

 

「違うわよ。ロゥリィ正確には"お父さん"と女の子」

 

「同じじゃなぁい?」

 

「違いまーす。男は"お父さん"じゃなきゃイヤ」

 

「は、はい」

 

などと男性は伊丹じゃなきゃ嫌だとこだわる所にはこだわるティカ。そして、その横ではそんな会話を尻目にジゼルはオドオドしながら

 

「あの〜オレはどうすれば・・・・」

 

「もちろん身体で稼いでもらうわよ。十日もやれば返せるでしょ」

 

とティカに言われ、それから十日間ジゼルは、飲み食いした分の代金を返すべくレストランのウェイトレスとして働いて返す事となった。そして、十日後ジゼルは食糧庫でくすねた酒を飲みながら

 

「くそぅ・・・・ここの酒と飯がうまいのがいけないんだ・・・・」

 

と夜空を見上げながらそう言う。



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報道の自由とは

日本の各家庭や電気屋のテレビでは、日本軍の攻撃機や戦車が攻撃で旧帝国軍の残党兵士達を蹴散らし、随伴する歩兵が投降する兵士を捕虜にする映像が流れている。

 

「帝国正統政府率いる新政府軍と皇太子派率いる旧帝国軍との内戦状態に陥った特地では、活発化していた旧帝国軍によるゲリラ活動は、皇軍の掃討作戦により下火に向かいつつあるとの事です。しかし、アルヌスに設けられた難民キャンプへの避難民の流入は止まらず住民不在となった地域の治安悪化が心配されています」

 

「特地派遣は銀座事件の首謀者捕まえて賠償金と領土割譲を求める為に始めたんですよね?日本軍が現地住民を巻き込んだ戦闘を続ける事にソ連を始めとする各国から政府に懸念が表明されました。我が国のみで特地と独占する事が正しい判断だったんですかね?これは政府の適切な対応が求められているのではないでしょうか?」

 

とニュースキャスターが言う様に日本軍と新政府軍による各地での旧帝国軍の掃討戦が行われ弱体化して来た旧帝国軍兵士は投降や戦死が相次いで行った。しかし、それにより多くの村々では戦闘から逃れてきた大勢の難民が溢れていた。日本軍は、逃げて来た難民をトラックに乗せて難民キャンプに保護する。

 

「クルッカ・スート方面からの方は右に行って下さい!」

 

「ファブリ方面からの方は左へ!」

 

「毛布と食べ物を配ります。こちらに並んでください」

 

「体調が優れない方がいらしゃったら声を掛けたください!」

 

日本軍は、国連結成の際結んだ難民条約に基づき仮設テントで様々な支援物資を難民に提供するなどの人道的支援を行う。

 

 

一方アルヌスの浴槽では、ロゥリィとティカ、レレイ、ヤオが浴槽に浸かっていた。

 

「・・・・レレイあれ渡した?」

 

「イマムラ将軍に渡した。ニホンの首長に送られるはず」

 

「さぁて、どうなるかしらぁ」

 

などと話していた。

 

 

そして、場所は移り東京の日本放送協会では、特地から帰って来た菜々子は特地で撮影した特ダネを放送しようと上司に頼み込んだが、

 

「どうしてですか!?特地のネタ使えないってどういう事なんですか!?異常な現象も起きてるんですよ!?おまけに拉致被害者救出も報道しないって・・・特ダネですよ!?異世界に攫われた国民が救出されたんですよ!?」

 

「お、落ち着きなって栗林ちゃん。まぁその、あれだよ。上の方針、政府から概要は伝えられたけど各方面と話し合ってね。ほら、望月紀子さんの時やり過ぎちゃって各方面から不謹慎だ!恥を知れ!って非難殺到しちゃったんじゃない?ああ言う報道合戦は逆にこっちが叩かれられるようになっちゃった。国民感情を刺激しない様に、だから今回はね被害者が落ち着くまで配慮しようって」

 

と奈々子は、クナップヌイでの黒い霧の現象や拉致被害者の松居冬樹の救出が報道出来ないと上司から言われて憤怒する菜々子。

 

「じゃあ、特地の異常現象はどうなるんです?『門』の存在どころか世界の存続に関わることかもしれないんですよ!?」

 

「特地ねぇ・・・うん・・・まぁ、そうなんだけどね。今、世界的に特地へ進出しようって流れでしょ?国際協調・特地に掛ける期待・株価も高止まり、そこへ水を差すニュースを流すのはどうなのかなぁ。別に隠す訳じゃないよ?他の重大ニュースを優先しているだけ、限られた時間に何を流すか決めるのが報道の自由じゃない?」

 

「・・・・分かりました・・・」

 

上司からそう言われて菜々子は俯き渋々引き下がる。

 

『バカヤロー!』

 

廊下に出ると菜々子はバカヤローと小声で叫びながらゴミ箱を蹴り飛ばす。

 

(何でいつも空っぽなんだろうって思ってたけどこの為だったんだ・・・)

 

カリカリした菜々子は、その足で技術局へと向かった。

 

「う〜砂川君!特地で撮った絵のフィールムと写真ある?」

 

「そりゃあるけど?どうするのさ」

 

「決まってるでしょ!報道しないんだったら映画社や週刊誌に持って行くだけ」

 

「ちょっそれまずいって!・・・上が決めたんだろ?そんな事したら処分されるって!」

 

「別にいいわよそうなったらフリーになるだけよ。テレビ局なんて斜陽産業なんか辞めたって、今はいろんなやり方がある訳だし」

 

そんな風にしていると古村崎が菜々子に話しかけて来た。

 

「おいおいおい、何やら不穏な会話が聞こえたぞ。大丈夫か?」

 

「こっ古村崎さん!?なんでうちの局に?」

 

「何ではないだろ。お前さんが帰って来たと聞いて顔見に寄ったんだ。俺は取材の後すぐ追い出されちまったからな、その様子だと・・・・いい仕事はしたようだな」

 

「・・・・・」

 

「放送できないって言われたんだろ?ま、当然だな」

 

「当然て・・・」

 

「もういい時間だ。河岸替えて話さねぇか?」

 

そして、外は既に日が沈んで建物のネオンが辺りを照らしていた。菜々子は古村崎に連れられて居酒屋に来た。

 

「福さんと松さんに」

 

「おうあんがとよ、今度線香でもあげに行ってやってくれ。この前遺体が発見されたって連絡が来た。これに関しちゃ日本軍に感謝だな、よく見つけてくれたよ」

 

あのヘリでの野獣との戦闘後ヘリから落ちた古村崎が連れていた記者二人の遺体が日本軍により回収され遺族の元に返されたのだ。

 

「『門』の向こうじゃ戦争してるんですよねぇ。とても戦時下とは、思えないくらいみんな呑気ですね」

 

「大概の国民はこんなもんだ。『門』の向こうの事だからな。自分には関係ない、所詮他人事。銀座事件の後の非常事態宣言も一〜二ヶ月で済んだだろ?」

 

菜々子は、今は戦時下だと言うのに国民は変わらず平時と同じ様に生活をしている事に不思議に思った。二年前の大東亜戦争は米国との戦争だったのでそれなりに緊張感はあったが今度の敵は異世界と言う事もあって国民は緊張感が湧かないのだ。

 

「話の続きですけど、なんで報道出来ないのが当然だと?」

 

「ああまぁ、あんな『特ダネ』じゃなけりゃ使われたかもな」

 

「特ダネだったのが不都合だった?」

 

「そう言う事だ。ある方面にとっては」

 

「ある方面?」

 

「この業界に入っといてわからねぇか?資源溢れる特地に進出して利益を上げようと思ってる業界・日本の一人勝ちが気に食わない国・特地そのものを日本から奪おうと狙ってる国、要はマスコミに金を出している方面だ。今、日本政府の支持率が爆上げしたり、特地が危険かもしれないなんて拡められたら困るってこった」

 

こうした放送局では受信料や契約料を支払う事なく無料で見ることが出来るのだ。それは、無料で見ている番組の中にCM(コマーシャル・メッセージ)が挟まれている為なのだ。自社製品等を宣伝したい企業が金を払ってCMを番組中に流す様テレビ局に持ち掛けるのでテレビ局は、そのCMを流して企業から得る金でテレビ局は運営されている訳なのだ。民放で、CMを流してもらっている企業が望んでいるのは、一人でも多くの人に見てもらう事なのです。その為、企業が民放に望むのはより多くの人が見る番組を作ってその間にCMを入れてもらう事で、民放としてもCMを流して金を払ってくれる企業様ありきで、CMを入れてくれる企業が見つからなければテレビ局の収入は入らず運営もままならないのです。その為、テレビ局は企業側の意見だけが尊重されてより沢山の人に見てもらう為の番組が作られて企業側に都合のいい番組しか放送されないのだ。戦前の放送局は、事実上の国営放送だったので運営費は国民から徴収した税金で賄われていたのです。こうなると税金をどのくらい放送局に割り当てるのか決めるのは日本政府なので、要するに放送局は日本政府に財源を握られていた訳なのです。国から予算を割り当てられていた為、政府にとって都合の悪い事を報道すれば予算を削減され、真実よりも政府に都合良い事だけを報道する姿勢になってしまい、放送局は国民に真実を伝える機関としては使い物にならなかったのだ。過去に放送局は嘘の報道をしまい何のための放送なのか分からなくなってしまい国民は正確は情報を掴めずにいたのです。戦後は、そう言う仕組みは辞めようと言う反省から放送法が制定されテレビ局は国からお金を貰わず忖度されない局になったのだ。

 

「その方面が何を報道するか決めると・・・・だから差し止められ・・・・・ん?ちょっと待ってください!私の取材の内容知ってそうな口振りですね古村崎さん。まだうちの局の上司にしか回してないはずですが」

 

「女将さんもう一本追加・・・・ぶっちゃけるとだな。お前さんを説得するよう頼まれたんだよ、その方面に」

 

「・・・・全方位を批判している古村崎さんらしくないですね」

 

「ああ言う方面の力学から自由になるために選んだのが『批判』だ。いいか、栗林君この店の女将が常に新鮮でうまい酒や焼き鳥を客に提供する様に俺達テレビマンは常に新鮮でうまいネタを視聴者に提供しなきゃなんねえんだよ。俺達の商売はスクープを撮ってなんぼの世界だだが、それも今や俺たちが全方位から批判される様になっちまった」

 

「自業自得です」

 

「わかってる。俺と同じ轍を踏むか違う道を行くか考えろ、お前さんの選択だ。今はマスコミも吊し上げられる時代だ。一個人の記事が社会を動かし一政治家の発言がそいつの権威を失墜させる・・・・一つ教えとこう。お前さんのスクープを止めようとしている魑魅魍魎どもが一番怖れているのは世の中のムードを一発で変えちまう"映像"だ。この記事見てみろ面白いぞ」

 

と古村崎は、カバンから一冊の雑誌を菜々子に渡して席を立って店を出て行った。無論、代金を払わずに。

 

「え?・・・・あっ 食い逃げ」

 

その後、菜々子は古村崎から渡された雑誌を持ち帰り早速読んで行きあるページ話に目を止めた。そこには、アルヌスの事について書かれていた。

 

「これって・・・・紀子さんの雑誌記事・・・・!?特地の最新情報じゃないて言うか記事の一面が小さいなんで!?・・・・そっか名前伏せられたんじゃあ一個人のインタビュー記事としてしか扱われず見向きもされないか・・・・私の取材も投稿した所で膨大な情報に流されちゃうだけ・・・・(ムードを一発で変える映像・・・・如何したら見てもらえるんだろう)

 

いくら望月紀子本人の要望で取材したとしても国民感情から週刊誌は実名を伏せたのだ。そして、菜々子は雑誌を閉じると早速ある人物に元に電話を掛ける。

 

「あ、紀子さん?栗林菜々子ですお久しぶりです。兄?ああ、大した怪我じゃなかったですよご心配おかけしました。今日はですねちょっと相談がありまして・・・」

 

菜々子が掛けた電話の主は拉致被害者の一人の望月紀子だった。

 

 

数日後、菜々子はある番組の企画書を上司に提出した。

 

「ふうん、特地の生活情報ねぇ・・・・いいんじゃないか?中々面白そうな企画じゃない(この程度なら構わんだろ・・・)」

 

上司からOKの返事をもらい菜々子は満面の笑みを浮かべた。

 

「次は特地の新鮮な情報をお届けする特番は!毎日アルヌス!特地に住む様々な人々や風習を紹介して行きます」

 

「楽しみですねぇこれまであまり取り上げてませんでしたからね」

 

「第一回はアルヌスの街を紹介します」

 

そこには、アルヌスでの人や亜人の共同生活や日本軍と異世界の人々との交流なども放送されて一躍お茶の間の人々からは大反響を呼んだ。

 

 

また、別の番組ではクナップヌイでの黒い霧の事についてが放送されていた。

 

「特地の情報を紹介した記事で明らかになった異常現象"黒い霧"政府からの詳細の発表はなく専門家もこの映像に困惑しています」

 

「特地では星の位置に歪みが生じているそうですが」

 

「実はこちらもでもですね、同じ様な現象が世界各地の天文台から報告されているんですよ。地震の発生時期が特地と重なっている可能性があります。しかし震源が不明でして・・・・黒い霧に包まれた地域では生物に悪影響が出るとの情報もあり・・・・」

 

と専門家がそう説明する。これを見ていた国民は、

 

「何あれ?こわい」

 

「門を越えて拡まるの?」

 

「特地に行っている皇軍は大丈夫だろうか?」

 

「原因はなんなんだ?政府は知っているのか?」

 

「世界終焉の予兆か?」

 

と空を見上げて専門家の指摘した様な夜空の星々の不規則な位置に人々が困惑する。

 



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策略

アルヌスの草原の原っぱでは、ジゼルが仰向けに寝っ転がりながら空を眺めていた。近くでは、カトー老師達が野球をしていた。そして、ジゼルの瞳に映る日本軍の飛行機に、

 

「・・・・空が狭く成りやがった」

 

とそう呟く。そうしている時ロゥリィがやって来た。

 

「ジゼルゥ、こんな所でおさぼりぃ?」

 

「休憩スよ休憩。この時間食堂暇だから」

 

「ちゃんと働いているようねぇ。借金減ったぁ?」

 

「うっ」

 

ロゥリィに借金返済の痛いところを突かれ頭を抱える。そして、ジゼルはロゥリィが自分に何の用か本題に入る事にした。

 

「・・・・何スか?」

 

「ちょっと聞くんだけどぉ、空飛ぶってどんな感じぃ?」

 

「どうって・・・・お姉サマも翼竜やあの鉄の箱で飛んでただろ?」

 

「そうじゃなくってぇ、自前の羽で飛ぶってどおなのぉ?」

 

「ん〜野暮な質問だなぁ」

 

ロゥリィの質問に頭を悩ますジゼルに、カトー老師がボールを高く打ち上げた。すると、ジゼルは飛び立ちカトー老師が打ち上げたボールを見事キャッチする。

 

「上から下を見下ろすのは気分いいけどよ、晴れた空をのんびり飛ぶのもいいぜ。肌に風を感じさせてさ。けどよ、あいつらのせいでおちおち飛んでられねぇって翼竜どもが言ってたぜ」

 

「あいつら?」

 

「炎龍の子堕とした奴らだよ、あれ」

 

とそう言ってジゼルが指さした方向には、ゼロ戦が飛んでいた。

 

「ゼロセンのことぉ?」

 

「ゼロセンって野郎か、もう一匹来た」

 

そして、ジゼルはゼロ戦の方に向かって飛んで行く。

 

「神子田二時下方不明騎接近」

 

「ああん?」

 

「青いな・・・・ドラゴンか?」

 

「いや、街の住人らしい」

 

二機のゼロ戦に近付いたジゼルは、ゼロ戦の操縦席を神子田がジゼルにハンドサインを送る。そして、ゼロ戦が飛び去って行くとジゼルはロゥリィの元へと降りて行く。

 

「無茶するわねぇ」

 

「どんな奴が操ってるか面見てやったのさ」

 

「ヨウジに聞いたけどぉ。門の向こうじゃ炎龍より大きなひこーきが何百機も飛んでるそうよぉ」

 

「炎龍より!?・・・・ん?門の向こう?」

 

「明日ニホンでぇ、パラシュートコウカってのをやるのぉ♫布の傘でぇ空飛ぶんだって」

 

と明日の陸軍の基地でやる空挺降下を楽しみに話すロゥリィ。

 

「あーそれで」

 

「じゃあ、おしごと(借金返済)頑張りなさぁい」

 

とそう言ってロゥリィは去って行く。

 

「炎龍よりでかい鉄の鳥が何百もか。向こうの空はあいつらには狭過ぎんだな・・・」

 

「ジゼルさーん晩の仕込み始めるにゃー」

 

「はいよぉ〜」

 

とジゼルはレストランに戻りレレイから借りた借金返済の為に今日も働く。

 

 

そして、一方大日本帝国帝都東京総理大臣公邸の一室では、陸軍参謀総長小磯國昭を始めとした陸軍の参謀将校数人が座っており伊丹と大場はそこに呼ばれていた。

 

((俺達、本当にここに居て良いのか・・・・?))

 

「お待たせした。養鳴教授との話が長引きました」

 

と内閣総理大臣東條英機、書記長官迫水久常、外務大臣東郷茂徳、陸軍大臣杉山元などが入って来て席に着く。

 

「さて、この報告書だが、君達が書いたんだな?」

 

「はい!そうです!!」

 

「は、はいっ!あの・・・・どこかまずかったですか・・・?」

 

と大場と伊丹が言うと東條英機は報告書を見て大きな溜息を吐き、東郷が話し出す。

 

「まずいって言えばまずいのだが・・・・こいつにはいい悪いがてんこ盛りでな、どう反応したらいいのかわからねぇのが正直なところだ。で、お前さん達と直に話した方が良いだろうと来てもらった訳だ」

 

「はぁ」

 

「?」

 

「まずは資源調査。こいつは文句なしだ。超大規模油田にレアメタルがレアじゃなくなる資源宝庫。我が国にとっては嬉しい報せだ、ご苦労だった」

 

「ありがとうございます」

 

「勿体ない限りです」

 

と東郷からの労いの言葉にお礼を言うと、東郷は本題に入る。

 

「問題はあれだ、"黒い霧"…養鳴先生の話を聞いてもさっぱりだったが、記事で暴露されてからマスコミも遅ればせながら騒ぎ出した」

 

「まぁ、あれが広がれば特地の住み心地悪く成りそうですぇ」

 

「だが『門』との関連性は不明だ」

 

「それについてはハーディから・・・」

 

「そうです。神様から教えってもらったのですが・・・」

 

「その『神様』と言う表現やめたまえ、例の参考人招致に亜神とか名乗る娘が現れたから口を利ける存在を神様と称するのに難色を示す党や外交筋がうるさいんだ」

 

と黒い霧と門の関連性についてハーディから教えてもらったと言うと、迫水がハーディを神様と言う表現について東條達が難色を示す。そして、彼等にとって国家神道を信仰する日本にとって神様は天皇陛下であり、他国に於いてもキリスト教、イスラム教、ユダヤ教等を信仰する欧州や中東の各国からしても自分達が信仰する神様と違う異世界の神様と言えども到底受け入れられないのだ。

 

「はぁ、ではどう呼べば?」

 

「・・・・と、特殊能力者か?でなければ、超人的種族」

 

「いやいやいや迫水さんオカルトやアニメじゃないですから」

 

「予言者は?」

 

「胡散臭いですよ」

 

「精霊」

 

「何か違う」

 

「やはり神様しか」

 

「そうですね」

 

と神様の代わりの別称を迫水は色々と出してみるがどれも当てはまらず頓挫してしまった。 

 

(結局、神じゃねぇか)

 

(めんどくせぇー)

 

「公称は官僚に期待して話を進めましよう」

 

「あ、はい。つまりだ異常現象が発覚してから、国内や欧米の企業の投資計画が停まってしまったのだ」

 

「おかげで株価は大暴落、専門の議員も説明を求めて押しかけてくる」

 

と黒い霧が現れて知れ渡ってから企業の投資が頓挫し株価が暴落してしまった事に東條は溜息を吐く。

 

「何でそんな事に?」

 

「一体何の関係が?」

 

「分からないかね?『門』を閉じる事になれば投資が無駄になる」

 

「おまけに陰謀論ときたもんだ。外交筋曰く日本政府は特地利権の独占を図っている!『門』と異常との関連を示す証拠はない!我が国がいつ公式見解を発表したんだろうなぁ?」

 

と門を閉じる事になれば折角の投資が水の泡となってしまい、更に特地の利権が欲しい各国からは日本が特地を独占しようとしていると指摘が来た。

 

「・・・・如何だろう君達は帝国関係者と接触が多いのだろ?帝国正統政府の謀略に引っかかっているとは思わんかね?」

 

と迫水は伊丹と大場に黒い霧に帝国正統政府が絡んでいるんじゃないかと聞いて来た。が、二人は否定する。

 

「そ、それは無いと思います!魔法か何かであの霧を発生させられるのならクナップヌイなんて無人の辺境じゃなくアルヌスに一発で充分では?」

 

「確かに、クナップヌイなんて辺境の地より我が軍や住民達が多く暮らすアルヌスに放てば我々には大打撃の筈です」

 

「アルヌスは彼らの聖地だから手を出さないだけかもしれい」

 

迫水がそう言うと次に、軍の参謀本部の将校達が危惧し始めた。

 

「では、前線で使用される可能性があると!?」

 

「あの霧が報告通りであれば皇軍の装備で防ぐ事は出来ません」

 

(今、霧が前線で発生したら・・・・)

 

小磯國昭は、クナップヌイで発生している黒い霧がもし日本軍の前線で発生した場合のことを想像する。

 

『前方から黒いガス状のものが拡散!状況ガス!状況ガス!』

 

『ガスマスクと防護服を着用しろ!!』

 

『くそっ後退!後退ーっ』

 

『待ってくれっ』

 

日本兵は急いでガスマスクと防護服を着けるが黒い霧に触れ兵士達が次々に命を落として行く。ガスマスクや防護服は、何の効果も成さず黒い霧が日本軍兵士の死体を覆って行く。

 

「そのような状況下では任務遂行など不可能です!!兵士達の生命を守る為にも派遣軍の全面撤退を考慮しなければ!!」

 

「むむ・・・」

 

「しかし、こちらでもアポクリフとやらがどこかで発生しているかもしれない。門と関係がないと言い切るのは大変危険です」

 

「ですが、何らかの手を打つ必要があります」

 

「その何らかの手を早急に示して頂かなければ皇軍は今後の方針を・・・・」

 

と小磯國昭は兵士達の生命も考慮して撤退も視野に入れるべきだと主張する。だが、東條達は黒い霧と門の関係性が不明な為黒い霧の有効な対策が見つからなかった。

 

(書記長官はアポクリフを帝国の威嚇と考えている。それは無意味だ。ハーディしか知らないんじゃ威嚇にならない)

 

「と、まぁ政府内でも意見がまとまらない」

 

「頭が痛くなりますね」

 

「そうだな、だからお前さんもこれを聞けば頭が痛くなるぞ。ある申し出がアルヌス協同生活組合からあった」

 

「え!?(申し出・・・?あいつらいつの間に・・・)」

 

組合から政府に申し出があった事を初めて知り伊丹と大場は、寝耳に水だった。そんな、伊丹を余所に周りはニヤリとした笑みで伊丹を見ていた。

 

「「!?」」

 

「申し出によるとレレイ・ラ・レレーナ嬢が『門』に関して重要な技術を入手したそうだ。いくつか条件を呑めば『門』の再開通に協力してもいいと」

 

とレレイが日本側が条件を呑めば門の再開通に協力すると申し出をしていたのだ。レレイから申し出を出していた事にまたも驚く伊丹と大場。

 

「は、初耳です?それに条件って・・・・?」

 

「それで、どんな条件なんですか?」

 

そして、東條が申し出の条件を読み上げる。

 

「えー、まずはだな・・・・門の閉鎖を受け入れる事、異変を治めるためであるのなら仕方がないな。次にこちら側の技術や学術情報を無制限な流入を防止する事、特地独自の文化や生活の急激な変化を望まないという事だ。そして最後の条件だが・・・・」

 

「これが大問題だぜ?」

 

「だ、大問題・・・ですか?」

 

「ええっと・・・大日本帝国陸軍士官伊丹耀司陸軍中尉並びに大場栄陸軍大尉二人の身柄を此方に引き渡す事だ」

 

「お、俺・・・・自分を・・・ですか?」

 

「じ、自分もですか・・・」

 

「そうお前達だ」

 

とレレイ達が出して来た条件は技術などの流出の制限や特地での急激な変化をしないなどの中に伊丹をこちら側に差し出せと言って来たのだ。

 

 

ソビエト社会主義共和国連邦の首都モスクワの中心赤の広場にあるクレムリンの宮殿の一室ではソ連共産党の幹部達がおり、ソビエト連邦国家保安省第1局対外情報のリヒャルト・ゾルゲ局長がある資料を見て動揺する。

 

「ど、同志スターリン、これは・・・」

 

「銀座赤旗計画…我々はそう呼んでいる。我々は新たな進歩的手段を持って日本国内の友好的団体に働きかけ、特地の利権を手中に収める」

 

「し、しかしこの様なを計画各国が認めるとは・・・」

 

「君が心配する必要はないゾルゲ局長。我々は既に特地にも協力者を確保している。ついてきたまえ」

 

その資料には、帝国の第二皇子ディアボの写真があった。あれからディアボはソ連に接触を図っていた。そして、スターリンは、共産党最高幹部とゾルゲを連れてある会議室に来た。

 

「我々の計画に賛同・協力を申し出た各国の代表者の方々だ」

 

そこには、世界各国の国々主に中国(中華人民共和国)とイギリス、フランス、イタリア、そして、先の大戦の敵ナチスドイツや今やイデオロギー的に対立しているアメリカまでが居た。今やアメリカvsソ連vsナチスドイツと言った三つ巴の勢力がここに手を握る事になった。アメリカもドイツもソ連と手を組むのは正直不本意だがどちらも特地の利権が欲しい為渋々手を結ぶ事にしたのだ。

 

「中国・イギリス・フランス・ドイツ・イタリア・インド・アラブ諸国・アメリカまで!?」

 

「そう、我々はここに利害の一致を見た。ゾルゲ局長、君は彼らとの協力関係を維持し慎重かつ大胆に事を運ぶ必要がある。任せてもよかろうね?」

 

「は、はいっ同志スターリン」

 

「かくして日本は四面楚歌となったわけだ」

 

とソ連とそれにソ連の計画に賛同する各国の特地の利権を日本から奪取するための策略が始まろうとしている。

 



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実験開始

東京近郊

ここに、伊丹達は陸軍の空挺部隊の演習場に来ていた。クナップヌイでのピニャとの約束である降下訓練の体験をさせる事だ。伊丹は、空挺部隊に頭を下げまくって頼んだ結果OKしてくれた。そして、伊丹と大場とヤオは、ピニャ達が着地する地点に待機していた。

 

『大日本帝国陸軍士官伊丹耀司陸軍中尉並びに大場栄陸軍大尉、その二人の身柄の引き渡すこと』

 

((はぁ〜参ったなぁ・・・))

 

「イタミ殿、オオバ殿あれではないか?」

 

とヤオが指差した先には高度3000mを飛行する九七式輸送機が飛んで来た。そして、輸送機からは、ピニャを始めハミルトン、ロゥリィ、レレイ、ティカはそれぞれの指導員付きで降下してくる。ピニャ達は、初めての大空からのパラシュート降下に高揚感を表していた。

 

「おっ!きたきた。こっから長いんだ、あっちで座っててもいいぞヤオ」

 

「いや、此の身は御身の傍らにありたい」

 

(・・・・言い回しが大袈裟なんだよ・・・)

 

(言い方が遠回しだな・・・)

 

と思いながら伊丹は双眼鏡を覗き込んでピニャ達が降下して来るのを見る。

 

「しかし、よく飛び降りられるな?此の身はあの傘がちゃんと開くかとか考えてしまって・・・・一体なにが楽しいのだ?」

 

「だよな」

 

(お前はただ怖いだけだろが・・・)

 

そして、降下したピニャ達が着地するとピニャは、一目散に伊丹の方に駆け寄った。

 

「イタミ殿!素晴らしかった!言葉にならん!こんな体験をこの世で出来ようとは!」

 

「殿下、この世ではありません」

 

「そうだ!異世界だった!!イタミ殿もう一度飛べぬか?今度は妾達と一緒に!なぁ、ハミルトン!!」

 

「飛びたくはありますが・・・・またあれに乗るんですよね・・・・?」

 

とピニャは水を得た魚の様に生き生きパラシュート降下を絶賛する一方で、ハミルトンはパラシュート降下を楽しめた様だが飛行機に乗る事に不信感を抱いている様だ。そして、ピニャは伊丹をパラシュート降下に誘うが、

 

「あー、折角のお誘いですが遠慮しておきます。俺は空から飛び降りる楽しさが理解出来ない病気でして・・・・」

 

「プッ」

 

(まぁ、ある意味で病気かもな)

 

と自分は病気と言って断ると、背後にいたヤオが笑った。他のパラシュート降下を体験したロゥリィ達は、

 

「ジゼルの言い分何か分かったわぁ・・・・」

 

「空を飛ぶ魔法、研究を進めたくなった」

 

「風の精霊と踊ったの!楽しかった!」

 

とロゥリィ、レレイ、テュカ三人も大好評だった。

 

「病気とな!?」

 

「そう病気」

 

と三人は、伊丹が病気だと聞いて詰め寄ってきた。

 

「ヤオ!お父さん病気って何の!?」

 

「あ、いや・・・」

 

「何か知ってるのねぇ?」

 

「あ〜実は・・・ヨウジ殿は、高い所が怖いそうだ」

 

とヤオは、伊丹の高所恐怖症の秘密をみんなにバラした。

 

「あ、ヤオ!秘密だって言っただろ!お前だって!」

 

「此の身は、運が悪いから事故を心配しての事だ。怖がって此の身にしがみついて叫んでいたのは誰だ?」

 

「あれは・・・・翼竜が怖かったんだよっ!俺だって一人で飛んだ事あるんだぞ!」

 

「じゃあ何でパラシュートコウカしないのぉ?」

 

「あやしい」

 

と伊丹は、自分は高所恐怖症ではないと強がるが、みんなはニヤリと笑っていた。

 

「ほ、本当だぞ!?た、ただしがみついてなかなか飛び降りない俺に痺れを切らした降下長達に蹴り落とされたんだけど・・・・仕方ないだろ!無理矢理やらされたんだから、あの隊長に俺が装甲科(機械化歩兵)で無理矢理取らされた突撃章を指差されて・・・・」

 

『この勲章は何だ?俺の隊が陸軍空挺兵章なしで許されると思ってんのか!取れるまで未来永劫休暇はやらん!海軍の休日返上の月月火水木金金だ!』

 

と出雲隊長にそう言われて伊丹はムンクの叫びの様な顔をしていた。

陸軍空挺兵章は、空挺部隊の創設と同時に制定され、授与対象は空挺効果試験を終えた陸軍の兵士である。試験合格授与条件であり、勲章に値する技能技術が備わっているかチェックされる。また年に6回以上のパラシュート降下実施も条件に組み込まれる。勲章は、『勝利』の象徴月桂冠に囲まれ、『空の王者』の象徴の鷲を意匠とする。

 

「言っとくけどな、ロープとか把手とか掴んでれば平気なんだぞ!懸垂降下も出来るし」

 

「ふぅん」

 

「(まさか、俺の扱い方が出雲隊長の隊にまで申し送りされてるとは・・・)と言う事で強制されない限り俺は飛びませんっ!!はいこの話はこれで終わり!そろそろ着替えてバスに乗ってくれ」

 

ピニャ達が、着替え終えるのを待つ事にした。そして、着替え終えたピニャ達が来て、送迎車に乗ろうとしていた。

 

「楽しかったね」

 

「いい気持ちだったわぁ」

 

「あの鉄の鳥が飛ぶのが理解出来ません・・・・」

 

「今度はもっと高くから飛びたいな、イタミ殿また頼むぞ!」

 

「あんまり期待しないで下さいよ」

 

とみんな満足したようで、ピニャは今度はもっと高い位置から飛びたいと言い、そんな事をしているとある人物が伊丹達に声を掛けてきた。

 

「よぉ、お楽しみだったな」

 

その男は、全身黒ずくめで黒い背広に黒いハット帽で杖を付いていた。

 

「えっと・・・・どちら様?」

 

「あんたは、確か特高の・・・・」

 

「駒門だ。わかんねぇか?だいぶ痩せたしな」

 

その人物は、日本の秘密警察である。内務省警保局特別高等警察の駒門だ。

 

「おお・・・・お久しぶりです。腰どうです?」

 

「顔色もあまり良くなさそうで、大丈夫か?」

 

「見ての通りだ。そこの嬢ちゃんそのデカ物しっかり持っててくれよ?」

 

その後、送迎車に乗った伊丹達御一行は駒門達特高警察の護衛を受けながら出発する。

 

「今回の警備は警察か憲兵隊の筈では?」

 

「ああ、出向が済んでな。今は特別高等警察課の課長だ」

 

「おー、栄転ですか」

 

「それは、めでたいな」

 

「あんた等のおかげだよ。去年銀座で虫を一掃出来たからな」

 

と駒門は不気味な笑みを浮かべながら笑った。ピニャ達が初めて日本に訪れた時も日本に潜入していたソ連やアメリカの諜報員を摘発した事により昇進したのだ。

 

「状況報告」

 

『前方交差点異常なし』

 

『後方不審車なし』

 

「よし、二号車分離」

 

そして、バスが交差点に差し掛かると伊丹達が乗る送迎車と同じタイプのバスが伊丹達と離れて行く。

 

「銀座へ向かうダミーだ」

 

「他にも数台変装した警官乗せて銀座の近辺うろついている。で、この後は科学技術研究所でいいんだな?」

 

「あ、いえ、昨日の今日なんで明日になりました。今日はどっか適当なとこで昼飯食ってここに行って下さい」

 

「おいおいまたかよ・・・新谷飯屋任せた」

 

「ええ!?」

 

と伊丹は駒門に住所の書いたメモを渡し、駒門はそのメモを運転手に渡す。

 

「先方には話つけてますんで、そこの近くのスーパーマーケットにも寄って下さい。誘導します」

 

「注文が多いな、まったく」

 

伊丹は駒門にあれこれと注文をしてくる。駒門は、なんだかんだ言いながらも引き受ける。

 

「ところであんたら今回何しに来たんだ?遊びに来ただけじゃないんだろ?」

 

「それは秘密で・・・」

 

「『門』を開く実験」

 

「異世界への穴を人為的に作るって事か!?」

 

駒門は、伊丹達の訪日目的を聞いて来たが、伊丹は秘密と言おうとしたがレレイが今回の訪日目的の秘密を言うと、駒門は目を見開き驚く。

 

「出来る」

 

「こいつはたまげた・・・・」

 

「何を話しておるのだ?」

 

「音が大きくてよく聞こえません?」

 

駒門達の会話はピニャ達には来日の目的は聞こえてない様だ?

 

「おい新谷分かってるな?」

 

「は、はいっ!何も聞こえませんでしたぁ!!」

 

と駒門は部下に威圧しながら念押ししてそう言う、部下も駒門の威圧感に恐れを成して、『見ざる・言わざる・聞かざる」の三猿の様に自分は何も見てない、言わない、聞いてないと言う。その後、伊丹達は、昼食を取る為に中華料理屋に足を運んだ。ピニャ達は、中華そば、伊丹は炒飯、大場は餃子定食、駒門は焼売定食を注文した。中華そばを初めて実食したピニャ達は満足そうだった。その後、お腹が膨れた事で再び送迎車で目的地に向かう。途中で、スーパーマーケットに寄り伊丹とハミルトンが買い出しに行き、二人とも紙袋を抱えながら帰って来た。そして、漸く伊丹が指定した場所に到着した。

 

「送迎ご苦労さん」

 

「んじゃ、明日〇七〇〇で」

 

「ったく、あんた等のせいで胃も痛くなる…警備する身も考えてくれ」

 

「それは、悪かったって」

 

「まーまーいずれ誠心誠意」

 

とそう言って伊丹と大場は走り去っていく送迎車を見送り

 

「イ、イタミ殿。ここはまさか・・・」

 

とピニャは、目の前の建物を見て動揺する。見覚えのある平屋、そして、

 

「いらっしゃ〜い」

 

と扉が開かれ出て来たのは伊丹の婚約者である葵梨沙だった。そこは、梨沙の家だった。

 

「おう、今日頼むわ」

 

「梨沙さん、またお世話になります」

 

「随分と沢山買って来たね」

 

伊丹と大場がまた梨沙の所でまた世話になるので挨拶していると

 

「リサ様!再びリサ様に会える日が来ようとは!神に感謝せねば!!いや、リサ様御自身が芸術の神・・・っ」

 

ピニャは、梨沙を見るや否や満面の笑みを浮かべて梨沙に駆け寄る。

 

「殿下!?」

 

「拝受した聖典の数々どれだけ妾の心を癒したことか・・・・」

 

「なんて?」

 

「芸術の神様だって」

 

とピニャが特地語で梨沙の男色の作品に感銘を受けたことを熱く語って来た、特地語が理解出来ない梨沙に伊丹が通訳する。梨沙の家に訪れた時梨沙の作品を見てすっかり梨沙の作品を信奉し梨沙を崇拝する様になった。

 

「やだなぁ神様なんて〜今描いてるの見る?」

 

「まことか!?ハミルトン喜べ!リサ様が目の前で御業を披露してくださるぞ!」

 

「はぁ」

 

ピニャが梨沙の作業現場を目の前で見れる事に興奮し、副官のハミルトンにも共有してくるが彼女にはそんな思考はないと思う。自分が好きなものを他人にも押し付けようとするんだ?

 

「聖典って衆道の薄い本でしょぉ?」

 

「あれ趣味じゃないなぁー」

 

ロゥリィが正確なツッコミを入れ、テュカは自分のジャンルが違うので興味なさげに言う。

その後、家に上がる伊丹達はスーパーで買った酒や食材などをテーブルに並べてみんなで飲み明かす。

 

「はい、頼まれていたやつ?買っておいたよ」

 

「お、あんがと梨沙。最近出ずっぱりで、カストリ雑誌追えてなかったから助かる」

 

と梨沙は伊丹が任務で留守にしている間に出た新刊のカストリ雑誌を渡す。

 

「それで、飛んだの?パラシュート降下」

 

「知ってるくせに」

 

梨沙は、伊丹が高所恐怖症なのを知りながらニヤリと笑いながら言う。伊丹は、自分が高いの苦手なの知ってて言って白々しそうに言う。

 

「で、今回は何に追われてんの?」

 

「ん〜時間・・・かな?」

 

「時間?」

 

「当分任務で時間がなくなる・・・・かも知れない。そんな時は、また頼むわ」

 

「はいはい」

 

伊丹と梨沙がそんなやり取りしえいる頃、ピニャとハミルトンは五右衛門風呂に入っていた。

 

「は?先に帰れって、殿下!?」

 

「イタリカを出る時言ったであろう?妾は、もう政治に関わる気はない、関わりたくないのだ・・・・」

 

「殿下・・・・」

 

とピニャは哀しい目をしてそう言う。ゾルザルがクーデターを起こして主戦派達から吊し上げを食らって以来政治から距離を取る様になったピニャ。

 

 

 

そして、翌朝

 

「んじゃ行くわ。ありがとな、体に気を付けろよ」

 

「耀司も異世界めしで腹壊さないよーにね」

 

玄関先でお互いにそう言い合うと伊丹は行ってしまった。

 

「行っちゃった・・・・が」

 

梨沙がそう言って振り返ると

 

「リサ様!このの薄い本の続きはないのか?」

 

「異世界の皇女様薄い本の虜囚になるってか・・・」

 

ピニャは、梨沙の家に残って朝からカストリ雑誌の鑑賞を始める。

 

 

 

そして、伊丹達はとある研究所に来ていた。そこには東條英機総理をはじめ各省の大臣達も来て伊丹達を出迎えた。

 

「お待ちしておりましたレレイさん皆さん。パラシュート降下は楽しめましたか?」

 

「ありがとうとても楽しめた」

 

「それは良かった」

 

「あれって軍隊の一種でしょ私達がやって?大丈夫だった?」

 

「なぁにあの程度の事どうって事ないよ」

 

東條英機がそう言っていると、東郷茂徳が伊丹達にやって来て話し掛ける。

 

「よぉ、嬢ちゃんらは楽しんだようだな。お前さん達も飛んだかい?」

 

「俺は、そもそも空挺兵では無いので」

 

「任務でもないのに自分の意思で飛ぶわけないですよ。…あの東郷さん本気なんですか?」

 

「お前さん達を引き渡すってことか?まだ決めてない。『門』をどうするか決めてからだ」

 

それを聞いて伊丹達はホッとして胸を撫で下ろしながら安堵する。

 

「もし閉じるとなれば…戒厳令を出してやる。レレイ嬢の護衛も兼ねてな」

 

「俺に諦めろと?」

 

「ここは、突撃作戦的に考えてくれないか?」

 

「除隊願書いてもいいですか?」

 

「お前さんはやめもしないよ。実はだな、カストリ雑誌を公文書館で保存しようと話が出ている。門が再開通したら何年ものカストリ雑誌を一気読み出来るかも知れんぞ?」

 

「マジっすか!?」

 

それを聞いて伊丹が大きな声を出し目を見開いて驚く、そんな伊丹に周りの視線が集まった。

 

「あ、いえ失礼」

 

「東郷さん、カストリ雑誌は直接買いに行くから価値があるんです。作者の作品の想像力、努力、苦悩に読者との一体感行けなくなって忘れちゃったんでしょう」

 

「伊丹よぉ何言ってんだ?」

 

「え?」

 

「アルヌスこそ永遠に終わらないエデンじゃねぇのか?」

 

「確かに伊丹にとっちゃ楽園かもな」

 

(俺が恐れているのは特地に残されることか?それとも行き来ができなくなることか?)

 

部屋全体がガラス張りの実験室に来るとそこには、この実験の第一人者である養鳴教授が居た。

 

「む、来たな!こっちも突貫で準備出来たところだ!!極秘実験とは、なんとも胸が高鳴るものだ!さぁ、レレイ君こっちに来てくれたまえ」

 

とレレイが実験室に入ると研究者達から頭にヘッドギアを被せられる。実験室の外では政府高官、研究者、軍人がガラス越しで見ていた。

 

「背広組も白衣組も軍服組もそうそうたる面子ですね」

 

「それだけ、この実験が重要って事だろ」

 

「当たり前だろ」

 

「『門』は我が大日本帝国の行く末を決める。野党は選挙の争点にするだろう。いっそ公表しようか?彼女の存在を公式発表せずとも門を開く技術が手に入ったとでも噂を…」

 

「やめてください総理!それをやったら!!」

 

東條英機の何気ない発言に官僚達は焦る。そんな事をしている内に実験が開始される。

 

『これより『門』を開く実証実験を開始します!各員持ち場へ!!』

 

「5、4、3、2、1、コンタクト!」

 

カウトダウンが開始され、それと同時にレレイは呪文を唱える。門を開く実験が開始した。



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新任

研究所では、レレイがハーディから授かった門を作る力を使って門が閉鎖した時に新たに特地に繋がる門を再開通する為の門の作る実験が行われていた。

 

「被験者の前方に空間の揺らぎを探知しました」

 

「観測器に歪みが!?重力値は?」

 

「脳波の振幅が大き過ぎて計測不能発生レベルです」

 

「意識を保ってるのは、発生部位が大脳の一部に限局されているからか」

 

レレイの前から空間に歪み生じて、ヘッドギアからのレレイの脳波も尋常じゃない数値で測定不能になっていた。

 

『コンタクト!』

 

レレイが呪文を唱えて指パッチンをすると、目の前に直径約3m位の水溜まりの様な結晶が現れた。

 

「んん?何か出来ました?」

 

「空中に水溜まりが浮かんでいる・・・・?」

 

しかし、全員自分達の知っている銀座にある門と違う事に少々戸惑う。

 

「あれが門?」

 

「銀座にある物とはだいぶ違う。レレイさん?」

 

「あれは、門を安定させ固定させる建造物。『門』の実体はこれ、維持し続けるのはこの大きさが精一杯」

 

研究員は、直ぐに結晶の中にカメラを搭載した遠隔操作式のゴリアテと温湿度計を結晶の中へと入れる。

 

「カメラ導入」

 

「気圧差なし、気温36度湿度82%。大気成分・・・酸素濃度が高めなものの呼吸可」

 

温湿度計の数値は気温と湿度高めで真夏と大体同じくらいの環境だった。ただし、通常よりも酸素濃度が高いため酸素マスクなしで長時間いると酸素中毒になってしまう。

 

「映像はどうだ?」

 

「モヤだらけだ、カメラが曇った?前進させて下さい」

 

「霧じゃないか?赤外線カメラの画像は?」

 

「んーはっきりしないな」

 

「ええいもどかしい!」

 

気温や湿度が高いせいかカメラから送られてくる映像に写っているのは霧が立ち込めており辺りが全く見えなかった。

 

『おい!誰かカメラを持って入ってみろ!』

 

そう言う養鳴が指示するもどこに繋がってるのか分からず誰も入りたがらず

 

「仕方ない儂が行く!」

 

「養鳴さん!?」

 

何を見えない事に痺れを切らした養鳴は自らが門の中に入ろうとし、止める研究員の静止を無視する。すると、伊丹がいつの間にか防護服とガスマスクを見に纏ってい命綱を付けている。

 

「レレイどこに繋いだんだ?」

 

「わからない近くの適当な世界」

 

「特地じゃないのか?」

 

「同じ世界とは、複数の穴を開く事は出来ない」

 

どうやら門は作れてもどこに繋がるかははランダムの様だ。

 

「これ魔法?」

 

「ハーディの力を借りている。ただし特地とニホンを繋ぎ直すには目印が必要」

 

「単一素材の希少結晶であったな」

 

「成る程、んでは・・・・・どらどら」

 

そして、伊丹は懐中電灯を構えて門の中に入って行く。中に入って行く様子を見た研究員達は、驚愕する。側から見ると伊丹の体前部が切断された様に映る。

 

「ものほんの人間の断面を見たな」

 

リアルで見る人間の断面図にドン引きだった。

 

「ヨウジ殿だけで行かせて良かったのだろうか?」

 

「「あ」」

 

「まぁ大丈夫だろ、あいつは運だけは最強だからな」

 

皆が伊丹が門へ入って行くのを真剣な表情で見ている。入って行くとそこは、辺り一面白い霧に覆われた真っ白な世界だった。伊丹は無線を入れ、大場がオペレーターを務める。

 

「あー聞こえます?」

 

『あぁ、聞こえてるぞ。伊丹、どうだ何か見えるか?』

 

「いや、やはり門の中は霧が濃く視界は1mもありません。何か、化け物でも出て来そう」

 

そんな事を言って伊丹が霧の中を歩いて行くと、伊丹がある物を見つけた。

 

「お、何だこれ?えーえ!?まじ!?うそ!?まんまあれじゃん!」

 

『どうした?』

 

「卵じゃねーか!?」

 

『何!?』

 

「何かの生物の卵だ!もの凄い量の卵が山の様にそこら中に置いてある!!うわっ開いてる!?もしかして孵化してる!?やばいやばい!やばいってここ!カメラ後退!早く引っ張り出してくれ!!」

 

伊丹はSF映画などに出て来そうな宇宙人の卵みたいなのが開くを見て慌てて門の方へ逃げる。

 

「レレイ!早く門を閉じろ!!」

 

『実験中止!実験中止!直ちに実験棟を閉鎖!!』

 

レレイが指パッチンをするとその結晶は消えて、直後に地震が起きた。

 

『揺れが発生、震源確認中・・・・震源地不明』

 

「レレイ・・・・特地とここ以外の世界に繋ぐのはやめてくれ、特にあそこは絶対ダメだこっちが滅び・・・うぉ!?な、なんだよ!?」

 

すると、いきなり伊丹は、防護服を着た軍人達に両腕を掴まれた。

 

「直ちに伊丹中尉を隔離して身体検査だ!!体内に異物が注入されていないか、寄生されていないか徹底的に!」

 

「い、いや!?ちょっと待って!大丈夫だって!防護服にも穴空いてないでしょ!ホントだって!俺はっ俺は・・・・無実だ!!」

 

「・・・・無実?」

 

「あれがお約束ってやつだ」

 

と杉山元陸軍大臣が伊丹を隔離して門の向こうから異物を持ち込んでいないか身体検査をする様に命令する。伊丹は、そう叫んで訴えるも聞き入れてもらえず問答無用で連れて行かれた。

 

 

 

 

一方、特地では新政府軍と旧帝国軍との内戦は激化し日本軍の協力を受けた新政府軍は各地で旧帝国軍の兵達を撃破していった。フォルマルト領イタリカでは、

 

『我が帝国正統政府軍はゾルザル軍のアルンヘウムの要塞の攻略を続行中!敵支配地で騎兵による攻撃を敢行し一つの街、六つの村と敵兵二百をエムロイの神に捧げたり!』

 

と帝国正統政府による戦況の公式発表が行われていた。

 

「まだ落とせねぇのか」

 

「略奪行を俺達にやらせてくれよ」

 

「いつになったら戦えるんだ?」

 

イタリカのフォルマルト伯爵家の屋敷の寝室ではベッドで療養中の皇帝モルトにミュイとシェリーがモルトに本を読み聞かせていた。

 

「大儀であった、ミュイ伯、シェリー嬢。今日の物語も興味深いものであった」

 

「陛下、イタリカには初めて読む書物がたくさんあるのですよ」

 

「この本はお父様が色々な部族から集めた物語集なのです」

 

「ふむ、思い出したぞ。数年か前分厚い伝承集を献上されたが、挿絵を手づから描いたと自慢しておったわ」

 

「夜中まで書斎にこもっていたと聞いております」

 

「明日は私達の詠んだ詩をご披露しますわ」

 

「それは楽しみだ」

 

と話しているとドアの向こうからノックがした。

 

「シェリーさん!」

 

慌てたミュイとシェリーはモルトのベッドの下に潜って隠れた。

 

「この前マルクス伯に怒られましたからね」

 

「あの侍医が告げ口したんですわ」

 

とベッドの下でひそひそと話す。

 

「入れ」

 

「陛下!至急お耳に入れたき報せが!」

 

寝室に入って来たのは宰相のマルクス伯とファルマルト家のメイド長だった。

 

「何事だ?マルクス伯」

 

「ハッ、アルヌスにおります薔薇騎士団騎士パナシュより早馬にて報せが参りました。て、帝国辺境クナップヌイにてアポクリフと称する異変が発生し、ニホンでは門との関連と門を閉じるか閉じないかの論争になっていると」

 

「気にする事はない。ただ論争になっているだけであろう?」

 

(そうですわ。ニホンはまだ何も手に入れてないですもの)

 

と門とアポクリフについて短絡的に捉える二人、するとメイド長が小さな紙を取り出した。

 

「さらに気になる情報が・・・・ピニャ様の書記官ハミルトン様よりパナシュ様への私信の写しでございます」

 

「入手方法は聞かぬ方がよいな?」

 

「恐れ入ります。ここに書かれている道中聞き及んだ話によりますとアルヌスに滞在しているある魔導士が冥王ハーディより『門』を開く力を授かったと」

 

その報告を聞いたモルトが目を見開き驚く。

 

「なに?それはまことか!?」

 

「本当なら由々しき事態かと」

 

(不味いですわ、とんでもないことを聞いてしまいました。ここで見つかれば・・・・当分の間イタリカに拘束されてしまう?スガワラ様と引き離されてしまう?)

 

「どうしました?」

 

「しっ、ミュイ様この部屋から抜け出しますよ」

 

そう言ってシェリーとミュイが気付かれない様にゆっくりとベッドから出ようとしていた。

 

「待つがよい、まぁ待て早まるでない。その魔導士は何者か分かっておるのか?」

 

しかし、二人はメイド長に見つかってしまった。

 

「!?」

 

「メイド長?」

 

驚いてメイド長は固まるがモルトの呼び掛けにメイド長は直ぐに我に帰る。

 

「あ、は、はいっ残念ながら何者か書かれておりません。ピニャ殿ならご存知かも・・・・」

 

報告にあった魔導士の正体がレレイであるとまでは書かれていなかった様だった。

 

「ニホン人であれば災いを未然に避けようとするでしょう」

 

「うむ・・・・この情報をイタリカで知る者は?」

 

あたりを見回してこの事を知っているのは、モルトを始めシェリー、ミュイ、マルクス伯、メイド長の5名だけだ。

 

「シェリーよ」

 

「は、はいっ」

 

「事の重大性を理解している様だな、申してみよ」

 

「・・・・はい」

 

モルトは、シェリーに意見の申し立てをする。

 

「帝国正統政府が戦えるのはニホン軍がゾルザル様の軍勢を叩いているから、それが無ければ劣勢な正統政府は対抗できず議員はことごとく逃げるか鞍替えするでしょう。正統政府は、あっという間に崩れてしまいます」

 

「うむ、分かっておる様だな。ならばしばし「解決策はありますわ!」」

 

「ニホンの求める賠償を支払う力は今の正統政府にはない。その力を手に入れるにはゾルザル様が邪魔、けれどゾルザル様をやっつけるにはニホンの力が必要。金庫の中の鍵ですわ!!ですからニホンにお願いするのです!ゾルザル様を倒して下さいと!」

 

その言葉にマルクス伯は、驚愕する。いくら帝国正統政府に弓引く賊軍の総大将とは言え、ゾルザルは腐っても一応は帝国の皇太子である。それをまだ講和交渉が成立しておらず未だ敵である日本軍にゾルザルを倒してくれと頼むのは抵抗感を感じるのだ。

 

「なんと!敵になったとは言え皇太子を敵に倒してくれと・・・!?」

 

「敵の敵は味方と言うじゃありませんか?勿論、急いで講和を結んでからの話です。空手形を切ってでも、鉱山や領土の権利もお譲りすればきっと応じてくれるでしょう。門を閉じる事になってもニホン軍を残してくださるかも」

 

「何故そう思う?」

 

「・・・・賭けと人情です。再び『門』を開けるかはニホンにとっての賭け、その先には手に入れた土地(スガワラ様と離ればなれになるなんていや、これは私にとっても大きな賭け!)捨てるには惜しいと思うのが多い程ニホンは手を貸してくれるでしょう!!陛下はもうニホンと戦争するおつもりはないのでしょう?今後の為にもニホンの力を利用すれば良いのです!帝国が再び力をつけるまで」

 

シェリーは、日本に鉱山と領土を割譲する事を切り札にゾルザル打倒に応じてくれるだろうと進言する。モルトをはじめ、周りの三人も12歳の子供とは思えない程のシェリーの発想力に舌を巻いていた。

 

「も、申し訳ございません!出過ぎた口を」

 

「いや、その齢で素晴らしき発想、将来が楽しみだ」

 

マルクス伯は、シェリーの発想力に関心していた。

 

「うむ、伯の言う通りややニホン贔屓過ぎる所もあるが・・・・・マルクス伯、テュエリ家の相続は決まっていなかったな?」

 

「は?はぁ、確かにそうであります」

 

モルトがテュエリ夫妻が死んだ今、テュエリ家の当主の座が空いている事を確認する。

 

「辛気臭い議員の中に稚い者が混じっておるのも一興、ニホンから譲歩を引き出す呼び水になるかもしれん。シェリー、そなたを講和交渉団代表に任命する事にしよう」

 

とモルトは、シェリーに日本との講和交渉団の代表に任命した。

 

「へ、陛下!?」

 

「あ、あの、わ、わ、わたくしは・・・・ニホンの外交官の妻になる事を約束しておりまして・・・・」

 

「まだ帝国貴族という事だ。マルクス伯無理は承知だ、適切な名目を考えよ」

 

「・・・・さすれば・・・・門地の相続を認めテュエリ子爵夫人とし伯の位に陞爵致しましょう」

 

「よかろう、テュエリ子爵夫人改めて特使代表として使命に務めよ」

 

「は・・・・ありがとうございます(持参金の代わりに爵位なんか貰ってもスガワラ様が喜ぶとは思えませんが・・・・皇帝特使の任、私の目的に使わせていただきますわ)」

 

こうしてシェリーは、若干12歳と言う史上最年少で講和交渉団の代表に就任したのだった。



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ホスピタル・ライフ

アルヌス協同生活組合の倉庫では、日本から帰って来たテュカとヤオがアルヌスの住民達を集めて重大な事を伝えていた。

 

「門を閉じる!?」

 

誰がそう言ってそれを聞いて、周りはざわざわとしていた。

 

「突然どう言う事なんですかい!?」

 

「閉じるって事はニホンの品物が入らなくなる!?」

 

「街や取り引きはどうなるんだ!?全財産賭けてアルヌスに来たんだぞ!」

 

「ニ、ニホンの人達帰っちゃうにゃ!?」

 

などと、心配の声が上がる。アルヌスでの雇用形態が特地の常識に比べて異常なほどの厚遇である為アルヌスに仕事を求めにやって来た人は日本がアルヌスから撤退してしまって失業するのではと心配する人や特に商人達は日本製品を仕入れて高額な値段で貴族に売っているので門が閉じると言うことは日本からの商品が途絶える事になり、彼等にとっては死活問題だった。

 

「みんな落ち着いて聞いて!門を閉じないと大変な事になるの!アポクリフ・・・クナップヌイで起こっている異変、あの黒い霧が拡がるとこの世界は死の大地に」

 

「けどそれ、クナップヌイから拡がらないかもしれないんだろ?」

 

「え?」

 

「あそこは、人も住んでいない辺境だ」

 

「けど、ロゥリィも見た事ない異変なの!ハーディもジゼルをベルナーゴから遣わせるほどの!」

 

「その異変が門と関係があるんで?」

 

日本との関係が途絶える事にアルヌスの住民達は騒ぎ出すのをテュカが静止させる。すると、コックのガストンがクナップヌイで起きているアポクリフと門との関連性をして来たので、テュカはヤオに説明を求めた。

 

「ヤオ」

 

「うむ・・・皆、聞いて欲しい。確かにクナップヌイは、遥か後方の辺境である。だが、他にも異変が起きている。此の身達は、ロンデルで夜空に起きつつある歪みを知った。地揺れが起きたことも覚えているだろう?何よりアポクリフは、ハーディが予言した物だ。カトー老師も言っている、これ程長い間門が開いているのは歴史上初めてだ。『何が起こってもおかしくない』と」

 

「・・・・で、ですけどよ。異変を鎮める為に一旦門を閉じるとして、また門を開いてニホンと繋ぐ事が出来るんで?」

 

「大丈夫方法はあるから!ま〜かせて!」

 

とテュカは、伊丹と行動を共にした影響か伊丹の様なノリで言う。門が閉じても再開通する術があるとそれを聞いて住民達は、安堵する者や喜ぶ者などが居た。

 

「ただし門が再開通に成った時、ニホン側の時間が数年進んでいる可能性があるが・・・」

 

ヤオがそう言うと、門が再開通した時には数年先の未来の日本かも知れないと聞いて再び住民達から大声が倉庫の外にも響き渡り

 

「だいぶ盛り上がってるななんの話だっけ?」

 

「詳しくは知らないけど門についてだってさ」

 

中の状況を知らない外の住民は、そう言い

 

「こりゃ組合員一人ずつ説得せんといかんのぉ」

 

その後、テュカ達は、住民達に説明して行く。当の住民達は、どこか遣り切れない感じだった。

 

 

そして、新宿の陸軍病院では、研究所での門の実験の際伊丹が門の向こうの世界を調査から戻ると杉山元陸軍大臣が軍病院に伊丹を連れて行かせて異世界から特定の外来生物などを持ち込んでいないか検査を受ける様強制させられていた。

 

「ね〜まだ検査やんの〜?レントゲン検査に血液検査にその他もろもろ。何度も検査したって何も出ないでしょ〜どんだけ血を抜いたら気が済むの?血が無くなっちゃうよ〜」

 

と愚痴る伊丹だが、伊丹を取り囲む医師達は、終始無言だった。そんな時、伊丹は、何か面白い事が閃いたような顔をした。

 

「うっ・・・・あれ・・・・?うがっぐっ・・・・腹が急に・・・痛い痛い!!何かが・・・・腹を・・・・っ」

 

と伊丹は、突然腹を押さえて苦しみもがき出した。

 

「やばい!逃げろぉ!」

 

「危険だ!被験者から離れろ!」

 

「わぁぁぁ」

 

「被験者に異常発生!対処班の直ぐに出動をお願いします!」

 

伊丹の異変を見た医師達が慌てて無線で連絡して隔離病棟から出ると非常ベルが鳴り同時に防毒マスクを着用し完全武装した兵士達が駆け付けてきた。病院内では出入り口を封鎖して周りを兵士達が固める。

 

『直ちに隔離病棟を閉鎖する!職員は直ちに退避!繰り返す、直ちに隔離病棟を閉鎖する!職員は直ちに退避!』

 

とアナウンスが流れる。

 

「対処班隔離病棟に到着目標確認」

 

「目標に動きなし」

 

兵士達が駆け付けると小銃と機関銃を一斉に倒れ込んでいる伊丹に向けいつでも撃てる様にする。

 

「異世界の未確認生物に火炎放射は効果あるのか?」

 

「どうします?突入しますか?」

 

「いや、まだだ大臣の許可待ちだ」

 

すると、倒れ込んでいた伊丹が突然立ち上がった。

 

「も、目標が立ち上がりました!」

 

「どうしますか!?」

 

「医院長!大臣の許可は出ましたか!?」

 

伊丹の立ち上がりに兵士達は銃を伊丹に向け発砲の許可が出るのを待っていた。

 

「やだなぁ、冗談だよ冗談。散々大丈夫だって言ってるじゃない。いやだなぁ、みんな本気にしちゃって」

 

『冗談で済むかぁぁ!!この大馬鹿野郎!!』

 

と伊丹は平然した態度で冗談と言うが本気にした医師達や兵士達は怒り、医師達や兵士達の怒号が病院中に響き渡った。

 

 

 

「失礼しました、大臣。はい、はい、わかりました。では、失礼します」

 

この騒動に陸軍病院の院長は電話越しから陸軍大臣杉山元から叱責を受けてた。医院長は、これに頭を抱える。

 

「伊丹中尉は?」

 

「はい、感染病棟の廊下に隔離しております」

 

隔離病棟では、冗談とは言え騒ぎを起こした伊丹に対して医師達や兵士達から冷ややかな目で見られていた。そして、ドア越しから医院長が伊丹に話し掛ける。

 

「伊丹中尉"演習"への協力、当病院の院長として感謝する。未確認の異世界生物に対処する為に保安態勢強化への良い教訓となった。が、それはそれとして、君は軍人としていい大人として恥ずかしくないのかね?いや、君はそれ以前に人としてどうかと思うがね。いくら冗談でもやっていい事と悪い事の区別はつくだろう」

 

と伊丹を睨めつけながら言われて伊丹は、滝の様な汗を流していた。この後、伊丹は医院長達から長時間に及ぶ説教を食らった。

 

 

 

それから二週間後、ロゥリィが伊丹の見舞いに軍病院に来ていた。ロゥリィは、送迎車から降りる。

 

「ここねぇ、ヨウジィのいるところぉ」

 

送迎車から降りて、案内人に案内されながらロゥリィは、伊丹の病室へと向かっていた。伊丹の病室の前には銃を持った兵士が立っていた。

 

「面会者が到着」

 

『面会を許可する。通せ』

 

「了解、扉を開ける」

 

病室の中に入るとベッドの中に居る伊丹が出迎える。そして、病室の中にも見張りの兵士が居た。

 

「よっ」

 

「面会者が入室」

 

「わざわざすまんなロゥリィ」

 

伊丹のベッドの側には、漫画などの娯楽品が置いてあった。監視生活ではあるもののある程度の自由は保証されていた。

 

「随分といい身分ねぇ」

 

「だって病院生活ってただベッドに寝ているだけでやる事がないから暇なんだよ。検査も数日で終わったしなあとは経過観察だけ、有給休暇みたいなもんだ。年末から休みが碌に無かったし働きすぎ、久しぶりにのんびりダラダラやってるよ。寄生も何もされてないって言ってんのに信じてくれなくてさ」

 

「それはぁ、わたしが保証するわぁ。忘れたぁ?ヨウジィあなたはぁわたしの眷属なのよぉ?腹の中にぃ腹わた食い破る奴がいるんならぁわたしが引きずり出してあげるわぁ」

 

「さらっと怖こと言うなよ!」

 

とロゥリィの笑いながらのトンデモ発言に伊丹はドン引きだった。そして、ロゥリィは後ろにいる監視兵を指差して

 

「で・・・なんで、中にまであれがいるのぉ?」

 

「あれはねぇ・・・・毎日毎日検査三昧にうんざりして、ちょっと気晴らしに冗談で"演習"に協力した結果がこれ」

 

「冗談?」

 

「まぁ、後悔はしていない!が、代償としてこうなった。24時間監視付きでトイレや風呂にまで付いて来るんだよなぁ、おまけに5分ごとに逐一報告するし。おまけにみんな付き合い悪くてさぁ、誘い掛けてもいじっても反応すらしてくれない。あの一件以来誰も相手にしてくれなくてさ」

 

「へぇ・・・じゃ、あれは置物って事でいいのかしらぁ?」

 

「置物・・・まぁ石像と考えりゃいいじゃん」

 

「ふ〜ん・・・」

 

すると、ロゥリィが病室に監視がいるにも関わらずいきなり伊丹にキスをした。

 

「ねぇねぇ、いつまでぇここに居るつもりぃ?ご無沙汰でぇガマン出来ないのぉ・・・・」

 

とロゥリィは上目遣いで伊丹に迫って来る。そんなロゥリィに伊丹は顔を赤くして唖然とした。



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門と魔導士

上目遣いで寄ってくるロゥリィに伊丹は、オロオロしながら何のことだかと誤魔化す。

 

「ねぇヨウジィ」

 

「な、なにがご無沙汰なのかなぁ?」

 

「今更、誤魔化してもだめよぉ」

 

「いやけど、人目がね・・・?」

 

と伊丹が監視兵に目を遣りながらそう言う。

 

「あれは置物ってぇ言ったじゃない」

 

「ただのものの例えだから!」

 

「折角ぅ二人っきりになれたんだからぁ。ねぇ、いいでしょぉ」

 

「いや、そこに居るし!」

 

「ふたりっきりなのぉ」

 

とロゥリィは、監視兵がいるにも関わらずお構い無しに逆に見せ付けるかのように伊丹の首筋を舌で舐め回す。

 

「ちょっ、首筋はやめろぉ」

 

「ふふふ、じゃあどこがいいのぉ?」

 

見るに耐えなくなった監視兵は顔を赤くして病室から出る。

 

「どうした?」

 

「ちょっと来てくれて」

 

「おい、何だよ?」

 

病室の中にいた監視兵は外で見張っている別の監視兵を連れてどこかに行った。そして、監視兵が病室を出て行ったの見て二人は、

 

「よし、勝った!」

 

とパンとお互いの掌を叩いた。そして、改めて自身らの今の状況を見て

 

「・・・・そろそろもういいだろ?」

 

「・・・・降りられない」

 

「おっとすまん」

 

と謝りながらロゥリィ身体から手を離すと、ロゥリィが突然伊丹に口付けをした。

 

「!?」

 

突然の行為に伊丹は数秒間フリーズして

 

「はい」

 

そんな伊丹を他所にロゥリィがカバンから大きな白い布袋を伊丹に渡す。伊丹が袋の開けて中を見ると中に入っていたのはヤオが炎龍討伐の報酬に渡した金剛石で半分にカットされていた。実は、数日前にロゥリィがハルバートで金剛石を真っ二つにしたのだ。

 

「おっちゃんと割れたんだ。ありがとさん」

 

「どうするのぉそれ?」

 

「お袋の後見人に送っとこうかなと、こいつがあれば生活費の足しになって今後困る事はないだろ?俺も誰かに引き渡されたりしてどうなるかわからないし、門も放っとけないし閉じる様説得するしかないよ。けど、俺としてはレレイが『門』の開閉機械扱いされるのは嫌だぞ。一生門番やらせるわけにはいかんでしょ」

 

そう言って伊丹は、袋から出した金剛石を包装して段ボールに詰める。

 

(この男はどうも他人事と見ている節がある。なのに、レレイの事は心配してみせるのよねぇ)

 

ムーっと餅みたいに頬を膨らませるロゥリィに人差し指で頬を突く伊丹。

 

「心配しなくてもいいわぁ、レレイも門番やる気は全然ないから」

 

「そうなの?」

 

「ハーディにされた事許して手なんか貸すと思う?」

 

「あー、思わない。レレイ、ハーディに体重増やされた事まだ根に持ってたんだ・・・」

 

ベルナーゴでレレイを器として憑依したハーディがレストランでかなりの量の料理を食べていた。ハーディが憑依したと言っても身体はレレイなのでハーディが食べた分の体重がレレイに加算された事をレレイは今でも根に持っているのだ。

 

「『門』に関わる力はハーディのものその力を分け与えられた者は冥王の眷属となる。けれどレレイはまったくの部外者というか被害者。部外者が冥王の力を手にする、ベルナーゴの神官達にとって異常な事態。そこで取り引き、レレイの持つ宝具をベルナーゴに譲る代わりにぃ『門』の運営を丸投げするのぉ、レレイは門に縛られなくなりベルナーゴは通行料で潤うって訳、ジゼルに話を通させたからいいわぁ」

 

「レレイが納得しているんなら・・・・待てよ?宝具ってレレイ以外も使えるって事か?それなら最初からベルナーゴに・・・・」

 

「それは、難しいかもぉ、あのハーディに仕える連中がぁ進んで手を貸すと思う?」

 

「・・・・ないな」

 

そんな事を話して、外では日が沈み始め窓から夕日が差し込んでいた。

 

「レレイの件は取り敢えずそれでいいとして、後は街のみんなの説得するだけか・・・・何その顔?」

 

「それが難しいのぉ、テュカとヤオが説得して回ってるけどぉ。真っ先にヨウジ達を求めたわたしたちにぃ説得力ぅあると思う?」

 

「じゃあ、俺らの引き渡し要求を取り下げればいい」

 

「それはイヤ!この朴念仁!バカ!」

 

「うごっ・・・・朴念仁って何処でそんな言葉覚えたんだよ・・・」

 

とそう言ってロゥリィが伊丹に腹パンを食らわす。

 

「・・・・ねぇ、この奇跡を信じてよぉ」

 

「奇跡?」

 

ロゥリィは、伊丹の心臓部を指差して

 

「こんな魂どこを探しても見つからなかった。九百年以上待ったのよぉ」

 

「すっごく嬉しいけどさ、今は返事出来ない。多分俺テュカやレレイやヤオを切れそうにないし、このままっぽい」

 

「それでいいのよぉ。愛する者は必ず自分の手で手元に置く。決して手放すな決して逃すな」

 

「それ愛の神の教義?」

 

「教義よぉ」

 

「ロゥリィ・・・これは俺の持論だけど愛するが故その人と別れる愛の形もあるだよ」

 

「人生は舞台芝居じゃあない。身を退いて相手の幸せを祈るぅ?それはバカのする事よぉ。カーテンコールの後も続くのぉ!ううん、その後にこそ人生があるのぉ!」

 

そう言った後溜息を吐きながらロゥリィは、伊丹の膝の上で顔を蹲る。そんなロゥリィを伊丹は、微笑みながら頭を撫でる。

 

「こんな愛欲まみれのわたしがぁ、他人の欲をとやかく言える訳ないわぁ・・・・」

 

「だけど、みんなを納得させなきゃいけない」

 

「ええ、どうしたらいい?」

 

「説得か・・・レレイの事を秘密にして?」

 

「ヨウジがやってくれる?」

 

「俺が?イヤだよ!」

 

と伊丹がそう言いながらロゥリィの鼻を摘むと摘んでいた指を噛んで来た。

 

「いてっ」

 

「ムー」

 

ロゥリィは、拗ねて伊丹の膝から降りた。そして、伊丹に振り向くと

 

「帝国の正統政府からぁニホン政府に『門』を閉じてもいいけどぉ、ゾルザルを片付けてからにしてくれって言ってきたそうよぉ。どこで嗅ぎつけたのかしらぁ?」

 

「ゾルザルを?レレイの事は!?」

 

伊丹がそう聞くとロゥリィの頬を吊り上がる。

 

「あんなに大勢集めて実験したんですものぉ。漏れない方がおかしいわぁ。あれ以来こっちでヨーメイ達と実験や会議、レレイはヨウジ達に守って欲しそうだけどぉ。代わりにわたしがぁついててあげるわぁ。ヨウジは囚われの王子様だしぃ」

 

「わかった。俺も出来るだけ早く出られる様にするから、ロゥリィその間レレイを・・・頼む」

 

そう言って伊丹はロゥリィ手を掴んで頼む。すると、突然伊丹の病室のドアが開き憲兵隊が入って来た。

 

「伊丹耀司陸軍中尉!幼女をベットに連れ込む淫乱行為の容疑が掛かっている!別室で話を聞かせてもらうぞ!」

 

ロゥリィとのやりとりを見せつけられていた監視兵が憲兵を呼びに行きたのだ。まさに『憲兵さんこっちです』状態になってしまった。

 

「わたしが子供ぉ?」

 

「は!?何もしてないよ!?」

 

『やってるじゃないか!!現行犯だろが!!』

 

と憲兵達はロゥリィの手を握っている伊丹に指を指して叫んだ。ロゥリィの容姿が相まって傍からみれば伊丹が幼女を関係を迫っている様に見えて誤解されるレベルだ。憲兵隊は伊丹からロゥリィを引き離し

 

「もう大丈夫だ!」

 

「あ、ちょっと!?ヨウジィ!」

 

「お前ら新聞やテレビすら見ないのか!!ロゥリィが何歳かで話題になってただろ!」

 

「悪いが職務柄多忙なんでな!」

 

そう言って伊丹の腕を後ろ手に縛って病室から連れ出して行く。

 

「連れて行け!」

 

「いてて!!俺は無実だ!!事実無根だ!!」

 

その後憲兵隊から連れ出された伊丹は、別室で憲兵達から威圧されながら長時間の尋問を受けていたが、結果お咎めなしという事になった。ロゥリィは、その後伊丹との約束通り研究所でレレイの護衛をする事になった。

 

 

 

一方、アルヌスの街にあるとある建物の一室で帝国第二皇子のディアボと薔薇騎士団のパナシュがベッドの上で同衾をしていた。アルヌスに潜伏してから関係を持った二人、

 

「イタリカの密使がアルヌスに?面白くなって来たな」

 

「ディアボ様、ここではピニャ様にお力をお貸しなされば正統政府での栄達の道も叶うかと?」

 

パナシュはディアボに皇太女となったピニャの補佐をして欲しいと遠回しの言い方で言ってみた。

 

「それは冗談か?パナシュ、俺がピニャの後廳を拝するなど」

 

「しかしディアボ様、ここで何が出来ましょう。貴方様に従うのは私と侍従のメトメスだけ、支配しているのはこの部屋のみ」

 

「(この女、まだピニャへの忠誠心の方が大きいらしい。身体を支配すれば言いなりになると思ったが)案ずるなパナシュ、私に秘策がある。まずは、この事態をゾルザルに教えるのだ。内戦へのニホンの介入・門の鍵を握る魔導士、奴はどう動くかな?ニホンは魔導士を守りに走る。そこへ第三、第四勢力の介入があればどうなる?状況は激しく動く、荒波だからこそ舵取り一つで一気に高みへ登れるのだ!最終的にあの娘を確保した者こそ勝者となる!!」

 

とディアボは、自身の秘策をパナシュに明かし、ゾルザルに日本の内戦介入と門を作れる魔導士の事を教えようと言う。ディアボは『自分が皇帝になれないなら、国も世界もどうでもいい』と考える人物だ。帝位継承に強く執着するディアボは、地図争奪で敗れたソ連武官に自分を売り込もうと接触を図った。もし、ゾルザルが魔導士を殺しに掛かれば日本軍は全力で魔導士の守りに入る。最終的に自身が第三の勢力として大日本帝国と帝国の間に立とうと考えているのだ。考えが顔に出ているディアボをパナシュは心配そうに見つめていた。

 

「(殿下を正道に戻すにはどうすればいいのか、野心で舵取りすら出来ず暗礁に突き進んでいる)ディアボ殿下・・・・どうぞ自重なさってください。このパナシュ心底からのお願いです」

 

「なぁに心配要らぬ、お前は黙って見ているが良い」

 

パナシュがそう言い、ディアボはそう言って口付けをする。

 

翌日、アルヌスの難民キャンプでは第三偵察隊のメンバーは、トラックから物資下ろして運ぶ作業をしていた。

 

「なあー俺たち偵察隊だよな?なんで難民キャンプの手伝いを?普通輜重隊の任務だろ?」

 

「暇そうにしていたから?結構難民も増えて来たし人手が欲しいからじゃ?」

 

「深部偵察班の出番も少なくなったし、俺たちが特地語を話せるからじゃないか?」

 

「イタリカへの連絡任務ないかな、嗚呼ペルシア〜」

 

と偵察隊のメンバーは、愚痴っているとそこへ、栗林が走りながらやって来た。

 

「おーい、黒川はどこに居るか知らない?」

 

「黒川ならキャンプの中の救護所にいるぞ」

 

「おう、わかった!」

 

「なんだろ?」

 

黒川が救護所にいると聞いて栗林は、救護所へ向かって走って行った。救護所では、黒川が難民の治療や薬品や器具の使用等について教えていた。そこへ、

 

「黒川軍曹、本部で檜垣少佐が呼んでる」

 

と栗林に呼ばれ、黒川は直ぐにアルヌスの司令部の檜垣少佐の元へと向かった。

 

「軍病院に派遣ですか?」

 

「そうだ、上からの辞令が回って来た。詳しい事は向こうで説明があるそうだ」

 

と黒川は、檜垣少佐から軍病院への派遣の辞令が言い渡された。



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究極の選択

大日本帝国帝都東京新宿の軍病院、早朝の病院内で医療器具の載っている台車を押しながら伊丹が隔離されている病室にとある人物がやって来た。

 

「おはようございます。朝の回診です」

 

「まだ、起床時間前ですが・・・・?」

 

「構いません」

 

その人物は監視兵にそう言って病室に入って行く。そして、

 

「伊丹さん、伊丹さん起きてください回診の時間ですよ」

 

「まだ眠いよ〜起床時間には早いまだでしょ〜」

 

とベッドで寝ている伊丹に呼び掛けながらゆするが、伊丹は布団に包まる。すると、その人物は伊丹の耳元に近づいてこう呟いた。

 

「一応言っておきますがこのまま、起きてくれないと何があっても知りませんからね?」

 

「どぅわっ!!だ、誰だ!!ってこの声はもしかして黒川!?黒川なんで!?」

 

そう言われた伊丹は飛び起きた。するとそこに居たのは白衣に身を包んだ黒川だった。

 

「軍病院に居着いたタダ飯ぐらいの厄介な怠け者の手綱をどうにか頼みますと檜垣少佐から直々に辞令が出まして、伊丹隊長専属の医師として着任しました。よろしくお願いします」

 

「ねぇ、黒川俺に対して辛辣過ぎない?俺君の隊長だよ・・・・って俺専属!?」

 

「そうです。収容して早々に寄生生物騒動したり、ロゥリィと病室で逢引き紛いな事したり、そんな隊長を良く知る君なら任せられるだろうと」

 

と黒川は笑顔でそう言うがその目は全然笑ってなかった。伊丹はばつが悪そうな顔をして腕を差し出して黒川から注射を受ける。

 

「・・・・」

 

「三分で洗面と着替えをして下さい。検査に託けて軍人をサボるのも今日までです。私の目が光らせている内はサボれると思わない事です」

 

それから、伊丹は黒川の主導のもと伊丹が入院で怠けた分の体力作りが行われた。

 

「基本教練続けて用意、始め!」

 

「おい黒川!!毎朝これやらせる気じゃないよな!?こんなの士官学校以来だぜ!?」

 

伊丹は体操や行進、不動の姿勢など士官学校でやらされた教練を病院の中庭でやらされていた。

 

「原隊に復帰した時体が鈍ってたら大変ですよ、それにもし隊長の腹を寄生生物が喰い破った時は休みにしますよ」

 

「だからいないって言ってるだろ!そろそろ退院したい・・・・」

 

「ある意味結果が出たら退院出来るのでは?」

 

「そんなに腹喰い破られてほしいの?」

 

「あれ、お約束じゃないんですか?」

 

この日を境に好きな事をして過ごす伊丹の休暇ライフは、黒川が来た事によって終焉を迎えた。

 

その頃、東京の各家庭や電気屋のテレビやラジオでは、門の開閉についての特番が流れていた。

 

『議会では『門』に関する集中討論が行われています。現場からの中継です』

 

帝国議会では東條英機が門の閉門について説明する。

 

「特地と世界で発生している異変の原因は解明されておりませんが『門』によって起こっている可能性が高いのであれば、危機管理の見地からも『門』を閉じる決断も致し方なく妥当と考える」

 

「特地と言う異世界との交流の機会を一国の独断で失うのは世界的な損失です!!その責任を総理は取れるのですか!!」

 

「アポクリフを蔑ろにした挙句に起こった世界的厄災の責任を野党は取れるのですか?『門』を掌握している我が国の責任として危機管理に努めなければならないのです。危機管理への掛け捨て保険額が大き過ぎるのではないかと問うておるのです!」

 

「それは結果論です!備えあれば憂いなしの為の必要悪です」

 

議会は開門派と閉門派に分かれ世論でも開門派と閉門派に二分され、メディアでは各分野の専門家を招到した報道合戦が繰り広げられた。そして、国外特にソビエトは、『日本政府が『門』を閉じて我がソビエトと帝国との賠償交渉を妨害するのであれば、日本政府が帝国に代わり支払いの義務を負うものと考える』との声明を発表し、これに対して日本は『賠償交渉は我が国が出先となって既に然るべき段階まで進んでいる。個別の賠償交渉を妨害する意志はないが仲介する義務もない』と反論する。

 

そして、銀座の門の前では3つの勢力による大規模なデモが行われていた。

 

「『門』を開け続けろ!!特地を大日本帝国の新たな領土に!!」

 

と閉門反対で特地を大日本帝国の領土にしようと主張する『帝国派』

 

「速やかに帝都を占領し皇帝に対し銀座での大量虐殺と戦争犯罪の容疑で逮捕、処刑を要請する。その後速やかな閉門を!」

 

片や閉門賛成で帝都を占領し皇帝を戦犯として裁判にかける様主張する銀座事件で帝国軍に愛する者を奪われた遺族達の『銀座事件遺族会』

 

「閉門反対!特地は全人類の共有すべきもの!経済開発へ一路邁進!」

 

もう片や閉門反対で大日本帝国が一国独占ではなく全世界で共有しようと主張する『左派・共産主義者』が門の前に集結している。

 

『君達の集会は通行の妨げになっている。速やかに解散しなさい』

 

と門の周辺を警備する特別警備隊がデモを鎮静化しようと努めていた。

 

「三つ巴のデモか・・・・?」

 

「許可が出ました」

 

「よし、第一、第二小隊前へ!」

 

と特別警備隊はライオットシールドでデモ隊に突撃して、警棒や銃床でデモ隊に殴りかかる。銀座に集まったデモは数百人が検挙された。

 

一方、梨沙の家では未だ寝ている梨沙と男色ものの本を読むピニャがいた。

 

『デモが行われた銀座では多数の検挙者が出ており、各団体は警察への抗議声明を出しております』

 

テレビでは、銀座でのデモの様子が集計される中、梨沙が漸く起床した。

 

「おはよう」

 

「オハヨウリササマもう昼だ」

 

梨沙が身支度している間にピニャは、ゴミ出しをした。勿論、家の前には特別高等警察の車が止まって警備している。その後、台所で昼食の支度をする。

 

「ゴミ出しておいた」

 

「え?あ、今日だったか。ありがとう(お姫様にゴミ出しさせてしまった・・・・おまけに・・・・ご飯まで作ってもらって・・・いいのかな?)」

 

梨沙は、客人であり帝国の皇女であるピニャにやらせてしまって少し罪悪感を感じていた。

 

「今日は騎士団で良く食べた戦闘食つくってみた」

 

「戦闘糧食?」

 

テーブルに並べられた料理はピニャが騎士団で食べられているミリメシだった。

 

「いただきます」

 

そうして手を合わせて合掌した梨沙はスプーンで料理を口に運ぶ、そして食べた感想は

 

「なんて言うか・・・・素材のまんまだね。味があんまりしない」

 

(バカな!?似た形の麦で同じ様に作ったはずだ)

 

と梨沙に言われてピニャも口に運ぶと

 

「(昔食べたあの吐き気をもよおすえぐみが・・・豆の方も歯が割れる様な硬さが一切ない・・・・・っ)これが異世界の素材の違いと言うやつか・・・・」

 

「ピニャ?」

 

ただの素材の良し悪しである。そんな時、梨沙がテレビのニュースに目を向け

 

『各所で閉門反対の声がある一方、不思議と財界と欧米は沈黙を守っているんですよね?』

 

『政府は『門』を開く方法を知っているのでと噂が流れており・・・』

 

そして、会見で記者の質問に東條が受け答えする。

 

『総理!日本政府が『門』を開く技術を手に入れたのは本当ですか!?』

 

『そんなのがあればこんな騒動になっておりません。残念だが『門』を開く技術は我が国には一切ありません』

 

と東條は否定する。すると、梨沙がテレビを消す。

 

「誰も特地の皇軍には触れないのな、『門』を閉じるにしても派遣軍どうすんの?野党だって『門』閉じろって言ってたくせに、ソ連も今頃何言ってんだか」

 

梨沙は、門の利益など欲ばかりあげて日本軍の事は棚上げする事に不快感を示す。

 

その夜、外務省では、外務大臣東郷茂徳がアメリカのフランクリン・ルーズベルト大統領と電話で門の開閉について説明していた。

 

『では、ミスタートウゴウ。特地へ『門』を開く技術を日本が得たと言う情報はデマに過ぎないのかね?』

 

「そうですルーズベルト大統領閣下。マスコミの憶測に過ぎません、技術と称されていますが語弊があります。これは奇跡か特殊な存在の能力と呼ぶべきモノです」

 

『と言う事は、特地にその能力を持った者がいたと?』

 

「そうです、帝国はそれを利用しました。銀座の『門』は帝国が作った維持装置なのです」

 

『成る程、当然その人間を紹介してくれるんだろうね?』

 

「人間・・・・『門』を開いたのはハーディと言う神様だそうですよ」

 

『神・・・・?言葉に気をつけたまえトウゴウ。我々が神と呼べるのは唯一『主』のみだ』

 

とハーディが神と聞いてルーズベルト大統領は眉を顰めながら自分達の神はイエス・キリストなのだ。

 

「えぇ、私も主の臣下ですけどね。ですが、我が国は八百万の神が住まう地、特地にも多数の神様がおわすそうですから『門』を開く地に選ばれたのでは?」

 

『・・・・ちなみにそのハーディと言う・・・存在。特地の基準から考えるに身体があって口はきけるのかね?例の九百歳を自称する黒ゴシック少女の様に』

 

「いえ、白あたゴシックだそうです」

 

『白いゴシック!?』

 

とハーディの特徴を聞いて驚くルーズベルト、そして、ハーディは口は聞けても体はない。

 

「まぁ、それはさておき特地でも神様は姿は見えず仲介者が言葉を交わせるのみです」

 

『・・・・オーケイ、異変を鎮めるため『門』を閉じると言う決定を尊重する。同盟国に『門』が再び開く時を待つ事にしよう』

 

「ご理解いただき幸いです」

 

そう言って東郷茂徳は受話器を置き、溜息を吐く。

 

「納得されましたか?大統領は」

 

「んなわきゃねぇだろ」

 

と東郷は頭を抱える。門の閉門について外務省には、世界中の首脳から問い合わせの電話がひっきりなしにかかって来る。

 

「あの、大臣。イギリスの首相からお電話が・・・・」

 

「またか?東條さんが普通受けるんじゃないのか?」

 

「総理は総理で財界からの電話でひっきりなしで・・・」

 

「しゃあねぇなぁ繋いでくれ」

 

そんな時、執務室にとある報告が届いた。

 

「大臣!イタリカの菅原から至急電です!!帝国正統政府が明後日講和特使をアルヌスに派遣すると!!」

 

「はぁ?いきなりだな、東條さんのところにも回したか?」

 

「はい」

 

「よし、吉田にも伝えろアルヌスに行ってもらうぞ!杉山陸軍大臣と嶋田海軍大臣に迎えのヘリか車をイタリカに回せるか聞いてくれ」

 

「はいっ」

 

「あのイギリスの首相が・・・・」

 

「それどころじゃねぇ東條さんにまわせ!(賠償交渉も本決まりしてねぇってのに向こうから動いて来やがった。こっちの手の内が読まれてんじゃないだろうな?)」

 

東郷は、講和派から特使派遣に自分達の手の内が読まれているのではないかと不安を抱いた。

 

 

 

それから、2日後アルヌスに1騎の翼竜がやって来て2機のゼロ戦が警戒にあたり、翼竜の周りを旋回して基地に飛び去って行く。アルヌスの基地に設置されているボフォース40mm対空機関砲も翼竜に狙いを付けるも射撃せず、

 

「撃つなよ。イタリカからの伝令だそうだ」

 

そして、竜騎士がパナシュに羊皮紙を渡して飛び去って行く。

 

「翼竜部隊まだ生き残りがいたんだな」

 

「パナシュ様イタリカからは何と?」

 

受け取った羊皮紙を見てみると

 

「・・・・・イタリカから来る講和特使の警護命令だ」

 

『講和!』

 

と騎士団が騒めく、遠くから見ていたディアボらも様子を窺っていた。

 

「何ごとでしょう?」

 

「翼伝令を使う程の重大事だ。後でパナシュに聞くとしよう」

 

 

それから暫くして、アルヌスに帝国正統政府の講和特使が乗ったトヨタAA型数台が日本軍のジープ、装甲車、装甲兵員輸送車に護衛されながらアルヌスの基地へとやって来た。基地の前では特地派遣軍総司令官今村均陸軍大将と吉田茂副外相が待ち構えいた。そして、AA型から降りて来た特使に、周りは唖然とした。

 

「帝国正統政府特使シェリー・テュエリです。講和交渉を始めましょう」

 

アルヌスへ赴いた講和特使はシェリーだった。

 



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調印に向けて

アルヌスに帝国正統政府の交渉団がやって来た事は、あっちこっちに知れ渡る。

 

「講和会議が大詰めだぁ?」

 

「ようやっと飛べる機体2個揃ったちゅうのに」

 

デュマ山脈東麓スタンレービル郊外に展開中の日本軍では、

 

「陣地転換用意!後方へ移動するっ」

 

「後方?」

 

「この辺も大分静かになったしな」

 

「アルヌスに帝国の交渉団が来たってよ」

 

「へぇ、ちゃんと交渉進んでたんだ」

 

と日本軍は陣地移動のためそれまでその陣地に構えていた野砲や高射砲などをトラックで牽引して行く。

 

「アルヌスに帰投する!搭乗!」

 

と号令が掛かり兵士達は、ヘリに搭乗して行き飛び去っていく。

 

一方イタリカでは、

 

「この戦争俺達の勝ちでいいんだよなぁ?日本に帰れるのか?」

 

「どうだか、昔から勝っても負けても戦後交渉でろくなことになってないだろ?だが、それは政治家の仕事だ。俺たち軍人は只々命令に従うだけだ」

 

兵士達の目の前には、旧帝国軍との戦闘で破壊され数台のジープやトラック、ハーフトラックなどが並べられていた。

フォルマート家の屋敷では柳田がカップに入ったコーヒーを飲みながら書類作業をしていた。

 

「講和か・・・」

 

「講和って手打ちのことだろ?戦争終わるのか?」

 

「日本と帝国の戦争はな。まだ、ゾルザル派との内戦が残っている。『門』の開閉でごたついてるとこなのに、先手を打たれたな」

 

そして、同じくフォルマート家の屋敷で菅原は、

 

「俺、交渉団に同行しなくてよかったんですか?」

 

「そう言う指示君に来なかったからな」

 

「お飾りにされた婚約者が心配なのか?」

 

「吉田茂大臣達がシェリーの本質を見誤らないか心配なんです」

 

と菅原が吉田茂達がシェリーの本質を見誤らないか心配しているのを他所にアルヌスの日本軍特地方面軍司令部では、大日本帝国政府と帝国正統政府による両政府の講和交渉が始まる。吉田茂は、講和交渉の代表にシェリーを指名したモルトに対して頭を抱える。

 

「皇帝陛下は、一体何を考えて・・・・(長年外交官をやって来たがこんな子供を相手取るなんて初めての事だ)」

 

「それは私も同じですわ。ヨシダ閣下、実はこの度家督を継ぐ事になりまして、身一つになってしまいました私に陛下は伯爵位まで賜って下さいました。持参金の代わりに伯爵位など、スガワラさまが喜んでくださるか・・・・そして色々ありまして、いつの間にかこういう仕儀になっていました」

 

「それはお礼を申し上げて・・・いいのかな?」

 

「正直参っております。実際の話し合いはキケロ様やブルコニウス様にお任せしておりますわ」

 

「ご事情はわかりました。伯爵夫人閣下」

 

「そんな伯爵夫人なんて・・・・」

 

伯爵夫人と言われて照れるシェリー。そして、吉田は早速本題に入ろうとした。

 

「それでは、ブルコニウス殿御用件を伺いましょう」

 

「うむ、本日は・・・『交渉をまとめて講和を結んでしまいましょう!!その後、ゾルザル様討伐の件を!!』」

 

とブルコニウスが用件を伝えようとした時、シェリーが割って入ってきた。周りは唖然とした。

 

「・・・・あのシェリーさん?」

 

「あ、失礼しました。公の場で黙って座っているのも冥府の父に叱られてしまいますので、議員の皆様とお稽古して参りました」

 

「な、成る程・・・・では、シェリーさんのお言葉は帝国正当政府内では打ち合わせ済みで正式なものと考えてよろしいですかな?」

 

「はい、そうですわ・・・私は今帝国正統政府の全権を委任された者としてここにいます」

 

と吉田はシェリーの背後から漂う異様なオーラに不気味さを感じて目を見開きながら固まってしまうが、

 

「大臣?」

 

部下の官僚の声で吉田は我に返った。

 

「間違った事を口にしまったら、ここにいる皆様が訂正してくださいますわ。・・・では、話し合いを始めましょう」

 

そして、議題は日本による新政府軍と旧帝国軍と内戦に参戦して欲しいという要請では、

 

「ゾルザル派との内戦への直接介入要請は、我が国としては軍の最高司令官である天皇陛下の許可が無い限りは内戦の介入は出来ません。更に陛下はこれ以上の戦線拡大を望んでおられないので参戦は困難と考えられ、帝国正統政府自らの手で解決を・・・・」

 

「そんな!ニホンの皆様に見捨てられたら・・・・私達ゾルザル様に皆殺しにされてしまいます!お願いします。どうか私達を見捨てないでくださいませ」

 

そう内戦に介入に消極的な日本側にシェリーは潤んだ瞳で日本に助けてくれる様に懇願する。

 

「・・・・解決を望みたいところであるが、特地情勢の安定化の為にもこの件は前向きに検討するものとし・・・」

 

『そのためにも早期の講和条約の締結が必要ですな』

 

戦争の講和会議に少女が列席する。想定外の事態に戸惑う日本側は、終始強く出る事が出来ず最大の懸案項目も、そして次の議題が銀座事件の首謀者であるモルトの謝罪だった。本来ならば国家元首である皇帝モルトは帝国に於ける戦争政策の首謀者である為戦争犯罪者として裁かれるのは免れないが、しかしそれでは講和派の反感を買うだけであり後々恨みを残すだけであるしゾルザル派に知られれば彼等を勢い付けるだけと考えたため皇帝自らの謝罪が妥当と考えた。

 

「帝国の指導者であるモルト皇帝の侵略戦争の遂行責任者と来日しての謝罪、この条件は譲歩する訳にはいきません」

 

「けれど陛下は、もう病気のおじいちゃまですわ。メイドの助けなしではベッドからも出られません」

 

「しかしだがね、最高責任者の謝罪なしではそれでは国民が納得しない。国民感情を考えると・・・・」

 

「ニホンはアルヌスまで来ることも出来ない病気のお年寄りを床から引きずり出して見世物にした挙句謝らせるようなお国なのですか?」

 

とシェリーは、モルトは病人で介護なしには動けないと痛いところをついてくる。

 

(それを数百年やって来たのが我が帝国なのだがな)

 

しかしそれをいうのであれば、帝国は今まで攻め込んだ国・部族と一旦協定を結び、直後に連絡の不備や時間差から起きた偶発的な問題を理由にして反故する騙し討ちをするのが常套手段だった。

 

(痛いところを・・・)

 

(だが、そうしたい人間が多いのも事実だぞ?)

 

(我が国の面子にも関わる)

 

日本の外交官僚が小声で話し合っていると

 

「あっ、皇太女殿下がニホンに伺うと言うのはいかがでしょう?」

 

とシェリーがある提案を出して来た。

 

「条約締結の場で遺憾の意をと言うわけか」

 

「それが現実的だな・・・事態が収束したら皇太女に譲位し皇帝は責任を取ったものとする。これでよろしいか?」

 

「はい」

 

吉田がそう提案するとシェリーも同意した。

 

『シェリー君!我々の一存で決められる事ではないぞ』

 

『そもそも陛下がそう簡単に譲位してくださると思うか?』

 

『して下さりますわ。だってそうしないとニホンはゾルザル様を討ってはくれませんでしょ?』

 

そして、吉田茂とシェリーが両国の国旗の前で握手を交わす。二人の握手姿を記録に残そうと従軍記者や大本営報道部のカメラマン達が撮影しカメラのフラッシュが眩いばかりに焚かれる。

 

「日本と帝国の講和条約締結はアルヌスでの先駆けの儀ののち大日本帝国迎賓館にて東條英機総理大臣とピニャ皇太女により調印式を執り行うものとする」

 

「当初の条件はほぼ認めさせたが、なんだろうこのあの娘にしてやられた感は」

 

「年齢に似合わずとんだ曲者だな、メディアと野党にどう説明するか」

 

(菅原君も呼び戻した方がよかったかな?)

 

「ゾルザル様が囮に使ったニホンの方も戻られたとか、ゾルザル様ってホント悪いお方コテンパンにやっつけちゃってくださいまし、これでいいですか?」

 

そんなシェリーに吉田をはじめとする官僚達は、苦笑いを浮かべる。

 

「ところでヨシダ閣下、ピニャ殿下はどこにおわすのでしょうか?アルヌスに滞在してると伺ったのですが」

 

とシェリーが辺りを見回してピニャがいない事に気付き、聞くとピニャは日本へと行ったと聞かされた。

その後、シェリーはピニャに会うため日本側が用意したトヨタAA型によって門の中を潜って銀座へと向かった。

 

「ようやくあのお姫様を迎えに来たか」

 

そして、門の前には特別高等警察の駒門がおり、今回の護衛も彼が行う事になった。

 

「ここが・・・・スガワラ様の生まれた国・・・」

 

とシェリーは、車の窓の銀座の景色を見てそう呟く。

 

一方その頃、ピニャは、葵の家で葵やそのポルノ友達と一緒に葵のポルノものの挿絵の作成の手伝いをしていた。

 

「く〜!素晴らしい!」

 

「ピニャさ〜ん手ぇ動かしてー」

 

「ここでこう来るか!やはり漢の愛とは斯くあるべきよ!けしからん!大変けしからん!」

 

ピニャは、相変わらず葵が作ったポルノの挿絵などを見て興奮していた。

 

「「「「この数寄者が」」」」

 

「ゴ、ゴメンナサイ」

 

「どこまで好きなのよアンタ。別に怒ってるわけじゃないから、謝らなくていいよ」

 

「いっそこっちに住めば?」

 

「そうそう、そうしなよ。貴女も一緒に腐海に沈もうよ」

 

「妾こそ皆を招待したい。帝国に移住せぬか?好みの新たな騎士隊を作っても良いぞ?」

 

とピニャは、葵達に帝国に住まないかと提案して来た。葵達は、どうしようか迷った。

 

「え〜!?」

 

「そりゃ特地には行ってみたいけど、住むとなると、ね」

 

「『門』閉じなきゃいけないんでしょ?」

 

「マスコミは閉じる必要ないって言ってるけど、最初異変は『門』のせいじゃねって言ってたのあんたらやんと」

 

『門』の閉じるニュースで話題になっており

 

「・・・・実は『門』をまた開く事は出来るのだ」

 

「え、そうなの!?それなら・・・・」

 

「あの首相の会見で怪しいってうわさあったし」

 

ピニャは、世間では極秘の門の作れる事を葵達に打ち明かす。

 

「ただ・・・・『門』を閉めている間時間のズレが・・・下手すれば十年単位で起こるかも知れぬのだが・・・・」

 

ただし、門が閉まっている間日本と特地との時間がずれ、数十年先の世界になっているかもしれないと

 

「えー!?」

 

「それはちょっと・・・・」

 

と特地には行きたいが、その代償で数十年先の未来の世界で浦島太郎状態になってしまうのは勘弁だろう。

 

「十年分の芸術を一気に楽しめるではないか?」

 

「う〜ん、それはそれでありかな・・・・」

 

「流行りを楽しむ醍醐味を逃すのはちょっとねぇ」

 

そして、葵の家の前には数台のトヨタAA型が停まっており周りを特高が見張っている。そして葵の家に向かって走ってくる人物がいた。

 

「殿下はおいでか!?」

 

と勢いよく開かれた扉からピニャの副官のハミルトンが入って来た。

 

「ハミルトンか?」

 

「殿下お願いです。アルヌスにお戻り下さい」

 

「いやだ、皇太女などと言う役柄を引き受けた覚えはない」

 

「し、しかし殿下は皇太女であられます。講和条約締結の席に殿下が居られないとなると・・・・」

 

「うるさい!見ろ!お前のせいで皆手を止めてしまったぞ。ん?講和だと?」

 

ピニャは、講和と言う単語を聞いて首を傾げていると

 

「そうです。ハミルトン様通して下さいませ」

 

とそう言ってハミルトンの後ろから姿を現したのは、

 

「皇太女殿下、お久しぶりでございます。シェリーでございます」

 

((((女児だ))))

 

綺麗に着飾ったシェリーがピニャの前に出て、久しぶりの再会だった。

 

「そなた確かテュエリ家の、いつぞやの園遊会以来か?」

 

「随分前のこと感じます」

 

「そのテュエリ家令嬢が何故ニホンに来ておる?騎士団の入団希望ならイタリカで・・・」

 

「入団希望ではございません。折角講和がまとまりましたのに、殿下の我儘で調印出来ませんの」

 

「そなたがまとめた様な言いようだな?」

 

「頑張りましたもの、交渉団の代表でしたから」

 

とシェリーの言い方にピニャは、

 

「ハハハッ!そなた父上に文字通り子供の使いにされた様だな。父上の事だ『門』が閉められれば講和も反故にするつもりだろう」

 

ピニャは、シェリーが交渉団の代表と聞いてモルトに遊ばれたと思い笑い飛ばすが、

 

「それはなりませんわ。殿下」

 

「かなりの好条件です!今はニホン軍との協同作戦を詰めている段階です!!」

 

ハミルトンから大日本帝国軍と帝国新政府軍と共同戦線進めていると聞いて目を見開き驚く。

 

「なんだと!?帝国がニホン軍と!?」

 

「その為の講和ですわ」

 

「ニホン軍が本気を出せばイタリカなぞ小雨に感じる。鉄の暴風が吹き荒れる。兄様とは言えひとたまりもあるまい。あの父上が?驚いたな・・・」

 

イタリカでの日本軍の軍事力を間近で見たピニャには、新政府軍と旧帝国軍の内戦に日本が本格的に軍事介入をすればゾルザルの敗北は必至だと言う事をピニャは、誰よりも理解していた。それどころか帝国と言う国自体存続が危ういと感じた。

 

「そうです殿下!帝国を掌握する好機ではありませんか!」

 

「妾は帝国なぞ欲しておらん!妾より上の継承順位の者にやらせれば良かろう!ハミルトンも見てきたであろう!?戦が始まってから妾がどれだけ帝国のためにかけずり回ってきたか」

 

「は、はい」

 

「帝国を守ろうと、悩み苦しみ恥辱も屈辱にも耐えた!なのにどうなった!?妾のやってきた事全てを否定された!帝国に後ろから刺されたのだ!空を去っていくボーゼスを仰ぎ見た時、妾がどんな気持ちになったと思う?あそこから救い出してくれたのは、イタミ殿だけだったではないか!!そんな妾に兄様の殺し合いの先頭に立てと?充分戦ったと思わぬか?皆がのうのうと遊んであかる間に!ならば今度は妾が遊んでもいいのではないか?」

 

ピニャは、これまでゾルザルや徹底抗戦を主張する主戦派議員に説得して来ても誰一人として耳を貸さなかった。挙句の果てには周りから『売国奴』と罵られた時の事を切実に語るピニャ。そんなピニャにシェリーが、

 

「殿下一人だけが辛い思いをしたとお思いですか?」

 

「なんだと?」

 

と自分だけが悲劇のヒロインな訳じゃないかの様にシェリーが言うとピニャは、振り返り睨む。

 

「あの時誰もがひどい目に遭い、誰もが多くのものを失いました。それはお認めください。ご存じですか?ボーゼス様は殿下をお救いしようと皇城に単騎突入なされたそうです」

 

「殿下に手が届かなかった以上お見せする顔がないと恥じ入って・・・」

 

「ボーゼス・・・・そうだったのか」

 

「私のお父様やお母様もあの時いなくなってしまいました。みんな殿下の兄上のせいです」

 

「妾の・・・・か?妾は・・・無関係だぞ」

 

「それは、よかったですわ。あの方には死んでいただきます。構わないですよね?殿下?翡翠宮でエムロイに召された騎士団の方々の名誉が貶められても、あの方のせいで終わらない汚い戦争で貶められた帝国の名誉もなんとも思わないんですか?」

 

とシェリーがピニャに問いただすと、ピニャは悔しそうな表情を浮かべて、

 

「思わぬはずないだろ!」

 

「その思いはどちらに?」

 

「どこにも・・・・どこにも向かない。シェリー・テュエリお前も妾に兄様と殺し合えと言うのか?」

 

「お兄様とは無関係なんでしょ?親兄弟が殺し合うなんて良くある事じゃないですか。ピニャ殿下には悪いですが、帝国の未来の為にもゾルザル様には死んでいただきます」

 

とシェリーがそう言う。それを見ていた周りは、ゾッとし、まだ10歳そこそこの小娘とは思えない振る舞いと言動に度肝抜かれていた。だがそれは、かつて王権国家の中世ヨーロッパや古代中国でも権力闘争で親兄弟が殺し合うのも不思議では無い。

 

「ですが、ご安心ください。殿下が直接ゾルザル様に手を下す必要はありません。ニホンの方々にやって頂きます」

 

「シェリー・・・・お前は一体・・・・」

 

「殿下は愛想良くカカシを演じて下さいませ。後のことはみぃんな私が致しますので、では、参りましょう。ピニャ様」

 

とシェリーはそう言って手を差し出して来た、ピニャは迷いながらも渋々と言った感じでシェリーの手を取った。



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調印日にて

その日の夜イタリカでは、ピニャの薔薇騎士団の兵舎のテントの一角でシェリーの説得で皇太女即位を承諾し、日本から帰って来たピニャにボーゼスは涙を流しながら頭を下げていた。

 

「ボーゼス・・・顔を上げてくれぬか。・・・・アルヌスで会いに行かずすまん・・・・ヴィフィータから聞いた、翡翠宮での戦い見事な指揮であったと、そなたは義務を果たしたのだ」

 

「しかし殿下、私は・・・・殿下をお救い出来ず・・・」

 

「ボーゼス」

 

すると、ピニャはボーゼスに手を差し出して、手を取るボーゼスを抱き寄せ包容を交わす。

 

「そなた達が帝都から去って行くのを見た時、妾は正直言って置いていかれたと思ってしまった。だが、皇城への一騎駆け、そなたの思い改めて受け止めたぞボーゼス」

 

「お姉さま」

 

「もう泣くな。妾の為にもう無理はしてはならん。そなたは妾だけのものでなくなったのだから、アルヌスでは、トミタにも会ってはないと聞いたぞ・・・・伝えておらぬのか?」

 

「・・・・はい」

 

「ボーゼス、トミタに伝えるまで死ぬ事は許さぬ、この命を破れば共にエムロイに召されたとしても姉妹縁の契り絶交だ」

 

「そんなお姉さま!」

 

「承知したな?調印日は留守を頼む。リサ様のお土産でも読んでおるが良い。腹を冷やすなよ」

 

とピニャは、調印日の留守をボーゼスに任せ梨沙の書いたポルノものが入った袋を預けて、テントを出て他の騎士団員が集まっている一室に入る。

 

「パナシュ、ヴィフィータ調印の日には、つつがなく出発できるな?」

 

「はい、ニホン側とは予行の打ち合わせも済んでおります。出迎えは、士官ケングンが代表とのこと」

 

「ケングン・・・・ああ、あの男か」

 

と自分達を出迎えるのが健軍大佐と聞いて、

 

「まじか・・・」

 

と驚くヴィフィータ、

 

「先触れ役は、誰が良かろうか?」

 

「そりゃなぁ・・・・んなもん決まってんだろ?」

 

「ニコラシカがいいかと、ニホン語も習得しておりますし」

 

『異議ありぃっ!!』

 

と先触れ役に選ばれなかった事に不満のヴィフィータは大声を上げて挙手した。

 

「一騎駆けは、名誉ある大役だぜ?やっぱ隊長格がやるべきじゃないか?そうだろ?姫様!!ニコラシカが不適というわけじゃないんだ。格式と言うか釣り合いというか因縁というか・・・・」

 

と必死に弁解をするヴィフィータに周りはニヤついてからかいだした。

 

「ヴィフィータが気になるのは別の事でしょ?」

 

「はっきりおっしゃればいいのに」

 

「ヴィフィータにも春が来た様ですね。私は役目をお譲りしても構いません」

 

「そういう事か。わかったわかった、先触れ役はそなたに任せる」

 

「しゃっ」

 

「よし、皆解散して良いぞ」

 

と先触れ役に選ばれて浮かれヴィフィータ、ピニャは解散を言い出て行くとパナシュに呼び止められた。

 

「殿下、ちょっとお耳を」

 

「何だ?パナシュ」

 

「実は・・・・ディアボ殿下が・・・」

 

「やめよ。帝国を捨てた者の名など聞きとうない」

 

とパナシュがディアボの名を口に出すとピニャは、眉をひそめて立ち去って行く。ゾルザルのクーデターで帝都から逃亡しようとするディアボにピニャは引き止めようとするが『帝都に残るなら命懸けになる。それなら対価を払え』とピニャに貞操を要求した。ピニャは兄妹間でと躊躇したが、最終的に決心して身ぎれいにして来ると待たせている間にディアボは帝都から逃亡してしまった。元よりディアボ自身妹のピニャと男女関係になる気は最初からなく、諦めさせるために言った出まかせだった。しかし、この仕打ちにピニャは『自分は男一人引き止める魅力もないのか』と落ち込ませる結果となった。

 

そして翌日、早朝モルトの寝室に帝国の正装で身を包んだピニャが入って来た。

 

「陛下」

 

「ピニャか」

 

「これより調印式のためニホンへ出発いたします」

 

「うむ、大任である。任せたぞ」

 

そう言うとピニャは、モルトの寝室から出ていた。

 

「譲位か・・・」

 

とモルトは、ベッドの上で朝日が差し込む窓の外を眺めながらそう呟いた。

そして、ピニャは屋敷の前に止まっている馬車に乗り、薔薇騎士団の護衛の基イタリカを出発しアルヌスへと向かう。

そして、馬を歩かせる事しばらくしてアルヌスの丘が見えて来た。

 

「殿下、アルヌスが見えて参りました」

 

「先触れの使者は誰が良いか?」

 

「ヴィフィータが適任かと」

 

「うむ、よかろう」

 

「ヴィフィータ!先触れに駆けよ!」

 

ピニャの許可が降りたのでパナシュがそう言うと、

 

「おう!ハッ」

 

ヴィフィータは片手に持っている帝国の旗を靡かせもう片方の手で手綱をひいて馬を走らせ先に行く。道中でアルヌスの戦いで戦死・行方不明となった連合諸王国軍の戦没者の集団墓地と慰霊碑が建てられてあった。更にヴィフィータが進むと日本軍の検問所に差し掛かった。

 

「止まれ!誰何!」

 

ヴィフィータは、馬を止め

 

「私は皇帝陛下のご名代の到来を告げる者!よろしくお仕度あれっ!」

 

そう名乗ると

 

「受け賜った。通ってよし!」

 

と検問の日本兵は、通行許可を出す。

 

(ニホン語合ってたよな?意味知らねーけど)

 

と意味も分からず放った言葉にギクシャクしつつもヴィフィータは、馬を走らせアルヌス街へと入って行く。

 

「来たぞ!」

 

ヴィフィータが街に入って来て、アルヌスの住民達が見物に来ていた。

そして、ガストンのレストランから様子を見ていたディアボとその侍従メトメスがいた。

 

「負けを認めるのに大仰なものだ」

 

「お客さんは、見に行かないんで?」

 

「くだらん。お前は行かないのか?」

 

と見物に行かないのかと聞かれたガストンは浮かない表情で語り出す。

 

「嬉しくないんでさ、見物している連中も内心では不安なんですよ。戦争が終わっても『門』の事が残ってますから」

 

「まだ開けると聞いたが?」

 

「そうは言われましたけどね、テュカさんもヤオも誰がどうやって開くのか言わなかった。気に入らんのですわ。散々大丈夫と言っといて後でひどい目にあう。昔それで店も女房もなくした身からするとね。残ったのは借金だけ、折角街が栄えてるんだ、閉門なんで今じゃなくてもいいだろうと」

 

「なるほど・・・」

 

コダ村やイタリカから来た人々と違いアルヌスの労働条件で来た人や日本の物品を買い付ける商人達には門を閉じられるのは死活問題だった。

 

「『門』を閉めても開けられるヒトが居なかったら、この街は終わりみんな路頭に迷っちまう。組合の上のヒトはいいですよ、コダ村に帰ればなんとかなる。イタリカから来た連中もだ、商人も傭兵団も他でやっていける。けど残りの俺らや亜人はどうなります?ここみたいな街なんて大陸中探してもありゃしない」

 

「なるほどな・・・・『門』を扱える者を知っている様な物言いだが、秘密ではないのか?」

 

「・・・・薄々わかってるんですよ。ベルナーゴに行ったのは六人。イタミとオオバの旦那はニホン人、聖下とハーディは犬猿の仲、ヤオは三行半突き付けに行くと言ってた、残りは二人・・・一人は魔法使い。ニホンに行ってまだ帰ってないとくれば・・・・」

 

「自明だな。この者でどうでしょうディアボ殿下」

 

「うむ」

 

とメトメス(メトメスの服を着たディアボ)がディアボ(ディアボの服を着たメトメス)がそう言うと、ガストンは目の前の人物が帝国の皇子だと聞いて驚いた。

 

「え・・・・?ディアボ殿下って皇子様の・・・!?」

 

「その通りだ俺は侍従のメトメス。実は我々はゾルザルの手から逃れてきたのだ。料理長、我々の計画を手伝わぬか?」

 

「計画・・・・?」

 

とメトメス(ディアボ)がガストンに計画に協力しないかと誘いをかけて来た。

 

「そうだ、実はな帝都で聞いた情報だが、アポクリフや地揺れを『門』と結びつけたのは・・・・『門』をこちら側で閉めさせ様とするゾルザルの陰謀だ」

 

と門とアポクリフなどは全てゾルザルによる陰謀だと言うのだ。

 

「な、なんですって!?」

 

「ニホン政府と正統政府も騙されてあるのだ」

 

(出まかせをスラスラと出せるもので・・・)

 

とメトメス(ディアボ)の出まかせの嘘にディアボ(メトメス)は呆れる。

 

「ハーディ自ら降臨して伝えたと聞きやしたが」

 

「真実を伝えたと思うか?」

 

「ええ!?」

 

「『門』を好き勝手利用するヒトを懲らしめる為に嘘をついたのかも知れんぞ?」

 

メトメス(ディアボ)の推測を聞いて青ざめるガストンを他所に、外ではアルヌスの街の通りにピニャの乗った馬車が入って来て住民達の歓喜の声が聞こえて来る。

 

「・・・・で、計画というのは?」

 

「その鍵となる魔法使いを安全な場所に隠すのだ。ゾルザルの魔の手からな」

 

「なるほど・・・・なるほど・・・レレイさんが殺し屋に狙われたって噂はそういう事で」

 

「ん?うむ、そうだ」

 

「この目論見を阻止すればゾルザルの痛手となる。『門』を閉じる必要はなくなるのだ。どうだ?」

 

とディアボ(メトメス)がそう言うとガストンは、お辞儀をしてディアボ達の誘いに乗る事にした。

 

「わかりました。このガストン・ソル・ボロお手伝いさせていただきます。ディアボ殿下」

 

「組合には秘密だぞ」

 

「ところでレレイさんを匿う安全な場所って?」

 

とガストンが安全な場所を聞くとメトメス(ディアボ)からある大国の名前が出た。

 

「我々の計画を手伝ってくれる国だ。サビイート『門』の向こうにある国だ」

 

「サヴィェートであるぞメトメス。ニホン語でソビエト。ニホンの隣国で言葉は違うがヒトの住まう国だ」

 

「話は終わりだ。俺からの連絡を待て」

 

ディアボの計画は『門』を作れるレレイ保護という名目で拉致しソビエト連邦への手土産にする事だった。

 

 

 

 

そして、ヴィフィータは五芒星の形をした日本軍特地派遣軍総司令部へと入って行く。そして、門の前には健軍大佐が立っていた。

 

(昔の出来事を再現する儀式だそうだが、何で俺が・・・・正直気乗りしねぇな。伊丹にでもやらせりゃいいんだ)

 

と健軍大佐が心の中で愚痴っている間にヴィフィータがやって来た。

 

「ご名代達着をお知らせする!!」

 

すると、ヴィフィータが急に落馬して地面に仰向けに倒れる。

 

「大丈夫か使者殿」

 

『おい・・・早く俺を抱きやがれ・・・・いやっ、手順通り早く抱き上げろ!』

 

(言葉がわからん?)

 

未だに特地語が理解出来ない健軍大佐はヴィフィータが何を言ってるのか珍紛漢紛だったが、いつまでもそうしている訳にはいかず健軍大佐はヴィフィータを抱き上げようとする。

 

『あ、やっぱダメだ!待てケングン触るなっ』

 

「暴れるなっ、儀式が進まんっ」

 

暴れるなヴィフィータ無視して健軍大佐はヴィフィータを抱き上げて、

 

「先触れ確かに受け賜った!!各々抜かり無くご名代をお迎えなされ!」

 

と大声でそう言うと兵士達は、雄叫びを上げる。

 

「(この後が決まってないなんていい加減だな)ここでいいか」

 

と健軍大佐は、ヴィフィータを抱えて門の前に車列に並べてある六号重戦車ティーガーの後ろに行きそこで下ろす。

 

『返事聞かせろ』

 

「すまん、何を言ってるか全然分からん?」

 

『予行の時パナシュが通訳しただろぉっ、あんたの漢気に惚れたんだ。俺と付き合え!』

 

とヴィフィータは、健軍大佐に告るが当の健軍大佐は特地語で告白された為全く分からなかった。

 

「・・・・・」

 

「くそっ、もどかしいぜ」

 

そう言ってヴィフィータは、背伸びをして健軍大佐と自身の唇を重ねる。

 

 

 

「捧げぇーーー銃!!」

 

ピニャ達が門の前まで来ると捧げ銃の号令が掛かり儀仗兵は、三十年式銃剣の付いた三八式歩兵銃を体の中央前に垂直に持ち上げ捧げ銃の構えをし、士官は自身の軍刀で捧げ刀の構えをする。砲兵科による礼砲がなり、そして、軍楽隊による『君が代行進曲』が演奏される。

 

「どうやらうまくいったみたいだ」

 

とピニャは、健軍大佐の唇にキスマークが付いてるのを見てヴィフィータが健軍大佐に思いを伝えられたのだと悟った。

 

その日大日本帝国と帝国の間で講和条約が調印された。



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大日帝講和条約

大日本帝国帝都東京の街頭では、大日本帝国と帝国との講和条約締結の知らせが騒がれていた。

 

「号外!号外ー!!特地との講和条約調印、調印ー!」

 

各家庭や街頭、電気屋のテレビやラジオから大日本帝国と特地の帝国との講和条約が調印された事が大々的に報道され、テレビやラジオの前の国民を釘付けにした。

 

「臨時ニュースを申し上げます!臨時ニュースを申し上げます!大本営陸海軍部発表本日、我が帝国と特地の帝国との間で調印された講和条約。公表された主な内容は次の通りです。一、帝国は銀座事件の非を認め謝意を公表する。ニ、帝国の侵略戦争政策に関与した者達の裁判と追放し、ただし皇帝モルトはこの責任を負い条約発効後、帝国歴二年以内に退位する。三、帝国は、賠償金一億五ニ〇〇万スワニを払う。その内、一括で二二〇〇万スワニ残りを帝国歴で二十ヵ年掛けて支払う。四、帝国はアルヌスを中心に隣接する領主領を除いた半径一〇〇リーグ一六〇キロを大日本帝国に割譲する。五、帝国は、アルヌスから半径一〇〇リーグ以内における貨幣金属以外の地下資源等試掘採掘権を大日本帝国に譲渡する。六、帝国は勢力下の国々・領主・部族の独自の自治権・支配権を認める。七、帝国は、保有する魔法技術を日本に開示すること。八、帝国は、今回の戦争で大日本帝国軍が確保した捕虜を引き取ること。九、大日本帝国に対する関税自主権を4年間放棄すること。なおそれ以降は両国との協議により関税を決めることとする」

 

と講和条約の内容が発表され、アルヌスの兵舎の兵士達も聞いていた。

 

「この辺アルヌス県になんのか?」

 

「街の住民の国籍どうなるんだろう?日本国民になるのか?」

 

「そうなると、住民達にも納税や兵役の義務が課されるのか?」

 

とアルヌスやアルヌスに住まう住民達の扱いがどうなるのか話していた。

 

そして迎賓館では、多くの報道陣がカメラを回しピニャは、壇上のマイクに向かって言葉を発する。

 

「皇帝の名代としてニホンへの宣戦布告なき騙し討ち攻撃を謝罪し、ギンザ事件の犠牲者に哀悼の意を表すとともに、今日の講和により不幸な始まりをした両国の出会いが様々な方面・・・・芸術を含めて共に発展する事を妾は願う」

 

「芸術?」

 

と後半のピニャの芸術と言う単語にピニャの芸術をしている伊丹達は苦笑いを浮かべ、知らない人は首を傾げる。

そして、報道陣による東條英機首相の記者会見が開かれた。

 

「総理!講和条約には、賠償金を二十ヵ年掛けて支払うとありますが?これは、『門』に対する政府の方針と矛盾するものでは?」

 

「えぇ、それは重大な問題であります。この条約により『門』は我が大日本帝国の国土間を連絡する重要な通路となりました。この連絡をどう維持したいのか『門』による異常を考慮しても我々は決断を迫られるでしょう。今はそのための情報を収集している段階なのです」

 

「『門』を閉じないと認めたのですか?それとも再び開く方法がやはりあるのですか?」

 

「それは、まだです。どの様な選択をとってもいい様にという事なのであります」

 

と記者達は、条約内容と政府の方針の矛盾を指摘するが東條英機は記者達の質問をスルーして行く。

 

調印式も終わり、日本と特地の双方は迎賓館で酒や料理など飲み食いしながら話していた。そんな中で、ピニャは調印が終わって一息付いていた。

 

「どうしたキケロ卿?調印が終わって気が抜けたか?」

 

「いえ、殿下。摩天楼のただ中にあってこの様な帝国調の宮殿があろうとは・・・・ニホンとは不思議な国ですな」

 

「ん?ああ・・・そうだな(講和・・・・か。あの娘の手の内で踊らされている妾を見たら、イタミ殿はどう思うだろうか)」

 

「あの、殿下。この後晩餐会も控えておりますので程々に・・・・」

 

「良いではないかこんな時くらい、ニコラシカも食すが良い」

 

「ほら、トウジョ閣下が参られますよ」

 

「むむっ・・・・」

 

ピニャの基に東條英機や吉田繁などがやって来てピニャは慌てて手に持っていた料理や飲み物を口に放り込む。

 

一方、迎賓館の窓際では、内閣書記長官迫水久常と陸軍大臣杉山元の二人が浮かない顔をしていた。

 

「アルヌス州か・・・・」

 

「特別法が可決されたら人事で揉める事になるぞ」

 

二人が悩んでいたのは、アルヌスに於ける行政長官を誰に任命するかだった。

 

「特地開発庁長官はともかく、問題は現地の行政長官だ。下手すると特地に取り残される」

 

「なり手がなぁ。うま味があるとはいえ、いっそ首相に指名させるか?」

 

 

「ともかく『門』の事は選挙前に片付けたい」

 

「そうだな」

 

とそんな事を話していると

 

「あの・・・よろしいでしょうか?わたくし、シェリー・ノール・テュエリと申します」

 

二人に帝国正統政府の特使のシェリーが話しかけて来た。

 

「えーと、なぜ子供が?あ、いや、これは失礼伯爵夫人閣下」

 

「あぁ、この子が帝国の特使ですね。講和条約では、なかなかのやり手だったとか。うちの吉田達が舌を巻いたとか」

 

「いえ、お気になさらずに、私は見た目通りの子供ですので』

 

とシェリーは、言うが二人にはロゥリィやテュカの様に幼い見た目に反して高年齢を目にした事から油断出来ない。

 

「と言われても・・・・なぁ?」

 

「失礼だがおいくつだね?」

 

と杉山がシェリーの年齢を聞くと

 

「十二歳・・・・ニホンの暦では十三歳ですわ。帝国歴は一年389日なので」

 

「年齢で言うとこっちで中学生か、それにしては大人びているね。レレイ君の二、三下か?」

 

「最近何かと言われます。ついでに陰口も」

 

「才能にはつきものだよ」

 

「ところで先程、選挙のお話が耳に入りましたもので・・・・」

 

そして、シェリーが二人が話していた選挙についての本題に入った。

 

「選挙に興味があるのかね?」

 

「はい!帝国もかつては民主制でした。ですが、国が大きくなるにつれうまく働かなくなり、今の帝政に落ち着いたのです」

 

「成る程・・・古代ローマ帝国と同じ政治体制の流れか」

 

「帝政は政治決定をやりやすくなるが、時に独裁者の暴走に繋がる」

 

シェリーの話を聞いて、自分達の世界の古代ローマも元老院・政務官・民会の三者からなる共和政を採用していた。市民全体によって構成された民会は政務官を選出し、その政務官達が実際の政務を行う。この政務官経験者達によって構成された元老院は巨大な権威を持ち、その決議や助言に逆らう事は難しかった。政務官の選挙にも元老院の意向が一定反映され、そうして選ばれた政務官達によって元老院が構成された事から両者は強く結びついた。しかし、紀元前6世紀頃から次第に内戦や政治的対立から国内が不安定になり、そして『賽は投げられた』と有名な名言を残したガイウス・ユリウス・カエサルの台頭によりローマは共和政から君主制へと傾き、紀元前27年よりローマは共和政から帝政へと移行し、285年ディオクレティアヌス帝が即位すると専制君主制へと変貌した。

 

「あの、その・・・・選挙の前に『門』の事は片付けたいと言うのは?」

 

「あぁ、今『門』を閉じるなと喧伝している勢力がいてね」

 

「国の安全を考えると我々としては受け入れられない。だから『門』の問題は選挙の争点にしたくないんだ」

 

二人としては、門を閉じる事に反対している帝国派や左派・共産主義者などの勢力がおり、彼らからの支持を受けられなければ次の選挙での票を獲得出来ない事を危惧している為それまでに門の問題を解決したいと考えている。

 

「そのご英断に胸がすくう思いです。やっぱり政治家は民に人気のない決定もしなければならないですもの、帝国で民主制が廃れたのも為政者が人気取りに走ったから戦争と言う人気取りに、勝ちさえすれば民に喜ばれる。そう言う風潮が拡がってしまいました」

 

「勝てば選挙に勝てる・・・・か。成る程、勝てば官軍負ければ賊軍か」

 

「帝国の内乱も早く治めたいのですが・・・・ニホンは協力して頂けるのでしょうか?」

 

と力を貸してくれるかとシェリーの解答に迫水は迷わずYESと答える。

 

「ん?うむ、当然だ。ゾルザル派が勝てば今までの講和の成果もなくなってしまう。それだけは避けなければならない」

 

「何処の誰かさんのせいで帝都を取り戻すまで賠償金の支払いも始まらないし」

 

と言われてシェリーは苦笑いを浮かべた。

 

「正直言って特地の戦いは、上手くいきすぎた。吉田達も張り切り過ぎていた。君が現れて丁度よく頭が冷やされたんだ」

 

「そ・・・・そうでしょうか?」

 

「まぁ、今度の交渉もお手柔らかに頼むよ」

 

「あ、その事なんですが、わたくしスガワラ様にお嫁入りしますので、帝国使節として皆様とお話しするのは今日が最後になるかもしれません」

 

とシェリーは、菅原との婚約するので特使はこれが最初で最後だと打ち明ける。

 

「菅原?誰?」

 

「ああ、報告書にあった翡翠宮のあいつか」

 

二人は、菅原の名を聞いて報告書にあった吉田の部下だと思い出す。

 

「しかし、勿体無いなぁ」

 

「けど、十三ならまだ数年帝国で活躍できるんじゃないかい?」

 

と若いながらも話術の才能があるにも関わらずこれが最後だと聞いて二人は残念そうに言う。

 

「ですが・・・・その・・・・ニホンは『門』をお閉めになるつもりなのですね。そうなるとスガワラ様は・・・・」

 

寂しそうな表情でシェリー、

 

「外務省から特地駐在を任じられない限り引き揚げになるな、多分」

 

「おいっ」

 

「あっと・・・失礼」

 

未だ、帝国とは講和条約締結しただけであり、国交や大使館設置なども決まっていなので必然的に菅原が本国に引き揚げることは当然だった。シェリーは、無理に作り笑いを浮かべているが何処か浮かない様子だった。

 

「わかりました。身の処し方は、それに合わせて考えますわ」

 

「君は本当に彼が好きなんだね」

 

「はい!」

 

そして、迫水は戦争終結後帝国と大日本帝国と関係の今後どうするかを聞いてみた。

 

「・・・・ところで、シェリー君。講和後ゾルザル派を排除したとして、再統一なった帝国は我が国との関係をどうすると思う?」

 

「そうですね・・・・帝国の権威は、この戦争で失墜しました。はっきり言って、他国に対する軍事力でもニホンに頼る事になるでしょう。帝国内にも不安定要素が生まれましたし」

 

「不安定要素?」

 

「これまで帝国は、ヒトとヒトによるヒトの為の国でした。ですが、この内乱で皇帝陛下は亜人部族に助力を求めたのです。内乱に勝てば今後亜人の皆様が力をつけるでしょう。だからこそゾルザル様討伐でニホンがお力を示すべきなのです」

 

「成る程ね、成る程成る程」

 

「そう言うことか、ならば・・・・ちょっと失礼」

 

と言って迫水久常は手を顎に少し考えるとピニャと話している東條英機の基へと向かって行った。

 

「あいつ、人の話を自分が考えにたように言う時あるのよなぁ」

 

「そうなんですか?」

 

とシェリーは、誰に見えないように不敵な笑みを浮かべてしてやったりと言った感じだった。

 

講和条約成立後、政府は『特別地域管理行政特別法』が可決され、新たに大日本帝国に都道府県州が加わった。しかし、未だに行政長官が決まらず不在のままだった。

 

『講和条約の批准と特別法の成立を受け政府は、帝国正統政府への皇軍による参戦を閣議決定しました。帝国正統政府率いる新政府軍と皇太子派率いる旧帝国軍との内乱に介入する事になり、講和と皇太子派に対する勝利で選挙への実績づくりを目指しているものと思われます』

 

日本は本格的に軍事介入する事になり、『戦争を早く終わらせる為ならどの様な手段でも取り入れて良い』と言う天皇と東條英機の方針により日本軍は次の一手を打つ。帝都上空では、九七式輸送機数機が帝都上空に差し掛かると

 

「帝都上空進路よし!投下開始!」

 

「よし、投下!」

 

とハッチから大量のビラを投下した。帝都民は、空から降って来たビラを見てビラにこう書かれていた。

 

『ニホンとの和平なる!』

 

と心理攻撃に出たのだ。更にビラは、各地にばら撒かれゾルザル軍兵士達にも届いた。

 

『ゾルザル軍兵士諸君!投降せよ、君達を待ち受けているのは鉄の暴風だ!故郷に帰れるぞ、これが諸君の戦争か?我々は諸君の苦しみを理解し、諸君を死に追いやるゾルザル軍やオプリーチニナより諸君の身を思っている。我々は諸君の敵ではない。諸君らの敵は悪逆非道冷酷無慈悲な史上最悪の暴君ゾルザルだ。和平を阻むゾルザルを討て!』

 

『皇帝の名においてその命と内乱終結後の解放を保証し、なお降伏し捕虜になれば治療を受け温かい食事や酒類やたばこを支給し、各自の家庭に帰り平和的に生活できる機会を与える』

 

と書かれており、戦争やゾルザル軍に嫌気が差していた兵士達は、脱走を決意して実行する兵士が後を絶たなかった。

そして、新政府はエルベ藩王国国王デュラン等をはじめ各地に使者を送り『功をあった者は重く用いる。種族・民族・前歴・身分は一切問わない、論功行賞を約束する!』と言って参戦を促した。

 

「この和平を帝国の連中が己の力と勘違いせねば良いがな。まぁ、よかろう。イタリカへ進発せよ!!この戦いで大陸の実質的盟主が誰なのかを皆が思い知るであろうからな」

 

そう言ってデュランは、兵士を率いてイタリカへと進軍して行く。

大日本帝国との講和成立と帝国正統政府の檄文が各地に伝わると、エルベ藩王国をはじめとした様子見を決め込んでいた諸国や貴族、傭兵団までが続々とイタリカに集結し、帝国正統政府軍は旧帝国軍に匹敵する兵力に膨れ上がった。

 

 

一方、日本の研究所の大浴場では、ロゥリィとレレイが湯に浸かっていた。

 

「アルヌスに帰るぅ?」

 

「実験も一通りやり尽くした。そろそろヨウジを連れ戻す計画を立てたい」

 

とレレイは、伊丹をアルヌスに連れ戻す計画を立てたいとロゥリィに打ち明け、ロゥリィも悪くないと言った顔をしている。

 

「連れ戻すねぇ、いいわねぇその話乗ったわぁ」

 

「早くした方がいい、ヨウジが逃げ出す前に」

 

「急いだ方がいいわねぇ」

 

レレイ達がそんな計画を立てているなど伊丹は知る由もなかった。

 



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日帝合作

イタリカ郊外では、第四戦闘航空団の指揮官健軍大佐が大きなため息を吐いていた。

 

「大佐ご機嫌ななめすか?」

 

「あー、ちょっとな」

 

遡ること数時間前のアルヌスの日本軍駐屯地の基地で、

 

「アルヌスからの主攻は第一第二第三戦闘団とする。第四戦闘航空団はイタリカから進発する正統政府軍を支援せよ」

 

と今村から主攻する部隊が発表され、呼ばれた部隊の各隊長達は笑みを浮かべていたが

 

「待ってください閣下!我が第四戦闘航空団の空中機動力を封じられては・・・・っ、翡翠宮の作戦時に設置した前線基地を使えば帝都を突くことが出来ます!!」

 

だが、ただ一人健軍大佐だけは、この命令に不満があり異議を申し立てた。

 

「銃火器を欠いた第四戦闘航空団で二万の兵が守る百万都市を制圧出来るのかね?君の隊は今まで充分に戦った。今回は他の隊に譲れ、討伐軍の主力となる正統政府軍はアルヌスより遠いイタリカから進発する。第四戦闘航空団の支援が無ければ前進に数ヶ月かかるかもしれん」

 

「しかし・・・」

 

「空中からの支援攻撃、物資・人員の輸送で必要になる。君の第四戦闘航空団にしか出来ないことだ」

 

と今村から言われ健軍はまだイタリカ支援に不満を抱えながらも軍人として上官の命令に従った。

 

 

 

「人員か・・・」

 

と呟きながら健軍大佐は、正統政府の馬車に乗って道行く兵士達に陸軍式敬礼をしている時、

 

『お〜い!!ケングーン!!』

 

と健軍大佐を呼ぶ声が聞こえてきた。声のした方を見るとそこには、馬に乗ったヴィフィータだった。

 

「なんだよ〜、来るなら言ってくれよ。迎えに出たのに〜、今日はイタリカに泊まるのか?あ、そうそうニコラシカに新しいニホン語教わったぜ」

 

とそう言って片言の日本語で

 

「せめとうけどっちがすき?」

 

とんでもない爆弾発言をした。

 

「あれがこの前大佐に突撃した?」

 

「・・・・」

 

健軍や近くいた兵士達は、凍りついた。

 

「あれ?変なこと言ったか?まぁ、いいや後で付き合えよ」

 

自身が言った言葉の意味を知らないヴィフィータはそのまま去って行き。健軍もフォルマルト伯爵家の屋敷へと向かった。

 

イタリカフォルマルト伯爵家の屋敷で、杖をついた柳田とデュランが廊下で出会した。

 

「デュラン閣下ご機嫌麗しゅう」

 

「フン、お主もな。りはびりは進んでおるか?」

 

「まぁ、この通り」

 

と柳田はそう言ってデュランに杖を付いて歩けるぐらいに回復した様子を見せる。

 

「しかし、お主達と共に戦う事になるとはな」

 

「昨日の敵は今日の友と言う格言があります。我が国も数年前に経験しました」

 

「・・・フン」

 

「では、上官から作戦の説明がありますので」

 

「どれどれ、帝国の将軍どもはどんな顔をしとるかの?」

 

そう言ってデュランは、大広間へと向かって行った。大広間では、招集で集まった諸国の王や貴族、傭兵などが集まっていた。そして、健軍が概要を説明する。

 

「諸君!最初に言っておくが、これは競争だ!!一度状況が開始されれば我々はアルヌスから前進する大日本帝国陸軍戦闘団と先陣を競う事になる。向こうは我々の事など待ってはくれん。早い者勝ちだ!」

 

しかし、諸国の王達は納得しなかった。

 

「ケングン殿!ゾルザル派討伐軍の主力は我々ではないのか!?だからこそ歴戦の貴官の部隊が我々に加わったのであろう?」

 

「ニホン軍が先に帝都に入城したら我々の面子はどうなる?」

 

いくら戦争とは言っても自国の軍隊ではなく他国の軍隊に最初に帝都入りを果たされて快く思う者はいない。

 

「この際言わせてもらうが面子など捨てていただきたい、そんな物は犬にでも食わせておけばいい。そんな物戦場では、何の役にも立たない。面子が将兵を縛る枷であってはならないのだ」

 

そして、諸国の王達を見て見かねたピニャが健軍大佐に賛同する。

 

「ケングン殿の言う通り、卿らの望むべき道は長く、そして立ちはだかる敵は手強い。この戦が競争ならば妾らは初手から不利な立場にある。だからこそ、卿らは懸命に走らねばならぬのだ」

 

「・・・・殿下、卿らと申されましたか?」

 

「そうだ、妾はイタリカを離れる訳にはいかぬだろ?先陣などと言うわがままも言えぬ様になったしな、吉報を待っておるぞ」

 

「しかしっ、我らに馬を降りて戦えとは、些か・・・騎兵は戦の華」

 

と頑なに納得しない諸国の王達に

 

「"面子か""勝利か"だ」

 

ピニャは王達に面子か勝利かの2択を突き付ける。

 

「ケングン殿続きを」

 

「閣下は馬から下ろされるのをお嘆きのようですが、我が戦闘航空団が新たな天馬を提供しましょう」

 

「天馬・・・・な」

 

と聞いて天馬・・・・つまりヘリになった事をデュランは察した様だった。

 

「これより作戦の詳細を説明する。これが納得して頂けないと困る事になる。疑問があれば小さな事でも質問して頂きたい」

 

「では、資料にある作戦要網を・・・・」

 

その後日本軍から作戦の詳細を説明を受けどうにか諸国の王達を納得させることが出来た。

 

そして、イタリカ郊外の演習場では、

 

「降下ぁー!」

 

帝国正統政府軍の兵士達が日本軍の軍事顧問のもと高台からロープを伝って降りる降下訓練をしていた。日本軍では、『抗旧援新・保家衛國』"ゾルザル率いる旧帝国軍に対抗し新政府軍を助け、家と国を守る"という意味のスローガンを掲げて、日本軍は新政府軍の兵士たちの訓練を担当した。そして、この時日本軍の間で歌われた歌があった。『日本特地派遣軍歌』と言う曲名。

 

『1.気勢も堂々と門を越え 我が祖国、我が故郷の平和の為に勇敢な日本の息子よ娘よ前へ!抗旧援新で狼を叩き潰そう!

 

2.雄雄しく堂々と気勢高く 門を越えて、祖国の為 平和を保ち 故郷を護らん!日本の良き息子よ娘よ 一心団結せよ!抗旧援新 野心的なゾルザルの狼共を打ち破れ!!

 

日本の良き息子よ娘よ 一心団結せよ!抗旧援新 野心的なゾルザルの狼共を打ち破れ!』

 

日本軍では、当初新政府軍にも銃器を供与する話も挙がったが銃器を扱った事のない中世レベルの兵士達を一から訓練するには時間がかかり作戦決行までには間に合わないと判断し、更には旧帝国軍側に鹵獲運用されると厄介なのでこの話は白紙になった。

 

「いけーっ!いけーっ!」

 

「止まるなーっ!!」

 

「急げ急げ急げ!次が頭の上に降ってくるぞ!!」

 

日本軍は、軍隊のノウハウをフルに詰め込んだ訓練を実施した。これが後に、中世レベル程度の実力しかなかった新政府軍を正規軍顔負けの精鋭部隊へと成長させる。新政府軍と旧帝国軍との内乱で『帝国による国家統一』が脅かされ、その様な背景において軍隊と国防産業を近代化を必要とする帝国と資源の安定供給を必要とする日本の思惑が一致とゾルザルと言う共通の敵の存在、軍事的・経済的関係を示す『日帝合作』が成立し、これが、帝国の産業と軍隊の近代化に役立った。

 

 

 

帝都第二の都市テルタでは、宮殿の執務室でゾルザルは密偵から齎された羊皮紙に書かれたイラストを見ていた。

 

「これが新しい城攻め?攻城塔も使わずにか?」

 

ゾルザルが見ていた羊皮紙にヘリから降下する兵士のイラストが書かれていた。

 

「あれだけの密偵を失って得られたのがこれだけか?」

 

「今まで裏門からイタリカに潜入しようとして阻止されてきましたが、正門は鍵もかかっていなかった様です」

 

「フン、ハリョの連中も大した事ないな」

 

「・・・・ニホンとの講和後イタリカには、エルベ藩王国を主力とした外国軍が集結、加えて食糧と馬糧の購入状況から作戦を企図していると思われます」

 

「デュランのジジイか!売国奴め」

 

それまで、ずっと様子見を決め込んでいた諸国が講和成立を知り、正統政府からの招集に応じてイタリカに集結していると聞いて激怒した。

 

 

「皆さんこれをご覧あれ!反徒が大陸中にばら撒いた檄文です!」

 

とゾルザル派の議員の一人がフォルマート大陸にばら撒かれたビラを周囲の議員達に見せる。

 

「奴らは売国奴どもは蛮族にまで兵を求め媚びているのです。亜人にまで元老院議員の地位を与えると!帝国のヒトとしての誇りまでも投げ捨てているとしか思えない!」

 

それを聞いて

 

「なんと!情けない奴等め」

 

「亜人どもの手を借りねば戦えぬのか?」

 

「やれやれそんな連中と議場で同席していたとは」

 

などと、ヒト種至上主義の保守派議員たちは嘆いた。

 

「殿下、奴らがその気なら戦ってやりましょうぞ」

 

「うむ、総力を上げて敵を迎え撃つ、皆にも兵を率いてもらうぞ。"帝国の興廃はこの戦にある"地図を」

 

と言って地図を広げて帝国の将軍ヘルムが作戦を説明する。

 

「敵はイタリカとアルヌスの二方向から…特にイタリカの反徒どもは、アッピア街道上を進んでくるでしょう。街道上の城塞群マレフゥエレッキには兵力を増強し敵を漸滅させます。敵が我が国土深く入り込んだところで将軍率いる軍勢の出番となります」

 

「皆よく聞け!!俺には必勝の策がある!直々に兵を率いて戦場へ赴くであろう!!」

 

とゾルザルが議員や将軍達にそう宣言すると歓喜と拍手が沸き起こる。

 

「敵を防ぐ絶対防衛戦はレッキから・・・・マーレスの森と致します」

 

そして、作戦がある程度決まると議員達は大広間を出て行く。その様子をゾルザルの料理人として雇われ諜報活動中の古田が入れ替わる形で大広間に入って来た。

 

「いっその事ゾルザルを殺った方が早くないか?」

 

古田が小声でそう呟くと

 

「そう言う訳にはいかないのよ。ニホン語少し教わったの、ノリコに」

 

古田の前に現れたのはテューレだった。

 

「殿下を暗殺しても何も解決しないわ、きっと殿下に成り代わる者が現れるだけ、それに言っておくけど・・・・"ゾルザルを殺すのは、私よ"この役は誰にも譲らないわ」

 

「テューレ・・・・さん!?」

 

「マーレスよ、殿下自ら出撃なさるわ」

 

「・・・・いいんですか?」

 

「いいのよ」

 

とテューレは、次の作戦でゾルザルが出撃する事を古田に話した。テューレは、古田が日本軍のスパイである事は既に知ってて敢えてその情報を古田に教えた。そして、テューレは古田に何かを投げ渡した。それは、飴玉サイズくらいの球体だった。

 

「私が殿下に叛意を抱いているのはもうわかってるでしょ?・・・それ相手の考えがわかる魔導具か何かじゃない?タンスカも罠知っていたのでなくて?」

 

「・・・・」

 

テューレに図星をつかれ渡された古田は溜め息をしながら魔導具を受け取る。

 

「ここに亜人の愛玩奴隷の服なんか洗う者はいないわ。だから、洗濯女を手懐けても無駄」

 

「ボウロと言う男は?」

 

「あれには用を言いつけました。ここには今私とあなただけ」

 

「・・・・でも、どうして?」

 

『ゾルザルに絶望と己の無能と惨めさを思い知らせて嘲り嗤う心を抉ってやりたいの』

 

不気味に笑うテューレに、古田は少し引いた。そして、古田は、ゾルザルの殺害はテューレに譲る事にした。

 

「・・・・わかりました。その役はテューレさんに任せます」

 

「そ、ありがと。でも、あなたも随分優秀ね。間諜として」

 

と、テューレが古田をスパイとして優秀の褒め、古田はテューレから優秀と言われて驚く。

 

「俺が!?」

 

「そうでしょ?ボウロなんて今だに違うって言ってるもの、フルタがいたらイタリカ潜入は簡単だったって、すっかり騙されちゃったわとんだ役者ね」

 

「役者!?」

 

「自分の店を持ちたいと言うのも、私を雇いたいっていうのも、嘘なんでしょ?私が馬鹿だったわ(あなたの語る夢をかつての自分と重ねてあなたとなら・・・・共に同じ道を歩めるかもしれないと)」

 

すると、テューレに言われた事に古田が血相を変え、

 

「自分は役者じゃない料理人だ!結果的にこんな事になってるけど・・・・誰かを騙すために店の話をした訳じゃない」

 

「あ、ごめん・・・・」

 

「ごめんじゃないよ!勝手に人を嘘つき役者呼ばわり!勝手に自分で間違いだったと納得して!なんなんだよ!!」

 

と怒鳴りながら古田は、テューレに詰め寄る。

 

「じゃあ・・・・お店を開くとか、私を雇うって話は・・・・」

 

「・・・・嘘偽りのない俺の本心です」

 

古田が軍を除隊した後自分の、店を開いてそこにテューレを雇いたいとテューレに話したことがあり、それを聞いたテューレは嬉しかった。しかし、古田が日本軍のスパイだわかった時それは、相手を欺くための嘘だと割り切る。しかし、今古田の口からそれが本心だと明かされ

 

「この任務で店を開けるだけの金も貯まりました。だから、ゾルザルのもとからテューレさんを攫ってでも連れて帰ろうと思ってたのに・・・・どうやら俺の見込み違いだったようです」

 

「え!?」

 

「残念です。がっかりしました。あなたは他人も自分も疑うことしか出来ない人なんですね」

 

そう言って古田は、テューレの前から去って行く。すると、そこへボウロが現れた。

 

「テューレ様、戻りましたでございまする。・・・・テューレ様?」

 

「黙りなさい、しばらく放っておいて」

 

「・・・・・?何かありましたので?」

 

「嬉しいことに決まってるでしょう」

 

とテューレのその表情は、ゾルザルの奴隷に身を落としてから失われていたテューレの本当の表情だった。



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最終決戦に向けて!

タンスカ城塞の桟橋で釣りをしているゴダセンのもとにゾルザルのクーデター後にタンスカに左遷された百人隊長のボルホスがやって来た。

 

「閣下」

 

「行くのかボルホス」

 

「ハッ」

 

「こんな辺境の百人隊長まで引っこ抜くとはな。貴公は、殿下に左遷されたのではなかったのか?」

 

旧帝国軍がマーレスにて大規模な攻勢を仕掛けるに当たってかつて辺境へと左遷した者まで呼び戻しを掛けたのだ。

 

「自分は、帝国軍人として命令に従います」

 

「ロンデルやベルナーゴも襲撃しろだと?無茶を言いおる、ここから何リーグあると思とんだ。兵を無駄にするだけだ」

 

とゴダセンは旧帝国軍のあまりにも非現実的な作戦に愚痴をこぼす。すると、ボルホスがゴダセンの隣に置いてあるリードがついた釣竿に目をやる。

 

「見慣れぬ竿ですな、新しく買われたので?」

 

「それか?知り合いの商人のアルヌス土産でな」

 

「アルヌス・・・ですか」

 

「また、遠くまで投げられましたな」

 

「魔法だよ。まだ、肩の傷が痛む。ボルホス、最後まで付き合う必要はないのだぞ」

 

「・・・・承知しております。ゴダセン閣下お元気で」

 

そう言って、ボルホスは桟橋にやって来た帆船に乗り込んでゴダセンに別れを告げボルホスはテルタへと向かって行く。

 

 

そして、日本軍の九七式司令部偵察機がテルタ上空を旋回しながら飛行していた。その様子を将官は忌々しげに眺めていた。

 

「ありったけの翼竜隊を招集した。蚊トンボめ、目にもの見せてくれるわ。喇叭鳴らせ!ポダワン竜騎士隊出陣!!」

 

「売国奴どもが、動き出す前に決戦の準備を済ませるのだ!各駐屯地は最低限度の兵を残し、全隊出撃!!昼夜分たぬ行軍をもって速やかにマーレスに集結せよ!」

 

空路からは竜騎士が、陸路からは歩兵が、海路から船団がマーレスへと向け進軍して行く。そして、日本軍や新政府軍の戦闘で多くの兵が投降や戦死をし、更には投降を呼び掛けるビラで兵士の多くが脱走した事から、旧帝国軍も人手不足からなりふり構わず兵を集める様になった。テルタに住む男性の住民に募集を掛け、募集枠はテルタの市民から奴隷にまで拡大した。末期には囚人すら入隊させられた。市民や商人はオプリーチニナに無理矢理ホールに連れて来られ市民達は中ば強制的に入隊させられた。

 

「兵役年齢に達しているテルタ市民・奴隷、監獄の囚人はすべて徴兵する。補助部隊として帝国国民の義務を果たせ!商人諸君拒否は許されない、持てる全て物資・食料を帝国軍に提供せよ。少しでも隠匿しようなどと考えない事だ。隠匿が発覚した場合は徴発隊が直ちに取り立てを行う」

 

と市民や商人達に旧帝国将軍ヘルムが脅しをかけ市民達は恐怖の表情を浮かべていた。

 

「だが、勝利の暁には、諸君らテルタ商人が大陸の覇権を握り名誉臣民の称号を与えられる事になるだろう。そうそう、商隊用の馬車・民間向けの衣料も提供していただこう」

 

そして、自分達が勝てば功績として名誉が与えられると言いつつ、商人達に馬車や衣服までも提供しろと言ってきた。更に旧帝国軍が各地の住人から徴発した大量の金貨が積まれた箱が並べられていた。

 

「ノルガ属州、ダキアヌ属州供出金到着しました。テルタでの徴発も本日中には完了します」

 

「うむ、反徒どもに勝利すれば恩賞金を与えると兵達に布告を出せ。イタリカ占領後三日間の掠奪も許可するぞ」

 

とイタリカを占領したら兵士達に略奪と言う蛮行を容認すると言うのだ。そして、ヘルム達は作戦室で地図を広げ情報と作戦の整理をしていた。

 

「第一ゾルザル軍団、第二アウグスタス軍団を除き全隊出陣しました」

 

「よろしい、伝令!デュマ方面軍へ達するイタリカ・アルヌス及び帝国西部での遊撃戦を再開せよ。敵勢を分散拘束し移動を妨害するのだ」

 

ヘルムは各地にいる旧帝国軍部隊に作戦開始を宣言する様伝える。

 

 

そして、テルタ上空では日本軍の偵察機が辺りを旋回しながら飛行していた。

 

「覗き屋め、最近どんどん低く飛ぶ」

 

「見せてやればいい、手でも振ってやろうか」

 

日本軍の偵察機を忌々しげに見上げていたが、気にする事はなかった。

 

『テルタ周辺から多数の部隊が南下している』

 

『偵察回数を増やしたいが・・・』

 

『マーレス方面の偵察で飛行任務はいっぱいだ』

 

『偵察機が足りんのよ』

 

そうして、九七式司令部偵察機はテルタでの航空写真を幾つか撮影して基地へと帰投するため飛び去って行った。

 

「行ったか」

 

「では、我々も準備しよう」

 

「うむ」

 

そして、日が暮れた頃松明の明かりが灯る中テルタ宮殿の中庭に集められた兵士達は、

 

「諸君らに渡した暗号命令書に集結地が記されている。開封期日は厳守だ!当日に暗号を解く鍵を知る兵が名乗り出る。移動は夜間に限る事先導に怪異をつけよ!道中に遭遇した合言葉を言えぬ者は・・・・その場で全て処分せよ」

 

とオプリーチニナから言われ兵士達の表情は凍り付いていた。その後、旧帝国軍は、多くの兵士や荷馬車を連れテルタを出発していった。

そして、遊撃隊が出陣すると同時にゾルザル達も出陣する。

 

「さて、俺たちもそろそろ参ろうか」

 

「この馬車も用意させたので?」

 

とテューレが言ったのは、荷馬車に偽装した乗用馬車だった。

 

「うむ、前に皇宮に現れた不埒者が荷馬車に似せたもので乗り付けたそうだ。それを聞いて作らせた」

 

と伊丹達が軍用車を荷馬車に偽装して皇宮に乗り込んで来たと聞いて、ゾルザルが自身の身を隠す為に作らせたのだ。そして、ゾルザルの馬車は夜の暗闇の中テルタの街を出発して行く。

 

「許可があるまで外に出るなとはまるで囚人の様だ」

 

「酔いそう」

 

「静かにしろっ」

 

(マーレスに向かうのに自軍の秘匿が厳しすぎないか?)

 

別の馬車では、古田はほぼ軟禁状態で旧帝国軍の秘匿の異常さに疑問を感じていた。

 

その頃ゾルザルの馬車では、

 

「お前はこれを使え、俺は別ので行く。どうだ、乗り心地は?」

 

「外見と違ってとてもいいですわ」

 

「そうか、どれも俺が乗り心地を確かめてみるか」

 

「まぁ、殿下ったら」

 

とゾルザルは、テューレと行為に及んだ。馬車の中から聞こえてくるテューレの喘ぎ声に周りの兵士や御者達は、精神的に参っていた。その後しばらく行為に及んだ後

 

「良い乗り心地であったぞ、テューレ。また、乗りに来る楽しみにしておれ」

 

とテューレとの行為を終えたゾルザルは馬車から出て行き別の馬車へと向かい、残されたテューレは

 

「・・・・ボロウいますか?」

 

「はいでございまする」

 

御者に声を掛けると御者様の席にボロウが現れた。

 

「いよいよです。私達の思惑通り帝国は二つに分かれ血みどろの殺し合いを始めます」

 

「どちらが勝っても帝国の衰退は確実でございますな、我らハリョが表舞台に出る日も近いでございまする」

 

ハリョと言う種族は存在しない。『門』から現れた様々な種族が混在するこの世界必然的に混血種が生まれる。その中で部族から捨てられ社会から飛び出す者が少なからずいた。社会の下層に追いやられた彼等は、いつしか同族意識を抱きこう名乗る様になる『ハリョ』と、彼等は言う自分達こそ新たに生まれた真の原種。この世界の主人である。帝国に影から蚕食し内側から我が手に・・・・ボウロのもとに集結したハリョ達は、ゾルザルに接近、皇太子府の密偵組織にまで成り上がっていた。

 

「イタリカで多くの手を失いましたが、我らハリョはどこにでもおりまする。勝った方にまた裏から食い込めば・・・・(ゾルザルがこの兎女を選んでしまったばかりに・・・・)」

 

「・・・・この戦いを長引かせもっと殺し合いを続けさせたいわ。ゾルザルの秘策とやらが気になる。調べられますか?」

 

「調べてどうなさるので?」

 

「フルタに教えます」

 

とテューレは、ボロウにゾルザルの秘策を調べさせてその情報を古田に教えると言うのだ。それを聞いたボロウは、眉間に皺を寄せる。

 

「まだあやつが間諜だと?テューレ様を誑かして気を引いているだけでございます」

 

とボロウがそう言うとテューレは、顔を赤くして動揺する。

 

「私の気を?そんな事・・・・本当にそう思いますか?でも・・・・でも、例えそうでもなんだと言うんです?」

 

「あの者の語る魔法の様な料理屋もただの夢を並べただけ、嘘吐きの夢語りでございまする」

 

ボロウは、古田の自分の店を開くと言う夢も諜報員として自身の素性を隠すための嘘だと否定すると

 

「あの人は嘘なんか付いていません!」

 

とテューレが、古田の夢を否定された事で、声を荒げた。ゾルザルを利用して、帝国を陥れても何も満たされる外のない虚しさの中で出会った古田を気にかけていたテューレ。

 

「あの男は正直者なんです。あなたの様な者にはわかりません」

 

「正直な密偵などおりませぬ」

 

ボロウは、密偵の身として正直なスパイなどいないと否定した。

 

「・・・・もう行きなさい」

 

「良いので?此度離れますと戻りがいささか難しくなりまする」

 

「かまいません、どこを行っても道はマーレスに辿り着くのです。そこで合流しなさい」

 

「殿下の秘策を暴いて・・・・どうなさるので?」

 

「絶望よ。絶望を与えるの、あやつが感じた事のない絶望を」

 

「殿下が絶望でございまするか」

 

「そうよ、あなたも見たくない?」

 

とテューレは、ゾルザルの絶望する顔を想像しクスクスと笑う。

 

「・・・・テューレ様はその後の事を考えておいでで?」

 

「考える必要があります?」

 

テューレにとって、帝国もといヒト種への復讐が全てである為、その後の自分の身の振り方などどうでもいいのだ。

 

「・・・・確かに・・・・テューレ様には必要のない事でございまするな。では、仰せに従いまする。一報はマーレスにて・・・」

 

そう言ってボロウは、シュンと消えて行った。

 

「マーレスでゾルザルは・・・・どんな顔を見せてくれるかしら?」

 

とテューレは、不敵な笑みを浮かべ自分は英雄だとたかを括っているゾルザルが絶望に突き落とされる瞬間を楽しみにしていた。そして、大日本帝国軍と新政府軍の連合軍と旧帝国軍の最終決戦が着々と近づこうとしている。



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ゾルザル帝国崩壊ー日本進軍1946ー

アルヌスにある難民キャンプで、寝ていたロゥリィが目を覚まして、アルヌスの日本軍基地を眺めて

 

「始まるのね・・・・」

 

と真剣な表情でそう呟いた。

 

1946年、日本軍の攻撃部隊は前線に集結、大砲と戦車に援護された日本兵が敵陣の前に勢揃いしていた。そして、アルヌスの日本軍総司令部では、攻撃開始時間を待っていた。

 

「承知しました総理、特地方面軍は現地時間0300時をもって行動を開始します」

 

「十秒前・・・・0300今!」

 

そして、攻撃開始時刻になると総司令官である今村均大将が全軍に発する。

 

「全軍に達する帝都解放作戦『スキピオ』を発動する!状況を開始せよ!」

 

作戦名『スキピオ』は、古代共和政ローマで活躍した政治家兼軍人。本名、プブリウス・コルネリウス・スキピオ・アフリカヌス・マイヨル。第二次ポニエ戦争後期に活躍して、カルタゴの将軍ハンニバルをザマの戦いで破り戦争を終結させた人物。

 

アルヌス北東カンポリ加茂大佐率いる第一戦車大隊

 

「本部より打電暗号文『白・黒・抹茶・ゆず・小豆・梅・桜・桜・桜』符丁確認作戦開始です!」

 

「よし、全隊前進用意!戦車前進!!」

 

と加茂大佐がそう言うと前者量がエンジンを掛けて前進を開始する。そして、上空でも、

 

「各機目標に向かえ!攻撃開始!」

 

神子田中佐と久里浜中佐の零戦隊が敵陣に向けて降下して行く。日本は、旧帝国軍陣地に怒涛の侵攻を開始し、圧倒的な戦力で旧帝国軍をフォルマート大陸から駆逐しようとしていた。

 

 

イタリカ領東端アルクサ・アルンヘルム要塞

 

「ここ十日ほどイタリカ軍が静か過ぎる。他で攻勢に出たと言う報告もないし」

 

「ここ数日攻城陣地でも動きがありません」

 

すると、空からヒューと言う音が聞こえて来て、次の瞬間ズドーンと大きな爆発が起きた。

 

「命中一番機!続いて目標東城門三番機南から進入」

 

観測班が爆装した零戦隊に空爆の着弾観測を伝える。

 

「なんだっ、魔法か!?」

 

「空から何か・・・わあっ」

 

何が起こっているか分からない帝国軍を他所に要塞のあらゆる箇所で空爆が続く。

 

『前衛観測班より一番機、全弾命中』

 

「さあ、忙しくなるぞ」

 

「了解、これより帰投する。あー空戦してー」

 

「いつまでも駄々捏ねるんじゃないの」

 

そう言って空爆を終えた戦闘機隊はアルヌスの基地へと帰投して行く。そして、空爆を受けたアルンヘルム要塞は、司令部と城門が破壊され黒煙が立ち上っていた。

 

「司令部と城門が・・・・」

 

すると、伝来が来て、

 

「物見より報告!イタリカ軍が南北より接近中!」

 

とアルンヘルム要塞の南北からそれまで沈黙していた新政府軍が南から船で乗り上げ、北から騎兵と歩兵が攻めて来たのだ。

 

「前夜の内に渡河したしたものとみられます」

 

「斥候から何も報告はなかったぞ!そんな短時間で南北同時に河を渡ったと言うのか!?」

 

「閣下!」

 

将軍は絶望に打ちひしがれ何も発することが出来なかった。そして、同じ頃零戦隊は、別の要塞を空爆していた。

 

一方、アルヌスの基地の飛行場の滑走路では、

 

「燃料の給油急げ!後がつかえるぞっ」

 

「もたもたしている暇はないぞ!敵は待ってくれん!」

 

帰還した零戦に整備兵達が燃料補給をし、爆弾を取り付けていた。そして、帰還した神子田中佐と久里浜中佐は休憩所で戦闘配食のおにぎりを食べたり一服していた。

 

「夜明け前に五回も出撃してのに、まだ半分も行ってねぇ」

 

「しょうがないだろ、二、三十機でカバーする様な広さの作戦域と目標数をたった八機でまわしてるんだ」

 

「格納庫にまだ何機かいただろ?」

 

「あれは予備機兼部品取り用」

 

「零戦も旧型機だからなぁー」

 

「補給終わりました。出撃準備完了です!」

 

「おっ、っしゃ行きますかぁ」

 

神子田中佐と久里浜中佐は爆装と燃料補給を終えた零戦に乗り込んで再び出撃して行った。

 

『ゴテンバ射撃指揮所、各中隊効力射各目標二十発榴弾』

 

「撃ち方始め!」

 

「撃てぇ!!」

 

その合図と共に砲兵科による7.5cm Pak40と九六式十五糎榴弾砲やヤークトティーガーとヤークトパンターやネーベルヴェルファーとパンツァーヴェルファーによる一斉射撃が行われた。耳をつん裂く爆発音、砲火によって大地に閃光が照らされる。

 

「何の光だ!?」

 

『弾着ーー今!』

 

と観測班が言うと旧帝国軍陣地に榴弾の雨が降り注いだ。

 

「ああああ」

 

「エムロイよ・・・・っ」

 

帝国軍兵士達は、榴弾により手足など体の一部が欠損したり建物ごと吹き飛ばされて行った。

 

「観測機よりゴテンバ射撃指揮所、弾着修正。ゴテンバ射撃指揮所、最終弾発射弾着ーーー今!目標変更座標二七九、三九一敵集結地」

 

「第一戦車連隊前進!前へ!!」

 

と共に加茂大佐の戦車隊が敵陣に向けて前進を開始する。

 

「なんだ、あれは・・・・」

 

旧帝国軍兵士が見たのは、日本軍の戦車隊だった。戦車の多くは、Ⅴ号戦車パンターG型やシュルツェンを付けたⅣ号戦車H型だったが、Ⅵ号戦車ティーガーE型も何両か混じっていた。

 

「ニホン軍の戦象だ!」

 

「にっ、逃げろっ」

 

と兵士達は、逃走を図ろうとしたが

 

「何をしておるかっ、逃げるなっ」

 

「敵前逃亡の罪は一族郎党に及ぶぞ!」

 

オプリーチニナが脱走する兵士達に向け、槍や弓矢を構えて逃走する兵士達を阻止し、兵士達の戦意を煽った。選択肢もなく、自暴自棄になった兵士達は、日本軍戦車隊に向かって突撃を敢行して来た。

 

「あいつら向かってくるぞ!?独ソ戦のソ連兵かよ、ドイツ軍もこんな奴らと戦ってたのか。戦車停止、機銃撃て!」

 

戦車長がそう指示して、敵陣地に近づくと戦車隊の側面の廃墟群から魔導士が呪文を唱え、光の矢が戦車上空から降り注いで来る。

 

「うわっ」

 

「12号車戦車長負傷!」

 

「14号車エンジン被弾」

 

「くそ魔法か!第二小隊、十時の廃墟群榴弾撃て!」

 

戦車隊は反撃として廃墟群に向かって発砲する。

 

「命中撃ち方止め!機械化歩兵は、進撃路左右の村落を掃討せよ」

 

「下車戦闘!戦闘配置!」

 

戦車による砲撃が終わるとSd、Kfz251から下車した日本兵達が廃墟群への制圧に掛かる。

 

 

一方、旧帝国軍の本陣では、

 

「閣下ご無事で」

 

「状況は?」

 

旧帝国軍の現在の戦況は最悪な物だった。

 

「正面の敵は鉄の戦象を押し立てて向かって来ます。空飛ぶ鉄竜の攻撃でサバト、ケトの駐屯地壊滅!翼竜の物見によると北方でも敵が前進中、前衛の第三大隊全滅!」

 

「報告!敵の一部がパレルナに出現!」

 

「後方10リーグに!?このままでは包囲されるぞ!」

 

「将軍、敵は我が方より少数、間隙を縫ってデュマ山脈まで後退してーー」

 

「五十リーグはあるぞ遠すぎる」

 

と日本軍に包囲される前に後退しようと参謀が促しているとそれに待ったを掛けてきた者が居た。

 

「後退などもってのほか!ゾルザル殿下のお望みは勝利のみ!!」

 

オプリーチニナだった。

 

「帝権擁護委員殿は我々に死ねと言うのか」

 

「勝てばいいのだよ、勝てば」

 

とオプリーチニナが勝てばいいと言うと将軍は無言で指揮所から出て行き、

 

「閣下」

 

「残存部隊を集結し、マリウスの丘を起点に敵の側面を衝く、テルタからの増援がマーレスで防衛線を整えるまでの時間を稼ぐのだ」

 

残存兵力を掻き集めて、マリウスで日本軍を迎え撃つと指示。

 

その頃、アルヌス日本軍特地方面軍司令部では、戦況の報告が次々と報告されている。

 

「各大隊前進中、敵の抵抗は軽微」

 

「第一戦車連隊、師団規模の部隊とマリウスで会敵」

 

「アルクサのアルンヘルム要塞開城!正統政府軍マレに向けて前進開始」

 

「閣下、首相から電話が・・・・」

 

「またか、わかった。こちらに回してくれ」

 

 

アルヌス北東120kmマリウスでは、日本軍は旧帝国軍の竜騎士隊から攻撃を受けていた。竜騎士隊は、空から弓矢を放って来たり、翼竜が上から炸裂弾を落として来た。日本軍側も反撃として手持ちの小銃や機関銃や対空戦車ヴィルベルヴィントの2cm Flakvierling38とオストヴィントの(3.7cm Flak43をボフォース40mm機関砲に置き換えた)ボフォース40mm機関砲で応戦する。また、丘の上からオーガーなどが戦車に向かって岩を投石してくる。

 

「うわぁぁ」

 

「後退しろ!」

 

戦車隊は、一旦後退を開始した。これを見た旧帝国軍は好機と見て

 

「今だ!破城槌を放て敵の足を止めよ!重装オーガー前へ!騎兵、敵後続に突撃せよ!」

 

「煙をもっと焚け!」

 

旧帝国軍は、辺りを煙を焚き、鎧と棍棒、盾で武装したオーガーを前進させ、

 

「前進!オーガーに続け!!」

 

その後ろを歩兵が追随する。そして、戦車の側面から火のついた破城槌を押して突進してくる。

 

「それ押せぇっ」

 

「いけぇっ」

 

破城槌は、Ⅳ号戦車の側面に命中し、火の手が上がった。

 

「やったぁ、当たった!」

 

「燃えろ、燃えろ!」

 

旧帝国軍兵士は歓喜したが喜びも束の間、次の瞬間激突されたⅣ号戦車が動き出したのだ。

 

「う、動いてる」

 

「あの板で防がれたんだ」

 

Ⅳ号は、側面に付けていたシュルツェンで事なきを得た。これがもしエンジン部分にでも当たって居たら無事では済まなかった。Ⅳ号戦車をはじめ殆どの戦車はガソリンエンジンだった為、被弾すると燃えやすいと言う弱点があった。Ⅳ号は、破城槌を突進させて来た兵士達に向かって75mm砲を喰らわせた。

 

「十号車より半装軌車1号マリウスの丘より眼鏡犬と歩兵多数距離八〇〇」

 

「観測機より半装軌車1号騎兵多数大隊後方に移動中」

 

「初めての組織的抵抗だな、戦車眼鏡犬に一斉射」

 

※『眼鏡犬』日本軍側のオーガーのコードネーム

戦車も装填手が装甲を突き破る徹甲弾を装填し、砲手が照準をオーガーに定める。

 

「目標十二時の眼鏡犬距離六〇〇徹甲弾装填!」

 

「照準よし」

 

「停まれ!撃てぇ!」

 

と戦車長が命じ、戦車の、主砲が火を噴いた。

 

「突撃、突撃ー!」

 

「すごいぞ、鉛の礫を弾いてる」

 

オーガーは、日本軍の7.92mmや12.7mmの弾丸の嵐を耐えていた。兵士達もオーガーの後ろにいるおかげて銃弾の嵐に晒されずに済んでいた。だが、彼等の余裕も直ぐに打ち砕かれる事になる。次に飛んで来たのは、Ⅳ号戦車の48口径75mm砲、パンターの70口径75mmやティーガーの56口径88mm砲の徹甲弾が飛んで来て、徹甲弾はオーガーの盾や鎧ごとオーガーを貫いたのだ。貫かれたオーガーは悲鳴を上げながら絶命した。

 

「ぐあぁ」

 

「ひいっ」

 

「怪異使い!オーガーをどうにかしろっ」

 

オーガーがやられた事で、旧帝国軍兵士は焦り出した。オーガーがいる事で日本軍の銃弾に晒されずに済んでいたのにオーガーがやられた事で彼等は、丸裸にされてしまったのだ。そして、次に後続の騎兵隊が槍を構えて突撃して来たが戦車砲や車載機関銃で呆気なく薙ぎ倒されてしまった。

 

「うう・・・・こんなの・・・戦じゃねぇよ」

 

旧帝国軍兵士が経験したことの無い未知の戦い、迫り来る日本軍に旧帝国軍兵士達は、逃走し出した。

 

「逃げるな戦えー!!」

 

「敗北主義者には死を!」

 

だが、後方には戦場から逃亡を阻止するオプリーチニナがその道を阻む。だが、兵士達は自分達を死に追いやろうとするオプリーチニナらを殺害する。

 

「くそ犬頭が!あんなのと戦うのに兵役についたんじゃねぇよ!」

 

「ぐあっ」

 

「てめぇらだけで戦いやがれ!」

 

「お、おのれ・・・売国奴どもが・・・」

 

そして、日本軍は、拡声器から特地語で旧帝国軍兵士達に降伏する様に促す。

 

『降伏しろ!武器を捨てて手を上げろ!!そうすれば命の安全は保証する!』

 

そして、旧帝国軍兵士達は、武器を捨てて日本軍に投降する。

マリウスの戦闘後、アルヌス東方面のゾルザル軍は瓦解。アピッア街道上の要塞とデュマ山脈東麓の抵抗を残すのみとなる。むしろ日本軍の前進を阻んだのは、膨大な数の投降した兵士であった。逃亡に成功してしまった兵には、ゾルザル軍の焦土作戦で犠牲となった住民達の苛烈な敗残兵狩りが待ち構えていた。

最後の抵抗を続ける旧帝国軍と壮絶な戦闘が開始され、戦争末期異世界戦線の激闘が繰り広げられる。



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北部戦線1946

マリウス北東 シャプレー川では、シュプレー川に架かる石橋をトロールやオークが破壊しようとしていた。橋が破壊されれば戦車や装甲車などの車両は川を横断する事が出来ないので、工兵隊が橋をかけるまで進軍は停止せざる終えないのだ。そこへ九七式側車付二輪車に乗った二人の偵察員が橋から少し離れた所から双眼鏡でオークが橋を破壊していることを無線で伝える。

 

「こちら斥候ボルメリウス橋現着、敵が橋梁を破壊中、急行されたし」

 

『了解!これより突入する!』

 

装輪装甲車が砲撃を開始して橋を破壊するトロールやオークを追い払ったが、橋は崩落してしまった。

 

「くそ!間に合わなかった!!橋が崩れた、架橋機材も限られてるのに」

 

レッキ北10km ソーレト川 ゾルザル軍上陸地点では、旧帝国軍の兵士や物資を船から降ろしていた。

 

「上陸を急がせろ!敵の攻勢が始まったそうだ」

 

「空から鉄竜の音!」

 

「何!?鉄竜が来るぞ!!退避ー!退避ー!退避ー!森に隠れろ!」

 

旧帝国軍兵士は、急いで森に身を隠そうとする。ソーレト川は、空襲に対して無防備だった。零戦は、ぎらつく太陽を背に回り込み旧帝国軍兵士や停泊中の船舶に忍び寄って行き、そして急降下し全力攻撃を開始し、R4Mロケット弾と機銃掃射を浴びせる。続いて、高い高度から九九式艦爆数機による爆撃隊の第二波が攻撃を開始し、川沿いは修羅場と化した。零戦隊と爆撃隊は停泊中の船舶20隻以上を破壊、森へ隠れている兵士達にも爆弾と機銃の雨を浴びせ敵兵の死傷者数百人となり、まさにカオス状態だった。船舶は沈没して乗っていた者は溺死した。ソーレト川は上陸地点としての機能を失った。日本軍は先端技術と巧みな戦術を使って無防備な敵の隙を突くことに成功、旧帝国軍の補給網を破壊した。

 

それと同じ頃、マーレスの森付近で馬車の中で寝ているティーレの耳が何かの音を拾った様にピクッと動いた。

 

「何の音?雷・・・?」

 

ティーレは、遠く離れた爆心地の音が聞こえた様だが他の物には、聞こえなかった様だ。

 

「いえ、何も聞こえませんが?」

 

「そう?今どの辺り?」

 

「もうすぐ、マーレスの森が見えますよ」

 

馬車は、着々とマーレス方面へと向かいつつあった。

 

その戦いの様子はラジオやテレビを通じてアルヌスや日本本土でも伝わっていた。

 

『大本営陸海軍部発表!昭和21年2月27日午前10時!去る一昨日2月25日未明より開始された特地派遣軍による帝都解放作戦、帝国正統政府軍を支援する目的の軍事介入により、各地で皇軍と旧帝国軍との大規模な戦闘が発生しており、敵軍対抗の拠点として旧帝国軍の頼むところであった各要塞も皇軍勇猛の攻撃を前にあえなく陥落、敵は各地に敗走。各地平原の敵を一掃した第一線部隊はなおも敵を急追して北進、帝都を目指して進撃しました』

 

と日本軍の活躍は大々的に伝えられて日本国民達を熱狂させて勝利に歓喜していた事は言うまでもなかった。

 

その頃、アルヌスの近くの湖で水浴びをして居る子供達の隣で得物であるハルバートの素振りをするロゥリィ

 

「ロゥリィお姉ちゃんだいじょーぶ?」

 

「んん・・・・まだ大丈夫よぉ・・・体の火照りが治らない」

 

子供達が心配する中、そう言ってロゥリィは素振りを終えると湖にうつ伏せ状態で浮いていた。

 

イタリカ近郊で健軍大佐率いる第四戦闘航空団のヘリと新政府軍兵士が出撃命令が出るのを待っていた。そして、フォルマルト伯爵家の屋敷では、新政府軍総大将ピニャと日本軍参謀の柳田中尉が、

 

「現在の戦況をご報告します。ピニャ殿下」

 

「始めてくれ、ヤナギダ殿」

 

と柳田中尉が、作戦地図の上からピニャに戦況を説明する。

 

「まずは、帝国正統政府軍ですが第一軍団の先鋒がマレ近辺まで前進、第二軍団マイモール閣下の隊は第四戦闘航空団と待機中です。空中機動の第二槌団となるデュラン陛下のエルベ藩軍は、我が軍の車両でマレまで先行中、第二軍団の主力も前進を開始、諸部族連合第三軍団はイタリカ周辺の守備についてます。なお、降伏したアルンハイム守備隊は正統政府軍の指揮下に入りました」

 

「ニホン軍の動きはどうか?」

 

「ゾルザル軍第四、第六軍団を撃破した第一と第二連隊はデュマ山脈西麓のラビカナ街道の線に到達。第一はロワノール狭谷、第二はハイリンゲへ前進予定。第三軍団は、ブレンナータ峠一帯で敵デュマ方面軍残存部隊と交戦中、第六連隊後衛として前進しつつ投降兵の収容を行なっております」

 

と柳田は現在の戦況を報告する。

 

「このままでは、ニホン軍が先にデュマ山脈を超えてしまうぞ」

 

「投降兵は現在七千人近くと報告が・・・」

 

「一時間で何十リーグも走るとらっくをもっとまわしてもらえぬか?」

 

など、新政府軍の将軍らは日本軍に先を越される事を危惧する者、兵士を輸送するトラックを増やして欲しいと愚痴る者など様々、

 

「柳田・・・」

 

すると、伝令がやって来て、柳田に聞こえるぐらいの声で話す。

 

「殿下、たった今第一軍団に同行している兵士よりマレ前面で敵と接触したとの報告です」

 

と柳田がそう言うと

 

「・・・・うむ!マイモールとケングン殿に伝えよ!!マレ城塞攻略に進発せよ!」

 

ピニャは、健軍大佐率いる第四戦闘航空団やヘリからの降下訓練を受けた新政府軍兵士の出撃命令を下す。

 

 

その頃、イタリカの路地裏では、倉田が交際を始めたペルシアにまた、新たに自身の給料を叩いて購入した短剣をプレゼントしていた。ペルシアは、鞘から刃渡り40cmくらいの短剣を抜き、その美しい刀身に見惚れていた。

 

「すごい・・・・きれいにゃ・・・・今までもらったのと格が違う・・・」

 

「わかる?結構有名な刀工の作でさ、本命と言うか他のナイフとま〜桁も二つくらい・・・・・・ペルシア・・・」

 

そう言うと、ペルシアが倉田に頬ずりをして来たので、倉田はそんなペルシアを抱き締める。そんな光景を遠くの影から見ている人物がいた。

 

「あいつか・・・・」

 

「行かないのか?愛娘が気になんだろ?」

 

「馬鹿野郎。いくら娘が心配だからって俺は、そこまで野暮じゃないぞ」

 

ペルシアの父だった。娘が惚れ込んだ男を見定めようと遠くから見ていたのだ。

 

「クラタ・・・・絶対帰ってくるにゃ」

 

「ああ、絶対生きて帰ってオヤジさんに会いに行かなくちゃ」

 

きっと帰ると誓い合う二人、

 

『倉田伍長!おい!倉田、今どこにいるだ!』

 

SCR-536無線電話から呼び出しが掛かる。

 

「倉田、今市内で情報収集中・・・」

 

『早く戻れ!出撃命令が出たぞ!』

 

「了解!じゃあ、ペルシア。行ってくるよ」

 

「お帰りをお待ちしてますにゃ」

 

そんな倉田をペルシアは、満面の笑みで見送る。

 

「ヒトにしては良さそうじゃないか?」

 

「むぅ」

 

走って行く倉田の姿を見るペルシアの父は、思い悩んでいると丁度娘ペルシアが来た。

 

「おとう!来てたなら先に会いに来るにゃ!」

 

「恩あるフォルマルト家の為に馳せ参じるのは当然だろ?」

 

「先の聞いてた・・・・?・・・クラタどう・・・・?」

 

「お前を大事に想っているのはわかった。お前が惚れた男だ、俺は何も言わんが・・・だがまず、戦を終わらせる方が先だな」

 

とペルシアの父は、そう言い倉田のペルシアへの愛は本物だと認め二人の関係を認めつつも戦いに専念すると改めて誓う。

 

そして、イタリカ郊外で待機していた健軍大佐率いる第四戦闘航空団の攻撃ヘリ、新政府軍の兵士を乗せた輸送ヘリ数十機がマレ要塞攻略の出撃の為、飛び立って行く。ピニャをはじめ、イタリカの住人たちが出撃して行くヘリを見届ける。

 

「ガハハハ、壮観だのぉ!征け!空駆ける騎兵隊よ!!」

 

ジープに乗ったデュラン国王が大空をかけて行くヘリを見てそう叫ぶ。

 

 

アッピア街道上マレ要塞

 

「支城が空からの攻撃で次々と・・・・」

 

「報告!に、西の空に!?」

 

兵に言われ、空を見ると海軍の零戦数機がマレ要塞に向け爆弾を投下して行く、

 

「わぁっ」

 

「敵襲ー!敵襲ー!総員戦闘配置!!」

 

爆弾を投下し終えた零戦は、基地へと帰投して行き、次に入れ替わる様に第四戦闘航空団のヘリによる機関銃とR4Mロケット弾の攻撃が始まった。攻撃ヘリがあらかた要塞への攻撃を終えると新政府軍兵士を乗せた輸送ヘリが要塞へと近づく、

 

「各班突入せよ!」

 

健軍大佐が突入の合図を出す。

 

『降下ぁ!』

 

合図が出て新政府軍の兵士たちは、ロープや縄梯子から要塞の主塔へと降りて行き、高い位置を陣取ってクロスボーで敵兵を狙撃して行く。

 

「敵が内部に空から侵入している!?」

 

「撃退するぞ!これ以上中に入れさせるな!!続け!」

 

旧帝国軍兵士も負けじと応戦する。それでも、ヘリは次々と降下して来て新政府軍を降ろして行く。

 

「続け!主塔を制圧せよ!」

 

そして、要塞を制圧する主力の重装歩兵隊がヘリから降りて出陣する。



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敵がその中にいる

日本軍と新政府軍の連合軍は旧帝国軍のマレ城塞攻略に掛かっていた。上空では、健軍大佐の第四戦闘航空団が城内へと攻め込む新政府軍の援護にまわる。

 

「主塔に敵が攻め込んだぞ!」

 

「続け!」

 

城内を駆け回る旧帝国兵を城外からヘリの機関砲で肉塊にされた。

 

「動いたら死んじまう!」

 

「くそっ、ニホンの鉄トンボめ」

 

主塔の城内では新政府軍と旧帝国軍の兵士達が乱戦状態だった。

 

「剣を収めよ!皇帝陛下に刃を向けたままエムロイに召されるのか!」

 

新政府軍側は、旧帝国軍側に降伏を呼び掛けるが、

 

「帝国の敵たるニホンに尻を振る裏切り者め!一歩も退くな!臆病者は兵士ではない!あやつの首を取れ!報奨は思うままぞ!」

 

だが、オプリーチニナは帝国を裏切って日本と講和をした新政府の言葉に聞く耳持たない。

 

 

『城門制圧、一部の隊は市街に前進、天守門塔制圧、城塞司令官降伏しました。マイモール隊が主塔で交戦中!』

 

「抵抗が激しい様だな?政治将校がいるか?狙撃手確認出来るか?」

 

健軍大佐に言われて狙撃兵はヘリから九七式狙撃銃を構えスコープからオプリーチニナを探る。そして、主塔の窓の向こうにオプリーチニナが居るのを確認する。

 

「政治将校確認!」

 

『やれるか?』

 

「やってみます」

 

そして、狙撃兵はオプリーチニナの頭目掛けて引き金を引き、弾丸は見事ヘッドショットだった。オプリーチニナは、頭から鮮血の飛沫を出して絶命した。

 

「兵士諸君!諸君らを縛る犬の鎖はなくなったぞ!まだ戦いを望むか?」

 

「売国奴が・・・」

 

オプリーチニナが死んで説得しても旧帝国兵は、戦う姿勢を崩さなかったが城塞指揮官が肩に手を置き首を横に振ったことで兵士達は武器を下ろす。

 

『ケングン殿マイモールだ。旗を掲げるぞ』

 

「おめでとうございますマイモール閣下、我々の勝利です。アルヌスに伝えます」

 

そして、マレ城塞に新政府軍の旗が掲げられこれによりマレ城塞は陥落した。マレ城塞が陥落して日本軍・新政府軍の両軍は歓喜の声を上げた。

 

 

マレ城塞が陥落した事は、イタリカにも報告された。マレ陥落を聞いていた新政府の議員や軍人達は困惑した。

 

「一日とかからずマレ城塞が陥落!?」

 

「城攻めなんて幾月もかかって当然の事だぞ」

 

彼らの常識からしたら城攻めなんて長期戦になるのが当たり前でたった数時間で陥落なんてあり得ない事だった。だが、その中でピニャだけは冷静だった。

 

「言ったであろう、戦は変わったのだ。妾がこの地で女神の嘲笑を聞いた時・・・・・いや、帝国が『門』を超え、ニホンに攻め入った時から・・・」

 

イタリカ・アルヌスで日本軍の軍事力を目にしたピニャは、非対称戦争を嫌と言うほど経験・理解していた。最初から帝国が大日本帝国に勝てるわけがなかったのだ。

 

 

「マレ城塞陥落!我が軍の勝利!マレ城塞陥落!」

 

と第四戦闘航空団のヘリが物資を載せているイタリカ近郊の草原地帯にも知らされた。

 

「もう陥ちた!?今朝、攻めに行ったところだろ!?」

 

新政府軍側に着いた彼等傭兵団達も貴族や将軍達同様短期間で城塞が陥落した事に驚いていた。

 

「えーと、こいつら中で暴れたりしない?」

 

「ダイジョーブ、ダイジョーブ怪異使いもついてる。飯さえ貰えればコバルトは言うことを聞く」

 

そして、物資を満載したヘリは、離陸して行きマレ城塞の方へと飛んで行った。

 

 

一方、マレ城塞近郊では、健軍大佐がマレ城塞を眺めていると副官の用賀中佐がやって来た。

 

「大佐」

 

「用賀中佐、状況は?」

 

健軍大佐は、用賀中佐に現在の戦況を尋ねる。

 

「市街もその周辺の掃討を進めています。事前の情報より守備兵が少なかった様ですね」

 

「マーレス方面に移動したか?西の防衛に回ったか?第1軍団は今どの辺だ?」

 

「敵部隊を退けて10キロ西をマレに向けて前進中です」

 

「よし、到着まで兵士に昼飯とヘリヘ弾薬燃料の補給だ。補給の完了した機は周辺の警戒、他の連隊はどこまで前進した?」

 

「第一連隊はロクノール峽谷に入りました。抵抗はほぼ無く、間も無くマーレスへの攻撃を開始します。第二連隊は、ハイリンゲ前面に偵察小隊が到着、前進路が一部第一連隊と被るのでやや前進が遅れ気味です。第三連隊は、敵デュマ方面軍の残敵を掃討中、先頭が峠を越えて東側の麓まで前進したそうです」

 

「第三が山脈越え一番乗りか?」

 

「側面援護とは言え、敵兵力が一番手薄な方面でしたし」

 

「後方は大丈夫なんだろうな?多数の敗残兵が出ただろう?」

 

「えー、第六連隊もイタリカからの増援が投降兵の受け入れをしていますが、逃げた敗残兵多数が『行方不明』との報告が上がっています」

 

「なに?どう言う事だ?」

 

と健軍は、行方不明となった旧帝国軍兵の敗残兵の事について聞いた。そして、用賀中佐から話された。

 

「捜索隊が捜したところ森で殺され木に吊るされた状態で発見されました。死体はどれも苦痛の表情を浮かべていた事から生きたままの状態ではらわたを抉られた殺されたのでしょう。ゾルザル軍の焦土作戦が行われた地域ですので・・・おそらくそこに住んでいた住民達から苛烈な報復を受けたのでしょう」

 

旧帝国軍の敗残兵らは、日本軍と新政府軍の連合軍の追っ手から逃れることが出来ても旧帝国軍兵士達には地獄が待っていた。旧帝国軍が行った焦土作戦の犠牲となった住民達からの残党狩りにあい、旧帝国軍兵士達は、串刺しにされたり、首を切り落とされたり、四肢を切り落とされたり、生き埋めにされたりなど残忍な方法で殺されており住民達の旧帝国軍に対する強い恨みが見て取れる。

 

「・・・・成る程、まぁ、あいつらはやり過ぎたんだ。戦争で一番被害を被るのはいつだって国民だ、自業自得とは言え同情する・・・・楽には死ねないだろうな」

 

「第六連隊の兵士達のPTSDの精神ケアが大変になりますね」

 

どんなに訓練を受けた兵士言えども人間だ。残酷な光景を見ればストレスなどから精神に異常をきたす事もある。他にも、戦争神経症と言う疾患、長期間戦場に居続けた為に独特のストレスを受けてしまう事が原因で精神に異常をきたす精神疾患なのだ。またの名を戦闘疲労や戦場ノイローゼとも言う。戦場と言う過酷な環境では、長くても2〜30日程しか正常な精神状態が保てないのだ。発症を防ぐ為に長期間に渡って前線に配置し続けない事とそして、定期的に前線を離れ安全な場所で休暇を与え、精神科医によるカウンセリングを受ける事なのだ。

 

 

その後、健軍大佐のもとにマイモール将軍がやって来て健軍は通訳を交えながら言葉を交わした。

 

「ケングン殿」

 

「マイモール閣下、マレ占領おめでとうございます」

 

「いや、これもケングン殿とニホン軍の助けあってこそ。第1軍団の到着を待ち支城攻めだ」

 

「我々も休養と補給が終了次第、フゥエ城塞攻略準備にかかります。数時間以内に第1軍団も到着するでしょう」

 

その後、イタリカを飛び立った物資を積んだ輸送ヘリがやって来て物資を下ろしていく。その間、日本軍と新政府軍は、戦闘配食などを食べながら休息していた。

 

一方、その頃

 

「ホレホレッ、道を開けよ!マレは陥ちたぞ!急げ急げ!!」

 

と街道上をジープで軍団を追い越すデュラン国王がそう言う。

 

「おい、先の第I軍団の先頭だよな?追い抜いちまったぞ!」

 

「王様が急げと言うんだから仕方ないだろ」

 

「警戒しろ!マレまで友軍はいないぞ」

 

と運転席と助手席の日本兵がそう言うが、王の命令だからと割り切る。そのジープの後ろをアメリカから供与されたスチュードベーカーUS6トラックに乗ったエルベ藩軍の兵士も続く。

 

『Fa223より指揮官機へエルベ藩軍のUS6確認、間も無く到着します』

 

上空を飛ぶヘリからデュラン達がもうすぐ到着すると報告が健軍大佐の耳に入る。

 

「第I軍団を追い抜いて来たのか!?」

 

「海軍と再調整が必要ですね」

 

そう言って軍用レーションを食べている健軍大佐と用賀中佐のもとにデュランがやって来た。

 

「待たせたなケングン殿!いざ参ろうか!!」

 

「降りて整列ーっ」

 

の号令と共にUS6からエルベ藩軍の兵士達が続々と降りて来て隊列を組む。

 

「儂が乗る『天馬』はどれじゃ?」

 

「では、マイモール閣下。此処はお任せします」

 

「うむ、承知した」

 

そう言って健軍は、この場をマイモールに任せてデュラン達と共にヘリに乗り込み次の攻略地点フゥエ城塞へと向かって飛んで行った。

 

デュマ山脈アッピア街道上フゥエ城塞を数機の零戦とFa223からR4Mが放たれ城塞から爆発と黒煙が立ち上る。

 

「ガハハハ、爽快だのぉっ」

 

デュランは、その光景を見て高笑いをする。旧帝国軍側もバリスタで反撃して来る。

 

『バリスタに注意、上昇しろ!銃眼からも撃ってくるぞ!』

 

しかし、零戦とヘリに当たる訳もなく交わされていく。

 

「おっほ」

 

「・・・・へ、陛下。こ、怖くはないのですか?」

 

「なぁにこれしき、翼竜よりましだわい。小舟で河下りしてる様なもんだ!ホレ、若いの降りるぞ!用意せい!」

 

「突入」

 

そして、ヘリが城塞のバリスタを排除するとデュラン達エルベ藩軍を乗せたヘリはゆっくりと降下してデュラン達を下ろしていく。そして、新政府軍は、城内へとなだれ込んで行く。

 

「HRPは第二陣搭載に急ぎマレに戻れ!」

 

「大佐!デュラン王が降りてます!」

 

「何!?」

 

健軍大佐は、下の方を見るとそこには兵士達に指示を出しながら城塞内に突入しようとしているデュランの姿が目に入った。健軍は、小さく溜息を吐きながら呆れた。

 

「困ったお方だ。各機狙撃兵に注意、支援分隊降下」

 

その後も、健軍の第四は城塞の外にいる敵兵たちに対して機銃掃射を浴びせて殲滅して行く。一方、城内に入って行った新政府軍は、

 

「ぐっ」

 

「あぐっ」

 

「がっ」

 

通路を通っていると暗闇から矢が飛んで来た。追い込まれた旧帝国軍兵士達は、城塞の武器庫の中に立て篭って籠城していた。

 

「この先の部屋に敵が立て篭って通路に連弩を向けてやがる」

 

「降伏しろ!逃げ場はないぞ!」

 

と立て篭もる兵士達を説得するが

 

「うるせぇ!誰がエルベの田舎者なんかに!」

 

「帝国軍人の意地を見せてやる!来るなら来やがれ!」

 

旧帝国兵らは、降伏を受け入れようとはしない。

 

「あああっ俺の腕っ」

 

「バリスタまで撃って来やがった」

 

その間にも身動きが取れないエルベ藩軍側には、死傷者が増え続ける。

 

場外で、現在の戦況を聞いているデュランである。

 

「東兵舎制圧!敵兵の一部が城外に逃亡しています」

 

「第二陣到着、城下町の掃討に入ります」

 

「報告!武器庫に敵兵多数が立て篭もり抵抗しています」

 

と最後の武器庫に立て篭もって抵抗を続けている敵兵の存在を聞いて

 

「厄介だな、頼めるか?」

 

「了解しました」

 

とデュランから日本軍に直接武器庫へ向かって苦戦しているエルベ藩軍に応援に向かう様命じられる。

 

 

 

「こっちだ」

 

そして、武器庫前へと応援にやって来た日本兵は、

 

『最後の通告だ!お前達は、完全に包囲されている!!もう逃げ場はない、大人しく降伏しろ!そうすれば命の安全は保証するぞ!!』

 

と突入する前に最後の降伏勧告をしてみるも、

 

「黙れ!くそったれ!」

 

「我々は、最後の一兵まで戦うぞ!!」

 

「お前らこそ降伏しろ!ゾルザル殿下の軍がすぐやってくるぞ!」

 

しかし、武器庫に篭る旧帝国軍兵士達は降伏には応じようとはしなかった。日本軍は、強行に出ることにした。まず、三八式歩兵銃とMP40短機関銃でバリスタの銃眼に向けて発砲し、その隙に一〇〇式火焔発射器で扉と銃眼に炎を浴びせると同時に銃眼に九九式手榴弾を投げ込んでバリスタを無力化した。

 

「火炎魔法だ!」

 

その後、破城槌を持った新政府軍兵士が扉を突き破ろうとする。

 

「破城槌前へ!!」

 

そして、扉が破られ日本軍と新政府軍の連合軍兵士達が中へと雪崩れ込んで来る。

 

「剣を捨てよ!」

 

追い詰められた旧帝国軍兵士達は、武器を捨てて投降した。こうして、マレ城塞に続いてフゥエ城塞も陥落した。

 

その夜、陥落したフゥエ城塞で夜空を眺めるデュラン…

 

「一日に城を二つとはな・・・・・もっと若い時分にこう言う戦をしたかったわい」

 

とデュランがそう言った。



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待ち伏せ

アルヌス郊外の小さな丘でキャットピープルのメイアが三角座りで街道上を走る日本軍の軍用車両を見ていた。

 

「第三連隊が山脈を越えたそうだぜ」

 

「これが終わったら帰れるんだよな?」

 

「帝都進軍って語感がいい、俺も第二か第三所属だったらな。転属願い出そうかな?」

 

「あ、メイアちゃん。おはよう」

 

と挨拶をする日本兵に

 

「おはようございますにゃあ」

 

メイアは、笑顔で返す。

 

「銀座の仇を帝都でか、奴らの皇城か国会議事堂に天皇陛下から賜った名誉ある勝利の連隊旗掲げて銀座での雪辱を晴らすとか」

 

「そうなれば、そんな大役どの連隊が一番乗り出来るか競い合うぞ。にしても、派遣軍増強して一気にカタつけりゃいいのに」

 

など、日本兵二人は帝都で輝かしい戦績の話をすれば派遣軍を増強して一気に蹴りを付けたいと愚痴る。

 

「これが、終わったら・・・・かぁ・・・・・」

 

メイアは、大きく溜息を吐きながら遠くを見詰めながら呟いた。

 

 

その後、メイアがPXに戻り私服からメイド服に着替えて他の従業員と一緒に店の中央に集められた。彼女らの前には、支店長とレレイ、カトー老師がいた。

 

「帝国とニホンの講和条約が発効すると、アルヌスを中心に100リーグがニホン領になる。アルヌスの街の住人で希望する者には、ニホン国籍か永住権が与えられる。『門』の向こうのニホンへ移住も可能」

 

とレレイがそう言うと従業員達は、唖然とした。講和条約が発効すればアルヌスは正式に大日本帝国の領土となりその街に住まう住人は本人が望めば日本国籍を取得して正式に日本人となるのだ。

 

「えええ!?あたしニホン人になるのにゃ!?」

 

「『門』の向こうに住めるの?」

 

「あたしがニホン人ねぇ」

 

様々な反応する従業員にカトー老師は、

 

「あくまで希望すればじゃ、お前たちはイタリカの領民でもあるから永住権でも良いのじゃぞ」

 

そもそも帰化と永住の違いは、帰化した外国人が日本国籍を取得して日本人になる事。対して、永住は日本での永住権を取得して日本に永久に住める権利の事で国籍はそのまま。メイア達がイタリカの領民でいたいのなら永住権で済む話だ。

 

「なお、『門』が閉じれる事になれば、日本軍や街の住民の大幅な減少が予想される為・・・・他の部署への配属転換や別のPX支店への異動があることを覚えておいてほしい。希望すればイタリカの元職へ復帰もできる。取り敢えず、順番に溜まった有給休暇を消化してもらう」

 

とレレイが言うとメイア達が血相を変える。

 

「り、りすとらにゃ!?たくさんのニホン人も食べさせられているおいしくないやつにゃー!」

 

「あの歴戦の戦士も勝てない恐ろしい魔法!?」

 

「とうとう、りすとらの波がアルヌスにも・・・・」

 

リストラについて何か勘違いをしているのか彼女達は慌てふためく。

 

「彼女達何か勘違いしているのかな?それと、どこでリストラなんて言葉を覚えたんですかねぇ」

 

「PXに入れとる週刊誌かのぉ」

 

「大丈夫、うちはリストラしない」

 

とレレイは、キッパリとアルヌスの協同組合はリストラはしないと断言する。

 

 

その後、メイア達は、自分達の宿舎のバルコニーでお茶していた。

 

「そう言われてもねぇ」

 

「どうする?異動で他の街に行かされちゃったら」

 

「どうって・・・・・亜人をまともに扱ってくれるところあると思う?」

 

未だに帝国には、ヒト種至上主義が多く存在し亜人に対する差別意識も根強い事から彼女の異動先が心配になるのも当然だった。

 

「帝都はまだいいよ。悪所もあるし、他の街は・・・・ねぇ」

 

「ロンデルやベルナーゴに支店あれはよかったのににゃあ、イタリカに帰ろうかなー」

 

お茶会が終わるとメイアはまた、先の丘で座りながら

 

「終わっちゃたら、あの人も帰っちゃうのかにゃ・・・・」

 

と溜息を吐きながらメイアは想い人を想いながら遠くを見詰めながらそう呟く。

 

 

 

デュマ山脈東麓マーレス、このマーレスの森では爆発が起きていた。加茂大佐の第一連隊の自走砲が支援砲撃を加える。更に観測ヘリが森の上空を飛んで航空隊に攻撃目標地を指示する。

 

「観測班より目標マーク、敵陣地090から進入せよ」

 

「了解、そらいけ!」

 

観測ヘリの指示した場所に神子田中佐と久里浜中佐の零戦は、爆弾を投下した。

 

「命中したか?」

 

「二次爆発でもあればいいんだけどな、指示されたところに落とすしか無い」

 

「まるっきり支那事変のゲリラ掃討みたいだぜ」

 

「こう手応えがないとなぁ」

 

とそう言って、攻撃し終えた二人の零戦は基地へと飛び去って行った。そして、地上では加茂大佐の第一連隊が鎮座していて、加茂大佐はティーガー1のキューポラから体を出して双眼鏡でマーレスの森を見渡した。

 

「マーレスの森・・・・まるでアルデンヌの森だな」

 

「偵察情報ではテルタからの増援二個軍団を含め、マーレスからベッサ一帯に一万五千から二万が展開している模様です。主力は、第二連隊と合流してベッサに南に迂回すればいいんですが・・・・」

 

「後方にこれだけの敵を残すわけにはいかん、組織的抵抗を撃滅する」

 

『各中隊、準備射撃の延伸に合わせ前進せよ』

 

そして、装輪装甲車と装甲兵員輸送車がマーレスの森に入って行く。

 

「ドイツのトイトブルクの森みたいだ」

 

「トイトブルク?」

 

「古代ローマ帝国の三個軍団がゲルマン民族にやられた森」

 

「おいやめろよ、縁起でもねぇ」

 

『前方道路上に障害物、工兵前へ。各車停止、周辺と樹上を警戒』

 

すると、前方の路上に巨大な大木が倒れていて通り道を塞いでいた。

 

「見事な大木だなぁ」

 

「爆破で啓開しよう」

  

と、工兵が大木の下に爆薬を仕掛け始める。

 

「しかし、どうやって倒したんだ?」

 

「そりゃ、斧かノコで」

 

「それにしちゃ、切り口が妙に高くないか?」

 

その時、森の中からオーガーが数体が姿を現した。

 

「眼鏡犬!待ち伏せだ!」

 

「うっ、うわぁ」

 

『偵察と工兵下がれ!中隊前へ!応戦しろ!!』

 

日本兵らは、直ぐに手持ちの銃で応戦し、装輪装甲車のブローニングM2や20mm機銃で応戦する。

 

「パンツァーファウストを持って来い!!早くこっちだ!」

 

「後方よし!」

 

「ちょい待て!」

 

パンツァーファウストをオーガーに向けて撃とうとした時、森の奥へと逃げって行った。

 

『眼鏡犬後退!中隊射撃待て、その場で待機!』

 

『本部、こちら第一中隊、眼鏡犬五体と遭遇。応射したところ後退していきました。中迫砲撃要請座標・・・・・今の内に急ぎ障害物を爆破する』

 

第一中隊は、急いで大木に爆薬をセットし、導火線に点火して大木を吹き飛ばし前進する。

 

『第二中隊接敵、交戦後敵は後退』

 

『弾着修正北に二〇〇』

 

『眼鏡犬一体撃破』

 

『第三中隊敵の待ち伏せに遭遇!敵は北に後退』

 

『観測班より眼鏡犬は北へ移動中』

 

『各中隊敵と接敵交戦中』

 

『敵は森の深部へ誘因を図っているな』

 

『深追いには気をつけろ』

 

と各中隊が森の中で敵と交戦との報告が上がってくる。加茂大佐は、眉を顰めて

 

「ここだったんだ、罠は・・・・・各隊慎重に前進せよ」

 

と加茂大佐はそう言い、森を進む日本兵達はどこから帝国兵が現れるかわからない中、マーレスの森に入った日本兵達は周囲を警戒していた。日本兵達の手には警察のジュラルミン製のライオットシールドや旧帝国軍から鹵獲したスクトゥムを手にしていた。

 

「小隊止まれ、擲弾用意」

 

すると突然、

 

「があっ」

 

「いてっ」

 

「ひゃぁ」

 

「木の上だ!!」

 

木の上に隠れていた敵兵が弓矢を飛ばして日本兵達を負傷させていく。日本兵は、木の影に隠れたり、ライオットシールドとスクトゥムで矢を防ごうとする。

 

「馬鹿野郎!応戦しろ!!」

 

日本兵も、負けじと敵兵が潜んでいる木の上に向けて手持ちの三八式歩兵銃、四式自動小銃、スオミKP/31、MP40短機関銃で応戦する。日本兵が木の上の敵を掃討していると

 

「兵士よ、今だ!!突撃!!」

 

隊長の突撃合図と共に今まで森と同化してカモフラージュしていた旧帝国兵達が姿を現した。旧帝国軍は、敵の間近で兵士を配備する抱擁作戦に出た。つまり究極の接近戦だ。こうなると日本軍は大砲も爆撃機も使えなくなる味方に当たるかもしれないからだ。こうした地形は防衛する方が有利だった、特に機動性に優れた日本軍を迎え撃つ旧帝国軍に有利だった。旧帝国軍は、日本軍の大砲や爆撃を受けない安全圏に入り込む必要があると考えたのだ、これが所謂敵を抱擁する作戦で、剣や槍が届くほど間近に兵士を配備させたのだ。旧帝国軍は、日本軍と野卑な喧嘩をしたいと望んでいたので旧帝国軍は彼等を上手く嗾けた。

 

「左右にも伏兵!」

 

「後退!包囲されるぞ!!」

 

「擲弾!10時の敵兵距離150各個に撃て!」

 

ところが更に悪いことに此処で地面に隠れていたオーガーまでもが姿を現し、近くに居た日本兵を斬殺した。

 

「うわわぁっ」

 

「畜生!化け物がぁ!これでも喰らえ!!」

 

日本兵達は、直ぐにパンツァーファウストをジャイアントオーガーに向けて発射し、オーガを無力化した。

 

「怯むな!槍を放て!」

 

それでも敵は、臆する事なく向かってくる。

 

「方陣を組め!手榴弾投擲!」

 

「おらあ!!さぁ、来やがれ!古代ローマの亡霊ども!!地獄を見せてやる!!」

 

「槍と剣で戦う原始人どもめ!死にたい奴から掛かって来やがれ!!」

 

日本兵達は装輪装甲車を中心に密集隊系を取り、手持ちの小銃や短機関銃で戦う者もいれば拳銃や手榴弾、地雷、軍刀、銃剣、刃先を研いだシャベルで接近してくる敵兵に白兵戦を仕掛ける。だが、接近戦は日本軍の得意とするところだ。



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ベッサの戦い

新年明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。


マーレスの森の日本軍砲撃指揮所では、砲兵による二式十二糎迫撃砲を設置していた。

 

「擲弾近接信管、中モード。半装填よし!」

 

「全弾斉射!発射!てぇっ」

 

砲撃の合図に砲兵達は砲弾を迫撃砲に入れ投射して行く。森に潜んでいる旧帝国軍は、砲弾の発射音を耳にする。

 

「怯むな!噂に聞く爆轟魔法など恐るるに足らず、敵との間合いを詰めよ!進め!」

 

「来たぞ!百人隊伏せ!」

 

旧帝国軍兵士らは、スクトゥムを上に向けてうつ伏せになるが、

 

「うわっ」

 

「がっ」

 

「あぐっ」

 

しかし、そんな物日本軍の砲撃の前に意味を為さなかった。旧帝国兵は、砲弾の爆発で吹き飛ばされ、肉片に成った。

 

「後退!後退!隊列を崩すな!」

 

日本軍の激しい攻撃に敵軍は、徐々に後退を開始して行く、

 

『前線観測班より砲兵隊へ修正射、東に300』

 

「右翼の敵が後退します」

 

「よし!第一小隊は、左翼へ射撃を集中。第三、第四小隊は右翼に前進用意!」

 

前線指揮所では、小隊を進める様命じる。マーレスの森の中の小隊は、

 

「小隊前進、前へ!突撃!!」

 

その命令を受けて、突撃ラッパがなる。各小隊の兵士は手持ちの小銃に銃剣を着剣し右翼左翼と分かれて攻撃をして行くと共に負傷者を回収して行く。。また、敵の位置は上空を飛来する偵察機が常に目を光らせて地上部隊に報告していた。

後方いる第一連隊指揮官の加茂大佐は、指揮車で地図を見ながら戦況の報告を聞いていた。

 

「各中隊、待ち伏せを撃退。残敵を逆包囲しつつあり」

 

「後退した敵部隊は、レッキまで退くか?踏みとどまるか?」

 

「確認中です」

 

「情報を統合するとこの付近に向け後退中、一番高地と二番高地間の谷間だな。街道の隘路か、砲兵科と海軍航空隊を待機させてくれ」

 

一方、マーレス森の奥では、九七式側車付自動二輪車が旧帝国軍の騎馬隊に追われながら敵陣地の座標を砲兵科に伝えていた。

 

『敵陣地を確認、座標〇八七一五二、一番高地と二番高地間の街道両側面。敵再集結しつつあり』

 

自動二輪は敵を自軍の陣地まで誘い込むと味方による一斉射撃で掃討する。敵の位置を無線で聞いた砲兵隊は

 

「撃ち方始め!」

 

その合図に、ヤークトティーガーとフンメルが座標位置に向かって砲撃を開始する。

 

「敵が追って来ます!」

 

そして、木の上から旧帝国軍の見張りが下にいる隊長格の男にそう伝える。

 

「喰い付いたな、ニホン軍も逃げる敵を追わぬ程腑抜けではなかった様だ」

 

そう言った次の瞬間、その男のいた場所にフンメルから放たれた15cm榴弾砲から放たれた砲弾が着弾し、彼らは肉塊となって絶命した。

更に、上空では海軍のゼロ戦隊が爆弾を投下して森の中にいる敵兵達に爆弾の雨を降らせた。

 

『1番機敵陣地撃破』

 

『観測班より残存敵部隊の壊走を確認』

 

「1番機了解、監視を継続せよ』

 

『第一連隊主力は第二連隊と連携し、ベッサに前進する』

 

爆撃と砲撃で多数の死傷者を出した旧帝国軍の十五軍団は、壊滅状態に陥り散り散りに壊走して行く。

 

 

そして、マーレス南方ベッサ丘陵の平原の高地に主戦派の元老院議員のウッディ伯が馬に跨りながら遠くを眺めていた。

 

「敵が参りますぞ。ウッディ伯」

 

「うむ、鉄トンボも舞ってある。我らもあやつに見えておるだろう」

 

「マーレスの十五軍団は壊走した。一日しかもたぬとは」

 

「予定通りだ。だが、時間は稼いだ。マーレスを避けて、早急にロンバリアル平原に出るにはこのベッサを通るしかない。敵が通る街道に沿って多数の塹壕・擬装陣地を作らせた。地に籠った一万の兵と怪異の待ち伏せ、ニホン軍は箱車にこもり接近戦を嫌う腰抜け、一気呵成に乱戦に持ち込んでやる」

 

「ウッディ閣下、クレイトン閣下。敵は何リーグも彼方から爆轟魔法を放ってくる。念の為、岩壕で指揮をとられては」

 

と将軍の一人が岩で作られた壕を指を指しながら、ウッディ伯に避難してはと声をかけるが、

 

「デュマ方面軍ではどうだったか知らぬが、帝国元老院議員たる者、敵に身を晒すことこそ己の義務。当たらなければどうということなかろう?」

 

「・・・・では、私は壕で指揮をとらせていただく」

 

「フン」

 

「見えましたぞ、敵の前衛だ」

 

とウッディ伯がクレイトン将軍の指を指す方向を見ると平原の向こうから大きな砂煙が見えて来たのだ。

 

「本隊は砂煙の中か?行軍にしては煙の幅が広い・・・・」

 

「むっ、ウッディ伯あれを!」

 

砂煙を巻き上げながら、現れたのは数台の偵察車両のSd Kfz222とSd Kfz231が隊列を成して谷間の道を進んでいた。

 

「まだだ、動くな!斥候だろう行かせて行かせてしま・・・・え!?」

 

塹壕の兵士達が身構えている。

 

『1号車から2号車右二〇〇に展開せよ、3号車は左』

 

『2号車了解』

 

すると、1輌のSd kfz231が隊列から離れて右へと曲がったのだ。

 

「馬鹿なっ!?何故態々道を外れる!?」

 

ウッディ伯が道を逸れると言う予想外の行動に驚いていると、

 

「わっ」

 

突然、右へと曲がったSd Kfz231が大きな穴にはまって動けなく成ってしまった。

 

「いってぇー」

 

「くそっ、なんだよ!2号車行動不能穴にはまった」

 

Sd kfz231の車長がハッチから顔を出して状況確認をしようとした時、

 

「「あ?」」

 

偶然にも塹壕に身を隠していた旧帝国軍の兵士と装甲車の車長が顔を合わせる事になった。

 

「何してんだ?引き上げの用意しろよ・・・・!?バカ!敵じゃねぇか!撃て撃て!」

 

と穴に落ちた車輌を引っ張り出そうとやって来た別の車輌が、塹壕の中の帝国軍兵士を見て、咄嗟に搭載されているMG34機関銃を敵に向けて放つ。

 

「う、撃て撃て!」

 

穴に落ちたSd kfz231の車長も車内に入ってハッチを閉めると搭載されている2cm Flak38とMG34で応戦する。

 

『て、敵兵だ!敵兵と遭遇!』

 

「落ち着け2号車、対戦車壕か?・・・・え?」

 

すると、日本軍に見つかった事でそれまで、擬装していた陣地から旧帝国軍兵士達が塹壕から飛び出して偵察車輌へと襲いかかって来た。

その様子を高地の上から見ていた指揮官とウッディ伯は、

 

「くそっ」

 

「いかがする、ウッディ伯?少し作戦と違いますが」

 

「この期に及んで躊躇う余地はない!合図を出すのだ!全軍かかれ!」

 

予定とは違ってしまったが、こう成っては仕方がないと判断したウッディ伯は全軍に攻撃命令を下す。

 

『1号車敵と遭遇、塹壕が・・・・』

 

「偵察1号車、落ち着いて報告しろ。敵の防衛陣地か?」

 

無線から偵察車輌が敵と遭遇したと報告を受けていた。すると、辺りからラッパと太鼓の音が聞こえて来た。

 

「ラッパと太鼓?」

 

「周り中・・・・いや、そこら中から?・・・え?」

 

戦車長が振り返るとティーガーの車体後部の上にゴブリンが居たのだ。

 

「わあっ」

 

ゴブリンは、戦車長に剣を振り翳して来たが、戦車長は間一髪で避けると腰に携行していたワルサーP38を抜いて、ゴブリンに向けて発砲した。弾丸は、ゴブリンの頭を打ち抜きヘッドショットで絶命すると、戦車長は車内へと避難する。

 

『44号車から40号車、ゴブリンが・・・・』

 

『止まるな、隊列を維持せよ』

 

その合図を皮切りに塹壕に潜んでいた旧帝国軍の兵士達が一斉に飛び出して、日本軍に襲いかかって来た。

 

『気を付けろ、そこら中に壕が・・・・うおっ・・・・22号車壕にはまって行動不能、壕の中に敵がいっぱいだ!!』

 

旧帝国軍の兵士達は、捨て身だった。旧帝国軍は忍び寄って来ていつのまにか日本軍の戦車に群がっている。そして、キューポラから身を乗り出している戦車兵に襲いかかって来る。しかし、敵が群がって来るとそれを追い払う為、味方同士で発砲し合う事に成る。旧帝国軍の歩兵やゴブリンが戦車に這い上がって来たら、味方の戦車に銃を向けるしか無い。旧帝国軍の兵士は恐れること無く向かって来た、日本軍の決死の突撃の様だった。

 

「そこら中から湧いて来やがる!」

 

「誰か助けてくれ!囲まれた!砲塔旋回不能反撃出来ない!」

 

『畜生!上に乗っているデカ物を撃ってくれ!』

 

日本軍の砲手は、何とか追い払おうと砲身を動かしたり、砲塔を回したりした。そして、味方の戦車が砲塔を味方の戦車に向けて車載機関銃を撃って来る。敵が群がって来るので撃ち落とすしか無かった。旧帝国軍は、全く異なる戦術を使ってきた。破城槌の数は不十分だし、当然空からの援護も受けられない。だから敵の背後に回り込み歩兵部隊を撹乱したり、戦車を使えなくしたりしようとする、謂わば人海戦術だ。旧帝国軍は、やれと命令されたら最後までやり抜く、例え何人殺されようとも。後にこの戦いを生き抜いた兵士は、こう述べた『恐ろしかった。自分の命さえ大事にしない連中に、何をされるかと』。日本軍は、敵の人数と戦いぶりに衝撃を受けた。

 

「ひいっ、ゴブリンがぁっ」

 

「マンモスみたいなのが突っ込んでくるぞ!戦車何してんだ!!」

 

マンモスの様な戦象は、Sd kfz234プーマに体当たりを仕掛けて来た。

 

「四時、敵戦象徹甲弾四〇〇撃て!」

 

「ゴブリンが邪魔で、照準不能!」

 

プーマは、戦象に向かって5cm Kwk 39を向け様としたが照準器の前にゴブリンが邪魔をして使えなかった。

 

「こっちでやる!ぅてぇっ」

 

パンターは、戦象に向かって70口径75mm砲を発射して、戦象を無力化すると

 

「照準よし!続けて撃て!撃ちまくれ!!」

 

また、一頭、二頭、戦象を攻撃して行き、まともにパンターの高火力の主砲を喰らった戦象は絶叫しながら絶命した。

 

「慌てるな!各隊方陣を組みつつ防衛陣形を形成し、取り付いた敵兵は僚車の射撃で対処するんだ!!戦車は、突入して来る大型獣や破城槌の接近を阻止せよ!!もう少し耐えろ、第二連隊が向かっている!」

 

と加茂大佐は、無線で適切な指示を出しながら部下たちに持ち堪える様にそう言って鼓舞する。

 

『1号車、2号車前進!』

 

4台のSd kfz251が敵の中へと向かって快速で突き進んで行く、

 

「周り中敵だらけだ!撃ちまくれ!小隊突撃!!」

 

と車輌から顔を出した日本兵たちは、Stg44やMG42を四方八方へと乱射し、敵兵の命を狩って行く。

 

高地から見ていたウッディ伯達は、焦っていた日本軍が反撃に出て段々とこちら側が劣勢に成って来ていた。

 

「敵が反撃に出ておりますぞ!?どうされる?」

 

「怯むな進め!!ゾルザル殿下の到着まで死守するのだ!」

 

「閣下、一大事です!敵別動隊発見東よりこちらに迫っております!」

 

「なに・・・・・っ」

 

伝令の言葉にウッディ伯は驚愕した。そして、別動隊のパンターの車内では、砲手が高地に照準を合わせて、装填手が榴弾を装填する。

 

「前方の高地、敵の指揮所。照準よし」

 

「榴弾装填完了」

 

「くたばれゾルザルの犬共が、って!」

 

と戦車長の合図に別動態の第二連隊所属のパンターが高地に向けて70口径75mm砲を敵指揮所に一斉に砲撃した。

 

「命中!敵指揮所を無力化、10号車より各小隊は交互躍進せよ!」

 

ウッディ伯の居た高地にパンターの砲弾が着弾した事で、命を落とした事だろう。その後も、日本軍戦車隊は勢いをを増して敵を追い詰めて行く。

 

「ニホン軍の戦象にみんなやられちまう」

 

「爆轟魔法も降ってきだした」

 

「助けてくれぇ!死にたくねぇ!!」

 

逃げ出そうとしようとしても、背後にいるオプリーチニナに阻止されてしまう。

 

「貴様ら、逃げるな!踏みとどまって戦え!ゾルザル殿下が必勝の策で敵を打ち破って下さる!!」

 

「き、来たぁっ」

 

彼等に接近して来たティーガー戦車は、塹壕に篭っていた兵士やオプリーチニナを56tの巨体で塹壕を行ったり来たりした。それによって、振動と共に泥が敵の頭に落ちて来て彼等は生き埋めにされた。それから、数時間足らずで全てが終わった。壮絶な戦いで、旧帝国軍は元老院議員ウッディやクレイトン将軍を含めて一万の将兵全員が戦死した。一方の日本軍は損傷を受けた車輌や負傷兵が多数出たが、幸い死者は0だった。そんな時、加茂大佐に第二連隊長久瀬大佐から無線が入って来た。

 

『第二連隊より第一連隊へ、遅れてすまん加茂待たせたな』

 

「遅いぞ久瀬、だがいいタイミングに来てくれた。助かったぞ」

 

『気にすんな、帰ったらビールな』

 

「あぁ、好きなだけたらふく飲ませてやる。・・・・これより、敵陣地後方より前進する、戦車前へ!」

 

加茂大佐がそう言って第一連隊は、ベッサの平原を前進して行く、

 

「アルヌスとイタリカに打電だ。『カルタゴへの道は開けた』とな」

 

と加茂大佐は、通信兵にアルヌスとイタリカにそう打電する様に命じる。



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戦況報告

1946年ゾルザル一派をフォルマート大陸から一掃する決意の今村総司令官は、日本軍を率いて帝都解放作戦『スキピオ作戦』を実行する。彼等の目的は、帝都ウラ・ビアンカを占領する事、帝都が陥落すればその後の戦局を左右するからだ。日本軍はまるで蒸気ローラーの様に進撃、デュマ山脈の戦線は数十kmにも及んだ。15000人以上の兵士・300両の戦車・1000門の大砲・100機以上の戦闘機を投入し攻めた。誰も彼等を止められない、日本兵達は屈辱の歴史を忘れておらず、1945年の7月の銀座の忌まわしい惨劇を、日本軍は次々と旧帝国軍を撃破して行った。ゾルザルは、将軍達に防御に徹する様命じ、安全が確保される場所に塹壕を掘って敵を食い止め、長期戦に持ち込もうとしたのだ。日本軍は行く先々で旧帝国軍を包囲し、荒れた果実が落ちるのをじっと待つ様に陥落を待った。そして、フゥエ、マーレス、ベッサと言った地域を次々と占領して行った。ジャーナリストの従軍記者大谷壮一はこう記した、『帝都への道のりは報復の道のりだ。死の大釜は煮えたぎっている、情け容赦無い報復を与える為、武器を捨てず東へ逃げなかった者を飲み込むのだ』。

 

アルヌスの特地派遣軍総司令部では、今村均大将や参謀達が地図を見ながら戦況を報告していた。

 

「第一連隊より入電『カルタゴへの道は開けた』敵防衛線を突破、第二連隊と合流し、帝都を目指す」

 

「思ったより抵抗はあったが順調だな」

 

「しかし、補給路が伸びすぎた。各所で路面損壊による渋滞も発生している」

 

「馬車までを想定した街道だからなぁ」

 

「更には、焦土作戦と来た」

 

街道などの路面は馬車などが通れる様になっている為、車などが通れる事を想定して舗装されていない。そこで、今村は銀座事変で鹵獲した大量の帝国軍の馬を使い弾薬や装備を運搬させる事にした。自動車での運搬が困難だった未舗装の道も馬なら走破する事ができ、補給問題は一旦は解決した。更に、日本軍の進撃を抑える為、旧帝国軍は焦土作戦を展開、村やインフラを破壊した。日本軍に補給されるのを防ぐ為に、井戸に毒を入れ、食料や物資を略奪したり燃やしたりした。しかし、橋が破壊されようと無数の罠が仕掛けられようとも、日本軍は歩みを止めなかった。あまりにも戦線の拡大や進軍のスピードが早かった為、燃料不足に陥った。スピードが落ちない様、兵士は戦車の燃料にウォッカやエチルアルコールを混ぜる事もあった。ある旧帝国軍兵が妻へと送て書いた手紙に『ニホン軍がこのまま突き進めばあっという間に玄関先にやって来るだろう』旧帝国軍から解放された村々では、火が放たれており、住民達は全てを失っていた。自分達の持ち物や家、時に命まで奪われる事があった。

 

「フル回転で九七式輸送機と回転翼機で空中補給もしているが、部隊の規模を考えると全然数が足りんよ」

 

「米軍みたいにはいかんね」

 

「その米軍に燃料を融通してもらわなきゃ出来なかった作戦だけどな」

 

補給が間に合わず空中輸送で燃料や弾薬などを輸送しているが、それでも限界があり部隊全体に行き渡らせるには数が足りなかった。

 

「大将」

 

「何かな今津君」

 

「銀座駐屯地と特高から気になる動きがあると連絡が・・・・」

 

と今津大佐が真剣な表情で今村に何やら告げる。

 

デュマ山脈内の森の上空で九七式司令部偵察機が偵察飛行をしており、人や荷馬車などが列をなして進んでいた。しかし、それは難民を装ったゾルザル軍の本隊だった。

 

「テルタにもまた怪鳥が飛び回ってる・・・・」

 

「おい御者、此処はどこなんだ!?」

 

(偵察機か・・・・爆撃音も聞こえ出したし、前線は近いな)

 

と古田は内心そう呟く。

 

九七式司令部偵察機が持って帰ってきた航空写真は、すぐに司令部へと届けられる。

 

「夜明け前のレッキ方面偵察結果です。ソレート川荷揚げ場に動きは確認出来ません。レッキを脱出したと思われる難民の車列が山脈内を西進しているだけです」

 

「よし、本部と第四戦闘航空団とイタリカに送ってくれ」

 

そして、偵察機の情報はイタリカへ齎される。広間で、羊皮紙の地図を広げて柳田と新政府軍総大将ピニャが戦況を報告と確認をしていた。

 

「マイモール将軍はマレの支城を攻略中、第一軍団はフゥエ、第二軍団主力はマレに前進中、フゥエで待機中の第四戦闘航空団とエルベ藩軍は、補給が完了次第レッキへ前進を開始します」

 

「ゾルザル兄の軍はまだ見つからぬか?」

 

「正統政府軍と帝國陸海軍と交戦した中には確認されておりません」

 

「レッキ方面の偵察結果にも報告はありません」

 

「ふうむ、マーレスに向かっているはずであろう?そこにもおらぬというか。ドッツエル第三軍団から斥候をだせ、我が軍とニホン軍の進撃路を外れた方面にな」

 

「ハッ、かしこまりました。しかし、殿下。イタリカに残るのは第二軍団、亜人部族部隊のみになってしまいましたな」

 

見渡せば周りにいるのは新政府の呼び掛けに応じて集って来た帝国中にいるダークエルフをはじめ、エルフ、ドワーワ、ワーウルフなどの多種族が居た。

 

「大陸中より集いし五十四種族、帝国正統政府のために帝国諸侯より先に馳せ参じたのですが」

 

「・・・・真に困っている時に助けてくれた者こそ、皇帝陛下の守護を任せられる。貴公にこそ、決戦の場が与えられるその時まで英気を養っておくのだ」

 

とピニャは、そう言う。彼等が後に起こる、ゾルザルの精鋭軍との決戦で大きな活躍をする事をこの時は誰も予想していなかった。

 

 

一方、アルヌス近郊では、ワーウルフ達が日本軍の検問所に捕まり身分証の提示を指示されている。

 

「止まれ!全員馬から降りて身分証を出せ!」

 

「ミブンショー?」

 

「なんだ、なんだ」

 

「組合入る時貰った札だよ」

 

「あー」

 

「これか?」

 

とワーウルフ達が組合から配布された身分証を提示する。

 

「よーお、ウォルフ久しぶり」

 

「よっ、サトー久しぶり」

 

「すまんな、こいつ最近配属されて来た奴なんだ」

 

「ぴりぴりしてんなぁ」

 

「そりゃ、派遣軍総出の作戦が進行中だから、街の方で飯でも食える空気じゃないよ」

 

「帝国と講和したんだろ?ゾルザルやっつけたら球遊びして街で呑もうぜ」

 

「ああ、またな」

 

その後、検問所を後にしたウォルフ達が久しぶりにアルヌスの街へと帰ってきて見れば街は以前の様な活気は無く、住民達は俯いた顔をしていた。

 

「ひと月ぶりに帰ってみれば、なんだよ、しけたツラ並べやがって」

 

「こんなに閑散としてたか?」

 

「戦やってんだから仕方ないと思うが、何か変だ」

 

「取り敢えず俺は、ひと月ぶりのビールカケツケ三杯行くぜ!」

 

「あ、おれも」

 

ウォルフ達は、気を取り直し久しぶりにアルヌス帰って来たのでレストランでビールでも飲もうと提案して飲みに行く。

 

その頃ガストンのレストランでは、男達がいやらしい目つきである一点の方向に集中していた。そこには、顔を赤くしたメイアがカウンター席で突っ伏していた。

 

「コラッ、メイア!昼間から酔い潰れやがって、PXの仕事はどうした?」

 

「ゆーきゅーきゅーかを食べて消化中、お休みにゃぁ」

 

と仕事をしないで昼間から酒を飲んで酔い潰れているメイアを、レストランの料理人ガストンが叱責するとメイアは有給休暇で休みだと言う。

 

「休みならどっか遊びに行くとか、友達とお茶するとか・・・・ないのか?」

 

「アルヌスで遊びに行くってどこにゃ?友達と顔合わせたら面白くない話になっちゃうにゃ」

 

「・・・・ああ『門』の事か。いっそ男遊びってのはどうだ?」

 

と、ガストンに言われてレストランの中と周りの男性客を指差したので、メイアは興味なさげだった。

 

「あの人今戦場にゃ、そこまで私器用じゃないにゃ」

 

「あの人?もしかしてニホン軍か?そいつは、困ったな・・・・・いっそ告ったらどうだ?こっちに残ってほしいとか、ニホンに付いて行くとか・・・・」

 

「そう言う訳には、いかないから寂しいんだにゃ・・・・ここは相変わらず忙しそうでいいにゃあ、仕事してたら変な事考えなくていいし」

 

「といっても今、ニホン軍は滅多に来ないから夜は案外暇だぞ。ま、こっちの客は普通に来るが」

 

「新人も入ったって聞いたにゃ、しかも竜人。こっちの店員なら、アルヌスに居られるにゃ?」

 

とメイアは、ウェイトレスとして働いているジゼルを指差すが、雇っていると言うより、散々レストランで飲み食いして金がなくレレイに代金を肩代わりして貰う形で借金してその返済としてここで働いているようなもの。

 

「あー、あれは違うんだ」

 

「?」

 

「借金のカタ・・・メイアお前、アルヌスからそんなに出たくないなら・・・・俺の話にいっちょ乗る気はないか?」

 

とガストンは、先程の優しそうな表情とは打って変わって険しそうな顔でメイアにある提案を持ち掛け様とする。

 

 

ワーウルフのテーブル席に、ジゼルがビールジョッキ二つを運んで来た。

 

「おまちどうサマ」

 

ワーウルフは、ぽかっんとした顔でジゼルを、見ていた。それは、神がこんなレストランで働いていたら不思議に思うだろう。

 

「出発前にすれ違った神官だよな・・・・?後で気付いたけど、ハーディの神官で竜人って・・・・」

 

「ハハッ、まさかんなわけ・・・・」

 

と神官がこんな所で働くわけが無いと言っていると、ワーウルフの会話に獣人のウェイトレスが

 

「本物だから・・・・本物だから、あれ」

 

「マジ?」

 

「マジ」

 

本当に神様に下働きさせている事に驚く。普通に考えたら不敬罪になってもおかしく無い。

 

「本物ならあれジゼル猊下って事だろ!?神様に下働きなんかさせて良いのかよ!?」

 

「亜神であっても、借金のカタからは逃げられない。あんた達も気をつけなさい」

 

神様であっても借金からは逃れられない、神も形無しと言わんばかりにワーウルフ達に忠告する。

 

「身につまされるな」

 

「お布施置いとこう・・・・」

 

そう言って、ワーウルフ達はビールを飲み終えて代金を置いて出て行った。

 

「ありがとうございました」

 

そして、ジゼルがワーウルフ達が座っていたテーブル席を片付け様と空のジョッキを持ち上げるとジョッキの下にビールの代金とは、別の硬貨が置いてあった。

 

「ありがてぇ・・・・」

 

と、ジゼルは感謝しながら硬貨を懐にしまう。

 

「さぁて、やったるか・・・・掃除、片付け、掃除、片付け」

 

片っ端からテーブル拭きや床掃除をこなして行く。

 

「くそっ、食べ散らかしやがって、こんなの神官見習いの時以来だぜ・・・・あれから三百年くらいか?」

 

と愚痴を言いながら、ジゼルは修道院見習い時代を思い返していた。

 

「修道院でのつらい日々、長命種ゆえの長い長い下っ端神官生活。後から生まれた者に追い抜かれ、何十年も顎で使われて・・・・あ、あれ?目から水が溢れてきやがる。なんでだろ、なんでだろ、うっ、うっ・・・・・お母ちゃん!」

 

ジゼルは、思い出を掘り返せば掘り返す程いつの間にか目から大粒の涙を流して思わず母を思い出して叫んでいた。

 

「(ハーディの天啓が降ったのは母の面影も忘れかけた頃、何故自分が選ばれたのか、運?主神に愛された?長い長い下積みを見ていたから?冗談ではない、亜神となったのがバレたら、苦しくも慣れ親しんだ日々が激変するのは目に見えている・・・・・そうだ!十年以上隠し続けたエムロイの教団の先達を真似れば・・・・案の定周りの態度は激変『ジゼルは儂が育てた!』『今までの事は水に流して頂き・・・その、あのごめんなさい』『つらく当たっていたのは全て猊下の大成のため』だの、媚び諂って手のひら返し)それが今じゃどうだい、ここの連中ときたら亜神も容赦なくタダ働きさせやがる。いい度胸してるぜ、よしっ、出来た」

 

と片付けを終えたジゼルが腕を伸ばしていると、ロゥリィが店にやって来た。

 

「ジゼルの奴ぅ、ちゃんと働いているぅ?」

 

「こりゃ、聖下いらしゃいませ」

 

「今日は乳茶ねぇ」

 

「ご案内しますぜ」

 

ジゼルがロゥリィを席へと案内し、注文していた乳茶を運んで来た。

 

「お待たせしました」

 

「ありがとぉ・・・・・・座ったらぁ?」

 

「お姉サマ、眷属から報せが来ました。アポクリフがまた拡がったと、どうにかなるのかよ?このままじゃやばいぜ」

 

とジゼルがクナップヌイのアポクリフが拡大しているとロゥリィに忠告するが、ロゥリィは優雅に乳茶を飲む。



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行き先は?

ジゼルの眷属からクナップヌイのアポクリフが更に拡大したとの報せをロゥリィに伝え如何するのか尋ねていた。

 

「アポクリフ、お姉サマはどうするつもりなんだよ?」

 

「・・・・・言葉遣い」

 

「どうするおつもりなんのでございますか?」

 

ロゥリィから、言葉遣いを指摘されてジゼルは顔を引き攣らせながらも敬語で訂正し直す。すると、ロゥリィから発せられた言葉にジゼルは驚いた。

 

「信じて待つ事にしたわぁ」

 

「は!?けどよっ、このままじゃぁ!?」

 

「だからぁ、ジゼルもぉ手出し無用ねぇ」

 

「・・・・・昔のお姉サマだったら、今頃とっくに・・・・・・どうしちまったんだよ!死神ロゥリィと畏れられ、散々人間を刈り取ってきた亜神がよぉっ!まだ、遅くないぜ。今から二人で丘に乗り込んで『門』をぶっ壊しゃ、それでお終いじゃねぇか!アルヌスに来たのだって『門』をぶっ壊すためだったんだろ?さっさとやっときゃこんな事には・・・・・なんでだよ!」

 

ジゼルは、一緒に門を破壊しようと持ちかけるアポクリフが発生するのは、『門』が原因なのだが、当人にはそんな気は無いみたいで理由を聞くとロゥリィは、優雅に乳茶を飲むと顔を赤くして

 

「・・・・ヨウジとぉ、出会えたからかしらぁ」

 

「ケッ、また、あいつか・・・・・」

 

ロゥリィから伊丹の名を聞いて、ジゼルは悪態を吐きながら伊丹の顔を思い出していた。

 

「彼と付き合って決めたのぉ、人間の可能性に任せてみようってぇ」

 

「・・・・・もしかして、ターレスを気取ったりしてないか?」

 

「彼が人間の可能性を信じて他の神々に独断で火をもたらさなければよぉ、人間はいまだに野獣と同じ生活をしていたでしょうねぇ」

 

「その火を使えるのと使いこなせるの間にはでけぇ溝があるぜ?」

 

「・・・・・ジゼルあなたぁ、生まれた時から亜神だったぁ?」

 

「んなわけねぇよ」

 

「ハーディがぁ、使い道を示さずレレイに聖具を与えた理由、考えた事あるぅ?」

 

ロゥリィは、ベルナーゴを訪れた際ハーディがレレイに勝手に憑依して食事などの肉体の感覚を堪能した礼としてレレイに『門』を作る力を与えた理由を問う。

 

「んなのあいつへの褒美だろ?」

 

「それだけなわけないでしょお?」

 

「他に何があんだよぉ」

 

「いい?肉の目で自分の後ろの頭は見れないわかる?本当の意味でぇ、禁忌だからしたいともぉ思わないの」

 

「そりゃそうだ・・・・・・って、待てよ!じゃあなにか!?実際に出来る事は何しても良いって事かよ!?親殺しも、子殺しも・・・・」

 

「自分自身を滅ぼす事もねぇ"お好きな様に"って、ハーディは言ってるの」

 

「・・・・・」

 

がジゼルは、いまいち分からないと言った感じだった。

 

「わからない?道具は道具でしかない。この匙だってぇ人間によっては人殺しに使うかもしれない」

 

「あっ・・・・」

 

とロゥリィから言われてジゼルは、何か察した。

 

「そう言う連中を抑え込むのが私達亜神の役目。出過ぎた枝葉を刈り取ってきた・・・・・今までは、その結果はどう?数万年の歴史の末世界は停滞して滅びの道を進んでいる。主神方はそれを防ごうと世界を揺り動かしてきた、ハーディが『門』を使って新たな種族を呼び込んできたのもその為、私達の遙か先を行くニホンと繋がった事で、世界は動き始めた。ハーディの目論見通りになっているのがぁ悔しいけどぉ。おまけにぃ自分達で『門』の後始末をどうにかしてみせろと手を引いた。どうしてだと思う?」

 

「わかんねぇよ、主上さんの考えなんて」

 

ずっと、ハーディに仕えて来たのにそのハーディの考えが読み取れないジゼルにロゥリィは頭を抱える。

 

「あんたねぇ・・・・・人間が自ら滅びを避けられるかもとハーディが認めたからじゃないのぉ?」

 

ロゥリィがそう言うとジゼルは、目を見開き驚いた。

 

「あの主上さんが、人間を信じる!?悪い冗談だぜ、『門』でしか生きる糧のない街のどこに世界のために『門』を閉めようって奴がいるんだよ!」

 

「いるわぁ、レレイでしょお、テュカにぃ、一応ヤオ、サカエでぇ、そしてぇヨウジ。これを乗り越えられれば人間と言う種は成長する。この点はぁハーディと同じ意見よぉ」

 

「ちょっまっ、お姉サマまでおかしくなったのか!?」

 

ジゼルがそう言うと、ロゥリィは意味深な笑みを浮かべ

 

「あらぁ、死と断罪狂気を司るエムロイの使徒このロゥリィ・マーキュリーがぁ正気だった事あるぅ?」

 

「・・・・・・・」

 

そう言い放つロゥリィの姿はかつて亜神となり神殿No.1になった直後に、腐敗した上位神官たちを断罪し、信仰する神としての性質から『死神』や『闘神』と異名で畏れられたエムロイの使徒ロゥリィ・マーキュリーだった。

 

「誰かを愛する者が正気なわけないじゃない」

 

「あ?あい?しっかしなんでまたんな危ないこと・・・・・」

 

「・・・・・・陞神が近いからかしらぁ」

 

亜神であるロゥリィは、今現在961歳であと40年したら陞神し、何かの神になるのだ。以前ロゥリィは、なんの神になりたいか問われた際『愛の神』と答え、伊丹に興味をもち好意を抱いてから愛に固執する様になった。

 

「見ているだけでぇ手を出したくても出せなくなる。そう思えば・・・少しは成長してほしいと思うじゃない」

 

とそう言いテーブルの上に置いてある蝋燭の火に火をかざし笑みを浮かべる。

 

「ったくよぉ今まで通りじゃダメなのかよ」

 

とそう言うジゼルに対し、ロゥリィはため息を吐きジゼルの理解力の乏しさに呆れる。

 

「話聞いてたぁ?ジゼル、これだから・・・・・ハーディ自身のせいだけどぉハーディの不幸はぁ使徒に恵まれてないことねぇ」

 

「悪かったなぁバカで」

 

「ヤオに言ったそうねぇ、ハーディが白と言えば黒も白になる。それってぇ、私は考える事をやめますってことよねぇ?」

 

「だからぁあなたはぁ、使いっ走りしかできないのよぉ。まずは自分で考える習慣をつけなさぁい、そうすればハーディの言いたい事もわかるわぁ。陞神した時何を司るかもぁ、後言葉遣い」

 

「・・・・・主神さんの事詳しいんだな?何であんなに嫌ったんだよ?」

 

自分が『主上さん』と呼んで仕える冥府の王ハーディをロゥリィは何故そこまで嫌うのかジゼルが理由を聞くと、ロゥリィは嫌な顔をして

 

「わたしはぁ魂人形を並べて喜ぶ様なぁ、悪趣味なぁ変態じゃないからぁ」

 

「あー、あれはなぁ、当の本人が幸せならいいんじゃねぇ?」

 

「あんな嘘の幸福ぅ廃薬といっしょよぉ、あいつがぁ力のある魂を手放さないせいでぇ、ろくでもないやつがぁ増えて世界がこんな事にぃなってるんでしょぉっ!!いつかハーディの陳列棚ひっくり返してやるんだから!あいつニホン人もコレクションする気でしょ!」

 

ロゥリィは、ハーディの自分の意に適った魂をコレクションにし、コレクションされた魂を幸福な死後に送ると言う狂気じみた行為に対して嫌悪感を抱いていた。ロゥリィはハーディのその行為を麻薬で幸福を感じる様なものだと批判する。

 

「エムロイだって戦にかこつけて同じ事してるじゃんか」

 

「冥府じゃあ、救われないからでしょ!」

 

「見解の相違だなぁ、結局いつかお姉サマと戦うしかねぇのか?」

 

「いつでもいらっしゃあい、ただしぃ借金返してぇ少しは気品と言うものぉ身に付けてからねぇ」

 

「お姉サマだって特殊な話し方してるじゃねぇかでございます」

 

二人の価値観の違いから、いずれ一戦交える事になるかも知れないとジゼルが諌めるとロゥリィは、いつでも受けて立つと言った感じで笑みを浮かべる。

 

「ジゼルさ〜ん、晩の仕込み始めるよ〜」

 

「へ〜い」

 

同僚にそう言われてジゼルは、仕事へと戻って行った。

 

一方デュマ山脈の麓の森の中では、旧帝国軍主力の第一軍団と第二軍団が日本軍の偵察機の目を欺くために変装していた民間の衣装を脱ぎ甲冑や剣や盾で武装する。

 

「武具を受領し、装具を整えろ!」

 

「ロムロス大隊集合、場所はこっちだ!」

 

「二個小隊足りないぞ」

 

「アメリ百人隊長は、まだ到着しないのか!?」

 

そして次々とゾルザルの本隊が集結し、

 

「ロムロス大隊総員集合!」

 

「ドルバー大隊整列完了」

 

「他大隊もまもなく集合完了」

 

「ケンタウロス騎兵隊集結!」

 

そして、漸く第一軍団と第二軍団の兵が揃うと

 

「各大隊、行軍隊形で前進せよ。前へ!」

 

ヘルム・フレ・マイオ将軍の号令と共に兵士達は雄叫びを上げる。

 

「百人隊(ケントゥリアス)歩調を取れ!前進!!」

 

の百人隊の隊長の号令と共に兵士やケンタウロス、攻城兵器を牽引する大型亜人が前進を開始する。

 

一方、古田達宮廷料理人達は百人隊長ボルホスから指示を受けていた。

 

「宮廷料理人はゾルザル殿下の本隊に続け、殿下の求めに直ぐに応じられる様に」

 

「承知しました」

 

「出撃陣地での全体の炊飯の指示も任せたぞ」

 

「どこなんだここ?」

 

「山は越えたよな」

 

(くそ、マーレスかどうかもわかんねぇや)

 

古田は辺りを見回すが、生憎と森の中なので正確な場所が把握出来ない上に、今までずっと荷車に詰め込められ外に出る事も出来なかったのなら尚更だ。

 

 

イタリカ北東デュマ山脈西麓ゴルドールの森から軍馬に跨るゾルザルを先頭に長蛇の列で行軍し、森を抜ける。森を抜け馬車の中から外の草原地帯の景色を見て不思議に思ったテューレは馬車と並行して歩くゾルザルに現在地を聞いた。

 

「ゾルザル殿下」

 

「なんだ、テューレ」

 

「ここは、本当にマレースなのですか?山がちな深い森の地と聞いていましたが・・・・・」

 

と聞いていた地形と違う事をゾルザルに疑問を投げかける。すると

 

「そうだな・・・・・言われてみれば以前狩りで赴いた時は鬱蒼とした森であったが、誰が木を引っこ抜いたんであろうな?」

 

とゾルザルが冗談を言うと周りの将軍達は笑うが、テューレはその真意が理解出来なかった。

 

「テューレ、誰がマレースに向かうと申した?」

 

「し、しかし、テルタでの戦議で・・・・・」

 

「俺は、必勝の策があると言っただけで、誰もマレースに向かうなどと言ってないぞ。なぁ?ヘルム卿」

 

と確かにゾルザルはテルタでの戦議で必勝の策があると言ったが、マレースに向かうなどと一言も言っていなかった、テューレが勝手に勘違いしただけだと。そう言ってゾルザルは、ヘルムに同意を求める。

 

「ハッ、今頃マレースの友軍が敵の足留めをしている事でしょう」

 

ヘルムの言葉通り、マレースに展開中の旧帝国軍部隊は

 

「敵を一人も逃すな!」

 

「敵は虫の息だ!!このまま追い込め、古代ローマの猿共に銃弾をたらふく味合わせてやれ!」

 

旧帝国軍に容赦なく砲撃や銃弾を雨霰の如く喰らわせて追い詰めていた。

 

「ゾルザル殿下の第一、第二軍団はまだか!」

 

「このままじゃ全滅だ!ニホン軍が直ぐそこまで迫って来ているんだぞ!!」

 

「殿下が来られるまでここを死守するんだ!」

 

何も知らず援軍が来ると信じていた兵士達は日本軍からの猛攻撃を受け壊滅状態に陥り、マレースの旧帝国軍の将兵達はゾルザル達の真の目的地を悟られない様にする為の捨て駒にされたのだった。

 

「・・・・・で、では・・・・ここは・・・・一体」

 

とテューレが本当の目的地の場所を聞くと

 

「フォルマル伯領"イタリカ"だ」

 

ニヤリと笑いながら言うゾルザルは言い放った。その言葉にテューレは目を見開いた。ゾルザルは、マレースの部隊を囮として投入し、日本軍と新政府軍の主力部隊を引き離し防備が手薄くなったイタリカへと侵入経路を確保し、帝国新政府の拠点であるイタリカへと攻め込むと言うのだ。いよいよ、ゾルザルの主力部隊との決戦も近い。



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裏切り

ゾルザルの精鋭軍は、日本軍と新政府軍の連合軍と旧帝国軍との激戦が繰り広げられているマーレスに向かわずマレースの森を抜け一行が向かった先はフォルマル伯領、そして新政府軍の本拠地であるイタリカだった。

 

「フォルマル伯領イタリカ、いい眺めだ。マーレスとは大違いだ。お前は初めてだったか?テューレ。あの川の先が、イタリカの城市だ。敵の中枢急所でもある。イタリカを陥とし皇帝を押さえれば形勢逆転、俺の勝利だ。これが俺の考えた必勝の策だ」

 

と全く予期していない展開に唖然とするテューレ。

 

「龍の目鼻は鋭いが、獲物に襲いかかる時だけは前しか見えなくなる。今のイタリカは主力が出払い防備も手薄、敵の本隊をニホン軍が駆けつける前に陥せましょう」

 

「よし、計画通りカンネーデに陣を敷くぞ、前へ!」

 

とヘルムにそう言われたゾルザルが前進する様指示を出すと、ゾルザルの目線が馬車の中でガタガタと震えるテューレを捉える。

 

「どうしたテューレ、寒いのか?」

 

ゾルザルから声を掛けられたテューレが、振り向くとゾルザルは鼻で笑うと馬車の御者の声を掛ける。

 

「フン、皇帝の身柄確保は任せたぞ。ボウロ」

 

「お任せあれ、この戦いは我らハリョにとっても決戦、すべてを注ぎ込みまする」

 

と馬車の御者をするボウロにテューレは驚く。ボウロは、ゾルザルの必勝の策を調べさせる為に一旦離れマレースで合流する予定だった。

 

「ボ、ボウロ!?なぜここに!?答えなさい!!何故ここにいるのですか?」

 

「テューレ、ボウロがいて不都合でもあるのか?」

 

「い・・・・いえ・・・」

 

ボウロもといハリョは、ゾルザルの皇太子府の密偵であるので、ゾルザルの近くに居ても不思議ではない。だが、テューレはマレースで会う筈のボウロがここに居るはずが無かったから。

 

「お前はボウロとの連絡役にすぎん。俺があやつに直接命令を下してはいかんのか?お前はボウロがここにいて驚いた、マーレスにいる筈だったからな」

 

「そ・・・・そんなことは・・・・・」

 

「隠さなくてもよいのだぞ。お前が裏切ってたとわかった時、俺もショックだった」

 

そう言うと、ゾルザルは手を翳し

 

「全隊止まれ!」

 

「大隊止まれ!」

 

「百人隊止まれ!」

 

と次々と後続の部隊が停止する。

 

「お前の裏切り、眠れぬ日々この腹立ち、何かにぶつけねば治らぬ。俺は奴隷を殺してしまった。お気に入り全部をだ、可哀想な奴隷達・・・・・・可哀想だよな」

 

「ひいっ」

 

「そうは思わねか!!」

 

ゾルザルは、テューレの両肩を掴んで威圧する。

 

「で、殿下、違うのです」

 

「言わなくていい、静かに黙れ、口を閉じろ」

 

「ああ、殿下!信じてください」

 

「黙れと言っている!」

 

自らの潔白をゾルザルに懇願するテューレにゾルザルは、怒鳴り威圧する。

 

「馬車に放り込んでおけ」

 

「ハッ、親衛隊」

 

崩れ落ちたテューレは、両脇を親衛隊に取り押さえられながら馬車に乗せられる。

 

「ゆくぞ」

 

「全隊進め!!」

 

ゾルザルの号令の下、旧帝国軍は前進を再開する。

 

 

フォルマル伯領の上空を飛んでいるハーピーが、作戦地域に本来居ない筈の軍勢を見つけこれが敵軍だと察知した。

 

「いたっ・・・・・見つけたっ、知らせないと!」

 

地上では、シャンディーがワーウルフやダークエルフなどを率いて周辺地域を偵察していると上空からハーピーが飛んで降りて来た。

 

「報告!ほうこーくっ」

 

「どうした?」

 

「敵の軍勢を見つけた!イタリカに向かっている!」

 

とハーピーから報告を受けたシャンディー達は、急いで現場に急行すると茂みに身を隠しシャンディーは日本軍から貸与された双眼鏡を覗き込んで旗印を確認する。

 

「あの旗印・・・・間違いないわ」

 

旗には、2体の竜が向かい合い帝国拡大期を象徴するデザインが描かれており旧帝国軍の旗だった。

 

「ニホン軍にも見つからずにいつの間にこんな近くまで・・・・」

 

「まずいな」

 

「どこに向かって行くか見届けるわよ」

 

「おう」

 

(ピニャ殿下のお役に立って、ロンデルでの汚名を返上するんだ・・・・・!)

 

シャンディーは、先のロンデルで笛吹男に操られレレイ暗殺未遂を起こしてしまい、その汚名返上の為、奮闘する事を誓う。その後シャンディー等は、旧帝国軍に気付かれない様に尾行を続け、その位置と方角や距離などから旧帝国軍が目指しているのはイタリカだと判明した。

 

「急いで!イタリカに戻るわよ!」

 

「おう」

 

「あっ、待ってぇ」

 

シャンディー達は急いで馬を走らせ敵の目的地がイタリカだと知らせる為に向かう。

 

 

一方、デュマ山脈の谷にある旧帝国軍の洞窟では、数機の零戦が洞窟の周りを何度も旋回しながら飛んでいた。

 

「空飛ぶ鉄竜・・・・いや怪鳥ども・・・・儂等の空を我が物顔で好き勝手飛び回りおって、忌々しい!」

 

そんな、零戦を竜騎士達は苦々しい思いで見ていた。その洞窟の中には何体もの翼竜や竜騎士達が身を隠していた。

 

「敵の斥候はめざとい夜目も利く、泥が落ちたら塗り直しておけ!誇り高き竜騎士が地に潜り泥に塗れる!!この屈辱鉄トンボを叩き落として晴らしてやるわい」

 

「ボダワン閣下、空飛ぶ鉄竜レッキ方向に去りました」

 

「うむ、斥候を出せフェエから敵が出る頃合いだ」

 

零戦が去って行くと竜騎士を飛ばして偵察に出させる。

 

イタリカ近郊カンネーデ、木々が生い茂るこの場所で旧帝国軍は、陣を敷いて休息を取っていた。古田などの宮廷料理人は兵士達に食料を配る。支給される食料は、ハードタックと呼ばれる保存食の堅パンである。長期間保存が効く様に水分を徹底的に飛ばしてある為、非常に硬く兵士達は『セメント板』など呼んだ。鉄板に噛み付いた感じで、相当腹が減ってなければ食べようとしないし兵士達の士気に影響して任務を遂行しようする気が起きない。兵士達は不味そうに食べていた。

 

「無理にでも食っておけよ」

 

「主席百人隊長」

 

「長い戦いになる。不味くても食っておかないと体が保たんぞ」

 

百人隊長のボルホスが、ハードタックを食わない兵士に食べる様に言いつける。

 

「しかし・・・」

 

「ニホン軍に補給路を破壊された上、ニホン軍の進撃を阻止する為に焦土作戦を展開して食料の補充が困難になっているんだ。我慢して食べろ」

 

「・・・・はい」

 

軍を支える食料の供給が途絶え、旧帝国軍の兵士達は単調な食事を余儀なくされる。

 

 

一方、森の中で見晴らし位の良い所にゾルザルは、自身の腹心や護衛を連れて

 

「イタリカか、今頃慌てふためいているか、もう勝ったと思っているか。どう思う?テューレ、考えてみれば俺もお前を裏切っている。俺はお前の部族を滅ぼした。お前の願いを聞き届けたと告げた裏で、殺し・犯し・捕え売り捌いた。読んだ筈だ、『今月はウサギが何羽売れました』」

 

とその言葉を聞いたテューレは、目を見開いた。

 

「お前がどんな顔をするか、寝首でも掻きに来るんじゃないか?楽しみにしていたんだがな、お前は態度を変えなかった。だから俺は騙されてしまった、俺を愛していると」

 

「そんなのあんたが、勝手に勘違いしてただけじゃない!」

 

激情したテューレが、ゾルザルに掴み掛かろうとしたが 両脇に居た親衛隊員により取り押さえられる。

 

「そうだ、それでいい。お前は俺に復讐する権利がある。だが、この体たらくはなんだ?裏切りがばれたならば、女王として潔いところを見せぬか?」

 

「なんで、あんたの思い通りなんかに・・・・・」

 

「あ?聞こえんな?」

 

とゾルザルがテューレの顔に耳を近付けてそう言うと

 

『だから!なんであんたの思い通りにしなくちゃいけないのよ!!』

 

テューレは、腹の底から大声で怒鳴り叫んだ。

 

「なるほど、お前はそうする事で俺に復讐しているわけか。ならばどこまで、その態度を続けられるか、俺に見せてみるといい」

 

ゾルザルがそう言うと、

 

「殿下・・・・・その兎女、わたくしめらに下げ渡してくださいまし」

 

と下品な笑みを浮かべながらボウロはゾルザルにテューレをくれないかと頼み込んだ。

 

「ボウロ・・・・」

 

「そうだな、お前達が相手くらいがちょうどいいだろう」

 

「な、何を・・・・」

 

「分からぬか?俺は期待しているのだ。お前が泣き叫びながら許しを請いながら、慈悲の死を望む姿を。まぁ、その前にお前が壊れないかが見ものだがな」

 

ハリョ等が下品な笑いを浮かべテューレを見る中、突然テューレはケラケラと笑い出した。

 

「この程度で私が足りると思ってるの?こいつらのもあんたと同じお粗末な逸物だったら、百人でも足りないわ」

 

「なっなんだとぉ」

 

「違うと言うならゾルザル、あんたもこいつらと一緒に逸物を並べてみなさい。誰が一番か、じっくり見比べてあげるわ。私に許しを請わせたいのなら・・・・・覚悟しなさい、枯れ果てるまで、吸い尽くしてやるから、さぁ最初は誰かしら?」

 

とテューレの言葉にハリョ等は自身の股間に手で押さえ、歪んだ性的嗜好のゾルザルでさえドン引きだった。

 

「この女ヤダ、食いちぎられそう」



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動き出す野望

アルヌスの町のレストランの厨房では、ジゼルをはじめとした従業員等が晩の仕込みをしていた。

 

「おーい、倉庫に在庫見に行くからみんな来てくれ」

 

「オレも?」

 

「猊下もお願いします」

 

「やたっ」

 

「そんな心配になる様な事だっけ?」

 

「戦で仕入れが不安定だろ?いつ終わるかわかんねぇし、料理長が在庫見てメニュー決めるから調べてこいってさ」

 

そうして、ジゼル達は食材の在庫を確認しに食糧庫へと行った。そして、調理場から誰も居なくなると料理長のガストンが誰も居ないことを確認して扉を閉めると誰かと打ち合わせを行った。

 

「レレイと言う娘、確実に来るのだろうな?」

 

「へい、ここん所夕方まではうちで書類見てますわ」

 

「よし、来たらこれを飲ませろ。悪所のまじない師特製の香草ナルコだ」

 

とその人物は、ガストンに呪い師に作らせた薬の入った小さな包みを手渡した。

 

「死んだりせんでしょうね」

 

「心配するな」

 

そんなガストンとその人物との怪しげなやり取りが行われている一方、アルヌスの町を散策しているロゥリィ、

 

「あら、メイア。酔いは覚めたぁ?」

 

「あ、聖下。これから迎え酒ですにゃあ」

 

「ほどほどにしなさいねぇ」

 

「ハ〜イ」

 

迎え酒を飲みに行くメイアを見送ると

 

「ロゥリィ!これどう?似合う」

 

とテュカが声を掛けてきた。声を掛けてきたテュカの姿はガーターベルトにミニスカにブラウスと言う少し派手なコーディネートだった。

 

「ふぅ〜ん、ほほ〜う。染めたのねぇ」

 

ロゥリィは、はいからな姿のテュカを360度あらゆる角度から見まわした。

 

「毛先の方だけ染めてみたの、こんな感じの方がお父さん好きそうだから」

 

「うん、いいわねぇ」

 

ロゥリィがテュカの自慢の金髪に白メッシュが入っており、それを褒めていると後ろからレレイとヤオがやって来て

 

「これも追加で」

 

とレレイはテュカの両耳にイヤリングを付ける。

 

「あなたがヨウジ拉致・・・・説得の要、わたしがオオバの説得」

 

「うむ、いいな。これで喰らいつかない奴は男ではない」

 

とヤオは言うが、ロゥリィ、テュカ、レレイは微妙な表情を浮かべる。

 

「喰いつかないのが、あいつらなのよぉ」

 

「生身の女には興味がないんじゃないかって・・・・たまに」

 

「非常に心配」

 

と3人から心配な声が漏れてくる。

 

「いや、いくらなんでもあの二人に限って・・・・リサ殿と許嫁なんだろ?流石にそこまでは・・・・オオバ殿はまだ未婚らしいが」

 

「ヤオ、あなた。あいつらから手を出された事ある?」

 

ロゥリィに、そう言われて思い返してみるヤオ。長い間共に過ごして来たが手を出されて経験が全くない。

 

「あれ?・・・・此の身的には、手を握られた事もない・・・・一番身近になったのは翼竜になった時・・・イ、イタミ殿とオオバ殿が奥手か堅物なだけではないのか・・・・?」

 

「そうでもないのよねぇ、ハコネじゃいいとこまでいきかけてたのにぃ、はぐらかされてぇ・・・・ヨウジったらいけずなんだからぁ・・・・」

 

「ハコネ?」

 

「ロゥリィくわしく」

 

ロゥリィ達特地組が日本に出向いた時に箱根の山海楼閣に宿泊した際、ロゥリィは伊丹に対して夜這いしようとしたが伊丹にはぐらかされて部屋を追い出されたのだ。

 

「ともかくっ、『門』のせいでぇ、ヨウジとサカエがこっちに残る気にぃなるまで、悠長に待ってられないのぉっ」

 

「・・・・ニホン政府は約束したがオオバはわからないが、イタミは逃げ出すかも」

 

「薄い本の即売会があるからって・・・・」

 

「ヨウジが本気で逃げ出したら捕まえる自信ないわぁ、眷属なのに。ニホン軍の精鋭でも無理だったって話だし」

 

「魔法で眠らせて強引に連れてくれば?」

 

「だめ、事件にしたくない」

 

「だったら手ぬるい色仕掛けではなく、此の身が床に忍んで即成事実を・・・・・」

 

「甘いわねぇヤオ、まだ気付かない?」

 

「逆に嫌われるかも」

 

「そう、彼は色気で強引に迫る女性が好みではない。薄い本や物語の絵姿二三七八点の登場人物を比較検討した結果、イタミは『素直じゃない女性』や『心の病んだ女性』が好みとわかった。一方のオオバは『清楚で品のある女性』が好み。色気で迫る女性は好みではない」

 

「なっ・・・・嘘だ・・・・色気を嫌がる男がいるなんて、嘘だと言ってくれっ!!此の身のしてきた事は・・・・・・」

 

とレレイからそう言われて、焦るヤオ。

 

「テュカは、どうやってヨウジをその気にさせるつもりぃ?」

 

「フフーン、これよ!」

 

とテュカが、地面に置いておいた鞄を見せびらかす。

 

「お父さんの着替えとあたしの作ったお・弁・当❤️」

 

「なっ・・・・」

 

その言葉にロゥリィは、目を見開いたて驚愕した。

 

「病院のご飯が美味しくないって聞いたから」

 

「ヨウジがテュカの父親代わりしていた時、満更でもない顔をしていた。効果はあるはず」

 

「その手があったかぁ・・・・わたしぃ料理は丸焼き系専門だからぁ」

 

レレイは、ロゥリィが狩りをして獲った獲物を丸焼きにして豪快に食べる姿を想像した。

 

「料理と言うには抵抗がある」

 

「焼くって料理でしょお!?そう言うレレイはどうなのよぉっ?料理は出来るのぉ?」

 

「出来る、得意」

 

レレイは料理が得意と言い張ると、アルヌスの子供達を連れたカトー老師が笑いながら現れた。

 

「ほほー、料理の種類は三つの繰り返し料理はどう見ても魔法薬の調合。飯は栄養が摂れればいいとか言うてた小娘が、料理が得意じゃと?笑わせる」

 

今度はロゥリィが、レレイが謎の液体をグツグツ煮込んでかき混ぜている魔女の姿を想像した。

 

「それぇ、食べられるのぉ?」

 

「師匠で実験済み」

 

「実験とぬかしおった、食えるには食える。じゃが、四日で飽きて十二日で苦痛になる。儂はもうコダ村に帰りたくない、ここのうまい飯に慣れたせいじゃな」

 

とカトーがそう言うと、レレイがカトーに向けて火球の魔法を飛ばすがカトーは難なく交わした。

 

「足りなければ、増やせばいい」

 

「色気づくとこうも変わるものかのぉ」

 

「変わって何が悪い!師匠には言われたくないっ」

 

「甘いわっ」

 

カトーはレレイが再び飛ばした火球に対して野球のバットの様に杖でフルスイングをした。打たれた火球は空の彼方へと飛んでいった。

 

「うむ、ホームランじゃ」

 

カトーの打球に周りの子供達は拍手し、レレイは唖然とした。

 

「お前が冒険してる間に、儂は子供の世話やらで忙しかったからのぉ。まぁ、この齢になってニホンの娯楽と言う新たな知見に触れられたがな。まだまだ修行が足りぬわ」

 

そう言ってカトーは、高笑いしながら去って行った。そんなカトーを他所にレレイは顔には出していなかったがすごく悔しそうに身体が震えていた。

 

そうしていると、栗林と富田がやって来た。二人は、軍服姿ではなくカッターシャツに黒いズボンといった私服姿だった。

 

「お待たせー、準備は出来た?」

 

「クリバヤシ殿、トミタ殿。ニホン軍は軍を動かしているんだろう?クリバヤシ殿達も軍務に就くのではないのか?」

 

「難民キャンプから手が離せなくてなあ、まだ動いている資源偵察班もいるんだよ?テュカの付き添いだって立派な任務だ」

 

「トミタ殿もか?」

 

とヤオがそう言うと、富田はため息を吐き

 

「俺の番じゃなかったんだけどなぁ、栗林が無理矢理来いって」

 

「お前が死亡フラグなんか立てるからいけないんだろ!」

 

「そりゃ、隊長は禁じてたけど心配し過ぎなんだよ。なんで隊長のとこ行ったらフラグが折れるのかわからねぇよ」

 

「隊長ならなんとかしてくれるって前にも言っただろ!富田の前で隊長にフラグたてさせて厄を押し付けるだ。神様のお墨付きの方法だぞ!」

 

と栗林は、自身の上官である伊丹を厄払いにしようとするサイコパス的発言をした。

 

「暗黒神じゃん!ロゥリィもひどくない!?」

 

と富田がツッコミを入れる。

 

「それが嫌なら・・・・何かある前に婚姻届出すって手もあるぜ。手遅れになる前に即行動、取り敢えずこの婚姻届にお前の名前を・・・・」

 

と栗林は懐から一枚の紙切れを取り出した。それは、婚姻届だった。しかも妻になる人の記入欄には栗林の妹の菜々美の名が記入されていた。栗林は、妹の結婚相手は、最低限自分と同等かそれ以上に強い男じゃないと認めないのだ。

 

「ボーゼスとの結婚に婚姻届が使えるのか?と言うか、なんでお前の妹の名前と捺印があるんだよ!」

 

「ちっ、ダメか。上手くいくと思ったんだがなぁ・・・・てか、富田お前俺の妹の菜々美に何か不満でもあんのか!!」

 

「い、いえ・・・・すみません、ありません」

 

と栗林が威圧すると、富田は冷や汗を掻きながら謝罪する。

 

「トミタがお父さんに何するって?」

 

「死亡フラグ?」

 

「あ、要は験担ぎだ」

 

栗林が死亡フラグの意味を知らないテュカ等に意味や経緯を説明する。

 

「富田の奴が言っちゃったんだよ。戦争が終わったらボーゼスと結婚するんだって、映画や小説でこの手の発言をした兵隊は高確率で戦死するって言われてるんだ。その厄を伊丹隊長に肩代わりしてもらおうと」

 

「ハァ?お父さんに!?大丈夫なの!?」

 

「使徒の立場から言うとぉ問題ないわぁ」

 

「三日夜の儀を済ませてるのに、今更結婚と言わせて何の意味が?」

 

すると、ロゥリィがテュカを連れて建物の隅で小声で話す。

 

「テュカ、絶好の機会よぉ」

 

「・・・・・どう言う事?」

 

「ヨウジにぃ、嘘でもテュカと結婚するって言わせたらぁ。こっちのこと意識して残る気になるかもぉ」

 

「・・・・・そうかな?そうかも・・・・・?」

 

とロゥリィの発言に納得するテュカ

 

「ヨウジの事だからぁ、ぶちぶち言いながらトミタの為に口にするわぁ、『部下に頼まれちゃ、仕方ねぇなぁ』って、嘘から出た実っていうでしょお」

 

「嘘から出た実・・・・そうかもね」

 

「即成事実があるから今更結婚を宣言しても・・・・・」

 

「おっと、そろそろ行かないと。ロゥリィ!」

 

と栗林が腕時計を見て出発の時間になったを見て、そしてロゥリィに合掌する。

 

「隊長の所までは無事に辿り着けます様に!はらいたまえっ、きよめたまえ!」

 

「ボーゼスと結婚出来ますように」

 

と二人は、出発前にロゥリィを拝みながら祈願する。

 

「そのカシワデっていうの、慣れないわぁ」

 

その後、テュカと栗林、富田は伊丹が入院している軍病院へと向かった。それをレレイ、ヤオ、ロゥリィが手を振りながら見送る。

 

「戦士達が道中の危険を避け苦難に耐え抜き、戦うことができます様に・・・・」

 

ロゥリィは、3人の背中を見ながら手を組み祈る。

 

その後、レレイはガストンのレストランのテーブル席でそろばん片手に書類と睨めっこしていた。すると、料理長のガストンがレレイにお茶を差し入れる。

 

「お悩みのようですね、『門』のことですかい?なにも今日明日の問題にしなくても、閉じるのやめちまえば楽になりますぜ」

 

「そうはいかない。先延ばしは問題を大きくするだけ、皆が嫌がっているのは『門』を閉じる事ではなく、閉じる事で皆の今の生活が変わる事。ならば変えなければいい」

 

「ええ!?」

 

レレイの発言にガストンは驚愕した。

 

「アルヌス州開拓村計画、種族を問わず開拓民を募って州内に新たな村や町を造る。アルヌスの町と同じ生活が出来るところ、これなら『門』が閉じられても大丈夫。皆を説得出来る」

 

レレイは、種族を問わず開拓民を募ってアルヌスの未開の地を切り開き田畑や居住地・道路を配備してアルヌス町と変わらない生活基盤を整える事で、『門』が閉じられ生活を失うと思っている人達を安心させる狙いだ。

 

「・・・・そんな事ニホンの代官が許すんですかい?あいつらにとっちゃ異世界ですぜ?」

 

「許される。アルヌスはニホンの領土『州』になる予定、自治州。いずれ、アルヌスに住むニホン国籍を持つ者の中から、代表者が選ばれる事になる」

 

「つまり、私達の中の誰か・・・・初耳ですぜ。その話をもっと早くしてくれれば・・・・・・」

 

「ニホン政府と条件交渉をしていた、皆をぬか喜びさせたくない」

 

「そ、そんなの上手くいきっこねぇ、ここですら初めの頃悪党に苦労したじゃねぇですか。開拓村全部に聖下やニホン軍がいるわけじゃ・・・・」

 

ガストンがそう言う。アルヌスの町が出来た当初は、イタリカや各地から出稼ぎに来た人間や亜人などがやって来て町が栄える反面、犯罪を犯そうとする輩も居たが、ロゥリィをはじめとする自警団や日本軍の憲兵隊が鎮圧していったが、開拓村全部に自警団や憲兵隊が必ずいると言う保証がないのが不安なのだ。

 

「だからこその『門』閉じられている間に土台を固める」

 

「うまくいくわけ、うまくいくわけねぇ・・・・・」

 

レレイは、そう言うがそれでもガストンは否定的だった。

 

「ところでこれは何?初めて飲んだ」

 

「あ、ああ、それは新しい香草だそうでこの前行商人が売り込みに来ましたね。どうです?」

 

「おいしい、いい香り・・・・・」

 

「それはよかった、レレイさんでも知らない物があったんですね。知ってたらどうしようかと・・・・・それ、悪所の商売女が客の懐を狙う時に使う。ナルコって言う眠り薬だそうで」

 

とガストンが安堵した様に呟くと、レレイが突然倒れてしまった。ガストンがお茶に仕込んだナルコと言う眠り薬によって、レレイは眠らされた。



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策略と謀略

この作品を投稿して、もう5年になるだなぁ、気付きました。随分と長く続けられたなと感心します。これからも、皆さんよろしくお願いします。


アルヌスの仮設住宅のロゥリィの部屋ではロゥリィとヤオの二人でお茶していた。

 

「ヤオぉ、レレイはぁ?」

 

「今日も書類を持って食堂に行きましたよ」

 

ヤオは、コーヒーの入ったマグカップと茶菓子を持って来た。

 

「フゥン、今日の晩御飯どうするのかしらぁ?」

 

そう呟きコーヒーを飲むと顔を歪める。

 

「ヤオ、ミルク」

 

「はい」

 

ロゥリィは、ヤオから渡されたクリーマーに入ったミルクをコーヒーに入れ改めて飲み直す。

 

「きのう、テュカの家に泊まったんでしょお?今日はどうするの?」

 

「いつもの寝床に・・・・・え?」

 

「て言うかぁ、ヤオってどこに住んでるの?」

 

とロゥリィは、何気なくヤオの今の住まいを聞いて来た。

 

「それ今聞きます?」

 

「そういやどうしてんのかなってぇ」

 

「聖下にお教えするほどのことでは・・・・」

 

「まぁいいわぁ、今夜は泊まっていきなさぁい」

 

とロゥリィからそう言われてヤオは、満面の笑みを浮かべた。

 

その頃、アルヌスの町ガストンのレストランの食糧庫では、従業員全員がガストンに言いつけられた食材の在庫の確認をしていた。

 

「あーあーあー」

 

「猊下〜」

 

ジゼルが玉ねぎの入った袋に自身の羽が引っかかり中身を溢してしまった

 

「羽がカマス袋に引っかかった。スマン・・・・ウニオムは嫌いなんだ・・・・」

 

そんな食糧庫でのやり取りが行われている頃、レストランの厨房では料理長のガストンが、一辺が一・五メートル程にもなる木箱を持ち出して来た。中には、綿が緩衝材として大量に詰め込まれていた。

俺も手伝おうと言ってレレイに手を伸ばそうとしたディアボだったがパナシュが殿方のお手を煩わせるには及びませんと、拒否した。『もしかして俺に、他の女を触らせたくないとか思ってるんじゃないだろうな?こんな小娘だぞ』と満更でもない表情となるディアボ。見透かされないとしているパナシュをマジマジと見て苦笑いし、『まぁいい、そなたがなすが良い』と手を引っ込めた。

パナシュはレレイを胎児の様な姿勢に折り曲げると、壊れやすい陶器を扱うかの様に箱に詰め込んだ。魔導士の杖を斜めにしてどうにか入れると、更に上から緩衝材を追加し、被せてレレイをその中へと埋める。

 

「この小娘が『門』の鍵を握っているだと?信じられん…拍子抜けだ」

 

「メトメス殿、この娘も炎龍討伐の英雄の一人。あの高名なカトー老師の愛弟子です」

 

「あの様な領地の発想を考えていたとは」

 

「ん?フ・・・フン、こう言う出会いでなければこの娘に『政』を語らせてみたかった」

 

「この歳で導師号を得た賢者です。帝国の柱石となってもくれましょう。今からでも・・・・」

 

「いや、我々に残された道はこれしかないのだ」

 

ディアボがそう言うと、木箱の蓋が閉められる。木の蓋を被せて釘を打ち込んでいくガストン。だが、ディアボが『ちょっと待て』とガストンの作業を止めた。

 

「そんなにきっちりと蓋をして空気は通るのか?娘を窒息させては元も子もないぞ」

 

「心配性だね侍従さん。見ての通り箱は隙間だらけだから大丈夫ですぜ」

 

実際、木箱の造りはとても粗く、棘が毛羽立っている。板と板の間には1cm近い隙間が出来ていて、ガストンはその隙間を埋めない様に壊れ物などのシールを貼っていった。

 

「そうか。分かった、蓋をするのはこちらに任せろ。他にしなければならん事をしてくれ・・・・・」

 

「分かりました、メトメスさん。後はお任せします。俺はその間にこっちを片付けます」

 

すると、ガストンは金槌と釘をディアボに渡し、自分の店の一般席に向かった。ディアボも後の事をメトメスに任せるとパナシュと共に後を追う。ガストンはカウンターに突っ伏しているメイアに向かって書類を突き付ける。それは、PXに品物を納めている会社に返品する際の書類である。送り先は、組合の取引先として許可を受けた日本企業。それだけPXからの返品の際は、ゲートの検問でも木箱を開いて中を見ることはない。組合も今やそれくらい信用されているのだ。

 

「ほら、メイア返品の送り状だ。サインしろ」

 

顔を上げるメイア。その顔は、泣いている様な笑っている様な、苦しんでいるかの様な複雑な表情で覆われていた。

 

「・・・・本当にやるにゃ」

 

「もう後には引けないって事は分かっているだろ?これがうまくいきゃ『門』を閉じるのは先送りになるんだ。お前の想い人とも離れなくて済むんだぞ?」

 

「でも・・・・こんな事最低の恩知らずがやることだにゃ」

 

「恩知らずなもんか!レレイさんの身を守るんだよ、ゾルザルが生きている限りまた狙われるんだぞ!!だから隠すんだ」

 

「でも、なんで荷物みたいにして、ニホンに送る必要があるのかにゃ?」

 

「誰にも知られない様にするためだ」

 

「その通り」

 

すると、ディアボがメイアを誘惑するかの様に囁いた。

 

「ゾルザルがいてもいなくても『門』の鍵を握る者に安全な地はファルマートにはない。笛吹き男だったか?あの炎龍を討った事で名高いあの『茶色の人』ですら手を引かせるのにゾルザルを直接締め上げるしかなかったと聞くぞ。そいつがまた動き出したらどうする?きっと無事では済むまい。だから奴の手が届かない『門』の向こうに隠すのだ。出入りが厳重に管理されている『門』の向こうならば安全だ。違うか?」

 

「それはそうだけど、それだったらレレイさんにちゃんと話して・・・・・」

 

「それでは『門』を閉じるのを止めさせる事は出来ないではないか!?」

 

「そうだぞメイア『門』も残るんだ」

 

その通りだとガストンも追従した。

 

「だから俺達がやるんだ。俺達ならレレイさんを守れる。そして『門』も残る。一石二鳥だ。これも恩返しの内なんだメイア。確かに良心が痛むかもしれないが、後できっと感謝される。だから手伝え」

 

ガストンの言葉にメイアは、凍り付いた様に動きを止める。悩んでいるのだ。だが、有無を言わさない二人の説得に、おそるおそる手を伸ばし、震える手で差し出された書類にサインした。ペンを置くと、遂にやってしまったという体で、カウンターに突っ伏した。

 

「これでいい『ソレン』に連絡するとしよう」

 

ディアボがそう言うと懐から携帯無線機を取り出した。『ここをこうして、これをこうして』と、よく分からない様子で何度か間違いながら操作していく。

 

「これで、繋がったか?パナシュ」

 

「メトメス殿。さかさまです」

 

パナシュからそう指摘され

 

「わ、わかっておる。お前が話せ」

 

と慌てて直すディアボ。パナシュは盛大にため息をつきつつ、無線電話を受け取ると習い覚えた日本語で話しかけた。

 

「こちらはディアボ殿下の代理の者だ。『宝珠』の荷造りは済ませた。約束通り目印を付けて荷馬車で送り出す。受け取りの手配を頼みたい」

 

そんなパナシュの声を聞いて、どうやってソ連に荷を受け取らせるのかが気になったガストンは、ディアボに身を寄せて小声で尋ねた。

 

「目的の相手はどう受け取るんですかい?そのまま返送先に届いちまったら・・・・」

 

「荷が途中で野盗に奪われるなんてよく聞くが、向こうでは起きないのか?」

 

ガストンは『なるほど』と頷く。

 

「けど、中身はナマモノですからね。出来る限り穏便に頼みますよ」

 

「分かっている。あの娘を傷つけるのは俺の本意ではないのだからな。きっとその様に伝えさせよう」

 

ディアボは、メトメスが木箱を台車に載せて運んで来るとニヤリと微笑むのだった。

 

 

 

 

一方、レッキ方面では海軍航空隊の零戦やJu87が旧帝国軍の城塞に対して空爆を仕掛けていた。

 

「レッキの敵駐屯地と城塞爆破。第四戦闘航空団の到着が遅れているみたいだ」

 

『こちら、地上部隊航空支援要請北マーレス座標ーーー』

 

無線から航空支援要請が入って来た。

 

「お、いけるか?」

 

「大丈夫だ、ここからそう遠くない」

 

そう言って神子田中佐と久里浜中佐は、

 

「俺と久里浜は航空支援に向かう。3番機と4番機はそのまま待機」

 

陸上部隊の航空支援の為、数機の零戦を率いて北マーレスに向かう。

 

 

一方、レッキの谷では旧帝国軍の偵察を行っていた一騎の竜騎士がS-51Jの機関銃の攻撃を喰らっていたが、回避されていた。ヘリより翼竜の方が機動性に優っていた。

 

「くそう、いい動きしやがる」

 

『観測機、敵翼竜一騎と接触、偵察と思われる』

 

そして、竜騎士は手に持っている鏡を太陽の光で反射させて山岳に隠れている味方に合図を送る。

 

「点滅四回」

 

「点滅四回『敵本隊見ユ』だ」

 

山岳に隠れている帝国兵は山から山へと光の反射の合図を送り、竜騎士等が身を潜めているレッキの峡谷の洞窟まで届けられる。

 

「ボダワン伯、斥候より『敵本隊見ユ』です」

 

「うむ、凶鳥どもはどうだ?」

 

将軍は、辺りに零戦が居ないか確認を取る。竜騎士達も翼竜では零戦に勝てないのは分かっているので一番に零戦を警戒していた。

 

「『敵影ナシ』」

 

「よし、全騎騎乗!出撃する!!」

 

と零戦が居ないことが分かると号令が掛かり、竜騎士等は甲冑を見に纏い剣や槍で武装すると愛騎に跨る。

 

「出るぞ!喇叭鳴らせ!!」

 

出撃の合図のラッパが響き渡り、洞窟内から数十騎にも及ぶ竜騎士達が次々と飛び立って行く。

 

 

一方、その頃デュマ山脈の谷をデュラン国王率いる新政府軍のエルベ藩王国の部隊が第四戦闘航空団のヘリに搭乗してレッキへと向かっていた。

 

「ぬっふっふっ、レッキを陥せば帝都までろくな要害は存在せん。帝国の奴らに目にもの見せてやるかの」

 

とデュランは満面の笑みを浮かべながらそう言う。もし、レッキが日本軍・新政府軍の連合軍の手に陥ちれば帝都侵攻への足掛かりなるので双方とも譲れない、譲る気もない場所なのだ。

 

「高度上げて一気に山を越えられればな」

 

「あんまり高いとエルベの連中がビビっちまうぜ」

 

新政府軍のエルベ藩王国の兵は竜騎士ではなく、歩兵である。竜騎士と違い空を飛ぶ事には慣れていないため、日本軍は低空飛行をせざるを得ない。

 

『観測機より指揮官機、敵偵察撃墜』

 

「レッキから飛んで来たのか?」

 

「海軍さんが見過ごすとは思えませんが」

 

健軍は、デュマ山脈に現れた翼竜がどこから現れたのか疑問に思っていた。空は海軍の零戦が支配している。翼竜が零戦に気付かれず飛行する事も振り切る事は不可能だ。

 

「一騎だけか?」

 

「いやな地形だ、併走する峡谷に注意」

 

『二時下方、隣接する峡谷に翼竜多数!指揮官機敵翼竜多数右稜線影より接近中』

 

高高度を飛行していた別のヘリから峡谷の間を飛行する多数の竜騎士隊の発見の報が知らされる。

 

『確認した。本隊の側面を衝かれるぞ。支援1番機2番機攻撃する」

 

「くそっ、なんて数だ!」

 

『支援1番機2番機、当たらなくてもいい噴進弾だ!』

 

本来、支援型ヘリに搭載されている噴進弾は対地用の5インチFFARで飛行物体を攻撃する対空用ではないのだ。

 

「見つかった!鉄トンボだっ」

 

「敵本隊接近中!」

 

「敵トンボに構うな!敵本隊へ突撃!!」

 

ヘリに発見されても構う事なく、竜騎士達は新政府軍の兵士を乗せた第四戦闘航空団のヘリの群れに狼の群れの如く襲い掛かろうとしていた。 数機から多数の5インチFFARが竜騎士隊に向け発射され何機かは命中若しくは爆破で目をやられた翼竜が崖に衝突するなどを起こしたが、数が多く噴進弾の雨を掻い潜った竜騎士等はそのまま本隊へ向かう。

 

「全機散開降下しろ!上空警戒、待ち伏せだ!」

 

『一時上空、翼竜多数急降下!』

 

翼竜等は、第四戦闘航空団の真上から降下してくると漁用の網を投下して来る。

 

「網!?」

 

「避けろ!回避!!」

 

操縦手達は必死で網を避けながら飛行していたが、

 

『4番機ローター損傷不時着する』

 

『回避回避ー!』

 

『13番機操縦不能降下する!』

 

何機かのヘリはローターに投下した網が絡まり操縦不能に陥り脱落していった。

 

「やった!!鉄トンボを落とした!」

 

「奴等は回る羽が止まると飛べない。アルマイ隊第二撃だ!」

 

ヘリを数機撃墜した事に竜騎士達は、歓声を上げていた。

 

「くそっ、零戦を呼び戻せ!」

 

まともな対空能力のないヘリでは、翼竜に対抗する手段がない。ヘリは制空権を確保した時に本領を発揮する兵器、健軍大佐は直ぐに零戦の応援を寄越す様に指示する。

 

「伝令、ドラケル隊奇襲成功敵は混乱」

 

「よし、畳み掛けるぞ喇叭手!全騎我に続け!突撃!!」

 

このまま竜騎士等によって、健軍達第四戦闘航空団のヘリが全滅するか・それとも増援の零戦が到着するまで持ち堪えられるか。勝利の女神はどちらに微笑むかは今は誰も知らない。



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デモと暴徒

大日本帝国帝都東京の新宿にある軍病院で伊丹は、いつもの様に黒川から課せられている基本教練を行っていた。

 

「おいあれ、伊丹中尉!六〇二の近藤です。最近見ないと思ったら入院してたんスか?」

 

とそこへ特地で負傷した別の隊の兵士が伊丹に声を掛ける。

 

「ああ、ちょっと体調を崩してなー、あ、三偵どうしてる?」

 

「四〇二の二谷です。深部偵察隊は、難民キャンプ支援に配置換えになってます。聞いてないスか?」

 

「作戦に出ないの?」

 

「特地語ペラペラだからじゃないですか?」

 

「そうかー、あんがとお大事に」

 

伊丹は自分の元隊の近況を聞きお礼を言う。そして、彼らは去り際に

 

「ありがとうございます。伊丹中尉もお大事に」

 

「銀座ちょっとやばそうでしたよ」

 

「デモだろ二〜三日前からあの調子、テレビや新聞じゃチラッとしかやってねぇけど」

 

今、銀座周辺では大規模なデモが行われている為、連日ニュースになっているのだ。伊丹は、今日の朝刊の新聞を見ていると

 

「隊長、たぁいちょ〜。朝食の時間が終わりますよ」

 

「うほぉっ」

 

背後から黒川が現れ、伊丹は背筋が凍る様に驚いた。

 

「それに今日テュカさんが来るんですよね?女の子に見せられない部屋の片付けをしませんと」

 

「お、おうそうだった」

 

「憲兵隊も張り切ってますよ。ロゥリィの件で前科もありますから」

 

「前科って・・・・」

 

黒川に小言を言われながら伊丹は軍病院の上空を飛ぶ軍用ヘリを見上げていた。

 

 

特地と日本の往来は厳重な管理下にあって、日本人だろうと特地人だろうと自由に通行できる状況ではない。とは言え、アルヌスには大量の日本兵が派遣され滞在しているので、多くの例外が認められ人や物の流れを円滑にしていた。例えば特地に派遣されている日本兵は、休暇をとると許可を受けて銀座へ、そして銀座からそれぞれの目的地へ散って行く。有事の真っ最中にカレンダー通りの勤務体制をとることはないので、毎日誰かが任務に就き、曜日に関係なく誰かが休暇をとる。そのため、ほぼ毎日誰かが『門』を通過しているのである。さらに、日本陸軍の輜重隊は毎日ひっきりなしに往復している。機械化された現代戦において、必要となる物資の量は膨大だ。

兵士一人あたり、平均で2.7kgの食料も9kgの水や燃料、弾薬、その他で90〜100kgを毎日必要とする。5万人が戦い続けるには1日に5千トンもの物資を輸送する必要があるのだ(ちなみにその内の60%は燃料である)。

そのため毎日、大型のトラックが長蛇の列を作ってしまう。それは銀座と言う人の集まる街にとっては軽くない負担であり、交通渋滞の原因ともなった。しかも、最近はこれに加えて、特に許可を受けた民間物流会社のトラックが銀座の駐屯地に出入りする。兵士個人がやりとりする宅配便、あるいはアルヌス協同生活組合の店舗に並ぶ商品は、これら物流会社によって運ばれているのである。ただし、民間の業者が入る事が出来るのは、『門』を囲う様に作られたドームまで。一歩たりとも『門』を超えることは出来ない。

 

「アルヌス組合の出荷品でーす」

 

「特地の工芸品に織物に・・・・・こいつは、返品の品か。木工道具注文違い?」

 

「異常なし」

 

「よし全部、発送便に載せてくれ」

 

ドーム内のプラットホームに降ろされた荷物は、フェンスの仕切りの中で開封されたり、各種の検査を受けた後に『門』を通り、アルヌス協同生活組合の倉庫まで運ばれるのである。だが、逆は同じではなかった。注文と違う品物が送られて来たり、頼んでない品物が間違って届いたりなど手違いに対する返品に関しては、送り状のチェックを受けるだけで『門』を越え、ドーム内で民間のトラックに積み込まれる。

『門』を通り向けたテュカ達が、検問所で通関手続きを待っている間もフェンス越しに見えるプラットホームでは様々なトラックが荷台を寄せて、様々な品物を降ろし、或いは積み込み作業をしていた。

 

「あのクルマ、この前までアルヌスに来てたよね」

 

「委託業者の集配こっちに移したんだって」

 

テュカの後を追い掛ける様にして届けられたPXからの木箱もフォークリフトを操る運転手によって今まさにトラックに積み込まれようとしていた。だが、箱の角をあちこちぶつけ、倒しかけるという乱暴な作業が目を引いて、テュカは思わず叫んだ。

 

「あ、そこの貴方!ウチの荷物もっと丁寧に運んでよ!『壊れ物』って書いてあるじゃない!」

 

だが、出入りするトラックの騒音が反響するドーム内でフェンス越しに叫んだところで声が届くはずもなく、運転手は乱暴な荷運びを改めない。

苛立ちを堪えきれなくなったテュカは、精霊魔法を使って見えない風の道を拵えると、再度運転手へと届けさせた。

 

「もう少し慎重に運んでっ!」

 

その耳元で怒鳴られた様な声に、さしもの運転手もビックリした様で大仰に振り返ると声の発信源を探した。

 

「輸送の途中で壊れると、こっちが損を被らなきゃならないの。だから慎重に運んでちょうだい!」

 

運転手は戸惑った表情になった。きょときょとと周囲を見ても自分を怒鳴った女声の主が見当たらなかったからだ。

 

「こっちこっち!荷物落とさない様にね!」

 

やがて、離れたところで腕に腰を当て、険しい表情で仁王立ちしているテュカの存在に気づく。

そして、まさかぁとでも言いたがな表情をする。だが、視線を合わせたテュカが「そう、あたし。きちんと見てますからね。丁寧な仕事をしてね」と繰り返すと納得出来たのか、運転手はぺこりと頭を下げ、了解した事を示す様に片手を上げた。

 

「もうっ」

 

「次の二十三番の方。テュカさ〜ん、審査しますよ!」

 

栗林達の通行手続きが終わり、女性係官がテュカの番号と名前を呼んだ。もう一言、二言注意したいところだったが、もう行かなければならない。テュカは「あ、はい」と慌ててカウンターへ向かった。そこでは開襟制服をまとった女性兵士から、形式的ながらいくつか質問を投げかけられた。

ここ数日病気にかかりませんでしたか?今、熱はないですか?日本国内で規制される様な、薬物、刀剣などを持ってないですか?等々。それら全てをテュカは「いいえ」と流暢な日本語で否定し、確認書に署名する。すると係員はテュカの差し出した書類に、真っ赤なスタンプを音を立ててついた。随行する栗林と富田らは、護衛の任務を兼ねているので質問はないし、武器の携帯も認められている。警護に関係書類を見せ、敬礼して終わりであった。

 

「はい、テュカさん審査終了です。ようこそ日本へ。では、いってらっしゃいテュカさん」

 

「ありがとう」

 

こうして三人は銀座へと入ったのである。特地人のテュカが、随分すんなりと通行が許可されたのは、アルヌス協同生活組合の幹部故に例外的な扱いを受けているからである。日本政府と交渉する際に必要という事もあって、東條英機総理から直々に特別許可書が発行されたのだ。しかも、それ以外の配慮が彼女達に与えられたりしている。

 

「今日もよろしくね」

 

テュカは、栗林達を引き連れていつもの事の様に、待ち構えていたフォルクスワーゲン・タイプⅡの後部座席へと乗り込んだ。前もって連絡しておけば、安全確保、機密保持等々の都合といった様々な理由から、黒服を着た運転手の付く乗用車まで用意してもらえるのである。だが運転手だけでなく、助手席にも誰かが座っている事に気付いたテュカは、身を乗り出して声を掛けた。

 

「あれ、もしかしてコマカド?」

 

「おはようテュカ・・・・さん、今日は随分とおめかししてるな」

 

助手席に居たのは駒門だった。運転手の黒服と並んで、二人の男達はテュカの姿を見ただけで魂を奪われた様に頬を赤らめた。

 

「おはよう?随分と時差が出て来たのね。こちらではまだそんな時間?」

 

「おっと失礼。こっちは今はまだ午前中だが、おはようとこんにちはの区別が際どい時間帯ってところだ。特地では、昼過ぎかな?」

 

「そうよ」

 

「よろしくお願いします」

 

「おう、新谷出せ」

 

最後に栗林が乗り込むと駒門は、運転手にエンジンを掛けさせる。

 

「ところで今日はなんでコマカドも?今日は何か特別な日?コマカド自身がわさわざ迎えに来るなんて」

 

「あれだ。銀座が少しばかり騒がしくなってるんで、俺が直接来たってわけだ」

 

と窓の外を見る様に促した。銀座駐屯地のフェンス周辺に多くの人々が集まって、車道を練り歩いている。見ると、旗やプラカード、横断幕を持っていたりする。それらには・・・・

 

『日本政府は銀座事変の外国人被災者にも補償せよ!』

 

『『門』を閉じずに、フロンティアを我らに開放せよ!』

 

『特地の環境を破壊するな』

 

『首謀者を罰し『門』を閉門せよ!』

 

と言った主張が書かれていた。勿論、独特の書体で書かれたそれらをテュカが読めるはずがない。

 

「何が書いてあるの?何かの宗教行事?・・・・・それとも、領主様への陳情行進?」

 

「特地でもやる事はいっしょか。こっちじゃ『デモ行進』って言うんだ。民主主義の国家では、ああやって人々が集まって政府に不満を表明したり、主張したい事を皆に向けてアピールする事が許されている。海外じゃこの流れで暴動になるのだが定番なんだが」

 

「コダ村近くの村でも農民反乱やってたわ」

 

見ると、警察官が「立ち止まらないで下さい」と拡声器で呼び掛けながら、交通整理をしている。それに従うデモ参加者も、まるで運動会の入場行進かと思う程に秩序だった動きを見せていた。駒門は、それを見て「ん?」と眉を寄せる。胸騒ぎにも似た違和感を覚えたのだ。どうにも不思議な香りがする。だが、「これって、暴動とかになったりしない?」とテュカに話しかけられ気が削がれてしまう。

 

「今の日本じゃあんまりないが。昔は、政府機関や交番に石や火炎瓶を投げ込んだりして酷い損害を与えたりもしたんだが、今は滅多にない。海外だと暴動に発展したり、気に入らない国の国旗を焼いたり踏みつけたりする例もある」

 

「野蛮ねぇ、そんなゴブリンみたいな連中いるの?」

 

「人間って堕ちるのは案外簡単なものだ。我々だってそうならない様に注意しないと、あっという間に同じレベルになっちまうから気をつけなきゃならん」

 

そこまでは関心がないのか、テュカは「ふ〜ん」と呟き視線を他所に向けた。駒門も「いつもの様に頼む」と運転手に出発を命じる。テュカ達を乗せた乗用車は、警官が踏切の様に人の流れを止めてくれた間隙を縫い、銀座の駐屯地から道路に出た。いつもなら、そのまま車の流れにのって銀座から離れられるのだが、今日はそうもいかなかった。長いデモの列のために渋滞が出来ていたからである。乗用車の後ろには、運送会社の大型トラックが数台続いているが、その運転手達も皆うんざりした様な表情を見せていた。ふとテュカが感想を漏らした。

 

「ニホンの人って、比較的同じ色合いの肌に、黒髪って印象だったけど、こうして見ると意外と多彩なのね。あの帝国やヌピカ人みたいなヒトもニホン人?」

 

車窓から見える群衆は、アジア系ばかりでなく白人種、黒人種が混ざり国際色が豊かだった。もちろん圧倒的多数はヨーロッパ系である。

 

「いや、外国人だ。ヨーロッパかアメリカだろう。実はこのデモは、INGOが主体となっているんだ。主催者は一応、日本人って事になっているんだが、蓋を開けて見ればドイツ、イギリス、フランス、アメリカ、ソ連などからぞろぞろやって来てこの始末だ。この前閉門派と乱闘騒ぎがあったしな・・・・だから念のため俺まで出張る羽目になっちまったってわけだ」

 

「そうなんだ。ありがとう」

 

「いいえ、どういたしまして・・・・だな」

 

デモの参加者達は様々な旗を持ち寄っていた。赤地に鎌と槌の上に赤い星が描かれた旗。赤と白のストライプーに一部青地に白い星を散りばめた旗。赤地に白い丸の中に鉤十字を添えた旗など、いろいろだ。

 

「この色とりどりの旗は、もしかしてそれぞれ参加者の国の旗かしら?」

 

「そうだ」

 

「赤い旗を持っているヒト達もニホン人?」

 

「いや、あの赤い旗はソ連、あの鉤十字がドイツ。こっちの派手な横縞と星を散りばめたのがアメリカ合衆国、そしてフランスとイギリス。あれはイタリアだな」

 

「でも、外国人が他国で騒ぎなんか起こして問題にならないの?」

 

「まぁ、法律に反しない限りは・・・・だな。国連総会とか、国際的な会議が行われる所では、INGOがデモとか集会とか開いたりするのは普通の事だ」

 

「そうなの?」

 

日本についての基本的な知識がまだまだ不充分なテュカは、海外から来た人間にすら示威行為を許す日本のあり様は驚きでしかない。

 

「でも、このヒト達・・・・まるで軍隊みたいに秩序だってるね」

 

テュカの感想を耳にした途端、駒門は先程から覚えていた違和感の正体を悟った。そうだ、このデモ隊に参加している外国人達は、INGO名乗っている割には、不自然なまでに統制がとれているのだ。その行動も指揮官からの指図でなされている様に見えなくもない。「軍隊みたい」テュカの感想こそが、全てを言い表してる様に思えるのだ。駒門は不安の正体に気付くと、いち早くこの場から脱出すべく運転手に命じた。

 

「おい新谷、ここでUターンして反対車線に出て飛ばせ。ここからズラかるぞ」

 

だが、ここまで無言を貫いて来た黒服が、この指示に戸惑いの表情を示した。

 

「ここは、Uターン禁止です。逆走ですよ!?」

 

「構うもんか。今は、ゲストの安全が第一だ、行け!」

 

「でも、対向車が途切れてからでないと事故ります。まずいですよ」

 

「くそっ、こいつらが統制が取れすぎてんだ。違和感はこれか・・・・!」

 

渋滞のせいもあって対向車が中々途切れない。無理に割り込めば、接触事故は免れないだろう。運転手が躊躇うのも当然であった。だが、その数十秒間の逡巡が皆を騒動に巻き込む。

 

『実行!』

 

と『門』から離れた場所に止まっている車から男が無線で指示を飛ばす。すると、銀座周辺で異変が起こり始める。

 

「え、あれっ!?ちょっと、なんか変よ。何?何?何が起きたの!?」

 

外を眺めていたテュカが叫んだ。銀座の街中で突然煙幕が立ち込め、それまで整然と行進していた筈のINGOのグループの一つが突如として列を乱し、警官の静止を振り切って一斉に走り出したのである。

 

『発煙弾!?騒擾状況!』

 

「全中隊警戒!」

 

「一部が暴徒化、駐屯地へ侵入を試みる!」

 

「一、ニ、三中隊を持って押し返せ!待機中の第五警備隊に応援要請!中央通りから交差点を包囲するんだ、『門』に近付けさせるな!」

 

その一部は、停止していたトラックや乗用車の間にまで溢れ、ただでさえ渋滞していた交通を一気に麻痺させる。警察官はホイッスルを鳴らし、デモ参加者に列に戻る様に声を張り上げた。だが、あちこちで同時多発的に起こされた突発的な出来事に対処しきれず、数の勢いに圧倒されて警官達の方が揉みくちゃにされた。テュカ達の乗るフォルクスワーゲンバスの周囲は人海で埋め尽くされ、前にも後ろにも動けなくなってしまったのである。

 

「キャアア!!何このヒト達操られてるの!?」

 

「このままだと、車ごとひっくり返されちまう。やばいぜ、駒門さん!」

 

襲われる。そう感じた栗林と富田は反射的に鞄からMP40を構えた。だが、駒門が撃つなと叫ばれて引き金から指を離す。

 

「銃はだめだ!ここは特地じゃないんだぞ!頼むから二人共頭を平時モードに切り替えてくれ!」

 

「しかしっ」

 

とは言え暴動とも言える騒ぎはもの凄い勢いで拡大し、比較的冷静な富田ですら「撃たずに、どんな対処するんですか!」と怒鳴り返した程である。デモ参加者がトラックに群がると荷台に積まれていた木箱を道路に投げ落としたり、中身を引っ張り出そうとすると言う無法行為に手を染めているのだ。

 

「連中の目的は、略奪か!?」

 

「いや、それはないと思う」

 

駒門は運転手の言葉を否定した。確かに一見無統制な暴動の様だが、彼の目にはデモ参加者達が無秩序に暴れている様には見えなかったのだ。実際に、通りに面した銀座の商店や百貨店などのショーウィンドウが割られ、商品が略奪されている。銀座は高価な商品が並んでいる店が多い為、その被害は甚大な金額となるだろう。だが、よくよく観察するとそう言った略奪をしているのは騒動に便乗したデモ参加者の一部でしかなく、中核となっている連中は、一つの指揮系統に従って行動しているのである。その統制を受けた一団は、トラックの窓を叩き割って、中から運転手達を引き摺り下ろすと、荷台に積まれた荷を引っ掻き回していた。

 

「彼奴等、何かを探しているみたいですね」

 

運転席の黒服もその事に気が付いた様だ。

 

「そうだな・・・・」

 

トラック一台の荷物をあらかた調べ終えると、一人の男が次の一台に指を向けて何かを叫んだ。それに従って男達が一斉に走り出し、瞬く間に次のトラックに群がって行く。

 

「彼奴等、何を探してるんでしょうね?」

 

「分からんが、兎に角此処に留まっているのは拙い」

 

何としても脱出しなければならない。それが駒門の判断だった。駒門はシートの下に常備されている発煙筒を手に取ると、後部座席に振り返った。

 

「よし、脱出するぞ!いいか、今から発煙筒を炊く。煙が車内に充満したら、一斉に外に脱出しろ。車から煙が吹き出せば、火がついてると思うだろうから連中も少しは離れる筈だ。そうしたら、その隙を突いて一気に走り出せ。栗林と富田、テュカさんをしっかり守れよ。俺はこの腰だから追い付けんと思うから先に行け。集合場所は渋谷駅交番前。そこで合流だ。いいな!」

 

「了解!」

 

栗林と富田の二人は武器を手にしているのを見られる方が危ないと考え、それぞれ鞄に押し込んだ。

 

「あー!うちの荷物ーっ」

 

発煙筒を着火する前に、テュカは前にいたトラックの台から木箱から降ろされているのを目撃する。そらには『壊れ物』等と書かれた張り紙が貼られていた。地面に叩き付けられたら中身が壊れちゃうと心配したのだが、暴徒達は何故かその箱に関しては慎重に扱っていたのである。

 

「ドロボー!何処に持って行く気!?組合の荷物よ!」

 

「点火!」

 

思わず声を上げるテュカだったが、駒門が発煙筒を着火する。刺激性の強い煙に視界を覆われ、最後まで木箱の行方を見届ける事は出来なかった。

 

「行くぞ。今だ!」

 

「テュカ、行くぞ!」

 

突然、目の前の車から白い煙が溢れるのを見たデモ参加者達は炎上爆発するとでも思ったのか、潮が引く様に車から離れて行く。その僅かに開いた隙を突いて、栗林とテュカは車から降りた。興奮した群衆に道理は通じない。理由のない暴力が犠牲者を求めて渦巻く中で、周りの男達は二人を標的にして汚れた手を伸ばそうとした。だが、富田がそれを振り払う。たちまち揉み合いから乱闘へと発展し、富田は周囲からの無数の拳によって殴られてしまった。だが、富田は少しも怯まない。両手を顔の前で交差させ、栗林とテュカが進む為の道を強引に切り開いていった。後ろ側から抱きすくめ様とした男を回し蹴りで蹴倒した栗林が叫ぶ。

 

「富田!?行ける!?」

 

「任せろ!しっかりついて来い!」

 

先頭に立った富田は群衆を押し除ける様に突進する。

 

「そうこなくちゃ!それが聞きたかったんだよ!」

 

栗林は嬉しそうに叫ぶと、テュカ守ってその大きな背中の後ろに続いて走りだした。

 

一方の門の前の銀座の駐屯地では、

 

「消火急げ!」

 

「ゲートを塞いでいる車両を牽引してゲートを閉めろ!」

 

「司令!『門』の隔壁が攻撃により損傷!」

 

「巻き込まれた慰霊参拝者数名が保護を求めています!」

 

「暴徒は数千人です!発砲の許可を!」

 

次々と舞い込む報告に一人の兵士が暴動の鎮圧の為に銃の発砲の許可を求めたが

 

「・・・・発砲は許可出来ない。総員特地側に退避せよ!」

 

だが、駐屯地の司令官は暴徒に対しての銃の発泡の許可を出さず特地に退避する命令を下した。



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韋駄天

銀座の門の開閉についてのデモから始まった暴徒は銀座の門の周辺で暴れ回りまさに無法地帯の様だ。

 

「ドーム内に退避!」

 

「本省に緊急事態を通報!アルヌスに支援要請!」

 

「重要書類を残すな、国旗もだ!」

 

「入り口で食い止めろ!」

 

「踏ん張れぇっ」

 

発砲が許可されていない日本兵達は、銃床で暴徒を殴り付ける事ぐらいしか反撃の手立てがない。日本兵達は暴徒達を鎮圧しようとするも圧倒的な人海戦術に押され暴徒が門に雪崩れ込もうとしていた。すると、門の奥から独特のエンジン音と履帯が回る音が聞こえて来る、門から出て来たのはティーガーⅠ戦車と小隊規模の兵士だった。

 

「小隊一歩前へ、前進!」

 

日本兵は銃剣の付いた38式歩兵銃を構えながらゆっくりと前進して来たので、暴徒達は蜘蛛の子を散らす様に我先にと逃げ出した。

 

一方、アルヌスの派遣軍総司令部では、銀座での暴徒の状況などが報告されていた。

 

「今村大将、小磯参謀総長からです」

 

そう言われて、今村は電話の受話器を受け取る。

 

「今村です」

 

『今村大将、状況は把握しているか?』

 

「はい、こちらから見える範囲では」

 

『現在政府は事態を受けて御前会議を開く。特別警備隊による暴徒鎮圧も再編成の上ーーー』

 

すると、電話が突然切れ同時に照明などのあらゆる電子機器が一斉にストップした。

 

「停電!?」

 

「直ぐに非常用の発電機に切り替わる」

 

すると、直ぐに照明がつき電力は回復したがしかし、電話などの機器が繋がらなかった。

 

「銀座側の回線ケーブルが切断されたのでは?」

 

「あり得るな、暴徒の一部に統制された動きが見えた」

 

「大将、この状況は緊急対処手引き書に想定された事態の『門』なの異常が発生した場合もしくは日本との連絡が途絶えた場合"総員退去準備命令"状況『韋駄天』の発令条件を満たしています」

 

と今津が非常時の退去命令の発令を促すと待ったをかけた。

 

「待て今津、特別警備隊が暴徒を鎮圧し、連絡を回復する可能性もある。各連隊も目標まで行程半ばだ。ここで前進を止めるのか!?大将!『門』の入口は確保しています。第五連隊で銀座駐屯地を奪還出来ます!銀座駐屯地占領は破壊工作員・・・・・テロリストの扇動によるのは確実です。この間にも『門』本体への破壊工作の恐れも、一刻も早く奪還命令を!」

 

そして、今村は考え込む。彼は派遣軍の指揮官として七万人近い将兵の命を預かっている身だ、彼は今選択に迫られていた。今津大佐の言う通りこのまま当初想定されていた通りにすれば七万の兵を救うことは出来るが新政府軍を見捨てる事になり『新政府軍を見殺しにした愚将』として世論から非難されるか、特別警備隊が暴徒を鎮圧し、連絡が回復する可能性もある。だが、もし万が一門に異変が起き帰還できなくなれば七万の日本兵は孤立する。

 

「相手は国際INGOを名乗り本当の民間人が大半を占めている。我が軍を持ってすれば駐屯地奪回も容易だろう。だが、我々は皇軍である。第二の『銀座事変』を起こしてはならない。可能性に七万の将兵の未来を賭けてもいかんかだ。全軍に達する、状況『韋駄天』を発令!」

 

こうして今村は前者を選び総員退去準備命令を発令するのだった。

 

 

同日午前 イタリカ

 

ゾルザル討伐軍を送り出した後のイタリカは、妙に閑散としていた。フォルマル伯爵家の領内に残されたのは伯爵家の私兵部隊と亜人の諸部族部隊。そして、ピニャの騎士団である。これこそが正統政府軍の初期の構成であり、彼らがここに集まって来たばかりの頃は、その颯爽とした足取りでイタリカの街は高揚した空気に包み込まれていったのだ。

 

「どうせこんな事だと、思ったぜ」

 

「結局お呼びが掛かるのはヒトばかりじゃねぇか」

 

「決戦まで英気を養えだと?」

 

「俺達は体よく正統政府のエサに釣られたってわけだ」

 

だが、今やその士気は下がるだけ下がり、だらけた気分が蔓延している。兵士達からはやる気と言うものが消えていたのだ。朝靄のまだ晴れないなか、城壁の上に立つ見張りが交代の儀式を執り行っているが、今の彼らを動かしているのは、旺盛な戦意ではなく、習慣という一種の惰性でしかなく。

斜面を勢いよく転がっていた巨石も平地に至ればやがて勢いが失って静止する。それと同じ様に兵士達が従っている惰性もやがては尽きて、後に残るのはかつては軍であったという残骸だけだろう。その途中経過をイタリカの住民達は見せつけられていたのである。

白薔薇隊隊長ヴィフィータは嘆いた。

 

「まずいぜ、ボーゼス。士気がただ下がりだ」

 

「そうね・・・」

 

「諸侯連合の正統政府軍とニホン軍は快進撃中、なのに自分達は座して暇を持て余している。爵位だ、議席だ、領地だって集めといて。困っている時に限って亜人の時代とか、亜人の地位向上とか言って持ち上げてやがった癖に、なんだよこの掌返し方ひどくねぇ?」

 

「元老院議員達も軍団についていきましたしね」

 

帝国正統政府を立ち上げた当初、講和派貴族達は兵力不足に悩んでいた。

援軍を求めて外国や諸侯国に使者を送っても色好い返事を得る事が出来ず、盗賊や脱走兵などのならず者達にさえも相手にされないという状況に陥っていたのだ。その為、彼等は苦肉の策として亜人部隊に協力を求めた。帝国内での地位向上を代償にして。具体的には諸部族の族長階級にあたる者を帝国貴族として伯爵や子爵に任じ、空席となった議席を埋める形でそれぞれを元老院議員に任じたのである。

それは、国の支配体制の部外者・・・・よく言えば客人として扱って来た亜人種を帝国の一員と見做し、帝国の行く末について共に論じ合い、共に担って行くと言う方向に舵を切った事を意味していた。

亜人部族もこれまでのけ者にされて来た国家運営に携われる様になると思えば、手を貸してやってもいいと思う様になる。こうして正統政府軍には、五十四種族の兵士達が各地から集まって来たのである。だが、情勢は変わった。

外国や諸侯国からの援軍が到着して、これに比例しヒト種の傭兵が充足し始めると、帝国正統政府の貴族達は掌を返した。それまで亜人の族長や有力者が占めていた正統政府軍のポストをヒト種の将校、ヒト種の士官に与え、いざ戦争が始まると「お前達はもういいよ」とばかりに亜人部隊を置き捨てて行ってしまったのである。

とは言え勿論、そんな恥知らずな内情を自ら曝す様な事はしない。ピニャも「真に困っていた時に助けてくれた者にこそ、皇帝陛下の守護を任せられるのである」と左右に語り、士気の維持をはかっていた。

 

「いずれ我らにこそ決戦の場が与えられる。露払いは他の者に任せて、我らはその時まで英気を養っておくのだ」

 

こんな言葉が空中分解すれすれの彼等をどうにかまとめ上げていたのである。だが、次々と届く知らせは正統政府軍の破竹の勢いを伝える物ばかり。日本軍を主力とする連合軍が苦境に陥るなどあり得ない様に見え、イタリカは危険に曝される状況など、誰も想像出来ないのだ。

ピニャの言う決戦などないと気付いた亜人兵は「何しに俺達はこんなとこまで来たんだ?」という拍子抜けした気分に陥った。そして、「どうせ、こんなこったろうと思ったぜ。正統政府の奴等、俺達を体よく騙しやがったんだ」という反感めいた気持ちを抱く様になったのである。そんな思いに駆られるのは亜人種だけではない。ピニャの騎士団の隊員達までもが、彼等に共感する態度を示していた。

 

「薔薇騎士団は、殿下の剣!皇帝の盾!そして正統政府軍の要!じゃなかったのかよ!?あれだって今頃ケングンと一緒に攻勢の先頭に立ってると思ってたのにっ!そりゃ騎士団にも不満が溜まるぜ」

 

「・・・・ヴィフィータ。言いたい事は分かりますけど、それを部下の前では・・・・」

 

「わかってるさ」

 

彼等からすれば、自分達こそがピニャの剣、皇帝の楯、正統政府軍の中核でもあった。そんな自負を抱く者達が肝心の戦いからのけ者にされていると思えば、どうしたって不満を抱かずにはいられない。

ヴィフィータの漏らした「その気持ちは正当な物だし、理解出来ますけど、それをこの場以外で口にしてはいけませんよ」と言う言葉も、そんな隊内に広がっているみんなの心境を代弁した物だった。騎士団の指揮をピニャから託されているボーゼスは、柑橘の実を齧りながら友人でもある部下を嗜めた。ヴィフィータクラスの高級将校が不満を公言すれば、下々の兵士達はこれ幸い、言葉だけでなく態度で反感を示す様になるからである。勿論、ヴィフィータも「分かってるさ」と素直に頷いて口を噤んだ。

彼女とて波風を立たせたいわけではなく、自分だけがそう思っているわけでない事を確認したかっただけで、ボーゼスに「正当で、理解出来る」と言って貰えれば充分だからだ。

 

「それに殿下は、わたくし達こそが決戦の場に立つ事になると仰ってます。何の根拠もなく口にされた事とは思えないし、何か考えがおありだと思うわ」

 

「それこそ、信じられねえ話だよ。自分でも信じてない事を他人に信じさせるなんて器用な事、俺には無理だぞ」

 

「けれど、わたくしには殿下が本気でそう仰っている様に思えるのよ。だから、気を緩めないで頂戴。体内をしっかり引き締めて」

 

「チッ・・・・・分かったよ。しゃあねぇなぁ」

 

ヴィフィータは頸の髪の生え際あたりを人差し指でポリポリと掻くと、

 

「失礼します」

 

「入りなさい」

 

ボーゼスの執務室に騎士団の伝令が入って来た。

 

「ピニャ殿下より伝令。騎士団幹部は館の執務室に参集せよ」

 

その後、ヴィフィータとボーゼスは館に向かい広間では、騎士団の他招集に応じた各亜人の部族長らも集められていた。そして、執務室の中央に立つピニャからある事が告げられた。

 

「空中斥候が敵軍を発見した。ゴルドールからイタリカに向かっている」

 

と旧帝国軍が自分達の本拠地としているイタリカへ向かっていると言う物だった。

 

「ゴルドール!?イタリカの北東に!?」

 

「我々の戦力は少ない、穴だらけだ」

 

「突然現れたと言うのか?」

 

「ニホン軍も見逃したのか?」

 

「ニホン軍とて万能ではない。我々から見れば神の目を待っていてもだ」

 

「ほっ、ほうこーく!」

 

斥候任務から戻って来たシャンディー・ガフ・マレアが勢いよく扉を開けて跪き報告する。

 

「ゾルザル殿下率いる敵軍一万、カンネーデに陣を敷きました!」

 

そして、届けられた報告はゾルザルの旗印を掲げた旧帝国軍約一万人が近付いて来るというものであった。

 

「・・・・確かか?」

 

「ハッ、この目でゾルザル殿下の旗印を確かに認めました!」

 

「カンネーデか、数は一万か・・・・・どうやってと問う事は無意味だな。きっと兄様は最初からイタリカを決戦の場と決めていたのだ」

 

「殿下はこうなる事を?」

 

ボーゼスがおずおずと尋ねた。

 

「予想していた、あの兄様の事だ。負けが込むと一か八かの大勝負に出るだろうとな。ある意味で意外だったが」

 

「意外?」

 

「兄様はあれで小心者だ。こんな勝負に打って出る程の気概は、本来持ち合わせていないのだ」

 

「これは異な事を?それなのに、出て来ると予想されていた?」

 

「兄様は自分を英雄だと思い込んでいるのだ。いや、思い込まされていると言うべきかな?英雄色を好むと言うだろう。英雄を形だけ真似て、色を好まねばならないと思うから次々と女を漁る。だけど、劣等感が強くて貴族の女とどう接すれば良いのか分からず、目も合わせられない。だから悪所通いをし、奴隷女を無下に扱ったり、虐待したりする。だが、奴隷女で満足していると思われるのは屈辱だ。挙句にな、自分が勇気のある男だと見せたかったのだろう。こういう状況では、乾坤一擲の勝負に出るものだと思い込んでいる」

 

「・・・・・なんだかその、もの凄く・・・・みっともない話ですね」

 

「事実みっともないのだから仕方がないな。その昔、兄様は妾の寝所に忍び込んできた事があった。他の女を真っ直ぐ見れないから妹の身体で自分が男である事を試してみたかったのだろう。勿論すげなくしたがな、妾からすれば当然の話だがな・・・・以来、兄様は奴隷女に走り、妾には複雑な気分を抱いたまま。昔の恥を雪ぐ為に妾に強く当たり自分は凄いんだぞと認めさせたくってしょうがないのだ。それ故に妾を吊し上げたりもしたのだろうが・・・・結局恥の上塗りして、妾に情けない姿を曝す結果になってしまった。ここで打って出るとは意外であったが」

 

何と言う事かと皆揃って頭を抱えた。帝国が、そんな男の見栄の為に振りまわされているのかと思うと、皆やりきれない気分になってしまったのだ。

 

「・・・・この話はこの場だけの内密にして欲しい、兄様の妹として頼む。恥ずかしい話だからな」

 

集まったピニャの部下達は、しょうがないとでも言う様に「はい」と頷いた。最早、ゾルザルを脅威と思う様な者は、何処にもいなかった。その意味では、ピニャは勇壮な演説をする事なく、主立った者からゾルザルに対する恐れの感情を取り去る事に成功したのである。

 

「とは言え、お前達が残っていた事は僥倖である。妾は麾下に諸部族から選ばれた精鋭の兵八千を持って、あの劣等感の塊と戦う事が出来るのだから」

 

イタリカに残る兵は八千に届くかどうかでしかない。とは言え、城に籠って戦うには充分な数でもあった。城市を守り、敵を防いでさえいればいずれ味方が駆けつけて来る。要するに、城壁内部でじっと耐えてさえいれば良いのだ。

 

「だが、それではこの内乱は終わらない。終わらせる事は出来ない」

 

ピニャは、待ち続けているボーゼス、ヴィフィータ、ニコラシカ、ハミルトン、シャンディー、グレイと言った子飼いの部下達、そして亜人連合部隊の指揮官ドッツエル(ダークエルフ)、メイソン(ドワーフ)、エルナン(六肢族)、コルドール(ワータイガー)らに向き直ると告げた。

 

「ハミルトン、シャンディー」

 

「はいっ」

 

「ハッ」

 

「イタリカに残る第Ⅲ軍団の各部族代表を全て広間に集めよ。皆に申し渡しておく事がある」

 

ボーゼスは尋ねた。

 

「そう仰っるのは、常道とは異なる策を用いられるおつもりだからですね?」

 

「そうだ。妾としては、城外に出て兄様を迎え撃ちたい」

 

これには、皆、驚いた様に互いの顔を見合わせた。城に籠っていれば犠牲は最小限で済むと言うのに、敢えて城外で戦い事に理由を見出す事が出来なかったからだ。ベドワイデン地方の領主として子爵に封じられたダークエルフの族長ドッツエルが訝しげに問いかけた。

 

「殿下のご命令とあらば、それが如何様な物であろうとも従いますが、お話は聞かせて頂けるのでしょうな?」

 

「勿論だ。その説明をする為に隊長格の者を集めたいのだ」

 

「では、直ちに皆を集めます」

 

シャンディー達が弾かれた様に走り出した。

 

 

そして、広間に各部族の部族長達が集まると

 

「ピニャ皇太女殿下ご入来ーーっ」

 

ニコラシカの号令と共にピニャが広間に入ってきて部族に向き直り言った。

 

「卿らに告げる。妾は敢えて城外で敵軍に挑むつもりだ。この地を本当の意味での決戦場にする為、ゾルザルをこの地から逃がさない為である」

 

皆が驚愕の沈黙に包まれている中で、グレイ・コ・アルドが尋ねた。

 

「どういう事ですかな殿下?小官にもわかる様に是非、詳しく教えてくだされ。我が軍勢は八千、敵は一万。籠城すれば容易には陥されません。ケングン殿の残置百人隊とハクゲキホウ隊もおります。その間にお味方が駆けつけてくれましょう」

 

皆が発言しずらい時に発言し、問いにくい事を面と向かって問える位置にグレイと言う男はいる。歴戦のグレイが発する問いは、将兵の心に沿った物が多いのだ。ピニャも、彼を納得させる事が兵士達を納得させる事に繋がると理解していた。

 

「まさにそれだ、グレイ。もし、妾達が城に立て籠って戦ったとしよう。そうなればゾルザル軍は、城を陥そうと遮二無二攻めかかって来るだろう。だか、城攻めに手間取れば兄様の事だ。我が援軍に背後を襲われぬかと怖れ、そして適当な所で見切りをつけ、この地から逃げだし、別の地に根を下ろして再起を図ろうとするだろう。これでは内乱は終わらぬ。だから妾は兄様にそうさせない為に、時を忘れさせねばならないと考える。故に兄様にはもう一押しで勝てると思わせねばならぬのだ。味方が駆け戻ってくる瞬間まで」

 

「そのための野戦ですか?しかし、そうなると相当の犠牲が出る事が予想されますが?」

 

「そうだ、故に犠牲は覚悟してもらいたい。我らは基本的には守勢で戦い続ける。皆が懸念している犠牲も多く出るだろう。だが、兄様を逃して、内乱が長引くよりは良い筈だ。この地で決着をつけた方が犠牲は少なくなる筈だ」

 

この説明の重さに皆が黙ってしまった。確かに、ピニャの言う通りであろうと思われたからである。とは言え、それは犠牲の数字として捉えているから言える事だ。

ここにいる隊長格の者達にとって犠牲となる兵士は、顔を知り名を呼んだ事のある者達である。それを将来の為に、敢えて供犠にすると言われても、なかなか納得の出来るものではないのだ。

 

「しかし殿下、お味方は本当に戻って来ますでしょうか?戻って来るとして、いつ頃に?」

 

グレイの問いに、ピニャは分からんと笑った。

 

「戦闘中でもあるし、味方がどこまで進んでいるかによるから、いつ戻って来るまでは明言出来ぬが、おそらくは一両日中には来ると思ってよかろう」

 

ダレンダ地方の領有を伯爵として認められた、ドワーフの族長メイソンが文字通り重い腰をよっこらせと上げた。

 

「う〜む、それならば仕方あるまい。先鋒は儂が出よう」

 

「いや、ドワーフばかりに任せておけんぞ。我ら六肢族に先鋒を!」

 

「そうだ!考えてみればこれは帝国の隅っこに追いやられていた我らの誇りを取り戻す戦い!我らだけで敵を討とうぞ!」

 

ドッツエル、エルナン、コルドール達が次々と声を上げる。更に、隊長達もその声に押される様にして頷き始めた。

 

「うむ。この機会を失っては、次の戦いまでまた蔑ろにされかねん。儂らはここで誰もが認めざるを得ない程の戦果を得なければならんのだ。後の語り草となる様な戦いをして見せようぞ」

 

「その通り。戦いから遠ざけられ腐っていた我らの前に、敵と戦う機会が与えられたのだ。これを喜ばずなんとする」

 

「そうだな、遠のいたと思った手柄首が向こうから転がり込んで来たのだ。これを逃してなんとする。野戦ならゾルザルを捕らえる事も出来るかも知れん」

 

隊長達の高まった戦意と、壮絶な戦いへの覚悟はたちまち兵士達にも伝わった。ここで怯まずに戦い抜いてこそ、部族の地位を高め、自分の家族や子供達の未来は開かれるのだと言う希望を胸に抱いた亜人部族の兵士達は、正面から勢いに任せて蹂躙しようと突き進んで来るゾルザル軍の鋭鋒に対して、一歩も退く事なく立ち向かったのである、

 

「よし、皆帰営し兵に伝えよ。この決戦末代まで語り継がれる戦いとするのだ!出陣!!」

 

ピニャがレイピアを抜き掲げてそう言うと、亜人部族らは声を高らかにして叫んだ。

 

「このタイミングで!?まずいな・・・・」

 

そんな中で、壁の淵に立っていた柳田は部下から韋駄天の発令を聞いて眉を顰める。



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撤退命令

フォルマルト伯爵領イタリカでは、迫り来るゾルザル率いる旧帝国軍を迎え撃つべくイタリカに待機していたピニャの薔薇騎士団や各亜人部隊が出撃の準備をし、ピニャからの出陣の命を今か今かと待っていた。

そんなフォルマルト伯爵家の屋敷のモルト皇帝の寝室では、ベッドの上で横になっているモルトと向かい合うピニャ

 

「ゾルザルめが来おったか」

 

「カンネーデに陣を敷いたと、これより出陣致します。父上」

 

「あやつを止めてみせよ。ピニャ」

 

モルトからそう言われたピニャは、静かに頷く。ピニャにとってこれから行われるのは異母兄妹とは言え実の兄妹同士の喧嘩なんて生優しい物ではなく、血縁者同士による殺し合いが始まるのだ。そして、ピニャは寝室から出て行く。

 

「シャンディー、スイッセス」

 

「「ハッ」」

 

寝室から出て来たピニャを出迎える二人に、ピニャが二人の名前を言うと二人は返事をしながら直立不動の姿勢をとる。

 

「二人ともここを頼む」

 

「ハッ」

 

「命に替えましてもお守り致します」

 

すると、ピニャは突然シャンディーに抱擁を交わす。

 

「殿下・・・・・ッ」

 

突然のピニャからの抱擁に戸惑うシャンディーを他所にピニャはスイッセスとも抱擁を交わす。離れたピニャの顔は不退転の決意で満ちており、その表情を見た二人はピニャに敬礼をする。

 

特地の上空では1機のダグラスC-47スカイトレインが上空を飛行していた。

 

『アルヌス方面軍、全軍に達する『韋駄天』。繰り返す『韋駄天』』

 

その無線はエルベ藩王国やロマ川下流そして、帝都悪所の事務所など各地に展開している日本軍にも『韋駄天』の知らせが届いた。

 

「悪所事務所『韋駄天』了解。撤収準備を開始する送レ」

 

「撤収ですか!?」

 

「あぁ、指令が来たからな。銀座で『門』を巡ってテロが発生したそうだ」

 

「まじかよ」

 

「帰還希望者は準備する様に先発隊にも伝達・・・・・と言っても常駐の連中は今頃・・・・」

 

一方その頃、皇帝や皇族の住まう帝都の象徴たる皇城。しかし、今やゾルザルが実権を握り遷都によって今では誰も住んでいない皇城では、先発隊の出雲達が帝都にやって来る連隊を待っていた。剣崎少尉は玉座に座り王様気分を味わったり、他の兵士は一番乗りの印としてチョークで柱に自身の所属部隊と名前を刻んでいた。すると、出雲中佐が

 

「お前ら!急いで悪所に戻るぞ」

 

「へ!?」

 

といきなりの撤収命令に剣崎達は理解が追いつかなかった。

 

「何かあったんスか、隊長」

 

「連隊は帝都に来ない「韋駄天』が発令された。お出迎えはなしだ」

 

「ちぇー、つまんねぇの」

 

「まじかよ」

 

「また、関東大震災でも起きたのか?」

 

「お前らみたいに特地満喫組ばっかじゃねぇんだ。ケツ上げろ、オラ!」

 

「りょーかい」

 

「はーい」

 

出雲に言われて先発隊の兵士達は、ぶつぶつと文句を垂れながら大広間から出て行く、

 

「この戦争が終わった時、あそこに座るのはバカ皇子か男色嗜好のお姫様か・・・・・」

 

剣崎は去り際に玉座を見つめ、この内戦が終わる頃には玉座に一体誰が座っているのかとそう呟き広間を去って行った。

 

 

ベッサ近郊バトバ ここでは、旧帝国軍の兵士達が塹壕の中で息を潜めながら震えていた。その視線の先には地響きを響かせながら大地を踏み荒らす数十台のⅥ号戦車ティーガーⅠ、Ⅴ号戦車パンターG型、Ⅳ号戦車H型が迫って来て来た。突然戦車が嵐のように襲い掛かって来るのだから旧帝国軍兵士の間に恐怖が広がるのも当然だった。特にローマ時代の人間があの独特の轟音が聞いたなら尚更だった。なにしろ、エンジンを始動させると飛行機並みの音がするのだから

 

「おい、貴様ら逃げるなっ」

 

恐怖に耐えられなくなり塹壕から飛び出て行く兵士が現れる。その時、ティーガーの砲塔が塹壕から出て来た兵士達に向き主砲が火を吹き、逃亡兵四人が吹き飛ばされた。目の前でその光景を見た兵士達は誰もが恐怖に駆られた。戦車は、城塞に向かって88mm戦車砲や75mm戦車砲で砲撃し、前進して来たが突然砲撃が止み帝国兵が塹壕から顔を出すと戦車隊が動きを止めたのだ。

 

「止まった・・・・」

 

「見ろ!鉄の戦象が引いていくぞっ」

 

突然戦車隊が後退を始めたのだ。

 

「なんで戦闘停止するんだ!?敵は壊滅寸前だぞ!!」

 

「『韋駄天』が発令されたんだよっ」

 

「くそぉっ、ここまで来て!撤収かよ!!」

 

旧帝国軍の討伐にあと一歩と迫っていた日本軍に突然の撤退命令が発令されて参謀の一人が悪態をつく。

 

「連隊長!『門』に異状が発生したとしてここからでは間に合うかどうか・・・・・」

 

「いっそ帝都への前進を続けるべきでは?」

 

参謀の一人がそう進言すると加茂大佐は俯き少し考えると

 

「第一連隊はこれよりアルヌスに帰還する。地図を出せ、経路を調整しないとすぐ渋滞にするぞ。第二連隊の久瀬を呼び出してくれ、使えるヘリも全部動員する、将兵だけでも日本に帰すぞ」

 

加茂大佐は、このまま第一戦車連隊はアルヌスに帰投する選択をした。その後、地上の兵士達はヘリやトラック、装甲兵員輸送車などに乗ってアルヌスへと向かう。

 

「自分達が戻るまで保たせて下さいよ、大将」

 

加茂大佐はそう呟きながらアルヌスへと向かった。

 

 

一方、デュマ山脈にて旧帝国軍の竜騎士から襲撃を受けている第四戦闘航空団は被害を出しながらも交戦を続けている。

 

「喰らいつけぇ!!土手っ腹に槍を見舞ってやれいっーーーーーー1番槍ぃ!!」

 

竜騎士のボダワン将軍がH-21に突撃し、操縦席の窓にジャベリンを突き刺し窓を損傷させる。

 

「ハハァッ、見たか!」

 

「閣下に続けぇ!」

 

それに続くように他の竜騎士らも我先とH-21の群れに突っ込んで行く。だが、必死のH-21からの抵抗にあいH-21はそのまま戦線から離脱して行った。

 

「くそっ、逃したかっ。下方の小さい方にかかれ!」

 

H-21に逃げられた事から標的をH-21から下を飛行しているFa223に標的を替えFa223に向かって急降下して来た。

 

『上空敵増援!急降下!』

 

「全機、落ち着け!ヘリの方が速い、編隊を詰め各機援護しろ!孤立すると狙われるぞ!」

 

「クソ、空中戦の訓練なんて受けてねぇってのに!」

 

「頭だ頭!竜の頭を狙え!」

 

「なんて!?頭?」

 

悪態をつく機銃手にデュラン王は竜の頭を狙うように言われ、その通りにブローニングM2を竜の頭目掛けて射撃をする。頭を狙われた竜は脳天をぶち抜かれたり目に当たり、バランスを崩してそのまま堕ちたり、岩などに衝突したりと無惨な最期を迎えた。

 

「横っ腹を狙え!敵兵がむき出しだ!」

 

「細身の鉄トンボに気をつけろ!奴の吐く鉄礫は鱗を貫くぞ!」

 

竜騎士達は、ヘリに搭載されている機銃に警戒しつつ側面に向き出ている搭乗員を狙おうとして来る。

 

『撃墜!次だ!残弾に気をつけろ』

 

Fa223を護衛するS-51JもブローニングM2で翼竜を屠って行く。

 

『おっと、ヘリより機敏な動きしやがる」

 

「あの丸いのすばっしっこいぞ!速い!」

 

「閣下、敵が態勢を整え突破の構えを!」

 

「何をしておる!隙を与えるな、鉄トンボに爪を立ててやれ!突撃!!」

 

将軍がそう言うように、一騎の翼竜がFa223に特攻を仕掛けて来た。

 

「そいつを早く叩き落とせ!」

 

張り付く翼竜を搭乗しているエルベ兵や日本兵は小銃や剣で何とか翼竜を落とそうとしたがヘリのローターが翼竜に当たりローターがやられてヘリは操縦不能となり翼竜共々墜落した。

 

『体当たり!?』

 

『畜生誰の機だ!?』

 

『突っ込んで来る!回避』

 

「全機回避機動しつつ、全速で東へ突破しろ!」

 

 

「帝国竜騎兵も堕ちたものよ」

 

デュラン王は、竜騎士の捨て身の体当たり攻撃を見て、そう吐き捨てながら嘲笑う。また、1機のFa223の後ろに翼竜が付いていた。

 

「ケツにつかれた!味方が射線に入って射てねぇっ、この混戦じゃこれ以上増速出来ん、1番機追い払ってくれ」

 

『だめだ、2番機当たっちまう』

 

竜騎士の射線上には味方のFa223が重なってしまい、下手に撃てば味方に当たってしまうため発砲出来ないでいた。

 

「くそっ、了解!編隊から抜けて引き剥がす!」

 

「右から来るぞ!」

 

コクピットの右横から別の竜騎士が迫って来てこちら目掛けてジャベリンを投擲しようとしていた。絶体絶命のピンチである、果たして彼らはこの状況から抜け出す事が出来るのか?



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男の意地

竜騎士から放たれた槍は操縦席の窓を貫いて操縦手の手前でデュラン国王が素手で槍を掴んで止めたのだ。

 

「お主らに死なれたら困るからのぅ、・・・・・何を見ておる!左に回り込んだぞ!!射よ!射よ!」

 

「放て!」

 

デュランの命令でヘリに搭乗しているエルベ藩国軍の兵士も翼竜目掛けてクロスボウを放って応戦する。

 

「大丈夫か?」

 

「あ、ああ。くそっ、編隊から外れちまった」

 

「2番機包囲された。S-51援護してくれ」

 

『すまん、S-51全機弾切れだ』

 

S-51Jに援護を要請したが弾切れで援護射撃が不可能となってしまった。

 

「着陸しよう。竜に抱き付かれるよりはマシだ」

 

「あれ!」

 

「んぎ!?」

 

「あの色違いの翼竜!あやつが敵将!!」

 

とデュランは、操縦手の頭を掴んで無理矢理上の方を向かせ敵将を指差しながら叫んだ。

 

「王様はなんだって?」

 

「上空の敵将が乗る竜に向えって」

 

「な!?」

 

「任せたぞ」

 

「これ以上ぶん回したらエンジンが・・・・」

 

「陛下!?」

 

部下の制止も聞かずデュランはヘリのハッチを開けて、身を乗り出しメガホンを片手に敵将に向かって自分と一対一の一騎打ちを申し出た。

 

「そこの騎士!さぞかし名のある者と見た!一騎打ちに応ぜよ!」

 

「む、おもしろい。我は帝国軍ゾルザル殿下が将ポダワン!エルベ藩国王デュラン陛下とお見受けする!」

 

「ポダワン伯か、相手に不足なしっ」

 

敵将ポダワンも一騎打ちの申し出を受諾した。

 

「ゆけ!天馬に拍車を入れよ!」

 

「これ以上の名誉なし」

 

こうして、デュラン国王とポダワン将軍の一対一の一騎打ちが始まった。二人は槍を構えて突っ込んでいく。すかさずデュラン国王は、槍を投げその槍はポダワンの兜に命中し兜が脱げると頭から血を流しており、ヘリの通り過ぎ様にポダワンはデュランのマントを切り裂いていた。

 

「右じゃ右!」

 

「ちょっ陛下っ」

 

デュランは、操縦手の頭を掴んで右に傾けさせ操縦手も勢いにスロットルレバーを右に旋回させる。翼竜の正面に向き再び両者が突進する、するとポダワンがニヤリと嫌な笑みを浮かべそれを見たデュランは何かを察知したのか再び操縦手の頭を掴んで引っ張り操縦手はそれに釣られてスロットルレバーを引いてヘリを上昇させる。ポダワンの翼竜はそのままヘリの下を通過して行った。

 

「あやつ翼竜ごとぶつかる気だったわ・・・・む!」

 

「どこ行った!?下か?急降下で逃げたか?」

 

デュランがポダワンに振り向いた時には、ポダワンの翼竜が姿を消していたのだ。すると、突然ヘリの下からポダワンが姿を現し槍を振り翳そうとしていた。その槍は、デュランの左手の甲を引き裂いた。

 

「陛下!」

 

「着陸する!座ってろ!!」

 

デュランは敵将ポダワンの竜騎士に飛び乗って来たのだ。まさか、飛び乗ってくるとは思っても見ずポダワンは驚愕した。

 

「なんとぉっ」

 

「まだまだぁっ」

 

「属国の藩主風情が!」

 

そう吐き捨て、デュランの顔面に拳を叩き込んできた。そこからは、二人によるどつき合いが始まった。

 

「連合諸王国軍の結成は貴様の進言からと聞く!アルヌスで散った将兵に死んで詫びろ!!」

 

「恨むならイタリカのモルト陛下を恨め!」

 

「当然恨んでおる!いつか復讐してやるわい!」

 

デュランは恨み言を言いながらアルヌスで散っていった仲間達の仇と言わんばかりにポダワンに殴りかかる。

 

「左手で竜槍を受けたのが運の尽き・・・・」

 

ポダワンは先の一騎打ちの際彼の槍がデュランの左手の甲を抉って左手が使えないと判断し、腰の短剣を抜きデュランに振り翳そうとした時、ドスッと言う音と共に彼の首に鏃が突き刺さっていた。

 

「左手なんぞ、とうの昔にエムロイに捧げたわい」

 

デュランの左腕は先のアルヌス攻防戦の末日本軍の攻撃により喪失してしまい、今は義手を嵌めているがその義手には暗器が仕込まれていたのだ。デュランは、ポダワンが短剣を振りかざす直前左手の義手に仕込んでいた鏃を飛ばしたのだ。

 

「ポダワン閣下が!?まさか」

 

「敵の動きは鈍っている、追い詰めろ!」

 

旧帝国軍の竜騎士達は、将軍が討ち取られても攻撃続行をしようとしていたその時、二騎の翼竜が爆発し墜落していった。その爆発の煙の中から現れたのは数機のゼロ戦だった。

 

「久里浜、あの中に突っ込むぞ」

 

「了解!」

 

「久々の空戦だぜ」

 

「峡谷にキスすんなよ」

 

ゼロ戦が到着した事により戦況は一気に日本軍側に傾いて行った。ゼロ戦隊は次々と敵の翼竜に20mmや7.7mmや一部火力アップの為7.7mmから12.7mmに変えられたゼロ戦の機銃により撃ち落とされていく。

 

「ゼロ戦だ!」

 

『健軍大佐、待たせたな』

 

ゼロ戦が到着した事で窮地に追い込まれていた第四戦闘航空団は歓喜の声を上げた。

 

「鉄竜だ!低空へ逃げろ!」

 

竜騎士達はゼロ戦から逃れようと低空飛行を試みたが、しかし速度と運動性に優れたゼロ戦から逃れる事は出来ず次々と竜騎士達はゼロ戦の餌食になり、数分後には上空を飛んでいたのはゼロ戦と第四戦闘航空団のヘリだけとなっていた。

 

『敵はあらかたやっつけた大丈夫か?』

 

「助かった、神子田中佐よく来てくれた」

 

『なぁに礼は帰ってからでいいぜ・・・・・女を紹介する事でな」

 

「あ?」

 

突然神子田中佐から女を紹介しろと言うので、健軍大佐は一瞬フリーズした。

 

『聞いたぜ、健さん。騎士団の女の子と結ばれたって、いいな〜。俺も特地の美人やお嬢様と仲良くなりたい』

 

「・・・・あんたの噂も聞いてるよ、神子田さん。基地移動の度に突撃して撃破されまくってるんだって」

 

『それ以前にここじゃ出会いがないんだよ!空母での艦隊勤務や航空基地に籠りっきりで街にも行けねぇ!こちとら女に飢えたんだよ!』

 

『ここじゃ平手打ちどころじゃすまねーかも』

 

『うるさい久里浜!これが唯一のチャンスなんだよ。健さんに出来て俺に出来ない筈がない!そうでなきゃこっちで手に入れたマジックアイテムでも使ったんだぁっ』

 

「こっちはむしろ使われた方だって、だいたい交際禁止だろうが」

 

『何を今更、頼みますよ』

 

「言っとくがなぁ、彼女らは歴戦の猛者だぞ」

 

『大いに結構!気の強い女はむしろ好みだ。あ、そういや言い忘れてたが俺のゼロ戦な燃料がそろそろやばいんだ』

 

と神子田の突然の爆弾発言に、健軍大佐らは驚愕した。

 

『俺は!健さんが女紹介してくれるって言うまで!ここを飛び続ける!』

 

「あんたバカかっ」

 

『ほらほら墜落しちゃうぞ〜、落ちたら健さんのせいだぞ〜』

 

「ぐぬぬ・・・・わかったわかった掛け合ってやるが後は知らん」

 

『やったっ、ありがとう健さん!話がわかる!詳しい話はまた後だな!』

 

あまりにも子供みたいに駄々を捏ねた上、自分の命を人質にして脅しをかけて来たので健軍大佐は、呆れながら話を付けるぐらいはすると言うと神子田中佐は歓喜の声を上げながら飛び去っていた。

 

「悪魔め・・・・全機着陸せよ。負傷者の収容と状況を確認する」

 

そんな飛び去って行くゼロ戦を見ながら健軍大佐は、呆れながらヘリを着陸させて先の戦闘で墜落したヘリの搭乗員の救助へと向かう。

 

「負傷者の収容と後送機材の整備と再編で半日はかかります」

 

「わかった、負傷者の後送を急いでくれ」

 

すると、部下の一人が慌ててきて健軍大佐に旧帝国軍がイタリカに向かっていると伝える。

 

「けっ、健軍大佐!イ、イタリカより入電!敵ゾルザル軍イタリカ北東に出現イタリカ近郊まで前進っ」

 

「・・・・やはり来たか」

 

「『料理人』から事前に報告はなかったのか!?」

 

「連絡できる状況ではなかったのだろう。アッピア街道より北は偵察が手薄だ、その隙にデュマ山脈を越えたか。正統政府軍の対応は?籠城か?合戦か?」

 

「は、はいっ。イタリカ城外で応戦するとっ」

 

「さすがピニャ殿下」

 

そう言って健軍はニヤリと笑みを浮かべながそう言うと、戦闘で怪我して手当てを終えたデュラン国王がやって来た。

 

「ケングン殿、皆降りて如何した!?レッキ攻略にゆかぬのか?」

 

「ゾルザルがイタリカを襲撃しているとのこと、我々はイタリカに急行します。陛下も如何ですか?」

 

「無論だ、バカ皇子に鉄拳を喰らわせてやるわい」

 

とデュランは、笑顔でゾルザルと戦う姿勢を見せそう言う。

 

「あ、あの連隊長、アルヌスから入電が」

 

「なに?それを早く言わんか!」

 

「せ、戦闘中に一気に入って来たので・・・」

 

「アルヌスからは何を言って来た」

 

「状況『韋駄天』が発令されました」

 

すると、健軍大佐の表情が険しくなり拳を強く握り締めていた。

 

「間違いないか?」

 

「ま、間違いありません。イタリカからも「韋駄天』が中継されて来ました」

 

「・・・・わかった。・・・・指揮官機より全機。状況「韋駄天』が発令された。我々第四戦闘航空団はこれよりアルヌスに帰還する」

 

「まじかよ」

 

「ここで終わり?」

 

健軍大佐は、韋駄天が発令されたとして他の部隊と同様アルヌスへと帰還すると指示するとそれに異議を唱える者が現れた。倉田伍長だった。

 

「待ってください、連隊長!まだ『脱兎』は発令されていません」

 

「『韋駄天』の意味は知っているな倉田伍長」

 

「わかっています。ですが、イタリカでゾルザルを攻撃する時間はまだあるんじゃないんですか?」

 

「『脱兎』が発令されたら特地は沈む船と同じ、船底でウロウロしている暇はないんだ」

 

「イタリカで俺たちを信じて戦おうとしている人達はどうなるんです?俺や連隊長を信じて・・・・男としてやらなきゃいけない時があるでしょう!?ここで逃げたら男が廃ります!!」

 

イタリカには、健軍と最近恋仲になったヴィフィータや倉田といい感じのペルシアがおり、ゾルザルら旧帝国軍と戦おうとしているのに自分達はおめおめと引き返す事にはらわたが煮えくりかえる思いだった。

 

「確かに、お前の言う通りだ。だが、部下達にだって帰りを待つ家族がいる俺やお前の事情に皆を巻き込むわけにはいかん。俺はこの部隊の連隊長として部下の生命を預かっている!全員搭乗しろ」

 

「・・・・わかりました。じゃあ、俺だけでも行きます」

 

倉田は、自分一人でも行くと言い出したが周りが倉田を押さえつける。

 

「バカ野郎、歩いて何日かかると思ってんだ!」

 

「一人で行ってなんになる!」

 

「残留希望出してんだいいじゃないか!」

 

「H-21に放り込んでおけ目を離すな」

 

暴れる倉田は、そのままH-21に押さえつけられる形で乗り込む事になった。

 

「デュラン陛下にはなんと説明します?」

 

「アルヌスで再編すると伝えてくれ」

 

健軍大佐は、デュラン国王にはアルヌスに帰還すると正直に言わずアルヌスで再編すると誤魔化す事にした。

 

一方、その頃イタリカカンネーデでは、ここでは旧帝国軍のゾルザルの主力が陣を構えていた。

 

「なぜ陛下は動かない?」

 

しかし、当の総大将であるゾルザルは一向に動こうとはしない。まるで、何かを待っているかのように笑みを浮かべながら遠くを見つめていた。



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イタリカ会戦!

新年あけましておめでとうございます!
今年も人斬り抜刀斎の『GATE 大日本帝国 彼の地にて、斯く戦えり』と『ガールズ&パンツァー 蘇る宿命の砲火』の方をよろしくお願いします。


イタリカを前にしても一向に動こうとしないゾルザルに、何故敵が守りを固める前に攻撃を開始しないのかヘルムが尋ねる。

 

「ゾルザル殿下!何を待っておられるのです?イタリカが守りを固める前に城攻めを!」

 

「ヘルム殿あれを、イタリカから敵軍勢が出て参りましたぞ」

 

「あやつら会戦で雌雄を決するつもりか!?」

 

カラスタに言われてヘルムが、イタリカの方を見ればピニャ率いる新政府軍がイタリカから出て来ているのが確認出来た。新政府軍は籠城戦ではなくここで野戦に持ち込もうとしているのがわかる。

 

「殿下!直ちに攻撃命令を!敵が陣形を組む前に一気呵成に蹴散らすのです!」

 

「いや、待て。敵がわざわざ自分から出て来ておるのだ。待とうでは無いか。野戦を望むと言うのであれば受けて立とう。城攻めより手っ取り早い」

 

ヘルムは新政府軍が、陣形を組む前に攻撃を開始する様進言するが、ゾルザルは新政府軍が野戦で挑もうとしているのを見て受けて立つと言い、何より籠城での城攻めをより短期決戦で済むからいいと言う。

 

「あの赤毛・・・・」

 

「報告!敵勢およそ六千!敵本陣にピニャ殿下の旗印が」

 

と伝令兵からの報告を聞いたヘルムは、少し複雑な表情を浮かべた。元々ヘルムは、薔薇騎士団、第三部隊隊長だ。即ち、ピニャの部下だった訳だ。しかし彼自身、騎士団に入団したのは出世のためのコネ作りが目的だったらしく、騎士としての心構えよりも処世術を重視している。

 

「ヘルムよ、戦いづらいか?」

 

「いえ、手を抜いたらピニャ殿下にお叱りを受けてしまうでしょう」

 

「ならばお前の力を存分に見せてやるがよい」

 

「ハッ」

 

ヘルムがピニャの部下だった事を知っているゾルザルは、ヘルムにそう尋ねるとヘルムは大丈夫だとそう答える。

 

「ボウロ!」

 

「ここに」

 

ゾルザルは、後ろに控えているボウロにイタリカで療養している皇帝モルトの身柄確保を命じる。

 

「テューレの始末は後回しだ。今は皇帝が先だ、俺の下に必ず連れて来い」

 

「はいでございまする」

 

「では、戦争を始めるとしよう」

 

ここに、最終決戦イタリカ会戦の火蓋が切られた。末端兵士から士官に至るまで旺盛な活力と歓喜の感情が漲っていた。運命を決する戦闘の準備を日本軍将官が間近で見るば、日本陸海軍の将兵達を思い浮かべるだろう。

 

「兄様・・・・・」

 

双眼鏡で丘の上に陣取る兄ゾルザルの姿を確認してそう呟くピニャ。

 

そして、戦闘開始のラッパの音が響き渡る開戦の合図だ。ゾルザル派帝国軍は、イタリカの城市を背にして布陣する正統政府軍に対して正面から戦いを挑んだ。強固な要害を背にされては、側面や背面に回り込む事は難しく、他に攻めの手がなかったからである。

 

「第一ゾルザル軍団第一大隊!前進!!」

 

「発射用意!」

 

旧帝国軍側は新政府軍へ向けてバリスタを投擲しようとしていたその時、数台のバリスタが爆破を起こしたのだ。

 

「何事だ!?」

 

「ニホン軍の爆裂魔法です。森の中にお下がりを!」

 

突然の爆発にゾルザル等は一瞬たじろぐが、ボウロがゾルザルに心配ないと言う。

 

「ゾルザル様、しばしの辛抱を」

 

「なんだと!?」

 

「イタリカよりニホン軍が去る動きがありまする。この攻撃もすぐにやむでございましょう」

 

ボウロがそう言う一方、バリスタを攻撃した日本軍の砲兵隊では。彼等は、二式十二糎迫撃砲で旧帝国軍のバリスタを攻撃した。

 

「敵バリスタ撃破、次目標敵司令部ーー」

 

『射撃中止!射撃中止!誰が砲撃命令を出した!さっさとアルヌスへ向かえ!』

 

「目の前で味方が戦うってのに見捨てるのかよ!」

 

『ピニャ殿下は、奴を逃さない様にここでの決戦を選んだ。第二第三のゾルザルを生まないためにな』

 

「だろ?柳田、ゾルザルをやっちまえば」

 

『俺達は命令に従わなきゃいけねぇんだよ。破って好き勝手動き回る奴はあいつだけで充分だ』

 

「・・・・・くそ。わかったよ。撤収する」

 

柳田に言われた砲兵隊はやりきれぬ思いで撤退の準備を始める。

 

「放て!」

 

そして、迫撃砲の攻撃から生き残った旧帝国軍のバリスタやクロスボウによる攻撃が開始され、矢の雨が降ろうとしていたが

 

「あ?」

 

「矢が風に巻き込まれた?」

 

「精霊魔法か!?」

 

放たれた矢は、全て突風に巻き込まれて勢いを失って大地へ落ちていった。

 

「亀甲隊形!」

 

今度は、槍を突き出し盾て縦上に配置する亀甲隊形で攻めて来れば新政府軍の弓兵からなる正確な狙撃が旧帝国軍に襲い掛かる。新政府軍の射撃は冷静沈着で的確、旧帝国軍の兵士が戦線を脱落するのに時間は掛からなかった。

 

「ぐぁっ」

 

「ぐっ」

 

「がっ」

 

「盾を!?」

 

旧帝国軍も激しい反撃に出る。しかし、新政府軍に致命的なダメージを与える事が出来ない。旧帝国軍側はやけになって射撃を起こっていた。活発な射撃だが、照準が不正確で多くの矢を飛ばす割に新政府軍に損傷を与える事が出来なかった。対して、次々と新政府軍の矢の餌食になるのを見て旧帝国軍は槍を投げ捨て、剣と盾を構えて突撃体勢になる。飛び道具が役に立たない今は接近戦に持ち込もうとしていた。

 

「陣形を解け!速足っ、槍を放て!」

 

「突撃!」

 

槍先を揃え盾を並べ、その後ろに身を隠しながら突き進んだ両軍の先鋒は、ただ力任せにぶつかる事になった。

 

「ドワーフかよっ、くそが!!」

 

槍の穂先を胸受けた兵士が、自らの血しぶきを浴びながら糸の切れた操り人形の様に崩れ倒れた。だが、兵達は一歩も退かずに向かい合い、その場に脚を止めて戦った。

隊列を少しも乱す事なく、自分の前に立つ味方の背中を支えて立ち、前の兵士が倒れるやいなや、戦斧を振り下ろし雄叫びを上げながら突き進んで行った。ワータイガーが、大地を這う様にして敵兵の脛をなぎ払い、ゾルザル軍の隊列に亀裂を入れる。その背後からドワーフの重装兵が楯を並べて凄まじい圧力を掛け、エルフの弓兵が正確な狙いで矢の雨を降らせた。

ロキ族や、ギガスと言った半裸の巨人種族が錆びた剣を振り回す。小柄なサムツァが槍を並べて、次々に小刻みに突き出す。ゾルザル軍の兵士達は、亜人兵の意外な程の堅い守りに、攻めあぐねる事となった。

 

「正面から攻めるしかないと、小勢が相手でも意外と手間取るものだな」

 

戦場の様子を眺めながら、ゾルザルはそんな感想を漏らした。緒戦とは言え戦況が拮抗してなかなか動かない様は、見ている側にとっては非常に忍耐を要求されるものなのだ。

 

「結局のところ戦いとは、相手にどうやって包囲するかです。その意味でピニャ様は、囲まれない事を目的として、この野戦を考えられたのでしょう。籠城してしまえば備えは堅いですが、同時に逃げられなくなる事も意味しますので」

 

抜け穴でも用意してあれば別ですがね、と言うヘルムの解説にゾルザルは、ふんと鼻を鳴らした。

 

「小癪な奴だ。こんな事なら毫象部隊を引き連れてくるべきだったか」

 

そうすれば正面から踏み潰してやれたものを、とゾルザルは愚痴った。だが、森の深い山岳地帯を行軍するのに、その様なものを連れてくる事は出来なかった。

 

「とは言えピニャの狙いが最初から退路の確保あるならば、イタリカから逃れ出ようとする者を監視させる必要もあろうな。上手くすると大魚を得られるかも知れんぞ」

 

ゾルザルは、ピニャが包囲を嫌った理由を、皇帝の逃げ道を確保するためと見た。ならば、見張っていれば皇帝がイタリカから逃げ出す所を捕えられるかも知れない。

 

「はい。既に斥候を放って監視させております」

 

「報告!敵はドワーフ他亜人多数!我が方より多数応戦」

 

伝令からの報告を聞いたゾルザルは、ヘルムに助言を求める。

 

「だそうだ、どうするヘルム」

 

「亜人向きのいい手があります。大隊二百歩後退、第三梯団、補助騎兵前へ」

 

ヘルムはそう答えてから、そう指令した。太鼓が叩かれ、ラッパが吹き鳴らされる。すると、今まで戦わず控えていた方陣の千名が、前進を開始して行った。新たな戦力の参入を受けて、ピニャの軍からも一部隊がその進路を妨げる様にして動いていた。その数千五百ぐらいに見える。

 

「ピニャ殿下、貴女の弱点は原則に忠実で相手より多い戦力で対応したがるところだ!」

 

ヘルムは矢継ぎ早に命令を放った。

 

「第四梯団も続けて前進せよ!」



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イタリカ会戦!その2

新政府軍と旧帝国軍とのイタリカ近郊での戦闘は苛烈を極めていた。お互い剣と槍、盾などの接近戦で一進一退の攻防を繰り広げていた。

 

「大隊二百歩後退、前列百人隊密集陣形!中列まで後退」

 

すると、旧帝国軍側から後退命令が出て二百歩後退を始める。

 

「奴ら退くぞ!」

 

「歯ごたえのない連中だわい」

 

「追え追え!」

 

「バカモン、追うでない!隊列に留まれ!」

 

撤退して行く旧帝国軍の様子を見て気を良くしたドワーフが追撃を仕掛けようとするもメイソンが追撃をしようとする部下を制止すると左翼面からケンタウロスの部隊が弓矢を放ちながら突撃を仕掛けて来た。

 

「ケンタウロス!!」

 

「まずい!下がれ下がれっ」

 

ドワーフがケンタウロスから襲撃を受けているのを見たワーウルフの指揮官ヴァルカッツは

 

「いかん!ヴォルカッツ隊出るぞ!他の隊も続け!敵騎兵どもに当たるっ、続け!!戦友ども!!」

 

ヴァルカッツの号令の下ワーウルフがケンタウロスの群れに向かって突撃する。

 

「相手にするな!命令に従え!」

 

「犬狩りだ!」

 

「くそっ、戻れ!」

 

ワーウルフの群れを見たケンタウロスは、指揮官の命令も聞かずワーウルフに攻撃目標を切り替える。

 

「メイソン隊下がれ!!ケンタウロスども!相手してやるぞ!」

 

そう言うと同時に、ヴァルカッツがケンタウロスを横一文字に切り裂いたのを皮切りにワーウルフとケンタウロスの交戦が始まる。

 

「メイソン隊戦列に復帰します。ヴォルカッツ隊と補助騎兵が敵騎兵と交戦開始」

 

「うむ」

 

グレイから戦況の様子を言われピニャが頷く、

 

「うまい!左翼の騎兵を釣り上げましたわ」

 

「あっちも動き出したぜ。回り込むつもりだ、俺が行こうか?大した数じゃねぇ」

 

双眼鏡でヴィフィータが右翼面から敵が回り込もうとしているのを確認し、自分が出ようかと言うが

 

「いや、赤薔薇隊に当たらせる。各隊に伝えよ、隊列を保て!戦気に当てられ功を焦ってはならん!」

 

ピニャは、ヴィフィータの白薔薇隊ではなく、赤薔薇隊を当たると言う。

 

「やはりケンタウロスはあてにならんな」

 

「これからが本番です。カラスタ、ミュドラ、各軍団は作戦通りに」

 

「承知」

 

「おう」

 

一方のゾルザル側では、ケンタウロス側が不利なのを見てゾルザルがそう言い側にいたヘルムが同じ三将軍のカラスタ、ミュドラの二人にそう伝達する。

 

「殿下、先程の威力偵察でご覧になったように所詮敵は烏合の衆です。我が軍団兵にかかれば敵軍を蹴散らすのも容易でしょう」

 

「うむ、迅速な勝利を期待しておるぞ。ヘルム」

 

「はっ、全軍団前へ!」

 

ゾルザルがそう言いヘルムは期待に応えるべく、ヘルムが掛けた号令と共に軍団が前進を開始する。しかし、その陣形は異様な物だった本来であれば楔形の陣形を逆楔の隊形で前進速度も遅く牛歩の様にゆっくりと進む。

 

「なんだ?あの陣形」

 

「逆楔?前進もやけに遅いですな」

 

「ドッツエル!弓兵の射撃を始めさせよ」

 

「放て!」

 

ピニャ達は、旧帝国軍の戦法に不気味に感じつつも弓兵に攻撃を指示する。そして旧帝国軍に向けて弓矢や礫を放つ

 

「やつらもう射ってきたぞ」

 

「無駄矢を…スコルピオじゃあるまいし」

 

新政府軍から矢が放たれるが通常ならまだ矢の射程圏外であり、届くはずがないと思う旧帝国軍兵士は無駄矢だとバカにした次の瞬間には旧帝国軍の頭上に雨の様に降り注ぐ

 

「届くのかよっ」

 

「亀甲隊形、亀甲隊形!」

 

「ひるむな、隊形を保ち前進を続けよ。ゆっくりな」

 

届くとは思わず完全に油断していた兵士達は、盾を上に向けて亀甲隊形にする。

 

「放て!」

 

旧帝国軍も負けじとオナガー (投石機)で応戦しようとする。しかし、その上空では翼人による弓矢の攻撃に晒された。

 

「上だ!翼人!射て!射て!」

 

負けじと旧帝国軍もクロスボウで応戦し、翼人の何人かを撃ち落とす。

 

「やけにトロトロ近づいて来やがる」

 

「突撃命令はまだか!?」

 

「ああくそ、こっちは奴らの首狩りたくてたまんないのに」

 

待機命令が出ている新政府軍の亜人族の中には、好戦的故に早く戦いたい衝動に駆られている者も少なくない。

 

「殿下、頃合いかと」

 

「うむ、弓兵を下げよ。コルドール隊、プトレマキス隊敵両翼へ攻撃開始。他部隊は百歩前へ。突撃の合図を待て」

 

グレイからそう言われたピニャは、弓兵を下げさせワータイガーと六肢族に攻撃命令を出す一方で、他の部隊は待機と命令する。

 

「ゆくぞ!野郎ども!!」

 

「前進!」

 

ワータイガーと六肢族に突撃命令が出されて、二つの種族は雄叫びを上げて敵軍に向かって突進しって行ったが、しかしここで。思わぬアクシデントが起き始めた。

 

「なんで、あいつらだけなんだよ。みんな狩りの時間だよ!」

 

「儂等もゆくぞ!百歩でとまれるかっ」

 

「ドワーフどもに続けぇ」

 

「進め!遅れをとるな!」

 

痺れを切らしたヴォーリアバニー、ドワーフなど他の種族達が突撃命令が出ていないにも関わらず、指揮官の制止命令も聞かずに旧帝国軍に向かって突進したのだ。

 

「待て!まだ合図は出てない!」

 

「人の言うことを聞け、お前らぁっ」

 

「百歩までだ!百歩で止まれ!」

 

「喇叭手、進撃停止の合図を出せ!中央の突撃を止めよ!」

 

命令を待たずに動き出した亜人達を見てピニャは、直ぐに止める様指示を出すが、喇叭を鳴らしても亜人達は止まる事なく血に飢えた獣の如く旧帝国軍へと突っ込み乱戦状態になる。

 

「ピニャ殿下、あなたは定石通り手勢を動かそうとしているのでしょうが重要な事を見落としている。そちらの兵は亜人だ。亜人は、戦いの中で我を忘れる」

 

とヘルムは、兵の大多数が亜人族で構成されている新政府軍側の弱点を指摘した。亜人は好戦的で結束力が弱くそれ故に統率が取れず隊列が乱れてしまう。

 

「前列百人隊五十歩後退!」

 

旧帝国軍から笛が鳴り百人隊が後退を始める。

 

「逃げるなよ!」

 

「腰抜けぇっ」

 

ヴォーリアバニー達は追撃を開始しようとしたら、旧帝国軍は亀甲隊形を取り盾の間からクロスボウが顔を覗かせヴォーリアバニーに狙いを定めて射る。

 

「身体能力が高かろうと戦いの中で我を忘れてしまえば所詮兵士ではない・・・・・・・・・・・ただの狂戦士だ」

 

「第3、第4大隊を左に展開。間口を開けて敵を誘い込め」

 

「指揮官を狙え、頭を失えば指揮系統を失いまとまった動きは出来ない」

 

その指示のもと、旧帝国軍の兵士達は各亜人部隊の指揮官を集中的に狙って来る。

 

「プトレマキス様、バニール様、メイソン様討ち死に!ヘルマイン様、コルドール様戦死!我が方半包囲されています!!敵両翼が更に包囲の動きを」

 

「・・・・・・くそっ」

 

次々と各亜人部隊の指揮官が戦死の報告を受けてピニャは悪態をつく。

 

「ヴィフィータ!」

 

「おうっ、ヴァルカッツのおっさんにも伝令を出してくれ!白薔薇隊出番だ!敵の右翼を攻撃する!白薔薇隊前へ!!俺に続け!!」

 

そうしてボーゼスに言われ、ヴィフィータの白薔薇騎士団が遂に動き出す。ヴィフィータ達は、ランスを構えて敵陣へと突撃を開始した。

 

「敵騎兵!!槍構えーっ」

 

旧帝国軍も盾や槍を構えて迎え撃つ態勢をとる。騎馬隊の勢いでの突撃により敵陣へと深く入り込んで行く。

 

「ずらかるぞ!」

 

散々暴れた後ヴィフィータ達白薔薇隊は後退して行く。

 

「大隊長殿戦死!隊列を組み直し・・・うっ」

 

「コルドール隊下がれーっ、ここは任せろっ」

 

この勢いにより、亜人部隊は勢いを取り戻し徐々に攻勢に出始め旧帝国軍が押される様になって行く、その様子を見ていたヘルムは悪態をつく。

 

「くそっ、敵がヒトなら主力を包囲出来ていた。全隊一時後退、再編にかかる」

 

「どうしたヘルム、手を焼いているようだが?」

 

「守りに徹したピニャ殿下がここまで粘り強く・・・・・・亜人どもを使いこなせるとは思いもよらず」

 

「無理もない…何しろ、俺の妹だからな」

 

新政府軍の予想以上の抵抗にヘルムは自身の胸に手を添えてゾルザルに頭を下げる。一方のゾルザルは自分の妹だからと当然の様に言う。

 

「あいにく日暮れ城攻めも控え、これ以上兵を失う訳にはいきません。払曉をもって一気に本陣を攻めましょう」

 

「その前にボウロの一味が皇帝を連れてくれば面倒もなくなるんだがな。腹が減ったから飯にするか」

 

とヘルムはこれ以上長期戦になればイタリカ攻略の兵士が足りなくってしまうため一気に決着をつけようと進言する。ゾルザルもそれで、モルトを連れ去るのが難しくなると思いつつもゾルザルは天幕へと入って食事をとる事にした。

 

 

 

一方、イタリカ近郊でのイタリカ街道ではイタリカの日本軍が撤退の準備をしており街道では日本軍の軍用車が行き交っていた。

 

「戦況は一体どうなってる?」

 

「ここからじゃよく見えない。どっちの方が優勢なんだ?」

 

遠く離れた所からでもイタリカの衛兵達に戦場の音が届いている。そんな戦場からその森の中で

 

「揃ったか?」

 

「ハッ、別働隊も始まる頃合いです」

 

「では、始めましょう」

 

何人もの鎧やローブを身に纏った男たちが何かを始めようとしていた。果たして彼等は何者なのか?そして、何を始めようとしているのか?



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それぞれの思い

ピニャ達が、イタリカ近郊で旧帝国軍と交戦している頃イタリカ内でも動きがあった。

 

「行け、モルトを確保しろ」

 

モルト皇帝を攫うボウロの一味がイタリカへと入り込んで来た。暗闇に紛れながらイタリカの衛兵を殺害しつつ町に火を放って行き、町は大混乱に陥っていた。

 

「火事だー!」

 

「敵兵が侵入しているぞ!追えーっ」

 

「屋根の上だ、城館に向かっている!」

 

「市内数カ所で火災!市壁外の陣営でも付け火です!」

 

「敵兵が市内に潜伏している模様、各所で戦闘がっ」

 

「多数が城館に迫っています」

 

衛兵らは、消火活動や敵の捜索と排除などの対処に追われていた。

 

「城壁を固めろ!ここで食い止める!」

 

「商人にでも変装して入り込んだか!」

 

「いたっ、あそこだ!」

 

「なんだよあいつら亜人か!?」

 

「矢を放ち続けろ、近づけさせるな!」

 

衛兵達は屋根を伝って走る集団に向かってクロスボウで攻撃する。

 

「裏山側はどうなってる」

 

「今のところ・・・・・・」

 

「引き続き見張りを・・・・・・」

 

と言い終わる前に衛兵らはボウロの一味に始末され、衛兵がやられると建物の中から

 

「ここは通さないにゃ」

 

メイドのペルシア達も武器を持ってボウロ一味に応戦しようとしていた。一方その頃城館では

 

「敵の密偵集団が一斉に動き始めました!城壁で交戦中、敵は三十以上!」

 

「裏庭から呼び子が!ペルシアの班です」

 

「火事は陽動でしょう、出入り口を守り固めなさい。フォルマル家の盛衰はこの一戦にあります。なんとしても皇帝陛下とミュイ様をお守りするのです!」

 

「「「「「はいッ!!!」」」」」

 

メイド達からイタリカの状況を聞いたメイド長のカイネはメイド達に指示を出しつつモルトの寝室へと向かう。

そして、カイネは皇帝モルトの寝室に入る。部屋にはベッドに横になっているモルトと側にいる宰相のマルクス、本を読んでいるシェリー、メイドのメデューサと人形遊びをしているフォルマル家現当主のミュイらがいた。

 

「不逞の輩が押し寄せて参りました。どうぞ、お気を配りくださいませ皇帝陛下、ピニャ様とゾルザル様の軍がカンネーデにてぶつかったとのよし。影戦も始まっております、守りを固めておりますがこの館内にもいずれ・・・・・・」

 

「うむ、彼奴も此処まで出来る程度には成長したと言う事か。世が世なら何処かの蛮国の王くらいにはなれたものを、惜しいものだ」

 

「ゾルザル様は・・・・・・皇帝にはなれないのですか?」

 

とミュイは、モルトに疑問を問い掛けた。ゾルザルは、モルトの第一子で皇位継承権の1位と思っている。しかし、皇帝は血筋だけでなれるわけでない…政治・経済・軍事などの才能が備わってなければならない。勿論、各大臣などの補佐があれど才能が無ければ暗君、議員たちの支持を得られず誰も着いてこない。

 

「それには、別の才覚が必要だ。彼奴には無理であろう」

 

「皇帝になれば、みんな従ってくれるのでは?」

 

「それはな・・・・・・いや、ここはひとつ。シェリー、そなたが説明してくれぬか?」

 

「えっと・・・・・・ミュイ様、人は地位に従うものではありません。その人に他人を従わせる力量があるから従うのです」

 

「けど、ミュイはまだ子供です。なのに・・・・・・」

 

「それはミュイ様がいい子だからです。いずれフォルマル家を率いる力を持つと」

 

「ミュイが悪い子だったら?」

 

と自分が悪い子だったらと言う質問にシェリーは

 

「誰も構ってくれなくなるでしょう」

 

「ミュイは、いい子になります!頼んだよラム!」

 

「お任せくださいませ、お嬢様」

 

ミュイは泣きながらそう言いメイド長のカイネは笑いながらそう言う。

 

「あれ?じゃあ、ゾルザル様が皇帝になれないのはいい子に育ててもらえなかったから?」

 

「そ、それは・・・・・・」

 

とミュイにそんな疑問にシェリーは困惑し、宰相のマルクスは顔を引き攣っていた。そして、その疑問にモルトは肯定した。

 

「その通りだ、儂があやつを至らぬ男に育てたばかりに・・・・・・つまりは儂が悪い子だったのだ」

 

「で、でもそれでは陛下のご両親も悪い子そのご両親も、ずっとずっとご先祖様も悪い子で・・・・・・最後には人を悪い子として造った神様が悪いって・・・・・・」

 

「・・・・・・ミュイ様、良い子になれるかは自分次第なのですよ。だって、シェリーのお父様もお母様もとても良い人だったのにこんなに悪い子になってしまいました」

 

「シェリー様が悪い子?」

 

「極悪人ですわ」

 

ミュイの問いにシェリーは薄ら笑いを浮かべなら自分が極悪人であると言う。

 

「それでシェリー様のご家族は・・・・・・」

 

「だから、ミュイ様はいい子になって下さいね」

 

「かわいそう」

 

とミュイは察したのか、シェリーの頭を撫でる。

 

「シェリー様、お部屋にお戻り下さい案内いたします」

 

「わたくしはここで、戦の結果を待ちたいのですが」

 

「それには及ばぬ、代わりにそなたには任を授けたい」

 

「陛下、伯爵夫人には大任過ぎます」

 

「ニホンとの交渉をこなしたではないか」

 

「し、しかし帝国の威信が」

 

「万が一の時には却ってもいいのではないか」

 

「万が一・・・・・・?」

 

すると、モルトがシェリーに在日帝国大使に任命し、もしピニャがゾルザルに負けるようなことになれば講和派の議員やその家族を大日本帝国に亡命させる為のパイプ役にしようと言うのだ。

 

「そなたには、在ニホン帝国大使を任せたい。すぐにここを発ちニホンに向かうのだ。万が一に備え亡命者を迎え入れるパイプ役を担ってほしい」

 

「亡命者・・・・・・そんな、まだピニャ殿下が戦っているのに」

 

「ピニャは、懸命に戦っておる。だが勝てるとは限らない。敗れた後の事も考えておかねばならぬ、ここで皆の命を終わらせるわけにはいかぬのだ。頼むぞ、シェリー」

 

「信任状はすぐに作成して届ける。今すぐ支度しなさい」

 

「シェリー様、万が一の時はミュイ様をどうぞよろしくお願いいたします」

 

「承知いたしました」

 

まだ戦いは続いており、両軍共に死傷者が増えているが、決着はついていない。ゾルザルが勝てば講和派の議員達はゾルザルによって粛清される事は明白…そうなる前に手を打っておく。モルト、マルクス、そしてカイネに頼まれてシェリーは、困惑しながらも同意した。

 

 

一方、菅原も何やら同僚にある事を伝えていた。

 

「本気か!?菅原君」

 

「本気です」

 

それを聞いた同僚達は驚いた。菅原はそれを伝え終えるととある部屋へと向かった。部屋の中には、モルトから大使任命の後菅原の元へやって来たシャリーは、椅子に体育座りして俯いていた。

 

「そんなに日本に行くのが怖いのかい?」

 

菅原に声をかけられて顔を上げれば、シェリーの目には涙を浮かべ目は少し赤く腫れている。

 

「わざとわからないフリをなさっているのですか?怖いかと問われれば怖いですわ」

 

「少しの・・・・・・」

 

「スガワラ様?何か・・・・・・」

 

菅原は、シェリーに何かを伝えて柳田中尉の所に行くと言うとシェリーは頬を膨らませて不貞腐れる。

 

「・・・・・・ちょっと柳田中尉のところに行って来るよ」

 

「わたくし、あの方好きじゃありませんわ。会うたびにからかって」

 

「一緒にアルヌスに行くんだから仲良くな、彼は妬いているだけだよ。すぐ戻るから」

 

菅原は、シェリーにそう言うとそのままイタリカのフォルマル家の城館に設けた陸軍イタリカ司令部に向かいどうにか韋駄天の撤回が出来ないかと柳田に尋ねってみる。

 

「柳田さん!韋駄天発令は撤回出来ないのですか!?」

 

「あんたも外務官僚ならそんな事できんと分かってるでしょう。車行きました?それで撤収してください。その鞄取ってもらえます?」

 

「柳田さんも分かってるでしょ、今皇軍が撤退したらどうなるか」

 

「第I、第II軍団が間に合えば勝てる。だが支援していた輸送隊は撤収した。イタリカは陥落し、粛清と民族浄化が始まるでしょう。柳田さんはそれで良いんですか!?」

 

「軍人は命令に従う。俺は・・・・・・伊丹やあんたみたいにバカになれんのです」

 

「僕は・・・・・・残ろうと思います」

 

菅原は、特地に残る事を伝えると柳田は煙草を咥えてマッチを擦って煙草に火をつけるとこう告げた。

 

「それは、自殺行為だ」

 

「こっちにも都合がある。特地専門のキャリアを始めた以上もう鞍替え出来ない。それに僕が残る事で国益も少しでも守られる」

 

「・・・・・・あんたが軍人だったら、今頃命令違反で軍法会議に掛けるか、無理矢理にでも連れて帰る所だが残念ながらあんたは別組織の人間だ。俺に口を出す権限はない」

 

「助かります」

 

「所で、日本に赴任する嫁さんはどうするんだ?下手すりゃ生き別れだ」

 

「実家に預けるつもりです。両親は喜びますよ、手紙書くんで届けて下さい」

 

シェリーは菅原の実家に預けると言う。まぁ、独り身の菅原に婚約者が出来たと知れば両親は喜ぶだろうがまだ年端もいかない少女だとしたら彼の両親の反応も想像に難くない。

 

「想定済みか、分かった。ただしヘリが来るまでに説得しておいてくれよ」

 

「ありがとうございます。では」

 

と柳田に礼を言って退室しようとしていた菅原を柳田が呼び止めた。

 

「ちょっと待った、護身用だ。後で返してくれれば良い」

 

そう言って、柳田は菅原に護身用にとワルサーP38を渡す。

 

「なんだその目は?羨ましいのか?」

 

柳田は、こっちを見て来るデリラにそう問い掛け

 

「べ、別にっ、ニホンに行ったって苦労するだけでさ。あたいはこっでダンナの帰りを待つよ」

 

デリラは、顔を赤くしてそっぽを向く。

 

「なんだ、来たくないのか?」

 

「ダンナが来いって言うなら、行かないこともないけど・・・・・・」

 

「じゃ、来ればいいだろ。どうする?」

 

「もちろん行くよ!」

 

と柳田がそう言うとデリラは、満面な笑みを浮かべて行くと言う。

 

「なら、さっさと荷造りするんだな」

 

「分かった!」

 

デリラが荷造りの準備を進めている間、柳田は無線機を使いある人物に連絡をしようとしている。

 

一方、旧帝国軍の野戦陣地では、

 

「なんだって?柳田さん?」

 

『繰り返すぞ『韋駄天』が発令された』

 

天幕の物陰では古田が無線で柳田から『韋駄天』が発令された事を伝えられた。

 

「まじですか・・・・・・」

 

『指定時間までに回収地点に来い。お前が来るまで待っててやるからなんとしても脱出して来い』

 

「了解しました。・・・・・・脱出と言ってもなぁ」

 

と無線を切る。取り敢えず古田は給仕服を脱ぎ捨て野戦病院で負傷兵が着ていたであろう服を拝借しそれに着替えて闇夜に紛れて逃げ出すつもりだったが、

 

「そこのお前!どこへ行く!第II軍団のスコルピオン隊はこっちだ!迷ったのか?ついて来い!」

 

「はっ、はい」

 

運悪く百人隊長のボルホスに見つかってしまい呼び止められる。もし、敵前逃亡とバレたら有無を言わさず即刻処刑されるだろう。だが、ボルホスは迷ったと思われたのだ。

 

「ひどい夜戦だ。明るい内に包囲に失敗したせいでっ、ピニャ殿下の騎士団がやはり手強い。貴様達補助兵の働きにも期待しているぞ」

 

「はいっ、隊長殿」

 

「いい返事だ」

 

古田は、ボルホスに正体がバレてない事に安堵しつつボルホスについて行く。

 

(この士官、よっぽど上位なのか?)

 

「ボルホス主席百人隊長!」

 

「なんだ、アジール副隊長」

 

「例の亜人ども、どうにかして下さい」

 

「あれか、殿下の命令なのだろう?」

 

「陣営の真ん中で兵の士気に関わります。なにせ、ピニャ殿下の騎士団を相手にしているのですから、無理に捕まえようとしていらぬ損害を・・・・・・」

 

「帝国軍人が情けない、分かった着いて来い」

 

とボルホスが愚痴りながら歩き出すと、古田も何か手伝うと言って着いて行く。

 

「お前!ついて来なくていいぞ。スコルピオ隊はあっちだ」

 

「あ、何かお手伝い出来ることがあるかと・・・・・・」

 

「む、そうだなよろしい、一緒に来い。見張りはどうした!?」

 

とある建物に見張りが誰もいないと指摘する。そして、その建物の中月明かりが照らす暗い一室からテューレの喘ぎ声が響き渡る。テューレは、あれから色んな 慰み者にされていた。



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戦勝祝賀式典

いやぁ未だ帝国との戦争が終わってないのに日本の戦勝記念軍事パレードを描きました。ちょっと気が早いですけどまぁ そこは気にせず行きましょう。


皇紀2607年(西暦1947年)

帝都東京『興亜広場』この広場は大東亜戦争の勝利を記念して皇居近郊の北の丸公園(現在の科学技術館辺り)に造られた広場だ(外観は北朝鮮の金日成広場に酷似)。東京興亜広場で行われた戦勝祝賀式典の軍事パレード、大日本帝国がゾルザル率いる新生帝国に対する勝利を祝いました。

 

『東京興亜広場1947年1月24日ここ皇居前の下で全国が祝うのは勇敢な息子の勝利の帰還です。大祖国防衛戦争の全ての戦線での前例のない戦いの英雄達、ここにいる部隊は一つは、吉田使節団と帝国正統政府議員を救出した部隊、ロルドム渓谷で炎龍を討伐した部隊、アルヌス、イタリカを救った部隊、そして敵の帝都ウラ・ビアンカで勝利の旗を掲げた部隊です。敗北した旧帝国軍の200の旗と旗幟が、英雄たちの足元へ運ばれる。』

 

その広場には銀座事件や異世界の戦いから帰ってきた帰還兵達が縦列横隊を成していた。その中には旧帝国軍とオプリーチニナの旗を持った日本兵の姿もあった。

 

『観覧席は名誉あるゲストで満たされています。大日本帝国帝国議会の議員、理化学研究所からの来訪者、大日本帝国の将軍と英雄、芸術の文学の著名人達、そして帝国臣民達』

 

そして時間が9時55分になると一号歓迎曲の演奏と共にバルコニーから昭和天皇や東條英機などの政府高官達が姿を現した。すると人々は拍手喝采で出向かってた。

 

『午前9時55分我が祖国と臣民の偉大なる大元帥陛下と政府の指導者と、各党の党首達が広場天皇壇に立たれました。』

 

そして時間が10時00分になり軍楽隊の祝典巡閲行進曲『皇軍75周年』の演奏と共に馬に乗った今村元帥(異世界での功績から元帥に昇格した)と山本元帥が広場の中央に現れた。

 

『今村元帥と山本元帥が、パレードを導く。』

 

今村と山本両元帥が兵士達の前で敬礼し号令を掛けると兵士達は一斉に

 

『万歳!!万歳!!万歳!!』

 

と兵士達は歓喜の万歳を三唱した。今村元帥と山本元帥が敬礼しながら兵士達の前を横切る。その間も兵士たちは万歳と唱え続けた。そして、今村元帥が馬から降りてバルコニーへと向かい演説台に立った。

 

『広場天皇壇の演説台から、大日本帝国軍兵士に対し、農民に対し、労働者に対し、知識人に対し、そして大日本帝国の全ての臣民に対し今村元帥が演説を行いました。』

 

「帝國陸海軍将校将兵諸君、大日本帝国政府と各党の代表者そして帝国臣民の皆さん。大祖国解放戦争は終わったのです。暴走した元老院議員が自ら祖国を裏切り軍国主義者と帝国主義者と共謀して侵略戦争を開始した為国民は酷い海峡にいた。我が帝国陸海軍によって、全国の人々の支援のもとで異世界の大群を叩き潰す手助けをした。祖国の領土の主権を守り臣民の生命と財産を守り臣民の苦しみを和らげ臣民の権利の為に戦うために大胆不敵で勇敢に侵略軍を排除しゾルザル体制の反動的支配を打倒した。我らはあらゆる敵に常に勝利し、異世界の侵略者も打ち破ったのだ!そうであるならば我々が異世界の侵略者に対して勝利を疑う余地があっただろうか?大祖国解放戦争は基本的勝利を達成し国内の臣民そしてゾルザルの独裁体制に抑圧されたフォルマート国民は解放された。諸君が行った戦争はまさに解放戦争、正義の戦争である。この戦争にて自らを奮い立たせた!帝国の侵略者の徹底的な破壊を!帝国の侵略者に死を!帝国に対する勝利は歴史上に於いて比類なきもの我々が勝利を収められたのは、我等の偉大な指導者であり、軍隊の秀才な大元帥陛下のおかげです。我らの栄光ある祖国に自由と独立に長き栄えあれ!勝利へと前進する旗の下で!!英雄的大日本帝国軍将兵に栄光あれ!!」

 

今村元帥が演説を読み終えると拍手喝采と万歳三唱の嵐と同時に日本の国歌「君が代は」が演奏された。

 

ドカン ドカン ドカン ドカン

 

そして皇居前広場では砲兵隊が勝利の祝砲を鳴らしました。

 

「右向け右 前へ進め」

 

その後日本軍による軍事パレードが開催された。『陸軍分列行進曲』と同時に最初に行進して来る。

 

『天皇壇の前を行進するのは、金鵄勲章を受け戦闘旗を掲げて進む勝利した兵士たち、幾多の勝利の栄光と永遠の栄光に包まれています。各軍、軍事学校ほか全部隊の閲兵行進が始まりました』

 

バルコニーの最高権力者達は敬礼をし、一糸乱れず行進する兵士達を見下ろす。

 

『そして行進するのは、最高のパイロット、戦車兵、騎兵、歩兵達です。戦国最強の武田信玄の兵士の子孫は、大元帥陛下の秀才な命令に従い、怯まず勇敢に戦った。』

 

次にやって来たのは海軍部隊だった。

 

『この海軍の部隊は、あの銀座事件や炎龍討伐に参加した。そして航空部隊の司令官はイタリカで賊軍を殲滅した。海の近衛隊 決死隊として力強く育っている海軍将兵全部隊です』

 

海軍部隊が去って行くと軍楽隊は一斉に打楽器のドラム以外は演奏をやめドラムの連打と共に驚くべき隊列が動き出した。200本の帝国の軍旗が地面すれすれに掲げられた状態で運ばれ旗を持った兵士達がバルコニーの前に差し掛かると一斉に立ち止まりバルコニーに向き直る。そしてまるでローマ帝国の様に勝利した兵士が敗戦国の旗を征服者の足元の下の土台付近に放り投げる。ロシアピョートル大帝伝で彼は勝つと敗れた国の国旗を踏みつける行進が好きだったそう。パレードが終わると、鹵獲した戦利品の旗は遊就館へ運ばれ展示される。兵士達が全ての帝国の旗を投げ終わると観客席から拍手喝采の嵐が起こる。そして旗を放り投げる兵士が去ると次に行進して来たのは皇居を守る近衛師団だった。

 

『そして天皇壇の前を行進するのは銀座を守った近衛兵です。』

 

そしてそれと同時に日本の勝利を記念に新たな軍歌が演奏された。

 

『進め!アルヌスからウラ・ビアンカまで』

 

「「「1.我等は皇国の前哨として立ち かつてないほどの名誉ある国防を担った!今や太陽は東に昇り兵達を戦いへと誘うのだ。アルヌスからウラ・ビアカンまで、進軍せよ!進軍せよ!進軍せよ猛進撃の皇軍!『解放』が目標『自由と勝利』が合言葉だ!大元帥陛下よご命令を!我らは従う!大元帥陛下よご命令を!我らは従う!

2.我らは眠りも休みもしない!悪しき暴逆共が潰れるまでは我ら帝国の威厳を示す時!戦友よ、武器を取れ!勝利は我らのものだ!進軍せよ!進軍せよ!進軍せよ猛進撃の皇軍!『解放』が目標『自由と勝利』が合言葉だ!大元帥陛下よご命令を!我らは従う!大元帥陛下よご命令を!我らは従う!

3. 我らは幾多の戦いの中自らの軍隊を鍛え上げて来た。卑劣な侵略者をその道の途上から一掃する!我らは戦いで幾世代の運命を決し祖国を栄光に導き 偉大な時代がここに始まるのだ!進軍せよ!進軍せよ!進軍せよ!猛進撃の皇軍よ!『解放』が目標『自由と勝利』が合言葉だ!大元帥陛下よご命令を!我らは従う!」」」

 

近衛師団が去り次に行進して来たのは馬に乗った騎兵隊だった。次に九七式側車バイク部隊が来て、そしてその次に防空部隊だった。機関砲や高射砲などを牽引したトラックが走って来た。

 

『防空部隊は、軍事技術を披露しました。戦争初期の最も厳しい頃に、東京の神聖な空を守り通した。侵略者たちが神聖な祖国の空に入り込む隙はない』

 

その次に行進して来たのは多連装ロケット砲のパンツァーヴェルファーとヴルフラーメンや野砲を牽引するトラック、装甲車の車列、そして地対空ミサイルライントホター、ヴァッサーファルミサイル、Hs 117、V2ミサイルを乗せたトラックなど走って来る。

 

『大日本帝国の砲兵は世界最高の砲兵です。特地の顔から敵の城壁を掃いたのはこの砲兵です。アルヌス、イタリカの敵を本拠地を破壊したのもこの砲兵です。大日本帝国砲兵の響きは永遠に特地に響き続けるでしょう』

 

そして次にやって来たのは側車バイクにそして次に戦車部隊でした。最初にⅣ号戦車、次にⅤ号戦車パンター、次にⅥ号戦車ティーガーⅠ、そしてエファント重駆逐戦車、ヤークトパンター、ヤークトティーガーが走って来て『パンツァーリート』が演奏される。

 

『大日本帝国の戦車部隊、帝国軍の武器を粉砕した実力を持つ。我等の戦勝パレードは、偉大な大元帥陛下によって導かれました。臣民の英雄的で冒険的な壮絶な絵画です。』

 

戦車部隊が走り去って行くと、最後に軍楽隊がチェルネツキー行進曲『祖国に栄光あれ』を演奏しながら行進してきて軍事パレードは幕を閉じた。

 

多くの苦しみを経験した日本国民は平和を切に願っていました。その彼等にとってかつての大日本帝国の戦争犯罪は最早古い記憶でしか有りません大日本帝国は世界の頂点に有りました。明治維新より約80年数千人のエキストラも参加する勝利を祝う式典が大々的に行われました。かつての敵国アメリカのマッカーサー元帥も出席しました。この軍事パレードは国内外に大日本帝国の勝利を伝えるものとなった。日本の人々は帝国との凄惨な戦いを今も『大祖国解放戦争』と言う名で呼んでいます。1945年以降日本の兵士と国民は帝国軍の侵略を退ける為戦い十万人が犠牲になりました。この必死の抵抗がゾルザル打倒と専制主義と恐怖政治の終焉に大きな役割を果たしました。日清戦争、日露戦争、第一次世界大戦、大東亜戦争、そして大祖国解放戦争の勝利により大日本帝国陸海軍は無敵であると信じられた。

 




『興亜広場』
面積:75000m
大東亜戦争の勝利を記念して1943年12月に開始され1945年6月に竣工した。外観は北朝鮮の金日成広場に酷似している。
この広場を取り囲む建物類。
・国立帝国図書館
・日本民族歴史館
・皇国民主党本部(日本最大政党で自民党の様な党)
・近衛師団兵舎
・北の丸公園
・皇居東御苑

『進め!アルヌスからウラ・ビアンカまで』
異世界での日本の勝利を記念して作られた軍歌。
モデルはドイツ軍の『フィンランドから黒海まで』とソ連の『祖国は我らのためにの1944年版の3番』を足して2で割った感じです。


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独立と改革

時は異世界戦争から数年進み昭和25年6月25日ソウル 帝国主義の時代は終わりを告げ、民族自決が世界共通認識となり世界は脱植民地化の時代を迎えた。日本の統治下にあった韓国が独立し日本、アメリカが後押しする『大韓民国』が建国され、初代韓国大統領は在日朝鮮人の朴正煕が選ばれた。式典には日本やアメリカなども参加していた。広場では隊列を成して行進する新設された韓国軍の兵士や戦車に上空では航空機が飛行している。

 

「今日此処に大韓民国の成立を宣言する事は喜びに耐えない所ではあるがこれが終着点では無論ない我が祖国の成長まで断固戦い抜く事を我々は此処に誓いを新たに心を一つにしなければならない 一つに団結し力強く闘っていこう」

 

そしてその後ろでは戦争終結後東條英機の辞任とともに新たに内閣総理大臣に就任した吉田茂が式典に参加していた。

 

「どうやら無事建国が成り立ちました」

 

「これで長年の懸案が解決します。我が国は明治維新以前からロシアの太平洋進出に悩まされてきました」

 

「はい」

 

これにより、史実とは違い朝鮮半島は南北に分断されず統一された状態で独立をし、日韓関係も韓国は反日ではなく反共産主義を掲げ、史実のイギリスとアイルランドのような関係性。国民の中には、反日的な人はそこそこいるが政府は経済などの観点から親日的でいる。

祝典行事をこなしたその夜吉田茂は韓国にある日本総領事館で中華人民共和国の初代首相の周恩来と密かに会談を行って居た。

 

「周先生をわざわざ及び立てしたのは環太平洋条約機構の結成の件であります」

 

「了解しております。次回のアジア国連総会で我が中華人民共和国は閣下が提案している環太平洋条約機構の設立を妨げるものではありません」

 

「よろしくお願いをいたします」

 

環太平洋条約機構"略称RPTO"を結成は第二次世界大戦後に急速に拡大するソ連の覇権主義を牽制する狙いと共産主義陣営に対抗する狙いで、太平洋沿岸の自由主義陣営の軍事同盟。大日本帝国、アメリカ合衆国、カナダ、オーストラリア連邦、ニュージーランド、タイ王国、フィリピン共和国、中華民国、大韓民国が参加した。既にソ連は東ヨーロッパ、北欧、中央アジアにまで勢力を伸ばして来て、ワルシャワ条約機構を結成している。

 

「で、閣下。閣下が首相の座を降りられると言う噂を耳にしたのですが あいや この場でお答え頂くのが差し支えるのあればお答えにならなくてもよろしいのですが」

 

「周先生に伏せる理由などありません。既に自主的には岸信介副大臣によって吉田内閣は運営されています。日本の経済成長が私の最期の働き場所と心得て居ります」

 

「わかりました。私に依存はありません亜細亜総軍を率いる将軍を貴方にお任せします」

 

「ありがとう存じます」

 

そして翌日帰国する吉田茂は飛行場で記者団達に囲まれていた。

 

「吉田総理 今回の式典に参加しての感想を一つ」

 

「共和国建設は世界の安定に寄与しますか?」

 

「無論です。私は朴正煕氏の大いなる理想に共鳴するものであります」

 

「最後に大日本帝国首相として一言」

 

「アジアは一つであります」

 

そう言うとカメラのフラッシュを浴びながら吉田は政府専用機に乗った。大韓民国成立を見届けた吉田茂は自信と信念を漲らせる一言を残して帰国して行った。更にその半年後朝鮮半島と同じく日本の傀儡国家であった満州国が中国に返還され皇族は廃止となった。

 

1950年8月この日、帝国陸海軍の首脳部はドイツ軍だけでなくかつての敵国アメリカ軍を模範に軍の改革が行われ新たに『大日本帝国空軍』が設立され空軍省が設立した。大日本帝国空軍は、陸海軍の陸上機部隊を統合した為『統合航空軍』とも呼ばれている。

空軍総司令官は、大西滝治郎海軍中将→空軍大将、空軍参謀総長は、海軍航空参謀原田実海軍中佐→空軍中将、戦略空軍司令官は、海軍中攻隊指揮官野中五郎海軍少佐→空軍中将が任命された。

また、山本善雄海軍少将と吉田英三海軍大佐などが主導して日本領海の治安を守るため海軍から独立してアメリカ沿岸警備隊をモデルとした帝国政府の警察組織であると同時に、正式な日本軍の一部門である。軍隊であるが、国防省ではなく運輸省に属した『大日本帝国海上警備隊』が設立され、艦艇には神風型駆逐艦・松型駆逐艦・占守型・択捉型・日振型・鵜来型海防艦・タコマ級フリゲート・上陸支援艇などが使われる。モットーは『正義仁愛』を掲げている。

そして海軍所属の陸戦隊が海軍から独立し陸軍からも優秀な兵士が抜擢され米海兵隊を手本に改革が行われ『大日本帝国海兵隊』と『海兵隊指揮局』が設立された。米海兵隊と同じくモットーは"少数精鋭"を掲げ米海兵隊と同じく独自の陸上戦力と航空兵力を保有し、師団化された上、陸軍並みの装備で近代化されている。

海兵隊指揮官は大川内傳七海軍少将→海兵隊中将が任命された。

大分県大神に巨大な海軍工廠も新設され、指揮情報能力も拡大され、霞ヶ関の他、大井町、横須賀等の各種インフラを建設。多数の人員が勤務し、各艦艇に戦闘指揮所が設けられ始めている。

そして陸軍省、海軍省、空軍省、海兵隊指揮局が統合され国防省が誕生した。更に、大日本帝国の陸軍と海軍は制度上連携して作戦を行う組織が存在しなかった事から、陸軍参謀本部と海軍軍令部が統合され『統合軍令部』となり、陸海空軍海兵隊が一体的に部隊運用する事が可能となった。東久邇宮稔彦王と裕仁親王と協力のもと帷幄上奏権や現役武官制を廃止し、そして大日本帝国憲法が一部改正され天皇は軍に対する統帥権を内閣に委任し、この事により軍政における近代化をほぼ達成した。

 



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